迷走デステニー (Cr.M=かにかま)
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目を通す話

どうも、かにかまです(^^)
おかしい所は多々あると思いますがよろしくお願いします(^^)


 

ある少年は願った、もう絶対に後悔するようなことはしたくないと

 

幼い頃、忙しい両親に構ってもらえない寂しさから仮病を使い両親に帰ってきてもらおうとしたことで結果的に両親は帰らぬ人となった。

 

そして身寄りのない少年を引き取ってくれた近所のおばさんも失ってしまった、少年の誕生日プレゼントを買いに出かけた時だった。

 

高校に入ってからは幼馴染を失い親友の笑顔すらも奪ってしまった。

 

『もう、嫌だ。もう誰もいなくならないでほしい、後悔したくない』

 

そう願いながら街を一人で歩いていると銀行の前で騒ぎが発生していた、銀行強盗だった。強盗は一人の少女の身柄を拘束し拳銃を突き立てている。

強盗は野次と警察を払いのけて少年の目の前に、いや少年が強盗の目の前にまで移動していた。少年にとっては無意識で拳銃を突きつけられても表情に変化はない。

 

もういっそのこと殺してくれ、少年はそんな想いを抱きながら強盗に近づく。そして強盗は少年の頭目掛けて寸分の狂いもなく弾丸を放った。

 

そして、意識を失った少年は真っ黒な世界で何かと接触した感覚を鮮明に覚えていた。そう、あれは確か8月15日に起きた不思議な体験だった。

 

 

 

三年後、8月14日...

 

「暑い、日本の夏ってこんなにカラッとしてたっけ?」

 

蝉の鳴き声が耳に響き、目も眩むような炎天下の中一人の青年と一人の少女がアスファルトで舗装された歩道を闊歩していた

 

「はぁ、どっかに自販機とかないかな〜」

 

「ちょっと、暑いのには心から激しく同意するけど無駄なお金は使わないでくださいよ。お母さんから頼まれた物を買うお金しかないんですから」

 

「わかってるよ、財布を置いてきたことに今更後悔しても遅いことは誰よりもわかってるつもりだよ」

 

「ホントにどうしてホタカさんは変な所で抜けてるんでしょうね?」

 

「言わないでくれマミ、結構傷つくぜ」

 

青年、穂高颯斗(ほたかはやと)は額の汗を拭いながら少女、石橋舞美(いしばしまみ)の相変わらず衰えることを知らない毒舌を受け止める。

ホタカは幼い頃に両親を失っており現在は様々な偶然と出会いが交錯した結果マミの家に居候させてもらっている身でいる。

そんな彼らは現在マミの母親に新しいフライパンを買ってきてほしいと頼まれてデパートに向かっている途中である。マミの母親は昔から料理をよくしており頼んでもないのにおやつと言って試作品のお菓子を作るほど料理をしている、しかもかなり美味しい。

ホタカとしても居候の身のため何か恩返しがしたいと思っているのでこういうお手伝いや頼み事は率先して引き受けている。

たまに無茶振りなんかもあるが住まわせてもらっている身としては断るわけにはいなかい。マミからは断ってもいいと言われているがホタカは頼まれたコトは断れない主義なので忠告は無にも等しかった。

 

「マミ、なんで夏ってこんなに暑いのかな?」

 

「知りませんよ、ホタカさんの方が年上なんですから私が教えてほしいくらいですよ」

 

「デスヨネー」

 

やはり年上というモノはそれだけ人生を長く生きているというレッテルが貼られてしまっているので年下からは扱いは大抵こんな感じである。

 

デパートが目に見える位置になるとホタカはデパートを見上げた。

何度か来たことのあるデパートだったが何度見ても大きいと実感させられた。屋上には簡易的な遊園地もあり大きな観覧車はここからでも目視することができる。

 

「ていうかお盆休みだって言うのになんでこんなにデパートに行く連中が多いんだよ、赤信号のせいでこの辺大所帯のせいで暑さ増してないか?」

 

「お盆休みだから混んでるんじゃないんですかね?」

 

そう言われてみればそうかもしれない、とホタカはマミの的確なツッコミに納得する。

家族連れも多く見られることから目的はおそらく買い物ではなく屋上の遊園地であるとも考えられる。

そうこうしている内に信号が青に変わり大きな人の塊も移動を始める。

 

(この人混みではぐれたら面倒だな)

 

ホタカはマミの姿を確認できる内にマミの小さな右手に自分の手を伸ばす、手を繋がれたマミは一瞬理解できないように手を目視してから頬を真っ赤に染めて飛び上がる。

 

「ちょ、ホ、ホタカさん!?いきなり何するんですか!?」

 

「え、はぐれたらいけないから手を繋いだだけだけど。もしかしたら嫌だった?」

 

「い、いえ。そんなことありませんけど...」

 

「?」

 

マミは顔を俯かせたままホタカの手を握り返す。ホタカは一体どういうことなのか全く理解できないまま人の多い横断歩道をマミのペースに合わせてゆっくりと歩き始めた。

デパートの入り口辺りで視線を感じた気がしたがホタカは特に気にせず二人はデパートに入って行った。

 

 

 

デパートに入ったホタカとマミは取り敢えず暑さによって奪われた体力を回復させることから始めた。

外の暑さを忘れさせるくらい冷房がガンガンに効いており、この暑さのせいかデパート側も無料で紙コップ一杯分の水を提供してくれたことで二人の体力はすぐに回復した。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「そうですね!」

 

ホタカの声に合わせるようにマミは元気良く立ち上がり休憩スペースを跡にする。一階に休憩スペースがあるとわかったホタカは少々疲れ気味のマミを心配し満席だった席をあれやこれやの手段でやっとのことで確保したのだ。

生活用品は何階にあるのかはわからないが階段やエレベーターの近くに行けばわかるだろうと判断したホタカはマミと一緒に近くの階段まで移動する。

 

「あれ、エレベーター使わないんですか?」

 

「エレベーターの周りは人が一杯だし中は密閉空間だから熱中症になる可能性もある。それにもしもの時の逃げ場がないから安全面で考えたら階段が妥当だよ」

 

「でも階段疲れないですか?途中で倒れちゃうことも考えた方が」

 

「もしマミが倒れたら俺がおぶるよ、それで大丈夫か?」

 

「.....ホタカさんって時々超恥ずかしいことをサラッと言いますよね」

 

マミはじと目でホタカを睨む。ホタカはホタカで何か怒らせるようなことをしたのか、と内心汗ダラダラの状態である。

 

「あ、あのマミさん?何か怒ってらっしゃいますか?」

 

「別に」

 

素っ気ない態度でマミはホタカを置いて階段へと向った。ホタカもマミを見失わないように少し急ぎながら階段へと向った。

 

「ていうかマミの奴早くないか!?もう姿見えないぞ!」

 

ホタカは小走りから更に少し速度を上げて階段へと急ぐ。階段のある角を曲がる瞬間ホタカは体に何か当たった感覚を感じた。どうやら誰かとぶつかってしまったらしく目の前には無機質で冷たい目をしてフードを深く被った緑髪の人物が立っていた。

 

「あ、すみません!」

 

「いや、こちらこそ悪かったね。ボーッとしてしまっていたようだ」

 

「あの、俺がここに来る少し前に中学生くらいの女の子が来ませんでしたか?」

 

「.....来たよ、もの凄い勢いで階段を駆け上がって行ったよ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「お役に立てたなら結構だ」

 

その時、無機質な目が一瞬赤く輝いたのをホタカは見逃さなかった。

 

「え?」

 

ホタカが瞬きをして素っ頓狂な声を上げた頃には目の前に先ほどの人物はホタカの視界から消えていた。

 

「おっと、そんなことよりもマミを追いかけないと」

 

ホタカは赤い目のことは一先ず後回しにしてまだそこまで上にまで行っていないはずのマミを追いかけるために階段を駆け上がりはじめた。

 

 

 

「くそ、マミは一体どこに行ったんだよ」

 

ホタカはマミがどのフロアにいるかわからないため取り敢えず一階一階をチェックすることにした。そして現在二階から探し始めて七階にまで到達してしまったのだがマミの姿はどこにもなかった。

 

(店内アナウンスでもしてもらおうかな、いやそれやっちまったら後でマミに何を言われるかわかったモンじゃないな。あいつ無駄にプライド高いし...)

 

以前ホタカがマミに高い高いをしてブチギレされたことを思い出す。

もしかしたら今回も疲れたらおぶるという言葉がマミの逆鱗に触れてしまったのかもしれない。

七階はどうやら電化製品を売っているフロアらしく最新家電やら話題の電子機器が多く取り扱われている。

 

「あ!」

 

ホタカは携帯電話の売っているスペースまで来て電話を掛ければいいと今更ながら閃いた。

マミも電源を切っていない限りホタカの方から通話を掛ければ応じてくれる、と信じたい。

ホタカはポケットからスマートフォンを取り出して予め登録してあるマミの電話番号をタッチする。

 

『.....もしもし?』

 

「マミ、俺だ、今どこにいるんだ?探してるんだぞ」

 

『私なら一階の休憩スペースですよ、いつまでもホタカさんが戻ってこないからこっちから電話しようとしてた所ですよ』

 

「待てマミ、お前階段を登って上に行ったんじゃなかったのか?」

 

『三階辺りで疲れたので戻ったんですよ、そしたらホタカさんいないんですもん。ホタカさんこそどこにいるんですか?』

 

「俺?俺は」

 

ホタカが七階と言いかけた瞬間だった、背後で何かが爆発した音が七階に響き渡った。

よく見ると客に紛れて武装した男が数人このフロアにいることが確認できた。

 

(これは、ヤバイな...)

 

ホタカは冷や汗を流しながらマミとの通話を切断させた。

 




好評(?)だったら続く!


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メカクシコード Ⅰ

続いちゃいました(^^)



 

さっきの突然の爆発のせいでデパートの警備システムが作動してしまいシャッターが次々と閉まってしまいホタカは七階に閉じ込められてしまう。

 

(連中に見つかったら終わりだな、とりあえずどこか隠れる場所...)

 

ホタカは男たちに見つからないように気配を殺して偶然近くにあった男子トイレに駆け込んだ。

意表を突いて女子トイレに逃げ込んでもよかったのだが、もし人がいた場合のことを考えるとホタカは女子トイレに入った変態というレッテルを貼られて社会的に死んでしまう上に後からマミに何を言われるのかもわからない。

やはりというか案の定男子トイレの中に人はいなかった、しかしもしものことを考えて洋式トイレの中ではなく清掃具入れの中に身を隠す。

もし男たちの中の誰かがやって来て洋式トイレの扉と鍵が閉まっていては不自然に思われて捕まってしまうだろう。しかし清掃具入れの中ならば仮に見つかったとしてもデッキブラシやバケツを駆使して人一人を気絶させることくらい訳はなかった。

 

ホタカはポケットからスマートフォンを取り出してインターネットを開く、情報を手に入れると同時に外の状況も把握しておきたかった。

やはりこのデパートで起こっていることは騒ぎになっており、ニュース速報としても取り上げられている。

 

「何々、午後一時現在犯人側の要求としては30分以内に十億円用意?出来なきゃ人質は殺す、か」

 

巨大なデパートの七階に立て籠もっている犯人の人質解放の条件にホタカは一言、簡潔に感想を述べた。

 

「.....こいつら馬鹿なの?」

 

捕まってしまっている人質諸君にはとても悪い気がするのだが、どうやら犯人は相当な馬鹿らしい。

何を思って十億円を要求したかは知らないが30分以内に用意など不可能である。

本当に失礼だがこんな頭の悪そうな連中の言うことを聞く警察も警察だと思う。仮に勝負を挑んだとしても負ける気は一切しなかった。

 

「さて、そろそろこの目で外の様子を確認しに行きますか」

 

ホタカは清掃具入れの扉を開けて外に出る、一応手は洗ってから男子トイレの外に行く。

 

(あそこか、結構遠いな)

 

犯人の数は目測として五人、一番体格がよくて奇抜なヘアースタイルの無精髭がリーダーだろう、非常に頭悪そうな雰囲気が出ていた。

どうやって飛び出そうか、とホタカが考えを巡らせているとポケットからマナーモードに設定しておいたスマートフォンがヴヴヴヴヴ、と振動する。マミからの電話だった。

 

「もしもし?」

 

『あ、ホタカさん!良かった繋がって、今どこにいるんですか?』

 

「七階、目の前にヤバそうな連中が見える位置」

 

『何でそんなに冷静でいられるのかはわかりませんが大丈夫なんですか!?ていうか七階って立て籠もり犯のいるフロアじゃないですか!?』

 

「そうだよ、何とか捕まらずにはいるが状況は緊迫している」

 

ホタカはそこまで視力がいい方ではないので障害物が妨げる中なので余計に視界が悪かった。更に先程の爆発によって発生した煙も少しではあるが立ちこもっているため視界自体が良好ではない。

 

「ま、警察が来れば何とかなるだろ。マミは先に帰っといてくれ」

 

『そういう訳にはいきませんよ、ホタカさんって私がいなくなった途端に無茶するんですから!それに一階も人が多くてとても外に出れる状況じゃありませんし』

 

それもそうだ、入り口付近には多くの警察が来ていることは先ほどの画像でもわかったし防災システムの作動が七階だけとは限らない。

それにまだ頼まれていたフライパンを買えていない。

 

「マミ、しばらく通話状態にしておこう。何か変わったことがあったら俺に知らせてくれ」

 

『でも、そんなことしたら犯人に気づかれるんじゃ...』

 

「大丈夫だ、片耳にイヤホンしておくしお前の声が聞けるだけでも十分俺の力になる」

 

『え、ちょ、それってどういう...』

 

「何だ、後半がゴニョゴニョしてて聞こえづらいんだが」

 

『ホタカさん今イヤホンしてるんですよね?爆音で砂嵐のノイズ音鳴らしてもいいですか?』

 

「地味な攻撃はやめてくれませんかマミさん。俺はまだ死にたくありませんので」

 

 

 

(結構あっさり近くまで来れたな)

 

商品棚の影を転々と移動したホタカは人質一人一人の顔を確認できる距離にまで近づいていた。

マミからは何の連絡もないところからまだ警察に目立った動きはないようだ。人質の数はかなり多く子供から老人までと年齢層の幅も広かった。

 

「痛ッ!」

 

「なんだ?」

 

突然、テロリストのリーダー格らしき男が頭を抑えて痛みに耐えている様子だった。

 

「おいお前、誰の頭殴ってんだよ!あァ!?」

 

「じ、自分じゃありませんよ!」

 

「だったら他に誰がいるってんだよォ!」

 

ズムッと中々爽快な音が響き渡った。

ホタカはテロリストの仲間割れに少しおかしな点、というよりもかなりの違和感を感じていた。

ずっと彼らの様子を観察していたホタカだからこそわかったことだが殴られた男はリーダーのことを決して殴ってはいない。しかしリーダー格の男は殴られたと感じていた。

たしかに殴ったような音は聞こえたのだが実際部下の男は殴っていない。

 

(どういうことだ、一体何が起こってるんだ?)

