新版:とある狩人の指揮官生活 (ダンちゃん1号)
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序章 海と少女と狩人
【交差】:交わる前の前日譚


異なる世界が交わるとき、新たな物語が幕を開ける。

 

「白銀の英雄」

 

そう呼ばれる男によって青き航路に新たな始まりの風が吹き抜ける。

 

 

 

 

古き風が吹く街、ドンドルマ。

そのドンドルマを治める者たちが住まう大老殿に大きな声が響き渡った。

 

「孤島エリア10が霧に包まれている!?」

「うむ。」

 

驚愕に満ちた青年の問に重々しく佇む老人が答える。

 

「我々ハンターズギルドはこの異常な事態を鑑み、()()()()()()を派遣することにした。そこで"白銀の英雄"たるオヌシに白羽の矢がたったのだ。」

「わかりました。大長老様。」

 

青年は大長老の頼みに即答。

 

「…そうか。調査員達が幾人も行方知らずとなっておる。…覚悟はできておる、ということか。」

「はい。…ですが、一つだけ。もし、私が帰れなければ、その時はまだ幼い妹――アレナを頼んでも…」

「任せるがよい。」

「ありがとうございます。大長老様。」

 

青年は恭しく一礼すると背中を向けた。

 

「頼んだぞ、ギルドナイト、ユートよ。」

 

青年は振り向くことなく大老殿から出て行った。

 

 

「じゃあ、ユート。今度の仕事は例の【孤島】の異常の調査かい?」

「まぁ、ね。僕のやることは異常の原因を突き止めること。それ以上でもそれ以下でもないさ。」

 

青年―――ユートはアリーナで同僚のハンターと酒を酌み交わしていた。

同僚のハンターもまたギルドナイトである。

ハンターとしては同期だがギルドナイトとしてはユートの方がほんの数か月だけ長かった。

 

「それにしてもあの"白銀の英雄"がこんな優男だなんて誰が信じるんだろうな。」

「…ああ、まあ、ね。」

 

同僚のハンターはある程度酒が入るといつもこの話をする。

 

「女に見間違うような美丈夫だもんな。オマエ。髪型も相まってとても女らしく見えるもんな。しかもそんな顔して希少種ばっか遭遇する運のよさよ。羨ましいったらありゃしないぜ。」

「まったく君は僕の事をなんだと思ってるんだ!?」

「男も女も関係なく誑かす魔性の青年?」

「よし、殴ろう」

 

同僚のハンターはいつも女性にもてまくるユートに嫉妬しているのだ。

―――確かに美しい金色の髪を後ろで結んでポニーテールにしていて、その上さらに女性のような美しい顔立ちをしているのだ。それこそ彼が男性用の装備を着ていてようやく性別が判別できるようなレベルの美青年がもてないわけがない。

まあ、私服姿のユートに見ほれる男がチラホラいるので同僚のハンターの言っていることは概ね正しいのだが。

 

「…もうあれから二年か。"白銀の英雄"が生まれてから。」

「そう、だね。あの【炎王龍】と【炎妃龍】の同時襲来からもう二年…。」

 

二年前に二体の古龍の襲撃があった。

ドンドルマは守られたがそれでも多くの勇気ある狩人達が散っていった。

その中には二人とパーティーを組んだ者たちも多かった。

 

そんな話をしていると、途端に同僚のハンターの目つきが真剣になる。

 

「必ず、生きて戻れよ。」

「もちろん」

 

あの時の()()()()()()()()()は互いに生きて再会することを誓い合う。

 

「じゃあ、行ってくる。」

「おう」

 

そういうとユートは席を離れていった。

 

 

 

 

「ふふふ…そっちはどうかしら?テスター。」

「勿論、完璧よ。新たな世界はどんなところなの?オブザーバー。」

「強力な生物―――モンスターと共生している世界よ。さて、そろそろ来てくれるといいんだけど…」

 

誰も居ないはずの孤島、エリア10に声が響く。

おおいなる悪意が今、ユート達に牙を向く。

 

「さあ、楽しませて頂戴?狩人さん。」

 

二つの世界は、今、交わる。



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【襲撃】:漂着の狩人

はい、超展開です。


孤島エリア、10。

霧に包まれたこのエリアは本来、海岸である。

寄せては返す波に砂浜。ここが狩場で無かったのならば観光地として名を馳せていたであろう場所。

しかしそこに、今、命の気配を感じる事が出来なかった。

 

「酷い血の匂いだ…」

 

辺りに立ち込める肉が腐った臭い。

それはここに生きているはずの命が根刮ぎ殺されているということ。

それは恐暴竜でも金獅子でも──古龍でもない。

もはや()()()()()()()()()()何かの仕業だ。命を命と思わないような存在がここに居る。

 

「…こんなの…許せない!」

 

ギルドナイトとしてではなく、純粋に、一人の人間として許せない。

無必要な殺生を行うその存在をユートは許さないだろう。

 

「見つけて、報いを受けさせる…!」

 

確かに霧はエリア10に立ち込めていた。

しかし、奥にエリアがあるのは事実。ここに居ない以上、もっと奥に進む必要がある。

 

だが。

それでもユートはこのエリアでやらなくてはならない事がある。

 

ここで命を落とした調査員の亡骸の埋葬だ。

エリアに入った途端に見つけてしまったのだ。

砲撃のような何かでグチャグチャにされてしまった亡骸を。

 

「助けられず…本当に申し訳ない。」

 

ユートは簡単に埋葬を済ませると合掌。哀悼の念を表した。

ここは敵地。それでも犠牲になった者たちに手を合わせないという選択肢は始めからユートにはなかった。

 

「…行くか。」

 

前を見据えてエリア11へと足を向けた。

その時だった。

 

「来たねぇ…()()()()()()ォ!そこに転がっているのよりかは楽しませてくれるよねぇ!?」

 

意識外からの一撃。

急に降って湧いたかのような気配。

そして明らかな殺気。

本来、極悪人にしか抜かない刃をユートに抜かせるには十分な邪悪だった。

未知の樹海と呼ばれる未開拓地域から出土した太刀―――天上天下無双刀を抜刀。

その一撃は避けることは叶わなかったがギルドナイトに支給される最上級の装備の前には大した痛手とはならなかった。

むしろ自分から反撃しに来てくれたといっても過言ではない。

 

「悪いけれど…ここで消えてもらうよ…!モンスターの虐殺、調査員の殺害。すでに数え役満だ…!」

 

本来ならばギルドナイトはギルドから指示された人間しか斬ることは許されない。

だが。

今、目の前の存在はここで斃さなくてはならない。

ユートが自分から規則を破らざるを得ないほどの邪悪。

霧が深くて視認はできない。

 

だが、そこにいる。

ならば、斬れる。

 

ユートは天上天下無双刀を握りしめ、謎の存在へと向かって行った。

 

 

 

その後、ユートは行方不明になる。

 

 

 

 

最近、枢機卿とジャン・バールの仲が険悪だ。

ジャン・バールは枢機卿に対して深いコンプレックスを抱いている。

枢機卿はどうやれば妹であるジャン・バールと仲を戻せるかを模索している。

 

「はぁ…どうしたらいいのかしらねぇ…」

 

ギスギスしていく関係にダンケルクはため息を吐くことしかできなかった。

ダンケルク自身、いままで仲間だった者たちと殺しあうなんてことはまっぴらごめんだ。

それでも、このままだと同じ陣営と殺しあうことになってしまう。

それは、ここにいる仲間にとっても辛いことだ。

 

そんな事を考えながら砂浜に出た。

そのとき、彼女が"彼"を見つけたのはたまたまだった。

何か帽子が落ちているな位の感覚だった。

また、漂着物か。

そう思って拾おうとして、近づいた。

だから、気づけたのだ。

 

「えっ…ひ、人!?」

 

その帽子はいまここで倒れている

意識はないがまだ息はある。

こうしてはいられない。

 

まだ息がある。

なら、救えるはずだ。

 

ダンケルクは彼を急いで医務室に担ぎ込んだ。

 

 

 

 




さて、アズレン世界に入ったユート君の装備をここで紹介しましょう。

防具はギルドナイトXシリーズ相当のものです。

武具は武器倍率310、会心0%の天上天下無双刀。


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【邂逅】:始まりの風

はい。
三話目です。



ジャン・バールは姉であるリシュリューにコンプレックスを抱いている。

リシュリューは妹であるジャン・バールを大切に思っている。

 

そして、二人は決別。

ジャン・バールはヴィシアを率い、リシュリューはアイリスを率いる。

そして、国は分裂する。

これがこの世界におけるこの姉妹の正史だ。

本来ならば今日、ジャン・バールはリシュリューに自分の意思を伝えに行く――――はずだった。

 

「海岸で人が倒れてた…だと?」

「はい…見たこともないものを携えていましたけど…」

 

ル・マルスの報告にジャン・バールは頭を抱えたくなった。

 

「…リシュリューにはもう伝えたのか?」

「…はい。リシュリューさんの方にはルピニャートが報告しに行きましたけど…。」

 

ジャン・バールはより深く頭を抱えた。

恐らくあの姉の事だ。大した事情を聴かずに受け入れてしまうのだろう。

 

「誰が最初に発見したか聞いたか?」

「あ、…ダンケルクさんです。」

 

そうか、とジャン・バールはそっけなく返す。

だがダンケルクが第一発見者なのは僥倖だ。おそらく彼女なら、敵対する意思がある者なら容赦無く返送なりなんなりするだろう。

…善人の場合、話は別だろうが。

 

 

 

 

ダンケルクは自分が救助した青年を問いただしていた。

急いでた時には気づかなかったが背中に何やら物騒な太刀を背負っていたからだ。

 

すでに聞き出せたことは

まず青年の名は「ユート」ということ。

次に普段発生しない濃霧が発生したことの調査を行ったということ。

この二つだ。

ダンケルクにとっては初めて聞く話ばかりだったが、それよりもダンケルクには聞きたいことがあった。

 

「―――今、あなたの得物はこっちで預かってるわ。―――貴方はあれでなにをしようとしたの?」

 

彼の得物で、何をしようとしていたかだ。

 

「その話は―――本来は守秘義務があるからなぁ…。でも助けてくれた恩人に嘘はつきたくないし…」

「やっぱりやましいことなのね?」

「そうじゃない。ただ、―――僕の仕事の中には極悪人を始末する―――あ。」

「…それ、守秘義務のある話じゃないの?」

 

