ダンジョンでモンスターマスターを目指すのはきっと間違っていないはずだ。 (タロス(元通りすがりの電王好き))
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プロローグ︰そして少年と少女は出逢った
(続きを書くかはわから)ないです
ダンジョン。
それは、迷宮都市オラリオの中央部に存在する摩天楼施設『バベル』、その真下にあるという数多くのモンスターが生み出され棲息しているという魔窟である。
一般人であれば、そんな恐ろしく命の危険が伴うような所なんぞ潜りたくもなくなるというものだが、このオラリオにおいてのみ例外が存在する。
それが、冒険者。
冒険者とは、主にダンジョンに潜りモンスターを狩ることで得る魔石という所謂モンスターの心臓にあたる紫紺の結晶や、ドロップアイテムと呼ばれる特定のモンスターから得ることのできるモンスターの身体の一部分を、売ったり取引などに使う事によって収入を得る者達のことだ。
このオラリオには、そういった冒険者を沢山抱えている団体組織…ファミリアと呼ばれるものがある。
ファミリアとは『神の眷族』という意味であり、その意味の通りこのオラリオに降り立った神々…所謂神様が与えた『恩恵』を持つ者を集めて組織した集団のことを指す。
その集団の方針はそれぞれで異なっており、探索系、商業系、製作系、医療系……一概にファミリアといっても、神々ごとにこういった違いが存在するのだ。
先述した冒険者の多くは、この探索系ファミリアというものに所属している。
そのため、同じ冒険者といえどファミリアが違う、なんてことはザラにあるのだ。
細かい部分の説明はまだまだあるのだが、今回は割愛しよう。
そして、そのファミリアの一つに【アストレア・ファミリア】という組織がある。
このファミリアは神々の中の一柱、正義と秩序を司る女神アストレアが運営している探索系ファミリアである。
構成員全てが女性、数は11人、それも全員が第二級冒険者。
このファミリアもまた、ダンジョンに潜りお金を稼ぐことで収入を得ているのだが、このファミリアは少々特殊でダンジョン探索の他にもオラリオの秩序を乱す者を取り締まる憲兵のような役割…所謂警察のようなことも行っている。
そして今回、その警察のようなものの仕事の一環として、現在アストレアファミリアの団員全てがダンジョン内の異変調査、という名目でダンジョンの奥深く…25階層へと向かっていた。
「なんかいつもと雰囲気違わない?このダンジョン内…」
そう少し不安げに呟くこの女性の名は、アリーゼ・ローヴェル。
赤髪のポニーテールと緑の瞳、そしてまるで私服の上から付けましたと言わんばかりの胸元と両肩のみの防具という軽装備が特徴のアストレアファミリアの団長だ。
ちなみに団員も含めて全員レベルは4である。
「だから言ったであろう団長様…あの手紙は罠かもしれんと。
なんだあの『ダンジョン25階層にて異変の兆しあり、速やかに調査されたし』とかいう依頼文…他に何も書いてないし、怪しさ満点というものだぞ」
そう言いため息をつく黒の長髪と着物姿が特徴のこの女性は、ゴジョウノ・輝夜。
オラリオ全体で見ても珍しい極東の貴族出身であり、アストレアファミリアの副団長である。
「そうかもしれないけど……ほら、例え誰であれやっぱり正義の派閥としては、あんな大事そうな依頼をされたら受けるしかないわよね!ふふん!」
「そこ誇っていいところじゃねぇと思うんだが…」
そんな輝夜の言葉をアリーゼは聞きつつ、彼女特有のポジティブシンキングで先程までの不安げな態度から一転、明るい表情で胸を張って答えた。
そんな彼女にツッコミを入れるこの小柄な女性はライラ。
桃色の髪でショートカット、そして小柄で男口調っぽいところが特徴の者だ。
と、そんなこんなで雑談しながら進んでいくと、依頼の通りの25階層に到達する。
「ここよね…?」
「ああ、ここで合ってるぞ。さっさと終わらせて帰りたいから手っ取り早く済ませるか」
「同感です。私も手早く済ませましょう」
そんな輝夜の言葉に賛同するように頷くこの女性はリュー。
金髪にエルフという種族特有の長い耳が特徴の者である。
そうして暫く調査を進めていったアリーゼ達のもとに、ある人物が現れた。
その人物に皆が気付くと、一斉に顔を険しくさせる。その人物の名は…
「ジュラ・ハルマー!?貴様がなぜここに!」
「ヒヒヒ……久し振りだなぁ、正義の眷族様よぉ」
ジュラ。
アストレアファミリアと度々争っている派閥の一つである【ルドラ・ファミリア】の団員の一人であり、アストレアファミリアに限らずオラリオの敵として一時期壊滅寸前まで追い込んだ闇派閥の一員でもある獣人族だ。
そんな彼がなぜこの場にいるのか。
「今度こそてめぇらを殺してやりてぇところだが…今回それをするのは俺等じゃねぇんだわ」
「何…?」「…どういうことかしら?」
ジュラの意味深な言葉に不思議に思うアリーゼ達。
直後、25階層全体が揺れ始め至る所で爆発が起きる。
足場が揺れる事で体勢が安定しなくなり思わず膝をついてしまうアリーゼ達。
「このモンスターは出現条件が少し特殊でなぁ…これは必要なことなのさ」
そんな中でも全く動じず説明をし始めるジュラ。
ジュラという人物はかなり特殊で、怪物趣味の嗜好持ちの調教師である。
そのため、アストレアファミリアと争う時も常にモンスターを引き連れて現れていた。
だが、今回はジュラの周りにモンスターがいない。
一行はそのことに違和感を持つが、考える暇もなくダンジョン内階層の崩壊が始まる。
そうしてそのまま27階層まで落ちていくと、そこにはアリーゼ達が見覚えのある面々が揃っていた。ルドラファミリアの団員達である。
この階層の爆破は、彼らの仕業なのがすぐにわかった。
その証拠に、彼らの中には危険物として取り扱いに制限のある火炎石があったからだ。
そう確認をしつつ、落下の際に体勢を崩してしまったアリーゼ達が立ち上がると、不意にダンジョンの壁からビキビキ…という罅割れと共に嫌な音が鳴り出す。
ダンジョンで戦っている者なら皆知っている、モンスターが湧き出す時の音だ。
しかし今回のそれは普段のとは何処か違い、ダンジョン全体が揺れながらの罅割れである。
「何か…くるの……?」
先程までの明るい様子から一変、嫌な予感がするのか罅割れる部分を見ながら少し顔を青ざめるアリーゼ。
そんな声が響く間もなく、壁からモンスターが生み出された。
それは、まるで現代で言う恐竜の化石のように全身が骨になっており、その上更に鎧と爪と見間違うような鋭い手を持つ化け物が生まれていた。
「オオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!」
あまりの悍ましい見た目と脳に直接響くかのような鳴き声に、アリーゼ達は言葉を失う。
その化け物の名は…
「ヒャハハハハハハァ!!!!来やがったかぁ!!『ジャガーノート』ぉ!!!!」
後に『厄災』と呼ばれることになる、ジャガーノートだった…。
