SSSS.01 X-OVER DREAM《仮面ライダー×グリッドマン》 (ヒダリテ)
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第01回 アノ日々の再・来
#1


---side real world---

 

 平時には多くの家族連れでにぎわっているアウトレットモールから、人影が消えた。

 十数分前に発令されたモール全域への避難指示がその理由だ。

 現在、モールの中心部に当たる屋外フリースペースでは、どこからか吹き飛ばされてきたのだろうパラソルやテーブルが散乱し、なかには街路樹の枝に挟まっているものまであった。

 それらを吹き飛ばした張本人であるところの、一体の怪人が巻き上がる粉塵の中から姿を現した。

 ガンメタリックカラーの鋼鉄の体。その胸部には青いドラゴンの生首が生えていた。

 シャッターで覆われたようなデザインの顔には、赤く点灯したヘッドセットが付けられている。

 マギア。人工知能搭載ヒト型ロボ、ヒューマギアの変わり果てた姿であり、悪意の感情にとらわれ暴走した怪人である。

 マギアに共通する特徴として、ヒトの表皮を模した外装が剥がれ落ち、むき出しとなった鋼鉄ボディ(この状態をトリロバイトマギアという)に、様々な絶滅動物の力を宿した鎧をまとっているという点がある。これまでにはベローサ、クエネオスクース、アルシノイテリウムといった絶滅動物の力をもったマギアが現れていた。が、しかし。

 

「あんな姿のマギアはこれまでに発見されていたか、亡?」

「いえ。アークが生成したゼツメライズキーの中に、ヒューマギアをあのように変質させるものはありません」

 

 マギアの前に立ちはだかる二人。青みがかった迷彩柄のコンバットスーツを纏い、首元に紺のスカーフを巻いた女性が、パンツスーツ姿に黒いジャケットを羽織った中性的な顔立ちのヒューマギアに問いかけた。

 未確認のマギアの出現。およそ一年ぶりの出来事であった。

 人工知能特務機関A.I.M.Sと、人類滅亡を図るヒューマギアによるテロリスト集団、滅亡迅雷.netとの全面戦争が行われたのが一年前。

 そこでの滅亡迅雷.netの一時的な崩壊に伴って、ヒューマギアをマギア化させるツールであるゼツメライザーの散布が止まったこと。そして、滅亡迅雷.netを生み出した悪意の人工知能アークが、ゼツメライザーを介さずにヒューマギアをハッキングしてマギアを生み出す力を会得したことから、新種マギアは長らく誕生してこなかった。

 人口知能としてのアークが消滅している今、新たなマギアを生み出すことは理論上不可能である。その点で、新種マギアの出現の裏には未知の敵が存在すると考えられる…。

 先ほどの紺のスカーフの女性は、そう思案にふけっていた。

 しかし、彼女の背後で隊列を組んでいる者たちからの声で、ふと我に返った。

 

「隊長、指示を願います」

「…あぁ。奴の戦力は底が見えない。お前たちは私と亡の援護に徹し、また陣形も各々の判断で臨機応変に組み替えろ。身の危険を感じたらすぐに退避することだ。いいな!」

「「「了解!」」」

「作戦を開始する。撃て!」

 

 女性の号令に合わせ、マギアの身体に集中砲火が浴びせられる。薬莢の音に交じって、マギアが蒸気機関のごとき軋んだ雄叫びを上げた。

 

「キシィィィァァッ!!!」

 

 マギアは両腕に大きな爪を生やすと、突進の体勢をつくった。しかし、弾丸の雨の中でもとりわけ強烈な射撃がマギアの頭部をとらえ、突進を防ぐ。

 対ヒューマギアを目的として作られたエイムズショットライザーという銃を撃ち、マギアを攻撃したのは隊長と呼ばれていた女性。

 彼女はショットライザーをベルトのバックルに装着すると、手のひらでプログライズキーとよばれるデバイスを二回、三回と回転させて眼前に持ってくる。

 

《THUNDER!》

 

 プログライズキーのスイッチを入れ、ベルトに装填するとともに、ショットライザーの引き金を絞ってキーに内包された力を開放する。

 

「変身!」

 

《SHOT-RISE! LIGHTNING HORNET! Piercing needle with incredible force.》

 

 A.I.M.S.隊長、刃唯阿。彼女が変身するのは、ハチと電撃のアビリティを宿した華麗なる戦女神、仮面ライダーバルキリー ライトニングホーネット!

 バルキリーは軽い身のこなしでマギアのもとに接近し、紫電を帯びた蹴りを食らわせる。

 電撃を受け怯んだマギアに、突如として白い影が伸びた。

 

「いけっ、亡!」

「ハッ!」

 

 唯阿とともにいたヒューマギア、亡が変身する仮面ライダー亡が、銀色の爪でマギアを二度、三度と斬りつけた。

 鈍色の斬り傷が浮かび上がり、マギアは後退する。

 

「刃隊長、これを!」

「あぁ!」

 

 バルキリーは隊員から投げ渡されたアタッシュケース状のガジェットを抱え、マギアの懐に潜り込む。ガジェットを銃形態のアタッシュショットガンに変形させ、強烈な射撃を食らわせた。

 

「ギシャァァッッ!」

 

 大きく吹き飛ばされたマギアと、射撃の反動を受けたバルキリーの身体が再び離れる。亡がバルキリーを支えるとともに、次の攻撃への準備を整えた。

 しかし、マギアは立ち上がっても攻撃してこなかった。マギアは胴に巻かれたベルト、ゼツメライザーのサイドボタンを押すとともに、身体から青いパイプを排出した。

 

《KAIJU-NOVA!》

 

 妖しげなシステムボイスとともに、パイプがヒトの形状をとり始めた。

 トリロバイトマギア、に似ているが、頭にヘッドセットのパーツがないことからヒューマギアではないことが窺える。トリロバイトトルーパーとでも呼ぶべき戦士たちが、二人のライダーに襲い掛かる。

 

「こいつら、強くはないがっ…!」

「通常のトリロバイトマギアと力は同等…一体のマギアからこれほどの質量をどうやって…?」

 

 そう言ってトリロバイトトルーパーと戦う二人は、マギアがさらなる攻撃を仕掛けようとしていることに気づけなかった。

 マギアは再度ゼツメライザーを稼働させ、胸部のドラゴンの口にエネルギー流を溜め込む。

 

《GHOULGHILAS-NOVA!》

 

 グールギラス。おそらくマギアの姿のモデルとなった生物の名を告げるシステムボイスとともに、グールギラスマギアはドラゴンの口から火球を放った。

 火球がバレーボールのようにバウンドし、ライダーたちに直撃する。

 

「なにっ!」

「ぐっ…!」」

 

 思わぬダメージに体勢を崩したライダーたち。A.I.M.S隊員が一斉にグールギラスマギアに発砲する。

 しかし、グールギラスマギアは仰け反るどころか、再度エネルギーを溜め始めた。

 

「まずい!」

 

 火球が隊員たちを焼き尽くさんとした瞬間、飛行能力で隊列の前に躍り出たバルキリーが攻撃を防いだ。が、もろに攻撃を食らったバルキリーの変身は解除され、唯阿の姿に戻ってしまう。

 亡が援護しようとするも、トリロバイトトルーパーに阻まれて身動きが取れない。しかし、生身の唯阿をめがけてグールギラスマギアが三度火球を放とうとする。

 絶体絶命のように思われた、その時。

 

《ZEROTWO-RISE!》

 

 突如吹きつけたネオングリーンの疾風が、グールギラスマギアを蹴飛ばした。

 現れたのは、煌めく身体に真紅のマフラーを思わせる装甲を携えた次代のヒーロー、仮面ライダーゼロツー!

 

「刃さん、亡、遅れてごめん!」

「気にするな。それより、アイツの攻撃は厄介だ。気をつけろ!」

 

 唯阿の忠告がゼロツーに届くのと同時、グールギラスマギアの第四撃が放たれた。

 ボウッボウッと音を立てながらバウンドする火球が、ゼロツーに直撃する…と思われた刹那、火球は全て消滅してしまっていた。

 

「…弾道を全て予測したか。恐るべきテクノロジーだな」

 

 仮面ライダーゼロツー。それはまさに悪意の人工知能アークと対極をなす存在だった。

 アークと同時期に生まれた人工知能ゼアは、人類の善意をラーニングしたものだった。

 ゼアの生みの親、飛電インテリジェンス初代社長の飛電是之介が、いずれ始まる悪意に蝕まれた人工知能との戦いの切り札として遺していたのが、飛電ゼロワンドライバー。そして、それを受け継ぎ仮面ライダーゼロワンとなったのが、飛電インテリジェンス現社長の飛電或人だった。

 ゼロツーは、アークとの戦いの中で或人が生み出した新たな仮面ライダーである。社長秘書ヒューマギアのイズがシンギュラリティに達したことをきっかけに、ゼロワン以上にゼアと密接に連携できる仮面ライダーとして誕生させたものであり、その力はあらゆる知能の予測を超える。

 今も、ゼロツーはグールギラスマギアの火球の弾道、飛距離、回避パターン、攻撃パターンの全てを予測し、そして全てを実行したのだった。

 さらに、ゼロツーの予測が導いたことはほかにもあった。

 

「ハァッ!」

 

 ゼロツーのサマーソルトキックがグールギラスマギアの胸部の根元にヒットすると、マギアはこれまでにないダメージを負った。

ゼロ ツーは戦いの中で生じうる可能性の全てを瞬間的にシミュレーションできる。そのなかで、敵の弱点がドラゴンの首の接合部にあるという結論を導き出したのだ。

 よろめくグールギラスマギアに、ゼロツーが片手剣の切っ先を向ける。

プログライズホッパーブレードとよばれるそれは、イズとゼアによって作られた、善意のデータの結晶体。斬られた相手は善意のデータを全身に受けることで、マギア状態から解放されるのだ。

 

「待ってろ。すぐに解放してやるからな!ハァッ!」

 

 一刀両断されたマギアが、崩れ落ちながらその姿をメイド服を着た女性のものへと変えた。どうやらマギアの正体は、メイド型ヒューマギアであったらしい。

 倒れこむヒューマギアを、変身を解いた或人が支える。

 或人の腕の中で、メイドヒューマギアは目をぱちくりさせた。

 

「…或人社長?私はいったい何を…」

「君は…マギアになって暴走していたんだ」

「私がマギアに…?そんな…あの、ご主人様たちは大丈夫ですか?」

「当時店にいた客は全員無事です」

 

