走れテイオー (球磨猫)
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走れテイオー

走れメロスのパロディです。
キャラ崩壊注意。

追記:一部の誤字と見られる部分は意図的なものです。



トウカイテイオーは激怒した。必ずかの邪智暴虐の女王を倒さねばならぬと。

テイオーにはバブ味がわからぬ。テイオーはトレーナーの彼女(自称)である。トレーナーとしっとりしながら暮らしていた。けれどもハイエナにだけは敏感であった。

 

きょう未明テイオーは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のトレセンの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。三十六の、だんでぇなトレーナーと二人暮しだ。

このトレーナーは、中央の或るかっこいいな皇帝を、近々、ゲストとして迎える事になっていた。ウィニングライブも間近かなのである。

テイオーは、それゆえ、推しTの予備やらライブのサイリウムやらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

 

先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

テイオーには竹バの友があった。メジロマックイーンである。

今は此のトレセンの市で、メジロ一家を仕切っている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

歩いているうちにテイオーは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。

もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。

 

のんきなテイオーも、だんだん不安になって来た。

路で逢った若いウオッカをつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆がライブを開いて、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若いウオッカは、首を振って答えなかった。

 

しばらく歩いてエアグルーヴに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。エアグルーヴは答えなかった。テイオーは両手でエアグルーヴのからだをゆすぶって質問を重ねた。エアグルーヴは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

 

「女王様は、人をバブらせます。」

「なぜバブらせるの。」

「おぎゃりが足りない、というのですが、誰もそんな、性癖を持っては居りませぬ。」

「たくさんの人をバブらせたのか。」

「はい、はじめはオグリキャップさまを。それから、ご自身のトレーナーさまを。それから、タマモクロスさまを。それから、サイレンススズカさまを。それから、スペシャルウィークさまを。それから、賢臣のアグネスデジタル様を。」

「おどろいたよ。女王は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。欲求を、抑える事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の性癖をも、バブらせになり、少しく大人な振舞いをしている者には、前掛けにおしゃぶりを付けることを命じて居ります。御命令を拒めば膝枕にかけられて、バブられます。きょうは、六人バブられました。」

 聞いて、テイオーは激怒した。

「呆れた女王だよ。生かして置けないね。」

 

 テイオーは、単純な女であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼女は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、テイオーの懐中からはゼクシィが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。

 

テイオーは、王の前に引き出された。

「このゼクシィで何をするつもりであったか。言え!」暴君スーパークリークの代理、ゴールドシップは静かに、けれども威厳を以って問いつめた。その女王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

 

「トレーナーをママ味の手から救うんだ。」とテイオーは悪びれずに答えた。

「おまえがか?」ゴルシは、憫笑した。

「仕方の無いやつだ。おまえには、女王の孤独がわからぬ。」

「言うな!」とテイオーは、いきり立って反駁した。

 

「人の性癖を捻じ曲げるのは、最も恥ずべき悪徳だよ。女王は、トレーナーの心をさえ奪おうとしている(そんな事実はない)。」

「でもこういうのが好きなんでしょう?」女王は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。

「わたしだって、甘やかしたいのだけど。」

「なんの為の幼少期だよ。赤い彗星を増やすつもり。」

こんどはメロスが嘲笑した。「バブ味の好きでない人をバブらせて、何が自由だ。」

「だまって、幼き者。」女王は、さっと顔を挙げて報いた。

 

「私は皆を甘えさせたいの。おしゃぶりをつけて前掛けかけて膝枕に哺乳瓶でママママ言ってればいいんです。私のためにおぎゃってればいいのです私は皆を甘やかせれてハッピーミーク皆は私に甘やかされてハッピーミークでウィンウィンでしょう?ほら私は間違ってないんだから貴女も私に甘やかされなさいほら早く早くハリーハリーハリー!!!」

「ああ、女王は滑稽だね。自惚れているがいいさ。僕は、ちゃんとおぎゃる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、僕に情をかけたいつもりなら、バブらせるまでに三日間の日限を与えてよ。ルドルフ会長のライブに、最後のサイリウムを振りたいんだ。三日のうちに、私は村でライブでオタ芸し、必ず、ここへ帰って来るから。」

 

「ばかな。」と暴君代理ゴルシは、しわがれた声で低く笑った。

「とんでもない嘘を言う。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」

「そうだよ。帰って来る。」テイオーは必死で言い張った。

「僕は約束を守るよ。僕を、三日間だけ許して欲しい。皇帝が、僕のサイリウムを待っているんだ。そんなに僕を信じられないなら、いいよ、この市にメジロマックイーンというウマ娘がいるから。僕の無二の友人だ。彼女を、人質としてここに置いて行く。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を甘え殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

 

それを聞いてゴルシは、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。

生意気なことを言う。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。

そうして身代りのウマ娘を、三日目にもちもちにしてやるのも気味がいい。

人は、これだから信じられぬと、ゴルシ様は悲しい顔して、その身代りのウマ娘を1週間甘やかしの刑に処してやるのだ。世の中の、ロリコンとかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。

 

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっとバブらせるぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」

「なに、何をいうんだ。」

「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

テイオーは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

 

竹バの友、メジロマックイーンは、深夜、王城に召された。暴君スーパークリークの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。

テイオーは、友に一切の事情を語った。メジロマックイーンは無言でアームロックを決め、テイオーにスイパラ奢りを約束させた。

友と友の間は、それでよかった。メジロマックイーンは、豪華な一室に捕らえられた。テイオーは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

 

テイオーはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌くる日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。

テイオーの三十六のトレーナーも、きょうはテイオーの代りに家事をしていた。よろめいて歩いて来るテイオーの、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさくテイオーに質問を浴びせた。

 

「なんでも無いよ。」テイオーは無理に笑おうと努めた。

「市に用事を残して来たんだ。またすぐ市に行かなければいけない。あす、会長のライブを見る。早いほうがいいでしょ?」

 トレーナーは顔を青ざめた。当たり前だ。今から準備してゲストを急いで迎えに行かないといけないのだから。

「えへへ。綺麗な推しTも買って来たんだ。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来てよ。ライブは、あすだと。」

 

テイオーは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、ライブの席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

 

 眼が覚めたのは夜だった。テイオーは起きてすぐ、ライブ主催者の家を訪れた。

そうして、少し事情があるから、ライブを明日にしてくれ、と頼んだ。

主催者は驚き、

「不可! まだゲストも来ていない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ」と答えた。

テイオーは、待つことは出来ない、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。主催者も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか主催者をなだめ、すかして、説き伏せた。

 

ライブは、真昼に行われた。

シンボリルドルフの、神々への祈祷(うまぴょい)が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。

祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い会場の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気にサイリウムを振るい、コールを行った。テイオーも、満面に喜色を湛え、しばらくは、女王とのあの約束をさえ忘れていた。

 

ライブは、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。テイオーは、一生このままここにいたい、と思った。

この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。

 

テイオーは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。

あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。

その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に留まっていたかった。

 

テイオーほどのウマ娘にも、やはり未練の情というものは在る。というか未練たらたらであった。今宵呆然、歓喜に酔っているらしいトレーナーに近寄り、

「ねぇトレーナー。僕以外の子を見ちゃだめだよ?僕以外の子とうまぴょいしちゃダメだよ?わかってるよね?僕は約束を破る人とうそをつく人は嫌いなんだ。トレーナー、君はそうじゃないよね?僕は信じてるから。トレーナーは僕のこと裏切らないって。だから約束して?トレーナーがかいちょーよんでくれたのは嬉しいけどだからってかいちょーばっかり見てちゃダメだよ?」

 

トレーナーは、夢見心地で(悪夢かもしれないが)うなずいた。テイオーは、それからライブに偶々来ていたカレンチャンの肩をたたいて、

「僕のトレーナーとっちゃダメだからね?」 カレンチャンは揉み手して、必死に頷いていた。

 

テイオーはにっこり笑って(きっと黒い笑み)村人たちにも会釈して、ライブから立ち去り、トレーナーのベッドにもぐり込んで、死んだように深く眠った。

眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。テイオーは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。

きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。

メロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。

さて、テイオーは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

 

僕は、今宵、バブらされる。

バブらされる為に走るのだ。

身代りの友を救う為に走るのだ。

女王と側近の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。

走らなければならぬ。

そうして、私はバブらされる。

若い時から性癖を守れ。

さらば、ふるさと。

 

若いテイオーは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。

えい、えい、むんと大声挙げて自身を叱りながら走った。

村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

 

テイオーは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。

トレーナーたちは、きっと佳いファンになるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。

まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。

そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、恋のダービーをいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、テイオーの足は、はたと、とまった。

 

見よ、前方のダートを。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に芝を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、無慈悲にもダートを不良バ場にしていた。

 

彼女は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、芝は残らず浪に浚さらわれて影なく、ダート因子持ちの姿も見えない。

ダートはいよいよ、ふくれ上り、山のようになっている。

テイオーはゲート脇にうずくまり、男泣きに泣きながら3女神に手を挙げて哀願した。「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂うダートを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、僕のためにおぎゃられるのです。」

 

ダート場は、テイオーの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。

ダートは芝を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。

今はテイオーも覚悟した。走り切るより他に無い。ああ、3女神も照覧あれ! 適正Gにも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。

 

テイオーは、コンセントレイトとダートに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う砂を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を足にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅のウマ娘の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。

押し流されつつも、見事、対岸の芝の上に、すがりつく事が出来たのである。

 

ありがたい。テイオーは大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊のスピカが躍り出た。

 

「待ちなさい。」

「何をするんだよ。僕は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならないんだよ。放して!」

「どっこい放さないわ。一番を全部を置いて行きなさい。」

「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命(社会的命)も、これから女王にくれてやるのだ。」

「その、いのちが欲しいのよ。」

「さては、ゴールドシップの命令で、ここで僕を待ち伏せしていたんだな。」

 

スピカたちは、ものも言わず一斉にダンスダ〇スレボリューションにコインを入れた。

メロスはひょいと、テイオーステップを駆使し、飛ぶ鳥の如くハイスコアを更新し、そのランキングを塗り潰して

「気の毒だけどトレーナーのためだ!」

と猛然一撃、たちまち、三人を踊り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って坂を下った。

 

一気に坂を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、テイオーは幾度となく眩暈を感じ、これではだめだ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩いて、ついに、がくりと膝を折った。スタミナが足りないようですね。

立ち上る事が出来ないのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。

 

ああ、ああ、ダートを渡り切り、スピカを三人も踊り倒し、ここまで突破して来たテイオーよ。

真の帝王、トウカイテイオーよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情け無い。

愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて性癖を歪められなければならぬ。

おまえは、稀代の不信のウマ娘、まさしくゴルシの思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはやナメクジほどにも前進かなわぬ。

 

路傍のターフにごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。

もう、どうでもいいという、帝王に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。

 

僕は、これほど努力したんだ。約束を破る心は、みじんも無かった。シラオキ様も照覧、僕は精一ぱいに努めて来たんだ。動けなくなるまで走って来たのだ。僕は不信の徒では無い。信じてないけど。

ああ、できる事なら僕の胸を截ち割って、真紅の心臓を……そこまでしたくないなぁ。愛と信実の悪を貫くラブリープリチーなテイオーだぞぉ。

けれども僕は、この大事な時に、精も根も尽きたんだ。

僕は、よくよく不幸な女だ。僕は、きっと笑われる。僕のトレーナーも……いやそれだけは許さないけども。僕は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。

ああ、もう、どうでもいい。

これが、僕の定ったですてにーなのかも知れない。(ウオッカの持ってた本にそう書いてあった気がする)

 

メジロマックイーンよ、ゆるしてくれ。

君は、いつでも僕を信じた。僕も君を、欺かなかった。

僕たちは、本当に佳い友と友であったんだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。

いまだって、君は僕を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。

ありがとう、メジロマックイーン。よくも僕を信じてくれた。それを思えば、たまらない。

友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだから。あでもやっぱり一番はトレーナーかな。

 

メジロマックイーン、僕は走ったんだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じて! 僕は急ぎに急いでここまで来たんだ。

ダートを突破した。スピカの勧誘(誘拐)からも、するりと抜けて一気に坂を駈け降りて来たんだ。

僕だから、出来たんだよ。ああ、この上、僕に望み給わないでくれ。放って置いてくれ。どうでも、いいんだ。そもそもマックイーンなら喜ぶんじゃないかな。クリークのご飯美味しいし。

 

ゴルシは私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを甘やかして、僕を助けてくれると約束した。僕はゴルシの卑劣を憎んだ。根はいい奴だけど。

けれども、今になってみると、僕はゴルシの言うままになっている。僕は、おくれて行くだろう。女王は、ひとり合点して私を甘やかし、そうして事も無く私を放免する…する…のかな…?

