ハイスクールD×D 黒の処刑人 (夜来華)
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プロローグ

*注意、かなりの原作乖離になると思います。

*SAMURAI DEEPER KYOのキャラが分からない場合、オリ主と思っていただいたほうがいい
 可能性有り。

*極力知らない方にも分かりやすいように書こうとしていますが、文才が無いため
 分かりづらかったらすみません。


 

 

 

 

先代紅の王の呪縛を受けたていた辰伶達を解放し、最後に残された意識さえも霞んでいく。

 

(あとは、頼みましたよ・・・・・壬生の若き戦士達よ)

 

身勝手な願いだと想うが、心を失った自分にどんなに苦しくても足掻き、未来へと進む意思を

見せてくれた。

残る敵は強大だが、彼らには頼れる"戦友"がいる、彼らならきっと──平和な未来を、

自分達のような"欠陥品"を生み出さない世の中にしてくれると信じている。

 

思い残した事も少なからずあるが

 

(私は自分自身で、死ぬ場所を選ぶことが出来た・・・・・)

 

誰かに決められた場所で死ぬ事ではなく、最後まで自分自身の道を選べた事。

自分がただただ造られた戦闘人形では無かった事が証明できた。

 

心を失った自身に唯一誇ることが出来た。

 

そして、最後ぐらいは素直になろうと

 

(許して欲しいとは言いません、ただ──)

 

謝りたかった。

 

いくら一族の未来を守るためとはいえ、手を血で染める道を取り、研究に研究を重ね

振り返れば屍の山であった。

 

後戻りは出来ない、消え逝く一族を守る為に進むしかなかったのだ。

そして──研究結果は戦友に託し、そして自分達はこの罪を命で清算した。

 

消え逝く意識の中、ふと彼を呼ぶ声が聞こえる。

これが地獄からの招待状か──と、苦笑しながら彼は意識を手放す。

 

(ええ、今行きます。村正、吹雪、姫時──今度はもう命ある限り共に──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイスクールD×D 黒の処刑人

 

プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

この世界は、天使、悪魔、堕天使、ドラゴン、幻想種、妖怪、聖人、神話の神々が存在し、

その中でも、神率いる天使勢、魔王率いる悪魔勢そして、堕ちた天使率いる堕天使勢の

この3勢力が大きな力を持っており、相容れない3勢力は戦争を始めたのだ。

 

大規模な軍勢を率いて、天界、魔界、人間界、異界、を戦場にして戦を起こした。

その他の勢力も各陣営に参戦し、世界の終わりを促すほどの戦乱に──

 

そして戦乱の最中、戦争に参加していなかった二天龍と呼ばれるドラゴン達が突然喧嘩を始めた。

この二匹は、ドラゴンの中でも最強と謳われる程の実力を持っており、行き成り現れた

二匹の喧嘩の余波は凄まじく、各陣営に多大な被害をもたらし、戦場を混沌へと導いた。

 

各勢力は、他の勢力を相手にしながらドラゴン二匹の討伐に向かわせるが、主力が回せない以上、

被害だけが増えていく。

 

そして、ドラゴン達の喧嘩は次第に激しさを増し、既に1勢力では手に負えない状況となり、

これ以上無駄な戦いで被害を出さないために各勢力の首脳陣はお互いに一時的に停戦を申し込み、

ドラゴン討伐へと申し込む。

 

そして3大勢力は結託し、一時的な同盟を結び、そして他の神話の神々にも協力してもらいった。

当然、喧嘩を邪魔された二天龍は怒り狂い、彼らも一時的に喧嘩を止め、

彼らへ本格的に牙をむいた。

 

神々や魔王すら殺せるほどのドラゴン相手に苦戦を強いられるが、神、魔王が最前線と赴き直接

彼らと戦った。

 

そして、二天龍は強大だが同じ、それ以上の力を持つ3大勢力のトップたちと互角の戦いを

繰り広げるが、徐々に二天龍は押されていき、そして、遂に討伐され二匹の魂は消滅を

間逃れたが、神器に封印された。

 

そして、3大勢力は二天龍討伐後、各陣営に戻り、戦争を再開する。

だが、先のドラゴンとの戦いで、各勢力は疲弊し、そして、彼らを率いる神、魔王達でさえ

傷を負っていた。

 

その後の各戦場の激しさは、徐々に徐々にと失っていき、各陣営の勢力も全戦力の約60%以上を失っていた。

疲弊した陣営は種の存命の危機を感じ取り生き残った首脳陣は、

戦争の停戦を切り出しこれに合意。

 

来るべき、再戦に向けて彼らは戦力の回復へと力を注ぎ込んみ、かりそめの停戦状態になる。

 

 

 

 

 

 

 

そして現在、私立駒王学園の生徒会室にパソコンの前で作業をしている少女がいた。

髪はショートカットの黒色、顔立ちは可愛いと云うより美しいと表現し、縁の赤い眼鏡を

かけていており、少しキツイと思わせるような感じである。

 

名はソーナ・シトリー、そして支取蒼那と言う名前でこの学園に通っており、

彼女の正体は、現魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹で「元72柱」シトリー家の次期当主の

悪魔でありこの学園の生徒会長でもある。

 

既に日が傾き、夕焼けが窓へ差し込む部屋には彼女一人であり、パソコンへと打ち込む音のみが

木霊していた。

 

(兵藤一誠・・・この学園の2年生で、同学年の松田君、元浜君と3人で「変態三人組」と

 呼ばれている彼がリアスの手によって「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の兵士分8つ消費して、転生した)

 

数日前に同学年であり、幼い頃からの親友である同じ悪魔、リアス・グレモリーからの報告を

受け、彼女の眷属リストに詳細を書き込んでいた。

彼女はここ数年、眷属を増やしていなかったので、友としてライバルとして嬉しく思う反面、

今後、彼女とレーティングゲームの戦略に役に立つようにデータで記憶させていくのだ。

 

レーティングゲームとは、悪魔の勢力が大きく減り、戦力回復の為に転生により強力な眷族を

増やし、仲間どうしで実戦経験を得るために、現政策で大きく力を入れているゲームである。

自身を王として眷属をチェスの駒に見立てて、対戦相手と競いあう実戦形式、

勿論、ごく稀に不意な事故で命を落とす危険性もあるが、年々完成されていくシステムで

仲間が死ぬことなく、お互いを高めあえる大人気のゲームになり、そこで得た成績で

爵位や、地位にも大きく影響を及ぼしている。

 

そして、ソーナ自身もレーテングゲームに参加すべく、眷属を集めている。

勿論彼女は駒で云うと「王」である。

 

本来ならば眷属達、自身の使い魔に情報収集させるのが一般なのだが、彼女は自分自身で

「知る」事を有意義に感じており、それについての行動には一切の妥協は無い。

 

集まった情報を元に自分自身で整理し、対抗策、戦略が出来上がると眷属たちにも意見を聞き、

修正を加える。

 

実際に戦うのはまだ先だが、今から行動していても損は無いので、生徒会の執務が終わり次第

こうやって、情報を手に入れるたびに整理しているのだ。

 

(何かしらの神器(セイクリッド・ギア)を持っているが元はただの人間で、戦闘に関してはまったくの素人状態。

 リアスに下ったはぐれ悪魔討伐時に初めて戦いの空気に触れる。そして間をおかず、

 はぐれエクソシストとの戦闘。その後、堕天使との戦闘で神器が覚醒、

 それはただの神器ではなく、神さえ屠ることの出来る神滅具(ロンギヌス)と判明。

 その名は「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」。誰もが知っている、伝説の二天龍の

 片割れあり、その魂が封印されている)

 

8個の兵士分消費したと聞いたときから、何かしらの特別な力があると踏んでいたが

 

(結果は大当たりだったようねリアス)

 

あの赤龍帝を眷族にしたリアスは、今以上に注目を浴びるとこになる。

その反面彼女と戦う際、もっとも警戒すべき相手なると、ソーナ自信は確信していた。

 

(この間私の眷属になったばかりの匙で4つ使用、匙自身の潜在能力でどこまで

 赤龍帝と張り合えるかが"鍵"になってくるかもしれない。勿論、一人で相手をさせる

 訳にもいかないが戦況、戦略でかならずそういう場面があるのは確実)

 

匙 元士郎、元は人間でソーナがここ最近新しく眷属にした兵士の名前で、

この駒王学園の2年生であり同じ生徒会の書記担当であり、

彼の持つ神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』が

非常に強力だった為、転生に要する兵士の駒が4個分消費したのであり、順調に育てれば

将来有望な悪魔になるとソーナは確信していた。

 

そして願わくば赤龍帝である一誠と共にお互いを高め合って欲しいと思っている。

ライバルが強ければ強いほど、対抗心が芽生えてくるからだ。

 

故にソーナはリアスと話を合わせて、今度眷属同士の顔合わせを予定していた。

 

