タニシですが、なにか? (マリモ二等兵)
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転生と出会い

 漫画版タニシが可愛くて衝動的に書きました。


 私、篠前 ゆりかはよくのんびりとした性格だと言われる。

 のろまだとも言われた。

 いちいち行動を起こすのが遅いらしい。

 あまり反論できない。

 けど、のろまよりのんびりと言われるほうが好き。

 のろまはやる時も早く動かないけど、のんびりはやる時は早く動くからね。

 私はやる時はやるよ。

 

 「これはこうでー……」

 

 今は古文の授業中。

 先生が教科書片手に古文を音読している。

 この授業を真面目に聞いている生徒は一体何人いるのだろうか。

 私は聞いていない。

 意味も無く外を見ながらただボケーっとしている。

 ノートは開いてあるしペンも持っているが、白紙だ。

 嘘だ、モジャモジャ頭のキャラクターを描いている。

 これで3人目。

 そろそろバリエーションを増やしたほうが良いかな。

 

 そんなことを思っていると何かが割れる音と共に体中が激痛に襲われた。

 今まで感じたことがないレベルの。

 目が見えないし手足の感覚が無い。

 何が起きたのかよくわからなかったけど、今にも死にそうなことはよく分かった。

 

 いや、死にそうなんじゃない。

 私は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぐぐっ…もう耐えられない…ん?

 

 あれ?痛くない。

 終わったのかな?

 …あー!痛かった。

 例えるなら全身が小指になって思いっきりタンスの角にぶつかるぐらい痛かった。

 ひょっとしたらそれ以上なのかもしれない。

 とにかく痛かった。

 

 さーて、ここはどこだろう?

 辺りは真っ暗、墨汁の中にいるみたい。

 なんだか体が窮屈だし何か箱のようなものに入れられているのかな?

 ひょっとして私は攫われたの?

 いやでもたしか私は死んだはず…。

 死後に入る…箱?

 

 !!まさか棺桶の中!?

 

 じゃあ今の私はゾンビということ!?

 いや、もしかしたら吸血鬼なのかも…。

 とにかくここから出てみよう!

 

 私は卵が割れるような音と共に箱を突き破った。

 

 目の前には沢山の虫がいた。

 タニシみたいでのそのそ動いている。

 壁に貼り付いているのもいる。

 赤い卵から今さっき孵化したのもいる。

 

 そして私は、今さっき孵化したものの一匹だった。

 つまり、私は人からタニシになっていた。

 ゾンビとか吸血鬼とかじゃなくて。

 タニシに。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 タニシになってから30分くらい。

 タニシもなかなか良いなと思ってきた。

 ボーとしてても何も言われないしのんびりしても良い。

 先生に質問されて聞いていなかったでしょと怒られる心配も無い。

 平和だなぁ……

 

 

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

 今、目の前にどデカイ蛇がいる。

 私を見てないけれどあの大きな口でガブリとされればあっという間に死んじゃう。

 かなり怖い。

 お母さんの比じゃない、何かがあったお父さんよりも怖い。

 

 でも私にはのそのそと動くことしかできない。

 なんとか逃げようとしてるけど蛇の大きさが変わらない。

 私って、すごい遅いんだね。

 

 そんなこんなで私に興味の無い蛇に最大限の警戒をし続けること数分。

 蛇はどこかへと這っていき見えなくなっていた。

 

 ……助かった。

 さっそく命が尽きてゾンビになるところだった。

 タニシのゾンビって強いのかな?

 小さいし知らない間に近くにいそう。

 

 近くにいそうで思い出したけどこれって異世界転生だよね。

 なにかで見たことがある。

 死んだ大人の人が化け物になって国を作る話。

 タニシは化け物じゃないけど人から別の生物になってるし多分異世界転生だ。

 異世界転生といえばスキルがあって自分の中で特に有名なのは『鑑定』っていうスキルが有名かな。

 

 鑑定があれば森羅万象を知り無知を素早く知恵に変えられる。

 

 《現在所持スキルポイントは80000です。

  スキル〈鑑定〉をスキルポイント100使用して取得可能です。

  取得しますか?》

 

 ……あるんだ。

 いやさ、あれはただの独り言だったのいうか、叶うはずのない願望というか…。

 ま、いっか。

 鑑定がとれるのなら文句なし。

 

 《「鑑定LV1」を取得しました。残りスキルポイントは79900です。》

 

 よし、これで森羅万象を知れるね。

 さっそくあの壁を鑑定!

 

 《壁》

 

 おや?

 もう一回!

 

 《壁》

 

 ならばあのタニシに!

 

 《タニシ》

 

 そして自分に!

 

 《タニシ》

 

 タニシだね!!

 …あらま、このスキル意味無い。

 いくらポイントが沢山あるとはいえ無駄使いは良くない。

 ちょっと勿体無いことしちゃった。

 反省。

 うーんでもまだLV1だしいらない子判定は早いかな?

 じゃあ無駄使いじゃないね。

 いっぱい鑑定すればきっとLevel Upするよね。

 するよね?

 

 すると信じてたくさん鑑定しておこう。

 やりすぎると頭が痛くなるけど我慢我慢。

 

 

 

 

 

 

 あれから数日ほど、鑑定さんはかなりレベルが上がってきている。

 ただ鑑定をやって上がったのもあるけどスキルポイントを使って上げることができるらしいのでやってみたのもある。

 1LVあたり100ポイント。 

 それに気づいたのは「鑑定LV3」になってからでとりあえず「鑑定LV9」にした。

 ここまでやったんならキリよくLV10にしようとしたけど、あと1ぐらいポイントを使わなくてもすぐに上がるだろうと思いやらなかった。

 

 そんな成長した……いや、課金した鑑定さんの実力を見せてあげよう!

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV1 

  ステータス

 HP:108/108(緑)

 MP:3/3(青)

 SP:105/105(黄)

   :105/105(赤)

 平均攻撃能力:4

 平均防御能力:104

 平均魔法能力:3

 平均抵抗能力:103

 平均速度能力:1

 スキル

 「腐蝕攻撃LV5」「腐蝕耐性LV5」「鑑定LV9」「のんびり屋LV1」「n%I=W」

 スキルポイント:79300

 称号

 「のんびり屋」》

 

 わぁ、すごい。

 いろいろなことを知れるね。

 さすが!課金に目覚めちゃいそう…。

 とにかくいろいろ鑑定出来るみたいだから鑑定してみよう。

 

 《腐蝕攻撃:攻撃に腐蝕属性を付与する》

 

 腐蝕属性?

 

 《腐蝕属性:死の崩壊を司る属性》

 

 え?タニシって死の崩壊を司るの?

 水槽によくいるタニシにそんな能力があったなんて…。

 意外だなぁ。

 

 《腐蝕耐性:腐蝕属性に対して耐性を得る》

 

 だろうね。

 

 《のんびり屋:HP、SP、平均防御能力、平均抵抗能力にスキルレベル×100分のプラス補正が掛かる。また、レベルアップ時にスキルレベル×10分の成長補正が掛かる。さらに、のんびりしているとHP、SPが回復していく。》

 

 …これすごいね。

 1つのスキルにたくさん詰め込まれてる。

 強化と回復。

 これが転生特典ていうやつかな?

 耐えるっていう言葉が似合うスキルな気がする。

 なんだかのんびり屋っぽくないような?

 ま、いっか。

 

 次は称号。

 

 《のんびり屋:取得スキル「のんびり屋LV1」:所得条件:選ばれしのんびり屋であること:説明:選ばれしのんびり屋に贈られる称号》

 

 のんびり屋があるのは君のおかげか!

 というか私って選ばれしのんびり屋なんだね。

 誰に選ばれたんだろう?

 異世界転生だし神様かな。

 タニシに転生したのも神様のせい…いや、おかげというべきかな。

 

 とりあえず、一通り鑑定してわかったことがある。

 

 私強くない、弱い。

 

 のんびり屋はすごいけど耐久力が上がるだけで攻撃力は上がらないんだよね。

 腐蝕攻撃がそこらへんをカバーしてくれると思ったけど、攻撃を当てられるほどスピードは無いと思う。

 だって平均速度能力1だよ?当たらないよ。

 体もちっちゃいからリーチも短い。

 正直カバーできてないよね。

 

 今すぐに強くなる方法としてはのんびり屋や腐蝕攻撃にスキルポイントを振ってレベルを上げるか、それ以外の強化系スキルを取得してステータスの穴を埋めるか、その両方か。

 

 でもそんなことをしたらスキルポイントが無くなっちゃいそう。

 幸いここの生物は私を食べようとしないから急ぐ必要はない。

 ゆっくりじっくり考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カサッ… 

 

 すぐ近くで虫か何かが止まった。

 私は恐る恐る見てみると、そこには白い蜘蛛がいた。

 かなりデカイ。

 怖い。

 なんで私をじっと見たまま動かないの?

 ……?何だか体中を舐め回すような感じがする。

 なにをされてるの?

 よく分からないけど、鑑定!

 

 《スモールタラテクト LV3 名前 なし 

  ステータス

 HP:38/38(緑)

 MP:38/38(青)

 SP:38/38(黄)

   :38/38(赤)

 平均攻撃能力:21

 平均防御能力:21

 平均魔法能力:19

 平均抵抗能力:19

 平均速度能力:369

 スキル

 「HP自動回復LV2」「毒牙LV8」「毒合成LV1」「蜘蛛糸LV8」「操糸LV5」「投擲LV1」「集中LV1」「命中LV1」「鑑定LV7」「探知LV3」「隠密LV5」「外道魔法LV2」「影魔法LV1」「毒魔法LV1」「過食LV3」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV1」「毒耐性LV7」「麻痺耐性LV3」「石化耐性LV2」「酸耐性LV3」「腐蝕耐性LV3」「恐怖耐性LV5」「苦痛無効」「痛覚軽減LV5」「強力LV2」「堅固LV2」「韋駄天LV2」「禁忌LV2」「n%I=W」

 スキルポイント:0

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」》

 

 化け物じゃん。

 勝ち目が無い。

 私の生よ、もはやここまでなのか……。

 えぇいなら噛みつかれた瞬間全力腐蝕攻撃だ!

 蜘蛛さんよ!私はあなたを道連れにする気だ、やめておいたほうがいいよ。

 

 私はいつ噛みつかれてもいいように身構えていると蜘蛛さんが足を動かして何か抗議をするような姿をみせる。

 私に何か伝えたいのかな?

 だとすれば一体何を伝えたいんだろう?

 私は蜘蛛さんをじっと見る。

 その足が、顔が、体が、一体何を伝えようとしているのか理解するために。

 

 

 ……まったく分からない、何か理解ができるスキルは無いのかな?

 いや、理解できるスキルじゃなくて会話ができるスキルのほうが良いか。

 何かないかな?例えば念話とか。

 

 《現在の所持スキルポイントは79300です。

  スキル〈念話〉をスキルポイント100使用して取得可能です。

  取得しますか?》

 

 お、あるんだ。

 じゃあ取得。

 

 《スキル「念話LV1」を取得しました。残りスキルポイントは79200です。》

 

 よし、さっそく念話開始!

 

 『あー、あー、聞こえますか?』

 

 『……え!?頭の中に声が!?』

 

 あれ?案外普通の声だ。

 もっと化け物みたいな声だと思ってた。

 

 『どうもタニシです。』

 

 『あ、これはどうもご丁寧に、蜘蛛です。』

 

 すごい普通だ。

 

 『あの〜これはなんですかね?』

 

 『念話です。今あなたの心に直接語りかけています。』

 

 『へーそんなスキルもあるんだ〜。』

 

 今さっきとったけど便利なスキルだなぁ。

 

 『ここであったのも何かの縁ですし自己紹介しませんか?』

 

 『いいよ!いろいろ聞きたいことがあるしね!あと敬語はいらないよ!』

 

 まさかの快諾。

 蜘蛛らしくないなこの蜘蛛さん。

 

 『私はタニシ。他のタニシより変わったタニシだよ。』

 

 『……え?それだけ?』

 

 『?それだけだよ。』

 

 蜘蛛さんが前足を頭に乗せる。

 これ頭を抱えてる……のかな。

 

 『えーっと次は私ね。まぁ、見ての通り蜘蛛だよ。ちょっとタニシちゃんに聞きたいことがあってさー、聞いていい?』

 

 『いいよ。』

 

 蜘蛛さんが私に聞きたいこと?

 というかタニシちゃん呼びなんだね。

 それ以外に呼び方はないけどさ、もうちょっとかわいい呼び方にして欲しかった。

 

 『前世の名前、篠前 ゆりかだったりしない?』

 

 !!

 

 『……なんで知っているの?』

 

 前世を当てるとか何かのアプリで見たことがあるけど、この蜘蛛さんはそれ無しで当てたということ?

 スキルのみならず頭も化け物だったか。

 

 『何でって…鑑定で分かるから。種族名の所にその名前が書いてあるんだよね。』

 

 『え?…あ、ホントだ。』

 

 い、今まで気づいてなかった……。

 蜘蛛さんありがとう。

 ん?もしかして蜘蛛さんも転生者の可能性があったりする?

 確かめねば。

 

 『ひょっとして蜘蛛さんも転生者?そうだったら名前を教えて?』

 

 蜘蛛さんがその問いを待っていたと言わんばかりに答える。

 

 『そのとおり!前世の名前は若葉 姫色だよ』

 

 若葉ってあの超美人なクラスメートの?

 あの美人さんが蜘蛛に…。

 神様はひどいなぁ。

 

 なんだか中身が若葉さんだと分かった途端目の前の蜘蛛さんが美人に見えてきた。

 美人パワー恐るべし。

 

 

 

 

 

 




 100回読まれたら続きます。


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ふたりは魔物

 予定していたより2倍くらい見られた。
 ナイスゥ!


 あれから蜘蛛さんといろいろ話した。

 主に蜘蛛さんの愚痴だったけど、近くのタニシと空想会話をしていた時より数倍楽しい。

 持つべきものは友だね。

 

 ちなみに愚痴の内容は今までの苦労と私が所持しているスキルポイントの量だった。

 蜘蛛さんは初期所持量は100。

 私は80000。

 その差は800倍、文句の1つや2つや3つ言いたくなる。

 言わないほうが変わっているだろうね。

 のんびり屋についても羨ましがっていた。

 HPとSPの回復、蜘蛛さんが死にものぐるいでやらなければ出来ないものをのんびりしてるだけで出来てしまう。

 そんな私を蜘蛛さんは嫌うことなく接してくれている。

 顔だけでなく中身まで美人さんだったか。

 私が蜘蛛さんの立場だったら縁切ってたね。

 

 『そういえばさ、なんでそんなにレベルが低いの?』

 

 おっと蜘蛛さんからの質問だ。

 答えなければ天罰が下る気がする、これも美人オーラによるパワーなのか。

 

 『生まれてからのそのそ動いてただけで、レベルが上がる要素がまったく無かったからかな。』

 

 のそのそ動いて仲間と脳内会話。

 思い返すと寂しい生き方だ。

 蜘蛛さんに会えてよかったよ。

 

 『レベルを上げたいと思わないの?』

 

 『やりたいけどこのステータスじゃ無理だよ。』

 

 多分どんな生物にも勝てない。

 のそのそしてる間に攻撃されて終わりだよ。

 

 『じやあさ、私が魔物を倒して、タニシちゃんが止めをさすっていうのはどう?』

 

 『…それってパワーレベリングじゃない?駄目だって聞いたことがあるけど、大丈夫なの?』

 

 『いや大丈夫でしょ、ここはゲームの世界じゃない、現実だ。だからどんな手を使っても、勝てばよかろうなのだ!』

 

 さすが蜘蛛さん!魔物の鑑!

 自然の摂理ってやつだね。

 

 『それじゃあ早速出発進行!』

 

 蜘蛛さんが私に糸を巻きつけられ、身動き1つ出来なくなる。

 え?どうして?

 ま、まさか、私を食べる気だな!?

 おのれー!あれか、楽しかったぜお前との友情ごっこってやつか!?

 騙される方が悪いってやつか!

 ならば道連れだー!勝てないのなら引き分けを狙ってやる!

 

 おおおおお…………お?

 

 いつの間にか私は蜘蛛さんの背に乗っていた。

 糸もほどけていて動き放題だ。

 

 え?食べないの?

 いつもより高い視点に驚きながらも蜘蛛さんが何を狙ってるのか考えてみるが、なにもわからなかった。

 とりあえず食べるわけではないことは分かった。

 どうやら友情ごっこではなかったらしい。良かった。

 蜘蛛さんが私を乗せて動いてるからタクシーに乗っている気分になる。

 蜘蛛さんの平均速度能力は私の369倍、圧倒的なスピードだ。

 途中下車なんてしようものならゴロゴロガッシャーン。

 それでお終い。

 つまり私の命は今、蜘蛛さんが握っている。

 いまここで前転をするだけで私をシミにすることもできる。

 

 …そう考えるとものすごい怖くなってきた。

 い、いや全然怖くない。全く怖くない。

 蜘蛛さんは大切な友達だからね!

 そんなことをするはずがない…多分。

 

 『お、あいつらか。』

 

 ん?どうした蜘蛛さん。

 おや、目の前に三匹の魔物がいるぞ。

 どれどれ?

 

 エルローランダネル…?

 ステータスを見る限りでは蜘蛛さんすら負けるほどだけど、蜘蛛さん的にはそんなに脅威ではないっぽい?

 一体蜘蛛さんはあいつらをどう倒すのか、その実力、しかと目に焼き付けてやる。

 私だったら食われる瞬間に腐蝕攻撃かな。

 

 『喰らえ、投網!』

 

 蜘蛛さんが糸で作った網をエルローランダネル達に投げつける。

 それだけで彼らは動けなくなり、蜘蛛さんが圧倒的有利になった。

 なんということでしょう、ステータスが上の敵をあっという間に無力化したではありませんか。

 蜘蛛さんはこの戦法で数多の強敵を倒してきたのかな。

 ということはステータスだけで勝負が決まるという訳では無い、そのことが証明された。

 

 『さ、タニシちゃん、止め。』

 

 『ん?分かった。』

 

 私は蜘蛛さんから降りて糸グルグルなエルローランダネルに歯を向ける。

 

 腐蝕攻撃!

 

 そして思いっきりエルローランダネルに噛み付く。

 その瞬間、噛み付いた場所が崩壊し、塵になって消えた。

 

  えぇ…。

 『えぇ…。』

 

 名前から考えて腐ると思ってたけど、まさかこうなるとは…。

 死の崩壊を司るってこういうことだったのね。

 死んだらみんな自然に帰る、それを生きたままさせるのが腐蝕属性なんだろうね。

 

 怖。

 

 そのままもう一匹攻撃し、残りは蜘蛛さんが倒した。

 私の攻撃は食べるところを減らすからやりすぎはダメ。

 残った部分は蜘蛛さんが美味しくいただいた。

 私も一口食べたけど…まずかった。

 蜘蛛さんもまずいと思ってるらしいけど生きる為にはしょうがないから我慢してるって。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがLV1からLV3になりました。》

 《各種基礎能力値が上昇しました》

 《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「腐蝕攻撃LV5」が「腐蝕攻撃lv6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「腐蝕耐性LV5」が「腐蝕耐性LV6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「のんびり屋LV1」が「のんびり屋LV2」になりました》

 《スキルポイントを入手しました》

 

 お、これが噂に聞くレベルアップ。

 ものすごい上がるね。

 どうなったか確かめて見ようっと。

 

 鑑定!

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV3

  ステータス

 HP:232/232(緑)

 MP:5/5(青)

 SP:229/229(黄)

   :229/229(赤)

 平均攻撃能力:8

 平均防御能力:228

 平均魔法能力:5

 平均抵抗能力:225

 平均速度能力:2

 スキル

 「腐蝕攻撃LV6」「腐蝕耐性LV6」「鑑定LV9」「のんびり屋LV2」「n%I=W」「念話LV1」

 スキルポイント:79320

 称号

 「のんびり屋」》

 

 …なんというかすごい極端。

 一部の数値だけ見たら強いけど、それ以外が残念過ぎる。

 蜘蛛さんも私のステータスを見たようで微妙な顔をしている。

 

 『のんびり屋すごいね。』

 

 『…そうだね。』

 

 やっぱスキルポイント使ってなにか強化系スキルを取ったほうがいいのかな。

 でも必要ポイントが高いんだよね。

 例えば〈剛力〉。

 これはスキルレベル×10分を平均攻撃能力にプラス補正が掛り、レベルアップ時にスキルレベル分の成長補正が掛かるというもの。

 なんと必要スキルポイントは1500。

 まだ取れるスキルを知り尽くしていないこの状況で、1500ポイントは高いかな。

 まぁこれより多く必要なのが蜘蛛さんのスキル〈韋駄天〉。

 このスキルの効果はスキルレベル×100分を平均速度能力にプラス補正とレベルアップ時にスキルレベル×10分の成長補正が掛かるという私が今最も求めているスキルだ。

 なんと必要スキルポイントは10000。

 今持ってるスキルポイント全部注いでもカンストしないという、タニシはずっとのそのそしてろと言わんばかりの高さ。

 確かに速いタニシなんて見たことないから、タニシである限り鈍足からは逃げられないのかも知れない。

 

 『ねぇ蜘蛛さん、どうしたらいいと思う?』

 

 『うーん…取るだけ取ってさ、後は地道にレベルを上げればいいんじゃない?』

 

 !!…そうか、別に最初からカンストさせなくても良いんだ。

 変にスキルポイントが沢山あったから地道に上げるという発想が出てこなかった。

 これはあれか、庶民と貴族みたいな…そんな感じのやつだ!

 

 『ありがとう、蜘蛛さん。』

 

 『お、おう。』

 

 そうと決まればスキル取得をしよう。

 10000はきついけど…弱点が克服されると考えればむしろプラスだ。

 

 《現在所持スキルポイントは79320です。

  スキル〈韋駄天〉をスキルポイント10000使用して取得可能です。

  取得しますか?》

 

 うん。

 

 《「韋駄天LV1」を取得しました。残りスキルポイントは69320です》

 

 よし。

 えーっと次は何にしようかな?

 

 『あれ?ひょっとしてタニシちゃん、韋駄天取った!?』

 

 『わわっ!びっくりした。そうだよ蜘蛛さん。』

 

 『えー…私のアイデンティティが…。』

 

 『ごめんね。でも弱点を克服したかったの。』

 

 『いや、いいよ。私には毒と糸があるからね!』

 

 やさしい。

 さて、スキル調べの続きだ。

 

 …ん?〈怠惰〉?なにこれ?

 必要スキルポイントは100。

 一体どんな効果なのか、見せてもらおう!

 

 『怠惰(100):神へと至らんとするn%の力。自身を除く周辺のシステム内数値の減少量を大幅に増加させる。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る』

 

 ……?

 ………?

 …………?

 

 よく分からないけど、強そうだ。

 必要スキルポイントは100だし、試しに取ってみよう。

 

 《現在所持スキルポイントは69320です。

  スキル〈怠惰〉をスキルポイント100使用して取得可能です。

  取得しますか?》

 

 いいよ。

 

 《「怠惰」を取得しました。残りスキルポイントは69220です》

 《条件を満たしました。称号「怠惰の支配者」を獲得しました》

 《称号「怠惰の支配者」の効果により、スキル「睡眠無効」「退廃」を獲得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV2」を獲得しました》

 

 なんかいっぱい手に入った。

 これらのスキルが使えますように。

 

 

 

 




 スキル怠惰についていろいろ調べたけど情報が少なすぎる。
 怠惰の支配者はなんの効果があるんだってばよ。


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復讐開始ー!

 凄まじいUA数、俺は飛び上がるほど喜んだね。
 1話で蜘蛛子が本来持っているはずがない称号「糸使い」を持っていたので修正しました。
 タニシのスキルポイント量をミスっていたので修正しました。


 『怠惰の支配者:取得スキル「睡眠無効」「退廃」:取得条件:「怠惰」の獲得:効果:HP、SP、MPの各能力上昇。自己回復系スキルに+補正。支配者階級特権を獲得:説明:怠惰を支配せしものに贈られる称号』

 

 …すごい、それしか浮かばない。

 この世界にこんな称号があるなんて知らなかった。

 スキルに称号がついてきた感じだからこれからもこんな感じのスキルを取ったほうがいいかも知れない。

 そうしたらタニシを超えるステータスになれるのかも、いやそれ大したことないじゃん。

 蜘蛛さん…いや、人を超えたステータスを目指そう。

 異世界って人が強いイメージがあるし、そうなったら敵は少ないはず。

 

 蜘蛛さんに怠惰について言ってみたら、まず最初に驚き、その次に考察してくれた。

 私はあまり頭が良くないというか…緊急時じゃないと自然と思考にブレーキが掛かる。

 前世から今まで、特に考えずのんびりしてたら脳がのんびりを覚えちゃった。

 よくないね。

 

 話を戻して蜘蛛さんの考察。

 蜘蛛さんが思うには自分以外の全ての生き物に怠惰の影響を与えるという無差別なもの。

 そんなわけ…と思いながら見返してみたら合っていた。

 これ使えないじゃん。

 蜘蛛さんまで怠惰にしたら意味無いよ。

 幸い、ON、OFF切り替えられるのでこれは発動しないようにしよう。

 怠惰に付属していた称号やスキルのほうが使えるね。

 

 ちょっと今の私を鑑定してみよう。

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV3

  ステータス

 HP:332/332(緑)

 MP:105/105(青)

 SP:329/329(黄)

   :329/329(赤)

 平均攻撃能力:8

 平均防御能力:228

 平均魔法能力:5

 平均抵抗能力:225

 平均速度能力:102

 スキル

 「怠惰」「睡眠無効」「退廃」「禁忌lv2」「韋駄天lv1」「腐蝕攻撃LV6」「腐蝕耐性LV6」「鑑定LV9」「のんびり屋LV2」「念話LV1」「n%I=W」

 スキルポイント:69220

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」》

 

 おお、すごい。

 HP、MP、SPが100ずつ上がってる。

 いいね、これ。

 相変わらず魔力と攻撃力が1桁だけどね。

 いや、攻撃力は腐蝕攻撃でカバーできるかな?

 腐蝕耐性を持ってたら攻撃手段がなくなるけどなんだか腐蝕耐性を持ってる魔物は少ないイメージがある。

 私魔法使えないし魔力は少なくても困らないかな。

 そう考えると案外ステータスに穴が無いのかも?

 

 『タニシちゃんすごい強くなってる…。』

 

 蜘蛛さんの言うとおり私は強くなった。

 けど、魔物を倒せるかと聞かれたら厳しいと思う。

 蜘蛛さんの話を聞く限りでは糸で拘束して勝てた戦いが多い。

 蜘蛛さんのスピードは今の私の3倍、そんな蜘蛛さんですら被弾しているのだから私はコテンパンにやられる可能性がある。

 避けるのは難しく、リーチは短いままなので腐蝕は当たりづらい。

 指の一本…じゃなくて牙の一本、触れられずに死んじゃう。

 あれ、私弱いね。

 ステータス穴だらけだね。

 チーズみたい。

 

 『うわやば!』

 

 落ち込んでいると私を乗せた蜘蛛さんが岩陰に隠れる。

 なんだなんだと見てみたら、そこには手が生えた魚が!

 鑑定!

 

 ものすごい強い。

 これは勝てない。

 LV22ってなにさ。

 攻撃力と防御力とHPとSPが700超えてるじゃん。

 特に攻撃力1000ってなにさ。

 蜘蛛さん、隠れて正解だよ。

 それにしても不気味な姿だね。

 なんとなく可愛さを感じた気がするし、気味悪さを感じた気がする。

 とにかくばれませんように。

 

 

 …いったかな。

 バレなかった、良かったよ。

 

 『なんじゃあの化け物謎生物は!?』

 

 『さぁ…わかんない。』

 

 怖かったなー。

 最近怖がってばっかりな気がする。

 ま、いっか。

 生きてるから問題なし。

 

 『む?前に何かいるな?』

 

 え?本当?…ホントだ。

 なにあれ、ネズミの顔とダンゴムシの体をしてる。

 鑑定。

 

 エルローコホコロ、変な名前。

 ステータスは低め、勝てそう。

 蜘蛛さんも同じ事を思ってるみたい。

 そうと決まれば攻撃開始だ。

 蜘蛛さんの投網!

 エルローコホコロは動けなくなった!

 

 さて、どっちが止めをさすのかな?

 普通は動けなくした蜘蛛さんが止めをさすけど、蜘蛛さんは良いよと言っている。

 う〜ん…どうしよう。

 あ、そうだ。

 

 『交互にやるっていうのはどうかな?』

 

 『交互?…えーっと私、タニシちゃん、私…みたいな?』

 

 『うん、その順番で止めをさすの。どうかな?』

 

 『あ、いいよー!』

 

 蜘蛛さんは本当に器の広い御方。

 このタニシ、感服でございます。

 

 『じゃあどっちが先にやる?』

 

 『蜘蛛さんが先で。』

 

 『おっけー!』

 

 蜘蛛さんがエルローコホコロに噛み付く。

 エルローコホコロはビクビクと痙攣したあと、動かなくなった。

 

 『フフフ…ちょうど「糸使い」の称号を得てスキル「斬糸」が使えるようになったんだよね〜。』

 

 蜘蛛さんが糸を出し、その糸をエルローコホコロに叩きつける。

 死体撃ちはご法度だってお兄ちゃんが言ってたけど大丈夫かな?

 それはゲームの世界だけか。

 なら大丈夫だね。

 

 『う〜ん…まぁlv1でこれならすごいほうか。』

 

 そう言い蜘蛛さんは何度も何度も叩きつける。

 挽き肉ができちゃいそう。

 肉団子になったところで蜘蛛さんは叩きつけるのを止め、不味いと言いながらも完食した。

 偏食家の私には到底真似できない芸当だね。

 

 

 そんなこんなで地下探検。

 上層を求めて辺りをグルグルしてるとそいつが現れた。

 アノグラッチ。

 猿みたいな魔物でステータスはそこそこ、でも勝てないほどじゃない。

 スピードがあり、私は負けるが蜘蛛さんは負けていなかった。

 ブオンと音が聞こえる拳を避けながら蜘蛛さんがその拳を糸でグルグル巻きにする。

 勝ったな、なんて思っていたら私達とアノグラッチを繋いでいる糸を利用されてしまい地面に叩きつけられる。

 このままではまずいので私は蜘蛛さんから離れアノグラッチに突進する。

 背が低いせいで足にガブリとしか出来なかったが、さすが腐蝕攻撃。

 噛んだところから崩壊しアノグラッチの下半身は消滅した。

 そのままHPが0になる瞬間、恐ろしいほどの叫び声を上げた後、アノグラッチは絶命した。

 

 おう…やっぱり腐蝕攻撃すごい。

 これさえあれば攻撃力いらないね。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがLV3からLV4になりました》

 《各種基礎能力値が上昇しました》

 《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「腐蝕攻撃LV6」が「腐蝕攻撃LV7」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「腐蝕耐性LV6」が「腐蝕耐性LV7」になりました》

 《スキルポイントを入手しました》

 

 おお、腐蝕攻撃と耐性が上がった。

 これ以上一体何が上がるんだろう。

 

 とりあえず見てみよう。

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV4

  ステータス

 HP:344/344(緑)

 MP:106/106(青)

 SP:341/341(黄)

   :341/341(赤)

 平均攻撃能力:10

 平均防御能力:240

 平均魔法能力:6

 平均抵抗能力:237

 平均速度能力:113

 スキル

 「怠惰」「睡眠無効」「退廃」「禁忌lv2」「韋駄天lv1」「腐蝕攻撃LV7」「腐蝕耐性LV7」「鑑定LV9」「のんびり屋LV2」「念話LV1」「n%I=W」

 スキルポイント:69230

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」》

 

 おおー……普通。

 でも韋駄天のおかげで速度が3桁だ。

 韋駄天は偉大だなぁ…。

 

 『あれ?私もレベルが上がってる。』

 

 『もしかして一緒に戦ったら経験値が共有されるのかな?』

 

 『流石に止めをさした方が多くもらえるだろうけど、これからは一緒に戦ったほうが良さそうだね。』

 

 『そうだね。…鑑定していい?』

 

 『いいよー。私もするね。』

 

 舐め回すような不快感を感じながら蜘蛛さんを鑑定する。

 

 《スモールタラテクト LV4 名前 なし 

  ステータス

 HP:40/40(緑)

 MP:40/40(青)

 SP:40/40(黄)

   :40/40(赤)

 平均攻撃能力:22

 平均防御能力:22

 平均魔法能力:20

 平均抵抗能力:20

 平均速度能力:390

 スキル

 「HP自動回復LV2」「毒牙LV8」「毒合成LV1」「蜘蛛糸LV8」「斬糸LV3」「操糸LV6」「投擲LV2」「集中LV2」「命中LV2」「回避LV1」「鑑定LV7」「探知LV4」「隠密LV5」「外道魔法LV2」「影魔法LV1」「毒魔法LV1」「過食LV3」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV1」「毒耐性LV7」「麻痺耐性LV3」「石化耐性LV2」「酸耐性LV3」「腐蝕耐性LV3」「恐怖耐性LV5」「苦痛無効」「痛覚軽減LV5」「強力LV2」「堅固LV2」「韋駄天LV2」「禁忌LV2」「n%I=W」

 スキルポイント:10

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」》

 

 ステータスなら私が上だけど……スキル量じゃ負けるなぁ。

 それに戦闘経験の量も負けてるし、戦ったらどっちが勝つんだろう?

 蜘蛛さんは格上を倒すほど強いし私が負けるのかなぁ……。

 まぁきっと戦うことなんて無いだろうし、考えても無駄か!

 頼りにしてるよ!蜘蛛さん!

 

 

 

 

 




 蜘蛛子とタニシ、戦ったらどっちが勝つか真剣に考えてみた。

 タニシは体の都合上素早く這うことはできるが跳ぶことは難しい。
 蜘蛛子は生まれてからあった韋駄天のおかげと蜘蛛という生き物であるおかげで素早く立体的な機動が出来る。
 タニシの攻撃手段は腐蝕攻撃であり、カスリでもしたら消滅するが、射程が非常に短い。
 蜘蛛子の攻撃手段は糸、毒合成、毒牙であり、遠距離からの攻撃が可能。
 止めとしてよく毒牙を使用するが、タニシにやろうものなら消滅してしまうため使えない。
 遠距離攻撃が可能な蜘蛛子と近接特化のタニシ。
 普通なら遠距離攻撃が可能な蜘蛛子が勝つだろう。
 しかしタニシにはチートスキル「怠惰」がある為、「怠惰」の消費量増大がどれだけのものかはっきりしていないが、もしも糸を数回出しただけでSPが尽きるほどのものだった場合、蜘蛛子に勝ち目は無い。

 でもきっと蜘蛛子ならやってくれるので蜘蛛子が勝つ。
 私はそう信じたい。


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蜘蛛1 仲間の成長速度が早すぎる

 今日は何もない日なので2話目。
 今回は蜘蛛子視点。
 ちょっと短めです。
 


 

 タニシちゃんに会った時の衝撃を今でも思い出す。

 めっちゃレベルが高い鑑定、極端なステータス、私と同じ「n%I=W」という謎スキル。

 そして、日本人の名前。

 

 あまりの衝撃に考えるのをやめてたなー。

 驚かないほうが無理ってやつだよ。

 しかもその後念話で話して初期スキルポイント80000ということも知った。

 私は思った、アホかと。

 だって初期のスキルポイント私の800倍だぞ!?

 800倍って何だよ!?

 例の金色戦士3ですら400倍って聞いたぞ!?

 そのさらに2倍ってどんだけだよ!!!

 

 でもまぁ、それのおかげで頼もしい仲間になってくれたから別に良いけどねー。

 こんなにスキルポイントが無かったら念話で会話すらできなかっただろうし、ありがたやありがたや。

 私もなーあんなにあればなーこんなに苦労することは無かったんだけどなーー?

 ……はぁ、嘆いてもしょうがない。

 タニシちゃん、スキル無かったら底辺中の底辺のステータスだもんね。

 多分スモールレッサータラテクトより弱いだろうし、タニシちゃん、結構苦労してたりするのかな?

 

 『う〜ん…。』

 

 私の頭の上で唸るタニシちゃん。

 多分どんなスキルを取ろうか悩んでるんだろうねー。

 このタニシちゃんが頭の上にいるっていう状況。

 これタニシちゃんが私を噛んだ瞬間、私は塵になって死ぬ。

 あの猿みたいな魔物の下半身が消滅したのを見てからそのことに気づいたんだよねー。

 いやー……怖いわ!!

 なんかの拍子に腐蝕攻撃されたらそれでエンドッ!!

 貴様はもう用済みだと言われて消される魔王の部下の気持ちが分かる気がしないでもない。

 というかタニシちゃん、即死攻撃しかできないんだよね。

 腐蝕攻撃しか攻撃手段が無いから瀕死にさせるっていう中途半端なことができない。

 どこ当ててもそこから崩れて消える。

 

 やべー。

 オワタ式じゃん。

 これ敵視点だとすげー怖いやつじゃん!

 仲間で良かったよ。

 

 そんなやべー力持ってんのに「怠惰」なんてチートスキル持ってるっていうね。

 なんかもう……ね!

 私も怠惰になっちゃうから使わないらしいけどねー。

 もし使われたらみんな動かなくなる。

 体がダルくなって動かなくなるとかじゃないから、命の灯火消されて動かなくなるから。

 それが無差別で本人はノーリスク、ほんとチートだわ。

 いやーほんと、仲間で良かったー!

 

 さて、仲間の頼もしさを再認識したところで家作りをしたいと思います!

 え?なぜかって?眠いんだよ!

 こちとら徹夜何日目とかだぞ!!

 まぶたが岩のように重いし、体がダルい。

 これ以上起きていられるか!私は眠らせてもらう!

 

 『ということで私はもう寝ようかなって思ってるんだけど、どうすればいいと思う?』

 

 『ん?う〜ん……岩影で寝るとか?』

 

 いやーそれも考えたんだけどなー。

 安全!って言えるような場所が無いんだよねー。

 

 『じゃあ……壁に張り付いて寝るとか?』

 

 『いやそれタニシちゃんの寝方でしょ……。』

 

 いや、待てよ?

 壁に張り付いて寝る……ありかもしれない。

 ここらへんの魔物で飛べる奴は居ない。

 このことから安全な場所は高い壁であることが分かる。

 つまり、壁に巣を作ってそこで寝ればいいじゃない!

 

 そうと決まれば即実行。

 壁に向かって走りカサカサと登っていく。

 

 『高いなぁ。』

 

 タニシちゃんの言うとおりだ、高い。

 めっちゃ高い。

 こえー。

 地上100メートルぐらい?

 やべー。

 タニシちゃん全然怖そうじゃねー。

 その余裕分けてくれないかなー。

 え?無理?

 知ってたよ!

 

 さーて、作業開始。

 

 誰でも分かる!蜘蛛さんの巣作り講座ー!!

 まず、粘着糸を出します。

 そして天井や壁に貼り付けます。

 次に網を作って粘着糸とくっつけます。

 これで外枠の完成です!

 さぁ、ここからが本番!

 ここでミスったら地上100メートルから叩きつけられます!

 キャー怖いー!

 そうならないように気を引き締めましょう!

 まず、周りの岩を斬糸で切り取りましょう。

 岩はとても硬いので何度も斬りつけないと切れません!

 その時にバランスを崩さないように、慌てず騒がず落ち着いてやりましょう。

 切り取れたらその岩を糸にくっつけます。

 え?なぜ岩をくっつける必要があるかって?

 あなたの糸をよく見てください。

 とても白いでしょう?

 そんな白いものが黒い迷宮の壁に張り付いてたら嫌でも目に入りますよね?

 つまりこの岩はカモフラージュの役割があるんです。

 これが無ければ地竜のブレスでふっ飛ばされてしまいます!

 面倒くさいからってカモフラージュをサボると、もう二度と面倒くさい思いができなくなりますよ!

 ようは死にます!絶対にサボらないように!

 蜘蛛お姉さんとの約束だよ?

 

 これで蜘蛛さんの巣作り講座は終わります。

 皆さん、良い蜘蛛ライフを!』

 

 『……蜘蛛さん、さっきから誰に向かって言ってるの?』

 

 え?……あ、念話……。

 

 

 

 

 

 

 ああああああああああああああああ!!!!

 恥ずかしい!

 穴があったら入りたい!

 穴が無かったら掘って入りたい!

 記憶を消すスキルはないのか!!

 無いのか!!ないわー!

 独り言がバレるとこんなに恥ずかしいのか……!

 過去の私に毒牙をぶち込みたい!

 

 『…ああ、もしかして独り言?大丈夫だよ、私もよくやってたからさ、恥じることはないんだよ?』 

 

 『タニシちゃん………!』

 

 タニシちゃんは本当に素晴らしい御方。

 この蜘蛛、感服でございます。

 ……いやーないわー。

 まじでないわー。

 独り言が念話でダダ漏れだったとかないわー。

 これは一生の恥、二度と忘れることは無い。

 はぁ……こうなるなんて…。

 今はタニシちゃんという仲間がいるんだからさ。 

 独り言はもうやめよう。

 

 さて、寝る前にタニシちゃんのステータスでも見ようかな。

 見ていい?

 

 『いいよ。』

 

 そんじゃあ…鑑定!

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV4

  ステータス

 HP:1144/1144(緑)

 MP:106/106(青)

 SP:1141/1141(黄)

   :1141/1141(赤)

 平均攻撃能力:10

 平均防御能力:1040

 平均魔法能力:6

 平均抵抗能力:1037

 平均速度能力:113

 スキル

 「怠惰」「睡眠無効」「退廃」「禁忌lv2」「韋駄天lv1」「腐蝕大攻撃LV1」「腐蝕無効」「鑑定LV9」「のんびり屋LV10」「念話LV1」「n%I=W」》

 

 なんかすごい上がってる!?

 誰だ!?こんなことをしでかしたのは!?

 タニシちゃんか!?

 なんで!?

 スキルポイントを惜しむのをやめたか!

 のんびり屋がカンストしてる!!

 お前のせいか!!

 ステータスやべーことになってんじゃねぇーか!!

 腐蝕無効ってなんだ!?腐蝕大攻撃ってなんだ!?

 

 『ちょっとタニシちゃん!これってどういうこと!?』

 

 『レベル上げに必要なスキルポイントが少なかったから上げただけだよ。』

 

 『いや上げただけって…どれだけ使ったの?』

 

 タニシちゃんがどれだけ使ったか計算し始める…て計算しないといけないぐらい使ったの!?

 

 『…4000。』

 

 『うわっ…いやでもタニシちゃんからしたら大した事ないのか。』

 

 残り60000だっけ。

 十分の一にも満たないじゃん。

 羨ましいな、おい!

 ほんとなんで私は100しかなかったんだろう?

 謎だ。

 

 

 

 




 のんびり屋LV2→lv10
 使用スキルポイント1600
 腐蝕攻撃lv7→腐蝕大攻撃lv1
 使用スキルポイント300
 腐蝕耐性LV7→腐蝕大耐性lv1
 使用スキルポイント300
 腐蝕大耐性lv1→腐蝕無効
 使用スキルポイント1800
 合計4000

 残りスキルポイント65230


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猿蜘蛛タニシ合戦


 
 タニシのHP、SPがそれぞれ100少なかったので修正しました。
 タニシのスキルに「念話」が無かったので修正しました。


 『そんじゃ、おやすみー。』

 

 『おやすみ。』

 

 蜘蛛さんが糸で作った布団もどきをかぶる。

 私は「睡眠無効」があるので寝る必要はない。

 寝ようと思えば寝れるけど、私は寝ることが好きというわけではないから寝ない。

 こうやって、外を眺めながらボーッとするのが好きだ。

 悩みも無く、邪念も無い、この時間が大好きだ。

 たとえ何もない大空洞でも構わない。

 ただ、頭の中をカラッポにして、何も感じず、ただそこにいる。

 そんな今が、大好きだ。

 

 

 ふと、大空洞の奥に何かがいるのが見えた。

 いや、見えてきた、と言うべきか。

 目を凝らしてその姿を見てみる。

 そこには、あの猿がいた。

 しかも大勢。

 ざっと数えて50弱の猿だ。

 それが全て私達に向かってきている。

 

 『蜘蛛さん!ちょっと起きて!!』

 

 『むにゃむにゃ……後5分……。』

 

 『5分も待ったら猿たちの胃袋の中に入ってるよ!早く起きて!』

 

 『分かった起きるよ…………グー。』

 

 ダメだ蜘蛛さん全然起きない……。

 なんとかして起こさないと、私も蜘蛛さんも死んじゃう。

 ……仕方ない、蜘蛛さんの嫌いそうなことを言おう。

 

 『ねぇ…蜘蛛さん。早く起きないと腐蝕大攻撃、やっちゃうよ?』

 

 その瞬間蜘蛛さんの全身の毛が逆立つ。

 そして蜘蛛さんは飛ぶように起きた。

 

 『は、はい!わかりました!起きます!!』

 

 『起きてくれたね。』

 

 『え?……ん?なんか騒がしくない?』

 

 『外を見ればわかるけど、大量の猿たちが向かってきてるよ。』

 

 『え!?』

 

 慌てて外を覗くと、そこに猿たちはいなかった。

 しかし声は聞こえる。

 どこからか?下を見てわかった。

 もう猿たちは私達の下にたどり着いていた。

 

 『え!?なんでバレてるの!?完璧なカモフラージュだったのに!』

 

 『私が倒したあの猿が、何か特殊なスキルを発動させたのかも。』

 

 『な、なるほど…。』

 

 蜘蛛さんが猿たちを見る。

 勝ち目があるかどうか考えているのかな。

 何体かの猿がこの垂直の壁を登っているので、ここにいられる時間は短いだろう。

 逃げるか戦うか、蜘蛛さんの判断を待つ。

 

 『よし!逃げよう!』

 

 『分かった。』

 

 私は蜘蛛さんの頭に乗り移動に備える。

 乗り心地はあんまり良くない。

 

 『戦略的撤退、開始!!』

 

 てったーい!!

 蜘蛛さんがここから逃げようと壁にそって巣から離れる。

 すると目の前に石が飛んできた。

 これって……。

 

 私達は猿たちを見る。

 やっぱりだ。

 あの石は猿たちが投げてきたんだ。

 地上100メートルのこの場所に石が届くってどんだけ肩が強いんだろう?

 うわっ!危な!また飛んできた!

 壁を登ってない猿たちが沢山の石を私達に投げてくる。

 しかも正確に投げてくるのでかなりまずい。

 

 『やばい!巣に戻らないと死ぬ!』

 

 壁に張り付いたままだと石が数発当たっただけで足がふらついてしまうだろう。

 そうなったら最後、猿の海に沈むことになる。

 それを察知した蜘蛛さんは巣に戻ることにしたようで飛びこむように巣に帰った。

 

 『……やばくない?逃げられないじゃん。』

 

 『あの猿たちを全員倒さないといけないのかな。』

 

 『……まじかー。』

 

 簡易ホームから顔を出して猿の状況を見てみる。

 まだ4分の1程度しか登ってきていないがそれでも順調に猿たちが近づいてきている。

 まずい……なんとかしないと猿の波に飲まれることになる。

 でも私遠距離攻撃なんにも無い……。

 だから迎撃ができないや。

 どうしよう……。

 内心で頭を抱ていると何を思いついたのか蜘蛛さんが前足を前に出す。

 

 『毒合成!蜘蛛毒を喰らえ!』

 

 すると、目の前に大きな毒の水玉が出現する。

 その水玉は重力に従い落下し、壁登り中の猿に直撃すると、その猿は絶命したのか力が抜けて壁から落ちていった。

 さすが蜘蛛さん!これなら猿たちを迎撃できるね!

 

 蜘蛛さんはその調子で蜘蛛毒を落とし続け、猿たちを倒していく。

 猿たちもこのままではまずいと思ったのか巣の横へ移動していき、蜘蛛毒の回避を狙い始めた。

 

 『横に移動しきる前に出来る限り猿を倒す!』

 

 蜘蛛さんが毒玉を落としまくる。

 十発目で猿の横移動が完了したため、毒玉は当たらなくなってしまった。

 毒玉による猿の撃退数は20体ほど。

 これほど倒せば数が減ったことが目に見えてくるはずだが、まったく見えてこない。

 なぜなら数が減るどころかどんどん猿の増援が来ているからだ。

 もう100体はいると思う。

 それでも終わることなくどんどんドンドン来る。

 某クラフトのスポーンブロックでも置かれたのだろうか?

 そう思ってしまうほど、奴らは奥からやってくる。

 

 『足止めしないと!』

 

 蜘蛛さんが周りに粘着糸を猿たちの進行方向を防ぐようにばらまく。

 私達にたどり着くには猿たちはこの糸まみれの壁を超えなければならない。

 しかし猿たちは躊躇することなく糸の壁を登り、先頭は動けなくなるが、動けなくなった先頭を踏み台に前に前にと進んでくる。

 蜘蛛さんは慌てて追加の糸をばらまき足止めを行うがそれも時間の問題だ。

 いずれ糸を猿が覆いつくし、残りの猿が私達を仕留めてくるだろう。

 

 そのことに気づき蜘蛛さんはMPの出し惜しみを止め、投網を放つ。

 それによって10体近い猿たちが拘束された。

 すかさず2回目の投網。

 この調子でやればほとんどの猿たちを拘束できると思ったが、彼らには他の魔物にはないものがあった。

 猿たちは私達に邪魔されないように投石をしつつ、1度に多く拘束されるのを防ぐために左右に分散して、かたまらないように行動し始めた。

 そう、彼らは頭が良かった。

 

 『くそっ!これじゃ拘束できても1、2匹だ!』

 

 効率良く倒す手段がなくなってきているのに、彼らの増援は止まらない。

 着々と彼らに追い詰められつつある私達。

 蜘蛛さんはもうMPもSPもぎりぎりの赤バーだろう。

 そんな状況なのに私は手伝い1つ出来やしない。

 当たり前だ、遠距離攻撃を私は持っていないのだから。

 私だけが生き残るのなら「怠惰」があるが、それじゃ意味が無い。

 蜘蛛さんと生きてこの状況を抜け出したい。

 でもどうする?

 このままじゃじり貧、数分もすれば私達は死んでいる。

 どうする?

 彼らは自分が死んでも構わないと思ってる。

 半端な攻撃じゃ足止めにもならない。

 どうする?

 どうすればいい?

 

 私はステータスを見てみる。

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV4

  ステータス

 HP:1144/1144(緑)

 MP:106/106(青)

 SP:1141/1141(黄)

   :1141/1141(赤)

 平均攻撃能力:10

 平均防御能力:1040

 平均魔法能力:6

 平均抵抗能力:1037

 平均速度能力:113

 スキル

 「怠惰」「睡眠無効」「退廃」「禁忌lv2」「韋駄天lv1」「腐蝕大攻撃LV1」「腐蝕無効」「鑑定LV9」「のんびり屋LV10」「念話LV1」「n%I=W」

 スキルポイント:65230

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」》

 

 この4桁のHPとSPと防御力をどう活用すればいい?

 この「腐蝕大攻撃」をどうすれば彼らに当てられる?

 この役立たずの「怠惰」をどうすれば使える?

 

 考えろ!

 いつまでものんびりするな!

 そのノロマな脳を働かせろ!

 

 

 

 ………そうだ、こうすればいいんだ。

 私は近接特化、それは変わらない。

 近接攻撃は、近づかなきゃ当たらない。

 

 『蜘蛛さん。』

 

 『なに?何かいい作戦思いついた!?』

 

 私は今やろうとしていることを蜘蛛さんに言う。

 それを聞くと蜘蛛さんは私を止めようとしてきた。

 

 『え!?危険だよ!というか死ぬよ!!やめときなって!』

 

 『蜘蛛さん!彼らは私達を殺すに必死。彼らは、私達を死ぬ気で殺すつもりなんだ!

 だから、私も死ぬ気で彼らを殺さないと彼らに失礼だよ!!』

 

 そう叫ぶように言って私は蜘蛛さんから離れる。

 そして後ろから聞こえる蜘蛛さんの制止の声を無視し、私は猿の海に飛び込んだ。

 

 

 

 




 蜘蛛ですが、なにか?の中で猿戦は結構好きです。
 なのでめっちゃ猿戦見返して書きました。


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タニシがちかづいてきた!

 
 今話はオリジナル設定が入ります。
 苦手な方はお覚悟を。


 私は着地地点にいた猿に噛みつき塵にする。

 「腐蝕大攻撃」になったおかげか一部が消滅するのではなく全身が消え去った。

 よし、近づけた、「怠惰」発動!

 私は怠惰を取得してから、試しに使ってみたことがある。

 その時の感覚で分かった、これは出力調整が出来ると。

 その後蜘蛛さんに怒られたから試せなかったが範囲を最小で50m、最大で5000mまで調整できる確信があった。

 範囲を広くすればするほど消費量増大の力は減っていき、逆に狭くすればするほど力は大きくなっていく。

 今まで蜘蛛さんが近くにいたから怠惰は発動出来なかったが、ここなら、100メートル離れたここなら問題はない。

 最小の50mをキープしながら猿たちと戦う。

 それが私の考えた猿たちとの戦い方。

 

 私は次の猿に噛みつこうとするが、それを許す猿ではない。

 まるでサッカーボールのように私は蹴飛ばされた。

 しかしやってやった。

 蹴飛ばされる瞬間を狙って猿の足に噛みついた。

 私を蹴飛ばした猿はもういない。

 宙に浮いている間に猿が移動する。

 そこは私の着地地点。

 追撃をする気満々のようだ。

 いいよ。

 いくらでも追撃してきても。

 こっちは4桁の防御とHPを持っているんだ。

 攻撃力100ぽっちで倒せるなんて思うなよ!

 

 猿の追撃、どうやらアッパーのようだ。

 私は口を開け殴られる準備をする。

 そして私の口にデカイ拳が突き刺さる。

 私にダメージは殆どない。

 けど猿は違う。

 アッパーで吹っ飛ばされた私を猿たちが追ってくる。

 また同じことをされたいか。

 私は口を開け待ち構える。

 しかし猿は殴るのではなく掴んできた。

 顔から離れた胴体を。

 

 猿は私を握りつぶそうと力を込める。

 渾身の力でも私からしたらちょっと握られてるなーぐらいだ。

 ダメージなんて無い。

 ……でも攻撃できないからこの猿を倒せない。

 どうしよう。

 しかたない、怠惰で倒れるまで待とう。

 怠惰で力尽きるのを待ってると猿は持ち方を変え始めた。

 なに?なにをする気なの?

 私の顔が下を向くように持ち、そして振り上げる。

 猿がやろうとしていることが分かった。

 これ、私を地面に突き刺すつもりだ。

 ちょっとそれは痛いかな。

 やめてほしいな。

 ね?暴力はだめだよ。

 だからやめて?

 

 猿は私の制止を無視し私を地面に突き刺す。

 しかも突き刺すだけじゃない、はみ出た私のお尻を踏んづけてる。

 ふ〜ん。

 そういうことしちゃうんだ。

 怒った。

 私は怒ったよ。

 命乞いをしても許さないからね?

 一人残らず塵して、私の経験値になってもらう。

 全員塵にするのは蜘蛛さんが困るからやらないけどね。

 でもその気でいくから覚悟しといてよ。

 

 『HP:995/1144』

 

 まだ残ってるね。

 これなら死ぬ前に猿たちが力尽きる。

 私はのんびりしてるだけでいい。

 それだけで「のんびり屋LV10」の効果が発動して、HPを回復してくれる。

 お尻が踏まれ続けるのはあれだけど勝つ為の致し方ない犠牲だ。

 我がお尻よ、耐えてくれ。

 

 バタバタッ

 

 何かが倒れる音が聞こえる。

 いや、もう分かりきっている。

 猿だ、猿たちが力尽きたんだ。

 でもまだ気配を感じる。

 蜘蛛さんの方角に多数、奥のほうにも多数。

 フフッ…私が倒したのは氷山の一角に過ぎなかったようだな。

 だめじゃん。

 しかも埋まったまま動けないし、顔が埋まってるせいで腐蝕大攻撃ができない。

 大量の猿が倒れ伏したところの真ん中にお尻を出したタニシが埋まってる状況になってる。

 なにそれ。

 何かの風刺画かなにかかな。

 蜘蛛さんは私を見ているのかな。

 だったらどんな気持ちで見ているのだろう?

 あとで教えてもらおうかな。

 

 そんなことを思っていると何者かにお尻を握られる。

 ゴツゴツしていて強そうな手だ。

 そのまま引っこ抜かれて謎の手の正体が分かる。

 

 《バグラグラッチ LV7

  ステータス

 HP:810/810(緑)

 MP:135/135(青)

 SP:798/798(黄)

   :794/794(赤)

 平均攻撃能力:734

 平均防御能力:716

 平均魔法能力:111

 平均抵抗能力:176

 平均速度能力:737

 スキル

「投擲LV9」「命中LV9」「立体機動LV8」「連携LV7」「過食LV3」「休LV2」「強固LV3」「強力LV3」「毒耐性lv5」「腐蝕耐性lv3」

 スキルポイント:170

 称号

 「魔物殺し」「悪食」》

 

 oh……。

 ひょっとして今の私、結構ヤバい?

 

 ミシミシ……

 

 あ、待って握らないで握らないで!!

 なんでゆっくりと力を入れてるの!?

 死の恐怖を味わいながら潰されろっていうこと!?

 中身出ちゃう!

 やめて!

 洒落にならない!

 死んじゃう!

 止め……

 

 グシャァッ!!!

 

 ゲポッ

 お尻が文字どおり潰された。

 今の私には上半身しか残ってない。

 あの猿に血がかかってるけど…ちょっと痛いだけで済んでる。

 どうやら私が腐蝕攻撃をするという意思が無いと「腐蝕攻撃LV1」に相当するダメージしか与えられないらしい。

 

 『HP:9/1144』

 

 こんな数値同じタニシでしか見たことないや。

 まずい、意識が薄れてきた。

 あの猿は止めをさすために私に拳を振るう。

 あれをくらった瞬間、私は死ぬ。

 死の瞬間に人は時間がゆっくりに感じると聞いたことがある。

 どうやらその話は本当だったらしい、今はタニシだけど。

 引き伸ばされた時間の中でゆっくりと死が近づいてくる。

 どうしようもない、終わりだ。

 さらば、蜘蛛さん!

 またどこかで!

 

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがlv4からlv5になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがLV5からlv6になりました》

 

 死ぬと思っていたのか?

 私は生きるぞ!

 怠惰でSPがゼロになっていた猿たちがくたばったか!

 知ってるかな?

 生物はSPがゼロになると死ぬ。

 

 『HP:1168/1168』

 

 ははは!!

 レベルアップでHP全回復!!

 さらに最大HPが強化されたぞ!!

 あっはっはっは…ぶへぇ!?

 

 『HP:992/1168』

 

 あだた……そういえばあの猿が私を殴っている途中だったね。

 しかし!!

 そんなことを気にしないほど今の私は気分が良い!!

 なぜか分からないけどとても気分が良い!!

 

 《熟練度が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがlv6からLv7になりました》

 

 『HP:1180/1180』

 

 ははは!!

 どうした猿くん!!

 君は今こう思っている……。

 さっきまで追い詰めていたのに……とな!!

 残念だったね!!

 みんな怠け者になってしま……グヘェ!!

 

 『HP:1004/1180』 

 

 ぐぬぬ……喋ってる間に攻撃とは!!

 卑怯者!!

 だが私はこの程度で怒ったりしないほどテンションが高い!!

 まるでジェットコースターのあれ……1番上の部分のところ……それ…ぐらい高いぞ!!!

 今の状態のことを現代人はこう言うと思う!!

 最っ高にハイってやつだあああああああああああ!!!

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 猿くんが叫び声を上げとんでもないスピードで飛び込んで来たと思ったら空中で体勢を変え、私に向かって空中回し蹴りを放ってくる。

 調子に乗っていた私は当然避けられず直撃。

 

 グヒャアアア!!!

 

 『HP:354/1180』

 

 ヤバい!次くらったら死んじゃう!

 なんとかして回復しないと!

 のんびり屋は無理!

 今はのんびりできそうにない!

 怠惰で倒れた猿はもういない!

 ならばあの猿くんを倒せばいいじゃない。

 こいよMONKEY!拳なんて捨ててかかってこい!

 

 「ガアアアアアアアアアアア!!!」

 

 猿くんは飛び込んでグルグル回し蹴りをしてくる。

 どうやらあの一発で味をしめたらしい。

 ふっ!そう何度もくらうと思わないでよ?

 さっきので対処法を思いついたのだ!

 猿くんなんて怖かねぇ!!

 野郎ぶっ殺してやる!!

 

 

 

 




 おや?タニシの様子が………頭を打っただけか!
 蜘蛛子は裏で迫りくる猿たちを倒してます。


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こいよ、エルローモンキー

 


 猿くんの足が近づいてくる。

 あれに当たれば即終了、人生がね。

 いや、タニシ生?

 そんなことはどうでもいい。

 確かにあの攻撃は凄まじいダメージを与える。

 しかし、あの攻撃には重大な欠点がある。

 それは空中に飛んでいるので軌道修正できないという点だ。

 つまり前進するだけで避けれてしまう。

 

 私は全力で前進する。

 猿くんの足が地面に突き刺さり、地面が砕ける。

 うわー…あんなのくらってたのか。

 それで生きてるのは誇っていいのかもしれないね。

 おっとそんな考えてる暇はない。

 すぐに次が来る。

 

 「グルルルル………。」

 

 なんだかご立腹のご様子。

 さっきまで攻撃が必中していたのに避けられたからかな。

 浅い考えで私を倒せるとおもっているのか!

 ほら!あの猿たちみたいに死ぬ気でかかってこい!

 こっちもその気でいくからさ!

 …………あれ?

 こないな。

 猿くんは威嚇したまま襲ってこない。

 なんで?

 カウンターでも狙ってるのかな。

 私もカウンター狙ってるからね。

 つまりふたりとも相手の攻撃を待ってる状態。

 何もできないや。

 静かすぎて蜘蛛さんのほうから猿の声が聞こえる。

 まだ戦ってるみたい。

 妙に高かったテンションが下がっていく。

 この下がり方は静かな中一人で騒いでると急に寂しくなるのに似ている。

 噂に聞く賢者タイムってやつだね。

 

 ん?猿くんが適当に周りの石を拾い始めたぞ?

 なんか嫌な予感がする。

 これ絶対投げるよね。

 君のステータスで石を投げられるのはキツイ。

 こっちは遠距離攻撃なんてないから反撃もできない。

 怠惰に任せるか。

 となると私が今やるべき行動は猿くんの投石を避けること。

 できるかな。

 700のパワーで投げられた石を避けれるの?

 普通の猿の7倍の投石を?

 ………頑張ろう。

 それに猿くんは野生だから効率のいい投げ方とか知らないはず。

 だから大丈夫。

 

 そんなことを考えていると猿くんが私の予想通り投げの準備をする。

 あれ?猿くんめっちゃフォーム良くない?

 プロ野球選手みたいにすごい良いよ!?

 

 「ガアッ!!」

 

 猿くんが投げたと思ったら、横の地面が爆ぜていた。

 見えなかったよ。

 恐ろしく速い投石、私なら見逃しちゃうね。

 やばいね。

 回し蹴りよりやばくない?

 これ……生き残れるかな?

 猿くんが第2球の準備をする。

 まって、強力な技ほどクールダウンは長いってゲーマーのお兄ちゃんが言ってたのにもう投げられるの?

 あ、これもゲームの話か。

 そんなことより避けないと!

 バックステップ!

 

 危な!

 目の前に着弾すると生きた心地がしない。

 やめてほしい。

 やめてくれるかな?

 やめてくれないね、第3球の準備してるね。

 ……よし、こい!

 

 前進!

 よし、当たらなかった。

 こういう時に体が小さいのが役に立つ。

 私という的が小さくて当てづらいからね。

 なんだ楽勝だな!

 ん?なんで石を砕いてるの?

 なんで砕けた石を投げようとしているの?

 何かで見たことあるよ、それ。

 君が猿だから?

 猿はそうする運命にあるの?

 え、待ってやめて投げようとしないで!

 

 「ガアアッ!!」

 

 石の散弾が飛んでくる。

 飛んできてたと言ったほうが良さそう。

 だって気がついたら被弾してたんだ。

 

 『HP:315/1180』

 

 一発一発が細かいしいろんな所にバラけるからダメージは少なめだけど……避けられない。

 まずい。

 でも避けられないなりにできることはある。

 

 のんびりしよう。

 ただのんびりするんじゃなくて不規則に動きながら。

 それのんびりじゃなくない?と思うだろう。

 私もそうだ。

 でも、これは有効だと思う。

 それに私は普通ののんびりをやるのではない。

 体はのんびりせず、心はのんびりする。

 普通の猿に埋められてお尻踏まれまくった時もそうだった。

 はたして踏まれている状況はのんびりしているといえるのだろうか?

 いや、いえない。

 しかし、あのときはHPは回復していた。

 つまり、心さえのんびりしていれば回復するということだ。

 まぁ、体はのんびりじゃないから回復量は半分ぐらいだけどね。

 不規則に動きながら出来る限り被弾を避け、HPを回復する。

 持久戦だ。

 

 猿くんは絶えることなく投石を続ける。

 ダメージレースでは負けているが、かなり耐えられるだろう。

 私は怠惰で猿くんが力尽きるのを待つだけだ。

 

 その時、なにか大きな音が聞こえてきた。

 蜘蛛さんの方角だ。

 一体なんだと見てみたら、壁にくっついていた大量の糸が剥がれようとしている。

 何者かによって引き剥がされているのかな。

 どうやら蜘蛛さんがやっているらしい。

 操糸のスキルを使って猿が貼りついた糸で下の猿たちを下敷きにするつもりのようだ。

 ん?まって?

 この角度、私に当たらない?

 ちょっと蜘蛛さん?

 あまりの激戦で私の存在忘れてる?

 そんなー。

 

 音を立てて近づいてくる猿と糸の壁。

 どう考えても巻き込まれる角度だ。

 うん、今すぐここから離れよう。

 こんな所にいられるか!私はこの場所から離れるぞ!

 全速力で走る私。

 しかし悲しいかな。

 体が小さく、スピードも速いとは言えない。

 そんな私が逃げられるはずもなく……。

 

 私は猿と糸の下敷きになった。

 

 いてて……防御力が1000いってて良かった。

 おかげでダメージはかなり少ない。

 周りは猿だらけ、まだ生きているのもいるらしく少しだけ呻き声が聞こえる。

 これ蜘蛛さんすごいレベル上がったんじゃない?

 私も巻き込んでなかったら絶賛してたよ。

 さて、そんなことは一旦置いといてと。

 ここから出よう。

 

 私は猿の死体と糸を腐蝕大攻撃で塵にして自分の出口を作る。

 その出口からこの猿山を出ていくと、外の光景が目に飛び込んでくる。

 どうやらほとんどの猿を倒したらしく、あと残ったのは猿くん似の猿3体だけだ。

 1体は本物の猿くんだけどね。

 残りの猿たちを見ていると後ろから蜘蛛さんが近づいてくる。

 怠惰はOFFにしておこう。

 

 『タニシちゃん、ごめん!巻き込んじゃって!』

 

 『………………………いいよ、別に。』

 

 『ほんとごめん!!』

 

 猿の山に埋もれなければ石の散弾を浴び続けることになってたし、むしろ感謝したいぐらいだよ。

 さすがに耐久力があるからって石を投げられたいとは思わない。

 

 『ねぇ…あの猿たちどう倒す?』

 

 『うわぁ…ステータスやば……え?う〜ん簡易ホームで戦う?』

 

 『投石してくるけど耐えられる?』

 

 『多分耐えられる。』

 

 そう言いつつ蜘蛛さんから不安を感じる。

 もし防げなかったら蜘蛛さんだと一発アウトかも知れないからだろう。

 糸に自分の命を預けるようなものだ。

 誰だって不安を感じるはずだ。

 

 蜘蛛さんが簡易ホームを作る。

 作っている間、猿くん達は動くことは無くじっとしていた。

 一体なにを企んでいるんだろう?

 私の頭では分からない。

 深いかもしれないし浅いかも知れない。

 

 おっとそんなことを考えている間に簡易ホームが出来上がった。

 投石対策に猿くん達のいる方向は糸が多めだ。

 逆に壁の方はスカスカでなにもはられてない。

 簡易ホームというより糸でできた盾だね、これ。 

 

 『タニシちゃん、私の合図で怠惰を発動して。』 

 

 『ん?分かった。』

 

 猿くん達が投石の準備をする。

 今回はその場にとどまっているので石を砕かず素材のまま使うようだ。

 3体がフォーム良く1つずつ、計3個の石を投げつけてくる。

 その石は私達を葬る威力があったが糸の盾は耐えきった。

 すぐに蜘蛛さんが糸の塊、クモーニングスターを猿くん達に投げつける。

 猿くん達は体勢を整えている途中だったため1体の猿くん似の猿に命中、身動きが取れなくなる。

 蜘蛛さんは次のクモーニングスターの準備をする。

 

 『タニシちゃん、今!』

 

 『わかった。』

 

 蜘蛛さんの指示通りに怠惰を発動させる。

 そうするとどうだろう。

 糸に絡まった猿くん似の猿のSPがどんどん減っていくではありませんか。

 なるほど、糸に絡まってもがくと体力を消耗する。

 怠惰はその消耗を加速させるスキルだ。

 だからこんなにも速くSPが減っていくのだろう。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがlv7からlv8になりました》

 

 HP全回復だ。

 さっきは妙にテンション上がってたけどそれで痛い目にあったからもう上がらない。

 蜘蛛さんもレベルアップしたようで、せっせと皮を脱いでいる。

 そういえば私って脱皮しないね。

 そういう種族なのかな?

 

 『タニシちゃん、怠惰切って!』

 

 『分かった。』

 

 まったく同じ手順でもう1体の猿くん似の猿がやられる。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがlv8からlv9になりました》

 

 さて、あとは猿くん、君だけだ。

 どうする?

 猿くんは周りを見渡し、近くにあった岩に近づく。

 そして岩を持ち上げてこっちを向いた。

 

 え?まってそれ投げるの?

 あはは、いくら猿くんでもさすがにそれは投げられないでしょ。

 投げられないよね?

 あ、これ投げられるやつだ。

 だって猿くんから投げるぞっていう意思が伝わってくるんだ。

 これやばいね。

 

 『うそ!?あれは流石に防げない!タニシちゃん、早く逃げよ!!』

 

 『う、うん。』

 

 蜘蛛さんの頭に乗り、移動する準備をする。

 

 「グオオオオオオオオ!!!!」

 

 全私を震撼させる叫び声と共にさっきまでいた場所に岩が突き刺さる。

 なんかもう…怖いより凄いって思っちゃう。

 蜘蛛さんの話を聞いた限りだとこれより上が2匹ぐらいいるらしい。

 なんか嫌になってくるなー。

 おっと蜘蛛さんもう捕まえたのね。

 怠惰発動。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、エルローゲーレイシューがlv9からlv10になりました》

 《条件を満たしました。個体、エルローゲーレイシューが進化可能です》

 

 お、これが噂に聞く進化ってやつか。

 一体どんな進化なのか、期待しておこう。

 

 

 

 




 私はスマホ投稿なので誤字があったら気軽に言ってください。
 修正します。


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やはり進化か、いつ進化する?

 私も同行しよう。


 私は動けない猿に噛み付く。

 その猿は消える。

 その繰り返し。

 

 何をやっているのかというと、蜘蛛さんが捕まえた猿たちを蜘蛛さんと一緒に処理している。

 蜘蛛さんはいつもの毒牙を、私はいつもの腐蝕大攻撃を。

 それぞれ猿たちに向けている。

 猿たちはそんな私たちに威嚇している。

 若干怯えがあるように見えるけど、猿たちは死ぬ気で来てたから気のせいだろう。

 

 《条件を満たしました。称号「無慈悲」を獲得しました》

 《称号「無慈悲」の効果により、スキル「外道魔法LV1」「外道耐性LV1」を獲得しました》

 

 無慈悲とは失礼な。

 ただ猿たちの失礼のないように行動してるだけだよ。

 

 ガブガブ

 

 《条件を満たしました。称号「魔物殺し」を獲得しました》

 《称号「魔物殺し」の効果により、スキル「強力LV1」「堅固LV1」を獲得しました》

 

 そんなこと言われるぐらい魔物倒してたんだね。

 

 ガブガブ

 

 《条件を満たしました。称号「崩壊」を獲得しました》

 《称号「崩壊」の効果により、スキル「腐蝕大耐性LV1」「腐蝕大攻撃LV1」を獲得しました》

 《「腐蝕大耐性LV1」が「腐蝕無効」に統合されました》

 《「腐蝕大攻撃LV1」が「腐蝕大攻撃LV1」に統合されました》

 

 ん?「崩壊」?

 

 『崩壊:取得スキル「腐蝕大耐性LV1」「腐蝕大攻撃LV1」:取得条件:一定数の生物に腐蝕属性攻撃をする:効果:与える腐蝕属性ダメージが増加する:説明:腐蝕属性を扱う者に贈られる称号』

 

 へー。

 こんなのもあるんだ。

 生物に使うことが条件なのね……怖っ。

 これ持ってるやつはたくさんの生物を塵にしてきた悪い奴っていうことだよね。

 こんな称号を持ったやつには会いたくないね。

 

 ガブガブ

 

 ふぅ…終わった。

 蜘蛛さんは皮を脱いでいる。

 レベルアップしたみたい。

 私はレベルアップしないのはもうlv10だからかな。

 カンストってやつだね。

 カンストで思い出した、そういえば進化可能だったね。

 進化は何があるんだろう?

 

 『進化可能:グレイザーorインレント』

 

 う〜ん………分からん。

 名前じゃ全く想像できないや。

 

 『グレイザー:進化条件:エルローゲーレイシューlv10:説明:エルローゲーレイシューの進化形態の一つ。鋭い牙で相手を切り裂き、強靭な顎で噛み砕く』

 

 『インレント:進化条件:エルローゲーレイシューlv10、スキル〈怠惰〉:説明:エルローゲーレイシューの進化形態の一つ。怠惰を持ちしエルローゲーレイシューにのみ許された進化。』

 

 後者のほう全く説明になってないじゃん。

 進化してからのお楽しみっていうこと?

 前に戻るが出来ないんだからやめてほしい。

 

 ん?蜘蛛さんが何かやってる。

 あれは……巣作りかな?

 どうやら蜘蛛さんも進化可能らしい。

 それで進化の準備中てとこかな。

 たまに猿を食べるのは体力回復の為かな。

 今回は岩をつけないみたい。

 

 『ふぅ…タニシちゃん、私進化するから寝るね。』

 

 『あ、私も進化するよ。入れて?』

 

 『いいよー。』

 

 それでは遠慮なく。

 おお、真っ白。

 簡易ホームだから凝った作りはしてないけど外敵から身を守るぐらいはできそう。

 

 『それじゃ、進化するねー。』

 

 『うん。』

 

 『おやすみー。』

 

 蜘蛛さんが眠りにつく。

 抗えない眠気だって聞いたけど、こんなに早く寝るものなの?

 すごいなぁ。

 そんなことより進化先を決めなきゃ。

 えっと、ようはグレイザーは噛みつき特化。

 インレントは怠惰がないと進化できない……いわゆるレアな進化かな。

 う〜ん……。

 うん、レアな方だね。

 レアってなんか強そうだし。

 

 さて、進化する前にステータスでも見てみよっと。

 

 《エルローゲーレイシュー(篠前 ゆりか) LV10

  ステータス

 HP:1216/1216(緑)

 MP:112/112(青)

 SP:1225/1225(黄)

   :1225/1225(赤)

 平均攻撃能力:18

 平均防御能力:1124

 平均魔法能力:13

 平均抵抗能力:1131

 平均速度能力:190

 スキル

 「堅固LV1」「強力LV1」「外道耐性LV1」「外道魔法LV1」「怠惰」「睡眠無効」「退廃」「禁忌lv2」「韋駄天lv1」「腐蝕大攻撃LV2」「腐蝕無効」「鑑定LV9」「のんびり屋LV10」「念話LV2」「n%I=W」

 スキルポイント:65300

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「魔物殺し」「無慈悲」「崩壊」》

 

 相変わらずレベルアップによるステータスアップがスキルだより。

 スキルの影響を受けていないところがやっと10を超えられたぐらい。

 スキルに感謝。

 

 それじゃあ…進化しよう。

 

 《個体、エルローゲーレイシューがインレントに進化します》

 

 はい。

 ではおやす……あれ?

 眠くならないな。

 あ、ひょっとして睡眠無効の効果?

 だからかー。

 お、これが進化?

 全身が別のものに変わっていくのを感じてきた。

 でも不愉快じゃない。

 むしろ嬉しいかな。

 

 

 《進化が完了しました》

 《種族インレントになりました》

 《各種基礎能力値が上昇しました》

 《スキル熟練度進化ボーナスを取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「堅固LV1」が「堅固lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「強力LV1」が「強力lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「外道耐性LV1」が「外道耐性lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「外道魔法LV1」が「外道魔法lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「韋駄天LV1」が「韋駄天lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「腐蝕大攻撃lv2」が「腐蝕大攻撃lv3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「鑑定lv9」が「鑑定lv10」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「念話lv2」が「念話lv3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌lv2」が「禁忌lv5」になりました》

 《進化によりスキル「共存lv8」を獲得しました》

 《進化によりスキル「吸収lv8」を獲得しました》

 《スキルポイントを入手しました》

 

 すごい上がるね。

 いやなのも上がったし、良いものも上がった。

 この進化は当たりだったのかも?

 評価するにはステータスを見るしかない。

 というわけでステータスオープン!

 

 

 

 《インレント(篠前 ゆりか) LV1

  ステータス

 HP:1716/1716(緑)+500

 MP:122/122(青)  +10

 SP:1625/1625(黄)+400

   :600/1625(赤)+400

 平均攻撃能力:29      +11

 平均防御能力:1525    +401

 平均魔法能力:27      +14

 平均抵抗能力:1651    +520

 平均速度能力:300     +110

 スキル

 「鑑定LV10」

 「吸収lv8」「共存lv8」「念話LV3」

 「外道耐性LV2」「睡眠無効」「腐蝕無効」

 「外道魔法LV2」

 「怠惰」「退廃」「禁忌lv5」

 「韋駄天lv2」「のんびり屋LV10」「堅固LV2」「強力LV2」

 「腐蝕大攻撃LV3」

 「n%I=W」

 スキルポイント:65400

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「魔物殺し」「無慈悲」「崩壊」》

 

 おー相変わらず極端だけどすごい。

 HPはレベルを上げれば2000に届きそう。

 それ以外もかなり高い。

 カチカチだね、私。

 速度も韋駄天のおかげで素早くなったし、のそのそから卒業できたかな?

 私はタニシの宿命から逃れられたのかな。

 

 新しいスキルのほうは?

 

 『共存:指定した相手とHP、SPを共有できる。共有するHP、SPは相手のと足したものを使用する。また、相手と同じ経験値量を得る。指定できるのは1個体まで』

 『吸収:触れたもののHP、MP、SPを吸収する』

 

 ふむふむ。

 どちらも使えそうだ。

 蜘蛛さんはSPをよく消費するから、私の無駄にあるSPを共有すれば、戦闘が楽になりそう。

 しかも得られる経験値が一緒になるから、どちらかが何か魔物を倒すとたとえ戦闘に参加してなくても経験値を得られるってことだよね。

 怠惰だね。

 吸収は何かに張り付いて使おう。

 どれくらいの速度で吸収するか分からないけど、その吸収したステータスを共存で蜘蛛さんに回すっていうのが良さそうだね。

 

 これで分かった。

 初めての進化は当たりだ。

 

 

 

 

 




 タニシの進化は全てオリジナルです。
 
 1分で分かるタニシの進化の過酷さ

 1、タニシのステータスは最底辺。
 2、のそのそ、射程ほぼゼロ、柔らかい。

 1、2が原因で魔物を倒すことはほぼ不可能。
 つまり進化はほぼ不可能。
 インレントに至ってはそんなタニシがlv10になって、なおかつ支配者スキル〈怠惰〉を持っていなければ進化不可。
 馬鹿じゃねぇの?


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傲慢怠惰シスターズ(血族でない)

 要望があったので前回と今回からのステータス画面を変えてみました。
 鑑定によるステータス上昇数表示がなかったので加えました。
 本来はスキル上昇数表示もあるんですが、見づらくなりそうなので表示していません。
 進化条件を書いていなかったので修正しました。
 進化時のSP大量消費が無かったので修正しました。
 


 お、蜘蛛さんが起きたみたいだね。

 なんかお尻に変なのついてるし、毒をよく使いそうな蜘蛛だなぁ。

 そういう進化先を選んだのかな。

 確認しないと。

 

 『蜘蛛さん、鑑定していい?』

 

 『ん?いいよ……タニシちゃんすごい変わってる。』

 

 『変わってる…?』

 

 『あ、姿がね、顎にデカイ牙がついてて背中に刃物みたいな棘が6つ生えてるよ。』

 

 デカイ牙は見えてたけど、背中に刃物が6つも生えてるの?

 怠惰っぽくなくない?

 あくまで進化条件にあるだけで進化形態は怠惰じゃないよってこと?

 なにそれ。

 まぁ、強くなれてるならいいか。

 む、蜘蛛さんから鑑定されてる。

 お返しに鑑定。

 

 『スモールポイズンタラテクト LV1 名前 なし 

  ステータス

 HP:56/56(緑)

 MP:1/56(青)

 SP:54/56(黄)

   :1/56(赤)

 平均攻撃能力:38

 平均防御能力:38

 平均魔法能力:27

 平均抵抗能力:27

 平均速度能力:537

 スキル

 「HP自動回復LV3」

 「毒攻撃LV9」「毒合成LV3」

 「蜘蛛糸LV9」「斬糸LV4」「操糸LV8」

 「投擲LV3」「集中LV5」「命中LV4」「回避LV2」

 「鑑定LV8」「探知LV4」

 「隠密LV6」

 「外道魔法LV3」「影魔法LV2」「毒魔法LV2」

 「過食LV4」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV2」

 「毒耐性LV8」「麻痺耐性LV3」「石化耐性LV3」「酸耐性LV4」「腐蝕耐性LV3」「気絶耐性LV2」「恐怖耐性LV6」「外道耐性LV2」「苦痛無効」「痛覚軽減LV6」

 「生命LV2」「魔量LV2」「瞬発LV2」「持久LV2」「剛力LV1」「堅牢LV1」「韋駄天LV2」

 「禁忌LV2」

 「n%I=W」

 スキルポイント:200

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「魔物の殺戮者」』

 

 相変わらずスキル量が圧倒的に多いなぁ。

 これまでに、死闘を繰り広げていたことがよくわかる。

 私、ただ殴られて、噛んで、怠惰を発動、これぐらいしかやってないし。

 スキル戦略をたてて勝ってきた蜘蛛さんにかなうわけがないか。

 

 『……ステータス固ッ』

 

 『耐久特化だよね。』

 

 『いやぁこれ……スゴ。』

 

 蜘蛛さんの語彙力が無くなってる……。

 大丈夫かな、スモールポイズンタラテクトになった影響で知力が下がったりしてない?

 だとしたら……どうしよう。

 そんな蜘蛛さんを受け入れるしかないか。

 

 『鑑定がカンストしてるじゃん!どんな感じ?』

 

 『まだわからないなぁ。あまり調べてないや。』

 

 『おーけーわかったら教えて。』

 

 『うん。』

 

 そういう蜘蛛さんの鑑定は……LV8か。

 Lv8はたしか取れるスキル一覧が見れたはず。

 スキルを使いこなす蜘蛛さんにとって、この機能はかなり助かるもの。

 教えておこう。

 

 教えると蜘蛛さんがまじかと言い、急いで確かめる。

 それが真実だと知ると、まず喜び、その後はワクワクした様子でスキルを探し始めた。

 もちろん、枯渇したSPを回復させる為に猿たちを食べながら。

 

 『む?これは〈傲慢〉?……タニシちゃんの〈怠惰〉に似てるな。』

 

 『それってどんな効果?』

 

 『タニシちゃんは見れないの?』

 

 『んー?ちょっとまってね。』

 

 傲慢…傲慢…傲慢……。

 お、あった。

 どれどれ?