「よくやったぞお前達ぃ!ヒヒヒ……さぁて、こいつを調教しててめぇらをブッ殺してやるぜぇ!」
ジュラの目的は、このジャガーノートというモンスターの調教…つまり、自身の所有物にして目の前のアストレアファミリア一員を抹殺することである。
「(怪しいとは思ってたが、まさかこいつからのとはな……私の力不足か…。
いや、まだ終わってはいない!こいつを如何するか考えねば…)」
輝夜はそう考え自らの気付きの遅さを嘆くも、既に遅かった。
そのため思考を切り上げ、この局面をどう切り抜けるかに切り替えた。
が、それは突然起きた。
「ヒャハハハハハハ!!!さぁ!俺様の指示にしたが……え?」
ジャガーノートに腕を出し、自身の下僕になるよう告げるジュラの言葉は、続くことはなかった。
何故ならば、ジャガーノートが第二級冒険者達の目を持ってしても全く捉えることのできない速度で、ジュラの腕と首を切り落としていたからだ。
「「「「……っ!?」」」」
そのあまりの光景に絶句するアリーゼ達。
そんな彼女達に全く気を留めず、ジャガーノートはジュラの後方に控えていたルドラファミリアの者達に目を向ける。
「ひっ……!?やめろぉぉ!!!」
「「「「うわぁぁぁぁ!!!!」」」」
ジャガーノートに睨まれ怯んだ者達。
そして、一人の声を皮切りに皆が一斉に逃げ出した。
当然、狙いを定めていたジャガーノートがそれを見過ごすわけもなく……
「あっ……」ザシュッ
瞬く間に全員をその鋭い手で持って斬り殺してのけた。
そうして、ゆっくりとアリーゼ達の方へ振り向く。
それに恐怖したのか、皆足が竦んで動けないでいた。
「リュー…せめて、貴女だけでも……」
動けないながらもアリーゼはそう言い、リューを逃がそうとした矢先……
ガションガション!!ドドドドド……
「そのまま行け」
謎の機械音と同時に、巨大なケンタウロスのような体全体と濃い青色の鎧のようなもの…所謂ブルーメタルボディと赤い点のような瞳のモノアイ、そして4本の腕それぞれに矢とクロスボウのようなものを付けた上半身、そして透き通るような真っ白い4本脚を持つモンスターのようでどこか違う何かがジャガーノートに盛大に突進を。
その後方から青い円形の帽子と白い髪、そして帽子と同じく濃い青色の口元も隠すマントと服装、更に腰に剣を携えた少々物々しい装備のクールな雰囲気の青年が、指示のような声と共に現れた。
ダンジョン内が少し暗いこともあり、表情は全く見えない。
唖然としているアリーゼ達を気にも留めず、その青年は指示を続ける。
「サージタウス、いつものやつだ」
決して大きくなく、それでいて存在感のあるような声でサージタウスと呼ばれていた機械の人馬に追加の指示を出す。
それに対して、サージタウスはその赤い瞳を一瞬だけ青年に向けてから目の前のジャガーノートに向き直り、4本のうち2本の腕についているクロスボウのような武器を向ける。
そして、そのまま目にも止まらぬ速さで一斉に発射した。
ドガガガガガガガガガガガガ
とてもクロスボウから鳴るようなものではない連射力と轟音が続き、少ししてからサージタウスが発射を止めると、ジャガーノートが動き出そうとする。が……
ドスンッ……
突如、ほぼ動けないまま倒れだしたのである。
よく見ると、どこか痺れているような様子だった。
「(嘘…あれってまさか、
その様子に、アリーゼが内心でそう考察し出す。声に出して言いそうではあったのだが、とてもそれができる状況ではなかった。
そうしている内にも、サージタウスはジャガーノートを取っ組み合って吹き飛ばしたり突風を巻き起こして腕を切断したりと、圧倒していく。
「とどめだ、ギガクロスブレイク」
青年のその指示を皮切りに、サージタウスの矢を持っていた両手から矢が消え、突如光り輝く剣が出現する。
そうして、そのまま交差させるようにジャガーノートを切り裂いた。
その軌跡から光り輝く稲妻が現れ、サージタウスの剣と同時にジャガーノートを斬りつけていく。
「グゴォォォォォォォォォォ……」
そうしてジャガーノートはそのままその巨体を綺麗に斬られ、巨大な灰となって消えていった。
それを確認したのか、青年は無言でサージタウスと共に下層の道へと降りていこうとする。
終始呆気に取られていたアリーゼ達だが、一足先に我に返ったアリーゼが声をかける。
「ね、ねぇ君!」
「…?」
アリーゼのその声を聞き、青年は振り返る。
相変わらず表情は見えないが、きっと邪険にする表情ではないのだろう。
直感めいたそれでそう判断したアリーゼは、言葉を続ける。
「さっきは、ありがとう!それで君は…どこに行こうとしてるの?」
普段のアリーゼとは少々違うような口調で、そう問いかける。
それに対して青年は、何も答えない。
少々そのまま場が固まった後、青年は何か思い立ったのかアリーゼのもとへと近づき始める。
まさか近づかれるとは思ってもいなかったアリーゼは、普段はほとんど見せないような驚きと困惑の表情を浮かべてあわあわと少し慌てだす。
そうして青年が近付くと、少し慌てているアリーゼの手を開かせ何かを渡した。
目の前に来ても表情が見えないのが少し気になるが……。
驚愕しながらもアリーゼは手渡されたそれに目線を移した。
そこには、翠玉色に輝く丸い鉱石のようなものが付いている指輪があった。
「あの、これは……?」
明らかにどういったものなのかわからない、という様子で青年に問いかけるアリーゼ。
そんなアリーゼに、青年は言葉をかける。
「もし、俺と同じ白い髪の少年がオラリオに現れたら、これを渡してやってくれないか?それまでは君が持っていてくれ。
身勝手なことだとはわかっているが、頼む」
アリーゼが口を挟む余裕もないまま、青年はそう説明し出す。
より一層なんのことかわからない、という表情をしたアリーゼは青年にもう一度聞こうとするも次の瞬間青年は目の前から消え、奥の下層へと続く道へ向かう階段の前にサージタウスと共にいた。
アリーゼが慌てて駆け出し何かを伝えようとするも、青年には届かない。
一気に跳躍してサージタウスに乗りそのまま去っていく青年を、アリーゼは見送ることしかできなかった。
「……なんだったのかしら…」
手元の指輪と青年が去って行った後の道を見ながら、アリーゼはそう呟く。
その表情は、どこか儚げだったという。
「あたしも何がなんだかわからねーが……とりあえず戻ろーぜ、団長」
「…ハッ、そ、そうね!地上に戻りましょ!」
ライラのその声に、慌てて返事をしてそのまま地上へ向かい始めるファミリアの団員達。
「(…とりあえず、あの人からのお願い、ちゃんと果たさなきゃね…)」
アリーゼは内心でそう決意し、慌てて追いかけ出す。
その際、アリーゼの頬は少し赤くなっていたとかなかったとか…
───────────────────────
突然だが皆さんは、「ドラゴンクエストモンスターズジョーカーシリーズ」というゲームをご存知だろうか。
…………
……………………え?「ドラゴンクエスト」は知っているけど、「モンスターズ」は知らない?