(そしてもう一人、リアスの眷属になった少女、アーシア・アルジェント)

 

金髪の愛らしい少女であり、シスターであったが先日の堕天使との戦いで命を落とし

悪魔として転生した経歴をもつ。

 

(戦闘力は皆無ですが、こちらも非常に希少な神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」の

 持ち主、効果は対象がどんな相手、種族でも回復させることのできる神器。

 これを欲した堕天使に唆され、神器を抜き取られ死亡したけど、リアスが「僧侶」の駒を

 使用して転生させた、レーティングゲームをする際に彼女の存在が戦況を左右する

 可能性も出てくる)

 

回復役と言うのは現状(・・)存在しないからであり、ゲームで使用される回復アイテム、

フェニックスの涙以上に貴重な存在になり、彼女が戦線に居るだけで戦力回復が

ノーリスクで見込めるようになる。

 

(故に最初に彼女を落とすか、回復させる前に相手を退場させるかで戦況が変ってくる

 まぁ、リアスの事だから恐らく自陣に配置させる確率が高い)

 

リアス・グレモリーではなくてもそんな貴重な戦力を最前線に派兵するのはハイリスクである

 

(正直持久戦になればなるに連れて、こちら側の不利は否めない──か)

 

ソーナはリアスの眷属を一人一人見直していく。

 

(他の姫島さん、木場君、塔城さんも非常に優秀な能力を持ち、段々と隙の無い布陣に

 なってきてるわね、リアス)

 

同学年である姫島朱乃はランク「女王」であり「雷の巫女」と呼ばれる雷撃系の魔法を

得意とするが、近接攻撃等は見た事が無い。

 

木場祐斗は2年生でランク「騎士」、近接戦闘を得意とするタイプで神器「魔剣創造(ソード・バース)」を

持ち、現状のグレモリー眷属の中ではエース各。

 

塔城小猫は1年生でありランク「戦車」、小柄ながらもランクの特性をいかした怪力、

防御力を発揮する。

 

アーシア・アルジェント先日この駒王学園に2年生編入、「僧侶」として回復役。

 

そして、兵藤一誠、赤龍帝の所持者。

 

(見ているだけで、壮観ね──勿論私の眷属も彼らに負けず劣らずだけど──)

 

元々姫島朱乃と木場祐斗が個々の能力として抜き出ており、現状でも要注意戦力であるが

対処法は既に構築済み、その場合こちらの戦力の大半をつぎ込む可能性もあるが、彼らさえ倒せば

戦況は一気に有利となり勝機が明確になる。

 

だからこそ、今回眷属になった二人の戦力次第ではもっと緻密な作戦が必要になるかもしれないと

考えているうちに、ふと、ソーナは使い魔を通して一誠の戦闘の一部始終を見た記憶を思い出す。

 

(既に籠手の具現化に成功し能力も使えている・・・今は、まだ未熟、簡単に対処できるけど、

 彼がもし経験を蓄積するスピードが速ければ──っ?)

 

ふと、何かの気配を感じ取ったソーナは部屋の中を見渡した。

 

(今の感覚は──?)

 

部屋の中には誰もいない、イスから立ち上がりドアを開け廊下を見渡すが誰も居なかった。

 

(ただの勘違い?──いえ、違う・・・誰かがこの学園に召喚された)

 

そう、今ソーナが感じた気配は使い魔や魔法で転移してきた者に特有に発する魔力。

一瞬勘違いかと思ったが、感知魔法にも長けているソーナだからこそ気づけるぐらいの

微弱な魔力であった。

恐らく自分自身以外感知した人は居ないだろうと思う。

少なくとも、生徒会室、廊下には誰もいないし魔力の痕跡も無い。

 

「来なさい、ベイ」

 

ソーナがその名を呼ぶと、近くに小さな魔方陣が展開しその中から真っ白な子犬が現れた。

 

「外の様子を見てきてください」

 

「ワン!」

 

子犬は可愛らしく吼えると、空いていた窓から外へを飛び出た。

使い魔である子犬=ベイに命令を出した後、ソーナは生徒会室を出て、近くの教室から

順に開けていき中を確認していく。

 

(いない・・・・痕跡もなし)

 

放課後となっているのでほとんどの教室はもぬけの殻。

既に8つ目の教室を開け、調べ終わったり9つ目の教室へ向かう途中

 

『ワン!』

 

ベイが何かを見つけ、ソーナに念話を送ってきた。

 

(分かりました、すぐに向かいます)

 

ソーナは意識を集中させ、ベイの位置を探る。

契約を結んでいる使い魔には魔力ラインが通っており、よほどのことが無い限り

お互いの位置を探ることが出来る。

 

(反応は校舎裏の森の中・・・)

 

ベイの反応は健在であり、何かと戦闘している気配も無い。

すぐさま階段を駆け下り校舎裏へと急ぐソーナ。

 

数分後、目的地にたどり着いたソーナの目の前には──木にもたれ掛かりながら

座っている男が居た。

ベイが傍らに座り込み、臭いを嗅いでいたが反応は無く、ソーナも近寄るがこれといって

反応を示さなかった。

 

髪型はショートで前髪の一部が白髪、顔の半分は黒の包帯で隠れており、服装も黒のジャケットに

左半身は顔と同じく黒の包帯で巻かれており、けが人を思わせるほどの格好である。

身長は180cm以上で殆どが包帯で隠れているので、普通としか分からない。

 

見るからに怪しい人物であるが、ソーナは臆せずしゃがみ込み、男の手を取って脈を測る。

 

(意識が無く呼吸も細いが、脈はある・・・)

 

生きてはいるが、目を覚ます気配が無い。

 

(なにより、この人から魔力がまったく感じられない・・・・どういう事?)

 

そう、ソーナの目の前にいてる男からはまったくの魔力が感じられない。

確かにあの時微力な魔力は感じたはずなのに、無いのである。

 

(ともかく、放置は出来ない)

 

ソーナは傍らにお座りして待機していたベイに声を掛け、

 

「ベイお願い、この人を運ぶ手伝いを」

 

「ワン」

 

ベイは返事をすると、魔力を全身から放出させ──2メートルはあるかと云うほどの

大犬に変身した。

 

ソーナは魔法で男を浮遊させ、ベイの背中に乗せ、自分自身もまたがり

 

「とりあえず、人目が付かないように保健室に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナは保健室の先生に事情を話し、ベットの上に彼を寝かしつけた。

全身が包帯だらけなので、慎重に運んだが一向に目を覚ます気配が無かった。

 

「つまり、貴方が突然魔力の気配を感じ、探した結果彼が居たって事でいいのよね?」

 

「ええ」

 

ソーナの話を聞いて女医は男の体を調べ始める。

 

「確かに、この人から魔力は感じられないわ・・・・怪我を調べようとしてもこの包帯が

 邪魔ではっきり分からない」

 

「剥がせないのですか?」

 

ふと、思った疑問を口にするソーナ、しかし、女医は首を横に振った。

 

「触ってみて分かったけどこの包帯、魔法ではない何かの術で厳重な封印が施されているの」

 

その言葉にソーナも包帯に触れてみると、静電気のような感覚が指先に感じられた。

 

「恐らく、見せたくない何かが"ある"のは間違いないわね」

 

「・・・・」

 

死んだように眠っている男を見つめるソーナ

 

(一体・・・何者なの・・・)

 

女医は他におかしい点、異常が無いか確認し終えると、

 

「学園長に報告はどうする?」

 

「本来は私が報告しに行くべきなのですが、このまま様子を見ておきます。

 万が一のことを想定すると・・すみませんが、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかったわ。 一応外側から私も結界を張っていくから

 貴方も内側から掛けておきなさい」

 

本当は第一発見者であるソーナが行くべきなのだが、万が一を考えると

自分が残る方が最適なのである。

 

先生も勿論悪魔だが、ソーナより力は劣るので彼女の真意を読み取り

保健室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

(リアスにも報告しておこうかしら)

 

ベットの横でイスに座って様子を見ていたソーナはそっと立ち上がり、

結界を2重に張ると保健室の外へ出て携帯を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──起きてください、ひしぎ。 今日は吹雪の初の水舞台なんですから

 

──きっと新鮮な吹雪が見られるかも知れない、あきちは楽しみだなん

 

──四方堂姐さん、不謹慎ですよ

 

懐かしく、とても優しい声の持ち主達

 

──ああ、今日はオレの初舞台だ。 見ていてくれよひしぎ

 

とても大切な親友の声

 

──とても楽しみですね・・・ええ、今日は身分もなにも関係なく楽しみましょう。

 

優しかった頃の主

 

とても、とても懐かしい夢を見ている──大切に胸のうちにしまっていた想い出。

 

(村正・・・四方堂姐さん・・・姫時・・・吹雪・・・・先代紅の王)

 

