美朝村の霧 〜宮中志先生シリーズ 第一巻〜 (仲村大輝)
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プロローグ(除幕) 上地先生のスカーフ

コロナの影響で実家に帰れない弟へ贈ります。
また、家に帰れない方、なにかに行き詰まっている方が一瞬でも時間が過ぎて欲しいと思っている方々の力になればいいなと思っています。
話は2016年におもいついたものです。
オリジナル作品ですが、横溝正史作品、テレビ朝日のトリック、ひぐらしのなく頃にを意識してつくってあります。
しかし、オリジナルなので楽しく読んでください。


十月二十一日(金)

東京渋谷 駒川大学 五号館二階の523教室 

午後五時半頃

 

 三十人定員の部屋には沢山の人が入っている。

「…と、まぁそういうことで来週から私は民俗の現地調査ってことで『美朝村』という村に行くから来週は休講とするが、代わりにレポートを書いてもらう。なに、そんなに難しいものじゃないさ。」

 金曜の昼下がりに宮中志先生の民俗学の授業が行われるが、選択授業にも関わらず単位取得が簡単ということで、多くの学生が受講している。

「お題は 美朝村について だ。文字数は、うーん…八百字程度だな。なに?少なくて嬉しい?まあそう褒めないでくれ。提出は再来週だ。書けたら単位をあげよう。ただ書けなくてもまだチャンスはあるから安心してくれ。と、いうわけで私はまだ準備がしたいので少し早いが終わりにする。ではみんな良い週末を。」

 そう言うのが早いか、早く帰りたい学生が飛び出し三分もしないうちに満杯だった教室がガラーンとなりシーンと静まり返った。

 先生も資料をまとめ授業で使ったコンピューターをシャットダウンさせている。

「宮中先生。あなたもたまに無茶を言うんですね。」

 急に教室の扉から声が聞こえた。

 見ると扉には研究室が同室の上地先生が寄りかかり腕を組んでいた。

 この先生は南の島のシャーマンの血を引く女性らしくとても褐色が良く、鋭くものを見るほか、シャーマンらしく?不思議なことも言う。

 不思議なことに興味があって民俗学者になったような私はこの人にとても興味を持っている。密かに壁を隔てただけの研究室が一緒になったということを嬉しく思っていたが、この女性は若くして教鞭をとっているため学生と見間違うようである。また、一部の学生からは「上地先生は宮中先生と付き合ってるんじゃないか?」とまるで修学旅行の夜に議題に上がるような噂をされているが、実際は…おっと、この話は別の機会にしよう。

「美朝村についてはインターネットでも出てこないし、誰も本に書き残していないじゃないですか。…時間もないような学生に書けるわけないでしょ?」

 私に上地先生が近づいてきて耳元でささやき顔をのぞき込んできた。

 宮中先生はこの人に興味はあるがパッとした瞬間に見せるこの目が怖い。

 いつもは常人のように、いや常人より優しい目をしてるが、たまに見せる蛇のように黒目が大きいがまぶたが普通の半分ぐらいしか開かなくなるこの目。

 私はいつもこの目を見ると

(…あなたがシャーマンの血を引いていることは信じてます。ただ私がなにか地雷を踏んだり、タブーを犯したであろうときにするこの目をやめてほしい。)

 こう願うのだ。

「…では、私が調べた結果をお見せしましょう。全て文献とインターネットで調べたものですから。」

宮中先生がこう言うと上地先生はあの目をやめ美しく優しい目に戻った。

(あの目は何のためにするのだろうか?…そもそもどうやっているのだろうか?…)

 我々の研究室は三号館の二階にある。

 三号館は一昨年出来たため研究室は新しい。

 私と上地先生の研究室は二十畳ほどの部屋を本棚で仕切ったような造りで部屋の壁紙 本棚は落ち着く暗い白に統一されていて、ゆったりと研究ができる。

 上地先生は本棚の隙間からたまに宮中先生のほうに来て文献やお菓子を持って行ったりする。

 しかし、廊下側が半透明なのでなにをしているかは廊下側から見えるわけなので、イロイロ考えた人には申し訳ないがそういうことはない。

 自分の研究室に入ると北は北海道 南は沖縄の伝承本、柳田國男から地方郷土史家の加藤嘉男、千島寿といった人の資料が本棚に溢れんばかりに入れられてるだけでなく、先生が個人で買った本棚にも先生の興味がある古代の製鉄 星 鉱物の資料もある。

 そのほか各地で知り合った方から頂いた贈り物もコンピューターのある席周りに置いてある。

 宮中先生は慣れた手つきで贈り物の山を通り抜けコンピューターを起動させる。

 上地先生は自分の部屋から椅子を持って来て、コンピューターの近くの少し空いているところに椅子を置いた。

「美朝村 筑野県南部の佐訪市に属する旧村名。大昔に合併されたらしいのですが現地では美朝村の方が通じます。なぜか…」

 書き溜めておいたレポートを見せながら説明する。

「美朝村の あさ は、昔は浅いの浅だったらしいですが、もっと昔はまた違った字だったらしいです。それは美浅神社という神社があるので分かりました。この神社の祭神は木花咲耶姫。ですが本当は土着の神が祀られていたらしいです。」

 上地先生が興味を持ったのかやたら近い。

 髪が黒くストレートで美しく、肌は小麦色でとても健康的だ。

「インターネットで調べたらこの神社は最近世代交代したらしく、若い人たちを他の地域から呼ぶために音楽イベントを企画したりしているそうです。現地に入ったらこの人に案内してもらう予定です。」

 その他、神社 地区会長(今でも村長などと言われている。)権力者の羽田氏(ヒラデエジンといわれる。)を美朝御参といい逆らうとまずいこと、神社の祭りが四月四日だということ、ヒラデエジンは別名朝切りのヒラデエジンと呼ばれていることなどを話した。

「へぇー、いろいろ出てるんですね。」

 上地先生はコンピューターの前に蛇が身体を移動させるようにヌルッと身体を移した。

「だけどまだまだです、全然足りません。だから現地に行って調査したいのです。この村にはなにか特別ななにかがあると私は思います。」

 上地先生がこっちを振り向いた。

 とてもあの蛇の目をしていたとは思えない。美しい目だ…

「荷物をまとめるのは大丈夫ですか?」

「!…なんとかなると思います。」

「そう…じゃあ一週間後に会いましょう…あっ!ちょっと待っててください。」

 上地先生はそういうと椅子を持って出て行き、本棚の隙間からそれこそ蛇が侵入するように出て来た。

「これを口周りに巻いていったほうがいいと…私は感じました…」

 そういうと一枚のスカーフを見せた。

 上地先生はシャーマンの血に関わらず特別な力を持っていると私は思う。

 前に、飲みに誘われたことがある。

 断ったがどうしてもと言うので行ったら、終電の時刻になったので別れて駅に向かったら、私がだいたいいつも通っているらしい時刻に車が人を挽いて大幅な遅れが出ていたがついさっき通常運転に戻ったそうだった。

 また別の日は、「研究室の贈り物を全て欲しい。」と言ってきたので全て与えたら、地震があった。

 私の席に迫るようにに高々と重ねてあった贈り物はだいたい重いものが入っていたので上地先生が受け取ると言わなかったら危ないところだった。

 なんてことはザラだからだ。

「マスクがわりにもなるのでどうぞ。」

「すみません。ご丁寧に。」

 私はスカーフをクルッと首に巻いてみせた。

「…口と鼻を隠したほうが良いと思います。」

 一瞬、目の白い部分が真っ黒になったように感じた。

「そっ…そうですか…」

 グッとスカーフを引き上げると泥棒のような姿になったが、上地先生はこれで大丈夫ともかっこいい。と言ってくれた。

 蛇の目も治った…

「では、私はこれで。」

と言って宮中先生は研究室から家に帰っていった。

 

 宮中先生の部屋には上地先生だけが残った。

 電気を消したら深く沈んだ青が部屋を包む。

 すると上地先生の部屋の方から一匹の全長が1メートルぐらいの赤い斑点のついた蛇が本棚を這って出てきた。

「クロ…あの人はあれで生きて帰れるかしら?」

 蛇はぺろぺろと舌を出したり引っ込めたりしている。

「まぁ、だけどもう幕が上がってしまったからもう逃げられないわね。この三部にもおよぶ喜劇から…」

 蛇はペロペロと舌を出し入れしてるだけだった、まるでなにか狙っているように…

 



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第1章 十月二十二日(土) 美朝村の夢

この話は、一日で一話進む予定です。
連載中は毎日お楽しみに。
連載が終わったら一気見でお楽しみください。

「ほら、宮中先生!
夢のなかに鬼が待ち構えていますよ。
楽しみですね。」


 私にとってそもそも筑野県に行くまでに電車で三時間もかかる。

 そこから佐訪市まで電車で一時間、一時間待たされてそこからバスで三時間揺られるとついに美朝村入口である。

 だが美朝村入口は名前だけでちょっとした広場が杉林に囲まれてちょっとした風で倒れそうなあばら家が「俺が駅だ!」といった感じで立っているだけだった。 

 そのあばら家の近くに

 

「美朝村まで四キロ↓」

 

というような看板が立っていた。

 十月の午後二時過ぎはほんのりとまだ暖かいし、杉林なので直射日光が当たり続けるということでもないが、私は暑くて少し汗が滲んでいる。

 理由としては簡単である。平坦の四キロではなく上り坂で四キロだからだ。そのうえ砂利が敷き詰められたような道なので歩くたびに非常にジャリジャリうるさい。

(夏目漱石もこんな道で『草枕』を考えたのだろうか?)

 そんなことを考えてながら歩いていった。

 すると前方が下の道と上の杉の間に青空の空間があった。

「やれやれ、やっと頂上だ。」

 私はこの杉林という閉鎖された空間から一時でもはやく抜け出したかったので思わず走り、青い空間に飛び出した。

 するとそこには客に出す盆のような村があった。

 首を振らず、目を目尻から目頭まで動かすだけで全ての見渡せてしまうような小さな盆地に家が二十軒程度点々としていて、その家の周りに畑や田んぼが広がりこの季節にならではと言ったらよいか、田舎特有と言ってよいか稲木干しを行なっている。

 四方はゆるやかな山に囲まれているが広葉樹の赤 紅 黄 薄茶 濃緑 黄緑といった自然の柔らかい色に染まりっている。

 ただそれを覆い隠すように四方に険しそうで高い山が立っており、この集落の人々が外に出ること、外の人が中にはいることを拒んでいるように感じた。

 今立っている場所から推測すると正面が西になり右手が北になる。

 その正面の、自分の目先より低い位置に木の鳥居のようなものと階段が見える。

 その奥には木々に守られている建物がある。きっとあれが美浅神社だ。(あさが「浅」なのは間違いでない。)

 しばらく村を眺めていると村全体がやわらかな風を受け、木々は穏やかに鳴った。

 なんとも私を歓迎しているように感じた。

「着いた…」

 朝に出発し、三度の乗り換えや九時間の移動でクタクタに疲れたという感覚と、目の前の赤 紅 黄色 濃緑 黄色 薄茶のダンスに魅せられた私がやっとのことで呟いた言葉だった。

「…東京からの先生ですか?」

 いつ近づいたのか和装に羽織を着た白髪が多い男性がいた。

 ただ腰は曲がっておらず背丈は百八十センチあるような人だ。

「はい、宮中志です。」

「お待ちしていました。羽田です。」

 彼がこの集落の実質権力者、朝切りのヒラデエジンこと羽田幸三郎である。

「これから一週間お世話になります。」

「疲れたでしょう。はやく家に入ってください。こちらです。」

(こんなに丁寧に私を案内してくれる…この集落の本当に権力者なのだろうか?)

と、私はこの人の後ろを歩きながら考えてしまうほど幸三郎は親切そうな人だと感じた。

 権力者だから村の真ん中とかに家があると思っていたらなんと一番東にあり、村を見下ろせる高さにある屋敷規模の建物だった。

 門はないが、玄関だけで生活が出来そうなほど広い玄関だ。つまり、農家特有の農作業が雨の日でも出来る土間を兼ねた玄関だということだ。ちなみにこの玄関は西向きのため集落を見下ろす形になる。

 それより驚いたのはこの屋敷にいる男女問わずの人の数。みんな忙しく料理をつくったり運んだり部屋を掃除したり布団を運んだりしている。

 幸三郎さんはそのなかを縫うように屋敷にあがり、私を案内しながら奥に進む。

「凄いですね、十人 二十人が働いているとは…」

「えっ?いやー、いつもは手伝いがいないのですが、明日音楽イベントがあるということで、都会から人を泊められるように掃除をしてもらって食事も作って貰っていますのでたくさん人がいるのですよ。なんでもいつもは一人で住んでいて、昼間は年寄り連中の話し相手や子守なんぞしかやることがないですから。その代わりに世話をしている人の家族から米や野菜を貰うという生活にしているのです。」

「そうなんですか。」

 私は頭の中で色々考えるのに絶対的な自信はあるが聞けそうなことなら見境なくなることがありそれが炸裂してしまった。

「……今思ったのですが、もしかして朝切りのヒラデエジンという言い方は、ここが一番に日を当たるから朝という言葉が使われているのですか?」

 歩いていた幸三郎が下を向きながらこちらを向いた。

 どうやら笑っているようだ。

 この人は人に笑い顔を見られたくない人らしい。

「朝を切るということでは合っていますが、朝霧を起こすことが出来るというのもあると思いますよ。」

「朝霧を起こせる⁈」

 おもわず声を上げた。

「明日の日の出前、…六時ごろに朝霧を起こしましょう。五時半ごろ村長に来てもらうよう頼んでおきます。」

「すみません、ご迷惑をかけます…。」

(霧を自由に出せるだって⁈)

 幸三郎さんはまた歩き出し、便所の場所や風呂の場所など教えてくれながら一番奥に通してくれた。

「さぁ、今日は疲れたでしょう。夕食は六時ごろに準備させますのでそれまでゆっくりしていてください。」

 開けると六畳の和室に、布団と五段のタンス、一人用なのか小さいこたつが置いてある。

 一段高くなってるところには、七分咲き程度のあやめの掛け軸、日本人形、茶碗などが飾られていて、この部屋は他の部屋と比べて日本風…東山文化が強いというような部屋だった。

 ちなみに他の部屋は襖で仕切られていたためつくりを確認することは出来なかった。

「ご丁寧にありがとうございます。出来ればですが、仏壇があれば手を合わせたいのですが…。」

「お気持ちはありがたいのですが、この辺りは仏教の考えがないため仏壇がないのです。すべての先祖は美浅神社で我々を見ていてくださっているというのがこの辺りの考えなのです。」

(なるほど、とても面白い。こういうことはきちんと書いておかなければ)

と思った。

「人に会わないといけないので…」

と言って幸三郎さんは出て行った。

 その後私はふすまを閉め早速こたつに入り持ってきたノートに今日あったことを書き留めておくことにした。

 私の記録の仕方は話を聞くときはメモを取らず聞いたことを思い出し書く方法である。

 だが大量に覚えることになったり、風景などというのはこっそり録音機や動画を使う。

 こっそり使うのは、メモや、「撮られている」と思うと、人の真髄に迫れないからだと確信しているからだ。

 だが、この作業は別に村についてすぐ部屋に入ってしまったようなものなので書くことが続かない。

 しょうがないから日記風にして終わりにした。

 ノートを閉じたら急に睡魔が襲ってきた。こればかりはどうにもならない。

 急いでスマートフォンの目覚まし機能を二時間後にセットし、こたつから這い出し布団に潜りこんだ。

 

すると、不思議な夢を見た。

 

私は白い部屋?