 

そうなったら、僕は、ちょっぴりつらい。僕は、永遠に裏切者だ。メジロマックイーンよ、僕も死ぬぞ。君と一緒に……眠らせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。

 

いや、それも僕の、ひとりよがりかな? ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には僕たちの家が在る。かいちょーもいる。トレーナーは、まさか僕のいない間に浮気とかしてないよね? 性癖だの、バブ味だの、おぎゃるだの、考えてみれば、くだらない。いやだって別にトレーナーを都に向かわせなければいいんだし。ああ、何もかも、ばかばかしい。

僕は、裏切り者だ。どうとも、勝手にすればいいよ。

やんぬる哉。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

 

 ふと耳に、潺々、はちみーの流れる音が聞えた。

 

そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、はちみーが売っているらしい。

よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながらはちみーが売っているのである。

そのはちみーに吸い込まれるようにテイオーは身をかがめた。硬め濃いめ多めはちみーを両手で持って、一くちで飲んだ。

 

ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。

義務遂行の希望である。自分の社外的地位を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。

 

日没までには、まだ間がある。僕を、待っている人があるのだ。

 

少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。僕は、信じられている。僕の性癖なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られない。僕は、信頼に報いなければならない。いまはただその一事だ。走れ! テイオー。

 

僕は信頼されている。僕は信頼されている。

先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るもんだ。

テイオー、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の帝王だ。再び立って走れるようになったじゃないか。ありがたい!

僕は、正義の士として生きる事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。

待ってくれ、3女神よ。僕は生れた時からさいきょーなウマ娘であった。さいきょーなウマ娘のままにして下さい。

 

路行く人を押しのけ、トーセンジョーダンを跳ねとばし、テイオーは異次元の逃亡者のように走った。

ターフでタイキシャトルの、そのバーベキューのまっただ中を駈け抜け、キングヘイローの取り巻きたちを仰天させ、サクラバクシンオーとバクシンし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

 

一団のヒシアマゾン(筋肉A)メジロライアン(筋肉B)ウイニングチケット(筋肉C)とすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

「いまごろは、あのウマ娘も、赤ちゃんになっているよ。」

ああ、そのウマ娘、そのウマ娘のために僕は、いまこんなに走っているのだ。そのウマ娘をもっちりさせてならない。

急げ、テイオー。おくれてはならぬ。

愛と勇気と情熱と努力の力を、いまこそ知らせてやるがよい。

風態なんかは、どうでもいい。

メロスは、いまは、推しT推しジャージであった。

呼吸も出来ず、二度、三度、アグネスデジタルから鼻血が噴き出た。

見える。

はるか向うに小さく、トレセンの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

 

「ハァイ、トウカイテイオー。」うめくような声が、風と共に聞えた。

「誰。」テイオーは走りながら尋ねた。

「私はアグネスタキオンさ。君のお友達メジロマックイーンの知り合いの知り合いだよ。」

そのピエロじみた喋り方をするウマ娘も、テイオーの後について走りながら叫んだ。

「私と契約してモルモットになってよ!」

「いやだ!注射痛いからいやだ!」

「別に注射はしないさ。ただちょっと私が作った薬を飲むだけさテイオォー。」

「いやだ。どうせ苦いんだろう?」テイオーは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。

「大丈夫だよ。ちゃぁんと甘くしてある。そら、たった一口でいいんだ。飲んでくれないかい?」

「本当に苦くない?」

「え、あぁ、うん。」

「じゃぁはちみー呑むからいいや!」

「ちょっ」

 

 言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、テイオーは走った。

メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。

ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。

陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、テイオーは疾風の如く王城に突入した。間に合った。

 

「待って! その人をおぎゃらせてはダメだ! テイオーが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」

と大声で王城の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれてしわがれた声がかすかに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼女の到着に気がつかない。

すでにスーパークリークのスプーンに高級プリンがきらきらと乗っており、囚われたメジロマックイーンは、徐々に口を開けてゆく。

 

テイオーはそれを目撃し、最後の勇、先刻、ターフを走ったようにテイオーステップを踏み群衆を掻きわけ、掻きわけ、

「私だ、スーパークリーク! 甘やかされるのは、僕だ。テイオーだ。彼女を人質にした僕は、ここにいる!」

と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに舞台に昇り、釣り上げられてゆくクリークのスプーンに、齧りついた。

群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。

メジロマックイーンの縄は、ほどかれたのである。

 

「マックイーン。」テイオーは眼に涙を浮べて言った。

 

「僕を打ってくれ。ちから一ぱいに頬を打って。僕は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し僕を打ってくれなかったら、僕は君と抱擁する資格さえ無いんだ。打て。」

 

メジロマックイーンは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を打った。殴ってから優しく微笑み、

 

 

 

 

 

 

「よくも私のスペシャルプリンパフェを食べましたわね!!!」

 

力いっぱいアームロックをかけた。

 

 

 

 



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走れマックイーン

な ぜ 続 い た()

なぜか出来てしまったマックイーン怪文書?です。お納めください。





メジロマックイーンは激怒した。必ずかの邪智暴食の帝王をメジロせねばならぬと。

帝王には太る者の気持ちがわからぬ。マックイーンは食べると太る体質である。主治医の「スイーツは1日3個まで」との言いつけを懸命に守って暮らしてきた。けれども沢山食べたい年ごろであった。

 

きょう未明マックイーンは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のトレセンの市にやって来た。マックイーンには父と、母がいる。主治医もいる。しかし今は小さな家でイクノディクタスと一緒に暮らしていた。

 

このマックイーンは、中央の或る有名なレースを、近々、1番人気として走る事になっていた。本番も間近かなのでスイーツは2個である。

 

マックイーンは、それゆえ、今日食べるスイーツを厳選するためにはるばる市にやってきたのだった。

 

 

先ず、その大きなシュークリームとブルーベリーチーズケーキを食べ、それから都のスイーツ通りをぶらぶら歩いた。

 

マックイーンには竹バの友があった。トウカイテイオーである。

 

今は此のトレセンの市で、同じレースに向けて調整をしていた。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

 

 

歩いているうちにマックイーンは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。

 

もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。

 

 

 

もっちりなマックイーンも、だんだん不安になって来た。

 

路で逢った若いウオッカをつかまえて、何かあったのか、二日まえに此の市に来たときは、夜でも皆が団欒を開いて、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若いウオッカは、首を振って答えなかった。

 

 

 

しばらく歩いてエアグルーヴに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。エアグルーヴは答えなかった。マックイーンは両手でエアグルーヴのからだをゆすぶって質問を重ねた。エアグルーヴは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

 

 

「生徒会長のギャグに気づいて差し上げることができなかったのだ。」

 

「そんなことでやる気下げないでもらえるかしら?」

 

マックイーンはエアグルーヴをカラオケに放り込んだ。

 

またしばらく歩いてダイワスカーレットに逢い、こんどはもっと、メジロを強くして質問した。ダイワスカーレットは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

 

「テイオーさんは、スイーツを食べても太らないのです。」

 

「なぜ太らないの。」

 

「自分の体質だ、というのです。誰もがそんな、目の前で美味しそうにスイーツを食べるテイオーさんに我慢なりませんでした。」

 

そう答えるダイワスカーレットのお腹は、ぷっくりと出ている。太り気味であった。

 

 

 

 聞いて、マックイーンは激怒した。

 

「呆れた帝王ですわ。必ずメジロさせなくては。」

 

マックイーンは、体重に敏感な女であった。買い物を、背負ったままで、どかどかテイオーの家にはいって行った。 

 

テイオーは、いきなり現れたマックイーンの前に引き出された。

 

「貴女が今日食べてきたスイーツの数を数えなさい!!」

 

マックイーンは静かに、けれども威厳を以って問いつめた。そのマックイーンの顔はもっちりで、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

 

 

「えーと、はちみーが3杯で、シュークリームに雪見大福でしょ?あとはパンケーキに…あ、あとスぺちゃんがバターケーキ焼いてくれるんだった! でも急にどうしたのさマックイーン。」とテイオーは悪びれずに答えた。

 

「スぺさんのバターケーキ!? なんで私に黙っていらしたの!?」マックイーンは、さらに憤慨した。

 

「えーだってマックイーンいなかったし、前にいらないって断ってたじゃん。」

 

「言わないでください!」とマックイーンは、いきり立って反駁した。

 

 

「ともかく!! いくら食べても太らないなどという嘘は、最も恥ずべき悪徳ですわ。貴女は、世界中の女性を敵に回したのですわ!!」

 

「でもこういうのが大好きなんでしょう?」テイオーは落着いて呟き、そっとショートケーキをだした。

 

「ほらほら、マックイーンだって甘いの食べたいでしょ?」

 

「やめてくださいまし!? 私のお腹を出すつもりですか!?」

 

こんどはテイオーが嘲笑した。「ほらほら~、美味しいのに食べないの~~??」

 

「黙りなさい、テイオー。」 女王は、さっと顔を挙げて報いた。

 

「ああ、貴女は滑稽ですわ。自惚れていなさいな。私は、貴女を太らせる覚悟で居るというのに。命乞いなど許しませんわ。だから、――」

 

 

スイーツ三銃士を連れて来たよ

 

スイーツ三銃士?

 

 

ほろ苦い甘さを貴方に(タキカフェてぇてぇ)、マンハッタンカフェ。

 

「帰りたいんですが…」

 

 

母性溢れるとろふわの幸せ(ママを通り越したヤベー奴)、スーパークリーク。

 

「たくさん作っちゃいますね~」

 

 

ハッピーメイク、スイーツメイカー(かーっ!卑しか女ばい)。桐生院葵。

 

「ミークの為に、頑張りますね。」

 

 

 

「さぁ!やっておしまいなさい!!」

 

「「あらほらさっさー!!」」(「なにか巻き込まれました…」)

 

 

 

「では一番手は私が・・・。どうぞ、ココアとチョコチップクッキーです…」

「いいの―!?わーい美味しそー!!」

「先ずは小手調べ、というやつですわね」

 

「はーいテイオーちゃん、私はホットケーキを作りましたよ~♪。甘ーいはちみーと、生クリームいっぱいのホットケーキで~す♪」

「うわーいはちみーだー!!」

「……ふふふ、体重計に恐れおののくがいいですわ」

 

「では私は山盛りドーナツです!ミークの為に練習したので自信はありますよ!!」

「はふっはふほふ、出来立てでとってもおいしー!!」

「………(๑・﹃ ・`๑) はっ!んんっ、う、羨ましくなんてないですわ。ええ、もちろんですとも」

 

「おかわりのスコーンです…」

「ロールケーキに~、シュークリーム~。あとショートケーキもありますよ~♪」

「ポンデリングにオールドファッション、フレンチクルーラーシリーズにゴールデンチョコレートもあります!」

「ティラミスできました…」

「いちごパスタと抹茶パスタで~す♪」

「チュロスとアップルパイ、焼きあがりました!」

「うわーいスイーツパラダイスだー!!ねぇねぇ、マックイーンも一緒に食べないの~?」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ…」

 

意気揚々と食べ続けるテイオーを前に、マックイーンは心の底から呻いた。

 

私は試されている。私は今試練を受けている。

 

先刻の、あの魅惑の囁きは、これは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。お腹がすいているときは、ふいとこんな悪い夢を見るもんだ。

 

マックイーン、おまえはメジロの名を継ぐものだ。やはり、私は真の女優だ。ここで優雅に興味なさげに振舞うのだ!