声が聞こえてくるたびに、自分自身の想い出が蘇ってくる。

楽しかったこと、嬉しかったこと、そして・・・悲しかったこと。

 

死の病により姫時の死

 

人間同士の絶えない争いに絶望し豹変した先代紅の王

 

「死の病」の治療法を探す過程で、知った自身たちが

真の壬生一族により生み出された"戦闘人形"の末裔

 

死の病により一族の未来を憂い、意見が対立した村正と吹雪

 

自身の「死の病」の発病、親友は"全て"を失い、自身もまた"心"を失った

 

灯との出会い

 

そして──壬生一族の未来を懸けて鬼眼の狂との戦い

 

一族の為とは云えど、非違人道的な自分達の悪行を自らの命で清算

 

魂のみで、先代紅の王に停止させられていた若き壬生の戦士達を解放

 

その後完全に意識が途絶え、地獄へ堕ちたはずのに徐々に徐々にと意識がはっきりしてくる。

 

(私は──)

 

ゆっくりと目をたら、白い天井が見えた。

 

(寝かされていたのか・・・・・ここは)

 

嗅ぎなれた医療用品の香り。

そっと体を起こして周りを見渡す。

 

それは、見たことも無い材質で作られた機材や、建物、見慣れない風景であった。

 

「私は、死んだはずでは・・・・・」

 

胸に手を当ててみたら、無いはずの心臓が脈を打っている。

 

「心臓がある・・・あの時吹雪に移植したはず」

 

そう、死ぬ直前に心臓の秘術を使いリミットが切れかけていた吹雪に、

自身の心臓を移植させたはずなのに、元に戻っていたのである。

 

「一体どういうことなんですか・・・・」

 

ベットの横にある窓の外を覗いてみると、知らない景色ばかりであり、

鉄のような塊が高速で動いているなど、自身が生きていた時代には無かったものばかりであった。

ここから僅かに見える人も、着流しや、着物ではなく、何ともいいがたいが、

動きやすそうな服装だった。

 

「江戸時代ではない・・・?」

 

元々居た江戸時代の文明とは遥かに進化している。

が、興味は一瞬で四散した。

 

「どうして生きているんでしょう・・・生きてる価値のない命なのに・・・」

 

既に失われた命、そして自分自身も生きたいと願わなかった想い。

あの時、全ての罪をこの命で清算して地獄へいくはずだったのに、まだ現世に留まっている。

そう思っているとふと、ありえないと思っていたことが意識をよぎる。

 

命を、自分自身を作った"神"ならば──死人だって蘇らせることなど造作も無い。

 

そう思うと沸々と憎悪がせり上げてくる

 

「どこまで、貴方は私をコケにしたら気が済むのか・・・っ!」

 

心を無くさせた原因を作り、一族をリセットしようとした"神"ならばやりかねない

自分自身を作り出した"神"へと憎悪を滾らせ──

 

(貴方の思い通りにはなりません)

 

ひしぎはそう思うと、右手をゆっくりと持ち上げるとそのまま指を胸へと

沈みこませて行く。

 

徐々に徐々にと肉を破る音を立てながら指は胸を突き破っていく。

吹き出た血液で体に掛けられていた毛布や、自身の服は次第に紅く染め

 

(心臓を壊せば・・・死ねるはずです)

 

そう、ひしぎは既に生きるという意志は無く、やり直すという思いもでず、

ただただ、自分自身を生き返らせた"何か"の思い通りにはなりたくない。

そして、ただの戦闘人形として戻ることを拒んだ。

 

自身の胸に突き刺した指は骨をすり抜け心臓を捕らえ、握り潰そうとした瞬間──

 

 

 

 

扉が開かれ、ソーナが部屋の中に戻り、視線をベットに向けると、

寝ていた男が上半身を起こし、自身の右腕で胸を貫いている光景が

目に入り

 

「な、何をしてるんですか!」

 

慌ててひしぎの元に駆け寄り、腕を掴んだ。

 

「・・・・」

 

いきなりソーナが入ってきた事に驚きはしなかったのは、既に扉の向こうに気配を

感知していたからである。

突然のソーナの行動すら眼中になく、そのまま指に力を込め始めた。

 

「──っ!」

 

無反応のひしぎに対して、ソーナはまず胸を貫いている腕を思い切り引っ張った。

 

思いのほか、腕は簡単に胸から離れるが──貫いた場所から勢いよく血が吹き出てしまった。

意識が戻ったばかりで、尚且つ今の体の状態がほとんど機能しない故に、

すぐに抜けたのである。

 

「じっとしていて下さい」

 

横にあったシーツを少しでも出血が収まるように巻くが──

 

「ほおっておいてください」

 

必死に自身の体に応急処置を施そうとするソーナの姿に漸く反応したひしぎが呟いた。

だが、ソーナはその言葉を無視

 

(このままでは・・・死ぬことが)

 

本来ならば簡単に振りほどけるのだが、まったくと言っていいほど体に力が入らず、

先ほど右腕を動かせたのは最後の力を振り絞ってだった。

 

「私は死にたいんです」

 

巻かれたシーツは真っ赤に染まり

 

「こんな薄汚れた呪われた血で貴方の綺麗な顔を汚す必要はありません」

 

腕を抜いたときに吹き出た血がソーナの顔に掛かっていたのだが、彼女は拭いもせず

腕も真っ赤に染めながら必死に血を止めようとしてた。

 

既に自身の力がまったく出ないひしぎは、少しずつだが感情を露にして

ソーナに止める様言葉を紡ぐ

 

「こんな価値の無い命を──欠陥品であり、生きることすら許されない私を──」

 

「この世に価値の無い命なんてありません!」

 

今までひしぎの言葉を黙って聞いていたソーナだが、彼の言葉を切った。

 

「私は、貴方の事情、価値なんて知りません!でも、せっかくの命を絶とうとすることは

 間違っています!」

 

ソーナは必死に言葉を紡いだ

 

「たとえ欠陥品だろうが、貴方か死ねば悲しむ人が出ます!悲しまない人なんて居ません!

 そういう人は勝手に死んではだめなんです!」

 

彼女の目には、ひしぎの生きることに絶望した表情映し、憤り以上に悲しみが込上げ

語りかける彼女の目には涙が流れていた。

 

 

「──っ!!」

 

その言葉にひしぎは息をのんだ

 

(その言葉は──)

 

今の言葉でひしぎは全てを思い出した──死ぬ間際に思っていた事、宿っていた感情、

そして解かされた心を──

 

「だから"生きて"・・・・・これ以上私を悲しませないでください・・・っ!」

 

ソーナ自身でも分からないぐらい悲しみの感情に支配されていた。

生まれて初めて見る人の絶望の表情、雰囲気、そして死を実行とする姿を目の当たりにした

彼女は到底耐えることのできない代物であった。

 

確かに彼女はひしぎの事は知らないし、他人の為にこれほど涙を流したことは

今まで無かった──だけど、今はそんなことすら忘れるほどの衝撃だったのだ。

 

そして涙を拭いながら、一生懸命に処置を施していく姿に

 

「・・・・・」

 

そっとひしぎは目を瞑り体から力を抜いた。

 

(私は──また、間違えるところでした)

 

"生かされた"と言う事に憎悪を募らせ、せっかく思い出した"心"をもう一度手放す所であった。

 

(名前も知らぬこの少女のお陰で──灯さん、貴方の言葉を思い出せました)

 

とても大切だった戦友であり、最後の最後で心を取り戻すきっかけをくれた人だった。

 

(本当に私はバカですね──言われたそばから同じような行動を取ろうとしてたとは)

 

自身の行動を呆れつつ苦笑する。

 

(どんな思惑があって私を生かしたのか──ええ、私もあの"馬鹿"達を見習って

 今度こそ"戦友"を悲しませない為に生きてみるって云うのもありかもしれませんね)

 

思い出される、死ぬ間際の鬼の仲間達。

 

(少しそちらに行くのが遅れますが──許してくださいね)

 

親友達に心の中で詫び、

ひしぎは血の付いていない左手を必死に持ち上げて、ソーナの頭を撫でた。

 

「ありがとうございます、お嬢さん。貴方の言葉で忘れていた"もの"を思い出せました」

 

「──はいっ」

 

その言葉にソーナ自身も"救われ"、涙を流しながら微笑んだ。

 

 

 

 

 




こんにちは、初めまして、お久しぶりです、夜来華です。

にじファンが潰れ、引退しておりましたが仕事のストレス発散の為
再びやってしまった限りです・・・。

感想、ご質問あれば作者のやる気、気力に繋がるため頂けると嬉しいです。

まったーり書いてますので更新は遅めだと思います。


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第1話 生きる目的

もう一度、私にもやり直す事ができるでしょうか?