………そうですか。
では、わかりやすく簡潔に大枠のドラゴンクエストの説明から入るとしよう。
まず、ドラゴンクエストとはプレイヤー自身が主人公となり、世界を脅かす魔王を倒すために仲間と共に壮大な冒険を繰り広げるという世界的に有名なロールプレイングゲームのことである。
そしてそんな有名さが相まってか、そのドラゴンクエストシリーズには多数の派生作品が存在する。
その一つが先程も述べた「ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカーシリーズ」なのだ。
こちらのシリーズは従来のドラゴンクエストシリーズとは大きく違い、本来のドラゴンクエストシリーズでは主人公自らがモンスターや魔王達と戦いをするものなのに対して、このモンスターズにおいてはなんと主人公自らが戦うことは全く無いのだ。
更に、その代わりの戦闘手段としてそのモンスター達を従えて戦わせるのだ。
その時点で今までのドラゴンクエストシリーズをご存知の方は驚くだろうが、これだけではない。
このシリーズでは、フィールド中に沢山いるモンスター達を時にはスカウトし、時には配合と呼ばれる2匹のモンスターをかけ合わせて新しいモンスターを生み出すという奇跡を行ってより強くしたり…と、モンスターを倒すものとしてしか認識していなかったこれまでの作品の常識を、プレイヤーの固定概念ごと大きく覆すものとなったのだ。
そういったモンスターを使役するプレイヤーのことを、ゲーム内では「モンスターマスター」という名称で呼ばれていた。
さて、ここまで長い説明をしてしまったがこれは無駄なことではない。
それは、これから登場するとある人物と大きく関係しているからだ。
それがこの白い髪に青い服装の少年、ベル・クラネルである。
「ここが、オラリオ…!!お祖父ちゃんから聞いていた以上で凄い……」
そう、彼はこのオラリオに来るまでの間、ずっとお祖父ちゃんとベルが呼ぶ老人と2人で暮らしていたのだ。
そんな彼が、なぜモンスターマスターと関係しているのか。
それは、彼の過去に関わることだからである。
◆◇
ある日、後にベルの祖父となる老人が一人で暮らしていた時、一人の男がその老人の家のドアを叩いた。
「なんじゃぁ?儂に何か……って、お主は…」
「久し振りだな…じいさん」
少し面倒くさそうにしながらも何かと思い老人がドアを開けると、そこには一人の男がいた。
その男は、全身が濃い青色の服装と少々物々しい装備で気持ちよさそうに眠っている子どもを抱えて立っていた。
最初はわからなかったが、よくよく見ると老人が何かを思い出したかのように目を見開く。
何かを言おうとするが、それを訪問した男に阻まれる。
「……やはり、行くのか?」
「あぁ。その子のためにも、俺は行かなければならない」
聞こうとしたことを阻まれ、意味ありげに老人がそう呟くと、男はそう答える。
少し静寂が辺りを包んだ直後、それを男が破った。
「…その子が大きくなって、何かしたいと言い出しても、できれば止めないでやってくれ。
何であれ、きっとその選択がその子のためになる。
それに、その子は俺と違って
男はそう言った。
その時の表情は、どこか優し気なものであり、同時に悲し気なものでもあった。
「……わかった、請け負おう。」
「……儂に、二度も見送らせおって…」
「……すまないな」
お互い、少し俯く。
少ししてから、男は最後に老人に抱えられた子どもの頭を一撫でして、その場を去った。
日付が変わり、朝になるとその子どもは目を覚まし親を探すが見つからず暫く泣きじゃくっていたが、老人が慰め自身がその男の父親、つまり祖父だと偽ることでなんとか凌いでいた。
そうして数年の時が経ち、少年…ベル・クラネルは立派に成長し、案の定と言うべきかその祖父に「父さんを探しに行きたい」と言い、それに対して大方予想できていた祖父は「それならばオラリオに行け。そこで情報を集めるがいい」と言った。その際、餞別ということでベルは祖父からかつての父と同じ青の服装一式を何着か受け取り、それ以降ずっとそれを着ていたとか。
そうして今に至るという。
◇◆
さて、そんなこんなで父親の情報を求めてオラリオ内を彷徨っていたベルだったが……
「どこで聞けばいいんだろう……」
そう、彼は情報どころかその情報を集める際の聞く場所すらわからなくなってしまっていたのだ。
彼はこのオラリオに向かう際祖父に「オラリオで情報を集めるがいい」とは言われたが、「どこで集めればいいのか」ということは全く聞かされてないのだ。なんなら自身から聞くことすら忘れていたのだ。無理もなかろう。
自身の思慮の浅はかさを少し呪った瞬間である。
昼も過ぎて夕方が近くなりつつある中、休憩がてら公共のベンチに座ってため息をつくベルだった。
「ん?あれ……あの子は……」
不意に赤い髪の女性、アリーゼは公共のベンチに座ってため息を吐く少年を見つけた瞬間、いつかのお願いを思い出す。
彼女は、今日は珍しく仕事が早く終わりダンジョンへ潜る気も起きなかったため、こうして街中をぶらぶらと歩いていたのである。
そうしていると、ふと見かけたベンチに見覚えのある姿と髪色の少年が座っていたのだ。
瞬間、アリーゼの脳内に数年前の記憶が蘇る。
『もし、俺と同じ白い髪の少年がオラリオに現れたら、これを渡してやってくれないか?』
あの日、最後にかけられたあの言葉。
あれから一切会えなかった、あの姿。
あの人に似た服装…髪色……
もしかしたら…!!
そう思った瞬間、いつの間にかアリーゼの身体は正面に見える少年に向かって駆け出していた。
ほとんど無意識だった。
でも、それでも、私は……
「ハァ…ハァ……ねぇ、君!!ちょっと、いいかな!?」
肩で息をしながら、アリーゼは少年の両肩を掴んで声をかける。
思い過ごしとかでなければ、彼はおそらく………。
そう思うと、アリーゼの胸が高鳴る。
そう。これは、きっと……
奇跡なんだ。
やったことない書き方に挑戦したので、ここ意味不明だとかあるかもしれません。その場合はごめんなさい。
ダンジョンのモンスターって配合したら絶対面白そう(小並感)
だけどそんなオリジナルモンスターなんて考えれないw
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第一話︰誘拐
読みづらいのもあれだしこれで良さそう…?
・説明不足かも?の点
Q.テリーのワンダーランドってだけならGB版やPS版もあるのに、なぜ3D版を…?
A.モンスターの数が多いから。3D版にしかない要素がこのシリーズにおいてそこそこ大事だと思うから。
Q.なぜドラクエジョーカー2要素を加えた?
A.テリワン要素だけでは難しい部分がちらほらあるから。
「……っ!!ちょっ……ちょっと……あの…!!」
必死で息継ぎをしながら、彼はなんとか話しかけようとする。
それに対して赤い髪の少女は、全く聞こえていないのか振り返らず彼の腰を片腕で担いで離さずに、走り続ける。
現在、彼…ベル・クラネルは赤い髪の少女…アリーゼ・ローヴェルに有無を言わさずという勢いで、横脇に担がれたまま猛ダッシュでお持ち帰りされていた。
言うまでもなく傍から見れば誘拐なのだが、本人は嬉しそうに口角を上げた表情のままで走り続けており、全く気づいていなかった。
担がれたままの姿勢でずっと「降ろしてください!」と掴んでいる手を叩きながら訴え続けるベルだったが、その声がアリーゼ本人に届くことはなかった。
そうしてそのまま、アリーゼの所属するファミリア【アストレア・ファミリア】の本拠地である『星屑の庭』に到着する。
「ふぅ…よし、私達のホームに着いたわ!さぁ貴方の名前から…って、あら?」
一息つき担いでいたベルに声をかけるが、反応はなし。
どうしたんだろう、と能天気に呟きながらアリーゼは不思議に思い顔を覗き込むと…
「……キュゥゥ…」
とっくに気絶していたのだ。当然である。
ベルは父を探すためオラリオに向かう準備としてある程度は鍛錬していたとはいえ、冒険者に必須であり身体能力等が大幅に向上する神の恩恵を持っていないのだ。謂わば冒険者よりずっと体が弱いのである。
そんな状態の子どもが生身で恩恵持ち…それも、第一級冒険者であるアリーゼの身体能力による速度で担がれたまま連れて行かれて耐えられるはずもない。
「あちゃー……色々聞きたかったけど、起きてからになるかしらね…」
空いてる片手で頭を軽く掻きながらアリーゼはそう呟く。
そうして介抱すべく、アリーゼは気絶して完全に脱力して垂れているベルを担いでホームへと入っていった……。
誘拐していることに1ミリも罪悪感を持たないどころか気付きもしないあたり、流石であるというべきかツッコむべきなのか……。
「ねぇねぇおとうさん!」
「ん?なんだ?」
「ぼくも、おとうさんみたいにおおきくなれたら、もんすたーますたー?ってのになれるかな!」
「そうか、父さんみたいになりたいのか?」
「うん!」
夢を、見ている。
お祖父ちゃんに引き取られてお父さんと別れる前、お父さんと2人で暮らしていた夢だ。
僕は、お父さんが時々言っていた『モンスターマスター』というものがよくわかっていなかった。
当時はなんとなく、お父さんがよく連れているお父さんと同じくらいの背丈のかっこいいロボットのような見た目をしているモンスターと仲良くなれるものなのだろうか、という認識だった。
たまに見かける、見上げ過ぎて首が痛くなるくらい巨大な人馬のようなロボットと、所々に蔦があって巨大な天秤と眼球のようなものも含めた無数の歯車とドクロを合わせたような姿のモンスターとはちょっと……いやかなり怖くて、仲良くなれる気がまるでしなかったけど。
あれから数年経っている今の僕ですら、モンスターマスターになれていないからまだわからない。
「この上なく嬉しいことだなぁ…。」
「ほんと!?」
「ああ、本当さ。」
そう言うお父さんの遠くを見る横顔は、どこか寂しげな雰囲気を出していた。
それでも、あの時のかっこよかったお父さんみたいになれるなら…僕はそれを目指したい。
「けどな、ベル」
「…?」
「ただなりたいからなれる、ってわけじゃあないぞ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「そうだな…」
そう言って考え出すお父さん。
少ししてから、お父さんが口を開く。
「まず、ベル自身が強くならなきゃいけないな。けど、俺のモンスター見てビビってるようじゃ厳しいかもなぁ…?」
「ゔっ……こ、これから、がんばるもん…」
そう言いながらニヤニヤ顔で僕を見るお父さん。
「ふっ…ああ、頑張れよ。」
そう言って、僕の頭を撫でるお父さん。
そうされている時はいつも心地が良くて、ついつい身を委ねちゃう。
「そして、もう1つあるんだ」
「…それは?」
「それはな…自分のモンスターを信じてやることだ」
「もんすたーを……しんじる?」
「そうだ。
モンスターマスターってのはな、まあ簡単に言うとモンスターを使役して共に戦うやつのことなんだが…それはお互いの信頼なくしてできることじゃあない。
持ちつ持たれつ、ってやつだな。
それにただ使役すればいいってわけでもない、モンスターだって生き物だ。そこのところ、しっかり覚えておけよ」
「???なんだかむずかしくてわからないけど……ぼくに、できることなのかな…?」
「……できるさ、ベルならな」
その言葉を皮切りに、意識が遠のく。
あれからすぐ、お父さんはオラリオに行くとだけお祖父ちゃんに伝えていなくなってしまった。
なんの目的があって向かったのか、それすらも教えてくれなかった。
お父さん……
絶対、探して見つけてみせるから…
そして、お父さんのような…強くて優しいモンスターマスターに、なってみせるから……待ってて…!