 

私は、正義の士として生きる事が出来るぞ。ああ、スイーツが消える。ずんずん消える。

 

保ってくれ、私の心よ。私は生れた時からメジロのウマ娘であった。メジロの誇りのままにして下さい。

 

 

「テイオーさん、おかあちゃんが送ってくれたバターで作ったバターケーキ、焼き立てを持ってきました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなのたえれるわけありませんわぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

メジロの誇りは秒で落ちた。

スペシャルウィークの持ってきた北海道産牛乳とバターのケーキの誘惑には耐えれなかったのだ。

そのままスイーツパラダイスに埋もれたマックイーンは、帰るころにはぽっこりとお腹を膨らませていた。一方でテイオーは特に変わらなかった。

 

帰ってきたマックイーンに、トレーナーからスイーツ禁止令とダイエット命令が出たのは言うまでもない。

 

 

「絶対絶対ぜぇ~~~ったい許しませんわ~~~!!!」

 

マックイーンは3日後までに痩せなければいけない。いまはただその一事だ。

 

 

 

 

走れ! メジロマックイーン。

 

 

 

 

 




前話、走れテイオーへの多くの感想ありがとうございます。
途中でメロスが出てきてたのは、最初はこちらのガバなのですが受けていたようで…。感想来るたびに顔から火を噴いておりました(笑)

感想は全て読ませていただいております。本当にありがとうございます。<(_ _)>
(正直アレは恥ずかしくて感想返せない…)


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走れゴルシ

だ か ら な ぜ 続 く

今回はネタ少な目で短いです。





ゴールドシップのトレーナーは激怒した。必ずかの奇想天外の浮沈艦を倒さねばならぬと。

 

トレーナーにはゲートの感覚がわからぬ。トレーナーはただのゴルシキックに耐えれるだけの人間である。ゴルシにある時は北海道に蟹工船だと連れ出され、ある時はバレンタインのマグロの為に黒潮海流に乗り、ある時はどこかの山でサバイバルをするなどと、振り回されながら暮らしていた。けれどもレースにだけは人一倍情熱をかけていた。

 

 

きょう未明トレーナーは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此の阪神の競バ場にやって来た。トレーナーには彼女も、女房も無い。三十六の、独身な寂しいトレーナーだ。

 

このトレーナーの担当であるゴルシは、近々、宝塚記念の2連覇を狙う事になっていた。レース開催も今日なのである。

 

トレーナーは、それゆえ、推しTの予備やらライブのサイリウムやらをバッグ入れ、はるばる兵庫にやって来たのだ。

 

トレーナーとゴルシは若いウオッカに連れられて阪神競バ場に入った。

 

先ずゴルシに、そのレース場を慣らせ、それから都の大路をぶらぶら一緒に観光した。

 

 

レースは、曇りの良バ場となった。

 

いつもの実況者と解説者の、人気順位発表とパドックを終えたころ、レース場を黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。

 

祝宴に列席していた観客たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い会場の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気にサイリウムを準備し、出走を待った。ゴールドシップも、満面に喜色を湛え、しばらくは、あの謎の声をさえ忘れていた。

 

 

 

レース場は、ゲートインに入っていよいよ緊張感が高まり、ゴルシファンは、この豪雨を全く気にしなくなった。トレーナーは、このまま雨が続けばさらに有利だ、と思った。ゴールドシップは「雨の日◎」を持っていたのである。

 

しかし彼らは忘れていた。競バとは、ゴルシとは、ままならぬ物である。

 

 

 

控室でゴルシは、ついに出発を決意した。

 

 

きょうは是非とも、アタシのファンに、ゴルシ様の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑ってウイナーズサークルの上に上ってやる。

 

ゴルシは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。

 

さて、ゴルシは、ぶるんと両腕を大きく振って、地下バ道を悠々と歩いて行った

 

 

 

 

『おおっと!ゴールドシップとエアシャカールが出ない! 出ない!』

 

 

 

 

「「「「走れゴルシィィィィィィ!!!!!!!!」」」」

 

 

 

 

ゴールドシップのトレーナーは激怒した。必ずかの奇想天外の浮沈艦をどうにかせねばならぬと。

 

 

 

 

 

 



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走れミーク

もうこれ何番煎じよ()

今回も中山の直線並みに短いでする。





ミークは激怒した

 

必ずやかの卑しい女を成敗せねばと決意した

 

ミークには天才の気持ちはわからぬ、しかしレースにはウマ一倍真摯であった。

 

きょう未明ミークは村を出発し、野を超え山超え、十里離れた此のトレセンのグラウンドにやって来た。ミークには父も、母も無い。彼氏彼女もない。二十幾つの、桐生院家のトレーナーと二人三脚だ。

このハッピーミークは、中央の或るG1レースを、近々、3番人気として控える事になっていた。URAファイナルも間近かなのである。

 

ミークは、それゆえ、蹄鉄Tの予備やら勝負服の調整やらをしに、はるばる市にやって来たのだ。

 

 

先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

 

ミークのトレーナー、桐生院葵には同期がいた。ライスシャワーのトレーナーである。

 

今は此のトレセンの市で、誰かと待ち合わせているらしい。ショッピングモールの前のベンチで、のんびりと座っている。

 

歩いているうちにミークは、ライスのトレーナーの様子を怪しく思った。ライスシャワーは今ミホノブルボンと猫カフェに行っているはずである

 

 

のんきなミークも、だんだん不安になって来た。

 

路で逢った若いウオッカをつかまえて、彼は誰と待ち合わせしているのか、と質問した。若いウオッカは、首を振って答えなかった。

 

 

しばらく経ってシンボリルドルフに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。シンボリルドルフは答えなかった。ミークは両手でシンボリルドルフのからだをゆすぶって質問を重ねた。シンボリルドルフは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

 

「ライスのトレーナー君が誰と待ち合わせしているか、相手が来るまでまっとれないという訳かな?フフッ」

 

エアグルーブの やる気が さがった!!

 

「ダメだこいつ。」

ミークはすぐに悟った。ミークはかしこいのである。

 

暫くして待ち合わせの相手が来た。その相手とは果たして___

 

 

 

桐 生 院 葵 で あ る

 

 

今日は大切な用事があるのではなかったのか。なぜ自分も誘ってくれなかったのか。

その花が咲いたかのような笑顔に、自分には見せない女の顔に、ミークは愕然としながらも彼らの後を追った。なぜかライスシャワーも付いてきた。

 

彼らはまず喫茶店でスイーツを食べ、アクセサリー屋を見て、水族館に行き、併設されている遊園地で遊んでいた。ミークは事あるごとに「これもミークの為なんです」と言っている彼女を見た。

 

 

 

ドス黒い感情がハッピーミークとライスシャワーの心を包んだ。

 

 

ミークは激怒した

 

必ずやかの卑しい女を成敗せねばと決意した

 

 

 

その日の深夜、ミークは寮を抜け出し葵の家を訪れた。

以前貰っていた合鍵を使って家に入ると、疲れからかぐっすりと寝ている葵に覆いかぶさった。

 

 

 

「……渡さない(『独占力』)渡さないから(『八方にらみ』)私の(『まなざし』)私だけのもの。(『布石』)

 

そのままミークは葵の唇を奪った。一方そんなことをされた葵は目を覚ますが、ウマ娘の力に敵う訳もなく押し倒されていた。

 

唇を奪い、首元に自らのものである証を刻み込むとそのまま夜を過ごした。

 

 

 

次の日、どこか満足そうに自分たちのトレーナーと歩く二人のウマ娘が目撃されたことは言うまでもない。

 

 

 

時は流れ、URA決勝の日。

予選、準決勝とミークは勝ち進んだ。

 

「葵、行って来る。だから…」

「えぇ、ミーク。行ってらっしゃい」

交わされる軽い口付け。それはあの日から続く二人の仲を表していた。

 

 

 

 

 

『さぁ最終直線、戦闘はハッピーミークだ!しかしその後ろをぐんぐんとライスシャワーが迫っていく!!』

『ライスシャワー速い!!ライスシャワーがここで差すか!ハッピーミークが逃げ切るか!』

 

 

ゴールまでには、まだ気力がある。私を、待っている人があるのだ。

 

少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。私のスタミナなぞは、問題ではない。2着でもいい、などと気のいい事は言って居られない。私は、信頼に報いなければならない。いまはただその一事だ。走れ! ミーク。

 

 

 

 

 

 

『優勝はハナ差で、ライスシャワー!! 見事な脚でURA決勝を制しました!!』

 

 

「「温泉旅行がぁぁぁぁ!?!?!?」」orz

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はぁ~ガチャ石ねぇ!
マニーもねぇ!
ジュピター毎日ぐ~るぐる!
朝起きて、サポ選び、Aラン目指して育成道。
はぁ~サポカもねぇ、ピースもねぇ、おらのトレセンスズカがねぇ!!(血涙)



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スペシャルワイズ

走らないので初投稿です。
キャラ崩壊注意。


それは、外に出るのが億劫になるほどの大雨の日だった。

 

雨の中、黄色雨合羽を着て大通りを歩く一人のウマ娘がいた。

大和撫子(鎌倉武士)』グラスワンダーである。

 

彼女は今日、寮を出て駅前のケーキ屋に好物のたんぽぽクッキーを買いに出ていたのだった。

両手でしっかりと持っている紙袋には溢れんばかりのクッキーの小袋が見えていた。

 

(お茶も良いですが偶にはコーヒーも飲みたいですね。タイキを誘ってお茶会でもしましょうか)

 

そんなことを考えていたからだろうか。雨のぬかるみに足を取られバランスを崩してしまう。

 

「あっ…とと。あら、クッキーが!」

 

転倒は免れたものの、紙袋からクッキーの小袋が1つ溢れ落ち、水に流されてしまう。

大雨によって勢いよく流れていく小袋。

追いかけるも何故か追い付けず、やがて排水溝に落ちてしまう。

 

「私のクッキーがドブに‼︎」

 

屈んで覗いてみるも中は暗く深く、クッキーの袋は影も形も見あたらない。

失意の中のグラスワンダー。

とはいえ落ちてしまったものは仕方ない。落ちたのが1つだけだったのが幸いだ。と諦めてトレセン学園に戻ろうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

「ハァイグラスゥ。」

 

 

 

 

 

 

排水溝の中から聞こえた、しわがれたような___それでいて何処かで聞いた声が、彼女を呼び止める。

 

 

グラスは驚き、思わず排水溝を覗き込んだ。そこには____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペシャルパフェ、食べる?」

 

 

ス ペ シ ャ ル ウ ィ ー ク が い た

 

 

 

白い顔に赤い鼻、まるでピエロのような化粧をしたスペシャルウィークが、排水溝の中からこちらを見つめていた。

 

グラスワンダーは恐怖し、思わず首を横に振った。

今すぐ目の前の光景に目を背けて学園に帰りたかったのだ。

 

「えーっ 美味しいのに」(´・ω・`)

 

がさごそと手を動かし、どこからか取り出したシュークリームの箱をこれ見よがしに掲げるスぺ。

「これもあるよ?」

 

思わず箱に手が伸びるが、すんでのところで引っ込める。

 

「そう言って太らせる気なんでしょ。騙されんぞ。」

 

