PSO2NGS外伝 新世紀の前奏曲〈プレリュード〉 (矢代大介)
しおりを挟む

本編
01.目覚め


※閲覧前の諸注意…
 本作は、2021/04/22に公開される「PSO2NGS:プロローグ3」で発表される予定の本編ストーリーに関する情報が無い時点で執筆されたお話となります。
 作者の憶測による描写が多数含まれており、原作序盤のストーリーとは著しい乖離が生じる場合がございます。あらかじめご留意の上、本作を閲覧してください。



 

――――不意に、意識が浮上する。

 

 

 

 

「……ん」

 

 どうやら、「俺」は眠っていたらしい。

 

 意識の覚醒を自覚すると同時に、俺の思考がゆっくりと回り始める。

 

 周囲は真っ暗。どことなく閉塞感も感じられるここは、どうも狭い部屋――カプセルか何かの中のようだ。

 

 起き上がれないだろうか、と手を伸ばそうとすると、かつん、という硬質な音を立てて、何かが指にぶつかる。そのまま指を這わせると、やはり障害物は自分を覆い隠すように存在しているらしかった。

 

 

 ――触覚を感知したせいか、起き抜けの脳にかかっていたノイズが消え、明瞭な思考が戻ってくるのを、しっかりと感じ取ることができた。

 

 さて、ここはどこだろうか。

 カプセルのように狭い場所、で真っ先に思い当たるのは医療用ポッドだが、それなら透明なカプセル越しに外の世界が見えるはずだ。

 

《覚醒プロセス、完了。搭乗員のコールドスリープは、正常に解除されました》

 

 ならばここは一体――と疑念を渦巻かせていたところへ、不意に「声」が響いてくる。

 突然の声に驚くが、よくよく聞いてみれば、それは人の肉声ではなく、機械でサンプリングした物を繋ぎ合わせた合成音声。その言葉から察するに、俺はどうやら、いつの間にか「コールドスリープ装置」に突っ込まれていたらしかった。

 

《自動環境測定システムの情報照合……完了。ポッド外部は、生存可能区域と認定されました》

 

 続く合成音声は、ここの外を調べた結果を伝えるもの。

 ……わざわざ外部の環境を調べて、生存可能かどうかを調べるとは、いったいどういうことだろうか。コールドスリープ装置が置かれている場所など、何らかの施設の中しかないと思っていたのだが、ここはどこか別な場所なのだろうか?

 

《ハッチ解放プロセス、開始。解放後、システムはシャットダウンされます。ご注意ください》

 

 疑念をよそに、自動化されているらしい装置が、ハッチを開く準備を始める。

 

《カウント、3、2、1――――》

 

 カウントダウンが終わると共に、圧縮空気の抜ける音が響く。

 同時に、視界正面の障害物――ハッチがかすかに開き、真っ暗なカプセルの中に、真っ白い光が入り込んできた。

 

「ぅ……」

 

 ゆっくりと開かれるハッチの先から差し込む光に、視界が焼かれる。

 

 しばし視界がホワイトアウトしていたが、外と中の光量差に慣れてきたことで、少しずつ外が見えるようになっていく。

 どうやら、開け放たれた装置の中へと降り注いでいるこの光は、人工的に作られた証明のそれ――ではなく、世界を照らしている「恒星」のそれらしい。光と共に伝わってくる暖かな熱が、コールドスリープから目覚めた俺の身体を、ゆっくりと温めだしたのがわかった。

 

 視界が完全に光に順応するのを待ってから、俺は動くことを決意する。

 恒星の光に温められ、ようやく動くようになった身体に力を入れて、腕を、脚を、少しずつ動かす。開かれたハッチのふちに手をかけ、力を込めて身体を引っ張り出せば、狭苦しかった視界が、一気に開けた。

 

 

 

 

 そして目の前に広がったのは――――大自然。

 

 遠景に臨むのは、三日月のような奇怪なくぼみを抱える、高い山。

 山麓に煌めくのは、恒星の光を受けて豊かに生い茂る、鮮やかな緑。

 そして頭上に広がるのは、風に流れる白雲を浮かべた、抜けるような蒼い空。

 

 コールドスリープ装置から這い出した俺を包み込んだのは、人工物ではない。

 文明という言葉とはまるで無縁な、何処までも広がる「大自然」が、そこにあった。

 

 

 

 壮大な自然の大パノラマに圧倒されてしばらく後、ようやく俺は正気を取り戻す。

 

 ――脳裏をよぎる疑問は尽きないが、一番の疑問は「ここがどこなのか」と「どうして自分がここにいるのか」ということだ。

 一つ目の疑問は、見る限りすぐに解明することは難しい。コールドスリープから目覚めたばかりということもあるので、まずは記憶の復唱から始めるのが賢明だろうと判断した。

 

 

 

 

 

 

 俺。本名……というか普段のコードネームは「コネクト」。

 諸般の事情で昔の名前は使わなくなって久しいが、今のところそちらはどうでもいい。

 

 所属しているのは、「アークス」と呼ばれる銀河規模の組織。

 宇宙を進む巨大な宇宙船団「オラクル」を拠点に、宇宙の平和を守るため、様々な脅威と戦う戦士たちの総称だ。

 

 戦っていた主な敵性体は「ダーカー」と呼称されていた。近年になって、新たに「終の女神」と呼ばれる存在が率いる一派も増えたが、そちらはさるアークスの奮闘で撃退されたそうだ。

 俺もまた、アークスとして日夜ダーカーや終の女神一派と戦っていた。元凶である存在が倒されたことで、近年は戦いも少なくなり、俺もここ最近は、あまり戦場に駆り出されることもなくなっていた。

 

 

 自分に関する基本的な情報は、以上。

 記憶を精査すると、いくつか抜けていたり、欠けている記憶もあることが分かったが、コールドスリープから目覚めた直後は、記憶の混濁や一時的な欠落は「よくあること」らしい。多くの場合、時間が経てば思い出すらしいので、ひとまず今は気にしなくてもいいだろう。

 

 

 記憶の復唱も終わったところで、俺は改めて周囲を見回す。状況の確認もそうだが、今は何より、身体を動かしたい気分だった。

 

 どうやら、現在地はどこかの海岸らしい。眼前には、先ほども見かけた不思議な形状の山へと続く道となりそうな崖が伸びていた。

 背後を見れば、砂浜に3割ほど埋没する形で、大きなポッド――先ほどまで俺が押し込められていたコールドスリープ装置が横たわっている。その向こうには、穏やかに波打つ海が、水平線まで広がっているのが見えた。

 

 一通り見回した俺の目線は、「コールドスリープ装置」へと向く。

 たしかに、大雑把な外見は確かに何かしらのカプセルだ。しかし、それにしてはどうにも刺々しいのだ。

 空気抵抗を減らすような形状が特徴的なそれは、単なるカプセルではなく、まるで――

 

「……降下、ポッド?」

 

 大気圏突入用に作られる、一人乗りの「降下ポッド」にも見ることができた。

 

 ……仮にこれが降下ポッドだとして、俺は一体なにがどうして、こんなものに乗り込んで、あまつさえこの中で長期間眠りこけることになったのだろうか? 状況故に致し方ない部分もあるが、謎は積みあがっていくばかりだった。

 

「――とりあえず、まずは救難信号か」

 

 わしわしと頭を掻いて気持ちを切り替えた俺は、身に纏っていた衣装――アークス標準の戦闘服を自分用にカスタマイズしたコンバットスーツのポーチから、少し大きめの通信端末を引っ張り出す。

 アークスとしての任務中に使う通信装置と言えばマイクロインカムが一般的だが、通信の中継機となるキャンプシップが無い状況だと通信が出来なくなる、という欠点がある。その点、この多機能通信端末は、何千光年離れていようが短時間で救難信号を送れる優れものなのだ。

 

「よし、と。……次は、周辺の散策と食料の確保、だな」

 

 つつがなく信号を送信したあと、俺は今後の行動方針を整理する。

 

 生存可能な場所で遭難した時にまずやるべきなのは、生存のための食料確保と相場は決まっている。

 現状、この土地で口にできる物が入手できるかは分からないが、これだけ自然が豊かなのだ。ツールポーチに収めてある成分解析ツールを通せば、問題なく食べられるものもいくらかは見つけられるだろう。

 

「そうなると、武器が欲しいところだけど――」

 

 という俺のつぶやきを拾ったかのようなタイミングで、背後から圧縮空気の抜ける音が響いてくる。

 後ろ――コールドスリープ装置の方を振り返ると、俺が寝かされていたカプセルのシート部分がさらに開かれて、そこからいくつかの「装備」が排出されていた。

 

「これ、は」

 

 装置から出てきた武器群には、心当たりがある。

 いや、心当たりなんてものじゃない。そこから覗く装備品は、紛れもなく「俺が愛用していた武器」だったのだ。

 

 それは、護拳(ハンドガード)部まで覆う光の刃が特徴的な、身の丈ほどもある大ぶりな大剣。

「コートエッジ」という銘を冠されたその剣は、数多くの後継機の存在によって型落ちの烙印を押されながらも、簡素な構造故の頑強さと、それに由来する抜きん出た扱いやすさから、今なお根強い愛好家たちから長く支持される一振りだった。

 

 なぜこの武器がこんなところに、と疑問に思ったが、いつも通りの武器でいつも通りに戦えるのは、思ってもみなかった嬉しい誤算だ。放置する理由もないので、ありがたく使わせてもらうとしよう。

 

「またよろしくな、相棒」

 