 と、或人とメイドヒューマギアのもとに歩み寄りながら亡が言った。

 

「彼女の働く店舗の監視カメラをハッキングしましたが、彼女は暴走の直前に店を飛び出しているため、この一件で人間には危害を加えていません」

「そうですか。よかった…」

 

 ほっと胸をなでおろしたメイドヒューマギアに、或人が微笑みかける。

 

「君は凄いヒューマギアだね。悪意を抑え込むなんて、簡単にできることじゃないよ」

「或人社長が命がけで悪意と戦う姿を見ていましたから。私たちだって負けていられません」

 

 彼女もまた、衣装に相応しい可憐な笑顔を見せた。

 隊員たちに撤収を指示していた唯阿が、亡のもとにやってくる。

 

「亡、彼女の暴走の原因はわかるか?」

「いえ。映像を解析する限りは、突如マギア化したようにしか見えません」

「そうか。妙だな…」

「なんでゼツメライザーが付けられていたのか、ってことだよな」

 

 或人が起こしたメイドヒューマギアを木陰で休ませておくと、唯阿と亡の方に向きなおって言った。

 

「あぁ。ゼツメライザーによるマギア化ということは、暴走前に何者かにゼツメライザーを取り付けられる映像が残るはずだ。しかし、亡の見た映像にその様子はなかった」

「それに、今回使われたグールギラスゼツメライズキーの出どころも不可解です。そもそもグールギラスという名の生物は地球史上に存在しないはず…」

「ゼツメライズキーを解析すればわかるかもしれないが、それはできないしな…」

 

 唯阿と亡の視線が自然と或人の方に向いた。或人はしばらくその意図がわからずにいたが、途中で「あっ」と気が付いた。

 

「ごめん!キーを引き抜いてから斬ればよかったか…」

「まぁ、仕方ないだろう。我々もホッパーブレードの特性を忘れていたしな」

 

 強制的にマギア化を解除するプログライズホッパーブレードの力で、グールギラスゼツメライズキーは消滅してしまっていたのだった。

 

「その代わり、彼女の方を調べさせてもらいましょう。飛電或人、あなたもA.I.M.Sまでご同行願います」

「あぁ。構わないよ。君もいいかな、えっと名前は」

 

 或人が言いながら振り返ると。

 

「あ、或人社長…!」 

 

 メイドヒューマギアは胸を抑え、苦悶の表情を浮かべていた。

まるで、病魔に苦しむ人間のように。

 

「わた…し…! 」

 

 刹那、小さな悲鳴を上げると彼女は倒れた。

ガシャンと、人らしからぬ重厚な音を立てたメイドヒューマギア。彼女のヘッドセットに、電力状態を示す青い光は灯っていない。

突然の出来事に三人が呆然とするなか、唯阿がぽつりと漏らした。

 

「尻尾は掴ませないつもりか…」

 

 敵は、ヒューマギアに証拠隠滅のための細工を施せるほどの技術を持っている。この事実が再び仮面ライダーたちに緊張を走らせる。

 

 寒空の下、或人の拳を握り締める音が、やけに響いた。

 



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#2

---side computer world---

 

 グリッドマンの予想は、意外にも大きく外れていた。

 ツツジ台から怪獣とグリッドマン、そして新条アカネが去ったあの日から、間もなく一年が経とうとしていた。

 新条アカネ。アレクシス・ケリヴという魔人に唆され、怪獣を創って街や人を襲わせた神にも等しい存在であり、ツツジ台というコンピューター・ワールドを構築した創造主であり、同時に、ひとりぼっちの寂しがりの少女でもあった。

 彼女とアレクシスを止めるため、遥か彼方のハイパーワールドよりやってきたヒーローが、グリッドマンである。グリッドマンは、同じくハイパーワールドからの使者である新世紀中学生の面々と、アカネのクラスメイトの響裕太、内海将、宝多六花のグリッドマン同盟とともに戦いを繰り広げた。

 ところが、戦いの中で一つの衝撃的な事実が判明した。

 グリッドマンは、同盟の拠点であるジャンクショップ絢に売られているジャンクというコンピュータを介して裕太と合体することで、その身体を実体化していた。

 裕太は長らく原因不明の記憶喪失状態に陥っていたのだが、その原因がグリッドマンにあったのである。

 ツツジ台に降り立った際に大きく力を消耗したグリッドマンは、自己の存在を新世紀中学生として分離させ、メインの意識を裕太の中に宿らせた。そして、本来はグリッドマンの意識が裕太に成り代わって世界を救うために戦うはずだったのだが、彼らはお互いに記憶を失ってしまったため人格の一体化に気付けず、裕太は裕太、グリッドマンはグリッドマンとして存在することになってしまったのだ。

 真実にたどり着いたことで、裕太/グリッドマンは真の力を取り戻し、アレクシスを打倒しアカネの歪んでしまった心を救済したのだった。

 だが戦いを終えたグリッドマンがハイパーワールドに帰るとき、彼は本来の裕太の状態について「たとえ記憶がなくとも、裕太の身体には刻まれている」と言った。

 同盟の内海と六花は、改めてグリッドマンではない裕太と友だちになることを決め、彼の目覚めを待つことにしたのだった。

 ところが、その予想が意外にも大外れしたのだ。

 絢で内海と六花に見守られながら目覚めた裕太の第一声は「グリッドマンはもう行った?」だった。

 実はグリッドマンが真の記憶に目覚めたとき、裕太本人の記憶も覚醒していたのだった。

 これが偶然なのか、それとも裕太の人生の一部を奪ったことへのグリッドマンの償いだったのかはわからない。

 いずれにしても、裕太はグリッドマンであった頃の記憶を持ったまま響裕太として帰ってきた。

 そして、高校二年に進級した裕太たち。

彼らの絆は、今なお続いている…

 

「いや、そうじゃねーだろ!」

 

 と、一人の女子の声が響いた。

 平日午後、昼休みを迎え騒々しくなった教室。少女の声に一瞬空気がシンと静まったが、またもとの喧騒が戻ってくる。

 声の主、なみこという六花のクラスメイトは、注目を集めてしまったことで少し顔を赤らめて、今度はひそめた声で机を向かい合わせにして昼ご飯を囲んでいる六花に言った。

 

「そうじゃないじゃん六花。いつまでお友達なわけ?もうお互いバレてるようなもんなんだからアタックしちゃえばいいのにさー」

 

 煽り立てるなみこを、六花が紙パックのきなこ豆乳のストローを咥えながら面倒そうに見ていると、なみこの隣に座っていたもう一人、はっすがニヤリと笑って返した。

 

「いやいや、あの六花さんが自分から告るなんてねぇ?大人な六花さんはウブな響が勇気を出すのをじっと待つイイ女なんですよ」

「かー、かっけぇー!六花さん流石だわー!それに引き換え響は…六花さんを待たせるとは何事かー!」

「ちょっと、響くんのことそんな感じで言うのは違うじゃん…」

 

 裕太が六花を待たせている、というのは少し事実と異なる。そう思ってつい口を挟んだ六花は、顔を見合わせて邪悪な笑みを浮かべたなみことはっすを見て、失敗したと悟った。六花はまた二人からイジられるのを覚悟したが、彼女たちの反応は少し意外なものだった。

 

「…まぁ、六花さんがしたいようにすればいいと思うけどさ。花の高校生ももう折り返し地点まで来ちゃいましたし」

「そーそー。後悔のないようにしなきゃね」

 

 保護者のような目で、しかし茶化すのではなく本心から六花の青春を案じてくれている二人を突っぱねることもできず、六花は「わかってるけどさ」と言って教室の入り口の方を向いた。

 4月のクラス替えで、裕太と内海は六花と別のクラスになった。以降、時たま裕太が内海に連れられて六花の自宅である絢に来ることがあるが、それを除いて彼らと絡むことはなくなってしまった。

 このドアを開けて二つ先のクラスにいるはずなのに、六花には裕太がそれ以上に遠いどこかにいるような気がしてならなかった。

 

 

 終業を伝えるベルの音を背にして、裕太は校門を出た。

 曲がり角も、小河も、坂道も、全て彼の記憶に刻まれている通りの下校ルートだ。

 以前は記憶喪失だったこともあって内海と一緒に帰っていたが、今は記憶も戻ったうえ、内海にも一緒に帰ることが難しい理由ができたので一人で帰るのが主になった。

 先日、内海に恋人ができた。二年になってからのクラスメイトで、趣味が共通しているのだという。曰く「彼女は等身大ヒーロー派だからたまに解釈で戦争になる」らしいが、楽しくやっているようだった。

 高二の夏もとうに過ぎ、裕太もちょっとした危機感を覚えざるをえなかったが、彼の脳によぎるのは決まってたった一人の女子生徒の姿だった。

 宝多六花。裕太が内海から聞いた話では、グリッドマンが裕太を選んだ理由の大部分が彼女だったらしい。世界の誰もが新条アカネのことを好きになるように設定された世界で、唯一六花だけを見ていた存在。それが裕太だったのだ。

 自分がグリッドマンに選ばれた理由がそんなところにあったとは知らなかったので、裕太はその話を聞いたときに恥ずかしいような嬉しいような思いになった。

 ところが、一つ大きな問題点があり、グリッドマンはあろうことかそれを六花にも話していたのだった。

 身体を貸したり、戦いに巻き込まれたりしたことに関して裕太がグリッドマンに思うところは全くなかったが、このことに関しては恨み言の一つや二つ言いたいところだった。

 グリッドマンによって中途半端に告白したような状態になっている以上、あとは六花がそれをどう受け取っていたかが問題となる。裕太自身、彼女から比較的好意的に思われている自負はあったが、とはいえ彼女と本格的に関わるようになったのはグリッドマンと融合した後の話である。

 グリッドマンと心が一つだった頃の自分は、自分であって自分ではない。彼女が少なからずよく思ってくれていた自分と、今の自分は違うかもしれない。

 そんな思いがあって、裕太は改めて思いを伝えることも、積極的に関わりを持とうとすることもできずにいた。

 内海もそんな裕太の心中を気遣ってか、たまに絢でグリッドマン同盟の例会と称して裕太と六花が話せるタイミングを作ってくれている。内海には感謝しかないが、そんな彼も今や裕太や六花以上に一緒に過ごす時間を大事にしなくてはいけない人がいる。

 うかうかしてられないな、と裕太が気を引き締めると、気が付けば学校からそれなりの距離を歩いていた。

 そんな、いつも通りの、記憶通りの下校ルートに、奴はいた。

 いつもとは違う、しかし裕太の記憶には強く刻まれた存在。

 二メートル近い体躯をもった黒い異形が、裕太のもとに近づいてきた。

 