「いやそんなことはないですよ。皆でお菓子を食べれば太らないんですよ?」

「それに最近のグラスちゃん頑張ってるからご褒美ってことで…どうかな?」

 

いやそうはならないだろう。そんな『赤信号みんなで渡れば怖くない』理論なんて…。

やはりこのスぺちゃんはおかしい(お菓子だけに)。何か得体のしれない不気味さ(大雨なのに日が差す背景)も相まってグラスは早く帰りたかった。

 

 

 

 

「あら嬉しい。 帰ってたんぽぽクッキー食べるわ」

 

「待てや!」

 

 

「いいから……  これを…」

 

 

 

そういってスぺが懐から出したのは、先ほど落としたたんぽぽクッキーの小袋と……

それを見てしまった、その文字が目に入ってしまったグラスは思わず叫ぶ。

 

「駅前のケーキ屋の、1日10名様限定たんぽぽコーヒーケーキ!!」

 

「今ならこれも付けるよグラスちゃん。」

 

トレセン学園という場所に住む以上、〇名様限定商品は手に入れにくい。

今、グラスワンダーの目の前には桃源郷が…亜米利加風に言うなれば黄金の山(ゴールドラッシュ)が見えていた。

 

「食べよう?」

 

だがここで誘惑に負けてしまえば、己のプライドが、乙女の意地(体重計の数字)が負けることになる。

ぐっと堪え眉間にしわを寄せながらも引き下がるグラス。

 

 

しかし悪魔はそこで手を緩めない。

スペシャルウィーク(腹ペコの悪魔)にも意地と誇り(推定2週間分の)があるのだ。

 

 

「そんなに嫌な顔しないでも…」(´・ω・`)

「………」

「うわっ、凄い顔してる。」

 

 

「せっかくグラスちゃんの為に買ったのになぁ」

 

グラスワンダーの耳が、ピクリと動く。

 

「少し薄味だけどカロリー低いのに…」

 

心が揺れ動く。

『カロリーが低いなら、少し食べても問題ないかもしれない。』その心は口を突いて出てしまい

 

「本当にカロリー低い?」

「えっ うん」

 

 

 

 

  「食べても良いんだよ。グラスちゃん。」

 

 

 

「一緒に食べようよ」   

 

 

 

  「エルちゃんも一緒にトレーニングするから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちと同じ大食いキャラになろうよぉぉぉ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラスワンダーは(大和撫子が)死んだ。

 

スペシャルウィークに腕をつかまれ排水溝の中に引きづりこまれたあと、お腹いっぱいまでお菓子を楽しんだのだ。

当然お腹はぽっこりと出たし体重計は乗ると壊れた。

トレーナーからは叱られ減量と食事制限が言い渡された。

スぺは〆られた。

 

 

 

 

 

 

 




排水溝のピエロ…いったい何ーワイズなんだ…
















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走れスペシャルウィーク



公式の配布10連でウンス外したので。

いいもんデジたんカフェシャカールに賭けるもん。





「オグリキャップさぁぁん!!!!」

 

悲痛な叫びが静寂を裂いた。雪の上で動かなくなったウマ娘の身体に縋りつく一人のウマ娘。

その叫び声はやがて嗚咽へと変わっていき、ついにその声が枯れ果てた時には、少女の目は暗く濁っていた。

 

今ここに一人の鬼が生まれたのである

 

 

 

スペシャルウィークは激怒した。

 

 

 

必ずやかの邪知暴虐、悪鬼羅刹の生徒会長を打ち倒さねばならぬと。

我より先に散っていた同輩、オグリキャップ師匠の仇を討たねばならぬと。

スペシャルウィークには経営がわからぬ。スペシャルウィークはトレセンで2番のウマ娘である。トレセンで1番のオグリキャップ師匠と共に激しい闘いの日々を暮らしていた。けれども今回のことにだけは敏感であった。

 

 

きょう未明スペシャルウィークは寮を出発し、正門を越え横断歩道を越え、十里はなれた此のトレセンの市にやって来た。スペシャルウィークには父も、母も無い。女房も無い。優しくて大好きな、もう一人のお母ちゃんと二人暮しだ。

このお母ちゃんは、我が子同然のスペシャルウィークにたくさんの人参を、近々、トレセン学園に送る事になっていた。スペちゃんのレースも間近かなのである。

スペシャルウィークは、それゆえ、トレセン学園の寮を出てトレーニングの為に、はるばる市にやって来たのだ。

 

 

先ず、そのトレーニングを済ませ、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

スペちゃんには心の師匠があった。葦毛の怪物、オグリキャップ師匠である。

 

今は此のトレセンの市で、尾具理一門を仕切っている。その師匠を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

 

歩いているうちにスペシャルウィークは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。

もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。

 

のんきなスペちゃんも、だんだん不安になって来た。

路で逢った若いウオッカをつかまえて、何かあったのか、二日まえに此の市に来たときは、夜でも皆がライブを開いて、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若いウオッカは、首を振って答えなかった。

 

 

しばらく歩いてオグリキャップ師匠に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。オグリキャップ師匠は答えなかった。オグリキャップ師匠は両手でスペシャルウィークの肩を掴むと、「今、この街で頼れるのは……お前…だけだ…。後は……頼ん…だ・・・ぞ」

 

 

「オグリキャップさぁぁん!!!!」

 

 

 

悲痛な叫びが静寂を裂いた。雪の上で動かなくなったウマ娘の身体に縋りつく一人のウマ娘。

その叫び声はやがて嗚咽へと変わっていき、ついにその声が枯れ果てた時には、少女の目は暗く濁っていた。

 

今ここに一人の復讐鬼が生まれたのである

 

倒れ伏した彼女にスペシャルウィークはお母ちゃんお手製の人参ハンバーグを供え、先を進む。

後ろからは何かにがっつく音と、獣の唸り声の様な、腹から響く音が聞こえていた。

 

 

さらにしばらく歩いて今度は若いマルゼンスキーに出会い、こんどはもっと、勢いを強くして質問した。

「知りません!!」

「何が!?」

「わかりません!!」

「だから何がよ!?」

 

幾許かの門答の末、若いマルゼンスキーは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

 

 

「皇帝様は、学園の食堂食べ放題を中止しました」

 

許せません!!

「ちょっと落ち着いて!?」

 

 

「フー…フー…なぜ中止させたんですか。」

「・・・食材が足りない、というのです。誰もそんな、食材を蓄えては居りませぬ。」

「そんな……誰か陳情しなかったのですか」

「はい、はじめはオグリキャップさまが。それから、彼女のトレーナーさまが。それから、タイキシャトルさまが。それから、グラスワンダーさまが。それから、巻き込まれたタマモクロスさまが。それから、賢さSSのゴールドシップ様がノリで。」

「驚きました。それでも変えないなどと。皇帝は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。出費を、抑える事が出来ぬ、というのです。このごろは、トレセン学園はブラックではないか?という噂が出回ることもあり、一部の者が余計に過敏になり、虚しく多めに残業をしている料理スタッフたちには、早急に有給を付けることを命じて居ります。御命令を拒めばスーパークリーク様にかけられて、バブらされます。きょうは、トレーナーウマ娘協力して、各自が用意するように。と。」

 

 聞いて、スペシャルウィークは激怒した。

「呆れた皇帝です。生かして置けません!!」

 

 

スペシャルウィークは、単純なウマ娘であった。お腹を、出したままで、のそのそ生徒会室にはいって行った。たちまち彼女は、副会長のエアグルーヴに捕縛された。調べられて、スペシャルウィークのお腹からは大きな音が鳴ったので、騒ぎが大きくなってしまった。

 

 

スペシャルウィークは、皇帝の前に引き出された。

「そのお腹で何をするつもりであったか。言え!」皇帝シンボリルドルフの代理、エアグルーヴは静かに、けれども恐れを以って問いつめた。その女帝の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

 

「私たちはお腹いっぱい食べたいだけです。」とスペシャルウィークは悪びれずに答えた。

「おまえもか…」エアグルーヴは、青ざめた。

「仕方の無いやつだ。おまえには、トレセンの食費がわからぬ。」

「言うな!」とスペシャルウィークは、いきり立って反駁した。

 

 

「人の食事を邪魔するのは、最も恥ずべき悪徳ですよ。貴女たちは、私たちの命をさえ奪おうとしている(そんな事実はないったらない)。」

「でもウマ娘盛りの大盛りが好きなんでだろう?」女帝は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。

「わたしたちだって、食べさせてやりたいのだがな。」

「なんの為のトレセン学園ですか。犠牲者を増やすつもりですか。《現在3名だけである》」

こんどはスペシャルウィークが嘲笑した。「お腹いっぱい食べさせないだなんて、何が自由だ。」

「いやお前たちの量がおかしいのだが。」女帝は、さっと顔を挙げて報いた。

 

 

女帝とスペシャルウィーク、睨み合いが続いた。トレセン学園の経費は、今や膨れ上がり、理事長のポケットマネーで秘密裏に補っている部分もあるほどだった。ウマ娘を愛する理事長も、学園生全てに機会とチャンスをと考える生徒会も、苦渋の決断であった。

何より食堂スタッフが死に体である、

 

 

「打つ手が無いわけではない。」

 

双方譲らない平行線が続くなか、ゲンドウポーズでじっと流れを見つめていた皇帝、シンボリルドルフが重い口を開いた。

 

「もうじき開催されるJAPAN WORLD CUPに出場し、優勝するんだ」

 

 

「か、会長⁉︎ しかしそれは__」

「エアグルーヴ。」

 

「君の懸念はよくわかる。恥ずかしい話ではあるが、我々トレセン学園は未だにあのレースでの優勝者を輩出できていない。かくいう私も予選ですら突破できなかった。それだけハイレベルなレースだ。」

 

スペシャルウィークはその言葉に、思わず息をのんだ。

なにせ、()()皇帝が予選落ちしていると言うのだ。彼女は直接は戦ったことなどないが、それでも皇帝の走りを知っていた。

 

「もし君がそのレースに出て、優勝したのならば・・・その時は、学食の無料食べ放題中止を取り消そう。どうだろうか、スペシャルウィーク。」

「………でも、会長さんが勝てないほどのレースに私が出ても・・・」

「・・・『()()()が無いわけではない。』と言ったのはそういうことなんだ。トレセン学園の運営も人手も()()()()でね・・・。」

 

 

「だが私たちはウマ娘で、ここは走りたいウマ娘の為の学園だ。レースの()()()負けたで決めることはまさに()()()つけではないかな?」

 

「それは……でも・・・」

 

その時、突如脳内に溢れ出す記憶。

 

グラスワンダーを側溝にある秘密基地に引きずり込み、お腹の満足するまでお菓子をほおばったあの日。

オグリキャップ、タイキシャトルと共に、超巨大芋煮会へと挑戦したあの日。

スーパークリーク、タマモクロスたちと戦ったドーナツ大食い選手権。

メジロマックイーンと共にスイパラを荒らし回ったあの日___

 

 

「私、やります。必ず1位を取って、このトレセン学園を救って見せます!」

 

 

 

スペシャルウィークは決意した。

 

 

 

必ずやかのJAPAN WORLD CUPに出場し、優勝せねばならないと。

我より先に散っていた同輩、オグリキャップ師匠たちの仇を討ち、このトレセン学園を救わねばならぬと。

 

 

走れ!スペシャルウィーク。

 

 

 

「1番ギンシャリボーイ既にパドックから魅せるスシウォーク。2番ピンクフェロモンは今年も審議中しばらくお待ちください。3番チョクセンバンチョー愛車の整備はバッチリ。4番ハリウッドリムジンは2人組。5番バーニングビーフからはステーキの香り。6番サバンナストライプ今年の運勢は末吉でした。7番ジラフは首のストレッチを入念に。8番ハリボテエレジータキオン印の新素材。9番スペシャルウィークトレセン学園からの本線初出場。嵐を巻き起こせるか?」