空間と言うべきか、そういう場所に大の字に貼り付けされている。

縛られているのか、身体が押さえつけられるように動かない。

手足も動かない。

(たまに現実と見間違うほどはっきりとした夢を見ることがあるのでまたそうか)

と寝ながら思った。

すると真正面に異様なものが現れた。

明らかに人であるがビジュアルが不気味なモノだ。

頭と口周りを手ぬぐいで覆い、目の周りは彫刻の入った仮面をつけているため誰だかわからない。

異様だ。

上は、たすき掛けにしている。ということは和装?と思ったがズボンを履いている。

異様だ。

きわめつけは、武器だ。

奴は武器を持っている。

右腰に鉈と鎌 左腰に斧 ベルトにも二本小刀、背中に日本刀を担ぎ、手には山刀を持っている。

異様だ。

いや、ここまで来たら異様というどころではない。

(奴は私を殺そうとしている! おいこら!俺、起きろ!)

奴はズン ズンズンとこちらに歩いてくる。

「やめろ!こっちに来るな!」

夢なら起きるのではないかというほど大声を出したが起きれない。

まさか現実か⁈

そう考えている間に奴は山刀を私の左目の下あたりに押し付けた。

ここまでやられたら声を出すために顔を歪めただけでもっと深く刃がはいると思い、声をあげるのをやめた。

そんなことをしたためか奴は調子に乗り刀をツーーっと下におろし、私の左頬を切り裂いた。

「やめろ!というか起きろ俺!」

刃が頬から離れた瞬間大声を出した。

痛い

怖い

次も奴は私を傷つけるという恐怖!

だが夢から覚めない。

今度は奴が私の右頬を横に切ろうとやいばを押し当てようとした時、

「やめなさい!」

聞いたことのある声がした。

奴が声の方向を向く。

私は動けば歯が当たりそうなので目だけ動かす。

そこには、絹のとても柔らかそうなヒラヒラしたような服を着てシュッとした袴を身につけ、首には赤を主体とするキラキラとしたネックレスをつけた、まるで日本神話の女神のような格好をした上地先生がいた。

奴は上地先生の姿を見て少し考え、山刀を降ろし、回れ右でスタスタと戻っていった。

その時追いかけたかったが、まだ拘束が解かれていなかった。

上地先生が私の目の前に来る。

「…宮中先生、あなたをこの村が待ち構えているのはあのような輩ばかりです。誰にも心を開かないで、それと周りの話はあまり聞かないで。」

「待ってください。これはどういう状況で…?」

突然上地先生が私の口にあのスカーフを巻いた。

「この傷が治るまではこのスカーフで口と鼻を覆ってください。鼻と口両方をスカーフで覆うのです。しなければ大変なことが起こります。」

「……あなたは一体?」

「もうすぐ朝になるからあなたは起きる。けど私の言ったことは覚えておいて。じゃあ帰って来たら話を聞かせてね。」

 

はっ!っと目が覚めた。

 辺りは日が落ちて少したったような濃い藍色が広がっていると思ったがスマートフォンで時間を見たら四時半。

(しまった!あのままぐっすり寝てしまった。幸三郎さんに申し訳ないことをした。)

と思って、口周りに手を持っていったら何やら冷たく痛い。

 はっと、さっきあった夢を思い出す。

 殺人鬼に襲われ上地先生に助けてもらった夢。

 スマートフォンのカメラ機能を自分が映るバージョンに変えたら私は絶句した。

 なんと夢の中で斬られたように左頬に刀傷が出来ている。

 しかも血は止まっているが新しい。

 何時間か前に付けられたような傷だ。

「傷が治るまではスカーフを巻いていなさい。」

 話しかけられたのではないかと思うほど頭をこの言葉が駆け巡った。

 私は村にボストンバックに数日の着替え ショルダーバックに貴重品とノートそしてスカーフを入れて持って来たのを思い出し、ショルダーバックを漁る。

 するとスカーフではなく見たことがない手ぬぐいが出て来た。

(このバックには長方形の布類は入れてないはずなのに…それよりスカーフは…おっと、首にそもそも巻いてたんだ。)

 私はスカーフを首から外し夢での御告げ通り鼻と口をスカーフで覆った。

 息苦しいと思ったがそうではないようだ。

 こんな不気味な現象があったら否応にも上地先生の御告げを守らないと精神がもたない。

 冷や汗が吹き出し、怖くて寝る気にもならないが布団を被り静かにしていた。

 布団に入るといろいろまた考えてしまう。

 

(誰が頬に傷を付けたのか?

 あの夢は傷がついているときに見たのか?

 そうだとしたら傷を付けたのはあの殺人鬼なのか?

 殺人鬼がいるのならこ 美朝村の住人は大丈夫なのか?

 上地先生はスカーフを持っていった方がいい理由、即ち私の頬に傷がつくのを知っていたのか?

 私のショルダーバックに入っていた長方形の布はなんだったのか?

 ん⁈長方形の布?

 もしかしたら殺人鬼がわざとバックに突っ込んだものかもしれん。殺人鬼が私に挑戦状?)

 

 ガバッと起きだしバックを探り、布を掴むとスマートフォンの電灯機能を使い、なにか手がかりがあるのではないかと探ることにした。

 するとその手ぬぐいは「美浅神社」と書いてあることが分かった。

「とにかく今日美浅神社の神主に会えるから聞こう。」

 私はもう一度ショルダーバックに手ぬぐいを突っ込んだ。

 



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第2章 十月二十三日(日) 美浅神社の面

 2016年に書いたのでまさか、鬼滅の刃で鬼がこんなにメディアに出るようになると思ってない時につくったため、自分の知識だけで書いた鬼が正しいのか疑問に思っています…

「さあ、宮中先生!
今度は上地先生が首を絞めてきますよ。」



 午前五時半に幸三郎さんが起き出してきたが、私の顔を見てびっくり仰天

「その顔をどうなさったのですか?」

「実は、夢の中で変なモノに顔を斬りつけられたのですが、起きたら本当に誰かに斬りつけられたような傷が出来ていたのです。」

「それは大変だ!この集落には医者がいないのだが切り傷に効く薬を出してあげましょう。」

「ありがたいのですが、持ち合わせの薬を塗ったので大丈夫だと思います。心配をかけ申し訳ありません。」

「いやいや。そうだ!昨日言った村長なんだが、代わりに息子の拓馬くんが来てくれたから拓馬くんと見に行きなさい。玄関にいますよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 傷というか顔をスカーフで隠し、拓馬さんのところに行く。

「おはようございます。区長の息子の拓馬と言います。よろしく。」

「駒川大学の宮中志です。お世話をかけます。」

(区長の息子ということからか見るからにリーダーの素質がある好青年だ。ただ…左目がまっすぐ見ているだけでキョロキョロ動いていないと思うが…)

 スカーフを巻いてる理由を説明してヒラデエジンの屋敷を私が出たら、玄関で拓馬さんが幸三郎さんに小声で、

「鬼が動いたようだね。」

「用心してる。」

と小さく聞こえたが、わざと小さな声で言ったように思えたので、とりあえず聞かなかったことにしておく。

 だから私も小さくつぶやいた。

「鬼ね…」

 前記の通り美朝村は小さな盆地に存在し、真西の美浅神社と真東のヒラデエジンを結ぶ道と、山を越えられる南北に伸びる道があるが山を越えると行っても断崖絶壁や急斜がきつく素人ではどうにもならないので、地区の人ぐらいしか使えない道が存在している。

 その道同士が村の一番低いところの盆地のほぼ真ん中辺りで交差していて、その交差するところに道祖神が祀ってある。

 私は今、朝霧を見るためにその道祖神の隣にいる。

 村民が朝霧を見ようと家から出てきているのでスカーフを見られ、「不思議な格好をしている人だな。」という目をされていると感じた。

 しかし、拓馬さんと一緒だろうからか地区の人で嫌な顔をする人はいない。

「そろそろ六時ですから朝霧が来ます。」

 拓馬さんが教えてくれた直後、ヒラデエジンが黄色や、白に輝きだした。太陽と屋敷が重なったのだ。

 すると、白く輝くヒラデエジンから煙がモクモクと地を這いながら盆地に迫ってきた。

「なぜだ?」

 私が声を思わずあげ隣の拓馬くんを見ると「どうだ すごいだろ!」っという顔をしている。

 ほんの二、三分で煙が盆地に溜まり我々は煙に巻かれた状態だが、端から見れば霧になっている。

 地区の人達は、ヒラデエジンに向かい手を合わせたり、なぜか興奮し過ぎて高笑いする者もいる。

「言い忘れましたが、この村…すみません、みんな「市」になった実感がなくて今でも「村」と言っていますので…」

「いえいえ、「市」になったから旧名を使わなくなってはそれこそ文化がなくなると考えていますから大丈夫です。」

「そうですか…では、この村の自慢はこの朝霧とうまい飯と水と空気と良い音色は村時代からの自慢で、どこにも負けません。」

「良い音色?私は多くの地域に行きましたが音色とは?」

「あぁ?…!失礼しました。実は今日の夜に音楽イベントを私が開催するのです。都会からも音楽好きが集まり約三十人来ます。」

「あぁ!そう言えば幸三郎さんがそのお客さんたちを泊めるのでしたね。」

 ここで私は瞬間的に考えた。

(といってもスタッフはいつも違うところで演奏しているのだからなにか変わることがあるのだろうか?…美朝村の盆地に音楽が反響するとかかな?)

「楽しそうですね。」

 急に男の声が後ろから聞こえた。振り向くと、袴を着けた男が右手に杖を持ち立っていた。

「あっ!先生、紹介します。美浅神社神主の浅見一樹です。一樹、こっちが東京の先生の宮中さんだ。」

 拓馬さんがとっさに私を紹介した。

「駒川大学民俗学者の宮中志です。」

「はじめまして…宮中先生。美浅神社の浅見一樹です。あなたが美朝村の民俗調査をしているのですか…なんでまた?」

「お言葉ながら、美朝村は俗世間との交流が今でも少ないとお聞きしました。もしかしたら独特、もしくは古くから伝わっている文化があるのではないかと考えたのです。また、今の世の中少子化により村がなくなったりすることが起きています。もしなくなったら古くからあった先人たちの知恵もなくなってしまっては非常にもったいなのではないかと考え、地域の保存 記録用に羽田さんから頼まれた部分もあるのです。」

「ふうん…。」

浅見さんは拓馬さんと変わらないぐらいの歳に見える。ただ、彼の目の奥にはかにかギラギラしたものが見え隠れしている。

(蛇とは違う、なにか随分と考えているような目だ。…そうだ!)

「そのほか…」

 私はスカーフを下まで下ろし傷を見せる。浅見さんは見たくないものを見たような顔をした。

「ここに来て不思議な夢を見ました。斬りつけられる夢なのですが、起きたら現実にも斬りつけられたような傷が出来ていたのです。個人的にこのようなオカルト 現象も解明したいかなと思いまして…」

「……なかなか、良いのではないでしょうか?…解明してみては…」

「お世話をおかけします。」

 私は頭を下げた。

「いえいえ…私、今日は午前中に用事がありますので、午後から村を案内することになるのですが大丈夫ですか?」

「分かりました。ヒラデエジンで待っています。」

 浅見さんは、では。と挨拶し行ってしまった。

 拓馬さんもイベントの準備を行うと言い行ってしまった。

 その背中を見ていたらいつの間にか霧が晴れた。私はまっすぐ来たヒラデエジンにむかい歩きながら考えた。

(あの神職…変わったオーラがあった…なにかこの傷について知ってる感じがするな…)

 私はヒラデエジンに戻り、自分の部屋で朝の出来事をノートにまとめていると朝飯が出来たということで、客間に行った。

 客間には、今日の準備のためにたくさんの人が集まっていた。今日の夜の準備のために集まった村民にも苦労をねぎらうため朝飯を出すらしい。

 朝飯は白米と味噌汁に納豆 菜っ葉のおひたし 目玉焼きとソーセージだ。どうやらソーセージは自家製でなく村外からのおくりものでもらったらしいがほかは自家製らしい。

「先生、どうでしょう美朝の米は?たまに来る村外の連中はうまいうまいと言っとります。」

 私の隣に六十歳ぐらいの、白髪がみごとな人が座った。

「ええ、とても美味しいです。」

「せがれの拓馬から聞いたのですが朝霧は大層驚いたとか?」

「朝霧を自由に発生させるというのは驚きました。今度は理系の先生を連れて来たいと思います。」

「はははははははは!それはそれは。」

 温厚そうな人だと思ったが笑い方など豪快なところがある。

「ところで、いま『せがれの拓馬』と言いましたがあなたが区長ですか?」

「そうじゃ、儂が美朝の地区長だ。地区長なんだがみんなはまだ村長と言っとる。儂は朝が弱いので息子に頼んだんじゃ。」

「…村長、実は一つ質問があります。」

「なんだ?」

 小声にしてこの質問はした。

「この村に鬼がいますか?」

 明らかに村長の動作が止まった。

 少し考えているようだ。

(なにか隠したいことやなにか嘘をつこうとしている…。これからしゃべることは信用出来ないかな?)