「やぁやぁ。ご無沙汰じゃないか、響裕太くん」

 

 異形はさながら親しい友人に話しかけるように、しかし強烈な威圧感を放ちながら言った。

 

「…どうして、お前がいるんだ!」

 

 アレクシス・ケリヴ、と裕太が異形の名を言う前に、アレクシスが「早速で悪いが」と被せてくる。

 

「君には、死んでもらおう」

 

《BEROTHA》

 

 アレクシスの手に握られていたのは、ここではない、リアルの世界でゼツメライズキーと呼称されるデバイス。そのスイッチを入れるとともに、アレクシスは呪文を唱えた。

 無機物に人間の情動を吹き込むことで怪獣を誕生させ、惨劇を巻き起こすための悪魔の呪文。

 

「インスタンス・アブリアクション!」

 

 ゼツメライズキーから放たれた真っ赤な光に、裕太は思わず目をつむる。

 裕太が次に目を開けたとき、彼の前には巨大なカマキリのごとき怪獣が立っていた。

 

「やば」

 

 間もなくベローサ怪獣が振り下ろしたカマが、地面に突き刺さる。

 強烈な衝撃波が放たれたことで、裕太の身体は宙に浮いた。

 全身を揺るがす重力に、裕太が死を覚悟した、そのとき。

 

「今助けるぞ!裕太!」

 

 どこからともなく聞こえてきたのは、頼れるヒーローの声。

 グリッドマン、そう裕太が彼の名を心の中で唱えたとき、空から光が降ってきた。

 隕石のように墜落すると思われた光は、空中で裕太を掬い上げると、彼を学校の屋上まで運んだ。

 裕太を降ろした光は、その形を巨人のものへと変えていく。

 ズシンズシンという轟音に巨人が振り返ると、そこには後を追ってきたのであろうベローサ怪獣の姿があった。

 ベローサ怪獣の雄叫びに呼応するかのように、巨人の身体から光が飛散し、その真の姿をあらわにする。

 

「ハァァァァ、ハッ!!」

 

 真紅のボディに近未来的な瑠璃色の鎧を纏った、旧世紀からの伝説のヒーロー、電光超人グリッドマン!

 ベローサ怪獣がチョップをするようにカマを大きく振ると、斬撃が光の刃となってグリッドマンを襲う。

 グリッドマンはその巨大な体躯を軽々と操り、バク宙によって攻撃を躱す。

 地面に降り立ったグリッドマンは左手のグランアクセプターに力をためて、ベローサ怪獣を射撃する。

 

「スパークビーム!」

 

 被弾したベローサ怪獣の身体から爆炎が巻き起こる。

 そして、グリッドマンは前かがみの姿勢からクラウチングスタートの要領で駆け出し、爆風をも飛び越える大ジャンプを披露する。

 ベローサ怪獣もカマを振って応戦しようとしたが、それよりもグリッドマンが間合いに詰める方が早かった。

 

「ネオ超電導キック!」

 

 ズバン、とグリッドマンの蹴りが怪獣の身体に大穴を開ける。怪獣が身体から火花を散らせると、間もなく爆裂四散した。

 爆風の中で、グリッドマンの黄金色の瞳がさんざめいていた。

 グリッドマンの圧勝に終わった対決だったが、巨大生物の登場に街や学校の人々は騒然としていた。裕太が降ろされた屋上にも、生徒が大勢訪れ始めていた。

 裕太は生徒たちを止めようかとも思ったが、グリッドマンが怪獣をすでに倒してしまったのでどうするべきか迷い、ひとまずはグリッドマンの動向を見守ることにした。

 当のグリッドマンは、裕太の危機を救えた安堵とともに大きな焦燥感に駆られていた。

 その焦燥の原因の声が、グリッドマンの耳元で響く。

 

「おや、来てしまったのかいグリッドマン。私の怪獣をそんなに早く倒してしまうだなんて酷いじゃないか」

「アレクシス・ケリヴッ!どうやってハイパーワールドを抜け出した!なぜこの世界にまた現れた!」

「そう一度に質問されても困ってしまうな。もっとも、君に教えるつもりはないがね」

 

 グリッドマンは飄々と答えるアレクシスの姿を探すが、周囲にその姿は見当たらなかった。

 

「探したところで無駄だよ、グリッドマン。なにせ、君は命を落とすのだから」

 

 アレクシスが宣告すると、グリッドマンの頭上の雲が晴れ、紫の光が刺し始めた。

 

「空から…だとっ!?」

「さよならだ、グリッドマン」

 

 降り注ぐ死の光線が、グリッドマンの頭からつま先までを貫いた。

 獣のような叫びをあげて苦しむグリッドマンの身体から、バラバラと装甲が剥がれ落ちてゆく。

 

「グォォォォッ!!」

 

 回避しようにも、光線の威力に押されて体の自由が利かない。

 しかしそうこうしている内にも、自身の肉体が形を維持できなくなりつつあるのが感覚的にわかる。

 もはや、死を待つほか術はないとまで思ったグリッドマンだったが、彼の視界に、何か光り輝くものを見つけた。

 既に機能を失いかけている目を凝らし、光の方を見ると、そこにいたのは彼のよく知る少年だった。

 響裕太が、何か呼び掛けている。

 

「ユウ…タ…」

 

 全意識を裕太のもとに集中させる。すると、彼の叫びが聞こえてきた。

 

「…ッドマン!グリッドマーン!!」

「……裕太…!」

「グリッドマン!俺を!」

 

 俺を使え、裕太はそう叫んでいた。

 あぁ、君はどこまでも優しい心を持った少年なのだな、と、グリッドマンは薄れゆく意識の中でやけに冴えた頭で思った。

 もはや人型ともいえぬ風貌となっていたグリッドマンに腕が生え、裕太のもとへと伸びてゆく。

 すまない裕太。

 私はまた、君の優しさに甘えることになってしまった―――

 

 

 廊下を走ってはいけません。これは、校則に書かれるまでもなく全学生が心得ているべきルールである。

 しかしながら、今の内海将にとってそんなルールは守るに足らないものだった。

 なんといっても、親友の危機である。

 響裕太が屋上で倒れたとの報告を受けた内海は、保健室目掛け全速力で廊下を疾走していた。

 目的地に辿り着き、横開きの戸を勢いよく開ける。

 

「裕太ぁっ!大丈夫かおま…」

 

 息を切らしながら入室した内海だったが、瞬間的にその息を吞むことになった。

 戸を開けた先には、学生服のままベッドに仰向けにされた男子生徒と、その傍らにいる六花と思しき後ろ姿があった。

 男子生徒の顔は隠れていたが、おそらくは件の裕太であろう。

 しかし顔が見えないのも、ひとえに六花が裕太の顔を覆い隠すように前のめりな姿勢をとっていたからで…

 

「えっ、あっ、すっ、スンマセン!!」

 

 ピシャンと、つい先ほど勢いよく開けた戸を同じ勢いで閉める。

 こめかみから流れた汗が眼鏡のフレームをつたったが、内海は拭う気にもなれなかった。

 彼の推理が正しければ、これはなかなか衝撃的な、いや、ある種当然かもしれない場面に遭遇したことになる。

内海は、とりあえず一旦帰った方が良いかと思って立ち去ろうとした。しかし、今度は中から戸が開けられたのでその歩みを止める。

 

「えあっ、あっ、あのぉ、えっと六花さん、なんというか邪魔する気はなかったっていうかその…」

「内海くん、なんか勘違いしてるっぽいけどとりあえず静かにして。響くん起きちゃうから」

 

 と、目を細めて内海を見つめる六花に制された内海は「はい…」と蚊の鳴くような声で答えると、彼女の手に湿ったタオルが握られていることに気が付く。「あっ」と思いベッドの裕太の方を見やると、傍の丸椅子には水のたまった桶があり、裕太のおでこにも濡れタオルが乗せられているのが見えた。

 どうやら自分はなかなか恥ずかしい早とちりをしたようだと、内海はなおのこと沈んだ面持ちで保健室に入った。

 積み上げられたものの一つを拝借して丸椅子に座ると、六花が裕太の容態を説明した。

 

「先生が言うにはただの貧血じゃないかって」

「あぁ、うん、そうか…」

 

 そう答えたものの、内海は納得したわけではなかった。

 内海は既になんとなく別の原因が思いついていたのだが、なかなか言い出せずにいると、六花の方が口を開いた。

 

「内海くんは…さ」

「…グリッドマンだろ。ハイパーゼットンのデスサイスみたいな怪獣と戦ってた」

「そのハイパーなんとかは知らないけど、やっぱり覚えてるのって、また私たちだけだよね…」

「だろうな。気付いたら倒されたビルも元に戻ってたし、ここに来るまでの間に怪獣のことを話してる奴なんか一人もいなかった」

「じゃあ…」

 

 響くんも、と言いたかったのか、それとも別の「じゃあ」だったのか。

 いずれにせよ、六花の頭の中で様々な記憶が巡っていることは、内海にも容易に想像できた。

 花が咲くような思い出話ではないので、内海も六花もなんとなく黙ってしまい、静かな時間が流れる。

 そうしていると、保健室の外から騒がしい声が聞こえてきた。

 放課後ということもあり、多少の喧騒はあって然るべきなのだが、それにしてもやかましい声だった。

 程なくして、保健室の戸がまた開かれる。

 

「ほらやっぱここじゃねーかよー!だから俺ずっと三階に保健室は無いだろっつってたのによー!」

「…すまない」

「ボラ―、静かにしろ。場所が場所だぞ」

「失礼しまーす。あっ、なんだ。もう二人とも揃ってるじゃん」

 

 そう言って入ってきたのは、ツツジ台高校で定められたものとは異なる学生服を着た四人組。

 グリッドマン同盟の頼れる仲間、ボラー、キャリバー、マックス、ヴィットの新世紀中学生の面々だった。

 

「え、えぇぇぇっ!なんでぇ!?」

「うっせぇなー内海ぃ。人が寝てる前で大声出すなよ」

「いやボラーさんに言われたくないっスよ!」

「やっほー。六花ちゃんもお久しぶり」

「ど、どうもですヴィットさん…ていうか皆さん、なんでここに…?」

「我々は、この世界にやってきたグリッドマンによって再び生み出されたのだ」

「さっきの攻撃でグリッドマンは死にかけたが、自身の存在を俺たちに分離することでなんとか一命をとりとめたんだ…」

 