 

 

「ふえぇ…お母ちゃん助けて…」

 

 

 

「スピン&ウォークッ‼︎ ギンシャリ回った、華麗な三回転半‼︎今ゴーーール‼︎ 確定しました。1着にはギンシャリボーイ、2着にはハリウッドリムジンが滑り込みました。ジャパンワールドカップ、またお会いしましょう。今日はザギンで回らない寿司を。」

 

 

 

 

 

 





この後オグスペタイキグラスの泣き落としと執念で食べ放題廃止は回避されましたとさ。


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走れジャラジャラ

お久しぶりです。
今回はちょっと前のアップデートで思い付いたネタを。


タキオンの体操服姿、ダスカより破壊力ヤバくない?(尊死n回目)


感想に返信はしていませんが、全てしっかりと目を通させていただいております。
こんな拙作ではありますが読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます。<(_ _)>






 

 

 

ジャラジャラは激怒した。

必ず、かの堅苦しい昔からの風習に固執するURAを改革せねばならぬと決意した。

ジャラジャラには経営がわからぬ。ジャラジャラは、1人のモブウマ娘である。

他のモブウマ娘たちと共に、様々な距離・バ場のレースに出走してきた。けれどもこの状況に対しては、人一倍に憤慨していた。

 

きょう未明ジャラジャラは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此の阪神競バ場にやって来た。ジャラジャラには実績も、出走経験も無い。トレーナーもいない。十六の、内気なラブリーパトリシアと二人暮しだ。この相方と自分は、近々、トゥインクルシリーズの始まりであるメイクデビューを迎える事になっていた。

 

ジャラジャラは、それゆえ、レース用の蹄鉄やらレース用の体操服やらを準備して、はるばる阪神競バ場にやって来たのだ。先ず、バ場状態を確かめ、それから都の大路をぶらぶら歩いた。ジャラジャラには昔の師匠がいた。かつてはその師匠もトゥインクルシリーズを駆けたウマ娘である。今は此の阪神競バ場近くの市で、八百屋をしている。その師匠を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

歩いているうちにジャラジャラは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなジャラジャラも、だんだん不安になって来た。

 

路で逢った若いウオッカ先輩を捕まえて、何かあったのか、二週間まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若いウオッカは、首を振って答えなかった。若いウオッカはやはり若いウオッカだった。これだから若造は…

しばらく歩いて桐生院葵(鋼の意志)に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。桐生院葵(卑しか女ばい!)は答えなかった。ジャラジャラは両手で桐生院葵(そこそこあるかもしれない)のからだをゆすぶって質問を重ねた。桐生院葵(しかし彼女も犠牲者である)は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

 

「今年のトゥインクルシリーズは魔境です。」

「なぜ魔境なのだ。」

「シンボリルドルフやナリタブライアンを始めとした、大勢の走り終えた筈の有力バ(育成実装組)がデビューするのです。」

「そんなにたくさんの有力バ(育成実装組)がデビューするのか」

「はい、最初のデビューはトウカイテイオーさんが。それから、メジロマックイーンさんが。それから、スペシャルウィークさんが。それから、アグネスタキオンさんが。それから、オグリキャップ師匠さんが。それから、いつものゴールドシップさんが。」

「おどろいた。今年は戦国乱世か。」

「いいえ、乱世などと生温い物ではございませぬ。誰も、メイクデビューを被らすことがない、というのです。このごろは、トレーナ―が超人であるとも、お噂になり、少しく派手な活躍をしているトレーナーがついていないウマ娘(モブウマ娘)には、時間を(ハッ!夢か…)巻き戻してまでも担当を勝利(今日は担当ウマ娘の大事なレース。)させるなどと言われております。(早く競馬場に向かわなければ…。)きょうは、六人デビューされました。」

 

 

ジャラジャラは、単純なウマ娘ではなかった。

最早彼女たちのメイクデビューは止められはしないだろう。であるならば、その勢いを削がねばならない。不幸中の幸いと言うべきか、彼女たちは同世代として互いに争うことになるし、原因は不明とはいえその力のほとんどを失っている(因子用周回プレイ)

であるならば、付け入れる隙はまだ、ある。

 

 

 

時は流れ翌日。ジャラジャラのメイクデビューである。

注意すべき相手、すなわち相手となる育成実装組は、マヤノトップガンであった。

例え異次元の逃亡者が相手だとしても、負ける前提で戦う者に勝利は訪れない。意を決してパドックへと向かうジャラジャラ。

 

 

「なんでもう勝負服着てるの!?!?」

 

 

 

その第一声がこれである。

パドックにて1番人気として紹介されているマヤノトップガンはさも当然のように勝負服を纏っていた(才能開花済みだった)

しかも明らかに走りにくいであろうウェディングドレス(サンライト・ブーケ)である。

「えー?なんで皆勝負服じゃないの?」

「いやおかしいからね!?」

 

勝負服は本来、G1レースでのみ着用できる特別なものである。それを何故メイクデビューで着ているのか…。

ジャラジャラは胸にしこりを残しながらも、ゲートへと向かう。

 