 

 『傲慢(500):神へと至らんとするn%の力。取得する経験値と熟練度が大幅に上昇し、各能力成長値が上昇する。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る』

 

 おーすごい。

 〈怠惰〉がデバフチートなら、〈傲慢〉は成長チートだね。

 でも必要スキルポイントは500。

 蜘蛛さんは取得できないような?

 そう思って聞いてみたら蜘蛛さんは100らしい。

 ひょっとしてスキルって適性の有無とかで必要数が変わるのかな。

 だとしたら蜘蛛さんは傲慢の才能があるっていうこと?

 そんなイメージは無いけどなぁ。

 実は心の底では私を見下してたりするのかな。

 〘この蜘蛛様にくっついてうっとおしい奴め!〙とか〘このタニシとかいう下等生物がッ!〙みたいな。

 後者はあまり否定できないけど。

 そんな蜘蛛さんだったとしても離れるつもりはあんまり無い。

 私1人だといろいろ不安だしね。

 もし傲慢を拗らせて襲いかかってきたら、2度とそんな思いができないようにしよう。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「狂LV1」を獲得しました》

 

 へ?

 

 『狂:狂う』

 

 わぁ直球。

 いやなにこれ?

 スキルのON OFFできるやつでもないし、狂った感じもしない。

 退廃みたいな発動しない系スキルかな。

 ま、いっか。

 

 そんなことより、蜘蛛さんが傲慢を取得したみたい。

 「深淵魔法」とか「奈落」とか、凄そうな名前のスキルに戸惑ってる。

 奈落を試してみて発動せずホッとしてる。

 もし発動したらどうなるんだろう。

 終わりない穴へと落ちていくのかな。

 発動しなくて良かったよ。

 

 あ、そうだ。

 蜘蛛さんに言いたいことがあったんだった。

 

 『ねぇ蜘蛛さん。』

 

 『ん?何?』

 

 『私の新しく手に入れたスキルに〈共存〉ていうのがあるんだけどさ、それ蜘蛛さんにやっていい?』

 

 『〈共存〉?……見ていい?』

 

 『どうぞ。』

 

 またもや鑑定される。

 口で説明するのはめんどくさいし、正確に伝えられない場合があるから、スキルに関してはこうやって鑑定を通して伝えるようにしている。

 見られると不快感があるから無断鑑定は禁じてるんだけどね。

 

 『おー…え!?すご!?チートじゃん!!』

 

 『チートかな?』

 

 『チートだよチート!たしかに穴はあるけどそれが気にならないぐらいチートだよ!!』

 

 『穴はあるんだね。』

 

 『え?うん。共有されるのはHPとSPだけだからタニシちゃんの防御力は共有されないじゃん?』

 

 『うん。』

 

 『だから、私が攻撃をくらうとタニシちゃんの防御力じゃなくて私の防御力で換算されるんだよ。』

 

 『……?』

 

 『ようはいつもよりダメージをくらう。』

 

 『そういうことね。』

 

 なるほど、蜘蛛さんの説明で理解できた。

 でもまぁ、蜘蛛さんあまり敵の攻撃くらわないし大丈夫でしょ。

 それにダメージがいつもより多くなってものんびり屋で回復すればいい。

 蜘蛛さんの頭に乗っていれば心も体ものんびりできるだろうし、生存率が大幅に増えたのかもしれない。

 やったね。

 蜘蛛さんから許可を貰ってるし、さっそくやってみよう。

 

 共存、発動!

 

 ……繋がった気がする。

 生命の線みたいな、魂の繋がりみたいな。

 とにかく繋がった。

 さっそくステータスをみてみよう。

 

 『HP:1772/1772(緑)  

  SP:1681/1681(黄)

    :1354/1681(赤)』

 

 うん、しっかり発動してるみたい。

 私のステータスに蜘蛛さんのステータスが足し算されてる。

 これでもしHPがゼロになったら私だけじゃなくて蜘蛛さんも死ぬ。

 まさに共存、運命共同体ともいえるね。

 ちょっと不安だけど、蜘蛛さんならゼロにしないって信じてる。

 ゼロにしたら恨む。

 あの世で腐蝕大攻撃する。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「予測LV1」を獲得しました》

 

 へ?

 予測?そんなのしたっけ?

 まぁいいや確認しよう。

 

 『予測:予測をする際、思考能力にプラス補正が掛かる』

 

 へーそんなのもあるんだ。

 便利かな?

 あまり予測しないけどなんで獲得したんだろう?

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「視覚強化LV1」を獲得しました》

 

 へ?

 視覚強化?

 目を使ったから?

 そんなのいつも使ってるよ。

 生まれてから時間経過で取れるのかな。

 いやでも蜘蛛さん持ってなかったし……。

 なんなんだろ?

 

 『視覚強化:視覚を強化する』

 

 まんまじゃん。

 いや、それ以外にないか。

 タニシって目が良いのかな。

 なんとなく悪そう。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「聴覚強化LV1」を獲得しました》

 

 あれ?まただ。

 一体なんなんだろ。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル『嗅覚強化LV1』を獲得しました》

 

 また?

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『触覚強化LV1』を獲得しました

 

 まただ。

 

 《経験値が一定に達しました。スキル「予測LV1」が「予測lv2」になりました》

 

 え?もう?

 

 《経験値が一定に達しました。スキル「並列思考LV1」を獲得しました》

 

 並列思考なんてしてないのに……。

 

 えぇ……なにこれ。

 いくらなんでもこれはおかしい。

 どうなってるの?

 蜘蛛さんに聞いてみよう。

 

 『蜘蛛さん、なんかたくさんスキルが手に入るの。何か知らない?』

 

 『え?どんなスキルが手に入ったの?』

 

 『えっと〈予測〉と〈視覚強化〉と〈聴覚強化〉とそれと……。』

 

 『え、待って私がさっき取ったのと一緒じゃん。』

 

 『……そうなの?』

 

 『うん。傲慢の効果で得られる経験値が上がったから色々やってスキルを手に入れてたんだけど……。』

 

 得られる経験値が上がる。

 ん?経験値?

 

 『もしかしてこれって……。』

 

 『う、うん、多分そうだよね。』

 

 これ絶対にさ。

 

 『『共存のせいだよね?』』

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「予測lv2」が「予測lv3」になりました》

 

 あ、そうですか。

 

 

 

 




 共存→経験値や熟練度を共有。
 傲慢→経験値や熟練度を大幅に上昇。

 小指が赤い糸で結ばれたスキルたち、敵からしたら洒落にならない。


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蜘蛛2 さすが成長チートだと褒めてやりたいところだ

 普段、この小説は学校の行き帰りで少し書くのですが、書くのに夢中で降りる予定だった駅を見逃してしまいました。
 
 そんなこんなで今回は短め。




 傲慢でスキルを取っていたらタニシちゃんも取っていた。

 何を言ってるか分からねぇと思うが私もわけがわからなかった。

 頭がどうにかなりそうだった。

 怠惰とか傲慢とかの副作用だとかそんなもんじゃあ断じてねぇ。

 もっと恐ろしいチートを味わったぜ。

 

 いや、ほんとチートじゃん。

 勝ったな、ガハハ。

 なんて思ってると痛い目に遭いそうだからやめておこう。

 それでもタニシちゃん、こんな素晴らしいスキルを取ってくれてありがとうございます。

 きっといつか敵無しになるだろう。

 そんな確信がある。

 

 あ、そうだ。

 せっかく〈並列思考〉なんて〈探知〉に役立ちそうなスキルを手に入れたんだし、試してみるか。

 

 すーはーすーはー……よし。

 発動!

 

 アブボベブッッ!!!

 む、ムリ!!

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考LV1」が「並列思考lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知lv4」が「探知lv5」になりました》

 

 はぁはぁ、そうだよね。

 並列思考はLV1。

 今までのスキルでLV1はどれも使えないほど弱いものばかりだった。

 ならレベルを上げれば解決!ってわけにもいかない。

 だって探知もレベルアップするんだもん。

 修行して強くなったら相手の方が強くなってるっていう……。

 クソゲーだわ。

 やってらんねー。

 

 『ん?なにこれ?探知?』

 

 共存でタニシちゃんが探知をゲットした模様。

 スキル熟練度の共有すげー。

 やっぱやべーわ、共存。

 

 『アベブッッ!!!』

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考lv2」が「並列思考lv3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知lv5」が「探知lv6」になりました》

 

 ………タニシちゃん、探知使ったよねこれ。

 タニシちゃん、君のことは忘れない。

 冗談は置いといて、これ私が探知で苦しまなくても探知を上げられるのでは?

 いや上げたいわけじゃないんだけどさ。

 並列思考とか、その他の色々なスキルを上げ放題じゃん。

 タニシちゃんが犠牲になるけどコラテラル、コラテラル。

 

 『アババ!?』

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考lv3」が「並列思考lv4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知lv6」が「探知lv7」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「外道耐性lv2」が「外道耐性lv3」になりました》

 

 ……なんでまた使ったの?

 あの苦しみは耐え難いもののはず。

 連続使用は頭ぶっ壊れるよ、あれ。

 というかなんで外道耐性さんは上がってるんですかね?

 え?探知って外道攻撃なの?

 魂にダメージ与えてるの!?これ!?

 怖っ!?

 

 『ふうー……。』

 

 『タニシちゃん、ストップ!!』

 

 『なんで?』

 

 『え!?いや……痛くないの?』

 

 『めっちゃ苦しい、痛い。』

 

 『じゃあなんでやってるの!?』

 

 『いや……慣れないかなって。』

 

 『慣れないやつだからやめておきな?まじで死ぬよ。』

 

 ほんと冗談抜きで死ぬ。

 てかなんで探知系スキルが魂に攻撃してんだよ。

 おかしいしょうが!!

 これじゃあ演算系スキルをとっても意味なしかなー。

 うーんでも一応演算系スキル探してみるか。

 えーっと…どれどれ。

 お、発見。

 〈演算処理〉か。

 こんなのに残りの100ポイントを使いたくないなー。

 ……いや待てよ?

 演算処理って、ようは数学でしょ?

 よし、2のn乗でも計算してるか。

 ちょっとタニシちゃんに協力してもらおう。

 

 『タニシちゃん、演算処理っていうスキル取りたいから2のn乗を計算してくれない?』

 

 『……それだけで取れるの?』

 

 『取れる取れる。』

 

 『ならいいよ。』

 

 よーし、計算開始。

 2、4、8、16、32、64………………

 

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「演算処理lv1」を獲得しました》

 

 お、獲得できた。

 予想以上に早く獲得できたな。

 共存で私の熟練度とタニシちゃんの熟練度が合わさるからか。

 傲慢なくても成長速度えげつねぇなそれ。

 

 ………一応やってみる?

 今回はタニシちゃんと一緒にやろう。

 道連れゲフンゲフン……じゃないよー。

 

 『えーやだよ。』

 

 『大丈夫!先っちょだけだから!』

 

 『さっきまでやめといたほうがいいって言ってたじゃん。』

 

 『演算処理を手に入れたから大丈夫だって!』

 

 『……一回だけだよ?』

 

 『はい!』

 

 よーし。

 やるぞー。

 ふぅーーー………。

 ヨシッ!今だ!

 

 アバブべべッ!!!

 『ブボべッ!!!』

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考lv4」が「並列思考lv5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考lv5」が「並列思考lv6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「演算処理LV1」が「演算処理lv2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「演算処理Lv2」が「演算処理Lv3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知Lv7」が「探知Lv8」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知Lv8」が「探知Lv9」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「外道耐性Lv3」が「外道耐性LV4」になりました》

 

 ………探知は演算系スキルが成長するまで封印で。

 

 

 

 さてと、探知で苦しめられていた私たちにはやることがある。

 それは下層から出ること。

 あわよくば上層に行きたい。

 そこでゆったり暮らしたい。

 私は戦闘狂じゃないからね!

 勘違いしないでよね!

 激しい喜びも深い絶望もない植物の心のような人生を送りたいだけなんだから!!

 さて、謎のツンデレのようなものやったところで、どう下層から出るのか。

 実はもう見つけてある。

 それは大空洞にある横穴。

 そこから下層から出られるという匂いがぷんぷんする。

 その横穴は坂になっているから絶対に下層から出られる。

 また下層とかだったら泣く。

 泣いた後責任者に出てきてもらおう。

 そんなの新手の詐欺だからね。

 とっちめてやる。

 余談だけどこの道を見つける間に五感系スキルはlv7まで上がった。

 あと集中はカンスト、派生して「思考加速」なるものを手に入れた。

 これやばいよ、体感できる時間を引き伸ばすっていう効果でしかも消費無し!

 ……すごいスキルだ。

 タニシちゃんももちろん取ってて常時発動中。

 上がるのが楽しみだ。

 

 話を戻そう。

 

 『タニシちゃん、いくよ!』

 

 私はタニシちゃんを乗せて合図と共に走り出す。

 合図といってもタニシちゃんは合わせる必要がないから気持ちだけかな。

 坂を登るたびに体が熱くなってくる。

 嬉しさかな?嬉しさだろうな。

 だってこの化け物地獄から開放されるのだから!!

 地龍アラバ、猿、よく分からん化け物。

 それらに怯える必要が無くなるんだ。

 なんかグツグツ聞こえるけど気のせい気のせい!

 私は光が漏れ出している出口に向かう。

 

 

 

 そこには溶岩の海が広がっていた。

 

 Oh…マジ?

 化け物地獄の次は灼熱地獄っすか。

 やってらんねー。

 この迷宮作ってた奴何考えてんだよ。

 まじないわー。

 

 

 

 

 




 この二次創作は書籍がベースです。
 一応原作、マンガ、書籍、アニメ全て見ておりますが、細かいところは覚えておりません。
 原作と書籍でごっちゃになっておかしくなるかも。


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ほう……レベリングですか

 大したものですね。


 地獄の先は地獄、いや、下層から中層だから先じゃなくて前か。

 とにかく、地獄から抜け出せたと思ったら地獄だった。

 しかも灼熱。

 そこにいるだけでHPが減っていくというとんでもない暑さだ。

 気温で火傷しそうと思ったのは初めてだよ。

 蜘蛛さんは痛覚軽減を持ってるから痛みは少ないけど、私はそれがなかったため痛い思いをした。

 例えるならオーブンに入れられたみたいな感覚。

 そんな地獄にいられるはずもなく、下層へ撤退した。

 

 『はぁ……まじないわー。』

 

 蜘蛛さんに同じく。

 少しは楽になるかなって期待してたのに、過酷さが増してる。

 この迷宮を作った人はタニシが嫌いなのかな。

 蜘蛛さんも辛いみたいだし、蜘蛛も嫌いみたい。

 そういえば前世の教室で一匹蜘蛛がいたなぁ。

 よく蜘蛛嫌いな人が悲鳴を上げてて、その声が甲高いから私は耳がキンキンしてた。

 あの蜘蛛は元気してるかな?

 私は元気、蜘蛛さんも元気。

 甲高い人も元気かな?

 

 『タニシちゃん、どうする?』

 

 『どうするって……どうしよう。』

 

 あそこは灼熱地獄。

 それを克服するなら、体を冷やす方法を見つけるか、暑さによるダメージを抑えるとかがいいかな。

 そうなれば、やることは一つしかない。

 

 『『トレーニングするぞー!!』』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 トレーニングの内容は主にこんな感じ。

 定期的に中層に行って暑さに耐え、火耐性を取る。

 鑑定で取れそうなスキルを見つけて、そのスキルが取れるように修行する。

 現在所持しているスキルのレベル上げ。

 ステータスの強化。

 

 その他にも戦い方とか、スキルの応用を見つけるとか色々なことをする。

 

 ………言いたいことは分かる。

 そんなまわりくどい方法じゃなくてスキルポイント使ってスキル取れってなるよね。

 60000以上も余らせてるんだからさ。

 でも残念。

 それは無理だった。

 なぜか?

 それはあるスキルの効果でスキルポイントの使用を制限されていたからだ。

 

 『狂:狂う』

 

 この〈狂〉というスキルのせいで使用が制限されていた。

 え?どこにもそんなこと書いてないって?

 私もいくら探しても理由がわからず困惑してたよ。

 でも、〈狂〉のスキル説明である“狂う”という文字が鑑定できることに気がついたんだ。

 そして鑑定してみたら、こう書いてあった。

 

 『狂う:スキルポイントの使用が制限される状態に陥る』

 

 ………………これを見た時の感情を今でも思い出せる。

 狂はまだLV1だからそんなに制限されないだろうって思ってたら1000ポイント以上は取れないらしい。

 え?

 なんだ、1000ポイントも使えるじゃないか!

 だって?

 今最も欲しいスキル、火耐性の必要ポイントを教えてあげよう。

 

 10000。

 

 はぁ……なんでこうなるの?

 

 そんなこんなでスキルポイントはあまり使えない。

 1000ポイント以内のスキルはほとんどが鍛錬を積めば手に入るもの。

 だから今は蜘蛛さんと一緒に修行中。

 共存を活かすために同じスキルを一緒に鍛えてる。

 傲慢の効果で熟練度が増大するしね。

 

 『オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!』

 

 ただいま蜘蛛さんは私に糸を叩けつけてる最中。

 これは破壊強化、破壊耐性を得るための修行だ。

 おまけにHP自動回復や糸系のスキルが上がる。

 効率がいいでしょ?

 しかも苦痛耐性はカンストして苦痛無効。

 痛覚軽減も得た。

 やったね、蜘蛛さん!

 スキルが上がるよ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 『危なっ!!ちょっ!!』

 

 私は蜘蛛さんに噛みつこうとする。

 その牙にはどこか禍々しいものを感じる。

 なぜなら、腐蝕大攻撃を使っているからだ。

 これはさっきまでの蜘蛛さんに対する復讐じゃない、ほんとだよ。

 これは回避系のスキルを鍛えるための修行。

 思考加速のスキルが上がってたり、予測がカンストして予見になっていることからかなり避けるのに必死みたい。

 私もそれらのスキルを使って攻撃を仕掛けてるから成長スピードが速い。

 この調子ならあっという間に強くなるだろうね。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 あれから数日ぐらい。

 私たちは強くなった。

 でもね、上には上がいる。

 そのことを蜘蛛さんは再認識して、私は思い知った。

 そいつはブレスと共に突然現れた。

 

 『地龍カグナ LV26

  ステータス

 HP:4198/4198(緑)

 MP:3339/3654(青)

 SP:2798/2798(黄)

   :2995/3112(赤)

 平均攻撃能力:3989(詳細)

 平均防御能力:4333(詳細)

 平均魔法能力:1837(詳細)

 平均抵抗能力:4005(詳細)

 平均速度能力:1225(詳細)

 スキル

 「地龍LV2」「逆鱗LV9」「堅甲殻LV8」「鋼体LV8」

 「HP高速回復LV6」「MP回復速度LV2」「MP消費緩和LV2」「SP回復速度LV1」「SP消費緩和LV1」

 「魔力感知LV3」「魔力操作LV3」「危険感知LV10」「熱感知LV6」

 「大地攻撃LV9」「魔力撃LV1」「大地強化LV8」「破壊強化LV8」「貫通強化LV6」「打撃大強化LV5」

 「命中LV3」

 「土魔法LV2」

 「破壊耐性LV9」「斬撃大耐性LV2」「貫通大耐性LV3」「打撃大耐性LV6」「衝撃大耐性LV4」「大地無効」「火耐性LV3」「雷耐性LV7」「水耐性LV3」「風耐性LV5」「重耐性LV2」「状態異常大耐性LV8」「腐蝕耐性LV3」「苦痛無効」「痛覚大軽減LV3」

 「暗視LV10」「視覚領域拡張LV4」「視覚強化LV3」「聴覚強化LV1」「天命LV2」「魔蔵LV3」「瞬身LV1」「耐久LV1」「剛力LV9」「城塞LV2」「道士LV2」「天守LV1」「縮地LV1」

 スキルポイント:31200

 称号

 「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「龍」「覇者」』

 

 もちろん、こんなのが出てきたらやることは一つ。

 全速力で逃げたよ。

 蜘蛛さんがね。

 私はその上に乗ってたから全速力とかはなかった。

 なにもしなかったわけじゃないよ?

 のんびり屋できっちりSPを回復させてたからね。

 おかげでいつもより長く走れてた。

 

 そんな感じで半ば強制的に中層に行くことになった私たち。

 準備ができずに中層に行くことになった……わけではない。

 ちゃんと準備はできていた。

 ならなんで行かなかったのかというと、欲張った。

 もっと上がるって、もっと鍛えようって。

 戦いは余裕がある方がいい。

 だからもっともっと鍛えようってなってた。

 もうちょい鍛えたかったけど、まぁ地龍に襲われたくないし、修行はお終い。

 今の私はどれだけ強くなったか、見てみたいでしょ?

 蜘蛛さんもか?蜘蛛さんのも見たいのか!

 いやしんぼめ!

 

 修行によってどれだけ強くなったか、見せてやろう!

 

 《インレント(篠前 ゆりか) LV6

  ステータス

 HP:2080/2080(緑) +380

 MP:128/128(青)  +6

 SP:1991/1991(黄)+366

   :1991/1991(赤)+366

 平均攻撃能力:45      +16

 平均防御能力:1829    +304

 平均魔法能力:33      +6

 平均抵抗能力:1951    +300

 平均速度能力:566     +266

 スキル

 「HP自動回復LV5」「MP回復速度LV4」「SP回復速度Lv3」「MP消費緩和LV3」「SP消費緩和Lv3」

 「鑑定LV10」「探知LV5」

 「吸収lv8」「共存lv9」「遠話lv2」「毒合成LV5」「思考加速Lv3」「予見Lv2」「集中LV10」「並列思考Lv6」「演算処理Lv8」「命中Lv3」「回避LV1」「立体機動LV4」「糸の才能LV5」「狂LV1」

 「気闘法Lv3」「気力付与LV4」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv2」「猛毒耐性LV2」「斬撃耐性LV4」「打撃耐性LV4」「破壊耐性Lv3」「火耐性lv2」「外道耐性LV7」「痛覚軽減LV4」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」

 「外道魔法LV3」

 「怠惰」「退廃」「禁忌lv5」

 「韋駄天lv4」「のんびり屋LV10」「堅固LV4」「強力LV4」「瞬発Lv6」「持久Lv6」「生命LV4」「視覚強化Lv9」「聴覚強化Lv9」「嗅覚強化Lv8」「味覚強化LV4」「触覚強化Lv6」「視覚領域拡張Lv3」

 「腐蝕大攻撃LV3」「猛毒攻撃Lv2」「破壊強化Lv2」「斬撃強化Lv2」「毒強化Lv2」

 「n%I=W」

 スキルポイント:65460

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「魔物殺し」「無慈悲」「崩壊」》

 

 どう?すごいでしょ?

 今までスキルを取ろうとしてこなかったけど、やればたくさん手に入るんだね。

 まぁ、こんなに取れたのは蜘蛛さんの傲慢と私の共存の補正もあるけどね。

 ちなみに蜘蛛さんはこんな感じ。

 

 『スモールポイズンタラテクト LV6 名前 なし 

  ステータス

 HP:102/102(緑)+46

 MP:201/201(青)+45

 SP:91/91(黄)  +37

   :91/91(赤)  +37

 平均攻撃能力:105   +67

 平均防御能力:100   +62

 平均魔法能力:137   +10

 平均抵抗能力:171   +44

 平均速度能力:972   +465

 スキル

 「HP自動回復LV5」「MP回復速度LV4」「MP消費緩和LV3」「SP回復速度LV3」「SP消費緩和LV3」

 「破壊強化LV2」「斬撃強化LV2」「毒強化LV2」「猛毒攻撃LV3」

 「気闘法LV3」「気力付与LV4」

 「糸の才能LV5」「蜘蛛糸LV9」「斬糸LV7」「操糸LV8」「投擲LV7」「立体機動LV3」「集中LV10」「思考加速Lv3」「予見Lv2」「並列思考LV6」「演算処理LV8」「命中LV7」「回避LV4」「毒合成LV7」「遠話Lv2」「隠密LV7」

 「鑑定LV8」「探知LV9」

 「奈落」「傲慢」「禁忌LV4」

 「外道魔法LV3」「影魔法LV2」「毒魔法LV2」「深淵魔法LV10」

 「過食LV7」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV2」「破壊耐性LV3」「打撃耐性LV2」「斬撃耐性LV4」「火耐性LV2」「猛毒耐性LV2」「麻痺耐性LV3」「石化耐性LV3」「酸耐性LV4」「腐蝕耐性LV3」「気絶耐性LV2」「恐怖耐性LV6」「外道耐性LV4」「苦痛無効」「痛覚軽減LV7」

 「視覚強化LV8」「聴覚強化LV8」「嗅覚強化LV7」「味覚強化LV4」「触覚強化LV6」「生命LV7」「魔量LV8」「瞬発LV7」「持久LV7」「剛力LV3」「堅牢LV3」「護法LV3」「韋駄天LV4」

 「n%I=W」

 スキルポイント:180

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「魔物の殺戮者」「傲慢の支配者」』

 

 ……準備万端!!

 私たちのこのステータスなら、中層で十分通用するはず。

 もし通用しなかったら下層の化け物地獄、中層の灼熱地獄に挟まれて行き場所が無くなる。

 地龍カグナに追い出されたのは、むしろチャンスだったのかも知れない。

 中層は私たちの住処になりうるのか、地龍カグナはそれを知るチャンスをくれた。

 そう思えば、マイホームを吹き飛ばしたこの怒りがおさまるかもしれない。

 ……思い出したらイラついてきた。

 あいつはいつか殺す。

 私の生活の邪魔だ。

 

 

 

 




 地龍カグナは原作からコピペしてステータスを整理して終わりなんですが、蜘蛛子は原作より成長しててタニシはそもそも原作にいない。
 蜘蛛子とタニシのステータスを書くのものすごい大変。
 でも俺は止まらねぇからよぉ……。


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なんだ中層楽勝だな!

 マグマだらけの場所に立つって、前世では体験できないことだよね。

 足場は夏の日のアスファルトの何倍も熱いし、気温は砂漠並かそれ以上あるからまったく嬉しくないけどね。

 というか、なんで中層がマグマだまりなの?

 マグマって地下にあるイメージがあるし、普通下層だと思うんだけどね。

 この迷宮の製作者は意外性を追求したのかな。

 いいよ、そんなことしなくても。

 むしろ迷惑。

 意外性というのは時に余計な要素になるって、美術の先生が言ってた。

 そういう先生は理解できないような奇抜な絵を描いてたけど。

 

 にしてもここは熱い…。

 下層って化け物地獄なことを除けば快適だったんだね。

 化け物がいない下層なんて、生息してるのタニシだけになりそう。

 そういえば初めて中層に入ったときはHPが減り続けてたけど、今はむしろ回復していっているなー。

 火耐性にHP自動回復があるからか。

 それに、なんとここでも共存が輝く。

 共有されたHPは私と蜘蛛さん、ふたりのHP自動回復が働く。

 つまり、すごい回復していくのだ。

 さらに私ののんびり屋でHP、SPを回復。

 我らに消耗など、多分無い!

 

 突然、横のマグマが盛り上がる。

 そこから現れたのはタツノオトシゴみたいな魔物。

 タツノオトシゴは完全に私たちをロックオンしている。

 どうやら敵のお出ましみたい。

 ちょちょいと鑑定。

 

 『エルローゲネラッシュ LV5

  ステータス

 HP:182/182(緑)

 MP:131/131(青)

 SP:178/178(黄)

   :178/178(赤)

 平均攻撃能力:105

 平均防御能力:105

 平均魔法能力:98

 平均抵抗能力:97

 平均速度能力:81

 スキル

「火竜LV1」「命中LV3」「遊泳LV2」「炎熱無効」』

 

 ふむ、なるほど。

 マグマを泳げるのは遊泳と炎熱無効のおかげか。

 遊泳と炎熱無効を持ってれば私も泳げるのかな?

 まぁ、泳ぐ気はないけどね。

 

 そんなことを考えてる内にエルローゲネラッシュが口に何かをため始める。

 そして、火の玉を口から出してきた。

 そのスピードはあんまり。

 私でも避けられるほどだ。

 蜘蛛さんは鼻歌を歌いながら避けられるだろう。

 鼻歌できないけどね。

 

 『ふっノロイな……。』

 

 そう言い、蜘蛛さんはスレスレで火球を避ける。

 ギリギリ避けられたというより、余裕があるから最小限の動きで避けたみたい。

 蜘蛛さんが調子に乗ってるような?

 その内痛い目に遭いそうだ。

 エルローゲネラッシュは火球は吐き続ける。

 どうやらあの火球はMPを消費するようで、もう底が尽きそうだ。

 

 『これで最後!さぁどうする?』

 

 やつのMPはもう無い。

 次は何をするのか、私の予想では逃げるんじゃないかな。

 スキルを見る限り残された攻撃手段は近接攻撃のみ。

 攻撃が避けられまくって傷一つ与えられていないのだから、力の差を感じとるはず。

 しかしエルローゲネラッシュは私の予想とは裏腹にのそのそと陸に上がってきた。

 蜘蛛さんはびっくりしてエルローゲネラッシュから離れるが、速度は圧倒的にこちらが上。

 あっという間に引き離してしまった。

 

 『うわ、おっそっ!』

 

 『平均速度能力81だからね。蜘蛛さんは900超えてるし差は十倍以上だよ。』

 

 『あー…なら納得だわ。』

 

 蜘蛛さんはそう言いながら毒合成を発動。

 蜘蛛猛毒をエルローゲネラッシュにかける。

 すると悲鳴を上げ、体をジタバタさせ始める。

 そのスキに私たちは猛毒攻撃、エルローゲネラッシュのHPは急速に減っていき、すぐに息絶えた。

 攻撃したところが熱かったせいでちょっとダメージをくらったけど、すぐに回復し終わった。

 回復は正義。

 これほど便利なものはあまりないと思う。

 

 『そんじゃあ、いただきます。』

 

 蜘蛛さんが食事を始める。

 私ののんびり屋でSPが回復し続けるから、正直食べる必要はないのだけれど、殺したら食べるが蜘蛛さんの信条。

 食べないわけにはいかない。

 

 『うーん…タイヤのゴムみたい。』

 

 食べ物ですらないじゃん。

 ……ちょっと私も食べてみよう。

 

 モグモグ

 うん、まずい。

 でも必要ないのに食べる蜘蛛さんに見習って、もう少し食べてみよう。

 

 モグモグ

 そういえば、転生してからご飯全然食べてないや。

 前に食べたのは、3体組の魔物を倒した時だっけ?

 なんだか懐かしい。

 ご飯を口に入れる感覚が懐かしい。

 まずいけど、どこか満たされた気分になる。 

 ひょっとしたら、食欲が満たされたのかな?

 スキルで食べる必要がなくなっても、食欲が無くなったわけじゃなかったのかも。

 だとしたら食べきる手伝いにもなるだろうし、これからは蜘蛛さんと一緒に食べよう。

 一緒に食べれば、ご飯が美味しくなるっていうしね。

 これでメシマズからメシウマになるのを祈ろう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 あのエルローゲネラッシュ、種族は竜なんだよね。

 龍の下位種、ここだと火龍の下位種かな。

 竜なんだからさ、こういうのもいるよね。

 

 『エルローゲネセブン LV7

  ステータス

 HP:461/461(緑)

 MP:223/223(青)

 SP:218/218(黄)

   :451/466(赤)

 平均攻撃能力:368

 平均防御能力:311

 平均魔法能力:161

 平均抵抗能力:158

 平均速度能力:155

 スキル

 「火竜LV2」「龍鱗LV2」「命中LV7」「遊泳LV6」「過食LV3」「炎熱無効」』

 

 それはマグマを泳ぐ、でかいナマズ。

 鑑定の説明によるとそのデカイ口で何でも飲み込んでしまうらしい。

 ステータスやスキルを見た感じ、タツノオトシゴの進化後の姿かな。

 タツノオトシゴからナマズ……。

 魔物は不思議だね。

 

 このナマズに勝てるかどうかと聞かれれば、勝てる。

 でも戦うか戦わないかは、蜘蛛さんが決めてもらおう。

 というわけで蜘蛛さん、どうする?

 

 『う〜ん……勝てるなら戦おう!』

 

 『了解蜘蛛さん。』

 

 私たちがマグマを泳ぐナマズに攻撃をしようとした瞬間、後ろから気配を感じた。

 振り返ってみると、そこにはもう1体のナマズがいた。

 まさかの2体目。

 これは予想外。

 

 『うへー…勝てるかな?』

 

 『いけると思う。駄目だったら全力で逃げればいいしね。』

 

 『たしかに!よし、攻撃しよう!』

 

 蜘蛛さんが私たちに気づいて陸に上がってきているナマズに毒糸を巻きつける。

 この中層は熱すぎてすぐに糸は燃えちゃうけど、毒糸は拘束用じゃないから大丈夫。

 糸についている毒がナマズのHPを削ってくれれば、それでいい。

 ナマズのHPを見てみると少し減ってる。

 どうやら効果ありみたい。

 これ以外の毒系スキルよりはダメージが少ないけど、離れた距離から毒を与えられる手段はこれぐらいしかない。

 毒合成もあるけど、あれは落とすことしかできないからね。

 毒糸なら色々な方向に飛ばせるし、射程もそこそこ、なかなか使えるスキルだと思う。

 

 私たちが毒糸の効果を見ていると、ナマズが唸り声を上げた後、口を開き吸い込みを始めた。

 まるで掃除機。

 まるでピンクの悪魔。

 すごい吸引力だ。

 しがみついてないと吸い込まれそう。

 私たちはステータスを上げたけど、それでもなんとか吸い込まれていないぐらい。

 このナマズが掃除機代わりだったら、家具ごと胃の中だろう。

 格安でも絶対に買いたくない。

 

 『うぐぐ……吸引力がすごくて身動きができない……もしこの状態でもう1体のナマズから攻撃されたら避けられない!』

 

 『あ…蜘蛛さん、そういうことを言ったら……。』

 

 私は不安になったのでもう1体のナマズを見てみる。

 頬が膨らんでて、口から若干火が漏れ出しているナマズがそこにいた。

 うん、どう見ても攻撃しようとしているね。

 

 『蜘蛛さんの馬鹿!!そんなことをいうからナマズが攻撃しようとしちゃったじゃん!』

 

 『え!?私のせい!?』

 

 やばい!早くなんとかしないと!

 でもどうしよう?

 今私たちが危機に陥っている原因を探すんだ。

 火球を吐こうとしているナマズと吸い込んでいるナマズ。

 この2体。

 今すぐに倒せそうなのはどっちだ?

 火球のナマズは距離が離れてるから無理。

 吸い込んでいるナマズは……毒合成でいけるかな?

 なんでも吸い込むのなら毒合成も吸い込むはず!

 

 『毒合成!』

 

 その言葉と同時に私の目の前に毒玉が出来上がる。

 本来なら重力に従って落ちるが、今はナマズの吸引力に従っている。

 ナマズは吸い込みをやめることはなく、そのまま口の中に毒が入り込んだ。

 その瞬間、ナマズはむせ、毒や体液を吐き出し始める。

 私は蜘蛛猛毒を持ってないし、毒合成のレベルが低いから弱毒しか出せない。

 それでも吸い込みをやめさせるぐらいならできる。

 

 ナマズの吸い込みをやめさせた瞬間、火球をためていたナマズが火球を吐き出した。

 その火球は大きく、速く、熱そうだった。

 

 『あっぶね!』

 

 それでも蜘蛛さんのスピードには敵わない。

 蜘蛛さんは素早く火球を避け、未だにむせているナマズに近寄る。

 ナマズの頭上には猛毒玉が2つあり、蜘蛛さんは手を…いや、前足を振り上げている。

 

 『くらえ!猛毒攻撃アンド毒合成!!』

 

 猛毒玉と猛毒攻撃のコンボ、ナマズのHPは著しく減っていき、ナマズが弱っていく。

 私も蜘蛛さんに便乗して猛毒攻撃をする。

 腐蝕大攻撃をしないのは食べるところがなくなるからだ。

 私の猛毒攻撃が止めになり、ナマズのHPがゼロになった。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、インレントがLv6からLv7になりました》

 《各種基礎能力値が上昇しました》

 《スキル熟練度レベルアップボーナスを獲得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「HP自動回復LV5」が「HP自動回復Lv6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「狂LV1」が「狂LV2」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考LV6」が「並列思考Lv7」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「生命LV4」が「生命LV5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「思考加速LV3」が「思考加速LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「回避LV1」が「回避LV2」になりました》

 

 お、レベルアップした。

 こんなにたくさんスキルが上がってるのは蜘蛛さんのもあるからか。

 おっとこんなこと考えてる暇はない。

 もう1体のナマズに備えないと。

 ん?怯えてる?

 目の前で仲間が毒づけにされて死んだら怯えるか。

 猿たちのせいで感覚が麻痺してるのかな。

 猿たちは特別だって覚えておこう。

 

 ナマズは私たちにビビりながら、マグマの中に入っていった。

 それを見て蜘蛛さんは気分を良くする。

 

 『ふふーん、私たちって強くなーい?調子に乗ってもよくなーい?』

 

 『いいのかな?』

 

 あれほどのステータスを持つナマズが恐れをなして逃げるんだ。

 私たちって案外強いのかも?

 ここは調子に乗るべきかな?

 いや、調子に乗るのは蜘蛛さんだけでいいや。

 私はいつもどおりの感じでいよう。

 

 

 

 




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 これまじ?衝動的&ノリで書いた二次小説なのに評価が高すぎるだろ。


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マグマの幸

 
 蜘蛛子のHP自動回復がLV5ではなくLv7だったので修正しました。


 


 私たちはピクリとも動かないナマズに近づく。

 殺したのなら食す。

 では、いただきます。

 

 ガブリ

 

 ……うまい。

 タツノオトシゴや、3体組の魔物よりもずっとうまい。

 蜘蛛さんなんて涙を流してる。

 今までまずいものばっかり食べてきた蜘蛛さんにとって、うまいものを食べられるのは幸せだろう。

 中身美人さんとは思えないぐらい食らいついている。

 味覚強化をフルに使ってまでして。

 私は蜘蛛さんほど感動してないから、少し食べて残りは蜘蛛さんにあげよう。

 なんだかご褒美をあげてる気分になるけど、蜘蛛さんは今までまずいものしか食べてきてないからね。

 ん?蜘蛛さんが食べていいすかって顔してる。

 

 『どうぞ。』

 

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、蜘蛛さんはナマズを貪り食う。

 そして体感で数分もしないうちに、あのでかいナマズは骨になった。

 食べるのはや!

 あの体のどこにナマズが入ってるのだろう?

 口に入れた瞬間なにかファンタジーなエネルギーに変換してたりするのかな。

 

 『タニシちゃん、あのナマズを探そう。』

 

 ナマズを……?

 あ、そういうことね。

 美味しい食べ物はたくさん食べたいもんね。

 

 『いいよ。』

 

 『よっしゃあ!ナマズ狩りじゃあ!!』

 

 素早く私を頭に乗せ、熱々の地面を駆ける蜘蛛さん。

 相変わらず速い。

 気分は二人乗りの自転車かな。

 足音はカサカサだけどね。

 おっとこんなこと考えてないでナマズを探さなきゃ。

 でもマグマの中にいるナマズを見つけるなんて無理じゃないかな。

 あれかな?

 心の眼で見ろってことかな?

 残念だけど心に眼は無いよ。

 少なくとも私にはね。

 

 『む?あれは?』

 

 蜘蛛さんがなにか見つけたみたい。

 あれは…タツノオトシゴか。

 正式名称はエルローゲネラッシュだったけど、タツノオトシゴのほうがわかりやすいかな。

 そのタツノオトシゴが3匹いた。

 3体に勝てるわけないだろ!

 と思っていたのか?

 調子に乗ってるわけじゃないけど余裕で倒せる。

 私一人…いや一匹でも倒せると思う。

 それぐらい、タツノオトシゴと私たちには差がある。

 ほんとに調子乗ってないからね。

 

 タツノオトシゴ達が火球を吐き出してくる。

 蜘蛛さんはそれを軽々と回避。

 それを続け、タツノオトシゴ達のMPがゼロになる。

 すると陸に上がっていき、毒合成や猛毒攻撃の餌食になる。

 さらっと3体のタツノオトシゴの討伐が完了した。

 殺生の後はご飯。

 モグモグ。

 まずい。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 『ナーマーズ!!ナーマーズ!!』

 

 蜘蛛さんが念話でナマズを呼びかける。

 しかしこの念話は私にしか繋がっていないので、意味の無いものだ。

 蜘蛛さんがここまで魔物を倒すことに積極的になるなんて……美味い食べ物は人の思考を変える成分でも入ってるのかな。

 あまり否定できない。

 いや成分じゃなくて生物の思考がそうしてるのかな?

 良いものを求めるのは生物として正しい思考だし、変わるのも仕方ないか。

 ……なんでこんなことを本気で考えてるんだろう。

 気が緩んでるのかな?

 緩めちゃだめだ。

 いつとんでもない化け物が出てくるか分からないのだから。

 地龍ならぬ火龍が出てくる可能性がある。

 そうなった時に対処出来るように気を配らなきゃね。

 前ヨシッ!右ヨシッ!左ヨシッ!

 後ろヨ……ナマズいるじゃん。

 

 『蜘蛛さん、後方にナマズ発見。』

 

 『なぬ!?食べなきゃ!』

 

 蜘蛛さんがマグマから顔を出したナマズに近づいていく。

 ナマズは蜘蛛さんの存在に気づき、火球の準備をする。

 そして火球が吐き出され、それを蜘蛛さんは躱す。

 ナマズも、タツノオトシゴも倒す手順は変わらない。

 相手のMPを消費させて、陸に上がってきたのを倒す。

 ナマズのMPがあと少しで尽きるとこまできた時、ナマズが火を纏った。

 あれはスキル〈火竜〉の効果の一つである『熱纏』。

 自分を熱することでステータスを上昇させる技だ。

 熱々なナマズが私たちに向かって大きな口を開け突進してくる。

 私たちはそこに毒合成で作ったありったけの毒玉を出し、ナマズから離れる。

 ナマズは毒玉を飲み込み、少し間をおいてのたうち回る。

 そして凄まじいスピードでHPが減っていき、ゼロになった。

 

 『はっはっはー!ナマズ程度どうってことはないわー!』

 

 蜘蛛さんは完全に天狗だ。

 どうってことはないのは事実だけど、調子に乗るのは良くない。

 なぜなら調子に乗っているときほど嫌な目に遭うからだ。

 それはもう、誰かが監視してて天罰を下してると思うぐらいには。

 

 『それではいただきます。』

 

 『いただきます。』

 

 うん、おいしい。

 前世でナマズを食べたことは無かったけど、こんぐらい美味しかったのかな?

 でも魚屋さんにナマズなんて見かけなかったし、ナマズを食べるのはマイナーなのかな。

 それとも私が知らないだけでみんな食べてるのかな。

 まぁ、今食べてるんだしそんなこと考えなくてもいいか。

 ナマズはおいしい。

 それだけで十分だ。

 そんなことを考えている間にナマズを食べ終わった。

 まずいタツノオトシゴより、食べ終わるスピードは速い。

 美味しいから口にまだ残っていても次をいれちゃうからね。

 蜘蛛さんなんて頬パンパンに入れてる。

 口がいつもどおりの形になる時は食べ終わったときしか無いぐらいに。

 

 『さーてナマズー!狩り尽くしてやるぞー!!』

 

 『まだ食べるの?』

 

 『当たり前だよ!美味いものは全て私のものだー!』

 

 この蜘蛛さんを見てると今までの食べ物がどれほどまずかったのか分かる気がする。

 ん?なんだか嫌な予感がする。

 目の前のマグマが膨らんでる。

 これはなにか出てくるね。

 

 『お!ナマズかな?』

 

 そこから出てきたのはナマズではなく、ウナギだった。

 目に見えたら即鑑定!

 

 『エルローゲネレイブ LV2

  ステータス

 HP:1001/1001(緑)

 MP:511/511(青)

 SP:899/899(黄)

   :971/971(赤)

 平均攻撃能力:893

 平均防御能力:821

 平均魔法能力:454

 平均抵抗能力:433

 平均速度能力:582

 スキル

 「火竜LV4」「龍鱗LV5」

 「火強化LV1」

 「命中LV10」「回避LV1」「確率補正LV1」「高速遊泳LV2」「過食LV5」

 「炎熱無効」

 「生命LV3」「瞬発LV1」「持久LV3」「強力LV1」「堅固LV1」』

 

 強い。

 タツノオトシゴやナマズのように楽々倒せるような強さじゃない。

 ステータスもスキルも高いし、きっとナマズの進化系だろう。

 相手は完全に私たちをロックオンしている。

 やる気満々のようだ。

 相手がその気なら、こっちもその気で応えなければ無作法というもの。

 

 『蜘蛛さん、戦うよ!』

 

 『えー…嫌だなー。』

 

 『ウナギってうまそうじゃん?』

 

 『よし!やるぞ!』

 

 それでこそ蜘蛛さんだ。

 ちょうどウナギが攻撃をするために火球の準備をしてる。

 すると今まで見たことないほどのスピードで火球を出してきた。

 蜘蛛さんはそれを素早く躱す。

 すぐ横で火球が落ちる。

 おかしい。

 凄まじいスピードとはいえ、避けられないほどではないから結構余裕を持って避けたのに、命中しかけた。

 おそらくウナギのスキル〈確率補正〉の仕業だろう。

 あのスキルで火球の命中率が上がっているのか。

 なんて厄介なスキルなんだ。

 私が言えたことじゃないや。

 

 ウナギが連続で火球を出す。

 その一つ一つがナマズの火球を超えており、直撃したら大ダメージを受けるだろう。

 それらを蜘蛛さんは思考加速や予見などのスキルを使って避ける。

 今回もMP切れを待つ戦法だ。

 ウナギがマグマから出ない限り私たちは攻撃ができないし、できたとしても死地に飛び込むようなものだ。

 わざわざ死のリスクを背負ってまでウナギと戦うつもりはない。

 しかし、今回はナマズやタツノオトシゴのようにはいかなかった。

 ウナギの攻撃手段は火球だけじゃない。

 スキル〈火竜LV4〉の効果『火炎ブレス』がある。

 それは広範囲に火炎の吐息を吐くというもの。

 まだウナギは火炎ブレスを温存しているが、いつ来るか分からない。

 ウナギにとって火球を避けられ続けるこの状況にいい思いはしないはずだ。

 いつ来るの?

 ……今らしい。

 予見でタメが長い動作が見える。

 そして次の瞬間、火炎ブレスが私たちに放たれる。

 

 『あっぶな!』

 

 蜘蛛さんはそれを飛び上がることで回避するが、火球と違って火炎ブレスは持続力がある。

 つまり、相手の動きに合わせて火炎を浴びせることができる。

 このままではまずい。

 あの火炎放射に飲まれることになる。

 蜘蛛さんは糸を出し、炎の中を突っ切る形で回避する。

 普段ならあっという間に燃え尽きてしまうが、糸に気力付与のスキルが使われている。

 糸に気力を付与することによって糸を燃えにくくしている。

 その代わりにSPをかなり消費するが、私の無駄にあるSPとのんびり屋による回復によってあまり気にすることはない。

 さっきまで私はなんにもしてなかったけど、これはのんびり屋でHPやSPを回復させる為だ。

 別にサボってるわけではない。

 蜘蛛さんと連携するにはどうすればいいか話し合った結果、私は基本回復に専念することになった。

 つまりこの何もしていない状況こそ、私が最も働いている状況なのだ。

 つまり私はサボっていない。

 

 『アッツ!』

 

 気力付与でいくら燃えづらくなったとしても、炎の中に突っ込めば全身が焼かれる。

 逆に熱いで済んでる蜘蛛さんがおかしい。

 蜘蛛さんは炎の中から脱出し、糸がくっついた場所に移動する。

 その結果、蜘蛛さんが天井にしがみつくことになってしまった。

 ここじゃウナギの攻撃を避けづらい。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「思考加速LV4」が「思考加速LV5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「予見LV2」が「予見LV3」になりました》

 

 お、ウナギの速度がもっと遅くなって、もっと先を見れるようになった。

 これで少し回避が楽になったかな。

 そう思ってるとウナギが火球を吐き出す動作が見える。

 蜘蛛さんは先を読んで回避。

 ウナギの命中と確率補正でギリギリの所に火球が通る。

 近くを通るだけでHPが少し減る。

 様々なスキルで回復。

 この繰り返しが起きている。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「回避LV1」が「回避LV2」になりました》

 

 蜘蛛さんの回避に少し余裕ができる。

 今のままの状況が続くと私たちが勝利する可能性が高い。

 しかし油断はできない。

 あのウナギが何か予想外のことをするかもしれない。

 あのウナギのHPがゼロになる瞬間まで、気を抜くわけにはいかない。

 

 そう思っていると、ウナギとは別の方向のマグマが盛り上がる。

 なんだと私は目を向ける。

 そこからは、あのウナギとほぼ同じステータスをしたウナギが出現した。

 ………まさかの増援。

 ただでさえ1体でもやばいのに、2体って。

 ウナギが2体……勝てるかな?

 

 

 

 




 大漁だな!


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二貫のウナギ

 ウナギが強かったから、もう1体くるとは思いもしなかった。

 そうだよね、ウナギ、この中層の頂点とかじゃないもんね。

 地龍だって2体いるんだから、それ以下のウナギが1体しかいないはずがないもんね。

 

 新たに現れたウナギ…ウナギ2号と呼ぼう。

 ウナギ2号が私たちに火球を放つ。

 

 『っ!』

 

 蜘蛛さんがその火球を避けるが、ウナギ1号がその先に火球を放つ。

 それを避けるとウナギ2号がその先に火球を放ってくる。

 糸を使って軌道変更して躱す。

 1号と2号、それぞれ交互に火球を放ってくるせいで回避の難易度が高くなってる。

 2体いるせいで発射数も発射レートも大きくなっている。

 うわ、かすった!

 まずい!

 だんだん避けるのが難しくなってきてる!

 なんでそんなに連携とってるの!

 そんなスキルないでしょ!

 空中で糸を使って避けてるせいでSPの消費が馬鹿にならないし、HPの回復が間に合わない。

 このままではまずい…。

 

 『空中じゃ不利だ、降りないと!』

 

 蜘蛛さんが糸を使って下に降りるが、その先に2号が火炎ブレスを放ってくる。

 すぐに伸ばしていた糸を切って、別の場所に糸をつける。

 そして某親愛なる隣人のように糸を使い、素早く移動。

 100℃以上のサウナの中にいるような暑さを感じながらも、地面に着地した。

 その瞬間、1号が火球を放ってくる。

 ギリギリ回避。

 次に2号が火球を放ってくる。

 これもギリギリで回避する。

 まったく息をつく間もない。

 

 『HP:1887/2254』

 

 HPはまだある。

 けど、それも時間の問題だ。

 じわじわ減っていく。

 でも焦ったら駄目だ。

 特に私が焦るとのんびり屋による回復が半減してしまう。

 ただでさえ回復が間に合ってないのにその手を緩めたら死までが早くなる!

 ふー……落ちつけ。

 大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。

 SPがすごいスピードで減っていってるけど、大丈夫。

 大丈夫……のはず。

 ナマズがマシンガンのごとく火球を吐き出してるから、すぐにMPが底を尽きるはず。

 だから大丈夫。

 

 『あっ……!』

 

 蜘蛛さんが火球の回避に間に合わず、一発被弾してしまう。

 全身が焼ける感覚がある。

 蜘蛛さんの体から肉をフライパンで焼いたような、ジュージューとした音がなる。

 

 『HP:1187/2254』

 

 まずい……。

 これはまずい。

 一気に不利になった。

 蜘蛛さんはいくつかの足を負傷して回避が難しくなってしまった。

 ギリギリだったのがもっとギリギリになり、余波ダメージが高くなる。

 どうしよう?

 私の行動の選択肢は3つある。

 

 1、このまま蜘蛛さんに頑張ってもらい、私は回復に専念する。

 2、回復を捨て、私がなんとかしてウナギ達を攻撃する。

 3、何もできずに死ぬ、現実は非情である。

 

 1は今の状況を打開できそうにない。

 なんなら今やってるからね。

 やめておいたほうがいいだろう。

 

 2はどう攻撃をするか決めてないけど、このまま回復だけやるよりは有利になる可能性がある。

 あくまで可能性で、回復が半減したことで不利になる可能性もある。

 

 3は論外。

 

 さてどうする。

 うーん……可能性があるほうにかけるべきかな?

 生き残るには2が一番可能性が高いのかもしれない。

 それにHP自動回復があるから回復がゼロになるわけではない。

 ん?待てよ。

 火球をくらって大ダメージを受けるのは蜘蛛さんに当たっているからだよね。

 防御力も抵抗力もかなり高いから、私に当たればダメージは少ないはず。

 ならば、私に当たるようにすればこの戦いに勝てるのでは?

 〈狂〉のスキルレベルが2になって、スキルポイントが900までになっちゃったけど、何か私の適性が高くて敵の攻撃を引きつけるスキルはないかな?

 えーと、えーと。

 

 《挑発(500):周りを挑発する》

 

 これだ!

 見た感じ敵味方問わず挑発するみたいだけど、蜘蛛さんは私を攻撃しないって信じてる。

 よし、取得!

 

 《現在所持スキルポイントは65470です。

  スキル〈挑発LV1〉をスキルポイント500を使用して取得可能です。

  取得しますか?》

 《「挑発LV1」を取得しました。残りスキルポイント64970です》

 

 LV1じゃ期待できない!

 もっと!

 

 《現在所持スキルポイントは64970です。

  スキル「挑発LV1」をスキルポイント500を使用して「挑発LV2」にレベルアップ可能です。

  使用しますか?》

 《「挑発」がLV2になりました。残りスキルポイント64470です》

 

 もっと!

 

 《現在所持スキルポイントは64470です。

  スキル「挑発LV2」をスキルポイント500を使用して「挑発LV3」にレベルアップ可能です。

  使用しますか?》

 《「挑発」がLV3になりました。残りスキルポイント63970です》

 

 まだまだ!

 

 《現在所持スキルポイントは63970です。

  スキル「挑発LV3」をスキルポイント500を使用して「挑発LV4」にレベルアップ可能です。

  使用しますか?》

 《「挑発」がLV4になりました。残りスキルポイント63470です》

 

 じれったいな!

 

 《現在所持スキルポイントは63470です。

  スキル「挑発LV4」をスキルポイント500を使用して「挑発LV5」にレベルアップ可能です。

  使用しますか?》

 《「挑発」がLV5になりました。残りスキルポイント62970です》

 

 よしこれだけあれば十分…のはず!

 とりあえず蜘蛛さんに事情を説明してから、頭から降りよう。

 

 『蜘蛛さん、スキルポイントで「挑発」ていうスキル取ったから降りるね。』

 

 『え!?待ってどゆこと!?』

 

 『囮になるっていうこと!』

 

 私は蜘蛛さんの頭から飛び降り、熱い地面に着地する。

 よし、「挑発」発動!

 その瞬間、2体のウナギがびっくりするほどの速さで私に首を向ける。

 ウナギからは許せない相手と言わんばかりのオーラが漂っており、殺意マシマシの眼をしていた。

 ……挑発の効果高すぎない?

 まさかここまでとは思いもしなかった。

 

 ウナギ達が火炎ブレスの準備をする。

 2体とも息がピッタリで、仲良く私を焼き殺すつもりらしい。  

 前の私なら避けることもできずに焼かれてたと思うけど、今の私は違う。

 平均速度能力577の力を見せてやる!

 ……あれ、あんまり高くないね。

 おっとウナギ達が火炎ブレスを吐くのが見えた。

 早く避けないと。

 私が移動すると、さっきまでいた場所に炎の壁ができる。

 近くにあるだけでHPを減らすほどのものが近づいてくるのは怖いの一言。

 私に涙腺があれば泣いてたね。

 

 なんとか避けきるが、すぐに火球が飛んでくる。

 私は右へ左へ動き回って避けようとするが、残念ながら避けられていない。

 なんならほとんどの火球が当たってる。

 でも大丈夫。

 

 『HP:1007/2254』

 

 ほら、あまり減ってないでしょう?

 これが私のカチコチボディだよ。

 これならある程度は耐えられるはず。

 私が耐えている間に蜘蛛さんがなんとかして攻撃してくれると嬉しい。

 私は蜘蛛さんを見つけるために周りを見る。

 天井に張り付いている蜘蛛さんを発見。

 「遠話」で話しかけよう。

 

 『蜘蛛さん、今のうちに攻撃して!』

 

 『………。』

 

 『蜘蛛さん!』

 

 『え?ああごめん!挑発すごいね!』

 

 そういいながら蜘蛛さんはウナギ達の真上に移動する。

 そして毒合成で大きな猛毒玉をそれぞれ1つずつ生成する。

 あの大きさならウナギ達は大ダメージを受けるだろう。

 そんなものが頭上にあるというのに、ウナギは気づくことはなく私に火球を放っている。

 

 『くらえ!蜘蛛猛毒!』

 

 ウナギ達が猛毒玉に気づき、びっくりしたのか口を開ける。

 いや、その口の奥から発光していることからブレスの準備をしているね。

 しかし、ウナギがブレスを放つ前にその口の中に猛毒玉が入り込む。

 蜘蛛猛毒で最もダメージが高い、摂取ダメージをくらってしまった。

 ウナギ達のHPが急速に減っていく。

 そしてHPがゼロになった。

 

 『おっとお残し厳禁。』

 

 蜘蛛さんがウナギ達に糸を巻きつけ陸に引き上げる。

 なんだろう。

 なにか違和感がある。

 なにかが足りない気がする。

 私は違和感の正体に気づくことなくウナギ達に張り付き、そのまま食そうとすると、ウナギ達が突如として動き出した。

 

 『生命変遷』

 

 火竜スキルレベル3効果だ。

 SPを消費してその分のHPを回復させるというなかなか羨ましいスキルだ。

 このまま第2ラウンドを始めるつもりだろうが、ウナギ1号には退場してもらう。

 「吸収」発動。

 私がインレントに進化した際に手に入れたスキルだ。

 ぶっちゃけ忘れかけてたけどその効果は絶大。

 あっという間にウナギ1号のHPとMPが吸収され、全て私のステータスに変換される。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、インレントがLv7がLV8になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、インレントがLV8がLV9になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、インレントがLV9からLV10になりました》

 《条件を満たしました。個体、インレントが進化可能です》

 

 あら、もう進化できるのね。

 このウナギすごい経験値じゃん。

 もう戦いたくないけどね。

 蜘蛛さんも皮を脱いでウナギに備えている。

 ……吸収を有効活用できるいい方法を思いついた。

 それには蜘蛛さんの協力が必要だから、その方法を伝えよう。

 方法を伝えると蜘蛛さんは驚きつつも承諾してくれた。

 

 それじゃお願い、蜘蛛さん。

 蜘蛛さんが私に糸を巻きつける。

 そして糸を使ってハンマー投げのように私をウナギに投げつけた。

 蜘蛛さんの速度能力値が反映されているのか、命中や投擲のスキルのおかげなのか、私は予想以上のスピードで飛んでいきウナギに張り付いた。

 すぐに吸収を発動。

 あっという間にウナギは息絶えた。

 なんだか呆気ないけど勝った!

 第三部、完!

 

 

 

 

 




 日に日に下がる、日間UA数にお気に入り追加数。
 あ、ふーん。
 
 こっから面白くなるから!!
 多分。



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また進化か、いつ進化する?

 
 


 《進化先の候補が複数あります。次の中からお選びください。

  インレント・クイーン

  レイジィ》

 

 ふむ。

 どうやら進化候補先は2つ。

 インレント・クイーンはどんな進化なのか分かる気がする。

 レイジィはまったく分からない。

 しかし、名前で進化先を決めてはいけない。

 さっそく鑑定。

 

 『インレント・クイーン:進化条件:インレントLV10:説明:インレントの女王。高い防御力を持ち、大群を従える統率力を持つ』

 

 『レイジィ:進化条件:インレントLV10、「崩壊」の称号:説明:凶悪な小型の魔物。高い戦闘力に強力な腐蝕属性を持ち、またたく間に対象を塵にする』

 

 なるほど。

 インレント・クイーンは数の暴力。

 レイジィは1人精鋭ということね。

 なるほど、なるほど。

 うーん…。

 めっちゃ悩む…!

 だってどっちも魅力的なんだもん。

 

 インレント・クイーンはわざわざ“インレントの女王”なんて説明があるからきっとインレントを産むと思う。

 もし怠惰が無ければ進化できないインレントをたくさん産めるのなら、多数精鋭になるかもしれない。

 そうなれば、一気に戦闘が有利になるのかもしれない。

 インレントのスキルは共存と吸収。

 ひょっとしたら怖いもの無しになれるのかも。

 それにインレント・クイーンに“高い防御力を持つ”なんて説明もある。

 スキル「挑発」を使うのなら、防御力は必須。

 それが高いなんていわれるのだから、その防御力は期待できる。

 

 レイジィは称号が無ければ進化できない、いわばレア進化。

 レア進化のインレントのレア進化だから、その性能はすごいはず。

 高い戦闘力と強力な腐蝕属性。

 高いとか強力の基準はよく分からないけど、とにかく強くなることは分かる。

 うーん、でも中層に入ってから腐蝕攻撃使ってないし今でも十分強力だと思う。

 まだ高い腐蝕耐性を持った敵を見たことないからあまり強化する必要が無い……と思う。

 

 でもなんだろう。

 ここでレア進化しないと何かと損した気分になりそう。

 期間限定の食品とか買いたくなっちゃうみたいな。

 いやでも食品なら食べればいいけど、今回は進化。

 自分の体を決めるのに期間限定とか考えてられないか。

 ん?待てよ?

 レイジィのレベルをカンストしたら、もしかしたらレイジィクイーンみたいなのに成れるのでは?

 それにインレント・クイーンはその後の進化が無いのでは?

 いやでも、あー。

 うぐぐ……。

 ここは……確実なものを選ぶことにしよう。

 確実に敵に対して優位になれるもの。

 誰でもいいからこういうのが強いって言葉ないかな。

 記憶を総動員で探してみよう。

 なにかないかなー……ん?

 確か何かで誰かが言ってた。

 戦いは数だよ、兄貴!

 だっけ?

 いや姉貴だっけ?

 そんなことはどうでもいい。

 とにかく戦いは数って言ってた。

 ならばインレント・クイーンかな?

 もしたくさん産めなくても、高い防御力は魅力的だしね。

 うん、インレント・クイーンにしよう。

 

 『蜘蛛さん、何やってるの?』

 

 蜘蛛さんがウナギの死体を持ってとぐろ巻きにしている。

 下品なものに見えなくもない。

 

 『あ、タニシちゃん、今はウナギシェルターを作ってるよ。』

 

 『なんで?』

 

 『なんでって……こんなところで進化したら目覚めたら死んでましたってなりそうだから。』

 

 『あ、そういうことね。』

 

 『そう、そゆことー。』

 

 なるほど、野ざらしで寝るわけにはいかないもんね。

 さすが蜘蛛さん、安全確保の技術がすごい。

 生まれてからずっと糸で安全確保をしてきたことはある。

 

 『タニシちゃんも進化?』

 

 『うん。』

 

 『じゃあ一緒に寝よー。』

 

 『私寝ないけどね。』

 

 『あ、そうだったね。』

 

 まぁ入るけどね。

 寝ないとはいえ進化中は戦えそうもないし。

 あ、そうだ。

 今の私のステータスは?

 

 《インレント(篠前 ゆりか) LV10

  ステータス

 HP:2321/2321(緑)+180

 MP:132/132(青)  +6

 SP:2202/2202(黄)+121

   :2201/2201(赤)+120

 平均攻撃能力:50      +3

 平均防御能力:2069    +180

 平均魔法能力:37      +3

 平均抵抗能力:2181    +180

 平均速度能力:610     +33

 スキル

 「HP自動回復LV6」「MP回復速度LV4」「SP回復速度Lv4」「MP消費緩和LV3」「SP消費緩和Lv3」

 「鑑定LV10」「探知LV5」

 「吸収lv8」「共存lv9」「遠話lv2」「毒合成LV5」「集中LV10」「思考加速Lv5」「予見Lv3」「並列思考Lv8」「演算処理Lv9」「命中Lv3」「回避LV2」「立体機動LV4」「糸の才能LV5」「狂LV5」

 「気闘法Lv3」「気力付与LV4」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv2」「猛毒耐性LV2」「斬撃耐性LV4」「打撃耐性LV4」「破壊耐性Lv3」「火耐性lv2」「外道耐性LV7」「痛覚軽減LV5」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」

 「外道魔法LV3」

 「怠惰」「退廃」「禁忌lv5」

 「韋駄天lv4」「のんびり屋LV10」「堅固LV4」「強力LV6」「瞬発Lv7」「持久Lv6」「生命LV6」「望遠LV1」「聴覚強化Lv9」「嗅覚強化Lv8」「味覚強化LV4」「触覚強化Lv6」「視覚領域拡張Lv4」

 「腐蝕大攻撃LV3」「猛毒攻撃Lv2」「破壊強化Lv2」「斬撃強化Lv2」「毒強化Lv2」

 「n%I=W」

 スキルポイント:65460

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「魔物殺し」「無慈悲」「崩壊」》

 

 へー。

 これがどれだけ増えるのか、楽しみだ。

 それじゃ、進化開始。

 

 《個体インレントがインレント・クイーンに進化します》

 

 はい。

 その瞬間、体中が変化するような違和感を覚える。

 グリュグリュって表現が似合うかな。

 あれ?

 なんだか身長が高くなってるような?

 女王だからかな。

 うわー……蜘蛛さんぐらいデカくなっちゃった。

 もう頭には乗れないね。

 

 《進化が完了しました》

 《種族インレント・クイーンになりました》

 《各種基礎能力値が上昇しました》

 《スキル熟練度進化ボーナスを取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「HP自動回復LV6」が「HP自動回復LV7」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「SP回復速度LV4」が「SP回復速度LV5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「SP消費緩和LV3」が「SP消費緩和LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「遠話LV2」が「遠話LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「思考加速LV5」が「思考加速LV6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「予見LV3」が「予見LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「立体機動LV4」が「立体機動LV5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「回避LV2」が「回避LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「狂LV5」が「狂LV6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「猛毒耐性LV2」が「猛毒耐性LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「打撃耐性LV4」が「打撃耐性LV5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「火耐性LV2」が「火耐性LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「外道魔法Lv3」が「外道魔法LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「生命LV6」が「生命LV7」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「触覚強化LV6」が「触覚強化LV7」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「腐蝕大攻撃LV3」が「腐蝕大攻撃LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「破壊強化LV2」が「破壊強化LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「MP回復速度LV4」が「MP回復速度LV5」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「破壊強化LV3」が「破壊強化LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「斬撃強化LV2」が「斬撃強化LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「毒強化LV2」が「毒強化LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「気闘法LV3」が「気闘法LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「毒合成LV5」が「毒合成LV6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「影魔法LV1」を取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「毒魔法LV1」を取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「破壊耐性LV3」が「破壊耐性LV4」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「麻痺耐性LV2」が「麻痺耐性LV3」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「気絶耐性LV1」を取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「触覚強化LV7」が「触覚強化LV8」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「剛力LV1」を取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「堅牢LV1」を取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「護法LV1」を取得しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV5」が「禁忌LV6」になりました》

 《「強力LV6」が「剛力LV1」に統合されました》

 《「堅固LV4」が「堅牢LV1」に統合されました》

 《進化によりスキル「産卵LV10」を獲得しました》

 《進化によりスキル「眷属支配LV10」を獲得しました》

 《スキルポイントを入手しました》

 

 

 

 




 さて、進化ボーナスを書くかー!
 たしか結構多かったよな?
 ↓
 原作を見返す。
 ↓
 17ぐらい?大変だけど頑張るか!
 ↓
 ふー!終わった!
 さて、投稿す……ん?
 ↓
 そういえば共存ってレベルアップボーナスを共有してたような?
 ↓
 確認。
 ↓
 共有しとる……。
 これ、進化ボーナスも共有してなきゃいけなくない?
 ↓
 OH…あと17追加っすか。
 やってやろうじゃねぇかこの野郎!!
 ↓
 燃え尽きたぜ……真っ白にな!



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その気になっていた私の姿はお笑いだったぜ

 


 進化が完了したみたい。

 それじゃあ早速確認しよう。

 

 《インレント・クイーン(篠前 ゆりか) LV1

  ステータス

 HP:2822/2822(緑)+501

 MP:142/142(青)  +10

 SP:2703/2703(黄)+501

   :2702/2702(赤)+501

 平均攻撃能力:100     +50

 平均防御能力:3089    +1020

 平均魔法能力:47      +10

 平均抵抗能力:3191    +1010

 平均速度能力:620     +10

 スキル

 「HP自動回復LV7」「MP回復速度LV5」「SP回復速度Lv5」「MP消費緩和LV3」「SP消費緩和Lv4」

 「鑑定LV10」「探知LV5」

 「吸収lv8」「共存lv9」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「遠話lv3」「毒合成LV6」「集中LV10」「思考加速Lv6」「予見Lv4」「並列思考Lv8」「演算処理Lv9」「命中Lv3」「回避LV3」「立体機動LV5」「糸の才能LV5」「狂LV6」「挑発LV5」

 「気闘法Lv4」「気力付与LV4」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv3」「気絶耐性LV1」「猛毒耐性LV3」「斬撃耐性LV4」「打撃耐性LV5」「破壊耐性Lv4」「火耐性lv3」「外道耐性LV7」「痛覚軽減LV5」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」

 「外道魔法LV4」「影魔法LV1」「毒魔法LV1」

 「怠惰」「退廃」「禁忌lv6」

 「韋駄天lv4」「のんびり屋LV10」「護法LV1」「堅牢LV2」「剛力LV3」「瞬発Lv7」「持久Lv6」「生命LV7」「望遠LV1」「聴覚強化Lv9」「嗅覚強化Lv8」「味覚強化LV4」「触覚強化Lv8」「視覚領域拡張Lv4」

 「腐蝕大攻撃LV4」「猛毒攻撃Lv2」「破壊強化Lv4」「斬撃強化Lv3」「毒強化Lv3」

 「n%I=W」

 スキルポイント:65590

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「魔物殺し」「無慈悲」「崩壊」》

 

 おー!

 防御と抵抗のステータスが1000も増えてる!

 高い防御力っていうのは本当だったのか!

 相変わらず魔法関連が弱いけど。

 まぁ、魔法を使うタニシなんて見たことないしそんなイメージも無いからね。

 別に気にすることはないかな。

 いやーまさかここまで硬くなるとは。

 体もおっきくなったし、これは蜘蛛さんの盾になるべきかな?

 

 『う〜ん……。』

 

 お、蜘蛛さんも進化完了か。

 すごい姿が変わってる…。

 すごい棘が生えてるし前足が命を刈り取る形をしてる。

 なんだかすごい強そう!

 

 『タニシちゃんおは………なんかデカくない?』

 

 『進化したらデカくなっちゃった。』

 

 『私ぐらいあんじゃん……鑑定していい?』

 

 『いいよ、こっちもするね。』

 

 『はいよー。』

 

 《ゾア・エレ LV1 名前 なし 

  ステータス

 HP:205/205(緑)

 MP:291/291(青)

 SP:195/195(黄)

   :195/195(赤)

 平均攻撃能力:251

 平均防御能力:251

 平均魔法能力:245

 平均抵抗能力:280

 平均速度能力:1372 

 スキル

 「HP自動回復LV7」「MP回復速度LV5」「MP消費緩和LV3」「SP回復速度LV5」「SP消費緩和LV4」

 「破壊強化LV4」「斬撃強化LV3」「毒強化LV3」「猛毒攻撃LV3」「腐蝕大攻撃LV1」

 「気闘法LV4」「気力付与LV4」

 「糸の才能LV5」「万能糸LV1」「操糸LV8」「投擲LV7」「立体機動LV5」「集中LV10」「思考加速Lv6」「予見Lv4」「並列思考LV8」「演算処理LV9」「命中LV7」「回避LV7」「毒合成LV8」「遠話Lv3」「隠密LV8」「無音LV1」「狂LV5」

 「鑑定LV8」「探知LV9」

 「奈落」「傲慢」「禁忌LV5」

 「外道魔法LV4」「影魔法LV3」「毒魔法LV3」「深淵魔法LV10」

 「過食LV7」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV3」「破壊耐性LV4」「打撃耐性LV4」「斬撃耐性LV4」「火耐性LV3」「猛毒耐性LV3」「麻痺耐性LV4」「石化耐性LV3」「酸耐性LV4」「腐蝕耐性LV3」「気絶耐性LV3」「恐怖耐性LV6」「外道耐性LV4」「苦痛無効」「痛覚軽減LV8」

 「望遠LV1」「聴覚強化LV8」「嗅覚強化LV7」「味覚強化LV4」「触覚強化LV8」「身命LV1」「魔量LV8」「瞬発LV8」「持久LV8」「剛力LV4」「堅牢LV4」「護法LV4」「韋駄天LV4」

 「n%I=W」

 スキルポイント:500

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「魔物の殺戮者」「傲慢の支配者」》

 

 ゾア……エレ…?

 タラテクトじゃないの?

 あれか、レア進化か!

 蜘蛛さんたくさん称号持ってるし、そういう進化もたくさんありそう。

 というか蜘蛛さん「狂LV5」……私のせいだよね。

 共存のデメリットだね。

 負のスキルも共有しちゃうのは。

 

 『蜘蛛さんごめんなさい!』

 

 『またえげつないほど上がってらっしゃる……なんで今謝った?』

 

 『スキル〈狂〉を共有しちゃった……。』

 

 『ん?……あ、ホントだ。』

 

 『ごめん……。』

 

 『別にいいよー。こうなることは予想してたしね?』

 

 『ありがとう。』

 

 『それに私のスキルポイント少ないからあまり意味ないだろうし。』

 

 蜘蛛さんは本当に優しいお方。

 私が男だったら惚れてたね。

 えっと、蜘蛛さんの狂はLV5。

 だからスキルポイントは600までか。

 蜘蛛さんの所持スキルポイントが500だから、確かに意味をなしてないね。

 それでも、負スキルを蜘蛛さんに共有してしまったことに罪悪感を感じる。

 

 『おー私もかなり強くなってる。』

 

 『100ぐらい上がったよね。』

 

 『……そういうタニシちゃんは1000も上がってるけどね。』

 

 『いや……ほら、私攻撃力とか魔法系は弱いじゃん。』

 

 『攻撃力は腐蝕大攻撃があるじゃん。』

 

 うっ!それを言われると何も言えない。

 腐蝕大攻撃があるから、耐性持ち以外は即死なんだよね……私の攻撃。

 あれ?腐蝕大攻撃が蜘蛛さんにもある。

 たしか共存は種族スキルは共有できない。

 なのに腐蝕大攻撃があるっていうことは腐蝕攻撃って種族スキルじゃなかったんだ。

 へーそうだったんだ。

 それってつまり腐蝕攻撃をしてくる敵が後々出てくる可能性があるっていうこと?

 え、怖。

 何か生物が見えたら問答無用で鑑定したほうが良さそうだね。

 種族スキルで思い出した。

 スキル「産卵」を今回の進化で手に入れたんだった。

 これも種族スキルなのかな?

 それは後で確かめよう。

 

 とにかく産卵してみるか。

 産卵!

 む?体の中に何かができた感じがするぞ?

 これが卵かな。

 それに一個じゃない。

 たくさんある。

 例えるなら……体の中にブドウができたみたいな、そんな感じがする。

 ちょっと気持ち悪い。

 しかも痛い。

 ぐぬぬ……。

 

 『タニシちゃん、何やってるの?』

 

 『卵産んでる。』

 

 『は?』

 

 『進化で「産卵」のスキルを手に入れたから実験中。』

 

 『えー…そんなスキルあるんだ。』

 

 あとちょっとで出てきそう。

 ふんっ。

 ボトボトボト

 ……出たみたい。

 

 『うわ…赤っ!』

 

 『タニシの卵って赤いんだよね。』

 

 私が生まれた時も赤い卵を突き破って生まれたし、インレントの卵も赤いのは予想してた。

 それでも赤い卵なんて見かけないから珍しく感じる。

 

 『孵化するの?』

 

 『するんじゃないの?産卵の説明にも交尾せずに産めるって書いてあったよ。』

 

 『いやそうじゃなくて。』

 

 『?』

 

 『この灼熱地獄で孵化するの?』

 

 …………?

 ………。

 あ。

 そうじゃん、インレントって火に弱いんだった。

 火に弱い生物が灼熱地獄の中で孵化できるわけないじゃん。

 ……完全に頭から抜けてた。

 やばいどうしよう。

 え?じゃあ中層じゃ産卵って意味無いの?

 それって、インレント・クイーンである意味ある?

 これ、ひょっとしてレイジィの方が良かったやつじゃない?

 あれ?

 もしかして私、やらかした?

 い、いや防御力があるじゃん!

 挑発で引き寄せてその間に戦ってくれればいいんだよ!

 ね、蜘蛛さん、私ミスってないよね!

 

 『え?ああその、言いづらいけどさ。挑発を使われるとさ、タニシちゃんを殺さなきゃいけない相手って思っちゃうんだよね。』

 

 『え?』

 

 『その…もし私が強力な技を使えるようになってさ、挑発を発動されるとさ、タニシちゃんも攻撃しちゃうかもしれないんだよね。』

 

 『え?』

 

 『だから……あの…できれば使わないでほしいなって。』

 

 『え?』

 

 え?

 ウナギの時、蜘蛛さんが私のことをじっと見てたけどそれって、私が殺さないといけない奴だって思ってたっていうこと?

 それじゃあもう挑発は使えないっていうこと?

 ……だとしたら防御力上げた意味は?

 え?

 やらかした?

 私、やっちゃった?

 

 

 

 




 現実は甘くない。


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共存さん、本気だすってよ

 


 進化先をインレント・クイーンにしてしまったことを、私は悔やんでいた。

 たしかに期待どおりに防御力はかなり上昇した。

 でも私がインレント・クイーンにしたのは多数のインレントを産めることに惹かれたのであって、防御力はインレントの時点で十分高かったのであってもなくてもあったらいいなぐらいの気持ちだった。

 インレントは火に弱い。

 いや、インレントというより私のタニシ族?は全て火に弱い。

 しかし私はレベリングで得た火耐性とHP自動回復でその弱点をカバーしていたので、その事実を忘れていた。

 ………まぁ、進化してしまったのは戻せない。

 いつまでも悔やんでないで今の状態を受け止めよう。

 それにこの経験は次の進化に活かせばいい。

 次があるかどうかは分からないけどね。

 うん、よし。

 立ち直った。

 

 さて、蜘蛛さんはどうやらスキルポイントが溜まったからそのスキルポイントを使って何か有用なスキルを探しているらしい。

 私も制限されているとはいえ、何か使えそうなものを探してみよう。

 えーっと……どれどれ?

 自分に足りないものは遠距離攻撃だし、そういう系のスキルを中心に探そう。

 遠距離攻撃といったら魔法かな。

 でも私って魔法系のスキルの相性ものすごい悪いんだよねー。

 私のステータスで魔法系はダメダメだし予想はついてたけど、ほとんどの魔法が必要スキルポイント10000以上って……。

 どんだけ相性悪いんだろう?

 水と油並?

 お茶と牛乳並?

 いやさすがにそこまでではないかな?

 う〜ん。

 うん。

 ないね。

 今の私に取れるスキル、近距離系しかないや。

 防御系も多い。

 う〜む……困った。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「共存LV9」が「共存LV10」になりました》

 《条件を満たしました。スキル「共存LV10」から「同心」に派生しました》

 

 お?あの共存がカンストした。

 それと同時に「同心」なるものを取得したぞ?

 まぁ、まず共存の確認をしよう。

 う〜ん。

 正直共存のレベルが上がっても何か変わった感じがしなかったからあまり期待してないけど、それでも気になる。

 なにが変わったんだろう?

 鑑定で調べてみても分からない。

 共存のスキル説明は依然変わりはない。

 う〜ん……。

 ま、いっか。

 分かったときは分かった時、今は分からないってことで。

 そして「同心」。

 名前だけじゃ効果がわからないから早速鑑定!

 

 『同心:共存で指定した相手とその所有者がシステム内で1個体にカウントされる』

 

 ?

 よく分からない。

 えーっとつまり………駄目だ私の頭じゃ理解できない。

 誰か説明書をください。

 おーい蜘蛛さーん!

 

 『……チートスキル発見。』

 

 『へ?』

 

 蜘蛛さんから謎の通信が。

 チートスキル発見?

 傲慢とか怠惰とかそういう系統の?

 だとしたらどんなやつなんだろう。

 

 『どんな名前?』

 

 『忍耐っていうスキル。』

 

 忍耐、忍耐、忍耐……。

 お、発見。

 どれどれ?

 

 『忍耐(1000):神へと至らんとするn%の力。自身の持つ神性領域を拡張する。MPの続く限りどんなダメージを受けてもHP1で生き残る。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る』

 

 ふむふむ。

 神性領域とかよく分からないけど、MPが続く限り生き残るというのはすごい。

 蜘蛛さんの弱点は防御力の低さ。

 攻撃はほとんど避けてるけどどうしても当たっちゃうことがある。

 そうなると共存でHPを共有しているとはいえあっという間に尽きてしまう。

 忍耐はそんな弱点をカバーできるスキルだね。

 うん、私の視点じゃ1000も必要だけど蜘蛛さん視点では低めなんだろうね。

 じゃなきゃこんなスキル出てこないはずだ。

 

 『とっていいと思う?』

 

 『良いと思う。生存率は上げても損は無いからね。』

 

 『よし、取得!』

 

 蜘蛛さんが天の声に返事をし、忍耐を取得する。

 

 《「同体」の効果により「忍耐」を取得しました。》

 

 え?

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV6」が「禁忌LV8」になりました》

 

 あ、共存って禁忌も共有しちゃうのね。

 あともうちょっとでカンストじゃん。

 大丈夫?これ。

 カンストした瞬間存在が消えたりしない?

 

 《条件を満たしました。称号「忍耐の支配者」を獲得しました》

 《称号「忍耐の支配者」の効果により、スキル「外道無効」「断罪」を獲得しました》

 《「外道耐性LV7」が「外道無効」に統合されました》

 

 えぇなにこれ。

 同体ってスキルポイントで取得したスキルも共有するの?

 ……すごいスキルだ。

 勝ったね、風呂食べてくる。

 ちなみにこのことを蜘蛛さんに言ったらチートだって騒いでた。

 私もそう思う。

 さて、新たに得たスキルに感謝しながらスキルや称号の確認でもしようかな。

 

 『忍耐の支配者:取得スキル「外道無効」「断罪」:取得条件:「忍耐」の獲得:効果:防御、抵抗の各能力上昇。邪眼系スキル解禁。耐性系スキルの熟練度に+補正。支配者階級特権を獲得:説明:忍耐を支配せしものに贈られる称号』

 

 忍耐らしい効果の称号だなぁ。

 む?邪眼系スキル解禁……とな?

 なんだかカッコいいかも。

 くっ!両目が疼く!

 みたいな?

 いいね。

 

 『断罪:魂にシステム内罪科を貯めたものに対し、罪科の累計値に比例した抵抗不可のダメージを与える』

 

 おー断罪だね。

 罪を犯したものを容赦なく裁く。

 私はそのスキルの対象じゃないよね?

 

 外道無効は予想通りの効果で、外道攻撃を無効化するというものだった。

 

 『ねぇねぇタニシちゃん。』

 

 『どうしたの蜘蛛さん。』

 

 『外道無効を持ってるのならさ、探知って使えると思うんだけど、どうかな?』

 

 『え?探知?』

 

 あーそういえば探知って外道攻撃だったね。

 ……なんで感知系スキルが外道攻撃してるの?