ぷにっ
…………?
意識が途切れる直前、何かに触れられたような……?
何かわからないけど、とりあえず起きなければ……
何か話し声も聞こえるし、起きないといけないのかもしれない…。
そう思いベルは目を開く。
「あ、起きた?さっきは急にごめんね〜、ここまで連れてきちゃって。」
すると、そこにはもう大丈夫だよ〜と言いながら指でベルの頬をぷにぷにとつつき、可愛らしくテヘッ☆と小さく舌を出してる赤い髪の少女がいた。
起きたばかりで脳が働かず少しボーッとしていたためか、アリーゼが連れてきたこのホームやファミリアについての説明を禄に聞き取らずに流していたベルだったが、徐々に覚醒し始め今置かれている状況を理解するために思考の海に沈んでいく。
全く知らない場所、いつの間にか寝かされていたベッド、なぜか動けない体、辺りは少々殺風景だが所々に櫛や鏡などの女性が使う物が置いてある部屋(お祖父ちゃんの教え)、そして「どうしたのー?」と呑気に聞きながらもベルの隣で椅子に座り頬をつついている少女。その女の人とベルの2人しかいないこの部屋。
まさか…お祖父ちゃんの言っていた、かんきんしちゅえーしょん…!?
言葉の意味自体は理解してないベルだが、お祖父ちゃんが絵付きで教えてくれたのを思い出した瞬間、サーー……という音が小さく鳴りそうな勢いでベルは顔を青くした。
ちなみにその後、お祖父ちゃんは後から来たお父さんのモンスターによって殴り飛ばされた。
今のこの状況は、それに似ている…!?
そして、そのままプルプルと震え始める。
先程まで説明をしていたアリーゼは、そのベルの様子の変化に気付き声をかけるが「あのー…君、大丈夫?」と声をかけるもその言葉は本人に届かず、ベルは
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!かんきんしちゅえーしょんされたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
次の瞬間、そう叫びながら第一級冒険者でも捉えきれない速度で駆け出して部屋を出たベル。
突然のことに呆然としていたアリーゼだが、駆け出す間際にベルが叫んだ言葉の意味を理解して、こちらはボンッ!と顔が真っ赤になる。
「ち、違うのよーーー!!!!貴方に話を聞きたいだけなのぉぉぉぉぉ!!!!!」
そう叫びながら、慌てて追いかけ始めるアリーゼだった…。
今回さりげなく新登場したモンスター当てれた人いたら凄いかも。
書いてから思ったんだけど、アストレアファミリアの人たち書くっていうの先駆者様が偉大すぎてとんでもないハードルに感じる……これ完結まで書けるかな…?
次回いつになるかはわかりませんが、出す時にアンケートも載せる予定です。もし宜しければその際ご協力お願いします。
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第二話︰新たな出会い
投稿感覚めっちゃ空いてしまった…。
多分この後もこんな感じになりそう…?
「団長?いったい何をしていたのですか?」
「えーっと、あの子の私への誤解がちょっと酷かったから、それを解こうと思って…」
「ほーーん、で?それのためだけにホーム内を走り回って、物を壊していく必要はありましたか?
だ・ん・ちょ・う・さ・ま・?」
「ありません……」
あれから30分強ほど後……
現在、アリーゼは笑顔だが笑顔ではない様子の極東の着物姿の女性…アストレアファミリア副団長のゴジョウノ・輝夜に正座をさせられ、説教をされていた。
理由は当然、叫びながら館内を走り回った事である。
あれから館内では、かつて鍛錬の一環でモンスターと戦った時以上の恐怖と速度で逃げ回るベルと、誤解だと言いながらそれを全力疾走で追いかけ回すアリーゼの図が出来ていた。
リビング、庭、他団員の部屋……あらゆるところを逃げ回り他の団員達が驚くも事態が呑み込めず手を出せない中で、この逃走劇は更に加速。ついには通路にあった備品や扉などを壊し始めてしまったのだ。
これに副団長である輝夜は当然激怒。即原因である両者を捕らえては渾身の拳骨を落としたのである。
まだ自己紹介も何もない上状況は一目で一応察してはいたため多少手加減したとはいえ、輝夜もアリーゼと同じ第一級冒険者。
その力は強烈で、アリーゼですら殴られた箇所からたんこぶが出来ていたほどである。
なおベルはここで2度目の気絶をしてしまい、少ししてから状況を聞きつつやってきた神アストレアによって膝枕をされ介抱されていたのだった…。
「……んっ…」
そうして、暫くしてからベルは目を覚ます。
のだが…
フニッ
「…あら?起きたのかしら?」
拳骨で気絶させられ地べたから起き上がってると思っていたベルは次の瞬間、持ち上げた頭部全体に……主に顔に謎の柔らかい感触を感じたのだ。
そして聞こえる大人の女性のような優しい声。
同時になぜか周りから恨めしそうな声が聞こえるが、こちらは聞くと嫌な予感しかしないと直感的に判断したベルはこれをあえて聞かなかったことにする。
何かと思い見上げようにも、視界は何かの障害物があるのか真っ暗で動かせず。
頭を下げようにも、後頭部にも柔らかい何かの感触があり動かせず。
ならば横に…と思いベルは右側にずれようとすると、上から「あっ、そんなに動いたら…!」という綺麗な声が。
なんのことがわからないため気に留めず動くと、突然の浮遊感。
直後、ドシャッ!という痛い音と共にベルは床へ転げ落ちたのだった。
「いてて…」
「あの…君、大丈夫かしら?」
明らかなベル自身の不注意にも関わらず、その女性はベルのことを心配している。
ベルはそれに対して「だ、大丈夫です」と軽く謝ると、ザッという音を立てて更にたんこぶが4つ程増えたアリーゼがベルの目の前に仁王立ちした。
「さぁ、貴方のことを教えてちょうだい!全て洗いざらい吐いてもらうまで帰らせないわよ!」
「…おかしいわね、話を聞くはずだったのにどうして尋問みたいになってしまってるのかしら……?」
「誘拐しておいて言うことがそれか、戯け!」
「ぶげっ!!」
ふふん!と声に出しながらドヤ顔でそう言う放つアリーゼと、ツッコミつつも額に手を当てて少し困り顔の先程の胡桃色の髪を持つ女性。
そしてどこから持ってきたのか、木刀でバコーンッ!と勢い良くアリーゼの頭を叩きつける輝夜がそこにあった。
その際アリーゼから女性にあるまじき声が聞こえたが、ファミリア内ではこれが平常運転のためか皆ツッコまないのである。
「ひゃっ!…あ、あの、凄い音がしましたけど、大丈夫なんですか…?」
「ん?ああ、こいつは何も問題ない。どうせすぐ勝手に起き上がる」
「は、はあ…?」
「いったたたぁ…輝夜ぁ!毎度の事とはいえちょっとは手加減しなさいよね!?」
「それで?お前は何者なのか教えてもらおうか?」
「ちょっ、私を無視して話進めないでちょうだい!」
「別に構いませんけど…僕も聞きたいことがあるので、その後で聞かせてください」
「勿論いいわよ!」
「問答してるのは私なのだが?」
「あ、でもその前に…」
そうしてぐだぐだになりかけつつも、ベルは自己紹介から入りつつ自身のことを要点だけまとめて話した。
と言っても、ベルから話せることは物心付くまでの間ずっと父と共に何気ない日常を過ごしていたこと、父が異常なほど機械系モンスターが好きなためか毎日飽きるほどに熱弁していたこと、数年経ったある日からそこに祖父が加わったこと、もう数年経つと父が突然いなくなったこと、そして父を探すためこのオラリオに向かったこと。それくらいだったのだが。
「そうなのね、貴方のお父さんが……」
「はい…」
正直軽いものだろう…などと思っていたのか最初は嬉々とした表情で聞いていたアリーゼなのだが、ベルの話を聞いていく内にその表情を少し暗くさせていた。心なしか声のトーンまで低くなっていた。