うっかり守秘義務の内容を喋ってしまうあたり警戒心がないというか信頼されているというか。

ダンケルクは今まで目の前の男が詐欺にあっていないことが奇跡に近いと感じた。

 

「ま、まあ、君は僕を助けてくれたんだろ?じゃあこっちも害を為す気は無いよ。恩を仇で返すほど腐っちゃいないさ。」

「それって害を与えたら手を出すってこと?」

 

結局の所はそこなのだ。

結局、彼の持つ力が自分達に牙を剥くかどうかが重要なのだ。

 

「まあ、死にかけるとか、じゃなければ手を出さないさ。基本的には、この武器は人を脅かす存在に振るうべきものだからなぁ…」

「……そう。少なくとも害するつもりは無いってことね。」

 

よかった、と胸を撫で下ろすダンケルク。

その姿を見て心底不思議そうに首をかしげるユート。

 

「貴方ねぇ…なんというか、物凄く正直なのね」

「まぁ、いろいろ裏のある仕事、してるからねぇ…。せめて、誠実に生きていこうって決めたんだ。」

「誠実すぎて笑うレベルだけれど?」

 

自然と会話が弾む。

ユートと会話をすることそのものがダンケルクにとって貴重な体験だった。

 

「なにやってんだ、お前ら…」

 

その後、すっかり打ち解けたダンケルクとユートを見たジャン・バールは微かに胃に痛みを覚えたという。

 

 

「つまり、なんだ。オレ達でいうインクイズション(異端審問官)みたいなモノが流れ着いたってことか!?」

「そう、なりますね。一応は護教騎士団とにたような扱いになるのでしょうか…?」

 

その後何とか立て直したジャン・バールと遅れてやってきたリシュリュー、それにポンコツ軽巡ジャンヌ・ダルク、そしてダンケルクとユートの五人で話し合うことになった。

そしてダンケルクの話したユートの概要と本人にこちらを害する気がないという事実。

そしてユートが「異世界から来た」という証拠のために差し出したエルトライト鉱石と呼ばれる鉱石。

以上の事実を以てユートは正式に別世界から来た存在とされた。

そして、この四人に共有しておきたい守秘義務としてギルドナイトの事を語った。

その反応がこれである。

色々と酷い言われようだが異世界のそれも割と重要な役職に就いている人間だ。

さらに追い打ちのように"孤島"と呼ばれる場所からここに流れ着いたのか覚えていないときた。

 

「さて、貴方の処遇を決めなくてはなりませんね。ユートさん。」

「…まぁ、悪人じゃないのなら受け入れることに文句はない。ただ、コイツが問題行動を起こさないとは限らない。さて、どうする?監視をつけるか?」

 

ジャン・バールの言っていることは概ね正しい。

向こうの世界では常識でもこっちの世界では問題になる行動だってあるだろう。

それを教えるために監視役という名の教育係が必要だった。

 

「…そうですね。なら、監視役はこちらで決めてしまいましょうか」

 

リシュリューは至って普通の結論というような対応を取った。

何かしらの危機の訪れを感じたユートはここで切り札を切る。

ユートはその女性のように美しい顔をダンケルクの方に向けた。

言ってしまえばこの男、媚びたのである。

知らない女性に監視されるよりかは知り合った女性―――ダンケルクに監視してもらえる方がありがたい。

 

「―――ッ」

 

そして、ダンケルクは不覚にもときめいてしまった。

つまりは―――

 

「その監視役は私がやるわ。―――ちょっとでも知り合っている私の方が色々と彼も楽だと思うわ。」

 

監視役を引き受けた。

 

(成し遂げたぜ)

 

内心ガッツポーズを取るがそれを表には出さない。

 

こうして、少女達の生活に新たな風が吹き込んだ。

それは、新たな始まりを告げる、優しく、力強い風だった。

そして彼女達の進路は大きくずれることになる。

 

 

 

 

 




アイリス・ヴィシアに合流!
さてこの先彼はどうなることやら。


まあ、アイリス・ヴィシアを選んだのは割とあっさり受け入れてくれそうっていうのと光と影のアイリスで非業の末路を迎えたヴィシア勢を救済して神穹を衝く聖歌を未然に防ぐためですね。要するにアイリス・ヴィシア勢の救済です。

まぁ好きな陣営ですからね…やべーやついないし


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【日常】狩人の日課

遅れました。
申し訳ありません。
これも全て天鱗を出さないシャガルマガラが悪いんです。


アイリスとヴィシア―――――二つの陣営に分かれる日に流れ込んだはじまりの風。

それは、いろいろな意味でたくさんのモノを運んだ。

例えば―――

 

 

「…9999ッ…!10000ッ!」

 

朝から美丈夫が一万回の素振りをしている光景とか、である。

朝早くにベッドから起きたと思ったら、これだ。

 

「…何やってるのよ。」

「見ての通り素振りさ。これでも体は鍛えないと喰っていけない商売していいるからね。」

 

監視役として同じ空間で生活するようになって色々とユートには驚かせられた。

インナー一丁で過ごすことも、与えられた部屋で武器の手入れをするのも。

全てがダンケルクにとっての初めてだった。

しかも、ギルドナイトの仕事について簡単にだが教えてくれた。

結論から言えばユート本人は超が三つついても足りないような聖人だった。

周りの事を第一に考え、狩りでもなるべく必要以上に命を奪わない。

まさに自然と人間を調和させる存在だった。

 

「で、毎日やるの?それ。」

「うん。」

 

つまりこのむさ苦しい時間を何度も経験しなくてはならない。

そもそもの話、ダンケルクはあんな重い物を一万回素振りするなんて正気の沙汰ではない、と思っていた。

 

狩人は体が資本────

 

これを文字通りに実践するユートだからこそ自然との調和を行えるのだろう。

 

「はあ…こんなことになるなら飛竜刀でも持ってくれば良かったな。」

 

とユートはぼやく。

 

少なくとも素人目でもわかる相当の業物である天上天下無双刀を持ってきていても彼は飛竜刀というもののほうが良いといった。それが気になってつい飛竜刀について聞いてしまった。

 

「ねえ、その飛竜刀ってどんなものなの?」

「んー?えっと…火を扱う竜…火竜リオレウスってのが居るんだけど。」

「…ん?」

「その火竜の素材をふんだんに使った飛竜刀【(あか)】っていう武器から派生した一連の武器の事。いま僕が持っているのは飛竜刀【花ノ宴】と飛竜刀【椿】かな。【花ノ宴】は火竜夫婦の亜種素材から。そして【椿】は銀火竜―――リオレウス希少種から採取した最高の素材で作り上げた、比類する者のない逸品さ。…自分で言うのもあれだけどね。」

 

一応情報として、最低限の彼の持つ情報を伝えられていたダンケルク達。

亜種や希少種がどれだけ強大な存在かを資料となった彼の手帳(ハンターノート)の記述が物語っていた。

 

その書曰く

「リオレウス希少種、またの名を銀火竜。白銀の太陽とも呼ばれ、相対するもの全てを焼き尽くす」

と。

 

「まあ、この項は言ってみれば初心者向けのモンスター講座用の原文。ギルドを通してユクモ村の居付きのハンターに依頼されたんだ。"あいつ等がまともな文章を書けるとは思えないから協力してくれ"って。」

「へえ…。じゃあ、これは誇張しているわけ?」

「いいや?油断すると丸焦げになるのは事実だよ。…だから、なんだって話だけどね。」

「やっぱり…。もう、貴方人間辞めてるんじゃない?」

「…まさか。火事場のバカ力をいつも発揮しているだけさ。」

 

どうやら、ハンター…というか目の前のこの男は人間卒業間近らしい。

まったく、とんでもない拾い物をしたものだと笑う。

 

「さてと、次はアイテムの整理だ。…見ていくかい?色々と紹介しときたいし、いざとなったら君達も使えるかもしれないし。」

「そうさせてもらおうかしらね。」

 

この後、秘薬や強走薬の効果を聞いて改めてとんでもない世界と繋がったものだと頭を抱えた。

 

 

そして同じ説明をしたところ、リシュリューとジャン・バールが頭を抱えたがそれはまた別の話である。




日常回の皮を被ったカオス回です。
ユート君は孤島エリア10で襲われて以降の記憶がほとんどありません。
その前の記憶とかははっきりしてます。


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【狩猟開始】:赤き飛竜、襲来

ユートがアイリス・ヴィシアに保護されてから1ヶ月。何にもない平和な日々が続いていた。

普段は体を鈍らせない様に重戦闘訓練を行っている

そんな中───

 

「暇だなぁ…」

「……貴方、戦場と無縁だものね」

 

暇を弄ぶ男が一人。

ユートである。KAN-SENでも何でもないこの世界では一般人に等しいユートは、文字通りの意味ですることがない。

監視役のダンケルクはリシュリューとジャン・バールの下で何かしらをしており不在。

いつもならダンケルクにお菓子をたかりに来る子供達も委託で不在。

いつもなら組手の相手をしてくれる護教騎士団達もリシュリュー達の元に行っているのでほとんどが不在。

唯一不在じゃないのは護教騎士団所属のアルジェリーだ。

誰かしらが業務を行ったほうが良いという判断をアルジェリーが下したからだった。

もちろん、業務を行っているため簡単な話にしか答えてくれないアルジェリー。

監視役のダンケルクが居ないために天上天下無双刀の素振りができず、ただ、フカフカのソファに体を預けているしかない。

肉を焼いて食べようにも室内に煙が籠るためにできない。

結果――――

 

「アプトノス…スクアギル…ルコディオラ…ラヴィエンテ…テオ・テスカトル…だぁーッ!続かない~!」

 

一人モンスター名しりとりを始めていた。

メゼポルタという地域の付近に生息しているモンスター名をあげても五回ほどしか続かない。

 

「…なにやってんだか」

 

急に虚無感に襲われて、頭を抱えたくなった。

ユートが暇という以外には余りにもなんの変哲もない日常。

 

 

 

しかし、事態は急変する。

 

『ゴァアァァァアアァァッ!』

 

モンスターの咆哮が、海を震わせた。

 

 

 

「――――ッ!?」

 

会議中、唐突にそれは、母港中に響き渡った。

数多の戦いを経験した彼女たちに()()()()()()()()()()を感じさせる咆哮が襲い掛かる。

 

「なんですか…!?これは、一体…!」

 

その瞬間余りの恐ろしさに反射的に耳を塞いでしまった。

 

「なにが―――」

 

ジャン・バールはいち早くその耳を塞いだ状態から復帰。状況の確認を急ぐ。

しかし、状況は思わぬ方へと転がっていく。

 