 コートエッジを背に吊り直した俺は改めて、周辺環境の調査に乗り出すため、その場を後にした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02.未知なる星

 

 

 

 目覚めた地点を後にした俺は、三日月型の山へと続く道をたどるように行動を開始した。

 

 アークスという組織は、敵性存在(エネミー)から宇宙を守るという本領とは別に、宇宙の各地に存在する未開の惑星に降り立ち、その環境を調査したり、現地の知性体と円滑なコミュニケーションを確立するという役目を帯びる「惑星調査隊」の側面も持っている。そのため、アークス各員へと支給される標準装備の中には、惑星の調査に有用な様々なツールが満載されているのだ。

 

 惑星調査用ツールの一つである、無線カメラ搭載型の高高度ドローンユニットで、周囲の地形情報を取得していく。

 稼働可能な範囲で出来る限りの地形情報をさらってみたが、どうも落着地点である砂浜から徒歩で辿っていけるのは、崖沿いの小道以外に存在しないらしい。一応、崖を登れば他にもルートは取れそうだったが、わざわざ必要のない登攀(とうはん)で無駄に体力を使うこともないだろうと判断した。

 ドローンが取得した映像を見る限り、どうやら崖沿いの小道は、最初に見かけた三日月状の不思議な山の方へと続いているようだった。

 肉眼で見ても、かなりの標高があることがわかるその三日月山は、ランドマークとしてはこれ以上ないほどうってつけだ。まずは、あそこの近辺から調査をしていくのが吉だろう。

 

 

「お」

 

 崖沿いの小道を辿って歩いていくと、いくつかの木と、そこになっていた果実のようなものを見つけることができた。

 食料として使えるかどうかを判別するため、調査用ツールの一つである、採取した物質が保有する成分を解析するデバイスを通して、果実らしきものを解析すると、結果は「可」。幸いにも、かなり早い段階で食料を確保することができた。

 

 毒性が無いことは確認できたが、それは生食に耐えうる味であることを保証するものではない。想像を絶する渋味で食べられたものじゃない、なんて可能性も十分にあるのだ。

 少しの懸念を抱えつつも、思い切ってかじりついてみる。

 

「……林檎、だな」

 

 果実から口の中に広がったその味は、よく知った果物と酷似していた。

 果実の形状そのものは、記憶にある同じ味の果物とはまるで違っている。奇怪な形状をしているにも拘らず、良く知った物の味がする……というのはどうも釈然としなかったが、ともかく、食料に困ることは無いようだった。

 

 

 

 

 謎の果物を口にて腹を満たしつつ、俺はさらに歩を進めていく。

 

 ランドマークにした三日月山の麓まであと少し、というところで、俺の眼前に動く物体――否、原生生物と思しき生物たちが姿を現した。

 やはりというべきか、自然が自生している以上、野生動物たちも息づいているのは道理だろう。そう思い、現れた原生生物から何か情報を得られないかと観察しようとして――

 

「……ん?!」

 

 俺の喉から、変な声が漏れる。

 

 理由は単純。そのシルエットが、あまりにも見覚えのあるものと似通っていたのだ。

 

 

 それを一言で形容するなら、「猿」という言葉が適切だろう。

 長い腕と尾を持ち、不揃いな牙をむき出しにした凶悪そうな面構え。気候の違いか、記憶とは違う乳白色の体毛を持つそれは――

 

「……ウーダン?」

 

 かつて任務で出向いていた惑星に生息していた猿型の原生生物「ウーダン」と、よく似ていた。

 いや、厳密には体色を初めとした細部の形状が異なっている。だが、その特徴的なシルエットと骨格を見間違いで片づけるには、そいつはあまりにも似すぎているのだ。

 

(どういうことだ? まさか、ここはナベリウスなのか?)

 

 未開の惑星で未知に囲まれている中、湧いて出てきた既知の存在に、再び頭の中で疑問符が吹き荒れる。

 

 ……いや、自分で言っておいてなんだが、この惑星は(くだん)の惑星――ナベリウスととは違うと断言できる自信がある。

 理由は、「植生」と「気候」だ。ナベリウスは一部の地域を除く大半が、鬱蒼と生い茂る木々に覆われた熱帯地域であったのに対して、今現在俺が立つこの場所は、爽やかな潮風が吹き抜ける温暖な地域なのである。

 むろん、ナベリウスにもそう言った場所が無いわけではない。だが、今俺が居る場所の周囲に生えている植物類は、先ほど採取した謎の果物がなっていた木も含めて、ナベリウスで確認されているそれと、まるで毛色の違う植生をしているのだ。

 

 ナベリウスと言えば、かつての強大な敵との戦いの舞台になった地。当時の戦いの影響で生じた気候の違う地域なども含めて、アークスのデータベースに特記できる情報が無いほどに「調べ尽された」星である。俺が眠りこけてから何年たっているのかは分からないが、少なくとも、一朝一夕で植生がまるまる変わるようなことは起こりえないはずだ。

 

(見知った原生生物が居て、それなのに惑星の環境はまるで違う。……なんなんだ、この星は?)

 

 寝起きからこの方、遭遇するものと言えば謎ばかりだが、さりとて立ち止まって頭を悩ませていても、解決できる問題は多くない。より多くの情報を集め、謎の解明に役立てるためにも、今は行動するのが先決だろう。

 

 幸か不幸か、白いウーダンたちはこちらに気付いてこそいるが、縄張りを侵しているわけではないためか、遠巻きにこちらを見るだけだ。

 無用な戦闘は避けられるに越したことはない、という考えの元、俺は足早にこの場を立ち去ることにした。

 

 

 

 

 

 

「……あれは」

 

 それからまたしばらく、三日月山の方面へと歩を進めていくと、眼前にこれまでとは違う「変化」が現れた。

 

「ライト――人工物だ!」

 

 一見すれば、それは無造作に地面へ転がされた照明だ。しかし、よくよく目を凝らしてみてみれば、それはただ転がされているわけではなく、少し不規則ながらも「道を照らすように並べられている」ことがわかった。

 

 いや、この際配置なんてものは些末な問題だ。重要なのは、この道の惑星に、明らかな「人工物」が存在したことだ。

 ――この惑星、てっきり自然ばかりの未開の星かと思っていたが、どうやらここには、何かしらの知的生命体……それも、機械的な照明を作れる程度のレベルに達している「文明」が存在しているらしい。

 そうと確定すれば、話は変わってくる。知的文明がどれほどの文明レベルを誇っているかは今だ定かではないが、彼らと話を付けることができたならば、このまま当てもなくさまよってサバイバル生活を送る必要もなくなるはずだ。

 

「なんとかして、コンタクトを取れればいいんだが……」

 

 ごちりながら、俺は据置照明が照らす道を視線でたどると、持ち上げた視線の先に、ぽっかりと口を開けた穴――洞窟が姿を現す。

 そのままさらに視線を上げると、頭上には目前に迫った三日月山のてっぺん。どうやら、いつの間にかランドマークである三日月山のふもとに到着していたらしい。据置照明の道は、三日月山のどてっぱらに口を開けた洞窟の中へと続いていた。

 

「……信用、してみるか」

 

 どこまで続く洞窟かは分からないが、照明の道が伸びている以上、この先になにもない、ということはないはずだ。

 設置した奴に良心があったであろうことを祈りながら、俺はツールポーチから、自動追従してくれる浮遊型ライトを展開。足元ばかり照らす照明の届かない場所を照らしながら、ゆっくりと洞窟へと踏み入って行った。

 

 

 

 

 砂っぽい地面とブーツがこすれ合う音だけが響く中を、俺はひたすら歩き続ける。

 道中には、分かれ道らしい分かれ道もない。装甲車両一台が余裕で通れそうな広さの洞窟は、ひたすら一直線に続いていた。

 

「――ん、そろそろか」

 

 すこしうねった構造の洞窟の先から、外の明かりが顔を覗かせる。

 警戒しながらゆっくり進んでいたにもかかわらず、体感時間は10分もたっていない。どうやらこの洞窟は、どこか地下へと続いているわけではなく、三日月山の内部をスムーズに通れるように掘られたもののようだった。

 

 さて、この先には何が待っているのだろうか。

 多大な不安と、ほんの一握りの希望。そして、そこに入り混じる抑えきれない好奇心を胸に、俺は残り少しの洞窟を、足早に抜けた。

 

 

 

 

 小高い丘のようになった場所へ、足をかける。

 

 眼前に広がるのは、やはり大自然。違いと言えば、円形にそびえる山々が、炎の赤や氷の白に染まっていることくらい。

 だが、それよりももっと決定的な「違い」が、俺の目を引きつけた。

 

「あれ、は――!」

 

 真っ先に目を引くのは、天を突かんとそびえ立つ、二股の槍を思わせる巨大な「塔」だ。

 遠目からでもはっきりとわかる、明滅する青い光のラインを備えたそれを中心に、巨大な「防壁」のようなものがぐるりと取り囲む、その構造。

 

 それを、あえて言葉で形容するなら。

 それは、間違いなく「街」。巨大な塔――否、ビルと思しき建造物を中心とした、大規模な街が、俺の眼前に姿を現した。

 

 よもや、これほど早く人里、というか街を見つけることができるとは思っていなかった。しかも、建築物の様式を遠目から見ても、想定していたよりもはるかに進んだ文明を持った者たちが住んでいるらしい。

 あそこに住む住人たちから上手く協力を得ることができれば、あるいは想定よりもはるかに早く、オラクルへと帰り着くことができるかもしれない。そう考えると、知らずのうちに足取りが軽くなっていた。

 

「とにかく、まずは住人とコンタクトを――」

 

