ポケットモンスタースカイブルー (水代)
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ヨイヤミガラス
最近よくテレビで見るガラル
ぶっちゃけ知らないなら知らないでも読めるとは思うけど、知ってたほうがもっと楽しめるのも事実なのでみんなもドールズ読もう(ダイマ
https://syosetu.org/novel/92269/
なあに、本編はたったの180話ほどさ(めそらし
―――ガラル地方という名前を知っているだろうか?
ここ数年、ポケモンの巨大化現象で一部有名になっていた地方ではあるが、それはどちらかと言うとトレーナー側で有名なだけであって、大半の一般の人たちからすると最近良くテレビで見る『アイドル』の出身地である、と言った認識のほうが強いのではないだろうか。
ただ一部の関係者からするとまた違った意見が出てくるもので。
ガラル地方は『ポケモンバトルの競技化』に最も早く適応し、適合し、成功を収めた地方として有名だ。
近年までポケモンバトルとは『トレーナーとポケモンの純粋な強さ』を比べる戦いだった。
そこには強者と弱者が明確なくらいにあって、トレーナーを直接攻撃してはならない、ポケモンは六体まで、などの基本的なエチケットのような『ルール』はあってもハメ技や強さのインフレを防ぐ『レギュレーション』は存在しなかった。
それはポケモンという人類の隣人が『友』であると同時に『敵』でもあったが故の妥協。
絆を結んだポケモンは人と共に戦う戦友であり、けれど野生のポケモンは人を襲う『外敵』でしかない。
そして人はポケモンほどに強くなれないが故に、人はポケモンを『戦力』とするしかなかった。
だが文明の発展、技術の発達に伴い、人の手が届かない場所というのがぐっと減った。
少なくとも、人とポケモンは『住み分け』ができるようになった。
で、あるが故にトレーナーとポケモンを『戦力』とする意味合いも薄くなった。
それに伴なってポケモンバトルは『トレーナーの知略と戦略、ポケモンの技術と鍛錬』を発揮する『競技』として発展していき、現代では戦闘というよりはスポーツとしての意味合いを強く持っていた。
今となってはどの地方でも競技としての側面が強まったポケモンバトルだが、ガラル地方は最も早く二十年以上前からポケモンバトルを『競技』とし、『興行』としていた。
今世界中で行われている『競技』としてのポケモンバトルはガラル地方をモデルとしているほどに、この分野における『先駆者』なのだ。
そんなガラル地方ではあるが、同時に観光地としても有名であり、特に自然環境を意図的に保全した『ワイルドエリア』と呼ばれる特別自然保護地区は世界的に見ても貴重な『人の手の加わっていない自然そのままの環境』が残った場所であり、生態研究などにおける重要な地区とされている。
で、あるが故に、ガラル地方は他地方からのポケモンの持ち込みが非常に厳しい。
環境保全のために一部を特区として隔離しているのに、地方にいないポケモンを持ち込まれて、持ち込まれたポケモンがうっかり逃げ出したり、捨てられて野生化し繁殖などされたら堪ったものじゃない。
というまあ理解はできる理由なのだが、それはそれとして。
「アンタ以外全員アウトってどういうことよ!!!」
プロトレーナーのメインパーティ6体中5体が持ち込み禁止というのはさすがにやり過ぎではないだろうかと思うのだ。
傍らに立った自分より少しだけ背の高い弟の足を蹴っ飛ばしながら、悪態を吐く。
「いた、痛いって姉ちゃん……仕方ないでしょ、規制に引っかかってるんだから」
「ポケモンの種族どころか、技まで規制するとか正気じゃないでしょ」
「まあ一度見せると覚えちゃう可能性、あるから。それにだったら技くらい覚え直させればよかったんじゃ」
「そんな簡単に変更できるわけないでしょ。そもそも技構成変えるなら育成コンセプトから練り直しよ」
近頃はトレーナーの分業化が進み、バトルを専門にして育成はブリーダーに任せてしまうトレーナーも増えているが、自分の場合親に倣って全部自分の手で育てている。
幸いにして、ある程度自分の理想通りの育成ができる程度の才能はあったらしい、育成が得意な母の知恵も借りながら数年かけてプロトレーナーとして恥ずかしくないだけの育成は施したつもりだ。
私の数年がかりの努力は去年のホウエンリーグにおいて存分に発揮され、それなりの結果は残した。
とは言え、それなりはそれなりだ。
プロトレーナーである以上『頂点』以外に意味は無い。
で、あるが故に今年こそは『頂点』を目指す……と思っていたのだが。
「ホント……何のつもりなのかしらね、あの子」
裁縫が得意な母に作ってもらった母さんと同じような青いコートのポケットから一通の手紙を取り出す。
空に掲げ、見やるそこには差出人の名前が書かれていた。
それは招待状だ。
十数年前までのように地方間でリーグが独立していた時代ならばともかく、地方間リーグが統一された現代となってはその意味は非常に大きい。
同じプロトレーナーになったらしい幼馴染の親友ならばそんなこととっくに分かっているはずで。
それでもこの手紙は私の元に届いた、それは事実だった。
* * *
シュートシティ。
ガラル地方の最北に位置する街であり、ガラル最大の都市でもある。
毎年多くの観光客で賑わうこの街はガラルで唯一の空港『マクロコスモス・エアラインズ』が存在することからガラルにおける国際交流の玄関口となっている。
量子化による物質の保存技術によってスマホロトム一つあれば荷物の持ち運びも楽になるため数十年前のようにキャリケースやボストンバッグ抱えて行き交う人などは最早居ないとは言え、多くの人が行き来する空港内は雑多としていて広々としているにも関わらず閉塞感を感じる。
天井で空が見えないからだろうか、とそんなことを思いながら空港を出れば広がるのは広大な街並み。
「おーい」
ホウエンでもミナモシティやカナズミシティでも無ければこれほどの街並み見ることは無いだろうし、そこにガラル地方独特の建築文化が混じって何とも趣深い様相を呈していた。
なるほど観光地として人気がある、というのも頷ける話である。そんなことを考えながら視線を彷徨わせていると雑踏に紛れて誰かの声が聞こえた。
「おーい、ソラちゃーん」
今度ははっきりと、それも私の名前を呼んでいたので声のするほうへと視線を向ければ、空港から出ていく人の波に逆らうようにして走って来る少女の姿。
グレーのニットパーカーに緑のベレー帽が特徴的なその外見は、私の良く知る姿のままで。
「ユウリ!」
だからすぐにその名が出てきた。
私の幼馴染で、親友の名前が。
走ってくる親友がそのままの勢いに抱き着いてくる。
「うーん、相変わらずちっちゃいね!」
「うっさい……アンタは育ったわね」
最後に会ったのは三年前。
その頃には私とそう変わらなかったはずの背丈も今では私よりも頭一つ分ほど高くなっているし、何よりも抱き着かれた時に三年前には無かったはずの膨らみが感じられた。思わず自分の胸元に手を当ててみるが見事なくらいに真っすぐなそこへ手を当てても感じられるのは肋骨の硬さだけだった。
母さんに似ているとよく言われる私ではあるし、そのことを嬉しいと思っているのも間違いではないが、こんなところまで似て欲しくなかったと思っているのも事実だった。
「あ、アオ君もひさびさ~」
「久しぶりだね、ユウリ……元気そうで良かったよ」
隣の弟とも挨拶を交わして……っていつまで抱きついているのだ。
「離れなさい」
「あ~久し振りのソラちゃんの感触が~」
純粋な腕力ではこちらのほうが上なので抱きつく幼馴染を剥がしながら無理矢理立たせる。
そうして改めて見たその顔つきは三年前よりもずっと大人びていて……正直腹立たしい。
「ぐぬぬ……これが格差……」
私なんて五年以上も背が変わらないというのに、顔つきも胸も、いつまでも変わらないから偶に本当に人間か疑われるくらい変わらないのに!
多分母さんの遺伝だ、きっとそうだ。
それはそれとして三年ぶりに再会した幼馴染である。
「それで、何なのよこれ」
ポケットから出した手紙を目の前でひらひらと揺らす。
差出人は目の前の幼馴染だった。
「うん、そのことなんだけど……まあ立ち話も何だし、どこかお店に入らない?」
「そうね……お願いしようかしら、それで良いわよね、アオ」
後ろでこくり、と頷く弟へと視線をやりながら嘆息する。
「少しお腹空いたわ。朝からまともに食べてないし」
ホウエンからガラルまで飛行機に乗ってそれなりの時間がかかる。
朝まだ陽が昇る前から飛行機に乗って現在昼過ぎと言ったところ。
道中で機内食は出たが私も弟も結構食べるほうなので物足りない感じは否めなかった。
「カレー食べよう! カレー! ガラルに来たからにはカレー食べないと!」
何やら思い入れがある様子で、熱心に語る幼馴染だったがそれはそれとしてカレーは嫌いじゃない、いや寧ろ大好物と言って良い。
「良いわね。じゃあユウリ案内頼んでも良い?」
「オッケー! おススメのお店紹介しちゃうよ!」
一応振り返ってアオにも確認するがアオも大丈夫らしいので幼馴染に案内を頼み、お店に向かった。
* * *
ガラル地方で現在一番好まれている料理が『カレーライス』だ。
地方ごとに名物料理というのは結構色々あるわけだが、そんなレベルではなく家庭の味から専門店までだいたいどこの町に行ってもカレーで染まっている。
町ごとに店ごとに家庭ごとに独自の味付け、調理法、材料などがあるらしいがそれでも料理としては全部ひっくるめて『カレー』である。
昔はそうでも無かったらしいが近年になってガラルで大流行、以来右を向いても左を向いても『カレー』『カレー』『カレー』である。
というのもガラル地方は『カレー』作りに欠かせないスパイスの原産地らしい。
以前までは基本的に肉料理などだけに使われていたスパイス類だが、これをどうにか売りにできないかと試行錯誤した結果が『カレー』ブームらしい。
シュートシティはガラルの玄関口となっているため観光客向けの店が多く、そしてやはり相応にカレー専門店が多い。
口から火を噴くアチャモ印の『コッコイチバンカレー』や以前のチャンピオンの決め台詞から名前を決めたという『真のチャンピオンカレー』、ワイルドエリア原産食材を選び抜いた『ワイルドカレー』、55種のスパイスが味の決め手と謳っている『55カレー』などガラル全土にチェーン店を持つ有名店の本店が立ち並んでいて、日々凌ぎを削っている。
まあつまり、だいたいどの店を選んでも味は保証されているのだ。
「これは……ダイオウドウ級……」
ぱくぱくと貪ると言ったほうが正しいのではないかと言わんばかりの勢いでカレーライスを掻きこむ幼馴染の姿にそれで良いのかと思わなくも無いが、まあ確かにそうしたくなるくらいには美味しいのは事実だった。
真っ白なライスの上にハンバーグを乗せてカレーをかけるだけのシンプルな『からくちハンバーグカレー』だったが、カレーのスパイシーさに負けないくらい濃厚で肉の旨味が溢れるハンバーグが食べ応え抜群の一品だった。
私は比較的味の好みも母さんに似ているのか、辛い物が好きなのでスパイシーなカレーを頼んだのだが、逆にアオは辛いのが苦手らしく『ヤシのミルク』で味をまろやかな味に調えられ渋みのあるきのみを入れた『しぶくちココナッツカレー 』を美味しそうに食べている。
「ふう……美味しかった。まあまあの店だったね」
からん、とスプーンを皿の上に置きながら一皿ぺろっと平らげてしまった幼馴染がお腹を擦った。
十分美味しいと思うのだが、これがまあまあなのだろうか? なんて思いながら少し間をおいて私とアオも食べ終える。
「それにしてもこっちでもカレーが食べれるのね」
「寧ろカレーライスが流行ったのここ十年前後の話らしいのに、ソラちゃんのお家で昔食べたことのほうが驚きだよ」
まあ確かに実家以外ではカレーライスなんてお目にかかったことが無いので、私はてっきり家庭料理か何かだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
「多分父さんじゃないかしらね……色々料理にうるさいみたいだし」
ホウエンでは見かけないような食材も、ホウエンでは見ないような料理も知っているようだし、私の父親は存外グルメなのかもしれないと今更に思う。
まあそれはさておき、だ。
「それで、いい加減聞かせてちょうだいな」
再びポケットから差し出した封筒を机の上に置くとユウリが一度それに視線を落とし。
「そう、だね」
ゆっくりと息を吐く。
呼吸を整えるように。
緊張を誤魔化すように。
「実は」
少し言葉を溜めて。
「私、昨年このガラルのチャンピオンになったんだ」
飛び出してきた言葉に、目を見開いた。
今回一番戦々恐々しながら書いた部分……コッコイチバンカレー。
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開かれた地方がキャッチフレーズのガラル
ことの始まりは二カ月ほど前のことである。
いや、発端を言えばもっともっと過去にあるのかもしれないが、今回のことに限って言えば二カ月ほど前になる。
『ガラルスタートーナメント』というガラルの有名トレーナーばかりを集め、タッグを組んでダブルバトルを行うという大会が開かれた。
開いたのは先代チャンピオンのダンデ。
現在のポケモンリーグ委員長でもある。
―――ガラルをもっともっと盛り上げたい。
かつてのチャンピオンとしてガラルを引っ張ってきたトレーナーとして、そして今はリーグ委員長として、ダンデが企画したトーナメントは大成功を納めた。
次回、次々回とすでに開催日時が話し合われ、次に参加するプロトレーナーたちの厳選も始まっている。
ダンデの意図は大成功と言えた。
「だがそれでもまだ足りないと、そう思うんだ」
いつもの笑みは鳴りを潜め、少し難しい顔をして腕を組む。
大勢の前ではいつも不敵な笑みと堂々とした態度を崩さないかつて無敗を誇ったチャンピオンのトレーナーとしての顔はそこには無く、一人の私人としてのダンデがそこにいた。
「今のガラルのバトルは少し硬いと、そう思わないか? チャンピオン」
自らを打ち負かした少女に対して、悔しい思いが無いとは言わない、だがそれ以上に少女……ユウリが素晴らしいトレーナーであるという事実をユウリと戦ったダンデは誰よりも知っているし、そんな素晴らしいトレーナーがこのガラルの新しい王になったということもまた喜ばしいことであると思っていた。
故に弟の友人である少女に対して隔意は無い、寧ろ好ましく思っている。
それはそれとして、チャンピオンである以上付き纏う重責というものがあることもまた十年以上このガラルでチャンピオンと続けていたダンデは知っていた。
「硬い、という言い方は語弊があったか? 何と言うか、ガラルのトレーナーとはこうあるべし、と凝り固まっているというべきか」
本来トレーナーが十人いれば十通りのパーティが組まれ、十通りの育成がなされ、十通りの戦い方があるべきだ。
ポケモンバトルの本質は『戦い』である以上、強さを追い求め、より強くなるために多様性を持つことは重要な話だ。
だがガラル地方におけるポケモンバトルは『
エンターテイメント色が強い、というべきか。
そのため本来ならば有効となるような戦法すらも否定され、戦い方に制限がかけられる。
それを無視すれば人気が出ず、人気の出ないトレーナーはたとえジムリーダーだろうとマイナー落ちして表舞台に出ることはできない。
故にガラルのプロトレーナーは常に観客を沸かせるような試合を求められている。
それができなければプロでない、と言わんばかりの今のガラルの環境にダンデはチャンピオン時代から苦々しい感情を抱いていた。
だが同時にダンデだからこそ、それが仕方のないことであるというのも分っていた。
このガラルで最も観客を沸かせることのできるトレーナーこそが最強にして絶対なる不敗の王者ダンデという男だったから。
プロトレーナーがプロトレーナーとしていられるのは結局のところ『金が稼げるから』だ。
ガラルにおけるトレーナーとはつまり『バトルで金が稼げる人間』を指す。
―――そもガラルに四天王制が無い理由はそこにあるのだ。
ガラル地方のポケモンリーグの制度上、チャンピオンはその大多数が『ジムリーダー』から選ばれる。
当たり前の話、半年にも満たないジムチャレンジ期間で何年もジムトレーナーとして腕を磨きジムリーダーとなってからもプロとして戦い続けてきた彼らに勝つことは困難な話だ。
チャレンジャーはチャレンジが始まってから、或いは始まる前からポケモンを手に入れて育て始めるが、ジムリーダーはチャレンジャーがジムチャレンジを突破している間の期間も常に鍛錬を繰り返し、強くなっているのだ。
故にシュートシティで行われるファイナルトーナメントにおいて、チャレンジャー全員で行われるセミファイナルを勝ち抜いたたった一人ですら一回戦を勝ち抜くことすら珍しい。
ファイナルトーナメントを勝ち抜かなければチャンピオンと戦うことすらできない。
となれば基本的にチャンピオンに挑戦できるのは『ジムリーダー』ばかりとなる。
つまりチャンピオンを倒し、次のチャンピオンになれる確率が最も高いのは『ジムリーダー』なのだ。
ガラルリーグではこの不公平を
何故ならジムリーダーとは即ち『特定タイプの専門家』だからだ。
ジムリーダーからチャンピオンになったからと言っていきなりトレーナーとしてのスタイルが大幅に変わることなどあり得ない。
それまでに作り上げてきたスタイルで勝ち抜き、チャンピオンとなった以上そのスタイルを維持することがプロとしての務めであり、何よりもそれまでに築き上げてきたファンがいる。
このファンに見放されるようになればたとえチャンピオンであろうとプロトレーナーとしては失格なのだから。
となれば、だ。
ジムリーダーからチャンピオンとなった場合、その手持ちは『専門タイプ』に偏ることになる。
タイプ相性が偏ることは逆に言えば『弱点タイプ』が偏っている、ということでもあり。
その『弱点タイプ』を専門とするジムリーダーはチャンピオンに対して絶対の有利を持つことになる。
ここまで言えば分かるだろう。
つまりガラルリーグのこの不公平な制度は
そのほうが盛り上がるから。
盛り上がるというのは興行としては絶対の正義だ。
そういう意味ではダンデの存在はガラルリーグにとって予想外だっただろう。
初めてのジムチャレンジでそのまま並み居るジムリーダー全員を討ち果たしてファイナルトーナメントを勝ち抜き、当時のチャンピオンすらも降して次のチャンピオンになるなど当時は誰も予想しなかった事態だろう。
いや、たった一人それを予想した人間がいたのかもしれない。
今となっては、の話ではあるが。
ダンデに推薦状を渡し、チャンピオンとなったダンデをそれから十年以上もの長きに渡って支え続けてきた一人の男を思い出し……。
―――今は関係無い。
とにかく、だ。
これまでの歴史の積み重ねがガラルのバトルを形作っている。
問題なのはそこで一番重要なのが『勝敗』では無く『盛り上がり』という点だ。
分かりやすく言えば『白けさせて勝つくらいなら盛り上げて負けてしまえ』というのがガラルにおける風潮なのだ。
これは結局のところ、ポケモンバトルが『興行』つまり『金儲け』の一環として行われているがための弊害であり、難点だった。
ダンデのスタイルは『盛り上げて勝つ』だ。
会場の盛り上がりに応じて自らの戦意も高揚することができる、そういう気質とカリスマ性がダンデにあったからこそ十年以上もの間、ダンデはガラルの頂点に立ちこのガラルを盛り上げ続けることに成功した。
だがそこに限界があったことも、ダンデだからこそ分かっていた。
すでに一地方間だけで世界が完結するような時代ではなくなっている。
ガラルは世界に向けて開かれて行かなければならない。
ガラルという素晴らしい文化は世界へと羽ばたき、他地方の素晴らしい物をもっともっと取り込んでさらに飛躍しなければならない。
そうしなければ、地方間の国際化が進む今の情勢に取り残されてしまうことになる。
それは単純な情報や物だけではない、バトルも同じだ。
地方間リーグが合併し、統一リーグが作られた以上、国際化の波はすでに目前にまで迫っている。
ダンデはこのガラルという地方が好きだ。
ダンデはこのガラルという土地を愛している。
故にこのまま座して見ているなど許容できるはずが無かった。
何かできることがあるはずだった。
何ができることがあるはずだ。
一体何ができる?
一体何が?
人生で初めての敗北を味わったのは……ちょうどそんな時だった。
チャンピオンで無くなったことと引き換えに、ダンデは自由を得た。
現チャンピオンユウリは何とも『ガラルらしいトレーナー』だった。
現チャンピオンユウリは何とも『ガラルらしくないトレーナー』だった。
矛盾したような言葉だったが、どちらも正しく、どちらも間違っている。
ユウリはただ純粋に『強いトレーナー』だった。
ただそのほうが強いからこそ『ガラルらしくなる』し、そして同時にそのほうが強いと思えば『ガラルらしくなくなる』、それだけの話だった。
ガラルリーグにトレーナー登録はしていても、実際にこのガラルに来てまだ二年と経っていないらしい。
だからこそ、生粋のガラル育ちであるダンデとは違う目線で戦っている。
新しい風が吹いたのだ、とそう思った。
少なくとも当時ジムチャレンジャーだったユウリのパーティは、バトルスタイルは従来のガラルとは少し違っていて。
それをジムチャレンジ中に急速にガラルのスタイルに合わせて行き、今では立派なガラルスターの一人だ。
だがユウリのスタイルはガラルに合わせていながらも、確かにガラルには無い戦い方も混じっていた。
それは今のガラルの閉塞に穴を空ける一刺しになるとダンデは考えた。
だがまだ足りない、ただの一刺しでは穴が広がりきらない。
また従来のスタイルを望む観客の声に新しい風が吹き荒ぶための穴が塞がれてしまうのではないか、そんな懸念がダンデの中にあった。
故に『ガラルスタートーナメント』を開いた。
もっともっと今までのガラルに無かった物を作り出し、取り入れ、ガラルに新しい風を吹かせよう。
そう思って始めた取り組みは大成功を納めた。
タッグバトルという従来のガラルでは余り無かった取り組みはその新鮮さを以って観客に受け入れられた。
今がチャンスだった。
さらなる一手が欲しい。
そう……今までのガラルにこびり付いていたものを
「えっと、一つ、提案が」
そんなダンデの考えを聞いたユウリが少しばかり考え込み、そうして意を決したように一つ頷いて手を挙げた。
「ホウエンリーグから一人……私の親友、呼んでみませんか?」
そんなユウリの発言に、ダンデが目を丸くした。
* * *
「と、言うわけなんだけど」
「嫌よ」
長ったらしい説明の果てに口を突いて出たのはその一言だった。
というか当たり前の話、ホウエンには拠点があって、ホウエンリーグには籍があって、去年負けてしまった返さなければならない借りを返す相手もいるのだ。
何が悲しくて全部捨ててこっちに来なければならないのだ。
「お願い、ソラちゃ~ん」
「えーい、引っ付くな! だいたいなんで私なのよ、別に他のでも良いでしょ」
人の腹部に飛び込むようにして抱き着いてくるユウリの頭を押さえて引きはがそうとする。
はっきり言えば今のリーグで限界を感じているトレーナー、環境を変えたいと思っているトレーナーなんてごまんといるだろうし、連れてくるならそいつらでも良いはずだ。別に私に拘る理由なんて無いはずで。
「ソラちゃんと戦いたい、って思ったから……じゃ、ダメかな?」
「――――」
下から上目遣いに告げられた言葉に、一瞬硬直する。
そうしてふと思い出すのは三年前。
ユウリと別れた日のこと。
―――大きくなって、トレーナーになったら、その時は。
「勝負しよう……って言ったのは私だったわね」
「うん、だから私、あれからトレーナーの勉強いっぱいしたんだよ」
大きく……はなれずとも互いにトレーナーになった。
他愛無い口約束に過ぎないけれども。
「アオ」
「姉ちゃんの好きにすればいいさ……オレたちは
弟の名を呼べば、即座にそんな答えが返って来る。
目を瞑り、数秒考える。
それでも結局のところ、答えなんて最初から決まっていて。
ホウエンに置いてきた仲間たちには後で事情を説明する必要があるだろう。
場合によっては別のトレーナーに譲る必要だってあるかもしれない。
そこまでする必要はあるか?
と内心が問いかけてくる。
「約束は約束、よね」
独りごちるその言葉が結局のところ全て。
最初は……他愛無い約束に過ぎなかったはずだ。
なのに今となっては大層な約束となってしまったものだ。
何せ。
「っふん……良いわ、乗ってあげる」
三年ぶりに再会した幼馴染で親友の少女は。
「全員ぶっ倒してアンタに会いに行くから」
今やこのガラル地方の頂点に君臨する少女なのだから。
「精々首を洗って待ってなさい」
そう考えれば燃えてきた。
そしてそんな私の闘志に返すかのようにユウリも不敵に笑みを浮かべて。
「ふふん、私のほうが強いってこと……教えてあげるよ」
互いに宣戦布告をした。
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チャンピオンが試合すると偶に昼なのに闇夜に包まれるガラル
『ふぇ? おひっこし?』
「そう、少なくとも年単位でガラルに居つくことになるし……まあ場合によってはそのままこっちに住むかもしれないから」
『ソラおねーちゃんいなくなっちゃうの!?』
「ご、ごめんって……言ったってアカリたちももう一年か二年でしょ、寧ろセイジのことが心配なんだけど」
『セーくんならとーさまがつれてきた子となかよくやってるよ』
「それは知ってるけど……でもあの子って、いや、まあ良いわ。とにかく父さんたちにはこっちから言っておくけど、そういうわけだから」
『やだ! おねーちゃんいっちゃやだ!』
「そうワガママ言わないでよ……どのみちそろそろ家出るつもりだったし」
『うぅ……』
「どこかで時間が空いたら帰るから、ね? ガラルのお土産いっぱい持ってお姉ちゃん帰るから」
『……やくそく?』
「約束するわ、だからいい子にしてなさいね」
『……うぅ。わかった』
* * *
「ソラちゃん相変わらず妹ちゃんには弱いよね」
「なんで弟には厳しいんだろう」
「うーん……まあ何となく理由は分かるけど、半分は愛じゃないかな」
「愛ねえ……」
視界の端でこちらの様子を見ながら楽しそうにお喋りしている二人をきっと睨みながら通話を切る。
最大の難関だった妹たちは何とか説得完了だ。
後は父さんと母さんたちに報告すればそれで家のことは片付く。
まあ父さんは色々聞いてくるかもしれないが反対はしないだろうし、母さんの場合そもそも好きにすれば、とでも言って来るだろう。
「まあこっちはこれで良いとして……」
問題はまだまだ山積みである。
そもそもトレーナーとしての私の本拠はホウエン地方だ。
当たり前だが身一つでトレーナー業なんてできるはずがない、手持ちのポケモンを置いておくための拠点、育成のための土地、施設、金など必要な物を挙げていけばキリが無い。
ガラルリーグに移籍するということはそれら全てが使えなくなる、ということであり、プロトレーナーとしてははっきり言って致命傷に等しい。
「そもそも手持ちの問題もあるわよね……」
ホウエンから連れてくるのに弾かれた手持ちが五体。
まだプロになって二年目であるが故に、私の手持ちで育成が終わっているポケモンは六体のみ。
となるとこのガラルで今使える育成済のポケモンは……。
「うーん」
視線の先、ユウリと何か話し込んでいる弟の姿を見やりながら、考え込む。
正直、一体でも大半の相手には勝てる自信がある。
五体も居なくなったことを不幸と嘆くか、それともアレが残ったことを幸運と喜ぶべきか。
何とも困った話である。
「こうして見るとホント無いない尽くしね」
とは言え、今更やっぱ無し、というのも格好悪い話だ。
何より約束した以上は反故にするのは矜持に反する。
それにどの地方だろうと『チャンピオンに挑む』というのは心躍るものだ。
その相手が幼馴染で親友であるという事実もまたそれを助長する。
「まあ……やれることをやるしか無いわね」
嘆息一つ。
約束の舞台はまだ遠そうだった。
* * *
それからユウリを交えて三人で話を続ける。
特にどこを拠点にするか、というのはこの地方に住んでいるユウリの協力が無ければ余計な時間がかかってしまう。
それ以外にもリーグ移籍の手続きなど、やるべきことは多く、その相談もあった。
「あ、そうだ」
そんな中でふと思い出したとでも言うようにユウリがぽん、と手を叩く。
「ソラちゃんたちは外から来たから知らないと思うんだけど、ガラルリーグって少し制度が変わっててね……他の地方と違って……えっと、これこれ」
呟きながらスマホロトムを操作しながら今しがた出したばかりの画面をこちらへ見せてくる。
画面に視線を落とせばそこに映っているのは広いバトルコートに集まるユニフォームを着たトレーナーたちの姿。
「これユウリ?」
「そうだよ~」
その中の一人を指してアオが呟くとユウリが頷く。
言われてみれば確かに、ユニフォームを着ていてトレードマークみたいなベレー帽が無かったので気づくのが遅れたが、確かにそこに映っていたのは目の前の親友だった。
「ガラル地方のポケモンリーグってちょっと独特でね、他の地方のポケモンリーグみたいにリーグ予選みたいなのが無いんだよね」
「は?」
「いや、正確には似たようなものはあるんだけど、他の地方の人が想像してるようなのじゃないというか、まあこれ見てもらったほうが早いかな」
と言ってもう一度スマホロトムを操作して表示したのはガラルリーグ公式ホームページ。そこに表示されたリンクの一つ『ジムチャレンジ』をタップすれば、その詳細が表示される。
「ふーん……つまり、ジムリーダー以外はこのジムチャレンジに参加してセミファイナルを勝ち抜かないと、挑戦枠すら無いと」
「四天王いないの? って思ったけど、このファイナルトーナメントが実質的にふるい落としになるわけか」
確かにこれは他の地方には無いかなり独特なリーグ方式である。
そして同時にこの方式が『ジムリーダー優位』に作られていることも分かる。
「てことはユウリ……アンタ、初挑戦で他のチャレンジャーもジムリーダーも全部ぶち抜いてチャンピオン倒したのね」
「あはは……まあ正直ダンデさんに勝てるかどうかは微妙だったんだけど……色々あったんだよ、去年」
ダンデさん、というのがユウリの先代のチャンピオンの名前らしい。
スマホで検索すれば出るわ出るわ、無敵のチャンピオン、無敗のチャンピオン、などなどガラルにおけるトップスターとして十年間王座を守り抜いた人気のチャンピオンだったらしい。
「取り合えず私が挑戦するとするとこのジムチャレンジの枠になるのかしらね」
「そうだね……ジムリーダー枠も絶対に狙えないわけじゃないけど」
さすがに今からジムに入って全員ぶちのめしてジムリーダーになる、というのは難しいだろう。
そもそも私の得意とするタイプを考えると、片方は絶対に問題になるし、もう片方の場合制度的に無理があった。
「この出場資格として推薦がいるっていうのは?」
「それなら私が出すから大丈夫だよ……何だったらダンデさんだって出してくれるかも」
まあ私がこちらに呼び出された件にそのダンデという人物もがっつり関わっているのだから当然と言えば当然かもしれない。
「ただ……さ」
「何よ」
少し歯切れの悪い様子でこちらをちらちらと見やる親友に首を傾げる。
「疑ってるわけじゃないんだけど、ね? 一応推薦出すのに一度もバトルを見てないっていうのは不味いなーっていうのがあって」
「はーん」
ぴく、と眉根を潜めればユウリが、うっ、と声を詰まらせる。
「去年のホウエンリーグでそれなりの戦績は残したはずだけど?」
まあチャンピオンになってない時点で途中で負けているのは明白なのだが……まあいつか絶対にぶっ倒す予定なので、今は置いておいてやることにする。
一応ホウエンリーグではA級トレーナーに位置づけされている。
これはホウエンでもトップクラスのトレーナーの証でもある。
「ガラルリーグはリーグクラスもトレーナーランキングも無いから……実績としては数えられないんだよね。別に無くても問題があるわけじゃないけど、私が推薦したってなるとちょっとうるさいことになっちゃう可能性が……」
「要するに」
別にこの程度のことで怒るような仲でも無いのに、何をそんなにちらちらをこちらを伺うのか、と考えてその理由に気づくと同時に苦笑する。
「そういう名目で戦いましょうってことよね?」
「さっすが、よくわかってる!」
先ほどまでの様子から一変しての満面の笑みを浮かべるユウリに、嘆息する。
その提案に否やはない……無いのだが。
「言っておくけど、アンタが急に呼び出すから私が使えるのコレだけよ」
私の隣で呑気にコーヒーを啜る弟の頭を掴んで引き寄せる。
その私の言葉に意味を理解したユウリが、あっ、と表情を引きつらせたのはその直後で。
「えっと……あはは、ごめんね?」
「……まあ良いわよ。コレは使えるみたいだし」
「さっきからコレとか酷くない? 姉ちゃん」
「あーアオ君かあ」
幼馴染であるが故にアオのことを理解するユウリが納得したように頷く。
「よし、なら一対一でどうかな?」
「まあ良いけど……どこでやるの? 言っておくけど、マジにやるなら結構派手になるわよ」
「えー……あ、じゃあシュートスタジアム使えるかちょっと確認してみるね」
呟きながらユウリが席を立ってスマホを耳に当てる。
遠ざかっていく背中を見やりながら、隣の弟を小突いて……。
「アオ」
「なに、姉ちゃん」
「二つ目までは出す気は無いわよ」
「逆に言えば一つは出すと」
「場合によっては、ね」
まあどこまで本気でやるか、はユウリ次第だろう。
本番はまだ先な以上、そこまで本気で来るとは思わないが。
* * *
「なんて言ってたのに」
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
「さー! いくよー!
ユウリの投げたポケモンが空に向かって咆哮した途端に、空が真っ黒な雲に覆われていく。
同時にソレが紫色の光に包まれて宙に昇っていき……。
…………。
……………………。
……………………………………。
「めちゃくちゃすごそうなの来たんだけど?!」
バトルコートの上で、アオが何か騒いでいるけど、こちらとしては相手の圧が凄すぎてそれどころではない。
というか、なんというか。
「ねえ、ユウリ」
「なに~? ソラちゃん」
「もしかしてだけど、そのポケモン」
やたらに血が騒ぐのもそうだが、それ以上に私はこの感覚を知っている。
「伝説のポケモンとかそんな感じなんじゃないの?」
「あ、すごいすごい、なんで分かったの?」
「って……やっぱ超越種*2じゃねえかふざけんなあああああああああああああああ!」
「……うっさい、アオ。というか、使っても大丈夫なんでしょうね、結構やばそうな感じしてるけど」
「ん-? まあ大丈夫じゃない? ガラルリーグから認可は降りてるし、それにちゃんと躾けたし、今は良い子だよ、ね? ムゲンダイナ」
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
「ほら、ダイジョーブボクイイコダヨーって言ってる」
「いや、待って絶対嘘だよね、めっちゃ怖いんだけど?! めっちゃ今からお前らを皆殺しにしてやるぜって感じの咆哮なんだけど」
なんてアホの声を聞きながら思考だけは深く落ちていく。
こんなおふざけバトルで何やってるんだと言いたい気持ちはあるが、まだ
競技用としてポケモンバトルに出している以上、確実にキャップ*3を被っている。
これが野良バトルなら勝率はゼロかもしれないが、公式戦と同じルールならばまだやれる範囲だ。
「アオ」
一言、名を呼ぶ。
そんな私の声に、弟ががっくりと項垂れ。
「あーもう、分ったよ! やれば良いんだろ!」
叫びながら身を起こす。
そうして、その身に宿る力を解放する。
「ぐるぅぅ……ルゥゥォォォォオオオオオオオオ!」
絶叫しながら、地を蹴り
空に漆黒の渦を引き起こしながら佇む超巨大なポケモンを睨むように視線を向け。
「ユウリ」
「はーい」
そうして互いに準備は整ったとこちらも
正直こんな前哨戦でそこまで本気でやる気も無かったのだが……親友がここまでのものを見せてくれたのだ。
相応のものを見せてやるのがトレーナーなりの礼儀だろうし、何より。
「私やられっぱなしって好きじゃないのよね……だからまあ」
にぃ、と笑みを浮かべ。
「
撃鉄を落とした。
“ぼ う ふ う け ん”
直後、バトルコートを中心として突如として
初バトルで伝説のポケモンを出すチャンピオンがいるらしい。
初バトルだけど当小説におけるシステム説明というかチュートリアルみたいなものなので、お付き合いくださいな。
因みに超越種っていうのはドールズのほうで書いた造語。ルビは『オーバード』と振る。
簡単に言うと『種族の枠を超えてしまった存在』。
ポケモン世界は全て『アルセウスが作った』。つまりポケモン世界に生きる存在、つまりポケモンもまたアルセウスが『設計』した。でも奇跡的な確率で『種族の枠を大幅に超えてしまう存在』が出てくる。つまりそれは種としての枠を超える=アルセウスの設計を超越した存在になる。
そうするとこの世界の理もまたアルセウスの作ったもの、だからアルセウスの敷いた理を超越した存在は世界の法則すらも踏み倒していけることになる。
という独自設定。
要するに伝説のポケモンが実際にレベル45とか50程度で収まるわけないだろ、とかそんな理由付けのための設定の一つ。
具体的に言うとドールズはホウエン編だったけど、登場するグラードンとカイオーガは冗談抜きで『単体で世界が滅ぼせる』怪物です。
そういう普通のポケモンじゃあり得ないような『世界のルールすらも超越し、書き換えてしまうような存在』を総称して超越種と本作では呼んでいる。
超越種の無茶苦茶っぷりを分かりやすく知るためにはポケットモンスタードールズを読もう(ダイマ
いやだって実際、ドールズ読むのが一番手っ取り早いじゃん……あっちで生まれた言葉なんだし(
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晴れ晴れとした青空が見えるバトルコートで偶に嵐が吹き荒れることもあるガラル
この世界には【擬人種】、と呼ばれる存在がいる。
それは十年ほど前までは『ヒトガタ』と呼ばれていた。
ヒトガタ、それはポケモンの遺伝子異常から発生した突然変異だと言われている。
ヒトガタ、その名の通りの人形(ひとがた)。文字通り人の形をしたポケモン。
それが公的に初めて確認されたのはもう二十年以上前の話だ。
当時はかなりセンセーショナルな話題だったらしいが、十年も経てばそれは当然の存在となった。
ヒトガタ……現在における擬人種の最大の特徴としては人の形をしている、という以上に『強い』という点が挙げられる。
ヒトガタの研究者……擬人種という言葉を初めて世界に対して提唱した私の父曰く。
ポケモンにも人と同じく『才能』というものがあり、極めて高い『才能』を持ったポケモンだけが擬人種つまり人の形に変異することを『受容』できる、らしい。
それ故当時は強いポケモンの分かりやすい特徴としてヒトガタポケモンは多くのトレーナーから求められたが、それだけ高い才能を持ったポケモンは滅多にいるものではなく、故にヒトガタポケモンとは極めて珍しい存在だった。
そんな珍しかったヒトガタが十年ほど前から突如として増えだした。
それがどういう理由からなのかは分からないが、当時地方のトップトレーナー……四天王やチャンピオンでも一匹二匹持ってれば多いほうと言えるほどだったヒトガタポケモンも、今ではリーグトレーナーなら誰でも一匹二匹持っていてもおかしくない、と言えるほどに数を増し、なまじ人と同じ姿をし互いの言葉も通じるだけにその存在はポケモン重視の今の社会に一気に浸透していった。
現に私もリーグトレーナーとして一体、擬人種を所有している。
いや、リーグトレーナーとして、という言い方も語弊があるだろう。
そいつは私が生まれた時から私の片割れだった。
私が生まれた直後に、私の隣にそいつはいた。
十二年。
私たちはずっと一緒にいた。
―――アオ。
私の弟の名前で。
種族ボーマンダの擬人種アオ。
それが私の弟だった。
それが、私のなれなかった私の片割れだった。
* * *
心の中で撃鉄を落とすようなイメージ。
直後にバトルコートを中心として吹き荒れる雨と風は『おおあらし』となって天候を支配する。
上空に佇むその巨体を見据えながら、その周囲に渦巻いていた黒雲を吹き飛ばしていくその光景を見やる。
「そっちも天候か……ま、でもこっちが上ね」
一般的にバトル中、ポケモンの技や特性で天候を変化させる場合、後出しが勝つと言われている。
それはある種正しい。
だが超越種とは世界の理を書き換える存在、理の支配下の存在に干渉能力で負けるはずがない。
天候にも優劣が存在するのだ。
例えば『大日照』や『大雨』『乱気流』と呼ばれる天候は普通のポケモンが可能な天候変化では決して勝てない。
とは言えだ。
例え伝説のポケモンだろうと、競技用に能力制限を受けている状態ならば負けはしない。
少なくとも……実家に住み着いているあの三体以外に『天候支配』で負けることはあり得ない。
私の【異能】*1は特別性なのだから。
嵐を操っているのは私だ。
故に吹き荒れる嵐は私の側にとっては常に『おいかぜ』になる。
逆に相手にとっては『むかいかぜ』になるだろう。
この激しい風の中でまともに動けるのなんて風を切ることのできる『ひこう』タイプくらいだろうし、『ひこう』タイプ以外ではその『すばやさ』は半減してしまうだろう。
渦巻く風は『らんきりゅう』となって『ひこう』タイプのポケモンを守るし、激しく降り注ぐ『つよいあめ』は『ほのお』タイプの技をかき消してしまい、逆に『ひこう』タイプの技や『みず』タイプの技はその威力を強めるだろう。
「アオ」
短く呟いた言葉は風にかき消されそうになりながらも、けれども確かに弟へと届き。
「ムゲンダイナ!」
コートの反対側でユウリが叫び、指示を出す。
動き出したのは同時。
けれどこの嵐はアオの背を押すし、相手の足を引き留める。
故に先に攻撃するのはアオだ。
“ぼうふう”
放たれたのは『ひこう』タイプ最強の技。
周囲の嵐すらも取り込んで放たれた荒れ狂う風がその巨体を打つ。
―――オオォォォ!
多少の痛打になったか、その巨体を揺らす……だがそれでも多少でしかない。
「いや、嘘でしょ」
この『おおあらし』は『ひこう』タイプの技の威力を高めてくれる。
体感1.5倍くらいか?
その中で放たれた『ぼうふう』がこの程度?
しかも『こんらん』した様子も無い。まあ超越種なんて大半理不尽な理由で『状態異常』を当たり前のように無効化するので驚きも無いが。
「ヘドロばくだん!」
―――ォォォォォォォォォォォォ!
「アオ!」
「わか……ってる!」
“ヘドロばくだん”
“ワイルドハント”*2
上空から放たれた『どく』の塊が降り注ぐ。
地上に落ちると同時に炸裂して『どく』を振りまく凶悪なソレをアオは咄嗟に周囲の風を集めて防御に回す。そうして余波こそ受けれども、直撃は避ける……それでも結構なダメージにはなっている。
「ホント超越種ってのは……」
これで競技用に制限つけているのか、何を考えているのだガラルリーグ、と言いたくなる。
苦々しい思いでバトルコートを見つめていると。
「あれ~? 逸らされちゃった。さてはソラちゃん、仕込んだでしょ?」
「ったく……目が良いわね」
一度の攻防で即座にユウリがその正体を看破してくる。
舌打ちしたくなるような気持ちをけれど表には出さずに不敵に笑って見せた。
* * *
ポケモンの特性とは単純な体質、と思われがちだが実をいうとそれだけではなく技術も入っていることをトレーナー以外は余り知らない。
単純な体質ならばポケモンは複数の特性を持っていてもおかしくは無いが、実際にバトルで使用できる特性は基本的には一つなのは知っての通り。
例えば『ドータクン』というポケモンに確認されている特性は『ふゆう』『たいねつ』『ヘヴィメタル』だ。
『エスパー』タイプのポケモンで『ふゆう』持ちならば大概『サイコパワーで自らを浮かせて浮遊する』という『技術』を持っている。浮いているから『じめん』技が効かない、当然の道理だ。
ところが特性『たいねつ』だと『じめん』技が通じるようになる。
簡単に言えば『たいねつ』の特性を持っている場合、自分の体の表面を『サイコパワーでコーティング』することで『ほのお』技のダメージを半減している。
要するに自らの能力の使い方で『特性』をオンオフしているのだ。
野生のポケモンに『技を磨く』という概念は無い。
故に『たいねつ』を持ったドータクンはそれしかできないし、『ふゆう』を持ったドータクンはそれしかできない。
ところがトレーナーが育成を施すことで、これは両立できるようになる。
まあ無条件に、とはいかないが。
例えば1ターン毎に特性が切り替わる、とか。
例えば『エスパー』タイプの技を使うごとに特性が変化する、だとか。
例えば『じめん』技を『ふゆう』で無効化したら『たいねつ』になる、だとか『ほのお』技を受けたら今度は『ふゆう』に切り替わる、だとか。
ポケモンバトルという一種の緊張状態の中で正常な判断をポケモンに求めるのは難しい。
一々考えていては、えーとあれして、えーとこれして、と戸惑っている間にやられてしまうのがオチだ。
だからトレーナーが育成を施す時に『スイッチ』を作る。
それを条件反射的に切り替えるようになったならそれは『ポケモンの技術』になる。
総称して【裏特性】と呼ばれている。
表の……通常の特性とは別にポケモン側に仕込まれた技術。
ポケモンがトレーナーと協力することで初めて生まれる図鑑には表示されない『裏の特性』。
この世界でトップトレーナーとなるためには必須の技術である。
これが無いなら野生のポケモンでも変わらないと言えるほどの、トレーナーがトレーナーである理由。
私のポケモンたちならば『おおあらし』という天候を条件にした『裏特性』を多く持っている。
異能トレーナーはそうした異能を条件にした技術を仕込んでいることが多い。
故に異能トレーナーは自らの『異能』が発動できない状態に非常に弱いのだが……まあそれはさておき。
アオは私と私の能力に極めて親和性が高い。
それは血を分けた家族である、という理由もあるし、長年共にいた姉弟であるという理由もあるだろう。
だが何よりも、同じ母親の血を引いている、というのが何よりも大きいと私は思っている。
私が展開した『おおあらし』の中で、風を掴んで防護に回すというのはアオにしかできない技術だ。
大本の発想は我が家に住み着いている龍神様なのだが……まあそれはさておき。
ムゲンダイナ……だったか。
ユウリの出したあの巨体の呆れるほどのタフさに張り合うならばこの程度の技術は小細工にしかならないだろう。
根本的な耐久力が違い過ぎる。
恐らく相手はアオの『ぼうふう』を4発5発と受けて初めてまともに揺らぐだろうほどのタフネスを誇るのに、こちらは直撃一発でも受ければ一気にがたつく。
あの風の防護だって完璧ではないのだ。技術である以上、失敗することもある。散々仕込みまくったのでほぼ失敗は無いと思っているが、というか失敗したら血反吐くくらいまで再特訓させるがそれはそれとしてバトルに絶対は無い。
不意を捉えた一撃が急所にでも入れば……立っていられるかどうかは微妙なところ。
となれば次は……。
「仕方ないわね……アオ、上げるわよ」
ぱちん、と指を鳴らす。
同時に風がアオの元へと集っていく。
そうして集約された風をアオが一息に吸い込み……。
“ワイルドハント”*3
「ルゥゥォォオオオオオオオオオオ!」
咆哮する。
同時にその全身からエネルギーが満ち溢れる。
「ぶち抜きなさい!」
“りゅうせいぐん”
放たれたのは『ドラゴン』タイプ最強の技。
本当は真上に打ち上げたエネルギー塊が流星のように降り注ぐので名付けられた技だが、相手が真上にいるのでほとんどただのビームのようにムゲンダイナへと撃ち込まれる。
―――ォォォォォオオオオオオオオオオ!?
揺らぐ。
先ほどとは一転して、ぐらり、とその巨体が揺らぐ。
「あー……『ドラゴン』タイプの技はきつかったかなあ」
なんてユウリが呟いているが、まあ感覚的に推定『ドラゴン』タイプだろうとは思っていた。
正直これで効いた様子が無かったらさすがにリーグ委員会に審査し直せとクレーム入れるレベルだ。
「アオ」
「大丈夫……問題無いよ」
“ワイルドハント”*4
放出した分のエネルギーを周囲の嵐の中から取り込み、補填することで本来ならば過負荷で『とくこう』が大きく下がってしまうリスキーな技の『りゅうせいぐん』を無反動で放てる。これも一つの技術……裏特性だ。
「だいじょ~ぶ? ムゲンダイナ」
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
ユウリが声をかけた途端、咆哮を挙げて無事のアピール……こいつ、懐いているなあ、なんて遠い目をしてしまう。
超越種ってそんな簡単に懐くような存在だったっけ、と思うが実家のことを思い出すと何も言えなくなる。
それはさておいても、今のはさすがにダメージにはなっていたようだ……それでも『ひんし』にはまだ遠いようだが。
「じゃ、いっくよー!」
“ダ イ ド ラ グ ー ン”
突き出した手のようなムゲンダイナから放出されたエネルギーがアオを包み込み、まるで竜巻のように渦巻く。
「アオ?!」
今までに見たことも無い攻撃に思わず声をあげてしまう。
かなり威力が高い技のようだったが……。
「だ、大丈夫……ぐっ」
咄嗟に全身を覆った風で威力を軽減はしていたようだったが、それでもかなりのダメージを受けているのは理解できた。
「次、耐えれる?」
「ちょっと、厳しい、かも?」
さすがに今のを何度も受けるのは無理だと私だって理解できる。
アオは普段は『ひかえめ』な性格だが、ことバトル中においては気が強くなる。まあ『ドラゴン』タイプの性みたいなものかもしれない。
そのアオが弱音を吐いている……つまり気力でどうにかなるレベルじゃないほどにダメージが深い、ということか。
「……ふう」
一つ嘆息。
吸って。
吐いて。
「仕方ないわね」
覚悟を決める。
「次で終わらせるわよ」
今できる全力で。
「ぶち抜け、アオ」
“しんくういき”
二つ目の撃鉄を振り下ろす。
あ、あれ……? 一話で終わらなかった? ま、まあ次で終わるし。
初っ端からインフレバトルやってるけど、アオ君はぶっちゃけここ終わるとファイナルリーグあたりまで出番無くなります……ジムチャレンジでこんなの出したら一方的過ぎるし。
というわけで部分データ公開。
名前:ソラ
【技能】『ぼうふうけん』
バトル開始時に味方の場の状態を『おいかぜ』に変更し、天候を『おおあらし』にする。この効果は『エアロック』『デルタストリーム』『はじまりのうみ』『おわりのだいち』以外で変更できず、無効化されない。
┗天候:おおあらし
┗『ひこう』タイプのポケモンの弱点タイプのダメージを半減する。『ひこう』タイプ以外のポケモンのすばやさを半減する。『みず』『ひこう』タイプの技の威力を1.5倍にし、『ほのお』タイプの技を無効化する。全ての『場の状態』の効果を無効化する。天候が『あめ』の時に発動する特性や効果が発動する。
【名前】アオ
【種族】■■ボーマンダ/擬人種
【レベル】????
【タイプ】ドラゴン/ひこう
【性格】ひかえめ
【特性】????
【持ち物】(今回はなし)
【技】ぼうふう/りゅうせいぐん/ハイドロポンプ/はかいこうせん
【裏特性】『ワイルドハント』
天候が『おおあらし』の時、状態異常を受けず、ダメージを半減する。
天候が『おおあらし』の時、全能力値が上昇する。
天候が『おおあらし』の時、技の反動を受けず、能力値が下がらなくなる。
【名前】ムゲンダイナ
【種族】ムゲンダイナ/原種
【レベル】????
【タイプ】どく/ドラゴン
【性格】ちょうじょう(超常)
【特性】ブラックナイト(天候を『ブラックナイト』へ変更する)
【持ち物】パワフルハーブ
【技】ダイマックスほう/ヘドロばくだん/かえんほうしゃ/メテオビーム
【裏特性】????
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だが私はまだ変身を一度残している……この意味が分かるな?
“し ん く う い き”*1
振り下ろされた二つ目の撃鉄が、嵐を
「わ、わわわわ……っととと?!」
―――オォォォォォオオオ?!
「ぐ……ぬぅ……」
吹き荒れていた全ての風が、雨がそこに蓄えられていた全ての『エネルギー』が一点に……『アオ』に向かって収束していく。
まるで超巨大な掃除機でもそこにあるかのように、何もかも吸い込まんとする勢いに抗って相手は動きを完全に止めている。
「ユウリィ……! しっかり守らせておきなさい……でないと」
吹き荒ぶ風の強さに片目を瞑りながらこちらを見やるユウリへと視線を合わせ。
「空の彼方までぶっ飛ばされるわよ!!!」
「―――ルウゥゥォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
『嵐』の力を全てその身に溜め込んだアオが絶叫と共に溜め込んだ全ての力を吐きだすかのようにその両手を突きだす。
“ストームブリンガー”*2
その両手に渦巻く風の力が吹き荒び、収束するエネルギーに纏わりつく。
“コスモスキン”*3
同時にアオの『特性』の効果によってそのエネルギーがまるで『宇宙空間』のような模様へと変じていく。
恐らくこの世界で唯一アオだけが持つだろう特性だ。
―――母さんの血を引くボーマンダであるアオだけが、至った可能性。
きゅっと、唇をきつく結ぶ。
零れそうになった言葉を飲み込むと同時にアオがその両手を真上へ……ムゲンダイナへと照準を合わせ。
“はかいこうせん”
“スピントルネード”*4
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
爆発でも起こったかのような音と共にムゲンダイナのその巨体が一回り、二回りと縮んでいき、やがてボールから出された直後のサイズにまで戻る。
改めてみるが元のサイズがすでに十メートルを超えている……下手すると二十メートルはあるのではないだろうか。
完全に『ひんし』状態になってしまったのだろう、そのままさらに縮小されていくのを見てユウリがボールへと戻す。
「わあ……」
自らの手の中のボールを見やり、信じられないとばかりに数秒目を丸くして、やがてこちらへと視線を戻す。
「負けちゃった」
「ほとんど手札も切ってないのに、よく言うわよ」
こちらは私とアオに関しては大半手札を切り尽くしたというのに、ユウリはあの巨大化現象以外に何一つとして手札を切っていないのだ。
「いやいや、だって次回の大会に向けて調整する前だったからキャップも大分緩んでたのに……え? ホントに倒しちゃったの?」
「は?」
「あ……いや、あの状態のムゲンダイナに痛手負わせたんだよって言えばリーグの人たちも納得させれるかなって思ってたからぶっちゃけ、最初の一手目だけで十分だったし、何だったら二手目でもう完璧だったんだけど」
「は???」
「いやだってまだ本当に調整中でキャップかなり緩んでるからレベル150くらいはあったのに」
「は?????」
当然の話、アオはリーグ挑戦用にキャップをつけているのでレベル120にしてある。
リーグ規定でパーティ全体の保有レベル合計というものがあり、これが700を超えるとレギュレーション違反となる。
大半のポケモンがレベル100で上限に達するため実際にオーバーすることは稀ではあるのだが、一部天性の才覚を持つようなポケモンならば120くらいまで上昇するし、一部の幻とされるようなポケモンたちの場合さらに140~150辺りまでレベルが上がることもある。
因みに超越種……いわゆる伝説のポケモンと呼ばれる存在に関しては生物の枠から完全にはみ出してしまっているので
私が知る中で最もレベルが高いポケモンだと300を超えているが、そんなのが競技に出るとまず勝負にすらならない。
そういうわけでレベルを制限する『レベルリミッター』は競技において必須の装備となっている。
因みに競技に出せるポケモンの上限レベルは120である。
それ以上になるポケモンが珍しくはあるがいないわけじゃないのでちゃんとリーグ規約の中に明記されている。
レベル差30は大きい……非常に大きい。
特にレベルアップごとに上昇幅が大きい超越種は猶更である。
「ご、ごめんね、ソラちゃん……別に勝たないといけないってわけじゃなかったし良いかなって思ったんだけど」
「アンタって……ホントに」
嘆息一つ。
お陰で無駄に手札大量に吐かされてしまった。
まあ、アオに関してはもう一つだけ『奥の手』が無くは無いのだが、さすがにこんなところで出すわけにはいかない手ではある。
とにもかくにもこれでバトルは終了だった。
後のことはガラルリーグのスタッフが片づけておいてくれるらしいので、ユウリと二人バトルコートを出ていく。
「そうだ! お詫びに今度開くチャンピオンカップに招待しちゃうから、ね? ね?」
「チャンピオンカップ?」
「チャンピオン主催のバトルトーナメントだよ! こっちのバトルって結構独特だからソラちゃんも一度見てみたほうが良いと思うんだ」
独特、の意味が良く分からないが、けれどユウリがそう言うならばそれは必要なことなのだろう。
それにトーナメントに参加するのはジムリーダーを含めガラルのトップ層が中心となるらしい。
こちらの地方のプロトレーナーの実力を見るというのも得難い経験になるのは間違いない。
「それっていつ?」
「来週開催予定だよ! それまでは……うーん、うち来る?」
「うーん……そうね、まだきちんとした拠点も決まってないし、お願いしようかしら」
「やった! お母さんも久々にソラちゃんに会えて喜ぶと思うよ! あ、あとこっちで出来た友達も紹介するよ、今は研究職のほうに行っちゃったんだけど、去年の私のライバルだった相手でね!」
「分かった分かった……分かったから少し落ち着きなさい」
やや興奮気味なユウリをなだめながらもう一度、誰も居なくなったバトルコートを見渡す。
入った時も思ったがやたらに広い。一時期ガラルでポケモンの巨大化現象が有名になったことがあったが、先ほどユウリの見せた『アレ』がそうなのだとするならば……。
―――このバトルコートの広さは巨大化したポケモン同士が戦うことが前提の広さ、ということになるのだろうか?
だとするならば、あの巨大化現象はユウリ以外のトレーナーでも当たり前のように使える類のものである、ということになる。
さすがにユウリ一人のためにバトルコートを作り直すようなことはしないだろうから、多分そういうことなのだろう。
あの信じがたいほどのタフネスぶりが単純に超越種ならではの能力でなくあの巨大化現象にも理由があるというのならば。
「思ったより厄介かもしれないわね」
その最悪を想像し、顔をしかめた。
* * *
「調整が難しいんだよね、ムゲンダイナって」
極めて短時間……ほんと三十秒にも満たない間のバトルではあったが、異能を使うと酷く消耗してしまう。というわけでポケモンセンターにアオとムゲンダイナを預けて回復してもらっている間にユウリと二人フードコートへとやって来る。
さすがに先ほど食べたばかりのユウリはドリンクだけだったが、すっかりエネルギーを消耗してしまった私としては何か軽く摘まみたかったのでサンドイッチとドリンクを注文する。
そうして注文の品が届くまでの時間にユウリと二人、先ほどまでのバトルについてあれこれと話しているとふとユウリがそう零した。
「本当はね、最初はもうちょっと攻撃的に育成しようと思ってたんだよね」
先ほどまでのバトルを思い出し、あのタフネスぶりを考えるに今は耐久寄りに育てられていることに納得する。
超越種の才能のリソースのようなものはほとんど底無しに近いが、それでも競技用に制限するならばなんでもかんでも詰め込むことは許されていない。
あのタフネスぶりで火力も異常とか絶対許されないわね、と内心で頷いているとユウリが嘆息する。
「ムゲンダイナの本質的な能力はガラルの大地から吸収、転用できる『無限のエネルギー』だから攻撃に回したらあっという間にレギュレーション違反レベルの火力になっちゃうんだよね……必中の一撃必殺常時振り回してるような火力になっちゃったせいで、四回か五回育成し直した結果が今の耐久に寄せた育成なんだけど、あれもちょっとリーグから色々言われちゃってて……頼りになるから使いたいんだけど、頼りになり過ぎて困っちゃうんだよね」
「超越種なんて普通に競技に持ち込むほうがどうかしてるわよ」
超越種が超越種たる由縁は二つある。
一つは圧倒的なレベル。
既存のポケモンの枠など遥かに超えたダブルスコアほどのレベル差はレベル100のポケモンを無数に集めたところで鎧袖一触に蹴散らさせれるほどのシンプルな能力差を生みだしている。
そしてもう一つが『世界の理を書き換える』ほどの理不尽な特殊能力。
例えば『生命を根絶させるほどの強い日差しで周囲一帯を終わりの大地に変えたり』。
例えば『日差しの一片すら差さぬほどの分厚い雨雲で天を覆い永劫止まず地上を飲みこむ大雨を振らせ続けたり』。
そういう理不尽で抗うことすらできない不条理を突きつけてくるのが伝説のポケモン……超越種たちだ。
確かにキャップを被せることで片手落ちにすることはできる……が、それでもまだ片手は残っているのだ。その残った片手ですら大半のポケモンを押し付け、上に立つことができるのだから理不尽極まりない。
「えーでも他にもザシアンとか王様とかもいるのに」
「……は?」
何気無く呟いたユウリの一言に思考が止まる。
「ん?」
「一応聞いておくけど……それも全部超越種とか言わないわよね」
「そうだよ? ザシアンも王様も、ガラルの伝説のポケモンだよ」
「…………」
「まあでもさすがに三体全部パーティに入れるのはダメってリーグに言われてるんだけどね」
たはは、と苦笑いしながら頬を掻くユウリに、きゅっと唇を一度噛んで。
「当たり前でしょおおおおおおおおおおおおお!!!」
絶叫した私は悪くないはずだった。
* * *
「うちもデルタとか呼んじゃダメかしらね」
「いや、無理でしょ……確かにソラはデルタに可愛がられてるけど、さすがに父さんが許してくれないと思うよ」
回復を終えてすっかり元気になったアオに先ほどまでのユウリとの会話を教えながらそんな提案を呟いてみるがにべもなく否定されてしまう。
がっくり、と肩を落としながらもアオの様子を見るがすっかり元気そうだった。先ほどまでの激戦の疲労や怪我も無さそうだったのでさすがはポケモンの回復能力と言ったところか。
「それでソラちゃん、どうする? もううちに来る?」
「あー、うん。そうね、荷物もあるし……でも本当に良いの? 邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ! ソラちゃんとアオ君ならお母さんも私も大歓迎だから!」
「ああ、アオならボールに入れて外に転がしておけばいいわよ」
「ちょ、全然良く無いよ姉ちゃん?!」
「あはは、さすがにそれは可哀そうだからちゃんとアオ君の寝床も作っとくよ」
ポケモンセンターから出る。
それから『そらをとぶ』で移動しよう、とアオに声をかけるとユウリが、あっ、と声をあげる。
「ごめん、ソラちゃん。ガラル地方は『そらをとぶ』禁止なんだよ」
「そうなの? 不便じゃない?」
「だから代わりに『アーマーガアタクシー』ってのがあるんだよ」
正確に言えばガラルの交通網として『アーマーガアタクシー』があるからこそ、航路上の安全確保のため『そらをとぶ』を使用禁止されている、というのが事情らしい。
この『アーマーガアタクシー』はポケモン協会のほうで運営されていて基本的に誰でも安価で乗れる上にどこまで行っても値段は一律なので手軽に乗れるんだとか。
それ以外にも都市部ならば自動車で移動できるし、本来のタクシーも存在する。
都市間道ならばロトム自転車による通行が可能で、これが非常に便利なので旅をする時などはだいたいロトム自転車があれば移動はどうにでもなるらしい。
「えっと……あ、あそこ、ほら、あそこに停まってるのが『アーマーガアタクシー』だよ」
走り出すユウリに手を引かれながら向かう先には全長2mを超える巨大な黒い鳥ポケモンが佇んでいた。
あれが『アーマーガア』というポケモンらしい。
その隣では乗り手らしい男性が座り込むようにして何かしている。
「すみませーん。三人乗れますかー?」
「お、おお……お客さんかい、すまんね、今ちょっと手が離せなくて……すぐに支度するから待ってくれな」
男性に近寄ったユウリが声をかけると、男性が顔を上げる。
困ったような表情の男性がその手に抱えていた物へと視線を向けて。
「タマゴ?」
思わず呟くと、かたり、とタマゴが揺れた。
「おお、移動中に休憩してたら道端で見つけちまってなあ……近くに親の姿もねえし、ほっといたら死んじまいそうだしで連れてきちまったもののどうしたもんかと困ってたんだ」
「それ何のタマゴ?」
「さてなあ? 取り合えず出発の準備するから……すまんが、少し持っててもらえんか?」
「別に良いわよ」
差し出されたタマゴを受け取り、アーマーガアに器用に昇ってその背に鞍を装着していくのを見ながら視線を腕の中へと落とす。
「お前は何のポケモンなのかしらね」
呟き……直後。
ぴきっ
「えっ」
ぴきぴき
「あ、ちょ」
ぴきぴきぴきぴきぴき
「まっ」
「ぴきゅぅぁあ!」
私の腕の中で殻を突き破ってポケモンがその顔を覗かせる。
両の羽は青く、顔の周囲だけは仮面でもつけているかのように黒く染まっている。
腹の部分は黄色く、目だけは赤く、その足とクチバシは灰色だった。
「あ、ココガラだ」
「ぴぎゅあ! きゅぅぅぁ!」
隣でユウリが呟いた声に同意するかのようにココガラが
名前:ソラ
【技能】
『ぼうふうけん』
バトル開始時に味方の場の状態を『おいかぜ』に変更し、天候を『おおあらし』にする。この効果は『エアロック』『デルタストリーム』『はじまりのうみ』『おわりのだいち』以外で変更できず、無効化されない。
┗天候:おおあらし
┗『ひこう』タイプのポケモンの弱点タイプのダメージを半減する。『ひこう』タイプ以外のポケモンのすばやさを半減する。『みず』『ひこう』タイプの技の威力を1.5倍にし、『ほのお』タイプの技を無効化する。全ての『場の状態』の効果を無効化する。天候が『あめ』の時に発動する特性や効果が発動する。
『しんくういき』
発動ターン中、互いの場の『ひこう』タイプを持つポケモンは『ひこう』タイプでなくなる。『ひこう』タイプを持たないポケモンは行動不能になる。この効果が発動した時、天候『おおあらし』を解除し、次に繰り出す『ひこう』タイプの技の威力を3倍にする。
『スピントルネード』
味方のポケモンが繰り出す『ひこう』タイプのわざが相手のタイプや技、道具で半減されず、威力が1.2倍になる。
【名前】アオ
【種族】■■ボーマンダ/擬人種
【レベル】120
【タイプ】ドラゴン/ひこう
【性格】ひかえめ
【特性】コスモスキン(ノーマルタイプの技を繰り出す時、技の威力を1.2倍にし、自分と同じタイプの技として『ほのお』『みず』『でんき』『こおり』『ひこう』『ドラゴン』の中から最もタイプ相性の良いタイプでダメージ計算する。自分の受ける『ほのお』『みず』『でんき』『こおり』『ひこう』『ドラゴン』タイプの技のダメージを半減する)
【持ち物】(今回はなし)
【技】ぼうふう/りゅうせいぐん/ハイドロポンプ/はかいこうせん
【裏特性】『ワイルドハント』
天候が『おおあらし』の時、状態異常を受けず、ダメージを半減する。
天候が『おおあらし』の時、全能力値が上昇する。
天候が『おおあらし』の時、技の反動を受けず、能力値が下がらなくなる。
【技能】『ストームブリンガー』
戦闘中一度だけ、技のタイプ一致補正を2倍に変更し、技のタイプに関係無く『ひこう』タイプの技として扱う。
【技能】に関して作中で説明してなかったけど、簡単に言うなら『技に関する技能』なんだけど、その中でも『トレーナーに指示されて初めて使う』タイプのものが多い。
イメージ的には実機における『ダイマックス』とか『Zわざ』とか『メガシンカ』みたいな技選択の時に一緒に選択する感じのやつ。
というわけでソラちゃんとアオ君データ。
ぶっちゃけソラちゃんのデータマジでこれ全部出しちゃったので、ジムチャレンジ終わるまでになんか新しいの考えとくわ(インフレの始まり
アオ君に関してはもう一つデータがあるんだけど、それが出るのは多分ファイナルトーナメント以降……というかもうチャンピオン戦くらいしかないかも。
ソラちゃんチートでは?
という意見があるかもしれないが、よく考えてくれ。
ユウリちゃんパーティ当初の予定では『ムゲンダイナ』『ザシアン』『ザマゼンタ』『バドレックス』の伝説4体の予定だった。けどさすがにやばすぎだろこれってことで『ムゲンダイナ』『ザシアン』『バドレックス』の3体に制限した上で実際に選出できるのは2体までってことにした。
それでも2体出せるんだよ。
ソラちゃんパーティのデータは『ユウリちゃんパーティを基準』にして作ってあります。
つまりソラちゃんがチートということは……?
全くもってどうでも良いけど今回使ったソラ君の最大火力。
威力150×1.2倍(スキン補正)×2倍(タイプ一致)×1.2倍(トルネード補正)×3倍(しんくういき補正)=1296でアバウト威力1300とかいう糞火力が発覚したけど、ドールズ時代に雑計算で威力4000やったことあるので多分セーフ(
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小動物に懐かれるとやたらと可愛く見えるのは仕方ないこと
ポケモンのタマゴとは摩訶不思議なもので。
なんとパソコンのボックスの中に収容できる。
いやそれ自体はポケモンという存在の特異性故の問題なのかもしれないが。
パソコンのボックスの中に収容されたタマゴはどれだけ時間が経っても孵化しない。
これに関しては昔、ウツギ研究所のほうで研究された事例があり。
ポケモンのタマゴとは周囲の『生命力』のようなものを少しずつ吸収して孵化するらしい。
ボックスの中で孵化しないのはボックスの中にはエネルギーとできるような生命力が存在しない、或いはポケモンを一緒に保管したボックスだろうと、ボックスの中に収容された状態のポケモンからは生命力が得られないからだと言われている。
実際、周囲から隔離状態で放置したタマゴと、なるべく多くの生命に囲まれた状態で過ごしたタマゴとでは後者のほうが圧倒的に孵化速度が速かったらしい。
自然界の中で偶に放置されたままのタマゴが見つかるが、あれはあれで自然の中の木々や大地から自然の生命力を得ることで孵化しているのではないか、と言われている。
生命力、と言ったがタマゴが吸収している『エネルギー』らしきそれを仮称してそう呼んでいるだけで、実際に生命力を吸い取られたら健康に被害があるのか、と言われるとそんなことは無いそうだ。
複数のポケモンのタマゴと生活しているからと言って体調を崩したという報告はこれまでに無いし、そもそもウツギ研究所自体ポケモンのタマゴに関して専門的に研究している関係上、研究所に数えきれないほどのタマゴがあるらしいがそれで研究員たちが変調をきたしたことは無いため、生命力=命というわけではないらしい。
ただそのエネルギーを一定量吸収することで卵が孵るというのは間違いないらしく、エネルギー=タマゴの命、という意味では生命力という定義にも間違いはないのではないか、という意味で呼称されているらしい。
他にも実験結果として。
『走ったり自転車を漕いだり』など『激しい運動』を伴うことで孵化が早まるという結果がある。
これは運動をすることで生物の生命力が高まるからではないか、と言われている。
そして非常に特殊な例として。
これに関してまだデータが取れていないが、そういう事例があるらしい、程度の話だそうだが。
私の力は……まあ分かると思うが『ひこう』タイプと極めて相性が良い。
実際、私のホウエンにおける登録パーティは『ひこう』統一だ。
あとはまあこちらも母さんの影響か『ドラゴン』タイプに対してもかなり相性が良かったりするのだが、それはさておき。
ココガラというポケモンは見た目通りの鳥ポケモン……つまり『ひこう』タイプで私の能力と極めて相性が良かったらしい。
まだ孵化に時間がかかりそうだと思っていたところに私の力をぐんぐん吸収して一気に孵化した結果。
「ぴぎゃ! ぴぎゅぅあ!」
「分かったから落ち着きなさいよ」
人の頭の上に乗った体を揺らしながら鳴いている丸々とした体躯のココガラに嘆息する。
ただでさえアーマーガアの運ぶゴンドラのような乗り物が揺れているのに、余計に揺らさなくとも良いのだ。
それにしても、だ。
ポケモンというのはいわゆる『刷り込み』のようなものがあるらしいが、そんなの関係無いのではないかと言わんくらいに私に懐いてくるのは多分まあ
実際ユウリと一緒に覗き込んだ状態で孵ったのだから、私と同時にユウリも見ているはずなのに一方的に私に懐いてくるのはタマゴの時に感じた私の力を感じるからなのだろう、とユウリも言っていた。
「これ……私が育てるしかないわよね」
「だねー。ソラちゃんにばっちり懐いてるし、ソラちゃん以外には警戒心強いみたいだしね」
そっとユウリがココガラに手を伸ばした途端に、びくり、とココガラが震えてぎゃーぎゃーと騒ぎ出す。
ユウリの指先をクチバシで突かんとするが、一瞬早くユウリが手を引っ込める。
手が近づいて興奮したのか暴れ出すココガラ。生まれたばかりの体長20センチほどの赤子とは言え、さすがに頭の上で暴れられるのは溜まったものじゃないと、頭の上から掴んで降ろすとそのまま膝の上に乗せる。
「ソラちゃんが触っても全然嫌がらないね。私が触ろうとしたら突かれそうになったのに」
ユウリの言う通り、こうして抱いてみても特に抵抗は無い。寧ろ安心したかのように目を細める始末だ。
試しに頭に手を置いても特に反応は無いし、撫でてみれば緩んだ表情で鳴いている。
「まあ、良いけどね」
こうまで懐かれておいて悪い気はしない。
それにホウエンに置いてきた残りのメンバーを早急に使えない以上、どうせならこちらで新しくパーティを揃えても良いかと思っていたところだ。
「お前、私と来る?」
「ぴぎゅ?」
つんつん、と額を指で押しながら問うてみると首を傾げるかのような動作をしながらココガラが鳴く。
「まあまだ子供だし、分らないわよね」
「ココガラは進化するとアーマーガアになるよ! ソラちゃんの好きな『ひこう』タイプだからばっちりだね!」
なんてユウリは言って来るが、リーグトレーナーの手持ちになる、というのは中々に修羅の道だ。
リーグトレーナーなんて、誰も彼も頂点を目指してひたすら強さを欲する修羅道に落ちた人間たちばかりなのだから、そんな中で勝ち上がっていくのには相応の覚悟が必要となる。
「まあもう少し大きくなったら改めて聞いてみましょうか」
「
「誰がアンタの母さんよ……全く」
「ん~?」
「
「お腹空いたの? きのみでも食べる?」
「んん~??」
「
「そ、美味しいなら良いわ。もう一個あげる」
「んんん~???」
空腹を訴えかけるココガラに鞄の中に入っていた『オレンのみ』を与えると美味しそうに食べる。
餌付けしている気分になってくるが、やっていることは完全に餌付けだったので否定できないな、と思いつつもう一つもう一つと催促するようにクチバシをぱくぱくとするココガラに苦笑する。
そんな私を見やりながらユウリが首を傾げて。
「ソラちゃん?」
「何よ」
「ココガラちゃんが何言ってるのか分かるの?」
「……ん?」
問われて、ふと気づく。そう言えば何となく何言っているのか理解できてるな、と。
「そう言えば確かに何となくだけどニュアンスは理解できるわね。私が孵したから、かしらね?」
元々『ひこう』タイプに関しては共感が強く働く性質で、擬人種と違って言葉が語れない原種のポケモン相手でも何となくの気持ちは理解できていたが……さすがにここまではっきりと理解できるのは初めてだった。
私の力を受けてタマゴから孵ったポケモンだけに私とより強く共感作用が働いた、ということだろうか?
「ふーん」
手を止めてしまった私の代わりにココガラの頭の上、ギリギリ届かないくらいの高さでふらふらと『オレンのみ』を揺らし必死にクチバシでキャッチしようとするココガラをもてあそぶユウリが遊ばれていることに気づいてキレたココガラに太ももを啄まれて本気で痛がっているのを横目にしながら……。
―――口元が弧を描く。
「お前……育てたら思ったより面白くなるかもしれないわね」
果たして私の育成能力でそこまで育て上げることができるだろうか。
果たしてこの子はそこまで私について来るのだろうか。
果たして、果たして、果たして。
考慮すべきことは多い。
前提が空論だらけの
それでも、全部上手く行けば。
―――とても面白い育ち方をするかもしれなかった。
* * *
アーマーガアタクシーというのは思ったより面白い。
ホウエンなら街から街への移動となるとトレーナーならだいたい『そらをとぶ』を覚えたポケモンの背に乗って飛ぶのが普通だ。
自然が多く残り、道路整備もそれなりにはされていてもやはり曲がりくねった道や遠回りが多くなる関係上、トレーナー一人移動するなら直線で突っ切れる飛行手段が優秀なのは仕方のない話だった。
ただ『そらをとぶ』は結構速度を上げて飛ぶ関係上、進路以外を見ている余裕が無い。
ポケモンの背中に乗って、風を受けながら方向を間違えないように神経を尖らせながら移動するのは中々に疲れるのだ。
後はまあ一部チルタリスなどのトレーナーが客を背に乗せて飛ぶ航空タクシーという似たようなのもあるのだが、あれもあれで客が乗るのはポケモンの背中であるため下が見えない。
だからまあこうしてゴンドラに乗ってゆったりと景色を楽しみながら飛ぶというのは中々に楽しいものがある。
「空が近いわね」
気球などならともかく運んでいるのがアーマーガアなので比較的上のほうの視界は開けている。
背もたれにもたれながら近づいた空に手を伸ばしながら思わず呟いた一言。直後に腹部に衝撃。
「そうだね! ソラちゃんがとっても近いよ!」
視線を降ろせばタックルでもするかのように抱き着いて来る幼馴染の姿。
「全くアンタは……」
嘆息一つ。
「仕方ないわね」
苦笑した。
ハロンタウンという町にユウリの家はあるらしい……が到着したのはブラッシータウン。
「どういうこと?」
「私の友達がここの研究所にいるからついでに先に紹介しておこうかなって」
まあブラッシータウンからハロンタウンまで徒歩30分もかからない程度の道のりらしい。
そろそろ夕暮れと言っても良い時間帯にはなっているが、まあ特に急がなければならない用事があるわけでも無いし、先導はユウリに任せているので構わないかと納得する。
そこまで大きな街、というわけではないらしいブラッシータウンだったが、さすがに駅前となると多少人通りがあるようで、そのせいか満面の笑みを浮かべながら歩くユウリを見てざわめきが起きていた、
まあユウリ本人は気にした様子は無いが、やはりチャンピオンともなると知名度は高いらしい。
一緒にいる私を指さして妹かな、などと言っている声は聞こえない……断じて聞こえない。
駅前の道を駅とは反対方向へと進んでいくと、それほど時を置かずして大きな建物が見えてくる。
紫の屋根の大きな館と言った感じだが、入口の上にポケモン研究所を示すモンスターボールのペイントが描かれていた。
「ここがマグノリア博士のポケモン研究所だよ……て言ってもマグノリア博士はもっぱら家のほうにいるからこっちはあんまり居ないんだけどね」
なんて言いながら慣れた様子で入口を抜けていく。
「こんにちわ~!」
入ってすぐに木製のカウンター。室内は吹き抜けの広々とした空間になっていて、部屋の奥のほうにはたくさんの本棚にぎっしりと本が敷き詰められていた。どうやら本棚のあるあたりが2階構造になっているらしい、2段重ねになった高い本棚に合わせて階段が作られている。
入口から入った先でユウリが声を挙げると、奥の階段から誰かが降りてくる。
「ユウリ、よく来たな!」
「あ、ホップ! やっほー」
やってきたのは浅黒い肌の少年だった。短く刈った髪にハツラツとした笑みが特徴的な少年。
ここに来る途中ユウリに特徴だけは聞いていたのですぐに気付く、彼がユウリがこちらでできたという友人のホップだろう。
自分を見る私の視線に気づいたのかホップがこちらへと視線を向けて。
「ユウリ、あの頭の上に寝こけたココガラ乗せた子は誰なんだ?」
「前に言ってた大親友のソラちゃんだよ、それにアレすっごく可愛いよね~」
「おお! ユウリが前に話してた子だな、覚えてるぞ」
ぽん、とホップが手を打ち、こちらへとやってくる。
男の子だから、だろうかユウリよりも少し背が高いように見える。
つまり私よりも頭一つ二つ分ほど高い……けっ。
「オレ、ホップ。ユウリのこっちでの友達だぞ、色々話は聞いてるし、会えて嬉しいぞ」
「私はソラよ……ユウリの、まあ幼馴染ね。何言ったかは知らないけど、まあこっちも色々聞いてるわ」
差し出された手を握り返し、互いに握手する。
何というかユウリに聞いた通り、あの笑みは凄い。警戒心とかパーソナルスペースとかそういうのをするり、と抜けて気づけば差し出された手を握り返していた。
なんというか……全身から善人オーラが溢れているような少年だった。
まあ嫌いではない。
「あー、ところでソラ?」
「ん、何?」
と思っていた直後に、その笑みが困惑したような苦笑しているようなものに変わり。
「なんかボールがすっごい勢いで揺れてるぞ?」
「ん?」
言われて腰のホルスターに手を当て……。
「あ」
アーマーガアタクシーに乗るのに二人乗り用座席しか無かったのでボールに押し込めたまま数時間放置して忘れていた弟の存在を思い出した。
ユウリちゃんのソラちゃんへの好感度は100%で表すと120%くらい……え? 100%超えてる?
まあそんなこともあるよ。
まあそれなりに理由はある(設定してるのもあるけど、多分そのうち突然生えてくるのもある
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いたいけ……ではないツンデレに見せかけただけのただのデレデレ幼女を孕せた男の伝説(これが前作主人公とかマ???
「悪かったわよ……だから機嫌直しなさいって」
「……べっつに、もういつものことだなって思っただけだよ」
「拗ねてんじゃないのよ」
「拗ねてないし、姉ちゃんのやることにもう一々怒ってたら身が持たないってだけだよ」
「あんですって?」
「事実じゃん」
対面のソファーに並んで座りながら互いに睨み合っている姉弟を見やりながら隣に座る友人と二人苦笑する。
折角だし座ってお茶でもしながら落ち着いて話そうと誘ったのはホップだが、この姉弟は先ほどからずっとこの調子だった。
お陰でまだまともに話せては無かったが、それはそれとして家族ならではの姉弟喧嘩を見ているのは微笑ましかった。
―――オレは……兄貴とはそういうの無かったなあ。
なんて少しばかり過去を思い出す。
ホップとしては憧れだった兄に対して喧嘩に発展するような感情を抱いたことが無かったのだが、こうして見てみるとこういう家族の繋がり方もあるのか、と何となく斬新な印象を受けた。
「仲良いな、この二人」
「だよね~。ソラちゃん何だかんだでアオ君のこと大好きだし、アオ君も何だかんだソラちゃん大好きだからね~」
「「誰がこんなやつ!!」」
一瞬の間も置かずにぴったり揃って反論を返す二人にまた笑みが零れる。
しかし、まあこうして見ると本当に良く似た姉弟だった。
性別の違いで微妙に違いはあるが、同じくらいの身長の時に髪を同じくらい伸ばして同じ格好をさせたら絶対に見分けがつかないな、と思う。
これでこの姉弟の片方が人間で片方がポケモンだなんて誰が思うだろうか。
ヒトガタ……つまり擬人種。
人の形をしたポケモンの呼び方。
その最大の特徴は『強さ』だと言われている。
だがそれはトレーナーの理論だ。
ホップは研究者としての道を選んだが故に擬人種が何故擬人種足りえるのか、というその理由を知っている……というか薄々気づいていたが、この姉弟。
「もしかしてだけど……二人はウスイ博士の家族なのか?」
感じていた違和感に疑問が口を突いて出る。
その言葉に先ほどまで仲良く喧嘩していた姉弟が揃ってぴたり、と止まりこちらへと視線を戻す。
それから一瞬、また二人で視線を合わせて……姉の、ソラが口を開いた。
「そうよ、父さんのこと知ってるの?」
「多少なりとも研究職をかじってれば擬人種の研究の第一人者の名前を知らないなんて無いんだぞ」
ホウエン地方のウスイ・ハルト博士は世界で十数年前においてほぼ唯一と言っても良かった『擬人種』の研究者である。
擬人種……当時にヒトガタというのはとにかく強いポケモンの代名詞であり、だからこそトップトレーナーたちが喉から手が出るほど欲したために研究に回せるような個体がいなかったのだ。
ジムリーダーや四天王、果てはチャンピオンが持つ……それもエースクラスのポケモンたちを研究のために貸してくれ、とはさすがに無理がある話で。
その希少性と需要の関係上、擬人種の研究はいつになったら進むのか、と思われていた当時。
トップトレーナーたちの中でも一握りのパーティに1体……ないし2体いれば多い方と言われていたヒトガタポケモンを10体近く集め、研究を始めたのがウスイ・ハルト博士だった。
その研究報告には一時期学会が騒然とした。
曰く。
擬人種とはポケモンが『性交』を行うための一種の『進化』形態である、と。
そもそもの話、ポケモンには雌雄における『差異』というものが存在しない。
雄と雌で姿が変わるポケモンもいるのだが、それでもその体内における作りというのは基本的に同じなのだ。
簡単に言えば『生殖器』が存在しない。雄に『男性器』は無いし、雌に『女性器』が無い。
だからこそ育て屋などで偶に見つかるタマゴも『産んだ』のではなく『どこかから持ってきた』という言い方をするのだ……するしかないのだ。
生物学的に言えばポケモンは『性別が無い』生物なのだ。
かと言って単為生殖できるのか、と言えば雄と雌がいなければタマゴが生まれないことを考えるとおかしいことになる。
そもそも単為生殖するなら雄と雌で区別する必要が無くなる。
まあこの辺を研究している研究者もいて、それについての考察等々色々あるのだがそれは置いておいて。
人とポケモンは全く別の種族だ。
だがポケモンは人類の隣人と言われるように人と心を通わせることができる生物でもある。
故に時々だがいるのだ……ポケモンを真剣に愛する人間というのも。
自分と全く違う姿形をしていても。
種族的に……いや、生物的に繁殖を不可能としていても。
それでもポケモンを愛し、結婚する人間というのは世界中で一定数存在する。
そして人がポケモンを愛するように、ポケモンもまた人を愛することもある。
そして、だからこそ『人と交われる』体をポケモンが求め。
―――それを可能とするだけの『才能』があるポケモンが『人の形』へと変異する。
人と交わるために人に適応し人の形を成したポケモン。
つまりそれがヒトガタ……『擬人種』である。
というのがウスイ博士の理論であり。
論より証拠とばかりにウスイ博士は『ヒトガタポケモン』との間に子供を為したらしい。
つまりその子供というのが……目の前の二人なのだろう。
論文の発表に先駆けるように世界中で擬人種の数が増大し、擬人種が一般社会に馴染むにつれて十年以上経った。
元々全く姿形が違う時だってポケモンを愛する人間は世界中にいたのだ。
まして自分と同じ姿になった相手ならばさらにそのハードルは下がるのも当然の話で。
今となっては人と擬人種が結ばれた、という話もちらほらと聞くようになっている。
社会的に言えば『子を為せる以上は問題無い』というのが結論らしく、だいたいの地方では受け入れられている。
だがそれは今となっては、の話だ。
まだ世界的に希少だったヒトガタポケモンと子を為した、なんてウスイ博士以外にいるのかどうかすら怪しいし、ソラとアオの年齢を考えると必然的にウスイ博士との関連性を考えてしまっていたが、どうやら本当に関係者……というか実の娘と息子だったらしい。
研究者を目指す身としてはその分野で一角の人物であり、擬人種研究の先駆者でもあるウスイ博士のことは尊敬している。
ただ。
「何年か前からウスイ博士は公の場に出てないらしいんだけど、今は?」
何年か前からウスイ・ハルトは公から姿を消した。
まあ今も研究所は稼働しているらしいし、どこかで活動はしているのだろうが、というか十二年ほど前に発表したという擬人種の論文から先、ウスイ博士の研究はなんというか……手広過ぎる。
確か擬人種の考察の次に発表したのが『ポケモンの能力値の考察』で今のポケモン図鑑におけるポケモンの能力……ステータス表示の参照元ともなった。
その次が『ポケモンの後天的能力値上昇要素基礎ポイントについての考察』でプロトレーナーたちから内容を絶賛され、今でもポケモン育成の理論の一つとして取り入れられている重要な論文だ。
それから元ホウエンチャンピオンのツワブキ・ダイゴ氏との共著で『技の分類・仕様・仕組み』の研究論文。アローラ地方でポケモンの技を研究する博士が、学会で興奮し過ぎて倒れたとかいう……この論文を元にブリーダー協会が技術研究を重ねることで『育成で技を創り出す』ことが可能となったとかなんとか。
他にもいくつかの論文や研究発表がされているのだが、どれもこれも『擬人種』とは余り関係が無さそうなものばかり。でも発表した研究や提出した論文が大概何がしかの反響を呼んでいるせいで、特に有名というか代表的なのが『擬人種』についての研究というだけで実際には興味のあることならなんでも研究してるんじゃないか、とか言われている。
「父さんなら今はイズモに新設された『公認トレーナースクール』で教鞭を取ってるわよ」
「ああ! 例の条例で作られたやつだな」
トレーナースクールは割とどの地方にもあるポピュラーな施設だろう。
ただしその頭に『公認』の文字が入るとこれが一変する。
ポケモン協会の規定としてはポケモン協会の統括範囲内地域における『成人』は基本的に10歳とされている。
『小学校卒業みんなが大人法』とかいう名前を考えた人間の頭が狂っているとしか思えないような名前の法律でそれはきちんと規定されている。
この『成人』と同じタイミングで『ポケモン保有資格』の取得が可能となる。
内容自体は講習と簡単なペーパーテストで半日ほどで終わるので大概成人と同時にみんな取ってしまうのだが、何年か前まではここにさらに『トレーナー資格』試験があった。
この世界では至る所にポケモンがいて、ポケモンと共に戦うトレーナーがいて、トレーナーがいればポケモンバトルが発生するが、実のところこの『トレーナー資格』が無ければ『正規トレーナー』として認められない、ただの自称トレーナーになるのだ。
まあこの試験も同じようにペーパーテストで簡単に手に入るのでだいたいの人間が持っていたのだが、実際のところ正規トレーナーでなければ何か困るのか、と言われると大半の人間は実は困らない。
正規トレーナーになるとポケモンリーグ提供のいくつかの権利が与えられる。
その中で最も大きいのは『リーグ公認ジムへの挑戦資格』だ。
逆に言えば別にポケモンリーグを目指さないのならば正規トレーナー資格など無くても困らないのだ。
というか正規トレーナー同士がバトルする時は『賞金の設定』やら『ルール制定』やら色々面倒が増えるので真面目にトレーナーを目指すつもりが無いならあえて取らない、という人も一定数いたりする。
まあそんなわけで、だいたいの地方において『正規トレーナー』であることはハードルが低かったのだが。
近年になってこれが見直されるようになってきた。
―――準トレーナー規制令。
確か発布されたのは十年前だったはずだ。
全国のポケモン協会が協議を重ねた末に実施された、
逆に言えば十二歳未満の子供は正規トレーナーとして認められない、ということだ。
これまで十歳の子供でも解けるレベルだったペーパーテストの難易度がぐんと上がり、そもそもテストを受けるための年齢条件が十二歳にまで引き上げられた。
これによって今まで十歳で旅を始めていた子供たちが十二歳まで待つようになり、さらに十二歳になっても難関のテストを潜り抜けねばトレーナーになれなくなった。
―――これが解けるなら知識面だけならそのままエリートトレーナーになれる。
とすら現役プロトレーナーに言わしめたほどの難問でトレーナーとして生きることができる子供の数がぐんと減った。
『公認』トレーナースクールとはそんな制度が生み出した『救済処置』である。
通常のトレーナースクールがポケモンの基礎的な知識やバトルの初歩の初歩を教えている学校だとするならば『公認』トレーナースクールは『プロトレーナー育成所』と言ったところだろうか。
少なくともこのスクールを卒業できればそのままテストをパスして『トレーナー資格』が手に入る、と言えば分かるだろうか。
当然ながらその教鞭を取るのは知識ばかりの人間であってはならない。
未来のプロトレーナーを育てる教育機関なのだから、そこで教鞭を取るのは『同じ目線』を持つ人間……つまりプロトレーナーでなければならない。
そういう事情もあって、その需要の割にその数は未だ全国的に見ても多くはない。
まあ確かにウスイ博士ならば教師としては適格だろう。
すでに現役は引いているとは言え。
その強さは未だに折り紙付きであり……。
「羨ましいな、オレもその授業受けてみたいぞ」
素直にそう思ったので口にすると。
「えっと……うん、そっか」
ソラが何とも言えない表情で口を濁したのに首を傾げた。
* * *
別に父さんが嫌いというわけではないのだ。
昔は凄く強かったというのも聞いているし、今でも研究者として色々功績を残していて尊敬もしている。
父さんも母さんたちもみんな家族仲が良く、結構幸せな家庭だと思う。
ただ娘としては母親が7人もいることに思うことが無いわけでも無い。
何より。
母さんに似ている、と良く言われるが自分の母も昔は私と同じくらい小柄だったらしい。
そんな母さんと……そういうことをして、結果的に生まれたのが私とアオということになる。
今の私と同じくらいの時に?
と考えると余計にもやもやしたものが残る。
別に父さんが襲ったとか無理矢理したとかそういうわけではない。
互いの合意で、その上父さんも当時はまだ十二歳……体格的に考えればまあそこまで無理ではない。どう考えても早すぎるとは思うが。
ただ今の自分と同じくらいの時に母親が孕まされたという事実を知っていると、それをやった父親に対して娘としては複雑な感情を感じられずにはいられないわけだ。
さっきも言ったが別に嫌っているわけではないのだ。
下の弟や妹たちも可愛いし、大家族ではあるが全員ひっくるめて愛してくれている父親を好いてはいる。
ただどうしても……ねえ?
なんというかこう……。
服とか一緒に洗って欲しくないなあ、とか思うし、父親が入った後のお風呂はお湯を入れ換えたいなあ、とか思うだけなのだ。
言ったら父さん泣きそうな気がするが。
というわけでソラちゃんとアオくんは前作主人公の子供たちだったんだヨー!
ナ、ナンダッテー?!
まあ前作読んでた人なら「知ってた」だろうけど。
自分で書いててなんだけど、改めてこう……酷いね???
いや、まあドールズ読めばわかるけど、あのタイミングでソラちゃんたち『仕込んで』なければバッドエンド一直線だったわけだからタイミング的には仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけど……それでもやっぱ娘目線で見たら『自分とそっくりの母親』を『自分と同じ年齢くらいの時』に致した……となるとやっぱね?
ソラちゃん今十二歳、今年で十三歳……お年頃なのです。
エアちゃんの子供だけど、ソラちゃんはれっきとした人間だからね……色々とやばいもの受け継いでるけど。
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ところで擬人種の女の子がダイマックスするとスカートの中が(ここからは血痕がついていて読めない
「だいまっくす……?」
「ダイマックス、このガラルでのみ確認されているポケモンの巨大化現象のことなんだぞ」
「ああ……ユウリがさっきのバトルでやってたやつ?」
マグノリア博士のポケモン研究所のテーマは『ダイマックスについて』らしい。
研究助手見習いのホップ曰く、ダイマックスとはこのガラル地方でのみ確認されているポケモンの巨大化現象の総称であり、マグノリア博士はこのダイマックス現象の解明のための研究を行っていると共に、このダイマックス現象を意図的に引き起こすことが可能なようにと作られた『ダイマックスバンド』の開発に携わったらしい。
「これだよ~」
そう言ってユウリが上着の袖をまくって右手の手首を見せる。
そこに巻かれているバンドに……なるほど確かに不思議な力を感じる。
と、いうか、この感覚は。
「ムゲンダイナ?」
ぽつり、と漏れ出た言葉にユウリとホップが驚いたように目を見開く。
「え、ソラちゃん凄い、なんで分かったの」
「それはまだ発表してない研究の結果のはずなんだぞ?!」
「え、何? どういうこと?」
曰く。
ダイマックスバンドの開発に必要不可欠な『ねがいぼし』と呼ばれる鉱物が存在する。
ガラルに時折降り注ぐ流れ星の欠片とも言われおり、『願い星』の名前の通りガラルでは強い願いを持った人の前に落ちてくると言われている。
実際、ユウリとホップがトレーナーとして旅立つ日、『ねがいぼし』が落ちてきたらしい。
ダイマックス現象とはこのガラルの大地の下を巡る『力の奔流』のようなものが時折地上に噴き出している箇所……つまり『パワースポット』の上に存在するポケモンが噴き出したエネルギーに晒されることで空間を歪め
それはさておき、このパワースポットで溢れるパワーを『ねがいぼし』は吸収し、エネルギーに転換、ダイマックス専用に作られたガラル製のモンスターボールの機能を使ってエネルギーをポケモンに注入することで意図的にダイマックス状態を発現させるという仕組みらしい。
この『力の奔流』の余波で可視化された光子を『ガラル粒子』と呼称しているわけだが、『ガラル粒子』つまり大地からパワーを吸収、エネルギー転用する。
さて、どこかで聞いたようなセリフではないだろうか。
―――ムゲンダイナの本質的な能力はガラルの大地から吸収、転用できる『無限のエネルギー』だから
そう、ユウリが自分で言っていたように、ムゲンダイナの能力そのままなのだ。
ムゲンダイナは遥か昔にガラルに落ちてきた隕石に眠るポケモンであり、過去に砕け散ったムゲンダイナの力が宿った隕石の欠片こそが『ねがいぼし』なのだそうだ。
隕石と共に降ってきてなんで生きているのか……さすが超越種、生物止めすぎだろうと言いたい。
というかだからこそムゲンダイナは『ねがいぼし』を与えると強化……というか元の強さを発揮できるようになるのだが、余り与えすぎると今度はオーバーロードし過ぎてしまうらしい。
自分の肉体を取り戻したら負荷がかかりすぎて耐えられないとかどういう存在なのだろうか。
正直な話、聞けば聞くほど無茶苦茶な存在である。
もしかして……と思うこともあるが、まあ所詮もう起き得ない可能性の話。
今のユウリに懐いた状態を見る限り……まあ多分、きっと恐らく、大丈夫……なのではないだろうか?
まあ今はそのことは良いとしても。
「要するにこのガラル地方のプロリーグではダイマックスが当たり前のように使われているのね」
「そうそう……自分のエースポケモンにダイマックスさせて戦うのは盛り上がるからね~」
「ユウリのポケモンもそうだけど、兄貴のリザードンのキョダイマックスもカッケえんだぞ!」
「キョダイマックス?」
また知らない単語が出てきたと首を傾げると、ホップが説明をしてくれる。
さすが研究職を目指すというだけあって、こういうことには詳しいらしい。
「要するにダイマックスした時、通常とは違うダイマックスができるのね」
「それに通常のダイマックス時に使える『ダイマックスわざ』と違って『キョダイマックスわざ』ってのが使えるようになるんだぞ」
『ダイマックスわざ』とはダイマックス状態でのみ使える技であり、この状態で使う技は元となる技のタイプごとに『ダイ〇〇〇』と名前を変えて一律で同じ技になるらしい。
どれもこれも高威力で尚且つ追加効果も優秀な強力な技になるらしい。
『キョダイマックスわざ』はキョダイマックス状態のポケモンのみが使える技で、キョダイマックスポケモンごとに変わる1タイプの技が『キョダイマックスわざ』に変わるらしい。
『ダイマックスわざ』との大きな差異として、追加効果の独自性がある。
強い技ではあるのだが癖が強いものが多く、『ダイマックスわざ』のほうが使い勝手自体は良いということも多いらしい。
「ダイマックスそれにキョダイマックス、ね。取り合えず覚えたけれど……それにしても厄介ね」
「それにダイマックスするとシンプルにタフになるんだぞ」
やはりあのバトルコートの広さはそういうことらしい。
ホップ曰く、ダイマックス状態になったポケモンは『ダイマックス技』とは別に耐久力が大きく伸びるらしい。
図鑑のステータス表記を見れば分かるのだが、
さらに言うならば一部の技の効果が通用しなくなるらしい。
具体的には『いちげきひっさつ』技や『みちづれ』等。
他にも『ねこだまし』などの『ひるみ』効果を受けないし、他にも『レッドカード』などの強制交代効果も受けないらしい。
「大分厄介ね」
『ひこう』タイプは相手を怯ませる技があるので割と採用しているのだがそれが通用しない、というのはやや面倒だった。
「なんというか」
聞いていた、限りの話ではあるが。
「真正面から殴り合うことを強要されてるみたいな環境ね」
そう呟いた私の対面で、ユウリが薄く笑みを浮かべた。
* * *
「なるほどな、ソラは今年のジムチャレンジに参加予定なんだな」
「ええ、ホップも去年参加したって聞いたわよ」
すっかり中身の無くなってしまったカップを流し場で洗っていく。
ユウリのほうがさっきいきなり電話がかかってきてそのまま少し出てくると言って研究所を出てしまった。
先ほどまで使っていたテーブルをアオに濡れ布巾で拭かせているので、こちらは洗い物を手伝っていた。
「こっちから誘ったのに手伝わせて悪いな」
「良いわよ、お茶美味しかったし、こちらこそ、ごちそうさま」
水を切って、空布巾で拭いていく。
きゅ、きゅ、と気持ちの良い音を鳴らせながら水気を切ったカップを片付ける。
「ユウリ帰ってこないわね」
「そうだな……まあアイツはチャンピオンだから、仕方ないぞ」
呟きながら入口を見やるその視線は僅かに暗い色を帯びていて。
何となく、そこに映った感情に勝手に共感してしまった。
だからこそ、その言葉はふいに口から漏れた。
「置いて行かれた、とか思った?」
「っ?! いきなりなんだぞ」
「別に。ただの独り言だから気にしないで良いわよ」
開かれる様子の無い入口の扉を見やり壁を背にして、ぽつり、ぽつりと呟く。
「私たちが幼馴染だってのは言ったわよね……元々ユウリってトレーナーを目指していたわけじゃないのは知ってた? まあユウリの両親、普通に仕事してる人たちだし、正直私と一緒にいた頃はトレーナーのトの字も知らないような子だったわ」
逆に私はトレーナーになりたかった。なるしかなかった。それしか私には
「仲……良かったのよ。普通に、ううん、普通以上にかしら。大親友、なんて言ってくれてるけど、うん。私もそう、親友……じゃ足りないわね、大親友だわ。とっても大切な友達」
だからこそ、最後の時に。
「引っ越しが決まって、あの子泣いてたのよ。でも私だってまだ子供だわ……今でもまだそうだって言われたら否定できないけれど、それでもまだ
それが悔しかった。
それが苦しかった。
それが辛くて。
「―――大きくなって、トレーナーになったら、その時は私とバトルしましょう。って去り際に約束したの」
また必ず会うための約束。
リーグトレーナーを目指す私にとってその時できたたった一つの約束。
けれど地方一つ変わればもう会えるかどうかなんて保証できないからこそ、それは気休め程度の口約束だった。
私自身、それが気休めでしかないと分かっていた。
「だから、ガラルから手紙が来た時、びっくりしたわ」
ユウリからの手紙が……突然やってきたのだ。
それもリーグへの招待。
一体何が起こっているのか、わけも分からず。
それでも数年音沙汰の無かった親友からの連絡に一も二も無くやってきたのだ。
「久々に会ったあの子は……チャンピオンになっていた」
チャンピオン。
地方トレーナーの頂点。
地方リーグにおける絶対存在。
このガラル地方における最強のトレーナーの称号。
「置いて行かれたなあって思ったわ」
片や新人リーグトレーナー、片や一地方のチャンピオン。
別れる前は私のほうが圧倒的に前にいたはずなのに、気づいたら私のほうが遅れていた。
そのことに何も思わないわけがない。
「それでもね」
ガラルリーグに移籍する、ということはその頂点を……ユウリを倒すことを目標とする、ということでもある。
ユウリから頼まれたことではあるが、私はユウリの敵となるわけだ。
「それでもね」
いずれ戦う相手と交友関係を持つのはリーグという狭い世界で骨肉を争うような戦いを繰り広げるトレーナーたちにとって足を引く要素になりかねない。
ユウリと戦う時に、ほんの僅かな情が入ったら私はきっと勝っても負けても後悔するだろうから。
根本的に私はそこでストイックになれるタイプではないと分かっているから。
きっとこのままユウリと親友で居続ければ私は情を割り切れない。
ぐるぐるぐると悩んだままリーグ戦に臨むことになるだろう。
「それでも、ね……やっと再会できたのよ」
大切な……大好きな親友ともう一度会えたのだ。
「どう足掻いたって私は変われない」
割り切ることもできなければ。
情を捨てることもできない。
だってそれは私とユウリの『絆』なのだから。
他でも無い。
父さんの娘である私がそれを捨てることだけは絶対にできない。
「だから良いのよ。苦しいまま戦うわ。悩んだまま戦い抜くわ」
それでも良い、それで良い。
きっと辛いし、きっと痛いし、きっと、きっと。
ああ、それでも、だ。
「この心が苦しい理由が友情なら……きっとそれだけ私がユウリのことを大好きだってことだから」
* * *
「というわけでソラちゃんの勧誘成功しました!」
『そうか、よくやってくれた! 今年のジムチャレンジが今から楽しみになってきたな!』
「ですね~。ソラちゃんすっごい強かったですよ、ムゲンダイナやられちゃいましたし」
『そいつは凄い! はは、オレも戦いたくなってきたぜ!』
「ソラちゃんジムチャレンジに参加するからもし戦うなら一緒に参加するとかしないと」
『お、良いな! それは面白そうなアイデアだ』
「え?」
『ユウリ、サンキューだ! オレも忙しくなってきたぜ!』
「え? え? あの?」
* * *
「てわけでオレもジムチャレンジャーだぜ!」
「何を言っているんですかキミは」
「一緒にどうだ? あの子たちのこととか気になってるんだろう?」
「いや、それは……でもおれはもう引退した身ですし」
「はは! なーに、別に引退したからって復帰しちゃダメだなんて理由はないさ。別にオレたちは問題があったから引退したわけじゃない。それにどうせ今年だけだ……来年からは新しい世代に任せれば良いのさ!」
「ふう……言い出したら聞かないのは昔からですね、キミは」
「こんなキョダイマックス級に楽しいイベントを逃すなんてガラル人じゃない!」
「……ふふ、まさかキミを相手に一理ある、と思わされる日が来るなんてね」
「お? 火がついたか?」
「ええ、確かにこんな楽しいイベントを逃すのは楽しくないですね。それにあの子たちのことも気になってますし」
「よし! 決まりだな! 今年のジムチャレンジは過去最高に盛り上がるぜ」
「やれやれ……ま、こちとら引退した身ですし。精々気楽にやらせてもらいましょうか」
「くぅ! 想像しただけで血が滾って来るぜ! 今から一試合、やらないか?
「ノイジーなこと言ってんじゃねえです……と言いたいところですが、おれも少しばかり昂ってきましたよ、相手しましょう、
因みにソラちゃんのユウリちゃんへの好感度も100%で120%くらい。理由はあるんだけどね。
ホップ君って一応後日談で心の整理はつけてるけど、まだ吹っ切ってないよな。
だって公式が絶対わざとソニアさん被せてるもん。
というか口調これで良いのかな。
台詞集とか確認しながら書いてるけど、口調が怪しい部分がある(
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てんばつてきめん、もしくはじごうじとく、あるいはいんがおうほー
「すっかり日が落ちてきたわね」
「まあ歩いてそんなに時間かからないし、大丈夫だよ」
「付き合わせてごめんだぞ」
「別に大丈夫だよ、姉さんも怒ってるわけじゃないし」
時刻午後五時半。
すっかり研究所に長居してしまったが、今日は研究所の所長もその孫でホップの上司にあたる人も居なかったためホップが帰る時に研究所の戸締りをする必要があったらしくその手伝いをしていたら遅くなってしまっていた。
まあとは言え、ここから歩いてそう時間はかからない程度の距離らしいし、完全に真っ暗になる前にはユウリの家にたどり着けるだろう。
そうして研究所を出て四人で歩いていくと、すぐに街の外へと出る。
ハロンタウンとブラッシータウンを繋ぐ間の街道が『1番道路』。
草むらなどから偶に野生のポケモンが飛び出してくるらしいが、まあ出てくるのは比較的温厚で臆病なポケモンばかりらしく、初心者トレーナーが偶にこの辺りでポケモンを捕まえたりもしているらしい。
「…………」
それはともかくとして。
歩いている最中に偶然、それが視界に入る。
それが視界に入った瞬間、目を見開き、思わず立ち止まってしまう。
「ソラちゃん?」
「どうしたんだ?」
「姉ちゃん?」
ふと立ち止まった私に気づいた三人がこちへと戻って来る。
そうして私の視線の先を追って。
「あ、ウールーだ」
もこもことした毛玉がそこにいた。
真っ白なふわふわの毛並みに愛くるしい黒い顔。
気づけば足が動いていた。
吸い込まれるように、無警戒に近づき。
両手を広げて……。
「はふ」
「ぐめ?」
後ろから警戒させないように優しく抱き着くとこてん、と愛らしく首を傾げて鳴く。
もこもこの毛に包み込まれるようにその毛に体が沈んでいく。
「なにここ……天国かしら」
「あ、ソラちゃん良いなあ」
「ユウリも来なさいな」
「わーい」
反対側からユウリがやってきて二度、三度とその頭を撫でると嬉しそうにポケモンが体を揺らし、そのままユウリが同じように抱き着く。
「やばいわ」
「やばいね」
「ソラもユウリも仕方ないんだぞ」
「二人とも語彙力が死んでるね」
外野が何か言っているが至福の感触に包まれて全く気にならない。
今なら何言われても許す……後でやり返すけど。
「良いわね」
「良いね」
道端で前後からポケモンに抱き着いて拘束する二人組とそれを後ろから見守る二人組のなんとも珍妙な光景がそこにあったが、幸いというべきか通りがかる人は誰も居なかった。
* * *
その後しばらくたっぷりとモフモフを堪能し、何度も頭を撫で、もう一度モフモフを堪能してから手持ちの『オレンのみ』をあげ、嬉しそうに鳴くモフモフをさらに堪能して野生のモフモフと別れた。
「素晴らしい地方ね、ガラルって!」
「うーん、ソラちゃんが今日一番の笑みを浮かべてる」
「ウールーの毛は触り心地抜群だからな!」
「現金だなあ」
実家でクッションに埋もれたまま死にたいとか言ってるぐーたらがいたが、その気持ちが良く分かった。
あれはダメだ、人をダメにするもふもふだ。でもダメになっても良い……それでもと引き換えにあの至福が得られるのなら、そう思わせられるほどのモフモフだった。
「……ぴぎゅ!?」
「あ、起きた」
「ぐっすりだったよね」
「あんな不安定な頭の上で良くそんな熟睡できるんだぞ」
「頭に乗っけたまま気にしない姉さんも相当だと思うけどね」
モフモフと別れてさらに道なりに歩いていると頭の上で寝こけていたココガラが目を覚ましたらしい。
寝ている姿は中々愛嬌があって思わずユウリにスマホで撮影してもらったくらいに可愛かったのだが、起きた途端に騒ぎ出して中々に喧しい。
「ほら、暴れない……どうしたのよ」
「
「だから誰がアンタの母親だっての……ほら、またちょっと贅沢に『オボンのみ』あげるから大人しくしてなさい」
「ママだ」
「ママだな」
「ママだね」
「うっさい、アンタら」
うん、こうして改めて腕の中でココガラを抱きしめていると、この子も中々にモフモフだ。
先ほどの至高のモフモフとは多少違う、艶やかなモフみがある。
「ユウリの家に着いて荷物置いたらブラッシングしてあげないとね」
「それなら私の貸してあげようか? この間思い切ってちょっといいやつ買ったんだ」
「そうね……ついでにアオもやってあげよっか?」
「自分でやるから良いよ」
「照れなくてもいいのに」
「姉ちゃんは少しは照れろよ」
「仲が良いんだぞ」
なんて話していると道が比較的整備されたものへと変わっていく。
ユウリによればどうやらもうハロンタウンの入口あたりらしい。本当に三十分もかからなかったな、と思いつつさらに少し歩いた先に見える近隣で一番大きな家がホップの実家らしい。
「じゃあソラ、アオ、まただぞ! ユウリ、久々にゆっくり話せて楽しかったぞ」
「またね、ホップ」
「うん、また話そっか、俺も話してみたいことたくさんあるし」
「こっちも楽しかったよ、またソニアさんがいる時にでも遊びに行くね~」
家の中に入っていくホップを見送り、その姿が見えなくなるとユウリがこちらを向き直る。
「それじゃ私の家に案内するね……すぐ近くだから」
そのユウリの言の通り、ものの五分もしない内に周囲が花壇に彩られた横に広めの家が見えてくる。
そしてその手前に見えるのは柵の門で封鎖された森らしき場所へと続く道。
「あっちは?」
「あっち? ああ、あっちは『まどろみの森』へ続く道だよ」
「『まどろみの森』?」
「そう、ザシアンとザマゼンタ……ガラル地方の伝説のポケモンが住んでた場所だよ」
ザシアン、とは確かユウリの手持ちの名前じゃなかっただろうか。
ああ、だから住んでいる、じゃなくて住んでた、なのかと納得してしまう。
「言われてみると……確かにちょっと不思議な感じがするわね」
と言っても森全体にぼんやりと力が行き渡っているようなイメージ。
恐らくこの森も『パワースポット』の一種なのだろう。ダイマックスとかいうのができるかどうかは知らないが。
ダイマックス現象が引き起こされるのは『ガラル粒子』が溢れている場所だけだ。
マグノリア博士はこの大地の下に流れる力の巡りから零れた力が『ガラル粒子』として見えていると思っているらしいが、同じような場所なら世界中に存在する。
不思議なパワーに満ちた地『パワースポット』というのはこの世界中に存在するがダイマックスなんて不可思議な現象が起きるのはこのガラルだけだ。
その辺の違いに何か秘密でもあるのかもしれないが……まあ私は研究者ではないのでその辺はどうでも良い。
「おーい、ソラちゃーん。早く早く~」
「ごめん、すぐ行くわ」
ユウリに呼ばれ、元の道を戻っていく。
その後ろで。
ばさり、と黒い巨大な影が森の中で羽ばたいた。
* * *
「あらあらあらあらあら?! もしかしてソラちゃんとアオ君!!? 本当に久しぶりね~、えっと、何年ぶりかしら? いつガラルに来たの? それに今日はどうしたの? え? うちに泊まっていく? 良いわよ~、好きなだけゆっくりしていってね。ソラちゃんご飯はまだ? お風呂は? どっちを先にする? どうせならソラちゃんとユウリ一緒に入ってきなさいよ。アオ君は少し待っててね、あ、お腹空いてない? 良かったら何か摘まめるものだす? 二人とも泊まっていくのよね、ソラちゃんはユウリと同じ部屋でも良いわよね? なんだったらベッド大きいし二人で寝たら良いんじゃないかしら、ソラちゃん前に会った時と同じくらいちっさくて可愛らしいし。アオ君はお父さんのベッドでも使う? 一週間くらいは帰ってこないらしいし、使ってちょうだい。え、ソファー? 良いのよ、遠慮しなくて、どうせ使わないんだから。あ、それといつまで泊まっていく? まあいつまででも良いんだけど~。二人とも可愛いし、昔から知ってるからもうほとんど自分の子みたいなものよねえ~」
うん、まあ歓迎はされた。
一緒になってテンション上げてるユウリを見て、やっぱこの二人親子だなあと実感する。
ユウリのお父さんは逆に物静かな感じなのだが……娘というのは母親に似るものなのだろうか。私も母さんに似ていると良く言われるし。
夕飯もご馳走になって、個人宅としては比較的広いお風呂も借りた。
途中でユウリが入ってきたあたりまあもう予想はできていたので知ってた、という感じだが。
お風呂から上がると荷物からパジャマを出して着替える。
擬人種のポケモンの場合、着ている服というのは毛皮や鱗の一部のようなものなので、お風呂で一緒に洗うと普通に綺麗になるらしいのだが、私は残念ながら人間なので着替える必要があった。
青色のシンプルなパジャマに着替えて、更衣所を出る。
後ろからついてくるユウリはカラフルな水玉模様のパジャマを着ていて。
何となくお洒落の差で負けたような気がした。
「わ~ソラちゃんパジャマ可愛いね」
「普通のシンプルな柄でしょ」
「そっか、じゃあソラちゃん可愛いね!」
「はいはい」
隙あらば抱き着く……というかもうへばりついて来るユウリを引きはがす。
何だか懐かしい感じもするが、まあ昔からのことなのでもう慣れた対処だ。
「上がったわよ」
「お先~アオ君もどうぞ~」
「うん、ありがとう、あと姉ちゃんこいつ」
「分かってる、預かっててくれてありがとう」
居間でテレビを眺めていたアオに一声かけてユウリの部屋へ……向かう前にアオからココガラを受けとる。
それから部屋へ入ると年頃の少女らしい可愛らしい内装が目についた。
「あら、お洒落ね」
「ありがと~」
母さんは比較的にそういうのに興味は無いらしいが、私はまあ着飾ったり、可愛らしい小物を集めてみたり年相応程度の興味はあるのでユウリの部屋の内装は中々にツボだった。
まあ外に出る時は、あの母さんの服に似せて仕立ててもらったコートをいつも着ているので着飾っても家の中だけだったりするのだが。
「それじゃ荷物の整理でも……って思ったけど」
「可愛い~♪」
「ぴぃ……」
腕の中で抱いたココガラが寝息を立てている姿に苦笑する。
ユウリがつんつん、と眠ったままのココガラの頬を突いてはむずがられている。
どうやら起きていると嫌がられるので眠っている間に弄ろうという魂胆らしい。
「タオルを二重三重に重ねて……っと。これで良いわね」
カゴの中にタオルを二枚、三枚と重ね簡易的なベッドを作ってそこにココガラを置く。
すぴすぴと寝息を立て、すっかり夢の中のココガラが起きる様子はない。
これで荷物の整理ができそうだ、とほっと嘆息して。
「あいたたたたた」
スマホを操作していると突如あがった悲鳴に視線を向ければ、眠ったココガラを突こうとしてぱくり、とクチバシに指先をついばまれているユウリの姿があった。
「何やってんのよ、ホント」
仕方ないなあ、と笑みを浮かべた。
* * *
深夜。
ふとぱっちりと目を覚ます。
眠れない……というわけではなかった。
というか先ほどまでぐっすりと眠っていたはずだ。
寝つきは悪くないほうだが、さてはて。
ふと隣を見れば同じベッドですやすやとユウリが眠っている。
安らかな顔である。見ているだけでふっと微笑んでしまうような。
ただ寝相が悪い。布団から半分はみ出している。
「風邪引くわよ……仕方ないわね」
布団を掛け直し、乱れた髪を軽く整えてやる。
「ん……そら、ちゃん」
「……はいはい」
ぽんぽん、とその背を軽く叩いてやると安心したかのような表情をする。
やれやれ、と複雑な内心を抱えながらも苦笑して。
ばさっ、とふと窓の外から何かが羽ばたくような音が聞こえた。
「……ふーん」
何となく予感のようなものを覚えて、ベッドから抜け出す。
途中足元のカゴに詰め込まれたココガラを踏みそうになりながらも部屋を出る。
しん、と静まり返った家の中ではキッチンで冷蔵庫がジージーと鳴る音と時計が針を打つかちかちという音しか聞こえない。
ともすれば先ほどの羽ばたくような音が幻聴……もしくは寝ぼけただけなのではないか、と思ってしまいそうになるが。
「うーん」
何とはなしに足は玄関へと進む。
途中、アオを起こしていくべきか、と考えて。
ばさっ、と再び羽ばたくような音。
「はいはい……一人で来いってことかしらね」
靴を履き替えたところでそう言えばパジャマのままだったな、と一瞬悩んで。
「まあ良いでしょう」
扉を―――。
「何が出るかしらね」
―――開いた。
ばさぁ、と羽ばたく音と共に、漆黒の羽が一枚ひらりと舞い落ちてくる。
「―――クラァ」
目の前にあったのは見上げるほどの巨体。
ぶっちゃけ水代はオールアドリブで書いてるのでプロットなるものは存在しないわけだが、取り合えず第一章のボスは決まったな。
ジムチャレンジ自体は三章くらいにしようと思ってる。
ここまでの流れ的に多分二章はチャンピオンカップになるかな?
ファイナルカップとかチャンピオン戦とか……そこまで勝てるかどうかは不明だけど、戦うなら四章になる、かな?
今作はドールズみたいに野生の伝説と戦うことは基本無い……はず? なので……あ、ダイマックスアドベンチャーであるかな? ある? 分からないけど、まああるかも?
まあそれでも前作が『伝説の脅威からホウエンを守る』ことを目的とし『チャンピオンになる』ことを途中経過としていたのと比べて、今作は『チャンピオンになる』ことが最終目的なので、前作ほど簡単にはリーグ戦終わらない予定。
あとめっちゃ今更なんですけど。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=258776&uid=7917
リーグ戦とかで戦うトレーナーのデータとか募集してます。
良かったら作ってみてください、ぼくのかんがえたトレーナーとパーティ、はとっても楽しいので(それでもデータ100体分とか無理
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クロガネのつばさ①
「ふあ……ふぁあ」
窓から差し込む朝日に自然と目が開く。
半身を起こしながら背伸びをすれば一緒に欠伸が飛び出して。
そこで昨晩一緒に寝ていたはずの親友の少女が居ないことに気づいた。
「ソラちゃん?」
名前を呼んでも返事は無い。
ベッドから降りると床に置いてあったカゴの中では赤ん坊のココガラがすやすやと眠っている。
これでもポケモンには懐かれる性質だと思っているのだが、どうにもこの子だけは懐いてくれない。
「きっとキミは私と同じ……ソラちゃんが大好きなんだね」
うりうり、とすやすやと眠るココガラの額を指で突く。
クチバシが開き、かぷり、とまた指がついばまれそうになるのを回避する。
「ふふ……同じ手はくわないよーだ」
きっと目が覚めて親友がいなければまた騒ぎ出すだろうからカゴを抱えて部屋を出る。
部屋出ればすぐにキッチンと一体化したダイニングだ。
現在時刻六時とまだ早い時間だが、すでにお母さんは農作業に出かけているらしい。
まあいつものことだし、多分あと一時間くらいしたら戻って来て朝食になるだろう。
と思っていたのだが。
とんとん、とまな板を包丁で叩くリズミカルな音。
じゃあじゃあとフライパンで何かを焼くような音。
誰もいないはずのキッチンに白いエプロンをつけた小柄な少女が立っていた。
腰まで伸びた綺麗な青い髪は彼女のお母さん譲りの物。
お母さんが大好きな彼女だからこそ、その髪を痛めることの無いように毎日丁寧にケアしていることを私は知っている。
手を通せばすっと梳ける癖の無いそのロングヘアは親友の密かな自慢だった。
当然『大親友』たる私は知っているけど。
「あら、起きたのね、おはようユウリ」
背後に立つ私の存在に気づいたのか、フライパンとフライ返しを片手にソラちゃんがこちらへ向き直り笑みを見せる。
「おはよう、ソラちゃん、早いね~」
良い光景だ。
できれば毎日こうなら最高にハッピーなんだけど。
なんて思っていると。
―――なんか夫婦の朝のやり取り感が無いだろうか?
という事実に気づく。
私がお父さんポジションでソラちゃんがお母さんポジション。
悪くはない。
ぶっちゃけ女の子が好きとかそんな事実は一切ないし、普通に恋愛するなら異性相手だと思ってはいるが、それでもソラちゃんならアリよりのアリだな、とも思っている。
ソラちゃんは女の子? ソラちゃんはソラちゃんだから良いのだ。
まあこんなのさすがに大親友でも気持ち悪いだろうから言わないけど。
ただしその場合。
「うーん、おはようユウリ、姉さん」
「おはよう、アオ君」
「おはよ。寝ぐせ酷いわよ……もうちょっとじっとしてなさい」
うん、その場合、間違いなくアオ君が最大の敵だろうなあ。
なんて……馬鹿な妄想をしながら、幸せに浸った。
トーストにジャム、サラダにベーコンエッグかウィンナーとスクランブルエッグ、ベイクドビーンズにきのみのフルーツパンチ、温かい紅茶にミルクを注いで。これがガラルの一番ポピュラーな朝食である。
基本的にガラルは朝食が多く、夕食が少なめになる。これに関して健康に気を使って、とかそんな理由ではなく夕食後に家族と団欒しながらお菓子を摘まむのがガラルにおける一般家庭の定番だからだ。
お菓子を食べるために夕飯はセーブしておく、というのは本末転倒なのではないか、という気もするのだが生粋のガラル人というのは団欒にはお菓子が付き物だろう、とそこに違和感を持たないらしい。
知り合い曰く『夕食後にみんなでテレビでポケモンバトルに熱狂しながら食べるお菓子は最高に美味しい』のだそうで、このお菓子に関しても家庭ごとにバラバラらしい。
まあそれはさておき、今日の朝食はソラちゃんが作ってくれたものだ。
メニューは白いご飯に汁物、玉子焼きに根菜の煮物とホウエンで良く食べられている朝食だった。
「懐かしいなあ」
思わず口を突いて出るが、実際のところ9歳の時まではホウエンに住んでいたのだ。
今までの人生の四分の三はホウエンで過ごしていたのだから、今でもホウエンのほうが故郷という実感は強い。
まあ別にガラルが嫌いというわけではない、寧ろ好ましく思っている。
ただそれにしたってこちらに来てまだ一年と少々しか経っていないのだ、さすがに第二の故郷なんていうには過ごした時間が短すぎた。
箸を使って食べるのも何だか懐かしい感じだ。
こっちだとスプーンとフォーク、あとナイフで大概完結している。
箸が無いわけではないが、お土産物屋さんだとか輸入品店だとか、どうにも『他地方向け』の店にしかないのだ。
まあガラルの人は箸を使わないので仕方ないのかもしれないが。
ソラちゃんの朝食の準備を手伝っていると、玄関が開いてお母さんが帰って来る。
「あら、美味しそうね~」
「だよね~」
お母さんも実際、懐かしいのだろう、いつもより三割増し笑顔だった。
そうして準備が終わって全員が席についたらそれぞれが目の前の皿に箸を伸ばす。
「卵焼き美味しい~♪」
「これソラちゃんが作ったの? 凄いわね」
「まあ……偶に手伝ってるので」
「シア母さんに仕込んでもらったんだから姉さんの腕は結構なものだよ」
「珍しく褒めるじゃない」
「シア母さんの味を俺たちが否定できるわけないじゃん。実際この味で育ったようなものなんだし」
「……まあね」
珍しく表向きにも仲の良い二人をニコニコと見ていると、ソラちゃんがふと思い出したように箸を止め。
「そう言えばユウリ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なに~?」
もぐもぐ、とカレー以外でご飯食べるの久々だなあ、なんて久々の白米に感動を覚えているとソラちゃんが首を傾け。
「昨日この家の前に十メートルくらいの馬鹿でかいアーマーガアが来てたけど、あれ何?」
「「…………」」
「あー、夜中だよね。姉さん出るなら出るでちゃんと言ってくれないと。途中で気づいて血の気が引いたよ」
「悪かったわね。何かいるってのは分かってたけどもうちょっと常識的なサイズだと思ってたのよ」
「ちょ……ちょっと待って、ちょっと待ってソラちゃん」
しん、と静まり返る食卓で緊張感も無く朝食をぱくつきながら話す二人に思わず待ったをかける。
「昨日? えっと、何? どういうこと?」
「昨日の夜、羽ばたくような音が聞こえたから外に出てみたのよ、そしたら―――」
* * *
目の前に佇む後ろの家よりも背の高い超巨大な鳥を見上げ、思わず目を細める。
アオを呼んで来れば良かったかな、と今更ながらに後悔をするがまあ後の祭りというものだろう。
それにしてもこの鳥……確か昼前見た『アーマーガア』だったか? とそっくりだ。多分同じ種族なのだろうけれど、それにしたってサイズが違い過ぎる。
ポケモンのサイズというのは別に一律ではない。
身長の高い人、低い人がいるようにポケモンにもサイズの大小はある。
とは言え、身長10cmの成人がいないように身長3mの赤子がいないように種族ごとに『幅』というものは存在する。
ユウリに図鑑を見せてもらったがアーマーガアはココガラの進化形。
その全長は平均2.2メートルであり、目の前のアーマーガアが明らかに異常なサイズであることが分かる。
「特異個体、ってことね」
呟くその声に反応したかのように、巨鳥がぐいっと顔を近づけてくる。
でかい、と素直に思う。あのクチバシに挟まれたら私の顔くらい軽く取れそうではある。
ただ恐ろしい、とは思わない。そう思うにはどうにも敵意を感じない。
「アンタ、何しに来たのよ」
呼んだのは間違いなくこいつだ。
ただどうして呼んだのか……心当たりが。
「……もしかして、あのタマゴ、アンタの?」
「―――クラァァ」
まるで肯定するかのように、巨鳥が短く声を発する。
ガラルに来て初日の私がもしこんな巨鳥に何か因縁があるとすれば、今日拾ったタマゴ……ココガラしか心当たりが無かったのだが、どうやら正解だったらしい。
とするとこいつはあのココガラの親、ということか。
「何? あの子を返せってこと?」
「―――ラァァ」
何となく否定している気がする。
実際目の前の巨鳥から感じるのは子を取られた敵意とかそういうのではない。
親心?
或いは。
「クラァァァァ」
しばらく見つめ合っていたが、やがて何かに満足したかのように短く声を発するとその大きな翼で羽ばたき、あっという間に飛び立っていく。
傍にいるだけで凄まじい風圧が襲って来るが、まあ元より『おおあらし』に比べれば
ただ。
「ああもう……髪ぐっしゃぐしゃじゃない、もう」
なまじ腰まで届くほどに長く伸ばしていただけに乱れてしまった髪を整えるのに少し手間がいりそうだった。
* * *
「ココガラちゃんの親、かあ」
「多分だけどね……て言っても野生のポケモンのタマゴが転がってるのなんて珍しいことでも無いけど」
実際のところ、ポケモンは自分の産んだタマゴをきちんと親として守り、生まれた子供を育てる。
けれどさすがは野生というべきか、例えば偶然何かの拍子にタマゴが無くなったとするならそれを探しに行ったりはしない。手の届く範囲にあるならともかく、そこに無いならそれはもう死んだものとして処理してしまうのだ。日々を生きることに全力な野生の世界では、そういう割り切りがされることが多い。
他にも親となるポケモンが他のポケモンとの縄張り争いに負けてタマゴを置いてどこかに行ってしまったり、エサを探すために親が出かけている間に他のポケモンがタマゴを持って行ったり、野生環境で見つかるタマゴというのは大概親の居ない状況で放置されているものが見つかることが多いのだ。
だから自分のタマゴを探しに来る親、というのはとても珍しい。
いや、これがガルーラなどの親子愛の強いポケモンなら死に物狂いで探しに来ることもあるが。
鳥系のポケモンというのはその辺割とシビアだ。
巣を作る故に、巣の周囲に対する縄張り意識はかなり高いが、逆に言えばそのさらに外に対する意識はかなり低い。
「子供の無事を確認しにきた、ってことじゃないのかな?」
「なんで私のとこにいるって分かるのよ」
しかも同じ家にアオもユウリもユウリの母親もいたのだ。
その中で的確に私を見つけ出すのは一体どういう理屈なのか。
なんて特異個体に言っても仕方ないのだが。
普通じゃあり得ないからこそ『特異』個体なのだ。
実際のところ特異個体というのは珍しくはあっても決していないわけではない。
世界中に何十万、何百万とポケモンが生息しているのだから、全員が全員同じ規格で生きているわけではない。
時々通常の種族では持ち合わせない『特異性』を持った個体が生まれるのはある種生命の必然である。
一番有名で誰でも知っている特異性と言えば『色違い』だろう。
『色違い』は基本的に姿形自体は元の種族と変わらないが、その色だけが異なっている。
だが実際にはそこには『色が変わるだけの異常性』が存在している。
だから色違いポケモンを育てることが得意なトレーナーが育てると、通常種族では持ちえないような技を覚えさせられたり、通常種族では望めないような裏特性が仕込めたりする。
次に有名なのがあの巨大なアーマーガアのように『大きさの違い』だろう。
単純に巨大であることのほうが目立ちやすいが、逆に異常に小さい、というのも特異である。
聞いた話によれば全長『0.4メートル』のギガイアス、なんてものも昔いたらしい。
本来のサイズが『1.7メートル』であることを考えれば明らかなサイズの『異常』である。
後はまあ根本的に姿すらも変わってしまう特異性というのもある。
一番分かりやすい例を言うならば『ヤドラン』や『ヤドキング』。
大多数の人は気にしてはいないが、あれは元々尻尾や頭に『シェルダー』がかみついたことで成る姿だが、共生関係、と言われているようにヤドランの尻尾やヤドキングの頭に噛みついているのは確かに『シェルダー』なのだ。
一体化してしまってはいるが、あれが元の姿と同じ種族と言われて誰が信じられるかというほどに姿が変わってしまっている、ああいうのも自然の中の特異な進化と言える。
このガラル地方には『ワイルドエリア』という自然の姿をそのままに残した特区が存在するが故に、恐らく他の地方よりも『特異個体』というのは多いだろう。
あれは基本的に自然の中で生存競争を繰り返した果てに生まれる存在であることが多い故に。
まあ、それは今は置いておいて。
「お前の親はさて……何しに来たのかしらね?」
「ぴぎゃ?」
差し出した手の中のポケモンフーズを必死になってついばんでいるココガラを見やりながら。
「お前もあのくらい大きくなるのかしら?」
そうしたら餌代だけで大変なことになりそうだな、なんて。
そんなことを思った。
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クロガネのつばさ②
取り急ぎ必要なものが二つある。
育成するポケモンと育成する場所だ。
前者に関してはガラルの持ち込み規制でアオ以外全員使えないし。
後者に関しては早急に確保できなければプロリーグどころではなくなってしまう。
凄まじく当たり前のことだが、ポケモンを育てることは簡単なことではない。
ただ旅しながらトレーナーや野生のポケモンとバトルを繰り返すだけで強くなれるのならば誰でもプロトレーナーになれる。
実際にはプロトレーナーとはその地方におけるトップトレーナーの集団であり、強くなるための『あらゆる手段』を模索し続けるが故に強者であるという存在だ。
バトルをすることで経験を積んで『レベル』を上げることはできる。
だがそれだけなのだ。
それ以外が何も得られない。
よっぽど才能があればバトルをしながら『裏特性』の一つくらいは手に入るかもしれないが、リーグトレーナーなら誰だって裏特性は三つくらいは仕込んである。
レベルを上げることは強くなるために必須事項ではあるが、レベルだけ上げても強くはなれない。
裏特性とは技術だ。
技術とは鍛錬の中で身に着けるものであり、実戦で初めて花開く。
鍛錬も無く実戦で開花するような技術は才能に寄り過ぎていて、確実にポケモンの体を酷使するし、ポケモンだって体を酷使し過ぎれば『壊れる』こともある。
何にだって才能は必要だが、才能だけではダメなのだ。
こと育成において最も重要なのは『理論』であり、理論を通すための『環境』なのだ。
分かりやすく言えばコイキングが陸上でできる訓練など跳ねることだけだが、水の中なら泳ぎ方から攻撃の仕方までなんだって訓練できる。
これはかなり極端な例ではあるが、技術とは前提として『それを熟すのに必要な能力』があって、『それを熟すための練習』を重ねてようやく身に付く類のものだ。
だからこそ『それを熟すための環境』が必要になる。
昔から『育て屋』の敷地が非常に広いのは別に伊達でもなんでもなく、『種族』に関係無くポケモンを受け入れ、育てようとするならばあれだけの土地が必要になるのだ。
先の例のように『みず』タイプのポケモンを育てるならば水辺が一番最適であるが、水辺で『ほのお』タイプが育てられるか、という問題。
同様に『じめん』タイプならば砂地などがあることが望ましいが、止り木も何も無い砂地で『ひこう』タイプが過ごせるか。
そんな風にまず『タイプ』ごとに『過ごす環境』が異なるのに、ここにさらに『訓練する』ための環境も必要になる。
この辺り『かくとう』タイプが使いやすいと言われる由縁ではあるが、あれはあれで厄介な問題がある。
簡単に言えば『かくとう』タイプは使いやすくはあっても使いこなすのは難しいのだ。
何故なら『かくとう』タイプに技術を仕込もうとするならばトレーナー本人にある程度以上の『格闘技』に対する技量が求められる。
なまじ人に近い姿を持っているが故に、そこに仕込む技術はポケモン由来のものよりも人に由来するもののほうが適してしまう。
だからこそ『かくとう』タイプを使うトレーナーというのは、本人も格闘技に精通している場合が多い。
この辺はまさに良し悪し、と言ったところか。
実際のところ、どのタイプにしたって簡単ではない。
ただ強いて言うなら大地があるならばどこでも適する『くさ』、川や海など比較的環境が用意しやすい『みず』、水辺でなければ後は引火にだけ気を付ければ良い『ほのお』のいわゆる御三家と呼ばれるタイプが比較的容易である。だからこそ初心者用に渡されるわけだが。
まあそれはさておき。
私の専門とする『ひこう』タイプは場所は余り周囲の環境自体は選ばないのだが、相応の広さと高さが必要になる。ホウエンになら専用の施設があったのだが、さすがに育成だけホウエンでやる、というのは無理な話だ。
となればこちらでどこか育成のための拠点が必要になるわけだが。
「そういう意味では父さんは反則よね」
うちの実家は割と広い。
ミシロタウンという田舎町だからこそ、土地が余っているのかかなり大きな旅館風の建物に広大な庭。それにプールまである。
でもそれは育成施設とか一切関係なく、じゃあ昔トレーナーだったという父さんは一体どこで育成をしていたのか、と問えば。
―――え、その辺の空き地とか。派手にやるならまあ森とか?
環境の無さをポケモン自身の才能で全部埋めるようなやり方でそれでもホウエン地方の頂点に立ったのだからこうして育成場所に悩む身からすれば反則だとしか言いようがない。
「そう言えば、ユウリってどこで育成とかやってるの?」
「私? 私はお姉ちゃんのジムを時々借りてるかな」
「お姉ちゃん?」
はて、幼馴染としてユウリのことは昔から知っているが、姉がいたなんて聞いたことも無いのだが。
「あー、正確には従姉でね。今はノーマルタイプジムのジムリーダーやってるんだ」
なんて言いながらユウリがテレビをリモコンを操作してチャンネルを次々と変えて行き。
「あ、あった……ほら、この人だよ」
「あら? 見たことあるわね」
とある旅番組でチャンネルを止めると、そこに映っている一人の少女を指してそう告げる。
そう言われて見てみれば、私でも見たことがあるくらいの有名人がそこに映っていた。
「この人アイドルじゃなかった?」
「三、四年くらい前にトレーナーになったんだよ」
「へー」
他地方でもあるホウエンのテレビでも見た覚えのあるアイドル……確か『リリィ』とかいう名前だったはず。
正直芸能人とかそういう関係にほとんど興味の無い私でも知っている、という時点で相当な有名人であることは間違いない。
そんな人物がユウリの従姉だったという事実を初めて知った……初めて?
「ん? でもなんか聞いたことあるような」
「ソラちゃんに言ったことあったっけ?」
「確か六年くらい前に親戚がテレビ関係の仕事に就いてるって聞いたような」
「ソラちゃん、そんな昔のことよく覚えてるね」
「……別に」
親友との思い出を大切にしているだけで、別にそれ以上ではないのだ。
なんて、言ったらユウリがまたはしゃぐから言わないけれども。
「まあそれはさておいて、ジムを借りる、というのはちょっと私には無理そうね」
私が使うとしたら『ひこう』タイプジムになるのだろうが、さすがにそんなところに伝手も無い。
それに土地を買ったり、施設を作るならば資金も必要になる。
ホウエンのほうは父さんに資金を援助してもらって作ったのだが、さすがに二度目は申し訳が無い。
いや、正確には最初のほうの施設だってプロトレーナーとして稼いで返すつもりではあったし、一年目である程度目途は立っていたのだが、ガラルに来てしまった以上それも全部パァだ。
父さんのことだからちゃんと頼めばもう一度貸してはくれると思うが。
「今年はあの子たちがトレーナーになるし、私ばっかり借りるのも悪いわね……それは最終手段にしておきましょうか」
すでに自立している私と違って、今年トレーナーになる妹たちは父さん以外に頼れる相手がいない。
父さんの貸せる資金だって無限ではない以上、私が借りるのは妹たちの借りる額まで削ってしまいかねない。
だとするならばすでに独り立ちしている私のほうが遠慮するべきだろう。
それでももうそれ以外にどうしようも無くなったら、頭を下げて頼むしかないだろうが……できればそれは避けたい。
「さて、どうしたものかしらね」
呟き、嘆息一つ。
考えることは山積みだった。
* * *
レベル、という概念について実をいうと過去と現在で大分意味合いが違っている。
正確にはレベル、という概念が『絶対数』で表せることができるようになったのがここ最近の話であり、逆に言えばそれ以前でレベルとは『相対数』で表されていた。
例えばココガラという種族の『平均的』な能力の『上限値』を『レベル100』とする。
当然ながら個体ごとに才能というものがあって、平均値より高い能力の個体もいれば低い能力の個体もいるわけだ。
だから限界まで育てても才能ごとにレベルが80~120くらいまでばらけることがあり、正直言って『目安』以上のものにはなっていなかった。
だが近年になって『ポケモンが戦闘などで経験を積んだ時に一瞬にして能力値が一定数上昇する』ということに気づいた研究者がいた。
これを突き詰めていった結果、ポケモンが『経験』を一定以上得た時に、それを糧として能力を上昇させる、という能力があることが発見される。
この能力の上昇をゲームなどで『レベルが上がった』時に酷似していることから、この能力の上昇回数を『レベル』と定義し、そのポケモンが何度能力が上昇しているかを計測できるシステムが発明された。
現在におけるレベルとはポケモンの才能などに関係無く『何度能力上昇が起こったか』を示す数値であり、このレベルを計測する機械を作成するにあたって『種族や個体の才能ごとに能力の上昇値が変わる』ことや『実はポケモンはレベル1の時の能力値というのは変わらない』という事実が発覚する。
正直言って、これらの発見はそれまでのトレーナーたちの育成論に革命を巻き起こした。
さらに父さんがかつて発表した『基礎ポイント』についての考察と共に、ポケモンの育成理論が一新されたと言っても過言では無かった。
現在のリーグトレーナーたちのレベルはかつてのトレーナーたちよりも一回り高くなっていると言っても良い。
とは言え、それは底上げがされたというだけであり頂点もまたより洗練された強さを獲得しているらしいので、相対的には何も変わってない……いや、寧ろ強さに理論ができただけにチャンピオンのほうが強くなってるんじゃないか、という噂ではあるが。
まあつまり、今現在におけるレベルとはポケモン図鑑でも分かりやすい強さの目安の一つであり、ポケモンの能力値に関係する重要な要素でもあるということだ。
正確にはポケモン図鑑自体が計測できるのはレベルだけであり、ボールに収め捕獲することで能力値などのより正確なデータを計測できる。現代のモンスターボールに設計段階でそういう機能が付与されているのだ。
故に野生のポケモンに出会った時にトレーナーに分かるのは相手のレベルだけだ。
ポケモンの才能や持っている技、特性などは実際に捕まえてみないと分からないことが多い。
まあ、何が言いたいかと言うと。
「凄いわね、アンタ」
「
頭の上で安眠されるほどに懐かれておいてなんだが、実はまだココガラをボールに入れてない……つまり捕獲してない状態だったので、分類的には野生のポケモンのままだったのだが、アーマーガアのことがあったので取り合えず捕獲だけはしておこうとボールに入れたのだが。
【名前】―――
【種族】“■■■■■”ココガラ/原種/特異個体
【レベル】1
【タイプ】ひこう/はがね
【おや】ソラ
【特性】はとむね
【持ち物】―――
【技】つつく/にらみつける/■■■■■
【備考】『専用個体』
技の部分の黒くなっているのは『表記エラー』だ。
そのポケモンが使える技に関してはボールに登録されているデータの中にあるものを参照して表示している。
そのデータはポケモン図鑑等で過去に蓄積された記録などから作成されている。
分かりやすく言えば、新しく作った技や特定のポケモンの専用技などデータに記録されていない技をボールが検知するとこうしてエラーが出るのだ。
いや、それ以前の話。
「進化前……それも生まれたばかりで【専用個体】とか初めて見たわ」
ポケモンの育成という点において『専用個体』とはその究極形と言える。
最も有名なのがカントー地方の元チャンピオン、レッドのエースである“レッドの”ピカチュウだろう。
元来強い種族ではないはずのピカチュウがトレーナーであるレッドと共に幾多もの激戦を潜り抜け、勝ち続けてきた結果、レッドというトレーナーに『最適化』した存在となった。
レッドのトレーナーとしてのスタイルに最も適応し、文字通りレッドのためだけの『専用』のポケモンとなった。
けれどそれは長年レッドと共に戦い続けてきた結果、そうなっただけの話であって、生まれたばかりのココガラが私のためだけに専用のポケモンとなっている、というのは何ともおかしな話だ。
「私の力で孵ったせい? さすがにちょっと責任感じるわね」
いや、元からそういう風に育つんじゃないか、という予感はあったのだ。
何せ言葉が通じていないのに意思疎通ができるほどに『私と近しい』のだ。
上手く育てれば専用個体に育つのではないか、という思いがあったのは否定しない。
だがそう思っていた時にはすでに専用個体だった、なんていうのはさすがに予想外だ。
もうこの子は私のためだけのポケモンとなった、そうなってしまった。
ならば。
「名前つけてあげないとね」
ユウリはポケモンにニックネームをつけない派閥の人間らしいが、私は名前をつけるほうだ。
多分父さんの影響だろう……あの人はポケモンと人を区別しない。
人が生まれたならばその子供に名前をつけるように、ポケモンを仲間にしたらならば必ず名前をつける、そういう人なのだ。
「何が良いかしらね」
ココガラ、アオガラス、アーマーガアと進化するらしい。
「ココ『ガ』ラ、アオ『ガ』ラス、アーマー『ガ』アで全部ガが入ってるし……」
よし、決めた。
「お前、今日からガーくんね」
「
「うるさいわよ」
こういうのはシンプルイズベストなのだ。
「ほら、レベリングするわよ、ガーくん」
「
勢いだけは良い返事にくすり、と笑みを漏らした。
今日は多分、あと一話くらいだけ投稿する。
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クロガネのつばさ③
「私ちょっと今日はリーグのほうで用事あるから行ってくるね! あとレベリングとか仲間集めなら『ワイルドエリア』がおススメだよ! ブラッシータウンの駅から列車出てるから次の駅で降りると良いよ!」
とのユウリの言に従って、1番道路を通り……その際中でまた見つけたウールーをモフってブラッシータウンへ。
遠くに見える研究所とは反対方向に道なりに進めば『ブラッシータウン駅』に到着する。
路線を確認すれば基本的には一方通行の一本道で『エンジンシティ駅』行きというのがあった。
どうやらこの途中の駅で『ワイルドエリア駅』というのがあってそこで降りればいいらしい。
切符を購入し、列車に乗る……前に。
「ガーくん、列車の中は静かにしてなさいよ」
「
本当に分かってるんだろうか、なんて疑問を覚えつつも列車に乗る。
だいたい一時間置きくらいに列車が出ているせいか、朝の通勤時間と夕方の帰宅ラッシュさえ避ければ比較的人入りの少ない快適な列車旅になるらしいと聞いていたので少し時間をずらし、午前十時。
確かにそれなりに人はいるが、窮屈感を感じるほどでも無くぽつぽつと空いた座席も見える。
適当な窓辺の空いた一席に座って、ガーくんを膝の上に抱えると、窓の外を見やる。
昨日はアーマーガアタクシーで空から見ていたような景色も、こうして地上からの目線で見ればまた違った趣きがあり、目的地までの間退屈しなくて済みそうだった。
がたがたと列車に揺られながら窓の外に広がる広大な景色に視線を奪われる。
ワイルドエリアはガラル地方が誇る特別自然保護地区だ。
生態系が崩れないような『手入れ』をすることは多少あるらしいが、それ以外には極力人の手を入れず、自然そのままの環境を残すように苦心しているらしい。
と言ってもトレーナーがポケモンを求めて入ったり、命知らずなキャンパーがキャンプしたりで人の侵入自体を拒んでいるわけではないらしいが。
また、あっちこっちにポケモン協会から要請を受けたリーグスタッフが観測員として点在しており、ワイルドエリア内で遭難した人を救助したり、逆にワイルドエリアに『悪さ』をしようする人間を監視したり、相応の備えはあるらしい。
あとワイルドエリア内では『ワット』と呼ばれる『エネルギー』が存在するらしい。
ポケモンの巣穴などから得られるエネルギーであり、ガラルではスマホロトムに専用のアプリをインストールすることでこの『ワット』を近づくだけで吸収、貯蓄することが可能であり、『ワット』は『エネルギー資源』として金銭や道具と交換することもできるんだとか。
一般的にこの『ワット』が採取できるポケモンの巣穴というのは『ダイマックス』が可能となる『パワースポット』であり、ガラルの地下に流れるエネルギーの正体の末端……零れて地上に溢れた一部が『ワット』であるとされている。
ガラル粒子はこの『ワット』をポケモンの使用可能なエネルギーへと転換するための
まあそれはさておいて、貴重な『わざマシン』や使い切り用の『わざレコード』なる道具ももらえるらしいので積極的に狙っていきたい。
というか記録媒体の技術進化によって『わざマシン』が何度でも使えるようになったというのにわざわざ『わざレコード』として使い切り用の『わざマシン』に需要の高い技を詰め込むあたり、そこまでしないとこのワイルドエリアで『ワット』を手に入れるのが難易度が高い、ということでもあるのだろう。
基本的に『ワット』はワイルドエリア以外では……正確には『パワースポット』があるところでしか手に入らない。
ガラル本土において最も『パワースポット』が集中しているのがこのワイルドエリアである以上は、『ワット』の採取はトレーナーにやらせるのが一番効率が良いということなのだろう。
それからワイルドエリア最大の特徴として先ほども言ったが『パワースポット』が点在している。
つまり野生のポケモンがダイマックス状態になって現れることがあるのだ。
しかも『ねがいぼし』によって操作されていないため通常のダイマックス状態と異なり制限時間のようなものが無く、さらに溢れるエネルギーの奔流によってダイマックス状態のポケモンは暴れるらしい。
この状態のポケモンを一人で相手するには難しいものがあるので、ガラルでは最大四人くらいのトレーナーが一匹ずつポケモンを出しての『レイドバトル』が発生するらしい。
「ま、今回はそれも無しね……アンタのレベリングをメインにやっていきましょうか」
「ぴぎゃ?」
ココガラという種族について今朝の内にそれなりに調べておいた。
どうやらそれなりに戦える種族ではあるらしい。
育成環境を整えて鍛錬するにも最低限のレベルは必要であるし、環境が整うまではしっかり経験を積んでレベルアップを狙うべきだろう。
「ホント、拠点だけはどうしようかしらね」
全くもって困った話だ、と嘆息した。
* * *
ワイルドエリア駅で降りてすぐに『集いの空き地』と呼ばれる場所がある。
駅とワイルドエリアの中間地点であり、ここから先がワイルドエリアになるわけだ。
ワイルドエリアは非常に広大だ。
何せガラル地方全土の大よそ三割以上を占めている。
人の足で終端の『ナックルシティ』へと向かおうとすれば直線で一週間以上はかかる。実際には真っすぐ進めるわけも無し、夜は足を止めてキャンプしたり、野生のポケモンに絡まれたりと二、三週間はかかるほどに広く、深い。
出てくるポケモンの種類や強さも幅広く、人里に近いほど弱いポケモンが……奥深く人里から離れるほどに強力なポケモンが生息している。
ポケモン協会ではこのワイルドエリア内における各地域ごとのポケモンの強さや危険性などを考慮し大よそのランク付けを行っており、それぞれ『浅域』『中間域』『深域』の三段階で表される。
『浅域』は比較的人里に近く、基本的にレベル20未満の弱いポケモンばかりで初心者トレーナーでも安全だが稀に強力な『ぬしポケモン』が現れることもあるので注意が必要なレベル。とは言え滅多に人が襲われることも無ければ人里が近いためすぐに逃げ込めることもあって、キャンパーなどがキャンプをしたりもする程度には安全性が確保されている……まあ何かあっても最悪自己責任だが。
『中間域』は人里から離れ、レベル50を超える手ごわいポケモンたちが増えているためリーグから許可をもらったベテラントレーナーでなければ立ち入ることを許されない危険な領域だ。だが逆に言えば腕に覚えのあるトレーナーならば強いポケモンをゲットするチャンスでもある。それ故、ジムトレーナーたちが時々やってきては手持ちを増やして帰っていくこともあるが、稀に新人トレーナーが迷い込んで酷い目にあって帰って来ることもある。
そして『深域』ではガラルでもトップクラスのトレーナーのみが入ることを許された非常に危険な領域だ。いわゆる『ジムリーダークラス』のみがこの地域に入ることを許されており、監視員すらこの周囲には存在しない。危険すぎて安全性の確保ができないためだ。
レベル80を超える生存競争を勝ち抜いた強者のポケモンたちがあちこちにたむろしており、生半可の腕で立ち入れば冗談抜きで『事故』の可能性が高く、しかも近くに監視員も居ないため助けも来ないというほぼ絶望的な状況が発生する。それ故この地域に入ることを許されたトレーナーは『覚悟』と『勇気』を持って足を踏み入れることが必要になるガラルにおいて最も危険な地域と言える。
まあ『深度3』エリアの周囲はそもそも間違っても人が入らないようにリーグスタッフがしっかりと見張っているし、普通に歩いていればまず間違えて入るような場所ではないらしいので迷い込むなんてことは滅多にないらしいが。
「『集いの空き地』の周辺は『浅域』指定されてるところばかりだから比較的安全ってことね」
尚今の情報は全部ワイルドエリアの手前においてある看板に書いてあったことだ。
注意喚起と共に『何が起きても自己責任で』とか怖いことが書いてあると共に『リーグスタッフの指示には従ってください』という吹き出しの台詞のついたデフォルメされたスタッフの絵が描かれていた。
周囲を見渡せば、これからワイルドエリアに行くのだろう新人トレーナーらしい少年少女や何故かこの空き地にテントを張っているキャンパー、それに入口の監視のリーグスタッフなど様々な人がいる。
どうやらこの空き地本当にワイルドエリア以外に行き先が無いらしく、ワイルドエリアに用事が無いなら普通はそのままエンジンシティまで列車に乗っていくらしい。ここにいるのはワイルドエリアに用事のある人ばかりのようだった。
「っと……そろそろ私たちも行きましょうか、ガーくん」
「ぴぎゅあ!」
入口に簡易的な柵があるがまあここから先はワイルドエリアであるという分かりやすい区切りなのだろう。本気で侵入を防ぐような類の物ではない。
野生の領域ということもあって、注意は必要ではあるが……。
「まあサイユウシティのチャンピオンロードよりは100倍マシね」
ホウエン地方にあるポケモンリーグの所在地、サイユウシティ。
毎年そこで開かれるリーグ予選を勝ち抜いたトレーナーがリーグ本選へ進むために『チャンピオンロード』を通るのだが……うん、まあ余り思い出したくない記憶だ。
あれでまだマシになったらしい、というのが一番驚きなのだが。
うん……まあこの思い出は記憶の奥底に沈めておこう。
「
「何でも無いわ。行きましょう」
あー嫌なこと思い出した、と溜め息を突きながら野生の領域へと足を踏み入れた。
ココガラというポケモンの特徴を簡潔に説明すると『どんな強敵にでも挑みかかる勇敢な気性』と『機敏に動き相手を翻弄する素早さ』の二つが挙げられるらしい。
実際のところポケモンの能力の一つである『すばやさ』というのは単純な速度のことではないので『すばやさが低い』ことと『素早く動ける』ことはまた別ではある。
そういう意味で確かにガーくんはちょこまか動いて相手を翻弄する機敏さを持っているのは確かなようだ。ただそれが『すばやさ』が高いことに繋がるか、というとまた別の話で。
『すばやさ』というのは簡単に言えば『技を出す態勢を維持しながら動ける速さ』だ。
ポケモンの技とは絶対的に『溜め』が必要となる。
『でんこうせっか』や『しんそく』それに『まもる』などの『溜め』の短い技は同時に出しても『すばやさ』に関係無く相手より先に出せるのが特徴となる……確か父さん曰く『優先度』とか言っていたか。
この『溜め』には相応の集中が必要となるため、ポケモンは全力疾走しながら技を『溜め』ることはできない。
つまりある程度余力を残してその余力を『溜め』に割り振る必要ができるのだ。
例を挙げるならガブリアスなど『マッハ』ポケモンと呼ばれているだけあって、その最高速度は目にも止まらぬほどではあるが実際にバトルで技を出す時にはその強大なパワーの制御のためにかなり速度を落として『溜め』に集中する必要がある。
ココガラという種族は確かに機敏に動けるのだろうが。それが『すばやさ』が高いのかと言われるとそれなり、でしかない。
機敏に動き、相手を翻弄しても攻撃に転用しようとすれば技の『溜め』のためにどうしても速度を落とす瞬間が出て来てしまう。
「ガーくん、そこで『つつく』」
それを補うのが
「ぴぎゅあ!」
草むらから飛び出し襲い掛かってきたポケモンを何度か撃退しているといつの間にかガーくんのレベルが伸びていた。
それほど強い相手はいなかったはずだが元のレベルが1だけあって伸びは良い。
とは言え相手のレベルを考えればこの辺りではそろそろ頭打ちになるだろう。
「次に行く……前にガーくん」
「ぴぎゅ?」
「『つつく』と『にらみつける』ともう一個何か技があるみたいだけどこれ使える?」
「ぴぎゃぎゃ!」
図鑑解析に任せてみたのだがさすがに一度も使ったことの無い技だけに遅々として解析が進まないためここらで余裕のあるうちに一度使ってみようとガーくんに尋ねてみる。
任せて、と両の羽をばたつかせるガーくんに頬を緩ませながら次の相手を探し、ちょうど良いタイミングでがさり、と草むらからポケモンが飛び出してくる。
赤いまん丸な胴体にぴょこんと頭に生えた葉っぱが可愛らしいポケモン……アマカジだ。
「よし……今、行って! ガーくん」
「ぴぎゅああ!」
“■■ガ■の■■さ”
直後、ガーくんの両翼が一瞬にして黒く染まり、アマカジを打つ。
弱点を叩かれた時のような感じはない……だがその威力は確実に『つつく』より上だ。
ガーくんの翼に打たれたアマカジが吹き飛び、一瞬にして目を回す……『ひんし』だ。
「けっこう強いわね」
思ったより優秀な技の予感がする。
確かめるように図鑑の解析結果を見れば、さすがに一度使っただけに一気に解析が進んでいた。
わざ:■■ガ■の■■さ 『はがね』タイプ
攻撃後、■■■■■■■■■―――
「『はがね』タイプの技なのね……それに何か追加効果があるみたいね」
ガーくんに視線を向けるが、特に何か変わった様子はない。
ということはデメリットのある技ではないのだろう。
表記の傾向的に攻撃後に『プラス』要素があるタイプか。
弱点タイプの『つつく』より素の威力が高いことも考えると結構優秀な技なのではないだろうか。
「ただ……『はがね』タイプかあ」
本来ココガラは『ひこう』タイプのみらしいが、うちのガーくんは『ひこう/はがね』タイプだ。
この違いは私の『専用個体』だから……というよりは。
「あのアーマーガアの子供だから?」
『ひこう』関連ならともかく、『はがね』となるとその可能性のほうが高い気がする。
ということはガーくんは親の特異性を引きついだ『特異個体』でもあり、同時に私の影響を受けた『専用個体』でもある。
「育てるのが楽しみになってきたわね」
私の視線を受けて可愛らしく首を傾げるガーくんを見やりながら、この子がどこまで強くなるのか、その未来を想像して笑みを浮かべた。
例えタイトルで全てバレていたとしても、■で伏字にする勇気!