それと同時に、内心で確信を得ていた。
「(とりあえず、探しているベルくんのお父さんってのは私が探している人と同じ人っぽいわね……ベルくんの言うモンスターとほとんど似ているのがいるみたいだし間違いはなさそう!それなら、あのことは話しておいた方が良さそうね…)」
と。そうしてアリーゼは考えが纏まり、いつもの調子に戻しつつ再度話しかける。
「わざわざありがとね、ベルくん」
「いえ、それ程でも」
「なら、私も教えなきゃね」
「……へ?えっ!?お父さんのこと何か知っているんですか!?!教えてください!!」
「わわっ!?ちょ、ちょっとがっつき過ぎでしょ!待って待って!!ちゃんと話すから!!だから一旦落ち着いて!!」
教えてもらったお返し、というような軽いノリでアリーゼはベルに自身の知っている事を話そうとすると、ベルはそれに飛びつく。
当然である。ベル本人からすれば、偶然とはいえ目の前にいる相手がずっと探していた自身の父親の情報を持っているのかもしれないのだ。ならばそれに縋りたくなるのもやむなしというもの。
「とりあえずステイステイ。あ、人参どうぞ。
あ、でもその前に自己紹介させてちょうだい!ベルくんはさっきしていたけど、私達のことは知らないでしょ?」
「あ、どうも。ハムッ
えっ?ああ、まあそうですね…」
「……ねえ、あれって餌づ」「言わないでください主神様、これ以上ぐだぐださせたくないので私達も突っ込みたい気持ちを抑えてますので……」
「じゃ、そういうことで!あ、でもちょっと人数多いから簡潔にね!
私はアリーゼ・ローヴェル!Lv5のアストレアファミリア団長よ!
そして、あそこのソファーに座っている方が私達のファミリアの主神、アストレア様よ!
あと、あそこの着物の娘がゴジョウノ・輝夜!同じくLv5で副団長よ!
で、あの耳が長い娘はリュー・リオン!あのピンク髪の娘はライラ!それからそれから……」
ベルの飛びつきをなんとか落ち着かせた後に、そう言いながらまるでマシンガントークの如く団員11人をすべて紹介していくアリーゼ。
ベルはそれを必死に聞き取ろうとしていたが、途中で覚え切れなくなったのかアリーゼの紹介が終わる頃には頭から煙が出そうなほどショートを起こしていた。
ちなみになぜ具体的に書かないのかと言うと、作者の頭もショートしそうだからです。
「さて、これで全員軽く紹介したけど…ここまでは大丈夫そう?」
「え、えっと……大体は」
「おっけー。それじゃあ、貴方のお父さんかもしれない人の話をさせてもらうわね」
「かもしれない…?あの、それって…」
「…私達も詳しくは知らないのよ。
ただ確かに言えることは、あの日貴方とよく似た服装の人に私達の命を救ってもらったってことくらいなの…」
「そう、ですか……。でも、一応聞かせてくれませんか?なんというか、知っておかないといけないという気がするんです」
「!…わかったわ。今から4年ほど前の、ダンジョンの中層辺りでのことよ…」
そう言い、アリーゼの当時の出来事語りが始まる。
この時のベルの表情は、今までにないほどの真剣なものだったと後に見ていたアストレアは語る。
それを見たのかアリーゼもここまでの軽快な表情を伏せ、真剣な表情で語る。
「と、まあそんなわけで私達が知っているのはここまでよ。」
「お話ありがとうございました。しかし、ダンジョンの深層ですか…」
「多分だけど、ね。あれからもう何年も会いに行こうとして見かけてすらいないから、私達もお礼を言えずじまいなのよ」
「そうですね…」
その一言から、その場の空気は少し重くなった。
無理もない、このような話を聞いて気を軽く持とうなどという方が難しいのだ。
そのまま沈黙が続く2人だったが、ここで痺れを切らした輝夜が口を挟む。
「…団長、例のものを渡すのではなかったのか?」
「ん?ああ、そうね!」
「?」
「ごめんベルくん、ちょっと待っててね!貴方に渡さなきゃいけないものがあるの!」
「あ、はい…」
「廊下を走るな阿呆!!」
そう言い残し、アリーゼは輝夜の注意をも無視して一目散に部屋へ駆けて行く。
そんなアリーゼを見つつ待っていたベルだが、少しすると本当にすぐにアリーゼが戻ってきた。
それも、指で小さく翠玉色に輝く物を大切に摘むように持ちながら。
「お待たせ、これが渡すものよ。」
「これは…指輪、ですか?なんか見覚えがありますけど…」
「そうよ。さっき話した、貴方の父親かもしれない人が私に託してくれた物よ」
「!」
アリーゼのその言葉を聞いて、ベルは指輪に向けていた顔を上げる。
そして、改めて指輪に目を向ける。
「…お父さんが、ですか?」
「ええ。貴方みたいな格好してる子どもが来たらこれを渡してあげなさい、って」
「………そう、ですか……」
指輪に向けていた顔をそのまま更に下げて俯き始めるベル。
その様子は、今にも泣き出しそうなのを堪えている幼少期の子どものそれとそっくりだった。
「(お父さんは……死ぬ気、だったの……?)」
そんな考えが頭を過る。
…いや、きっと違う。
何か特別な事情があったんだ。あんなに強いお父さんがそうするとは思えないのもあるが、ここはオラリオ。
それも何があるかわからないことで広く知られているダンジョンのことだ、きっと自分じゃ想像もつかないことなのかもしれない。
この指輪だって、実はたくさん持っていたりして数に困っていないからだけというのもあり得るかもしれない。
思考を切り替え、ベルは改めて手元の指輪を見る。
お父さんはよくモンスターに指示を出す時や何かをする時に、この指輪を掲げ光らせて使っていた。
ならば、自分もこれを指に嵌めたらそういったことができるようになるのだろうか。
もしそうなら嬉しいが、仮に何もなくてもお父さんとお揃いになれる。
そう思うと、少し心がポカポカと暖かく感じてくる。
「アリーゼさん。この指輪、僕が嵌めていいですか?」
「え、ええ、貴方のものなんだしいいわよ。」
返答を聞き、すぐさま指輪をお父さんと同じ位置の左手の人差し指に嵌める。
すると、ベルの指よりも大きい穴だったはずの指輪が嵌ったのを確認したかのように、キュッという小さい音と共にベルの指と同じ大きさに変化し綺麗に収まったのだ。
「うっそ!私がやった時はそんなのなかったわよ!?」
「ああ、私もそんな効果の指輪聞いたことがないぞ…。っておい待て、団長お前人のものを勝手に嵌めてたのか!?」
「だって気になるじゃない!!据膳食わぬはなんとやらってやつよ!」
「だからといって普通やらないだろ!!あとそれ使い方ちげーからな!?」
「……貴女達、少し静かにしてもらえるかしら…?」
ベルが指輪の付いている手元を見て密かに微笑んでる中、外野でそんな会話が飛び交うも束の間。
突然指輪が光り出し、ベルだけでなくこの部屋全体を包み込んだ。
「うわっ!」
「きゃっ!」
「な、なんだ!?」
同じ部屋にいた一同は失明しないようにとそれぞれ対処を行う。
手で目元を覆う者、咄嗟に顔を後方に向けて目を閉じた者、どこからかマンホールを持ち出して防いだ者…。
とにかく、それぞれが各自で自衛を行っていたのだ。
そうしているとすぐさまその光は消えていき、代わりにベルの目の前に1匹のふわふわとモコモコと毛深い生き物が浮いていた。
「おや、君が新しいマスターかい?ぼくはわたぼう。よろしくね!」
そしてベル達が何かを言う前に開口一番の発言がこれのため、一同は全く理解が追いつけず口を開けて固まっていた。
これを神々の言葉で言うのならば、「宇宙猫状態」とでも呼べるものだろう。
「……えっ、なにこの沈黙。みんなお人形さんなの?というかマスターどこ?」
お前のせいだよ!!あとマスターってなんだよ!!というか理解が追いつかん!!