 

行くなら今か、とホタカが飛び出す準備をした時だった。突然目の前に階段でぶつかった人物が現れて待ったをかけた。

 

「すまないがもう少し動かないでくれ。俺たちにも奴らを倒す段取りがあるからな」

 

「ッ、一体どこから!?」

 

ホタカは思わず声を張り上げてしまう、そして気づかれたと思いテロリスト側を見るも誰もこちらを見向きすらしなかった。

 

「あれ、気づいてない?」

 

「何とか間に合ったようだな。少し君に手伝ってほしいのだが構わないか?」

 

「どういうことだ、一体何がどうなってるんだ。その前にあんたは一体誰なんだ?」

 

「俺はキド、今は時間が惜しい。説明は後でするから俺たちに協力してほしい」

 

自らをキドと名乗った人物はゆっくりと立ち上がった。

どうやら本当に奴らを止める気らしい。ホタカとしてもそれなら構わないがやはり見ず知らずの人物に協力するのは少し気が引ける。だが説明はしてくれると言う。

キドの言う通り時間も惜しい。

 

「俺はホタカ、今はあんたが何者で何が起こっているのかは関係ない。あんたに協力させてもらおう」

 

キドはホタカの応答に笑みを浮かべて互いに握手を交わした。

ホタカもゆっくりと立ち上がる。

 

「よし、任務続行だ」

 

 

 

ホタカとキドはテロリスト達の近くまで一気に移動した。テロリストとの距離は目と鼻の先なのに気づかれないのはキドの能力のお陰らしい。

 

「胡散臭い話だが事実だ。このようにな」

 

「みたいだな、一体どういう仕組みか知らねェが願ったりな能力だ」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

そしてキドの仲間のいるところにまで移動する。

一人は白いふわふわした髪に青と白のエプロンドレスを身につけた少女でホタカの姿を見るなりキドの陰に隠れてしまう。

もう一人は...

 

「.....今朝振りだな」

 

「ソ、ソウデスネー」

 

軽い認識のある少女だった、ホタカが早朝ランニングをしているところで塀を飛び越えたこの少女がドロップキックをホタカに直撃させたご本人様だった。金髪の髪にピンクのパーカーを着た少女は苦笑いを浮かべている。

 

「あの時は本当にすみませんでした」

 

「もういい、とりあえず今は奴らを倒すことに集中するぞ」

 

俺はホタカだ、と短く自己紹介をしてテロリスト達に再び目を向ける。

 

「あー、聞こえるか?もう待つの疲れたから金を準備する時間を10分短縮する、よってあと10分だ」

 

「やっぱあのテロリスト相当馬鹿だろ!」

 

ホタカは軽く舌打ちをする、想定外の出来事に焦りすらも覚える。

 

「クソ、ホタカ!お前に簡単に作戦を説明する、よく聞」

 

「必要ねぇ」

 

ホタカはキドの言葉を遮って瞬きを一つする、次にホタカが目を開いた時には一瞬だが普段の茶色の目が赤く輝いた。キドはホタカの目を見て驚きの表情を露わにする。

 

「なるほど、俺たちが電化製品を倒して視線を集めてそこからシステムをハッキングしてシャッターを開く、それでキドの能力を解除して突然現れた俺たちに全員の視線を集めて、そこのチビの能力で動きを止めて一件落着か。間違いないかキド」

 

「あ、あぁそうだ」

 

「時間もなさそうだ、急ごう!」

 

ホタカは立ち上がり準備に取り掛かった。

 

「急ぎましょう団長さん!」

 

「キド!早く早く!」

 

「お、おう!」

 

少女達に続いてキドも立ち上がる。キドが移動の際ホタカに話しかけてきた。

 

「ホタカ、まさかお前も」

 

「詮索は後でいいか?俺もあんたに聞きたいことがあるんだ」

 

「わかった」

 

少年少女は立ち上がり子供達の作戦が今始まった。

 

 




感想、批評、評価、罵倒、その他諸々お待ちしてます(^^)


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メカクシコード Ⅱ

連続投稿です(^^)


 

(悪いなマミ、一旦切らせてもらう)

 

作戦が始まると同時にホタカはイヤホンを外して通話を一方的に終了させスマートフォンの電源を切る。

一人だけならば付けたままでも良かったのだが今回はキド達がいる。しかも今回の作戦は金髪少女のタイミングが全てみたいなので片耳でも塞いでるわけにはいかない。

 

「お兄ちゃん!」

 

「どうした、合図か!?」

 

「違います!」

 

ホタカは金髪少女の見ている方向に目を向けるとテロリストのリーダーが赤いジャージを纏った黒髪の青年の頭を掴んでいた。

 

(あれ、あれってシンタローじゃね?)

 

よく見てみるとホタカの高校時代の親友の如月伸太郎(きさらぎしんたろう)がテロリストに捕まっていた。

そしてこの金髪少女はシンタローの妹らしく兄を救おうと走り出すがキドによって腕を掴まれて阻まれる。

 

「キサラギ、お前が行ってどうするんだ!さっきの作戦はお前の合図がないとわからないんだぞ!」

 

「で、でも!」

 

「大丈夫だ妹君、シンタローは何だかんだで頭だけはいいからな。多分打開策もすぐに考えつくはずだ!」

 

「だ、だけど...!」

 

キドとホタカは如月妹を必死に説得して止めるがバツを悪そうな表情を浮かべている。たしかに如月妹にとってはシンタローも大事な家族の一人であり相手は馬鹿とは言え本物のテロリスト、心配するなと言う方が難しいが今回の作戦の要は如月妹であることも事実である。

 

「大丈夫だよキサラギ!」

 

「マリーちゃん」

 

白い髪の少女、マリーは如月妹の手を握りしめる。マリーの表情は先ほどのおどおどした表情とは違って力強いモノとなっていた。

マリーは続ける。

 

「よくわからないけど、きっと上手くいく!絶対に大丈夫!」

 

「マリー」

 

キドも思わず感嘆な声を漏らす、マリーという一人の少女は普段こそ引っ込み思案でコミュ症で小柄な少女だがホタカにもキドにも如月妹にも負けない勇気を持っていた。

マリーの言葉に頷くように如月妹は力強い笑みを浮かべる。

 

「うん!」

 

如月妹は集中するように目を閉じて深呼吸をする。如月妹の能力はキドの人の目に映らなくする能力に対して人の目を奪う能力、いわば注目を浴びるというキドとは真逆の能力である。

そして能力の本質としてあらゆる人の視線がどこに向いてるのかも判断できるらしく、どうあっても目立ちたい能力のようだ。

 

「団長さん、左から三番目の42インチのテレビ。まずはあそこにします!」

 

「わかった、行くぞ!マリー、ホタカ!」

 

「う、うん!」

 

「了解!」

 

ホタカ達は如月妹の指差したテレビの後ろに一斉に移動する。かなり大きなテレビだが近年の科学技術の進歩の結晶の薄型テレビなので倒すのに力も時間も掛かりそうにはない。

 

「これ倒すくらいなら欲しいな」

 

「我慢しろホタカ、今はそれどころじゃない」

 

思わず緊張感のない本音が漏れてしまったホタカにキドが注意を促す。後は如月妹の合図を待てばいいだけなのだがタイミングが見つからないらしく焦ってはいるのだが中々合図が来ない。

目の前ではシンタローとテロリストによる口論が行われていた。

このままテロリストを刺激してしまえばシンタローが殺されかねないと判断したホタカは飛び出そうとしてしまうが、瞬間にシンタローが今まで以上に過去最大の大声をテロリストに向ける。

 

「お前みたいなクソ野郎こそ、一生牢屋に引きこもっていろよッ!!」

 

(シンタロー、お前、結構やるじゃねぇか!)

 

ホタカは思わず笑みを零した。

 

「今です!団長さん、マリーちゃん、ホタカさん!」

 

合図、如月妹の声が響いた。その直後、後方からの重量に耐え切ることができなくなったテレビは重力に従い倒れる、勿論テロリストにも人質にもホタカ達の姿は見えていないためテレビが勝手に倒れるように見えるだろう。

 

「次、下のスピーカー!ホタカさんは隣のテレビをお願いします!」

 

キドとマリーは先ほどの下にある大量のスピーカーを、ホタカは隣にある先ほどと同じサイズのテレビを押し倒す。

 

「おい、次はどこだ!?」

 

「次はあそこです!」

 

如月妹が次に示したのはテロリストの背後にある大きな棚だった。

 

「.....お前、あれは視線とか関係なく恨みと悪意でしかないだろ。あいつに直撃するぞ」

 

「まぁ、少し」

 

「だが、俺も賛成だ。テレビは抵抗あったがアレなら遠慮なくぶっ倒せる!」

 

ホタカは悪意ある笑みを浮かべる、棚には多くのブルーレイプレーヤーが並べられており恐らく商品棚に並ぶ前の商品なのだろう。一つくらい持って帰ってもいい気がする。

 

「そこに誰かいるのか!?」

 

テロリストは銃をあちこちに向けながら叫ぶが誰一人として返事はしない。

 

「いくぜ、せぇー、の!」

 

ホタカ、キド、如月妹の力により商品棚は勢いよく倒れテロリストを下敷きにする、ギャグにならないほど痛そうだった。

 

「あとは...よろしくね、エネちゃん」

 

如月妹の横をシンタローが通り抜ける、ホタカもシンタローとすれ違うような形の位置に移動して聞こえはしないだろうが一言贈る。

 

「頑張れよ、親友」

 

これでホタカの役目は終わった、後は如月妹とマリーの仕事だ。

シンタローはパソコンのある場所まで走り抜けてプラグを接続させる。

 

「後は頼んだぞ、エネ」

 

瞬間、一つの銃声が響き渡りシンタローはその場に倒れる。

 

「まさか、撃ちやがったのか!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

ホタカが振り返ると銃を持ったシンタローに向かう黒いパーカーを着た少年が近づいてるのが見えた。ホタカは怒りの形相でパーカーを着た少年に迫ろうとするがキドによって止められる。

 

「大丈夫だ、あいつは俺たちの仲間だ!」

 

「キサラギ、シャッターが開くよ!」

 

シンタローが倒れるのと同時くらいにゆっくりとシャッターが開いていく。シャッターの向こうでは恐らく武装した警官が大量に待機しており人質をも巻き込んだ銃撃戦に発展してしまう可能性もある。

 

「おい妹君、急ぐんだ!このままじゃ銃撃戦になりかねない!」

 

「急げキサラギ!」

 

「....わかってます」

 

如月妹は覚悟を決め胸に手を当てる。そしてマリーに声をかけて準備を整える。

 

「団長さん、お願いします!」

 

「よし、行くぞ!」

 

瞬間、キドの瞳が真っ赤に染まり能力が発動する。如月妹とマリーにかけられたキドの能力が解除されたのだ。

すると、人質、テロリストと関係なく視線が如月妹に集まった。

 

「後はよろしくね、マリーちゃん」

 

如月妹は静かに目を閉じる、今度はマリーの瞳が真っ赤に染まる。

マリーの能力は目を合わせた者の動きを一時的に止める能力。

如月妹の集めた視線を活用してこの場にいる者全ての人物の目とマリーの目が合う。

 

「ごめんね」

 

マリーと目の合った全ての人間の動きが止まり、シャッターは完全に開かれた。

 

「突撃ィ....?」

 

「何だ、何で誰も動かないんだ??」

 

突入してきた警官は人質もテロリストも固まっていることに疑問を抱いている。

 

「お兄ちゃん!」

 

「シンタロー!」

 

ホタカと如月妹はシンタローが銃で撃たれたことを思い出す。

 

「カノさん、お兄ちゃんは...」

 

カノ、と呼ばれた黒いパーカーを着た猫目の少年は目を閉じて暗い表情を浮かべていた。

 

「まさか...」

 

「残念だけど...」

 