タグにもあるように『優先度』と『すばやさ』とか作者の独自解釈で書いています。
こういうのここから先も確実に増えるよ、とは今のうちに言っておきます。
あと今日の更新はこれでお終い……一昨日四話も更新したせいでソシャゲが溜まってるんだ。
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クロガネのつばさ④
「『しあわせタマゴ』でも持ってくれば良かったわね」
『うららか草原』から西へ移動し『こぼれび林』に移動し、周囲に潜んでいる『ナゾノクサ』や『タネボー』に『ハスボー』『スボミー』など比較的『ひこう』タイプが優位に立ち回れる相手を選んで通り魔めいたバトルを仕掛け順調にレベルを上げていく。
図鑑で確認すれば現在『レベル12』。
まだ二、三時間程度しか経過してないことを考えれば上出来だろう。
「お腹空いてきたわね」
時計を見やれば現在午後一時過ぎ。
レベリングに集中していて気付かなかったが、もうお昼の時間だ。
そう言えばお昼のことを考えてなかったな、と思い出し『集いの空き地』まで戻ろうかなんてことも考えてみたが折角レベリングが良いところなのに水を差されるのもなんだかなあ、とも思ってしまうわけで。
「そう言えばさっき『きのみ』が生ってたわよね」
記憶を頼りに少し歩き、やがてたくさんの『きのみ』が生る木を見つける。
別々の『きのみ』が同じ木にたくさん茂っているのも不思議な話ではあるが、まあ今は都合の良い話。
「よいしょ、っと」
どん、と木の幹を蹴り飛ばせばぐわん、と木が大きく揺れてぼたぼたと『きのみ』が落ちてくる。
何種類か『きのみ』があるが、人間でも大半は可食は可能だ。ただ生で食べられる『きのみ』となると数はぐっと少なくなる。
いや別に不衛生だとかそういう問題ではなく、単純に『味がきつい』のだ。酷く辛かったり、酷く酸っぱい、酷く苦い、など料理の味付け、隠し味に使う分には美味しくとも生食するにはきつい、というものはそれなりの数存在するし、後はやたらと『殻が硬い』ものもあったりして採れたてが食べられる『きのみ』は実はそんなに多くない。
味が良く、生食できる『きのみ』と言えば『オレンのみ』と『オボンのみ』だろう。
あとデザートとしてよく食べられているのが甘味の強い『モモンのみ』だ。
落ちてきた『きのみ』の中から適当に拾い、服で軽く拭いてから口に放り込む。
噛み締めた瞬間に口の中で果肉が弾け、ぷちぷちとした食感と広がる甘味と酸味のバランスが爽快だった。
「ほら、アンタも食べなさいよ」
「ぴぎゃ!」
クチバシを大きく開くガーくんにひょい、と『オレンのみ』を放り込んでやれば、もぐもぐと美味しそうに食べて嬉しそうに鳴く。
「結構量もあるし、これで小腹は満たせそうね」
二つ目の『オレンのみ』をひょい、と口に運びながらそんなことを考えていると。
「ちゃーん!」
ひょっこり、と木の上から小動物のようなポケモンがとことこと降りてくる。
ポケモン図鑑をかざすと『ホシガリス』というポケモンらしい。
「なに? 欲しいの?」
「ちゃーん!」
片手に『きのみ』を持ってゆらゆらと揺らすとその通りと言わんばかりにホシガリスが声をあげる。
「良いわよ、どうせこんなにいっぱいはいらないし」
「ちゃーん!」
喜色満面と言った様子で早速転がっている『きのみ』を一つ手に取り大きく口を開けた……直後。
―――ドドドドドドドドドドドドドドドドド
僅かな地響き。
遠方から何かが走って来るかのような音。
その感覚に既視感を覚えて、咄嗟にココガラとホシガリスを抱えてその場から飛び退る。
直後。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
―――ギャォォォス!
地響きと土煙を立てながら爆走する『何か』が先ほどまで私たちのいた場所を通り過ぎていく。
「な、なに今の……?」
ワイルドエリアの『浅域』であんな暴走車みたいなポケモンが出るというのは聞いていないのだが。
と、直後にピー、と電子音が響く。音の発生源は私の手元のスマホロトムからだった。
「あ、一瞬だったけどちゃんと引っかかってる」
本当に僅かな間の交差ではあったが、優秀なスマホロトムが今のポケモンについて図鑑の中からデータを検索し、引っ張り出してくれていた。
そうして表示された検索結果に視線を落とし……。
「サンダー?」
表示されていたのは茶色のカラーリングの鳥ポケモンで、その名前は『サンダー』と表記されていた。
* * *
「え~! ソラちゃんあのパチモノサンダー見つけたの!?」
レベリングを終えてワイルドエリアからユウリの家へと帰還すると先にユウリが戻ってきていたので今日あったことを告げると驚愕したと言わんばかりに声を荒げた。
「サンダー、ってカントーやカロスで伝説のポケモンとか言われてるやつよね?」
「一応こっちのはサンダーのリージョンフォームだって言われてるらしいよ」
リージョンフォーム。
つまり環境の違いから来る生態の変化を起こしたポケモンたちのことだ。
ポケモンは本来環境に適応する力が高いためそういうことも起こり得るらしいが。
サンダーは伝説のポケモンと称されているが、これは単純に個体数が非常に少なくまたサンダーという種族自体が非常に強力な潜在能力を秘めているためにそう言われているだけであって超越種では無い。分類的にはただ強いだけのポケモンだ。
生命の範疇にある以上、環境に適応しその姿を変えることも……あるのかもしれないが。
「でも実は通常のサンダーとは関係ない別の種族なんじゃないか、なんて意見のほうが最近は強くなってるらしいけどね」
「まあ鳥なのに走ってばかりで飛ばないとかドードーとかそっちを連想するわよね、普通」
サンダー、フリーザー、ファイヤーと合わせてカントー三鳥、伝説三鳥なんて呼ばれたりもするがその身に秘めたポテンシャルは非常に高い。
ホウエンリーグのほうで一度だけサンダーを使うトレーナーと戦ったことがあるが
本当にサンダーのリージョンフォームなのかそれとも別の種類のポケモンなのかは分からないが、あの速度と気迫……感じる強さはかなりのものだ。
「欲しいわね、あれ」
飛ばずに走ってばかりだったけれども『ひこう』タイプもきちんと入っている。
何となくシンパシーを感じたから間違いない、あれは『ひこう』タイプだ。
全く放電している様子が無いので『でんき』タイプが入っているかどうかはかなり怪しいところだが。
「でも凄い勢いで逃げて行っちゃうよ? 私も一回捕まえようと思って自転車で追いかけたのにあっという間に逃げられちゃったもん」
「アオでも追いかけられそうにはないわねえ」
というかアオは今『ポケバンク』*1を経由してホウエンに戻ってもらっている。
ユウリが言うには『ジムチャレンジ』に参加する際に『リーグに登録済』のポケモンは使えないらしい。
基本的に『ジムチャレンジ』とはその年の才能ある期待の新人トレーナーが挑戦するものであり、別にそれ以外が挑戦してはならないという決まりはないのだが、ポケモンを育て始めたばかりの新人トレーナーと最初からある程度以上ポケモンを育てている二年目以降のトレーナーでは『差』が大きくなるためその年のファイナルトーナメントに参加できるチャレンジャー枠が決定するセミファイナルトーナメントまではその年までにリーグに登録されていない……つまりジムレチャンジする年になってから捕まえたポケモンだけを使って戦う必要があるらしい。
つまりアオは去年リーグ登録したポケモンなので、ファイナルトーナメントに勝ち進むまで使用できないのだ。
因みに現在が二月の初めであり、ジムチャレンジの開催が四月の初め。
そこから四カ月かけて七月が終わるまでがジムチャレンジの期間であり、八月の半ばにジムチャレンジをクリアしたトレーナーたちでセミファイナルトーナメントが開催される。
これに勝ち残ることで九月からのファイナルトーナメントに出場することができ、このファイナルトーナメントに勝ち上がることで九月の終わりにチャンピオン戦をすることとなる。
チャレンジャーが何でもありになるのはファイナルトーナメントなので、少なくとも七カ月弱はアオは使えないということだ。
まあ別にジムチャレンジ外でなら普通に使えるのだろうが、アオには母さんたちにリーグ移籍の件から説明をしておいて欲しいので直接ホウエンのほうに送っておいた。
父さんに関しては現在イズモ地方にいるため後で私から電話しておくとする。
まあ父さんも母さんも何か言ってくるとも思わないけれど。
それはともかくとして。
アオが居ない以上、今手持ちで使えるのがガーくんだけということになるが、さすがにガーくんでサンダーを相手にするのは無理がある。
「順調にガーくんを育てるしかないんじゃないかなあ……多分、ほっといてもあんな暴走特急誰も捕まえられないと思うし」
「それしかないかしらね」
ユウリのそんな言葉に嘆息し、頷くしか無かった。
* * *
翌日、またもやワイルドエリアへ向かう。
ガーくんのレベリング……という用事は確かにあったが、それ以上にやはりあの『サンダー』が気になってしかたなかった。
「ガーくん、アレやっちゃって」
「ぴぎゅううあ!」
“ク■ガネの■ばさ”
硬化した翼に打たれて相手が『ひんし』になったのを確認するとガーくんを呼び戻す。
図鑑を見やれば先ほどの技の解析もほぼ完了していた。
わざ:ク■ガネの■ばさ 『はがね』タイプ
攻撃後、100%の確率で『ぼ■■ょ』を上げる。
「やっぱ優秀だったわね」
ほとんど見えている情報から察するに、かなりの優良技だ。
体感的に威力はドリルくちばし、などよりも上……『そらをとぶ』と同じくらいと言ったところか。
少なくとも『はがね』タイプとなると『アイアンヘッド』を覚えさせるよりは威力も高そうだったし、追加効果も優秀だった。
「本当に育成しがいがあるわね」
メキメキと強さを伸ばしていくガーくんに笑みを浮かべていた、直後……微かな地響きが聞こえてくる。
「来たっ」
声を殺し、徐々に大きくなっていく地響きのする方向を見やる。
少しずつ見えてくる土煙、そして昨日は気づかなかったがその土煙の大本である先頭で走るのは―――。
「サンダー!」
茶色と黒の二色のカラーリングは原種のサンダーとかけ離れていた。
走って来るサンダーのその視線が一瞬こちらへと向いて……。
ぐん、と急カーブをして私を大きく避けるような円の軌道で走り去っていく。
「凄いわね……あれだけの速度でカーブしても一瞬も速度を緩めないのね」
走ることにかけて凄まじいポテンシャルがあるのは分かった。
後は普段どうやって生活しているのか、とか何を食べているのか、どこで寝ているのか、いつ起きているのか。
少しずつ少しずつで良いのだ。
ガーくんが育つまでこうして毎日情報を集めて。
そうしてガーくんが育ったその時は。
「絶対にゲットするんだから」
―――決意するかのようにそう宣言した。
それから一週間、毎日毎日ワイルドエリアへと向かう。
ここ数日ユウリが拗ねているので今度たくさん構ってやらないとならないだろうけれど、今はこちらが先だ。
少しずつだがサンダーを捕獲するための情報は集まってきている。
それと並行してガーくんのレベリングも順調に進み、すでに20レベルを超えていた。
「なのになんで進化しないのかしらね?」
「ぴぎゃ?」
ココガラがアオガラスに進化するのに必要なレベルはすでに満たしているはずだ。
よっぽど育成が下手なトレーナーだと進化するのに必要なレベルより高いレベルを要求されることもあるが、私は寧ろ育成能力は高いほうだと自負している。そういうのが得意な母にしっかりと教わり、何度も実践したのだから。
実際ホウエンに残してきた五体にプロリーグで活躍することができるだけの力がある以上、それは確かな事実だ。
ならばどうして進化しないのか。
「専用個体だから……もしくは特異個体だから、どっちかしらね」
特異個体というのはどんな特異性を持っているのか見ただけじゃ分からないことが多く、データとして表記されるわけじゃない以上、いざそうなってみないと異常性が明るみに出ないことも多い。
専用個体に関してはそもそも『未進化』の専用個体というのが居ないので分からない。例えばレッドのピカチュウも未進化ポケモンではあるが、あれはもう“レッドの”ピカチュウという一つの独立した種族になっていて、『かみなりのいし』を使ってもライチュウには進化できない。進化系統から外れてしまっているのだ。
だがそれはピカチュウの状態で専用個体へと変貌するほどの経験を積んだからこそであり、私のココガラの場合確実に進化するはずだ。
「うーん」
何となく、の勘ではあるが。
何か切っ掛けがいるんじゃないだろうか、と思う。
ただ普通に経験を積んでレベルを上げるだけでは進化できないのではないか。
ではそうだと仮定してその切っ掛けとは……。
次回! ドーモ、ガラルサンダー=サン。 ソラチャンデス! イヤァァ!
みたいな展開は無い。
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クロガネのつばさ⑤
ふと思ったことがある。
―――何故サンダーはいつも走っているのだろうか?
私がワイルドエリアでたむろしているといつもサンダーが猛スピードで走って去っていく姿を見るが、ユウリが捕まえようとした時は普通に歩いていたらしい。と言ってもユウリに気づいた途端に走って行ってしまったらしいが。
私が出会った時はいつでも走っている、ユウリが出会った時は歩いていた。
その差は一体何だろう?
その答えは―――。
* * *
今日も今日とてワイルドエリアである。
実際のところ、最低でもレベル30は無いと裏特性を仕込むのに必要な能力が足りない。
レベルというポケモンの強さに関わる秘密が解明され、レベル1のポケモンの能力にほぼ差が無いという事実が判明した。
つまりポケモンの能力の差とはレベルが上がるほどに大きく変化するわけだ。
逆に言えばレベルが低い内は最終的に高くなる能力値もさほどではない。
当たり前のことではあるのだが、この当たり前のことが新人トレーナーには意外と分からなかったりする。
この辺りがプロとアマの『思考の差異』と言えるのだろう。
アマは『今の強さ』を見る。
だから手っ取り早くレベルの高いポケモンを集め、高い能力値に物を言わせて勝とうとする。
だがそれで勝てるのは最初の内だけだ。
プロトレーナーは『最終的な強さ』を見る。
たとえ今がどれだけ弱いポケモンだろうと、最終的に強くなれる『見込み』があるならあらゆる手を使って手に入れようとする。
この違いは結局のところ、争っているステージの違いだ。
アマの舞台は即ち公認ジムなどの『相手に合わせて加減してくれる相手』や自分たちと同じアマの『成長途中の相手』が基本だ。
だがプロの舞台とは即ち『対戦相手がレベル上限いっぱいまで上げ切っている状態』がデフォルトなのだ。
だから現状どれだけ強いポケモンだろうと、最終的にどこまで強くなれるのかを考え、必要か不要かを考える。
まあそれは良いとして。
現在ガーくんは『レベル27』。
未だに進化は無く、いよいよ以って『切っ掛け』が必要だという自分の勘が正しく思えてきた。
もう少し上げれば強力な『ひこう』技である『ドリルくちばし』も覚えそうだし、取り合えず『30』まで上がったら一旦方針を変えてもいいかもしれない。
育成するにしても、ココガラのままかアオガラスに進化してからかでまた方針が変わる。
というかココガラのままではどう足掻いてもリーグトレーナー相手に戦えるとは思えないため、どうにかして本格的に育成する前に進化させる必要がある。
ただどうやったら進化するのか見当もつかないため、やれることを手あたり次第やるしかないのが辛いところだが。
「……ん?」
ワイルドエリアは広大ではあるが、人工物がほとんどない。
西のほうは木々が多く、東は山間のため視界が悪いが、中央エリアはキバ湖という湖が広がっているためかなり遠くのほうまで見渡せるのだが、目を凝らすと遠く……湖の反対側のほうで僅かに土煙を上げながら凄まじい勢いで移動する存在が見えた。
「サンダーね」
今日はあちら側にいるらしい。はっきりとは見えないが、走っている間は土煙が舞い上がっているため所在を確認するのは容易かった。
だがしばらくすると直前まで濛々と舞い上がっていた土煙が見えなくなる。
「……止まった?」
ワイルドエリアの地図で確認すればエンジンシティの入口よりさらに西側……キバ湖の北西の方角と言ったところか。
「あっちは……ダメね、『中間域』だわ」
それなりに強力なポケモンが出現する領域なだけに今の私では入ることはできない領域だ。
ただ土煙が消えたということはつまり止まった……もしくは速度を緩めた、ということなのだろう。
本当に常時走っているわけではないらしい。
「入るのは無理……だけど近くまで行ってみましょうか」
せめて『浅域』側から様子を伺うだけでもできないだろうか、と地図を頼りに移動をする。
『うららか草原』から抜けて『キバ湖西』と『キバ湖東』の間の橋を通れば向こう側に行けるらしい。
『キバ湖の瞳』と呼ばれる『キバ湖東』の中央に浮かぶ島は『深域』に属する領域であり、それを囲む『キバ湖東』も『中間域』であり一部が『深域』指定もされているらしいので近くを通る時は注意が必要になるらしい。
ワイルドエリアに入る時に必ず『ピッピにんぎょう』を渡されるのはワイルドエリアがそれだけ危険な地域であるという証でもある。
危険度ごとに領域を分けてはいるが、『浅域』に『中間域』のポケモンがやってこないとは言えないし、『中間域』に『深域』のポケモンがやってこないとは言えない。そんなものは野生のポケモンの気まぐれ一つなのだから。
とは言え、場違いなほどに強力なポケモンが出没したら確実に何らかの異変があるはずなので、それを見逃さなければ早急に逃げだすことだってできる。
それにそういうことが起きないようにそれぞれの領域の狭間にリーグスタッフが常駐しているのだから、実際には事故は滅多に『報告されない』*1らしい。
「長い橋ね」
端から端まで4000メートルを超えるとんでもない長さの橋がかかっているが、ポケモンに破壊されないように定期的に『むしよけスプレー』を散布したり、経年劣化で朽ちた部分を補修したりしながら随分と長い間ここに架けられているのだとか。
因みに歩き切るのに3、40分くらいはかかるらしい。
とんでもない長さではあるが、他地方にもっと長い橋があるとかなんとか。
「絶景ね」
湖を左右に両断するかのように架けられた橋から眺める光景はその一言に尽きた。
人里から隔離され、工業廃水に汚染されること無く保たれた美しい湖は陽光を反射して鏡のように煌めいていた。
水面を『みず』ポケモンたちが泳ぎ、それを狙う鳥ポケモンたちが空を舞う。
何よりどこを見渡しても自然が続く景色は、何となくホウエンを思い出して懐かしくなった。
そうして歩いていると、ふわり、と空から鳥ポケモンが降りてきて欄干の上に停まる。
「あら、キャモメね」
ホウエンでも良く見かける『うみねこポケモン』の『キャモメ』だった。
「ぴひょ?」
「こっちでもいるのね……おいで」
そっと手を差し出せば、ばさばさと翼をはためかせてキャモメが私の手の上に停まる。
何気に私の手の上に停まるくらいに小さなこのポケモンも体重10kg近くあるのだが、まあ私は普通の人よりは力は強いのでそれほど苦も無く片手にキャモメを乗せたままその頭を撫でる。
「よしよし、お前人懐っこいわね」
昔から『ひこう』タイプには好かれる
野生の中で育ったなら寧ろ警戒心は強くなると思うのだが、まるで無警戒に私に撫でられて目を細めるその姿は愛嬌はあったがとても野生のソレとは思えないほど緩みきって、私の手の上で羽繕いまでしていた。
「よく見たらお前、少し体が大きいわね」
通常のキャモメの全長は0.6メートルほどなのだがこいつは0.8……いや0.9メートルはあるだろうか?
一回り二回りほど体躯が大きい。と言っても特異個体というほどでもない、この程度なら個体差で済む話ではあるが。
「体が大きいとタフなのよね」
単純な話、同じ種類のポケモンでも体がデカいのと小さいのとでは前者のほうが耐久力が高い。
打たれ強く、粘り強いタフなポケモンになるのだ。
「うーん、まだ拠点も無いし、無暗に増やすのは控えようかと思ってたんだけど」
私の目の前に降りてきてこんなに懐いてきているのだ。
「お前、私と来る?」
告げて空のモンスターボールを差し出すとこてん、と小首を傾げ。
「ぴひょろ~♪」
とん、とボールの先端のスイッチをクチバシで押し込み、そのまま放たれた赤い光がキャモメを包んでボールへと収納する。
かたん、かたん、とボールが揺れて、そのままカチッ、とロックのかかった音。
それが捕獲完了の合図だった。
* * *
「やっと着いたわ」
橋を抜けきると思わずそんな言葉が出てくるほどに長かった。
最初は絶景だなんだと思っていたのだが、さすがに三十分以上同じ景色を延々と見ているのは飽きてくる。
最終的に頭の上にガー君を乗せて、先ほど捕まえたキャモメを腕の中でモフりながら歩いていたのだが、とにもかくにも湖の反対側に到着した。
遠くに見える高い建物が『見張り塔跡』なのだろう。
変な話だがあの『見張り塔跡』は『深域』でその周辺は『中間域』らしい。
『深域』と言っても基本的には何も居ないのだが、時々とんでもない怪物が住み着くことがあるのだとかなんとか。
ここから見る限りではサンダーの姿は見えない。
「もっと近づいてみましょうか」
緩やかな坂道を登りながら『浅域』の境界あたりまで近づく。
道の端のほうにリーグスタッフが立っていた。
ということはここまで、ということだろう。
「居ない……わね」
さすがにこちらまで来るのに時間をかけすぎたか、と嘆息し、諦めるかと思ったその時。
ドドドドドド、と地響きが聞こえだす。
「どこ?!」
耳を澄まし、地響きのする方向を探しあてる。視線を向ければ土煙が見えた。
方角的にこちらへ来る……チャンスではあった、が。
「無理ね」
まだ手が足りない。
そのことを自覚し、今回も観察だけに留めよう、として。
「オーライオーライ……もっと追い込め、もっともっとだ」
聞こえた声に振り向く。
後方からスマホ片手に前方の土煙……その先頭のサンダーへ視線を向ける少女がいた。
黒のキャミソール、白いホットパンツに青いパーカーに青いスニーカーとなんというかワイルドエリアに来たにしては随分とラフな格好をしたクリーム色のセミショートヘアで、口元にロリポップのものらしい棒が突き出ている。
「足止めの準備は良い? オッケー、なら戦闘準備だ」
ひょい、とスマホロトムを投げるとロトムが宙に浮きあがって通話を継続する。
「カウント5」
パーカーのポケットに突っ込んだ手が引き抜かれるとその手に持ったボールを振りかぶる。
「4」
猛スピードで接近してくるサンダーを見やり。
「3」
ボールを投げる。
「2」
投げられたボールがサンダーの元へと伸びて。
「1」
ぐいん、とサンダーが方向を変えよう……とした瞬間。
「
“■■■■■■■■”
「?!」
「0」
方向転換しようとしたサンダーだったが、いつの間にか真っすぐ進んでいて、その進路上から飛んできたモンスターボールがサンダーへとぶつかり、赤い光がサンダーを包む。
サンダーを完全に格納したボールが地面に落ちて。
かたん、と一度揺れて。
「あ……ダメだわこれ」
弾けるような音と共にボールが内側から破裂しサンダーが飛び出してくる。
―――ギィイャォォォオオオオオス!
「はあ……しょーもな」
無理矢理閉じ込められたことに怒り心頭のサンダーが足を止め、咆哮をあげて威嚇する。
それを見た少女が溜め息を吐いて、先ほどとは反対側のポケットに突っ込んだ手を出すと、その手に持っていたボールを投げる。
「しゃーなし……行くよ、フワライド」
投げられたボールから紫色の風船のようなポケモン、フワライドが飛び出しふわりふわりと浮き上がりながらサンダーを見つめる。
“らいめいげり”
先に動いたのはサンダー。
高所にいるフラライドへ向けての飛び蹴りだったが、フワライドは避けることすらせず直撃……だが。
「フワライドはゴーストタイプだっつーの……『おにび』」
“おにび”
放たれた青い炎がサンダーへと命中し、サンダーを『やけど』状態にする。
イラついた様子のサンダーがフワライドを睨みつけ。
“ドリルくちばし”
ドリルのように回転するエネルギーを纏ったクチバシでフワライドへと攻撃する。
さすがにこれは痛手だったか、悲鳴を上げるフワライドだが、『やけど』によって半減した威力ではまだ『ひんし』には遠い。
「『ちからをすいとる』」
“ちからをすいとる”
直後にサンダーからエネルギーが吸い取られ、フワライドがすっかり回復する。
逆にサンダーは全身が弛緩したかのように力が抜けた様子だった。
「じーわじわと行こうか」
このままサンダーを追い込むつもりなのだ、と理解すると同時に。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
サンダーが絶叫する。
同時に、どんどん、とその場で何度となく足踏みを始め。
「あ、やっべ」
“らいとううんぽん”*2
“ドリルくちばし”
サンダーの本気の一撃にフワライドが崩れ落ちて『ひんし』に追い込まれる。
「戻れ! っと、マジでやべーわこれ」
呟きながら次のボールを構え。
“しっぷうどとう”*3
―――ギャォォォォ!
それより早くサンダーが少女を追い抜き、そのまま駆け去っていく。
「あ、おい……ちょ、待てやコラ!」
慌てた様子の少女が声を荒げるが、凄まじい速度で駆けていくその姿はあっという間に景色の中へと消えて行き。
「くはあ……ここまでやって失敗とか、マジサがるわ」
はあ、だっる。と片手で顔を覆いながら嘆息する少女がやがてこちらへと視線を向けて。
「誰?」
「こっちの台詞よ」
それが互いに交わした最初の台詞だった。
さっくり2匹目ゲット。
今更だけど『浅域』『中間域』『深域』ってのはワイルドエリアがバッジ対応でレベル変動することへの解釈みたいなものですね。
バッジ増えたからより深いところまで潜っていける=強いポケモンが出てくる。
みたいな。
レイドだって☆5レイド出すなら後半じゃないと出てこないし。
ストミ終わってると忘れがちだけど、序盤でレイドは星1~2までしかでません。
つまり安全を確保できるだけの実力が無いと強いポケモンのいるところに入れない、という感じですね。
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クロガネのつばさ⑥
「あーし? あーしはあれよ」
「どれよ」
「ほら、あれあれ。リシウムさんよ」
「知らないわよ」
「まあマイナーだし、メジャーになれないとやっぱ知名度とか上がんねーしね」
「どういうこと?」
「だからあれよ、『ひこう』ジムのジムリーダーとかやってるのよ、あーし」
というような会話をぐだぐだと続けた結果、この言葉遣いの怪しい不良少女がガラル地方における『ひこう』ジムのジムリーダーであり、先ほどの戦闘は『ひこう』ジムのジムトレーナー及びポケモンレンジャーとの共同作戦だったらしいことが判明した。
まあ当たり前だがあんな強力なポケモンが当たり前のような顔をして『浅域』を歩いているのだ。
一般キャンパーや新人トレーナーにもし襲い掛かりでもすれば大惨事になるのは目に見えている。
そういう時に活躍するのが『ポケモンレンジャー』だ。
基本的にポケモンレンジャーの仕事とは『自然環境の保全』であるのだが、環境を壊す外来種の保護や駆除もまた環境保全の一環であると言える。
あのサンダーは本来数十年に一度という稀な間隔で『カンムリ雪原』に姿を現すポケモンであり、それ以外に関して目撃情報すらろくに無いほどに人の目の届かぬ場所に住んでいるポケモンなのだが、二、三ヵ月ほど前から突如としてこのワイルドエリアに姿を現し、環境を荒らしまくっているらしい。
「最初はレンジャーさんがどうにかしよーとしてたみたいでー、でもやっぱムリメじゃね? ってなったからあーしらが呼ばれたわけよ」
ガラルのサンダーはその詳しい生態については知られていないが、その外見やサンダーのリージョンフォーム、ないし近縁種と考えられていただけに『ひこう』タイプの専門家に頼もうということになり、リシウムが出張って来る事態となっているらしい。
「つーてあーしらも暇じゃないし、リーグ戦とかもあったからジムトレーナーに任せてたけど無理ポ言われたらしゃーなし、リーグ戦も終わったしあーしが出てきた、みたいな?」
「アンタ言葉が不自由になる呪いでもかかってんの?」
「うっせ、つーかお前誰だし、新人トレーナーがこんなとこ居たらマジヤバだし、さっさと帰んなって、飴ちゃんあげっからさ」
「嫌よ、私もアレ欲しいもの」
サンダーの去っていった方角見やりながら差し出されたロリポップキャンディーを口に含みながら舌の先で転がす。
「いやいや無理っしょ。あーしでもマジにやらないときつそうなのに、新人ちゃんができるわけねーじゃん」
「そうかしら? じゃあ賭けてみる?」
「あー?」
「一週間以内にアレ、私が捕まえられたら、アンタのとこのジムの育成設備貸してくれない?」
「はー?」
一瞬何言われたのか分からないと言わんばかりに首を傾げ。
「はー? はー?? はー??? いやいやいやいや何言ってんアンタ」
「何よ、私じゃ無理なんでしょ? だったら別に良いじゃない。それとも撤回してみる? 私なら大丈夫って、ま、アンタは無理みたいだけど」
「は? は?? は??? かっちーん、てくるわ、マジイラっときた。いーし、別にいーし、やってみりゃいいじゃん、できんならだけど、まああーしならできるけど、余裕だし、でもアンタにできんならやればいいじゃん、どーせ無理だろーけど、無理だけど、もし出来たらそん時はジムリーダー譲っても良いし」
「そこまではいらないわよ、どうせ今年ジムチャレンジ出るんだし」
「え、それマ? アンタジムチャレやんの?」
「そうよ……ま、それは良いわ。確かに言質取ったわよ」
スマホロトム片手に録音データをちらつかせる。
実際のところ本当に設備が借りられるかどうかは知らないが、取り合えず他にアテも無いのだから借りれれば御の字、万々歳である。
「はー、ちゃっかりしてんのね……まーいーけど。どーせ無理だろうし、でも一応聞いとくけどなんか作戦ある系?」
「まだ無いけど……ま、どうにかなるわよ」
「無いのかよ、ウケルわ」
* * *
―――つーて、ワイルドエリアなんて誰でも入れるとこだし、一週間待つにしても何か問題が起こったら即座に動くかんね。
との言葉もあったが、無事に一週間は動かないという約束ももらったし、上手くやれば『サンダー』と育成環境の両方が一気に手に入る。
「ぶっちゃけアオ連れてけばだいたいなんとかなるのよね」
戦闘に入った時点で勝ったも同然だ。
見たところサンダーのレベルは80~90くらい。
使ってる技と気質を見るかぎりだと推定でタイプは『かくとう/ひこう』と言ったところ。
『すばやさ』こそ相当なものがあり、『こうげき』もかなり高そうではあるがアオならだいたい全部どうにかなる。
なので六日目突入、とかなったら素直にアオをホウエンから呼び戻すとして。
「可能ならガーくんに頑張って欲しいのよね」
未だに進化しないガーくんだが、夜に父さんに電話してみたところ『格上との戦闘経験で飛躍的な変化を遂げることもある』との言をもらったので、圧倒的格上であるサンダーとの戦いに望むことで進化への刺激になれば良いと思っている。
まあ一発でも攻撃された即座に沈むだろうから、可能ならばくらいのつもりではあるが。
他にも手段としてだけなら『ユウリに手伝ってもらう』というのも無しではないのだ。
ただ一人のトレーナーとしてそれはプライドが傷つく、というのとユウリに手伝ってもらった場合、ユウリがメインになってしまってサンダーを捕まえてもユウリに持っていかれるんじゃないかという懸念がそれをさせないだけで……割と致命的な気がする。
取り合えず今は『アオ』も『ユウリ』も考えにいれずにあのサンダーを捕まえる手段を考える。
手札は主に三つ。
一つは私自身の力。
一つはガーくん。
一つは今日捕まえたばかりのキューちゃんと名付けたキャモメ。
この三つを使ってあのサンダーを捕まえる作戦を立てる。
手立ては……ある。
リシウムから聞いたあのサンダーのとある特徴、それを考慮すれば
「……ふう」
ベッドに入って大きく息を吐くと、隣で寝ていたはずのユウリがもぞもぞと動いた。
「眠れないの?」
「あ、ごめん……起こした?」
「ううん、まだ寝る前だから大丈夫だよ」
すでに一週間近くここで生活させてもらっている。
本当ならもっと早くにどこかのマンションでも借りようと思っていたのだが、ユウリが是非に、と言うのでするずると今の生活を続けてしまっていた。
ユウリに甘えられている……それが分かっていて。
私もまたユウリに甘えている……それも分かっていた。
たった数年の別れ、と大人だったら思うかもしれないが。
私たちにとってはまだ十二年しか生きてない人生のうちの数年なのだ。
友達として、親友としてずっと一緒にやってきたが故に、居なくなってしまった数年の空白は誰もいない隣が寂しかった。
だからユウリと再会してべったりと甘えてくるのは、空白だった隣を埋めるための反動なのかもしれないと思っている
いや、でも昔からこんなのだったような気もする?
まあ良い。
「楽しくなってきた、と思ってね」
「そっか」
「うん……今にして思うと、ホウエンは私にとって居心地が良すぎたわね」
実家があった。
実家には力があった。
だから望むのならば、願うのならば大概どうにかなった。
まあ何でも欲しいままにくれるような甘やかしを受けた覚えも無いが、逆に言えば強く願ったことは何だって叶った。
私自身、自分でできることは自分でどうにかする性質だったから……正確に言えばそんな母さんに憧れたからそういう風になりたいと願った。
でも父さんからすれば初めての娘が可愛くて、甘やかしたくて、だから私が助けが欲しいと言えば一も二も無く手助けしてくれて。
家族は優しかった。家庭は居心地が良かった。幸せで、悩みなんて忘れてしまいそうになるくらいに温かくて、何よりもみんなが助け合っていた。
私にできないことでも、家族の誰かができた。
家族は支え合うものだ、という父さんの思いも一理あったけれど、こうしてガラルに来て分かったことがある。
ガラルに来て、ホウエンにあったものを全て置いてきた。
ここには親友がいるけれど、逆に言えばそれ以外は全て私に『縁』の無いものばかりで。
私はもう一人で生きていくべきだ。
家族の庇護を振り切って、温かい家族の輪から抜け出して。
それは別に家族を捨てるということではない。
ただ、私は私自身の足で立つべきだということだ。
私にできないことは家族にやってもらうのではない。
私にできないことは、私の力で……私が築き上げ、積み上げた物でどうにかすべきなのだ。
すでに立派に独り立ちしているつもりでいた。
でもやっぱり私は家族に守られていたのだと良く分かった。
否、きっと今でもまだ家族に助けられている。
けれどそれじゃダメなのだ。
私はもう守られているだけの子供では無い。
だから、まずは手始めに。
「自分の力で掴み取ってみせてやろうじゃない」
大地を走る鳥を自らの手で落としてみせるのだ。
* * *
いつも走っている姿しか見ていなかったので勘違いしていたのだが、サンダーのあの猛スピードは常に維持できるようなものではないらしい。
人間でもそうだが、あんな全力疾走していたらスタミナが尽きるのは当たり前の話。
ただスタミナが尽きるよりも早く視界から消え去るほどに長距離を走るので気づかなかっただけで、サンダーとてその体力は有限のようだった。
と言うわけで用意したのは『ロトム自転車』である。
時速60kmを超える脅威の半電動自転車であり、内蔵バッテリーにロトムが憑りついているのが特徴と言える。
自転車を漕ぐことでロトムの憑りついたバッテリーが『充電』されていき、充電量が満タンになるとロトムが放電することで時速100kmを超えるとんでもない速度で走ることができる。
しかもロトムが常に電磁波を周囲に放ち、周囲の地形や障害物を察知することで人や物にぶつかりそうになると自動的に停車するという優れものである。
問題は生身で……しかもバイクのように風除けなどのついていない自転車でそれだけの速度を出すことによる風圧や振動、それに万一の事故による危険性を考慮して専用のライダースーツを着用することが『法律』で義務付けられていることだろうか。
これの何が問題かと言うと。
「だっさ」
絶妙にダサいのだ。
カラーリングやデザインもいくつか存在するのだが、安全性を第一とする以上は使用素材は限られており、普通の衣服のように好きにデザインすることができないせいかなのかは分からないが趣味に合わないライダースーツの着用を強制される、という時点でやる気が削がれるというものだ。
とは言えこれが無ければサンダーに追いつくどころか『見失わない』ようにすることすら困難なのだから仕方ない。
とにかくこれで準備は整った。
「あとはサンダーを見つければ良いだけね」
このライダースーツを着るのに、いつものコートまで脱がされたのだ。
絶対に捕まえてやる、という意気を滾らせながら周囲を見渡す。
「生息域は大よそ決まっている……走っている時はトレーナーか何かに追いかけられたりしている時」
聞いた話だが、逃げてばっかりなので性格的に臆病なのかと思ったら寧ろ強者には自分から襲い掛かる獰猛さを持っているらしい。
じゃあなんで私やリシウムたちは逃げられそうになったのかと言う疑問があるのだが、恐らく『戦うほどの相手じゃない』と思われている、というのが一番ありそうな可能性だった。
そういう意味ではアオを連れていれば向こうから寄って来るのでないか、という思いもあるのだが、ここは『サンダー』『育成施設』『ガーくんの進化』という一石三鳥を目指していくことにする。
そうしてしばらくワイルドエリアを自転車を漕ぎながらうろついていると。
「……いた」
遠くのほうに見えた茶色はまさしくここ一週間眺めていたサンダーの色だった。
『自転車』のお陰で捜索範囲が一気に広がったのでそれほど苦労も無く見つけることができたのはラッキーだった。
「さて、それじゃあ……行きましょうか」
呟きながら心の中で撃鉄を振り下ろす。
“ぼ う ふ う け ん”
直後、ワイルドエリアに嵐が吹き荒れる。
周囲を山や街に囲まれたワイルドエリアにおいて、雨や風、霧などが出ることは良くあることではあるが、それでもここまでの激しい嵐となると滅多にお目にかかる物ではないのだろう。
慌てた様子のポケモンたちが嵐の外側へと一斉に逃げ出す。
そんな中、サンダーもまた移動を開始しようとして―――。
「それじゃあ、行くわよ」
『自転車』を漕ぎだすと同時にサンダーがこちらへ気づいて、走り出す。
だがその足取りは重い。当然だろう……この嵐は私の意のままに吹き荒れる。
こちらは追い風となるように、サンダーへは向かい風となるように……それでも追いつくことができないほどのその脚力は凄まじいが、それでも差は付かない。
走って、走って、走り続け。
少しずつ、少しずつその足が鈍り出す。
走っても走っても開かない……寧ろ少しずつ詰まっていくその距離にサンダーが焦り始める。
と言ってもこっちだって全力で自転車を漕いでいるのだ、いくら『おいかぜ』だからといっても結構辛いし疲れる。
だがここは我慢のしどころだ。どちらが先に根をあげるかの勝負。
「さっさと……諦めなさい、よ!」
異能とは使用者本人の意思で引き起こすものだが漫然と嵐を引き起こすのではなく、同じ方向に走っている自分とサンダーに追い風と向かい風を使い分けるなどという小器用な真似をしているせいで余計に消耗する。
だがサンダーの疲弊が明らかに見えている以上あと少しの我慢と必死になって自転車を漕ぐ。
彼我の距離は後……少し。
「ロトム!」
ロトム自転車のバッテリーに充電された電力の全て放出し、一気に加速する。
途端にぐんぐんと縮まっていく両者の距離。
その背がもう見えた……瞬間。
「キューちゃん!」
肩の辺りに掴まれるように調整してボールから昨日捕まえたキャモメ……キューちゃんを出す。
「“ちょうおんぱ”」
指示一つ、放たれた不可視の音はサンダーの走る速度よりも早くその耳を揺らし。
悲鳴を上げながらサンダーが足をもつれさせて転げる。
「今!」
接近し、ボールを構え、投げる。
トレーナーならば何度も何度も繰り返したその動きは、極めてスムーズに行われ。
サンダーがボールへと吸い込まれる。
かたん、とボールが揺れる。
…………。
かたん、とボールが揺れる。
……………………。
かたん、とボールが揺れる。
………………………………。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
直後、ボールが弾け、サンダーが飛び出した。
―――やせいの サンダーが あらわれた!
どうやってHP減らすか……ズバットあたりにどくどくでも覚えさせて耐久すれば良いんじゃね?
【悲報】ズバットさんどくどく覚えてない【どくタイプなのに】
まじかよってなった(
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クロガネのつばさ⑦
サンダーと戦うにあたって重要なことが一つ。
「行って、ガーくん!」
それは。
「飛び回って攪乱!」
―――技を出さないことだ。
レベルだけ見てもダブルスコアどころか下手すればトリプルスコアが付きそうなサンダーを相手に普通に戦うと一発で倒されて終了だ。
だがこうしていざ戦い始めるとサンダーから逃走の気配は無い。
リシウムとの戦闘を見たかぎりだと、目の前から敵がいなくなれば走り出すのかもしれないが、少なくとも目の前に敵がいて逃げるという選択肢はないらしい。
故に重要なのは『逃げまわる』ことだ。
敵にもならない相手から逃げ出すサンダーをどうにか戦闘にこじつけようと追いかけるこちら、から敵を見れば倒しにかかるサンダーと、勝てない相手に逃げ回るこちら、つまり鬼ごっこの鬼が逆転するわけだ。
「ガーくん、風に乗って逃げなさい」
サンダーの攻撃は基本的に直接攻撃しかないらしい。
こうして改めて見れば『かくとう/ひこう』タイプという予想は多分当たっている。
そしてこれまでの研究でサンダーが飛べないわけではないが、飛ぶことが苦手だということは分かっている。
羽が退化してしまっているサンダーにとって『飛行』とは跳躍からの滑空に等しい。
だがこの『おおあらし』の中でそれができるか、と言われれば難しいだろう。
少なくともトレーナーがついて専用に訓練したのならともかく、野生で本能のままに暴れ回るような今の状態でそれができるか否かと言えば無理だろうと予想している。
故にサンダーは走るしかない。
移動のために走り、攻撃のために走り、そして少しずつ体力をすり減らす。
しかも『おおあらし』はただ風が吹き荒んでいるだけではない……同時に『あめ』も降っているのだ。
舗装されたバトルコートやアスファルトの道路ならともかく土がむき出しで自然のままの状態で放置されたワイルドエリアで『つよいあめ』が降り注げば土は泥濘となる。
足元が滑る、ということはふんばりが利かない、ということでもあり、だからこそサンダーにとってこの場所は非常に走りづらい状態となるのだ。
ガーくんにしろ、キューちゃんにしろ基本的に飛びあがって移動するこちらに対して、走って移動するサンダーにとってこのフィールドは『しつげん』に等しい。
出会った瞬間猛スピードで走り出すサンダーを相手に『戦う場所を選ぶ』ということは不可能だ。
だからこそ不利なこちら側は『戦う場所を作る』必要がある。
『おおあらし』の中だろうと平気な顔してサンダーの周囲を『ちょうはつ』するように飛びまわるガーくんを鬱陶しそうに蹴散らそうとするがけれどやはり足場の悪さに苦戦するサンダー。
さて、後はどれだけのこの状況を維持できるか、その勝負になる。
「キューちゃん、もう一発『ちょうおんぱ』」
放たれた音の連なりが、サンダーを捉える。
―――戦いはまだ始まったばかりである。
* * *
数の利は生かすべきだろう。
というか寧ろ、それしかこちらの有利は無いのだから。
基本戦術はガーくんのかく乱、そしてキューちゃんの『ちょうおんぱ』による自傷狙い。
そして。
「ガーくん! 『クロガネのつばさ』!」
「ぴぎゅうあああ!」
“クロガネのつばさ”
昨日の夜解析がようやく終わったばかりのガーくんのこの技を
サンダーが『こんらん』して『わけもわからずじぶんをこうげき』した隙にしか狙えない以上、かなりリスキーな行動ではあるが、もしそれができれば。
ほぼ詰み、まで持っていけると思っている。
まあそれができれば苦労はしないのだが。
「まず一回」
呟きながら次の指示。
ガーくんだけではない。この視界不良の『おおあらし』の中で正確に両者の位置を把握するために、こちらも右に左にと動き回る必要がある。
“らいめいげり”
「下から来る! 右に動いて浮き上がって!」
“ドリルくちばし”
「跳び上がって上から来るわよ! 真下に回って左右に動く!」
“らいめいげり”
「また下から……今度は左に……今!」
“ドリルくちばし”
「下から突き上げ! もっと上に逃げて!」
すっかり『こんらん』がとけてしまったサンダーの猛攻撃を凌いでいく。
基本的にサンダーは跳ねることはあっても飛ぶことは無いので高所を取ると攻撃が届かなくなる。
だがガーくんだってこの『おおあらし』の中で自在に飛ぶにはまだまだ訓練が足りない。
そもそもシンプルに
さらに余り高所を取り過ぎると、サンダーが届かないと悟り……今度はこっちを狙い出す。
「キューちゃん! 『まもる』!」
「ぴひょ~!」
“まもる”
“らいめいげり”
『おおあらし』を切り裂いて飛び出したサンダーの猛烈な蹴りが僅かに早く展開されたキューちゃんの展開した壁に防がれる。
昨日わざマシンで覚えさせたばかりの技だったが、使えるようになるまで何度も特訓させたのはこの瞬間のためだ。
「ガーくん、今!」
キューちゃんへと意識を向けたサンダーへと、ガーくんが高所から急降下して。
“クロガネのつばさ”
二回目の攻撃……ダメージは大して通っては無いだろうが、それでも少しずつ少しずつ小さなダメージは積み重なっている。
背後からの急襲に、サンダーが意識を向けて。
「キューちゃん!」
“ちょうおんぱ”
三度目の『ちょうおんぱ』。
ガーくんに意識が向いた瞬間に放たれた音波にサンダーが再び『こんらん』する。
直後。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
“らいとううんぽん”*1
ようやく本気で戦う気になったらしいサンダーが動きだす。
「は、はや?!」
移動しづらいはずのこの泥濘の中を先ほどまでと比較にならないほどに速度で移動し、一瞬でこちらに迫ってきてその鋭いクチバシを振りかざし―――。
わけも わからず じぶんを こうげきした!
振り下ろしたクチバシが自らを傷つける。
その隙にその場を即座に移動し、気持ち先ほどよりも距離を取る。
「あ、あぶな! 危なかったわ」
『こんらん』状態で自傷しなければ今ので終わっていたかもしれなかった。
それほどまでの突然の急襲に動揺してしまう。
“クロガネのつばさ”
だがそんな私の動揺を他所に、自己判断でサンダーの隙を見つけたガーくんが翼で殴打する。
これで三度目。
「キューちゃん、『なきごえ』!」
「ぴひょろ~♪」
“なきごえ”
隙をついてキューちゃんの鳴き声が響き渡る。
基本的に『音』を発する技は避けようがない上に無差別に届くので野生のポケモン相手の時にはかなり便利な技だ。
特に集団で襲って来る相手や、目の前の相手のように素早く動きまわるような相手でも音というのはそれ以上の速度で相手に届く故に、基本的に回避ができない。
そして耳に届けば強制的にその火力を少しずつ少しずつ削いでいく。
と、思っていたのだが。
“と う そ う ほ ん の う”*2
―――ギャアアアォォォォアアアアアアアア!
「あ、しまった?!」
『こうげき』を下げたと思ったのだが、逆に力を漲らせていく様子を見て失敗を悟る。
どうやら『まけんき』のような特性か裏特性でも持っていたらしい。
基本的に大半の野生のポケモンは裏特性なんて持ってはいないのだが、野生環境の中で長年生きてきた個体の中には自然とそういう技術を身に着ける存在もいる、というのは知ってはいたがリシウムの時に『ちからをすいとる』を使われても発動していなかったのでそんな地雷があるとは気づいていなかった。
「あの時はまだ戦闘状態じゃなかったってこと……やる気を出した時にだけ発動するのね」
『まけんき』のような特性は特にポケモン自身の精神状態で発動が左右されたりするので、もし特性じゃなく裏特性だったとしても多分同じようなものだ。
これは困ったことになった。
ガーくんは通常のココガラより『ぼうぎょ』が高いらしいので『クロガネのつばさ』とかいう攻撃をしながら『ぼうぎょ』も積める優良技で六段階積み上げればサンダーの攻撃でも耐えることができる、と踏んでいたのだがさすがにサンダーの火力まで上がる、となると怪しくなってきた。
となるといっそのこと……。
「ガーくん……もっとシビアに、行けるわね」
「
「よし。キューちゃん、どんどん『なきごえ』よ」
戦法を変える。
ここから第二ラウンドだ。
* * *
自傷三度目。
『こうげき』が二度上がっているサンダーだけに、その自傷行為は自らの体を酷く傷つける。
同時に激しい動きにどんどんスタミナが減っていっているのか、少しずつ動きが鈍っていくのが見て取れた。
だがこれだけ傷ついても、一向に弱る気配が無い……どころか闘争の気配が強まっているのはサンダーというポケモンの気性の激しさ、そして『いじっぱり』な性格をあらわしていた。
「すっごく好み! 良い、やっぱり絶対欲しい!」
何とも気が合いそうなやつだと思う。
ああ、だから。
「さっさと倒れなさいな!」
三度目の『なきごえ』。
同時にサンダーの『こうげき』が逆に上がっていく。
そして。
―――ギャァァァァァ……ォォォオオオオオオオオオオ!!
動きのパターンに変化が訪れる。
ガーくんを狙う……と見せかけながらこちらへ一直線。
「キューちゃん『まもる』!」
意表は突かれたが、それでも先ほどより鈍った足ではこちらの護りが先に完成する。
“まもる”
“ドリルくちばし”
キューちゃんの作り出した防壁を、けれどサンダーは突破できず……。
「ガーくん……っ! 『まもる』!」
ガーくんへ攻撃させて意識を逸らそうと指示を出そうとした瞬間に過る嫌な予感に咄嗟に指示を切り替える。
同時に展開していた『おおあらし』を収束させ、ガーくんをこちら側へ引き寄せる。
“まもる”
“らいめいげり”
ほんの一瞬、本当にあと一瞬ほどの差でガーくんが私たちの前に立ちふさがり、防壁を展開する。
ほとんど入れ替わりにサンダーが放った蹴りがガーくんの防壁に弾かれる。
―――危なかった!
完全にこちらに狙いを集中させていた。
いや、未だに狙いをつけられている。
まだ危機は去っていない、それを理解し。
「ガーくん! 『ドリルくちばし』! キューちゃん『ちょうおんぱ』!」
“ドリルくちばし”
弱点タイプになるだろうガーくんの攻撃がサンダーへと命中する。
瞬間。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
“とうそうほんのう”*3
急激に高まるサンダーの力に背筋が凍る。
“ちょうおんぱ”
放たれた音波、もしこれが外れたら……あの恐ろしいまでの暴威が荒れ狂うことになろうことは明白で。
「当たれえぇぇぇ!」
―――絶叫した。
『音』を放つ技に分類されるが、その本質は『音波』……つまり精神を揺らす波を放つ技だ。
放たれた狭い範囲の音波を正確に命中させる必要がある性質上、その命中確率は大よそ五割と言われる技である。
勝つか、負けるか……まさに五分の勝負。
そして。
「ギャアアォォォ……」
こちらに向かって攻撃をしようとしていたサンダーだからこそ、こちらへ向かって走り寄っていたからこそ、その音の連なりは正確にサンダーを射抜いた。
「当たった!」
だが『こんらん』しても自傷するか否か、また分の悪い賭けであり……。
“らいめいげり”
放たれた蹴りがガーくんを捉える。
攻撃のために接近していたが故に、その攻撃は正確に、そして的確にガーくんの『急所』を貫いて……。
「ぴぎゅ……ァァッァ!」
普通なら絶対に耐えられないだろう威力の技だが、事前に持たせておいた『きあいのタスキ』の効果で一度だけダメージを『こらえる』ことを可能とする。
だがこの一度だけだ……ダメージを『こらえる』ために握りしめられたタスキは破れ、その効果を失ってしまう。
「ガーくん!」
まさにそれは念のために持たせておいた保険……命綱だった。
それが発動したという時点で勝負としては負けに傾いているということに他ならず……。
撤退すべきか、という考えが頭に浮かぶ。
だがそれより早く、サンダーが動き出して。
「ま、ず……キューちゃん!」
キューちゃんが『まもる』を展開する。
だがそれはサンダーにそう『誘導』されてしまったことで。
「し、まっ!」
よく見ればサンダーは近寄っているだけでまだ技を出していない。
つまり、『まもる』の展開が終わるまで待って攻撃するつもりなのだと気づいて……。
「ま、ず……い!」
ガーくんは吹き飛ばされ、キューちゃんはすでに『まもる』を使用した。
相手の強力な攻撃を弾くほどの力を集約する技だけに連続で使用するには成功率に不安があるが。
「それでも……やるしか!」
二度目の『まもる』を指示する。
だがやはり練度が圧倒的に足りない……昨日捕まえたばかりのポケモンがそれほど上手く『まもる』を成功させられるわけがなく、構築されたはずの壁が一瞬で砕ける。
待っていましたとばかりにサンダーがそのクチバシを振り上げて……。
わけも わからず じぶんを こうげきした!
もうダメかと思った直後、けれど『こんらん』してしまっているサンダーは自らを傷つける。
―――ギャォォォォォォォアァァァァ?!
「ガーくん!」
その絶大な力が故に、自傷ダメージは凄まじいものになる。
サンダーが自らが受けたダメージを許容しきれず、ついに悲鳴を上げる。
最早サンダー自身の体力も限界に近いことを悟ると同時に最後のダメ押しだ、とガーくんへと指示を出す。
ただ。
―――動ける、か?
『きあいのタスキ』で『こらえる』ことができたとは言え、許容限界を大幅に超えたダメージに『ひんし』寸前の体でやれるか? という疑問に、のろのろと動くガーくんの重い体を引きずる動きが無理を証明していて。
もう良い、と言ってやりたい。
だが。
「行って、ガーくん!」
「ぴぎゅ……ァァァァァァ!」
それでも私の声に応えんと精一杯の虚勢を張るガーくんだからこそ、行け、と命じて……ガーくんもまたそれに応えるかのように。
瞬間。
【種族】サンダー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】87
【タイプ】かくとう/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】しっぷうどとう(自分が『ひこう』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『ひこう』タイプの技を出す。)
【持ち物】なし
【技】らいめいげり/ドリルくちばし/きあいだめ/みきり/????
【裏特性】『とうそうほんのう』
タイプ相性が『こうかはばつぐん』の技を受けた時、『こうげき』が最大まで上昇する。
自分の能力が下がった時、『こうげき』が2段階上がる。
????
【技能】『????』
????
【能力】『らいとううんぽん』
最初に場に出た時に『すばやさ』が最大まで上がるが、場にいる間毎ターン『すばやさ』が下がる。
相手より先に行動した時、攻撃技が必ず相手の急所に当たる。
【能力】の説明。
アビリティ枠。つまりポケモン自身が持ってる能力。もっと簡単に言うと図鑑説明には載ってるのにデータとしては載ってないフレーバーテキストを実際の能力としてデータ化したようなやつ。
今回で言えばガラルサンダーって原作でもロトム自転車よりも速いスピードでワイルドエリア走ってたけど、あれ別にデータ的にはなんら反映されてないよね? って。まあこいつの場合、この性能で特性『かそく』とかあったら強すぎるから仕方ないのかもしれないが、バランス調整の問題でデータ的には実装されてないけど、実際こいつこういうのできるじゃん、みたいな能力がここに入る。ただしバトルでも使えるほどの能力にするためには実機換算で『準伝説』クラスの才能がいる。なのでその辺のトレーナーのポケモンが誰でも持ってるわけではないです。
因みにサンダー君、本気出す時は大概ブチギレてて冷静じゃないのでセルフ変化技縛りして『みきり』とか使いません(
誰かこいつにとつげきチョッキ持たせろ……。
あ、きあいだめとか一応持たせてるけど存在価値がないやつ。
時間無いから2000字ほど書いたら寝て仕事終わってから残り書こうと思ってたのに、めっちゃ書きやすくて1時間で4000字ほど書けたので更新。
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クロガネのつばさ⑧
ガーくんの全身が光に包まれる。
サンダー目掛けて羽ばたきながら徐々にその姿を変えて行き。
「キュワァァァォォォォ!」
“クロガネのつばさ”
ココガラからアオガラスへと進化したガーくんが放つ渾身の一撃がサンダーへと叩き込まれて……。
―――ギュオォォォァァァ
ぐらり、とサンダーが揺らめく。
ダメージが相当に来ているらしく、足が揺れている……絶好の機だった。
「今!」
ボールを構え、投げる。
元気いっぱいの時のサンダーならば避けるか、蹴り返してくるか……とにかくまともにボールに入れることなどできないだろうが、今のサンダーならば。
とん、とボールがサンダーへぶつかり……赤い光と共にその姿がボールへと吸い込まれる。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
―――ギャォォォォォ!
ボールが弾けて、サンダーが飛び出す。
「しつこいわね」
嘆息しながらもう一度ボールを構える。
抵抗すれどもどうせもう限界は近いのだ……後は逃げられないように囲んでボールを投げ続けるだけであり……。
「キューちゃん、もう一度『ちょうおんぱ』」
そんな私の指示に従って、サンダーへと『ちょうおんぱ』が放たれる。
すでにふらふらのサンダーにそれを避けるだけの元気はなく、見事に真っ芯を捉え、サンダーの思考を揺らす。
これで逃げ出そうにも揺れる視界に方向感覚すらおぼつかないだろう。
準備は整った、とボールを投げようとして。
“ね む る”
サンダーがその場で座り込んだ。
「は?」
一瞬思考が止まる。
まさか、なんて言葉が脳裏を過る。
何をやっているのか……理解できる。
急速に回復していくサンダーに、それが『ねむり』状態になって体力を回復する技だと気づく。
ここまで削ってきたものが全て回復していく。
「嘘でしょ」
呟きと共に、サンダーを指さし。
「
二つ目の撃鉄を振り下ろした。
“しんくういき”
『ねむる』は『ねむり』状態になり、体力を
体力を完全に回復してしまうのは非常に強力な技ではあるが、『ねむり』状態になるという非常に大きなデメリットがあるので覚えさせているトレーナーは決して多くはない。
何よりも。
「動けないでしょ……どれだけレベルが高かろうと、どれだけパワーがあろうと
“しんくういき”
嵐の反転。吹き荒れていた嵐が逆巻いて集約されていく。
その対象をサンダーへとすれば『ねむり』状態となり体を動かせない今のサンダーにこの暴風の渦に抗う術はない。
そして『しんくういき』によって完全に身動きを封殺された以上。
「ほい、ゲット」
このボールを避ける術も無ければ、捕獲に抗う力も無い。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
「まさか自分から詰みに来るなんて、まあこっちの手札を知らない以上は仕方ないのかもしれないけれど」
本来ならば折角削った体力をまた回復されて窮地、だったのかもしれないが、『ひこう』タイプを持たない野生ポケモンなどほぼ封殺してしまえるのが私の力である。
『風』の異能ならばいざ知らず『嵐』の……『大嵐』を操る力というのはそれほどまでに強力で、凶悪で、強烈なのだ。
そしてここは野生のフィールドであり、レギュレーションのあるトレーナー戦ではない。
『ひこう』タイプを除けば、だが。
『ひこう』タイプに特化してしまっている力のせいか、『ひこう』タイプ相手には一気に強みが減じてしまうのもまた事実だった。
たとえ飛ぶことすらおぼつかない飛べない鳥が相手だろうと『ひこう』タイプを持っている以上は私の力の強化『対象』に入ってしまう。
力が強すぎてその辺りは上手く調整できないのだ……『ひこう』タイプならば無差別に強化してしまう性質上、私の一番の天敵は実は同じ『ひこう』タイプになる。
まあだからこそ『はねやすめ』が使えないのだ。
体力を回復できる技を入れるメリットよりもほんの一時だろうと『ひこう』タイプを失ってしまうデメリットのほうが圧倒的に大きいから。
「この辺はまあ……要調整よねえ」
強力ではあるが、大味な力なのは自覚している。
だが受け継いだものがでかすぎるのもまた事実。力が強い、というのもまた困りものなのだ。
まあそれはさておき。
「ガーくん」
「キュワォォ!」
私の呼びかけにすっかり姿の変わってしまったガーくんが応える。
アオガラス、という種族に進化したらしいのだが、図鑑を見てみるとまた文字化けしている部分がある。
「やっぱり専用個体のまま進化するのね」
何とも興味深い個体だ。
とは言え、全体的に能力値が大幅に伸びている。
サンダーとの戦闘の経験もあって、一気にレベルも30を超えているし。
「そろそろ何か仕込もうかしらね」
目安はレベル30で一つ、レベル60で一つ、レベル90で一つ、と言ったところか。
一気に三つ仕込むことはできないのか、と言われるとできなくはないが、使えるかはまた別、ということになる。
要するに使い慣れてない技術三つも一気に仕込んだところで、実戦でいざ発揮しようとすると頭がこんがらがってしまうのだ。
この辺りは『技の数』も同じようなことが言える。
だから一つ仕込んでは何度も何度も実戦で使い熟し、使い慣れ、そうして無意識レベルで使えるようになったら次を仕込む、その目安が30レベル置きなのだ。
「幸い……ちょうど良いアテができたことだし、ね」
地面に転がったボールを拾い上げ、笑みを浮かべた。
* * *
「は? は?? は~~~?!」
「今更嘘だったとは言わせないからね……約束したわよね、サンダー捕まえてきたわよ?」
リシウムに聞いたスマホの番号に電話をかけて呼び出す。
約束した一週間の間は手を出さずに様子を見る、と言っていたこともあって呼び出したらすぐにやってくる。
―――んで、なんの用? やっぱ無理だった感じ?
と初っ端から失礼なことを言って来るリシウムにサンダーを捕まえた……と言った時の反応が先ほどの語彙が喪失したようなそれである。
「嘘、じゃないんだよね?」
「多分大丈夫だとは思うけれど……出してみる?」
ボールから危険な感じはしないので、出しても大丈夫だとは思う。
ただ万一何かがサンダーの琴線に触れて暴れ出すと危ないのでユウリが居るところで出そうかと思っていたのだが。
「いや、もしもん時はこっちで何とかするっしょ……出しておけー」
「ふーん、まあじゃあ行くわよ」
ボールの開閉スイッチを押すと同時に赤い光が飛び出し、やがてそれがサンダーの形を取る。
そうして光が収まると同時にサンダーがそこに居て……。
「…………」
ジロリ、とこちらを睨みはするがやはり暴れ出す気配は無い。
とん、と一歩詰めよればびくり、と一瞬反応を返しこちらを見る目が鋭くなる。
「…………」
さらに一歩、無造作に詰めよればサンダーが警戒するように頭を低くし。
「
告げた言葉の意味を理解しているのかしていないのか。
とにかくサンダーが一瞬体を硬直させて……。
頭を下げた。
「それで良い……私が勝った、アンタが負けた。それが分かってれば良いわ」
その頭にそっと手をのせる。
硬い質感の毛だ。元は羽なのだから当然なのかもしれないが。
無遠慮に撫でつけるが、サンダーは抵抗しない。
プライドは高いようだが、それでも自分が負けた、という事実は理解しているらしい。
これなら大丈夫だろう、と手を離してボールへと戻す。
それからリシウムへ振り返り。
「もういい?」
「おっけ……わーったっての。どうやったのかって聞きたいとこだけど、ま、そんなのはマナー違反だし。約束は守るよ。うちのジム使いたいなら好きにしなよ」
「助かるわ……取り合えずジムチャレンジ始まるまでに一通りはやっておきたいしね」
ジムチャレンジについてユウリから色々話は聞いているが、それでもやはりリーグ戦……ファイナルトーナメントまで時間が少ないのにジムチャレンジでさらに時間を削られていく以上、そこまでにどれだけ準備を積み重ねられるかが重要となる。
一番の懸念だった育成環境については『ひこう』ジムを借りられることが決定した以上はこれからはパーティメンバーを揃えることが必要になるだろう。
「ところでさ」
「あん?」
その中で一つ。
かなり気になっていることがある。
パーティメンバーについて、どんなパーティを組むのか、そのためにどんな面子を揃えるべきなのか、色々考えるべきなのだろうがその前に一つ。
「サンダーがいるってことは、あとフリーザーとファイヤーとかもいたりするの?」
可能ならば全員揃えたい。
そんな欲が私の中にあった。
* * *
残念ながらリシウムはフリーザーとファイヤーについての情報は知らないらしかった。
だがいるのはいるらしい、リージョンフォームのフリーザーとファイヤー。
サンダーと同じく滅多に人前に現れないためほとんど分かっていることが無いらしい。
そもそも何故サンダーがワイルドエリアにいたのか、それを考えると……。
「ユウリ、フリーザーとファイヤーについて何か知らない?」
「ん? 知ってるよ!」
凄まじくあっさり情報源を見つける。
どうしたのかと問うユウリに、今日サンダーを捕まえたことや、他の二匹も捕まえたいことも含めて話す。
「あー、うーん。一応知ってるのは知ってるんだけど……まだそこにいるかは分からないよ?」
「どうせ他にアテも無いし、構わないわよ」
「そっか。取り合えず私が前に捕まえようとした時はフリーザーは『カンムリ雪原』を飛び回ってたよ」
「カンムリ雪原?」
「うん、ここからさらに南のほうの地域なんだけどね。ブラッシータウン駅からでも行ける場所なんだけど……パスがいるから行くなら予約しておいたほうが良いよ!」
「分かったわ……取り合えず後で予約しておきましょう」
しかし、雪原か……。
「寒い、わよね?」
「すっごく寒いよ」
「うーん」
正直に言おう。
私は寒いのがすごく苦手だ。
この辺も母さん譲りの体質らしい。
裁縫の得意な母に作ってもらったコートがかなり温かいので今は何とかなっているが、ガラル地方自体が結構気温が低めなのにこれ以上寒いところ、となると私がきついかもしれない。
「あーちょっと大きめだけど私が着てた防寒着着る?」
ごそごそとクローゼットを漁り、やがて引っ張り出してきたのはオレンジ色の生地の厚手の防寒着だった。
ユウリのものらしい防寒着を体に当ててみるが……。
「大きいわね」
「ソラちゃんはちっちゃくて可愛いね!」
「うっさい」
鏡の前で自分の体にあてて比較してみると悲しいほどのぶかぶかだった。
とは言え着れないほどではない……か?
「少し裾とか折って仕立てちゃおうか」
「良いの?」
「うん、ちょっと貸してね」
そう言って裁縫導具を出したユウリが手慣れた様子で衣服に針を通していく。
「私が今度着る時のためにほどけるようにはしてあるから、余り無茶な運動はしないでね」
「……ま、逃げなければ」
サンダーのように走り回られると困るが……さてどうなることやら。
「ああ、そう言えばファイヤーのほうの居場所は知ってる?」
「前に私が捕まえようとした時はヨロイ島にいたよ」
「ヨロイ島?」
「アーマーガアタクシーを使って行ける場所でね、マスター道場っていう私の何代か前の元チャンピオンが開いてる道場があるんだよ」
「自由ねえ」
「と言っても道場の秘伝は私がもらっちゃったから今はただの道場だけど」
「秘伝……も気になるけど、まあ元チャンピオンに見てもらえるってだけで『ただの』道場ってことは無いわね。それで、そこにファイヤーがいるの?」
「うん、島のところどころに人工物はあるけど、大半は手つかず……というか自然のままに置いておかれた島でね、そこにファイヤーが飛びまくってたよ」
「なるほど」
「因みにヨロイ島に行くにもパスがいるから注意だよ!」
「何? そっちもなの?」
行けるのは一方。
さて、どちらに行くべきか……。
種族値の暴力に味を占めた女ソラちゃん。
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ソラの色はどんな色
ポケモンの育成方法とは多種多様である。
共通するのは『バトルを熟しレベルを上げる』という部分くらいだ。
ただしレベルを上げただけで得られる強さには限界がある……もっと正しく言えばレベルを上げることで得られる強さとはシンプルなスペックだけだ。
同じ種族を同じレベルまで上げればスペックだけならほぼ変わらない強さを得られる以上、必要なのはそこから先へ至るための強さだ。
実のところこれもまた『トレーナーごとに』変わって来る。
ポケモンバトルにおいてトレーナーに必要とされる能力は主に三つあるとされる。
一つは状況を把握し、的確な行動を選択する『指示』能力。
『読み』と勘違いされやすいが、状況が二転三転する上に行動が高速化した現代のポケモンバトルにおいて、数秒の思考すらも状況に置いて行かれる要因となってしまう以上、相手の裏を『読む』ことよりも状況に即した正しい『指示』を出すことのほうが必要とされる。
例えば技の指示一つ出すことだって、『技の射程と相手との距離』や『技を撃つまでの時間と相手の攻撃までの時間』、『技のタイプと相手のタイプや特性』それに『場の状態』なども含めた複合的な判断が必要される。
それを技と技の切れめの数秒ほどの間に状況を把握し、思考を纏め、現状に即した指示を出すというのは中々にハードルが高い。
何より目の前で炎が、水が、雷が、風が吹き荒れ、巻き散らされ、下手すればトレーナーのほうにまで余波が届きそうな激しいバトルがトレーナーの集中を搔き乱す。轟音が響きと閃光が明滅するようなバトルコートの中でどれだけ的確な指示を出せるかというのはトレーナーの資質が問われる分野である。
分かりやすいことを言うなら、相手とほぼ接近したような状況で集中力が必要とされる『きあいパンチ』などのような集中を乱されると失敗するような技を連打したって相手に邪魔され続けるのがオチだ。
相手との距離が大きく開いているのに直接攻撃する技を出せば相手へ近づくまでの時間が余計にかかるし、『みがわり』を使っている相手に無暗に『状態異常』技を出しても手を無駄にするだけだ。
ポケモンバトルはたった一度の指示ミスで戦局が覆りかねないほどに流動的な戦局が続くことが多い。
それ故、たった一度のミスを最後まで取り返せずに『たった一手』が足りないままに敗北することもある。
先ほどの例のようなことは普通に考えればあり得ない、と思うだろう。
だが少しでも早く指示を出そうとする焦りが、目まぐるしく状況が移り変わる動揺が、傷つくパートナーを見つめる不安が、思考を空回らせ、冷静な判断をさせない。
それ故、卓上でなら相手の行動が読めるようなトレーナーでも実際にバトルに赴けば思考が真っ白になって先ほどの例のようなあり得ないような指示を連発することだってよくあることなのだ。
そしてだからこそそんな状況で相手の行動の『裏』をかけるトレーナーは強い。
相手の意図を外し、自分のポケモンたちの強みを押し出せる展開を作ることで10の力を11にも12にも見せることができる。
ポケモンを育て、ポケモンを纏め上げ、バトルで指示を出し、相手の行動を読みながら一手、一手と状況を積み上げる最も基本的な『トレーナー』らしいトレーナー。
故にこういうタイプは『トレーナータイプ』と呼ばれている。
この手のタイプがポケモンに求める強さは『限定的だが強い力』だ。
使える場所は限られるが、使える場所ではとにかく強い。
当然ながらその使える場所……使える場面で力を発揮できるポケモンを場に出していなければならない。
『自分の力で展開を組み立てる』ことができるトレーナータイプは汎用性よりも専用性を求める傾向が強い。
さて、ポケモントレーナーという言葉の語源のトレーナーとはそもそも『指導者』。
故にトレーナーに必要な二つ目の能力は『育成』能力……育てる力だ。
ただポケモンをレベル100にするだけなら実のところ時間の差異はあれど誰にだってできる。
何故ならそれは『ポケモン自身に備わった能力』だからだ。
ポケモンは戦えば戦うほどに強くなる、正確には『バトルに適応していく』。
けれどそれには上限がある。
大半のポケモンはレベル100以上になれない。
何故ならそれがポケモン自身の限界だから。
故にポケモンの強さとはレベル100が限界……ではない。
トレーナーという指導者がつくことによって、ただ種族としてのスペックを振り回すだけだったポケモンに『技術』という概念が生まれる。
限界だったはずの強さは限界ではなくなり、同じレベル100に達したポケモンよりも一回りも二回りも強くなれる。
何より『育成を得意』とするトレーナーの力があれば『レベル100』を超えることすら可能となる。
レベル100とは個体ではない種としての限界である。
だからこそ、育成だ……食事を変えたり、環境を変えたり、意図的に鍛え方を変える。
そうしてポケモン自身の『体質』を変えていく。根本的に『強い体』を作っていき、種族としての枠をほんの少しだけ広げる。逸脱するのではない、種族という枠自体を少しだけ広げるのだ。
『110』
それが今のリーグトレーナーのトップ層に求められているレベルだ。
極めて育成を得意とするトレーナーや特異なほどの才覚を持つポケモンならば『120』ないし、それ以上になることもあるが故にレベルが『100』である、ということすら不利になりかねない。
そもそも現在の全地方におけるリーグの共通レギュレーションとしてポケモンの上限レベルを『120』とし、パーティ全体の合計レベルを『700』までとしている以上、レベル100を6体の合計レベル600のパーティと合計700まで上げてきたパーティでは実に合計レベル100もの差がつくことになる。
相性の差など一切考慮しない数値だけを見ればレベル100のポケモン一体分の差である。
これがどれだけ大きな差なのかを考えれば、レベル100を超えることは絶対とすら言える。
だがレベル100というのは根本的な部分での限界である。
簡単に超えられるようなものではないし、トレーナーには相応以上の育成能力と環境が必要となる。
だからこそ『
故にこういうポケモンの育成を得意とし、強みとするトレーナーを『ブリーダータイプ』と呼ぶ。
この手のタイプがポケモンに求める強さは『徹底的な汎用性』だ。
効果は低くても良いのでどこでも使えて、ある程度の利になれば後は自力で勝てる。
そういう自負と自信があるからこそ、だいたいどんな時でも『多少』の効果があるような技能を仕込むのだ。
ポケモンとは言うまでも無いが生物だ。
しかも人類の隣人と呼ばれるほどに、人と同じくらいの感情を有する生物だ。
人同士で好みというものがあるように人とポケモンにもまた好みというものがある。
街でよく見るような人とポケモンが一緒に過ごす『家族』関係や『友人』関係ならまださほどのことは無い。だが共にバトルに赴いて戦う、そんな『ポケモンとトレーナー』の関係はどうしてもシビアなものになる。
人がポケモンを選ぶように、ポケモンだって自らトレーナーを選んでいるのだ。
ポケモントレーナーは6体で一つのパーティを組んでバトルを行うが、そもそも『個々に意思を持つ生物』を6体集めて『率いる』というのは中々に難しいことだ。
故にポケモントレーナーに必要な三つ目の能力として『統率』する力が求められる。
ポケモンは基本的にレベルが上がったり、進化するほどに『我』が強くなる。
自分が強い存在になればなるほど、自分が強者である『矜持』が出てくるのだ。
そしてだからこそ自分に指示を出す……自分を従える存在にも相応の『格』を求める。
もし自分のトレーナーが自分を従えるに足りない存在だと思われたならばトレーナーの『指示』を無視して勝手に技を出したり、そっぽを向いて行動しなかったり、最悪の場合、脱走してしまう可能性だってあるのだ。
よく初心者トレーナーが安易に『強いポケモン』を求めようとするが、そんな『強いポケモン』がまだ未熟で弱い初心者トレーナー『ごとき』に捕まえられるはずも無いし、そもそも捕獲できたとしてもそんな初心者トレーナー『ごとき』の言うことをまともに聞くかと言えば絶対にノーだ。
強いポケモンをパーティに加えて従えさせるにはそれだけ強いトレーナーだと認められなければならない。
これが特に顕著なのが『ドラゴン』タイプのポケモンたちである。
ボーマンダ、ガブリアス、サザンドラにオノノクスなどは『ドラゴン』タイプの中でも一際獰猛で『矜持』が高く、未進化の頃からずっと一緒にやってきた長年の相棒のような存在だったとしても自分を従えるには足りない、と少しでも思ったなら絶対に指示を聞いてもらえない。
カイリューやヌメルゴンなど気性の穏やかな『ドラゴン』もいるにはいるが、それでも根本的には『ドラゴン』であり、求められるハードルは高い。
他にも生息環境における『ぬし』ポケモンや特異個体、伝説級のポケモンなど強さの上に立つ存在ほどこの『矜持』は膨れ上がり高くなる。
そういう『我』の強いポケモンたちを纏め上げ、集団の『
故にこういう群れを従えるタイプのトレーナーを『リーダータイプ』と呼ぶ。
この手のタイプがポケモンに求める強さは『一撃の重さ』だ。
バトル中に一度しか使えなかったり、行動後に反動がついたりすることがあっても一撃で相手をなぎ倒すようなパワフルで、豪快な動きを力として、強さと定義する。
小手先の技に頼るよりも、単純に強い種族のポケモンを従えて、真正面から敵を打ち破っていく。
それが一番強いと知っているからこそ、そういう純粋なパワーを求めるのがこの手のトレーナーの常だった。
* * *
ポケモンバトルにおいて、使用できるポケモンは6体のみだ。
それぞれのポケモンにどんな技術を仕込むのか、持たせるのか。
それによってポケモンの『役割』が決まる。
例えば敵を倒す攻撃役。
威力の高い技を持ち、敵と殴り合うため高い火力と共に高い耐久力か高い敏捷性のどちらかを求められる。高い耐久力と高い火力を備えれば後手で相手の攻撃を耐えて反撃で相手を沈める反攻型や、高い敏捷性と高い火力を備えれば先手を取って相手から攻撃を受ける前に相手を沈めてしまう速攻型などだ。
例えば場を作る支援役。
『リフレクター』や『ひかりのかべ』などで後続の味方を守ったり、『ステルスロック』や『まきびし』『どくびし』などで相手の妨害をしたり、自分が相手を倒せなくても良い、後続の攻撃役が暴れるための下準備を整え、必要なら『天候』を変えたりする。
例えば相手の攻撃を受ける防御役。
『だっしゅつボタン』や互換となる技術を持って『相手の攻撃を受けて味方に安全に交代する』型や、相性の良い相手の前に後出しで出て来て回復と状態異常で相手を『受け潰す』型。
特性や技で相手の能力を下げて、攻撃能力を下げて味方と交代するような型もある。
他にもパーティごとに個々に色々な役割があって、それに対応する技術を仕込んでいく。
そしてその全てを組み合わせることで個々のトレーナーのパーティの『コンセプト』が決まるのだ。
私というトレーナーの場合、パーティのコンセプトは『おおあらし』を活かしたものとなる。
そのためパーティは『ひこう』統一であることが望ましく、また『はねやすめ』などの『ひこう』タイプを喪失する技を入れられない以上、回復能力に乏しくなってしまう。
この辺りをどうするか、というのがトレーナーとしての腕の見せ所である。
去年ホウエンで作ったパーティを参考にしても良いのだが、種族も違えば気性も違うような面子を参考にしたところで同様の成果を望むのは極めて難しいとしか言いようがない。
つまり作るなら全く新しいパーティを考えたほうが早いかもしれない。
根本的に『おおあらし』という分かりやすい基準がある分、考えるのはそう難しいことではないだろう。
逆に言えば『おおあらし』に寄せすぎて、『おおあらし』を変更された時に極めて弱いことになりかねないが……。
―――考えても仕方ない。
それができるような相手なんてホウエンのあの三体くらいしか思いつかないので考える必要もないだろう。
現在の手持ちはアオガラスの『ガーくん』にキャモメの『キューちゃん』に新しく捕まえたサンダーの『ダーくん』だ。
半年後にはアオの使用も解禁される予定だが、今は考えても仕方ないので置いておくとして。
後はここに『ファイヤー』と『フリーザー』も捕まえる予定だ。あくまで予定ではあるが。
それを含めて五体。アオをいればちょうど六体だが、それでは余りにも幅が無さ過ぎるので、あと二、三体は欲しいところだ。
取り合えず『ガーくん』と『キューちゃん』に関しては一緒にバトルしていて大よその方向性は見えてきたのでそれを目指して育てるとして。
『ダーくん』のデータを解析して大よそのできることを見てみたが、このまま運用するには私の『コンセプト』に合わない可能性がある。
もう一匹、それを補完できるポケモンが必要であり……。
「『かそく』できる鳥ポケモン……何かいたかしらね」
しばらくはガラル中のポケモンについて調べるために図鑑と睨めっこになりそうだった。
5000字オーバーの文章の中で台詞が最後のほうの一行だけになっちゃった……。
あとちょっとしたアンケ取ります。期限は今日中。
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個人所有の島のはずなのに何故か駅のあるヨロイ島
「遠いわねえ……」
ブラッシータウン駅から列車に乗って終着駅からさらにアーマーガアタクシーを乗り換える。
それでようやくたどり着いた先が『ヨロイ島』だ。
聞いた話によればこのヨロイ島、なんと『個人所有』の島らしい。
町の三つや四つくらいは収まりそうなほどの広大な島だが、元は無人島で人の手も入っておらず、ワイルドエリアとは別の形で自然の形がそのまま残っているらしい。
そのため、ガラル本土では見かけないようなポケモンも生息しているらしく、珍しいポケモン目当てに島を訪れるトレーナーや、人工物のほとんど無い自然のままの風光明媚な景色を楽しみたい観光客などが偶に訪れることもあるんだとか。
何よりこの島には島の所有者にして元ガラルチャンピオンが開く『マスター道場』なる修行場があるらしく、そこへ入門せんとするトレーナーの存在もあってこうしてガラル本土から直通のアーマーガアタクシーの駅が存在しているらしい。
ここに来る途中、空から島を一望できたのだが何ともまあ自然の色の濃い土地だ。
一歩駅から踏み出してみれば、比較的に寒い地方のはずのガラルなのに、まるで南の島のビーチにでも迷い込んでしまったかのような錯覚を起こす。
さすがに気温自体は2月ということもあって低めだが、さざめく波に白い砂浜……そして遠くに見えるサメハダーの背中は故郷のホウエンを彷彿とさせた。
「バトルリゾート……バトルハウス……50連戦、う、頭が」
嫌な思い出に思わず顔をしかめながら、浜辺を道なりに歩いていく。
正直、どこに何があるのかさっぱりなので一先ずユウリの言に従って『マスター道場』を目指すことにする。
―――マスタード師匠ならソラちゃんが探してるポケモンのことも知ってるよ!
とのことらしい。
マスタード師匠……というのが元ガラルチャンピオンでこの島の主でもあるマスター道場の道場主の名前だそうだ。
ユウリも道場でバトルについて学んだらしい……チャンピオンになった後で。
普通逆では? と思うかもしれないが、実際のところチャンピオン就任当時はまだユウリ自身、自分でも自覚するくらいには未熟だったらしい。
何せ私と別れてからバトルの勉強を始めたとは言え、たった二年、三年程度。
しかもモンスターボールを握ったこと自体去年のジムチャレンジ開始前が初めてだと言うのだからさもありなん。
まあ逆に言えば、そんな未熟な状態でガラルのトップに立って、そこからさらに多くを学んでもっと強くなった、ということでもあるのだが。
―――チャンピオン戦について、ユウリは何か思うところがあるらしい。
私との約束……を別にしても、だ。
私はその当時のことを知らないので、ユウリから聞いた話とその時のユウリの様子から察する程度ではあるが、ユウリ自身が今の自分の境遇……或いは待遇に納得しているわけではない、と言ったところか?
多分それは増長しているとかではなく、寧ろ逆の意味で……。
だからチャンピオン就任後、さらに強さを求めた。
強くなって、そしてどうしたいのか……それは分からないが、ヨロイ島へ行き、バトルを基礎から磨き直し、カンムリ雪原へ行き伝説に語られる怪物たちと戦って自らの強さを確かなものとした。
その理由は……。
いや、これはきっと私が考えるべきことではない。
「求められてもいない感傷なんて不要ね」
ただの憶測でユウリの心情を量るものではないだろう。
少なくとも、私が同じことをされたら死ぬほど腹が立つと思うので。
だから口を閉ざし、言葉を止める。
気持ちを押し付け合うばかりが友情ではないだろう。
少なくとも私はそう思うから。
* * *
何とも変わった建築様式の建物だった。
何となく実家にも似た雰囲気は感じるが、横に広い一階建ての瓦屋根の道場は本当に同じガラル地方なのかと疑いたくなるほどに『文化』の隔たりを感じた。
その外観に驚きながらも入口の戸を開く。
入口の先に広がっていたのは、『かくとう』道場によく似た木目の床に胴着を着た門下生らしきトレーナーたち。
中央のバトルコートでは今まさにバトルが行われていた。
「ヤンチャム! ローキックっす!」
「負けるなワンリキー! からてチョップだ!」
黒と白のツートンカラーが特徴のやんちゃポケモンのヤンチャムと未進化だというのにすでにパワフルな動きで相手へチョップを繰り出すかいりきポケモンのワンリキーだ。
両者共に『かくとう』タイプのポケモンであり、内装も相まってますます『かくとう』道場のようにしか見えない。
「おんや? 見慣れない子がいるねー? チミはワシちゃんの道場に何か用かなー?」
そうしてバトルを見ているとすっと、真横から声が降って来る。
ぴくり、と肩を震わせながら視線を向ければ青銅色のジャージを着た老人が笑みを浮かべ立っていた。
「えっと、勝手に入ってごめんなさい……ここにマスタードさんって人いる?」
「うふふ、ワシちゃんがマスタードだよん。それでチミはどちらさん?」
「私はソラ……ユウリに話を聞いて訪ねて来たんだけど」
ユウリの名を出した途端に、老人……マスタードが目を丸くし、破顔した。
「ユウリちんの紹介ならウェルカムだよん、まあ元々マスター道場は誰でもウェルカムだけどねん」
何というか、独特な喋り方の人だなあ、とは思いつつもそれが不快にならないのはあの人の良さそうな笑みのお陰なんだろうな、とも思う。
ただまあ聞いていた通り……ただ自然体でそこに立っているだけではあるが、何とも言えない『厚み』を感じる。
歴戦のトレーナーから感じるものと同じ多くの経験を積んだトレーナー特有の『深さ』と『厚み』が確かにあって、言動だけ聞けば確かに強そうには見えない老人だが、その気配だけは元チャンピオンというのも納得できた。
「それでチミはマスター道場に入門希望な感じ?」
「あ、いや……このヨロイ島で捕まえたいポケモンがいるんだけど、島に詳しい人なら知っていないかなって」
「うふふ、おっけーよん。この島のことならワシちゃんだいたいなんだって分かるから、なんでも聞いてねん」
とのことだったので、今私が欲しいポケモンの特徴を告げると、少し考える素ぶりをしてからぽん、と手を打って。
「それだったら分かるよん。後で分布データ送ってあげるねん」
「ホント? ありがとう、助かるわ」
「お安いごようだよん」
そう言ってジャージのポケットから取り出した小型の電子機器をぽちぽちと操作すると私のスマホロトム宛てにデータが送信されてくる。
「ところでソラちんにお願いがあるんだよね」
「は? え、あ、うん……えっと、何、ですか?」
「ユウリちんの紹介ってこともあるし、ソラちんのバトルの腕、見せてくんない?」
さてじゃあ早速捕獲に行こうか、と思ったところに突然の待ったがかかり戸惑ってしまう。
ただまあこうして台詞と共にボールを突きだされ、バトルを申し込まれた以上は。
「良いわ! 少し派手に行くから精々吹き飛ばされないようにしなさいな」
「うふふ……楽しくなってきたねん」
相手は元チャンピオン。
現チャンピオンの打倒を目指すならばこのくらいは超えて行かねばなるまい。
ちょうどバトルコートでバトルが終わったらしく、マスタードがコートの傍らに立つ胴着姿の青年に何か告げると周囲がざわめき立つ。
「ソラちん、準備おっけーよん。さあ、やろっか」
おいでおいで、と手招きされたのでバトルコートへと立ち。
「しっかり立ってなさいな、でないと」
ボールを構え。
「彼方まで吹っ飛ばされるわよ」
心の内側で撃鉄を落とした。
“ぼうふうけん”
* * *
―――勝った。
いや何というか、それしか言えないバトルだった。
何の波乱も無く、いっそ味気ないほどに順調に終わった。
「いやーソラちん強いね、ワシちゃん負けちったよ」
「よく言うわよ……全力で手抜いてた癖に」
使ったポケモンもレベル30か40ほどのコジョンドとレントラー。
ダーくんすら出す必要も無く、ガーくんとキューちゃんだけでどうにかなった辺り、本当に試していただけと言った感じだ。
「ソラちんだって全然全力じゃなかったよねん」
「当たり前でしょ、こんな室内で全力出したら道場吹っ飛ぶもの」
私の『おおあらし』は自然現象ではないのだ。
事実の書き換えによって『おおあらし』という天候を発生させているのだから、室内だろうと室外だろうと一切関係なく嵐は巻き起こる。
ただし閉塞した空間でやると風の逃げ道が無いため嵐を引き起こす爆発的なパワーが閉所で一気に爆発して嵐の爆弾が閉塞に穴を空けるどころか何もかも吹っ飛ばすほどの強大なパワーで爆発することになる。
道場が吹っ飛ぶだけならまだしも、室内の人間全員破裂して死にかねないほどの強風と風圧が炸裂する大惨事となってしまうような力、誰が全開で使うものか。
「うひゃー、怖いねー。まあ今回は腕試し、次やる時は……
一瞬鋭くなった視線に背筋がぶるり、と震えるが次の瞬間にはまた元の笑みに戻っていた。
何とも底の見えない老人である。経験から言わせてもらうならこういう相手は厄介なのだ。
「それで、何がしたかったのよ」
先ほどのバトルに湧きたちながらも練習に戻る門下生を他所に道場から出て歩く。
「本気でただの腕試しだけだったわけじゃないでしょ」
このヨロイ島は毎年多くのトレーナーが訪れる。
本土に居ない珍しいポケモンが欲しいだけのトレーナーもいれば、過酷な自然環境の中で自らを高めようとするトレーナーもいる。
そんなトレーナーたちが誰も道場に寄らないのか、なんてことを考えればきっと無いだろうし、そんなトレーナーたちを相手にみんなあんな腕試しをやっているのか、と言われたらきっと違うだろう。
ユウリの紹介だったから、というのも考えられるがそれでも初対面の人間にいきなり、というのは少し強引ではないだろうか。
いや、もしかたら本当にただの腕試しだった可能性も?
と考えていたのだが。
「うふふ、ソラちんは鋭いねー。実はそんなソラちんの腕を見込んでちょっとお願いがあるんだよねー」
どうやら本当に何かあったらしい。
* * *
「うーん」
ダーくんの背に乗り、凄まじい勢いで駆け抜けていく景色を見やりながら唸る。
極端に疲労しないような適度なペースを保ちつつ、『おいかぜ』を吹かせて背を押してやっているのでしばらくスタミナの心配は無さそうだった。
「厄介事押し付けられた感じはするんだけど」
マップで現在位置を確認する。
目的地までの道のりを辿れば、確かにこのままで良いようだ。
『清涼湿原』を抜ければ一気に足元がしっかりとしたものになる。
硬い土を踏みしめて走るダーくんの速度は先ほどまでの比ではない……ただし揺れが酷いのが難点だが。
「あいたたた……鞍でもつけようかしら」
まあそこまでするなら素直に自転車に乗ったほうが良いのだろう。
スマホロトムで地図を確認しながら進みたかったのでダーくんに乗っているが、目的地までもう迷うようなところも無さそうだし、自転車で行っても良いのではないだろうか、という気もしている。
そんなことを考えているとダーくんが突然速度を緩める。
一体どうした、と考えている内にやがて足を止め……。
「ギャォォ!」
「どうしたのダーくん……って、ここ」
目の前に広がるのは大きな洞窟の入口。
どうやらいつの間にか目的地の手前まで来ていたらしい。
「中はそんなに複雑じゃないらしいし、ここを抜けたら目的地ね」
呟きながら『慣らしの洞窟』へと足を踏み入れる。
サンドにカラカラと『じめん』タイプのポケモンが多く見える。
だがよく見れば他にもガルーラやラッキーと言った珍しいポケモンもいた。
足を踏み入れ、歩いてみるとすぐにあることに気づく。
「何か外より暖かいわね、ここ」
洞窟であり、日の光が差さない故に外より寒くなるのが洞窟という場所のはずなのだが、何だか外より気温が高い。
「って、コータスがいるじゃない」
洞窟の片隅が何かぼんやりと光ってると思ったら、コータスがもくもくと煙を吐き出していた。
この洞窟が何だか暑いような気がするのはそのせいか。
しかも一本道ながらもいりくねった道の影響か風の通りが悪い。
端的に言えば湿度が高いのだ。
そのせいで先ほどからじんわりと汗ばんできた。
「換気したいわね」
個人的に寒いのよりは暖かいほうが好きだ。
ホウエンの出身はだいたいその傾向にあると思う。
ただ汗をかくのは……まあ少し気になってしまう。
力を振るえば風を吹かすことくらいはできるのだが、無暗に野生のポケモンの生息環境を荒らすと厄介なことになりかねないので我慢しながら歩いてしばらく。
我慢しきれず自分の周囲にだけ風を生み出して涼みながら歩いていると前方に光が見えた。
「ゴール、ね」
光に向かってさらに歩いて見えてきた洞窟の出口を抜ければ。
―――『鍋底砂漠』に出る。
「ここにいるのね」
マスタードからの依頼の対象。
「砂海竜が」
今作は割とぽんぽん仲間増やしていくよ。
まあ『ひこう』縛りあるから最大でも10体あるかないかくらいだけど……あれ前作と変わらない気がする(
マスタード戦はカット。
理由? 正直戦うとは思ってなかったからデータ作ってなかった(
オールアドリブの弊害だね……。
本気のマスタードと戦う時はちゃんとデータ作るわ。
それまでにソラちゃんのパーティ完成させる必要があるけど。
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『砂の嵐』を吐きだす竜
『砂漠』の『竜』というとガブリアスやフライゴンなどを連想するが、マスタード曰く違うらしい。
『鍋底砂漠』はたくさんの『いわ』タイプや『じめん』タイプのポケモンが生息する地域であり、道場の門下生たちもそうしたポケモンたちをゲットするために時折訪れているらしいのだが、一か月ほど前からこの『鍋底砂漠』にかなり狂暴なポケモンが現れ、暴れ回っているらしい。
その影響で『鍋底砂漠』から逃げ出すポケモンもいるということもあってマスタードとしても何度かそのポケモンを鎮めようとこの砂漠へとやってきたのだが、非常にタフであり獰猛で攻撃性も高く、だが同時に自分の不利を悟るとすぐに逃げ隠れしてしまう臆病さと自分を負かす危険性のある相手の前には以降姿を見せない狡猾さを持ったかなり厄介なポケモンらしくどうにも手を焼いていたらしい。
―――多分ソラちんとは相性が良いと思うんだよねん。
じゃあ何故他のトレーナーではなく私に頼むか、そんな疑問にマスタードはそんな分かるような分からないような理屈を答えた。
正直なんで私が、とは思わなくも無いが、どうやら私の求めているポケモンがこの『鍋底砂漠』にも生息しており、その狂暴なポケモンが暴れ回っている影響で分布が滅茶苦茶になっているため私の欲しいポケモンを捕まえるなら島中くまなく探して回るより一度その狂暴なポケモンを沈めたほうが手っ取り早い、とのことで止む無く、と言ったところだ。
ただ。
「どこにいるのかしらね」
こうして『鍋底砂漠』に来てみたは良いものの、何かが暴れている様子はない。
非常に狂暴かつ獰猛であり、縄張りに敵が侵入すれば必ず襲い掛かって来る、とのことだったので砂漠に一歩足を踏み入れた途端に襲い掛かって来るものかと思っていたのだが、予想がハズれた。
とは言え。
「静かすぎるわね」
平穏か、と言われるとそうでも無かった。
何よりも静か過ぎる。普通多くのポケモンが過ごす野生の環境では生命が生きる音があちこちで聞こえるはずなのに……。
まるで何の音もしない。
風も……不自然なほどに凪いでいて、微風一つ吹くことが無い。
圧倒的な何かに怯え、息を殺しているような……そんな雰囲気。
「いる……わね」
ぞっと、背筋に氷を突っ込まれたような怖気が走る。
何となく分かる。
今、何かに狙われている、と。
きゅっと歯を噛み締め、大きく息を吸って……吐く。
「ガーくん、キューちゃん、出て来なさい」
ボールからガーくんとキューちゃんを出すと上空に向かわせる……恐らく来るとしたら下からだろう。何かあればすぐに駆け付けられるように、けれど相手の初手を受けない位置となれば私の上を飛ばすのが最適解のはず。
故にダーくんはまだ手元だ……だって飛べないし。
「これで……よし」
準備は整った、ともう一度深呼吸する。
そうして足元の砂漠に向かって手を置き。
“ぼうふうけん”
心の中で撃鉄を振り下ろした。
* * *
ポケモンとは人類の隣人であるが、同時に人類にとって最も身近な脅威である。
基本的にポケモンの能力というのはどれをとっても人類より優れていることが多く、けれどだからこそポケモンは人類を必要としている。
野生のポケモンにとって最大の敵とは即ち同じ野生のポケモンに他ならないからだ。
だいたいのことにおいて人類よりも高い能力を持つポケモンは、けれどその力を十全に発揮するためにはトレーナーという外付けのブレインを必要とすることが多い。
だからこそ野生のポケモン同士の生存競争とは酷く生々しく、痛々しく、同時に熾烈を極める。
その中で長年生き残ってきたポケモンは周囲から頭一つ、二つ飛び抜けやがてその環境における支配者となる。
つまりそれが『ぬし』ポケモンということになる。
かつて『鍋底砂漠』に暮らしていた『ぬし』ポケモンはキョダイマックスする『サダイジャ』だった。
基本的にポケモンというのは一度身に着けた強さを無くさないものだ。
戦わなかったからと言って『レベル』が下がる、などということも無い。
だから一度『ぬし』となったポケモンが誕生すればしばらくの間『ぬし』がその一帯の覇権を握ることになる。
往々にして『ぬし』は同族のポケモンたちを従え、他のポケモンたちを屈服させて一大勢力を築いていることが多く、だからこそ『ぬし』が同じ環境で育ったポケモンに負ける、ということは余り起こり得ることではない。
だから『ぬし』の交代とは往々にしてだいたい三通りに分けられる。
一つは他所から流れてきた強いポケモンに敗北した場合。
この場合、負けた『ぬし』は殺されるか、もしくは縄張りを追われて『ぬし』を倒したポケモンが新たな『ぬし』となる。
一つは老齢などの理由で弱ってしまった『ぬし』が支配下のポケモンに下剋上されてしまうこと。
この場合、下剋上したポケモンが一番強ければまだ良いが、下手をすれば縄張りの内側にいる全てのポケモンが入り乱れて新たな『ぬし』の座を求めて争いあうことになる。
その場合、その影響は縄張り一帯のみに留まらず、周囲にまで及ぶことになる。
最悪、人にまで被害が及ぶこともあるので、トレーナーたちが急行して争いに介入することだってあるのだ。
と言ってもこれは険呑なパターン。
最後の一つは『ぬし』が次代の『ぬし』にその座を明け渡す、という穏当なパターンだ。
そもそもポケモンは人間の言うことを理解するだけの知能を持つ生物だ。
長く生きて性格も穏健になった『ぬし』ならば縄張りの安定のために力の衰えを感じた段階で新たな『ぬし』を探し、その座を明け渡すようなこともする。
サダイジャもかつて『鍋底砂漠』で新たな『ぬし』にその座を明け渡し、そして縄張りから出た。
洞窟を抜け、本来の生息域ではない平原へとたどり着く。
そうして……。
『ハニカーム島』の『ぬし』ポケモン
* * *
自然環境において、異なる種族のポケモン同士がタマゴを作ることは珍しいことではない。
ポケモンのタマゴとは『細胞の塊』である。
通常の雌雄のある生物のような性交によって遺伝子を交わらせるのではない、ポケモンの交配とは即ち分裂させた細胞を切り離し、二匹分を混ぜ合わせることであり、『ポケモン』としての形を成す最低限の細胞量が存在すれば後は勝手に成長して細胞を増殖させポケモンを形作る。
ポケモンのタマゴは最初は液体が詰まった殻なのだ。
それが周囲のエネルギーを取り込むことで少しずつ生物としての形を為していき、中で動き出す頃にはポケモンとしての体を為している。
ただなんでもかんでも細胞を混ぜ合わせれば良いのか、と言われればそれは違っていて、細胞同士の親和性のようなものがあり、研究者の間ではこの親和性に基づいて『タマゴグループ』として分類を行なっており、このタマゴグループに共通項が一つでもあればポケモン同士でタマゴを作ることができる。
余談を言えば、♂と♀でしかタマゴが作れないのは提供する細胞が異なるから、だと言われている。
ポケモンという一個の生物を形作る細胞の半分を♂が、もう半分を♀が提供しており、この二匹が提供する細胞は実は別の種類である、というのが今の主な学説だ。だから同じ性別ではタマゴは作られない、何故なら同じ種類の細胞を提供してもポケモンを形作るもう半分が足りないからだ、ということらしい。
因みにメタモンの細胞は雌雄どころか種族の差すらも乗り越える。それはメタモンの細胞があらゆるポケモンの細胞に適応し変化する『万能細胞』だから、だと言われている。
まあそれはさておき。
先も言ったが自然環境の中で異なる種族のポケモン同士がタマゴを作るのはそう珍しいことではない。
同じ種族の異性が必ずいるとは限らないし、そもそもいたとして他の同性とすでにくっついていることもあり得る。
タマゴとは簡単に作れるようなものではない。細胞分裂によって細胞を増やし、増やした細胞を切り離す。そうして細胞を切り離した以上は少なからず自分の体を構成する要素を欠損しているのだから、また細胞を増やす必要性がある。
だから育て屋などにポケモンを預けても1個ずつしかタマゴはできないし、次のタマゴができるまで時間がかかるのだ。
繁殖しようとした時に、常に同じように繁殖可能な状態の異性がいるか、というのは野生の生物にとっては死活問題でもある。
だからこそ同様に繁殖可能であるならば種族を超えてタマゴを作ることは時折あることなのだ。
ただそれでも。
元とは言え『ぬし』ポケモンが『ぬし』ポケモンと交配し、タマゴを作るという例はこれまでにほぼ無かった。
そのサダイジャが何故苦手とするはずの海に近づいたのかは分からないが、浜辺へと向かったサダイジャは『ハニカーム島』で縄張り争いに負け『ぬし』の座を追われたギャラドスと出会った。
そしてそこで一つのタマゴを作り、両者はまた去っていく。
残されたタマゴはやがて孵り、一匹のコイキングが生まれた。
ヨロイ島近海の海は大量のサメハダーが泳ぐ危険地帯だ。
生まれたてのコイキング一匹、親のギャラドスの力が無ければあっという間に死んでしまうのは予想に難くないほどに。
ああ、だから本当ならばそのコイキングは死んでいたのだろう。
それがただのコイキングであったならば。
結論だけ言うならばコイキングは生き残り、進化してギャラドスとなった。
そうして今は……。
* * *
叩きつけられた『おおあらし』が砂塵を巻き上げる。
瞬間的な使用だったため、すぐに『おおあらし』が止むが大地に直接具現した嵐が地面を大きく抉り、その下に隠れていたモノを露わにする。
「見つけた」
突如消失した地面に取り残される形で虎視眈々とこちらを狙っていただろうソレを見やり。
「キューちゃん『ちょうおんぱ』!」
放たれた音波が突如の事態に一瞬硬直してしまっていたソレを捉える。
同時に大きく後退。十メートル、二十メートルと距離を空ける。
そうして改めて観察してみれば。
「なにこれ……イワーク?」
全身を石や砂で覆われた全長十メートル弱ほどの蛇のようなポケモンがそこにいた。
外見的特徴だけで一番近いものを言うならばどう考えてもイワークなのだが、けれど実際にはイワークとはまるで違う姿のソレがいったい何のポケモンなのか、さっぱり分からなかった。
―――ゴォアアアアアアアアアアアアアアア!
『こんらん』したそれが咆哮をあげながら激しく暴れ回る。
だがこちらが見えているのかいないのか、見当違いな場所で暴れている隙にその姿を図鑑に収めて……。
検索結果>>『ギャラドス』
「―――っ! ガーくん、キューちゃん!」
表示された結果に思考が一瞬止まった。
だがそれも一瞬のこと、今すでに修羅場に立っていることを思い出し、即座に二匹に指示を出す。
だがその僅かな時間に相手の『こんらん』も解けてしまったらしい。
ぶん、と尻尾を振り回すようにして砂礫を飛ばしてくる。
それを躱しながらガーくんが急降下して。
“クロガネのつばさ”
硬化した翼の一撃に、けれどさしたるダメージも無さそうなギャラドス。
どうやら『いわ』タイプは入っていないらしい……ということは『じめん』タイプ?
「特異個体、っぽいわね」
しかもただタイプが変わっている、とか並外れて大きいとかそういうレベルじゃない。
水棲のはずのギャラドスがこんな水も無い砂漠のど真ん中に生息しているとか完全に『変異種』*1だ。
「キューちゃん!」
“みずのはどう”
推定『じめん』タイプならばこれは嫌がるだろう、と放たれた『みず』タイプの技をギャラドスが受け……。
“されきのよろい”*2
『みずのはどう』が命中したその体が湿り気を帯びて硬くなったのを見て、それが失敗だったと悟る。
「これ、は!」
『みずがため』という特性がある。
アローラ地方に生息するスナバァやその進化形であるシロデスナが持つ特性であり、『みず』タイプの技を受けると体の砂が水を吸って硬くなり『ぼうぎょ』が上がるという特性だ。
砂の体を持つシロデスナたちだからこそできる特性であり、まさかギャラドスが同じような特性を持っているとは予想だにしなかった。
そんな私を嘲笑うかのように、ギャラドスが大きく息を吸い込み。
“さかいのぬし”*3
ぼん、と砂の塊を吐き出す。
吐き出された砂の塊が直後に弾け出し……ゴウ、と音を立てながら『すなあらし』を呼び起こす。
「……『すなはき』、ね。随分と器用じゃない」
こちらに来て、ガラルのポケモンについては良く調べていたのでその特性も覚えていた。
サダイジャ系列のポケモンが覚える『攻撃を受けた時に天候をすなあらし』にする特性だ。
こいつの親が何となく分かってきた。
「ギャラドスとサダイジャの血統、ってことかしらね」
何をどうやったらギャラドスが陸棲になるようなことになるのかと思っていたが、サダイジャの『血統』が混ざっていたのならばそういう変化もあり得るのかもしれない。
ゴウゴウと吹き荒れる『すなあらし』に視界が徐々に悪くなっていく。
そしてその『すなあらし』に紛れるようにして、ギャラドスが足元の砂を巻き上げながら移動し始める。
“さばくをおよぐりゅう”*4
「『すながくれ』……マスタードさんから逃げ出したのはこれか」
この『すなあらし』の中、こうも砂塵を巻き上げて移動されては確かに見失いそうになるだろうと納得する。そうして逃げ出したらもう勝てない相手の前には出てこない……そうやって勝てる相手だけを襲うのだとすれば。
確かにこれは狂暴で、凶悪で、臆病で、狡猾で……危険だ。
まあ。
「私が相手じゃなければ、ね」
“ぼうふうけん”
吹き荒れる『すなあらし』がそれ以上の規模の『おおあらし』に掻き消されていく。
ざあざあと砂漠に雨が降り出し、舞い上がっていた砂塵も水気と共に地面に落ちる。
同時に砂塵を巻き上げながら移動していたギャラドスの居場所も丸わかりになる。
「逃げるなんて許すわけないでしょ……誰に喧嘩売ったのか、思い知りなさい」
そうして、手元のボールを構えて。
「ぶっ飛ばせ! ダーくん!」
投げた。
【種族】“砂海竜”ギャラドス/変異種/特異個体
【レベル】82
【タイプ】じめん/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】されきのよろい(直接攻撃する攻撃する技で受けるダメージを半減し、相手から『みず』タイプの技を受けた時、『ぼうぎょ』が2段階上がる。)
【持ち物】さらさらいわ
【技】じしん/かみくだく/すなあつめ/ステルスロック
【裏特性】『さばくをおよぐりゅう』
天候が『すなあらし』の時、『とくぼう』を1.5倍になる。
天候が『すなあらし』の時、相手の命中が0.8倍になる。
????
【技能】『――――』
【能力】『さかいのぬし』
相手から攻撃を受けた時、5ターンの間天候を『すなあらし』にする。
天候が『すなあらし』の時、タイプ相性が『こうかはばつぐん』のダメージを3/4にし、毎ターン自分のHPを最大HPの1/8回復する。
【備考】
ギャラドスとサダイジャとの交配によって生まれた砂漠を泳ぎ陸地で生きるギャラドスという突然変異種。
持ち物の『さらさらいわ』は鍋底砂漠に落ちていたもの(実機でも落ちてます)。
血統という概念に関してはドールズのほう読んで……と言いたいけど、仕方ないので説明しておくと、ゲームで言うところの遺伝技をもっと幅広く解釈した概念ですね。
ゲーム的には♂親が何だろうとタマゴ技以外にほぼ関係なかったけど、例えば今回でいうなら『ギャラドス』と『サダイジャ』の子供として生まれたコイキングなら『じめん』タイプに対する『適性』を持っている、とします。本質的にはギャラドスだけど、サダイジャの能力を一部受け継ぐこともある、くらいの解釈。
今回出てきた『砂海竜ギャラドス』はそのサダイジャの血筋が変異を起こして生態すら変わってしまった結果の『変異個体』。
元々5世代以前のタマゴ技って『対応する技を持った♂親』が必要になるじゃないですか。
6世代からサーチとかでタマゴ技持ってるやつとか出てきたけど、基本的にタマゴ技っていうのは『その種族自体は覚えない』技じゃないですか。
でもその技を覚えている、というより『その技を覚えることができる』ポケモンと交配することで本来覚えない技を覚えたポケモンが生まれる。
つまり『本来覚えないはずの技を覚えるだけの物』を♂親から受け継いでいる、と解釈できるよね?
作者の好きなボーマンダは種族的には『ハイドロポンプ』覚えないけど、『ギャラドス』や『キングドラ』などの『みず』タイプの血を受け継ぐことによって『みず』タイプを扱う親和性、或いは『適性』を得ている、とする。
その『適性』を『血統』と言い換える。
なので♂親が『ギャラドス』とか『キングドラ』のタツベイは変異を起こすと『みず』タイプになれる、みたいなこともあります。
因みにアオ君が突然変異起こして今のタイプが変わることは『絶対に無い』です。
ちょっと親の血が強すぎますので(
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岩鳴り散らす大地の共鳴
―――ギャォォォォス!
ボールから飛び出したダーくんが、飛び出した勢いのまま走り出す。
“らいとううんぽん”
ぐんぐんと速度を上げ、全力疾走で瞬く間にギャラドスとの間を詰めて。
「貫け!」
“ドリルくちばし”
ギャラドスが反撃の一手を出すより早く、その身に纏った砂礫の鎧の隙間……『急所』を的確に貫く。
硬質化した砂礫の鎧も、けれど『急所』に当てれば意味の無い産物だ。
ダーくんとの相性は極めて良いと言える。
―――ゴォアアアアアアアアアアアアア!
ギャラドスが悲鳴を上げながらも怒りに身を任せながら反撃にその身を大きく振りかぶり。
―――叩きつける。
“ じ し ん ”
その巨体由来のパワーから放たれた圧倒的なまでの振動が大地を揺らし……。
「無駄、無駄、無駄!」
飛んでいないダーくん含め、全員『ひこう』タイプ故にその攻撃は無意味と化す。
『タイプ』相性とは物理的な物ではない。飛んでいないから、地面に足をつけているから技が当たる……なんてのは違うのだ。
『ノーマル』タイプが『ゴースト』技を受けても平然としているように、『ゴースト』タイプが『かくとう』技を受けてもまるで無意味と為すように。『フェアリー』タイプが『ドラゴン』技を受けても微風に吹かれた程度にしか感じないように、
『ひこう』タイプのポケモンは根本的に『じめん』タイプのエネルギーを受けつけない。
当たるとか当たらない、とかそれ以前の問題なのだ。
とは言え足場が揺れて走りづらいのもまた確かで。
「ダーくん! ジャンプ……からのキック!」
こちらの指示に従って、ダーくんがその場で跳躍。
少し訓練すれば『とびはねる』なども覚えそうなほどの跳躍力で跳びあがり、羽をばたつかせながら滑空して落下方向を制御。
重力に引かれるままに勢いをつけて。
“らいめいげり”
その頭部を蹴り上げる。
頭部はほとんどの生物にとっての『急所』だ。
常に高い位置にあって狙いづらい場所ではあるが、上からなら寧ろ狙いどころではある。
二度目の攻撃、だが先ほどの『ドリルくちばし』ほどのダメージを感じないところを見ると、やはり『ひこう』タイプも複合しているらしい。
「この『おおあらし』の中で平然と動いてるからおかしいとは思ってたけど……また『ひこう』タイプなのね」
どう足掻いても私は『ひこう』タイプを使うことを最も得意とし、同時に相手にすることを苦にするらしい。
この短期間でこれだけ強力な『ひこう』タイプと続けざまに会うなど、ホウエンに居た頃では考えられないような話だ。
頭を揺らされ一瞬ぐらついたギャラドスだったが、それでも先ほどよりはダメージは軽いと反撃とばかりにその尾を揺らして。
“ステルスロック”
砂礫の中に転がる岩の塊を尾を弾き飛ばすと、あっちこっちに岩が飛び散る。
しかも飛び散った岩がまるでその場に張り付けられたように固定される。
「ステルスロック……厄介なもの仕掛けられたわね」
バトルコートなら交代際にダメージを受ける程度の技だが、野生戦だともう少し面倒が増える。
というかバトルコートに仕掛けられたなら『おおあらし』でもろとも吹っ飛ばすだけなのだが、吹っ飛ばしてもそこら中に岩なんて転がっている。
これを全部吹っ飛ばすくらいまで出力を上げると、持続時間のほうに問題が出てしまう。
「でもこれに何の意味が……?」
仕掛けられたのは今戦ってるこの場所自体では無く、この場所をぐるりと取り囲むように一回り外だ。
移動範囲を狭められたくらいの意味はあっても、走っている最中に当たる危険性はほぼ無い。
だが何の意味も無くやったことだとはどうしても思えない。
すでに二発、ギャラドスはダーくんの攻撃を受けている。
ダーくんが侮れない強力な相手だという認識はあるはず、警戒もしているはず。
ならここに来て無意味な一手は取らないはずだ……。
だったら、この岩には何の意味がある?
その答えは直後に出る。
“ じ し ん ”
再び巨体を持ちあげての大地への叩きつけ。
どぉぉぉん、と地響きがすると同時に大地が大きく揺れて。
“さばくをおよぐりゅう”*1
撒き散らされた『ステルスロック』へ『じしん』の揺れが響き渡り、まるで『ステルスロック』をスピーカーにするかのように『振動』が空気を伝って『
「ぐっ……あっ」
三半規管を揺らされ、平衡感覚を失う。
咄嗟に膝をついて倒れるのを拒否するが、頭の中がぐわんぐわんと回っていて、耳の奥に未だに『音』がこびり付いている。
揺れる視界の中でダーくんが同様に揺れているのが見えた。
「キュー……ちゃん!」
上空で待機しているはずのキューちゃんへと指示を出す。
“ちょうおんぱ”
僅かの時間稼ぎでも良い。
『こんらん』させている間に、ダーくんが復帰できる。
そんな予測の下の指示だったが、元の命中は5割少々だ……放たれた音波はけれどギャラドスに命中しない。
そうしてこちらが立て直すより早く、ギャラドスが追撃に移ろうとして。
“クロガネのつばさ”
上空から飛び掛かったガーくんがその邪魔をする。
―――グォォォオオオオ!
“かみくだく”
「キュワァァァォォォォ!」
“クロガネのつばさ”
邪魔だ、とばかりにギャラドスがその大きな口を開く。同時にその口の前にエネルギーでできた牙が現れ、ガーくんを攻撃する。
痛みを堪えながらガーくんが二度目の攻撃を出すが根本的に能力値が足りていないのか、さほどのダメージにはなっていない。
だが。
「ナイスよ、ガーくん」
起き上がる。
先ほどまでの揺れはすでに収まった。
ダーくんも同様、すでに立ち上がっていつでも戦える準備はできていた。
「まさかステルスロックをこんな風に使うなんてね」
特異な個体や長く生きた『ぬし』などはトレーナーに仕込まれずとも、自らの技を組み立てて裏特性を獲得することがあるらしい、とは知っていたがまさかここまで完成度が高いとは思っていなかった。
「つまりあれがあると問題になるのね」
ぱん、と両手を打ち付け、鳴らす。
それをスイッチとして『おおあらし』の勢いが強まっていき、周囲にあったはずの『ステルスロック』を一息に吹き飛ばしていく。
これでもう先ほどの『じしん』は使えない……。
「この状態が維持できるのは……まああと三手、四手ってところね」
その間に『詰ませる』必要がある。
だから。
「ダーくん!」
現状の最大戦力へと指示を出した。
“ドリルくちばし”
“かみくだく”
放たれた一撃に、負けじとギャラドスも応戦する。
先ほどの『じしん』のダメージのせいかダーくんの動きが鈍い、だがギャラドスもまたダメージを隠しきれていない。
先ほどよりも互いに弱った一撃がぶつかりあい……ギャラドスが撃ち負ける。
両者の技の威力に差異は無い……だが、いや、だからこそ天候とタイプの差で『ひこう』技を出したダーくんが勝つのは道理と言える。
ぐらり、と態勢を崩したギャラドスにダーくんがすかさず追撃を放ち……。
「ぶち抜きなさい、ダーくん!」
同時に二つ目の撃鉄を振り下ろす。
“しんくういき”
『おおあらし』が収束してダーくんの下へと集っていく。
互いに『ひこう』タイプなのでダーくんの時のように行動制限はかけられないが、それでも。
「―――ギャアァァァァォオオオオオオ!」
“らいとううんぽん”
“ドリルくちばし”
『おおあらし』のエネルギーを全て解き放つかのような暴風と共に撃ちだしたダーくんの一撃がギャラドスの『急所』を的確に貫いて……。
「ゴ……ガ……」
さしもの威力にギャラドスも耐えられずにその身を倒……。
―――ゴガアアアアアアアアアアアアアアア!!
―――倒れない。
「なっ……まだやる気?!」
すでに『ひんし』限界のはずの体力で、けれどギャラドスが大きく息を吸って。
“さかいのぬし”
『すなあらし』を吐き出す。
すでに『おおあらし』が解除されているため再び周囲に『すなあらし』が発生しだす。
同時にギャラドスが技を放ち、硬直したダーくんを見据え……。
“かみくだく”
反撃の一撃を放ち、ダーくんが限界を迎える。
すでにあの『じしん』で『ひんし』寸前まで追い詰められていた体を無理矢理に動かしての一撃だったのだ。追撃の一撃に最早耐えられるはずも無い。
「ま……ずい」
最大火力のダーくんがやられた。
そして天候も書き換えられてしまった。
もう一度『おおあらし』にするにはまだ時間がかかる……少なくともこの戦闘中にもう一度能力を使うことは無理と考えるべきだ。
だが相手もすでに限界寸前のはず……ならあと一撃見舞えば。
そう、考えたところで。
“すなあつめ”
ギャラドスの全身が再び砂礫を纏い始める。
同時にその身に宿る力が急速に回復していくのを感じる。
「ガーくん! キューちゃん!」
咄嗟に叫ぶ。
これ以上時間をかけたらこちらが『詰む』。
それを理解し、同時にすでに王手がかけられていることに歯がみする。
“ドリルくちばし”
『すなあらし』の視界不良の中だが、ギャラドスが回復のため動かない……だからこそガーくんの技が命中し、けれどダメージが回復に追いつかない。
続いてキューちゃんがその身に集めた『みず』のエネルギーを放とうとする。
―――これで落ちなかったら、詰みだ。
回復しきったギャラドスにこちらが撃てる手が無くなる。
「キューちゃん!
「ぴーひょ!」
自分のポケモンにそんな無茶振りすることしかもうできないことに、歯がみする。
けれどそんな私の無様に、それでも任せろ、と応えるかのように、キューちゃんが声を挙げて……
「あっ……」
呆然としながらその光景を見つめる。
徐々に、徐々に、光に包まれたキューちゃんの姿が大きく……変わっていく。
少しずつ少しずつ、その姿は変わる……鳥の姿から
「え……あ……」
そうして―――。
「ひゃっほーい! 私におっまかせだよ、トレーナーさま!」
―――光が収まると共に、そこに一人の少女が立っていた。
“あめふらし”
ぽつ、ぽつ、と『すなあらし』が止んでいくと入れ替わりに空から雫が落ちてくる。
やがてその勢いは加速度的に増していき、すぐさまざあざあと猛烈な勢いで雨が降って来る。
“みずのはどう”
滴り落ちる雨の雫がギャラドスの姿を露わにすると同時に空に舞う少女がその手に宿った『みず』のエネルギーを収束……解き放つ。
「グ、ゴアアオォォォ……ッ!」
弱点タイプの、それも『あめ』によって威力の強まった一撃にさしものギャラドスも限界だと言わんばかりに悲鳴を上げて―――。
「今っ!」
硬直した一瞬の隙をついてボールを投げる。
投げるチャンスは何度かあったはずだが、どうにも捕獲しようにもボールに収まってくれる確信が無かったのだが……今なら『入る』と確信できる。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
図鑑を開けばそこには確かに自分の手持ちのはずの『キャモメ』だったはずの少女が載っている。
「キューちゃん?」
「はーい、そーですよ! ペリッパーに進化しましたので、今後ともよろしくですよ、トレーナーさま!」
両分けにして垂らされた水色の髪を揺らしながら少女……キューちゃんが笑みを浮かべる。
確かに白と水色のシャツに、黄色のハーフパンツ、髪の色も水色だしそれっぽいと言われればそれっぽい。
何より被っている帽子が白、水色、白の二色で分けられ、両側の白地に目の代わりのボタン、ツバの部分が黄色くクチバシの代わりと見事にペリッパーの顔そのものだ。
ところで肩にかけているバッグは一体どこからでてきたのだろう? リップル母さんとかも同じようなのを持っていたが……。
「擬人種になったのね」
「そーですね、なんか進化する時に『あ、これなんかいけそう』って思ったら気づいたらなっちゃってました!」
「あ、そう……まあなっちゃってたなら仕方ないわね」
基本的に私の今のパーティもそうだしホウエンの時のパーティでも『擬人種』というのはアオ以外に居なかったので、何となく慣れない。
アオもまた擬人種には違い無いのだが、アオの場合それ以上に弟というのがあったので気にならなかったのだが、こうしてポケモンが
いやまあそれを言ったら私の母親たちなんてほとんど元擬人種なのだが、母さんたちの場合はもっとシンプルに家族、或いは母親という感覚が先行していたのでそういう身内感覚を抜きに擬人種と接するのは多分これが初めてになる。
そうして改めて接してみれば……戸惑うことが多かった。
「ボール、入れても大丈夫なのよね?」
「え、別に全然問題無いですよ?」
「そうよね……うん、ポケモンなんだからそうに決まってるわよね」
そうしてボールをかざし、キューちゃんを戻す。
人と同じ姿をした存在がボールの中に吸い込まれていくのを見ると、何とも変な気分だ。
アオで何度も見たはずなのに……本当に今更過ぎる話。
「ふう……」
嘆息一つ。
とにもかくにもキューちゃんが進化したことは良いことだ。
何よりも擬人種、ということは並の個体よりも強いことが確定しているわけで、今後を考えれば全く以って問題はない。
「何はともあれ……これからもよろしくね、キューちゃん」
呟きながらボールを一つ撫でれば、かたり、とキューちゃんのボールが揺れた。
>>エネミーデータ
【種族】“砂海竜”ギャラドス/変異種/特異個体
【レベル】82
【タイプ】じめん/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】されきのよろい(直接攻撃する攻撃する技で受けるダメージを半減し、相手から『みず』タイプの技を受けた時、『ぼうぎょ』が2段階上がる。)
【持ち物】さらさらいわ
【技】じしん/かみくだく/すなあつめ/ステルスロック
【裏特性】『さばくをおよぐりゅう』
天候が『すなあらし』の時、『とくぼう』が1.5倍になる。
天候が『すなあらし』の時、相手の命中が0.8倍になる。
相手の場の状態が『ステルスロック』の時、自分の出す『じめん』タイプの技が『音技』になり、『いわ』タイプを追加して相性の良いタイプでダメージ計算する。
【技能】『――――』
【能力】『さかいのぬし』
相手から攻撃を受けた時、5ターンの間天候を『すなあらし』にする。
天候が『すなあらし』の時、タイプ相性が『こうかはばつぐん』のダメージを3/4にし、毎ターン自分のHPを最大HPの1/8回復する。
【備考】
ギャラドスとサダイジャとの交配によって生まれた砂漠を泳ぎ陸地で生きるギャラドスという突然変異種。
特異個体と変異種の違いについて。
簡単に言えば『原種が特異な変化を起こす』のが特異個体で、『原種から生態が変わった』のが『変異種』。
実機で言うなら『色違い=特異個体』で『リージョンフォーム=変異種』ですね。
因みにデルタ種に関しては磁場による特殊環境における後天的に刺激による変化と定義するので当作品においては『特異個体』扱いになります。
まあだからどうしたって話ですが、一応の補足説明。
ペリッパーの擬人化イラスト可愛いのがあったので、キューちゃんは擬人化しました(
因みに詳しくは書いてなかったけど、昔々ドールズ時代(12,3年くらい前)までは擬人種……ヒトガタとは6V限定でした。
ただしドールズ時代に色々ありまして、現在では『個体値合計151以上(平均25以上くらい目安)』あれば擬人種になれます。
というわけで別にキューちゃんが6Vとかそんなわけではないです。
多分 H31 A4 B30 C28 D31 S27 くらい(アバウト
過去の擬人種は天才、今の擬人種は秀才、くらいに思っとけばいいです。
あとドールズ時代にも言いましたが、ゲームみたいに個体値が全部乱数で決まるとかそんなことは無いので、野生の環境の中で生きるために基本的に総じて個体値は高めになってます……低かったら生存競争に負けて死ぬからね。生き残ってるのは優秀なのが多い。
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六世代で猛威を振るってたあのポケモンの進化前(超メタ)と鵜というよりアホウドリって感じのやつ
どうにかこうにか勝った、とは言え周囲は『すなあらし』に『おおあらし』にで荒れ果てているし、こちらの戦力は大幅に減じているということもあって一度マスター道場に戻る。
マスタードに依頼を完了したことを感謝されながらその日は一度帰還し、ダーくんたちをしっかりと休ませながら翌日もう一度『鍋底砂漠』まで向かう。
元々別のポケモンをゲットしようとここまで来たのだがとんだ回り道である。
まああんなのがいたんじゃのんびり探索もできなかったのも事実だが。
「それにしても、逞しいわねえ」
あのギャラドスを捕獲したのが昨日だと言うのに、すでにあちらこちらにポケモンが歩いている。
たった一日で環境の変化を察知し、すっかり元通りだ。
まあ昨日の戦いの爪痕はあちらこちらにと残されてはいるが……。
「それにしてもどうしたものかしらね」
考えるのは昨日捕まえたギャラドスだ。
『じめん/ひこう』の特異個体にして、陸棲の変異種。
潜在能力まで加味して言うならば文句なしの優良個体だ。
なんだったら多少の育成と技幅の調整くらいをすればそのままリーグに出せるかもしれないほどの。
ただ。
「どうにも好みじゃないのよねえ」
我が儘のようだが、私がもっぱら使うのは『鳥ポケモン』だ。
私の能力を考えると『ひこう』タイプならば使いに支障は無いが、けれど何というか……そう。
「好みじゃないのよねえ」
その一言につきた。
マスタードからはこちらで好きにしてくれて良い、とは言われているが逃がすにも無責任な話だし、そもそも野生に返したらまた暴れ出すのが目に見えている。
誰か良さそうなトレーナーに譲り渡すのが一番だろうか?
「ああ、そう言えばリシウムがいたわね」
まだよく知らない相手ではあるがあれで『ひこう』タイプジムのジムリーダーらしいので実力と人格面ではある程度の保証はあると言っても良い。
それに賭けの結果とは言え、ジム施設を借りても良いと言ってくれているのだから礼にはなるだろう。
単純に私の好みではない、というだけであのギャラドスが秘めたる強さは間違いなく一線級なのだから。
「ならまあそうしましょうか」
一つ懸念が片付いたところで本題だ。
「どこにいるのかしらね」
しばらく砂漠を歩いて探しているが、目的のポケモンは見つからない。
そうこうしている内に時刻が正午近く。
太陽が真上に昇り、日差しが一段と強くなってくる。
「あっついわね」
『おおあらし』でも呼んでやろうかと思いつつも周囲に風を吹かせるだけに留める程度に能力を使いながら歩いて……。
ちち、ちちち
小さなさえずりが聞こえた。
「ん……?」
そっと耳を澄ますと。
―――ぴぃぴぴぴっぴ
鈴のような澄んだ音が聞こえる。
それが目的のポケモンの鳴き声であることを理解し、耳を澄ましながら音の方へと歩く。
相手は小さな小鳥だ……ゆっくり、相手を驚かさないようにそっと。
そうしてさえずりに導かれるままにそっと岩の木陰を覗けば。
「みーつけた」
「ぴぴ?」
赤い上半身とグレーの下半身、そして黒と白の尾羽。
コマドリポケモンのヤヤコマ。
ガラル本土には居ないポケモンなので最悪の場合ホウエンかカロスあたりから取り寄せないとならないかと思っていたが、ここに居てくれて助かった。
「よーし、よし……ほら、おいで」
バッグからポケモンフードを取り出し、手のひらの中に転がすとそっとヤヤコマへ向ける。
「ぴ……? ぴぴ、ぴぃ!」
警戒心の薄そうな無垢な瞳でこちらを見やりながら、その視線が手のひら……の上のポケモンフードへと向く。そうして少しだけ観察するように見つめ、ちょん、とクチバシで突く。
「ぴ、ぴぃ!」
食べられる物だと認識したヤヤコマがちょんちょん、とポケモンフードをついばみ始める。
とは言っても体が小さいのでその勢いは遅いが。
たっぷりと時間をかけながら全て食べ終えたヤヤコマがけぷ、と息を吐くのを見計らって声をかける。
「ねえ、ヤヤコマ。私と一緒に来ない?」
「ぴぃ?」
首を傾げるヤヤコマによしよし、と頭を撫でながら未使用のモンスターボールを置く。
「お前がその気なら私がお前を強く育ててあげる。だから私と一緒に戦ってちょうだい」
「……ぴぃ!」
分かったのか、分かっていないのか……けれど何となくやる気になったのは感じる。
基本的にポケモンというのは強くなることには素直だ。
レベルを上げ、進化し、強くなる。それこそが野生環境の中で生きる方法だと知っているからこそ、野生のポケモンほど強さを求める。
図鑑で解析してみればまだほとんど生まれたばかりと言っても良いくらいレベルの低いこのヤヤコマも、けれどやはり野生環境に身を置いている以上、強さを求めるのは時間の問題で。
とん、とボールのスイッチをクチバシで突く、赤い光に包まれてヤヤコマの姿がボールに吸い込まれていく。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
一番欲しかったヤヤコマのゲットが終わったため、後このヨロイ島でやるべきことは一つ。
「どこにいるのかしらね、ファイヤー」
ファイヤーのゲットである。
とは言え、今日までの二日間、このヨロイ島の半分ほどは探索したと思うのだがファイヤーらしき姿を見ていない。
ユウリ曰く、捕まえようにも島中を飛び回っているせいでサンダーと同じく足止めしなければ見向きもされないのだとか。
ただ逆に言えば、島中を飛び回っているせいで目撃だけなら比較的容易らしい。
空を見上げて視線を彷徨わせていれば近くに、或いは遠くに薄っすらとでも見ることは可能だと言っていたのだがこの二日間で一度も見なかった、というのはなんともおかしな話だ。
「もうヨロイ島から居なくなったのかしら」
マスター道場で聞いてみたがいつの間にか見なくなった、とのことなので本格的にその可能性もありそうではあるのだが、問題はその場合、次にどこに行ったかさっぱり見当がつかないことだ。
この島にいる、と決め打ちしてじっくり探すか。
或いはもうこの島には居ない、と考えて本土のほうへ戻るか。
目撃情報だけ集めておいて、その間にフリーザーを捕まえる、というのもありだ。
はてさて、どうしたものか。
『チャレンジビーチ』の浜辺を歩きながらそんなことを考える。
遠くに見える塔のような建物は一体何なのか。
「灯台か何かかしらね」
それにしては木製だしそれっぽい感じは無さそうだ。
まあこの島の所有はマスタードなので、マスター道場のほうで使うような施設なのかもしれない。
なんて考えながらふと海のほうへと視線を移して……。
「ウッ?」
「ん?」
視界に入ってきた光景に一瞬思考がフリーズする。
海辺を青い鳥ポケモンが泳いでいた。
多分ペリッパーたちのような水鳥系の種なのだろう、それ自体は良いのだ、別にそこは問題じゃない。
じゃあ何が問題なのかと問われれば。
大きく開かれたクチバシにピカチュウらしき下半身が見え隠れしていることだろうか。
「え? え……え?」
じたばたとクチバシの間に挟まった下半身がもがいているのを見ながらそれを吐き出すでもなく、飲みこむでもなくぼけーと泳いでいるポケモンを見て、動揺が口から洩れた。
いや、だがこれに動揺するなと言われても無理だろう、それほどまでに衝撃的な光景だった。
気を取り直してスマホロトムから図鑑アプリを起動させ、スマホのカメラで
>>『ウッウ』
>>うのみポケモン
>>『ひこう』『みず』タイプ
>>『あいてを いちげきで うちまかすほど パワフルだが わすれっぽいので たたかっている あいてを わすれる』
>>『くいしんぼうで エサの サシカマスを まるのみするが たまに まちがえて ほかの ポケモンに くらいつく』
図鑑に表記された『ウッウ』なるポケモンの説明を見やりながら、改めて目の前の光景へと視線を戻す。
青い鳥が大きく開いた口から突きだしたピカチュウの下半身がじたばたともがいているのが見えた。
やっぱり凄まじい光景だと思わずぱしゃり、と写真を一枚。
「ふむ」
何の気なしに右手にボールを握って。
ひょい、と投げてみる。
ぽん、と軽く投げたボールが放物線を描いてウッウに当たり、その全身が赤い光に包まれてボールの中へ。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「捕まったわね、あっさりと」
弱らせても無ければそもそもバトルすらしていないのに、一切抵抗も無くあっさりと捕まってしまったことに目を丸くする。
いやまあボールを投げたのは私だが、まさかこんなにあっさり手に入るとは思わなかった。
そもそも捕まえる予定の無かったはずのポケモンではあるが、何となく愛嬌のある顔をしているし結構気に入った……というか気に入ってしまった。
ウッウがボールに入ったので、後に残されたのは先ほどまでウッウに呑まれていたピカチュウ。
海の上からダイブしてしまったがすぐに泳いで浜に戻るとそのまま森のほうへ向けて走って帰って行ってしまった。
すぐ近くに川があるところを見ると、あの森から川に流されて海へ、そこでウッウに呑まれた……と言ったところだろうか。
まあそれはさておき。
これで手持ちが『ガーくん』『キューちゃん』『ダーくん』に新しく『ヤヤコマ』と『ウッウ』。
二匹のニックネームは後で考えるとして、これで五匹。
パーティの最大数が六匹なのでまだ足りない。
それにプロリーグに挑戦するなら使えるポケモンには幅が欲しいところだ。
少なくとも毎試合同じ面子で固定していれば対策されてあっさりと詰む可能性もある。
とはいえ私一人で育て切れるか、という問題もあるので……八体、ないし九体。或いは十体が限界と言ったところか。
図鑑で『ウッウ』の詳細なデータを確認しどんなポケモンなのか把握すると共にその育成方針を考える。
「キューちゃんと方向性被らない? 大丈夫これ?」
ただ育てるだけならともかく、『将来』の私のパーティを見据えた育成となると中々に手間がかかりそうだった。
* * *
道中全く関係の無い、予定も無かった鳥ポケモンを捕まえたりはしたがそれはそれとしてファイヤ-である。
可能性としては二通り。
島にいる/いない。
そんなシンプルな二択。
ただそこを論じたところで決着がつかないので仮にまだ島にいるとして。
何故出てこないのか、というのを考えてみるが答え出ない。
ならば発想を逆にしてみよう。
「以前は飛び回っていた……島中を、どうして?」
今居ない理由はともかく、以前島中を飛び回っていた理由を考えてみる。
基本的に鳥ポケモンというのは常時飛んでいるようなものではないのだ。
いくら『ひこう』タイプとは言え、普段は普通に地面を歩いたり木々の枝で休んだり、常に飛び続ける鳥なんてのは基本的にいない。
じゃあファイヤーが飛び回っていた理由は一体何か。
この場合あり得そうな答えとしては何があるだろうか?
「島を見ていた、地形を見ていた……何のために? 止り木を見つける? いや、それにしては長い間飛び続けていた、つまりもっと重要な……巣?」
一番あり得そうな答えを言うならば『巣作り』の下見、ではないだろうか?
もしそうだとするならすでに巣を見つけて、その周囲でしか活動していない、とか?
そう考えると当時飛び回っていたはずのファイヤーが見かけなくなった、というのも頷けるのだが。
もしそうだとするなら、一体どこに巣を作ったのか。
さすがに巣の周囲に足を向ければ反応して襲ってきそうだろうし、だとするならば昨日今日と歩いたヨロイ島地図の左半分くらいはファイヤーは居ない……だろうと推定する。
「向かうべきは島の東? それとも……」
ちらり、と視線を向ければそこに広がるのは大海原。
視界の奥にちらりとだが島のようなものが見えた。
もしあの辺りに住み着かれていたりするとこの海を渡っていくしかないのだが。
「いや、それは無いわね」
ダーくんを見るに、ファイヤーもまた食性は『魚』よりも『きのみ』の類が主食となるだろうことは予測に難くない。とするならば向かうべきは……海ではなく。
「森、かあ」
『集中の森』……ないしそこに隣接するエリアということになるのではないだろうか?
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マップ的にはそこまで複雑に見えないのに実際歩くと景色が変わらな過ぎて迷ってしまう森
「鬱蒼としてるわね」
やってきた『集中の森』は奥に進むほど日の光も差さないほどに草木が鬱蒼と覆い茂っていた。
入口のほうはまだ日の光も差していて、風通しも良かったのだがここまで奥に来ると風も吹かないのか空気がじめじめと湿っている感覚がする。
まだ昼間だというのに薄暗く視界は悪いが、耳を澄ませばあちらこちらから生物の気配がする。
「予想が外れたかしらね」
ファイヤーがダーくんと同じくらいのレベルである、と考えれば森に居れば相応にざわめくと思っていたのだが、そういう感じではない……ざわざわと生命の鼓動は感じられるが、それはいたって自然なものであり森に何か異変が起きている感じはない。
「やっぱ森だけあって『くさ』タイプや『むし』タイプが多いわね」
よく見ればちらほらとあちらこちらにポケモンが隠れ潜んでいるし、森の中央を流れる川は『みず』タイプのポケモンが多く生息しているようだ。
実に生命に溢れた森だと思う。ホウエンの『トウカのもり』を思い出す。
「まああっちと違ってキノガッサもケッキングも居ないみたいだけど」
数年前、私がまだトレーナーになる前に『トウカのもり』でキノココとキノガッサが大量発生して森全体に『キノコのほうし』がばら撒かれた事があった。
あの時は『ぼうじんゴーグル』を持たせたポケモンと『くさ』タイプ、それから特性『ぼうじん』のポケモンを大量投入しての人海戦術で対処していた。私も父さんに連れて行ってもらって参加したのだが、森というのは結構きっちりとしたバランスの上で命の連鎖が成り立っている。
だから一帯の『ぬし』が交代したりすると森がざわつくし、時にバランスが崩れて異変が起きたりもする。
他所から強いポケモンが入ってきてもバランスが崩れるし、何だったら災害一つで生息域が大幅に変わったりしてそれが原因でバランスが崩れたりもする。
豊富な生命を育てる場所ではあるが、同時にだからこそ一度バランスを崩すと惨事を引き起こしやすい場所でもあるのだ。
そしてだからこそ、森に住まうポケモンというのは『危機察知能力』が高い。
……はずなのだが。
「テチチチ?」
ちょこちょこ、ちょこちょこ。
「…………」
「チチ、チチッ!」
ちょこちょこ、ちょこちょこ。
「……何よ」
「チチ?」
先ほどから人を後ろからつけてくる小さな影に、思わず振り返って尋ねればそこにいたのは私の足元ほどの背丈のネズミにも似た黄色っぽいポケモン。
「デデンネ?」
「テチチ!」
その名を呼べば、大正解、とばかりにぴょんぴょんと飛び跳ねて喜色にあふれた表情を浮かべる。
野生のポケモンの割になんというか……警戒心が薄い。
デデンネってもっとこう……好奇心旺盛で、けれど同時に警戒心も強い種族だったような気がするのだが。
基本的に野生のポケモンというのは、強い種族ほど警戒心が薄く、弱い種族ほど警戒心が強い。
強い分だけ余裕のある種族と、常に他を警戒していなければあっという間にやられてしまう種族の違いと言っても良い。
デデンネはその頬のアンテナで同じ種族同士で遠距離から交信ができる種族だ。
安全な餌場や危険な存在をそのアンテナを使って互いに情報交換しながら生活している。
そうすることで群れ全体での生存力を高めているのだ。
逆説的に言えばそうしなければ野生環境で生存できないほど種族としては弱いのだ。
実際問題、デデンネが体内で生み出すことのできる電力というのは他の『でんき』ポケモンに比べるとかなり弱々しいらしく、街などに住み着いているデデンネは人の家のコンセントなどから電力を得て蓄えるのだとか。
まあ尤も……じゃあデデンネがポケモンバトルで役に立たないのか、と言われると全然全くこれっぽっちもそんなことは無いのだが。
「チーク母さん……えぐいのよねえ」
「チチ?」
よくわからないと言わんばかりに、デデンネが首を傾げた。
今更ながらだが、私の父親『ウスイ・ハルト』博士はかつて『擬人種』であるポケモンとの間に子を成した。その結果私とアオが生まれた……とホップには思われているのだろうがそれは半分正解で半分間違いだ。
実際に父さんが子供を作った『擬人種』は母さんを含めて六体ほどいる。
つまり、私とアオ以外の弟や妹があと九人くらいいるのだ。
私の生みの親は元『ボーマンダ』の擬人種『エア』母さんだ。
父さんはかつてホウエンの地で6体の擬人種と共にチャンピオンの座についたのだが、私の母さん……エアはそのパーティでエースをしていた。
当然他にも5体のポケモン……擬人種がいて、その全員が父さんと子を成している。この辺も父さんに対してちょっともやもやとした感情を持ってしまう要因でもあるのだが、長女である私としてはまあ下の弟や妹たちはそれはそれ、可愛いものだ。
まあそれはさておき、そんな母さんたちの一人……一番ちっこいほうの母親が『チーク』母さん。
元『デデンネ』の擬人種である。
擬人種は人との間に子供を作ると『子供を産むための体』へと変化する、つまりより人間に近くなってしまうので今となってはもうバトルもできないのだが、それでも父さんから聞くかつてのチーク母さんの力というのは相対すれば厄介極まりないものだろうというのは分かった。
つまりデデンネというのはそういう搦め手をさせるならかなり凶悪なことができる種族なのだ。
父さんは育成能力も人並み程度で育成環境も大してなかったがポケモン側の才能だけでほぼ全て解決するというかなり強引な育成をしていた人なので、ちゃんとした育成施設と育成の勉強をしたブリーダーが育てれば同じようなことはできるはずだ。
「まあ『ひこう』でも無いし、私は使わないけど」
「チィ~?」
そもそも何でこのデデンネは私の後を追って来るのだろうか。
「アンタは何がしたいのよ」
「テチチ!」
尋ねてみれば一瞬私の足を引っ張るような仕草をして走り出す。
少し走ってすぐに立ち止まり、こちらへと振り返る。
「追って来いってこと?」
「チチチ!」
そうそう、とでも言いたげに一つ鳴いてまた走り出すその背を見やりながらさてどうしたものか、と考える。
とは言え、今のところファイヤーがいる気配も無ければいた痕跡も見当たらない。
特にアテも無いのだからついて行くだけついて行ってもいいか、と自分の中で結論を出してその後を追う。
薄暗い森の中をけれど器用にひょいひょいと草木をかき分けて進む小さな背を追いながら、一体どこへ連れていかれるのか、と考える。
とは言え擬人種でも無いポケモンが喋れるはずもなく、さすがに初めて入った森のことなど分かるはずも無いのだから考えるだけ無駄か、と嘆息して後を追いかけることに専念する。
そうしてどれだけ歩いたか、それほど時間は経ってないように思うがスマホで見やればだいたい十分ほど歩いたところでデデンネが立ち止まり。
「チチチ」
「ここは……」
案内されたのは森の奥にあって日差しの差し込む開けた広場で……中央にあるのは一本の大きな樹だった。
「これ、偶に見かける『不思議な木』じゃない」
樹木にも色々ある。
森に生えている木々は全て同じ種類というわけではないし、人の生活の中で木というものはたくさんの物に関係している。
木材に使う木もあれば、果物や木の実などを収穫できる木もある。
まあ偶にウソッキーが混ざってたりするのが厄介なのだがそれはともかく。
ガラルに生えている木というのは少し不思議なものがある。
驚く話ではあるが一つの『木』に複数種類の『きのみ』が成っているのだ。
あっちこっちに接ぎ木でもしたのかと言いたくなるが、そんな『不思議な木』が天然で生えているのがガラル地方である。
当然ながら植物学の研究者がこの不可思議な木について研究しているらしいが、詳しいことは全く分かっていないらしい。
ただ傾向的に『ワイルドエリア』が多いらしい、とのことなので何か関係があるのかもしれない。
それはさておき、見やれば多くの『きのみ』が生っているが、恐るべきことにこの『きのみ』を取り尽くしてもたった一日でまた生る。
普通の『きのみ』は長いもので一週間くらいはかかるはずなのだが、この『不思議な木』に実る『きのみ』はその種類に一切関係なく一日でまた多く実る。
そのせいか、ガラル地方では比較的他の地方では希少とされているはずの『きのみ』が多く流通している。
何だったら『カレーライス』制作の材料に使われることもあるらしいくらいには安価らしい。
ただ『不思議な木』に実る『きのみ』の種類は結構ランダムであり、個数もバラバラ、何よりも。
「ちゃーん」
「こいつがいるのよねえ」
ホシガリス。以前もワイルドエリアで見かけたが、『不思議な木』にはだいたいこいつかその進化形のヨクバリスが住み着いている。
『きのみ』欲しさに『不思議の木』を揺らすと時々こいつらが降って来て、襲い掛かって来るから始末に負えない。
別にそこまでして『きのみ』が欲しいわけでも無いし、案内してもらっておいてなんだが無駄足だったかな、と思った。
その時。
―――キィアァァァァァ!
「テチチチチ!」
「ちゃーん、ちゃんちゃーん!」
その声に慌てたように、デデンネとホシガリスが私の後ろに隠れる。
声につられてその視線を空へと上げれば。
「あれ、は」
黒と赤の二色に染め上げられた鳥ポケモンが空から舞い降りてくる。
咄嗟にスマホロトムを掲げ、図鑑アプリでその鳥ポケモンを映すと……。
検索結果>>『ファイヤー』
散々探し求めていた相手がそこにいた。
* * *
―――キィアァァァァ!!
こちらを警戒するように見やりながら威嚇するファイヤーから視線を外さぬままにボールホルスターへと手をかける。
直後。
“もえあがるいかり”
黒く染まった炎がファイヤーから撃ちだされ、降り注ぐ。
咄嗟に発生させた風を盾にしながら攻撃を逸らし。
「ガーくん!」
投げたのはガーくんの入ったボール。
現状一番の強いのは間違いなくダーくんだが、だからこそファイヤーがどんな攻撃をしてくるのか、それを見極めるためにガーくんに出てもらう。
「ファイヤーなら特殊技……なんてセオリーは無意味ね」
サンダーがすでに元と比べてあの変わりようだったのだ。
だったらファイヤーが突然急降下してきて肉弾戦を始めてももう驚くまい。
なんて思っていたのだが。
“ぼうふう”
羽ばたかせた翼から生み出された荒れ狂う風がガーくんへと降りかかり。
「させない!」
風を打ち消すように、逆方向へ旋風を巻き起こしてガーくんを守る。
どうやら特殊技メインで合っていたらしい。
とするとガーくんでは少し相性不利か?
「相手のタイプは……」
図鑑で解析を切れば調べることもできるかもしれないが、その隙を見逃してくれそうにないのは困った話だ。
「キューちゃん!」
「はーい! りょーかいですよ! トレーナーさま!」
腰に回した手でキューちゃんの入ったボールを密かに投げる。
飛び出したキューちゃんが即座に動き出すと同時にガーくんもまたそれを邪魔させないように技を出そうとして。
―――ギィァァァァァァァ!
“ふいうち”
技を出す一瞬の力みを利用して、ファイヤーが不意打ちでガーくんをその大きな翼で叩く。
「ガーくん!」
「キュゥォォオオオ!」
“クロガネのつばさ”
お返しとばかりに硬化させた翼でファイヤーを打つ。
だが根本的なレベル差故かダメージは少ない。
「にひっ……隙あり、ですよ」
“ちょうおんぱ”
ファイヤーがガーくんに気を取られた一瞬を狙って放たれた音波がファイヤーを直撃し、その頭を揺らし、『こんらん』してしまう。
「ガーくん、追撃!」
指示を出すと同時にファイヤーもまた攻撃をする。
“もえるあがるいかり”
「下に躱して!」
放たれる黒い炎をけれど私の指示に従って炎の射線の下を潜って……急上昇。
“クロガネのつばさ”
ファイヤーがその頭部を翼に打たれ、一瞬だが眩暈を起こす。
―――ギィイイイイアアアアアアアアアアアアア!
『こんらん』と眩暈によって揺れる視界。飛んでいられず思わずバランスを崩したファイヤーが『不思議の木』に突っ込んでいき、木に激突する。
―――ギァォォォ
結構な痛手だったらしい、良いダメージになったと思いながら次の手を考える。
その間にファイヤーは短い悲鳴を上げ、ダメージに体を引きずりながらも再び飛び立とうとして……その視線がふと木のほうへと向けられる。
「あっ」
目の前に実った『オボンのみ』を見やり、ぱくり、と一口で飲みこむ。
―――ギィアアアアア!
「ちょ、そんなのありなの!?」
すっかり体力が回復してしまった様子のファイヤーに、さてどうしたものか、と頬を引きつらせた。
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傲岸不遜の邪炎の翼
ばさり、ばさりと翼をはためかせてファイヤーが空中を飛び回る。
やりづらい、と思ってしまうのはやはり上を取られているせいか。
特性が『せいくうけん』*1でもいれば叩き落として数で囲めるのだが、格上に空を掌握されていると、こちらとしては数の利が生かし辛い。
『おおあらし』も明らかに『ひこう』タイプを持っていてしかも飛ぶこともできるあのファイヤー相手には逆に追い風になってしまうだろうし、ファイヤーに的を絞って妨害に使うには相応に集中がいる。
咄嗟の状況では使えないだろうし、何よりも神経を削る作業になるだろうから長期戦ができない……あの格上を相手にだ。
ダーくんも強さ自体は同じくらいなのだろうが、相性を考えるとやや不利か?