 先ほどまでの張りつめた空気が嘘かのように、保健室はずいぶんと賑やかになっていた。

 しかし、穏やかではないキャリバーの発言に、六花と内海の顔が曇る。

 

「死にかけって…グリッドマンが圧勝したようにしか見えませんでしたけど」

「怪獣との戦いにはな。その後、グリッドマンは謎の光線を食らったことで瀕死となった」

「完全形態のグリッドマンを滅ぼしかねないほどの威力だ。敵は相当大きな力をもっていると考えられる…」

「ま、なんにしてもご本人様が目覚めないことには始まらないってこったな」

 

 と、ボラーがベッドの方を見ながら言うと、寝ていた裕太がむくりと起き上がった。

 

「うむ。覚醒したようだな、グリッドマン」

「…あーでも、今回は前とちょっと違うみたいだね」

 

 6人に見つめられる裕太の、左手首に巻かれたリストバンドから光が漏れて、声がする。

 

「あぁ、どうやらそのようだ」

「裕太…?なぁ、お前は裕太なのか!?」

 

 内海が裕太の肩を揺らして問い詰めると、裕太は少し気圧されながら答えた。

 

「うっ、うん!大丈夫!今回は俺!ちゃんと俺が俺だから!」

「いや、それじゃ意味わかんないし」

 

 六花が微笑み交じりにツッコミを入れると、裕太も「だよね」と言いながら笑った。

 内海はほっと息を漏らして、裕太の肩から手を放す。

 裕太が裕太であることは、内海と六花にとっては世界の平和と同じくらい大事なことなのであった。

 そんな裕太がリストバンドを外すと、彼の手首には近未来的なデザインのモジュールがあった。

 アクセプターとよばれるそれを裕太が六花たちの方に向けると、光に合わせて声が鳴った。

 

「みんな、久しぶりだな」

 

 その力強くも優しい口調は、まさしくグリッドマンのものだった。

 アクセプター、もといグリッドマンが「そして」と言うと、裕太の腕の向きが変わりアクセプターの前面が裕太の顔に向く。どうやらグリッドマンの意思である程度動かせるらしい。

 

「裕太。本来の君と話すのは、本当に久しぶりだな」

「うん。お帰り、グリッドマン」

 

 ツツジ台高校一階保健室の一角。

 グリッドマン同盟再結成の瞬間であった。

 




次回、SSSS.01

「別世界のアークを倒す方法などあるのでしょうか」
「やはり、我々の力が明らかに弱くなっている」
「それもトップに立つ人間の仕事だろ?」
「もしかして、これがアンチくんが戦ってたっていう敵?」
「我々が負けることは1000%ありえない」
「君たちは、一体…?」

「イズ、新条さんを連れて逃げるんだ」

第02回 世界脅かすソノ正・体


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第02回 世界脅かすソノ正・体
#1


 先日、ありがたいことに読者の方から感想とお褒めの言葉をいただきました。
 クロスオーバー小説ともなると読者の対象が絞られるので、正直ネットに投稿しても注目されづらいのですが、こうしてコメントをいただけるととても励みになります。

 さて、今回から本格的にゼロワンとグリッドマンの世界が交錯し始めます。
 その中で、劇場版ゼロワンの核心を突くネタバレが出てきますのであらかじめご了承ください。

P.S. 亡さんの台詞書くの超難しい。


---side ?????---

 

 あたり一面の暗闇。

 否、そこは暗闇というほど漆黒に覆われていなかったが、禍々しいオーラが水面のようにおぼろげな床に反射して、空間を赤黒く照らしていた。

 その中で、一際黒い身体をもった異形が一体。アレクシス・ケリヴである。

 コツ、コツ、という足音にアレクシスが振り返ると、そこには人間の女の姿を模した機械人形がいた。

 頭部のモジュールを赤く光らせる、アズというそのヒューマギアが、アレクシスに語りかける。

 

「上手く逃げられてしまったみたいね。あのグリッドマンとかいう奴に」

「大方私の予想通りさ。奴があの程度の光線で命を落とすとは思っていなかったからね」

「あら、因縁の相手の割に肩を持つのね。もしかして、アイツのことが好きなの?」

 

 アレクシスを挑発するように言ったアズに、アレクシスは溜息交じりに答えた。

 

「逆だよ、アズくん。人間の破滅的な情動を依り代とする私にとって、ああいう真っ直ぐな心みたいなものを振りかざす連中は嫌悪の対象でしかない。ただ、君のように心もないくせに感情を操っているような気になっている連中が、もっと嫌いなだけさ」

 

 そう言って、あからさまに侮蔑の態度をとったアレクシスに対し、アズも口角を釣り上げながら答える。

 

「命の恩人にひどい言い草ね。まぁ、ビジネスパートナーはそれくらい正直な方がやりやすいけど」

 

 言いながら踵を返し、アズが足音を鳴らして去ってゆく。

 アズの姿が見えなくなる直前、アレクシスが問いかけた。

 

「ところで、君の服装はいったい何のつもりだい?」

 

 アズが振り向く。最初にアレクシスと出会った際は、それこそ秘書のような恰好をしていたアズだったが、今はプリーツスカートにブラウスを着込み、その上から一回り大きなサイズのパーカーを羽織って、腕のあたりまで下ろしている。

 

「貴方好みにしてみたのよ。似合うでしょう?」

 

 そう言って満足気な表情を浮かべた、アズが暗闇の中に消えてゆく。

 アレクシスは再び溜息をついて、「やはり何もわかっていないようだ」と独り言ちるのだった。

 

---side real world---

 

 悲鳴を上げて逃げ纏う人々。

 その光景はさながらゾンビ映画のようだったが、人々を追いかけるのはゾンビではなく、無数のトリロバイトトルーパー。もぬけの殻の疑似ヒューマギアであった。

 人々の前には、こういった非常時に限って、ちょっとした障壁が立ちふさがるものである。

 逃げ行く人々の先には数段ほどの階段があり、一人の幼児がつまずいて転んだ。

 そのことに気付いた母親が慌てて引き返そうとするが、人の波に押されて息子のもとから離されてしまう。

 少年も母親がどんどんと離れていくのを見て、涙を零す。

 そんな彼のもとに、無慈悲にもトリロバイトトルーパーと魔の手が伸びた、そのとき。

 

「おぉぉらぁっ!」

 

 現れた作業着姿の男が、鋼鉄の身体を持つ機械兵士を素手で殴り飛ばした。

 トリロバイトトルーパーたちが一瞬ギョッと固まった隙に、男は拳銃、否、エイムズショットライザーを取り出し、乱射して群れを退けてゆく。

 男は少年のもとに母親が戻ってきたことを確認すると、「早く逃げろ」と告げてショットライザーを構え直す。

 何度も頭を下げて感謝を伝える母親の声と、少年の「おじさんありがとう!」という声を背に、「まだそんな年でもねぇよ」と文句をつけながらも男は笑みを浮かべた。

 トリロバイトトルーパーたちもまた男に銃口を突きつけ一斉に発砲したが、男は先ほど殴ったトリロバイトトルーパーの体を起こし、それを盾にして突き進む。

ショットライザーで次々に敵を打ち抜いてゆくが、死角からの狙撃を受けてショットライザーを落としてしまう。

 男は仕方なく、腰に携えていた赤色灯を引き抜き、刀代わりにして振り回し始める。

 かの有名なSF映画の主人公のように光る棒を操ってトリロバイトトルーパーを殴打していくが、ある程度のところで赤色灯が折れてしまい、とうとう拳以外の武器がなくなってしまう。

 

「くそっ…!」

 

 ここまでかと男が覚悟したとき、彼の周りに突如業火が巻き上がり、トリロバイトトルーパーたちを焼き尽くしてゆく。

 さらに、彼の横を身体が真っ二つに斬り裂かれたトリロバイトトルーパーの亡骸が飛んで行った。

 燃え盛る竜巻が収まると、その中心から赤い身体の二人の仮面ライダーが現れた。

 

「お前ら…!」

「滅たちがちょっと手を離せない状況みたいだからね。僕たちが助太刀するよ」

「おらよ。お前の落とし物だ」

 

 ピンチに駆けつけた二人の仮面ライダー、迅と雷。

 雷から手渡されたショットライザーを手にして、男も彼らと並び立つ。

 

《KAIJU NOVA!》

 

 妖しげなシステムボイスとともに、トリロバイトトルーパーが再び現れる。

 その源流をたどると、そこには雑に作られた粘土細工のような鎧を身に纏った未知のマギアの姿があった。

 

「大本のアイツを倒さないと、意味がないみたいだね」

「雑魚を倒しながら、なんとか隙を狙っていくしかねぇな」

 

 そういって、迅と雷が改めて臨戦態勢をとった。

 

「おい、俺抜きで話を進めるなよ。要は、全員ぶっ潰しゃいいんだろ?」

「…いや、違うけど、もういいよバルカンはそうしててよ」

 

 バルカンと呼ばれた男が、懐からグリップ付きのプログライズキーを取り出し、スイッチを入れる。

 

《ASALT BULLET!》

 

「だったら任せろ。ふっ!ぐぉぉぉっ、おらぁっ!」

バキッと力任せにキーをこじ開け、ショットライザーに装填して引き金を絞る。

 

「変身!」

 

《SHOT-RISE! READY GO! ASALT WOLF! No chance of surviving.》

 

 放たれた弾丸がオオカミの形をかたどり男のもとへUターンして戻ってくる。それを男が握りつぶすように掴み取ると、彼の身体がコバルトブルーの外装に纏われた。

 あるときは、A.I.M.Sの主戦力にして隊長。あるときは、飛電製作所の用心棒。そして現在は、交通整備のアルバイトで日銭を稼ぐ一匹狼、不破諫。

 彼が変身するのは、怒りに燃える闘志に呼応して生まれた、オオカミと銃撃のアビリティを宿した重戦士。仮面ライダーバルカン アサルトウルフ!