ただ一人の人間として生き抜く事など、思いも付かなかった。

どうすればいいでしょうか──吹雪




 

駒王学園、保健室の一角に関係者以外立ち入り禁止と書かれたプレートがあり、

その中には、未だに立つ事の出来ないひしぎが療養していた。

 

女医が学園長に事情を話し、直接訪れた保健室で血まみれのソーナを見たときは

一悶着あったが、ソーナの話を聞き大事にならずに済んだ。

 

ここがどこで自分がなぜ生きているのかが分からないと語ったひしぎに両者は

警戒をして学園長と女医は学園関係者ではない彼をすぐに追い出したかったが、

 

「行く場所も、帰る場所も無く、自身の体すら満足に動かせない彼を

 放り出すなんて出来ません。」

 

「しかし、ソーナ君。彼には悪いが、素性が分からなく、本当に体が動かないかは

 本人にしか分からない。 この決定は妥当だと思うし──何より彼女(・・)には

 まだこの話は通してないのだろう?」

 

「ええ、ですがリアスには直接私が出向き、説得するのでご心配には及びません。」

 

「もし、仮に彼の療養を許可をしよう。だが、ここは学校なんだよ?

 何かあった場合はでは遅い。私は学校の運営を任されている以上、余計な不安要素は

 すぐにでも排除したいのだよ」

 

学園長の言い分は正し過ぎるほどに正論である。

 

だけど、ソーナはひしぎの腕を触った瞬間に分かったのだ、本当に彼には満足に

動かせるほどの筋力が無いことを、そしてこのまま追放が決定すれば彼は何も

言わずにすぐに出て行こうとすることを──。

 

あんな行動を見せられた後では目を離してはいけないと、瞬時に悟ったからこそ

ソーナは必死に説得をしているのだ。

 

「もし何かあれば責任は私が取ります! ソーナ・シトリーの名において誓います」

 

「本気なのかね・・・見ず知らずの彼をそこまで庇う価値はあるのか?」

 

「ええ」

 

その言葉に、学園長とそばで成り行きを見守っていた女医は顔を見合わせると。

 

「分かった。身体が回復するまでの間のこの個室を貸そう。ただし監視は付ける」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「授業中は彼女に見てもらって、学業が終わり次第、ソーナ君。君がするんだ」

 

「はい」

 

「ならば、もう言うことはない」

 

そう言って学園長は身を翻し、女医を連れて去っていった。

彼らが去ったのを見送り、姿が見えなくなった所でソーナは自身の体に

掛けていた力を抜いた。

 

「ふぅ・・・」

 

正直、もっと強攻策に出られると踏んでいたが意外にすんなりと許可を

貰えた事に少なからず内心驚いていた。

 

(私のこの行動は本当に正しいのか)

 

生徒会長として学校の規律を一番に守らないといけない立場であるのに、

不安要素、不確定要素である彼をこの学校に匿う事を選択してしまった。

 

(分からない──でも、あのまま放って置く事は出来なかった)

 

口では「大丈夫、もう死のうとはしませんよ」と言っていたが、実際に

あの行動を見た後だと信じる事が出来なかった。

 

(とりあえず、今は自分自身の選択を信じるしかない──か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これから私は何を目的に生きていけばいいのでしょうか──)

 

ソーナと学園長達が保健室の外で話し合いをしている時、ひしぎはぼんやりと夕焼けに

染まる景色を見ながら考えていた。

 

(時代も変わり、知り合いもいるか分からないこの世界で──私は何のために

 蘇ったのか)

 

江戸時代での復活ならば、まだ自分が何をすべきか分かるが、

何の知識も無いこの時代で何の為に蘇らされたのかが、まったく分からなかった。

 

ひしぎは思案しているとふと、今まで生きた過去を思い出す。

 

(昔の私には目標、目的があり、それを目指すために生きていた)

 

生まれは名門であり、子供の頃に吹雪、村正に誘われ、紅の王を守護を務める

九曜と分類される中の一つ、五曜星(紅の王を守護する親衛隊)を目指し、

3人で修行に明け暮れていた。

 

そして3人は最年少で五曜星になったが、そこで満足はせずさらにその上である

太四老(紅の王を守護する九曜の中の頂に位置する守護者)へ為るべく

更に修行、勉強し目標に向かって生きていた。

 

晴れて太四老になってからは、よりよい政治を勤めるべく励み、

そして一族の模範になるように勤めていた。

 

(あの頃は生きるという目標がすぐに見つかっていた)

 

そして、何世紀過ぎてもその思いは変らずだったが──死の病に冒されたときに変り、

生きる目的さえ見失った自分に"親友"が目的を与えてくれたから生きていた。

 

(だけど、今生きる目的だった"親友"を失った私は──どうやって生きていくのか。

 今思えば生きる目的を誰かの為、誰かの願いに縋って生きていましたね)

 

ひしぎの視線の先には、運動をしている若者達が映っていた。

 

(若い頃であれば、もっと簡単に目標を見つけれたかもしれません)

 

自身の年齢を考えると、苦笑するしかなかった。

 

(もう歳ですかね・・・・)

 

外見上2~30歳と見られてもそれの数百倍は生きている。

 

(いつから数えるのを止めたのかすら思い出せない──まぁ、先に現状把握する事が

 大事ですね)

 

ひしぎはそっと目を閉じると、意識を集中させ自己判断を開始した。

 

──肉体・・・体の再構築により筋力弱体化中。

       数日後には何かに掴まっていれば立ち歩き出来るほどに回復可。

 

──思考能力・・・正常。

 

──属性能力・・・いつでも能力は使えるが、まともに体が動かない限り使いどころが無い。

 

──身体・・・異常は無し、心臓も正常に機能している。

 

(そして、意識が落ち着いてからずっとあった違和感の正体は"コレ"ですか──)

 

右手で左半身の包帯を剥がしてみると無数に移植されていたはずの──悪魔の眼(メデゥーサ・アイ)の姿が

無くなっており、移植前に戻っていた。

 

元々悪魔の眼は「死の病」を発病し崩れ落ちそうになる左半身を眼の持つ力を利用して

支えるために移植していたのだが、それが一つ残らず消えていた。

 

(だけど、"灰化"、"浄化"の能力は感じられる)

 

眼自体は消滅していたが、それのもつ力は左半身に溶け込んでいた様子。

 

(そして、やはり『白夜(はくや)』の存在は感知出来ませんね)

 

『白夜』とはひしぎの愛刀の名前。彼の持つ"力"に普通の武器では耐えられずに

壊れてしまう為、壬生一番の刀匠に造ってもらった大刀である。

 

故にずっと共に居た『白夜』はある意味彼の半身でもあり

心に穴が開いた様な感じを憶えるひしぎであった。

 

(出来ることなら、最後まで共に居たかったのですが──居ないのでは仕方がありませんね)

 

他に違和感、変ったことが無いか意識を張り巡らせていたら、扉が開き

ソーナが帰ってきた。

 

そのままひしぎのベッドに近寄り、置いてあるイスに腰をかけ、

目を瞑っているひしぎに声を掛けた。

 

「起きていますか?」

 

「ええ」

 

ソーナの問いにひしぎは目を明け彼女の顔を見た。

先ほどまで泣いていた所為か、まだ目が赤みがかっていたが、ソーナは気づくことなく

言葉を進めた。

 

「貴方の処遇、これからの事が決まったのですが──その前に名前を教えていただけますか?」

 

そう、この二人はお互い名前のすらしらなかったのだ──。

 

「私の名前は支取蒼那です──この駒王学園の生徒会長を勤めさせていただいている者です」

 

(──学園・・・なるほどここは子供達の学び舎だったのですね)

 

先ほど外で若者以外居なかった光景を思い出し納得した。

 

「私は姓は無いのですが、名はひしぎといいます──失礼ですが貴方のその名前(・・)

 本当の名前なのですか?」

 

「──っ」

 

ひしぎの問い掛けに息を飲むソーナ

 

(まさか──私の正体を知っている?)