 

 『使えるの?』

 

 『いやまだ分からないけどひょっとしたら使えるかもしれないじゃん。だからさ、その探知が使えるっていう喜びをね、タニシちゃんと一緒に味わいたいなー…なんて。』

 

 これ絶対に道連れにしようとしてるよね。

 言葉を選んでるのが伝わってくるよ。

 でもまぁ、いいかな。

 これで苦しんだら蜘蛛さんにお仕置きをすればいいのだから。

 

 『いいよ。』

 

 『なんか不穏な感じが……。』

 

 『やらないの?』

 

 『やるよ、いくよ、せーっの!』

 

 探知、ON!

 

 わぁ…すごい……。

 痛みがまったく無い…。

 本当はちょっと痛いけど我慢できる程度のものだ。

 この程度の痛み、鑑定で慣れてる。

 頭に膨大な情報が流れてくる。

 その情報量は全能感を感じるほど多い。

 一瞬一瞬のマグマの流れ、空気の流れ、あの岩石のあり方、熱さ、重さ、その他の情報全てを把握する、この感覚。

 

 《熟練度が一定達しました。スキル「演算処理LV9」が「演算処理LV10」になりました》

 《条件を満たしました。スキル「演算処理LV10」が「高速演算LV1」に進化しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考LV8」が「並列思考LV9」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知LV5」が「探知LV6」になりました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「神性拡張領域LV1」を獲得しました》

 

 いやーこれはすごい。

 ほんとすごい。

 なんだろう……世界って広いんだなぁ。

 私が見ていたのはほんの家の角のホコリにすぎなかった。

 そんな思いになるね、これ。

 うっ感動してきた。

 まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。

 地面ばかり向いていた私が広大な星空を見上げたような、そんな感じだ。

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「並列思考LV9」が「並列思考LV10」になりました》

 《条件を満たしました。スキル「並列思考LV10」が「並列意思LV1」に進化しました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「神性拡張領域LV1」が「神性拡張領域LV2」になりました》

 

 さっきから神性拡張領域って何?

 それと並列意思って何?

 気になるなー。

 確かめねば。

 

 

 

 

 




 もしタニシがレイジィを選んでいたら、攻撃とスピードのステータスに1000アップしていた。
 つまり魔法系以外のステータスは全て1000いっていたことになる。
 ほぼ隙なしタニシの誕生。


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心的ドッペルゲンガー

 


 『神性領域拡張:神性領域を拡張する』

 

 なるほどわからん。

 神性領域って何さ。

 二重鑑定。

 

 『神性領域:生命が持つ魂の深層領域。全ての生命の根源であり、自己の最終依存領域でもある』

 

 なるほどわからん。

 とにかく魂がうんぬんな領域なのは分かった。

 そのうんぬん領域を拡張するのがこのスキルなのね。

 何か意味があるのかな?

 なんだかすごそうだし超パワーを手に入れているのかもしれない。

 ステータスに変化が無いし、その可能性は低いけどね。

 次に並列意思。

 その名前から私の意思に何かが起きることは分かる。

 説明を見るとどうやら私の意思が増えるっぽい。

 二重人格みたいなものかな。

 さっそく発動。

 

 ❲こんにちは、並列意思です。❳

 

 どうも。

 

 ❲私はなんのために生まれたのかな?❳

 

 スキルの実験で生まれたんだよ。

 

 ❲だろうね。❳

 

 このスキル何に使えるのかな?

 

 ❲意思同士で役割分担するのが良いと思う。そうすれば同時に色々な事をできるよ。❳

 

 おーいいね。

 それなら探知の情報が多すぎて体を動かしながらだと処理しきれなかったけど、情報処理係と運動係で分ければ探知の情報を処理しつつ体を満足に動かせるね。

 それじゃあ私は情報を処理するから体をお願いね。

 

 ❲いいよ。❳

 

 これから君をなんて呼ぼう?

 私2号で良い?

 

 ❲いいよ。そっちは私1号ね。❳

 

 よし、体の方は私2号に任せよう。

 おお!体を任せたおかげで探知の情報がもっと把握できるようになった。

 並列意思いいね。

 勝った!

 なんて思うのは良くない良くない。

 今まで通りの自分でいよう。

 

 ❲慢心良くない。❳

 

 良くないよねー。

 

 ❲ねー。❳

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「高速演算LV1」が「高速演算LV2」になりました》 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「探知LV6」が「探知LV7」になりました》

 

 スキルレベルアップ!

 前からそうだったけど探知レベル上がるの速いね。

 流石ほとんどの感知系スキルを詰め込まれただけある。

 それが簡単に取れちゃう。

 ある意味チートだね、これ。

 まぁそのかわりに外道攻撃をくらって表現できない痛みを味わうことになるけどね。

 

 ❲脳がオーバーヒートでも起こすのかな?❳

 

 なんじゃないかな。

 

 『おーいタニシちゃん?』

 

 『何?』

 

 『タツノオトシゴ発見したよー。』

 

 『うん、知ってる。』

 

 探知でとっくに発見済みですよ。

 私の周囲に関しては全て知っていると言えば過言かもしれないけどほとんど知ってるならば過言ではない。

 目に映っていない敵を知るってなんか強者って感じがする。

 

 ❲「剣を下ろしなさい……1人、いや3人はいますね?」みたいな?❳

 

 そうそう、そんな感じ。

 さすが私。

 わかってるね。

 

 ❲私ですから。❳

 

 私ですね。

 

 さて、そんなことよりタツノオトシゴを狩ろう。

 蜘蛛さんの上に乗れなくなったから移動速度が減ったけど、それでも620あるから、それなりの速度は出る。

 走ってるのは私2号だけどね。

 タツノオトシゴは2体、マグマの中にナマズが1体いるね。

 蜘蛛さんが先制攻撃の投石。

 タツノオトシゴに命中するとパコーンと音を立てて石が砕け散る。

 その衝撃でマグマに沈み、上がってきたときにはHPが3分の1も減っていた。

 ただの投石でここまで減るとは……蜘蛛さんの成長を感じる。

 私?

 このダンゴムシみたいな足でどう石を投げればいいの?

 お、火球を飛ばしてきた。

 蜘蛛さんは軽々回避。

 私も避けられるけど、自分の防御力を試すために避けないでおこう。

 着弾。

 お?ノーダメージ?

 ノーダメージだ。

 あらあら、私ってもうそんなに硬いのね。

 勝ったな。

 

 ❲慢心は?❳

 

 良くない。

 ありがとう、危うく慢心するところだった。

 

 ❲どういたしまして。❳

 

 おや、ナマズが浮上してきた。

 そのままタツノオトシゴ達を助太刀するつもりらしい。

 進化しても同族、仲間なんだね。

 ナマズがデカイ火球を飛ばしてくる。

 うん、速いね。

 避けられるけど、これも当たっておこう。

 着弾。

 む、ちょっとダメージくらった。

 だけどHP自動回復もう完治した。

 どうやら今の私はナマズの攻撃だろうとほぼ無傷で済むほどの防御力を持ってしまったらしい。

 勝ったな、ガハハ。

 

 ❲慢心は?❳

 

 いやこれは慢心していいでしょ。

 私は無敵だぁ…。

 

 ❲慢心は?❳

 

 良くないね。

 危ない危ない。

 また慢心というダークサイドに墜ちるところだった。

 怖い怖い。

 

 ❲嫌だねー。❳

 

 ねー。

 

 さて、現在タツノオトシゴとナマズの集中攻撃を受けているがHPは満タンのまま。

 なんで挑発を使ってないのに集中砲火されてるのか分からないけど、それのほうが都合がいいや。

 あ、1体のタツノオトシゴがMP切れになって陸に上がってきた。

 ん?なんで蜘蛛さんは焦ってるの?

 聞いてみるか。

 

 『蜘蛛さん、なんでそんなに焦ってるの?』

 

 『今の状況ナマズ達に勝ち目ないでしょ?ナマズ勝ち目がないと逃げちゃうじゃん!』

 

 あ、そういうことね。

 美味しいものは逃したくないよね。

 現在進行形でナマズ怖がってるもんね。

 今にも逃げ出しそうだよ。

 あ、逃げた。

 

 『あ、待てゴラァ!!』

 

 ナマズを追う蜘蛛さんに立ちはだかるようにタツノオトシゴが前に出る。

 

 『邪魔!!』

 

 蜘蛛さんがタツノオトシゴに前足にある鎌を振るう。

 その鎌によってタツノオトシゴはスッパリと切れてしまった。

 

 『へ?』

 

 蜘蛛さんも予想してなかったのか自分の鎌と切られたタツノオトシゴを交互に見て驚いている。

 これには私も驚き。

 

 ❲同じく驚き。❳

 

 ここまでとは…。

 圧倒的な成長を感じる。

 あ、ナマズに逃げられた。

 探知によればマグマの中で私たちから離れようとしてる。

 結構必死。

 私がナマズの逃走を見てると蜘蛛さんは残ったタツノオトシゴに毒を浴びせていた。

 どうやら蜘蛛さんはお怒りのご様子。

 その怒りをタツノオトシゴにぶつけている。

 怒りつつ毒合成の麻痺毒を試していることから案外冷静なのかもしれない。

 タツノオトシゴは麻痺状態。

 ビクビクと痙攣を繰り返している。

 蜘蛛さんはそんなタツノオトシゴの首を切断した。

 

 ❲麻痺させてから切断。恐ろしいコンボだね。❳

 

 あんなのが敵だったらと思うと恐ろしい。

 私麻痺に耐性は一応あるけど動きが鈍くなっちゃう。

 ただでさえスピードがあちらのほうが上なのに鈍くされたら何もできなくなる。

 蜘蛛さんは状態異常攻撃が中心な戦い方だからその耐性が無いとたとえステータスで上だったとしても負ける。

 逆に耐性があると蜘蛛さんはほとんどの攻撃手段が失われるから勝てる可能性が高くなる。

 絶対に勝てるとはいわないのは蜘蛛糸で何かされるかもしれないからだ。

 その何かが分からないけど、蜘蛛さんならそういうことをしてくるって確信がある。

 まぁ、私を殺したら共存の効果で蜘蛛さんも死ぬんだけどね。

 ん?待てよ?

 ひょっとして共存を使った道連れ戦法を使う時が来るのかもしれない。

 何か強敵が現れたら共存で指定する。

 うん、最終手段でやってもいいかもしれない。

 

 ❲「一緒に地獄に行こうぜ」みたいな?❳

 

 そう、そんな感じ。

 まぁエルロー大迷宮自体が地獄みたいなもんだけどね。

 

 ❲あ、すでに私達は地獄に落ちてたのね。❳

 

 どちらかというと地獄出身のタニシかな。

 

 ❲地獄出身のタニシって何?❳

 

 今の私。

 

 ❲いや、知ってるよ。だって私だもん。❳

 

 そっか私だからか。

 

 ❲そうだよ私だからね。❳

 

 ……なんか混乱してきた。

 二重人格は二重人格でも、自分とまったく同じ性格なせいでどちらが自分なのかわからなくなる。

 

 ❲1号も私も、全部私だよ。❳

 

 変な説明しないでもっと混乱する。

 

 ❲1つの体に2人の私がいる。❳

 

 なるほど。

 ドッペルゲンガーか。

 

 ❲それだと対消滅しそう。❳

 

 精神の対消滅とか怖い。

 でもドッペルゲンガーって実際に会わないと消滅しないんでしょ?

 

 ❲そうだね。❳

 

 精神に出会うなんてあるのかな?

 

 ❲今がそうでしょ。❳

 

 あ、なら大丈夫か。

 出会っても対消滅してないし、ドッペルゲンガーに会ったら対消滅するなんて嘘だったのかな?

 

 ❲嘘だったんでしょ。❳

 

 よし、理解した。

 並列意思を使っていても直ちに異常は無い。

 そういえば蜘蛛さんも並列意思を獲得してたね。

 蜘蛛さん明るい人だし、ものすごいはしゃいでそう。

 脳内の自分と喧嘩してそうだね。

 もう1人の蜘蛛さんとなんとかして会話できないかな?

 後で試してみよう。

 

 

 

 

 

 

 




 並列意思は他の作品には無い面白いスキルですよね。
 あったら教えて下さい。


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二柱の悪夢

 


 私たちは強くなった。

 進化してからその思いが強くなっている。

 なぜなら、今まで死を覚悟しなければ勝てなかった敵もかなり余裕を持って勝てるようになったからだ。

 そのことに蜘蛛さんが慢心していたので私と2号でその考えを改めるように説得した。

 今までの不幸が慢心したあとに起こっていると言ったら慢心するのをやめてくれた。

 いや、まだちょっと慢心してるけどこれぐらいなら大丈夫でしょ。

 傲慢の適性が高かったのもわかる気がするよ。

 

 話は変わって忍耐で邪眼系スキルが解禁されたらしいので探してみると、色々なものがあった。

 必要スキルポイントは400。

 狂による制限のギリギリだ。

 全部取ろうかな?

 同心のおかげで私がスキルポイントでスキルを取っても共有されるようになった。

 私に目は2つしかないけど、蜘蛛さんは8つもある。

 つまり、最大で10の邪眼を浴びせることが出来る。

 ロマンあるね。

 全部取っちゃおうかなー?

 よし、取っちゃおう。

 

 『やっちゃえー!』

 

 取っちゃった。

 ごっそりスキルポイント減ったけどまだ残ってるし使う機会は今後減るだろうし安心。

 スキルポイントでレベルを上げるのは、性能を見てからにしよう。

 使えないものまで育ててやる義理なんてないのだよ。

 

 『グフフ……タニシちゃんや、早速実験しやせんか?』

 

 『しよう。ちょうどあそこに赤蛙がいるしね。』

 

 『はっはっはー!!行くぞー!!』

 

 『あ、待って蜘蛛さん速い…!』

 

 蜘蛛さんのスピードは私のスピードの2倍もあるから追いつけない。

 あ、でも初めて会った時はたしか369倍だったし私ってかなり速くなってるよね。

 そんなことを考えている間に到着。

 

 『さ〜てどの邪眼の餌食にしてやろうかな〜?』

 

 『蜘蛛さん悪者みたい。』

 

 『失礼な、私は純粋で清潔な女の子ですよ。』

 

 『へー……そうかな?』

 

 『そうだよ?』

 

 ❲私1号よ、騙されるな。蜘蛛さんの今までの姿を思い出せ!❳

 

 『そうだったね。蜘蛛さんは清潔な女の子だったね。』

 

 ❲おーい!?❳

 

 私2号ちょっと黙ってて。

 

 『タニシちゃんや、どんな邪眼がいいと思うかね?』

 

 『まずは重の邪眼とかどう?』

 

 『よし、くらえ……重の邪眼!!』

 

 蜘蛛さんが大げさな動きをしながら放った重の邪眼。

 赤蛙はそれの影響を受けたのか何かに押さえつけられたように潰れた。

 HPはちょっとずつ減ってる。

 これは使えそう。

 

 『さらに……麻痺の邪眼!!』

 

 さらに麻痺の邪眼。

 赤蛙には麻痺耐性があるがそれでも麻痺の影響を受けている。

 ビクビク動いていたのがピクピクになっている。

 ふむ、これも使えそうだ。 

 

 『そして……恐怖の邪眼!!』

 

 そして恐怖の邪眼。

 赤蛙は目に見えて怯えており、もともと無くなりかけていた戦意が消え失せた。

 もし拘束していなかったら逃げてると思う。

 これはあんまりかな。

 

 『次に……魅了の邪眼!!』

 

 次に魅了の邪眼。

 鑑定結果で一瞬だが魅了がかかっていた。

 あ、またついた。

 あ、また消えた。

 どうやら魅了は少しの衝撃で解けちゃうみたい。

 ついたり消えたりしているのは、魅了されて重の邪眼で傷つけられて魅了が解けてを繰り返してるのだろう。

 う〜ん……微妙。

 

 『今度は……狂気の邪眼!!』

 

 今度は狂気の邪眼。

 その瞬間、赤蛙の目の焦点合わなくなる。

 拘束してなかったら暴れまわっていたと思う。

 敵陣のど真ん中の奴にすると良さそう。

 そこそこ使えるね。

 

 『なんと……幻痛の邪眼!』

 

 なんと幻痛の邪眼。

 もともと痛そうなせいで効果があるのか分からない。

 隙を作るのに使えるかな?

 

 『ならば……不快の邪眼!!』

 

 ならばと不快の邪眼。

 正直今の状態で不快なんて考えてられないと思う。

 効果があるのかないのか……。

 

 『……催眠の邪眼!!』

 

 催眠の邪眼。

 魅了同様、点滅している。

 うん、分からん。

 

 『私もう使える目がないよ。』

 

 『重と麻痺以外は解除していいよ。』

 

 『オッケー!』

 

 蜘蛛さんが重と麻痺以外の邪眼を解除する。

 む?恐怖や狂気、不快は効果が残ってるね。

 じゃあ少し当てるだけでも十分なのかな。

 それは良いことを知った。

 

 『すー……石化の邪眼!!』

 

 おお、あっという間に石になった。

 これいいね。

 あ、重の邪眼のせいで石が割れた。

 重と石化、なかなか怖いコンボだね。

 これは使える。

 欠点としては食べられなくなることかな。

 

 『あと使ってないのもあるけど、それは後で試そう。』

 

 『そうだね。』

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 進化してから数日ぐらい。

 私たちは見かけた魔物は全て狩って食べる日々を送っていた。

 レベルアップに必要な経験値が増えたのか、上がったのは3レベルほど。

 蜘蛛さんはレベルアップによるステータス上昇量に驚いてたけど、私はあれだけ狩って3レベルしか上がっていないことに驚いていた。

 このスピードだとLV10までは時間がかかりそう。

 それにゾア・エレやインレント・クイーンは上位種の可能性があるから進化に必要なレベルはLV20ぐらいかもしれない。

 だとしたら進化まではかなり時間がかかりそうだ。

 それまでにとんでもない強敵に出会わないことを祈るばかりだよ。

 

 そんなことを考えていると、蜘蛛さんの鑑定がカンストした。

 

 『お!元ダメな子鑑定さん!やったカンストしたんだね!!』

 

 『おー。』

 

 蜘蛛さんがナマズを初めて食べた時以上に喜んでる。

 私はスキルポイントでレベルを上げたからカンストしても特に感動は無かったけど、蜘蛛さんは一番最初に取って地道にあげてきたスキルだもんね。

 そんなスキルがカンストしたらそりゃ喜ぶよね。

 

 『あー……派生とか進化ないのか。いやーできればあってほしかったんだけどなー?』

 

 『私の時はそういうの無かったよ。』

 

 『分かってるよ、これは願望。願望を持つのはタダだからね。』

 

 『そうだね。』

 

 それでも蜘蛛さんは本当に残念そうだ。

 うーん、天の声さん?

 蜘蛛さんの願望くらい叶えてくれないかな?

 

 『え?何何!?』

 

 『どうしたの蜘蛛さん。』

 

 突然、蜘蛛さんの体が跳ねる。

 

 『え!?え!?』

 

 『蜘蛛さーん?』

 

 一体どうしたんだろう。

 ものすごく気になる。

 

 《「同心」の効果により、スキル「叡智」を獲得しました》

 《「鑑定LV10」が「叡智」に統合されました》

 《「探知LV10」が「叡智」に統合されました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV8」が「禁忌LV9」になりました》

 《条件を満たしました。称号「叡智の支配者」を獲得しました》

《称号「叡智の支配者」の効果により、スキル「魔導の極み」「星魔」を獲得しました》

《「MP回復速度LV5」が「魔導の極み」に統合されました》

《「MP消費緩和LV3」が「魔導の極み」に統合されました》

《「護法LV1」が「星魔」に統合されました》

 

 ……。

 ………。

 ………へ?

 なにこれ?

 どういうこと?

 蜘蛛さんも頭抱えてるし、なんなのこれ?

 

 『蜘蛛さん?これは一体?』

 

 『あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。鑑定がカンストして進化や派生を期待していたら上位管理者Dが要請を受諾して〈叡智〉を作った。何を言ってるのか分からないかもしれねぇが、私もわけがわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。上位管理者だとか要請を受諾しただなんて奇妙なんて言葉じゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしい何かを味わったぜ。』

 

 『結構余裕そうだね。』

 

 『まーそんなやべー奴に私たちがどうにか出来るわけないじゃん?』

 

 『まぁそうだね。』

 

 スキルを好きに構築できるやつなんて会いたくない。

 叡智も魔導の極みも星魔も全部とんでもないスキルだし、それをスッと作れちゃうなんて神様か何かじゃないかな。

 勝てるわけないね。

 自分の家があるなら帰ってたよ。

 

 『だからねタニシちゃん。見られてることは抗いようがない。ならば私たちはどうするべきだと思う?』

 

 『どうするべきなの?』

 

 『その見てる奴に私たちの一生を忘れられないものにするために燃えるように生き、華々しく散ってやろうじゃないか!!』

 

 『おー!』

 

 前から思ってたけど、蜘蛛さんすごいメンタルしてるよね。

 誰かに監視されている、そんなことを知っても明るく生きるその姿は眩しく見える。

 蜘蛛さんは私の憧れでもあるし大切な仲間でもある。

 あの時に蜘蛛さんに出会えてよかったよ。

 

 その後呆然としていたせいなのか糸を切り忘れ、蜘蛛さんのお尻に火が着いてしまった。

 先程の一生忘れられないものにするという言葉、今の蜘蛛さんの姿こそ一生忘れられないと思う。

 私も、蜘蛛さんも、きっと上位管理者Dも。

 

 

 

 

 




 次回、「いつから上位種は1体しか出てこないと錯覚していた?」
 お楽しみに。
  
 あ、そうだ。
 邪眼系スキルはどんなのがあったのか調べても分かりませんでした。
 誰か邪眼に詳しい人、教えてくださいお願いします。(他力本願)
 
 
 


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君に絶望を与えるRPG

   
 今回オリジナル邪眼が入ります。
 苦手な方は、お覚悟を。
 ……いまさらか!

  


 あれから数日。

 魔物狩って食べての生活の中、私は叡智の凄さに感動していた。

 鑑定と探知を足して少し能力をアップさせたような性能に、検索機能、進化ツリーなどまさに叡智の名にふさわしいスキル。

 もし蜘蛛さんが派生や進化を期待していなかったらこのスキルを手に入れてなかったと思うと、蜘蛛さんは本当にいいことをしてくれた、グッジョブ。

 感知能力が上がったおかげで処理しなければいけない情報が増えたけど、その分遠くの敵に気づけたり不覚を取ることも無くなったのでよしとしよう。

 進化ツリーの方を見てみたけど私はいい感じの進化を遂げているらしい。

 インレント・クイーンの次に進化があることも知れたし、この進化ツリーという機能は本当に素晴らしい。

 

 その叡智だけでも十分良いのに「星魔」や「魔導の極み」という魔法系スキルもついてくるというおまけ付き。

 私は魔法系が絶望的だったけど、このスキル達のおかげで魔法はコップ1杯から燃料タンクぐらいになった。

 今まで持っていても使えなかった魔法やものによっては消費が激しい邪眼系スキルなどが十分に使えるようになった。

 

 ちなみに邪眼系スキルは使えそうな奴だけ強化した。

 強化したのは6つの邪眼。

 

 1つ目は呪いの邪眼。

 これはHP、MP、SPを削っていくというもの。

 スキルポイントを取得したのを合わせて4000ポイントを犠牲にしてカンスト、「呪怨の邪眼」になった。

 これは呪いの邪眼よりも速く削り、しかも削った分を自分に移すというもの。

 これもカンストさせたかったけど狂により断念。

 使い勝手が良いからもうLV2だけどね。

 

 2つ目は麻痺の邪眼。

 効果は単純、麻痺属性を与えるというもの。

 こちらも同じく4000を犠牲にしてカンスト、「静止の邪眼」に。

 これは麻痺のように体が動かしづらくなるのではなく、時間が止まってるみたいに一切体が動かなくなる。

 一瞬で効果が出てしまうせいか使用頻度が多くとも使用時間が少ない。

 なのでまだLV1。

 

 3つ目は恐怖の邪眼。

 外道属性〈恐怖〉を与えるというもの。

 4000でカンストさせ「悄然の邪眼」に。

 より強い恐怖を与えられるようになった。

 恐怖で逃げ出しちゃうから使えないなんて思ってたけど、見るだけで恐怖を与えるってカッコいいじゃん。

 そんな理由でカンストさせた。

 スキルポイントがたくさんあるしこれぐらい大丈夫大丈夫。

 ちなみに悄然の邪眼になってから、逃げ惑うなんて余裕もないくらいの恐怖が与えられるようになっている。

 割と使える。

 

 4つ目は狂気の邪眼。

 外道属性〈狂気〉を与えるというもの。

 4000でカンストさせ「狂乱の邪眼」に。

 より強い狂気を与えられるようになった。

 これも恐怖の邪眼と同じ理由。

 ちなみに狂乱の邪眼を当てると……なんというか……上からも下からも体液を撒き散らして奇声を上げながら体を無差別に動かし始める………うん、エグい。

 

 5つ目は闇の邪眼。

 名前がもうあの頃の心をくすぐる。

 闇属性を与えるというもの。

 4000でカンストさせ「暗黒の邪眼」に。

 他の邪眼と違い純粋な攻撃のためダメージは高め。

 現在はLV2。 

 

 6つ目は重の邪眼。

 重属性を与えるというもの。

 4000でカンストさせ「引斥の邪眼」に。

 縦横斜めに重属性を与えられるようになり、引力と斥力どちらも使えるようになった。

 常時自分にかけて修行しているのでもうLV3になっている。

 

 本当は石化の邪眼とか死滅の邪眼とかも鍛えたかったけど食べるところが少なくなるからやめた。

 それに効果が発動するの遅いし、他の邪眼に比べてなんとなく射程が短いような気がする。

 まぁ呪怨と静止と暗黒で十分だから上げる必要を感じないのも確か。

 死滅の邪眼に関しては鍛えちゃうと蜘蛛さんが使った瞬間に死んじゃう。

 LV1なら蜘蛛さんの腐蝕耐性でも耐えられるから、これは上げないほうがいいね。

 下手に使いまくってレベルを上げてしまうのを防ぐために、私も死滅の邪眼を使用するのは控えよう。

 

 そんなこんなで中層で生きることは初めて来たときよりも簡単になっていた。

 叡智で魔物を見つけて邪眼の射程内に忍び寄る。

 そこから呪怨麻痺暗黒のトリプルコンボ。

 相手は死ぬ。

 たまに悄然と狂乱も追加。

 ちょっと相手が可哀想。

 

 そんなことを考えていると叡智に敵反応あり。

 この形あいつかな。

 

 『これは…ウナギか……殺らなきゃ。』

 

 『そうだね。』

 

 私たちは仁王立ちしている気分になりながらウナギがくるのを待つ。

 3、2、1。

 来た!

 

 『引斥の邪眼!!』

 

 私たちは引斥の邪眼を使いウナギを無理矢理陸に上げる。

 そして静止!

 次に呪怨!

 止めに暗黒!

 一応猛毒攻撃!!

 

 《熟練度が一定に達しました。個体、インレント・クイーンがLV6からLV7になりました》

 《熟練度が一定に達しました。個体、インレント・クイーンがLV7からLV8になりました》

 

 『ふっ…所詮こいつはウナギ……余裕だな。』

 

 うん、そうだね。

 あのウナギをこんな簡単に倒せてしまうとは……私たちも強くなったもんだ。

 さて、モグモグタイムの始まり。

 そういえば今の私のステータスってどれくらいなんだろう?

 鑑定。

 

 《インレント・クイーン(篠前 ゆりか) LV8

  ステータス

 HP:3272/3272(緑)+450

 MP:1649/1649(青)+1507 

 SP:3094/3094(黄)+391

   :3094/3094(赤)+392

 平均攻撃能力:116     +16

 平均防御能力:3933    +844

 平均魔法能力:1554    +1507  

 平均抵抗能力:5535    +2344

 平均速度能力:681     +61

 スキル

 「HP自動回復LV7」「SP回復速度Lv5」「SP消費緩和Lv5」「魔導の極み」

 「吸収lv8」「共存lv10」「同体」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「遠話lv4」「毒合成LV6」「集中LV10」「思考加速Lv7」「予見Lv4」「並列意思Lv2」「高速演算Lv2」「命中Lv3」「回避LV3」「立体機動LV6」「糸の才能LV6」「狂LV6」「挑発LV5」

 「気闘法Lv5」「気力付与LV4」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv3」「気絶耐性LV1」「猛毒耐性LV3」「斬撃耐性LV4」「打撃耐性LV5」「破壊耐性Lv4」「火耐性lv3」「痛覚軽減LV5」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「外道無効」

 「外道魔法LV4」「影魔法LV1」「毒魔法LV2」

 「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv9」

 「韋駄天lv4」「のんびり屋LV10」「堅牢LV2」「剛力LV3」「瞬発Lv8」「持久LV9」「生命LV8」「望遠LV4」「聴覚強化Lv9」「嗅覚強化Lv8」「味覚強化LV4」「触覚強化Lv8」「視覚領域拡張Lv5」「神性拡張領域LV2」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV4」「猛毒攻撃Lv4」「破壊強化Lv4」「斬撃強化Lv4」「毒強化Lv3」

 「呪怨の邪眼LV2」「静止の邪眼LV1」「引斥の邪眼LV3」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV1」「狂乱の邪眼LV1」「死滅の邪眼LV1」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV2」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:37420

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「無慈悲」「崩壊」》

 

 わぁお。

 抵抗能力上がり過ぎじゃない?

 これならナマズの攻撃どころかウナギの攻撃すら通らなさそう。

 星魔のおかげで魔法系も高い。

 そして相変わらず攻撃力が低い。

 邪眼と魔法があるから遠距離も安心。

 魔法は強いの無いけどね。

 うんうん、中々隙がなくなってきたんじゃないかな。

 防御と攻撃、両方こなせるようになったのは大きい。

 にしても邪眼系スキル多い……。

 これだけの量を体担当の私2号に任せるのは難しいな。

 

 ❲じゃあさ、ちょっと前に上がった並列意思に任せればいいんじゃない?❳

 

 ああ、あの用無しの私3号か。

 

 ❴お、ひょっとして出番?❵

 

 出番だね。

 私3号には邪眼と魔法を担当してもらうよ。

 

 ❴了解。❵

 

 よし、これで隙は無くなったも同然。

 我らの敗北は少しになった。

 

 む?またもや叡智に反応が……。

 1つじゃない、2…3…4…5…6…7………え!?

 何この量!?

 

 『な、なんじゃこの量は!?』

 

 蜘蛛さんと私は反応があった方角を見る。

 そこには膨らんだマグマが私たちに向かって進んでいた。

 膨らんだマグマといっても丸いわけではなく、堤防のように横に広がっていた。

 そのマグマの中に数えたくないほどの敵がびっしり反応しており、その反応はタツノオトシゴ、ナマズ、ウナギ、そして別の何かの大群だった。

 あまりの迫力に逃げることを忘れてしまい、叡智でわかっているのに奴らがどれほどの規模の集団なのかこの目で見てみたいという好奇心に駆られてしまった。

 奴らがある程度接近してくると、その軍団がマグマから顔を出し始める。

 100近い数のタツノオトシゴ。

 70ほどのナマズ。

 20は超えるウナギ。

 そしてナマズやウナギより竜らしい姿をした火竜。

 

 『エルローゲネソーカ LV19

  ステータス

 HP:2731/2731(緑)

 MP:2194/2194(青)

 SP:2519/2519(黄)

   :2715/2715(赤)

 平均攻撃能力:2319

 平均防御能力:3026

 平均魔法能力:1743

 平均抵抗能力:1857

 平均速度能力:1842

 スキル

 「火竜LV9」「逆鱗LV2」

 「HP自動回復LV2」「MP回復速度LV1」「MP消費緩和LV1」「SP回復速度LV3」「SP消費緩和LV3」

 「火炎攻撃LV5」「火炎強化LV3」「破壊強化LV2」「打撃強化LV4」

 「連携LV5」「統率LV7」「命中LV10」「回避LV10」「確率補正LV8」「気配感知LV4」「危険感知LV7」「高速遊泳LV7」「過食LV8」「呼声LV6」

 「打撃耐性LV6」「炎熱無効」

 「身命LV1」「瞬発LV8」「持久LV9」「剛力LV1」「堅牢LV1」「術師LV4」「護法LV4」「疾走LV5」

 スキルポイント:11250

 称号

 「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「率いるもの」』

 

 『エルローゲネソーカ LV16』

 

 『エルローゲネソーカ LV18』

 

 『エルローゲネソーカ LV16』

 

 その数、4体。

 何か理由があるのか一番レベルが高い火竜をかばうように3体の火竜が前に出ている。

 口からは火が漏れ出しており、今にも火球を飛ばしてきそうだった。

 しかもその火竜だけでなくタツノオトシゴもナマズもウナギも、みんながみんな火球の準備をしている。

 200近い魔物がたった2体の私たちに目を向けていた。

 

 

 

 




 タニシの影響で蜘蛛子大幅強化。
 なら敵も強化しないと。


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火竜の軍勢

   
 死滅の邪眼についてオリジナル設定が入ります。   
   


 なんで?

 なんでこんな軍勢が私たちを狙ってるの?

 ありえなくない?

 そんな数を用意するんだったらさ、もっとやばい奴と戦ってよ。

 例えば火竜の敵とかさ。

 それだけの数があれば怖いもの無しじゃん。

 そういうやつを倒しにいきなよ。

 私たちはナマズとかウナギを中心に魔物を狩ってただけなのに!

 ……あれ、それって火竜の敵じゃない?

 あーなるほどね。

 ウナギすらあっという間に倒してしまう私たちを恐れて、力を合わせて排除しようとしてるのね。

 なるほどなるほど。

 この規模の軍を用意して成果なしは避けたいはず。

 おそらくこの中層内なら地の果てまで追いかけてくるだろう。

 ……逃げるのは無理だね。

 

 ええい!こうなったら覚悟しておけよお前ら!

 パワーアップした私たちの力で、その自慢の大群をねじ伏せてやる!

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 レベルが一番高い火竜の叫び声を上げ、それが開戦の合図となった。

 火竜を除く全ての配下が私たちに火球を飛ばしてくる。

 放射線状に飛ぶ火球から真っ直ぐ飛んでくる火球まで、様々な軌道の火球が私たちに接近中。

 蜘蛛さんは空中に飛んで回避、私はその場にとどまり呪怨と暗黒の邪眼で反撃をし数匹のタツノオトシゴを撃破する。

 放たれた火球の中で最も速いウナギの火球が着弾し、その後ナマズ、タツノオトシゴと順番に着弾した。

 200あまりの火球が着弾したせいでとてつもない轟音とともに陸が崩壊、マグマぽちゃする前に私は引斥の邪眼を使い蜘蛛さん同様空中に回避。

 回避行動中に火球の準備は終わっており、すぐに第2波が来る。

 これも引斥の邪眼で回避、何発か避けきれず被弾するがノーダメージ。

 私の取り柄である防御力はそう安安と突破されないからね。

 さっきの火球の絨毯爆撃も少し減る程度で済んだ。

 おっと第3波が来た。

 これも回避。

 避けられた火球が天井に当たり、天井が崩れ始めた。

 その欠片に何体かの配下が下敷きになりその後上がってこなくなる。

 

 うーん。

 反撃が難しい。

 宙に浮く都合上、必ず片眼を引斥の邪眼に使わなければならない。

 だからもう片方の眼でしか反撃ができない。

 一応毒魔法を発動させてるけど効果は低め。

 特に毒魔法はレベルが低く毒弾ぐらいしか撃てない。

 蜘蛛さんは糸や引斥の邪眼を使い数多の火球を避けつつ毒霧をバラマキ、眼が多いため複数の邪眼を同時発動している。

 毒霧で弱い敵から排除しつつ、強力な敵は邪眼で排除する。

 蜘蛛さんオールマイティーだね。

 蜘蛛さんは頑張ってるから私も頑張らないと。

 お、あそこに敵が集まってる。

 中心にいるナマズに狂乱の邪眼をプレゼント。

 狂乱の影響を受け、ナマズは我武者羅に火球を飛ばし、不規則にスキルを発動し始める。

 周りにいた仲間は狂乱したナマズの餌食になり数を減らしていく。

 数が多いおかげで今までにない量の経験値が入り、恐ろしい速度でレベルが上がっていく。

 でも、おかしい。

 毒霧や邪眼でたくさん倒してるけど、まるで減った気がしない。

 なんで?

 経験値が入ってるから倒しきれていないなんてことは無い。

 じゃあなぜ減らない?

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 また火竜の叫び声を上げる。

 その声は数百の火球の爆発音が響く中、耳にその声しか入らなくなるほど大きい。

 威嚇?いや、今やってもなんの意味もない。

 指示を送ってるとか?

 私は気になって火竜の方を見る。

 そこには火竜の近くから大量の配下達がマグマから顔を出すという光景があった。

 なるほど。

 あの叫び声は配下を呼んでいたのか。

 何かのスキルの効果かな?

 私は火竜のステータスを調べる。

 ……あった。

 

 『呼声:範囲内の同種を呼び出す』

 

 これか。

 となるとこの配下達はあの火竜を倒すか、周りに火竜種がいなくなるまで狩るか、そのどちらかでないと居なくならないということか。

 かなり厄介なスキルだ。

 あの火竜を早めに倒さなければ。

 

 『蜘蛛さん、配下が無限湧きする理由がわかったよ。』

 

 『あっぶなっ!!……ほんと!?』

 

 『うん、あの叫んでる火竜が呼んでいるみたい。』

 

 『おぉらあ!!くらいやがれー!!……まじか!!』

 

 『だから私、あの火竜を倒せるなら倒してくるね。』

 

 『ハハハもっと苦しめー!!……いやそんな行けたら行くみたいなノリで言われてもっ!!あぶな!!』

 

 『それじゃ、行って来る。』

 

 私は引斥の邪眼を使いあの火竜に近づく。

 しかしあの火竜を囲むように守っていた別の火竜達が私に牙を向け始めた。

 1体は特大火球を、1体はそのデカイ鉤爪を、1体は構えるだけで何もせず。

 それぞれの攻撃が私に向かってきた。

 私はマグマに向かって引斥の邪眼をし、特大火球と鉤爪を回避。

 すぐに上に引斥の邪眼をしつつ、鉤爪を振るった火竜に死滅の邪眼を発動。

 その火竜はあっという間に塵になった。

 ふふ、腐蝕耐性も無いのに私相手に近接攻撃とは、特大火球を飛ばしていたらこんなことにはならなかったというのに。

 死滅の邪眼は射程が短めで発動までが遅い。

 だから近接攻撃を仕掛けて来ないと届かない。

 それを狙っていたかと言われれば嘘になるけど、結果的にそうなったのでよし。

 食べるところが無くなっちゃうけど、こんなにいるのだから大丈夫でしょ。

 というかこの量絶対に食べきれない。

 おっとまるで私たちが勝つかのような考えはやめよう。

 

 近くの配下と火竜が火球を放ってきたので引斥で避ける。

 タツノオトシゴとナマズの火球は当たっても痛くないけど、それ以外は別だ。

 特に火竜の火球なんて喰らいたくない。

 私は必死に火球を避けつつ暗黒の邪眼で火竜のHPを削り続ける。

 攻撃してきそうな配下には外道魔法の幻痛をお見舞いして攻撃を中断させる。

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 うっ…近づいたせいでよりうるさく感じる。

 あまりの声の大きさに体がビリビリとしびれ、中身が揺らされたような感覚を覚える。

 それでも耳が壊れないのは防御力が高いからかな。

 そんなことよりさっきの叫び声でまた新たに配下が来た。

 数が少ないが全てウナギだ。

 随分とまぁ嫌なことをしてくれたじゃない。

 おっと火竜さんや、急な火球はおやめください。

 おいこらウナギ達は便乗して火球を出すな。

 地味に痛いし数が多いから避けづらいんだ。

 あ、火竜が火炎放射の準備をしているよ。

 もう1体の火竜もウナギ達も火炎放射の準備をしているよ。

 ガスバーナーで炙られる直前の魚の気持ちが分かった気がする。

 え、ちょっとやめて。

 まずいこのままではまずい。

 暗黒の邪眼を解除!

 そして狂乱の邪眼をウナギ達に向ける!

 時間がないから出来て2体ぐらいか。

 出来る限り集まってるところにやろう。

 あそこと……あそこかな。

 よし、狂乱の邪眼!

 からの引斥で後ろに下がる!

 ちょうど私がいた場所が火炎に飲み込まれた。

 危ない危ない。

 危うくタニシのステーキになるところだった。

 む?後ろから何か近づいてくる。

 蜘蛛さんだ。

 あれ、蜘蛛さんの方角に敵反応無し……。

 え?あの量を全部やったの?

 早すぎない?

 

 『タニシちゃん、終わったよ!』

 

 『はやっ!』

 

 『まぁ私にかかればこんなもんよ!』

 

 『おーじゃああの火竜達もお願いします。』

 

 『え!?いやー……タニシちゃんはどうするの?』

 

 『一緒に戦うよ。』

 

 『そっか、良かったー!』

 

 『?』

 

 『いや私に全部押し付けてタニシちゃんは高みの見物をするのかなって。』

 

 失礼な。

 私はそんなことをする人……タニシじゃない。

 こんな状況でそれをするメリットがないしね。

 する人は裏切られたと知った時の顔が大好きな変態さんだけだよ。

 私は変態じゃない。

 アイムノット変態。

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 『うっさ!!』

 

 火竜が叫び声を上げる。

 しかし誰も来なかった。

 もう周りに火竜種は1体もいない。

 いるのはここにいる火竜3体と8体のウナギだけだ。

 そのウナギも毒霧や呪怨の邪眼で弱っている。

 あ、1体死んだ。

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 『やめろ耳がキーンってなるわ!!』

 

 もう一度叫ぶが何も起こらない。

 叫び声が中層内を走るが気づくものはいない。

 そしてやっと範囲内に仲間がいなくなったことに気づいたのか、口に炎をため始める。

 

 火竜3体&ウナギ7体 対 タニシ&蜘蛛

 

 魔物たちの戦いは、これからだ。

 

 

 

 




 打ち切りでは無いのでご安心を。
 
 さらっとタニシと蜘蛛子は空中を飛んでいる。

 


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火竜フルコース

   


 火竜が特大火球を飛ばす。

 引斥で避け……られずに被弾する。

 200ぐらいHPが減った。

 仲間を呼んでいた火竜は一番レベルが高いからステータスも高い。

 だから他の火竜より火球のスピードが速い。

 数百の差が避けられる避けられないの違いになる。

 蜘蛛さんは回避できている。

 同じレベルの引斥の邪眼なのに引っ張られる速度が違うのは速度能力が高いからか、回避スキルのレベルが高いからか、私の抵抗能力が高いからか。

 どれが理由なのか分からないが私は蜘蛛さんより速くない。

 それがよくわかる被弾だった。

 他の火竜も飛ばしてくる。

 これなら避けられ……また被弾した。

 あれ?

 おかしいな。

 まぁいいや。

 お返しに暗黒……いや、HP回復もしたいし呪怨にしよう。

 ん?ウナギの数が減って来てる。

 それと同時にHPも回復してる。

 蜘蛛さんがやったのか。

 7つの眼で呪怨の邪眼を発動して全てのウナギを撃破するつもりらしい。

 阻止しようと火竜が蜘蛛さんに火球を放つ。

 蜘蛛さんは引斥の邪眼を使ってその火球の軌道をずらした。

 え?そんなことできるの?

 蜘蛛さん全然被弾してなかったのってもしかして火球の軌道をずらしてたからなの?

 さらっとすごいことしないでよ。

 あ、ウナギ全員やられた。

 あとは火竜3体だけ。

 しかもその中の2体は呪怨の邪眼と暗黒の邪眼でHPは5分の1ぐらいしか残ってない。

 健康体なのは後方で仲間を呼んでいた火竜。

 いや、この火竜も健康体ではない。

 すでに蜘蛛さんが呪怨、暗黒、静止の3つを当てている。

 静止の効果で少しだが体を動かしづらそうだ。

 他の火竜も呪怨と暗黒の影響を受けており現在進行形でステータスが減っていっている。

 邪眼と蜘蛛さんの相性が良すぎる。

 だって普通の生物は眼が2つしかないのに蜘蛛さんは蜘蛛だから8つもあるんだよ?

 4倍だよ4倍!

 初めて蜘蛛に生まれて羨ましいと思ったよ。

 生まれてすぐに殺し合いは嫌だけど。

 

 火竜は蜘蛛さんめがけて火球を放つ。

 その火球は先程よりも大きく素早いものだったが蜘蛛さんはたやすく避けてしまう。

 

 『あっぶな!当たったら死ぬわあれやっべー!』

 

 他の火竜も火球を出そうとしていたので私は突進するように近づく。

 私の接近に気づいた火竜は大げさに体を動かし私から距離を取ろうとする。

 近づいた仲間が塵になったのを見たんだ。

 距離を取ろうとするに決まってる。

 それを狙って私は火竜に近づき続ける。

 もちろん暗黒の邪眼でHPを削りながらね。

 火竜は反撃だと火球を飛ばしてくる。

 私は避けることなく火球に被弾しダメージを喰らうけど、これくらいのダメージ、蜘蛛さんの呪怨とHP自動回復とのんびり屋であっという間に回復できる。

 火竜からしたらやってられないだろうね。

 近づかれたら即死を放ってきて離れてもHPを削ってきて反撃してもすぐに回復されるなんてさ。

 あれ、私ってひょっとしてかなり厄介な存在?

 ……ふふ、どうだ厄介な存在に追いかけられる気分は!

 どうだ苦しいかあはははは!

 さて、悪者ロールはここまでにしてと……これで終わりだ火竜。

 私は火竜の後ろからかぶりつき腐蝕大攻撃を発動させる。

 火竜は声を上げることも無く塵となって消えた。

 え?なぜ私が後ろにいるのかって?

 説明すると途中から外道魔法〈幻夢〉で私が追いかけてくるという幻覚を見せていたのだ。

 火竜が見事に引っかかっている間に後ろに回り込みガブリ。

 説明すると大してすごいことをしているわけじゃない。

 幻覚見せてガブリ。

 それだけ。

 外道魔法も普段なら効かないだろうけど私に追いかけられているという状況に精神的にきていたため外道魔法が簡単に入った。

 我ながら頭のいい案だった。

 

 ❲さすが私、発案したときは本当に私か疑ったよ。❳

 

 ❴そのいちいちややこしくする言い方やめなさい。❵

 

 さて、蜘蛛さんのところに戻るとしますか。

 ん?あれ。

 火竜達が糸で拘束されてる。

 なんであの糸燃えてないんだろう?

 

 『おーい蜘蛛さん戻ったよー。』

 

 『お、よく来てくれたタニシちゃん!』

 

 『………なんでその糸燃えてないの?』

 

 『ふっこれはね……私のスキル「万能糸」の効果〈耐性付与〉!これによりマグマに浸かっても大丈夫な糸が出せるのだ!』

 

 『へーすごいじゃん。なんで今まで使ってなかったの?』

 

 『………忘れてました。』

 

 『うん、だろうね。』

 

 『それにしてもさ!私たちって強くない!?』

 

 『え?』

 

 『だってさ、あの軍勢に勝てたんだよ!?これはもう最強名乗っても良くない!?』

 

 そういいながら蜘蛛さんは火竜の口に蜘蛛猛毒を注ぐ。

 もう1体の火竜が怯えているのは気の所為ではないだろう。

 

 『最強は言い過ぎだよ。でも強者は名乗ってもいいかもね。』

 

 『はっはー!私は最強だー!!』

 

 『聞いてた?』

 

 蜘蛛さんと私は引斥の邪眼を使い猛毒を飲んで死んだ火竜と、マグマに大量に浮いているタツノオトシゴ、ナマズ、ウナギ達を引き上げる。

 その数約三百。

 ちょっと火竜呼びすぎ。

 おかげで戦闘よりも大変だよ。

 しかもこの後にはウロコを剥ぐ作業がある。

 ………無理じゃない?この数。

 それでもやらなければならないのが蜘蛛さんの信条。

 私もそれに従うって決めたからこの山になった火竜種達を食らい尽くさなければならない。

 そういうわけで体担当の私2号や、頼んだぞ。

 

 ❲何この量……蜘蛛さんも絶句してるよ。❳

 

 いいから。

 

 ❲………あいよ。❳

 

 さて、これほどの魔物を倒したんだ。

 当然レベルはカンスト済み。

 早速ステータスオープン。

 

 《インレント・クイーン(篠前 ゆりか) LV20

  ステータス

 HP:4054/4054(緑)+762

 MP:2861/2861(青)+1212

 SP:3094/3094(黄)+720

   :3094/3094(赤)+720

 平均攻撃能力:138     +22

 平均防御能力:5263    +1330

 平均魔法能力:2766    +1212 

 平均抵抗能力:7855    +2320

 平均速度能力:1380    +572

 スキル

 「HP自動回復LV8」「SP回復速度Lv6」「SP消費緩和Lv5」「魔導の極み」

 「吸収lv8」「共存lv10」「同体」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「万能糸LV1」「遠話lv4」「毒合成LV7」「集中LV10」「思考加速Lv7」「予見Lv4」「並列意思Lv2」「高速演算Lv3」「命中Lv3」「回避LV4」「立体機動LV7」「糸の才能LV7」「威圧LV1」「狂LV6」「挑発LV5」

 「気闘法Lv5」「気力付与LV4」「魔闘法LV2」「竜力LV6」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv3」「気絶耐性LV1」「猛毒耐性LV3」「斬撃耐性LV4」「打撃耐性LV5」「破壊耐性Lv4」「火耐性lv4」「痛覚軽減LV5」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「外道無効」

 「外道魔法LV5」「影魔法LV3」「毒魔法LV4」

 「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv9」

 「韋駄天lv4」「のんびり屋LV10」「堅牢LV3」「剛力LV4」「瞬発Lv8」「持久LV9」「身命LV3」「望遠LV4」「聴覚強化Lv9」「嗅覚強化Lv8」「味覚強化LV4」「触覚強化Lv8」「視覚領域拡張Lv5」「神性拡張領域LV4」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV4」「外道攻撃LV1」「猛毒攻撃Lv5」「破壊強化Lv4」「斬撃強化Lv4」「毒強化Lv5」

 「呪怨の邪眼LV3」「静止の邪眼LV1」「引斥の邪眼LV4」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV1」「狂乱の邪眼LV2」「死滅の邪眼LV1」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV2」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:37420

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「崩壊」》

 

 カッチカッチだね。

 ん?色々知らないスキルや称号が増えてる……。

 鑑定しよう。

 えっと……竜力はMPとSPを消費してステータスをそこ上げするスキルか。

 MPもSPも自然に回復するし常時発動させておこう。

 それで威圧は……文字通りの効果か。

 あれ?万能糸がある。

 種族スキルのハズじゃ……あ、もしかして同心か共存LV10の効果?

 やった、今まで意味がなかった糸の才能が活かせるよ。

 次に称号。

 竜殺しと竜の殺戮者と魔物の殺戮者と恐怖を齎す者、この4つが新しい称号か。

 うわー……恐怖を齎す者の効果……。

 私の姿を見ただけで怖がっちゃうの?

 称号だからONOFFができないじゃん。

 もうあれだし威圧も常時発動させとこ。

 はぁ……あれだけの火竜倒して報酬はしょっぱい。

 経験値がたくさん手に入ったのは嬉しいけどさ。

 もうちょいすごいの欲しいよね。

 蜘蛛さんの時みたいに願ったらすごいのくれたりしない?

 ……無さそうだね。

 

 さて、私の2号や、終わった?

 

 ❲終わらないよこれ。❳

 

 ❴蜘蛛さんを見てみな、恐ろしい速度でウロコを剥いでるよ。❵

 

 そうだよ、頑張れ。

 

 ❲ウロコに噛みついて剥がす私より、刃物で剥がす蜘蛛さんの方が速いのは当たり前でしょ。❳

 

 それもそっか。

 

 ❴頑張れ。❵

 

 ❲分かってるよ。❳

 

 私2号が頑張ってる間に進化先でも見てみるか。

 どれどれ?

 

 《進化先の候補が複数あります。次の中からお選びください。

  インレント・エンペラー

  ホロ・ライユ

  アグレゲージ》

 

 お、今回は3つも選択肢があるのか。

 またまた悩みそうな予感がする。

 早速鑑定。

 

 『インレント・エンペラー:進化条件:インレント・クイーンLV20:説明:インレントの皇帝。インレント・クイーンを超える繁殖力と統率力、そして高い防御力を持つ』

 

 『ホロ・ライユ:進化条件:一定以上のステータスを持つゲーレイシュー族の魔物、2つ以上の殺戮者の称号:説明:破滅を呼ぶ魔物。何者も出会うことなかれ』

 

 『アグレゲージ:進化条件:一定以上のステータスを持つゲーレイシュー族の魔物、崩壊系の称号:説明:ゲーレイシュー族の集合体。全て倒さなければ復活し続ける不死性を持つ』

 

 うん。

 これ悩むね。

 どれもこれも気になって仕方がないや。

 ……どれにしよう。

 

 

 

 




 
 火竜戦が予想以上に早く終わった。
 火竜を増やしまくったおかげでタニシ同様蜘蛛子も進化できます。
 原作より結構早め。
 ……これマザーがブレス吐かんでも真正面から火龍倒せるんじゃね?

  


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3度目の進化

   
 タニシの平均速度能力がミスっていたので修正しました。

 オリジナル属性が入ります。
 苦手な方は、お覚悟を。
    


 うーん…。

 どうしよう。

 何がいいかな?

 ここは一つ一つ考えてみよう。

 

 まずはインレント・エンペラー。

 これは今の私、インレント・クイーンの上位種だろう。

 防御力を中心に強化されるだろうからただでさえカチカチな私がガチガチになること間違いなし。

 防御面で不満があればインレント・エンペラーを選択するべきだろうね。

 でも、今の私でも十分硬いから防御面で特に不満だと感じたことないんだよね。

 インレント・クイーンよりも繁殖力が高いっていうけど、そもそもインレント・クイーンで眷属を産んでないや。

 だから比較できないというか想像できないというか……。

 うーん……需要は低いかな?

 

 次にホロ・ライユ。

 説明があまり説明になってないけど、進化条件の一定以上のステータスと殺戮者の称号2つ以上っていうのが強そう。

 “破滅を呼ぶ”とか“何者も出会うことなかれ”とか強そうな文章も書いてあるし、きっと強い。

 強くないと上位管理者Dに訴える。

 

 次にアグレゲージ。

 ゲーレイシュー族の集合体っていうのはよく分からないけど、ようはあれかな、たくさんの私になるっていうこと?

 うーん?

 とにかく説明に不死性があるって書いてあるし生命力が高そう。

 今の所生き残る上で死にかけたことなんてほとんど無いから、これも需要が低いかな?

 いやでもなにか特殊なスキルとか手に入りそうではある。

 それを蜘蛛さんにも共有して戦力アップが出来るかも。

 いやでも変なスキルだったら嫌だなぁ。

 たくさんの私になるって……絶対変なスキルを手に入れちゃうよ。

 

 うーん……。

 今の所ホロ・ライユが一番良いと思ってるけど、前回を思い出そう。

 あの時も良いなと思ったけど失敗だった……と思う。

 だから、今回は蜘蛛さんにも聞いてみよう。

 というわけで蜘蛛さーん?

 

 『ん?どうしたのタニシちゃん。』

 

 『進化先で相談したいことがあってさ、どれがいいか悩んでるんだよね。』

 

 『ほほう?話してくれ。』

 

 蜘蛛さんに進化先について私がわかってることを全て話した。

 すると蜘蛛さんは一切迷うことなく、ホロ・ライユを選択するように言ってきた。

 判断が速い。

 これも多くの死闘を繰り広げた者の特権だろうか。

 

 『タニシちゃんや、今までの進化を思い出してほしい。』

 

 『?』

 

 『最初のエルローゲーレイシューからの進化で、タニシちゃんは何を選択した?』

 

 『インレントだよ?』

 

 『インレントへの進化は成功だった?』

 

 『成功だったね。』

 

 『それじゃあインレントからの進化で、何を選択した?』

 

 『インレント・クイーン。』

 

 『成功だった?』

 

 『う〜ん……微妙。』

 

 『そこだ。』

 

 『へ?』

 

 『インレントへの進化は特殊進化、インレント・クイーンへの進化は正当進化、つまり?』

 

 『……特殊進化の方が成功してる…?』

 

 蜘蛛さんがその答えを待っていたと声を大きくする。

 

 『そう!特殊進化だよ!特殊進化は条件が厳しいものばかりだけど……特殊なだけあって強力な力を得られることが多い!』

 

 『確かに……じゃあなんでホロ・ライユ?アグレゲージも特殊進化だよ?』

 

 『タニシちゃんの防御力はものすごいことになってるから正直不死性とかいらないと思うんだよねー。集合体になるっていうのも何かありそうで怖いし。』

 

 『なるほど…分かった、ホロ・ライユにするよ。』

 

 『それに……破滅を呼ぶとかカッコいいじゃん?厨二心くすぐるじゃん?』

 

 『あははそうだね。ところで蜘蛛さんは何にしたの?』

 

 『私はゾア・エレの上位種、エデ・サイネにするよ。』

 

 『え?正当進化?』

 

 それを聞くと蜘蛛さんは慌て始める。

 

 『いや特殊進化ですけど!?』

 

 『え?でも上位種って……。』

 

 『特殊進化の正当進化は特殊進化だからセーフ!!』

 

 『え?じゃあ私はインレント・エンペラーしたほうが良い?』

 

 『いやいや!やめときなって!またタニシちゃんおっきくなるよ!』

 

 『あ、ならいいや。』

 

 インレント・クイーンで大きくなったんだし、その上位種はもっと大きくなるよね。

 たぶん蜘蛛さんの2倍…いや3倍くらい大きくなるのかも?

 選ばないほうがいいね。

 よし、進化先も決まったことだし早速進化しようかな?

 

 ❲おいこら、まだウロコ剥ぎ終わってないよ。❳

 

 もうそれ無理じゃない?

 

 ❲人に押しつけといてそれは無い。❳

 

 ❴そーだそーだ!❵

 

 ❲私3号はやってないでしょ。❳

 

 どれくらい残ってるの?それ。

 

 ❲……あと150ぐらい。❳

 

 無理だね。

 

 ❲うん、ずっと無理だって考えながら作業してたよ。❳

 

 おーい蜘蛛さん?

 

 『なんやいタニシちゃん。』

 

 『ウロコは後にして先に進化しない?』

 

 『おー!ちょうど私もそれを考えてたところだよ!』

 

 『進化の場所はどうする?』

 

 『山みたいに積み上がってるし、適当に中に入ればいいんじゃない?』

 

 『そうだね、そうしよう。』

 

 私は山積みの火竜達に潜り込む。

 かなり窮屈でまったく心地よくないけど、快適さより安全を取ろう。

 これ防御力が低かったら圧死とかするのかな?

 ホロ・ライユに進化して防御力が下がって圧死とか無いよね?

 ステータスが下がるのは進化とは呼べないか。

 なら大丈夫だね!

 さて、進化開始。

 

 《個体インレント・クイーンがホロ・ライユに進化します》

 

 どうぞ。

 

 むむ、来た来た。

 体が内側から変わっていくこの感覚。

 つい最近味わったような気がする。

 うーん。

 うん?

 

 《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV9」が「禁忌LV10」に達しました》

 

 あ、禁忌カンストしちゃった……。

 どうなっちゃうんだろう。

 

 《情報インストール中です》

 

 

 うぐっ!!

 な…にご……れっ!!

 ウグギギギッがあだだっ!

 〜〜っ!!

 うググ…ぁあ。

 ……はぁ…。

 うぇ……なんか吐き気がする。

 危なかった……睡眠無効が無かったら気を失ってたよ。

 ていうか……なにこれ?

 これが……禁忌?

 あー……確かに禁忌だね、これは。

 システムって世界を救うための装置なんだね…。

 そういう世界だなんて納得してたけど……よく考えればスキルだとか称号だとかあるほうがおかしいもんね。

 しかも何?この世界崩壊するの?

 はぁ……やだな。

 うーん……。

 あー……。

 とにかく……強くなるしかないか。

 スキルやステータスという仮初の力を、本物に昇華させる。

 つまり管理者になる。

 うん、言葉にすると馬鹿みたいだ。

 でもやろう。

 蜘蛛さんもきっとこう考えるはずだ。

 まだ蜘蛛さんは進化中だけど、そう考えるって確信がある。

 …………。

 …………。

 …………。

 

 うん、やることは決まった。

 悩んでても何も進まないし何か行動しよう。

 そういえば進化完了してたね。

 ふむ、体の大きさは変わらないと。

 次はステータスオープン。

 

 《ホロ・ライユ(篠前 ゆりか) LV1

  ステータス

 HP:5042/5042(緑)+1010

 MP:3361/3361(青)+500

 SP:3594/3594(黄)+500

   :3614/3614(赤)+520

 平均攻撃能力:1138    +1000

 平均防御能力:6263    +1000

 平均魔法能力:3266    +500

 平均抵抗能力:8855    +1000

 平均速度能力:1880    +500

 スキル

 「HP高速回復LV1」「SP回復速度Lv6」「SP消費緩和Lv5」「魔導の極み」

 「吸収lv9」「共存lv10」「同体」「破滅LV1」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「万能糸LV2」「遠話lv4」「毒合成LV7」「集中LV10」「思考加速Lv7」「予見Lv5」「並列意思Lv2」「高速演算Lv3」「命中Lv3」「回避LV4」「立体機動LV7」「糸の才能LV7」「威圧LV1」「狂LV7」「挑発LV5」

 「気闘法Lv6」「気力付与LV5」「魔闘法LV3」「竜力LV6」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv3」「気絶耐性LV1」「猛毒耐性LV5」「斬撃耐性LV5」「打撃耐性LV7」「破壊耐性Lv6」「火耐性lv4」「痛覚軽減LV6」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「外道無効」

 「外道魔法LV5」「影魔法LV10」「闇魔法LV1」「毒魔法LV6」

 「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv10」

 「韋駄天lv4」「のんびり屋LV10」「堅牢LV3」「剛力LV4」「瞬発Lv8」「耐久LV2」「身命LV3」「望遠LV5」「聴覚大強化Lv1」「嗅覚強化Lv8」「味覚強化LV4」「触覚強化Lv8」「視覚領域拡張Lv6」「神性拡張領域LV5」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV5」「外道攻撃LV1」「猛毒攻撃Lv5」「破壊強化Lv5」「斬撃強化Lv5」「毒強化Lv6」

 「呪怨の邪眼LV3」「静止の邪眼LV1」「引斥の邪眼LV4」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV3」「狂乱の邪眼LV2」「死滅の邪眼LV1」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV2」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:37640

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「崩壊」》

 

 おーかなり上がってるね。

 スキルも色々上がってるね。

 ん?「破滅LV1」?

 新しいスキルか。

 鑑定。

 

 『破滅:スキルレベルによって異なる効果を発揮する破滅の力。

  LV1:破滅弾』

 

 『破滅弾:対象にダメージを与える弾を発射する。』

 

 試しに発射。

 赤黒い弾がなかなかのスピードで飛んでいった。

 MPを消費するらしいけどかなり少ない。

 へー。

 何属性なんだろう?

 破滅属性?

 うーん?

 へー破滅属性に耐性系のスキルってないんだ。

 つまり破滅属性を防ぐには平均抵抗能力を上げるしかないのね。

 なるほど?

 叡智によるとこの属性はホロ・ライユ系でしか持てないのね。

 ん?待てよ?

 破滅属性には耐性系スキルが無いのなら……自爆とかある?

 ありそう。

 まだLV1だから大規模なものは無いけど、もしレベルが上がってデカイ攻撃が出せるようになったらその時は注意しよう。

 

 うん、今回の進化は当たりだね。

 

 

 

  




   
 破滅を呼ぶ(種族属性 破滅 )
 
 インレント・エンペラー
 蜘蛛子の6倍ほどの大きさ。インレントだけで無くインレント・クイーンも産めるため、凄まじいスピードで数が増えていく。

 アグレゲージ
 蜘蛛子の50分の1ほどの大きさ。それが集まりゲーレイシューの形を保ち続ける。
 スキル〈多重意思〉〈産卵〉〈同調〉を獲得する。

 多重意思:並列意思の大人数版。魂が細かく分裂するため1つの意思につき使用できるスキルは1つ。

 同調:多重意思と同調し、全ての意思のステータスを共有する。
 


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蜘蛛3 目覚めは最悪、力は大きく

  
  
     


 はぁー……。

 胸くそ悪ぃー。

 進化後初のお目覚めがこれですか?

 まったく、嫌なスキルを作りやがって性悪管理者Dめ!

 禁忌スキルがカンストしてこの世界について色々知れたけど、どれもこれもクソみたいな情報しかねぇー!

 ないわー。

 タニシちゃんは先にこれを知って管理者になることを決めたらしいね。

 同意するよ。

 この星と心中なんてゴメンだ。

 あーもうイライラする!

 最悪な世界で生まれるし!

 生まれた直後に殺し合いだし!

 困難多重の蜘蛛生だし!

 火竜種ウロコも剥ぎ終わってねぇし!

 火竜あんま美味くねぇし!

 うがー!!

 はぁ……とりあえず、今のステータスを確認しよう。

 今の自分がどれくらいのステージに立ってるのか、確認しないと。

 

 『エデ・サイネ LV1 名前 なし 

  ステータス

 HP:1236/1236(緑)+800

 MP:6071/6071(青)+800

 SP:1309/1309(黄)+800

   :1045/1045(赤)+800

 平均攻撃能力:1021    +400

 平均防御能力:1121    +400

 平均魔法能力:4957    +400

 平均抵抗能力:5104    +400

 平均速度能力:3002    +400

 スキル

 「HP高速回復LV1」「SP回復速度LV6」「SP消費緩和LV5」「魔導の極み」

 「破壊強化LV5」「斬撃強化LV5」「毒強化LV7」「猛毒攻撃LV5」「外道攻撃LV1」「腐蝕大攻撃LV2」

 「気闘法LV6」「気力付与LV5」「魔闘法LV3」「竜力LV6」

 「吸収LV1」「破滅LV1」「糸の才能LV7」「万能糸LV3」「操糸LV8」「投擲LV7」「立体機動LV7」「集中LV10」「思考加速Lv7」「予見Lv5」「過食LV7」「暗視LV10」「並列意思LV2」「高速演算LV3」「命中LV7」「回避LV8」「毒合成LV9」「遠話Lv4」「隠密LV8」「無音LV1」「威圧LV1」「狂LV6」

 「奈落」「傲慢」「断罪」「忍耐」「叡智」「禁忌LV10」

 「外道魔法LV5」「影魔法LV10」「闇魔法LV1」「毒魔法LV7」「深淵魔法LV10」

「破壊耐性LV5」「打撃耐性LV6」「斬撃耐性LV5」「火耐性LV5」「猛毒耐性LV5」「麻痺耐性LV4」「石化耐性LV4」「酸耐性LV4」「腐蝕耐性LV4」「気絶耐性LV3」「恐怖耐性LV6」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚軽減LV8」

 「望遠LV5」「聴覚大強化LV1」「嗅覚強化LV7」「味覚強化LV4」「触覚強化LV8」「視覚領域拡張LV5」「神性拡張領域LV5」「身命LV4」「瞬身LV1」「耐久LV3」「剛力LV4」「堅牢LV4」「韋駄天LV4」「星魔」

 「呪怨の邪眼LV3」「静止の邪眼LV1」「引斥の邪眼LV4」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV3」「狂乱の邪眼LV2」「死滅の邪眼LV2」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV2」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:950

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「魔物の殺戮者」「傲慢の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」』

 

 ……。

 え?マジ?

 こんなに上がっちゃっていいの!?

 ぐふふ……我が世の春来たー!

 ただでさえ強いスキルを保有しているのに、ステータスまで強くなっちゃってるよ!

 勝ったなガハハ!

 もう、何も怖くない!

 いやごめんやっぱアラバさん怖えっす。

 マザーも怖えっす。

 でも私これかなり強いんじゃないのー!?

 下手な魔物に遅れを取ることはなくなったぜ!

 おおーすごい速度でウロコも剥ぎ取れる!

 先に進化して正解だった!

 まぁ……それでもまだまだ残ってるんだけどね。

 まじ終わらねぇー。

 なんでこんなに呼んだんだよあの火竜。

 食べるこっちの身になってみろっての。

 

 『ねぇ蜘蛛さん。』

 

 『なんだいタニシちゃん。』

 

 『私って産卵のスキルがあるじゃん?』

 

 『あるね。』

 

 『その子たちに剥ぎ取りを手伝わせるのはどうかな?』

 

 『……前に火に弱い種族だから生まれないとか言ってなかった?』

 

 『そうだけどさ、進化して強くなってるかもしれないじゃん。』

 

 『まぁ…ご自由に。』

 

 『ありがとう。』

 

 その言葉を最後に奥の方から産卵音が聞こえる。

 言っちゃ悪いけど……ちょっとあれだね。

 うん、うん。

 あれだね、この音。

 うん。

 ……。

 ちょっと卵を見てみるか。

 お?

 卵……赤黒いな!

 なんか変な模様もあるし、エイリアンが生まれてきそう。

 ていうかタニシちゃんも赤黒いし変な模様がある……。

 破滅だわー。

 なんか破滅だわー。

 よく分からんけど破滅だわー。

 火に強そうな色してるわー。

 ちょいと鑑定。

 

 『リトルレッサーホロ・ライユの卵 LV1

   ステータス

  HP:5/5(緑)

  MP:5/5(青)

  SP:5/5(黄)

    :5/5(赤)

  平均攻撃能力:1 

  平均防御能力:1

  平均魔法能力:1

  平均抵抗能力:1

  平均速度能力:1

  スキル

  「腐蝕大攻撃LV1」「腐蝕大耐性LV2」「破滅LV1」

  スキルポイント:0

  称号

  「破滅の子」』

 

 おいおい……。

 所有スキルが物騒すぎる。

 腐蝕大攻撃と大耐性、そして破滅とな。

 称号には破滅の子。

 破滅だわー。

 ちょちょいと鑑定。

 

 『破滅の子:取得スキル「破滅LV1」「腐蝕大耐性LV1」:取得条件:ホロ・ライユ系統の魔物から産まれる:効果:なし:説明:破滅から産まれし者に送られる称号』

 

 腐蝕大耐性がLV2なのはこの称号と種族的なあれで取ってるからか。

 そんで破滅ねー。

 私ももってるのは多分…というか絶対に共存のせいだね。

 まぁ貰えるのならありがたく頂戴するよ。

 そんなことより…これ生きてるよね?

 前に産んだときは死亡表記があったんだけど、これにはそれが無い。

 つまり生まれるっていうことだよね?

 やったじゃん。

 戦力増強できるじゃん。

 戦いは数だよ兄貴!って言えるじゃん。

 ここに兄貴はいないけど。

 

 『おーやった!』

 

 『生まれるまでどれくらいかかるんだろう?』

 

 『何ヶ月も必要だったら嫌だなぁ。』

 

 『その時にはエルロー大迷宮から出てると思う。』

 

 『……まぁ、孵化するまで火竜の処理をしてようか。』

 

 『そうだね。』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 ビキ……ビキビキ…

 

 お?この音は生まれるのかな?

 数時間ぐらい?

 結構速かったね。

 見に行ってみよう。

 あらあら小さいねぇ…。

 いや、初めてあった時のタニシちゃんぐらいあるな。

 やっぱ小さいや。

 かわいいねぇ。

 でも色は物騒だ。

 赤黒いし不気味な模様がある。

 やっぱかわいくない。

 あ、そうだ。

 ステータスとか変わってるかな?

 

 『リトルレッサーホロ・ライユ LV1

   ステータス

  HP:50/50(緑)

  MP:50/50(青)

  SP:50/50(黄)

    :50/50(赤)

  平均攻撃能力:100

  平均防御能力:50

  平均魔法能力:100

  平均抵抗能力:50

  平均速度能力:50

  スキル

  「腐蝕大攻撃LV1」「腐蝕大耐性LV2」「破滅LV1」

  スキルポイント:0

  称号

  「破滅の子」』

 

 いや高いなステータス!

 なんだぁテメェ……。

 私なんか一桁台だったぞ!

 なんならタニシちゃんもそんぐらいだったぞ!

 ないわー。

 破滅だわー。

 

 『お、生まれたね。それじゃあ早速だけど手伝って?』

 

 タニシちゃんの言葉に従い、リトルレッサーホロ・ライユ達が作業を始める。

 その数20体。

 私たちよりも1体あたりの剥がすスピードは遅いけど、数があるから結構速い。

 タニシちゃんはもう追加の卵を産んでる。

 はっや。

 やっぱ数だな!

 もっとリトルレッサーホロ・ライユを増やしてしまえ!

 リトルレッサー……長いからライユでいっか。

 ライユ達よ、私たちの為に働けー!

 はっはっはー!

 

 ………思ったけど生まれた瞬間働かされるのってブラックだよね。

 おう、ワタシ、ブラックのシャチョーデスカ?

 

 

 

 




 
 エルローゲーレイシューからの正当進化。
 エルローゲーレイシュー
 ↓
 グレイザー
 ↓
 グレイザークイーン
 ↓
 グレイザーエンペラー
 ↓
 リアレ
 ↓
 ニグズネイル
 
 グレイザー
 蜘蛛子の2倍くらい。顎が強い。

 グレイザークイーン
 蜘蛛子の4倍くらい。顎がめちゃくちゃ強い。

 グレイザーエンペラー
 蜘蛛子の20倍くらい。顎が超強い。

 リアレ
 蜘蛛子の40倍くらい。顎が恐ろしく強く、種族スキルの〈腐蝕結界〉を獲得。
 腐蝕結界:低範囲に腐蝕攻撃LV1に相当する腐蝕属性を与える。

 ニグズネイル
 蜘蛛子の120倍くらい。顎が訳分からないぐらい強く、種族スキルの〈腐蝕大結界〉を獲得。
 腐蝕大結界:高範囲に腐蝕大攻撃LV1に相当する腐蝕属性を与える。
 


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蛇足 設定集

  
 毎度こんな二次創作を呼んでくださりありがとうございます。
 ここまで読んでくださった読者の皆様は知っていると思いますが、この二次創作は馬鹿みたいにオリジナルが多いです。
 私の都合で増やしたもの、後先考えずにやってしまったもの、様々なオリジナルがこの二次創作にはあります。
 そういうわけで今回はこの二次創作のオリジナル設定を載せたいなと思います。
 ぶっちゃけ私の自己満足回。
 それでも良い方だけどうぞ。
 
  


 1つ目、エルローゲーレイシューの進化。

 原作では一切触れられていなかったエルローゲーレイシューの進化、つまりこの二次創作の進化は全てオリジナルです。

 

 エルローゲーレイシューの進化によるステータス上昇が多いのは、感想で“某邪神Dによって進化の難易度を高いかわりに進化したらえらいことになりそう”というのを参考にさせて頂いたからです。

 進化によってチートスキルを得るのも同じ理由です。

 

 ここからはエルローゲーレイシューの進化先です。

 タニシが進化する予定のものは含まれません。

 あくまで予定ですが。

 

 エルローゲーレイシュー

 魔物界の最底辺に位置する魔物。

 ほとんどの個体がノソノソとのんびり生き、そして死ぬ種族。

 一応強力な腐蝕攻撃を持ってるが速度1と体が小さいせいでほとんど当たらない。

 当たっても耐性が足りないせいで牙が塵になる。

 転生者と違い、レベルアップによる全回復も無いため、一度攻撃すれば攻撃手段を失ってしまう。

 一応生きてさえいれば自然と経験値が溜まり、LV9までいけるがその時に寿命で死ぬ。

 進化まで辿り着くには寿命ギリギリで魔物に出会い、運良く倒さなければならない。

 クソゲーである。

 所有スキル「腐蝕攻撃LV5」「腐蝕耐性LV5」

 

 グレイザー

 運良く魔物を倒し、レベルアップを果たしたエルローゲーレイシューが進化することで成れる種族。

 生存競争(運ゲー)を勝ち抜いて来たご褒美なのか、攻撃能力とスピード、HPが500にアップする。

 さらに腐蝕攻撃と腐蝕耐性が上がり高火力!

 やった!これからはバラ色のタニシ生だ!

 とはならず、進化後のSP、MPの大量消費で大体の個体は餓死する。

 あれ?進化する前に倒した魔物は?

 そいつは今……塵になってるよ。

 獲得スキル「腐蝕攻撃LV2」「腐蝕耐性LV2」

 

 グレイザークイーン

 進化後にたまたま魔物が通りかかり、腐蝕攻撃を使わずに倒せたグレイザーが過酷なエルロー大迷宮の下層を生き延び、LV10まで生き残れることで成れる種族。

 ソシャゲーで10連続で☆5を出すような運を発揮したご褒美なのか、攻撃能力とHPが1000もアップし、さらに防御力とスピードが500アップする。

 ここまでくるとSP、MPの大量消費があっても他の魔物を狩れる為、餓死することはほぼ無い。

 産卵のスキルを手に入れるため、大量のグレイザーを産める。

 数の暴力で倒す………やはり戦いは数である。

 ちなみにここまで辿り着いたタニシ虫は6体ほど。

 その半分が地龍に殺られている。

 獲得スキル「腐蝕大攻撃LV1」「腐蝕大耐性LV1」「産卵LV5」「眷属支配LV5」

 

 グレイザーエンペラー

 過酷な環境に打ち勝ち、数の暴力で数多の魔物を蹂躪するのでLV20までサクサク、困難が少なくなり余裕が出来始めた頃に成れる種族。

 過去の運の良さを褒め称えるように、今の状態を助長するように、攻撃能力とHPが2000もアップし、さらに防御力とスピード、抵抗能力が1000アップする。

 ここまで来れば止められる者は少なく、クイーンすら産めるその圧倒的繁殖能力によって、残るのはタニシ虫を除く上位に位置する種族のみである。

 ちなみにここまで辿り着けたタニシ虫は下層のみならず上層にも進軍、生態系をブチ壊していた。

 その後無事に勇者によって駆除されるか、最下層の化け物達に排除されている。

 獲得スキル「腐蝕大攻撃LV2」「腐蝕大耐性LV2」

 

 リアレ

 力に溺れず、暴れすぎず、ただ後方で卵を産み、平穏にレベルを上げていった賢明なタニシ虫がLV30になることで成れる種族。

 よくぞここまで辿り着いたと、攻撃能力、HPが5000もアップし、防御力と抵抗能力、スピードが2000アップする。

 もはや神話級でなければ倒せないほどの力を持つタニシ虫で、この頃には眷属も数体ほどエンペラーになっており、我々が滅ぶまで侵略をやめない。

 ちなみにここまで辿り着けたタニシ虫は1体のみ。

 それも某魔王の命令なのかクイーンタラテクトに激闘の末倒されてしまった。

 獲得スキル「腐蝕結界LV1」

 〈腐蝕結界:低範囲に腐蝕属性が与えられる。効果範囲、腐蝕属性はレベルに応じて大きくなる。〉

 

 ニグズネイル

 誰も辿り着いていない、リアレLV40で成れる種族。

 攻撃能力、HPが10000もアップし、その他ステータスが5000アップする。

 神話級の魔物。

 シヌガヨイ。

 獲得スキル「腐蝕大結界LV1」「腐蝕王」

 〈腐蝕大結界:高範囲に腐蝕属性が与えられる。効果範囲、腐蝕属性はレベルに応じて大きくなる。〉

 〈腐蝕王:腐蝕耐性を無視した腐食属性が出せるようになる。自身には効果なし。〉

 

 特殊進化

 

 インレント

 運の良いエルローゲーレイシューが支配者スキル〈怠惰〉を獲得することで成れる種族。

 なぜ成れたしと言わんばかりに、HP、SP、防御力、抵抗能力が500近くアップする。

 ちなみにここまで辿り着いたタニシ虫は居ない。

 怠惰が取れるわけないだろ!

 獲得スキル「共存LV8」「吸収LV8」

 〈共存:指定した相手とHPとSP、経験値や熟練度を共有する。指定できるのは1個体まで。〉

 〈吸収:触れている相手のSP、HP、MPを吸収する。〉

 

 インレント・クイーン

 吸収で吸い取ったのか、共存で仲間を見つけたのか、どちらにせよLV10になることで成れる種族。

 よく生き延びたといわんばかりにHP、SP、防御力、抵抗能力が1000近くアップする。

 レア種族であるインレントを産み、それぞれが共存で繋ぐことでとてつもないスピードで成長していく。

 成長は数だよ、タニシ!

 獲得スキル「産卵LV10」「眷属支配LV10」

 

 インレント・エンペラー

 その圧倒的成長速度であっという間にLV20になったクイーンが成れる種族。

 イレギュラーだ!といわんばかりにHP、SP、防御力、抵抗能力が2000近くアップする。

 クイーンを産めるため凄まじいスピードで増えていき、さらにクイーンが産んだインレントが成長してクイーンになって、そのクイーンがエンペラーになって、そのエンペラーが……と恐ろしいスピードで繁殖と成長をする。

 成長と戦いは数だよ!

 獲得スキル「スキル付与LV1」

 〈スキル付与:自身が産む卵に自身が持っているスキルと同じスキルを与えることが出来る。レベルによって与えられるスキルの数が増える。〉

 

 イレディアント

 辺りをインレントの海にしたLV30の皇帝が成れる種族。

 ご褒美だといわんばかりにHP、SP、防御力、抵抗能力が4000近くアップする。

 エンペラーすら産めるようになっているため、瞬く間に辺りをインレントで埋め尽くせる。

 止めてみろよ、ベイベー。

 獲得スキル「自爆」

 〈自爆:己の命と引き換えに大爆発を起こす。〉

 

 イレミル

 イレディアントLV40で成れる種族。

 HP、SP、防御力、抵抗能力が10000アップする。

 俺自身が神話級になることだ……。

 イレディアントも産めてしまう。

 もう何も怖くない。

 無敵だぁ!

 獲得スキル なし

 

 他の特殊進化

 

 レイジィ

 インレントLV10と崩壊の称号で成れる種族。

 攻撃能力、スピードが1000アップする。

 ここまで辿り着いたタニシ虫は当然いない。

 しかもここで進化は打ち止め。

 選ばなくて良かったね。

 獲得スキル なし

 

 アグレゲージ

 一定以上のステータスと崩壊系の称号で成れる種族。

 全てのステータスが500アップする。

 小さなゲーレイシュー族が集まり形を作るその姿は集合体恐怖症殺しである。

 ここまで辿り着いたタニシ虫は2体。

 1体はマグマぽちゃしている。

 獲得スキル「分裂」「多重意思」「同調」

 〈分裂:自身の数を増やす。〉

 〈多重意思:自身の数に合わせて意思が分裂する。〉

 〈同調:多重意思同士ステータスを共有する。〉

 

 アザレイネ

 アグレゲージLV30で成れる種族。

 全てのステータスが1000アップする。

 様々なゲーレイシュー族の集まり、その姿は気持ち悪いの一言である。

 ここまで辿り着いたタニシ虫は0体。

 獲得スキル なし

 

 他のオリジナルスキル

 

 狂

 スキルポイントを制限する。

 私がこの二次創作を書いているときにタニシのスキルポイントをなんとかして使えないようにしなければと思い、作ったスキル。

 でなければえげつないスキルを大量に取られてしまうからである。

 しかし進化によって流れでチートスキルを追加してしまい、ぶっちゃけ制限した意味があるのかどうか怪しい。

 後先考えずにやるからこうなるんだ。

 

 同心

 インレントの種族スキル「共存」の派生スキル。

 スキルポイントによるスキル獲得や、称号の獲得を共有する。

 その共有能力は見境無しで、一つしかないはずの支配者スキルすら共有してしまう。

 原作設定を無視したスキルの為、読者にキツいこと言われるんじゃないかとビクビクしていたが、心が広かった。

 ビクビクするぐらいならこんなスキルを追加するな。

 

 破滅

 ホロ・ライユの種族スキル。

 説明文の破滅を呼ぶ、という感じのスキルを作りたかったが良いのが思いつかなかったのでそのまんまのスキルを追加した。

 オリジナル属性は流石にやべぇだろとビクビクしていたが、心が広かった。

 ビクビクするくらいならこんな属性を追加するな。

 闇属性と腐蝕属性を混ぜた感じので良かったかもしれない。

 

 その他オリジナル?設定

 

 邪眼に関して。

 石化や死滅といったほぼ一撃必殺のものを除く全ての邪眼は、射程距離=視力。

 石化や死滅等は発動までが遅く、射程も短め。

 

 

 

 

 




 これで終わりです。
 ここが入って無いということがありましたら教えて下さい。


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タニシが群れてなんになる

  
 
  
    


 私が産んだ子供……蜘蛛さんはライユって呼んでたそれは、予想以上の働きをしてくれていた。

 今まで先が見えない思いをしていた火竜の処理が、あっという間に終わったのだ。

 戦いだけでなく、作業も数だと教えてくれたよ。

 ウロコの処理はもちろんのこと食べきるのも手伝ってくれた。

 というか火竜のほとんどは子供達が食べた。

 私たちはのんびり屋で食べる必要はあまり無いのだけれど、子供達は普通にお腹が減る。

 子供達が食べたのはウナギとナマズ以外の火竜で、ウナギとナマズは蜘蛛さんが食べた。

 美味しいものは蜘蛛さんのもの、そういうことなのだろう。

 まぁ…それでも量が多すぎて食べきれなかったから途中から子供達が食べたんだけどね。

 私?