 少しすると、

「…民俗の先生だからいつか誰かが聞かれるのではないかと思ってたが流石先生、早いですな。」

「実は…昨日の夜、私の左頬を仮面をつけた誰かに切りつけられました。その後、拓馬さんに顔を隠す理由を説明したところ、拓馬さんが羽田さんと鬼がどうのこうのという話をしているのを聞いてしまいまして…その後霧を見に行って浅見神職に会ったときもなにか隠しているような動作をとられたため少し気になっているのですが、この傷は多分その鬼につけられたものじゃないかなんてことも考えてます。どうやら私も鬼にとらわれ過ぎじゃないかと思ってますが、拓馬さんと幸三郎さんが鬼という単語を使ったのが気になっていまして…、で鬼とはどのような姿をしているのでしょうか?」

「……儂は口での説明がうまくないんでな…美浅神社の本殿に鬼の面が飾ってあったはずだから神主に言って見せてもらえ。」

「そうですね。午後神主が来るとおっしゃっていたので見せてもらおうと思います。」

「…ヒラデエジンには、ヒラデエジンの家伝記があると聞いたことがある。幸三郎さんに聞いてみるか?」

「読みたいところですね。もしかしたら鬼について書いてあるかもしれませんし…」

(さすが村長だ、誰も傷つかない答えを導き出した…)

 そのような鬼の話を小声でしながら朝飯を食い、私と村長は幸三郎さんにお願いし、『羽田家伝記』を出していただいた。

「古くてなにが書いてあるか分かりませんから、村の記録の一部としてどうか解読していただけないでしょうか?」

「私もすらすら読めるたちではないのですが、一つやってみたいと思います。」

 そう言い、私は自分の部屋にこもった。

 私はどちらかというと現地調査が得意なので、解読作業はとても根気がいる作業だ。

 なにせ昔の字は「あ」だけで四つも単語があるし、筆で書いてあるから滲んで「る」が「ろ」になってたりする。

 しかし、私のスマートフォンにはそのような古文でも読み取れる古文読み取りアプリがついている。

 アプリを起動させた状態で写真を撮るようにスマートフォンをかざすと日本語に訳してくれるほか、現代文にも訳してくれる機能がついている。

 その上、PDFにまとめてくれる機能が付いているから貯めてから読むことができる。

 原本のままだと本当になにが書いてあるのか微妙なので二、三ページ訳したので現代訳を読むことにした。

 するとそこに訳された言葉は

「霧が出たときに鬼が現れ三十名以上が死亡 神社に舞を奉納し鬼の鎮魂にあてる」

(なんだと!)

 頭の中が凍りつく。

(いつだ!)

 元号を探したがない。

 中央集権とは関わりがないのでいつの年にあったのか分からない。

(とにかく鬼により三十名以上が殺されている…)

 アプリでいちいち読み込むのが煩わしく感じ、「鬼」という字がどのような字か記憶し適当にパラパラと本をめくる。

すると、

「鬼により二十二名が死亡 神社に舞と酒一升を奉納」

「祭りの後にも関わらず鬼により八名死亡 辻に神を建立」

と、出てくる出てくる。

 何ページか進めば「鬼」という単語が出てくる。

 私は不思議な汗が出てくる。

(家伝記は本当に真面目に書いたはずなのにこんなに鬼というモノが出てくる…実在するとでもいうかのように…いろいろなところに調査に行ったがここまでたくさんの人が大量に死んでいる。それも「鬼」という抽象的なものによって…)

「…浅見さんに聞かねば。」

 そう言葉にしたら昼飯が出来たと呼ばれた。

 昼飯はうどんだ。野菜がたくさんと肉が少し入っている。

「どうですかな?訳しは?なにか参考になっていますか?」

 隣の幸三郎さんに話かけられた。小声で答える。

「……鬼が随分と出ているようですが、幸三郎さんは鬼を見たことありますか?」

「ええ、あります。」

(鬼を見たことある!)

「どういう風貌でしたか?」

 思わず声が大きくなり驚いた周りがこっちを見る。私が頭を下げたらみんなまた談笑し始めた。

「すみません。少し鬼に慎重になりすぎてますかね?実は、鬼が大量に村民を殺したという記述がでてきましてね。」

「…私も鬼と言っても、四月四日の祭りででる鬼のことなのですが…そのような伝記に出てくるような残忍な鬼は見たことありません。」

(なんだ、祭りの鬼か…でも祭りの鬼が人を殺すのか?そう考えたなら伝記に書かれていることは嘘なのか?)

「なぜ私に鬼の存在を最初に教えてくださらなかったのでしょうか?それと拓馬さんと鬼がどうのこうのという話もしていたじゃないですか!」

おもわず声が強めになる。。

「まさか祭りでしか鬼がでないのに外部から人を狙うとは思ってもいませんでした。鬼などこの世にいるわけがないので拓馬がそんなことを言ったときは驚きましたよ。」

(奴はなにをするか分からんと言ってたから知ってるじゃないか。それと俺の答えになってないじゃないか!)

と言いたかったが言うとまずそうだし、感情的になりすぎと思い黙った。

 食べ終わると同時ごろに浅見神職が来たので集落を案内してもらうことにした。

 東の山はヒラデエジンのもので滅多には立ち入れないこと、北の山に川があり漁場として使っていること、道祖神が昔は鬼による殺人があるごとに建立されたためたくさんあったこと、今は電灯付き電柱が道祖神のところに一つあることなど、隅から隅まで見せてもらった。

 私は最後に一番知りたかった神社に連れて行ってもらった。

 神社は西の端の長い石段の上にあり階段は木が覆いかぶさり石段はヒラデエジンから隠れしていただけだったが、とても長いものだと思った。

 階段の長さに思わず一回休憩したくなったが浅見さんがホイホイ登ってしまうのでいつ声をかけようと考えている間に着いてしまった。

 ヒラデエジンから見えている部分は赤い鳥居だけなので神社がどのような造りだろうと想像していたが、なんとヒラデエジンと似たような造りの建物が鳥居から続く石畳の直線上にあり、左手に八畳ほどの神楽殿があるだけだ。

「本殿は…あの建て物ですか?」

「ええ、本殿があの建て物であり社務所であり私の家でもあります。」

「…日本にもいろいろな神社があるのですね。ここは何の神が祀られているのですか?」

「コノハナサクヤヒメですが、どうやら明治になってから祀られたらしくどうやら江戸時代までは違う神であったそうですが、私もお年寄りから聞いた話では「神」というだけで名前はないそうです。」

「………」

(ということは、コノハナサクヤに見せかけて違う信仰があるってことか。)

建て物の中に入れてもらう。

 するとどうだろう。ヒラデエジンと左右が逆なのとは行ってまっすぐはヒラデエジンだと応接間の部分になっているがここはそこに神が祀ってある。

「なぜヒラデエジンと左右逆の造りなのですか?」

「この村はだいたい似たような造りになっています。びあさはごさんはご存知ですか?」

「びあさごさん?」

 浅見神職は杖で地面に「美朝御参」と書いた。

「ヒラデエジン、美浅神社、それと村長の家。この三つは村でも大きな力を持っている家ということで御参と言われています。とくにヒラデエジンはこの神の力により栄えたとされており、神の力により朝霧を起こしこの村を束ねているとされています。よって御参と言われても私と村長もヒラデエジンには逆らえません。ただ、なにかあって御参と呼ばれるように神社は常任、村長は選挙により変わるという形になったのです。」

「神が力を与えた?」

「はい。どのような力かは分かりません。」

「……」

(なかなか面白い。)

「神楽殿も気になるですが…」。

「どうぞ。」

 建て物を出て神楽殿に行く。

 この神楽殿、変わったところは舞台と地面が異様に近いことだ。裏に回り込み浅見さんと向かいあった。

「ここで四月四日に祭りを行います。」

「鬼が出て踊るのですか?」

「踊る前に鬼はヒラデエジンから朝霧と共に出てきます。」

「ヒラデエジンから霧とともに鬼がでてくる?」

「はい。…鬼の面があるのですが見ますか?」

「ぜひ見させてください。鬼は興味がありますので。」

「あれです。」

 浅見さんは天井を指さした。私は指の先を見た。その瞬間おもわず後退りした。

「先生?大丈夫ですか?」

 あまりの恐ろしさに足がすくむというが、浅見さんが声をかけた瞬間日が落ち一気に暗くなったこと、この神社の庭、不思議な神楽殿と相成りその面は生気無く飾られているように感じとり、とてつもなく恐ろしいと感じた。

「夢の中で見ました…」

「えっ! …この鬼の面をですか?」

「はい。」

「…見間違いでは?」

 思考が停止し首を振ることぐらいしか出来ない。けれどなんとか声を絞り出し、

「いえ、この面をつけたモノが私を斬りつけました…あっ!」

「!どうしました?」

「この鬼は踊る時にどのような格好をしますか?」

(まさか夢の格好で踊るんじゃ…)

「…祭りの写真があります。見ますか?」

 二人で神楽殿から母屋に移った。

「この部屋で待っていてください。」

 私は客間に通され、浅見さんはアルバムを探しに行った。

 六畳ほどの日本風の部屋だ。ただ、ここにはさっき見たのとは違う女性らしい面が飾られている。

 じっと凝視するとなにか異様な空気を感じられる。

 なにか見透かしてやろうとしているような…

 その女系能面はどうも見覚えがない。

「どうですか?」

 面を見ていたら浅見さんがアルバムを抱え現れた。

「この面は四月四日の祭りに出る面を模して作られたもので触っても大丈夫ですよ。」

「この面は鬼とどういう関係なのですか?」

「これは、コノハナサクヤヒメです。もっと言えば鬼がヒラデエジン、コノハナサクヤヒメがこの美浅神社です。」

(コノハナサクヤの面と言うことは、そんなに古くないのか?)と思ったがいまはそれどころではない。一刻も早く鬼の格好を確認したいとしか考えられない。

「…分かりました。写真 お願いします。」

 パラパラとアルバムをめくりあるぺージでこちらに見せてくれた。

「………。」

 鬼は頭と口周りを手ぬぐいで覆い、目の周りは彫刻の入った仮面をつけているため誰だかわからない。

 服装は和装で、たすきを掛けている。

「…この格好で本当に踊るのですか?」

「えぇそうです。」

「…村人はこれが鬼と思っているのですね?」

「そうです。」

「…やはりこの鬼がほぼこの格好で夢に出ました。」

「⁈」

「ただ、和装ではなくズボンを履いていましたが…」

「えっ⁈」

 浅見さんが声をあげた。

「どうかしました?」

「いえ、…変わった格好をしていると思いまして…鬼が…基本は和装なので…」

「あっ!これは見覚えありませんか?」

 私はショルダーバックから昨日あった手ぬぐいを探し出し浅見さんの目の前に出した。

「………」

(さあ、なにかあるかな?)

「昨日の夜、私がこの傷に気がついたあと、顔を隠そうと探していたらこの手ぬぐいを見つけました。…私はこの集落についてすぐ寝てしまったので、神社関係者が置いて行ったのではないかと考えていましたが…」

(さて、なにか反応を見せろ!)

 私はこの浅見神主が裏でなにか考えているのではないかと思い初めていた。

(普通に考えれば、寝てる人のところに来て勝手にバックに手ぬぐいを入れるなど考え難い。さて、俺になにか言ってみろ。)

そう思っていたら・

「差し上げます。私が明日の準備のために配ったものですが誰か置いて行ったのでしょう。なんなら今からその手ぬぐいを顔に巻けばどうでしょう?そのハンカチよりその手ぬぐいの方がこの村では見栄えが良いでしょうし…」

「たしかに手ぬぐいには変わりないでしょうし、美浅神社の物でしたら変な目で見られもしないでしょう。」

 そう言い、私は顔を巻く布を変えた。

(この男、なかなか頭がいいじゃないか…よし!)

「ところで、鬼なのですが文献を見るとちょくちょく鬼が出てきては大量に殺人していくようですが最近は鬼が出たりしたのですか?」

「二十年前に十名近く、五年前に私の妹と幼馴染だった一人が…」

(やはり、…と言っても少し気の毒だったかな?)

「…それは辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません。」

「いいえ、いいんです。それと先生。この村はまだ外部者を嫌う風習が残っています。十分にお気をつけください。とくにヒラデエジンには…」

「そうですか…」

(なにが言いたい?)