…という言葉が一同の喉から出そうになった時、わたぼうは偶然ではあるが遮るように言葉を続けた。
「お、タイミングよく最初のモンスターが来たみたいだね。せっかくだし皆おいでよ!マスター探しはその時ついでにやるさ!」
軽快そうに言ってから、わたぼうはふわふわと浮きながら玄関の方へと向かっていく。
それと同時に、ベル達がいる部屋の窓から本来は聞こえないはずの草木と、それの揺れる音が発生。
その音で一同はハッと我にかえり、慌てて玄関から外へと向かっていったのだった…。
せっかくですし、モンスターズシリーズの初代と2リスペクトで最初のモンスターを投票で決めたいと思います。
全部はさすがに厳しいと思うので、各作品から1匹ずつ抜粋しました。
宜しければそちらもお願いします。_|\○_
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第三話︰最初の仲間
戦闘シーンは多分次回になるかなぁ…申し訳ないです。
あと、前回のアンケートありがとうございました!!無事最初のモンスターはスラぼうになりました!専用ストーリーを一応大雑把だけど組んでるのでお楽しみに!
「アストレア様、あんな所に茂みなんてありましたっけ?」
「私の記憶が正しければなかったはずよ。どういうことなのかしら…」
「……」ワクワク
「落ち着けベル、何が起こるかわからないから気を付けろ」
「お、来たみたいだね。よし、じゃあ説明に入ろうかな」
そう言ってわたぼうは、ふよふよと飛び回る。
一方、ホーム内での一連の出来事から庭へと移動した一同は多様の反応を見せていた。
それを視界には入れても意に介さず、わたぼうは説明を始める。
「そうだなぁ…色々言うことはあるんだけど、とりあえずマスターの説明からかな?」
「その前にこっちの質問に答えてもらおう、モンスター」
簡単な確認の意味合いも込めて少し間を置いてから話そうとするわたぼうに、冷え切ったような声と視線で静止する輝夜。
そんな声に対し、わたぼうは「んー?」と呑気に答える。
「さっきは突然のことで聞けなかったが…お前は何者だ?なんの為に現れた?返答次第ではお前を斬らねばならない、答えろ」
「ちょっと輝夜!」
先程よりも一層冷たい視線にしながら言葉を続ける輝夜。
それに対してアリーゼが止めに入ろうとするも、輝夜は意に介さない。
しかし、輝夜のこの反応は全員とはいかずとも他の一部団員の反応を代弁しているようなものだった。
無理もないだろう。
かつて託された物とはいえ、その指輪から出てきた未知の喋るモンスターらしき生物を出会い頭に信じろというのは難しい話だからだ。
「ふーん…まあ
輝夜の方に向き直りそう言うわたぼう。
どこか適当にも取れる言い方に輝夜は更に眉間にシワを寄せるが、わたぼうはそれを全く気にしていなかった。
「自己紹介からかな、ボクはわたぼう。他のモンスターとは違って、ボクは所謂マスターの案内役みたいなものだよ。
…まあ、ある程度マスターが一人立ちできるようになったらボクはすぐやること無くなるんだけどね」
前半はやや適当気味に、後半から段々どこかトーンを落としながら語るわたぼう。
「ボクの元々いた世界っていうのは、ここにはない『タイジュの国』っていう所なんだ。本来ボクはそこの精霊っていう扱いなんだよ」
「精霊…!?」
精霊、という単語に神アストレアを始めとした一部団員が少し反応するが、わたぼうは全く気に留めず説明を続ける。
「まあ、君たちの言うところの神様みたいなものだと思ってくれればいいよ。それで、ボクの目的なんてものはないよ」
「何…?」
わたぼうの口から放たれた輝夜にとって予想外の言葉に、輝夜は思わず声を出す。
その声と共に思わず少し警戒心が緩んでしまうが、一瞬で元に戻していた。
「あくまでボクにはないだけで、ボクは今とある
「…その依頼ってのはなんだ」
「新人マスターの案内だよ、
「二つ…?」
「一つはもう言ったけど、もう一つの方は今は言えないかな。だけど、その時が来たら必ず話すよ。それも依頼の内容に含まれてるからね」
じゃあ話したことだし、本題に戻るね。
と言って説明を戻すわたぼう。
輝夜はそれに異を唱えることもなく、警戒の姿勢を少し解いて聞く姿勢に入っていた。
沈黙は肯定と受け取ったのか、わたぼうは輝夜を一目見てから説明に入る。
「マスター…つまりモンスターマスターっていうのは、ボクたちのようなモンスターを使役する人のことを言うんだ。あーでも、君達の知ってるモンスターとボクの言うモンスターは全然違うっていうのだけは覚えておいてね」
「はいはーい!質問です!!そのモンスターに可愛いのっていますかー!?」
「お前は本当に黙ってろ団長!!話を逸らすんじゃねぇ!!」
「君達の価値観でどうなのかは知らないけど、いるにはいるよ」
「ほんとっっ!!?!?」
説明中にも関わらず目をキラキラさせながら興味本位増し増しのような質問を投げかけるアリーゼに、あっけらかんに答えるわたぼう。
思わず止めに入ってたライラも、これには目を白黒させていた。
「いるのかよ!って、どうせ実はかなり凶暴でした〜とかそういうオチなんだろ?」
「いや、ほんとに見た目だけ可愛くて戦闘能力が低いのもいるよ」
「……生物として大丈夫なのか?それ。」
「んー、大丈夫なんじゃない?」
「雑っ!?名前も姿も知らないモンスターだけど、なんだか可哀想に思えてきたぞ…」
多少なりとも関心が向いたのか、ライラがツッコミつつも少し興味ありげに聞いたのに対して、わたぼうはいかにも適当という風に答える。
その返答に思わずツッコんでから同情と親近感が混じったような目線をどこか遠くに移しているライラを放って、わたぼうは説明を続ける。
「話を戻して…そのモンスターマスターには、スカウトリングっていう翠玉色の指輪を付けている人が当てはまるんだけど…」
「…あれ、それって僕のことですか?」
わたぼうの話にベルが反応し、指輪のついている手を上げて見せると同時にそう聞く。
「ん?お、それだよそれ!じゃあ君がモンスターマスターだね!」
ぴょんぴょんと空中で小さく跳ね、口元に手を当てて少し嬉しそうな表情をしながらわたぼうはそう言う。
「じゃあマスターも見つかったことだし、そろそろ最初の仲間に出てきてもらおうかな」
「…?」
「もう来ていいよ〜!」
わたぼうはそう言って、すぐ後ろの茂みに声をかける。
すると、先程まで静かだった茂みが再度ガサガサと音を立て始める。
それを見て輝夜を始めとした一部団員は戦闘態勢に入るが、茂みの中の者を見た瞬間、思わずその警戒を解くことになった。
「って、またスラぼう…!?はぁ…血は争えないってことかなぁ…」
「は…?」
「こいつが…」
「最初の仲間…!!」
輝夜、ライラ、アリーゼの順にまるで示し合わせたかのように言葉を繋げていく。
途中何やらわたぼうが小声で呟いていたが、この場の誰もが茂みのモンスターに気を取られていて聞くことはなかった。
輝夜は信じられない物を見たような驚愕の目を、ライラは疑問の声と目を、アリーゼは目をキラキラさせながら好奇と期待の目を見せていた。
「わっ、ふふ…可愛いですね。この子が、僕の最初の仲間ですか?」
「そうだよ、種族名は『スライム』だ!」
わたぼうがそう言うと同時に、青い横長の雫型に笑顔の姿をしたモンスター…スラぼうことスライムが現れ、ベルの手に乗っていた。
なんか、自分が書くアストレアファミリアの中でまともに喋ってるの少なすぎでは…?と思ったけど、どう増やそうか…
アストレアレコード見つつちまちまやっていこうと思います。
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第四話︰ステイタス
それはそれとして、前回から凄い評価来ててびっくりしてます…!