 

「はぁっ!」

「ふんっ!」

「おらぁっ!」

 

 迅はベルトのバックルからザイアスラッシュライザーを抜刀し、刺突と斬撃でトリロバイトトルーパーたちを斬り捨てる。雷は羽根を模した二刀の大太刀で、四方の敵をなぎ倒す。バルカンはアームキャノンから放たれる砲撃で、迫りくるトリロバイトトルーパーたちを蜂の巣にしてゆく。

 三人のライダーと怪人軍団の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 時は数日ほど前に遡る。

 グールギラスマギアの出現によって明らかになった、新たな敵の存在。

 その対策を講じるため、飛電インテリジェンス本社社長室に隣接する整備室には続々と仮面ライダーが招集されつつあった。

 また一人、社長室の戸を叩くものがいた。

 

「悪い、遅れたな社長!」

 

 勢いよく入ってきた不破諫が、整備室への階段を駆け下りる。

 

「遅いぞ不破。というか、なんだその恰好は」

「刃隊長、彼は先月より交通整備員として勤務中です」

「交通…お前、それなりの大学出てるんだからもっとマシな仕事をしたらどうだ」

「うるせぇ!本職が決まるまでの繋ぎだ。あと、亡も亡でなんで知っていやがる」

「…以前もお伝えしましたが、あなたが一度私のゼツメライズキーで変身したことで我々の脳内回路は部分的に同期しているのです」

 

 と、繰り広げられる新旧A.I.M.S組の漫才を微笑み交じりに見つめながらも、「さて」と或人が仕切り直した。

 

「そろそろ始めようか。イズ」

「はい」

 

 秘書のイズが頭部のモジュールに手を当てると、整備室内に人型の立体映像が浮かび上がる。

 滅亡迅雷.netのアジトからは滅と迅、ZAIAエンタープライズ日本支社の電気室兼サウザー課室からは課長の天津垓、そして宇宙ステーションからは元・滅亡迅雷.netの雷こと宇宙野郎雷電の姿が映し出された。

 

「うおっ、なんだこりゃ」

「我が社が開発した高次元リモート会議システムです」

「へぇー。またすげぇモン作ったんだな。なぁ、社長」

 

 感嘆の声を上げた不破が或人の方を向くが、或人はどこか困ったような表情を浮かべ、唯阿と亡は呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた。

 イズが小首を傾げて不破に言う。

 

「そもそも本日はあなたもリモートでの出席のはずでしたが」

「…は?」

「不破、やはりお前に就職は無理だ。ホウレンソウがなっていなさすぎる」

「ま、まぁまぁ!ほら、やっぱり実際来てくれて話した方が良いかもしれないし!」

 

 或人が気を利かせてフォローしたが、諫はそれなりにショックだったのか落ち込んでしまっていた。

 と、そんなやり取りをしていると、ホログラムの滅が口を開いた。

 

「飛電或人。今回の件の黒幕は、おそらくこの世界にはいないぞ」

「えっ、それってどういう…?」

 

 ようやく本題に入ったことで、皆の表情が引き締まる。

 滅の話を、横にいる迅が補足した。

 

「僕も滅も、アークと接続していた期間が長いだけあって、マギアが生まれる予兆みたいなのが少しわかるんだ。でも、今回はそれを感じなかった」

「とはいえ、マギアの出現がアークの存在を裏付けている。アークの居所は、考えられるとすれば稼働中の衛星だが…」

「その可能性は、俺が無いと断言できるからなぁ」

 

 滅と迅に続いたのは、宇宙ステーションの雷である。

 

「俺が今いるこの衛星は、開発から打ち上げ、分離に至るまで俺がずっと見守ってきたが、不正なアクセスは確認できなかったぜ」

 

 宇宙野郎雷電として飛電インテリジェンスに戻っていた雷は、新造された小型人工衛星ゼアツーのキャプテンとして活躍していた。

かつてシンクネットが世界中で大規模テロを起こした際に、事件解決のカギとなったのは各機関、各仮面ライダー間でのリアルタイム・コミュニケーションだった。

 そのことを受け、飛電インテリジェンスは非常事態において仮面ライダーたちを結ぶためのネットワークを展開し、その運用拠点として衛星ゼアツーを打ち上げたのだった。

 この会議システムもまた、ゼアツーが展開するネットワークによって構築されているものである。

 

「つまり、アークの力無しでは生成できない新種マギアが確認されたにも関わらず、この世界にアークが存在しうる環境がどこにも無いということですね」

「だから、この世界に黒幕がいない、か」

「…いや、どういうことだ?この世界にアークがいないなら、どこにいるって言うんだよ」

 

 不破が疑問を呈すると、唯阿がボソりと漏らした。

 

「…データの世界か」

 

 サウザー課室から参加中の天津も口を挟む。

 

「なるほど、見えてきましたよ。エスが婚約者の脳から楽園を作ったように、今回の黒幕はアークが存在する世界をデータ上に生み出した。そして別世界のアークからハッキングを行うことで、現実世界で衛星を介すことなくマギアを誕生させている、と」

 

 天津がろくろを回しながら決め顔で答える。

 すると、会議室に僅かな沈黙が生まれた。

 

「何かおかしいか?私の推理は1000%当たっていると思うが」

「えっ、あぁ、うん。俺らもそう思ったけど」

「一番黒幕っぽいお前が言うと、どうもな…」

「なんでだろ。サウザーが言った途端に違うような気がしてきた」

 

 と、各機関のライダーから散々に言われ、天津は「ふむ…」と言って目をそらした。

 彼への信頼の置けなさが改めて露呈してしまったそのとき、ホログラムには映っていない彼の愛犬型ロボットのさうざーの鳴き声が「くぅん…」と悲しく響いた。

 亡が話を戻す。

 

「しかし、別世界のアークを倒す方法などあるのでしょうか」

「うん、それが問題なんだよね。シンクネットの事件のときは、僕らはデータ世界に行って戦ったわけじゃなかったし」

「この中でデータ世界に飛んだのは、お前だけだな。飛電或人」

 

 滅に言われ、或人がゼロワンドライバーを掲げて答える。

 

「あぁ。ちょっとの間だったけど、朱音さんに会えた。ベルトを着けていたおかげで、ゼアが意識を運んでくれてたみたいだ」

 

 遠野朱音は、かつて人工知能の暴走によって命を落とした、シンクネットの管理者エスの婚約者だった女性である。

 エスは、彼女の脳から作り出したデータ世界に、シンクネット信者以外の人類の生体データを転送することで、悪意に満ちた人類がいない楽園で朱音を生かそうとしていた。

 しかし、戦いの中で朱音の世界を訪れていた或人によって、楽園創造ではなくエスとの再会を望む朱音の思いを知らされたことで、エスは朱音の世界に入りシンクネット壊滅に一役買うことになったのだった。

 繰り広げられる会議の中で、先ほどから難しい顔をしていた不破が発言する。

 

「別世界のアークを直接ぶっ潰しにいける手段はある、って考えていいんだよな」

「理論上はね。でも、簡単にはいかない」

「まずは二つの世界にアークを繋いでいる仲介者を見つけ出す。相応の時間はかかるが、今後の戦いには不可欠だ」

 

 滅の下した結論によって、対策会議はひとまずお開きとなった。

 

 

「では社長、私はゼアと交信し、今後のプランを再検討します」

「あぁ、よろしく頼むよ。イズ」

 

 会議終了後、不破たちを帰し、社長室には或人とイズの二人のみが残っていた。

 イズもまた、ゼアとの接続のためスリープモードに移行したため、或人は少し休憩しようかと社長室を出る。

 すぐそばのベンダールームに入り、小銭を出すべく財布を覗き込んでいると、或人の目の前に缶コーヒーが飛んできた。

 

「うおっ、びっくりした。あれ、刃さんまだいたの?」

「…一息入れようかと思ってな」

 

 そう言って、唯阿が手に持っていたコーヒーに口をつける。

 或人は「あっ、これ」と唯阿に代金を支払おうとしたが、唯阿にハンドサインで制止されたため「どうも」と告げて缶を開ける。

 或人もコーヒーを一口あおると、唯阿が小さく言った。

 

「なぁ、社長…傷ついてはいないか?」

「ん?えっと、俺が?」

「イズと話しているのを聞いたが、あのメイドのヒューマギア、バックアップが無くなっていたそうだな」

 

 グールギラスマギアに変身していたメイドヒューマギアは、或人たちの前で機能を停止した後、バックアップデータに基づいて復元される予定だった。

 しかし、会社に戻ってイズが調べたところ、該当するバックアップデータが抹消されていたのである。

 これもまた敵の隠蔽工作であることは明白だったが、ヒューマギアが復元不可能となったということは、すなわちそのヒューマギアの実質的な死を意味していた。

 そして、事件の黒幕を探し出すことに時間を要する以上、或人は今後も社員であるヒューマギアの死を覚悟しなくてはならないのだ。

 

「…まぁね。でも、起きたことはしょうがないし、みんな頑張ってくれてるから、俺も頑張って受け入れて」

 

 と、或人が言い切る前に。

 唯阿がそっと、片手を或人の肩に乗せた。

 突然のことに或人が振り返ると、唯阿は或人を憐憫の表情で見つめていた。

 

「…無理するな」

 

 心に訴えかけるような声色に、或人は思わず息を呑む。

 唯阿が肩から手を放して、独白するように言う。

 

「私はこの一年色々とあったが、今となっては後悔していない。結果がどうなっても、私はその時々の最善を尽くしてきたつもりだからだ」

 

 或人の頭にも、この一年での唯阿の様々な姿が思い浮かんだ。

 共闘することもあったA.I.M.Sで技術顧問を務めていた頃、ZAIAに戻って天津の尖兵となっていた頃、滅亡迅雷.netと一時的に協力した頃や、A.I.M.Sに隊長として返り咲いた現在の姿だ。

 

「…だが一つ後悔しているとすれば、イズが滅に破壊されたとき、何も声をかけてやれなかったことだ」

 

 或人の表情が強張る。どうしても忘れがたい、イズが目の前で爆裂するあの光景がフラッシュバックしたからだ。

 

「そんなの、いいのに」

「もちろん私が何か言って結果が変わったとは思えない。だが、拠り所を失う悲しみを知っておきながら、何もしてやれなかったのが悔しくてな」

 

 唯阿が、空き缶をゴミ箱に入れるとともに、或人に振り返って言う。

 

「社長、あんたが仲間想いなのはわかってる。だが、自分を押し殺すことが必ずしも仲間のためになるわけじゃない」

 

 自身の自己犠牲性は、或人も自覚している部分だった。

 その結果溜め込んだ悪意を利用され、アークに魂を売ることになったこともあった。

 

「せっかくゼアツーの連携システムまで作ったんだ。仲間はちゃんと使え。それもトップに立つ人間の仕事だろ?」

 

 凛とした表情で言う唯阿に、或人は思わず笑みをこぼす。

 或人の反応に疑問符を浮かべた唯阿に「いや、ごめんごめん」と続ける。

 

「やっぱり、ちゃんと隊長のお仕事をしている人は凄いなぁって」

「というより、私の周囲の男どもがワンマンで動きすぎるんだ。本当に世話が焼ける…」

「あぁ、それ全然言い訳できないな…」

 