と、なれば。
「キューちゃん、戻って! ガーくん、こっち」
キューちゃんをボールへと戻しながらガーくんへ呼びかける。
そのまま足元のデデンネとホシガリスを拾って広場から再び森のほうへと入っていく。
それからホルスターからひっそりとボールを一つ取り出し、いつでも出せるように準備しておく。
「これで……どう?」
広場から一歩森へと足を踏み入れればそこに再び広がるのは鬱蒼と覆い茂った草木。
木々が寄り集まって空を隠してしまうほどに茂った葉が上からこちらを追うファイヤーの視界を隠す。
―――ギァァゥアア!
苛立つような声をあげながらファイヤーが木々の隙間を縫って森の中へと追って来る。
だが障害物の無かった空とは違い、鬱蒼と茂った草木が邪魔となって飛びにくそうにしている。
「今!」
“ぼうふうけん”
心の内で撃鉄を振り降ろすと同時にボールを投げる。
直後に『おおあらし』が森を中心として発生し、森の樹々を揺らしながら草葉を舞い散らせる。
突如の風と雨、そして視界を覆い隠すほどの草葉にファイヤーが動揺すると同時に一旦逃げようとして、けれど木々が邪魔でその行動が鈍った……瞬間。
「ダーくん!」
「ギィアォォオス!」
“らいめいげり”
三角飛びの要領で木の幹を蹴って空中に飛びあがり、そのままの勢いで動きの鈍ったファイヤーの『急所』を蹴り抜く。
予想外の奇襲にファイヤーがもろに吹き飛ばされ、木に激突する。
同時にこれ以上は抑えきれなくなりそうな『おおあらし』を解除する。ダーくんとファイヤーでは『おおあらし』の展開は寧ろファイヤーの利にしかならない。
だが今ので分かった。
ダメージよりも寧ろ衝撃で飛べなくなることを期待した『らいめいげり』だったが、『ひこう』で半減しておいてあのダメージ、ということはもう一つ『かくとう』タイプが弱点になるタイプを持っている。
ダーくんが『かくとう/ひこう』と原種と全くタイプが違うことを考えると寧ろ『ほのお/ひこう』のほうが違和感があるが。
どう見ても特殊型のアタッカーなのに『ふいうち』を打ってくるあたり……。
「『あく/ひこう』ってところかしら?」
少なくとも『ノーマル』や『こおり』『いわ』『はがね』タイプと言われるよりは納得できる。
というか『こおり』タイプや『いわ』『はがね』タイプは外見だけである程度体質的な部分にタイプの影響が見えるはずなので、それが見えないファイヤーは『ノーマル』か『あく』の二択で考えても良いはずだ。
そして使ってきた技や外見の色などから考えると推定『あく』が最有力だろう。
予想外ではあったが、結果オーライと言ったところか。
予想外の大ダメージ、急所に入ったのを込みで
―――ギィ……ガァ
のらり、とゆったりとファイヤーが体を起こす。
その動きは明らかに重い。ダメージがかなり入っているのが目に見えた。
ダーくんの存在を隠していたが故の一発限りの奇襲だったが、これは思ったよりすんなりと行けるか?
なんて……甘い考えでしかないと直後に思い知らされる。
“ぎゃくじょう”
―――ギィィアアアアアアアァァアアアアアアアアアア!
翼の赤い部分が強く発光する……まるで炎が燃え上がるかのように。
そうして。
―――ギァァァァォォォオオオオォォオオオオオ!!!
“オーラバーン”*2
炎が燃え盛るかのように激しくその全身から『オーラ』が噴き出す。
明らかに先ほどとは別格のように強化されたファイヤーがジロリ、とこちらを見つめ。
「ま、ずいっ!」
“もえあがるいかり”
放たれた黒い炎は先ほどの比ではない威力で森を破壊する。
咄嗟にその場を退避していなければ重傷を負っていたかもしれないほどの威力に冷や汗が流れる。
ダーくんもまたファイヤーの気迫に頭を低くして強く警戒する。
「―――戻って、ダーくん。来て、キューちゃん」
その直後に私がやったのは
代わりに出したのはキューちゃん。
あの全身に力が漲っている状態のファイヤーを相手に『急所』を抜けるダーくんは必須だ。
逆にダーくんがやられたら手詰まり……ギャラドスを置いてきたのが痛かった。趣味でなかろうと使えるなら使うべきだったか、と今更に思う。いや、あの気性では言う事を聞かない可能性もあるが。
幸いにしてあのギャラドスほどに体力は多くないらしい。
ダーくんの蹴り一発でかなりの大ダメージを負っていた……つまりあと一発、ファイヤーに守らせること無くあと一発ダーくんの一撃を見舞えれば、『ひんし』まで追い込めるはずだ。
問題はあのオーラである。
なんというか圧が凄まじい。
近くにいるだけで精神に来るものがある……私の場合、異能者であるが故にこういうのには割と強いほうではあるが、ガーくんとキューちゃんはまだ未熟故この精神の圧に押し負ければ身動きすら取れなくなるかもしれない。
さて……どうすべきか。
想像以上の強敵に、思考をフル回転させる。
幸いにしてファイヤーは先ほど受けたダメージを忘れておらず、ダーくんがいつ出て来てもいいように警戒を強め、身を固めているため考える時間はある。
思っていた以上にファイヤーが強い。
いや、単純に強さだけで言うならダーくんもそうなのだが、ダーくんを捕まえた時はまだ私の能力が使えた。『おおあらし』で足場を崩してダーくんの全力を発揮させず、こちらの数の利を生かして自滅に追い込んだ、というべきだ。
それでも危うい場面はあったが、今回の場合私の能力が使えない……使うと寧ろファイヤーにとって有利になってしまう。
となると実力的には互角でも上を取られている分相性の悪いダーくんとまだレベル的にはファイヤーにダブルスコアをつけられているだろうガーくんとキューちゃん。
付け入る隙があるとすればそこだろう。
ガーくんとキューちゃんはファイヤーから見て『敵』だとすら思われていない。
蹴散らせる雑魚、くらいに思っているのかもしれないが……トレーナーが使えば弱いポケモンだっていくらでも活用できるのはダーくんの時に証明されている。
この森という狭苦しい閉塞した環境下は地上を走るダーくんにとっては寧ろプラスになるし、移動手段が飛行のファイヤーにとってはマイナスになる。
ただそれだけではまだ弱い。
あの警戒心の強いファイヤーからいかにしてダーくんを隠し通し、必殺の一撃を通すか。
あと一手。
一手欲しい、と考えて。
「……あったわね」
「テチチ?」
「ちゃん?」
ぴくり、と足元で震える小さなポケモンたちを見て、笑みを浮かべた。
* * *
心の内側で再び撃鉄を落とす。
“ぼうふうけん”
発生した『おおあらし』が再度、ファイヤーの視界を覆い隠す。
先ほどと同じパターンは食らわないとファイヤーが飛びあがって周囲を警戒する。
その隙に私はダーくんの入ったボールを―――。
「
近くの茂みへと放り投げた。
当たり前のことだが、スイッチの押されていないボールが勝手にポケモンを解放することなどあるはずもなく、ボールだけがコロコロと茂みの中へと落ちていく。
同時に『おおあらし』を解除して……森の中、ファイヤーを背に走って逃げる。
―――ギィアォォォォ!
今の『おおあらし』を逃げ出す隙を作るためのと解釈したのか、少なくとも
「ガーくん! キューちゃん!」
投げた二つのボールから飛び出したガーくんが上空へと飛び上がり、キューちゃんが森の下を走って抜けていく。
二手に分かれた相手に一瞬迷ったファイヤーだったが、近いほうにいるガーくんへと飛び掛かり……。
“ぼうふう”
その翼を羽ばたかせながら荒れ狂う風を生む。
上へ下へと必死に翼を動かしながら逃げるガーくんだったが、やがて追い詰められて……。
“まもる”
咄嗟に展開した壁でファイヤーの攻撃を防ぐ。
だが連続して使うには難のある技であり、次のファイヤーの攻撃は防げない。
それを知ってか知らずかファイヤーが追撃せんと、力を溜めて……。
“ちょうおんぱ”
下から放ったキューちゃんの音波がファイヤーへと迫る。
だが直撃しなければ意味は無いとファイヤーが飛行して躱す。
けれどそれでもガーくんへの追撃の手は止み、その隙にガーくんが逃げる。
―――ギィアォォォ
逃げられたことに一瞬ファイヤーが目を細め……やがて眼を閉じる。
“わるだくみ”
ファイヤーに宿っていた力が跳ね上がる。
「キューちゃん!」
何をするつもりかは分からないが、厄介なことをするのは確実だろうと妨害のためキューちゃんに『ちょうおんぱ』を撃たせるが上手く躱される。
“わるだくみ”
二度目の『わるだくみ』でファイヤーの力が最大限にまで高まる。
そうして。
―――ギィ……ァオオオオ!
一瞬私を見て……
「なに、を」
“もえあがるいかり”
「っ! ガーくん、キューちゃん!」
直後に黒い炎がまるで雨のように降り注ぐ。
避ける場所などすでに無いと言わんばかりの範囲で、風で守れるなら守ってみろと言わんばかりの威力で放たれた攻撃に咄嗟にガーくんとキューちゃんの両方を呼び寄せて。
“まもる”
“まもる”
二匹に展開させた壁がファイヤーの攻撃を凌ぐ。
だがそれを待っていたとばかりにファイヤーが二度目の攻撃の準備をして。
「さ、せない!」
“ぼうふうけん”
咄嗟に心の内で撃鉄を落とし、『おおあらし』を展開する。
視界を覆う木の葉にファイヤーが……嗤った。
“ぼうふう”
嵐の力すらもその身にため込んで放たれた荒れ狂う風は『あめ』の性質を持つこの嵐のせいで必中の技となってガーくんとキューちゃんを吹き飛ばす。
私もまた咄嗟に風で防御したが、それでも威力を減じきれずに吹き飛ばされる。
「っつ……!」
木にぶつけた体の痛みに一瞬呻き、そうして目を開いたその目の前にファイヤーがいて。
―――ギィアァァァォ
どうだ、と言わんばかりに嘲った様子で人を見下すその姿に。
「馬鹿……なのはアンタよ、このマヌケ!」
呟きと同時にその背後から
―――ギィァォ?!
「ギャォォォォス!」
“らいめいげり”
勝ち誇った様子から一転して驚愕に目を見開いたファイヤーだがすでに遅い……わざわざ地上、私の目の前まで来てくれたお陰でダーくんの全力の蹴りが『急所』へと突き刺さる。
―――!!!
声にもならない悲鳴を上げながらファイヤーが森をごろごろと転がっていき……動かなくなる。
「とっとと……私に頭を垂れろ、この負け犬!」
痛む体を抑えながらボールを投げる。
投げられたボールがファイヤーの体にぶつかり、その全身を赤い光で包んでボールへと吸い込む。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「お、終わった……あ」
それを見届けると同時に、全身から力が抜ける。
「ギャォ?」
「ありがとう、大丈夫。ダーくんも……良いタイミングだったわ」
こちらを心配する様子のダーくんに、強がりな台詞を言いながらもその頭を撫でる。
ギャラドス戦にファイヤー戦と激戦を潜り抜けたことでダーくんとも大分打ち解けてきた気がする。
こうしてこちらを心配して頭を擦り寄せてくることなんて捕まえた直後なら無かっただろう。
「テチチ!」
「ちゃん、ちゃん!」
そうしてダーくんの頭を撫でていると、草木の影からデデンネとホシガリスが出てくる。
その手には『オボンのみ』が運ばれていて、私の目の前に置くとどうぞ、とばかりに差し出してくる。
「くれるの? ありがとう」
少しずつ息を整えながら、差し出された『オボンのみ』を齧る。
口の中に広がる甘味に未だにバクバクと煩かった心臓が少しずつ少しずつ平常を取り戻していく。
「美味しい……ああ、アナタたちも、ありがとう。アナタたちがいなかったら負けてたわ」
ファイヤーから逃げる直前に茂みに投げたダーくんのボール。
何を隠そうそのボールのスイッチを押してダーくんをファイヤーの視界の外から解放してくれたのがこの二匹だ。
咄嗟の状況だったが、よくやってくれたと二匹を撫でると嬉しそうに身をよじる。
お陰でこちらがダーくんを出す素ぶりをファイヤーに見せないままダーくんが居ないことをファイヤーに気取らせずに済んだ。
それが無ければファイヤーの警戒心の外からダーくんが二度目の急襲を決めることはできなかっただろう。
『ひんし』状態になったガーくんとキューちゃんに『げんきのかけら』を与えて少しずつ回復させながら、ファイヤーの入ったボールを拾う。
「これで二匹目ね……自分で決めたこととは言え、しんどいわ」
手の中のボールを見やりながら、嘆息した。
【種族】ファイヤー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】78
【タイプ】あく/ひこう
【性格】ひかえめ
【特性】ぎゃくじょう
【持ち物】――――
【技】もえあがるいかり/ぼうふう/ふいうち/わるだくみ
【裏特性】『――――』
【技能】『――――』
【能力】『オーラバーン』
特性『ぎゃくじょう』が発動した時、自分の全能力を上げ、相手の全能力を下げる。
特性『ぎゃくじょう』が発動した時、場にいる間、相手の技の優先度を-1する。
ファイヤーがサンダーよりレベル低い理由?
サンダーのほうが殺る気満々で、ファイヤーは餌場見つけて慢心してたから(
ギャラドスよりさっくり終わったのは、基本的に耐久力の違いですね。あのギャラドス一応耐久力の向上と回復能力あったし。ギャラのほうが苦戦したように見えるのは『じしん』に『いわ』タイプ付与できるとかいうピンポイントにソラちゃんの弱点突いてたから。『らんきりゅう』レベルまで強く嵐巻き起こしてなかったから弱点食らってダー君が死にかけてた。
なのでファイヤーがギャラドスより弱いのか、と言われるとまともにバトルするとファイヤーが空に飛びあがって上から攻撃連打で終わる。ギャラドスは基本的に上空に対する当たり判定のある攻撃方法が無い。
逆に言えば今回みたいに森に引き込んで飛行能力に制限かけた上で、木々を足場にダーくんが空中戦できるようにしないとくっそ強いのは確か。
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番外編① 私に足りなかったもの(シリアス)/元チャンピオン新しい決め台詞に悩む(シリアル)
倒れ伏した最後の一人をボールに戻しながら、拳を握りしめて歯がみする。
反対側のバトルコートで同じように……けれどまだ戦える状態のポケモンをボールに戻しながらソイツは安堵の息を漏らす。
それがこの勝負の勝者と敗者を如実に示していた。
「こんのぉ……!」
「っぶね! 本当に危ないなあソラは……」
たった数か月の差である。
確かほんの三ヵ月。
「~~~!!! 次は絶対勝つわ、絶対だから!」
「いーや? 次もオレの勝ちさ」
そのたった三ヵ月の差は一年の差となって、その一年の差は絶望的なほどの差となった。
『準トレーナー規制』によってリーグ協会統括範囲内地域におけるトレーナーが正規トレーナーとなるための資格を得るためには『12歳以上』である必要がある。
そもそも正規トレーナーとして認められるための『トレーナー資格』が無いと何が問題か、と言われると『公式試合への参加権』を持てないことだ。
『公式試合』の定義は『その地方のポケモンリーグが主催となって行われるポケモンバトル』全般であり、一番身近な例としては『リーグ公認ジム』における『ジムバッジ取得を賭けた試合』となる。
そして現在の地方間統一リーグの規約により、どの地方におけるポケモンリーグにおいても年に一度の『地方リーグ戦』*1に参加するためには『公認ジムのジムバッヂを最低8個』所持していることを条件としているので、実質的に正規トレーナーであることもまた条件化している。
そしてややこしい話なのだが『トレーナー資格』を取れるタイミングというのは『12歳になった日以降』なのだが、地方リーグ戦自体は毎年地方ごとに定められた月から予選が開始され、本選が開始される。
そして地方リーグ戦の参加受付自体は年中行われているのだが、予選組み合わせ決定後の申請は翌年の参加へと強制的に回される。
そして私、ソラの誕生日は6月。
そしてホウエンリーグの予選開始は5月。
受付自体は4月いっぱいとなっている。
つまりそういうことなのだ。
* * *
一番身近だった友達を挙げるなら私は誰よりも先にユウリの名を挙げるだろう。
ホウエンで他に友人が居なかったわけでも無いが、一番古くから付き合いのある幼馴染であり、友人全てを数えても一番仲が良いと確信できる親友でもある少女だ。
とはいえユウリは数年前に引っ越しをするまで、バトルのバの字にも関心の無い少女だった。
逆に私は昔からポケモンバトルに熱中していて、12歳になれば必ずトレーナーになると決めていた。
そんな私の一番のライバルを挙げろと言われるとそれは……。
ユウキ、という名のその少年は私の父さんの弟……つまり関係性的には私の叔父になる。
ただ同じ年の3月に生まれたユウキと6月に生まれた私とではたった三ヵ月程度の差であり、子供からすればそれはほとんど誤差でしか無かったので、物心ついた時からよく一緒に遊んでいたし、私からすれば叔父というよりほとんど兄弟だった。
物心ついた頃からユウキもまたポケモントレーナーを目指していた。
元よりお爺ちゃん……センリがトウカシティジムのジムリーダーであり、ホウエン地方でも最強クラスのジムリーダーとして鳴らしていたし、父さんに至っては元チャンピオンだ。母親の一人、シキもリーグ優勝経験者として名の知れたトレーナーだったこともあり私の家は基本的にポケモンバトルというのは身近にあったと思う。
そういう経緯もあって、私やユウキは同じようにポケモントレーナーに憧れ、そして互いをライバル視していた。
幼い頃、何度となくバトルの真似事をしていた。
ポケモンを育てるということを学び、従えることを学び、そして戦わせることを学んだ。
今の私のいくらかはその時の……ユウキとのバトルとの経験で出来ているといっても過言ではない。
ああ、それはきっとユウキも同じだったのだろう。
基本的にその頃の私とユウキの戦績は互角だった。
互いに勝ったり負けたりをしながら本番は正規トレーナーになってから。
そんな約束をしたりもして。
―――どこで差がついてしまったのだろう?
と考えてみれば。
そんなもの最初からだったのだ。
たった三ヵ月。
けれど覆すことのできない三ヵ月。
3月生まれのユウキ、6月生まれの私。
その三ヵ月のズレはそのまま『トレーナー資格』を取るまでのズレだ。
ユウキは正規トレーナー資格を取ると同時に最速でジムを攻略し月末の『ホウエンリーグ』への参戦を決定した。
私はその時まだ11歳だ……ジムバッジを手に入れる資格も、『ホウエンリーグ』に参戦する権利も持たない。
テレビの向こうで戦うユウキの姿をただ見ることしかできなかった。
6月になって、私もまたトレーナーになった。
ジムバッジを集めて、リーグに参戦するだけの権利は得た。
それでもまあ憧れていたポケモントレーナーの世界に飛び込んだのだ……来年のリーグに向けてパーティを作り、育てた。
そして。
* * *
翌年のリーグに参加した。
目指す相手は私の最もよく知る相手であり、私の最大のライバルだった少年。
予選本選と腕の立つトレーナーたちもいたがその全員をぶち抜いて本選優勝を決める。
その後に続くのは『四天王』とのバトル。
誰も彼もとんでもない強敵だ。
というか、四人目にシキ母さんが入っているのは反則だと思うが……まあそれでも、勝った。
そして挑んだチャンピオン戦。
結果は知っての通りだ。
勝っていればそもそもガラルくんだりまで来ては居ない。
ただその負け方が問題と言えば問題で。
久々に戦ったライバルは私よりも一回りも二回りも強くなっていた。
たった三ヵ月の差で逃した一年越しのリーグ挑戦。
激戦を潜り抜け経験を糧としたライバルはチャンピオンとしてその力をさらに増していて。
―――勝てないと思った。
今のままでは勝てないと思った。
何かが必要だった。その何かが分からないまま無為に時を過ごして……。
そんな時に、ユウリから手紙が来た。
急なことではあったが、切っ掛けを求めていたのもまた事実。
まあ勿論……久々に連絡のあった親友に会いたいと思ったのも本当だが。
ユウリからの提案を聞いた時、二つの矛盾した想いがあった。
嫌だと思った。
このまま……ユウキに負けたまま他地方リーグに移籍などまるでユウキに勝てなくて逃げるようではないか。少なくともユウキに勝つまでは、そんなのは考えたくない……そう思ったのも事実。
好都合だと思った。
このままではユウキに勝てないのではないか。今の何か足りないままで、何が足りないのか分からないままにがむしゃらに挑むより環境を変えてみれば視点も変わって足りない何かも見つかるのではないか……そう思ったのもまた事実だ。
最終的にはユウリの提案を飲むことになったのは知っての通りだが。
―――未だに足りない『何か』は見つからない。
それでも。
ユウリと戦えば、親友との約束を果たせば。
何か変わるかもしれない。
何か見つかるかもしれない。
そんな不安と期待が私の胸の内にあった。
* * *
「やっは~お姉ちゃん」
昼下がりの午後。
シュートシティの一角に店舗を構えるガラル一帯にチェーン店を展開する某有名喫茶店。
表のテラス席を抜けて店内へ、そのさらに奥まった席へと案内されたユウリはそこにいた少女を認めて笑みを浮かべた。
「あら、思ったより早かったわね、ユウリ」
「今日は朝からソラちゃん居なくて暇だったしね~。それでそっちは……」
少女の座るテーブルの反対側に座り、コーヒーカップを傾けながら思考に耽っている見覚えのある男性にユウリが思わず首を傾げ。
「ダンデさん?」
「ん? やあ、ユウリ。この間ぶりだな!」
「っと……それで、何でダンデさんがここに?」
名前を呼ばれ、男……ダンデがユウリの存在に気づくとニカッ、と人好きのする笑みを浮かべる。
よいしょ、と少女の隣に座りながら向かいに座るダンデに問いを投げかける。
「それは勿論、オレがリリィ君に相談を持ち掛けたからだ!」
「まあそういうことね……今その相談とやらを聞いてたわけだけど」
少女……リリィが嘆息する。
何だか珍しい姿、とユウリは思った。実際、リリィはいつだって泰然としていてキラキラと輝いていて、そして誰よりも家族であるポケモンを愛している少女だったから、それが物憂げに溜め息をついているような姿は初めて見たかもしれない。
けれどそんな姿すらも目を惹かれてしまうのだから、美人というのは得だなあ、と思う。
まあそうでも無ければトップアイドルになんてなれないのだろうが。
リリィ。
このガラル地方における現在の『
だがそれ以上に有名な名前が一つ。
『ガラルの白百合』。
今や世界規模で知らぬ人間のほうが少ないとされるガラル地方出身の『アイドル』である。
同時にこのガラル地方の現チャンピオン……つまりユウリの従姉にあたる、というのは余り知られてはいない事実でもある。
まあ実際に顔を合わせたのはガラルに来てからが初めてだったので、ホウエンに居た頃は母親から聞いていた話の上でしか知らなかった相手なのだが。
仲は……悪くない、いや寧ろ良いと思っている。
歳もそう離れていないし、同じ性別でファッションなど趣味も似通っている。
何よりポケモントレーナーという共通点もあるし初めて顔を合わせた時から仲良くさせてもらっている。
去年のジムチャレンジ期間中、ポケモンの育成という点ではかなり世話になった。多分リリィが居てくれなければチャンピオンになれなかったかもしれない、と思う程に。
というか今でもジムの施設を借りたりしているし、世話になりっぱなしだ。
だから今日も朝からこの喫茶店に来て欲しいと言われてほいほいやってきたわけだが。
「それで今日は何の用件だったの?」
「ダンデさんの相談の件で、私だけじゃなくて他の人の意見も聞きたいって思ってね」
少し困ったように苦笑しながら追加でドリンクを注文するリリィに便乗して新商品のスムージーを頼む。
荷物を席に置いて机に寄りかかると、ダンデへと視線を戻して。
「それでダンデさんの相談って?」
「うーん、それがね」
「勿論、チャンピオンタイムに代わる、オレの新しい決め台詞についてだ!」
「え、そこ?」
ダンデがわざわざリリィに相談し、リリィが自分を呼ぶほどのことなのだから余程重要な案件なのかと少し身構えていたのだが、飛び出してきたのは全く予想の外の話だった。
「いや、でも結構大事か……」
「そうなのよね、意外と大事なのよね」
「いやいや、かなり大事なことだよ」
ダンデがチャンピオンだった去年までの間、チャンピオンとしてダンデはガラル中を沸かせるスーパースターだった。
いや、実際のところ、今でもまだその人気は健在であり、こうして三人で集まっているのも結構注目されたりするのだが、それはさておき。
チャンピオンダンデと言えば『これ!』と言われるものが二つある。
一つが両足を軽く開き、左手の親指と人差し指、中指を立てながら腕をまっすぐ上に伸ばす『リザードンポーズ』と呼ばれる独特の構え。
これはいわゆる『決めポーズ』と呼ばれるものであり、見た目にも分かりやすい無敵のチャンピオンダンデの特徴としてガラル中で老若男女問わずに大流行した。
そしてもう一つがエースであるリザードンを出す時などに告げる所謂『決め台詞』。
―――お見せしよう、真のチャンピオンタイム!
チャンピオンダンデが本気で勝負を決めにかかる際……エースのリザードンをキョダイマックスさせる時などに良く言う台詞であり、直後に起こるインパクトと合わせて耳に残りやすい台詞でもあり、こちらもガラルで流行した。
実際のところこれらは『魅せプレイ』と呼ばれる領域の話であり、実際にこれがあるから強いとかこれが無いから弱いとかそんな話では全くない。
多分他の地方でこんな相談をしても軽く流されるのがオチなのだろう、が。
このガラルにおいては全く話が違って来るのだ。
先も言ったがリザードンポーズと決め台詞はガラル中で大流行した。
つまりそれだけ多くの人々がチャンピオンダンデの魅力にとりつかれたということでもあり、同時にダンデのファンがそれだけ多くいる、ということでもある。
逆に言えばダンデの一挙手一投足はガラル全土に影響を与えることが可能である、という証左でもある。
ダンデを応援するスポンサー団体からすればこれだけ美味しいトレーナーも居ないだろう。
ガラルリーグに所属するトレーナーは全員がプロトレーナーである。
ガラルのポケモンバトルが『興行』の意味合いの強いものである以上、観客を沸かせることのできるトレーナーこそが正義であり、観客を白けさせる試合をするトレーナーは絶対的な悪だ。
そんな風潮にあって、根強いファンがいるトレーナーというのはそれだけプロとして『強い』。
逆に言えばファンの少ないトレーナーは実力以前の問題としてプロとして『弱い』のだ。
ある意味ガラルのプロトレーナーとは芸能人に似ている。
人気が出なければこのガラルリーグにおいては居場所が無い。
人気が出なければそもそも公式試合に出場することすら難しい。
人気が出なければ資金も足りなくなる。
手っ取り早く人気を出すコツは強いこと。そしてそれ以上に『派手』であることだ。
人気の指針となる観客たちは基本的にバトルの素人なのだから、素人の目で見て分かりやすいということは大事なのだ。
そう『決めポーズ』や『決め台詞』とは即ち、そのトレーナーを象徴する姿や言葉であり、同時にファンにとってそのトレーナーを指し示す意味でもある。
この台詞はこのトレーナーのもの、というイメージを定着させることがファンを作るための第一歩であり、逆に言えば決め台詞の一つも無いようなトレーナーでは
恰好のつかないトレーナーではテレビ映えしない……つまり人気も出ない。
つまり決め台詞とは人気の元とも言えるこのガラルのポケモントレーナーにとって非常に重要なものなのだ。
ついでに言うならば。
他地方はともかくとして。
このガラルリーグにおいてのみ。
ユウキ君は三世代ルビーサファイアエメラルド、及び六世代オメガルビーアルファサファイアの男主人公の名前ですね。
なんで今出てくるの? とかについては今作全く関係ない話なのでドールズのほう読んでください。
リリィちゃんはあれですね。ツイッターでイェッサン可愛いヤッターしたので登場の運びとなった別作品主人公ちゃんですね。
正確には元作品は擬人化設定の無いドールズ時空とは別世界なので設定だけ流用したオリキャラだけど。
https://syosetu.org/novel/242349/
リリィちゃんについて詳しく知りたい人はこっち読んでください。
めっちゃ俗な話だけど、ポケモンという世界を現実的に解釈してみた話として。
実機においでポケモンは基本的にどれだけ捕まえても『金』はかかりません。ボール代くらいはかかるかもしれないけど、『育成費』はかかりません。
でも現実においてポケモンとは『生物』です。ペットと家族の中間くらいの立ち位置だと思ってるけど、本気で家族だと思ってる人もいればまあペット、或いは道具のように思ってる人もいる。
けどどっちみち共通するのは生きている、ということ。
つまり生きている以上、社会で生きるには『金』がかかります。
例えばの話、カビゴンって図鑑説明によると「一日400kgは食べないと気が済まない」らしいですが、これって一般家庭で賄えますか???
どんだけポケモンフーズが安くても限度ってものがあるだろ、って話。
ついでに言えば実機だと当たり前のように6体パーティ作ってるけど、それぞれのポケモンの食費×6+トレーナーの生活費。
フルパーティにかかる金って結構なものだと思うわけですよ。
で、それをトレーナーとの戦いで得た『賞金』だけでどれだけ賄えるか、って話。
めっちゃ当たり前だけど、一日に熟せるバトルの数とかって限られてる。
ついでに言えばそこで得られる賞金の額なんてたかが知れてる。
さらに言えば旅するための移動費、消耗品などの生活費、衣服の代金とかもあるだろうし。
そこにさらにトレーナーとして傷薬系の代金、ボールの費用、その他色々。
たった一日育成や移動に回すだけで六体分の生活費は毎日積み重なっていく。
一見するとトレーナーの強さと金って無関係に見えてけどやっぱり『強さを追い求める』ためにはまず前提として『金』がいるんですよ、トレーナーって。
その金はどっから出てくるんだ? ってなるとやっぱりガラルにおいて『強い』だけじゃダメなんですよ。いや寧ろ強いトレーナーであることよりも『人気のある』トレーナーであることのほうが重要なんです。
というのが作者が現実的に考えるとこうなんじゃないかな、っていう解釈で作った世界観。
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ひこう系ギャル姉とじめん系ロリ妹
ガラル地方における『ポケモンジム』というのは他と比べ一風変わっている。
まず最大の違いとして経営者が違う。
勘違いされることが多いのだがジムリーダーに勝利することでジムバッジがもらえる『公認ジム』というのは
まずジムリーダーとなるべき人物がジムを作る。
これ自体はただの『非公認ジム』でありいわゆる私塾のようなものに近い。
次にジムリーダーがジムトレーナーたち門下生を集める。
そこで一定以上の功績などをあげ、公認ジム認定試験をジムリーダーが受け、合格することによって初めて『公認ジム』として認められる。
そうしてジムリーダーが『公認ジム』としての認定をリーグから得ることによってジムバッジの製造を許可されるようになると同時に、ポケモンリーグ傘下のジムとなる。
ただし先も言ったように『公営』ではないのだ。
正しく言うと『ポケモンリーグ』側から補助金などが出る代わりに、有事の際の協力やそれ以外にもポケモンリーグ公認の公式試合への従事など一定の助力を求められる。
ただし経営自体は『ジムリーダー』が行うし、あくまでジム自体はジムリーダーの所有だ。
ただこれもまた『基本的には』という前置きがつく。
例えばホウエンのトウカシティジムの例を挙げると、ジムリーダーのセンリはジムリーダーとしてトウカシティジムを運営する権限はあっても経営、所有する権利は持っていない。
これは最初にトウカシティジムを作り上げたジムリーダーがすでに引退して経営側に回っているからであり、要するにセンリは雇われジムリーダーなのだ。
この例のように『公認ジム』も二代目以降は所有と運営が別れるようになり、その際に新しいジムリーダーをポケモンリーグを通して融通してもらうことが多い。というか現在における『公認ジム』の大半はもうすでに三代目、四代目であり、その間に半ば『公営』のようになりつつあるのも事実なのだが。
この際にも当然ながら新しくジムリーダーとなる人物は今度は『ジムリーダー認定』のための試験を受けてもらう必要がありこの試験を通ると『ジムリーダー』としての資格を得ることができる。
というのが他地方におけるジムとジムリーダーの制度であり。
ガラルにおけるポケモンジムとはその全てが完全なる『公営』なのだ。
理由としてはガラルリーグのその形式にこそある。
まあ単純な話、ポケモンジムを新設することそのものがそのままイコールでリーグ挑戦への優先権に等しいからだ。
故にガラルリーグの実務であるリーグ委員会にジム申請を申し出ることでジムを新設するのだが、基本的に現状のガラルで18タイプ全てのジムが存在しており、これ以上のジムを増やすことはほぼ不可能に近い。
だったら個人で作ることは可能か、と言われると可能ではあるが……それは結局のところポケモンスクールと大して違いなど無く、私塾の域を出ないものでしかない。
最も重要なリーグ挑戦権が無いのだ。
故にガラルのポケモンジムは基本的に各タイプに一つずつ。
そしてそのジムリーダーの座は往々にして先代ジムリーダーから認められた者が継承する。
選定基準はジムリーダーごとに様々だ。
単純な強さを理由に選ばれた者。
人気が出そうだからこそ選ばれた者。
自らの感性に響く何かを持つが故に選ばれた者。
まあ本当に様々なのだ。
まあそれはさておいて。
先も言った通り、ガラル地方におけるポケモンジムは全てリーグ委員会へ申請することで新設される。
つまりジム施設なども全てリーグ委員会が用意してくれるのだ。
じゃあそれらをどこに用意するのか、と言われると……。
基本的に主要な街は『ジムチャレンジ』の際に使われるので、却下。
かと言って過疎地では交通の便が悪い。
結果的にシュートシティに18タイプ全てのジムが集結している。
と言ってもその内の8タイプのジムは他の街に散っているので実質10タイプ分のジムしかないのだが。
ガラル地方におけるポケモンジムの大きな特徴として、メジャーとマイナー、という概念がある。
いわゆるジムチャレンジの際にチャレンジャーの相手をするジムのことなのだが、もっと簡単に言えば全18タイプのジムの中で公式試合における戦績や人気などを加味した上位8タイプをメジャーと呼び、それ以外の10タイプをマイナーと言うのだ。
メジャージムにはジムチャレンジの際にチャレンジャーたちが巡る街ごとに存在する『スタジアム』の利用が許可されており、また『スタジアム』に併設されるようにしてポケモンジムが存在するので、普段はそちらを利用している。
逆にマイナージムにはそんな優遇措置は無いので、シュートシティで日々鍛錬しメジャー昇格を狙って牙を研いでいるのだ。
また先のワイルドエリアでの一件のように、各街に散ってしまったメジャージムの代わりにポケモン協会の要請を受けて動くこともある。まあ代わりにメジャージムは拠点とする街からの要請を受けて動くこともあるので、この辺は大した違いでも無いのだが。
マイナージムにとってメジャーへの昇格は重要だ。
当たり前だがポケモンジムのジムリーダーとは紛うこと無きプロトレーナーだ。
このガラルにおいてプロトレーナーであるというのは中々にハードルが高い。
まず第一に強くなければならない。
ジムリーダーという一つの『タイプ』のエキスパートとして強さは絶対だ。
そして第二に人気者でなければならない。
ガラルのポケモンバトルの最大の特徴は『興行』だ。
人気の出ないトレーナーに金は稼げないし、金の稼げないトレーナーに先は無い。
何よりも人気の出ないトレーナーはメジャーになれない。
メジャージムリーダー全8タイプの内7タイプのジムリーダーはファイナルトーナメントへの参戦権を持つ。
これがこそガラルにおけるジムリーダーの最大の権利である。
即ちチャンピオンへ挑戦するための近道だ。
ジムリーダー以外の場合、ジムチャレンジをこなし、セミファイナルトーナメントを勝ち抜き、ファイナルトーナメントで優勝しようやくチャンピオンへの挑戦権を手に入れることができる。セミファイナルトーナメントの人数にもよるが、だいたい6~8戦ほど勝ち続けなければチャレンジャーはチャンピオンに挑戦できない。
逆にファイナルトーナメントから参戦するジムリーダーはたった3度バトルに勝利すればチャンピオンに挑戦できる。
誰も彼もが自分と同格以上のトレーナーたちが集うトーナメントにおいてこの差は非常に大きい。
何せ一敗でもすればそこで挑戦終了なのだ。
たった一度の『偶然』が勝敗を分けることすらあるポケモンバトルにおいて一敗すら許されないというのは中々に厳しい。
ジムリーダーになるトレーナーというのは大概の場合『チャンピオンになるため』の過程としてジムリーダーになっている。
つまりメジャー昇格できないとチャンピオンへの挑戦など夢のまた夢なのだ。
故にジムリーダーは強くなることに非常に貪欲だ。
いつの日か、このガラルのトレーナーの頂点に立つことを夢見て、そして目指し続け日々鍛錬を積み重ねているのだからそれは当然のことだ。
ポケモントレーナーとして強くなるためにはいくつもの方法があるが。
一番手っ取り早いのは『強いポケモン』を手に入れることだろう。
* * *
「というわけでこれ」
「は? いきなし何よ?」
アーマーガ―タクシーに揺られること数時間。シュートシティに到着してリシウムに事前に教えられていた住所を訪ねれば街外れの一角に広がるコートにたどり着く。
併設された建物のほうがどうやら『ひこうタイプジム』らしく端から端まで2000平方はありそうなこの広々としたコートが訓練場だろう。よく見れば訓練用の施設や器具があちらこちらに見える。
リーグ委員会が用意しただけあって、器具も施設も真新しく、マイナージムと言っても随分と金がかかっているように思えた。
まあ今はこちらに用は無いとジムのほうを訪ねて受付でリシウムを呼び出す。
気怠そうにロリポップを咥えながらやってきたリシウムに前置きも無く差し出したのはモンスターボール。
怪訝そうなリシウムに図鑑データを送信し、それを見た瞬間にリシウムの顔色が変わる。
「アンタこれ……え、何これ。どこでこんなん」
「この前サンダー譲ってもらったし、お礼ってほどでも無いかもしれないけど」
「いや、あれに関しては……いや、ナニコレ、ホントナニコレ」
ボールに入っているのは件のヨロイ島のギャラドスだ。
何度か考えてみたが、好み以前の問題としてどうもこのギャラドスは『すなあらし』以外の天候に適応しそうになかった。
やはり翼が無いポケモンは『おおあらし』は強力過ぎるのか、基本戦術が『おおあらし』の私のパーティでは扱えないという結論が出たためリシウムに譲ることにしたのだ。
賭けの結果とは言え、ワイルドエリアではダーくんをゲットするチャンスを譲ってもらったし、その上育成施設も使わせてもらえるとなれば『手土産』くらいはあっても良いだろう。
図鑑の解析機能で得られたギャラドスのデータを見て目を丸くするリシウムの反応を見るかぎりは好感触のように思える。
「なんかもらい過ぎな気ーするけど」
「良いのよ、私じゃ使えないけど、野生に帰すとそれはそれで問題になりそうだし」
「はー。まーそーいうことならありがたくもらっとくけど」
元々ポケモンジムなどはそういう『野生に帰すには問題がある』ようなポケモンの引き取り先としての側面がある。
ポケモンレンジャーが環境保全のために環境を無暗に乱すポケモンを捕獲した時などに専門タイプのポケモンジムに引き渡してトレーナーを見つける、なんてのは良くある話なのだ。
「あーもらっといて悪いんだけど、これあーしの妹にあげてもいい感じ?」
「妹?」
「そ、あーしの妹『じめんタイプジム』のジムリやってっから、あーしより妹のほうがこの子と相性良さげみたいな?」
「別に私がアンタにあげたんだし、アンタはどうするかは自由よ」
「あ……っそ。あんがと」
礼を言いながら、どこか照れたように視線を逸らしながらリシウムが頭が掻く。
前から思っていたが、見た目と言葉遣いはあれだがそれ以外は割とまともな人物らしい。
見た目だけならどこぞの不良娘かと思うのだが、さすがにジムリーダーというだけあって人柄のほうも考慮された人選なのだろう。
その割に言葉遣いがあれだが……*1。
「時間あんならジム上がってく? ちょうど妹来てるし」
「良いの?」
「元々施設貸すっつー約束だし、好きにすりゃいーし」
少し考える。
特に時間も無いし、一度くらいどんな施設があるのか、借りられるのか見ておきたいのもある。
そんなこんなで、ここで断る理由も特に無かったのでお邪魔することにする。
「クー、ちょっといい?」
事務所らしき場所に通されると、ソファーに座っていた小柄な少女……いや幼女? にリシウムが声をかける。
上はタンクトップ一枚、しかもサイズが合っていないのか肩の部分がずり落ちそうで危うい。下はハーフパンツだが靴下も何も履いていないので足の大部分がさらけ出されている。
振り返るその気怠そうな表情は私の隣にいる人物にそっくりであり、即座に少女……幼女? が件の妹なのだろうと察せられた。
いや、ジムリーダーと言っていたので年齢的には十二歳以上、となれば少女で良いのだろうか?
「どうした、あね」
リシウムよりも少しばかり色の濃い茶髪を揺らしながらリシウムの声に振り向いた少女。
舌足らずな言葉遣いで、リシウムを見ていた少女がすぐにこちらに気づいて、首を傾げる。
「あね、そっちは?」
「あーしの知り合いのトレーナーで」
「ソラよ」
「そーそー、そんな感じ。んで、こっちのちっこいのがあーしの妹でクコっつーの」
「ん」
互いに視線を交わす。何とも気怠そうな表情である。
いや正確には無表情っぽいのだが、何となく全体的に気怠さが漂っているというか、くたびれた熟年のオッサンみたいな雰囲気をこんな小さな少女が醸し出しているのは正直かなり違和感があった。
しかしまあ本当に十二歳以上なのか、と思いたくなるほどに小さい。正直まだ八歳か九歳と言われたほうが納得できるくらいに。
まあ私もあまり人のこと言えないわけだが……。
…………。
………………。
……………………。
何となく妹のほうとは気が合いそうな予感がした。
どうでもいい話。
クコの英語読みが『Lycium chinense』だから姉の名前が『リシウム』で妹の名前が『クコ』。
ギャラドス君は裏特性とか特性で『すなあらし』使ってるんじゃなくて『能力』枠で使ってる。つまり体質とか性質とかの部分で『すなあらし』特化なのでソラちゃんとは基本的に合いませんでした。
という話。
メタな裏話すると初期案のソラちゃんのパーティに普通のギャラドスいたんだけどウッウとかいう面白すぎるやつ見つけたせいでギャラドスはクビになった。
気付いたら鳥ポケばっかになったので、まあじゃあこのまま鳥ポケ統一で行こうかなって。
アオ君? まあ彼は弟だから(
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天才系二面性『じめん』タイプ幼女
「それで、どうした、あね」
「ん、ソラからいーもんもらったから、クーにやろーかってね」
「ん?」
どこかぼうっと呆けたような顔をしながらリシウムから差し出されたボールをその小さな両手で受け取ると、つんつん、と指先で手の中のボールを突いて転がしながら、首を傾げる。
「あね、なかみは?」
「今データ送るからちーと待ちなって」
スマホロトムを片手で操作しながらリシウムがクコのスマホロトムへとデータを送信する。
そうして。
「
クコが満面の笑みを浮かべた。
先ほどまでの気怠そうだったのが嘘のように。
リシウムから渡されたギャラドスのボールを両手で持ち、送られた図鑑データを見た瞬間のことだった。
「アハ……アハハ……イイ、スゴク、イイヨ、キミ」
愛おしそうにボールを撫で、浮かべた笑みが一瞬で元の気怠そうな無表情へと戻るとリシウムを見やり。
「あね、きょーよーコートかして」
「いーよー。どっか空いてるとこテキトーに使って」
「うん」
とことこと軽い足取りで去っていくその小さな背中を見やりながら、リシウムに視線を向ける。
「あーわりーね。好きなことにはムチューな妹でね」
「別に良いわよ。あの『お土産』でそれだけ喜んでもらえるなら」
「取り合えずあーしらもコートのほう行こーか。施設の説明もあーし」
そのままリシウムに案内されてジムからコートへと向かう。
途中で何人かのジムトレーナーらしき人物たちから挨拶される。
「そう言えばジムトレーナーに説明はしてあるの?」
「そりゃーね。あーしの知り合いのトレーナーが使うって説明してるよ。まあそーいうの結構良くある話だし」
「そう言えばユウリも『ノーマルタイプジム』を借りてるとか言ってたわね」
「あ? は? ユウリ……ってチャンピオンじゃん?!」
「そうよ」
「知り合いなん?」
「幼馴染よ。あの子元々はホウエンのほうの出身だもの」
「はあ~?」
そんな話をしているとトレーニング用のコートへとたどり着く。
基本的にポケモンバトル用のトレーニングコートは半分くらいはどこのタイプのジムでも共通している。
例えば『ほのお』ポケモンなら、例えば『みず』ポケモンならと専用のトレーニングコートを作っても結局のところ実際のバトルは芝生の敷かれた『スタジアム』のコートなのだ。
タイプごとに必要な施設の用意も重要だが、実際に戦う場所を想定するというのもまた重要なこと。
だからこそトレーニングコートの半分は『スタジアム』のバトルコートを模した芝生、残りの半分はそれぞれのタイプごとに専門的なものになる。
「芝生のほーは『共用』コート。あっちの木とか並べまくってんのが『専用』コートね」
「実際のバトルはあっちの『共用』のほうと同じコートでやるのね」
「そそ、ま、ホントのところは各街の『スタジアム』ごとにそこにいるジムのタイプに合わせて多少変わったりもするけどね。あーしらみたいなマイナーは『シュートスタジアム』でのバトル基本だし、そっちに合わせて作ってるよ」
「ふーん、結構考えられてるのね」
こうして見ているとやはり施設も器具も『質』が良い。
ホウエンにいた頃に使っていたものよりも質が高いのは話に聞く『マクロコスモス社』の技術の賜物なのかもしれない。
ホウエンにもデボンコーポレーションという大企業があったが、さすがにこのガラルにおけるマクロコスモス社のように産業の大半に関連しているような手広さは無かった。
その辺に理由をつけるなら恐らくそれは、ガラルが少しばかり『狭い』地方だからだろう。
地方の北半分に主要な都市などが集中し、南に行くほど過疎化していく。
全体的に人も物も回ってはいるのだが、その流通はやはり圧倒的に北半分が多い。
だからこそ、というべきなのか。
技術の普及が早い。
例えばホウエンでデボンが新しい技術を開発、そこから商品化した時、ホウエン全土に広まるには二カ月、三ヵ月と時間をかけるだろうし、隅々まで浸透させようとすれば半年は見ないとならないだろう。
だがガラルの場合、流通も交通もマクロコスモスという巨大企業が絡んでおり、さらに主要都市と都市の間が狭いため一つ新商品を開発すれば一、二週間あればガラルの大半に広まっていく。
人も物も地方の北側へと集約されていくため、発展が非常に早いのだ。
この辺はガラルの大きな特徴と言えるかもしれない。
さらに言うならばホウエンで主要都市を結んだ流通網を新たに作るならば海運などが主要になる。
地方の東と西が海で分断されている以上これは仕方ないし、何よりホウエンは横に広がっている地方なのだ。
故に流通や交通を一企業で整備しようとするとその負担はとんでも無いものになる。
それでもデボンコーポレーションならばできなくはないだろうが、それが果たして『やらなければならないことか』という問題もある。
逆にガラルは主要都市間の距離が非常に短い。特に一番首都とも言えるシュートシティと二番目に大きな街であるナックルシティの間が山一つ挟んですぐと非常に近い。
さらにナックルシティとエンジンシティの距離も比較的近く、それらを全て『列車』で繋いでいくとあっという間に大きな流通網が出来上がる。
ガラル地方は他の地方と比べてもそこまで大きな地方というわけではないが、それでもこれだけ大きく発展しているのはそういうところに理由もあるのではないのだろうか。
まあそれはさておき。
企業の技術力が高い時、最も恩恵を受けるのが『トレーナーアイテム』だろう。
トレーナーがバトルの際に使う所謂『道具』や『持ち物』のことだ。
例えば以前にワイルドエリアでサンダーとのバトルで使った『きあいのタスキ』。
ホウエンで以前に購入したものを持ってきたものだが、ホウエンのほうではあれ一つでだいたい七桁ほどの値段になる。
持たせるだけでポケモンが大半の攻撃を受けても絶対に『ひんし』にならない、対野生バトルにおいて非常に大きな効果を発揮できる道具である、値段も当然ながら相応なものになる。
他にも『こだわりハチマキ』などの火力を上げる道具、『とつげきチョッキ』などの耐久力を上げる道具などなどトレーナーにとって必須とも言える道具の数々だが、まあだいたい7桁を下回ることは滅多にない。
つまり開発にはそれだけの金と技術が必要になるアイテムなのだあれらは。
それがこのガラルではホウエンより三割は安い。原価と技術料がそれだけ安いのだ。*1
それだけの技術があるからこそ、近年ガラルで新しく開発された道具なども存在する。
ユウリに聞いた話ではあるが、その中でも特に『とくせいパッチ』は革命的な新商品と言っても過言ではないだろう。
私だと余り関係無いが、従来の『とくせいカプセル』では変化させることができなかった特性にすら変化可能である『とくせいパッチ』は育成能力が十分ではないトレーナーたちへの大きな助けとなった。
「俗な話だけど、ジムって実際どのくらい援助されるの?」
「あ? メジャーはともかく、マイナーはなー。まあそれでも道具類に施設、器具なんかは大概申請すれば買ってくれるかな」
「すごい優遇ね」
「まあプロトレーナーはそれなりにねー。つってガラルで『トレーナーとして』生きるなら最低でもジムに所属するしか無いしね。そこは仕方ない部分」
「メジャーだと?」
「ガラルのトップオブトップ、それで察しなって」
シキ母さんに聞いた話、ホウエンの四天王が年俸八桁らしい。
ただしガラルのポケモンバトルにおける『興行』としての側面を考えるに給与だけならもっと高そうはある。
「ぶっちゃけあーしらマイナーとメジャーで十倍くらい違うかんね」
「そらみんなメジャー昇格狙うわね」
「そーゆーこと。それ差し引いてもやっぱジムチャレの最後、ファイナルトーナメントの枠狙えるのが美味しすぎるっしょ」
「あーそういえばそうらしいわね。私まだガラルに来たばかりでその辺があやふやなんだけど」
「そーいやそんなこと言ってたね」
ガラルのリーグ制度は結構独特だ。
ポケモンバトルを『興行』としているが故の制度って感じだが、他地方の人間からすれば『四天王』が無いというのが中々に理解しづらい。
と言っても最近のカントー・ジョウトリーグでは『四天王』が半ば有名無実になりつつあるらしいが。
「なんというか、カントーリーグをさらに商業に寄せた感じよね、ガラルって」
「あーまーそういう感じよね」
カントー・ジョウトリーグは四期に渡る総当たり戦形式だ。
それぞれAリーグ、Bリーグ、Cリーグが存在し、二期ごとにCリーグの上位数名がBに昇格、Bの下位数名が入れ替わりで降格、Bの上位数名がAリーグに昇格、Aリーグの下位数名が降格。
そして四期に行われる最終リーグでAリーグの最高戦績、つまりAリーグ1位のトレーナーがチャンピオンへの挑戦権を持つ。
上位リーグと下位リーグの概念、昇格や降格などガラルと似通った部分があるが、総当たり戦でなく勝ち抜きのトーナメントなのがガラルリーグの特徴と言えるかもしれない。
まあ他にも下位ランカーに指名されたら上位が断れず、下が勝てば上のランクを奪う『ランキングバトル』形式のイッシュなどもあるが、大半の地方は年に一回のリーグ戦で予選、本選を行いその優勝者が『四天王』に挑戦、四天王を勝ち抜けばチャンピオンに挑戦、という形式だ。
カントー・ジョウトリーグにおける『四天王』とはAリーグの戦績上位四名までを指し、イッシュでも同じランキング一位から四位までの四人を指す。
四天王が挑戦者を試す門番でなく、挑戦者となってチャンピオンへ挑むチャレンジャーの側に回るという意味でカントー・ジョウトリーグ及びイッシュリーグの四天王は本来の意味とはかけ離れているといってよい。
「あ、クコだ」
「ホント、クーいるじゃん」
雑談をしながらコートを見て回っていると、『共用』コートのほうに立つクコを見つける。
何やらボールを振りかぶっては戻し、ポーズを変えて振りかぶっては戻し、を繰り返している。
「あれ何やってんの?」
「あー多分、一番アガる投げ方の研究、みたいな?」
そんなことを言っている内に、何か得心が言ったのか何度か頷き。
「―――まわれ」
ボールを投げた。
“グラビティチェンバー”*2
体を大きく一回転させながらの投擲。
同時にどん、と派手な音がして……。
―――“ちょうじゅうりょくのおり”に ばの すべてのポケモンが とらわれる
投げられたボールから私が捕まえたギャラドスが解放され、怒りに咆哮を放つより先にその巨体が
―――グォオォォガアァァァ……ッ!
「おもいのは、とくいだよ」
腰のホルスターからさらに一つ、ボールを取り出し。
「バンちゃん、やって」
「ばしゃーん!」
次いで出てきたのは『ばんばポケモン』のバンバドロ。
ホウエンのほうでは見かけないポケモンだけに思わず注目してしまう。
見た目にはギャラドスが何かに『圧し潰されている』ようにしか見えないが、恐らく『じゅうりょく』状態なのだろうと気づく。
『ひこう』使いの私としては厄介な能力だ。
「クコは……異能者?」
「そだよ、あーしと違ってかなーり強度高いよ」
『じゅうりょく』の影響でギャラドスの動きが鈍っている間にバンバドロがギャラドスに向かって走り寄り。
「おもくをもっとおもく」
“じゅうりょくのよろい”*3
「おもくをかるく」
“はんじゅうりょくのつばさ”*4
呟きと同時に先ほどまで圧し潰されていたギャラドスの体が突然自由を取り戻し……動いた衝撃でその巨体が浮き上がる。
「重量干渉? 重くする能力と軽くする能力って感じかしらね」
「クーのやばいのはこっからだよ」
重量干渉は恐らく慣れていなければかなり戸惑う能力だろう。
だが同時にポケモン自身の能力値に直接干渉するような能力ではない。
ならばここから。
『おもさ』の差を利用した何かがあるのだろう。
「たたいて、つぶせ」
“ヘビーボンバー”
半身を持ちあげたバンバドロがギャラドスへを押しつぶさんとのしかかる。
“じゅうりょくのよろい”*5
“ヘビーウェイトプレス”*6
轟音。
耳が痛くなるほどの音と『じしん』で出したのかと錯覚するほどの大地を揺らすその衝撃にたたらを踏む。
「っと、だいじょーぶ?」
「っとと、ええ、ありがとう。助かったわ」
未だに揺れる視界。
けれどその先で。
たった一撃で押しつぶされ、目を回して『ひんし』になったギャラドスがいた。
名前:クコ
【技能】
『グラビティチェンバー』
全体の場の状態を『じゅうりょく』にする。場にいるポケモン全ての『おもさ』を2倍にし、技の優先度を-1する。
『はんじゅうりょくのつばさ』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、相手のポケモンの『おもさ』を1/4にし、相手の技の優先度を-1する。
【名前】バンちゃん
【種族】バンバドロ/原種
【レベル】120
【タイプ】じめん
【性格】いじっぱり
【特性】????
【技】ヘビーボンバー/????/????/????
【裏特性】『じゅうりょくのよろい』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、自分の『おもさ』を2倍にする。
『おもさ』で威力が変わる技を出す時、相手の『おもさ』が1/10以下の時、技の威力を最大威力の2倍にする。
相手を直接攻撃する技を出す時、自分の『おもさ』の1/10を威力に合計してダメージ計算する。
【技能】『ヘビーウェイトプレス』
相手を直接攻撃する技を出す時、相手の『おもさ』が自分の1/10以下の時、相手の『ダメージを軽減する』効果を受けずに攻撃できる。
というデータを今書きながら即興で作ってみたんだがどうだろう。
テーマは『重力系』幼女。
因みに今回出したヘビーボンバーの威力は最大威力120の2倍で240。
さらにそこにバンバドロの体重920kgの1/10の92をさらに『グラビティチェンバー』の2倍と『じゅうりょくのよろい』の2倍で368、これに240足して608の『通常攻撃』だ!
キチガイでは???
なによりこれバンバドロで計算すると「おもさ736kg」未満は全員もれなく威力608になるという事実だ(
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コミュ症は基本いつでも話題に困っている
『ひんし』のポケモンを回復する実機プレイヤー御用達しの道具。
ゲームでは使用すると即座にHPを半分回復してくれていたが、現実に『ひんし』状態からいきなり元気に戻れるわけねえだろ、という理論によりだいたい2~30分くらいかけてじわじわと効力を発揮する。
ゲームでやってた『ひんし』→『げんきのかけら』→『ひんし』→『げんきのかけら』といったゾンビ戦法みたいな真似、現実にやってたらちょっと怖すぎるので基本的にこの世界のトレーナーは野生バトルの時などでも『ひんし』にならないように注意しながら立ち回る。それでもなるときはなるが。
『ひんし』になったギャラドスに『げんきのかけら』を与える。
数分もすれば『ひんし』を脱したギャラドスが意識を取り戻し、目の前に立つ幼女……クコを見やる。
意識こそ取り戻せども、まだまだ体はまともに動かせる状態ではなく、無防備にけれど視線だけはじっとクコを射抜いていた。
「ん」
けれどそんなギャラドスの視線にも構わずクコが無警戒にギャラドスへと近づき、その顔にそっと触れる。
「いいこ。いいこ」
二度、三度と撫でるたびにギャラドスが戸惑うような視線をクコへと向ける。
そんなギャラドスの視線にクコはけれど無表情に何度となく撫で続けて。
「もっとつよくなりたいか?」
「―――ッ! グガァァ!」
ふとした瞬間に漏れだしたかのように呟いた言葉にギャラドスが一瞬言葉に詰まったように表情を変え、直後に吼えた。
原種のほうは『きょうあく』ポケモンとすら呼ばれるほどに恐ろしいその風貌と咆哮だったが、けれどクコは顔色一つ変える事無く……否、寧ろ
「わたしといっしょにこい」
じっと、見つめるギャラドスの視線の圧に屈すること無く、逆にその視線でギャラドスの気迫を削ぐかのようにじっと見つめ。
「いっしょに、こい」
もう一度、同じ台詞を告げる。
そうして。
「―――グガァァ」
ギャラドスがその頭を垂れた。
* * *
「案外あっさり落ちたわね」
「妹マジ天才ちゃんだし『じめん』タイプには無類に好かれるんよ」
「ああ、分かるわ。私も『ひこう』タイプなら大体どうにかできるし」
「お前もかよ」
まあ相手に好かれることと私が好いていることはまた別なのだが。
多分私でもあのギャラドスを従えることはできただろうが、致命的に戦法が合わないのだから仕方ない。
『統率』能力とはトレーナーの必須事項だ。
だが他の能力もそうだが、こういうのはある程度生まれ持った才覚、資質のようなものを必要とすることが多い。
それでも補う方法はいくらでもあるわけだが、逆に言えば生まれ持った資質だけで十全にポケモンを統率するトレーナーだっている。
私もどちらかというとそちら側だ。
『ひこう』タイプと……あとは『ドラゴン』タイプ、この二つのタイプのポケモンからほぼ無条件に一定の敬意のようなものを持たれる。敵対している時だと余り効果は無いのだが、特に一度バトルで倒した相手からはその傾向が強くなる。
あのギャラドスのように荒くれ者なポケモンだろうと、ダーくんのようなプライドの高いポケモンだろうと、一度バトルで勝って上と下を擦り込んだ相手にはそれがより一層強くなる。
気性の荒いポケモンはバトルで活躍しやすい反面、統率に難儀する。
統率、というと難しく聞こえるかもしれないが、要するに『ポケモンにトレーナーの指示を聞かせる』力だ。ポケモンバトルにおいて、ポケモンは戦う力であり、トレーナーはそれを補うための考える知恵、頭、そして同時に外からの目でもある。
故に戦っているポケモンよりもトレーナーのほうが得られる情報は多く、実際にバトルしているポケモンよりも客観的に判断がしすやすい。
だが統率できていないポケモンは『トレーナーの言う事』を聞かない。トレーナーの判断よりも自分の判断を優先したり、トレーナーを舐め切っていたりとバトルが成立しない場合すらある。
最悪の場合、ポケモンがトレーナーに歯向かうことすらあり得るのだ。
新人トレーナーは手っ取り早く『強いポケモン』を求める傾向にあるが、けれどそれは大きな間違いだ。
経験未熟なトレーナーでは我の強いポケモンを十全に扱えない。十全に扱えないということはそのポケモンからすれば足を引っ張られているに等しい。
脱走したり、言う事を聞かないだけならまだマシで、トレーナーを襲ったり、怪我をさせて逃げだしたり、逃げ出した先で野生化して暴れ回って本来の生態系を乱したり。
群れを率いる力の無いリーダーはリーダー失格なのだ。
まあクコにはそんなことは関係無いのだろうが。
目の前であっさりとギャラドスを倒し、頭を垂れさせる手腕を見るに相当に統率能力が高いことが察せられる。
しかも先ほどのバンバドロ……図鑑で確認すればレベルは120。
つまりリーグのレギュレーションの限界まで上げているあたり育成能力もある。
後は指示能力だが……まあプロトレーナー、ジムリーダーが致命的なほどに低いわけがないのでそれなりにあるとするなら、異能と合わせてかなりレベルの高いトレーナーと言える、幼女なのに。
天才、とリシウムが称するのも分かる気がした。
* * *
「そら」
こちらに気づいたクコがとことこと走り寄って来る。
私の名を呼びながら、手の中のボールを何度となく撫でて。
「ありがとう、とてもうれしい」
「リシウムへの礼みたいなもんだから、気にしなくてもいいわよ」
「ん。姉も、ありがとう」
「いーってことよ。妹」
「ん」
無表情ながらもどこか喜色を滲ませたその雰囲気に思わず頬が緩む。
何となく下の妹たちを思い出した。まあうちの妹たちはこんな無表情じゃないのだが。
まあそれはそれとして。
「少し気になってたんだけどクコって何歳なの? ぱっと見、トレーナー資格取れる年齢には見えないけど、ジムリーダーになんでしょ?」
「じゅーよん」
「ちな、あーしが妹と4歳違いで18」
「は?」
今何かあり得ないようなことを聞いた気がするのだが。
じゅーよん。じゅうよん、十四、14歳?!
「え、私より年上?!」
「ゆーてソラも大分ちっちゃいよね」
「おまえがひとのこといえるか」
「うっさいわよ」
確かに同年代より
どう見ても八歳か九歳だ。本気で成人前と勘違いしてしまうほどにその容姿は幼い。
「つまりわたしのほうがおねえさん」
「それは無いわー」
「無いわね」
「……あね、きらい」
「ぬわ?! ちょ、ウェイウェイウェイ!? ちょーまちってクーちゃん? 妹ちゃん??」
ふんす、と鼻息を荒くしながら悲しいほどにまったいらな胸を張るクコの言葉を即座に否定すると、むすっとした様子で鼻を鳴らした。
ぷい、と顔を背けてリシウムから視線を外すと、慌てた様子のリシウムがポケットからロリポップを出し。
「ほら、飴ちゃんあげるし、仲直りしとこ?」
「……ゆるす」
差し出されたキャンディーを直接口でぱくり、と噛みつくように受け取ると幾分か表情が和らぐ。
というかリシウムのポッケはどれだけロリポップが入っているのだろう。
しかしまあ……こうして見ると良く似た姉妹だ。
片方ずつ見ると余り似ているとは思えないのだが、並べて見ると確かに血の繋がりを感じる。
うちの姉弟は容姿に関しては基本的に全員母親の色が強く出てしまって並べても余り血の繋がりを感じられないので何となく不思議な感じがした。
「あね」
「ん? どったの?」
「もういっこくれ」
「まだ食べ終わってないっしょ」
「いいから」
「ん? まあいいけど」
さらに一つ、ポケットから次のロリポップが出てくる。
それをクコが受け取ると、とことことこちらにやってきて。
「そら、やる」
「私に? ありがとう」
「いいこ、くれたから。れいだ」
「手土産だし良かったのに。まあ、ありがたくもらっとくわ」
クコに手渡された飴の包装を解いて口に咥える。
甘ったるい味が口の中でじわっと広がっていく感覚を覚えるが、その後に優しい風味が来る……『モモンのみ』あたりだろうか、これは。
普段余り甘い物を食べないのだが、これはこれで美味しい。
どちらかというと辛い物が好みなのだ、私は。
と言っても別に甘いのが嫌いなわけでも無いが。
「あーそう言えば」
スマホロトムを操作して、
うちの三番目と四番目の双子の妹たちが甘いのが大好物で、よくクッキーやマシュマロ、マカロンなど買い込んでは部屋に蓄えている。
それを二番目の妹が掃除の邪魔だと片づけたり二番目の弟がひっそりつまみ食いしたりしてるのはまあ余談としても。
そんな甘い物大好きな妹たちに以前にカロス地方のお菓子を貰ったのを思い出す。
量子保存技術のお陰で状態に関しては保存されているだろうし、どうせ忘れてたくらいなら……。
「あ、あったわ。良かったら、これいる?」
所持品から出したお菓子の包みをクコに渡すとクコが目を丸くしてその包みを見やる。
じっと包みを見つめ、それから視線をこちらへ。
「いいの?」
「良いわよ、私もさっきまで忘れてたし」
これのお礼、と口に咥えたキャンディーを見せるとクコが少し黙して、口元を緩める。
「ありがとう、そら」
「どういたしまして」
年上のはずの少女の姿が、けれど下の妹たちと被ってみえて、思わず苦笑した。
* * *
「あ、わっり……ちっとジムメンの面倒見なきゃなんないから、勝手に帰ってくれてていいから」
と言って事務所を出て行ったリシウムの背を見届け、残されたのは私とクコの二人。
正直もう用事も終わったので、帰っても良いかなと思っているのだが。
「ん」
「えっと、ありがとう」
気づいたらクコが事務所に備えつけのポッドで紅茶を入れてくれていたため、じゃあそろそろ、なんて言いづらい状況。
別に急ぐ用事があるわけでも無いので構わないと言えば構わないのだが。
ただ今日初めて会ったクコと二人きりにされても、何を話せば良いのか分からない。基本的に私は人見知りの気があるのだ、相手のことも良く分からないままでいきなり楽しくおしゃべり、というのもハードルが高い。
「……あ、美味しい」
気まずい雰囲気を感じながらカップに口をつければ、程よい渋みと口から入ってすっと鼻から抜けていくような爽やかな香りが何とも心地よい。先ほどまで甘ったるい飴を舐めていたせいで、口の中が大分甘味で占められていたのをすっと押し流してくれるようだった。
マイナーとメジャーというのがどのくらい差異があるのか良く分からないが、ポケモンジムらしく使っている茶葉は結構いいやつのようだ。
それにシア母さんから聞いた話だが、紅茶というのは結構入れる人間によって風味が変わるらしいので、この紅茶を入れてくれたクコの腕が良いというのもあるのだろう。
「紅茶淹れるの上手なの……ね……」
話題ができた、と思ってクコのほうを見やれば自分で淹れた紅茶に角砂糖をごろごろと入れてティースプーンでかき混ぜているクコの姿があった。
というかカップの底に白い層が出来ているのだが、一体どれだけ砂糖を入れたのか。
紅茶を淹れる腕は良いのに、その風味を全部消し飛ばすがごとき量の砂糖。もう砂糖直接齧っても同じなのでは無いだろうかと思うほどにその量は酷いの一言だ。
薄々思っていたが、この幼女……凄まじい甘党なのでは?
まあそれはさておき、下の妹たちがくれたお菓子の包みを開けると丸い形のお菓子が出てきた。
「なにこれ……クッキー?」
にしてはサイズが二回りほど大きいし、何より分厚い。
中央には三方が凹んだ三角形のようなマークが入っている。
「みあれがれっと」
「ミアレガレット……聞いたことあるわね、これがそうなのね」
はて一体どういう経緯でもらったのかも思い出せないが、まああの子たち買い込んでため込む割に他人が欲しいと言ったら簡単にくれるので、何かの流れでもらったのだろう、多分。
食感は堅めだが指で押せば僅かに沈む……中は柔らかいのだろうか。
初めて食べるお菓子だが、まあミアレガレットはミアレの銘菓だと聞くし不味いわけが無いだろうと思いながら一口齧る。
「あ」
「ん」
舌の上に広がる甘味と同時に感じた塩味に思わず声が漏れた。
どうやら甘いお菓子なのは間違いない。ただほんの少し、アクセント程度に塩味も感じる。
あまじょっぱい、というのだろうか、何とも不思議な味だ。
外側はサクサクとしているのに中はふわふわとしていて何とも不思議な食感。
一つ食べ終えて口の中に残る味を美味しい紅茶で押し流せば、後味もすっきりとしてもう一つ、と欲しくなる。
「美味しいわね、これ」
「びみ、とても」
どうやらクコにも好評らしく二人して黙々とミアレガレットを食べ続け、気づけば包みに入っていた分は全て無くなっていた。
名残惜しそうにテーブルの上の空っぽの包みへと視線を送るクコに苦笑しながら。
「また妹たちにもらったら持ってくるわ」
そう告げると、クコが視線をこちらへと向けて。
「たいへん、かんしゃ」
ぺろり、と唇についたガレットの破片を舌で舐めとる様を見やりながら、やっぱどっちかって言うと妹よね、なんて思って……。
―――おねーちゃんはこみゅしょうなんだから! おともだちといっしょにたべるといいとアカリちゃんはおもいます。
そんな台詞と妹が共に包みを渡してきた時のことを思い出して。
「ね、クコ」
「なに」
だからだろうか?
「私と」
気づけばするっと、言葉が出てきていた。
「友達になってくれる?」
本編に説明長々書いてると一向に話が進まないという罠にようやく気付いたので、今度から適当に前書きにtips書くことにしました。
実機などにあるものの本作の世界観に基づいた説明、みたいなやつですね。
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ハマったら抜け出せない泥沼アドベンチャー
「なんだかご機嫌だね、ソラちゃん」
夜。
就寝前にスマホロトムを確認しているとユウリがじーっとこちらを見つめて呟いた。
その表情はどことなく不機嫌のようで、さて何かやっただろうか、と考えてみるが心当たりも無い。
「ユウリは何だか機嫌悪そうね」
「別に、そんなことは無いよ」
とは言っているが、いつもの笑みは消えてどことなくぶっきらぼうな言い方で返してくる。
「それで……ソラちゃんは今日何か良いことでもあったの?」
「今日? ああ、そうね。こっちで友達ができたわ」
ホウエンでも友人が居なかったわけでは無いが、学校時代の同級生だとか近所の同年代の子供だったりと友人といってもそこまで深い付き合いがあったわけではなかった。
それに私自身、結構人見知りな性質だったためこっちで新しく友人ができるというのは自分でも予想外な話だった。
ただあの後、ジムでクコとしばらく話していたのだが、同じトレーナーということもあって思っていた以上にウマがあったのか最後のほうは人見知りすることも無く互いに遠慮も無く話せていたと思う。
「へー。友達……良かったね」
「そうね。思ってたより気が合いそうだし、今度一緒に出掛けることになったわ」
「むう……」
ユウリの表情が先ほどよりもさらに悪くなった気がするのは何故?
何か琴線に触れてしまったのだろうが、私は父さんや一番下の弟のように人の感情にそこまで
ああ、だから。
「ユウリは……凄いわね」
「へ?」
「初めて会った時のこと少し思い出したけど」
ユウリは基本的に表裏の無い明るい性格で、誰からも好かれる少女だ。よく人に気難しいと言われ、人付き合いを疎むような私とは割と対象的で。
だからこそホウエンにも、恐らくこのガラルにも、ユウリの友人はたくさんいて、ユウリを好いている人は多くいて。
それは間違いなく、私には無理なことだ。
たった一人、友達を作ることにすら四苦八苦している私では到底敵わない話で。
昔。
幼かったこともあって取り繕うことすらなく相当に態度が悪かっただろう私に、けれどユウリは平然と近づいて最終的に親友と呼べる仲になるまで共に居てくれた。
もし私がユウリの立場だったら、もっと付き合いやすい友人を作ってそんな面倒なやつ放っておくだろう。
それでも何年も、何年もずっと一緒にいてくれて。
だから私は……。
「ユウリは……私と初めて会った時、面倒に思わなかった? 自分で言うのもなんだけど、相当に付き合い難い性格してたと思うけど」
もう終わった話、なんて割り切ることは今でもできないけれど。
それでも今となっては取り繕うくらいのことはできていて。
だからこそ、過去の……幼少の頃の私を思い出すと、相当に酷かったと思う。
「ユウリならもっと別の友達作れたでしょ。私に拘らなくても良かったと思うし」
実際、ユウリには私以外にも友人なら多くいた。
それでもユウリが『親友』なんて呼んでくれるのは、私たった一人だけで。
「全然思わなかったよ」
けれどきっぱりと、何の迷いも無くユウリがそう断言した。
* * *
昔から要領の良い人間だった。
やろうと思えばだいたいなんでもある程度できた。
勉強も、運動も、人付き合いも。
でもだからこそ逆に何でも浅く広く、で済ませて深入りすることが無かった。
勉強も、運動も……人付き合いも、だ。
何事もほどほどに。
それが昔からのユウリのモットーだったから。
実のところ、ソラが初めて会ったと思っている時にはもう、ソラのことはある程度知っていた。
ソラの両親……特に父親は有名な人だったし、親たちの間で話題になれば自然とそれは子供たちへと伝わっていく。
そして浅く、広く付き合いを持っていたユウリは色々な場面でその話題を耳にしていたので、自然とソラのことは記憶に残っていた。
周りの子供たちが友達たちと仲良く遊んでいる外で、ソラはその輪に混じることも無くいつだって弟のアオと共に居た。
同年代の子供たちが夢中で走り回っている時には、ソラは黙々と体力作りに走って。
同年代の子供たちが小学校の勉強に頭を悩ましている時には、ソラはトレーナーとして規範の勉強を進めて。
同年代の子供たちがポケモントレーナーになりたいと楽観的に話題にしている時には、ソラはポケモンの育成論を必死に読み進めて。
同年代の子供たちがポケモンのタイプ相性について学んでいる時、ソラはパーティ構築と裏特性について頭を悩ませていた。
昔からソラは……親友はポケモントレーナーになるために必死だった。
それはきっと共に成長するライバルがいたからなのだろ、と後に理解するのだが、その時のユウリにはそんなこと分かるはずもなく。
その気になれば『ある程度』何でもできるユウリにとって、自分と同い年の子供が生き急ぐかのように必死になって知識を詰め込み、体を鍛え、頭を悩ませている姿はまるで……。
ああ、そうだ。
そんなことを思ったのだ。
それが何よりも―――。
「羨ましかったんだよねえ」
「今何か言った?」
「ああ、いや、何でも無いよ」
別にソラと交友関係を築いたのは当時孤立気味だったソラを慮ってとかそんな理由ではなく、ユウリはユウリでちゃんと意味と意義があった。
結局のところ、ユウリにとってソラが一番の友達で、たった一人『親友』とそう呼ぶのはソラだけがユウリに深く関わってくれたからだ。
―――友達だからといって何だって許せるわけではない。
これでもユウリはそれなりに社交的だ……正確には『程ほどに』人付き合いが得意なのだ。
だからこそホウエンでも、ガラルでも友人と呼べる人間はそれなりにいる。
それでも結局のところ『仲が良い』だけなのだ、それだけでしかない。
もしユウリが本当に困った時に助けてくれる人はどれだけいるだろう。
もしユウリが本当に辛い時に慰めてくれる人がどれだけいるだろう。
もしユウリが苦しい時に支えてくれる人はどれだけいるだろう。
そういう意味でソラはコミュ障だろう。
ただ『良くも悪くも』と頭につく。
『良くも悪くも』ソラは距離感が極端なのだ。
基本的に排他的なのに、一度懐に入れた相手にはどこまでも寛容になってしまう。
もしユウリが本当に困っているなら、ユウリが本当に辛いなら、ユウリが本当に苦しいなら、ソラは持てる全てを投げうってでもユウリを助けてくれるし、慰めてくれるし、支えてくれるだろう。
例えそれがこれまでの人生の全てを費やしてきたものだろうと、それが必要ならソラは躊躇なく一切合切投げ捨てることができる。
「ズルいよ、ソラちゃんは」
「いきなり何よ」
ソラの全てが好きだと胸を張って言えるユウリだが、それでも一番好きな部分を挙げるなら多分そこなのだろう。
何においても広く浅く、深入りしないユウリと狭く狭く、けれどどこまでも深く、極端なほどに深く分け入ってくるソラ。
自分と何もかもが違うからこそ、ユウリはソラが好きだ、大好きだ。
でもだからこそ心配もしてしまう。
「新しい友達にソラちゃん取られちゃわないか、私は心配だよ」
茶化すように笑みを浮かべて告げるが、内心では本当に心配しているし、嫉妬している。
多分初めてなのだ、ユウリの知るかぎり初めてのことで、そしてユウリの知る以前のソラを考えればやはりこれが正真正銘初めてなのだ。
ソラが自分から友達を作るというのは。
先もいったがソラは極端なほどに狭く深い交友関係を築く。
つまりその新しい友達に対してもどこまでも深入りしてしまうんじゃないか、そう思ってしまうのだ。
ユウリにとってソラはたった一人の親友だ。
ソラは排他的だったから、ソラにとってもユウリは唯一の親友だった。
でももしかすると……いやもしかしなくても、唯一が唯一で無くなってしまうのではないか。
ユウリがソラにとって二人の親友の一人、になってしまうのではないか。
そう考えしまう。
―――ああ、やだなあ。
そう思ってしまう。
唯一で無くなってしまうことが、嫌だ。
「言えないなあ……」
聞こえないようにぽつり、と呟く。
言えない、言えない、こんな本心言えない。
こんな『
* * *
ハロンタウンから一度ブラッシータウンへ行き、ブラッシータウン駅から列車に乗って南へ。
ハロンタウン南の森を迂回するように西回りで下っていき、遠くに見えるは白く染まったな山々。
列車の中で暖房が効いているはずなのに徐々に下がっていく気温に体を震わせながら列車に揺られてたどり着いたのは『カンムリ雪原駅』だ。
『カンムリ雪原』は先の通り、ガラルの南の広がる雪原地帯だ。
『雪原』地帯、だ。
つまり―――。
「ささささ、さむ、寒い?!」
「列車の中で着ておけばよかったのに」
「こここ、こんな寒いなんて聞いてなな、なないわよよ」
防寒着なら駅に着いてからでも良いかと思っていたのだが、確かに暖房が効いているはずの駅の中でこれだけ寒いのなら列車の中で着ておくべきだったと後悔する。
一緒にやってきたユウリによるとどうやら駅の中に更衣室があるらしいので駅員に聞いて更衣室を借りて防寒着に着替える。
なんで駅にそんなものが、と思ったが今自分の状況を考えれば答えは明白だった。
「少しはマシになったわね」
「ふふ、お揃いだね、ソラちゃん」
「いや、大分違う気がするけど」
オレンジ色の防寒着を着た私の隣で、デザインこそ同じだが色合いがゴールドの派手派手しい防寒着を着たユウリが笑みを浮かべた。
というか何故同じデザインの防寒着を二着も持っているのだろうか、そんな疑問を抱くがまあ今は横に置いておく。
問題は。
「防寒着着てても寒いわね」
「凄いよね、ここ」
「この雪原の中、どこにいるかも分からないフリーザーを探して歩き回る……?」
「そうなるね」
「やっぱりフリーザーは諦めましょう。私には縁が無かったのよ」
「いやいやいや」
ダー君とフーちゃん(ファイヤー)がいる時点でもう十分だろう。
と背を向ける私をユウリが引き留める。
「折角ソラちゃんと一緒に遊べるのにもう帰るとかやだー!」
「子供か……ていうかユウリ何で来たの?」
「来ちゃダメだった?」
「別に良いけど前は来ないみたいな話だったのに」
それで防寒着だけ借りて来ようと思っていたはずなのに、気づけば列車で隣の席にいて、あれ? となってしまっただけだ。
「新しいお友達にソラちゃん取られないように、好感度上げに来ました!」
「何言ってんのアンタ?」
偶に良く分からないことを言う時はだいたい無視しても良いやつだ、付き合いも長いからその辺は弁えている。
というわけで話を進めることにする。
「それで、ユウリがフリーザーを見たのってここで良いのよね」
「そうだよ、正確にはこの先のフリーズ村の先の奥だけど」
列車の中でマップデータをユウリに送ってもらったのでスマホロトムで地図アプリを起動して確認する。
今居る場所が『滑り出し雪原』、ここから少し進むと『フリーズ村』。
その奥が『巨人の寝床』や『いにしえの墓地』となっている。
ここからでも見えやしないだろうかと目を凝らしてみるが、白化粧された大地がひたすらに広がるだけで何も見えない。
聞くところに寄れば、ここからさらに雪が降って来ることもあるらしく、酷い時は吹雪で前が見えなくなるんだとか。
「うん? ユウリ、この『マックスダイ巣穴』って?」
ここからフリーズ村よりさらに近くに表示されたアイコンをタップすれば『マックスダイ巣穴』についての簡易説明が表示される。
どうやらダイマックスポケモンが出現するらしい、というのは良く分かったのだが、この偶に『伝説のポケモン』が顕れるというのは一体……。
「えっと……」
ユウリに視線を送ると珍しく少し困ったような表情で親友が言葉を濁した。
「何か問題ある場所?」
「いや、そういうわけないんだよ? ただ今は行かないほうが良いかなって」
「ん?」
「珍しいポケモンとか凄く強いポケモンとかいっぱいいるし、偶に色違いとかも出てくるし、噂だと『伝説のポケモン』なんかも確認されてるらしいんだけど」
何だその凄まじい場所は。というか本当に『伝説のポケモン』いるのか……?
なんて戦慄していると、ユウリが少し言葉を溜めて。
「私もね、一回挑戦したことあるんだけど」
「だけど?」
えっと、とユウリが言葉を躊躇うように口を開いて。
「面白すぎてほんのちょっとだけ、って思いながら気づいたら二週間くらい時間が経ってました、はい。正直やることがある時に行っちゃダメなやつだよ」
「は?」
出てきたのは予想外の台詞だった。
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大昔に絶滅したとされる野生の化石ポケモン
『マックスダイ巣穴』にて行えるコンテンツ。レンタルポケモンを使用してダイマックス状態のポケモンと4連戦する。レンタルポケモンを使用する関係上、手持ちのポケモンの強さに左右されず、尚且つレベルの高い希少なポケモンなどもゲットできる。ただし基本的にレンタルポケモンは『弱い』ので4人で協力して戦わなければ4連戦中に合計で4回『ひんし』になると強制終了してしまう。特に4戦目には『伝説のポケモン』なども登場するので人気のコンテンツだった(マルチできる人には)。ソロだと無理ゲー過ぎて泣けてくるが、マルチでも割とどのレンタルポケモンが出るか運次第なところがある。『全体技』連打してくるような相手に『ワイドガード』とか無かった場合、マルチでもあっさり強制終了させれる。おのれ糞ランド『じしん』連打は許されない。
そしてこの世界の場合において、『伝説のポケモン』とはつまり……?
「絶対に寄り道じゃ済まなくなるなるから止めといたほうが良いよ!」
というユウリの言に従って『マックスダイ巣穴』をスルーして『フリーズ村』へ。
「王様もここで会ったんだよね」
「王様?」
「バドレックスっていうガラルの伝説のポケモンだよ!」
図鑑のほうにデータを送られてきたので目を通す。
>>『バドレックス』
>>キングポケモン
>>『くさ』『エスパー』タイプ
>>『いやしと めぐみの ちからを もつ じあいに みちた ポケモン。 はるか むかし ガラルに くんりんしていた』
>>『おおむかしの ガラルを すべていた でんせつの おう。 こころを いやし くさきを めぶかせる ちからがある』
外見的には……二足歩行のウサギに緑色の球体を乗せたような感じだ。
ぱっと見だとそう強そうには見えないが、それでも『伝説のポケモン』らしい。
『超越種』かどうかまでは分からないが、それでも相当にスゴイポケモンなのは事実らしい。
余り区別されていないが別に『伝説のポケモン』が全て『超越種』というわけではない。
というか寧ろ『超越種』という区分自体が一般的には知られた呼び名ではない。所有者のユウリ自身すら知らなかったように。
私自身、父さんに聞いただけなのだが、他にこの呼び方を知っている人はどれくらいいるのだろう。
「まあ取り合えず今はこの村に用事も無いし、さらに奥に行きましょうか」
「はーい」
そんなわけで特に用事も無かった村をさくっと抜けてさらに奥へと進む。
そうして村を出て少し歩くと雪原を抜けて草原へと変わる。
「この辺りから雪が積もってないのね」
「基本的にあの山の周辺しか降らないからねー」
と言いつつ視線を山のほうへ向ける。
真っ白に雪化粧された山は見るからに寒そうで、思わず体を震わせてしまう。
とは言えこうして雪原を抜けると少しずつだが気温も上がってきているらしい、防寒着を着ていると僅かに汗ばんできた。
前のチャックを少し下げて熱を逃がしながら歩くと、前方に石造りの建物が見えた。
「あれは……黒鉄の遺跡?」
アプリでマップを確認しながらピンチアウトしてマップを拡大する。
名前が表記されている、ということはある程度知られた場所らしい。
「あーあそこね。『レジスチル』っていうポケモンがいたよ」
「え?」
とても良く聞いた覚えのある名前に、思わず固まる。
「レジ?」
「うん? そうだよ、レジスチルっていうなんか顔のところが点々になってるポケモン」
「もしかして他にも居なかった? アイスとかロックとか」
「ソラちゃん良く分かったね! あとレジエレキっていうのとレジドラゴっていうのもいたよ」
「そっちは知らないけど、え……待って、てことは、いや無いとは思うんだけど」
そのラインナップを見るとどうしても嫌な予感が拭えない。
「レジギガス、とか居ないわよね」
「居たよ?」
「…………」
絶句である。
いや、いてもおかしくないのだ。
『超越種』とは別に固有の存在ではない。ただそこまで『至れた』存在が二匹も三匹もいるはずがないくらいに異常なだけで、可能性だけを言うならば同じ種の二匹目が存在する可能性はあるのだ。余りにも可能性が低いだけにほぼ皆無と言っても過言ではないけれど。
ただレジギガスに関しては確かに『あり得る』。
いや、私だって父さんに聞いただけだが……この手の話は本当に父さんが強い。
専門外の話のはずなのに、考古学者の人とも普通に神話の話ができるくらいに多くの知識を持っている。
その知識に寄ればレジギガスとは作られた存在だ。ならば二体目が居る、というのも決して無い話ではないのだが。
「よく無事だったわね」
「まあムゲンダイナとかザシアン、それに王様もいたからねー」
「だから、何だけど……まあ良いわ」
レジギガスというポケモンの性質を考えるとだからこそ、という気もするのだが、まあ今こうして話せるのだから無事だったのだろう。
「ユウリが捕まえたの?」
「私じゃなくてお姉ちゃん……『ノーマルタイプジム』のジムリーダーだよ」
「うーん、それは怖いわね」
「だよねー。去年からメジャーリーグでキバナさんとバッチバチにやってたけど、今年のファイナルトーナメントが早くも怖いよ~」
呟きながらユウリが体を震わせたのは間違いなく寒さのせいだけではないだろう。
ただそれを『超越種』を三体も所持しているユウリが言うのか、とは思うが。
そんなことを考えながら草原を進んでいくと進行方向が崖を挟んで登りと降りの三叉路になっていた。
「どっちに行く?」
「うーん、下まで降りてからまた上まで登るのも大変だし、先に上から行っちゃお?」
「そうね」
登るほうの道を進んでいく。
この先は『巨人の寝床』と呼ばれる場所らしい。
ユウリ曰く、レジギガスが出現したのもこの『巨人の寝床』らしい……まあもういないが。
「しかし……結構深いわね、ここ」
「ワイルドエリアで言うところの『中間域』と『深域』の間くらいだからねー」
「それ、入って大丈夫なの?」
「ワイルドエリアと違ってこっちは特に規制は無いよ」
命の保証も無いけど……とぼそりと付け加えたユウリの一言に恐ろしいことを言う、と半眼になる。
まあ実際、野生環境下での事故というのは良くある話なのでこうやって自分の足で踏み入っている時点でそれは自己責任の範疇ではある。
『ピッピにんぎょう』があれば大丈夫、とか楽観的に考えている連中も多い、実際のところ野生のポケモンが真正面から正々堂々と勝負をしかけてくるはずなどない。
「ギャァォォォ!」
―――そう、例えばこんな風に。
「っと!」
「にゃぁ?!」
上のほうから聞こえた咆哮と僅かに耳に届いた風を切る音に、咄嗟にユウリを掴んで身を屈める。
僅かな差で真上を何かが通り過ぎるような気配に、視線を向ければ。
「は?!」
「あ、珍しいのがいるね」
全体的にグレーの色。後頭部に突き出た二本の角と大きな口。両の手があるべき位置には大きな翼があり、翼の先と足元には鋭い鉤爪が伸びている。
そうしてばっさばっさと大きく翼をはためかせながら空中に佇み長い尻尾を揺らしながらこちらを睨みつけていたのは。
「ぷ……プテラ?!」
太古の昔に絶滅したはずの『かせき』ポケモンがそこにいた。
* * *
「プテラゲット!」
「おめでとー」
まあ突然襲い掛かられたのには驚いたがそれだけだ。
中々レベルの高い相手ではあるが、それでもダーくん一体いればどうにでもなる程度でしかない。
さっくり倒してゲットする。これでこちらに来てから七体目の仲間だ。
リシウムから『ひこう』ジムの施設を借りる約束ができているのでもう少し数が欲しいところだ。
去年ホウエンのほうでリーグに挑戦して分かったが、6体固定のパーティというのは非常に辛い。
どうやってもポケモンバトルというのは相性が出る部分がある。面子を固定してしまうと相性が悪い相手にはとことん不利になってしまうのだ。
幸い私の場合は『ひこう』タイプの弱点を消せるという大きな強みがあるので『ひこう』統一でも十分な力が発揮できる。
後は個々の能力や特性などに合わせて『幅』を作っていくことが課題だろう。
「それにしてもやっぱり出てくるポケモンのレベルが高いわね」
確かにダーくん一体いればどうにでもなる程度でしか無いのだが、それでも体感レベル60以上といったところ。ガーくんやキューちゃんではまだ敵わない相手ではある。
「基本的にこの辺りはもう人の手の届かない場所だからねー」
ユウリ曰く、そもそもこのカンムリ雪原自体が半ばガラルから隔離されており、滅多に人が来るような場所ではないらしい。
『フリーズ村』も基本村の中で完結しており、外部との交流もほとんど無いらしく、村より奥となるこちら側ともなると人の行き来などほぼ皆無に等しいのだとか。
「人の手が入っていない野生の領域の奥深くほど強いポケモンもたくさんいるしねー」
しかしそうなるとフリーザーを探すのが思っていたより難易度が高いかもしれない。
手持ちでここの領域のポケモンと戦えそうなのはダーくんとフーちゃんだけだろう。
ただ余り連戦を重ねてダーくんとフーちゃんに負担をかけすぎるのも不味いし、何よりさらに深奥へと行けばさらなる強敵がいることも予想される。
「……あれ?」
そう考えて、ふと気づく。
奥へ奥へと行くごとに敵は強さを増す。
となればダーくんやフーちゃんですら連戦で疲労を重ねればやられる可能性もある、ということだ。
だとすれば。
フリーザーとはそんな場所を悠々と飛べるほどに強いのか?
恐らく否だ。
ダーくんとフーちゃんの二匹は相性の差はあれど強さという意味ではそれほど差異が無い。
となればフリーザーも同じくらい、と考えるのが自然だろう。
だとすせば、野生のポケモンがそんな危険な環境にあえて身を置くだろうか?
「思ったより近いのかもしれないわね」
この雪原を飛び回っているというフリーザーの行動範囲は、けれど『巨人の寝床』からそう遠くは無いのかもしれない。
そんな風に考えて改めてマップを見直して。
「いや、やっぱ広いわよこれ」
北は雪山、西は村、東に盆地と洞窟、そして南はひたすらに広大な草原。
現在地からフリーズ村くらいまでを半径として指先でぐるりと円を描いてみるが、やはり相当に広い。
これを自分の足で歩いて探す、というのは難易度が高すぎるだろう。
「ユウリ、何か手がかりとか無い?」
「うーん、さすがにこれ以上は……」
思考に行き詰ってユウリに無茶振りしてみるが、ユウリもさすがにこれ以上ぽんぽんと情報は出てこないらしい。どうしたものか、と考える。
しばらく悩んでいると、ユウリがそう言えば、と前置きして。
「逆に考えてみよう。サンダーとファイヤーはどうやって見つけたの?」
ユウリに言われて考えてみる。
ダーくんはワイルドエリアを爆走していたのを見つけたのだ。
といってもあれはダーくんが凄まじく目立つ走り方をしていたから気づけたのであって、他のトレーナーたちに追われることも無く普通に歩かれていたら恐らく気づかなかっただろう。
「……目立つ? 目立たせる……?」
今何か出てきたような気がする。
ただそれが何なのか分からず紋々とするので思考を切り替えて次はフーちゃんの時のことを思いだす。
フーちゃんもヨロイ島のどこか、という曖昧過ぎる情報に悩んでそれで……。
「あっ……あああああ!」
―――探したのは住処ないし餌場だ。
つまり。
「ユウリ、聞きたいことがあるんだけど」
今思い付いたソレが実行可能かを考え。
自分よりもこの雪原を知っているだろう少女にいくつか質問する。
そうして。
「フリーザー、これで炙りだしてあげるわ」
一つ宣言し、口元が弧を描いた。
* * *
『巨人の寝床』を南へ、下り道を進んでいき『いにしえの墓地』をさらに南へ。
そうして川を一つ挟んだ向こう岸が『ボールレイクの湖畔』だ。
「恐ろしい川ね」
「あっぶなかったねー」
川の上をポケモンたちに運んでもらおうと飛んでいたら、川から突然ギャラドスが飛び出してきたのだ。
不意打ち気味に川から飛び出して襲い掛かってくるギャラドスに突然どこからともなく飛来した水流がぶつかってギャラドスを一瞬怯ませなければ一撃食らっていたかもしれないところだった。
「さっきのどこからともなく水が飛んできたけど、何だったのかしらね」
「ねー、不思議だよねー」
笑みを浮かべて私の言葉に同意するユウリを半眼で見つめる。
そんな私の視線に笑顔で返すユウリに、中々
「大きいわね」
「うん。すっごく大きい」
『ボールレイクの湖畔』の中央に見えるのが『ダイ木の丘』だ。
湖の真ん中の陸地に生えたとてつも無いサイズの大樹が『ダイ木』ということになるのだろう。
ピンク色の花がとても綺麗なのだが、サイズ比がおかしいせいか、スケールが違い過ぎて何かもう現実味が感じられない。
「それで、最初にフリーザーとはここで出会ったのよね?」
「あとサンダーとファイヤーもそうだよ」
「やっぱりここがフリーザーの餌場ってことで良さそうね」
生物である以上何か食べて生きているのは確かで、ファイヤーと同じく『きのみ』を主食としているならどこかに『餌場』があるはずだ、と予想した。
そこでユウリが最初にフリーザーたちと出会った場所に生えている木とそこに多くの『きのみ』がなっていることを思い出し、その言に従ってここまでやってきたのだが。
「フリーザーだけじゃなくてそれ以外もうようよね」
これだけ大きな木に大量の『きのみ』がなっているのだ、それを餌にするポケモンも多く来るし、そのポケモンを追って来るポケモンもいて周辺はポケモンだらけだ。
しかもどいつもこいつも総じてレベルが高い。
一対一ならダーくんたちでも余裕だが、これが全員襲って来るとなるとさすがに危険だ。
「仕方ないわね……」
余り取りたい手では無かったが。
「ユウリ、手伝ってくれる?」
「オッケーだよ!」
親友の手を借りるとしよう。
なんでプテラが野生にいるんだ???
という疑問。
プテラは化石から復元された時に暴れてトレーナーにすら怪我を負わせることもあるらしいので、多分逃げ出したやつが野生化して繁殖したんだよきっと。という結論になった。
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一匹だけ目の色無くなって目からビームが飛び出すやつ
究極的に言えばポケモンバトルは『サイクル』と『居座り』の二種類に分けられる。
居座り型は基本的に場のポケモンで行けるところまで行く、というやり方であり場に出た時に自分の能力を上昇させたりHPを回復できたりと『単体』でスタイルが完結している。
それに対して交代を駆使するのがサイクル型であり、味方と交代した時を条件とした能力を持っていたり、特定条件化で味方と交代できたりと交代という手番の隙を埋める手や、交代そのものにリターンを持たせる
技術が多い。
基本的にどっちが強いかと言えば『サイクル』型のほうが強い。サイクル型の基本は『不利なポケモンを相手にしない』ことと『有利なポケモンに交代して相手を叩く』ことを基準としており、基本的に相手に勝てるポケモンを出すので相手が交代しないなら大概勝てる状況に落とし込める。ただし交代という一手番を無駄にする大きな隙があるためその隙をどうやってなくすかトレーナー自身の『読み』が必要とされる。
また『サイクル』型同士が交代を駆使して戦うことを『サイクル戦』と呼ぶ。
『サイクル』戦では同じポケモンが3ターン以上場に居座ることが珍しくなる、何故なら出されたポケモンに対して常に後出しで『勝てるポケモン』が出てくるから。勝てないポケモンは逃げるか、もしくは倒されるの覚悟で『死にだし』で対面をリセットしようとする。リセットされた対面が不利なら味方も交代することが多く、故に3ターン以上同じポケモンが居座っているということは交代できるポケモンが居ない、というサイクルが破壊されている状況である可能性が高く、自分が負けかけているか相手をほぼ詰ませかけているかのどっちかの時が多い。
また常に交代を多用するため相手の交代際には多くの選択肢が生まれる。
①『相手の交代先を読んでこちらも交代で出てくる相手に有利なポケモンへ交代する」
②『相手の交代先を読んで交代先に大きなダメージを期待できる技を出す』
③『相手の交代先を読んで変化技で相手の実力を発揮できないようにして、次のターン以降の有利を取る』
④『相手の交代の隙に補助技を使って次のターンに備える』
など多くの選択肢があり、当然ながら相手も『交代読み』の行動を『読んで』動くこともあるため互いに相手の行動を『読む』ことで実際の選択肢は膨大なものになる。
例えばの話。
レベル100の野生ポケモンがいたとして、それはプロトレーナーの操るレベル100のポケモンと同じ強さなのか。
答えは否、全く持って否である。
それが同じ強さを持っているのならば『ポケモントレーナー』などという存在は生まれなかった。
ポケモンは人と共にあるからこそより強くなれる。
その極致とも呼べるのが恐らくソラの両親だろう。
だからこそ、ソラは……。
* * *
「これでだいたい片付いたわね」
「戻って、ウーラオス」
ユウリが手持ちをボールに戻しながらこちらに合流する。
先ほどまで『ダイ木』の周辺にいたたくさんのポケモンもこれでだいたい追い払えただろう。
別に生態系を乱したいわけではないので、あくまで追い払う程度だ。多分私たちがこの場から去ったらまた追い払ったポケモンたちも戻って来るだろうし、それで良い。
ただ一時、この場から他のポケモンたちが居なくなれば、それで良いのだ。
「これで準備は良いわね」
『ダイ木』の前でボールを二つ取り出して。
「ダーくん、フーちゃん」
二匹をボールから出すとダーくんは『ダイ木』の周辺を歩かせ、フーちゃんは『ダイ木』の上空を旋回させる。
ユウリに寄ればサンダーとファイヤーとフリーザーの三匹はどうも顔を合わせると争い出す程度には仲が悪いらしい。
そんな相手が自分の餌場をうろちょろしている、となれば……野生のポケモンが果たして無視できるだろうか。
この広いカンムリ雪原を飛び回るフリーザーを探し出すというのは骨が折れる。
ならば向こうから来てもらおう、というのが今回の作戦。
そうして十分か十五分ほど経過して。
―――ォォォォォォ
遠くから声が聞こえた。
「来た……ユウリ」
「はーい、後ろで見てるから頑張ってね、ソラちゃん!」
視線を空へと向ければ遠くから飛んでくる紫がかった姿。
滑空している様子でも無いのに両の翼を羽ばたかせることも無くスイスイと宙を泳ぐかのように進むその姿は。
「来たわね、フリーザー」
恐らくだがタイプは『エスパー/ひこう』。
どう考えても飛び方がおかしい。翼が全く動いてないのに上下左右自由に動けるのは恐らく『サイコパワー』だ。父さんの手持ちに同じように『サイコパワー』で浮かび上がって飛ぶ種族がいるので、何となく分かる。
そうしてフリーザーがこちらへと近づき、互いを視認した……瞬間。
“フェイクアバター”*1
「は?!」
―――フォォォェェェェ!
「っ! フーちゃん!」
“もえあがるいかり”
急降下するフリーザーのその姿が二つ、三つ、四つと別れる。
咄嗟にフーちゃんに攻撃を撃たせるが、フリーザーに命中した攻撃は……そのままフリーザーをすり抜けていく。
「『かげぶんしん』みたいなものね……となると」
厄介かとも思ったが、対処法はある。
「ダーくん! こっちに寄せて」
“らいめいげり”
“いてつくしせん”
下から迫るダーくんの飛び上がっての蹴りをフリーザーが躱しながら反撃とばかりにその両目から光を放つ。
咄嗟に風を吹かせ、ダーくんの体を光線の射線から逃すと、フリーザーが追撃せんとダーくんを追い……こちらの射程内に入って来る。
「近づいた……今!」
同時に心の中で撃鉄を落とす。
“ぼうふうけん”
発生した風と雨が『おおあらし』となって周囲一帯に吹き荒れる。
先ほどまでとは一転した突然の場の変化にフリーザーも一瞬戸惑う。
だがやはり『ひこう』タイプも入っているらしい、この『おおあらし』の中で平然と滞空している。
とは言え。
―――それなら、それでも良い。
「フーちゃん、吹っ飛ばせ!」
“ぼうふう”
放たれた荒れ狂う風は嵐の力を取り込みながらその威力を増し、必中の技となってフリーザーを吹き飛ばす。
―――フォォォォォェェ!
どうやら先の分身の中に『みがわり』が混じっていたらしい、この嵐の中で『ぼうふう』を受けてもピンピンとしている。
だが同時にさすがに野生のポケモンか、このままでは危険だと感じたらしいフリーザーが咄嗟に飛びあがる。
攻撃してくるか、と身構えたが即座に反転して元来た方向へと飛び立とうとして……。
「逃がさない、わよ!」
逃げ出そうとするフリーザーの進路上にはガーくんとキューちゃんが待ち構えている。
レベルはフリーザーより低いかもしれないが、けれど『はがね』タイプも持つガーくんは『エスパー』技も『ひこう』技も半減して受けれるため簡単には突破できない。
キューちゃんもガーくんの後ろから援護射撃して、ガーくんへ攻撃を集中させず、そうしてフリーザーが突破に手間取れば……。
「キィアァァァァ!!」
『わるだくみ』を積み上げたフーちゃんが後方から追いつき『ぼうふう』を飛ばす。
今度は『みがわり』も無かったらしくフリーザーが吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。
それでもさすがにレベルの高さか、フリーザーがまだ動かんと体を起こして―――。
“らいとううんぽん”
“ドリルくちばし”
フリーザーの次の行動を待つより先に、地上で待機していたダーくんが待っていたとばかりにトドメの一撃で『急所』を抉りフリーザーが完全にダウンする。
「これで、お終いよ!」
フリーザーが余力を失くし『ひんし』になるより早く構えていたボールを投げれば赤い光がフリーザーを包み……。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
「三匹揃えたわよー!」
ぐっと両の拳を突きあげてのガッツポーズ。
ここまでの苦労を考えれば最後はややあっさりしていた気もするが、それでも成し遂げたという事実に興奮していた。
「おめでとーソラちゃん!」
「ありがとうユウリ」
親友の祝いの言葉に嬉しさを感じながらも結局最終的に戦うことになる相手はその親友なのだという事実に少し複雑な気持ちにもなる。
とは言えやりきったのだ。
サンダー、ファイヤー、フリーザー。
このガラルで出会った三体の強大な鳥ポケモンたちを見事全員捕まえた。
誰でもない、私の力で掴み取った結果だ。
それだけは誰に対しても自慢できる、私の成果だ。
だから。
「準備はだいたい整った、かしらね」
アオガラス、ペリッパー、サンダー、ファイヤー、フリーザー、それにヤヤコマにウッウにプテラ。
これで八体。アオを入れて九体。
最低限は揃った、と見て良いだろう。
「あと一匹か二匹くらいなら捕まえても良いけど……」
まあそれは追々としておこう。
それよりまずは―――。
「帰りましょうか、ユウリ」
「そうだねー」
現在二月の半ば。
ジムチャレンジの開始が四月から、となるともうそれほど猶予は無い。
まあ実際ジムチャレンジが開催されてからも数か月の猶予はあるのだが。
「でも半月で終わって良かったよ。ちょうどもうすぐだったからね」
「もうすぐ? 何かあったかしら?」
「チャンピオンカップだねー」*2
ガラルにおけるポケモンバトルとは『興行』だ。
故にリーグ所属のプロトレーナーはリーグ開催の公式試合とは別に『年間試合数』というのが決められていて、チャンピオンやジムリーダーが主催する大会に参加したりして一定回数以上のバトルをすることが義務付けられているらしい。
「なんというか、異文化よねー」
大多数の地方ではプロトレーナーは『強さ』を求められる。求めるのではなく、求められるのだ。
だがこのガラルで求められるのは『強さ』よりも『人気』だ。ポケモンバトルがより商業に密接しているが故なのかもしれない。
とはいえだからといってガラルのトレーナーのレベルが低いかと言われればそんなことはない。
ユウリなど三体の『超越種』を従えているし、クコなどを多少見ただけだが相当にレベルが高いのも分かる。
故に程度が低い、というのとはまた違っていて、文化が違う、としか言い様がない。
一番驚く話だがこのガラルにおいて『サイクル戦』というものがほとんど無いらしい。
ただ聞けば納得する話でもあるのだ。
ガラルのプロトレーナーは自分のパーティの『エース』*3を六体目に固定し、六体目をダイマックス、キョダイマックスして殴り合うのが主流らしい。
サイクル戦とは6体のポケモンを駆使して行うためその内の1体をラストに固定するだけで交代先の選択肢が5体から4体へと減ってしまうことになる。
また基本的にプロトレーナーの大半が『ジム』系のトレーナー、つまりジムリーダーかジムトレーナーのため、使用タイプが半ば固定され気味になってしまっている。
交代際相手の攻撃を受ける際に最も注意しなければならないのは『タイプ』だ。
弱点なら2倍か4倍、耐性があれば半減か1/4と最大と最小で16倍ものダメージの差異が生まれるのだ。
故にタイプが統一されているジムリーダーやジムトレーナーたちでは『
ならまあ居座り型が増えてしまうのも無理は無いのだろう。
そして居座り型が増えるため、ガラルの環境*4は『いまひとつ』だろうとなんだろうと能力を上げて相手を叩くことを主流としている。
タイプ相性でダメージが半減するなら威力を2倍にして対応すれば良い、とか頭の悪い戦術をしているパーティが多い。
つまりガラルとはポケモンの育成を得意とする『ブリーダー』タイプのトレーナーが多い環境なのだ。
ポケモンバトルが商業にダイレクトに絡む分、そこに発生する利益は他地方よりも跳ね上がることになる。つまりプロトレーナーの収益もその分跳ね上がるのだ。
金があれば強い、というわけではないが、育成する環境を整えるのにもポケモンバトルで使う道具を買うのにも金はいくらあっても困るものではない。
まだポケモンジムという最新の育成環境がリーグ委員会によって常に整えられているというのもその傾向に拍車をかけているのだろう。
どれだけ育成能力の高いトレーナーだろうと、育成環境が無ければその能力が十全に発揮されることは無い。
逆に言えば育成環境に多額の資金をかければ多少育成が苦手だろうと、それを補って余りあるということだ。
こうしてみると本当にガラルという地方は異色だ。
だからこそこんな環境が生まれたのかもしれないが。
「ホント、異文化だわ」
嘆息一つ、もう一度呟いた。
* * *
「ちるる?」
ポケモンを育成するということは簡単なことではない。
例えジムという育成施設の存在があるとしても、だ。
私も育成の手ほどきをしてもらったとは言え、まだ二年目のトレーナー。
一年目よりは慣れているかもしれないが、それでも二十も三十も育てられるわけではない。
故に十体……アオはこれ以上の育成が必要無いのでつまり後二体までを限度して育成しようと思っていたのだが。
「ゲットォ!」
互いの視線が合った瞬間、私が咄嗟に投げたモンスターボールが『きのみ』を啄んでいた
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「はっ?! 咄嗟にやってしまったわ」
「ホントいきなり投げたね、ソラちゃん」
隣でユウリが少し呆れているような声音で呟くが、そんなことは気にせず転がったモンスターボールを拾う。
早速ボールからチルタリスを出すと、ぶるり、と一度体を震わせてこちらを見つめ。
「ちる?」
「可愛いわねこの子」
それにもふもふだ。
それにもっふもふだ。
何も考えずに無意識にボールを投げてしまったが仕方ないのだ……このもふもふが私を狂わせたのだ。
「やばいわこの子……通常の三倍のもふもふよ」
「何それ? いやでもこのもふもふは凄い」
いやそれにしてもスゴイ羽毛の量だ。三倍は言い過ぎにしても普通のチルタリスより遥かに羽毛が多い。
ふと気になって図鑑で解析を行う。
【名前】―――
【種族】チルタリス/原種/特異個体
【レベル】67
【タイプ】ドラゴン/ひこう
【おや】ソラ
【特性】もふもふ
【持ち物】―――
【技】ムーンフォース/ドラゴンダイブ/フェザーダンス/コットンガード
「もふもふだわ」
「もふもふだね」
特性にもなるくらいに『もふもふ』であることがここに証明された。
というか特異個体。
「いるところにはいるものね」
「あーガラルって何か特異個体と変異種が多いんだよね、土地柄っていうか……ダイマックスと同じく土地の下から湧いてくるパワー? みたいなの影響されて変異しちゃうケースがあるんだって」
「そうなのね」
噂に聞く『ホロン地方』などの例を見るに、ガラルのそれもまた土地柄なのだろう。
しかし『もふもふ』とは良い特性である……いや、単純な手触り最高なのだが、それ以上に『直接攻撃のダメージを半減してくれる』という凄まじい性能を持つ。
「思わず捕まえちゃったけど、思ってた以上に優秀だわ」
上手くやれば……もっと強くなるかもしれない。
そう思えば今からもうすでにワクワクとした気持ちが止まらなくなった。
作者的に言えば一番重要なのは『相手の読みの深さ』を知ること。深く読める相手と浅く読む相手だと案外浅いほうが素直に行動する分、深読みし過ぎて一手ミスった、とか良くある。この場合、相手がどのくらい読んでくるのか、という相手の読みの深さを知るために『まもる』や『みがわり』をしたり、比較的安牌に交代したりして相手の読みの『一歩上』を探る必要がある。
ただし実機のように3:3の見せ合いシングルの場合、選出で6割、一番手で3割以上勝負が決まってしまうこともあって、読み以前の問題な場合も多い。
正確には3:3シングルだと選出が一番『読み』を必要とする。
というわけでさっくりフリーザーも終了。
いやだってフリーザーの場合、サンダーとファイヤーに囲まれて、『おおあらし』で必中ぼうふう撃てる時点で詰みだし(
いや、強いのは強いんだよ? フリーザーも。
【種族】フリーザー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】87
【タイプ】エスパー/ひこう
【性格】ずぶとい
【特性】シックスセンス(場に出た時、命中と回避ランクを上げる。HPが満タンの時、優先度0の『エスパー』技の優先度を+1する。)
【持ち物】―――
【技】いてつくしせん/ぼうふう/サイコカッター/サイコシフト
【裏特性】―――
【技能】『????」
????
【能力】『フェイクアバター』
場に出た時、自分の『回避』ランクを+2にし、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動しない。
相手の攻撃を『回避』するか『みがわり』状態が解除された時、味方と交代できる。
場に出ただけで『回避』+3と『みがわり』状態という嫌なな組み合わせ持ってる上に『みがわり』剥がれたら逃げ出す結構面倒な相手なんだけど必中『ぼうふう』ぶち当てられて数の差で囲まれて逃げ出せなされて、『みがわり』剥がれて『ぼうふう』で叩き落とされたところにダーくんに『急所』抉られたら誰だって降参だよ(
あとチルタリスは前回捕まえるの忘れてたからこっそり追加しときました(
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ヨイヤミガラス①
『専用個体』というのは非常に特別な存在だ。
個体がトレーナーに最適化する。
と言うと中々イメージが掴めないと思うが、言い方を変えてみれば良いのだ。
最適化した相手であるトレーナーに率いられている限り、常にフルスペックが発揮できるのが『専用個体』なのだと。
例えばの話。
『みず』ポケモンは陸地より水中のほうが力を発揮できる。
それは生態としての部分に起因する話であり、訓練でどうこうできる程度の話ではない。
故に育成で『地上でも水中と同じように動ける』ようにしてやるのだ。
例えば天候『あめ』や『みずびたし』などを条件として場を水気に溢れさせることで『みず』ポケモンはその力を最大限に発揮できる。
逆に『ほのお』ポケモンが『あめ』の中で全力を出し切れるか、と言われると……。
『いわ』ポケモンや『じめん』ポケモンは当然ながら砂地や岩場を利用することでその力を大きく引き出せる。故に『すなあらし』や『ステルスロック』などを起点として使うのだ。
そうすることで『いわ』や『じめん』タイプは起点を使って大きな力を発揮することができる。
正確に言えば大きな力を発揮できるように『育成』することができる。
『育成』とは根本的にはその個体が秘めた力を引き出すための『条件付け』を行うことだ。
『みず』ポケモンなら『水辺』を条件として。
『ほのお』ポケモンなら『熱』や『火』を条件として。
『でんき』ポケモンなら『電気』や『雷』を条件として。
『裏特性』における条件とは単なる制限ではなく寧ろ逆なのだ。
『この状況においてこのポケモンはこういうことができる』という
『専用個体』とはその条件の全てを『トレーナー』に依存することができる。
自らがトレーナーに最適化したからこそ、その相手であるトレーナーが指示を出しているというだけで『最大の力を発揮する状況』になるのだ。
もっと簡単に言えば、適応した相手のトレーナーが指示を出している時に限って『ほぼ無条件で』で『大抵のこと』ができる。
例えば特に条件も無く技の優先度を上げたり、条件も無くダメージを軽減したり、条件も無くHPを回復したり。
トレーナーの『必要』に応じていくらでも自分を『適応』していけるが故に『専用個体』。
だからこそトレーナーの『育成』に応じて理想のポケモンとなる資質を持つ。
けれども結局は『無い袖は振れない』のだ。
『適応』するためには下地となる力が必要になる。
いくら『専用個体』だろうとレベル1ではトレーナーの『必要』に応える『適応』させるだけの『余地』が無い。故にレベルを上げて自らの余力を作ることこそが最も重要だ。
同時に『未進化』ならば進化することでその力を増し、適応する余地もまた残す。
進化できるならしたほうが強い。当然といえば当然の理なのだが……。
「進化しないわね、お前」
「
ガーくん。
私がこのガラルで最初に手に入れたポケモンであり、私の能力を切っ掛けとして孵化したからか私の『専用個体』となって生まれてきたココガラであり、同時にサンダーとの戦いで進化しアオガラスとなった。
アオガラスはもう一段階進化するポケモンで、次の進化でアーマーガアになる、のだが。
「レベルはもう50超えてる……ここまで進化しないポケモンもいないわけじゃないけど」
基本的にポケモンの進化とは『進化に耐えれる』だけの体が作りあがり、『進化するだけのエネルギー』が蓄えられることで発生する。
その両方を一番手っ取り早く備えることができるのがレベルを上げることである。
現在までのデータで通常アオガラスがアーマーガアに進化するのはレベル38とされているが、これはつまり先ほど言った二つの要素を備えれる平均的なラインがそこであるというだけで、育成能力が高いトレーナーにしっかりと育成されればレベル30超えての進化だってあり得るし、個体が未熟で中々体が作れないならレベル40を超えても進化できない、ということも普通にある。
ただうちのガーくんに関してはかなり才能はあるように思える。
となるとレベル50を超えても尚未だに『進化に耐える体』と『進化に必要なエネルギー』が足りないということだろう。
ココガラの時のような両方とも十分に備えている感じが未だに無いので、下手すれば進化可能レベルが60を超える可能性もある。
「『専用個体』だから仕方ないわね、その辺は」
進化する『専用個体』というのがまず聞いたことも無いのだが、基本的に『専用個体』という存在の性質を考えるとより多くのエネルギーを蓄え、強く強く進化しようとするのは当然なのかもしれない。
「まあ、焦っても仕方ないわね」
例えばエネルギーだけなら多分私の『嵐』の力をガーくんにあげれば一気に充填することもできるだろうが、それで溜まるのはエネルギーだけ、結局進化に耐える体が無ければ下手すれば異形に進化してしまう可能性だってあるのでレベルを上げるのが一番手っ取り早いだろう。
「他の子の育成もあるし……しばらくはレベリングね」
「
分かった? と指先でクチバシを突けば、元気の良い返事が返ってきて、苦笑した。
* * *
レベルを上げるには主に『経験値』を溜める必要がある。
レベルという単語自体がゲームシステムのような意味で使われているためトレーナーの間で流行ったスラングのようなものだが、要するに戦闘経験だ。
野生のポケモンやトレーナーとのバトルを得て、戦闘を熟すことでポケモンは戦いの経験を積み上げどんどんそれに適応するように強くなる。
またそうやって積み上げた『経験値』を今度は特訓で消化する。
今まではひたすら経験を積み上げてレベルを上げていたのだが、実のところこれは非効率なのだ。
経験を訓練で実力に換える。これは『育成』の基本中の基本である。
また『ふしぎなあめ』等の『一時的にポケモンのエネルギーを増幅させる』アイテムがあれば簡単にレベル上げもできる。これに関してはこのガラルにはもう少し汎用性の高い『けいけんアメ』なるものがあるらしいのだが、そうやって実際の戦闘での経験を不足させたまま強くなっても、結局のところ『裏特性』を仕込む段階になって実戦経験の不足で悩まされることになるため、基本的にまともに育成しようと思うのなら道具でのドーピングは補助程度に考えておいたほうが賢明だろう。
効果は多少落ちるのだが手持ちのポケモン同士を戦わせることで経験を積ませることもできる。
同じ人間が指示を出すためこちらも補助程度にしかならないが、例えば別の人間に指示を出してもらうことでトレーナー戦と似たような効果を得ることは可能だ。
また重要なのは『将来的な理想形』を常に描いて育成することで、ポケモンはレベルを上げることに戦闘に適応していくわけだが、その戦闘もこちらがシチュエーションを設定してやることで偏った経験値を得ることができるようになる。
一般的にレベル100を超える手法で一番手っ取り早いのがこれだ。
意図的に偏った経験をさせることで普遍的育成の限界を突破する。
当然ながら偏らせた経験をレベルがカンストするまで積ませる必要があるので難易度は特級に高い。
それでも実例があって、ある程度の理論があるだけまだマシになったほうではあるのだ。
私の場合、バトルの際には基本常に『おおあらし』が吹き荒れているはずなので、この『おおあらし』という環境化で戦えるようにまだレベルの低い内から何度も何度も慣れさせる必要がある。
だからこそ『ひこう』タイプで無ければ話にならない。『おおあらし』の圧倒的なパワーに順応できるのは『ひこう』タイプだけだから。同じ浮かぶにしても『ふゆう』ではダメなのだ。
だから正確に言えば私のパーティは単純な『ひこう』統一というより『そらをとぶ』ことができるポケモンと言ったほうが正しい。
「うーん」
思わず唸る。
場所はワイルドエリア。
正確にはつい数時間前まではシュートシティの『ひこう』ジムの施設を借りて手持ちの育成をやっていたのだが。
どうやら練習用コートだけに耐実戦用の加工がされていなかったらしい。
普通のバトルコートというのはポケモンが暴れても大丈夫なようにある程度加工されているのだが、これがされなかったせいで『おおあらし』を発動した瞬間にコートが酷く荒れてしまってリシウムに大慌てで止められてしまったのだ。
よくよく思い出してみれば一昨日クコがギャラドスを従えるために戦っていた時、コートが思い切り凹んでいた。
耐加重加工がされていなかったのだろう。ポケモンは当たり前のように『おもさ』が100キロを超える種族が多く、場合によっては1トン近いような種族だっている……というかあの時クコの使っていたバンバドロなども平均的な『おもさ』は900キロを超えていたはずだ。
そんなポケモンたちが飛んで跳ねてするのだから当たり前の話、普通のコートだと一戦で半壊して次の試合ができなくなる、そういう事態の予防のために耐実戦用加工しておくのだが、これも結構金がかかる。
さすがに18タイプのジム全てのコートに加工を施すようなことはしていなかったらしい。
じゃあ実際のバトル形式で特訓する時は一体どうしているのかと思えば普通に予約しておけば使っていないスタジアムを借りることができるらしい。
シュートシティ含め各地のスタジアムだって毎日毎日何かの試合をしているわけでもないし、そういうところは融通が利くようであり、実際にスタジアムを使わせてもらえるというのはジムトレーナーの特権のようだった。
まあそういうわけで実戦訓練形式でレベリングでもしようかと思っていたのだがアテが外れてしまい、結果的にワイルドエリアまで来たわけだが。
「『深域』はダメだけど『中間域』までは入る許可ももらったし、行ってみようかしらね」
サンダー、フリーザー、ファイヤーと野生のポケモンとしては極めてレベルの高いポケモンたちにあのギャラドスなど狂暴なポケモンもゲットしてきた、ということもあってリシウムからワイルドエリアの『中間域』に入る許可はもらっている。
正確にはリシウムたちジムリーダーが許可を出せるのがそこまで、ということらしい。
『深域』へと入るためにはリーグ委員会から直接許可が必要になるらしく、ジムリーダー等実績などがしっかりした相手でなければ普通は無理、とのこと。
まあ『深域』の危険性を考えればそうもなるだろう、昨日行ったばかりのカンムリ雪原、割合レベルの高いポケモンが多くいたがあれで『中間域』と『深域』の間くらいらしい。
つまり『深域』とはあれ以上がわらわらと湧いてくるような場所だ、育成を完全に完了した後ならばともかく今の状況で行って無事に帰って来れるとは思えない。
ポケモンだって馬鹿ではない。
人の言葉を理解するだけの知恵と知能があるのだ。
そして野生環境で生きる生物というのはそれだけ狡猾になっていくもので、恐らく『深域』に出てくるポケモンのレベルは70,ないし80以上。
だが相手の生息域に向かっていくのだから実際の安全マージンはレベル100以上のポケモンを6体は必要となるだろう。
つまり実質プロの中でもトップクラスのトレーナーでなければ危なくて入れない、というのは至って正しい。
「まあ、この辺が限度ね」
出てくる野生のポケモンを倒しながら進んでいくが、『深域』へ近づくにつれて気配が変わって来る。
これ以上は危険だ、と直感するラインで足を止めて引き返す。
興味が無いわけでも無いが、用事も無いのに進んで危険を冒す必要も無い。
それに朝はジムのほうで育成していたので、そろそろ良い時間ではある。
今からエンジンシティまで戻って列車に乗っていれば帰るのは夕方くらいか。
「早く帰らないとユウリが騒ぐのよねえ」
一度列車の中で居眠りして寝過ごし、帰るのが遅くなってしまったことがあったが気づいたらスマホロトムに着信が大量に入っていて慌てて連絡したことがある。
居候の身でもあるし、余り遅くなるのも悪いので早めに帰ることにしよう。
「それにしてもいつまで居候するのかしらね」
自分で言っててなんだが、実のところ何度か居を移そうとしたことはあるのだ。
その度にユウリに引き留められるのでじゃあ今度に、今度に、といっているうちにずるずると今日でもう半月以上。
さすがに迷惑になっているのじゃないかと思うのだが……。
「取り合えずもう一度聞いてみましょうか」
なんて、言ってもどうせユウリのことだからいつまででもオッケー、とか言うんだろうけれど。
今度何か返せるものがあるか考えてみようかな、なんて思いながら街への道を行く途中。
ひらり、と視界の中を何かが上から舞い落ちる。
「……羽?」
咄嗟に手を伸ばせば手のひらの上に落ちてきたのは一枚の黒い羽。
「…………」
見上げた空に羽の主は居ないが……。
「……そう、招待状、ってことかしらね?」
その羽の主に問うように呟きながら拾った羽をバッグへ入れた。
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ヨイヤミガラス②
―――羽ばたく音が聞こえる。
「……ん」
目を覚ますと暗闇の中にこの二週間ですっかり見慣れた天井が見えた。
まだぼんやりとした頭でしばし天井を見つめ、少しばかり覚醒した頭で壁にかけられた時計を見やる。
―――午前二時。
深夜といって差し支えない時間帯。
普段ならもう一度布団を被って隣に眠るユウリの暖かさに微睡みながら寝入るところだが……。
まだ半分寝ぼけた頭で必死に何かを思い出そうとして……ひらり、と窓の外に舞い散るように黒い羽が夜の闇に溶けながら一枚落ちた。
「ああ……そうだったわね」
半身を起こし、目を擦れば少しずつ意識はしゃんとしてきた。
隣に眠るユウリを起こさないようベッドから抜け出すと足音を殺しながら部屋の端のクローゼットを開く。
一角に借りたスペースにかけたハンガーを一つ取るとパジャマを脱いでハンガーにかけていた服へと着替える。
白のワイシャツにグレーのスカートといつもの恰好。
黒のソックスを履いて……それから、普段はつけないのだがワイシャツの首元へ赤いネクタイを結ぶ。
「これで、よし」
クローゼットの横に置かれた化粧台の鏡で前後を確認する。
夜の暗闇のためはっきりと見えるわけではないが、それでもこの暗闇に慣れた視界なら衣装直しくらいはできる。
最後に腰まで伸びる長い髪をまとめ、帽子を被って仕舞い込んだら、いつものお気に入りの青いコートを羽織ってそれで準備は完了。
この格好をするとスカートを穿いているのに何故か性別を間違えられるのは何故なのだろう?
そんな疑問に首を傾げつつスマホをポケットに仕舞い込み、それから……。
「そうね……そうよね?」
誰に向かっての呟きなのか、自分でも分からないまま独りごち。
ホルスターに装着されたボールの中から
シンと静まり返った居間を抜けて、そのまま玄関へ。
「そろそろ新しい靴でも買おうかしらね」
ここ最近、ワイルドエリアを歩き回ったりヨロイ島を歩き回ったりカンムリ雪原を歩き回ったりと色々なところを歩いていたのであっちこっちがほつれてしまっている。
今日の件が終わったらまたユウリに近場のシューズショップでも教えてもらおうと思いながら玄関の扉を開いて。
ゴウ、と扉を開いた瞬間風が唸った。
咄嗟に帽子を押さえ、髪が乱れないようにするが、こちらのことはまるでお構いなしに風が荒れ狂う。
びゅるびゅると耳元で煩い風の音に耳をやられながら、風の激しさに思わず目を閉じていた。
そうしてしばらく続いた風の音が止んだ時にはすでに目の前にあの時と同じ光景が広がっていた。
「ご招待、されてやったわよ」
まだ耳鳴りのする耳を抑えながらワイルドエリアで拾った黒い羽をひらひらと指先で摘まみ、見せびらかしながら視線を向ける。
その先にいたのは……全長10メートルを超す超巨大なアーマーガア。
ワイルドエリアで私の前に羽を落とし、こんな夜中にわざわざ人を呼んできたのは間違いなくこいつだった。
「…………」
無言で佇むアーマーガアが私を見つめる。
「それで、要件は?」
じっとその視線を真っ向から見つめ返しながら問うた言葉にアーマーガアがふっとその頭を下げる。
さらに差し出された翼、その意味を考えて。
「もしかして乗れ、ってこと?」
―――クラァ
まるで肯定するかのような小さな鳴き声一瞬硬直する、がすぐに一歩足を踏み出す。
差し出された翼に足をかけて一気にその背へ登る。
思っていたよりも安定したその乗り心地と鋼鉄のような硬い翼の触感に戸惑いながらもその背にしがみつき……。
ぐん、と上昇していく景色に少し恐怖心が湧く。
恐らくこれが昼間だったら何も気にならないというか寧ろ興奮するくらいだったのだろうが、今は夜である。
ほとんど何も見えない闇の中、体が上へ上へと引っ張られていく感覚は中々に恐ろしいものがあった。
揺れと恐怖心に思わず目を閉じる。確かに思っていたよりは安定する背ではあるが、それでもアーマーガアタクシーのようにカゴに座っているわけではないのだ、足を滑らせればそのまま空から地上へ一直線に落ちていく、そんな状況で平静でいるのも中々に難しい話だろう。
そうしてしばらく揺れに耐えていると、やがてそれも収まる。
そっと目を開いて状況を確認しようとして……。
「あっ……うわあ」
ただただ感嘆の声が漏れた。
足元のハロンタウンはすでに灯りもすっかり消えて黒一色に染まっているが、遠くに見えるのは……ブラッシータウンだろうか、夜間営業の店舗やポケモンセンターなど24時間開いている施設の灯など黒い闇の中にぼんやりと光る無数の灯たちがとても幻想的で、何とも言えない感動がそこにあった。
「空が近いわね……」
上を遮るものが無い分、ダイレクトに広がった空模様が見える。
といっても夜間なので広がっているのは星々の光だが。
「溜め息付きたくなるほどに綺麗ね」
そこに憧れて、焦がれた。
それでも届かなくて、だから―――。
「どうしてかしらね」
どうして?
どうして私は
* * *
何とも贅沢な景色を味わいながら飛び続ける。
このままずっと味わっていたいような気分でもあったが、それでも終着点は来る。
―――クラァァ!
巨鳥が吼える。
まるでそれは忠告のよう……いや、きっと忠告だったのだろう。
アーマーガアの一声ではっと我に返った私を、直後再びの揺れが襲う。
降下している……下からの風にそのことを自覚しながら帽子が飛んでいかないように抑えつけながらその巨体に必死にしがみつく。
下へ、下へと落ちていくような感覚に再び恐怖心が芽生え始めて……。
直後にぴたり、と止まった。
―――クラァ
着いたぞ、とでも言いたげなその声に目を開くと。
「森?」
薄っすらと霧がかった木々が広がっていて、飛んでいた時間と街の明かりから見た方角を考えるに。
「ここ、あれ……? 確か、そう」
―――『まどろみの森』
そうユウリが呼んでいた場所だったはず。
森全体から感じる不思議な力は、以前森の外から見た時に感じた物と同じだろう。
伝説のポケモンがいたからこそそうなったのか、それともそうだったからこそ伝説のポケモンが住み着いたのか、それは分からないがとにかくこの森自体に何か特別な力があるようだった。
鬱蒼とした森に見えたが、まあそんな森でも一つや二つ開けた場所もあるらしい、ここもそんな一角ということだろうか。
10メートル以上はあるだろうアーマーガアだが、それでも周囲の木々のほうが背が高いためこうして森の中へと入ってしまうと見つからなくなってしまうのだろう。こんな森の中にわざわざ入って来て細かく探すような人間も居まい。
「案外近くにいたのね、お前」
―――クラァァ
どうやらここがアーマーガアの『巣』らしい。
掘り返された地面の上に枯れ木を積み上げられて作られた鳥の巣。本来アーマーガアの巣は木の上に作られるものらしいが、さすがにこの巨体の巣となると地上にしか作れないらしい。
というか巣の中にあれやこれやと物が大量に突っ込まれているのだが、もしかしてあれ全部拾い物なのだろうか……さすがにこの巨体がこっそり盗むなんてできるとも思えないし。
―――クラァァァ
アーマーガアが再び鳴く。
「何よ?」
ある程度一緒にバトルを熟した手持ちたちならともかくいくら鳥ポケモンとはいえ野生のポケモンの言葉なんて分かるはずも無い。
ただ何となくのニュアンスで要求していることは分かる。
「おいで、ガーくん」
たった一つ持ってきたボールを放れば中からガーくんが飛び出してきて……落ちる。
「キュゥ……」
寝ていた。
鼻提灯膨らませながら。
今軽く1メートルくらいの高さから自然落下したと思うのだが一切気にした様子も無く寝こけている。
そもそもここはユウリの家でなく野生の領域なのだが、そんなことも関係無いと言わんばかりに安らかな寝顔を晒していて。
「この子野生じゃ生きてけないわね」
―――クラァァォ
同意するかのように、呆れるかのように、アーマーガアがその大きなクチバシを器用に使ってガーくんをつんつんとソフトタッチする。
「
「おはよう、ガーくん」
「
私の声に完全に目が覚めたのか元気良く鳴き声をあげて……目の前にいる巨鳥に気づく。
一瞬、硬直してそれから見入る。
騒ぐことも無く、ただただ目の前の巨大なアーマーガアに視線を釘付けにされていた。
恐らく両者は親子なのだろうし、アーマーガアが生まれたばかりのガーくんの居場所をすぐに見つけたように、もしかするとガーくんにも何か感じるものがあるのかもしれない。
「キュアァァ?」
―――クラァォ
しばらく見つめ合う両者がやがてぽつり、と鳴き声をあげる。
私に対しての言葉でないせいかは分からないが、ガーくんが呟いた言葉の意味は私には伝わってこなかった。
けれどたった一言の会話で何かが通じたのか、ガーくんがぱたぱたと翼を羽ばたかせて私の傍にやってくる。
同時に。
―――クラァァァァォ!
轟、とアーマーガアが大きく翼を羽ばたかせて飛び上がる。
そのまま森の上空まで飛び立ち。
―――オオオオオオオオオオオォォォォォ!!
咆哮をあげる。
そしてそれに呼応するかのように。
「キュワァァァァァァァ!」
ガーくんもまた咆哮し、加速をつけて飛び上がる。
―――それが開戦の合図となった。
* * *
ここまで連れてこられた時も思ったが、あの10メートルを超す巨体で何故あれだけ上手く空を飛べるのか。
基本的にデカイ=重いということであり、重いということはそれだけ飛ぶことは難しい。
にも拘らずあの巨体でまるで泳ぐように空を飛ぶその秘密は……。
「ガーくん! 避けなさい!」
“エアロバースト”*1
“ダイブクロウ”*2
上空からの襲撃に叫べば、ガーくんが間一髪で攻撃を避ける。
反撃とばかりにガーくんも攻撃技を出そうとするが。
“ヨイヤミガラス”*3
『よる』*4の闇の中に溶けるように消えて行き、すぐに見えなくなる。
先ほどからこの調子で防戦一方を強いられていた。
見ている限りではアーマーガアの能力は主に二つ。
攻撃の際に『自分の背に集めた風を爆発させて勢いをつける』能力。
凄まじい加速で瞬く間に距離を詰めてしまう。恐らく昼間など見上げた瞬間には消えて行ってしまっているのはこの能力で加速して一瞬で距離を突き放してしまうせいなのだろう。
そしてもう一つが夜の闇の中に完全に同化し、音も無く飛んで移動する飛行技術。
まるでジュナイパーのように風を切る音がしない。そのせいで一旦見失うとどこから来るのか攻撃の直前まで気づけない。
攻撃の直前、風を爆発させる故にその音で気づいて指示は出せるが、それが無ければ攻撃された瞬間まで気づかない可能性すらあった……あの巨体で、だ。
というか薄々気づいていたが、あのアーマーガアはこちらにわざと気づかせている。
あの風の爆発でわざとガーくんに避けさせているのだ。
一体何をやりたいのか……多分ガーくんを育てようとしている、それは分かるのだが。
けれどこれはこちらにとっても都合の良いことでもある。
果たして将来的にガーくんがあんな風になるのかは分からないが、あれはガーくんにとって至るだろう未来の可能性の一つだ。
自分の上位互換と戦うことはガーくんにとって良い刺激になるだろうことは間違いなく。
だからこそ。
「勝つわよ、ガーくん!」
「
私の声に応えるかのようにガーくんが叫びをあげる。
戦うこと自体がガーくんにとって大きな経験になる。
けれどはっきり言うが私は負けるのとか大嫌いだ。
やるなら勝つ!
そのために私は今ここに立っているのだから。
さて、そのための具体案だ。
究極的にいって今問題なのは二つ。
一つは相手に『せいくうけん』を取られていること。
一つはこの闇で視界が非常に悪いこと。
その対処法は……ある。
この二つを一気にどうにかする方法が。
なんて言ったって、私にできることはいつだって同じ。
「さあ、反撃といくわよ、ガーくん!」
「キュァァァァ!」
叫び、心の中で撃鉄を落とす。
“ぼうふうけん”
―――そうして荒れ狂う嵐が夜の闇に渦巻いた。
【名前】ヨイヤミガラス
【種族】アーマーガア/原種/特異個体
【レベル】100
【タイプ】ひこう/はがね
【性格】ずぶとい
【特性】せいくうけん(『ひこう』タイプの技のダメージや効果を受けず、相手に最大HPの1/8ダメージを与える。相手の特性が『せいくうけん』の時、効果が無くなる。)
【持ち物】――――
【技】よろいのつばさ/ダイブクロウ/????/????
【裏特性】『????』
――――
【技能】『エアロバースト』
特性が『せいくうけん』の時、相手を直接攻撃する技の優先度を+1する。
【能力】『ヨイヤミガラス』
場の状態が『よる』の時、『単体』を対象とする技を受けない。
場の状態『よる』の効果で命中が低下しない。
【備考】
ガーくんの産みの親。
よろいのつばさ 『はがね』『単体接触物理技』
効果:威力110 命中100 攻撃時、自分の『ぼうぎょ』ランクを上げる。
ダイブクロウ 『ひこう』『単体接触物理技』
効果:威力100 命中95 急所にあたりやすい(C+1)。
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ヨイヤミガラス③
“ぼうふうけん”
荒れ狂う嵐が夜の闇に渦巻く。
強力なパワーを秘めた『おおあらし』だが、これ自体の意味は目的の半分だ。
今吹き荒れている風は私が起こした物であり、この『おおあらし』の空間は私が掌握しているといって過言ではない。
「ガーくん! 戻って!」
つまり闇の中へ消えたアーマーガアがどこにいるか、気流の乱れを知覚できる私には夜の闇は意味をなさない。
ここまでのアーマーガアの使う技を見る限り、直接的な攻撃しか無い。使わないのか、使えないのかは問題ではない。
実際使えたとしてもこの状況でそれをやられたら詰むし、あのアーマーガアがこちらを詰ませに来ているわけじゃないのはここまでのバトルの流れからして分かる。
つまりこの『おおあらし』の範囲内にいる限り、アーマーガアの位置は捕捉できる。
だが相手に『せいくうけん』を取られている状況は『おおあらし』ではどうにもならない。
『おおあらし』は『ひこう』タイプのポケモンならば無差別に恩恵を受けられる以上アーマーガアも強化してしまう。
とはいえ、見えない位置から一方的に攻撃され続けるという展開ではじり貧にしかならないならば選択としてはこれで正しいはずだ。
「キュゥォォ!」
こちらまで戻ってきたガーくんを確認しながら、上空に羽ばたいているアーマーガアを確認する。
夜の闇のせいでどうせ見えないならば嵐が巻き起こってさらに視認が難しくなっても別の方法で知覚できる現状がやはりベストであることを認識しながら、次の手を頭の中で組み立てる。
そうして上空からアーマーガアが急降下……こちらへと攻撃せんと迫ってくるのを見やりながら。
「今っ!」
ガーくんをボールへと戻しながら、心の内で二つ目の撃鉄を落とす。
“しんくういき”
手に持ったボールへと『おおあらし』の全てが収束していく。
当然ながら上から降下するアーマーガアが正常に動けるはずもない『ひこう』タイプを喪失し、ほとんど自由落下のような有様でそれでも翼を何とか駆使しながら降下して。
「ぶち込みなさい……ガーくん!」
垂直に落ちてくるアーマーガアへと、ボールを横回転させながら投げる。
“スピントルネード”*1
『らせんきどう』を描きながら嵐の勢いに押されて垂直へ空へと駆けあがっていくガーくんがアーマーガアと接触し……。
“ダイブクロウ”
“ドリルくちばし”
互いの技が激突し……
単純な能力と技の威力を考えればアーマーガアが圧倒していたのだろうが、『おおあらし』の全てを費やしたエネルギーがガーくんを後押しした一撃だったのだ、当然ながらその瞬間の威力は凄まじいものになる。
放たれた一撃は螺旋となってタイプを貫通する。
本来はポケモンの側で覚える技術らしいが、私の力を使えば風を渦巻かせ竜巻を作るようなこともできる故に母さんから教えてもらった小技の一つだ。
風の力を使うが故に『ひこう』タイプにしか付与できないが、タイプ相性で半減されないというのは凄まじく使い勝手が良い小技の一つだ。
とにかくこれで一矢報いた。
先ほどの防戦一方だった時を思えばざまあみろ、と言いたいが残念ながらこれ以上は無理だろう。
さすがに根本的な能力が違い過ぎる。恐らくレベルですら二倍近く違うだろうし、何より進化段階一つ違えばトータルの能力はかなり変わる。
「二度目の『おおあらし』まで……さて、どれだけ引き延ばせるかしらね」
アーマーガアがこのままこちらを詰める事無く防戦一方でも続けてくれるなら後は『おおあらし』の再展開まで待って延々と同じことをしていれば良いのだろうが、さすがにアーマーガアもそれは許してくれないだろう。
やはり私にとって『ひこう』タイプが鬼門だ。
近い内に『せいくうけん』持ちでも探そうと心に決めながらもバトルを続行する。
だがやはり『おおあらし』が無いせいでアーマーガアが知覚しきれない。その姿を捉えようとすると闇へ消え、直前の攻撃でしか気づけない。
技を出している間に攻撃を受けて即終了の予感しかしないので、技の一つも出せないし右に左にとガーくんへ指示を出しながら紙一重で攻撃を躱していく。
『おいかぜ』を吹かせる程度には力が回復してくるが、そんなもの今の状況でどれだけ役に立つのか、という話。
「これなら『かげぶんしん』の一つでも覚えさせれば良かったわね」
この状況で必要になるのは防御力よりもどちらかというと回避だろう。
レベルがダブルスコアという時点で攻撃の全てが脅威だ。
今の手持ちがガーくん一体という時点でダメージをちまちまと回復している暇も無い。
と、その時。
“エアロブースト”
どん、と空気の爆ぜる音と共にアーマーガアが突っ込んできて……。
「躱して、ガーくん!」
私の指示と共にアーマーガアの攻撃を避け……る以前。
「しまった?!」
ズラされた。それに気づいた時にはすでに溶けた闇の中から無音での奇襲が始まっていて。
“よろいのつばさ”
放たれた翼の一撃がガーくんへと直撃しようとして。
「まに……あえっ!」
咄嗟に回復していたはずの力の全てを駆使して、極小規模の『嵐』をガーくんを中心に一瞬だけ展開する。
突如発生した『嵐』にアーマーガアの狙いが僅かに逸れて……直撃こそしなかったものの、それでも躱しきれなかった一撃でガーくんが吹き飛ばされて―――。
その全身を覆っていた嵐がガーくんへと吸い込まれていく。
それと同時に。
* * *
ガーくんの全身が光に包まれ、どんどんその姿を変えていく。
眩い光が徐々に収まり、そうして残ったのは―――。
「ガーくん?」
「クラァァァ!」
応と、答えるように黒い烏……アーマーガアへと進化したガーくんが吼えて。
“ゴッドバード”
ガーくんが大きく翼を広げる。
それに対してアーマーガアがまるで待ち構えるように上空に留まる。
全身を白いエネルギー光に包まれたガーくんが加速をつけて突撃し……。
空中でアーマーガア同士が激突する。
“ストームライダー”*2
放たれた一撃がアーマーガアの『せいくうけん』を突き破り、その巨体を吹き飛ばす。
10メートルはあろう巨体が吹き飛ばされていくその光景に、ガーくんが放ったであろう技の威力に目を見開く。
同時にガーくんが身に纏っていた『嵐』が霧散していく。
残念ながら常時展開できるほどの力は戻っていなかったためほんの僅かな時間しか持たなかったらしい。
そうして吹き飛ばされたアーマーガアが空中でその態勢を整えると。
―――クラァァァ
どことなく楽しそうに吼えると少しの間、ガーくんへと視線を送る。
そうして十分にガーくんを見つめた後、その両翼を羽ばたかせて夜の闇の中へと消えていく。
「終わった……ということで良いのかしら、ね」
「
私の元へと戻ってきたガーくんを見上げる。
すっかり大きくなってしまった……3メートル弱ほどはあるだろうか、通常の個体よりはかなり大きいがそれでも先ほどの10メートルサイズと比べると大分小さく見える。
140に届かない私の背丈ではその顔に手を伸ばしても届かないためその翼に手を置いて撫でるとガーくんが嬉しそうに身を寄せてくる。
「立派になったのに、甘えん坊ね、アンタは」
ココガラの時からすっかりと変わってしまったが、それでもまだ生まれて二週間と少々。
急激なレベルアップにも変容することも無く、幼子のような性格のままのガーくんに少し安心しながら、周囲を見渡す。
「それで、ここどこかしら」
『まどろみの森』のどこか、ということしか分からない。
あのアーマーガアも連れてきたのなら連れて帰ればと言いたい。
「ガーくん、飛べる?」
「
「……不安ね」
とはいえ人を乗せて飛ぶのは意外と技術がいる。
もしうっかりで落とされると割と真面目に死にかねないので、力が回復するまで待ってからにする。
それまでの時間潰しがてらに周囲を見渡せばアーマーガアの巣が放置されていて。
「そういえばさっきなんか色々あったわよね」
そうして巣の中を見てみれば、どこから持ってきたと言いたくなるようなバトルに使うような『道具』の数々。というかこの『レコード』のようなものは何だろうか。
「これもらっても良いのかしらね」
道具の大半は持っているので要らないが、どこから持ってきたのか『わざマシン』などもある。
基本的に『わざマシン』は結構な機密情報の塊なので地方外に持ち出し禁止だ。
『わざマシン』は各地方のリーグが製造し、番号を割り振っているのだが地方ごとの特色や環境に合わせたラインナップとなっており、その地方のリーグに出るならその地方の『わざマシン』を使って育成をしろ、という規定のようなものがある。
規定とは言っているが実際は強制だ。何せ『わざマシン』を使用するための機械が地方ごとの『わざマシン』に合わせてチューンされているため、他地方の『わざマシン』は起動すらできないのだ。
つまり私がホウエンで集めた『わざマシン』はホウエン地方でしか使えないため、ガラルで『わざマシン』を使いたいならガラルリーグ印の『わざマシン』が必要になる、ということだ。
「巣だけ置いてどっか行ったってことは良いってことよね」
まあ勘ではあるがあのアーマーガアは怒りはしないだろう。
使うのもガーくんへの育成などに使うわけだし、そのためのものなら許してくれる気がする。
というわけで物色しながら力の回復を待つのだが、こうして見ると色々あるものである。
「これ全部落とし物なのかしらね」
トレーナーの使用する道具が道端に落ちていることは時々あることではあるがそれにしたって多い。
そもそも何のために集めているのだろうか。
「もしかして、使えるの? これ」
ポケモン図鑑の種族説明に寄ればアーマーガアという種族はかなり知能が高いらしい。
ガーくんも今はまだ幼いが現状ですでに意思疎通が可能であるし、上手く仕込めばその辺の技術を習得できるかもしれない。
「道具を使いこなすポケモンね……中々面白そうじゃない」
そういう方向性もありかな、と考えながら力の回復までの時間を潰し、力が回復すると共にユウリの家へと戻る。
「すっかり遅くなっちゃったわね」
もうしばらくすれば日が出てくる時間帯だ。
別に今日何か用事があるわけでも無いが……。
「ほわ……」
思わず欠伸を一つ。
神経をすり減らしたせいで疲れと眠気が出てきた。
目をこすりながら、ガーくんをボールに戻そうとして……。
「ああ、今日はお疲れ様、ガーくん」
そっと撫でてやれば身を寄せるガーくんを抱き寄せて、二度、三度を撫でつけてやる。
それからボールに戻すと目の前にいた巨体が手の中のボールへと消えていく。
「さすがにもうこのサイズじゃ家の中には呼べないわね」
あくまで普通の民家であるユウリの家なので耐ポケモンバトル用の加工をした実家とは違うのだ。
もうココガラだった時のように一緒に卓を囲むことはできないことを少しばかり寂しがりながらもふっと苦笑する。
「おやすみ、ガーくん。ゆっくり休んでね」
手の中でボールを撫でながらそう呟いた。
* * *
朝。
「おっはよー! ソラちゃん!」
毎朝のことだが、ユウリは朝から元気が良い。
まあ私も朝は早いほうだが今日ばかりは目が覚めなかったらしく、目を開くとユウリが人の顔を覗き込んでいた。
「おはよう……」
「眠そうだね、昨日は寝れなかったの?」
「ふぁあ……色々あったのよ、色々ね」
戻ってきたのが深夜四時過ぎ。
そこから再び着替えて眠ったのだが、現在六時半……全く眠り足りなかった。
「朝ご飯作ってるけど食べれる?」
「食べるから……それまで寝かして」
「うん、分かったよー」
そう言ってユウリがベッドから離れる気配を感じながら布団を被って微睡む。
そのまま意識が暗転していこう……として。
「あ、そうだ、ソラちゃん」
ユウリの声に引き戻される。
「なあに……」
「うわ、眠そう……ってそうじゃなくて、今日空いてる?」
「昼からなら」
「うん、じゃあ一緒にナックルシティに行かない?」
「何かあるの?」
「うん、ナックルシティのスタジアムでジムリーダーのキバナさんが大会開くらしいから、一緒に見に行こうよ」
「……はーい」
「あらら、ソラちゃん意識無いね。仕方ないなあ。朝ご飯の時にもう一回誘おっか」
じゃ、おやすみ、と告げて部屋を出ていくユウリの声を聴きながら布団の中で微睡み。
―――最後のほうに何か大事なこと言っていたような気がする。
そんなことを思いながら。
今度こそ、意識が暗転していった。
【名前】ガーくん
【種族】“あらしの”アーマーガア/原種/専用個体
【レベル】62
【タイプ】ひこう/はがね
【性格】わんぱく
【特性】????
【持ち物】
【技】ゴッドバード/よろいのつばさ/????/????
【裏特性】『????』
【技能】『????』
【能力】
『ストームライダー』
天候が『おおあらし』の時、自分と同じタイプの技が相手の特性に関係無く攻撃できる。
????
というわけで一章はこれで終了(予定
間に番外編とか挟まないなら次回から二章になります。
またトレーナーデータの作成につき、更新間隔が隔日か三日に一回くらいになるかも?