『ジャン・バール!彼が一人で()()に立ち向かっていったわ!』

 

アルジェリーがユートが一人で飛び出して行ったというのだ。しかも得物(天上天下無双刀)を持って。

 

通信と同時に外に設置してあるカメラを通じた映像が入ってきた。

そこに居たのは。

赤き、空の王者としか形容しがたい威厳を持った生物と、勇猛果敢に立ち向かう狩人の姿だった。

 

 

咆哮を聞いた途端、ユートは走り出していた。

気づけば砂浜で太刀を構え、火竜を迎え撃っていたのだ。

そんな中―――

ユートは自分の存在の大きさにようやく気が付いた。

いま、この場に目の前の火竜に対抗できる者は自分しかいない。

だから、やらなければならない。

 

「うおぉぉおぉぉおおおぉぉぉ!」

 

いつものユートとは比べ物にならない気迫と共に振り下ろされた一撃は火竜の頭部を捉えた。

そのまま刃先を甲殻と甲殻の間にねじ込むように突き、そして振り上げる。

そして振り上げた刃を再び叩きつける。

そして、一度距離を取るために切り払いながら後退した。

 

「ふうっ…」

 

一息入れるとまた、前に踏み出し、斬りつけ、突き、切り上げる。

一撃一撃の全てに全身全霊をかける。

そうすることによって刀身に気を溜めるのだ。

それが"練気"―――太刀使いがまず会得する技である。

しかしどれだけ練気ができたか。それは感覚でしかない。

 

「後一撃…ッ!」

 

だが、太刀の扱いに慣れた者ならばその感覚が絶対の指標なのだ。

突進してくる火竜に巻き込まれないように切り払いながら横にステップ。

一撃を加えると同時に火竜の背後を取る形になった。

 

「今なら…」

 

勢いを殺さぬように大きく前へと踏み出しながら一閃。

その一撃は火竜の足に直撃する。そのまま、練気を解放。手元で小さく左右に払ってから大きく振りかぶって叩きつける。

そして、太刀使いの大技である"気刃大回転切り"を敢行。

 

「でりゃああぁぁああぁぁぁ!」

 

気を解放させた一撃は火竜の足を捉えた。

片足を集中的に攻撃された結果火竜はバランスを崩し転倒。

一方、ユートの天下無双刀の刀身は白く輝いていた。

気刃大回転切りは刃に込めた気を昇華させるのだ。

そして、昇華し、刃の輝きとなった気は武器の威力を上昇させる。最近、ドンドルマに普及してきた技術だ。もともとはロックラックやタンジアの港で使われていた技なのだが。

しかし、火竜もただでやられる訳ではない。

 

『ゴァアァァァアアァァ!』

 

一度声を上げるとブレスを放ち勢いのままにバックジャンプから滞空する。

 

「ぐッ…」

 

火竜のブレス―――火球を諸に喰らってしまいゴム毬のように吹き飛ぶユート。

建物の壁に衝突し、体中が痛み出す。

さらに防具に火が着火。

暑さでじりじりと体力が削られていく。

 

「ッくそ!」

 

なんとか、転がって鎮火に成功させたユート。

そのままポーチに突っ込んである回復薬グレートを一本飲み干した。

 

「…やっぱ鈍ってるなぁ…」

 

ひと月も狩りをしていなければ動きは鈍る。それを当たり前のように受け入れて―――

 

「…さてと、やりますか。」

 

改めてユートは天上天下無双刀を構えた。

 

これより、始まるのは命の奪い合い。

勝つのは果たして――――。

 

 

 




なんかあれなんでリオレウス突っ込んだよ!


ユートは無事に母港を守り切れるかな!?


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【抜錨】:いつも通りで

火竜の襲撃からおよそ一時間が経過。

その間もたった一人でユートは火竜相手に大立ち回りを繰り広げる。

一撃一撃を確実に弱点にねじ込み、なるべくダンケルク達の居る建造物に気を引かせない立ち回りをしていた。

攻めきれない。

つまり―――

 

「せりゃああ!」

 

ユートと火竜は一進一退の攻防を繰り広げていた。

しかし、火竜に比べてユートは人間だ。

大自然の猛威の前に人間の力など矮小に等しい。

人がどれほど力を付けようと、思わぬ事態にひっくり返されることもある。

例えば―――――

 

「何とか気を引きませんと…!」

 

善意からの行動が裏目に出た場合とかである。

 

何故か海に浮いているル・トリオンファンが放った一撃が火竜を直撃。

 

「今です!ユートさん!撤退を―――!」

「逃げろッ!今すぐその場を全力で離れろぉぉおおぉ!」

「えッ――――」

 

今の一撃で火竜の気は完全に、トリオンファンに移った。

そして、トリオンファンは次の言葉を発することなく―――

 

『ガァアァァアア!』

「あうッ!?」

 

火竜の爪に傷つけられた。

 

(マズイ―――!)

 

火竜の爪には毒が仕込まれている。毒で体力を奪い、弱ったところを捕食するのだ。

そしてその毒はかなり強力な物だ。

やはりというか、毒爪を喰らったトリオンファンは顔色がどんどん悪くなる。

 

「そこにいる子たちも!ぼさっとするな!トリオンファンを連れて撤退を!」

 

トリオンファンとは2,3回話お茶した程度の仲だ。

それでも知人を守ることを最優先としユートの体を突き動かす。

 

「うぐっ…!」

 

トリオンファン目掛けて放たれた火球はユートがその身を盾にして防ぐ。

至近距離で放たれたそれはほぼすべてのエネルギーを爆発させて、ユートの体に深い傷を残す。

しかし、ここでめげないのが狩人だ。

海水で延焼した炎を鎮火すると―――

 

「ちょっと目を瞑ってて!」

 

ユートはこぶし大の何かを火竜の顔面に投げつける。

それは閃光をまき散らし、辺り一面を白く染めた。

 

「うぅ…」

「しっかり、気を持って…!取り敢えずは…!」

 

トリオンファンを曳航してくれたル・マランに感謝しつつついでとばかりに二つの瓶を投げ渡した。

 

「これは…」

「回復薬と解毒薬。効果は保証するよ。ギルドのお墨付きだ。」

「…ありがとうございます。貴方はどうするつもりですか?」

「…簡単だよ。リオレウス(アイツ)を狩る。」

「し…正気ですか?」

 

思わず正気を疑ってしまうル・マラン。

しかし、目の前の男はこう言い放ったのだ。

 

「任せろ」

 

と。

いつもの優しげで儚げな雰囲気は何処かへと消え去り、残っていたのは闘争本能―――狩猟本能と、底なしの闘志だけだった。

 

「さあ、始めようか…!」

 

人は守る者を守り切って初めて英雄になれる。

だから、ここにいる誰かが死ぬのであれば、"白銀の英雄"の名を捨てる覚悟があった。

 

「行くぞ…!」

 

その日、ユートは何年か振りに吼えた。

そんなユートを口から火を漏らした火竜が見つめていた。

 

 

 

ダンケルクは明らかに動きに精彩を欠いたユートを見て、飛び出していた。

何故かはわからない。監視役とその対象―――自分たちの関係はたったそれだけ。

なのにどうして出てしまったのだろうか。

明らかにあの動きの鈍さはトリオンファンを庇ったことが原因だ。

そのせいで動きがなまったのならば誰かがサポートしなくてはならない。

しかし、ジャン・バールもリシュリューも動きを決めかねているし、軽巡のジャンヌ・ダルクやラ・ガリソニエールは明らかに足手纏いになると思っていて動こうともしない。

 

「…ああもう!」

 

だから、自分が行くしかないのだ。

それなりに火力が出て、尚且つ彼に合わせられるかもしれない自分が。

 

 

 

「…チィッ!」

 

あそこで啖呵を切ったはいいが体が思うように動かない。

本来、この程度の不調ならば回復薬一本でどうとでもなる。

しかし、一対一では回復する隙もない。

こんな時にあと一人居ればなんて思ってしまう。

だが、こんなタイミングで合わせられる人間など居るのだろうか?

 

ダンケルクならあるいは―――

 

「いや、ダメだ…!」

 

一人でやらなくては。彼女たちを巻き込むわけにはいかない。

そうして挫けかけた心に喝を入れると、再び天上天下無双刀を構える。

ダメージを喰らっている以上は深く踏み込めない。

なんとか、相手のバランスを崩してその隙に回復するのがベストだろう。

余りにも荒唐無稽な、だがそれしかない戦術を執るしかないこの状況に歯噛みをした。

だが、()()()()()()()()

 

「全く…!クエストレベル爆上がりじゃないかな…!?」

 

ユートはぼやきながらも火竜に立ち向かう。

狩猟失敗条件は至って簡単だ。

――――何かしらの被害が出ること。

 

「さて、第二ラウンドと行こうか!」

 

 

 

ダンケルクはユートが叫んでいたことを聞いていなかったわけではない。

それでも、「死ぬ気」にしかダンケルクには見えなかった。

彼はかれこれ二時間近くあのプレッシャーと相対し続けている。

精神的な疲労もあるだろう。

 

「こっちよ!化け物!」

 

故に戦場に出た彼女が一番初めにやったことは挑発だった。

少しでも気を引いてユートが回復するための時間を稼がなくてはならない。

そもそもの話、あちらとこちらの世界での狩猟では色々と相違点が多い。

きっと、本来、彼の言う「狩り」は大自然の中で行われるのだろう。

あんなモンスターが頻繁に人里にやってきたのならばそもそもが人類は滅亡しているだろうからだ。

そして、どんな環境であれ、大自然ならば隠れて回復する場所くらいならばあるはずだ。

しかし、ここはどうだ。

後ろには化け物の攻撃一発で倒壊しそうな建物がチラホラあるし、なんなら、自分達KAN-SENが艤装を付けずにいるかもしれない。

だから、常に、自分に気を引かせておく必要があるのだ。

 

「全く…無茶しすぎなのよ…!」

 

後で正座させる事を誓いながら水面に跳躍した。

 

「ダンケルク…抜錨するわ!」

 

跳躍して着水するまでに淡い青色の立方体―――メンタルキューブが艤装を形作る。

そして、着水から滑るように水面を滑走。

反転して火竜を睨みつけた。

 

「すまない…敵に手加減するほど甘くはないわよ…!」

 

ダンケルクはユートに対して初めて兵器(KAN-SEN)としての姿を見せた。

 

 

ユートはダンケルクの変身としか呼べないものを見て自分の目を疑っていた。

彼女を包むように砲塔が展開していく様を見て美しいと思った。

 

「って!そんなこと考えている場合じゃない!」

 

ダンケルクに注意が行かないようになんとか立ち回らねば―――。

そんな事を思っていたその時だった。

 

―――ガシャン!