カノは次第に表情を明るくしていきシンタローを指差して苦笑いを浮かべながら話す。

 

「この人、ちょっと弾が掠っただけで気絶してるみたいだよ。よっぽど怖かったみたいだね〜」

 

『.........』

 

もぅ勘弁してくださぃほんの出来心だったんですぅ、とか小声でボソボソと言っているシンタローに安堵の表情を浮かべる。

 

「まったく、コイツは」

 

「フッ、メカクシ完了...だな」

 

 

 

「おい大丈夫か、おい!」

 

「とにかくテロリスト共は拘束しろ!」

 

「棚の下にも血を吐いてる奴が一人倒れてるぞ!」

 

テロリスト達を倒すことに成功したホタカ達は一先ずは勝利の余韻に浸っていた。

 

「そういえばその人誰なの?気づいたらいたから僕結構ビックリしたんだけど」

 

「なんだキド、伝えてなかったのかよ」

 

「こいつも人質としてここにいたからな、伝えるに伝えれなかったんだ。まぁ、その必要もなかったけどな」

 

「酷い!?」

 

落ち込んだカノを慰めながらホタカは簡単に自己紹介を済ませる。

 

「そういえばホタカさん、どうしてお兄ちゃんのこと知ってるんですか?」

 

「あぁ、あいつと俺同級生なんだよ。中学も高校も同じで結構仲良かった方だと思うぜ」

 

「それにしてもあんな作戦よく思いついたよね。マリーの目に全員の目線を注目させるなんて」

 

カノは感心したようにモモ(さっき名前を教えてもらった)に話しかける。どうやらモモはこの中でも新参者らしくキドからは新入りと呼ばれていた。

 

「.....とりあえず一件落着ですかね?」

 

「だな」

 

モモとキドは笑みを浮かべる。

ホタカはスマートフォンの電源を入れる、するとメールBOXがマミのメールだけで満タンになっており着信履歴も十件以上来ていた。

ホタカはとりあえず無事だとメールを送ってスマートフォンを仕舞う。

 

「なぁキド、マリーはどうしたんだ?」

 

「マリー?」

 

「そういえばマリーちゃ...!」

 

モモとキドは目を疑ったように目を大きく見開いた。何故かはわからないがマリーが警官に質問攻めに合っていた。

 

「あの馬鹿、電気アンマを返しに行って...」

 

「ていうか何でそんなモノ持ってるんだよ...!」

 

「あ、あれが無精髭をぶっ叩いたっていう例ので、電気アンマ?プクククク、でも何であんなモノなんかで...ひぃ、お腹痛い...」

 

「お前は少し黙れ!」

 

「ぶほっ!?」

 

ケラケラ笑うカノにキドがボディーブローを炸裂させる。あまりの重い一撃にカノは腹を抑えて倒れてしまう。

一方、マリーの方はというと警官の数が先ほどよりも更に増えてぞろぞろと警官が集まってきている。

すると、マリーはついに耐えきれなくなったのかこちらを指で差してきた。

 

「おい、これヤバイんじゃないのか?」

 

「おい、ばか...よせ!」

 

キドの願いは虚しく、警官はマリーの指差した方向、つまりこちらへとやって来た。

 

「ちょ、おいカノ!そこ邪魔だぞ、どいとけ!」

 

「うぅ、キドにみぞおち、殴られた....」

 

「何か身体的ダメージより精神的ダメージの方が大きくないか!?」

 

「ちょ、おま、早く立て!」

 

しかし、カノのライフは既にゼロだったらしく立ち上がることはなかった。キドの能力は人にぶつかったりしたりすると能力の効果がなくなってしまい普通に見えるようになってしまうらしい。

つまり、警官がこちらにやって来るということはカノが倒れている道を通るというわけで...

 

「うわっ、なんだ!?急に人が...」

 

カノにかけられたキドの能力は解除されてしまった。

 

「に、逃げるぞ!」

 

「逃げましょう!」

 

警官からの逃走劇が始まった。

 




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追想フォレスト Ⅰ

ほぼオリジナルです(^^)




 

何か悪いことでもしたわけでもないのに警官から逃亡という人生で二度と味わえない、というか味わいたくないスリルを体感したホタカ達はキドの能力で姿を消してデパートを脱出した。ちなみに気絶したシンタローはホタカが背負っている。

何度か突っ立ってた警官や一般人にぶつかりそうになり能力が解除されてしまうのではないかとヒヤヒヤしたのも、またあまりいい思い出とはならないだろう。

デパートから少し離れた住宅街でキドは一旦能力を解除する。

 

「.....な、何とか逃げれたな」

 

「そうだな、キドの能力がなかったらマジで危なかったぜ」

 

ゼェーハァー、ゼェーハァーと激しく息を切らすホタカ達、マリーに至っては言葉を発する元気もないくらいまで疲れ果てている。

 

「それで、あんたらはこれからどうするんだ?俺はもう一回デパートに用があるから戻りたいんだけど」

 

「デパートに?忘れ物でもしたの?」

 

「まぁ、連れがいたんだよ。それで何やかんやで入れ違いになって別行動になっちまって...」

 

「それって黄緑の髪をツインテールにした中学生くらいの女の子?」

 

「そうそう、って何でお前はマヤのこと知ってるんだよ?」

 

「僕たちも一回デパートで会ったからね。テロリストが来る前階段で」

 

カノは人差し指を立てて説明する。どうやらホタカが階段でキドと出会う前にマヤと出会っていたようで彼ら全員に一方的な面識があった。

一方的というのはキドの目を隠す能力によってカノ達の姿も見えなくなっていたのでマミからは彼らの姿は見えていない。それを証拠にホタカもキドとぶつかった時、一緒にいたカノ達の姿を見ていない。

 

「俺たちは一旦アジトに戻るつもりだ。できることならホタカにもついて来てほしかったんだが、そういうことなら仕方ないな。連絡先だけでも交換しておこうか」

 

「だな、俺もあんたらには色々と聞きたいことがあるからな。マミを連れて一旦家に戻ったら連絡するよ」

 

そう言いながらホタカとキドは自然な流れでお互いのアドレスを交換する。隅っこの方でカノが体育座りしながら「僕なんて、キドとアドレス交換するのに半年近くかかったのに...」とかどんよりとしたオーラを醸し出しているがキドは反応どころか見向きもしなかった。

ちなみにホタカは汗を流しながら苦笑いを浮かべる。さり気なくモモがフォローに行っている気もするが彼女がフォローした所でカノの心が満たされる、それどころか逆にズバズバと心に痛手を加えそうなのは気のせいであろうか?

 

「じゃあ俺は一旦マミに連絡してからデパートに行くよ。マミに事情話してできるだけ早くそっちに行くよ」

 

「そうしてもらえると俺としても助かる。連絡待ってるぞ」

 

キドは必要なことだけ言うと瞳を赤く染めて能力を発動する。

目の前からキド、カノ、マリー、モモの姿がフッと消える。

ちなみに先程までホタカが背負っていたシンタローはカノが代わりに背負うこととなった。

 

ホタカは手に持ったスマートフォンを操作してマミに電話をかける。待つこと三コール目でマミは電話に応じた。

 

『もしもしホタカさん?今どこにいるんですか、もうデパートにはいないですよね?』

 

「出て早々察しがいいなマミ、ご明察の通り俺はもうデパートから脱出している。一旦合流しよう、お前こそ今どこだ?」

 

どうやらマミもデパートには既におらずデパートから少し離れた公園のベンチで休んでいるらしい。

 

「了解、今すぐそっちに行くよ」

 

ホタカは通話を切って公園へと足を進めた。

 

 

 

「あれ?何でセトがいるんだ?」

 

「どうもッス、ホタカさん。実は知り合いがデパートに行ったって言うもんッスからデパートに行ってみれば立て篭もり事件でしたからね、一階にいたらマミさんと偶然出会って色々あって意気投合したんッスよ」

 

公園に行くとバイトで良く顔を合わせるセトが何故かマミと一緒にいたことにホタカは驚きを隠すことができなかった。

何がどうなってこの二人が出会う羽目になったかは気になりすぎるが長い話になりそうなのでここでは言及しなかった。

 

「にしても驚いたッスよ、まさかマミさんが探してた人がホタカさんだったなんて」

 

「私としてはセトさんがホタカさんのこと知ってることに驚いてるんですけど」

 

「そこは知らなかったのかよ!」

 

本当に一体何がどうなって意気投合したんだろうか、予想の斜め上をいくこの二人の関係に再び謎が深まってしまう。

 

「じゃあ俺はこの辺で失礼するッス、俺の知り合いもきっと今頃デパートから出てるはずッスから」

 

「そうか、じゃあなセト。またバイト先で」

 

セトは手を振り上げて返事する。そして何故かデパートにもう知人はいないと本人は言っていたのにデパートの方向に足を進めているのは気のせいだろうか、きっとデパートの近くで待ち合わせているに違いない。ホタカはそう自分に無理矢理言い聞かせた。

 

「マミ、俺らもそろそろ帰るか。ちょっと大事な話もあるし」

 

「.............もしかして告白?」

 

「ごめん、一体何を期待しているの?」

 

 

 

ホタカとマミは石橋、と表札の書かれた家の前に立っていた。

そう、二人は重要なことを忘れて戻って来てしまったのだ。テロリスト達がやって来なければ穏便に買い物を済ませれたはずなのに、という思いが二人の頭を支配する。

 

((.....どうしよう、フライパン買ってない))

 

お使いを完了させていなかったのだ。マミの母親は普段温厚で年中ふわふわしている性格だが、こういう約束事や頼み事には人一倍うるさくキレさせてしまえばヤンキーすらも睨み殺すほどの殺気の持ち主となってしまう。

ホタカとマミはお互いにインターホンを押すことを躊躇い譲り合う。

 

「マ、マミ早く押せよ。いつまでも突っ立ってるわけにはいかないだろ?」

 

「それならホタカさん押してくださいよ、私まだ死にたくないです」

 

.....こんなやり取りが先程から十分近く続いているのだから二人の忍耐力は表彰するに値する。

結局、どちらか押すかのジャンケン一発勝負に負けたホタカが押すこととなった。

太陽の暑さのせいで流す汗とは別の冷や汗をダラダラと流し覚悟を決めて目を開く。

 

「はいはーい。っておかえりホタカ君、マミも」

 

「私ついで!?」

 

ほんわかな笑顔を浮かべてニコニコとしているこの女性こそがマミの母親である石橋佳奈(いしばしかな)である。エプロン姿なのはまた料理の試作品でも作っているのだろう。

 

「それで、どんなフライパンを買ってきてくれたの?」

 

佳奈の一言により空気が凍りつく。ホタカとマミは佳奈に悟られないようにダラダラと汗を流しながら状況を打破する術をあれやこれやと考える。

 

「ホ、ホタカサンアレ使いましょうよ。そうすれば」

 

「いや、アレはこんな所では使えない。目が赤くなっちまうからバレる可能性が高い、危険だ」

 

「じゃ、じゃあ脱ぎましょう!上半身抜いじゃいましょう!」

 

「意味がわからねェよ、どうやったらそれが打開策になるんだよ」

 

「ねぇ、何ヒソヒソ話してるの?」

 

『はい!すみません!』

 

ビシッと綺麗なくらい垂直に飛び上がり綺麗な気をつけを二人は無意識に披露する。息もぴったりで事前に打ち合わせをしたような動きだった。

 

「それでフライパンは?デパートは大変なことになってたみたいだけど買ってこれた?」

 

「すみません、実は買えなかったんです」

 

...................あ

 

「ちょ、ホタカさん!?何サラッと普通に暴露しちゃってんですか!?」

 

「だ、だだだだだだってよ、会話の流れからしてだな、あ、いや佳奈さん、これは.....!」

 

ホタカが声を出す前に佳奈は怒鳴るわけでもなく拳骨を振り下ろすわけでもなく回し蹴りを放つわけでもなく、ホタカとマミを抱きしめてた。

 

「そう、無事でよかった。巻き込まれでもしたらどうしようかと思ったわ」

 

「お母さん...」

 

「佳奈さん...」

 

それは母親の温もりそのものだった。ホタカもマミも佳奈の恐ろしさが印象に残りすぎて第一の前提を考えていなかった。

テロリストの件はニュースにもなったくらいだ、それが子供の向かったデパートで巻き込まれたかもしれないと思い心配しない母親は果たしているだろうか。

ホタカもマミもそのことをすっかりと忘れていた、母親の温もりというモノを。

 

そう、油断したその瞬間だった。

 

「でも、それとこれとでは話は別よ☆」

 

『え?』

 

この時より後の記憶はホタカもマミも憶えておらず、佳奈に尋ねても微笑んで何も答えなかったという。

こうして彼らの8月14日は終わりキドには今日は行けそうにない、と短くメールを送った。

 

 




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追想フォレスト Ⅱ

団員ナンバーが原作と異なりますがご了承ください(^^)


 

8月15日、早朝...

朝早くにホタカは目を覚ましてキドと待ち合わせしている場所に向かっていた。幸い今日はバイトのシフトは入っておらず一日中オフである。

昨夜、マミに自分の能力のことについて何かわかるかもしれないと言って何とか納得してもらえた。

しかし、佳奈はそうもいかなかったが彼女は昔付き合いのあった人と一ヶ月くらいハワイ旅行に行くらしいのでしばらく家を空けるらしい。

現にホタカが起きた頃にはもう既に準備してあったスーツケースごと佳奈の姿が消えていたのだ。

これで何とかなる、と思い家を出てもうそろそろ目的地に着く寸前なのだが...