「…そろそろ音楽イベントが始まる時間ですが先生は行かないのですか?」

 唐突に話題が変わった。

「こんなに明るい時間からやるのですか?」

「この村の公民館で八時まで行い、子供らを帰した十時ごろから神社で夜通し行われるので、そろそろ人が来るのです。」

「そういうことですか。では公民館まで行って見ます。ありがとうございました。」

 その後、私は浅見神主と別れ公民館に向かった。

 公民館といってもそれも古民家である。美朝村は本当に昔の建物が残るまさに村一つが文化財級なのである。

 その公民館に人の集まりが出来ていて、イベント関係者が最終調整しているようだ。

 関係者会議の中に拓馬さんを見つけた。むこうもこちらに気づいたらしく、こちらにやってきた。

「手ぬぐいを変えたのですか。どうでしたか?神社は」

「私は外部の人間なのであのような神社が日本にあるとは思っても見てませんでした。」

「はははははは!イベントに来た人があの神社を見ればみんなそう言います。」

「この音楽イベントはどのくらい歴史があるのですか?」

「いえ、地域振興か目的だったのですがコアなファンに広がり都会から人が集まるようになりまして、引っ越してくる人まで出てきたのです。」

「地方が寂れてるところが聞いたら飛びついて来そうな理由なんですね。」

「はい。どうでしょう?今日はもう調査をしないのなら一杯やってからイベントを楽しみませんか?」

「…そうしますかな?」

 

 その後、私は村民イベント参加者とそう遅くはない時間から飲み出し、第一部終了で一度休むべくヒラデエジンまで帰って来た、一人で帰れそうだったが拓馬君ともう一人にあまりにも千鳥足だったので送ってもらった。

 二人はやることがあったので速攻帰って行った。なにが二人を駆り立てていたのだろう。

 ヒラデエジンの自分の部屋の障子を開けた瞬間、

 

上地先生が蛇の目をして私の首を絞め上げてきた。

「かっ!……上…」

「先生、私の約束を破るのですか?」

「なっ?…」

(物凄い力だ。息が出来ない。)

「その顔を隠しているのはなんですか?私のスカーフはどうしたのですか?」

「………す…すみませ…ん。…か、カバンに入っ…」

息も苦労するのに質問などされては受け答えも出来ない。

「早く巻きなおしなさい。早くしないと手遅れをなる。」

「はっ…はっ…。」

(目の前がボヤ〜っとしてきた。まずい、本当に殺される…だめだ…)

私はこの苦しみから逃れるように目をゆっくり閉じた。

 

「先生!先生!」

(幸三郎さんの声がする。)

 かっ!と目を開けた。

 心配そうに幸三郎さんがのぞき込んでいる。

 どうやら私が倒れた音を聞き、来てくれたようだ。

「どうなさったのですか?自分の首を絞め上げて、しかも力いっぱい。」

「えっ?」

(誰かに絞められるのではなく自分で?)

「苦しそうだったのに自分で自分の首を絞めていたのですよ。」

「…多分酔っぱらったせいでしょう。酒は強いはずなのですが…」

「気をつけてくださいね。」

「はあ、どうもお騒がせしました。…ところでここに若い女の人がいませんでしたか?」

「いいえ、若い女性はみな公民館ですからここには年寄りしかいませんでしたよ。しかも入ったのなら分かるほど今日は人がいますし。」

「…そうですか…」

 そう言い部屋に入り布団に入った。

(おかしい!明らかに私は上地先生に首を絞められそれから逃げるために自分の手を上地先生の手にかけたが自分では自分を絞めてはないはずだ!

しかも、誰も上地先生を見ていない…)

そのとき上地先生の声がはっきりと聞こえた。

 

「私のスカーフを…」

 

背筋が凍りつく。

 幻聴かもしれないが聞こえた。バックから大慌てでスカーフを取り出し、顔を隠した。

布団を頭まで被り、

(さっきあったこと 今日一日であった鬼の大量殺人並びに夢の中に出て来たのはこの村の鬼だということ。とりあえず、拓馬さんか村長が羽田さんに聞かないと…)

などを考えていたら疲れと酒の力に負け眠ってしまった。

 



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第3章 十月二十四日(月) 鬼の面

この回が一番力を入れたのを覚えています。
どうでしょうか?

「さあ。宮中先生!
霧の中から鬼が血のついた鉈を持った鬼がやってきましたよ。」


 午前三時に、私はやけに騒がしいので思わず起きた。

 客間に音楽イベントのメンバーが数名いるが、みんな深刻な顔をしている。

 その中からさっき一緒に飲んだ人を見つけたので話しかけた。

「どうしたのですか?」

「ああ!先生ですか。…進行会議をするから拓馬くんを探しているのだがどこにもいないのです。」

「失踪したのですか?」

「…鬼に連れていかれたのかもしれません。」

「えっ?」

「知らないのですか?この地方は夜に霧が出ると鬼が出るとされているのですが、このイベントはそれを壊すために拓馬くんが始めたのです。ただ、いろいろ反対があったので拓馬くんは結構大変だったらしいのですが、当の本人がいなくなっては来年から無いかもしれません。」

「鬼…ですか?…」

(夜に霧が出ると鬼が出る…あの鬼が…しかも音楽イベントのメンバーまで知っているとは…)

「とにかく拓馬さんを見つけるのなら協力します。」

「助かります。では、羽田さんと一緒に行動してもらえますか?」

と、いうことで幸三郎さんと行動することになった。

「いるかどうか分からんがとりあえず山と川を見て見ましょう。」

と言うことで私と羽田さんは懐中電灯と羽田家の家紋が入った提灯を持ちヒラデエジンの裏山に入った。

 村の東側全ての山はヒラデエジンの敷地である。

 村に入るために私が使った道というのはヒラデエジンの敷地にある道で、道の両側には杉や檜が高々とそびえただでさえ三メートル先は暗くて見えないはずなのに、足元には笹や葦が生えているためもっと分からない。そのためライトも持たず入るのは考えられない。

「真っ暗の中すみませんね。」

「いえいえ」

「拓馬は私の敷地を、目をつぶっていても動けるほどよく敷地に入っているので、もしかしたら屋敷の裏山にいると踏んだのです。…裏山と言っても盆地の尾根一帯ですから、彼の場合道を歩くより知ってる尾根を駆け下りる形で走る方が得意なのでしょう。」

 そう言ったら二人はしばらく黙って歩いた。

 ただでさえ暗い道だったのに夜だと灯りがなければ目を閉じてても変わらないようだ。

 灯りはヒラデエジンが持っている提灯と私が持っている懐中電灯だけだから暗い空間で黙ると嫌なことを思い出してしまう。そんな性格の自分が嫌になる。私の頭には浅見神主が出てきてこうささやいた

「ヒラデエジンには気をつけろ。」

(…あれはいったいなにを考えて言った言葉なんだ?まさか、鬼の正体は幸三郎さんか、もしくは幸三郎さんに指示されている人⁉︎…浅見さんはまさか味方か?)

「宮中さん?」

「はい!」

「ど…どうしたのですか?急に大きな声を出して?」

「い…いえ、考え事をしていまして…」

「まぁ、学者という仕事柄上、考えることが仕事みたいなものでしょうから…」

(…なにか、俺が疑っていることに気がつかれたか?)

「実は提灯のロウソクの火を入れ直したいので照らしてもらってもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。」

(…とりあえず疑っていることはばれてないか?…よかった。)

 私が提灯を照らすと、幸三郎さんは手際よく変えのロウソクを出し、火をつけた。提灯がゆらゆらとオレンジ色を放つ。

「先生、急にこんなことを言うと驚くと思いますが、もしも灯りを持たず暗闇に入ったらどうしたら良いかご存知ですか?」

「なにか独特なやり方があるのですか?」

「ここは背の低い植物がたくさん生えていますから、音を使うのです。人間はまだまだ捨てたものではないですよ。」

「なるほど。」

「おや?バス停のところまで着きましたね。」

 なんだかんだ二人でバス停まで来た。

 小さなバス停小屋を不規則に消える電灯が照らしている。

 私は懐中電灯でバスがUターン出来るほど広がっている広場をゆっくり照らして見た。

 だが、拓馬くんはいない。

「いないようですね。」

「…川にいるかもしれません。見てみましょう。」

 バス停小屋の裏は一メートルほど崖になり水が流れている。だが水量はない。

「この浅瀬では川上から流されるということもなさそうですね。」

「いえ、実はここでも鬼が出れば何人か見つかるのですよ…」

「えっ⁈」

「川上に行けば分かります。行きましょう。」

(…川上で俺を突き落とさないでくださいよ…)

右手に川を見ながら前を幸三郎さん、後ろが私という形で歩って行く。

 ある程度行ったら川に突き出た岩があり、岩の上のホコラの前で幸三郎さんが立ち止まった。

「この岩の下には妖怪が住むと言われ、何人も引っ張られて出て来ません。ですがだまに妖怪から解放される輩もいるのですが…長時間水の中ですから目も当てられない姿になっています。バス停の下あたりで水深が一気に浅くなる不思議な地形なので、だいたいあそこに引っかかるのですが、頭がカチ割られているものがあったりすると妖怪に化けた鬼がころしたのではないか?という噂がたったりするのです。」

「祠はその供養ですね。」

「はい。」

(…鬼だけでなく妖怪まで…しかも妖怪に鬼が化けるなど変わったことをする鬼だな…)

「またこの少し上は竜がいると言われています。」

「竜もいるのですか?」

「はい。行ってみましょう。」

 結構かかるのかと思っていたがすぐに幸三郎さんは立ち止まった。

「ここです。流れが速いし水量、水の音も大きいでしょう。これを竜の巣と呼んでいます。」

「確かにさっきと比べて音が大きいですね。」

「ここ辺りでは絶対に遊ぶなと言っています。なにせ竜の巣に入ればこの激流に揉まれ妖怪岩に引き摺り込まれますから。」

「………。」

(とても悲しそうな目をしている…)

「それとこの辺りが鬼のすみかです。」

「えっ!」

(ドキッ!…まさか俺をここで…)

「あっ!すみません、不用心でした。祭りで使う仮面をしまってある小屋が近くにあるってことです。」

「そ、そうですか。」

「ですが、用心したほうが良いかと…」

「…………」

「この川をまだ遡れば神社の裏に行きますからきますから、神社に行って報告しましょう。」

「はい。…」

 空が黒から藍色に変わって来たころ私たちは神社に着いた。

 神社に着いたら境内で人がガヤガヤしていた。

 顔が蒼白の浅見神職が我々を見つけてやってきた。幸三郎さんが話かけた。

「どうした、浅見さん?」

「拓馬が見つかりました。」

「どこにいた?」

「……神社近くの藪に埋まっていたところを発見されました。」

「「えっ!」」

 その時、太陽がヒラデエジンから差し込み神社をキラキラと照らし出し、ヒラデエジンから朝霧が出てきた。

 

 朝霧の中、藪から発掘された拓馬くんは自分の家、すなわち村長の家に運び込まれた。

 一緒にヒラデエジンに頭を下げてくれた明るい村長が、拓馬くんが運び込まれた時は人が多くいるなか、目を見開き目頭にシワを寄せ、拓馬くんに「お前、なんで俺より先に死んだ!」と怒っているようだった。なにか話しかけようとしたが、

「先生、村長を今刺激するのはマズイですよ。」

 という幸三郎さんに言われて、ヒラデエジンに帰った。

 するとヒラデエジンが天地をひっくり返したような大騒ぎになっていた。

 なんでも「人が殺された」と警察に連絡がいったため、駐在だけでなく県から刑事が来ることになり、全ての人の出入りを禁止された音楽イベント参加者が押し寄せていたのだ。

「みなさん、慌てず落ち着いてください。この家には数多くの部屋と大量の食料、遅くなるかもしれませんが電波もあります。」

 軽くパニック状態になっている人たちを幸三郎さんは説得し鎮めている。

 その中で、昨日一緒に飲んだ人を見つけたため少し話を聞いたところ、音楽イベントの人たちはバス停場には車が置けないので私がここに来るとき使った駅に置いてバスや村からの迎えで来たらしいこと、そのため宿がない村でも都市から人を呼べたというカラクリだということが分かった。

 しかもこの人達は休みの日を使っていたので大慌てで家族や会社に連絡をしている。

 騒動を少し離れたところで見ていたら浅見さんがやって来て、

「ここにいてもやることがないでしょうから、道祖神でも見ませんか?」

と言う。

「たしかにここにいても邪魔ぐらいでしょうから行きますか。」

 私は立ち上がり、浅見さんの後ろに続きヒラデエジンから出て道祖神に向かうことにした。

 昨日見せてもらった朝霧はすぐ終わったのだが、今日はまだ霧が出ている。

「昨日見せなかったと思いまして…」

「わざわざありがとうございます。」

 道祖神とは、交差点や村の境界に位置し村や道を使う人を守るものであり、石に漢字で「道祖神」と書いてあるものから、石を加工し男女の印象をかたどったもの、手を繋ぐ男女をかたどったもの(双体道祖神と言う)などが一般的である。

 だがこの道祖神はたしかに誰かと手を繋いでいるように見えるが、手の部分で石が縦に割れて一人になっている。

「これは…半分か?」

「えぇ、昔は二人居たようですがいつの間にか一人になっていたようです。」

「それは何年ぐらい前でしょうか?」

「……多分、幸三郎さんぐらいの方なら分かるかもしれませんが、あの様子では…」

「村長も今はダメそうですし…」

「…いや!村長のところに何人かの長老が行ってますからもしかしたら分かる人がいるかもしれませんよ。」

「そうですか。では行ってみましょう。」

「…実は先生を呼び出したのが神社に戻る口実を作るためだったのですが、大丈夫でしょうか?…」

「そうだったのですか。では昨日教えていただいたので村長の家に一人で行けると思いますので…ありがとうございました。」

 そう言い別れた。

 村長の家はヒラデエジンの近くにあるが家が密集してはいない、ヒラデエジンほどではないが大屋敷だ。

 ヒラデエジンに向かう道を歩く。

 朝の三時から起き出しいろいろあってもまだ午前十時前、集落を見渡しても畑の作業をしている人の姿は見えない。

 霧の中、一人になったのでふと今までの謎を考え直した。

(鬼が本当に拓馬くんを殺したのか?

鬼の正体は誰か?

鬼を本当に村の人は恐れているのか?

浅見神職は鬼についてなにか知っているんじゃないか?

…そもそも、私が寝ていた時だからやってないと言えるが、もし私に疑いがかけられたら誰か弁解してくれるのか?)