 そう言って歩き出そうとした矢先、不意に俺の聴覚が、聞きなれない音を察知する。

 

「……?」

 

 周囲を見回すが、音源となりそうなものはどこにもない。ならば音源を探すまで、と耳をそばだてた俺の視線は――「上」へ向いた。

 

 

 はじかれるように顔を上げたその先。清らかな青に包まれた空を、一条の「流星」が切り裂く。

 燃えるような紫の光に包まれながら降り注ぐそれは、空気を切り裂く音と共に、俺の眼前――街へと続く街道のど真ん中へと落着。紫炎の残滓と盛大な砂煙を打ち立てて、その場の周囲にあった草木を、土を、ことごとく蹴散らしていった。

 

「何だ……!?」

 

 吹き寄せる土煙の嵐を凌ぎ、再び流星の落着地点を見やれば――そこに、ナニカがいた。

 

 

 全身を構築するのは、生物を包む肉とは似ても似つかない、青白く発光するゲル状の物質。

 それを(よろ)っているのは、甲虫の外殻を想起させる、無機質さと生々しさが奇怪に同居した、黒い外殻。

 

 

 生命体と形容するにはあまりにも異形な「ナニカ」が、そこに屹立していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03.会敵

 前中後に収まらないことが判明したため、サブタイトルを数字カウント方式に変更しました。
 長々と続けてしまうことになりましたが、お付き合いいただけると嬉しいです。


 

 

「んな……ッ?!」

 

 あまりにも突然の奇襲。そして、そのあまりにも異形めいた様相に、思わず驚愕の声が漏れる。

 形状といいその体躯と言い、あの異形は明らかに既存の生態系に組み込まれた生物ではない。どちらかと言えば、何者かが惑星侵略のために作りだした生体兵器、とでも言った方がまだしっくりきそうなほど、「生物らしさ」を欠いた外観をしていた。

 

 現れた異形の数は、さほど多くはない。

 尾ひれのように触手をたなびかせ、空中を音もなく泳ぐ魚のようなものを主体として、その中心には、二体の大型――ともすれば巨人とも呼べるような、一対の手足に武器のようなものを携えた、二足歩行型。展開した布陣を見るに、二体の人型があの群れのリーダー格であることは間違いないだろう。

 

(なるべく戦いは避けたいところだけど――さすがに、この状況じゃ無理だよなぁ)

 

 かの異形に視界はおろか、感覚器官と呼ぶべきものがあるかどうかはわからない。唯一確かなことは、魚型も人型も、揃って「こちらを向いている」という事実だけだった。

 

 二体の人型が、青かったゲル状の部位を赤く染めたかと思うと、それぞれ形状の異なる武器のようなものを構え、俺めがけて突きつける。

 ――直後、片方の人型が構えていた武器の先端から、赤黒く発光する「砲弾」が放たれた。

 

「ぅおッ!?」

 

 飛来した砲弾を、すんでのところで回避する。鼻先三寸を掠めて背後へと抜けていった光弾は、着弾地点の地面を、強かに抉り取っていった。

 

「ッくそ、やるしかないか……!」

 

 それが攻撃であることは、敵対的な行動であることは明白。つまりかの異形は、今の俺にとっての「倒すべき敵」だ。

 ならば、と戦闘態勢を取った俺は、背から飛び出した柄を引っ掴んで、背負っていた得物を――コートエッジを抜き放つ。掌中に収まった肉厚な大剣の、かすかに明滅する青い光の切っ先が、空気と擦れる独特の音をかき鳴らした。

 

「どこのどいつかは知らないけど、撃ってくるなら、こっちも叩き切るだけだ。――本気で行くから、気を付けろよ!!」

 

 誰に対してでもなく、吼える。虚空に溶けて消えるその宣言で自信を鼓舞しながら、俺はコートエッジを構え、地を蹴った。

 

 俺がアクションを起こしたことで、人型の周囲を回遊していた魚型エネミーが、一斉にゲル部分を赤く変色させ、こちらへと回頭する。

 そのまま突撃でも仕掛けてくるのか、と勘ぐる俺へと向き直った魚型が、頭部と思しき部分をがばりと上下に開口。中核部分と思しき部位を露出させたかと思うと、そこから赤黒い光弾が音を立てて吐き出された。

 

「ちっ!」

 

 どうやらあの小型エネミーは、魚というよりも浮遊砲台型エネミーと形容した方がふさわしいようだ。

 数体の小型が協力し、光弾が雨あられと降り注ぐ。が、幸いというべきか、小型が放ってくる光弾の威力は、先の人型が撃ち出す光弾ほどの威力はないようだった。

 体捌きによる回避や、コートエッジの刀身による防御で凌ぎながら、エネミーの群れへと肉薄していく。エネミーたちも、単なる射撃では俺を止めることはできないと判断したのか、あと少しで切っ先が届くというところで、はじかれるように散開していった。

 

 追いすがろうと急停止をかけ、振り向いた俺の視界に、口を開いた小型エネミーの姿が映り込む。彼我の距離は、さほど遠くない。

 

「食らうか――よッ!!」

 

 撃ち放たれた光弾めがけて、コートエッジの刃を一閃。

 青い光の軌跡を刻み、振り抜かれた肉厚な刀身は、俺めがけて迫っていた赤黒い光弾を、真っ向から相殺。その勢いを殺さないまま、射撃の反動で動けないらしい小型エネミーへと殺到し、その小さな躯体を、縦一文字に両断して見せた。

 

「一つ!」

 

 赤黒い爆発の中に小型エネミーが消えていったのを確認して、撃破の判定を下す。正体は依然として分からないが、この一撃のおかげで、現有戦力でも渡り合えることは証明できた。

 

 ならば、あとはすべて切り伏せるのみ。

 闘志を宿した瞳で次の獲物を探そうとした俺を、今度は周囲を取り囲むように布陣した小型達の光弾が襲う。

 

「ぐッ……!」

 

 単一方向からの攻撃だけならともかく、四方八方から飛んでくる光弾の全てを回避する術はない。避けきれなかった光弾が俺の身体を捉え、炸裂と共に衝撃を叩き込んでくる。

 見立て通り、単純なダメージはさほどではないが、それが攻撃であることに変わりはない。芯まで伝わる痺れるような鈍痛を気合でねじ伏せ、コートエッジの刀身を盾に強引に突き進むことで、どうにか包囲網を突破した。

 

「う、おおぉぉッ!!」

 

 振り向きざま、雄叫びとともに、引き絞ったコートエッジを、小型めがけて横一文字に叩きつける。

 肉を切るような確かな感触と共に、眼前に展開していた三体のゲル状のボディが両断。赤黒い光の爆発が連鎖して、俺の髪を吹き乱していった。

 

「次――ッ!」

 

 最初の目算からすれば、残存する敵の数はそう多くないはず。

 そう考え、顔を上げた俺の目に移ったのは、こちらの射程の外へと距離を取っていく、小型エネミーたちの姿だった。

 

 遠距離砲撃でも仕掛けてくるのか、という予想は、幾ばくもせず否定される。

 追いすがろうとした俺を襲ったのは、先の攻撃よりも数倍巨大な、赤黒い光弾だった。

 

「う、ぐっ……!」

 

 すんでのところで、防御に成功する。

 コートエッジ越しに炸裂した衝撃は、先の小型の砲撃とは段違いに重い。体を浮かされ、半強制的に後退させられる。

 土煙を上げて制動をかけ、踏みとどまった俺の目が捉えたのは、武器――巨大な銃の先端をこちらに向ける、人型の片割れだった。

 

 親玉が動いた、ということは、どうやら俺の存在は、奴らにとっての「脅威」として認識されたらしい。

 崩れた体勢を立て直しながら親玉たちの方へ向き直れば、重い足音を響かせながら接近してくる人型の姿が目に入る。その手に握られている武器は、形状から見るにどうやら剣を模した物のようだった。

 

「――上等!!」

 

 吐き捨てながら、地を蹴る。

 先手必勝。攻撃が飛んでくる前に懐から一気に撃滅するべく肉薄を試みた――直後、側面から赤黒い光弾が飛来した。

 

 横目で捉えて回避する俺の視界に、射撃状態に入った小型の姿が映る。

 先の後退は逃走ではなく、こちらの射程外へ逃げ延びるための戦術的再配置だったのだろう。絶えず飛来する光弾の雨あられは、やはり威力こそ親玉のそれには劣るが、非常にいやらしい角度から飛んでくるせいで、親玉への肉薄が的確に阻止されていた。

 

「くそ――ッ!?」

 

 回避へと行動を切り替えたところを見計らって、剣の親玉が大上段から剣を振り下ろしてくる。

 全長と、そこから推定できる質量を鑑みれば、まともに受け止める選択肢は取れない。頬を薙ぐ強烈な風圧と、叩きつけられた剣の衝撃を肌で感じながら、どうにか一撃を回避した。

 

 そこへすかさず、逃がさないと言わんばかりの強烈な砲撃。

 もう一体の親玉が放った大きな光弾を回避しようとしたその矢先、再び飛来した小型の光弾が俺の行く手を遮った。

 

「ッ……!」

 

 後方への退路を断たれた俺に、選択の余地はなかった。

 身を翻し、再びコートエッジの刀身を掲げ、即席の盾を形成。先刻のリプレイとばかりに、すんでのところで親玉の砲撃を凌ぐ。

 

 衝撃に吹き飛ばされ、土煙を上げて後退する俺めがけて、さらに小型の砲撃が降り注ぐ。

 逃げ道を塞ぐように集中砲火を浴びせられる俺の眼前で、不意に剣持ちの親玉が身をたわめた。

 

 その瞬間、突き出された親玉の剣が、「真っ直ぐこちらに飛んできた」。

 

「な――」

 

 よもや届くはずのない距離から俺を襲った奇襲。対応は、できない。

 

 

 気づけば俺は宙を舞い、背中から地面へと叩き付けられていた。

 

「ぐ……ぁっ……」

 

 肺の空気を纏めて絞り出され、全身を襲った強かな衝撃に喘ぐ。少し離れたところからは、保持していられなくなったコートエッジが、土の地面に突き刺さる甲高い音が聞こえてきた。

 どうにか首をもたげて親玉の方を見てみれば、そこにはまるでコードを巻き戻すかのように腕を伸ばし、飛来した剣を回収する親玉の姿。投擲攻撃だと思っていたが、先刻の一撃はどうやら、腕そのものを伸ばして攻撃した物だったようだ。

 

(なんだよ、それ……どこまで、生き物離れしてやがるん、だよ……!)