 

「.....何でついてきたんだよマミ」

 

「悪いですか?ホタカさんを一人にしたらろくなことが起こりえませんので付き添いですよ」

 

「そうじゃなくてだな。俺はあいつらと面識あるし事前に行くって言ってるけど、お前の場合アポなしだろ?」

 

「大丈夫です、何とかなりますよ」

 

はぁ、と重い溜息を吐くホタカだったが実は既にこうなることをある程度予想していたのでキドにはもう一人増えるかもしれない、と事前に連絡はしてあった。

それでもなるべく彼女を巻き込みたくはなかった、ホタカも昨日初めて会ったばかりで彼らのことをよくわかっていないが共にテロリストを撃退した時何故彼らがそこにいてテロリストを撃退するという考えに陥ったのか、それは多分モモの兄であるシンタローが何故か人質にいたからだ。しかし彼らには撃退するというほどの力があった、ホタカが参加したのは偶然であり本来ならばホタカがいなくても成立した作戦だったはずだ。

 

(ヤバイ所に足を運んでる連中とは思いたくないが、どうも胡散臭いんだよな.....)

 

ホタカが二度目の溜息を吐く頃には既に目的地に到着していた。しかしキドの姿が見当たらない。

最初は能力を発動しているのかと思ったが、それは違うと思わされる。

何故なら目の前に一人の青年がいたからである。

黒くフードの部分に白い丸が左右対称に三つ描かれたロングパーカーに猫目、連中の中で最も胡散臭く常に笑顔の青年が。

 

「よぉ、カノだったか?」

 

「おはようホタカ君、時間通りだね。よく迷わなかったね。」

 

「キドに位置情報をメールで送ってもらったからな。そういやキドはどうしたんだ?」

 

「キドは朝食の支度をしてるから代わりに僕が来たんだ。それより後ろにいる子が君が昨日探してた子?」

 

カノがマミを指差すとマミはカノを睨みつける。

 

「ホタカさん、この人がそうなんですか?」

 

「その一人、の方が正しいかな?」

 

マミはカノを上から下まで観察した後、ビシィ!と指を指して一言言い放った。

 

「こんなチャラそうで背の低い人が本当にホタカさんの能力について知ってるんですか?」

 

「ハハッ、君結構人の気にしてることズバズバと言うよね」

 

「気にしてたのかよ」

 

実際マミとカノの身長はそこまで大差はなく、僅かにカノが勝っているというドングリの背比べ状態だった。ホタカは大きな溜息を吐く、今日だけで既に三度目である。

 

「とりあえず案内してくれ、俺としても知りたいことが山ほどあるんだ」

 

「オッケー、じゃあ僕らのことはアジトに着くまで歩きながら話そうか」

 

カノを先頭にホタカ達は彼の言うアジトに足を進めて行った。

 

彼らはメカクシ団と名乗っており、団長はキドが務めているらしい。彼らの全員がホタカと同じように何らかの能力を持っており、表向きは和気藹々と友人の集まりのように緩くやっており、実際の活動は警察や様々な機関からあらゆるモノを拝借(ほぼ盗難に近い)して活動しているらしい。

 

「元々は僕含む三人だったんだけどね、何やかんやで今は六人って所かな?僕達のことはこんな感じだね」

 

「なるほどね、活動内容を聞いちまったからには俺もメカクシ団とやらに入らざるを得なさそうだな」

 

ホタカは頬を緩めてカノに問いかける。カノは笑みを崩さぬまま更に、にっこりと笑う。

 

「話の飲み込みが中々早いね、そういうことになるね。それで一緒に話を聞いてたイシバシちゃんもメカクシ団に入ってもらうよ」

 

「私も!?」

 

「だから着いてくんなって言っただろ、だが仕方ないか。それとカノ、一つ聞いてもいいか?」

 

「ん、何?」

 

「マミは能力を持っていない普通の女の子だ。聞いた話だとメカクシ団は全員が能力を持っている、それでもマミはメカクシ団に入らないといけないのか?」

 

「うーん、まぁできることなら入ってもらいたいかな。それで後から団長に文句言われるの僕だし」

 

キドっておっかないからねー、とカノはおちゃらけながらも冷や汗を流している、どうやら相当恐ろしい様子だ。

そんな感じで話をしていると107と書かれた扉の前に辿り着く。

 

「ここか、結構デカイな」

 

「すごいです。私の家よりも大きいかも」

 

「それは大袈裟じゃないか?」

 

「とりあえず入って入って、詳しい話はそれからしようよ。新入りさん」

 

カノに招かれるまま、ホタカとマミはメカクシ団アジトに足を踏み入れた。

 

 

 

「.....それでお前はまたホタカ達に活動内容を話し、関係のないイシバシを巻き込んで俺たちの仲間にしたと?」

 

「いや、本当すみませんでした。でも結局こうなったわけだし、ちょっと展開が早くなっただけってことで」

 

「問答無用!」

 

「フゴ!?」

 

アジトに入るや否や、キドがエプロン姿で現れてカノの首根っこを掴み背負い投げをした後土下座をさせてカノの足を踏みながら質疑応答。そしてトドメに踏みつけ。

ホタカとマミは顔を真っ青にしてその光景を見ているが、ホタカとしてはキドが女性だという事実に驚きを隠せずにいた。

流石に哀れに見えてきたカノに対してホタカは仕方なく助け舟を出すことにした、さっきからカノもアイコンタクトで助けて、と言ってる気もするし。

 

「キド、もうそろそろいいんじゃないのか?マミも別に気にしてなさそうだし」

 

「しかしだな」

 

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?も、も、もももももしかして、アイドルの如月桃さんでしょうかぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「そ、そうだけど」

 

「わ、わわわわわわ私大ファンなんですぅぅぅぅぅぅ、応援してますぅぅぅぅぅ、お会いできて超光栄っすぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!」

 

「あ、あはは...」

 

マミはモモの手を掴むなり、上下に凄まじい勢いでブオンブオンと振る。腕が千切れてしまうのではないかというほどの勢いである。

マリーもマミの様子に恐怖を抱き扉を陰にしてガクガク震えてるし。

 

「な、大丈夫だ」

 

「.....そうみたいだな」

 

マミの奇行に流石のキドもドン引きしカノから足をどける。

一旦落ち着き、ホタカとマミはソファに座り向かい合わせでキドとカノの二人が目の前に座る。

 

「じゃあイシバシちゃんもいることだし、改めて僕たちの自己紹介といこうか。僕はカノ、団員ナンバーは3。こっちの目つきが悪いのは我らが団長のキドぶふぉ!?」

 

「悪かったな、目つき悪くて」

 

「そ、それでさっきから扉を陰にしてる白いモコモコしてるのが団員ナンバー4のマリー。今はここにはいないけどそのマリーの保護者さんで団員ナンバー2のセト、多分もうすぐ帰ってくるよ」

 

ホタカはカノの言ったセトという人物に心当たりがあり、まさかと思いマミと顔を合わせる。そしてアジトの扉が開かれ...

 

「今戻ったッス!ってあれ、ホタカさんにマミさん?」

 

「やっぱお前か、昨日振りだな」

 

「あれ?もしかして知り合いだったりする?」

 

カノが頭上にハテナマークを浮かべてマミに尋ねる。

 

「私は昨日初めて会ったんですけど、ホタカさんはバイト先が被ってて何度か会ってるみたいなんです」

 

「そういうことだったか」

 

キドは納得したように頷く。気を取り直して、とカノが仕切り直す。

 

「昨日入った新入りさんのキサラギちゃんとエネちゃん。団員ナンバーは5と6!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「こ、ここここちらこそそそそそそそそど$%○々×¥€^☆!」

 

「とりあえず日本語にしろ。それでカノ、エネって奴が見当たらないんだが...」

 

『ここにいますよ!』

 

「え?」

 

ホタカはモモの置いた携帯を見て目を疑った。そこには青を基調としたカラーリングの少女が存在していたのだ。

何かのアプリだと思ったのだがそれにしては会話が滑らかでまるで本当にそこに生きているようだった。

 

「.....すげーな、今の日本の技術ってこんなこともできるんだ」

 

『とりあえずご主人を助けていただきありがとうございますね、茶髪さん』

 

「ご主人?シンタローのこと?」

 

『はい!』

 

ホタカはここで友人の趣味、というか友人だったシンタローの趣味を改めて疑った。

 

「こんな女の子にご主人って呼ばせてるシンタローって、はぁー」

 

「ま、まぁメカクシ団のメンバーはこんな感じかな?」

 

「そういやシンタローはまだ起きないのか?」

 

『昨日からぐっすりと寝てますからね〜。さすがにそろそろ起きていただかないと遊園地のことも忘れられそうなんですけどね』

 

「という訳でよろしくな、メカクシ団団員ナンバー7ホタカと団員ナンバー8イシバシ」

 

こうしてホタカとマミはメカクシ団に加入することとなった。

その後、シンタローが目を覚ましたのはキドの朝食の支度が終わってからである。

 

 




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追想フォレスト Ⅲ

ホタカ君の能力に関してはもうちょっと後になりそうです(^^)



 

「そうか、シンタローが本格的に引きこもったのは二年前で妹のモモはお袋さんの仕事不調で心配してアイドルとして頑張ってるのに兄であるあいつは何もせずただただ電気代と食費を貪ってる、いわゆるパラサイトシングルに成り果ててるんだな。苦労してるな〜エネもモモも」

 

『そうなんですよ茶髪さん。ここは一発ゴミクズなご主人にガツンと言ってやってください!酸素が無駄に消費されてしまいます』

 

「私からもお願いしますホタカさん、もうブラック企業でも何でもいいですからこのバカ兄を何とか社会復帰させてやってくださいよ!」

 

「よし、任せろ!」

 

「お前ら好き勝手言ってんじゃねぇよ!ハヤトもハヤトであっさり頷くな!」

 

「あ、シンタロー居たんだ」

 

「お前ら絶対にわざとやってるだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「俺はコミュ症の親友を思って言ってやってんだけどな〜。メカクシ団団員ナンバー9シンタロー」

 

ぬぐぐ、と否定することのできないIQ168(笑)でありモモの兄の如月伸太郎(きさらぎしんたろう)が頭を抱えて唸り始める。赤いジャージに黒いシャツという夏には絶対着てはならない色ベスト3にランキングされてそうな組み合わせの童貞18歳はホタカの中学高校時代の友人で死んだ魚のような目も特徴である。

事の成り行きとメカクシ団の活動内容をカノに聞かされたシンタローは半ば強引にメカクシ団の新入りとして迎え入れられたという状況である。

ちなみに今はキドの作った朝飯を食べ終わり適当に駄弁っている所である。キドとマミは洗い物をしておりマリーは何故か鬼の形相でセトに詰め寄っており、カノはその光景を見てただひたすら笑っている。

 

洗い物が終わったら遊園地に行く予定となっているらしくマミも喜んでいた。そしてホタカは親友との久々の再会に会話を弾ませていたのだ。

 

「それにしてもお前昔よりもひょろくなってないか?ガリガリの痩せ型体型じゃねぇか」

 

「そういうハヤトは筋肉付いたよな、細マッチョって感じだし」

 

「一応毎日早朝ランニングしてるからな。家にいてもあまりすることないし体力を付けておいて損はないからな」

 

「ほらお兄ちゃんもホタカさん見習ってよ、こんな頼りになりそうなお兄さんがいるマミちゃんが羨ましいよ」

 

『所詮ご主人はヒキニートですからね。ご主人が運動するなんて言い出した次の日には隕石でも降って来るんじゃないんでしょうかね?』

 

「お前らなぁ!」

 

何だかんだ言ってもシンタローの評価が上がることは決してなかった。

 

 

 

その後、シンタローとモモとエネとセトとマリーとマミは徒歩でホタカとキドとカノはバスで現地集合という形になった。

バスに乗っている間はキドの能力によりホタカ達の姿も声も周りには認識できないレベルになっており何を話そうが聞かれることは決してない。

 

「さて、そろそろいいんじゃないのか?お前らのことをもうちょっと詳しく話してくれても」

 

「そうだな。イシバシも別行動をしていることだし調度いいかもな」

 

ホタカの言う詳しく、とは無論能力のことである。ホタカが自分の体に異変を感じ始めたのは三年前の夏で自分の目が赤くなることに気がついたのは異変を感じ始めて数週間が経ったある日だった。

偶然目が赤くなっている時に鏡を見たのがキッカケだ。マミや佳奈はこのことを既に知っており彼女達はそれでもホタカを特別視することなく接してくれている。

 

「俺たちも能力について詳しくは知らないがある程度は知っている。マリーと出会ってから真実に少し近づいたと言ってもいい」

 

「マリーに?」

 

小桜茉莉(こざくらまり)、皆がマリーという愛称で呼ぶ少女はメデューサの末裔であり子孫でもあるらしい。正確にはクォーターで母親はメデューサと人間のハーフらしく実際に人を石にすることが出来たらしい。

キドの話によるとセトが勧誘したようで二人がどこでどういう出会いをしたのかはキドもカノも詳しくは知らないらしい。

マリーの目を合わせる能力もメデューサの力の端くれのようで完璧ではないようだ。

 

「マリーはああ見えても俺たちよりも長生きしているらしい。本人も正確な年齢は把握できてないらしいからな」

 

「なるほど、でも何でそれが能力の真実と関係してくるんだ?」

 