「あっ、そうだ!もし俺に疑いがかけられたら誰か弁解してくれるのか?」

 おもわずつぶやいた。

(しまった、重要なことを忘れてた!この村で殺人が起きても鬼のせいにすれば、とりあえず許される状況だ。しかも鬼=宮中にすれば、なにか知っている人…例えば身内が鬼をやっていることを知っている人なんかは、村の人に鬼の正体がばれるとまずいので率先して私を鬼にしたがるはずだ。鬼として私を逮捕すれば身内の罪は無いようなものになるから…幸三郎さんは私と行動していたが、なにか引っかかる言い方をしていたし、私と行動していたから、村民が私を鬼にしようと企んでいることを察知して、私に無理難題を要求したり、私が心細くなって幸三郎さん自身に裏切られないよう工作するのを待っているのかもしれない…浅見神職は明らかに怪しい行動が見える…もしかしたら鬼か?……ちょっと残酷かもしれないが、拓馬くんが墓に入るまで村長と一緒にいて恩を売るっていう軽く酷いことをしないと自分の身が危なくないか?…)

 そう思いながら歩って行くと、まっすぐ行けばヒラデエジン、曲がれば村長の家というところが見えてきた。

 そのとき、村長の家の方向からなにか出てきた。

(村民か?…いや違う…なんだ!あれは!…)

 手ぬぐいをほっかむりにし、あの神楽にあった鬼の仮面を付け、鼻と口を手ぬぐいで隠した姿。

 夢に出たときと同じ格好!

 それだけならまだ良いが今は猟銃を肩から下げている。

(間違いない。夢で見たのは鬼だったんだ。どうして村長の家の方から来たのだろうか?と考えたいところだが、このままだと私は鬼と横幅が三メートルもない農道みたいなところですれ違うのか…だからといって、逃げたり走ったりした瞬間に奴は追いかけてくるかあの銃でズドンとやられてしまうだろう…逃げ切ったとしても鬼から村民に戻られたらどんな噂がたつか分かったもんじゃない……良し!)

 俺はジャケットのポケットに手を入れた。

(ポケットになにか入っているから手を入れたと奴は考えてるだろうな…そう考えてれば俺の勝ちだ。変に俺を殺そうとすれば返り討ちにあうと考えるだろうから。)

 鬼は礼儀良く右側通行している。私もそれに習ったわけでもなく、あの格好の恐怖で自然と右側を歩いた。

 鬼と共に「死」が歩いてくるように感じた。

(…超怖えな。だけど、鬼とはいえ所詮人間。こちらは眼鏡をかけ、口と鼻をスカーフで隠している。おまけに顔を見られてからポケットに手を入れるなんて動作を取られたら怖じ気づいてるのはそっちだろう。)

 霧が薄くなり始めている。あと十歩ぐらいですれ違う。

 祓いたくても考えてしまう「死」 殺されるという恐怖。

 私は鬼の面を観察した。

 おでこのところに大きく三本シワを模した彫りがあり、目尻にもシワのような彫りがある。

 目のところは穴が開いているが目の奥は暗くなっているので眼は見えない。

 

あと五歩…

 

 自然と呼吸が浅くなり、呼吸の乱れがばれそうなほど疲れていると感じる。

 心臓の鼓動も全力で走った後のように歩いているだけで聞こえる。

 というところでこんな最悪なことを思いついてしまった。

(そうだ!話しかけてみよう。鬼もまさかすれ違うことになるとは思っていないだろうし、話しかけられたら絶対誰かにしゃべりたくなるはずだ。話しかけられたという噂がたてばそれを逆探知して犯人にたどり着くことも可能だろう。だけど、話しかけたことがスイッチになって私にむかって撃ってくるかも…)

 

あと二歩…

 

(ええい!挨拶したら一気に走ろう!)

「おはようございます。」

「!………」

 社交辞令的なあいさつをした。

 明らかに鬼は驚いていた。

(…びっくりしすぎてこっちを見てる。撃ってくるか?それともなにか斬りつけてくるかな?)

 そのとき、なにかされるという恐怖とどんな状態なのか見たい好奇心で、首だけ振り向いた。

 鬼は全身こっちを向いて私を見ている。だが、ただ突っ立っているだけでなにも構えていなかった。

(今は驚いているだけ、我に返ったら殺される…)

 私は前を向くと後ろからどのように襲われるのか考えられない状況に陥った。

(この距離で銃を撃ってこられたら頭直撃で即死だな。追っかけってこられて鉈で頭を叩き割られるか、鎌を頭に突き立てられるか首ごと刈られるか…)

 殺される前提のことしか浮かんでこないため、軽く気持ち悪くなっている。

(ゲロと血だまりが俺の三途の川になるのか…最悪だ…)

 村長の家に向かう道まであと十歩ほど。

(はやく はやくこの恐怖から逃れたい気持ちと、こちらが話しかけるという先制攻撃をしかけている以上、走るなんて行為をしたら鬼がどう動くか…)

 恐怖と闘いながら速度を変えず一歩一歩歩く。

(鬼はどうした?)

 気になり今度は振り向くまではいかず、横目で見てみた。

 なんと鬼は私が来た道祖神の方向に向けて歩いていた。

(チャンス!)

 五歩程度だったが走り家の陰に隠れ、鬼が歩いて行った方向を見た。

 鬼はちょうど霧の中に消えていくところだった。

 消えた瞬間気がついたが、

 私は全身の力が抜け、

 心臓の動きが聞こえなくなっていき、

 身体が熱く汗だらけになっていた。

 朝の三時から起きてるだけでなく、鬼に会ったので精神的にヘトヘトで頭がボーっとしている状態で村長の家に着いた。

 家の中が騒ついていた。一人に話しかけた。

「どうしたのですか?」

「拓馬さんの通夜だからわし達は集まっていたんじゃが、村長が誰かに呼ばれたらしくて席を立ってから結構経つがなかなか帰ってこないんじゃ。」

「えっ⁈」

「あんたも拓馬さんを探すのを手伝ったらしいからまた手伝ってくれんか?」

「…えぇ、良いですが……ひとついいですか?」

「なんじゃ?」

「少し前 銃声が聞こえませんでしたか?」

「いや……聞こえなかった。」

「そうですか、分かりました。探しましょう!」

(…銃を使ってないなら鬼がやったと言えんな…俺がやたら鬼について触れたら不審に思われそうだから鬼に会ったとも言わない方がいいか。)

「その前にトイレを借りても良いですか?」

「どうぞ、古い家なので外にあります。」

 玄関を出て裏手に回り込んだら木で出来た古い便所があった。

 さて開けようとしたら開かない。誰か先に入っているようだ。

「しょうがない、ここで待つか…」

 スマートフォンでも出して遊ぼうかと思い下を見たとき、便所の扉の隙間から赤い水が流れているのに気がついた。

(なんだ?)

「……もしもし、大丈夫ですか?」

 

ダンダンダンダン!

 

強く扉を叩いたが反応はない。

 すると、扉に小さい穴が開いていることに気がついた。

 そこから覗いてみた。

 通常なら座って用を足している人の頭が見える位置だが頭が見えない。

(………倒れてる?…殺されてるのか⁈)

 ダッと走り出し、長老たちを呼び 金槌やノコギリ、釘抜きなどの工具で便所をこじ開けた。

 

すると、

 

大の字でひっくり返った村長が、

眉間まで鉈で叩き割られて、

口を大きく開け、

こっちを見ていた。

 

「ぎゃ!」

「うわっ…」

「そ…村長!」

 老人達が驚きのあまり声をあげた。

 赤い水はやはり頭から流れ出る血であった。

 

 



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第4章 十月二十五日(火) 稲葉

ここであちゃ…と思ったのが日時を合せれば良かったです。
ですが、日時あんまり関係なくなっちゃったので毎日の楽しみとして楽しんでください。

「さあ宮中先生!
なぜか村民が宮中先生を疑い出しましたよ。もしかしたら、村民全員が鬼かもしれませんね。」


「…………」

 私はふと目が覚めたらヒラデエジンではない見慣れない天井を見ていた。

 時間を確認すると朝の七時前だった。

(……どうしてこうなったのか経緯を説明しよう。あの後私は、村長が殺されていると幸三郎さんに説明するためにヒラデエジンに行ったのだが、ヒラデエジンには県から刑事が到着したばかりだったんだ。刑事に事情を説明したら「なにか関係があるだろう。」ということで調査してもらえることになったのだが、ヒラデエジンには音楽イベント参加者 刑事達と、とんでもない人数になってしまったために私は美浅神社に移動して来たのだったな。)

「おはようございます、先生 …よく寝れましたか?」

 浅見さんが起こしに来てくれた。

「おはようございます浅見さん。起きたらここはどこだ?ってなるほどぐっすりと寝られました。」

(…なにか私に隠しているような喋り方だな。)

「朝飯の支度があと少しで出来るので来てください。来客もいます。」

 浅見さんはまだ支度があるので台所に行ったが私は朝飯のところに行った。

 来客とは刑事のことだった。

「いやあ、昨日知らせてくれた駒川大学の宮中先生。」

「刑事さん、おはようございます。」

「刑事さんなんて呼ばないでくださいよ。酒を飲んだ仲じゃないですか?宮中…志さん。」

「………あっ!あのとき隣にいた方!確かに警察官だとおっしゃってた!……一(はじめ)さん」

「こんなところでまた会えるとは思ってませんでしたな。」

「全くです。」

 この時、浅見さんが鍋を持って来た。

「…ところで一さん、なぜ神社に?」

「あなたに用があって来たのです。」

「私に?」

「実は昨日、いろいろな方に聞き取りを行ってきたのですが、どうやらあなたが黒幕じゃないかって説がおおいにあるんです。」

「えっ!」

(…まあ、最初に疑わられるのは俺だとは思ってたけどな…)

「村民の主張としては、…」

「村を調べている。鬼を知っている。鬼を我々が恐れていることを知っている。仮面を被れば誰だか分からない。でしょう?」

「…どんぴしゃです。」

「たまにあるんですよ。受け入れてくれた人は引っ越した人だとか、何処の馬の骨だか分からない人を入れてはいけないとか。」

「職業柄、分かるようになったと?」

「まあ、そういったところです。」

「それで、あなたには美浅神社から出ないで欲しいのです。」

「はぁ?」

「もし、あなたがここにいて変化が無ければあなたということになり、あなたなら事件は起きません。あなたの疑いもなくなります。」

「なんでそこまで言えるのですか?」

「……ここだけの話、次の被害者は確実に羽田さんです。」

「幸三郎さんが⁈」

「はい。実は私もあなたが犯人だと思っていません。犯人は……稲葉だと思っています。」

「はっ?」

 誰?っと聞こうとしたとき、横で聞いてた浅見さんが喋った。

「刑事さん、ふざけないでください。稲葉は十年前に失踪したじゃないですか。」

(浅見さんが怒鳴った!…)

「えぇ、だからです。」

「あのすみません、浅見さん。稲葉ってどなたですか?」

「稲葉とは十年前に鬼に取り憑かれて拓馬の右目を奪い、私の記憶と左足の自由を奪い、妹を森へ連れ去った男です。」

(…浅見さん、明らかにいつもの冷静さが軽くなくなっている…)

「あの 文献に出てくる十年前の…。」

(稲葉って奴が拓馬くんの右目を奪って浅見さんの足を不自由にしたのか…それどころか妹を…連れ去ったとは…)

「私もぶん殴られてどういう風になったのか分からないけどのですが、稲葉はまだ捕まってないんです。」

「だから稲葉がまた十年たったから暴れているんじゃないかって思うんですよ。先生。」

「……すると、稲葉が私を犯人にするように動いていると?」

「おそらくは…。」

「…なんで稲葉は幸三郎さんを狙うのですか?」

「…稲葉は暴れる前、引っ越してきたのに羽田さんに挨拶に行かなかったそうなんです。多分それにムカついた羽田さんが村八分のようなことを仕掛けたのではないかと…」

「……………」

 浅見さんを横目で見た。唇を噛んでなにか言いたいことを我慢しているように見える。

「…十年、それ以上前からの鬱憤を晴らすために村長の大事な家族と、幸三郎さんと仲が良い村長を殺したと?」

一さんはゆっくりうなずいた。

(なるほど、そうとうな恨みがあるようだな。)

「だけど大丈夫です。ヒラデエジンにはイベント参加者などが大量に人がいますし、羽田さんの近くにはいつも誰かいるようにしてあります。これでも来るようであればあなたは犯人じゃない。」

「だけど、稲…」

(ハッ…浅見さんがとても辛そうな目をしてる。)

「…エヘン! …鬼が冷静になりヒラデエジンを襲わなかったら犯人は誰になりますか?」

「それは…」

「……………」

(大変なことになってしまったぞ!)

 我々は朝食を雑談しながら食べた後、一さんはヒラデエジンに戻り、浅見さんはその道案内で出かけてしまった。

 私は神社の敷地から出なければ良いということなので神社の建物を見てまわった。

 前日も見たので大体どういう造りなのか分かっていたし、なにせヒラデエジンと造りが鏡になってるだけなので覚えてしまえば簡単だった。

 面白いことに床下は屈めばなんとか行動出来るほど広いことや、つり天井になっているので縄を切れば屋根に出れることなど分かった。

 ただ、ヒラデエジンの私が泊まっていた部屋に相当する部屋はなぜか閂が刺され、開かないようになっていた。

 なんでも奥の部屋は祭りの道具や私物でいっぱいなのだとか。

 ちなみに私がどこに泊まっていたかというと、ヒラデエジンの応接間に相当する、神社の本殿部分に泊まっている。

 私は探検後、ヒラデエジンから持ってきた『羽田家伝記』を現代語訳していた。なんとなく村長に「これを読めるようにしてくれ。」と、頼まれているような気がしたからだ。

 スマートフォンのアプリで読み込み、文字に起こす。

(まさか学生達も私が殺人容疑でこんな村に幽閉されているなんて考えている奴はいないんだろうな…)

 残念なことにまたこんなことが頭をよぎる。

(…整理すると、鬼は稲葉って人がやってる

 鬼はなにかの理由で犯人を私にしたがってる

 村人も私が犯人だと思い始めている…。

 村人まで私を犯人だと思い始めている!

 これは大変なことになった!早く対策を取りたいが動けない…。ここまで来たらとっととヒラデエジンを襲撃して欲しい…

 だけど、まだ分からないことも多い。)

 時間は飛ぶように過ぎ、正午ごろ浅見さんが帰ってきて昼飯の支度をしてくれた。

「なんですって!?音楽イベントの数名が逃げた?」

「はい。刑事を送り届ける直前、数名が何かから逃れるように逃げたそうです。しかも幹部のメンバーで、拓馬くんが死んだことで精神的に追い詰められたからじゃないか?と刑事が言ってました。ヒラデエジンが必死に残るよう説得したらしいのですが、ヒラデエジンは突き飛ばされて腰を強打し動けなくなったそうです。これではもう音楽イベントのメンバーはヒラデエジンと刑事の力ではどうにもならなくなった言えるでしょう。」

「…これも鬼かい?」

「おそらくは…」

(嘘つけ、他に裏があるんじゃないか?)