 

 胸中で怨嗟の言葉を吐き捨て、ふらつきながらもどうにか体勢を立て直す。

 幸か不幸か、先のロングレンジ攻撃は切り裂くための物では無かったらしい。強烈な衝撃に内臓まで揺さぶられたが、致命打とはならなかったようだ。

 だが、状況が劣勢に傾いていることに変わりはない。蓄積しているダメージの量も、そろそろ看過できないレベルに入っていた。

 

「こう、なったら……」

 

 立ち上がった俺はおもむろに、アイテムパックから一つのデバイスを引っ張り出す。

 大ぶりな記録媒体にも見えるそれは、かつて出会ったある研究者が開発した、戦闘用の強化装置だ。未知の環境下で上手く動作するかわからないため使用を渋っていたが、四の五の言っていられない状況下で、使わずに敗北するという選択肢はあり得なかった。

 

「上手く動いてくれよ――!」

 

 一縷の望みをかけて、デバイスのスターターを押し込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――直後、間近で赤黒い閃光が弾けた。

 

「ぐッ!?」

 

 炸裂個所は、デバイスを手にしていた手。

 小型が放ってきたものだったらしく、威力はさほどではない。だが、手痛い一撃を貰った手のひらの中からは、デバイスの感触が消えていた。

 

 遠く、背後の方で硬質な落下音が聞こえる。振り向かずとも、それが弾き飛ばされたデバイスの悲鳴だということは理解できた。

 こちらが何をしでかそうとしているかを理解して、それを的確に妨害してくる。件のエネミーたちは、想定よりもはるかに高度な知能を持っていたようだ。

 

「ち――――ッ?!」

 

 舌打ちを挟む暇すらなく、次の一撃が飛来する。出所は、後方に座した銃持ちの親玉。

 バースト射撃のごとく連続して叩き込まれる光弾を防ぐ手段を失ったことで、今度こそ俺はまともに光弾を浴びることとなった。

 

「がッ……」

 

 骨まで軋む威力の光弾が、全身を殴りつけていく。

 内臓までダメージが達したのか、喉の奥から赤い液体が噴き出る。鉄臭い味が口の中に広がるのを感じつつも、ギリギリのところで、俺の足は踏みとどまってくれた。

 

(負ける……? 冗談じゃ、ない……ッ!)

 

 ふらつく身体の制御を根性でねじ伏せ、刻まれた傷を手で握りつぶし、両の足でしかと地を捉える。

 

 這う這うの体を突き動かしているのは、ただ一つ。

 幼少のころに経験した出来事が人一倍に燃え上がらせた「生存欲求」が、窮地に陥ってなお、俺の身体を動かしていた。

 

(こんなところで、死ぬつもりなんて――ない……!!)

 

 火花を散らさんばかりに歯を食いしばり、前を向けば、かすかな地響きとともに接近してくる、剣持ちの親玉の姿。周囲には、確実に俺を仕留める算段なのか、射撃体勢に入った小型どもが展開していた。

 

 振り上げられた大ぶりな剣を、両の目でしかと捉え続ける。

 

 鉛のように重い身体は、まだ動く。何が来ようが、躱してみせる――!

 

 

 

 

 

 そして、永劫にも等しい刹那のその最中。

 

「スキ――ありだ!!」

 

 俺の真横を、青白い流星が駆け抜けていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04.邂逅

 

 

「え――」

 

 空気を切り裂く鋭い音を立てて、俺の真横を通り抜けた流星が、今まさに剣を振り下ろさんとした親玉の胸ぐらへと着弾。盛大な火花を吹きあげ、親玉を勢い良く切り裂き始めた。

眩い閃光の向こうをよくよく垣間見てみれば、流星の正体は「高速回転する両刃の剣」――俗にダブルセイバーとも呼ばれる武器だということが分かった。

 

 満足するまで親玉を切り裂いた両剣が、はじかれるようにその場を離脱。今度は俺の頭上を通り越して、俺の背後へと戻っていく。

 

 間違いない。今の一撃は明らかに、かの敵勢に対する攻撃だ。そして、よくよく見知った形状の武器。それが意味することは、一つしかない。

 

 這う這うの体のまま、先刻歩いてきた道の方を振り返った俺の視界に。

 

 

 

 

「――よう、〈ホシワタリ〉。まだ生きてるみたいだな」

 

 ダブルセイバーを音高く掌中に収める、一つの人影が映り込んだ。

 

 人、と形容しなかったのは、その人物が素顔を見せていないからだ。

 全体的な体系のシルエットは、常識的なフォルムを持つ男性の物。しかし、その全身は蒼く輝く結晶体を交えた装甲に包まれており、頭部を覆うフルフェイスメットの存在もあって、まるで機械の身体を持つ種族(キャスト)か、そうでなければ「仮面のヒーロー」とでも形容できるような重装備だったのだ。

 だが、その手に握ったダブルセイバーは、俺にも見覚えがある。かつてアークスの技術部によって開発された「ランドルオービット」と呼ばれる武装群の一つを携えるその人物は、間違いなくアークスの一人だと確信できた。

 

「寝起きそうそう無茶してるじゃないか。――おーいめーちゃん、回復してやってくれ」

 

 と、フルフェイスメットの人物が、不意に顔を上に向ける。

 上になにがあるのか、と思い、つられて上を見上げると――

 

「降下準備。――ちょっと待ってください、先に〈フワン〉を片付けますから」

 

 俺の間近めがけて、今度は人そのものが高速で落下してきた。

 

「ぅおッ?!?」

 

 思わず驚きに声を上ずらせたが、どうやら急降下してきた人物の目的は、追撃を試みていた小型エネミーだったらしい。着地と共にその手に握った武器を地に叩き付けたのか、強烈な衝撃波が小型の群れをなぎ倒していった。

 

「殲滅完了。お待たせしました、ホシワタリさん」

 

 滑らかに立ち上がったその人物は、キャストの女性。

 動作に合わせて、二股の長い三つ編みに結われたエメラルドグリーンの髪を揺らしたその女性は、こちらを見やると、かすかに微笑んで見せた。

 

「こっちは持たせる。ぱぱっと治療してやってくれ!」

 

 直後、別方向から甲高い衝突音が響く。振り向けば、ダブルセイバーを携えた仮面の男性が、追撃に来ていたらしい剣持ちの親玉と鍔競り合い、こちらへの攻撃を阻止しているのが見えた。

 

「状態確認……ああ、酷い惨状です。コールドスリープから目覚めて一日経っていない人が負っていい怪我ではありませんね」

 

 かすかな機械音を瞳から鳴らし、こちらの状態を分析したらしい女性が、困り顔を作りながら懐から何かの機械を取り出す。

 

「〈レスタサイン〉散布開始。動かないでくださいね」

 

 と告げ、キャストの女性が装置を起動する。

 

 すると、装置の中に圧入されていたらしい緑色の光が、ぶわりと吹き上がる。

 温かさと、どこか既視感めいたものを感じるそれは、俺の体内にしみこんでいったかと思うと、途端に全身を苛んでいた痛みとけだるさが退いていくのがわかった。

 

「これ、は」

 

 たちどころに傷が癒えていく感覚で、ようやく既視感に納得がいく。

 これは間違いなく、アークスで運用される回復テクニック「レスタ」のものだ。装置を起動させる前にキャストの女性が口にした名詞から類推するに、彼女が使用したのはレスタに限りなく近い、もしくはレスタを再現した装置なのだろう。

 

「ヒールシェア完了。……どうです、動けますか?」

 

 キャストの女性に問われ、少し体を動かしてみるが、先ほどまでの倦怠感は嘘のように吹き飛んでいる。これならば、戦闘機動にも支障はないだろう。

 

「ああ、問題ない。助かったよ」

「いえ、お気になさらず。支援とエネミーさんへの嫌がらせは、ワタシの趣味ですから」

 

 にこやかな笑顔のまま、ズビシ、と擬音が付きそうな勢いでサムズアップすると、キャストの女性は再び腰から得物を抜く。

 こちらもまた、見覚えのある代物だ。翼のようなスタビライザーを持つ、片手で保持できる杖のような外観のそれは、「リンドエクシード」と呼ばれる複合兵装群の一つ。形状と彼女の言動から察するに、彼女が手にしているのは恐らく「短杖(ウォンド)」と呼ばれる法撃兵装だろう。

 

「戦況は五分。ワタシたちも加勢しましょう」

 

 そう言って女性がウォンドを掲げると、周囲に赤と青に輝く光の粒が放たれる。

 