まあ多分一日一話はもう無理。
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番外編②うたかたのゆめ
「つっかれたあ……」
朝早くからたっぷりと時間を取ってワイルドエリアで延々とレベリングしていたのだが、さすがに四時間も五時間もぶっ続けでバトルをしていれば疲労は隠せなくなってくる。
「ちょっと迂闊だったわね」
レベリングの途中に偶然『あまいミツ』を溜める花の群生地を見かけたのでちょっと『風』で煽って周辺のポケモンを集めただけなのだがまさか周辺から大量にポケモンが集まってきてそれを切っ掛けに周辺エリアで一斉に
「良い経験値にはなったけど、さすがに疲れたわ」
空を見上げ、だらんと体を投げだす。
さらさらと草原に吹く風は心地よく、けれど耳元で草葉を揺らすのはくすぐったいので止めて欲しいところ。
折りたたんだコートを頭の下に敷いて枕代わりにしながら目を閉じれば、陽気な日差しと程よい風の心地よさにあっという間に眠気がやってくる。
幸いにも周辺エリア全ての敵を叩きのめしたので半日くらいはこの周辺は安全だろうし、体力の回復も含めて少し眠ることにする。
「ふぁ……ふう」
じんわりと閉じた目の奥から疲れが湧いてくるような感覚に欠伸一つ、そのまま意識は落ちていって……。
「どれもこれも、というのはまあ無理だろうな」
目の前で腕を組んだ少女の姿をしたソレは私の問いをばっさりと切った。
金色の瞳、全体的にワンサイズ大きいようなダボついた緑の着物と黒の袴、緑の髪を一つ括って黄色の簪。
外見だけならどう見たって人のそれなのに、その身の内に秘めた力はただそこにいるだけで存在感を醸し出すほどに大きい。
ソレを言葉で表すならばシンプルな一言で良い。
―――世界最強。
『超越種』という伝説に語られるほどの規格外存在の中にあって、さらに最上位に座す例外中の例外のような存在。
空の龍神はけれども存外に人に友好的だった。
「お前の力は大まかに示せば『龍』……それは空と竜に通じる力であり、けれど星に至ることは無い」
椅子を傾けながら龍神が……デルタと名付けられた少女の姿をした『龍』が冷静に分析を語る。
「お前の内に眠る力は人からすれば大き過ぎる故な、人の身でそれを扱うならば方向性はどちらかに絞る必要はあるだろうよ」
まあ最も、と苦笑しながらデルタが続ける。
「お前がそれを使いこなせるようになれば、また話は別かもしれんがな」
ぴん、と指を一本立ててくるりと回せば風が吹き荒ぶ。
恐ろしいのは部屋の中の私とデルタを囲むように風が吹いているのに、私とデルタを直径とした円の外では一切風の影響が出ていないところだ。
「我々の力とは根本的に言えば『上書き』だ。世界の理の上書き、空間に自分たちの領域を上書きする。故に
つまりこの風が吹いている空間とそこから一歩外側の空間では力が『遮断』されているのだ。
ただ単純に風を吹かせているのではない、『風の吹かない空間』の一部に『風の吹く空間』を『上書き』している。
この風は物理的に吹いているわけではない、気圧の差で空気が動いているのではない、デルタの力で『風が吹く空間』に概念的に書き換えられている。だから指一本外に離れれば一切風を感じられないなんてことが起こる。
「お前にはこれだけのことはできん……まだな。存在自体が余りにも例外過ぎて将来的にどうなるかすら予想もできん、ただ今のところで言うならばまだ無理だ」
だからこそ。
「可能性を絞るしかない」
『空』か『竜』か。
今はまだどちらも、なんて使いこなせるほど軟な力ではないから。
「『星』を継いだのはお前の弟。そして『空』を継いだのはお前。そして『龍』は私に最も近しい力と言えるな」
空の『龍神』。
確かに私の力を最も理解しているにのはデルタだけなのだろう。
「さて、どうする? ソラ」
その問いに、私は―――。
* * *
【半年くらい前の通話記録】
『ソラ、負けちゃったって?』
「アンタも見に来てあげなさい……ってのは無茶な話か」
『こっちも卒業生がリーグに参加したりして忙しかったんだよ』
「ジムのほういい加減どうにかしないといけないんじゃないの?」
『シキに引き継いでも良いんだけど……シキも別に擬人種専門ってわけじゃないしなあ』
「ならもう畳む?」
『いや、一応研究の一環でもあるし、残すのは残す……一番妥当なのはソラが就いてくれることなんだけど』
「無理でしょ。あの子もう次のリーグに向けての準備始めてるし」
『相手はユウキだっけ? あいつも大したもんだわ』
「ユウキはアンタの影響が強いからね……」
『代わりにソラはキミの影響が強いよね』
「私とソラは別の存在なんだから、真似たって仕方ないと思うんだけど」
『ソラはキミが大好きだからね……憧れたんだよ』
「アンタは最近避けられてるけどね」
『うぐっ、ち、違うんじゃないかな、き、きっと偶然だよ』
「アンタだんだんセンリさんに似てきたわね」
『それはそうだ……親子なんだから』
「じゃあソラもアンタと親子だからきっと昔のアンタみたいに……なるのも嫌ね」
『キミ、自分の旦那に向かってそれは無いんじゃないかな』
「じゃあ自分の過去振り返って見なさいよ」
『…………』
「…………」
『…………」
「何か言いなさいよ」
『愛してるよ、エア』
「っ、そ、そんなんで誤魔化してんじゃないわよ」
『いやー、相変わらず初々しいエアは可愛いなあ』
「アンタ今度会った時覚えてなさいよ」
『ははは、次……いつ会えるんだろうなあ』
「自分で言ってて遠い目してんじゃないわよ、見えないけど」
『数年でセイジもこっち来るっていうし、ますます帰れないなあ……エアたちこっちに来ない?』
「ジムのほうどうするのよ……」
『うーん、スクール講師ってのも悪くないんだけど、単身赴任は辛いなあ』
「ハルがこっちに帰って来る頃には子供たちみんな顔忘れてそうね」
『ぐえぇ……家に帰った時に、おじさん誰? とか言われたら俺ちょっと立ち直れないかも』
「だったらもうちょっと帰って来れるようにすることね」
『そうだねえ。最悪辞めるっていう選択肢も無くは無いけど……今の仕事も楽しいからなあ』
「贅沢ね。まあ頑張りなさいな、お父さん?」
『ふふ……そう言われたら張り切っちゃうよ、母さん』
「…………」
『…………』
「…………」
『あー、ところでさ』
「何?」
『ソラはまあ……良いんだけど、アオは?』
「ソラは良いのね、アオもアオでいつも通りよ」
『うん、ソラは結局あの子の心の問題だ。あの子が何を悩んでいるのか分かってても、でもやっぱり俺たちにはどうしようも無い。いや、もう決まってしまっていることなんだ、今更変えられるはずも無いこと。だからソラが割り切るか、受け入れるか、どっちかしかないんだ』
「それは……そうね。もう一度最初から、なんてそんな都合の良いことはできない以上、それしかないのは分かるけど、もう少し娘に優しくしてやりなさいよ」
『でもソラは自分でトレーナーであることを選んだんだ。あれは俺たちが強要したわけじゃない。ソラが自分で憧れて自分で選んだ道なんだ。助けて、ってソラが言ったならともかく、そうじゃないなら俺は何もしない。それはトレーナーとしては絶対だ』
「間違っては無いけど」
『お前だって分かってるだろ? トレーナーとポケモンは究極的には対等なんだ。弱いトレーナーはポケモンに舐められる。ポケモンに舐められたトレーナーはどうやったって勝てない。勝てないトレーナーは弱い。悪循環を断ち切るならトレーナーとして強くなるしかないんだ』
「…………」
『俺たちの子供だ、ってのは分かるよ。でもだからって何でもかんでも与えるだけが愛じゃない。だから親として子を信じてやるのも大事だと思わないか?』
「……ふう、分かったわよ」
『まあそれはそれとしてアオはどうにかしないといけないけど』
「いや寧ろそっちのほうが無理じゃないかしらね」
『そう?』
「言っちゃなんだけど、ソラはなんかんだ言ってもアンタに似てるわよ、ハル。でもアオは酷いくらい私に似ちゃったわね」
『そうかなあ? ソラって結構エアに似てると思うけど』
「違うわよ、あれはただ真似てるだけ。根本的な部分はあの子はアンタにそっくりよ。逆にアオは私にそっくり。だからこそあんな風になっちゃってる」
『あー、それはさすがに俺には分からない領分かなあ』
「そうね、トレーナーで……何より人だったハルには分からない領分だと思うわ。アオのほうは私のほうでも見ておくわ」
『分かった。年末には一度帰れると思うから、その時ソラと少し話してみるよ』
「うん、お願いね」
* * *
ホウエンの朝は早い。
一年を通して温暖な気候で、冬が短いため基本的に住人の朝は早い。
都心部ならまだ眠気に微睡んでいる時間でも容赦なく『目覚まし』がやってくる。
「にーちゃん、おきてー!」
「お、おきてぇ、おにーちゃん」
「わ、分かったから、ちょっと、揺らすの、やめて」
ベッドの上にどん、と飛び乗って布団を剥ぎ取らん勢いで揺さぶって来る妹に寝起きの頭をぐらぐらと揺らされながらも目を覚ます。
半身を起こすと目の前にいた妹たちの脇を抱えてベッドから降ろす。
「おはよう、アカリ、メイリ」
「おはよー、にーちゃん! ごはんたべよー!」
「お、おはよう、おにーちゃん。ごはん、もうできてるよ?」
「分かった分かった……すぐに行くから先に降りてて」
「はーい」
元気の良い返事をしながらドタドタと階段を降りていく妹とその後をついていくようにとん、とん、と静かに降りていく妹に、朝から元気だなあと嘆息しながらベッドから降りて軽く体を伸ばす。
カーテンを開けば部屋の中に朝日が刺し込み、窓を開ければ心地よい風が吹く。
シダケタウンは『えんとつやま』が近いためかミシロよりもさらに温暖な地域だ。
別に暑いのも寒いのもそれほど苦手というわけではない性質なのでそれほど気にならないが、ここの風は心地よいので結構気に入っている。
まあ姉のほうは母に似て寒いのが苦手なようだが。
「おはよう」
家の中で一番広く作られたリビングの中央にどんと置かれた大きなテーブルに、けれど席は半分くらいしか埋まっていない。まあ俺以上に良く寝る家族が結構いるので妥当だろう。
「良く寝るわね、アオ。寝癖ついてるわよ?」
「ん、ああ。直しとくよ」
「今やりなさいよ、全く」
キッチンのほうからやってきた母さんに挨拶をしながら頭を指さされたので手を当てれば確かに寝癖になっている。
軽く引っ張ってみるが中々しつこく直る様子も無いのを見かねて母さんが手を伸ばし……。
「っと、っとに! もう、アンタちょっと屈みなさい」
背が低くて届かなかったらしい母さんがぴょんぴょんと跳ねるがけれどやっぱり届かないので仕方なく屈むとようやく手が届いたらしい母さんがちょいちょいと手櫛で髪を梳く。
「アンタも頑固な髪してるわね、ハルによく似てるわ」
逆に姉さんはかなり手間いらずのさらさらヘアーだ。まあ母さんに憧れて毎日丁寧に手入れしているらしいのもあるのだろうが。
そうしてリビングの中央で母さんと戯れていると。
「あら、兄さん。おはよう」
「レイ、おはよう」
後ろから水色の髪をした少女がキッチンのほうからやってくる。
妹のレイ。シア母さんの娘で俺たちより半年くらい遅く生まれたので妹。
シア母さんはこの家の家事の大半を一手に担っているのだが、さすがに人数が多すぎるというのもあったし、俺たちは皆両親から影響を受けている部分が大きいのでレイは自然とシア母さんの手伝いをするようになっていた。
なのでこの家で一番女子らしいと言えばレイになる。
実際他所では結構男性人気が高いらしい。
「レイが作ったの? 一つもらうね」
「そうですけど……ああ、もうダメですよ兄さん。行儀悪い」
お皿に盛りつけられていた卵焼きはシア母さんが作ったものに似ているが少し形が悪い。
いや、シア母さんの腕前がプロ級なだけでこの卵焼きだって家庭料理としてはかなりクオリティが高いとは思うが。
多分レイが練習に作ったんだろうな、と思いつつ一つ摘まんで食べてみれば口の中に広がるのは食べ慣れた家庭の味だ。
「味付けは?」
「それも私ですけど……」
「そっか。すごく美味しいよ。シア母さんと同じ味がする」
「そ、そうですか? よ、良かった」
少しほっとしたように微笑むレイから皿を受け取ると、代わりに持って行くよ、と言ってその場を去る。
レイも一言礼をいってまたキッチンへと戻っていくのでまだまだ作るものがあるんだろうなと思いつつ適当な席に着く。
ふと席についている面子を見やれば先ほど人を起こしに来た双子の姿が無い。
となると多分また起こしに行ったんだろうな、と思っていると上からまたドタドタと足音が聞こえてきて。
「おかーさん、ほらしっかり歩いて」
「ま、待って、目が、目が回るから~」
「おかーさん、しっかり」
「あわわわわ、アカリちゃん、階段で引っ張らないで~」
「あわわ、お、おかーさん?!」
ドタドタドタ、と聞こえてくる派手な音に苦笑する。
全く持って賑やかないつもの我が家だった。
次章行く前にちょっとした番外編。
ドールズ読んでれば分かるネタだが、特に電話のやつはドールズ読んでないと分からないかもしれない。
まああらすじにドールズ読んでたほうが楽しめるよーって書いてあるし良いよな。
どうでもいいけどソラちゃん一家の家系図
父親:ハルト
母親:エア
長女:ソラ(人間)
長男:アオ(擬人種)
母親:シア
次女:レイ(人間)
母親:シャル
三女:アカリ(人間)
四女:メイリ(人間)
母親:チーク
次男:メメ(人間)
五女:ネネ(擬人種)
母親:イナズマ
六女:レキ(人間)
母親:リップル
七女:ベル(人間)
八女:メルト(擬人種)
母親:シキ
三男:セイジ(人間)
なんか母親のイメージ踏襲しながらキャラ作ってたら三男八女の女の子多めの家系になってた。
全員集めると両親含めて男4人の女15人の家族だからとんでもない大家族だわ。
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インタールード
どら……ドラゴンタイプ、専門? のジムリーダー?
ナックルシティはシュートシティのすぐ南、山を一つ挟んだ先にある大都市だ。
ガラル最大の街シュートシティと距離的に近く、列車の駅が通っていて交通の便が良いこと、またガラルにおいて歴史的価値の高い物品を納めた宝物庫の存在、ジムチャレンジにおいて8番目のジムがあることなどから大いに発展しており、街自体も非常に大きい。
ただ大都市ながらかつての歴史と伝統を守ってきた街でもあり、そのためシュートシティと比べると近代的な建物は少ない。
またナックルスタジアムの地下にはこのガラル全土に電力を送っている『エネルギープラント』が存在しており、昨年の『事故』によってこのプラント周りとスタジアムの一部が破壊されたためその修復のためについ最近までスタジアムが使用できなかったらしい。
「事故?」
「うん、まあ簡単に言っちゃうとムゲンダイナが復活して暴れたんだよね」
「ああ……うん、それは確かに事故ね」
伝説のポケモンなんて最早個で災害に等しい存在だ。
そんなものが目覚めて暴れ出したのならばまあ確かに事故というしかないだろう。
「それにしても、なんていうか……スゴイ街ね」
「建築様式をわざと昔のままにして街自体の景観を保ってるらしいよ?」
「ああ……エンジュシティとかみたいなものね、歴史を売りにする観光都市ならそういうのもアリでしょ」
特にこの街は空港のあるシュートシティの真南だ。
アーマーガアタクシーを使えばものの1時間もかからないような近い立地にあるのだから、このガラルにしか存在しないアーマーガアタクシーと合わせて観光名所と言っても良いのではないだろうか。
「しっかしホントに大きいわね、スタジアム」
「あそこは他のスタジアムと違って地下の『エネルギープラント』含めてマクロコスモス社の施設がいくつも併設されてるから普通のスタジアムより大分大きいんだよ」
街の中央に大きくスペースを取って建てられている『ナックルスタジアム』は見上げれば見上げるほどにその巨大さに圧倒される。
カナズミにあるデボンの本社ビルだってあそこまで巨大ではないだろうと思うほどに大きく、そして高かった。
「うわ、ポケモンセンターが3か所もある……こんなにいるの?」
「東西にあるのはそれぞれの方角から来た人たちが、中央がジムトレーナーの人たちとか、ワイルドエリアを抜けてきた人たちが使うやつだね」
「ホントひっろい街ね」
基本的にポケモンセンターというのは一つの街に一つしかない。
大都市でもあって精々二つだ。基本的にはそれで十分需要を満たせる、それが三つもあるという辺りがこのガラルという地方がどれだけ金があるのかを示している。
「それで、今日ここでポケモンバトルの大会があるの?」
「そうそう、ナックルスタジアムの使用許可がようやく下りたからってナックルジムのジムリーダーキバナさんが主催で『第六回ドラゴンカップ』開催、だって」
「キバナ?」
「ナックルジムのジムリーダーで、ドラゴンタイプを専門……専門? にしてるトレーナーだよ!」
「参戦条件……『ドラゴン』タイプのポケモンを三体以上、ってドラゴンカップなのにドラゴン統一が条件じゃないのね」
「それやるとキバナさんが出られなくなるからね」
「ドラゴンタイプのジムのジムリーダーなのよね?」
「うん、まあドラゴンタイプ専門? って感じだけど、一応そうだよ」
何故か曖昧な笑みを見せるユウリに首を傾げる。
少し気になったのでスマホロトムで検索してみればガラルのトレーナー名鑑に載っていたので軽く目を通す。
「ガラル最強のジムリーダー?」
「強いよ! すっごく……でも、うーん」
「何よ」
「ソラちゃん相手だと致命的なくらいに相性悪いかも」
「はい?」
その言葉の意味を知るのは、その数時間後のことだった。
* * *
ガラルにおけるポケモンバトルは『興行』である。
この言葉はガラルのトレーナーならば誰もが理解していることであり、けれどガラル以外のトレーナーには中々理解されない言葉ではある。
結局のところ、これが理解できるかどうか、というのはガラルで一度でも公式バトルを見たことがあるか否か、これにつきるのだ。
「「「―――オオオオオオォォォォ!」」」
怒号のような歓声に片耳を塞ぎながらもスタジアムで繰り広げられるバトルに視線は微動だにしない。
バトルコートの上ではトレーナーの最後の一体がバトルコートに出された。
それに応えるかのように反対側のトレーナーゾーンに立つ褐色肌の男……ナックルシティジムリーダーのキバナもまた場のポケモンを戻し、入れ替える。
片や飛び出したのは私も知るポケモン……『マッハポケモン』のガブリアス。
高い火力と素早い動きが人気の『ドラゴン』であり、同時に極めて扱いが難しい種の一つでもある。
狂暴性が強く、バトルに対する意欲も非常に高い、典型的な使いこなせれば強いを地で行くタイプだ。
そしてもう一方……キバナが出したのは。
「ん? 見たことないポケモンね」
「あれはジュラルドンだよ! キバナさんの『エース』だね!」
図鑑機能で検索し、その内容を読んでいると周囲の観客の盛り上がりが一層増す。
どうやらあのポケモンはキバナの『
「ガブリアス、行くぞ! ダイマックスだ!」
「荒れ狂えよ! オレのパートナー! スタジアムごとやつを吹き飛ばす!」
同時に互いのポケモンをボールに戻した。
「え、戻すの?」
「まあ見ててよ……これがガラルのポケモンバトル最大の醍醐味」
―――ダイマックス、だよ!
二人のトレーナーの腕に巻かれたバンドから赤い光が放たれ……その手に持ったモンスターボールへと収束。直後、ボールがぐんぐんと二周り、三周りと巨大化していく。
直径が1メートル近くなった巨大なボールを片手で投げるとそこから光が放たれて……。
「「「―――オオオオオオオォォォォ!!!」」」
先ほどまえの数十倍はありそうなほどに巨大化したポケモンたちに観客の熱が一層沸き立つ。
そうして互いのポケモンが放つ大威力攻撃がぶつかりあうたびにに黄色い悲鳴にも似た観客の声援が飛び交う。
「なんか、さっきより動きが良くなってない?」
「そうだね。お客さんの声援に押されてポケモンたちもいつもより実力が発揮できるんだよ」
「んな馬鹿な」
「多分このスタジアムの効果なんだと思うよ。野良バトルしてもそういうの無いし」
確かにポケモンも生物である以上、日によって調子の良し悪しというのはある。
ついでに言えば声援を受けて調子が良くなる、ということもあるがそれでも普段からそのポケモンのことを良く知っているトレーナーですら何となくそうかな、と思える程度の微量な差異であり、今日初めて見る私が目で見て違和感を覚えるほどの差異は生まれない。
もしそれがこのスタジアムの効果だと言うのならば―――。
「確かにこれは普通のポケモンバトルだと思ってたら痛い目見るわね」
つまり、これが『ガラルのポケモンバトル』なのだ。
* * *
『スタジアム』とはその全てが『ダイマックス』ができるようになっている。
つまり『ダイマックス』に必須の『パワースポット』の上に建てられているのだ。
その影響の一環なのか、『スタジアム』におけるバトルは『人の意思』がダイレクトで『ポケモンの力』になりやすい。
ただこれは大小の差はあれど通常のトレーナーとポケモンの間でも起こることであり、トレーナーとポケモンの絆の深さによって、ポケモンのポテンシャルを引き出したりできる。
特にこの手のことは『リーダータイプ』のトレーナーの得意とすることであり、ある意味私の父さんなどはその極致のような存在と言える。
―――思う心は力になる。
父さんは時折そんなことを言う。
ポケモンが人を思い、人はポケモンを思う、ポケモンはその思いを力にできる生物なのだ、と。
『スタジアム』はそんな人とポケモンの思う力に作用して、その効果を増幅してくれる。
トレーナーですら無い観客たちのトレーナーとポケモンへの『声援』を力としてポケモンに与え、声援に奮い立つポケモンの心にも力を与える。
「つまりね、ガラルのプロトレーナーはみんなこの『スタジアム』の力も前提において育成をするんだよ!」
その極致が『エース』ポケモンだろう。
ニュアンス的には他の地方でも通用するだろうが、このガラルにおいては殊更『エース』ポケモンに対する拘りが強い。
例えば他の地方のトレーナーに『エース』とは何かを問えば『パーティで一番強いポケモン』や『切り札となるアタッカー』といった感じの答えが返って来るだろう。
極論だが『エース』と言ってもあくまでアタッカー……攻撃役として極めて優れた一体であり、けれどどこまで行ってもアタッカーの一体でしかなく、相手との相性が悪ければ後続に繋げるために切り捨てることすら考慮される、それくらいの存在でしかない。
だがガラルにおいて『エース』とはそのトレーナーを象徴するポケモンであり、同時に『絶対に六番目でダイマックスする』ことを求められているポケモンだ。
そのトレーナーのファンにとって、エースが場に出ただけで盛り上がるし、ダイマックスすれば熱狂する。
その熱狂は『スタジアム』の力でそのままダイマックスしたポケモンの力になる。
つまり『エース』となるポケモンが後続を一気に抜きやすいシステムになっているようだった。
だが相手のポケモンを次々倒していけば最後に残るのは相手の『エース』。
大概の場合、トレーナーの実力が同じくらいなら乱戦にもつれ込んでどちらかの『エース』が出るころには相手の残りも一体か二体くらい、つまりすぐに相手の『エース』も出てくるという状況であり、互いのポケモンがダイマックスして戦うその状況が会場が最も盛り上がる瞬間となる。
「会場が最高に盛り上がった瞬間のポケモンの力はすっごいことになるよ!」
とのことなのでかなり強化されるらしい。
表現が曖昧に過ぎる気がするが、まあ実際数値化できるようなものではないのでユウリの体感での話になるが『五割増し』らしい。全能力が約1.5倍。技や裏特性に関係無くただ場にいるだけで、となると決して無視できないレベルの強化である。
「だからお客さんが白けちゃうと大惨事だね」
上手く盛り上げることができれば力となる観客たちも逆に白けさせてしまうと逆のことが起きるらしい。
空気が冷え込み場のポケモンたちが委縮して力が発揮できなくなってしまうのだとか。
特にプロトレーナーとしてこれをやってしまうと『興行』的にはかなりマイナスなので、下手するとプロ失格の烙印を押される可能性すらあるらしい。
「え、受けループとか害悪型ダメなの?」
「お客さんはみんなバトルの素人だからね……傍から見ててつまんない、って思われるのはダメなんだよね」
「えぇ……それが戦術ってものでしょ」
「トレーナーからすればね! でもそれを判断するのはバトルの素人のお客さんなんだよ」
とんでも無い地方もあったものである。
まさか地方単位のレギュレーションで戦術まで制限されるとは思わなかった。
確かにそれならサイクル型が少ないはずだ。要するにくるくるお互いに回すだけの試合ですら観客から見れば一向に展開の進まない退屈な試合とみなされてしまうのだ。
多少の不利を織り込んでも真正面から殴り合ったほうが『後続』を考えると良いのだろう。
「てことは試合の展開まで考える必要があるのね……結構難しいわね」
「うん、他の地方はまた別の難しさがあるかもしれないけど、ガラルもガラルで難しいんだよ」
最終的な勝負を決めるのはお互いの『エース』だ。
だから試合の終盤、『エース』が出てくるまでにどれだけ相手を疲弊させているか、味方の『エース』を有利な状況で出せるか、というのは問題となるわけだ。
そしてサイクル戦をしない、ということは基本的に全員が居座ってくるわけで、ポケモンの交代は場のポケモンが『ひんし』になった時だけ、と考えると……。
どのポケモンにどんな戦術を詰め込むか。
そして戦術を詰め込んだポケモンをどの順番で出していくか。
常に試合の終盤を意識してパーティを構築し、展開を組み立てなければ相手の『エース』を倒すより先に味方の『エース』が息切れすることになる。
つまり負けだ。
「さすがにこういう制限でのパーティ構築なんて考えたことも無かったけど」
「けど?」
「……楽しそうではあるわね」
そんな私の呟きに、ユウリがふふっと笑い。
「楽しいよ、すっごくね!」
今日一番の笑みを浮かべた。
キバナさんのデータ作ってたら遅くなりました。
いや、おかしいんだ……、もっと前からキバナさんのデータ作ってたはずなのに『できたー!』って思ってみたらダンデさんのリザードンのデータが完成してたんだ(
慌ててキバナさんのデータ作ってた。
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女の子の買い物はついつい長くなるという法則
ナックルシティはガラルでもシュートシティに次ぐ大都市ではあるが、同じ大都市のエンジンシティと比べるとその景観は落ち着いた雰囲気を醸している。
民家の一つ一つすら統一された伝統の建築様式で建てられており、他の地方では見られないガラル独特の建築は観光都市として評価されるだけあってただ歩いているだけでも楽しめるものだった。
シュートシティでも同じように地方独特の建築様式の建物があったが、あちらは比較的近代のものらしく、ナックルシティはもっと古い時代のものらしい。
「こういうのレトロチックっていうのかしらね」
「素敵な雰囲気の街だよね~」
スタジアムで開かれていた大会も昼過ぎには終了しており、折角街に出てきたのならぶらりとショッピングでもしようとユウリと街を歩いているのだが、なんとも広い街である。
いや、正確に言えば広いというより街の中央に大きくスタジアムが建っているためどこにいくにもスタジアムの外周を大回りするように移動しなければならないせいで広く感じるのだろう。
実際のところガラルの街々というのは規模自体はそれほど大きくは無いのだ。
街の数自体が多いだけで一つ一つの都市はそれほど大きいわけではない。
ガラルの主要都市、と言われると『スタジアム』のある街がピックアップされるが実際にはそれ以外の街も多数存在している。『スタジアム』があるところと比べると小さいが、スタジアムのある街と同じくらいの数の『無い』街がガラルの各地には点在しているのだ。
なので土地や人口的には他地方と比べてそれほど差の無いのガラルだが、一つ一つの街の規模は他の地方と比較すると小規模になっている。
シュートシティだけ例外的にやたらと広いがあれはガラル地方の玄関口として他地方の人々を大勢迎え入れるためだったり各ジムが集中していたりと色々理由はある。次に大きいナックルシティやエンジンシティだってスタジアムがあるから大きく広く見えるだけでスタジアムを抜いた街の敷地というのはそれほど広いわけではない。
それでもこうして実際に歩いて見ると広く感じるのはやはり円状に広がった街の形のせいなのだろう。
「でもやっぱりこうして見ると、一部の建物だけ浮くわね」
「だね~。でもまあ、しょーがないよ」
大都市だけあってポケモンセンターやブティック、その他多くの商業施設が並んでいるのだが、建物の外観が明らかに街とあっておらず、浮いて見えた。
他の街と同じ系列の施設も多いため、ユウリの言うとおりこればかりは仕方ない話でもあるのだが。
「っと、あったあった、ここだよ~!」
『スタジアム』から歩いて30分ほど。
ユウリの案内でたどり着いたのがガラル地方一帯に展開している量販店『ブティック』だった。
* * *
『ブティック』はかなり大型の量販店であり、ガラルの主要な街ならだいたい店舗を構えている服飾店だ。
最大の特徴としてジムリーダー等の『レプリカユニフォーム』を販売している。
『ユニフォーム』というのは他地方のトレーナーでは余りピンと来ないのだが、ガラルのトレーナーというのは『ジムチャレンジ』等リーグ主催の公式試合の際に出場選手であることを判別するためのユニフォームを着用することを義務付けられている。
またプロリーグ参加時に選手ごとに好きな番号を登録することが義務づけられており、登録した番号はユニフォームの背中に刺繍される。
選手の背番号の入ったユニフォームのレプリカというのはその選手のグッズとして販売されており、その選手を応援していたり、憧れたりするファンが買ったりするらしい。
またユニフォームもジムチャレンジャーたちに最初に支給されるスタンダードなタイプとは別に、各タイプジムごとの意匠がされた類のユニフォームもあり、こちらもメジャージムの意匠のユニフォームなどは人気が高いらしい。
そしてそれら『ユニフォーム』を製造、販売をリーグ委員会から請け負っている唯一の会社が『ブティック』の大本となる。
レプリカ、と言っても実際に選手が使用するものとほとんど違いは無く、ガラルではかなりの人気商品らしい。
とは言え、かなりの値段がするのだが。
『ブティック』は実は余り一般向けの店ではない。
一般人向けの服飾店というのは各街にそれぞれ存在するのだが、『ブティック』はそれらの店舗とは少し趣きが異なる。
言ってしまえば、『ブティック』はどちらかというとトレーナー向けの店舗なのだ。
トレーナー業というのは一般人が思っているより過酷な職業だ。
野生の領域を歩くこともあれば、バトルでポケモン同士の激しい技のぶつかり合いの余波を受けることもある。
調査のために人の手の届かない地に足を踏み入れることだってあるかもしれないし、時には海の底にだって潜ることもある。
そんなことばかりやっていれば当然ながら普通の服を着ているとあっという間にボロボロになる。
故にトレーナーの衣服というのは見た目普通でもかなり丈夫にできている。
作業着でも着れば話は別だが、とは言え年がら年中トレーナー全員が作業着着ているというのも華の無い話だ。
特にこのガラルではトレーナーの『見映え』というのはプロ生命に直結する話であるし、ガラル以外でも地方の上位トレーナーというのはテレビ等でも放映されることのある花形である、となればそれが華の無い無骨な服装というのも無粋な話だ。
トレーナーだってそれら衣服の利便性は分かっていても、お洒落だってしたいと普通に思うわけで、そんなトレーナーたちのためにトレーナー用の衣服というのは作られている。
『ブティック』で売られているのはそういうトレーナー等の普通より丈夫な衣服を必要とする人向けの商品なのだ。
「靴……靴。ああ、あったわね」
「ソラちゃんの靴もう大分ほつれちゃってるし買い替え時だね~」
シューズコーナーに並ぶ大量の靴を見やりながら一つ一つ手に取って確かめる。
『ブティック』に置いてあるシューズは基本的にどれもこれもトレーナー用、というか走ったり動き回ったりすることを前提としている。
一見すると全く向いてないように見えるようなシューズでも、それはデザインだけの話であり実際は作業靴と同じくらいに丈夫で動きやすかったりするのだ。
「こっちの底に鉄板の入ってるのも良いわね」
「重くないかな?」
「でもワイルドエリアみたいな場所を歩くなら……」
「あ、こっちの防水完備のラバー製のも……」
前提としてどのシューズも運動に適し、山や森などの歩きづらい場所でも快適に歩けるような設計になっている。
ただそれ以外の部分では割と性能に差異はあるため、用途を考えて性能でシューズの種類を決める。
それを決めたらその種類のシューズはだいたい全部同じような機能性を持つので後は値段やデザインと相談になる。
「ソラちゃんならこっちの赤とか良いいんじゃないかな?」
「赤……まあ嫌いじゃないけど、こっちの青は?」
「ソラちゃん髪もコートも青なんだから、赤のほうが良いって」
「ちょっと背伸びして黒……白はダメね、汚れが目立つし」
「あはは~、白はちょっとね。街中を歩くくらいなら良いんだけど」
「というかこの種類、私のサイズあるかしら」
「ソラちゃん足ちっちゃいもんね」
「うっさい」
ユウリと二人で雑談しながら良さそうな物を一つ購入する。
定期的にメンテナンスしてやれば十年は使える優れモノではあるが、さすがに十年も経てば背丈や足のサイズも変わっているだろうから使えて数年だろう……そのはずだ。
これで用事も終わったのでもう帰っても良いのだが。
「ねえねえ! ソラちゃんこれ着てみない?」
「却下……好みじゃないわよ、こんな派手派手しいの」
「えー、絶対似合うと思うんだけどな~」
「ユウリこそ、こんなのどう?」
「ん~、よし、着てみるね!」
『ブティック』には当然ながらシューズ類より衣類のほうが多い。
後は眼鏡やヘアバンド、ゴム、ピンなどアクセサリーの類もそれなりに揃っていて、他にも帽子や手袋なんてものまで置いてある。
いつも着ているコートやシャツ、スカートなどは似たようなのが複数あるのだが、それはそれとして別に他の服装に興味が無いわけではないのでこんな店に来てしまうとついついあちらこちらと目移りしてしまう。
「じゃじゃーん! どう? どう? ソラちゃん」
「あら、良いじゃない。思った通り似合ってるわよ」
「そっかそっか、じゃあ買っちゃおうかな~?」
「私は……どうしようかしらね。これとかちょっと欲しいんだけど」
「あー! ソラちゃんその帽子良いよ! すごく可愛い!」
「ありがとう。そうね、私もこれ買おうかしら」
「うーん、他にも欲しいのたくさんだよ~。お小遣いが……」
「お小遣い制なの? チャンピオンなのに」
「お母さんが厳しいんだよ~」
「世知辛いわね」
基本的にたいたいの地方で成人は10歳だ。
だが実際に10歳の子供がいきなり社会に出れるか、と言われると無理なのは明白であり現実的に独り立ちするのは15歳前後くらいになる。
まあうちの父親は12歳ですでに独り立ちしたらしいがそれはかなり例外的と言える。
12歳……つまり私やユウリと同じ年齢は一般的にはまだ子供と見なされることが多い。
勿論、トレーナー資格を得て社会に出ている以上、法律的には大人になるし、大人としての権利も義務もあるのだが感情的には子供扱いされやすい。
故にユウリのように一つの地方の頂点に立つようなトレーナーだろうと、親からすればまだまだ子供といった扱いになるのも無理はない。
無いのだがそれを子供が素直に受けるかと言えばまた別の話。
「私が自分で稼いだお金なのにな~、って思うわけ」
「まあ一理あるわね」
「でもまあお母さんの言いたいことも分かるんだけどね」
「確かに」
『ブティック』でいくつか買い物を終えれば場所を移して近場の喫茶店に入る。
端のほうの席に座って注文を済ませると先ほどの続きとばかりにユウリが喋り出す。
「でもさでもさ! やっぱりトレーナーって何かと物入りだよね? 多分一般的に見たらお小遣いが全然お小遣いじゃないくらいの額もらってるよ? でもトレーナーとしての活動費まで入れると自分で使える分ってあんまり無いんだよ」
「分かる分かる」
「企業案件で仕事入ることもあるけど、報酬とか全部お母さんが貯金しちゃうし。私のお小遣いって月に一回お母さんからもらう分除いたらバトルの賞金くらいだよ!」
「それでアンタ前に通り魔みたいにトレーナーにバトル吹っ掛けてたのね」
「でもでもそれやったらリーグ委員会がやりすぎって怒られたし!」
「うちの父親も同じようなこと言ってたわね」
何だろう。チャンピオンっていうのはトレーナー相手に通り魔する習性でも持っているのだろうか。
「さすがに子供や新人相手にそんなことやったら不味いからちゃんと大人の人に吹っ掛けたのに!」
「そういう問題じゃないでしょ」
地方チャンピオンが一般トレーナー……それも多分正規トレーナーでも無い相手にバトル吹っ掛けているのが問題なのだ。
「違うんだよ! 私は自分から行ったわけじゃないんだよ、相手から吹っ掛けてきたんだから」
「でも吹っ掛けられやすいようにボール見せつけながら歩いていたんでしょ?」
「それはまあそうだけど」
「わざわざ帽子深く被って顔隠したり、服装変えたりでチャンピオンってバレないようにしてる辺り結構確信犯よね」
「そ、そんなことはないヨ?」
顔に正解と書いてある。
「というかソラちゃんって今プロ活動してないはずなのにどっからお小遣い出てるの?」
「私はまあ去年溜めた分あるし。必要なら家から借りてるかしらね」
私にスポンサーはついていないが、まあ強いて言うなら父さんが私のスポンサーということになるのだろうか。
「ず~る~い~」
「その代わり貸し借りはきっちりしてるけどね」
家族だからと言ってなあなあにはしてくれないし、私自身そこはなあなあにするつもりはない。
まあだからこそ貸してくれるのだろうが。
「あの家は甘えようとすると泥沼になるから」
多分全部投げ捨てて実家でニートしようとすれば普通に許容してくれるくらいには甘い。
母さんも本気で私が嫌だと言えば仕方ないわね、と言って受け入れてくれるだろうし。
まあ私自身、自分がそんな素直に甘えることのできる性格ではないと分かっているし、それをしてはならないという理性くらいあるが。
「あ~ソラちゃん家はねー。家族仲良いよね」
「良すぎるくらいにね」
血の繋がった家族が3人。半分血の繋がった弟妹が9人。血の繋がらない母親が6人。
どう考えても異常過ぎるくらいに異常な家なのに、全く気にならないくらいに仲が良い。
というよりこうして社会に出るまで自分の家の異常性に全く気付かなかったのだが。
「ちょうだい、って言ったら借りてる分が全部チャラになっちゃいそうだけど、そんなのプロトレーナーとして余りにも情けないしね。だから借りた物は返す予定よ」
「ならガラルはいいかもね~。他の地方と比べてもトッププロの平均収入は凄く高いよ」
「トッププロの収入は高いけれど、それ以下となると……って話よね。まあどこもそんなものだけど」
「ん-。ソラちゃん次第だけど、ジムチャレンジまでにまだ何回か大会あるし、出てみる? 入賞すれば賞金もそれなりに出るよ」
「そう、ね……」
悪くない話だ。
単純に賞金の話もそうだが、それ以上に実戦に勝る訓練は無い。
ジムの育成施設を借りれるとは言え、実際に大会でバトルをして得た経験は私の手持ちたちを飛躍的に強くしてくれるだろう。
「取り合えず考えておくわ」
「そっか~。まあ来週、私が主催の大会がシュートスタジアムであるから絶対に見に来てね!」
「それは勿論」
告げる言葉にユウリが笑みを深くし、私もまた苦笑した。
仕事とか用事が忙しくて更新遅れました。というより一章で一か月近く毎日更新やってたツケがソシャゲのイベントという形で帰ってきた(
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情熱、思想、理念(以下略)……速さが足りない!
「難しいわねえ」
腕を組み、頭を傾げる。
そうして何度となく頭の中でプランを構築しては破棄している。
リシウムがジム施設を使う許可をくれたため環境は整っている。
故に後はどう育成するか、トレーナー自らがプランを立てるだけなのだが、どうにも難しい。
とは言えこの難しさはガラルのポケモンバトル独自の文化に基づいたものであるが故にすぐにどうこう、というのが難しいのもまた事実だ。
ユウリ曰く。
ポケモン自身の気分の高揚、これをガラルのトレーナーは『テンション』と呼んでいるらしい。
テンションが最高潮まで達すれば体感でポケモンの能力が3割増し高くなるのだとか。
逆にテンションが最底辺まで落ちれば3割減くらいまで落ち込むらしい。
ポケモンの能力は割と精神性で変動することも多いので決してない話ではない。そこに『スタジアム』効果が加わるのだから余計にだ。
故にガラルのポケモンバトルはこの『テンション』をいかに高揚させるか、が重要な要素の一つとなる。
ここでポイントなのは『味方のテンションを上げる』ことは容易でも、『相手のテンションを下げる』ことは難しいということだ。
勿論相手のテンションを下げる方法というのはあるのはあるのだが、狙ってやるには手間とリターンが釣り合わないというべきか。
そもそも『テンション』自体はバトル中自然と上下する部分もある。
例えば相手を倒した時など倒したポケモンだけでなく、味方全員のテンションを上げてくれる。
逆に相手に倒された時、味方全体のテンションが下がる。
他にもバトルの一番手を任されたり、逆に一番最後に出たりするとテンションが上がったりする。
これら以外にもテンションが上がる要素というのは色々あるらしいが、それ以外にも育成の段階でテンションを上げる術を仕込める……らしい。
これはガラルのポケモンバトルにおけるほぼ必須の能力だ。
正確に言えばできるトレーナーとできないトレーナーではほぼ常時テンションの差をハンデとして戦わなければならない。
先も言ったがテンションの上下はポケモンの能力に直結する。
つまりテンションが高いほうが常に有利を取れる以上、これができないトレーナーは常にハンデを負うことになりかねないということだ。
「でも育成でテンションを上げるってどうやるのよ」
ガラルのトッププロなら当然の技能らしいが、他地方のトレーナーだった私からすればどうやるんだそんなもの、と言った話。
さすがにこればかりはユウリに聞くわけにもいかない。
トレーナーからすれば『育成方法』とは生命線に等しい以上、例え友人だろうとそれは無理だ。というか同じ現役同士ならば家族ですら無理だ。
シキ母さんだってさすがにそこまでは教えてくれなかった、私が教えてもらったのはあくまで基礎的な育成や高度な育成のコツ程度だ。残りはホウエンのトッププロたちのバトルなどで得た情報を元にした独学である。
公認スクールならこの辺もある程度以上に教えてもらえるらしいのだが、私は公認スクールは出ていないのでトレーナーとしての知識の大半が父さんや母さんたちに教わった物で、残りは独学だ。
当然ホウエン地方に焦点を当てたものがメインであり、ガラルのことなんて一つも習ってはいない。
テンション要素一つだけでもこの有様なのに、それ以外にも独自要素が存在するらしいのだが最早お手上げに等しい。
「どうにもならないわね、これは」
手持ち全員分の育成構想はすでにあるのだが、ここにガラル独自要素を追加していくとなると今のままではダメだ。だがダメだから、無理だからと諦めていてはプロとしては失格だ。
無理なら可能にする、ダメなら大丈夫にする、そのための行動が必要だ。
「ロトム、直近一週間の大会、一覧で検索して」
一言呟けば手の中のスマホが浮かび上がって検索結果の一覧を表示してくれる。
ガラルは他地方よりもポケモンバトルの大会が多いためか直近で一週間内と指定しても二つ三つと大会がヒットする。
これが他地方、例えばホウエンなどならばポケモンバトルの大会など月に一、二回くらいのものだが、ガラルだと月に十回以上にもなる。代わりにジムチャレンジ中は大会が開催されないためトータルで見ると他地方よりやや多いくらい済むらしい。
「うーん、一番近い大会で……ユウリの言ってたやつね」
チャンピオン主催の公式大会なのでチャンピオンの名前を取って『ユウリ杯』になるらしい。
一般的にチャンピオンカップというのはチャンピオン主催の大会全般を言うのだが、チャンピオンカップ、とだけ呼ぶ場合はジムチャレンジ後のファイナルトーナメントからチャンピオン戦までを指すらしい。
単純にチャンピオンカップとだけ言うと公的にはどっちなのかややこしく、区分のためにチャンピオン位の交代の無いノンタイトル戦は『チャンピオン名+杯』で呼ぶようになったのだとか。
開催は3日後。
それまでにできることをいくつか頭の中で挙げていって。
「……今のうちにやっておきましょうか」
一つ決めた。
* * *
手持ちの育成は比較的順調に進んでいる。
先ほどまでガラル独自の要素にてこずってはいたが、それ以外に関してはほとんど順調すぎるほどに順調である。
特に『専用個体』のガーくんは非常にユニークであり、ガーくんを育てること自体が私の育成経験に非常に大きなプラスになっているのか、ガーくんを育てる過程で得た経験が他のポケモンたちにも応用できたりして最初のプランよりも一回り強くなれそうではあった。
ただ全く問題が無いわけでもないのだ。
『ほとんど』順調、とは言ったが万事順調と言えないのはそれがあるからだ。
「どうしようかしら、ホントにこいつは」
私の足元で地面に激突して目を回すファイアローを見やりながら嘆息する。
そう、ファイアローである。
『ヨロイ島』で捕獲したヤヤコマが見事に進化してファイアローになったのだ。
特性も『はやてのつばさ』という『ひこう』タイプの技が素早く出せるようになる私のパーティにピッタリな強力な特性を持ち、ここからさらに強くしていこう、と考えていたのだが……。
私のパーティは基本的に天候『おおあらし』を基準にして育成される。
実際のバトルではほぼ常時『おおあらし』なのだから当然と言えば当然だ。
ただその暴風と洪水のような雨の中で飛び続けることはある程度の習熟が必要になる。
そのためヤヤコマの頃から少しずつ『おいかぜ』などで慣らしていたのだ。
そのお陰か『ほのお』タイプを持つファイアローになっても暴風雨の中でも平然と飛行できるようになってくれた……までは良かった。
問題はその後だ。
ファイアローというのは『ひこう』タイプと『ほのお』タイプの二つのタイプを持つポケモンであり、当然ながら両方のタイプの技を得意とする……はずなのだが。
【名前】アーくん
【種族】ファイアロー/原種/特異個体
【レベル】76
【タイプ】ほのお/ひこう
【特性】はやてのつばさ
【持ち物】こだわりスカーフ
【技】ニトロチャージ
これがファイアローのアーくんの現在のデータだ。
技を見てもらえば分かると思うのだが、このポンコツ鳥『ニトロチャージ』以外の技を一つも覚えていない。
いや、ヤヤコマの時やヒノヤコマの時には確かに技が4つくらいあったはずなのだが、ファイアローに進化してから気づいた時には『ニトロチャージ』以外の全ての技が無くなっているし、技マシンや技レコードなどで覚え直させてもだいたい次の日には覚えさせた技全て勝手に忘れてしまっている。
図鑑解析にかけたら特異個体になっているのが確認できたのだが、特異性がまさかそういうデメリット部分で出てくるとは予想外だった。
そしてそれ以上に問題なのは。
この阿呆鳥とんでも無い『スピード狂』なのである。
ファイアローにわざわざ『こだわりスカーフ』なんて持たしているのなんでだ、と思われるだろうが別に私が持たせたわけじゃないのだ。勝手に持ちだしてこれ以外の持ち物を拒否するのだ。
本人曰く『もっとだ! もっと!! もっと!!! もっと
さすがにアーくんの言葉が直接分かるわけではないので、アーくんの言葉をガーくんが聞き、ガーくんがそれを翻訳した結果の又聞きなので何か間違っている可能性がある……というか可能性が高い、いや寧ろ間違っていて欲しい。自分の手持ちがこんなポンコツだとは思いたくない。
一番厄介なのはコンセプトとしては間違っていないことだ。
私がファイアローをパーティに入れようとした目的がそのスピードだ。
故にとにかくスピードを追い求めるというその思考は決して間違いではない、のだが。
自分のスピードに振り回されて姿勢制御を僅かでもミスすればその勢いのまま地面に激突して目を回すのはさすがに馬鹿過ぎる。
しかも折角の強い特性なのに、技が『ほのお』タイプのニトロチャージしかないせいで活用できる場面が無い。
ただひたすら致命的なのは『おおあらし』展開中は『ほのお』技が使えないということだ。
因みに一度そのことを本人に言ったら次の日技が『こうそくいどう』オンリーになっていたが、『こうそくいどう』オンリーでどうやってバトルする気だとさすがにそれは止めた。
「何か良い方法無いかしらね」
このままだとバトルで使えない。
ただ才能はあると思うのだ、『おおあらし』へ順応する能力も高いし、私のパーティに入れるだけの資質は十分にあると思っている。
けれどバトルに実際出せるか、と言われれば否としか言えない。
「逃がす……とかは無責任すぎるしね」
使えないから逃がす、というのはトレーナーとしては最低の発想である。
ポケモン自身がそれを望んでいるのならばともかく、トレーナー側の都合だけでポケモンを野生の帰せばポケモン側からすれば捨てられたとしか思わないし、それは後々遺恨を残すことになる。
故に手に余るポケモンはそれを使える相手を探すなど、選択肢を増やしてポケモンと相談して去就を決めるのが一般的だ。
言葉は通じなくとも意思疎通はできるのがポケモンという不思議な生き物なのだから。
何よりあれだけ苦労して捕まえて、ヤヤコマの時からここまで育てて、ニックネームまでつけた仲間を手放すような真似はしたくない。
「何か手は無いかしらね」
考えて、リシウムに聞いてみるというのはどうだろうか、と思いつく。
リシウムは『ひこう』タイプのジムリーダー、つまり『ひこう』タイプの専門家だ。
実際の育成方法はともかくとしてアイデアや方向性に関してアドバイスをもらうくらいならばトレーナー同士でも仲が良ければやるし、聞いてみるくらいは良いのではないだろうか。
教えてくれるほどの仲か、と言われれば首を傾げるがまあジムリーダーなんて面倒見が良く無いとなれない立場ではあるし、聞いてみれば案外教えてくれるかもしれない。
そう考えて近くにいたジムトレーナーの一人にリシウムの居場所を聞けば今は事務室のほうにいるとのことなのでそちへ移動する。
しかしまあ、リシウムも忙しい人だと思う。
正確に言えばジムリーダー自体が忙しい地位だ。
ジムトレーナーの指導などに三時間、四時間と時間を取り、事務作業に二、三時間。そしてリーグ委員会などへの用事で出かけることも。それに加えてジムリーダー自身の特訓などもある。
一日の大半はジムで過ごしているし、それがほぼ毎日……かなり忙しいのに初めて会った時のように緊急の要件で駆り出されることもあれば、マイナーリーグのほうの試合に出ることもあれば、それ以外の大会に参加することも時々。
リシウム曰く、マイナージムなのでこれでもまだ楽なほうらしく、メジャージムとなるともっと忙しいらしい。とは言えメジャーのほうが事務員などを多く雇って事務作業の時間を減らしているらしいのだが、それでもジムトレーナーの人数はマイナーより多い傾向にあるので結局忙しさ的にはメジャーのほうが上になるのだとか。
聞けば聞くほどに大変な立場だとは思うのだが、それはみんな思うらしく、現役ジムリーダーが後任ジムリーダーを指名するのはそういう大変な立場を考慮して相応しい後継を選ぶ意味あいもあるのだとか。
強くなければならない立場だが、強いだけではやっていけない立場でもある。
そういう意味で、リシウムもこのガラルにおいて紛うこと無く『プロフェッショナル』であるのだろう。
そんなことを考えながら事務室の扉を開いて……。
「はい、ご無沙汰しております」
中から聞こえた
「はい……勿論のこと、重々承知しております。はい、はい、明後日ですね。分かりました」
え、誰? と言いたくなるようないつもと全く違う喋り方。
いやでもジムリーダーだし、まさか誰にでもあんな喋り方してるわけじゃないのかもしれない、と改めて考え直して。
「はい、それでは、失礼いたします、
それが身内への電話だったと気づく。
同時に電話が切れたのか受話器を戻して。
「あ~くっそ、あの糞親父、マジ死ねし!」
苛ついた様子で電話が置かれた机を蹴とばす。
どん、と大きな音に思わずびくりとしてしまうと同時に開けかけていたドアがぎぎ、と音を立てて開いて。
「「…………」」
ばっちりと、こちらへと視線を向けたリシウムと目があった。
スクライドは名作だぞぉ……。
ごほーこく。
水代、本日よりふんたーになります(後は分かるな?
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テンプレという言葉は悪い意味ばかりではないが、良い意味ばかりでも無い
―――かつてガラルに君臨した王がいた。
ガラルにはかつて王国があった。
ガラルの地に伝わる英雄の伝説。そして英雄は王となり、その子孫は、その系譜は今日にまで続いている。
そして王家同様にかつての王国にいた貴族と呼ばれる身分の人間たちの子孫は、その系譜は名家と名を変えて今日まで続いていて。
リシウムが生まれたのはそんな名家の一つだった。
『我々はかつての貴族として、下々の者たちを導く義務がある』
『故に下々の者たちは、我々貴族……名家に支配される義務がある』
『下々の者は、我々上に立つ者のために存在する』
そんなことを今の時代に本気で口にするような男がリシウムの父親で、そんな父親が家柄と血筋だけが取り柄のようなキーキーとバチンキーよりも騒がしい女と結婚し、儲けたのがリシウムという少女だった。
結婚とは家と家の繋がりである、とそんな時代錯誤な思考で結ばれ、互いに愛してもいないのに家の体裁のために一人くらいはと作られ、生まれたリシウムが当然のごとく愛されるはずもなく。
互いに義務は終わったと言わんばかりの態度で家を空けがちになり遊興に耽るばかりの母親と、そんな屑のような女に愛想も尽きたと言わんばかりにまるで自分が女に裏切られた被害者であるかのような態度で外に女を作った男。
結果的に生まれたのが妹のクコだった。
父親が外の愛人との間に作った子供。
体裁を重んじる父親がそんな汚点のような存在を自分の視界の届く場所に入れるはずも無く、当然ながらクコとその母親は金だけ握らされて無理矢理に元の街を追い出された。
―――下女ごときの血が流れた子など汚点以外の何者でもない。
自分の行いの結果だというのに。
後にその理由を問えば、返ってのはどこまでも見下げ果てた答えだった。
元より男を家族だなんて思ってはいなかったが、それでもそこまで見下げ果てた男だとは思っていなかった。
当時のリシウムはまだ妹の存在を知らなかったが故に、まだ男に期待していたのだ。
望むような子になれば、愛してもらえるのだと。
父に、母に、さすが私の子だと言ってもらえるような、そんな『良い子』になれれば……。
そしてそんなリシウムの期待を裏切り、踏みにじるのはいつだって両親だった。
* * *
「あー、見た? 見たというか、聞いた?」
「えっと……うん、まあ。アンタ普通に喋れたのね」
「あ~ハッず。めちゃハズいんだけど」
羞恥心に顔を覆うリシウムの姿を見やりながら何やってんだか、と嘆息する。
少しの間、うーうーと唸っていたリシウムだったが、少しは気も済んだのかようやくこちらへと向き直る。
「あー、さっきの秘密にしといてくんない?」
「喋り方?」
「それもだけど、父親と電話してたってのも」
「ふーん。まあ別に良いわよ」
「頼むわ。特に絶対にクーには内緒にしといて」
先ほどまでと違って真剣な表情で告げるリシウムに様子を見るに、何か事情があるらしい。
まあ家庭の事情なんて誰にでもあるものだし、一々人のプライバシーを詮索するような趣味も無い。
「分かったわ」
再び頷く私に、ほっと安堵の息を漏らしたリシウムだった。
「あー、それであーしに何か用?」
「ちょっと聞きたいことがあって。無理にとは言わないんだけど」
動揺を落ち着けるためにソファーに座ってスティックキャンディーを咥えたリシウムの対面に私も座る。
それからちょっとしたハプニングで遅れてしまったが本来の要件を伝える。
「なるなる。そーいうことならちーとばっかし力になれるかね」
頷くリシウムにさすが『ひこう』タイプジムのジムリーダーだと思う。
トレーナーにとって『経験』というのは何物にも代えがたい貴重な財産だ。
特に育成は『知識』と『施設』と『経験』の三つがものを言う。
私もトレーナーとしての勉強はしてきたし、施設もリシウムの協力でジム施設という一等のものを使わせてもらっている。
ただどうやっても『経験』が足りない。
私がトレーナーになったのは一年前のこと。
実際にポケモンを育成し始めたのもまた同じくらい。リーグを優先して6体に集中して育成を施していただけに私の中で育成の『パターン』が足りないのだ。
ポケモンジムが何故必要とされるのか。それは同じタイプばかりを何百何千と育て続けてきた『知識』と『経験』の積み重ねがそこにあるからだ。
こんな感じのポケモンをこんな風に育てるとこんな具合に仕上がる。
そんな育成の例を何百、何千と積み重ねて組み合わせる。
特に特異個体や変異種などの普通とは違う育成手腕が必要とされる場合など、一度でも同じような個体を育成したことがあるか否か、というのはかなり大きな差異が生まれる。
今回のファイアローの例を見れば分かるように、ああいう特異な例を育成したことが無いが故に、どういう風に育ててやればいいのか理想像が持てないのだ。
育成とはトレーナーの理想にポケモンを合わせることであるが故に理想像が持てないとどう育成するか方針すら決まらない。
「えーっと、確かこの辺に……ああ、あったあった」
これとかどうよ、とリシウムが持ってきたのは一冊の本。
「これ育成記録じゃないの? 見て良いの?」
「えーよ。クーの友達になってくれた礼みたいなもんだと思って」
「別にそういうつもりでなったわけじゃないけど」
「それでも、あーしにとっては嬉しかったんよ」
どうぞ、と言わんばかりに差し出された本を仕方ないと受け取って開く。
それはこのジムにおける過去の育成記録だ。
どんなポケモンをどんな風に育てたのか、その結果どんな風に育ったのか。
ジムの財産と言われるだけのことはある。書かれていること一つ一つが私の知識と経験となってくれるようで。
「さすがに貸し出しは無理めだけど、あーしが居る時ならまた読んでも良いよ」
「凄いわね。でも本当に良いの?」
これを読みこめば私の育成能力が一つ上がるだろうことは間違いない。
だが同時にこれは歴代の『ひこう』ジムの面々が紡いできた『ひこう』ジムの歴史であり、財産そのものだ。
それを部外者である私に見せても良いのか、そんな問いにけれどリシウムは首を振る。
「別に善意ヒャクパーってわけでも無いから、気にしないで良い」
そんなリシウムの言に首を傾げる。
果たしてこれを私に見せることに一体何のメリットがあるというのか。
「まあもしどうしても気になるってなら、今回の育成結果をレポートさせてくんね?」
「そうね、そのくらいなら……」
育成結果はそのまま私のパーティ面子の情報に直結するのだが、まあこの本一冊の代償としては安いほうだろう。
「一応言っておくけど、他には見せちゃダメよ?」
「それはトーゼンっしょ」
育成結果を見れば私のポケモンがどのくらいいて、どんな能力を持っているのかまで丸わかりになってしまう。当然ながらプロトレーナーとしてそれは余りにも大きいデメリットだ。
だからリシウム……というか『ひこう』ジムの内々で留めること、これは絶対の条件だった。
さすがにリシウムもプロトレーナーとしてそれは分かっているだろう。
もし渡したデータが他に漏洩した、なんてことになれば『ひこう』ジムの信用にも深い傷がつくことになるのだから。
「ああ、あと一つ頼みがあるんだけど」
「何?」
「育成一通り終わったら3:3で良いんでバトルしてほしーんだけど」
「3:3ってことは普通にシングルか、良いわよ。というかそっちこそ良いの?」
「もーまんたい」
何を言っているのか分からないが、どうやら良いらしい。
4月から始まるというジムチャレンジの前にガラルのトッププロの一角とバトルできるならそれは願ってもないことだ。
同じ『ひこう』使い同士というのもあって、難しいバトルになるだろうが、だからこそ練習試合で済む間にやっておきたいというのもある。
「えーっと、3日後には予定あるし……5日後か6日後で良い?」
「5日後はクーのとこ行く予定あるし、なら6日後で」
「了解」
このガラルに来て初めてのまともなトレーナー同士のバトルだ。
ユウリとの一戦は……まあなんというか例外だろう。
「コートはここので良いの?」
「ソラ、公式試合でも無いのにスタジアムなんて使えんし。ここで十分っしょ」
「え?」
「ん?」
こっちに来ていきなりシュートスタジアムでユウリとバトルした気がするのだが、あれ本当に良かったのだろうか?
いや、チャンピオンだしそのくらいの融通は効いたの……か?
考えると面倒になりそうだし、深く追求はしないでおこう。
「何でも無いわ。それじゃ、当日はよろしく」
「こっちこそ」
* * *
「ソラちゃん、何読んでるの?」
「んー。ポケモン育成のやつ」
問われたので本の表紙が見えるようにユウリに掲げる。
タイトルは『ポケモン育成大全』。
三、四年ほど前に出版されてトレーナー業界で大ヒットを飛ばしたベストセラーだ。
最も需要がトレーナー業界に限定されていたので一般的には『トレーナー関連の難しい専門書』くらいにしか思われていないのだが。
ポケモンの育成、ということに関しての基礎的な知識からある程度の応用まで数多くのことがここに書かれており、恐らく現代のプロトレーナーでこの書の影響を受けていないトレーナーはほぼ居ないと言っても過言ではない、プロトレーナーの『教科書』である。
「あー、それか~。去年私も読んだなぁ」
「プロトレーナーなら一度は目を通すでしょうね」
最も、それを自分の物としているかどうかはまた別だろうが。
この書がベストセラーとなった最大の理由は『育成のテンプレート化』にある。
例えば『天候が○○の時』『場に出て最初のターン』『○○状態の時』などの『条件付け』のテンプレート育成。
例えば『○○の時、技の威力を上げる』『○○の時、能力ランクが上がる』『〇〇の時、味方と交代する』などの汎用性の高い『効果』のテンプレート育成。
これらをずらりと並べて、後は可能な条件と欲しい効果を好きに組み合わせた育成を行えば手っ取り早い『裏特性』が完成する。
そういうお手軽さが初心者トレーナーに受けたし、育成プランの参考になるとベテラントレーナーにも受けたし、癖の無い効果だけがピーキーな効果の隙間を埋めるのに便利だと上位トレーナーにも受けた。
これを参考にして育成をし、育成を得て積み上げた経験でやがて自分だけの育成プランを作り上げていく。それが今のプロトレーナーの流れだ。
故に現在のプロトレーナーの大半は大本を辿るとこの書を原点にしていることが多い。
まあ一時期この書が余りにもトレーナー間で売れすぎて問題になったこともあったのだが。
「でもあんまり参考にしちゃダメなやつだよね?」
「まあ、そうね」
ユウリの言う通り、参考にはなるが参考にし過ぎてはそれはそれで駄目になる。
先も言ったがこの書に乗っているテンプレートは『癖が無い』『使いやすい』『汎用性の高い』ものが多い。
それ故、初心者トレーナーが好んで使いたがるのだが、相手もプロならまた同じ書を読んでいる可能性が高い。
結果、この書を丸コピしたような育成をすると、ちょっとしたポケモンの動き一つからどんな技術が仕込まれているのか、というのが見ただけで分かるようになってしまうのだ。
テンプレートとはつまり典型的ということであり、典型的というのはつまり誰にでも理解されやすいということだ。
自分のポケモンのデータが割れやすいというのは普通にデメリットが大きすぎて、この書が『参考にはなるが参考以上にはならない』と言われる由縁がそこにある。
初心者トレーナーが育成経験を積むために使うくらいには良いが、ベテラントレーナー以上になると『自分だけの育成』を行うようになるため、参考くらいにしか使われない。
とは言え、私だってまだベテランと呼ばれるほどには経験を積んでいるわけではない。
特にガラルに来てから普通ではお目にかからないようなポケモンばかりに出会っている気がする。
まだそれらを十全に育成できるほどの
とは言えやはりリシウムがジムの育成記録を見せてくれたことが非常に大きかった。
お陰で薄っすらとだが理想像が見えてきた。
後はその理想像を固め、それに必要な育成方法を模索するだけだ。
ジムチャレンジまであと一月ちょっと。
切羽詰まるほどの時間ではないが、十分と言えるほど時間があるわけでもない。
とは言え、まあ。
「ユウリ」
「なに~?」
「明後日、楽しみにしてるから」
チャンピオンカップ。
このガラルで最強な幼馴染が開催する恐らくこのガラルで最もレベルが高くなるだろう大会。
ただ見るだけでも得られるものは大きいだろうし、ユウリの本気というのも見てみたい。
故に期待を込めて告げた言葉にユウリが一瞬目を瞬かせ。
「うん、まかせて!」
直後に満面の笑みを浮かべ、ぐっと拳を握った。
モンハン楽しすぎた(
そして来週からPSO2NGS始まるから、今週中にモンハン終わらせないと……し、執筆時間、どこ?
二章はトレーナーメインの話なので、トレーナーの過去話とか偶に出てくるよ。
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小利を積み重ね有利を得て勝利を掴む
「お待たせしました~」
2月最後の水曜日、午前9時。
シュートシティスタジアムの選手控室の扉を開けば多くのトレーナーたちが集まっていた。
最後に入ってきたのだろうユウリに一同の視線が集まると、その全員を代表するかのように一人、前に出てきて。
「ユウリ、時間ギリギリよ」
「あ、マリィ! ごめんごめん、ちょっと寝過ごしちゃって」
「相変わらず朝起きるの遅かと」
話かけてきたのは去年のジムチャレンジで同期だった少女、マリィだった。
現在は先代『あく』タイプジムのジムリーダーだった兄ネズさんの跡を継いで今代の『あく』タイプジムのジムリーダーとして活躍している。
若手ジムリーダーではあるが、一年目にして見事メジャージムの座を獲得したその実力は確かだった。
「いち、にー、さんの……うわ、ホントだ。みんないるね!」
「当たり前たい! チャンピオンと戦うチャンス逃すトレーナーなんておらんと」
「だってスタジアム調整でいきなり二週間もズレたし、半分くらいは無理かなーって思ってたよ」
そう、本来ならば2月の第二週に行われるはずだったチャンピオンカップのはずが、三日前になってスタジアムの一部設備の破損が発見され、その交換のために大会の開催が突如二週間もズレてしまっていた。
まあそのお陰で今日はソラちゃんが応援に来てくれるんだけどね!
最初にバトルした時に誘っては見たものの、第二週だと案外ワイルドエリアに赴いたまま大会のことなんてすっかり忘れてしまっていた可能性があったのでユウリとしては僥倖と言えた。
「ふふ……頑張らないと」
親友が見ているのだ。情けない姿は見せられない、絶対にだ。
* * *
今代のチャンピオンユウリは昨年のジムチャレンジで並み居るチャレンジャーたち倒し、その日のために牙を研ぎ続けてきたジムリーダーたちを打ち払い、ついには無敵とさえ言われた歴代でも最強のチャンピオンダンデを破ってチャンピオン位へと就いた。
驚くことにジムチャレンジに参加したのは正規トレーナー資格の取得とほとんど入れ替わり。
つまりつい一月ほど前までアマチュアだった少女がジムチャレンジに参戦し、半年にも満たないジムチャレンジ期間中に急成長しついにはチャンピオンを討ち果たしたということだ。
それはかつて十歳の時にジムチャレンジに参加し、そのままチャンピオンへと至った先代チャンピオンダンデを彷彿とさせるような光景であり、そのダンデを打ち倒した以上はユウリこそがこのガラルにおいて最強のトレーナーである……とは言えないのがポケモンバトルの難しいところだった。
確かにチャンピオンユウリは強い。
あの無敵のチャンピオンを倒し、その座を奪ったのだからそれを否定するトレーナーは誰一人として存在しないだろう。
だがダンデと比べてどちらが優秀かと言われると……ダンデと答えるトレーナーは多いのではないだろうか。
そもそも現代のポケモンバトルには『
かつてのトレーナーのように自分の持ちうる力の全てを振り絞って戦い尽くすのではない。
ただ強ければ、勝てるのならばどんな能力を持たせるのもトレーナーの腕次第などということは無い。
本当に無敵のパーティなんてものがあるならばそれはレギュレーション違反だ。
現代のポケモンバトルは『誰が相手でも勝ち目が存在する』し『誰が相手でも負ける可能性は捨てきれない』。
一番分かりやすいのはレベルだろう。
パーティ合計700。一体あたり最大120。
これが現在の共通レギュレーションだ。
これが無い場合、ユウリの手持ちの伝説と称されるポケモンたちはレベル200を超える。
それが3体……これでまともなバトルになるか、と言われればならない。
というかそんなもの同じ伝説のポケモンを連れてこなければ勝負にならない。
これは極端な例だが、トップトレーナーたちというのは一種飛び抜けた力と才覚を持つが、それを十全に発揮させれば勝負が余りにも一方的になる。
絶対に負けない勝負など勝負ではない、ただの勝利だ。
勝ちも負けもあって、初めて勝負と呼ぶのだ。
故に全てのリーグトレーナーはルールとは別のところでレギュレーションによって制限をかけられている。
だからこそ運一つで本来の実力より下の相手に負けることもあれば、本来の実力よりも上の相手に勝てることもあるのが今のリーグにおけるポケモンバトルだ。
そんな環境で10年無敗を貫いてきたダンデというのはだからこそ根強い人気と絶対視があった。
逆にユウリはそんなダンデに勝ったものの、その若さから安定性に欠けるのではないか、と言われている。
例え伝説のポケモンを使用していようと、レギューレションによって制限をつけられている以上、敗北の可能性は常に存在する。
極端なことを言えば9月に行われるチャンピオンカップの最終戦、ファイナルトーナメントを勝ち抜いたトレーナーとチャンピオンとのバトル、ここで負けなければ他でいくら負けてもチャンピオン位は変動しない。
実際、歴代チャンピオンの中でも大会で負けることなど何度もあったことだ。
ただこれは10年間、無敗を貫いたダンデというチャンピオンの存在が、チャンピオン位の価値を大きく上げてしまった弊害とも言える。
今のガラルにおいてチャンピオンに求められるのは『不敗』『無敗』『最強』『無敵』そんなものなのだ。
故に現チャンピオンユウリは難しい立場にあると言える。
先代チャンピオンダンデが貫いてきたチャンピオンというブランドを守ることができるか否か。
この最初の一年がユウリにとって最も重要な一年となることは明白であった。
* * *
チャンピオンユウリはまだ年若いトレーナーだ。
トレーナーになってまだ一年ほどなのだからそう言われるのもさもありなんといったところ。
故にまだまだその認知度は低い。
あの無敵のチャンピオンを破ってチャンピオン位になった、という事実は知られていてもどんなトレーナーなのか、どんなパーティなのか、どんなバトルスタイルなのかというのは熱心なリーグファンくらいにしか知られていないだろう。
それでも知られていることをあえて述べるのならば二つ。
一つ、チャンピオンユウリは『伝説のポケモン』を使うということ。
そして二つ。
テンションの上がりきったチャンピオンは誰にも止められない、ということだ。
『強い、強いぞチャンピオン! 今大会三度目の6タテだぁぁぁ!』
『今日のチャンピオンは凄まじくノリが良いですね。絶好調ということでしょうか。そのチャンピオンのテンションがそのまま先頭のポケモンに伝わっているせいか、暴れに暴れ回っていますね。この勢いはちょっと止められませんよ』
『凄まじいとしか言えません、今大会に参加しているのはガラルのトップトレーナーたちばかりですが、こんなことあり得るのですか』
『若さというのが安定性の無さを指すならその短所が良いほうに降り切れた結果、ということですかね。いや、しかし今日のチャンピオン本当に強いですよ。残すところは二戦ですがこのまま全勝してしまいそうです』
『さあチャンピオン、このままの勢いで突き抜けることができるか、期待していきましょう』
―――馬鹿じゃないの。
と言いたくなるのをぐっと堪える。
あまりにも的外れなことばかり言っている解説だが、観客席からそれを言ったって仕方ないのことだ。
5戦5勝。
その内3回は先頭1体での6体全抜き。
残り2回も2体目で。
確かに今日のユウリのバトルはちょっと神懸っていると言っても良い。
他のリーグトレーナーたちの実力は低くない。無いがユウリが強すぎる。
だがそれは偶然などではない。
本人の気分一つで結果がコロコロ変わる程度の差ではない。
観客席から客観的に見ていたから分かる。
ユウリの一番の長所は恐らく『対応力』だ。
相手に合わせた柔軟な対応、それこそがユウリの最大の強み。
ポケモンバトルにおいて必須の能力が三つある。
一つは『指示』する能力。
一つは『育成』する能力。
一つは『統率』する能力。
これにさらにバトル中の『技術』を含めれば四種。
ユウリのバトルスタイルはこの四種に起因している。
相手より『指示』が上回るなら先出しの指示が出せる。
相手のほうが『指示』が上回るなら味方のポケモンに『身構え』させる。
相手より『育成』能力が高いならば相手の弱みを即座に見つけだし。
相手のほうが『育成』能力が高いなら徹底的に『隙』を減らす。
相手より『統率』する力が高いならば味方全体を『鼓舞』し。
相手のほうが『統率』する力が高いなら致命の一瞬に『激励』する。
相手より『技術』があるならば相手を倒した一瞬に『交代』し。
相手のほうが『技術』があるなら交代する相手の一瞬を『待ち伏せ』る。
相手の弱みに対しては積極的に攻勢に出るが、相手の強みに対してはひたすらに守勢に回る。
基本と言えば基本だが、それをここまで突き詰めているのは何ともユウリらしい。
一つ一つの『有利』を押し広げ、『不利』を押しとどめる。
それをここまで徹底しているトレーナー、というのも少ないだろう。
強みが発揮しきれないし、弱みを隠しきれない。
それは相手からすれば厄介極まり無い話だ。
とはいえ積み重ねているのは『小利』だ。試合の趨勢を決めるほどのものではない。
はっきり言えば、多少尖らせるだけで一気に強くなるだろうやり方だが、恐らく尖らせればその分だけ相性の面が強くなることを恐れているのだろう。
徹底的な凡庸性。
ユウリがこのスタイルを貫いているのはそれが欲しかったからだろうし、それが貫けるのは『手持ち』が極めて凡庸ではないからだろう。
伝説と称されるポケモン。
その圧倒的な力があるからこその選択。
どんな相手とバトルしようと、『小利』を積み重ね、大きな有利は取れなくとも、大きく不利にはならない。大きく不利にならなければ後はポケモンたちのポテンシャルがその差を埋めてくれる。
そう考えれば中々に強気な選択であるとも言える。
そしてそれはどんな相手だろうと一定以上の不利にならない立ち回りでもある。
ユウリを指して安定性が無い、などというやつは間違いなく何も分かっていない。
爆発力こそ無いが、ユウリのパーティは安定性が極めて高い。勝つには全てにおいてユウリを上回る万能性を持つか、汎用性で補いきれないほどの尖りきった一点突破能力を持つかの二択しかない。
例えばトッププロでも年間を通しての勝率は大よそ6~70%。
つまり10試合すれば3,4回は負けるのが普通だ。
ガラル地方で言うならばメジャージムのジムリーダーの勝率の平均が72%ほど。
あの最強のジムリーダーと呼ばれるキバナですら勝率は86%。つまり10試合に1~2回は負けているのだが、この数値ですら飛び抜けた戦績と言われる。
年間勝率100%なんてあり得ない数字を10年も続けてきたダンデという怪物の存在のせいでそれ以外が霞むが、他地方のチャンピオン勢だって勝率は90%あるかないか、と言ったところだ。
つまり現代のバトルにおいて、敗北とはほぼ常に付きまとう可能性なのだ。
相性一つ、運一つで浮かび上がる敗北の可能性、それをどこまで抑えることができるのか、それがプロトレーナーとしての一つ腕の見せ所。
つまりそれを突き詰めたのが、チャンピオンユウリのパーティだった。
* * *
『いっくよ~! ザシアン!』
“きょじゅうざん”
振り抜かれた一撃に、天を突かんばかりの巨体が崩れ落ち、その足元が爆発すると同時に全身が縮んでいく。
ダイマックスポケモン同士がぶつかり合うのが現代のガラル地方のポケモンバトルらしいのだが、ユウリだけそんなもの知ったことかと言わんばかりにばったばったとダイマックスポケモンたちを斬り伏せている。
他のトレーナーの試合も見たかぎりだが、ダイマックス状態のポケモンは耐久力が飛躍的に伸びているようなのだが、そんなものお構いなしに斬り伏せるあのザシアンというポケモンはその耐久力を無視できる何かがあるらしい。
恐らく『ダイマックス』状態のポケモンに対して技の威力が上がるだとか、ダメージが上がるだとかそういう能力かそれとも技かを持っているのだろうと予測できる。
ただこれに関してはユウリが例外的過ぎるだけで、他の大半のトレーナーはダイマックスポケモンにはダイマックスポケモンをぶつけ、その結果が勝敗を大きく左右していた。
手持ちに余裕があれば非ダイマックスポケモンで手数やリードを稼いでからダイマックスへ繋げることもあるようだったが、ダイマックスポケモンというのはかなり強いようでダイマックス状態でない相手ならば2体や3体簡単に倒してしまう。
「確かにこれは大きいわね」
ダイマックスが使えることは、ガラルのトッププロたちにとって当然の話なのだろう。
ただダイマックスを使うにはダイマックスバンドというものが必要になるのだが、それは簡単に手に入る物ではないらしい。
だがこのガラルで勝ち抜くためにはあの力は必要だろう。
こうして試合を見ていると余計にそう思う。
「さて、どうしたものかしらね」
湧き上がる声援を一身に受けながらスタジアムを去るユウリの背を見やりながら、困ったように呟いた。
【技能】『ユウリをえる』
『指示』が相手より高い時、味方の技の優先度を+1する。相手を攻撃した時にテンション値(個別)を+1する。
『指示』が相手より低い時、相手から受けるダメージを0.9倍にする。相手から攻撃技を受けた時にテンション値(個別)を+1する。
『育成』が相手より高い時、味方の攻撃のダメージを最大にする(乱数ダメージを最大値で固定する)。相手を倒した時にテンション値(個別、全体)を+1する。
『育成』が相手より低い時、味方が受ける攻撃のダメージを最低にする(乱数ダメージを最低値で固定する)。場に出た時にテンション値(個別)を+2する。
『統率』が相手より高い時、味方の全能力を1.1倍にし、テンション値が下がらなくなる。
『統率』が相手より低い時、味方が『ひんし』になるダメージを受けた時に10%の確率でHPを1残す。テンション値の上昇値を2倍にする。
『技能』が相手より高い時、相手を『ひんし』にした時に味方が交代することができる。味方と交代して場に出た時にテンション値(個別)を+1する。
『技能』が相手より低い時、味方と交代して出てきた相手に与えるダメージを1.5倍する。相手が場に出た時にテンション値(個別)を+1する。
何がとは言わないけど、どっかのチャンピオンのスキルの一つ。
一つ一つは小さいけど、全8種の効果の内4種が同時に発動する上に、発動タイミングが多いので手数は圧倒的に多い。
そして一つ一つの利は小さいけど、試合中の発動回数を考えると割と馬鹿にならないというか洒落にならない。
ユウリちゃん本人のコンセプトは『利の積み重ね』。
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午後に紅茶飲んだら全部午後の紅茶
トレーナーというのは何かと物入りな職業だ。
元々ポケモンバトル自体がポケモン同士の激しいぶつかり合いであり、トレーナーはその余波を受けるため必然的に衣服はトレーナー自身を守るためのちょっとした防具みたいになっているのだがこれが結構良いお値段がする。
さらに言うなら以前買った靴なども地方中あっちこっちと旅をするトレーナーだからこそ必然的に擦り切れてボロボロにもなるし、それ以外にも荷物を入れるバッグやボールホルスター。何よりモンスターボールそのものだって古くなれば故障することもあるため数年に一度くらいボールの『移し替え』もしなければならない。
現代のプロトレーナーはもう基本的に地方を旅することも余り無くなってはいるが、それでも野生環境の中に足を踏み入れることにはなんら変わりは無い。
ガラルでもワイルドエリアという自然環境をそのままに残した特区が存在するし、ヨロイ島やカンムリ雪原など敢えて自然のままの姿を残していたり、手つかずのまま放置されている土地もあり、そんな場所へ赴くならば装いもそれに合わせたものに必要がある。
他にも道具などの消耗品や、その他器具の手入れに使う備品などもある。
さすがにバトル中に持たせる持ち物系の道具はその辺で買えない専門店に行く必要があるが、逆に『きずぐすり』や『モンスターボール』などの一般的に流通したアイテムに関してはフレンドリィショップないしなんだったらその辺のマーケットでも売っている。
ただし当然のことながら店ごとにラインナップに差異というものはある。
別にトレーナーアイテムというのは一つの会社が全て作っているわけではないのだ。
『きずぐすり』一つ取っても全国展開している有名どころだけで五社程度の製薬会社の名前が挙がるし、地方限定で販売してるものなども含めるとその数はさらに増える。
一言に『きずぐすり』とまとめてみても、その効能は実のところ微妙に異なっている。
勿論最低限の部分である『ポケモンの治療』という目的に変わりは無いとしてもだ、例えば『回復力は高いが効果が発揮されるまで時間がかかるもの』や『回復力は低いが即効性があるもの』、他にも『特定のタイプに対しては高い効果を発揮するポケモンのタイプに合わせて作られた特定のタイプ専門のもの』など多種多様な効能の薬がある。
一般的にトレーナーが使うのは全部まとめて『きずぐすり』と総称されてはいるが効能だけでそれだけの違いがあり、さらに擦り傷切り傷に使う液状のスプレータイプから打撲や捻挫につける湿布など使用用途に合わせた使用方法の種類まで含めるとその数は非常に多くなってくる。
『きずぐすり』一つとってもこれなのだ、それ以外にもトレーナーの使う道具というのは多岐に渡りその一つ一つに多くの種類がある。そうすると商品の総数というのは膨大なものとなる。
故に街ごとにショップを訪れると店ごとに置いてある商品の種類は異なり、だからこそトレーナーは基本的に拠点を置いた場所の近くのショップを毎回利用する。例えば私の場合、ガラルに来てからもっぱら使っているのはブラッシータウンのフレンドリィショップだ。
ただシュートシティはこのガラルという地方で最大規模の都市であり、最も活発な街だ。
それ故にこの街に限って言えば、ガラル中に存在する商品の大半の在庫がある。正確に言えばそれぞれの商品を扱っている店舗が複数あるのだ。
さらに言うならばシュートシティはガラル地方の玄関口……つまり他地方と繋がる数少ない街だ。
それ故か、他地方からの輸入製品なども入ってきており、こっちでは見なかったホウエン産の商品なども時折見つかる。
―――シュートシティには物が溢れている。
その結果は目の前の光景が物語っていた。
「ほへー」
シュートスタジアムの前の広場に居並ぶ屋台の数々を見て、キューちゃんが隣で目を丸くしていた。
シュートスタジアムで何かあれば多くの人が集まる場所ではあるので、その賑わいは大変なものだった。
「行くわよ、キューちゃん」
「あ、はい! 分かりました、トレーナーさま!」
スタジアムを出て階段を降りれば、多くの人で賑わう屋台が私たちを迎える。
すでに興味津々と言った様子で視線を彷徨わせるキューちゃんの姿に苦笑しながらその手を握る。
「トレーナーさま?」
「この人込みだし、はぐれないように、ね?」
「……はい!」
一瞬きょとん、とした表情をするがすぐに満面の笑みを浮かべてキューちゃんが頷いた。
* * *
元より人間の街というものにそれなりに興味はあった。
今の姿になるよりも前から、特に人の街の傍で暮らしている比較的弱いポケモンたちはその傾向が強い。
その中でも空を飛べるポケモンでもある私は人の街を上空から見下ろすことが多く、そこで営まれている人の生活を度々見ていた。
忙しなく街を行く大人たちを見て、彼らは何をそんなに急いでいるのだろうと疑問を抱いた。
街角のカフェではしゃぎ合う主婦たちを見て、彼女たちは何がそんなに楽しいのだろうと不思議に思った。
道端でアイスを片手に満面の笑みを浮かべる子供を見て、美味しそうだなあ、なんて羨ましがった。
家の中で楽しそうに団欒している家族を見て、仲が良いのだな、と……そんなことを思った。
ポケモンと人とではその暮らしぶりには大きな差異がある。
元より人とポケモンは別の生物なのだから、当然といえば当然なのかもしれないが。
けれどポケモンは人と共に生きることができる生物だ。
それはポケモンに備わっている本能にも似た感情であり、だからこそ初めて『彼女』に出会った時、不思議な縁を感じた。
おいで、と言われた瞬間、ほとんど無意識的にその言葉に従った。
そのことにどうしてだろう、酷く安心を覚えた。
―――お前、私と来る?
その言葉に歓喜が弾けた。
* * *
「賑やかですねー」
「そうね、ホントお祭り騒ぎだわ」
ニコニコと笑みを浮かべて並ぶ屋台にあちらこちらと興味を惹かれるキューちゃんに手を引っ張られながら歩く。
好奇心は旺盛なようで目線があっちこっちと飛んでいるが、いきなり走り出すようなことは無く、普通に私の一歩前を歩くくらいに留まっているのは性格的な問題だろうか。
屋台というとお祭りのようなイメージがホウエン出身の私にはあるのだが、どちらかというとこれはバザーと言ったほうが正しい気がする。
確かこっちのほうだとジャンブル、というのだったか。
地元から離れ別の地方に行くと偶に言葉が通用しないことがある。
基本ポケモン協会のある地方は統一言語が使われているのだが、地方ごとに方言のようなものがあり、同じ物を指しているのに表現する言葉が違ったりする。
「あ、トレーナーさま。スコーン屋台ですよ、とってもいい匂いがします!」
「ホントね、一つ買っていく?」
「ですです!」
初日の影響か、ガラルと言えばカレーのイメージが強かったのだが他にもスコーンと紅茶が割と有名どころらしく、喫茶店に行くと珈琲より紅茶のラインナップのほうが圧倒的に多いし、駅の中などでよくスコーンが販売されている。
一度買ったことがあるのだがこれが結構美味しい。
以前ホウエンで売られていたのを食べたことはあったのだが、そっちはパサパサしてひたすら舌が乾くようなイメージだったのだがこちらで売られているのは焼き立てふんわりとしていて口の中でほんのりと広がる甘味がほどよく、いくらでも食べられそうだった。
手持ちのポケモンたちにも上げてみたのだが割と好評だったので見つける度にちょこちょこ買ってはいたのだが、こんなところでもやっているあたり一般的にも人気がある商品らしい。
「おいひーですね、トレーナーはま」
「食べ終わってから喋りなさいよ、行儀が悪いわよ」
「はーひ」
買ったばかりのスコーンを広場の隅にあるベンチに座って食する。
ぱくり、と一口齧ってみれば焼きたてスコーンのふんわりとした食感、そしてチョコが入った生地らしく熱でほどよく溶けたチョコが絡み合って何とも言えない美味しさを醸し出している。
美味しい、と素直に思いながら隣を見やればキューちゃんが両手にスコーンを持って変な食べ方をしていた。いや、食べ方自体は小動物チックというかちびちびと齧っているだけなのだが、一つ食べても二つ食べても飲みこまないのだ。
ほおぶくろでもあるのかと言いたくなるくらいにぱんぱんに膨らませてようやく飲みこむその食べ方は変としか言い様が無い。
「よく食べるわね」
「あむ……食事は元気の元ですよ!」
「まあそうなんだろうけど。それで太らないのはどういう理屈なのかしらね」
「いっぱい動いてますから」
意外と言えば意外な話、私のパーティの面子のうち一番食べるのがキューちゃんである。
その胃袋は底無しなのではないかと言えるほどであり、一度食べ放題系の店に連れ行ったら自分の体積よりも大量に詰め込んでいたのはどう考えてもおかしいと思うのだが、恐ろしい話それだけ食べてもキューちゃんの体型的には一切の変化が無い。
太るとかそれ以前の話、胃に大量の食べ物が詰め込まれている状態でぱっと見でお腹が凹んでいないのだから明らかにおかしい。
物理的にあり得ない、一体詰め込まれた大量の食べ物はどこに行ったのだと言いたくなる。
因みにキューちゃんの体重は一般的なペリッパーの平均体重より重い。
とは言えこれに関しては『擬人種』になった影響もあるのだろうから一概に太っているとは言えない、というか外見からすると逆にそれは軽くないかと言いたくなるのだから理不尽な話だ。
「美味しそうに食べるわね」
「実際美味しいですよ! トレーナーさまもおひとつ食べますか?」
「……まあもらっておくわ」
「じゃあ」
と呟きながら差し出されたスコーン。
「あーん、です」
「…………」
「ほら、トレーナーさま、あーん」
「……あーん」
一瞬躊躇してしまったが、そんな嬉しそうな表情をされてしまってはダメとも言えなかった。
* * *
「はふー! 大満足です!」
「そう、良かったわね」
結局一人でスコーンを二十個以上食べていたが、この後そのまま別の店に連れて行っても普通にまた食べるんだろうな、と思いながらもその外見にやはり変化が無いことに首を傾げる。
人体の神秘ではあるが人間に見えるがやはりポケモンなのでその辺が秘訣なのだろうか、と益体の無いことを考えながらスコーンと一緒に買った紙コップに入ったミルクティーを飲みながらほっと息を吐く。
屋台の紅茶……何だろうか。こう、凄く違和感があるのだが、ガラルだとそれほど珍しいわけでもないらしい。
昼食代わりのおやつも食べ終えて、キューちゃんと二人しばらくぶらりと屋台を見て回る。
あっちこっちと行きたがるキューちゃんに従って歩き回ったので少しばかり疲れた。
時間的に夕方に差し掛かって来る頃合い、広場の隅のベンチにまた座って歩き回って疲れた足を休める。
「少しは息抜きできた?」
「はい! 明日からもばっちりですよ!」
「そう、それは良かった」
最近育成ばかりだったので気分転換でもと提案したのだがキューちゃんが『街に行きたい』と言ってきたのだ。
どこか希望があるかと言われたら人の賑やかなところ、と言うのでこうして屋台を巡っていたのだがどうやら満足してくれたらしい。
因みに他の手持ちの関しては余り参考になるような意見は無かった。
ガーくんは基本的に私がいれば良いと言うし、ダーくんは暴れ足りないからもっとバトルしたいと言う、これに関してはリシウムとのバトルが近いのでその時に出せばいいだろう。
フーちゃんとリーちゃん(ガラルフリーザー)に関してはマイペースというかやることやったら後は勝手に休んでるので多分放っておいても良いし、アーくんは相変わらずのスピード馬鹿なので自由に飛んで良いと許可するだけでストレスフリーな便利な体質をしている。
ウーちゃん(ウッウ)に関しては何といえば良いのか、訓練したことは覚えているし技術も身についているのにその時の疲れや辛さみたいなものは忘れるという便利極まりない頭をしているのでこっちも放置で良い気がする。
ラーちゃん(プテラ)は野生時には無かったグルメに目覚めたせいで美味しい物食べてればだいたい満足できるし、チーちゃん(チルタリス)は寝る前に外で歌うのが趣味らしくユウリと二人で聞いてやると嬉しそうにする。
というわけで現状で明確に何かしてやれるのがキューちゃんだけだったのだ。
当たり前の話だがポケモンは感情のある生物だ。
人間と同じで楽しいことも無く訓練漬けにしたところでモチベーションが下がってしまうし、モチベーションが下がれば訓練の効率も下がる。
故に適度に息抜きしてやるのもトレーナーのやるべきことの一つだ。
最もポケモンはそうでもトレーナーは休んでいられない。
「帰ったら今日のデータも参考に育成プラン追加しないとね」
それとジムチャレンジまでに可能ならば『アレ』を手に入れなければならないだろう。
「と言ってもアテが無いのよね」
はてさて、どうしたものだろうか?
考えれば考えるほどにやることは多く。
けれど、だからこそ……。
「……。ユウリを迎えに行きましょうか」
呟きかけた言葉を飲みこみ、主催者としてすっかり帰るのが遅くなった親友を迎えにスタジアムへと足を向けた。
個人的にキューちゃんとウーちゃん(ウッウ)は作者のお気に入り。
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今日の天気は晴れのち爆撃①
一言でいえば賞金首。例えば警察機構などが指名手配犯や犯罪グループの構成員などの身柄や情報に対して懸賞金を掛けたりする。この懸賞金をかけられた人間を賞金首などと呼んだりもするわけだが、トレーナーの場合、これがポケモンにかかっていることがある。
例えば環境を多く乱すようなポケモンは基本的にポケモンレンジャーが捕獲、ないし最悪討伐するわけだが、ポケモンレンジャーでは太刀打ちできないような超強力なポケモンが発生したり、手に負えないほどの大量発生などが起こった場合、これらはポケモン協会に協力を要請された地元のジムリーダーなどが『駆除』することになる。だがジムリーダーだっていつでも手が空いているわけでもないし、或いはジムリーダーですら手を焼くような相手が生まれる可能性もある。そういう時にそれらのポケモンに対して『懸賞金』が発生し、賞金首のポケモンが誕生する。
基本的にバウンティー、というと人間のほうを指し、バウンティモンスター、というとポケモンのほうを指す。
轟音。
爆音。
破砕音。
本日の天気は晴れのち爆撃なり。
とでも言おうか。
「アホかぁぁぁぁぁ!!」
雨あられと降り注ぐ爆撃に絶叫しながら走る。
何が、何で、どうして、こんなことになったと頭の中で何度も問答しながら頭上を見上げながら直撃しそうなものだけは咄嗟に風で逸らしていく。
『おおあらし』でも使えれば……と思わなくも無いが、渦巻く気流に爆弾が乗せられてどこに飛んでいくか分からないというのは逆に怖すぎる。
というか『おおあらし』は自分と相手を中心として渦巻く気流を作り出す、つまり降り注ぐ爆撃の雨に、そんなもの使えばあっという間に自分の周囲を爆弾に囲まれることになるので却下だ。
「ラーちゃん! フーちゃん!」
手持ちの中でも飛行能力に優れ、攻撃能力も高い二体のボールを空に放り投げて解放する。
飛び出した二体が私の指示を受けてソレに攻撃しようとして……。
“はぜるつばさ”*1
攻撃の衝撃を受けて、その翼から散った羽が……
「おま、おま、ふざけんじゃないわよ!」
バトルコートならともかく、こんな野生環境でそれをやられるとトレーナーすら巻き込む。
咄嗟に風で逸らしながら
爆風に揺られながらも風の防壁で防御していたお陰か、大したダメージにはならずに済んだ。
「クコ、大丈夫?」
「はきそう……めがまわる……」
視界が安定しないクコの言に、問題無しと判断して再び走る。
トレーナーは体力勝負なところがあるのでポケモンだけでなく私自身も結構鍛えているのが功を奏してかこうして逃げることに成功しているが、どうもクコは見かけ通り、というべきかその辺あまり鍛えていないようですでに体力の限界を迎えているのか、息切れを起こしていた。
背負う……という選択肢も考えた、私とクコの体格にほぼ差はないとは言え人一人背負ってアレから逃げ切れるか、と言えば。
「仕方ないわね」
足を止める。
元より逃げ切れるものではないし、そもそも私たちはここに何をしに来た?
こいつの登場が余りにも唐突で逃げるしか無かったのも事実だが、それでもここまで散々にやられたのだ、そろそろお返しの時間だろう。
「クコ、ここで待ってて」
相手の一発目、奇襲の一撃をクコが咄嗟に防いでくれなければ私もクコも生きてなかったかもしれない。
あれを防いでくれた、というだけでクコの仕事は十分過ぎる。
奇襲のせいでこちらの態勢が整わずにばたついてしまったが、今ここに至ってようやく相手へと向き合う。
「お前はもう、自然に居て良い存在じゃないわね」
私たちが逃げてきた道筋を辿るような爆撃の跡。
そしてその爆撃が降り注いだ場所は抉れ、燃え、破壊され尽くしている。
こんな自然の破壊者がいつまでもワイルドエリアに住み着いていては大惨事にしかならない。
「ここで捕まえさせてもらうわよ」
呟き……心の中で撃鉄を落とす。
“ぼうふうけん”
風が渦巻く。
雨が降り。
嵐が生まれる。
「落ちなさい……【ボマー】」
―――シャアァァァァ!!
呟きに反するかのように、ソレが叫び―――。
バウンティモンスター【ボマー】
そう呼ばれる怪物が翼を広げ空を駆ける。
それが戦いの始まりだった。
「何でこんなことになってるのかしらね」
動き出す怪物を見やりながら思わず漏れ出た言葉。
その理由を説明するには半日ほど時間を遡る必要があった。
* * *
『そら、ひまか?』
朝一番に電話がかかってきたと思ったら、開口一番にそんなことを言われた。
先日の大会から明けて翌日。大会を観ていただけではあったが、色々と得るものがあったのでそれを元に今日からまた育成に時間を取ろう、と決めた矢先の話。
昔と違い、現代のトレーナーとは『職業』だ。当然ながら今やっていることはつまり『仕事』だ。
故に基本的に仕事を優先する、大抵のトレーナーがそうだろう。
だからこそ本来ならば『忙しいから』と言って電話を切るのが筋だろう。
かかってきた相手が相手でなければ。
「またいきなりね、クコ」
そもそもこのガラルにおいて私のスマホの番号を知っている人間はそう多くはない。
クコはその多くは無い知り合いの中の一人であり、同時に私の数少ない友人でもあった。
「何か用?」
『すこし、てつだえ』
「手伝う? 何を?」
『ほかく』
それから要領を得ない端的な会話を続けて分かったことを繋げる。
「要するに、最近ワイルドエリアの奥地で強力なポケモンが環境を荒らしているからこれを捕獲して欲しいとポケモンレンジャーから要請があった、ってことで良い?」
『あってる』
「うーん、まあ別に手伝うのか構わないけど、なんで私?」
『いいこ、くれた、おかえしだ』
いいこ、というのは多分以前にリシウム経由で渡したギャラドスのことだろう。
そのお返し?
『つかまえたら、そらにやる』
「え、良いの? そういうのって」
『じむりーだーのすいせんならいい』
確かにそういうケースがあるのは知っているので納得できる話ではある。
ただ、そもそも捕獲するポケモンとは一体どんなポケモンなのか。
特に私の場合、いわゆる『統一パーティ』というやつなので何でも良いとは言えない部分がある。
それを問えば。
『とりぽけもん』
そんな答えが返って来る。
抽象的な答えではあるが、どうやらそれ以上のことはまだ分かっていないらしい。
ただ空を飛んでいるようで、さらに翼があるポケモン……恐らく鳥ポケモンだろうということ。
それから―――。
「ふむ……」
現在の手持ちの数はガーくん、キューちゃん、ダーくん、フーちゃん、リーちゃん、アーくん、ウーちゃん、ラーちゃん、チーちゃんの9体と、今はホウエンに返しているがまた呼び戻す予定のアオを含めて10体。
新しく捕まえるとなると……11体目。
「ギリギリ、かしらね」
私の育成能力だけで言えばややキャパシティオーバー気味ではあるが、リシウムが『ひこう』ジムの育成施設を貸してくれているので11……ないし12体くらいまでならどうにかなるだろう。
そう考えればまだ増やすのはアリと言えばアリ。
「まあパターンを増やすのは良いことね」
当たり前だが、固定パーティというのは対策されやすい。
幅が狭いパーティも同様。だからこそ多くのポケモンを用意するというのは大事なことだ。
対策されにくいパーティ、というのは年間を通して何十と戦いを積み重ね、その度に情報を露出してしまうプロトレーナーにとって最も大切なことなのだから。
『つかまえたら、しょうきんでるぞ』
「賞金? どういうこと?」
『ばうんてぃーもんすたー』
「……ああ、そういう」
バウンティー、つまり賞金首。
余り一般的な言葉ではないが、まあぼんやりと意味は分かるだろう。
ただトレーナーとそれ以外だと意味合いが割と違ったりする。
トレーナー以外だと指名手配犯などの情報や身柄に警察機構が懸賞金をかけている人間を指して言うのだろうが、トレーナーの場合、ポケモンレンジャーが野生ポケモンの捕獲、或いは……討伐に対して懸賞金をかけているポケモンのことを言う。
ここ十年ほどでできた制度であり、ポケモン協会が存在するならだいたいどの地方にもある制度なので私も知識としては知っていた。
「でもこのガラルで、ていうのは珍しい気がするわね」
基本的にこのバウンティモンスターというのは二種類あって、『どうにかしなければならないがジムリーダーが動くほどのことではない』場合と『危険過ぎてジムリーダーですらどうにもならない』場合だ。
前者は大量発生などの強さは求められないが、とにかく数が必要になる場合。
後者は変異種や特異個体などのとにかく強さが求められる場合。
とは言えプロトレーナーの中でもトップ層に近いジムリーダーですらどうにもならないような相手が早々生まれるわけも無いし、ジムリーダーですらどうにもならないような相手が一般トレーナーでどうにかなるわけがない、という問題もあるのだが。
ただ他地方のジムリーダーというのはリーグ傘下にあってもあくまで個人経営なので協力する義務はあっても強制はできない。
故にジムリーダーがどうしても手が離せない案件など抱えているとバウンティーモンスターという形式で一般に捕獲を呼び掛けたりするケースが多い。
だがガラルではジムリーダーは……特にマイナージムのジムリーダーはリシウムに初めて会った時の一件を思えばそういうバウンティになるようなモンスターの『駆除』も含めて仕事の一環でやっていると思っていたのでバウンティモンスターがいる、というのは少し意外な話だった。
『わいるどえりあは、つよいポケモンがうまれやすい』
「まあ確かに、今時あそこまで自然の色が濃い場所も少ないわよね」
強いモンスターというのは過酷な環境でこそ生まれる……正確に言えば過酷な環境を生き延びるために必然的に強くなる、或いは強い個体だけが生き残る。
そして生き残った強い個体同士が戦い、争い、負けた個体は環境を追い出され別の環境に入る。
例えばの話。
ワイルドエリアの『深域』から『中間域』に迷い込んだら……深域での争いに負けたとは言え強さの桁が一つ違うような怪物なのだ、当然環境が乱れに乱れる。
そして『中間域』の環境が乱れれば当然その影響は『浅域』にも現れる。
そして『浅域』へ現れた影響はさらにその先の人の街まで及び……。
そうなる前に環境を乱す要因を『駆除』しなければならなくなる。
「それで、どこに行くの?」
『わいるどえりあ』
恐らくそうだろうと思っていた予想のままの答えに納得し。
『しんいき』
続けて呟かれた言葉に目を見開いた。
* * *
ワイルドエリアの『深域』はこのガラルにおける特級危険地帯だ。
『深域』内における野生ポケモンの推定レベルは
このガラルにおけるトップトレーナーたちのみが足を踏み入れることを許された禁断の領域である。
「良いの? 私も入って」
「じむりーだーのきょか、あればいいぞ」
そう言ってこちらを向き直ったクコが私を指さして。
「きょかする……これでいい」
「適当ね」
「なにかあればわたしがまもればいい」
「……ま、そーね、何かあればお願いするわ」
別に守られるほど弱くはないと思うが。
まあ心遣いには感謝しておくとする。
「しかし、なんというか雰囲気が違うわね」
「ぴりぴりする」
ナックルシティから南に出れば『ナックル丘陵』。さらにそこから進めば『砂塵の窪地』へとたどり着く。風のせいか前方を見やれば巻き上げられた砂のせいで視界が悪い。
だがその影響か、余計に感じる。足を踏み入れた瞬間から、ぴりぴりとした野生独自の緊張感のようなものが。
「おっかないところね」
この緊張感はなんというか、地元の『チャンピオンロード』を思い出す。
あそこもまた恐ろしい野生の坩堝と化しているのだが、同じくらいこの場所も恐ろしい雰囲気が漂っていた。
「そら、みろ」
『深域』に足を踏み入れ、少しの間探索を進める。
ここに至るまでに野生のポケモンとの遭遇は無かった……のだが。
つい、とクコに袖を引かれるので視線を向ければ、そっと奥のほうを指を差す。
その先に居たのはバンギラス。
どうやらまだこちらには気づいていないようだが……。
「避けていきましょう」
「そうだな」
極力余計な戦闘は避けていくべきだろう。
他と違いこの領域のポケモンとの戦闘は相応にこちらも疲弊する。
『深域』は潜在能力こそ劣れどダーくんやフーちゃん、リーちゃんたちが野生だった時と同じかそれ以上のレベルを誇る強者たちの楽園なのだ。
目的のポケモン以外とは極力戦わず消耗を避ける必要がある。
クコと互いに認識のすり合わせができていることを確認しながらさらに慎重に進む。
そうして。
「……ん?」
ふと視界の端に何かが見える。
視線を向ければひらり、ひらりと舞い散る『羽』が見えて。
「あれは……」
興味を惹かれ、『羽』へと近づく。
空から落ちてくる羽がそうして地面へと落ちて……。
「そらっ!」
「なっ?!」
咄嗟に手を引かれるのと羽が弾け飛ぶのがほぼ同時だった。
思い切り手を引かれ、尻もちをつくとちょうどその真上に影が差す。
後ろに倒れて尻もちをついたせいか視線は真上を向いていて……過る影の姿をはっきりと捉えた。
「ク……コ、上っ!」
私の言葉にクコがばっと上を向いて……。
ひらひら、と無数に舞い落ちてくる羽を見やり、顔が青ざめる。
あれ全部が先ほどのように爆発すれば……。
その予感に背筋に寒気が走り、咄嗟に風を呼び出そうとするがどう考えても間に合わない。
不味い、不味い、不味い……迫りくる死の気配に歯を食いしばり。
「うきあがれ!」
“はんじゅうりょくのつばさ”
どん、とクコが片手で大地を叩くと同時に舞い落ちてくる『羽』がふわりと一瞬浮き上がり、その場で滞空する。
直後に吹き荒れた風が全ての羽を薙いで攫って行く……と同時にその衝撃で羽が爆発を起こす。
一つ、二つと爆発すれば衝撃が連なっていき連鎖的に全ての羽が爆発を引き起こす。
その衝撃たるや真下にいる私たちが大地に張り付けられるほどだった。
「く、こ!」
「もんだい、ない」
追撃は無い。
それを確認すると同時に起き上がり、クコの手を取って起こす。
だがそんな私たちを逃がすまいとさらに上空からソレは翼を広げ―――。
「走れ!」
私の咄嗟の叫びに呼応するかのように、クコが走りだす。
私もまた走りだしながら背後に舞い落ちる羽の数々を見やり背筋を凍らせる。
それからその羽の主へと視線を移せば。
鋼鉄の体に赤い羽根の持ち主。
よろいどりポケモンと称されるの『だろう』ソレを見やる。
エアームド。
姿形だけで言えば、確かにそう呼ばれるポケモンだった。
私だって知っているし見たこともある。
全長が5メートルを超す巨体で無ければ、だが。
こんな攻撃どっかで見たことある?
き、キノセイジャナイカナア。
空から爆弾降らすようなポケモン作りたかったんだ。
最初はコイルとかフワンライドとか爆発してくれそうなやつら落とす、って案もあったんだが……気づいたらこうなってた。
というかファンタジー世界でこういうのだそうとするとどうしてもバゼ……なんとかさんになる。
本当はどういうことができるかをイメージして、イメージだけ作ってから能力とか決めたんだけど、気づいたらやっぱりバ……なんとかウスさんになってる(
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今日の天気は晴れのち爆撃②
“ぼうふうけん”
渦巻く暴風が、吹き荒ぶ豪雨が、『おおあらし』となってワイルドエリアに吹き荒れる。
―――シャァァ!?
吹き荒れる風と雨にエアームドが驚愕の叫びを発し、そうして。
“てっけつ”*1
“ばくげき”*2
舞い散る羽が風に乗って渦巻き、直後に渦巻く嵐の衝撃で羽が爆発する。
予め分かっていたことだけにすぐに風の防壁で防御し、こちらへの被害を最小限に留める。
「雨でかき消されない……『ほのお』タイプじゃない?」
『ボマー』と呼ばれているらしい、ということは前もってクコの電話で聞いていたので、てっきり『ほのお』タイプだと当たりをつけていたのだがどうやら違ったらしい。
この『おおあらし』の中では全ての『ほのお』タイプ技は不発になる。
正確に言えば『ほのお』タイプのエネルギーが『つよいあめ』に飲まれてかき消されるためそもそも技自体が発動しなくなるのだ。
だが発動する……ということはあれは『ほのお』タイプの技ではないらしい。
少し予想外だった。
まあ多分そうなんだろうな、という予想だったので外れていたことが致命的というわけではないが。
ただ捕獲のための難易度がぐんと上がったのは間違いない。
相手の技をこちらの力で止められない以上、真正面からぶつかるしかないのだから。
「ラーちゃん!」
こちらの呼びかけに答えてプテラのラーちゃんがエアームドの上を取る。
「ギャァォォ!」
“せいくうけん”*3
素早い動きでエアームドの上を取ったラーちゃんが威嚇の声をあげる。
特性としての『いかく』ではないためエアームドを怯ませるような効果は無いが、それでも単純に鳥ポケモン……いや正確に言えば『空を飛ぶポケモン』に取って上を取られるということ自体が大きなプレッシャーだ。
「フーちゃん!」
さらに下からガラルファイヤーことフーちゃんを回り込ませる。
上と下で挟み撃ちにしたこの状態にエアームドが一瞬たじろいで……。
「―――ギァァゥアア!」
“エアスラッシュ”
相手の見せた弱みに付け込むかのように、フーちゃんが即座に技を出す。
放たれた風の刃がエアームドを撃つ……がその両翼にガードされて大して効いた様子は見えない。
『ひこう』タイプ技を半減したその様子にどうやらタイプは普通に『はがね』と『ひこう』で良いらしい。
「厄介ね」
良いタイプだ、と思うが同時に厄介なタイプでもある。
『ほのお』と『でんき』以外が全て等倍以下なのに『おおあらし』の影響で『ほのお』技は無効。
となると実質的に弱点は『でんき』だけだが。
「そう言えばいないわね。『でんき』技使えるポケモン」
今度原種サンダーでも探しに行こうか、なんて冗談を考える間も無く、エアームドがお返しとばかりに再びその翼をはためかせる。
“てっけつ”
“ばくげき”
「撃ち落として!」
“エアスラッシュ”
放たれた無数の『羽根』がエアームドの下に位置取っていたフーちゃんへと降り注ぎ、フーちゃんの羽ばたきとともに放たれた風の刃がそれを次々と撃ち落とす。
「ラーちゃん!」
「ギャォォォォァァ!!」
“おおぞらのぬし”*4
“ストーンエッジ”
ラーちゃんの咆哮と共に真下から伸びた岩の刃がエアームドへと伸びる。
咄嗟にそれを避けようとするエアームドだが、その動きを制するかのようにラーちゃんが素早くその行き先を塞ぎ、直後に岩の刃がエアームドの巨体を撃つ。
―――キシャシャシャ!
“はぜるつばさ”*5
『ストーンエッジ』に打たれた衝撃でその翼から羽根がはらはらと抜け落ち、足元に散らばる。
直後に『おおあらし』に巻き上げられ爆発する。爆発の衝撃で思わず片目を瞑るが、乱気流の中での爆発だったので特に被害は無い。
「いくらでも落としなさいよ……全部巻き上げてまとめて吹き飛ばすから」
呟きながらさらに戦況を変えんとボールへと手を伸ばす。
直後。
―――キシュァァァァァ!
“てっけつ”
“くちばしキャノン”
そのクチバシに『エネルギー』が収束する。
収束したエネルギーが燃え盛るかのような熱を持ち、うっかり触れれば『やけど』してしまいそうなほどなそのクチバシではあったが……。
「それは悪手ね」
“せいくうけん”
「ギャォォァ!」
使えるポケモンが限られ過ぎていて一度か二度くらいしか見たことの無い技ではあるが、一応知識としては知っている、それは『ひこう』タイプの高威力技、つまり『せいくうけん』を取られている以上使えない技だ。
エネルギーの収束のため隙を見せた直後に上空からラーちゃんが急襲すれば、一瞬にして収束した『ひこう』エネルギーがかき消され、技が失敗する。
直後。
“ばくげきき”*6
破裂するような音を立てながらエアームドの口の中と羽から炎が噴き出す。
―――キシャァァァァァァァァオォォォ!
悲鳴を上げながらエアームドががくん、と滞空していた姿勢を大きく乱す。
「何、今の?」
推定『はがね』『ひこう』タイプのエアームドだが、使っている技からして『ほのお』タイプの血統*7でも持っているのだろうと予想していた。
だが今のは明らかに不自然な光景だった。
自らの炎が逆流しているようにしか見えなかった。
―――キシュアアアアアアアアアアアアアォォ!
どういうことなのか、そんな思考を打ち切るかのようにエアームドが絶叫し。
“ばくげきき”*8
その全身に纏った『はがね』の鎧が赤熱化していく。
同時にエアームドから感じる『圧』が跳ね上がり―――。
“てっけつ”
“ばくげきき”
“はぜるつばさ”*9
“ばくげき”
放たれた『羽根』が空中にばら撒かれた直後に大爆発を起こす。
その威力は先ほどまでの比ではなく、上空で制空権を確保していたラーちゃんがその衝撃に一瞬態勢を崩すほどであり。
「フーちゃん!」
咄嗟に気流を目の前に現出させて衝撃を緩和して尚耳が痛くなるほどの衝撃が浸透してきた。
すぐに直撃したフーちゃんへと視線を向ければ……。
「ギァァゥアアアアアアアアアアァァァァォォォ!」
“ぎゃくじょう”
“オーラバーン”*10
一瞬にして大ダメージを負いはしたが、レベル差が無かったお陰かギリギリで耐えたらしい。
危険域にまで達した体力に、生命の危機を感じてか全身からまるで炎を噴き出すかのように黒い靄を吐き出しながら怒りに満ちた瞳でエアームドを見つめ。
“スピントルネード”*11
“エアスラッシュ”
羽ばたきと共に鋭い風の刃を無数に放つ。
その数と威力もまた先ほどの比ではなく、『おおあらし』によって増幅された『ひこう』エネルギーを解き放つ。
渦巻く螺旋の軌道によって放たれた風の刃はエアームドへと確かなダメージを与え、悲鳴を上げてエアームドがその高度を急激に下げる。
「今なら」
捕獲できるか?
そんな考えがふと過り、空のモンスターボールを構えて。
―――ギシャアアアアアアァアァァ!
それを投げるより先にエアームドが羽ばたいて高度を上げる。
そうして反撃を警戒する私たちを置き去りに飛び退ろうとして。
“グラビティチェンバー”*12
突如発生した重力の檻にエアームドが捕らわれ、飛んでいることすら許されずに大地に墜落する。
「クコ!?」
「ん……もうだいじょうぶだ。めいわくかけた」
いつの間にか息を整え復帰していたらしいクコの異能によってエアームドは逃げることすら許されずに大地に磔にされていた。
よく見れば全身のあちらこちらから炎が噴き出し、その度にエアームドが苦し気に悲鳴を上げているのが分かった。
「こいつ……不味いわね、クコ、早く捕まえましょう」
「ん、わかった」
その様子にただ事ではないと理解し、ボールを構える。
だがそれを投げるより先にエアームドの全身が輝き始める。
“だ”
不味い、と思うより先にボールを投げて。
”い”
だがエアームドのクチバシで弾かれる。上手く胴体に当てられなかったためボールはエアームドに反応せず。
“ば”
エアームドへと膨大なエネルギーが収束しているのが理解できていたからこそ、顔を顰め。
“く”
ラーちゃんやフーちゃんに指示を出そうとするが、けれど最早それも遅い。
“は”
間に合わない、そのことを理解し、咄嗟に全力で風の護りを作ろうとして。
”つ”
エアームドへと収束したエネルギーが弾けようとして。
「オーちゃん」
クコがボールを投げ、そこから一匹のポケモンが飛び出す。
丸みを帯びたフォルムに呑気そうな顔をした水色のポケモン……ヌオーがエアームドの目の前に立ち。
“しめりけ”
エアームドへと収束したエネルギーがけれど弾ける寸前でぴたり、と脈動を止めた。
* * *
才能とは人にとってもポケモンにとっても不平等である。
そして人もポケモンも同じ、才能のある存在は強くなりやすいし、才能が無ければ弱くなりやすい。
故に野生環境において才能の無いポケモンは淘汰され、才能のある優秀なポケモンだけが残っていく。
ただ。
才能があることが本当に幸福であるかは、また別であった。
最高の才を持ったエアームドがいた。
いわゆる『天才』と呼ばれる存在であり、極めて強固な『ヨロイ』を纏った精錬された純鋼の鳥ポケモン。
本来弱点となるはずの『ほのお』タイプに対して極めて高い耐性を持ち、寧ろ与えられた熱によってさらにその鋼は硬度を増す。
鉄壁の翼を誇る最高位の『よろいどり』ポケモンがいた。
そして。
同じく最高の才を持ったファイアローがいた。
本来ファイアローの『ほのお』はそれほど強くない。ヤヤコマの時にはまだ『ほのお』タイプが無いように、進化を重ねようやく身に着けた『ほのお』タイプは発炎器官のサイズの問題もあってかどうしても他の『ほのお』タイプのような強力な炎を噴き出すほどの力はない。
だがそのファイアローは成長する過程で強力な『ほのお』を発する術を身に着けた。
正確に言えば自らそういう存在に『変異』したのだ。
素早く空を飛ぶことよりもより強烈な炎を噴き出すことを選び、そういう体に自らを適応、変異させたファイアローの特異個体。
結果的にその『ほのお』は同じタイプのリザードンなどにも勝るとも劣らないほどの強力なものとなった。引き換えに飛行能力はやや退化し、他の同族ほど素早く飛ぶことはできなくなったがそれでも代償として得たその炎の力は同種の中でも一際強く、そして異質だった。
そんな両者が出会い、そしてタマゴを作った。
結果的に生まれたのが『ほのお』タイプに対して一際高い適性を持ったエアームドだった。
両親の才を
いや、受け継いでしまった、というべきか。
『ひこう』『はがね』タイプ。
それがエアームドのタイプであり、けれどその体の内には『ほのお』エネルギーを生成する発炎器官を親のファイアローから
『ほのお』タイプでも無いエアームドに体内で生成される『ほのお』エネルギーを扱う術がない。
本来『はがね』タイプとは『ほのお』タイプのエネルギーに弱いのだ。
だが親から受け継いだ……受け継いでしまった『ほのお』に耐性を持つ『はがね』の体は体内に蓄積された『ほのお』エネルギーの浸蝕を跳ね除け……。
結果的にその体内では使うこともできない『ほのお』エネルギーがひたすらに生成され続ける。
根本的な問題としてエアームドには『ほのお』タイプのエネルギーを放出する術が無い。
エアームドという種族は『ほのお』技を覚えない。これは才能などの問題ではなく、体の構造の問題である以上例え種族最高の才を持つエアームドとてそれはどうにもならない話だ。
だが体内で増産され続ける『ほのお』タイプのエネルギーは日に日にその力を増していき、やがてその『はがね』の『ヨロイ』すらも許容しきれないほどの膨大なエネルギーがエアームド自身を蝕む。
自らの力が自らを殺す。
それは才能を
故にエアームドは適応した。
適応し、変異した。
そうせざるを得なかった。
そうしなければ死ぬしかなかったから、そうした。
抜け落ちては生え変わるエアームドという種族の特徴たる『羽根』に体内の発炎器官を直結させる。
そこから無制限に供給される『ほのお』エネルギーは『羽根』の内側にひたすらに溜まっていき……。
抜け落ちた羽は臨界寸前まで供給された『ほのお』エネルギーを含み、衝撃と共に『ほのお』が弾ける。
そうしなければ体内に溜まりきった『ほのお』タイプのエネルギーが自らの体を爆発させる。
故にそれは環境を破壊した。
爆発性の羽根をまき散らし、飛び回った。
そうし続けなければ死んでしまうから。
泳ぐことを止めれば死んでしまう回遊魚のように。
エアームドは飛び続けて。
そうして『ボマー』と呼ばれたバウンティモンスターは誕生した。
オリ設定のオンパレードだけど、両親の血統の話はギャラドスの時にも話したと思うし、今回出てきた『タイプ』ごとのエネルギーに関する考察みたいなのは前に活動報告で書いたので下のURL参照にしてください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=248655&uid=7917
簡単に言えばポケモンの技ってのは全て技のタイプごとの『タイプエネルギー』を使用して発動している、ということ。
ポケモンは自分が覚えることができる技全ての『タイプ』エネルギーを体内に所持しているがその中でも特に多く所持しているエネルギーがポケモン自身の『タイプ』として発現している、ということ。
この辺だけ分かってれば良い。
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今日の天気は晴れのち爆撃③
どうもこのエアームド、基本的に爆発系の技しか覚えていないらしい。
クコが特性『しめりけ』だろうヌオーを出した途端に、何もしなくなったのは、多分何もできなくなってしまったからだ。
何とか技を出さんと羽を動かして『わるあがき』しようとしているが、ヌオーが周囲一帯の空間を湿気させてしまっているため燻ってしまった『ほのお』は煙すら出ずに消えてしまう。
そして降りかかる『じゅうりょく』の檻に捕らわれ身動き一つ取れない状態となった今のエアームドに最早何の手立ても無く。
「大人しく捕まりなさい」
モンスターボール片手にエアームドへと近づいていく。
何がしかの反応があるかと思ったが、エアームドは動かない……身じろぎ一つせず、じっとうずくまっている。
「クコ……? これ大丈夫なの?」
「ん……もんだいない……はず」
「今小さく、はず、って言わなかった?」
「きのせい……はやくボールなげろ、けっこうきつい」
ふいっと視線を逸らすクコをジト目で見つめるが、よく見れば確かに額に汗が流れている。
私やクコ自身を巻き込まないように自らの異能を制限しながら使っているので普段以上に気を使っているらしい。その辺の感覚は良く分かるので、クコの言に従って手早くエアームドへと近づき、ボールを振りかぶった。
―――瞬間。
“ばくげきき”
ぼん、とエアームドの口から炎が弾けた。
「ちょっ!?」
「ん?!」
目の前に聳え立つ巨躯が震え、直後羽が弾け飛んで炎が噴き出す。
苦しみ、のたうち回るエアームドを前に、驚愕にボールを振りかぶったままの姿勢で立ち止まってしまう。
先ほどからおかしいと思っていたが、やはりこれはどう考えても異常だ。
「まず、い……一先ず、ボールの中に入ってなさい!」
ボールを投げる。これ以上エアームドを放置していれば或いは命にかかるのではないか、そんな予感がした。
投げられたボールがエアームドにぶつかり、飛び出した赤い光がその全身を包んでボールの中へと吸い込んでいく。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
図鑑の解析機能を使ってエアームドの状態を調べていく。
ボールの中に入っている間、ポケモンは強制的に縮小状態となっている。
この状態はポケモンとしての能力の大半が制限されている状態であり、どうやらこの状態でならば自分の力で傷つくというのは無いようだった。
「まずはエンジンシティまで帰りましょうか」
「ん……」
こくり、と頷くクコと共に急ぎ足でエンジンシティへと歩き出す。
その間にも着々とポケモン図鑑がエアームドを解析し、その詳細なデータを表示するのだが。
「なに、これ……この」
「ん?」
次々とスマホに表示されてゆく情報に目を通すたびに表情が引き攣っていくのが自覚できる。
なまじ知識があるだけに、ボールの中のエアームドの状態が理解できてしまう。
「良く生きてたわねコイツ」
「……うわ」
ひょい、とスマホの画面をのぞき込んだクコがそこに表示された内容に顔をしかめた。
ポケモンの育成と一言で簡単には言っても実際にはそこに必要なものは多い。
一番重要なものは育成環境、施設ではあるがそもそもの前提として育成とはつまり育てること、故に自分が育てようとするポケモンのことについて詳しく知っていなければ育てることなどできるはずも無い。
故に育成に際して知識とは『前提条件』だ。
覚える技やタイプなんて浅い知識ではなく、種としての特徴、生態、食性、その他諸々、知ることのできる範囲の知識は大半必要であると言っても良い。
『エアームド』というポケモンは『ひこう』タイプ……その中でも『鳥系』を主としている私にとっては専門分野のポケモンといって過言ではないが故にその知識については十全にあるつもりだ。
だからこそ分かる。
このエアームドがどうしてこうなったのかはともかくとして、今生きていることがほとんど奇跡のような状態であることが。
同時にこのエアームドが自然の中で生きられない存在であり、トレーナーに保護されなければどうやっても数年と経たずに死んでしまうだろうことが。
「これは……私だけじゃ無理かもしれないわね」
「ん、ちょうどいい」
「どういうこと?」
「エンジンシティをたんとーしてるの『ほのお』タイプジムだ」
「あーうん、それは確かにちょうどいいかもしれないわね」
このエアームドに関しては半分くらいは私の専門分野ではあるが、もう半分が割と私ではどうにも手が出し辛い分野だ。
最大の問題点はエアームドという『ほのお』タイプに適性が一切ないポケモンに何故か炎熱の生成器官が存在すること。
つまりこれをどうにかするなら一番手っ取り早いのは『ほのお』タイプの専門家を頼ることだろう。
「まあ、それしか無いわよね」
基本的にジムリーダーたちタイプごとの専門家というのはそういう相談も受け付けていることが多い。
このエアームドのように人が手を貸してやらねば死んでしまうようなポケモンの場合は特にだ。
なにせこんな環境破壊生物、放置できるはずも無い、自然に返すこともできない以上人の手でどうにかするしかない。そうなるとポケモン協会としても捕獲したトレーナーが無責任に手放すことが無いようにサポートする必要が出てくる。そしてそんな時真っ先に動くように使い走りにされるのがジムリーダーだ。
これはだいたいどの地方でも同じことだが、ワイルドエリアという自然環境保全を優先するガラル地方においては猶更のことだろう。
自分のポケモンなのに、という思いが無いわけでも無いが、無駄に意地を張ってもエアームドを無駄に苦しめるだけだ。そんな無駄なプライドを捨てられないなら最初から捕まえるべきではないのだ。
「けど……どうなることやら」
トレーナーとしての思考で言うなら、私の『おおあらし』の中で『ほのお』タイプの技が使えるこのエアームドはとんでもない逸材だ。
相手の警戒していないところからの奇襲性を考えれば是非とも『ばくげき』という長所は残したい。
だがその長所こそがエアームドを苦しめている原因でもあり、下手をすればエアームドの命にすら関わる問題となり得る以上、そんなものは封じてしまったほうが良いのではないか、とも思う。
「『ほのお』タイプジムのジムリーダーに聞いてみるしかないわね」
嘆息一つ。
自分にはどうにもならないことばかりで、どうにももどかしかった。
* * *
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「ん、わかった」
「先帰ってもらっていいから」
「ああ」
去っていく友人の背を見送り、その姿がエンジンシティスタジアムへと消えていくのを見届け。
「ふう……」
大きく息を吐く。
そのままその場にしゃがんで二度、三度を呼吸を整える。
そっと手を伸ばし、足に触れれば未だに震えが止まらないのが自分でも分かった。
「なさけない」
呟きながらとん、とん、と拳を握って二度、三度と震えの止まらない
トレーナー以外の人間に言うと意外そうにされるが、トレーナーは体が資本である。
足腰が弱るどころか、体力の衰え一つで引退を考えるほどにトレーナーというのは肉体的な強さが求められる。
それは旅をしたり、自然環境へと赴くためだけではなく、もっと単純な話、ポケモンバトルとはそれだけ体力を消耗するからだ。
トレーナーはただトレーナーゾーンに突っ立って指示を出すだけなのに、と思われるかもしれないが10秒にも満たない間に目まぐるしく変化するフィールドの状況を把握し、ほんの2、3秒しか与えられない僅かな時間の中で次の指示を考える。
6:6のシングルバトルにおける平均的な決着までの時間は約10分。
たった10分と思うかもしれないが、その600秒の間にトレーナーがどれだけの情報量を処理しているのか。
何より目の前で弾ける互いの技を見て、平常でいられるはずがないのだ。
ポケモンの技は容易く人を傷つけ、時には死に至らしめることすらある。
そんな技の応酬を誰よりも近い場所で見せつけられ続ける恐怖心に心が折れればトレーナーなどやっていられない、だが例え折れることが無くとも本能的な恐怖が全身を強張らせる。
恐怖が平常心を奪い、体力の消耗を加速させてしまうのだ。
それら考えればバトルにおいてトレーナーが消耗するエネルギーは全力疾走するスポーツマンと何ら変わりない。
クコとてプロトレーナーだ。
当然ながら並の人間よりはよっぽど体力があるし、バトルの一戦や二戦でバテるほどヤワではない。
それでも、だ。トレーナー同士のポケモンバトルですらその技の応酬に人は恐怖心を感じるというのに。
まして野生のポケモン相手に文字通り『生死を賭けて』の戦いともなれば……。
「このざま、か」
実のところクコが『じめん』タイプジムのジムリーダーに就任したのは今年に入ってからの話。
つまりほんの二カ月ほど前まではクコはジムトレーナー……ですらないただのトレーナーだった。
色々あってジムリーダーとなったクコだったが、ジムリーダーになったばかりということもあって姉のようにリーグ委員会からの要請で動いたことはまだ無かった。
実戦を積んだ経験が無いとは言わないが、あくまで普通のポケモン相手でありあんな怪物染みた『特異個体』を相手にしたのはこれが初めてと言える。
割とショックだった。
実のところもう少し自分はやれると思っていたのだ。
クコは間違いなく天賦の才を持ったトレーナーだった。
14という若さでジムリーダーに就任したのもその確かな才能と強さあってのことである。
このガラルのトップトレーナーとして相応しいだけの……姉のような強さがあると思っていた。
バウンティモンスターを舐めていたわけじゃない、だがそれでもやれる、と信じていた。
結果は……このザマだが。
背後から聞こえる爆音一つ一つに背筋が凍り、近づく死の足音に怯えた。
『ボマー』という呼び名からわざわざ自分で『しめりけ』の特性を持ったヌオーを手持ちに入れていたのに突然の奇襲に頭がいっぱいでヌオーを出すことすら忘れていた。
クコが疲労と緊張でうずくまっている間、戦っていたのは自分より2歳も年下の友達だ。
街に帰って来るまで精一杯虚勢を張っていたが、ソラが居なくなった途端に限界が来てこうして一歩も歩けなくなってしまった。
「もっとつよくなりたい、な」
嘆息一つ。
漏れ出た本音はけれど雑踏に掻き消える。
強くなった。
強くなれた。
そう思っていたが、どうやらまだ足りなかったらしい。
「もっと……もっとつよく」
なりたい。
なれるかな?
なれるよ。
だって私は―――。
* * *
「……ふう」
エンジンスタジアムを出るとすでに夕日が差し込む時間帯へと差し掛かっていた。
すっかり遅くなってしまったが、まあそれだけの成果はあったと見るべきか。
『ほのお』タイプジムのジムリーダーはカブさんという中年の男性だった。
生真面目そうな人だったがこちらの相談にも親身になって色々と教えてくれた。
お陰でどうにかこうにかエアームドの件にも目途が付いた。
それだけならもう少し早く終わっていたのだが、どうもカブさんもまたホウエン出身だったらしく、お互いに故郷の話で盛り上がってしまった結果すっかり遅くなってしまった。
「早く帰らないとね」
何せ明日はリシウムとバトルの約束をしているのだ。
全身が気怠い。今日一日で何度死にかけたことか。ホウエンに居た頃に『チャンピオンロード』を通っているので対野生戦は慣れているつもりだったが、エアームドほど滅茶苦茶なポケモンもそうはいなかったので自分でも思っていた以上に疲労していた。
明日のバトルにまで疲労を引きずらないようにさっさと帰ってゆっくりしよう。
そんなことを考えながら列車に乗るため駅へと向かおうとして。
「……あれ? クコ?」
道端に座り込む友人の姿を見つけた。
私の声に反応するかのようにクコが視線をこちらへと向けて。
「ソラ、おそかったな」
「え、何で? 先に帰ったんじゃ」
「ん……ひとつ、たのみが、できた」
「頼み……? まあ内容にも寄るけど、この子のこともあるし、なるべくは受けるわよ」
腰に吊るしたホルスターの一つに収まったボールを叩く。
そこには今日捕まえたばかりのエアームドが入っている。
そんな私の言にクコがそうか、と一言呟いて。
少しだけ言葉を溜める。
そうして。
「こんど、わたしとしょうぶしてくれ」
そう告げた。
前回データ乗せ忘れてた。
【種族】“ボマー”エアームド/変異種/特異個体
【レベル】97
【タイプ】はがね/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】てっけつ(たま・爆弾系の技の命中と威力を1.5倍にする。)
【持ち物】メタルコート
【技】ばくげき/くちばしキャノン/だいばくはつ/はねやすめ
【裏特性】『ばくげきき』
自分のHPが半分以下になった時、『いかり』状態になり、自分の全能力を上げる。
相手の場の『ばくだん』状態が発動、または解除された時、自分のHPを1/8回復する。
『たま・爆弾系』の攻撃技の威力を1.5倍にするが、『たま・爆弾系』の技を出さなかったターン、自分の最大HPの1/6のダメージを受ける。
【技能】『れんさばくはつ』
『たま・爆弾系』の攻撃技を出す時、相手の場が『ばくだん』状態なら『ばくだん』状態を解除し、威力を2倍にする。
【能力】『はぜるつばさ』
相手からの攻撃でダメージを受けた時、相手の場の状態を『ばくだん』状態にする。
『たま・爆弾系』の攻撃技を出す時、相手の『ぼうぎょ』と『とくぼう』の低いほうでダメージ計算する。
『はがね』タイプの技の威力を1.5倍にするが、『ほのお』技で受けるダメージが2倍になる。
【備考】
ばくげき 『はがね』『非接触単体物理技』
効果:威力110 命中70 『ほのお』タイプと相性の良いほうのタイプでダメージ計算する。相手の特性が『しめりけ』の時、技が失敗する。
ばくだん 『はがね』『変化技』
効果:相手の場の状態を『ばくだん』にする。
場の状態:ばくだん
次のターンの終了時、場にいるポケモンに最大HPの1/4分のダメージを与える。相手の特性が『しめりけ』の時、ダメージが無くなる。
ばくげきの威力110×てっけつ1.5倍×ばくげきき1.5倍×はぜるつばさ1.5倍×タイプ一致1.5倍=556.8≒557にメタルコート1.2倍で668。
さらにここに本来なら相手から攻撃受ける→『はぜるつばさ』で『ばくだん』状態に→『れんさばくは』で倍率ドンで2倍で威力1336。
そしてダメージ計算時には『ほのお』『はがね』の有利タイプ相性判定+相手のBDの低いほうでダメージ計算。
だいたいのやつはこれで死ぬ。
恐ろしいことにこれが『通常攻撃』レベルだ(
尚特性『しめりけ』出されたら一瞬で詰む。
というわけでソラちゃんPTにとんでもない大物が加入だ(予定にないメンバー
そして二章のラスボス多分クコちゃんだな。データだけなら震えるレベルでヤバイぞ(
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翼無き者たち①
翼無き者たち①
「…………。どうしたの?」
ずーん、と肩を落としたリシウムを見て、一瞬回れ右して帰ってしまおうかと思ったがその気持ちをぐっと押し込めて尋ねる。
そんな私の声に反応してか、リシウムの視線がこちらへと向き。
「怖いから止めなさいよ、その死んだ目」
ハイライトが消えたその瞳に思わず後退る。
一体何だってこんな死んだ目をしているのか、引き気味に尋ねてみれば。
「あーしね、昨日妹ちゃんと会う約束してたのよ」
「うん……昨日?」
「なのにジムまで迎えに行ったら……」
―――5日後はクーのとこ行く予定あるし、なら6日後で。
そう言えばバトルの約束した時にそんなこと言ってなかっただろうか?
あれから6日後が今日なので必然的に5日後というと昨日。
そう、昨日。
―――クコと二人でワイルドエリアに行ってきた日だ。
「妹ちゃんどこにもいねーし、どこ行ったって聞いたら友達と出かけたって言うし」
ジロリ、とリシウムの視線を私を射抜き、思わず一歩後退る。
「友達……友達ね、あーし、妹ちゃんの友達ってソラ以外に聞いたこと無いんよ」
「そ、そう」
「そんな妹ちゃんが友達と出かけるって言ったらしーけど」
知ってるよね?
そんな無言の圧に押されて頬が引き攣った。
* * *
「ぬわああああああ! クーに約束すっぽかされた恨みも全部まとめてぶつけてやんし!」
「完全に逆恨みっていうか、私クコに誘われた側なんだから悪くないと思うんだけど」
「八つ当たりだし!」
「胸張って言う事か!」
なんて口々に言い合いながらも互いにバトルコートに立ち。
「ま……それはそれとして、練習試合みたいなもんとは言え、勝ちに行くぞ、オラ!」
「こっちの台詞よ! さあ、暴れるわよ!」
ボールを構えて……投げる。
「ロトム!」
「ダーくん!」
“らいとううんぽん”*1
こちらの一番手はダーくん。
相手は……どうやらスピンロトム。
ロトムというのは電化製品に憑依するポケモンだが、憑依先に応じてタイプが変化するという珍しい性質を持つ。
その中でも扇風機に憑依したのがスピンロトムというフォルムであり、そのタイプは『でんき/ひこう』。
まあ『ひこう』タイプジムのジムリーダーだからと言って必ずしも『ひこう』タイプで統一する必要は無いのだが、大抵のジムリーダーはタイプ統一をしている。
その最大の理由としては私の『ぼうふうけん』のように特定タイプに対する強力なアドバンテージがあったり、もしくは特定のタイプの育成を得意しているため下手に弱点の被りを気にするより持ちうる強みで押し切ったほうが強い場合が多いからだ。
といっても大抵の、と先ほど言ったように必ずしも全員が全員統一タイプなわけでもないので絶対とは言えないのだが。
「んじゃまー」
はたしてリシウムがどんなタイプのジムリーダーかは分からないが。
「タイマン、はらしてもらおーか!」
それでもジムリーダーなのだ。
ただその一点の事実のみで、リシウムの実力は保証されていた。
“タイマンしょうぶ”
どん、と大地に叩きつけるかのように勢いよく振り下ろした脚。
それに応えるかのようにロトムがテンションを上げる。
「構わないわ、正面から叩き潰してあげる」
ぐっと拳を握り。
「吹き荒れろ!」
心の中で撃鉄を落とした。
“ぼ う ふ う け ん”
轟、と凄まじい音で風が吹き荒び、豪雨が降り注ぐ。
気流が渦巻き、乱れ、荒れ狂う『おおあらし』がフィールド上に顕現する。
―――タイプ相性、技幅、展開の組み立て、それらを一瞬頭の内で考慮し。
「ダーくん!」
「ロトム!」
ほぼ同時、互いに指示を飛ばす。
指示を受け、ノータイムで互いのポケモンが動き出して。
“らいめいげり”
大地を蹴って反動をつけて放たれた強烈な蹴脚がロトムを捉える。
“らいとううんぽん”*2
“とうそうほんのう”*3
駆け抜け様に急所を捉えた強烈な一撃はロトムを吹き飛ばし、その強烈な蹴り脚はロトムが持っていたのであろう『オボンのみ』を蹴り飛ばす。
「うげっ」
明らかに深刻なダメージを負った様子のロトムを見てリシウムが顔を引きつらせ。
“せんぷうき”*4
“かみなり”
お返しとばかりに放たれた電撃は『あめ』を伝ってダーくんへと必中する。
「―――ッ!」
“おおあらし”*5
だが嵐の中渦巻く乱気流がダーくんを守り、弱点タイプの一撃のダメージを大幅に軽減する。
激しい電撃を身に受けたダーくんだったがこの程度なんてことないと咆哮して無事をアピールする。
「は?」
そんなダーくんを見て目を丸くしたのはリシウムだ。
確かにロトムはアタッカーというよりは耐久寄りに育ててはいるが、素の能力で十分に火力はあるし、技の威力と特性を考えれば弱点タイプをつければ相手もまた耐久寄りに育てているわけでも無いのならば一撃でアタッカーを落とす程度の火力はあるはずだ。
基本的に相手の数を減らすアタッカーは火力と耐久力を持ち合わせたタイプか火力と速度を持ち合わせたタイプの2択になる。
ダーくんがまさか耐久寄りだなんてそんなはずは無いだろうし、にも関わらず推定のダメージ量を見れば体力の半分を超えたかどうか……。
「この天候……え、マジで。そこまで? アリなん?」
目を見開き独りごちるリシウムの様子に、こちらの種が気づかれたことを察する。
元より『上位天候』に関しては十年以上前にとっくに公開された情報だ。そこに手をかけたトレーナーは余りにも少ないが、けれど全くいないわけではない、ならば地方トッププロの一人であるリシウムが知らないと思うのは余りにも油断が過ぎるだろう。
だが気づいたところでもう遅い、最早止まらない。ダーくんはすでに走りだしているのだ。
“らいとううんぽん”*6
走り続けて少し疲れを見せたか、ダーくんの速度が落ちる。
と、同時に。
“とうそうほんのう”*7
自らの『危機』に反応して、ダーくんの戦意はより高まっていく。
マッチポンプだが、自発的に条件を満たすことのできるこの技術はダーくんが自らの特性の一つ『まけんき』を流用して元々身に着けていたものであり、非常に使い勝手は良い。
“らいめいげり”
先ほどより明らかに威力を増した一撃がロトムを軽々とフィールドの端まで吹き飛ばし、ロトムが『ひんし』となって目を回す。
一瞬リシウムが目を瞑り。
「お疲れ」
呟いてロトムをボールに戻す。
「オッケー。ロトム、よくやったし。
目を見開き、次のボールを投げる。
「ネギガナイト!」
投げられたボールから出てきたのは、ガラル特有の進化を遂げたカモネギの進化系ネギガナイト。
右手に持った長ネギを槍のように、左手に持ったネギは盾のように。
攻防のバランスに優れた強い『かくとう』タイプのポケモン、だと図鑑で見た。
そう、『かくとう』タイプ。
だがリシウムが使っているということは……。
「ま、関係無いわね」
“らいとううんぽん”
“とうそうほんのう”
疲労と反比例するかのように加速度的に増すダーくんの戦意はすでに相当なものだ。
ここまで強化されたダーくんを止めることは簡単なことではない。
「さて、どうするの? リシウム」
“らいめいげり”
走り出したダーくんが大地を蹴り、ネギガナイトへと向かって強烈な蹴りを見舞う。
『おいかぜ』に背を押された高速のキックがネギガナイトへと迫り。
“インターセプトリーク”*8
ぱしん、と左に持ったネギの盾でダーくんの攻撃を受け流し。
“しんがん”*9
“アサルトリーク”*10
“リーフブレード”
体勢を崩したダーくんへと振るわれた右のネギの槍がダーくんを一瞬にして切り落とした。
* * *
状況2-2。
「次、行くわよ、ウーちゃん!」
私の投げたボールから飛び出したのは―――。
「ウ?」
青い羽をしたどことなく間の抜けた表情をした鳥ポケモン……ウッウのウーちゃんだ。
ウッウは非常に面白い特性をしたオンリーワンな個性を持つポケモンだ。
故にその育成の方向は特性を絡めたものであり……。
「ウーちゃん!」
こちらの指示に従って、ウーちゃんが動き出そうとした……瞬間。
「―――ここじゃね?」
リシウムがぽつり、と呟き。
「うし、ステゴロ、といこーか!」
どん、と自らの拳と拳をぶつけ合う、直後ネギガナイトがその手に持った『ながねぎ』を放り投げた。
「は?!」
“ステゴロ”*11
まるでそれに呼応するかのように、ウーちゃんに持たせた『きあいのタスキ』をひょい、と放り投げて。
「ちょ、ウーちゃん?!」
“なみのり”
放たれた大波はネギガナイトを飲み込み。
“なみにのまれる”*12
こちらの仕込んだ通りにウーちゃんが大波が引くに合わせてこちらのボールへと戻って―――。
「
“タイマンしょうぶ”*13
“インファイト”
その背を追いかけたネギガナイトの突き出した翼の一撃がウーちゃんを殴り飛ばし、吹き飛ばされたウーちゃんが『ひんし』となって目を回した。
* * *
「っし、読みどーりっしょ」
リシウムは典型的な『トレーナータイプ』だ。
正直言ってガラルのトッププロの中でもリシウムの実力は一段低い。
統率能力はあっても極めて高いと言えるほどでも無く、育成能力はプロとしては並を越えない。
特異な異能も持たず、『タイマンしょうぶ』や『ステゴロ』なども昔グレていた頃に培った喧嘩殺法のようなやり方をバトルに流用しているに過ぎない。
だからひたすらに考える。
『トレーナータイプ』とはつまり育成能力が低く、カリスマ性に乏しく、特異な才能も持たないトレーナーがそれでもと戦うためにただひたすらに考え続けることを止めなかった結果の戦法なのだから。
だからこそ、『トレーナータイプ』は恐ろしいのだ。
『ブリーダー』のように育成が得意なわけでもなく、『リーダー』のように強いポケモンを率いているわけでもない。異能トレーナーのように状況を動かす強烈な異能があるわけでもない。
ただひたすらに考え続け、展開を構築し、導き、そして勝利する。
何せ導き出した答えを狂わせるだけの『何か』が無ければ敗北への結果を変えられないのだから。
強みをぶつけあう他のタイプのトレーナーとは異なる、究極的に言えば『トレーナータイプ』とは『勝ち筋を見つけるまでに耐えられるか否か』が勝負の分水嶺となるのだ。
そして、この勝負において。
例えば『ブリーダータイプ』のトレーナーにとってバトルとはただフィールドで戦うだけではない、事前にどれだけ育成できたか、の事前準備こそが要となる。実際のバトルでは育成してきたことがどれだけ発揮できたか、が勝負の分かれ目だ。
例えば『リーダータイプ』のトレーナーならば事前にどんなポケモンを集めて、絆を深めてきたかが肝心だ。後は実際のバトルで仲間との絆を発揮できるかどうか、それが勝負の分かれ目だ。
例えば異能トレーナーならば自らの異能をコンセプトにどれだけの戦術を組めるか、またその異能への『
そして『トレーナータイプ』にとって『勝ち筋を見つけること』が勝負の分かれ目ならば、事前準備とは『相手の情報』であり、『選出』こそが要となる。
今回で言えばリシウムはソラが最初にガラルサンダーを持ってくるだろうことは予想できていた。
ソラはこの『ひこう』タイプジムの施設を使って育成している以上、外から見ただけでも抜き取れる情報はそれなりに多く。
だからこそソラの手持ちの中で最も気性の荒いサンダーが最初に来るだろうと予想していた。
だから最初にネギガナイトを出していればサンダーを完封することは可能だっただろう。
では何故それをしなかったか。
ソラを警戒させない内に情報を吐き出させたかったからだ。
トレーナーもポケモンも劣勢な時より優勢な時のほうが気が緩みやすい。
そして『勢いづいている時こそ情報が露出する』のだ。
そう、リシウムが一番欲しかったのはソラの―――。
仕事忙しくて遅くなりました(震え声
【名前】ダーくん
【種族】サンダー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】かくとう/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】しっぷうどとう(自分が『ひこう』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『ひこう』タイプの技を出す。)
【持ち物】こだわりハチマキ
【技】インファイト/らいめいげり/ダブルウィング/ブレイズキック
【裏特性】『とうそうほんのう』
自分の能力が下がった時、『こうげき』が2段階上がる。
自分の技で相手の『ぼうぎょ』が下がった時、相手を道具を持っていない状態にする。
自分の攻撃が急所に当たった時、タイプ相性の不利に関係無くダメージ計算する。
【技能】『らいごうでんてん』
特性の効果で味方と交代した時に出す技の威力を1.3倍にし、『相手を直接攻撃する技』を選択できるようになる。
【能力】『らいとううんぽん』
最初に場に出た時に『すばやさ』が最大まで上がるが、場にいる間毎ターン『すばやさ』が下がる。
相手より先に行動した時、攻撃技が必ず相手の急所に当たる。
【名前】ウーちゃん
【種族】ウッウ/原種
【レベル】110
【タイプ】ひこう/みず
【性格】のんき
【特性】うのミサイル
【持ち物】きあいのタスキ
【技】なみのり/ぼうふう/なまける/こらえる
【裏特性】『とんちんかん』
フォルムチェンジした時、『たくわえる』を出す。
相手が場を離れた時(交代、瀕死どちらでも)、『ドわすれ』を出す。
連続して出すと失敗しやすくなる技を連続で出した時、失敗する確率を半減する。
【技能】『なみにのまれる』
『なみのり』を出す時、技に『攻撃後、味方と交代する』効果を付与できる。
名前:リシウム
トレーナー評価????
【技能】
『タイマンしょうぶ』
場に出た味方のポケモンが交代できなくなるが、互いの技が必ず命中し、味方の攻撃技に『相手が交代する時、交代前の相手を攻撃し、技の威力を2倍にする』効果を追加する。この効果が発動した時、相手の交代は失敗する。
『■■■■■』
――――――――。
『ステゴロ』
使用ターン中、互いのポケモンが持っている道具の効果が発動しなくなる。この効果は味方が場に出るたびに1度だけ使用できる。
【名前】――――
【種族】ロトム(スピンフォルム)/原種
【レベル】105
【タイプ】でんき/ひこう
【特性】せんぷうき(『でんき』『ひこう』タイプの特殊攻撃技の威力を1.5倍にする。宙に浮き上がり『じめん』技や『まきびし』等の効果を受けない。)
【持ち物】オボンのみ
【技】かみなり/エアスラッシュ/でんじは/トリック
【裏特性】『プロペラーズファン』
自分と同じタイプの技を出した時、HPを最大HPの1/8回復し、自分の『とくこう』を上げる。
相手が『マヒ』状態の時、自分の技の追加効果の発動率が2倍になる。
相手が『マヒ』状態の時、技が急所に当たりやすくなる(C+2)。
【技能】『パワースイッチ』
自分と同じタイプの技の威力を2倍にする。この効果は戦闘中1度だけ使用できる。
【名前】――――
【種族】ネギガナイト/原種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】かくとう/ひこう
【特性】しんがん(『相手を直接攻撃する』技を出す時、相手のタイプ相性に関係無くダメージ計算する。命中100以上の技が必ず相手に命中し、急所に当たりやすくなる(C+1)。)
【持ち物】ながねぎ
【技】インファイト/ブレイブバード/リーフブレード/であいがしら
【裏特性】『アサルトリーク』
持ち物が『ながねぎ』の時、直接攻撃する技の威力を1.2倍にし、攻撃を受ける時、20%の確率で回避する。
攻撃技が相手の急所に命中した時、ダメージを1.5倍にし、次のターン相手が出す技の優先度を-3する。
互いに攻撃技を出している時、受けるダメージを3/4にする。
【技能】『インターセプトリーク』
自分の技の優先度を-7する。相手の『直接攻撃』のダメージと技の効果を受けなくなる。この効果で相手の技を無効にした時、自分の技の威力を2倍にする。
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翼無き者たち②
―――ソラはガラルのトレーナーではない。
その情報から導き出される情報が一つある。
それはガラルのトレーナーでは余り無いことであり、他地方のトレーナーならば普通にあり得ること。
それは『交代』という選択肢だ。
互いに『交代』を駆使するサイクル戦は現代におけるプロトレーナー同士のバトルにおける基本とされるが、ここガラルにおいてはサイクル戦というのは滅多に見られるものではない。
くるくると互いのポケモンが入れ替わり立ち代わり出ては引っ込むサイクル戦はトレーナーからすれば駆け引き満載の見ごたえのある戦いなのだが、試合を見る大半の人間はバトルに造詣の深くない素人であり、素人から見るとわざわざ相手の攻撃を受けてしまう交代という選択肢を互いが多用するサイクル戦は何をしているのかが分からない、というのが正直なところであり、互いにじわじわと消耗しながら決定打を狙うサイクル戦はどうしても長期戦になりやすく見ていてダレやすくなってしまうし、見映えも悪くなってしまう。
ガラルにおいてトレーナーとは、否、プロトレーナーとは客商売であり、人気商売である以上どうしても一般客受けしないバトルのスタイルは駆逐されてしまっていた。
リシウムのトレーナーとしてのスタイルは相手への『読み』を強要する類のものではあるが、相手が最初から交代という選択肢を排除してしまっている以上、その強みは半減してしまう。
本当ならば強制交代などを多用してかき乱せれば……とも思うのだが、『強制交代効果』と『おいうち系効果』の併用はハメ技に近いためリーグ委員会からレギュレーションで規制されている。
マイナーリーグのジムリーダーの中には『ランダム』を恣意的に捻じ曲げて強制交代で任意の相手を引き出して特性『はりこみ』からのエース狙い撃ちはアリなのに、
まあそれはさておき、ソラはガラルの外から来たトレーナーである。
ならばまだガラルのスタイルに馴染んでおらず、交代という選択肢は十分にあり得た。
故に先ほどのウッウに対してこちらの一撃が刺せたのだが、これで残りは一体。
「つって……なんつうか」
こうして対峙してみると改めて思う。
3対3シングルと6対6シングルは同じシングルバトルでも必要とされる能力が全く異なる。
特に3対3のバトルにおいて最も重要なのは選出だ。
見せ合いバトル*1ならばともかく、互いのポケモンが分からない以上それは運と言われるかもしれないが、リシウムはソラがここでどんなポケモンにどんな育成をしているのかある程度の情報は持った上でこちらのポケモンをほぼ知らないはずのソラに対して選出できたのだ。
選出されたメンバーの相性で半分以上は決まると言っても過言ではない3対3のバトルにおいてその情報の利がどれだけの差を生むか。
つまりこちらからバトルを申し込んでいる時点で最初からリシウムに大きく有利なバトルだったのは間違いない。
その上で、こうして実際戦って見て思うのはトレーナーとして一つ格が違う、ということだ。
極論ソラは適当な裏特性すら持たない『ひこう』タイプを6体並べても、後はこのフィールドに吹き荒ぶ嵐一つ呼び込むだけでリーグの中堅トレーナー程度なら勝てるだけの強さがある。
同じトレーナーの技能なのに、リシウムとは天と地ほどに差があって、リーグ委員会規制しろと言いたいところだがホウエンリーグに所属していた、ということは恐らく
間違いなく妹と同じ才を持ったトレーナーであり、その上でポケモン一体一体が強いということだ。
ガラルでも希少とかいうレベルじゃないほどに滅多に見ることの無いあの三鳥を全て捕獲し、そして従わせている。それだけでも並のポケモンよりよっぽど強いやつらが三体いて、その上であの三鳥が『エースポケモン』ではないという事実。
ジムリーダーなんてやってるが故にリシウムだってガラルのトップトレーナーたちと幾度となく戦ってきているが、そんな彼らと比較しても遜色がないほどの練度と完成度。
これでまだプロ二年目だというのだから、ふざけた話だ。
故に6対6のフルバトルで戦えば、一体一体の差で詰められて総合力で負けるだろう。それもほぼ確実に。
けれど。
だけれども、だ。
今だけは、このバトルだけはリシウムにも勝ち目がある。
奇襲によってサンダーとウッウを倒した。こちらにはまだ無傷のネギガナイトともう一体。
そして相手は残り一体。
その一体次第だが……。
「出番よ……アーくん!」
そうしてソラが投げたボールから飛び出してきたのは。
「へぇ」
赤い羽根を持つ『ほのお』タイプの鳥ポケモン。
「キィィィェェェ!」
―――ファイアローだった。
* * *
基本的にファイアローには直接攻撃しか無い。
正確には『オーバーヒート』等の攻撃も無くはないのだが、『おおあらし』の最中で発動できるものではないし、『ぼうふう』等の技も覚えられなくはないのだが、そもそもこのスピード狂いがそんな技いつまでも覚えておくはずも無い。
というわけでアーくんの技はどうにか覚えさせることできた『ブレイブバード』一つだけである。
このジムで育成しているのだからリシウムだって当然それは知っているだろうが……。
「突っ込め! アーくん!」
「返り討ちにしてやんよ、ネギガナイト!」
“はやてのつばさ”
“ブレイブバード”
『おおあらし』の追い風を受けて猛スピードでアーくんがネギガナイトへと迫る。
当然ながらそれしかできないと知っているリシウムはネギガナイトへ迎撃の態勢を取らせる……が。
“スピードスター”*2
その速度を甘く見過ぎである。
最高速に乗ったアーくんは最早視界に捉え続けることすら困難なほどに速い。
迎撃、という後手を取った時点で結果は決まっているのだ。
“せんてひっしょう”*3
元より防御能力はあっても素のタフネスは高くないポケモンであり、アーくんの一撃に吹き飛ばされ、二転、三転と転がって……。
「ネギガナイト!」
それでもリシウムの声に応え、気合で持ちこたえ。
“ソニックブーム”*4
一瞬遅れ、轟、と響き渡る
「よし、完璧ね」
アーくんはもうどうやったって
だからもう
まだ完全に完成したわけではない。できるならば『おおあらし』に対して適応した技術が欲しいところだし、もっと全体的な完成度も上げれると思う。
だが今はこれで良い、と拳を握った。
* * *
「はえーよ、いや、何だしあの速度」
突撃馬鹿だからカモかと思ったらカモにされたのはこっちだった。
そういや元はカモネギだった、なんてくだらないことを考えながらも最後の一体の入ったボールに手をかける。
「やっぱソラ、強いわ」
ネギガナイトは物理型相手ならば滅法強く出れるはずのポケモンなのだが、それを真っ向から叩き伏せられるとは思わなかった。
裏特性とはつまるところどうやったって技術なのだ。
異能にはなり得ない。
つまり種も仕掛けもある。原理があって、その原理を利用するからこそ結果を導き出せる。
だからこそ『裏特性を妨害する方法』というのは意外とある。
一番単純な方法として行動不能にすれば良い。
例えば『ギガインパクト』や『はかいこうせん』などの反動の隙を突いたり、相手を『ひるみ』状態にしたり、或いは特性を『なまけ』にしてしまったり。
相手が『動けない状態』を作ればどんな技術だろうと発揮できるはずがない。
ネギガナイトの種は単純な迎撃だ。
相手の攻撃を盾で受け流し、受け流しによって相手の態勢を崩したところに必殺の一撃を直撃させる。
最大の難点として相手の『直接攻撃』を受け流すために相手を待ち構える必要があるので当然相手のほうが先に攻撃してくることになる。
それが『直接攻撃』ならば盾で流せるのだが、そうでない場合もろにもらってしまう。
連続で使うことはできるが、使いどころを見極めなければ何もできないままに叩き潰されてしまう『読み』が必要とされる技能なのだ。
当然ながらその天敵は『遠距離』から攻撃してくるポケモンたちだ。
逆に言えば『直接攻撃』しかできない類のポケモンには無類の強さを発揮できる。
『かくとう』タイプのポケモンならタイプ相性を合わせてまず負けることは無いと言えるほどにリシウムはネギガナイトの完成度に自信を持っていた。
故にネギガナイトがファイアローに真っ向から打ち破られた衝撃は想像を絶するものがある。
ファイアローのやってることは単純であり、けれどだからこそどうしようもない。
簡単に言えばネギガナイトが構えるよりも先に攻撃されているせいで、迎撃が間に合っていないのだ。
どれだけスピードを上げればそこまでできるのか、と言いたいところだが最早人の目では攻撃の瞬間が影しか映らないレベルのその速度を見ればネギガナイトが間に合わなかったことを責める気にはなれない。
これは単純にファイアローの天性の飛行スピードもあるのだろうが、それを後押しするソラの異能が大きいのだろう。あの凄まじいスピードを完全に御したファイアロー自身の才覚もある、だがやはりソラの後押しが無ければネギガナイトならば反応していたと思う。
こんな真っ向から、想像の上から叩き潰されるとは思わなかったが故に、あのファイアローに一矢報いることすらできずにむざむざネギガナイトを失ってしまった。
思考の回転と展開の読みを重視する『トレーナータイプ』にとって想像の範囲外の存在というのは最悪の天敵と言っても良い。
そう、想像の範囲外……だったならば、リシウムは危うく詰んでいた。
確かに追い詰められた、それは事実だ、認めよう。
だからこそ、敬意を持ってこのボールを手に取った。
「ソラ」
勝負の途中に声をかける、その行為はトレーナーとして余り褒められたものではないが、それでもリシウムは声を出さずにはいられなかった。
「何よ」
じっと、こちらを見据えて一瞬たりとも気を抜かないと言った様子でこちらを見つめるソラの返答に苦笑しながら、じっとボールを見つめて。
「こいつは……あーしのとっておき。あーしの本気の証」
振りかぶり。
「ソラが強いからこそ、ソラの強さを認めたからこそ、あーしは全力で勝ちに行く。ま、つまり」
投げた。
「
* * *
「リィィィォォ」
リシウムの投げたボールから飛び出してきたのは白い四枚羽をゆったりと羽ばたかせて宙を舞うように飛ぶ『ちょうちょ』ポケモン、バタフリーだった。
タイプは『むし』と『ひこう』。
単純なタイプ相性で言えば『ほのお』『ひこう』のファイアローとは最悪に近いはずなのだが。
―――これで詰みだわ。
さてはて、あのリシウムの発言はブラフかはたまた。
なんて考えてみて嘆息する。
何かあったとしてもそもそも
「アーくん……真っすぐに、全速で、行きなさい!」
その言葉に応えるかのように、アーくんが雄たけびをあげて。
“ニトロブースト”*5
その全身から炎が一瞬吹き出し、凄まじい加速を生み出す。
先ほどまでよりもさらに加速した勢いのままに最早視認することすら難しいほどの速度でアーくんがバタフリーへと激突する。
音を置き去りにするほどの速度の一撃にどうなったと目を凝らして。
“さかさま”*6
その一撃に揺るぎすらしないバタフリーがアーくんの一撃を受け止めていた。
「いや、おかしいでしょ」
速度と威力を比例させる技術をアーくんには仕込んである。
スピードだけはあっても火力の足りないファイアローの技の威力を補うための最適な裏特性を持たせたアーくんは
だがその一撃を受けて、バタフリーは何ら痛手ではないと平然して。
“むしのさざめき”
“パラレルドレイン”*7
そのゆったりとした羽ばたきから放たれた一撃がアーくんを吹き飛ばし、同時にその体から流れ出すようにして溢れてきた薄緑色に光るエネルギーがバタフリーへと回収されていき、アーくんが僅かにつけた傷すらも一瞬にして治癒してしまう。
吹き飛ばされたアーくんは気合で耐えたようだったが……最早瀕死寸前なのは見ていれば分かるくらいで。
「まだやんの?」
最早決着はついたと問うてきたリシウムの問いに一瞬思考して。
「いや、降参だわ」
両手を上げた。
というわけで今回はソラちゃんの負け。
敗因? 練習試合だからって育成の成果と調整くらいでやってたソラちゃんと、その油断を突かないと絶対勝てないだろうなって分かってたリシウムさんとの本気度の違い。
まあそれが一番の敗因なんだろうけど、細かいところ言うとソラちゃんはまだ『ガラルのトレーナー』のやり方に慣れていないから。
【名前】アーくん
【種族】ファイアロー/原種/特異個体
【レベル】95
【タイプ】ほのお/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】はやてのつばさ→ニトロブースト(毎ターン『すばやさ』が上がる。優先度0の『ひこう』タイプの技の優先度を+1する)
【持ち物】こだわりスカーフ
【技】ブレイブバード
【裏特性】『せんてひっしょう』
相手より先に攻撃した時、攻撃後に反動を受ける技の威力を1.5倍し、技の反動を受けなくなる。
相手より先に攻撃した時、自分の『こうげき』と『すばやさ』の合計値の半分でダメージ計算する。
????