「…ん?」

 

なんと、ダンケルクが火竜に対してその砲塔を向けたではないか。

 

「…まさか!」

 

物凄く嫌な予感がしたユートは全力でその場を離脱した。

それでも、間に合わないと踏んだユートは全力で跳躍した。

その数瞬後――――

 

爆風と爆音がユートの体を揺らした。

 

「…へ?」

 

その威力は絶大で背中、頭部の甲殻だったり、翼が一瞬でボロボロになっていた。

いくら攻撃していたとはいえ、このざまである。

 

「…なるほどね…」

 

彼女のおかげで何とか体制を立て直すことができた。

 

「まだまだ…だね。僕も。」

 

そう思いながら天上天下無双刀を振り下ろす。

その一撃は火竜の命の残滓を簡単に消し飛ばした。

 

「剥ぎ取り、剥ぎ取りっと…」

 

討伐したモンスターからは素材がはぎ取れる。

その回数はモンスターのサイズにもよるが、火竜クラスのモンスターなら三回と取り決められていた。

たまに、剥ぎ取りが上手くなり、もう一回はぎ取れることもあるとかないとか。

しかし、今回、ユートが火竜の遺体から素材をはぎ取ることは無かった。

何故ならば――――

 

 

火竜が、防具へとその姿を変えたからである。

 

「…どう、なっている?」

 

海に浮く少女達に防具に変わった火竜の死体。

どうやら、この世界の闇は思ったよりも深いものらしい。

 

「厄介な所に来ちゃったなぁ…」

 

ユートのつぶやきは波間に消えていくのであった。

 




火竜戦の最後雑だったかなぁ…

取り敢えずこれで序章的な何かは終了です。
次回から本格的にユートがアズレン世界に介入していきます。


まあ、すでに一つ改変してるんですけどね!


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【宣誓】:仲間になります

「…で、君たちは一体なんなんだ!?海に浮くって…そして、あの機械は…!?」

「ああもう、一度に質問しないで!ちゃんと答えるから!」

 

ダンケルクは案の定、ユートに詰め寄られていた。

当たり前だ。

あんなもの(兵器としての姿)を見せられたら誰だって問い詰めたくなる。

 

「私たちはね…兵器なのよ。海から現れる怪物――――セイレーンと戦うための。私達は"人"の体と心を持っている兵器なのよ。もちろん私達の事をひっくるめて呼ぶ名前もあるの。それが、"KAN-SEN"。とある大戦を戦った"船"の記憶を持った、兵器なのよ。」

 

自分で言ってて悲しくなってくる。

争い事が嫌いなのに、争うことでしか解決できない自分が嫌になる。

 

「…今ね、この世界は人間同士で争っているのよ。実のところいうと、この国も分裂直前だったのよね。…貴方のお陰で踏みとどまっているけれど。」

「…は?」

 

「やっぱり、そういう反応するわよね」と、ダンケルクは苦笑した。

 

「…とりあえず、話を戻すわ。セイレーンの侵攻をなんとか抑えた後、人間は二つの勢力に分かれて争いだしたの。

純粋な人間の技術だけでセイレーンを滅ぼそうとする、ロイヤル、ユニオンを中心とした組織『アズールレーン』。

もう一つが毒を以て毒を制すを地で行く―――セイレーンの技術を積極的に取り入れる事でセイレーンに抗おうとする組織『レッドアクシズ』。こっちの中心となっている国家は鉄血と重桜ね。」

 

ダンケルクはこの世界の情勢をかいつまんで説明した。

もしかしたら、この世界で何らかの騒乱にユートが巻き込まれるかもしれない。

 

「…私はね、正直に言うと、レッドアクシズの方が正しいって思ってるの。世の中綺麗事だけじゃないって示してるのは他ならない私達だしね。」

「…何がいいたいんだ?まさか、レッドアクシズとやらへの勧誘かい?」

「まさか。どうせあなたの事だから、両方ともおかしいなんて思っているでしょうしね。」

「わかっちゃう?」

 

ユートの目は呆れ果てたものに変わっていた。

 

「人類同士でやりあうなんて、それこそ愚の骨頂でしょ。」

 

ユートから言わせれば愚の骨頂。

正直に言って、ダンケルクもそう思っている。

セイレーンという強大にして、人類共通の敵がいるのに、何故人間同士で争うのかと。

その争いによって、昨日まで親しくしていた者たちと今日は殺しあわない、なんて保証はどこにもない。

そして、それがどれほど辛く苦しく、心を締め付けるモノなのかを上層部は知っているのだろうか。

 

「…安心してよ。例え世界の全てがここの敵になっても、僕はここを守るさ。―――いざとなったら、敵を斬る覚悟は、ある。」

 

つまり、終わりのない争いに身を投じる覚悟がある、と。

目の前の男はそう言ったのだ。

 

「命を救ってもらったからね。………本当は余りこういうことはよくないんだけどね。」

 

そう言って苦笑するユート。

確かに、余りいいとは言えないのだろう。

 

それでもダンケルクにとっては嬉しい誤算だった。

争い事に彼を引き摺り込むのは気が引ける。

それでも、今は本当にに少しでも多くの戦力が欲しいのだ。

 

「……よろしく、ユート。」

「……うん。よろしく。ダンケルク。」

 

こうしてアイリス・ヴィシアに力を貸すことになったユート。

ここから、新たな物語が始まる。




前回で終わりと言ったな。

あれは嘘だ。

その後を書かなきゃいけないのに終わりはないでしょーよ!


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【胃痛】:上の人は大変である

「はぁ!?あんなのがうようよしてるってのか!?」

「…うん。」

 

火竜を討伐した、ユートに待っていたのは、説教でもなんでもなく、あきれたような視線を向けるリシュリューとジャン・バールだった。

 

「おいおい…。どうする?オマエが本格的にこっちに力を貸してくれるってのいいんだが…。」

「……やはり、貴方に聞くしかありませんか」

 

しかしあきれた視線を向けているのはユートに対してだけではない。

むしろ、そこにあるものに対しての呆れの感情が強かった。

 

「貴方の世界に生きる生物って、討伐すると防具に───」

「ファンタジーやメルヘンじゃないんだから。」

「いや、ワイバーンが存在している時点で相当ファンタジーやメルヘンだと思うのだけど…」

 

そう。

討伐した火竜が変化した防具だ。

明らかにユートのサイズに調整されているそれは、当人達にとっても謎の多い存在だった。

ユートが検分した限りでは完全に"レウスX"と呼ばれる最高級の防具そのものだった。

 

「おかしい。普通は素材を集めて工房で鍛えて上げる事で防具武具も生産される。…だから、こんな風に防具がポンと出てくるなんてあり得ない。…多分、こっちで何かしらの細工を施されたんだと思う。」

「細工、ですか?」

「うん。細工。…ついさっきダンケルクに教えて貰ったこの世界の敵───セイレーンだっけか。多分、ソイツらだろうね。」

「……おい、今さらっととんでもねぇ事言わなかったか?」

 

一旦、話を切ってダンケルクにジト目を向けるジャン・バール。

ダンケルクはというと冷や汗を流しながらそっぽを向いていた。

 

「おい。」

「…色々と説明しなきゃいけなかったので、つい───」

「…まぁ、確認取らずに喋ってしまったダンケルクもそうですが、ずっと黙ってた私達も同類でしょう。」

 

自分達が兵器である事を黙っていた時点で、信頼もへったくれもあったもんじゃない。

 

「…次からは相談するようにしろ。それこそ、コイツが戦線に出ないようにするためにな。」

「……」

「おい、なんでまた目を反らした。なんでお前まで目を反らす。ちょっと待て。オレの頭が混乱してきた。一から十までちゃんと説明しろ。」

「……分かったわ。実は────」

 

ダンケルクは、この世界の事、この世界の敵───セイレーンの事、二人についての事、この全てをユートに語った事を白状した。

その上でユートがこの世界に介入する事を決めたことも、全てを話した。

その上で、ユートはここが彼自身にとっての"異世界"という位しか知識が無かった事を白状。

ダンケルクに問い詰め、彼女が全てを話したと証言。

 

「…聞けば聞くほどこっちの方が悪い気がしてくるのはどうしてでしょう…?」

「……なんというか、スマン。」

 

結局の所、巻き込むわけにはいかないと思っていたユートを思いっきり巻き込んでしまったのだ。

しかも、情報を全く与えなかったせいで。

これでダンケルクを攻めるのは少し、利にかなっていない気がする。

 

「ま、まあ、話を戻します。とりあえず、この防具──"レウスX"は少し解析しますね。後、ダンケルクは立場上として説教しますから覚悟の方を。」

「やっぱり、逃げられないわよねぇ…」

 

こうして、解析にかけられた"レウスX"が自分達の"艤装"と同類だった事に、ジャン・バールのストレスが限界を突破。

胃潰瘍を発症し、回復薬グレートの偉大さを思い知る事になったのはまた、別の話である。

 

 

 

 

 




今回は短い。
ちゃんと報連相しないとこうなるっていう教訓


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【結論】:同類

 

火竜襲来から丸二週間。ようやく例の鑑定が終わったと聞き、ユートはリシュリューに元へ向かった

 

「…結論から言います。あの武具は貴方専用の艤装でした。」

「…やっぱりね。」

 

リシュリューから告げられた答えはユートには分かりきっていた事だった。

 

「貴方には二つの道があります。一つは帰還を諦めて、この世界で一生を過ごす事。その場合、こちらで住む場所を用意します。…ただし、監視付きになってしまいますが。」

 

リシュリューは一旦目を伏せる。

これから提案することは彼女にとって、とても納得できないことだろうからだ。

 

「―――もう一つは、指揮官として生活しながら、帰還への道を探ること、です。恐らく貴方は"鏡面海域"と呼ばれるセイレーンの領域からこちらにきたのでしょう。ただし、こちらの場合は―――」

「死ぬ可能性がある。―――っていうことだよね。」

「―――はい。」

 

リシュリューは申し訳なさそうに目を逸らした。

ユートは完全に被害者だ。

それなのに「探索」という建前の下で、わざわざ戦線に送りださねばならない。

それが、どれだけ辛いことか。

それが、どれだけ情けないことか。

それが、どれだけ悔しいことか。

きっと、誰にも分からない。

それでも。

ユートの意思を尊重する。

 