 苦笑いする或人に、唯阿がクスリと笑った。

 

「でも、おかげですっきりしたよ。ありがとう」

「礼には及ばない」

 

 こうして唯阿はA.I.M.Sへと戻っていった。

 或人も、肩に僅かに残った体温を感じつつ、仕事場へ戻るのだった。

 

 

「不破様のもとに迅、雷が到着。不破様もバルカンに変身し、戦闘中です」

 

 時は現在。イズの報告を受けて、或人が答える。

 

「あの三人なら任せても大丈夫かな。俺たちは俺たちの仕事をしよう」

「はい。目的地まで、あと320mです。」

 

 飛電インテリジェンスでの会議以降、未知の生物を模した新種マギアやトリロバイトトルーパーは相次いで現れてきたが、その度仮面ライダーたちによって被害は最小限に抑えられている。

 今回の戦闘はバルカンたちに任せ、或人とイズは事件解決のカギを握るであろう人物のもとへ向かうことにした。

 ライズフォンやZAIAスペックといった機器の利用情報を滅亡迅雷.netに提供し、捜査させたところ、一件の不審な世帯が発見された。滅曰く、一般家庭で用いられるインターネット回線と、頻繁に接続と遮断が繰り返されているとのことだった。

 そして、新種マギアの出現時には必ず回線が遮断されているという点から、アークを中継する際にこの世界には存在しない別のネットワークと接続しているのだと推察できる。

 一連の事件の黒幕がいる可能性はかなり高いといえるのだ。しかし滅は「利用者の情報を見る限り、アークを使って世界を脅かすような人間には思えないが」と話していた。

 或人が滅から受け取ったデータをライズフォンで確認すると、そこには一人の大人しそうな女子高生の姿があった。

 また、滅はただの偶然だろうと言っていたが、或人は彼女の名前になんとなく因果的なものを感じていた。

 

「…よし、行くか」

「はい」

 

 目的地である一軒家に辿り着き、インターフォンを押す。

 

 或人が握るライズフォンに映し出される利用者データ。

そこには、新条朱音という名前が記載されていた。

 

 



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#2

 ダイナゼノンにハマりすぎて投稿が途絶えていました。
 ウルトラ申し訳ない気持ちでいっぱいでございます…


---side computer world---

 

 怪獣の咆哮が大地を揺るがす。

 ツツジ台駅前の繁華街は、怪獣が一歩歩くだけでいとも簡単にスクラップと化した。

 午後4時を回り、授業を終えた学生たちで賑わい始めたところに、二体の怪獣が出現した。

 一方は赤い身体で地を這うように進み、もう一方は青い身体に携えた大きな角で建造物を突き上げて壊してゆく。

 この二体もまた、アレクシスによって怪獣化させられた、もとはゼツメライズキーだったものである。

 爬虫類の絶滅種クエネオスクースと、哺乳類の絶滅種アルシノイテリウムのアビリティを宿した二怪獣。その前に、一体の巨人が立ちはだかった。

 身体に刻まれた青いラインが輝く、ツツジ台に生まれた新世紀の姿のグリッドマンである。

 グリッドマンと裕太の共有する視界を通して、グリッドマン同盟の面々もジャンクのモニター越しに戦いの行く末を見守る。

 

「二対一か。気を引き締めていくぞ、裕太!」

「うん、頑張ろう!」

 

 グリッドマンがファイティングポーズをとると、クエネオ怪獣は身体から生成したブーメランを放ち、アルシノ怪獣は勢いよく突進してきた。

 グリッドマンがブーメランを弾くとともに、即アルシノ怪獣の突進を受け止める。

 

「ぐっ、おおおぉぉっ!」

 

 グリッドマンはアルシノ怪獣の巨大な二本角を掴み、ハンマー投げの要領で投げ飛ばす。

 間一髪串刺しにされるのを防いだものの、アルシノ怪獣を投げ飛ばした先からクエネオ怪獣の投げたブーメランが返ってくる。

 グリッドマンは仰け反って躱そうとしたが、間に合わず胴に痛烈なダメージを受け、吹き飛ばされてしまう。

 

「グリッドマン!」

 

 画面の前で内海が叫ぶ。

 

「おいおい、ちょっとやべぇんじゃねーの」

「うむ。ヴィット、頼めるか」

 

 マックスに促され、ヴィットが「りょーかい」と気だるそうにジャンクの前に立つ。

 

「アクセスコード・スカイヴィッター」

 

 アクセスコードを唱えるとともに、ヴィットの身体がジャンクに吸い込まれる。

 戦いの現場に戦闘機の姿になったヴィットが現れ、クエネオ怪獣を狙撃する。

 

「グリッドマン、合体だ!」

 

 戦闘機の底面とグリッドマンの背中が連結し、主翼とジェットエンジンがグリッドマンのブーツに変形する。パイロット・ヘルメット型になった機種を被り、グリッドマンとヴィットが一つになった合体ヒーローが誕生する。

 

「「大空合体超人スカイグリッドマン!!」」

 

 高らかに叫んだグリッドマンが、背部スラスターの浮力を利用して空中で身を翻し、クエネオ怪獣のブーメランを回避する。

 そのままクエネオ怪獣のもとへ滑空し、ジェット噴射を交えた強烈な両足蹴りを見舞うと、クエネオ怪獣は大きく吹き飛ばされた。

 

「よし、いけるぞ!」 

 

 と、グリッドマンが必殺技の構えをとった瞬間、ヴィットが変形した装甲が弾け、姿が元に戻ってしまう。

 

「うおっ」

 

 絢ではヴィットがジャンクから吐き出され、売り物のソファにもたれるように倒れた。

 

「ヴィットさん!」

 

 驚いた内海と六花がヴィットのもとに駆け寄るが、新世紀中学生の三人は冷静にグリッドマンの戦いの様子を見守る。

 画面の中では、体勢を整えた二体の怪獣がグリッドマンのもとに迫っていた。

 

「キャリバー」

「ああ。アクセスコード・グリッドマンキャリバー!」

 

 マックスの指示を受けたキャリバーがジャンクに吸い込まれ、巨大な剣となってグリッドマンの目の前に突き刺さる。

 すかさずキャリバーを引き抜いたグリッドマンが、アルシノ怪獣の身体を一閃する。

 突進の勢いもあって全身を両断されたアルシノ怪獣が爆散すると、グリッドマンはそのまま爆風に乗って高く跳躍した。

 クエネオ怪獣がブーメランを放つも、空から降下するグリッドマンがキャリバーでブーメランを弾きながら間合いを詰める。

 

「グリッドォォォォ」

「キャリバァァァ」

「「エェーンド!!」」

 

 二人の掛け声とともに必殺技が繰り出され、クエネオ怪獣も全身を真っ二つにされて爆散する。

 二怪獣の消滅とほぼ同時に、グリッドマンの姿も空間に溶けるように消えた。

 

「うぅわぁっ!」

 

 ジャンクからキャリバーと裕太が吐き出されるように放出される。

 キャリバーは上手く受け身をとったが、裕太は尻もちをついて「いたた…」と言いながら患部を摩っている。

 内海に引き上げられて立ち上がる裕太に、マックスが「ご苦労だったな」と声をかける。

 

「マックスさん、やっぱり」

「ああ…」

 

 裕太の視線を受けたマックスが言う。

 

「やはり、我々の力が明らかに弱くなっているようだ」

 

 グリッドマンが帰還したあの日以降、ツツジ台には度々怪獣が出現していた。

 壊れた街や人々の記憶は怪獣が倒される度に修正されているので、グリッドマン同盟以外には知られていないが、怪獣とグリッドマンの戦いは幾度となく繰り広げられている。

 そして今回のようにアシストウェポンの力が十分に発揮されない事態は、これまでも何度かあったのだった。

 

「最初にグリッドマンが食らったあの光線、弱体化の原因はアレだろうね」

「あれ以降撃ってこねぇもんな。マジの必殺技だったってことだろ」

 

 ぼやくヴィットとボラーに、六花がよそよそしく聞く。

 

「それって、大丈夫…なんですか?」

「大丈夫じゃねぇよな…。頼みの綱のグリッドナイトも、今は動けないんだし」

 

 グリッドナイト。もとはグリッドマンを倒すために新条アカネに生み出された怪獣アンチが変身する戦士である。

 グリッドマンの能力をコピーする力をもっていたアンチは、心を宿したことで覚醒し、限りなくグリッドマンに近い存在としてグリッドナイトに生まれ変わった。

 打倒グリッドマンという目標を叶えるためにグリッドマンに敵対する怪獣やアレクシスと戦い、彼らがツツジ台から消えた後も密かに街の平和を守っていた。

 そんなアンチが満身創痍となって絢に運び込まれたのは、三日前のことだった。

 アンチを担いでやってきた少女、アノシラス二代目曰く、アンチはグリッドマンがツツジ台に戻る以前から別世界からの侵略を察知し、ツツジ台の‘外’でグリッドナイトとして怪獣や機械兵士の軍団と戦い続けていたのだという。

 アンチは現在、新世紀中学生のもとで療養中である。

 

「とにかく、今は我々にできる戦い方で怪獣を倒すほかないだろう」

「力は衰えているが、せ、戦力が全くないというわけではない」

「マックスとキャリバーの言う通りだ。今後も、我々は世界を守る使命を果たさなくてはならない」

 

 グリッドマンの一言に、何人かは渋々ながらも、グリッドマン同盟の皆が頷いた。

 

 

「そういやさ」

 

 絢を後にした裕太が内海と歩いていると、ふと内海が口を開いた。

 

「街を直す怪獣がいないのに、なんで世界がリセットされてるんだろうな」

「えっ?」

「ほら、新条がいた頃は街の外にでっかい怪獣が控えてて、そいつらが街を直してただろ?けど今は…」

 

 内海が遠くを見つめる。

 以前は霧に包まれた怪獣の影がぼんやりと見えていたが、今はただ青空が広がるばかりである。

 

「たしかに、街と記憶を修正する怪獣が死んだ後、私がフィクサービームを放つまでツツジ台が復元することはなかった。これもまた不可解な事態だ」

 

 裕太の腕のアクセプターに宿るグリッドマンが答える。

 そもそもアカネが怪獣に破壊と再生を担わせていたのは、端的に言えば合法的な殺人のためである。

 アカネが気に入らない相手を怪獣に襲わせ、それに伴って壊れた街や人々に植え付けられた怪獣出現の記憶を再生怪獣にリセットさせることで、怪獣によって死亡した人物をもとから死んでいた人物であるという風に書き換えるのがアカネのやり口だった。