 赤と青の光が伝えて来る感覚もまた、酷く覚えのあるものだ。

 赤の光は、攻撃に用いられるエネルギーを増幅して火力を上げる「シフタ」というテクニックに。青の光は、不可視の防護膜によって防御力を向上させる「デバンド」というテクニックに酷似している。先の発言通り、キャストの女性は戦闘メンバーの支援を生業としているらしかった。

 

「突撃します。お先に失礼しますね」

「え?」

 

 直後、キャストの女性がそんなことを口走ったかと思うと、手にしていた武器を換装。

 テクニック運用に適した短杖は、まばたきの間に量の拳を覆う「鋼拳(ナックル)」へと変形。翼のようなスタビライザーから光の粒子を吹かしたかと思うと、次の瞬間、女性は矢のごとく敵陣へと突撃していった。

 

「はっ!!」

 

 女性が標的にしたのは、仮面の男性を狙おうと動いていた、銃持ちの親玉。風切り音と共に叩き込まれた鉄拳は、炸裂音を打ち鳴らして、親玉の銃口をあさっての方向へと吹き飛ばして見せた。

 

「パリィ成功――隙だらけです」

 

 そのまま、流れるように身を翻したかと思うと、女性の両の腕が、神速の勢いで乱打を繰り出す。

 残像すら伴うほどの勢いで放たれた無数の拳は、がら空きとなった親玉の胴体へと吸い込まれるように着弾。

 

「やれやれだぜ、です」

 

 機関銃の射撃と聞き間違えそうな炸裂音を響かせると、親玉が遥か後方へと豪快に吹き飛ばされていった。

 

 単騎対単騎という状況とは言え、あれほど俺を苦しめた親玉の片割れをいともたやすく片づけてみせたその実力は、生半なものではない。

 ならば、もう片方の仮面の男性も――という思考は、間近で炸裂したドゴォン! という衝撃音に中断させられた。

 

「おっと悪い、巻き込みかけた」

 

 少し遅れて、コキコキと首を鳴らしながら、件の仮面の男性が悠然と歩いてくる。

 ならば先ほどの炸裂は――と振り向けば、そこには半ば地面に埋まるような格好で沈黙する、剣持の親玉の姿があった。どうやら、俺が治療を受けていたあの数十秒間の間、単騎で圧倒していたらしい。

 

 驚くのもつかの間、地面へ叩き付けられた親玉が、周囲の土を砕きながら大上段へと跳躍する。勝手に沈黙したと思い込んでいたが、どうやら倒し切れてはいなかったらしい。

 

「ったく、毎度毎度しぶとさだけは一流だな!」

 

 が、それを予期していたかのように、仮面の男性が音高く跳躍する。

 

「こちとら新しい仲間の歓迎会が控えてんだ。とっととお引き取り願おうか!!」

 

 言葉と共に、ダブルセイバーが閃き、無数の剣戟が繰り出される。

 掌中に握られたまま高速回転する両刃の剣は、軌跡に合わせて青白く輝くカマイタチらしきものを生成。手数を遥かに超える回数の斬撃を以て、二回り以上も大きな体躯を持つ剣持ちの親玉を、真っ向から圧倒して見せた。

 

「強い……!」

 

 思いがけず、感嘆が口を吐いて出る。

 俺自身、そこそこ長くアークスとして研鑽を続けてきたが、眼前で戦いを繰り広げる二人の実力は相当なものだ。使用する武装や戦い方から見るに、彼らもアークスとして長く戦ってきた実力者なのだろう。

 

 

 なんてことを考えてきた矢先、背後で何かが落着する衝撃音が響く。

 

「ッ――新手?!」

 

 振り返れば、そこに居たのは先刻俺を苦しめ、二人のアークスが退けたエネミーたちの親玉の姿。剣を持った人型タイプが、俺の目の前でゲル状の体躯を赤く染めあげたところだった。

 

 間髪入れずに振り下ろされる剣を、バックステップで回避する。

 対抗するだけならばともかく、このエネミーを殲滅するためには武器が必要だ。そう考え、先ほど吹き飛ばされた得物(コートエッジ)が突き刺さった位置を確認し直して――思わず悪態をついた。

 

「クソッ、嫌らしいところに来やがった!」

 

 コートエッジが突き刺さっていた位置は、剣持ちの親玉と相対する俺の真正面――言い変えれば、親玉の背後。つまり、コートエッジを回収するためには、眼前の親玉をどうにかして突破する必要があるのだ。

 近づくのは言わずもがな、仮に距離を取って大回りに迂回しようにも、親玉には腕部を自在に伸ばすことで射程をカバーする能力を持っている。丸腰の状態で下手に動くことは、何としても避けたかった。

 

 

「ホシワタリ! コイツを使え!!」

 

 その時、背後から仮面の男性が呼びかけて来る。

 ちらりと後ろを垣間見れば、なおも親玉を圧倒し続けていた男性が、こちらめがけて何かを投擲するのが見えた。

 

 飛来したのは、何らかの武器の柄と思しき物体。パシッ、と音を立てて受け止めてみれば、それはどうやら、非実体の刃を出力するための発振器のようだった。

 スターターらしきスイッチを押しこめば、発振部分から半透明の刀身が象られ、それをなぞるように、青白く輝く光の刃が出現。瞬きの間に、身の丈ほどの長さを持つ細身の大剣が作り出された。

 

「悪いが、持ち合わせがプリムソードしかないんだ。〈ぺダス・ソード〉の相手には力不足かもしれんが、我慢してくれ!」

「いや、充分だ! 助かった!」

 

 仮面の男性は、こちらが得物を失っていることを察して、自身の予備武器を投げ渡してくれたのだ。

 手短に礼を告げてから、俺は剣持の親玉――仮面の男性曰く〈ぺダス・ソード〉と呼ばれているらしいエネミーへと、改めて相対した。

 

 仮面の男性は力不足と言っていたが、プリムソードと呼ばれたこの剣は、軽く触れただけでもかなり堅実にまとまった設計であることが見て取れる。扱いやすさに秀でた性能を鑑みるに、初心者用、あるいは一般のアークス向けに配備されている量産品なのだろう。何にせよ、今の俺にはこれ以上なく有り難い代物だ。

 

「さて――さっきのお返しをさせてもらうぞ!!」

 

 プリムソードを構え直し、地を蹴る。

 対するぺダス・ソードは、大上段に振り上げた剣を一閃。質量の暴力を体現するような一撃はしかし、周囲の援護がなければ、ただの隙だ。

 

 身をひねり、凶刃をかわす。地に叩き込まれる剣の内側へと踏み入れば、そこはすでに、ぺダス・ソードの懐だ。

 

「は――ああぁぁッ!!!」

 

 ぺダス・ソードの後方めがけて疾駆しながら、プリムソードを横一文字に振り抜く。

 確かな斬撃の手ごたえと共に駆け抜ければ、快音と共に光の軌跡が中空へと刻まれた。

 

「いける……!」

 

 キャストの女性に施してもらった回復と、仮面の男性から借り受けた剣。かの敵と対等に渡り合えるようになったのは、二つの助けのおかげだ。

 コイツを片付けた後で、もう一度感謝を伝えよう。そう心に決めて、俺は先刻切りつけたぺダス・ソードへと向き直った。

 

「これで、終わらせる」

 

 両の手で握りしめたプリムソードへ、力を送る。

 光の粒子(フォトン)を交えて増幅されていく力は、プリムソードの刀身へと充填。切っ先から根元までを埋め尽くした光が溢れ、青白く輝く刀身を一回り大きく肥大化させて。

 

「本気で行くから――気を付けろよぉォォッ!!!」

 

 限界までフォトンを充填した切っ先による横一文字の一閃(ストリークキャリバー)が、ぺダス・ソードの体躯を、真っ向から切り裂いた。




 本話より、スペシャルゲストキャラクターとして、狼@船4様の「ルプス」と、栢凪様の「メーヴ」を出演させていただきました。
 この場をお借りしまして、キャラクター借用に快諾頂いたご両名に、心より感謝申し上げます。改めて、ご協力ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05.プロローグ

 ぺダス・ソードが撃破されたことで巻き起こった爆発が過ぎ去ったのを確認して、俺はゆっくりと顔を上げる。

 眼前に残されていたのは、ぺダス・ソードが踏みしめたことで生まれた無機質な足跡と、先の戦いによって地面に刻まれた、斬撃の痕のみ。撃破された亡骸が残っていないこともあって、終わってみれば、まるで夢だったかのような静寂だけが、そこに残されていた。

 

「よう、お疲れさん」

 

 背後からかかった声に向き直れば、プリムソードを貸し与えてくれた仮面の男性が、軽く手を上げながらこちらに歩いてきていた。背後には、俺を治療してくれたキャストの女性の姿もある。

 

「お疲れ様、です。――これ、ありがとうございました」

「ああ、良いってことさ。せっかく助けたのに、丸腰が理由で死なれちゃ寝覚めが悪いからな」

 

 返却したプリムソードを腰のホルスターに差し戻した男性が、自身の頭部を覆っていたフルフェイスメットに手をかける。

 取り払われたメットの下から現れたのは、声に違わぬ精悍な男性の顔。濡れ烏色の髪から垣間見える碧玉色の瞳と、閉じられた左目を縦断する一筋の傷跡が特徴的な男性は、何処からか取り出した電子タバコらしきものを口に加え、小さく一息をついた。

 

「なんにせよ、ここまで自力で来れたんなら、こっちでいらん手を貸す必要はなさそうだな。いやぁ、仕事が減って何よりだ」

 