 私は全部の火竜種を平等に食べたよ。

 美味しいものと不味いもののギャップがあって、美味しいものはより美味しく、不味いものはより不味く感じたね。

 

 さて、火竜の食レポは置いといて、私たちにはやることがある。

 それはこの中層から出ることである。

 中層を出ると言っても下層に向かうのではなく、上層に向かう。

 蜘蛛さんの生まれ故郷と言ってもいいのかもしれない。

 私は行ったことがないからどんな感じなのか楽しみではある。

 でも結局はエルロー大迷宮、魔物だらけなメシマズ生活からは抜け出せないだろう。

 蜘蛛さんの話を聞く限りだと、美味しいものに初めて出会ったのは中層、上層に美味しいと感じるものは何一つ無かったらしい。

 うーん。

 美味しいものに関しては上層にはあまり期待しないでおこう。

 それでも魔物のレベルが低いから生きることに苦労することは少なくなるはず。

 あわよくばエルロー大迷宮の出口を見つけて外へ……。

 そう思うと上層に行くメリットは多い。

 デメリットはレベルが上げづらくなることかな?

 まぁ続きは上層に上がってからで。

 

 私は通りすがりの赤色の犬に破滅弾を撃ち込む。

 MP消費は5、低燃費だ。

 そんなものでも赤犬は被弾したお腹に破滅弾ほどの大きさの穴が開いていた。

 十分死にかけだけど蜘蛛さんの追い撃ち。

 頭に綺麗な穴が開いた。

 今なにをしているのかというと、破滅弾の試し撃ちだ。

 新しく手に入れた武器、使わない手はない。

 何体かの魔物に試し撃ちをしていて分かったことは、破滅弾は、というより破滅属性は物体を削る力があるらしい。

 腐蝕属性と違うのは当たったところだけという点と、塵になることなく消滅するという点かな。

 非常に強力だけど、調べていく内にあることが分かった。

 相手の抵抗能力が高いと防がれてしまうことだ。

 自分の魔法能力ほどの抵抗能力があったら、完全に防がれてしまう。

 ようはノーダメージ。

 え?どうやって調べたのかって?

 どうやったんだろうね?

 そこは想像にお任せするよ。

 ちなみに子供達が撃つとノーダメージだった。

 まだまだ生まれたばかりで魔法能力が低いからだろうね。

 赤蛙なら表面を削るくらいなら出来たけど。

 

 そんな風に破滅弾を使ってたら破滅のレベルが上がった。

 そこら中の岩が穴だらけになるくらい撃ってたし当たり前か。

 

 『LV2:破滅小弾』

 

 これはその名の通り小さな破滅弾を撃つ。

 小型な分威力が落ちちゃうけどMP消費が少なめ。

 なんとたったの1で発射可能。

 グミ撃ちするのにぴったりだね。

 ……なぜか負けそうだ。

 使うの控えようかな?

 いや、これは先入観。

 大丈夫大丈夫。

 負けない負けない。

 

 あ、そうだ。

 子供達の数は100。

 レベルはあまり上がってない。

 それでも破滅弾の空砲を撃たせまくって大体の子供達は破滅LV2になっている。

 これによりグミ撃ちの嵐を起こせるようになった。

 なぜかあまり嬉しくない。

 戦力増強が出来てるのにね。

 

 そんなこんなで今、私と蜘蛛さん、そして100の子供達が上層を求めて中層を進軍中。

 火竜戦で周りの火竜のほとんどを狩り尽くしてしまったのか、目に映る魔物は火竜以外のものばかりだ。

 その魔物も、私と蜘蛛さんの恐怖を齎す者のせいですぐにマグマの中に逃げてしまう。

 だから逃げ切る前に仕留めなければならない。

 これがかなり大変。

 子供達の破滅弾だとノーダメージで終わってしまうことが多い。

 だから私と蜘蛛さんが邪眼で瀕死まで追い込んで子供達が止めを刺している。

 レベルが上がれば魔法能力が上がり破滅弾が通ると思ったからだ。

 しかしここで問題が発生する。

 邪眼で瀕死まで追い込むのが難しいのだ。

 呪怨や暗黒だとびっくりするぐらいのスピードで減っていき気づいたら死んでいる。

 ならどうするか。

 そこで悄然の邪眼の出番。

 私たちに恐れて逃げ出してしまうのなら、もっと怖がらせて逃げられなくすれば良いじゃない。

 これが大成功。

 傷一つ与えず無力化し、子供達が生きたまま貪り食う。

 レベリングと食事をダブルで行える。

 結構あれなことしてるけど子供達の成長の為だ、許せ。

 そんなことを繰り返していると子供達のレベルが上がってきた。

 100体もいるので差があるが、一番強い子供はこんな感じ。

 

 『リトルレッサーホロ・ライユ LV4

   ステータス

  HP:70/70(緑)

  MP:70/70(青)

  SP:70/70(黄)

    :64/70(赤)

  平均攻撃能力:140

  平均防御能力:70

  平均魔法能力:140

  平均抵抗能力:70

  平均速度能力:70

  スキル

  「腐蝕大攻撃LV2」「腐蝕大耐性LV3」「破滅LV2」

  スキルポイント:0

  称号

  「破滅の子」』

 

 バランスが良いというのが私の印象。

 私なんか攻撃能力が1000ぐらいで抵抗能力が8000だからね?

 今までカチカチになる種族ばかり選んでいたらこんなカチカチになっちゃったよ。

 こんな大人になっちゃ駄目だよ。

 あ、私女子高生だった。

 ………女性としてカチカチなのはいかがなものか。

 今はタニシだし気にしない気にしない。

 そういえば蜘蛛さんはスキルポイントで空間魔法なるものを取った。

 スキルポイントは500。

 狂による制限ギリギリだ。

 

 空間魔法とは空間を操る魔法だ。

 低レベルだと空間を指定するぐらいしか出来ないが、高レベルになれば転移が出来るらしい。

 まだレベル2だから分からない。

 でももし転移が出来るのなら行動範囲が一気に広がるだろう。

 叡智のマッピング能力との相性もピッタリ。

 今は魔法担当の私3号が空間魔法を使い続けている。

 レベルが上がるのが楽しみだ。

 

 む?叡智に反応あり。

 これは……火竜?

 滅んだはずじゃ!?

 なんてね。

 流石に滅ぼしたなんて考えてないよ。

 まったく見かけなかったけどね。

 うん。

 それにしてもこの形……見たことがない。

 火竜の次は……火龍?

 ありえるなー。

 む?また反応あり。

 これは…?

 デカイ蜘蛛?

 

 『これ……ひょっとしてマザー!?』

 

 『マザー…?蜘蛛さんが言ってたやつ?』

 

 『そうそう!』

 

 『タラテクト種って火に弱いんじゃなかったっけ。』

 

 『マザーは大丈夫なのかも。』

 

 へーと私は返事をしながら、マザーが来るであろう縦穴を岩石から覗き見る。

 叡智で大きな反応が上層から下がってくるのが分かる。

 反応が下がる度に禍々しい雰囲気が縦穴から溢れ出してくる。

 そして上層から下層まで続いていそうなその縦穴からゆっくり…ゆっくりと、それでいて威圧感を出しながら、マザーが姿を表す。

 叡智である程度の大きさを見ていたが、やはり直で見ると迫力が違う。

 絶対に勝てない。

 そんな自信が心の奥から沸き上がってくるような風格を見せていた。

 うわぁ……。

 あれが蜘蛛さんのお母さん?

 なんというか……遺伝子の繋がりをあまり感じないよ。

 そんなことを考えていると火龍がマグマから顔を出す。

 タツノオトシゴやナマズ、ウナギはもちろんのこと火竜でさえも引き連れた火の王者だ。

 火龍達はマザーをロックオンしている。

 擬人化すればナンパに見えないこともないかも。

 そんなことを考えていると、火龍達がマザーに大量の火球を飛ばす。

 マザーはその巨体故に避けられず、全弾ヒットしてしまっている。

 これほどの火球、喰らったらひとたまりもないだろう。

 我々の勝利だ、ダハハ。

 そんな声が火竜から聞こえてくる。

 爆発の嵐に飲み込まれているマザー。

 爆煙が晴れれば中まで火が通ったジューシーな蜘蛛焼きが出来上がっている。

 そう思わせるには十分な姿だ。

 止めだと言わんばかりに火龍が極大の火球を吐き出し、マザーに直撃する。

 その瞬間、マザーは今までの爆発を超える大爆発に包まれる。

 

ーー誰もが死んだと思った。

 

 火龍達が攻撃を止める。

 その顔には勝利を確信した表情を浮かべているように見えた。

 

ーー反撃も抵抗も、何も出来ずに死んだと思った。

 

 爆煙が晴れていく。

 ゆっくりと煙が薄くなっていくその光景は、早くマザーの姿を見せてくれと煙を急かしたくなる。

 少し経つと煙が完全に晴れ、マザーの姿がくっきりと見えるようになる。

 そこには、醜く焼け焦げたマザーの姿が……。

 

ーーだが違った。

 

 ……見えてくることは無く、傷一つ無い蜘蛛の女王がそこに立っていた。

 火龍達に衝撃が走る。

 そんな火龍達を無視し、マザーは口にエネルギーをため始める。

 そのエネルギーを火龍達に放つと、凄まじい轟音と共に世界が揺れた。

 

 マザーはそれで満足したのか、またゆっくりと下層に降りていく。

 叡智の反応は……1。

 恐らく火龍だろう。

 あの一撃を耐えるとは流石龍種。

 

 ………止めを刺しに行こうかな。

 多分、勝てるでしょ。

 

 

 

 




   
 原作より一段階進化が進んだ蜘蛛子
        +
 防御力と抵抗能力は下手な龍種より多いタニシ
        +
 龍種相手にはまったく役に立たないタニシ’s children
       
        VS

 マザーの攻撃でHPほぼ半分で疲労状態な火龍
   


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世界を管理する者

   
  
     


 私は叡智の反応に任せて破滅弾を撃ち込む。

 手応えはあまり感じられない。

 私の魔法能力は約3500。

 火龍の抵抗能力がそれ以上あった場合、ノーダメージに終わる。

 まだ鑑定は出来てないから、自分の攻撃が通るかどうか分からない。

 でも撃ち続ける。

 たとえノーダメージだったとしても、攻撃されるのは嫌だろう。

 今はマグマの中に身を潜めているがすぐに限界が来て顔を出すはず。

 

 『タニシちゃーん?何やってるのかな?』

 

 『火龍に止めを刺そうとしてるの。』

 

 『え?』

 

 『蜘蛛さんも手伝って。』

 

 『………まぁイケるか。』

 

 蜘蛛さんも破滅弾を撃ち込む。

 蜘蛛さんの魔法能力は約5000。

 私よりも全然多い。

 流石にこれほどの魔法能力があれば通るでしょ。

 お?火龍がマグマから顔を出そうとしてる。

 耐えるのも限界だったか。

 さて、火龍のステータスとやらを見せてもらおう。

 

 『火龍レンド LV20

  ステータス

 HP:1441/3701(緑)

 MP:1913/3122(青)

 SP:2468/3698(黄)

   :2883/3665(赤)

 平均攻撃能力:3281

 平均防御能力:3009

 平均魔法能力:2645

 平均抵抗能力:2601

 平均速度能力:3175

 スキル

 「火龍LV1」「逆鱗LV8」

 「HP高速回復LV3」「MP回復速度LV6」「MP消費緩和LV6」「SP高速回復LV1」「SP消費大緩和LV1」

 「魔力感知LV5」「魔力操作LV4」「危険感知LV10」「熱感知LV3」

 「火炎攻撃LV9」「魔力撃LV4」

 「火炎強化LV7」「破壊強化LV6」「斬撃強化LV2」「貫通強化LV2」「打撃大強化LV2」

 「連携LV10」「指揮LV2」「立体機動LV4」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV5」「気配感知LV10」「飛翔LV7」「高速遊泳LV10」「飽食LV2」

 「火魔法LV4」

 「斬撃耐性LV1」「貫通耐性LV1」「打撃大耐性LV1」「炎熱無効」「状態異常耐性LV1」

 「身命LV5」「魔蔵LV4」「瞬身LV5」「耐久LV5」「剛力LV5」「堅牢LV5」「道士LV4」「護符LV3」「縮地LV5」

 スキルポイント:30050

 称号

 「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「率いるもの」「龍」「覇者」』

 

 おー流石龍種。

 ステータスがかなり高い。

 速度なんて蜘蛛さんを超えてる。

 ん?

 

 『平均抵抗能力:2601』

 

 あ、私の破滅弾でも効果あるじゃん。

 ならもっと撃とう。

 呪怨と暗黒の邪眼も当てて、最大火力をぶつけよう。

 蜘蛛さんも同じ感じだ。

 というか私の破滅弾でも体が減るのに、蜘蛛さんの破滅弾なんて喰らったら……。

 あ、すごい削られてる。

 HPもどんどん減ってってる。

 蜘蛛さんが静止の邪眼で動きを鈍くしていて、しかも足を削って機動力を減らしてるから一切避けることができない。

 子供達の便乗して撃った破滅弾すら避けることができてない。

 ていうかちょっと、みんな撃たないで!

 破滅弾って赤黒いからすごく見づらくなる!

 え?レベル上げ?

 確かにレベル上げのチャンスだけどさ。

 もうちょい控えめにやって。

 

 あ、火龍のHPが残り僅かになってきた。

 反撃とばかりに極大火球を放ってくるけど、蜘蛛さんの引斥の邪眼で軌道をそらされてる。

 そして体を削られる。

 ただてさえボロボロな体が穴だらけになっていく。

 すぐに火龍はSPをHPに変換するが、それもすぐに凄まじいスピードで減っていく。

 体がどんどん削れていき、スリムになっていく。

 火龍は目に見えて弱っていき、今にも命の灯火が消えてしまいそうだ。

 それでも火龍は諦めることなくブレスを吐き続けるが、破滅弾で撃ち落とされるか引斥の邪眼でそらされるかで、攻撃が私たちに当たることは無く、こちらの攻撃は全て当たっている。

 

 一発、また一発と被弾し、そしてついにはHPが0になった。

 

 《熟練度が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV2からLV3になりました》

 《熟練度が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV3からLV4になりました》

 《熟練度が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV4からがLV5になりました》

 《熟練度が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV5からLV6になりました》

 《熟練度が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV6からLV7になりました》

 《条件を満たしました。称号「龍殺し」を獲得しました》

 《称号「龍殺し」の効果により、スキル「天命LV1」「龍力LV1」を獲得しました》

 《「身命LV3」が「天命LV1」に統合されました》

 《「竜力LV6」が「龍力LV1」に統合されました》

 

 あ。

 え?

 なんだか呆気ない。

 この火龍が弱っていたとはいえまさかこんなに速く倒せるとは思ってなかった。

 これは……私たちが強くなったから?

 こんな簡単に倒せるなんて……。

 いざって時に蜘蛛さんが深淵魔法の準備をしていたけど、その必要はなかったみたい。

 というか私、いつの間にかLV2になってたんだ。

 子供達に夢中で気づかなかったよ。

 レベル7か……。

 ステータスを見てみるか。

 

 『ホロ・ライユ(篠前 ゆりか) LV7

  ステータス

 HP:6460/6460(緑)+1418

 MP:4261/4261(青)+900

 SP:4294/4294(黄)+900

   :4526/4526(赤)+912

 平均攻撃能力:1762    +624

 平均防御能力:7201    +938

 平均魔法能力:4466    +1200

 平均抵抗能力:10355   +1500

 平均速度能力:2570    +690

 スキル

 「HP高速回復LV2」「SP回復速度Lv6」「SP消費緩和Lv5」「魔導の極み」

 「吸収lv9」「共存lv10」「同体」「破滅LV2」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「万能糸LV2」「遠話lv4」「毒合成LV7」「集中LV10」「思考加速Lv8」「予見Lv6」「並列意思Lv3」「高速演算Lv3」「命中Lv3」「回避LV4」「空間機動LV2」「糸の才能LV7」「威圧LV2」「狂LV7」「挑発LV5」

 「気闘法Lv8」「気力付与LV5」「魔闘法LV4」「龍力LV3」

 「恐怖耐性Lv2」「酸耐性Lv2」「麻痺耐性Lv3」「気絶耐性LV3」「猛毒耐性LV6」「斬撃耐性LV6」「打撃耐性LV7」「破壊耐性Lv8」「火耐性lv5」「痛覚軽減LV6」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「外道無効」

 「外道魔法LV5」「影魔法LV10」「闇魔法LV6」「毒魔法LV10」「猛毒魔法LV1」「空間魔法LV4」

 「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv10」

 「韋駄天lv5」「のんびり屋LV10」「堅牢LV4」「剛力LV4」「瞬発Lv8」「耐久LV2」「天命LV2」「望遠LV9」「五感強化LV3」「視覚領域拡張Lv8」「神性拡張領域LV5」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV5」「外道攻撃LV1」「猛毒攻撃Lv5」「破壊強化Lv5」「斬撃強化Lv5」「毒強化Lv6」

 「呪怨の邪眼LV5」「歪曲の邪眼LV1」「静止の邪眼LV2」「引斥の邪眼LV5」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV4」「狂乱の邪眼LV2」「死滅の邪眼LV2」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV2」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:37680

 称号

 「のんびり屋」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「崩壊」』

 

 お、抵抗能力がついに10000に到達した。

 防御力も7000。

 ふふふ…私にダメージを与えられるものなら与えてみろ!

 あ、でも耐性系スキルのレベルが低いね。

 ……あとで蜘蛛さんと耐性上げしようかな。

 あ、蜘蛛さんが糸を使って火龍を引き上げてる。

 なんか元気無いね、なんでだろ。

 いつもの蜘蛛さんなら勝利の雄叫びくらい出しそうなんだけど。

 

 『……私たちってかなり強いんだね。』

 

 『うん、あの龍種が楽勝だって思うぐらい強くなったね。』

 

 『なんか、あれだわ。』

 

 『?』

 

 『いやね?私の中で龍種って絶対に勝てない最強の存在であって超えるべき壁でもあったのよ。』

 

 『うん。』

 

 『それが弱っていたとはいえ簡単に倒せちゃったのは…拍子抜けというかなんというか……。』

 

 蜘蛛さんが前足で頬をかき、微妙な顔をする。

 憧れに近い感情を抱いていた種族に簡単に勝ててしまった。

 私ではどんな感情が蜘蛛さんの中で渦巻いているのかが分からないけど、言葉にし辛い感情なのは確か。

 

 穴だらけの火龍。

 なんだか微妙な空気になる私たち。

 空気を読むことなく火龍にかぶりつく子供達。

 

 そんな雰囲気の中、叡智の空間感知に反応あり。

 

 初めての感覚だけど、これは転移だ。

 空間魔法に長けた者だけが使える魔法、長距離転移。

 私の知っている魔法の中で2番目に複雑な魔法だ。

 魔法はその他スキルのように発動したら全自動でやってくれるものでは無く、魔力を操作するという知恵と技術が必要になる。

 知恵も技術も、今までの魔物にはなかった。

 つまり今ここに来ているのは今までを覆す何かが来る可能性が高いということだ。

 

 まずい。

 もうすぐ来る。

 あの空間から何かが来る。

 逃げられない。

 迎え撃つ?

 こんな複雑な術式を構築する相手と?

 駄目だ、リスクが高すぎる。

 ならばどうする。

 お出迎えでもする?

 帰るように交渉でもしてみる?

 

 そんなことを考えていると空間が割れ、人型のものが出てくる。

 黒い。

 ただただ黒い男だ。

 とりあえず鑑定。

 

 『鑑定不能』

 

 鑑定……不能?

 今までこんな結果は出たことが無かった。

 ん?待てよ?

 この異様な雰囲気。

 鑑定不能の文字。

 空間魔法に長けた存在。

 

 まさか……管理者ギュリエディストディエス?

 

 蜘蛛さんも同じ考えに至ったみたい。

 世界を、システムを管理する者。

 そんな存在が、今目の前にいる。

 これが管理者……。

 これが、私たちの目指す存在……。

 

 そんなことを思っていると管理者ギュリエディストディエスは、私たちから視線を別の場所に向け始める。

 その視線の先には穴だらけの火龍に群がり、その肉を貪り食う子供達の姿があった。

 

 それを見て管理者は顔をしかめた。

 

 

 

 

 




   
 蜘蛛子たちに簡単に倒される炎海の王者。
 


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中層の終わり

  
   
     


 「******」

 

 管理者ギュリエディストディエスが謎の言語で喋りだす。

 うん、まったく分からない。

 聞いたことがない発音をする言語だね。

 聞いたことのない言葉を聞くと、なんだかここは異世界なんだなって思う。

 

 「*******」

 

 んー……。

 困った。

 まだ完全に解読しきれてないけど禁忌でこの世界についてなんとなく分かっている。

 管理者ギュリエディストディエスについてもある程度は知っている。

 でもこの世界の言葉についてはさっぱりなんだ。

 そういえばなんで管理者ギュリエディストディエスは私たちなんかに会いに来たんだろう?

 禁忌がカンストしたから?

 龍が滅んだから?

 考えても全然分からない。

 そういうのは聞くのが一番だけど、言葉が……。

 管理者ギュリエディストディエスも困った顔をしてるし、どうしよう。

 

 そんなとき、空からスマホが落ちてきた。

 

 ……なんでスマホ?

 

 〘もしもし、こちら管理者Dです。〙

 

 !!

 管理者Dって……。

 この世界のシステムを作った張本人じゃん。

 へーこんな声してたんだ。

 綺麗だけど平坦で不気味な声だ。

 日本語とこの世界の言葉、二重の言語で話してる。

 

 『管理者D……まじか。』

 

 蜘蛛さんがびっくりしてる。

 まぁここに管理者が2人…いや二柱もいるからね。

 そりゃびっくりするか。

 管理者ギュリエディスト……長いからギュリギュリでいいや。

 ギュリギュリさんが熱々の地面に落ちているスマホを手に取る。

 

 「*******」

 

 〘************〙

 

 「*****************」

 

 〘****〙

 

 「……******」

 

 ギュリギュリはその言葉を最後に空間転移で帰っていった。

 まるでわけが分からんぞ!

 例えるなら1週間休んだ後の数学並に分からない。

 置いてけぼりだ。

 

 〘彼には話して置きましたので今後貴方達に関わってくることはないでしょう。〙

 

 それはどうも。

 管理者が向かってくるとか勝ち目ないしね。

 

 〘さて、貴方達は禁忌がカンストしているので私の正体はご存知なのでは?〙

 

 『邪神でしょ?』

 

 〘ピンポーン、正解です。〙

 

 あれ、案外お茶目な邪神なのかな?

 声に感情がまったく感じられないけどね。

 

 〘お茶目ですか、言われたことがありませんね。〙

 

 ……ん?心読んだ?

 

 〘はい。〙

 

 『え、何?独り言?』

 

 〘そこのタニシさんが私のことをお茶目だと思っていたので、心を読ませていただきました。〙

 

 『あ、そういうこと。……お茶目か?』

 

 蜘蛛さんは心を読むなんてできないからね。

 Dさんが独り言を言ってるように聞こえるのも無理はない。

 次からは蜘蛛さんに分かりやすいように思ったことは口に出しておこう。

 

 『あ、そうだD、貴方にいくつか聞きたいことがあるんだった。』

 

 〘なんでしょう。〙

 

 『なんでシステムなんて作ったの?あんたなら星一つ救うぐらいできるでしょ。』

 

 〘救う理由がありません。〙

 

 『あ、そう。じゃあさ、なんで叡智なんてスキルを追加したの?』

 

 〘それはただのご褒美です。〙

 

 『え?』

 

 〘頑張ったご褒美ですよ。〙

 

 『いやその…えー…うん、助かったわ、ありがとう。』

 

 〘どういたしまして。〙

 

 ご褒美かー…。

 まぁ叡智は役に立ってるし、素直に感謝しておこう。

 

 『あとは……んー…あ、そうだ。なんで私たちは転生したの?』

 

 『あ、確かに。なんで?』

 

 転生したっていうことは死んだってことだよね。

 前世で最後の記憶は古文の授業中に突然激痛に襲われたっていう記憶。

 その激痛で死んだんだろうけど、その激痛の正体が知りたい。

 

 〘そうですね。貴方達がなぜ死んでしまったのか、教えましょう。〙

 

 Dさんが私たちがなぜ死んだのか、ようは死因について話し出す。

 それを簡単にまとめるとこんな感じかな。

 

 先代勇者と先代魔王は思った。

 そうだ、管理者を殺りに行こう。

 どうやら別の世界にいるらしい。

 どうする?

 そうだ!

 次元魔法で直接攻撃だ!

 これしかない!

 よし、やろう!

 あ、システムの補助が!

 もう駄目だ!

 教室どっかーん。

 

 はぁ……。

 酷い話を聞いたよ。

 ようはあれだ。

 私たちはとばっちりを喰らったということだ。

 迷惑な話だよ。

 

 『先代勇者と先代魔王……何してくれてんの……。』

 

 『だね。』

 

 〘他に何かありますか?深いもので無ければ教えますよ?〙

 

 他に何かあったっけ。

 うーん?

 えーっとあれだ。

 

 『ねぇDさん、監視してるのは何で?』

 

 〘監視というより観戦と言ってください。貴方達のことは見ていて飽きませんから。〙

 

 『ようは娯楽で見てるってこと?』

 

 〘はい。蜘蛛さんの念話だだ漏れ事故とか蜘蛛さんのお尻に火がついた事故とか色々見せてもらってます。〙

 

 『おいちょっと待てい!!私の黒歴史じゃん!忘れて!忘れろ!!』

 

 〘ご安心を。しっかりとDVDに焼き付けていますよ。〙

 

 『安心できねー!早く捨てろそのDVD!』

 

 〘捨てる意味がありません。〙

 

 『私が恥ずかしいんだよ!おいやめろ!脳内で流すな!』

 

 頭の中で高テンションで独り言を喋り続ける蜘蛛さんとお尻に火がついた蜘蛛さん、2つの映像が同時に流れてくる。

 うん。

 もしこれが私だったらと思うゾッとするね。

 

 〘ふぅ、一通り楽しんだので私はここで。今回は貴方達の心を読んでいましたが、普段見てるときは読んでいませんのでご安心を。〙

 

 『あ、じゃあDさんのことで愚痴っても普段ならDさんには聞こえないのね。』

 

〘そういうことです。そういえば貴方達は管理者を目指しているそうですね。〙

 

 『そうだけど……なにかまずい?』

 

 それ知ってるのか。

 実は普段も心の中を読んでたりするんじゃないの?

 

〘いえ、何も。それでは貴方達が管理者になるのを楽しみにしておりますので、頑張ってください。また会いましょう。〙

 

 そういってスマホは空間の揺らぎすら感じられず消える。

 

 そういえば揺らぎが感じられないって……地味に凄いことしてるよね。

 まだ空間転移したことがないからどれくらい難易度が高いのか知らないけど、ギュリギュリさんでも空間が揺らいでたからきっとものすごく高いのだろう。

 私がやったらどうなることやら。

 

 『はぁ……最悪な目にあった……。』

 

 蜘蛛さん、お疲れ様。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 ギュリギュリとD。

 二柱の管理者と出会って数日後。

 私たちは上層への道を探していた。

 

 管理者達に会ってすぐに、私たちは色々なことを話し合った。

 禁忌で存在は知ってたけど実際に会ってみてその力の強さを思い知った。

 そして私たちが目指しているのは管理者。

 つまりあのレベルまで強くならなければならない。

 Dさんまで無理でもギュリギュリさんぐらい?

 それも無理か。

 でも神といえるぐらいには強くならないといけない。

 というか管理者は神だしね。

 でも、神になるにはどうすれば良いの?

 死のノートで悪人を裁いていればなれるの?

 ぶっちゃけ神になる方法はまだはっきりとしていない。

 でも必ずなって見せる。

 Dさんの言葉を思い出そう。

 “管理者になるのを楽しみにしている。”

 そう言ってた。

 Dさんは私たちが神になれることを否定していなかった。

 つまり、この世界のどこかに神になれる何かがあるんじゃないか。

 希望を見せて私たちがとどくはずのない物に手を伸ばしている姿を見て嘲笑おうとしている可能性もある。

 それでもその神になれる何かを探そう。

 そう蜘蛛さんと話し合いで決まった。

 

 神になれる何かはエルロー大迷宮にあるかもしれないけど、とりあえず外に出ることを目標にしてる。

 もしエルロー大迷宮にあるとしたら最下層だろう。

 最下層にはきっと蜘蛛さんのお母さん、マザーがいるはず。

 神になれる何かはそのマザーが守ってる可能性がある以上、今のステータスで挑むのはまずい。

 だから外でレベリングをして、力がついたら最下層に向かう。

 そのためにはまずこの中層をぬける必要がある。

 まぁ結局最初の目標は会う前と変わらない。

 

 そういうことでどこかなどこかなと辺りをキョロキョロ、上に向かう道はないのか探していると、見つけた。

 上に向かう道。

 それはただの坂だが、私たちにとっては地獄から出られる希望の坂に見えた。

 

 『おお!これはあれか!あれだよ!』

 

 『そうだね蜘蛛さん。』

 

 『イヤッホー!』

 

 『相変わらず速い……。』

 

 もう蜘蛛さんあの火龍よりスピードがあるもんね。

 いやー。

 それにしてもこの中層で私たちかなり強くなったと思う。

 最初にここに来たときのステータスはどれくらいだったっけ。

 確か防御力が2000いくかいかないかぐらいだっけ?

 攻撃能力と魔法能力は2桁台で極端なステータスをしてた記憶がある。

 いや今も極端ではあるけども。

 2000ぐらいの防御力から7000に変わって、抵抗能力なんて10000超え。

 2桁だった攻撃能力と魔法能力は1700ぐらいと4400ぐらいになった。

 スピードも2500はある。

 その分倒した魔物も多いけどね。

 中層だけで殺戮者と殺しの称号をとるぐらい倒してる。

 うん。

 強くなるのも無理もないね。

 そう思うと中層は、私たちを大きく育ててくれた場所なのかも知れない。

 うーん……。

 お礼言っとく?

 いや、良いや。

 地獄にお礼を言うのは変だし。

 

 

 

 

 




 
 原作より強い蜘蛛子とカチコチタニシが上層に出る?
 あ、ふーん。


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スキルが弱いなら鍛えれば良いじゃない

  
   
   


 切断。

 消滅。

 飛び散る肉片。

 貪られる魔物。

 拡大する死。

 あとに残るのは穴だらけの壁。

 それが通る道はいかなる生物の生存を許さない。

 破滅の道だ。

 

 

 

 

 

 

 上層に上がってから何日たったかな。

 数日?

 数週間かも?

 太陽が見えないので正確な時間は分からない。

 私たちは移動しながらレベリングに励んでいた。

 移動しながらなのには理由がある。

 私たちがその場にとどまってると、近くの魔物が逃げちゃうのだ。

 まぁ龍並のステータスを持つ魔物が2体一緒に暮らしてるとか嫌だもんね。

 今の私でも逃げる自信がある。

 そんな感じで魔物に逃げられるとレベルが上がらなくなる。

 だから私たちは移動している。

 ちなみに子供達は上層についた時点で私たちから離れるように言って、今はどこかでのんびり暮らしている。

 あの子達と私たちでは力に差があるからね。

 一緒にいても邪魔だ。

 一応迷宮の出口を探すように言ってるけど、探そうとしてる感じがしない。

 眷属支配で意識を向ければなんとなくどこにいるのかがわかるから、たまに会いに行ってる。

 会いに行った時、だいたい魔物を食べてる途中かボーっとしてるかだ。

 一体誰に似たんだろう……。

 そんなのんびり屋なあの子達は結構強い。

 何体かレッサーホロ・ライユに進化してたし、ステータスが平均300台だったしね。

 きっと生き残れるさ。

 追加で100体ぐらい産んだしきっと大丈夫。

 

 さて、現在私たちはお互いに攻撃中。

 え?なんでお互いに攻撃してるんだよって?

 耐性系スキルのレベル上げだよ。

 耐性系スキルはそのスキルに合ったダメージを受けることで上がっていくんだけど、ある程度攻撃させる前に倒しちゃってるからね。

 耐性系スキルはあまり上がってない。

 というか耐性系スキルだけじゃなくて他のスキルもあんまり……。

 理由は分かってる。

 スキルが上がる前に私たち自身のレベルが上がりまくったからだ。

 正直、スキルを使って熟練度を獲得して上がったというよりレベルアップボーナスとか進化ボーナスで熟練度を獲得して上がってる気がする。

 どれもこれも火竜のせいだ。

 あんなに呼ぶからこうなってしまったんだ。

 どう責任を取るおつもり?

 速く強くなれたし取らなくても良いけどね。

 

 それにしても、蜘蛛さんから前から話は聞いてたけど上層の魔物、弱いね。

 その分経験値は少ないし毒持ってるし。

 おかげで悪食の称号をゲットしたよ。

 この称号、胃が強くなるのね。

 いる?この称号。

 

 あ、デカイ蛇だ。

 私が一番最初に出会った魔物。

 破滅小弾、散弾っぽく。

 一発一発の破滅小弾が蛇の体を貫通し、後ろの壁に無数の穴が開く。

 私たちは動かない穴だらけの蛇にかぶりつく。

 その間に蜘蛛さんに打を付与した糸を叩きつける。

 蜘蛛さんも同じく叩きつけてくる。

 打撃と破壊、2つの耐性系スキルのレベリングだ。

 あとは防御系のスキルとか糸のスキルが上がったりする。

 

 蛇を食べ終わったので上層ぶらりレベリングの旅を再開する。

 何も無い時は適当なスキルを発動させてる。

 スキルの効果の確認とレベルアップ、2つのことを同時に行える。

 楽だね。

 そういえば龍を倒した時に得たスキル、「龍力」は龍の力を一時的に得るものだけどこれが中々凄いスキルだった。

 なんと魔法妨害能力とブレスを吐くことができるようになるのだ。

 魔法妨害能力はそのまんま。

 ブレスは自分の得意な属性のものになるらしく、蜘蛛さんは毒と闇の複合属性、私は腐蝕と破滅の複合属性。

 ブレスの威力は火竜ぐらいかな。

 私のは腐蝕と破滅、特に腐蝕があるから耐性が無ければ一撃だね。

 龍力はSPとMPを結構消費するけど、その分かなりステータスも上昇するし積極的に使った方が良さそう。

 

 さて、今私たちはとんでもない事態に陥っている。

 それは何か?

 以下の選択肢からお選びください。

 

 1、上層の魔物がいなくなった。

 2、スキルレベルが予想以上に上がって困惑している。

 3、人間に遭遇した。

 

 正解はー?

 全部でしたー!

 ……詳しく話そう。

 魔物がいなくなったのはまぁ分かる。

 叡智で索敵、敵反応あればそこに向かって、いただきます。

 移動しながらとはいえそんなことを繰り返してたら、そりゃ居なくなる。

 いや、移動しながらだったからか。

 まぁ今は下層にいって魔物狩りしてるけどね。

 進化したせいなのかレベルアップに必要な経験値が増えて魔物をたくさん倒さないとレベルが上がらなくなった。

 それはもう〈魔物の天災〉の称号を獲得するぐらい倒さないといけなくなったよ。

 

 それで次にスキルレベルが凄い上がったのは、キツい修行をしたからだと思う。

 1日1回、マグマ風呂。

 焼けそうになったら新たに獲得した治療魔法。

 上がったあとは呪怨や静止など状態異常系邪眼を当てる。

 減ったHPを治癒と自動回復で回復。

 それを交互にやる。

 糸で作った設備でパルクール。

 割と楽しい。

 タニシの体じゃ難しかったけど、なんとかできた。

 破滅弾で蜘蛛さんと空間機動を駆使した空中戦。

 あと自身のレベル上げの為の下層生物狩り。

 その他にも色々やった。

 これだけやれば上がらないほうがおかしいよね。

 

 人間に遭遇したのは2回で、1回目は上層で修行してた時に遭遇した。

 いつものようにお互いを色んなスキルで攻撃してると叡智に反応あり。

 何かくるのかと身構えていると人間が近づいてきたと思ったら、私たちを見るなり声を上げながら逃げていった。

 2回目は蛇に襲われてピンチだったのを助けた。

 何人か死にかけてたので治癒魔法をかけて、その見返りに落ちてた果実を貰った。

 奪ってないよ、ホントだよ。

 その果実を蜘蛛さんと分けて食べた。

 甘くて美味しかった。

 

 そんなこんなで今のステータスはこんな感じ。

 

 『ホロ・ライユ(篠前 ゆりか) LV20

  ステータス

 HP:10010/10010(緑)+3550

 MP:6211/6211(青)  +1950

 SP:6359/6359(黄)  +2065

   :6600/6600(赤)  +2078

 平均攻撃能力:3542      +1780

 平均防御能力:10281     +3080

 平均魔法能力:6436      +1970

 平均抵抗能力:14275     +3920

 平均速度能力:4580      +2010

 スキル

 「HP超速回復LV2」「SP高速回復Lv3」「SP消費大緩和Lv2」「魔導の極み」

 「吸収lv10」「共存lv10」「同心」「破滅LV5」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「万能糸LV4」「操糸10」「遠話lv10」「毒合成LV10」「薬合成LV3」「集中LV10」「思考超加速Lv4」「未来視LV2」「並列意思Lv6」「高速演算Lv8」「命中Lv8」「回避LV7」「確率補正LV5」「空間機動LV6」「糸の天才LV2」「威圧LV6」「狂LV7」「挑発LV5」「隠密LV5」「迷彩LV2」「無音LV8」

 「闘神法LV4」「気力付与LV5」「魔神法LV4」「龍力LV8」

 「恐怖耐性Lv3」「酸耐性Lv8」「気絶耐性LV4」「重大耐性LV1」「状態異常耐性LV8」「斬撃大耐性LV2」「打撃大耐性LV3」「破壊大耐性Lv4」「火炎耐性LV3」「痛覚大軽減LV2」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「外道無効」

 「外道魔法LV7」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV2」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV9」

 「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv10」

 「韋駄天lv8」「のんびり屋LV10」「城塞LV2」「剛毅LV2」「瞬身Lv5」「耐久LV7」「天命LV5」「千里眼LV5」「五感大強化LV1」「視覚領域拡張Lv10」「神性拡張領域LV6」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV10」「外道攻撃LV1」「猛毒攻撃Lv7」「破壊大強化Lv1」「斬撃大強化Lv2」「状態異常大強化Lv1」

 「呪怨の邪眼LV8」「歪曲の邪眼LV3」「静止の邪眼LV5」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV5」「狂乱の邪眼LV3」「死滅の邪眼LV2」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV7」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:37680

 称号

 「のんびり屋」「悪食」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「大崩壊」「崩壊」』

 

 次に蜘蛛さんのステータス。

 

 『エデ・サイネ LV20 名前 なし 

  ステータス

 HP:4360/4360(緑)

 MP:11791/11791(青)

 SP:3046/3046(黄)

   :2930/2930(赤)

 平均攻撃能力:2565 

 平均防御能力:2675

 平均魔法能力:10137

 平均抵抗能力:10264

 平均速度能力:5772

 スキル

 「HP超速回復LV2」「SP高速回復LV3」「SP消費大緩和LV2」「魔導の極み」

 「破壊大強化LV1」「斬撃大強化LV2」「状態異常大強化LV1」「猛毒攻撃LV7」「外道攻撃LV1」「腐蝕大攻撃LV8」

 「闘神法LV4」「気力付与LV5」「魔神法LV4」「龍力LV8」

 「吸収LV2」「破滅LV5」「糸の天才LV2」「万能糸LV5」「操糸LV10」「投擲LV7」「空間機動LV6」「集中LV10」「思考超加速Lv4」「未来視LV2」「過食LV7」「暗視LV10」「並列意思LV6」「高速演算LV8」「命中LV10」「回避LV10」「確率補正LV5」「毒合成LV10」「薬合成LV3」「遠話Lv10」「隠密LV10」「迷彩LV2」「無音LV8」「威圧LV6」「狂LV6」

 「奈落」「傲慢」「断罪」「忍耐」「叡智」「禁忌LV10」

 「外道魔法LV7」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV2」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV9」「深淵魔法LV10」

「破壊大耐性LV3」「打撃大耐性LV3」「斬撃大耐性LV2」「火炎耐性LV3」「重大耐性LV1」「状態異常耐性LV8」「酸耐性LV4」「腐蝕大耐性LV6」「気絶耐性LV4」「恐怖耐性LV7」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚大軽減LV2」

 「千里眼LV5」「五感大強化LV1」「視覚領域拡張LV10」「神性拡張領域LV6」「天命LV5」「瞬身LV6」「耐久LV7」「剛毅LV2」「城塞LV2」「韋駄天LV9」「星魔」

 「呪怨の邪眼LV8」「歪曲の邪眼LV3」「静止の邪眼LV5」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV1」「悄然の邪眼LV5」「狂乱の邪眼LV3」「死滅の邪眼LV2」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV7」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:850

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「大崩壊」「恐怖を齎す者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「傲慢の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」』

 

 

 

 ………ヨシ!

 これだけあれば遅れを取ることは無いはず。

 やっぱりレベリングはするべきだね。

 

 

 

    

 




  
 そろそろヒロインが登場します。
 


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蜘蛛さんのご兄弟

 
 
   


 今、私たちは蜘蛛型モンスターに囲まれている。

 え?唐突だって?

 出会いもそれぐらい唐突だったよ。

 

 それはある日のこと。

 いつものように下層で適当な魔物を狩ってレベル上げをしていたら叡智に無数の反応あり。

 どうやら私たちに一直線に向かってきているようだ。

 一体何がくるのか、千里眼で見てみるとそこにはなんと大量の蜘蛛が!!

 しかもとんでもないヤツが来ていた!

 その名はアークタラテクト。

 

 『アークタラテクト LV31

  ステータス

 HP:4466/4466(緑)

 MP:3182/3182(青)

 SP:4267/4267(黄)

   :4262/4262(赤)

 平均攻撃能力:4399

 平均防御能力:4315

 平均魔法能力:3004

 平均抵抗能力:3101

 平均速度能力:4237

 スキル

 「HP高速回復LV5」「MP回復速度LV7」「MP消費緩和LV7」「SP高速回復LV2」「SP消費大緩和LV2」

 「魔力操作LV7」「魔力撃LV6」

 「魔闘法LV4」「気闘法LV7」

 「糸の才能LV5」「万能糸LV3」「操糸LV10」「念動LV2」「毒合成LV5」「空間機動LV8」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV2」「飽食LV4」

 「猛毒攻撃LV10」「状態異常大強化LV3」「破壊大強化LV2」「斬撃大強化LV4」「貫通大強化LV8」「打撃大強化LV3」「衝撃大強化LV1」

 「危険感知LV10」「気配感知LV10」「動体感知LV10」「魔力感知LV7」

 「外道魔法LV10」「毒魔法LV10」「治療魔法LV4」

 「破壊大耐性LV1」「斬撃大耐性LV2」「貫通大耐性LV2」「打撃大耐性LV4」「衝撃耐性LV9」「状態異常大耐性LV8」「腐蝕耐性LV6」「外道耐性LV5」「苦痛無効」「痛覚大軽減LV2」

 「暗視LV10」「視覚領域拡張LV7」「視覚強化LV10」「千里眼LV2」「聴覚強化LV7」「嗅覚強化LV2」「触覚強化LV7」「天命LV2」「魔蔵LV8」「天動LV1」「富天LV1」「剛毅LV2」「城塞LV2」「道士LV7」「護符LV8」「韋駄天LV1」「禁忌LV7」

 スキルポイント:34500

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「魔物殺し」「毒術師」「魔物の殺戮者」「糸使い」「魔物の天災」「人族殺し」「覇者」』

 

 わーお!

 なんてステータスでしょう!

 ふっ防衛力、たったの4000か、ゴミめ。

 というか速度も私が勝ってるじゃん。

 300ぐらいだけだけど。

 ステータスで私が負けてるの攻撃能力だけじゃん。

 勝ったな。

 楽勝じゃん。

 

 

 アークが10体もいなければね!

 

 

 なんでそんなにいるの?

 君たちさ、ステータスなら龍種ぐらいあるよね。

 つまりこれさ、龍種が10体来てるってことだよね。

 なんでそんなことするの?

 10体ってどういうこと?

 もっと他に無かったの?

 ……。

 ………。

 …………。

 ……………。

 蜘蛛さんや、どうするよ。

 

 『一旦退却!作戦を練るぞ!』

 

 『了解。』

 

 私は上層の唯一巣がある場所に転移する。

 蜘蛛さんは糸でできたベットに寝転がる。

 

 『………ないわー。』

 

 『ないねー。』

 

 なんで私たちはこう……ステータスが高い相手の集団と遭遇するの?

 火竜とか火竜とか火竜とかさ。

 火竜のときは4体だったけど今回は10体。

 しかも全員龍種並のステータス持ち。

 火竜並のステータスを持ったグレーターもたくさんいたし。

 うわぁ……叡智でマーキングしたアークが私たちに向かってきてる。

 なんで場所がバレてるんだろう。

 そもそもなんでアーク達は私たちを襲ったんだろう?

 

 『……ナンデダロウナー。』

 

 『蜘蛛さん、何かした?』

 

 『いいいいや何も!……何もシテナイヨ。』

 

 『正直に話して。』

 

 『………マザーの精神を攻撃してました。』

 

 『精神を?なんで?』

 

 どうやったかは後で聞こう。

 

 『マザーが私を支配しようとして来たから。』

 

 『………それでマザーはそれを止めようと蜘蛛さんを倒すようにアークに頼んだっていうこと?』

 

 『多分、きっと、メイビー。』

 

 『はぁ…なるほどね。』

 

 てことはこの状況は蜘蛛さんのせいってことか。

 うーん。

 支配しようとしてきたからお返しに精神を攻撃した……ね。

 まぁ、正当防衛かな。

 こうなっちゃったのは仕方がない、この状況を打破できる策を考えよう。

 と、いってもアーク達を倒す。

 それしか方法は無いね。

 精神攻撃を止めてマザーに許してもらうのもあるけど、蜘蛛さんの事だし精神攻撃はやめないだろうね。

 

 さて、どうやってアーク達を倒そう。

 

 『真正面からは……イケるか?』

 

 『いくら強くなったとはいえあのステータスの集団を真正面で倒せるのは無理だと思う。』

 

 『だよねぇ……んーじゃあマグマ風呂にご招待するのはどうよ?』

 

 『どうやって?』

 

 『転移で。』

 

 『うーん。確かに良いかもしれないけどどうやってアーク達を転移させるの?』

 

 『糸で頑張って拘束して身動きが取れないところを転移!…どう?』

 

 『いいね、やってみよう。』

 

 私の言葉を最後に、せっせと罠の準備をする。

 あのアークを拘束するにはパパっと作れる糸ではなく、何重にも重ねたガチガチな糸じゃないと安心できない。

 グレーターはまぁ……魔法で十分のはずだ。

 それ以外のタラテクトも暗黒弾とかで十分だろう。

 

 む、あともう少しで速度が速いアークは着くな。

 でもここは狭い通路だし、10体同時に来るなんてことは無いはず。

 詰められて5体ぐらい?

 あ、今思いついたけどぎゅうぎゅうになったアーク達に破滅スキルの技を喰らわせるのはどうだろう。

 いいね、それ。

 蜘蛛さんも良いって言ってくれたし、罠にかかる前はそれで応戦しよう。

 

 お、ちょうどいいところに来た。

 予想通りここの通路は狭くて全員がいっき来ることはできないみたいだね。

 それじゃあ、さっそく攻撃を開始。

 破滅レベル4、破滅榴弾。

 その名の通り破滅弾の爆発するバージョン。

 MP消費がちょいと多いけどそれ以上に高い威力を出してくれる。

 これには破滅属性だけでなく衝撃属性も込められた爆発を起こすから、たとえ抵抗能力が私の魔法能力を超えていたとしてもノーダメージでは済まない。

 

 アーク達に破滅榴弾が命中する。

 一発一発がそこそこな爆発を起こし、迷宮中に爆音が響き渡る。

 うん。

 うるさい。

 でも我慢我慢。

 見ればアークのHPは減ってってる。

 いいね。

 この調子で撃ちまくろう。

 蜘蛛さんも手伝ってね。

 

 『もちろん。』

 

 蜘蛛さんと私で大量の破滅榴弾と暗黒弾をアーク達に撃つ。

 前のアークはHPがかなり減ってる。

 この調子なら2体ぐらいはアークを倒せそう。

 む、後ろのアーク達が後ろに移動してる。 

 逃げてるわけじゃないね。

 周り込みかな。

 いや、道を開けたのか。

 遅れてやってきたグレーターとその他のタラテクトのために。

 まぁ肉壁がきたって感じかな。

 感動的なあれこれは無さそう。

 蜘蛛さんぐらいの大きさのタラテクト、スモールレッサータラテクトが暗黒弾と破滅榴弾を防ぐ。

 一発被弾するごとに何匹もやられてるけどそこらへんは数の暴力でカバー。

 私は破滅弾をタラテクト達に撃ち込む。

 破滅弾は魔法能力と抵抗能力に大きな差があると貫通する。

 タラテクト達のステータスなら貫通できる。

 これで素早く倒せて、MP消費も少なく済む。

 

 『フハハハハ!!数あれば倒せると思ったかー!』

 

 これでタラテクト対策はバッチリ。

 さて、戦況確認。

 タラテクトはゴミのようだ。

 グレーターは流れ弾でHPがそこそこ減ってる。

 ダメージを受けたアークは後方で回復中。

 そして何体か周り込んできてるね。

 うん。

 今のところ私たちが優勢だ。

 この調子でアークを除くタラテクトを倒して、アークはマグマ風呂にボチャン。

 完璧な作戦だね!

 勝ったな、風呂入ってくる。

 

 

 

  

 




 
 アニメでマザーが出た時にまわりにめっちゃアークタラテクトいたんでこの蜘蛛子とタニシなら10体ぐらい来てもいいんじゃないかなって。
 


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ドキっ!蜘蛛だらけの戦い

 
 
    


 『どーしたー!!さっきまでの勢いはどこいったー!!グハハハハハ!!!』

 

 暗黒弾で体が弾け、破滅榴弾で消し飛ぶ。

 破滅弾が体を貫き、さっき上がった暗黒魔法の暗黒槍が射線上のタラテクトを散らす。

 後ろに控えているアークを除くタラテクト達は接近すら許さずその命を散らしていた。

 どこからどう見ても私たちが圧倒している。

 勝利を確信するには十分な光景だ。

 しかし調子に乗るのはよろしくない。

 それで今まで苦労してきているのだから。

 猿戦で死ぬ寸前レベルアップでテンションマックス、それを狙われて大ダメージ。

 ……ん?それ以外思いつかないな。

 なんだ、私ってあんまり慢心してないんだね。

 蜘蛛さんは慢心してたけど。

 私がフォローしたから酷い目に合わなかった。

 そう思えば私って結構役に立ってるんだね。

 

 む、叡智に反応あり。

 周り込んでたアークじゃない。

 それよりずっとスピードが速い。

 いや、速すぎる!

 もうここに着く!

 速度能力10000はあるんじゃないの!?

 

 私はその謎の反応が来る方向に視線を向ける。

 恐ろしい何かが恐ろしいスピードで接近してくる。

 恐ろしさの2セットだ。

 一体どんなのが来るのか、迷宮の奥を注意深く見ていたら手が六本ある不気味な人形が見えた。

 それがとてつもないスピードで近づいてくる。

 あれが反応の正体…!

 蜘蛛型じゃないし何の魔物なんだろう。

 それに何が目的でここに来たんだろう。

 アークタラテクトを狙って来たとか?

 ………いや、それは無さそう。

 だって私たちに対してものすごい敵意を感じるんだもん!

 つまりあれはマザーからの刺客か!

 全然蜘蛛じゃないじゃん!

 うわやばい早く何とかしないと!

 

 『暗黒槍!』

 

 蜘蛛さんが暗黒槍を人形に放つ。

 人形は速度を落とさずやたらアクロバティックな動きで暗黒槍を回避する。

 こんな動きをするくらいに魔法の速度が遅いぜと挑発しているのだろうか。

 ならこれは避けられるかな。

 破滅小弾ショット!

 洞窟いっぱいに破滅小弾がバラ撒かれる。

 これならどうあがいても被弾するだろう。

 私の予想通り変な人形に多数ヒットする。

 

 こうかはいまひとつのようだ。

 

 …だよね。

 速度10000ぐらいの奴が抵抗能力は低いとかあるわけないもんね。

 この人形が速度極振りならばワンチャンあったけど、あれバランスの良い化け物ステータスな奴だ。

 あの人形に破滅属性は効かない。

 なら暗黒魔法とか邪眼スキルでやるしかないか。

 あ、駄目だ。

 呪怨と暗黒は効果が見られないし暗黒弾は避けられてる。

 ならばもっと増やすまで、とやりたいところなんだけどそれをやるとタラテクト達を抑えきれなくなる。

 

 うググ……まずい。

 時間稼ぎはできてるけど人形はすぐにここに辿り着く。

 もし辿り着けば対処するのは難しい。

 あの人形だけなら倒せたけどタラテクト達を抑えながらなら別だ。

 人形の対処をすると弾幕が弱まりタラテクト達が迫ってくる。

 タラテクト達を抑えてると人形の対処ができなくなる。

 あっちが立てばこっちが立たず、しかし向こうはどちらでも良い。

 人形1体で形勢逆転された。 

 

 『蜘蛛さん、どうする?』

 

 『……中層に一旦転移しよう。そこでまた作戦を立てる。』

 

 『了解。』

 

 というわけで仕事だ。

 私4号から私6号、転移を全力でやって。

 

 レベリングで上がった並列意思、ぶっちゃけ私3号までで十分だったから暇してたけど今こそ出番の時。

 私の命令通りに4号から6号が協力して転移魔法を発動させる。

 複数人でやったからか術式はあっという間に完成し、すぐそこに人形が迫っていたところで転移した。

 

 目の前はマグマの海に囲まれた陸地。

 無事中層に転移完了したようだ。

 危なかった。

 もう少し遅かったらやばかったかもしれない。

 私の防御力が10000を超えているとはいえ、確実に防げる保証はない。

 あの人形は攻撃能力30000とかかも知れないからね。

 流石に30000は無いだろうけど、10000は確実に超えてるだろう。

 だって手に剣みたいの持ってるんだもん。

 攻撃力絶対高い。

 

 『うーむ。』

 

 『どうする?蜘蛛さん。』

 

 『ん?んー……。とにかくアーク達とパペットタラテクト、2つを同時に戦うのは難しい、てか無理。』

 

 『パペットタラテクト?』

 

 『あの人形の名前ね。ステータスは平均10000だったよ。』

 

 『10000かぁ……。』

 

 予想通りだけど高い……。

 今までで一番のステータスを持った敵だ。

 というかタラテクトの名前があるということはあれ蜘蛛なの?

 蜘蛛じゃないじゃん。

 名前パペットだけでいいんじゃない?

 何か駄目な理由でもあるのかな。

 おっとそんなことよりパペットタラテクトの対処法を考えないと。

 うーん。

 あれだ。

 タラテクトだしアークと同じマグマ風呂に入れればいいんじゃないかな。

 いや、平均10000のステータスを持つ敵を抑える力なんて私たちにないか。

 万能糸でなんとかは……ならなさそう。

 手にある刃物で切られて終わり。

 なんとかしてパペットタラテクトをマグマの中に誘き寄せられないものか。

 いや蜘蛛なら熱さは弱点、苦手なところに突っ込むわけないよね、馬鹿じゃあるまいし。

 ん?そういえば蜘蛛さん火耐性を上げるためにマグマに手を突っ込んでたような?

 つまり蜘蛛さんは馬鹿?

 

 『ん?今なんかすっごい失礼なこと言われた気がする。』

 

 『気のせいでしょ。』

 

 『そっか。』

 

 さて、なんだっけ、ああそうだ。

 どうやってパペットタラテクトをマグマに入れるかだったね。

 うーん。

 ……。

 ひらめいた!

 空間収納にマグマを入れてそれを垂れ流せばいいじゃん!

 これは名案だね。

 さっそく蜘蛛さんに言ってみよう。

 

 『え?マグマを?………いいじゃん!やってみよ!』

 

 よし!許可を得たことだしマグマの中に空間収納を展開!

 どんどん入れてけー!

 おお、なんかマグマの蟻地獄みたいになってる。

 この調子でこのマグマ溜まりを空にしてしまおう。

 あれ、目標変わってない?

 まぁいいや。

 ん?叡智に反応あり。

 なぜかすごい嫌な予感がする。

 なんでだろうね。

 反応がものすごくデカイからかな。

 それはもう……火龍ぐらいに。

 

 突然、目の前のマグマが膨れ上がる。

 そこからデカイ魔物が現れた。

 

 『火龍フレム LV24』

 

 火龍だー!?

 ええい、一瞬で片付けてやる!

 龍力、魔神法を発動!

 喰らえ!破滅弾&破滅榴弾&暗黒弾&暗黒槍!!

 あと呪怨と暗黒の邪眼!

 さらに歪曲!

 そして死滅!

 最後に全力ブレス!!

 私たちが持つ最大火力だー!!

 

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV20からLV21になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV21からLV22になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV22からLV23になりました》

 

 ふっ……脆いな。

 あの火龍を一瞬で倒せるとは……成長を感じる。

 あ、死滅使っちゃったから死骸が残ってないじゃん。

 これじゃ食べられないや。

 ……ん?そういえばさっき蜘蛛さん、死滅の邪眼使ってなかった?

 大丈夫かな。

 

 私は蜘蛛さんの方を向く。

 蜘蛛さんに傷はない。

 レベルアップで回復したからかな。

 消滅しなくて良かったよ。

 いや、そういえば腐蝕大耐性LV6を取ってたね。

 なら大丈夫か。

 これからは死滅の邪眼を使っちゃっても良さそう。

 

 よし。

 マグマはある程度取り終わった。

 というかマグマ溜まりのマグマはほとんど取った。

 空間魔法をうまく使えれば噴火したみたいな感じにできそうなほどある。

 ククク。

 これをあそこに垂れ流せば私たちの勝ちだ。

 よし、アーク達のいる場所に転移しよう。

 なんか縦横無尽に動いてるけど何をしてるんだろう?

 まぁ、いっか。

 アーク達が何をしていようと私たちは奴らの頭の上にマグマをぶっかけるだけだ。

 蜘蛛さん、準備は良い?

 

 『ばっちりよ!』

 

 よし。

 マーキングでは……上層と下層を繋ぐ縦穴か。

 ならば縦穴の真上に転移!

 

 転移した瞬間、下からとてつもない轟音が鳴り響く。

 まるで何かが戦っているみたいな……。

 一体なんだと下を見てみると目を疑う光景が広がっていた。

 

 『地龍アラバ LV32』

 

 『アークタラテクト LV29』

 

 『アークタラテクト LV33』

 

 そこでは地龍とアークタラテクトの怪獣大戦争が勃発していた。

 

 

 

 




 
 一瞬で倒される火龍くん可哀想。
 
 蜘蛛だらけだが蜘蛛だけとは言ってない。

   


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大乱闘

 
 
 


 アークタラテクトが空間機動を使い、不規則に動きながらアラバに噛みつこうとするが、アークの目の前に土の壁が出来上がったため食い止められる。

 アラバはそれをつたってアークの上をとると、そのままアークの頭にブレスを放つがアークはそれをステップで避ける。

 しかし避けた先に土の槍が出来上がり、アークに浅く突き刺さる。

 突き刺さったアークにアラバはブレスを放つ。

 土の槍を抜くという作業があったため回避が間に合わず直撃する。

 その間に他のアークがアラバに近づきアラバの足に噛みつく。

 肉が裂け、そこから血があふれるがアラバは怯むことなくその足を動かしアークを壁に叩きつけ、そのアークに至近距離でブレスを放った。

 

 あれが蜘蛛さんの言ってた地龍アラバか……。

 超えるべき壁だって言っていた理由が分かった気がする。

 ステータスが上回るアーク2体に対してスキルを駆使してほぼ互角に戦っている。

 私みたいにただスキルを発動してステータスの暴力で戦うゴリ押し戦法とは大違いだ。

 私も見習わないとね。

 

 『アラバよ、戦っているところ悪いがマグマを落とさせてもらう。タニシちゃん、やるぞ。』

 

 『うん。』

 

 空間収納発動。

 異空間内のマグマが現世に顔出す。

 そこからダバダバと大量のマグマが漏れ出した。

 

 アラバはすぐに気がつき、その巨体に似合わない素早さでこの縦穴から逃げ出した。

 アーク達も急いで逃げようとするが、1体はまだ土の槍が抜けきっていなかったので逃げるのが遅れマグマを被ることになった。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV23からLV24になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV24からLV25になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV25からLV26になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV26からLV27になりました》

 

 よし、1体撃破。

 もうマグマは出さなくていいか。

 さて、逃げたアークはどこに行った?

 お、他のアークと合流する気か。

 あれ、合流地点のアークも縦横無尽に動いてる……。

 え?まさか……。

 千里眼でいける距離だし、確認してみよう。

 

 ふむふむ。

 アーク5体に地龍カグナとスマートな地龍が戦ってるね。

 ………。

 なんで戦ってるの?

 地龍の周りに潰れたグレーターと原型をとどめてないタラテクト達が散乱してるし、私たちを探している間に地龍が攻撃してきたって感じかな。

 これは……チャンスなのでは?

 あそこにマグマを出せばかなり倒せるかも。

 

 『ねぇ蜘蛛さん。』

 

 『どした?』

 

 『あっちでカグナと他の地龍がアークと戦ってるじゃんか。』

 

 『………そうだね。』

 

 『あそこにいってさ、上からマグマを落とせばみんな倒せるんじゃない?』

 

 『…いや流石にそれはないかな。カグナならワンチャンあるかもしれないけど。』

 

 『ん〜あ、そうだ。蜘蛛さん、深淵魔法とかどう?』

 

 『あの凶悪そうな奴ね。使ったことないからどんな効果か分からんが。』

 

 『マグマ戦法が失敗したら深淵魔法を発動させるっていうのはどう?』

 

 『あー良いかもね。でもどれ使う?色々あるけど。』

 

 『どんなの?』

 

 『えーっと地獄門、無信地獄、邪淫、美食………ほんと色々ある。私が思うに最後の反逆地獄が一番強力だと思うな。』

 

 『う〜ん、ここはいったん地獄門でいいんじゃない?ものすごい威力で天井が崩れたりしたら怖いし。』

 

 『おーけー地獄門ね。』

 

 よし、方針は決まった。

 ではさっそく怪獣だらけの場所に転移。

 

 やってきました戦場に。

 下層の大空洞だね。

 とてもうるさい。

 地龍の巨体が地面につくたびに地震が発生したように揺れるし、ブレスを放ってるからもっと揺れる。

 あとうるさい。

 防御力が低かったら鼓膜破れてそう。

 というかタニシに鼓膜ってあるのかな。

 まぁどうでもいいか。

 

 おーおー戦ってらっしゃる。

 あのスマートな地龍、見た目通り素早いね。

 腕にあるブレードでアーク達の外骨格に切り傷をつけてる。

 あと速度があるブレスを放ってる。

 カグナはずんぐりな体格を活かした体当たりとか、単純にブレス放ってアーク達を攻撃してる。

 アーク達はその高いステータスで地龍に噛み付いてダメージを与えている。

 カグナにもスマートな地龍にもいくつか肉が欠けているところがあるね。

 このまま戦い続ければ数の多いアークが勝つかな。

 アラバが特別なだけか。

 

 さて、そんな彼らに……上から来るぞ、気をつけろ!

 マグマをどっしゃあ!

 どうだ、空が赤くなる気分は。

 

 地龍とアーク達は上から迫るマグマの存在に気づく。

 

 スマートな地龍はその速度と空間機動でマグマをササッと回避。

 ずんぐりなカグナは上からくるマグマを被ることは回避できたが、空間機動のスキルを持っていなかったため、足湯ならぬ足マグマになった。

 アーク達は空間機動で普通に回避した。

 

 うーん。

 失敗だね。

 では蜘蛛さん、頼んだよ。

 

 『あいよ、深淵魔法!』

 

 蜘蛛さんの目の前に複雑な術式が浮かび上がる。

 え、いや、複雑すぎない?

 蜘蛛さんも慌ててる。

 これ、もしかして失敗する?

 

 『うごごごごごご!!!』

 

 蜘蛛さんが頑張って発動しようとしてる。

 いける?いけない?

 ……なんとかできそう。

 

 蜘蛛さんが術式を完成させている間にスマートな地龍……ゲエレが蜘蛛さんに襲いかかる。

 まずい、今の蜘蛛さんは魔法に集中してる。

 ここは私が食い止めるしかないか。

 

 ゲエレが空間機動で回り込み、そのブレードで蜘蛛さんを切断しようとするが、そうはさせん。

 ブレードの通る道に引斥の邪眼で私が入り込み、そのブレードに噛みつく。

 当然腐蝕大攻撃だ。

 ゲエレの腐蝕耐性はたったのLV1。

 つまりサヨナラ。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV27からLV28になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV28からLV29になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV29からLV30になりました》

 

 よし、蜘蛛さんは脱皮が始まってちょっとやり辛そうだったけどなんとか完成したみたいだ。

 引斥でカグナのブレスを反らしつつ、地獄門をこの目でみようと蜘蛛さんの方を向く。

 

 『喰らえ〈地獄門〉!!』

 

 蜘蛛さんが地獄門を発動させると、黒く禍々しいデザインの大きな門が現れる。

 そしてそれがゆっくりと、恐怖を煽るように開く。

 それは飲み込むモノ。

 それは壊すモノ。

 只々死と恐怖を感じさせ、自身が地獄にいるような感覚に陥る。

 いや、地獄にいるようなじゃない。

 地獄だ。

 開けばそこは地獄と化す。

 それが深淵魔法〈地獄門〉

 

 あとに残ったのは死にかけのカグナと3体のアーク。

 あれほどの魔法を喰らって生きているのは流石といったところ。

 私は龍力によるブレスを放ち、彼らにとどめを刺す。

 

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV30からLV31になりました》

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV31からLV32になりました》

             ・

             ・

             ・

 《経験値が一定に達しました。個体、ホロ・ライユがLV39からLV40になりました》

 

 ふぅ…。

 おっと気を抜いちゃ駄目だ。

 近くでアラバが戦ってる。

 千里眼で確認できる距離だ。

 アラバと戦ってるアークはここに向かっていたはずじゃ?

 アラバに食い止められたのかな。

 え、ていうか凄い。

 アラバがなんか炎を纏ってるしアークは1体殺られてもう1体も追い詰められてる。

 地龍が火龍みたいになってるのもステータスが下のアラバが格上のアーク2体に勝ってるのも驚きだ。

 今のアラバはなんという龍に分類されるのかな。

 地火龍?

 なんかダサいね。

 

 『はぁ………深淵魔法さ、結構MP食うわ。』

 

 『まあ…あれだけ強ければね。』

 

 『………そういえば私たちLV30になったから進化できるんじゃない?』

 

 『私はLV40だよ。』

 

 『え?あー……種族によって違うのかな?』

 

 『かもね。』

 

 『でもまぁ進化できるでしょ!』

 

 『そうだね。……どこで?』

 

 『あー……中層で。』

 

 『中層?なんだかんだでさ、中層が一番安心できる場所になってない?』

 

 『まぁ…私たちの敵があんまりいないし。上層も考えたけどさ、あそこパペットタラテクトが徘徊してるんだよね。万が一があるから中層で良いかなって。』

 

 『なるほどね。』

 

 『それじゃあ転移しますか。』

 

 『そうだね。』

 

 やってきました中層。

 いつも変わらずグツグツいってらっしゃる。

 ここの熱さに音を上げていたあの頃が懐かしい。

 前はここは地獄だって言ってたけど、今や安息の場所か……。

 人生なにがあるか分からないね。

 

 さてと進化しなきゃ。

 そういえば今回で最終進化かー。

 感慨深いような気がする。

 進化先はなにがあるのかな?

 

 《進化先の候補が複数あります。次の中からお選びください。

  ゼル・ゾロフ

  ホロ・レイヤ》

 

 今回は2つか。

 いや進化ツリーで知ってたけどさ。

 最終進化でも選択させないでよ。

 次がないからドキドキするじゃんか。

 鑑定。

 

 『ホロ・レイヤ:進化条件:ホロ・ライユLV40:説明:破滅そのもの。決して存在を赦してはならない。』

 

 『ゼル・ゾロフ:進化条件:ホロ・ライユLV40、天災の称号1つ、殺戮者の称号2つ、殺しの称号3つ、大崩壊の称号:説明:終焉を齎す魔物。』

 

 相変わらず説明になってない。

 ………お願いだからさ、その進化先は何ができるようになるのかを説明してほしいな。

 ほんと、ドキドキするから。

 

 

 

  




 
 ゼル・ゾロフのそれっぽいのを詰め込んだ感。
 着々と「ぼくのかんがえたさいきょうのたにし」が出来上がりつつある。


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これが私の最終形態

 
 
  


 うーん。

 まぁ、ゼル・ゾロフ1択かな。

 一応蜘蛛さんと相談したけどゼル・ゾロフが良いと言ってた。

 レアなものは選ぶべきだって。

 終焉を齎すとか強そうなこと説明に書いてあるし、最終進化だしどれを選んでもプラスになるだろう。

 ゼル・ゾロフはそのプラスがホロ・レイヤより多いはず。

 これだけ条件を詰め込んで大したことなかったらDさんに文句言おう。

 

 蜘蛛さんはザナ・ホロワっていうエデ・サイネの正当進化を選んだみたい。

 うーん。

 ま、いっか。

 そういえばゼル・ゾロフもザナ・ホロワも進化でいえばマザーであるクイーンタラテクトと同列種族なんだね。

 あのマザーを、いつか私たちは越すのか。

 圧倒的な成長を感じる。

 

 さて、進化しようかね。

 

 《個体ホロ・ライユがゼル・ゾロフに進化します》

 

 はい。

 

 さて進化の感覚だ。

 この中身がグリュグリュする感じね。

 これもこれで最後かぁ……。

 なんだか寂しいよ。

 噛み締めておくべきかな。

 いや、いっか。

 

 《進化が完了しました》

 《種族ゼル・ゾロフになりました》

 《各種基礎能力値が上昇しました》

 《スキル熟練度進化ボーナスを獲得しました》

 

 ズラーっとレベルアップの通知が来る。

 気がつけば数える気が失せるほどのスキル量。

 この世界に転生した時はスキルは確かたったの4つ。

 成長したんだなぁ……。

 

 《進化によりスキル「龍化」を獲得しました》

 《進化によりスキル「不死」を獲得しました》

 

 …え?

 ……え!?

 龍化!?不死!?

 なにそのスキル!?

 特に不死って!

 良いの?

 こんなスキル取っちゃって。

 いいのなら貰ってくよ。

 

 『不死……だと…。』

 

 あれ蜘蛛さん、今回はお早いお目覚めですね。

 そんなことはどうでもいい。

 

 『それに龍化……グフフ…勝った!』

 

 『やったね。』

 

 『これはもう無敵だぁ。』

 

 〘もっと調子にのってください。〙

 

 『ふはははは………さりげなく会話に混ざらないで?D。』

 

 え?

 あ、後ろにスマホが……いつの間に。

 相変わらず空間に歪みなしで転移してきてらっしゃる。

 

 〘どうもこんにちは。Dです。〙

 

 『はぁ……なんのよう?』

 

 〘お祝いですよ。不死に至った。〙

 

 『そう、じゃあね。』

 

 『蜘蛛さんそっけないね。』

 

 〘なんででしょうね?〙

 

 『だって邪神に祝われるとか縁起に良くないし。』

 

 〘失礼な、私に祝われるなんて滅多にないことですよ?〙

 

 『凶悪な技ほど取っておくって言うじゃん?』

 

 『Dさんの祝いは必殺技なの?』

 

 『そうかも知れない。』

 

 〘さっきから失礼ですよ。〙

 

 『Dさん、今回私たちの前に出たのはお祝いだけなの?』

 

 〘まさか、ご褒美としてまた色々教えてあげますよ。貴方達にとって情報は喉から手が出るほど欲しいものでしょう?〙

 

 『まぁ…今の私たちの情報源、叡智の検索と禁忌の内容だけだからね。情報は欲しいよ。』

 

 〘でしょう?さぁ、知りたいことを言ってください。〙

 

 『あーじゃあなんで不死なんてスキルを得たの?』

 

 『龍化についても教えて?』

 

 〘ご説明しましょう。まず不死ですが、蜘蛛さんが進化したザナ・ホロワは不死の魔物という設定があります。なので不死のスキルを得た、ということです。〙

 

 『設定を本物にするのか……。』

 

 〘ええ、そして龍化ですね。これも同じような理由で、タニシさんが進化したゼル・ゾロフにその正体は龍である、という設定があったからですね。〙

 

 『え?じゃあ私って龍なの?』

 

 〘そうですね。ですが完全に龍というわけではなく、半龍半貝って感じです。〙

 

 『へー……半貝でものすごく弱そうに聞こえる。』

 

 〘そう聞こえても龍化のスキルは凄まじいですよ?龍力のように借り物ではなく本物ですから。〙

 

 『えーっと、つまりどういうこと?』

 

 〘タニシさんなら腐蝕龍、または破滅龍といえる存在になりますね。〙

 

 『おー…?よく分からないけどすごく強そう。』

 

 『え?じゃあ私は?どうなるの?』

 

 〘蜘蛛さんがやっても龍になれません。〙

 

 『え!?なんで!?』

 

 『Dさん、どういうこと?』

 

 〘龍化のスキルは自身に眠る龍の因子を呼び覚まし、龍となるスキルです。タニシさんは半龍半貝なので龍の因子がありますが蜘蛛さんはありません。なので蜘蛛さんは龍化のスキルを発動させても意味がありません。〙

 

 『オーノー!!私も龍になりたかったよチクショウ!!』

 

 『……どんまい、て言うべき?』

 

 『言って、私を慰めて。』

 

 『おお、蜘蛛さんよ、龍になれないとは情けない。』

 

 『馬鹿にしてんのか?』

 

 『そんなことないよ。ほんとだよ。』

 

 『ほーん、ふーん。』

 

 〘何か他に聞きたいことはありませんか?〙

 

 『ね、ねぇDさん、前に先代勇者と先代魔王が次元魔法でうんたらで私たちは死んだんだよね。』

 

 〘そうですね。〙

 

 『私たちの教室にその魔法が来たのは偶然なの?』

 

 〘偶然ではないでしょうね。〙

 

 『あれ、偶然じゃないの?』

 

 〘はい。先代勇者と先代魔王が次元魔法を使って管理者を攻撃しようとした、ここまでは分かってますね?〙

 

 『うん。』

 

 〘管理者を攻撃するには当然管理者を狙わなければなりません。〙

 

 『うん……ん?』

 

 〘その照準が、高校生ごっこしていた私に向いてしまったのでしょう。だから貴方達がいた教室で暴発したのでしょうね。〙

 

 『うん……え?高校生ごっこ?』

 

 『ちょっと待った!あんた教室にいたの!?誰!?名前は!?』

 

 〘秘密です。〙

 

 『えー。』

 

 『だろうね。』

 

 〘そんなわけで教室にいた先生を含む25人の生徒達は死んでしまいました。〙

 

 『うわー…。』

 

 『ないわー。』

 

 〘他になにかありますか?〙

 

 『んーどうやったら神になれるの?』

 

 〘それは自分で答えを探してください。〙

 

 『だよねー。』

 

 〘そろそろお別れの時間ですね。今後も面白いことをしてくれるのを期待していますよ。それでは、また。〙

 

 スマホがフッと消える。

 重要そうな情報を得た感じはしなかったけれど、あの時から考え続けていた疑問が晴れた。

 まさか教室にDさんがいたとはね。

 誰だろう?

 Dさんはすごい高位の神だから神々しいオーラを纏ってた人がDさんかな?

 ……あれ、そんな人いないよ。

 Dさんは神々しいオーラを引っ込めてたとか?

 だとしたら、うーんと。

 Dさん邪神だし若葉さんを虐めてたあの子かな?

 いや、Dさんはもっとすごい、いじめなんて言葉じゃ表せないくらいのことをしそうだから違うか。

 うーん……考えてもわからないや。

 保留。

 

 あ、そういえば私進化してたじゃん。

 ステータス見よっと。

 

 『ゼル・ゾロフ(篠前 ゆりか) LV1

  ステータス

 HP:17810/17810(緑)+7800

 MP:10411/10411(青)+4200

 SP:11059/11059(黄)+4700

   :11400/11400(赤)+4800

 平均攻撃能力:8742      +5200

 平均防御能力:17481     +7200

 平均魔法能力:10636     +4200

 平均抵抗能力:20475     +6200

 平均速度能力:8980      +4400

 スキル

 「HP超速回復LV4」「SP高速回復Lv6」「SP消費大緩和Lv5」「魔導の極み」

 「吸収lv10」「共存lv10」「同心」「破滅LV7」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「万能糸LV6」「操糸10」「遠話lv10」「毒合成LV10」「薬合成LV5」「集中LV10」「思考超加速Lv5」「未来視LV3」「並列意思Lv7」「高速演算Lv9」「命中Lv8」「回避LV7」「確率補正LV6」「空間機動LV7」「糸の天才LV2」「狂LV10」「挑発LV5」「隠密LV5」「迷彩LV3」「無音LV10」「飽食LV2」「暴君LV2」「帝王」「魔王LV2」「不死」「龍化」

 「闘神法LV4」「気力付与LV5」「魔神法LV4」「龍力LV8」

 「恐怖耐性Lv3」「酸大耐性Lv1」「気絶耐性LV5」「重大耐性LV2」「状態異常大耐性LV1」「斬撃大耐性LV4」「打撃大耐性LV5」「破壊大耐性Lv4」「火炎耐性LV3」「痛覚大軽減LV2」「睡眠無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「外道無効」

 「外道魔法LV10」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV5」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV3」

 「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv10」

 「韋駄天lv10」「のんびり屋LV10」「城塞LV4」「剛毅LV4」「天動Lv1」「富天LV2」「天命LV7」「千里眼LV8」「五感大強化LV3」「視覚領域拡張Lv10」「神性拡張領域LV7」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV10」「外道攻撃LV1」「猛毒攻撃Lv7」「破壊大強化Lv3」「斬撃大強化Lv3」「状態異常大強化Lv4」

 「呪怨の邪眼LV10」「歪曲の邪眼LV4」「静止の邪眼LV6」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV2」「悄然の邪眼LV5」「狂乱の邪眼LV3」「死滅の邪眼LV3」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV10」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:37980

 称号

 「のんびり屋」「悪食」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「大崩壊」「崩壊」「覇者」』

 

 わーお。

 もはや10000を超えてないステータスのほうが少ないね。

 スキルも色んなのが上がってるね。

 あ、〈狂〉がカンストした。

 これでスキルポイントは100までになったね。

 まぁスキルポイントを使うつもり無かったし別にいいけどね。

 おやおや。

 〈帝王〉やら〈暴君〉やら〈魔王〉やら、物騒なスキルがあるね。

 称号も〈覇者〉があるし、完全に悪者だね、私。

 

 蜘蛛さんの方は?

 

 『ザナ・ホロワ LV1 名前 なし 

  ステータス

 HP:8360/8360(緑)

 MP:15991/15991(青)

 SP:5646/5646(黄)

   :5930/5930(赤)

 平均攻撃能力:5065 

 平均防御能力:5175

 平均魔法能力:13937

 平均抵抗能力:14064

 平均速度能力:9272

 スキル

 「HP超速回復LV4」「SP高速回復LV6」「SP消費大緩和LV5」「魔導の極み」

 「破壊大強化LV3」「斬撃大強化LV3」「状態異常大強化LV4」「猛毒攻撃LV7」「外道攻撃LV1」「腐蝕大攻撃LV8」

 「闘神法LV4」「気力付与LV5」「魔神法LV4」「龍力LV8」

 「吸収LV2」「破滅LV7」「糸の天才LV2」「万能糸LV7」「操糸LV10」「投擲LV7」「空間機動LV7」「集中LV10」「思考超加速Lv5」「未来視LV3」「飽食LV4」「暗視LV10」「並列意思LV7」「高速演算LV9」「命中LV10」「回避LV10」「確率補正LV6」「毒合成LV10」「薬合成LV5」「遠話Lv10」「隠密LV10」「迷彩LV3」「無音LV10」「狂LV10」「暴君LV2」「帝王」「魔王LV2」「不死」「龍化」

 「奈落」「傲慢」「断罪」「忍耐」「叡智」「禁忌LV10」

 「外道魔法LV10」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV5」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV3」「深淵魔法LV10」

「破壊大耐性LV3」「打撃大耐性LV5」「斬撃大耐性LV4」「火炎耐性LV3」「重大耐性LV2」「状態異常大耐性LV1」「酸大耐性LV1」「腐蝕大耐性LV7」「気絶耐性LV5」「恐怖耐性LV7」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚大軽減LV2」

 「千里眼LV8」「五感大強化LV3」「視覚領域拡張LV10」「神性拡張領域LV7」「天命LV7」「天動LV1」「富天LV2」「剛毅LV4」「城塞LV4」「韋駄天LV10」「星魔」

 「呪怨の邪眼LV10」「歪曲の邪眼LV4」「静止の邪眼LV6」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV2」「悄然の邪眼LV5」「狂乱の邪眼LV3」「死滅の邪眼LV3」「幻痛の邪眼LV1」「暗黒の邪眼LV10」「不快の邪眼LV1」「催眠の邪眼LV1」「石化の邪眼LV1」

 「n%I=W」

 スキルポイント:1850

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「大崩壊」「恐怖を齎す者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「傲慢の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「覇者」』

 

 わーお。

 こんなステータスの魔物でしかも不死?

 いやだなー怖いなー。

 まぁ私も不死だけどね。

 これもう、マザーに勝てるんじゃないの?

 

 

 

 




 
 なぜ龍化があるのか。
 貝で伝説上の生き物“蜃”というものがあります。
 中国や日本に伝承され、巨大なハマグリや雷獣、竜の1種とする説もある生物です。
 ハマグリはなんか違う。
 雷獣は強そうだけどタニシのイメージに合わない。
 なら竜だな。
 でも竜化だと弱いし龍化にしたろ!って感じです。

  


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蜘蛛4 私たちは強くなりすぎた

 
 
 


 今回の進化で私たちの力は大幅にアップした。

 ひょっとしたらマザーにも勝てるんじゃねって思うぐらいには強くなった。

 不死とかいうチートスキルも手に入れたし、タニシちゃんは龍になれるし、負ける要素がなくなってきた。

 それでもまぁ、なんかありそうだから正面からは戦わないけどね。

 今もマザーの精神モグモグ中だし、食べ終わるまでマザーとは関わらないようにしよう。

 余計なリスクは負わない、当たり前の戦法よ。

 

 さてさて現在下層の大空洞に来ております。

 タニシちゃんの龍化実験のためだ。

 貰ったのなら試運転。

 どんな感じなのか知らなければ肝心な時に使えやしない。

 Dに私は龍になれないと言われた瞬間、龍化スキルを発動させたけど反応なしだった。

 悲しい。

 ここはタニシちゃんの龍の姿を見て諦めるしかないか。

 もっと羨ましくなりそうだけど私にはアラクネがあるもんね!