ホタカの疑問はもっともだった。マリーがメデューサの末裔で少し違うということの説明があっただけで能力に関してはほとんど触れられていない。

まるで今までの話が前置きと言った様子でキドとバトンタッチしたカノが人差し指を自身の口に当ててニヤリと笑い尋ねる。

 

「ホタカ君、カゲロウデイズって聞いたことある?」

 

 

 

一方、マミ達は夏の炎天下の中を歩いていた。

一番の年長者のシンタローがグロッキー状態になってしまっているのは触れないであげてほしい。

 

「遊園地とか、マジで無理だろ...」

 

「何言ってるんですかシンタローさん、せっかくここまで歩いてきたのに。別にもと来た道を引き返しても私はいいんですけどね」

 

「すみません、それはマジで勘弁してください」

 

そう、今来た道を再び戻るということはもう一度あの長い道を通るということであり、二年間も部屋に引きこもって体力が落ちるに落ちまくっているシンタローにとっては拷問以外の何でもなかった。

 

「ねぇ、お兄ちゃん本当に見てるだけで暑ぐるしいからそのジャージ脱いだら?」

 

「本当ですよね、よくこんな暑い日に着れますよね」

 

「でしょマミちゃん、お兄ちゃんって昔からセンスもないのよ。ねぇってば、聞いてるの!?」

 

ズバズバと精神攻撃(モモに至っては無自覚)を与えるマミとモモ。

シンタローはマミを見て「エネがもう一人増えたみたいだ、ハヤトとは全然性格違うし」と思いため息をつき頭を抱える。

 

「別に、お前に直接迷惑かけてるわけじゃねぇからいいだろ?」

 

シンタローはじと目でモモの服を見る。シャツには大江戸とプリントされておりパーカーには狙ったように鎖国と書かれている。

 

「お前こそ何なんだよそれ、バラエティ番組の罰ゲームみたいだぞ?」

 

「は、はぁ!?この服のかわいさがわからないとか、本当お兄ちゃんセンスないよね、マミちゃん」

 

「そ、そうですね」

 

「マミ、無理矢理言わなくてもいいんだぞ。こいつの感覚は少し人と離れてる部分もあるから」

 

シンタローはマミにさり気なくフォローを入れる。マミもどうやらそのことに薄々感づいていたようで苦笑いしながら頷く。

 

「それにお前なぁ、知ってんだぞ!毎晩毎晩部屋で実況プレイの動画見ながらあたりめ喰って観て笑ってんの!」

 

「いっ!?」

 

「ホント、これが今話題のアイドルかよ。信じられねぇよな」

 

「ど、どうしてそんなこと知ってるのよ!?」

 

モモの反応を見るからにどうやら本当のことみたいだが流石のマミもドン引きだった。

モモの一ファンとして彼女の知ってはいけない一面を知ってしまった気もした。

ギャーギャーと兄妹喧嘩を始めてしまった二人についていけずに一人アウェーとなってしまうマミは後ろを歩くセトの所に行く。

 

「セトさん、マリーちゃんのこと背負って重くないんですか?」

 

「大丈夫ッスよ、俺バイトとかしてるんで体力には自信あるッスから!」

 

そういえばホタカとバイト先でたまに会うと言っていた気もする。

 

「それにしてもあの二人本当に仲良いッスよね、流石兄妹!」

 

「あれは仲が良いと見ていいのでしょうか?」

 

マミは苦笑いしながら二人を見る。

 

「ねぇマミちゃん、ちょっとセトと楽しくおしゃべりしすぎなんじゃないの?新入りの分際で」

 

何やら一瞬修羅が見えた気がした。

 

「マリーちゃん、何か怒ってる?」

 

「別に」

 

ぷぅ、とそっぽを向いてしまったマリーにマミは冷や汗をかく。

何に対してマリーが怒っているのかは知らないがこれから遊園地で遊ぶというのにあまり溝が出来た状態では少し危険かもしれない。

 

「セトさん、マリーちゃんどうしちゃったんですか?」

 

「さぁ、俺に聞かれても...」

 

結局、遊園地に着くまでマリーの機嫌が治ることはなかった。

 

 




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追想フォレスト Ⅳ

今回少し短めです(^^)


 

遊園地の入り口付近で合流したメカクシ団御一行はカノをパシリにして全員分のチケットを購入しに行かせていた。ちなみに今回はキドだけの意見だけでなく全員一致の多数決で決まったことなのでホタカも若干凹んでいるカノのフォローのしようがなかった。

とりあえずモモが一番はしゃいでいる、次にマリーがテンションを上げて引きこもりのシンタローが一番テンションが低い。

 

「そういやシンタロー、エネはどうしたんだ?めちゃくちゃ大人しくないか?」

 

「今電源切ってんだよ。無駄な電池を消費したくないらしいんだとよ」

 

「フーン」

 

ホタカは興味なしと言った様子で適当に相槌を打っていた。

ようやく全員分のチケットを購入し終えたカノが戻って来てモモが「遊園地なんてすごい久しぶりなんですよー、何から乗ります?」っと言った具合にテンション上げ上げの状態で女子高生らしくキャ、キャとはしゃいでいる。マミもマミでこんな大人数で遊ぶのは久々のようでモモほどではないがはしゃいでいる。

 

ここでセトの背中にもたれながらソワソワしているのが目に見えるマリーが普段の行動から想像もつかないほど元気な声で高らかに宣言する。

 

「ジェットコースター乗りたい!」

 

こうして最初のアトラクションが決定した。

 

 

 

「ちょ、やっぱ無理無理無理無理無理無理無理無理無理!俺やっぱりそこら辺で待ってる!」

 

「観念しろシンタロー、もう次だ」

 

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!とこの世の終わりでも見たかのようなとんでもない怯えた顔で叫ぶシンタローを無視してホタカはジェットコースターに搭乗する。時間も時間なのでそこまで並ばなかったのだがそのことがシンタローにとってはどうもよくなかったようだ。

せっかくだし最初は皆で乗ろうよ!というマリーの意見がなかったら今頃シンタローはこんな所にはいないだろう。

何故ならば彼は極度のビビリで乗り物酔いが激しい軟弱で汚れた少年だからである。

 

「わー、一番前だー!」

 

「マリーは髪長いからしばってた方がいいッスね」

 

「うん!」

 

と最前列でセトとマリーが楽しそうに話しており、

 

「大丈夫キド?」

 

「も、も、も問題ない...」

 

最後尾では強がっているキドのことをカノがからかっているようにしか見えない光景があり、

 

「ホタカさん、ジェットコースターって叫んでもいい系ですよね?」

 

「何だよその基準は」

 

前から二列目ではマミがホタカに叫んでいいかの質問をしていた、ていうよりも質問の内容がおかしい。

 

「シンタロー君は大丈夫?」

 

「だ、だ...」

 

「もーお兄ちゃんってば、大丈夫だよ!」

 

「だ...」

 

「ここまで来たなら覚悟決めろよ、男だろ?シンタロー」

 

「だ、だいじょ、ばなく...ない...」

 

そして最後尾の一つ前では楽しそうに笑うモモとは対照的にガタガタブルブルと体を震わせ顔を真っ青に染めたモモの兄のシンタローがいた。

どうやらここまで絶叫系が苦手とはホタカも予想しておらず、冗談抜きにヤバそうだとやっとのことで実感したのだがコースターはガタンッと音を立てて動き始めた。

 

「ヒッ!?」

 

「わー動いたー!」

 

シンタローの思いも無機質な機械のコースターに届くはずもなくカタカタとコースターは軌道に乗ってぐんぐん上昇していく。

結構な高さのようで上の方までやって来ると遊園地全体だけでなく近くの町並みの様子も見えるくらいの高さにまで上昇していた。

 

「あはは、お兄ちゃんってばビビりすぎ!」

 

「う、うわぁ...」

 

ホタカはもう後ろを振り向いてシンタローに声をかけることができないがとりあえず周りの景色を眺めて楽しそうに笑っていた。

そして後ろから「ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ」と小声でシンタローの声が聞こえるような気もするがもうどうしてやることもできない。

 

何故ならコースターは重力とレールに従いながら地上にもの凄い勢いで急降下して行ったのだから。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

シンタローの絶叫が後ろから聞こえる気がしたホタカだったが当の本人も楽しんで叫んでいるのでそれが本当にシンタローの叫びかどうかは定かではない。

 

一番前ではセトとマリーが楽しそうと言うよりも幸せそうな表情を二人で浮かべて、二列目のホタカは楽しそうに笑いながら叫びマミはジェットコースターに乗ったのが初めてのようで予想外の速度に涙を流し、三列目ではシンタローがただひたすら悲鳴を上げてモモは楽しそうに声を張り上げて、そして最後尾ではキドが目尻に涙を溜めて女の子らしい悲鳴を上げてカノはその様子を見て笑いを必死に堪えていた。

 

やがてコースターは一周し元の位置にまで戻ってきた。

 

「ほ、ほほほほほほホタカさん!な何ですか!こんなモンスターマシンに乗るどこが楽しいんですか、一体!」

 

「落ち着けマミ、そしてお前はもうジェットコースターに乗るべきじゃ」

 

「ふ、ふん!子供騙しな速度だったな」

 

「ふーん。子供騙し、ね」

 

「.....な、何だ、その目は」

 

「べっつに〜」

 

「シンタロー、早く降りないと次のお客さん乗れないよ?」

 

ホタカ達はコースターから降りるのだがシンタローだけはいつまで経っても降りる気配はない。

というか口元を抑えている。

 

「おい、シンタロー」

 

「まさか...」

 

セトが聞きずらそうにシンタローに尋ねる。

 

「シンタローさん、酔ったッスか?」

 

「..............」

 

数秒後、文字に表現できないほど汚ない効果音が響き渡った。

 




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追想フォレスト Ⅴ

早く新刊出ないかな〜(^^)



 

「どうシンタロー君、落ち着いた?急に吐くからビックリしちゃったよ」

 

「あぁ...悪いな...」

 

「俺、ジェットコースターで吐くやつ生まれて初めて見たわ」

 

げっそりとした表情のシンタローに付き添っているホタカとカノは笑いながらシンタローの背中を摩る。

ちなみにセトは水を買いに行き、キド達女子組は遊園地をエンジョイしている。もちろんマミも楽しそうにしながら付いていった。

 

「そういやシンタロー、お前そのジャージ脱いだら?絶対暑いし熱中症になってもおかしくないぞ?」

 

「それについては大丈夫だ、このジャージは見た目と違ってかなりの薄生地で通気性にも優れている。それにこれを脱いじまったら俺の肌が直射日光に当たってそれこそ危ない」

 

「.....意外にピュアだったんだな、お前」

 

結構真面目に語られてしまったのでさすがのホタカも一歩後退りをせざるをえなかった。カノは移動の疲れが出ているせいか大きなあくびを一つ吐く。

ホタカは緩くなったスニーカーの靴紐を結び直してベンチに座り直す。

 

「ほい、シンタローさん」

 

ベンチに座って各々が適当に時間を潰しているとセトがアクエリアスを一つ買ってきてシンタローの顔にぴとっと近づける。

ビビリの18歳シンタローはそれだけで、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?と叫び声を上げる。ホタカはあまりの喧しさに両耳を塞ぐ。

 

「お、おま!ビックリしたなぁ、いきなり何するんだよ!?」

 

「いやぁ、あまりにも隙だらけだったもんッスからね。つい」

 

「お前は武士かよ!」

 

セトはハハハハ、と笑いながらベンチにもたれかかりシンタローは心臓がバクバクしている様子が他から見てもわかる仕草で左胸に右手を当てる。

 

「いやー、でも皆で遊ぶのってのも良いもんッスね!」

 

「何気に初めてじゃない?セトも毎日バイトで大変苦労してるんだし」

 

「そうなんだよな、コイツ先輩が来られない日にもわざわざ自分からシフト組むからほぼ休まず来てるからな。ちょっとは休みも必要なのによ」

 

「いいんッスよ好きでやってんですから。それに昨日帰ったら人がいっぱいになってて驚いたッスよ!それで今朝はホタカさんとマミさんまで来るんッスから!」

 

「ホント、賑やかになってありがたいよね〜」

 

「ま、俺は最初は話してすぐに帰るつもりだったんだけどね。まさか団員として迎え入れられるなんて思わなかったよ」

 

「まぁキドはああ見えて結構寂しがり屋ッスからね」

 

シンタローを疎外して三人で会話は盛り上がる。

 

「でさ、セト的にはキサラギちゃんはどうよ?」

 

カノはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべながらセトに尋ねる。隣でシンタローがぴくっとわずかに反応したのは気のせいであろう。

 

「本当に礼儀正しい良い子ッスよ、まさかアイドルだとは思わなかったッスけど!」

 

「でしょ?キドが連れてきた時は本当ビックリしたよ、あの焦った顔ときたら...」

 

カノは笑いを必死に堪えるように腹を抑え始める。シンタローは少し気まずそうに俯いているがカノとセトの会話は止まらない。

 

「イシバシちゃんはキサラギちゃんとは正反対かな?結構僕に毒吐いてくるんだけどホタカ君、あれどうしたらいいのかな?僕あの子に何か嫌われるようなことした?」

 

「あいつはいつもあんな感じだから気にすんな。敬語を話してるようで敬ってない高等テクの持ち主だからな」

 

「え、俺そんなこと全然なかったッスけど?」

 

「セトは前々から俺の知り合いだったからじゃない?それに第一印象とかもあるかもな」

 

ホタカはカノに気にするな、と優しく声をかけるが返事はなかった。どうやらセトと比べて自分の第一印象がそこまで良くないことを気に触ってしまったらしい。

 