 そういってからからと笑う男性の頭を、ウォンドらしきものがこつんと殴りつける。

 

「あだっ」

「ダメですよルプス。仕事はちゃんとしないと殴りますよ」

「もう殴ってんじゃねえか!」

 

 ウォンドを下げたキャストの女性を頭をわしづかんだ男性が、女性の髪をぐっしゃぐっしゃとかき回す。

 ……一瞬仲が悪いのかと思ったが、男性の言葉から怒気は感じない。どうやら、単純におふざけを交えてじゃれ合ってただけのようだ。

 

「ったく奇行女め。……あぁ、そういえば自己紹介もまだだったか」

 

 ひとしきりじゃれ終わった後、2人が改めてこちらに向き直る。

 

「オレは〈ルプス〉。知り合いからはあれこれあだ名つけられてるから、お前さんも適当に好きな呼び方で呼んでくれ。んでこっちが――」

「やっほー、はろー、こんにちは。めーちゃんこと〈メーヴ〉です。好物はレスタサインです、宜しくお願いします」

 

 仮面の男性、ことルプスが電子タバコをふかし、キャストの女性、ことメーヴが折り目正しく一礼するのを見て、俺も慌てて軽く会釈を返した。

 

「あ、えっと、コネクトです。……えっと、2人はアークス、で間違いない、んですよね?」

 

 挨拶がてら、気になっていたことを問う。

 武器と言い戦い方と言い、彼らがアークスであることは間違いない。だが、流石に憶測だけで決めつけるのは良くないだろうと考え、改めて聞き直してみたのだが――眼前の二人は、なぜか驚いた表情を浮かべていた。

 

「……ひょっとして、記憶があるのか?」

「え? あぁ、まぁ。コールドスリープのせいかところどころ抜けてますけど」

 

 首肯してみたものの、反応を見るに、どうも2人が知りたかった答えとは微妙にずれていたらしい。だが、俺の発言から何かを察したのか、驚き顔のまま得心したような表情を浮かべていた。

 

「こりゃ驚いたな。何人か前例はあるって聞いてはいたが、まさか記憶のあるホシワタリだったとは」

「驚きです。ですが、戦闘経験が引き継がれていたのであれば、〈ドールズ〉と戦えていたのも納得です」

「ん、それもそうか。確かに、あの数相手に一人で持ちこたえるのは普通のホシワタリには無理な話だな」

 

 色々と思うところがあるのか、なにやら二人だけでトントンと話を進めていく。

 邂逅時から出ているキーワードや、先ほど戦っていたエネミーの総称と思しき名称など、分からない単語は山ほどある。ルプスの発言の意図も含めて、色々と聞きたいことばかりがどんどん積もってきていた。

 

「あー、えっと……寝起きで色々分かってないんで、できればいろいろ教えてほしいんですけども」

「おっと、悪い悪い。……あー、一々説明するの面倒なんだし、ホシワタリ用の覚えとく事マニュアルとか作っといてほしいぜ」

「というわけで、大雑把で信用ならないルプスに変わって、僭越ながらワタシが解説いたします。どんな質問でもバッチコイ、です」

「あ、はい」

 

 なんというか、この二人の間には独特のペースがあるらしい。

 思わず生返事を返してしまいつつも、ひとまずは改めて、聞きたいことをいろいろ聞いてみることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、大丈夫か?」

「ダイジョウブジャナイデス……」

 

 で、結果はこのザマ。あまりにも衝撃的な情報が洪水のように押し寄せてきた結果、見事頭を抱え込んで崩れ落ちる結果になってしまった。

 

「無理もありません。まっさらな状態から知識を得るならともかく、前提となる知識がある状態でこの情報を渡されれば、混乱するのは当然だと思います。ワタシでも混乱します」

 

 メーヴから慰めの言葉と頭ポンポンを頂きつつ、俺は改めて、オーバーヒート寸前の脳をフル稼働させて、2人から聞いた「現在(いま)」に関する情報をまとめ上げることにした。

 

 

 

 

 まず、今俺が立っているこの場所は、「ハルファ」と名付けられた惑星らしい。

 豊かな自然に恵まれたこの星には、先ほど遠景に見えた街の存在から察せるように、人の手によって起こされた文明が根付いている。そして驚くべきことに、その文明には「アークス」という組織が存在しているというのだ。

 

 アークスと一口に行っても、その組織実態は俺の知るアークスとは少し毛色が違っている。

 人々を守るために戦う組織、という点は変わらないが、彼らハルファのアークスはダーカーではなく、先ほど戦った謎の敵性存在(エネミー)「ドールズ」との戦いを生業としているらしい。俺を助けてくれたルプスとメーヴもまた、ハルファ由来のアークスとして、日々ドールズとの戦いをはじめとした各種の任務(タスク)に従事しているそうだ。

 

 

 で、そんな新アークスの存在する惑星ハルファには、しばしば「降下ポッド」が宇宙から飛来するらしい。

 飛来した降下ポッドの中からは、時に人が発見されることがある。そうして宇宙からやってきた人間のことを、ハルファの人々は「星渡り(ホシワタリ)」と呼んでいるのだ。

 そして、ほぼ全ての星渡りに共通する特徴として、「降下してくる以前の記憶が無い」という点があるという。故に、星渡り達がいったいどこから、何の目的でこのハルファに降りてくるのかは、いまだに明らかになっていないのだそうだ。

 

 ただ、ごくごくまれな話だが、過去の記憶を保持している星渡りの前例もあったらしい。しかし、それらの星渡りも記憶の保持状態は断片的であり、俺のようにかつての所属などを覚えている星渡りは、輪をかけて希少な存在なのだそうだ。

 

 

 

 

 そして、ここまで纏めた情報に加えて、もう一つだけ重要な情報がある。

 

 

 それは――今俺たちの立つこの世界は、俺が生きていた時代から「1000年」の時が経過した、「未来の世界」だということだった。

 

 このハルファに何故文明が根付くことになったのかをはじめとした、詳しい経緯はルプスたちにもわからないらしい。

 確かになっていることは、このハルファで活動するアークス、ひいてはハルファ人たちの文明には、かつてオラクルで使われていた技術の断片や、当時の文字などが使用されていること。そして、現在(いま)をオラクル標準暦に換算すれば、「新光暦1242年」に相当する時代だということだけだった。

 

 

 ……オラクル時代の記憶を保持する人間としては、ルプスたちの発言をすぐに飲み込むことは到底できなかった。

 しかし、よくよく考え直してみれば、こうして千年後のハルファに立っている俺も、何らかの理由でコールドスリープされ、星渡りとしてこのハルファにやってきたのだ。

 コールドスリープとは元来、長期間の航宙生活に備えて確立された技術だ。生命の劣化を防ぎつつ、長期間保管するための技術、という背景を持つ以上、老衰しないまま長い時を超えたという可能性も、あながちないとは言い切れないのが現状だった。

 

 

 

 

 一通り情報を纏め終えると、どうにか思考にも冷静さが戻ってきた。

 全てに納得できた訳ではないが、理解を拒否したところで、現状という現実は変わらないことくらい理解できているつもりだ。

 

「どうだ、落ち着いたか?」

「まぁ、なんとか。……正直、まだ現状を飲み込めたわけじゃないですけどね」

「そりゃそうだろうな。ま、無理に信じろとは言わないさ。現状さえ正しく理解できたなら、それで充分だ」

 

 ルプスの言葉に頷きを返してから、俺は再び口を開く。

 

「それで……この後俺はどうなるんですか?」

「基本的な星渡りへの対応としては、まずアークス側で保護する決まりになっています。その後どう生活していくかは、個人個人の意思を尊重する形ですね」

「さっきの戦いぶりを見る限り、オレとしては是非ともアークスに、って言いたいところだけどな」

 

 肩をすくめて、ルプスがいたずらっぽく笑う。

 

「いつの時期も、人材なんて不足しっぱなしだからな。まして、お前さんみたいに戦闘経験のあるヤツなんて余計にな。……ま、さっきも言った通り、最終的にどうするかはお前さんの自由だ。強制はしないけど、考えてといてくれると助かるな」

 

 ふぅ、と煙を吹くルプスの言葉に、しばし考え込む姿勢を取る。

 

 思い返すのは、過去。

 幸か不幸か、俺の転機となった「あの時」の経験は、千年の時を経ても劣化せず、俺の脳裏に刻み込まれていた。

 瞼を閉じれば、まるで昨日のように思い出すことができる、その瞬間。眼前で知己を奪われ、自身の命すら散らされんとしたその時に感じた「死への恐怖」。記憶と共に足先から這い上がってくるその冷たい感覚は、千年経っても俺を解放してはくれないようだった。

 

 千年前、俺がアークスとして戦いに身を投じていた理由。それを一言で形容するならば、「生存本能」とでも言うのが相応しいだろうか。

 理不尽に命を奪っていく闇の尖兵に抗い、打ち勝ち、自然の摂理がこの身を朽ちさせるその瞬間まで、己の意思で生き続けること。それこそが、かつての俺が掲げていた「戦う理由」だった。

 

 そして今、俺の中には戦う理由のきっかけとなった記憶が残されている。ならば、俺の取る行動は、一つしかなかった。

 

「いえ――戦いたいです。俺も、このハルファのアークスとして」

 

 俺を助けてくれた2人のアークスに向けて、明瞭な言葉でそう告げる。

 対する2人の顔に、特段驚きの色は見られない。代わりに浮かんでいた表情は、にこやかな歓待の微笑みだった。

 