【技能】『ソニックブーム』
『ひこう』タイプの攻撃技で相手にダメージを与えた時、攻撃後に相手の最大HPの1/8の『ひこう』タイプのダメージを与える。
【能力】『スピードスター』
相手より『すばやさ』が高い時、技の優先度に関係無く相手より先に技が出せ、相手の特性、裏特性、技能に関係なく攻撃できる。
【名前】――――
【種族】バタフリー/原種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】むし/ひこう
【特性】さかさま(互いの『こうかはばつぐん』と『こうかはいまひとつ』のタイプ相性を逆にする。)
【持ち物】たべのこし
【技】むしのさざめき/ぼうふう/サイコキネシス/ちょうのまい
【裏特性】『????』
????
【技能】『パラレルドレイン』
攻撃技を出す時、『相手に与えたダメージの1/3分自分のHPを回復する』効果を付与する。
【能力】
『????』
????
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。』
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『むし』タイプの技が全て『キョダイコワク』になる。
ここから言い訳タイム。
すみません、エウゲーの新作ラビリンスマイスター出たからやろうと思ったら前作のキャッスルマイスターの内容完全に忘れてたのでやり直してて、その途中でグラセスタ買ったまま積んでたの思い出してキャッスルマイスターやった後にやって、グラセスタ終わったからようやくラビリンスマイスターやるかってなって終わる頃には執筆のやり方忘れてました(
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ネクストチャレンジャー①
「悔しい~! 負けたああ!」
ベッドの上でゴロゴロと転がりながらうめき声を上げる。
思い返すのは今日のバトルのこと。
負けた、完璧に負けた。
3対3シングルだから……というのは言い訳だ。
―――別に負けても良いと思っていた。
だからこそ負けた。
バトルが好きなポケモンたちの適度な息抜きになれば良いと思った。
積み上げてきた育成訓練の調整にちょうど良いと思った。
言い訳ならいくらでも出てくる。
でもだからこそ。
その言い訳こそが私の敗因なのだ。
「あ~もう! こんな消化不良になるなら全力で叩き潰すんだったわ」
「あはは。荒れてるねソラちゃん……ゴロゴロしてるソラちゃん、可愛いなあ」
自分のベッドの上でじたばたしながら唸る私を見ながらユウリが苦笑する。
ふと私を見る目が怖いような気がするが、多分気のせいだろう。
「負けた……のは最悪良いのよ、どうせ100戦100勝なんて無理なんだし」
「それはまあそうだよね。私も比較的安定して勝てるほうだとは思うけど、どうしても運の要素は入っちゃうよ」
「でも今回のはそれ以前の問題! 勝つことを二の次にしてた……だから負けたのよ」
「けどそれも間違いじゃないよね?」
ユウリの問いに、沈黙で返す。
そう、それも間違いではない。露出した情報は必ずどこかで漏れる。
そこらを歩いている一般人ですらスマホ片手に世界へ情報を発信できる時代なのだ。
露出すれば情報は必ず広がる、どれだけ抑え込もうとしても必ず、だ。
リシウム自身、それを理解しているからこそ3対3のバトルを挑んだのだ。
もし仮に6対6のバトルを挑まれたら私は断っていただろうから。
「でも下手したら負け癖が付いていたかもしれない。反省だわ……」
とは言え負けるにしても負け方、というものがある。
どうせ負けるにしても次に繋がるような負けが必要だ。
余り無様に負け続けるようならば、プテラ、サンダー、ファイヤー、フリーザーあたりはトレーナーを見限ってもおかしくない。
あれらが私に従うのは私が強者だからだ。
野生の中で戦い、打ちのめし、ゲットしたからこそ私を認め、従っているのだ。
故にトレーナーである私が弱い、と思われると途端に指示に従わなかったり、最悪逃げ出して野生へと戻る可能性だってある。
まあさすがに一度や二度の敗北でそんなことにはならないだろうが。
「甘えてたかしら」
例えばこれが10年も昔、まだリーグごとに規定が違い、統一リーグの無かった時代ならば100戦100勝だってあり得ただろう。
だが現代における統一リーグは必ずレギュレーション規定でパーティに『隙』を残す。穴を埋めて絶対に勝てる、なんていうパーティは作らせてもらえない。
さらに言うならば10年前と違い、育成論が進み、ポケモンの能力がより具体的に数字で見ることができるようになっている現代ではトレーナーごとの『資質』の差は確実に埋まっている。
過去天才と呼ばれたトレーナーたちが感覚で行っていたような所業は、時の流れの中で少しずつ汎用性のある技術へと落とし込まれて行っているのだ。
それ故に現代におけるトレーナーごとの格差というのは幾分か埋まっている。
まあそれとて同じ条件でならば、という但し書きがつくのだが。
才覚の差が埋まってしまえば、次は環境の差が広がった。
同じ才覚のトレーナー同士ならば次にものを言うのはどれだけ金をかけた環境でポケモンを育てることができるか、ポケモンバトルに集中できる環境か、そういう部分でトレーナー同士に差異がつき出した。
だから次は環境を揃えることに専念した。
バトルを専業とし、スポンサーに金銭的支援を受けながらバトルのためだけに生きる『プロトレーナー』*1が生まれた。
故に一定以上の力を持ったトレーナーというのは大多数がスポンサーを持ち、育成環境を整えたプロトレーナーだ。
そうして才能の差が埋まり、環境の差が埋められていくと、次に来るのが情報の差。
日進月歩で増え続けるポケモンについての情報を常に集め続け、自らのバトルの糧とし続けることが求め続けられた。
情報の利というのは非常に大きく、たった一手でも相手の知らない情報を叩きつけることができればそれは勝利を大きく引き寄せる。
現代のポケモンバトルとはつまり相手の情報を集め、対策し、自らの情報を隠し、奇襲することに他ならないのだから。
知られれば対策される、プロならば当然の思考だ。
寧ろ相手の手が分かっていて対策しないなどというのは手ぬるいだけだ。
故にプロのトレーナーならば常に最新の情報を追い求めている。
そうして情報の差すらも埋まったら。
最後に来るのは精神……つまりメンタルだ。
* * *
トレーナーでない人間がぱっと見ている分には分からないかもしれないし、実際これを勘違いしている人は多いのだが、ポケモンバトルにおいて、トレーナーの占める役割は非常に大きい。
バトルにおいて戦っているのはポケモン同士だ、確かにそれはそうだ。
傷つくのもポケモンであり、トレーナーはそれを外から指示しているだけ、と言われれば確かに否定はできない。
だからと言ってトレーナーという役割が簡単なものかと言われれば決して違う。
寧ろただ戦うだけのポケモンよりもトレーナーのほうが精神的負担は大きい。
勿論肉体的には実際に戦うポケモンのほうが負担は大きい。
だがそれをトレーナーがそれを外から眺めているだけだと思っているのならば大きな間違いだ。
トレーナーはポケモンの目であり、耳であり、声であり、脳である。
一歩引いた位置からフィールド全体を見渡しながら、常に味方と敵の位置を把握し、互いの状態を把握し、余力を考慮し、指示を出す。
当然ながら敵も味方も立ち止まっているはずがない、そんなのは良い的だ。
故に状況は、戦況は絶えず変化する、変化する戦況から一瞬たりとも目を逸らすこと無く、状況の変化を認識し、戦況を考察し、次の指示を出していく。
これをどちらかのポケモンが6体倒れるまで延々と繰り返すのだ。
当然ながらボードゲームのように手番も待ったも無い、思考が停滞すれば行動が止まる、当然相手は待ってくれない。
矢継ぎ早に出す指示によって戦況がどのように変化するか、そして変化した戦況にさらに相手の思惑が絡み時を重ねるごとに複雑化していく戦局を読み切り、決定的な手を打てるか、または相手の思惑を読み切り、決定打を防げるか。
そうして絶えず思考を回し続ける。
ポケモンバトルにおいて戦っているのはポケモンだけではない。
ともすれば余波や流れ弾に当たるやもしれない危険性を承知でその危険地帯で立ち止まり指示をするトレーナーもまた共に戦っているのだ。
バトルフィールドが広大に作られているのは何のためか。トレーナーの立ち位置、トレーナーゾーンのスペースが大きく取られているのは何のためか。
ポケモンバトルとはつまり、トレーナーもポケモンも共に命を賭けて戦っている。
否、肉体の脆弱性を考えればトレーナーのほうがよりその危険は大きいと言える。
現代におけるフルパーティ*2でのシングルバトルの平均的試合時間は十五分に満たない。
これはトレーナーがまともに思考能力を保てる上限の時間とも言える。
逆に言えばこれくらいは思考をフル回転させることができない人間は現代ではプロトレーナーにはなれないという敷居でもある。
このたった十五分という時間、常に命の危機を感じながら思考を回し続けるという作業がどれだけトレーナーの骨身を削るのか、トレーナーでない人間には想像もつかないのだ。
故にトレーナーならば誰だって知っている。
プロトレーナーの最も根源的な資質。
それは精神力だ。
引き締められた鋼のような精神力、それこそがバトルにおいて勝敗を決める最後の一押しになるのだから。
故に、負けても良い、なんてとんでも無い甘えた思考で勝てるはずも無い。
―――いつからか思考が甘えていた。
別にそれ自体は悪いことではない。
365日常時気を張ってピりピりしているようなトレーナーなんて滅多にいないし、いてもだいたい数年で潰れてしまう。
力の入れどころ、抜きどころを上手く調整し、モチベーションとコンディションを保つというのはプロとして当然のことだ。
ただその甘えが、バトルの時にまで出てしまっているのは問題と言える。
意識の切り替えがしっかりとできていない、つまり理性が緩んでいるということでもあり、それはプロとしてのメンタルに問題があるということでもある。
「メンタル作りとか本当に基礎の基礎じゃない……弛んでたかしら」
あと一ヵ月とちょっとでジムチャレンジが始まる。
それに参加するまでは今日のバトルでの経験を活かしながら育成と8月からの本番に向けての対策をしようと思っていたのだが、さらに平行してメンタルトレーニングも必要なようだ。
「ああ……ちょうど良いのがあるじゃない」
ふと思い出したのは先日交わした友人とのバトルの約束だった。
* * *
明けて翌日。
「ポロックじゃない……こっちで見るのは珍しいわね」
「あ、ホントだ! ホウエンならともかくガラルだと輸入雑貨系のお店くらいしか無いからね~」
「お土産に買って行こうかしらね」
「あ、ソラちゃん! こっちにはポフィンもあるよ」
「……なんで真空パックに詰められてるの」
「『宇宙食用ポフィン』だって! 宇宙に行っても食べられるよ!」
「私宇宙に行く予定無いから遠慮しとくわ」
ガラル地方最大の街シュートシティはとにかく広い。
朝からユウリと二人でぶらぶらと歩いているが、それでも回れたのはその広大な街並みの一角に過ぎないほどだ。
とは言えそれでも良いのだ、こうして何気なく親友とお店を見て回るだけでも十分に楽しいのだから。
メンタルトレーニングが必要だ、とか言った翌日ではあるが、それはそれ、これはこれだ。
3対3とは言え、ポケモンバトルはトレーナーにもポケモンにもそれなりに負担なのだ。故に肉体的にも精神的にも休息というのは必要であり、だからこそバトルの翌日などはゆっくりと休むことも大切なのだ。
手持ちのポケモンたちも今日は『ひこう』タイプジムに預けてきている。訓練スペースとは別に、家で大型のポケモンを置いておけないトレーナーたちのための預かりスペースだってジムにはある。手持ち全員そちらで今頃文字通り羽を伸ばしている頃だろう。
「うーん、朝からずっと歩きっぱなしだしお腹空いてきたな~。ソラちゃん、何か食べない?」
「ん、良いわよ。この辺で何か良い店とかある?」
「あるよ~! 早速案内するね!」
そうしてユウリの案内で少し歩いた先にあったのは。
「なんか見覚えあるわね」
「そだね~前も来たし」
ガラルに来て初日にユウリと一緒に入ったカレーハウスだった。
「しっかしガラルってカレー好きよね」
「何年か前から大ブームらしいね!」
ガラルで過ごしていて実感するが、ガラル地方の人たちは本当にカレー好きだ。
ブラッシータウンのような比較的小さい街でもカレーハウスが二つ三つはあるし、あっちこっちの駅の食堂でもカレーハウスが当たり前のように存在し、商店に食料品の買い物に行けばカレーやカレーの具材、トッピング用のあれこれと、コーナーができるくらいに一角がカレーに染まっている。
「ここ偶に来るんだけど、その度に新メニューにチャレンジしてるんだよね」
「私は前のと同じので良いわ……あれ結構美味しかったし」
なんて話ながら店員に注文を済ませる。
そうして空いた待ち時間、ユウリを他愛無い話を交わして。
「あ、そうだユウリ、今の内に言っておかないといけないことあるんだけど」
「どしたの?」
ふと、昨日から考えていたことを話しておこうとユウリへと呼び掛けて。
「近い内に私、引っ越すことにしたから」
告げた言葉にユウリが一瞬、ぽかん、と呆け。
「……え?」
ぽつり、と硬直した口からたった一言が漏れた。
一回最後1000字くらいデータ飛んでしまったの辛い……書き直したけど。
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ネクストチャレンジャー②
「あのさ、ソラにちっと提案あんだけど」
一日ほど時を戻し、リシウムとのバトルの後。
『ひこう』タイプジムの事務所に置かれたソファーに寄りかかりながらリシウムの淹れてくれた紅茶に口をつける。
「ソラ、確か今年のジムチャレンジ出んだよね?」
「そのつもりよ」
「ん、じゃあさ、ジムチャレンジ終わったら、うちのジム、継がない?」
「……は?」
事も無げにあっさりと告げたリシウムの言葉に、一瞬理解が追いつかなかったが、その意味を理解すると素っ頓狂な声をあげてしまう。
「いや、いやいや、どういうことよ?!」
ガラルのジムリーダー制度が他地方より特殊であることは理解しているが、だからと言って出会って一月も経たない自分に頼むようなことではないというのは分かる。
だがリシウムの目は真剣であり、冗談を言っている風ではない。
「……説明しなさい、まずは」
茶化されているわけでもない、とソファーに深く座ってリシウムを見つめ返す。
こちらが聞く態勢を取ったのを見てかリシウムが一つ頷いて口を開く。
「ぶっちゃけあーしのスタイル、このガラルだといまいちなんよ」
「ん?」
「ガラル地方のバトルの主流は居座り。つまり交代を極力使わないわけ、んなもんで交代際を叩くあーしのスタイルはこのガラルだといまいち使い勝手が悪いわけよ」
告げられる言葉に、それは理解できると頷いた。大会なども見たが、このガラル地方においてポケモンの交代というのはほとんど行われないらしい。
正確に言えば、サイクル戦自体がどうしても試合が冗長になりやすく、傍から見ていて面白みが薄いため忌避されているというべきか。
リシウムのスタイルは何となく分かる。
交代強要と相手の交代際を叩くやり方。
あのネギガナイトなど分かりやすいだろう……基本的にそれぞれのポケモンが特定の相手に『特化』しているのだ。
だから型にはめた相手にはひたすら強い、がそれ以外に対して弱い。
だから交代したくなる、交代すれば簡単に倒せると思う……その一瞬を逃さず叩く。
そういうスタイルは基本的にサイクル戦主体のトレーナー相手にはかなり刺さるだろう。
だがサイクル戦を拒否するこのガラル地方では折角の技術も持ち腐れてしまっている感は否めない。
「それに、あーしはあんま才能無かったしね」
自嘲気味に現『ひこう』タイプジムのジムリーダーは呟いた。
このガラルでも間違いなくトップの側にいるはずの少女は、けれどとても弱々しい表情をしていた。
「先代から受け継いだジムリーダーって地位も、あーしにはいい加減重くなってたし、それにね、気づいてたんよ」
何を?
その問いを視線で促すと、リシウムが嘆息し。
「あーしじゃメジャーは狙えないってこと」
深く深く、悔悟するようにそう吐き捨てた。
* * *
才能、才覚、天性、天賦。
言い方は何だっていい。
つまるところポケモントレーナーとして
それがリシウムには足りていないことに気づいたのは自分の妹と出会ってからだった。
リシウムに無くて、妹にあるもの。
リシウムに無くて、そして目の前の少女……ソラにあるもの。
リシウムに無くて……けれど他のジムリーダーたちにはあるもの。
非才を嘆くような歳でも無いが、だからと言ってあっさり割り切れるようなことかと言われればそんなことは決してない。だからと言って目を逸らしたところで何が変わるというのか。
―――リシウムにポケモンバトルの才能は無い。
けれどそれが辛いのかと言われれば……どうなのだろう?
正直に言えば、リシウムはそれほどプロトレーナーという職種に執着しているわけではない。
トレーナーとなったのは手段であり、目的ではないのだ。
ポケモンバトルは楽しい、だがそれを一生の仕事としていけるのかと言われれば首を傾げざるをえない。
故にポケモンバトルの才能が無いことが辛いのか、と言われれば正直リシウム自身良く分からないと言わざるをえないのだ。
そもそもリシウムがトレーナーになったこと自体がある種の偶然であり、ある種の必然でもある。
だがリシウムがジムリーダーになったことはリシウム自身の努力の結果であり、先代ジムリーダーからの好意と期待でもあった。
リシウムが今ジムリーダーをやっているのはつまるところ、先代からの意思を引き継いだから、というのが大きい。
先代ジムリーダーの意思……この『ひこう』タイプジムをメジャージムに昇格すること。
それは全てのマイナージムに共通する目標であると言える。
だが戦う程に自分の才能の無さが露呈していく。
リシウムの年間の戦績など下から数えたほうが速いくらいだ。
この体たらくでメジャー昇格などとてもではないが狙うことはできない。
ただでさえ来年からは妹という強力過ぎるライバルが参入してくるのだ、正直なところリシウムのメジャー昇格は絶望的というのは自分でも分かっていた。
だったら誰か別のトレーナーに……勝つことができるトレーナーにジムリーダーの座を譲ること。
リシウムに出来るのはもうそれくらいだろう、と思った。
だがジムリーダーというのは生半可な実力でなれるものではない。少なくともリシウム以下の実力しかない今のジムトレーナーたちには不可能だろう。
だからソラというトレーナーはリシウムの理想を描いたような少女だった。
見た目にも派手な異能、強力なポケモンたち、そして強いトレーナー。
『ひこう』タイプを専門として扱いながらこれらの条件を満たすトレーナーがどれだけいるだろうか。
ソラなら勝てる、例えこの混沌としたガラルのトップ争いの中にあって、頭角を現し、『ひこう』タイプジムをメジャージムに昇格させることができる。
何よりも、リシウムにとってトレーナー、ジムリーダーというのは目的ではない。
極論言ってリシウムは明日からプロトレーナーを止めても別に構わないとすら思っている。
リシウムに目的は別にあって、そのためにジムリーダーという地位を必要としたりもしたが、その目的も半ば叶ってしまっている以上、もうこれ以上才能の無い人間がジムリーダーの地位にしがみついているのも申し訳ないとすら思っている。
故に。
故に……。
* * *
例えばの話。
リシウムの話を受けて『ひこう』タイプジムのジムリーダーになったなら。
今現在間借りしているジム施設を大々的に使うことができる。
父さんから借りた資金で細々とやっているトレーナー業もガラル地方のリーグ委員会がスポンサーとなって使える額も大幅に上がるだろう。
リーグ委員会がスポンサーにつくというのは凄い話で、その恩恵は計り知れない。
だから、答えは決まっているのだ。
詳しく、と話を促してはいたが、答えは最初から決まっていた。
そう。
こんな良い話、最初に聞いた時から。
「お断りよ」
―――死ぬほど腹立たしかった。
だってそうだろう。
ジムチャレンジが終わったらジムリーダーの座を譲らないか、なんて。
つまりその提案自体が舐められているのだ。
どうせチャンピオンには……ユウリには勝てないだろう、と思われているのだ。
私の実力を知らない他のやつらが言ったならともかく、直接戦ったはずのリシウムに言われるのは我慢ならない。
つまりやつは……リシウムは、ユウリの実力を私の実力を比べて、私のほうが劣ると判断しているに他ならないのだから。
久々にはらわたが煮えくり返るような思いだった。
プロトレーナーというのは総じてプライドが高いが、私は性格的にその中でも一際だという自覚がある。
だからこそ、舐められるという行為が嫌いだ。本気で嫌いだ。
直前のバトルで負けたのもあるだろう、それは私の油断や慢心が原因で、だからこそ余計に腹立たしい。
だから。
「今度アンタの妹ともバトルするから……アンタ、見に来なさい」
告げて、足早にジムを去った。
* * *
数年ぶりに再会した親友の隣は居心地が良かった。
会えなかった分を埋め合わせるように一緒に暮らし、過ごし、笑って、語って。
昔みたいに一緒に居られて嬉しかった。
けれどもう十分だろう。
少なくとも、この夏の終わりまで……たった一つの座を賭けて競う相手なのだから。
ユウリは親友だ。
だから交友だって深めても良い。
けれどユウリはもう私の戦うべき敵なのだ。
だから慣れ合うことはもう止めるべきだ。
引っ越す、という私の一言に嫌だと駄々をこねるユウリに滔々とそんなことを語って聞かせる。
ユウリだってすでに立派なプロトレーナー、チャンピオンなのだ。
私の言う事だって当然分かっているはずで、だからこそ不満そうな表情を隠しもせず、けれどそれを口にすること無く留めた。
そもそもジムチャレンジが始まれば否応なしに旅に出ることになるのだ。
一か月それが早まるだけの話。
「そ~れ~で~も~! でもでも! も~!」
「アンタはミルタンクか。もういい加減離れなさいよ」
「や~だ~! 半年分のソラちゃん分を摂取するの!」
「意味の分からんこと言ってないで、さっさと、離れろぉ!」
昼食を終え、店を出てからもずっと引っ付いて来る親友を引きはがそうと苦心しながら街中を歩く。
とは言えこうやって二人で出かけるのも半年は無いのだと思えば、ソラだって寂しさを感じないわけではないが。
「仕方ないわね……今日一日めいっぱい遊ぶわよ」
「お? おぉ、ソラちゃんがいつになくノリ気だね」
「その代わり、今日が終わったら半年は我慢よ」
「えぇ~」
「それが嫌ならもう帰る?」
「うぅ……ううぅぅぅ」
しばらく悩んでいる様子のユウリだったが、やがてこくり、不承不承と言った様子ではあったが頷いた。
ユウリが頷くのを見ると共にその手をしっかりと掴んで走り出す。
「ほら、行くわよ。もうあと半日しかないんだから」
「うわっ、とと、ちょ、ちょっと待ってソラちゃん、いきなりアクティブ過ぎだよ」
「時間は待ってくれないわよ」
「もう……私だってソラちゃんと行きたいとこいっぱいあるんだからね!」
笑って。
「服ねえ……私のサイズいまいち無いのよね」
「ソラちゃんちっちゃいもんね!」
「うっさい! ほっとけ」
「可愛いから良いと思うよ~!」
「だから一々抱き着くなって!」
遊んで。
「ボールのデコってなにこれ?」
「モンスターボールからポケモンを出した時にエフェクトが付けれるみたいだよ?」
「面白そうね、それにガラルだと結構ウケるんじゃないかしら」
「だよね、見た目に分かりやすいし、ばばーん! って派手に登場できるからプロならみんな欲しがるかも」
「こう……登場時に風が巻き上がるエフェクトとか無いかしら」
「あはは……そういうのは無いみたい」
「そっか……まあ私の場合、自分で作ったほうが早い気がする」
「まあ、それはそう」
それから。
それから。
それから。
* * *
徐々に沈んでいく太陽が、今日という楽しい日の終わりを告げていた。
シュートシティからハロンタウンまでの距離を考えれば、そろそろ帰らなければならない時間だ。
それは分かっている、分っているが、私もユウリもどちらともそろそろ帰ろう、と切り出すことができないまま気づけば互いに黙って夕焼けの街を歩いていた。
半日はしゃいで遊び回って疲れた、というのもあるが、それ以上にこの楽しかった時間が終わってしまうことが何よりも勿体なくて。
それでも刻限は止まることなく。
時計の針は刻一刻と進んでいく。
ふと立ち止まる。
視線を上げて。
「……ん」
「―――あっ」
二人同時に声が漏れた。
視線の先、このシュートシティで最も広大な建築物がそこにあった。
シュートシティスタジアム。
五か月後に、ソラが順調に戦いを勝ち抜けば必ずやって来る場所。
そして。
ソラとユウリが唯一公式バトルが可能な場所。
「必ず」
見上げて、ソラがぽつり、と言葉を零す。
「必ずたどり着くから」
それは自分に向けての言葉だったのか、それとも隣の親友に向けての言葉だったのか。
「うん、待ってるよ。待ってるから」
だから、だから……だから。
「勝つのは私よ、ユウリ」
「負けないよ、ソラちゃん」
それは親友への一時の決別の言葉であり。
同時に
「ソラちゃん」
だからそれは、大好きな親友への、
「これ……あげる」
自らの腕に巻いたそれを外して、差し出す。
「ガラルで戦うっていうのは、こういうことだから」
差し出されたソレに一瞬ソラが躊躇して……けれど手を伸ばし、受け取る。
「これが……」
それはソラ自身ずっと必要性を感じていたもの。
けれど今のソラではそれを手に入れるアテも無かったはずのもの。
「ダイマックスバンド……私のところまで来るんだよね、だったら使いこなさないとね」
不敵に笑みを浮かべ、ユウリが拳を握る。
「去年私が手に入れてから一緒にジムチャレンジ、チャンピオンカップを勝ち抜いた由緒正しいやつだから、きっとご利益あるよ」
「ふふっ……何よそれ、だったらそのご利益にあやかって、そのままチャンピオンまで倒しちゃうわ」
「それは無理じゃないかな?」
「できるわよ」
互いに苦笑して、握り合わせた拳をこつん、とぶつけ合う。
「ユウリ」
「ソラちゃん」
そうして。
「「勝負」」
尚、まだ引っ越し先が決まってないのでソラちゃんはユウリちゃんと二人でアーマーガアタクシーに乗ってユウリちゃん宅に帰る模様。
ここまでカッコつけたのにそんな有様だから実は内心ちょっと気まずかったり。
ユウリちゃんもユウリちゃんでソラちゃんに乗せられたけど、でもやっぱ親友いなくなっちゃうってことであ”あ”あ”あ”とか嘆いて、お母さんに夜中にうるさいって小突かれてる。
と、いうわけでこれで二章終了です。
次回、クコちゃん戦閑話に挟んだら三章ジムチャレンジ編に行こうかなって。
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閑話 知名度と不審者度は比例するもの
「せっま」
思わず呟いた言葉はけれど、通りすがりの車のエンジン音に掻き消された。
開いた扉の先にあったのは極普通の二階建てのワンルームのアパート。
正直、一日の大半を『ひこう』ジムで詰め込み育成しているせいで、こうして借りた部屋も帰って寝る程度にしか使わないだろうことは今から分かりきってはいる。
故にワンルームあれば十分と考えて小さな部屋を借りたのだが……。
「本当に最低限ね、これ」
入口から真っすぐ通路が数メートル延び、その脇にキッチンがあり、一つ隣にトイレや風呂場、正面を進めばそのままワンルーム。
人一人通るのがやっとの廊下は荷物を置くと塞がってしまうくらいには狭くて、肝心のワンルームも5か6メートル四方と言ったところ。
私はまだ体躯が小さいのでこれでもまだそこまで不便を感じはしないが、大柄な男性などが借りたら相当に不便だろうことは簡単に予想できた。
「これで毎月六万はやばいわね」
トイレの個室も非常に狭いし、風呂場などその辺のホテルの浴室より狭い。
にも関わらず賃貸料金はそれなりの値段がする。
「本当に場所代ね、これ」
入口の扉を出てすぐ、遠くに見えるシュートシティスタジアムを見やりながら呟く。
徒歩15分と言ったところだろうか、これからのことを考えるとシュートシティスタジアム近くに拠点が欲しかったので借りたが、それはそれとしていくら何でも狭すぎるだろうと思わなくも無い。
「それともこれでも普通なのかしら」
あまり意識したことは無いが、実家は結構な富裕層だ。
祖父母の家はミシロタウンの普通の(やや改装部分が多いことを除けば)一般的な家屋だが、シダケタウンに建てられた私の実家はほとんど屋敷である。
敷地自体もかなり広く、庭に池があったり、家の中に屋内プールがあったりと非常に広い。
とは言え住人の数が数なので、人数割りすると妥当と言った感じではあるのだが。
とにかく、だ。
そういう広い家に住んでいたが故に、感覚がおかしくなっているだけで案外一般的な人間にはこれくらいの家でも普通、なのだろうか?
実際のところ、無制限に使える資金ではないとは言え、余剰が全くないと言うわけでもないので、多少贅沢に使って広いところを借りても良いのだが、ほとんど寝るだけの場所と割り切ってしまっているので多分これでも苦にはならないだろう。
「ていうかこの狭さだとベッド買っても入らないわね」
明らかに寝台を運搬できるような広さが廊下に無い。
となると寝泊りするならば床で寝るしかないわけだが。
「寒そうね」
三月のガラルは寒い。
元より気温の低い地方であり、ホウエンならそろそろ春の訪れを感じさせるような季節なのだが、ガラルではまだ冬だ。というかユウリに聞いた話、五月の始めくらいまでは肌寒い季節が続くらしい。
元より寒がりの私がこんな地方でこんな季節に床に布団敷いて寝るとなるとかなり寒いだろうことは目に見えている。
「カーペットに、暖房器具に……買い足しておかないと」
エアコンすら備え付けられていないぼったくりアパートである。
とは言え文句を言ったところで、またユウリの家に戻るわけにはいかない以上、今日からここが私の拠点なことには変わりないのだ。
「荷物の受け取り……はまだ時間あるわね。少し散歩でもしてこようかしら」
スマホ片手に時間を見ればまだ運送業者から言われた到着予定時刻には一時間半くらいはある。
時刻は午後二時前。引っ越しに伴う諸々の手続きも終わらせたし、少し周辺を歩いてみようかと出かける。
アパートを出てすぐに大きな道路を挟んで向かいに公園があり、北へ向かえばシュートシティスタジアム、南へ向かうとシュートシティの中央広場のほうへと出る。
「お昼まだだったし、近くの店でも行こうかしら」
南へと進路を取り、中央へと向かう。
さすがガラル最大の街というべきか、道行く人の数は多く、街全体が活気づいている。
最寄りのポケモンセンターの場所、シュートシティ駅、生活雑貨の店に、大型マーケット、飲食店など居並ぶ店をチェックしながら、一月くらいはこの街で生活する予定であるが故に必要な店の目星をつけていると。
「あれ……何?」
中央広場の中心、噴水のある広場にはアーマーガアの石像とその周囲に配置されたアオガラスの石像。
その広場の真ん中、アーマーガアの石像に下で座り込んで何かやっている一人の……女性?
何故疑問形なのかと言われれば、その全身が覆われているから。
全体的に丸みを帯びたフォルム、黒と白のツートンカラー。下向きに垂れたような角。
確か……。
「イエッサン……だったわよね?」
確かガラル地方のポケモンでそんな名前だったはず。
問題はそれがポケモンそのものじゃなくて、イエッサンのぬいぐるみ……着ぐるみ? を来た誰がしかだということ。
確かイエッサンは雌雄で外見に差があるポケモンで、あれは雌のほうの姿だったはず。
故に多分中身は女性……なのかもしれない? という程度の判断ではあるが。
どう見ても不審者だ。どこからどう見ても100パーセント不審者だ。
で、その不審者が何やっているかと言われれば石像の下で座り込んで……スマホを弄っていた。
怪しい、どう考えても怪しい。
とは言え、街でどんな服着て歩いていようと余程公序良俗に反していないならば他人がどうこういう権利も無いし、怪しいだけで相手を咎めることができるのはジュンサーさんだけだ。
一般通過トレーナーが何か言うことでも無いか、と嘆息を吐きながら視線を逸らそうとして。
「……えっ」
見られていた。
いや、本当に見られているのだろうか?
着ぐるみのせいで視線がいまいちわかりづらいが、とにかく不審者の顔がこちらを向いていて。
すくり、と不審者が立ち上がった。
気のせいかな? なんて考えているうちにどんどんとこちらへと近づいて来る不審者に思わず身構えて。
「アナタ……もしかしてソラ?」
聞こえてきた言葉に、目を丸くした。
* * *
連れていかれたのは来た道を少し戻った先の公園の隅。並木道の木陰にぽつんと置かれたベンチに不審者と二人並んで座ると、隣で不審者がごそごそと身じろぎしていた。
何をしているのかと見ていれば、きゅぽ、という音が擬音語が聞こえてきそうな動きで着ぐるみの頭部を外して……露わになったその顔はとんでもない美女だった。
木陰にあって尚光を反射する白い髪は色が抜けているというよりは『雪色』とでも言うべき濃い白さで、その白さと対比して違和感が無いくらいに日焼け一つ無い肌色。
何より白一色の中で燦然と輝く紫色の瞳が酷く綺麗で、妖艶だった。
私自身、母さんに良く似た顔立ちであり、それなりに容姿が整っている自信もあったが、目の前の女性はちょっと格が違うと言っても良い。
未だに首から下はイエッサンの着ぐるみで隠れているのに、顔だけでそう思わせられるほどの整った容姿の女性。
というか何となく見覚えがあるような気がした。
「こんなところまで来させて悪かったわね、人の居るところで迂闊に素顔出すと少し面倒になるのよ」
そう言いながら着ぐるみを脱いでいく度に既視感が増していき。
着ぐるみを完全に脱ぎ去った時点で思い出す。
「アイドルの、リリィ……?」
「あら、私のこと知ってるのね」
それはどうも、と微笑むその姿を見て、ふと思い出す。
「そう言えば、ユウリの従姉だって」
「あの子から聞いてるのね。そうね、私だってあの子からアナタのこと散々聞かされてるものね」
何で初対面でいきなり私のことを知っていたのか、その謎が今分かった気がする。
「あのお喋り……」
「ふふ、大の親友だって良く聞かされてたわよ。アナタが
心無し表情がげんなりしている気がする。
「最近ユウリと合うとだいたい一時間くらいはアナタの惚気聞かされてる気がするわ」
「何を言ってるのよ、ユウリ……」
先ほどまでの綺麗な瞳が濁って見えるくらいに死んだ目で呟かれた一言に、こちらまでげんなりしてきてしまった。
「まあ私だって恋しく愛しく愛らしく可愛らしい大切な家族のことを毎回一時間くらいは聞かせてるから御相子なんだけど」
どっちもどっちだった。というか本当に血縁なんだな、と期せずして感じてしまった。
「ところで、何で私に何か用……ですか?」
どんな態度を取れば良いのか少し悩んでしまう。
こういう時、ユウリなら臆せず友好的な会話に繋げられるのだろうが、私はあの親友のようなコミュニケーション能力は無いので、どうしても言葉に詰まってしまっていた。
「あ、ごめんなさい。もしかして急ぎの用事だったかしら?」
幸いにして、リリィはこちらのそんな部分に頓着する様子も無く、問うてくる。
「あ、いえ……ちょっと散歩しながらお昼でも、と思っただけ……です」
「あー。それならこれでも食べる? あと普通に喋ってくれて良いわよ」
告げながらリリィが手元のバッグから出してきたのは小さな黒い包みにくるまれたお弁当箱。
蓋を開いてみれば、中身の半分を色とりどりのサンドイッチが並べられており、残りにフライドポテトに何かのフライ……フィッシュアンドチップスというのだろうか、それが敷かれた紙の上に敷き詰められている。
「意外とジャンクなお弁当ね」
「それはそうよ。色々気を使ってはいるけど、元はスパイクタウン育ちだもの。こういう味にも慣れるわ」
思わず突いて出た言葉にリリィが苦笑する。
スパイクタウン。確かガラルでも珍しい『ダイマックスできないジム』のある街だったはずだ。
まだ行ったことは無いのだが、全体的にひなびてしまった街であり、今はガラの悪い人間が多いらしい。
まあガラが悪いだけであって、性質が悪いわけではないのがややこしいところなのだが。
弁当箱の中からサンドイッチを一つもらい、一口。
「あ、美味しい」
からしの入ったぴりっとしたマヨネーズの塗られたシンプルな野菜サンドだが、細かいところがきちんとされているらしい、パンがベタついている様子も無く、シャキシャキ野菜と相まって美味しい。
「でしょ? うちの子が作ってくれた料理は最高なんだから」
こっちもどうぞ、とおかずの方も差し出されたので取り合えず魚のフライを一口。
お弁当に入っていたのでさすがに水気を吸って衣がふやけてしまっているが、これは敢えてそれを前提にしていたのだろう、表面にソースが塗ってって衣にソースが染みていた。
これ単体だと少し味付けが濃いような気がするが、先ほどの野菜サンドと併せて食べるならばちょうど良い塩梅だろう。
「お茶もあるわよ」
告げながらバッグから水筒が出てくる。
注いでもらったカップには良い香りのする紅茶が入っていた。
口に含めばすっと香りが鼻に抜けていくような爽やかさがあって、口の中がすっきりとする。
「美味しいけど、これ高いんじゃないの?」
「普通にその辺で売ってるやつよ。淹れる子の腕が良いのよ」
やっぱうちの子は最高だわ、と告げながら同じカップで自分も紅茶を飲んでいるリリィに何だかイメージが違うな、と首を傾げた。
「飲みまわしなんてアイドルがやるのは行儀が悪くないかしら」
「まあそうね……だから内緒ね?」
ね? と唇に指を当てるその仕草が随分とさまになっていて、改めて顔が良すぎると実感する。
「美人は得ね」
「アナタだって十分だと思うけど?」
心の内から突いて出た一言に、リリィが首を傾げた。
* * *
「ごちそうさま、とても美味しかったわ」
「ふふ、それはそう。うちの子たちが一生懸命作ってくれたんだもの」
昼食を終えて満足感に心地よさを覚える。
いつのまにか木々の隙間から差し込む日差しに、ぽかぽかと温かさを覚え、このままここで昼寝でもできれば気持ちいいだろうな、なんてことを考えながら。
「それで、結局私に何の用?」
本題を切り出す。
当然ながら私に自分の弁当を食わせるために連れてきたわけでは無いだろう。
「まあそうね、その通りではあるわ」
佇まいを正してリリィがこちらを向き直る。
「実はね、今月の半ばに私が主催する大会があるのよ」
リリィ曰く。
このガラルではジムチャレンジ期間を除くとだいたい毎月2~3回くらいは大会が開かれており、中でもメジャーリーグのジムリーダーは最低でも年に2度は大会を主催することがリーグ委員会から義務づけられているらしい。
「で、そこそこ数は集まったんだけど、いまいち話題性が無くて困ってたのよね」
ジムリーダー主催の大会というのは、要するにリーグ委員会が大本となる公式大会の類となる。
つまり『興行』の一つなわけで、当然ながら収益というものが見られるわけだ。
リリィはこのガラルでもトップクラスの人気を誇るトレーナーだが、同時に地方を股にかけるワールドワイドなアイドルでもある。要するにエンターテイメントを演出する側の人間なのだ。
当然ながらリリィに期待される『収益』というものは他のジムリーダーより高くなるわけで、とは言えジムリーダーとして最低ラインを割ることが無ければ何か言われるわけでも無いのだが。
「それはそれで私が……というか私の可愛い子たちが舐められているみたいで嫌じゃない?」
何がじゃない? なのかは良く分からないが、とにかくリリィとしては期待されればその上を行きたいと思っているらしい。
「でもガラル地方の中だともうだいたいやり尽くした感はあるのよね」
一度はチャンピオンを招いて観客を大いに沸かせたにこともあるらしいのだがそれとて二度目以降はインパクトに欠ける。
「そこでアナタ」
そこで私の出番、というわけらしい。
「他地方から来た、今年ジムチャレンジ参加の、チャンピオン直々の推薦枠トレーナー。これは良い話題になるわ」
と、言うわけで。
「出場してくれないかしら?」
「メリットが無いから嫌よ」
即断した。
原神始めたらもう面白くて時間が消し飛んでた(
あとクコちゃんのデータ作るの手間取ってたらいつの間にか一月以上……嘘やん(
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閑話 VS小さな大激震①
そもそもの話、ポケモンリーグというものが発足した当初、ポケモンバトルという『競技』は決してメジャーなものではなかった。
それはポケモントレーナーという存在が野生のポケモンという自然の脅威に対する防衛戦力としての役割を持っていたからであり、ポケモントレーナーに求められたのはそのトレーナーの持てる全てを詰め込んだ強さだった。
故に昔のリーグというのは強いトレーナーはただひたすらに強く、強いトレーナーと弱いトレーナーでは100回戦えば100回の勝者と100回の敗者が生まれる。
ある程度の実力の拮抗があれば運が介在する要素もあったかもしれないが、飛び抜けたトレーナーが圧倒的な力でリーグを席巻し、チャンピオンとなるのが常だった。
だが時代が移ろい人類の発展と共に野生の脅威に対してある程度以上の抑止が生まれ、ポケモンバトルは純粋な闘争の場から公平性のある競技の場へと移行し、それに伴って一人一人のトレーナーに対して上限が設けられた。
分かりやすく言えばパーティに対してレギュレーションが発生するようになった。
これによってトレーナーごとの資質の差が確実に縮まり、強いトレーナーと弱いトレーナーの差異は『運』一つでひっくり返る可能性のある程度となったのだ。
ポケモントレーナーにとって最も重要な役割の一つ『育成』に天井が生まれたことによって、トレーナーが勝利するためにはそれ以外の能力が必要となった。
それが『情報』だ。
昔の『ポケモンリーグ』というのは基本的に年一回リーグ大会以外で『ポケモンリーグ』が主催する大会というのは余り無かったし、何よりプロとアマの境目が曖昧だった。
故にぽっと出のアマチュアトレーナーがリーグを制覇し、そのままチャンピオンになる、なんてことも時にはあった。
それが今となってはプロのライセンスが発行され、ライセンスの有無によってプロトレーナーとアマトレーナーの区別がはっきりとつけられた。
その上でプロトレーナーはその全員が地方リーグに登録を義務づけられた。
これによってプロトレーナーが戦う相手は同じプロトレーナーに限定されたのだ。
そしてプロとして活躍すればするほど自分のパーティや戦術といった情報は周囲に流れていくわけで、当然ながら相手もプロならばそれに対して対策を立ててくる。
昔のように大会に参加してから相手の情報を集めるのではない、情報のある相手が大会に参加するか否か、それすらも一つの情報としてやり取りされるようになった。
それから自分のパーティとの相性なども考え、勝てる大会に参加し戦績を残す、そういう戦略性まで求められるようになった。
さらに言えばポケモンリーグの発足から何十年という積み重ねの末に戦術や育成などの基礎理論が構築され、プロトレーナーの誰しもが一定以上の実力を約束された現代において、プロトレーナーの上と下の差というのは大きいようで小さい。
昔ならばパーティの全てのポケモンをレベル100にするだけで地方の最上位へと昇り詰めることすらできた。だが今となってはレベル100など最底辺のプロですら達成できて当たり前だ。
昔ならばポケモンに技術を仕込めるのは一部の育成特化の天才たちの特権だった。だが今となってはアマチュアトレーナーですら本一冊で基礎的な技術を仕込むことができる時代だ。
情報が拡散された結果、底辺レベルの底上げがされているのに、レギュレーションによって上限が付けられた今の環境において情報一つが勝敗を左右することすらある。
故にプロトレーナーは情報の扱いに対して何よりも慎重になる。
自分のパーティの情報は一つでも多く隠そうとするし、他のパーティの情報は一つでも多く欲する。
そういう意味で、彼女……リリィの立ち位置というのは非常に便利だった。
「えっと、これかしら」
リリィはこのガラル地方の『ノーマルタイプジム』のジムリーダーだ。
だがそれ以上にこのガラルにおける……否、最早世界規模の『トップアイドル』として知られている。
シュートシティにでも行けば街頭のディスプレイのあちこちにその顔が映っているだろうし、何だったら自宅のテレビで全てのチャンネルを回せばだいたいどの時間でも一度は顔や名前が出てくる程度の知名度を誇る。
そんなリリィのアイドルとしての所属は『テレビマクロ』、つまりマクロコスモス系列の会社であり、このガラルで最も大きな放送事業者……つまるところテレビ局である。*1
そのためリリィはテレビマクロのスタッフとしてある程度、その情報を知ることができる立場にある。
まあ当然、社外秘などもあるし、特定の部署でのみ秘匿されている情報などもあるので全ての情報を開示してもらえる、というわけではないが。
例えば、他地方でのリーグバトルの公開中継の録画など、得ようとすれば得ることができるわけだ。
先も言ったがテレビマクロはガラルにおける放送事業の最大手である。
当然そのツテは他地方にも及ぶし、そこから流れてくる情報もあれば、頼んで取り寄せてもらうこともできる。
リリィが持つDVDもまたそう言った物の一つ。
「取り寄せるのにちょっと時間がかかったわね」
恐らく現時点でのガラルのトレーナーで、これを手に入れることができるのはリリィだけだろう。
「戦績だけならネットでも良いのだけれど」
基本的にリーグ戦績といのはリーグの公式HPなどに表記されているのでそこを見ればどのくらい勝っているのかくらいは分かるが、逆に言えばそれくらいだ。
「あの子がわざわざ他地方から呼んだトレーナーね」
残念ながら大会への誘いはあっさり断られてしまったため、その実力を見る機会は現状このDVDの中でしかない。
それも去年のもの……とは言え、参考くらいにはなるだろう。
「どんなものかしらね」
もしも、相応の実力があるならば、今年のジムチャレンジで戦うことになるかもしれないトレーナーだ。
「お手並み拝見ね」
呟きながらDVDを再生した。
* * *
三月に入ってもガラルの冬は寒い。
元々が北のほうにある地方なので仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでもこの寒さの中でバトルする身にもなって欲しい。
「まあジムチャレンジはあと一月後から……チャンピオンカップに関しては夏だし大丈夫でしょうけど」
聞いた話では、このガラルでプロトレーナーとして公式試合に出る時は必ずユニフォームを着る必要があるらしい。
ただそのユニフォームというのがまだ寒そうな半袖半ズボンというのがまた……。
まあ、今はそんなことはどうでもいい話だ。
「ん……じゅんびはいいか?」
ただ今は。
「とっくに」
目の前の相手と。
「そうか……なら」
全力で。
「しょーぶだ、ソラ」
戦うだけだ。
―――ジムリーダーの クコが しょうぶを しかけてきた!
「ウーちゃん!」
「オーくん!」
互いが投げたボールからポケモンが飛び出す。
こちらの初手はウッウのウーちゃん。
対して向こうの初手は……。
「ニドキング、ね」
紫色の怪獣のようなトゲトゲしいフォルムのポケモン、ニドキング。
タイプは『じめん』『どく』、相性としては悪くない。
「さいしょからぜんりょくでいくぞ」
コートの対面でクコが拳を突き上げた。
“グラビティチェンバー”
コート全体を覆うようにして『じゅうりょく』が発生し、互いのポケモンを大地へと縛り付ける。
強力な異能である、正直今まで見た中でもかなり高位の異能者であると言える。
だが、それでも。
「こっちも、今日は加減抜きよ」
“ぼうふうけん”
心の内で撃鉄を落とすと同時にフィールドに発生した『おおあらし』が吹き荒れる。
いつもなら天候と『おいかぜ』だけで済ませているが、今日は全力だ、故に。
―――ふきあれるあらしが ばのすべてを ふきとばす
クコが動揺するのがここからでも分かった。
それはそうだろう、今しがた発生したばかりの『じゅうりょく』が突如としてかき消されたのだから。
異能トレーナーは持ちうる異能が強力であるほどその異能を起点としたパーティを作る。
故に異能トレーナーにとって天敵というのは『自分と同じ類で自分より強力な異能』を持ったトレーナーになる。
これは私も決して人の事を言えない話だ。私が『ひこう』タイプに苦戦するのは私の力が有利に働かないから。『おおあらし』を起点とする裏特性は発動するため全く無意味というわけではないが、場合によっては『おおあらし』の展開がデメリットになることすらあり得る。
それでもそれ以外に対して私の力は絶対的だと言っていい。
何せ奮える力の強度がまるで違うのだ。
異能とはルールの錯視だ。
世界の理を『錯覚』させることで騙す。
故に異能とはいつまでも続く力ではない。理とていつまでも騙され続けるわけではないのだから。
そういう意味で私の能力は『異能』ではない。
説明が面倒だから体外的には異能と称することが多いが、実際のところ私のそれは『理の錯視』ではなく『理の書き換え』なのだから。
本来人間が使うような能力ではないが故に、負担はどうしても大きくなるが、けれどそれは異能とはまるで強度の違う力だ。
「ここでは私が絶対のルールよ」
この『おおあらし』の内側は私の領域、私こそがルールを決める側だ。
故に私に都合の悪いルールはこの嵐にかき消される。
「さっきも言ったけど、加減は抜きよ」
『おおあらし』の展開と同時に『おいかぜ』が吹き始める。
『おいかぜ』に背を押され、ウーちゃんがスイスイとフィールドを動き回り……。
「わるいじょうだん、けどまけてられない。オーくん!」
自らの異能が跳ねのけられたことに動揺を隠せないクコだったが、それでも拳を握りしめこちらを見据える。
“かげむしゃ”*2
同時に場のニドキングがその場に『みがわり』を生み出し、その後ろに隠れる。
「やるわね、でも関係ないわ! ウーちゃん!」
“なみのり”
『おいかぜ』によって背を押されたウーちゃんが大波を生み出しながらニドキングを飲みこむ。
だが『みがわり』を盾に攻撃を受けきったニドキングはノーダメージ。
まあそれは分かっていたことだ、音技でも無ければあれはどうにもならない。
“うのミサイル”
“とんちんかん”*3
“たくわえる”
だが『なみのり』によって特性の条件を満たした。
大波に乗って戻ってきたウーちゃんの口の中にいつの間にかサシカマスが咥えられている。
本当にどこから持ってきたのか知らないが、それはとにかく特性の発動によってサシカマスを『たくわえる』ウーちゃんが波に乗ってそのままボールの中へと戻って来る。
“なみにのまれる”*4
「来て、キューちゃん!」
入れ替わるようにボールを投げ、飛び出したのは。
「はーい! 出番ですかー? トレーナーさま!」
ペリッパーのキューちゃんである。
“とっきゅうびん”*5
キューちゃんはパーティ内における繋ぎだ。必然的に攻撃を受ける機会は増える。
故に能力ランクを積み上げながらの交代が必要になる。
「こーたい……めずらしい。でもかんけーない、オーちゃん!」
「―――ォォッ!」
クコの指示を受けたニドキングがその拳を振り上げて。
“おうのかんむり”*6
“いわなだれ”
「わ、わわっと」
フィールドへと拳を叩きつけた衝撃で地面が抉れ、岩の塊となってキューちゃんへと激突する。
だが『ぼうぎょ』の能力の上がったキューちゃんにその攻撃は大したダメージにはならない。
何よりこの『おおあらし』は『らんきりゅう』を元に作り上げた力だ、『ひこう』タイプ限定とは言え弱点ダメージを半減してくれるこの状況で、同じタイプでも無い『いわ』技などろくなダメージになるはずがなかった。
クコもまたそれに気づいたのか、目を細めている。
ただ思ったよりダメージがかさんだ気がする。
数値として見えるわけでもない故に体感ではあるが、思ったより威力があった。
急所に当たった様子も無かったのに、となると。
「『いのちのたま』あたりかしらね」
となれば相手のニドキングにもダメージはあったはずだ。
最初の『みがわり』と合わせれば残りは6割か7割……。
“おうのかんむり”*7
そう考えたのだが、余りダメージを受けたような様子は見えない。
いや、寧ろ回復しているように……。
「ああ、そういうことね」
ガラルのプロトレーナーのスタイルの特徴として、居座り型が多いのは知っている。
それ故に、ポケモンが場持ちするような育成をするのが一般的らしい。
その傾向からすれば回復能力があるのは当然として。
「特性『ちからずく』ってわけね」
発動すれば『いのちのたま』の反動を受けず、デメリット無しで威力を上げることのできる特性。
そこに特性自体の威力上昇が乗れば確かにそれなりのダメージになるかもしれない。
「やるじゃない、クコ」
呟きながら次の一手を考える。
ストーンエッジがちからずくの対象にならないってさっき初めて知ったわ(
【名前】オーくん
【種族】ニドキング/原種
【レベル】110
【タイプ】どく/じめん
【特性】ちからずく
【持ち物】いのちのたま
【技】どくづき/じしん/アイアンテール/いわなだれ
【裏特性】『おうのかんむり』
相手からダメージを受けなかった時、技の威力が1.5倍になる。
相手からダメージを受けた時、100%の確率で相手を『どく』状態にする。
相手にダメージを与えた時、HPを最大HPの1/8回復する。
【技能】『かげむしゃ』
場に出た時、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動できない。
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閑話 VS小さな大激震②
「交代!」
「オーくん!」
“どくづき”
交代際を叩くオーくんの一撃に、けれどソラのボールから解き放たれた黒鉄の烏は何てことのない様子で自らの一撃を見舞ったオーくんを見やる。
「アーマーガア……タイプでうけられた」
『どく』タイプの一撃は『はがね』タイプのアーマーガアには通用しない。
そんなのは当たり前のことではあるが、こうもあっさりと決められてしまうと中々困るものがある。
そもそもガラルにおいて、交代を多用するトレーナーというのがほとんどいないのだ。
ガラルにおいてポケモンを交代する場面、というのは例えば強制交代等でダイマックス予定の『エース』が出てきてしまった、だとか、まだ序盤の内に『ムードメーカー』なポケモンが出てしまっただとか、そういう思惑の外で起きた不慮の事故などにしか使われない。
基本的に居座って、能力を上げて後続に繋げる。
それがガラル式のバトルである以上、ガラルのプロトレーナーとしてクコもまた居座りスタイルのトレーナーだ。故に交代を多用するソラのスタイルは非常に慣れない。
先ほどから交代されるたびにアドバンテージを取られている。
「そだてかたが、ちがいすぎる」
ソラの育成方法は最初から『交代』を多用することを前提として、交代の隙を極力小さくしているように見受けられる。
確かにそのやり方ならば交代を多用しても有利に立ち回れるかもしれないが。『交代』にリソースを割り振っている分、居座った時の強さが足りなくなるのは自明の理だ。
「そのためのいのう、か」
この強力過ぎる『嵐』の異能が不足を補って余りある強さをソラのポケモンたちに与えている。
一先ず思考を変える必要があることは分かった。
ガラルのトレーナー相手と同じ要領で相手していては、ひたすらに有利を取られ続ける。
さらに言うならばこちらの『じゅうりょく』を跳ねのけられたのも痛手である。
クコのパーティの根幹は『じゅうりょく』だ。
無ければ何もできなくなる、とは言わないが、基本的にあることを前提に作られたパーティなのだ。
故に『じゅうりょく』が使えないだけで大きなハンデを背負っているに等しく、さらに不慣れなサイクル使いが重なってさらに苦戦している。
たった数手の攻防でこちらが不利なのを悟ることができるのもまたクコの才覚に寄るものではあるが、だからこそ今の状況が苦しい。
「オーくん!」
「ガーくん!」
互いの指示がほぼ同時に飛んで、風に押されてアーマーガアが先に動く。
“カラスのわるぢえ”*1
“クロガネのつばさ”*2
振り抜かれるようにしてオーくんを打ち付けた黒鉄の翼に、オーくんが大きなダメージを受け悲鳴を上げる。
タフに育てたつもりではあるが、あの通常のアーマーガアと比べても一回りも二回りも大きな巨体とその巨体に見合う大きな翼で打ち付けられたのだ、ダメージは相当なものだろうと予想できる。
“いわなだれ”
反撃とばかりに放たれた岩石は、けれどその硬い鎧に阻まれてさしたる痛打も無いように見えた。
オーくんが使える技の中で、あのアーマーガアに一番有効な技が『いわなだれ』である以上、オーくんにあのアーマーガアの突破は不可能と言える。
本来ならば攻撃を受けた際に『どく』をまき散らして、相手を『どく』状態にしてしまうように仕込んでいたのだが、『はがね』タイプのアーマーガアにはそれも通じない。
勝てない以上、後続に繋ぐの正しい判断なのだろうが、迂闊に交代すればそれはそれで隙を晒してしまうことになる。
だが問題はアーマーガアの今の一撃、攻撃と同時に自身を強化していたのが見て取れた。
黒光りする羽の輝きが増したので恐らく上昇したのは『
あの硬さは翼で撃たれた時にそのまま威力となってしまう以上、ただ積まれるのも厄介な話。
だがここまで詰まされると思っていなかったので、クコには対策が無かった。
「けいけん、か」
クコはまともにトレーナーを始めてから日が浅い。
今ジムリーダーの地位にあるのは、才能と将来性を買われた部分が大きく、つまるところ絶対的に経験が足りていない。
育成の幅とは即ち才能と環境、そして何よりも経験であり、実際にバトルした回数が少ないクコはその幅が絶対的に狭かった。
「たりないからこそ……やってる」
歯がみする思いではある、だがそもそも対等にやり合えるならばこんなバトル始めていない。
あの日、ソラと共にあのエアームドと戦ってソラにあって自分に足りないものがある、それに気づいたからこそ、それを確かめるためにこうして戦っているのだ。
勝てないかもしれない。そんな思いは一先ず捨てよう。
後のことなんて考えず、全力でバトルする。
それでこそ、意味があるのだから。
「いく、か」
対面、こちらを見やるソラの姿を見つめ。
―――どうするの? クコ。
僅かに動いた口元、声は聴き取れないがけれど何よりも視線が雄弁に語る。
舐められている、というわけでは無いだろう。その視線に侮りは無い。
だが見られている。さあ、どうする? と伺われている。
対等と見られていない、否、この状況までの無様を見ればそう見られるはずがない。
待たれている、さあどうするんだ、とこのまま終わってしまうのか、と、何より。
このまま終わりじゃ詰まらない、と何よりもその視線は語っている。
きゅ、と唇を噛み締め、その小さな拳を握り。
「つぶれろ、せかい」
振り落とした。
* * *
上手くやった、と内心で喝采していた。
どうもあのニドキングにガーくんに対する有効打は無いらしい。
後一回は『クロガネのつばさ』で積み上げることができる。
そうなればガーくん単体であと5体抜くことも可能になるかもしれない。
やってて思うが、どうもクコは交代という選択肢が無いらしい。
ガラルの主流は居座り型のパーティというのを聞いてはいたが、本当に全く交代する様子が無い相手を見てこちらとしてはやりやすいとしか言いようがない。
相手の異能は封じた、それによって実力の半分も発揮できていない状態でさらに交代を駆使して利も取った。
ここまでかなり一方的な展開であると言える。
例え後半戦でクコにまだ切る札があったとして、序盤でここまで有利を積み上げればそれを覆すのは並大抵のことではない。
「可能なら、使ってみたかったけど……」
右腕に巻いた親友から受け取ったソレを見やりながら、けれどこれが使える場所というのは限られているため今回は使用できないと嘆息する。
いきなり本番で、というのは少々困るので時間を取って試す必要はある。それも可能ならばトレーナー戦での使い勝手を見たかった。
―――今回のように有利な状況で試運転できれば上々だったのだが、そう上手くはいかないか。
「まあ良いわ。機会はどこかで作れば良い」
今はただ目の前のバトルに全力を尽くせば良い。
幸いにしてリシウムに『ひこう』ジムのバトルコートを借りているのでここでのバトルに寄る情報の露出は余り考えなくても良い。
クコもリシウムも今はマイナーリーグの所属故に少なくとも今年のジムチャレンジで戦う可能性も皆無だ。
つまりこのバトル中において情報の面でのデメリットをほぼ考える必要が無い。普段使えない手まで全て試すくらいの気持ちで、その上で
とは言えこのままならば一方的が過ぎるのも事実だ。
だからと言って手を抜くのもまた違う。
「どうするの? クコ」
問うように呟いた言葉はけれど相手に届くはずもなく。
けれどその言葉に反応するかのように、クコの纏う雰囲気が明確に変わる。
その小さな拳を握り。
振り上げて。
―――つぶれろ、せかい。
聞こえるはずの無い言葉が響いた。
“グラビティチェンバー”*3
全てを吹き飛ばす嵐の中、形の無い重みが降り注ぐ。
「なっ?!」
一度吹き飛ばしたはずの『じゅうりょく』が場を満たしたのを見て驚愕に目を見開く。
あり得るはずの無い思考の隙間に、けれど相手はそれを待ってはくれない。
「ぶ ち か ま せ」
いつも気だるげな表情から一変し、目を見開いて歯を軋ませるように激情を露わにしたクコが叫び、それに応えるようにニドキングがその両腕を振り上げて。
“じゅうりょくかたのだいげきしん”*4
“だいげきしん”*5
両腕が叩きつけられた大地が鼓動するかのように大きく揺れ動き、『じゅうりょく』によって大地へと縫い留められたガーくんを吹き飛ばす。
「ガーくん!」
不味い。
『おおあらし』は『ひこう』タイプの弱点はフォローできても、それ以外には対応していない。
つまりあの『じしん』よりも強烈な威力の技が倍のダメージで直撃している。
「戻って!」
咄嗟の指示にガーくんが吹き飛ばされながらも羽ばたきながら態勢を立て直し。
“とんぼがえり”
大技を放ったニドキングの隙をついて一当てしながらボールの中へと戻っていく。
だがその散々ダメージを積み重ね続けていたニドキングもその一撃がトドメとなって『ひんし』となる。
同時に再び嵐が場の『じゅうりょく』を吹き飛ばし、元のフィールドが戻って来る。
「そういうこと、ね」
私の『おおあらし』もクコの『じゅうりょく』も基本的に互いに使おうと思えばバトル終了時までは継続することができる。
だがクコはそれをあえて1手動く間、ほんの10秒にも満たない時間に絞って使うことで異能の密度とでも呼ぶべきそれを上げてきたのだ。
故にたった1手のみとは言え、こちらの嵐と拮抗して『じゅうりょく』が発動した。
「随分手間のかかる使い方したわね」
「けど、やらないと、まける」
こちらの視線に負けじと見つめ返してくるクコに口元が弧を描く。
私の『おおあらし』を例に見ても、基本的にこの手の能力は維持するのが容易いが発動する際に大きく消耗する。
だから私の『おおあらし』は一度途切れてしまうと再度展開するのに時間がかかるのだ。
クコとて例外ではないはずだ。
最初から維持の手間を放棄しているが故に、普通に発動するよりは多少楽になっているかもしれないがそれでも普通に発動してバトル中維持するよりずっと消耗するのは間違いない。
それでもまだ使い続けるのだろう。
何せこちらが対抗しようと思えば同じように能力を単発型に切り替えて出力で上回るしかないのだ。
だがそれをすればメリットよりデメリットのほうが圧倒的に多くなる。
故にそれを封じる手は私には無い。
だが後何度使えるということも無いだろう。
先も言ったが単発とは言えその消耗は半端なものではない。
現に今一度の発動で、クコの表情は歪んでいる。それだけ消耗したのだ。
連続で使って来ることはないだろうし、一体のポケモンに2度も3度も使えるほどのリソースも無いだろう。
となれば、後は最多でも五回。
それが限界と見た。
となれば後は読み合いだ。
この状況において『じゅうりょく』の最大の強みはクコのポケモンたちの技術を引き出すことでも、全体を重くして互いの動きをスロウにしてしまうことでも無い。
『じゅうりょく』状態においてクコの最大威力の『じめん』技が私の『ひこう』ポケモンたちに当たってしまうということだ。
恐らくクコの基本戦術は相手を『じゅうりょく』状態にして強力な『じめん』技で上から叩くことだろう。
そう考えれば『じめん』技が当たらないというタイプ相性こそがクコにとって問題点だろう。
つまりクコが『じゅうりょく』を再度展開してくるのは強力な一撃を叩き込んでくる瞬間。
すでに一度使ってしまった以上、最大であと5回でこちらの有利を覆し、勝利を決定づける必要がある。
だが先の一撃を見るに、『ぼうぎょ』を積み上げたガーくんだったからこそ耐えられたが、今回のバトルに連れてきた他のポケモンたちでは耐えれるかどうかは微妙なところだ。
こちらからしてもあの一撃を食らわないように立ち回る必要がある。
つまり。
「私とクコの読み合い、ね」
読み勝てば一気に勝利を呼び寄せるだろう。
だが読み負ければ一転、窮地を招くことにもなりかねない。
「良いじゃない、それでこそよ」
次に出すポケモンのボールを握りしめ、笑みを浮かべる。
胸の奥が熱くなってくる。
このギリギリの攻防こそがポケモンバトルであり、一瞬の読み合いこそがトレーナーの醍醐味とも言える。
「楽しくなってきたわね、クコ」
告げながらボールを投げるその視線の先。
同じようにボールを振りかぶりながら、クコもまた笑みを浮かべていた。
1万字かけてまだ一体目とかマ???
あと5体はいるんだけど???
『グラビティチェンバー』
―――“ちょうじゅうりょくのおり”に ばの すべてのポケモンが とらわれる
全体の場の状態を『じゅうりょく』にする。場にいるポケモン全ての『おもさ』を2倍にし、技の優先度を-1する。(本来はバトル中永続だが今回に限り1ターンのみ)
『はんじゅうりょくのつばさ』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、相手のポケモンの『おもさ』を1/4にし、相手の技の優先度を-1する。(任意発動)
『じゅうりょくかたのだいげきしん』
味方のポケモンが『じめん』タイプの攻撃技を出す時、技を『だいげきしん』に変更できる。(任意発動)
だいげきしん 『じめん』『非接触全体技』
効果:威力150 命中60 場の状態が『じゅうりょく』でない時、この技は失敗する。急所に当たりやすい(C+1)。
┗物理攻撃技から変更した時は物理攻撃技となり『こうげき』で、特殊攻撃技から変更した時は特殊攻撃技となり『とくこう』でダメージ計算する。
上から重力で圧し潰す、下から振動でカチあげる。この二重の圧で威力を漏らさず相手に伝えるのが『だいげきしん』。だから重力無いと普通に失敗する。
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閑話 VS小さな大激震③
私は親としてはともかく、トレーナーとしては父さんのことは尊敬している。
何せ元とは言えチャンピオンだ。
かつてのホウエンの全てのトレーナーの頂点に立った存在であり、そのパーティの強さは確かなものだった。
そんな父さんのパーティは基本的に交代を多用する。
今のサイクル戦主体のリーグ環境では当然のように思えるかもしれないが、当時はまだまだ居座り型が主流だっただけに、父さんのスタイルはまさに時代の先取りと言っても過言では無かった。
父さんのパーティは割と分かりやすいコンセプトで作られている。
相手に対して勝てるポケモンに交代して、勝てない相手には能力を積み上げて突破する。
基本的にはこれに尽きる。
シンプルなパーティではあるが、それ故に汎用性は広い。
そしてそのシンプルなパーティの根底を支えるのがその『統率』能力だ。
統率能力の高いトレーナーというのはポケモンの底力を引き出す力に長けている。
統率能力とは極論を言えば、トレーナーのためにどれだけポケモンを本気にさせることができるか、ということだ。
父さんは特にその手の力に長けていて、その極致とも言えるのが『パーティの一体化』だろう。
簡単に言えば『味方と交代して場に出る時、味方の能力を引き継いで場に出る』。
こういう効果だ。
同じような効果として『バトンタッチ』という技があるが、自分の上昇させた能力を味方に引き継ぐというのは少し特別な資質が必要とされる。
それをパーティを6体のポケモンの群れではなく、一つのパーティとして一体化させ、6体のポケモンとトレーナーを『繋ぐ』ことで同じ効果を再現してしまうのはちょっと類を見ない技能と言える。
ぱっと見ると異能にも見える能力ではあるが、父さんには異能の力は一切無い。
本人曰くこれはあくまで人とポケモン、そしてポケモン同士の『絆』によって得られる力であって、分類するなら『統率』能力に寄るものでしかないのだそうだ。
残念ながら今の私にそんな力は存在しない。
パーティを仲間であると認識することはできるが、それでも父さんの言う『絆』というのが私には良く分からない。
それでもサイクル戦が主体となる環境において、この手の能力があればどれほど強みとなるか、なまじ分かってしまうが故に余計に欲しかったのは確かで。
だからこそ、
「キューちゃん!」
「はーい! またまた私、登場ですよ~!」
“とっきゅうびん”*1
積み上げたものを引き継いで、回す。
ただ普通に交代するだけでこれができるのは現状のパーティにおいてキューちゃんしか存在しない。
あの日ワイルドエリアで偶然出会っただけのキャモメが、何の不思議かこうして私のパーティに絶対に欠かせない存在となっていることに苦笑してしまう。
私は父さんのように『交代時無条件で』同じことはできない。
それでもキューちゃんがいればこのパーティは回るのだ。
だからこそ、キューちゃんへの交代は慎重にならなければならない。
今このパーティでキューちゃんが真っ先に『ひんし』になると一気に交代という選択肢が難しくなってしまうが故に。
キューちゃんいれば回る、ということは逆に言えばキューちゃんが『ひんし』になれば一気にサイクルが壊れるということであり、どう動かすか、それを考えるのがトレーナーの役目という物だ。
本当はバトン役をもう一匹くらい入れることができれば安定感も増すのだが、先も言ったが『バトンタッチ』のような技は少しばかり特殊な能力が必要になる。
このガラルで手に入るポケモンで、尚且つ私のパーティコンセプトを考慮した上でそれを覚えることができるポケモンとなると選択肢はかなり少なかった。
自分と相手を『繋ぐ』ことで能力の上昇を共有する力。
キューちゃんは性質的にその『繋ぐ』ことが得意らしい。
よく飼い慣らされたペリッパーが手紙などを運んでいるが、種族的性質なのかキューちゃんが特にそういうことに特化しているのかは分からないが、キューちゃん本人は技としての『バトンタッチ』を覚えないが裏特性として同じような効果を持たせることができた。
ウーちゃんから『ぼうぎょ』と『とくぼう』を1回。
ガーくんが『ぼうぎょ』を1回。
能力の上昇幅は大よそ5割とされている故に、今のキューちゃんは相当に硬いことは確かだ。
問題は、クコの出してくる次のポケモン。
「いくぞ、ヒーちゃん」
クコが投げたボールから飛び出したのは。
―――ォォォォン!
「ニドクイン」
ニドキングを水色に染めたようなポケモン……ニドクインだった。
* * *
場に出ると共に咆哮を上げたヒーちゃん(ニドクイン)が対面の擬人種の少女を睨みつける。
ヒーちゃんとオーくんはまだニドランだった頃に捕まえて一緒に育ててきたからか、非常に仲が良くポケモンのタマゴもいくつか作っている番だ。
それが原因か、育てている中で中々ユニークな裏特性が生まれた。
“うけつがれるおうざ”*2
先に立って戦うオーくんが敗北した時、次に出るヒーちゃんにその力は受け継がれる。
「ヒーちゃん」
対面の相手は見た目からして推定だがペリッパー、となると『ひこう/みず』タイプ。
故にこちらの最大火力を初手で叩きつける。
そう考えて。
「キューちゃん!」
“ぼうふう”
ソラの同時の指示。だが向こうに『おいかぜ』が吹いている分、こちらが出遅れる。
ペリッパーの少女が大きく両手を広げると同時に風が流れを変える。
その両手を叩きつけるように前へと振り下ろすと同時に、気流が荒れ狂う暴風となってヒーちゃんを襲った。
“あらしのはこびや”*3
吹き抜ける風が揺り返すように戻って来て、その勢いのままにペリッパーがソラの元へと消えて行き、そのままボールに戻る。
交代された、それに気づくがすでにこちらは指示を出している。
「交代、ガーくん!」
投げ放たれたボールから飛び出したのは、先ほどのアーマーガア。
確かアーマーガアは物理的なダメージには滅法強かったが、逆に特殊攻撃には物理ほどの耐久は無かったはずだ。
ならば先ほどの『だいげきしん』のダメージと合わせて行けるか?
“ウェアパワー”*4
“かみなり”
ヒーちゃんがから放たれた強烈な雷撃がアーマーガアへと襲来する。
咄嗟にアーマーガアがその両の羽を交差させてガードするが、電撃がその身を焼き―――。
“あらしのよろい”*5
両の羽に纏った風が雷撃を分散させる。確かに直撃したはずの攻撃はその威力を大きく減じ、アーマーガアはその一撃に耐える。
「な、に?」
今のヒーちゃんの火力ならば確実に倒せる一撃だった、だが耐えられた。
そのことに驚くが、けれど同時にソラならこれくらいやるか、と思い直す。
「ヒーちゃん!」
すぐさま次の指示。
確かに耐えはしたかもしれないが、それでも先の『だいげきしん』のダメージと合わせてすでにアーマーガアは『ひんし』寸前なのは間違いない。
ならば次の一撃で倒せる、そんな確信の元トドメの一撃を命ずる。
「ガーくん!」
だがソラとてむざむざ倒されるわけにはいかない、とアーマーガアへと指示を放ち。
“グラビティチェンバー”
“はんじゅうりょくのつばさ”*6
上から押し潰す重力の檻と下から突き上げる反重力の翼がアーマーガアを揺らす。
上から下からと押し付けられた圧に、アーマーガアが態勢を崩し、立て直しにほんの僅かな時間を要する。
1秒あるかないか、その程度の極僅かな時間。
けれどポケモンバトルにおいて、その1秒は明確な差となる。
“ウェアパワー”
“かみなり”
先に技を出したのはヒーちゃんだった。
放たれた雷撃が再びアーマーガアを襲う。
二度目の雷撃にいくらアーマーガアだろうとこれは耐えられたない。
確実に『ひんし』になる、そんな予想をして。
―――クラァァァ!!
耐える。
いや、正確に言えば限界はとっくに超えている。
それでも耐えている、やせ我慢、あとほんの一押しで倒れる。
『きあいのタスキ』や『がんじょう』などと同じ、まさに
それでも『ひんし』状態でないならば攻撃は出せるとばかりにその両の翼を開き。
“キョダイフウゲキ”*7
“カラスのわるぢえ”*8
“ゴッドバード”
猛スピードで迫る黒鉄の鎧を纏った烏の両翼がヒーちゃんを打ち抜く。
鈍器で殴られたかのような鈍い音を発しながら、トラックにでも跳ねられたかのような勢いでヒーちゃんが吹き飛ばされる。
「ヒーちゃん」
吹き飛ばされたヒーちゃんに、内心で悲鳴じみた声をあげながらその姿を見やる。
かなりダメージを受けているのは間違いない。傍から見ていただけでも尋常ではない威力だったのは分かった。
果たして、立てるのか?
そんな疑問を吹き飛ばすように、よろよろとだがヒーちゃんが起き上がる。
―――クォォォォン!
自らを鼓舞するように、私にまだまだ大丈夫だとアピールするかのように、ヒーちゃんが咆哮を上げる。
我慢強いのは分かるが、トレーナーの目から見ればかなりダメージを受けているのが見て取れる。
それでも。
「やれるか? ヒーちゃん」
そんな私の問いかけに、ヒーちゃんがノッシノッシと音を立てながらフィールドへと戻って応える。
ふっと笑って。
「なら、いくぞ、ヒーちゃん」
そうしてバトルが再開され。
「ヒーちゃん!」
「ガーくん!」
“クロガネのつばさ”
“かみなり”
先手を打ったのはアーマーガア。すでに『ひんし』直前の体に鞭を打ちながらヒーちゃんへとその翼を叩きつけ。
けれど直前に未完成ながらも技を放ったヒーちゃんの小さな電撃がアーマーガアの体にトドメを差し。
互いの意地を張った一撃に、今度こそ両者が『ひんし』となる。
これで状況は4対5。
けれど回数制限のある札を二度切ったこちらのやや不利と言ったところ。
思考する。思考する。思考する。
切れる札はあと四度が精々だろう。
つまりソラの『おおあらし』の中で『じゅうりょく』状態にできるのがそれだけ。
オーくんとヒーちゃんは比較的『じゅうりょく』状態無しで戦える手札ではあったが、残りの四体、特に後半三体は『じゅうりょく』が無ければ大半が機能しなくなる。
『じゅうりょく』無しでも戦えなくはないが戦力的には半減と言ったところ。
今回ソラはかなり本気で来ているのは分かる。
つまりまだ見ていない残り三体もかなり強力なポケモンであると推定するならば。
必要なのは必殺の状況だ。
例え『じゅうりょく』状態に上書きしても、ソラが交代してしまえば狙いはずれる。
交代先を叩けるとしてもまず被害が軽くなるように交代するだろうから。
こちらの『じゅうりょく』状態への上書きが回数制限付きなのはソラもまた異能者なのだから分かっているはず。
こちらの残弾も大よそ把握されていると考えて良いはずだ。
となれば、残弾一発につき一体、確実に取れる状況が必要だ。
順序を組み立てる必要がある。
4対……いや、3対1にまでできれば数の利で勝てる。
ここまで完璧に異能を封じ込められた以上、厳しい展開なのは間違いないが、それでもまだ勝ち目は残っている。
ならばやれることをやるだけだ。
ソラの思惑を躱しながら、こちらの思惑をソラに押し付ける。
それができれば勝てる。
自分よりも経験が豊富らしいソラに対してそれがどれだけ難しいことかは百も承知だが。
それでも勝ち目が残っているのに諦めるなんてことはトレーナーなら絶対にあり得ない。
ならばそのための手札はいくらでも尽くすし、やり方を変える必要があるならばいくらでも変わるだけだ。
故に。
「さあ、やるぞ、ダイちゃん」
三体目。
本来のバトルならば絶対にやらない手を打つ。
即ち。
放たれたボールから飛び出したのは。
見よ、これが『専用個体』の振り切れっぷりだ(
【名前】ガーくん
【種族】“あらしの”アーマーガア/原種/専用個体
【レベル】120
【タイプ】ひこう/はがね
【性格】わんぱく
【特性】あらしのよろい(『おおあらし』の時、自分の能力が下がらず、直接のダメージ以外を受けなくなる。特殊攻撃で受けるダメージが半減する。)
【持ち物】とつげきチョッキ
【技】ゴッドバード/クロガネのつばさ/とんぼがえり/まもる
【裏特性】『カラスのわるぢえ』
自分の持ち物の効果が1.5倍になり、不利効果を受けなくなる。
相手を直接攻撃する技を繰り出す時、自分の『ぼうぎょ』を『こうげき』の数値にしてダメージ計算する。
????
【技能】『キョダイフウゲキ』
天候が『おおあらし』の時、『ひこう』タイプの1ターン溜める必要がある技を溜めずに使える。この効果は場に出る度に一度だけ使える。
【能力】
『ストームライダー』
天候が『おおあらし』の時、自分と同じタイプの技の優先度を+1する。
天候が『おおあらし』の時、自分と同じタイプの技が相手の特性に関係無く攻撃できる。
当初裏特性『道具の効果2倍』だったけど、さすがにチョッキ一つでとくぼう3倍の特性で特殊技のダメージとかやばすぎでは?? と思って倍率下げた。
まあそれでもとくぼう2.25倍のダメージ半減だが、ガラル編は場に出てすぐに火力上げてくるチートとかテンションで火力が上がるチートが横行してるので最終的には良い感じの倍率に落ち着くと思う。
まだジムチャレ始まってないのでテンション値とかエキサイトグラフ導入してないからあれだが。
因みにこのテンション値とかの新システムは『ダイマックス可能なスタジアム』限定で効果が発揮される。応援効果とかも同様ですね、まだ出てないけど。
名前】ヒーちゃん
【種族】ニドクイン/原種
【レベル】110
【タイプ】どく/じめん
【特性】ナルシスト(自分の技で相手を倒すと『とくこう』ランクが1段階上がる。)
【持ち物】なし
【技】ヘドロウェーブ/だいちのちから/ふぶき/かみなり
【裏特性】『うけつがれるおうざ』
味方の『ニドキング』が『ひんし』の時、『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』ランクが上がる。
味方の『ニドキング』が『ひんし』の時、『ニドキング』の持ち物を自分の『持ち物』に変更する。
味方の『ニドキング』が『ひんし』の時、能力ランクの変化を2倍にする。
【技能】『ウェアパワー』
追加効果のある攻撃技を出す時、追加効果が発動しない代わりに威力が1.3倍になり、道具の反動ダメージを受けなくなる。自分と異なるタイプの攻撃技を使う出す時、技の威力を1.5倍にする。
ニドキングで荒らしてニドクインで倒す。倒せば火力倍率ドン!
みたいなコンセプト。なのでニドキング外したり、強制交代で先に引きずり出されるとただのポケモンになる。特性はまだ技能で補えてもそもそも道具もってないので普通に出すより弱いかもしれない。
因みにニドキングと違って回復持ってないからダメージ与えればいつか倒せるけど、こいつに回復性能持たせるのはさすがにバランス壊れるラインだから。こういうのはレギュレーションに引っかかる。状況が整うと単体で完結しちゃうからね。
ガーくんが許されるのはエースポケモンだからです(
ガラルにおいてエースポケモンはレギュレーションの縛りが緩い傾向にある。
だって一番派手に戦って活躍するポジだしね。
世界観的に言うと、制限かけて地味になると人気商売的に辛い。
メタ的なこと言うとみんなワンパターンにキョダイマックスするからし、最終的なデータはダイマ前提なとこあるから3ターン過ぎると戦力が落ちる。
あと『能力』枠はレギュレーショの範囲外みたいなとこある。能力は基本的に生来の気質や持って生まれた自前の力だしね。それ規制するとそもそもその種族は出せないみたいなとこある。
というわけで能力がぶっ壊れやすい伝説はパーティに入れれる数自体に規制が入る。
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閑話 VS小さな大激震④
「あれ、は……」
ホウエンでは見覚えの無いそのポケモンに、思わず図鑑をかざす。
そこに書かれた情報を鵜呑みにするならば、あれはサダイジャという名前のポケモンであり、タイプ的には『じめん』タイプのみ。
「いや、無いわよ」
だって浮いているし。
ふわふわとまるで宙を泳ぐように、舞うように浮き上がりこちらを睥睨するサダイジャ。
基本的に羽を持たないポケモンが浮かぶには相応の原理がある。
例えば特性『ふゆう』と一言にいったって、どうやって『ふゆう』しているか、その原理はポケモンごとに結構違う。
例えばマタドガスならば常に体内のガスを噴射することで浮力を保っているし、シビルドンやロトムなど『でんき』タイプならば全身から発せられる電気を利用して電磁浮遊している。
ネンドールなど『エスパー』タイプは自らの体を念力によって浮かび上がらせ移動することも可能にしている。後は『ゴースト』タイプならばそもそもその姿を消して物理的な干渉を一時的に受け付けなくなることで浮かびあがったりもする。
他にも単純に羽はあっても『ひこう』タイプではないフライゴンやサザンドラなどもいるが……。
「どう見ても羽は無い、わよね?」
ついでに言えばこの『おおあらし』に適応している様子も無いので『ひこう』タイプでも無い。
ならば『でんき』タイプか『エスパー』タイプ、どちらかのタイプを複合している『特異個体』という可能性が高いと見た。
「それに何より」
クコの表情とその目の前に立ちはだかるポケモンからひしひしと感じる強さの片鱗。
「多分あれがクコの切り札、かしら」
残りの手持ちは以前見たあのバンバドロも入っていると思われる。
あれも相当に育成された個体だったが、どうやらエースポケモンでは無かったらしい。
それからクコに渡したギャラドスも可能性としてはあり得る。
この短期間でどれだけの育成を施せたかは知らないが、ポテンシャルは相当に高かったしクコも気に入った様子だったので入っている可能性は十分ある。
それから残りの一体は分からないが、恐らく重量があって大型のタフなポケモンだろうと予測できる。
ニドキングにニドクインにサダイジャ、それに先ほど予想した残りのポケモンたちから察するに、どうもクコは見た目に反してそういうゴツイ系のポケモンが好きらしい。
『かいじゅうマニア』を自称するトレーナーも偶にいるし、まあ珍しいわけでは無いが。
そこまでは行かなくても、例えば『ガラガラ』などの小さなポケモンは入っていない気がする。
実際あのサダイジャだって5mか6mはありそうな巨体だ。
図鑑説明に寄れば通常サイズのサダイジャが3.8mということを考えるとサイズ的な特異個体と言う程ではないにしても相当に大きい個体なのは間違いない。
だがそんな巨体にも関わらずふわふわと重量なんて感じさせないような動きで宙を舞うその姿はまるでパンパンに空気が入って膨らんだ風船か何かのようにも見える。
思考を纏める。
次の一手を考える。
「ま、一つしかないわよね」
前にも言ったが、私の交代戦術としての強度は父さんには及ばない。
あくまで『キューちゃん』を経由しなければ引き継げない、強制交代等に対応していない、『ひんし』になったら積み上げたものが消える等、対処法がいくらでもあるから。
特に厄介なのが『ひんし』だ。
当然ながら一体も倒されずに勝つなんて相当な実力差が無ければできないことだし、たった一体倒されただけで積み上げたものが全て崩れるのでは交代先の選択肢が大きく狭まってしまう。
交代にリソースを割いている分、場で対面して殴り合えば不利になるのは分かっているのだ、なのに交代先の選択肢が狭まっては交代戦術の意義が半減する。
故にそれに対策を打つ必要があるのは当然のことで。
「さあ、初陣よ……リーちゃん!」
「―――フォォォォォェェ!」
羽ばたくことも無く、両の翼を広げたまま場に舞い降りたのはフリーザー。
対するサダイジャを見下ろし、威嚇するかのように、挑発するかのように、鳴き声をあげると同時にその目が怪しく光る。
“シックスセンス”*1
“フェイクアバター”*2
ぼん、と煙を吹かせながら二つ、三つとフリーザーの姿が分裂する、直後グルグルと高速で回転してその位置をシャッフルする。
そんな私たちの姿を見やり、クコが一瞬目を細めて。
それより早く、リーちゃんが大きく開いた羽を光らせる。
“さいこうちく”*3
リーちゃんの羽が光ると同時に、場に残っていた『ガーくん』が積み上げた力が残滓となってリーちゃんへと引き継がれていく。
キューちゃんがこのパーティを回すためのキーならば、リーちゃんは文字通りいざという時に状況を再構築するための命綱と言って良い。
エスパータイプとしても相当に特異な発展を遂げたガラルフリーザーであるリーちゃんだからこそ可能な所業であり、もし同じような技能を仕込もうとするならば『ゴースト』タイプあたりを上手く育てる必要があるだろう。
故にリーちゃんに最も必要となるのは『生存能力』だ。
構築時点での予想ではあるが、恐らく私のパーティの最後の一体だ。
前半で積み上げ、積み上げたものをキューちゃんで中継し、アタッカーたちが倒れたらリーちゃんが引継ぎ、再びキューちゃんに回す。
故に最初に倒れるのはアタッカーの4体。
そしてキューちゃん、最後にリーちゃんとなるだろう。
そこまでリーちゃんは生き残らなければならない。
都合四度、アタッカーが倒れる度に登場しては生きてキューちゃんに繋げるためにはリーちゃんはその過程で倒れてはならない。
故に。
「リーちゃん」
「ダイちゃん」
“じこさいせい”
体内の自然回復能力を急速に活性化させ、減ったHPを回復する。
直後にクコの指示が飛び―――。
“てんぴん”*4
“ロックブラスト”
生成される石の弾丸がリーちゃんを貫く。
分身を含め三体に分かたれてはいるが、内一体は本体、一体は『みがわり』であり、残り一体は影分身、つまり実態が無い。
多少の『回避』効果は期待できるものの、目の前で分裂しているのだから惑わされずに本体だけ一直線に見ていれば見分けることは不可能ではない。
まあ目の前であれだけ高速でシャッフルしているのにしっかり見えているのも大概だとは思うが。
だがクコとサダイジャは狙いすましたかのように的確にリーちゃんの本体へ向けて技を放つ。
本体に向けて一直線に飛んでくる石の弾丸に、咄嗟に『みがわり』が庇って受け止める。
一発、二発と弾丸を受け止めるが、けれど二発目を受け止めると同時に『みがわり』が限界を迎える。
そして三発目、四発目、五発目の弾丸がリーちゃんへと迫り―――。
すう、と羽ばたくことも無くリーちゃんが空中を移動し二発躱すが、一発がその体にぶつかる。
「――ォォ!」
痛みに僅かに表情を歪めたリーちゃんだが、さすがにその程度で倒れるような軟な体ではない。
そして。
“フェイクアバター”*5
限界を迎えた『みがわり』が直後に小さく爆発し、一瞬煙で視界が遮られた瞬間にはリーちゃんがボールの中へと戻ってくる。
「よし、一発貰ったけどほぼ完璧よ、りーちゃん! 後は繋いでちょうだい、キューちゃん!」
入れ替わるようにしてボールを投げる。
「はーい! お任せですよー!」
まだまだ元気一杯と言わんばかりの掛け声と共に、キューちゃんがフィールドに出てくる。
リーちゃんが上げた能力も引き継いでいるので、これで積みはさらに増えたと言って良い。
それから次の一手を考え、指示しようとして―――。
「なるほど」
ぽつり、とクコが呟いた。
「おまえが、かぎか」
呟きながら拳を握りしめて。
「戻れ! キューちゃん!」
「ふみつぶせ! ダイちゃん!」
咄嗟にボールに戻したキューちゃんと入れ替わりに一つのボールを投げた。
―――直後、フィールド中に鳴り響くような地響きが起こった。
* * *
“グラビティチェンバー”
解き放たれた超重力が僅かの時間だけフィールドを支配する。
それは相手のポケモンも……同時にクコのポケモンもまた大地へと貼り付けんとする降り注ぐ重石。
そんな時にこそ、蛇はその全力を発揮する。
サダイジャという種の中にあって最高位の才、天稟に恵まれたその蛇は自らのトレーナーの育成によって自らのトレーナーの『異能』に適応してその姿を変えた。
“うきあがるすなつぶ”*6
それが『エスパー』タイプの獲得。
それがクコが己のエースに見出した才能であり、故にその蛇は優雅に宙を舞い泳ぐ。
“砂塵に舞う”サダイジャ、それがクコが頼りにする絶対のエースだった。
―――“むじゅうりょくのせかいに ばのすべてのポケモンがうかびあがる”*7
『むじゅうりょく』状態の中で全てのポケモンは重さを失くし、宙に浮きあがる。
地に足を付けない『ひこう』タイプすら例外なく上も下も無い、安定の欠如した状況に本来のような狙い澄ました動きは発揮されなくなる。
そのために訓練したポケモンを除けば。
“むじゅうりょくのおり”*8
“じしん”
放たれた衝撃が
この無重力状態において、放たれる『振動』は全て空間を伝わって相手へと届く。
大地を伝うことなく直接放たれる激震は本来の大地を伝うことで起こる減衰も無いが故に、本来よりも威力を増して放たれる。
“小さな大激震”
ガラルのファンの間で昨年鮮烈なデビューを飾ったクコはそんなキャッチコピーで呼ばれているが、大激震とはつまりサダイジャ以外が放つ『じゅうりょくかたのだいげきしん』のことであり、同時にサダイジャだけが放つことのできるこの『大激震』のことでもあるのだ。
この『むじゅうりょく』という限定的な状況においてのみ『だいげきしん』をも超える威力の『じしん』は放たれる。
だがそれを放てるのは―――空間を対象として『じしん』を放つなどという器用な真似ができるのは『じめん』タイプと『エスパー』タイプの両方を持ったクコのサダイジャだけだ。
その圧倒的な破壊力は下手をすればダイマックスしたエースですら一撃で倒れかねないほどのものであり、ダイマックスすらしていないポケモンが耐えられずはずが無い。
「これで、ふたつ」
―――とった。
そんな手応えすら感じていたはずの一撃はけれど。
「―――ゥ?」
大激震によって巻き起こった土煙がけれど『おおあらし』によってかき消されていく。
その向こう側に見えてきたその姿は青かった。
全体的に青みがかった羽、丸い緑色の目、そして黄色のクチバシ。
一瞬目が閉じられていたが、直後にはまるで自分が受けたはずのダメージを忘れたかのようにとぼけた表情をしたウッウがそこにいて、何事も無かったかのように動き出して……よろめく。
「なっ……」
何で耐えられる?
いや、正確には耐えてはいない。自分が受けたダメージすら忘れた様子ではあるが、けれど体が追いついていない、ほとんど『ひんし』状態なのは間違いないが、それでも『ひんし』にはなっていない。
何故、という台詞がけれどその口から出ることは無く、ただ絶句するクコの視線の先で、はらり、とウッウの元から布切れが一つ零れ落ちた。
“きあいのタスキ”
「危ない危ない……おっかない隠し玉だわ」
やられた、そんなクコの苦々しい内心を読み取ったかのように、ソラが大きく息を吐きながら、ボールを片手に持ち。
「で、残りは何回かしら?」
不敵に笑みを浮かべた。
【名前】ダイちゃん
【種族】“さじんにまう”サダイジャ/変異種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】じめん/エスパー
【特性】てんぴん(場に出た時、『こうげき』『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』『すばやさ』を1.1倍にする。相手の技の命中率を0,9倍し、自分の技の命中率を1.2倍にする。)
【持ち物】たべのこし
【技】じしん/スケイルショット/ロックブラスト/すなあつめ
【裏特性】『むじゅうりょくのおり』
場の状態が『むじゅうりょく』の時、直接攻撃でない攻撃技の威力1.2倍にし、『エスパー』タイプを追加し相性の良いほうでダメージ計算する。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、相手を倒したならもう一度行動できる。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、『おもさ』が0の相手に『じしん』がタイプ相性で半減、無効にされず、必中する。
【技能】『キョダイサイクロン』←(『おおあらし』によって天候書き換え不可により不発)
天候が『すなあらし』の時、自分の技に『ひこう』タイプを追加し相性の良いほうでダメージ計算する。1ターンに複数回連続で攻撃する技が命中した時、必ず最大回数当たる。
【能力】『うきあがるすなつぶ』
場の状態が『じゅうりょく』の時、場の状態を『むじゅうりょく』に変更し、天候を『すなあらし』にする。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、自分の技の優先度を+2する。
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。』
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『じめん』タイプの技が全て『キョダイサジン』になる。
全体の場の状態:むじゅうりょく
場にいるポケモンが宙に浮き上がり、『おもさ』が0になる。技の命中が半分になる。
【名前】リーちゃん
【種族】フリーザー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】エスパー/ひこう
【性格】ずぶとい
【特性】シックスセンス(場に出た時、命中と回避ランクを上げる。優先度0の『エスパー』技の優先度を+1する。)
【持ち物】たべのこし
【技】いてつくしせん/ぼうふう/こらえる/じこさいせい
【裏特性】『さいこうちく』
前のターンに味方が『ひんし』になっていた時、『ひんし』の味方の能力ランクを引き継いで場に出る。
????
????
【技能】『????』
HPが減少した時にだけ発動できる『必殺技』。
【能力】『フェイクアバター』
場に出た時、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動しない。
相手の攻撃を『回避』するか『みがわり』状態が解除された時、味方と交代できる。
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閑話 VS小さな大激震⑤
額に汗がにじむ。
動悸が早くなり、僅かながらに息が荒くなってくる。
三度、この嵐の異能を書き換えた。
その代償はクコの小さな身に相応に大きくのしかかっていた。
「あせり、すぎた」
その結果が今の一撃だと言うならば、その代償は余りにも大きい。
残り三度。すでに残り半分となった手札とそれだけ費やして尚一体しか倒せていないという事実に焦りが無いとは決して言えない。
対面のウッウは最早『ひんし』寸前とはいえ、それでもまだバトルに出せる以上、受けに回せる。
「あと三回で五体……」
厳しい、と言わざるを得ない。
ただ最早手遅れ、とも言えないからこそ思考を回し続けている。
まず第一に交代戦術というガラルでは見ることが珍しい戦術のせいで後手に回ってしまっているのは否めない。
そのせいで交代受け、というプロリーグなら絶対に見られないやり方に意表を突かれた。
元よりクコは姉のリシウムのような『試合を組み立てる』ような思考をしていない。
こういう思考ができるのは根本的にトレーナータイプだけだ。
手札が少ないからこそその手札を最大限……否、相手の動きまで考慮して120%発揮させる、そういう思考をクコはできない。
クコにできるのは自分の力を最大限発揮するための道筋を考えることだけで、そのための『異能』を根本的に抑え込まれた現状は極めて不利、と言わざるを得ない。
「どうする、どうする?」
どうせ公式戦でないならばここで降参しても良いんじゃないか、そんな思考が一瞬過るがけれどそれはプロの考えることではない。
プロトレーナーというのは須らく負けず嫌いな人間ばかりだ。
故に敗北が決定する最後の一瞬までどれほど奇跡的な確率だろうと勝つための道筋を考え続ける。
問題となっているのはこちらの最大火力が叩き込める回数と相手の残数、そして何よりもまだ一度も場に出てきていない残り二体のポケモン。
アーマーガアはすでに『ひんし』。
ウッウはほぼ『ひんし』。
ペリッパーはまだまだ元気で、フリーザーもまだ一撃も食らわせていない。
『きあいのタスキ』なんて珍しい物を見たが、あれさえ無ければこちらの『だいげきしん』は相手のポケモンに痛手を負わせることができる。
恐らく『急所』を抜ければ一撃で落とせると思っていい。
相手の動きを考えれば『ペリッパー』は回復能力があるはずだ。無ければおかしい。少なくとも交代パーティで毎回あのペリッパーを中継しているのは見て分かる、ならばあのペリッパーはソラが自在に交代するための要である、そのペリッパーに継戦能力をつけないはずが無い。
とすれば中途半端な攻撃ではあのペリッパーを落としきれないだろう。
落としきれなければソラはペリッパーの回復に努めるだろうし、そこまで長期戦になれば間違いなく先にこちらが根を上げる。
やるなら一撃で、それは必須条件で……。
「っ、かんがえるひまもない」
コートを挟んで向かい、その先で次の手を繰り出すソラに、思考を中断してこちらも動き出した。
* * *
優勢と言っていい。
5-4でこちらが一体リード。
さらに相手の一番の要の能力を封じ込めている。
単発の切り札はすでに三度切らせ、一度は無駄打ちさせた。
優勢だ……多少は。
「ここで勝負を決めるわ!」
交代を駆使するパーティというのは基本的に長期戦になればなるほどジリ貧になってくる。
交代受けというのは相手の出す技を予測して有利なポケモンに交代することだが、この場合の有利な、というのは『最小限のダメージで技を受けれる』或いは『ダメージを受けても耐えて次の手で相手に勝てる』という条件の元で成り立つ。
当然バトルが長引けば長引くほどパーティのダメージは嵩んでいく。
ダメージが嵩めば『受けても耐えることができる』技は少しずつ減っていく。
そうなると交代パーティというのは徐々に機能しなくなってくる。
例えばウーちゃんのように何を食らっても『ひんし』になるほど追い込まれていれば、安易に交代出ししてもあっさり落とされるだろう。
例えばガーくんのように『ひんし』になってしまえばもう交代先としての選択肢にすら上がらなくなる。
故にサイクルパーティというのは交代受けできるポケモンの数が減ってしまうとどうしても不利を覚悟で真正面から戦うことを強いられる。
すでに一体『ひんし』になっているが、この時点で『ガーくん』が有利に受けることのできた相手を他のポケモンで受ける必要性ができてしまっている。
当然ながらタイプや能力でどんな攻撃を受けるのに向いているのか、というのはある程度ばらけていて、ガーくんが受けるのに一番向いている技は他のポケモンたちではガーくんほど上手くは受けられない、ということになる。
となるとすでにこの時点でサイクルに大きな負担がかかっている。
ここから先、二体目、三体目が落とされればさらにその負担は増すし、もしうっかりキューちゃんが落とされるようなことになれば最早サイクルは半ばにして崩壊する。
クコを追い詰めているのは事実だが、けれど傍から見たほど優勢ではないのだ、現状は。
故にこの優勢を保ったまま押し込む必要性がある。
「ウーちゃん!」
交代はしない。この状況で交代すれば確実に交代先を狙われる。
クコだってそれは分かっている、キューちゃんが要であるさすがにもう理解されているだろうからこそ、交代際を狙い撃って来るはずだ。
「ダイちゃん!」
“なまける”
ウーちゃんがその場で蹲って怠けだす。
傍目にはさぼっているように見えるが、けれどこれでポケモン自身の自己回復能力を急速に活性化させている、これで一つの技なのだ。
そのお陰でだいたい体力の半分くらいは回復できるが、当然その無防備をクコが狙い撃つ。
“ロックブラスト”
「ねらいうて!」
サダイジャが大きく息を吸い込み、吐き出すと同時にその口から放たれたいくつもの石の弾丸がウーちゃんへと飛来する。
“キョダイサイクロン”*1
本来無差別に放たれるはずの石の弾丸は、けれどサダイジャの
それでもバトル開始時から積み上げてきた能力を宿した今ならば耐えることもできるか、と思ったが。
―――きゅうしょにあたった!
その内の一発がウーちゃんの急所を撃ち抜き、ウーちゃんが目を回して『ひんし』になる。
舌打ちしながらもよどみなくウーちゃんをボールに戻し、次のボールを手に取り、投げる。
「リーちゃん!」
当然ながらここで出すのはリーちゃん。
“さいこうちく”
“フェイクアバター”
ウーちゃんから能力を引き継いだリーちゃんが再度、二体、三体と分裂する。
クコが顔をしかめながらさらに指示を出そうとし。
「戻ってリーちゃん」
それより早く、出して即座にボールにリーちゃんを戻す。
そうして―――。
* * *
―――ここだ!
「こっちもこうたい!」
ボールにダイちゃんを戻す。
ソラほど交代という手段に慣れてはいないが、けれどクコとてプロのトレーナーだ。淀みない手つきで次のボールを手に取り、投げる。
「ういじんだ、いくぞ……ギャーくん!」
「―――ゴォアアアアアア!」
場に飛び出したのは、ソラからもらったギャラドス……クコはギャーくんを呼んでいる、そのギャラドスが場に出ると同時にクコは自らの全力を解き放つ。
“グラビティチェンバー”
嵐を押しのけながら、重力の檻がフィールドを覆う。
ほんの一時の空間、けれどその一時の間にギャラドスは咆哮し。
“されきのやいば”*2
どん、と重力を纏った尻尾を大地に叩きつける。
その衝撃で相手コートの地面が隆起し、ソラの交代先のポケモンを傷つける岩の刃となる。
さらにこのギャラドスはこの隆起した岩を通して『じしん』を共振させることで特殊な揺れを発生させることができる。
『じしん』の衝撃をそのまま『音』としてダイレクトに相手に叩きつけることができるのだ。
『音』技は相手の『みがわり』に関係なく攻撃できる数少ない方法だ。
『音』技と化した『だいげきしん』を叩きつければ間違いなく交代先の『ペリッパー』は落とせる。
そうなればソラの交代戦術は止まる……つまり勝ち目が大きく増す。
これこそが、あのガラルフリーザーからペリッパーへの交代の流れを見たクコがずっと考えていた唯一の手だった。
すでに防御を固めたペリッパーに対して『だいげきしん』以外では大したダメージにはならない、クコはそれを理解していた。だが『だいげきしん』を当てるならば必ず『みがわり』が邪魔になる。先に『みがわり』を剥がせば間違いなくその隙に交代される。
つまり『みがわり』状態のままペリッパーに『だいげきしん』を当てる、それこそがソラの裏を掻くための唯一の手法。
そうして、ソラが投げたボールから飛び出してきたポケモンへと指示を出そうとして。
ふわり、と風が揺れた。
「あ……」
重力の檻に閉ざされたコートを最速の影が駆け抜けた。
“しっぷうどとう”*3
“らいごうでんてん”*4
“らいとううんぽん”*5
「―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!」
“インファイト”
クコの指示より早く、一瞬にしてコートを駆け抜けたサンダーがギャラドスへと迫り、その足でギャラドスの腹部を蹴り上げた。
―――きゅうしょにあたった!
攻撃態勢に入る直前の無防備な一瞬を狙われたギャラドスが悲鳴を上げる。
それでもかつて砂海の主だった矜持か、なんとか耐えようとして。
「片づけなさい、ダーくん」
「ギャーくん! うちはらえ!」
次の指示は同時だった。
だがシンプルに速度が違い過ぎる。
フィールドを縦横無尽に駆け回るサンダーを補足しきれないギャラドスを振り切って、サンダーが先に飛びあがり。
“らいめいげり”
ギャラドスの顔面を狙って放たれた一撃にさしものギャラドスも耐えきれず『ひんし』となって目を回す。
「ま、ずい」
あの速度はダイちゃんでも勝てない。
切り札の残弾は二。だがそれであのサンダーを倒せたとして―――。
「むり、だな」
あのフリーザーが残っている。場に出た瞬間に『みがわり』が使えるならばサンダーを倒すことすらできない。
そしてそのまま交代でまたサンダーが出てきたとして―――。
「……ドンくん!」
「ギュォォォォア!」
逡巡の迷い、そして投げたボールから飛び出してきたドサイドンへと指示を出す。
「ダーくん!」
「ギァァァオ!」
そして。
“インファイト”
フィールドを駆け抜け放たれたサンダーの一撃。
“だいようさい”
必殺の一撃に、けれどドサイドンがフラフラになりながらも耐えて反撃を放つ。
“グラビティチェンバー”
“じゅうりょくかたのだいげきしん”
“ だ い げ き し ん”
ペリッパーを経由していないため耐久力を置き去りにしたサンダーはそれで倒れ。
「―――わかった」
クコがまだ『ひんし』になっていない、けれどフラフラのドサイドンを戻す。
「ああ、もうわかった」
次にフリーザーが出てくる、それで
「おつかれさま、ドンくん」
こちらの残りはすでに『ひんし』直前のドンくん、まだ無傷のバンちゃん、そしてダイちゃん。
相手も残り三体、だが―――。
「だしたところで、だ」
そのまま三縦されるまでの未来が見えてしまった。
敗北が決定するまで諦めるつもりはないが。
ソラの動きからしてもう勝負が決してしまっているのが理解できた。
そうやって見えてしまった勝負にいつまでも手持ちのポケモンたちを付き合わせるのは無意味だ。
つまり。
「こうさん、だ」
クコの敗北だった。
【名前】ダーくん
【種族】サンダー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】かくとう/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】しっぷうどとう(自分が『ひこう』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『ひこう』タイプの技を出す。)
【持ち物】こだわりハチマキ
【技】インファイト/らいめいげり/ダブルウィング/ブレイズキック
【裏特性】『とうそうほんのう』
自分の能力が下がった時、『こうげき』が2段階上がる。
自分の技で相手の『ぼうぎょ』が下がった時、相手を道具を持っていない状態にする。
自分の攻撃が急所に当たった時、タイプ相性の不利に関係無くダメージ計算する。
【技能】『らいごうでんてん』
特性の効果で味方と交代した時に出す技の威力を1.3倍にし、『相手を直接攻撃する技』を選択できるようになる。
【能力】『らいとううんぽん』
最初に場に出た時に『すばやさ』が最大まで上がるが、場にいる間毎ターン『すばやさ』が下がる。
相手より先に行動した時、攻撃技が必ず相手の急所に当たる。
ギャラドスとダーくんの場面、実はちょっと処理の順番と表現が前後してるんだけど、正確には。
①ダーくんが出る
②ギャラドスが出る
③ダーくんが攻撃する
④グラビティチェンバー発動
⑤場がステルスロックになる
が処理順としては正しいんだけど、演出の一貫というかもうこの時点で勝敗が決してるのでちょっと本編だと処理前後させてます。
グラビティチェンバーが1ターンしか持たない都合上、ギャラドス出した瞬間に使うと、いざ攻撃する時に『じゅうりょく』が無くなってるからね。
逆にダーくんは『行動前の味方と交代した時』だから交代したターンに攻撃してる。
あとダーくんの裏特性は『まけんき』をモチーフにはしてるけど、『まけんき』と違って『自分の能力が下がったら』なので普通に『インファイト』したら『こうげき』がぐーんと上がります(白目
毎ターン『すばやさ』が下がるので下がっても『こうげき』がぐーんと上がります(アヘ顔
なので初手インファ撃つと次のターンには『こうげき』+4になってます。
バランス的にアウトなんだけど、使い方まで考慮すると基本的には『しっぷうどとう』で出ては逃げるを繰り替えるから基本的に居座ることがあんまりないしまあギリセーフかなあって。ダメかな……? やっぱ条件が緩いしこうげき+1に変えとこうかな。レギュ制限レギュ制限。
というわけでクコちゃん戦終了です。
因みに続けたとしても、最後の一体がアーくん(ファイアロー)なので『すばやさ』勝ってたら重力状態すら無視して優先度に関係無く『すばやさ』で順番決定なので誰出しても無意味の3タテで終了になります。
ブレバしか打てないけど、ブレバの計算が『こうげき』+『すばやさ』で交代時点で能力ランクが『こうげき』+4の『すばやさ』+4でしかも特性や裏特性なんかも全部無視で攻撃するので、ドサイドンでも一発で消し飛ぶ(
というわけでクコちゃんのデータ(非公開分も含めて)出しときます。
2回目があるかどうかわからんしね(
名前:クコ
キャッチコピー:【小さな大激震】
【技能】
『グラビティチェンバー』
―――“ちょうじゅうりょくのおり”に ばの すべてのポケモンが とらわれる
全体の場の状態を『じゅうりょく』にする。場にいるポケモン全ての『おもさ』を2倍にし、技の優先度を-1する。
『はんじゅうりょくのつばさ』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、相手のポケモンの『おもさ』を1/4にし、相手の技の優先度を-1する。
『じゅうりょくかたのだいげきしん』
味方のポケモンが『じめん』タイプの攻撃技を出す時、技を『だいげきしん』に変更できる。
だいげきしん 『じめん』『非接触全体技』
効果:威力150 命中60 場の状態が『じゅうりょく』でない時、この技は失敗する。急所に当たりやすい(C+1)。
┗物理攻撃技から変更した時は物理攻撃技となり『こうげき』で、特殊攻撃技から変更した時は特殊攻撃技となり『とくこう』でダメージ計算する。
『グラビトンヘヴィ』
味方のポケモンが攻撃する時、技の優先度を-5するが相手の『まもる』や『みきり』等を解除して攻撃できる。
【名前】オーくん
【種族】ニドキング/原種
【レベル】110
【タイプ】どく/じめん
【特性】ちからずく
【持ち物】いのちのたま
【技】どくづき/じしん/アイアンテール/いわなだれ
【裏特性】『おうのかんむり』
相手からダメージを受けなかった時、技の威力が1.5倍になる。
相手からダメージを受けた時、100%の確率で相手を『どく』状態にする。
相手にダメージを与えた時、HPを最大HPの1/8回復する。
【技能】『かげむしゃ』
場に出た時、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動できない。
【備考】
ヒーちゃんとは番。ヒーちゃんの尻に敷かれてる。
―――――――――――――――――――――――
【名前】ヒーちゃん
【種族】ニドクイン/原種
【レベル】110
【タイプ】どく/じめん
【特性】ナルシスト(自分の技で相手を倒すと『とくこう』ランクが1段階上がる。)
【持ち物】なし
【技】ヘドロウェーブ/だいちのちから/ふぶき/かみなり
【裏特性】『うけつがれるおうざ』
味方の『ニドキング』が『ひんし』の時、『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』ランクが上がる。
味方の『ニドキング』が『ひんし』の時、『ニドキング』の持ち物を自分の『持ち物』に変更する。
味方の『ニドキング』が『ひんし』の時、能力ランクの変化を2倍にする。
【技能】『ウェアパワー』
追加効果のある攻撃技を出す時、追加効果が発動しない代わりに威力が1.3倍になり、道具の反動ダメージを受けなくなる。自分と異なるタイプの攻撃技を使う出す時、技の威力を1.5倍にする。
【備考】
オーくんとは番。姉さん女房。
―――――――――――――――――――――――
【名前】ギャーくん
【種族】“砂海竜”ギャラドス/変異種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】じめん
【特性】されきのよろい(相手を直接攻撃する技で受けるダメージを半減し、相手から『みず』タイプの技を受けた時、『ぼうぎょ』が2段階上がる。)
【持ち物】さらさらいわ
【技】じしん/かみくだく/すなあつめ/ステルスロック
【裏特性】『さばくをおよぐりゅう』
天候が『すなあらし』の時、『とくぼう』が1.5倍になる。
相手の場の状態が『ステルスロック』の時、自分の出す『じめん』タイプの技が『音技』になり、『いわ』タイプを追加して相性の良いタイプでダメージ計算する。
相手を倒した時、自分の『こうげき』と『すばやさ』を上げる。
【技能】『されきのやいば』
場の状態が『じゅうりょく』の時、相手の場の状態を『ステルスロック』にする。
【能力】『さかいのぬし』
相手から攻撃を受けた時、5ターンの間天候を『すなあらし』にする。
天候が『すなあらし』の時、タイプ相性が『こうかはばつぐん』のダメージを3/4にし、毎ターン自分のHPを最大HPの1/8回復する。
【備考】
ギャラドスとサダイジャとの交配によって生まれた砂漠を泳ぎ陸地で生きるギャラドスという突然変異種。
―――――――――――――――――――――――
【名前】ドンくん
【種族】ドサイドン/原種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】じめん/いわ
【特性】だいようさい(タイプ相性が『こうかはばつぐん』となる技のダメージを3/4する。HPが満タンの時、『ひんし』になるダメージを受けてもHPを1残す。全体技の威力を半減する。)
【持ち物】じゃくてんほけん
【技】じしん/ロックブラスト/ヘビーボンバー/ボディプレス
【裏特性】『ヘヴィアーマー』
場の状態が『じゅうりょく』の時、相手の直積攻撃技で受けるダメージを3/4する。
場の状態が『じゅうりょく』の時、相手を直接攻撃する技の威力を1.5倍にする。
場の状態が『じゅうりょく』の時、自分の『こうげき』と相手の『すばやさ』の数値で行動順を決める。
【技能】『フォートレスリペア』
戦闘中一度だけ、HPと状態異常を全回復する。この効果を使用したターン行動できなくなる。
【能力】『ハードロックフォートレス』
特性が『だいようさい』の時、HPが1.5倍になり、相手の威力100以下の攻撃技のダメージを半減する。
―――――――――――――――――――――――
【名前】バンちゃん
【種族】バンバドロ/原種
【レベル】120
【タイプ】じめん
【特性】ゲートキーパー(相手から交代する技や道具の効果を受けなくなる。場に出た時、自分の『とくぼう』を上げる。)
【持ち物】とつげきチョッキ
【技】ヘビーボンバー/じゅうまんばりき/けりとばす/ばくしん
【裏特性】『じゅうりょくのよろい』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、自分の『おもさ』を2倍にする。
『おもさ』で威力が変わる技を出す時、相手の『おもさ』が1/10以下なら技の威力を最大威力の2倍にする。
相手を直接攻撃する技を出す時、自分の『おもさ』の1/10を威力に合計してダメージ計算する。
【技能】『ヘビーウェイトプレス』
相手を直接攻撃する技を出す時、相手の『おもさ』が自分の1/10以下なら相手の『ダメージを軽減する』効果を受けずに攻撃できる。
【備考】
けりとばす 『かくとう』『単体接触物理技』
効果:威力60 命中100 優先度-6 攻撃後、相手のポケモンを強制的に交代させる。
ばくしん 『じめん』『単体接触物理技』
効果:威力150 命中80 相手に与えたダメージの1/2を自分も受ける。
―――――――――――――――――――――――
【名前】ダイちゃん
【種族】“さじんにまう”サダイジャ/変異種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】じめん/エスパー
【特性】てんぴん(場に出た時、『こうげき』『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』『すばやさ』を1.1倍にする。相手の技の命中率を0,9倍し、自分の技の命中率を1.2倍にする。)
【持ち物】たべのこし
【技】じしん/スケイルショット/ロックブラスト/すなあつめ
【裏特性】『むじゅうりょくのおり』
場の状態が『むじゅうりょく』の時、直接攻撃でない攻撃技の威力1.2倍にし、『エスパー』タイプを追加し相性の良いほうでダメージ計算する。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、相手を倒したならもう一度行動できる。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、『おもさ』が0の相手に『じしん』がタイプ相性で半減、無効にされず、必中する。
【技能】『キョダイサイクロン』
天候が『すなあらし』の時、自分の技に『ひこう』タイプを追加し相性の良いほうでダメージ計算する。1ターンに複数回連続で攻撃する技が命中した時、必ず最大回数当たる。
【能力】『うきあがるすなつぶ』
場の状態が『じゅうりょく』の時、場の状態を『むじゅうりょく』に変更し、天候を『すなあらし』にする。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、自分の技の優先度を+2する。
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。』
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『じめん』タイプの技が全て『キョダイサジン』になる。
全体の場の状態:むじゅうりょく
場にいるポケモンが宙に浮き上がり、『おもさ』が0になる。技の命中が半分になる。
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閑話 VS小さな大激震アフター
「というわけで反省会するわよ」
「おー」
バトルを終え手持ちのポケモンたちをジムに備え付けの回復装置に預けると、シャワーを借りて汗を流す。
6対6のフルバトルというのは非常に神経をすり減らし、トレーナーの体力を消耗する。他のスポーツと違ってトレーナー自身が余り動き回ったりするようなものではないが、けれど一度のフルバトルをこなすだけでトレーナーが消費するエネルギーは何十キロものマラソンを走ったのと同等であるというデータがあるだとか昔聞いたことがある、そのくらいポケモンバトルというのは激しい競技だ。
そのため現代ではバトル施設にはだいたいこうして更衣室などが備え付けられているのだが、さすがガラルのジムというべきかシャワー室にランドリールームまで併設されている。
これがメジャージムまで行くと、ジムトレーナー用の寮や食堂まであるというのだから、このガラルにおけるメジャージムというものの優遇ぶりが分かる。
バトル自体30分にも満たない短い間のものではあったが、結果はともあれ、自らの育成の結果のぶつけあったのだ。当然ながらそこには得るべきものが多くあった。
そこで得たものを経験値へと還元するのが育成というものだ。
トライ&エラー。
育成の基本はこれに尽きる。
どれだけ考え抜かれた育成内容だろうと、実際にバトルしてみれば何がしか予想との差異は生まれる。
訓練は訓練、実戦は実戦。それはどれだけ育成手腕を高めようと突きつけられるトレーナーの命題である。
すでにポケモンバトルという『競技』は才能だけで勝てる領域には存在しないのだ。
積み重ねた練習と、集めた情報、そしてそれを発揮するために磨き上げた戦術と、あとは一握りの運。
それが現代のポケモンバトルにおいて、トレーナーの勝敗を分かつ要因である。
* * *
「ぶっちゃけるが」
相変わらず眠たげな、半分閉じたような目をしながらクコが指を唇に当てながら、言葉を選ぶように少し溜めて。
「ソラのパーティ、サイクルせんにあってないきがする」
一言目から人のパーティの根本的な戦術を全否定した。
これが見知らぬ相手からの台詞ならば喧嘩売っているのか、と言いたくなること請け合いだろう。
「ガラルだとあまりみないせんじゅつだから、しらないだけかもしれないけど」
断言した、というよりはバトルをしていて肌でそう感じた、と言ったところだろうか。
何となく気まずそうな、クコにしては控えめな表現だった。
「うーん。と言っても居座りできるほどの強みがあるか、と言われると」
私の『おおあらし』は確かに強力ではあるが、基本的に速攻タイプのアタッカーの多い私のパーティにおいて交代を駆使しない居座りスタイルというのが果たして今より良いかと言われると、それはそれでまた首を傾げざるを得ない。
「とは言えやりづらさを感じたのも事実なのよね」
フルバトルでサイクルスタイルなのに一度も出番の無かったポケモンがいる、という時点で試合回し自体が上手くいっていないのも事実だ。
基本的に私のやり方は全体を回しながら能力を積み重ねていくこと。
そのためにどうしても中継役であるキューちゃんに負担がかかってしまうのが難題である。
とは言え今回バトルしてみて気づいたのは『おおあらし』があれば居座って単独で殴り合っても十分に通用する、ということ。
ダーくんを見れば分かる通り、無理に交代を絡めようとするより一直線に突っ込んでいったほうが余程強いのではないか、と思ってしまう。
「あーしが思うに、ソラのパーティってサイクルするのに必要なもんが足りてないんじゃね?」
今回のバトルの審判役をしていたリシウムが腕を組みながら呟く。
当然ながら今回のバトルは『ひこう』ジムで行われたことなので、彼女もいる。
私やクコとは違ったトレーナーの意見も聞きたいとクコの了承を得て呼んでいたのだ。
「サイクルするのに必要なもの?」
「ガラルだと珍しいスタイルだからまああーしもそこまで詳しいわけじゃないけど、それでもマイナーとは言えジムリーダーだし、別の地方のトレーナーと戦うこともあるから感覚的な話になるけど」
思考を纏めるようにリシウムが一端間を置く。
クコはジムリーダー就任は今年の頭から、私はプロになったのが去年から、とこの中で一番プロトレーナーとして活躍の時期が長いのはリシウムである。当然ながらプロ同士のバトルの経験というのはリシウムが一番多い。そんなリシウムだからこそ分かることもあるということだろうか。
「パーティにおける役割? ってあるじゃん、サイクル戦術って」
「あるわね、
「そうそう、で、サイクルしてる相手を見てる限りだと、まあ役割ごとにおけるポケモンの価値? 順位? みたいなのって基本的に並列だと思うんよ。得意とする相手の違いはあっても」
確かにサイクル戦というのはそういう部分があると頷く。
「でもそれって互いにポケモンを交換するからこそ成立することだと思うわけ」
「……あ、そういうこと」
そこまで言われてリシウムの言いたいことに理解が及ぶ。
同時にクコとやり合っていた時に感じていたやりにくさのようなものの正体も。
例えば育成において100のリソースがあったとして、通常のサイクル戦術用の育成では3割ほどを交代のために割く。
サイクル戦というのはつまりお互いに70%の力をぶつけ合いながら読みとメタで徐々にリードを奪っていくようなやり方だ。
その試合展開はハイスピードかつテクニカルながらちまちまと『いまひとつ』なダメージを重ね続け、目に見えて優劣が付くまでは時間がかかる。
だがガラルの主流の居座り型育成では100全てを居座って戦うためだけに割く。
相性の不利などパワーで押し潰せと言わんばかりに真正面から100%の力で殴り合うようなその試合展開はスロースピードながらもパワフルであり、たった一発の命中の有無が試合を大きく動かすことすらある。
どちらが良い悪いの問題ではない。
一般的に居座り型とサイクル型ではサイクルのほうが強いと言われるが、けれどガラルのプロトレーナーたちは居座ることをスタイルとしながらも立派に世界に結果を出している。
この場合問題なのは、私の元居たホウエン地方はサイクル戦術が主体であり、居座り型というのは非常に少なかったということだ。
環境というものがある。
プロトレーナーの間で通じる用語で言えば『トッププロたちが良く使っているポケモン、戦術』などだろうか?
例えばあるプロトレーナーが使用するとても強力なポケモンと戦術があったとして。
それを使えばより強くなれる、と思うのならば周りもまた似たようなポケモンと戦術、或いは全く同じものを用意しようとする。
育成の基本は模倣だ。他人の育成を見て、その技術が自分のパーティを強くしてくれる、と思えばすぐにそれを真似し、真似されるのがプロトレーナーの当たり前で。
強い戦術があるのならばその強さを求めるのがプロとして当然のこと。
とは言えプロトレーナーならばパーティの芯とでもいうべき、中心となるポケモン、或いは戦術があるため、模倣する全てをあっさりと受け入れるなんてことはできないが、それでも取り入れることのできるものは取り入れようとする。
するとどうなるか?
プロトレーナーたちの手持ちや戦術に類似点が増えてくる。
つまりこれが『環境』である。
そして新しい環境が生まれればその対策……つまりメタもまたプロとして当然の思考、技能であり同じような戦術を使うトレーナーが多いならばそれだけその戦術に対するメタは多くのトレーナーに刺さるということであり、そうするとまたそのメタが多くのトレーナーの間で流行る。
メタ戦術が増えれば増えるほど『環境』において主流を振るったポケモン、戦術は封殺されることになりその使用率は下がっていく。そして使用率が下がって行けばそのメタもまた利用率は下がり、そうなれば次の『環境』が台頭することになり、またその『環境』に対するメタがのさばることになる。
プロトレーナーの世界とは常にこんなことの繰り返しである。
つまりプロトレーナーというのは周りに合わせてパーティを調整する。
『環境』がサイクル主体だとどうしてもサイクル戦をするパーティを相手にした育成と構築になる。
私……ソラが一年間戦ってきたのはつまりそういう場所であり、その経験は極めてサイクル戦に偏っている。
必然的に私が構築するパーティというのはどうしても互いがサイクル戦をすることが前提になっている部分がある。
つまりそれが今回浮彫となった私のパーティの問題点であり、クコが『居座ったほうが強いのでは?』と思わせた原因なのだろう。
簡単に言えば、私のパーティはガラルの『環境』に合っていないのだ。
* * *
「クコのパーティは思い切りガラルの主流って感じよね」
「そういうふうにくんだからな」
「つってクーの異能ありきな部分あるっしょ」
「そもそも……わたしよりきょうどのつよいいのうなんてソラがはじめてだ」
「まあそれは分かるわ、ソラの異能やべえし」
基本的に異能者というのは世界的に見ても数が少ない。ただまあ少ないだけでいないわけでも無い。
けれど一口に異能者、と言ってもその内容は様々であり、特に異能の『強度』というものは本当にピンからキリまであり、ポケモンバトルにまで活用できるレベルで高い強度を持つ異能となるとその数は大きく減じることになる。
強度……もしくはレベル、とでも言えば分かりやすいだろうか。
あくまでこれは異能者たちにとって感覚的なものではあるが……異能は異能者たちにとって酷く自然なものであり、走ったり、物を持ったりするくらいの感覚で異能者は自らの異能を振るうことができる。
異能者の異能は様々だが大抵何かに対して『干渉』し、その何かに対して自らの意思で働きかけ理を捻じ曲げ現象を引き起こす。
異能研究の分野ではこの時の干渉能力の大小を『干渉強度』と呼び表しており、特に同じ対象に干渉する異能がぶつかりあった時にその違いは大きく発揮される。
同じ類の異能、或いは同じ対象へ働きかける異能が干渉しあった時、基本的にこの干渉強度が強いほうが優先されることになる。
故に異能者にとって最大の天敵というのは自分と同じ範囲に干渉してくる自分より上位の異能者である、というのは今時新人トレーナーだって知っているような話だ。
今回で言うならば私とクコの異能は同じフィールドに干渉する類の能力ではあったが、私の嵐の能力のほうが強度が高いため、クコの異能を抑えて『おおあらし』が展開していた。
「いのうがつかえなくなる、とかきいてない」
「まあ異能者は基本自分の異能を基準にパーティ構築すっからね。それもクーのレベルで強い異能持ってりゃそうなるわな」
「けどしゅーかくがなかったわけでもないぞ」
「そうなん?」
「ちからのつかいかた、すこしわかった」
「異能はどんどん使って使い勝手を馴染ませていくしかないしね」
「あーしはそんな便利な力持ってないから何とも言えん話だわ」
実際、通常の人間と異能者とでは感性や感覚が異なる、というのは本当の話らしい。
正確には異能者というのは幼少の頃から普通の人間に感じ取れないものが感じ取れるが故に、普通の人間と同じように育てても違う育ち方をする、というべきか。
故に異能者の感覚というのは同じ異能者のほうが良く分かる。
「バトルしてて思ったけど、クコって異能の使い方が大雑把よね。もしかして最近まであんまり使ったこと無かったの?」
「あー、クーはまあ色々あってそもそも最近までトレーナーですら無かったんよ」
クコへの問いに、けれど返したのはリシウム。
まあどうもその辺、家庭の事情とでもいうべきものがあるらしいのは薄々気づいているが、一々他人の家の事情に詮索を入れる趣味も無いので、そう、とだけ答えて流す。
「それに、つかいかた、よくしらないからな」
「ああ……まあそうよね」
異能者の家族だからと言って必ずしも異能者であるわけではない。
リシウムを見れば多分、家族の中でクコだけが異能を持っているのだろう。
そして最近までトレーナーでは無かったという言葉を考えれば、異能の使い方を教えてくれる相手もいなかったのは想像に難くない。
先も言ったが異能者にとって異能は走ったり、物を持ったりするくらい自然に使うことができる。
だが走るにしたって走り方というものがあるように、物を持つにしたって持ち方があるように、異能もまたただ使える、というだけではなく使い込めばより上手く使いこなすことができるようになる。
けれどそのやり方というのがまた独学でやっても中々上手くいかないもので。
例えば私ならば実家にいる自分と極めて似たような力を持った、自分よりも遥かに上位の存在に教えてもらった。
そんな風に、教え導いてくれる存在がいれば習熟度は独学より遥かに高くなる。
「ジムチャレンジの開催まであと一月くらいあるし、こっちの練習に付き合ってくれるなら、こっちも異能の訓練、付き合ってもいいわよ」
「……ほんとうか?」
「ええ、パーティの見直しもしないといけないし、根本的に組み直すならガラルの環境をもっと知っておかないと」
「たすかる」
その言葉を了承として受け取って。
「なら一か月、よろしくね、クコ」
そんな私の言葉に、クコがふっと笑みを浮かべ。
「ああ、よろしく、ソラ」
そう返した。
アルセウスくっそたのしいな!
そして何より。
カイちゃんめっちゃえろかわいいな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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設定集
ただし一つ注意として年齢や身体的な部分を変更することができなかったので、年齢設定とかが割と無視されてます。
なので思ってたより大人びてる、とか幼いとかそういうのがあるかもしれないが、そこはまあだいたいのイメージということでスルーしてください。
あと服とかもあんまりパターン無かったので、作中で表現してるのと違うこともあるけど、そこもスルーで。
オリキャラ紹介
【名前】ソラ
【二つ名】暴風圏(ホウエンリーグ時)
【地位】前年ホウエンリーグA級1位(リーグ移籍につき現在はガラルリーグ所属チャレンジリーグ番外)
【バッジ】ガラルバッジ0個/ホウエンバッジ8個
【年齢】13歳
【性別】女
外見イメージ
今作主人公。
前年ホウエンにてプロトレーナーデビューを果たし、その年のホウエンリーグチャンピオン戦まで進むが、チャンピオンユウキに敗退する。翌年度のリベンジを狙うが、幼馴染のユウリからガラルリーグへの招待状が届き、ユウリとの約束もあってガラルリーグへ移籍する。
リーグが違う以上、前年度のレコードは無効となるので扱い的にはガラルリーグ所属一年目のプロトレーナーとなる。
父親が元ホウエンリーグチャンピオンであり、現在携帯獣学の研究者であることもあって、幼少の頃よりトレーナーの道を見出していた。そのため昔から外で友達を作って遊ぶよりトレーナーとしての勉強に熱心であり、基本的に友人が少ない。
だからこそユウリとは友人を超えた親友であり、大切な相手だと互いに思っている。
産みの母親を入れて7人もの母親がおり、そんな一家の長女ため弟妹も多く、基本的に弟妹に甘い。
ただし双子の弟であるアオにだけは容赦がない。とは言え、別に嫌いなわけでも無く弟として愛してはいるが、双子だからか遠慮がなく、それなりに気が強いせいか扱いが酷く見える。
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【名前】アオ
【種族】メガボーマンダ/擬人種
【レベル】120
【タイプ】ひこう/ドラゴン
【性格】ひかえめ
【性別】♂
外見イメージ
ソラの双子の弟。人とポケモンという違いはあるが、同じ親から生まれたので間違いなく血縁ではある。
擬人種(人の形を取ったポケモンの総称)であり、人の姿をしているがポケモン。なのでモンスターボールにも入る。
ソラがホウエンから唯一連れてくることができたパーティメンバーであるが、現在はホウエンの実家に戻っている。
ソラがトレーナーになるまでは普通に人に混じって暮らしていたので、ポケモンながら基本的にボールから出て生活している。
普段からソラに振り回されていて、とても戦えるようには見えないが、そこは立派なドラゴンタイプ、バトルの時にはスイッチが入り好戦的になる。
家族のことは大切に思っているが、中でもソラは特別であり、双子ということもあって自身の半身のように思っている。
ソラの■■■■■■■にも気づいており、けれどだからこそ何も言えないでいる。
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【名前】リシウム
【二つ名】フライトチェイサー
【地位】ガラル地方ひこうタイプジムジムリーダー
【年齢】18歳
【性別】女
外見イメージ
ひこうタイプジムの現ジムリーダー。
元はガラルの旧家の出であるが、両親に反発して不良の真似事のようなことばかりしていた。
そんな時にとある出会いがあり、ポケモントレーナーの道を進み、やがてひこうタイプジムのジムリーダーとなる。
とは言え、自分にそれほど才能が無いことを自覚しており、相応しい後進が見つかればジムリーダーの座を譲ってしまいたいと思っている。
クコは父親が家の外で愛人と作った腹違いの妹であり、溺愛している。
両親のことを心底人間の屑だと思っていて、クコが独立できるようになったらさっさと縁を切ろうと思っている。
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【名前】クコ
【二つ名】グラビトンヘヴィ
【地位】ガラル地方じめんタイプジムジムリーダー
【年齢】14歳
【性別】女
外見イメージ
じめんタイプジムのジムリーダー。
トレーナーとして天賦の才を持っており、じめんタイプのポケモンに好かれやすいカリスマ性、強力なポケモンを育成する能力、そして重力を操るガラルでもトップクラスの異能と将来性は抜群なのだが、トレーナーになってまだ日が浅く、トップ層と戦うにはまだまだ経験が足りていない。
幼少の頃より貧困に喘いでいて、そのせいか年齢の割に小柄で成人しているように見られないことが多い。
産みの母親を大切に思っており、その母親を捨てた父親を嫌っている。姉のことに関して実は複雑な感情が渦巻いている。
さっさと独立して父親と縁を切りたいと思っており、姉共々そのための準備を着々と進めている。
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【名前】リリィ
【二つ名】ガラルの白百合
【地位】ガラル地方ノーマルタイムジムジムリーダー
【年齢】20歳
【性別】女
外見イメージ
ノーマルタイプジムのジムリーダーにして、ガラルどころか世界的に見ても有名なトップアイドル。
今現在ダンデ、キバナ、ユウリと並んでガラルで最も強いトレーナーの一人として数えられており、大衆を味方につけて戦うその『ガラル』らしい戦いぶりはダンデと人気を二分する。
過去のジムチャレンジ初挑戦でダンデを紙一重まで追い詰めたこともあったが、敗北、後にジムリーダーとなり、アイドルと二足の草鞋を履くことになる。
実はユウリの従姉。と言っても生粋のガラル生まれでありユウリがこちらに来る一昨年まで存在は知れど、面識は無かった。
自分の好きなものに関して徹底的に語り尽くす、という濃い血縁を感じさせる共通点があり、そのせいか僅か二年足らずの交友にも関わらず非常に仲が良い。
幼少の頃にタマゴから孵したイエッサンの双子を溺愛しており、そもそもアイドルになったのも『この世界で一番可愛くて大切な家族を世界中に見せつけたい』という理由から。
用語解説
・擬人種
或いはヒトガタポケモン。文字通り、人の形を擬えたポケモンの総称。
前作で一通り語ってるのであんま語ることはないけど、まあポケモンの擬人化要素にもそれなりに設定はありますよ、とだけは言っておく。
データ的には実機でいうとこの『個体値の合計数が151以上(平均25以上)』あれば擬人化するための下地はあります。
擬人種にも先天的、或いは後天的なものがありますが、後天的な場合(作中キューちゃんなど)は『人と共にあることを望む』ことを条件として擬人化します。
なので別に作中で擬人化してないやつが軒並み個体値が低いとかそういうわけじゃないです。
・超越種
オーバード、と読む。文字通り、種の限界を超越したポケモン。
世界の法則を一部分のみとは言え『上書き』できる力を持ち、既存のポケモンでは勝負にならないほどの圧倒的パワーがある。
実機でいうところの伝説のポケモン、フレーバーテキストまで含めればそんな弱いわけないだろ、ということで当作品ではぶっ飛んで強いというか最早チート(本来の意味で)使ってるレベル。
データ的には『最低レベルが200以上』で、『能力』枠が3枠あってバランスぶっ壊せるレベルの効果がある。
一番弱いレベルの超越種であるレジギガスでも『ポケモンバトルで出したらインフレするレベルの火力』のポケモンを50~100体用意して囲んで叩いてようやく、というレベル。
それ以上となるともう普通のポケモンじゃ対抗することすら難しい。
純粋な能力値云々もあるが、それ以上に全員が『理を変える』ぶっ飛んだチート能力を持っているのでこれをどうにかしないと勝負にならないことが多い。
・裏特性
ポケモンが使用する『技術』。基本的にトレーナーが仕込むものだが、長年野生の環境下で闘争を続けることで腕を磨いた個体が身に着けることもあるし、生態の流用のように使えることもある。
別にお手軽不思議現象、というわけじゃなく、ある程度原理や理論のあるもの。ある程度、と言うのはそもそもポケモン自体が物理法則を半ば無視してるから。
なので【タイプ】や【特性】、あとは覚える【技】などによってある程度できるできないの判定は(作者の中では)ある。なんでもできるお手軽技術じゃない。
本編で出してるのはそのポケモンのデータ見て、こういうことできそう、というのをイメージしながら作ってる。だからイメージに合わない、とかいや無理だろそれ、とか思うようなのは基本出さない。
当小説の独自解釈だが、ポケモンの特性とは基本的に技術的なもので分かりやすい例として『ふゆう』などは同じ『宙に浮いてじめんタイプやまきびしなど設置物の効果を受けなくなる』という効果を持つが、原理が全て異なる。
例えばサザンドラなら羽があるから受ける、ただし飛べるほどじゃないから結果的に『ふゆう』になっている。
例えばでんきタイプなら『でんじふゆう』を常時行っている。
例えばエスパータイプなら『サイコキネシス』のような力で自らを浮かび上がらせている。
他にもガスで自分を浮き上がらせているや、水蒸気で自分に浮力を持たせたり、とかなど、同じ特性でも発動の仕方に違いがある。
そうして浮かび上がっているこれらのポケモンたちはけれど『いえき』等の特性を変更、消失する効果を受けると接地することになる。つまり何もしなくても浮いてるわけじゃなく、自分の力で意図的に浮かび上がっている。
これってつまり体質とかじゃなくて技術ですよねって話。
特性とは技術、ならポケモンは他にも技術を仕込めるだろ。アニポケとか割と好き勝手やってるし?
例えばこのポケモンならこんなことできるんじゃね? というのをデータ化していって、というところから生まれたのが裏特性。
・技能
トレーナーの技能とポケモンの技能で名称こそ同じですが一応別物で、ポケモンのほうは裏特性と代わりないっちゃないポケモンの技術ですが、特に使う使わないが任意で切り替えれるもの、としています。なので特に使わない理由が無いのでほぼパッシブ、みたいになってても一応使わない、ということはできる。
イメージ的にはメガシンカ、Zわざ、ダイマックス等の技選択画面の横にコマンドがあるやつ。
トレーナーのほうの技能は文字通り、トレーナーの所持している技能欄みたいなもの。パッシブなのもあるし、単純に指示、とかコマンド、とかだとイメージ違うから技能としか言い様が無かっただけで最初に言った通り、ポケモンの技能とは違うものです。
アルセウスで『はやわざ』と『ちからわざ』ってあったけど、あれとかポケモンの技能の一番ぴったりなイメージですね。システムとして出てきてしまったけど。
・能力
特異技能、或いは特異体質で得た能力。
例えば図鑑説明にこんな能力がある、とされているのにデータ的には何の能力も無いような類のフレーバーがここに来る。
前作の一例として。
> マイナス200度まで 冷えこむ 冷気を 操り 近づいたものを あっという間に 氷漬けにする。
とか書いてあるのにインファイト食らって速攻沈むレジアイスとかいう矛盾存在がいるので。
>直接攻撃する技を受けた時、技を無効にし、相手を『こおり』状態にする。
こういう効果をつけたりする。
データ作る時のルールとして『6V』『特異個体』『変異種』『トレーナーの育成』でそれぞれ1枠。
準伝説、幻のポケモンなら2枠つけれる。
ただし最大2枠、3枠以上つけるのは『明確なデメリットあり』か或いは『伝説のポケモン』のみ。
あと効果の強さも『準伝説/幻のポケモン』>『6V』>『特異個体』>『変異種』>『トレーナーの育成』の順になる。
ただしトレーナーの育成の場合、育成能力極振りレベルを要求されるので基本的には付けられない。
・特異個体
実機で分かりすい例を出すなら『色違い』。或いはアルセウスで出た『オヤブン』とかでも良い。
とにかく通常の種と比較して明確に異常がある個体。
例えば通常の種の平均的高さより二倍以上大きい、とか通常の種とはタイプが異なっている、とか。
変異種との明確な違いは『種』としての変移か『個』としての変移か。
例えば作中で出した『砂海竜』なんかにメタモンでタマゴ作ったら『じめん』タイプのコイキングが生まれてくる。
もうそういう環境に適応して変異した種としてできあがっている。ただしそこから進化してギャラドスになっても『砂海竜』と比べても半分以下のサイズでしかない。
という風に特異個体はあくまで『個』が異常を起こしているだけなので、基本的には特異な部分は遺伝しない。
・変異種
実機でいうならば『リージョンフォーム』。周囲の環境に適応して『種族』ごと変異を起こした存在。
ただしややこしいのだが『デルタ種』は特異個体になる。あれはホロン地方の磁場の影響で『生まれたポケモンが変異を起こしている』状態なので、種族自体は元の種であると分類できる。要するに地方全域のポケモンが特異個体化しているという風に判断されるのでリージョンフォームとはまた別になる。
もう一つややこしい話をすると『血統』によって種が変異を起こすことがあり、この場合も変異種という扱いになる。
例えば特異個体の例でも出した『砂海竜』のように陸棲のポケモンと水棲のポケモンがタマゴを作った結果、本来水棲のはずのポケモンが陸地に適応し、陸棲に変化する。この場合、陸棲のギャラドスという種が確立されてしまっているのでここからタマゴを作っても陸地に適応したコイキング(場合によっては手足とか生える可能性もある)が生まれてくる。
本来こういった変異種というのは世界中で時折産まれているのだが、作中で出した『ボマー』を見るように『変異した結果野生環境に適応しなくなった』ことも多々あり、その半数以上が自然に淘汰されてしまっているため実際に人に発見され新たな種として確立されるほどに数が増えることは実際にはあまりない。
特異個体と比べて明確に変化するのは食性など、特異個体は個として特異な部分を持つが根本的な部分は通常の種と同じ生態をしていることが多い、比べて変異種は種自体が根本的に変異しているので、生態や食性などが変化している。
・血統
実機でいうなら『タマゴ技』。
異なる種族のポケモン同士でタマゴを作った時に、生まれるほうの種族とは別のほうの種族のポケモンの要素を引き継ぐ、実機の『タマゴ技』、昔は遺伝技とか呼ばれてたがこんな風にポケモンも親から子に遺伝するのなら技だけでなく、他の要素も遺伝するこもあるのでは? という考え。
作中で出した『砂海竜』や『ボマー』のように親からタイプやそのタイプに絡んだ器官を遺伝したりする。
或いは表層的に出てこない類のものでも、『適性』のような目に見えないようなものも受け継ぐこともある。
例えば『ボーマンダ』は『ギャラドス』や『キングドラ』とタマゴ作れるけど、本来は持たないはずの『みず』タイプに対する適性を得たりできるかもしれない。こういう適性が特異個体化した時に『みずタイプの技の威力を1.5倍にする=タイプ一致適性を得る』みたいな感じの『能力』枠になったりする。
自然に発現することもあるけど、適性を持ってるポケモンをトレーナーが育成で意図的に発現させることもできる。相応に育成能力が必要ではあるけど。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=248655&uid=7917
血統やエネルギーの詳細はこのあたりのタイプエネルギーに関する考察を参考。
画像は前書きにも書きましたが、『妙子式2』ってサイトで作りました。
以下リンク
https://picrew.me/image_maker/516657
作るの楽しすぎて時間が無限に溶けていく気がする。
一応のオリ設定等は解説した気がするけど、他にも『この語句どういう意味? 解説して』ってのがあれば言ってもらえば適宜ここに追加していきます。
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ジムチャレンジ
知名度が高いことは良いことばかりではない
「はふっ」
欠伸を噛み殺しながらホテルを出ると、隣に併設された『エンジンスタジアム』を目指して歩き出す。
広大な敷地に建てられた巨大なスタジアムはホテルの隣にもあるにも関わらず入口まで徒歩十分とやたらに遠い。
とは言えシュートシティにある自宅から朝からアーマーガアタクシーで数時間かけてのんびりやってくることを考えれば、段違いに早いのもまた事実だ。
「ホテルが大会参加選手優先で助かったわね」
ホテルスボミーインは先も言った通り『エンジンスタジアム』に隣接する宿泊施設である。
平時はともかく、ジムチャレンジの開会式の前日など客でいっぱいになるだろうと思っていたのだが、基本この時期はジムチャレンジに参加する選手のための宿泊施設としてリーグ委員会側で貸し切られており、前日までにジムチャレンジ参加の受付を済ませたトレーナーは優先的に泊ることができるらしい。
「うーん、まだ寒いわね」
基本的にコートの下は白いワイシャツ一枚なのだが、ホウエンならともかくガラルだとやはり寒い。
昨日までならもう少し陽が高くなって温かくなるまで家でぬくぬくとしているところなのだが、今日からガラル中を旅して巡るとなると適当な防寒対策が必要になるかもしれない。
「期間は四カ月。まあ終盤頃には暖かくなってそうね」
ジムチャレンジの期間は四月の初めから七月の終わりまでの約四カ月。
ジムチャレンジが終わる頃にはもうとっくに夏だ。いかに寒冷なガラルとて暖かくなっているだろう。
まあそれはそれで今度は暑そうだが。
そんなことを考えながら歩ていくと、スタジアムの前にはすでに人だかりができていた。
「凄い活気ね」
言い方は悪いがたかがリーグ予選扱いのジムチャレンジのさらに開会式にここまで多くの人が集まる、という事実自体がガラルにおけるポケモンバトルという『興行』の人気を如実に示しているのだろう。
残念ながら他の地方では……少なくともホウエン地方ではリーグ本選でも無ければここまで人を集めるようなことは無い。
ガラルという地方は全国的に見えてもポケモンバトルの興行化を他の地方より先進的に行っているという事実は知っていはいたが、こうして目に見える形にして示されると納得するしかない。
まあ自分たちのようなプロトレーナーからすればそれは収入にも直結するので良いことだとは思うが。
「取り合えずエントリーしないとね」
チャレンジャーとしての選手登録は一か月以上前から行われており、自分もとっくに済ませている。
ただこの時点だとまだ仮登録のようなもので、当日本当にエントリーするかどうかの意思確認がなされる。
というか試合用のユニフォームの取り寄せなどもあるので、少なくとも三日以上前には登録する必要がある。
背番号くらいなら当日にささっと縫い付けるだけでも良いのだが、場合によっては新品のユニフォームを選手ごとのサイズに合わせて用意する必要があるのでその辺は必須と言える。
別に当日いきなり登録しても罰則などがあるわけでも無いのだが、過去にそれでサイズの合わないピッチピチのユニフォームを着るハメになって開会式中にユニフォームが破けた、なんてチャレンジャーもいたらしいのでリーグ委員会としては事前登録してその辺の採寸などをすることを推奨している。
推薦されても案外当日に辞退するというトレーナーはいるらしい。
というのもジムチャレンジは実に最短でも四カ月、勝ち進めば半年近くの時間をかけて行われる祭典だ。
自分のようにプロ一本で考え、そのために時間を費やしている人間ならともかく、多少腕が立つから、という程度の理由の人間がそれだけの時間を本当に費やすのかどうか、そう考えると確かに気軽にエントリーする、というわけにはいかないのだろう。
「敷居が高いわよね、この制度」
とは言えチャンピオンへと挑戦する最強のチャレンジャーを決定しようというのだ、その程度は前提でしかないだろう。
少なくとも十数年も前とは違い、ポケモンリーグにアマチュアが出ることは無くなったのだ。
今リーグに参戦しているのはリーグに参加し『プロ』となったトレーナーばかりな以上、敷居は高くなって当然かもしれない。
まあこの程度のことで辞退するようなトレーナーならどうせジムチャレンジに出ても大した結果は出せないだろう。
「私には関係無いしね」
スタジアムに入り、受付でさっさとエントリーを済ませる。
仮登録の時にも一度見せた推薦状を今度は渡し、問題が無いことを確認したら入れ替わりにユニフォームを渡される。
開会式にはこれを着て参加するように言われたが、開会式はまだ一時間以上先なのにこんな半袖短パンのユニフォーム寒すぎて今から着る気にはなれないのでスタジアムロビーのソファーに座りながら周囲を見ておく。
一時間も前に来て何がしたかったのかと言えば、ジムチャレンジに受付に来る人間を見ておきたかったのだ。
ジムチャレンジに参加するチャレンジャーには実は二種類の人間がいる。
それが『推薦枠』と『チャレンジ枠』だ。
* * *
ポケモンリーグというトレーナーたちの戦いの舞台において、昔と今で多くのものが変わっていった。
だがその中で最たるものを言えば『制度』だ。
今では当たり前のようにどの地方のリーグに行ってもある程度トレーナーの実績ごとに『リーググループ』が分けられている。
例えばガラルならば『メジャーリーグ』『マイナーリーグ』『チャレンジリーグ』の三種類が存在する。
現在のガラルにおいて『リーグトレーナー』としてリーグに登録したトレーナーは全て最初に『チャレンジリーグ』に入ることになる。
そして名前から察することができると思うが『メジャージム』のジムリーダー8名が『メジャーリーグ』に、それ以外の『マイナージム』のジムリーダー10名が『マイナーリーグ』に参加することになる。
そして毎年年末ごろに行われるリーグ戦にてそれぞれのジムリーダーたちがバトルを行い、それぞれのリーグ戦績及び、年間のトータル公式戦績をリーグ委員会が精査し翌年の『メジャーリーグ』と『マイナーリーグ』が決定される。*1
ついでに言えばあまりテレビ放映などはされないが、『チャレンジリーグ』でも公式大会というものがあり、そこで良い戦績を残すことによって次回のジムチャレンジへ参加する権利が得られる。
少しややこしい話になるが、基本的に『ジムチャレンジ』への参加には『推薦状』が必要となる。そしてその『推薦状』を得るためには一定以上の地位のある人間とのコネが必要になる。
だが昨年『ジムチャレンジ』で敗退した人間が再び同じ相手から推薦状を貰ってもう一度『ジムチャレンジ』に参加、ということをしていては『ジムチャレンジ』という制度自体に問題が発生する。
だったら一度敗退した人間はもう参加できなくすれば良い、とはいかないのがまた難しい話。
何せガラルの制度上『ジムチャレンジ』に参加できなければ、後はジムリーダーになる以外にチャンピオンへとなる方法が無いが、ジムリーダーになるというのは必然的にタイプを偏らせる必要性が生まれる。それができる上に勝てるトレーナーというのはそう多くは無いし、パーティに自動的に制限が生まれる。
故に『チャレンジリーグ』というものが必要とされたのだ。
ジムチャレンジへの参加枠に『推薦枠』とは別に『チャレンジ枠』を作り、『チャレンジリーグ』の大会で優秀な戦績を納めたトレーナーを毎年何人かずつ『ジムチャレンジ』へと参加させている。
そして『推薦枠』自体はリーグ登録初年度のトレーナーに限定することで、『推薦枠』が増えすぎないように数をコントロールしていた。
基本的に『推薦枠』というのはプロ一年目の新人トレーナーがなることが多いのだが、稀に私のように二年目以降の人間がリーグ移籍などでここに入ることもある。
と言ってもリーグ移籍した人間が移籍先のリーグで推薦状をもらえるほどのコネがあることも珍しいので本当に稀な話のようだが。
そして何故こうやって分けているかと言えば、当然の話ではあるがリーグで一年戦ったか否か、というのはかなり大きな違いが出るからだ。
プロ一年目の新人トレーナーと、プロ二年目のトレーナーでは全く別物なのだ。
ぶっちゃけた話、『推薦枠』というのは一種の賑やかしである。
期待の新人トレーナーに目を付けるためのお披露目の場、とでも言うべきか。
今季の新人トレーナーにはこんな生きの良いトレーナーがいますよ、というのをポケモンバトルファンに見せつける他地方における新人戦トーナメントの代わりのようなものであり、新人トレーナーが顔を売ってスポンサーに声をかけてもらうための場のようなものでもある。
リーグ委員会だってプロ一年目の新人トレーナーがいきなり並み居る強豪プロ全員に勝ち抜いてチャンピオンを打倒し、新チャンピオンになるだなんて夢物語想定していない。
そう、想定していないはずなのだが、それをやった人間が過去二人。
そう先代チャンピオンダンデと現チャンピオンユウリである。
と言っても準トレーナー規制令が成立する前のチャンピオンであるダンデは十歳の時にジムチャレンジを勝ち抜き、成立後のトレーナーであるユウリは十二歳で参加して勝ち抜いているので一般的にはダンデのほうが評価されているのだが……。
「ま、そう簡単な話じゃないわよね」
実際ユウリは何年もの間チャンピオンとしての経験を積んだダンデに勝ってチャンピオンになっているのだから。
とは言え実際のところユウリやダンデのような人間が例外中の例外なだけで、基本的に推薦枠は賑やかし以上の意味を持つことはほぼ無い。
偶に才能あるトレーナーがそれなりに勝ち進んだりするが、大半の推薦枠は新人の登竜門とされている三番目のジムである『カブ』を超えることができていないのが実情だ。
ここ十年の間でもユウリを除けばバッジを全て集めたチャレンジャーは『チャレンジ枠』のベテランばかりであり、『推薦枠』の実力の程度というのものが伺える。
故にここで見るべきは『チャレンジ枠』で参戦するチャレンジャーだ。
私がバッジを全て集め、セミファイナルトーナメントに参加するならば必然的に彼らは強力なライバルとなる。
負けるつもりは無いが、かと言って勝てるとたかをくくれば勝てるバトルも勝てなくなる。
「アドバンテージよね、この辺は」
荷物から取り出した雑誌を眺める。
ポケモンバトルファン向けにガラルリーグにおけるジムチャレンジへの参戦者予想の情報が載っている。
先も言ったが『チャレンジ枠』はジムチャレンジ開幕以前に大会で結果を残したトレーナーだけなので、ある程度絞りやすい。
そして結果を残せるトレーナーということはそれだけ認知度も高いのでその分だけ情報露出が多いということだ。
逆に他地方からオフシーズンに突然移籍してきた私のようなトレーナーの情報というのはまだどこにも載っていない。
以前にも言ったが、情報というのは現代トレーナーにとって非常に重要であり、その情報において秘匿度が高いというのは私の大きなアドバンテージでもあった。
「早速ね」
そうして眺めていると雑誌に紹介されている顔と同じ顔のトレーナーが受付でエントリーをしていた。
雑誌をぱらぱらとめくり、紹介記事を読みこんでいく。
そして事前情報を頭に入れると、実際の様子を見てとる。
ポケモンも出していないトレーナーを見て何が分かるのか、という話ではあるのだがその佇まいを見ているだけである程度分かることもある。
例えば服装、例えば仕草、例えば表情。
トレーナーとしてベテランになればなるほどこういうところに違いが見て取れる。
とは言えまだ二年目の私に読み取れる部分なんて表層部分でしか無いのだろうが、それでも性格一つ知るだけでも実際のバトルの際の『読み』に大きく影響する。
そうして眺めていると二人目、三人目と写真で見た顔が次々とやってくる。
「さっきのはこいつね……それでその後のがこっちのえっと」
「……こいつ」
先ほど見かけた顔を写真の顔を一致させようと雑誌のページに目を凝らしていると、すっと伸びた小さな指がページの一か所を指した。
目を丸くして顔を上げると。
「……クコ?」
「……よう、ソラ」
そこにいたのはここ一か月ほど顔を突き合わせていた少女だった。
ちょっとお試しにメーカーで作った画像で挿絵作ってみた、こういうのどうだろう。
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いともたやすく行われるえげつない参戦
「何しに来たの?」
「おーえん」
隣に座るクコが手元の雑誌を覗き込んでくるので見せやすいように大きく広げてやる。
「さんきゅー。こんきのさんせんよそうか」
「そ、私はこっち来たばっかりであんまりガラル地方の有力トレーナーとか知らないしね」
「それはじゅうようだな」
言いながらポケットからスティックキャンディーを取り出しながら咥える。
あの姉にしてこの妹ありというか、多分リシウムが持っていたものをもらったんだろうと予想する。
「ソラもくうか?」
「そうね、一つちょうだい」
もらったキャンディーを口に入れれば広がる甘味に脳が活性化していくような気がする。
まあプラシーボ効果だろうが、まだ少し眠気の残っていた脳に活を入れる程度の効果はあるだろう。
「ああ、眠気覚ましならコーヒーでも買って来ればよかったわね」
「ん、ちょっとまってろ」
思わず口をついて出た独り言に反応したクコが立ち上がって歩いていく。
待っていろと言われたので雑誌を眺めながら待っていると数分ほどでクコが戻って来る。
「ばいてんでかってきたぞ」
「買ってきてくれたのね、いくらだった?」
「いい、さしいれだ」
「……そう、まあ、ありがたくもらうわ」
もらった珈琲で眠気覚ましをしているとスタジアムの入口が開いて涼し気な顔の十代半ばほどの青年がやってくる。
そうして遠目に見ているとそのまま受付に向かうので雑誌を開いて確認する。
「えっと、あれは……」
「サガラ……こいつ」
こちらが確認するより早くクコがページの一か所を指さしてくる。
そこに載っている写真の人物と受付をしている人物の顔を一致していることを確認するとそこに書かれた紹介記事を読んでいく。
【注目ジムチャレンジ予想選手! 七番手:サガラ】
≪エスパータイプの使い手のサガラ選手、チャレンジリーグ本選10月大会でもエスパー統一のパーティで見事準優勝を果たした。その最たる特徴と言えばやはり『占い師』と称される理由ともなった『みらいよち』を駆使した戦術だ。相手の未来の行動を予測してしまうなど相手トレーナーからすれば悪夢のような出来事だろう。≫
「相手の次の手を未来予知するとかズルすぎない?」
「ん、ただしさんじゅっぱーだ」
「30%?」
「よちがあたるかくりつ」
的中率30%の未来予知……ああ、だから預言者とかじゃなくて占い師なのか。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
「3割って微妙な数字ね」
「おなじさんわりなら、いちげきひっさつふりまわしたほうがマシっていわれてるぞ」
というか『いちげきひっさつ』技は出し方によっては割と当たるので占いと一緒にされたくないだろう。
「そんなの良く勝てたわね」
「べつのとこがつよい。とくに『あく』と『ゴースト』タイプにしょうりつがたかい」
「弱点タイプじゃない、確かに統一パにとって弱点対策は必須だけど」
「『あく』あいてはエルレイドがたこなぐりにする。『ゴースト』はイエッサンがむるいにつよい」
「しっかり対策はしてるのね」
「でもたいぷめたにとっかしすぎてそれいがいによわい」
「ああ、そういう」
とは言え、特化とは言え弱点タイプにメタを張れるというのはトレーナーの育成能力の高さあってのことだろう。異能……というか超能力の精度に関してはともかくその点には注意が必要かもしれない。
「っと、また来たわね」
視線の先、受付へと彫りの深い顔をした三十代くらいの男がやってくる。
「受付してるけどあれ本当にトレーナー? 格闘家か何かじゃないの?」
腕周りが筋肉ではちきれんばかりに膨れ上がっている。
肩は広く、身長も180を超えて190に届くのではないか、と言わんばかり。
腰のホルスターにモンスターボールが取り付けられているのでトレーナーなのは間違い無いのだろうが、外見だけで『かくとう』タイプが専門です、とでも言いたげな姿をしている。
「あれは、トウセン。こいつ」
クコの指さすページを見やる。
【注目ジムチャレンジ予想選手! 十番手:トウセン】
≪燃え盛る炎がごとき暑き血潮の男トウセン選手。激戦となったチャレンジリーグ本選十二月大会にて並み居る強豪トレーナーたちをなぎ倒し、見事優勝を果たした。彼の最大の特徴と言えばなんといってもその暑い闘志だろう。彼の暑い心に感化されたかのように不屈がごとき闘志で戦う彼のポケモンたちに多くのトレーナーが敗れ去り、相手の全力に正面かたぶつかっていくようなその戦い方は多くのファンの心を掴んだ。≫
「暑苦しそうなやつね、顔だけじゃなく性格まで暑苦しいわ」
「ちなみにげんざいじゅうよんさいでわたしとおなじ」
「嘘でしょ?!」
あの筋肉ダルマとクコが同い年???
