歴史に消えた最強ウマ娘とトウカイテイオー (ライステイオー)
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テイオー 山に迷う。
史上最強のウマ娘ときいて誰を思い浮かぶだろうか。無敗の三冠を制したシンボリルドルフ?最速のサイレンススズカ?日本総大将のスペシャルウィーク?名優メジロマックイーン?一般的に知られているウマ娘たちならそのあたりが多く出てくるだろう。しかし、10年前に突如現れたそのウマ娘は全戦無敗。走れば必ずレコードを更新。距離適性などの概念が存在しないというチートっぷりだった。黒い服装を見にまとい、残り200mを最下位から巻き起こる砂埃を後ろに1位へ追い上げる走りはこう呼ばれた「完成された一撃必殺」と。だが彼女は100戦を前に練習中にケガをし、そのまま引退した。今彼女がどこにいるかは誰も知らない。
秋のファン大感謝祭。あの時ボクは皆の後押しのおかげで頑張れることができた。今は基礎練しかできないけど、きっと元のように走れるようになると信じて。そのためにボクはトレーナーから出されたメニューをこなした後に自主トレを行うようになった。けど...
「ここはどこなのさー!!!!」
自主トレーニングのランニングをしていたら道に迷ってしまった。周りは森林。走ることのみに集中していたからかどこを走ってきたのかわからない。そして夕暮れで景色も暗くなってきた。
「うぅ、暗くて不気味...」
そういいつつとりあえず暗くなる前に出口を探そうと走っていると明かりが見えた。きっと町の明かりだと思ってそっちに向かうと小さな小屋が現れた。作りは古そうな建物だがしっかりしていそうな作りをしている。恐る恐るボクはその小屋の戸をノックした。すると肌着1枚にスリムジーンズの女性が扉を開けて出てきた。
「...誰?」
ボクをみてけだるそうに言う。
「み、道に迷ってしまって...」
そういうと女の人はボクを見まわした後にこういう。
「あんたトレセンの生徒でしょ。見た感じトレーニング中に迷って出られなくなったって感じね。」
「ど、どうしてわかるの?」
確かにトレセン学園のジャージを着ていたけど似たようなデザインのジャージはたくさんある。それも僕たちでもわからないくらいに似たようなものがたくさん。
「あんた、最初見たときには当たっている自信なかったけど、トウカイテイオーでしょ。レース見てるよ。早いね。あんた。」
「ボクのこと知ってるの!?」
「もちろん。それにここにはよく君みたいな迷子が来るの。だから大体トレセンの子だってわかっちゃうんだよね。」
笑みを浮かばせながら女の人はそういう。
「まぁとりあえず入りな。電話して誰か迎えに来てもらいなよ。」
「は、はい。」
小屋にお邪魔して電話を借りる。トレーナーに電話して迎えに来てもらうよう頼む。
「場所は... ねぇおねぇさん。ここなんていうの?」
「んー、国道23号としか... あ、場所であれば一台朽ち果てた車が放置されている場所があるからそこに来てもらうようにしなよ。そこなら車を止めるスペースはあるから。」
「わかった!トレーナー。国道23号の道の途中に朽ち果てた車があるからそこに来てもらっていい?うん!わかった。じゃあ」
そういってボクは電話を切る。受話器を降ろして周りを見渡す。小屋には生活感があり、キッチンにテレビ、テーブルやベッドなどと生活ができる環境だった。電話の反対の壁を見ると黒い勝負服のようなものが見えた。
「おねぇさん。これって。」
そういうと持っていたコップをテーブルに置いてこういった。
「そう。勝負服。」
「へぇ...」
勝負服はロリータのスカートの部分が短くなったようなデザインだ。黒と白の2色で彩られ、白い2本線が胸を軸に何本か白い1本線が横に流れている。
「かっこいい...」
「ありがとう。」
「おねぇさんもトレセンにいたの?」
「うん。10年前にね。G1とかたくさんとったなぁ。」
「三冠も!?」
「うん。三冠はだいぶ後になったけどね。」
10年前のレースは学習のためによく見たりするが、この勝負服を見たのは初めてだった。
ボクは気になっておねぇさんの名前を聞こうとする。
「おねぇさんなんて名前なの?」
聞くとおねぇさんは少ししかめっ面のような顔になって名前を言う。
「...フリードリヒよ。ドリヒでいいわ。」
フリードリヒ。聞いたことがない。
「聞いたことないなぁ。ほんとにG1とってたの?」
そういうとドリヒさんは顔が緩んで笑みを浮かべる。
「えぇ、それより、そろそろ待ち合わせ場所に行かないと間に合わないんじゃないの?途中まで道教えるから早く行こう?」
「うん!」
そうしてボクはおねぇさんに道を教えられながら待ち合わせ場所に向かった。歩いて10分もしないうちにトレーナーとの待ち合わせ場所の近くまでこれた。するとおねぇさんとはここで別れることになってまた来ていいか尋ねると
「来てもいいけど、他の人には内緒ね。」
っていう条件付きで承諾してくれた。トレーナーと合流するとボクはこっぴどく怒られた。まだ無理するなと。そして帰り際にさりげなく僕は聞いてみることにした。
「ねぇトレーナー。」
「なんだ?」
「トレーナーって10年前のレースとか詳しい?」
「まぁ新人時代だからな。今でも覚えているよ。」
「じゃあフリードリヒってウマ娘は?」
「あぁもちろん知ってる。あいつはものすごい速かったぞ。なんせ走ればレコード更新は当たり前、距離適性なんてなんのその。出れば確実に1番人気だったからな。下手したらルドルフよりも速かったぞ。」
「カイチョーよりも!?」
「あぁ。ただ...」
トレーナーの顔が暗くなる。
「ドーピングが疑われてな。何か月か出場停止して検査した。結局ドーピング検査は合格して疑惑が晴れてさぁレースするぞってなったとたんにケガしてそのまま引退しちまった。いなくなるには惜しかったやつだったよ。」
「じゃあなんでレコードにフリードリヒさんの名前が書かれてないの?」
「ドーピング疑惑が出たときに真っ先にレコードを消されてな。それ以来あいつのレコードは書き直されていないんだ。」
「へぇ。あの人そんなすごかったんだ。」
「なんだ。フリードリヒのファンにでもあったのか?」
「いや、フリードリヒさん本人に会ったよ?」
そういうとトレーナーは驚愕の顔をする。そしてなにか焦り始めたかのように質問してくる。
「勝負服は!?」
「黒がベースの少しスカートが短いロリータ。」
「黒がベース...あの白い二本線があるやつか!?」
「う、うん。」
そう答えるとトレーナーは何か慌てたかのような顔でこういった。
「あいつは...俺がトレーナーになって初めて請け負ったウマ娘だ。」
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