「そうこなくっちゃな。お前さんの志がどうであれ、貴重な戦力が増えることは事実だ。歓迎するぜ、コネクト」

「右に同じく、歓迎します。――何はともあれ、まずはワタシたちのホームに戻るとしましょう。入念にメディカルチェックしちゃいますよ、フフフ」

「お前は担当じゃないだろうに。……とにかくだ」

 

 ごほん、と小さく咳払いを挟んで、ルプスが再び口を開く。

 

 

「改めてようこそ、惑星ハルファへ。これからよろしくな」

「はい!」

 

 

 

 

 

 これが、俺の第二の人生の始まり(プロローグ)だった。

 

 未知なる未来の世界での経験、そしてこれからの未来で待ち受ける、無数の出会い。それらが俺に、この世界に何をもたらすのかは――まだ誰にもわからない。




 お読みいただきありがとうございました。
 少しでも面白かったと思って頂けたなら幸いです。

 作者のブログ「コネクトの雑記スペース」にて、裏話や登場人物紹介を兼ねたあとがきを掲載しております。
 暇つぶし程度に覗いて頂けると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
EX.流れ星の贈り物


※ご注意
 本話以降のお話は、本編とは無関係な番外編となります。
 原作ゲーム中のストーリーとの乖離が本編以上に増える恐れがあるため、あらかじめご了承の上、続きをお読みください。


 

 

 両の足を絶え間なく動かし、足場の上を疾走しながら、俺――コネクトは眼前を見やる。

 

 向かう正面にそびえるのは、俺を縦に何人も重ねてようやく越えられるほどの、高い壁。人工物故にのっぺりとした壁面には、わずかに足をかけられるところも見当たらず、一見すれば、それは登攀不可能な行き止まりにすら思えた。

 

「――フッ!」

 

 大きな壁の数歩手前で、俺は足に力を込め、ダンと地を蹴り、跳躍する。勢いをつけていたおかげか、目算よりもかなり高い位置まで飛べはしたが、眼前の壁を超えるには、まだ高度半分ほど足りなかった。

 

 このまま壁に激突する――その寸前、突き出した片足を壁に叩き付ける。

 すると、凹凸すらなかった壁面にかけた足から、何かをしかと踏みしめる感触。まるでその場に不可視の足場があるかのように踏ん張りを利かせた俺は、そのまま不可視の足場を強く蹴りつけ、さらなる跳躍を果たし、登攀不可能と思われた高い壁を、軽やかに突破して見せた。

 

受け身がてらの前転を挟み、疾走を再開した俺の脚には、青白く輝くフォトンの光が宿っている。光の粒子を軌跡として中空に刻みながら、俺は再び現れた大きな壁めがけて跳躍。先ほどと同じように壁に触れ、不可視の足場を蹴りつけることで、飛び越えられない高さの壁を突破した。

 

「っと……ふう、やっと安定してきたな」

 

 ブーツの底を鳴らして着地した俺は、一息ついて立ち上がる。

 直後、すぐ近くで小さく響いた拍手の方向に顔を向けると、そこには一つの人影があった。

 

「お疲れ様です。最初に比べると、高速機動にもずいぶん慣れてきたみたいですね」

 

 ぱちぱちと拍手を送ってくれていたのは、長い二股の三つ編みに結わえたエメラルドグリーンの髪が特徴的なキャストの女性、ことメーヴ。俺よりも先行していた女性にようやく追いつけたことを実感して、俺は安堵の苦笑を漏らした。

 

「悪い、待たせた。……見た目は簡単なのに、自分でやると意外に難しいな」

「同意します。ワタシも、慣れないうちは何度か激突して壁のシミになりかけてました。――ともあれ、ここまで来れたなら、この〈トレイニア〉も終盤です。残りあと少し、頑張ってください」

「ああ!」

 

 メーヴからの声援を背に、俺は再びフォトンを足に纏い、地を蹴った。

 

 

 

 

 現在俺が居るのは、惑星ハルファの各所に点在する人工施設「トレイニア」の内部だ。

 メーヴたち曰く、ここはアークスが利用できる一種の「訓練場」として作られており、内部に広がる仮想空間を利用して、様々な状況を再現したり、訓練用の特別な空間を構築することを可能としているのだそうだ。

 

 で、そんなトレイニアに俺が挑戦している理由は至極単純、「訓練」の為である。

 数日前、ルプスとメーヴに助けらたことをきっかけに、彼らからの推薦という形でアークスになった俺は、いくつかの新人向け講習を受け直した後、修了試験としてこのトレイニアの攻略を言い渡されたのだ。

 

 内容については、かつて俺が旧アークスになる時に経験したものとほぼ変わりない。だが、1000年の時を経たせいか、この時代のアークスには、俺の知らない様々な技術が存在していた。それこそが、先ほど俺が練習していたものである。

 

 フォトンを脚に纏わせることで脚力の強化し、さらに光圧式スラスターの要領で推力を発生させることで、如何なる場所でも高速機動を可能とする「フォトンダッシュ」。

 フォトンダッシュと同じ要領を用い、空中で推力を得て滑空することにより、落下速度の低減と跳躍距離の延伸を行う「フォトングライド」。

 そして、壁面を蹴りつけると同時にフォトンを噴射することで、より高所への登攀を可能とする「ウォールキック」。

 

 1000年前には存在しなかった数々の技術は、いずれもこの広大なハルファを舞台に活動するアークスにとっての必須技術だ。故に俺も、一人前のアークスとして不足なく活動できるように、新技術を体得するための練習に明け暮れていたのである。

 結果、何度か壁に激突したり高所から墜落したりを繰り返した末に、どうにかそれらの技を習得することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ……陽の光が眩しい……」

 

 トレイニアの仮想空間から退出した俺は、施設の入り口でうんと伸びをする。傍らには当然、付き添いを務めてくれたメーヴも居た。

 

「お疲れ様です。最初は失敗100割でしたが、最終タイムは中の上、といった具合でした。これだけ体得できたなら、充分アークスとしてやっていけるでしょう」

「そりゃよかった。……慣れない技術を一から体に覚えさせるのって、想像以上に苦労するもんだな。まさか、ここまで上手くいかないとは思ってなかったよ」

 

 思い出すに堪えない不甲斐ない失敗(NG)シーン集を思い返しながら、ため息交じりに苦笑する。

 フォトンを活用した技術、という都合上、原理としては戦闘技能である「フォトンアーツ」や「テクニック」と本質的には同じ技だが、武器を用いて発動するそれらとは違って、ダッシュやグライドは「己の肉体」を媒体に発動する技である。PAやテクニックとはかなり勝手が違うことが災いして、最初はまったく思い通りに駆使することができなかったのだ。

 

「仕方がないことだと思います。アナタには1000年前の戦闘経験もありますから、すぐに慣れられても逆に気持ち悪いくらいです。それに、世の中には体得しようと思ってもできない人間もいますからね」

「それは、ルプスさんのことか?」

 

 この場に居ない知己の名を出すと、メーヴがこくりと頷く。

 

 本人から聞いた話ではないが、聞くところによると、彼はフォトンを扱えない特異な体質であり、周囲からはあれやこれやと心ない言葉をぶつけられているらしい。それでも戦えているのは、彼が身に着けていた武具の特殊な性能が故なのだそうだが、それはさておき。

 

「そういうわけですから、習得に時間がかかったくらい、なんてことはないかと思われます。そう思っていたほうが、ルプスも草派の陰で喜んでいることでしょう」

「いや、死んでないし。バイト行ってるだけだから」

 

 そんなルプスがなぜここに居ないのかと言うと、本人曰く「バイト」だそうだ。明言こそしなかったが、おそらくは物資の調達や機材のメンテなど、彼にしかできない後方支援をやっているのだろう。

 

「……ま、確かにメーヴさんの言ってるとおりか。悪い結果にはならなかったんだし、前向きにとらえた方がいいよな」

「そういうことです。――ともかく、これで修了試験は完了です。早く戻って、指導教官さんをお仕事から解放してあげましょう」

「だな。んじゃあ――?」

 

 メーヴの言葉に同意し、トレイニアを後にしようとしたその矢先、俺の耳がなにかの「音」を捉える。

 

「……上?」

 

 音の出所は、頭上。訝しみながら顔を上げると、そこには青い空に輝く尾の軌跡を刻む「流星」の姿があった。

 

「あれは――ドールズじゃ、ない?」

 

 上空から飛来する流星、というと、俺のような星渡りや、覚醒初日に俺とルプスたちが出会うきっかけとなったドールズの来襲が思い起こされるが、上空を流れる流星は、そのどちらとも違う。ならアレは一体――という疑問の答えは、隣のメーヴの口からもたらされた。

 

「〈ステラーギフト〉ですね。星渡りと同様に、時々宇宙から飛来してくる人工物。カプセルの中には有用な物資が封入されていることから、ワタシたちアークスからは流れ星の贈り物(ステラーギフト)と呼ばれているものです」

「へえ。……ってことは、あれはできるだけ回収するべきもの、ってことになるのか?」

「そうなりますね。――軌道を見る限り、どうやら近くに落着するようです。シティに戻るついでに、回収しに行きましょう」

「了解だ」

 

 思いがけない寄り道を決めた俺たちは、両の脚にフォトンを充填。

「フォトンダッシュ」が生み出す光の粒子をたなびかせながら、一路草原地帯――ハルファナ平原の一角めがけて移動を開始した。

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 握りしめた剣の切っ先が、眼前に展開していた敵――「ガルフ・ロア」と呼ばれる、狼のような外観を持つ四足歩行型エネミーの一体を切り伏せる。致命打に悲鳴をあげて倒れ伏し、完全に沈黙したのを確認して、俺は詰めていた息を吐き出した。