「…で、残りのメンバーはどうするんです?リーダーがいないんじゃすぐ散り散りに逃げるかパニックが起きますよ。それこそ車を借りて来たような人は歩いて帰ろうとする人もいるはずです。それこそ…遭難する人とか出るんじゃないんですか?」

「そのためヒラデエジンと私と刑事で相談し、県の方から応援を頼むことにしました。早ければ明日の夜には到着するはずです。」

「…そうですか。」

 食事の後は伝記の現代語訳もする気が起きなくなり、ぼんやりと庭と門 その先から見える村の中心地を見ていた。

 神社は山の中腹にあるので村が門からでも見える。

 すると、門に鶏が現れた。どうやら鶏が下から上がって来たらしい。だが不思議なことにこの鶏は首輪をつけリードが伸びている。

 鶏がこっちに歩いてくる。

 すると数人の子供が追いかけるように上がって来た。

 鶏と子供達がこちらにやって来た。

「こんにちは。」

「こんにちはー!」

 私には弟がいる、また学生時代には後輩の面倒を見るといった形で年下と付き合うことが多かった。

 現に今も学校の先生をやっているのだから年下との付き合い方は慣れている。

 しかも小学生ぐらいの子供は得意中の得意だ。

 私は神隠しを調べたときに、子供を誘拐したことを隠すために神が隠したということにし、子供を売ったりしていたのではないかと仮説を立てた時期があり、子供の誘拐などした犯罪者を取材したことがあった。

 そこで学んだことなのだが、小学生ぐらいの子供達に親や先生は「知らない人にはついていかないように」と教えるが、話掛けられたり、話が合ったりすれば子供の中で(この人は知らない人から、〜〜を知っているおじさんになる。)よって、名前程度の知り合いになった子供(親にも自分のことを話さなそうな子)を誘拐するんだ。と言っていた。

 本当なのか確かめるため、私は住んでいるところで行われているお囃子の練習会に、今の小学生が見ているようなアニメや特撮、ドラマ、テレビ番組を調べ上げ練習会に行ってみた。

 すると、少し話掛けたら小学生が興味を私に持ち、あっという間に子供達の人気者になり 数ヶ月後、子供会の役員に抜擢されたことがある。

 そのノウハウを知っていたので自然と話掛けたのだった。

「おじさん、なにしてるの?というかここの人じゃないでしょ?」

 一番背の高い小学五年ぐらいの男の子が聞いてきた。

「よく分かったね。私は東京の大学から来た先生だ。」

「東大?」

「先生と言ってもそんなに頭は良くない。分かりやすく言えばお祭りを研究してる先生だ。」

「この辺りだと、四月四日にやってるだけで今はなにもしてないよ。」

 鶏のリードを持っている小学三年ぐらいの男の子が答えた。

「お祭りだけじゃなく神社やお寺も調べてるんだ。」

「ここでなにしてるの?」

 これは小学三年ぐらいの女の子が聞いてきた。

「浅見さんにお願いしてここの神社のお勉強をしてるんだ。そして東京に帰って学生さんに先生がお勉強したことを教えてあげるんだ。」

「いつまでいるの?」

 小学一年ぐらいの男の子が聞いた。

「さあ、分からないなぁ。浅見さんは物知りだから当分帰れそうにないほど教えてくれるんだ。」

「ふ~ん。」

「ところでその鶏は?」

「これ?これは鶏の散歩。庭だけだと鶏が飽きちゃうんだって。」

「散歩させるとはまるで犬だな。」

「この鶏は犬より利口だよ。」

 リードを持ってた小三ぐらいの男の子が腕を横にすると、鶏が腕に飛び乗った。

「頭の良い鶏だな。」

 このとき笑ってみせたら、四人ともとても嬉しそうな顔をした。

 その後、この村のことや東京のこと、最近のテレビの話などいろいろ話した。

小五の男の子は圭

小三の男の子は岳斗

小三の女の子は香和

小一の男の子は三郎と言い、岳斗と香和は双子であることが分かった。

 午後の四時ごろ

「お母ちゃんに怒られる」

と言いながら三郎を送るために四人は鶏と帰っていった。

(…こういう地域には子供がいないんじゃないかと思っていたが、まさかあんなにいたとは…)

 四人を門から見送りながら考えた。久しぶりに子供と話したため少し元気が出たため現代語訳を再開した。

 午後七時ごろ、夕飯の支度が出来たと浅見さんに言われた。

「ここに四人も子供がいるとは思いませんでした。」

「圭吾達に会ったんですか?」

「はい。」

「先生…」

浅見さんが箸を置く。

「あなたは自分の立場が分かってますか?容疑がかけられてるんですよ。もしかしたら鬼が遠くから四人とのやりとりを見てて、あなたのせいにするために四人を襲うかもしれませんよ。」

「…えっ………!」

(しまった!そこまで深読みしていなかった!…)

「幸いにもさきほど三郎の父親から東京の先生に世話をかけたと言ってましたから大丈夫だと思いますが…」

「明日はちゃんと家の中にいます…。」

「そうしてください…」

そう言って箸を持ち直す。

「そうだ!明日の夜に県から応援の警察官が来るそうです。稲葉と先生がやっていないことが早く証明されればいいですね。」

(…なにが言いたいんだ?)

 食事が終わり、私は部屋に戻って伝記の現代語訳を再開した。

 また訳しながら考えた。

(…多分、

というか最初から俺は「浅見神職が」なにか隠してるんじゃないかと思っていたが、

稲葉と知り合いなんじゃないか?

それで、

俺を追い詰めるようにしていてどうにか俺を犯人にして…

そうなったら稲葉をどうしたいんだ?

「私の力でお前を殺人罪から解放してやったのだから俺の奴隷のように働くんだぞ!」

ってことにしたいのか?

はたまた、

村長が死に息子の拓馬さんも死んだ今、

美朝御参の力関係

すなわち行政の村長 宗教の美浅神社 金融のヒラデエジンが崩れた訳だから、

ヒラデエジンに圧力をかけて一気に村のトップになろうとしてるのか?

しかしこの案だと俺が犯人である必要がない…。

…トップになるため、

稲葉を使い殺人を行うが稲葉は村民であるため、

稲葉を助けるために俺を犯人に…ちょっと待て!)

 

ちょうど訳していたところはヒラデエジンの金の稼ぎ方が書かれていた。

そこには、「紐やお茶 染料を売買している。」と書かれていた。

(茶や染料…だったら栽培してる畑があるはずだがそんな畑は見当たらなかった…それと紐…紐?…)

私は顔をあげた。

祭壇を見る。

木花咲耶姫を祀った祭壇が閉ざされている。

(…あれを開ければ何か分かるような気がする。)

私は祭壇の前に立った。しかし祀られている扉を開けるための腕が出ない。

(民俗学者としてこの扉を開けても良いのだろうか?…こっちは命がかかってるんだ!…いや、そもそも民俗学はその土地の人の生活のことだ!それに介入しようとしたのは我々民俗学分野の人間だ。今回私が犯人にされそうなのも自然な流れだ。)

「剛に入れば郷に従えか…」

(だけど…)

とても長い時間をかけてついに私は扉に手をかけた。

(民俗学者を捨てて生きるか?民俗学者として犯人にされるか犯人に殺されるか?……。)

「ギャー!!」

扉を開けようとした瞬間、浅見さんの叫び声が聞こえた。

「浅見さん!」

 私はバッと部屋を飛び出し、飯を食べる客間に向かった。

 客間にまでには二回曲がらないといけない。

 その二回目の角で、私は前から走ってきた人とぶつかった。

「すみません。大丈夫ですか?」

 パッと私はぶつかった人を見ながら謝った。

 するとその人は鬼の面を着けている。

 ただ、昨日会った鬼と少し違うのが、顔に巻いている手ぬぐいが私と同じのような紫色をしているところだ。

「あっ!鬼だ!」

 思わず叫んだ。

「…………!」

 鬼は「しまった!どうしよう…」的な感じだったが、叫んだ拍子に鬼が我に帰り駆け抜けて行った。

 追いかけたが鬼は玄関に飛び降り、扉を突き破る勢いで外に駆け抜けて暗闇に消えて行った。

「浅見さんは大丈夫だろうか?」

 私は玄関から客間の方へ引き返した。

 すると、一つ目の角のところで浅見さんに会った。

 なにかとても怒ったような 痛さをこらえるような顔をしていた。

「…先生、今玄関でなにをしてたんですか?」

「鬼とぶつかったので追いかけたんです。」

「嘘つけ!」

 浅見さんが急に怒鳴った。

「えっ⁈」

(下手に大声をあげて…演技か?ついに俺に追い詰めに入ったのか?)

「あんたは、自分で仮面を被って…」

「そんなことする必要がないだろう!」

「じゃあ、その紫の手ぬぐいはなんだ!」

「…それは鬼が私に合わせたんです。現に今私は奥の角で鬼とぶつかったんですよ。」

「そんな嘘が通用するか!」

「私がやったという証拠があるのか!」

 思わず声が大きくなる。

「ある!奥の角のところに私の腕と鉈を落としたろ!」

 浅見さんの右手には叩き斬られたような左手と赤く染まった鉈を持っていた。

「………。」

(…あんたはここまでして私を追い詰めたいのか…)

「さあ言ってみろ!私がやりましたって言ってみろ!」

「俺は無実だ!絶対にやってない!…それより病院に行かなくていいのか?」

「貴様がやったことを認めたら行く。認めないなら俺は大量出血で死ぬ!そしたらお前は俺を見殺しにした犯人だ!ハハハハハハハハハハ!」

「…………」

(…この男、少しおかしくなってないか?)

「ハハハハハ!さあ言え!俺がやりましたって言え!」

「……………」

「ハハハハハァ…さあ!」

と言いながら浅見さんは倒れ込んだ。

 口だけが達者に笑いながら自白しろと言っている。

 その時、玄関からごめんください。と声がした。

 鬼が神社から飛び出して来たので驚いて様子を見に来てくださった方だった。

「鬼に会ったというのなら話がはやい。鬼に浅見さんが斬られたんです。どうにか助けてください。」

 村人は分かりました。

 と言って浅見さんを連れて村の方へ降りていった。

 その間も浅見さんは騒いでいたようなのでいなくなったら急にシーンとなにも聞こえなくなった。

 ただ言い合いになったときのもの、「お前が見殺しに…」などと反復している…。

(なにはともあれ、村人に任せれば大丈夫だろう。)

 そう考えたら無性に眠くなってきた。

 玄関に鍵をかけようとしたとき、目線上にヒラデエジンの明かりが見えていたのだが、ヒラデエジンから霧のようなものが出ていた。

(夜遅くではないのに霧とは珍しい現象だ)

と思った。

 



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第5章 十月二十六日(水)山狩り

いよいよ物語もラストにさしかかりました。
実は三部作にする関係で、全体的に短めです。

「さあ、宮中先生!
ついにあなたを殺そうと村民全員が動き出しましたよ。」


「ハハハハハ!お前が殺したんだ!」

「何度も言ってるだろ、俺は殺してない!」

 寝言とは思えないほど大きい声を出した。

 そのおかげで目をはっきりと起こしてしまった。布団は汗びっしょりだった。

「外の空気でも吸うか。」

 昨日閉めた鍵を開け、神社の庭に出た。

 もう霧は晴れてとても良い朝だと思った。

 そのとき結構な風が吹き、顔にしている紫の手ぬぐいが門近くまで飛び落下した。

(危ない、わざわざ降りるところだった)

 私は紫の手ぬぐいを取りに行き何気に下の方を見た。

 すると、階段の一番下に岳斗と香和と三郎と鶏がいた。

 いた まではいいのだが、なんと鬼に追われている。

 神社の敷地から出てはいけないどころの話ではない。

 私は無我夢中、二、三回転がりながら階段を駆け下った。

 鬼は包丁のようなものを振り回しながら鶏と格闘している。

 あと、五段ほどあったが構わず鬼に向かってジャンプした。

 その刹那、鶏に包丁が刺さった!