「…もちろん、帰還したい。」

「…いいんですね?」

「ああ。当たり前だよ。でっかいものに挑む。()()()()()()だってあり得るかもしれない。」

 

「死ぬ覚悟」―――本来、それはKAN-SEN(自分達)が背負うべき物だ。

ただの人間にとって、それは背負うこと自体が恐怖なのだから。

それでも一度、その覚悟を持った人間は、強い。

 

「…分かりました。これより、貴方を護教騎士団に配属とします。が、それは"KAN-SEN"としての貴方の立場です。貴方にはこれから―――私達の指揮官になってもらいます。」

「…は?」

 

にっこりとリシュリューは微笑んで、

 

「よろしくお願いしますね?指揮官様」

 

そう、告げた。

 

 

 

「…やっぱり、そうなるわよね…。はぁ。もう、貴方はハンターという種族に思えてくるわ…」

 

ユートのKAN-SENとしての力を見極めるために行った演習。

基本的な艤装とは一線を画すその姿に演習に参加したKAN-SEN達からは本当に大丈夫か?という声が上がった。

しかし、蓋を開けてみると、多対一でも数分、一対一(タイマン)ならものの数十秒というありえない速さで決着がついた。

勿論、ユートの圧勝である。

今までに数多くの危険な狩猟をこなし、多くの罪人を闇に葬ってきたその経歴のせいか、ちょっとした動きから次の行動を予測し、即座にその行動の出鼻をくじくという訳の分からない、明らかに人外の境地に達しているユートに負ける要素などないのだが。

 

「うへー。これじゃ勝負にすらならないよー…」

 

と異端審問官――ラ・ガリソニエールは嘆き―――

 

「…まさか、ここまでなんて…」

 

とリシュリューを驚愕させ―――

 

「オマエ…普通にオレ達よりも強いんじゃないか…?」

 

ジャン・バールは誰だって抱く疑問を吐く。

 

「うーん。まだまだだなぁ。何発か被弾しちゃったし…」

 

それでもなお、勘が鈍っているというユートに対し、思わず―――

 

「…一体彼の全盛期とは…?」

 

誰かがこう呟いた。

その真実は、驚愕とともに迎えられるが、それはまた、別の話である。

 

 

 




ユート君のKAN-SENとしてのスキルを無理矢理文にするならこうなる。

・戦闘開始後、一定数被弾で発動。この戦闘中ダメージを受け無くなる。


なにこのぶっ壊れ?


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【変革】:姉妹喧嘩を鎮圧せよ その①

「ふざけるな!」

「…本人にも確認を取っています。どうか、納得してほしいのですが…」

 

リシュリュー級戦艦である二人が口喧嘩を繰り広げていた。

内容はユートの処遇に関してだ。

ユートの実力が高いのはわかった。

何なら自分達よりもよっぽど強いだろう。

だからといって守るべき一般人を戦場に送るなど到底認められる事ではない。

 

「あの模擬戦はアイツの実力を計る為だってのは分かった。…でも、だからといって普通、そんな提案するか!?」

「しないでしょうね…。でも、今はそうも言っては居られません。」

「だからって!」

「ジャン・バール!…これは既に決定した事なんです!」

「…チッ…!」

 

盛大な舌打ちをしながらジャン・バールは退出。

すぐに本人の居る場所へ向かうことにした。

 

 

「オマエ、なんで戦線に加わろうと思った!」

「…そりゃ、帰るためだよ。この世界も来た海域がいつ現れるか分からない以上、君たちと一緒にドンパチやるのがベストかなぁって。ジャン・バールは嫌だった?」

「そういうことを言ってんじゃねぇ!なんで、オマエが俺たちにてを貸すんだよ!?」

 

ジャン・バールの言う通りかもしれない。

ユートはあくまでこの世界に迷い込んだだけの存在なのだ。

別に命を懸ける必要なんてどこにもない。

 

「そんなにリシュリューの決定が不服かい?」

「…当たり前だろ。」

「…なんで不服か、ちゃんと言ったのかい?そんなに部外者である僕に命をかけてほしくないんだ?」

「…そうだ。あくまでオマエは一般人。そんなやつが戦場にでたら顰蹙を買うだろう。」

「…そうかもしれないね。」

「なら―――!」

 

ジャン・バールの顔がグイっと近づく。

その目は真剣そのものだった。

真剣に考え抜いてなお結論を変えなかったのだろう。

 

「でも、誰かに強制されたわけじゃない。決めたのは他でもないこの僕だ。」

「…お前は死ぬつもりか?」

「こう見えても数多い視線を潜ってきてるんだけどね。」

 

そういうとユートは苦笑した。

ジャン・バールは話しても無駄であることを悟ったのか大きなため息を吐くとそのまま退出していった。

 

「もう一度、リシュリューと話してみなよ。」

「…。」

 

背中に投げかけられたユートのアドバイスに耳を貸すことなくジャン・バールはその姿を消した。

ただ、何処か腑に落ちたような雰囲気を纏っていたのは気のせいだったのだろうか。

いや。

きっと、思うことがあったのだろう。

こういうことは部外者であるユートよりも本人たちが解決した方がよいのだから。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

リシュリューは誰にも聞こえないようにため息を吐いた。

最近余り…というよりもかなり妹との関係がぎくしゃくしてしまっている。

理由は自身にあるのは理解しているのだ。

アイリスという組織を率いる手前、皆に本音や弱音をさらすわけにはいかない。

それがこのアイリスという国で上に立つものの義務だ。

もちろんユートが戦場に出るなんてことは認めたくない。

しかし、そんな事を人一倍お人好しな彼が許すはずがないのは分かっていた。

彼は必ず戦場へと向かうのだろう。

だから、初めから許可したのだ。

 

「…はぁ…やはり私は向いていませんね…」

 

ただでさえ、他人に―――妹でさえ弱いところを見せない自分はきっといけないんだろう。

だから―――恨まれようと、憎まれようと非情な判断を自分は下さなくてなならない。

その罪は国を率いる者が背負うべきものだ。

愛する妹に、そんな主にを背負わせたくはないのだ。

 

「…私には皆の偶像であるしか能がありません…」

 

自分の不甲斐なさにリシュリューは涙を流す。

それは、彼女が初めて見せた弱音だった。

 

「―――リシュリュー。なんで、そんなになるまで、オレ達に一言も相談しなかった…?」

 

その弱音を一番見せたくなかった者に―――妹に見られてしまった。




三度くらい書き直しました。
遅くなってすみませんでした。
許してください…


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【変革】:姉妹喧嘩を鎮圧せよ その②

「リシュリュー―――なんで、そんなになるまで、オレ達に一言も相談しなかった…?」

 

ジャン・バールがリシュリューのもとを再び訪れていた時。彼女が見せたのは涙だった。

なぜ、そこまで自分を追い込んでしまうのか。

そこまで自分たちは頼りないのか。

そこまでして、自分一人が矢面に立ちたいのか。

それはもはやだれにも分からない。

リシュリューが誰にも内面を見せないことで誰にも分からなくなってしまった。

ただ、その涙を垣間見たジャン・バールはリシュリューに詰めよると思わず叫んでしまった。

 

「…アンタにとってオレ達は…涙を見せるに値しないってか!?」

 

自分でも自分が言っていることはおかしいとは思っている。

それでも叫ばずにはいられなかった。

たった一人の姉妹なのに。

信頼されていないような、斬り捨てて考えられているような感覚。

それはジャン・バールを激昂させるには十分なモノだったのだ。

 

「…なんで、誰にも言わなかった…!」

「ジャン・バール…」

 

リシュリューももっと誰かに頼るべきなのではないかとは思っていた。

だが、それ以上にこんな辛苦を誰かに味合わせたくなかったのだ。

それが、姉妹間の仲を引き裂くことになっても。

それは、「リシュリュー」というアイリスの旗印が背負うべきものなのだ。

誰かの矢面に立って、批判されるのは自分だけでいいし、なんなら、戦争が起きたとしても「自分一人で起こした事」にしてしまえば、「リシュリュー」という存在が否定されることになっても「アイリス」という国は残る。

だが、ヴィシアとアイリスにこの国が内分されてしまえばそんなことは絶対に不可能になるし、愛する妹にも自分と同じような責任や辛苦を負わせてしまう。

それは不器用なリシュリューなりにジャン・バールの事を思っていることの証左だった。

だが、そんな独りよがりの愛情を向けられて「はい、そーですか」と納得できるほど、ジャン・バールは理性的ではない。

つまりはこの二人、互いが互いを思い合う故にすれ違いを起こしているのだ。

ユートはジャン・バールに「リシュリューと話してみて」と言った。

ここでがなってしまったらもはや理性的な話などできないだろう。

だが。

もう、我慢の限界だった。

 

「リシュリュー…!お前は一体どこまでオレ―――オレ達の事をバカにすれば気が済むんだ…ッ!」

「馬鹿になんか…!」

 

思わず、リシュリューに対しての鬱屈とした感情をぶちまける。

それは、リシュリューではなく、ジャン・バールについていくと決めた者たちの心情の代弁に他ならなかった。

心の何処かで抱えていた、リシュリューに見下されているのではないかという感情が、アイリスを内分の危機に陥らせてしまっていたのだ。

だが、もちろんリシュリューには同胞を見下すなんてことは考えていない。

彼女はただひたすらにアイリスという国、そしてそこに生きる者達を生かすための歯車になろうとしていたのだ。

そして、国を、人を、生かすための歯車になるという事は自分を殺すという事。

それは初めから偶像として作り出されたリシュリューにしかできないことだ。

 

「…私はアイリスに生きる全てを守りたかっただけです…!勿論貴方達も―――!」

「なら!オレ達の"リシュリューの助けになりたい"って気持ちはどうするんだよ!」

「それは―――!」

 

確かにそれはそう簡単に無下に出来るものではない。

だが、ここまで、その涙を隠し通してきたリシュリューの意思はとても固いものだった。

 

「…それでも、私は…。」

「リシュリュー…。」

 

それでも、仲間に恨まれたとしても。

リシュリューは自分以外の誰にも辛苦は負わせないという決意をしているのだ。

 

「…でも、それは一人で背負いすぎなんじゃないかな…枢機卿殿?」

 

だが、少なくとも今までの問答でリシュリューの中の信念を少しだけでも揺らがせることには成功したようだ。

そこに現れたユートの発言を聞いて、リシュリューはただ、下を向いて黙ってしまっている。

その様子を確認したユートはジャン・バールに目配せした。

その意味を悟ったジャン・バールは軽く頷く。

ユートはこの不器用な二人の結末を見届けるためにその場に残ることにした。

 