 上半身だけとはいえ人になれるんだよ!

 どうだ、羨ましいだろー!

 はっはっはーー!

 はぁ……。

 

 『それじゃあ龍化発動するね。』

 

 『どうぞ。』

 

 タニシちゃんが龍化を発動させる。

 その瞬間、世界が黒く染まったと思えば目の前に巨大で禍々しい龍がいた。

 黒が強めの赤黒い鱗にオレンジ色の模様が刻まれていて、今まで見た地龍や火龍のような姿ではなく、東洋の龍のような、蛇のような細長い姿をしていた。

 うーん、The 龍って感じだね。

 強そう。

 うわっ眼が5つもある。

 気持ち悪!私が言えたことじゃないけど。

 すごい強そう。

 鑑定結果が変わってたりしないかな?

 鑑定。

 

 『終焉の龍 ゼル・ゾロフ(篠前 ゆりか) LV1

  ステータス

 HP:22810/22810(緑)

 MP:7411/15411(青)

 SP:16059/16059(黄)

   :9400/17400(赤)

 平均攻撃能力:13742      

 平均防御能力:22481     

 平均魔法能力:15636   

 平均抵抗能力:25475     

 平均速度能力:13980』

 

 oh…まじすか。

 全ステータス5000アップとかありえねー。

 龍になるのにSPとMPを3000ずつ消費してるけどそれが気にならないくらいステータスが高えわ。

 うわっ、しかもスキルに〈破滅鱗LV10〉とか〈終焉の龍LV10〉とか、あと〈浮遊〉なんて生えてるしやっべぇなこれ。

 

 『破滅鱗:終焉の龍だけが持つことができるスキル。常に破滅属性を纏っており、防御力上昇や魔法妨害能力がある。』

 

 『終焉の龍:終焉の龍だけが持つことができるスキル。その効果はレベルによって異なる。』

 

 おうおう。

 なかなかやばい能力が揃ってらっしゃる。

 終焉の龍はあれか。

 破滅とか火龍みたいなレベルによって出来ることが増えるやつか。

 てかこれ変身したあとの維持費はないのね。

 よく変身ものでありがちな消費が激しくなるとかは無いみたい。

 すげーな。

 まぁ、私は将来アラクネになれるからいいんだけどね?

 羨ましくなんてない。

 ないったらない。

 

 『タニシちゃんや、今の気分はどうだい?』

 

 『うーん……なんて言うんだろう……本来の姿を取り戻した感じがする。元からこの姿で事情あってタニシの姿になっていた……みたいな。』

 

 『Dの奴が言ってたその正体は龍であるって設定じゃね?』

 

 『ああ、なるほどね。うわーこのままでいたいなー。開放された気分……。』

 

 『その巨体じゃ迷宮内じゃ満足に動けんでしょうよ。』

 

 そう、今のタニシちゃんはめちゃデカイのだ。

 長さでいったら今まで見た魔物で1位2位争うレベルの長さ。

 ステータスの高さもあるけど質量があるから破壊力はステータス以上じゃないかな。

 てか質量どっから来たんだよ。

 あー…でも蜘蛛糸も質量保存の法則無視してるし、それの延長線上か。

 

 んーどうしよう。

 とりあえずまだ残ってるアークとパペットをやりにいきますかね。

 

 『タニシちゃん、向こうに2体ぐらいアークがいるから倒してきてよ。龍形態の性能も見ておきたいしね。』

 

 『分かった。』

 

 タニシちゃんの長い体がアークの反応へと一直線に向かう。

 無音で。

 多分無音スキルがカンストしてるからだろうね。

 怖。

 あの巨体が無音で近づいてくるなんてホラーじゃん。

 

 お、アーク達の姿が見えてきた。

 おう…アークの何倍だよ。

 とにかく体格差がすげーある。

 あのアークが小さく見えるとかまじでデケーな。

 

 アークが龍になったタニシちゃんに噛みつくが、牙がほんのちょっと刺さるだけだっだ。

 しかもその牙が削れてきてる。

 破滅鱗の効果か。

 タニシちゃんはお返しとばかりにブレスの準備をする。

 そして極大のものを吐くとアークは消えてなくなった。

 

 《経験値が一定に達しました。ザナ・ホロワがLV1からLV2になりました》

 《経験値が一定に達しました。ザナ・ホロワがLV2からLV3になりました》

 

 おう、まじっすか。

 一撃っすか。

 ならば静止からの歪曲の邪眼!!

 アークを空間ごと捻じ曲げる!!

 

 《経験値が一定に達しました。ザナ・ホロワがLV3からLV4になりました》

 《経験値か一定に達しました。ザナ・ホロワがLV4からLV5になりました》

 

 ふっふん!

 私だってアークを一撃で倒せるんだからね!

 まだ私のほうが強いんだからね!

 勘違いしないでよね!

 つーかさらっとやったけど私、アーク一撃で殺れるんか……。

 あのアークが?

 龍並のステータスを持つあのアークが?

 つまりそれって、龍を一撃で倒せるってことだよね。

 ならあのアラバも……?

 ………試してみるか。

 

 そんなわけでやってきましたアラバのいる場所へ。

 タニシちゃんは置いてきた。

 今頃残りのタラテクト達を倒しに行ってると思う。

 あのタニシちゃんなら大丈夫でしょ。

 

 さてさて、前方に何やら大きな魔物がいるなぁ。

 

 『地龍アラバ LV36』

 

 やぁアラバ。私のトラウマ。

 こうやってお前の前に立ってよく分かったよ。

 私はもう、お前より強い。

 それはもう、圧倒的に。

 アラバの方もそのことをわかってるんじゃないかな。

 それでもアラバは逃げることを選択しないみたいだ。

 武士の心ってやつ?

 

 アラバが炎を纏う。

 戦う準備ができたみたいだ。

 

 少しの静寂。

 そして音も無く、戦いが始まった。

 アラバが大地魔法で私を串刺しにしようといたるところから土の槍を生やし、遠くからブレスを放ってくる。

 私は迫りくる槍を避け、アラバに静止の邪眼を当てるとアラバはまるで時間が止まったように動かなくなった。

 

 その無防備な首に歪曲の邪眼を当てる。

 アラバの首が捩じ切れ、そこから血が溢れ出す。

 アラバの体に力が無くなり、血を流しながら地を揺らす。

 

 《経験値が一定に達しました。ザナ・ホロワがLV5からLV6になりました》

 《経験値が一定に達しました。ザナ・ホロワがLV6からLV7になりました》

 

 ………勝った。

 あのアラバに。

 呆気なく。

 嬉しい。

 超えるべき壁を超えられた。

 だから、嬉しい……はずなんだけど……。

 なんだろう?

 この気持ちは。

 なぜかスッキリしない。

 ………。

 駄目だ、考えてもわからない。

 とにかく、私のトラウマ克服記念としてアラバを食べよう。

 ……うむ、美味しくはない。

 でも味付け次第では化けそうな味だ。

 アラバよ、私にトラウマを植え付けたことや超えるべき壁として居続けたお礼としてゆっくりじっくり食べてやろう。

 

 《経験値が一定に達しました。ザナ・ホロワがLV7にLV8なりました》

 

 ん?ああタニシちゃんか。

 残ってたグレーター含むタラテクト達を倒して上がるのはLV1だけ……か。

 まじか。

 そんなに上がりづらくなってるのか。

 

 『蜘蛛さん、こっちは終わったよ。』

 

 『あーい。パペットは?』

 

 『上層にいて私じゃ入れない。』

 

 『龍形態をやめればいいじゃん。』

 

 『えー。』

 

 『……なら私がタニシちゃんのところに誘き寄せるよ。』

 

 『やったー。』

 

 『アラバを食べ終わってからね。』

 

 『私も手伝おうか?』

 

 『あー…いいよ別に。私1人で食べたい。』

 

 『分かった、後何分ぐらい?』

 

 『……1時間ぐらい?』 

 

 『えー…分かった、待ってるよ。』

 

 ふぅ……。

 タニシちゃんは純粋というか素直というか…。

 とにかく私の言うことは聞いてくれるし守ってくれる。

 おかげで喧嘩したことがない。

 というか今の私たちが喧嘩したらお互い不死だし全力で攻撃しまくるのでは?

 うわ、下手したら辺り一面焼け野原になるじゃん。

 今後もタニシちゃんと喧嘩しないように色々と心がけないといけないわ、これ。

 

 

 

 




 
 最古の龍並にステータスがあるタニシ(龍形態)


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悪夢と死神

 
 大盛りです。
 


 近頃エルロー大迷宮に出没している謎の魔物の正体を突き止め、可能であれば手懐けよ。

 できなければ抹殺せよ。

 

 上層部からそんな任務を任された。

 私はそれを受けた時、こう思った。

 

 こんな時期にそんな任務を受けてしまうとは、運が悪い。

 

 つい最近子供が生まれたと言うのにそんな任務を受けることになれば、誰だってそう思うだろう。

 しかもこれから我が子を見るために家に帰ろうとした時にだ。

 

 そもそもなぜこんな任務を受けることになったのか、事の始まりはエルロー大迷宮入口付近にある小国、オウツ国から支援要請が送られてきたことだ。

 聞けば最近、エルロー大迷宮での魔物の遭遇率が増えているらしい。

 エルロー大迷宮は大陸から大陸を繋ぐ唯一の手段。

 転移陣はあるにはあるが使えるのは金持ちか重要人物だけだ。

 一般市民には使えない。

 だから別の大陸に行くには何日もかけてエルロー大迷宮を通過する必要がある。

 そのエルロー大迷宮での魔物の遭遇率の増加、大迷宮を通る者からしたらたまったものじゃない。

 それにただ数が増えたのではなく、まるで何かから逃げるように大量の魔物が入口付近に迫ってきているそうだ。

 

 オウツ国は小国だ。

 自国防衛で手一杯な武力。

 大迷宮の捜査は難しい。

 しかしこのまま放置すれば大迷宮から大量の魔物が溢れ出し、領域に侵入してくる可能性がある。

 そこでしかたなく我が帝国に支援要請をした。

 

 我が帝国はこれを快諾。

 元貴族の次男三男で作った部隊を派遣し、大迷宮の調査をさせた。

 元貴族の次男三男でもその実力は他の部隊と変わらない。

 異変の原因を突き止め、帰ってくると皆期待していた。

 

 確かに部隊は期待通り原因を突き止め、帰ってきた。

 しかしその部隊は余裕綽々の姿では無く、汗水垂らし息を乱しまくった、まるでとてつもなく恐ろしいものに出会ったかのような姿をしていた。

 

 彼らの報告によると、見たことがない蜘蛛の魔物とまったく未知の魔物に出会ったそうだ。

 それを見た瞬間、たとえ全員でかかっても虫でも払うかのように殺られるほどの力を感じたという。

 あれは化け物だ、人類が歯向かっていい魔物じゃないと。

 

 その報告に、最初は「何を馬鹿なことを」と鼻で笑っていたが、冒険者の中で人を救う蜘蛛型の魔物と下層に住むエルローゲーレイシューに酷似した魔物が出現したという噂が広まり、その魔物の存在が本当である可能性が出てきた。

 

 エルローゲーレイシュー。

 下層と極稀に上層で発見される魔物だ。

 全ステータスが1桁台で、2つのスキルという非常に弱いFランクの魔物だ。

 しかしこの種族の恐ろしいところは進化にある。

 進化する度に危険度が跳ね上がるのだ。

 進化による危険度の差が大きい種族といえばタラテクト種の魔物もそうだが、エルローゲーレイシューはそれより上をいく。

 特に2段階進化を重ねると大量に眷属を産めるようになり、危険度が規模によるが最悪Bランクになる。

 最も被害を出したのはグレイザーエンペラーで、大迷宮のみならず外にまで眷属が出てき、数多くの人が食い殺されたそうだ。

 最終的には勇者が討伐に向かい、被害を出しながらも討伐できたらしい。

 

 今回の報告で出た未知の魔物というのは恐らくエルローゲーレイシューの進化系だろう。

 小型の蜘蛛型の魔物と同じ大きさだったこともあり、その魔物はクイーンに進化する前の種、グレイザーだと言われているが、報告書には全身が赤黒く不気味な模様があったらしい。

 冒険者の噂でも報告書とほぼ同じ容姿した魔物が冒険者を助けたとか。

 もし本当にいたとしたらそれは大問題だ。

 例のない進化をしたゲーレイシュー族なんて放置するわけにはいかない。

 蜘蛛型の魔物も見たことがない種族だったらしく、これで2体の未知の魔物が出現していることになる。

 そしてそれを私は可能であれば手懐けなければならない。

 

 確かに人を助けるというのならそれをするほどの知能があり、人に対して敵対的ではない可能性がある。

 それでも手懐けるなんて無理だ。

 調教のスキルは、契約に魔物が同意してくれるか力でねじ伏せなければならない。

 魔物は基本的に契約に同意してくれることは無い。

 かといって知能があり、魔物が恐れて大移動をするほどの魔物を力でねじ伏せられるかと言われればかなり難しい。

 

 「あーまったく、儂を迷宮探索などさせおって、ついてないのう。」

 

 私の隣には帝国が誇る大魔法使い、ロナント様。

 彼は非常に優秀な魔法使いだが、その性格に難がある。

 命令無視は当たり前で自由奔放で自分勝手な性格。

 普段は気さくで面白い方なのだが、たとえ戦場でもその態度を変えないから困る。

 

 「ロナント様。相手がSランクの場合、貴方のような戦力が必要なのです。」

 

 「わかっとるよ。まぁ、儂が居れば何が来ようとも安泰よ。大船に乗った気分でおれ。」

 

 ロナント様は自信満々な発言をする。

 その顔は自分は負けないと信じて疑わない顔だ。

 しかし自惚れるなとは言えない。

 それは彼の立場が自分より上だからというわけではなく、自惚れても良いほど彼は実力があるのだ。

 それこそ、人類最高の魔法使いと言われるほどには。

 

 頼もしくはあるが、あの性格はどうにかならないものか。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「その未知の魔物に出会った場所というのは、ここで間違いないんじゃな?」

 

 「はい、そうです。」

 

 「ふむ。」

 

 大通路と呼ばれる大きな通路に私たちは来ていた。

 ここで探索隊は例の魔物達に出会ったそうだが、何もいない。

 それもそうだ。

 目撃例が上がってから時間が経っている。

 巣も張っていないのに移動しない方がおかしい。

 

 ドォォン………

 

 「ん?なんじゃ?」

 

 突然、どこからか音が聞こえる。

 その音は巨大な何かが地を砕いた音に聞こえた。

 衝撃が体を伝ってくる。

 

 ドォォン……ドォン……

 

 「あちらの方から音が聞こえていますね。あちらは……下層に繋がる縦穴がある場所ですね。おそらく強大な魔物が戦っているのではないでしょうか?」

 

 案内人が音のする方向に指をさしながら言う。

 大迷宮の下層は人類が到達したことは殆ど無い。

 命がけで探索した冒険者によると、Bランク級の魔物がゴロゴロいたのだとか。

 これほどの振動、恐らくSランクの魔物が何かと戦っているのだろう。

 音がやまないことから少し戦いが長引いているのだろうか。

 

 「どうしますか。」

 

 案内人の1人が私に聞いてくる。

 どうするか、私達の任務は未知の蜘蛛型の魔物と未知のゲーレイシュー族の手懐けまたは討伐だ。

 この音の正体は下層に住むSランクの魔物だろう。

 そして今回狙っている魔物も推定Sランク。

 もしかしたら例の魔物は下層の魔物と争っているかもしれない。

 例の魔物は小型のためこの音の正体ではないのは確か。

 恐らく地龍と戦っているのではないだろうか。

 ……よし、下層の様子を見て例の魔物が襲われているか見つからなかった場合、それで今回の調査は終わりにしよう。

 

 そのことを調査隊に伝えるとやっと帰れると安堵の言葉を口にしていた。

 帰ると決まったわけではないのだが…まぁいいだろう。

 かれこれ10日以上も迷宮内にいるのだ。

 これくらいなら許してもいいだろう。

 

 案内人の指示に従って下層へと続く縦穴に着く。

 自分の真下から地を揺らす轟音が響き渡る。

 この下に、Sランクの魔物がいる。

 そう思うだけで背中に冷たいものが流れる。

 大丈夫だ。

 ここにはロナント様がいる。

 たとえSランクであろうとも撃退してくれる。

 この方にはそれほどの実力があるのだ。

 

 そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと縦穴を覗く。

 その時、下から何か巨大なものが近づいてきているのが見えた。

 咄嗟に体を反り、すぐ目の前で音も無く巨大な何かが通過する。

 そしてその正体がすぐに魔物だと気付いたときには遅かった。

 その魔物は5つの眼を持つ龍だった。

 よく見るとその頭に白い蜘蛛の魔物が乗っている。

 

 嗚呼、駄目だ、勝てない。

 見るだけで気を保つのが難しい。

 それほどの恐怖を感じる。

 

 「か、鑑定!」

 

 ロナント様が鑑定を使う。

 鑑定のスキルは相手に不快感を与えてしまうため、安易に使用して良いものではない。

 特に今の状況こそ絶対に使ってはいけない場面だろう。

 しかし使ってしまった。

 私も、使ってしまった。

 死ぬ前にこの死神の力を知ってみたかったからだ。

 

 『終焉の龍 ゼル・ゾロフ LV8

  ステータス

 HP:25770/25770(緑)

 MP:17011/17011(青)

 SP:12239/17739(黄)

   :11360/18160(赤)

 平均攻撃能力:15662     

 平均防御能力:25401     

 平均魔法能力:18036     

 平均抵抗能力:28675     

 平均速度能力:15580』     

 

 『ザナ・ホロワ LV8 名前 なし 

  ステータス

 HP:11080/11080(緑)

 MP:19891/19891(青)

 SP:7406/7406(黄)

   :7850/7850(赤)

 平均攻撃能力:7305 

 平均防御能力:7115

 平均魔法能力:17137

 平均抵抗能力:17264

 平均速度能力:12472 』

 

 ははは。

 これは……予想以上だ。

 Sランクなんかじゃない。

 神話級…オーバーSランクの化け物だ。

 それが2体?

 まったく何の冗談だ。

 悪夢なら早く覚めてくれ。

 

 「な、なんというステータス…!…ま、魔導の極み…!」

 

 魔導の極み……。

 ロナント様は例の魔物のステータスに着目したようだ。

 それ以外にも未知のスキルがわんさかある。

 特に不死だ。

 効果は文字通り死ななくなるスキルだろう。

 死ななくなるなんて……どうすればいいんだ。

 このスキルがある時点で任務を遂行なんて出来っこない。

 報告書にあったゲーレイシュー族の魔物が見当たらないが、恐らく目の前にいる終焉の龍がそれだろう。

 龍化なんてスキルがあるからな。

 しかもあの蜘蛛型の魔物にもあるときた。

 嗚呼…こんなの……あんまりだ。

 

 そんなとき不思議なことが起こった。

 

 『鑑定が妨害されました』

 

 突然、こんな文字が出てきたのだ。

 鑑定の妨害……。

 そんなことは聞いたことは無いが、相手は神話級の魔物だ。

 人間の常識など、簡単にぶち壊せるだろう。

 

 「ああそんな!…もっと!もっと見せてくだされ!」

 

 「う、うわああああ!!」

 

 発狂したように声を上げるロナント様とあまりの恐怖で叫びながら突撃する調査隊隊員。

 なってない構えのまま突撃するが、うっとうめき声を上げ倒れる。

 鑑定によると……死んでいる。

 

 なんだ?何をした?

 分からないが未知の攻撃をしたのはよく分かった。

 

 「うっ!!」「アガッ!」「アァ!」

 

 まただ。

 今度は3人殺られた。

 

 「ひいぃぃぃぃ!」「に、逃げろ!!」「勝てるわけがない!」

  

 3人があまりの恐怖で逃げていく。

 彼らを責めることは出来ない。

 私だって逃げたい。

 でも、そんなこと許されない。

 

 白い蜘蛛の魔物が龍の頭から降りてくる。

 ただ近づいてきただけなのに意識が飛びそうになる。

 恐怖で頭の中が逃げることだけになる。

 しかしただ走って逃げるだけじゃ駄目だ。

 転移だ。

 それしかない。

 未だに狂っているロナント様を殴り正気に戻す。

 強力な召喚獣を召喚し、足止めを命ずる。

 調査隊にロナント様をお守りするように命令する。

 

 キレコークが風魔法を白い蜘蛛に当てる。

 まるで効果がない。

 スイテンが水竜のスキルで攻撃する。

 まるで効果がない。

 フェべルートが鋭い爪で攻撃する。

 爪が届く前にフェべルートは真っ二つになった。

 あの鎌のような前足で攻撃したのだろうが、まったく見えなかった。

 ロックタートルが前に出る。

 未知の攻撃でステータスが凄まじいスピードで減っていき、死骸になる。

 白い蜘蛛が風魔法を放ち、キレコークを吹き飛ばす。

 キレコークは壁に叩きつけられ口から内臓が飛び出し、壁のシミになった。

 スイテンは壁から生えてきた槍に貫かれその命を散らした。

 

 「ば、はかな!スキル無しで魔法を使うじゃと!?」

 

 ロナント様がそれを見て驚く。

 スキルも無しで攻撃するなんて聞いたことがない。

 こんなの無茶苦茶だ。

 私はさらに召喚獣を召喚する。

 一瞬1秒でもいい、少しでも時間を稼いでくれ!

 白い蜘蛛は最初は様子を見ていたが召喚獣達が攻撃を始めるとあの鋭い鎌で切り刻まれていった。

 後ろにいる龍も、風魔法や土魔法で召喚獣と調査隊の命を奪っている。

 何人か未知の攻撃で殺られている。

 いつあの攻撃が私に向かうのか、まったく予想がつかない。

 目に見えない攻撃なんて防ぎようがない。

 

 ちらっとロナント様を見る。

 転移の準備が終わるまであとちょっとと言ったところか。

 調査隊はほぼ壊滅状態。

 ここにいるのはロナント様と私、そして2人の隊員だけだ。

 

 「アガッ!」「アッ!」

 

 ………私とロナント様だけになってしまった。

 せめてロナント様だけでも!

 懐から取り出したMP回復剤を飲み干し、投げ捨てる。

 もはや手持ちの魔物は少ない。

 それでもやらなければ、次の瞬間には死んでいるのかもしれない。

 出した魔物達は白い悪夢に襲いかかったが風魔法で散らされた。

 

 もう手持ちの魔物はいない。

 その時、悪夢が恐ろしい魔法を展開し黒い槍を放つ。

 私は咄嗟にロナント様を押し、槍が直撃して体の半分が消し飛ぶ。

 五感がなくなってくるのを感じる。

 消えていく意識の中でロナント様が何かを叫び、赤く染まった視界が変わる。

 どうやら転移は成功したらしい。

 

 「ゴフッ…ロナン……ト……さ…」

 

 「喋るでない。」

 

 どこか半身に温かいものを感じる。

 治療魔法か……。

 手持ちの魔物はいなくなり、部隊は壊滅。

 神話級2体にしては被害は少ないほうだろう。

 

 私の頭の中にいくつか疑問が浮かんだ。

 

 神話級の魔物が2体現れたなど、信じてもらえるのだろうか。

 この目で見た忘れたくとも忘れられないあの異常なステータスを、信じてもらえるだろうか。

 私は、家に帰れるのだろうか。

 生まれるらしい我が子を、私は見ることができるのだろうか。

 

 なぜかどの疑問も、負の予想だけが頭に浮かぶ。

 信じてもらえず、家に帰れず、我が子も見ることもできない。

 そんな考えが。

 

 

 

 




 
 色々タニシ関連を突っ込みましたが原作のキャラ視点なもんで原作ママな部分が多々ありです。
 


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上を向けば空

 
 
 


 人に呪怨を当てたら死んでいた。

 

 これは何秒も当て続けたとかじゃない。

 一瞬、ほんの一瞬当てただけ。

 それだけで人のステータスが0になった。

 平均ステータスが300とか高い奴で500ある連中だ。

 それが瞬殺。

 そうなったのは彼らが弱いんじゃなくて私が強いからだろうね。

 だって私、龍形態なら魔法能力18000とかあるし。

 邪眼は魔法に分類されるらしく、その威力はスキルレベルと魔法能力に依存する。

 スキルレベルはカンスト、魔法能力18000。

 それを500ぐらいの連中がくらう。

 うん、死ぬね。

 

 それで何人か、蜘蛛さんと私で13人の人間を倒したらレベルアップした。

 しかも2つ。

 え?

 経験値多くない?

 1人あたりグレーター超えてるじゃん。

 経験値美味しい。

 ちょっとやる気が出てきた。

 

 蜘蛛さんが私の頭から降りる。

 少し前まで私が乗ってたのに今は乗せる側か…。

 感慨深いね。

 

 ん?男の人が何か魔法を使ってる。

 あれは……召喚か。

 へーあんな感じなんだ。

 出てきた魔物は?

 うーん……。

 あんまりかな。

 あ、でも風魔法を使ってきた。

 魔法をコピーするために少し生かしておこう。

 あれ?なんか悪役みたいな考え方だね。

 まぁ、いっか。

 召喚士の人が出したフグはどうやら水竜らしい。

 竜……?

 あ、でも火竜もタツノオトシゴだったし水竜がフグでもなんら不思議ではないか。

 ん?あれは水魔法?

 いや、あれは水竜のスキルか。

 まぁ水耐性とかありそうだし蜘蛛さん、くらっといて。

 

 『もとからそのつもりだよ。』

 

 『流石だね。』

 

 ピンク色のトラは?

 魔法を使わないのか……。

 

 『いらね。』

 

 蜘蛛さんはそう言って前足の鎌でトラを一刀両断する。

 縦に切ったから横から色々出てきてるね。

 んー。

 グロいけど…なぜか大丈夫。

 前世ではグロいのは駄目な方だったんだけど、魔物に転生したからかな?

 

 あれは亀…かな?

 甲羅に石を背負っているというより甲羅が石だけど。

 見た目通り防御力は高めだね。

 邪眼でほいほい。

 かめはしかばねになった。

 

 『お?逃げる気か?』

 

 『逃がす?』

 

 『うむ。逃げる、ということは出口に向かっている可能性が高い。あいつらにマーキングをしてあるからそれで出口の場所がわかるぞ!』

 

 『やった。』

 

 『タニシの子供達がさ、探してくれればもっと早く行けたのかもしれないけどね?』

 

 『子供達に出口を探すよう何度も言ってるんだけどね。わかったって返事しといて全然やろうとしない。』

 

 『タニシちゃんに似たんじゃね?』

 

 『失礼な、私はやるときはやるよ。』

 

 『子供達にとっては今はやるときじゃないんじゃない?』

 

 『………そうかもしれない。なら仕方ないか。』

 

 『えぇ……。』

 

 そんな会話をしながら攻撃していると、気がついたら転移の準備をしている魔法使いとMPカツカツな召喚士の人だけが残った。

 蜘蛛さんが適当に暗黒槍を放つ。

 魔法使いを押し、召喚士の半身が吹き飛ぶ。

 魔法使いは自身を庇った召喚士を抱えながら転移した。

 なんかドラマティック。

 

 『ふぅ……さて、後は逃げていった人達が出口につくのを待つだけだ。』

 

 『……ねぇ、これって食べる?』

 

 『え?あー……うん、食おう。』

 

 うん、何がとは言わないがそこそこ美味しかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 適当にレベリングをしていたある日のこと。

 蜘蛛さんから連絡があった。

 

 マーキングした兵士が、出口らしきところに着いたと。

 

 それを聞いて私は即座に蜘蛛さんのところに転移。

 蜘蛛さんはこの時を待っていたと言った。

 私も同じ気持ちだ。

 美味しくない食べ物、豊かな緑はなく、赤いマグマの海が広がる、このエルロー大迷宮。

 そこから出られるかもしれないのだ。

 なぜかワクワクする。

 前世では見飽きるほど見た自然が、今では恋しい。

 それが見れる。

 うーん、素晴らしい。

 

 というわけで、やってきました出口前。

 ちなみに今の形態はタニシ形態。

 できれば龍形態でいたかったのだけれど、流石に無理そうだった。

 天井を突き破って出ることも考えたのだけどそれは蜘蛛さんに却下された。

 

 あー。

 タニシの姿になるとなんだか窮屈だ。

 体中が締め付けられてるみたいで嫌だ。

 でも我慢我慢。

 全ては豊かな自然のために。

 

 出口らしき場所からは光が漏れ出している。

 そう、光。

 中層でみたようなマグマによるものでも、下層でみたような地龍のブレスによるものでもない。

 母なる太陽からサンサンと降り注ぐ、生命の光だ。

 

 私たちはその光を浴びるために出口に直行する。

 体が光で照らされ始め、ついには全身が照らされた時、悲鳴が聞こえた。

 見ればマーキングしていた兵士がおり、腰を抜かしていた。

 周りを見てみると壁のようなものがあり、その上に人が立っている。

 

 警備員の方ですか?

 すいません、ここから出ても良いですか?

 帰ってきたのは矢の雨。

 そんな彼らに暗黒弾をプレゼント。

 人には当ててない、壁に当てただけ。

 爆ぜる壁。

 吹き飛ぶ人間。

 入る経験値。

 私たちは知らんぷり。

 あんな風になるなんて私は知らなかった、誰も教えてくれなかったでしょ!

 

 そんなハプニングがあったけれど、外に出たことには変わりない。

 鳥のさえずりが聞こえるし、緑が広がってる。

 黄色だけの花に蝶々、ふっくらとした果実が実る木。

 どれも迷宮内では見れなかったものだらけだ。

 遠くに白い煙がたってるけど無視無視。

 きっと遠くでキャンプファイヤーやってるんだよ。

 私には関係ない。

 ホントダヨー。

 

 お、木の実発見。

 ふむふむ、実は甘いとな?

 これは食べずにはいられない!

 というわけでいただきます。

 嗚呼甘い……。

 良いね。

 甘いのはそんなに好きじゃなかったけど良いねこれ。

 ほどよい甘さでさ、しっとりしていてさ。

 なんかこう……美味しいね。

 

 む?魔物発見。

 でも弱いね。

 ステータス100ぐらい?

 上層ぐらいの魔物か。

 破滅弾どーん。

 貫通。

 その奥の木も貫通。

 またその奥の木も貫通。

 またまた……。

 いや貫通しすぎ。

 これじゃ破滅弾はあまり使えないかな。

 それじゃあいただきます。

 お、この魔物美味い。

 美味しい自然で育ったからかな?

 むしゃむしゃ。

 ごちそうさまでした。

 

 あーやっぱり想像してた通り外に食べ物美味しいなー。

 

 『そのために出たと言っても過言ではない!』

 

 『いやー……いいね…。』

 

 『いいわー…。』

 

 今現在、私たちは海に来ている。

 なにをしに来たのかというと、釣りのためだ。

 山の幸は堪能した。

 ならば次は海の幸だ。

 適当な枝を見つけて糸を垂らす。

 その糸の先端になにか食べられるものをくっつける。

 これで釣りが出来る。

 

 『お!引っかかった!…なかなか引きが強いな!』

 

 『がんばれ。』

 

 『言われなくても……!よし、イケる!』

 

 蜘蛛さんがなにかを釣り上げる。

 引っかかっていたのはなんと水龍。

 釣りに引っかかる龍がいるなんて知りたくなかったよ。

 見た目が龍らしい姿をしているせいで残念度がすごい。

 

 そんなことを思っていると水龍がブレスの準備をする。

 青く光ってるし水属性のブレスかな?

 飛んでくるブレスを回避。

 そっちがブレスを放ってくるのなら私もやってやる!

 

 龍化、発動。

 

 一瞬、世界を闇にすると水龍の目の前に黒い鱗にオレンジ色の模様をした東洋龍が出現する。

 その龍は私だ。

 さて、ブレス返しをしよう。

 私は口にエネルギーをためる。

 水龍は動かない。

 体が震えているように見えなくもない。

 

 『ちょちょちょっとタニシちゃん!何やってるの!』

 

 『あっちがブレスを放ってきたからお返しに私もね。』

 

 『変なことに対抗心燃やすな!』

 

 ……よし。

 準備万端だ。

 スキル「終焉の龍LV8」の能力「終焉の嵐」。

 これは前方に破滅、腐蝕、闇、衝撃、貫通の5属性を混ぜたものを発射するというもの。

 ようはシヌガヨイ。

 

 背後の海ごと消えて無くなれー!

 

 私は終焉の嵐を放つ。

 それにより、射線上に何も残っていなかった。

 水龍も、海も。

 海底には穴が空いている。

 底は見えない。

 うん。

 終焉の嵐、すごい。

 ものすごい威力だよこれ。

 溜めが長いのと撃ってる時は体が硬直しちゃうのが弱点だけどね。

 

 『うわー……不死あっても死にそうだわ。』

 

 『すごいね。』

 

 『水龍跡形も残ってねー。』

 

 『あ、食べられないじゃん。ごめんね。』

 

 『いいよいいよ。終焉の龍のスキルを試せたし。』

 

 『まさかここまで強力だったとは……ん?』

 

 遠くからなにか近づいてくる?

 え?速すぎない!?

 もう着ーっ!!

 

 私は高速ななにかに攻撃され、バラバラになる。

 HPは、0だ。

 

 それでも生きてるのは不死のおかげかな。

 あ、そういえば共存でHP共有してたね。

 ということは?

 私は蜘蛛さんを鑑定する。

 

 『HP:0/35210』

 

 蜘蛛さーん!?

 うわっHP0で動いてる!

 呆然としてないで早く逃げて!

 速いなにかに殺されちゃうよ!

 いやもう死んでるはずなんだけどさ!

 お、速いなにかの姿が見える。

 ん?女の子?

 とりあえず鑑定。

 む?妨害された。

 なら叡智で。

 

 『オリジンタラテクト LV139 名前 アリエル 

  ステータス

 HP:90098/90098(緑)

 MP:87655/87655(青)

 SP:89862/89862(黄)

   :89856/89856(赤)

 平均攻撃能力:90021

 平均防御能力:89997

 平均魔法能力:87504

 平均抵抗能力:87489

 平均速度能力:89518

 スキル

「HP超速回復LV10」「MP高速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「SP高速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」

 「魔力精密操作LV10」

 「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「大魔力撃LV10」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「大気力撃LV10」「神龍力LV10」「神龍結界LV10」

 「破壊大強化LV10」「打撃大強化LV10」「斬撃大強化LV8」「貫通大強化LV9」「衝撃大強化LV10」「状態異常大強化LV10」「猛毒攻撃LV10」「強麻痺攻撃LV10」

 「毒合成LV10」「薬合成LV10」「糸の天才LV10」「神織糸」「操糸LV10」「念力LV10」「投擲LV10」「射出LV10」「空間機動LV10」「連携LV10」「軍師LV10」「眷属支配LV10」「産卵LV10」「召喚LV10」「集中LV10」「思考超加速LV6」「未来視LV6」「並列意思LV4」「高速演算LV10」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV10」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「帝王」

 「鑑定LV10」「探知LV10」

 「外道魔法LV10」「火魔法LV8」「水魔法LV10」「水流魔法LV5」「風魔法LV10」「暴風魔法LV10」「嵐天魔法LV10」「土魔法LV10」「大地魔法LV10」「地裂魔法LV10」「雷魔法LV10」「雷光魔法LV8」「光魔法LV10」「聖光魔法LV2」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV2」「重魔法LV10」「深淵魔法LV10」

 「矜持LV5」「激怒LV9」「暴食」「昇華」「簒奪LV8」「休LV9」「堕淫LV4」

 「物理無効」「火炎耐性LV5」「水流無効」「暴風無効」「大地無効」「雷光無効」「聖光耐性LV8」「暗黒無効」「重無効」「状態異常無効」「酸無効」「腐蝕大耐性LV7」「気絶無効」「恐怖無効」「外道大耐性LV6」「苦痛無効」「痛覚無効」

 「暗視LV10」「万里眼LV10」「五感大強化LV10」「知覚領域拡張LV10」「神性領域拡張LV3」「大魔王LV10」「天命LV10」「天魔LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「天道LV10」「天守LV10」「韋駄天LV10」「禁忌LV10」

 スキルポイント:0

 称号

「人族殺し」「人族の殺戮者」「人族の天災」「魔族殺し」「魔族の殺戮者」「魔族の天災」「妖精殺し」「妖精の殺戮者」「妖精の天災」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「竜殺し」「竜の殺戮者」「竜の天災」「龍殺し」「龍の殺戮者」「無慈悲」「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「毒術師」「糸使い」「人形使い」「率いるもの」「覇者」「王」「古の神獣」「暴食の支配者」「魔王」』

 

 え?

 なにこれは?

 きゅーまん?

 なにこの膨大なスキルと称号は。

 それに魔王?

 この子が魔王なの?

 あ、蜘蛛さんがバラバラになった。

 首だけで生きてるね。

 あんこ詰まってそう。

 私が言えたことじゃないけど。

 というか私龍形態でバラバラになっちゃったから辺り一面私だらけだよ。

 いくつか海に流れてるし。

 それに合わせて海が血に染まってきてるし。

 そのいくつかの中に私も含まれてる……のなら良かったんだけどなぁ……。

 あー蜘蛛さん行かないで。

 首だけで流されないで。

 あー魔王さん、こっち見ないで。

 生きてることに驚かないで。

 蜘蛛さんを追おうとしないで。

 あれ?見失ったの。

 蜘蛛さん流れるの速いね。

 

 「************?」

 

 すまねぇ、異世界語はさっぱりなんだ。

 

 「*********。」

 

 だからわからないよ。

 

 「………****。」

 

 突然、魔王が魔法を展開する。

 この複雑さ、さては深淵魔法だね?

 あー………あ、不死あっても死ぬやつじゃん。

 あれ、私はここで死んじゃうの?

 うーん。

 ………試してみるか、魂移植。

 

 魔王が深淵魔法を完成させる。

 空から十字架が迫ってくる。

 たしかこれはLV10の反逆地獄。

 私は抵抗できずに分解されていく。

 

 そして、私の体は完全に消え去った。

 

 

 

 




 
 巨大な体はアドバンテージだけど、格上相手には的がデカイだけ。


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大物撃破

 
 
 


 パキッ……

 

 私は卵の殻を破る。

 周りには100近くの卵と300の子供達がいる。

 ここは子供達のすみか。

 みんな私を不思議そうな目で見ている。

 そりゃね。

 生みの親が生みの親の卵から生まれたら不思議に思うのも無理はない。

 

 なぜ私がそんな不思議な状況を作り出したかというと、魔王が不死が意味をなさない魔法、深淵魔法を発動させたからだ。

 魂を分解し、システムに還元するという魔法。

 いくら不死でも魂が分解されれば復活なんて出来ない。

 私は死ぬのが嫌だったから魂を眷属支配を通して生まれる予定の卵に乗り移らせた。

 蜘蛛さんがマザーに対してやってたやつだね。

 あれの逆バージョン。

 子から親がいけるなら、親から子もいけるはず。

 やったこと無かったからかなり不安だったけど、無事にできてよかった。

 いやーそれにしても、魔王強すぎない?

 ステータス90000って……。

 スキルもほとんどカンストしてたし、〈暴食〉という七大罪のスキルも所有してる。

 暴食、叡智の鑑定でどんな効果なのか見てみたけどかなり強力なスキルだった。

 その能力はあらゆるものを捕食可能になり、HP、MP、SPをストックするというもの。

 このあらゆるものをってのが凄い。

 終焉の龍スキル5、終焉結界を食べて私を攻撃したからね。

 終焉結界は範囲内に弱い破滅と腐蝕ダメージを与え続け、魔法妨害能力がある結界。

 魔王のステータスだと破滅も腐蝕も気にしなくていいけれど、念の為食べたんだろうね。

 で、その食べるスピードが凄かった。

 

 口でかぶりつく、というわけじゃなくてなにか範囲攻撃のような感じだった。

 魔王の身長ぐらいを一瞬でごっそりと食べられた。

 

 いやー………強い!

 私も七大罪スキルで対抗したいところだけど、私のスキル〈怠惰〉なんだよね……。

 消費量を増やす怠惰とほぼ永久機関の暴食とじゃ相性が悪すぎる。

 というか七大罪スキルで一番悪いんじゃないかな。

 かといってステータスの暴力で倒せるかと言われたら、無理。

 だって魔王のほうがステータスの暴力が激しいし。

 こっちがただの兵士ならあっちは最新式の戦車だね。

 銃でバンバン撃ってもノーダメージだよ。

 ………これ勝ち目なくない?

 どうすればいいのさ。

 

 ……とにかく蜘蛛さんに私は無事だって連絡しとくか。

 もしもーし、蜘蛛さん?

 

 『お、おう!生きとったんかワレェ!!』

 

 『もちろん生きてるよ。』

 

 『今どこにいる?』

 

 『エルロー大迷宮。』

 

 『エルロー大迷宮……あ、魂の移植やったの!?』 

 

 『やったよ。』

 

 『どうだった!?』

 

 『うーん、特別な感じはないかな。あ、でもステータスが一時的に低下してるね。』

 

 『ステータスの低下か。OK、ありがとう。』

 

 『どういたしまして。蜘蛛さんは今どこにいるの?』 

 

 『私?私は海を泳いでるよ!』

 

 『それ大丈夫?』

 

 『不死のおかげで問題無し。たまに水龍に襲われるけど撃退できてるよ。』

 

 『水龍か……何体ぐらい倒したの?』 

 

 『3体ぐらい?おかげでレベルアップして生首じゃなくなったよ。』 

 

 『おーいいね。ねぇ、転移でここに来れる?』 

 

 『ん?転移?…あー出来るね。わかった、そっちに行くよ。』

 

 

 近くの空間が歪み始める。

 その歪みが最高潮に達すると、そこから蜘蛛さんが現れる。 

 

 『私、参上!……ちっさ!』

 

 『生まれたてだからね。』

 

 『あ、そっか。何日ぐらいで戻りそう?』

 

 『うーん……分からない。』

 

 『そっか、なにか食べ物とかいる?』 

 

 『のんびり屋があるからそこらへんは大丈夫だよ。』 

 

 『あー…やっぱのんびり屋便利だなー。』

 

 『だねー。』 

 

 ピキピキ……

 

 お、そろそろ周りの卵が孵化するね。

 この卵達はゼル・ゾロフになってから産んだ卵だから何が生まれてくるのか楽しみだ。

 

 『レッサーホロ・ライユ LV1』

 

 おーリトルレッサーホロ・ライユじゃなくてレッサーが生まれるのね。

 一段階上の種族を産める……いいね。

 でも私って龍の因子があるんだよね?

 この子達にあるのかな。

 うーん……。

 Dさんの話を思い出すとこの子達に龍の因子は無いかな。

 まぁ、あったら龍が量産出来ちゃうし、当たり前だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 13日の時を経て、私、復活!

 

 ステータス完全回復!

 体のサイズも従来のものとなっている。

 つまり、私は復活した。

 復活したての時のステータスは平均100ちょい。

 生まれたてにしてはまぁまぁある。

 それが今では10000超え。

 百倍だ!

 

 さて、私が復活するまでになにかあったのかというと案外何も起こってない。

 魔王にマーキングをつけといたけど外でぐるぐる蜘蛛さんを探している。

 多分まだ蜘蛛さんが海をどんぶらこしてると思ってるんだろうね。

 残念だったな、もう蜘蛛さんはエルロー大迷宮にいる。

 どれだけ外を探しても居ないぞ!

 

 さて、私たちは現在下層…いや、最下層に来ております。

 なぜそんなところに来たのか。

 神になる何かを見つけるため?

 それは違う。

 それっぽいのは見つけたけど、めちゃくちゃ強い地龍達が守ってた。

 平均10000ぐらいの。

 それが9体。

 流石にキツい。

 

 じゃあなんで最下層に来てるんだって?

 マザーを討伐するためだ。

 そう、あのマザーを。

 ステータス平均20000とかいう化け物だ。

 いやまぁ、私も龍になったら平均ステータス19000はあるから化け物とか言えた立場じゃないけどね。

 でも今回は龍にならなくても簡単に倒せそうなのである。

 なぜならそのマザー、弱体化しているのだ。

 ステータス平均6000ほどに。

 私たちのステータスよりかなり低い。

 

 蜘蛛さんは最近攻撃能力が10000いったそうだし、魔法能力なんて20000一歩手前だ。

 課題だった紙装甲も解消され、防御力9500、抵抗能力は20000超え。

 速度能力は15000もある。

 

 私は攻撃能力が12000で魔法能力は14000ある。

 進化やらのんびり屋やらで上がりまくった防御力と抵抗能力は、それぞれ22000と26000になって、速度能力もノソノソから脱却して12000だ。

 龍化するとこれらにそれぞれ5000ずつプラスされる。

 もちろん龍化して挑むよ。

 

 これは勝った。

 負ける要素が無い。

 ……フラグじゃないからね。

 

 そんなわけで、マザーの住所まであともう少しのところで待機中。

 何をやっているのかというと万里眼で罠がないかチェックしてる。

 うーん……。

 分かり辛いけどマザーのいるところに糸が張り巡らされてる。

 ご丁寧に色を変えて壁とか床に同化してるね。

 それで攻めてきた相手をぐるぐる巻きにして殺ると。

 私たちがここに来ることは想定済みのようだ。

 糸以外にもアークタラテクトを始めとするタラテクト種が待ち構えてるね。

 今まで見たことない量だ。

 全部倒したら経験値がすごそう。

 そういえば万里眼に邪眼を乗せられるしもうここから攻撃すればいいんじゃないかな。

 あ、駄目だ。

 マザー状態異常無効持ってる。

 いやでも暗黒と歪曲の邪眼でいけそう。

 特に歪曲は防御力関係ないし、耐性もない。

 避けることしか死を免れる方法は無いのだよ。

 多分ね。

 その他のタラテクト種は邪眼とか魔法で倒せる。

 

 『蜘蛛さん、作戦を思いついたよ。』

 

 『ん?』

 

 『万里眼で見ての通りマザーの周りには無数の糸が張り巡らされてる。』

 

 『え?あ、ホントだ。』

 

 『それを私が龍化して壊す。』

 

 『どうやって?』

 

 『えーっと、終末の龍レベル2、最後の晩餐で。』

 

 『なにそれ?』

 

 『さぁ……説明には暴食の小龍を召喚するって書いてある。』

 

 『えー…それ大丈夫?私たちに牙向いてきたりしない?てか暴食って魔王のやつじゃん。』

 

 『多分大丈夫。きっと大丈夫。恐らく大丈夫。』

 

 『……それで次は?』

 

 『蜘蛛さんがマザーを倒す。』

 

 『段階ふっ飛ばしてない?』

 

 『今の蜘蛛さんとマザーなら力技でイケる!』

 

 『うーんまぁ……そっか!完璧な作戦だな!』

 

 『でしょ。』

 

 よし、マザー討伐作戦開始。

 

 私はマザーのいる空洞に飛び込み、龍化を発動。

 それと同時に最後の晩餐!

 龍形態の私の3分の1ぐらいの大きさの龍が4体ほど出現する。

 その小龍達は糸のみならず待機していたタラテクト種達を食い荒らし始める。

 消費MPとSPは…1000か。

 終焉の龍スキル、燃費悪いんだよね。

 レベル1のブレスも100は消費するからなー。

 でもそれ以上に強力だから良いけどね。

 あ、アークに食い止められてる。

 流石にアークは無理か。

 援護にブレスを放っておこう。

 一応終焉結界も貼っといてと、あとブレスでそこら中を薙ぎ払っておこう。

 おーおー経験値がっぽり。

 

 あ、蜘蛛さんが降りてきた。

 暗黒弾と破滅榴弾をバラ撒きながら。

 もう辺り一面クレーターとタラテクト種の肉片だらけだ。

 

 『ふはははははは!どうだマザーよ!下剋上される気分は!?』

 

 マザーは返事に空気弾を吐き出す。

 吸った空気を射出のスキルで飛ばしたのね。

 圧縮された空気はとてつもない破壊力を秘めている。

 ステータスに差があれど、受ければ大ダメージは受けるだろう。

 だが問題はない。

 蜘蛛さんのスピードなら楽々避けられる。

 周りのタラテクト達をブレスで吹き飛ばしながら蜘蛛さんの戦闘を眺める。

 おー蜘蛛さんの攻撃でマザーがだんだん弱っていく。

 これはすぐに決着がつきそうだ。 

 

 ん?

 あれ?

 なぜか体中にありえないくらい力が湧いてくるぞ?

 なんで?

 まぁいいや。

 それは後で。

 む?なんで蜘蛛さんは私を鑑定してるの?

 まぁ、それも後で聞くか。

 

 蜘蛛さんがブレスを放つ。

 そのブレスがマザーに命中すると大爆発を起こし、マザーは瀕死状態になった。

 あれ?

 蜘蛛さんこんなに強かったっけ?

 いやマザーのステータスが6000ぐらいだからか。

 いやでもこんな大爆発は起きないはず。

 龍力は龍の力の一部を得るスキルだ。

 だからいくら蜘蛛さんの魔法能力が高いからと言ってこんな本家である龍並のブレスなんて放てっこないはずなんだけど。 

 おかしいな。

 ……ま、いっか。

 強いのならそれでヨシ。

 

 『マザーよ、これで終わりだ。』

 

 蜘蛛さんが凄まじい量の魔法を放つ。

 この量は1人じゃ無理だ。

 となると、蜘蛛さんの並列意思が帰ってきたのかな? 

 

 あ、マザーが息絶えた。

 あの巨体が力無く倒れる。

 流石マザーの経験値、どんどんレベルアップしていく。

 最終的にはレベル10も上がったよ。

 やった。

 しかもマザー以外もたくさん倒したから、合わせて15も上がったよ。

 やったね蜘蛛さん!レベルが上がるよ!

 龍形態からタニシ形態に移行っと。

 蜘蛛さん曰く、この形態の方が話しやすいらしいからね。

 

 よし、さっそくステータスを見よっと。

 

 『ねぇタニシちゃん。』

 

 『ん?どうしたの蜘蛛さん。』

 

 『ひょっとしてさ、気づいてない?』

 

 『え?なにが?』

 

 『………ステータス見てみ。』

 

 『う、うん。』

 

 一体なんだろうと疑問を持ちながら私はステータスを見る。

 

 『ゼル・ゾロフ(篠前 ゆりか) LV29

  ステータス

 HP:48249/48249(緑)+30639

 MP:33821/33821(青)+23410

 SP:37803/37803(黄)+26722

   :38094/38094(赤)+26674

 平均攻撃能力:33649     +25107

 平均防御能力:45011     +29450

 平均魔法能力:34619     +23983

 平均抵抗能力:46337     +25962

 平均速度能力:31060     +22080

 スキル

 「HP超速回復LV9」「SP高速回復Lv10」「SP消費大緩和Lv10」「魔導の極み」

 「吸収lv10」「共存lv10」「同心」「破滅LV9」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「神織糸」「操糸LV10」「念力LV7」「遠話lv10」「毒合成LV10」「薬合成LV10」「集中LV10」「思考超加速Lv6」「未来視LV5」「並列意思Lv10」「高速演算Lv10」「射出LV10」「命中Lv10」「回避LV7」「確率大補正LV10」「空間機動LV10」「鉄壁LV2」「盾の才能LV2」「糸の天才LV10」「狂LV10」「挑発LV5」「隠密LV10」「隠蔽LV2」「迷彩LV4」「無音LV10」「無臭LV2」「飽食LV10」「暗視LV10」「暴君LV2」「帝王」「不死」「龍化」

 「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV7」「大気力撃LV4」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV2」「大魔力撃LV2」「神龍力LV9」「龍結界LV3」

 「恐怖大耐性Lv2」「貫通大耐性LV5」「衝撃大耐性LV5」「酸大耐性Lv3」「気絶耐性LV6」「重大耐性LV6」「火炎耐性LV7」「水流耐性LV1」「暴風耐性LV4」「大地耐性LV4」「雷光耐性LV1」「暗黒耐性LV5」「状態異常無効」「打撃無効」「斬撃無効」「破壊無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「痛覚無効」「外道無効」

 「外道魔法LV10」「風魔法LV10」「暴風魔法LV2」「土魔法LV10」「大地魔法LV3」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「深淵魔法LV1」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV7」

 「激怒LV2」「奪取LV3」「叡智」「忍耐」「怠惰」「退廃」「断罪」「禁忌lv10」

 「韋駄天lv10」「のんびり屋LV10」「魔王LV10」「大魔王LV1」「城塞LV10」「剛毅LV10」「天動Lv10」「富天LV10」「天命LV10」「万里眼LV3」「五感大強化LV7」「視覚領域拡張Lv10」「神性拡張領域LV9」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV10」「外道攻撃LV3」「猛毒攻撃Lv10」「強麻痺攻撃LV10」「破壊大強化Lv10」「斬撃大強化Lv6」「貫通大強化LV6」「衝撃大強化LV6」「状態異常大強化Lv10」

 「呪怨の邪眼LV10」「歪曲の邪眼LV6」「静止の邪眼LV10」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV4」「悄然の邪眼LV5」「狂乱の邪眼LV5」「死滅の邪眼LV3」「幻痛の邪眼LV2」「暗黒の邪眼LV10」「不快の邪眼LV3」「催眠の邪眼LV2」「石化の邪眼LV3」

 「n%I=W」

 スキルポイント:197830

 称号

 「のんびり屋」「悪食」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「龍の殺戮者」「人族殺し」「人族の殺戮者」「人族の天災」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「大崩壊」「崩壊」「覇者」「王」』

 

 え?

 な、なにこれ?

 なんでこんなに増えてるの?

 ステータスものすごい増えてるじゃん。

 スキルほとんどカンストしてるじゃん。

 称号もちょっと増えてるしどうなってるの?

 

 『ちょっと蜘蛛さん!これは一体どういうこと!?』

 

 『この前にさ、マザーの精神食べてるって話したじゃん。』

 

 『う、うん。』

 

 『精神、要は魂を食べてたんだけど……その魂を取り込んだからステータスが私に移った。』 

 

 『私はマザーの魂を食べてないよ?』

 

 『多分共存か同心の効果じゃないかな?』

 

 『共存は得た熟練度と経験値を共有するだけだし、同心かな?』

 

 『多分そう。』

 

 これはもう、あれだ。

 私たちはこの世界の最強格名乗ってもいいぐらいに強くなったんじゃないかな。

 それでも魔王に届いてないけどね。

 ぽっと出の魔物に遅れを取らせないその圧倒的なまでの力。

 まさに魔王。

 あれを討伐しに行く勇者には同情するよ。

 あれには王様も死んでしまうとは情けないなんて言えないね。

 

 

 

 




 
 馬多くない?


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人族は当たり?

 
 
 


 マザー討伐で恐ろしいほどのステータスを手に入れた。

 あとスキルも。

 平均ステータス35000だよ?

 これはもう、魔王以外には負ける気がしない。

 

 あ、そうだ。

 終焉の龍スキル、最後の晩餐で出てくる暴食の小龍。

 あれ、あんまり使えないかな。

 強さはグレーターよりちょっと弱いぐらい。

 暴食って書いてあるけど食べれるのは有機物だけ。

 いや当たり前か。

 魔王がおかしいんだ。

 あと時間経過で消えることかな。

 いや時間経過で消えるのは別にいいんだよ。

 でもね、あの小龍ら、食べたものを消化しないの。

 だから小龍らが消えた時、食べたやつでできた肉団子が残るの。

 しかもよく噛まないせいで微妙に原型が残ってるものが集まってるから気持ち悪い。

 なんかのホラー映画で出てきそうなオブジェだったよ。

 もう二度と使わない。

 

 現在、私たちは地上に出ております。

 なぜなら魔王が最下層に来たからです。

 何をしに来たのかはわからない。

 多分、眷属であるクイーンタラテクトが殺されたからだと思う。

 まぁ、そういうことで私たちエルロー大迷宮から逃げていった。

 勝てない相手にわざわざ戦いにいく理由なんてないからね。

 転移があるから私たちの逃げ足は世界レベルだぞ!

 蜘蛛さんが言うには魔王の魂を絶賛モグモグ中らしい。

 1人の並列意思が勝手に魔王の魂に飛びついたみたい。

 予想外の出来事だけど、それのおかげで魔王はかなり焦ってると思う。

 だって魂食べられてるんだよ?

 私だったら命乞いをしにいくよ。

 でも今回の魂喰らいはうまくいかないと思う。

 だって魔王だし。

 クイーンタラテクトより魂頑丈そうだしね。

 並列意思が取り込まれそう。

 そうなったらどうなるんだろう?

 魂が混ざるとか絶対良いことないでしょ。

 

 そんなことを思いながら山の幸を堪能していると、遠くから声が聞こえた。

 やっほーとかそういう呑気な声じゃない。

 もっとこう…争っている声だ。

 万里眼で確認して見ると、馬車が盗賊らしき人に襲われていた。

 馬車の周りには護衛であろう人達が血を流して倒れており、残った護衛も一人だけ。

 その護衛も今さっき切られた。

 あとに残ったのは馬車の中にいる貴族っぽい人だけ。

 その人もあと少しで盗賊に襲われるだろう。

 

 『………どうする?蜘蛛さん。』

 

 『えー…あー…うーん?助ける意味がなー。』

 

 『見捨てる?』

 

 『いやでも経験値が欲しいしなー。』

 

 『じゃあ盗賊を倒そう。』

 

 『うーん。なんか面倒な事に巻き込まれそうなんだよなー。』

 

 『その時はその時で。それに私たちステータス凄いし、魔王が来ない限り大丈夫だと思う。』

 

 『うーん。それもそっか。』

 

 蜘蛛さんが馬車に転移する。

 私も行くか。

 到着。

 転移は便利だね。

 さて、盗賊達は……何人か蜘蛛さんにやられてるね。

 というかあと2人しか残ってないや。

 呪怨の邪眼で仕留めよう。

 ……よし、終わり。

 今回はレベルアップなしか。

 だんだんレベルアップまでの遠くなってきてるね。

 ん?まだ護衛の人生きてるね。

 ……治療しよ。

 

 治療魔法っと。

 これで全快だね。

 さて、引き時かな。

 

 「*********!!」

 

 ん?馬車に居た貴族の人だ。

 蜘蛛さんに何か言ってるね。

 異世界語知らないから相変わらず何言ってるのかわからないけど。

 そろそろ異世界語を知っておかないと、今後の生活に支障がでそうだ。

 翻訳ってスキルはないのかな?

 ……無いみたいだね。

 地道に言葉を覚えていくしかないか。

 

 「*************……。」

 

 んーこの人私たちに感謝しているみたいだね。

 感動の涙を流して、頭をペコペコ下げてるよ。

 貴族って頭を下げちゃいけないってどっかで聞いた気がするけど、大丈夫かな。

 実はこの人貴族じゃなくて貴族っぽい格好をしているだけの一般人?

 ……そんなわけ無いか。

 

 『え?ちょ…ちょっとタニシちゃん。そこの赤ちゃんを鑑定してみて。』

 

 『ん?わかった。』

 

 『人族 吸血鬼 LV1 名前 ソフィア・ケレン(根岸 彰子)

 ステータス

 HP:11/11(緑)(詳細)

 MP:35/35(青)(詳細)

 SP:12/12(黄)(詳細)

   :12/12(赤)(詳細)

 平均攻撃能力:9(詳細)

 平均防御能力:8(詳細)

 平均魔法能力:32(詳細)

 平均抵抗能力:33(詳細)

 平均速度能力:8(詳細)

 スキル

 「吸血鬼LV1」「不死体LV1」「HP自動回復LV1」「魔力感知LV3」「魔力操作LV3」「暗視LV1」「五感強化LV1」「n%I=W」

 スキルポイント:75000

 称号

「吸血鬼」「真祖」』

 

 ん?

 え?

 これは……何?

 根岸彰子?あの不健康そうな人?

 いや、ここは異世界だし……。

 あ、私たちと同じ転生したのかな?

 DさんもDさんを除く教室にいた全ての人を転生させたって言ってたし、転生者か。

 へー根岸さんかー。

 あんまり記憶にないや。

 不健康そうな人ってだけ覚えてる。

 今は赤ん坊だし、もの凄い健康が良さそう。

 かわいいし。

 将来は美人さんだね。

 あと吸血鬼?

 人族なのに、吸血鬼?

 ……なんか特別な事情でもあるのかな。

 それかあれか、転生特典か。

 チート能力ってやつ?

 不死体とか真祖とか、結構ズルいもの持ってるし、根岸さん勝ち組なのでは?

 ま、まぁ私は今龍になれるしね?

 ステータスも凄いし?

 羨ましくなんてないよ。

 ホントだよ。

 

 『タニシちゃん。』

 

 『なに?』

 

 『こっから離れよう。』

 

 『わかった。』

 

 転移。

 

 『すー…………。』

 

 『?』

 

 『ズルい!!なんで!?なんで人に転生してるの!?なんで吸血鬼なんてやべー種族になってるの!?なんで!?なんでー!?』

 

 そんなことを喚きながらゴロゴロ転がる蜘蛛さん。

 根岸さんの今世が、ひどく羨ましく感じるらしい。

 わからなくもない。

 でも私たちって魔物に転生したから、根岸さんがバブバブいってる間に速く成長できてるからあっちのが優遇されてるとは言えないのかもしれない。

 根岸さんがバブバブってさらっと言ったけど結構字面やばいね。

 

 『はー……人化のスキルとかないかなー。』

 

 『取ってどうするの。』

 

 『どうするのって…そりゃ人に紛れて美味しいご飯を食うためだよ。』

 

 『食べ物目当てなんだ。』

 

 『あー…あ、一応人化のスキルってあるんだね。条件を満たしていませんって言われて取れないけど。』

 

 『え?人化のスキルあるの?…あ、でもさ、魔物が人化した時ってさ、その魔物の特徴受け継がれるイメージがあるんだけど。』

 

 『………私、蜘蛛だよね。』

 

 『足8本とか、眼が8つとかかな。』

 

 『いやそれ化け物じゃん。人化した意味ねー。』

 

 『私だったらどうなるのかな?』

 

 『タニシだし貝を背負ってるんじゃない?』

 

 『その貝をおろしたらどうなるの?』

 

 『死ぬんじゃない?』

 

 『え?怖い。』

 

 あれかな、カタツムリみたいな感じかな。

 人化ねー…人化人化……。

 あ、100ポイントで取れるじゃん。

 なんでこんなに適性が高いんだろう。

 なんで条件を満たしていませんって出ないんだろう。

 あれかな?

 龍の因子が入ってるからかな?

 なぜか龍って人化するイメージがあるし。

 それが反映されてるのかな?

 

 『ねぇ蜘蛛さん、私人化のスキルが取れるよ。』

 

 『え!?マジ!?』

 

 『う、うん。取る?』

 

 『取ろう!!これで美味しいご飯が食べられるよ!』

 

 『やっぱご飯なのね……。』

 

 《現在所持スキルポイントは197830です。

  スキル〈人化〉をスキルポイント100使用して取得可能です。

  取得しますか?》

 

 私って今197830もスキルポイントあるんだ。

 蜘蛛さんも160000もあるし、マザーのスキルポイントを取り込んだからかな。

 こんなところでもマザーの恩恵が……。

 いや、狂のスキルで制限されてるから恩恵とは言えないや。

 

 《スキル「人化」を取得しました。残りスキルポイントは197730です》

 

 これで人化出来るようになった……と思う。

 まだわからない。

 人型の蜘蛛になるのかもしれない。

 私だったら人型のタニシになるかもしれない。

 真実は……やってみなきゃわからない。

  

 『だ、大丈夫だよね!?人の因子がないから無理とかないよね!?』

 

 『どうしたの急に。』

 

 『なんかすごい不安になってきたんだけど!』

 

 『龍化がトラウマになってない?大丈夫だよ、きっと。』

 

 『もしこれで人化出来なかったらぶん殴るから!』

 

 『なんで!?』

 

 『だってそっちはさー!龍になれるじゃーん?人にもなれて龍にもなれるってちょっと…いやかなりズルくなーい!?』

 

 『いやまぁ……うん。そうだね。』

 

 『だから殴っていいよね!?』

 

 『訳がわからないよ……とりあえずやってみよ?』

 

 『よし!ふーふー……よし!…ふー……。』

 

 『合図はどうする?』

 

 『せーっのでどん!…で。』

 

 『わかった、蜘蛛さんがやっていいよ。』

 

 『OK!……ふー………せーっのでどん!!』

 

 人化、発動!

 ボンっと私たちから煙が上がる。

 なんだか凄いコミカル。

 Dさん、さては結構長い間地球にいるね?

 ま、いっか。

 煙が上がったということは成功したってことだ。

 叡智の感知で私の目の前に人型の生物が立っているのが分かる。

 足は8本もないね。

 ちゃんと2本だ。

 だんだんと煙が晴れていく。

 肉眼で人型が見える。

 これは完全に成功したね。

 そろそろ煙が晴れそう。

 

 煙が晴れた。

 そこには前世で見たべっぴんさんの白いバージョンが全裸で立っていた。

 Oh…蜘蛛さん、隠して。

 あ、私もじゃん。

 えっとどうしよう。

 

 「おお!!なってる!人になってる!!……タニシちゃん、なんで全裸なの?」

 

 「いや蜘蛛さんもそうだからね?」

 

 「え?あ、ホントだ。服作ろっと。」

 

 そういって蜘蛛さんは指先から糸を出してシンプルなデザインの服を作り上げた。

 あ、そうか。

 神織糸で作ればいいんだ。

 私も蜘蛛さんに便乗して服を作る。

 ふぅ……蜘蛛さんが気づかなかったのは、人化出来た嬉しさと魔物になってから今まで服なんて着てなかったからだろうね。

 私も蜘蛛さんの全裸を見てなかったら気づくのがもう少し遅れてたのかもしれない。

 これは蜘蛛さんが全裸だったことに感謝すべき?

 ……なんか変態みたいだ、やめておこう。

 

 「タニシちゃんの人化、なんか独特だね。」

 

 「独特?」

 

 「肌に赤黒い模様がある。」

 

 「え?あ、ホントだ。」

 

 「うわー赤黒いタトゥー入れてるみたいだわー。」

 

 「えー……そういう蜘蛛さんも、赤い瞳の中にそれぞれ4つも瞳があるよ。」

 

 「え?どういうこと?」

 

 「目の中に目がある感じ。」

 

 「え?なにそれ気持ち悪っ!」

 

 「うーん………なんか人間に紛れられそうにないんだけど。」

 

 「いや、私は目を瞑ればなんとかなる。」

 

 「…それって見えなくない?」

 

 「万里眼でなんとかする。」

 

 「なるほど。」

 

 「タニシちゃんのは……まぁ、頑張って誤魔化してよ。」

 

 「………そうだね。若い頃にやってしまったみたいなこと言っておくよ。」

 

 「タニシちゃんの見た目結構若いけど。」

 

 「何歳ぐらい?」

 

 「高校生ぐらい。」

 

 「転生前と同じぐらいか。」

 

 「まぁそんぐらい。」

 

 体の模様ぐらい、なんとかなるか。

 んーもう少し自分がどんな姿をしてるのか知りたいな。

 

 「蜘蛛さん、私はどんな人になってる?」

 

 「ん?あー…前世で見たとおりの見た目だね。目は赤いけど。」

 

 「赤いの?」

 

 「うん、赤い。黒髪と赤の眼の美少女だね。」

 

 「前世と同じなら美少女じゃないよ、普通ぐらいだよ。蜘蛛さんは相変わらず美人さんだね。」

 

 「でしょ?」

 

 「うん。そのせいでクラスの女の子に悪口言われてたね。」

 

 「え?待ってそれ知らないんだけどマジ?」

 

 「うん、ホントだよ。顔が良いから調子乗ってるとか言ってたかな。」

 

 「えーまじかー。好かれてるとは思ってなかったけどそこまでとは……。あの吸血っ子もその一員だった?」

 

 「吸血っ子?」

 

 「さっき見つけた転生者。」

 

 「…根岸さんね。あの人は違うかな?」

 

 「あーならいいわ。もし一員だったら見捨てる所だったよ。」

 

 「見守らなくても良いと思うよ?あの子貴族生まれだしすくすく育つんじゃないかな。」

 

 「それもそっか。」

 

 蜘蛛さん案外根岸さんのこと気にかけてる?

 やっぱ同じ転生者同士だからなんかこう…感じるものがあるのかな。

 私は心配しなくても良いと思うけどね。

 根岸さんがいるのはエルロー大迷宮じゃない。

 平和な町の領主様の家だ。

 その平和はエルロー大迷宮に比べてっていう言葉がつくけどね。

 なんで領主様の家なのかは、あの貴族が町で一番デカイ家に入ったからだね。

 あの大きさで領主じゃなかったら、じゃあ一体誰の家だよってなる。

 あ、根岸さんのことは人間の町を知るために万里眼で監視しております。

 また盗賊に襲われそうだったから万里眼越しの邪眼で仕留めておいた。

 根岸さん達に見える前に倒したから、何の前触れも無く突然倒れる盗賊の姿を見ずに済んだはず。

 軽くホラーだからね。

 赤ちゃんの教育に良くないよ。

 ………根岸さん、赤ちゃん扱いされたら怒るかな。

 

 

 

 




 
 もし〘蜘蛛ですが、なにか?〙の世界に転生するとしたら何になりたい?アンケートの結果。
 
 第1位 吸血鬼(真祖)    143人
 第2位 自分は死なない(無敵)116人
 第3位 馬          80人
 回答者数 695人

 


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闇に紛れず生きる

 
 
 


 人化したしさっそく街へ!…とやりたいところだけど、私たちには致命的なものがない。

 異世界語がわからないのだ。

 これじゃあ蜘蛛さんが目標にしている美味しいものも食べれそうにない。

 異世界の食文化を堪能できない。

 だから人の言語を理解するために街中の日常会話を盗み聞きしよう。

 そう蜘蛛さんとの話し合いで決まった。

 

 どう盗み聞きするか、そこが問題だ。

 五感大強化でいくら耳が良くなったとはいえ、街の外から会話が聞こえるわけがない。

 蜘蛛さんとそのことでも話し合った結果、3つの案が出た。

 

 1つ、街中に糸を張り巡らせ、糸電話の要領で盗み聞き。

 2つ、隠密系スキルで潜伏し、直接盗み聞き。

 3つ、堂々と盗み聞き。

 

 1つ目は中々良い案だと思う。

 私たちの存在を気づかせず、異世界語を学んでいく。

 ただ、感知系スキルが高い人にはその糸の存在に気づいてしまう可能性がある。

 そうなった場合その糸は何によって作られたのか調査が始まって、私たちの存在に気づく。

 それが領主に知らされ、何の目的があってやったのか調査される。

 私たちは異世界語がまだ分からずあたふた。

 転移で逃げる。

 きっとこうなる。

 

 2つ目も良い案だと思う。

 存在に気づかず異世界語ラーニング。

 こちらも感知系スキルがあると気づかれてしまう可能性がある。

 その場合職を聞かれる。

 私たちは異世界語がまだ分からずあたふた。

 転移で逃げる。

 これもこうなる。

 

 3は隠れず堂々とやるから怪しまれることは無いと思う。

 でも蜘蛛さん凄い美人さんだし、ナンパとかされそう。

 いや、ナンパの話を聞けばある程度言葉が分かるかもしれない。

 案外良いかもね。

 

 「蜘蛛さん、どうする?」

 

 「私は2かな。異世界の街を歩いてみたい。」

 

 「観光目的じゃないよ。」

 

 「せっかく異世界に転生したんだからさ、観光の1つや2つはしたくない?」

 

 「その前に言語を覚えないと。」

 

 「街中を歩いて道中の人の話を盗み聞きすればいいじゃん。」

 

 「んーそれ3じゃない?」

 

 「じゃあ3で。」

 

 「……分かった、3ね。」

 

 というわけで3の堂々と盗み聞きに決まった。

 街中を歩いて、周りの人達の会話を聞いて異世界言語ラーニング。

 こそこそしないから怪しまれない。

 完璧な作戦だね。

 

 さて、街中を歩くということは人らしい姿をしていないといけない。

 というか怪しい姿をしてはいけない。

 私は全身に不気味な赤黒い模様、蜘蛛さんは瞳の中にそれぞれ4つの瞳がある。

 蜘蛛さんの眼はかなりの人外。

 そのため眼を閉じなければいけない。

 眼を閉じながら街中を歩くのは怪しいけど、瞳4つの眼を見られるよりかマシだ。

 私は模様が出来る限り見えないように、黒い服を作った。

 赤黒いからチラッと見えても気にならないはず。

 指先まで模様があるからそれを隠す為に服の袖を長めにしている。

 というか指が完全に隠れてる。

 どこかで聞いた萌え袖ってやつだね。

 手袋でも良かったんだけど、蜘蛛さんがそれを止めた。

 もし龍化する時に脱ぐのが面倒臭くなるからやめておけって。

 どうやらファンタジーで有りがちな服も変身する仕様ではないらしい。

 それは人化の時に服が現れなかったのが物語っている。

 

 万里眼で街を見る。

 果物屋とかお菓子屋とか、蜘蛛さんが好きそうなものがあるね。

 まぁ、この世界のお金持ってないから買えないけど。

 言語が分かる様になったらお金を稼いだほうがいいかな。

 ちょうど異世界でお馴染み冒険者協会があるから、そこで冒険者になるのも良いかもね。

 私たちのステータス平均40000だし、依頼に魔王討伐が来ない限り大丈夫でしょ。

 というか私たちって人化してないと討伐される側だよね。

 今まで会った人のステータスは平均500くらいで、一番高かったのは魔法能力で4桁いってたおじさんかな。

 もしあのおじさんが人類の最高勢力とかだったら人間に負けることはないだろうけど、ひょっとしたら勇者とかがステータス5桁台かもしれない。

 実際に会ってみないと分からないね。

 

 人族に紛れるのは世界の常識を知るいい機会になるはず。

 私たちが知ってるこの世界の情報は、崩壊しかけなことと世界はシステムというもので動いていることだけ。

 全部禁忌の情報だね。

 つまり私たちは知ってはいけない情報だけを知っていることになる。

 中々極端。

 

 やってきました、街です。

 言葉が分からないから名前が分からないね。

 大きさは普通ぐらいかな。

 この世界で初めての街だからこの街が大きいのか分からない。

 現在私たちがいるのは路地裏。

 バレないように転移して入りたかったから、人がいない路地裏に転移した。

 

 さてと、叡智で近くの人を感知。

 出来るだけ人通りが少ないところから出たい。

 ん、こっちの方向だと人が少ないね。

 こっから出よう。

 

 「あ。」

 

 「どうしたの蜘蛛さん。」

 

 「靴履いてない。」

 

 「あ。」

 

 忘れてた……。

 人化するまで靴なんて履いて来なかったから靴を履くっていう言葉すら忘れてたよ。

 糸で作るか。

 神織糸なら作れる。

 便利だね。

 蜘蛛さんは白いブーツ、私は黒いブーツ。

 全体的に白い蜘蛛さんと全体的に黒い私。

 真逆だね。

 

 真逆の色をした私たちは人通りの少ない道に顔を出す。

 叡智でわかってるけど一応左右を確認してから、体を路地裏から出す。

 

 「……異世界だわー。」

 

 そういう蜘蛛さんの目の先には鎧を纏った騎士らしき人が街を歩いていた。

 たしかに異世界っぽい格好してる。

 腰にぶらさげてる剣も、オモチャではなく本物の剣だろう。

 まぁ、多分その剣で斬りつけられてもノーダメージだけどね。

 それでも人を斬るぐらいなら出来るだろうし、あの人の前では悪い事なんて出来ないね。

 捕まったら首を斬られそうだし。

 あの人がそこに居るだけで犯罪の抑止力になる。

 あれはおそらくこの世界の警察かな。

 おっとそんなことより言語の習得だ。

 

 耳をすましてみる。

 そうすると男同士の会話が聞こえてきた。

 内容はまったく分からない。

 ここから近くの店で話してるみたいだ。

 ちょっと万里眼で会話の様子をご拝見。

 んー?

 女性の店員さんを見ながら話してるね。

 その店員さんも結構な美人さんだ。

 あの人綺麗だよな、とか話してるのかな。

 

 「………やっぱ糸を張り巡らせて、街中の会話を盗み聞きしたほうが良かったかもしれない。」

 

 「なんで?」

 

 「迅速に言語を習得するには多くの会話が必要、だけど耳だと聞こえる範囲が狭いから得られる会話が少ない。でも糸なら街中の会話を拾える。」

 

 「…なるほどね。でも感知系スキルが高い人にバレちゃうかもよ?」

 

 「それもう…お祈りしかない。」

 

 「えー。」

 

 「大丈夫、もしバレても経験値にすれば良い。」

 

 「街を滅ぼすの?その時は根岸さんをどうするの?」

 

 「…………いや別に滅ぼすわけじゃない。討伐に来た冒険者とかを倒すだけ。」

 

 「んー…討伐?今の蜘蛛さん人型だしそれは無いんじゃないかな。」

 

 「それもそっか。なんか魔物でいる気分だったわ。」

 

 「大丈夫?」

 

 「街を滅ぼすなんて言い出した人よりかは大丈夫。」

 

 「…あれは自然と口から出ちゃった言葉だから本心じゃないよ。」

 

 「それの方が怖いわ!」

 

 ほんとに自然と出ちゃった言葉だから。

 本心では街を滅ぼしたいなんて思ってるわけないじゃん。

 私はそんなに危険な生物じゃないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 あれからちょっと話し合って、役割分担をすることになった。

 

 蜘蛛さんは糸から伝わってきた会話を聞く担当。

 私は図書館とか行って、文字を知る担当。

 

 街中に糸を張り終え、私は本を読み漁って文字の解読をしようとしたが、ここで問題発生。

 本がある場所が分からない。

 というわけで万里眼で街中捜索。

 どこだどこだと探していたら、赤ちゃんが本を読み漁っているのを発見した。

 

 ……ん?赤ちゃんが本を読む?

 おかしくない?

 赤ちゃんって本読めたっけ。

 というかここはどこだ。

 あ、ここは領主さんの家か。

 となるとこの赤ちゃんは根岸さんか!

 根岸さんも、この世界の文字を知ろうと頑張ってるんだなぁ……。

 んー…ん?

 根岸さんは私たちと同じ転生者だから、日本にいた記憶があるはず。

 赤ちゃんが本を読んで文字を知ろうとしてるからね、少なくとも前世の記憶があるのは確か。

 ちょっとここは根岸さんに話しかけるべきかな?

 そうすればこの世界の言語について、早く知ることが出来るかも。

 そうと決まればさっそく行ってみよう。

 

 『蜘蛛さん、私根岸さんのところに行ってくるね。』

 

 『はいよ。』

 

 『蜘蛛さんも行く?』

 

 『いや良いよ、話せそうにない。』

 

 『ん?どういうこと?』

 

 『私コミュ障だからさ……。』

 

 『私と元気良く話せてるじゃん。大丈夫だよ。』

 

 『いやーそのータニシちゃんだと何故か話せてさー…なんというか気楽?なんだよね。』

 

 『んーよく分からないけどよく分かったよ。私だけで行くね。』

 

 『うん。』

 

 えーっと転移しても大丈夫かな?

 うーん……。

 やめておこう。

 それで騒ぎになったら根岸さんにも迷惑だろうし。

 それじゃあどうやって入ろう?

 こっそり入り込もうかな。

 隠密のスキルはカンスト、迷彩のスキルはLV5だ。

 無音もカンストしてるし気づかれないはず。

 これで気づかれたら、その人を褒め称えよう。

 ……いやこれもバレたら騒ぎになるじゃん。

 やっぱ転移にしようかな。

 転移による空間の歪みを感知するには高度な探知能力が必要だ。

 そんな人がこの街にいたら、今頃街中に張り巡らされた糸の存在に気づいてパニックを起こしてるよ。

 蜘蛛さんの報告によれば、パニックになってる人は居ないみたいだからね。

 万里眼で街中探しても居なかったし、きっと大丈夫。

 それじゃあ早速根岸さんのところに転移。

 

 おーここが今世の根岸さんのお宅ですか。

 広いねー。

 

 「ら……え?…あ………。」

 

 あ、もの凄い根岸さんビックリしてる。

 前世で同じクラスメートだった人が突然現れたら、そりゃこんな反応するよね。

 

 「根岸さん…だよね?イエスなら頷いて。」

 

 根岸さんが頷く。

 

 「突然来てごめんね。根岸さんと話したかったからここに来たんだけど……今話せる?」

 

 「らいよ……んり。」

 

 「無理?」

 

 頷く。

 

 「えーっとじゃあ……根岸さんってスキルポイント沢山あったよね。それで念話を取ってくれないかな?」

 

 「すいうおうんと……なに。」

 

 「えー…スキルポイントっていうのは…スキルが取れるポイントだよ。詳しくは後でね。」

 

 根岸さんは頷き、少しの間黙る。

 私は根岸さんを鑑定し、念話のスキルがあることを確認する。

 

 「それじゃ念話を使って。念話をするって念じれば出来るよ。」

 

 『…あーあー……これでいい?』

 

 「そうそう、出来てる出来てる。」

 

 『…さっそく聞きたいことがあるんだけど良い?』

 

 「ん?どうぞ。」

 

 『…なんであなたは前世と同じ姿をしているの?』

 

 「んー…なんでだろうね?元は魔物で人化したらこうなった、かな?」

 

 『元は…魔物…?』

 

 「そうそう、魔物だよ。聞いたことはあるでしょ?」

 

 『ええ、まぁ…。』

 

 根岸さんが動揺しているね。

 元クラスメートが転生したら魔物になってて人化したら前世の姿になっていた。

 そんなこと言われれば誰だってそうなるか。

 

 「こんな姿をしてる魔物、見たことあるでしょ?」

 

 私はコミカルな煙と共に人化を解く。

 服が邪魔なので念力でどける。

 私のタニシ形態を見て、根岸さんは驚く。

 

 『それはあの時の!!じゃ、じゃあ、あ、あの一緒にいた蜘蛛はなんなの?同じ転生者なの?』

 

 「うん。転生者だよ。」

 

 『誰!?』

 

 「若葉姫色さん。」

 

 『!!』

 

 根岸さんがまたまた驚く。

 まぁ、あの美人さんが蜘蛛に転生してるなんて思わないよね。

 私だって初めて会った時ホントかどうか分からなかったもん。

 すぐに信じたけどね。

 

 私は再度人化し、素早く着替えて根岸さんの前で座り込む。

 

 『じゃあ若葉は、この近くにいるの?』

 

 「うん、いるよ。」

 

 『………。』

 

 黙り込む根岸さん。

 

 『…そういえばあんた、私に何か用があって来たの?』

 

 「あ、そうだ。そうだったね。思い出したよ。根岸さん、私に異世界語教えて!」

 

 『シッ!内緒でここにいるから静かにして!』

 

 「あ、ごめんね。」

 

 『いいわよ別に。それで?異世界語を教えてってどういうこと?』

 

 「そのまんまの意味だよ。私たちは今まで魔物として生きてたから人の言葉を知らないんだよね。だから教えてほしいの。」

 

 『ああ、そういうこと。苦労してるのね。』

 

 「苦労ねー………うん、してるね。」

 

 というか苦労しかしてない気がする。

 迷宮にいた時はあのスキルレベルが足りない、このスキルレベルが足りないで悩んでたっけ。

 エルロー大迷宮の思い出を振り返ってあの頃より今は成長したんだなと感動してると、根岸さんからの返事が来る。

 

 『良いわ、この世界の言葉教えてあげる。その代わり、1つ条件があるわ。』

 

 「え?何?お金は払えないよ?」

 

 『違うわよ……これから私のことを前世の名前で呼ばないでほしいの。』

 

 「ん?それだけ?」

 

 『そう、それだけ。』

 

 「ならいいよ、ソフィアさん。…これで良い?」

 

 『ええ。それじゃ、さっそく始めましょう。』

 

 こうして根岸さん改めソフィアさんによる異世界言語講座が始まった。

 ソフィアさんの講座を聞いて1つ思ったことがある。

 ソフィアさん、教えるのちょっと下手だ。

 

 

 

 




 
 \∨∨∨∨∨∨∨∨∨/
 =突然のクラスメート=
 /∧∧∧∧∧∧∧∧∧\

 ↑なんか書き方が違う気がする……。


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血1 転生したら吸血鬼だった件

 
 
 


 転生した。

 何を馬鹿なこと、と思うだろうけど本当にした。

 なぜそうなったのか詳しくは分からない。

 教室でいつものように眠気に逆らえず目を閉じていたら気がつくと赤ん坊になっていた。

 最初はもちろん混乱した。

 夢だって思った。

 でも数日経っても覚めなかったから、これは夢じゃないと分かった。

 ラノベとかでよく見る、転生をしたんだって。

 それを知ると私はまず喜んだ。

 だってそうでしょう?