「あ、あとはエネちゃんね!あの子結構ぶっ飛んでて僕と気が合いそうなんだよね!」

 

カノがエネの名前を出した途端、シンタローが再びぴくっと動いたのは気のせいだろう。

 

「でも実際あれどうなってるんですかね?どういうシステムになってるんッスからね?」

 

「俺も気になってたんだよな。最近の技術って本当に進んでるよなー」

 

「不思議だよね〜、そもそもあんな可愛い子とどうやって知り合ったわけ?最近流行の出会い系サイトのアプリか何か?」

 

「違ぇよ!結構前から突然現れてパソコンに住み着いてんだよ」

 

「そんな嘘いいから本当のこと言って楽になりなって」

 

「嘘じゃねぇよ、本当にどっかから突然現れたんだよ。どこから来たかも自分が何者かも言わねぇしわからねぇ、聞いても答えないし」

 

シンタローの台詞にはどこか寂しさと哀しさにも似た感情がわずかながら読み取ることができた。

カノもそのことに気がついたのかは知らないがうんうん、と頷いている。

 

「つまりシンタロー君がエネちゃんのプライベートの過去をグチグチ聞いたせいで怒ったと」

 

「いやお前俺の話ちゃんと聞いてた!?今の話にそんな要素なかったよね!?」

 

「いや、そんな要素しかなかったろ?」

 

「お前が入ってくると話が一々こじれるんだよ!」

 

カノが笑顔を崩さずに根も葉もない話をシンタローに振りホタカが回収する、やはりシンタローはいじりがいがあると改めて感じたホタカとカノだった。

 

「まーまー、喧嘩はよくないッスよ」

 

途中から会話にうまく参加できていなかったセトが笑顔で仲裁に入る。

セトの笑顔はカノの笑顔と違い胡散臭さを一切感じさせない爽やかな笑顔でもあった。

 

「シンタローさん、せっかく今日はここまで来たんスから楽しまなきゃ損ッスよ!」

 

ビシィ!とセトが人差し指をシンタローに突き立てる、そして「なんなら」と続けてウィンクをしながら、

 

「俺も一緒に付き合うんで絶叫マシンの特訓、どうッスか?」

 

「お断りだ!」

 

即答だった。何とも意気地のない男である。

 

「少なくとも来世まで乗りたくねぇよ!ていうかお前らこそ俺に付き合わなくていいからどっか行って...」

 

途中まで言いかけてシンタローはハッとしたように目を見開く。

ホタカは少し気になり能力を使う、ほんの一瞬だけホタカの両目が赤く染まったがあまりにも一瞬の出来事だったので誰も気がつくことはなかった。

 

(なるほどね、そういうこと)

 

概ね理解したホタカはゆっくりと頬を緩ませる。

次の瞬間、シンタローが「今しかねぇ!」と突然立ち上がる。突然の出来事にカノもセトも驚きを表情に出す。

 

「え、なになに?どうしたの急に、もしかして発作?」

 

「何でだよ!」

 

「ちょっと落ち着けよ、なんか笑い方キモいぞ」

 

「言うなよ、気にしてんだから!ちょっと俺一人でブラブラしてくる、じゃ!」

 

シンタローはそれだけ言うとスタスタと歩き去って行ってしまった。ホタカ達はシンタローの後ろ姿を見送りホタカはニヤリと笑みを浮かべてスマートフォンを取り出す。

 

「そろそろいいんじゃないか、エネ?」

 

『.....やはり茶髪さんは侮れませんね、いつ気がつきました?』

 

「今だよ、どうして俺の携帯に移動して来たんだ?」

 

『.....少し話がしたいのですがよろしいですか?』

 

「?いいけど」

 

ホタカはスマートフォンを仕舞うセトとカノに少し外す、と言葉を残して人気のない場所に移動する。

 

「それで、何?話って」

 

『茶髪さんってご主人の昔のご友人だったんですよね?』

 

「一応な、それがどうしたんだ?」

 

ホタカが聞き返すとエネは少し黙り、やがて決心したようにホタカの目をしっかりと見る。

 

『実は、私元々は人間でご主人、シンタローの先輩にあたる人物だったんですよ。多分ホタカさんとも一度会ってると思いますよ、文化祭の時に』

 

「文化祭?」

 

エネが態々ホタカのことを茶髪さんではなく名前で言ったことに何か意味があるはずなのだが、ホタカはそこまで細かいところにまで気がつくことはなかった。

 

『ヘッドフォンアクターっていうシューティングゲームの出し物を覚えてませんか?』

 

「覚えてるよ、確かあの時はアヤノもいて....あ!」

 

まさか、とホタカは画面の中にいるエネを見る。確かに面影もあるしそういう名前を使っていた気がする。

しかし、ホタカが高校に居た時など本当に短い間だったので忘れてしまっていた。そう、あまりにも短かった高校生活で知り合ったシューティングゲームが得意だった先輩がいた。

 

「榎本先輩....なんですか?」

 

画面の中の『エネ』はゆっくりと頷いた。

 

 




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ヘッドフォンアクター

忙しくて中々更新できない...(^^;;


 

少し時を遡り、ホタカがまだ中学三年生でマミとまだ出会う前の頃...

 

「え、学園祭?」

 

「そうなのよ!お父さんの務めてる高校で学園祭やるんだって。私もそこに入ろうか考えてるから体験がてらにハヤトも行かない?」

 

「別にいいけど、いつ?」

 

「明日」

 

「めちゃくちゃ急だな!」

 

ある中学校の三年生の教室でホタカは一人叫ぶ。幸い今は放課後なので生徒は辺りにいることはなかったのでホタカを白い目で見てくる輩は一人もいなかったことが幸いだろう。

 

「ていうか、アヤノの親父さんって教師だったんだな。初めて知ったぜ」

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

「初耳だ、子供が好きとは聞いてたけどあの人が教師なんてやってるなんてな。白衣着て人体模型と戯れてる様子しか思い浮かばねェわ」

 

あはは、と苦笑いする少女、楯山文乃(たてやまあやの)は首に巻きつけた真っ赤な色のマフラーを巻きなおしながら鞄に教科書を詰め込む。

その隣で死んだ目をした天才少年、如月伸太郎ことシンタローがホタカとアヤノの会話に目も向けず静かに読書をしている。

そんなシンタローの様子を見かねたアヤノはトタトタと彼の元まで歩いて行くと本を取り上げる。

 

「うぉ、何すんだよ!?」

 

「ねぇシンタロー。シンタローも明日学園祭に行かない?」

 

「な、何で俺が!?ていうか俺が行かなくてもホタカがいるんじゃないのかよ!」

 

「三人で行った方が楽しいじゃない!ねぇシンタロー、いーこーうーよー!」

 

「だーもー!離せェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

器用にシンタローに絡みつくアヤノを無理に振り払おうと体をジタバタとさせるが軟弱な彼の体では女性の体一つ動かすことはできなかった。

その様子を偶然目撃した他クラスの女子生徒が目に止まらない速度で携帯電話を取り出して写メを撮っていたのをホタカが偶然目撃したのは別の話である。

ホタカは手元にあったペットボトルを手に取りシンタローにゆっくりと近づく。

 

「諦めろよシンタロー、こうなったアヤノは聞き分けが悪いからな。お前もそんくらいわかってるだろ?」

 

「だったらせめてこの状況をどうにかしてくれよ!誰かに見られでもしたら恥ずかしくて死んじまうよ!」

 

「安心しろ、もう既に写メ撮られてるから。俺も撮ったし」

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

こうしてシンタローの参加が決定したのであった。

 

 

 

そして当日...

 

「おい遅ぇよ。置いてくぞ」

 

「シ、シンタロー、待ってよ!ごめんね!」

 

「結局一番はしゃいでんじゃねぇかよ、あいつ」

 

やれやれ、とホタカは肩をすくめながら二人の後を追う。いつしかアヤノに褒めてもらった赤ジャージを着るシンタローを先頭に何故か制服のアヤノに続き長袖で白いカッターシャツを着たホタカといった感じである。

一番最初に集合場所にやって来ていたのはシンタローで一番最後に到着したのがアヤノだった。彼女自身無自覚だがどこか抜けている所やドジな所が目立つ部分があるので早速何かやらかしたのだろう、とホタカとシンタローは勝手に予想していた。

 

やはり高校の学園祭というだけあって中学でやる文化祭や学園祭とは規模も内容も違い、生徒一人一人が生き生きと今日この日を待ち望んでいるようにはしゃいでいた。

何やら今からサバイバルゲームでもしに行くような服装を着込み集団でウロウロしている少し浮いた方たちも見かけたが何も起こらないことを祈っておこう。

 

シンタローとアヤノとホタカの三人は出店で適当に昼食を済ませる。

 

「お前、飯にもコーラ合わせんのかよ。体に悪くないか?」

 

「俺の勝手だろ、ハヤトこそ何で焼きそば三人分を一人で平らげようとしてんだよ。俺らの分も一緒に買ってきたんじゃなかったのかよ」

 

「頼まれてもないし一言も言われてないしな」

 

「.....お前って本当気遣いとか知らない奴だよな」

 

お前には言われたくない、とホタカが一人前の焼きそばを完食して二つ目に手を伸ばそうとした時にアヤノが戻ってきた。

 

「ごめんね、結構たくさんあったから迷っちゃって」

 

「.....悩んだ結果がお好み焼きって、ベタだな」

 

「いいじゃん、美味しかったら。シンタローこそコーラばっか飲んでて体に悪いよ。たまには水とかお茶とかも飲まないと」

 

「俺はこいつじゃないと動けねぇんだよ」

 

「それにしても中々いい雰囲気の高校だな。俺もここ受けようかな?先生にさっさと志望校決めちまえって急かされてたし」

 

「.....お前まだ決めてなかったのかよ」

 

シンタローが呆れた様子でため息をつく。実際現在は十月に入ろうとしているので一般の受験生は志望校入学を目指し過去問やら対策の大詰めをしている時期である、ホタカのようなスローペースな受験生は少し珍しい。

 

「そういうお前は一体どこの有名高校に進学するつもりだ?お前の学力ならここらで一番偏差値の高い所でも問題ないだろ」

 

「どこでもいいだろ。別に話すようなことでもねぇからな」

 

一同は一通り昼食を済ませると今度は校舎の中に足を踏み入れる。

外とは違う出店が出店されておりそれこそ室内でしかできないような種目も存在する。

壁のあちこちには宣伝のポスターが貼ってありどのクラスも売り上げ上位を目指そうと必死な様子が目に見える。

 

すると、背後から先ほど見かけた迷彩柄の服を纏った二、三人のグループが物凄い勢いで走って行った。

 

「おい聞いたか、ここに閃光の舞姫エネさんがいるらしいぞ!」

 

「マジかよ、あの全国大会二位の化け物が!?」

 

「何でも射的ゲームで現在無敗の記録を叩き出してて今でも挑戦者が絶えないらしい!」

 

「.....射的、ね」

 

「どうした、やけに興味深々じゃねぇかよ」

 

シンタローはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「全国二位、か。ちょっとお手合わせ願いに行こうぜ」

 

 

 

目的の射的ゲーム「ヘッドフォンアクター」はすぐに見つかったのだが、迷彩柄の服を纏った男たちの熱狂で埋め尽くされており、順番待ちに時間がかかってしまった。

待つこと二十分、その間シンタローは無言でプレイ中の画面をじっと見つめていた。

 

「き、君が次の挑戦者だね。よろしくね!ルールはわかる?一回説明したほうがいいかな?」

 

何やら無理矢理笑顔を作ってます感満載のツインテール少女が相手のようだ。少女の言葉に笑みも浮かべずシンタローは静かに口を開く。

 

「あんた、全国二位だとかで随分調子に乗ってるみたいだけど、見ていた限り全然大したことないよ」

 

「.....は?」

 

「読みも甘いし動きも雑、見ていてイライラするよ。よく二位なんかになれたね」

 

(.....悪い癖が出ちゃったな)

 

ホタカはシンタローの様子を見て小さくため息をつく。

何故かはわからないがシンタローは無意識に人をイライラさせたり煽ったりしてしまう。それが初対面や知人といった関係一切なしで。

少女はヒクヒクと笑顔を固まらせながら見ていて露骨にイライラしている様子がわかる。

 

「あ、ごめん。お姉さんよく聞こえなかったんだけど」

 

「あんた、弱いって言ってんだよ」

 

そこから少女は笑みを浮かべることはなくなった。

一触即発の状況になり少女もムキになって言い返すがシンタローはそれを表情を変えることなく冷静かつ的確に論破していく。最終的に「あんたが勝ったら何でも言うこと聞いてやる」とか言い出す始末である。

 

「私だって負けたら何でも言うこと聞いてやるわよ!何ならあんたの下僕になってご主人って呼んでもいいわ!絶対に負けないから!!」

 

少女は熱くなる勢いでとんでもないことを言うがシンタローはそれすらも表情を変えずに興味を失ったように画面に目を向け直す。

 

「あっそ、やっぱあんたつまらないよ。さっさと始めようよ」

 

この一言をキッカケにゲームは起動音を鳴らし対戦が始まった。

 

 




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カイエンパンザマスト

久々の更新です(^^)
急展開注意です!


 

8月15日、夕方...