 

内心ソーナがそう考え出したがひしぎは言葉を紡いだ。

 

「いえ、先ほど貴方の声が扉の向こうで違う名前で名乗っていたので──

 少し気になっただけです」

 

体に意識を集中させていた時に、扉の向こう側の会話が全て聞き取れていたのであり

その時にソーナは本名を使っていた故にいまの疑問が生まれたのだ。

 

「・・・・・」

 

沈黙するソーナ

 

「まぁ、何かしら理由があるならお聞きしません」

 

少しだけ気になっただけで、別に無理やり問いただす事では無いと判断したひしぎ。

 

「──いえ、構いません。 私の本当の名前はソーナ・シトリーです。

 訳あって先ほどの名前を名乗っています」

 

ソーナにしてみても別段そんなに秘密にする事では無いので、名乗りなおし、

そしてそのまま続ける。

 

「貴方の処遇なのですが、体が動けるようになり、元の居た場所に帰れるまでは

 この学園の一室を貸すことが出来ます、ただし何か問題を起こしたら直ぐに

 出て行って貰う事になりますが──宜しいですか?」

 

ひしぎ自身、先ほどの会話で内容を把握していたが実際直接言われると、

こんな自分自身でも思うほど不審な点がいっぱいの男の療養を許すなど

正気?と思われるほどの行動であり、反面それの許可を勝ち取った

彼女の優しさを体感する。

 

今の体の状態ではとてもありがたい処遇でもあるが、

ひしぎには今の処遇にひとつ問題点があった──それは

 

「──ええ、とてもありがたいのですが、唯一つ問題点が有りまして、

 帰る場所が無いのです」

 

そう、江戸時代から来た彼にとって未知の時代であり、

 

「それは、つまり家が無くなった、と言う意味ですか?」

 

「いえ、信じてもらえるかは分かりませんが──私この時代の住人では無いので

 帰る場所がすら"分からない"と云った状態なんです」

 

「──」

 

ひしぎの言葉にソーナは言葉を失った。

 

「更にいえば、今は何の時代かすら分からないのです、それに──」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

ソーナはひしぎの言葉を一旦切ると、頭の中で情報を整理した。

 

(この時代の住人ではない? 何時代かすら分からない? でも、表情や雰囲気を

 見る限り嘘を言ってる感じは無い──って事は、転移者?)

 

彼を前にして思考にふけるソーナ、その姿を微笑ましく観察するひしぎは

ある若い頃の"彼"を思い出していた

 

とても生真面目で、分からないことが出来ると会話中でも行き成り

自分の世界に入る──吹雪の事を。

 

(性別は違いますが──性格はとても似てそうですね)

 

「シトリーさん、質問をしてもいいですか?」

 

「──っ! ええ、すみません」

 

とりあえず、彼女に声を掛け意識を呼び戻した。

 

「私の元の居た時代は江戸なのですが、今は何時代なのでしょうか?」

 

ひしぎの質問にソーナは簡単に答えた。

 

「江戸時代が終了後、明治、大正、昭和を経て今は平成です」

 

「──なるほど、数世紀経っていたのですね。 通りで見たことの無い物

 ばかりだったのか」

 

ソーナの答えに一人で納得するひしぎ。

数世紀も離れていれば確かに文明などが発達し、昔の面影が無くなっている。

 

「つまり、貴方は江戸時代にいたのですか?」

 

「ええ、死んだ後。無くなった筈の意識が行き成り覚醒して、目を開けてみたら

 ここに居たので状況がわからないのです」

 

(今の話が本当であれば、確かに彼の帰る場所は無い。魔力を持っているならば

 転移に失敗して飛ばされてきた可能性もあるけど──彼には魔力が無い)

 

ひしぎがまだ意識の無い状態の時に、女医ともう一度綿密に調べた結果

魔力は感じられなかったのだ。

 

故に彼が悪魔、天使、堕天使、他の種族ではなく、ただの人間である事が高い。

だから、非常に質問しづらい事を聞かなければいけなくなった。

 

「あの、大変失礼な質問なんのですが、貴方が死んだ原因って分かりますか?」

 

そう、ひしぎは自身を"死んだ"と言ったのだ。

 

ソーナの質問にひしぎは

 

「その時代に流行っていた「死の病」に掛かっていまして、体に無茶を敷いた結果

 病が悪化してしまったのです。」

 

そう、鬼眼の狂との戦いで「死の病」が悪化し、病で死ぬ寸前に狂を巻き込み自爆したが

両者生きており、心臓にリミットを迎えていた吹雪に心臓を移植後、死亡したのだが、

少し内容を誤魔化しながら答えたひしぎ。

 

「なるほど」

 

そうとは知らず納得し、また思考に耽るソーナ。

 

(病が原因なら事故の説は無い──でも、あの魔力は一体誰の者なの?)

 

考えれば考えるほど、謎が深まるばかりであるが、現状調べる手立てが

無くなっていた。

 

ソーナ以外が感知していれば、その魔力があったかどうかの信憑性は上がったのだが、

彼女以外は知らず、そしてその魔力の痕跡、持ち主が分からない以上、

ひしぎの状況を他者へどうやって転移してきたのかが説明できない。

 

ひとまず学園長などに一時的に許可を貰う事が出来たが、この土地の主に説明するには

材料不足であり、使い魔であるベイにも再度探索して貰っているが

何かしらの報告は無い。

 

そのソーナの姿をみたひしぎは申し訳なく思った。

 

「本当にご迷惑かけてすみません。動けるなら直ぐに出て行くのですが──

 現状立つことすら出来ないもので」

 

「いえ、ご迷惑だなんて思っていません。それに困っている人を見捨てるなんて出来ません

 そういう人たちを助けるために生徒会会長になったのですから」

 

「──私は生徒ではないんですがね」

 

ソーナの言葉に苦笑するひしぎ。

 

「そんなの些細な事なので貴方は安心して体を回復させてください。」

 

(こんな大事になりかねない事を些細と云うとは──将来が大物になるかもしれませんね)

 

彼女の真っ直ぐな心意気に感心し、ひしぎは体から力を抜いた。

もし、本当に彼女が少しでも迷い、恐れなどを見せたら這いずってでも

出て行くつもりだったのだ。

 

彼女の厚意を無下にする事は出来なくなり、甘えることにした。

 

「なら、すみませんがよろしくお願いします」

 

「はい」

 

彼の回答に微笑むソーナ。

そうと決まれば、ひしぎは──

 

「少しお願い事があるのですが──いいですか?」

 

「ええ、なんでしょうか?」

 

「現代知識を身に付けたいので本をお借りしたいのですが、大丈夫ですか?」

 

まず生きていく為には現代知識が必要になるので、体が回復するまでの間に

勉強をしようと考えたのだ。

 

歴史はどういう形を経て今の現代になったのか──壬生一族はどうなったのか

一つ興味を持てば視野は広がっていき、元々学者でもあったひしぎには

どういう過程で現状の世界になったのかが気になってきたのだ。

 

(ここが学び舎なので本は大量にあるはず。少しは暇つぶしになるかも知れません)

 

「それぐらいなら、お安い御用です。後で持ってきますね」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

死の病について、江戸時代で何をしていたのか、年齢、その時代の人は

みんな同じ服装だったのかとかと、他愛も無い質疑応答をしていると、

ふとソーナは違和感を感じた。

 

(あれ──?何かが違う)

 

今までの質問を思い出し、そして視線を動かすと

 

(ああ、なるほど)

 

「あの、先ほど体に巻いていたはずの包帯なんですが、どこか怪我をされていたんですか?」

 

そう、違和感の正体は包帯だった。

先ほど手当てなどをして怪我の部分以外に巻かれていた包帯が解かれていたのだ。

胸にはまだ白い包帯はあるが、隠れていた左半身と顔半分が普通に晒されていた。

 

「ええ、先ほど話した『死の病』によって左半身崩れ落ちてしまい、見るに耐えない

 醜い姿になっていたので隠していたんですよ」

 

実際移植した悪魔の眼の封印だったのだが嘘は言ってない。

 

「そんなに酷いものだったんですか?」

 

「ええ、見た人が次には絶対に"二度も見ることすら思わない(・・・・・・・・・・・・・)"ほどのものです」

 

悪魔の眼に見たものは例外なく"灰化"してしまう為二度も見れない、故にそこは

うまく言葉を濁した。

 

実際あの醜い姿は自分自身でも嫌悪するぐらいの醜悪さなのだから。

 

「そうだったんですか・・・嫌な事思い出させてすみません」

 

ひしぎの言葉を聞いて気を落とすソーナ。

 

「いえ、私自身がもう何とも思って無いので気にしないでください。」

 

「はい・・・」

 

「貴方の説明や話し方はとても上手なのでとても理解がしやすい。

 ですので、もっと現代の事を教えてください」

 

そのほめ言葉にソーナは内心くすぐったい気持ちになり、気を取り直して

先ほどの話の続きを再開した。

 

「わかりました。では──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傾いていた夕焼けはどんどん落ちていき、辺りは暗くなり始め、校舎に残っていた生徒、

グラウンドに残っていた生徒が帰宅し始める時間帯になる。

 

保健室の女医は学園長に付いて行ったまま帰ってこずにいた為、

二人の会話は、ソーナが主体とし、ひしぎは頷き、偶に一言二言質問すると沈黙し静かに

彼女の話を聞いていた。

 

本来ひしぎは余り喋らない、仲間内からは根暗とまで囁かれるほど無口であった。

故に昔でも、吹雪が主体となって会話していたのである。

 

その為聞き上手と取得し、黙って聞いてても相手に不愉快感を与えないのだ。

時間がどれほど経ったのかすら分からなくなるほど続いてるのである。

 

そして、終わりは唐突に訪れた──来客者である。

 

控えめなノックの後

 