 私は前世が嫌いだった。

 姿も家庭も性格も。

 近くにある鏡を見る。

 前世のような醜い顔じゃない。

 可愛らしく、将来有望な顔だ。

 生まれも、金持ちである領主の家系。

 喜ばないわけがない。

 そのまま、また数日が経って、この世界には魔法があることが分かった。

 魔法……前世ではクラスの男子が漫画の魔法を真似て、その友人が馬鹿にしか見えない魔法を喰らっていた。

 それを見ていて私は馬鹿じゃねぇのって思ってたけど、その気持ち、分かる気がするわ。

 魔法があるのなら、使ってみたい。

 そう思ってからは、空気中にある魔力みたいなのを感知しようと頑張ってた。

 最初は何もない空気をずっと見つめるだけだったけど、時間をかけていく内に力が蠢いているのがわかった。

 次にその蠢く力をもっとはっきりと見れるようになって、その次にそれを操れるかやってみた。

 するとどこかから日本語が聞こえてきて、魔法感知とかなんとかを手に入れたと言われた。

 声が聞こえた時はそれどころじゃ無かったけど。

 

 ある日、ラノベで有りがちなスキル、鑑定を取った。

 試しに使ってみて、目で見てわかる情報しか分からなかった。

 やってしまった。

 役立たずのスキルを取得してしまった。

 そう思い、どこか憂鬱な気分になった。

 そして、なんとなく自分を鑑定してみた。

 すると、『吸血鬼』なんて表記が出てきた。

 そう、吸血鬼。

 人じゃない。

 ものによっては弱点だらけ。

 ものによっては頂点に立つ。

 そんな種族だって。

 こんなのがバレたら、首を切られるのかもしれない。

 十字架を見せつけられる?

 ニンニクを食わされる?

 聖なるなんたらで浄化される?

 この世界の吸血鬼がどんな立場か分からないけど、人間とは敵対関係だと考えたほうが良さそう。

 バレたら、死ぬ。

 

 そこから私は、もしバレても良いように、一人で生きられるように、家にある本を読み漁った。

 この世界には何かあるの?

 言葉は?文字は?

 スキルとは?

 種族は?

 図書館と言えるほど大きな書物庫で、私は全ての本を読み切る気で、血眼になりそうなほど読んだ。

 読んで、読んで、読んだ。

 

 そして今日も本を読み、知識を蓄えていたその時、突然あいつが現れた。

 そいつは前世の元クラスメート。

 名は篠前ゆりか。

 行動が遅く、どこか眠たげな目をした女。

 顔は整ってたけど、それ以上のやつがいたからあまり目立っていなかった。

 それでも私のように蔑まれてはいない。

 リアルホラー子、略してリホ子みたいなあだ名はつけられてない。

 私と同じぐらい、いやそれ以上に地味なのに。

 私はそれに嫉妬していた。

 なぜだ。

 なぜそう違いが出てくるんだ。

 篠前がやっていることは授業中に寝る、窓を眺める、落書きをする。

 どれも褒められるものではない。

 それなのに。

 

 今、私は篠前にこの世界の言語を教えている。

 私が教えているのは基本会話。

 こんにちはとか、元気ですかとか。

 中学の英文並の内容を教えている。

 でもそれじゃ足りないから、街中で拾った会話を私に聞かせて、その訳となぜその訳になるのかを教えている。

 篠前は乾いたスポンジもビックリな速度で言葉を覚えていく。

 多分、なにか物を覚えるスキルとか持ってるんじゃないかしら。

 いや、前世でもこいつテストで普通より高めの点数を取ってたし、記憶力が結構良いのかも。

 まぁ、そんなことはどうでもいいわ。

 

 篠前に会って1週間ぐらい。

 篠前はもう、この世界の言語をある程度は喋れるようになっていた。

 日常会話程度なら問題無く喋れるらしい。

 私はもう少しかかったから、ちょっと悔しいわね。

 ま、篠前が早く喋られるようになったのは私が教えたからってことにしておきましょ。

 篠前は話せるようになったから冒険者になったらしいわ。

 今の所薬草取りしかやってないみたいだけどね。

 冒険者といったら魔物を倒してお金を得てそうなイメージだけど、それはもう少し冒険者をやってからだって。

 正直、あいつからはやべー気配がするから魔物に殺されるとか無いと思う。

 というかあいつ魔物だし。

 

 そういえば若葉は篠前と一緒にいるらしい。

 今世で初めて会ったときに篠前が言っていた。

 街の外で、どうやってか会話を聞いているらしい。

 どうやって聞いているのか聞いてみたけど、教えてくれなかった。

 後で教えるとは言ってたけど、教える気配がない。

 まぁ、いいわ。

 若葉が今どうしてようと私には関係ないもの。

 

 私は目の前にいる篠前を見る。

 黒く肩まで伸びた髪。

 何も手入れをしていないらしいけど、フワッとしてる。

 目も眠たげで私に微笑んでるから、すごく柔らかい雰囲気を出している。

 それを否定するように首から横顎にかけて赤黒く太い線が二対ある。

 服で見えないけど、きっと体中に模様があるのでしょうね。

 ……というかなんでこいつは私に向かって微笑んでるの?

 あれか、私でも忘れそうになるけど私って赤ちゃんなのよね。

 篠前目線だと可愛らしい赤ちゃんが見つめてくる状況。

 微笑むのも分からなくもない。

 でもそれって、私のことを赤ちゃん扱いっていうことでしょ? 

 ムカつくわ。

 私は赤ちゃん扱いされて喜ぶ変態じゃないのよ。

 だから微笑むのやめろって言ったら今度は慈愛に満ちた目で見てきやがった。

 超ムカついたわ。

 殴りかかったけど拳を掴まれた挙げ句、モニュモニュ揉まれた。

 もう片方の手で殴りかかったらそっちもモニュモニュされて、しかも両手を上に上げられて強制的にバンザイさせられたわ。

 頭に血が上って仕方なかったわ。

 怒り過ぎて『怒』なんてスキルを取るぐらいに。

 それと同時に元高校生としてのプライドが折れた気がする。

 

 「あはは可愛いね。」

 

 うっさい。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 最近、街が騒がしい。

 一体なんだと篠前に聞いてみたら、近くで巣を作っていた若葉の存在が話題になっているらしい。

 巣って何って思ったけど、そういえば若葉は蜘蛛の魔物に転生したって篠前が言ってたわね。

 それで若葉がどう話題になっているのかというと、神の使いが現れたって。

 は?

 神の使い?

 確かに若葉は顔が整ってる。

 それはもう整いすぎてるって言えるぐらい。

 でも神の使いは言い過ぎじゃない?

 しかも今のあいつ、蜘蛛よ?

 人型とはいえ、蜘蛛よ?

 ちょっと頭おかしいんじゃないかしら?

 そう思ってると篠前がこの街で信仰されてる宗教に神獣として蜘蛛の魔物がいる事と、最近若葉はこの街の近くにいる盗賊を倒したり死にかけの人を助けたりしており、それで蜘蛛の巣を張っていた若葉が神の使いだと思われてるって事を教えてくれたわ。

 

 あなたこの街に来てまだ2週間いかないぐらいよね?

 言葉の発音も違和感無いし、ちょっと色々知りすぎじゃない?

 相変わらず赤ちゃん扱いしてくるし、ムカつく要素しか無いわねこいつ。

 今も私のことを抱っこしてるし、ホントムカつくわねこいつ。

 

 「ねぇソフィアさん。」

 

 『なによ。』

 

 「成長したらどうするの?」

 

 『赤ちゃん扱いはやめろって言ってるでしょ。』

 

 「そういう意味で言った訳じゃないよ。」

 

 『…分かってるわよ!』

 

 今の私は吸血鬼。

 人と同じ生活が出来るのか分からない。

 だから、もしかすると、人と離れなければならない時が来るかもしれない。

 その時にどうするか、どこに行くのかを聞いてるのでしょうね。

 

 「おすすめは私たちと一緒に生活することかな?」

 

 『なんであんた達なんかと一緒に居なきゃいけないの?』

 

 「過激だね。」

 

 『当たり前よ。』

 

 「当たり前かー。」

 

 『なによ?なにか悪い?』

 

 「ん?いや、そんなことはないよ。でもね、私たちと一緒だと安全だと思うな。」

 

 『なんでよ?』

 

 「だって私たちに勝てるのって魔王とその他2人しか居ないもん。」

 

 『……魔王っているのね。』

 

 「もちろん。ステータスは平均90000ある化け物だよ。」

 

 『それってどれくらい強いの?』

 

 「んーそうだね。人間の平均が300ぐらいで、鍛えた人が500ぐらい?」

 

 『……化け物ね。』

 

 「そうだよ、化け物だよ。」

 

 『あんた達は?』

 

 「私も蜘蛛さ……若葉さんも平均40000くらい。」

 

 『十分化け物じゃないの!』

 

 「だから私たちと一緒なら安全だよ。」

 

 『………………………………………考えさせて。』

 

 「分かった。返事、待ってるよ。」

 

 そう言い、篠前は転移する。

 そういえば転移って空間魔法らしいけどそれって適性者がものすごく少ない魔法だって本で読んだ気がするのだけど、当たり前かのように使ってるわね。

 空間魔法に適性、ステータス40000とかいう化け物。

 …………一緒に生活する気は無いけど、逃げ道の1つとして頭の片隅に置いておきましょうか。

 

 

 

 




 
 馬鹿な……書籍も原作小説も読み返しているのに………ソフィアの口調が分からない……。


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蜘蛛5 神の使いは、この私だ

 
 
 


 我輩は蜘蛛である。

 名前はまだ無い。

 同じ名無し仲間のタニシちゃんには蜘蛛さんと呼ばれている。

 

 そんな私だが、現在人々に讃えられている。

 こいつらが勝手に崇め始めたというより、私がそうさせたと思われる。

 なぜなら私は善行をしたからだ。

 

 私がやってしまった善行その1、盗賊狩り。

 街の皆さんに迷惑をかけていた盗賊達を経験値にしていたら、それを冒険者らしき人物に見つかってしまった。

 私がやってしまった善行その2、治療。

 ある日、私の元に痩せ細った女性が来て、死にかけの子供を前に出し、治してくださいとお願いしてきたのだ。

 最初は無視した。

 だって面倒だし。

 それでもお願いしてくるので、仕方なくやった。

 見れば、この子は癌になっていた。

 そりゃ異世界の技術じゃ無理だわ。

 まぁ私も癌の治療方法なんて分からんのでとりあえず癌になっているところを切り取って治すという力技をした。

 それで治るのだから異世界はすげーなって。

 

 盗賊を狩って、人を治療する。

 領主の妻が言うにはお使い様。

 はっ!あれは神の使いだ!

 崇めよ!いあいあ!!

 いあいあは言ってないけど私を崇めるムードになってしまった。

 最初は面倒臭くてちゃっちゃと治してはい撤収って感じだったんだけど、ある人が私に治してくれたお礼として料理を出してきた。

 もちろん美味しくいただきました。

 それからはみんな治療してくれた対価に、私に料理を出して来るようになった。

 めっちゃ豪華なものもあった。

 もちろん美味しくいただきました。

 

 まぁみんな料理を出してくるせいで正直食べきれないぐらいだから、巣の中でタニシちゃんに食べてもらうこともあった。

 あと、みんなの前でがっつくのもアレなんで巣に持ち帰って食べてる。

 何人か見にくる奴がいたけど、静止の邪眼と念力でふっ飛ばした。

 

 そんな神の使いロールプレイをやっていたら色んな称号をゲットした。

 『救う者』『薬剤師』『聖者』『救世主』『救恤の支配者』『守護者』の計6つ。

 救恤の支配者があるのは、救世主の効果でぶっ壊れスキル「救恤」を獲得したからだ。

 

 『救恤:神へと至らんとするn%の力。自身を中心に味方と認識するものすべてに「HP超速回復LV1」相当の効果を及ぼす。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る』

 

 あっはっは。

 笑いが止まりませぬ。

 しかもこれ、タニシちゃんも得たから実質「HP超速回復LV2」相当の効果なんだよね。

 これでタニシちゃんの子供と、まだ生まれてない私のベイビー、あと吸血っ子かな?

 それらにスーパー回復を付与していることになる。

 勝ったな、風呂入ってくる。

 風呂入ってくるで思い出したけど、私蜘蛛になってから風呂に入ってねぇや。

 そろそろ入らないと女性としてのあれこれが死ぬ気がする。

 タニシちゃんも入ってないらしい。

 結構風呂代が高くて今のお金の量じゃ入るのは難しいし、全身にある模様のせいで入ろうにも入れないそうだ。

 だから全身に破滅属性を纏って、汚れを消しているらしい。

 破滅属性の無駄使いすぎる。

 と思いながらやってみたら、あっという間に体がキレイになった。

 凄いけど、やっぱ温かいお湯に入ってリラックスしてーわ。

 これも日本人のサガってやつなんかね。

 今は蜘蛛だけど。

 いや人化してるし、やっぱ人か。

 

 あ、そういえばタニシちゃん、冒険者としてやってる内に武器を作ったらしい。

 きっかけはある冒険者の人と一緒に依頼をこなしてたら、戦闘スタイルにツッコミが入ったとのこと。

 タニシちゃんがどう戦っていたかと言うと、殴ってたらしい。

 どんな魔物に対しても真っ先に突っ込んで行ってぶん殴るという方法で倒してたってさ。

 …そりゃツッコミが入るわ。

 タニシちゃんの見た目は暴力とかけ離れてるのにそんな戦い方をしてれば当然噂は広がる。

 それでついたアダ名は「脳筋娘」。

 タニシちゃんは流石に嫌だったのか武器を作ってそれで戦ってるんだけど、1度ついたアダ名はそうそう離れない。

 なので今も脳筋娘と呼ばれてるらしい。

 うん。

 どんまい。

 

 ちなみにタニシちゃんが作った武器は槍で、素材は龍形態のタニシちゃんの爪と鱗、神織糸を使ったらしい。

 どこで取ったか聞いてみたら人気のないところでやったと言ってたよ。

 そんな経緯を持って生まれた槍がこちら。

 

 『終焉之龍槍

  攻撃力:37564

  耐久力:99999

  特性:「弱体化付与」「自動修復」「腐蝕属性」「破滅属性」』

 

 酷い経緯から生まれたにしては高性能すぎない?

 攻撃力はこの槍単体のもので、タニシちゃんが持った場合タニシちゃんの攻撃力とこの槍の攻撃力が足される。

 やべー。

 耐久力はどれほどの攻撃を受ければ壊れるかっていう数値。

 これだとカンスト級のダメージを与えないと壊れない。

 やべー。

 特性にある弱体化付与は、攻撃すればするほど、相手の全ステータスが下がっていくらしい。

 多分、タニシちゃんの怠惰が影響したんじゃないかな。

 やべー。

 これ売っ払ったら大金持ちになれそうだわ。

 やらないけど。

 

 タニシちゃんがこの槍を使ったおかげで「槍の才能」なるものを手に入れたし、武器を作れば強力なものが作れることも知れたし、タニシちゃんの槍作りは無駄じゃなかったよ。

 私も何か作ろうか考えたけど、自分を素材にするにはちょっと小さかったわ。

 そのことをタニシちゃんに言うと。

 

 「蜘蛛さんの武器も作る?」

 

 「え?いいの?…ならこれ使ってさ、デカイ鎌を作ってくれない?」

 

 「ん?蜘蛛さんの前足?」

 

 「これをタニシちゃんの素材と融合とかできない?怠惰が影響されるなら傲慢もされるかなって。」

 

 「いいよ。ちょっと待ってね。」

 

 というわけで作ってもらいました。

 それがこちらです。

 

 『終焉の白鎌

  攻撃力:26009

  耐久力:99999

  特殊:「自動成長」「自動修復」「腐蝕属性」「破滅弱属性」「毒属性」』

 

 なんか攻撃力低いのは、鎌を作ったあとに融合させたら低くなったらしい。

 私の攻撃力が低いと言いたいのか?

 確かに魔法よりだけどさ。

 あと傲慢の効果が現れやすいようにタニシちゃん要素を薄くするようにしたらしく、破滅属性は破滅弱属性に、弱体化付与は無くなってしまった。

 それでもまぁ、私のマイウェポンができたから別に良いけどね。

 私が混ざってるからか知らんけど、結構使いやすいし。

 え?なんで使いやすいのを知ってるのかって?

 実はヤケに偉そうな脂ギッシュオッサンが俺の国に来いよ、抱いてやるぜ?みたいなことを言ってきやがったので、やっちゃった。

 この一件から街がヤケに騒がしくなったけど、私のせいじゃない。

 あいつが悪いんだ。

 

 あとタニシちゃんとちょっとした模擬戦をやったんだけど、負けたわ。

 あれかね。

 冒険者で槍を使ってるからか練度の差が出来たんかな。

 そんな時間経ってないのになー。

 これが神の使いロールプレイをやってた奴と冒険者やってた奴の差かー。

 まぁ良いけどね。

 私は人の治療で大変だったからね。

 だから負けるのも仕方ないってやつよ。

 全然悔しくなんか無いんだからね!

 ……でも一応、鎌の練習しておくか。

 これはね?魔王とか危険な奴が襲ってきた時のためのね、護身術だから。

 決して今度やった時に見返してやるなんて思ってないから。

 ないったらない。

 

 そういえば魔王で思い出したけど、今魔王はどこに居るんだっけ。

 えーっとマーキングの場所はー……うわっエルロー大迷宮から出てるじゃん。

 今は真反対の方向にいるけど、何時ここに来るか分からないなー。

 そろそろこの街から離れるべきだなー。

 吸血っ子はまぁ、大丈夫でしょ。

 明るく元気な貴族ライフを楽しみたまえ。

 そろそろ戦争が始まるらしいけど。

 さて、タニシちゃんの場所は…吸血っ子の家か。

 もう言葉は分かるからあそこに行く必要は無いんだけど、タニシちゃんは吸血っ子気に入ってるからなー。

 万里眼で見てみると色々話してる。

 あ、抱っこされた。

 吸血っ子ブチギレとる……。

 でも声は上げてないな。

 念話で怒鳴ってるのかな?

 まぁいいや。

 

 『おーい、タニシちゃーん?』

 

 『ん?何?』

 

 『魔王が外に出たから、そろそろこの街からおさらばするよー。』

 

 『え?あ、ホントだ。しかもここ私が武器を作った場所じゃん。……ソフィアさんはここで大丈夫?』

 

 『大丈夫でしょ。多分、きっと、めいびー。』

 

 『でもそろそろ戦争が起きるみたいなんだけど……。』

 

 『あー…じゃあそれにちょっとした手助けをしてからオサラバしよう。』

 

 『どんな?』

 

 『適当な魔法を撃って、敵軍を殲滅。そうすれば神の使い怖いってなって戦争終わるでしょ。』

 

 『んーそうなるかな?』

 

 『数万人の規模をやればいけるっしょ。経験値も美味しいし。』

 

 『数万………出来るの?』

 

 『暗黒弾とか色々撃ってればいける。』

 

 『じゃあそうしよう。あ、でもオサラバしちゃったら恐怖の対象がいなくなって攻めてきちゃうんじゃない?』

 

 『そんときはそんときで、また来ればいい。』

 

 『分かった、そうする。』

 

 「でもオサラバするって、どこに向かうの?」

 

 後ろから声が聞こえてくる。

 うーん……態度に出さなかったけど結構ビックリしたわ。

 転移の予兆を察知できても、突然人が現れるのは中々ホラー。

 それにしてもどこに向かうのか、ね。

 んー…。

 

 「なんかどこか。」

 

 「…すごい抽象的だね。」

 

 うるさい。

 私はこの辺の地形を知らないんだ。

 知ってるの森か海しかねーわ。

 

 「まぁ、それはぼちぼち決めていくってことで。」

 

 「そうだね。」

 

 さて、一仕事しますかね。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 こんなこと初めてだ。

 長い生の中で、魂が食われるなんて。

 異常を真面目に対処しなかった、私の愚かさがこうさせたんだ。

 

 初めはただ配下の動きがぎこちなかっただけだった。

 でも、所詮あれは手駒、使えればそれでいい。

 そう思って、無視した。

 

 次にある眷属がゲーレイシュー族と一緒にいるという情報が来たときは、流石に異常だと思いクイーンタラテクトに刺客を送るように命じた。

 その時から、侵食は始まっていたんだ。

 気がつけばクイーンは食い荒らされ、その牙が自分に向いている。

 1度深淵魔法でシステムに還元したはずのゲーレイシュー族も、何事もなかったかのように生きており、異分子の眷属とクイーンタラテクトを殺した。

 

 クイーンタラテクトが殺されたとき、次はお前だと、そう言われた気がした。

 今も奴らは急成長を遂げているだろう。

 自分の死が近づいてくるのを感じる。

 

 食らいついている奴の欠片を取り込んでしまったせいで、おかげで性格が変化してきている。

 自分が自分じゃなくなってきている。

 それを止めるには本体を倒さなければならない。

 でも、出来るのか?

 相手は深淵魔法をまともに食らっても生きるという不死身。

 異分子にまだ深淵魔法を当ててないが、あのゲーレイシュー族と同じように復活する。

 そんな嫌な確信があった。

 

 こっちは死にそうなのに、あっちは不死身。

 それでもう泣きそうなのに、地龍ガキア達による足止め。

 

 そんな状況だってのに、まぁいいかとか、なったらなったで別に良いでしょとか、楽観的な思考しか湧いてこない。

 ひょっとしたら、いや、もう昔の私は死んでいるのかも知れない。

 思考が違うのなら、それはもう別人だ。

 自分は死んだ、消えた、昔の私なら震えてたかもしれない。

 でも今は、なっちまったのならしゃーない、なんて思ってる。

 今の私はどっちなのか分からない。

 

 ……とりあえず、お残しはいけないし地龍達を食べるとしよう。

 

 「いただきます。」

 

 「いただくな。」

 

 後ろから声が聞こえる。

 振り返るとそこには難しい顔をしたギュリエが立っていた。

 

 

 

 




 
 原作と同じ終わり方………手抜k(


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人がゴミのようだ

 
 今回はステータス表記があります。
 


 私の目の前に広がるのは平野。

 その平野に、数万人の規模の軍勢が睨み合っている。

 

 サリエーラ国、蜘蛛さんを神の使いとして崇めてた方が約42000。

 オウツ国、敵の方が約53000。

 

 多くない?

 私はあまり戦争に詳しくないけど、これってもしかして総力戦じゃないかな。

 蜘蛛さんをダシにして、やる戦争がこれか…。

 これ、引越し前にやることじゃないよね。

 うーん。

 なんか…責任感を感じる。

 だって想定してたより何倍も規模が大きかったんだもん。

 こんなことになるなんて、私知らなかった。

 

 「うわー…ヒャッハーするつもりだったのに、こんな状況でやったら空気読めない奴って思われるわー。」

 

 「これだけいたらレベルカンストしそう…。」

 

 「そういえばタニシちゃんってそれで最終進化なんだよね?」

 

 「うん。」

 

 「カンストってあるの?」

 

 「さぁ…きり良く100ぐらいまでじゃないかな。」

 

 「んーまぁいっか。レベルが上がれば強くなるのは確かだしね。」

 

 「そうだね。」

 

 …今気づいたけど両軍の兵士が私たちの事を見てるね。

 サリエーラ国からしたら、神の使いともう一人の誰か。

 オウツ国からしたら、噂の神の使いと謎の人物。

 うーん。

 完全に私部外者だね。

 でもまぁ、迷い込んだ一般人とは思われてなさそう。

 だって私、空間機動で空中に立ってるんだもん。

 冒険者やってて空間機動を使ってる人見たことがないから、普通の人は使えないものなんじゃないかな。

 なら蜘蛛さんと同じ高さに立っている私は、蜘蛛さんの仲間なんじゃないかって思うはず。

 これで一般人判定だったらビックリするよ。

 

 お、どうやら戦うみたいだ。

 私たちの事を兵士達がチラチラ見てるけど無視して戦うみたい。

 司令官っぽい人が声を上げる。

 それと同時に兵士達がぶつかり合う。

 というかただ突撃するだけなのね。

 なんか、もう少し作戦とかあると思ってた。

 こんな平野で作戦は立てづらいと思うけどね。

 んー……。

 数が少ないからかサリエーラ国が押されてるね。

 1万も人数に差があるし、このままだと負けちゃうね。

 うん。

 加勢しよう。

 もともとそのためにここに来てるんだし。

 

 「蜘蛛さんは何をするの?」

 

 「……暗黒魔法の「暗黒界」をオウツ国軍に放つ。」

 

 「分かった。私は龍化してブレスで良い?」

 

 「ここから魔王まで距離あるし、良いよ。今のタニシちゃんのパワーで、人族をこの世から消し去ってしまえー!!」

 

 蜘蛛さんの許可を得たので龍化する。

 そして口にエネルギーを溜め、ブレスの準備をする。

 兵士達の動きが止まっているように見えるのは気のせいかな。

 蜘蛛さんは先程言ってた通り、暗黒界の準備をしている。

 暗黒界は威力、範囲共に深淵魔法を除く全ての魔法で一番の威力を持っている。

 威力は深淵魔法の地獄門に少し劣る程度で、範囲は同じ200m。

 それを蜘蛛さんはオウツ国の軍に3発ほど放つ。

 私も同じくオウツ国の軍にブレスを放ち、薙ぎ払う。

 

 一瞬で1万の人間が消えた。

 

 ……わぁ、凄い経験値。

 蜘蛛さんカンストしたんじゃない?

 私は……うーん。

 まだ分からないね。

 うわっ、跡がすごい残ってる。

 蜘蛛さんの暗黒界でポッカリ穴が開いてるし、私の薙ぎ払いで太い線が出来てる。

 

 オウツ国の軍が叫ぶ。

 兵士はもちろん指揮官も悲鳴を上げながら逃げていく。

 

 「か、神の御使い様に続けー!!」

 

 サリエーラ国の指揮官が叫ぶ。

 兵士達は恐怖しながらもオウツ国の軍を追う。

 形勢逆転だ。

 というか、もうこれ相手からしたらトラウマじゃないかな。

 これなら二度と手を出そうなんて思わないでしょ。

 

 そう思ってると後ろの空間が歪み始める。

 

 「ん?誰だ?」

 

 『この感じ、ギュリギュリさんじゃない?』

 

 「あー…人を殺すなって言いに来たのか。」

 

 『ん?…いや違う!!」

 

 私は龍から素早く人化し、龍槍を手に取る。

 龍から人になったせいなのか、全身の模様がオレンジ色だ。

 

 「違うってどういう……!!」

 

 蜘蛛さんが私に着た状態の服を作りながら聞いてくる。

 答える時間も無く、歪みから人型が出てくる。

 

 魔王だ。

 

 私は魔王の姿が見えた瞬間に龍槍で突く。

 魔王は腕を交差させガードする。

 龍槍が魔王の腕を突き抜け左肺に穴をあける。

 見れば傷口からだんだんと塵になっている。

 腐蝕属性のおかげだ。

 魔王の顔が歪む。

 痛覚無効があっても自分の体が塵になっていくのを見るのは嫌なんだろう。

 私も嫌だ。

 

 「ーっ!蜘蛛さん!」

 

 「準備完了してるよ!」

 

 蜘蛛さんの手が私に触れる。

 次の瞬間には目の前に壁があった。

 これはエルロー大迷宮の壁。

 どうやら無事私たちは逃げれたみたい。

 

 「ふぅ…ないわー。ギュリギュリかと思ったら魔王だったとかないわー。」

 

 「フェイントかけてきたね。」

 

 「はぁ……管理者は公平に接するんじゃないの?」

 

 「流石に今回のはやりすぎなのかな?」

 

 「1万人は殺ったかなー……やりすぎだわ。」

 

 「そうだね。」

 

 「そういえば今の私のレベルは……え!?80!?」

 

 「え?」

 

 「凄い上がってる!って思ったけどこれあれだわ。カンストして途中からレベル上がってねーわ。」

 

 「あ、やっぱり?」

 

 「タニシちゃんはどれぐらい?」

 

 「…103だね。」

 

 「たっか!まだカンストしてない?」

 

 「してないね。」

 

 「えーっとつまりさっきの大虐殺で……元が32だったから71か!」

 

 「凄い上がってるね。」

 

 「んー倒した数が1万でこれは……かなり上がりづらくなってるなー。」

 

 「今後のレベルアップは期待しないほうがいいかな?」

 

 「そうだねー……ま!私は進化してまたレベル1だから上がりやすいんだけどね?」

 

 「……羨ましがろうか?」

 

 「え?あ、いや、いいっす。」

 

 「分かった。」

 

 「ゴホンッ!気を取り直してレベル50超えたから進化するねー。」

 

 「うん、見てるよ。アラクネだから蜘蛛の下半身だよね?」

 

 「そうだねー。」

 

 「蜘蛛さん今人型じゃん。足が変化するのかな?」

 

 「あー…進化に影響でたら嫌だし一応人化解除しとこ。」

 

 ボフンっと蜘蛛さんが煙に包まれる。

 そこから出てきたのは白い蜘蛛。

 大きさ的に人の上半身が生えてもアンバランスな気がする。

 進化で大っきくなるのかな?

 まぁそれはお楽しみってことで。

 

 『それじゃ、進化しまーす。』

 

 「うん。」

 

 蜘蛛さんの体からミチミチと音がし始める。

 いやギチギチ?

 とにかく脱皮もせずに体が大きくなってきている。

 どんどんどんどん大きくなって、ある程度大きくなると蜘蛛さんの頭に出っ張りが出来た。

 それがムクムクと伸びていき、だんだんと人型を形成していく。

 腕、指、顔、目、鼻、耳、髪。

 次々と出来上がっていき、やがて人の上半身が完成した。

 人の目が開けられる。

 

 「……ふぅ…ふふっ進化完了!」

 

 「凄かったよ。なんかこう……とにかく凄かった。」

 

 「お、おう。」

 

 「どう?アラクネは。」

 

 「なんだろう、頭が2つあるから人の視界と蜘蛛の視界があってそれをそれぞれの意思が受け取って……みたいな。多分脳が人と蜘蛛で2つあるんだろうね。」

 

 「……?よく分かんないや。」

 

 「まぁ強くなったね。」

 

 「良かったね。」

 

 「おう、ちょっとステータス確認するわ。」

 

 「あ、私も。」

 

 素の能力を知るために龍化を解除する。

 さらっとやったけど人化したまま龍化を解除できるんだね。

 その逆もできるかな?

 あとで試そう。

 さて、103なんてレベルなんだし、きっと凄い上がってるはず。

 ちょっとドキドキする。

 ……よし。

 ステータスオープン。

 

 『ゼル・ゾロフ(篠前 ゆりか) LV103

  ステータス

 HP:90749/90749(緑)+42500

 MP:68721/68721(青)+34900

 SP:80003/80003(黄)+42200

   :80294/80294(赤)+42200

 平均攻撃能力:76049     +42500

 平均防御能力:94411     +49400

 平均魔法能力:69519     +34900

 平均抵抗能力:96137     +49800

 平均速度能力:65860     +34800

 スキル

 「HP超速回復LV10」「SP超速回復Lv10」「SP消費大緩和Lv10」「魔導の極み」

 「吸収lv10」「共存lv10」「同心」「破滅LV10」「産卵LV10」「眷属支配LV10」「神織糸」「操糸LV10」「念力LV10」「遠話lv10」「毒合成LV10」「薬合成LV10」「集中LV10」「思考超加速Lv10」「未来視LV10」「並列意思Lv10」「高速演算Lv10」「射出LV10」「命中Lv10」「回避LV10」「確率大補正LV10」「空間機動LV10」「鉄壁LV10」「盾神」「槍神」「鎌神」「糸の天才LV10」「狂LV10」「挑発LV10」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「迷彩LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「無熱LV10」「飽食LV10」「暗視LV10」「暴君LV10」「帝王」「不死」「龍化」「人化」

 「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「大気力撃LV10」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「大魔力撃LV10」「神龍力LV10」「神龍結界LV10」

 「恐怖無効」「貫通無効」「衝撃無効」「酸無効」「気絶無効」「重無効」「火炎無効」「水流無効」「暴風無効」「大地無効」「雷光無効」「暗黒無効」「光無効」「状態異常無効」「打撃無効」「斬撃無効」「破壊無効」「腐蝕無効」「苦痛無効」「痛覚無効」「外道無効」

 「外道魔法LV10」「風魔法LV10」「暴風魔法LV10」「土魔法LV10」「大地魔法LV10」「地裂魔法LV10」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「深淵魔法LV10」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「奇跡魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV10」「光魔法LV10」「聖光魔法LV10」

 「激怒LV2」「奪取LV3」「叡智」「忍耐」「怠惰」「救恤」「退廃」「断罪」「献上」「禁忌lv10」

 「韋駄天lv10」「のんびり屋LV10」「勇者LV10」「大勇者LV10」「魔王LV10」「大魔王LV10」「城塞LV10」「剛毅LV10」「天動Lv10」「富天LV10」「天命LV10」「万里眼LV10」「五感大強化LV10」「視覚領域拡張Lv10」「神性拡張領域LV9」「星魔」

 「腐蝕大攻撃LV10」「外道攻撃LV10」「猛毒攻撃Lv10」「強麻痺攻撃LV10」「破壊大強化Lv10」「斬撃大強化Lv10」「貫通大強化LV10」「衝撃大強化LV10」「状態異常大強化Lv10」

 「呪怨の邪眼LV10」「歪曲の邪眼LV10」「静止の邪眼LV10」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV10」「悄然の邪眼LV10」「狂乱の邪眼LV10」「死滅の邪眼LV10」「幻痛の邪眼LV10」「暗黒の邪眼LV10」「不快の邪眼LV10」「催眠の邪眼LV10」「石化の邪眼LV10」

 「n%I=W」

 スキルポイント:198440

 称号

 「のんびり屋」「悪食」「怠惰の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「救恤の支配者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「龍の殺戮者」「人族殺し」「人族の殺戮者」「人族の天災」「無慈悲」「恐怖を齎す者」「大崩壊」「崩壊」「覇者」「王」「薬剤師」「聖者」「救世主」「守護者」「救う者」』

 

 うわ。

 予想してたけど、やばいね。

 防御力と抵抗能力なら魔王にも負けないよ。

 耐性スキルも全部無効になってる……。

 あれかな。

 71分の熟練度を獲得したからかな。

 もともと色んなスキルがカンストしてたから、残ってた奴に集中したって感じだね。

 うん、凄い。 

 

 蜘蛛さんの方は?

 

 『アラクネ LV1 名前 なし 

  ステータス

 HP:71849/71849(緑)

 MP:78401/78401(青)

 SP:67070/67070(黄)

   :67594/67594(赤)

 平均攻撃能力:64972 

 平均防御能力:65435

 平均魔法能力:76220

 平均抵抗能力:72926

 平均速度能力:69552

 スキル

 「HP超速回復LV10」「SP超速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「魔導の極み」

 「破壊大強化LV10」「斬撃大強化LV10」「貫通大強化LV10」「衝撃大強化LV10」「状態異常大強化LV10」「猛毒攻撃LV10」「強麻痺攻撃LV10」「外道攻撃LV10」「腐蝕大攻撃LV10」

 「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「大気力撃LV10」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「大魔力撃LV10」「神龍力LV10」「神龍結界LV10」

 「眷属支配LV10」「産卵LV10」「吸収LV10」「破滅LV10」「盾神」「槍神」「鎌神」「糸の天才LV10」「鉄壁LV10」「神織糸」「操糸LV10」「念力LV10」「空間機動LV10」「集中LV10」「思考超加速Lv10」「未来視LV10」「飽食LV10」「暗視LV10」「並列意思LV10」「高速演算LV10」「投擲LV10」「射出LV10」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV10」「毒合成LV10」「薬合成LV10」「遠話Lv10」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「迷彩LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「無熱LV10」「狂LV10」「暴君LV10」「帝王」「不死」「龍化」「人化」

 「激怒LV2」「奪取LV3」「奈落」「傲慢」「断罪」「忍耐」「叡智」「救恤」「献上」「禁忌LV10」

 「外道魔法LV10」「影魔法LV10」「風魔法LV10」「暴風魔法LV10」「土魔法LV10」「大地魔法LV10」「地裂魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「奇跡魔法LV10」「空間魔法LV10」「次元魔法LV10」「深淵魔法LV10」「光魔法LV10」「聖光魔法LV10」

「火炎無効」「重無効」「酸無効」「貫通無効」「衝撃無効」「水流無効」「暴風無効」「大地無効」「雷光無効」「暗黒無効」「恐怖無効」「状態異常無効」「破壊無効」「腐蝕無効」「斬撃無効」「打撃無効」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚無効」

 「万里眼LV10」「五感大強化LV10」「視覚領域拡張LV10」「神性拡張領域LV9」「勇者LV10」「大勇者LV10」「魔王LV10」「大魔王LV10」「天命LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「韋駄天LV10」「星魔」

 「呪怨の邪眼LV10」「歪曲の邪眼LV10」「静止の邪眼LV10」「引斥の邪眼LV10」「魅了の邪眼LV10」「悄然の邪眼LV10」「狂乱の邪眼LV10」「死滅の邪眼LV10」「幻痛の邪眼LV10」「暗黒の邪眼LV10」「不快の邪眼LV10」「催眠の邪眼LV10」「石化の邪眼LV10」

 「n%I=W」

 スキルポイント:164000

 称号

 「悪食」「血縁喰ライ」「暗殺者」「魔物殺し」「毒術師」「糸使い」「無慈悲」「大崩壊」「恐怖を齎す者」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「龍の殺戮者」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「人族殺し」「人族の殺戮者」「人族の天災」「傲慢の支配者」「忍耐の支配者」「叡智の支配者」「救恤の支配者」「覇者」「王」「救世主」「聖者」「薬剤師」「守護者」「救う者」』

 

 こっちもすごいね。

 これ正面から魔王に挑んだらワンチャンあるかも?

 これなら怖くない。

 

 む?また空間に歪みが。

 ギュリギュリのだ。

 

 「蜘蛛さん。」

 

 「うん。」

 

 私は槍、蜘蛛さんは鎌を構える。

 その歪みが最高潮に達する。

 来る。

 

 そこからは真っ黒な男、ギュリギュリさんが出てきた。

 

 ……うん。

 まぁいいか。

 敵じゃないしね。

 敵じゃないよね?

 さっき大量虐殺しちゃったから自信がない。

 大丈夫だよね?

 

 「……俺に敵対の意思はない。だからその武器を下ろせ。」

 

 「ほんと?」

 

 「ああ。」

 

 私たちは武器を下ろす。

 ギュリギュリさん相手だと敵対心みたいなのが薄くなる。

 そういう魔術でも使ってるのかな。

 

 「率直に言う。アリエルに攻撃するのをやめてくれないか?」

 

 「ん?どういうこと?」

 

 『心当たりがな……いやあるわ。』

 

 『…なんで念話?』

 

 『うるせー!ギュリギュリがいると喋れないんだよ!』

 

 『あ、そう。で、蜘蛛さん、何をやったの?』

 

 『いや私がやった訳じゃな…あーいや、私がやったのか?その、マザーを食ってた体担当が勝手に魔王の侵食を始めちゃってそれで……。』

 

 『んー蜘蛛さんがやったけど蜘蛛さんはやってないね。』

 

 『…ややこしっ!』

 

 「……攻撃を中止することは出来るのか?」

 

 蜘蛛さんは少し考えて。

 

 「無理。」

 

 一言。

 

 「…どうしてもか?」

 

 『ちょ、私に長文を話せって言ってるのか!?む、無理!』

 

 『頑張って。』

 

 『ねぇ私がタニシちゃんに理由を教えるからさ、タニシちゃんが代わりに言ってよ!』

 

 『なんて回りくどい…。』

 

 『一生のお願い!』

 

 『別に良いけどね。』

 

 『よし!じゃあ教えるよ。』

 

 「……うん、うん。分かった。えーギュリギュリさん。」

 

 「…なんだ。」

 

 「蜘蛛さんの代わりに私が答えます。魂の繋がりが途絶えていて引き戻すのは不可能だそうです。」

 

 「…そうか。分かった。」

 

 ギュリギュリさんは悲しそうな顔をする。

 そんなに魔王の状態は良くないのだろうか。

 ……私そんな人に槍突き刺しちゃったんだけど。

 魔王だし多分大丈夫だろうけど、恨まれてない?大丈夫?

 私を見た瞬間殺意マシマシで襲ってこないよね?

 その時は蜘蛛さんと一緒に魔王を倒そう。

 多分、いける。

 

 「……はぁ…。」

 

 ギュリギュリさんが深くため息を吐きながら転移で帰っていく。

 なんかごめんなさい。

 今回の件、もしかしたら全部蜘蛛さんが悪かったりする?

 まぁ、いっか。

 やっちゃったものはしょうがない。

 今は魔王の対処法を考えておこう。

 

 

 

 




 
 ついこの前
 お気に入り数がやっと1000超えた!
 長く楽しい達筆だった……。
 今日。
 お気に入り数1600……だと?


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ニュータイプ

 
 怠惰関連のオリジナル設定が入ります。
 苦手な方は、お覚悟を。
  


 ステータスがとんでもないほどアップし、魔王にも傷をつけられるほどパワーアップした日から数日。

 私たちはエルロー大迷宮に引き籠もっていた。

 理由は魔王である。

 いくら勝てそうといっても、やっぱり怖い。

 魔王に突き刺したあの時、魔王の暴食で私の槍を食われてたかもしれない。

 槍どころか腕を食われてたかもと思うとゾッとする。

 ステータスがかなり近くなってきたけど、戦闘において暴食は強すぎる。

 それが魔王の脅威だけど、それ以外にもある。

 私たちには経験が少ない。

 スキルの組み合わせ、戦術、体術。

 体術に関しては「槍神」という槍系スキルの最上位を持ってるから良いとして、スキルや戦術だ。

 ゲームとかでも能力をただぶつけるんじゃなくて、このタイミングでとか、この技の後に、先に使うとか、いろいろ考えて使う。

 それはこの世界でも例外じゃない。

 過去を振り返れば、私は特に考えず、鍛えられたステータスとスキルのゴリ押しで勝ってきた気がする。

 敵が格上ならそれ以上に強くなる。

 冒険者達に脳筋娘と言われても無理はないか。

 それでも言われるのは嫌だけどね。

 

 だから私たちは魔王から隠れると同時にスキルの熟練度を上げることにした。

 その熟練度はシステム的なものではなく、私の技術としてのものだ。

 こうやって使う、これの後に使う、組み合わせて使う。

 そんな感じ。

 戦術についても蜘蛛さんと話し合って、私たちのコンビネーションアタックみたいなのを作ってみた。

 近くを通った地龍に使ってみたけど、ステータスの差がありすぎてそんなことをしなくても圧倒できたから、どれほど強いものなのか分からない。

 

 そんな私たちの強化合宿のようなもので、新たなことが出来るようになった。

 それは怠惰の範囲指定をより狭く、より広く出来るようになった。

 それはもう、これぐらいまでしかできないとか無くなった。

 つまり範囲はいくらでも狭くできるし、いくらでも広くできるようになった。

 その気になれば世界中怠惰の効果範囲内に出来る。

 まぁそのかわり効果がすごく薄くなってしまうから、死にかけで何も補充手段がないものにしか効果無いと思う。

 私は効果範囲を広くできるようになった事より、狭くできるようになった事の方がいいと思ってる。

 だって今まで相手だけじゃなく蜘蛛さんも怠惰の効果を受けちゃうから使わなかったけど、今なら拳だけに集中することが出来るようになった。

 これで相手を攻撃した時、著しくHP、MP、SPを下げることができる。

 私の一部で作ったからか槍にも纏えるようになっていたので、これからは怠惰を乗せようと思ってる。

 

 そんな風に自身の強化をしていると蜘蛛さんから連絡が。

 

 吸血っ子が襲われている。

 というより、街が襲撃にあっている。

 私はその連絡を聞いてから万里眼で確認した。

 撤退したと思っていたオウツ国の軍が街の中に流れ込んでいた。

 完膚なきまでに叩きのめして、彼らにはトラウマを植え付けたからおそらくあれは私たちの虐殺を見ていない別部隊。

 でも、正直私たちにとって別部隊が来ていたとかあまり気にならない。

 問題は、ソフィアさんのところにエルフが来ていたことだ。

 

 エルフ…私が冒険者をやっていた時によく蜘蛛さんが殺していた種族だ。

 どうやらこの世界のエルフは前世で見た清い心を持ったエルフではなく、なかなかどす黒い心を持っているらしい。

 蜘蛛さんが万里眼越しに見ていても分かるぐらい邪悪だって言っていた。

 

 そんなエルフがソフィアさんに近づいている。

 怪しい。

 そんな訳で助けに行くことになった。

 魔王に見つかるかもしれないけど、そのときはその時で。

 

 転移、からの薙ぎ払い!

 私の槍は横薙ぎでも十分切れるように鋭くなってる。

 そのためソフィアさんとその従者、蜘蛛さんが殴り飛ばしたエルフ以外は真っ二つになった。

 蜘蛛さんが従者に治療魔法をかける。

 傷がなくなった自分の体を見て、その後に蜘蛛さんを見る。

 

 「…て、敵ではない、のか?」

 

 蜘蛛さんが無言でこちらを向く。

 

 「うん、だから安心して。」

 

 蜘蛛さんの代わりに言う。

 そういえばソフィアさんは無事なんだろうか。

 

 『…篠前?と…わ、若葉?』

 

 『こんにちはソフィアさん。命の危機だったから救いに来たよ。』

 

 『え?あ、ありがとう。』

 

 困惑してるソフィアさんを抱っこする。

 そして従者の人に預ける。

 いや返す、か。

 

 『蜘蛛さん。あのエルフは?』

 

 『……手応えあり。顔を潰したかも。』

 

 『でも油断は禁物だよ。』

 

 『わかってるよ。』

 

 蜘蛛さんが鎌を取り出す。

 それと同時にエルフがいるであろう場所に暗黒弾を放つ。

 私も便乗して破滅榴弾を放つ。

 それはもう大量に。

 

 『やったか!?』

 

 『蜘蛛さん、それフラグ。』

 

 私たちが魔法をしこたま撃った場所の煙が晴れていく。

 奥の景色が見えてくると同時に、黒い人影が立っているのが見える。

 そして完全に煙が晴れたとき、私たちは言葉を失った。

 なぜならそのエルフの体はボロボロで、そこら中から鉄が露出していたからだ。

 エルフの片眼が赤く光る。

 溶鉱炉に入っていきそうな姿だ。

 体の中に機械があるとかファンタジーっぽさがない。

 

 少しぎこちない動きをしながら、そのエルフは口を開く。

 

 「…危険、危険だ。貴様らが何者か知らないが今後私の邪魔になる可能性がある。今の内にここで葬り去るとしよう。」

 

 そう言い、そのエルフは右手を切り離す。

 そしてそこからこの世界に全く似合わないもの、銃が現れる。

 ……なにそれ。

 

 「抗魔術結界機動。」

 

 その瞬間、世界が変わった。

 いや空気とかそういうのは変わってないんだけど、なにかが変わった。

 あれ?

 叡智の探知が使えない?

 目に異常は無いし、耳も同じく。

 それ以外の感覚も変わらず。

 でも探知が使えない。

 いや、探知だけじゃない、それ以外のスキルも使えなくなってる。

 いや、思考超加速は出来てるみたい。

 さっきこのエルフは抗魔術結界と言った。

 スキルは魔術を簡略化したものだから、それを制限する結界を張ったんだと思う。

 それでも思考超加速が機能するのは、この結界はまだ不完全で内側まで効果が無いと予想。

 念話は…いけるね。

 相手の体内で完結してるからかな。

 だとしたら他のスキルも出来そうだ。

 試してみよう。

 

 そう思ってるとエルフがゴツい銃を私たちに向ける。

 それはちょっと、いやかなりまずいかな。

 ゴツい銃から大量の弾丸が発射される。

 私は右に、蜘蛛さんは左に避ける。

 さぁどっちを狙う?

 …私か。

 

 全速力で走る。

 どうやらステータスが十分の一ほどに下がっているようでいつもよりスピードが出ない。

 特に防御力が著しく下がっているらしく、その防御力は最初の村の村人A。

 十分の一に下がろうと私のスピードは6900。

 それにより地面との摩擦で足の裏の皮はズリ剥け、筋肉が露出している。

 私の通った場所には赤い線が出来上がっており、その線に弾丸が撃ち込まれる。

 私は槍を投げ捨てた後、壁に手を付け駆け上る。

 人化していようと私はタニシ。

 ヤモリのように壁を這うぐらいできる。

 弾丸が足のすぐ下を貫く。

 次は私の足かと、撃ち込まれるのを覚悟したが次が飛んでくることはなかった。

 見れば今度は蜘蛛さんが弾丸の雨に追われている。

 チャンスだ。

 私は天井を這い、エルフの頭上を取る。

 エルフは気配に気がついたのか銃身をこちらに向ける。

 ヤバいので全力で天井を駆ける。

 が、間に合わず足に弾丸が撃ち込まれる。

 弾丸が体に埋め込まれる。

 体に異物が入ったような違和感を感じる。

 

 横から来ていた蜘蛛さんがエルフにボディーブロー。

 凄まじい音が鳴り、勢いよく吹っ飛んでいき壁に追突。

 追突した壁を突き抜けると全身を打ち付けながらゴロゴロと転がっていった。

 銃身から無意味に弾丸が発射され続け、止まる。

 

 蜘蛛さんの手には鎌がない。

 おそらく弾丸を避けるときに邪魔だったから手放したのだろう。

 辺りを見渡せば地面に置かれている鎌があった。

 

 エルフの体がグラリと立ち上がる。

 上半身が酷く凹んでおり、回路のようなものが垂れ下がっていた。

 ギギギと機械らしい音を立ててこちらを向く。

 その目は厄介者を見る目だった。

 機械の体だからか、その目は死を恐れていない。

 自分の代わりはいくらでも居るみたいな。

 そんな思考が読み取れた。

 

 エルフが銃身を向け、その先を光らせる。

 蜘蛛さんは咄嗟に回避行動をし、銃身から出てきた光の弾を避ける。

 背後で爆発が起きたため、避けてよかったと安堵する。

 もう一発放ってきたのでこれも回避。

 エルフは遠くから撃つのを止め、走って向かってくる。

 銃身を構えたままなことから至近距離で撃つつもりなのだろう。

 今回も二手に分かれる。

 どっちを狙うか。

 それはエルフ次第だ。

 

 そう思ってるとエルフが足を止める。

 そして私と蜘蛛さんを交互に見、構える。

 どうやら片方に攻撃してるだけじゃ駄目だと思ったらしく、どちらが来ても良いようにしている。

 静寂。

 私と蜘蛛さんは隙を伺い、エルフはこちらから来るのを待っている。

 私と蜘蛛さんはエルフが攻撃してこないと攻撃出来ない、エルフは私たちが攻撃してこないと攻撃出来ない。

 どちらも行動出来ない。

 エルフが私たちを交互に見据える。

 私たちはエルフを見据える。

 我慢比べのような状況だ。

 緊張が高まる。

 双方とも一瞬の隙も逃さんとし、空気が張り詰めていく。

 そして。

 

 「やぁやぁ!魔王少女アリエルちゃん華麗に参上!」

 

 上から奇妙なものが降ってきた。

 あれは…魔王?

 あんなのだっけ?

 

 「アリエル…か?」

 

 「そうだよどうして疑問形なの?」

 

 どうしてと言われても……。

 うーん……エルフと魔王、反応からして付き合いがあるんだろうけど、そんな付き合いが長くない私でも疑問形になるくらいにはおかしいよ。

 

 「ふむ、抗魔術結界機動中は鑑定が使えんのが痛いな。これでは偽物か本物か分からん。」

 

 「本物ですー。他人の体使ってる奴に言われたくないですー。」

 

 「これは耳が痛いな。」

 

 呆然としている私たちを置いて魔王とエルフが会話する。

 

 「ポティマスくんや、なんでこんな所にいるんだい?」

 

 「さぁ、なんでだろうな?」

 

 ポティマスと言われたエルフは惚ける。

 

 「さっさと吐け。」

 

 一気に魔王と雰囲気が変わる。

 さっきまでのほんわりしたものでは無く、魔王らしい重力のような威圧感を感じる。

 

 「本物か。」

 

 「最初から分かってるでしょ?さぁ吐け。」

 

 「断る。」

 

 そう言い魔王に向かってポティマスが走る。

 魔王は腕を振るう。

 それだけでポティマスの体はバラバラになった。

 

 「このボディでも敵わんか。」

 

 「いつかお前の本体も同じようにしてやる。」

 

 「やってみろ、小娘。」

 

 その言葉を最後に、ポティマスの頭が踏み潰される。

 結構苦戦してたのにそれを容易く壊されるのはちょっと自信無くす。

 私より力が弱い蜘蛛さんが殴ったから、私が攻撃していたらどうなっていたか分からないけど少なくともバラバラにはなっていない気がする。

 

 「蜘蛛ちゃん、タニシちゃん。」

 

 魔王に呼ばれてちょっとドキっとする。

 蜘蛛さんはそれ以上にドキっとしてる。

 

 「それともこう呼んだほうがいい?若葉姫色ちゃん、篠前ゆりかちゃん。」

 

 「……なんでそれを?」

 

 あれ?蜘蛛さんが喋ってる?

 喋られるようになったの?

 そんな急に…人の変化は突然なんだね。

 魔王を見てるとそう思えてくるよ。

 

 「私の魂にこびりついてた元体担当の魂が私と融合したから、若葉姫色ちゃんの記憶が少し分かるよ。」

 

 それと、と魔王は私を見て付け足す。

 

 「タニシちゃん、君に槍で刺されたときすごいショックだったからね?迷宮内での思い出を知ってるせいでさ、大切な仲間に裏切られた気分になって、正直ちょっと泣きそうになった。」

 

 「え。」

 

 あの時顔を歪めてたのってそういうことだったの。

 それは…。

 

 「すいません。」

 

 「いや別に謝罪を求めてるわけじゃないからやらなくて良いよ。」

 

 「分かりました。」

 

 「って!こういうことを言うためにここに来たんじゃないの!」

 

 魔王がゴホンとわざと咳をし、切り替える。

 

 「君たち、私と手を組む気はないかい?」

 

 「手を…組む?」

 

 「そうそう。」

 

 んー別に私は良いけど、蜘蛛さんはどうだろう?

 蜘蛛さんを見てみると悩んでるみたい。

 でも、これには正直選択肢はない気がする。

 断った瞬間殺しに来そう。

 …一応、槍を持っておこうかな。

 

 私は念力で槍を引き寄せる。

 あ、魔王に取られた。

 どうしよう。

 

 「……これで何をするつもりだったのかな?」

 

 「いざって時の護身用です。」

 

 「……そう、わかった。」

 

 魔王が私に向かって槍を投げる。

 無事キャッチできた。

 蜘蛛さんの鎌も引き寄せる。

 蜘蛛さんは悩みながら鎌をキャッチする。

 そして鎌を肩に担ぎ、口を開く。

 

 「手を組もう。」

 

 「お?マジ?やった!」

 

 魔王は嬉しそうに声を上げる。

 

 「いやーもし断られたらどうしようかと!実はね、君たちにはすごい追い詰められてたんだー。もう自分は死ぬんじゃないかって本気で思ってたから!」

 

 あっはっはと豪快に笑う魔王。

 これはつまり休戦ってことでいいのかな?

 魔王は仲間になったの?

 いや、魔王の仲間になったの?

 どちらでもいいけど、魔王と敵対関係では無さそう。

 もし本当にそうなのなら、これからは追われたりしない平穏な生活が得られそう。

 蜘蛛さんを見てみると何処か嬉しそうだし、きっとこの先の生活が殺るか殺られるかの命懸けサバイバルじゃなくなることに歓喜してるんだろうね。

 この世界に転生して何ヶ月ぐらい?

 私たちはやっと平穏な生活を得たのかもしれない。

 

 




 
 地味にソフィアは蜘蛛子じっと見お漏らし事件を回避している。
 


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赤ん坊がレベリング

 
    
 


 魔王との停戦協定を結んだ次の日。

 ソフィアさんは死にそうな顔で歩いていた。

 その姿は操り人形を彷彿とさせる。

 それはそうだ。

 実際、蜘蛛さんの糸によってソフィアさんは操り人形になっている。

 

 なぜこんな事になっているのか、遡ること1日前。

 

 魔王と停戦した後、ソフィアさんとその従者を回収しにいった。

 これは蜘蛛さんのお願いで、ダシにされたとはいえ戦争が起こった原因の一つとしてちょっと責任を感じてるらしく、それのお詫びにソフィアさんを保護しようと考えたみたい。

 まぁ蜘蛛さんは私と魔王以外だと何故か喋れないらしく、私たちについてくるか否かはほとんど魔王と私が聞いた。

 答えはイエス。

 ソフィアさんは魔族領に着くまでに考えておくと保留を口にした。

 その後にちょっとした自己紹介をして1日が終了。

 蜘蛛さんは寝たけど、魔王と私は寝なかった。

 魔王から何回か声がかかったけど会話は弾まず。

 みんなが起きるまでお互いに無言で虚無を見つめ合った。

 

 みんなが起きてこれから魔族領を目指そうってときに蜘蛛さんが突然ソフィアさんに糸を巻きつける。 

 困惑するソフィアさんに「歩け」の一言のあと、ソフィアさんを操り人形にした。

 蜘蛛さん曰く、道中暇になるだろうから吸血っ子のステータスを育てておきたいとのこと。

 ようは暇潰しにソフィアさんを鍛えようってことだね。

 

 「ひゅーひゅー」

 

 ソフィアさんが極限まで体力を使い果たした時の呼吸音を発している。

 ソフィアさんは本来なら歩くことが出来ない赤ん坊。

 なのに1日中歩かされている。

 おかげでステータスが上がり沢山のスキルをゲットしている。

 従者のメラゾフィスさんも緩やかにだけどステータスとスキルが上がっていってる。

 この調子なら魔族領に着く頃には上位竜ぐらいのステータスになってるかも。

 

 「し…しのまへ…」 

 

 「ソフィアさん、どうしたの?」

 

 「たすけて」

 

 「……ごめんね。」

 

 これはソフィアさんのためだから。

 そんな言葉が出そうになるけど、今のソフィアさんに言ったら睨まれそうな気がする。

 というかもう睨まれてる。

 赤ちゃんだから全然怖くない。

 

 食事の時間になると蜘蛛さんは糸を解除する。

 ソフィアさんは開放された瞬間、力が抜けたように倒れ気絶する。

 白目剥いて泡を吹いてる。

 赤ちゃんがしていい顔じゃないね。

 そんなソフィアさんを無視して蜘蛛さんは料理する。

 毒々しい色をした肉を焼き、それをメラゾフィスさんに振る舞う。

 目が覚めたばかりのソフィアさんにも毒々しいステーキを振る舞う。

 ソフィアさんはステーキを見つめたまま動かない。

 

 「ねぇしのまえ、これくうの?」

 

 「うん。」

 

 「…なにかいみはあるの。」

 

 「多分、毒耐性とか悪食の称号を取るためかな。悪食の称号でも毒耐性とか貴重な腐蝕耐性とか獲得できるし」

 

 「…どくたいせい?これどくなの?」

 

 「うん。」

 

 「わたししにかけなんだけど、とどめ?」

 

 「いや、そういうわけじゃないよ。それにこの程度ならソフィアさんはダメージ受けないよ。ただ苦く感じるだろうけどね。」

 

 「…………」

 

 ソフィアさんは嫌な顔をしながらステーキを口にする。

 あ、顔をしかめた。

 すごく嫌そう。

 ん?なんか香ばしい香りがする。

 見てみると蜘蛛さんが美味しそうな肉を焼いていた。

 蜘蛛さんが何見てんだコラって顔をする。

 いや実際は表情はまったく動いてないけど雰囲気がそう語っている。

 

 「白様、お嬢様にもまともな食事を出してはいただきませんか?」

 

 メラゾフィスさん…長いからメラさんでいいや。

 メラさんが蜘蛛さんにそんな意見を言う。

 白っていうのは魔王が蜘蛛さんを呼ぶ際につけたあだ名。

 最初は蜘蛛ちゃんとか若葉ちゃんとか姫ちゃんとか、色々な名前で呼ぼうとしてたけど蜘蛛さんは却下。

 しょうがないと言った様子で白ちゃんと呼び始めた。

 蜘蛛さんも文句を言うのを疲れたのか受け流している。

 私も便乗して白さんって呼ぼうとしたけど、蜘蛛さんにはいつも通り呼んでくれと頼まれた。

 

 『メラゾフィス、篠前が言ってたでしょ。これも鍛錬なのよ。』

 

 ソフィアさんがどこか諦めたような雰囲気を出す。

 さっきまで念話が使えないほど疲労してたけど、毒ステーキを食べたことにより体力が回復したみたいだ。

 メラさんは納得できないと思いながらも毒ステーキを食べて、むせる。

 

 「魔王。」

 

 蜘蛛さんが一言。

 魔王はパンを差出し、そこにステーキが乗せられる。 

 魔王はサンキューと軽い感謝を言うとステーキサンドを口に運んだ。

 んー私も何か食べようかな。

 のんびり屋の効果で食べる必要は無いけど、美味しいものは食べたほうがいい。

 

 実は迷宮内でスキルのリアル熟練度を上げているとき、私たちを大きく成長させてくれた「共存」について考えていた。

 それであることがわかった。

 それは今の私たちがHPやSPを共有すると、弱くなるということだ。

 私はHPが90749、SPが80000ほど。

 蜘蛛さんはHPが71849、SPが67000ほど。

 共有するとHPが160000、SPが140000ほど。

 そしてシステム内での最大値は99999。

 つまり、共有したら7〜5万ほど減ってしまうのだ。

 これにより私たちはHP、SPは共有しないほうが良いと判断し、現在経験値と熟練度のみ共有している。

 そのため、今の蜘蛛さんは私ののんびり屋の恩恵を受けていないから食事をする必要がある。

 まぁ恩恵を受けていても食べてたと思うけどね。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 「あの街で一晩過ごそうか。」

 

 魔王が人の街を指差し、私たちに言う。

 食料とかの買い出しをかねて、街に泊まるらしい。

 蜘蛛さんは人化し行く気マンマンだ。

 そこで魔王からストップがかかる。

 

 「白ちゃんはここらへんで待っててね。」

 

 「ん?魔王さん、どうして?」

 

 蜘蛛さんは人型だし、街に行ってはいけない理由なんてないはず。

 

 「白ちゃんって実はめっちゃ有名なんだよ?なんてったって神の使いですから。」

 

 「でもそう言ってるのって女神教だけじゃないの?」

 

 「甘いねー。甘々だよ。白ちゃんをよく見てみ?超美人でしょ?人を治して、悪者を退治して、おまけにちょー美人。噂が街中だけになると思う?」

 

 「んーでも顔とか分からないんじゃない?」

 

 「と、思うじゃん?実は白ちゃんの噂、似顔絵と共に広まっちゃってるんだよねー。」

 

 「似顔絵?」

 

 「うん、それもハイクオリティーな。その似顔絵を見た人が白ちゃんを見たら間違いなく神の使い様だ!ってなるよ。そうなったら大騒ぎ、買い出しどころじゃなくなるね。」

 

 魔王が蜘蛛さんを見る。

 蜘蛛さんはあからさまにテンションが下がっている。

 あ、座り込んだ。

 ……しょうがない。

 

 「蜘蛛さん、私も残るよ。」

 

 蜘蛛さんが顔を上げる。

 かなり嬉しそうだ。

 

 「あーとなると…監視役が必要だなー。」

 

 魔王がそう呟き、召喚のスキルを発動させる。

 すると魔王の目の前に9体のパペットタラテクトが出現した。

 ……多くない?

 

 「いやいやこれでも少ないほうだよ。君たちのステータスを思い出してみな?」

 

 6〜8万くらい?

 ……なるほどね。

 パペットタラテクトのステータスは平均10000ぐらいだからほぼ手も足も出ないね。

 それでも多ければそれだけ時間は稼げるから9体出したんだろう。

 

 「それじゃあ私たちはフカフカなベッドと豪華な料理を白ちゃんと篠前ちゃんの分まで堪能するから、じっとしててねー!」

 

 魔王がいい笑顔で言う。

 なんか凄い嫌味のある言い方。

 まぁ蜘蛛さんは魂を食べたし私は槍で突き刺したし、仕方ないか。

 むしろよく仲間にしようとしたね。

 私だったらどうしてたかな?

 あ、蜘蛛さんが威圧感出してる。

 魔王もそれに対して威圧。

 見えないけど電気がバチバチいってるね。

 ソフィアさんは顔色が悪くなってる。

 

 「お二人とも、そこまでにしてください。お嬢様が怯えております。」

 

 「おっとおっとそうだった。ごめんねソフィアちゃん。白ちゃんもそう拗ねんないで、ちゃんとお土産買ってくるからさ。」

 

 そう言い、魔王は街に向かう。

 それにソフィアさんとそれを抱きかかえるメラさんはついていく。

 後に残ったのは私と体育座りの蜘蛛さん、9体のパペットタラテクトだけ。

 結構居るね。

 

 「はぁぁぁぁぁ………。」

 

 蜘蛛さんが長い溜息を吐く。

 そして空間収納から魔物の肉を大量に取り出し、魔王からコピーした火魔法で炙る。

 どうやら焼肉パーティーをするようだ。

 蜘蛛さんが焼き上がった肉を貪り食う。

 早く食べるためなのか人化を解除して人の方と蜘蛛の方の両方の口で食べている。

 パペットタラテクト達が羨ましそうな顔で見つめる。

 蜘蛛さんはその視線に気づいたあと、一部をパペットタラテクト達に差し出す。

 最初は戸惑っていたが、ある人形蜘蛛が食べ始めてからは全員が食べ始めた。

 私も食べる。

 まぁまぁ美味い。

 

 咀嚼音が響く。

 その音はどこか悲しさを感じさせた。

 むしゃむしゃと肉を食う。

 肉しかないけど仕方ない。

 焼肉だしタレとか欲しいけどそんなものはない。

 パペットタラテクト達も小さく千切ってから喉の奥にいる本体に腕を肘まで入れて届けている。

 うーん。

 中々にホラー。

 だけどその食べる前の仕草が妙に可愛らしかった。

 どこか女子力のようなものを感じる。

 なぜパペットタラテクトに女子力があるのか。

 蜘蛛さんも同じ事を思ったそうで、不思議そうに、それでいて悔しそうにパペットタラテクト達を見つめている。

 そして何を思ったのか蜘蛛さんは服を作り始めた。

 

 「どうしたの蜘蛛さん。」

 

 「いや、あの人形蜘蛛達に私が女子力のなんたるかを見せてやろうと思ってね。」

 

 「…そう。」

 

 そして出来たシンプルなデザインのワンピース。

 パペットタラテクト達はその六本ある腕で拍手をする。

 9体もいるので人数以上の拍手が聞こえる。

 そしてパペットタラテクト達も蜘蛛さんの真似をして服を作り始めてた。

 私も作るべき?

 いや、いいか。

 蜘蛛さんは今度はゆっくりと服を作る。

 パペットタラテクト達に分かる様に。

 駄目なところがあったら指導したりしているので、蜘蛛さんはパペットタラテクト達に服作りを教えているのだろう。

 多分暇だからかな。

 ……私も手伝うか。

 

 そんなこんなで夜遅く。

 パペットタラテクト達は服を完成させた。

 蜘蛛さんはそれを着るように言う。

 あ、凄い。

 服を着た瞬間、今まで性別が分からなかったパペットタラテクト達が、一目見ても女の子だと分かるようになった。

 服って、凄いんだね。

 パペットタラテクト達も嬉しそうだ。

 蜘蛛さんはそれを見て、考えるポーズをする。

 

 「うーむ。ここまで来たらもっとやりたいなぁ……。」

 

 その言葉を発した後、パペットタラテクト達にちょいちょいと手招きする。

 彼女らは特に警戒することなく近づいていく。

 一応つい数日前までは敵対関係だったのに、もう蜘蛛さんは尊敬の眼差しを向けられている。

 ソフィアさんにはまったく懐かれないのに、パペットタラテクト達にはすぐに懐かれてるし蜘蛛さんって蜘蛛に懐かれる才能があるんじゃないかな。

 蜘蛛さん自身も蜘蛛だし、間違ってるって否定は出来ない。

 

 蜘蛛さんは彼女らに言う。

 ちょっと体を改造していい?

 それを聞いた彼女らは声は無いけどざわざわし始める。

 そこに蜘蛛さんはもっと可愛くするだけと言う。

 それを聞いて安心したのか彼女らは蜘蛛さんと一緒に自身の体を改造し始めた。

 ……私も手伝うか。

 

 「あれー?いつの間にか別嬪さんが増えてるぞー?」 

 

 帰ってきた魔王が不思議そうな顔で言う。

 魔王の視線の先には人間とほぼ見分けがつかない姿をしたパペットタラテクト達。

 じーっと見れば分かるかもしれないけど、ぱっと見では完全に人間の姿をしている。

 うん。

 気合を入れ過ぎた。

 寝る間も惜しんで、思考超加速をフル回転させて、人に限りなく近い姿にした。

 触り心地は人間だと思うぐらいにぷにぷに。

 目は容姿にあったキラキラで綺麗な目。

 中にいる本体次第だけど表情だって動かせる。

 声はまだ出せないけど再現出来るか実験中。

 うん。

 やりすぎた。

 

 

 

 




 
 皆のタニシへの感情
 蜘蛛子  親愛、BFF!!(ズッ友だよ!)
 魔王   恐怖、自分を殺せるやべー奴。
 ソフィア 怒り、嫉妬、親しみ。
 メラ   ちょっと苦手、お嬢様とよく会話する人。
 人形蜘蛛 尊敬、マジ憧れっす。

 タニシの皆への感情
 蜘蛛子  親愛、またとない親友
 魔王   警戒、親しみ、蜘蛛さんの気配を感じる。
 ソフィア 親しみ、Kawaii。
 メラ   親しみ、真面目な人。
 人形蜘蛛 親しみ、Kawaii。
 


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お酒は人を変える

 
 
 


 夜。

 

 蜘蛛さんが糸を解除する。

 ソフィアさんが倒れる。

 メラさんが心配する。

 魔王が苦笑い。

 人形蜘蛛が煽る。

 うん、いつもの光景だね。

 とても平和。

 

 そう思いながら、さっきエルロー大迷宮でとれた魔物の肉を調理する。

 私の料理の腕は普通ぐらい。

 特別美味しいわけではないし、特別不味いわけでもない。

 作れる料理も家庭料理程度。

 まぁそれでも十分だと思うけどね。

 

 ソフィアさんとメラさんにエルロー風肉野菜炒め、魔王と蜘蛛さんには外で採れた食材スープを出す。

 エルロー風肉野菜炒めは野菜は美味しいと、外で採れた食材スープは普通に美味しいと言われた。

 人形蜘蛛達にはエルロー風毒ステーキをプレゼント。

 美味しく頂いてくれた。

 美味しそうに食べる姿を見るとこちらも作ったかいがあるというもの。

 次の機会があればもう少し手の込んだものを作ろう。

 

 「それじゃ、あの街に買い出しに行くから1日ぐらい待っててね。」

 

 魔王が私たちに言った後、ソフィアさんたちを連れて街に向かう。

 私たちは暇なので人形蜘蛛のカスタマイズをする。

 今度は声帯。

 出来るかどうかまだわからないけど、糸を上手く使えばイケそうな気がする。

 魔王が帰ってくるまで声を出させることに成功出来た。

 が、音はまだ糸を弾いたような音だし不安定だ。

 それでも人形蜘蛛達は声を出すのが楽しいらしく、暇さえあれば波のある声を出している。

 

 そんな日を一ヶ月ほど。

 

 ソフィアさんが中々仕上がってきた。

 スキルもステータスも年齢にしては上がり過ぎなぐらいで、赤ちゃん同士で運動会をやったら確実に1位が取れるね。

 多分、なんも嬉しくないだろうけど。

 そんなソフィアさんの鍛錬は次の段階に進む。

 でも、それをソフィアさんは拒む。

 強くなるのに一番効率が良いのになんでだろう?

 ただ自分に魔法を当てるだけなのに。

 蜘蛛さんも首を傾げている。

 

 『ムリムリムリ!ねぇ篠前!言ってやってよ!』

 

 「……うーん?」

 

 『え?ま、まさかあんたも?』

 

 「??」

 

 ソフィアさんはさっきから何を言ってるのだろう。

 もしかして度重なる鍛錬に頭がアレになっちゃったかな。

 だとしたらどうしよう。

 奇跡魔法で治るかな?

 

 『あんな魔法当てたら一瞬で死ぬわよ!おかしいんじゃないの!?』

 

 「蜘蛛さんぐらいの威力でやれとは1度も言ってないよ。」

 

 『……え?』

 

 なるほどね。

 蜘蛛さんのお手本魔法に触れて腕が吹き飛んだのがトラウマになってるのか。

 その傷を治しても数分間は泣き叫んで、メラさんの服がヌチョヌチョになってたし。

 

 『白、ごめんなさい。』

 

 蜘蛛さんはソフィアさんを見つめて動かない。

 どこか威圧的に見えるけど、念話で私に助けを求めている。

 ……今回は蜘蛛さんが頑張ってね。

 蜘蛛さんから嘆きの念話が来るけど、頑張らなきゃ人は成長しないからね。

 頑張れ、応援してるよ。

 

 ある日。

 

 ソフィアさんが蜘蛛さんに対して従順になった。

 それは昨日ソフィアさんが魔王に相談した時に、命の恩人である蜘蛛さんを嫌っていることにツッコミが入り、色々言われてたのが原因と思われる。

 蜘蛛さんはよくわからないけどヨシって感じだったね。

 

 いつものように街に行く魔王達を見送り、人形蜘蛛をカスタマイズ。

 そして魔王達が帰ってきた時、魔王が手に何かを握っていた。

 よく見るとそれはお酒だ。

 魔王見た目未成年なのによく買えたね。

 そういうのはこの世界には無いのかな?

 無さそうだね。

 

 「ほ〜ら白ちゃ〜ん、篠前ちゃ〜ん。お土産、持ってきたよー!」

 

 え?お酒がお土産?

 私、前世合わせても未成年だし飲まないほうが良さそうだけど、良いのかな。

 今世だけならまだ赤ちゃんなんだけど。

 というか私ってお酒飲めるのかな?

 それにタニシってお酒飲めるの?

 一応前世のお父さんは結構お酒を飲んでたけど、今はその血を受け継いでないし参考には出来ないなぁ。

 う〜ん。

 まぁでも、飲んでも死にはしないだろうから、今回はお試しで飲んでみようかな。

 蜘蛛さんも同じ考えみたい。

 

 「はいどーぞ!」

 

 魔王がお酒の入った瓶を手渡ししてきたので受け取る。

 自分で注げってことかな。

 アルコール度数は……書いてない。

 でもちょっと高そうだ。

 酔っ払っちゃうかも。

 そういえば酔っ払うとその人が普段しないような行動をするようになるんだっけ。

 私が酔っ払ったら何をするんだろう。

 んー普段やらない行動なんて思いつかないや。

 蜘蛛さんが酔っ払ったら……なんだろう。

 謙虚になるとか?

 お酒は人の気を大きくさせるから、それはないか。

 となるともっと傲慢になる?

 えー…それはちょっと嫌だな。

 その時は糸で縛り付けて拘束しよう。

 もし暴れだしてソフィアさんやメラさんに被害が出たら嫌だしね。

 

 蜘蛛さんはコップにお酒を入れる。

 そしてちょいっと恐る恐る飲み、その後気に入ったのかゴクゴク飲み始める。

 私もコップに注ぎ、口にする。

 うん。

 甘いね、果実酒かな?

 お酒に詳しくないからわからないや。

 とりあえず、美味い。

 メラさんも私たちが飲んでいるのを見て観念したのかゆっくりと飲み始める。

 

 「まだまだあるからねー!じゃんじゃん飲みな!」

 

 魔王はそう言いお酒が入っているであろう樽を叩く。

 そう、樽。

 飲みきれないでしょ。

 そう思ってたけど、魔王、見た目に合わず結構飲む。

 一人で一樽飲み尽くし、二樽目に突入している。

 はやい。

 それにしてもお酒って飲むと頭がホワホワしてくるというか、なんだか幸せになってくるというか。

 

 「う、ひっく、ううぅ……」

 

 メラさんが泣いている。

 これが泣き上戸か。

 お酒は本音を出すって言葉があったような無かったような。

 つまり今のメラさんは泣きたいってことかな。

 

 「いかん!いかんよ君!酒を飲んで飲み込むんだ!」

 

 「ブホッ!?」

 

 蜘蛛さんがメラさんにお酒を飲ませる。

 蜘蛛さんそんな性格だっけ?

 私は蜘蛛さんの方を見る。 

 そこには顔が赤く、ヘロヘロな笑顔を浮かべた蜘蛛さんがいた。

 蜘蛛さん、酔いやすい体質だったんだね。

 そういえば蜘蛛ってコーヒーで酔うって聞いたし、案外酔いやすい生き物なのかな。

 いや、コーヒーとお酒は一緒にするものじゃないか。

 どちらにせよ、今の蜘蛛さんは酔っている。

 その事実は変わらない。

 

 「な、何を!?」

 

 「辛気臭い顔してんな!」

 

 再び蜘蛛さんがメラさんにお酒を流し込む。

 メラさんは気道にお酒が入ったのかむせる。

 蜘蛛さんが上機嫌に笑う。

 ゲラゲラゲラって感じだ。

 

 「ゲホッ!ゴホゴホッ!…ふぅ…」

 

 どうやら落ち着いたみたい。

 無理矢理お酒を流し込まれて怒ったのか蜘蛛さんを睨むメラさん。

 

 「うん、いい顔だ。うじうじしてるよりよっぽど男前だね。」

 

 その言葉を聞いて、メラさんの怒りは溢れ出した。

 

 「あなたに何がわかる!!」

 

 「何もかも失って、その上吸血鬼になってしまった私の気持ちが、あなたに分かるか!?」

 

 メラさんが大声で、悲痛な声で叫ぶ。

 …うるさい。

 蜘蛛さんがメラさんになんか色々言ってるけど、私はそれどころじゃない。

 うるさい。

 喧嘩するな。

 イライラしてきた。

 ああ!もう。

 ゆっくり飲みたいのに!

 なんで喧嘩するの!!

 

 「そんなイヤなら死ねばいいじゃん。」

 

 蜘蛛のそんな言葉が耳に入る。

 死ねばいい?

 殺す?

 なんで?

 ああ、イライラ。

 待て待て待て。

 落ち着け私。

 力んじゃってコップにヒビが入ってる。

 お酒が漏れ出してきた。

 これじゃいけない。

 魔王に替えのコップを出してもらわないと。

 

 「死ねない!私はお嬢様のためにも死ぬわけにはいかない!」

 

 メラのそんな叫びが聞こえる。

 イライラ。

 

 「マジか…篠前ちゃんって怒り上戸なんだ……。」 

 

 魔王からなんか言われる。

 何を言ったのか気になるけど、そんなことよりお酒だ、替えのコップだ。

 

 「早く、魔王。」

 

 自分でもビックリするくらい低い声が出る。

 うぐぐ、落ち着け落ち着け。

 魔王はなにもやってない。

 

 「うん、その前に威圧のスキルを解除しよ?」

 

 「………あ、うん。」

 

 ふぅぅぅぅ……。

 まだちょっとイライラしてるけど、大丈夫。

 魔王から替えのコップとお酒を貰う。

 それをごくごくと飲む。

 ふぅ。

 蜘蛛とメラの喧嘩もおさまったみたい。

 これでゆっくりお酒が飲めるよ。

 ふぅ…平和が一番だね。

 落ち着いてきた。

 

 「タニシちゃんや!もっと飲まないのかい!?」

 

 蜘蛛さんがそう言いながらお酒をグイグイ飲ませようとしてくる。

 イラ。

 

 「……蜘蛛さん、私はゆっくり飲みたいの、邪魔しないで。」

 

 「あらやだ!いつもより過激!」

 

 イライラ。

 

 「ほらほらほら!!もっともっと!」

 

 蜘蛛が酒をぶっかけてくる。

 イライライラ。

 

 「うるせぇよ蜘蛛。」

 

 「タニシちゃんったらいつの間に不良になっちまっただか!?」

 

 ……プツン

 私の中で何かが切れる音がした。

 もう駄目だ。

 我慢の限界だ。

 龍化、発動。

 

 私は瞬きをする間に龍になる。

 

 『終焉の龍レベル8、終焉の嵐。』

 

 平坦な声でその名を口にし、エネルギーを貯める。

 怒りにまかせてありったけの魔力を注ぎ込む。

 

 『死ね。』

 

 私の口から死の嵐が放たれた。

 

 

 

 う、うん?

 あれ?

 いつの間に私は逆さ吊りになってるんだ?

 えーっと記憶を遡ると……あー!!

 お酒のんで酔って怒りっぽくなっちゃってそれで蜘蛛さん達に終焉の嵐を撃っちゃったんだ!

 それで少し暴れてたらギュリギュリさんが止めに来て……そこから記憶がないね。

 多分コテンパンにやられたんだろうなぁ。

 うわぁ…。

 あの時蜘蛛さんのことを蜘蛛って呼び捨てしてるしこれは蜘蛛さんの言う通り不良だね。

 まさか、こんなことになるなんて……。

 

 うん、お酒は飲まないでおこう。

 

 

 

 

 




 
 蜘蛛子はコミュ障で喋れないのに喋れるようになる。
 ならタニシは……?
 って感じでこうなった。
 


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蜘蛛の反乱

 
 
  


 いつものように魔王達を見送り、蜘蛛さんや人形蜘蛛達と服作りや人形蜘蛛達のカスタマイズをする。

 最初は置いてかれた寂しさを紛らわすように始めた服作りとカスタマイズだが、ここ最近これが楽しみになってきている気がする。

 だって楽しいんだもん。

 蜘蛛さんと人形蜘蛛達と一緒に相談しながら、あれこれ想像するのが楽しい。

 そんな生活を続けていると、人形蜘蛛達をいつまでもちょっと、とか、そこの、とかで呼ぶわけにはいかない。

 だから人形蜘蛛に名前は何か聞いてみた時、首を横に振った。

 もしかして名前が無いのかな。

 帰ってきた魔王に聞いてみると無いらしい。

 それを聞いて私は勿体ないなって思った。

 

 だから蜘蛛さんと話し合って決めようとしたけど、魔王に止められてしまった。

 なんでか聞いたけど教えてくれなかった。

 なんでだろう?