 

徐々に太陽が沈み始めカラスが鳴き出す時間帯にホタカ達、メカクシ団一行は閉園時間を過ぎるまで遊び尽くしアジトに戻るためゆっくりと歩いていた。

 

「つ、疲れた...」

 

「でもそれ以上に楽しかったからいいじゃねぇか。久々の外出も満喫できたんじゃねぇか?」

 

「じょ、冗談じゃねぇよ。遊園地なんかもうこれっきりだ」

 

「.....このヒキニートが」

 

ホタカが冷めた目でシンタローを睨み溜息を一つ吐く。

久々の運動に今にも倒れそうなほどぐったりしているシンタローの背中でうつらうつらと舟を漕いでいるマリーがシンタローから更に体力を奪っていた。

 

「いやシンタロー君いいじゃないの!女の子をおんぶできる機会なんて今後一生訪れないかもしれないよ、冗談抜きで」

 

「最後の言葉はスルーするが代わってやってもいいんだぞ?」

 

「いやいや。ジャンケンで負けたシンタロー君にそんなこと言う権利あると思ってるの?」

 

「そうだぞ、要はお前が負けなければよかったんだ」

 

「お前ら絶対ワザと言ってるだろ!」

 

ニヤニヤとシンタローに向けて笑みを浮かべるホタカとカノはどこで意気投合したのかはわからないが妙に仲が良いように見られる。

隅っこの方で便乗してニヤニヤしているマミも彼らと同じくらいシンタローには嫌らしく映った。

 

「すまんなシンタロー、こいつときたら自分で舞い上がっておいて倒れるなんてな。おいマリー、シンタローも一応疲れてるんだ、ちょっとは歩いた方がいいんじゃないか?」

 

「うぅ、ね、眠い...もうちょっとだけ、セト〜」

 

「ハハハ、しょうがないッスね。マリーこっち来るッス!」

 

「わ、悪いなセト」

 

「ほーら!高い高ーい!」

 

「わーい!もっともっとー!」

 

「元気じゃねぇかよ!」

 

「子供か!」

 

「ホタカさん、私も...」

 

「.....冗談は口だけにしておけ」

 

何だかんだで元気なホタカ達は端から見れば年相応の子供らしく純粋に青春している姿に映っているだろう。

 

テロリストに立ち向かい撃退することができても、能力という世間一般から離れた特殊な力を宿していると言っても彼らはまだまだ子供である。笑って泣いて楽しんで悲しんで喜怒哀楽が最も表情に表すことのできる世代でもある。

 

ホタカとマミは彼らと出会ってまだ過ごした時間は少ないが最初僅かに芽生えていた敵対心や警戒心はすっかり無くなり彼らの中に溶け込んで共に笑いあっていることに気づかされる。

 

「おいエネ、どうしたんだ?珍しく静かじゃねぇか」

 

『なんでもありませんよ、ちょっと色々思い出していただけですよ。ご主人』

 

「色々??」

 

『まったく、ご主人が昔のことなんて聞くからですよ!」

 

「あれ?お前今昔のことって」

 

『だーかーらー!それは秘密なーんでーす!ホンット昔っからデリカシーないんですから!茶髪さんを見習ったらどうなんですか!』

 

「はぁ、んだよその言い方は!それに何でそこにハヤトが出てくるんだよ!」

 

「あれれ?もしかして喧嘩?仲がよろしいことですねぇ」

 

「違ッ、ニヤニヤんな!」

 

「どうせお兄ちゃんがまたエネちゃんに変なことでも聞いたんでしょ、いい加減懲りなよ」

 

「お前はなんでそんなに偉そうなんだよ!」

 

ギャーギャー騒ぐシンタロー達をホタカは少し離れた位置から見ていた、正確にはシンタローの携帯の中に住み着いているエネのことを。

 

「?どうしたホタカ?」

 

「いや、なんでもない」

 

キドがホタカに心配そうに話しかけるがホタカの表情は変わらず硬いままだった。

 

(.....榎本先輩。いや、エネさん)

 

 

 

数時間前...

 

「.....なんで俺らシューティングゲームやってんですか?」

 

『いや〜昔話をしたら久々にやってみたくなったんですよね。上手くハッキングできてよかったです」

 

「.....榎本先輩、さっきの話本当なんですか?」

 

『.....信じるも信じないも自由だけど今の私はエネ。間違ってもその名前は皆の前で言わないでよ』

 

画面の中の敵キャラが血飛沫を出して倒れる。

中々グロテスク表現のあるシューティングゲームでホタカとエネの好みでもあったのだが何故このようなスプラッタ系シューティングゲームが遊園地にあるのかはわからなかった。

 

『正直言えば私でも何が起こったのかまだ理解できていないの。あの時なんで先生が現れてコノハがいたのか、あれはどこだったのか』

 

「どうして俺に話したんですか?別にシンタローでもよかったんじゃないですか?」

 

『あいつはまだ立ち直ってないみたいだからね。これ以上重荷を背負わせたくなかったの』

 

「エネさん」

 

『ほらほらほらほら!油断してると一気に点差開いちゃいますよー!』

 

「なっ、ちょ、それ卑怯ッスよ!」

 

 

 

(まぁ、今が楽しいならそれでいいや)

 

ホタカはマミの頭に手をポンと置いてくしゃくしゃと撫で回す。

突然のことでマミはよくわからないと言った表情と何するんだこの変態野郎、と言った何とも言えない目でこちらを睨んできていた。

 

「あれ、あの人こっち見てない?」

 

「え?」

 

唐突にモモが車道を挟んだ歩道に一人の青年が立っていた。たしかに視線はこちらを向いているようにもホタカも感じ取れていた。

 

一言で青年のことを表すなら『黒』だった。

 

黒い髪に黒い服、黒いズボンに黒い靴と所々に黄色の模様が入っていた容姿の青年はズボンのポケットに両手を突っ込みながらこちらを凝視していた。

 

「もしかして私が見えてるとか?」

 

「いや、それはないはずだ。俺の目を隠す能力でキサラギの存在は極限まで薄めているからな」

 

「見るからに怪しそうな野郎だな」

 

「同感ですね」

 

ホタカとマミは無意識に警戒心を芽生えさせて黒い青年に軽蔑と敵意の眼を向ける。

 

すると...

 

「団長さん、あの人こっちに来てませんか!?」

 

「なっ...!?」

 

青年はニヤリと小さく笑みを浮かべて車道を堂々と歩きこちらに向かって来た。

 

『どうしましたご主...』

 

エネの言葉が途切れる、そして驚きで言葉が出ないといった表情を浮かべ、やっとのことで言葉を口に出す。

 

『コノ...ハ...なの?なんで...』

 

青年は車道を越えて何故かメカクシ団の行く手を阻むように立ち塞がる。

驚くほど自然でゆったりと迷いのない行動だった。

 

あまりに突然の登場だったため誰も彼もがその場を動くことも言葉を発することもできなかった。

 

「いやーすみませんねぇ!」

 

そんな中、カノが青年に謝罪するようにいつもの軽い調子で話しかける。

 

「なんか大勢で道塞いじゃったみたいで、邪魔でしたよね?すぐにどきますの」

 

「あぁ」

 

カノの言葉を遮り青年は初めて言葉を発する。

その表情は暗く冷たいモノだった。

 

「あの時の『欺く』の子か」

 

青年はゆったりとした調子で言葉を続ける。

カノは呆気に取られ返す言葉を失っていた。

 

「随分上手に扱えるようになったものだな...」

 

青年は笑った、笑顔ではなく狂気に満ちた狂笑。

その言葉が今の青年の表情を表すのに最も当てはまる言葉だろう。

 

カノはホタカ達に何か言おうとこちらを振り向くがそれがいけなかった。

決してカノは青年から目を離してはならなかった。カノの背後でガチャという金属音が小さく鳴る。

 

「君の大嫌いな傷がまた増えるね」

 

パァン、と決して鳴ってはならない音が鳴り響いた。

あまりに一瞬の出来事だったので目の前の現実を理解し行動することが遅れてしまった。

 

目の前に映るのは頭から血をボタボタと垂らすカノの姿、ホタカはその姿を見て目頭が熱くなるのを感じ取った。

 

「修哉ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

最初に動き出したのはキドだった、倒れたカノの体を支えて何度も何度も呼びかける。

 

「おい、しっかりしろ!修哉、嫌だ嫌だ、頼むから私の側から離れないでくれ、修哉!」

 

キドが何度も呼びかけるがカノが返事をすることはなかった。

キドの呼びかけも虚しくカノの両目は静かに閉ざされようとしていた。

 

『お母さん!』

 

『よろしくね、つぼみ、幸助』

 

『姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!』

 

「な、何だ?コレ??」

 

一瞬、遅れて動き出すセト達とは違いホタカはその場に両目を抑えてうずくまっていた。

ホタカの両目は真っ赤に染まっており能力が発動している状態だった。

ホタカの意思で発動したのではなく能力が発現した当初のように無意識に発動したと思われる。

 

パァン、と再び銃声が鳴り響く。

青年に向かって走り出したセトの脇腹が撃たれたようだ。

 

セトは脇腹を抑えながら興奮状態にあるためか目が真っ赤に染まり能力が発動しているのがわかる。

 

「なっ、お前は...」

 

セトが必死に言葉を繋ごうとするが接近してきた青年により髪を乱暴に掴まれ銃口を口に向けて黙らされる。

その後、無情にも三回目の銃声が鳴り響いた。

 

『お願い、何でもするから!はなこだけは助けて!』

 

『世界は案外、怖がらなくてもいいんだよ』

 

『.....兄弟なんだから』

 

「ま、た...だ...!」

 

再度ホタカの目に視界に映る別の何かが映る。

ホタカが顔を上げると青年はキドに拳銃を向けてニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「ヒッ...!」

 

「キ、ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

バァンバァンバァンバァンバァン!とホタカの叫びも虚しく五度の銃声が鳴り響いた。

 

『もう、嫌だ。消えたいよぉ』

 

『こ、怖くなんかないもん』

 

『俺が団長か?フッ、悪くないかもな』

 

再度ホタカの目にナニカが映るが目の痛みを抑えながら勢い良く立ち上がる。

ホタカの両目からは涙が流れていた。

 

「おぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「そうか、君が女王の希望か」

 

ホタカは勢い良く青年に飛びかかるが呆気なくかわされる。

 

ガチャリ、と向けられた拳銃に気がつくことができずに。

 

「次の世界では別の出会い方をしたいものだ」

 

バァンバァンバァン!と三回銃声が響き渡った。

 

「ホ、タカさん?」

 

マミはゆっくりと倒れたホタカに歩き寄った。

今の彼女の瞳に生気は感じられず絶望感に浸っている様子だった。

 

「マミちゃん、そっちはダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

モモがマミに叫ぶが手遅れだった。

 

既に青年はマミに向けて拳銃を構えていた。

 

(あぁ...)

 

マミは青年を見上げながら抑えていた涙を流し始めた。

 

(あの時も、こんな感じだったなぁ)

 

青年は口が裂けるくらいに狂笑する、とても嬉しそうに。

 

(あの時みたいにまた助けてよ、ホタカさん!)

 

マミの想いは届くことはなく、無情にも銃声は鳴り響きマミの頭を確実に撃ち抜いた。

 

 

 




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目が廻る夏の話

コミックス完結お疲れ様です(今更)
というわけである程度構想練れたので、続きです


 

─蛇が囁きかけてくる。

 

『─ようこそ、我が胎内へ』

 

─蛇が囁きかけてくる。

 

『貴様には使命がある』

 

─蛇が囁きかけてくる。

 

『焼き付けるにはまだ早い。 貴様の役目は通すことだ』

 

─蛇が囁きかけてくる。

 

『一度だけでは足りぬ、何度でもだ。 この繰り返される日々が続く限り、貴様は目を通し続けるのだ』

 

─蛇が身体に馴染んでくる。

 

『俺も貴様の目を通る。 貴様はこの世界に目を通せ、それこそが貴様の積むべき善行である』

 

─蛇が目に通ってくる。

 

『目が冴える前に焼き付けろ、欺きながら盗め、隠しながら集めろ、合わせながらも凝らし続けろ、貴様は目をかける必要はない。 さぁ、目を覚ませ、目を醒ますのだ』

 

─蛇に言われるがまま目を開く。

 

『─それでいい、我が主よ。 貴様はそのままでいいのだ』

 

─瞬間、目を通す蛇が噛み付いてきた。

 

 

 

日が暮れた遊園地。

その近くで七人の若い男女の亡骸が発見される。

死因は銃殺。 即死の者もいれば、そうでない者もいる。

明らかな殺意を持って行われた犯行として捜査が進められることだろう。

 

第一発見者は不明。

しかし、警察に情報が行き届いているということは第一発見者、通報者もいることになる。

監視カメラの映像には一人の黒い青年が一人で銃を撃っている様子しか映っていなかった。

不可解な事件だが、この事件には始まりも終わりもない。

 

─その前に世界が巻き戻ったのだから。

 

8月15日は終わりを告げる。

 

そして、8月14日がまた訪れる。

 

 

 

8月14日の朝。

真夏の暑さが襲い来る一室で穂高颯斗は目を覚ます。

 

また妙な夢を見た気がする。

バスで行ける距離の遊園地で人が死ぬ夢だ、それはとても鮮明でまるで昨日の出来事のようだ。

もちろんそんなニュースは一切ない、この平和ボケした島国で拳銃が凶器に使われたとあれば、それだけでラジオもテレビも大騒ぎだ。

 

そして─

 

「.....女王」

 

無意識に口が動いた。

それが何を指しているのかはわからないが、ホタカは知っている。

矛盾した思考に頭がおかしくなりそうだった。

 