「失礼します。会長こんな所に居られたのですね──そろそろ明後日の件での

 会議を始めたいのですが」

 

呼ばれたソーナは振り返ると、そこには長身で真っ黒ロングヘアーの眼鏡を

かけた生徒が居た。スレンダー体型のソーナより、肉付きの良い女子生徒である。

 

「椿姫──」

 

ソーナの姿を確認し、その後視線を動かしひしぎを見た。

 

「見ない顔ですね。会長、その方は一体──?」

 

「ええ、こちらはひしぎさん。先ほど、校内で倒れていたのでここで手当てをして話を

 聞いていたのです。」

 

先ほど起こった事を簡単に簡潔に説明するソーナ。

 

「ひしぎさん、こちらは生徒会副会長の真羅椿姫です。」

 

「真羅椿姫です。よろしくお願いします」

 

ソーナに紹介され、頭を下げる椿姫。

 

「どうも、ひしぎと云います。以後お見知りおきを」

 

ひしぎも会釈を返す。

 

「ああ、もうそんな時間だったのですね──話に夢中になってしまいました。」

 

「こちらこそ有意義な話ありがとうございます」

 

ソーナに向き直り感謝を表したひしぎ。

彼女のお陰で大分現代知識を吸収でき、これならば数日と掛からずほとんど

把握できるようになる。

 

「こちらこそ、そう言って頂けて話したかいがありました。」

 

「では会長──」

 

「ええ、先に生徒会室に戻っていてください──直ぐに向かいます」

 

「分かりました。では失礼します」

 

そう言って椿姫はもう一度二人に会釈をすると部屋を後にした。

 

「会議が終わり次第、食事をお持ちしますのでゆっくり休んでいてください」

 

「はい、そうさせて頂きます」

 

「では、後ほど」

 

ソーナが出て行った後、ひしぎはベッドに体を預け体を休め始めた。

じわじわと筋力が回復していくのが分かる。

 

(もうそろそろ立てるはず)

 

動かしたい衝動に駆られるが、余り無理をして筋力に負担をかけて治りを

遅くさせる訳にもいかないので、横になったまま先ほどの二人の事を思い出す。

 

(あの二人は人間ではない──何かか)

 

最初はこの世界に馴染めてない為の違和感だと思っていたのだが、

思考などが元に戻ってくると、ソーナの気配が人間でないモノのままであったのだ。

 

(恐らくあの二つある名前が関係しているのか)

 

ソーナ・シトリーと支取蒼那の二つの名前をもつ彼女。

 

(真羅椿姫、彼女もまたシトリーさんと同じ、人ではない何かの気配)

 

副会長である彼女もまた違った気配だったのだ。

なんとなくだが昔同じような気配を持った誰かとがいた事を思い出す。

 

(異形の者、造られし戦闘人形、希少種──いや、もっと禍々しさがあった)

 

深く深く記憶を検索するひしぎ──そして

 

(第六天魔王──織田上総介信長(おだかずさのすけのぶなが)ですか)

 

残忍で戦や血を好み、圧倒的な力で日本を阿鼻叫喚させた阿修羅──そして第六天魔王と名乗り、

日本の歴史上、最強最悪の軍神。

 

(彼ほどの禍々しさは感じなかったのですが──ああ、なるほど魔の気配か)

 

漸く答えを見つけた。

元々信長とは知り合いであり、何より四度目の蘇生を施したのは他ならぬ

ひしぎ自身が指揮を執っていたのだから──彼の持つ気配は鮮明に覚えていた。

人にし近づくだけで恐怖に陥れんとする不の化身。

 

(人間として生活するためにうまく気配を誤魔化していますが──元々その気配すら

 知っている私には意味が無かったようですね。)

 

 

元々魔の気配を持つ者は壬生一族に普通に居りしたので、ひしぎには警戒にすら

値しないほどなのである。

 

(まぁ、彼女達が正体が何であれ、助けてもらったのは事実。正体を教えてくれるまで

 待つとしましょうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室に戻ったソーナ自身の机の上に椿姫が用意した資料に目を通す。

 

「ふむ──この中継地点の映像配信先はこれで全部ですか?」

 

「はい、グレモリー家、フェニックス家両家の関係者先はそれで全部です」

 

資料の中には自身の家、シトリー家の名前もある。

そして両家は悪魔の家系でも有名ゆえに配信先が多いのだ。

 

「グレイフィア様にも同様の資料を先ほど送り終えたので、設置は向こうで

 して頂けるみたいです」

 

グレイフィア・ルキフグス──彼女は現四大魔王の一人サーゼクス・シルファーの

女王にして妻。

 

そして、今回執り行われるリアス・グレモリーとライザー・フェニックスの

レーティングゲームの審判を勤める女性だ。

 

元々今回のゲームはリアスとライザーの婚約騒動で、どちらの言い分も正しいが為、

ゲームで決着を付ける事となり、非公式で急遽開催されることになったのだ。

 

ライザーとは婚約者同士であったリアスだが、グレモリー家のリアスではなく、

自分自身を一人の女性として好きになってくれる人、自分で本当に好きになった人と

結婚する事を望み、婚約破棄を申し出ていた。

 

一方ライザーは悪魔の将来、両者の家の将来の為と云いつつ政略結婚に託けてリアスを自身の

ハーレムに加えることを望み、お互いの意見が合わず衝突した際に、こうなる事を予見していた

サーゼクスの提案を承った彼女が話を切り出し、両者これに合意したのだ。

 

ライザーは既に社会人で何度もレーティングゲームを実践しており、与えられた駒全ての

眷属が存在する、若手屈指の実力派であり、

 

対するリアスはゲーム未経験者で、眷属も揃っていない状態だが個々では彼らに負けては

居ない為、ゲーム許可が出たのだ。

 

だが、いくら潜在能力、個々の能力が高くても実践を経験しているしてい無いで、

差が出るために、十日間の修行、調整猶予を貰えたリアスと眷族は明後日が試合なので

一日休暇を入れると、今日まで山篭りで修行に明け暮れている。

 

この十日間でどれだけ差が縮まったのかがリアス側の勝利の鍵となる。

対するライザー側は普段どおりの生活を送り、経験者としての余裕を見せている部分もあるが

フェニックスの特性──即ち不死の能力に対しての驕りもある。

 

体中バラバラにされても、体の一部が消失しても、何度でも蘇ることが出来、

このゲームではかなりの優位性を保つことの出来るフェニックス家特有の能力なのだ。

 

故にの勝率は社交試合以外では100%の勝率を誇っており、誰から見ても

リアス側の勝率が薄いことは明白だった。

 

そして、親友であるリアスの初試合なのでソーナは自ら中継役を志願し、

まじかで彼女たちを見守ることにした──いや、見守ること(・・・・・)しか出来なかったのだ

 

(何も出来なかった私を許してください──)

 

本当は婚約を嫌がるリアスの味方に付いて上げたかったのだが、冥界の常識に囚われ

行動ができず、こういう形でしか応援できなかったのだ。

 

「会長、リアスさん達は勝てるのでしょうか?」

 

ふと、資料の不備が無いかを確認していた椿姫が呟いた。

 

「リアス達に勝機があるとすれば──彼、兵藤君にの存在と、アーシアさんの運用の

 仕方で変ってくるわ」

 

この十日間の修行で、彼こと、赤龍帝である兵藤一誠が"化ける"事が出来たのならば

勝率は上がり、アーシアの運用次第で戦力差で負けている部分を補いことは出来るが

 

「リアスは攻撃重視型だから──きっとアーシアさんにうまく指示を出せるか」

 

恐らく彼女はアーシアを自陣にセオリー通り配置するだろう。

 

「アーシアさんの配置しだい、と言う事ですか?」

 

「ええ、普通回復役は後衛配置が基本なのだけれど、今回は不死性のあるフェニックス。

 通常での戦法は最初は通じるかと思うけど、自陣の駒を落とされるとこちらが圧倒的に

 不利になる──フェニックスの攻略法は圧倒的な攻撃の質量で消滅させるか、

 圧倒的な力、暴力で精神をすり減らし、心を折るの二つ」

 

言葉に合わせて、空いていた紙に布陣を簡単に書く。

 

「数では負け、個々の能力の高いリアス達はまず、自陣付近に罠を仕掛け、

 使い魔での監視し、リアス以外は2~3人づつ行動すべき。」

 

「会長ならどういう編成を?」

 

紙を覗く込みながら椿姫は言葉を待つ。

 

「そうですね、木場君と搭城さんを1チームとして、このマップのポイントである

 体育館を前進させ、囮役をやってもらい、相手の戦力を誘導させる」

 

ボールペンを走らせながら紙に駒を書いていく。

 

「うまく誘導すれば吉、相手もポイントは分かっているので必ず戦力は送ってくるので

 二人で倒せればもっと良いのですが、多勢ならば防御姿勢を取り、朱乃の広範囲魔法を

 待ち、これで数名は一気に撃退できるでしょう。」

 