「なぁ、リシュリュー。どうしてお前はオレ達のことを―――。」

「…もう、失いたくないからです。」

 

リシュリューはこの世界にKAN-SENという存在が生まれてから長い間戦場に立ってきた。

その多くでたくさんの人が死ぬのを見てきたのだ。

守れたはずの命の多くを海中に沈めてきて、その中で自分だけがのうのうと生き残るなど、リシュリューには耐えることができなかった。

故にリシュリューは心の何処かで「個の消滅」を望んでいたのかもしれない。

 

「…本当に、能無しですね。私は…。」

 

そう悲しそうに笑うリシュリューの姿を見て、もっと早く自分が姉と向き合えていたら。

そう思わずにはいられないジャン・バールだった。

だが。過ぎたことを後悔するにはもう遅すぎる。

つまり、ジャン・バールがここで取るべき行動はただ一つ。

リシュリューの根底にある考えを覆すことだけだ。

しかも、今までの問答で既に皹が入った脆いそれを打ち砕くだけでそれは成されるのだ。

それに本人は自分の事を無能というが、ジャン・バールからしてみれば彼女なりに自分達を思いやっていたというだけの話だ。

その思いやりが明後日の方向へ飛んで行ってしまっただけ。

だから、ジャン・バールには彼女の「在り方」は否定する気満々でも、「彼女自身」を否定する気なんてさらさらなかった。

 

「…リシュリューは能無しなんかじゃない。…それに、オレ達はリシュリューが思ってるよりずっと強い。だから…もっとオレ達を頼ってくれよ。…オレがこんなこと言うのもあれだけど…オレ達は姉妹なんだからさ…。」

「…そう、ですね。守りたいという気持ちが先行していて―――大切なものが見えて無かったかもしれませんね…。私も、貴女も…。」

「…でも…まだ、やり直せるだろ?」

「はい…。今度は、皆で…」

 

二人の涙はとうに枯れ果てている。

それでも嗚咽を漏らして互いの体を抱きしめる二人が弱いだなんてとても思えない。

むしろ今までのすれ違いや、喧嘩があったからこそいま、このように二人は和解できたのだと思う。

 

「…これで一件落着…と。」

 

ユートはその場から離れると海岸線へと向かう。

もうこれ以上はその場に居る意味がない。

この国の進退はもうあの二人が決めることなのだ。

 

「…さて、と。()()()の処理にでも向かいますかね…と。」

 

ユートは最近与えられた無線(インカム)を装着し海面へと降下した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「…もうヴィシアとアイリスは統合を果たしたわ。…でも、まだ、完全に安定したわけじゃないの…。だから今はジャン・バールもリシュリューも顔を見せることはできないわ。」

「そういわれて納得するとでも…?」

「…思わないわね」

 

リシュリューとジャン・バールが和解してすぐの事。

アイリスの領海にロイヤルと呼ばれる陣営のKAN-SENがやってきていた。

目的はヴィシアという不安因子の排除である。

ダンケルクはひとりでその対応に出ていた。

 

「…でも。解決したのは事実よ。」

「なら、私達にはそれを確かめる手段がありませんわ…。」

「そうね。…なら、こういえば良いかしら?最後通告よ…()()()()()

 

勿論、ここで納得して帰ってくれればそれでいい。

だがもし、帰ってくれなければ。

それこそ戦争の引き金を引きかねないことになる。

ただ、物事というのはいつも思い通りに転ぶとは限らない。

 

「―――全くこの世界の貴族様は耳が腐ってるのかな?それとも何?反抗しないという確信を得られないと帰れないとでも?」

「―――ユート!?」

 

例えば、このお人好し過ぎる狩人が戦場に殴り込みをかけてくる―――とかである。

 

「…貴方は?」

「ユート。通りすがりのただの狩人(ハンター)さ。…僕の用事を簡単に済ませようか。…君達も見てるんだろう?あの赤い飛竜を。」

「…ええ。そうですね。…それが?」

「交換条件さ。僕の持つ"その飛竜"に関しての情報を君達にあげるよ。」

「―――その代わりここから手を引けと?」

 

どうやら物分かりはいいようだ。

この世界において情報というのはひじょうな大きな力を持つことを学んだ。

それこそ知らない情報を外交のカードにできるくらいには情報が重視されているのだ。

故にユートは自らが持つ情報と引き換えにアイリスの安定までの期間を時間稼ぎしようというのだ。

 

「…貴方はあの赤い飛竜についての情報を持っていると?」

「そう。察するにあの飛竜は君たちの所じゃ斃せずに逃がしたんじゃないのかなってね。あの飛竜は気が立っていたようだからね。」

「…分かりました。…その条件を呑みましょう」

「ありがとう。…あくまで僕はアイリスの所属という事は忘れないでね。」

 

それだけ言うと、ユートはダンケルクに近づいた。

そして、一言二言言葉を交わすとそのまま引き返すロイヤルのKAN-SEN達の後を追っていく。

 

「…もう。」

 

ダンケルクは二人の指導者の胃に穴が開くんじゃないかというレベルのやらかしと―――戦争は辛くも回避されたという実感の間で板挟みになった。

だが、ダンケルクの胸の内で一番大きかったものは――半身を失ってしまったかのような異常な喪失感だった。




登場人物紹介

・ユート
自らをロイヤルとの交渉材料にしてアイリスを守った

・リシュリュー
今回のメイン。自分の役目に押しつぶされそうになってしまっていた。

・ジャン・バール
和解完了。

・ダンケルク
断腸の思いでユートを見送った。

・ロイヤル
実は物凄く混乱している。とくに和解を果たしたという面で。


えー二か月もたっていました。
誠に申し訳ありませんでした。
めっちゃ難しかったんですよ…。


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【証明】:狩人として

「……口から炎を吐く…?俄に信じられないわね。」

「おいおいおい…僕たちの世界には咆哮一つで隕石を召喚できる存在だっているんだ。」

 

意味が分からない――。

クイーン・エリザベスは頭を抱えて唸ってしまった。

それもそのはず。

目の前の男が語るあの赤い飛竜の生態が明らかに人知を越えたものだったからだ。

赤い飛竜―――正式名称をリオレウスと言うらしいそれはなんと「空の王者」という異名を持ち、大空を駆け回り炎のを吐き散らすというのだ。

さらに獲物を弱らせる毒まで備えているという。

しかも速度はともかく機動力は戦闘機を遥かに越え空中から急襲仕掛けてくることもあるという。

 

ありえない。

 

クイーン・エリザベスが抱いたのはそれだけの思い。

そう。

()()()()()()()()()()()()()

この世界のどの文書を漁ったとてそんな存在はいないだろう。

もしいたとしてもそれは「御伽噺」のなかだけだ。

少なくとも今、自分が居るこの現実にそんな生物は存在してはならない。

だが、一つの陣営のトップとして質問をぶつけ続けなければならない。

 

「…で、貴方達―――狩人(ハンター)は、そのモンスター達を狩って生計を立てている、と。」

「そうなるね。」

「ちょっと待って。頭痛がしてきたわ。…ベル。一旦彼を下がらせて。頭の整理が追い付かないわ。」

「分かりました。」

 

それ以上に情報が多すぎて混乱していた。

故にクイーン・エリザベスは一度ユートを下がらせる。

本当に情報が多すぎて困る。

今まで彼から得た情報をウォースパイトと吟味するため、彼女は個人用のの携帯を取った。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

一方のユートとベルファストというらしいメイドは煌びやかな内装をした廊下を並び歩く。

しかしながらその間には常に殺気に近しい敵意が流れていた。

アイリスのKAN-SEN達がユートに対して敵意を抱いていなかったせいで忘れそうになっていたがあくまでユートは身元、出身不明の漂着者。

しかもその事実さえも知らない彼女が敵愾心に近い感情を向けるのは仕方が無いと言えるだろう。

もちろんそんな事を知ったこっちゃないユートにとって、ベルファストは殺気を向けてくる存在でしかない。

もしこれがユートの知るKAN-SEN達から向けられたものだったらユートの心はもれなく圧し折られていたであろう。

 

「…信用されてないなぁ。現実に火竜がこの世界に現れたっていうのにさ。」

「こちらからしてみれば未だに妄言の可能性だってありますから。誰もあれが火を吐くところなんて見ていませんし。―――()()()貴方が連れてきたと我々が疑っていることをお忘れなく。」

 

それは暗に怪しいことをしたら即座にひっとらえると言っているのと同じだ。

暫くは武具の手入れも何もできないだろう。

それに―――

 

「大丈夫だよそんなに監視の目を付けなくたって。」

 

監視までされていては心休まる暇もないのだが。

そもそもの話ここはユートにとっての敵地であるのだが。

こうなったらこの高級そうな廊下でこんがり肉でも焼いてやろうか。

 

「少なくとも()()手を出さないさ。」

 

だが、まあ。

今くらいは大人しくしてようとユートは心に誓ったのである。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「やっぱり、怪しいですね…あの男。」

「でも嘘は言ってないのよね…。」

「真実だけで煙に巻こうとしているのかもしれません。」

 

ウォースパイトとクイーン・エリザベスはユートという男について語り合っていた。

虫も殺さぬような顔をして数多くのモンスターを狩ったという男。

 

「…あの佇まいからそんな気は感じませんでしたが。」

 

ウォースパイトは案の定ユートという存在を疑っている。

せめて彼の出身地が分かればどうとでもなるのに。

 

「…そういえば、彼が持つ武器って重桜の子たちが使ってる"カタナ"に似てるわよね。」

「たしかに。…ですが、そうだったら素直に重桜出身というのでは?」

「確かに。今までも嘘はついていなかったからそれもあり得るのよね…。」

 

どうやったらこの世界の人間ではないというユートの言葉を証明できるか。

たっぷり数分悩んだ末、ウォースパイトとエリザベスの両名が下した決断は―――

 

「模擬戦させましょう!」

「それしかないわよね…ハァ…。」

 

模擬戦という単純でシンプルで最も楽で且つ最も正しいものだった。

だが、エリザベスは頭を抱えたままだった。

 

「でも…物凄く嫌な予感がするのはどうしてなのよ…!」

 

結論から言えば、その嫌な予感はユートの実力を見切れなかったせいだったのだろう。

彼はほんの数瞬で王家の戦士たちを叩き伏せてしまったのだから。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