 

~~~少女たちレース中~~~

 

 

さて結果は案の上であった。

マヤノトップガンが5バ身差でブッチギリデビュー。ジャラジャラはハナ差4着となり、未勝利戦に駒を進めることとなった。

 

ジャラジャラは激怒した。

必ず、勝負服をG1レースでのみの着用にし、体操服を着せてやると。このままではならぬと決意した。

ジャラジャラは頑張った。それはもう頑張った。

授業やトレーニングの合間合間に署名を集め、1人1人説き伏せて回った。

未勝利戦もなんとか勝利し、外部の一般人にもお願いして回った。その結果___

 

 

アップデートのお知らせ

■アップデート内容

・育成中のGⅡ以下のレースにて、育成しているウマ娘の服装に 

 体操服を指定できるようにしました。

 

 

 

「勝った!第3部、完!」

「これでGⅠ以外のレースで勝負服で来る奴らを一掃できる…!。これで、メイクデビューや未勝利戦でなぜか一人だけ勝負服を着てる奴を見て羨んだり枕を涙でぬらさなくて済むんだ!」

「やったねジャラジャラちゃん!これでまた一歩G1優勝(モブウマ娘脱却)に近づいたね!」

 

ジャラジャラは、友に自分の行動が実を結んだことを語った。ラブリーパトリシアは頷き、ジャラジャラをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。

セリヌンティウスは、2人の間に挟まろうとしてアグネスデジタルによって縄打たれた。初夏、満天の星である。

メジロマックイーンはホープフルステークスでバ群に飲まれ、(モブ爆弾をくらい、)入着を逃してしまった(メジロマックEーンになってしまった)

 

 

それからさらに時は過ぎていく。

ジャラジャラはGⅠでの勝利こそないものの、GⅡ・GⅢで着実に結果を重ね、またルームメイトであり、今では唯一無二の親友であるラブリーパトリシアもまた、堅実に結果を出していた。

その甲斐あってかこの二人は、URAファイナルという大舞台へと出走することができたのである。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

URAファイナル予選当日。

いつもと同じ時間に目覚めたジャラジャラは、うんと一つ伸びをして、外を眺める。

本日は雲一つない快晴、これならバ場も良バ場であろう。

いつものルーチンを済ませ、朝食を取り、予選会場へと向かう。

しっかりと寝れた為かコンディションは悪くなく、むしろ絶好調と言えた。

親友であるラブリーパトリシアは先に現地に入っているらしい。

 

 

会場につき、控室で待っている間の時間。

ここからでも観客の熱意が感じられ、ぶるりと身体が武者震いを起こす。

依然としてライバル達は多いものの、大半は天皇賞春に出場したスーパークリーク(み ん な の ト ラ ウ マ)の餌食となっており、残された相手は今のジャラジャラならば相手取れるだろう、と踏んでいた。

たとえその勝利がの可能性が那由他の彼方であろうとも、彼女たち(モブウマ娘たち)には十分すぎた。

 

「あ、ジャラジャラちゃん!」

パドックの途中、こちらを見つけたラブリーパトリシアが声をかけてきた。

 

「今日はお互い、ライバルだね。私、絶対負けないからね!」

どうやら彼女も調子は絶好調らしい。普段の彼女ならあまり考えにくい宣戦布告に、ジャラジャラは不敵に笑い、それを受けた。

 

「うん、お互い頑張ろうね。でも、勝つのは私だから!」

どこかでデジたんが尊死する音が聞こえた気がした。

 

 

パドックが終わり、地下バ道を抜けた各ウマ娘がゲートに入る。

 

「各バゲートイン完了しました。」

 

泣いても笑っても最初で最後のURAファイナルが、始まる___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッ!夢か…今日は担当ウマ娘の大事なレース。早く競馬場に向かわなければ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

URAファイナル予選当日。

いつもと同じ時間に目覚めたジャラジャラは、うんと一つ伸びをして、外を眺める。

本日は雲一つない快晴、これならバ場も良バ場であろう。

いつものルーチンを済ませ、朝食を取り、予選会場へと向かう。

しっかりと寝れた為かコンディションは悪くなく、かといって良いわけでもなく。いたって普通と言えた。

親友であるラブリーパトリシアは先に現地に入っているらしい。

 

 

会場につき、控室で待っている間の時間。

ここからでも観客の熱意が感じられ、ぶるりと身体が武者震いを起こす。

依然としてライバル達は多いものの、大半は天皇賞春に出場したスーパークリーク(み ん な の ト ラ ウ マ)の餌食となっており、残された相手は今のジャラジャラならば相手取れるだろう、と踏んでいた。

たとえその勝利がの可能性が那由他の彼方であろうとも、彼女たち(モブウマ娘たち)には十分すぎた。

 

「あ、ジャラジャラちゃん。」

パドックの途中、こちらを見つけたラブリーパトリシアが声をかけてきた。

 

「まさか私たちがURAファイナルに出れるなんてね…。昔の私が聞いたらびっくりしちゃうよ」

どうやら彼女の調子は好調らしい。普段の彼女らしい、しかしどこか弾んだ声に、ジャラジャラは笑い、言葉を返す。

 

「私も、ちょっと()()()()()()()()()だもん。でもま、お互い頑張ろうね!」

どこかでデジたんが尊死する音が聞こえた気がした。

 

 

パドックが終わり、地下バ道を抜けた各ウマ娘がゲートに入る。

 

「各バゲートイン完了しました。」

 

泣いても笑っても、()()()()()()URAファイナルが、始まる___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッ!夢か…今日は担当ウマ娘の大事なレース。早く競馬場に向かわなければ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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URAファイナル予選当日。

いつもと同じ時間に目覚めたジャラジャラは、うんと一つ伸びをして、外を眺める。

本日は雲一つない快晴、これならバ場も良バ場であろう。

いつものルーチンを済ませ、朝食を取り、予選会場へと向かう。

前日、嫌に寝付けなかったのか痛む頭に、コンディションは不調であると自己判断を下す。やはり緊張しているのだろうか。しかしどこか引っかかるような…。

親友であるラブリーパトリシアは先に現地に入っているらしい。

 

 

会場につき、控室で待っている間の時間。

ここからでも観客の熱意が感じられ、ぶるりと身体が武者震いを起こす。

依然としてライバル達は多いものの、大半は天皇賞春に出場したスーパークリーク(み ん な の ト ラ ウ マ)の餌食となっており、残された相手は今のジャラジャラならば相手取れるだろう、と踏んでいた。

たとえその勝利がの可能性が那由他の彼方であろうとも、彼女たち(モブウマ娘たち)には十分すぎた。

 

「あ、ジャラジャラちゃん!」

パドックの途中、こちらを見つけたラブリーパトリシアが声をかけてきた。

 

「今日はお互い、ライバルだね。私、絶対負けないからね!……って、ジャラジャラちゃん大丈夫?顔色わるそうに見えるけど…」

どうやら彼女の調子は絶好調らしい。普段の彼女ならあまり考えにくい宣戦布告に、でも結局は親友の心配をするいつもの優しい彼女の姿に、ジャラジャラは苦笑いを浮かべる。

 

「うん、ちょっと頭が重い(レース前の寝不足気味)けど…。うん、大丈夫だよ。ありがとう。」

どこかでデジたんが尊死する音が聞こえた気がした。

 

 

パドックが終わり、地下バ道を抜けた各ウマ娘がゲートに入る。

 

「各バゲートイン完了しました。」

 

泣いても笑っても、()()()()()()URAファイナルが、始まる___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッ!夢か…今日は担当ウマ娘の大事なレース。早く競馬場に向かわなければ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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()()()()()()()()()()()()()()()

 

URAファイナル予選当日。

いつもと同じ時間に目覚めたジャラジャラは、うんと一つ伸びをして、外を眺める。

本日は雲一つない快晴、これならバ場も良バ場であろう。

いつものルーチンを済ませ、朝食を取り、予選会場へと向かう。

しっかりと寝れた筈だ。だけど、コンディションは最悪。絶不調。頭の中でナニカが警鐘を鳴らす。何か大事なことを忘れているような…

親友であるラブリーパトリシアも後から応援に来てくれるらしい。

………あれ?

 

会場につき、控室で待っている間の時間。

ここからでも観客の熱意が感じられ、ぶるりと身体が武者震いを起こす。しかしどうにも目の前のレースへと集中できない。

依然としてライバル達は多いものの、大半は天皇賞春に出場したスーパークリーク(み ん な の ト ラ ウ マ)の餌食となっており、残された相手は今のジャラジャラならば相手取れるだろう、と踏んでいた。その筈だった。

たとえその勝利がの可能性が那由他の彼方であろうとも、彼女たち(モブウマ娘たち)には十分すぎた。本当にか?何か、致命的な見落としをしていないか?

 

「ジャラジャラちゃん、入ってもいいかな?」

控室で緊張をほぐしていると、ラブリーパトリシアが扉越しに声をかけてきた。

 

「ジャラジャラちゃん___って、凄い顔色悪いよ!?!?大丈夫!?」

大人しめのコーディネートをした、私服のラブリーパトリシアが視界に映る。

 

「え…なんでその格好…あれ…?」

「格好ってそんなの応援するために……じゃなくて!ジャラジャラちゃん本当に大丈夫なの!?スタッフさん呼んだ方が…」

「ううん、大丈夫…大丈夫だから…」

「でも…」

「あはは、ごめんね?流石にちょっと緊張してるみたい。レースになれば治るから、安心してほしい、かな。」

「ジャラジャラちゃん…うん、わかった…。私、精一杯応援するから!」

 

 

パドックが終わり、地下バ道を抜けた各ウマ娘がゲートに入る。

 

「各バゲートイン完了しました。」

 

泣いても笑っても最初で最後のURAファイナルが、始まる___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■!URA予選を制し、準決勝への切符を手にしました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャラジャラは激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の■■■■に報復せねばならぬと決意した。

ジャラジャラには■■がわからぬ。ジャラジャラは、1人のモブウマ娘である。

他のモブウマ娘たちと共に、様々な距離・バ場のレースに出走してきた。

けれどもこの状況に対しては、人一倍に憤慨していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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本現象につきまして、現在調査を行っております。

調査が完了次第ご報告いたします。

ご利用のお客様に、ご迷惑をおかけしておりますことを、

お詫び申し上げます。

 

 

#ウマ娘 #ゲームウマ娘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~♪~~♪~~~~♪」

「ジャラジャラちゃん、なんかご機嫌だね?」

「そう?まぁ、そうかもね~」

「ふーん…私、気になるなぁ。」

「んー…まぁ気にしないでいいよ?それよりほら!そろそろ行かないとホープフルステークス間に合わなくなっちゃうよ?」

「え?…あぁ!もうこんな時間!?急いで電車乗らなきゃ!ほら早く早く!!」

「よーし、駅まで競争ね!」

「えっちょ、待ってよもうー!」

 

 

 

今日も彼女たちは走り続ける。例え主役になれないのだとしても。

きっと、奇跡は起きるのだと信じて。

 

 

走れ! ジャラジャラ(モブウマ娘たち)

 

 

 

 

 




そろそろ若いウオッカが可愛そう(誤字ではない)に見えてきた。
可哀そうは可愛い、この世の真理ですな!





でもウオッカファンの方はごめんなさい(今更)


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走れグラス



メロス(要素)は死んだ!もういない!






 

 

グラスワンダーは激怒した。必ずやかの邪智暴食の魔王を討ち取らねばならぬと。

グラスにはゴルシがわからぬ。グラスは奥ゆかしきウマ娘である。質素倹約常在戦場日々これ精進と暮らしていた。けれども悪にだけは敏感であった。

 

きょう未明グラスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のトレセンの市にやって来た。今のグラスには。旦那はいない。クラスメイトの、エルコンドルなパサーと2人暮らしだ。家族は亜米利加で隠居している。

このエルコンドルなパサーとグラスなワンダーは、近々、自らの主たる総大将に御呼ばれされる身であった。凱旋演舞(ウィニングライブ)も間近かなのである。

グラスは、それゆえ、武具の整備の為の道具やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

 

 

先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

グラスには竹バの友があった。タイキシャトルである。

今は此のトレセンの市で、射的屋を仕切っている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

歩いているうちにグラスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。

もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。

 

普段はのんきなグラスも、だんだん不安になって来た。

路で逢った若いウオッカをつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が宴を開いて、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若いウオッカは、首を振って答えなかった。

なぜ答えないのか。グラスは更に語勢を強くして質問した。若いウオッカはそれでも答えなかった。

 

「この意気地なし!」

 

グラスは話にならないと、ウオッカを置いて行った。

 

 

しばらく歩いてハルウララに逢い、こんどはもっと、語勢を強く…できなかったので普通に質問した

ハルウララは答えなかった。グラスは両手でハルウララのからだをゆすぶって質問を重ねた。ハルウララは、あたりをはばかる低……いらしい声で、わずか答えた。

 

「えーっと、えーっと……。そーだいしょー様は、兵士(へーし)をお集めになっています。」

「なぜ、兵士を集めるのか。」

「ご飯が足りない、とおっしゃるのです。大変だー!?」

「しかし、この国には沢山の食材があったのではないのか?」

隣国(となりくに)の魔王が食材を奪って行ってしまわれたのです。なんで取っちゃったんだろ、皆で食べた方が美味しいのにね!」

「驚いた。それでは総大将様は戦を仕掛けるおつもりか。」

 

 

「呆れた魔王です。許して置けません。」

 

グラスは、単純な女であった。買い物を、背負ったままで、のそのそとトレセン学園にはいって行った。たちまち彼女は、学級委員長のバクシンオーに案内された。グラスは総大将の懐刀であった。

 

 

グラスは、総大将の前に引き出された。

 