「なるほど──姫島さんの魔法ならば一網打尽できますね。でも彼女は一人ですか?」

 

「いえ、朱乃には2チーム目を率いて後衛から警戒しながら進み、敵が居たら各個撃破。

 彼女の護衛に兵藤君とそしてアーシアさん」

 

朱乃を表した駒の回りに二人の名前を追加する。

 

「アーシアさんもですか?」

 

「ええ、後衛で誰かが落とされるのを待つのであれば、多少リスクはありますが

 彼女を前線に出し、少しでも戦力維持が出来たら勝機はあります。」

 

前線に出てもらっていれば、戦闘で傷ついた彼らを癒し戦線へと復帰させ、戦力維持が可能

故に、一誠と朱乃を彼女の護衛として配置。

 

ライザーの女王も手強いと情報を仕入れているが、朱乃相手すれば他者を狙う余裕が出ない。

そして、体育館側はエースである彼ならば危険を察知して、うまく立ち回る事が出来るので

チーム1も相手の女王クラスがこない限り優位に立てる。

 

「ただ、戦いが始まると思い描いている通りに戦場は動かないので、そこは各自の

 判断で動いてもらうしかないわ」

 

「リアスさんは一人で大丈夫なのでしょうか?」

 

ふと、王に護衛が無いことを疑問に思った椿姫

 

「ええ、フェニックス側で彼女を倒せるのは居ないわ──唯一1対1で倒せるとしたら

 ライザーぐらいかしら。他の眷属では罠を無傷で突破できるならまだしも、

 消耗している時点で勝機は無いはず」

 

リアス自身も朱乃以上に潜在能力、戦闘能力を持っているのだ。

 

「確かに後衛にアーシアさんを配置していれば最強の護衛だけども、その反面、

 彼女が動かない限りアーシアさんの折角の能力が宝の持ち腐れになってしまう」

 

故にソーナはアーシアを前線へと配置したほうがいいと考えていた。

 

「ハイリスクだけど、彼女の能力で戦線を維持すれば──全員で王と戦う事が

 出来るようになるのですね」

 

「ええ、あくまでも旨くいけばの話ですが。あとはアーシアさんの気力、

 魔力がどこまで持つか──それにフェニックス家にはもう一つ有名になった"アレ"があります」

 

「フェニックスの涙ですね」

 

「ええ、使えば使用者の如何なる傷をも癒す薬──使用個数は決まっていますが

 これも厄介です」

 

どの陣営にも回復役が存在しないため、フェニックスの涙は貴重でいざというときの

切り札であり、ゲーム上使用個数制限されているが厄介極まりない代物であるのだ。

 

「恐らく、相手の女王が持ってると仮定して、朱乃にも回復できるアーシアさんを同行させれば

 女王対決で使われても勝機は高いままです。」

 

「なるほど──」

 

「そして、残った眷族でライザーを倒せるならいいんですが、

 失策に等しい作戦になりますが、リアスにも前線に出てもらい全員で相手をするぐらい

 でないと、彼は倒すことは出来ないでしょう」

 

本当はリアスにもこの戦法を検討してもらおうと思っていたが、

初のゲームであるので余計な入れ知恵は入れたくなかったのだ。

 

(お願いリアス──頑張って──!)

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

物語的な位置はちょうど原作のフェニックス戦前です。

主人公側が参加しないため、こういう書き方になりました。
久々の1万文字・・・・結構きつい、ブランクがぁ・・・・

後、前書きの部分に本文いれても大丈夫なんですかね?
もし、知っている方がいれば教えていただけると嬉しいです。

感想、ご質問などありましたら、一言でも頂けると嬉しいです。

では、また次回にお会いしましょう。


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第2話 強くなりたい


私はイッセー先輩みたく、粘ることも、部長助けることも出来なかった

あの戦いでの一番のお荷物は私

もっと強くなりたい──私だけ弱いままは嫌です。




 

リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームは

リアスが投了(リザイン)宣言し、ライザーの勝利となった。

 

戦場は戦う両者の意見を参考にして異空間に造った駒王学園のレプリカ。

前半はリアス側が押し、相手の『兵士』3人、『戦車』1人を落とすことに成功したが、

小猫が相手の女王の攻撃によって、回復が間に合わず撃破された。

 

祐斗が相手の『兵士』3人を罠を駆使して撃破、一誠と合流。

その後運動場で相手の騎士達と戦闘を開始する。

 

一誠の「洋服撃破(ドレス・ブレイク)」を駆使し、隙が出来た所に攻撃を加え

相手の『戦車』1人を撃破するも、残ったライザーの眷属が集結し、

苦戦を強いられる。

 

そして、ライザーが一騎打ちをリアスの申し出、それを受諾し王同士の戦闘が始まる。

一誠の目にリアスの苦戦している姿を映した瞬間に『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の

新しい能力の発動により、一気に逆転し、『兵士』2人、『騎士』2人、『僧侶』1人を撃破。

違う戦場で朱乃が相手の『女王』を撃破するが、フェニックスの涙を使われ、

逆転負け。

 

その後直ぐに相手の『女王』の攻撃により祐斗も撃破され

奮戦空しく、戦力的に五分まで戻された。

 

そしてライザーを相手にアーシアを回復役として残していたが、相手の策に嵌り

彼女は閉じ込められる。

 

後が無くなった一誠とリアスは消耗戦を強いられ、リアスの魔力はすぐに尽き、

まだ、悪魔になったばかりである一誠も既に体力的にも、体に掛かる負担が限界を

突破していたが、フラフラの状態でも尚ライザーに立ち向かっていく、

何度も何度も立ち向かってくるその姿勢に業を煮やしたライザーが

一誠を葬ろうとした瞬間、リアスが止めに入り──試合は終了した。

 

 

一誠は重症の為2日間眠ったままの状態であったが、ライザーはお構い無しに

リアスとの婚約パーティーを開催した。

 

開催中に目を覚ました一誠はグレイフィアから渡されたチケットで

リアスの奪還を決意。

 

アーシアに"ある物"を借り、そしてある"覚悟"を決め、相手の本陣に乗り込んだ。

そこにはドレスを着たリアス、タキシードで身を固めたライザー、

招待された、朱乃、小猫、裕斗、ソーナの姿があった。

 

そしてサーゼクスの提案により、一誠とライザーの一騎打ちが始まり

一誠は『赤い龍の帝王(ウエルシュドラゴン)』との対話により、

"禁手(バランスブレイカー)"を発動させることに成功した。

 

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケルメイル)』はドラゴンの姿を模もた全身鎧(フルプレート)

この鎧の能力は一時的に能力を爆発させ、圧倒的な力を得ることが出来るのだ。

 

だが、現状のリスクは大きく、一度発動させれば丸三日は神器が使用不可になり、

まぁ、今後の努力次第で縮める事は可能なのであるが、圧倒的な力を使用するにあたり、

何の代償も無く使える訳でもなかった。

 

──左手。

 

一誠は左手を代価にして力を得たのであった。

既に左手はドラゴンの力により浸食され、脈を打つ鎧と成っていた。

 

左手を代価にして力を得た時間は十秒間のみ、その間にライザーを圧倒するが

時間切れにより、絶対絶命のピンチになるがアーシアから借りた十字架と

聖水により機転を利かせた作戦で奇しくも勝利を勝ち取り、みごとリアスの奪還に

成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふぅ・・・・本当に激動の数日間でした)

 

最初リアスが負けたのを見てから、ひしぎに出す食事の味を失敗して、

気づかずそのまま出してしまうほど動揺していた。

 

「おいしいですよ」

 

と、ひしぎは感謝を表していたが、余り物を自身の夕食にしたとき激痛が走るほど

香辛料が入っていたのは余談である。

 

(とりあえず、婚約解消になって本当に良かった)

 

婚約パーティーに招待された時には、もう彼女を助ける事を諦めていた

家柄、仕来り、常識に囚われていたソーナは打つ手が無く、もう素直にリアスを

祝福しようと決心していたが、突然の乱入者、兵藤一誠により

奇しくもリアスはその柵から解放されたのだ。

 

何も出来なかった自分、何者にも囚われずにただひたすらリアスの願いを叶える為に

体の一部を犠牲にしてまでも助け出した彼。

 

(悔しかった──たった一人の親友さえも助けることが出来ない私はなんて無力

 だったんでしょう)

 

力、家柄、知識において現状、全て一誠より勝っているのに──何も出来なかった

自分を恥じた。

 

(もっと私も次期当主といえど、まだまだ未熟者)

 

今後、家系を引っ張っていかないといけない立場になる、彼女には立ち止まる事さえ

許されない、今以上に"強く"ならないといけないのだ。

 

だが、考えれば考えるほど、落ち込みそうになった彼女は頭を横に振り、

思考を切り替えた。

 