皆さんほんとにありがとうございます!
未だにダンジョン踏み込めてすらいませんが、どうかよろしくお願いします…
「…はい、これで恩恵を刻めたわ。おめでとうベル、今日から私たちの
「ありがとうございます!アストレア様!」
少し前の説明の後「ダンジョンに潜る時になったら僕を呼んでねー、話す事があるからね」とだけ残してわたぼうがどこかへ消えた後、ベルは主神室に招かれそのまま神の恩恵を刻むことになった。
モンスターマスターという話を抜きにしてもこれまでの話の内容通りならば、この少年はかつてダンジョンにて眷族達を助けてくれたかの青年の唯一の血縁者であり、手掛かりなのだ。
それに、こんなにも純粋そうで兎のような少年を1人にさせたくないという意味でも、アストレアにとってベルという少年を手放す選択肢は存在しなかった。
「それじゃ、ステイタスを出すわね」
そう告げてから、アストレアは紙を取り出してベルの背中にあてる。
わたぼうの説明の直後はあまり意識していなかったが、ベルの上半身は14歳とはとても思えない程に鍛え上げられており打撲と思わしき青紫色の痕や刀傷などの一直線に細い傷痕が所々に付いていた。
初の男の眷族ということもありアストレアはそのことに対して少し驚きで顔が赤くなり目を見開くが、男の眷族を持つとやはりそういう事もあるのかな…と思考を切り替えてから紙に写し続ける。
「はい、これでステイタス写し終わったわよ」
「ありがとうございます、アストレア様!」
アストレアからステイタスを写した紙を受け取りながら、ベルは明るい表情と共に礼を言う。
眷族となって最初のステイタスはいったいどうなっているのか、内心ワクワクしながらベルは受け取った紙に目を移した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベル・クラネル
Lv.1
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
指導:I
《スキル》
【
・自身のパーティに登録しているモンスターを召喚可能。
・召喚したモンスターに全ての指示を行える。(当スキル所持者以外には不可。)
・「戦闘不能」となっているモンスターは回復するまで召喚不可。
・モンスターと同じ特技を一部使用可能。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【
・早熟する。
・
・憧れの丈により効果向上。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
《魔法》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(最初のステイタスで2つもスキルが!?そ、それより初めて見るスキルばかりね…それにアビリティまで…。
最後のは思わず独断で消しちゃったけど、どうしようかしら…)」
わぁ…!と目を輝かせながらステイタスの紙を見ているベルを横目に、アストレアは
咄嗟のこととはいえ消したスキルの枠を改めてゆっくりと見て、アストレアは自身の判断が間違っていなかったと内心安堵を覚える。
彼…ベルはこのスキルも相まってそう遠くない内に…いや、1ヶ月と経たずに大成するだろう。
そんな逸材を、下界で娯楽に飢えている神々が野放しにするはずがない。
必ずや本人に問い詰めるだろう。
その際人は神に嘘をつくことができないため、ステイタスを明かしてしまえばベルがどれだけ隠そうとも他の神にバレてしまう。
そうなれば如何なるのかは目に見えているだろう。
勿論そうなってしまえば皆にとっても、何よりベルにとって不利益だろう。
それだけは避けなければならない。
「ベル…私達が、貴方の味方だからね」
「…?アストレア様?何か仰いましたか?」
「ふふっ、なんでもないわ」
ベルからの問いかけに、アストレアは少し悪戯っぽく笑いながら答えた。
おまけ?
「改めて見るとほんとに可愛い〜〜このスライムちゃん!!…あれ?くんだったかな?」
「モンスターに性別求めるなよ…。
…でも確かにちょっと気になるな、後でわたぼうとかいうやつに聞くか」
「ふふ、中々に愛くるしい見た目でございますね」
「…あたし、今流行りの異世界転生してるって言われても普通に信じれそうだわ」
「ええ、私も同感です。アリーゼ、少し触ってもいいですか?」
「もっちろん!もふもふしてもらいなさい!…ん?ブニュブニュというのかしら?」
「そんなのどうでもいいだろう…はあ、職務がまだ残ってるんだけどなぁ…」
「というか皆忘れてるかもですけど…そのスライムはベルさんのモンスターということを忘れないでくださいね?」
「もっちろんよ!ベルにこの子が連れて行かれるまではしっかり愛でていくわ!!」
「ちょっとは遠慮ってもんを持ち合わせてくれよ団長……っておいコラ団長!スライムが苦しそうだぞ!離してやれ!!」
「……キュウ…」
社会人生活が始まってしまったのでまた遅くなりますけど、さすがに次からは字数と内容の充実を頑張ります…
それと、次からはダンジョン探索に入る予定です。
それでは。
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第五話:いざ、ダンジョンへ!