「ここの民草を兵士として徴用し、何をするつもりでしたか。言ってください。総大将スペシャルウィークさん。」グラスワンダーは静かに、けれども威厳を以って問いつめた。その総大将の顔は蒼白で、尻尾はしなだれ、母親にいたずらがバレた時の子供の様だった。

 

「食材をゴールドシップさんの手から救うんです!」とスペシャルウィークは悪びれず答えた。

「戦でですか?」グラスは、憫笑した。

「仕方の無いでしょう。グラスちゃんには、晩御飯の人参ハンバーグ定食ウマ娘用メガ盛りを目の前で取られた気持ちがわからないんです。」

「太りますよ?」

「言うな!」とスペシャルウィークは、いきり立って反駁した。

 

「人のご飯を目の前で平らげるのは、最も恥ずべき悪徳です。ゴールドシップさんは、私の心をさえ弄んだのです。」

「………だからといって戦での解決など「たんぽぽも全部持って行かれました。」わかりました、宣戦を布告いたしましょう。」

 

スぺの放った一言に、さしものグラスワンダーも怒髪天を突き磨かれた刃の如き怒りを見せた。

 

 

かくてスペシャルウィーク率いる軍勢と、ゴールドシップ率いる魔王軍による戦が始まった。

ゴールドシップは自らの手勢すべてをセイウンスカイとキングヘイローに預け自身はに引きこもった。

キングヘイローは中京、セイウンスカイは阪神に軍を展開し迎え撃つ構えを取っていた。

 

まず先に動いたのはグラスワンダーたちだった。小勢をぶつけは撤退させ、さもキングヘイローの軍勢が勝っているかのようにみせかけおびき寄せると、軍を退かせ様子見を重ねる。

完全に得意げになっていたキングは自らの固有結界(謎の力)で作り出した幻影の城で舞踏会を開きこう言った。

 

「このキングと共に踊る権利をあげるわ!」

 

テイエムオペラオーの、「僕作成の僕による僕の為の素晴らしい演劇」が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。舞踏会に列席していた兵士たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い城の中で、むんむん蒸し暑いのもこらえ、陽気に歌をうたい、手を拍った。キングも、満面に喜色を湛たたえ、しばらくは、魔王とのあの約束をさえ忘れていた。

祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、兵士たちは、外の豪雨を全く気にしなくなった。

舞踏会も佳境になり、キングは昂る心の赴くままに、高らかに告げた。

 

「この雨の中ではまさか敵もこない筈よ!」

 

神は言っている。「あ、今フラグ立った」と。

 

 

「敵は桶狭間ポイントにあり。皆さん、キングちゃんを討ち取りましょう」

 

グラスワンダーは駆けた。降りしきる豪雨の中を(雨の日◎ 重バ場◎)

それに気づいた者たちは慌てて武具を揃え追いかけた。はじめはスペシャルウィーク(人参ハンバーグの恨み)が。それから、エルコンドルパサー(グラスにご飯抜きで脅された)が。それから、オグリキャップ師匠(ガルルルルルルルルル)が。それから、タイキシャトル(B.B.Q! B.B.Q!)が。それから、ファインモーション(ラーメン屋休業の恨みは深い)が。それから、何も知らないタマモクロス(なんでや!ウチ関係無いやろ!)が。

 

 

やがて兵も追いつき、先陣を駆けるグラスの元へと集まっていく。その勢いは凄まじく、濁流滔々と桶狭間ポイント*1に集り、猛勢一挙に敵兵を破壊し、どうどうと響きをあげる激流の如く、木葉微塵に舞踏会会場を跳ね飛ばしていた。キングヘイローは茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、味方の兵は残らずグラスたちに敗北して影なく、テイエムオペラオーの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のように迫っている。キングは陣の端にうずくまり、男泣きに泣きながらスペシャルウィークに手を挙げて哀願した。

 

「それもこれも全部魔王ゴルシムってやつのせいなのよ!」

「おのれゴルシム、ゆ"る"さ"ん"!!

 

キングヘイローは許され、大人しくトレセン学園でウララの追試勉強の面倒を見に戻った。

 

 

次に相対したのはセイウンスカイの軍勢だった。

何とか攻め込もうとするも、スカイの軍略(「今です」)と彼女の雷を操る力によって思うように攻め込めない。

そこでグラスは精兵70人を連れて険しい崖の上に密かに陣取ると、鹿が崖を駆け降りるのを見て

 

「鹿が崖を駆け降りれるのなら、ウマ娘たる私たちが駆け降りれないという道理はありません。」

「イヤイヤイヤイヤイヤ、無理やろ!うちらウマ娘やで!鹿と一緒にせんでや!」

「出来ますよね?」

「やからそんなことは無「出 来 ま す よ ね ?」アッハイ」

「ならば良し。さぁ、いざ、出陣!」

「イヤャァーー!!!シニタクナーイ、シニタクナァーイ!!」

 

かくてグラスワンダーは逆落としによってセイウンスカイの背後を強襲。

セイウンスカイは前後からの挟撃により敗走し、大人しく新宿のビルの上で猫転がる(寝転がる)ことになった。

 

 

こうして魔王城への道を阻むキングヘイローとセイウンスカイ(2人揃って四天王)を撃破したグラスワンダーたち。しかしセイウンスカイが去る間際、意味深長な言葉を残す。

 

「東大デモクラシー…じゃなかった。灯台下暗し、だよ2人とも~。果たして我らが魔王様はじっとしてるウマ娘だったかな~?」

 

そのすぐ後、サクラバクシンオーが伝令として現れた。

 

「大変です!ゴールドシップさんが現れて、また都の食料を奪って行きました!」

「「「「「「な、なんだってー!?(それは本当かい!?)」」」」」」

 

そう、ゴールドシップはスカイとキングに陣を敷かせることで目を引き、その間に一人で忍び込んでいたのだ。これもゴールドシップがゴルシワープを使えるからこその行動。敵ながらワザマエ!

 

「スぺちゃん、貴方は軍の再編成を。ゴルシ城を囲む部隊と引き返す部隊に分け、逃げ込めないようにしましょう。」

「グラスちゃんはどうするの!?」

「私は今から戻り、ゴールドシップさんを捕まえます。頼みましたよ。」

 

 

少数の手勢なら、今から戻れば補足することができる。

グラスは水筒から水を両手で掬って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。

走れる。行こう。肉体の疲労恢復と共に、希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、ご飯を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。

私を、頼ってくれる人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。

 

走れ! グラス。

 

 

 

 

 

 

 

やめて!オグリキャップ師匠の胃袋で、都の食料を目の前で平らげられたら、魔王の力でゴルシ城と繋がってるグラスワンダーの精神まで燃え尽きちゃう!

 

お願い、負けないでエルコンドルパサー!

 

あなたが今ここで倒れたら、スぺさんやグラスとの約束はどうなっちゃうの?

 

ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、ゴルシに勝てるんだから!

 

 

次回「ゴールドシップ 死す」希望の未来へレディー・ゴー!

 

 

 

 

 

 

 

*1
中京競馬場の第3~4コーナーのこと(らしい) 下り坂であり、逆転のチャンスであるとか。




ここ最近こっちばかり書いてる気がする(´・ω・`)



デジたんのトレーナーになりたブライアン。






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スペの糸

原点回帰

元作品のリスペクトとして一緒→一しょなど、一部表現を合わせてあります。




 

ある日のことでございます。

御ゴルシ様はトレセンの大樹のウロの側を独りでごるごるお歩きになっていらっしゃいました。

中庭に咲いている蒲公英は、みんなタマのように真っ白で、その綿毛が風に吹かれて揺れている様は、朝露がお天道様の光を反射して、なんとも言えない幻想さを感じさせています。

トレセンも丁度朝なのでございましょう。

 

 

やがて御ゴルシ様はそのウロの側に腰をお掛けになって、穴の面を覆っている水面の合間から、ふと下の様子を御覧になりました。

この大樹のウロの下は、丁度グラウンドの真上に当たって居りますから、水晶のような水を透き通して、ダートの二千や芝の二千四百の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。

 

 

するとそのグラウンドの中に、スペシャルウィークと云うウマ娘が一人、他のウマ娘と一しょに蠢いている姿が、御覧に止まりました。

このスペシャルウィークと云うウマ娘は、日本ダービーを取ったりジャパンカップを制したり、色々その実力を示した総大将でございますが、それでもたった一つ、悪い事をした覚えがございます。

と申しますのは、ある時このウマ娘がレース前の調整時期にお休みをしておりますと、小さな蜘蛛が一匹、路を這って行くのが見えました。そこでスペシャルウィークは早速手を出して、蜘蛛を助けたのですが、その先にあったのがスイーツパラダイスだったのです。

当然レース前のこの時期にそんな物を食べてしまえば、太り気味になってしまう事は間違いありませんが、「いや、いや、これも小さな命を助けた事への、恩返しに違いない。その案を無闇に無碍にすることは、いくら何でも可哀想だ。」と、こう急に思い返して、とうとうそのスイパラに入ってしまったからでございます。

 

 

御ゴルシ様はグラウンドの様子を御覧になりながら、このスペシャルウィークにはスイパラで太り気味にした事があるのを御思い出しになりました。

そうしてそれだけの事をした報いには、出来るなら、このウマ娘で暇を潰してやろうと御考えになりました。

幸い、側を見ますと、蒲公英に囲まれた芝生の上に、セイウンスカイが一人、釣竿と共に寝ております。

御ゴルシ様はその釣り糸をそっと御手に御取りになって、マンハッタンカフェのような漆黒のウロの穴から、遥か下にあるターフの芝へ、真っ直ぐにそれを御下ろしなさいました。

 

 

 

 

こちらはグラウンドの芝の二千四百で、ほかのウマ娘と一しょに、浮いたり沈んだりしていたスペシャルウィークでございます。

何しろどちらを向いても、名だたる強敵たちで、偶に抜け出せたかと思いますと、それはトレーニングの為に緩めただけですから、直ぐさま追い抜かれてしまいます。たまに聞こえるものと云っては、ただ併走相手が出す煽りの声だけでございます。

これは相手のペースに乱されない為のトレーニングであり、ウマ娘の本能をどれだけ抑えて走れるかと云うものでした。

 

 

ところが休憩に入った時の事でございます。

何気なくスペシャルウィークが頭を挙げて、トレセンの空を眺めますと、その晴れ晴れとした空の中を、遠い遠い天上から、銀色の釣り糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へと垂れて参るのではございませんか。

スペシャルウィークはそれを見ると、思わずその釣り糸の先を見て、思わず手を()って喜びました。

この糸の先には伝説のヒシアケボノ作キャロットケーキが付いていて、この糸に縋りついて、どこまでものぼって行けば、きっとあのケーキにありつけるに相違ございません。

いや、うまくいくと、さらに沢山のケーキを食べることもできましょう。

 

 

こう思いましたからスペシャルウィークは、早速その釣り糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。

元より田舎っ子でございますから、こう云うことには昔から、慣れ切っているのでございます。

 

 

しかしグラウンドと大樹のウロの間は、何万里となくございますから、いくら焦って見た所で、容易に上へは出られません。

ややしばらくのぼる(うち)に、とうとうスペシャルウィークもスタミナが切れて、もう一たぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。

そこで仕方がございませんから、まず好転一息(一休み休むつもり)で、糸の中途にぶら下がりながら、遥かに目の下を見下ろしました。

 

 

すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分が走っていたターフは、今ではもう遥か下にかくれて居ります。

この分でのぼって行けば、キャロットケーキまでも、存外わけがないかも知れません。スペシャルウィークは両手を釣り糸にからみながら、ここへ来てから数日ぶりの喜びの声で、「やったよお母ちゃん!」と笑いました。

ところがふと気がつきますと、釣り糸の下の方には、数限りもないメジロマックイーンが、自分の登った後をつけて、まるでコミケの行列のように、やはりパクパクですわと鬼気迫る表情で一心によじのぼって来るではございませんか。

スペシャルウィークはこれを見ると、驚いたのと恐ろしいので、しばらくはただ、モルモットに昼食を食べさせろと駄々を捏ねるアグネスタキオンのように大きな口を開いたまま、腹ばかり鳴らしておりました。

自分一人でさえ()れそうな、この細い釣り糸が、どうしてあれだけのメジロマックイーンの重みに堪えることができましょう。

もし万一途中で()れたと致しましたら、折角ここまでのぼって来たこの肝腎(かんじん)な自分までも、元のターフへ逆落としに落ちてしまわなければなりません。

そんな事があったら、スピカのポスターでございます。

が、そう云う中にも、メジロマックイーンたちは何百となく何千となく、ターフの底から、パクパクと這い上がって、細く光っている釣り糸を、一列になりながら、せっせと登って参ります。

今の中にどうかしなければ、糸は真ん中から二つに()れて、落ちてしまうにありません。

 

 

そこでスペシャルウィークは大きな声を出して、

 

「あげません‼︎」

 

と叫びました。

 

 

その途端でございます。今までは何ともなかったターフが、急に石を投げ込まれた水面のように波打ち、そこから大きな(マグロ)がメジロマックイーンたち諸共飲み込んで行きました。

ですからスペシャルウィークもたまりません。あっと云う間もなく風を切って、マルゼンスキーのタッちゃんのように飛んでいく(マグロ)の中に、まっさかさまに落ちてしまいました。

後にはただ鮪の掛かった釣り糸が、きらきらと細く光りながら、雲一つない澄み切った青空の中に、ゆるゆるとリールを巻かれているだけでございます。

 

 

 

 

御ゴルシ様は大樹のウロの側に腰をお掛けになって、セイウンスカイがリールを巻いているのをじっと見ていらっしゃいましたが、やがてセイウンスカイがその釣り上げた鮪をリリースすると、少しは満足なさったかのような御顔をなさりながらまたごるごる御歩きになり始めました。

メジロマックイーンに要求されるとついあげませんしてしまいたくなるスペシャルウィークの心が、そうしてその心とは無関係なセイウンスカイの固有スキルをうけて、元のトレセンへスピカのポスターしてしまったのが、御ゴルシ様の御目から見ると、満足思召されたのでしょう。

 

 

 

 

しかしトレセン学園は、少しもそんな事には頓着致しません。

そのタマのような白い蒲公英は、グラスワンダーの農園へとひっそり運ばれ、後にクッキーへとなるでしょう。

校舎の中にある食卓からは、何とも云えない良い匂いとオグリキャップに対するスタッフたちの悲鳴が、絶え間なくあたりへ溢れて居ります。

トレセンももう(ひる)に近くなったのでございましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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山月記 メジロの虎


お久しぶりです。ネタは浮かぶけど中身が書けない球磨猫です。
最終投稿日から今までに、アプリで色々ありましたが皆様如何だったでしょうか。
またぼちぼちと訳が分からない文章を投稿していこうと思っておりますのでよろしくお願いいたします。