自身の実力が嘘でないかという事を見極めるために地上で模擬戦闘が行われるという。

相手はロイヤルのKAN-SENでも指折りの強者なのだとか。

勿論、ユートにはその人物が誰なのか分からない。

更にその模擬戦はロイヤルと同じ組織―――アズールレーンに所属する国家であるユニオンのKAN-SENも見物しに来るらしい。

 

「見世物…だね。」

 

正に見世物。

ドンドルマやバルバレで行われていた闘技大会とはまた別の物を感じる。

嫌にねっとりとした視線を感じながら、ユートは模擬戦闘の舞台に立った。

どうやら相手はロイヤルの中で最も戦闘力が高いと噂される二人―――ウォースパイトとシリアスが立っていた。

どうやら二連戦行う必要があるらしい。

が、ユートは既に余裕綽々と言ったふうにそこに佇む。

そして自分の中で一瞬でスイッチを切り替え、狩猟を行う時と同じ精神状態にする。

これはギルドナイトとしての仕事を行う時も行っていることだ。

言ってしまえば今回ユートと相対する二人にはギルドナイトとして()()()()()のユートが襲い掛かることとなる。

 

「…始めましょう。ユートさん。」

 

どうやら初めに戦うのはシリアスのようだ。

メイドとしての彼女はポンコツもいいところだが戦闘を行う時の彼女は中々に手ごわいらしい。

故にロイヤルメイド隊の護衛担当艦。

 

「…。」

 

対するユートは一応の情けとして貸し出されている服を脱ぎ、構えた。

それが戦闘開始の合図。

その行為を確認したシリアスは目にも止まらぬ速さで一直線に突っ込んでくる。

 

(速いね…)

 

一般人から見たら相当な速度である初撃。

だが、ユートは今まで数多くのモンスターと相対し、生き残ってきた猛者。

動きが速く、なおかつテクニシャンな相手なら今まで何回も戦っている。

つまり、シリアスの一撃はユートにとっては見え見えなモノだったのだ。

 

「知ってるかい?ギルドナイトって素手でハンマー位は止められるんだよ?」

 

結論から言えばシリアスの剣は確かにユートの体に当たっていた。

()()()()()()()()()()()()()状態で。

 

「なっ…?」

 

今、何が起こったのだろうか。

シリアスは確かに全力でその大剣をユートに叩きつけたはずだ。

なのに、何故目の前の男は片手で簡単に受け止められているのか。

その答えは得られぬままに大剣を腕から引き抜かれてしまう。

 

そしてあろうことかその大剣の腹でシリアスをぶん殴った。

 

「…!?」

 

その一撃で体勢を崩されてしまう。

吹っ飛ばなかった分はさすがと言えるが。

しかしながらユートの一撃は相当強烈だったようでさしものシリアスも足元が覚束ない様子だった。

もちろんこの機を逃すユートではない。

シリアスの大剣を肩に担ぐと全身の筋肉を強張らせ力を溜め始める。

 

「でぇぁありゃぁぁあぁぁッ!」

 

そして最大まで溜め込んだ力を解放。

未だに体勢が整わないシリアスの真横に叩きつけた。

凄まじい土煙と音と共にシリアスの横に地面に深々とシリアスの大剣が刺さっていた。

 

「は…?」

「まだやるかい?」

 

この日、ユートという存在はこの世界の人間から確実に逸脱していると結論付けられた。

ちなみにだがウォースパイトとの模擬戦も完全制圧して勝利した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「アンタが人間離れしていることは分かったわ…。確かに相当な修練を積んだうえでようやくアレが倒せるという事も。…で?なんでそんなアンタがアイリスに?」

「漂着したのがアイリスだったからさ。」

「そうよね…なんか"異世界"って示せるものを持ってれば―――」

 

と、そう言ってエリザベスは頭を悩ませる。

模擬戦後、ユートはエリザベスと会話していた。

そして少なくとも強さはこの世界の人間ではないと判断。

あともう一押しあれば疑惑の目を払拭できるというエリザベスに一枚のカードが手渡された。

 

「これは―――」

「ハンターカード。僕の似顔絵と直近のクエストの記録がされている身分証明書みたいなもの、かな。文字体系が全く違うでしょ。」

「確かに。…そうね、完全にこれは―――」

 

そして、ユートは自らの世界の証明に成功したのだ。

だが。

それは同時にユニオンの面々に目を付けられるという事でもあった。

だが、その事を知るのはもう少し先の話である。




登場人物紹介

・ユート

レッドファイッ!

・シリアス

トラウマ確定



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【優雅】:ロイヤルでの一日

あれからもロイヤルで日々を過ごした。

その間およそ二週間程度だろう。

だがその二週間はユートにとって決して居心地がいいものではなかった。

理由としてはやはり、例の模擬戦闘だろう。

本来ならば人間が勝てる相手ではない。

それなのにユートは勝ってしまった。

そのせいで警戒度が上がってしまったというべきか。

別にこの国に手出しをするつもりはないというのに。

 

「理不尽…だよねぇ…」

「私から言わせてもらえばその強さが理不尽そのものなんですけど…。」

「別に皆みたいに艤装の展開とかできないからいうほど強くないよ?僕は、ね…。」

「いや、十分強いですって…。」

 

と言っても警戒しているのは上層部だけなようだ。

現にユートの案内人として共に行動している少女―――ジャベリンなどとはすでに打ち解けている。

じまぁ、恐らくは純粋な少女を利用しないかどうかの監視を兼ねているのだろうが。

 

「それにしてもあの先読み…みたいなのってどうやるんですか?」

「んー。呼吸、目線、筋肉の動き―――それと勘、かな?」

「最後の物だけ急にあやふやになってません?」

 

そうだからそうとしか言いようがないのだが。

上手く説明できる言葉を持ち合わせていない自分が悔やまれる。

 

「…ねえ、ジャベリン。君たちは基本的に人と同じなんだよね?」

「そうですね…。」

「…じゃあ、筋肉の作りとかも同じなわけだ。なら、まずは自分の動きを理想の動きから一致させるところから始めようか。」

「理想の動き…ですか?」

 

こくりと、ユートは頷いた。

 

「『体が思い通りに動く!』って感覚になったこと、あるでしょ?」

「はい。ありますね。…え?まさか…」

「そのまさか。まずは自分の体を知るところから始めないとね。そうじゃないと先読みなんて夢のまた夢さ。」

「…ユートさんって見た感じ相当若いですよね。どこでそんな経験を…?できれば私も…。」

 

どこで、その言葉を聞いた瞬間ユートの目から光が消えた。

そしてその目でジャベリンの目を射抜いてくる。

 

「そっかー…ジャベリンは極寒の氷海や灼熱の旧砂漠、水中で巨大なモンスターを倒したいと。」

「あ、やっぱ遠慮しときます。」

「まぁ人死にはよく出る危険な仕事だからね…。」

 

あははと笑い飛ばすユート。

その笑顔は何処か悲しそうに見えた。

それは失ったものが多いからか、自分を責めているようにも見えた。

 

「あんなに強いユートさんでも守れなかったものがたくさんあるんですね…。」

「うん。だからもう失いたくない。向こうに残した仲間も、こっちでできた仲間も。」

「…そういえば…ユートさんはヴィシアとアイリス…どっちに付くんですか?」

「んぇ…?付かないよ?―――だってもう、和解したからさ。僕がここに居るのは情報提供―――を、建前としたアイリスとヴィシアの新体制が整うまでの時間稼ぎ。」

 

どうやらこの男は色々と頭が回る男らしい。

少なくとも来て間もない世界で自分の価値がどれだけあるかを理解している。

 

「…それ、私に言っても大丈夫だったんですか?」

「大丈夫でしょ。それこそこっちには色々と渡していない情報あるし。知ってる?情報って持ってる方が有利なんだよ?それだけで商売が成り立つくらいには、ね。」

 

ユートの世界で最も権威のある組織と言えばハンターズギルドだろう。

世界中のハンターと契約し、狩りの依頼や所持金の管理などが行われ、更に密漁などを取り締まるのだから。

では、逆に最も権威のある仕事は何なのだろうか。

王?それともギルドマスター?

否。

ユートの世界では学者が最も権威のある仕事ではないだろうか。

これはあくまでユートの考えだが。

 

「さて、と。また情報を吐きに行ってきますか…。」

「その…がんばってください…?」

 

余りに悲壮感に満ち溢れたその背中にジャベリンは乾いた笑いを出す事しかできなかった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「…帰りたい。」

「それは無理な話ですね。」

「ですよね。」

「そもそもあんな危険な世界に送り届ける手段がないじゃないですか。」

「…おぅ…」

 

暫くこの世界で過ごして分かったことが一つある。

このロイヤルでの生活は絶望的なまでに自分とは合わないという事だ。

今まではよく命の危機にさらされてきた。

良くも悪くもそれが刺激となっていたのだろう。

アイリスなら戦闘狂の気があるが、相当な強さのガリソニエールとかが喜んで相手をしてくれるだろうに。

だが、このロイヤルには模擬戦をしてくれる相手も居ない。

はっきり言ってユートはロイヤルでの生活に飽きていた。

 

「アイリスに戻りたいなぁ…」

「それも無理な話ですね…。」

 

そして、いい加減にダンケルクのお菓子が恋しくなってくる。

あの程よい甘さのショートケーキはまた食べたいものだ。

が、アイリスへの帰還が遠のけばそれも叶わない。

というかアイリスへ戻るのが遅れれば遅れるほど大老長への報告も遅れてしまう。

早く対策をしなければならないというのに、この場で足止めなんて食らってはいられない。

いざとなったらジャベリンたちには悪いが力づくで脱走しようと考えて―――止めた。

 

「流石に戦争を引き起こしたくないからなぁ…。」

「…あなた一人でも勝ちそうですけどね。」

「…え?ベルファストは僕を何だと思ってるのさ?」

「そうですね…失礼を承知で申し上げれば"怪物(モンスター)"…ですね。」

「うわぁ辛辣ぅ。」

「事実ですから。」

 

そんな事を思っていれば情報の確認係であるメイドのベルファストが苦笑しながら自分の評価を述べてくれた。

 

狩人(ハンター)なのに怪物とはこれ如何に。」

「普通の人は筋肉の動きだけで予測など不可能ですから…。」

「…え?それでよく生き残れ―――そういえばここは世界が違うのか…。」

 

そんな評価を下したベルファストも目の前の男の規格外さには困惑するばかりだ。

恐らくはこの男にこの世界の常識なんてものは通用しないだろう。

それほどまでに目の前の男はこの世界から逸脱している存在だった。

 