これも全て仕事ってやつが悪いんだ…(某草加がやらかすBGM)
無事恩恵を刻むことができたベルは、アストレアからの「じゃあ次は、ギルドに冒険者登録をしに行きましょう」という一言によってアストレアとともにギルドへと向かうことになった。
父を探すという目的のためには、どうしたってダンジョンに潜らなければならない。
そのために冒険者登録が必要不可欠なことはベルも理解していたため、これに了承した。
ちなみにアリーゼたち他の団員は、全員がスライムに夢中で動こうともしなかったため動向しなかった。
「なんだかすみませんアストレア様…結果的にとはいえ、一緒に来てもらうことになるなんて」
「ふふっ、いいのいいの。それに、こうして誰かを頼るというのも大事なことだから、今のうちに覚えておきなさい。」
「誰かを頼ること…?」
「ええ」
そういったことがありギルドへ向かう最中、唐突に謝るベルにアストレアはそう言った。
どういうことですか?と首を傾げながら聞くベルにアストレアは歩みを進めつつも速度を少し落としながら丁寧に答えていく。
曰く、冒険者は恩恵をもらった後その自身の力に溺れ、なんでも1人でできると思い込んでしまう者が少なくない。
それ故、誰かに頼るということを無意識のうちに忘れてしまう。
そうしていくうちに、いつの間にかダンジョンで人知れず帰ってこなくなることもあるという。
「貴方がこうなるって決めつけているわけじゃないのよ。でも、貴方にはこれを先に教えておかなきゃいけないと思ったの」
これは私の勘なんだけどね、と先程までの淑やかなそれとはまるで違う、不安な気持ちを無理矢理自身の中に押し込めているかのようなどこかぎこちない表情でベルを見ながら、アストレアはそう言う。
そしてギルドへと向かっていた足を止め、同じく足を止めつつも突然の停止に疑問を持つベルの手を優しくそっと掴み目線をベルに合わせるように腰を落としながら、アストレアはベルに聞く。
「もし貴方が…ベルが困るようなことや辛いことがあったら、私やアリーゼ達、それか他の誰かでもいいの、とにかく1人で抱えずに頼ってくれるかしら…?」
先程よりも一層何かを懸念しているかのような憂わしげな表情で見上げるようにベルを見るアストレアの姿に、ベルは少し…いやかなりドキドキしているのか顔だけでなく胸が熱くなるのを感じていたが、心臓の鼓動を抑えつつすぐに切り替え、覚悟の決まったような引き締まった表情に変えてアストレアに宣言するようにはっきりと答える。
「…はい!困ったら周りに、アストレア様やアリーゼさん達皆を頼るようにします!」
「ええ、その調子よ」
その答えを聞きアストレアは目を見開いた後、安堵の表情を浮かべながら相槌の言葉と共に優しくベルの頭を撫でたのだった。
なおその一連の様子は大通りで行われていたこともあり、通行人を始めとしたアストレアに密かに声をかけようとしていた連中や神々に意図せずとも見せつけるような絵面になっていたため、ギルドでの登録を終えてホームに戻るまでベルは妬みや殺意の籠った視線を向けられていたのは別の話。
「久しぶりのダンジョン!ふふん!よーし、私頑張っちゃおうかな!」
「おいおい、今回はベルの付き添いだろ?目的を忘れるなよ…」
「私達も来て正解でしたね…アリーゼだけにしていたらどうなってたことか」
「一応僕もいるんだけどな〜…あ、でもガイドで以外であんまりいられないから仕方ないか…」
「え、えっと…よろしく、お願いします…」
そんなこんなで無事に冒険者登録を終えたベル。
ギルドから支給されたナイフを携えて、ホームにてなんだかあれやこれやと色々な話が進んではベルのダンジョン探索に同伴する者として着いて来ることになった
着いた途端にアリーゼのこの発言のため、ライラとリューは一緒に来てよかったと内心安堵しつつ返事をしていた。その雰囲気にまだ慣れていない1人と一匹はやや置いてけぼりだったが。
彼女たちがこうしてベルに同伴していた理由は先達冒険者として教えつつ実践するため…というわけではなく──そうであっても教えれることは少ないかもしれないが──、ダンジョンに入る前ホームでのわたぼうの発言にあった。
『そうそう、ダンジョン内でもう1つ専用のダンジョンに潜ってもらうから、念入りの準備をしておいたほうがいいよ』
これを聞いた一同は驚愕した。
それも無理ないだろう。ダンジョンの中で更に別のダンジョンに潜るなど恐らく後にも先にもない上に、そもそもそのような話を聞いたことがない。
話していた時の軽いノリから見てわたぼうにとっては然程大きな意味を持たなかったのかもしれないこの発言は、【アストレア・ファミリア】の面々にとっては決して無視できぬ言葉だった。
それを聞いたアストレアは思考し、どの程度の規模かもわからない、そもそも何があるか全くわからない、だが抗争時よりは危険が減ったとはいえ巡回をしないというわけにもいかないためファミリア全員では難しいという結論に行き着き、結果的に何かあった時の指示を行えるアリーゼ、団員の中でも特に知恵が回り機転が利くライラ、もしもの時の回復魔法とファミリア随一の敏捷を持つリューの3人を同伴させるという判断を伝えて現在に至った。
だが、1階層であってもダンジョンはダンジョン。
そうこうしていると近くの壁からボコッという音がなり、直後にそこから人型でありつつも狼のような顔や体の特徴も持つ人狼とでも言うべきモンスターが現れた。
コボルトである。
ギルドにおいてレベル1にカテゴライズされているそのモンスターは、同じく1階層から出現する最弱とされている子鬼のモンスターのゴブリンに次いで弱いとされているが、ゴブリンと違って獰猛さや鋭い爪や牙を持っているため初心者冒険者にとっては十分脅威なのだ。
そんなコボルトを見かけたアリーゼは、気づかれてないことを確認してベルに声をかける。
「ねえベル、あそこのコボルト倒せる?」
「はい!余裕です!」
問いかけられたベルはコボルトを一瞥して、アリーゼの方に向き直ってから自信満々といった様子で答えた。
おお〜、頑張れ〜!というアリーゼの気の抜けるような応援にあはは…と苦笑しつつも、ベルはナイフを鞘から抜いてそれを逆手持ちにし、そのまま真っ直ぐと向かってコボルトが気づかぬ程の瞬足で一瞬にして間合いを詰めてそのまま綺麗なまでにコボルトの首を両断した。
コボルトは声も出せぬまま、コトンと紫紺の魔石を残して体が灰になって消えていった。
初心者で、しかもつい先程まで冒険者ではなかったはずのベルのいっそ鮮やかとも言えるような狩りにアリーゼ達は目を見開く。
「す、凄いねベル…何かやってたの?」
「はい?」
コボルトを倒し終えて、これが魔石…と魔石を拾って観察していたベルにアリーゼは好奇心と驚愕を混ぜ合わせた複雑な表情でそう問いかけた。
ベルはなんのことかわからず一瞬キョトンとしていたが、少し経って理解したのかその問いかけに答えた。
「…よく、お父さんのモンスターと戦って鍛えてましたから。」
おとうさんの?とオウム返ししながら首を傾げるアリーゼ達をおいて、ベルははい、と答えてからそのまま言葉を続ける。
「やばかったですよ…鍛錬のはずなのにトゲトゲの鉄球がついた武器と剣を持った宙に浮いてる機械に徹底的に痛めつけられたり、全身が文字通り宝石で真っ白で不気味なモンスターに数え切れないくらい刺し殺されそうになったり…」
「あ、あのー…ベル?ベルさーん…?」「おーい…?」
「他にも大きな人型の瓦礫の集合体みたいなモンスターの攻撃を避け続けたり、大剣とボウガン構えてる機械に延々と追いかけられたり「も、もうわかったから!大丈夫だから!!」そ、そうですか…?」
その赤目から光を失っていきながらももはや恨み言のように述べていくベルに、このまま延々と続きそうだと察したアリーゼ達は慌てて話を中断させる。
最初はちょっとした好奇心や興味で聞いたはずのことが、気づけばもはや第一級冒険者である彼女たちですらも想像がつかない地獄なんて言葉すら生温く感じる内容が次々とベルの口から出てきてしまえばそれも無理はなかった。
(ベルのおとうさんって…実は超鬼畜なサディストだったのかしら…!?)
(ふっつーにベルが可哀想だな…ってか機械系のモンスターばっかり挙げてたが、なんか意味あるのか…?)
(クラネルさん…よく生きてこれましたね…)
こんなに純粋で良い子なベルの親なんだから、きっと似てるのね!などと密かに考えていたアリーゼの脳内での紳士の如く爽やかなイメージが、音を立てて崩れたのであった。
ライラは同情しつつも気になる部分について考え込み、リューはもはや憐情と共になんとも言えない複雑な表情を見せている始末だった。
そんなこんなで各々がそれぞれの反応をしつつも進んでいると、突然ベルがつけている指輪が光り始めた。
それ自体は以前のような然程強いものではなかったものの、今回は点滅するかのようにチカチカと光り続けていた。
「なんだろう、これ…」
「それはもう1つのダンジョンの入り口に導いてくれる光だよ」
「うおぉ!?」
疑問に思ったベルの言葉に合わせるように、どこからともなく現れたわたぼうがそう答えた。
突然の出現にベルは驚くが、わたぼうはそれを気にも留めず話し続ける。
「言ったでしょ?もう1つダンジョンに潜ってもらうって。道案内するからおいで!」
そう言いつつふわふわと先に進んでいくわたぼうに話しかける間もなく、一行は慌てて追いかけるのだった…。
書いてないとこんなに下手くそになるんですね自分…w
それはさておき、今回も新モンスター適当に出しましたけど、どれが誰かわかったらすごいです!(多分本作で出番ないのも含まれてるかも)
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