 まぁいいか。

 それで魔王が名前をつけようとしてたけど結構悩んでたね。

 9人もいるからね。

 ぱっと出るものじゃないよ。

 それでも魔王は意地でも私たちの知恵を借りず、9人の人形蜘蛛に名前をつけた。

 

 アエル、サエル、リエル、フィエル、ニエル、ファエル、ソリエル、ノエル、オリエル。

 

 みんな個性的で覚えやすい…と良かったんだけど、結構性格が似てる所があるから見た目に差異がないとあまり分からない。

 とりあえず大きく分けるとこんな感じ。

 

 アエル、ノエル、ファエルはしっかりしてるくせにちゃっかりさん。

 サエル、ニエルは自己主張の薄い気弱タイプ。

 リエル、ソリエルは天然ボケお転婆。

 フィエルはお調子者。

 オリエルはよくわからない、不思議ちゃんかな。

 

 うん。

 賑やかだね。

 あーとかなら喋れるから、あーあーってずっと言ってる。

 ちょっとやかましいけど、一緒に遊んでる姿は平和だし可愛い。

 見た目も相まって子供がワイワイしてるのを見てる気分になるよ。

 

 そんな風にアエルさん達が遊んでるのを眺めてると、空間に歪みが発生しギュリギュリさんが現れる。

 

 「久しいな。」

 

 「そうだね、ギュリギュリさん。」

 

 「時間がないので本題から話そう。そこの、分体が暴れてるので何とかしてくれ。」

 

 ギュリギュリさんが蜘蛛さんに向けてそんなことを言う。

 え?分体が暴れてる?

 確か蜘蛛さんは並列意思を孵化していない卵に移らせて、分体を作ってたんだっけ。

 それでその分体にレベリングをさせてるって言ってたのを覚えてる。

 その分体が、暴れてるの?

 んー蜘蛛さんの分体の事だしあれかな、本体は美味しいものを食べれているのに分体である私達はなんで食べられないんだ!ズルいぞ!って感じで駄々こねてるのかな?

 いや、そんなのだったらギュリギュリさんが直接言いに来たりはしないか。

 一体何をしたんだろう? 

 

 「見せた方が早いな。」

 

 ギュリギュリさんが空間に映像を出し、私たちに見せる。

 そんな魔法を使っている事に驚いたしそこに映っている映像にも驚いた。

 だって、そこにはソフィアさんの生まれ故郷に数え切れないほどの白い蜘蛛が迫っていたからだ。

 あれは十中八九、蜘蛛さんの子供だ。

 蜘蛛さんの子供はあまり意思というものを持たない。

 ただ生きる。

 それだけが彼女らの頭にある考えで、それ以外はおそらくだけど無い。

 それほど虚無に近い精神を持ってるから、人間の街を襲うなんてありえないことだ。

 蜘蛛さんが命令しない限り。

 私は蜘蛛さんの方を見る。

 一切表情に出てないけど雰囲気で分かる。

 これは驚いてるね。

 つまり、蜘蛛さんの意思でやったわけではない。

 じゃあ誰か?

 ここでギュリギュリさんの言葉を思い出す。

 分体が暴れている。

 つまり、蜘蛛さんの並列意思達が彼女らに街を襲うよう命令しているということだ。

 でも、なんでだろう。

 経験値のため?

 そんな目的でやっちゃったら、ギュリギュリさんに怒られるのは必然だ。

 それが分からないほど、蜘蛛さんは馬鹿じゃない。

 うーん。

 駄目だ、分からない。

 なんの目的があってこんなことをしているのだろう?

 

 「止めてきます。」

 

 蜘蛛さんがギュリギュリさんにそう言う。

 蜘蛛さん……敬語言えるんだね。

 

 「そうか。」

 

 ギュリギュリさんが安堵したように短く返事。

 そのままどっかりと近くにあった倒木に座る。

 

 「タニシちゃん。」

 

 蜘蛛さんが私に手を差し出す。

 私も行けってことか。

 うーん、まぁいいかな。

 なんで蜘蛛さんの分体がこんなことをしたのか気になるし。

 私は蜘蛛さんの手を取る。

 ほんの少し、蜘蛛さんは微笑み、問題の場所に転移する。

 

 周りの景色が変わる。

 転移出来たらしい。

 目の前に広がっているのは何処までも続きそうな森の中ではなく、白の絨毯に覆われている街だった。

 これは、うん。

 凄い量だね。

 分体さん、こんなに産んだんだ。

 この量じゃ分体さんはずっと産んでそうだ。

 おっとそんなことを考えてる場合じゃない。

 分体さんになんでこんなことをしたのか聞き出さなくては。

 えーっとえーっと、ああいたいた。

 

 「へい貴様ら、どういう了見だ?」

 

 蜘蛛さんが分体さん達に聞き出す。

 分体さん達は蜘蛛のため表情はわからないが、ゲッなんて声を出してそうな空気を出す。

 

 『げ!?本体!もう嗅ぎつけてきたのか!?』

 

 1体の分体さんが念話で驚きを口にする。

 蜘蛛さんは鎌を肩に担ぎ、ふぅと息を吐き出して分体さん達に問い詰める。

 

 「どういうつもりでこんなことしでかしてるわけ?ギュリギュリが私のところに文句を言いに来たんだけど。」

 

 『ええー?』『ギュリギュリも動き早ーな。』

 

 「すぐこれをやめてくれないと殺されそうな雰囲気だったんですけど!ていうかやめろし。何してくれちゃってんのホント?」

 

 蜘蛛さん、イラついてるね。

 分体さん達のせいでギュリギュリさんに敵意を向けられかけたのだから仕方ないか。

 そんなイライラな蜘蛛さんの言葉を聞いて、分体さん達はお互いに顔を見合わせ、蜘蛛さんの言葉を理解出来ないといった視線を向けてきた。

 

 『えー。だって人族とか全員ぶっ殺したほうがいいじゃん。』

 

 物騒だね。

 

 「は?意味わからん。」

 

 『それで理解しないそっちが意味わからん。』

 

 んー?

 分体さんは並列意思、つまり蜘蛛さんの意識そのものだ。

 だから意見の食い違いなんて起こるはずがないんだけど。

 でも今はそれが起きてる。

 これが今回の人族襲撃の正体かな。

 そんなことを考えていると、蜘蛛さんが前触れもなく1体の分体さんに接近。

 無防備な顔に腐蝕属性を纏った鎌を振り下ろした。

 鎌は突き刺さり、分体さんの脳を破壊する。

 そして蜘蛛さんは他の分体さんに闇魔法を放ち、足止め。

 その間に鎌と鎌状の前足を使って分体さんを引き裂いた。

 あれ?

 蜘蛛さんの分体だからスキルを共有してるはず。

 貫通無効があるから鎌は突き刺さらないはずなんだけどな。

 ん?蜘蛛さんのステータスを見ると貫通無効が一瞬だけオフになっていた。

 

 「蜘蛛さん、いいの?」

 

 「いいよ。こいつらはもう私じゃない。私を名乗る別の誰かだ。」

 

 蜘蛛さんの返答を聞いて、私は分体さん達に容赦をする必要がないことを知る。

 なら、本気で殺ろう。

 まぁ蜘蛛さんという本体がいるから殺せないだろうけど、今宿っているその体から出すことはできる。

 とりあえず龍化、からの魔神法、闘神法。

 

 さて、今の私のステータスなら分体さんであろうと破滅属性は効果ありだ。

 うーん。

 ここは適当にブレスでいっか。

 分体さんにブレスを吐く。

 分体さんは素早くバックステップし避ける…ところにもう一発ブレスを放つ。

 空間機動で避けられる。

 むぅ。

 流石にブレスは当たらないか。

 なら破滅LV10の破滅世界で。

 これは多くのMPを消費して破滅属性の大爆発を起こすもの。

 その爆発範囲がかなり大きいって説明に書いてあるから、きっと当たる。

 ぶっちゃけまだ1度も使ったことない。

 

 私はブレスの要領で破滅世界を放つ。

 ブレスの速度ほどで飛んでいき、分体さん達は直撃を避けた。

 しかし爆発範囲が説明通り大きく、破滅世界の餌食になった分体さんは跡形もなく消え去っていた。

 お、予想以上に破壊力があるね。

 これで分体さんは後5体。

 良いね。

 蜘蛛さんは肉弾戦で戦っている。

 鎌があり、相手の使えるスキルを操れるからか有利に戦えている。

 相手の魔法を封じ、物理攻撃なら無効スキルでノーダメージ。

 しかし蜘蛛さんは攻撃するその一瞬だけ無効スキルを解除、それだけで、分体さんらは手も足も出ない。

 そんな一方的な戦いが続き、やがて分体は1体になる。

 その分体に蜘蛛さんは冷ややかな目を向け、その白鎌でバキバキっと外骨格が砕ける音を乗せながら縦に切り裂く。

 

 ふぅと蜘蛛さんは疲れが混じった息を吐き出し、白に覆われた街を見る。

 そこではちょうど、私が龍になって間もない頃に出会ったお爺さんが蜘蛛さんの子供達に獄炎魔法を放とうとしていた。

 獄炎魔法は火魔法系最上位のスキル。

 あのお爺さん、実は凄いんだね。

 蜘蛛さんはお爺さんと子供達を交互に見、広範囲転移の準備をし始める。

 子供達をエルロー大迷宮に戻すことにしたらしい。

 子供達はさっき言った通り意思というものはかなり薄い。

 今回の襲撃は分体さんに言われたからこうしたのであって、あの子らが勝手に決めて実行したわけではない。

 蜘蛛さんはそんな彼女らは被害者のように思ったらしく、この場で散らすよりエルロー大迷宮で生かすことを選択したみたいだ。

 

 蜘蛛さんが大規模転移を発動させる。

 その瞬間、さっきまであった白い絨毯が消え、そこには行き先を失った獄炎魔法の準備をするお爺さんと、酷く倒壊したソフィアさんの生まれ故郷だけが残った。

 

 「終わったか。」

 

 私たちが戻ると、まだそこに、全く同じ位置に座っているギュリギュリさんと、そのギュリギュリさんを見つめる9人の人形蜘蛛が待っていた。

 

 

 

 




 
 
 


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メタリック

 
 
 



 「はい、あー」

 

 「「「「「「「「「「あー」」」」」」」」」」

 

 「いー」

 

 「「「「「「「「「「いー」」」」」」」」」」

 

 私の声に合わせて前の子達が復唱する。

 まるで合唱してるみたいだけど、歌っているつもりはまったくない。

 何をしているのかというと、ソフィアさんと人形蜘蛛達の発声練習だ。

 人形蜘蛛達は前からあーぐらいなら出せたけど、それだけじゃいけないんで発声をしている。

 ソフィアさんもやってる理由は、赤ちゃんの頃から幼女に至るまでずっと念話に頼り切りだったから声帯が未発達になってしまっていた。

 そのおかげで舌っ足らずになってしまい、しかも、成長による改善が見込めないとのことなのでこうして人形蜘蛛達と一緒に発声練習をしている。

 それに、大声を出しながら歩くので鍛錬にもなる。

 これを考案したのは蜘蛛さんだからか、非常に効率が良い。

 メラさんの方も大変だ。

 蜘蛛さんの引斥の邪眼で体を重くされながら歩いている。

 どれくらい重くされているのかと言うと、足をつける度に少し沈み、ズシン、ズシンと怪獣みたいな足音を立ててる。

 メラさんにとってこれはかなりキツイらしく、ステータスは順調に伸びてきている。

 日々鍛錬は怠らない精神だね。

 蜘蛛さんが強制してるけど。

 

 さて、そんな私たちは今、とある人類未開の地に来ております。

 見た感じただの荒野で人類が開拓できない理由が無いけど、そんな考えも空を見れば吹き飛ぶ。

 空に無数にある黒い影。

 あれは全て風竜である。

 そう、竜。

 その中には龍だっている。

 上位竜とか龍は1体で人間の軍を壊滅させられるのに、この空にはそれがワラワラいる。

 そりゃ未開の地だよね。

 ちなみに襲ってこないのは魔王さんがここを通ると風龍達に叫んだからと思う。

 龍にとって、魔王さんは一人で自分達を殺れるやばい奴。

 襲おうとするほうがおかしいね。

 

 「おー」

 

 「「「「「「「「「「おー」」」」」」」」」」

 

 む、探知に反応あり。

 万里眼で確認。

 メカメカしい姿をした飛行物体だ。

 これはポティマスが作った監視装置。

 魔王がサイボーグポティマスを倒した日から、この監視装置は定期的に来ている。

 それほど私たちの動向を知りたいわけだ。

 蜘蛛さんがその監視装置を歪曲の邪眼で空間を捻じ曲げ、破壊する。

 そういえば蜘蛛さんはアラクネに進化してからスキルレベルも本体のレベルもまったく上がっていない。

 ステータスも伸びておらず、成長が停滞しているのだ。

 これは私にも言えることでステータスもスキルも何も上がってない。

 まぁレベルなら空に浮かんでる風龍達を皆殺しにすれば多少は上がるだろうけど、そんなことをしたらギュリギュリさんが黙ってない。

 宣戦布告と受け取られ、管理者パワーで蹂躪されるだろうね。

 実際、私がお酒に酔った時、防御系ステータスはカンストした上に衝撃や破壊無効のスキルを発動してたのに圧倒的暴力でコテンパンにやられたからね。

 流石管理者。

 システムの力じゃどうしようもない力を持ってる。

 

 ん?あれ?

 叡智に反応、地下に空洞がある。

 結構大きいね。

 あ、メラさんが地面を突き抜けて落ちていった。

 多分重くなったせいだね。

 まぁ今のメラさんのステータスなら大丈夫でしょ。

 空洞の中に沢山蟻が居るけど大丈夫。

 平均ステータス100ぐらいで数が多い。

 私たちがやっても…うーんレベルは上がらないだろうなぁ。

 あ、アエルさんがメラさんが作った穴に飛び込んでいった。

 それについていくようにノエルさん、ファエルさんが飛び込む。

 3人も人形蜘蛛が居れば大丈夫って思ってたけど、そんなこと知るかとどんどん人形蜘蛛達が入っていく。

 気弱なサエルさんとニエルさんもおどおどしながらも入っていった。

 後に残ったのはオリエルさんだけ。

 そのオリエルさんは虚をただただジッと見てる。

 ちなみに虚を見つめるのはいつも通りだ。

 

 ここは流れで私も参戦するべきかと思い、いざ入らんとしているとハイタッチの音がした。

 どうやら蟻の殲滅が完了したらしい。

 流石ステータス10000。

 仕事が早いね。

 さて、メラさんを引き上げよう。

 私は糸を垂らしてメラさんを引き上げようとする。

 それとは反対に蜘蛛さんは穴に入っていき、土魔法で下へと続く穴を掘りだす。

 

 「蜘蛛さん?」

 

 「白ちゃーん?どうしたのかなー?」

 

 私たちの声を無視して蜘蛛さんは穴を掘り進めていく。

 ある程度進むとまた蟻の巣に繋がり、そこにいた蟻達を殲滅してまた穴掘りを再開する。

 んー?

 経験値のためじゃないね。

 こんな蟻じゃレベルなんて上がりっこない。

 となると、蜘蛛さんが掘っている先に何かあるのかな?

 ちょっと叡智に意識を向けて先の様子を調べてみよう。

 んー。

 ん?

 これは……?

 なるほど、蜘蛛さんが穴を掘り進める理由が分かったよ。

 これは調べなきゃいけないね。

 私は蜘蛛さんの穴掘りの手伝いをする。

 蜘蛛さんはチラッと私を見たあと、作業に戻る。

 

 「えー篠前ちゃんまで?いったい何があるっていうのさ」

 

 「魔王さん、この先に叡智に引っかからない場所がありました。何か心当たりはありませんか?」

 

 私の言葉を聞いて、魔王さんは眉をひそめる。

 

 「叡智に引っかからない?まさかッ!…白ちゃん、篠前ちゃん、そのまま掘り進めて。私も手伝う」

 

 魔王さんが少し焦ったような顔をして、穴掘りを進めるように言ってくる。

 その反応からして、かなりまずいものなのかな。

 この世界でまずいもの…。

 衰退前の文明かな。

 そんな予想をしながら穴を掘り進めていく。

 途中で女王らしき蟻がいたけど、今や原型をとどめてない。

 ついてきているソフィアさんやメラさん、人形蜘蛛達は不思議な顔をしている。

 説明したいけど、そろそろ目的地に着くしやらなくてもいいか。

 穴を掘り進めていくと、大きな空洞に出た。

 そして、そこには大きな銀色の扉があった。 

 金属、金属の扉だ。

 これは…どう見ても今の世界の物じゃない。

 つまりこれは衰退前の時代の物、遺跡だ。

 

 蜘蛛さんの顔に帰りたいの文字がつく。

 まさかこんなものが埋まってるなんて思ってもいなかったんだね。

 

 ガコン!ギギギギギ……

 

 魔王さんがその金属の扉を無理矢理こじ開ける。

 蜘蛛さんは嫌な顔して納得してる。

 魔王さんがこんな怪しい施設を放置するわけがないもんね。

 知ってました。

 って顔だ。

 

 施設からビービーと警報が鳴る。

 警報が鳴るということは、この施設は生きているということだ。

 魔王さんが歩みを進める。

 それに私たちはついていく。

 ある程度進むと壁が音を立てて開き、そこから無数の銃口が顔を出す。

 うわ。

 私はメラさんとソフィアさんの防御に専念しようかな。

 そう思い、銃弾が飛んでくるかと身構えたが、次の瞬間には魔王さんが全て壊していた。

 蜘蛛さんが準備していた魔法を引っ込める。

 どこか拗ねたような雰囲気を出してるけど、すぐにそれは飛散する。

 

 そんな感じで施設内を進んでいく魔王一行。

 魔王一行って言うと悍ましい姿をした化け物の群れって感じがするけど、見た目だけなら半分以上が幼い少女で他も女子高生ぐらいのと1人の男性。

 ハーレムに見えなくもないかもね。

 その殆どが平均ステータス10000だけど。

 システム内最強も居るしね。

 

 途中でエレベーターを見つけた。

 魔王さんの話によると、昔流行ってた隠しエレベーターらしい。

 上にある土はエネルギーでドロドロにするのだとか。

 エネルギーの無駄使いだね。

 そんなこんなである扉の前。

 魔王さんがこじ開けるために近づく。

 しかし、その扉は今までと違い、自動で開いた。

 その光景に魔王さんが驚く。

 いや、魔王さんが驚いたのは扉が勝手に開いたことにじゃない。

 その先に居る、武骨なデザインのロボットを見て驚いたのだろう。

 実際、私も驚いたし蜘蛛さんも驚いた。

 そのロボットは壁から生えてきた銃より大口径な銃口が取り付けられたアームが1つ、それを支える胴体に移動用のキャタピラを持っていた。

 それが広い空間の中に整然と並べられ、こちらに銃口を向けている。

 これは…撃たせる前に壊すのは無理だね。

 防御の準備をしよう。

 

 ロボット達の銃口が一斉に光を放つ。

 魔王は敵の弾丸を物ともせずに素早く接近し、その莫大なステータスと糸を使った攻撃でロボット達を破壊していく。

 ソフィアさん達に光の弾丸が迫ってくる。

 私は予め持っておいた龍槍を使い、必要な分だけ弾く。

 蜘蛛さんがいつの間にそんな芸をって目で見つめてくるけど、今は無視。

 破滅弾をロボット達に撃つ。

 高速で飛んでいく破滅弾はロボットに命中すると、その部分を消滅させ後ろのロボット達を貫いていく。

 やっぱりだ。

 破滅属性はどうやらこのロボット達に有効らしい。

 破滅属性は抵抗力で防がれる。

 そしてこのロボット達には抵抗力がないらしい。

 それか低いか。

 どちらにせよ破滅属性には滅法弱い。

 撃ちまくれば楽に倒せるだろうね。

 9人の人形蜘蛛が自分達も活躍したいと前に出る。

 あ、ちょ、前に出ないで、撃てなくなる。

 そんな私の嘆きを無視し、彼女らはロボット達を六刀流の力でバラバラに斬り刻んでいく。

 例外にオリエルさんは2本の短槍に二刀流、ソリエルさんは2本の鎌だ。

 多分私たちを真似てる。

 破滅弾が撃てなくなるから出来ればどいて欲しいけど、なんだかすごい楽しんでるし言おうにも言えないや。

 

 そんなことを考えながら、私はロボット達を槍で切り裂く。

 ステータス強化のために人化のまま龍化、闘神法に魔神法も発動。

 そのステータスのまま槍を振るいロボット達を破壊する。

 かなり順調だ。

 このままいけば、特に危機もなくロボットを全て破壊できるだろう。

 多分これはフラグ。

 

 突然、凄まじい轟音とともにサエルさんが吹っ飛んだ。

 

 一体何が起きたと視線を向けて見ると、そこには戦車がいた。

 頑丈そうな装甲を纏い、今までとは比較にならないほどの巨大な砲台を乗せたそれが、切り刻まれたロボットの残骸をキャタピラで踏み潰しながらゆっくりと前進している。

 その巨大な砲台から放たれた攻撃でサエルさんの腕と足は全てとはいかないものの吹っ飛んでいる。

 普通の人間だったら致命傷だが、サエルさんはパペットタラテクト。

 胴体にいる本体が殺されない限り死ぬことはない。

 私は糸で素早くサエルさんを回収、暇してる蜘蛛さんに投げた。

 いや、蜘蛛さんは暇してなかった。

 戦車に暗黒槍を放ってる。

 でもキャッチできてたし、いっか。

 蜘蛛さんは魔王さんにサエルさんを渡す。

 魔王さんはソフィアさんのいる所に持っていく。

 これなら大丈夫そうだね。

 

 それより暗黒槍だ。

 戦車に当たると思ったら装甲手前であたかも初めからなかったかのように暗黒槍が消え去った。

 ポティマスが張ってた抗魔術結界の効果に似てる。

 というか同じだね。

 つまりあの戦車は抗魔術結界を張っているということになる。

 幸いポティマスのように広範囲ではなく、戦車の装甲に纏う程度のものらしい。

 それでも、魔法が効かないことには変わりないけど。

 

 うーん。

 魔法が効かないか。

 でも、そういう時の対処法は蜘蛛さんと話し合って決めてる。

 それは、レベルを上げて物理で殴る。

 ようは力、パワーでねじ伏せるのだ。

 そんなのが対処法になりえるのか、代表例として魔王さんがそうだ。

 技術も大事だけど、やっぱりステータスは正義だね。

 

 「蜘蛛さん、5」

 

 「ん」

 

 蜘蛛さんは魔王さんが近くにいるからか、避難したメラさんとソフィアさんが奥の廊下にいるからか、いつもより短く返事をして鎌を担ぐ。

 そして鎌を構えながら戦車に近づく。

 あの戦車は中の人はいないらしく、一番近くの敵を狙うように出来ているのだろう。

 サエルさんが真っ先に狙われた理由がそれだ。

 この戦車にとって、サエルさんが一番近くにいたから狙われたんだ。

 そんな戦車は当然、接近してくる蜘蛛さんを標的にする。

 砲台から光の砲弾が放たれる。

 それを蜘蛛さんは鎌で切り裂き、素早く横にステップする。

 それと同時に私は全力で龍槍を投げる。

 戦車は反応する暇もなく、槍に貫かれる。

 私は素早く二槍目を準備するが、戦車はボロボロと塵になっていった。

 

 「…あれ?」

 

 私の口から困惑の声が漏れる。

 それはそうだ。

 だってあの塵になっていく現象は腐蝕属性の死の崩壊。

 でも戦車は死の概念がない無機物だ。

 なのになんで塵になってるのだろう?

 んー。

 駄目だ、わからない。

 とりあえず戦車には腐蝕属性が効く。

 それだけ覚えておこう。

 

 「これは、また……」

 

 魔王さんが塵になった戦車の残骸を見て顔を引きつらせている。

 人形蜘蛛達も同じような顔をしている。

 なんだか責められてるみたいだ。

 

 魔王の背後から、ソフィアさんとサエルさんを背負ったメラさんがひょこっと出てくる。

 うーん。

 正直言って、ここは危険だ。

 ソフィアさんやメラさんじゃ荷が重いだろう。

 

 「うーん。予想以上にここはやばそうだねー。サエルも負傷しちゃったし、ソフィアちゃんとメラゾフィスくんは地上に戻ったほうがいい」

 

 魔王がそう言い放つ、その瞬間。

 施設が大きく揺れ始めた。

 揺れは大きく、ステータスが高い私と蜘蛛さん、魔王さんは平然としてるけど、人形蜘蛛達はフラフラしてるしソフィアさんやメラさんに至っては床に手をついて座り込んでいる。

 そして、けたたましい警報が鳴る。

 なんか、やばそうだ。

 

 「なんかやばげ?…前言撤回、みんなで逃げるよ!」

 

 魔王さんがソフィアさん達を抱えて来た道を戻る。

 その後を人形蜘蛛達が続くが、如何せんフラフラしていてスピードがない。

 なんだか後ろから恐ろしい何かが来る予感がしたので、フラフラしている人形蜘蛛の4人を抱え魔王さんについていく。

 蜘蛛さんは残りの5人を抱え込み、全力で出口へと向かう。

 私の速度でかなり負担がかかっているのか、こころなしか苦しそうだ。

 私は自分の服に衝撃無効を付与し、少しでも楽になるようにする。

 蜘蛛さんもそれを見て同じことをした。

 

 魔王さんが壊した銃口、魔王さんがこじ開けた金属の扉、蜘蛛さんが倒した女王蟻、3人で掘った穴、蟻が掘った穴、数多の蟻の死骸、そしてメラさんの重さ故に出来た太陽の光が漏れ出す穴を抜け、外に飛び出す。

 次の瞬間さっきまでいた穴が爆発し、大きな火柱が立つ。

 もし少しでも逃げるのが遅れていたらあの火柱で焼かれていた。

 そうならなかったことに安堵する、が、それはすぐに消え去る。

 なぜなら先程の火柱が比べ物にならないほどの特大の火柱が上がってたからだ。

 

 まるで太陽フレアのような超巨大な炎。

 そしてそのフレアの中を物凄い速度で天に向かって飛び上がる何か。

 その何かが浮上しきった頃に、何かの姿が見えてきた。

 それはキロメートルはありそうな超巨大円盤。

 まるでSF映画で出てきそうなUFOだ。

 いつの時か、テレビの特集でも見ない超巨大な未確認飛行物体。

 それが、私たちの目の前で浮いていた。

 

 

 

 




 
 
 


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超大型巨船

 
 遅れた。
 


 でかい。

 とてもでかい。

 語彙が無くなるぐらいでかい。

 ほんとでかい。

 

 『おいおいおい!なんだよこれはよぉ!聞いてねぇぞ!説明してくれ!』

 

 空からチャラい口調の風龍が降りてくる。

 口調が見た目にまったくあってない。

 龍ってクールなイメージあったんだけどなぁ…。

 もしかして火龍と地龍も心の中ではこんなのだったのかな。

 蜘蛛さんみたい。

 

 「あ、あのアリエルさん。どうするんですか?」

 

 ソフィアさんが魔王さんにあの巨船をどうするか聞く。

 

 「どうしようか。あれを落とすのは無理な気がするし、ギュリエに任せようか。…そこの風龍!」

 

 『お?なんだ蜘蛛の。俺を殺ろうってんならあの方が黙っちゃいないぜ?』

 

 「ギュリエを呼べ」

 

 『え?なんでだよ』

 

 「お前にはあれが見えないのか!!」

 

 『見えてるぜ!見えまくってるぜ!てかさっきから聞いてるけどなんだよあれ!?』

 

 「そりゃこっちのセリフだわ!あれがこの荒野に埋まってたんだよ!?なんで気づかなかったのさ!」

 

 『え?』

 

 風龍が間抜けな顔になる。

 うーん。

 龍のイメージが崩れるね。

 そんな風に魔王さんと間抜けな風龍が話し合っていると、あのUFOからこちらに向かってくるものがあった。

 万里眼で確認してみると、それは戦闘機だった。

 戦車とあまり大きさは変わらない。

 それがまるで虫の大群のように群れていた。

 

 「撤退!」

 

 魔王さんが叫ぶ。

 流石にあの量の戦闘機と戦えば、いくら魔王さんが強かろうとも私たちが不死を持っていようと勝ち目がない。

 魔王さんはソフィアさん達を、蜘蛛さんと私は人形蜘蛛を抱え、全速力で逃げる。

 風龍は自力で逃げている。

 すごくチャラいし三下感があるけど流石龍、あの戦闘機を振り切るぐらいのスピードは出せてる。

 

 「いやー参った」

 

 『まじやべーわ。あれまじでやべーわ。やべーよやべーよ』

 

 「はぁ…確かにやばいわ。で、ギュリエは呼んだの?」

 

 『あ』

 

 「早く呼べ!今呼べ!すぐ呼べ!そのための管理者でしょ!?」

 

 『わかったわかったわかったから!!だから首を絞めないでくださいなんでもしますから!』

 

 「ん?今なんでもするって言ったよね?だったら早く呼べよオラァ!」

 

 魔王さんと風龍さんが漫才をする。

 結構この人達仲が良かったりする?

 そんな魔王たちから視線を外し、ボロボロになったサエルさんを修復する。

 元の人間のような姿は無理だけど、機能を復活させるだけなら数分で終わる。

 いや、蜘蛛さんも手伝ってるから1分もかからないかも。

 

 サエルさんの修理が終わった頃に、転移の予兆を感知。

 でもギュリギュリさんじゃない。

 ギュリギュリさんならもっと綺麗に転移してくる。

 じゃあ誰だろう。

 ポティマス?

 …可能性はある。

 槍を取り出し、いつでも貫けるように構える。

 空間転移で現れたのはお爺さんと男だった。

 んー。

 誰?

 

 「失礼。非常事態と見て転移で目の前に突然現れた非礼を謝りましょう」

 

 豪華な服装をしたお爺さんが穏やかな笑顔で謝罪する。

 なんか優しそうだけど、空間転移をして来た人は警戒したほうがいい。

 空間転移を使える人が仕えてるとってことは、とんでもない人だってことになる。

 試しに鑑定してみたけど『鑑定が妨害されました』の文字が。

 七大罪か七美徳のスキルを持ってるね。

 魔王さんとお爺さんが話す。

 会話がなんだか昔からの付き合いを感じる。

 チートスキルを持ってるしその可能性はありそう。

 

 「わざわざ駆けつけて来てくれた所悪いけどさ、正直ギュリエに対処してもらったほうがいいよ」

 

 魔王さんがUFOを睨みつけて言う。

 お爺さんは特殊部隊を呼ぶらしいけどそれは全て人間。

 正直龍ですらキツそうなのに人間が耐えられるとは思えない。

 

 「その通りだ。あれは私が対処すべき案件で、貴様らが憂慮すべき事柄ではない」

 

 突然、声が聞こえる。

 そしてすぐに空間感知に反応が。

 相変わらず凄く綺麗な術式だ。

 1人の男が転移してくる。

 全身真っ黒な男、ギュリエディストディエスが現れた。

 

 「報告ご苦労。アリエルには私が見落としていたがために迷惑をかけた。後は私に任せておけ」

 

 おーすごい安心感。

 流石管理者、あのUFOを1人で落とせるのか。

 そんな風にギュリギュリさんの圧倒的パワーを再確認していると、もう1つの空間転移の予兆が。

 嫌な予感がする。

 まだ転移して来てないけど、もう誰が来るのか分かる。

 

 「役者は揃っているようだな」

 

 転移してきたのは男。

 その男に、この場にいる全員が殺意を向ける。

 

 「そういきり立つな。今回ばかりは手助けに来たのだ。残念ながら、あれはギュリエディストディエスだけではどうにもできん。この場にいる全員が力を合わせなければならない。大変遺憾なことだがな」

 

 エルフの族長であり全ての元凶、ポティマス・ハイフェナスが現れた。

 一気に空気が悪くなる。

 正直今すぐにでもここから離れたい。

 実際、ソフィアさんとメラさんは離れてってるし、私くらいかけても大丈夫だよね?

 だからさ、魔王さん。

 私はここから離れても良いよね?

 私の問いかけに魔王さんは笑顔で答える。

 駄目。

 というわけで私と蜘蛛さんはここから離れたいけど離れられない状態にある。

 そんな私たちを置いて、魔王さん達はどうあのUFOを対処するのか話し合いをする。

 話し合いは終始空気がギチギチ言ってたけど、無事作戦が決まった。

 要約するとこんな感じ。

 

 あのUFOの名前はGフリート。

 ポティマスが半ば冗談で設計した兵器。

 どっかの国に売ってその国が組み立てたものらしい。

 これは対龍想定した兵器であり、この兵器の中心部にはGMA爆弾という大陸1つを吹き飛ばすエネルギーがある爆弾が存在している。

 そのため、龍であるギュリギュリさんが対峙した場合その爆弾で自爆する可能性がある。

 だから、Gフリートの対処は私たちがやらねばならない。

 GMA爆弾の処理は魔王さん、蜘蛛さん、ポティマスの少数精鋭で行くらしい。

 その3人は風龍に乗ってGフリートに接近、蜘蛛さんがバズーカでGフリートに穴を開けるそうだ。

 ギュリギュリさんはGフリートと一緒に飛んでいき、現在宇宙まで到達しているGメテオという兵器の対処をする。

 Gメテオは小惑星を牽引してこの星に落とすというとんでもない兵器。

 ギュリギュリさんしかそれは対処できない。

 

 こんな感じかな。

 蜘蛛さんが私もGMA爆弾の処理にいかないと知って念話で文句を言ってきたけど、地上の敵は十万はいるので私まで行くわけにはいかない。

 そう言ってみたけど蜘蛛さんは渋々といった感じだった。

 まぁ蜘蛛さんの役割って失敗したら作戦そのものが失敗するみたいなものだし、重めの責任があると思う。

 そんなものは背負いたくないよね。

 まぁ背負わせるけど。

 

 「篠前さん、宜しくお願いします」

 

 お爺さんが私に穏やかな笑顔で言ってくる。

 

 「こちらこそよろしくお願いします」

 

 このお爺さんと話してると肩の力が抜けそうだ。

 ひょっとしてそういうスキルとか持ってたりする?

 …あるわけないか。

 

 ヒュゥゥウ…

 

 遠くからSFとかでよく聞く音が近づいてくる。

 見ればあの戦闘機がだんだん近づいてきていた。

 これは…話してる場合じゃないな。

 

 蜘蛛さん達が風龍と共にGフリートへ向かう。

 ヒュバンと呼ばれた風龍は蜘蛛さんの文句を言いながら飛行する。

 蜘蛛さん達の姿がだんだん小さくなっていく。

 それとは反対に戦闘機の姿は大きくなっていく。

 

 風龍、人間、クイーンタラテクト、機械兵団の軍勢。

 Gフリート率いる機械の軍勢。

 その両軍の戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 耳元で戦闘機の空を切る音がなる。

 テレビ越しで聞いた時は全然大丈夫だったけど、いざ実際に聞いてみるとものすごいうるさい。

 防御能力が低かったら鼓膜が破れてたかもしれない。

 

 現在私は龍形態で戦闘機を中心に鉤爪やら暴風魔法やらで落としている。

 本当はポティマスやお爺さんに龍形態を見せるべきか悩んだけど、別にこの形態は最後の手段だとか最高機密というわけじゃないから龍形態になる事にした。

 闘神法や魔神法は発動してない。

 なくても戦闘機ぐらいなら落とせるからだ。

 それに長い戦いになりそうだから出来る限り消費は避けたい。

 

 戦闘機が私に光の弾を撃ってくる。

 私の鱗に命中するけどノーダメージ。

 私の取り柄は防御力だからね。

 抵抗力はカンスト、防御力もカンスト間近まである。

 これで突破されたらもうこの戦闘機の攻撃はシステム内じゃどうしようもないことになる。

 ふっはっは。

 効かん効かん。

 私は蛇のように長い体で薙ぎ払う。

 周りに暴風魔法を撒き散らし、次々に戦闘機を落としていく。  

 偶に地上に突進して進行中のロボットや戦車を轢き逃げしていく。

 ブレスを吐いて一網打尽っていうのも考えたけどここにいるのは私だけじゃないからね。

 もし他の人達を巻き添えにしてしまったらいけない。

 おっと戦闘機だ。

 東洋龍の短い腕で叩き落とす。

 鋭い爪が突き刺さり、装甲を抉る。

 叩き落された衝撃と機体のバランスが崩れ墜落する。

 その間に多くの戦闘機が私に向かって集中砲火してくる。

 中には自爆特攻してくるものもあった。

 私はそれを物ともせず体をムチのようにしならせて戦闘機を散らす。

 

 4体のクイーンタラテクトがロボットにブレスを放つ。

 瞬間、すさまじい轟音が鳴り響き散りばめられたロボットが広がる。

 しかし、そのブレスが直撃しても傷のない敵がいた。

 それは戦車。

 戦車の表面装甲に張られている抗魔術結界がブレスを消し去っているのだ。

 戦車が反撃とばかりに砲弾を発射する。

 戦車の数が多いため、前で前進していた人間が吹き飛ぶ。

 普通ならそれで人間達は逃げ惑うが、ここにいる人達は吹き飛ばされ、原型がなくなった屍を越え前進する。

 彼らは戦力として来たのではなく肉壁として来た者達。

 覚悟はとっくにできているのだろう。

 

 そんなことを思っているとGフリートから気配がする。

 何かを実行しようとする気配が。

 

 『総員全力回避!』

 

 蜘蛛さんから念話で注意喚起してくる。

 その念話は私だけにではなく、空を飛ぶ全ての竜達に向けられていることに驚くと同時に蜘蛛さんが切羽詰まった声を上げたことで事の重大さに気づけた。

 私はすぐに回避行動を取るが、遅かった。

 

 空がほんの一瞬だけ、光に包まれる。

 

 Gフリートから放たれた極大の光線。

 それに竜の半分が消され、私の下半身も消し飛んだ。

 龍形態の私は非常に長い。

 どうやら大きさはステータスと比例するらしく、初めてなった時よりも数倍も大きくなっていたため、回避をしても間に合わなかった。

 HPが一気に削られる。

 浮遊のスキルが解除され、私という巨体が落ちていく。

 私はすぐに人化を発動、上半身だけのハダカだがそんなことを気にしてる暇はない。

 クイーンタラテクトの背中に落ち、そこで奇跡魔法で体を直していく。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 久しぶりに息を乱す。

 人の状態でなら異世界初だろう。

 万里眼で自身の体を三人称視点で見る。

 奇跡魔法で回復してきているが、まだ脚がない。

 次にステータスを見る。

 HP、SP、MPともに飽食のストックを切れており、SPに関しては底が見えてきている。

 自分では気づかなかったがかなり消耗していたらしい。

 少しだけのんびりしてSPを回復させるべきか。

 脚が直っていく。

 まだ出来たばかりの脚で立ち上がり、戦況をこの目で確認する。

 地上軍は変わらず、空軍はGフリートによる戦闘機の増援が来ていた。

 Gフリートの主砲は地上軍に向き、戦闘機もそれを標的にしている。

 …のんびりする暇はなさそうだ。

 浮遊で宙を浮き、ある程度飛んだら人化を解除。

 見た目全快の龍が現れる。

 

 すぐに地上軍を狙っている戦闘機に向かう。

 戦闘機は私が危険だと判断したのか地上を狙うのを止めて私に集中砲火してくる。

 見れば戦闘機だけでなく戦車やロボットも狙ってきている。

 流石にこの量の攻撃にはHPが減っていくが、それは治療魔法で回復させる。

 敵の攻撃の嵐を突き抜けて、前方にいる戦闘機に突進する。

 私の質量なら突進だけでも落とすには十分な威力が出るため、戦闘機が様々な方向に吹っ飛んでいく。

 黄色のSPが切れる。

 次に赤のSPが消費されていく。

 私は攻撃の手を緩めず戦闘機を落としていく。

 気づけばGフリートの主砲も私を狙っている。

 Gフリートが主砲を撃つ準備をする。

 あれが撃たれれば私は消える。

 エルロー大迷宮に確か孵化していない卵があったはずだ。

 復活は出来る。

 でもこの戦闘には参加できなくなるだろう。

 なにか最後まで役に立てるものはあるかな。

 

 よし、あの敵の地上軍を巻き添えにしよう。

 私は敵の地上軍の上に移動し、Gフリートの主砲の巻き添えになるようにする。

 これで私が消える代わりに敵の地上軍は消し飛ぶ。

 さぁ来い。

 

 と覚悟したところに、主砲が爆発を起こす。

 その近くに人の部分が消し飛び、蜘蛛だけとなった蜘蛛さんの姿があった。

 その蜘蛛さんを風龍が自身の背に乗せる。

 蜘蛛さんは無事らしい。

 なんであんなことになっているのか、よく見てなかったから分からないけど多分あのバズーカの爆発に巻き込まれたのかな。

 蜘蛛さんの予想以上にあのバズーカは強力だったということか。

 いや、あのバズーカを作ったのはポティマス。

 そうなるように仕向けた可能性がある。

 …許さん。

 それが本当かどうかはどうでもいい。

 あいつはバズーカを作った。

 つまり間接的とはいえ蜘蛛さんを傷つけたことになる。

 考えが飛んでいる気がするがそれだけ私は苛立っている。

 やっぱりポティマスはクズだ。

 いつか絶対に殺す。

 

 私はGフリートから視線を外す。

 戦況は有利。

 戦闘機やロボット、戦車はまだ残っているが私抜きでも十分に対処可能だろう。

 私は口にありったけのエネルギーをため、地上に薙ぎ払うようにブレスを放つ。

 抗魔術結界が張られている戦車には吹き飛ばされた地面などの間接的な攻撃しか通らないが、ロボットは別。

 私のブレスでほとんどのロボットが破壊された。

 自分のステータスを見るとMPがもう殆どない。

 後はクイーンタラテクトや人形蜘蛛達、ポティマスの呼んだ機械兵団に任せるとしよう。

 いや、機械兵団には期待しないでおこう。

 少しでも怪しい動きをしたら吹き飛ばすか。

 

 そう決意し、クイーンタラテクトの背に人化して乗る。

 またすぐに龍化することを考慮して服は着ない。

 こんな状況で覗き見る奴なんて居ないだろうしクイーンタラテクトは大きいから見ようにも見れない。

 クイーンタラテクトのブレスによる轟音をBGMに仰向けのまま目を閉じる。

 少し休憩して回復しよう。

 SPとMPを回復したらまた戦いに戻ろう。

 それまでは、のんびりしよう。

 そう思っていると突然、久しく聞いていなかった天の声が聞こえてきた。

 

 《スキル「同心」の効果により、エネルギーが共有されました》

 《熟練度が一定に達しました。スキル「神性拡張領域LV9」が「神性拡張領域LV10」になりました》

 《条件を満たしました。神化を開始します》

 

 その瞬間、とんでもない激痛が私を襲った。

 それは今まで感じた事がない痛み。

 痛覚無効で感じていなかった痛みという感覚。

 あまりに痛すぎて一体何処が痛いのか、どんな風に痛いのかが全く分からない。

 体の内側から何かが膨らんでいるようで、今にも爆発しそうだ。

 本能が語りかける。

 もしこの痛みを乗り越えられなかった場合、私は死ぬと。

 不死も卵復活も関係なく、魂が破裂し二度と転生が出来なくなる真の死を迎えることになると。

 あまりの痛みにクイーンタラテクトの毛を握る。

 強く握ったせいなのか抜けてしまっているが、そんなことは気にしていられない。

 痛みがどんどん膨れ上がり、襲いかかってくる。

 

 『本当に、あなた方は面白いですね』

 

 何処かから声が聞こえる。

 でもその内容は把握できない。

 それどころじゃない。

 意識が薄れていく

 嫌だ死にたくない

 死にたくない

 嫌だ

 いやだ…

 

 《スキルを還元します》

 《ステータスを還元します》

 《称号を還元します》

 《スキルポイントを還元します》

 《経験値を還元します》

 《D謹製「神の基本講座」をインストールします》

 《神化を終了します。これ以降システムサポートを一切受けられません。ご利用ありがとうございました》

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 「本当にあなたは面白い」

 

 声が聞こえる。

 不気味だけど、綺麗な声だ。

 

 「まさか爆弾を食べるとはこちらも予想外でしたよ」

 

 爆弾?

 爆弾を食べたの?

 誰が?

 

 「そしてその力を吸収し、スキルで共有。まさか1度に神が二柱も生まれるとは思ってもいませんでした」

 

 神?

 

 「流石に大陸1つを吹き飛ばすエネルギーをシステムから取り出すのはあの星が耐えられないので、私が補助してあげましたが」

 

 「それでもあなた方は神になったことには変わりありません。おめでとうございます。そのお祝いに私が神としての名前をプレゼントしましょう」

 

 「蜘蛛さんは白織、タニシさんは黒悠。それがあなた方の神としての名です」

 

 「ようこそ、神の領域へ。」

 

 「歓迎しますよ、私の眷属候補さん」

 

 その言葉を最後に、私の意識は覚醒した。

 

 

 

 




 
 
 


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蛇足回 設定集2

 
 ここまで飽くことなく読んでくださりありがとうございます。
 この二次創作の主人公、黒悠(タニシ)が神になって一区切りついたと思ったので、前回の設定集で説明していない説明を乗せたいと思います。
 前回同様自己満足で書いてますので、それでも良いという方のみご覧ください。
 
 


 オリジナル進化

 

 ホロ・ライユ

 一定以上のステータスを持ち、2つの殺戮者の称号を持つゲーレイシュー族だけがなれる種族。

 その条件から分かるように、進化後はスピードや力が中心にあがる。

 さらにこの種族特有の破滅属性が使えるため、遠距離は破滅で近距離は腐蝕で敵を倒す。

 遠距離攻撃には気をつけよう!

 獲得スキル〈破滅LV1〉

 

 『破滅:スキルレベルによって異なる効力を発揮する。

  レベル一 破滅弾:破滅属性の弾を発射する。

  レベル二 破滅小弾:小型の破滅属性の弾を発射する。

  レベル三 破滅波:自分を中心に破滅属性の波動を放つ。

  レベル四 破滅榴弾:破滅属性の榴弾を発射する。

  レベル五 破滅地雷:破滅属性の地雷を設置する。

  レベル六 破滅纏い:自身を破滅属性で纏う。

  レベル七 破滅結界:破滅属性の結界を張る。

  レベル八 破滅槍:破滅属性の槍を発射する。

  レベル九 破滅霧:破滅属性の霧をバラまく。

  レベル十 破滅世界:破滅属性の大爆発を起こす』

 

 ホロ・レイヤ

 ホロ・ライユがLV40になることで進化できる種族。

 破滅そのものという説明から分かるように、この種族は体が100%破滅属性で出来ている。

 つまり破滅属性のエネルギー体。

 故に知性がなく、辺りに破滅属性を無差別にばらまく災害となる。

 ちなみにエネルギー体のため、ポティマスの抗魔術結界に入った瞬間消滅する。

 まるでメリットが無いように思えるが、その破滅属性は強力の一言。

 龍を簡単に葬り去ることが出来る。

 え?生きてて楽しくなさそうだって?

 そんなことを考える知能はございません。

 獲得スキル〈破滅体〉

 

 『破滅体:自身の肉体を破滅属性へと変える。ON-OFFはない』

 

 ゼル・ゾロフ

 ホロ・ライユがLV40になり、かつ数多の生物を虐殺しなければなれない種族。

 その進化条件の厳しさを達成したものには龍になることが出来るスキル〈龍化〉を獲得する。

 さらにステータスが大幅に上昇し、もはや誰にも止められない。

 無敵だぁ!

 獲得スキル〈龍化〉

 

 『龍化:自身に眠る龍の因子を呼び覚まし、龍へと変身するスキル。龍となった際には〈終焉の龍LV10〉〈破滅鱗LV10〉〈浮遊〉を獲得する』

 

 『浮遊:自身のみ浮かす』

 

 『破滅鱗:終焉の龍のみが持つことを許されたスキル。魔法妨害、防御力上昇、破滅属性を纏うなど、様々な効果がある』

 

 『終焉の龍:終焉の龍のみが持つことを許されたスキル。その効果はスキルレベルによって異なる。

 レベル一 終焉のブレス:破滅、腐蝕の混合属性のブレスを放つ。

 レベル二 最後の晩餐:暴食の小龍を数体出現させる。消化はしないので食べたものの肉団子を残す。

 レベル三 終焉の光:破滅、腐蝕、光の混合属性の光を放つ。

 レベル四 終焉弾:破滅、腐蝕、打の混合属性の弾を出す。

 レベル五 終焉結界:破滅、腐蝕の混合属性の結界を張る。

 レベル六 終焉の炎:破滅、腐蝕、炎の混合属性の炎を出す。

 レベル七 終焉の槍:破滅、腐蝕、貫通の混合属性の槍を放つ。

 レベル八 終焉の嵐:破滅、腐蝕、闇、貫通、衝撃の混合属性の極大ブレスを放つ。

 レベル九 終末:破滅、腐蝕の混合属性の大爆発を起こす。

 レベル十 終焉の刻:全MPを消費し破滅、腐蝕を纏った流星群を落とす』

 

 オリジナルスキル

 

 呼声

 そんなのあったっけ?と思った方。

 これは火竜戦で上位竜が火竜呼ぶ際に使ったスキル。

 このスキルを使って叫ぶことで、スキルレベル✕1000m以内の同種を呼ぶことができる。

 特に強制力はないが、統率系スキルと組み合わせることによって強制力を生むことができる。

 

 のんびり屋

 タニシの転生特典スキル。

 HP、SP、防御能力、抵抗能力の計4つのステータスを韋駄天並に上昇させ、しかものんびりしていればSPとHPが回復していく。

 ステータス上昇と回復を詰め込んだ欲張りセットなスキル。

 正直、詰め込みすぎた。

 でもこうもしないと蜘蛛子の傲慢チート成長力に追いつけないので仕方なかった…てやつだ。

 

 挑発

 タニシがスキルポイントを使い、取得したスキル。

 発動すると周りの生物を挑発し、自身を殺すべき相手と思わせる効果がある。

 このスキルの弱点は敵だけでなく味方まで挑発してしまうため、盾役専用だとかそういうわけではない。

 強いて言うならばドM専用である。

 ちなみに挑発は一応外道属性のため耐性があれば抵抗が可能。

 

 登場人物

 

 タニシ/黒悠/篠前ゆりか

 

 本作品の主人公。

 のんびり屋を自称する女子高生だった。

 家族関係は良好で、特に言い争いは起きない。

 勉強は嫌いだが成績に関わるのでテスト前にはしっかり勉強をし、高得点を掻っ攫っていく。

 運動は普通より上ぐらいで、体育ではたまに目立つことがあるくらい。

 彼女の“のんびり”はダラダラとしてたりグデっとするものではない。

 頭を空っぽに、感情を無にした状態で外を眺めるのが彼女にとっての“のんびり”である。

 

 神化することで神に至った彼女は、中々分類が難しい神となっている。

 エルローゲーレイシューとして生を受けた彼女は当然神になった今もゲーレイシューとしての因子が残っている。

 そしてゼル・ゾロフと進化したことで龍の因子も獲得。

 神になることで真の龍としての因子、ゲーレイシューとしての因子が混在している。

 さらにゲーレイシューはタニシとよく表現されるが、実際にはタニシのような虫である。

 ゲーレイシューは貝と虫が混ざった生物である。

 当然その2つの因子が入っている。

 つまり黒悠という神は、真の龍が混ざった貝のような虫の神のということになる。

 龍なのか貝なのか虫なのかはっきりしてほしいところだ。

 

 得意属性

 破滅=腐蝕>越えられない壁>闇>空間>>>>光>炎

 

 黒悠という名についての小話

 

 タニシが神になることは実は共存を得た段階で予定していたことでした。

 そしてその予定日が来たときに名前を考えてなかったということに気づきました。

 当然やっべどうしよう…ってなりました。

 まぁどうしよう…とかを思っても名前が決まってないことに変わりはないので決めようと考えました。 

 最初は真の龍と貝と虫が混ざるというわけわからん神なので混ざるという意味を持った名前にしようかなと考えていました。

 が、色々考えたあとに変にこだわるよりシンプルな名前のほうが良いかなってなりました。

 タニシの人の姿が黒の比率が高いので“黒”

 のんびりした性格なので気が長いという意味を持った“悠”

 それらを合わせて“黒悠”となりました。

 決まってから気づいたことですが黒悠って黒龍に似てるなって。

 

 ノエル

 パペットタラテクトの1人。

 アエル同様しっかりしているがちゃっかりさん。

 しかしアエルよりちゃっかりな場面は少ない。

 結構真面目である。

 

 ファエル

 パペットタラテクトの1人。

 アエル同様しっかりしているがちゃっかりさん。

 ノエルとは真反対でちゃっかりな場面が多め。

 真面目な時は真面目である。

 

 ニエル

 パペットタラテクトの1人。

 サエル同様自己主張の薄い気弱タイプ。

 サエルより自己主張は強め。

 

 ソリエル

 パペットタラテクトの1人。

 リエル同様天然ボケお転婆。

 トラブルの中心にいることが多い。

 トラブルは自分で起こすもの。

 

 オリエル

 パペットタラテクトの1人。

 定期的に性格が変わる。

 真面目だったり天然だったり気弱だったり。

 どれも演技らしく、本当の性格は魔王すら知らない。

 演技が大好きらしい。

 

 オリジナル設定

 

 怠惰の効果範囲指定

 タニシが怠惰を上手く扱い出来るようになった技術。

 最終的には効果範囲に限界がなくなり、拳に纏わせることができるようになった。

 しかし悲しいかな。

 それらを実戦にする前に神となってしまい、現在怠惰を所有していない。

 

 

 

 




 
 もし無いものがあれば教えて下さい。
 


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宝の持ち腐れ

 
 
 


 目を開ける。

 一面真っ白だ。

 よく見れば糸で出来ている。

 目の前に何かいる。

 あ、蜘蛛さんだ。

 いや白織さん?

 どう呼ぼうかな。

 

 「…タニシちゃん?」

 

 「あ、蜘蛛…さん。おはよう」

 

 「おはよう。で、ここはどこよ?」

 

 「さぁ…」

 

 糸で囲まれてるし繭かな。

 なんとかしてここから出られないものか。

 糸と糸の間に指を入れ、力任せにこじ開けようとするがびくともしない。

 蜘蛛さんと協力してみても駄目だった。

 どうしよう。

 そう悩んでいると、向こうから指が出てくる。

 そして繭が開くと魔王さんが出てきた。

 あ、いや、魔王さんが開けたのか。

 

 「目を覚ましたか」

 

 ひょっこりとギュリギュリさんが出てくる。

 あれ、今の私たち服着てなくない?

 

 「ギュリエ!今は駄目!あっち向いてて!」

 

 魔王さんがギュリギュリさんの肩をガシッと掴み、回れ右させる。

 

 「私は女性の体を見ても何も感じんが?」

 

 「そっちがよくてもこっちが駄目なの!だからサリエル様にも振り向いて貰えないんだよ!」

 

 ギュリギュリさんの背中から哀愁が漂ってきた。

 なんかごめんね。

 

 「とりあえず服着て」

 

 魔王さんの言う通り、空納から服を取り出して着ようとするが服の出し方がわからない。

 と、いうより空納をどうやって発動させるかがわからない。

 仕方ないから神織糸で服を作ろうとしたけど、糸の出し方がわからない。

 あれ?

 おかしいな。

 感覚が思い出せない。

 どうやってたっけ?

 あれ、スキルが使えない。

 万里眼…使えない。

 闘神法…使えない。

 魔神法…使えない。

 暗黒魔法…使えない。

 風魔法…使えない。

 駄目だ。

 何もかもが使えなくなってる。

 一体どうなってるの?

 

 「スキルが使えないか?」

 

 ギュリギュリさんが呆然としている蜘蛛さんと私にそう言ってくる。

 そしてなぜ使えないのか、その理由を私たちに教えてくれた。

 まとめるとこんな感じ。

 

 神になる前はシステムに補助してもらいながら自身の内にあるエネルギーを使っていたが、神になったせいでその補助対象から外れたためいつもの感覚でやっても出来ない。

 

 ようはあれだね。

 補助ありの倒立が出来ても、補助なしの倒立は出来ないみたいな感じかな。

 それでも、自身の内にあるエネルギーの使い方を知れば前以上のパワーが期待できるとのこと。

 でも今まで補助を受けて俺つえーをやっていた人が、そう簡単に補助なしで出来る様になるはずもなく…。

 結果的に、私たちはただエネルギーが膨大なだけの一般人ということになる。

 それでもいつか出来る様になるって信じてる。

 私の予想では一年もあれば使えるようになるんじゃないかと。

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

 あの時から2年。

 そう、2年。

 私たちはまだ自分のことを神だと思いこんでいる一般人のままだ。

 エネルギーは全く使えるようになってない。

 なんか、もう無理なんじゃないかって思えてきた。

 それでも毎日瞑想してるけど今のところ力は使えるようになっていない。

 でも、集中力が上がった気がする。

 これは多分力じゃなくて瞑想の影響だろうけど。

 

 それとエネルギーには関係ない話だけど、私たちは神になった時に名前を得たのに蜘蛛さん、タニシちゃん呼びは如何なものか。

 という話になり、人前では私は蜘蛛さんを白織さん、白織さんは私を悠ちゃんと呼ぶことになった。

 黒悠が本当の名前だけど、黒悠ちゃんじゃ語呂が悪いんでそうなった。

 本当はいつもその名前で呼ぼうかと思ってたけど蜘蛛さんが拒否、というわけで人前でだけ白織さん呼びすることになった。

 人前で蜘蛛さんとかタニシちゃんとか、そんな風に呼び合うのは怪しいというか奇妙というか。

 人前ということ言葉から分かるように、今の私たちは人の街に入ることになっている。

 今までは神の使いの似顔絵が広まっていたから街に入れなかった。

 でも、今いる場所は広まっていない場所。

 弱体化した私たちを守りながら人里を離れるのは正直危ない。

 そういうことで私たちは街に入ることになっている。

 

 現在私たちは馬車に乗って移動している。

 空納が使えなくなったため、荷物を空間に入れておくというものが出来なくなったからだ。

 人形蜘蛛や魔王さんのステータスなら運んでいけるけど、ものすごく大きいバックが必要になる。

 そんなものを背負えば当然目立つ。

 しかも蜘蛛さんは一般人より体力が低いときた。

 ちょっと歩けばあっという間にダウンしてしまう。

 蜘蛛さんの貧弱さ、荷物、それらの理由から魔王さんが馬車を買った。

 一番大きい奴らしいが、私、蜘蛛さん、ソフィアさん、メラさん、魔王さん、人形蜘蛛9人、そして荷物。

 これだけ乗るとギリギリ。

 そのため、もう一台同じ馬車を買っている。

 片方には魔王さんが御者、ファエルさん、アエルさん、ソリエルさん、ニエルさん、ノエルさん、蜘蛛さん。

 もう1つにはメラさんが御者、ソフィアさん、サエルさん、オリエルさん、リエルさん、フィエルさん、私。

 メラさんはまだしも魔王さんは見た目少女、そんな人が馬車の御者をやっていれば目立つ。

 でも仕方ない。

 こうしなきゃ主に蜘蛛さんがやばい。

 

 「白ちゃん、宿屋まであともうちょっとの辛抱だよー」

 

 魔王さんが後ろにいるであろう蜘蛛さんに声をかける。

 私は別の馬車に乗っているためここからじゃ見えないけど、きっとダウンしてる。

 そういう私も結構やばい。

 主に腰が痛い。

 馬車は腰が痛くなるって聞いてたけどこれは予想以上。

 正直馬車を舐めてた。

 

 街に着く。

 そして宿屋に直行。

 オリエルさんとサエルさんを護衛に置いて、魔王さん達は外に出る。

 多分買い出しとか色々するんだろうね。

 蜘蛛さんはフカフカなベットにダイブ、それと同時に動かなくなった。

 死んだわけではない。

 でも死体並に動こうとしない。

 よく見れば寝ている。

 ベットにダイブしてからほんの数秒。

 それで蜘蛛さんは寝てしまった。

 一体どれほど疲れていたのだろう。

 私も疲れてるとはいえ、流石に数秒で寝るほど疲れてはいない。

 まぁ蜘蛛さんはアルビノで日の光に当たるのは危ないから、そういうストレスみたいなのがあるのだろう。

 あと目が人とはかけ離れてるから目をつぶって隠さなきゃいけないし。

 あとフードを深く被って隠すようにしてるからか、蜘蛛さんは病弱で盲目な令嬢なんて噂がたってる。

 確かに客観的に見たらそんな感じだね。

 蜘蛛さんは内心で否定してるだろうけど。

 

 蜘蛛さんを見てそんなことを思いながら、護衛のオリエルさんと暇潰しにしりとりをする。

 

 「タラテクト」

 

 「とみ」

 

 「ミシシッピアカミミガメ」

 

 「めらぞふぃす」

 

 「スリランカ」

 

 「かみなりまほう」

 

 「牛」

 

 「しにがみ」

 

 「水魔法」

 

 「うみ」

 

 「ミルク」

 

 「くさ」

 

 「猿」

 

 「るいせん……ちがう、るびー」

 

 「……ビール」

 

 「る………るーる」

 

 「ルルイエ」

 

 「えるろーだいめいきゅう」

 

 「宇治拾遺物語」

 

 「りんぐ」

 

 「グローブ」

 

 「ぶさいく」

 

 「……クルミ」

 

 「みるくてぃー」

 

 「うーん。い、で良い?」

 

 オリエルさんはうなずく。

 

 「椅子」

 

 「すず」

 

 「ズーム機能」

 

 「うるさい」

 

 「……それはありかな?」

 

 オリエルさんがうなずく。

 

 「そっか。石」

 

 「しんし」

 

 「醤油」

 

 「ゆめ」

 

 「麺…あ」

 

 「あ」

 

 オリエルさんが指を指してやっちまったなって顔をする。

 あと少ししたり顔。

 わざわざ表情を動かすってことはそれぐらい嬉しいのかな。

 さて、それなり時間は稼げたりは…しないか。

 確認してみたけど全然進んでない。

 うーん。

 暇だなぁ。

 

 「オリエルさん、もう一回やる?」

 

 オリエルさんがうなずく。

 さぁ始めようとしたところに後ろから服を引っ張られる。

 振り返ると私たちの護衛であるサエルさんが私も混ぜてと上目遣いで頼んできた。

 サエルさんは自己主張が薄いから、こう積極的に参加してくるのは珍しい。

 もちろん喜んで参加させた。

 予想以上に盛り上がったね。

 しりとりだけど。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 「……なにやってるの」

 

 目を覚ました蜘蛛さんにしりとりで盛り上がってたらそんなことを言われてしまった。

 蜘蛛さんは人形蜘蛛の前なら言葉を喋ることが出来る。

 多分、人形蜘蛛はあまり喋らないからかな?

 まぁそれでも中身のヒャッハーな感じじゃなくて見た目通りのクールビューティーな感じで話すけどね。

 蜘蛛さんは殆ど無表情だからクールビューティーに見えるんだよね。

 中身ヒャッハーだけど。

 

 「蜘蛛さん、おはよう」

 

 「今おはようの時間?」

 

 「こんにちはの時間」

 

 蜘蛛さんはフードを被り、ドアへ向かう。

 

 「蜘蛛さん、どこか行くの?」

 

 「ご飯を食べにいく」

 

 「あ、じゃあ私も連れてって」

 

 「ん」

 

 蜘蛛さんが短く返事をし、私の服を出す。

 あの袖が長く黒い服だ。

 今の私は龍化の人形態だ。

 全身の模様がオレンジ色に光ってるから分かる。

 神になる前に龍化を解除してなかったからかな?

 それとも半龍半貝が影響したのかな?

 まぁどちらでもいいか。

 とにかく、模様がオレンジに輝いている。

 これのおかげで隠すのが大変。

 龍化の影響なのか力が若干前世より高いけど、まぁ若干だからそこまで意味はない。

 私が弱いのに変わりないのだ。

 

 「それじゃ、いくよ」

 

 「うん」

 

 蜘蛛さんがドアを開け、それに私とオリエルさんとサエルさんがついていく。

 歩を進め、階段を降りていくと食堂のような場所に出た。

 というか食堂だ。

 席には冒険者らしき人物が2人、お酒を飲んで談笑していた。

 その2人の男が私たちを見るなり怪訝な顔をする。

 出来れば彼らの近くを通りたくはないけど、彼らが座っている場所の関係上それは無理だった。

 仕方なく私たちは近くを通る。

 

 「おおっと!」

 

 お酒を飲んで酔っ払っている男の一人がわざとらしくよろけ、蜘蛛さんのフードを取ってしまった。

 蜘蛛さんは目を見られるわけにはいかないので目を閉じる。

 

 「お!別嬪さんだね!」

 

 そう言いながら男が蜘蛛さんの肩に腕を回す。

 

 「ちょっとやめてください」

 

 「ああ?」

 

 私が蜘蛛さんに絡んでいる男達に止めるよう言う。

 男達はそれに反応し私を見ると汚い笑みを浮かべた。

 

 「お!君も綺麗な顔してるねー!」

 

 「そういうのいいですから」

 

 「冷たいなーもうー!」

 

 男が手を広げ、私に近づかせてくる。

 その軌道は私の上半身。

 つまり胸に向かっていた。

 私は咄嗟にその手をはねのけ、事態をまだ理解できてない蜘蛛さんを引っ張る。

 ちょっと女性が出しちゃいけないような声を出してたけど、この男達から離れさせるためには仕方ない。

 コラテラルダメージだよ。

 

 「触らないでください」

 

 「あ?」

 

 うっ、早くこの状況から脱したいのに悪化してしまった。

 大人しく触られるべきだった?

 そんなわけないか。

 セクハラ駄目ゼッタイ。

 

 「こら!何やってるんだい!」

 

 機嫌が悪くなった酔っぱらいを冷たい目で見ていたら、食堂の奥から叫び声が響き渡った。

 声の主を確認してみると、冒険者の男達より広い横幅を持ったゴツいおばちゃんが食堂の奥から出てきていた。

 

 「他のお客に迷惑をかけるようなら出ていってもらうよ!」

 

 「え、あの、すいません」

 

 「あたしに謝ってどうするんだい!謝るんならそっちの子に謝りな!」

 

 「はいぃ!すいませんでしたぁ!」

 

 すっかり酔いが覚めた男達は私たちに頭を下げたあと、すぐに食堂を出ていってしまった。

 おばちゃん強いね。

 なんというか、おばちゃん特有の力があるよね。

 

 「ごめんねお嬢さん達。冒険者は全員ああいう奴じゃないんだけど」

 

 「いえ、助けてくれてありがとうございます」

 

 おばちゃんは悪くないから謝らなくていいのに。

 この人は良い人だね。

 

 「さ!お嬢さん達は料理を食べに来たんだろう?迷惑をかけちゃったしお安くするよ!」

 

 本当良い人。

 聖人かな?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 「う、うぐ…ぐ」

 

 どこからか籠もった声が聞こえる。

 その声の正体は蜘蛛さん。

 目の前に料理があるのに、食べられないことが悔しいらしい。

 なぜ食べられないのか。

 答えは簡単、お腹いっぱいだから。

 神になる前は飽食があったから自分の見た目以上に食べられたけど、今はそんなスキルはない。

 だから蜘蛛さんは見た目通りの量しか食べられない。

 私はなんとなくそんな気がしていたので前世基準の量を頼んでる。

 蜘蛛さんにもお腹いっぱいになる可能性を話すべきだったけど、それを話そうとした時には注文を終えていた。

 心の中で思ったのならその時既に行動は終わっている。

 そんな言葉が頭に思い浮かんだ。

 

 「お嬢さん、無理しなくていいんだよ」

 

 「うぐ!?む、ぐぐ……」

 

 「く……白織さん、この人の言う通り無理しなくていいんだよ?」

 

 「むご…ぐ……」

 

 蜘蛛さんが俯き、見えなくなった顔からポタポタと水が落ちる。

 え?蜘蛛さん泣いてる?

 身を低くして覗いてみると、目から大量の涙を流していた。

 そういえば蜘蛛さん、お残しはしない主義だったね。

 特に危険な状態ではないのに目の前にある料理が食べられないことがたまらなく悔しいのだろう。

 正直私は理解できないけど、蜘蛛さんには蜘蛛さんなりの価値観があるんだろうね。

 結局、蜘蛛さんが残した料理はサエルさんとオリエルさんが食べた。

 

 

 

 




 
 
 


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雪山

 
 
 


 私たちが宿で留守番もとい待機している間。

 魔王さん達は食料等などの買い出しはもちろん近辺の情報を集めたりしていた。

 そして魔王さん達が帰ってきた時、魔王さんが予定より出発が遅れると私たちに伝えた。

 どうやら普通とは違うオーガ、特異オーガっていうのがこの街の近くにいるらしい。

 そのオーガは近頃冒険者軍団が討伐に出かけるから、それまでこの街に居続けるんだって。

 

 そんなことよりこっちのほうが重要。

 なんとソフィアさんがエルフに襲われたらしい。

 エルフに襲われたソフィアさんは無事だ。

 ソフィアさんがある少女に手を掴まれて、その少女がエルフだったから仕返ししたらしい。

 で、そのエルフはソフィアさんの攻撃が当たる瞬間そのエルフの隣りにいた奴によって転移していった。

 そのエルフ、十中八九ポティマスだよね。

 ポティマスは私たちが神になってから一度も会っていなかった。

 私たちは神になって弱体化した。

 もしポティマスが私たちを監視していたのならば、今が私たちを殺す絶好の機会だということに気づくはず。

 なのに手を出してこなかった。

 正直言って不気味だったけど、とうとう来たか。

 一体今まで何をしていたんだろう?

 何かよからぬ事を企んでるのだろうか?

 攻撃されてすぐに転移出来たことから元々転移の準備はしてあったはずだ。

 となると目的はソフィアさんの誘拐かな。

 突然手を繋いで状況を把握させる前に転移で誘拐。

 恐ろしい作戦だ。

 よくソフィアさんは反応できたね。

 そういえばソフィアさん最近人形蜘蛛とも模擬戦やってるみたいだし、もう龍ぐらいなら倒せるんじゃないかな。

 あったばかりは普通の赤ちゃん吸血鬼だったのが今では立派に龍殺し可能少女になって…。

 なんだか感慨深いや。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 特異オーガ討伐で冒険者がまったく帰ってこなかった。

 

 そんな話が街中に広がっていた。

 街の住民は怯えている。

 でも私は違う。

 だって魔王がいるし。

 正直特異オーガが何をしようとどうでもいいかな。

 暇な日が続くけど、瞑想でもして時間を潰してよう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 国から派遣された討伐隊により、特異オーガを追い払うことに成功した。

 

 そんな話が転がってきた。

 どうやら冒険者じゃ無理だと判断したのか国からの討伐隊で倒そうとしてたらしい。

 “討伐”じゃなくて“追い払う”なのがちょっと不安だけど、いざって時は魔王が、魔王じゃなくても人形蜘蛛達が守ってくれるって信じてる。

 ちなみに特異オーガが逃げていった先は魔の山脈。

 そして私たちが魔族領に行く際に通るのも魔の山脈だ。

 特異オーガが魔の山脈に逃げたことで封鎖されていた道が開放されたので、魔王さんは明日には出発するつもりだ。

 

 なんとなく察してきた。

 これ絶対特異オーガに会うよね。

 特異オーガとは会わないなんて考えはしないよ。

 絶対会う。

 でも大丈夫。

 こっちには魔王さんに人形蜘蛛、ソフィアさんにメラさん、この人達が居るんだ。

 特に魔王さんが居るんだからもしこれに勝ったらその特異オーガは神だよ。

 比喩なしで。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 嫌な予感を感じながらも出発することになった。

 馬車に乗り魔の山脈を目指す。

 途中警備らしき人に止められたけど魔王さんが何かを言うと通してもらえた。

 魔王さんから威圧感が出てたし、怖いことでも言ったのかな。

 いや、魔王さんが威圧すればどの言葉も怖く聞こえそうだ。

 

 ガタン!

 

 あだ!?

 いつつ…強いのが来た。

 腰が……。

 

 私が腰痛に苦しみつつ、馬車は魔の山脈に突入。

 馬車を引いていた馬じゃキツイので人形蜘蛛が馬車を持ち上げて運ぶことになった。

 流石ステータス10000。

 馬車を持ち運ぶことぐらい楽勝なんだね。

 かなり揺れるから酔うけど、これでも揺れないようにしてくれてるんだよね。

 そうだよね?

 正直吐きそう。

 あ、まってソリエルさん。

 背中を擦らないで。

 優しさなんだろうけど今はそれが辛い。

 胃から這い上がってくるから。

 

 ソリエルさんに止めるよう言おうとしたら、声の代わりに中身が出そうになったので口を閉じる。

 ちょっと口の中に溜まったのでそれをすぐに飲み込む。

 少しヒリヒリするけど我慢できる。

 ウグっ

 また来た!

 さっきまでの比じゃない。

 あれは前座だったのか!

 これは…我慢は無理だ!

 私は立ち上がり全力で走り馬車の外に顔を出す。

 

 

 ふぅ…少し楽になった。

 でもそれは吐き気だけでそれ以外はもっとキツくなってきてる。

 魔の山脈はものすごい寒い。

 魔王さんが石に火魔法を付与させたカイロを握って、毛布を被ってるのに寒い。

 う、また来た…!

 寒いと吐き気のダブルコンボがここまで辛いものとは!

 苦痛耐性とかないから、あった時に入ったマグマ風呂のほうが正直言ってマシだ。

 別の馬車にいる蜘蛛さんは無事だろうか。

 ただ馬車に乗るだけでもバテていた蜘蛛さんが、この環境に耐えられるだろうか。

 でも蜘蛛さんは私より多くカイロを持ってるし、案外大丈夫なのかな。

 できれば分けてほしいな。

 

 揺れる馬車の中で顔色を青くさせていると私たちはある村についた。

 その村は無人のようで廃村だった。

 ところどころに赤色の染みがあることから何かあった事が分かる。

 ソフィアさん曰く新しい血の匂いがするらしい。

 つまりついさっきまでここにいたということだ。

 しかもエルフが。

 さらにこの惨状を生んだのは特異オーガらしい。

 嗚呼、もうこれ絶対会うじゃん。

 ご対面するじゃん。

 人がいた痕跡が薄い家で、私はそんなことを思いながらも眠った。

 

 次の日。

 寒さと吐き気の厳しさが増していく中、馬車の進行が止まる。

 

 「げっ!猿じゃん!」

 

 魔王さんからそんな言葉が聞こえる。

 猿ってあの猿かな。

 アノグラッチ……だったっけ。

 もしその猿だったら危険だ。

 復讐のスキルでどちらか死ぬまで追いかけてくる。

 あいつか。

 

 「ホアー!」

 

 「ちょ来んな!」

 

 猿の声と魔王さんの声が聞こえた。

 あの猿、殺しちゃだめなのにあっちは殺してくるんだよね。

 仕返してたらそれで復讐の対象になって追ってくる……理不尽だよね。

 そんな事を思ってると奥の方から爆発音が聞こえた。

 何事?

 あまりに寒いもんで動けないから何か起きたのか見れないけど、何かが崩れる音が聞こえる。

 ここは雪山。

 爆発。

 崩れる音。

 ……これ雪崩じゃない?

 だ、大丈夫…のはず!

 だってステータス10000の人形蜘蛛が馬車を引っ張ってるんだから!

 雪崩を避けることなんて造作もないはず。

 だから大丈夫。

 大丈夫大丈夫。

 

 さっきからすごく揺れてるけど雪崩を避けてるから仕方ないよね。

 吐き気を感じる揺れじゃなくて体中を打ちつけて痛くなるレベルだけど、これは致し方ない犠牲だ。

 結構痛いけど。

 頭打ちつけてグワングワンする。

 目がチカチカする。

 これでも揺れないようにしてくれてるんだよね。

 もしそうしてくれてなかったら私はどうなってたの?

 想像するのも恐ろしい。

 

 私が寒さと痛みのダブルコンボを喰らっていると、大きな音とともに何故か体中に浮遊感が。

 目の前には白い世界が広がっている。

 ロマンチックだなー。

 顔には白いものが。

 雪のようだ。

 体に纏う毛布を吹き抜けて、冷たい風が体に絡みついてくる。

 立っていた鳥肌がより大きくなった気がする。

 

 あ、あ。

 駄目だこれ。

 落ちてる。

 近いけど遠くなった馬車が前に見える。

 私、あまりの揺れに振り落とされた?

 下には雪崩が。

 待って。

 助けて。

 

 魔王さんは猿で埋まってる。

 ソフィアさんは落ちた蜘蛛さんに手を伸ばしてる。

 でも届いてない。

 ていうか蜘蛛さんも落ちたんだ…。

 そういえば結構前に蜘蛛さんとは運命共同体って言った気がする。

 でもこんな運命まで共有しなくていいから。

 こんな事を思ってる場合じゃない。

 誰でもいいから助けて。

 あ、だんだん雪に流されていく。

 ちょ、助けて。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 「ぶは!」

 

 暗かった視界が白くなると同時に溜まっていた息を吐き出す。

 寒い。

 その寒さは言葉にはできない。

 体中にツララが刺さったみたいだ。

 寒い日でよくある耳が痛くなるやつが、全身に広がって痛みを増やしましたみたいな。

 やばい、どうしよう。

 このままじゃ凍え死ぬ。

 

 周りを見渡してみると白く険しい山々が広がっていた。

 え?

 ここにいるのは私だけ?

 そんな……。

 

 私が絶望していると視界外からひょっこりとノエルさんが顔を出す。

 

 「ノエルさん…!」

 

 私は嬉しさのあまり名前を呼んだ瞬間、口の中が凍るような感覚に襲われる。

 痛い。

 手にあるカイロを強く握る。

 マシになった気がする。

 それでもまだ痛い。

 毛布を被ってるのに寒い、痛い。

 まずいぞ。

 周りを見渡してもノエルさん以外誰もいない。

 居たとしても豪雪のせいで見えない。

 うっ…こうやって考えてる間にも私の体に雪が積もっていく。

 ノエルさんが払ってくれてるけど積もった雪は私の体温を奪っていく。

 なんとかして体温を上げなければ。

 

 火をたく?

 こんなところで火はたけないし、火魔法を使える人はここには居ない。

 カイロを増やす?

 これを増やせるのは魔王さんだけだ。

 その魔王さんはここには居ない。

 かまくらを作る?

 周りに雪は十分にあるしステータスの高い人形蜘蛛であるノエルさんがいれば早く作れるかも。

 

 よし、かまくらを作ろう。

 

 「ノエルさんかまくら作って」

 

 口が凍らないように出来る限り早口で喋ったけど聞き取れたかな。

 ノエルさんを見てみると首を傾げている。

 駄目か。

 …仕方ない。

 今度はいつもどおりの速度で頼む。

 それでもノエルさんは首を傾げている。

 あれ?おかしいな。

 これぐらいの速度なら聞き取れるはず。

 あ、もしかしてあれかな。

 

 「ノエルさん、かまくら知ってる?」

 

 ノエルさんは首を振る。

 やっぱりだ。

 まぁこの世界にかまくらがあるイメージないし。

 でも作ってもらわないと死にそうだ。

 かまくらが何なのか教えたいけど私は寒くて動けない。

 短く、分かりやすい言葉でノエルさんに頼まなければ!

 えーっと……。

 

 「ノエルさん、雪で家作って」

 

 これで伝わってくれるかな。

 ノエルさんが六本の腕で雪を動かし積み重ねていく。

 伝わったみたいだ。

 ノエルさんのペースなら私が凍える前に作り上げるはずだ。

 私は凍傷を起こさないように1つのカイロと毛布で体を温める。

 ノエルさんがかまくらモドキを作っているのを見ながら、私は同じく放り出された蜘蛛さんの安否について考えた。

 

 

 

 




 朝起きたらスモールレッサータラテクトになっていた。どうする?ただし、スキルやレベルアップ等は自分にのみ存在しているものとするアンケート結果。

 1位 スレッドを立てる 339人
 2位  わー(^q^)   136人
 3位 人間モグモグ    88人

 総投票者数916人
 
 


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特異オーガ

 
 
 


 なんだか眠たくなってきた頃、ノエルさんがかまくらモドキを作り上げた。

 雪で出来た家と頼んだせいか、四角い家、いわゆる豆腐ハウスが出来上がった。

 某クラフトのように真四角ではないがそれでも豆腐ハウスという表現が正しいぐらいには四角い。

 よくもまぁ雪で作り上げたもんだ。

 

 私はこれまた四角い入口から中に入り、素早くノエルさんがその入口を雪で塞ぐ。

 おお、寒くなくなった。

 というより温かい!

 かまくらは入ったことないけど結構温かいんだね。

 これなら凍死しないね。

 その代わり周りの状況が分からないけど、不自然に四角いから私たちがここにいるって気づいてくれるはず。

 多分。

 とりあえず、魔王さん達に見つかるまでここで大人しくしてよう。

 下手に行動を起こすより、ここで待機しているほうが安全だ。

 

 突然何処かから爆発音が響き渡る。

 爆弾というより力で吹っ飛ばしたみたいな音だ。

 ドカーンじゃなくてドーン。

 なんかものすごい嫌な予感がする。

 これ、あれだよね。

 特異オーガだよね。

 だってこんな音を鳴らす人は仲間に居ないもん。

 魔王さんとか人形蜘蛛、ソフィアさんは出来るだろうけどまた雪崩が起きるかも知れないのに意味もなくやらない。

 さっきから音が止まらないし戦闘中かな。

 まぁ特異オーガじゃなくて氷龍かも知れないけど。

 とにかく、奥の方で何かと何かが戦っているのは確か。

 こんな音を出すほどの戦闘に巻き込まれたら間違いなく死んでしまう。

 かといって、このかまくらモドキから出てしまえば凍死してしまう。

 あれ?ひょっとして私詰んでる?

 いや、そんなはずは…。

 あ、駄目だ。

 私はここから離れたら死んでしまう。

 ノエルさんが外の様子を確かめるためにちょっと穴を開けたら、言葉に出来ないほど寒いのが来た。

 出たら離れる前に死にそう。

 離れないといけないのに離れたら死ぬとか。

 これはもう…神にお祈りするしかないね。

 今の私は神だけど。

 というか神ってどの神にお祈りすればいいの?

 私が知ってる神は蜘蛛さんとギュリギュリさんとDさん、この三柱だけ。

 蜘蛛さんは多分ブルブル震えてる。

 Dさんは邪神だしお祈りしても助けてくれなさそう。

 なんなら今の状況を悪化させそう。

 ギュリギュリさんは…どうだろう。

 助けてくれるかな?

 でもこの中で一番希望があるのはギュリギュリさんだね。

 じゃあギュリギュリさんに祈っておこう。

 

 おーいギュリギュリさーん。

 助けてー。

 

 んー?

 これはお祈りなのかな?

 まぁいいか。

 それで助けては…くれないか。

 ちょっと悲しい。

 というか私の声は届いてないよね。

 Dさんみたいに人の心を読む神じゃなさそうだし。

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 そんな事を考えてると、恐ろしい叫びが聞こえてきた。

 ただ大声を出したのではなく激しい怒りを乗せた声だった。

 それは爆発音が聞こえてきた方角で、しかもそれは近づいてきていた。

 やばい。

 巻き込まれるのは駄目だ。

 このまま豆腐ハウスに引き籠もってても巻き込まれるのは必然。

 音で分かる。

 確実に私たちに近づいてきてる。

 

 「ノエルさん、開けて」

 

 目で大丈夫か聞いてきたので大丈夫だと言っておく。

 ノエルさんが雪をどかし出口を作る。

 その瞬間すさまじい寒さが私を襲う。

 その寒さに耐えながら歩を進めていると、かまくらモドキが爆ぜる。

 もう少し出るのが遅かったらあそこで死んでたね。

 とにかく即死は免れた。

 目の前が突然爆ぜる。

 その衝撃で舞い上がった雪を被ることになり痛みが全身を襲う。

 あと少し前に出たらどうなってたことやら。

 

 「あんの野郎!ぶっ殺してやるわ!」

 

 舞い上がった雪から現れたのは血眼で物騒なことを言うソフィアさんだった。

 おかしいな、こんな人じゃなかったはずなんだけど。

 

 「ソフィアさん」

 

 「え?あ、篠前!どこいってたのよ!」

 

 「ちょっと遭難してた。ソフィアさん、何と戦ってるの?」

 

 「特異オーガって奴よ。ほら、あそこにいる」

 

 ソフィアさんが指差した方を見る。

 そこには半裸の男がこちらに向かって来ている光景があった。

 その男の頭には鬼を彷彿とさせる角があり、手には二本の刀が握られている。

 でも私はそれよりもその鬼らしき人物の顔が気になってしょうがなかった。

 すこし顔立ちは違えど、それは前世のクラスメートの人に似ていた。

 

 「笹島さん?」

 

 笹島さん、前世のクラスメートで彼の友達とゲームの話をしていた人。

 笹島さんについて知ってるのはこれくらい。

 同じクラスなのによく知らない人ばかりだ。

 蜘蛛さんもソフィアさんも笹島さんも。

 知ってるのは今と前世の顔ぐらい。

 ……もうちょっと人に興味を持つべきだったかな。

 

 笹島さんが刀を横に振るう。

 それをソフィアさんが受け止める。

 それだけでドカン!なんて音が鳴り響く。

 剣を受け止めて鳴る音じゃない。

 どうなってるの?