メジロのマックイーンは才色兼備、平成の末年、若くして名をトレセンに連ね、ついで有マ記念1位に選ばれたが、トゥインクルシリーズに甘んずるを潔しとしなかった。

 

いくばくもなくトゥインクルシリーズを退いた後は、ドリームトロフィーリーグに移籍し、スイーツと交わりを絶って、ひたすらトレーニングに耽った。

 

先輩となって直ぐにゴールドシップと同じと見られるよりは、名ステイヤーのカッコいいマックイーンとしての名をメジロ百年に遺そうとしたのである。

 

しかし、スイーツの誘惑は容易に耐えられず、精神は日を逐うて苦しくなる。

 

マックイーンは体重が■㎏増えて漸く焦躁に駆られて来た。

 

この頃からその容貌もまんじうとなり、肉増え足太で、眼光のみ(いたずら)炯々(けいけい)*1として、曾て(かつて)天皇賞春にゲートインした頃のスレンダー(まな板)の美少女の(おもかげ)は、何処に求めようもない。

 

数週間の後、見るに()えず、トレーナーの懇願(泣き落とし)のために遂に膝を屈して、メジロライアンの元へ赴き、ライアン式ダイエットの任を奉ずることになった。

 

一方、これは、己の精神力の無さに半ば絶望したためでもある。

 

かつての同輩は既に遥か高位(トレーナーとのゴールイン)に進み、彼女が昔、ツッコミとしてハリセンを向けていたそのゴールドシップに心配をされたことが、メジロの次期当主マックイーンの自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。

 

彼女は怏々(おうおう)*2として楽しまず、スイーツ脳の性は愈々(いよいよ)抑え難がたくなった。

 

一年の後、レースの下見で京都に出、京都競馬場の近場に宿った時、遂に発狂した。

 

或る夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駆け出した。彼女は二度と戻って来なかった。

 

附近の甘味処を捜索しても、何の手掛りもない。

 

その後マックイーンがどうなったかを知る者は、誰もなかった。

 

 翌月、マックイーンのライバル、トウカイテイオー(無敵の帝王)という者、生徒会長に就任しトレセン学園の使いとして、途に京都の地に宿った。

 

次の朝未だ暗い中に出発しようとしたところ、女将が言うことに、これから先の道に虎が出る故、旅人は白昼でなければ、通れない。

 

今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでしょうと。

 

テイオーは、しかし、付き添いの(グラスワンダー)多勢なのを(エイシンフラッシュ)恃み(カワカミプリンセス)、女将の言葉を退けて、出発した。

 

残月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、果して一匹のビクトリーズファンが(くさむら)の中から躍り出た。

 

ビクトリーズファンは、あわやテイオーに躍りかかるかと見えたが、忽ち(たちまち)身を翻して、元の叢に隠れた。叢の中からもっちりした声で「あぶないところでしたわ。」と繰返し呟くのが聞えた。

 

その声にテイオーは聞き憶えがあった。

 

驚懼(きょうく)*3の中にも、彼女は咄嗟に思いあたって、叫んだ。

 

「その声は、我が友、マックイーンではないか?」

 

テイオーはマックイーンと同年にトゥインクルシリーズのターフに上がり、友人の少なくはなかったマックイーンにとっては、最も親しい友であった。

 

叢の中からは、暫く返辞が無かった。

 

しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。ややあって、もっちりした声が答えた。「如何にも私はメジロのマックイーンですわ」と。

 

 テイオーは恐怖を忘れ、叢に近づき、懐かし気に久闊(きゅうかつ)を叙した*4

 

そして、何故叢から出て来ないのかと問うた。

 

マックイーンの声が答えて言う。私は今や異類の身となっています。

 

どうして、おめおめと故人(とも)の前にあさましい姿をさらせましょうか。

 

かつ又、私が姿を現せば、必ず貴女に憐れみの情を起させるに決っているのです。

 

しかし、今、図らずも友人に会うことを得て、愧赧(きたん)*5の念をも忘れる程に懐かしく思いますわ。

 

どうか、ほんの暫くでいいから、私のもっちりな今の外形を厭わず、曾て貴女の友マックイーンであったこの自分と話を交してくれないでしょうか。

 

 後で考えれば不思議だったが、その時、テイオーは、この超自然の怪異を、実に素直に受け容れて、少しも怪もうとしなかった。

 

彼女は付き添いに頼んで行列の進行を停め、自分は叢の傍らに立って、見えざる声と対談した。

 

トレセンの噂、ゴルシの消息、テイオーが現在の地位、それに対するマックイーンの祝辞。

 

トゥインクル時代に親しかった者同志の、あの隔てのない語調で、それ等が語られた後、テイオーは、マックイーンがどうして今の身となるに至ったかを訊たずねた。

 

草中の声は次のように語った。

 

 今から1ヶ月程前、自分が下見に出て京都の宿に泊った夜のこと、パク睡してから、ふと眼を覚ますと、戸外で誰かが自分の名を呼んでいる。

 

声に応じて外へ出て見ると、声は闇の中から頻りに自分を招くのです。

 

覚えず、私は声を追って走り出した。無我夢中で駈けて行く中に、何時しか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に私は左右の手でメガホンを攫んで走っていました。

 

何か身体中に力が充ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えて行きました。

 

気が付くと、何やら帽子を被りが法被を着ているらしい。

 

少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に重度の野球ファンの様になっていました。

 

自分は初め眼を信じませんでした。

 

次に、これは夢に違いないと考えました。

 

夢の中で、これは夢だぞと知っているような夢を、私はそれまでに見たことがありましたから。

 

どうしても夢でないと悟らねばならなかった時、私は茫然としました。

 

そうして恐れました。

 

全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く恐れました。

 

しかし、何故こんな事になったのでしょう。分りません。全く何事も私たちには判りません。しいて言うならゴールドシップが元凶でしょう。

 

理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめです。

 

自分は直ぐに社会的な死を想いました。

 

しかし、その時、眼の前を一枚の観戦チケットが駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の『(スイーツ民)』は忽ち姿を消しました。

 

再び自分の中の『(スイーツ民)』が目を覚ました時、自分の手にはホームランボールがあり、あたりには球団の勝利を祝う人たちが散らばっていたのです。

 

これが『(やきう民)』としての最初の経験でした。

 

それ以来今までにどんな所行をし続けて来たか、それは到底語るに忍びありません。

 

ただ、一日の中に必ず数時間は、『(スイーツ民)』の心が還って来るのです。

 

そういう時には、曾ての日と同じく、人語も操れれば、複雑な思考にも堪え得るし、駅前のスイパラのメニューを諳んずることも出来ます。

 

その『(スイーツ民)』の心で、『(やきう民)』としての己の残虐な行ないのあとを見、己の運命をふりかえる時が、最も情なく、恐しく、憤ろしい。

 

しかし、その、『(スイーツ民)』にかえる数時間も、日を経るに従って次第に短くなって行くのです。

 

今までは、どうして『(やきう民)』などになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気が付いて見たら、私はどうして以前、『(スイーツ民)』だったのかと考えていました。

 

これは恐しいことですわ。今少し経たてば、己の中の私の心は、『(やきう民)』としての習慣の中にすっかり埋もれて消えてしまうだしょう。

 

ちょうど、130億円が次第に紙切れになり替わるように。

 

そうすれば、しまいに私は自分の過去を忘れ果て、一匹の猛虎魂として狂い廻り、今日のように途で貴女と出会っても故人と認めることなく、貴女を野球場に引きづり回してして何の悔も感じないだしょう。

 

一体、スイーツ民でもやきう民でも、もとは何か他のものだったんでしょう。

 

初めはそれを憶えているが、次第に忘れてしまい、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか? いや、そんな事はどうでもいいのです。

 

私の中の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、その方が、私はしあわせになれるでしょう。

 

だというのに、私の中の『(スイーツ民)』は、その事を、この上なく恐しく感じているのです。

 

ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思っているでしょうか! 私が『(スイーツ民)』だった記憶のなくなることを。

 

この気持ちは誰にも分らない。

 

誰にも分らない。

 

私と同じ身の上に成った者でなければ。

 

ところで、そうでしたわ。

 

私がすっかり『(スイーツ民)』でなくなってしまう前に、一つ頼んで置きたいことがあるのです。

 

テイオーはじめ一行は、息をのんで、叢中の声の語る不思議に聞入っていた。声は続けて言う。

 

 

他でもない。私は元来メジロ家に春秋天皇賞の盾を三回持って帰るつもりでいました。

 

しかも、悲願いまだ成らざるに、この姿になってしまいました。

 

はずかしいことですが、今でも、こんな美味しそうな身と成り果てた今でも、私は、私の盾がメジロ家の机の上に置かれている様を、夢に見ることがあるのです。

 

道頓堀の橋の上に横たわって見る夢に。

 

嗤ってください。

 

名優に成りそこなって『(やきう民)』になった哀れなウマ娘を。

 

テイオーは昔のライバルマックイーンの奇行__にんじんのたたき売りやゴールドシップとのコント__を思い出しながら、悲しく聞いていた。でも思えばあの頃から太り気味だった気はするしユタカの名を叫んでいた気はする

 

 

そうだ。

 

お笑い草ついでに、今の懐を即席の歌に歌って見せましょうか。

 

この『(やきう民)』の中に、まだ、曾てのメジロマックイーンが生きているしるしに。

 

 

 

〜〜〜少女メジロ賛歌歌唱中〜〜〜

 

 

 

 

 時に、残月、付き添いの目ひややかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。

 

人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、このメジロの薄倖を何とも言えない顔で聞いていた。

 

メジロマックイーンの声は再び続ける。

 

 何故こんな運命になったか判らないと、先刻は言いましたが、しかし、考えように依れば、思い当ることが全然ないでもないのです。

 

ウマ娘であった時、私はライアンに連れられてスポーツ観戦に赴きました。

 

私は帰り道、余り興味のない様に振る舞ってました。

 

実は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、ライアン達は知りませんでした。

 

メジロ次期当主がスポーツにハマり派手に騒いでいるなどと知られたくなかったのです。

 

私は次第にスポーツと離れ、ユタカと遠ざかり、次期当主としての振る舞いと自分の欲求によってますます己の身体を飼いふとらせる結果になりました。

 

人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。

 

私の場合、あの球団へと惹かれた心が猛獣でした。

 

虎だったのです。

 

これが己を失い、姉妹を苦しめ、トレーナーを傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えていったのです。

 

それを思うと、私は今も胸を灼やかれるような悔を感じますわ。

 

私には最早スポーツマンとしての生活は出来ません。

 

たとえ、今、己がターフの中で、どんな優れた肉体を作ったにしたところで、どうしてパドックで披露できましょう。

 

まして、私の頭や外見は日毎に(やきう民)に近づいて行く。

 

どうすればいいのですか。私の空費された過去は? 私は堪たまらなくなる。

 

そういう時、私は、隣の県に下り、ホームベースに向って吠えるのです。

 

この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのです。

 

私は昨夕も、彼処でユタカに向って吠えました。

 

誰かにこの苦しみが分って貰えないかと。

 

天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人私の気持を分ってくれる者はない。

 

私の枕の濡れたのは、ビクトリーズの勝率のためばかりではない。

 

 

 漸く四辺あたりの暗さが薄らいで来た。木の間を伝って、何処からか、サラリーマンが哀しげに歩き始めた。

 

 最早、別れを告げねばなりません。

 

酔わねばならぬ時が、(虎に還らねばならぬ時が)近づいたから、と、マックイーンの声が言った。

 

だが、お別れする前にもう一つ頼みがあります。

 

それは私のトレーナーさんのことです。

 

彼は未だトレセンに居るのでしょうか。

 

元より、私の運命については知る筈がないのです。

 

君がここから帰ったら、私は既に引退したと彼に告げて貰えないでしょうか。

 

決して今日のことだけは明かさないでください。

 

厚かましいお願ですが、彼の苦労を憐れんで、今後はドーベルのトレーナーとして奮ってくれるのなら自分にとって、恩、これに過ぎたることはありません。

 

 言い終って、叢中から慟哭の声が聞こえた。

 

トウカイテイオーもまた涙を浮かべ、よろこんでマックイーンの意に添いたい旨を答えた。

 

 そうして、付け加えて言うことに、テイオーが兵庫からの帰途には決してこの道を通らないで欲しい、その時には自分が酔っていて友を認めずに襲いかかるかも知れないから。

 

又、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に上ったら、此方を振りかえって見て貰いたい。

 

自分は今の姿をもう一度お目に掛けよう。

 

勇に誇ろうとしてではない。私の醜悪な姿を示して、以って、再び此処を過ぎて自分に会おうとの気持ちを君に起させない為であると。

 

 テイオーは叢に向って、別れの言葉を述べ、その足を動かした。

 

叢の中からは、又、堪たえ得ざるが如き悲しみの声が洩もれた。テイオーも幾度か叢を振返りながら、涙の中に出発した。

 

 一行が丘の上についた時、彼等は、言われた通りに振返って、先程の林間の草地を眺めた。

 

忽ち、1人のビクトリーズガチ勢が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼女等は見た。

 

猛虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声応援歌を歌ったと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
目が鋭く光るさま。

*2
心が満ち足りないさま。晴れ晴れしないさま。

*3
おどろきおそれること。

*4
久しぶりのあいさつをした

*5
恥じて顔を赤くすること。





卒業した後にスポーツ実況者やってるマックイーンとバクシンオーとかどうでしょ。


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