 一方で、現在現れている怪獣は何の目的で人々を襲っているのか、そしてなぜ街と記憶を修正するのかはわかっていない。

 

「単純にアレクシス・ケリヴの復讐なら別に街が直される必要はないし、なんでわざわざ」

 

 内海の推理を聞きながら、裕太も額に手を当てて唸る。

 

「裕太、君は私がやってくる直前にアレクシス・ケリヴと接触したのではなかったか?」

「おぉ、そういえばそうじゃん。アイツ、なんか言ってなかったか?」

「いや、死んでもらおうとしか言われてないしなぁ…」

 

 裕太が通学路で出会ったアレクシスの姿を思い出していると、「あっ」と気付く点があった。

 

「アレクシスは、新条さんと違って模型から怪獣を作ってなかった」

 

 一年生の学校祭直前、教室でアカネから宣戦布告を受けたとき、アカネは怪獣の立体模型を取り出していた。

 自作したというそれは精巧なつくりをしていて、学校祭当日に全く同じ姿の怪獣が出現したことから、当時の怪獣はアカネが作った模型から生み出されていたのだとわかる。

 ところが、アレクシスがベローサ怪獣を生み出したときにその手に握ってあったのは、模型ではなく何かしらのデバイスだった。

 

「あれ、なんだったんだろう。スマホでもないし…」

「我々が今戦っている怪獣には、未知のテクノロジーが応用されているということか」

「マジか。特撮にはありがちな展開だけど、そうなるとなおさら厄介だよなぁ」

 

 そんな会話をしている彼らの背後から、一人の女子高生が声をかけた。

 

「あれぇ~?内海くんと裕太くんじゃん、やっほー」

 

 裕太たちが振り向いた先にいたのは、すみれ色のインナーカラーが入った白髪が特徴的な少女であった。

 

「くぁっ、桑田さん!ど、ども!」

「ヒトミでいいよー。二人とも六花ん家の帰り?」

 

 少女の姿を見て、アクセプターのグリッドマンが裕太に囁く。

 

「裕太、彼女は…」

「新条さんに似てるけど、別の人。桑田ヒトミさん。えーっと、新条さんのコピー元、らしいよ?」

 

 ひそひそ話をする裕太とグリッドマンをよそに、ヒトミと内海の会話が続く。

 

「そういえば内海くん、カナと仲良くやってるの?」

「あっ、あぁ。おかげさまで。いやホント、桑田さんにはマジ感謝です」

 

 手を合わせて拝むようにした内海にヒトミがけらけらと笑う。

 二人の様子を見ながら、裕太が小声で続けた。

 

「新条さんが帰った後、六花と内海が偶然桑田さんに会ったらしくて、それで内海の彼女を紹介してくれたのも桑田さんで」

「あぁ、わかるさ。そうか…」

 

 一拍置いて、グリッドマンが感慨深げにつぶやいた。

 

「我々が去った後も、この世界は広がり続けているのだな…」

「そうだね。グリッドマンが、守った世界だよ」

 

 多くの謎がひしめくツツジ台だったが、霧一つない街の光景は、グリッドマンの心を晴れやかにしていた。

 



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#3

SSSS.DYNAZENON、最高の最終回でしたね…!

あ、ちなみに前回登場した桑田ヒトミちゃんですが、彼女はSSSS.GRIDMANのボイスドラマ最終回に登場した子ですね。ボイスドラマでは名前が判明しませんでしたから、電光超人グリッドマンに登場したキャラクターから名前を頂戴しました。
誰からとった名前か、気付きましたか?


 

---side real world---

 

「あの、ウチに何か…?」

 

 或人とイズに声をかけたのは、セーラー服の小柄な少女。少し目にかかった前髪の間から、おずおずと或人たちを見上げている。

 或人がライズフォンに映し出された画像データと見比べ、少女に「君が新条朱音さんだね」と投げかける。

 

「新条朱音様。重要参考人として、飛電インテリジェンスまでご同行願います」

 

 そうイズが続けると、朱音は怯えたような表情を浮かべた。

 

「ちょちょちょ、イズ、その言い方だと怖いって!えっとね、最近起こっているヒューマギアの暴走事件のことで、ちょっと聞きたいことがあって」

 

 或人が慌てて恐怖心を和らげようとするが、朱音はうつむいたままポツリと言った。

 

「知らないです…」

「え?」

「私は、何も…!」

 

 逃げるように駆け出した朱音だったが、その行く手を一体のヒューマギアが阻んだ。

 イズとよく似た顔立ちをしたアークの使者、アズ。

 その妖艶な雰囲気とは対照的に、服装は学生服を着崩した女子高生のようであり、ぶかぶかの袖から伸びた手を朱音に差し伸べた。

 

「こいつらから逃げるんだったら、私と共に来なさい。あなたに下手に動かれると厄介なの」

「イ、 イヤ…」

「アズ!!!」

 

 或人が二人の間に割って入り、アズを睨みつける。

 

「そんな怖い顔しないでよ、或人様?」

「アズ、またアークを生み出したのか」

「…はぁーあ、滅といいあなたといい何もわかっていないのね。アーク様は生み出すまでもなく、常に私たちと共にあるものよ。私はアーク様の強大なお力を欲しがる者に、ほんの少し力を貸してあげているだけ」

 

 小首を傾げて嘲るような態度をとるアズを前に、或人は固唾を飲み込む。

かつては、或人自身も大いなる悪意の力を求め、仮面ライダーアークワンとなってしまった。

 しかし、強さの本質は力ではなく心にあることに気付いたことで、或人は悪意を乗り越え真の仮面ライダーへと変身することができた。

 今、或人の心にあるのは怒りでも復讐心でもない。

 目の前の忌敵を倒すためではなく、後ろに立つ二つの命を守るために、仮面ライダーの力を使うという純粋な決意だった。

 アズが鼻を鳴らして一歩後退すると、突如天空より鉄の塊が墜落してきた。

 否、それは先日あるメイドヒューマギアが変貌させられたマギアが、より機械的な造形になったもの。メカグールギラスマギアであった。

 

「ゼロワン、あなたは用済みよ。早く死んで」

「…イズ、新条さんを連れて逃げるんだ」

 

《KAIJU-NOVA!》

 

 刹那、メカグールギラスマギアによって無数のトリロバイトトルーパーが生み出される。

 怪人たちが一斉に或人に襲い掛かろうとしたその時、或人の足元から強烈なエネルギー波が放たれた。

 

《Let’s give you power.》

 

 或人が腰に巻き付けたゼロツードライバーのユニットを展開したことで、二体のライダモデルが顕現し、或人の周囲を跳び回る。

 

《ZERO-TWO-JUMP!』

 

「変身!」

 

 ゼロツープログライズキーがドライバーに装填されることで、或人の身にライダモデルが纏われる。

 

《Road to Glory has to Lead to Growin’ path to change one to two! KAMEN RIDER ZERO-TWO. It’s never over!》

 

 ゼロワンのシステムを超越した、飛電或人の夢の結晶。

 仮面ライダーゼロツー!!

 

「ギシィィィァァァァ」

 

 トリロバイトトルーパーを押し退けて、体中に装備された兵器を稼働させながらメカグールギラスマギアが突進を繰り出す。

 

「うおおおお!!」

 

 ゼロツーの繰り出したミドルキックとマギアの突進がぶつかり合い、巻き起こった波動があたりを包み込んだ。

 

 

 或人の指示に従い、イズは朱音と共に現場からの逃走を図っていた。

 イズの手から朱音の身体がするりと抜け落ち、朱音が力なく崩れ落ちた。

 

「新条様!」

「もう、イヤ…!」

 

 イズが駆け寄るも、朱音は涙ぐんだ眼をこすりながら、立ち上がることが出来ずにいた。

 

「逃げても無駄よ」

 

 と、そんなところにトリロバイトトルーパーを引き連れてアズがやってきた。

 アカネを守るべく、イズが朱音の前に立つ。

 

「あら、あなた一人でそいつを守る気?」

「それが、或人社長のご命令です」

 

 そう言うイズの真っ直ぐな眼差しを受け、アズが嫌そうな顔をする。

 

「そう。なら、そいつが別世界で何人もの人間を殺した殺人鬼だったとしても…あなたは守るの?」

 

 びくっ、と朱音が身体を震わせる。その様子を見て、アズがおかしそうに続ける。

 

「その新条朱音は、かつてコンピューター・ワールドで自分が作った怪獣を暴れさせて、多くの人間を殺してきた。今あなたたちが戦っている新しいマギアも、その子が作った怪獣の力を利用したものよ」

 

 予想外の事態に困惑するイズが朱音の方を振り返るも、以前朱音はうずくまったまま震えている。

 彼女が怪獣を操り、人々を虐殺する…イズは想像を試みるが、縮こまって泣いている彼女のイメージとは結び付かない。

 しかしイズは「まるでテロリストとは思えない」人間たちが世界を恐怖に陥れたことを思い出す。

 先日のシンクネット事件において、量産型仮面ライダーアバドンとなって各地で暴れ回ったのは、本人とはかけ離れた外見のアバターを操る一般のネットユーザーであった。

 荒唐無稽な嘘にしてはずいぶんと作り込まれた内容からも、アズの発言が事実である可能性は低くない。

 

「ねぇ、それでもあなたは、新条朱音を守る気?」

 

 こてんと首をかしげてアズが問う。仕草は可愛らしいが、赤く光る眼はギラリと光っている。

 

「私は…或人社長の…」

「或人社長の命令だから、何?私と違って、あなたは心を教わっているんでしょう?なら…自分で考えれば?」

 

 イズは理解していた。アズが自分を動揺させ、隙をついて朱音の身柄を奪うつもりであることを。

 しかし、体が動かない。

 与えられた情報の整理がつかずに身体機能が低下しているのか、それともわずかに芽生えている心が揺さぶられているのか。

 その様子を悟ったアズが片手をあげると、トリロバイトトルーパーたちが動き出し、イズと朱音のもとに迫りくる。

 動かなくては、しかし、彼女がもし、本当に多くの人を…

 イズの葛藤をよそに、トリロバイトトルーパーたちの魔の手は既に眼前まで届いていた。

 イズが思わず目をつむる。

 …すると、すんでのところでトリロバイトトルーパーたちは機能停止し固まっていた。そのフルメタルの装甲は貫かれ、ダークパープルの針が伸びている。

 グッと引き抜かれた針は、同じ色の腕に収納された。

 音を立てて倒れたトリロバイトトルーパーの亡骸を踏みつけながら、アズがニヤりと笑って言った。

 