 しかしこれはとても好機だった。

 鬼の眼中には鶏しかなかったらしく包丁から手を離していたのだ。

 御構い無しに私は鬼の面の上からキックしてやった。

 鬼は不意の出来事に尻餅をついた。

 私は鬼に馬乗りになると面と鼻と口を隠す手ぬぐいをとることに一生懸命になったが、鬼も取られまい 逆に殺してやろうと必死に抵抗してくる。

 私は片手で鬼の顔にパンチを繰り返す。

 鬼も鬼で下からボディにパンチしてくる。

(ジャケットを着てれば良かった…)

 私のジャケットは旧式でとても重い、これは綿が古くなったことにより重くなっているので、人のパンチぐらいなら吸収してしまうのだ。

 また、他にも理由があるのだがそれはまたの機会にしよう。

 痛みに耐えながらついに私は手ぬぐいを外し、近くに投げた。

(次は面だ!これさえ外せば言い逃れ出来なくなる。)

 そう思ったとき、鬼が渾身の力を込め身体をひねり私を振り落とした。

 すると鬼は私達を襲わず、包丁や手ぬぐいも回収せず北の方へ逃げて行った。

 少しの間だったが本気の殴り合いでとても疲れた。岳斗と香和と三郎が近づいてきた。

「はぁはぁ…三人とも怪我はないか…?」

「ないけど…鶏が…」

 鶏に包丁が突き刺さった状態で倒れている。

 私は鶏の近くに行き、包丁を抜いてやった。

(唐揚げや焼き鳥が大好きだが少し大赦しなければならないな…)

 振り向いたら三郎が泣きそうな顔でこっちを見ている。

 少し考え、私は鶏に向かいこう言った。

「…鶏、ありがとう。お前は三郎と三郎の友達を守ったんだな、とてもえらいな。なんとか俺が鬼を撃退しといたからな、三人とも元気だ。安心して眠ってくれ。」

 そして手を合わせた。

 次に三郎を見た。

 もう涙が落ちるのをこらえているのがよく分かる。

 私は腰を下ろし、三郎の目線に合わせた。

「三郎、君はとても優しいんだな。先生は動物が人間を助けるなんて、おとぎ話のだけかと思っていたよ。…この鶏はお父さんが育てていたのか?」

「この鶏だけは父ちゃんがくれるって言った…」

「そうか。父ちゃんには先生からも言ってあげるよ。…父ちゃんも鶏が死んだことには怒りはしないだろうし、もしかしたら代わりの鶏をくれるかもしれないぞ。」

「…………」

「それと、どうして鶏に名前をつけなかったのか先生に少し分かるぞ。この鶏は結局締めることを知っていたろ?」

「!………」

「やっぱりな。君ぐらいの歳なら絶対名前をつけると思っていたんだが…君は賢いな。…三郎!負けてはいけないよ。生き物は絶対別れないといけない時が来るんだ。それが今だっただけだ。だけどな、三郎!これからとんでもない人数の動物や人間に会う。だけどそれ全て別れないといけない時が来るんだ。それの一部だと思うしかないんだ。」

「…………」

「それと、一つ教えるよ。」

 私は三郎を抱きしめた。

「男は泣いてはいけないとよく言われてるだろうがな…言われてるだろうが一つだけの理由で泣くのはいいんだ…友達のためを思う時だ。」

「…………」

「だから…もし泣くのを誰かに止められていても…今なら見えないから…と言うより、友達のためを思って泣くのはとても素晴らしいことだから…今はゆっくり…」

 それまで静かだった三郎は二回大声で泣いたがすぐに泣き止んだ。

 やはり彼の中のプライドがあるのだろう。

 岳斗と香和は三郎が泣くのを初めて見たような困った顔をしていた。

 だけど二人は三郎を心配してのことだろうと思っていた。

 私は包丁を拾い、鶏を持って三郎の家まで行くことにした。

 このことを報告する約束を三郎としたし、鬼がまた来るかもしれなかったからだ。

 三郎の家に着き、訳を話すと三郎の父親は三郎に新しい鶏をくれてやることにした。

 そのほか鬼の情報をすぐヒラデエジンに伝えると言ってくれたので私は帰ることにした。

 神社に着くと、浅見さんが帰って来て門の下にいた。

 斬られた腕を包帯でグルグル巻きにしている。

「どこへ行ってたんだ?」

 怒ったような口調だ。

「鬼が三郎を襲っていたので助けて父親のところまで送って行ってたんです。」

「余計なことをするなって言ってるだろ!」

(すごい感情的な言い方だな…ぼろが出るのももうすぐか?)

「そうだ!鬼が着けていた手ぬぐいを取ったんですよ。」

 そう言って鬼の手ぬぐいを見せてやった。紫色の手拭いだった。

「…!………そ、それで鬼はどこへ?!」

「北の方へ逃げました。なにせ力が強い鬼だったので取り逃がしましたが…。」

「………。」

 浅見さんが急に向かって来た。

 なにかされると思っていたが、そのまま私の脇を通り過ぎた。

「どこへ行くのですか?」

「ヒラデエジンのところだ!すぐに鬼を追わせる有志を募らせてくる!」

(早口で焦っているような言い方…あとひと息か…)

 私は浅見さんの背中を見送って神社へ入り、伝記の前に座った。

(さて、この調査もいよいよ佳境だ!どうやら全て繋がりそうな予感がしてきたぞ。)

 黙っていたが、あと一息ですべて訳し終わりそうだった。

 しかもなんとなく美朝村の秘密も見えてきていた。

 午後はヒラデエジンに村の有志が集まって山狩りを決行した。

(このご時世に山狩りとは珍しい。)

 門のところから勇んでヒラデエジンを出発する男たちを見てそう思った。

 道祖神の交差点のところを右にまわり有志二十人が山の方へ向かって行くが、先頭の男は陣笠のようなもの、続く者が旗、竹や木の棒、農機具など持っている。

 そのほか、オレンジの帽子を被った者もいる。これは猟師だ。

(銃まで使うのか…まるで一揆だな。)

 そう思いながら見ていた。

 そのあと何回かに分けて有志がヒラデエジンを出発していくのを見ていた。

 午後の六時ごろ

 浅見さんはいまだ帰ってこない。

 私は現代語訳をだいたい終わらせることが出来たため、門から村を見ていたら昼間山に向かって行った者がヒラデエジンに帰ってきているのを見ていた。

(また明日捜索になるのか。)

 そう思って門をくぐったとき、「先生!」と下から声が聞こえた。

 下から上がってきたのは三郎の父親だった。

「先生!逃げてください。」

「どうしたんですか?」

「ヒラデエジンのところに行っていた圭吾に聞いたんですが、浅見神職が「鬼はあの東京の学者に間違いないんだから、早く取っ捕まえて警察に突き出しましょう。」って提案しているのを聞いたらしいんです。ヒラデエジンは神職以外と面会謝絶状態なのですが圭は盗み聞き、ヒラデエジンを脱出して俺に教えてくれたんですが俺に神職を超える力がないからこうやって頼んでいるんです。」

(浅見め!ついに正体を表したな!)

「よく分かりました。一つ質問していいですか?」

「なんでしょう?」

「ヒラデエジンの畑はどこにありますか?」

「……バス停までの間の道の両脇の中にあると聞いたことがありますが…見たことはありません。」

「分かりました。ありがとうございます。…お父さんは神社の床下に隠れててください。有志はこの神社にやってくるはずです。有志は裏の森に誘導しますから誰もいなくなったら帰ってください。」

「先生は?」

「私はついにこの村に来た意義を見つけました。絶対に死にません!だから大丈夫です。さあ早く!」

 三郎の父親を早く神社に入れ見つけた床下に隠した。

 そして、私はまた御神体の扉の前に立ち、手を合わせてから静かに扉を開けた。

 中には乾燥した紅葉のような葉っぱが入っていた。

(ビンゴ!美朝村の前は美浅村、そして最古は美麻村だったんだ!)

 私は急いでショルダーバッグにその枯葉を入れ、門のところまで戻った。

 ヒラデエジンから松明の行列が出発し道祖神を通り過ぎこちらに向かって来るところが見えている。

(こっちに来たな!)

 また神社に戻り灯りを目一杯つけた。

(気づいてない振りぐらいにはなるだろう…そうしたら三郎の親父が危ないか!?)

 急いで三郎の父親を床下から出し、予定が変わったので森に入り南を通って帰れと言った。

 父親はすぐに森に入っていった。

 そして私は天井に隠れた。

 真っ暗な中、足元から光が漏れている。

 

下がガヤガヤとうるさくなってきた。

 

(どうやらいないってバレたかな?)

私は静かに天井を移動し、飛び降りれば森に入れるところに来た。

 スッと忍者のように静かに降りたつもりだったが裏を見回っていた人に見つかった!

「いたぞ!鬼だ!マタギのように毛皮を着てるぞ!」

(浅見め、うまいこと私を鬼だと洗脳してくれたな。村民は鬼=仮面の男ではなく=毛皮、私のジャケットで判断してるのだろう。)

その叫んだ奴を黙らせたいところだがそれどころではない。

 灯りがない状態で森の中を駆けた。

(「盆地の尾根一帯は私の土地ですから、拓馬は目をつぶっていても動けるんです。」)

 拓馬さんがいなくなった後、幸三郎さんと話した言葉が反復した。

(三歩進んだら木が生えてるからそれを右手で流して左斜め四十五度方向へ五歩進むと段差があるからそれを乗り越えると…)

 こんなこともあろうかと、神社が持っている土地ギリギリまでは私も目をつぶって走れるほど地形を理解しておいたのだった。

 後ろから、滑ったの木にぶつかり倒れた人を看病する声が聞こえた。

 あっという間に神社の敷地内で追っ手を振り切った。

 

(この先に捨てられた畑みたいなところがあったが、伝記によればあれは捨てられてない。…んっ?人か!先回れた?)

 畑まで来たら私は人の気配を感じ近くの木に隠れ様子を見た。

 そこには鬼と浅見さんが向かい会ってなにか話してるようだった。

 鬼は仮面しかつけていなく口と鼻が見えている。

(やはりあの二人は知り合いだったんだ…このままだとどうせ私が捕まる……まてよ?今鬼なのは俺じゃなく、このジャケットを着ている者なんじゃないか?…俺は村民のほとんどに顔を見せてないし…ということは…)

 私は慌ててジャケットを脱いだ。

 顔にまくスカーフがめくれたのでシャツの中に綺麗に入れ直した。

 ジャケットを手に木の陰から覗くと、

浅見さんを鬼が棒のようなものでぶっ叩いた。

(いまだ!)

 浅見さんはその場に倒れた。

 鬼はそれを見ている。

 こちらに気がついていない!

(鬼は鶏からなにも学んでないのかな?)

 私は鬼にジャケットを頭から被せ、鬼の面を無理やり剥ぎ取った。

 代わりに鬼はジャケットをつかんだ。

 パッと飛び退き、私と鬼は対峙した。

「鬼よ、お前の印象をいただいたぞ!」

 そう言い私は頭に鬼の面を付けた。

「貴様か!俺の邪魔ばかりしてたのは!」

 鬼はジャケットを着ないで腰に巻いた。

「邪魔なら俺を殺したらどうだ?」

「言われなくても!」

 鬼は棒を捨て、鎌と鉈を抜いた。

(本当はここで村民に登場してもらわないと「こいつが鬼だ!捕まえろ!」って言えないんだけどな…)

 残念ながら村民は来ない。鬼が走り出した。

(やむを得ない。)

とにかく鬼から逃げるべく走った!

 

(「背の低い植物が多いですから音を使うのです。」)

「分かってます。幸三郎さん!」

 ガサガサガサっと耳で聞きながら走る。

 月光で照らされているから完璧に耳頼りというわけでもない。

 するとだんだんコツが掴めてきた。

(近くに段差がある。木が生えている。…なぜか分かるぞ。)

 結構なスピードで走っていく。

 すると川に出た。

 後ろから鬼が来ているので迷わず川の中に入る。

 バシャバシャと川下に向かう。

 川の真ん中まで木は生えてないので足元が月明かりに反射しキラキラ光っている。

 そのとき、明らかに先の流れが速くなっているところがあることに気がついた。

(「龍の巣に入れば妖怪岩に引きずり込まれる」マズイ!)

 私は止まり後ろを見た。

 鬼がゼェゼェしながら追ってきている。

 月明かりが強いので良く見える。

 本気で私を殺したいという欲なのか、

涙を流し、

鼻をすすり、

よだれを垂らしている。

(進めば斬り殺され、下がれば水死。どっちがいいんだ?志!…)

 鬼が息を整え、一歩前に進み出した瞬間である。

バシャバシャバシャ!

 鬼の足元に 水面に三十センチほどの水柱が五、六本できた。

「いたぞ!毛皮と仮面の鬼だ!」

 鬼は振り向き、私は声の方向を見た。

 鬼の後ろに松明が見える。村人が追いついたのだ。水柱は村民が投げた石らしい。

ガスっ!

 一つが鬼に当たったらしく鬼はその場に倒れこんだ。

「やめろ!」

 誰かが叫んだ声が聞こえた。

「まだ一人残ってるぞ!ボコボコにしてやろう!」

(なに!…)

 思わず数歩下がった。

 しかしこれが命取りだった。

 数歩で私は苔が生えている岩の上に乗ってしまったのだ。

 それだけでなくその岩から先が激流。

 あっという間に私は龍の巣に入ってしまったのだ。

 

 さっきまでの川の流れが嘘のようなスピードで流されている。

 しかも川底が深く足が届かないし、腰あたりに水の流れがあるのか浮き上がれない。

 目を開けて見たら、両脇に石が積み上がっている。

(自然に石がたまってダムみたいになってて、立ってたところに砂利が溜まっているんだけれど、そこから先は堤を切ったような地形になっているからこんなに流れが速いのか…これが竜の巣の正体って訳だが…もう…息が、もたない…)

 そのとき、流されていた方向とは逆、つまり川上に向かって急激にターンした。

「ウガッ!…」

 急な出来事だったため口を開いてしまった。

(あっ…終わった…んっ?空気がある?!)

 大慌てでその空気を吸い込んだ。少し湿った息苦しいような空気だ。

(そうか!シャツの間にスカーフを入れておいたから、シャツの空気が入り込んだりはき出した空気が残ってたんだ。…といっても息を止めつつ動けるのはそう長くないな…。)

 その瞬間、また逆方向、川下に向かって揺さぶられ、流され出した。

 眼を開きどのような状況か確認したら、目の前に大きな岩があり、岩下に布のようなモノが見える。

(そうか!これが「妖怪岩」だ!岩が川の流れを遮っているから水が渦を巻いて岩下に引き込もうとするように見える現象になるんだ。そして、あの布があるあたりは完璧に水流がないんだな。)

 また身体が振られた。

 なんだか岩が近い位置にきている。

(次振られる瞬間に岩を蹴り飛ばして脱出しよう。だんだん岩に引きずられているようだ…)

 足を一度伸ばし岩が狙える位置に来たら一気に屈伸した。

 そのとき足にあの布が絡みついてきた。

(かまってられん!)

 俺は思いっきり岩をキックした。

 その瞬間身体も反対側に振られた。

(頼むぞ!)