「あ、ホタカさん起きてましたか」

「マミ」

 

居候させてもらってる石橋家の一人娘舞美が人の部屋に遠慮なく入ってくる。

─とてもではないが、マミは女王ってガラではない。

 

「どうしたんですか? 朝ごはん、お母さんが作って置いてくれてますよ」

「いや、女王について考えてた。 朝ごはんはもらう」

「.....まだ寝惚けてます? 目がめっちゃ充血してますよ、超真っ赤なので先に顔洗ってきた方がいいんじゃないですか?」

「まじか」

 

─またか。

ホタカがマミの家にお世話になってから、目がよく充血するようになった。

三年前、銀行強盗の人質に取られてたマミをホタカが無謀にも助けた。

二人共、危険な状態で一回心臓止まったらしいが、奇跡的に回復できたというのが医者の話だ。

 

それからだ。

妙な夢、充血する目。

ホタカはこの現象のことを夢の中で囁かれる言葉を取って“能力”とひとまず呼んでいる。

 

「.....超真っ赤だ、カラコンしてるみてぇだ」

 

朝ごはんを食べ、簡単な家事を済ませ一段落したのが昼前。

丁度マミも暇していたのか、リビングでゴロゴロしている。

 

「マミ、今日暇?」

「暇ですよ、見ての通り」

 

動きが二段階くらい早くなった気がする。

 

「遊園地行かね?」

 

─端から見れば、これはデートということになるのだろう。

マミの動きも一瞬だが止まった。

 

「.....ホタカさん、熱、ないですよね?」

「失礼な奴だな!?」

 

 

 

近所だったからもしれない。

夏の暑さにとうとう頭がやられてしまったからなのかもしれない。

気になることがあったからかもしれない。

 

意味もなくホタカという男が遊園地に誘ってくるなんてことはない、とマミは勘繰っていた。

三年前、颯爽とマミのことを助けてくれたホタカは紛れもないヒーローである。 病院に運ばれてからの記憶はかなり曖昧だが、それでも助けてくれたことに変わりはない。

 

そんなマミにとっては憧れとも言えるホタカから遊園地に行こうと誘ってくれることがどれだけ嬉しいことか、隣を歩く朴念仁は気がついていないことだろう。

 

「珍しいですね、ホタカさんからデートのお誘いなんて」

「別にデートってわけじゃねぇよ。 ただ、ちょっと、そう、気分がそうだったんだ」

「.....思いつかないなら普通にデートでよくないっすか?」

 

頬を膨らませるマミに構わず、ホタカは前へ歩き続ける。

バスに乗り、バス停から降りてすぐのところに目的の遊園地はあった。 たしか、この辺りで人が殺されてたんだ。

 

「.....ホタカさん?」

 

なんでもない、と返す。

入場券を買い、まずはジェットコースターに乗ることにした。

ホタカ自身、何故ジェットコースターを選んだのかはわからない。 まるで何かを辿るようにして自然に選んでしまったとしか言えなかった。

 

「ホタカさん、ジェットコースターって叫んでもいい系のアトラクションでしたよね?」

「なんだよその質問」

 

順番が回ってきた。

今年の8月14日は暑いが、それでも人は多く来園していた。

 

「いやぁ、やっぱ静かに楽しみたい系のアトラクションもあるっていうか」

「お前、たしか遊園地初めてだっけ?」

「そうですけど、それがな─」

 

コースターがいつの間にか登りきっており、マミの言葉が途切れた。

登ってしまえば後に起こるアクションはただ一つ、勢いよく元の位置まで戻るだけだ。

 

「ほ、ほほほほほほほホタカさん!? なんなんですか、こんなモンスターマシンに乗るのが、一体! どこで! 楽しむんですか、一体!!?」

「落ち着けマミ、お前はもうジェットコースターに乗るべきじゃない」

「私、乗りたいなんて一言も言ってませんけど!!?」

「.....そうだったか?」

 

あれ、じゃあ誰が乗りたいって言ったんだ?とホタカは首を傾げる。

たしかに誰かがジェットコースターに乗りたいと言ったから、乗ったとホタカは思っていたのだ。

 

ジェットコースターの後、マミを休ませるためにベンチで休憩を取った。

そのあとは若干スプラッタなシューティングゲーム、氷の大迷宮、お化け屋敷人形館、マミに誘われて観覧車。

今は観覧車の中から夕焼け空を眺めている。

 

(.....それにしても、今日行った場所は全部一回、いや、もう何回も行ってる気がする)

 

不思議と初めてという感覚にはなれなかった。

目の前で嬉しそうに外を眺めるマミを見ながら、ホタカは頬が緩んでるのがわかる。

 

夢のことで気が重くなっていたのも事実、でもマミがそれ以上に楽しんでいたということがわかった。

それだけでホタカは十分である。

 

「そろそろ帰るか」

「そうですね」

 

観覧車を降り、遊園地の外へ向かい二人は歩く。

メリーゴーラウンドの近くを通りかかったとき、ホタカは見知った顔を発見する。 向かい合う形になったので、向こう側もこちらに気がついたようだ。

 

そいつは本来そこにいるやつではない。

 

こんなところに一人でやってくる奴じゃない。

 

「─シンタロー」

 

不登校になった中学時代の友人が目の前に立っていた。




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ロスタイムメモリー Ⅰ

 

「知り合いですか、ホタカさん?」

「ダチだよ」

 

こんな真夏に燃えるように暑そうなパーカーを着る奴なんて他にいない。

死んだ魚のような目も相変わらず、ホタカの記憶の中のシンタローそのものである。

 

「ハヤト、なのか? なんで、生きて、え、ゆう、霊.....?」

『ご主人?』

「─人を勝手に殺してんじゃねーよ」

 

不登校の引きこもり。 如月伸太郎の代名詞である。

中学時代はそこそこ顔は出していたものの高校に入ってからはその顔を見ることは随分少なくなった。

ホタカ自身も高校は休学扱いになっているので、彼のことは特に言えない。

 

「それにしてもお前が外出するなんて、明日は槍でも降るのか?」

「おま、お、俺だって外出くらいするわ!」

『ご主人二年ぶりの外出じゃなかったでしたっけ?』

「しまった、こんな身近に嘘発見器が!?」

「お前、いくら友達出来ないからってそういうのは、いや、最近たしかに流行ってるけどさ」

 

スマートフォンに向かって話してる同級生を見ると何故か悲しくなってくる。

 

「ちょっと、ホタカさんや? 距離が遠すぎませんかー? 俺の肺活量じゃこれ以上の大声は辛いんですけどー!?」

「気にするな、物理的な距離はあっても心の距離はすぐそこだろ?」

「俺たち友達だよなー!?」

 

シンタローが息を切らしながらこちらに向かってきてる。

ホタカはケラケラ笑いながら待っている、双方とも同級生との再会は嬉しいものらしい。

 

「それ、で、そっ、ちは、ハヤト、の妹さ、ん?」

「違うぞ」

「そうですよ、恋人です」

「それも違う」

 

今度はシンタローがドン引きした。

 

「.....ロリコン」

「俺たち友達だよな!?」

 

 

 

何が悲しくて夕暮れの遊園地で18歳の男二人が息を切らさなければならないのか。

訳も分からず、とりあえず近場の喫茶店に入って一息つくことにした。

 

「.....まじでどういう技術だこれ」

『技術ではありません! 生命です、生きてるんですよ、茶髪さん!』

「世の中は謎に満ちてます」

 

ホタカとマミはシンタローのスマートフォンの中に住む少女、エネに興味を持っていかれていた。

シンタローは蚊帳の外である。

 

「それであんたがシンタローの面倒見てくれてるってことでいいんだよな、迷惑掛けてないか?」

『それはもう、迷惑だらけですよ』

「おいコラ」

 

突如、届いたメールを開いたら勝手に住み込んでたという迷惑な存在である。 むしろ、迷惑を受けているのはシンタローの方であった。

 

「お前、喫茶店でもコーラってどうなの?」

「風情よりも好きなもん飲む方がいいに決まってるだろ、こっちは金払ってんだぞ」

 

元も子もなかった。

 

「それで、なんでお前は一人寂しく遊園地に来てたんだ?」

「俺だって好きで来たわけじゃねぇよ。 エネとモモが煩くてな─」

 

なんでも、限定ストラップなるものがあったらしい。

学校の補習で来れなかった妹の代わりに自宅警備員が持ち場を離れてまでもここまで来たというのが彼の言い分であった。

 

「これのために、まさか一日使う羽目になるなんてな」

『ご主人の運動不足のせいでバスを何本も逃してしまったのが痛手でしたね』

「お前は本当に何もしてないだろ!」

「お前ら仲良いな」

 

思わずホタカが呟く。

頬を緩めてニヤニヤと笑うのを我慢しながら。

 

「.....本気で言ってんのかよ」

「本気だよ、お前が生き生きしてるのなんて見るの久々だし」

「.....なぁ、ハヤト」

 

時刻は六時を回ろうとしていた。

シンタローはさっきまでと打って変わり、真剣な表情を浮かべホタカの顔を見る。

 

「─生きてたんなら、なんで学校来なくなっちまったんだよ」

 

悲痛な声、やっとの勢いで絞り出したシンタローの声はとても弱々しかった。

 

「あいつ、もいなくなって、俺は、一体、なんのために─」

「.....アヤノが?」

 

時間が止まった気がした。

これ以上触れてはいけない、世界がまるで真相を探ることに歯止めを掛けているような感覚になった。

 

「─死んだ」

 

また、目が充血したような気がした。

 

 

 

楯山文乃。

一緒の中学でホタカとシンタローが共に仲良くしていた少女である。

どうやら彼女は二年前に自殺をしたようだ、ホタカの与り知らぬところで。

シンタローからそのことを聞かされたときは頭が真っ白になった。

 

今でも夏の日にも関わらず真っ赤なマフラーを巻いていた彼女の笑顔が頭を過る。

三人で高校見学と称して文化祭に行ったことも覚えている。

アヤノの家に行き、弟妹と遊んだことも、図書館で勉強したことも、ファミレスで食事をしたことも思い出として色褪せることはない。

 

─その思い出が瓦解した。

失われた記憶となったような感覚。

 

「ホタカさん...」

「悪いマミ。 家まで送るから、先に晩飯食っといてくれ。 行かなきゃいけない」

 

シンタローから聞いたアヤノの墓、今日行かなければならない気がした。

─8月15日を迎える前に。

 

 

 

墓所は皮肉にも母校の近くだった。

楯山家墓標とある一つに彼女の名前が刻まれていた。

閉店ギリギリの花屋に駆け込み、彼女が好きだった薊の花を小瓶に添える。

 

「.....俺は助かったけど、アヤノは助からなかった、のか」

 

もし、マミを置いて行ってしまえていたのならばホタカはアヤノと同じところへ行けただろうか。

マミを悲しませることにならなかっただろうか、シンタローのことも救えただろうか。

 

「俺さ、お前が死んだってこと全然知らなかったんだマミを守るため恩を返すために必死こいてバイトして手伝いして世界のことなんか目を向けなんてしなかったシンタローとも連絡取ることなかったしお前の弟妹達にも会ってやれてないお前がいるから大丈夫だって心の中でずっと思ってたんだそれなのに今日知ることになるなんて笑えるよな俺は本当に馬鹿だよ今日遊園地に行ったのも俺に罰を与えるためなのかアヤノ俺が不甲斐ないからお前なりの喝を入れてくれたのかだとしても俺が言うのもあれだけどもう少し優しくしてくれても良かったんじゃないかとも思うんだけどシンタローほどじゃないにしろ勉強も手伝ったし弁当もお裾分けしたし委員会の仕事も手伝ったし体育のときにもマフラー巻いてるからってぶっ倒れた時も運んだの俺だぜ恩を売ってるってわけじゃないけどこんなことないだろ俺だってショック受けるし人間だ目の前のこと必死になってることは認める最近妙な夢を見て蛇が囁きかけてくることもお前が飛び降りた日も全部見せられて俺はおかしくなりそうだったんだよ楯山先生も冴えるに囚われちまっておかしくなるしさコノハもエネもいつまであの身体を維持できるかなんてわからない女王はまだ幼いんだからあまり無理はさせちゃいけねぇなぁ覚えてるか俺が─」

 

「─うるさいよ」

 

闇から声が聞こえた。

黒い髪に黒い喪服のようなセーラー服、真っ赤なマフラーと両目だけがアンバランスな世界を彩っている。

記憶の中のままの少女、死んだはずの友人がホタカの後ろに立っていた。

 

「アヤノ.....?」

「─軽々しく名前を呼ばないでくれる?」

 

一歩、一歩とアヤノが近づくたびに背筋が凍るような感覚に襲われる。

背には墓標があるのでこれ以上後退することはできない。

 

─アヤノとの距離がゼロになる。

記憶の中の表情、ではない。 見たこともないくらい冷めた表情。

侮蔑の目でこちらを見上げてくる。

 

「─今更懺悔? それで許されると本当に思ってるの?」

「いや、俺は」

「めでたい頭してるよ、笑えてくる」

 

彼女の髪が風に揺られる。

 

「違うんだ、俺は、そんなつもりは─」

「嘘つき」

 

彼女の赤い目が突き刺さる。

決して逸らすことのできない赤い目がホタカを責める。

彼女の言いたいことが伝わってくる、そんな気がした。

 

「─全部、お前らのせいだ」

 

終電列車の音が響く。

世界はゆっくりと8月15日を迎えた。




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