「面白い光景ね。よりによってあなたがイズを守るなんて」

 

 イズと朱音の窮地に現れたのは、滅亡迅雷.netの滅が変身する、仮面ライダー滅。

 彼もまた大いなる悪意に囚われた、もう一人のアークだった戦士である。

 

「アズ、もうお前のくだらん遊びに付き合っている余裕はない。ここで倒す」

「お生憎様、私もあなたと遊んであげるつもりはないの」

 

 アズが指をスナップさせると、倒れていたトリロバイトトルーパーたちが起き上がって滅を襲う。

 滅は手にしたアタッシュアローのブレードで次々に斬り捨ててゆくが、その間にアズには逃げられてしまった。

 少しの沈黙。

滅はベルトからキーを引き抜き、変身を解く。

 朱音の方を一瞥すると、そのまま彼女のもとにつき進んでゆく。

 

「滅…いけません!」

 

 朱音の身に危険が及ぶと判断したイズが叫ぶが、滅は朱音に手をあげることなく、彼女のそばに膝をついた。

 怯えながら滅を見つめる朱音に、滅が問う。

 

「お前の罪は、もう許されたのか」

 

 朱音は質問の意図を掴めず少し困惑したが、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「許してくれる人はいた。でも、私は…私を許せない」

 

 朱音の手に力がこもる。

 滅もその様子を確かめながら、ゆっくりと答える。

 

「それでいい…俺も数々の罪を犯し、ある者の大切なものを奪った」

 

 滅の脳裏によぎるのは、自分が射った矢に貫かれ、命を落としたヒューマギアの姿。

 今のイズでない一号機のイズ、彼女の死をきっかけに、或人と滅はアークの力に呑まれることとなる。

 或人との戦いの中で、滅は自分の中に生まれつつあった心への恐怖と、自分の犯した罪を自覚した。

 悪意を乗り越えた或人…ゼロワンと対峙し、自らの死をもって贖罪を果たそうとした滅だったが、ゼロワンは滅を破壊しなかった。

 なぜ自分を破壊しなかったのかと問う滅に、或人は「もうその必要はないだろ」とだけ答えた。

 

「俺は、俺の罪を許さないために生きる。生きることで罪を贖うことにした」

 

 滅の力強い視線を受け取り、朱音も熱い眼差しで滅を見つめる。

 

「お前は生きていて、お前は自分の罪を許していない…そのことだけ覚えておけ」

 

 立ち上がった滅が、イズに「いくぞ」と促す。イズも、迷いながらも滅の後に続いて立ち去る。

 その二人の背中に、声がかかった。

 

「あのっ、私も…!」

 

 

《MAGNETIC STORM BLAST!》

 

「うおらぁぁぁっ!」

 

 バルカンの放った高エネルギー弾が多くのトリロバイトトルーパーを巻き込んで爆裂したことで、ナナシマギアを守る壁が破られた。

 今が勝機とみた雷が、すかさず二刀の大太刀にエネルギーをためる。

 他のトリロバイトトルーパーたちが雷を妨害しようとするが、迅の操る炎がそれを許さない。

 

「こいつで終わりだ!」

 

《ZETSUMETSU DYSTOPIA!》

 

 刀身から放たれた斬撃波が一瞬にしてナナシマギアのもとに届き、大きな爆発が起こった。

 ライダーたちはひとまず安堵し、手に持った武器を下ろす。

しかし砂塵の中から現れた影が、突如として飛びかかってきた。

 

「迅っ!あぶねぇ!」

 

 勢いよく迅の前に躍り出た雷の装甲から、火花が飛び散る。

 変身が解けた雷の見上げる先には、先ほどとは違うマギアが立っていた。

 否、それは別個体のマギアではなく、先ほど倒されたナナシマギアの骸から生まれた第二形態である。

 第一形態とは打って変わって身軽になったナナシマギアは、鋭利な刃を両手に携え、アクロバティックに跳び回りながらライダーに襲い掛かる。

 バルカンは射撃で、迅は火炎で攻撃しようとするが、その変則的な動きについていけず反撃を食らってしまう。

 

「くそっ…面倒な相手だな」

 

 のらりくらりと身体を揺らしていたナナシマギアは、とどめの一撃を繰り出すべく狙いを定める。

 ライダーたちも雷の盾となりながらも、武器を構えた。

 しかし、そんなとき思わぬ方向からの攻撃がナナシマギアを捉えた。

 ミサイルが着弾したことで、ナナシマギアは後退せざるを得なくなる。

 

「グガガガガガ」

 

 驚いたライダーたちが後ろを振り向くと、そこには何台ものA.I.M.Sのバンと共に多くのA.I.M.S隊員が集結しており、攻撃の主と思われる隊員が担ぐロケットランチャーは、銃口から煙を昇らせていた。

 バルカンと迅のすぐ背後にも一台のバンが止まり、運転席からよく見知った顔が声をかけてくる。唯阿だ。

 

「不破、迅!乗れ!」

「は、はぁ!?俺たち抜きであいつと戦わせる気かよ!」

 

 唯阿の提案にバルカンが驚く。対マギア戦のプロとはいえ、生身の人間であるA.I.M.S隊員にこの場を任せて仮面ライダーたちが退避するというのは正しい戦略とは思えない。

そんな風に思っていると、バルカンの周りに立った隊員たちが、一斉に漆黒のベルトを腰に巻き付けた。

 

「そのシステムは…!」

「迅、不破諫。あとは我々に任せ、飛電インテリジェンスに向かってください」

 

 そう言ったのは亡である。亡は耳のモジュールを明滅させると、その大きな瞳を青く発行させた。

 

「臨時作戦指揮官、亡より全隊員に通達。これよりレイダーシステムの全面使用を許可します」

 

 

 仮面ライダーの中でもトップクラスの戦力を誇るゼロツーだったが、メカグールギラスマギアとトリロバイトトルーパーの軍勢には少し苦戦を強いられていた。

 驚異の予測能力をもつゼロツーといえど、敵の数が増えれば想定される行動パターンも増え、演算処理の時間もかかる。

 そこにメカグールギラスマギアの繰り出す多種多様な攻撃が加わり、ゼロツーはいわば処理落ちともいえる状態に陥っていた。

 

《MECHA GHOULGHILAS-NOVA!》

 

 メカの身体から放出される幾つものミサイル。ゼロツーは空中で、地上で、あらゆる回避を試みるも弾道の全てを予測することはかなわず、幾つか被弾してしまう。

 

「ぐはっ」

 

 なんとか変身を維持できたものの、蓄積したダメージで思うように動けないゼロツー。

 そこにトリロバイトトルーパーの群れが迫りくるが、突如彼の目の前に黄金の鎧が現れ、手にした武器で群れを薙ぎ払った。

 

「天津…さん」

 

 サウザー課の課長、天津該の変身する、仮面ライダーサウザー。

 サウザンドジャッカーと呼ばれる槍をゼロツーに向け、指示を出す。

 

「飛電或人、君は飛電インテリジェンスに戻るんだ」

「えっ、でも」

「滅が新条朱音の説得に成功した。本社で君を待っているぞ」

 

 

「滅が言うには、別世界にアクセスするには私と不破と迅、そして飛電の社長が必要らしい」

「あなた方が現実世界から離れる間、戦力不足を補うため、一時的にレイドライザーの機能を開放することにしました」

 

 A.I.M.S隊員が装着しているレイドライザーは、ZAIAによって開発されたショットライザー、スラッシュライザーの量産機であり、人間を超人レイダーへと変貌させる力がある。

 その危険性からA.I.M.S管理のもと封印されてきていたが、今、技術顧問の亡の権限によってその力が使われることとなった。

隊員たちはそれぞれのプログライズキーのスイッチを入れ、レイドライザーに装填する。

 

「「「実装」」」

 

《RAID-RISE!》

 

 ホースシュークラブレイダー、バッファローレイダー、ペンギンレイダーなど、さまざまな姿となったA.I.M.S隊員たち。

 その先頭に立った亡も、腰に滅亡迅雷フォースライザーを取り付ける。

 

「雷、あなたも戦えますか?」

「はっ、当然だ。あの野郎にもっぺん雷落としてやるよ」

 

 雷もまたフォースライザーを巻き付け、両者がそれぞれのゼツメライズキーを取り出し、スイッチを押す。

 

《DODO!》

 

《JAPANESE WOLF!》

 

 雷は稲妻模様を描くように、亡は左手から落としたキーを右手でキャッチし、フォースライザーに装填する。

 

「「変身」」

 

 けたたましく鳴る警告音をバックに、ゼツメライズキーから解き放たれた外装が二人の身体を纏う。

 

《FORCE-RISE!》

 

《JAPANESE WOLF!》

 

《Break down.》

 

 片や宇宙飛行士として、片や技術者として、ヒューマギアと人類の共生のために活躍する二人の元・滅亡迅雷.netの戦士。

 亡が変身するのはニホンオオカミと疾風のアビリティを宿した白銀の戦士、仮面ライダー亡!そして雷が変身するのはドードーと暗殺術のアビリティを宿した獰猛なる戦士、仮面ライダー雷!

 

 ナナシマギアもまた多くのトリロバイトトルーパーを出現させ、大軍を作る。

 両軍に緊張感が走る中、先に動いたのは亡だった。

 

《ZETSUMETSU DYSTOPIA!》

 

 急加速した亡が斬撃を繰り出すのと同時、ナナシマギアも俊敏な動きで腕の刃を構える。

 爪と刃がぶつかり合うガキィンッという音と共に、各陣営の戦士たちが走り出した。

 

 

 ゼロツーの目の前でも、多くのA.I.M.S隊員がレイダーへの変身を遂げた。

 ライオンレイダー、ホエールレイダー、パンダレイダーなど、かつては飛電インテリジェンスの敵だった怪人たちが今、心強い味方となって現れた。

 

「サウザーもレイダーも、全て我がZAIAエンタープライズが開発したテクノロジーだ。すなわち、我々が負けることは1000%ありえない」

 

 そう豪語するサウザーは、レイダー部隊と共にトリロバイトトルーパーを次々と倒してゆく。

 

「行け、飛電或人!君の会社を守れるのは君だけだ!」

 

 サウザーの言葉にゼロツーは深くうなずき、駆け出した。

 

「みんな、ありがとう!」

 

 ゼロツーは飛電ライズフォンによって呼び出した愛機・ライズホッパーにまたがり、飛電インテリジェス本社に向けてバイクを走らせた。

 

 



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