あの身長2メートル弱のぴちぴちシャツのゴリマッチョとこの身長140無さそうなエセ幼女が同い年???
いや、だってどう見たってあれは三十半ばの顔だろう。あんな彫の深い十四歳の少年がいるはずがない。
だって髭とか生えてるし、腕とか丸太かと間違えんばかりに太い。
驚愕のあまりクコと男を三度見している内に次が来る。
【注目ジムチャレンジ予想選手! 三番手:ガク】
≪共鳴する狂気の音楽(レゾナンス・クレイジーギタリスト)の二つ名を持つガク選手。チャレンジリーグ本選十二月度にて準優勝という結果を残した。『音』に関する多くの技術を持つ音楽家であり、仲間のポケモンにその技術を伝授する育成家でもある彼とポケモンたちの『レゾナンス』に聞き入ってしまえば最早逃れることは不可能だ。≫
【注目ジムチャレンジ予想選手! 十二番手:レイン】
≪シャイニーレインことレイン選手。名前とは裏腹な見事な『晴れパ』で夏のチャレンジリーグ本選九月大会にて準優勝。惜しくも決勝は逃したレイン選手だがその実力は本物だ。何といってもパーティ最大の特徴は『ほのお』タイプが過半数を占めること。残りの半数も『はれ』を生かすことができるポケモンたち揃っている。じめじめした『あめパ』なんてこの太陽の輝きで蒸発させてやる、と言わんばかりの圧倒的火力で対戦相手を粉砕した。≫
【注目ジムチャレンジ予想選手! 六番手:シラユキ】
≪キルスクタウンの雪女の異名を持つシラユキ選手。寒さ厳しいキルスクタウンで培われた『こおり』ポケモンたちを繰り、見事チャレンジリーグ本選一月大会にて優勝を果たした。その最大の特徴は何といってもバトルの開始と共に『あられ』を巻き起こす強力な異能だろう。『こおり』ポケモンと『あられ』、そして『あられ』を起点とした業の数々。その冷たさに一度触れればれれば凍傷してしまうことは間違いない。≫
「ん?」
脳裏に抱いた違和感にページを止める。
もう一度今読んだばかりの記事を読み直し、さらに確認するように受付でエントリーを済ませる真っ白な髪の少女の後ろ姿を見やる。
「どうした?」
「いや、この記事だとあのシラユキって選手異能者だって書かれてるんだけど」
「ん……ああ、なるほど」
私の言いたいことを察したのかクコが納得したように頷く。
「いのうのけはい、しないな」
「そうなのよね」
だがただの人間が願っただけで『あられ』が巻き起こるのならそもそも異能など存在しなくなってしまう。
どうなっているのかよく分からない、というのはどう対処すれば良いのか分からないということでもある、厄介な話だ。
「取り合えずこいつもチェックね」
さすがにチャレンジリーグというプロの舞台で戦い、勝ち抜いた連中だけあって誰も彼も強そうなトレーナーばかりだ。
「ソラのほう、ちょうしはどうだ?」
「まあまあね。クコのお陰で大分勝手は分かってきたけど」
とは言っても、まだまだ分からないことも多い。
故にこのジムチャレンジ中にその辺を理解できればと思っている。
「そうか……まあがんばれ、おうえんしてる」
「ええ、ありがとう」
相変わらず半分閉じたような眠そうな目でぴくりとも変わらない表情で告げるクコだが、その言葉に偽りはないだろう、ありがたく受け取っておくことにする。
「ん、つぎ、きた」
「そう、次は誰かしら……ってまた派手ね」
入口からやってきたのは白と黒のツートンカラーなボリューミーな長髪の青年だった。
なんというかパンクな恰好をしていて、一際目立っている気がする。
いや、気がするではなく完全に目立っている。
「……ネズ?」
そんな青年を見て、隣でクコが目を丸くした。
ネズ、というのが名前らしいが、はて、この雑誌の中にそんなトレーナーいただろうか?
ぱらぱらとページをめくる私に、クコが困惑したように首を傾げて、やがて何かに気づいたように頷いた。
「ことしのリーグにでてない、はず。だからのってないとおもうぞ」
「引退してるってこと? でも受付してるわよ?」
視線の先、受付でエントリーをしている青年……ネズを見やる。
そんなネズに周囲の人間も大きくざわめいており、ネズがジムチャレンジにエントリーするというのがそれほどまでに衝撃的なことなのだろうと推測できた。
「いんたいまではしてない、リーグにせきはのこしてある」
「そんなに有名なトレーナー?」
「……。せんだいあくタイプジムのジムリーダーだ」
「……は?」
そんなクコの言葉に、私まで目を丸くしてしまうのだった。
* * *
雑誌ではなく、スマホで検索すればその名前はすぐに出てきた。
『哀愁のネズ』
あくタイプジムのジムリーダーであり、ジムリーダーへの就任から引退の昨年までの長期間に渡ってメジャーリーグで活躍したガラルのトップトレーナーの一人。
何より特徴的なのは『ダイマックスを使わない』トレーナーだということ。
自身がダイマックスが嫌いと公言しており、ダイマックスが使えるスタジアムでのバトルだろうと、相手がダイマックスを使用してこようと自分では使わない、そういうポリシーがあるらしい。
何よりこのガラルにおいてダイマックスを使用せずに勝ち続けトップ層に居座っていたという事実がその実力を保証している。
また兼業でシンガーソングライターをやっており、昨年リーグを期にジムリーダーを引退し、最近ではそちらに専念している。
「あ、こっちはなんか覚えあるわね」
二カ月近くガラルに住んでいるので多少ではあるがテレビなどでネズが歌っている姿を見た覚えがあるのを今思い出した。
「そんな凄腕のトレーナーだったのね」
「じっさい、つよい」
去年までホウエンリーグに在籍していた私は知らないが、実際にバトルを見たことがあるらしいクコから見てもそういう感想らしい。
そんな凄腕トレーナーがジムチャレンジに参戦する、という事実に周囲の人間は驚いているようだったし、他のチャレンジャーたちは予想もしない強敵の参戦に苦々しい表情をしていた。
そう、ここまでで終わっていれば予想外の強敵、で終わっていたのだろう。
「おいおい、ネズ、置いて行くなんてひどいじゃないか」
そう、この男さえ来なければ。
スタジアム入口に立つその男にその場にいた全員が視線を向けた。
そんな数多くの視線に刺されながら、男はそれを毛ほども感じさせない足取りでネズの元へと歩いていく。
「キミが勝手にどこかに行ったんでしょう。よく間に合いましたね」
「ハハ、
「良かったじゃねえですか。おれは最悪キミは参戦できねえと思ってましたからね」
「全くだ! 何故かカンムリ雪原にたどり着いた時は首を傾げたけれど、無事たどり着けて何よりだ!」
「どうやったらおれと一緒に出てそんなことになるのか、本当に謎な野郎ですねえ」
「終わりよければ全て良し! 早速受付だ!」
そんな会話をかわしながらずんずんと受付へと進む男の姿に、誰しもが『嘘だろ?』という表情を隠せなかった。
「そ、ら」
「分かってるわよ、さすがに知ってるわ」
そう、知っている、さすがに私だって知っている。
何度もユウリから話を聞いた、テレビでも良く見かけた、雑誌などでも、このガラルでトレーナーというものを調べようとすると何度となく登場する名前と、顔。
ダンデ。
元ガラル地方リーグチャンピオン。
十歳でリーグチャンピオンとなってからは、ユウリに敗北するまでただの一度も負けなかったという、通称無敵のチャンピオン。
チャンピオン失陥からリーグ委員会の委員長へと就任し、リーグに籍を残しながらもトレーナー業からは一線退いたと思われていたトレーナー。
そんな男が、受付の前へと立ち。
「今回のジムチャレンジに、オレもエントリーさせてもらおう!」
威風堂々と、満面の笑みを浮かべてそう告げた。
悲報:先代チャンピオン参戦
今季のジムチャレンジ選手たちは絶望の表情を浮かべた。
報告:以前に募集したトレーナーデータから数人使わせていただきました。取り合えず現在2人ほどはデータ作ってますのでソラちゃんと戦う予定。残りもできれば使いたいとは思うけど、人数多すぎて全員は無理。できてあと二人か三人か……?
あと容姿とかのその他の設定まで作ってくれてた人の分はできるだけ参考にはしてます。
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偉い人の長話は何故か眠くなるが短すぎるのもどうかと思う
まさかの元チャンピオン参戦という珍事に騒然としていたエンジンスタジアムだったが、時間は刻一刻と流れるもので、開会式の時間となる。
今年のジムチャレンジの参戦者は70人を超える。ユウリの時が確か50人弱、毎年の平均が同じくらいなので例年より参戦者が多いようだった。
理由の一つとして、恐らく昨年のチャンピオンの交代劇が挙げられるだろう。
十歳でチャンピオンに就任して以来、一度として負けることの無かった無敵のチャンピオンと、就任したばかりの十三歳の少女。果たしてどちらが勝ちやすいか、という問題だ。
最もその十三歳の少女はその無敵のチャンピオンを破ってチャンピオンへと就任したわけだが、そのことをどこまで重く見るかはまた人それぞれと言うことだろう。
少なくともダンデを相手にするよりかはユウリを相手にするほうが勝率が高いと多くの人間が思ったわけだ。
「長い挨拶はオレも嫌いだ! だからリーグ委員長として一言挨拶させてもらうぜ! 今年もおおいに盛り上っていこう! そして最高に楽しんで行こうぜ! 以上だ!」
そしてそういうトレーナーの多くがまさかのジムチャレンジにダンデ参戦の報に顔色を失くしていた。
「では今年も出て来てもらうぜ! 我がガラル地方が誇るジムリーダーたち!」
* * *
ゆっくりとした足取りで歩いて来る八人のトレーナーを見ながら少女、ユウゼンは面白く無さそうに鼻を鳴らす。
「今年もこっち側とか、ちょーつまんないですぅ」
「いや昇格できなかったんじゃしゃーなしだし」
「でもリシウムさんだってあそこに立ちたいとか思いますよねぇ?」
客席に座ってぶーたれるユウゼンに隣に座っていたリシウムが呆れたような視線を向けるが、そんなリシウムに同意を求めるユウゼン。
「いや、あーしは……」
正直言えばリシウム自身はそこまでメジャー昇格にこだわっているわけでは無いのだが、とは言え『ひこう』タイプジムをメジャーにしてやりたい、という気持ちが無いわけでは無いので言葉を濁す。
「ダメですよー? 気持ちで負けてたら来年もまたここで観客になっちゃいますぅ。ああでもそのほうがライバルは減るのかな? いやでもそれじゃあたしだって気持ちよく無いし」
自分の意見に自分で考え込みだしたユウゼンを見やりながら嘆息する。
このガラル地方には18タイプ全てに対応した18のジムが存在する。
だがメジャーリーグに出場できるのはその中で半数以下の8タイプのジムのみだ。
つまり18のジムのジムリーダーの中で、今あのバトルコートに立てるのはたった8人だけなのだ。
逆に言えばそれ以外の10人はそこに立つ資格が無いということで。
だからこそ、毎年こうして観客の一人として客席側でそれを見下ろすことになるのだ。
「まったく……どうせならもっと原作知識の活用できる世界が良かったですぅ。まあポケスペみたいな世界じゃないだけマシかもしれませんけどぉ。みんな強すぎだし、楽しいですけどぉ、もっとこうゲームの時みたいなレベル100で無双みたいなお手軽な感じにならないもんですかねぇ」
「ゆ、ユウゼンちゃん? どうかした? 顔が怖いよ?」
「なんでもないですぅ、そーいうチドリさんこそ顔色悪いですよ?」
「う、いや、開会式見てたらなんか緊張しちゃって……お腹痛くなってきちゃった」
「いや、なんで自分が参加するわけでもねーのに緊張してるんですかぁ」
「だ、だって~」
そんな彼女たちのやり取りの間にも開会式は進んでいき、ジムリーダーの紹介が終わると次はチャレンジャーたちがバトルコートへとやってくる。
「こ、今年のチャレンジャーは74人もいるらしいですよ」
「豊作ですねぇ。ジムトレーナーに何人か引っ張っていきたいところですぅ」
「あーしもあと一人か二人くらいは余裕あるし、生きの良い新人欲しいわ」
別にマイナーリーグのジムリーダーたちも付き合いで会場まで来ているわけではない。
自分たちが推薦状を出したトレーナーたちが出るから、というのもあるのかもしれないが、それ以上に『推薦枠』でジムチャレンジに参加しているトレーナーは『将来性を期待されたトレーナー』ということに他ならない。
優秀なジムトレーナーというのはどこのジムも欲しがっているし、俗な話になるがジムトレーナーの数が増えればそれだけジムへの『助成金』も増額される。
他の地方の一般的ジムと違い、リーグ直下のガラル式ポケモンジムにおいて、ジムトレーナーというのは『ジムで雇っている』人材だ。つまり雇用費が発生する。いわゆる他の地方における『四天王』制度に近い。
その代わりジムトレーナーになったらジムの仕事をする義務が発生するわけだが、基本的にこの雇用のための費用というのはリーグ委員会が負担するのでジム側に金が無くて給料が出せない、などということは無いのだがジムの実績によって当然年俸は上下する。
そしてジムトレーナーの数やジムトレーナーの実力は実績となるわけだ。
ただ当然ながらというか残念ながらというか、マイナーリーグで上の席を争っているよりメジャーリーグでジムチャレンジを担当しているジムのほうが人気が高く、目をつけていた人材がそちらに流れていく、なんてことも良くある。
故にマイナージムにとって開会式当日こそが最初にして最大の山場なのだ。
メジャージムはジムチャレンジを担当する。
つまりガラル各地のジムに散ってしまって、チャレンジャーがそこまでたどり着くまで接触する機会は少ない。
なのでジムチャレンジャーたちが一同に集うこの開催式の日にどれだけめぼしい人材を確保できるか、逆にこの日を逃すとチャレンジャーたちは街を飛び出してしまい、中々接触する機会を得られなくなってしまうのだ。
なので開会式当日にはマイナージムのジムリーダーたちが多くやってくる。
『ひこう』タイプジムのジムリーダーであるリシウム。
『でんき』タイプジムのジムリーダーであるユウゼン。
『はがね』タイプジムのジムリーダーであるチドリ。
三人は性別が同じでなおかつ年が近いこともあってそれなりに交友関係があり、去年同様に一緒になって開会式に集っていた。
「クーも誘えば良かったかね」
リシウムにしては珍しく今回妹であるクコは誘っていなかった。
本来姉妹とは言え、他のジムの事情に口だすするのは余りよろしくないことだ、というのもあったが、どうせ妹は来年にはメジャーに行ってしまうだろうから別に良いだろうと思っていたのが大きい。
こうやってマイナージムが人を確保しようとするのも結局マイナーリーグから抜け出せない現状の脱却を狙ってのものだ。
マイナーリーグで二年戦ってきたリシウムからして妹の実力はメジャーリーグのジムリーダーたちに匹敵……或いは凌駕するレベルだと思っている。
実力を考えればメジャー昇格有力な妹には必要もないことだろう、そう思ってのことだったがいざ来て見るとなんだか置いてきてしまったような気がしてきてなんとなく罪悪感にかられた。
「ん? あね、よんだか?」
なんてことを思っていたリシウムの背後からかけられた声に振り返り。
「妹ちゃん、なんでいんの?」
「ん? ソラのおうえん、きてた」
不思議そうに首を傾げる妹の姿に、がっくりと肩を落とした。
「なんかソラと仲いーね、妹ちゃん」
「それほどでもない」
妹に友人が出来て姉として嬉しい反面、友人に傾倒して姉離れしていくようで寂しさも感じるこの複雑な心中をけれど口に出すことなく代わりに溜め息を吐く。
そんな姉の内心を知った風も無く、スタジアム入りするチャレンジャーをじっと見つめながらクコが告げる。
「それより、あね、しってるか」
「あん? 何がよ」
「チャレンジャーのなかに、ネズとダンデ、いる」
「……は?」
告げられた言葉の意味が一瞬理解できずに顔をしかめるリシウムだったが、すっと突き出されたクコの指の先には……チャレンジャーのほうへと走っていくリーグ委員長の姿と端のほうにすっと立つ見覚えのあるモノトーンな髪色のトレーナーだった。
「は? なんで? え? マジでなんで???」
あまりにも意味が分からない状況に思考が止まる。
ユウゼンとチドリも同じように気付いたのか、ぽかん、と口を空けたまま目を丸くしていた。
* * *
開会式が終わり、そそくさと更衣室へと向かって寒々しいユニフォームを着替え、ようやくひと心地ついたと安堵しながらスタジアムのロビーに戻ると端のソファーにクコと……何故かリシウムがいた。
「来てたのね」
「あーうん、あーしらからするとここでジムトレーナースカウトしとかないと良い子入んないしね」
「ふーん、そんなものなのね」
何故か疲れた表情をしたリシウムに首を傾げるが、それを問うより早く私と同じく着換え終わったのだろう他のジムチャレンジャーたちが少しずつロビーへと戻り、そのままの足で出て行こうとする。
「あー、悪いけどあーしも行かないと……ソラもリーグ終わったら前に言った件考えといて」
「前にって、ジムリーダーになってくれとかいうやつ?」
「そそ、あーしは本気だから。覚えといて」
そう告げて去っていくリシウムの背中を見送りながら複雑な内心にどんな表情をすれば良いのか分からず困惑する。
だがまあ頭の片隅には置いておく。全部負けたらの話だ……勝てば問題無い。
「で、クコは行かないの?」
「ん? うちのジムはひとでじゅーぶんだからだいじょーぶだ」
「そうなの」
「それでソラはこれからどうする?」
「カブさんに会いに行ってくるわ」
「カブに?」
「前月捕まえたエアームドの件、ようやく何とかなったから、引き取りに行くのよ」
「ああ……ボマーか」
クコにも無関係というわけでも無いので一緒に行くか、と問うたが首を振ったクコと別れてスタジアムの奥へと進むと、関係者以外立ち入り禁止の通路の前に目的の人物が立っていたので近づいていく。
「カブさん」
「やあ、ソラくん。久しぶりだね」
「一週間前にあったばかりですし、久しぶりというほどでもないと思いますが」
先月の話である。
私は一匹のエアームドを捕まえた。
問題はこのエアームドでサイズ異常の『特異個体』でなおかつ生態異常の『変異種』というとんでもないキワモノであり、『ひこう』タイプのエキスパートとしての自負を持つ私から見ても単独ではまともに『生命活動』させることすら困難だった。
というのもどうやら『ほのお』タイプを持たないはずのエアームドの体内に何故か『発炎器官』が存在しており、それが炎を生み出しては『ほのお』に対して耐性を持たないエアームドを体内から焼いていたのだ。
はっきり言って野生環境のまま放っておけば一年以内に死ぬだろうことは間違いなく、かと言って私としてもボールの中に入れっぱなしにして発炎能力を制限するしか対処が無いという極めて厄介な個体だった。
ポケモンとは環境に適応して進化する種なので育成を施せば或いは発炎器官に適応し、更なる変異を起こす可能性もあったがそれにはどうしても『ほのお』タイプのエキスパートの力が必要になる。
そこでクコに紹介してもらったのがこのエンジンスタジアムの主にしてガラル地方『ほのお』タイプジムのジムリーダーであるカブさんである。
「それで、あの子は?」
「ああ、連れてきているよ……ほら」
差し出された手の中に置かれたボールを手に取ると、早速出そうとして……。
「ここだと狭いですね」
「そうだね……ジムで使ってる簡易コートがあるからそちらで出そうか」
そのまま通路を進んでいき、突き当りの扉を開くと外に繋がっていたようで『ひこう』タイプジムのものよりさらに二回り広いバトルコートが広がっていた。
「これで簡易コート……」
メジャーとマイナーの悲しい格差を見た気がしてなんとも言えない気分になりながらも広々とした空間に出たので早速ボールを投げる。
「キシャアアァァォォ!」
ボールから飛び出してきたのは全長5メートルを超える鋼鉄の巨体だった。
以前までは体内の発炎器官が暴発するかのように口から炎を吐き出し、羽根に溜まった『ほのお』エネルギーが抜け落ちると同時に爆発する全身危険物のような有様だったが、それも改善された。
そのお陰か気性の荒さも大分なりを潜め、こちらの言う事もちゃんと聞くようになった。
多少『いじっぱり』な性格なようだが、バトルをするならそれくらいで良いと思う。
「問題無さそうですね」
「そうだね、こんなとびっきりのイレギュラーを育成したのはさすがに初めてだったし、上手く行って良かったよ」
「助かりました、私一人だとどうすればいいかとっかかりすら見つからなかったので」
「いやなに、こちらこそソラくんの『ひこう』タイプに対する知識と経験にはおおいに助けられたよ」
こうして見ていても以前のようにばちばちと『ほのお』タイプが暴走し、誘爆する様子もない。
結果的に『変異種』をさらに変異させ、根本的に『タイプ』を変更するというかなり強引な手法を取ったが結果的にそれが功を奏したらしい。
「じゃあ行きましょうか。ってアナタの名前まだ決めてなかったわね」
「キシュァ?」
「そうね……エアームドだし、ムーくんね」
「キシャァ!」
「よろしく、ムーくん」
告げながらエアームドことムーくんをボールに戻してカブさんに向き直る。
「それじゃあ、私はもう行きますね」
「ああ、次に会う時はこのエンジンスタジアムのジムリーダーとしてだろう。キミがここまでやってくるのを楽しみにしているよ」
「では」
別れの挨拶をしてそのままエンジンスタジアムを去る。
敷地を抜けて表通りに出るとなんだか途端に解放感が押し寄せてきた。
「さて、と」
もうこのエンジンシティでやることは無くなった。
となれば次へと進むべきだろう。
「最初の目的地は……ターフタウン、ね」
そこにあるターフスタジアム。
ジムリーダーは。
『くさ』タイプジムのジムリーダー、ヤローだ。
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ファインティングファーマー①
ガラル地方においてジムチャレンジとは地方最大の興行イベントといって過言ではない。
ジムチャレンジに合わせるように人も物も大きく動き、そこには大きな経済活動が生まれる。
であればこそ、リーグ委員会としてはその動きを制御しておかねばジムチャレンジャーたちに好き勝手に動かれるとそれを追いきれず、興行としてはいまいちなことになる。
なのでジムチャレンジにおけるチャレンジャーが挑戦するジムの順番というのは固定されている。
エンジンシティで開会式を行いそこからガラルの中央地域をぐるりと一周しエンジンシティへと戻って来るような順番が組まれており、それが俗に前半戦と呼ばれている。
そこからエンジンシティを抜けて北へ向かい、ナックルシティから同じようにガラルの北側地域をぐるりと一周する、そうしてナックルシティへと戻り最後にナックルシティから北へと向かえばガラルの最北にして最大の都市シュートシティへとたどり着く。
ガラルの3分2ほどの広大な地域を巡る大規模なイベントであり、期間も4月の頭から7月末までとおよそ4カ月と長く取られている。
ただ広大な地域と言ってもガラル自体が全国的に見るとそれほど大きな地方ではないため、実際に歩いても二カ月ほどあれば回りきれる程度の距離でしかない。
さらに最新式のロトム自転車などの移動手段があれば一か月すらかからず回ることができるような距離なので実際に移動に関して問題になることは余り無い。
因みにだがアーマーガアタクシーはこの期間中に限って『制限』がつく。
簡単に言えばまだバッジを取得していない場所には運航してもらうことはできない、ということだ。
まあそれをアリにしてしまうと最長四カ月のイベントが最短三日くらいで終わってしまうのでリーグ委員会だってそれは勘弁してくれ、という話だ。
その代わりと言っては何だが、期間中ジムチャレンジャーは無料でレンタルバイクを借りることができる。
このレンタルバイクはリーグ委員会側で用意されたものであり、ジムチャレンジ中に野生のポケモンなどに襲われるなどで万一破損した場合でも無料で修理してくれる。正確には故意に破壊した場合を除いて新しいものと交換してくれる。
さらにジムチャレンジ初参加……正しくは統一リーグ所属初年度の新人トレーナーに限定して『モンスターボール』や『きずぐすり』などの良く使う道具のセットを配布している。
さらにダイマックスバンドを持っていない新人チャレンジャーにはダイマックスバンドの貸与もあるらしい。さすがにこれはジムチャレンジ終了後返さないといけないらしいが、金銭を払うことで購入もできるらしい……ただしお値段は八桁ほどするので、さすがにスポンサーがつかなければ厳しいにもほどがあるが、ダイマックスバンドの入手機会は他に中々無いので無理してでも購入するトレーナーもそれなりにいるのだとか。
とまあ新人と言えどジムチャレンジに参加している以上、有望なトレーナーであるためか、リーグ委員会の介護が手厚い。他のリーグだとちょっと考えられないような手厚さである。
さてそんなジムチャレンジだが、四カ月の長い旅路をただ無為に過ごすのは余りにも無駄だ。
プロトレーナーとしての意識の有無がこの辺りに大きく関わって来るのだが、多少なりとも育成をかじっているプロトレーナーならば四カ月あればパーティ一つ作ることができる、それくらいの時間が与えられている。
なにせ育成環境の整っていない新人トレーナーのために攻略済みのジムで育成を受ける、或いは手ほどきをしてもらうこともできるらしい。
いくらジムチャレンジの果てのセミファイナルトーナメントにおける勝者がたった1人だとは言え、そこまでたどり着けるトレーナーが2,3人しかいないなどということになると余りにも盛り上がらないトーナメントになりかねない。
何よりセミファイナルまでたどり着ける新人トレーナーが0人とかいうことになると興行としては失敗傾向なんだとかで新人トレーナーはとにかく手厚く助成されている。
と言ってもこのシステムは新人トレーナーが一番恩恵を受けるというだけで、それ以外のチャレンジャーに無意味というわけではない。
ジムの機材や土地を借りることができるだけでも施せる育成もあるし、ジムチャレンジ中にバトルをこなしながら調整するくらいならばそれで十分過ぎる。
故にこの四カ月という時間をどう使うか、それがこのジムチャレンジにおける一つのトレーナーとしての資質を問われる部分である。
* * *
エンジンシティを出て西を目指して進んでいく。
途中に見える『ガラル鉱山』を抜けて直進していくとターフタウンへとたどり着く。
何で道程に鉱山を抜けることが入っているのか、この鉱山って確か『マクロコスモス』系列会社所有の私有地なのではないか、などなど疑問は多いが一応鉱山を迂回して進む道も存在するのだが直線と迂回だとやはり迂回のほうが遠くなるため鉱山内を突っ切っていく人間も多いらしい。
ターフタウンはハロンタウンに似た田舎然とした街並みで、農地や牧場があちこちで見受けられる。
採れたて新鮮な野菜類や絞りたてのミルク、それに羊毛など一次産業品が名物として有名なんだとか。
エンジンシティを出たのが昼過ぎだったためか、到着する頃にはすでに日が暮れかかっており、急いでポケモンセンターに向かい宿を確保する。
ジムチャレンジの最初の町ということもあってか、ポケモンセンターもかなり大きいようで、少なくとも自分の知るホウエンのポケモンセンターと比べると数倍という規模で広い。宿のほうもジムチャレンジャーを想定してか100人規模で宿泊できる程度に部屋があるらしく、特に問題も無くその一室を借り受ける。
それにしても初日なのに、というべきか、初日だから、というべきか。
すでに半数は部屋が埋まっているらしい。
その全員がジムチャレンジャーかどうかは分からないが、まあ時期が時期だけにジムチャレンジャーなのだろう。
「明日受付しようかと思ったけど……」
この様子では明日の朝からチャレンジャーが列を成しているのではないだろうか。
まだ始まったばかりのジムチャレンジ、制限時間はまだまだ多いとは言え、本気で勝ち抜くつもりなら無駄な時間など一秒たりとて無いのが現状。
「すぐに動くべきね」
或いは、チャレンジャーたちが落ち着くまで他のことを優先する、という手もあるが。
「いや、無いわね」
一瞬考えたがけれどすぐに首を振って否定する。
クコとバトルをしてから約一か月。
その間にも開かれる公式試合を見に行ったり、リシウムとクコというガラルのトッププロの両者と間近で特訓していて気づいたが、このガラルにおけるポケモンバトルというのはかなり異質だ。
地方ごとにポケモンバトルというのはある程度の特色がある。
それは地方ごとに育成の手法が違っていたり、生息するポケモンが異なっていたり、それに合わせて環境が違っていたりするからではあるのだが、ガラルのポケモンバトルはその中でも一際と言える。
ダイマックスという他の地方には無い大きな特色。
というよりは鍵となるのは『パワースポット』なのだろう。
ワイルドエリア各地でも見かけた『赤い光』……地脈の奔流が交差し、噴き上げる地点。
ガラルの人たちはその場所に『スタジアム』を建てた。
それこそが今のガラルのポケモンバトルを形作る、原点と言える。
ガラルのプロトレーナーたちは基本的に『スタジアム』で戦うことを前提にした育成を施している。
つまりリシウムやクコと戦った時も『育成が十全には生かされいなかった』ということだ。
大まかな概要に関してはリシウムやクコ、それにユウリにも聞いてはいるが、実際に私はそれを体験したことが無い。
故になるべく早く、一度で良いので『スタジアム』でのバトルを体験しておきたかった。
* * *
「あーうん、やっぱ同じこと考えるわよね、みんな」
宿を取ってすぐにジムのほうへと向かったのだが、そこにはすでに十人近いトレーナーたちがスタジアムの入口に並んでいた。
ジムチャレンジャーたちの中に『推薦枠』と呼ばれる新人トレーナーと、『チャレンジ枠』と呼ばれるベテラントレーナーがいるのはすでに説明された通りだが、基本的に本気でチャンピオンと狙うのは『チャレンジ枠』のほうになる。
何せ『推薦枠』は全員リーグ所属一年目の新人トレーナーだ。
準トレーナー規制令*1の救済措置として現在では公認スクール*2が設立されたとは言え、ノンプロとして過ごした一年とプロとして過ごした一年というのは密度がまるで違う。
才能の多寡というのはどうしても付き纏う問題とは言え、経験というものがもたらす力は決して馬鹿にできないもので、公認スクールの首席卒業者だろうとプロ二年目のトレーナーと戦えばあっさりと負ける、なんてことも良くある。
故に『推薦枠』が一年目でいきなりジムチャレンジを制覇してチャンピオンリーグを勝ち抜き、チャンピオンになる、なんてことあり得ない、のだ……本来なら。
そこに颯爽と現れたのがユウリという例外なのだが、まあそれはさておいて。
つまり『推薦枠』……プロ一年目のトレーナーというのはやや学生気分が残る、というのか。ありていに言えば考え方がまだプロに馴染んでいないのだ。
そんな『推薦枠』のトレーナーと異なりプロで一年以上活動する『チャンレンジ枠』のトレーナーたちはその全員かどうかは知らないがチャンピオンを狙っている。
つまりジムチャレンジ期間4カ月と
『推薦枠』が明日ジムで受付を済ませて、なんて考えてる間に今日中にさっさと受付して次に進んでしまう。
そう考える人間が多かった結果が目の前の光景だ。
とは言え受付だけならそう長い時間がとられるわけでも無い。
さすがに五十人近くの人間が集まるとかかる時間も膨大になろうが、十人に満たない程度の数なら三十分もかからず自分の番になる。
エンジンシティでもらったバッジケースがジムチャレンジャーとしての証となるのでそれとリーグ所属を示すトレーナーカードを見せる。
向こうも当然リーグ委員会を通してジムチャレンジャーの名簿を持っているのでそちらと照合して本人確認が取れればそれで受付は完了となる。
「ジムミッションの準備もありますので最速でも三日後になります」
「そう、ならそれで」
ところでガラルのジム巡りにはちょっとした余興がある。
それがジムミッションと呼ばれるものだ。
他地方のポケモンジムなら受付を済ませるとジムリーダーの予定の空いた日にバトルをしてそこで勝利ないし条件を満たせばバッジを獲得できる。
中にはジムリーダーと戦う前にジムトレーナーと勝負してふるい落としをするジムもあるのだが、大抵のジムは直接ジムリーダーと戦うことができる。
だがガラルのジムチャレンジは地方全体を巻き込んだ一つの『興行』だ。
バトルがメインなのは勿論だが、前哨戦や余興などでそれ以外の部分でもエンターテイメントを求められる。
それがジムミッションと呼ばれるもので、ジムリーダーとのバトルの前にこれをこなさなければジムリーダーに挑戦できないシステムになっている。
とは言え、基本的にそう無理難題なものではなく、各ジムらしい仕掛けを凝らしアトラクション要素を加味した余興程度のものが多い。
まあテレビでいう『撮れ高』というやつを作るためのものなのだろう。
「ジムミッションの様子やジムリーダーとのバトルはテレビ中継されますので予めご了承ください」
「大丈夫よ、分かってるから」
というかすでに開会式の時からテレビは入っていたし、何だったらジムチャレンジャーの一人、それもチャンピオン推薦で他地方からきたトレーナーとして朝からインタビューも受けた。
まあその程度の受け答えならプロトレーナーとしての嗜みなので問題は無い。
というか意外と知られていないが、ガラルが特に力を入れているだけで他地方のポケモンリーグだって基本的にバトルを『興行』化している。
プロトレーナー同士の公式試合の会場チケットやグッズ販売などで稼いでいるのだ。
まあそれだけで回せるわけも無いので根本的にはポケモン協会という財源あってのものだが。
つまりプロトレーナーというのは一種の人気商売なのだ。
当然ながらマスコミ相手の受け答えというのはリーグに入った時に一通り習ったりする。トレーナーが下手なことを言ったりしたりして人気が下がればリーグの収益にも関わって来るのだから当然と言えば当然だが。
なのでプロトレーナーとしてメディアに顔を売るというのは厭う事ではないのだ。
この辺り、プロ一年目の新人だと中々難しい領分ではあるのだが。
ただし以前にも言った通り、情報の露出は戦術面での不利を生む。故に顔が売れることと腕前が知れ渡ることはには大きな違いがある。
まあそれはさておき、ここガラルでは特にトレーナー人気は大きな意味を持つ。
他地方では『強さ』こそが『人気』だったりするのだが、この地方では『強さ』は『人気』に簡単には結び付かない。
だが逆に『人気』が『強さ』に結びついたりする。
それこそがこのガラルのポケモンバトルの本質なのだから。
ガラル編書くって決めた時から設定だけ作ってた新システムがようやく登場するよ(作者も半分忘れてた
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ファインティングファーマー②
ここターフタウンジムにおけるジムミッションとは『スタート地点から転がって逃げる大量のウールーを追い立てて最奥のゴールまで連れていく』というものだった。
途中に妨害役のジムトレーナーたちもいたのだが、正直このルールだと追いかけながら一方向に突風を吹かせるだけでウールーたちがゴールに向かって転がっていく気がする。まあさすがにそれはズルいだろうからやらないが、それを抜きにしてもウールーたちはこちらが追いかければ素直に反対側に転がって逃げていくように訓練されているようなので後は群れの方向さえ調整できればそう難しい話ではなかった。
途中ワンパチがウールーを追い立て邪魔しようとしていたが、それだって本気で失敗させようするような類のものではない。
何とも簡単に突破してしまった部分はあるが、そもそもジムチャレンジの趣旨的にこのジムミッションは『お遊び』部分なのだ、ジム側だって本格的にこんなところで脱落するようなトレーナーがいるとは思わないだろう。
もっとも後半に行けば行くほどこのジムミッションも難易度が上がっていくらしいのだが、それでもジムミッションがクリアできずにリタイアしたトレーナーというのはいないらしいので大丈夫だろう、そもそもトレーナーとしての実力に何か関係あるのかと言われれば多分無いだろうし。
基本的にジム挑戦は一日に複数のチャレンジャーが挑戦する。
まあ当然だろう、チャレンジャーは今期で言うならば70人を超えているのだ、一日に最低でも十人程度は
なので日程としては午前中に十人前後のチャレンジャーがジムミッションに挑戦する。
私は順番的に真ん中くらいだったのでさほど朝早くも無く、遅く過ぎることも無く程よい時間にジムで受付し、準備をし、ジムミッションを終わらせた。
そして午後からはジムミッションをクリアした順番にチャレンジャーたちがジムリーダーに挑戦することになる。
のだが。
「え?」
ジムに挑戦中のチャレンジャーたちの様子は常に撮影され、テレビ等に放映されているのだが、ジムミッションを終えてターフスタジアムのロビーに戻るとちょうど大画面モニターにジムミッション中のチャレンジャーの様子が映っていた。
午後のバトルまで時間があったので少し眺めていたのだが、まさかのジムミッションで躓くトレーナーたちが数人いたのに目を丸くする。
何でこんなものに失敗するのか首を傾げるが、よく見ると失敗しているのは推薦枠……つまりトレーナーになったばかりの新人だった。
「視野が狭いわねえ」
目の前のウールーをとにかく全力で追いかけて、群れ全体の動きを考えていないので群れが散り散りになって、それをさらにおいかけて余計に四散して、その悪循環にはまってしまっていた。
特に群れがバラバラになると追い立て役のワンパチがやってきて全体の動きがさらに複雑化する、そのせいでもうにっちもさっちもいかなくなってしまってのリタイアだった。
後は同じように群れをバラバラにしてしまってそれを追いかけている内に体力切れで走れなくなって……と言ったパターンもあった。
「こっちは論外ね」
トレーナーとはただ立ってポケモンに指示を出しているだけ、と思われがちな職業ではあるが、実際のところかなり体力勝負なところがある。
まあ立って指示を出しているだけ、というのも間違いでは無いのだがポケモン同士の激しい技のぶつかり合いに精神を削られながら、敵と味方の動きを注視し、よく観察し、次の動きを予測し、それに対してこちらの動きを決定する、と言った風に平均して僅か十五分前後の短い試合時間の中で常時頭の中で思考がフルに回転している。
体は動かさずとも頭は常に動かし続けるので心身が消耗する、それを体力で補って試合終了まで持たせているのだ。故に体力が無いトレーナーというのは途中で集中が切れて指示ミスを連発してしまうようになる。
故に論外だ、としか言い様が無い。プロとして体力が無いトレーナーなんていうのはあってはならない無様だから。
* * *
ジムリーダーとのバトルの前に昼食を取っておく。
先も言ったが、ポケモンバトル……特に
故にしっかりとエネルギー補給しておかなければバトル中に息切れしてしまうのだ。
運営側であるリーグ委員会もそのことをしっかりと理解しているためか、午後からのジムリーダーとのバトルに参加するチャレンジャーはスタジアム内の食堂で無料で昼食を提供していた。
「味も悪くないわね」
ターフタウンは農業が盛んな地域だからか、全体的に野菜類が多めの食事だった。
大量生産の大雑把な味付けかと思ったが、さすが原産地だけあってか野菜を使った料理の研究もしっかりされているのか中々悪くない味付けだった。
ふと周囲を見渡すとやはり
まあ今は一人分の食事をちまちま食べている彼らもこの後のジムリーダーとのバトルで食事量の重要性を痛感するだろうし、今年一年プロとして揉まれれば、来年には三、四人分を平然と食べるようになっているだろう。
まあそれはさておきだ。
掻き込むようにして食事を詰め込み、飲み物で流し込んでから手元のスマホロトムを起動させる。
家でやったらシア母さんに怒られそうな食べ方だが、試合前ということで許してほしいものだ。
とにかくスマホを使ってターフスタジアムのジムリーダーヤローの情報を頭に入れていく。
すでに昨日までに情報を集め、まとめた電子メモを作ってあるのでそれを見るだけだ。
ヤロー。
現在のガラル地方『くさ』タイプジムのジムリーダー。
『くさ』タイプジムは今現在のガラルにおけるメジャージムの一つであり、担当となるのは一番目であり、ターフスタジアム。
専門となるタイプは先も言ったが『くさ』。
戦闘スタイルはガラルらしい居座りスタイル。
ジム戦の順番というのは基本的にジムリーダーの実力順と言われているが、ヤローの場合性格的にチャレンジャー相手に全力が出し切れないので初戦に配置されていると言ったほうが正しい。
つまりジムリーダーとしての実力的にはそれなりのものがあるらしい。
その証拠にここ数年の間メジャーリーグから一度も落ちたことが無く、ジムチャレンジの最初の関門としての地位を築き上げている。
まあそれだけあってプロリーグで活躍している映像も多くあり、資料にはそれほど困らなかった。
それで、肝心の戦術についてだが……。
「独特だわ……」
最初に言っておくが、ヤローは『異能トレーナーではない』。
これは映像越しにだが何度も見たし、何だったら開会式で一度直接見ているので間違いない。
8タイプジムリーダーの中で異能使いは2人だけだ。その中にヤローは入っていない。
だがヤローの戦術は『極めて異能使いのそれに近い』。
というより、これは『メジャージムリーダー』共通のものだろう。
クコやリシウムも同じガラル地方ジムリーダーであるにも関わらず、彼女たちには無くてヤローたちに存在するもの。
そう、スタジアムだ。
基本的にスタジアムでは『ダイマックス』が使用できる。
大半の人がそれを知っているし、
実際私もガラルに来て、ユウリやリシウムたちに教えてもらうまで知りもしなかった。
『ダイマックス』ができる、ということはそこは『パワースポット』であるということ。
つまり大地の下を流れる『エネルギー』が噴き出す地点ということだ。
それはもっぱら『ダイマックス』という見た目にも分かりやすい使い方をされることが多いが、けれどその『ダイマックス』だって結局は『パワースポット』の使い道の一つでしかない、ということだ。
分かりやすく言えば『メジャージム』のジムリーダーたちはこの『パワースポット』から溢れ出す『エネルギー』を利用する技術を所有している。
これは普段から自分たちの担当するスタジアムを利用して修練を積むことができる『メジャージム』の特権と言える。
そしてこれは『パワースポット』から噴き出す『エネルギー』を安定するように設計から考えられて作られたスタジアムでしか使用できない。
つまりワイルドエリアに乱立するパワースポットでそれをしようとしても『エネルギー』が噴き出したり止まったりと出力が安定せず、使えないのだ。
逆に言えばスタジアムの『パワースポット』は出力が安定しており、比較的扱いやすい力となっている。
さらに『ねがいぼし』等この『エネルギー』を集積、利用する術もすでに知られている。
その結果、『ダイマックス』以外にもこの『エネルギー』を利用しようとするのは当然と言えば当然なのかもしれない。
つまりそれがジムリーダーの『技能』となる。
さらにもう一つ考えるべきことがある。
それが『スタジアム』自体への『エネルギー』の利用だ。
* * *
ジム戦において、難易度調整の一環としてバトルフィールドの環境に手に入れるというのは実のところ十年以上前からあちらこちらのジムで行われている。
基本的にジム戦において挑戦者とジム側どちらが有利かと言われると挑戦者に決まっている。理由としては簡単でジム戦におけるジムリーダーの手持ちというのはほぼ固定されている、というこれに尽きる。
逆に挑戦者は何度でも挑戦できて、ジムリーダーの手持ちを対策するような面子を組める。
となるとジムバッジを賭けたバトルの難易度が低くなるのではないか、という声は以前からあったのだ。
そのためにジム施設を改装し、バトルフィールド自体にジム側が有利になるような仕掛けをしてトレーナー自身の咄嗟の判断力や応用力などを見るようにするジムが増えた。
例えば『みず』タイプジムならバトルフィールドが足場を残したプールだったり、『ほのお』タイプのジムならば常時フィールドが『ひのうみ』状態になっていたり、と効果は様々だ。
本来それらはフィールドにそういう風にギミックとして作る、要するに種も仕掛けもある類のものなのだが。
このガラル……というかスタジアムだとその手のものがないのだ。
本当にただの芝を敷いただけのはずのグリーンコートで、何故か『フィールド効果』が発動する。
つまりこれも『パワースポット』から放出されるエネルギーを利用したものらしい。
今現在のガラルのポケモンバトルにおいて『ダイマックス』は最早決して手放せないものであるが故にその『ダイマックス』の原因となる『パワースポット』及びそこから放出される『ガラル粒子』について全力をあげて調べるのは当然と言える。
その成果の一つがジムリーダーたちの技術であり、スタジアムにおけるフィールド効果なのだろう。
さて、前置きが長くなったが、ターフスタジアムの『スタジアム効果』とでも呼ぶべきものは大まかに二つ。
『くさ』タイプポケモンの耐久力の増加。
『くさ』タイプの技の威力の増加。
シンプルに強く、そして厄介なものだった。
さらにここにヤロー自身の『技能』が追加される。
直接戦ったわけでは無いので多分こんなものだろうという想像も含まれているが、とにかく細かい手数が多いタイプだ。元々『くさ』タイプ自体正面切って戦うようなタイプでないが、それでもヤローの細かい技術の数々に支えられてガラルらしい正面からのぶつかりあいに耐えることができるようになっている。
『くさ』タイプと言えば変化技で相手を翻弄するようなタイプが多いが、ガラルでそれは受けが悪いためか使用するポケモンも基本的にはアタッカーが多いようだった。
私の使う『ひこう』タイプ統一パーティを考えればタイプ相性の面で有利なのは間違い無いだろう。
だがガラル地方のリーグ形式を考えれば統一パであることが絶対的な有利になるか、という部分には疑問を覚える。
つまりチャンピオンを目指すにあたって最も障害となるのがジムリーダーであるという点だ。
このガラル地方では意図的にタイプ統一パーティがトップ層に居座っている。
つまりチャンピオンカップ優勝を目指すトレーナーにとって戦う相手は大半が統一パーティになるのだ。
これが有利タイプなら良い、だが不利タイプならどうだろう。
タイプ相性で負けているから、というだけの理由で勝敗が決定的となるならばそれはチャンピオンへの挑戦権が運次第ということにしかならなくなる。
タイプ相性の有利不利が無くなることは決してないだろうが、けれど相性不利に対する対策は統一パーティを使うならば絶対にしているはずだ。
つまり、相手が『くさ』統一だからと言ってこちらが『ひこう』統一で楽勝、なんて展開にはならないだろう、ということだ。
仕事が忙しすぎたり原神イベントがやること多すぎたり、ナヒーダが可愛すぎたり、グラブルやってたり、仕事がくっそ忙しかったり、ガンゲイルオンラインアニメ見て面白かったので全巻読破してたり、ナヒーダが超可愛かったり、ブルアカが忙しかったり、仕事がやばいくらい忙しかったり、ナヒーダが可愛すぎてガチャ引きたい欲が爆発してたり、してたので更新が遅くなりました。
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ファインティングファーマー③
「聞いとりますよ、ソラさんでしたか。あのチャンピオンの推薦なんだとか」
バトルコートを挟んで向かいに立つ男がその屈強な肉体から受ける印象とは裏腹な柔らかな笑みで話かけてくる。
「まあこの場所に立っている時点で知っとるとは思いますが、改めましてぼくはヤローと言います。このターフタウンスタジアムで最初のジムチャレンジを請け負わせてもらっとります」
聞いた話によるとジムリーダーのヤローは性格的に初心者相手に手加減をしてしまうその性質のため最初のジムを任せられているのだとか。
まあ確かにその噂に違わぬ態度だとは思う、が。
「いやあ、去年のことを思い出すわ。あの時も先代チャンピオンの推薦で現チャンピオンがぼくの前に立っとった」
ただ優しいだけの男がこのガラルのトップトレーナーに名を連ねているはずが無いし。
「あの時のチャンピオン……ユウリさんはぼくを倒して進みましたが、さて、ソラさんはどうですか?」
メジャーリーグという魔境に身を置いているはずが無い。
故に。
「…………」
「ふふ、そうですか」
言葉を返すことも無く、ボールを構えた私にヤローが苦笑して。
「そうですね、トレーナーならバトルで語りゃあいい! それがぼくたちに共通するシンプルなルールなんじゃ!」
―――ジムリーダーの ヤローが 勝負を しかけてきた!
* * *
「うひゃー! ちょっと遅れちゃいましたか!? いや、セーフですね? セーフですよこれ」
駆け込むようにしてスタジアムの廊下を抜けていく。
すでにジムチャレンジャーたちが幾人かジムリーダーに挑戦し終わってしまっているような時間帯。
スタジアムの客席はすでに満員の観客たちで埋まっていた。
こんな時間帯に後からやってきて座れる席などあるはずがない。
それが一般客ならば。
「関係者席なら問題なっしんってわけですよ、ジムリの特権ですねぇ」
チケットが購入できずスタジアムの外で嘆く一般客たちを通りがけに見かけニシシ、と邪悪な笑みを浮かべてその横を通ってきたユウゼンは関係者以外立ち入り禁止の通路を抜けて関係者用見学部屋へと立ちいる。
そこにいたターフスタジアムのジムトレーナーたちに軽く挨拶をしながらちょうど今、まさにバトルが始まったばかりのフィールドを見下ろした。
「初陣よ! ムーくん!」
「頼んます! ローさん!」
「キシャアアァァォォ!」
「バッパッパー」
ジムリーダーヤローが投げたボールから放たれたのは黄と緑の色合いが特徴的なポケモン、ルンパッパ。
「ヤローさん、珍しく本気ですねぇ」
少し意外といった様子でユウゼンが呟いた。
もしこの場に他のジムリーダーたちがいればたしかに、と頷いたかもしれない。
ヤローが『くさ』タイプのジムリーダーとなってジムチャレンジを担当するようになってからそれなりの年月が経っているが、基本的に性格的な問題でヤローはジムチャレンジで本気を出すことが余り無い。
勿論手抜きをしているわけではない、ただ使用するポケモンはジムチャレンジ用に調整された個体であり、ある程度ポケモンを育成したチャレンジャーならば勝てるように、あくまで『ふるい落とし』を目的として立ちはだかる。
だがあのルンパッパは違う。調整されたポケモンではない、あれはヤローがメジャーリーグで使用する個体……つまりジムリーダーの本気のポケモンだ。
チャレンジャーが2年目の……いわゆるチャレンジ枠と同等だということを差し引いてもそれは珍しいことだった。
そして対抗するようにチャレンジャーの投げたボールから飛び出したポケモンに、会場の人々が大きくどよめいた。
─――銀色の体を光らせ、その5メートルを超す巨体が羽ばたくたびに全身から火花を舞い散らせる。
―――その巨体が一度地に舞い降りれば地響きが立つほどの重量。
―――その鳴き声には『いかく』のような効果はなくとも、萎縮せんばかりの圧があった。
「エアームド、ですか。しかもばっちばちの特異個体、ですかね?」
少し気になったので手持ちのスマホロトムをかざす。
“
===========【ステータス】=============
名 前 | ムーくん |
種 族 | エアームド/変異種/特異個体 |
性 別 | ♂ |
レベル | 110 |
タイプ | ほのお/ひこう |
性格 | いじっぱり |
特性 | はがねのよろい*1 |
持ち物 | とつげきチョッキ |
技 | ばくげき/くちばしキャノン/フレアドライブ/ボディプレス |
==============================
「うへぇ……ばっちばちの特異個体、しかも変異種ですねぇ。ていうかこれって先月までバウンティ指定されてた個体では?」
そんなことを呟いている間にもフィールドでは動きがある。
“
…………。
…………………………。
…………………………………………。
* * *
「さあ、ヤローファームの開園じゃあ!」
ばっと両手を広げるヤローの言葉に応えるかのように、フィールドが胎動する。
そうして直後、一面が芝生に覆われていたフィールド全体が緑色の光が放ち始める。
“ヤローファーム”*2
「バッパッパー!」
―――ルンパッパのおどりに くさきがこたえ ばのじょうたいが グラスフィールドになった!
一瞬にして塗り替えられていくフィールドに目を細め。
「こっちも行くわよ!」
“つむぎかぜ”*3
轟と唸りをあげて風が荒ぶ。
ムーくんの背を押すようにして吹き荒ぶ風は『おいかぜ』となる。
「ローさん! まずは農業の基礎、畑を耕すんじゃあ!」
そうしてこちらの準備を待たずしてルンパッパが動き出す。
“ヤローファーム”*4
どんどんと飛び跳ね、フィールドを荒らすように土が飛び跳ねる。
直後に圧を増すルンパッパだが、今の行動すらまだ事前準備に過ぎないようで、すでに次の行動に移る用意が完了していた。
「ローさん! 踊れぇ!」
「ムーくん! ぶっ飛ばせ!」
そうして互いの指示に場のポケモンたちが動き出す。
「バッパ!」
先に技を完了させたのはルンパッパだった。
『おいかぜ』があるので或いは、とも思ったがその巨体と比例した耐久力を得る代償としてムーくんは巨体と反比例して『すばやさ』が低下していてる。
正確に測ったわけでは無いが、恐らく通常個体の半分以下といったところか。
故に『おいかぜ』込みでようやく原種と同等、ルンパッパの速度を考えれば大よそ同じくらいだろうという結論にはなるが……。
「「「ワアアアアアアアアァァァァ!!!」」」
「「「がんばれーヤローさああああん!!!」」」
「「「オーオー♪ オォ~♪」」」
“のうぎょうおうえんか”*5
この応援に背を押されていつも以上に力を発揮しているルンパッパには少しばかり分が悪かった、ということだろうか。
このガラルにおいて観客からの『応援』はそのまま力になる。だかこそ単純な強さだけでなく、人気もまた重要になってくるのだ。
正確にはこの『スタジアム』におけるバトルというもの自体が通常のポケモンバトルとはとにかく勝手が違ってくる。
その辺りのことはリシウムやクコに聞いて知識としては知ってはいるのだが……。
“つるぎのまい”
“あまごいルンバ”*6
フィールドでルンパッパが踊り出し、さらに圧が増す。
その踊りに誘われるようにして、空が曇って来て……やがてぽつり、ぽつりと雨が降り出す。
やがてざあざあと降り出した雨がフィールドを濡らしていく。
「バッパッパー!」
“おどルンバ”*7
“さわぐ”
同時に踊るルンパッパから衝撃が飛び出し、ムーくんへと叩きつけられる。
「キシャアアァァォォ!」
だがそんなことを知ったことがとばかりにムーくんが羽ばたきルンパッパへと接近して。
“ばくげきき”*8
“ ば く げ き ”
体内で集められたエネルギーが鈍色に光る球形となって口から零れ落ちるようにしてルンパッパへと落下し……大爆発を起こす。
一撃で凄まじいHPを削り取られたルンパッパだったがさすがにジムリーダーの手持ちというべきか、良く育てられているお陰で一撃で『ひんし』とはいかなかった。
それでもかなりの大ダメージなのは間違いない。
その攻撃に手応えを感じ。
直後に気づく。
「キシュアァァ!?」
悲鳴を上げながら戻ってきたムーくんの全身にツタが生えていることに。
“ヤローファーム”*9
ムーくんに芽吹いた『やどりぎのたね』がムーくんのHPを吸い取り、それをルンパッパへと還元していく。
同時に空から降り注ぐ『あめ』を受けてルンパッパが踊る。
“あまごいルンバ”*10
“あめうけざら”
先ほどまでボロボロだったはずのルンパッパがその耐久力を大きく回復していくのを見やり、舌打ちしそうになる。
かなりHPを回復されてしまったがこれで次の攻撃で落とせるだろうか、と内心で呟きながら。
仕掛けられた“じげんばくだん”が起動する。
“フェザーボムギフト”*11
“じげんばくだん”*12
―――じげんばくだんが ばくはつし ルンパッパの たべのこしが もえつきた!
先ほどのムーくんの攻撃に紛れて落ちていたムーくんの羽が爆発し、ダメージを与えながらルンパッパが持っていただろう『たべのこし』ごと消滅する。
「危ないわね」
『グラスフィールド』+『あめうけざら』+『やどりぎのたね』+『たべのこし』で完全に耐久型のポケモンだ。
見た限り異常なくらいに回復していることから回復量を上げる系統の裏特性も持っているだろう。
下手すれば残り
体感的なダメージではHPの半分以上のダメージは与えたと思うのだが、その程度のダメージはすでに回復されていると考えたほうが良いだろう。
問題は先ほどの『つるぎのまい』だ。
あれで『こうげき』を大幅に上げられた、それでもムーくんの耐久力を考えれば一撃、ということはないだろうが、こちらの攻撃で削り切れなかった場合かなり厄介なことになる。
相手の回復量は異常の一言だ、互いの一手ごとにHPが半分以上回復するなど悪夢でしかない。
ムーくんもどちらかというと耐久型のポケモンなのだが、耐久レースをしていてはあの回復量には絶対に勝てない、必殺の一撃が必要だ……。
だがムーくんの独力では恐らくあのルンパッパを一撃で倒せるだけの火力が出せない。
…………。
ちらり、と空を見上げる。
その『あめ』は一体何のためにあるのか、ただ『あめうけざら』を発動させるためだけなのだろうか?
やや賭けになるが、考慮する価値はあると見た。
となると、次の一手は……。
「ムーくん!」
「ローさん!」
互いの指示が飛ぶ。
そうして。
“ハイドロポンプ”
放たれた必殺の威力を秘めた一撃がムーくんを捉える。
タイプ変更によって『ほのお』タイプとなってしまったムーくんにとって致命的となる一撃。
ルンパッパから放たれた激しい水流に打ち付けられ、ムーくんの耐久力が見る見るうちに削られていく、が。
“メルトダウン”*13
『はがねのよろい』が融解するほどの強烈な熱が水流を蒸発させ、その威力を大きく削っていく。
お陰で辛うじてではあるがムーくんがその一撃を耐えきり。
「吹っ飛ばせ!!!」
水流によってさらに硬化した『はがね』の肉体が物理的な『こうげき』を上昇させ、反撃とばかりに飛びながら突っ込んでいくムーくんのそのクチバシに猛烈なエネルギーが集中し。
“ばくげきき”
“くちばしキャノン”
―――放たれる。
猛烈な勢いで突き出されたクチバシの一撃はルンパッパを貫き、吹き飛ばす。
それでもなんとか立とうとするルンパッパだったが、やがて力尽き、倒れ伏した。
【種族】“ボマー”エアームド/変異種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】ほのお/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】はがねのよろい(『ほのお』『かくとう』『じめん』タイプの技で受けるダメージが2倍になるが、『ノーマル』『くさ』『こおり』『ひこう』『エスパー』『むし』『いわ』『ドラゴン』『はがね』『フェアリー』タイプの技で受けるダメージが半分になり、『どく』タイプの技のダメージや効果を受けなくなる。自分の『はがね』タイプの技の威力を1.5倍にする)
【持ち物】とつげきチョッキ
【技】ばくげき/くちばしキャノン/フレアドライブ/ボディプレス
【裏特性】『ばくげきき』
自分の出す『たま・爆弾系』の技の威力と命中を1.5倍にする。
相手の物理攻撃でダメージを受けた時、相手の場の状態を『ばくだん』にする。
『たま・爆弾系』の攻撃技を出す時、相手の『ぼうぎょ』と『とくぼう』の低いほうでダメージ計算する。
【技能】『フェザーボムギフト』
『たま・爆弾系』の技が命中した時、相手の持ち物を『じげんばくだん』に変更する。
【能力】『メルトダウン』
『みず』タイプの相手や天候が『あめ』『つよいあめ』の時、自分の『ほのお』技の威力が下がらず、無効化されない。
『みず』タイプの技の攻撃技を受けた時、技のダメージを半減し、自分の『こうげき』を上げる。
【備考】
ばくげき 『はがね』『非接触単体物理技』
効果:威力110 命中80 『ほのお』タイプと相性の良いほうのタイプでダメージ計算する。相手の特性が『しめりけ』の時、技が失敗する。
場の状態:ばくだん
次のターンの終了時、場にいるポケモンに最大HPの1/4分のダメージを与える。相手の特性が『しめりけ』の時、ダメージが無くなる。
持ち物:じげんばくだん 『消費タイプ』
ターン終了時に自分のHPを最大HPの1/8減らす。
『ヤローファーム』
味方の『くさ』タイプのポケモンが場に出た時、3ターンの間全体の場を『グラスフィールド』にする。
味方の『くさ』タイプのポケモンが場に出た時、『たがやす』を出す。
味方の『くさ』タイプのポケモンが場に出て最初に技を出した時、相手を『やどりぎのたね』状態にする。
????
????
【名前】ロンド/ローさん
【種族】ルンパッパ/原種
【レベル】110
【タイプ】みず/くさ
【特性】あめうけざら
【持ち物】たべのこし
【技】ギガドレイン/ハイドロポンプ/かみなりパンチ/つるぎのまい
【裏特性】『あまごいルンバ』
自分が『踊り技』を出す時、5ターンの間天候を『あめ』にし、自分のテンション値を+1する。
自分が『踊り技』を出す時、自分の『とくこう』を2段階上げる。
天候が『あめ』の時、自分が受けるHPが回復する効果が2倍になり、ターン終了時に自分のテンション値を+1する。
【技能】『おどルンバ』
自分が『踊り技』を出した時、追加で『さわぐ』を出せる。この効果は場に出た時に一度だけ使用でき、味方全体のテンション値を+1する。
Q.テンション値 is 何?
A.多分次回あたりユウゼンさんが解説してくれると思うガラル編における新システム。
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ファインティングファーマー④
まずは一手、と言ったところか。
今回のバトルは『推薦枠』なら6体を使用したフルバトルだが、『チャレンジ』枠は3体までの3:3シングルとなっているのでこれで3対2で一歩リード。
だがムーくんの残りの耐久を考えれば実質2:2と言ったところだろう。
そんなことを考えている内にフィールドに吹き荒んでいた『おいかぜ』が止んでいく。
時間切れだ。そうして『おいかぜ』が止むと同時にまるで波が押し寄せては引いていくように
“さかさかぜ”*1
風に乗ってムーくんがボールへと戻って来る。
手の中のボールをホルスターへ納める。
事前に使用するポケモンは登録しているので、そこに収められたボールは三つ。
その中の一つを迷うことなく手に取る。
元よりこのバトルにおける出す順番、というのは最初から決めていた。
「行くわよ、ダーくん!」
そうして私がボールを投げるのと同じタイミングで。
「頼んます、ヒメさん!」
ヤローが二体目のボールを投げた。
* * *
「ひえー。一体目からとんでもないゴリ押ししてますねぇ」
驚天動地。
というかふざけんな、と言ってやりたい。
自分がどれだけ苦労しながらバトルを回していると思っているのだ。
なんて、戯言に過ぎないのだが。
「ぶっちゃけ相性すっっっっっごい悪いですね???」
ユウゼンは『でんき』タイプのジムリーダー。つまり『でんき』タイプのエキスパートだ。
対してあの噂のチャレンジャーは『ひこう』タイプの使い手だと聞いていたのでタイプ相性的に有利だと思っていたのだが、寧ろこれは真逆だ。
ユウゼンの長所は情報量の優位からの読みの鋭さだ。
ユウゼンの使うポケモンたちというのは
そんなユウゼンを嘲笑うかのようなあのエアームドのパワープレイを見ればその相性の悪さは一発で分かってしまう。
多分実際にバトルするとこちらが初手で変化技一つ決めた瞬間に返しの一手で一瞬にして吹き飛ばされるのがオチだろう。
「しかも便利な異能も持ってるみたいですし? 育成も得意? まだ読みは荒っぽいとこもあるみたいですけど、統率もしっかりできてる……って、才能の格差酷過ぎじゃないですかぁ?!」
リアルポケモンバトルにはゲーム時代には必要無かったはずのものが多すぎる。
ゲーム時代、バッジを全て獲得した状態で自分で捕まえたポケモンが言う事を聞かないなんてことは無かったし、育成はどんなプレイヤーが行っても同じ結果を出せた。
ポケモンとの信頼や絆で本来以上の力を発揮させるなんてことは基本的にはあり得なかったし、何より異能なんて不可思議な力は(基本的には)無かった。
「ゲームでセイボリーくんが自力でサイコフィールド使ってたのが可愛く見えますねぇ」
味方のポケモンを場に出しただけで自動的に『おいかぜ』状態になるって何なのだろう。
しかも『おいかぜ』が終了したら味方と交代できるってそんなこと当たりまえのようにされたらバランス崩壊待ったなしである。
「いやー実際バトルすることになったらマジでどうやって勝てばいいんでしょうね?」
少なくとも開会式の時に出会ったリシウムはジムチャレンジ後の後任としてあのチャレンジャーを見込んでいるらしい以上、今の内からでも見ておかなければならない。
まああのチャレンジャーがジムチャレンジを勝ち進んで……という可能性も無くはないのだが。
「チャンピオンに勝てるか、って言われたら……無理じゃないですかね?」
少なくとも、今の様子を見る限りは。
* * *
相手の投げたボールから飛び出してきたのは『ワタシラガ』と呼ばれるポケモンだった。
そしてこちらの投げたボールからは飛び出したのはダーくん……ガラルサンダーだ。
―――ギォォォォォァァ!!!
ガラルにおいて非常に珍しいポケモンであるサンダーの登場に会場がどよめくのを感じながら、思考は冷静に次の手を一言で示す。
「暴れなさい、ダーくん!」
“つむぎかぜ”
ダーくんの背を押すように吹き荒ぶ『おいかぜ』に乗ってこちらが詳細な指示するより早くダーくんが走りだす。
そう、それでいい。
登場から間も無く走り出すダーくんに対面のヤローが面食らったように驚く、だがさすがはジムリーダーと言うべきか、動揺することなく指示を出す。
「ヒメさん!」
だがその指示より早く、疾風のごとく駆け抜けたダーくんが飛びあがり……。
“きょうらんどとう”*2
“じゅうおうむじん”*3
“とうほんせいそう”*4
“らいとううんぽん”*5
「ぶち抜け! ダーくん!」
“らいめいげり”
場にいる誰よりも早く駆け抜けたダーくんが突き出した脚がワタシラガを打ち抜く。
『おいかぜ』による加速を加えた猛スピードの一撃は一瞬にしてワタシラガをフィールドから蹴りだし、壁に激突したワタシラガががくりと体を揺らす。
―――だが。
「キィゥ……キュイキゥイ!」
「よーし! よく耐えた! ヒメさん、『ねむりごな』じゃ!」
『きあいのタスキ』でも持たせていたのか、それとも単純に気合で耐えただけか、明らかにオーバーキルの一撃をけれどワタシラガが辛うじて持ちこたえる。
反撃とばかりにワタシラガがフィールドへと戻りながら『ねむりごな』をばら撒く。
ダーくんを狙って放つのではなく、フィールド上の空間を満たすようにばら撒かれた大量の粉塵が降り注いでいく。
「練度高いわね……さすがジムリーダーの手持ちというべきかしら」
『こな』系の技はどうしても命中率の難が出がちなのだが、単純な技の練度の高さ、使い込まれた技の効果で通常の倍以上の濃度の粉塵がフィールドを満たしていく。
これを避けるのは不可能だろう、まして初手で限界以上の力を出し尽くした反動で身動きが取れない今のダーくんに避ける術はない。
……本来ならば。
「戻ってきなさい、ダーくん」
“さかさかぜ”
『おいかぜ』が解除された影響で、『吹き戻し』の風がやってくる。
身動きの取れないダーくんを風が包んで、そのままボールへと運んでいく。
誰もいないフィールドを『ねむりごな』が満たすが、当然誰もいないので空振りに終わる。
技の効果もそう持続しないので、次のボールを手に取った時にはすでに技は消えている。
同時に技を放ったことでワタシラガが力を使い果たしたのか、崩れ落ちた。
どうやらすでに限界だったところを一矢報いようとしていたらしい。
「お疲れじゃ、ヒメさん。ゆっくり休んでくれ」
ヤローがワタシラガをボールへと戻すのを見やりながらこちらもボールを一つ取る。
「さて、行くわよ……準備は良いわね?」
手の中のボールに語り掛けるように告げると、手の中でボールがかたりと揺れた。
早く、そう急かされているような気がして思わずくすり、と笑う。
「行ってきなさい……ガーくん」
放たれたボールから鈍色の巨体が現れた。
* * *
アーマーガアは実際のところガラルにおいてそこまで珍しいポケモンではない。
アーマーガアタクシーなんてものがあるように、街中でも、或いは道端で空を見上げれば時々見かける存在である。
そしてポケモンバトルにおいても進化前のココガラやアオガラスはガラルに多く生息しているポピュラーなポケモンであり、新人トレーナーたちがココガラを捕まえて進化させていけば順当に手に入るためよく見かけるポケモンでもある。
故に『ひこう』タイプを使うというチャレンジャーがアーマーガアを出したことには驚きは無い。
ただし。
全長5m近いそれを普通のアーマーガアとカウントして良いのならば、だが。
「ちょ、ステータスステータス!」
“
そうしてスマホロトムに表示されたアーマーガアの詳細を見やり。
「専用個体~~~~~~~~~~~?!」
悲鳴染みた声を挙げた。
「あーこれヤローさん終わりましたねぇ」
まあ順当にヤローが負けるだろう、とは思っていた。
だって本来なら存在するはずのタイプメタがジムチャレンジ中は禁止されているし。
ただそれにしてもここまで一方的になるとは思わなかった。
「あの異常過ぎるエアームドに、ガラルでも幻と化してるはずのサンダー。それに専用個体のアーマーガアっておかしすぎません???」
それらを手懐けている統率能力も凄いし、何ならそんな例外存在ばっかり育成できる育成手腕も凄いが、何よりもそんな普通じゃないポケモンたちとここまで出会い続けることができる運が凄いとしか言いようがない。
すでにフィールド上で準備万端いつでも来いと言わんばかりに佇むアーマーガアに対して、ヤローが投げたボールから飛び出したアップリューが対峙する。
「タルップルならてっぺきとボディプレスでワンチャン……いや、無いですね、カッチカチですもん、あのアーマーガア」
ワタシラガの残した遺産で全能力ランクが上昇しているのだがそれでもあのアーマーガアは理不尽過ぎる。
『うおおおおおお! まだじゃ! まだまだ負けんぞおおおお! リューさん!!!』
フィールド上でヤローがアップリューをボールに戻し、キョダイになったボールを投げる。
『使うの初めてなのよね……そうやって使うのね。じゃ、こっちも少し派手に行きましょうか、ガーくん』
それに対抗するかのようにチャレンジャーもまたアーマーガアをボールへと戻し、再び投げる。
小さな体の割にパワフルに両手でボールを頭上に抱えてのオーバースロー。
キョダイ化して重そうに見えるが、実際にはモンスターボール1個分の重さしかないためかチャレンジャーの細腕でもボールがフィールドへと軽々と飛んでいき。
“ キ ョ ダ イ マ ッ ク ス ”
対面する二体のポケモンがその体躯を大きく、大きく増していきながらも同時に徐々に徐々に姿を変えていく。
「ヤローさんは当然としても、あっちも当たり前のようにキョダイマックス個体……あれそんな簡単にいるもんじゃないんですけどねぇ」
一応ダイスープ等の後天的にキョダイマックス化を付与できる方法もあるのだが、それもまたそのために必要な素材が希少なせいで簡単に手が出せるものでも無いのだ。
ゲームじゃないのだから、ダイキノコを採っても一日二日で生えてくるなんてことはないし、野生のポケモンが勝手に食べてしまうこともある。さらに言うならばあのキノコは割と生育条件が面倒で人工栽培も中々上手くいっていないためかなり希少な素材だった。
何せキョダイマックスの需要というのはガラル本土においていくらでもあるのだから。
キョダイマックスエースというのはガラルのポケモンバトルにおいてまごうこと無き『花形』なのだ。
プロトレーナーとしては持っていてしかるべきとすら言えるほどの。
特にこのガラルにおけるポケモンバトルには『トレーナーの人気』というのは大きな意味を持つのだから。
『吹き荒ぶ嵐で全て薙ぎ払いなさい! ガーくん!』
『うおおおおおお! 回って、廻って、全て弾き飛ばしてまうんじゃ!』
“ キ ョ ダ イ ハ リ ケ ー ン ”*6
“ キ ョ ダ イ ロ ー リ ン グ ”*7
通常の技と異なりダイマックス技の性質状、互いの技をぶつけての相殺というのが非常に難しい。
そのためダイマックス状態での殴り合いでは常にノーガードで殴り合う必要が出てくる。
故にダイマックスエースとなるポケモンに最も必要なのは『タフさ』だ。
アップリューとアーマーガア。
耐久力を比べた時、種族的に分が悪いのはどうやってもアップリューだ。
さらに言うならば互いが使う技の性質。
弱点をつける『ひこう』技のアーマーガアと半減タイプの『くさ』技のアップリュー。
言うまでもない。
「ワタシラガの置き土産*8*9のお陰で一撃でダウンってことは無いですけどぉ……」
二度目の激突。
先ほどの一撃は互いが互いに耐えていたが、今度は明確にアップリューが苦悶の表情を浮かべている。
「根性耐えしましたね、さすがヤローさんというべきですか。『くさ』タイプに好かれてますね」
気合耐え、根性耐え。まあ言い方はなんでも良いのだが、『ポケモンがトレーナーのために本来なら倒れるほどのダメージを受けても瀕死寸前で耐えて動く』ことだ。
ゲーム時代でも対戦はともかくストーリーだとなかよし度が実装されてから同じような効果があった。
まあ『きあいのタスキ』や『きあいのハチマキ』の効果のような俗にいう『食いしばり効果』だ。
プロトレーナーならポケモンに懐かれているのは当然ではあるのだが、根性耐えができるというのは『ひんし』になるようなダメージを受けても根性だけで耐えることができる。
言い換えれば『いのちがけ』になってでもトレーナーのために尽くせるほどの信頼があるポケモンだけだ。
『ひんし』になるダメージを受ければ体が縮んで身を守ろうとするのはポケモンの生存本能だ。それに抗ってまで動こうとするのは本当に命がけになりかねない行為なのだ。
こればかりはプロであろうと当然できる、なんてことは言えない。
本当に大した絆だと思う。
「ただ耐えたからって……という話でもありますが」
三度目の衝突。
すでに限界を迎えた体に鞭打っての最後の攻撃に、けれどアーマーガアは耐えた。
「『フィラのみ』ってホントにえげつないですねぇ……」
二度目の攻撃で持ち物による回復効果が発動し、無事に三度目を受けきる。
逆にアップリューはすでに限界だ。キョダイマックス状態が即座に解除され、フィールドに崩れ落ちた。
「3-0ですか……あれが本当に来年、ジムリーダーになっちゃうんですか?」
げんなりした表情で呟くユウゼンの言葉に答えを返す者はいなかった。
遅くなり大変申し訳ありませんでした。
年末年始が忙しかったのもあるし、モチベーションがいまいち上がらなかったのもある。
あとバイオレット遊びまくったのもある。
というわけで後半はさくっと終わらせました。
いや、ぶっちゃけダーくんの新データ作ったの出したいなあって思ったら余りにも強すぎた。
あとソラちゃんまだ一回もダイマックス使ったことないのでジムチャレ中は積極的に使って感覚掴むよなあってなるとガーくんも入るわけで、くさジムに『ひこう/はがね』出した時点でもう勝ち目ないじゃん……ってなったのでユウゼンちゃんにさくっと解説してもらって終了した。
【名前】ダーくん
【種族】サンダー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】かくとう/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】きょうらんどとう(変化技が出せなくなる。攻撃技を出す時、技がランダムになるが優先度を+2し、威力を1.2倍にする。攻撃が急所に当たりやすくなる(C+1))
【持ち物】こだわりハチマキ
【技】インファイト/らいめいげり/ダブルウィング/ブレイズキック
【裏特性】『じゅうおうむじん』
場に出て最初に出す技の威力を2倍にするが、次のターン行動できなくなる。
自分の技で相手の『ぼうぎょ』が下がった時、相手を道具を持っていない状態にする。
『ひこう』タイプの技を出す時、相手の特性に関係無く攻撃できる。
【技能】『とうほんせいそう』
味方の場の状態が『おいかぜ』の時、『おいかぜ』状態を解除して次に出す技が『ひこう』タイプの技なら技の威力を1.5倍にし、それ以外なら『ひこう』タイプを追加し、相性が良いほうでダメージ計算する。
【能力】『らいとううんぽん』
最初に場に出た時に『すばやさ』が最大まで上がるが、場にいる間毎ターン『すばやさ』が下がる。
相手より『すばやさ』が高い時、攻撃技が必ず相手の急所に当たる。
【名前】ガーくん
【種族】“あらしの”アーマーガア/原種/専用個体
【レベル】120
【タイプ】ひこう/はがね
【性格】わんぱく
【特性】あらしのよろい(『おおあらし』の時、自分の能力が下がらず、直接のダメージ以外を受けなくなる。特殊攻撃で受けるダメージが半減する。)
【持ち物】フィラのみ
【技】ゴッドバード/よろいのつばさ/とんぼがえり/まもる
【裏特性】『カラスのわるぢえ』
自分の持ち物の効果が1.5倍になり、不利効果を受けなくなる。
相手を直接攻撃する技を繰り出す時、自分の『ぼうぎょ』を『こうげき』の数値にしてダメージ計算する。
攻撃技を出した時、10%の確率でもう一度同じ技を出す(連続技扱い)。
【技能】『キョダイフウゲキ』
味方の場の状態が『おいかぜ』の時、『ひこう』タイプの1ターン溜める必要がある技を溜めずに使える。この効果は場に出る度に一度だけ使える。
【能力】
『ストームライダー』
味方の場の状態が『おいかぜ』の時、自分と同じタイプの技の優先度を+1する。
味方の場の状態が『おいかぜ』の時、自分と同じタイプの技が相手の特性に関係無く攻撃できる。
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。』
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『ひこう』タイプの技が全て『ダイジェット』か『キョダイハリケーン』になる(切り替え可能)。
【名前】シラヒメ/ヒメさん
【種族】ワタシラガ/原種
【レベル】120
【タイプ】くさ
【特性】わたげ
【持ち物】じゃくてんほけん
【技】ギガドレイン/ウェザーボール/せいちょう/ねむりごな
【裏特性】『パワフルコットン』
自分の特性が発動した時、『コットンカウンター』を+1し、自分のテンション値を+1する。
自分が『くさ』タイプの技を出した時、『コットンカウンター』を+2し、自分のテンション値を+1する。
????
【技能】『エナジーコットン』
『コットンカウンター』を全てを消費し、消費した『コットンカウンター』の数に応じて効果を得る。この効果は自分が『ひんし』になった時のみ使用できる。
┗コットンカウンター3ごとに次に出すポケモンの全能力ランクを1ランク上げる。
┗コットンカウンター6で????
┗コットンカウンター9で????
【名前】リューさん
【種族】アップリュー/原種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】くさ/ドラゴン
【特性】はりきり
【持ち物】ラムのみ
【技】Gのちから/ダブルウィング/ふいうち/げきりん
【裏特性】『アップルドロップ』
????
????
????
【技能】『キョダイサンゲキ』
????
【能力】
『ケントのハナ』
????
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『くさ』タイプの技が全て『キョダイローリング』になる。
【備考】
『キョダイローリング』:単体非接触物理技/キョダイマックス技
効果:威力200 命中- 相手の残りHPが少ないほど威力が下がる。(相手の残りHP÷相手の最大HP×威力200)
キョダイマックス技については全てポケカネタのほうになってます。
なんで? 実機通りだといまいち使い勝手よろしくないのが多いから。
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ファインティングファーマーアフター
「噛み合ったわね」
ヤローから受け取ったバッジを卓上ライトにかざしながらポケモンセンターの一室で息を吐き、今日のバトルを振り返りながら出た感想がそれだった。
全体的に選出が噛み合った、というのが一番の印象。
結果だけ見れば3-0の圧勝。
ただし初手がムーくんでなければあのルンパッパの耐久力を一撃で吹き飛ばせただろうか?
ワタシラガもダーくんがあっさり突破してしまったようだが、ほぼ完封に近い状態で倒したはずなのに持ちこたえられ一手動かれた。
その結果次に出てきたアップリューの戦力が大幅に上昇してしまったと言える。
ガーくんという物理に強く、『くさ』タイプに相性の良いダイマックスエースがいたため撃ち合っても勝てただろうが、あの耐久力と火力を考えると相手できる手持ちは限られてくる。
全体的には偶然にも最適解をぶつけ続けられたために勝てた、といったところ。
『くさ』統一相手に『ひこう』統一でぶつかる、という本来相性がかなり良いはずなのに、である。
「ジムリーダーの実力が思ってた以上ね」
このガラルのリーグ制度において他リーグにおける『四天王』と呼ばれる存在がいないことは分かっていた。
つまりこのガラルにおいてチャンピオンの下にはジムリーダーが来るのだ。
そのせいかジムリーダーに求められる実力が他地方より一段階高いのだろう、と予想する。
ジムチャレンジ用にあれで『加減』された強さなのだ。
「あれで最初のジムリーダー……か」
一応私は『チャレンジ枠』というリーグ所属二年目以降の枠に入っているのでジムリーダー側のレベル制限は取っ払われている、とは言え後半ジムほど制限が解除され強くなることは間違いなく、その全てが私と相性の良いジムというわけでも無い以上、これからのバトルの厳しさは増していくばかりと考えるべきだろう。
「もっと強くならないと……」
幼馴染と約束した場所にたどり着くためには、チャンピオン戦へと進むためには新進気鋭のチャレンジャーたちも、熟練のジムリーダーたちも、全てなぎ倒していく必要があるのだから。
とはいえ強くなりたい、と言って簡単に強くなれるのならば誰も苦労はしない。
強くなりたい、そう願うのはプロトレーナーならば誰だって同じなのだから。
「手っ取り早いのは新戦力を入れる、かしらね」
今いる手持ちたちの育成は一通り終わっているので残りのジムチャレンジの期間を考えても二体、ないし三体くらいまでならば育てることは可能だろう。
ただガラルリーグで使用可能で『ひこう』タイプが入る、という条件を付けると選択肢はぐっと少なくなってしまう。
「けど『ぼうふうけん』を考えないなら『ひこう』タイプに縛る必要はないのかしら?」
とも考えたが、能力のことを抜きにしても私はどうも『ひこう』タイプか『ドラゴン』タイプと抜群に相性が良いのでそっち側に寄せていったほうが良いだろう。
父さんは『感情を持ち意思疎通できるならどんなポケモンとでも仲良くなれる』とかいう意味の分からない魅力……或いはカリスマ性があるが、私にはそんなものはないのできっぱり諦める。
「『ドラゴン』タイプはありと言えばあり、だけど」
実際『ドラゴン』タイプというのは種として強力なポケモンが多い。
通常の種として強力なポケモンを上げていけば半分以上はドラゴンタイプで埋まるだろうと思えるほどに。
「ただ統一性は無くなるわよね」
タイプの統一性ではない、パーティ全体の統一性だ。
今の手持ちたちによる戦術や入れ替えの連携を崩してまでそれらを入れる必要があるだろうか?
「例えばディーディーのやつとか入れたとして」
ディーディー。
家族……と呼んでいいのかは分からないが他人と呼ぶには近しい存在。
七人の母親たちの一人、シキ母さんの手持ちのサザンドラのクロが作ったタマゴから生まれた
サザンドラというポケモンの中でも一際強力な種、そして擬人種という生まれながらにして保証された才覚。当然ながらポケモンバトルにおいてもその才能はいかんなく発揮される。
性格に難のあることを除けば或いはアオに届くかもしれないほどに。
「バカでアホでおくびょうヘタレドラゴンだけど強いのは強いのよね」
分かりやすいほどの特殊アタッカーだ。実際ダーくん(ガラルサンダー)の育成はあれがコンセプトになっている。
最速で強力な一撃を放ってさっさと引く。ダーくんが私の力ありきでやってることをあのヘタレドラゴンは単体でやってしまうのだから『てんさいはだ』というのは恐ろしい。
まあとにかくあのヘタレのような強力なドラゴンタイプのアタッカーを入れたとする。
「回せる……かしら?」
今の『つむぎかぜ』と『さかさかぜ』の組み合わせなら回せなくも無い。
ただ『ぼうふうけん』の時のような多大なメリットがあるようには思えないのも事実だ。
「どうもガラル地方で『すばやさ』は重視されてない気がするのよね」
リシウム、クコ、ヤローとガラル地方のジムリーダーと3人戦ってきたわけだが、どうにも速攻アタッカーというのがいない気がする。
リシウムのネギガナイトしかり、ヤローのルンパッパしかり、クコに至ってはパーティ全体がそうだ。
基本的に一発耐えて殴り返す、というのがこのガラルの基本なのだろう。
言ってみればプロレスのような、『見映え』を気にしたスタイル。
故に必要なのが『高火力』と『高耐久』であり、そこに『速度』は必要にならない。ないし、技の出の早さ(優先度)でそこをカバーしてしまうのが基本なのだろう。サイクルを必要としない居座りが基本なのもそれを増長している。
クコが言っていた『あっていない』とはまさにその通りで。
『耐えて殴り返す』が基本のガラルのプロの舞台で、『上から叩いて優位に立つ』が基本の私の戦術は根本的な部分が噛み合っていないのだ。
相手は先手を取られても良いのだ、中途半端な火力は耐えて殴り返して倒す。そうして1対1を交換し続けても6体目を先に倒せば勝ちなのだから。
つまり私に求められるのは『高耐久を上から貫く超高火力』か『相手の高火力を耐え抜いて二度目の攻撃を出せるだけの耐久力』のどちらかになる。
「できなくは……無いでしょうね」
高火力の分かりやすいイメージはまさしくダーくんだろう。
先手で高火力を撃ってすぐに引っ込む。
耐久で言えばガーくん(アーマーガア)が一番イメージに近いだろう。
私の『おおあらし』を纏ってダメージを軽減する。技の直撃さえ避ければ威力は削がれるのだから相対的に耐久力は上がっている。
その生きた見本が実家にいるのだからイメージもしやすいし、やり方を聞くこともできるだろう。
尤もあそこまで理不尽な能力にはならないだろうが……何なのだろう、弱点タイプ半減の上、全ダメージ常時半減って。
ただ両方やろうとするとできなくはないがレギュレーションに引っかかるだろうことは簡単に予想できる。
となるとどっちか片方、或いは個別に仕込むか。
どの道育成プランの練り直しだ。
いや、それ自体は良いのだ。育成なんて常に新しいものを求めて更新し続けるくらいでなければ。
パーティ編成が陳腐化してしまえばあっさり対策されて詰むのがプロの舞台なのだから。
「それにもう一つ、気になることがあるのよね」
ヤローとのバトル中に『思ったより受けるダメージが嵩んだ』『思ったより与えるダメージが低い気がする』そんな誤差のような狂いがあった。
恐らくあれがユウリやクコたちの言っていたものなのだろう。
ガラルのトレーナーの間では『テンション』と呼ばれている。
要するにポケモン自身のやる気、奮起、興奮状態とでも言うのか。
以前にも言ったがガラルのメジャージムは『スタジアム』でバトルを行う。
この『スタジアム』はパワースポットの上に立っており、その影響でバトルに様々な効果をもたらす。
その一つが『テンション』だ。
ポケモンの技の効果で自分の能力を上げるものがあるが、それと似たような効果があり、テンションが高まるほどに全ての能力が上昇していくらしい。
とはいえ技の効果ほど劇的な上昇ではないらしく、最初は誤差程度にしか感じないものらしい。
だが実際にバトルしていればその誤差程度の僅かな差が勝敗に直結することもあるというのは良く分かっているはずだ。
つまりこちらも『テンション』を上昇させる方法が無ければ一方的な不利を強いられることになる。
他にも観客からの『注目度』や『客席全体の盛り上がり』によってもバトル中にポケモンの強化があったり無かったりするらしいのだが、さすがに今回のような3対3のバトルでは見れるようなものではないらしい。
ユウリたちから概念としては教えられているし、実際ガーくんにはそのための育成もしている、のだが本当にあっているのかいまいち分からない。一度も発動していないのだから当然と言えば当然の話。
「どうにかして見れないかしらね」
だがジムチャレンジでそんなもの簡単に見れるはずが……。
「いや待ちなさい、ちょっと待って」
そうだ、思いだした。
確かこのガラルに『観客を味方につけるのが抜群に上手いトレーナー』がいて、しかもそのトレーナーがジムチャレンジに参加していたはずだ。
「元ガラルリーグチャンピオン」
無敵、無敗、最強。
かつて多くの称号を冠し、多くのトレーナーの尊敬を集め、ガラル中を熱狂させたカリスマチャンピオン。
「ダンデ選手」
或いは彼ならば、その可能性は十分にあった。
* * *
「はいはーい? こちらユウゼンちゃんの電話ですよぉ?」
ターフタウンは言ってはなんだが田舎町だ。
そのため夜になると一気に静けさを増し、夜闇が一帯を包んで一気に視界も悪くなる。
要注目のチャレンジャーのジムチャレンジを見届け、何だかんだとその後のチャレンジャーのバトルまで見ていたらすっかり遅くなってしまっていた。
夜の間はアーマーガアタクシーもやっていないので残念ながら自転車を漕いで戻るか、ここで一泊するかの二択。
勿論ユウゼンの選択は後者である。この暗闇の中を自転車漕いでエンジンシティまで戻りそこから列車に乗ってシュートシティまで……となると帰る頃には日付が変わっているのは目に見えている。
だったら今日はポケモンセンターで一泊して明日の朝にアーマーガアタクシーに乗って帰宅しても大して変わらないだろう。
そんなことを考えながら夜道を歩いているとスマホロトムに着信が入る。
着信相手は……。
「どうかしましたか?
元チャンピオンにして現ガラルポケモンリーグのリーグ委員長ダンデだった。
「はい? また迷子? はあ、いつものですね。ああ、はい、ネズさんと逸れた……はあ、そうですか。え? ワイルドエリア深層で暴走状態のポケモン? バウンティー認定?」
嫌な予感がひしひしとする。
「いやいや、なんで私ですか? え、相手がでんきタイプ? だったらじめんタイプのジムリーダーにでも頼めば……え、不在? 他に仕事? えぇ……いやまあそれは仕方ないのかもしれませんが。それなら委員長がやっても。え、逃げられた? しかも見失った? 探してたら余計に迷った???」
顔を覆いたくなる有様である。
「分かりました……分かりましたから、行きます、行けば良いんですよね。ひとまず委員長を回収しに行きますよぉ。バウンティーの行方はジムトレーナー使って探しておきますからぁ」
通話が切れると同時に頭を抱える。
「えぇ……まーた厄介ごと。トレーナー戦ならともかく野生のポケモン相手だと私って相性すっごい悪いんですけどねぇ」
基本的にユウゼンの能力は情報収集に比重が大きく偏っている。
なのでルールのあるトレーナー戦ならともかく、うるせえ知ったことかさっさと死ね、が基本の野生のポケモンとのバトルは相性が悪いのだ。
誰か強力な助っ人とかいないだろうか。
そんなことを考えながら歩いているとポケモンセンターの入口が見えてくる。
「はぁ……今日はもう後シャワー浴びて寝るだけの予定だったんですけどねぇ」
急過ぎる話だが、マイナージムリーダーはこういう時に良いように使われるのが仕事の一つなのだから仕方ない。
溜め息をつきながらポケモンセンターをそのまま通り過ぎようとして。
センターの自動扉が開き、一人の少女が姿を見せる。
「……あ」
その少女の姿を見やり、その顔を見て、それが昼に見た顔だと思いだし。
「い」
目を丸く開き。
―――誰か強力な助っ人とかいないだろうか。
先ほどの自分の思考が頭の中で反芻され。
「いたああああああああああ!!!!?」
飛び出した絶叫に、少女が驚いた表情でこちらを見た。
というわけでジムリーダー線が終わったら次は野生のボスバトルだ。
ところでガラル編で実際に出す予定はないけど、もし出してたらこんなことになってたよ、的ディーディーくんのデータがこちら。
【名前】ディーディー
【種族】サザンドラ/擬人種
【レベル】120
【タイプ】あく/ドラゴン
【性格】おくびょう(中二病ヘタレドラゴン)
【特性】きけんよち→てんさいはだ(基礎ポイントの効果が2倍になる(内部処理:基礎ポイント2でステータスが1あがる→合計255増やせる))
【持ち物】こだわりメガネ
【技】あくのはどう/りゅうせいぐん/ラスターカノン/だいちのちから
【裏特性】『†超☆暗黒魔王竜絶咆哮†』或いは『ヘタレのとおぼえ』
相手を倒した時、自分の『テンション値』を最大まで上昇する。
特性『きけんよち』が発動した時、『テンション値』を0にして『すばやさ』ランクを最大まで上昇させ、特性が変わる。
特性『きけんよち』が発動した時、技を繰り出した時に味方と交代する。
【技能】『†究極神魔滅殺破†』或いは『ヘタレブラスター』
自分と同じタイプの攻撃技を繰り出す時、タイプ一致補正を2倍にし、アピール度の上昇を2倍にする。
【能力】『†魔神顕現三位一体†』或いは『みつくびりゅう』
自分の技の威力を半分にするが、技を三回発動する。
【備考】ネーミングセンスがアレ。
因みに『みつくびりゅう』の効果で『りゅうせいぐん』使うとC-2が3回かかるけど、基本トレーナーがシキちゃんなので……(ドールズネタ
性格は臆病なグリームニルくん(グラブル感)みたいなやつ。
ソラちゃんも散々言ってたけど、それはそれとして『てんさいはだ』(6V専用オリ特性)の示す通り6V個体なのでマジモンの天才ではある。性格以外は優秀なやつ。性格以外は。
因みに裏特性等の名前が二つあるのは前者が本人のセンスで、後者がディーディーくんのヘタレドラゴンぶりを知ってるシキちゃんやハルトくんが『これだよねー』って半笑いしながらつけたやつ。
Q.ところでシステム的にステータスに『漢字』は使われない仕様のはずなんだが、なんでキミ当然のように漢字使ってるの?
A.中二病だから(答えになっていない答え
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ジムリーダーは見た! ガラルの空に浮かぶ謎の飛行物体の正体とは?!①
ポケモンセンターは基本ポケモンの回復が主な業務だが、それとは別にトレーナーの宿泊も承っている。
だがそれはあくまでついでの業務なので基本的に食堂とベッドとシャワーのある個室以外何も用意されていない。
まあそれで十分だろと言えば十分なのだが、要するに夜にちょっと小腹が空いたからだとか喉が渇いてとかいった時に売店のようなものが無いので近くのフレンドリーショップまで買いに行く必要があるのだ。
フレンドリーショップと言っても普段トレーナーがお世話になるような『きずぐすり』や『モンスタボール』などを売っている専用店ではない。あれは売る方も買う方も取り扱いに資格がいるのでそれなりに大きな店にしか売っていない。
そういうのではなく、それこそ食料品や雑貨などの日常的に必要とするちょっとしたものを販売するコンビニエンスを売りとするほうだ。
フレンドリーショップはだいたいどこに行っても24時間営業のありがたい店で、ターフタウンのような自他ともに認める田舎町にもある、というかだいたいポケモンセンターの近くにはフレンドリーショップが必ず建てられている。センターに泊まるトレーナーたちの需要を狙ってだろう。
以前にも言ったがポケモントレーナーとは体力勝負なところがあるので、センターの安かろうの食事では足りなくてつい足が伸びてしまう、なんてことも多いのだ。
私もまあ人のことを言える
出た瞬間の絶叫である。
人の顔を見て大声を上げる変な女にこちらも思わず驚いてしまう。
「何よ」
それからすぐにつっけんどんな対応をしてしまったが悪くないと思う。
眉根を寄るのを自覚しながらも鋭い視線で目の前の女を見つめる。
年の頃は十代半ばといったところ。恐らくリシウムと同年代くらいだろうな、という印象。
目を白黒させながらこちらを見つめながら、えーと、だの、あー、だのと意味の無い言葉を口から漏らすだけのその女をもう一度一瞥し、いつまでも待ってやる義理は無いとその横を通り過ぎようとして。
「ちょ、ちょーっと待ったぁぁぁぁ!!!」
がし、と腕を掴まれる。
「だから何よ、ていうかアンタ誰よ」
「いやいや、すみませんねぇ。こっちも気が動転してまして、あ、私ユウゼンって言います」
ユウゼンと名乗る女が先ほどまでと一転してニコニコと胡散臭い笑みを浮かべリーグカード*1を差し出してくる。
暗闇で見え辛かったがセンターから差し込む光にかざしてなんとか見えた部分の情報を読み取ると。
「ジムリーダー?」
「はい、このガラル地方の『でんき』タイプのジムリーダーとかやってます。よろしくですぅ」
変な女かと思ったらジムリーダーだったらしい。
いや、ジムリーダーだろうと人の顔見ていきなり絶叫する変な女には違いないのだが。
「それで、何の用よ」
「ソラ選手ですよね? ちょっとお話聞いてもらって良いですかぁ?」
「……アンタとは初対面だったと思うんだけど」
「マイナージム繋がりでリシウムさんから話は聞いてますから、ジムリーダーの後継になって欲しいって」
「ああ、そういう……それで?」
「あ、オッケーです? なら少しそこのポケモンセンターで話ましょうか?」
「それ長くなる?」
「そうですねぇ……まあ多少?」
「先にフレンドリーショップ行ってきていいかしら、喉が渇いたから何か買いたいのよ」
「それでしたら私が奢りますので、ささ、行きましょうかぁ」
「…………」
もう態度からしてユウゼンの話というのが面倒なことなのは確定しているようなものだ。
そんな私の内心が表情に出ていたのか、ユウゼンがニコリを笑みを浮かべ。
「大丈夫です、ソラさんにも損はさせない話ですからぁ」
私の手を引きながら速足に歩いていくユウゼンに、なんだかもうすで面倒になって嘆息した。
* * *
「あの、私の話ちゃんと聞いてくれてます?」
「ん~、きいへるはよ」
ポケモンセンターの食堂に並ぶテーブルの一つを借りて向かいあって座る。
机の上には先ほどフレンドリーショップ(ユウゼン的にはコンビニ)で買ってきたドリンクが5本にデザート系が山のように。
「くぅ……好きなだけ買ってくれていいですよ、なんて言うんじゃなかったですぅ」
迂闊な発言の結果が机の上の山である。
あらそう、悪いわね。なんて言葉だけで全く悪びれる様子も無く次から次へとレジの上に積み上がっては増していく値段表示にユウゼンの顔が蒼褪めたあたりでソラの暴虐は止まった。
―――あれ完全に狙って嫌がらせされてましたよねぇ。さすがにファーストコンタクトが最悪過ぎました。
後悔先に立たず。飲み物を買いに来たというソラの言葉を信じて、ご機嫌取りに迂闊な発言をしてしまったユウゼンの敗北だった。
「んぐ、んぐ……やっぱ夜に食べるプリンは美味しいわねぇ。生クリームとフルーツたっぷりで犯罪的だわ」
「カロリー」
「トレーナーやってればいくらでも消費されるでしょ」
「体重計」
「さあ、私どれだけ食べても太らないのよね、そういう体質みたい」
「くぅ……くあぁぁぁぁぁぁ」
切ない悲鳴を上げながらユウゼンが机に突っ伏す。
完全なる敗北だった。日頃から体重計を恐れ、カロリーを恐れ、食事に気を遣い、間食を我慢してきた乙女のプライドが砕け散るようなソラの発言に反論する気力すら失っていた。
「もう、そこまで落ち込まなくても……悪かったわよ、これ食べる?」
なんて言いながらユウゼンの財布で買ったはずのシュークリームをさも施しの天使のような笑みを浮かべて差し出してくるソラにぐぬぬ、となりながらも手を伸ばし包装を剥がしもさもさと口に入れる。
「甘い……」
「まあ私が太らないからってアンタもそうかは知らないけど」
「ふぐぅ……良いんですぅ。これは明日からの私へのご褒美……」
口に広がるクリームの甘さにやる気が漲ってきた矢先にソラの鋭い一言に刺され、また崩れ落ちそうになるがどうにかモチベーションを持ち直す。
その間にもソラが机の上にあったスイーツの山を次から次へと食べて行き。
「ふう、ごちそうさま」
「嘘ですよね、あれ本気で全部食べたんですかぁ……」
残った包装を捨ててしまえば後には何も残らなかった。
少なくともユウゼンならあれだけ食べたら三日は何も食べなくてもいいや、と思う程度には量があったはずなのだが。
「食べるのも資質とは言え……これで太らないってじゃあ食べた物は一体どこに消えて……」
世界の謎を見つけてしまったような心地でユウゼンが目を白黒させているとソラがさて、と呟き深く椅子に座り直す。
「じゃ、真面目な話しましょうか。といってもだいたい話は聞いてたけど。要するにワイルドエリアの深域でまたポケモンが暴れているってことで良いのよね?」
「え、えぇ……そうですねぇ。ホントに聞いてたんだ」
あの暴食の最中でもしっかりと話は聞いていたらしい。
拍子を外されたようで眼鏡をかけ直しながら改めてソラへと向き直る。
「ただ正確に言うと『深域でポケモンが暴走している』ですね。もっと細かく言えば『深域』に強力なポケモンが現れたせいで周囲のポケモンが『中間域』まで逃げ出しているようなんですよぉ」
「『深域』なんて元から強力なポケモンの生息地でしょ? そんな場所で他のポケモンが逃げ出すほどに強力なやつって」
「実はちょうどそこに居合わせたリーグ委員長……先代チャンピオンのダンデさんがバトルしたらしいんですが、逃げられたらしいんですよねぇ」
「ダンデ選手ってジムチャレンジ参加中よね? あの人なんでそんなところにいるのよ?」
「いつもの迷子癖ってやつですかねぇ……」
首を傾げるソラだが、ユウゼンにだってあの迷子癖は本気で意味不明だ。
「シキ母さんみたいな人ね」
なんて独り言を呟いていたが、その意味は良く分からない。
もしかしたら似たような人を知っているのかもしれない……あんなのがこの世に二人以上いるとか冗談だと思いたいが。
「それで、現れたポケモンっていうのは分かってるの? バトルしたのよね?」
「あ、はい、なんでもキョダイマックスできるストリンダーらしいですよぉ?」
「ストリンダー……ああ、ガラル地方に多いポケモンなのね」
どうやら知らなかったらしいソラが図鑑アプリを起動し調べている。
ストリンダーはガラル固有のポケモンというわけではないが、他と比べてもガラル地方に多いポケモンではある。
「にしても野生のポケモンがキョダイマックスするのね」
「ワイルドエリアにもパワースポットってありますからねぇ……ダイマックスバンドが無いので意図的にというわけにはいきませんが、時折ガラル粒子の放出が激しくなった時に暴走気味にダイマックスすることはあるんですよねぇ」
そしてそうなると確実に暴れ回るのでそれを沈めるのもジムリーダーの役割というわけである。
「『でんき』『どく』タイプか。まあ『でんき』に関してはどうにでもなるから……多分大丈夫でしょ」
「それは頼りになりますねぇ」
そして見込んだ通りというべきか。『統一パ』なんて作っているんだから弱点タイプに多分何がしか対策くらいあるだろうと思っていたが、まるでなんて事の無いようにどうにでもなる、と言い切るあたり本当に才能の傲慢を感じる。
少なくともユウゼンは『じめん』タイプなんてどうにでもなる、なんて絶対に言えない。
―――ホント、理不尽な世界ですよねぇ。
この世界にユウゼンという存在が生まれて感じ続けてきたことだが、
転生、なんて本当にあるとも思っていなかったがそれでもこの世界がポケモンの世界だと気づいた時、ユウゼンだって高揚を隠しきれなかった。
自分にはこの世界に対する知識があって、自分には未来に起こり得る出来事に対する知識がある。
だからユウゼンは自分はきっと特別になれると思っていた。
いや、実際二十にもならない内からこのガラルのマイナーとはいえジムリーダーであるのだから特別なのは間違い無いだろう。
けれどここはあくまで現実であってゲームの中じゃない。
年を重ねるにつれて理解していく世界の不条理や理不尽。
伝説という化け物に、天才という怪物たち。
ユウゼンが完全に色々諦めてしまったのは間違いなく去年のあのチャンピオン戦前日の出来事があったからだろう。
ムゲンダイナという
ザシアンという
ザマゼンタという
そしてザシアンを従え、ザマゼンタを従え、ムゲンダイナという超越存在を討った英雄という名の怪物。
ユウゼンの描いていたゲームの世界という色眼鏡を破壊し尽くすには衝撃的過ぎるほどの出来事だった。
自分は主人公ではない、そんなことは分かっていた。原作に描かれることすら無かったモブ、或いは存在しなかったはずのモブ以下でしかないと思ってはいた。
だからどうした、と思っていた。寧ろそこから成りあがるからこそ物語は面白くなるのだと、そう思っていた。
そうして。
ここは現実なのだと、叩きつけられた。
* * *
「まあそれも別に悪くないんですけどねぇ」
この世界は現実だ。
どうしようもなく不条理で。
仕方無いくらいに理不尽で。
笑えるくらいに残酷で。
―――だからこそ、楽しいのだ。
「私は『プレイヤー』じゃないですけどぉ」
ゲームにおける敵とは全てプレイヤーが勝てるように作られている。
けれどユウゼンはプレイヤーではない。
『必勝』の運命なんてものは持たないし、これまでだって何度も負けて、負けて、負け続けた。
だからこそマイナーリーグに甘んじている。
だが、それならそれで良いのだ。
「それならそれで、私は『ポケモン』のファンとして楽しむだけですよぉ」
実機だって大会が開かれれば世界中から数えきれないほどの『プレイヤー』がネットという繋がりを辿って同じ戦いの場に集まってきていた。
『プレイヤー』同士の戦いなのだからそこに贔屓は無い。勝つことも負けることもどちらも十分にあり得て。その中で少しでも多く勝ちを得ようと多くの人が戦った。
この世界は理不尽だ。
この世界は不条理だ。
この世界は残酷だ。
それでもポケモンバトルという競技の中では、その理不尽は、不条理は、残酷は全てレギュレーションというルールの下に正される。
伝説という名の化け物たちも。
天才という名の怪物たちも。
全てやり方次第で倒すことのできる相手となり果てるのだ。
だからどれだけ理不尽だろうと、どれだけ不条理だろうと、どれだけ残酷だろうとユウゼンはポケモンバトルが好きだ。ポケモンが好きで、バトルが好きで。
「なので私は野生バトルはちょっとノーサンキューですねぇ」
ルール無用なのがちょっと無理。
「ま、その辺はソラさんにお願いしましょうかねぇ」
ユウゼンは野生バトルとかそういう野蛮なのはちょっと遠慮したいので。
「というわけでまずはダンデさんでも探しに行きましょうか」
ソラに明日からの協力を約束してもらったところでポケモンセンターを出てそのまま街の外を目指して歩く。
迷子癖のあるリーグ委員長対策に常にGPSで位置情報はこちらに送られてきているので見失うことはまあ無いだろうが。
「あの……あの人さっきワイルドエリアから電話かけてきてましたよね?」
あれからソラとの会話があったとは言え一時間も経っていないはずなのだが。
「なんでハロンタウンから位置情報が発信されてるんですか???」
ワイルドエリアからハロンタウンに行くまでには、一度ワイルドエリア駅に行き、そこから列車でブラッシータウンへ、ブラッシータウンからハロンタウンへと行く必要ある。
ガラルでは基本的にはポケモンで『そらをとぶ』ことは禁止されているのだがまあ低空飛行でリザードンで移動したとしても最短二時間くらいはかかるはずなのだが……。
一体どこで一時間の差を埋めてきたのだろう。
「というか私回収しに行くって話でしたよね? なんで動いてるんですか」
嘆息しながらダンデのスマホへと電話をかける。
尚当人曰く、いつの間にかハロンタウンの自宅に戻っており今ひと
実はユウゼンさんはポケモンのゲーム知識を持った地球からの転生者だったんだよ!!!
ナ、ナンダッテー()
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ジムリーダーは見た! ガラルの空に浮かぶ謎の飛行物体の正体とは?!②
「もう、ホント頼みますよ? 何をどうやったらそうなるのか。そもそもなんで勝手に動くんですか」
『いやあ、すまない。実は件の相手をまた見つけてな、追いかけていたはずなんだが』
「それでなんで実家にたどり着くんですか……」
『ははは、オレにも分からん!』
「それ威張って言う事じゃないですぅ……」
溜め息が止まらない。
「それで情報のほうは取れましたか?」
『ああ、
「マジですか……マジですかぁ。それってフリダシに戻ってるのでは」
『だが同じ『でんき』タイプなのは間違いない。というか実を言うと見当がついた』
「おお、さすが委員長。それで?」
『恐らく『アンノウン』だな』
「……それ正体不明ってことでつけられたバウンティーでしたよね」
『ああ、だが関連性を考えると一番それらしいと言える』
「結局何も分かってないってことじゃないですかぁ!」
『ははははは、すまん。とはいえこっちもジムチャレンジで手が離せん。ユウゼンに頼むぜ』
あまりにもお気楽に言われると肩を落としてしまうが、それはそれとしてこれが今のユウゼンの仕事なのだから仕方ない。
「取り合えずこの一件はこっちで引継ぎますんでぇ。委員長はさっさとジムチャレンジ行ったほうが良いんじゃないですかぁ?」
『はは、そうだな。ネズのやつはもう先に進んでるかもしれないからな、オレもその内挑戦するさ』
通話を終えて再度溜め息をつく。
何だかジムリーダーになってからこんなことばっかりだ。
「やや不本意ですがやるしか無いですねぇ……幸い戦力の宛てはできましたし」
ポケモンセンターの一室で、窓から差し込む朝の陽ざしに目を細めながらユウゼンはぐっと伸びをする。
「ま、その前に朝ごはんにしましょうか」
部屋を出る前にもう一度鏡で身だしなみをチェックして、扉を開けた。
* * *
ガラルにはワイルドエリアというポケモンが自然に生きるための環境があるが、それが原因でワイルドエリアは野生のポケモンに関する問題が集まりやすい。
逆に言えばワイルドエリアという地域を周囲から区切ることで問題をそこに集中させたとも言える。
故にワイルドエリア近辺の街では野生のポケモンによる被害が多い。
とはいえこれはガラルに限った話ではなく、どの地方にだって一定数野生のポケモンによる被害というのは存在する。
自然の開発が進み、人の領域が増えるということは『人類がポケモンの領域へと進む』ことなのだからこれはどうしても起こり得る事態だと言える。
故にそういう事態への対処として『ポケモンレンジャー』が存在するわけだが。
「ガラルだともっぱらやばいやつはマイナージムが駆り出されるんですよねぇ……」
「最初に会った時のリシウムもそうだけど、大変ね」
基本的に『ポケモンレンジャー』というのはその地方のポケモン協会が運営する組織だ。
いわゆる『公営』というやつであり、当然と言えば当然ながら組織運営にはどこまで行っても金の問題が付きまとう。
ガラルでは『マイナーリーグジム』の面々を駆り出すことでその辺りをやりくりしているらしい。
「それに『ワイルドエリア』という区切られた世界でナワバリ争いを繰り返しているガラルのポケモンって他地方のポケモンより一際脅威度が高い傾向にあるんですよねぇ」
ガラルでは特異なポケモンが生まれやすい。そういう土壌*1が存在する。
そしてそんな普通じゃないポケモンたちは時に一般トレーナーでは手に負えない怪物となって暴れ回るためプロトレーナークラスの実力が必要とされるわけだ。
そして何より。
「野生のポケモンも時々ですがダイマックスしますからねぇ」
ダイマックス状態のポケモンの危険性は通常のそれよりも跳ね上がる。
だがダイマックスを任意で発動するために必要なダイマックスバンドというのは残念ながらトレーナーなら誰しもが持っている、と言えるほど普及していない貴重品なのだ。
「だからこちらもダイマックスが使えるリーグトレーナーに要請がかかるってわけですねぇ」
「確かに……ダイマックス状態の相手にダイマックス無しで突っ込むのは中々難易度が高いわね」
これがトレーナー同士のバトルならば案外ダイマックスしたポケモンに対してダイマックス無しでも立ち向かうことは可能だ。
だが野生のポケモンとなると話が変わって来る。
ダイマックス技というのはとにかく攻撃の規模が大きい。言い換えれば射程や範囲が広く、威力も高い。
さらに技の発動の仕方が間接的な物も多く技に技をぶつけて迎撃する、ということが難しいのだ。
ダイマックスしていないポケモンを対象にダイマックス技が放たれると距離が無ければトレーナーまで一緒に巻き込まれることになりかねず、何よりトレーナー目掛けて放たれた場合ポケモンが『まもる』ことができない。
『まもる』などの防護技を破壊して飛んでくる余波だけで人間は大怪我を負うし、最悪死傷することもある。
故にこちらもダイマックス状態のポケモンを向かわせることでカバーできる範囲を広げる必要が出てくる。
最悪トレーナーを狙われても『ダイウォール』*2で防ぐことができる。
「まあ最悪トレーナーくらいならこっちで守るから大丈夫よ」
トレーナー同士のバトルでやったら基本反則待ったなしなのでやらないが、私の『嵐』を防護に回せばダイマックス技の余波くらいなら防げるだろう。
余談だが異能者の技能はポケモンのように取得可能な技ならばいくらでも覚えるだけなら覚えれる、みたいな便利な体質はしていない。
ポケモンの場合、その中でバトルに使用できるくらい咄嗟に出てくる数が四つが限界とされているが、異能者の場合、作り上げた技のその質と数によって左右される。
人間に対して妙な表現になるかもしれないが、異能でどれだけのことができるかは主に『スペック』と『リソース』と『コスト』で決定する。
『スペック』は性能、つまり異能者本人の異能に対する熟練度や異能そのものの強度。
『リソース』は異能者の持つ力の総量……異能という不可思議な力を使用するために消耗するエネルギーのようなものだと思えば良い。
『コスト』はその異能を発動するためにどれだけの『リソース』を消耗するか。
そこに異能自体の『性質』を合わせて異能者の技能は作られる。
私の場合ならば『空』や『嵐』、『星』のような性質があるが故にそれに関連する能力が使えるし、作れる。
要するにポケモンのタイプのようなものだ。私の場合それが『ひこう』と『ドラゴン』を得意としている。
だからポケモンの使う『ひこう』タイプや『ドラゴン』タイプの技に似たようなことができる。
『ぼうふうけん』の場合、私の持つ『リソース』の大半を使った大技だったと言っていい。*3
その『ぼうふうけん』を使うことを止めたためリソースはかなり浮いている。だから今は他の技能を試行錯誤中なのだ。
ダイマックス技を防ぐことは中々に難易度は高いが、リソースの半分も使うことは無いだろうから問題無い。
そんなことを語ればユウゼンが顔を引きつらせる。
「えぇ……そこまで直接的な干渉って滅茶苦茶容量食うはずなのにそれで半分も使わないって……やっぱ最大値が高すぎですよねぇ」
ぼそぼそと喋るユウゼンの隣を歩いているとようやく目的地が見えてくる。
「ユウゼン、あそこが目的の『深域』で良いのよね?」
「え……あ、はい。あそこですねぇ。ほら、リーグ委員会のスタッフが立ってませんし」
『中間域』と『深域』の境目というのは明確ではない。
その地域ごとのポケモンの強さで大よその目安として『浅域』『中間域』『深域』という区切りを人間側で勝手に作っているだけで実際のところここからが『深域』だという目印のようなものは無いのだ。
だからその目印を作るためにリーグスタッフが常駐するようにしているのだが現在『深域』でポケモンが暴走して『中間域』にまで大量のポケモンが抜け出しているためこの周囲のリーグスタッフは避難しているらしい。
とはいえそうなると『中間域』と『深域』の境界が分からなくなるためあちらこちらにそれを示すための目印が置いてあった。
「杭突き立てたり、旗を立てたり、ビーコン埋めたり、単純にロープを巻いたり色々やってるわね」
「まあどれか一つにしてうっかりポケモンに踏み倒されて分からなくなりました、とかなったらやばいですからねぇ」
もっともワイルドエリアで一部ポケモンの暴走が起こっているという情報は素早く周囲に拡散されているのでこんな危険地帯にやってくる人間が他にいるとは思えないが。
そんなことを告げればユウゼンが曖昧な笑みを浮かべながら嘆息した。
「いるんですよねぇ……今ならリーグスタッフがいないって思って密猟に来る馬鹿が」
本来『中間域』くらいまでならともかく『深域』ともなると相当に高レベルのトレーナーでないと生きて戻ることすら難しくなる危険地帯のため、踏み入るにはポケモン協会、或いはリーグ委員会からの許可が必要になる。
ジムリーダー等はリーグ委員会直下の組織として代理でそれを許可できる権限などもあるのだが、まあ逆に言えば『最低でも』ジムリーダーに認められるだけの実力が無いと足を踏み入れることはできない魔境なのだ。
一部のポケモンハンターによる密猟問題は割とどの地方でも存在するが、ガラルの場合
逆にいえばより希少価値の高いポケモンが捕獲しやすいとも言える。そのせいで他の地方より密猟者が多いらしい。
それだけでも問題なのだが、密猟者がより希少なポケモンを求めて『深域』に入り込むせいで『深域』の環境が乱されることもあるし、入り込んだは良いが生きて帰って来れなかったなんてことも良くあるらしい。
何より問題なのは下手をすると『深域』のポケモンが『人の味』を覚えることだ。
人の世界は人を害す存在を許容しないし、人を殺す存在を確実に抹消する。
それは人であろうがポケモンであろうが例外は無い。
人を食うことを覚えたポケモンはどんなことがあろうと確実に殺害される。
どうあってもそれは人と共存できないからこそ。
例えそれが人の業によって生まれた存在だとしても、だ。
故に密猟者というのは厄介なのだ。
ただでさえ無駄に問題を引き起こす癖に下手をすれば『災厄』を生み出す。
「特に『深域』に来る密猟者って実力もあるやつが多いのが厄介なんですよね」
『深域』という魔境に来るだけあってそれなりに実力が伴う存在もいるらしい。
だからこそ生半可なトレーナーやポケモン保護がメインのポケモンレンジャーでは任せられない。
それこそ、バトルを専門とするジムリーダーのような実力者が必要とされる。
「この状況でいると思う?」
「経験則で言うと四割くらいの確率でいそうですねぇ」
「それはまた命知らずというべきかなんというか」
因みに誤解されがちだがポケモンハンター自体はポケモン協会直下……つまり公営だ。
正確にはハンター協会という公営組織があって、ハンターライセンス……つまり狩猟許可証を持った人、つまりハンターを統括している。
密猟者が目立つせいでポケモンハンターという職自体が悪と見られがちだが事実は全く異なり、ポケモンハンターというには環境保全にかなり重要な役割を持っている。
例えばポケモンレンジャーなどによって一時的に異常発生したポケモンなどを捕獲して別の生息地にふるい分けるようにして分散して移動させたり、環境を乱すような異常なポケモンを捕獲、移送による『駆除』をして環境を保ったり、『観測』と『保管』を目的とするポケモンレンジャーに対して、『捕獲』『狩猟』『駆除』を手段として『保全』を目的とするポケモンハンターは実はかなり近しい関係にある。
或いは一部のポケモンから得られる『素材』の入手も彼らの役割だ。
本来は決められたポケモンだけを『狩猟』し、生態系のバランスを保ちながら人の世界に自然の利をもたらすのが役割なのだが、一部の行き過ぎたポケモンハンターたちが本来必要でない『狩猟』を行い、違法に売買を行う密猟者となるのだ。
当然バレたらライセンスはく奪からの逮捕待ったなしなのだが、ハンター協会自体は公営でもそこに所属するポケモンハンターたちは民間人なのでその全員を管理しきれているわけでも無いし、何より本来協会を通さない素材等の売買は違法のはずなのだが、裏での取引というものが後を絶たず密猟者というのはどれだけ取り締まっても居なくならない。
「正直死んでるんじゃない?」
「まあそれならそれで自業自得とも言えなくはないんですが、それならそれで死体は持ち帰らないといけないのが辛いところですねぇ」
「まあ……食べられたらやばいものね」
大半の人間は知らないだろうが『ポケモンは人を食べることができる』のだ。
大半の人間どころか大半のポケモンすら知らないだろう。
基本的にポケモンは人類の隣人だ。
心を持ち、心を通わせ、言葉は躱せずとも意思を通じ合うことができる。
けれど同時にポケモンは環境に適応する生物だ。
『きのみ』などをポケモンに与えるとだいたいどんなポケモンでも好き嫌いはあれど食べることができるように、ポケモンは本来の食性に加えて本来食べることができないようなものでも食べて、それに合わせて自身を変質させることができる。
つまり人間だって食べようと思えば食べれるのだ。
そして人間を食べてその味を覚えたポケモンは
人食いの怪物は人の世界の最大の禁忌である。
何より普段街を歩けばあちこちで見かける人類の隣人が。
自分の最愛の家族が、ペットが、仲間が、友人が。
本当は自分を『食べる』ことができる怪物などという事実は、決して知られてはならないのだ。
正直ここまで書く必要あったかなあ、って思ったけどまあでも言っちゃなんだけど『この世界を現実』として見るなら獣が人を食うことだってあるんだよね。
つかアニポケとかでも食うような描写こそないけど、普通に殺しにはかかってるし。
つか図鑑とかちょいちょいポケモン世界の闇が書かれてたりするし、まあこういうシビアなのもあり得るよね、ということで。
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ジムリーダーは見た! ガラルの空に浮かぶ謎の飛行物体の正体とは?!③
『ミロカロ湖』の北部をさらに東へと進んでいくと『深域』の一つへと突入することになる。
この辺りは『エンジンリバーサイド』にほど近く、エンジンシティからナックルシティへ移動するために『中間域』を通る必要があるため実はそれなりに交通があったりするのだが、現在は人一人いないがらんとした様相を見せていた。
まああちらこちらで『深域』で暮らしているような強力なポケモンが気が立った状態で暴れ回っているのだから並のトレーナーなら命惜しさにそうするだろうことは当然の選択だった。
「これ、いるわね、確実に」
「ですねぇ……」
何がと言われれば、恐らく件のキョダイマックスしたというストリンダーが。
何故かと言われれば非常に分かりやすく『空の色がおかしい』。
『中間域』のあたりまでは普通に晴れていたはずの空が『深域』から少し進んだだけで暗雲に包まれている。
先日自ら試合中に使用したから良く分かる。
これはポケモンがダイマックスした時に起こる現象だ。
つまりこの先に『ダイマックス』しただろうポケモンがいて、そんなポケモンから逃げ出すように他のポケモンたちと何度かすれ違う。
野生のポケモン……それも『深域』に暮らす強者たちがこちらに脇目もふらず逃げていく様を見ればもう何がいるかなんて決まりきっていた。
「山の麓近いからか、岩が多いわね」
「気を付けてくださいね、空があの調子ですし視界が悪いですからぁ」
少し遠くを見ればワイルドエリアを隔てるように山脈が見える。
そこから転がり落ちてきたのか私たちの三倍も四倍もありそうな高さの岩がそこら中に転がっていて、陽が差し込まない上空も合わせ見通しは非常に悪い。
岩の反対側が見えない……どころか巨大過ぎて距離を置かないと上から見ることすらできないので迂闊に進んでいると目の前にストリンダーがいた、なんて展開も起こり得る。
「ストリンダーはキョダイマックスすると姿勢が低いですからねぇ……見えなかった、なんて普通に起こりそうで怖いですぅ」
「まあさすがに音で分かるとは思う、けど」
ぺた、と頬に落ちてきた何かに言葉が途切れる。
手をやり拭えば何かの液体が。
やがてぽつり、ぽつり、と上から降り注いでくる雫に思わず上を向きかけて……。
「雨?」
「っ!!!! ユウゼン!!!」
咄嗟に突き出した手から風が吹き荒れて空から落ちてきた
同時にじくじくと液体に触れた指先と先ほどまでそれが付着していた頬に痛みが走る。
「雨、じゃない! 多分これ……」
空の色のせいで一瞬気づくのが遅れた、だがスマホを取り出し照らしてやればそれが濃い紫色をしているのが分かる。
少し遅れてユウゼンもそれに気づき、すぐさま付着した液体を拭う。
「毒!! 毒ですよこれぇ。私としたことがぬかりました、ストリンダーだって分かってたのに」
ここに来る前にポケモン図鑑アプリでストリンダーのことを調べたのだ。
特にキョダイマックス状態の時の説明として体内に大量の毒液を貯め込んでおり、動くたびに毒の汗が飛び散り、雨のように降って来るという説明があったのを思い出す。
「ごめん、こっちもぬかったわ」
初めてのポケモンだった故に気づくのが遅れた、というのは言い訳にならないだろう。もしあと少し気づくのが遅れて毒液を全身に浴びていればすぐさま撤退しなければ命に係わるほどの症状が起きていたかもしれないのだから。
動揺する心中を落ち着かせるように胸を……心臓のあたりをきゅっと掴む。
服に皺が寄るがそんなことを気にしている場合では無かった。
吹き荒れる風をドーム状にして上から降り注ぐ毒液は弾き飛ばしているが、どんどんと降り注いでくる毒液が周囲を濡らし溜まり始めている。
「ユウゼン、この毒は気化するの?」
「
触れるのもアウトだが、そもそも周囲にあること自体が不味い。となるともう風圧で吹っ飛ばすしかない。
「っ、この雨いつまで続くのよ!」
「体内に100万リットル貯め込んだ毒液ですよぉ!? キョダイマックス状態が解除される……ダイマックスパワーが切れるまで終わりませんよ!」
何より厄介なのはこれだけ雨と降り注ぐ毒液があるというのに、肝心の本体の姿が影も形も無い。どころか動き回る
キョダイマックスストリンダーの全長は図鑑説明によれば大よそ24メートル超。
それだけの巨体が動いているのにその音すら聞こえないほど遠くに本体がいて、なのにここまで毒液が飛散してくるのだ。
「本体を探して叩かないとどうにもならないわね」
最早『どくびし』ならぬ『どくのあめ』状態である。
ポケモンを出した途端に『どく』状態にされそうな勢いだが、かといってここで引けるかと言われれば、だ。
「二人で来たのは正解だったわね……もう二、三人いたらさすがに守り切れなかったわよこれ」
「むしろチドリかクララ呼んで来れば良かったですぅ! 『はがね』タイプか『どく』タイプいないと本気でどうにもならないんですけどぉ!?」
今この『どくのあめ』と地面に溜まった『どくぬま』をどうにかする方法はある。
使う気は無かったが『ぼうふうけん』で『おおあらし』を引き起こし根こそぎ吹き飛ばしてしまえば良い。
常に降り注ぐ雨と吹き荒れる風が毒を薄め、吹き飛ばし、場を清めてくれる。
ただそれをやるには今使える能力をいくつか消す必要があるので、調整するための時間が必要になる。
ゲームのシステムみたいにそう簡単にスキルの付け替えができるわけではないのだ異能者というのは。
そしてその間風が起こせなくなる、つまりこの雨を防ぐ手段が無くなるわけだ。
「ムーくん……はダメね、そのまま爆発しそう。ならガーくん?」
ムーくんを出して全部蒸発させれば、とも思ったが蒸発して気化した毒が誘爆しそうなので却下。
となるとガーくん……だがガーくんの場合この雨を吹き飛ばす手段が。
「雨、雨か……よし、こっちで行きましょう」
一瞬考え、それから腰のホルスターから二つのボールを取り出す。
「来て、ムーくん。それからキューちゃん」
投げたボールから巨体のエアームドが飛び出す。
先ほども言った通り、ムーくん単体だと誘爆しそうで怖いので却下だったのだが。
「はーい! 久々に出番ですね、トレーナーさま!」
もう一体……というか一人というか、キューちゃんを出せば話は変わる。
“あめふらし”
キューちゃんの特性により出てくると同時に雨が降り出し始める。
ざあざあと降り注ぐ雨が疑似的な『しめりけ』のようになっていて、これだけ降っていれば引火も誘爆も大丈夫だろう。
「キューちゃん、適度に『あまごい』しながら天候を維持してて」
「はーい! 分かりました」
「ムーくんは私たちの上でこの『どくのあめ』を防いで」
「キシャァ!」
こちらの指示に従って二匹が動き出すと一端風の防御を解除する。
「あのソラさん? 風、消えちゃいましたけど大丈夫なんですか?」
「ちょっと待ってて、今作り変えてるから」
「……は?」
頭の中で必要なものをイメージしながら感覚で強い強い嵐を組み上げていく。
大きく息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。
心の中で、撃鉄を落とす。
“ ぼ う ふ う け ん ”
直後、私たちを中心として巨大な嵐が巻き起こった。
* * *
「いやいやいや? え? これ、こんな、嘘ですよね!? こんなのもう異能なんてレベルじゃ……」
荒れ狂う嵐を前にユウゼンが戸惑ったように呟く。
ユウゼンの能力はあらゆるものを『数値化』する。
実機というあらゆるものが『数値』で表されるゲームを通していたプレイヤーたるユウゼンにとってポケモンとは『数値』で表すことができるはずのもので、この世界で生まれたユウゼンは気づけばそれを自らの能力としていた。
正確に言えばそれは『異能』とはまた少し違う力であることをユウゼンは気づいている。
あらゆるものを『数値化』できるが故に、『異能』と自分の力が少しだけ違うことを理解できた。
ただそれを具体的に示すことができないのはこの能力が『ユウゼンの認識』に寄って表されるが故でもある。
例えばポケモンの技のエネルギー値を表すのに『PP(パワーポイント)』という実機にもあった概念を当てはめる。
実機のように技ごとに何回まで使えるといった概念ではなく現実においては『〇〇タイプのPPを××保有している』という風に表記され、技ごとに『消費PP』のようなものがあって技を出すごとに『PP総量』が減少していき、時間経過で回復していく様がユウゼンには見える。
これを異能者に当てはめると今度は例えるなら異能で消費しているのは『MP』といった風に表記されるわけだがこれが『メンタルポイント(精神値)』になるのか『マジックポイント(魔法値)』になるのかはユウゼンには理解できない概念となる。
そしてユウゼン自身が使用する力で消費するものは例えると『SP』と表記される。
この時点でユウゼンは自分の使用している力が異能とはまた異なるものであると理解はできるのだが、だったらこの『SP』は何を示しているのか……と言われると首を傾げるわけだ。
そして発動する効果自体は『異能』と何が違うのか、と言われるとまた首を傾げる。
どちらも普通の人にはできない、感じられない力であり……結局普通じゃない『異なる能力』という区分で見れば『異能』であることには違いないのだから。
「でも、どっちでも無い、ですよね」
試合を見た時から気になっていたのだがソラの能力は一見すると『異能』にしか見えないのだが消費している力は異能のそれではない。
だったら何なのかと言われるとユウゼンにも分からないのだが……なんというか見たことも無い言語で書かれていると言えば一番的確だろうか、とにかくユウゼンには理解のできない表記がされている*1。
さらに言えば今展開されているこの嵐……こんなのは最早異能のレベルに留まらない。
確かにぱっと見ただけならば同じようなことができる異能もあるかもしれないが、全てを『数値化』できるユウゼンには分かる。
今行われているのは『世界の書き換え』だ。
異能とは本来そこまで超常的なものではない。
結果だけ見れば超常の産物としか言い様が無いのだが、原理としては『世界の偽装』だ。
例えば『さかさま』なんて異能があったとして、それは『プラス』を『マイナス』に、『マイナス』を『プラス』に偽装しているだけなのだ。上から下に働く重力という力に対して『上』と『下』を入れ換えて偽装する、そうすることで『空に向かって落ちていく』という現象が起きる。『上昇』と『下降』を入れ換えて偽装する、そうすることで『下降するはずの効果で上昇が起こる』し『上昇するはずの効果で下降が起こる』。*2
つまりやってることが例え『宙に浮かび上がる』ような結果だろうと、法則自体は『物体は重力に引かれて上から下に落ちる』という物理的法則が使われている。
だが『世界の書き換え』とはつまり『法則』そのものの書き換えだ。
本来風一つ起こっていなかったはずの場所に、嵐の気配すら無かった場所に『自分を中心として嵐が引き起こされる』という法則を上から貼り付けている。
「こんなのアリですかぁ?!」
チートもいいところだ、もしこの嵐をポケモンバトルに持ち込めばそれは『どうやっても解除できない』彼女だけのフィールドが出来上がるのだから。*3
異能でも同じようなことを起こせるがあちらはどちらかといえばポケモンの技や特性に近い。
つまり後出しで上書きできる、一部の天候のように変更するのに特定の能力を必要とするものもあるがそれでも変更する手段はある。
だがこの嵐は無理だ、何せ『世界がそうある』ように上書きしているのだ。つまりソラを中心として嵐が巻き起こることが今の世界の理となっているのだから。
「何者ですか、本当に」
ユウゼンのような転生者ではなく、この世界特有の異能者という存在でもない。
サイキッカーたちのような超能力者でもなく、これではまるで……。
―――カミサマみたいな。
喉元まで出かかったその言葉をぐっとこらえ飲みこむ。
同時に思いだす。
過去に似たような存在を見たことがあったことを。
「……ムゲンダイナ」
チャンピオンユウリの所有する伝説のポケモン。
公式試合でも何度となく使用されたが故に当然ユウゼンも見たことがある。
ボールから解放された瞬間、
ソラのやっていることはつまり、あれと同類だった。
「えぇ……それホントに人間なんですか」
才能なんて言葉じゃ片付かない理不尽の権化を前にして、思わず顔が引きつった。
書いたの前作だったかもしれないけど基本的にソラちゃんみたいな『超越種』の能力は『世界の書き換え』によって起こっているのに対して異能は『世界の偽装・錯覚』によって法則を誤魔化してるだけなので絶対的な優位性があります。
システム的に言えばソラちゃんの『おおあらし』を解除するには同じ種類の能力……つまり超越種の能力が必要ですがこれができるのは基本的にホウエンの3匹だけですね。
他の超越種は干渉能力自体は勝っても特化の方向性が違うので。
因みにザシアンだけはこの手の能力をぶった切れるので書き換えはできないけど無効化はできる。
ムゲンダイナは実は同じ『天候』干渉枠なんだが、かなりの特殊天候で基本的に他の天候と重複するので無効化はできないが相乗りはできる。
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ジムリーダーは見た! ガラルの空に浮かぶ謎の飛行物体の正体とは?!④
バウンティモンスターとなったポケモン……ストリンダーは悲劇から誕生した存在だった。
それは本を正せば数年前、当時まだ新人だったトレーナーが奇跡のような偶然でゲットした色違いのエレズンだった。
色違い、いわゆる特異個体の一種として認識されており、通常の種とは体色が異なることから見た目からして分かりやすく、けれどその希少性の高さから滅多にお目にかかれるものではない。
そんなレア個体をゲットしたトレーナーが自身の運に浮かれながらも立派に育て上げ、やがてエレズンはストリンダーへと進化する。
そしてトレーナーの頭から新人という言葉が取れる頃。
一角のトレーナーとして頭角を現していたトレーナーはついにこのガラルにおいてプロトレーナーとして必須のアイテム……ダイマックスバンドを手に入れる。
手に入れたなら使ってみたくなるのが人の性というものだろう、だがダイマックスというのはどこでもできるわけではない。人の領域でそれができるのはスタジアムくらいであり、スタジアムでバトルをする時はすでに本番……どこかで使い勝手を試したい、と思うのはトレーナーとして当然のことだった。
だったらどうするのか。
その発想に至ったのは、まあ仕方のないことだったのかもしれない。
実際のところ、同じ発想でワイルドエリアで時々現れるダイマックスポケモンに同じくダイマックスで戦うトレーナーの姿というのはそれなりにいるのだ。
だからそのトレーナーの考えは決して間違いではなかった、はずだった。
たった一つ。
ストリンダー本人すら無自覚だった『才能』こそが悲劇の原因となった。
* * *
荒れ狂う『おおあらし』によってひとまず降り注ぐ毒の雨を凌ぎなら、さてここからどうするか、と考える。
「ユウゼン、そっちはストリンダーが確認できる?」
「見えません、けどこの毒の雨は間違いなくストリンダーの体液ですぅ! つまり近くにいるのは間違いないはず……」
未だに毒の雨は散発的に降り注いでいる。
つまりこの雨の届く範囲内にキョダイマックスしたストリンダーが存在するということなのだが、影すら見えない、どころか音すら聞こえないというのはまだ距離があるということだろうか。
「どうする? 一旦引くというのも選択肢だと思うけど」
いきなりの予想外の状況。
なんとか立て直せたから良かったが、それでもこの状況は想定されていなかったのは事実だ。
野生環境でのバトルというのは一つのミスが命取りになる可能性を孕む、いきなり想定外の状況に陥った以上一度引いて態勢を立て直す、というのも決して間違いではない。いや寧ろ正着と言える。
ユウゼンも先ほど口走っていたが、『どく』タイプや『はがね』タイプなどこの環境をものともしないポケモンを従えたジムリーダーを連れてくるのも正解の一つだろう。
ただ。
「いえ、行かないと不味いですぅ」
行きたくない、と本心では思っている様子で片手で顔を覆うユウゼンがそれでも首を振る。
「この『深域』はエンジンシティに近すぎますぅ……この状況で野放図にするにはあまりにもリスクが高いんですよぉ」
そう言われて頭の中で地図を広げてみれば、確かにこの『深域』からエンジンシティまではかなり近い。
勿論100メートル200メートルという話ではないが、人の足でも1時間かからない程度……つまり全長20メートルを超す巨大ポケモンが真っすぐ突っ込んで来ればあっという間の距離でしかない。
特にこの辺りは道を遮る川も無ければ迂回を強要する湖も無い。山は寧ろ向こう側だし『深域』からエンジンシティまではなだらかな草原が広がるだけで万一ストリンダーが突っ込んできた場合にその動きを止めるものが何も無いのだ。
「つまり、進むしかないのね、この毒の雨の中をかき分けて」
「そうなりますぅ……せめてこの雨さえなんとかなればポケモンたちで探すこともできるんですが……いや、待ってくださいねぇ」
自ら語りながら何かに気づいたようにユウゼンは急ぎ腰のホルスターから一番手前のボールを一つ取り出し。
「おいで、ピカさま」
「ピカピーカ!」
投げたボールから飛び出してきたのは一般的にも良く知られているポケモン……ピカチュウだった。
すたっ、と軽い着地を決めたピカチュウがすぐに周囲をきょろきょろと見渡して状況を確認し、ユウゼンへと振り返る。
「はい、とってもピンチなんですよぉ、なのでピカさま、ストリンダーが発する『でんき』タイプのエネルギーを感知できませんか?」
「ピカァ? ピーカー!」
ユウゼンのお願いにすぐ様頷き、尻尾をピンと立てるピカチュウを見てその手があったか、と気づく。
デデンネなどが顕著なのだが『でんき』タイプのポケモン同士ならば互いに電波のようなものを飛ばし合って意思疎通ができる。逆に言えば『でんき』タイプのポケモンにはそういうものを感じ取る器官がある。
この力があれば今もどこかで暴走しているのだろうキョダイストリンダーの位置を探せるはずだ。
そうして。
「ピカ?」
「ピカさま?」
何かを探知したのだろうピカチュウがけれどどうしたことか不思議そうに首を傾げて。
「っ!!? ユウゼン!!!」
咄嗟に隣に立つ少女の手を引っ掴み、素早く後退した。
それだけでは全く距離が足りないので、ジャンプで浮き上がった自らの体を風を生み出してユウゼンごと吹き飛ばす。
稼げたのは2,3メートルほどの距離。けれどその距離が両者の命を助けた。
直後。
* * *
キョダイマックスとダイマックスの違いとは何だろうか?
それは多くのガラルの研究者が考えてきた命題である。
ガラル特有のポケモンの巨大化現象……ダイマックス。
それが実は『身体の巨体化』ではなく『空間の拡張』によって起こされた錯覚的現象であることは大よそ知れ渡っている。
つまりダイマックスというのは極論で言うならばポケモンが巨大化しているのではなく巨大化しているように見える現象であり、ポケモンの体自体には何ら変化はない……はずなのだ。
だがキョダイマックスポケモンは明確に元の個体との差異をもたらしている、その違いはどこから来るのか。
その謎に関して一つの結論が出たのはここ数年の話。
歴史的に見れば本当にごく最近結論づけられた話題なのだ。
とはいえこれ自体は仕方ない話だろう。
なにせダイマックス自体大昔から起こっていた現象ではあるがそれが明確に知られたのはマグノリア博士がそれを発表した数十年前、ガラルの人々が意図的にそれを利用し始めたのがここ二十年も経たない内の話なのだ。
ダイマックスバンドというマグノリア博士の研究が生み出した一つの成果。
そしてパワースポット上に建てられたスタジアムというマクロコスモス元社長にして元リーグ委員長ローズによって作られた施設。
この両者の力が無ければ未だにガラルのトレーナーはダイマックスという巨大な力を持たなかったかもしれない。
話はそれたがとにかく『ダイマックス』の研究というもの自体がまだ始まって半世紀と経たない未熟な分野であることは間違いなく、けれど同時にローズ社長率いるマクロコスモスという巨大企業とマグノリア博士という優秀な研究者のお陰でその分野は急速に発展していった。
その末に一つの結論が出る。
ダイマックスを発動するために必要なのは『ガラル粒子』。
このガラル粒子はダイマックス時に見られる可視化された赤い光であり、同時にそこには大きなパワーが秘められたエネルギーなのだ。
そしてキョダイマックスポケモンとは、キョダイマックスとは、このガラル粒子に特に適応し、ガラル粒子から得られるエネルギーによって自らを適応変化させ一時的なフォルムチェンジを可能としたポケモンたちである。
つまりガラル粒子のエネルギーを取り込み、糧とすることに特化した才能を持ったポケモン、と言い換えてもいいかもしれない。
ポケモンという適応、進化する不思議な生物にガラル粒子という莫大なエネルギーを注ぎ込んだ時、それを許容し、その莫大なエネルギーを扱うために体へと自らを一時的に適応、変化させた状態。
つまりそれこそがキョダイマックスである。
だからそれは間違いなく『才能』である。
本来ならば……他のポケモンならばきっとそんなことにはならなかっただろう才能。
『キョダイマックス』の才能とでも言えば良いのか。
先も言った通り、キョダイマックスすること自体が才能であり、だからこそキョダイマックスする才能自体にも多寡がある。
具体的に言えばガラル粒子から注ぎ込まれるエネルギーをどの程度自らに適応させることができるか。
その巨大なエネルギーをただ奮うだけならただのダイマックス。
自らに取り込み、一定以上の適応を示せばキョダイマックス。
そしてさらに深く、強く、適応し続けることで同じキョダイマックス状態でもその強さは異なって来る。
そのストリンダーは余りにも才能が高すぎた。
例えばキョダイマックス状態の持続時間に関しても出力が絞られているはずのスタジアムだろうとそのストリンダーならば通常の倍以上の時間キョダイマックス状態を維持し続けることができただろう。
通常よりも少ないエネルギーでもキョダイマックスを維持できるのは結局のところガラル粒子の『エネルギーの変換効率』とでもいうべきものが高いからだ。
そして同時に許容できるエネルギーの量も他の個体より圧倒的に高かった。
だからそれを全てをひっくるめてキョダイマックスの才能、とでも呼ぶべきそれを持ったストリンダーが、ワイルドエリアの特に上振れしてしまった絶大なエネルギーを受け止めた時、果たしてどうなるか。
先も言ったが、他の種族ならば決してこんなことにはならないのだろう。
そして同じストリンダーでもそれほどの才能を持つ個体は他にはいなかったからこそ同じことが起こらなかった。
種族と才と、全てが奇跡的に噛み合ってしまった結果。
一匹の怪物が誕生した。
* * *
空から落ちた巨体が生み出した二人の小さな体躯はあっさりと吹き飛ばされる。
けれどすぐ近くの岩場にぶつかってその勢いは殺される、代わりに体を強く打ち付けたが、両者ともに咄嗟に頭だけは守っていたのですぐに起き上がる。
「いったい! ですねぇ」
「っ、ユウゼン、構えなさい」
「ってぇ! ピカさま! 生きてますよねぇ!?」
落下物の真下にいたはずのピカチュウへユウゼンが悲鳴染みた声を挙げるが、すぐ近くに素早く避難していたらしいピカチュウの姿を見つけ安堵の息を漏らす。
そうしてようやく落下してきたその巨体へと目をやり……見開く。
「でっっ!?」
思わず言葉に詰まってしまうほどの巨体がそこにあった。
全長20メートル超どころではない、30メートル……否、40メートルを超すほどの巨体。
そして全身がガラル粒子に染まったかのように赤紫色に染まっていた。
そこにいたのは、怪物染みてキョダイなストリンダーだった。
「色違い個体!?」
「こんな化け物がエンジンシティの傍にいたなんて……」
だがそれ以上に気になることが一つ。
怪物は落ちてきたのだ。
上から降りて来たわけではなく。
背中から落下し、衝撃に呻くその姿は明らかに自らの意思で落ちたわけではない。
否、そもそもストリンダーに空を飛ぶ力はない。
だとするならば一体何故?