 そんな疑問を感じつつ音と一緒に発生した風によってふっ飛ばされていく。

 受け身をとるようにしたけど痛い。

 

 「ガアアアアアアアアアアア!!!」

 

 笹島さんが人とは思えない声を上げると、一本の刀に炎を纏わせそれを地面に叩きつける。

 すると四方八方に亀裂が入り、でかいクレバスが作られていく。

 私の真下にも作られた。

 そう真下。

 

 本日2度目の浮遊感。

 目にはクレバスの底が見える。

 高さでいえば100mは絶対にあるだろう。

 落ちたら確実に死ぬ。

 状況がよく理解出来ないまま落下する。

 理解出来た頃にはもう手遅れだった。

 なんだか周りがスローになっていく。

 死の直前はスローになるって聞いたことがあるけど本当だったんだね。

 結構綺麗に割れててどこにもぶつけず底を目指して落ちていく。

 なんか走馬灯が見えてきた。

 あれ?

 内容がのんびりしてるか死にかけてるかの2つしかないじゃん。

 私の人生って案外薄いんだね。

 なんて思ってる間にも私は現在落下中。

 見れば私の一番近くにいたノエルさんが助けに来てくれてるけど、笹島さんが雷を出して邪魔されたからワンテンポ遅れてる。

 間に合わないねこれ。

 うーん、助からないかも。

 突然魔王さんがやってきてササッと助けてくれるのなら別だけどそんな気配はない。

 つまり私が叩きつけられるのは必然ってこと。

 そんな状態だってのに心は冷静だ。

 私は死を受け入れてる。

 叩きつけられるのを受け入れてる。

 蜘蛛さんが知ったら怒りそうだ。

 私ってどうしても死を回避出来そうにないと諦めちゃうからね。

 地面までもうすぐ。

 あと数mくらい。

 あ、もう着く。

 

 グシャッ!!  

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 鬼くんやべー。

 叩きつけるだけであんな風に出来るとか……。

 それをいうなら戦ってバコンとかドカンとか爆発みたいな音を出す吸血っ子もやべーけどそれ以上に鬼くんが強すぎる。

 サエルとメラも協力してるけどそれでも鬼くんが勝ってる。

 え?私?

 私が協力してもあの刀でぶった斬られて終わりですが、なにか?

 神になって更に強力になった鎌を振ればひょっとしたら鬼くんにダメージを与えられるかも知れない。

 でも悲しいかな。

 私にそんな筋力ねーです。

 体力もねーです。

 鬼くんに吹き飛ばされた吸血っ子を受け止めた衝撃で吹っ飛んで、それで体力がごっそり減って、奥の方に吸血っ子がまた飛んでいったのをいい機会にそそくさと逃げようとしたけど体力がねーし行き先が分からねーしで結局戻って、体力切れでゼェゼェ言ってたら鬼くんが作ったクレバスに危うく落ちそうになる蜘蛛です。

 そんなのじゃ鎌を振ってる間に真っ二つにされてしまう。

 

 「邪魔よ!!」

 

 吸血っ子が鬼くんに即席で作った大剣を振り下ろす。

 それを鬼くんは受け止め、炎を纏った刀で突く。

 吸血っ子はすぐに大剣を離して回避を試みるが脇腹に突き刺さった。

 

 「あッ!くッ!」

 

 吸血っ子が苦しげな声を上げる。

 炎を纏っているため斬られるだけでなく焼かれるためダメージは大きい。

 まだ吸血っ子は不死体を発動させてないはずなのでこれで死なないはず。

 鬼くんは吸血っ子を刀から抜いてすぐに蹴りを入れる。

 鬼くんの蹴りで吸血っ子は私のほうに飛んでくる。

 ってまた私に飛んでくるのかよ!

 飛んできた吸血っ子を受け止め、案の定私は吹っ飛んでいく。

 しかし一度起きたことは繰り返さない。

 私は吹っ飛ぶ方向とは逆の方向に鎌を刺しアンカーにする。

 我ながら良い作戦…っと思ったけどこれ駄目だわ。

 腕が無理矢理伸ばされるからめっちゃ痛くなる。

 関節外れるわこれ。

 

 「はぁ…はぁ…篠前は…無事かしら?」

 

 む?吸血っ子がタニシちゃんの心配を?

 まさかあの戦いに巻き込まれたのか!?

 え?それ大丈夫?

 見渡してもタニシちゃんの姿はない。

 嫌な予感がよぎる。

 吸血っ子の裾を引っ張る。

 

 「タニシちゃんに何かあったの?」

 

 吸血っ子が目を見開く。

 私が喋ったことに驚いたか。

 いつも単語ぐらいしか話せなくてごめんな!

 そんなことよりタニシちゃんの安否が気になる。

 

 「篠前はあの鬼が作ったクレバスに落ちてったの。一応ノエルが助けにいってたから大丈夫だと思うけど…」

 

 吸血っ子が珍しく心配そうな顔をする。

 マジか…タニシちゃん落ちてったのか。

 ノエルが助けに行ったから無事だと思うけど、それでも心配だ。

 ちょっとそのクレバスを覗いてタニシちゃんの様子を見てみるか。

 

 「どのクレバスに落ちてったの?」

 

 「あそこのよ」

 

 吸血っ子が少し距離があるクレバスを指す。

 あそこか。

 鎌を持ってそのクレバスに向かう。

 できるだけ急いで向かいたいけどブレーキしきれず落ちていくことになりそうなので小走りで行く。

 ほぼ歩きみたいなペースだけど仕方あるまい。

 私の筋力ではこれが限界だ!

 

 「ガアアアアアアアア!!!」

 

 そんな私に鬼くんがロックオン!

 ギリギリ目に見える速度で近づいてくる!

 刀にはそれぞれ炎と雷が纏われている!

 あれをまともに喰らったらそこで神生終了。

 ここは……防御一択だ!

 鎌で攻撃するのも考えたけどぶった斬られる未来が見えた。

 かまくらの時に衝撃を吸収してくれてたし、きっといける。

 私は鎌を使って防御しようと構える。

 構えた時には鬼くんは目と鼻の先にいた。

 ……近くね?

 

 視界の端で炎を纏った刀が一瞬映り、次の瞬間私にとんでもない衝撃が襲い後方にふっ飛ばされた。

 私は受け身をとり、勢いのままゴロゴロ転がっていく。

 ふはは!これぞ我が逃走経路だ!

 あ、待って。

 予想以上に転がる。

 このままでは私もクレバスに落ちてしまう!

 鎌を突き立ててアンカーに!

 腕痛くなるけど落ちるよりはマシだ!

 うごごご…!

 

 鎌を突き立てて数秒。

 やっと勢いがなくなったため私のローリングは止まる。

 そこはクレバスまでスレスレ。

 あと少しで落ちていた。

 ふぅ…危なかった。

 鬼くんは吸血っ子とサエルと戦闘中か。

 この隙にタニシちゃんの落ちたクレバスに!

 見渡してもそれらしいのはない。

 ん?おかしいな。

 あ、いやここがそのクレバスか。

 鬼くんの攻撃を防ぎながら目的地に着く。

 我ながら無駄のない動きだぜ。

 おっとこんなことを思ってる暇はない。

 私はクレバスの底をそっと見る。

 

 そこには人に近い形をしたものを中心とした血溜まりを呆然と見つめるノエルの姿があった。

 

 ……え?

 瞬間、思考が止まる。

 目から入ってくる情報を脳が理解することを拒む。

 そんな筈がない。

 ありえない。

 そんな言葉が頭の中を支配する。

 大雪による寒さなんて感じない。

 手足の痛みも感じない。

 音も聞こえない。

 目だって機能してるか分からない。

 この目で見ているのに見えない。

 見ていられない。

 でも、いくら現実から背いたって変わらない。

 広がっていく血がそのことを主張する。

 

 「あ…あ……あ…」

 

 だんだんと心の奥底から何かが溢れそうになる。

 蓋をしても意味がない。

 無限に湧いてくる何かが、私を支配していく。

 それは胸の奥から喉に向かって侵攻していく。

 やがて声となって外に出そうになったとき、世界が黒に染まった。

 一瞬。

 瞬きをする間だけ。

 気がつけば私は氷河ごと宙に浮いていた。

 

 「……え?」

 

 少し時間を置いて氷河が割れる音が響き渡っているのが分かった。

 私は目の前に広がる光景に驚愕しながら地に向けて落下していく。

 すると膝の裏と背中に感触が。

 しかも6つ。

 その感触の正体を確かめてみるとサエルが私をお姫様抱っこしていた。

 そのままサエルはできる限り衝撃を殺しながら着地。

 普段の私ならサエルの珍しい積極的な態度やお姫様抱っこについてツッコミを入れていたが、今回はその余裕がなかった。

 なぜなのかは空を見れば分かる。

 

 宙に浮く巨大な氷塊。

 数kmはある黒く長い体。

 神々しさを感じるオレンジ色の模様。

 よく目にした5つある眼。

 それは正しく龍の神。

 私の親友で、双子神のような存在。

 

 龍となった黒悠がそこにいた。

 目に理性無き光を灯して。

 

 

 




 
 神の龍ってデカそうなので。

 


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蜘蛛6 味方が敵になると強くなるの法則

 
 
 


 「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 タニシちゃんが体の芯まで響く声で叫ぶ。

 龍となる余波で浮かび上がった氷塊が落ちていく。

 1つ1つが人よりも大きく、まるで流星群のように降り注ぐ。

 辺りに轟音が鳴り響き地が大きく揺れる。

 流星群の衝撃で鬼くんが作り上げたクレバスが広がり、もはやクレバスとはいえないほど大きな亀裂が入る。

 

 「ちょ!?篠前!?危ないじゃない!」

 

 後ろで吸血っ子が叫ぶ。

 見ればすぐ横に深く狭いクレーターが出来ていた。

 そこから蜘蛛の巣状の亀裂が入り、他の亀裂と入り交じる。

 やばい。

 氷塊が落ちる度に亀裂が入って、私達のいる氷河がバラバラになっていってる。

 すぐ横に亀裂が入り広がっていく。

 あっという間に人1人入れそうな隙間が出来上がった。

 

 あぶね!

 あと少し横にいたら落ちてたわ!

 タニシちゃん、ちょっと周りに気を使ってくれませんかね?

 あ、無理ですか。

 ひょっとして正気がないパターンですか?

 

 「ギュルルルル…!!」

 

 正気がないパターンですねありがとうございます!

 ないわー。

 いやタニシちゃんが生きてて良かったけどさ。

 流石にこれはねー。

 てか今の状況やばくね?

 神龍になったクソデカタニシちゃん。

 崩れゆく氷河。

 広がるクレバス。

 足元に亀裂。

 あ、やべーわ。

 助けてサエル!

 

 私の頼みを聞き受けたサエルがまたまたお姫様抱っこして跳躍、それと同時にさっきまで立っていた場所が裂けた。

 サエルは砕けかけの氷河に一瞬着地、その後すぐに跳躍する。

 それを繰り返しここから離脱する。

 そういえば吸血っ子は?

 確認するために振り返ると吸血っ子とメラを担いだノエルがサエルと同じく跳躍してこの場所から離脱しようとしていた。

 よし、吸血っ子達は大丈夫そうだ。

 鬼くんはどうしてる?

 お姫様抱っこされながら氷河を見渡す。

 雪がさっきより少ないため、遠くまで見える。

 お、いたいた。

 クレバスに落ちてなかったか。

 鬼くんは私達を見ておらず、代わりにタニシちゃんを見て威嚇していた。

 

 「ガアアアアアアアアアアア!!!」

 

 「ギュオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 それにタニシちゃんは怯まず威嚇。

 その長い体をうねらせ鬼くんに突進していった。

 鬼くんは2つの刀を構え、タニシちゃんに向かって炎と雷を放つ。

 しかし効果はまるでなく止まらない突進を鬼くんは受け止めるが、高く遠くふっ飛ばされた。

 

 え?これ鬼くん大丈夫?

 鬼くんが点に見えるぐらい高くふっ飛ばされてるんだけど。

 あの高さから落ちたら死なない?

 憤怒発動してるし大丈夫か?

 

 私が鬼くんの心配をしているとタニシちゃんがその巨体に見合わないスピードで吹っ飛んでいった鬼くんに接近。

 胴体に対して非常に短い腕で、それでも人よりは比べ物にならないくらい大きな腕で鬼くんを叩き下ろした。

 

 鬼くーん!

 あれはやばい。

 死んだかも知れない。

 確認したいけど鬼くんの安否を確認しに行く暇がない!

 いや、待てよ。

 死んだら戦ったものに経験値が入るはず。

 タニシちゃんは神だから経験値が入らないけど、さっきまで一緒に戦っていた人形蜘蛛やメラ、特にまだLV1の吸血っ子には経験値が入るはずだ。

 つまり吸血っ子がレベルアップしてたら鬼くんは死に、していなかったら生きてるということだ。

 我ながら頭が良い。

 

 「ソフィア、レベル」

 

 「は?」

 

 は?じゃねーよ!

 分かりづらいだろうけどさ!

 さっきの鬼くんを見ていれば分かるでしょ!多分。

 

 「レベル、上がった?」

 

 「いえ、上がってないわ。なんなの急に」

 

 こやつさては見てなかったな?

 元クラスメートなんだから少しぐらい気にするべきじゃないかな。

 全くこれだからボッチは……。

 そんなことより、どうやら鬼くんは死んでいないらしい。

 すげーな。

 あんな目にあっても生きてるって、ステータスの力は凄まじいわ。

 つーかあれどうするよ?

 元から龍形態めっちゃ強かったのに、神になって更に強くなってるのは確実。

 それはサイズを見れば分かる。

 どうやらタニシちゃんの龍形態、タニシちゃんの力に比例するらしい。

 そして今のタニシちゃんの龍形態、数km。

 どう考えてもパワーアップしてます本当にありがとうございました!

 ゴッドパワーを得た龍とかギュリギュリかよ!

 ん?待てよ。

 タニシちゃんの対処はギュリギュリがやればいいのでは?

 そうだよ!

 私達が戦う必要はない!

 ヘイ管理者出番だぞ!

 このままだと世界の終わりだぞ、仕事しろよ!

 

 〘助けに来ませんよ〙

 

 耳元でゾワッとする声が聞こえる。

 この声、そして耳元にあるスマートフォンの存在。

 Dか。

 

 〘どうもみんな大好きDです〙

 

 誰か好くかい。

 …で、助けにこない理由は?

 

 〘あなたなら想像できるでしょう?〙

 

 はぁ…。

 どうせ今回も面白そうだからって理由でやってるんでしょ?

 UFOの時もそうだったし。

 

 〘もちろんです〙

 

 ならタニシちゃんはどうするの?

 正直誰も止められそうにないんだけど。

 あれに勝つって同じ神じゃないと無理じゃん。

 ん?まさか……。

 

 〘その通り、あなたが戦うんです〙

 

 いやいやいやいや!!

 無理だから!

 まだ私魔術のまの字も分からない状態だぞ!?

 相手にされるかどうかも怪しいわ!

 それにもしご都合主義が発動して魔術を使えるようになったとしても勝てそうにないんだけど。

 そんなにゴッドパワーはすごいの?

 

 〘ええ。それに黒悠は理性を失っているせいかあまり魔術を使えていません〙

 

 え?そうなの?

 

 〘ですが身体能力強化と浮遊は本能的に使っています〙

 

 ほほう、なるほど。

 つまり魔術さえ習得してしまえば遠くから一方的に撃ちまくれて楽々勝利が出来るかも知れないと。

 ……魔術さえ習得できればな!

 

 〘大丈夫、きっとできますよ〙

 

 邪神にそんなこと言われてもなぁ…。

 

 〘さぁ、そろそろお別れの時間です。後は自分で探してください。それでは、また〙

 

 スマホがさっきまでそこにあったのが嘘のように消える。

 はぁ……。

 ないわー。

 

 スマホが消えた後、吸血っ子達の様子を確認してみると案の定私がDと話していたことを知らない様子だった。

 UFOの時みたいに時間でも止めてるのかと思ったけど、位置は移動してたからそういうわけではない。

 さらっとわけわかんねー魔術を使うところDがどれだけやべー奴なのか分かるわ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ここは魔王が作った糸のテント。

 そこで私達は今後について話し合っていた。

 と言っても話すことはあんまりない。

 私がなんとかして魔術を使えるようになって、タニシちゃんを倒す。

 これしかない。

 魔王達にはギュリギュリが来ないこと、私が魔術を使えるようにならなければいけないことを話した。

 なぜそんなことを知ってるのか聞いてきたけど、そこは黙秘。

 Dについて喋らないほうがいいだろうし。

 で、私が魔術を使えるようにならなきゃいけないんだけど当然そんなパッと魔術が使えるようになるわけがない。

 なんてったって2年間努力しても使えるようになれなかったんだから。

 そんなパッと出来るようになるなら、私はとっくに使えるようになってる。

 でも今はパッと出来るようにならないと、世界がやばい。

 2年間音沙汰なしのものが?

 なにそれクソゲー。

 それでもやらねばならない。

 そういうわけで魔王達がなんとか私に魔術を使えるように色々頑張っている。

 目の前で魔法を発動させるとか、スキルを発動させるとか。

 でもどれもこれも今の所何の成果も得られていない。

 タニシちゃんは現在魔の山脈をウロウロしている。

 氷龍がちょっかいかけてたけど一瞬で叩き落されてた。

 ヤ無茶しやがって……。

 

 「白ちゃん!体の中になんか感じない!?それが魔力だよ!」

 

 魔王が私にそんなことを言う。

 私は体の中に意識を集中させると、心臓が鼓動していることがよく分かった。

 それ以外は全く分からん。

 体の中に感じるものが何一つとして見つからない。

 でも魔力が一切無いというわけではないし、ただ私が見つけられてないだけ。

 見えないものを見なければ。

 見えないものを見るってどうやるんだよ。

 

 「こう……なんか感じない?」

 

 吸血っ子がそう言うが、全く感じない。

 やっぱ言葉じゃ理解不能だ。

 でもどうすれば?

 魔法は…さっき見ても何も分からなかった。

 神になる前は術式とか見えてたけど影も形もなし。

 スキルの発動も同じ、何も感じない。

 やべー万策尽きたかも知れん。

 さっきから同じことばっかやってる。

 いくらやっても結果は変わらないからこのままじゃ無限ループだ。

 でも他に何をやる?

 一般人がすぐに魔術を使えるようになるためにはどうしたらいい?

 うー。

 おー。

 がー!

 全く思いつかん!

 どうすればいいんだ!?

 待て待て待て……。

 落ち着け。

 ここは冷静になろう。

 そうだなー。

 ここは発想の転換をするべきか。

 案外魔術とは関係ないものが魔術への入門に繋がるのかも知れん。

 魔術とは関係がなさそうなもの?

 睡眠は毎日やってるし違うな。

 食事も違う。

 風呂?

 なわけないか。

 運動は…ないかな。

 駄目だ思いつかん。

 毎日やってなくて魔術に関係がないもの。

 サバイバル?

 死の直前まで追い詰められて力に覚醒するみたいな。 

 タニシちゃんも多分そんな感じだろうし。

 でも死にかけたら戦えなくない?

 あれか、力に目覚めた瞬間自分に回復魔法をかけて治せばいいのか。

 いやリスクがありすぎる。

 もし力に目覚めても上手く操れなくて回復しそこねたらそのまま死んでしまう。

 でもダメージを喰らうっていうのはいい案だと思う。

 自分を痛めつけて強くなる。

 これは神になる前によくしていた行為だ。

 よく頭おかしい鍛え方とか言われてたけど、やっぱりこれに行き着くのか。

 

 さて、そうと決まれば…とやりたいところだけど、これには魔王達の協力が必要だ。

 くっ!私に交渉しろというのか!

 しかも内容が私を傷つけろだぞ!

 魔王達からドM疑惑がかけられてしまう!

 そんなことは絶対に避けなければならない。

 どうする?

 どうする?

 理由を言えば納得してもらえるか?

 くっ!私に長文を言えというのか!

 

 「魔王」

 

 「ん?どうした白ちゃん。まさか魔術が使えるようになったの!?」

 

 んなわけあるかい。

 私は自分を指して言う。

 

 「攻撃して」

 

 「は?」

 

 魔王が何いってんだコイツみたいな顔をする。

 吸血っ子達も同じような顔だ。

 しかしその反応は想定済みだ!

 えーっとどう言えばいいんだ?

 私にダメージを与えて、危険な状態にしろってことだよね。

 それで防衛本能みたいなのが反応して何かしら魔術が使えたりしないか…みたいな。

 タニシちゃんだって多分体が危険な状態になってそれで本能的に龍になって自分を守ったっぽいし。

 私にもそれがあると思うから私を危険な状態にしてくれってこと。

 ……よし!こんな感じのことを言えば良いんだな!

 よーし、言うぞ?

 ほーら言うぞ?

 待て待て落ち着け。

 素数を数えて落ち着くんだ。

 1、4、6、ダー!

 素数数えられてねー!

 落ち着け落ち着け…。

 よーしよしよしよし。

 落ち着いてきたぞ。

 よしよし…よーし。

 えーっとえーっと。

 いつ言えばいいんだ?

 そうだ十秒後に言おう。

 1、2、3、4、5、6、7、8、9…

 

 「あ、分かったよ白ちゃん。そういうことね」

 

 ……まぁいっか。

 魔王、君のような勘の良いガキは嫌いじゃないよ。

 魔王全然子供じゃねーわ。

 むしろ一番のお年寄り……これ以上はやめておこう。

 

 「え?アリエルさんどういうこと?」

 

 吸血っ子、君のような勘の悪いガキは嫌いだよ。

 魔王が吸血っ子に説明する。

 それを聞いたあと吸血っ子は狂人を見る目で見てきた。

 

 「確認するけど、ほんとにするの?」

 

 魔王が私に手を向けて言う。

 そうもしなきゃいけない状況ですし。

 めっちゃ嫌だけど、やるしかない。

 

 「それじゃ、まずは雷魔法ね」

 

 魔王の手から弱い電気が放たれる。

 あだ!

 うーん、でも弱い。

 魔王、手加減してるな?

 いや本気でやられたら一瞬で死ぬけどさ、これじゃビリビリペンだ。

 

 「魔王」

 

 魔王が嫌な顔をする。

 魔王は味方に優しいから私を傷つけるのは苦なんだろう。

 今はその優しさはあんまりいらない。

 魔王にそのことが伝わったのか雷の火力が上がった。

 あばばばばばばばばばばば!!

 雷が止まる。

 私は前に倒れる。

 

 きっつ。

 これやべーわ。

 でもなんとなく魔術に近づいた気がする。

 気がするだけかも知れないけど。

 なぜなら魔力とはなんなのか分かった気がするからだ。

 雷を喰らったとき大半がバチバチだったけど、それ以外に、なんというかぐわーみたいな、のぅわーみたいな、変なのを感じた。

 雷がおさまってからは感じなくなったけど、多分それが魔力。

 雷で頭がおかしくなった可能性は無くはないけど、そんなことじゃないと祈ってる。

 魔王、回復魔法プリーズ!

 

 魔王から回復魔法を貰い傷が治る。

 

 「魔王、雷」

 

 うつ伏せのまま、雷をお願いする。

 あ、それと。

 

 「少し火力下げて」

 

 「う、うん、分かった」

 

 いでででで!

 ウグゴッッくッ…感じるぞ!魔力みたいなやつが!

 モワ〜みたいな感じで蠢くエネルギーが!

 体にエネルギーが流れてるのが分かる!

 よーしよしよし!

 

 「ス、ストップ」

 

 雷が止み、体が治っていく。

 そして傷がなくなる。

 それでもまだ体に感じる。

 これか!

 これが私のエネルギーか!

 後はこれを操れば……よし。

 思いのまま動かせるわけではないけど、それなりに自由はきく。

 これでスキルでいう〈魔力感知〉と〈魔力操作〉を手に入れた。

 あとは魔術だ。

 でも魔術の構築ってどうするんだ?

 システム内のやつでいけるか?

 よし、やってみよう。

 思い出すのはお世話になった暗黒魔法の暗黒槍。

 記憶にある通りの術式を構築していく。

 少し荒いが、できた。

 次に魔力の挿入。

 弱すぎず、強すぎない程度に注いでいく。

 

 「え!?ちょ、みんな白ちゃんから離れて!」

 

 魔王の焦った声が聞こえ、吸血っ子達がそれに従い離れていく。

 そして吸血っ子達が離れた時、私がシステム無しで作り上げたセルフ暗黒槍が放たれた。

 その暗黒槍は記憶にあるより少し速く飛んでいき、魔王の糸の壁に着弾し音と共に消滅した。

 糸の被害はいくつか切れた程度。

 あの糸が硬いのか、あの暗黒槍が弱いのか。

 

 再び暗黒槍の術式を構築。

 今度は強く、多くエネルギーを注ぎ込む。

 実質今の私の本気の暗黒槍だ。

 完成された術式から先程より数段速い暗黒槍が放たれる。

 それは糸の壁を軽々と貫通し、その後も減速することなく飛んでいった。

 おう、なかなか良いじゃん。

 前よりパワーアップしてるかもしれん。

 確証が持てないのは前に魔王の糸を攻撃したことなんてなかったからだ。

 そんなことより寒い!

 壁に穴を開けたせいで寒い空気が入ってきちまったよ!

 豪雪は氷龍のせいだったらしく、魔王に脅されて止んだからマシになったけどそれでも寒い。

 高山はなにもされてなくても寒いわ。

 

 「白ちゃん魔術が使えるようになったの?やったじゃん!」

 

 魔王が空いた穴を修復しながら私が魔術体得をしたことを喜ぶ。

 私としては若干複雑。

 2年間も頭を悩ませていた問題が簡単に解決すると、じゃああの2年間は何だったんだよって気持ちになる。

 でもまぁ、過ぎたもんはしょうがないし今は魔術が使える。

 ここは魔術が使えるようになったことを素直に喜んでおこう。

 

 魔術を体得したし、じゃあ早速タニシちゃんに突撃!とやりたいところだけどそうもいかない。

 使える魔術のバリエーションを増やさねば。

 暗黒槍だけじゃどう考えても勝てん。

 暗黒魔法や空間魔法、スキルとかも使えるようになっておきたい。

 例えば空間転移とか回復魔法とか、スキルなら邪眼とか万里眼とか?

 幸いここには魔王がいる。

 私の記憶と魔王の実物で術式を再現しよう。

 そうすればギュリギュリが言ってた通り前よりパワーアップするはずだ。

 タニシちゃんはまだ魔の山脈をウロウロしてる。

 時間はあるし万全な状態で挑もう。

 

 

 

 




 蜘蛛子には書籍同様お酒で目覚めてほしかったがそんな状況ではなかった。
 
 


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蜘蛛7 デカい体って不便そうだよね

 
 
 


 タニシちゃんが魔の山脈を荒らしまくり、いくつか山の標高が低くなってきた頃。

 私の準備が整った。

 だいたい3日ぐらいかかったかな。

 出来ればもう少し練習したかったけど、タニシちゃんが魔の山脈から離れようとしてるので今から倒しに行くことになった。

 しかも離れようとする先は魔族領。

 それは困る。

 

 私は万里眼モドキを発動させタニシちゃんの様子を見てみる。

 今は特に暴れたりはせず、虚を見つめてボーとしている。

 タニシちゃんののんびりが出てない?

 龍になって理性を失っても本質は変わらんのかね。

 この万里眼モドキは一番最初に再現した魔術。

 準備中もタニシちゃんの様子は見ておきたいし万里眼自体かなり便利な魔術だ。

 それでタニシちゃんの様子を見るに、浮遊と身体能力強化、そして微弱ながら龍結界を貼ってる。

 でもその龍結界は弱いから、多分少しやり辛いと感じる程度のものなんじゃないかな?

 まぁあまり考えてなくても良いかもしれない。

 

 さて、これからタニシちゃんの理性を取り戻しにいくか。

 方法は強い衝撃を与える。

 つまり気絶させるということだ。

 少年漫画みたいに仲間の記憶や友情を思い出せ!みたいなものではない。

 ぶっ叩いて正気を取り戻す。

 この手に限る。

 

 術式を構築。

 使う魔術は空間転移。

 どうやら私は空間魔法に適性があるらしく、他の魔法よりも素早く正確に構築できる。

 前はちょいと時間かかってたけど、あの時よりも数段早く出来るようになってる。

 よし完成、転移!

 

 転移した場所はのんびりしてるタニシちゃんより少し離れた所。

 タニシちゃんの後ろを取る感じだ。

 馬鹿みたいに真正面に転移する必要なし。

 現在私は宙を浮いている。

 なんでそんなことが出来るのかって?

 タニシちゃんの浮遊をコピーさせてもらったからさ!

 今のタニシちゃん一切術式を隠そうとしないから万里眼で術式丸見えなんだよねー。

 龍結界のおかげでちょっと見づらかったけど、まぁそれくらいなら時間さえあれば再現は簡単。

 フフフ…なんか他の人の技を奪うって強くね?

 

 にしてもタニシちゃん、全く動こうとしないな。

 のんびりする時は心を空っぽにしてやってるて言ってたし、体を動かす意思すら消してるんかね。

 それ大丈夫か?

 それのおかげで私が転移しても気づかれなかったんだけどさ。

 正直隙だらけだからせめて危険を察知するくらいには意思を残してほしい。

 

 そんなことを思いながら術式を構築。

 エネルギーを目一杯詰め込んだ暗黒弾を放つ。

 めっちゃデカくなったけどいっか。

 目には目を歯には歯を。

 デカいのにはデカいのをぶつけるんだよ!

 タニシちゃんは反応すらせず頭に直撃。

 巨大な頭を揺らしうめき声を上げる。

 その隙に大量の極大暗黒弾で頭を集中的に攻撃し、より強い衝撃を与え続ける。

 これで気絶してくれれば終わりなんだけど…。

 

 「ギュオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 タニシちゃんが私に向かって咆える。

 ですよねー。

 こんな簡単に気絶しちゃったら呆気無さ過ぎてびっくりするわ。

 タニシちゃんが私の下に潜り込み、次は体をひねって上に、その次は前に、横に。

 何をやってるのか最初は分からなかったけど、だんだんと外の景色がタニシちゃんで見えなくなってきた時にやっとこの行動の目的に気づき、空間転移で抜け出した。

 タニシちゃんはその長い体を使って私を閉じ込めようとしていた。

 しかも囲まれる度に龍結界が強力になっていっているから、空間転移が出来なくなって本当に閉じ込められるところだったわ。

 理性がないって言うから知的な行動は出来ないもんかなって思ってたけど、そんなことはないかもしれん。

 

 タニシちゃんは逃げた私を追いかけようとするが体を何かに締め付けられる。

 タニシちゃんを締め付けていたのは同じタニシちゃんだった。

 困惑するタニシちゃん。

 私も困惑してる。

 なんでこんなことになってるの?

 直前のタニシちゃんの行動を思い出す。

 あ、私を閉じ込めようとしたせいか。

 私を閉じ込めようとしたときにタニシちゃんの体は複雑に絡み合っており、糸玉みたいになっていた。

 そしてそれを解かず突撃したら堅結びのように体が締め付けられたってわけね。

 馬鹿じゃねぇの?

 やっぱ知的さはないかもしれん。

 風龍の時もそうだったけど龍って実はクールな奴居ないんじゃね?

 理想と現実の差っていうのはファンタジーにも適用されるのか。

 

 タニシちゃんが絡まってる体をある程度見回した後、私に顔を向け口を大きく開けた。

 そして口に大量のエネルギーが溜まり始める。

 まずい!

 空間転移で即座に距離をとる。

 次の瞬間、私がいた場所に黒い極大ブレスが通る。

 そのブレスは先にある山にデカい穴を開けて貫通し見えなくなる。

 ブレス吐けるんかい!

 おのれDめ!嘘をついたな!

 いや、ブレスを吐けないなんて一言も言ってなかったし後は自分で探せって言ってたし嘘はついてないか。

 てか威力やべーな。

 あれをまともに喰らったら死ぬな。

 だが問題はない。

 私には空間転移がある!

 どれだけブレスが太かろうと空間転移の前には無力よ!

 

 タニシちゃんが私に突進してくる。

 背後に転移、からの暗黒弾!

 暗黒弾が後頭部に命中し唸り声を上げる。

 でもダメージを受けてる気がしないんだよなぁ…。

 ヘイトは稼いでるっぽいけど。

 私に決定打がないのはキツイ。

 なんかないか?

 深淵魔法の再現とか?

 あれかなり複雑だしあまり発動したことないから術式覚えてないわ。

 それにあれシステムに還元するためのものだし。

 となるとやっぱ空間魔法か。

 空間を歪ませてダメージを与えるか?

 重要なとこを狙わなければ大してダメージはないだろうし。

 それか空納でタニシちゃんを封印するとか?

 それで元に戻るまで待つか気絶させられる魔術を開発するかの選択が出来るし。

 よし、空納でタニシちゃんを封印作戦で行こう。

 とりあえずタニシちゃんから離れよう。

 転移。

 

 それにしてもデカいってやべーわ。

 だってタニシちゃんが動く度に暴風が吹き荒れるし山が削れるしで災害が起きてる。

 デカいのはそれだけでも強い。

 よく聞く言葉だけどタニシちゃんを見て納得したわ。

 そりゃつえーでしょうよ。

 今だって山に追突したら山がごっそり削れてるし。

 さらに土砂崩れが起きて木を巻き込んでいってる。

 移動による暴風で色々巻き上がって環境という環境が破壊されてる。

 私にはないけど魔の山脈の被害がひどい。

 

 タニシちゃんがブレスを放つ。

 転移で避ける。

 …今気づいたけど転移じゃなくて空納で良くね?

 やっば天才の発想かも。

 タニシちゃんが私と一定距離を保ちつつ円をえがきながらブレスを放つ。

 空納を開きブレスを中に入れる。

 これなら転移せずともブレスは当たらないな。

 ふはは!効かぬわ!

 もし私に空間魔法の適性がなかったらあっという間に消されてエンドだったかもしれん。

 いやー空間魔法様々だわ。

 

 空間魔法の素晴らしさを再認識していると、タニシちゃんが動きを止め、私を見つめる。

 巨大でしかも5つの目があるからただ見つめられるだけで威圧感が凄まじい。

 常人だったら失神してもおかしくない。

 私もちょっとビビる。

 

 タニシちゃんが術式を展開する。

 あれは…空間魔法?

 え?タニシちゃん空間魔法使おうとしてるの?

 

 タニシちゃんの横に空間の裂け目ができ、そこにタニシちゃんが突っ込んでいき異空間に姿を消していく。

 

 あまり魔術は使えないとか言っておいて結構使えるじゃなーか!

 おのれDめ!

 やっぱ邪神は信用できん!

 あ、Dの性悪さにイラついてたらタニシちゃんが完全に異空間に入った。

 こうなったのもDのせいだ。

 そういうことにしておこう。

 

 私の背後で空間に歪みが。

 するとそこからブレスが飛び出してきた

 ちょ!?空納!

 空納にブレスを入れると、前方の空間に歪みが。

 いや後方にも歪みがある。

 そして後方からはブレスが、前方からは口を開けたタニシちゃんが出てきた。

 あ、チャンス!

 私は後方に空納に入れておいたブレスを出し、前方に空納を展開する。

 後方でブレス同士が衝突し爆発する。

 タニシちゃんは方向転換をして空納に入るのを回避し、異空間に消えた。

 流石に無理か。

 

 さて、次は何処から来る?

 上か?下か?真ん中か?

 周囲を警戒していると空間の歪みを検知。

 しかも複数。

 軽く数えて数十個。

 それが私を中心とした球状に出てきていた。

 マジか。

 これは空納で捌ききれそうにない。

 転移で逃げるか。

 術式を構築。

 その間に空間が裂け、数十のブレスが私目掛けて飛んでくる。

 私に命中する前に構築完了。

 転移でサッと避ける。

 ふふっ…私に空間魔法がある限り間接攻撃は効かないと思え!

 数が有っても無駄無駄…。

 

 私に当たることなく飛び交うブレスを見ながらそんなことを思う。

 ブレスはブレス同時ぶつかりあって自爆するのだと思ってたら、ぶつかり合う事無く対にある裂け目から異空間に帰っていった。

 ブレスが異空間に帰ると同時に私の周りに歪みが。

 今回は球状ではなく、バラバラなところに。

 私に向かってるのもあれば全く別の方向のものもある。

 でも、バラバラに見えてちゃんと対になるようになってる。

 なるほど。

 もしブレスが外れても回収できるようになってるのね。

 空間が裂けブレスが飛び出してくる。

 1つブレスを空納に入れ、すぐに転移する。

 ブレスが戻っていく。

 戻る前に背後に歪みができ、そこからブレスが飛び出る。

 1つしか出てないのでこれは空納に。

 次は上下に4つずつ。

 これは転移で避ける。

 転移で避けた先に歪みが。

 さっきから歪みの位置が正確だ。

 ブレスだって私を正確に狙い撃ってくるし、どこかから見てるとしか思えない。

 どこだ?

 ブレスを転移で避けながらそれらしいものを探す。

 左右を確認してもブレスしか見つからない。

 てか危な!空納!

 横にないなら上にあるか?

 私は空を見上げる。

 裂け目から顔を出したタニシちゃんの姿があった。

 がっつり見てるやん。

 空納からさっき取ったブレスを出す。

 ブレスが命中する前に顔を引っ込め、別の場所に大きめの歪みが。

 次はあそこか!

 私はいつでも回収しといたブレスを出す準備をする。

 空間が裂けると案の定タニシちゃんの頭が出てくる。

 しかし顔だけでなく長い体も出てきたのは予想外。

 タニシちゃんは私を見るなりブレスを放ってくる。

 それだけでなく私からすぐ近くの場所の空間が裂けそこから複数のブレスが飛び出てきた。

 

 転移は間に合わない!

 空納でしまうのも無理!

 やばいどうしようなんとかして逃げなければ。

 やべーよやべーよ!

 …あ!ひらめいた!

 空納を展開!

 からのそこに私が入り込む!

 そしてすぐに閉める!

 ふぅ…危なかった。

 あと少し遅かったら死んでたかもしれない。

 てかどうするよ?

 タニシちゃんが空間魔法を使えるのなら空納封印無理じゃね?

 かといってタニシちゃんを気絶させられるほどの衝撃を与えられる手段もない。

 あれ?やばくね?

 どうやって倒せばいいんだ?

 やべーどうしよう。

 糸で拘束する?

 糸は格上さえも縛りつけ戦いを有利にしてきた私のメインウェポンだ。

 んーでもなー。

 タニシちゃん、デカいんだよなー。

 デカいとそれだけ沢山の糸を出さなきゃいけないわけでして。

 そして沢山の糸を出すには時間がかかる。

 タニシちゃんは見た目の割に結構速い。

 あー…。

 そうだなー。

 網を作って、それをタニシちゃんの前に出して、顔だけでも縛りつけるか。

 そうすれば顎が開かなくなってブレスを吐けなくなったりしないかな?

 それで……次はどうするんだ?

 ……あれ?なくね?

 いつもは糸で拘束して抵抗できないところに強力な攻撃をする。

 でもタニシちゃんは殺しの対象じゃないしそもそもダメージを与えられる手段が少ない。

 時間をかけて魔術をもっと知れば気絶させられるけど、あいにく私の魔術歴は3日ぐらい。

 システムにあるものを真似るくらいしか出来ない。

 真似られるものも限られてる。

 その中でタニシちゃんにダメージを与えられるのは空間魔法、暗黒魔法……え?これだけ?

 ば、ばかな…。

 どうすればいいんだってばよ。

 

 そんな時、カランっと音が聞こえた。

 音のした方を見てみるとそこには白い大鎌があった。

 この鎌、偶に私の手元に出現する事がある。

 白鎌を手に取る。

 この鎌は神になってから色々変わった。

 魔術を習得する前はなんか強くなった気がする程度の認識だったけど、習得してこの鎌の事が分かった。

 この鎌、結構やばいエネルギー秘めてる。

 このエネルギーはおそらくだけど私の手持ちの魔術よりも強力だ。

 これならいけるか?

 このエネルギーは多分、腐蝕属性だ。

 これを当ててタニシちゃんは無事だろうか?

 タニシちゃんのブレスに腐蝕属性が混じってるし、耐性はありそう。

 ………やってみるか。

 

 空納から顔を出し、外の様子を見る。

 タニシちゃんは縦横無尽に動きながら私を探している。

 そういえば鎌はどうやって当てればいいんだ?

 UFOの時に飛ぶ斬撃みたいなの出たし、それでいけるか?

 試しに空納内で鎌を振ってみる。

 何も起きない。

 少し鎌の中のエネルギーに干渉してみる。

 すると鎌が禍々しいオーラを出し始めた。

 その状態のまま鎌を振る。

 鎌が纏う禍々しいオーラが形を作り、これまた禍々しい斬撃が飛び出た。

 よし、出来るな。

 

 空納から出て鎌を構える。

 鎌に意識を向け、禍々しいオーラを纏わせる。

 その間にタニシちゃんが私に気づき、異空間からブレスを出しつつ接近してくる。

 私は鎌を振り、ブレスとタニシちゃんに向かって斬撃が飛んでいく。

 ブレスは斬撃に当たると爆発し、接近しながらブレスを放つタニシちゃんだけが残った。

 そのブレスを空納に入れ、鎌に力を込める。

 そしてタニシちゃんに斬撃を放った。

 タニシちゃんは方向転換をしてそれを避けようとするが、デカい体故に間に合わず斬撃が命中する。

 すると命中した場所が鱗から崩壊していき体が削れる。

 そこから血が流れ始める。

 よし、これならダメージを与えられる。

 タニシちゃんを攻撃するのは心苦しいけど、こうもしないと世界の危機だし仕方ない。

 良い感じのダメージを与えて気絶させよう。

 タニシちゃんがブレスを放つ。

 後方には2つのブレス。

 自分を空納に入れて退避。

 少し離れたとこに出て、タニシちゃんに斬撃を放つ。

 これも命中。

 タニシちゃんは怯みながら異空間に入っていく。

 入り切る前にもう一発斬撃を放ち、尻尾部分にダメージを与えた。

 よしよし順調だ。

 さて、どこからくる?

 

 上から反応。

 鎌に力を込める。

 右から反応。

 左から反応。

 警戒を強め、いつでも転移ができるように準備をする。

 上からブレスが来たので空納で対処。

 それと同時に右からタニシちゃんが、左からはブレスが飛び出してくる。

 私は少し離れた場所に転移、タニシちゃんに斬撃を放ち一応ブレスも出しておく。

 斬撃はタニシちゃんの首元辺りに命中。

 ブレスはタニシちゃんに当たること無く空を切った。

 

 「ガッ…ガガ……!!」

 

 タニシちゃんはよろけ始め、口から血を吐き出す。

 タニシちゃんのサイズがデカいせいで吐く血も多い。

 視線を落として見れば赤く染まった山肌が見える。

 赤い山ってゲームの終盤辺りのマップでありそう。

 そんなことより、そろそろタニシちゃんはキツくなってきたはず。

 回復魔法を使えるのなら話は別だけど、そんなことはないらしい。

 このまま放置して体力切れを狙ったほうが良いかもしれない。

 そう思いつつ怯んだタニシちゃんに斬撃を放つ。

 出来る限り致命傷になる可能性が低い部位を選ぶ。

 タニシちゃんは避けることなく命中する。

 さらに怯むタニシちゃんに転移で接近し、空納を展開。

 タニシちゃんの長い体を私と一緒に異空間にしまう。

 

 鎌に力を込める。

 鎌のエネルギーをそのまま使うのではなく、それを力づくで打属性と衝撃属性に変える。

 さらに私のエネルギーを身体能力強化に注ぐ。

 そして野球のバッターのように構え、全力でタニシちゃんの頭を打つ!

 異空間に爆発したかのような音が鳴り響く。

 鱗が飛び散りタニシちゃんの長い胴体が仰け反るように吹っ飛んでいく。

 そして放射線状に飛んでいき、大きな音を立てて地面に叩きつけられる。

 タニシちゃんは気絶した。

 

 …うまくいった。

 私が斬撃でダメージを与えている間に思いついた作戦。

 思いっきりぶっ叩くが成功した。

 この作戦はギュリギュリを参考にした作戦だ。

 タニシちゃんが酔って龍形態で暴れ、ギュリギュリが対処に向かったとき、ギュリギュリはただ身体能力を底上げして殴ってタニシちゃんを気絶させていた。

 私はそれを真似したってわけ。

 残った力のだいたいを全て身体能力に注ぎ込んだから、今の私はエネルギー結構カツカツ。

 ほんと上手くいってよかった。

 これで上手くいかなかったら鎌の斬撃で気絶するまでタニシちゃんを斬り続けなければならない所だった。

 そうならなくて良かったよ。

 

 異空間内が一瞬黒く染まり、タニシちゃんは人型に戻った。

 私は全裸のタニシちゃんに近寄り、糸を出して服を着させる。

 龍形態では傷があったのに人形態の今は傷一つない。

 傷が無いのは、形態が変わる度に体を再構成してるから?

 まぁ、どうでもいいか。

 あーにしても疲れたわー。

 エネルギーを使って疲れたのもあるし、タニシちゃんを攻撃するのにも疲れた。

 なんで親友を攻撃しなきゃいけないわけ?

 あ、Dの仕業か。

 もしかして私がこんな気持ちになるのも計算済み?

 いや、むしろこの為か。

 ないわー。

 性悪イカれパッパラパー邪神だわー。

 はぁ…。

 マジで疲れた…。

 ちょいと私も一眠りしましょうかね。

 糸でちょちょい布団を2つ作る。

 タニシちゃんに布団をかけ、私も布団を被る。

 遅いリズムで息をするタニシちゃんを一目見た後、殺風景な異空間の中で私は眠りについた。

 

 

 

 

 




 完全オリジナルな戦いは初めて。
 


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神かタニシかその両方か

 
 ゲームで忙しかったので遅れました。
 


 ……ん?

 ここはどこ?

 目が覚めたら見たことのない場所にいた。

 知らない天井…と思ったら天井がないや。

 天井が無いということはここは外?

 外にしては空が青くない。

 空が白い。

 地面も真っ白だ。

 異空間という言葉が思い浮かぶ。

 

 「んぁ…おはようタニシちゃん」

 

 そこまで考えついたところで横から蜘蛛さんの声が聞こえてきた。

 

 「おはよう蜘蛛さん。ここはどこなの?」

 

 被っていた布団を畳みながら蜘蛛さんに聞く。

 今更だけど私布団被ってたんだね。

 白いし状況的に蜘蛛さんが作ったのかな。

 

 「私が作り出した異空間」

 

 「へー」

 

 蜘蛛さんの異空間ねー。

 ん?待てよ?

 

 「蜘蛛さん、魔術使えるようになったの?」

 

 「うん。そういうタニシちゃんはどうよ」

 

 「どう……と言われても」

 

 特に今までと変わったりは……ん?

 なんかこの空間に流れみたいなのを感じる。

 空気の流れじゃない。

 それが分かるほど感覚は鋭くないし。

 目で見えるような、肌で感じてるような、不思議な感じだ。

 蜘蛛さんにもそれっぽいものを感じるし私にもある。

 ひょっとしてこれが魔力?

 だとしたらなんで見えるようになってるんだろう?

 ちょっと記憶を遡ってみよう。

 んー確か私はクレバスに落ちてそれで…それで?

 死んだ…としたら今生きてるわけがない。

 でも叩きつけられたのは覚えてる。

 そこから…視線が高くなって…動いて…何か吹っ飛ばして…それで…蜘蛛さんが浮いて…そこからはあまり覚えてないね。

 とりあえず私に何かが起きてそれが原因で蜘蛛さんと戦うことになっていた事は分かった。

 そしてそれが原因で魔力が分かるようになった事も分かった。

 

 「蜘蛛さん、その…ごめん」

 

 「え?何?突然謝ってどうしたの?」

 

 「私に何かあってそれで私と戦ったんだよね?それの謝罪だよ」

 

 「……ああそれ?気にしなくてオッケーよ。そんなことより何か変わった?例えば力の流れみたいなのが分かるとか」

 

 「うん、分かるよ」

 

 「おーやっぱりか。私と戦ってる時魔術が使えてたからもしやと思ってたけど、そのもしや通りで良かったわ」

 

 「魔術…ねぇ、どうやれば出来るの?」

 

 「えー…簡単に言えば術式を組み立てて魔力を入れる」

 

 「うーん?ちょっと見本見せて」

 

 「あいよー」

 

 蜘蛛さんが術式を作り上げる。

 術式に魔力が入り込み、そこから見慣れた暗黒槍が飛び出てくる。

 

 「…とまぁこんな感じ」

 

 「おー」

 

 システム内のものでも良いんだね。

 てっきり全く新しいものを作り上げなきゃいけないと思ってた。

 システムは神初心者の私にとって魔術の教科書みたいなものなのかな。

 だってあれこれシステム内の術式を真似ていればそれらしいものは出来るんだから。

 

 蜘蛛さんからいくつか魔術を教わって分かったことがある。

 それは私は破滅とか腐蝕とかが得意だってことだ。

 前よりも強力になってるって使った瞬間分かった。

 腐蝕に関しては自滅が怖いので、腐蝕無効の術式を再現してからやった。

 出来なくなったこともある。

 私は蜘蛛糸が出せなくなっていた。

 いや、出せないというよりかなり出しづらいが正しいかな。

 前から蜘蛛糸は魔術で出してたからそれを真似れば出来るだろうと思ってたら、ものすごいやりづらかった。

 何故出来ないのかは分からない。

 なんか出来ない。

 蜘蛛さんは蜘蛛だからか楽々出してた。

 それを真似ても無理だった。

 出せても脆くて短い糸しか出せなかった。

 あれだ、絵心がある人の絵を絵心ゼロな人が真似ても上手く描けないみたいな。

 そんな感じで糸は全く使えなくなっていた。

 これは蜘蛛さんにもあって、蜘蛛さんは破滅属性が全く使えなくなっていた。

 

 龍化のほうは難なく出来た。

 どちらかと言えば人化を解除したのほうが正しいのかも。

 どうやら今の私にタニシ形態は無いらしく、前で言う龍形態が普通になっていた。

 じゃあ私はタニシじゃなくなったのかと聞かれれば、そこんとこ難しい。

 なんとなくタニシだった頃の名残がある気がするんだよね。

 それがどんなものかは分からないけど。

 話を戻して龍形態についてだけど、前と結構違っていた。

 ものすごく長くなったし、人形態の時と龍形態の時の力の差がかなり広がっていた。

 でもその力の差の開きかたがちょっと嫌だ。

 なぜなら龍形態の能力が前よりもかなり上がって、人形態の能力が前より酷く下がっていたからだ。

 今は鑑定が無いから、どれだけ能力が下がったのか詳しくは分からない。

 でも、下手したら数万単位でステータスが減ってる気がするんだよね。

 うーん。

 強くなった…のかな?

 まぁ龍形態の方は前よりも格段に強いんだから、戦闘時は龍形態になっていればいいか。

 

 そんなこんなで異空間で色々知った後、魔王さん達のところに戻ることになった。

 蜘蛛さんと手を繋ぎ、転移に連れてってもらう。

 転移した先には糸で出来た白いテントが。

 蜘蛛さんが作ったのかな?魔王さんが作ったのかな?

 まぁどっちでもいいか。

 

 蜘蛛さんがテントを開ける。

 そこには見慣れたメンバーがいた。

 魔王さんにソフィアさんにメラさんに人形蜘蛛、そして糸で出来たベッドで寝ている笹島さんがいた。

 ん?笹島さん?なんでいるの?

 雪山であった記憶があるけどその時はものすごい怒ってなかった?

 怒り疲れて寝ちゃったのかな。

 

 「お、タニシちゃんを元に戻せたんだね」

 

 魔王さんが私と蜘蛛さんを交互に見て言う。

 ソフィアさんとメラさんは私を見て黙ってる。

 人形蜘蛛はいつもどおりかな。

 

 「ん?どしたの白ちゃん」

 

 魔王さんの声に釣られて蜘蛛さんを見てみると、どこかをジッと見たまま止まっていた。

 その視線を辿ってみるとそこにはベッドに横たわった笹島さんが。

 気になってしょうがないらしい。

 私も気になる。

 

 「ああ、この子か」

 

 そん私たちの興味に感づいたのか、魔王さんが笹島さんについて話し始める。

 

 「まぁそうだねー。メラゾフィスくんから聞いた話だけど、龍になったタニシちゃんにふっ飛ばされて、すぐに叩き落されたらしくて。それで白ちゃんがタニシちゃんと戦ってる間に私がこの子の安否を確認しに行ったら、ピクピクして気絶してるのを見つけて回収したって感じ」

 

 え?私笹島さん吹っ飛ばしてたの?

 …笹島さんが目を覚ましたら謝ろう。

 吹っ飛ばしてごめんなさいって。

 謝って済みそうにないけれど。

 だって自分を吹っ飛ばしてからの叩き落としたんだよ?

 そんな事をされた後に、致命傷負わせてごめんって吹っ飛ばした本人からの謝罪。

 私だったらグーパンする。

 狂気を感じるレベルの善人じゃないと許されないだろうね。

 出来れば笹島さんはそうであって欲しいな。

 

 私は笹島さんの心の広さを期待しながら人形蜘蛛達にもみくちゃにされる。

 お酒に酔ったおじさんみたいに背中をバンバンされたり、抱きつかれたり、首を絞められたり。

 最後のは首元を抱きしめられて起きたことだから故意でやられたものじゃないけど。

 多分人形蜘蛛なりのおかえりなんだろうね。

 人形蜘蛛の1人が服を持ってくる。

 それ以外は周りから見えないように立ち回りつつ私の服を脱がす。

 あ、早速着せ替え?

 周りから見えないようにしてくれてるのはありがたいけど、もうちょっと時と場所を考えてほしいな。

 

 「篠前、なんで龍になったの?そのせいでこんなところに居なきゃいけなかったんだけど?」

 

 ソフィアさん、今話しかけてくるの?

 まぁいいけど。

 えーっとなんで龍になったのか…ね。

 んー…私にも分からん。

 私の記憶にあるのはクレバスの底に落ちたら龍になっていたっていう、世にも奇妙なものだし。

 かといって、こんなことを言ってもソフィアさんは納得してくれなさそうだしなんか考えないと。

 うーん?

 なんにも思いつかない。

 もう適当でいいや。

 

 「えー…クレバスに落ちた衝撃で私の中で眠っていた暗黒龍が飛び起きたからだよ」

 

 「は?」

 

 「ごめん自分でも分かんない」

 

 だから睨まないでソフィアさん。

 まぁちょっと厨二っぽくなっちゃったからふざけてると思われたんだろうね。

 でもさ、正直異世界なんて厨二らしさの塊じゃんか。

 ソフィアさんは吸血鬼だし、魔王さんは魔王だし、私や蜘蛛さんにいたっては神だよ?

 …なんか苦しい言い訳を言ってるみたい。

 これ以上考えるのはやめとこう。

 

 「はぁ…まぁいいわ。そんなことより聞いて?あそこで寝てる鬼野郎を殺そうとしたらアリエルさんに止められたの」

 

 「へ?」

 

「何度言っても駄目だって言って止めてくるからちょっとアリエルさんを説得してくれない?」

 

 「え?えー…な、なんで殺そうとしてるの?」

 

 なんで?

 ソフィアさんは殺しを楽しむ子じゃなかったはず。

 記憶に居るソフィアは強い恨みでも持たないとこんなこと考えないよ。

 となるとソフィアさんは笹島さんに恨みを持ってるってこと?

 なんでそんなに笹島さんを恨んでるんだろう。

 

 「なんでってそりゃあメラゾフィスを殺そうとしたからに決まってるでしょ?」

 

 「いやでもあの人は元クラスメートだよ?流石に殺すのは…」

 

 「アリエルさんにも同じことを言われたわ。前世で全く関わりが無かったし私にとってあいつは他人なのよ他人。殺すことに躊躇なんてないわ。今だってあのクソ鬼の無防備な首に大剣を振り下ろしたくて堪らないのよ!」

 

 おかしいな。

 こんな子に育てるはずは無かったのに。

 どこかで育て方間違えたのかな。

 まぁまだソフィアさんは幼いし、今から再教育しても間に合うかも。

 間に合うよね?

 まぁそれは後にしてと。

 

 「ソフィアさん、彼を殺すのは禁止」

 

 「なんでよ」

 

 「…んーそうだね。ソフィアさんにとっては他人かも知れないけど、私にとっては他人じゃないからかな」

 

 「…篠前はあいつと何か接点があったのかしら?」

 

 「ほぼないよ。でも元クラスメートだしね」

 

 「理由はそれだけ?」

 

 「うん、それだけ。ソフィアさんもほぼ同じ理由で助けたし、笹島さんは助けないなんてしないよ。助けが必要じゃないのなら助けないけどね」

 

 「…………そう」

 

 ソフィアさんは短く返事をしたあと、私から逃げるようにメラさんへ歩いて行った。

 まぁ大切な人を傷つけた人を恨まないなんて無理だろうし、殺したいと思っても変ではないかもしれない。

 私も蜘蛛さんや魔王さん達を傷つけられたら殺意は向けなくても怒りはする。

 そういえばソフィアさんにとって私ってどんな存在なんだろう?

 赤ちゃんの頃は一緒に学んで遊んで、幼女の頃は修行させた。

 師匠…ではないね。

 保護者かな?

 ソフィアさんの心境的には親に怒られた感じかな。

 親といえば私が産んだ子たちは元気かな?

 神になってから1度も見に行ってないし、良い機会だから後で会ってみようかな。

 

 子供達に会いにいく予定を立てていると、突然後ろからうめき声がした。

 振り返って見てみると笹島さんが薄く目を開けていた。

 どうやら目が覚めたらしい。

 予想以上に早く目が覚めた気がするけど、確か私に吹っ飛ばされて数日は経ってたんだっけ。

 となると笹島さんは私のせいで数日眠ることになったと。

 なるほど。

 いつでもジャンピング土下座の準備は出来ている。

 

 

 

 




 書いてるとき何故か頭がこんがらがった。


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魔族領

 
 サボった戒めに挿絵?を描きました。
 久々なせいでちょっとタニシの性格が違うかも……。
 


 「もうそろそろ着くよー」

 

 魔王さんの声で目が覚める。

 

 どうやら私は馬車の中で寝てたみたい。

 初めて馬車に乗った時はあまりの揺れで寝れそうになかったのに、今では寝れちゃうとは……。

 これが神の力?

 

 そんな馬鹿な事を考えていると、気まずそうに馬車の窓から外を眺める笹島さんの姿が目に入る。

 怒りに呑まれ、理性を無くしていた笹島さん。

 何故そうなってしまったのか、その過去を聞く気はない。

 過去に七大罪スキル『憤怒』を獲得するほどの怒りを感じた。それだけ知っていればいい。

 負の記憶は知って気持ちが良いものじゃないからね。

 

 ちなみに笹島さんを気まずくしてる原因は笹島さんを不機嫌な様子で凝視するソフィアさんだ。

 

 何故こうなったのか簡単に説明すると、笹島さんがソフィアさんを転生者では無く本物の子供と間違えてしまい、「ソフィアちゃん」って子供扱いしちゃったから。

 あの時のソフィアさんを止めていなかったらと思うと、ちょっとヒヤッとする。

 ほんと、怖かったよ。

 その後に笹島さんが謝ってたけど、火に油を注ぐだけだったね。

  

 まぁ、今はそんなことがあった雪山から離れて魔族領に向かってる途中だ。

 もうそろそろらしいし、人生、いやタニシ生で初の魔族領を見てみようかな。

 窓からひょっこりと顔を出すのではなく、ここはあえて万里眼でその光景を見る。魔術の練習もしておきたいからね。

 

 万里眼の準備…完了。さぁ、緊張の瞬間だね。

 

 3、2、1…発動!

 

 わー……………普通。

 予想以上に普通。人族領と特に変わりない光景だ。

 なんかこう…世界が赤いと思わず言っちゃいそうなほど色々なものが赤いと思ってた。

 なんか拍子抜けだなー。でもそんなもんなのかな?

 それにもし本当に全部真っ赤だったら目に悪すぎるか。そこに住む魔族の人達の目が疲れちゃうね。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 色々あって現在、魔王城付近の大きい館にお邪魔中。いや、お住まい中?

 色々過程を吹き飛ばしすぎかも知れないけど、特に目立ったことはなかったし、その大半はのんびりしてて何があったか思い出せないしで語る必要も無し。

 ただ、魔王さんの事を良く思ってない人が多いことは分かった。

 

 さて、大きい館に着いてから、魔王さんが私たちの役割を割り当てた。

 ソフィアさんは家庭教師を雇ってお勉強、学校に行けれるようになったら行く。

 メラさんと一部の真面目人形蜘蛛は魔王さんと一緒に魔王城へ。

 笹島さんと私は戦争に備えての兵の教育。

 蜘蛛さんは糸で服作り。

 残りの人形蜘蛛はそれぞれの護衛または付き添い。

 

 ……笹島さんは分かるけどさ、なんで私が兵の教育に割り当てられてるんだろう?

 いや確かに腕っぷしはあると思うよ。これでも神だし。

 でもね、なんというか、教えられる自信が無いというか…。

 

 「蜘蛛さん、どうすればいい?」

 

 「いや、私に聞いても分からんよ。兵の教育なんかしたことないし」

 

 蜘蛛さんは人形蜘蛛と共に服作りしつつ、私の質問に困った様子で答える。

 今の蜘蛛さんは周りに人形蜘蛛と私以外誰も居ないので目を開けている。

 私はその赤い目を見て違和感を覚えた。

 なんだろうと思って目を凝らしてみたら、目の中の瞳の一部だけがこちら向いてて他は作業してる手元に向いてた。

 ちょっと気持ち悪いかな。違和感がある。

 人形蜘蛛達はそこんとこ気にしてないみたい。同じ蜘蛛だからかな?

 ちなみに一部の人形蜘蛛は糸ではなく蜘蛛さんの髪の毛をイジってるが、そのことにとくに突っ込む気はない。

 いつもの事だ。

 そんなことより、さっきの蜘蛛さんの発言にひっかかりを覚えた。

 

 「でも蜘蛛さんはソフィアさんとメラさんを“教育”したじゃん」

 

 「あれは転生者とその付き添いだったから。でも今回のは違うんでしょ?だから分からん」

 

 「んーそっか」

 

 「まぁ、適当にやれば良いんじゃない?」

 

 「例えば?」

 

 「重い荷物持って泥沼の中で匍匐前進とか」

 

 「あー」

 

 そういう普通の訓練で良いのか。

 蜘蛛さんの事だからてっきりマグマに手を突っ込めとか言いそうだったけど、案外普通のアドバイスをくれた。

 

 「なんか失礼な事考えてない?」

 

 「気のせいだよ」

 

 蜘蛛さんは数秒私をジッと見て、まぁ良いかと思ったのか視線を手元に戻した。

 

 蜘蛛さんのアドバイスを参考に訓練内容を考える。

 強くせず、かといって弱くしてはダメ。人族とちょうど良い戦いが出来るように訓練をしなくちゃいけない。

 しばらく考えたけど思いつかない。

 場所を変えてみようかな。

 

 「………ちょっと外に行ってくるね」

 

 「ん」

 

 適当な場所に転移する。

 転移先はどうやらエルロー大迷宮の上層のようだ。

 エルロー大迷宮……ここにいると懐かしい気分になってくる。

 そう、目を閉じればあの日の思い出が………。

 あまり思い出したい内容じゃないので目を開けた。

 

 すると目に入ったのがタラテクト。

 姿形からしてかなり下位のタラテクトのようだ。

 多分、蜘蛛さんが言ってたスモールレッサータラテクトかな?

 そういえば前に見たことがあるような気がする。

 確か大量のアークタラテクトとその仲間達が攻めてきたことがあったっけ。で、その時に暗黒弾と破滅弾の餌食になってたね。思い出したよ。

 

 そんな事を考えてる内にタラテクトが襲いかかってくる。

 私はすぐに異空間から槍を取り出し、素早くタラテクトを真っ二つにした。

 すると真っ二つにしたタラテクトが干からびていく。

 

 これはこの槍、『終焉之龍槍』が神化に伴い新たに得た能力。

 いや、‘既存の能力が変化した’のほうが正しいか。

 この能力は簡単に言うなら『力を吸収する能力』だ。元の能力は多分『弱体化付与』。

 で、この能力の凄いところは力を吸うスピードがめちゃ速いとこと、死体にも適用されるというとこ。

 だから適当な死体とかに刺しても死体に残った力を吸収して、吸いきったらこのタラテクトのように干からびる。

 吸った力はこの槍に蓄積されて、私はそれを自由に取り出せる。

 

 この能力、強いけど欠点もある。

 それは私以外触っちゃいけないこと。

 どうやらこの能力、相手がどんな奴でも構わず勝手にグイグイ力を吸うみたいで、しかもオンオフが出来ない。

 私は吸われても回収出来るから良いけど他の人だとそうはいかない。

 間違えて触ろうものなら力を吸われて終わり。

 あとこの能力のせいなのか、この槍からやけに禍々しいオーラが出てくる。

 ドス黒いっていう表現が合う色をした気配が常時垂れ流しされてる。これに当てられると気分が悪くなるって、前に蜘蛛さんが言ってた。

 

 今の私はそんなヤバイ槍を構えている。

 するとどうなるかって?それは気配を探れば分かるよ。

 意識を集中させると私から一斉に離れていく魔物の気配が感じられる。

 環境破壊だね。

 ……うん、しまおう。

 

 なんというか成長する度に私が攻撃に特化してきてるように感じる。

 タニシとして生を受けたばかりを思い出せ。あの時の私は、明らかに防御力よりだった。

 しかし成長する度に攻撃手段が増えていき、今では破滅や腐蝕、龍化にこの槍だ。

 

 エルローゲーレイシューは戦闘向きの種族だったっけ?

 そんな疑問が生まれ、それを確かめに下層に向かった。

 

 久々の下層に、久々の同族。

 壁をノロノロと這い進み、壁をカタツムリの如く食べている。

 そんな同族を一匹だけ摘み、別の手の甲に乗せる。

 何処か困惑した雰囲気を出すかつての同族を細部まで観察する。

 が、特に分かることもなく、少し寂しい思いのまま同族を元の場所に戻した。

 戻された同族は少し硬直していたがすぐに移動を再開し、また岩の壁を食べ始めた。

 

 その様子をしばらく眺めていると、背後からデカい牙が私の体に食い込んだ。

 しかし皮膚どころか服すら破けず、背後の存在は力を込めるも服のシワを増やすだけだった。

 後ろの存在を見てみると、それはグレータータラテクトだった。

 グレータータラテクトをこんな至近距離でじっくり見たのは初めてかもしれない。

 当たり前だがマザーに似ている。

 

 そこで私はある事に気づいた。

 そういえば私のお母さんって誰だろう?

 タニシとしての私を産んでくれたお母さんは何処だろう?

 

 私は卵から生まれた。

 ならその卵を産んだ母が居るはず。

 私は目の前のエルローゲーレイシュー達を見る。

 みんなすぐそこにグレータータラテクトが居るにも関わらず、のんびり壁を張っている。

 この中に居るのだろうか。でも、私には彼らを見分ける方法は無い。

 

 私を産んだ親に1つでも特徴があれば見分けられるけど、あの時は突然の事で親のことを気にしてなかったから記憶に無い。

 というかあの時、近くに親は居たのだろうか?

 エルローゲーレイシューとして生まれて今に至るけど、彼らの生態は全くと言っていいほど知らない。

 記憶にある彼らは、ただ壁や地を張って食べて寝てただけだ。

 それにエルローゲーレイシューの卵はどれくらいで孵化するのだろうか。

 私が産んだ卵は確か数日はかかってた気がする。

 彼らのもそれくらいかかるのだろうか?

 だとしたらあの場所に親はいなかったのかもしれない。

 彼らはなんだかんだでよく動く。その歩みこそ遅いが、数日もあれば数kmぐらいは動ける。

 

 もしかしたら卵を産んで、そこから生まれた子など彼らにとってはどうでもいい事なのかもしれない。

 蜘蛛さんは言っていた。

 ただ生きてるだけで幸せって。

 彼らも同じなんだろう。

 ただ動いて寝て食べて産んで生きる。

 それだけで彼らは幸せなんだ。

 

 (……なんか哲学みたいになっちゃったなー。自分のお母さんについて考えてたら、いつの間にか彼らの幸せについて考えてたよ)

 

 まぁ、私も似たようなものかな。

 のんびりしてれば幸せだし。簡単に幸せになれるのは良いことだ。

 そう結論付け、家に帰ろうとするとある事を思い出した。

 

 (……訓練について全く考えてないじゃん)

 

 一体何のためにここに来たのか、その本来の目的を忘れていた。

 …でもまぁ、なんとかなるか。流れでやれるよきっと。

 

 そう決め、干からびたグレータータラテクトを尻目に転移で帰宅する。

 すると目の前に前世で言う現代風の服を来た蜘蛛さんが立っていた。

 蜘蛛さんは私を見るなり手を差し出し、こう言った。

 

 「タニシちゃん、これから私は地球に行くんだけど、一緒に来る?」

 

 ……そんな軽いノリで誘うものじゃないのでは?

 そう思いつつもOKを出した。

 

 

 

 

 


 

 黒悠のイメージ画像。(変にロリっぽくなっちゃったけどこれはこれでヨシッ!)

 ↓

 

【挿絵表示】

 

 

 下手くそだけどこれが限界です。

 やけに暗いのはガバを隠すため。

 

 



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帰還?

 
 (^p^)←この顔文字好き
 
 現世を取り上げるとどうしても他作品と同じような展開になっちまうよ……。
 だから個性を出したかった。それがこの話です。(言うほど個性は出てない)


 

 暗い。

 それが最初の感想だった。

 それもそうだ。この部屋の照明は点いていないのだから。

 

 ここは平進高校の教室。数年前まで私が通っていた、懐かしき高校の一室だ。

 そこには机も椅子も何も無く、扉は固く閉ざされている。

 使われていないと一目見て分かる状態だった。

 

 何気なく窓際を見る。

 ここは、私の席があった場所。だが今は、閉められた窓があるだけだった。

 私はそれに物悲しさを感じた。

 

 転移で平進高校から出る。

 

 蜘蛛さんは外から高校を見ていたが、私はなんとなく見なかった。

 

 

 

 


 

 

 

 久しぶりの地球は懐かしい気分にさせるものが沢山あった。

 コンビニで好きなお菓子を見つけた時とか、線路を走る電車を見たときとか。特に電車は見たときは軽い感動を覚えた。

 コンビニや電車といった、数年前まで当たり前だったものを見る度に自分は帰ってきたんだって思う。

 

 「蜘蛛さんはどう?」

 

 「ん?んーあー……特に何も思わんな」

 

 「そうなの?」

 

 「うん」

 

 そんな他愛もない会話をしながら、夜の歩道を蜘蛛さんは迷いなく歩いていく。

 迷いが無い…ということは行き先が決まってるってことか。

 てっきり何気なく地球に戻ってすぐ帰るものかと思ってた。

 んーでも蜘蛛さんはそんなことしないか。めんどくさいだろうし、そうするならあの舘でゴロゴロしてるよね。

 

 そんな蜘蛛さんが地球に行く意味か。

 ひょっとして、これから向かう所に何か重要なものがあるとか?

 それが何かと聞かれたら分からないけど。

 でも用があるのは確かだ。

 

 蜘蛛さんは進んでいく。先程よりも重い足取りで。

 それに不思議に思いつつもついていく。

 

 蜘蛛さんの雰囲気が変わっていく。何かの覚悟を決めようとしているように。

 

 それから数分。蜘蛛さんはある家の前で足を止めた。

 その時の蜘蛛さんの顔つきは、やはり覚悟をしたかのような顔つきだ。

 この家が何なのか気になって表札を探してみると『若葉』の文字があった。

 ここは蜘蛛さんのお家らしい。

 

 もしかして…?

 

 蜘蛛さんが門を開け、玄関近くの植木鉢から鍵を取りだした。

 そしてその鍵を使って玄関扉を開ける。

 

 「お邪魔します…」

 

 小声で挨拶をしていると、蜘蛛さんが玄関近くの階段を登っていた。

 それに出来るだけ音を立てないようついていくと、蜘蛛さんは階段上のすぐそこにある部屋の前で止まった。

 

 蜘蛛さんが口をゆっくり開く。

 

 「タニシちゃん」

 

 「ん?」

 

 蜘蛛さんが私を見る。

 

 「何見ても驚かないでね」

 

 その言葉の意味を考える間もなく、扉が開かれる。

 その部屋からは僅かなPC音が聞こえ、カチャカチャとコントローラーの音が響く。

 モニターにはハゲオヤジのキャラクターが敵モンスターを倒している姿が映されている。

 その前にはそのキャラクターを操作してるであろう少女が居た。

 

 「いらっしゃい。おや、連れてきたのですね」

 

 その少女はコントローラーを置き、振り返りざまにそう言った。

 

 その少女を見て、私は困惑した。

 

 だって、その少女は、私の隣に立っている。

 

 爆発に巻き込まれて転生したはず。

 

 あの時と変わらない姿で居るはずがない。

 

 二人いるなんて有り得ない。

 

 どういう事か理解出来ない私に追い打ちをかけるように、少女は言葉を続ける。

 

 「始めまして。黒悠さん、私の身代わりさん」

 

 その少女は、若葉さんにそっくりだった。

 

 

 


 

 

 

 「ど、どういうこと?」

 

 若葉さんが二人いることについて、蜘蛛さんが説明をしてくれたが、それでもよく分からない。

 待て待て落ち着け。今、私は自分でも分かるほど戸惑っている。

 一旦、いったん情報を整理しよう。

 

 目の前の少女はDさんで、私の横に居るのは蜘蛛さんだ。

 その二人は瓜二つ、異なる点は色と僅かな表情の違いだけ。

 2Pカラーなんて言葉が浮かび上がるくらい、本当にそれだけの違いしか分からない。

 そして二人の正体がえーっと?

 蜘蛛さんが言うにはDさんが若葉さんで、蜘蛛さんは若葉さん役の蜘蛛か。

 

 ……???うん?

 蜘蛛さんが蜘蛛?いや、違う、いや、違くない!

 蜘蛛さんは蜘蛛だったけど若葉さんでは無い?蜘蛛さんと若葉さんはイコールで繋がらないってことだよね。

 そもそも若葉さんがDさんだったから若葉さんは転生してないよね。

 つまり…私が前世で若葉さんだと思ってたのがDさんで、異世界で出会った蜘蛛さんは教室にいた蜘蛛なのね。

 なるほど?つまり―――

 

 「蜘蛛さんって、本物の蜘蛛だったの?」

 

 「まぁ、そういうこと」

 

 「前世人じゃないってこと?」

 

 「そ」

 

 衝撃的すぎる。

 蜘蛛さん、さっき何見ても驚かないでねなんて言ってたけど、それは無理だよ。絶対に無理。

 今まで人だと思ってた親友が、実は前世蜘蛛でした!って知らされて驚かない人がいると思う?

 うわーないわー。

 

 「あんま驚いてなくない?」

 

 「いや驚いてるよ?でも驚きが振り切って逆に冷静なだけだよ」

 

 実際私の頭は自分でも驚くぐらい冷静だ。

 驚きが振り切ったのもあると思うけど、その事実に納得したのもあると思う。

 なぜならステータスに蜘蛛さんの名前に若葉姫色の文字が無かったのもあるけど、何より蜘蛛さんは前世で見た若葉さんと性格が違いすぎた。

 確か若葉さんはいつも本を読んでたけど、もしあれが蜘蛛さんだったなら本を読まないと思う。蜘蛛さんって本を読む性格じゃないだろうし。

 どちらかと言えば本を読まずに帰ったら何しようかずっと考えてそう。

 

 それになんというか、蜘蛛さんって人らしく無いというか。

 生きてるだけで幸せって前世人の蜘蛛が言える言葉じゃない気がする。

 エルローゲーレイシュー達も同じ感じだったし、蜘蛛さんが蜘蛛で納得だ。

 

 「…何か反応が想像してたのと違うわ」

 

 「まぁ、蜘蛛さんと仲良くなったのってタラテクトの時だからね。だからそのときの蜘蛛さんしか知らないし、若葉さんとは関わりが無かったから、別に前世若葉さんじゃなくても何かが変わるわけじゃないかな。

 蜘蛛さんは蜘蛛さん。DさんはDさんだよ」

 

 私は若葉さんをあまり知らない。

 たまに綺麗だなーって見てただけだ。若葉さんの方も特に喋ろうともしなかったし本ばかり読んでたから、ミステリアスな人だとしか思ってなかった。

 まぁ、その若葉さんがDさんだったし、ミステリアスな人ってのはあながち間違ってないかも。

 

 そんなことを思ってると、Dさんが2つのコントローラーを差し出してきた。

 

 「ゲームしますか?ちょうど3人用のゲームがありますし」

 

 …なんか黙ってるなと思ったらゲームの準備してたんだね。

 画面に目を向けると、そのゲームのホーム画面らしきものが映っている。

 それを見て蜘蛛さんが言う。

 

 「ああ、これね。タニシちゃんはどう?」

 

 蜘蛛さんが聞いてくる。

 やるかどうか、より出来るかどうかを聞いてる気がする。

 やりたいけど……私にはやるべきことがある。

 

 「…ごめん。私は用事があるから出来ないかな」

 

 だから断る。

 これだけはやっておかないと。するならその後だ。

 そう目で伝える。

 

 「ん、いってらっしゃい」

 

 「うん。それではDさん、また後で」

 

 「いつでもどうぞ」

 

 Dさんの何処かゾワッとする声を最後に、私は家を出た。

 

 

 

 


 

 

 

 

 「D」

 

 「なんでしょう」

 

 「さっき身代わりの為に私を作ったって言ってたけどさ、具体的にはどんな感じなん?」

 

 「では、デュオでもやりながら説明しましょうか」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 静かな夜の中、私は一人である場所に向かっていた。

 

 コンビニに入ったあの時、蜘蛛さんはコンビニの雑誌で、あれから半年しか経っていない事に気づいた。

 それを知った時は驚いた。

 

 そして、同時に納得した。

 

 思えば転生してから5年近く経ってるのに記憶にある様子と大して変わっていなかった。

 それはそうだ。こっちでは半年しか経ってないのだから。

 あの時と同じ景色が残っている。

 街を見れば見るほどあの時の生活が浮かび上がってくる。

 それは懐かしくもあり、悲しくもあった。

 

 浮かぶのは家族のこと。

 前世の、篠前ゆりかと一緒に暮らしていた家族。

 お母さんの誕生日だったというのに、あの日家に帰ることが出来なかった。

 そんなどうしようもない後悔が、変わりない街を見る度に押し押せてくる。

 でもこの感情は、今、ここに来て初めて感じたもの。

 それまではそんなこと一度も思いもせず、ただ転生したことを理解した気でいた。

 

 転生は死ななければ成立しない。

 死ぬということは失うということ。

 それは死した本人以外も例外じゃない。

 そのことを私は分かってなかった。

 

 これは私なりのけじめだ。

 

 

 足を止める。

 

 ここだ。

 小さくも大きくもない、ごく普通の家。表札には『篠前』の文字。

 ここが篠前の家。

 真夜中なので灯りを点けている様子は無い。おそらく住民は寝ているのだろう。

 

 転移するよう念じる。目を閉じ浮かぶのは私の部屋。

 ベッドと勉強机、姿見鏡しかない、飾り気のない部屋。

 私はあの時、よくベランダに出て外の風景を眺めていた。

 もうちょっと女性らしくかわいい物を1つや2つ置いとけばよかったなんて、今更な後悔をする。

 

 …今はどうなってるのかな。私が居なくなったんだし、全部片付けられて空っぽなのかな。

 だとしたら、悲しいな…。

 

 

 私は目を薄く開け、すぐに見開く。

 

 「……あぁ」

 

 ……あの時と同じだ。

 飾り気のない地味な部屋。

 

 「……わたしの部屋だ」

 

 あの時と変わらない部屋がある。

 まるで私がずっと居るかのように。

 全て残されている。

 

 「ーっ」

 

 急に目が熱くなる。

 私はすぐに目から湧き出たものを服で拭き、ベッドの上で横になった。

 ここからは勉強机が見える。テストが近づけばあそこで教科書を広げ、深夜になるまで勉強していたのを覚えている。

 それにこの勉強机だけが見えるアングル。何かやらかした時によくこうしてた。

 最後にこれをやったのは確かお兄…………ん?

 

 横になった姿勢のまま思い出に浸っていると勉強机のペン立ての横に、何か見覚えのないものが置かれていることに気付く。

 あんなものは記憶にない。

 ということは私が死んでから増えたもの?

 

 何故か心臓の鼓動が速くなる。

 

 私はそれに戸惑いつつベッドから起き上がり、それを近くで見てみる。

 

 それを見て私は納得した。

 

 見覚えのないもの、それは私の遺影だった。

 

 それを手にとって見てみる。高校入学の時の写真だ。写真の中の私は撮影者に微笑んでいる。

 

 「……」

 

 私はそれを持って部屋にある姿見鏡の前に立ち、写真の中の私と見比べつつ自分の顔に触れてみる。

 写真の私と今の私は瓜二つ。赤い目と顎周りの模様が有るか無いかの差があるだけ。

 写真を念力で浮かし、両手でその模様を隠してみる。

 

 うん、私だ。

 

 写真を見る。

 

 …この赤い目がなければ。

 

 

 「………」

 

 写真を元の位置に戻す。

 分かってる。分かってたよ。

 私はもう戻れない。それを知るには十分すぎた。

 

 私は部屋から出て、階段を降り、下の階のリビングに向かう。

 電気は点いていないので普通なら真っ暗で何も見えないだろうけど、私は暗視があるので昼間のように見える。

 テーブル、柔らかいソファー、大きめのテレビにその横に置かれたゲーム機。コントローラーが2つ。近くの箱にゲームパッケージが隙間なく入っている。

 

 ソファーに座ってみる。自然と頬が緩む。

 横になってみる。懐かしさと安心感が私の瞼を重くした。このまま目を閉じて眠りにつきたい。

 だけどここで寝るわけにはいかない。

 その思いで起き上がる。

 

 近くのカゴから紙を一枚、ペンを一本取りだす。

 そして紙をテーブルの上に置き、それに向き合う。

 

 字を出来るだけ丁寧に書く。

 一文字、一文字、魂を込めて。彼らに伝わるように。

 

 書き終わったのでペンを置く。

 私が書いたのはたった1つの感謝の言葉。

 私が出来るのはこれが限界。これ以上は耐えられない。

 

 私は玄関に向かい、鍵を開ける。

 ドアノブを握り、そのまま開けずに振り返る。

 そして灯りのない眠った家に向かって言う。

 

 「……さようなら」

 

 

 

 家を出て、玄関の鍵を閉める。

 

 これでもうこことはお別れ。

 

 私はもう()()()()()()()()()()じゃない。

 私は()()()()()()()()()

 

 私は振り返ることなく篠前の家から離れた。

 

 

 

 



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