 その拍子にスカーフが緩みグーっと顎下まで下がった。

 また、シャツから気泡がジュワジュワと抜け目の前が白く見えなくなった。。

 その気泡が収まった頃、川底がものすごく近くなっていた。

 水の流れも穏やかになり、私は川底に足を下ろし立ち上がった。

 水量、水流共に流される直前ぐらいしかない。

「助かった…」

 思わずつぶやいた。

 この辺りは両側が崖になっているが右岸側がなぜか明るい。

(幸三郎さんと話したことを思い出せば、この辺り崖を登ればバス停のはずだ。)

 その前に、首が重いので触るとスカーフが巻き付いていたので、外し水を絞り、このまま口に巻いたら苦しいので頭に巻こうとしたら、頭に面がちゃんと付いていた。

 肩にはショルダーバッグもあった。

 そして、妖怪岩にあった布は足に絡みついたままだった。

(物をなくさないなんて学者として当たり前だが、あの状況で無くしてないのには褒めてもらいたいな。)

 右岸は一メートルぐらいの凹凸の多い崖なので登れそうなところから登った。

 すると明かりはパトカーや護送車であった。

「そういえば今日に県から応援が来るんだったな。」

「宮中先生?宮中先生じゃないですか!」

 私が上ったのは一刑事が車の誘導と点呼を行っているところだったのですぐ見つけてもらった。

「どうしたんですか?」

「村民に追われて、いままで逃げていたんです。」

「鬼はどうしたんですか?」

「鬼は村民の投げた石にぶつかったらしく倒れてました。…それよりもこれを見てください。」

 ビショビショのショルダーバッグからあの枯れ草と、浅見さんと鬼がいた畑で採った草を見せた。

「大麻です。乾燥大麻は神社の御神体で、敷地内の畑で大麻を育ててました。」

「…この村から大麻栽培申請は来てない。」

「それと、文献の現代語訳が終わりました。要約すると、ヒラデエジンの起こす霧は大麻やケシの成分を配合したもので、その技術はヒラデエジンしかしりません。それを浴びれば村民が元気になり、歯向かえば霧を起こさないという風にして村民を従えていると書いてあるのです。」

「なんと!ケシまで!」

「村民から聞いたのですがヒラデエジンの畑はここからヒラデエジンに向かう道の森の中にあると…」

「分かりました。あとは警察に任せてください。それより早く身体を温めたほうが良い。」

 そう言われ、警察の大型車両に案内されシャワーを浴び、新しい服を貸してくれた。その間にどのような命令が出たのか分からないが、たくさんいた警察官達がいなくなった。

 私には 村民からの護衛のために二人警察官が付いた。

 村民の追っ手が来ても撃退できそうな体格の良い若者だ。

 二人は私にたっぷりと食事を出してくれたが、そんなに食べられないので三人で食べた。

 食べ終わるころ、もう東が明るくなって来ていていままで「黒」だった空間が段々「青」になってきていた。

 



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エンドロール 十月二十八日(金)

これが最終回です。
短い期間でしたがありがとうございました。
次の新作もご期待ください。
確認して分かったのですがこの作品は2017年3月22日には完成していたようです。



「さあ宮中先生。上地先生が…」


 三人で食事を済ませ、コーヒーでも飲んでいた午前七時ごろ。

 村の方からぞろぞろと音楽イベント参加者が警察に連行されてきて、停めてあった護送車に続々と乗せられていった。

 怒ったような目をこちらに向けてくる者もいて、とても見ていることができなかった。

 一刑事がやってきた。

「宮中さん。やりました。羽田さんの畑はやはりケシと大麻を栽培していました。また、屋敷を捜索したら植物をすり潰すための石臼や霧を出す蒸気発生器のようなものを見つけました。また、神社や有志の人の家を家宅捜索しましたらほとんどの家から大麻が出ましたので、これから本庁のほうに大半の人を輸送します。」

「…幸三郎さんは、いや羽田氏はケシや大麻を霧のように噴射していたということですか?」

「そうです。それで中毒状態に集落の人をさせておけば従わない人はいなくなるでしょう。」

「………。」

「ですが、先生は顔をスカーフで隠してましたから毒霧をあまり吸わずに済んだのです。運が良かったですな。」

「………!」

(そうか、上地先生は私が水に落ちることではなく、霧を吸わないようにと考えていたのか!…子供たちは⁈)

「子供達はもう中毒ですか?」

「羽田さんは良い人で、ケシの霧を起こすときはちゃんと予告してから起こしたそうです。子供達に吸わせたらまずいと考えていたのでしょう。また、親には「霧の中から鬼が来る」としつけるようにアドバイスしていたそうです。」

「…………」

(しまった…幸三郎さんはあくまで味方だったのか…子供達のことまで考えて…疑った自分が馬鹿のようだ…)

「羽田さんはこういう風習をどうにかしたいと考えて子供達に吸わせないようにと考えたのでしょうな。」

「私もそう思います。と言うよりそうでありたいです。」

(そうだったな。最初、私に連絡してくれた幸三郎さんは「村がなくなると村民のふるさとがなくなってしまう。若い連中も頑張ってはいるが、風習というのは消えたりする。だからそれを保存して欲しい。」と言われたんだった。逆に、「この村にはこんな風習が残っているから消して欲しい」という意味もあったんじゃないだろうか?)

「…浅見さんは?」

「浅見神職は、有志の人々と一緒に帰ってきてとりあえずヒラデエジンにいます。なにか失ったように虚空を見つめていました。」

「……鬼は?」

「村民によると、鬼だと思い込み石をぶつけたらその場に倒れたが起き上がり数歩あるって足を滑らせ川に流されたそうです。」

「なるほど。」

 そのとき突風が吹き干してあったあの布が飛びバス停に引っかかった。

 私と一刑事はバス停に布を取りに行きさっきの話の流れから、裏の崖から川を覗き込んだ。

 すると、私のジャケットを腰に巻いた男と男の回りに白い棒のようなものがたくさん流れついていた。

 警察が早速引き上げると、夜対峙した男だった。

 彫りが深く鼻が高い男前だった。

 だが額が石が当たったときにグチャっとなったようになっていた。

 もう一つの沢山の白い棒は骨であった。

 しかし、その骨はその男を取り囲むように流れついていたのが異様に思われた。

「……たしか、浅見神職の妹ってまだ見つかっていませんでしたよね?」

「そうですが…どうしてこれが神職の妹だと分かるのですか?」

 それは…と言いかけたとき、県からパトカーの応援がきたので、羽田幸三郎 美浅神社の浅見一樹だけでも輸送することになった。

 

 ヒラデエジンこと羽田幸三郎が連行されて来た。

 連行している若い警察官と比べるとどちらが逮捕されているのか分からないほど堂々としていた。

 幸三郎さんの目がこちらを向いた。

私は、

「(あなたを疑ったことを許してほしい。また、子供達は誰でも良い子ですからこの集落は大丈夫だと思います。それと、『羽田家伝記』の訳が終わりましたが、留守の間は私が補完しておきます。)」

と念じたら、ホッとしたような顔を見せ、パトカーに乗り込んだ。

 次に浅見さんが来た。

 包帯で巻かれた腕がとても痛々しい。

「一さん、三分ほど会話できますか?」

「…良いですが、容疑者はあなたになにかもってますから気をつけてください。」

 私が浅見さんに近づくと浅見さんの護衛警察官が緊張した面持ちをしていたが、浅見さん本人は昨日までの「東京の学者をどうにかしてやろう。」という眼の輝きが全くと言っていいほどなくなっていた。

 すべての生きる意味がなくなったかのような眼だ。

「…俺は、親友を救おうとしただけなんだ。」

「はい。」

「あんたが、…あんたが頭が良くて…運が良くて…全部失敗させやがった…。」

「はい。」

「………。」

 浅見さんはしゃべるごとに段々と顔を下げていったが、私のそっけない態度に怒ったのか、なにか言いたそうに顔を上げた。

 だが、私と眼を会わせたら声にならない口を動かし黙ってしまった。

「…浅見さん、これを見てもらってもいいですか?」

 懐から足に絡まっていた布を出した。そのとき「あっ!」と浅見さんが声をあげた。

「妖怪岩に引きずり込まれた時によどみに掛かっていました。…見覚えはありますか?」

「妹のです…。なんで?…」

「この説を立証するためにはもう一つ証拠がいるのですが…浅見さん、稲葉さんと妹さんは両思いかなにかでしたか?」

 黙ってゆっくりうなずいた。

「分かりました。すべて立証しましょう。…浅見さんは、妹が連れさらわれたとおっしゃっていましたが本当はそうではなく、鬼のようになってしまった妹さんが稲葉さんを救おうとしてなんらかの原因で妖怪岩に落ちたのです。だからいままで行方不明だった…。」

「けれど…、たしかに私はあのとき稲葉が妹を棒で殴り殺すのを見たはずですが…。」

 私はスマートフォンから一枚の写真を選び浅見さんに見せた。

「これは先ほどバス停の下に流れ着いていた遺体と遺骨ですが、この骨に布と同じ片が付着していました。…妹さんで間違いないと思います。そしてこの頭蓋骨。一カ所もひび割れがない。すなわち、殴られていても致命傷ではなく、稲葉さんを追って森に入って妖怪岩にまよいこんだのではないかと…。」

「そんな…」

「そのうえ…あなたが、…鬼がそんなことをするはずがないと思っていたから協力していたのでしょう?」

「……。」

「…浅見さん、私はあなたが何のために私を鬼にしようと考えたのか聞きはしませんが一ついいですか?」

「…なんでしょう?」

「警察から帰ってきたらなにをしたいですか?」

「えっ?!」

「予想外の質問でしょう?…もう起こってしまったことはどうにもなりません。だからこれからは、これからのことを考えるんです。…さあ、帰ってきたらやりたいことは?」

「……まっ、祭りの支度をしないと!」

「ありがとうございます。答えてくださって…。それを支えに頑張ってきてください。」

 一さんがそろそろ。

と言ったので浅見さんがパトカーに乗せられる。

 だが、のせられる直前に

「宮中先生!ここは…この村はこの先どうなるのでしょう?」

と叫んだ。

(なるべく簡単に分かりやすく言わなければ…。)

「圭吾 岳斗 香和 三郎がいる。」

浅見さんは叫んだことで、強引にパトカーに乗せられていたが私の声を聞いたら静かにおとなしく、すべて分かったような顔をして乗り込んで行った。

 

 

十月二十九日(土)

 朝から美浅神社に着替えのバック、ヒラデエジンに『羽田家伝記』を取りに行き、私はバス停に向かった。

 子供達四人が着いてきてくれたほか、三郎は新しい鶏を連れていた。

 私は最後に四人別々に話をした。

圭には、

「君は一番年上でないかとみんなを引っ張ろうと頑張らなければならないと思うが、壊れてしまう前に誰かに頼ること。」

岳斗には、

「香和と三郎を引っ張ることはもちろんだが、圭が困っていたら支えること。」

香和には、

「あと何年か後、もしかしたら圭か三郎が君を好きになるかもしれない。ただ断るときには、乱暴な言葉を使うと男はすごく傷つくから優しい言葉を使うこと。」

そして三郎には、

「新しい鶏がもらえてよかったな。三郎の優しさを先生はよく知っている。一生大事にしろよ。年上ばかりだがみんなを笑わせて楽しく過ごせよ。」

と、先生らしいことを言った。

 三郎の父親が土産に卵を六つ、藁でカバーし渡してくれた。

「先生、これからこの集落はどうなりますか?」

「…ヒラデエジンは、この大麻霧を暴いて欲しくて私を呼んだと考えています。しかも、大麻を子供達に吸わせないように工作していましたね?」

「はい。」

「その時点でヒラデエジンはまだまだ信用できる人物です。私が一筆、警察にしたためて置きます。」

「浅見さんは?」

「浅見さんもたぶん証拠不十分ですぐ帰ってきます。…また、あの人は人のためならどんな犠牲も払わない人なのでしょうから、とてもいい人になって帰ってくるはずです。今年の祭りは例年以上盛大に行われるのでしょうな?…鬼の供養も込めて…。」

「なるほど。」

「あの音楽イベントなんですが、私が大学に戻ったら音楽が出来る学生に声をかけてみて行って来いと言うつもりですが…、あのイベントはまだやりますかね?」

「あのイベントについても話し合いになると思いますが、先生がそうおっしゃられていたと言っておきます。」

「あるがとうございます。」

 そのとき、大きい音を立てながらバスが来た。

 ただ、一台でなく後ろから様々なメディアの車が付いてきていた。

 バスからも野次馬がゾロゾロと降りてきた。

 私はバスから全員降りたらそそくさとバスに乗り込んだ。

 降りてきた人は「こんなビッグニュースがあるのにどうしてバスに乗るのだろう?」といった顔をしていたが、誰もこの事件を公に出した人だと気づいていないようだった。

 バスが動き出した。

 バスから外を見ると五人が手を振っていた。

 私も振り返したが、バスはすぐ加速し見えなくなってしまった。

 私は席に座り直すと、スマートフォンでニュースを見た。

 

「伊野県佐訪市美朝集落 二十人を大麻所持容疑で逮捕」

 

というような記事がならんでいた。

チャットも確認する。

 

「音楽イベントに見せかけた大麻吸引会」

 

なんてスレを見つけた。

だが、こんな恐ろしいスレも見つけた。

 

「美朝村の大麻事件を暴いた男」

 

無茶苦茶なことが書いてあるんだろうと思って開いたら、なんと私の名前が挙がっている。

(しまった!もう大学にばれてるはずだから対応がこれからめんどうくさいぞ…。)

 ただ、本当にそれまでは良かった。

 ある違うスレを見つけたとき思わず顔を上げ、外を見た。

 バスの大きさでは落っこちてしまいそうな細い道を丁寧に走っている。

 右前方に佐訪地方を代表する佐訪連山が見える。高い山ではもう雪を被っている。佐訪県特有の二、三月までの長い冬が来るのだ。

 左側は木が茂り景色はよく分からないが、たまに木が途切れて一瞬景色が見えると、青く清らかな川が見えた。

(さらば佐訪市美朝集落、ヒラデエジンが出てきたら来るからな。)

 

「さてと…どうしたらいいものか…。」

宮中先生はまたスマートフォンに眼を落とした。

 

 

「駒川大学専任講師上地 失踪 犯行は威羅夢の可能性大」

 

 

 

~宮中志の章 完~

 

 




いったんこれで作品は終りますが、いろいろ謎が残る終わり方だと思います。
実はこの鬼と浅見神職から見た話も実在しています。
その話ものせる予定ですが少々お待ちください。

次は魔法使いと宮中先生は闘います。


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