そんな疑問を二人が抱いた、直後。
「ピカピィ!」
そしてそれに真っ先に気づいたのはピカチュウだった。
目の前に巨体に気を取られた二人とは別に、『でんき』タイプのエネルギーを感知できるピカチュウだけが
声を挙げたピカチュウの警告にはっとなった二人が振り返り、上を向くピカチュウの視線を追って。
―――
「「は?」」
呆けたような声を出しながら両者が目を見開く。
ふわふわとソレは空に浮かんでいた。
暗く赤黒い雲に覆われた空に浮かぶ鈍色の巨体はガラル粒子の影響からか僅かに赤く染まり。
円形の頭頂部に突き出たアンテナからは電波が迸る。
左右に一つずつ供えられたU字のマグネットのような手はグルグルと回転し。
中央に燦然と輝く赤い瞳が地上を睥睨した。
かつて話題になったUFO(謎の円盤型飛行物体)を彷彿とさせるそのフォルムを二人は知っている。
じばポケモンジバコイル。
ガラル粒子の力を得てダイマックスした巨体が二人を、そしてキョダイストリンダーを見下ろし。
ジバコイルが。
否。
バウンティモンスター【アンノウン】が。
「―――ッ!!!」
威を放った。
二週間くらい体調不良でどうも調子出なかったのと、最近ウマ娘の二次読み始めたら結構面白くて読み漁ってたら気づいたら四月に……ドウシテ……ドウシテ(明白
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ジムリーダーは見た! ガラルの空に浮かぶ謎の飛行物体の正体とは?!⑤
―――僅かの迷いも無く嵐を最大強化する。
轟々と唸る風が砂塵を巻き上げ、どころか周囲にゴロゴロと転がる一抱えほどもある岩すらも持ち上げて吹き荒れる。
ほんの一時の岩と砂を風の壁を作り上げ、即座に隣に立ったユウゼンの手を掴み走り出す。
「走って!」
「は、はいぃ!」
風だけならばともかく風の防壁に混じった岩にぶつかればポケモンだろうと多少のダメージは免れない。
こちらを見て襲い掛かろうとした上空のジバコイルが接近を逡巡する。
それでいい、そもそも推定今しがたまで争っていただろうキョダイマックスストリンダーがまだそこにいるのだ、まだここにいただけの私たちとどちらを優先するか。
逡巡したようだが結局先にストリンダーのほうを向いたのを確認して即座に『おおあらし』を解除し、近くの岩場に隠れる。
「……大丈夫?」
「だ、だい……大丈夫、ですよ」
荒い息を吐くユウゼンがけれど強がるように返す。その手にはいつの間にかボールが握られている。どうやら先ほど出したピカチュウを咄嗟に収めてきたらしい。咄嗟にしては中々の反応だと思う。
呼吸の荒さが収まらない様子だがまあプロトレーナーならすぐに回復するだろう、クコのように年不相応なほどに体が小さく体力が無いというわけでも無いようだし。
「で、あれ何?」
「はぁ……はぁ……すぅーふう。はい、分かりません。分かりませんけど、多分あれがもう一体のバウンティーですねぇ」
「
私が聞いた話だと『ワイルドエリアでストリンダーらしきポケモンが暴れている』という内容だったはずだ。
少なくともダイマックスポケモンがもう一匹……それもバウンティー指定されているようなのがいるというのは聞いていない。
少なくとも、ただ強いから、とか特殊だからなんて理由では普通バウンティー指定なんてされない。
バウンティー指定されているのには相応に理由があり、だいたいは『存在することで生態系を乱す』か『人間の社会において有害であるから』のどちらかが理由になる。
今回の内容で言えばストリンダーが『深域』で暴れているせいで『深域』のポケモンたちが『中間域』に逃げ、押し出されるように元々『中間域』にいたはずのポケモンたちが『浅域』に出てきてしまっていることが問題になるためバウンティー指定の理由としては前者となる。
「そうですねぇ……お話しておくべきだったと今となっては後悔するばかりです。いえ、決してわざと言わなかったとかそういうことではなく、正直今回の件には関係しないと思ってたんですよぉ」
失敗したなぁ、と嘆息しながらユウゼンがそのポケモンについて語り始める。
バウンティモンスター【アンノウン】。
それが最初に現れたのは凡そ一年前。
いや、正確には『現れたと思われるのが』一年前というべきか。
何せ【
基本的にアンノウンは人を襲わない。野生環境で暴れたとかでもなく、建物を破壊したわけでもない。
ならば何故アンノウンはバウンティー指定されているのかと言えば。
凡そ一年前、ガラルのとある街が突然停電した。
停電していた時間はほんの30分にも満たない時間だったが、街から全ての灯りが消え去っていた。
当然街の人間は原因を探った……結果として、発電施設にポケモンが侵入し電気を奪っていったのだろう、という結論に至った。
実を言えばこういうことは過去を遡れば時折あったことなのだ。
『でんき』タイプのポケモンは電気を主食とするものがいるし、そうでなくともおやつ感覚で電線などに群がって電気を食べている『でんき』ポケモンは街中でも偶に見かけられる。
問題はそういった時のために減った電力を過剰発電によって供給するシステムで対策が施されていたはずだということだ。
街一つ分を支える電力なのだ、当然そんなものが一匹や二匹のポケモンで受け止め切れるはずがない……と思われていたので当時は相当な数の『でんき』ポケモンが発電所にやってきていたのでは? という推測がされていた。
ただ問題は街の周囲には『でんき』タイプのポケモンが生息していなかった、ということ。
じゃあ一体何がどこからやってきたのか、そんな疑問を街の人たちが浮かべている間に次の事件は起こる。
今度は遠くの別の街。同じようなことが起こり、同じような結果が出て、そして同じように首を傾げ……また別の街で同じような事件が起きる。
何か、いる。
先も言ったが『でんき』タイプのポケモンが発電所などにやってきて電力を食べているというのは時々あることなのだ。だがそれでも停電まで行くほどの事態となると全国的に見ても数年に一度あるかないか、という程度の話のはずなのに半年で片手の指の数を超えるほどの回数が起こった、となると何かあると考えられたのも当然だろう。
ガラル各地の街で警戒がされる中、何度目かになる停電が起こる。
当然そういう事態が起こり得ると考え警戒していた人たちは即座に発電所にかけつけ……。
空に消えていく何かを見た。
暗い新月の夜だったが故に人々はそれを『黒い影』としか認識できなかった。
ただ羽ばたく音は無かったために鳥ポケモンではないということだけは分かっていた。
それ以降も同じことは何度も起こった。
それは非常に周到だった。
それは非常識なほどに秀逸だった。
人に危害を加えることも無く、建造物を破壊するでも無く、誰もいない時を見計らい、誰にも気づかれない内に発電所の電力を根こそぎ奪い、駆け付けた時には影だけ残して消えていく。
ソレは人と決して敵対することが無かった。
野生のポケモンとは思えないほどに闘争心を滾らせることも無く、人の接近を遠い間合いより感知して即座に空に消えていく。
だからこそ人々に手の打ちようが無かった。
何せガラル各地にいくつもある街のどこに現れるのか、いつ現れるのかも分からず。
暗い夜に空から、或いは地を滑るように現れ短時間で目的を遂げて去っていく。
これに対処しようとするならば発電所周辺に複数人の警備を配するしかないわけだが……いつまで警戒すればいいかも分からない相手をどこに現れるか分からない以上各地に配する、というのは不可能に近い。
しかも人の接近を敏感に察知し逃げていく以上、警戒している間は出てこないことも十分にある。
こうして町を治める人間たちをおおいに悩ませるソレは、バウンティモンスター【アンノウン】とはそういう経緯でバウンティー指定されることとなった。
* * *
「で、その正体不明なバウンティーを実は昨夜ダンデ委員長が発見、戦闘しました」
曰く本来ならばキョダイマックスストリンダーを依頼され赴いたはずなのだが何故かそういう変な運を持っているダンデがよりにもよって正体不明を引き当て戦闘、といっても夜だったこと、さらに遠くから技を撃ち合っただけだったことからダンデ自身その正体を当てることはできなかったらしい。
「ただ『でんき』タイプだったこと、宙に浮いていたことから少なくともストリンダーではなかったというのは分かったらしいですぅ」
そもそもいきなり奇襲気味に攻撃を放たれ咄嗟に躱して対抗したは良いが相手も即座に撤退したらしくシルエットすら判別つかないほどの距離もあってほとんど情報はなし。
「ただぼんやりとですが影が空へと昇って行ったこと、それから放たれたのは『でんき』技だったことから直感的に去年から騒がれていた【アンノウン】じゃないのか、と思ったらしいですぅ」
そもそも野生のポケモンがナワバリに入ってきた相手に攻撃をすることは珍しくないが、一度攻撃して即座に逃げ出すなどというのはどう考えても普通じゃない。
かなり知能が高いポケモン……それもポケモンが本来持つ戦闘意欲、闘争心を抑えることができるほどに理性的、となるとそれが【アンノウン】であるという考えもあながち間違いとは言えなかった。
「でも委員長との戦闘で【アンノウン】はどこかへ逃げて行ったらしいですぅ。今までのアンノウンの神出鬼没ぶりから考えてもう遠くに行ってしまった、と思ってたんですがねぇ」
それがまさかのまだこのあたりにいた、と。
「もしかしてこの辺りがナワバリなんじゃないの?」
「かもしれませんねぇ……何せ今まで何のポケモンなのかすら分かってませんでしたのでぇ」
だがもうほぼ確定なのではないか、とユウゼンは思っている。
じばポケモンジバコイル。
確かにジバコイルなら磁力を操ることで『でんじふゆう』することができる。
そしてコイル種のポケモンならば主食となる電気を求めて発電所にやってくることも良くある。
そして人の接近に素早く気づくその察知能力も微弱な電波を飛ばしソナーを出せるコイル種ならば可能だ。
闘争心の抑制に関してもコイル種のような無機物系のポケモンは通常の生物的ポケモンより闘争心が薄い……というより本能が薄く機械的なきらいがあることが分かっている、これも適合する。
つまり現在判明している【アンノウン】の特徴全てに合致するのだ。
「えーソラさん、ご相談があるのですが」
「片方相手するならやってもいいわよ」
「ぐっ……ですよねぇ」
因みに間に抜けた会話は『ジムリーダーとしては【アンノウン】のほうも無視できないのですがどうにかならないでしょうか?』だ。
ユウゼンの立場を考えればどっちも放っておけないのも分かる。
「まあ……そう時間はかからないと思うけど」
「はい? えっと、それはどういう?」
余りにも突発的な事態に急展開ばかりで思考が追いついていなかったが、落ち着いてシチュエーションを考えれば分かることだ。
「まず私たちがここに来るまでにストリンダーとジバコイルはすでに戦闘に入っている」
「はい、それは分かりますけどぉ……って、あっ」
こちらの言いたいことに気づいたのかユウゼンが目を大きく開く。
さすがは、というべきか、それともやっと、というべきか。
さすが、というならばジムリーダーだけに頭の回転は速いようだ、まあそうでなければポケモンバトルで強くはなれないのだが。
やっと、というならばトレーナーとして野生ポケモンとしての経験が足りてないのだろうと思う。ホウエンでいうならばチャンピオンロードを通過するような経験をしたことがないからこそそこまで察せなかったのだ。
「分かったみたいね、そう、もう戦闘は始まっている。そしてあの『どくのあめ』が降り出したタイミングですでにストリンダーは私たちの上空にいた」
何で? と言われれば間違い無くジバコイルの仕業だろう。『テレキネシス』という技があるが『でんき』ポケモン……かつじばポケモンのジバコイルならば磁力を駆使し相手に『でんじふゆう』をかけるような真似もできるのかもしれない。
本来『でんじふゆう』はそこまで超高度まで届くような技ではないが、ダイマックス状態で出力が強化されているのだと考えればまあ納得できなくもない。
つまりすでに戦闘開始からかなりの時間が経過しているのだ。
通常のフルバトルですら十五分とかからない、ましてポケモンが一対一で戦えばその決着は意外とあっさりつく。
勿論ダイマックスやキョダイマックス状態におけるタフネスも考慮すればまだ戦闘が続くと考えるべきだろうが……それでもストリンダーにはすでに相当なダメージが入っていると考えるべきだろう。
何せ上空から叩き落とされたのだ。
それをジバコイルが追ってきた、というシチュエーションはどう考えてもジバコイルの優勢を示し、すでにストリンダーはかなり追い込まれている。
そして私たちがこうして岩陰に隠れている間にも遠方では再度の戦いが始まっている。
タイプ相性的に考えても、こうして劣勢に立たされていることを考えても恐らくストリンダーにジバコイルへ痛手となる技が無いのだろう。
「問題はだったらどうしてストリンダーが逃げ出さないのか、だけど」
普通の野生ポケモンならばそこまで追い込まれた時点で逃げ出す。
なのにストリンダーは明らかな劣勢でそれでも逃げ出さない。果敢に戦う音が聞こえてくる。
そんな疑問にユウゼンが「多分ですけどぉ」と前置きし。
「キョダイマックスしてる影響で暴走しちゃってるんだと思いますぅ」
そう言ってユウゼンがスマホロトムを操作し、図鑑アプリを起動せさ画面を見せた。
>毒が 脳まで 廻り 暴走。 暴れるたび 毒の 汗が ほとばしり 大地を 汚す。
図鑑にはキョダイマックスしたストリンダーについてそんな一文が載っている。
キョダイマックスストリンダーというのはその膨大な力を『暴走』することで引き起こしている。
とはいえ本来ならばトレーナーの指示を聞く程度の理性は残るのだ。本来ならば。
「推測ですがぁ……暴走の度合いが普通の個体よりも酷いんじゃないですかねぇ」
まともな思考が残らないくらいに暴走してしまっているせいで逃げるという思考が残ってないのかもしれない。
そんなユウゼンの推測になるほどと一つ頷き。
「一応聞くけどこのままストリンダーが倒れるまで待つっていうのは?」
「本当にこのまま逃げないならアリ、なんですけどぉ……」
結局暴走が酷くて逃げる思考すらない、というのもまたユウゼンの推測に過ぎない以上、常に逃走の危険性は存在している。そして逃がしてしまうと再度補足するのにどれだけの時間がかかるか、そしてその間にどれだけの被害が生まれるか。
そう考えるとジムリーダーとしては素直に頷けないらしい。
「さっきも言ったけど、もしやるならストリンダーに集中的に攻撃して速攻で落としてジバコイルを相手にすることになるわ。ストリンダーの残りの体力を考えればそう時間もかからない……とは思うけど」
その間もう片方がジバコイルの相手をしなければならない。
そしてこの場合ジバコイルを相手にするのは―――。
「私、ですよねぇ……」
求められているのは時間稼ぎだ、そしてバトルの実力はともかく実戦での能力を求められた時、わざわざ戦力として私を連れてくる程度のユウゼンが暴走状態のストリンダーを相手取るのはリスキーとしか言いようがない。
「う、ぐぐぐ……これが終わったら絶対にリーグ委員会に休暇申請してやりますぅ」
呻きながらも分かった、と頷くユウゼンに一つ目配せ。
「それじゃ……全部ぶっ飛ばしに行くわよ」
ボールを片手に握り、岩陰から飛び出した。
ちょっと補足するとユウゼンさん足手まとい風に書いてますけど、ぶっちゃけトレーナーとしての実力はジムリーダーな時点で足りてます。
ただ野生ポケモンの場合、普通にトレーナーにダイレクトアタックされる危険性があるので咄嗟に身を護る手段が無い場合常にポケモンを出して防御できる態勢を取る必要があるわけですね。
そして常に正面から攻撃してきてくれるだけなら分かりやすいですが、気づかない内に背後から襲撃! なんてことも当然あるわけで、野生のポケモンを相手の戦闘は普通のトレーナー同士のポケモンバトルとは別の能力が要求されます。
いやまあこの世界の住人、スーパーマサラ人じゃないけど大概丈夫だから一発食らっても誤差かもしれないが……。
当小説は結構その辺はシビアなので、寝ぼけたカビゴンの下敷きになっても「お、重い……」で済みません、普通に染みになります。
ダイサンダー食らったら普通にアフロじゃすみません、黒焦げの消し炭になります。
因みにソラちゃんの場合、常に化け物みたいな嵐でだいたいは防御できるのでその辺が大分強い。
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VS毒電波 ~a noisy poison~ ①
一般的にダイマックスとはダイマックスバンドを所持したトレーナーがパワースポットの上で発動させることができる効果だと知られている。
けれど実際にはダイマックスバンドが発明される前からガラルの各地にはパワースポットは存在しており、そこでキョダイ化するポケモンたちは幾例も存在していた。
野生環境におけるダイマックス、つまりこれが『ワイルドダイマックス』と呼ばれている現象である。
通常のダイマックスとの差異点としてパワースポットから放出されるエネルギー噴流が上振れした時、ガラル粒子が大量に可視化される周囲が赤く染まるほどの莫大な量のエネルギーが放出された時にそのパワースポットの上……だいたいポケモンが巣を作っているのでそこにポケモンがいた時に起こるので、いつそれが起こるのか、というのが基本的に決まっていない。ダイマックスバンドのようにエネルギーを溜めて置いて好きなタイミングでそれを使って、ということができないのでポケモン自身すらエネルギーを持て余すことが多い。
また最大の特徴としてエネルギー噴流の上振れが終わるまでダイマックス状態が継続されるという点がある。通常のトレーナー戦におけるダイマックスは大よそ三回ほどの行動によって蓄積されたエネルギーを放出しきりダイマックスが解除されるのだが、ワイルドダイマックスは上振れしたエネルギー噴流の影響によって常にダイマックスのためのエネルギーが供給され続けるためエネルギー噴流が終わるまでは何度技を発動させようとダイマックスし続ける。
またダイマックスに対して一定以上の『適性』を持つポケモンは一定のダメージを負った時に抱く『危機感』から無意識的にパワースポットからのエネルギーを吸い上げようとし、放出量を増量させる。この時増量したエネルギーをポケモン側は吸収しきれずに結果的に吸収しきれなかったエネルギーの『残渣』とでもいうものが空間に充満する。
空間に充満したエネルギー残渣は結果的にダイマックスポケモンに対して飛んでくる相手ポケモンからの技に込められた『タイプエネルギー』を大幅に減衰させ、その威力を大きく落とす『バリア』のようなものになる。
このような特徴からワイルドダイマックスしたポケモンは非常にタフで知られるのだが、この残渣が空間にどんどんと満ちていくとやがて臨界に達し、蓄積され続けた莫大なエネルギーによって一気に巣の外まで弾き飛ばすことができる。(実機で4回『ひんし』になるゲームオーバーになることに対する説明。『ひんし』の回数=時間の経過と解釈する)。
ただしエネルギー残渣が『タイプエネルギー』を減衰させる時、減衰した『タイプエネルギー』がエネルギー残渣と結び付き、別種のエネルギーに変化し、空間に残る。これは本体となるダイマックスポケモンが『吸収できない』エネルギー種であり、これが空間に充満し続ける、つまりエネルギー残渣が消失した時、パワースポットとダイマックスポケモンとの間に『蓋』のようになってダイマックスのためのエネルギーの吸収を大きく阻害することになる。結果、ダイマックスポケモンはこの別種のエネルギーが周辺空間から抜けていくまでの間その力を大きく制限されることとなり、急激に弱体化する(実機におけるバリア破壊時の解釈)。
「覚悟は良いわね?」
「はぁ……分かりましたよぉ」
ユウゼンと二手に分かれて駆けだす。
二体の怪物が激突する戦場まで少し距離はあるが派手な技のぶつかりあい、何よりもダイマックス、キョダイマックスの巨体のお陰で位置が分からないという心配はまるでなかった。
「ソラさん!」
少し脇見しながらも移動し始めた矢先、反対側に飛び出したユウゼンの声が届く。
「攻撃の前に一旦スマホ確認しといてもらえますぅ?」
一体何のこと? と聞こうとして、けれどそのまま走り去っていくユウゼンにはこちらの返答を待つ様子も無く、どういうことかと首を傾げながらもそのまま走り出す。
そんなことをしている間にもどっかんどっかんと轟音が鳴りやむことは無く、なんとなし気を急かされている気になった。
「しかしさっきからあれだけバチバチにやりあってるのに、呆れるほどにタフね」
ここからでもジバコイルとストリンダーが派手に技を撃ち合っているのが見える。
だがタイプ相性的にどうしてもストリンダーが劣勢のようだった。
ジバコイルもそれを理解しているのか、降りしきる『どくのあめ』を気にも留めずに強気に攻めている。
「ダイサンダーにダイスチル……それにダイアタック」
走りながら二体が使っている技を確認するがジバコイルのほうは『ダイサンダー』や『ダイスチル』、ストリンダーのほうが『ダイサンダー』に『ダイアタック』とまあ大よその予想通りではある。
「ダイアタックって確かノーマルタイプの技を覚えていると使えたわよね」
ダイアシッドを使わないのは……覚えてない、というよりは効かないことを学んだと考えるべきか?
いくら暴走中とはいえその程度は理解できるのだろうか……いや、できないと考えるよりはできると考えて行動すべきだろう。
となればストリンダーの技は『でんき』技、『どく』技、『ノーマル』技の主に三種類だろうか?
野生のポケモンなら五つ目の技が飛んできてもおかしくはないので警戒は怠らないようにすべきだろうが、ひとまずこの三種類が主な攻撃手段、それと変化技一つくらいあってもおかしくはないと考えるべきだろう。
ジバコイルのほうが『でんき』技と『はがね』技……それ以外全く使う様子はないが、タイプ相性を考えればこの二つで大半の相手はどうにかなるのだからそれ以外を必要としなかった、というのはありそうだった。
「事前にストリンダーと聞いて準備は済ませておいたけれど、ジバコイルがいるとなるとまた話が変わって来るわね」
『おおあらし』によって『でんき』タイプの技はケアできるので『どく』タイプ対策に『はがね』タイプを持つガーくんや特性によって実質『はがね』タイプと同等の耐性を持ったムーくんを連れて来たのだがガーくんだとジバコイル相手に有効打が無い。逆にジバコイルからの攻撃にガーくんへの有効打も無さそうなので泥沼の争いが始まる気しかしない。
「まあユウゼンと二人で数で押すのがベターかしらね」
そのためにもまずはさっさとダイマックスストリンダーを倒さなければならない。
ジバコイルとの戦闘でこちらに気づかれていないので、初手に限れば先手を取れると考えていいだろう。
「手持ち全員で一斉に……とか出来たら良いんだけど」
残念ながら一人のトレーナーが複数のポケモンで同時に技を出させようとしてもだいたい技同士が途中でぶつかって相殺してしまうのがオチだ。
ダブルバトルなどもあるが、あれはあれでそれ専用に訓練を受けているポケモンたちであるし、シングルバトル専門の自分とはまた違う能力が必要とされる。
トリプルバトル専門のトレーナーなど最早曲芸に近い。
父さんなら……また話は別なのだろうが。
『絆』を結んだポケモン限定でテレパスに等しい相互理解を成し得るあの人は、普通に指示するだけでトレーナーの意図をポケモン側が理解して勝手に位置調整をしてくれるので六体のポケモンを一斉に操るなどという意味の分からないことができる。
「私じゃ三体が限界ね」
幸いにして相手は巨体だ。頭、胴、足元と大雑把に狙わせることで技の軌道を被らせないようにすることはできる。
「問題は距離ね」
一度収めた『おおあらし』を展開するだけの準備はすでに出来ている。
だが『おおあらし』の射程範囲というのは通常のポケモンバトルならばともかく、この広いワイルドエリアでしかもキョダイマックスした超巨体のポケモンを収めようとするとかなり近づく必要性が出てくる。
「広げることは……まあ無理ね」
正確には可能だが持続するのに必要な力が跳ね上がる。
嵐を広げるには基本的に規模を拡大するしかないのだが、拡大すればそれだけ出力が跳ね上がる。
出力が足りないのではない、寧ろ大きすぎて私が耐えられないのだ。
「動かずに数秒だけ、というならまだしもバトルしながらなんて無理だわ」
跳ね上がった出力はそれだけ私自身の負担となって跳ね返って来る、残念ながらそれに耐えながらバトルできるほどの強さは私には無い。
異能ならばともかく、私のソレは本来人が扱える代物ではないのだから。
「覚悟決めるしかないわね」
あんな巨体を相手にするのはさすがに初めてだが……まあホウエンのチャンピオンロードを通るよりはマシな話だろう。
目前に迫る巨体を見やりながら未だにジバコイルへと派手にぶつけ合う技の余波をかわしながらあと少しという距離まで近づく。
「っ、あれじゃどれくらいダメージを負ってるかなんて分からないわね」
理性が飛んでいる様子のストリンダーを見やり、嘆息する。
全体的に押され気味なので戦闘時間を考えてもダメージの積み重ねはあるのだろうが、暴走状態の影響か痛みを気にした様子も無く戦っているせいで積み重なったダメージがどの程度なのかを伺うことはできなかった。
できればこれで倒れて欲しい、そんな願望を抱きながらホルスターから三つのボールを取り出し……。
ブルン
一瞬震えたスマホロトムに体を硬直させ、すぐに隠れる。
「このタイミングで?」
そういえばユウゼンが先ほどスマホを確認してくれ、と言っていたのを思い出す。
「一体何の意味が……」
あるのか、そう告げようとしてスマホに届いたデータを見やり、目を見開く。
数秒、思考が止まるほどの驚愕の波が押し寄せ、再びぶつかりあった二体の響かせた轟音で我に返った。
「うっそでしょ、これ」
二度、三度、画面を見直し、その度に身を隠した岩場の影から二体を見やる。
そこに表示されていたのはデータだ。
たった今目の前で派手に激突する二体のポケモンの
さらに数値化された能力値に残存体力……タイプエネルギーの総量値や残量値すらも。
何度も確認し、実物を見て、そこに書かれていた内容が大よそ間違いではないことを理解し。
「嘘でしょ、これ」
出てきたのは同じ言葉。それほどまでに信じがたい内容がそこにはあった。
何せどう考えてもこれは『たった今』作られたデータだ。
こんなものが事前にあるなら確実に渡されているだろうし、そもそもユウゼンはあのジバコイルの存在を前提としてなかったし、ストリンダーですら『らしき存在』と確定されていなかったのだ。
なのにその詳細なデータが……ポケモン一体の全てをシステマチックに表記したデータがそこには羅列されていた。
「これがユウゼンの異能、ってことなのかしらね」
ユウゼンから異能者の気配はしなかったが、こんなこと他にどうやったら可能なのか分からないのでそうとしか説明できない。
「どこまで信じたものか」
ユウゼンに信用が無い、とは言わないが鵜呑みにして見落としがありました、間違いがありましたなんてことが起こればその時支払う対価はそのまま命に直結するのだから当然慎重になる。
半信半疑とはいえ半分も当たればこのデータがとてつもないアドバンテージであることは間違いなく……。
「良いわ……やってみましょうか」
左右にボールを握りしめ……投げた。
* * *
ユウゼンのデータを信じるとするなら、まず絶対にやってはならないのが『どく』状態になること。
どうやら『汚水を飲む』というストリンダーの生態を利用してか『どく』状態の相手を攻撃することでその『どく』を吸収して回復できるらしい。
あの巨体のタフさで回復能力などもたれてはたまったものではない。
この時点で出せる選択肢が『はがねのよろい』によって『どく』を受けないムーくん(エアームド)で一体。
『はがね』タイプを持つガーくん(アーマーガア)で一体。
そして場に出た瞬間に『みがわり』状態になれるリーちゃん(ガラルフリーザー)で一体の計三体に絞られる。
そして考慮すべきことがもう一つ。
ここがワイルドエリアであり、ダイマックスポケモンがいるということはパワースポットであるという点。
つまり、こちらもダイマックスできる、ということ。
「ガーくん、キョダイマックス!」
ダイマックスバンドからエネルギーを供給され巨大化したモンスターボールを投げる。
ボールから光が飛び出しそれが形を作って……巨大化していく。
「ラァァァァァァァァ!!!」
ガーくんが放つ地に響くような低い鳴き声にさすがのストリンダーとジバコイルも気づき……。
「ピィィィカァァァァァァァ!!!」
ストリンダーとジバコイルを挟んで向こう側でガーくんの巨体を合図としてユウゼンのまたダイマックスをしたらしい……キョダイなピカチュウが声を挙げた。
さすがのストリンダーとジバコイルも突然背後に現れたキョダイなポケモンたちに一瞬どうするか、選択を迷い……その間にもこちらはすでに動いていた。
「リーちゃん、足元狙って! 直後にムーくんは腹、ガーくんは最後に大きいのを頭へ!」
こちらの指示でストリンダーの左右へと回り込んでいたリーちゃんとムーくんが動き出す。
「フォォェェェ!」
“いてつくしせん”
リーちゃんの目から放たれた紫色の光がストリンダーの足へと当たる。
『エスパー』タイプのその技は『こうかはばつぐん』となってストリンダーの足元を揺らす。
「キシャシャシャー!」
“ばくげきき”*1
“ばくげき”
ストリンダーが揺らいだ瞬間に被せるようにムーくんが追撃を放つ。
『はがね』タイプのエネルギーが凝縮された爆弾がストリンダーの腹部で爆発し、轟音と共にその巨体を揺らす。
そして―――。
「ラァァァァァァァァ!!!」
“スピントルネード”*2
“ キ ョ ダ イ ハ リ ケ ー ン ”
羽ばたくガーくんの巨大な翼が巻き起こす風が唸りを上げてストリンダーを襲う。
螺旋を描くように渦巻く気流が槍となってストリンダーを突き刺し、ついにはその巨体を吹き飛ばした。
のけぞるようにして仰向けに倒れたストリンダーの巨体が大地を破壊しながら地響きを立てる。
弱点をついたリーちゃんの攻撃、火力だけなら手持ちの中でトップクラスのムーくんの攻撃、そしてキョダイマックスしたガーくんの攻撃を立て続けに受けたのだ、先ほど見たユウゼンのデータを信じるならば十分に致命の一撃となったはず、だが……。
“ワイルドキョダイマックス”*3
ストリンダーが起き上がる。その巨体故にどうしても動作がゆったりとしたものだったが、だからこそ余計に蓄積されたダメージの程が判りにくい。
だがまあ……こちらの予想の半分……いやさらにその半分といったところか。
「これが野生のダイマックスポケモンの厄介さなのね」
野生環境におけるダイマックスポケモンはトレーナーの手によってダイマックスされたポケモンとはまた異なる性能を有するというのは知識としては知っていたが、確かにこれは厄介だ。
簡単に言えば野生のダイマックスポケモンというのはある程度ダメージを受けた時に『バリア』のようなものを身に纏うのだ。
万全の時には存在しないそれは痛手を受けた時にダイマックスポケモンの危機感によってパワースポットからのエネルギーの『吸い上げ』能力が大幅に増強された結果発現する。
ガラル粒子で真っ赤になるほどに迸ったエネルギーの残渣が歪んだ空間に漂い、ポケモンの技に込められたエネルギー値を減衰してしまう。
結果的にこの状態のダイマックスポケモンに与えられるダメージは通常の半分程度になってしまうのだ。
さらにユウゼンのデータを信じるならば目の前のキョダイストリンダーは特に『ダイマックス』に対する適性が飛び抜けている……つまりパワースポットから引き出せるエネルギーの総量が高く、エネルギー残渣……つまり纏うバリアの影響も大幅に上昇しているらしい。
結果的にあのストリンダーに与えられるダメージは直撃した状態と比べると大よそ1/4と凄まじい減衰が起こってしまうようだった。
「これでも一撃で耐久力を根こそぎ奪うくらいのつもりだったんだけど……自信失くしそうだわ」
まあそれでも―――。
「次で決めさせてもらいましょうか」
厄介なんて言葉では語り尽くせないストリンダーの能力を前に、ニヒルな笑みを浮かべた。
ちょこっとだけストリンダーのデータのお漏らし
【種族】“毒電波”ストリンダー/原種/特異個体
【レベル】95
【タイプ】でんき/どく
【特性】どくでんぱ(音技の威力を1.5倍にし、『でんき』『どく』タイプを追加し有利な相性でダメージ計算する)
【持ち物】くろいヘドロ
【技】どくづき/オーバードライブ/ばくおんぱ/どくどく
【裏特性】『クレイジーノイズ』
????
『どく』状態の相手を攻撃した時、相手の『どく』状態を解除して自分をHPを最大HPの1/6回復する。
????
【技能】『キョダイカンデン』
『でんき』タイプの技のタイプ一致補正を2倍に変更し、技が命中した時30%の確率で『どく』状態にする。
【能力】『ベノムレイン』
戦闘に出ている時、毎ターン開始時と終了時に確率30%で相手を『どく』状態にする。
直接攻撃をするか受けた時、相手を『どく』状態にする。
『ワイルドキョダイマックス』
『キョダイマックス』状態になり、自分のHPが最大HPの3/4以下の時に受けるダメージを半減する。
『キョダイマックス』状態の時、HPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、自分の出す技をダイ技に変更でき、『????』を出すことができる。
『????』
????
????
【備考】
????
巨大個体:『HP』が1.2倍になるが、『すばやさ』が3/4になる。
ギガダイマックス:『キョダイマックス』状態になった時、相手から受けるダメージが半分になる。全能力ランクを上げ、HPをさらに1.5倍する。ダイ技、キョダイ技の威力が1.2倍になる。
備考欄の『巨大個体』とかは特異個体の特異性部分。能力というより種族値傾向ですね。
『ギガダイマックス』は現状このストリンダーだけが持ってる『ダイマックスの才能』。
もしかしたらダンデさんのリザードンがノリで持ってくるかもしれない。いや、でも持たせると強すぎるか……?
因みにデータ傾向としてはこんなアホみたいな耐久力は『4倍弱点持ち』だからまあいいか、と思ってるけどもしこいつが捕獲されて誰かが出してきても絶対に『抜群ダメージを軽減する』みたいな効果は持たせない……レギュレーション違反待ったなし……まあジバコはやってるけど(
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VS毒電波 ~a noisy poison~ ②
眼前には四つ足で大地に立ち、背を低くして尚高さ10メートルはありそうな巨体。
その意識の全てがこちらへ向けられていることに身震いする。
相手は野生のポケモンだ、故に自らの生存を賭けて全力でこちらを殺しに来る。
それは現代のトレーナーの多くがほとんど経験することも無いはずの戦い。
だがほんの5,6年ほど前……リーグが制度を改定し、トレーナーという役割が『職』として定められるまでプロトレーナー、いや、当時はエリートトレーナーと言われていたトレーナーの多くが担っていたことに過ぎないのだ。
「まあだからって……もう遅いわよ」
ぴん、と突きつけるようにストリンダーの巨体を指差して。
「フーちゃん!」
“いてつくしせん”
フリーザーの攻撃が。
「ムーくん!」
“ばくげき”
エアームドの攻撃が。
それぞれがストリンダーの頭へと放たれる。
大抵のポケモンにとってそこは通常の生命と同じ脳が存在する『急所』となる。
普通のポケモンバトルでは狙うには的が小さすぎるがこれほどまでに巨大化してしまっているなら寧ろ外すほうが難しいと言えた。
『こうかはばつぐん』となる『いてつくしせん』に怯んだ直後にムーくんの『ばくげき』を食らいストリンダーが悲鳴を上げる。
いくら空間に満ちたエネルギー残渣をバリアとして威力を軽減しようと元々の火力が非常に高いのだ、そんな攻撃を急所に受けようものならいくらストリンダーとて大ダメージは免れない。
そしてここまでジバコイルに削られ続け、戦いに消耗し、さらに先ほどこちらの一斉攻撃を受け、さらにこの攻撃である。
いくらこの巨体の桁外れの体力だろうと限界はとうに来ていた。
そう、限界だった。
限界……命の危機。
『ひんし』状態となるダメージをストリンダーが受けて……その本能が爆発する。
命の危機に瀕し、限界を超越し、燃え盛る蝋燭の最後の一瞬の輝きのごとく。
ストリンダーが自身の限界以上のエネルギーを吸い上げ、起き上がる。
その両手に持つのは自らの持つタイプパワーの全てが集約されたギター状のエネルギー塊。
それを振り上げ。
“キョダイカンデン”*3
“クレイジーノイズ”*4
“どくでんぱ”*5
“ キ ョ ダ イ ラ イ オ ッ ト ”*6
何もかも、一切合切消し飛ばさん勢いのままに叩きつければ、大地へと叩きつけられたエネルギー塊のギターが衝撃のまま、轟音と共に弾け飛ぶ。
最早余波だけで並のポケモンならば消し飛びそうなほどに過剰な火力。
この一撃でこちらの手持ちの全てを消し飛ばさんばかりの破壊力。
けれども。
「
「クラァァァァァァ!!!」
“ ダ イ ウ ォ ー ル ”
まだ攻撃していなかったこちらの最後の一体。
ガーくんが前に出て、その攻撃の全てを受け止めんばかりのバリアを作り出す。
弾け飛び、飛来する電撃がガーくんの作り出したバリアと衝突し、激しい爆発を起こす。
「っ~! さすがに、無傷とはいかないわね」
爆風に煽られ吹き飛びそうになる体を、体勢を低くして堪えながらやがて収まる土煙の向こう、崩れ落ちるガーくんを見る。
ダイ技、キョダイ技すらも無傷で防ぐ『ダイウォール』だがさすがにあの威力の攻撃を全て防ぎきることはできなかったらしい。
それでもキョダイマックス状態が解除されていない以上、ガーくんはまだ『ひんし』とまではなっていないようだった。
逆に。
―――ォォォォォォォ
死力を振り絞った最後の一撃を放ったストリンダーがその全ての力を使い果たし、フラフラとおぼつかない足取りで体を揺らす。
「今なら行ける、かしらね」
片手に空のモンスターボールを握り、ダイマックスバンドを使ってボールを巨大化させる。
基本的に野生のダイマックスポケモンは足元からのエネルギー供給を常時受けているせいで『ひんし』状態になってもダイマックス状態が解除されず、ポケモン本来の生態である縮小機能も上手く機能しない。
さらに通常のサイズのボールではこの状態のポケモンを上手く捕獲することができない。
どうやらパワースポットから噴き上げるエネルギーのせいで上手くボールが機能しないらしい。
だからダイマックスバンドが無いトレーナーはこの状態のままエネルギー供給が途切れてダイマックスが解除されるのを待つか、もしくはパワースポットの上から無理矢理移動させてエネルギー供給を断つかのどちらかで捕獲するらしいのだが、ダイマックスバンドがあればボールを励起させ、パワースポットの影響を受けることなくダイマックス状態のポケモンを捕捉、捕獲することも可能となるらしい。
とは言えさすがにこれが初めてな以上、本当に大丈夫なのか、などと考えながらも両手に抱えたボールを投げる。
ボールがストリンダーへと迫り……赤い光がその巨体を包み、そのままボールの中へと吸い込んでいく。
がたん、とボールが一回転。
がたん、とボールがさらに一回転。
がたん、とボールがさらに一回転して。
かちん、とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「ストリンダー、捕獲完了ね」
* * *
控えめに言って地獄だった。
「ぐぎぎぎぎ……安請け合いするんじゃなかったですぅ」
結局はジムリーダーとしては受けざるを得ない提案だった……というかユウゼンのほうがそうなる選択肢をソラに頼んでいたわけだが、それを考慮してもやはり受けるんじゃなかったと後悔していた。
「ピカ様! ダイウォールですぅ!」
「ピカピィ~カ~チュ~!」
“ダイウォール”
―――ジジジジッ!
“ダイサンダー”
放たれた巨大な電撃が空から降り注ぎ、ピカ様が張った巨大なバリアに激突して防がれる。
「ふ、ふぇぇ……」
あれ直撃したら骨すら消し炭になるし、なんならピカ様に当たった余波でも死ねそうですねぇ……。
なんて台詞の代わりに出てきたのはそんな情けない声だった。
いや、でも考えて欲しい……トレーナー戦と違って野生のポケモン相手のバトルは本当に命がけなのだ。
トレーナー戦がそうではないとは言わない。少なくとも技のぶつかり合いの余波、或いは流れ弾が当たって相手トレーナーが死亡したという事故も過去にはあった。
だが実際そんなことは滅多に起こらないし、基本的に相手のトレーナーもポケモンもトレーナーを直接狙うことは無い。
だが野生のポケモンはそんなことお構いなしである。
人間より危険度の高いポケモンを狙う傾向にはあるが、それだって確実というわけではなくトレーナーが視界の隅でうろちょろしていたら、こいつ邪魔だな、の気まぐれで攻撃してくることもあるかもしれない。
そしてその時、人間側は基本的に逃げる以外の選択肢が無いわけだがあんな巨大なポケモンから放たれた単体攻撃のはずなのに規模が大きすぎて最早全体技と化している攻撃の数々を一度でも向けられたらユウゼンにはそれを防ぐ術も避ける術も無い、つまり即死である。
「ど、どうしてこんなことにぃ~」
だから私はこういうのはちょっと、と思ってソラを連れて来たはずなのにどうして、どうしてこんなことに?!
いや、それだって結局二体目のバウンティが現れると予想してなかったユウゼンのせいと言えばせいだが、果たしてそんなこと予想できる人間がいるだろうか?
まあこの世界予知能力持ったサイキッカーが世界中探せば数は少ないながらも居るのはいるのだが。
「こ、こうなれば私だってやれるということを~」
ヤケッパチになりながら顔をあげてジバコイルを見つめて……。
“
===========【ステータス】=============
種 族 | “浮遊要塞”ジバコイル/原種/特異個体 |
性 別 | なし |
レベル | 96 |
タイプ | でんき/はがね |
性格 | ひかえめ |
特性 | ふゆうようさい*7 |
持ち物 | ピントレンズ |
技 | でんじほう/ほうでん/てっていこうせん/エレキウォール*8 |
==============================
見えてしまう。
使うつもりは無かったのだが、無意識的にそれを見てしまう。
“
===========【裏特性】=============
『でんき』技を出すか受けた時、場の状態を2ターンの間『エレキフィールド』にする。 |
自分が地面から浮いている時、場の状態『エレキフィールド』の効果を受けることができ、『エレキフィールド』がターン経過で解除されなくなる。 |
場の状態が『エレキフィールド』の時、ターン開始時に『じゅうでん』状態になり、技の反動ダメージを受けなくなる。 |
===========【技能】==============
自分が出す技の優先度を-5するが、相手を『ロックオン』状態にし、次に出す技の急所ランクを+2する。 |
===========【能力】==============
『じゅうでん』状態になった時、自分のHPを最大HPの1/8回復し、状態異常を回復する。 |
===========【ワイルドダイマックス】==============
『ダイマックス』状態になり、自分のHPが最大HPの3/4以下の時に受けるダメージを半減する。 |
『ダイマックス』状態の時、HPを2倍にする。 |
『ダイマックス』状態の時、自分の出す技をダイ技に変更できる。 |
===========【備考】==============
超巨大個体:『HP』が1.5倍になるが、『すばやさ』が半分になる。 |
「ひぇぇぇー」
やっぱ無理、と即座に白旗を上げてピカ様の張ったバリアを盾にひたすら隠れる。
今だけは『視え』過ぎる目が恨めしいと思うほどに馬鹿げたその力に逃げ出したくなる。
「こんなのクコさん連れてこないと無理ですぅ!!!」
常時『でんじふゆう』状態で、『フィルター』もしくは『ハードロック』も完備していて、『かたやぶり』系が無効で、さらに常に『じゅうでん』状態になって、『じゅうでん』状態になるたびにHPが回復してさらにダイマックス状態でバリアもある……。
「こんなのどうやって倒せっていうんですかぁ!!!」
『でんき』タイプだし、ということで任せられた仕事ではあるが、これは完全に『じめん』タイプのジムリーダーを呼んで来なければどうにもならないだろう。
『じゅうりょく』を使い飛んでいる相手を地に叩き落としてさらに強力な『じめん』技で一致4倍弱点をつけるクコでなければどうにもならない。
少なくとも手持ち全員を出して一方的に叩き続けても倒せる気が全くしない。
具体的に言うと眼鏡かけた特殊アタッカーが『きせき』ラッキーを相手にするくらい倒せる気がしない。
「というかこれダイマックスしてるからこんなに大きいのかと思ってましたがぁ、元から巨大変異個体だったんですねぇ」
常時空に佇んでいるせいでいまいちサイズ感が図りづらかったのだが、どうにも大きいとは思っていたのだ。
ダイマックスしているからそう見えるだけなのかと思っていたが、『ずかんせつめい』で視ればどうやら特異個体の『超巨大個体』らしい。
これをこの世界に人間に言っても理解されないのだが、ユウゼンの目から見た特異個体というのはシステムから一歩はみ出した個体だ。
例えば目の前にいる『超巨大個体』。この手の特異個体は『HP個体値が40を超える』。
実機時代ポケモンの個体値の最大は『31』だった。
だがこの世界に生まれてから手に入れたユウゼンの『眼』で視た時、その個体値は31の限界を超越している。
前世でいうところの『6V』個体とは全ての能力が『種の限界』まで極まっている個体を指す言葉ではあったが、特異個体というのは『種の限界』を超越してしまっている
ただしその代わりというべきか、特異個体は『特異』となって何かを得た代わりに何かを喪失してしまっている。
例えば『超巨大個体』はそのタフネス(HP)ぶりの代償に巨大な体を動かすために機敏さ(すばやさ)が下がっている。
そうしてトータルで見ると実はだいたいは『種の限界』の内側に収まっている。
だから種の限界を超越してしまっている
そしてだからこそ最初にも言った通り、特異個体が本当に超えてしまっているのは『システム』だ。
個体値の最大は31。
それが実機における『システムに定められた限界』だった。
だがこの世界では『システムを超越する存在』が確かにいて。
超越種。
そう呼ばれる怪物たちをユウゼンは知っている。
チャンピオンのムゲンダイナ、或いはザシアン、或いはザマゼンタ。
理を超える怪物。
目の前のジバコイルはそこまでの存在ではない。
だが『すばやさ』という代償を糧に『HP』というシステム限界を超えたその存在を。
因みに準超越種とかなんかやばそうに聞こえるけど、ぶっちゃけ種族値的には通常ポケモンの範囲なのでトレーナーバトルに使うならそこまでぶっ飛んでは無い。
というか普通に6Vを育てたほうがトータルだと優秀なのでは? 疑惑出る。
要するに一点を尖らせてる。ジバコイルくんは上手くHPが尖ってすばやさへこんでくれたけど、これが例えばガブリアスとかだと……うん、すばやさ7、80くらいのガブリアスって『えぇ……』ってなるだろ?
まあ単純計算でレベル50時点でHP300超えるので強いのは強いが。
ぶっちゃけジバコくんもトレーナーに捕獲されるとバリアも無いし、初手はふゆうしてないので『じめん』タイプ出されるだけでフィールド塗り替えれなくて詰む性能。
というわけで最後にデータ公開。
2ターンで倒されたストリンダーくんには合掌(なむなむ
【種族】“毒電波”ストリンダー/原種/特異個体
【レベル】95
【タイプ】でんき/どく
【特性】どくでんぱ(音技の威力を1.5倍にし、『でんき』『どく』タイプを追加し有利な相性でダメージ計算する)
【持ち物】くろいヘドロ
【技】どくづき/オーバードライブ/ばくおんぱ/どくどく
【裏特性】『クレイジーノイズ』
相手に音技が命中した時、相手の『とくこう』と『とくぼう』を下げる。(かいでんぱ+きんぞくおん)
『どく』状態の相手を攻撃した時、相手の『どく』状態を解除して自分をHPを最大HPの1/6回復する。
『音技』ではない自分と同じタイプの技が『音技』になり、『直接攻撃』することで発動する効果が発動しなくなる(ぼうごパット効果)。
【技能】『キョダイカンデン』
『でんき』タイプの技のタイプ一致補正を2倍に変更し、技が命中した時30%の確率で『どく』状態にする。
【能力】『ベノムレイン』
戦闘に出ている時、毎ターン開始時と終了時に確率30%で相手を『どく』状態にする。
直接攻撃をするか受けた時、相手を『どく』状態にする。
『ワイルドキョダイマックス』
『キョダイマックス』状態になり、自分のHPが最大HPの3/4以下の時に受けるダメージを半減する。
『キョダイマックス』状態の時、HPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、自分の出す技をダイ技に変更でき、『キョダイライオット』を出すことができる。
『オーバーロード』
『キョダイマックス』状態の時に『ひんし』になるダメージを受けると『オーバーロード』状態になる。
┗状態変化:オーバーロード
『ひんし』状態のまま一度だけ技が出せる。自分のレベル1.5倍にし、全能力を2倍にする。自分のレベル以下の相手からのあらゆる効果を受けずに行動できる。
【備考】
キョダイライオット 『でんき』『非接触全体技』
効果:威力160 命中- 相手が状態異常の時、技の威力を1.5倍にする。
巨大個体:『HP』が1.2倍になるが、『すばやさ』が3/4になる。
ギガダイマックス:『キョダイマックス』状態になった時、相手から受けるダメージが半分になる。全能力ランクを上げ、HPをさらに1.5倍する。ダイ技、キョダイ技の威力が1.2倍になる。
そして対決前にすでにネタ晴らしされてしまったジバコイルくんにも合掌(なむなむ
【種族】“浮遊要塞”ジバコイル/原種/特異個体
【レベル】96
【タイプ】でんき/はがね
【特性】ふゆうようさい(場の状態が『エレキフィールド』の時、場にいる全ての『でんき』タイプのポケモンが地面から浮き上がり『じめん』タイプの技や『まきびし』『どくびし』などの効果を受けなくなる。場に出た時『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』が上がる。特性に関係無く攻撃する効果を受けず、『こうかはばつぐん』となる技のダメージを3/4にする)
【持ち物】ピントレンズ
【技】でんじほう/ほうでん/てっていこうせん/エレキウォール
【裏特性】『エレクトリックきかん』
『でんき』技を出すか受けた時、場の状態を2ターンの間『エレキフィールド』にする。
自分が地面から浮いている時、場の状態『エレキフィールド』の効果を受けることができ、『エレキフィールド』がターン経過で解除されなくなる。
場の状態が『エレキフィールド』の時、ターン開始時に『じゅうでん』状態になり、技の反動ダメージを受けなくなる。
【技能】『しょうじゅんあわせ』
自分が出す技の優先度を-5するが、相手を『ロックオン』状態にし、次に出す技の急所ランクを+2する。
【能力】『バッテリーチャージャー』
『じゅうでん』状態になった時、自分のHPを最大HPの1/8回復し、状態異常を回復する。
『ワイルドダイマックス』
『ダイマックス』状態になり、自分のHPが最大HPの3/4以下の時に受けるダメージを半減する。
『ダイマックス』状態の時、HPを2倍にする。
『ダイマックス』状態の時、自分の出す技をダイ技に変更できる。
【備考】
超巨大個体:『HP』が1.5倍になるが、『すばやさ』が半分になる。
(ユウゼン目線でいうならHP個体値が50くらいある、さらにそこから特異体質でHPを1.5倍にする)
エレキウォール『でんき』『変化技』
効果:味方が受ける攻撃技のダメージを半分にする。場が『エレキフィールド』でない時、この技は失敗する。
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VS浮遊要塞 ~Flying Fortress~
基本的にトレーナー戦における駆け引きとは『互いの情報を引き出す』ためのものだ。
例えば相手のポケモンに対して有利なポケモンに交代することで相手が次の一手でどういう対応をするかを見る。
そのまま突っ張る*1のか、それとも交代するのか。
突っ張るということは不利なはずの対面を打開する方法が相手にあるということで、逆に言えば交代するということは相手側に対処する手段が無いということになる。
勿論それがブラフで、後になって同じ対面で相手が交代する、と思ったら交代せず思わぬ痛手を受けて……なんてことも
そういう意味でユウゼンの力ははっきり言って現代の情報重視の風潮の高まるプロトレーナー業界において衝撃的といって過言ではない。
全くの無条件というわけではないのだろうが、手持ちにいるわけでも無いポケモンのデータを外部からほぼ全て抜いてしまうというのはトレーナー戦の駆け引きの大半を吹き飛ばす圧倒的アドバンテージだ。
実際バトルの前からこれだけのデータがあればトレーナー戦ならば一方的な展開にすらなり得る。
そう、トレーナー戦ならば。
当然の話だがトレーナー戦において相手トレーナーを狙うなんて真似をすれば普通に一発アウトだ。
流れ弾が皆無とは言わないし、それによる事故が全く無いとも言わないが意図的に狙うなんてこと公式バトルでやったら問答無用でルール違反で敗北、どころかトレーナー資格の剥奪だろう。
だが野生のポケモン相手のバトルにルールなど存在しない。
野生のポケモンは当たり前のように区別なくトレーナーを狙う。
野生のポケモンにとって、トレーナーもトレーナーのポケモンも、等しく敵でしかないのだから。
* * *
ストリンダーを収めたボールを即座に転送システムでボックスへと転送する。
これでストリンダーのほうは一先ず安心だろう、と一つ息を零しながら即座に次の相手へと視線を向けた。
ここからでもユウゼンとジバコイルの攻防が確認できるので急がねばならない。
問題はすでにジバコイルとの戦闘で大きく消耗していたストリンダーと異なり、ジバコイル自身にはほとんど消耗が見られないことだ。
そのタネもまたユウゼンから送られてきているのだが。
ユウゼンから送られてきたデータを見ながら改めて狂っているとしか言いようのないそのデータに嘆息する。
ポケモンのレベルというものが発見され、個体ごとの能力の差異の範囲が解析され、種族ごとの能力の平均が計算された現代において、ポケモンのそれぞれの
だが実際にはその日その日でポケモンにも
そもそも基準を誰に置くか、というのすら決まらない上に種族ごとの能力値すら地方ごとに微細な差があるのだから数値化しようがないと言える。
だがユウゼンの送ってきたデータにはその数字が載っている。
どういう基準なのかは分からないが、そのデータにはジバコイルが今どれくらいの『
「これが本当だとすると……足場をどうにかしないといけないわね」
元々ジバコイル自体が耐久力の高いポケモンなのだ。その上で最大の弱点の『じめん』タイプを受けず、『こうかはばつぐん』となるダメージを軽減し、元の体力も多い……となるとその耐久力を削ることは容易なことではない。
さらにそこに『エレキフィールド』が展開されている限り、いくら攻撃しようが足元から電気を吸い上げて体力を回復してしまう、となればこの効果を防がねばジリ貧となることは目に見えていた。
「まあ幸い……どうにでもなるけれど」
* * *
まあ散々脅すように言っておいてなんだが。
実際のところ、野生のポケモン相手のバトルというのはなんでもありだ、それは敵もそうだがこちらだってそうなのだ。
“ぼうふうけん”
心の中で撃鉄を落とす。
同時にジバコイルを巻き込むようにして巻き起こる大嵐が浮かぶジバコイルを大きく揺らす。
磁場操作によって空中に浮かぶジバコイルは特性『ふゆう』のポケモンと同じく浮いてはいても『ひこう』タイプではないが故にこの大嵐に適応することができない。
ダイマックスによって巨大化していようが、全てを薙ぎ払うかのような大嵐がジバコイルを縦へ横へと揺らし続ける。
そして大地の上を駆け巡る電流が形作った『エレキフィールド』を嵐がそのフィールドごと引きはがし吹き飛ばし、消し飛ばしていく。
そうして地面を覆っていた『エレキフィールド』の力……『でんき』のエネルギーを嵐がかき消していくとやがて上空に浮かんでいたはずのジバコイルが磁場操作によって浮遊を保つことが困難になったのかその巨体をどんどん降下させてくる。
ジバコイルの大幅な耐久力の要因は『エレキフィールド』から絶えず供給させる『でんき』エネルギーを体表に流すことで作られる『バリアー』のようなものである。故にその供給源である『エレキフィールド』をかき消してしまえばその耐久力も大きく落ちる。
これで相手は地の利を失った。
ならば今度はこちらが地の利を取る。
「フーちゃん! リーちゃん!」
手持ちが投げた二つのボールからガラルファイヤーとガラルフリーザーの二体が飛び出し、そのまま上空へと陣取る。
公式バトルにおいては『ひこう』ポケモンの高度制限*2があるが、野生のポケモン相手にバトルにそんなものはない。
故に『ひこう』タイプでない相手ならばアタッカー二体を上空に位置取らせるだけで大きく優位になる。
尤も先ほどのストリンダーのように立ち上がるだけで優に上空に手が届きそうなほどに巨大な相手となるとさすがにそれも意味はないのだが……ストリンダーの巨体からさらに攻撃が届かないほどに上空となると今度はこちらの指示が届かない、うちの父親のように見えないほど遠くにいる相手に絆一つあれば指示が届くなんて意味の分からない真似はさすがにできないのだ。というかあれは父さんが完全におかしい。
だがいかにダイマックス状態とは言え、体格的に横に長いジバコイルの上を飛行する程度の高さならばこちらの指示も届く。
そしてその体型的な問題でジバコイルは上を見上げると必然的に下が見えなくなる。つまりこちらの安全性が増すのだ。
「フーちゃん! リーちゃん!」
「「ッッッ!!!」」
こちらの指示に対して両者が応える。尤も距離が遠くその声まではほとんど聞こえないが、けれどポケモンであるあの二体にはこちらの声が聞こえているのだろう、即座に動き出す。
二体が互い違いにジバコイルの上空を旋回し攪乱する。単眼のジバコイルはその動きに目を右に左に回しているが、無機物的生態をしているポケモンなのでまあ普通の生物的なポケモンと違って目を回すということは無いだろう。
そうして上空を飛び回る二体がジバコイルの隙を見つけると同時にそれぞれに技を放つ。
“もえあがるいかり”
“いてつくしせん”
それぞれの技がダイマックスジバコイルに殺到する、がダイマックス状態のタフぶりに阻まれさして効いた様子も無い。
『でんき』『はがね』タイプという極めて優秀なタイプ相性に加えて耐久力の高い種族的能力。さらに巨大個体という特異性によってタフさに磨きをかけ、そこにダイマックスまで加えてしまえば並大抵の攻撃では
本来ならばここに常時体力を回復する力まで持つというのだから、まさに空に浮かぶ要塞……『浮遊要塞』といったところか。
だがすでに足元の『エレキフィールド』は取り払った。
これ以上ジバコイルが回復することはない、ならばいくらタフだろうと攻撃を重ねれば必ず限界は来る。
けれどその前に、当然ながらジバコイルもまた反撃する。
“しょうじゅんあわせ”*3
ジバコイルの
完全に照準を合わせられた、すでに何度と続く攻防の中でそれを察知し、即座に指示を出す。
「リーちゃん!」
指示を受けて
“ダイサンダー”
ジバコイルが放った電撃が空へと吸い込まれて行き……雲間から降り注いだのはほとんど同時だった。
本来ならば回避させようと動くのだが、ユウゼンからもらったデータを見て知っている……あの単眼に睨まれれば『ロックオン』されてしまう。
『ロックオン』は簡単に言えば『相手に向かって技が飛ぶ』ようになる状態だ。
技が相手に向かって飛ぶのは当たり前だろう、と思うかもしれないが通常の場合技は使っているポケモンが『相手の方向に向けて飛ばしている』のだ。
そうではなく『ロックオン』状態というのは『相手に向かって技が飛ぶ』、つまり相手が動いて位置をずらしたとしても技が吸い寄せられるように軌道を曲げて相手へ当たる。つまり自分と相手との間に見えない『導線』を作り出す効果なのだ。
これをされてしまえばどうやっても避けることができなくなる。
例え高速の移動で技を一旦回避したとしてもまるでブーメランのように技が戻って来るのだ。
分かりやすく言えば『ロックオン対象』が技を引き付けるようになってしまう。
つまり一度対象にされてしまえば避ける術はない。
あの強力なダイサンダーをどうやっても回避できない。
ならば当ててしまえばいいのだ。
フーちゃんに当たれば一撃で『ひんし』ラインまで持っていかれたかもしれない攻撃だが。
“フェイクアバター”*4
リーちゃんは場に出た時に分身を『みがわり』として出現させる。
どれだけ強力な攻撃だろうと音技以外の全ての攻撃は『みがわり』ならば一度だけは確実に防げる。
フーちゃんをリーちゃんの『みがわり』を盾にして守る。これで『ロックオン』状態は途切れる。
同時に『ダイサンダー』の効果によって『エレキフィールド』を再度展開することを狙ったのかもしれなかったが、『おおあらし』によってそれは防がれる。
そのことに動揺したのかジバコイルが一瞬動きを止める。
―――そうしてその隙を突くようにさらにボールを投げる。
「ラーちゃん!」
「ギャァォォォ!」
視線が完全に上を向いたジバコイルの隙を突いてプテラ……ラーちゃんが低空飛行で飛び出し素早く近づく。
そしてジバコイルが自らに接近する影に気づき、下を向く時にはすでに技を発動していた。
“ じ し ん ”
『いのちのたま』の効果で自らの『
―――『こうかは ばつぐんだ!』
「―――ッッッッッ!!!」
『でんき』と『はがね』、どちらのタイプにも弱点となる致命的な弱点タイプの一撃にさしものジバコイルも怯む。
いくら耐久力があろうと、弱点タイプの一撃というのはダメージの多寡に限らずポケモンに動揺を与える。
そして何より。
“おおぞらのぬし”*5
―――『きゅうしょに あたった!』
ジバコイルが上に気を取られた隙をついたが故にその攻撃は無防備だったジバコイルの急所を捉え、大ダメージを与える。
いくらダイマックス状態であろうと、4倍弱点を急所にもらっては痛手は隠せない。
無機物染みた悲鳴を上げながらジバコイルがぐらり、と体を揺らす。
「もう一発!」
“もえあがるいかり”
“いてつくしせん”
上空から放たれる攻撃に先ほどまでは小動もしなかったはずのジバコイルが嫌がる素振りを見せる。
それは先ほどまでは気にも留めなかったはずの些細なダメージすらも厭うほどにラーちゃんの一撃が効いてしまっていることを如実に示していて。
どれほどジバコイルが暴れようとも、『おおあらし』によって身動きを制限された今の状態で逆に背を押されたラーちゃんより早く動くことなどできるはずも無く。
「ギャァォォォォォォォォォォ!」
“ じ し ん ”
二度目。放たれた致命の一撃がジバコイルを揺らして……。
「―――ッッッッッッッ!!!」
声にもならない金属音染みた絶叫を上げながらジバコイルが堪える。
それでもまだ倒れない、と言わんばかりにこちらを睨み。
「ピカ様!!!」
“ぎんのらいこう”*6
“せんこうばんらい”*7
“タイプチューナー”*8
“ボルテッカー”
「ピィカァチュウウウゥゥゥ!!!」
背後から弾丸のように飛来したピカチュウの突進が崩れ落ちかけていたジバコイルへとトドメを刺した。
最早気力だけで食いしばっていたような状況で放たれたトドメの一撃にジバコイルが崩れ落ち。
「いまっ!!!」
構えたボールをダイマックスバンドの力によって巨大化させ……投げる。
ボールがジバコイルへと迫り……赤い光がその巨体を包むとそのままボールの中へと吸い込んでいく。
がたん、とボールが一回転。
がたん、とボールがさらに一回転。
がたん、とボールがさらに一回転して。
かちん、とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
誰か大嵐をナーフしろ!!! という話。
いや、『エレキフィールド』さえあればもっと苦戦してたんだけどな。ぶっちゃけ『じゅうでん』+『ほうでん』してるだけで大半の敵は溶けていくし。
ほうでん威力80×タイプ一致1.5倍×じゅうでん2倍×エレキフィールド1.3倍=312
これを毎ターンHP回復しながら撃ってればソラちゃんだってさすがに撤退しなきゃいけないレベルだったかもしれない……だが(そんな展開は)もう無い。
次回、二年近く前にデータ作ったはずのソラちゃんの手持ち最後の一匹が(今更になってようやく)出る予定。
【名前】ラーちゃん
【種族】プテラ/原種
【レベル】120
【タイプ】いわ/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】せいくうけん(『ひこう』タイプの技のダメージや効果を受けず、相手に最大HPの1/8ダメージを与える。相手の特性が『せいくうけん』の時、効果が無くなる。)
【持ち物】いのちのたま
【技】ストーンエッジ/ダブルウィング/じしん/りゅうのまい
【裏特性】『おおぞらのぬし』
相手より『すばやさ』が高い時、技の命中が1.3倍になり、攻撃が急所に当たりやすくなる(C+1)。
????
????
【技能】『きょうらん』
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フリーザーとファイヤーのデータは野生時とそんな変更ないので今回は無し。
あとはユウゼンさんのデータ。
名前:ユウゼン
キャッチコピー:【シルバーライトニング】
【技能】
『ぎんのらいこう』
味方のポケモンが出す『でんき』技の優先度を+1する。相手の回避率(回避ランク、持ち物、特性等)に関係無く攻撃できる。
『せんこうばんらい』
相手より先に技を出した時、味方の『でんき』タイプの技の威力が1.5倍になる。
『タイプチューナー』
味方のポケモンが技を出す時、『こうかはばつぐん』のダメージ倍率を2.5倍にし、『こうかはいまひとつ』の倍率を0.75倍にする。
味方のポケモンを技を受ける時、『こうかはばつぐん』のダメージ倍率を1.5倍にし、『こうかはいまひとつ』の倍率を0.25倍にする。
『システムチート』
????
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番外編③七つの海を越えた者たち
ガラルというのは実は世界的に見るとやや小さな地方になる。
お隣にあたるカロスが三分割してもまだそれぞれが一つの地方ほどと言われるほどに広大な面積を誇るのに対して、ガラルは一つの地方としては小さな島国だ。
故にガラル人というのは何百年と前、人が飛行機に乗って世界中を旅するより以前より大海原へと船を出し、七つの海を巡った開拓者たちだった。
大航海時代なんて名前が付けられた当時の記録は今でもガラルのあちこちに残っており、その名残はワイルドエリアにおいても例外ではない。
ワイルドエリア。
ガラル地方の特別自然保護地区であり、『自然そのままの姿』を人工的に残した多くのポケモンたちが生息する場所。
そう、ワイルドエリアには実に多くのポケモンが生息している。
何せ『地方面積あたりのポケモンの種族数比率』という何の役に立つのか分からないような統計ではガラルは世界一を誇るのだから。
ガラルという小さな島国のさらにワイルドエリアという狭い地域には混沌の坩堝のように数多くのポケモンたちが生息している。
実を言えばその半数以上は『ガラルの在来種』ではない。
いや、最早在来種と呼んで差し支えないほどの時が経ってしまっているが、大本は大航海時代に他地方から連れ帰ってきた個体が繁殖した結果と言える。
そしてだからこそ、と言えるのがガラル地方における『変異種』と『特異個体』の多さである。
* * *
通常『変異種』や『特異個体』というのはそう簡単に生まれるものではない。
さらに生まれたとして人の目に触れるまで生き残ることも稀だ。
ある学者の説によれば、現存し人の手によって保護、或いは発見されている『特異個体』の十倍以上の数が自然界に生まれ、そして淘汰されているそうだ。
『特異個体』というのは基本的に種としての異常を抱えているからこそ『特異個体』であり、その歪さから群れに混じることもできず弾かれることも多い。
『変異種』に至っては種としての根本から変質しているせいで『同族』とすら認識されないことも多々あるのだ。
そしてまだ幼い生まれたばかりのたった一匹のポケモンが自力で生き残れるほど自然界というのは甘くなく、結果的に生き残り成長し人の目に触れるまでになる個体というのは『運が良かった』か或いは『それだけの才能があった』か、どちらにしても大半の個体は自然の中に消えていくのだそうだ。
だがそもそもの話、どうして『変異種』『特異個体』というのは生まれてくるのだろうか。
一番シンプルな理由が『個体差』だ。
人の中にも先天性の異常を抱える者がいるように、ポケモンもまた『生まれつき』で異常を抱えるケースが存在する。
だが結局それも人の中の遺伝子が異常を引き起こしているように、ポケモンの『生まれつき』もまたその『生まれ持ったもの』が原因となるのだ。
それは言い換えれば才能と言えるのかもしれないが、けれど才能が種としての限界を歪めてしまった結果それが異常となることもある。
有名な例を挙げるならば『色違い』とは一種の『特異個体』と言える。
単純な体色の変化は生まれ持った色素の欠乏が引き起こす異常であることが大半だ。
或いは『生まれつき』本来存在しないはずの何かを持っていたが故の変化であることもある。
次に分かりやすい理由を挙げるならば『親』の種族。
違う種族同士でもタマゴが作れるというのはすでに解明されているが、違う種族同士で作ったタマゴから生まれたポケモンは同種同士でタマゴを作ったポケモンとは『血統』を異にする。
例えば陸棲の『サダイジャ』と水棲の『ギャラドス』がタマゴを作った結果、陸棲の『コイキング』が生まれてしまったように。
そしてさらに分かりやすい理由を挙げるならば『環境』。
例えば地方全域に特殊な磁場が発生してしまっている結果、タマゴの時から影響を受け生まれたポケモンが本来の種族とは異なるタイプを擁するように。
もしくは『巨大個体』だろうか。
本来の種族の平均的な全長と比較して1.5倍……或いは2倍以上の巨体を持つ個体。
これは生来の遺伝子の異常とも言えるかもしれないが、或いは環境の違いが要因となる場合もある。
寒冷地帯において生物が巨大化しやすいように、または異なる環境で食べる物が異なった時のように。
とはいえこれらは極端な例ではある。
ただ実際問題、同じ種族のポケモンですら『地方』が異なれば微細な差異が生まれるのもまた事実である。
例えば同じポケモンでもある地方では覚えるはずの技を覚えない、もしくは覚えないはずの技を覚える。
ある地方のポケモンと別地方のポケモンでは同じ種族のはずなのに特性が異なる、など。
地方ごとに環境が違えば同じ種族ですら差異は生まれる。
そして先も言った通り。
つまりワイルドエリアに生息するポケモンたちは最早在来種と外来種の区別すらつかなくなるほどに何代も代替わりする中で世界各地のポケモンたちの『血統』をいくつも、いくつも、ひたすらに混ぜ合わせ、煮詰めてしまっているのだ。
その結果どうなったか。
ガラル地方における『変異種』或いは『特異個体』の発生率は他地方と比較しておよそ5倍近いとされる。
地方としては小さなはずの島国の中で特異化し、暴れ回るポケモンが通常の5倍のペースで出現する、と考えるとこれが中々に厄介であると分かるだろう。
先も言ったが、『特異個体』というのはその異端さ故に大半が環境の中で淘汰されてしまっている。
故に生き残って人の前に現れる個体というのは一握りに過ぎないのだ。
だが例え一握りに過ぎない程度の数だとしても。
その分母が増えれば結果的に生き残る個体の数も増える。
しかも『血統』は今も尚、煮詰まり続けているのだ。
つまりこれからも突然変異は増え続ける。
否、その増加率はさらに増すだろうことは予測に難くなかった。
だからこそガラルでは他地方のポケモンの持ち込みが厳しく制限されている。
種族だけではない、技一つすらも抵触すれば持ち込みを禁止される。
それは何故か。
ポケモンの技とはつまりポケモンの体の構造によって放たれるものであり、ガラルのポケモンに使えない技を使えるということは同じ『種族』と分類されてはいても、違う『血族』だからだ。
それはガラルの種とはまた別の地方の『血統』を持つ種ということだからだ。
故にガラルはそれを持ち込むことは激しく厭う。
これ以上『血統』を増やさないために。
増やせば増やすほどに煮詰まっていく『血統』の果てにたどり着かないように。
『血統』の果て。
つまり煮詰まり続けた『血統』の極限。
例えばの話、これが人間ならばあまり関係の無い話なのだ。
ガラル人とカロス人が子を成したとしてそれはそれぞれの人種のハーフとなるだけだ。
だがポケモンに二つの種族のハーフなどというものは存在しないのだ。
二つの種族から生まれたポケモンは母親の種族でありながら父親の血統……つまり種族の特性を一部得ることになる。
そのポケモンがさらに他の……同じような別々の種族から生まれたポケモンとタマゴを作れば……これだけで一気に4種族の『血統』が混じる。
これを単純にクォーターと表現できないのがポケモンという種の強固さ*1であり同時に脆弱さ*2である。
そうして複数のポケモンの『血統』を混ぜ続け、煮詰め続けた結果。それは混ぜれば混ぜるほどに『単一の種』としては歪になっていく。
その一つが間違いなく『ボマー』と呼ばれる存在だろう。
あの巨大エアームドを見れば分かるだろう、その生態の歪さが。
本来ならば単一の種として形作られるはずの自らの体が、複数の種の特徴を混ぜることで自らの命を危機に曝す。
『血統』の果てとはつまりそういうことだ。
自らの炎で自らの身を焼くような、成長過程でそうなるのならばともかく生来の性質からして生きることができないようにデザインされたようなそれは
そんな混ざるはずの無い複数のポケモンの特徴を持った『特異個体』でも『変異種』でも無い、それは最早『突然変異』ではなく『新生』と呼ぶべき存在。
つまり『新種』へと至る可能性。
それは良い方向へと転がれば……まあ一つの結果としてはありなのかもしれないが。
だが決してそれは良い方向ばかりには行かないことは『ボマー』が証明している。
変異するほどに生物として歪んでいく。
その結果、自力で生きられなくなったポケモンたちが増え続ければ……それは最早種としての根絶に等しい。
『血統』の果てとはつまり、絶滅するか新生するか、その二つに一つでしかないのだから。
* * *
―――――オオオォォォォォォォォォォォ!
遠方より響く鈍い汽笛のような叫び声に背筋が震える。
ガラル本土より少し離れた場所に位置する個人所有のはずの島……ヨロイ島。
島という特性上四方を海に囲まれているわけだが、その南に位置する『ワークアウトの海』に現在『怪物』が襲来していた。
ガラル地方は過去より巨大な怪物の伝承が多く存在していた。
それがダイマックスによるものだと分かったのはここ最近のことだ。
だがその全てがダイマックスによるものだった……とは限らないのだ。
何せガラル地方というのは他地方と比べても飛び抜けて『特異個体』や『変異種』が多いのだから。
いくらガラル地方といえど海上にパワースポットというのはそう多くないのだ。
故に海上のポケモンに関してはダイマックスしていないことのほうが多い。
だがそれにしたって、だ。
「……いや、ないだろ」
海岸に立ち、遠くに見える影を見つめながら咄嗟にそんな言葉が漏れ出た。
遠く遠くに見えるはずの影は距離感が狂いそうなほどに巨大だった。
確か地図によればあの影の手前の島までの距離が大よそ2000メートル程度はあったはずなのだが、その島影は薄っすらとしか見えないにも関わらずその後ろのほうの影はくっきりと輪郭が見える。
「なんだ……あれ」
ガラル地方には全18タイプのジムがあってそれぞれ18人のジムリーダーが存在する。
ジムリーダーの仕事というのはいくつかあるわけだが、その中でもジムリーダーだけに課せられた『義務』が存在するというのはあまり世間には知られていない話だ。
というよりそれはガラルのトップトレーナーたちであるジムリーダークラスでなければあまりにも危険過ぎて任せられないが故に義務だった。
それは世間一般には存在すら知られいない。
それはリーグ委員会の手によって存在を隠されていた。
それを知る者はガラルでも非常に限られていた。
ガラルには毎年多くのバウンティーモンスターが発生する。
それらは一般のトレーナーたちにも公開され、トレーナーたちの手に負えない時だけジムリーダーなどが出張って事態を解決していた。
だがそもそもどうしてバウンティーモンスターという制度が求められたのか。
確かにガラルは『特異個体』や『変異種』の発生率が高く、結果的に環境に馴染めずに暴れるような個体が多かったのも事実だ。
けれど例え発生率が他地方より遥かに高かろうが、それでも総数としてはどうにでもなる程度の数でしかない。
ジムリーダーやジムトレーナーたちが出張って行けばいくらでも解決できる程度ではある。
何せガラルには18人ものジムリーダーがいるのだから。
だとしたら、何故?
答えは純粋に手が足りないからだ。
他地方ならばジムリーダーたちが赴き解決するような事態だが、ガラルにおいてのみそんなことをしていられない事情があった。
解決の手にジムリーダーを取られたくない事情があった、常に半数以上のジムリーダーを待機させておきたい事情があった。
例え18タイプ、18人のジムリーダーを揃えても尚、人手が足りない恐れがあった。
その答えの一つが視界の向こう側に見える数百年前からガラルを襲う『怪物』。
その一体。
“
かつてガラルから船出した多くの船乗りたちから恐れられた、七つの海の航海者たちの天敵。
それが、今クコが相対することを義務付けられた怪物の名だった。
・七つの海の航海者
ポケモン世界に七つの海があるのかは知らないけど、まあガラルってイギリスモチーフらしいし、そういうことにしといて(
・煮詰まった血統
ガラル編書きだしてから『特異個体』と『変異種』ばっか出てきてるのはこういう背景があったんだよー(後付け
・血統の限界
ムーくんことボマーさんを見てもらえば分かりやすいと思うけど『自分の生来の能力で自分の命を脅かしている』みたいなやべーやつらのやべー部分が遺伝してしまうこと。
ムーくんはぶっちゃけソラちゃんに捕まるのが後半年くらい遅れてたら自分の炎で自滅してました。自然に淘汰されてた。で、問題は血統が限界まで煮詰まってしまうとそういう『生命として生きることに影響のあるレベルの生来の能力』みたいなのがバンバン遺伝、或いは持って生まれてしまう。
そんなのばっか野生に増えていったら……まあどんどん個体数勝手に減らして行って、交配が追いつかなくなった時点で滅亡一直線になる。
もしくはそういう矛盾した性質すらひっくるめて『新種』として生まれ変わる可能性もある、あるけどそんなの確率的には奇跡みたいなものなのでほっとくと野生のポケモンが9割9分絶滅しちゃうんじゃね、って状態に陥ってる。
血統限界の失敗例→ムーくん(自滅型)
血統限界の成功例→イズモ編で出そうと思ってたキュウコン(通常キュウコンとアローラキュウコンの交配種で『ほのお/こおり』の通常矛盾するタイプを複合したある意味の新種)
・入国規制
別にそんなつもり全く無かったんだが、血統の煮詰まりについて書いてたら「そういうやガラルって入国規制してたよな、そうかこのタメだったのか」って勝手に符合してしまったからそういうことにしといて。
因みに技まで規制されるのはドールズ世界における解釈として『他の地方の同種に出せない技が出せる』=『その地方特有の血統によって得た能力、或いは器官がある』としているため。要するに種族的には同種と見做されてるけど、実際には地方ごとに分岐進化した亜種と言ったほうが正しい。つまり完全には同一の種じゃないんだよ、ってことで規制されてる。
対象の技を消せば『地方特有の差異』を必要としなくなるから適応力の高いポケモンは基本的にその能力、ないし器官を遺伝させない、つまりタマゴ作ってもガラルの種と同じ種が出来上がる、という解釈。
因みに“幽霊船”さんに関しては本編で出番あるかどうかマジで謎。
一応バウンティとして以前からデータは作ってたけど、海の上のモンスターにソラちゃんが関与することあるの??? って感じなので。
ただどっかでデータ出して読者を白目にさせたいなあとは思ってる。
一つ言うなら設定レベルが178です(尚not超越種)
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ジムリーダーは見た! ガラルの空に浮かぶ謎の飛行物体の正体とは?!アフター
「うへえ……マジですかぁ」
トドメの一撃を持って行ったとはいえ、あのタフネスの塊みたいなジバコイルを僅か2手で倒し捕獲してしまったソラに愕然とする。
少なくともユウゼンでは6体全員使ったとしてもあのタフネスを削り切れる気がしないので余計にだ。
まあそれも相性次第というべきだろう。
少なくともソラのプテラが『じしん』を使えなければもっと苦戦していただろうことは予想に難くない。
いや、それにしたってソラが『エレキフィールド』を強制的に散らしたお陰なのだから、やはりこれはソラが凄いというべきか。
「やっぱゲームとは違いますねぇ」
全てが『システム』という名の規格の範疇に収められた実機とは違い、現実となったこの世界ではこういうイレギュラーな存在が時折現れる。
そういうところが恐ろしくもあり……だからこそ楽しいのだが。
「とは言え、こういうのの相手はやっぱりクコさんに頼むべきですねぇ……」
まあ本当にいざ、という時、あのジバコイルのような類をどうにかするための切り札は……無くも無いのだが。
「苦手なんですよねぇあれ使うの」
ついでにあれはユウゼンにとっても諸刃の剣に等しい。
さらに言えば、残念ながらユウゼンはそれほど『指示』が上手くない。
いざ、という時に1秒未満の咄嗟の判断を迫られれば判断を誤る可能性が高く、そして野生のポケモン相手のバトルというのはそういう判断を迫られる場合が多い。
というより価値観が未だに実機に縛られているというべきか。
トレーナー相手のバトルならばそれでもなんとかなるのだが……。
例えばソラが何故ガラルフリーザーとガラルファイヤーをジバコイルの上空に位置取らせたのか、ユウゼンには分からなかった。
結果的にそれはジバコイルの注意を上に引き付け、下のソラの安全とそして後出ししたプテラの攻撃のための隙へと繋がったわけだが、それは結果が出て初めて気づけたことだった。
実機において『位置』なんて要素は存在しない。
技を選択すれば必ずポケモンはその技を出すし、技の威力は常に同じだし、直接攻撃だろうが遠隔攻撃だろうが順番を決めるのは『すばやさ』と『優先度』だけだ。
急所を引くかどうかは乱数、或いは急所率の問題だし、そもそも先制攻撃だとかバックアタックだのというシステムも実機ポケモンには存在しない。
「トレーナー相手だと割と実機の感覚に近いんですけどねぇ」
基本的にトレーナー相手にバトルするならゲームと同じ感覚でやれる。
それはユウゼンの特殊過ぎる能力がもたらす『数値化』された視界がもたらしてくれる恩恵と言える。
だが野生のポケモンというのは実機のようなシステムに縛られた動きをしてくれない。
最善と最適解を求めたところで非効率で非常識な動きに翻弄されるのがオチでしかない。
そういう意味では。
「慣れてます、よねぇ?」
ソラの動きは野生のポケモン相手のバトルに慣れているように感じる。
同じデータを持っているはずのユウゼンには思いつかないような手法でポケモンの虚を突き、あっという間に崩してしまう手法、そして一度握った手綱を手放さず捕獲まで一息に詰めてしまう手腕。
最早ガラルのワイルドエリアのような自然環境保護地区のある環境でなければ早々身につかないはずの対野生、対自然の動きはどう考えても昨日今日の一朝一夕で得たものではなかった。
「地方を旅でもしてたんですかねぇ?」
プロトレーナーが拠点を構えて対トレーナー戦のために集中的にポケモンを育成するのが当然のこの時世に一体どんな経験をしてきたのだろうか、ユウゼンには見当もつかなかった。
そんなことを思いながらストリンダーとジバコイル、二体の入ったボールを手に佇むソラを見やる。
周辺で暴れていたストリンダー、そして恐らくこの周辺を縄張りとしていたのだろうジバコイル、両者を捕獲したことで深域にも関わらず野生環境特有のひりつくような感覚が無い。
にも関わらずソラは動こうとはしないことに首を傾げ、近づいていく。
「ソラさん?」
「え……あ、ああ、ユウゼン」
「どうしましたかぁ?」
傍にまで寄って声をかければ、少しぼんやりとした様子でソラが振り返る。
はて、何かあったか、と内心で疑問を覚えつつ様子を見ていると。
「何か妙な感じしない?」
「妙な感じ、ですかぁ?」
言われて周囲を探ってみるが特におかしな気配はない。
首を振って見せれば、そう、と一つ嘆息し。
「なんというか、首筋にチリチリと静電気が走ってるような感じかしら」
首元に手を当てさすりながら自分でも言語化しきれない感覚を抱えた様子でソラがもどかしそうな表情をしながら首を傾げる。
「ジバコイルと戦ってた時から感じていたのよね。ジバコイルの発している磁力のせいかと思っていたけど……」
「ジバコイルを捕獲しても未だに感じる、と?」
「そうね……」
周囲を見渡しながら違和感の原因を突き止めようと視線を凝らすソラに、少し考え。
「ではぁ、少し周囲の探索をしてみましょう」
「……良いの?」
「まあ、はい。今回の騒動で周辺の状況がどうなったとかそういうのも、まぁ見ておく必要もありましたのでぇ」
本来の流れならストリンダーとジバコイルを捕獲した時点でユウゼンたちは街に戻って後はポケモンレンジャーに引き継ぐ、という流れだったがまあこちらで周辺を軽く回っておくくらいはやっても問題はないだろう。
「……そう、じゃあ少しだけお願い」
「りょーかいですぅ」
どうにも気になって仕方ない、という様子のソラに苦笑しながら感覚頼りに歩きだすソラの後ろをユウゼンはついて歩いた。
* * *
河原か何かのように大小様々な石や岩が転がっていて非常に歩きにくい岩場地帯を感覚頼りに歩いていくと、少しずつだがチリチリと首筋に走る小さな静電気のような感覚が強くなっているのが分かる。
「もうすぐ、ね」
思いがけず零れ出たそんな台詞が示すように見えてきたのは『ポケモンの巣穴』だった。
技で掘ったのだろう穴の周囲に石ころを積み上げて壁を作った簡素な巣穴。
「ん-……何もいない、ですかねぇ?」
ユウゼンの言葉通り、特に何かいる様子も無い。
ワイルドエリアに時々見つかる主のいない巣穴だ。
「いや、いるわね」
「……えぇ?」
そう確かに見た限りだと何も居なさそうなのだがソラの感覚がここだ、と最大限に叫んでいる。
穴の中をしっかりと確認する、が確かに何も無い。
感覚的にはこの辺りだ、と確信できる、だが具体的にはどこ、というのが分からない。
じゃあと周辺を調べてみるが、やはり何も無い。あるのは石と岩ばかりだ。
「うーん」
「見つかりませんねぇ? もう諦めますかぁ?」
ユウゼンと二人して探すがやはり見つからないのでユウゼンがそんなことを聞いて来る。
確かに何でこんなにも気にしているのか、と言われると自分でも分からない。
チリチリとした感覚が未だに首筋にある。それが不快なのか、と言われると別に不快というわけではないのだ、ただ漠然とした違和感があるだけで。
無視してしまえば、と思わなくも無いのだが……。
「もう少しだけ待って……これで最後にするから」
呟きながらそっと右手を突き出して。
「―――吹け」
一つ呟けば轟、と風が吹き荒れる。
出力はそれほど上げていないので髪を揺らす程度だが、風で地表を撫でる感覚がソラにソレを教える。
「……見つけた」
「え?」
「リーちゃん」
ホルスターから一つ取り出したボールを投げ、フリーザーを呼ぶ。
さらにフリーザーに巣穴の周りに積み上がったいくつもの石と岩、それらを
一つ、一つと除けていくたびにその下に僅かな空間があることが見えてきて。
「あったわ」
「……ほわぁ」
そこに大きな岩と岩の隙間にできた空間から姿を覗かせる、半分土に埋まったように転がる『タマゴ』があった。
* * *
「これ、よく潰れませんでしたね?」
「この岩と岩で上手く隙間を作ったんでしょうね……うん、間違いない、これだわ」
「このタマゴの親は……ああ、ストリンダーとジバコイルの戦いで避難したんですかねぇ」
「酷い話……とも言えないのよね、野生環境だと」
もしくはこのタマゴを守るために果敢に立ち向かって散っていったか。
どちらにしてもこのタマゴの親は今ここには居ない、それが全てだった。
「こういう場合、タマゴってどうするの?」
「そうですねぇ……問題無さそうなら自然のままにしておく、んですがぁ。ほっといたら間違い無く死にますよねぇ」
「でしょうね」
もし親が逃げていた場合、いつ戻って来るのかも分からない。いや、そもそも本当に戻って来るのかも分からない。
もし親が戦っていた場合、ここにいないという時点でそういうことなのだろうと予想がつくし、その場合結局親は戻って来れない。
「まあ何のポケモンのタマゴかは分かりませんが一先ずポケモンレンジャーのほうで預かって、孵化したら自然に返す、がベターですかねぇ」
「……そう」
「もしくは、ソラさんが引き取りますかぁ? プロトレーナーが責任もって引き取るならぁ、まあそれもありですねぇ」
そういうユウゼンに一瞬答えに詰まる。
「うーん、この子が何のポケモンかにも寄るのよねえ」
基本的にソラのパーティは『ひこう』タイプで統一されているので、それ以外のポケモンを入れるつもりは現状だと無い。
ただ何となくこのタマゴが気になっているのもまた事実で。
「どうしようかしら?」
なんて呟きながら半分土に埋まったタマゴを掘り起こす。
殻のついた土をさっと拭ってやり持ち上げた……瞬間。
「ん?」
吸いつくような妙な感覚。
「ん??」
何か以前にも似たようなことがあったような。
そんなことを考えている間に。
ぴき、と何かが割れるような音がした。
「え?」
「えぇ?」
ぴき、ぴき、ぴき、と音がするほうに視線を落とせばそれは腕の中のタマゴから聞こえて来ていて。
見ている間にもタマゴに亀裂が入って、それがどんどんと広がっていき。
そうして。
「あぅ~」
白いワンピースに身を包み、くすんだクリーム色の髪をした赤ん坊くらいのサイズの子供がぱっちりと金に染まった目を開きソラを見つめ。
「おかーさん!」
笑みを浮かべた。
* * *
「もしもし? あ、委員長、ようやく繋がりましたよぉ」
『はは、すまない! あちらこちらと忙しくてな! それで、例の件かな?』
「はい、まあ色々ありましたがストリンダーの捕獲完了しましたよぉ」
『そうか! それは良かった!』
「はいはい、それとですねぇ、まあその色々に関連しますがぁ……【アンノウン】ってバウンティーいたじゃないですかぁ」
『ああ、あの各地で発電所に襲来したという……』
「はい、例のストリンダーと激しくバトルしてたのでぇ、両方捕まえましたよぉ」
『本当か?! なるほど、それは助かる話だ。マクロコスモスも例の一件があったとは言えガラルの生活を支えている重要な企業だからな、これで彼らにも良い報告ができる。ああ、それとストリンダーのほうもバウンティー認定されたから併せて賞金が出る、受け取ってくれ』
「あ、いや実はぁ、私じゃ戦力的に不足だと思いましてぇ。協力をお願いしたトレーナーがいるので賞金のほうがそちらでお願いしますねぇ」
『了解した。しかしでんきジムのジムリーダーたるユウゼンくんが頼るほどのトレーナーか、俺の知ってる相手かな?』
「知ってるんじゃないですかねぇ。ほら、チャンピオンがホウエンから呼んだっていうあの例のぉ」
『ああ! ソラくんか! 会ったことは無いが、ユウリくんから話は聞いてるぜ、そうか、彼女にはこちらからも礼をしておかないとな!』
「それなんですがぁ……」
『ん? どうかしたのか?』
「リーグ委員長のジムチャレンジ初戦はいつになりそうですかぁ?」
『俺の? そうだな、一週間以内には行こうと思っている、ネズのやつも今日突破したらしいしな!』
「二人して何やってんだか……ああ、いやいや、実はソラさんからですねぇ、ガラル特有のアレについて教えることを報酬していまして、委員長のバトルが多分一番分かりやすいと思うのでぇ、挑戦する日を教えて欲しいなぁと」
『ふむ……そうか、アレに関してか、てっきりユウリくんが説明しているものだと……ああ、ユウリくんもガラルに来てまだ日が浅かったか。確かにアレに関しては俺が一番分かりやすいかもしれない……よし、分かった、なら詳しい日程が決まったら連絡しよう! 是非ソラくんも連れてきてくれ。俺のバトルをお見せしよう!』
「じゃあ近日中にお願いしますねぇ……今ソラさん、新しくゲットした子の世話で大変みたいなので後で話は通しておきますぅ」
『お、ワイルドエリアで新しくゲットしたポケモン……子? 世話? ん?』
「それじゃあ」
『お、おお? うん? ああ、え?』
一応予定していたソラちゃんパーティ最後の一体。
何のポケモンか分からんかもなあ……。
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ノリと気合と勇気と根性でどうにかなることもある
『ねがいぼし』とは本気の願いを持つ人のもとに落ちてくる、なんて伝承がある。
翻って言えば『ねがいぼし』とは人の意思に反応する石なのだ。
そもそもダイマックスだってただボールに戻したポケモンにダイマックスバンドを通りしてガラル粒子を注げばいいというものでは無い。
その力を真に引き出すにはトレーナーとポケモンの信頼が……絆が必要になる。
野生のポケモンがダイマックスして暴れ出すのはつまり溢れ出すガラル粒子が生み出す莫大なエネルギーが無秩序に荒れ狂うからだ。
ダイマックスバンドはダイマックスパワーを貯蔵し、貯蔵した力の出力を一定にした状態でボールへと力を注入する。
そしてトレーナーとポケモンの絆が、共に戦う意思がその荒れ狂う巨大な力を制御することを初めて可能とするのだ。
このあたりはホウエン地方やカロス地方における『キーストーン』と『メガストーン』によく似ている話である。
いや、そもそも『ねがいぼし』も『キーストーン』や『メガストーン』もまた空から降り注ぐ石……つまり隕石なのだから本質的に似通うのもまた必然なのかもしれない。
故に『ダイマックスバンド』を持って『パワースポット』でバトルすると、不可思議な現象が起きる。
「つまりそれがこのガラル地方におけるバトルの本質なんですよぉ」
ガラル地方におけるプロトレーナーは『エンターテイナー』としての一面を持つ。
ただ強ければ良いのではない、ただ勝てば良いのではない。
より鮮烈に、より派手派手しく、そして鮮やかに勝利を飾る。
何よりも重要視されがちな『盛り上がり』とはガラルのバトルにおいて実のところ実効力を持つのだ。
「ガラルのトレーナーの間ではぁ、これらの要素を『テンション』『アピール』『エキサイトグラフ』と称してますぅ」
* * *
ポケモンとは生物である。
この酷く当然な事実を知らない自称プロトレーナー(笑)が意外と多い。
正確には分かっているような気になっているだけのトレーナーが多いというべきか。
なまじ能力値の研究が進み、ステータスという名の能力の数値化ができてしまうが故にポケモンバトルを数学か何かと勘違いしてしまっているトレーナーのなんと多いことか。
だがそんなトレーナーでは大した実績は出せない。
自分のパートナーが今どんな心境なのか、それを察することができないトレーナーがバトルで勝てるはずが無いのだ。
何度も言うがポケモンとは生物である。
人と同等の感情があって、時には人を超えるほどの思考能力を持っていて、そして人と心を交わしあうことのできる人類の隣人なのだ。
つまり人にもあるように、ポケモンにも肉体的、或いは精神的な調子の波というものが存在する。
寧ろそれはトレーナーとして当然の役割だ。
スポーツに例えるならばトレーナーとは『
その
まあ今はそんなトレーナーのもどきのことは置いておき。
ポケモンにも調子の波というものが存在するが、同時にポケモンとは『精神の調子』が肉体に大きく影響しやすい存在でもある。
人間とて昂った精神が肉体の限界を超えさせることもあれば心の病によって体調を崩す場合などもあるが、ポケモンというのはそれが顕著な種であると言える。
とは言えプロトレーナーのポケモンならば常に全力……とまでは行かずとも限りなく100%に近い力を発揮させることができるように調整されているので絶好調の時でも常より数パーセント力を発揮できる、だとか絶不調の時でも常より数パーセント力が落ちる、くらいの誤差というには大きいが許容できる程度の差異でしかない。
それはプロトレーナーのポケモンが『ポケモンバトル』という一つの競合の場で戦いあうことを明確に『目的』としてモチベーションを保っているからだ。
要するに不調だろうが何だろうが『バトル』するからにはやる気になる、そういう素質のあるポケモンを選んで仲間にしているし、そういう風に育てているのだ。
長々と語ったが、結局何が言いたいのかといえば。
ポケモンもまた生物である以上、調子の波が存在していること。
けれどプロトレーナーは調子の波が下向きの時でも許容できる程度には実力が出せるようにメンタル管理をしていること。
つまりプロトレーナー同士のポケモンバトルにおいて
決して無視していいものではないが、普通にバトルする分には気に留めない程度の要素。
だがガラル地方において……正確には『パワースポット』でのバトルにおいてこの『
それはガラル地方の一定以上のレベルのトレーナーの間では『
例えばバトルの始まり一番槍として飛び出した時だとか。
例えば相手のポケモンの弱点となるタイプの技をばっちり決めた時だとか。
例えば自分の攻撃で相手のポケモンを倒した時だとか。
そういう時にそのポケモンの『
逆に自分の攻撃が相手に半減、或いは無効にされたり。
相手の攻撃で味方のポケモンが倒されたり。
強制交代効果によって予想外にもバトルに引きずり出されたり。
そういう時にそのポケモンの『
普段のバトルならば決して表面化しないはずのポケモンの『気分』の上下。
けれどガラル地方におけるパワースポット上で……そして『ダイマックスバンド』、正しく言えば『ねがいぼし』を持っている時に限定すればこの『気分』の上下が
ユウゼンの『眼』はそれを数値として捉えることができるからこそ分かる。
気分を数値化した値……『テンション値』とでも呼ぶべきそれは、ポケモンの能力ランクと同じく上下どちらにも6段階ずつ、フラットな状態を0とするならば13段階に分かれている。
そして値±1ごとに0.05倍の『全能力』の差異が生まれる。
つまり『テンション値』を最大の+6にすれば『こうげき』『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』『すばやさ』は1.3倍になり、逆に最低の-6になれば0.7倍になってしまう、ということだ。
0.05倍……つまり5%の変動は能力ランクの50%と比較して誤差のように見えるが実際のバトルの中において『思ったよりダメージが高い』や『思ったよりダメージが低い』という『想定外』を生みやすい。
そうしてその誤差のような数値が最大、或いは最低まで積みあがってしまった時、その差は明確な差異となるのだ。
そして恐らくこのガラルで最も『テンション値』を上手く使っているのが他ならなぬ現ガラルリーグチャンピオンの『ユウリ』だ。
チャンピオンのトレーナーとしての技能は主に二つ。
『指示』『育成』『統率』『技能』
リーグがプロトレーナーを評価する際に目安とされる五つの能力のうちの『戦術』以外の四つを利用したもの。
指示能力が相手より高ければ相手より先に行動を指示する。
つまり初動を上げることで実質的な技の『優先度』を上げる。
逆に指示能力が相手より低ければ相手の動きに対して備えさせる。
相手の行動を読むより見に徹することで相手の技の打点をずらし直撃を食らわないようにする。つまり被ダメージを軽減する。
他にも育成能力が相手より高い時、低い時、統率能力が高い時、低い時、技能が高い時、低い時と一つ一つの効果は小さくともとにかくトレーナー技能が発動する機会が多い、手数を増やすような技能。
そしてそれらの効果が発動するごとに対象のポケモンのテンション値を上げることができる。
手数の多さが自慢の技能で、その手数を発揮するたびに小さく小さくポケモンが強化されていく。
これだけでもトレーナー技能そのものの効果と合わせて厄介だ。
だがそれだけならばガラル地方のパワープレイを主体とするトップトレーナー相手に勝ち抜くことはできなかっただろう。
チャンピオンユウリはとても
この矛盾するトレーナー像こそがチャンピオンユウリの強みなのだ。
一つ目のトレーナー技能は小さな利を得る『手数重視』のガラル地方としてはやや珍しいタイプの技能だ。
つまりそれはチャンピオンユウリの『ガラルらしくない』部分。
だから、あるのだ。
もう一つ。
チャンピオンユウリが『ガラルらしいトレーナーである』と言わしめる奥の手が。
* * *
アピールと言われるとポケモンバトルよりも寧ろホウエンで盛んに行われているポケモンコンテストを連想するだろうが、実のところやっていることは同じ『観客』の注目を集める行為だ。
問題はコンテストにおいてそれは直接的な『評価』を得るためのものだが、バトルにおいては間接的な『盛り上がり』を得るためのものだということが違いかもしれない。
先も言ったがガラルのポケモンバトルは『エンターテイメント』の一面がある。
その一面から言えばトレーナーが『エンターテイナー』であり、そしてトレーナーの繰り出すポケモンは『演者』なのだ。
その関係からかガラルのポケモンバトルは強力なエースポケモンが競り合って勝敗を決めてしまう傾向にある。
6体の手持ち。
その内の1体がそのトレーナーを象徴するようなエースポケモンであり、だいたいの場合ダイマックスやキョダイマックスの枠はこのポケモンに割り振られる。
そしてその一体のエースポケモンを『引き立てる』ようにサポートをするポケモンが複数いる。
そうすることでエースポケモンが次々に相手を倒していく、という『演出』ができるし、最後には必ず互いのエースが激突する白熱のバトルが『演出』される。
こうした『演出』をとってみても、そのポケモンに注目が集まっているかどうか、というのは重要になる。
特にダイマックスとはこういう『注目』を集めるのに最適な効果となり、ただダイマックスするだけでも大きな注目を集めるが、最初から注目を集めたポケモンがダイマックスすることにより会場を『盛り上げる』ことができる。
後述する『エキサイトグラフ』とはつまりこの時の『盛り上がり』の度合いと言える。
そして『テンション』と同じく『エキサイトグラフ』……つまり会場の盛り上がりはパワースポット上において『ねがいぼし』を通じてフィールド上のポケモンたちの力となる。
重要なのはその『盛り上がり方』だ。
実機において場の状態というのが『味方の場』『相手の場』『全体の場』と3種に区別されていたように、『エキサイトグラフ』もまた『味方』『相手』『全体』の3種に分かれる。
つまり観客たちが『どちら』を応援しているのか、という問題だ。
『応援』する、その心が、思いが、力となって宿るのだから会場を味方につけることができたならばその『盛り上がり』を一身に受けることができる。
言ってみれば、前チャンピオンダンデの強さがこれだった。
会場全てを飲みこむほどのカリスマ性。ガラル中を魅せたエンタメ性。
それら全てを持ってして力とする圧倒的な強さ。
ただしそれはダンデだからこそできることだ。
ジムリーダーたちも似たようなことはできてもダンデほど『人気』を力に変えることができるトレーナーは他には居ない。
だからこそ『アピール』するのだ。
自分のポケモンたちを『アピール』し、会場を盛り上げ、自分たちの味方を増やす。
そして相手よりも多くの『人気』を獲得し、『応援』を集め、自分たちの力とする。
この『応援』が結構馬鹿にならない効力を持っているからこそ、ガラル地方においてトレーナーの『人気』とは強さに直結しやすくなる。
ただこれが案外難しいのだ。
何をやれば会場を沸かせることができるのかなんて理論があるわけでは無いし、人の感情に理屈をつけることは難しい。
だから『アピール』の度合い……『アピール度』とでもいうべきそれを自在に操れるトレーナーは本当に少ない。
これを最も上手く利用しているのが……恐らく元『あく』タイプジムジムリーダーの『ネズ』だろう。
彼は元々このガラルで『ダイマックス』を使用せずに会場を沸かせ続けた生粋のエンターテイナーだ。
人の注目を利用し、会場を沸かせ、力とするのはお手のものと言ったところだろう。
「と、まあ長々と説明しましたけどぉ……まあ言葉だけじゃ体感し辛いと思うのでぇ」
そこで言葉を止めて、ユウゼンが扉を開く。
ターフスタジアム。その関係者だけが通ることができる通路を進んだ先にある、一部の人間だけが利用できる部屋。
部屋の中に入るとガラス張りの室内からはスタジアムのバトルコートが見下ろすことができる。
そしてそこに立っているのは二人のトレーナー。
一人はジムリーダーのヤロー。
そしてもう一人は。
「一番分かりやすい人の試合を見ましょうかぁ」
相手に聞こえるはずもないが、その呟きと同時に振り上げられた拳に会場中が沸く。
本来ジムチャレンジ期間中と言っても最初のジムにこれだけ多くの観客が押し寄せることなど無いはずだった。
だが今日という日に挑戦するたった一人の男を目当てにこれだけの観客が押し寄せたことが逆説的に男の人気が未だ健在であることを証明していた。
―――ダンデ。
元ガラル地方チャンピオンの試合、その一挙手一投足にガラルが沸いていた。
二年以上前からすでに設定はあったのにようやく本編に出てきた本作におけるガラル地方固有のシステムです。
以下説明。
ただしなんかあったらこっそり変更するかも?
【テンション値】
場のポケモンの『テンション』の数値。
高ければ高いほど『底力』が発揮されたり、確率発動の効果が上昇(フレーバー)したりする。
判定は『個別』で数値は『-6~0~+6』の幅で表される。
『+6』の時、ポケモンが『テンションマックス』状態となり、アピール度の上昇が2倍になる。
『-6』の時、ポケモンが『テンションダウン』状態となり、アピール度が上げられなくなる。
『+1』ごとに全能力が+0.05倍される(最大1.3倍)。
『-1』ごとに全能力が-0,05倍される(最大0,7倍)。
【テンション値の変動基準】(以下一例)
味方の最初のポケモンが場に出た(個別+2)
強制交代効果で味方が場に出た(個別-1)
相手に『こうかはばつぐん』の技を当てた(個別+1)
味方が『こうかはばつぐん』の技を当てられた(個別-1)
相手の技を『こうかはいまひとつ』で受けた(個別+1)
味方の技を『こうかはいまひとつ』で受けられた(個別-1)
相手の技をタイプ相性や技で無効化した(個別+1)
味方の技をタイプ相性や技で無効化された(個別-1)
相手のポケモンを倒した(個別+2、全体+1)
味方のポケモンを倒された(全体-1)
味方の最後の一体のポケモンが場に出た(個別+3)
『フォーカス』状態の時、アピールが成功した(個別+1、全体+1)
『フォーカス』状態の時、アピールに失敗した(個別-1)
『エキサイトグラフ』が上昇した(個別+1)
『ダイマックス』する(個別+2)
【アピール度】
観客に対するアピールの度合い。同時に観客からの注目度でもある。
アピール度が高いポケモンはエキサイトグラフを上げやすい。
逆にアピール度が低いポケモンはエキサイトグラフを上げにくい。
判定は『味方全体』で『0~+6』まで幅がある。
『+6』の時『フォーカス』状態になる。
『フォーカス』状態の時、アピールに成功すると『エキサイトグラフ』が+1される。逆に失敗すると-1される。どちらにしても『フォーカス状態』は解除され、アピール度が0になる。
→『フォーカス』状態のポケモンが場にいる時、『フォーカス』状態のポケモンがアピール度を上昇させれば『成功』判定。相手のほうが先にアピール度を上昇させると『失敗』判定となる。同時上昇なら『成功』判定になる。
【アピール度の変動基準】(以下一例)
ターン終了時、場にいる(+1、ただし『フォーカス』状態の成功判定には含まれない)
自分と同じタイプの技を命中させる(+1)
『こうかはばつぐん』の技を命中させる(+1)
味方の技が急所に命中する(+1)
相手のポケモンを倒す(+2)
一度の攻撃で相手のポケモンを倒す(+3)
相手の技が当たらなかった(+1)
相手の攻撃技を受けたダメージが最大HPの1/4以下(+1)
『ダイマックス』する(+3,ただし『フォーカス』状態の成功判定には含まれない)
最後の一体の時に『ダイマックス』する(+6)
『ダイ技』で相手を『ひんし』にする(+2)
『ダイ技』を受けて『ひんし』にならない(+1)
【エキサイトグラフ】
会場の盛り上がりを示す数値だが注意すべきなのは判定が『自分の場』と『相手の場』と『全体の場』の3種に分別されていること。
『自分の場』と『相手の場』は『0~+6』が幅になり、マイナスになることは無い。
『全体の場』は『-6~0~+6』まで幅がある。
『自分の場』『相手の場』『全体の場』のいずれかが『+6』になった時、3ターンの間、場の状態が『エキサイティング』になる。3ターン経過後、エキサイトグラフは0に戻る。
『全体の場』が『-6』になった時、5ターンの間場の状態が『ターンオフ』になる。この時、『エキサイティング』状態は解除される。5ターン経過でエキサイトグラフは0に戻る。
場の状態:エキサイティング
→場のポケモンの全能力が上昇し、急所に当たりやすくなる(C+2)。攻撃が急所に当たった時、ダメージが1.5倍ではなく2.25倍になる。
>>会場の盛り上がりは最高潮を迎えた。熱く濃い闘争の空気はポケモンたちの本能を呼び覚ます。
場の状態:ターンオフ
場のポケモンの全能力が下降し、急所に当たりにくくなる(C-1)。
>>なんということだろう、会場はすっかり白け切ってしまった。冷え切ってしまった空気に場のポケモンたちも縮こまってしまった。
【エキサイトグラフの効果】
『味方』『相手』→個別
+1 味方の技の威力が1.5倍になる。
+2 相手から受けるダメージが3/4になる。
+3 味方の技が急所に当たりやすくなる(C+1)
+4 ターン開始時、味方のHPを最大HPの1/8回復する。
+5 30%の確率で『ひんし』になるダメージを受けてもHPを1残す。
+6 『エキサイティング』状態へ移行する
『全体』
+1~+6 上と同じ(ただし味方と相手両方に同じ効果がかかる)
-1 互いのポケモンへのダメージが0.9倍になる。
-2 互いのポケモンの技の命中率が0.8倍になる。
-3 互いのポケモンの全能力が0.7倍になる。
-4 互いのポケモンの裏特性、技能が発動しなくなる。
-5 互いのポケモンが30%の確率で行動できなくなる。
-6 『ターンオフ』状態へ移行する
【エキサイトグラフの変動基準】(以下一例)
戦闘に出たポケモンを行動させる前に『ひんし』にする(個別+1)
戦闘に出たポケモンが行動する前に『ひんし』になる(個別-1)
場のポケモンが『ダイマックス』する(個別+1,全体+1)
場のポケモンが『キョダイマックス』する(個別+2,全体+1)
最後の一体となったポケモンが『ダイマックス』する(個別+3,全体+2)
『ダイマックス』状態のポケモンを『ひんし』にする(個別+2)
『ダイマックス』状態のポケモンが『ひんし』になる(個別-2)
『ダイマックス』状態が解除されるまでに一体も『ひんし』にできていない(個別-1)
『ダイマックス』状態が解除されるまでに一体も『ひんし』にされなかった(個別+1)
『ダイマックス』状態が解除される(全体-1)
『フォーカス』状態の時、アピールに成功する(個別+1)
『フォーカス』状態の時、アピールに失敗する(個別-1)
敵味方の区別なく、『フォーカス』状態のアピールが連続して成功する(全体+1)
敵味方の区別なく、『フォーカス』状態のアピールが連続して失敗する(全体-1)
3ターン以上、同じ展開が続く(個別-1,全体-1)
5ターン以上、同じ展開が続く(個別-3,全体-3)
追記:【システム処理】
①『味方の場』の『エキサイティング』効果発動中『味方の場』のエキサイトグラフは変動しない。
→今観客はアナタに熱中している。今はどんな行動だろうと肯定される。
②『味方の場』の『エキサイティング』効果発動中でも『相手の場』『全体の場』のエキサイトグラフは変動するし、『エキサイティング』効果も発動する。
→観客は一方的なアナタの味方ではない。当然ながら相手を応援している人だっているぞ!
③『全体の場』の『エキサイティング』効果発動中、『味方の場』『相手の場』のエキサイトグラフは変動しない。
→目まぐるしくも激しいバトルに全ての観客は魅了されている! 今は敵も味方も無い、どちらも頑張れ!
④『味方の場』か『相手の場』の『エキサイティング』効果発動中に『全体の場』の『ターンオフ』効果が発動した時、残りターン数に関係無く『エキサイティング』効果は終了し、『ターンオフ』の効果終了まで全ての場のエキサイトグラフが変動しなくなる。
→会場はすっかり白けきってしまっている。観客たちが再び興味を持ち始めるまで、今はどんなことをしたって無駄だ。
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てんめぐ系でんぱようじょ
世間一般でのイメージでいうところのプロトレーナーは年がら年中ポケモンバトルのことばかり考えている廃人みたいな部分がある。
まあ一部のトレーナーにそういう面があるのは否めない事実ではあるのだが、実際のところプロとして活躍しているトレーナーほどメリハリは大事にするため休養日というものを設ける。
何せポケモンバトルをすること自体が余程楽しい、ポケモンバトルが生きがい、なんて人でない限りは一年を通して勝った負けたを繰り返すプロの舞台で精神をすり減らし続けるのだ、偶にはポケモンバトルのことを何も考えない日、というものを作って精神を休めなければやがてポケモンバトルそのものに忌避感を覚えるようになる。
さらに言えば基本的にポケモンバトルにおいてトレーナーは激しい運動をするようなことは無いが、常に思考を全力で回し続けるだけでも相当な疲労が溜まる以上、試合後はその疲労を抜く必要がある。
私の場合ターフスタジアムでの試合後というのに加えて野生のポケモンとのバトルという命の危険に骨身を削るような試合とは別ベクトルの疲労もあって三日ほど完全休養することに決めていた。
のだがワイルドエリアで見つけたタマゴ、そこから孵った新しい仲間。
その世話で丸三日の休養日は完全に潰れていた。
「はぁ……」
「だいじょーぶ? おかーさん」
思わず零れた溜め息。
そんな私の様子を見て、私の背にぶら下がる子供はきょとんとした表情で首を傾げた。
「大丈夫よ、あとお母さんは止めなさい」
降りなさいと言ってみても、いや! と強く抵抗されてしまい諦めはしたが正直日がな一日子供一人背負い続けさせられるのも中々に骨が折れる。
まあそうはいっても本気でダメだと言えば多分諦めるのだろうが……まあいいか、と思ってしまって強く言えないからこうなったのだが。
「……はぁ」
再び嘆息。
いくら擬人種とは言え数日前にタマゴから生まれたばかりでは肉体的にはともかく精神的には未熟だ。
擬人種……そう、つまりこの子供はポケモンなのだ。
まあタマゴから生まれたり、生まれたばかりですでに10歳前後の子供の姿な時点で当たり前と言えば当たり前だが。
正確には外見的には10歳前後の子供なのだがそのサイズは人間の子供の5分の1ほどだろうか。まあポケモンのタマゴのサイズに収まっていたのだから当たり前と言えば当たり前の話。
だが生まれて三日ですでにそのサイズは人間の子供と大差ないほどに育っているのもまたポケモンだから、としか言いようがない。
寝て起きるたびに2,30センチほどずつ身長が伸びていくのだから生命の神秘としか言いようが無かった。
「どうしたものかしらね」
座るのに邪魔だったので前に抱きかかえながら椅子に着くとスマホロトムの画面をタップし、次の目的地となるバウタウンまでの道のりやジムチャレンジ期間中にやるべき行動目標を記載した一覧を表示する。
本来ならば明日からまた次のジムに挑戦するために移動する予定だったの、だが。
「完全に予定外なのよねえ」
手持ちに関しては必要があれば増やすかな、くらいのつもりだったのだ。
それがユウゼンの依頼でこんな拾い
どうも私の腕の中でべたべたとくっついて来るこの子はあのキョダイストリンダーやジバコイルの戦闘の影響で発生した電流が地面を伝わり発生した磁場に大きく影響を受けていたらしく、もうすぐ産まれそうなほどにエネルギーを蓄えていたのだがそこに私が手に取ったことによりそこから伝わるエネルギーによって生まれた……らしい。
このパターン二度目では?
ガーくんの時も同じようなことがあったのでまさか、と思えばどうも『ひこう』タイプの血統*1を強く持った個体だったらしい。
一応言っておくが『ひこう』タイプのポケモンのタマゴを私が持っただけでいくらでも同じようことが起こる、などということは基本あり得ない。
つまるところ
それこそ生まれた時から『専用個体』になっていたガーくんと比較できるほどに。
―――育てれば必ず戦力になる。
それが分かってしまう、だからこそ悩ましいのだ。
「予定が変わり過ぎるのよねえ……」
例えばダーくんたちのような元より野生環境で生き抜いてきた歴戦のポケモンたちならば多少の予定の変更は気にせずに育成しただろう。
元より野生の時に磨いた戦法がある程度完成されており、後はそれを高めながら私の能力にアジャストしていくだけだ。一週間もあれば実戦に出せる程度には育成できる自負がある。
だがこの子の場合、生まれたばかり、なのだ。
戦う恐怖も、傷つく痛みも知らず、強くなる意思もあるかどうかも分からない。
私との相性は非常に良く、さらに擬人種という点で種としての一定以上の才能は保証されている*2。
だが逆に言えばそだれけしか保証されていないのだ。
今の手持ちが不足しているわけではない。
寧ろ育てることができてあと一体が限界だろうという程度には数も質も充実している。
寧ろ当初は育てる気が無かったのだ。
もう完全に自分のことを親のように慕って来るのでさすがに野生に投げだすような真似をする気はないが、所有したポケモンを必ずポケモンバトル用に育てなければならないという決まりなど別に無いのでバトルに出さないポケモンとして扱おうと思っていた。
この子のデータを見るまでは。
============================
【名前】
【種族】トゲピー/擬人種/特異個体
【レベル】1
【タイプ】でんき
【特性】ちくでん
【持ち物】
【技】はたく/なきごえ/でんじは
【備考】色違い。
============================
カラーリングから多分そうじゃないかと思っていたのだがやはりトゲピーだったらしい。
ただちょっと色が違うようなと思っていたのだが、まさか色違いとは思わなかった。ただこの場合重要なのは特異個体と表記されるその理由が体色の差異のみ留まらない原因のほうだった。
「ちょうど手持ちにいないのよね……『でんき』タイプ」
先も言ったが、生まれるまであのタマゴはストリンダーとジバコイルの戦闘の影響を強く受けていた。
そのせいか知らないがタイプが本来の『フェアリー』から『でんき』に変わっているし、特性も『ちくでん』になっているし、本来先天的に覚えることのない『でんじは』を覚えている。
さらに気になって他の特性もあるのか調べてみたがもう一つが『そうでんせん*3』で、最後の一つが『てんのめぐみ*4』だった。
『てんのめぐみ』に関しては元々トゲピーという種族が持っているので良いとしても、『ちくでん』や『そうでんせん』など基本的に『でんき』タイプのポケモンしか持つはずの無い特性だ。
タマゴの段階で余波とは言え強力な電撃から命を繋ぐために『ちくでん』という『でんき』タイプの技をエネルギーとして自身に蓄える力を身に着けた、と考えるのが自然だろうか?
或いは遠くホロン地方のように電撃によって発生した磁場によって体質が変化したのか。
理由はともあれ今私の腕の中ですやすやと眠っているこの子は今の私のパーティにちょうどいなかったタイプであることに間違いなく……だからこそ育てる、という選択肢が浮かんでしまった。
実際のところ、この子を育てるとするならば一体どれほどの時間を要するのだろうか?
育成に一月も二月もかかるのは育成リソースをパーティ全体に分けるからだ。
たった一体に集中すれば時間は大きく短縮できる。
ただそれでも二週間はかかるだろうし、それでも突貫にしかならないだろう。
特に実戦を交えないままに育成が完了する、というのは基本あり得ないと言っていい。
「そうよね……結局そうなのよね」
育成を後回しにしても結局実戦を交えないことには完成はあり得ないのだ。
後にしても先にやっても同じ、寧ろ後回しにしたほうが実戦の回数が減る分、損かもしれない。
「……後はこの子のやる気次第、かしらね」
すっと手を伸ばし、胸元ですやすやと眠るその頭を撫でてやる。
「……うへへ、おかーさん」
にへら、と笑みを浮かべながら呟かれる寝言に苦笑し。
「よし、決めたわ」
後でもう一度ちゃんと言ってやる必要があるな、と思いながらぽんぽん、とその背を軽く叩き。
「アンタ、今日からスーちゃんね」
たった今決めたばかりのこの子の名を呼んだ。
* * *
寝こけたスーちゃんを部屋のベッドに転がしておき、スタンドライトの灯りを頼りに荷物からメモ帳を取り出す。
私が幼少の頃からシキ母さんに手伝ってもらいながら作り上げた『育成』に関するメモ。ある意味私のトレーナーとしての半生が詰まったと言って過言ではないだろうそれをぱらぱらとめくりながら思考に没頭する。
―――やはり最低二週間。それ以上はどうあっても縮まない。
そうして考え抜いた結論がそれだった。
ベッドの上ですやすやと眠る子供……スーちゃんの育成にかかる時間を育成メモを見返しながら何度となく計算してみるが、ジムチャレンジに出すための『最低限』の育成を施すのに必要な時間が二週間だった。
次のジム戦に出すのならばこればかりはどうにもならない、と溜め息一つ。
「やっぱり予定、変える必要あるわね」
次にスマホロトムの画面をタップしてスケジュールを開き、独り言つ。
ただのポケモントレーナーならともかく、プロトレーナーというのは基本的に年間の試合日程や大会スケジュールなどが事前に決まっているため、年間を通してある程度の計画性を持って動く必要がある。
何度も言うがポケモンの育成というのはとにかく時間がかかるのだ、試合前日になっていきなり修正を、と言っていきなり訓練してきたものを変えるのは不可能に近いし、試合直前まで疲労を引きずるような事態になれば本番でパフォーマンスを発揮しきれない可能性だってある。
故に事前に『この期間中に情報を集める』『この期間中に育成をする』『試合前からこの期間までは休養に当てる』などの予定を決めて動くのが正しいあり方と言える。
とはいえジムチャレンジに関してはいつジムに挑戦するのかは基本的にチャレンジャーに任されているためその辺は大分緩い。
だがその緩さにかまけていると四カ月という時間はあっという間に過ぎてしまうわけだ。
故にまだ勝手の分からない『推薦枠』はともかく『チャレンジ枠』のトレーナーならばだいたい全員がジムチャレンジ開始前からチャレンジ期間中の大よそのスケジュールは決めてしまっているだろう。
実際私もそうだ。ジムチャレンジの受付をし、申請をしてからの待ち時間などもあるためある程度ルーズに……時間的な余裕を持たせて組んでいるが、少なくとも最初のジムを一週間以内に終わらせて休養日も含め十日以内には二つ目のジムであるバウジムへ受付、申請をしておく予定だった。
だが今から二週間、スーちゃんの育成に時間をかけるというのなら計画を大きく変更せざるを得ない。
「猶予を前倒しして育成に充ててるわけだしどうしても後半がタイトになるわね」
別にバッジを8つ集めるまでのタイムアタックではないので二カ月で終わらせようと四カ月ギリギリまでかかろうと大きな違いというのは無いのだが……。
「スーちゃんの育成に二週間、それにユウゼンから聞いたガラル固有の育成に関しても時間を割かないといけない、となると」
最初に組んだスケジュールはほぼ最短の二カ月でジムチャレンジを終わらせる予定だったので、残り二カ月分の猶予はある……予定通りに行けばここで育成に二週間取られても三ヵ月はかからないだろう。
ただユウゼンから聞いたガラル地方……正確にはスタジアムでのみ効果を発揮する育成の数々にどの程度に時間がかかるか。先日のダンデ選手の試合を見ればこの先ガラルで戦うにあたって欠かすことのできないものであることは明白だったが故に悩ましい。
「後は育成施設の確認もしないと……」
正直スーちゃんのような生まれたばかりのポケモンならば施設を使うよりその辺のワイルドエリアの浅域で実戦させたほうが良いし、ガラル固有効果の育成ならば普通に育成施設で果たして付与できるかどうか怪しいので必須ではないのだが、借りることができるか否かは割と前提条件が変わるので知っておく必要はあった。
「周辺で育成施設の検索は、っと」
音声入力に反応してロトムがスマホを操作し、あっという間に周辺の育成施設をピックアップしてくれる。
スタジアム内の施設などは基本的にジムトレーナーの専用なのだがジムチャレンジ期間中はチャレンジャーにも開放されているので予約すれば借りることはできる、のだが。
「うわ……いっぱいじゃないこれ」
ヤローに負けて育成に励む『推薦枠』のトレーナーで予約は埋まっていた。
周辺の施設も軒並み全滅である。
「となると無しでやるしかないかしらね」
と思いながら検索画面を眺めていると。
「……あら、預かり屋があるのね」
ターフタウンから続く5番道路に『預かり屋』施設があることに気づく。
『預かり屋』という名前ではあるが、やってることは『ポケモンたちがタマゴを作るための環境』を整えることだ。
ポケモンというのは人の見ている前では絶対にタマゴを作ったりしない。
これまでに一人たりともポケモンがタマゴを生んだ瞬間を見た人間はおらず、故に育て屋などでは『ポケモンがタマゴを持っていた』或いは『持ってきた』などと表現する。
なので普通のトレーナーの手持ちがいつの間にか勝手にタマゴを作っていた、なんてことは普通は無いし、逆に言えばタマゴを作りたいならタマゴを作る……正しくは『タマゴを持っている』環境を作る必要がある。
『預かり屋』というのはつまりそういう施設だ。
昔は『育て屋』と兼任するパターンが多かったが、現代においてプロトレーナーは自分でポケモンを育てるか、育成が苦手なら専門のブリーダー*5を雇って代理で育ててもらうので『育て屋』というものの需要が年々減少している。
そのため最近では『育て屋』というもの自体が無くなってきて『預かり屋』一本に絞って運営している店舗も多い。この店もそのタイプだろう。
だが逆に言うと大概の『預かり屋』というのは過去には『育て屋』をしていた時期がある。
つまり昔使っていた育成のための環境や施設が未だにあることが多いのだ。
それらを借りることができるかどうか、聞いてみる価値はあるだろう。
「よし、方針は大まかに決定ね」
窓の外を見やればすっかり日は落ちて闇が広がっている。
時計へと視線を映せば時間はすでに十時を過ぎていて。
「私も寝ないとね」
そう思いながら椅子から立って体全体で伸びをする。長時間椅子に座っていたせいで硬くなった筋肉が解れていくような感覚が心地よかった。
そうして伸びをしながら見えたベッドの上には未だに熟睡している幼女の姿。
「……はぁ」
起こすのも忍びないと嘆息しながらベッドの奥へとスーちゃんを押し込み、その隣に寝ころぶ。
スーちゃんも自分も体格が小さいので一人用のベッドのはずなのだが普通に二人寝転がることができたことに何とも言えない物悲しさを覚えながら。
「おやすみ、スーちゃん」
傍らに眠るスーちゃんの頭を一度撫で、にへら、と笑みを浮かべたその表情に苦笑しながら自身もまた目を閉じた。
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昨夜はお楽しみでした……か?
意外と知られていない話だが、地方の『育て屋』や『預かり屋』というのは正規トレーナー資格を所持していることを条件に、金銭を支払うことで施設を借りることができる。正確には現在使用されていない施設を、だが。
とはいえ何だったらレンタルの予約もできるので2週間くらい待てるのならほぼ確実に借りることができたりする。
どうして、と思われるかもしれないがこういうところでも各地のポケモンリーグが支援していたりするのだ。
というのも最大の理由として
基本的にその地方のポケモンバトルの事情はその地方で完結しがちではあるが、地方交流というものは昔からあるし、地方リーグが統一され統一リーグが作られてからはその傾向は余計に顕著となった。
故に現在のプロトレーナーにとって他地方へ向かって交流試合、或いは招待試合に参加するというのは一定ラインを超えると当たり前に存在する話だ。
まだ去年がリーグ一年目だった私はそれに参加したことは無いが……今年のリーグが終わればそういう話も持ち上がるかもしれない。
それはさておき、他地方で行われる試合に向かうにあたって問題となるのは『育成拠点』だ。
現在のプロトレーナーは自分の在籍するリーグのある地方に拠点を構え、そこで手持ちのポケモンたちに育成を施すのが当然の世界だ。
そんな中、他地方へ向かうということはつまりその間拠点を使用できないということになる。
だが行った先の地方のプロトレーナーは当然自分の拠点があってそれを使用できる。
この場合の対処法として三つ上げられる。
一つは試合直前まで自分の地方の拠点でギリギリまで育成すること。
ただこれは現地入りから試合までの間隔が短く、時差や風土の違いなどに慣れないまま全力を出せないことが多いのであまりプロには好まれない。
故に二つ目、行った先の地方の他のプロの拠点を一時間借りする。
当然交流試合、招待試合にその地方のプロ全員が出るわけではないので、試合に出ないプロの拠点を借りるというのは割と良くある話だ。
けれどそれだってそのプロと交流が無ければ厳しい話だ。
以前も言ったが現代のプロトレーナーは情報流出、漏洩に非常に警戒している。故に見知らぬ相手……しかも同じプロトレーナー相手にいきなり拠点を貸してくれることなど基本的には無い。
で、どちらも選びたくない、或いは選べないトレーナーのために用意されたのは三つ目の選択肢、それが『育て屋』や『預かり屋』の施設レンタルである。
* * *
リーグ委員会としてもこういう育成施設のレンタルは事前に予想されていたのか、ジムチャレンジ中だということを告げると割引されて思ったよりずっと安く施設を借りることができた。
まあ本業が預かり屋のため育て屋ほどの施設の充実は無かったが、それでも無しでやるよりは余程マシな話だ。
そうして育成施設を使ってまずはスーちゃんの基礎能力を確認していく。
その中で一つ気づいたことがある。
スーちゃんは『でんき』タイプだが根本的に発電器官のようなものを持たない。だが図鑑に『でんき』タイプと表記される以上、『でんき』タイプのエネルギーを大量に持っているということになる。
じゃあどうやって『でんき』タイプのエネルギーを発生させているのかと思えば、磁力を操作して電力を生み出しているようだった。
やってること自体は『じばそうさ』の応用のようなものだ。
技として覚えるほど意識的に使えるわけでは無いようだが、ジバコイルの力の影響を受けているだけあってスーちゃんの適性はどうやら『磁力』に関連したものになるらしい。
そうして一通りの能力を確認した後、今度はワイルドエリアへと繰り出す。
比較的弱いポケモンの出る『浅域』でスーちゃんを戦わせてみれば自分からバトルを強く望むタイプではないが、勝つことで私から褒められることでモチベーションを上げるタイプだと分かった。
まあ今はまだ幼く甘えたがりなので成長すればまた変わるのかもしれないが。
とはいえバトルを忌避するような性格でないことは分かったのは大きな収穫だった。
あとはどこまでバトルに真剣に打ち込めるか、それによってプロの手持ちとなれるかどうかは決まる。
要するに苦境にあって尚一歩踏みとどまれるかどうか、そのメンタルこそが最も重要になるのだ。
「スーちゃんは……どうかしらね」
「なーに?」
「何でも無いわ」
いくらかレベルも上がり、能力的にも強くなってきたスーちゃんだが頭を撫でてやれば嬉しそうに目を細める。
まだ少し早いが預かり屋に戻って今度は手持ちのポケモンたちの特訓もしなければならない。
二日三日さぼったからといって別に弱くなったりもしないが、かといって窮屈なボールの中に入れっぱなしではストレスも溜まるだろうし他の子たちとて体を動かしたいだろう。
「帰りましょうか」
「はーい!」
機嫌の良さそうなスーちゃんが背におぶさるの感じながら自転車に跨って移動する。
快速に飛ばせば30分とかからず預かり屋に戻って来れるので建物へ入り、そのまま施設のほうへ向かう。すでに二週間期限でレンタルしているので預かり屋の従業員もおかえりなさい、と挨拶こそすれどそのことに何か言うことも無かった。
手持ちのポケモンたちをボールから出しながらガーくんだけ呼び寄せながら後は好きにさせる。
「というわけでガーくんはちょっとスーちゃんの攻撃受けてみて」
「クラァ……」
簡易のバトルコートの向こう側にガーくんを立たせて、こちら側にスーちゃんを立たせる。
ガーくんはすでにジム戦でも使用できるレベルの一線級のポケモンだ、レベルもすでに120に達し、こうして対面するだけでも圧のようなものが感じられる。
その圧を受けたスーちゃんの様子を伺うが……。
「んー?」
特に何か感じた様子も無くこちらを見ている。
注意散漫になっている、というのもあるのかもしれないがそれでも対面しているはずのガーくんから意識が外れるはずもない、となると案外その辺の圧に鈍感なのかもしれない。
野生のポケモンならば相手の強さを測れない鈍感さは短所になるのかもしれないが、トレーナーという外付けの頭脳がついているプロの手持ちとしてはそれは意外と長所だ。
「前見てなさい、行くわよ」
「はーい」
そう告げれば軽い返事と共に視線がガーくんのほうへと向く。となればもろに圧を受けるはずなのだが身震いする様子も無い……まだまだレベル差は歴然のはずなのに。
思ったより優秀な子に育つかもしれない、そんなことを考えながら技の指示を出していく。
「ガーくんは適当に避けて、当たりそうになったら守りなさい」
対面に佇むガーくんに告げながらさらに技を指示する。
野生のポケモンならともかく、トレーナーのついているポケモンはとにかく動く。
フィールドを動いて動いて自分の有利なポジションへと陣取ろうとするので、こちらも流動的に動きながら攻撃を当てなければならない。
さらにトレーナーは互いの動きを見ながら予測して指示を出す必要も出てくる。
となるとポケモンのほうもトレーナーが指示を出しやすいように動く必要性にかられてくるわけで……トレーナーとポケモンの相性、絆の強さがプロで重要視されるのも当然の話だった。
そういう意味で専用個体のガーくんはある種、それが極まっている。
詳細な指示など一つとしてないのに上手くこちらの意図を察して動いてくれている。
先ほどとて圧をかけろとは言っていないはずなのだが、自分で察してスーちゃんに圧をかけているし。
さらに実戦さながらの動きでスーちゃんを翻弄し、行くぞ、行くぞ、とフェンイントをかましている。
実戦ならばフェイントをかけたタイミングで攻撃が来るだろうか、といった絶妙の間。
お陰でスーちゃんも右に左に振り回されながらも徐々にその技の精度を上げている。
いや、徐々にとはいったが実際凄まじい成長速度ではある。育成事例自体が少ないためまだはっきりとしたことは言えないのだが……。
「やっぱりスーちゃん、天稟持ちなのかしらね」
天稟、或いは天賦でも良い。
ポケモンの能力を『HP』『こうげき』『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』『すばやさ』の6種に分けた時、その全てにおいて最高の才を持った個体。
こういう個体は育成している中で『てんぴん』*1や『てんさいはだ』*2という特性を覚えるのが特徴だ。
ありていに言えば『天才』だ。
父さん曰くポケモンの才能は数値的には32段階に分けられるそうだが、『最高』と『最優』の僅か1の違いは天才と秀才を分ける絶対的なラインとなるらしい。
ただひらすらに『天才』だけを10体集めた父さんだからこそその信ぴょう性は高い。
育成によって才能すらも後天的に伸ばすことができる現代において、けれどそれでも『
『種』の限界を超えることができるのは結局天才だけなのだから。
ただしレギュレーションによって能力に規制のかかった現代のポケモンバトルにおいて『天才』と『秀才』に大きな違いはない。
だがそれでも多少の
まあそれはさておき。
スーちゃんは恐らくその『天才』に入るのだろう。
要領が良いとか飲み込みが早いとかそういうレベルで片づけられる成長速度ではない。少なくとも私の予想を三段飛ばしに強くなっている現状、育成プランをもう一度練り直すべきだろうと思うほどだ。
「十日……いえ、一週間で行けるかしら」
予定の半分。今のまま成長し続けるならばそれだけの時間で一先ず育成を止めて進んでいいだろう。
才能はある。
度胸も悪くない。
モチベーションは……まだこれからだが、マイナスも無い。
メンタルさえしっかり整えてやれば予想以上の拾いものとなるかもしれない。
そんな予感に笑みが零れた。
* * *
暗くなるまで訓練を続けた後、まだはしゃぎ足りないらしいダーくん含め数体を一晩預かり屋で預かってもらうことにした。
さすがにプロの仕事だけあって手慣れた様子でダーくんたちを遊ばせていた。
お陰であまりバトルができていないフラストレーションも幾分解消されるだろう。
そうして日もどっぷりと暮れ、ターフタウンに戻ってポケモンセンターの一室を宿にする。
育成訓練が終わってから私にべっとり張り付いて離れないスーちゃんをあやしながら一緒に風呂に入れて一通り洗ってやるとうとうととし始めたのでさっさとベッドに放り込んだ。
「全く……子守も楽じゃないわね」
まだそんな歳では無いのだが、と思いつつまだ実家で幼い弟や妹を相手にしていた頃を思い出して懐かしい気分になる。
ベッドに腰かけてすやすやと一足先に夢の世界に旅立ったスーちゃんの頭を撫でながら明日のスケジュールを確認していると……。
ぽん、とモンスターボールから一体のポケモンが飛び出して。
「クラァ……」
「ちょっと、ガーくん、こんな部屋の中でデカイのが出てくるんじゃないわよ」
全長4m半ほど。最早5メートル近いその巨体が部屋の中で無理矢理体を曲げながら座している光景に何をやっているのだと呆れる。
「クラァ」
「ズルいって何がよ」
「クラァァ……クラァァォ」
「は? スーちゃんばっか構ってる?」
どうやら最近スーちゃんの世話ばかり焼いているせいで、寂しくなったらしい。
「いや、でかい図体して何言ってんのよアンタ」
そういえばコイツもココガラの時から引っ付いていたなあ、と思いだす。
アーマーガアに進化して少しは成長したのかと思ったら我慢していたらしい。
なのに最近はスーちゃんがべったりしているのを見て、ズルいと思ったのだとか。
「あのねぇ……馬鹿言ってないで、さっさと寝なさい。まったく」
部屋にみっちり埋まりそうなほどの巨体をして何を情けないことを言っているのか。
呆れながらもけれどこれもメンタル管理の一環かと嘆息し。
「ほら、これでいいわよね」
かがむようにして突き出した頭を何度か撫でてやる。
『はがね』タイプだけあって触れた感覚が完全に鋼鉄だ。この金属質な体で良く飛べるものだ。
「まったく……もう大きくなったんだから、いつまでも甘えさせたりしないわよ」
そうやって構ってやったことに多少なり満足したのか、ガーくんがボールに戻っていく。
―――
去り際、妙なことを言いながら。
* * *
チクタク、と時計が針を刻む音が不意に耳朶を打つ。
それがポケモンセンターの備え付けの時計だとうっすらと覚醒した意識で思いだし、差し込む朝の光にゆっくりと目を開く。
そうして。
「おはよう、母さん」
視界の中に
「…………」
「母さん?」
「……アンタ、誰よ」
その違和感に気づいた時、意識がはっきりと覚醒する。
「
「うん? そうだけど?」
自身をそう呼ぶ相手を二体だけ知っている。
一体は今もベッドの中ですやすやと眠る小さな少女。
そしてもう一体が……。
「アンタもしかして」
目の前にいる黒髪の少年。
「
その名を呼べば少年が薄く笑みを浮かべ。
「おはよう、母さん」
嬉しそうにそう告げた。
因みに♂の擬人種登場しましたけど、今作に恋愛要素とかそういうのは特にないです。
ガーくんのソラちゃんに対する感情は母親に向けるそれ一色なので。
でもソラちゃんの傍に擬人種の♂がいるってだけでアオくんは大丈夫じゃないかもしれないが……。
因みに因みに、なんでガーくんいきなり擬人化したの? って言われたら『専用個体』だからです。
基本的に『専用個体』は相手のため、を理由にすれば大概のことはできるのだ……。
因みに因みに因みに、スーちゃんはかなり専用個体に近いレベルで相性は良いけど、専用個体ではないです。相性98/100って感じ。
ガーくんイメージ
【挿絵表示】
元になったメーカーサイトが現在無くなっているっぽいのでリンクは無いです。
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【頂点は】今期のジムチャレンジを語るスレ【誰だ】
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・
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773:名無しのポケモンバトルファン
まだジムチャレ一月前だけどだいたいチャレンジャーは出そろった感あるな
774:名無しのポケモンバトルファン
チャレンジ枠はな??? まだ推薦枠の情報は全く出てないぞ。
775:名無しのポケモンバトルファン
推薦枠とか今年トレーナーなり立ての新人だろ? ベテラン入ってるチャレンジ枠には勝てんだろ
776:名無しのポケモンバトルファン
????????????????????????
777:名無しのポケモンバトルファン
は?????
778:名無しのポケモンバトルファン
去年一年寝てたのお前???
779:名無しのポケモンバトルファン
前チャンピオンに現チャンピオンと二代続けて推薦枠がチャンピオンになってるのに何言ってんの???
780:名無しのポケモンバトルファン
いや、さすがにそんな例外が二年連続して出てくるわけないって
781:名無しのポケモンバトルファン
それなんだが、今年チャンピオン推薦のトレーナーがいるらしいぞ
782:名無しのポケモンバトルファン
それマ???
783:名無しのポケモンバトルファン
どこ情報よそれ
784:名無しのポケモンバトルファン
ポケッターでチャンピオンが呟いてた
>>ttps://poketter.com/yuuri@champion/status/19536226343643
>>今期のジムチャレンジに私の出身地ホウエン地方から親友のソラちゃんを呼んだよー!
>>私からの推薦ってことでジムチャレンジに参加する予定だから応援してね!
785:名無しのポケモンバトルファン
マジじゃん!?
786:名無しのポケモンバトルファン
ソラちゃんis誰?
787:名無しのポケモンバトルファン
他所の地方のトレーナーの情報はさすがになあ……と思ったがあったわ。
>>ttps://PokémonLeagueNews/HoennLeague/trainerranking@new
リーグ速報のホウエントレーナーランキング最新版
A級1位ってところにソラって名前あるわ。
788:名無しのポケモンバトルファン
A級is何?
789:名無しのポケモンバトルファン
ホウエンのポケモンリーグはガラルとは少し違ってA~Cまでのリーグがあって、C→B→Aの順でランクが上がる。
このランクは毎年夏頃に行われるホウエンリーグトーナメントで一発決定されてて、ジムバッジを8つ以上集めたトレーナーだけが参加できる6月の予選を勝ち抜いたら次に本選に進む、本選に進んだ時点で自動的にBランクになるわけだけど、さらにその中から戦績上位16名だけがAランクになれる。
そんでAランクの成績上位から1~16位までが分けられて、最上位だけがチャンピオン戦に進める。
790:名無しのポケモンバトルファン
長いから三行で
791:名無しのポケモンバトルファン
ホウエンリーグの
上から2番目
ガラルで言えばキバナさんとかリリィさん
792:名無しのポケモンバトルファン
ガチのトップオブトップじゃん?!
793:名無しのポケモンバトルファン
それ参加させていいんですかねぇ()
794:名無しのポケモンバトルファン
いや自分から強敵連れてくるの?!
795:名無しのポケモンバトルファン
というかさらっと流してたけど親友って言ってるな。
796:名無しのポケモンバトルファン
現在13歳??? トレーナーになったの去年???
797:名無しのポケモンバトルファン
キャッチのところ【暴風圏】とか呼ばれてるの怖すぎない???
798:名無しのポケモンバトルファン
トレーナーになって一年目で地方リーグで上から二番目とかどんな怪物だよwww
799:名無しのポケモンバトルファン
ガラルにはトレーナーになって一年目でチャンピオンになったトレーナーが二人ほどいてだな……
800:名無しのポケモンバトルファン
うちのチャンピオンも大概だったわ。というかダンデにいたってはまだ準トレーナー規制前の話だから十歳でチャンピオンとかいうね。
801:名無しのポケモンバトルファン
あれはちょっと例外過ぎて……。
802:名無しのポケモンバトルファン
なんだったらそのダンデを破ってさらには伝説のポケモンまで従えたユウリっていうチャンピオンもいてだな……。
803:名無しのポケモンバトルファン
でもソラってトレーナー、チャンピオンの親友らしいよ???
804:名無しのポケモンバトルファン
類は友を呼ぶってことか……。
805:名無しのポケモンバトルファン
何はともあれ予想外のところからとんでもない大物がやってきたな。
806:名無しのポケモンバトルファン
てかチャンピオンも自分から強敵増やして良かったのか?
807:名無しのポケモンバトルファン
ユウリ「かかってこい……全てまとめて下してくれる」
808:名無しのポケモンバトルファン
これは大物
809:名無しのポケモンバトルファン
うーん、今期のジムチャレンジも荒れそうだな!
・
・
・
3433:名無しのポケモンバトルファン
ついに(この日が)やって来たわに!
3434:名無しのポケモンバトルファン
年に一度のガラル最大の祭典!
3435:名無しのポケモンバトルファン
ジムチャレンジの開会式だわに!
3436:名無しのポケモンバトルファン
わに!
3437:名無しのポケモンバトルファン
わに!
3438:名無しのポケモンバトルファン
わに!
3439:名無しのポケモンバトルファン
ちょっと誤字っただけなのに!!!
3440:名無しのポケモンバトルファン
諦めろ、ネットでそんな醜態を晒せばしばらく玩具にされちゃうわに
3441:名無しのポケモンバトルファン
そ、それより開会式だろ! 開会式の話しよーぜ!
3442:名無しのポケモンバトルファン
そうするわに!
3443:名無しのポケモンバトルファン
いやでも実際有名トレーナーが続々とエンジンスタジアムに集ってるぞ
3444:名無しのポケモンバトルファン
三日前から仕事休み取ってたはずなのに部下のミスの尻ぬぐいに休日出勤させられた俺氏涙目
3445:名無しのポケモンバトルファン
おおう、それは哀れな……涙拭けよ つハンカチ
3446:名無しのポケモンバトルファン
尚部下は今日休みの模様
3447:名無しのポケモンバトルファン
酷い話だ
3448:名無しのポケモンバトルファン
そんなことよりさっき『占い師』がスタジアムに入って行ったぞ。
3449:名無しのポケモンバトルファン
あーサガラか。
3450:名無しのポケモンバトルファン
あいつのバトル毎回安定しないんだよなあ。
3451:名無しのポケモンバトルファン
勝つ時はとんでもない大勝ちするのに負ける時は信じらないくらい大負けするやつ
3452:名無しのポケモンバトルファン
『占い師』っていうかもうギャンブラーだよな(
3453:名無しのポケモンバトルファン
多分10月大会で大勝したからだろうなあ……。
3454:名無しのポケモンバトルファン
あの時は大分運が回ってたから6-0とか3回くらいやってたしな、あれは凄かった……。
3455:名無しのポケモンバトルファン
ただし次の11月大会では0-6で初戦敗退したけどな(
3456:名無しのポケモンバトルファン
振れ幅が広すぎる……
3457:名無しのポケモンバトルファン
ただ弱点タイプのはずの『ゴースト』とか『あく』にだけはいっつも勝つよな、あいつ
3458:名無しのポケモンバトルファン
有志の検証によると『きけんよち』のような弱点タイプに反応するスキルがあるとか無いとか。
3459:名無しのポケモンバトルファン
あいつ異能トレーナーだっけ?
3460:名無しのポケモンバトルファン
異能トレーナーやぞ、正しくはサイキッカー。『みらいよち』が使える。
3461:名無しのポケモンバトルファン
ギャンブラーじゃなかったのか……。
3462:名無しのポケモンバトルファン
まあ的中率3割らしいから実質博打だよな、しかも不利なほうの
3463:名無しのポケモンバトルファン
いちげきひっさつ振り回したほうがマシとか言われてんのホント笑うwww
3464:名無しのポケモンバトルファン
あ、次来た
3465:名無しのポケモンバトルファン
あのむさ苦しい姿はトウセンだ!!!
3466:名無しのポケモンバトルファン
酷い覚え方で草
3467:名無しのポケモンバトルファン
公式プロフィールによれば
身長188cm、体重80kg
趣味は読書、虫取り、テイスティング(利きジュース)
の14歳の男の子だぞ!
3468:名無しのポケモンバトルファン
14歳!?????????!?!!!?
3469:名無しのポケモンバトルファン
嘘やろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
3470:名無しのポケモンバトルファン
完全に30手前のオッサンなんだがwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
3471:名無しのポケモンバトルファン
バトルする姿はくっそカッコいいんだが、プロフィール見ると何度でも笑えて来るよなこの人www
3472:名無しのポケモンバトルファン
14歳でチャレンジ枠ってすごくね?
3473:名無しのポケモンバトルファン
12歳でチャンピオンになったユウリってトレーナーがいてだな……。
3474:名無しのポケモンバトルファン
その人とダンデさんは例外中の例外過ぎない???
3475:名無しのポケモンバトルファン
同じく12歳にして他地方でチャンピオン一歩手前までいったソラってトレーナーが今回チャンピオン推薦でいてだな……。
3476:名無しのポケモンバトルファン
天才のバーゲンセール過ぎる……。
3477:名無しのポケモンバトルファン
あとはまあジムリーダーでも『オニオン』とか『クコ』とか若いのに、ってトレーナーはそれなりに多い。
3478:名無しのポケモンバトルファン
因みに『じめん』タイプジムリーダーのクコって14歳らしい、つまりトウセンと同い年だ。
3479:名無しのポケモンバトルファン
嘘やろwwwwwwwwwwwwwwwww
3480:名無しのポケモンバトルファン
ようやく収まったのにまた笑わせんなwwwwwwwwww
3481:名無しのポケモンバトルファン
クコってあの合法ロリかwww
3482:名無しのポケモンバトルファン
今年の入れ替え戦後にジムリーダーになったらしいけどすでに来年メジャー昇格確実視されてる天才だぞ。
3483:名無しのポケモンバトルファン
そういやあくタイプジムもネズから妹のマリィに変わったんだよな。
3484:名無しのポケモンバトルファン
リーグトレーナーの平均年齢がどんどん下がっていってる感ある。
3485:名無しのポケモンバトルファン
ポプラが引退したので確実に大幅に下がってる。
3486:名無しのポケモンバトルファン
寧ろポプラはあの年までよくやったわ。
3487:名無しのポケモンバトルファン
年齢考えれば意外でもなんでもないんだが……それでも俺が子供の頃すでにポプラってトップクラスのトレーナーでジムリーダーで、俺が大人になってもまだジムリーダーやってて、なんかもう逆にポプラってこのままずっとジムリーダーやるんだろうなって思ってたから突然に引退に実感わかない。
3488:名無しのポケモンバトルファン
あー、なんか分かるわ
3489:名無しのポケモンバトルファン
うん……確かにね、ポプラが引退とか予想すらしてなかった。
ところで趣味には誰もツッコミいれないのな(
3490:名無しのポケモンバトルファン
年齢的には当然だろって話ではあるんだけどね……。
>>3489 まあ趣味は自由だよ……そういうの厳しい時代だし。
3491:名無しのポケモンバトルファン
おい、お前ら! 次、ガクだ! ガクが来たぞ!
3492:名無しのポケモンバトルファン
ガク! あのギタリストの!
3493:名無しのポケモンバトルファン
レゾナンスなんたら(うろ覚え)の!
3494:名無しのポケモンバトルファン
ネズさんに憧れてギターやりながらトレーナーもやってるけど去年ネズさんが引退したことで発狂ライブやって悪い意味で有名になったあの!
3495:名無しのポケモンバトルファン
ギターボーカルの癖に実は歌が苦手なあの!
3496:名無しのポケモンバトルファン
>>3492以外ろくな情報がねえwww
3497:名無しのポケモンバトルファン
発狂ライブとかいうなよ、感情籠ったいい声だったじゃないか。
3498:名無しのポケモンバトルファン
鶏が絞殺される時の絶叫みたいな声ってネットで叩かれてたのホント草www
3499:名無しのポケモンバトルファン
草に草生やすな
3500:名無しのポケモンバトルファン
>>3497
感情籠り過ぎてて何言ってんのか全く分かんなかったから発狂ライブって言われてるんだよ(
3501:名無しのポケモンバトルファン
>>3495
さらっと致命的な情報がw
3502:名無しのポケモンバトルファン
いや、ギターは割と上手いんだよ?
ただ歌がちょっと……。
3503:名無しのポケモンバトルファン
実はバンドメンバーのほうが歌が上手いという噂
3504:名無しのポケモンバトルファン
じゃあもうそいつらが歌えよwww
3505:名無しのポケモンバトルファン
なんて言ってたら次が来たな、レインだわ
3506:名無しのポケモンバトルファン
レイン! レインじゃないか!
3507:名無しのポケモンバトルファン
『晴れ』パなのにレインさん!
3508:名無しのポケモンバトルファン
パーティに『みず』タイプ一体もいないレインさん!
3509:名無しのポケモンバトルファン
頭おかしい火力したレインさん!
3510:名無しのポケモンバトルファン
ダイマックスセキタンザンを『ほのお』技でワンパンした時、マジで頭おかしいと思った。
3511:名無しのポケモンバトルファン
ダイマ無しエースバーンVSダイマしたセキタンザン
の対面でこれ完全に負けたなあって思ったらまさかの頭おかしい威力のブラストバーンで押し切ったのおかしいだろwww
3512:名無しのポケモンバトルファン
せめて『リベロ』持ってこいって思うが、あのエースバーンの特性『もうか』なんだよな(
3513:名無しのポケモンバトルファン
あのエースバーン、場に出ただけで強制的に『もうか』発動するからな。
3514:名無しのポケモンバトルファン
実は『ほのお』技以外覚えてないからな、あのエースバーン。
3515:名無しのポケモンバトルファン
『もらいび』出してこれで余裕やろって舐めプこいたら特性貫通効果でワンパンされるのホント草
3516:名無しのポケモンバトルファン
有志による検証によるとエースバーンとセキタンザンのレベルを同じくらいと仮定してブラストバーンでワンパンしようとすると7発以上、ダイマックスされると15発ぶち込まないといけないらしいのであの時レインのエースバーンがぶっ放したブラストバーンの威力は通常の15倍を超えるらしい。
3517:名無しのポケモンバトルファン
頭おかしい(確信
3518:名無しのポケモンバトルファン
頭おかしいわwww
3519:名無しのポケモンバトルファン
耐性の意味がぶっ壊れるwww
3529:名無しのポケモンバトルファン
タイプ相性で4分の1されるなら8倍ダメージ叩き込めば実質弱点だよね?
ダイマされてさらに耐久力が倍になったら16倍のダメージで実質ダイマはノーカン。
という分かりやすい理論。
3530:名無しのポケモンバトルファン
不可能ってことを除けば完璧っすわ。
3531:名無しのポケモンバトルファン
それをやったのがあの時のレインだけどな。
3532:名無しのポケモンバトルファン
ポケモンの技の威力とか変化技とかで上がる威力の倍率とか確か実証されてたよな。
3533:名無しのポケモンバトルファン
通常の『はれ』だと『ほのお』技の威力が1.5倍だったかな。
3534:名無しのポケモンバトルファン
噂ではレインのポケモンたちは育成によってそれを2倍にまで引き上げているのだとか。
3535:名無しのポケモンバトルファン
レインの戦術って分かりやすいよな。前半三体で場を整えて後半三体で全抜き狙っていくスタイル。
3536:名無しのポケモンバトルファン
天敵は同じ天候パ(
3537:名無しのポケモンバトルファン
その天敵が来たわ
3538:名無しのポケモンバトルファン
誰来た?
3539:名無しのポケモンバトルファン
あの真っ白な後ろ髪は分かりやすい、シラユキだわ。
3540:名無しのポケモンバトルファン
キルスクタウンの雪女って異名実は結構好き
3541:名無しのポケモンバトルファン
シラユキってメロンさんがキルスクでジムリしてた頃の弟子って聞いたけどマ?
3542:名無しのポケモンバトルファン
弟子かどうかは分からんけど交流があったのは事実らしい。
3543:名無しのポケモンバトルファン
まあ『こおり』統一とか珍しいことやってるしな。
3544:名無しのポケモンバトルファン
あれ実は統一したかったわけじゃなくて、統一せざるを得なかったらしいけどな。
3545:名無しのポケモンバトルファン
シラユキさん実は異能トレーナーじゃないってホントですか?
3546:名無しのポケモンバトルファン
異能トレーナーってなんとなくで相手が異能者かどうか分かるらしいけど、シラユキはそんな感じしないから違うんじゃないかって噂。
3547:名無しのポケモンバトルファン
道端歩いてるだけで毎回『ゆき』や『あられ』が降って来るのに異能者じゃないとか嘘やろwww
3548:名無しのポケモンバトルファン
いや、でもあれ本人的には迷惑らしいから、異能者だったら降らせないようにしてるはずだし、逆説的に異能ではないのでは?
3549:名無しのポケモンバトルファン
だったらなんであの人がバトルすると途端に豪雪が降り出すんですか(
3550:名無しのポケモンバトルファン
すげえよな、7月のガラルで雪降ってたぞ、あれのせいで完全に異能トレーナー説ついてたよな。
3551:名無しのポケモンバトルファン
異能じゃないとするならなんで『こおり』統一してるのか、そう考えると逆説をさらにひっくり返して逆説的に異能トレーナーになるのでは?
3552:名無しのポケモンバトルファン
だから異名が全てを示してるだろ?
雨女ならぬ『雪女』なんだろうよ(
3553:名無しのポケモンバトルファン
雪女ってそっちの意味だったのかよwwwwwww
3554:名無しのポケモンバトルファン
そんな理由で真夏に雪が降るかwwwwwww
3555:名無しのポケモンバトルファン
え? へ?! あれ? ちょっと待って?!!?!!!!???
3556:名無しのポケモンバトルファン
どした?
3557:名無しのポケモンバトルファン
ふぁ?!!!!!!!!!
3558:名無しのポケモンバトルファン
ちょ、嘘やろ?!!
3559:名無しのポケモンバトルファン
ネズが参戦してるうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!?!!???
3560:名無しのポケモンバトルファン
ふぁ?!?!?!?!?!
3561:名無しのポケモンバトルファン
ちょ、嘘やろ、おま、参戦するの?!?!?
3562:名無しのポケモンバトルファン
え、なんで? マジでなんで???
3563:名無しのポケモンバトルファン
妹の様子見にとか?
3564:名無しのポケモンバトルファン
そんな理由だったらマジで草なんだが
3565:名無しのポケモンバトルファン
ネズさんシスコン説不可避
3566:名無しのポケモンバトルファン
あの、あのあの……今選手登録の受付にダンデが行ったように見えたんだが?
3567:名無しのポケモンバトルファン
リーグ委員長だし何かその辺の用事じゃね?
3568:名無しのポケモンバトルファン
まさかネズに続いてダンデまでジムチャレとか……ハハ
3569:名無しのポケモンバトルファン
さすがに無いわwwwあの人元リーグチャンピオンなんだぞwww
3570:名無しのポケモンバトルファン
だよな、さすがに無いよな……もしあったら?
3571:名無しのポケモンバトルファン
もしあったら……何が始まるんですか?!
3572:名無しのポケモンバトルファン
大惨事大戦だ(イケボ
・
・
・
4805:名無しのポケモンバトルファン
あの???
4806:名無しのポケモンバトルファン
なんで?????????
4807:名無しのポケモンバトルファン
なんで元チャンピオンがそっちにいるんですか??????????
4808:名無しのポケモンバトルファン
開会式なのに仕事オオオオオオオオオ!!!!!!!
というわけで実況キボンヌ
4809:名無しのポケモンバトルファン
キボンヌって古……いやなんでもない
4810:名無しのポケモンバトルファン
開会式にダンデ選手がいる(白目)
4811:名無しのポケモンバトルファン
そらリーグ委員長なんだからいるだろ?
4812:名無しのポケモンバトルファン
開会式にダンデ『選手』がいる
4813:名無しのポケモンバトルファン
???ん??????待って???
選手????なんで???
4814:名無しのポケモンバトルファン
ジムチャレに……参加らしいですね(遠い目
4815:名無しのポケモンバトルファン
ダンデだけじゃなくて、ネズもいるぞ(白目
4816:名無しのポケモンバトルファン
会場ざわめいてる
4817:名無しのポケモンバトルファン
みんな最初見間違いかと思って「ん?」て首傾げて「あれ?」ってなってやっぱいるじゃんってなった後に「なんで???」ってなるやつ。
4818:名無しのポケモンバトルファン
って、やっぱダンデも参加すんのかよ!!!!!!!!!!!!!