 

「ふぅ……まさか、ステラーギフトの落着地点にエネミーが湧いて出るとはな。メーヴさん、そっちは?」

「滞りなく、殲滅完了です。そちらも、もう武器は問題ない様子ですね」

 

 メーヴの言葉に、肩に担いだ愛剣――コートエッジをちらりと見やる。覚醒初日、ドールズたちの襲撃によって吹き飛ばされたことで少なからず破損させられた愛剣は、セントラルシティの技術者たちの手によって、すっかり元通りの性能を取り戻していた。

 

「ああ、整備班さまさまだ。……さて、とりあえず周りのエネミーは掃滅したわけだけど、こいつはどう開けるんだ?」

「任せてください。力こそパワーです」

 

 言うが先か、メーヴがその脚を縦一文字に振り抜いて、人と同じくらいの大きさを持つ球場の物質――ステラーギフトのカプセルを蹴り飛ばす。すると、衝撃か何かを察知したのか、ステラーギフトが音を立ててハッチを開けた。

 

「雑だな?! ……仮にも貴重な資源なのに大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題ない。です。どうせ、後からこじ開けることに変わりはありませんから。――さて、もう一度確認しますが、取り分に関しては、先ほど決めた配当で問題ありませんね?」

 

 メーヴが口にした取り分とは、このステラーギフトから回収できた物資をどちらがどのくらい獲得するか、というものだ。

 メーヴ曰く、ステラーギフトをはじめとした各種の物資は、基本的に「回収したアークスの資産」という扱いになる。そこからどの程度をアークス全体の共通資源として納入するか、どの程度を自身の役に立てるのかというのは、一部の例外を除いて、全てアークス個々人に一任されているのだそうだ。

 

 今回のステラーギフトから獲得できるであろう物資の配分に関しては、あらかじめ俺とメーヴの間で取り決めを定めている。

「資源や有用な物資は大まかに二人で山分け」にし、仮に何かしらの武器が獲得できた場合、「どちらかが使用できる武器ならば使用できる方に譲渡」。「どちらも使用できない武器ならばシティで換金して売却金を二人で山分け」、という内約で、双方同意したのだ。

 

「ああ、異論はない。じゃあ、中身を拝見と行くか」

「では、ごまだれー」

 

 奇妙な擬音を口ずさみながらハッチを押し開けたメーヴに続いて、俺もカプセルの中身を覗き込む。

 事前の情報の通り、カプセルの中にはたくさんの物体が雑多に詰め込まれている。武具の素材として活用される各種の鉱石や、換金すれば小金になるというレアメタルなど、希少なものでこそないが、有用なものが色々と詰め込まれていた。

 そして、中でも目を引いたのは――

 

「これは……銃か」

 

 カプセルの中から拾い上げた武器を一言で形容するなら、黒い銃だ。

 メタリックブラックのフレームに、エネルギー回路と思しき、鮮やかな黄色に発光するライン。中央付近に組み込まれた回転式の弾倉と思しきパーツが特徴的なそれは、どこからどう見ても「スクエアバレルのリボルバー拳銃」だった。

 

「見たことのない武器、です。もう一丁あるところを見るに、ツインマシンガンでしょうか?」

 

 そう口にするメーヴの手にも、俺が握るものと同じ形状の銃が握られている。同型の武器がわざわざ二つ用意されているところを見るに、メーヴの予測通り双機銃(ツインマシンガン)なのだろう。

 

「なんにせよ、ワタシは支援イズマイライフな人間ですので、この武器に縁はなさそうですね。……コネクトさんは、ツインマシンガンの経験はありますか?」

「まぁ、一応実戦で運用してた経験はあるな。ただ、こっちでは千年前(むかし)専攻してた兵科(クラス)が無いから、上手く使えるかはなんとも言えないかな」

 

 1000年前のオラクル時代においては、俺も双機銃も使っていた経験がある。だが、当時それを使えていたのは、あるアークスが提唱した特殊なクラスに就いていたからだ。

 色々と勝手の違う今のハルファでは通用しない戦闘スタイルである以上、仮にこの武器を握って、まともに運用できるかどうかは、正直分からなかった。

 

「でしたら、これはコネクトさんに差し上げます。ずぶの素人の手に渡って持ち腐れになるよりは、多少なりとも心得のある人間が使うべき……と、ワタシは判断します」

 

 しかし、メーヴは独自にそう結論づけて、手にしていたもう一丁の黒い拳銃を差し出してくる。

 

「良いのか? メーヴさんからすれば、売って資金にした方がいいんじゃ無いのか?」

「のーぷろぶれむ、です。自慢ではありませんが、これでもお賃金は貰っている方ですので」

 

 キメ顔でお金のハンドサインを見せたメーヴの口ぶりからするに、お金に困るようなそぶりがないのは本当のようだ。

 

「まぁ、メーヴさんが良いなら、断る理由もないしな。ありがたく頂戴するよ」

「どうぞどうぞ。煮るなり焼くなり揚げるなり、好きにしてあげてください」

 

 苦笑まじりに、受け取った黒い二丁拳銃をまじまじと見つめる。

 無骨な外見と、確かな重みが伝わってくるそれは、しかと握ってみれば思ったよりも手に馴染む。そのまま軽く構えてみても、不思議と違和感を覚えることはなく、仮にこのまま戦ったとしても、問題なく使いこなすことができるのではないだろうか……という、確信めいた感覚すら抱くことができた。

 そういえば、教練続きで専攻兵科(メインクラス)もまだ決めていない。手元にはちょうど大剣(コートエッジ)双機銃(黒い二丁拳銃)があることだし、副専攻兵科(サブクラス)として双機銃の扱いにたかるガンナーを充てがって、剣と銃を両立した構成(ハンター/ガンナー)にするのも良さそうだ。

 

 なんにせよ、まずはこの武器がまともに使えるものかどうかを調べてもらうのが先決だろう。

 待ちぼうけを食らわせてしまっている教官への完了報告も兼ねて、俺たちは急ぎ足でセントラルシティへと戻るのだった。

 

 

 

 

 教官への修了報告を終え、晴れていちアークスとしての再始動を果たした俺は、その足でセントラルシティの片隅にある、アークスの整備班が営む鑑定屋にやってきていた。理由は言わずもがな、先ほど手に入れた黒い二丁拳銃を調べてもらうためだ。

 

「コネクトさん。鑑定、終わりましたよ」

 

 かけられた声に振り向けば、鑑定士を務めている、メガネと無造作に括られた黒い長髪の男性が、二丁拳銃を乗せたトレイを持ちながら戻ってきていた。

 

「それで、どうでした?」

 

 鑑定士の男性に尋ねると、男性はメガネを直しつつ口を開く。

 

「結論から言いますと、武器の状態は良好そのもの。メンテナンスも特に必要無いので、使おうと思えばすぐに使えると思いますよ」

 

 なるほど、と頷いて、俺は続きを促す。

 

「それと、鑑定にあたって色々とわかった仕様もあったので、その辺りも説明させていただきますね。――まず、この武器の内部パーツに刻印された文字から、この武器には〈シュリフトビルデン〉という銘が与えられていると推測されます」

「シュリフトビルデン……聞き慣れない名前ですね」

「ええ。それと、この武器には二丁拳銃(ツインマシンガン)としての運用に加えて、一丁のみによる単独運用や、長銃(アサルトライフル)のような連続射撃による運用も行えるようです。変形機構も持たないこの小さな本体に、複数種類の運用方法を想定した内部機構を組み込めるこの設計は、今のアークスには再現不可能といっても過言ではありませんね」

 

 やはりというか、ステラーギフトとしてもたらされただけあって、件の銃――シュリフトビルデンと呼ばれたあの黒い銃は、現アークスの技術体系とは一線を画したものを秘めているらしい。偶然の出会いだったが、どうやら思いがけず良い拾い物をしたようだ。

 

「コネクトさん。折り入って相談したいのですが、貴方さえ良ければこの武器、私たちに譲ってはいただけないでしょうか。解析にあたって詳細なデータは頂いたのですが、現物を手元に解析ができれば、各種武装群のさらなる性能向上に繋げられるのですが……」

「いえ。協力したいのは山々ですけど、今回はお断りさせてもらいます」

 

 鑑定士の提案を、真正面から切って捨てる。

 たしかに、アークス全体の戦力向上になるなら、この武器(シュリフトビルデン)を引き渡すのも悪い選択ではない。それをしなかったのは、この武器に対して、何かしらの「縁」とでもいうべきものを感じたのだ。

 経験柄、直感には少しだけ自信がある。その自分の直感が何かを感じ取ったのなら、俺はそれに従ってみたいのだ。

 

「そうですかぁ。残念ですが、仕方ないですね」

「代わりと言っちゃなんですけど、実戦データくらいなら喜んで提供しますよ。それを、こいつの鑑定代ってことにしてもらえれば」

「それはありがたい! こちらからも、是非お願いします」

 

 なんて契約を交わして、俺は鑑定士の店を後にする。

 

 

「……というわけで、これから宜しくな、シュリフトビルデン」

 

 新たに腰へ下げることになった黒い二丁拳銃を軽く叩きながら、俺は一路、セントラルシティのストリートを歩いて行った。




 本編中で言及された「ルプスの体質と特別な装備」に関する設定は、元キャラクターの所有者である狼@船4様が執筆された外伝小説「蒼閃の狼(https://syosetu.org/novel/258234/)」における劇中設定が基になっております。
 詳細な設定に関しては、狼様の外伝を読んでいただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。