「でもベルファストは割と経験積んでいるでしょ?」

「…それは…。ですが、それは何処で…?」

「まぁ仕事柄、色々と、ね?」

 

色々―――それは彼があちらの世界で行っていたという「仕事」の事だろうか。

彼は自分の事を赤裸々に語った。

本当かどうかはともかく少なくとも彼は何度も悪質な密猟を繰り返す者を人知れず葬っていたという。

ハンターというのは人と自然の調和を為す者だという。

そしてその調和を乱す者は世界の敵。

故にどのような事情があったにせよ、そう言った輩は消さねばならない。

 

「でも…どうして…?」

 

だが、別に密猟していても人類への脅威が減るのならばいいのではないか。

そんな疑問を持たずにはいられないベルファストだった。

しかし、その疑問はユートの次の言葉で消し飛ぶことになる・

 

「…あくまでモンスターも生物。自然の一部なんだ。だから彼らにも何かしらの役目があるのさ。」

「役目…ですか。」

「そ、例えば増えすぎたアプトノス―――草食種を捕食して数を減らしたりとか、ね。」

 

その言葉に何も返せない自分が居ることにベルファストは驚いていた。

この男の言葉はあたかも見てきたような―――いや、実際に知っているように聞こえる。

それに自然に増えた草食種が野山を食い荒らして土砂災害―――なんて事には覚えがある。

だからそれを適度に駆除する役目を持つモンスターの内の一体があの赤い飛竜――リオレウスなのだろう。

 

「だから僕たちは人間の敵となりそうなモンスターしか狩らないんだよ。」

「…だからこの世界に来たモンスターを容赦なく狩っていたのですね。」

「うん。この世界に『おいしい餌がある』なんて覚えられたら目も当てられないでしょ?」

 

それは暗に自分達が餌でしかないと言っているのと同義だ。

だが、何一つ反論できない。

事実として自分達ではあの飛竜には勝てないであろう。

確かに対空砲を直撃させれば何とかなりそうなものだが恐らくはその前に食われるのがオチだ。

客観的に考えれば考えるほど彼がどれだけ聡明なのかを知ることができた。

 

「…それにしても、暇だな…。」

「そうですか。ならこの世界の礼儀作法でも叩き込んであげましょうか。」

「メイド長直々にか。…厳しそうだし遠慮しとこうかな…。」

「そうですか。残念です。ですが一言だけ言わせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 

ベルファストはずいっと顔を寄せるとフルフェイス型の防具であるレウスXヘルムを取り外そうとしてきた。

 

「頭の防具は取った方がいいのでは?」

 

その後ロイヤルにはとんでもない美丈夫が居るとのうわさが立ったがそれはまた別の話である。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「さあ、お次は"反逆者"よ?あなたはどんな可能性を見せてくれるのかしら?」

 

霧深くどこかおどろおどろしい雰囲気を感じさせる場所で声が響く。

 

「ねー、もうさぁくっつけちゃおうよ、この世界とさぁ…。」

「そんなことやったらこの世界は滅亡待ったなしよ。だから、まだ我慢よ。今はこっそりサンプリングしたクローンで様子見よ。」

 

邪悪はついに動き出す。

明確な意思と悪意を持って。

それが古の龍たちの怒りに触れる行為だとは露知らずに。

 

世界が完全に一つになるときは遠くはないのかもしれない。




登場人物紹介

・ユート
人外筆頭

・ジャベリン
無事に人外の道の一歩を踏み出した

・ベルファスト
人外な思考に呆れる

・セイレーン
なんかクローン仕込んでる

・古の龍
色々とヤバいことになる気がする

一ヶ月ぶりですね。
待  た  せ  た  な  !


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【反逆】:天を覆いし翡翠の雷

それは、当然の反応だった。

いかなる兵器であっても目にのに圧倒的な存在に適うはずがない。

それだけが真実なのだから。

だから、別に、ジャベリンが艤装の砲塔を向けなかったのも。

ベルファストやウォースパイト達が戦力を民間人の避難に集中させたのも。

誰もそれの前に立ちはだかろうとしなかったのも。

全てが必然だった。

あの生物(化物)は抵抗を許さない。

その身に迸る閃光がそれを物語る。

だが、そんな化物を前にただ一人立ち向かうものが居た。

それが、狩人(ハンター)である。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

それはベルファストに頭防具の事を指摘された日からそこまで日が経過していない平和な日の事だった。

突如多くの機械が故障し、使い物にならなくなった。

 

「電気…!?」

 

近くに雷でも落ちたか。

エリザベスはそう考えて窓から外の様子を見た。

 

――――が、快晴。

雲一つないいつもの青空が空に浮かんでいた。

ならば何かと見上げた瞬間に目に入ってきたのは―――黒い影。

それはかつて襲来したリオレウスによく似ていた。

が、その頭部には特徴的なトサカが存在しており、また、よく見れば金色と黒色の甲殻に覆われていた。

少なくとも「ソレ」はユートが言っていたリオレウスとはまた違う生物であることは確か。

そして、エリザベスは「ソレ」と目が合った瞬間息が詰まり、思考が覚束なくなった。

足も小刻みに震えだしている。少なくとも真面目に「ヤバい」というのは知覚できた。

が、既にエリザベスは腰を抜かしており、その場にへたり込むだけであった。 

そして「ソレ」はエリザベスを獲物と見たか、一直線に突進してくるではないか。

 

「―――陛下ッ!」

 

間一髪、ベルファストの声でその場から飛び退くことに成功した。

が、それは簡単に母港の執務室の壁を粉砕し机を踏みつぶし、更にもう一つ大きな穴をあけて向こう側へと飛び出す。

 

「あれが…!あんなのがうじゃうじゃいるっていうの!?」

「…どうやらそのようですね…ッ!?」

 

「ソレ」は自身の突進が当たっていないと察知するや否や再びその目をエリザベス達に合わせた。

 

「マズイ」

 

頭の中に警鐘が鳴り響く。

今の「アレ」は確実に手に負えない、と。

 

「ベルファストはさっさとここの住人たちの避難を始めなさい!私が時間を稼ぐわ!」

「しかし、陛下―――!」

「私の方が小回りが利くでしょう!早く行きなさい!」

 

だからここは役割を分担する。

自分は体は小さいとはいえ、装甲は戦艦級だ。

艤装できっちりと守れば二、三発は貰っても大丈夫なはずである。

だから艤装を展開できれば、とエリザベスは考えた。

勿論それは希望的な観測でしかない。

そもそも海に行ったところで艤装を展開することができないかもしれない。

もしかしたら一撃貰っただけでいとも簡単に沈んでしまうかもしれない。

それでも自分はやらねばならないのだ。

 

「全くもって無茶な提案をしちゃったわね…。」

 

おそらく自分は本領を発揮できる海にたどり着くことなく目の前の生物に餌とされる。

希望的観測はあくまで希望的観測でしかないのだから。

 

「…ごめんなさいね、枢機卿さん。あなたの狩人さんも帰せそうに――――。」

 

「ソレ」は大きく嘶くと蛍光色の雷を纏う翼を大きく振りかぶってエリザベスに飛び掛かった。

ほんの一瞬が永遠にも等しく感じられて、自分はここで死ぬのだと。

そう感じた。

が、どうやら運命はまだエリザベスの味方だったようだ。

 

「まさか【(いなずま)の反逆者】に生身で立ち向かおうとするなんてね!」

 

呆れたような声と共に思いっきり突き飛ばされた。こんなタイミングで自分を救いに来るものなんかそれこそ一人しか思い浮かばない。

 

「無事かい?―――女王サマ?」

「ええ。」

「それは重畳。君も早いとこ逃げた方がいいよ?」

 

そう、それは本来ならばいっしょに避難しているはずの存在。

例え誰だってあんな化物を相手にしたくはない。

だが。

今のロイヤルにおける目の前の化物に対する最終兵器(リーサルウェポン)は彼だ。

それを認めたくないが「彼」以外ありえないのだ。

 

「…お願い。ロイヤルを守って。」

「―――分かった。そのクエスト、受けよう。」

 

前を見据えて一歩大きく踏み出したその男は―――刃の切っ先を化物へと突き付けた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「さて、と君は早くここから逃げたほうが良い。―――ずっと僕を付けてる人?」

「…それは出来ない相談ですね。がいちゅ…ユート様。」

 

ユートはそれとなく避難を促す。

その言葉に反応して現れた一人のメイド。

 

「シェフィールド…だっけ?…早いところここを離れた方がいいよ。」

「しかし…この騒ぎに応じてあなたが脱出しないとは限りません。」

「疑われているねぇ…。」

 

心外だとばかりに肩をすくめるユートにそのメイド―――シェフィールドは鋭い言葉を飛ばした。

 

「そもそもの話脱出するも何も僕はこの世界の人間じゃないんだ。地理も何も分からないのに何処へどう逃げると?」

「ここからアイリスまでの道のりなら知っているはずですが?」

「…はぁ。分かったよ。そんなに残りたいなら残ればいい。」

 

ユートは天上天下無双刀を抜刀し、鋭い目線を襲撃者に向けた。

 

「電竜―――ライゼクスか…。最後忠告だよ。早く逃げて…!」

 

襲撃者―――ライゼクスはユートを認識するや否や襲いかかってくる。

それは確かに強力な一撃だった。

少なくともシェフィールドやエリザベスがまともに喰らったらミンチ待ったなし位の威力はある。

が、ユートはそのすべてを最低限の動きで躱して見せたのだ。

そのまま母港を揺らし、執務室に着地するライゼクス。

 

「巻き込まれてけが負ってもそれは僕の所為じゃないから悪しからず!」

「陛下を背負っていては無理は出来ませんね…。分かりました。撤退しましょう。行きますよ、陛下。」

 

シェフィールドは残ろうとしたがそれでもクイーン・エリザベスの身の安全を優先した。

これでユートにとってのお荷物は消えたのだ。

そして、ユートとライゼクスは互いに向き合う。

互いの視線が交錯するのと、互いが前に向かって突進するのはほぼ同時だった。

これより始まるのは反逆者と狩人のぶつかり合い。

その様子を眺める者がいることに誰も気づかないまま一人と一匹は激突し始めた。




登場人物紹介

・ユート
無双開始ィィィィ!とはならない。
ちなみにレウスX一式であることを忘れているバカ。

・クイーン・エリザベス
流石に雷落ちれば電気製品が使えなくなることくらい知っているよねって話

・シェフィールド
履いてない人。ユートの事は未だに信用できない様子

・ライゼクス
被害者



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