4819:名無しのポケモンバトルファン
>>3568
まさかのまさかじゃん?!
4820:名無しのポケモンバトルファン
うっそやろwwwww他のチャレンジャーが死んだ顔してるwwwwww
4821:名無しのポケモンバトルファン
元チャンピオンで現リーグ委員長とか出禁じゃないんですか?!
4822:名無しのポケモンバトルファン
一応チャンピオン交代した時点でトレーナーとしては『チャレンジリーグ所属の一般トレーナー(リーグ委員長)』なので参戦は可能。するとは思わなかったが。
4823:名無しのポケモンバトルファン
そういやリーグを引退まではしてないんだよな……籍はあるから立ち位置的には可能なのか。いや、だからってマジかよ。
4824:名無しのポケモンバトルファン
てことは……やったあああああああああ!!!
ダンデVSユウリがまた見れるってことじゃないか!!!
4825:名無しのポケモンバトルファン
すでにダンデがセミファイナル勝つこと前提で草
4826:名無しのポケモンバトルファン
逆に負けるか??? 現チャンピオンに負けるまで公式戦、非公式戦問わず不敗だったガラル最強のトレーナーだぞ。
4827:名無しのポケモンバトルファン
実際、チャンピオンの代名詞みたいな伝説のポケモン抜きなら未だにチャンピオンより強いのでは? って言われてるしな。
4828:名無しのポケモンバトルファン
まあ同じトレーナーからすれば強いポケモンを捕まえることができるのも、指示を聞かせるのもトレーナーとしての力量だからチャンピオンが弱いみたいな話にはならないけどな、その辺疑ってるのはバトルの素人だけだわ。
4829:名無しのポケモンバトルファン
開会式に来てる観客の一部が悲鳴あげてるんだけどwww
4830:名無しのポケモンバトルファン
だってダンデ参戦=【悲報】俺氏の推しトレーナーセミファイナルで消えること確定
みたいな話だからな。
4831:名無しのポケモンバトルファン
今期はもう終わったかなあって顔したチャレンジャーが多いw
4832:名無しのポケモンバトルファン
哀れな……
4833:名無しのポケモンバトルファン
いやいや、チャンピオンになるためにジムチャレンジに参戦してるんだから、前チャンピオンだろうと勝ってみせる! って気概くらい持とうぜ。
4834:名無しのポケモンバトルファン
まあそれは正論
4835:名無しのポケモンバトルファン
尚、気概があったところで勝てるかどうかとはまた別の話(
久々に掲示板ネタ書いたわ。
昔はオリ主スレとか転生者スレとか書いてたけど、あれもう何年前の話だ……。
本編がソラちゃん視点でソラちゃんの視界に入らない他のキャラとかソラちゃんの知識に無い人とかは描写されないので掲示板だと外から見たジムチャレンジの様相とかその辺を書いていけたら世界観が深堀りできていいなって思うんだが深堀りし過ぎてストーリーがまんじりとも進まなくなりそう(
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人もポケモンもそんなに変わらない
ガーくんが擬人種になった。
その事実に頭を抱える。なんだったら頭痛もしてきそうだった。
前提として言っておくと原種*1と擬人種の間に能力的な差はない。
元の3メートルほどの巨大な鳥ポケモンの姿だろうと、今の身長150超えた程度の小柄な少年の姿だろうと図鑑で計測、算出される能力値は常に同じになる。
ただしそれ以外は割と変わる。
一番分かりやすいところで外見だろう。
何を当然のことを、と言うかもしれないが全長が変わっているのだから当然『直接攻撃』等の技のリーチも変われば体重が変わるので『重さ』で変化する技等の効果も変わる、何より重心も変わるので体の動かしかたまで異なって来る。
そしてそういう違いは『技術』である裏特性や技能にまで影響してくるのだ。
調整できるレベルならば問題は無いが……下手をすれば育成し直しである。
すでにジムチャレンジも始まった今の時期になってガラルに合わせてキョダイマックスエースに添えたポケモンが育成し直しなど普通ならあり得ないことだ。
「スーちゃんの育成だってまだ抱えてるのに……どうすんのよこれ」
スーちゃんをゲットしたあたりで事前に立てていたジムチャレンジの予定はもうガタガタだったがガーくんの擬人化でとうとうボロボロに崩れてしまった。
完全に予定組み直しだ。いや、その辺はまだ良いのだ。いや、良くはない、良くはないがまだどうにかなる範囲だ。
まだバッジ一つ目、一月も経っていないのだから組み直しは可能だ。予定外の労力にがっくりと肩を落としはしても気を取り直してやって行けばいい。
問題はガーくんの擬人化が完全に私の予定の外で起こったことだということだ。
何を言っているのかと思われるかもしれないが、これでもトレーナーとして手持ちのポケモンたちとの関係を良好に保つための努力はしているつもりだ。
訓練ばかりではストレスも溜まると気晴らしもさせているし、適度にボールから出してコミュニケーションしたりもしている。
ガーくんは『専用個体』だけあって原種であっても意思疎通に困ることも無く、だいたい考えてることは理解していたし、どんな感情を持っているかも分かっていた……つもりだった。
それがいきなり、である。
それらしい兆候も無くいきなりだ。
いや、正確には昨夜部屋の中で出てきたのは兆候だったのかもしれない。
だが不満と呼べるほどのものでも無かった。甘えたがりなのは分かっていたし、構ってやれば良いと思っていた。
だが一晩経ってみればこの有様である。
擬人種……正確には擬人種への変貌を指して専門用語では『擬人化』などと言ったりもするもするらしいが、原種から擬人種への変貌……擬人化というのはそうそう起こることではないが全く起こらないわけでも無い。
というかキューちゃんなどはまさに進化の過程で擬人化した個体と言える。
だがキューちゃんに関しては正直そうなる可能性はあるかもとは思っていた。
元より人懐っこい子だったこともある、初対面で無警戒に人に寄って来るような野生のポケモンならば素養さえあれば人と触れ合う内に擬人種になることもある。
だがガーくんの場合、その可能性を考えていなかった。
原種の姿でも十分に満足していたように見えた。特に人の姿に憧れているようには見えなかった。人の姿を渇望するような様子も無かった。
そもそもガーくんは専用個体だ。
つまり私に進化の際に原種のまま進化したということは原種の姿が私というトレーナーにとって最適だと本能が判断しているわけだ。
にも関わらず擬人化した、というのはつまり本能を超えるほどの情動をガーくんが抱いたということであり、それだけの感情を私が見抜けなかった、ガーくんのことをきちんと理解しきれていなかったということに他ならない。
否それだけではない。
もしかしたら他の子たちも予想もしていない場面で突然擬人化してしまう可能性だってあるのだ。
実際ガーくんに関して予想できなかったのにもう一度同じことが無いと言えるはずもない。
ポケモンが擬人化するには『人と共にあることを望む』ことが必要だとされる。
だが
だからポケモンが原種から擬人化し擬人種となるというのはちょっとやそっとの渇望では起こりえない。
文字通り本能が自らの体がそれを欲するほどの体に染みつくような願い。
それが奇跡のような変貌を引き起こす。
だが結局私は研究者ではないのでそれ以上のことを知らない。
もっと具体的に知ろうとするならば、専門的な知識を得ようとするならば専門家に聞くのが最も手っ取り早い方法なのだろう。
擬人種の専門家。
幸いというべきか、私にはその心当たりがある。
ついでに言えば伝手もある、あまりにも太い伝手がある。
故に今ここで電話一本かければ話を聞くことができるだろう。
「……あんまり頼りたくないわね」
自身のそんな感情を無視すれば―――だが。
* * *
『で、俺に電話かけてきてどうすんのさ』
「うっさい、それよりアンタも擬人種でしょ、なんか分かんない?」
電話の向こうで呆れたように嘆息する弟に、内心で今度会ったらしばくと決めながら催促するとしばし考えた上で。
『いや、分からないかな』
「しばくわよ」
あまりにも端的な回答放棄にスマホを握る手と声に力が籠る。
『つっても俺がガーくんに会ったのもう一か月近く前の話だしね。そっちでどんなことがあったとか良く知らないし。それに今のガーくんってもう進化したんだろ?』
「そうね、もう最後まで進化してるわ」
『とするとやっぱり分からないかなあ。俺も進化した時に感じたけど、何というのかな心が一足飛びに成熟するような一気に歳を取るような……そんな感覚。それを二回も経験してるんだからココガラの時とはもう別人みたいなものだよ』
「心が成熟、ね」
その割に甘えたなところが変わらないような気がするのだが。
『まだ自分の心に上手く慣れてないんじゃないかな? 特に一回目の進化と二回目の進化が早かったんでしょ? 幼かった心が突然二度も大きく成熟したせいで心と体のバランスが取れてないのか―――』
そこで一度言葉を止める。
『いや、やっぱりはっきりとしたことは分からないや。俺も本質的には野生のポケモンの擬人種のことは分からないし』
「そう、ね……」
アオは確かにポケモンだ。擬人種だから人の形をしているし、幼い頃は本当に私と瓜二つなほどに似ていたが、それでもポケモンなのだ。
だが同時にどうしようも無く人の手で育ってきたポケモンだ。
私の双子の弟として、家族として、共に育ってきた。
自らの親を知り、親に愛情を持って育てられた。
その辺りはガーくんと違うのかもしれない。
『やっぱりこの手のこと父さんに頼むのが一番だと思うよ』
「う……うん、まあそうなんだけど」
『こんなこと姉ちゃんに言っても理解されないと思うけどさ』
「……ん?」
『一つだけ言わせてもらうなら』
なるべく先延ばしにしていた結論を告げられて言葉に詰まる私にアオが少し溜めて。
『人もポケモンもそんなに変わらないと思うよ』
そんなことを言った。
* * *
「仕方ない、か」
少しだけ躊躇しながらスマホロトムに登録された連絡先をタップする。
時間はすでに夕方を過ぎて夜も近くなっている。
さすがに仕事も終わっているだろうと予想しての連絡だが、呼び出し音が鳴り続ける。
十秒近く待って出ないのでまだ忙しいのかと通話を切ろうとして……。
『もしもし?』
繋がった。
「あ、も、もしもし」
僅かに声が上擦ったのを自覚しながら片手でスマホを耳に当てる。
『ソラだよね、珍しいね、キミが俺に電話してくるなんて』
「そうね……うん、ちょっと、その……父さんに聞きたいことがあって」
手持無沙汰なもう片方の手が無意識に机を指でとんとんと叩き始める。
『聞きたいこと? うん、何かな?』
「その、えっと……ね」
ウスイ・ハルト。
それが私の父さんの名である。
そして同時にそれはこの世界における『擬人種研究』の第一人者の名でもあった。
十数年前、まだ私が生まれる前、当時『ヒトガタ』と呼ばれ『理由は良く分からないけれど何故か人の形をしている強いポケモンたち』とされていた存在を『擬人種』と定義し、その存在理由を明確にした研究者。
つまり擬人種について質問するならばこれ以上ないほどにうってつけの人物と言えた。
親に頼るということにやたらに抵抗感があることを考慮しなければ、だが。
『ふむ、なるほどね』
大よその流れを話した父さんの反応はそんな軽いものだった。
「何か分かる?」
『うーん、そうだねえ……』
曖昧な返しに焦れそうになるのをぐっと堪える。
やがて考えがまとまったのか父さんが口を開いた。
『分かる、と言えば分かるかな』
「ホント?」
『うん、でもね。ソラ、キミには分からないかもしれない』
「……どういうことよ」
自分には分からないという意味が分からずやや尖った声になってしまったことを自覚しながら続きを促せば、うーん、と電話の向こう側で懊悩するような声が聞こえてくる。
『うーん、だって今分かってないってことは言っても理解できないと思うんだよねえ。というか理解できていないのが意外というべきか……いや、もしかしてエアが言ってたのってそういうことなのかな? 憧れているからこそ現実的に認識できない? 俺に似てるかなあ……?』
しばらくぶつぶつと呟いていたようだったが、やがてまだ通話中であることを思い出したか咳払いを一回。
『一つ聞きたいんだけど、ソラにとってポケモンてどんな存在?』
「……どういうこと?」
『ほら人とポケモンの接し方って色々あるじゃん? 家族だったり、友人だったり、仲間だったり。その中でソラにとっては手持ちのポケモンたちはどんな存在?』
「それは勿論……」
トレーナーとして何を当たり前の質問を、と即答しようとして……答えが出なかった。
『多分ソラがガーくん? のことを分からないのはそこだと思うよ。その子にとってキミは親のような存在なんだろうね。でもキミにとって彼はどんな存在なの? 他の子たちは? 戦友かい? それとも仲間かい? 或いは家族? キミが彼らを理解しきれないのはキミ自身が彼らとの関係性を曖昧にしてしまっているせいじゃないかな?』
反論しようとして、けれど言葉が出ない。
何度も何度も、口を開いては、けれど何一つとして言葉にならない感情が湧いては消えていく。
喉がカラカラになって、視線を彷徨う。
『きっとそこにちゃんとした答えを出せば関係性も必然的に見つめ直すことになるんじゃないかな?』
…………。
『キミの知りたかった答えはきっとそこにあると思うよ』
…………。
『これまでキミが意識的か、或いは無意識的にか、目を逸らし続けたものを真正面から見つめた先に』
…………。
『それと一つだけ俺からアドバイスしておくなら』
…………。
『―――人もポケモンもそんなに変わらないと思うよ、少なくとも俺にとってはね』
* * *
――――ポケモンになりたかった。
と言えば大半の人は首を傾げるだろう。
確かにポケモンは人間と比べても凄い存在だとは思うが、人間なんて辞めてポケモンになりたい、なんていう人間は普通いない。
別にポケモンを見下しているというわけでは無い。
無いが人とポケモンはあまりにも生き方が違い過ぎる。
上とか下とかではなく、全く別の生き物なのだから。
ソラは人間だ。どう足掻いてもそれ以外にはなれない。
けれど異能……いや、最早異能とすら呼べないほどの人間離れした力を持っている。
だから幼い頃、自分と家族……例えば血を分けた双子の弟が同じ生物だということを疑ったことが無かった。
弟はまだ幼い頃からその才能の片鱗を見せていたが、ソラもまた自らの力で同じようなことができただけに気づかなかったのだ。
自分が人であること、そして弟がポケモンであること。
幼い頃のとある事が切っ掛けとなってソラは自分と弟が別の存在であることを知った。
同時に大切だった家族が、新たに生まれてきた弟たちが、妹たちが人とポケモンというそれぞれ違う種族であることを知った。
そして最も尊敬し、敬愛していた母親が自分とは違う種族であることを知った。
だから正しく言えばソラは『ポケモンになりたかった』のではない。
―――大好きな母と同じ存在になれないことに憤ったのだ。
その時、生まれて初めて自らの半身に嫉妬した。
同時にどう足掻いたって自分はポケモンになれない。人でしかない。そのことを突きつけられた。
自分は弟のようにボールの中に入ることはできない。
自分は弟のようにポケモンの技を受けて平気な顔はできない。
自分は弟のように強くはなれない。
自分は、自分は、自分は……弟のように、弟のように、弟のように。
いくつもの差異が突きつけられるごとに自分の憧れが遠のくことを理解して。
―――ポケモンとして生まれたかった。
そんなことを思うようになった。
そんなソラがポケモンをある種特別視するようになったのは必然だったのかもしれない。
『人もポケモンもそんなに変わらないと思うよ』
『―――人もポケモンもそんなに変わらないと思うよ、少なくとも俺にとってはね』
親子揃って同じことを言う。
示し合わせたかのように、だが実際にはそれが本心なのだろう。
『こんなこと姉ちゃんに言っても理解されないと思うけどさ』
『うん、でもね。ソラ、キミには分からないかもしれない』
ああ、全く良く分かっている。
よく理解されている。
正直に言おう。
「分かんないわよ、そんなの」
だったらどうして自分はこんなに苦しんだのだ。
ソラちゃんのポケモンという種へのコンプレックス自体はアドリブじゃなくて割と初期からあった設定です。
つか書き始めた頃にはすでに固まってた設定なので、実に二年以上の歳月をかけてようやく出せた……。
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考えても分からないことは考えないのが吉
どれだけ悩もうと時間は止まってくれない。
時間が進む以上タイムリミットというものは刻一刻と近づいて来る。
であるが以上、プロトレーナーとして立ち止まり続けることは許されない。
本当は分からないことだらけで、本当にこのままで良いのか、そう思わざるを得ないのは確かで。
けれど悩み続けたところで答えが出ないのならば結局悩んだって仕方ないのだ。
「なんて、逃避かしらね」
嘆息する。いや、自分でも分かっているのだ。
これは結局問題の先送りに過ぎず、何も解決してはいないのだと。
それでも今やるべきことがあるのもまた確かな事実であり……。
「切り替えていきましょうか」
そろそろ次のジムチャレンジへと挑むための時間的制限が迫っていた。
* * *
タイムリミットとは言ってもジムチャレンジ全体で見ればまだ期間に猶予はある。
だが実際まだ攻略が終わったジムはターフジム一つであり、序盤も序盤だ。
その上ですでに二週間近くが経過しているという事実。
推薦組ならともかくチャレンジ組として見るならばすでに遅れ気味と言えた。
とはいえこれに関してはスーちゃんという予定外の育成があったりとで致し方ないと言える部分もあり、最終的に予定よりも戦力の増強も見込めるとあるのでそこまで問題にはなっていない。
問題はさらにその後の予想外のガーくんの擬人化、それに伴う能力の見直しなどによって数日予定外な育成が入ったこと。
ガーくんの擬人種への変貌にまさか育成のやり直しかと頭を抱えたりもしたが思ったほど……いや、はっきり言えば擬人種となったことでの影響というのはほとんど無かった。
元より体躯や重量を駆使した育成は施してなかったこともあってか、寧ろ以前よりも動きが洗練されていたと言っても良い。
結果だけ見ればガーくんが擬人種となったことはプラスに働いたということもあってどれだけ自身が安堵したか、あのいまいち表情の無い小柄な少年は知らないのだろう。
だが想像していたより時間がかからなかったとは言え予定外は予定外だ。
元よりスーちゃんの育成で全体的に詰め気味なスケジュールになっていたのにさらに予定外の事態に時間を取られてしまって、これ以上は本当に余裕が無くなる。
そういうわけでそろそろ完了するスーちゃんの育成の終了を持って次のバウタウンへと向かう計画を立てていた。
「基本的には東に一直線って感じね」
現在地の『ターフタウン』から『五番道路』を東へと横断していき、ワイルドエリアを跨ぐ超巨大な橋を抜けた先の港にあるのが『バウタウン』だ。
そんなバウタウンにある『バウスタジアム』は港町らしく『みずタイプジム』が担当しているらしく、ジムリーダーは『ルリナ』。
「『みず』タイプのエキスパート、やっぱり主軸がスーちゃんになるわね」
妙なタイミングでゲットした今までのパーティにいなかった『でんき』タイプのポケモンだが、初の実戦がいきなりジムリーダー戦というのは少し不安なので道中で慣らしに何戦かバトルしてもいいかもしれない。
さらに言えばスーちゃん以外のパーティの面子も考える必要がある。
面子を組んだら残りの育成期間でその面子もまた対ジム戦のために調整する必要があるのだからジム戦前になって組んでいては遅すぎる。*1
そうして思い立ったがままにスマホロトムの図鑑アプリを起動させ、手持ちのポケモンたちの能力データを表示する。
「スーちゃんと相性が良いってなると間違い無くダーくんなのよね」
ただダーくんはターフジム戦でも出したのでできれば他の面子を使いたい。
あまり過度の情報の露出は避けるべきだが、それはそれとして対人戦における慣れというのはさすがに野生ポケモンとのバトルでは得られないものだ。
特に駆け引き……引っ掛け、フェイントなど細かい動作による翻弄は野生のバトルしか知らないポケモンたちでは対応しきれるものでは無い。
『おおあらし』で動きを制限してしまえばそういったものもついでに封じることができたりするのだが、少なくともジムチャレンジ中に使う予定はない。
「と、なると前回の面子を除いて『みず』タイプ相手に相性が良いやつね」
真っ先に上がるのはキューちゃんだろう。
『みず』タイプを半減できる上にこちらは『ひこう』タイプ技で攻撃できる。
さらにアタッカーのスーちゃんから回すのにクッション役として期待できる。
同じクッション役として育てたチーちゃん(チルタリス)もいるが、『ひこう』『ドラゴン』の同じ『みず』半減のタイプではあっても『みず』タイプのポケモンというのは結構な割合で『こおり』技を覚えるのでキューちゃんより弱点を突かれやすいことを考えて無しにした。
当然キューちゃんにも『でんき』タイプという致命的な弱点はあるが、強力な『でんき』技を覚える『みず』タイプというのも少ないので相手できる幅というのはどう考えてもキューちゃんのほうが広い。
「それに今は『らんきりゅう』も無しなのを考えないといけないのよね」
『らんきりゅう』によって『ひこう』弱点をケアできるのならばチーちゃんも十分に採用できるのだがジムチャレンジ中にそれではさすがにゴリ押しが過ぎる。
タイプ統一のジムリーダーに対してこちらは選出が自由なのだからそこはパーティ選出もトレーナーとしての腕前の一つと言える。
「あとはまあアオがいれば楽なんだけど」
『ドラゴン』タイプで『みず』タイプを半減した上で特殊な特性で『でんき』エネルギーを放出できるアオがいてくれればかなり助かるのは間違いないのだが……。
「楽してばっかりなのも問題よね」
忘れてはならないのはこれがジムチャレンジであること。
つまりジムバトル……勝てるように加減されたジムリーダーが相手なのだ。
確かに推薦枠……新人たちとは違いチャレンジ枠としてそれなりに本気のジムリーダーが相手だがそれでも全力で来ているわけでは無いのだがそんな相手にパワープレイを強行したところでトレーナーとしての実力が伸びるわけが無い。
「ま、そもそもアオのやつ規則で使えないし」
だからまあ居てくれればと一瞬考えるがこの思考も結局は無しだ。
ジムチャレンジの規則によればエンジンジムまでの3つのジムは3対3が基本となるらしいので残りは1枠。
そしてここで重要なのがスーちゃんの立ち位置だ。
先ほどスーちゃん(トゲキッス)を主軸にする、とは言ったが汎用的アタッカーにして最初からガンガン回していくのかそれともエースとして最後に出し渋るのか。
その辺りで話は大きく変わって来るだろう。
といってもスーちゃんの方向性的に出し渋ってもあまり性能を発揮しきれないだろうし。
「となると最後の一体が必要ね」
ジムリーダー相手にスーちゃん一体で全員押し切れるとも思っていない。
何よりまだ実戦経験が少なすぎるスーちゃんなのでどこでボロを出すとも限らないのだ。
となると必要なのはスーちゃんというアタッカーがいなくなった後それを引き継げる相手……。
「ん、これで決まりね」
図鑑に表示された一体のポケモンを見やり、呟いた。
* * *
ポケモンの育成とは模倣から始まる。
そんな風に言われるのは裏特性などの技術を習得させる過程にある。
ポケモンとは極めて適応力の高い生物だ。
進化というポケモン独自の成長能力はその最たるものだろう。
だがそんな適応力の高いポケモンとて見たことも無い技をいきなり覚えろと言われて即座に覚えるなんてことができるわけでは無い。
故にポケモンに技術を仕込むなら大別して二つのやり方がある。
一つが環境を変えることでその技術を自ら閃くように導くこと。
例えばの話、天候が『あめ』の時に発動できるような技術ならば実際に『あめ』の日や『あまごい』などによって天候を変化させ、環境を合わせた状態でその技術を習得できるような練習をする。
その環境下に何度となく置き、ポケモンを少しずつ適応させていけばやがて『あめ』の環境下で発揮できるような技術が生まれてくる。
ただしこれはやや迂遠な方法だ。
確実性に欠けるというべきか。
トレーナーが意図した通りの技術に完璧に適合するものが生まれるとは限らない。
故にもう一つのやり方というのが基本的に使われる。
それが模倣することだ。
同じ技術を持つポケモンを用意して目の前でその技術を見せる。
そうすることによってより的確に、必要な技術を磨くことができ、意図した技術を身に着けさせることができるわけだ。
故にタイプ統一パーティというのは分かりやすい利点がある。
共通のタイプを持つポケモンであるが故に、同じタイプの他のポケモンの育成手腕を流用しやすいということ。そして共通したタイプを持つ他のポケモンを真似ることで育成の難易度を大きく下げ、育成期間を大幅に短縮できること。
逆に言えばタイプをバラバラにしているトレーナーはそれぞれのポケモンごとに流用できない育成を施す必要がある。
それ故に育成を得意とするブリーダータイプのトレーナーでも無ければ数を用意しきれないという難点がある。*2
ただ今回は少しばかり勝手が変わって来る。
スーちゃんは確かに『ひこう』タイプを持っているが、今回主軸となるのは『でんき』タイプの育成だ。
そして残念ながら私は『でんき』タイプのポケモンを育成した経験が無かった。
とは言えこの手の問題はトレーナーをやっていればあるある、と共感するくらいにはよくある話だ。
じゃあそんな時どうするのか、というと大まかには三つに分けられる。
一つはタイプごとの育成についてまとめた参考書のようなものがあるのでそれ読みながら少しずつ手探りで育成していく。
勿論手探りな分時間はかかるが、その過程で得られた経験はトレーナーとして何よりの財産となる。当然無事育成しきれるかどうかは本人の才覚などもあるのでやや安定性に欠けるのが難か。
ただこれはとにかく時間がかかるので今回は無しだ。
二つ目は同じタイプのポケモンと戦わせること。
別にこれは野生のポケモンでも良い。とにかく自分と同じタイプがどういう戦い方をしているのか、自分のタイプをどういう風に生かしているのか、それを知ることでポケモン自身が自然と自分の能力の使い方を身に着けていく。
ただこれもまた難があり、自分よりも戦い方を知ったポケモンと戦うわけなので常に不利な状態で戦い続けることになり、それを補うトレーナーの腕が必要になる。さらに言えばどんな能力を身に着けてくれるか分からないので確実性が無い。
なので最後の手段、三つ目がプロトレーナーとしては一般的になる。
つまり。
「でぇ、私が呼び出されたわけですねぇ」
専門家に頼む、だ。
このガラル地方においてユウゼン……というか各ポケモンジムのジムリーダーというのは同時にトップトレーナーの一人だ。
故に同じジムのジムトレーナーならばともかく、リーグ所属の他のトレーナーに手を貸すなんてことは基本的には無い。
そう、基本的には。
だが例外的に対価と引き換えにプロトレーナーが他のプロトレーナーのために力を貸すことは実は時々ある。これは別にジムリーダーに限らない。
「報酬はスーちゃんの育成レポートで良いのよね?」
「それでオッケーですねぇ。こっちとしてもこんな特異個体の育成に関わる機会なんて滅多にないですしねぇ」
育成の経験とは極論、どれだけ多くの多様なポケモンを育てたか、その蓄積とパターン化にある。
このタイプのポケモンにこんな育成をすればこんな結果になった。という事例の積み重ねをいくつも集めて新規ポケモンの育成の際に過去の事例との類似点や差異点を比較し、どのような育成を施すかを決定する。
故にジムリーダーというのは例外なく本人の育成の不得手に関係無く専門タイプの育成ができるのだ。
過去のジムトレーナーたちが積み重ねてきた育成の経験を集積し、常に見比べることができるから。*3
「まあそれじゃ早速始めましょうか」
「そうですねぇ、こっちも暇というわけでも無いですし」
そうして施設内で半ば遊んでいるような状態のスーちゃんを呼び出しながら。
―――どこまで行けるか、楽しみになってきたわね。
図鑑に表記されたスーちゃんの現在のデータを見やりながら、その将来を思い笑みを浮かべた。
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兄弟姉妹なんて案外似てないもの
「そう言えばぁ、一つお願いがあるんですがぁ」
スーちゃんの育成も完了し、それ以外の子たちの調整も終わったため明日にはバウタウンへと向かおうと思いながら預かり屋で施設のレンタル完了の手続きをしていると先ほどまで共に育成の補助をしてくれていたユウゼンが突然口を開いた。
「お願い? 何?」
さらさらと筆を走らせ、最後に自らの名前をサインすればあとは勝手に支払いの手続きなどを進めてくれるだろう。
手続きのための用紙を受付に渡し、そのままユウゼンと共に預かり屋を出る。
「明日からバウタウンに向かうって言ってましたよねぇ……その前に少し会って欲しい人がいるんですよぉ」
「会って欲しい人?」
「人、と言いますかぁ。まあぶっちゃけて言えば私の双子の妹なんですけどぉ」
「……妹?」
ということはユウゼンは双子の姉、ということだろうか。
何だか親近感を抱いてしまいそうだ。
「その妹さんに何で私が?」
「実はうちの妹、配信者をやってましてぇ」
「配信者?」
確かテレビなどではなくインターネット上にあるサイト『poketubu』*1などで動画配信をしている人たち、だったか。
私自身あまりそう言ったものを見たりはしないのだが、ユウリの家に泊まっていた時はユウリやアオがよく見ていたので自然と目につくこともあった。
「毎年ジムチャレンジの時期になるとこれは、というチャレンジャーに許可を得た上で密着配信やってるんですよぉ」
「ふーん。で? 今年はその中の一人が私?」
「だいたいそんな感じですねぇ。正しくはぁ~今年はソラさんだけですねぇ」
以前にも言ったがプロトレーナーは人気商売であり、マスコミ相手の受け答えというのはリーグに入った時に一通り習ったりする。
つまりそのくらいにはメディアと接する機会は多いので今更映像配信されたところで、というのはある……あるのだが。
「それって私にメリットがあるの?」
どこまでついて来る気かは知らないが、当然ながらトレーナーには他者には隠したい情報というものがある。
特に手持ちのポケモンの情報はバトル以外の場ではできる限り隠しておきたいのが正直なところだ。
つまり密着配信なんてされたら隠したいことも隠せなくなるわけであり、これもまた以前に言ったが現代のポケモンバトルにおいてそういう情報の扱いは極めて慎重になる必要がある。特に安易な情報の流出、漏洩はバトルにおける勝敗にすら直結しかねないのだ。
その辺りのことを同じプロトレーナー……しかもジムリーダーというガラルでもトップ層に位置するはずのユウゼンが知らないはずが無いのだが。
「勿論ありますよぉ? というか、今のままでちょ~っとマズいかもですねぇ」
「どういうこと?」
ユウゼン曰く。
以前にも言った通りスタジアムにおけるポケモンバトルにおいて『盛り上がり』というのは実効力を持つ。
つまり観客を沸かせるようなバトルをすることで会場を盛り上げ、自分たちの力とすることができる。
そしてこの『盛り上がり』というのはそのトレーナーの『ファン』と『それ以外』では当然ながら『ファン』のほうが盛り上げやすいのは分かるだろう。
何せ『ファン』というのは最初からそのトレーナーに注目、或いは期待してくれているのだから。
そしてそんな『ファン』たちは自分たちの『推し』のトレーナーのバトルを客席から応援をしてくれる。
それは一つの『願い』だ。
『頑張れ』だとか『負けるな』或いは『勝ってくれ』だとか。
そんな言葉はファンの共通の願い。つまり『自分たちの応援するトレーナーに勝利して欲しい』という同じ願いの元に投げかけられた言葉の数々だ。
『ねがいぼし』とは、そして『パワースポット』とは『願い』に呼応する。
簡単に言えば『一定数以上のファンを獲得し応援されること』によって『バトル中に有利な効果が得られる』のだ。
しかもこの効果は綱引きのように『ファン数の差』によって上下する。
ユウゼン曰くの【応援】効果。
「これは3:3の勝負だと純粋に盛り上がりが足りないのでまだ発揮されないんですよねぇ。でもぉ~このままジムチャレンジを進めて6:6のフルバトルになった時にぃ、確実にその差は出てきますねぇ~」
「人気、知名度、ファン数……だから配信?」
「ですねぇ~。配信を通してファンを獲得していくこと、ジムチャレンジの中でテレビ中継なんかもありますのでぇ、そちらでもファンを獲得すること、ガラル出身じゃないソラさんにはこの二つは必須だと思いますよぉ」
そう言われるとこちらとしては弱い。
他地方からの参戦故に知名度の低さはどうしても仕方ない部分はある。
だが他地方ならば何も問題無いそれもガラルにおいては弱点となってしまうようだった。
「実際のところ、その応援ってどれくらい変わるのよ」
応援で効力が得られると言われてもいまいち想像ができない。
そんな私にユウゼンが少し考え込み。
「例えばぁ~有名なところで元と現在の両チャンピオンなんてこんな感じですねぇ」
そう告げてスマホの画面をこちらへと向け。
>>【応援】『チャレンジ&チャンプ』
味方の『テンション値』の能力上昇値が2倍になる。
>>【応援】『スーパーダンデタイム!』
『エース』が場に出た時、『エース』の全能力が上がる。
画面に表示された内容に一瞬意識が飛びそうだった。
* * *
ユウゼンの能力について私ははっきりと聞いたわけではない。
なにせユウゼンだってれっきとしたこのガラル地方のトップトレーナーの一人なのだから、当然商売敵となる私に自分の力の底を簡単に見せたりはしない。
けれどまあワイルドエリアでの戦いを通してみればユウゼンの能力が極めて正確性の高い『解析力』を持つことは理解できる。
もっと正確に言えば恐らくは『ポケモン図鑑』の解析能力を極めたようなこと
故に画面に表示されたやたら具体的な効果はつまりそのままの意味なのだろうが、確かにこんなふざけた能力を一方的に押し付けられるとなると不利なんて言葉では済まない。
「これを一方的なんて冗談じゃないわね……まあファンを作ることの意義は理解したわ、けどそもそもジムチャレンジってテレビでも放映されてるはずよね、配信って需要あるの?」
わざわざ手の内明かしてまでろくに視聴者がいません、ではあまりにも意味が無い。
「そこに関しては問題無いですよぉ。というかソラさんの場合は配信のほうがテレビよりファン獲得に向いてると思いますねぇ」
「どういうこと?」
「視聴者の年代の問題でしてぇ。ソラさんみたいな若いチャレンジャーはどちらかというとぉ、年代的に近いほうがファンを作りやすいんですよねぇ」
「そうなの?」
そう言われれば動画配信というのは若い人向けのイメージがある。
実際はどうなのかは知らないが、スマホやPCなどを利用する関係上、テレビより視聴者の年代が若くなる傾向はあることは予想に難くない。
「少なくともぉガラルの場合、テレビって家族で囲んで見ることが多いんですよねぇ。逆に配信は個人で見ることが多くてぇ、その分『自分だけの推し』を見つける人が多いんですよぉ」
そしてガラルにおける視聴者層というのは配信のほうが平均年齢が低いのが事実らしい。
「それに妹の配信ってそこそこ視聴者さん多いんでぇ、ソラさんにとってメリットは結構あると思いますよぉ?」
ユウゼンの言葉に少しだけ考える。
受けた場合、受けなかった場合のメリット、デメリットがそれぞれ頭の中でグルグルと渦巻いて……。
「分かった……一先ず会うわ」
そんな自身の答えにユウゼンが了解ですぅ、と笑った。
* * *
預かり屋の周辺は基本的に何も無い場所だったので指定されたのはターフタウン外周にある適当な喫茶店だった。
まあ預かり屋自体がターフタウンのすぐ近くであり、多少戻ることにはなるが自転車で移動するなら距離的には誤差みたいなものだろう。
尚、場所だけ告げてユウゼンは帰った。
まあ要件はすでに伝えられたしもう用は無いのだから問題無いと言えば問題無いのだが、妹に顔見せもせずに帰るあたり案外ドライなのか、はたまた……?
別に世の中の家族という家族がみんなべったり仲良し、とは思っていないが自分たち家族とはまた違った家族の形を見せられた気がして少し不思議な気分だった。
喫茶店の中に入り、案内に来た店員に先に人を待たせていることを伝え案内された先には一人の少女がテーブル席に座っていた。
ユウゼンより少し色素の薄いピンクブロンドのウェーブヘアに特徴的な黒いリボンをした少女がこちらに視線を向け、少し驚いたように目を開いてすぐに立ち上がる。
「ソラさん、ですよね? 姉さんから聞いてるかもしれませんが、ユウゼンの妹のシノノメと言います」
どうぞ、とテーブルの反対側の席へと勧められるままに座るとユウゼンの妹、シノノメがやってきた店員に注文する。
その横顔を見ながら姉のはずのユウゼンよりも大人びた印象の少女にあまり似てない姉妹だなあ、と内心で呟く。
それにユウゼンのあの独特な間延びした口調とは対照的にこちらはきびきびした喋り方をしているので余計にそう思う。
「ソラさんもどうぞ、私が払いますので、お好きなものを」
あ、ユウゼンの妹だ。と一瞬にして真逆のことを思いながらこちらも適当なドリンクを注文して向かい合う。ユウゼンの時とは違い、突然に強引に押しかけられたわけでも無いので嫌がらせのような大量注文は止めておく。
「改めてまして、今回はご足労いただきありがとうございます。このガラル地方で『
告げてから差し出されたのは名刺だった。
そこにはシノノメの名と自チャンネルのURLが書いてある。
よく知らないが配信者というのは趣味の領域の話だと思っていたのだが、名刺まで用意しているあたりは思ったより本格的なのかもしれない。
「姉から聞いているかもしれませんが、今回は私のチャンネルで毎年で行われている『今年一押しのチャレンジャー!!』という企画でソラさんを取材させて欲しいと思いまして」
そう言って傍にあった鞄から数枚のプリントを出して机の上に並べる。
視線を落としてみれば書かれていたのは『どんな動画を作る予定か』『その動画を作るために何を撮影したいのか』『どのようにして撮影するのか』と言った企画の詳細を記したレジュメだった。
「……思ってた以上にしっかりしてるのね」
「ジムチャレンジに挑戦するチャレンジャーはリーグ登録もされているれっきとしたプロの方々ですから。こちらもその辺りは考慮しながらやっています」
内容に目を通すが基本的に『生放送』はジムチャレンジでのバトルの時のみになるようだ。これはテレビでも普通に放映されているので特に問題は無い。
その他ジムチャレンジ期間の旅に様子や手持ちの育成などは許可を取った上で撮影、映しては不味いものは編集を行った上でこちらに確認を取ってから投稿、ということらしい。
職業トレーナーでも無いのに情報の重要性に関してしっかりと認識しているらしい。まあトップトレーナーのユウゼンを姉に持つのだからその辺りは知っているのだろう。
大まかに目を通し、事前に危険視していたような情報漏洩の可能性はかなり低いように見える。
「こちらとしては大分気を使ってもらってる感じでありがたいけど、こんなので動画を出して面白いのかしら?」
「えぇ! そこは保証します。やはり皆さんプロトレーナーの日常風景だけでも十分に刺激的ですし、ジムチャレンジャーの旅風景ともなればどんな些細なことでも見てくれます」
まあ後は勝ち上がってくれればもっと良いのですが、と苦笑するシノノメ。
まあ資料を見た限りでは十分こちらの許容範囲内だ。
そしてユウゼンの言う事を信じるならばこちらにもメリットは多大に存在する。
あちらのメリットがどれほどのものかは私には分からないことだが、向こうからこちらを選んだ以上その結果もまた向こうの問題だ。
総評するならばこの話は受けて損は無い。
ただ一つ、不思議なことがあるとすれば。
「どうして私なのかしら?」
つまりそれだ。
言っては何だが私は地元ホウエンでならともかくこのガラルにおいて無名に等しい。
知名度も無く、実力も知られていない、当然注目もされていない。
だから最初は動画と言っても複数いるチャレンジャーの中の一人くらいだと思っていたのだがユウゼンにも否定されたように例年はともかく今年は私一人らしい。
別に私はその道のプロというわけでは無いので動画配信についてお世辞にも詳しいとは言えないが、それでもこの条件で私が選ばれるというのは中々に違和感を覚える程度には不可思議な話だ。
そんな私の問いにシノノメが予想外のことを聞かれたと言わんばかりに硬直し。
「あー、え、えっとですね」
どことなく気まずそうな表情で頬を掻き。
「あまり有名じゃないからこそ他の配信者とかテレビとかに先を越されないから、とか。お姉ちゃんが実力は確かだって言ってたから、とか。チャンピオンのポケッターのせいで密かに名前が知れ始めてるから、とか色々理由はあるんですけど……そのですね」
困ったように苦笑し。
「実は私、ソラさんのファンなんです」
―――そう告げた。
というわけで多分、恐らく、予定では、今のところ、ガラル編において最後の独自システムとなる【応援】効果公開です。
因みにこれヤローさん編でも発動してました。
3:3じゃ発動しないとか言ってたけど盛り上がればちゃんと発動します。
正確には通常の大会とかの3:3じゃ発動しないけど、ジムチャレンジ補正でみんなの注目が集まり期待が高まり、願いが強まっているので3:3でも発動する。
因みに因みにファン数で強弱変わるみたいなこと言ってたけど、データとしては特に変動しません。
いや、互いのファン数の差とかで変わることにしようかとも思ったけど余りにもバトルの処理が面倒になるので……。まあフレーバーみたいなものだと思ってもらえれば。
最後にユウゼンちゃんの双子の妹、シノノメちゃんです。
【挿絵表示】
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●LIVE 【出張版】今年一押しのチャレンジャー!!【ノ×3チャンネル】
・待機中……
・待機中……
・待機中……
・キチャ!
・キターー!!
『おはこんハロチャオー!』
・ハロ……じゃない!?
・ハロ……ん?
・なんか聞いたことあるそれwww
・それ他所の地方のストリーマーのやつwww
『なんちゃって。改めまして皆さま、ハローワールド! ノ×3チャンネルのお時間です!』
・ハローワールド!
・ハローワールド!
・へ、へろーうぉーど?
・すまねえ、異世界語はさっぱりなんだ
・↑純正ガラル語だが?
・↑そもそも地方共通言語翻訳機能ついてんだよなあ……このチャンネル
・何も無かったかのように進めてるが開幕のは一体なんだったんだ(
『はーいどうも皆さん、シノノメです。え、開幕の……ああ、同じストリーマーのお友だちの挨拶が面白かったので試してみたんですが、知ってる人もいるみたいですね。まあここは私のチャンネルなので具体的な名前は出しませんが』
・ナ……の人
・ピクニック好きの人
・頭にコイルつけてる人
・なんで他所の地方のストリーマーと友人に
・パルデアのストリーマーとどこで知り合ったんだマジで
・ヒント①:姉
・ヒント②:でんきタイプジムリーダー
・ヒント③:配信者
・それはもうほとんど答えでは()
『当たらずとも遠からずですね。まあそれはさておきまして、今回のチャンネルは毎年恒例の……はい、これですね(ドドン)*1、【今年一押しのチャレンジャー!!】です!』
・キチャ!
・ドドン!
・デデン!
・毎年の楽しみ
・似たような企画とか番組も多いけど主のが一番好き
・シノノメちゃん毎回毎回よく無名……でも実力派、みたいな微妙なライン見つけてくるよな
・そもそも他のチャンネル主の推しとかセミファイナルまでたどり着くことすら珍しいのに毎回全ジム突破してるチャレンジャー見つけてくるのホントスゴイ
・今年こそはシノノメちゃんの推しはチャンピオンになれるのか
・いや無理では(某チャレンジャーを見ながら
『いやーそうなんですよね、私の一押しのチャレンジャーさんって毎年毎年セミファイナルまでは進むんですが中々勝ち抜けない……厳しい世界ですよね』
・ホントそれ
・まあシノノメちゃんの場合、優勝候補からあえて外れた選手選んでるのもあるが
・なんでわざわざ? 普通に優勝候補押したらダメなん?
・↑企画の内容的に優勝候補にはもっと有名どころのメディアが密着してるから
・まあシノノメちゃんも個人勢としては視聴者かなり多いんだけど……
・他の大手企業勢もいればそもそもテレビマクロという大御所もいるので(
・弱小の悲哀感ある
『でもでも! 皆さん、今回の一押しは期待大ですよ!!! セミファイナル……どころかファイナルトーナメントも勝ち抜いてくれると思ってますので!』
・言うじゃん
・シノノメちゃんがそこまで言うチャンレジャーっていたっけ?
・え、今回のセミファイナル優勝者なんてもうすでに決まったようなものでは?
・ダ……なんとかさんいる時点で
・そもそもなんであの人出てるの???
・元チャンピオンェ……
・なんでや! ネズさんだってワンチャンあるかもしれんやろ!
・↑↑↑一応チャンピオン交代したから今のダンデさん一応はただのリーグトレーナーだからちゃんとチャレンジリーグのほうの枠なら一応出れるんだよ、一応制度上は
・一応って何回いってんだw
・でも言いたくなるのは分かるw
・え、まさか今回の一押しってダンデさん?
・いやいや、そんな分かりやすいとこシノノメちゃんが行くか?
・でも逆にそれ以外だとそのチャレンジャーダンデさんに勝てるってこと?
・いやいやまさかそんな……
『はいはーい、混乱するのは分かりますが落ち着いてくださいね。まあ実際のところ私の期待も増し増しな感じはあるのでひいき目分も加えてってことで納得しておいてください。なにせ私そのトレーナーのファンなので』
・ファン宣言www
・ファンなのでwww
・え、マジで誰?
・シノノメちゃんがファンとか言ってるの初めて聞いた気がする
・↑去年ユウリ選手のことファンになりそうって言ってたよ
・↑本人がかなり積極的に情報発信するから一押しし辛いって残念がってたけどね
・↑最初はユウリ選手のこと一押ししようとしてたらしいしな
・見る目は確か
・え、じゃあ去年のユウリ選手と同じくらい期待できる?
・マジで誰?
『はいじゃあまあ皆さん今年の一押しが気になるとのことなので早速行ってみましょう! 今回の一押しチャレンジャーは……』
* * *
―――すみませんが一回目の放送だけはゲストとして参加してください。
そう言われてふわふわと宙に浮かびあがりながら配信をするスマホロトムへと視線を向ける。
基本的にシノノメの配信……『ノ×3チャンネル』というのは
まあ密着取材の形式上こちらに不利益なものを映す場合もある。その辺を配慮すると溜め撮りして定期的に動画編集、それを投稿というスタイルになるようだ。
今回の企画に関して生放送となるのは基本的にはジムチャレンジ……つまりジムリーダーとのバトルの際のみ、というのは聞いている。
ただし今回のこちら側の趣旨として『ファン数を増やす』というものがある。
つまり最初に顔を売っておくことが重要となるのでシノノメの依頼もまた理があると納得した。
『はいじゃあまあ皆さん今年の一押しが気になるとのことなので早速行ってみましょう! 今回の一押しチャレンジャーは……』
そんな言葉と共にシノノメからの目配せ。
それを合図としてスマホロトムの前に出ていく。
『遠くホウエン地方からのチャレンジャー! ソラ選手です!』
「どうも、ホウエンから来たソラよ、よろしく」
そんなシノノメの言葉に当たり障りのない挨拶を返しておく。
まあプロトレーナーの中にはキャラクター性で売るようなタイプもいるが、残念ながら私はコミュニケーション能力が低いことは自覚しているので余計な反感さえ買わなければ良しとする。
隣でシノノメが私を一押しするアピールを述べているがそれを流し聞きながら無難に挨拶できたことに内心でほっと一息。
ビジネスライクですら話せないほどコミュ障というわけでもないがネットの向こうの不特定多数の人間に対して流暢に話せるほどコミュ強でも無いので実はあれだけの挨拶ですら多少の緊張があったのだ。
そう考えると配信者として途切れることも無く話をし、配信全体の推移も気にしながら進めているシノノメは凄いものだと感心するしかない。
『はい、では次のコーナー行きましょう! 題して【一押しの自慢のポケモン】です!』
そうこうしている内に次の出番になる。
簡単に言えば手持ちのポケモンを一匹紹介するという趣旨だ。
出したポケモンは当然衆目に曝されるわけだが、それでも私がゴーサインを出したのは単純にどうせ次のジム戦で暴れさせる予定でどうせ情報は抜かれる、というのと先に出しておけばそれだけ印象付けられるからだ。
というわけで出すのはこの子だ。
「おいで、スーちゃん」
告げて、ボールを投げた。
* * *
「はーい、おかーさん!」
・ふぁ?!
・ようし゛ょだああああ
・きゃわ
・おかーさん?
・お母さん?
・トレーナー的な意味での親だよ、多分
・美少女が画面に三人並んでる
・ええ目の保養じゃ……
・尊い……
・つか今ボールから出て来たよな
・擬人種かこの子
飛び出してきた少女を見てコメント欄が騒がしくなる。
『可愛い子ですね! それではソラさん、この可愛い子について教えてもらってもいいですか?』
「ええい、離しなさい……誰がお母さんよ、ちょっと。えっと、この子はトゲキッスのスーちゃんよ。見ての通り甘えたな子だけど実力は確かよ」
・抱き着いてる
・きゃわ
・全身全霊でお母さんに甘えてる
・めちゃかわ
・美幼女が美少女に抱き着いてる
・尊い……
・百合の花が咲いてる
・てかトゲキッス?
・それにしてはなんか色が……
・え?
・え、まさか?
『あの、ソラさん? この子、トゲキッスにしては全体的に配色が……』
「え、っとうん、そうね。まあお察しの通り、色違いってやつね」
『ええっ?!』
・マ?
・ふぁ?!
・色違いとかくっそレアじゃん
・色違いの擬人種とか初めて見たわ
・尊い……
・↑さっきから尊いしか言ってないのお前か
・どこで見つけてきたんだよそんなレアもの
『ホントに珍しいですね、ジムリーダーでも色違いなんて持ってる人少ないですよ?』
「まあ、それは確かにね。私も色違いなんてこれが初めてよ」
『でも色違いって普通とは異なる個体が多いって聞きますけど、この子もそうなんですか?』
「そうね、この子……トゲキッスって本来は『ひこう』『フェアリー』タイプなんだけど、スーちゃんは『フェアリー』タイプの代わりに『でんき』タイプを持ってるわ」
・ふぁあああwww
・つまりでんき/ひこうタイプ?
・そんなトゲキッス聞いたこともねえよ?!
・マジで特異個体じゃん
・特異個体は育成が難しいって聞くが……
・てか次のジムルリナさんだったっけ
・あーだから紹介したのか、もしかして
『コメントでもお察しみたいですが、ソラ選手の次のチャレンジはバウタウンのルリナジムリーダーです! トゲキッスちゃんのタイプが『でんき』ということは活躍が見込めそうですね!』
「ええ、次のジムチャレンジでメインに据える予定だからこの子への応援もよろしく、ほら、スーちゃんも」
「んー? あー! よろしくー!」
・あ~かわえんじゃあ~
・可愛い(確信
・可愛い(超確信
・尊い……
・とうとみがふかい
・応援します
* * *
「はい、配信終了です。お疲れ様でした、ソラさん!」
「ええ、シノノメもお疲れ様」
配信を終え、スマホロトムがシノノメの元へと戻って来ると、すぐさま画面に視線を落とし先ほどまでの配信の成果を見やる。
「視聴者数9000ってとこですかね、さすがに毎年この企画だけは跳ねますね」
「9000って多いの?」
「個人勢としては十分だと思いますよ。さすがに企業がバックについたいわゆる『箱売り』だと当たり前みたいに1万超えますけど」
「はこうり?」
「えーっとまあ多少語弊があるかもしれませんがブランドみたいなものですね。逆に個人勢は誰でもなれますがブランドが無いのでコツコツ名前を売っていくしかないんですが本当に誰でもなれちゃうので普通に売ってても周りに埋没しちゃうから余計に伸びないんですよね」
「そうなのね」
なるほど、と内心で納得する。
確かに以前にユウリと見た動画サイトには数多くの動画が並んでいたが、あれだけ並んでいては埋没してしまうのも無理は無いのだろう。
そう考えればシノノメの配信を9000人の人間が見ているというのは相当なことなのだろう。他にも多くの配信がある中でシノノメを選んで見ている人間が1万弱いるということなのだから。
「普段の配信だと5000いれば良い方なんですが、やっぱりジムチャレンジってネームバリューが強いですね、あとソラさんのお陰で例年より反応が良い感じですよ」
「私?」
「ええ、やっぱり女性……それも若い世代だと動画受けがいいですよ、ソラさん自身お綺麗ですから。あとはまあ私自身顔を出して配信する都合上男性ファンのほうが多いですしね」
「そんなもの?」
「やっぱりこういうコンテンツって未だに男性ユーザーが多い印象ですね。なので女主……失礼、えっと女性の配信者のほうが伸びやすい感じです」
動画配信一つとっても色々深いものだと考えながらも一つ嘆息。
「けどまあ今日来た人が私を応援してくれるかどうかは……私次第ね」
「そうですね、私がこうして人を集めたところでその意思まで決定できるわけではないですので。最後はソラさん自身の『魅力』を視聴者の人たちに伝える必要があります。勿論私もそのお手伝いをさせていただきますが」
生放送外でメインでやるらしい動画配信はそのための準備のようなものらしい。
「動画配信でソラさんというトレーナーの存在をアピールさせてもらいます。そうすればジムチャレンジで自然とソラさんにも注目が集まるはずです。後は……」
「私がバトルで魅せることが必要、ね」
そういうことです、とシノノメが頷く。
まあそういうのはこちらの領分の話だ。
色々と予想外や予定外は重なったが。
「任せなさい」
遠くに見えるバウスタジアムを見やりながら、不敵に笑みを浮かべた。
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レイジングウェイブ①
夢枕でソラちゃんにさっさと更新しろよって怒られたので新年初投稿です。
シノノメのイベント初配信を終えてそのままバウタウンへ。
最初にポケモンセンターで宿を確保したらバウスタジアムへと向かう。
ジムチャレンジの手続きを済ませればすでに結構な人数のチャレンジで予約が埋まっているらしく五日後の挑戦となった。
当然与えられた五日の時間を無為に過ごすことはできない。
ジムチャレンジの期間はチャレンジャー全員に平等に与えられている。
だがその与えられた期間をどう使うかはチャレンジャー個々で決めることだ。
当然ベテランのトレーナーならセミファイナルトーナメント、さらにその先を見据えた動きを取るだろうし、余裕を見せていれば後で泣きを見るのは自分自身なのだ。
ユウリと戦うためには……このガラルという一つの地方の頂点に立つ幼馴染の元へとたどり着くまでには、一度だって負けている暇など無いのだから。
* * *
センターの個室、机の上に広げられた資料を見やりながら思考を巡らせる。
当然考えるべきは直近の相手……バウタウンスタジアムのジムリーダールリナだ。
「まず確定なのはダイマックスエースとしてカジリガメ」
前回戦ったヤローは公式戦で2種類のダイマックスエースを使うタイプだったが、ルリナはダイマックス枠にカジリガメしか採用していない。
推薦枠ではあるがリーグ2年目、実質チャレンジ枠として扱われている自分が相手ならばまず間違い無く本気のエースが出てくる。
これで1枠は確定。
前回と同じく3番目のジムまでは3対3のバトルとなるので残り2枠。
公式戦で使用されたポケモンで候補に挙がるのが7,8体ほど。
それなりに頭がキレて、育成がそこそこできて、特異な能力を持っていたり純粋に強力だったりするポケモンを集めている……典型的なリーダータイプのトレーナーだ。
前回のヤローのような育成が得意というタイプではないので候補自体はそこまで多くはない、が。
「どれも一長一短……長所も短所もありって感じよね、だからこそどれを出してきてもおかしくはない、のだけど」
リーダータイプとしては少し珍しくフレキシブルに手持ちを組み替えるタイプだ。
戦術もメインは『あめ』を中心とした天候戦術だがそれに固執しているわけでもなく、『あめ』抜きでも普通に戦ったりもしている。
どうにもダイマックスエースのカジリガメ以外固定化された面子がいないのではないだろうか。
そう考え、同時にそれが思考の差異の問題なのだと気づく。
例えば私のパーティならばキューちゃんなどのサイクル戦におけるクッション役は必須になって来る。
だが居座りを6体並べ基本的にサイクル戦を拒否するガラルのスタイルの場合戦術はある程度個々で完結させておくものであり、その中に一握り程度の連携を入れておけば全体的な戦術としては機能するのだろう。
3対3の少数同士の戦いではその傾向は顕著だ。
最悪天候など投げ捨てて殴りに来る可能は十分にあった。
「そうするとどれもこれも候補になり得るのよね……」
この場合どうやっても考えが絞れない。
だが3対3のバトルにおいて互いの選出はかなり重要だ。というかバトル時のプレイングより選出で大半の勝敗が決まってしまうが故に適当に3体並べて、とはいかない。
「となると相手の出方よりもこちらのやり方を押し付けていくべきかしらね」
こちらで選出が決まっているのはスーちゃんだけだ。
スーちゃんのスタイルはガーくんにかなり近いので必要な能力やタイプなども考慮していくとキューちゃんはありかもしれない。
「けどキューちゃんの場合、相手を倒せるだけの火力が問題よね」
うんうん、と頭を悩ませていると扉がノックされる。
誰だろうかと一瞬考えてけれどよく考えれば一人しかいないことに気づいて入室を促せば予想通りにシノノメが室内に入って来る。
「すみません、ソラさん、投稿予定の動画のことで少し確認があったんですが」
風呂上りなのだろう頬を蒸気させながらラフな格好でやってきたシノノメが机の上の資料を見やり首を傾げる。
「あ、見たらまずかったですか?」
「ダメなら片づけてるわよ。別に良いわ、ただの公式試合の資料だし」
「えっと……ああ、ルリナさんのですね」
へーとほーとか呟きながら資料を見やるその視線はどこか真剣で、少なくとも内容をしっかりと理解していることが察せられた。
「シノノメは……トレーナー、ってわけじゃないのよね?」
「……えっ? あ、はい。そうですね、私はリーグには所属していませんね」
この場合のトレーナーとはプロとしてリーグに所属するリーグトレーナーのことだ。ただポケモンを所持するだけならともかく、現代においてトレーナーと明確に呼称されるのはプロである場合が多くなっていた。
「その割にトレーナーとしての知識が豊富なのね」
シノノメとはまだ今日一日の付き合いでしかないが、この自分より少し年上の少女がトレーナーでは無いにも関わらずトレーナーとしてのあり方を自然と身に着けていることが見ていて分かる。
リーグトレーナーはその生き方がトレーナーとしてのそれになってしまうがために一般の人間からすると奇異、或いは異様に見られることもあるのだがシノノメはその辺りの理解が非常に深い。
例えば動画一つとってもこうしてきちんと出して良い物悪い物を確認に来るのもそうだ。
恐らくトレーナーではない一般の配信者ならば『この程度のことでどうして』と思うようなことでもプロトレーナーにとっては問題となることもある。
そういう認識の差異がシノノメからは感じられない。まるでプロトレーナーを相手にしているかのように。
「あはは……まあ姉の影響、ですかね」
そんな感想を告げればシノノメが少し照れたように頬をかく。
「それにチャンネル内ではトレーナーの情報を扱うことが多いですし、毎年この企画でトレーナーさんと接する機会もありますので、他の配信者さんたちよりは慣れている部分もあると思います」
聞いた話によればシノノメチャンネルの主な内容というのはポケモンバトル関連の情報配信が主となるようだ。
トレーナー同士のバトルというものは上に行くほど高度な次元で殴り合うことになる。一場面を見た時にそこに詰め込まれている情報量の半分も一般人では見抜くことができないため例えば受け潰し戦術などを見た時、一方的に攻めている側がいつの間にか負けている、などという感想を覚えるらしい。
シノノメのチャンネルではそんなバトル中の高度な駆け引きや戦術的意味合いなどを直近のプロトレーナー同士の公式バトルの動画を見ながら解説する、というような内容が多いらしい。
非トレーナーながらそれが結構的確であり、一般人にも分かるように表現や語句に工夫があり、個人勢ながらそれなりの人気を博しているのだとか。
まあ地元ホウエンでもサイクル戦を見て『交代ばかりで何をやっているのか全く分からない』という意見はそれなりにあったらしいのでそういう解説動画というのはそれなりに需要が多いらしい。
「でもそう考えるとトレーナーでも無いのに随分とバトルに精通してるのね」
幼少よりトレーナーとしての生き方を選択した私が言うのもなんだが、基本的にプロトレーナーとしての知識というのはプロトレーナーになるわけないならば使わない、或いは使えないことが多い。
勿論育成知識など他にも使える知識が全く無いわけではないが、普通に生きていく分にはそんなものなくともどうにでもなる。
故にリーグに所属するわけでもないのにトレーナーとしての知識に精通している、というのは中々に不可思議だったりする。例え身内にトッププロたるジムリーダーがいるのだとしても、だ。
―――もしかしてシノノメって……。
そんな感想がふと浮かび上がってきたが、浮かび上がった言葉をそのまま飲み込む。
別に自分とシノノメは親しい友人でも無ければ彼女の家族というわけでも無いのだ。
ただシノノメが思っている以上にトレーナーとしての知識が深いように感じる。
だからこそ少し気になって問うてみた。
「ねえ一つ聞いてみたいんだけど、次のルリナ戦で最初に出てくるポケモンってこの中ならどれだと思う?」
ジムリーダールリナの去年一年の間に使われているポケモンたちの資料を並べてシノノメに見せる。
そんな問いにシノノメが私ですか? と驚いたように目を丸くしながらけれど資料を真剣な目で見やりながら、やがてその中から一つを指さす。
「これですかね」
選ばれたのは―――。
「ドヒドイデ? 先発で?」
『ヒトデナシ』ポケモン『ドヒドイデ』。
タイプは『どく』と『みず』。特徴としては『ぼうぎょ』と『とくぼう』が非常に高く、生半可な攻撃では『どくどく』と『じこさいせい』だけで受け潰される。
反面シンプルな
問題はルリナのドヒドイデはこれまで……少なくとも去年一年間のデータを見た限りでは一度も先発には登用されていないということ。
それは即ちドヒドイデが先発用に育成されていない、ということではないのか?
その辺のことを語った上で何故ドヒドイデなのか、その理由を問うてみれば。
「そうですね……ガラルにおける公式バトルって最初の一体が割と大事なんです。先にやられちゃうと相手が勢いに乗ってしまいますから。だから最初の一体目はそれを込みでメリットが大きい……例えば天候の始動役なんかですね、を出すか、そうでないなら基本的には簡単には倒れない耐久力にリソースを割り振ったポケモンを出す場合が多いです」
なのでルリナの先発は『ペリッパー』か『グソクムシャ』が多い。
『
もしくは高い耐久力と火力を持ち、特性で撤退して有利な相手に変えることのできるグソクムシャか。
だがシノノメはそのどちらもが違うと言う。
「でもソラさんが相手の場合、『ひこう』タイプ統一というのはもう分かっていると思うんです」
「絶対の確信があるわけではないでしょうけれど……まあ可能性としては高いと思われているでしょうね」
まだ私がこのガラルで公式戦をしたのはヤロー戦一度だけだ。
他は全て個人間でのバトルだったり野生のポケモンとのバトルだったりしてしっかりとした情報としては残っていない。
だがまあ一つの地方のジムリーダーほどの伝手があれば去年のホウエンでのバトルの様子なども入手できるだろうし、ヤロー戦と合わせて私が『ひこう』統一で戦っているのも大よそ察せられるだろう。
「となると『ひこう』相手にグソクムシャは出し辛いですよね。弱点を取られますし、何より打点*3が無いですし」
そう言われてグソクムシャのデータを図鑑で表記させる。
『ひこう』の弱点は『でんき』『いわ』『こおり』の3種。
この中でグソクムシャが覚えることができる技を調べていく。
勿論特異個体などもあるので図鑑に表記されているのは『一般的な個体が覚えることのできる範疇』でしかないが、ルリナの使用するグソクムシャが特異個体かどうかは分からないがタイプ的には通常と同じ『むし』『みず』なのは分かっているので技幅*4などは基本同じと考えて良いだろう。
これでルリナがブリーダータイプの育成を得意とするトレーナーなら予想外の一手などもあったかもしれないが、どちらかというと統率を主にしたトレーナーであるからそれも無いだろうし。
「確かに……一番強い技でも『いわなだれ』が精々ね」
ポケモンが自分と同じタイプの技をより高い威力が放つ『タイプ一致』の理論はすでに知られているが、逆に言えば自分とは異なるタイプはそれほど威力が出ないということだ。
『いわなだれ』は強力な技だがどちらかというとダブルバトルなどで使用される類であり、シングルならば『ストーンエッジ』というより強力な技の存在があるため使用率は低い。だがその『ストーンエッジ』をグソクムシャが覚えない。
さらに『こおり』技ならば『ふぶき』や『れいとうビーム』もあるが、これらの特殊攻撃技をグソクムシャは得意としていない、となると確かにシノノメの言う通り打点が無い。
いくら耐久力が高くとも打点が無いアタッカーなど起点作り*5に使われるだけだ。
「これが6:6ならばですが3:3において1体あたりの役割は非常に大きいです。となると役割を持てないグソクムシャは抜いていいと思います。その上で、ですがペリッパーは実はバウスタジアムではあまり使われていません」
「えっ?」
その言葉に改めて資料を見直してみれば、確かに公式試合においてペリッパーが使用されているのは『バウスタジアム』以外でばかりだ。『バウスタジアム』でバトルが行われている時はだいたいの場合グソクムシャが出ている。
「どうして……あ、スタジアムの効果」
その理由を考えて、すぐに気付く。ガラルにしかない『場所』についた補正を。
「そうですね。バウスタジアムのスタジアム効果は『みず』タイプの技を使用した時、天候を『あめ』にします。といってもそう長く降り続くわけではないですが、『みず』技を主体に使っていくことでほとんど途切れることなく『あめ』を振らせ続けることもできるわけです」
「確かにそうなると『あめ』の始動役としてのペリッパーの採用価値は下がるわね」
こうして話を聞いてみれば確かにドヒドイデの先発というのは十分にありそうだった。
同時にガラルの主流である『居座り』スタイルのバトルというものに自分がまだ馴染んでいないという事実に気づかされる。
「ふーん」
「え、えっと……どうしましたか?」
同時に長くガラルに住み、その文化に慣れ、かつトレーナー的思考、及び事情にも詳しいシノノメという協力者の存在の重要性も。
「いえ、仲良くやっていけそう、って思っただけよ」
「……あはは、そう言ってもらえると嬉しいです」
「取り合えず助かったわ。お陰で大よその組み立てもできた」
「はい。なら後はファンとして本番に期待させていただきますね」
ファンとして、そんな言葉に少しだけ気恥ずかしさを覚える。
「まあ……見てなさいな」
だからそんなぶっきらぼうな返ししかできない自分に少しだけ呆れた。
データはまだ出さないけどところで『打点』とか『起点』とか割と対戦用語連発してるけどこういう用語集どっかに作ろうかなあ……。
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レイジングウェイブ②
バウスタジアムにおけるジムミッションは『通路を塞ぐ水の迷路』だ。
迷路と言っても壁が無いので通路をどういう順に辿ればどこに着くのかは普通に見える。
ただし途中途中に滝のように降り注ぐ大量の水が通路を塞いでおり、これをジムトレーナーたちが守るスイッチを操作し滝の位置を切り替えながら進んでいく一種のパズルにもなっている。
これを制限時間内にゴールにたどり着けばクリアだ。
ターフスタジアムの時と違ってスイッチ操作のために必ずジムトレーナーを倒さなければならない仕様となっているのだが、このジムトレーナーというのが中々に手強い。
チャレンジ枠の相手というのは基本的にジム側もかなり本気を出してくるようで全員がレベル100以上のポケモンを駆使する準トップ層とでもいうべき相手ばかりだった。
ただしそれらトレーナーは『ジムトレーナー』、つまり『ジムリーダー』たるルリナの下で鍛錬に励んでいる以上ルリナの影響を大きく受けている。
さらにステージのギミックなのかバトル中は常に『あめ』が降っている状況下でのバトルはルリナ戦の予習としては十分過ぎる意味を持っていた。
それらを突破すれば前回と同じく午後のジムリーダー戦までポケモンたちの回復と休息……なのだが、その前に行くべきところがある。そうジムの備え付けのシャワールームだ。
バウスタジアムのジムミッションはその性質上どうしてもジムトレーナーもチャレンジャーもびしょ濡れになってしまう。
いやそれ自体は受付時に聞かされていたので着換えは当然用意してあるのだが、それでも肌に張り付く濡れた衣服の不快感は酷いもので、ジム側もそれを想定して備えつけのシャワールームを解放していた。
濡れた衣服を乾燥機にかけながら熱いシャワーを浴び、全身がさっぱりした気分になれば持ってきた衣服に着替えてさっぱりした気分になればターフスタジアムの時と同様にスタジアムの食堂にやってくる。
食堂内を見渡せば隅のほうの机に座るシノノメの姿を見つけた。*1
「お疲れ様です、ソラさん」
「シノノメも、席取っておいてくれたのね、ありがとう」
荷物を置いて確保してくれていたらしい向かいの席に座りながらジムミッションで散々動き回って空いた小腹を満たすために適当に注文をする。
そして料理が来るまでの合間にテレビ中継されているジムミッションの様子を呆れながら見やる。
ターフジムの時も思ったがこのジムミッションで失敗するようなチャレンジャーというのはどうやってもいるらしい。
今回の場合、落ち着いて順路を確認しながら進んで行けばいいだけなのだが、制限時間のせいで焦ってしまい、バトルでもミスして余計なダメージを負ったり、スイッチの操作を誤ったりでタイムアップになる、なんて新人トレーナーが数人いた。
このジムに挑んでいるということはヤロー戦で勝利しているはずなのだが、どうにも余裕がないように見えるのは何故なのだろう。
「それはソラさんに十分な経験があるからこそ言えることだと思いますよ」
そんな私の疑問に答えたのはシノノメだった。
「時間制限から来る焦りは咄嗟の状況判断を狂わせます。経験を積んだベテランならまだしも今年トレーナーになったばかりの新人にそれを期待するのは酷だと思いますよ?」
「そうは言っても正規トレーナー資格取ってるんだし最低限の実力はあるんじゃないの?」
準トレーナー規制令*2の発布によって現在プロトレーナーと呼ばれる人間は須らく十二分な知識とある程度以上の能力を保証されているはずだ。
「あれだってメインはペーパーテストです。内容が実戦的なものを多分に含むので錯覚しがちですが、試験対策の書籍があるのでそちらをしっかりと読み込んでいれば経験
「そんなトレーナーいる?」
確かに正規トレーナー資格取得のためには難解なテストに合格する必要がある。
それは当時のエリートトレーナーたちの経験を詰め込んで作った極めて実戦的な内容であり合格できればそれだけである程度の実力を見込めると言われるほどの難易度だったらしい。
それから時は過ぎ、地方リーグの統合によってプロトレーナーという『職』の誕生によって内容に幾分かの変化はあれど難易度の変化は無かった。
故にトレーナーになるためには大まかには二つの道しか無かった。
一つは公認スクールを卒業しテストをパスする方法。これはスクールの卒業試験がある種の正規トレーナー資格のテスト代わりとなっており難易度的には対して違いが無いが故の措置だ。
そしてもう一つがポケモンの保有資格だけ取り地方を旅するなどしてトレーナーとしての経験を積んでからテストに挑むこと。
テストの内容に実戦的なものを多分に含むが故に実際にトレーナーとしての経験を積むことで勉強するまでも無く理解できる部分も多い。
一応シノノメの言うようにテストの対策本のようなものが一般に売られているのも事実だが、はっきり言ってそんなものを読んでトレーナーになっても何の意味も無い。
なにせトレーナーになったとして肝心のポケモンバトルは座学じゃないのだ。
「それは多分ソラさんにとってトレーナーという存在が身近だったからだと思います。普通の人にとってプロトレーナーは憧れや夢の類、プロトレーナーになった後、なんて思い描ける人は早々いませんよ」
「そんなものかしらね……」
よくわからない、そんな私にシノノメが苦笑する。
私にとってプロトレーナーになることは目的の途中だった。
最初からチャンピオンという明確な頂点を目指していた私にとって正規トレーナー資格を取ってリーグトレーナーになるのは前提に過ぎない。だからわざわざトレーナーになるためのテストの対策なんてしなかった。そんなもの受かって当然、逆に受からないのならば今の自分はまだトレーナーに相応しくないというだけの話なのだから。
だがシノノメ曰く、一般的な人間にとって『プロトレーナーになる』というそれ自体が一つの目標になり得るのだそうだ。
プロトレーナーになること、それ自体の敷居の高さがそう思わせているらしい。
まあトレーナーの部分を他の言葉に置き換えてみれば多少イメージできなくもない。プロスポーツの選手だとかプロの料理人、或いは芸能関係だとか。
そう考えれば私のように幼少の頃から明確にプロトレーナーになるための下積みを続けているような人間は少ないのだろう。
そしてだからこそ一年目の新人にそれを要求するのも酷というシノノメの話も……まあ分からなくも無かった。
「でもユウリも確か座学で資格取ったはずだけどジムミッションなんて遊びみたいなもの、って言ってたわよ?」
まあユウリの場合、トレーナーになると決めたのが私と別れた数年前のなので基礎的な部分の勉強だけで手いっぱいだったのは仕方ないのだろうが。
「あの……例外中の例外みたいな例え出してくるの止めません? その人一年目の推薦枠でそのままチャンピオンになった現ガラル最強のトレーナーなんですけど」
「まあユウリの場合、要領が良いから確かに例外か……」
昔からユウリはとにかく飲み込みの早い性質だった。
トレーナーになってからの僅かな期間での経験からメキメキと成長していったのだろうことは想像に難くない。
「というか噂には聞いてましたが、チャンピオンのユウリさんと幼馴染というのは本当なんですね」
「噂? よく分からないけど、そうね。ガラルに来る前のユウリはホウエンで近所に住んでいたからその頃からの友人ね」
「なるほどなるほど、昔のソラさんやユウリさんの話というのは興味がありますね」
「……まあ、今度時間があったらね」
是非よろしくお願いします、なんて笑顔で告げるシノノメから視線を逸らしながら壁にかかった時計を見ればそろそろ全員のジムミッションが終わる頃合いだった。
順番を考えればジムリーダールリナとのバトルまで二時間とかからないだろう、それを考えれば今の内に用意した資料に目を通しておくべきかもしれない。
そんなことを考えていると先ほど注文しておいた料理が運ばれてきて。
「……これ食べたらにしましょうか」
考え事は後回しとばかりにフォークを取った。
* * *
そうして時間は過ぎて行き、やがて私の順番が来る。
頑張ってください、と。
応援してしますから、と。
そう告げて別れたシノノメに見送られながら関係者用の通路を進んで行けばやがて開けた場所に出る。
轟音がごとき大歓声に僅かに眉をしかめながらもバトルフィールドの中央へと進んで行けば反対側の入口から一人の女性がやってくる。
ガラルでは珍しい焼けた黒い肌にやたらと露出の高いトップスとパンツのユニフォームを着たその女性……このバウスタジアムの主であるルリナがフィールド中央を挟んで私の反対側に立つ。
「よくぞいらっしゃいましたチャレンジャー! 私はルリナ」
腕を組みながらピンと背筋を伸ばし立つその様はどこかスタイリッシュであり、彼女がこのガラルにおいてモデル業を兼業しているという事実を納得させるものがあった。
「なんでもチャンピオン推薦のチャレンジャーだとか、ジムリーダーの間でも噂になっていますよ」
ぶっちゃけて言えば、格好いい。
私の憧れの最たる母さんとはまた違った様ではあるが、こういう背筋を伸ばした格好いい女性というのは正直憧れる。
「その実力の程がいかほどか、私に見せてください。もっとも、私と私の自慢の パートナーが全て流し去ってしまうかもしれませんが」
そんなことを言いながらルリナが不敵に笑みを浮かべ、ボールを掲げる。
そんな相手にこちらもまた笑みを浮かべ。
「上等! まとめて吹き飛ばしてあげる!」
ボールを掲げ、互いに投げた。
―――ジムリーダーの ルリナが 勝負を しかけてきた!
「行くわよ! リーちゃん!」
「行って! ドヒドイデ!」
互いが投げたボールからポケモンたちが飛び出す。
「フォォォェェェェ!」
こちらのフィールドにはガラルフリーザーのリーちゃん。
そして。
「プェプェ~!」
シノノメの読み通りのドヒドイデ。
「っ、なるほど。珍しいポケモン持ってるじゃない」
前回のヤロー戦に続き飛び出したフリーザーというガラルでも非常に珍しいポケモンに観客がどよめく。
同時にさすがジムリーダーというべきか、ガラルでも滅多に見かけないはずのフリーザーのタイプを知っているらしく苦々しい表情をする。
リーちゃんことガラルフリーザーのタイプは『エスパー』と『ひこう』。
そしてドヒドイデのタイプは『みず』と『どく』。
つまりこの時点で相性負けしていると言って良い。
さらには―――。
“フェイクアバター”*3
場に出たリーちゃんがその場で
『みがわり』を盾にしている間はこちらのポケモンは状態異常にならない。つまりドヒドイデ得意の『どくどく』もこれで封じられる。
そう考えた時、スタジアムの上空が雨雲に包まれる。
“スタジアム効果【バウスタジアム】”*4
やがてぽつりぽつりと『あめ』が降り出し、同時にドヒドイデが鳴き声を上げる。
―――少し元気になった?
ドヒドイデの様子を観察しながらそんな感想を抱く。
同時に恐らくユウゼンの言っていた『テンション』とかいうやつだろうと予想をつける。
ユウゼンの言う通りならばあれで全体的な能力も僅かながら上昇しているのだとか。
―――削り切れるか?
と僅かに不安に思うが。
“シックスセンス”*5
きらり、とリーちゃんの視線が光り、集中を高めたリーちゃんがドヒドイデを睨みつける。
―――否だ。
不安を消し去るようにぶん、と頭を振って。
―――
「リーちゃん!」
「ドヒドイデ!」
互いが互いのポケモンの名を呼び、そして私はリーちゃんに向けてボールをかざす。
「
ボールから赤い光が放たれリーちゃんを包むとボールの中へと収める。
「なっ!?」
『みがわり』や『タイプ相性』という利点を全て消し去るような愚行にルリナが驚きの声を上げる。
だがすでに指示は終わっている、ドヒドイデがその身を固め、防御の態勢を取る。
“トーチカ”
ガラルらしい、と言えばらしい指示。
だが同時にそれは消極的な指示でもあった。
「スーちゃん!」
投げたボールから飛び出してくるのは一人の少女。
「はーい!」
ボールから飛び出す勢いのままにその全身から『でんき』エネルギーが弾ける。
“ジェネレーター”*6
“じりょくどうせん”*7
“しっぷうじんらい”*8
“ か み な り ”
放たれた雷撃が身を『まもる』ドヒドイデの守りすらも貫いてその身を焼き焦がしていく。
「―――ッッッ!」
悲鳴にすらならない絶叫を上げながらドヒドイデが崩れ落ちる。
同時にルリナがドヒドイデをボールへと回収し。
「……やられたわね」
悔しそうに歯を軋らせた。
『あめ』の中かみなりは必中!
まあそれなくても普通に命中100なんですが。
全データ公開はルリナ戦後。
【名前】スーちゃん
【種族】トゲキッス/擬人種/変異種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】でんき/ひこう
【性格】おくびょう(イタズラが好き)
【特性】しっぷうじんらい(自分が『でんき』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『でんき』タイプの技を出す。)
【持ち物】じしゃく
【技】エアスラッシュ/カレイドストーム/かみなり/じゅうでん
【裏特性】『ジェネレーター』
持ち物が『じしゃく』の時、特殊攻撃技の威力が1.3倍になり、場の状態が『エレキフィールド』の時に自分が発動できる技や効果を発動できる。
味方と交代して場に出た時、『じゅうでん』状態になる。この効果は1度だけ発動する。
『じゅうでん』状態の時、自分の『でんき』技が相手の『まもる』状態を解除して攻撃できる。
【技能】『????』
【能力】『じりょくどうせん』
持ち物が『じしゃく』の時、自分の技の命中が1.5倍になり、相手が交代する時、交代前の相手を攻撃できる。
『じゅうでん』状態になった時、自分の『とくこう』を上げる。
【備考】色違い。6Ⅴ。
さすがに化け物過ぎたので交代時に『じゅうでん』状態になるは1回だけにした。うん、化け物過ぎる。
因みにここまで化け物なのはちゃんと理由ある。前にあとがきで書いたけど、このトゲキッスちゃんは色違い+6Vに加えて『ほぼ専用個体』。つまりソラちゃんとの相性ばっちり、なのでガーくんほどじゃないけどソラちゃんの理想通りに育ちやすい。みたいな設定がある。
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レイジングウェイブ③
ガラルチャンピオンたるユウリが開設した動画投稿用チャンネル。稀に配信もやる。
ガラルチャンピオンとしてもっと積極的に情報発信して欲しいとリーグ委員会に言われたのでユウリが作った。ただしユウリは基本的にポケッター派であり、はて何を発信したものか、と考えた結果ワイルドエリアでカレー作ってみた系が9割を超えている。
チャンピオンユウリの『ワイルドエリアでカレーの布教してるトレーナー』という呼び名はこれが原因。
当然の話ながらジムミッション攻略中の生放送というのはジムリーダーだって見ている。
相手の情報を事前に集めることだってプロトレーナーの『当然』なのだ。であるならばジムリーダーがチャレンジャー相手にそれをしてくることだってジムチャレンジの一環に過ぎない。
まあ最初のジムのジムリーダーであるヤローはまた最初のジムという性質及び本人の気質の問題でそういう対策を打って来ることはほぼ無いが、ルリナ以降のジムリーダーは当然そういうことをしてくる。
とは言え毎日十数人のチャレンジャーがやってくるのだ、その一人一人を丁寧に見ていることは当然できないし、しかも見ていたって全員が全員ジムミッションを攻略できるわけじゃない以上、だいたいの場合でジムリーダーが見るのはジムミッションをクリアしたトレーナーの録画に過ぎない。
だからルリナが見たのは対面から強烈な『でんき』タイプ技で次々とジムトレーナーを降していく擬人種の姿だった。
当然それに対する『
というかタイプ統一パーティにおいて弱点タイプのケアを怠ることなどするはずがないのだ。
だからこの結果は単純に『相手の対策がそれを上回った』というだけの話だった。
今の一連の流れで確信するが恐らく
一撃でジムトレーナーたちのポケモンを倒す『でんき』技の強烈な威力を目くらましにされた。
今の流れで
推測だが今相対しているチャレンジャーはルリナが最初に『ドヒドイデ』を出すことを読んでいたのではないだろうか?
ドヒドイデは典型的な守りの硬いポケモンであり、それを一撃で打ち倒すことは容易ではない。
当然時間をかければこちらの手も増えるし、下手に『どく』状態などもらいたくはない。
故に『まもる』を貫通して一撃でドヒドイデを倒せるアタッカーを出してきた。
ただしジムミッション中のバトルで
そして同時にそれが対面*1からしか発揮されないと思い込まされていた。そういう風にバトルを見せていたから。
だからもし初手であの擬人種が出て来ていればこちらの初手は間違い無く交代一択だった。
だが出て来たのは違うポケモンだった……ガラルフリーザー。ヤロー戦でも出していないガラルの幻のポケモンであり、同時にそれが『エスパー』タイプというドヒドイデの弱点を狙えるタイプを持ちさらに場に出ていきなり『みがわり』というとことんドヒドイデを対策したようなポケモン。
当然ながらルリナの視点からすれば間違い無く不利対面*2
完全に対策された対面、状況を覆すにも一端思考をまとめるために『トーチカ』によって守りを固めたのはやや消極的ではあったが決して間違いとは言えない。
何せガラルにおいて『場に出て最初のターン』を条件とする効果は多い。
チャレンジャーがヤロー戦で出したガラルサンダーなどその最たるものだろう。
故に『まもる』効果を持つトーチカで初撃を凌ぐと同時に思考をまとめる時間を稼ぐ。
それが最善手と考え指示をした。
その結果が『まもる』ごと貫いての交代後の即座の攻撃。
フリーザーの体力を削ってまで出したはずの『みがわり』すら捨てての奇襲。
まさかこの場の最善が『交代』であるとルリナは考慮すらしなかった。
いや、実際のところトーチカの指示はほぼ最善だったはずだ。
じっくりと対面で十秒も二十秒も考えることができるわけないのだ、バトルは常に流動し思考の時間は三秒に満たない。
故にその状況で咄嗟にトーチカが出てくるのはルリナのガラルにおけるバトルの経験を鑑みればある種当然であり……。
* * *
『と、まあ多分こんなところでしょうか?』
・そこまで考えてんの???
・嘘やろwww
・でも見事に決まったな
・え、マジで? トレーナーってそんな考えてるの?
『考える人もいれば、そうでない人も、ですかね。いや、ですけどこれを実際のバトルでばっちり決めたのは本当に凄いですね。ソラさん私の想像以上に読みが深いですし流れを作る能力がありますね』
・流れって?
・ああ!
・ああ!
・流れってのはあれだ、つまり流れってことだよ
・何の説明にもなってなくて草w
・草に草生やすな
『つまりジムミッションの時点であのトゲキッスちゃんの高い火力を見せつけておいてルリナさんに警戒させますよね、その上でルリナさんの初手を完璧に読み切ってトゲキッスちゃんとは別のドヒドイデに対して完璧な対策をしたポケモンが飛び出して来ればルリナさんの思考は強制的にそっちに行きます、つまりその時点でトゲキッスちゃんへの警戒が薄れました』
・つまり一度裏をかかれたからさらにもう一度、なんて警戒できないってことか
・あーなるほど
・あーなる
・このコメントは規制されました
・何言ったか見えなかったけど何言ったか分かるのが酷い
『そうですね、一度裏をかかれた、この時点でもうソラさんの術中です。トゲキッスちゃんの火力ばかりが目立っていましたがそれ以外の能力があるかもと考えていたのにもっと考えないといけないことができた。もうこの時ルリナさんの脳裏にトゲキッスちゃんが出てくるなんて選択肢は出てこなかったと思います。目の前のフリーザーをどうやって止めるか、倒すか。ですがソラさんからしてもトーチカという厄介な技で無駄に時間を稼がれるのはいらない事故を起こす可能性もある、だから何かさせる前に倒し切ってしまいたい。だから相手のまもりを貫けるトゲキッスちゃんの一発を通してしまいたいわけです』
・もうわけわからんくらい考えられてて見てるこっちが混乱してきた
・つまりなに? ジムミッションの時点でもう罠だったってこと?
・本当にこんなに考えてるの???
・ていうかだったら余計にトゲキッスちゃん隠しといたほうが良かったんじゃ?
『そこがポイントですね。当然ながらルリナさんだって弱点タイプへの対策なんてやってるわけでして、もしトゲキッスちゃんの存在を知らずに対面をリセットするために交代、なんて選択肢をしていたら奇襲が全部無意味になります。だからあえて最初から曝したんです。弱点をつける強力なポケモンがいる、と。そしてあえてルリナさんの対策を取らせた。対策を取ったルリナさんは当然対策用のポケモンをトゲキッスちゃんとぶつけたいという思考になります。その上で初手がドヒドイデだという前提でソラさんはフリーザーを出しました、ドヒドイデのメタとなるフリーザーを』
・ここが分からん、完全にメタられてるなら寧ろ交代したくなるのでは?
・うーん? もうマジで意味分からなくなってきたぞ
・ははは、さいしょからかんがえることをほうきしたおれにすきはない
『思い出してほしいんですが、このバトルは3対3なんです。そしてルリナさんは必ずダイマックスエースを最後にする。となると残りは2体。そしてその1体をトゲキッスちゃんへの対策にあてたとすると、ドヒドイデの交代先が無いんです』
・あ、あー!
・そういうこと
・あ、なるほど……はー
・そこまで考えて……やはり天才か
『もし迂闊に2体目に交代してフリーザーの一撃をもらって痛手を負うとトゲキッスちゃんへの対策が不十分になる可能性がある。そうなると弱点タイプの強烈な技を放ってくるトゲキッスちゃんが自由に暴れてくる可能性がある、となると交代はできない。ダイマックスエースへの交代なんてさらにできません。となるとドヒドイデでどうにかフリーザーに対処する、或いは2体目の対策ポケモンがフリーザーを一撃で倒せるラインまで場面を作る必要がでてきます。だからジムミッション中にトゲキッスちゃんという強力なアタッカーを晒すことで、その対策ポケモンを用意させることで交代という選択肢を封じたわけですね』
・すごいな、そこまで考えてたわけか
・たしかに3対3ならそう言われると納得する
・ダイマックスエースを最後まで温存するガラルのやり方を逆手に取った戦法だ……
『そして交代を封じた以上、ドヒドイデが場に残ります。その上でドヒドイデより確実に先手を取れて、その上でトーチカで守られてもその上で守りを貫くことのできるトゲキッスちゃんと交代する。この流れは本当に凄いですね、ドヒドイデを交代させなかった時点でドヒドイデが何をやっても倒せるように持ってきています。特にドヒドイデのような耐久型のポケモンにきあいのタスキのようなものを持たせることはほぼ無いですからね』
・バトル開始十秒にも満たない攻防にここまで解説詰め込むのやばない?
・それを読み切って解説してるシノノメちゃんもすごいよ
・まあシノノメちゃんは事前に聞いてる部分もあるから……
『この流れで何もできないままにドヒドイデを失ったのはルリナさんからすれば痛手ですね。特に3対3のバトルにおいて1体のポケモンが持つ役割が大きいです。何より完全に相手の思惑にハメられたと理解すれば精神的にもきついかと思います。中々次のポケモンを出さないですが、メンタルリセットの時間が必要だと感じたんでしょう』
・確かにここまで完璧に読まれたらきついな
・普通のトレーナーならもう降参してるわ
・ソラはトレーナータイプかな? 読みが深すぎるし
・ソラちゃんは指示も育成も統率も技能も全部こなせるよ!@ユウリチャンネル
・ふぁ?!
・ふぁ??!?!
・ゆうりちゃ……チャンピオン?!
・うわあああああチャンピオンだああああああ!!!?
・なんでいるの??????????
『え、チャンピオン? なんで……ってそう言えば友人なんでしたっけ』
・大 親 友 だね!@ユウリチャンネル
・めっちゃ好感度高くて草
・すごい感情籠ってるのを感じる
・めっちゃ好きってのは伝わって来る
・そういやポケッターでそんなこと書いてたような
・あ、そっか。チャンピオンの推薦なんだっけ、ソラ選手って
・さっきの説明一つ補足するなら多分フリーザーを最初に持ってきた理由もう一つあると思うよ@ユウリチャンネル
『フリーザーを出した理由がもう一つですか?」
・多分だけどね! なんかみがわりっぽいの出してたし、それならきっと私ならそうするから! だから多分もう一回出して引っ込めるよ!@ユウリチャンネル
・チャンピオンの解説入ってる
・なんか下手すると公式放送よし豪華ゲストなのでは?
・チャンピオンが出没する配信はここだけ!
・ユウリチャンネル基本的に配信無いしな……偶に動画投稿してるけど
・カレー配信ばっかやん!!!
『っと、ルリナさんが動きました、次のポケモンを出しますね』
・うわ、ルリナジムリーダーも擬人種だ
・美人さんだ
・眼鏡っ子すき……
・キッスちゃんニコニコじゃん
・きゃわわ
『あれは確か昔見たことがありますね。確か変異種のアズマオウだったはず。えっと……タイプはみずとでんき、だったはずです』
・推定『でんき』対策のポケモンかな?
・『みず』『でんき』って珍しいタイプだよな
・チョンチー系とロトムくらいしか無いしな
・海外になんかいなかったっけ? なんか手のある蛇みたいな
・シビルドン?
・それだ!
・シビルドンは『でんき』単タイプのポケモンだね! むかーしホウエンで見たことあるけど! @ユウリチャンネル
・チャンピオン直々の説明とは恐れ入る
・えっ、てかあんな外見なのに?
『っと、アズマオウの全身が水に包まれて……あれはアクアリングででしょうか。っ、速い! アズマオウが動きます、速いです、信じられない速度! トゲキッスへと攻撃が……いや、交代です。ソラさんがフリーザーに交代。同時に再生成されたみがわりが盾になってアズマオウのたきのぼりを防ぎました! あっ、ダメージで消えたみがわりが爆発……いえ、煙になってフリーザーを隠します、っとここでフリーザーがボールに戻っていきます!』
・え、なにあの速度
・アズマオウってあんな速かったっけ?
・あれ? ソラ選手って確か常時『おいかぜ』状態とかいう意味の分からん異能無かったっけ?
・その上でさらに速いってもう意味分からんなこれ
・『アクアリング』を使って上手く水中を再現してるのかな? 多分『すいすい』みたいな特性の応用だと思うよ! @ユウリチャンネル
・ていうかチャンピオンの言う通り本当にもう一回フリーザー出て来たけど?
・場に出る度にみがわり作るのやばくない?
・HP削れてるからなあ……
『交代してでてきたのは……チルタリスです! タイプはひこうとドラゴン、アズマオウとの相性は悪くないですね。と、アズマオウが動いた、全身にでんきを纏ってのタックル、これはワイルドボルトですね! 変異の影響ででんきタイプを持ったアズマオウの強烈な一撃です。チルタリスのタイプ相性としてひこうの弱点とドラゴンの半減で等倍となるのでこれは痛手に……ならない?! え、思い切りぶつかったはずなのにあまり効いた様子が無いですね、とソラさんここでチルタリスにコットンガードさせます! ぼうぎょ能力が非常に大きく上がる技ですね、物理攻撃の威力が激減します!』
・えぇ……あのアズマオウの一撃受けてぴんぴんしてるんだが?
・あのアズマオウ多分物理攻撃しか持ってないからコットンガードで盤石だね! @ユウリチャンネル
・↑チャンピオンからのとんでもないネタバレが
『互いに離れて仕切り直し……っとこれは?! 上空を覆う雨雲に電気が走ります、そして……ああ?! 落ちた、落ちました!? かみなりが両者の上に落ちました、チルタリス予想外のダメージに僅かに揺れた。持ち直しましたがコットンガードで防げない特殊攻撃にチルタリス揺れました。反対にアズマオウは……吸収している?!
頭から落ちて来た雷を吸収して力強く拳を握りました!』
・なんで今かみなり落ちた?!
・今なにやったん???
・これはすごく珍しい特性だね! 『しょうらい』は天候が『あめ』の時に時々かみなりが降って来るよ! @ユウリチャンネル
・は?
・は?
・は?
・はあ?
・なにそれこわ(
『特性しょうらい……あ、ああ! 前例が世界中見渡しても片手の指の数に届かないものすごく珍しい特性ですね! それと恐らくひらいしん、あとはでんきエンジン互換の能力でしょうか? 落ちて来た雷を吸収してパワーアップしているように見えます。これはチルタリスピンチか?!』
・相手には大ダメージ与えて自分だけパワーアップとかずるくない?
・ていうか確率次第とは言え攻撃してもないのにかみなりが落ちてくる特性とかチートでは?
・現実にチートなんて存在しないのよ
・レギュレーション仕事しろ!!!
『チルタリス動いた、っとアズマオウの動きが悪い……いえ、先ほどより速度が低下している? っとチルタリス大きく飛び上がって、ムーンフォースだ! だがアズマオウゆらりゆらりとした動きでこれをかわした。そして再びワイルドボルト! だが効いてない、チルタリス全く効いていない?! コットンガード込みとは言えさすがに異常過ぎる耐久力だ! と、ここでおいかぜが途切れます、同時にチルタリスが戻っていく! そして出て来たのはトゲキッスちゃんです! エースアタッカーがここでやってきました!』
・来た!キッスちゃん来た!
・これで勝つる!
・でもアズマオウってキッスちゃんメタでは?
『そうですね、この対面はトゲキッスのほうが不利になるはずなのですが、ソラさんには何か考えがあるのでしょうか? っと早速動きます、速いトゲキッス速いです! おいかぜに背を押されトゲキッス動きます! っと、これは?!』
・ふぁ?!
・きれー
・なにこの技、え?
・知らん、見たことも無いんだが?
・『カレイドストーム』は最近になって開発された技の一つだね! フェアリータイプの特殊攻撃技で『だいもんじ』とか『かみなり』『ふぶき』あたりと同じくらいの威力があるよ! @ユウリチャンネル
・つっよw
・ふぁあああwww
『万華鏡がごとき光の奔流! しかしアズマオウこれもまたかわします! あの動きで相手を幻惑してしまうようですね、これは辛い展開になってきたか? 反撃とアズマオウがワイルドボルト……って、え? これは?! 効いていません! トゲキッスちゃんまるで効いた様子が無い、まるで先ほどのチルタリスの……あ、ああ?!』
・さっきのチルタリスがソラちゃんパーティのクッション役だったみたいだね! 多分交代時に味方の能力変化を引き継ぐ裏特性持ってるよ! それでコットンガードで積んだ『ぼうぎょ』をトゲキッスちゃんが引き継いだみたいだね! @ユウリチャンネル
・マ????
・すっごwww
・ていうかソラ選手つよない???
・でもあのアズマオウも避け杉
・運ゲーはヤメロォ
・それも多分大丈夫じゃないかなあ? @ユウリチャンネル
『トゲキッスちゃんがアズマオウを捉えました。ワイルドボルトの激突に耐え、そのままがっつり捕まえて……あああ?! カレイドストームが直撃! アズマオウぐらついた! 倒れるか!? いや倒れない! 辛うじて持ちこたえ……いや、トゲキッスちゃんさらにダメ押しのエアスラッシュ! アズマオウぐらついて避けられない、直撃! 崩れ落ちて……あ、ルリナさんがボールに回収、これは瀕死です!』
・おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
・うおおおおおおおおおおおおおおお!!?
・キッスちゃんTUEEEEEEEEEEEE
・やべえやつ過ぎる!
・盛り上がりがやばい!!
・FOOOOOOOOOOOOOOOOO
『さあいよいよルリナさん最後の一体。両手でボールを持ち、深く集中! 対してソラさんも視線を強めています! ますます目が離せない瞬間! そしてルリナさんが! ボールを! 投げました!!』
4,5ターンって作中の現実換算だと僅か30秒くらいなんだが、これで7000字ってマ???
というわけでちょこっとデータ貼りのお時間。
【種族】ドヒドイデ/原種
【レベル】110
【タイプ】どく/みず
【特性】ひとでなし
【持ち物】くろいヘドロ
【技】アクアブレイク/どくづき/いたみわけ/トーチカ
【裏特性】『ぼうぎょじんち』
相手より後に攻撃する時、自分が出す相手を直接攻撃する技を互いの『ぼうぎょ』でダメージ計算する。
相手を攻撃しなかったターンの終了時、HPが最大HPの1/8回復する。
天候が『あめ』の時、ターン終了時に30%の確率で相手を『どく』状態にする。
【技能】『さんせいう』
天候が『あめ』の時、『どく』技が『はがね』タイプに『こうかはばつぐん』になる。
【名前】ヒオ
【種族】アズマオウ/擬人種/変異種
【レベル】110
【タイプ】みず/でんき
【特性】しょうらい(天候が『あめ』の時、30%の確率で互いのポケモンが『かみなり』を受ける。この技は自分の『とくこう』でダメージ計算する。)
【持ち物】しんぴのしずく
【技】たきのぼり/メガホーン/ドリルライナー/ワイルドボルト
【裏特性】『みわくのベール』
持ち物が『しんぴのしずく』の時、『アクアリング』状態になる。
『アクアリング』状態の時、自分の『すばやさ』を2倍にし、『やけど』を受けなくなる。
『アクアリング』状態の時、自分の回避率を2段階上げる。
【技能】『エレキショック』
『アクアリング』状態の時、自分の直接攻撃技に『50%の確率で相手をマヒさせる』効果を付与する。
【能力】『ひらいしん』
『でんき』タイプの技を受けた時、技のダメージや効果を受けず自分の『こうげき』と『とくこう』を上げる。
参考イメージ
【挿絵表示】
ひらいしん、って角どこだよって? 多分その辺のリボン。
ルリナさんの裏特性なんか元の特性そのままなの多くない? と思ったそこの読者は正しい。
正確に言えば育成能力低めだと元の特性をそのまま裏特性にすることが多い。
あとは作者が途中まで存在忘れてたもふもふチルタリス
【名前】チーちゃん
【種族】チルタリス/原種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】ひこう/ドラゴン
【性格】おだやか
【特性】もふもふ
【持ち物】たべのこし
【技】ムーンフォース/ハイパーボイス/まもる/コットンガード
【裏特性】『そらのたっきゅうびん』
味方の場の状態が『おいかぜ』なら、自分が攻撃しなかったターンの終了時、HPを最大HPの1/8回復する。
味方と交代する時、交代する相手の能力ランクの変化を引き継ぐ。
通常交代以外で交代する時、20%の確率で次に出る味方の能力をランダムに上げる。
【技能】『ハミングスカイ』
自分の『ノーマル』タイプの技を『ひこう』タイプにし、技の威力を1.2倍にする。またそれが音技だった時、20%の確率を相手を『ねむり』状態にする。
因みに前も言ったけど【技能】は実機でいうところのメガシンカ、Z技、ダイマックス等のプレイヤーが自分で選択して発動させる効果なので、使ったら相性不利だからハイパーボイスノーマルのままにしとこ、とかいう選択も当然できます。ただし使うか使わないかの2択なのでノーマルタイプのまま追加効果でねむらせてほしいなーとかいうのは無理。
一つ補足忘れてた。
カレイドストーム 『フェアリー』 『非接触全体特殊技』
効果:威力110 命中85 通常技。
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レイジングウェイブ④
ダイマックスエースとはガラルのポケモンバトルにおける『花形』である。
ダイマックスポケモン同士の激突こそがガラルのポケモンバトルにおいて最も盛り上がる瞬間であり、必然的にトップトレーナーたちはダイマックスポケモンを『切り札』として扱うことを求められる。
それを抜きにしてもダイマックスとは強大な力であり、ダイマックスポケモンに対処するためにはこちらもダイマックスポケモンを使うしかない、というような観念がトレーナーの中にあるのもまた事実だ。
故にダイマックスは必殺の一手。
それだけはガラルのトレーナーたちに共通する概念だった。
「カジリガメ! キョダイマックス!」
キョダイになったボールから飛び出した緑がかった体色のカジリガメがぐんぐんとその姿を変じていき、そうして全長20メートルを超えた巨体が咆哮を上げる。
「スタジアムを海へと変えてしまいましょう!」
ぐっと突き出した拳と共に叫ぶルリナに呼応するように、カジリガメが空へ向かって吠えれば
―――『あめ』が強まる。
―――『あめ』がさらに強まる。
―――もはや豪雨と呼んで差し支えないほどに『あめ』が強まって。
そうして収まっていく、元の強さへと。
後に残されたのはフィールド全域を沈めるほどの水。
そこに混じった潮の匂い、滴る雨粒から僅かに感じる
ただの『あめ』ではなくそれは海水のようだった。
海水が降り注ぎ作られたフィールド全体を覆った水溜まりはいうなれば『うなばら』*1だった。
「さあ行きましょう! カジリガメ!」
ルリナが突き出した拳からぴん、と指を伸ばし。
「“キョダイズツキ”!」
―――叫んだ。
* * *
『カジリガメ動く! これはキョダイ技のキョダイズツキだあ!』
・因みにキョダイズツキは『みず』タイプの技なんだけど『いわ』タイプとしても扱うからソラちゃんのポケモン全員に『こうかはばつぐん』になっちゃうよ! @ユウリチャンネル
・いやでかすぎぃ
・ていうかさらっと色違い個体なのな
・緑……2足歩行……カメ……〇ッパ……う、頭が……
・↑それ以上は某社の闇に触れるからヤメルンダ
・え、つかさらっとチャンピオンやばいこと言ってない?
・もしかしてこっから3タテある??
『速いぞカジリガメ! フィールドに水が張っているせいでまるで水を得た魚がごとく“すいすい”と進む! 今その一撃がトゲキッスちゃんに―――っとソラさんすでに交代している、だがこの一撃を受けることができるポケモンが……ああ! フリーザーです、フリーザーが場に出たことでみがわりを、みがわりで受けた、受けきりました!』
・あのフリーザーすごすぎない?
・みがわりなら音技以外は一回は受けきれる!
・でももう3回目なんだよな、毎回みがわり使ってるんならそろそろ『ひんし』が見えてくるが……
・うーん、場合によったら次『こらえる』とかあるかも? いやでもスリップ警戒でもう攻撃しちゃうのかな? それだと火力が足りてない可能性もある? うーん、ソラちゃんどこまで考えてるのかな? @ユウリチャンネル
・こらえるでダイマックスしてられる時間削るってこと?
・いやでも『みがわり』で一回、こらえるで2回だから3回目で『ひんし』になってもキョダイマックスは切れるだろうし、アリでは?
・残り2体で行けるのかな?
・キッスちゃんいるしいけるんじゃね?
・でもルリナさんがよく使ってる戦法だけどあのフィールドになると『でんき』技が半減するんだよね。ついでにカジリガメも弱点タイプのダメージを軽減する能力持ってるからむしろ『でんき』メインだと負けるかも?ソラちゃんもしかして気づいてない? @ユウリチャンネル
・え
・え
・え?
・やばいのでは?
・まじで3タテくる?
『これは不味いです! キョダイズツキの際にカジリガメからフィールドに岩がまき散らされています! 恐らく攻撃と同時にステルスロックを巻きましたね、これでソラさんのポケモンは場に出る度に大きなダメージを受けてしまいます!』
・うわ、やばいじゃん
・キッスちゃんもそうだがチルタリスも何回か攻撃食らってたよな
・ステルスロックのダメージはポケモンの『ぼうぎょ』に関係ないからこれは本気で不味いかも? @ユウリチャンネル
・チャンピオンが不味い言ってるの本当にヤバ気では?
・1-3から3タテはやばいですよ
・がんばえー
『っとフリーザー動きました、これは……こらえる態勢に入っています! そしてカジリガメ2度目のキョダイズツキ炸裂! フリーザー間一髪で耐えましたがこれは大ピンチ、次の攻撃は間違い無く耐えられません!』
・うわあああ負け筋入ってるうううう
・交代……はステルスロックあるし意味無いよな
・キョダイズツキ撃つ度に『あめ』が強くなってるね! 多分時間が加算されてるからしばらく『あめ』も止みそう無いよ! 多分あのカジリガメの裏特性って『あめ』が起点だから何がなんでも3タテするまでは『あめ』を枯らせないってことかな? @ユウリチャンネル
・どんどん追加される絶望的情報
・もうダメだあ、おしまいだあ
『三度目の攻防、素早い動きでフリーザーに迫るカジリガメ……がフリーザー動いた! 目に光が……これはいてつくしせん! いてつくしせんです!』
・『シックスセンス』とはまた珍しい特性持ってるね! 『エスパー』技が素早く撃てるようになるよ! 純粋な速度だとカジリガメのほうが速そうだけど技の出の早さで先に攻撃できたみたいだね! @ユウリチャンネル
・↑なんで今の一瞬でそれが分かるの?
・チャンピオンがさすがすぎるわ
・というかこの攻撃がどれだけダメージ与えられるかだよ!
『当たった! 命中しました! フリーザーのいてつくしせんがカジリガメに命中して……っと僅かにぐらついた、がまだ健在! 健在です! 今反撃のキョダイズツキが撃たれ……あああ!?』
・ちょっと効きましたくらい?
・あの巨体にあのビームが当たってぐらついたって元のサイズなら結構なダメージでは?
・あんまり知られてないけどポケモンってサイズでダメージ量が少し変わるよ! ダイマックスの強みって実はその辺にもあったりするね! @ユウリチャンネル
・つまりダイマが終わった後ならいける?
・でも反撃でもうフリーザー終わり……って
・え?
・は?
・え、なんで?
・は? 止まった?
『カジリガメ止まった! 止まりました、これは……こおり状態! こおり状態です! カジリガメまさかのこおり状態で止まりました! いてつくしせんの追加効果で確かにこおり状態になりますが、ここで引きますか?!』
・うっそやん
・そんな偶然ある?
・こおり状態ってくっそなり辛い効果だろ?
・あー! なるほどね! てっきり威力の増加かと思ったらソラちゃんそっちも取ったんだ! 欲張りさんだね! 可愛い! @ユウリチャンネル
・なにが?どういうことなの???
・チャンピオンに説明放棄されたら俺たちは何もわかんねえよ
・シノノメちゃん説明お願いします!
『えっ、えっと……今のこおり、つまりそういうことなんですか? 偶然とかでなく今のが必然ということなら、あ、ああ! つまりそのための入れ替え! そのためのみがわりですか!?』
・【悲報】シノノメちゃん解説放棄
・俺たちを置いてけぼりにしないでくれ……
・でもこういうのちょっと興奮するかも
・え?
・え?
・え?
『あ、す、すみません、後で解説入れますので、今は実況のほうを……こおり状態でカジリガメ動けません、そして時間切れでダイマックス状態解除されます! そして身動きの取れないカジリガメにフリーザーが再度いてつくしせん! そしてカジリガメこれを耐え……られない! 耐えられない! 崩れ落ちて……今、ルリナさんが回収! 瀕死です!』
・うおおおおおおおおおおおおおおおおお
・勝ったああああああああああああああああ
・あそこから勝つの?!
・うっそだあああああああ
・すげええええええええええええええ
・おめでとーーーーー! ソラちゃん! さすが私の大親友! さすが私の大 親 友!!! @ユウリチャンネル
・親友強調し過ぎてなんか草
・チャンピオンテンションたけえw
・多分一番喜んでるだろこの人www
『ジムリーダールリナさんからソラさんへジムバッジが渡されました! これでソラさんのバッジは2つ。残りは6つですね! 次回の活躍に期待しちゃいましょう! というわけでこの後はソラさんと一緒に今回のバトルの振り返りなどしたいと思います……あ、これはちゃんとソラさんから許可をいただいていますので、大丈夫です! さっき解説できなかった部分なんかも説明させていただきますので、皆さん夜からの配信も来てくださいね!』
・絶対行くわ
・必ず見ます
・今から全裸待機してます
・ネクタイはしろよ?
・公式チャンネルでやるなってリーグに怒られて呼び出されたからちょっと行ってくるね! 夜には絶対見に来るから!!! @ユウリチャンネル
・草
・草
・草
・そらそうよw
・なにやってんだこのチャンピオンwww
『それでは今回のノ×3チャンネル、この辺りで一端配信を切ります! お疲れさまでした!』
・おつかれー
・おつかれさまー
・おつー
・おつ
・乙
・おっ
・おつかれさま! @ユウリチャンネル
・まだやってるこの人w
・さらに怒られるぞw
* * *
「おめでとう、何から何まで手玉に取られてしまったわね、情けない姿を見せてしまったわ」
「チャレンジ用に手持ちを制限されて、情報の利も与えられてそれでもあれだけギリギリの綱渡りじゃこっちのほうが情けない、ですよ」
「っふ、それにしてもダイマックスすら使われないとは思わなかったね」
「見ての通り、他所の地方から来たサイクルパ……ですから。交代し辛くなるダイマックスは中々使いづらい、です」
「……別に普通に喋ってくれていいのよ?」
試合後、フィールドの中央で手渡されたバッジをケースに収めながらうーん、と唸る。
「いや、そのルリナさんみたいなカッコいい女性は、結構憧れるので、なんというか、普通に喋ると申し訳ないような……」
「っふ、この場においてアナタと私は対等のトレーナーよ。アナタはそれだけの実力を見せたの、もうアナタは私のライバルの一人だわ」
「……分かり……分かったわ」
「そう、それでいいわ。次はカブさんのジムね、カブさんはこのジムチャレンジにおいて最も多くのチャレンジャーを振るい落とす登竜門よ、油断しないことね」
「ユウリのところにたどり着くまで、私はただ真っすぐ突き進むだけよ」
そう告げる私を見てルリナがへぇ、と少し笑みを浮かべ。
「そう、ならアナタがファイナルトーナメントへたどり着くことを私待っておりますわ! 必ずたどり着いて見せなさいな」
「……負けないわよ、誰が相手だろうと」
拳を握り、気を吐くとそのままルリナと別れバトルフィールドを去る。
こつ、こつと人気のない静かな通路に足音が響く。
―――勝った。
結果的には勝った。
結果だけ見れば3-0の圧勝。
だが見かけの数字ほど圧勝だったわけではないことを誰よりも私は理解している。
特にダイマックスエースのカジリガメは圧倒的だった。
こちらのエースたるガーくんだって決して劣るとは思わないが、それでもガラルのエースとはこういうものだ、と教えてくれるような存在だったのは間違いない。
そう考えるとやはりガーくんは私のパーティに最適化したエースであって、ガラルらしいエースとは言えないだろう。
もっと具体的に言えば、ガラルのパーティはサイクルを重視しない。
これは以前から分かっていたことだが、今回の戦いで余計に感じた。
同時に今のガラルの環境を見ているとサイクルパとは本当に正しいのか、という疑問がどうしても拭えない。
「本当にこのままで大丈夫?」
自らに問いかけるように呟いてみたところで返事があるわけでも無く、今更迷ってどうするのだ、と嘆息一つ。
と、その時、たん、たん、とこちらに向かって走って来る音が一つ。
「ソラさん! お疲れ様です!」
視線を向ければシノノメが息を切らせながら走って来る。
「そんなに急がなくても良いのに」
「すみません! もうスゴイバトルで興奮しちゃって!」
「そ、そう?」
自分なりに反省の多いバトルでもあったのだが、シノノメからすれば興奮で顔を輝かせるような勝負だったらしい。
「
笑みを浮かべ告げるシノノメの何気無い言葉に、ふと虚を突かれたような気分になる。
ポケモンバトルは楽しい、それはそうだ。そうでなければトレーナーなんてやっていられない。そのはずだ、なのに。
ずっと勝った負けたの世界に身を置いていると段々とそんな心が鈍化してしまう。
だから楽しそうに笑みを浮かべ、そんなことを言うシノノメに一瞬言葉が詰まってしまって。
「……そうね、やっぱり、楽しいわ、ポケモンバトル」
少し忘れかけていたそんな心を思い出して、くすりと笑う。
シノノメと並んで再び通路を歩きだし、ふと横を歩く少女へと問う。
「ねえ、シノノメ」
「はい、どうしました?」
「私は……
そんな自身の問いに、シノノメが少し目を丸くして。
「はい! もちろんです!」
満面の笑みでそう答えた。
配信形式めtttttttttttttttttttttttっちゃ書きやすいな!!!!!!
というわけでルリナ戦終了。
次回は多分ルリナ戦アフターで振り返り配信やってく。
というわけで一足早く読者と答え合わせ。
【名前】リーちゃん
【種族】フリーザー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】エスパー/ひこう
【性格】ずぶとい
【特性】シックスセンス(場に出た時、命中と回避ランクを上げる。優先度0の『エスパー』技の優先度を+1する。)
【持ち物】ヤタピのみ(HPが1/4以下の時、『とくこう』を上げる)
【技】いてつくしせん/ぼうふう/こらえる/じこさいせい
【裏特性】『さいこうちく』
前のターンに味方が『ひんし』になっていた時、『ひんし』の味方の能力ランクを引き継いで場に出る。
攻撃技を出さなかったターンに自分が受ける変化技を使用した相手に跳ね返す(『マジックコート』状態)。
残りのHPに応じて、自分の技の威力が上がり(最大HP÷残HP÷2.5×威力……最大値2倍まで)、HPが最大HPの1/4以下の時、相手の特性や能力ランクに関係無く攻撃できる。
【技能】『デッドフリーズ』
『いてつくしせん』の追加効果の発動率を100%にする。この効果は自分のHPが最大HPの1/2以下の時に1度だけ使える。
【能力】『フェイクアバター』
場に出た時、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動しない。
相手の攻撃を『回避』するか『みがわり』状態が解除された時、味方と交代できる。
一つ補足するならただ勝つだけなら他にいくらでも手段はありましたが、ソラちゃんは今回から配信を意識して『映える』ようなバトルをしました。
初手のしっぷうじんらいでの奇襲もそうだし、ダイマックスエースを非ダイマックスで倒す、或いは絶対絶命の一撃を『こおり』状態で強制的に止める、などぱっと見て「うおおおおお?!」ってなるようなやり方をあえて取ってます。
【種族】カジリガメ/原種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】みず/いわ
【特性】いわかじり(『いわ』タイプの技のダメージや効果を受けず、HPを最大HPの1/4回復する。またどちらかの場に『ステルスロック』がある時、『ステルスロック』を解除して自分のHPを最大HPの1/6回復する。(両方の場にある時、2度回復する。))
【持ち物】じゃくてんほけん
【技】アクアブレイク/もろはのずつき/じしん/からをやぶる
【裏特性】『かたいこうら』
場に出た時、『ぼうぎょ』と『とくぼう』が上がり、自分の『ぼうぎょ』と『とくぼう』がいかなる効果でも下がらなくなる。
『こうかはばつぐん』となる技を受ける時、技の威力を-30し、ダメージを3/4にする。
天候が『あめ』の時、『すばやさ』が2倍、『とくぼう』が1.5倍になり、技が急所に当たらなくなる。
【技能】『キョダイガンジン』
自分と同じタイプの技を出した時、追加効果が発動する、
┗『いわ』タイプの技を出した時、互いの場の状態を『ステルスロック』にする。
┗『みず』タイプの技を出した時、3ターンの間天候を『あめ』にする。
【能力】『キョダイウナバラ』
自分が『キョダイマックス』した時、全体の場を『うなばら』に変更する。
┗全体の場の状態『うなばら』:『みず』タイプのポケモンの能力値が1.1倍になる。『みず』タイプの技の威力を1.2倍にし、『みず』タイプの全体技の威力を1.3倍にする。『でんき』タイプの技の威力を半減する。毎ターン開始時、『みず』タイプのポケモンのHPを1/16回復する。場のポケモンを『えんがい』状態にする。
┗状態異常『えんがい』:『くさ』タイプのポケモンが毎ターン終了時に最大HPの1/8ダメージを受ける。また『くさ』タイプの技が使えなくなる。
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『みず』タイプの技が全て『キョダイズツキ』になる。
【備考】
『キョダイズツキ』:単体非接触物理技/キョダイマックス技
効果:威力160 命中- 技のタイプに『いわ』タイプを追加する。
実機とは多少処理が変わる現実処理の一貫ですが『ねむり』『こおり』状態のようなポケモンの意識がない、或いはあっても動けない状態の時、一部の特性、裏特性、技能、能力は発動しなくなります。
例えばオリ特性のいわかじりですが、本来ならダイマ3ターン目でいてつくしせん、を受けた時点で発動してステロの解除と引き換えにHPを回復しますが、『こおり』状態で動けないのにどうやんの?という現実な解釈を踏まえると発動しなくなります。
他にも裏特性などあれらは『技術』もしくは『後天的に付与された体質』或いは『精神論』なので『技術』のほうは体が動かないのにできるわけないだろ、ということで一部無効になります。
〇場に出た時、『ぼうぎょ』と『とくぼう』が上がり、自分の『ぼうぎょ』と『とくぼう』がいかなる効果でも下がらなくなる。→体質的なものなので発動します。
〇『こうかはばつぐん』となる技を受ける時、技の威力を-30し、ダメージを3/4にする。→ハードロック応用の技術であり、要する体質的なものなので『こおり』だろうが『ねむり』だろうが発動します。
×天候が『あめ』の時、『すばやさ』が2倍、『とくぼう』が1.5倍になり、技が急所に当たらなくなる。→すいすい互換、すなあらし互換、シェルアーマー互換であり、要するに『あめ』で甲羅濡らして攻撃を滑らせて急所を防いでいるので『こおり』状態では発動しません。
要するに
・『こおり』状態→肉体的技術が使えなくなる。
・『ねむり』状態→精神的技術が使えなくなる。
という解釈。
あと『マヒ』状態も『からだがしびれてうごかない』という時は肉体的技術が使えないので『こおり』状態と同じ解釈が入ります。
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レイジングウェイブアフター前半
●LIVE 【反省会】ジムチャレンジの振り返り【ノ×3チャンネル】
・待機中……
・待機中……
・待機中……
・待機中……
・お?
・キチャー
・キター
『ハローワールド! 皆さまこんばんわ! ノ×3チャンネルのお時間です!』
・ハローなのにこんばんわ?
・ハローワルドで一つのガラル語ダゾ
・ハロばんわ
・↑新しい言葉を作るな
・ハロばんわー
・ハロばんわ!
・↑流行るな
『いやー毎年のことながらこの企画の視聴者数すごいですね、もう3万人を超え……え、3万???』
・うわ、まじじゃん
・去年が1万5000くらいだったから2倍???
・すっごwww
・まだ始まったばっかなのにw
・ジム戦動画から来ました
・同じくジム戦動画から
・動画からキマスタ
・お昼のジム戦終わって1時間後にはすでに投稿されてるの速すぎだろw
・シノノメちゃんなんか今回本気じゃね?
・ファンって言ってたしそれでは?
『あ、お昼にあったジム戦の動画見てくれた方もいるんですね! すごかったですよね! 私あの後興奮しっぱなしでいつもの倍速くらいで作業進みましたよ!』
・めっちゃ早口じゃん
・オタク特有のあれ
・ホントにファンなんだなって
・やや強火な気も……
・でも昼のジム戦すごかったのは分かる
・ジムリーダー相手に3-0はマジですごかった
『まあそんなわけで配信の最後でも予告した通り、この配信では今回のジム戦を振り返りながらゲストをお招きして話を聞いて行こうと思います!』
・楽しみに待ってた
・解説はよ(バンバン
・プロの視点から話聞けるの良いね
・お説教終わってからすぐに待機してたよ!
・↑おはチャンピオン
・↑↑いたんすねチャンピオン
・↑↑↑ホントにいるの草
『では早速ゲストを呼びしましょう! ソラさん、お願いします』
【どうも、今日は応援ありがとう、ソラよ】
・前も思ったけどちっちゃいな
・ちっちゃ
・ちっちゃいなあ
・公式プロフィール12歳ってマ???
・シノノメちゃんが153くらいだったから142,3くらい?
・ソラちゃんの身長は137のミニサイズだよ! 最後に会った時から全く変わってないからね! 可愛い!
・↑めっちゃ幼馴染情報出て来た
・それ言っていいやつですかチャンピオンwww
・ま、まあ身長はぱっと見でもある程度分かるし(目逸らし
【ん? ユウリが見てるの? そう言えば昼もいたって言ってたわね】
『あの、そういう個人情報はちょっと……』
【ここは私もユウリのホウエン時代のやらかしを言う場面? そう言えばジム戦前にそんな話もしてたし】
『ものすっごく興味はありますが今回の配信の趣旨とずれますので……』
・幼馴染マウント取り返してきた
・チャンピオンのホウエン時代のやらかしって何?!
・めっちゃ気になるワード残していかないで
・いやいやいやいや、あれは内緒って話だよね! ソラちゃん! ね??
・↑めっちゃ動揺してるじゃんwww
・何やらかしたwww
『と、とにかく早速今回のジム戦の振り返りをしたいわけですが……えっと、昼のジム戦の動画がありますのでこれを見ながら振り返っていきましょうか』
【ふーん……客席からだとこんな風に見えるのね】
・フィールドに出てくるところからか
・ルリナさんもだけどジムリーダーって毎回チャレンジに一言かけてるけどあれ全員の情報把握してるんだろうか?
・実は大半は同じこと言ってるけど、一部の注目してるトレーナーには一言二言増やすってキバナさん言ってたよ!
・ここのコメント欄だいたい何言ってもチャンピオンが情報提供してくるのズルすぎない???
・そもそもなんでこんな個人配信に来てるんだろうって話だけど
・幼馴染効果……ですかねぇ
・大 親 友です!!
・ア、ハイ
・圧が強いw
・@ユウリチャンネルの文字無いのに、ああこれチャンピオンの米だわって分かるの笑うw
『コメント欄が謎に盛りあがってますけど、まあそれはさておき、どうでしたか? ルリナさんの第一印象は』
【うーん……カッコいいわね、あの人。母さんとはまた違ったカッコいい女って感じで結構憧れるわね】
『分かります! ルリナさんスタイリッシュで映えますよね!』
・わかりみが強い
・わかる~
・あの立ち姿は女でも惚れるわ
・モデルやってるだけはあるというか
・雑誌出るごとに三冊ずつ買ってます
・↑女性意見多数
・思ったより女性視聴者多いな?
・うん、普段の米見てたら男ばっかだと思ってた
『と言いますか、ソラさんのお母さんもあんな風に恰好良い女性なんですか?』
【母さんはまあルリナさんとは違うけど、うん、少なくとも私の一番の憧れね】
・ソラ選手のお母さん……見てみたさある
・どんな人だろう?
・ソラちゃんのお母さんはソラちゃんにすごく似てるよ! でも表情とかがソラちゃんは可愛いけどお母さんはカッコいいっていうのもすごく分かる!
・以上幼馴染情報でした
・ソラ選手にすごく似てる?
・なのにカッコいい?
・いまいち想像つかない
【母さんは……まあ今は一般人だから置いておきましょう】
『あ、はい。取り合えず話を進めましょう。互いのトレーナーゾーンについて……バトル開始ですね! ソラさんの一体目はフリーザー、ルリナさんの一体目はドヒドイデ、この選出はどういった意図でした?』
【そうね、シノノメも知っての通り、前日にルリナさんの一体目がドヒドイデじゃないかってシノノメが言ってたのを考慮してドヒドイデが出た場合、どういう立ち回りをするか、出なかった場合どういう風に動くか、この二つを考えての選出ね】
・シノノメちゃんルリナさんの一体目読んでたの?!
・え、普通に凄くない?
・まぐれだとしても、それでピタリだから普通にすごいわ
・でもシノノメちゃんバトルの知識半端ないからまぐれじゃなくて普通に読んでたのでは?
・それはもっとすごい
『あ、はい。まあソラさんもおっしゃる通り、前日に意見を聞かれたのでバウスタジアムの特徴も加味して恐らくそうじゃないか、というのは意見させてもらいました』
【スタジアムの効果で天候が変わるというのは考慮してなかったからかなり参考になったわ、ありがとう。で、シノノメの言う通りに初手でドヒドイデが出た場合だけど、ドヒドイデのパターンとしてどく状態の相手にトーチカとじこさいせいで引き延ばしてくるパターンが最悪だったから殴り合うより一発で倒してしまいたかった。だからトーチカの上から一発で瀕死まで持ち込めるトゲキッスへの交代予定だったわね】
『いわゆる受けループ戦法ですね。ガラルだと展開が冗長になるためあまり無い戦法ですね。まあバトルを見てる観客の人もちまちま守ってるだけの展開は飽き飽きしちゃいますから。えっと、因みにドヒドイデじゃなかった場合は?』
【その場合出てくるのはペリッパーだと思ってたのよね、最初は。でもジムミッションでトゲキッスで散々暴れ回ったからペリッパーは無くなったわ、でんき弱点が痛すぎるし、実際出てきたらどうにでもなったし。で、そうしたら誰が来るか、となるとやっぱりドヒドイデが最有力になってくるわね。あと受けループ戦法が無いならレッドカードあたりでも持たせてた可能性もあるわね】
『ああ、多分それでしょうね。3対3のバトルですから、最悪トゲキッスちゃんにやられたとしてもどく状態にできていればまだ突破できる可能性は高まりますし』
【でしょうね。で、万一ドヒドイデじゃなかった場合、ジムミッションで散々見せつけたでんき技対策のポケモンだと思ったのよね。で、これに関して実は心当たりがあったのよ。公式大会で使ってたから。まあこれに関しては予想通り裏*1に擬人種のアズマオウがいたわね。もしアズマオウが出て来た場合、まず間違い無くひらいしん系の能力持ってるわよね、だってジムリーダーだもの、タイプを統一する以上、弱点タイプに対する対策は絶対にあるはずだし。この時点でトゲキッスとアズマオウを無策に相対させたら絶対に不味いって分かるわよね。となると何が来てもみがわりで受けれて、それでいてドヒドイデに対して対策になるフリーザーが初手になるわ】
・プロトレーナーってこんなに考えないとダメなの???
・頭おかしくなる
・これが修羅の世界かあ……
・俺たち一般人とは頭のデキが違うんだなあ
・さすがソラちゃん! 対策完璧だね!
・チャンピオンが認めるレベルかあ
・ホントに大丈夫? チャンピオン、幼馴染全肯定bot疑惑あるけど
・幼馴染全肯定botは草
『そして予想通りドヒドイデが出て来た、と。ところでジムミッションからトゲキッスちゃんを使ってたのはドヒドイデの交代抑止のためだったんですか?』
【え? あ、あー。いや、それはちょっと深読みだわ。前に出させてもらった配信でスーちゃ……トゲキッスが活躍するって言っちゃったからメインアタッカーとして起用しただけね】
『そうなんですか? じゃああの時もしドヒドイデが交代してたらどうしてました?』
【いや、トゲキッスには交代する相手を攻撃できるように育成してあるからあの時交代されても普通にドヒドイデを倒してたわね。だから初手でドヒドイデが出た時点できあいのタスキでも持ってない限りは確実に倒せてたわ】
・シノノメちゃんの考えすぎかあ、って思ったらそれ以上に無慈悲で草
・出 し た 時 点 で 詰 み 確
・容赦なさ過ぎて草
・これがプロトレーナー……
・これが修羅の世界か……
・ガラルのトレーナーで交代っていう選択肢が出てくる人は少ないからそれを狙い撃ってるあたり他地方感があるよね! 少なくとも私は入れてないよ!
・それ誰が出てきてもゴリ押しで倒せるから別に交代されても良いよっていうだけでは(
・伝説のポケモンのゴリ押しはヤメロォ
【ユウリはホントそれよね、伝説のポケモン3体とか冗談も大概にして欲しいわ】
・幼馴染にも言われてて草
・大親友に言われてますよ???
・でもソラちゃんだってレベルキャップ緩めたムゲンダイナ1対1で倒してたじゃん!
・……ん???
・え??
・は?
・え、誰を?
・ムゲンダイナって去年暴れたあのやべーやつ、だよな?
・ダンデさんが戦って負けたやべーすぎるあれだよな???
・1対1で倒した??? は???
『え、え? ソラさん? それホントですか?!』
【さあ、何のことやら? 少なくとも私の今の手持ちにそんなことできるポケモンはいないわね。あとユウリ、あんまりペラペラ人の手持ちの情報喋らないの】
・むぐー! むぐぐぐ! むぐー!
・え? あのチャンピオン?
・喋りたいけど口を抑えてる感は伝わる
・まあ情報のパワーが強すぎたのは分かる
【まあそんなことはさておいて話を続けましょう? それとユウリは後で話があるから、電話出なさいよ?】
『え、あ、はい! そうですね、続き、行きましょうか』
・待ってる! いっぱいお話しようね!
・絶対そんな内容じゃないゾ
・本日二度目のお説教
・ソラちゃんの声が聞こえるならどんな内容だってオールオッケーだよ!
・強すぎるぞこの幼馴染
・キマシタワー?
・ブヒー
・百合豚は出荷よー
・ソンナー
『ドヒドイデをトゲキッスで撃破したところまででしたね。その後出て来たのがソラさんの推測していたでんきタイプ対策のアズマオウですね。これに関してはソラさんの予想通りでしたね』
【まあさっきも言ったけど、みずタイプ統一のジムリーダーがくさタイプとでんきタイプに対策してないと思うほうが不自然だしね。アズマオウに関しては特性にひらいしんがあるから特性そのまま……はさすがにジムリーダーの個体だと考えると微妙だからそれを流用した何かあるとは思ってたわ】
『実際、初見のはずなのに一度もでんき技撃ちませんでしたしね。通じるはずないと最初から思っていなければ、私なら一回くらい試してしまいそうです。通ったらそのまま押し切れますし』
【ジムトレーナーならともかく、ジムリーダーがそれは無いわね。というか実際ガラルのジムリーダーの実力は他の地方より高いのは分かってたしね。やっぱり四天王がいないせいかしら】
・他所の地方だと四天王ってのはいるんだっけ?
・なんかチャンピオンに挑むのに四天王倒さないとダメらしいな
・なんでガラルのはいないの?
・ガラルのポケモンバトルは興行の側面が必ずついて回るからだね! 四天王にふるい落としされたら最悪チャンピオンと戦う前にチャレンジャーが敗退した、なんてことにもなりかねないし、そんなのガラルだと大事故だしね!
・あ、うんそう言われると分かりやすいわ
・チャンピオンカップ前にチャレンジャー全滅とか事故ってレベルじゃねえぞw
・四天王制度、ガラルだと無理だなあ……
【そうね、まあ色々事情もあるんでしょうし、何となく裏の事情も透けて見えるけど、それは置いておいて。まず間違い無く対策はされてる、そう考えるべきだったわね。何よりその一手試してみた時のリスクとリターンがまるで釣り合ってないもの】
『リスクとリターンですか? でもリターンとして通ったら勝ちが確実になりますし』
【けど通らなかった最悪その一手で試合が終わってた可能性もあるわ、でもリターンを捨ててでんき技に拘らなくてもトゲキッスは十分な火力が出せる、アズマオウという種族自体は飛び抜けて強いというわけではない、あくまであれはでんきタイプへのメタ……対策となるポケモン、ならでんき技以外で攻めてしまえばスーちゃ……トゲキッスなら十分に勝てると思ったわ】
・トッププロのバトルは1手損がそのまま致命傷になることも多いからそういう保守の思考は必要だよ! 時には冒険しないと順当に負ける場合も多いけど!
・なるほど……って負けるのかよ
・結局どっちがいいんだ
【そもそもリスクを冒す必要性に迫られた時点で負けみたいなものね。事前の準備が足りなかったようね、ってこと】
『勉強になります。と、次ですが……その前にこの時コメントでチャンピオンがフリーザーを最初に出す意味がもう一つある、というようなことを言っていたのですが』
・ああ、あの時の
・あれって結局何だったん?
・もう一回出すとか言ってたの本当にそうなってたし
【んー? フリーザーを出す意味? えっとちょっとこの時のコメント見せてちょうだい……うん、うーん、ああ、これね。ふーん、ユウリそこまで分かってるのね】
・意味深な反応だ
・あれ本当だったの?
・結局どういうこと?
【まあそうね、フリーザーを出す意味自体はさっき言った通りだけど、フリーザーを場に出す
・回数?
・もう一回出すとか言ってたし、2回ってこと?
【まあそれは後で説明してあげるから、先に進めましょうか】
『分かりました、ここはアズマオウが猛攻をしかけてきた場面ですね。トゲキッスちゃんからフリーザーに交代していますが、やはり不利でしたか?』
【そうね、でんき以外とは言ったけどやっぱりトゲキッス対策に出してきたポケモンと無策にぶつかるのは避けたかったわね。それにユウリの言ってた通りフリーザーを出しておきたかったのもあるわ】
『なるほど。しかし改めて見ても凄まじい速度ですね。アズマオウってこんな速度で動けるものですか?』
【あー、多分“すいすい”みたいな能力持ってるわね。それに加えて推定だけどルリナさんの技能ね】
・改めて見ても頭狂ったような速度
・アズマオウがこんな速度で泳いでたら三度見するわwww
・フィールドって結構広いはずなんだが、ものの数秒で移動してるなw
『ルリナさんの技能ですか、それは?』
【本人に聞いたわけじゃないけど、多分みずタイプの技を出す時に速度が上がるみたいな技能だと思うわよ。この後のカジリガメ含めて速度が特に上がってたのってみず技の時ばっかりだったし】
『この時の技がたきのぼり、速度が落ちて見えた時がワイルドボルト、カジリガメが素早かったのがキョダイズツキ……なるほどみずタイプの技ばかりですね。そして交代でフリーザーが場に出て、すぐに戻りましたね』
【みがわりを盾に引っ込む……元々野生の時からそういう能力持ってたのよね、リーちゃ……フリーザーって】
・フリーザーの貴重な生態情報
・イェーイ、研究者の人見てるー?
・見てるんだぞ! @マグノリア研究所
・ノリで言ったらとんでもないところのアカウントが見えるんだがw
・どういうことwww
・あ、ホップだよね! おひさー!
・おう、久しぶりなんだぞ! @マグノリア研究所
・こんな個人配信の米欄で挨拶してんじゃねえよwww
『は? マグノリアってなんで???』
【あら、ホップじゃない。元気してた?】
・おう! 久しぶりなんだぞ、ソラ! @マグノリア研究所
・そういやホップって去年のジムチャレ出てたよな
・チャンピオンのライバルだったっけ?
・今はピンク漬けにされた例のあの人とかスパイクジムのマリィとかと激戦してたよな
・ソラ選手と知り合いだったんだ
・まあユウリが間にいるし、知り合ってても不思議はない
『ちょ、ちょっとすみません。もうなんか割と意味分からないことになってるので、一旦休憩入れましょう。ちょうど配信の時間も良い感じなので一端閉じて新しく枠を作りますので30分後再開ということで』
・りょ
・りょ
・了解
・悪い、友達が配信に出てたからついコメントしちゃったんだぞ! @マグノリア研究所
・ホップったら研究所のアカウントでコメントなんてしたら怒られるよ!
・↑おまいう
・え、チャンピオンが言うの?
・マジでおまいう案件
・くっそw
『それじゃ一旦落とします、お疲れさまでした!』
―――このライブは終了しました。
尚この配信の後、ポケッターのトレンドに【ムゲンダイナ】【タイマン】などのワードが入ったとか入らなかったとか。
ちょっとぐだりすぎて7000字超えたので前半後半で分けます。
でもこういうぐだった感じ好きなんだよなあ。
やっぱ掲示板形式とか配信形式すこ。
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レイジングウェイブアフター後半
●LIVE 【千客万来】ジムチャレンジの振り返り後半戦【ノ×3チャンネル】
『はい、というわけで振り返り配信後半やっていきましょう』
【さっきまでシノノメかなり狼狽えてたけど大丈夫?】
『休憩を入れたのでなんとか……でもこれ以上有名人が来たら私の心臓持たないかもしれません』
・シノノメちゃん明らかに疲弊してるw
・チャンピオンにホップ選手にと去年のスター大集合だったからな
・あ、でもさっきの休憩時間に友達と電話してたからトッププロの人たちあと何人か見に来るかも!
・↑やめてあげてよぉ
・↑↑お前チャンピオンだろw
・悲報シノノメちゃん死す
・シノノメちゃん……強く生きて
・サブアカウント作ったからこれで問題ないぞ! @ホップ☆スター
・!!! その手があったね! すぐに作って来る!
・このトッププロたちレギュラー化する気満々で草
・ちゃんと公私は分けないと~ダメですよぉ? @オールU
・↑お姉ちゃん! お姉ちゃんじゃないか!
・↑お前の姉じゃねえw
・何気に妹の配信にちょくちょく顔出すせいで準レギュ感あるでんきジムリーダー
『えっ、姉さんまで……こ、これ以上増える前に早く終わらせないと。何と言いますかもう開幕から眩暈がしてきますが、取り合えずさっきの続きから行きますか?』
【そうね、というかどこまで話したかしら?】
・フリーザー
・VS
・アズマオウ
・みがわり脱出大作戦
・絶賛上映中
・↑なんだその謎の連携w
・吹いたw
・コーヒー返せwww
・読み返すとくっそつまらんのにタイミングで笑わされた、悔しい
『何かコメント欄が謎の連携を見せていますが、えっとそうですね、アズマオウのたきのぼりをフリーザーの交代出しによって受けて、えーそれから次がチルタリスですね』
【あーこれね、まあ見れば分かるけど、完全に受け狙いね。さすがにもう種も割れてるだろうから言っちゃうと、チーちゃ……このチルタリスは特異個体で普通のチルタリスよりモフモフなのよ】
『確かに毛の量が通常より多く、モフモフしてますね……あ、特異個体ということは特性になっているということですか?』
【そうね、このチルタリスの特性はもふもふよ】
・もふもふだなあ
・すごいモフモフだね! 今度抱き着かせて! @カレー教教祖
・↑一瞬誰? って思ったけどチャンピオンかw
・アカ名それでいいのかw
・やっぱ布教じゃないか
・ところで誰も触れないけどもふもふってなんだよ(
・知らんのか? 特性もふもふとは! ↓3
・知ってるのか!? って言おうと思ったらコメント欄で安価するなw
・くっそwww
・特性もふもふとは! 毛がすっごいもふもふしてることである!
・そのまんまじゃん
・何の情報も無かったな
『あ、すみません、補足説明しますね。ポケモンの特性もふもふとは相手を直接攻撃する技のダメージを半減します。例えばアズマオウの攻撃、たきのぼりは水をまとってタックルですので直接攻撃、この後に使っていたワイルドボルトも同じですね。つまりアズマオウからの攻撃技を全てダメージ半減してしまっている強力な特性になります』
・つっよw
・ダメージ半減って強すぎぃ
・チートじゃん
・特性もふもふは強い特性だけど、じしんやいわなだれなんかの射程のある技のダメージは半減できないし、デメリットとしてほのお技の威力が2倍になっちゃうんだぞ! @ホップ☆スター
・え、じゃあカブさん相手に出したら(
・チルタリスはドラゴンタイプのポケモンなので差し引き0ってことですねぇ。 @オールU
【まあ少し付け足すなら、みずタイプのポケモン相手にほのお技の警戒はあまりしなくても良かった、というのもあるわね。専門タイプのジムリーダーだしもしかしたらみず・ほのおなんて妙なタイプのポケモンも持ってるかもしれないけど、少なくともここでは出てこないはずだし】
『そうですね、ヤローさんとのバトルも含め、ソラさんがもっぱらひこうタイプ使いであることは大よそ検討もついていたでしょうし、そうなれば警戒すべきはみずタイプが使うことの多いこおり技、あとは特異個体で可能性のあるでんき、あるいはエースのタイプでもあるいわ伎などでしょうか? あとこの場合こおりタイプは4倍となりますが、その辺の警戒は?』
【それに加えてアズマオウというポケモンの種族自体が物理攻撃に寄っているのもあるわね。特性に合わせてチルタリスにはコットンガードを持たせているから物理一辺倒にはめっぽう強く出れるわ。それにみずタイプが使うこおり技って特殊技が多いのよね、だから物理偏重のアズマオウからのこおり技というのはあまり警戒しなかったわ】
『なるほど……それで、はい、この場面ですね。ここで使われた技、コットンガードは使用したポケモンのぼうぎょ能力を……そうですね、だいたい2~3倍に引き上げてくれる強力な技になります』
・2~3倍???
・なにそのぶっ飛んだ倍率
・正しくは2.5倍ですねぇ。座学が得意なみなさんに分かりやすく言えば3ランク上昇です~。 @オールU
・ふぁああああああw
・マジでぶっ飛んでるw
・チルタリス自体は飛び抜けて耐久力の高いポケモンじゃないけど、物理特殊両方をそれなりに受けることができる程度の耐久力はあるからそこに特性と積み技で物理面にはほぼ鉄壁だね! @カレー教教祖
・その上でアズマオウは物理攻撃に比重が偏っているからこの対面はかなり不利と言えるんだぞ! @ホップ☆スター
・なるほどなー
・シノノメちゃんの解説取られてて草
『はい、はい、コメント欄に全部解説される前に続けましょう! ルリナさんここで使用技をワイルドボルトに切り替えましたが、これはチルタリスがドラゴンタイプを複合する故ですね。みず技のたきのぼりは半減されます。そして先ほどソラさんが推測した通り、アズマオウの動きが鈍く……いえ、遅くなっています』
・はーこうして落ち着いてみると確かに一目瞭然だわ
・問題はこれをあのバトルの時に、しかも対面から見て気づいたってことだが
・やっぱプロトレーナーってすげえんだなあ
・ん。みること、だいじだぞ。ひとつのみおとしが、いのちとりになる。
・一手損が覆せないままにバトル終了なんてよくある話ですねぇ。 @オールU
『アズマオウのワイルドボルトを最小限のダメージで止め、コットンガードでさらにぼうぎょ力を増加、とここでアズマオウの特性が発動、かみなりが両者に降り注ぎます……これ驚いたんじゃないですか?』
【驚いたわよ、特殊技は無いと切ってた、というかそもそも攻撃動作に入ってなかったはずなのにいきなりだもの。ただ来る直前に上の様子がおかしいのは見てたからチーちゃ……チルタリスに指示を出せて急所にだけはもらわないようにしたから、まあ見た目ほどにはダメージも無かったわね】
・アズマオウは特殊技の威力を決定するとくこうが低いから特殊技のかみなりはあんまり打点にならないね! @カレー教教祖
・ん、わかりやすくいえばえれきっどがかみなりうってるくらいのダメージ
・↑未進化ポケモンで草
・かみなりの威力ですら補えない根本的能力不足感w
・因みにですがぁ、チルタリスは物理特殊どっちもそれなりに受けれるのは先も言いましたが、それでもあえていえば特殊技のほうが受けやすかったりしますねぇ。 @オールU
・ホントにしょぼいダメージだったんだな
『まあダメージ自体はそれほどでもありませんが、この場合アズマオウの能力アップに寄与したというのが大きいのではないでしょうか』
【確かにそうなんだけど……これを一手前にやられてたら痛かったかもしれないけど、コットンガード積んだ以上は多少火力が上がったところで、なのよね】
『確かに次のワイルドボルトを受けてもあまりダメージにはなってませんしね。ここでチルタリスもムーンフォースで応戦しましたが、避けられてしまいます。多分この場面のアズマオウは何か回避を上げる手段持ってましたよね』
【推測だけどアクアリングが条件だと思うわよ。そしてそのアクアリング自体は天候あめあたりが条件かしら? 詳細は分からないけれど場面だけ見ればそんな感じがするわね】
『そしてこのタイミングでおいかぜが切れてチルタリスが戻ります。次に出て来たのはトゲキッス……この選出の理由は?』
【回避型ってのが面倒だったのよね、しかもチルタリスじゃ当てても火力不足で泥沼になりそうだったし。だから当たれば一発で倒せる火力があるトゲキッスね。アズマオウ自体はそれほど耐久力のあるポケモンでも無いし。あとは単純にフリーザーはエースのカジリガメまで温存しておきたかった、というのもあるわね】
『なるほど、そしてトゲキッスのカレイドストーム! 綺麗な技ですね、でも私こんな技初めて見ましたよ』
【ここ一、二年で開発されたばかりの新技というのもあるけれど何より覚えることのできるポケモンが極端に少ないのよね】
・もっと技の研究が進めば他のフェアリータイプにも覚えさせることもできるかもしれないけど、現状だと『ひかりのいし』で進化したポケモンしか覚えることができないよ! @カレー教教祖
・↑なにそのマニアックな技
・てことは現状だとトゲキッス、ロズレイド、チラチーノあたりか?
・↑あとフラージェスもだな
・てか元のフェアリータイプならともかくでんきタイプになってるトゲキッスちゃんがよく覚えれたな
【まあ私も行けるかどうか微妙だったんだけど、ひかりのいしでちゃんと進化したから多分できるでしょう、って思って覚えさせたらいけたわね】
『強力なフェアリー技は少ないですからね、ムーンフォースですら覚えることのできるポケモンがある程度限られてきますから』
【まあ多少の命中不安はあったけど、リーちゃ……フリーザーを経由して出してるから特性シックスセンスの効果で命中が上がってたのを期待して出したのよね】
『ああ! 確かに、シックスセンスの効果で自分の命中と回避を上げるというものがありましたね! そして能力変化を引き継ぐチルタリスを経由してるのでこの時のトゲキッスちゃんも実際は命中が上がった状態、ということですか!』
【あとはまあちょっとした技術を仕込んでそっちでも命中を補正してるのよ、だから当たると思ったんだけど……】
『しかしアズマオウ回避します。こっちもさすがジムリーダーの個体ですね』
【もうこの時点で普通に遠距離技出しても避けられると思ったからトゲキッスに指示出して相手の攻撃を受けたのよ】
・トゲキッスが直撃受けた時まじでびびった
・心臓が止まったゾ
・↑成仏してニキ
・でもちゃんと計算通りだったんだなあ
『アズマオウのワイルドボルトが直撃します、が耐える。この時点でチルタリスの積んだコットンガードが大きく活きてきますね。元々トゲキッスも耐久力の低いポケモンではないので、引き継いだ能力ランクによって耐久力が大幅に上昇。そしてアズマオウの攻撃を完全に受け止めました』
【これに関してはお互い擬人種だったのが思ったより大きかったわね。原種の姿で同じことやられてたらするりと抜け出されてた可能性もあるし、こっちが原種の姿だとそもそも受け止めても相手を掴めないし】
『擬人種の利ですね。そしてがっちりと受け止めたアズマオウにカレイドストーム直撃! いくら回避能力が高くても掴まれた状態でさらにこの至近距離ともなるとどうにもなりませんね……それでも耐えたのはさすがとしか言いようがないですが』
・だが無常な追撃
・さすがにひんし直前まで追い詰められた体で機敏な動きはできなかったな
・でもここで受け止めるっていう選択肢を取れるのが凄いんだぞ! @ホップ☆スター
・いくらたいきゅうりょくがあっても、ポケモンだってこわいものはこわい
・ですねぇ、まだ仲間にして一月も経ってないはずなんですが信頼が強いですねぇ。 @オールU
『そうなんですか? あのトゲキッスはいつパーティに?』
【二週間くらい前かしらね、ワイルドエリアで拾ったタマゴから孵ったのがスーちゃ……トゲピーだったのよ】
・さっきからちょいちょい出そうになっては止まる可愛いニックネーム
・普段から呼び慣れてるんだろうなーってくらい無意識に出て咄嗟に意識的に止めようとするの良い……
・可愛いよね! ソラちゃん! @カレー教教祖
・うーん、この全肯定bot感……
『たった二週間で、ですか……あ、いえ、これでアズマオウも瀕死ですね。それでルリナさんの残り1体は当然ながらカジリガメ。このカジリガメ、戦ってみてどうでしたか?』
【いや、厄介過ぎるわよ。まずいきなりバトルフィールドが浸水したし】
・ソラちゃんちっちゃいからね! あれだけ浸水するとやりづらかったと思うよ! @カレー教教祖
・トレーナーへのダイレクトアタックじゃん
・フラッシュを許すな!
・俺のターン! ドロー!
・ポケモンカードディエリストじゃん
・カイリュー! はかいこうせん!(ダイレクトアタック
・やっぱポケモンよりトレーナー狙うのが効率的なわけよ
・はい、ルール違反
『ジム戦後に調査しましたがフィールドの効果としてみずタイプのポケモンの能力上昇、みず技の威力の上昇、でんき技のダメージ半減、くさ技が出せなくなる、くさタイプのポケモンはじわじわとダメージを受けてしまう、などがあるらしいです』
・弱点タイプへの殺意が高すぎるw
・カジリガメは『みず』『いわ』だからなあ
・くさタイプは絶対に許さねえって感じ
・だいたいのジムリーダーの手持ち……特にエースはダイマックス状態で3手殴り合うこと想定してますのでぇ、それができるように特に弱点タイプへの対策はしっかり練られてますぅ。 @オールU
・ん、わたしのサダイジャもさいきんたいきゅうよりにいくせいしてる
・ん?
『でもソラさん結局最後までカジリガメにでんき技を使いませんでしたが読んでましたか?』
【読んで……までは無いけど、まあ何かしら対策はあると思ったわよ。あと降って来た雨がしょっぱかったのよね。フィールドに溜まった水もなんか潮の香りがしたし……似たようなフィールド作る相手がいたから警戒はあったわ】
『経験があったと、なるほど! え、っと。カジリガメがキョダイマックスしフィールドを作り替え、そして動き出しますね。キョダイズツキ、これは本来みずタイプの技ですが、いわタイプとしても相性が働く2タイプ判定のちょっと珍しい技ですね。あとズツキと名前がついていますが、直接攻撃する技ではないですね。ヤローさんのキョダイローリングもそうですが』
・ズツキ(当たってない
・頭突きの衝撃波で攻撃する技にズツキと名前をつけるのはどうなん?
・ローリング(ころがる)ただし当たらない
・あれもダイレクトアタックに見せかけた遠距離攻撃だからなあ
『ぼうぎょを積んでいるとは言え当たればタダじゃすまない攻撃ですが、これをフリーザーと入れ替えみがわりを盾にすることで回避します』
【相手のダイマックスエースとフリーザーを対面させるのはこっちの計画通りだったわね。だから迷ったのは次ね。攻撃するか、それともこらえるか、別に普通に攻撃しても良かったんだけどね。もうこの時点で条件は満たしてたし】
『先ほども仰っていたフリーザーを出す回数という話ですね。それは一体?』
【フリーザーは場に出る度にみがわりを作って
『なるほど、みがわりというHPを消費するデメリットをそうやって補っていた、と。ああ、だからここでこらえるなんですね! この一手はダイマックスを枯らすための手ではなく次の自分の技の威力を上げるための一手!』
・そういうことかあ!
・凌ぐとかいう消極的な戦法じゃなくて次の一手の威力を上げるための攻撃的な意味でのこらえるだったのか
・攻撃的なこらえる
・それだけ聞くと意味分からんな
『けど一番の驚きはここですよね! 3手目、先手を取ってのいてつくしせん、この攻撃はカジリガメにとって相応のダメージとはなっていますが、一撃を瀕死になるものでは無かったはずです。だからここで反撃をもらっていればフリーザーがやられてそのまま押し切られる、という展開もあったはずですが……このこおり状態が全てを覆しました! 実際のところ、これは狙って起こしたんですか?』
【一回のバトルで一回のレギュレーション制定されたけれどそうね、だいたいHPが半分以下くらいまで技の威力を強めることができれば確定でこおりつかせることができるわ。そして3手目が凌がれてダイマックス特有の耐久力が無くなれば……】
『トドメのいてつくしせんで終了、と!』
・おおおおおおおお
・何度見てもすごい!
・つうかここまで計算してバトルしてたのか
・すごすぎてコメントが出ないわ
・さすがだね! ソラちゃん! @カレー教教祖
・全肯定bot様に同意
・ん、さすがだな、ソラ
・↑どこ目線?
・なんだか久々にバトルしたくなってきたんだぞ! @ホップ☆スター
・↑いいねー! ザシアンたちも偶には遊びたいだろうし明日遊ぼう! @カレー教教祖
・ここで遊びの約束してんじゃねえよw
・自由過ぎるぞこのチャンピオンw
・つうか伝説のポケモン使って遊ぶってマ???
・どこでやる気だよ、ガラルが荒れるぞ(
『なんかコメント欄が荒ぶってますが気にしないことにして、これにして今夜の振り返り配信は終わりにしたいと思います! これからも動画投稿やジム戦の配信はやっていきますので、ソラさんに対する質問などもありましたら私のポケッターのほうにて作りました質問箱のほうにまでお願いします! それでは今宵はここまで! 私シノノメとゲストのソラさんがお送りしました! お疲れ様でした!』
【はい、お疲れ様。次回のジム戦も応援よろしく】
・おつかれさまー!
・おつかれさまでした!
・おつー!
・乙
・次回のジム戦も絶対見ます
・応援してます
・絶対応援するからね! ソラちゃん! @カレー教教祖
・↑チャンピオンがそれでいいのかw
・次回も楽しみにしてるんだぞ! @ホップ☆スター
・ん、つぎもみる
・んーところでぇ? 一つ疑問だったんですがぁ。 @オールU
・↑↑アナタ、もしかしてクコさんでは? じめんタイプジムリーダーの。 @オールU
・え?
・は?
・ん?
・ぬわ?!
・……そんなひとはしらない。
・だからきのせい
・いいな?
ア、ハイ(
・おまえのようなかんのいいやつはきらいだ
ラストの台詞はこれと迷ったけど、まあこのネタは今度配信中にどこかで使うとしてクコのキャラ的にはこっちかな?
カレー教教祖=ワイルドエリアでカレーを布教してる通称カレー卿
ホップ☆スター=アニキのようなスターになりたかった人
オールU=オール(全)だけどポケモン世界に漢字はないので転生者にしか通じないワードチョイス
Noname=ポケモン世界にはひらがなもカタカナも漢字も無いけどなんかひらがなで喋ってるなって何故か分かるどこかのじめんタイプロリ妹、でもあくまでノーネームだから、名無しだからな。クとかコとかいう名前のどこかのジムリーダーとは無縁だから、イイネ?
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