(よし、情報を整理しなきゃ)

 

ライザーの婚約パーティで一誠が見せたこの短期間で、体の一部を代価に得た力、禁手(バランスブレイカー)

未熟な彼であったが、10秒間と云えど十分な実力を擁するライザーを圧倒できたのだ、

恐らく、瞬間的に魔王、最上級悪魔に匹敵するほどだった。

もし、彼があのまま猛スピードで進化、力をつけてた場合、今後代価無しで

『赤龍帝の鎧』を発動出来るようになるったら、脅威以外の何者でもない。

 

非常に危険で、圧倒的なまでの"力"。

あの状態でも『赤い龍の帝王』を沸騰させるほど印象を受け、ただしあれはまだ

力の一部であり、底知れない恐怖を少なからず受けた。

 

(正直、今の状態では誰をぶつけても彼には勝てない)

 

たった10秒なのだが、通常の戦闘ルールのゲームであればその秒間で

数人まとめて戦闘不能にできるほどであり、もし変身が解けたとしても、

その後に残った眷族全員を相手にしなければならないのだ。

 

(もし彼が"禁手"になったら、撤退──いや、無理ね。追いつかれる)

 

彼らの戦闘を鮮明に思い出す、一瞬で距離をつめれるほどの爆発的な瞬発力で

上級悪魔でなければ、耐えられない一撃を食らわされる。

 

まさに一撃必殺。

 

(悔しいですが、私を含めて彼の攻撃を耐えられる者は、現状居ない)

 

これからもっと鍛錬を積むことが出来るのであれば、可能になる──だが、

相手も同じように成長する。

 

(彼らより数倍以上に鍛錬を積むしかないようですね)

 

結果的にそうなってしまうのである。

 

(何かきっかけがあればいいんですが──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは、ソーナから借りた本を読み耽っていた。

読めば読むほど、時代がどのように流れたのか、どういった経過を経て

こんな近代化になったのかが良く分かってきた。

 

だが、肝心の壬生一族のその後に関してはまったく情報が載っていなかった。

 

(まぁ、元々存在自体幻とされていましたからね)

 

載っていないことはなんとなくは予想は出来ていたが、それでも安否を知りたかった。

彼らがどのようにして"神"に打ち勝ち、死を克服したのか、

ちゃんと子供達の未来は守れたのか──など。

 

心が死んでいたあの頃は、どうでもいいとさえ思っていたが、今は正反対である。

 

(体が治り次第、自分の足で調べてみますか)

 

地図さえあれば、一族の住んでいた場所を特定し行く事が出来る。

 

(そろそろ自力で歩けたら良いのですが)

 

そう、まだ彼の体は回復しきっていなかった。

目覚めた日から数日たち、リハビリの結果、漸く物に掴まりならが動くことは

可能になったが、一日の大半はソーナから借りた車椅子で生活している。

 

(生物博士と呼ばれた私がこんな姿になって生活とは──つくづく興味深い)

 

人体を知り尽くしたひしぎであっても、今回の体験は未知の領域だった。

一からの身体機能の再生、構築。

 

じっくり調べてみれば、やはり自身の体は一度死に"砂"のように消え去ったはず

なのだが、もう一度再構築されていたのだ。

 

それも赤ん坊からではなく、全盛期であった頃の肉体であり、

そのお陰で、普通は成長と共に発達する筋力が、まったく鍛えられていない

状態からの開始であった。

 

(本当に筋力がないと不便ですね)

 

満足に動けず、人の手を借りないと生活が出来ない。

 

(もう少しの我慢──ですか)

 

リハビリさえ欠かさずやっておけば、もう少しで自力で生活できるほど

回復が見込める。

 

ふと、ひしぎは時計を見ると散歩の時間であった。

彼は本を窓際に置くと、傍らに置いてあった2本の松葉杖を手に取り、

体を起こした。

 

「さて、今日はどこを回りますか」

 

女医とソーナから放課後であれば、校内以外で学校の敷地内あれば散歩して

云いと許可を貰い、昨日から校外を歩いている。

 

昨日初めて散歩に出て気が付いたのは、この学園の半分ぐらいの生徒は

魔の雰囲気を持つ者達であった。

 

そしてあの女医しかり、ほかの教員も人間ではない気配であった。

 

ただ普通の者もいてるのでひしぎは、両者が気づかず共存しているのかと

勝手に納得していた。

 

借りていた本には魔と人間の共存などは記されていなかったが、何の弊害も無く

普通に出来ている時点で、興味を失っていた。

 

気配を消しながら裏口から校舎の外に出ると、日はまだ照っており、その眩しさに

目を窄め、ゆっくり歩き始める。

 

気温自体は熱くも無く、寒くも無く、ただほのかに暖かい風が吹いている。

 

「やはり、外の風は気持ちいいですね」

 

元々家の縁側の縁で自然を感じながら読書をするのが趣味の一つであり、

 

(優しい風だと心が安らぎます)

 

こう思える日々をもう一度体感できることに少なからず喜びを感じていた。

風を感じつつ校舎裏にある森の中を散策しはじめた。

 

ひしぎの服装は、元々着ていた真っ黒の着流しの上に女医から白の白衣を借りていた。

元の服装では怪しすぎるのだが、白衣を借りることによって若干──本当に若干だが

ましになっていた。

 

誰かに見つかれば、研修生と名乗るように女医から言われている──が、

彼は気配を消すのが得意なので、一般人には横を通っても反応されないほど

存在を消している。

 

ただ本気で気配を殺していないので、少しでも実力のある生徒ならば彼を

見つけることが可能なのだ。

 

なぜ本気で気配を消さないか──と、云うと、昨日初めて散歩に出たとき気配を完全に

消していたら、ソーナの探知魔法にも引っかからずに完全に誰も、彼が

どこにいるか把握できず、帰ってきたときソーナに、

 

「もし万が一のことがあったらどうするんですか!貴方は病人なんですよ!」

 

ひしぎの身を案じて怒ってくれたので、彼女には感知できるぐらいの気配は

出して散策しているのだ。

 

ゆっくり奥へ奥へと進んでいくと、何か鈍い音が聞こえてきた。

 

(何の音でしょう? 向こうからか)

 

何度も何度も響く鈍い音に興味を持ったひしぎは音の発生源を感知し、

ゆっくりそこへ向かった。

 

木を掻き分けて進むと、旧校舎と呼ばれる建物の裏に出でる、そこには、

白銀で短髪、黒猫のヘアピンをつけた、非常に愛らしい小柄な少女が木に吊るしている

サンドバックをひたすら殴り続けていた。

 

少女は小柄ながらも繰り出す拳は"重く"、鈍い音を立てながらサンドバックはゆれ、

その反動で木も揺れ、葉を散らしている。

 

(ほぅ──中々の攻撃力ですね)

 

少女に気づかれること無く、普通に観察しているひしぎ。

あきらかに傍から見れば、少女を見つめているとても怪しい人物に見える。

 

少女──塔城小猫はひしぎの存在に気づかず夢中になっている。

 

(ですが、何か迷い、焦りのある打撃の仕方ですね)

 

普通に見える拳なのだが、彼には何かを打ち消すように打ち込む姿としか

見えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塔城小猫は焦りと憤りを感じていた。

この間のフェニックス家とのレーティングゲームで自身は何も出来ないまま

撃破されたこと、そして婚約パーティでリアスを助ける事を半分諦めかけていた

自分自身に憤りを感じていた。

 

結局彼、一誠が来なければ自身の敬愛する部長であるリアスは、好きでもない男に

嫁ぐ事になっていた。

 

もっと自身に"力"があれば──と。

年齢的には後輩であるが、戦闘に関しては一誠より経験を持っていたはずなのだが、

ゲーム前の十日間の合宿、そして今回の一戦で一瞬にして抜かれてしまった。

 

確かに神器の恩恵もあるが、間違いなく彼は天才の一種である。

心の在りよう、諦めない精神力、戦闘経験の蓄積するスピード、

その事に対して表面上気にはしていなかったが、心の中では少し焦りを感じていた。

 

(今、眷族の中で一番の足手まといは私)

 

初戦と言えば言い訳になるが、彼女の中ではその言い訳は許せなかった。

 

今後レーティングゲームに参加するに当たり、今回と同じ結果になりたくない──と

思い、負けた日からリアスの作った部活、オカルト研究部には顔を出さず、

必死に鍛錬を積んでいた。

 

(朱乃先輩には魔力で負け、祐斗先輩には速度で負け、各駒の能力もあるけど

 『戦車』特性である攻撃力と耐久力、イッセー先輩に両方負けた)

 

魔力量や、速度では確かに駒の特性で負けるのは仕方が無いと、分かるのだが、

『兵士』である一誠に『戦車』特有の2面で完全に負けたのが──彼女に

とっては衝撃だったのだ。

 

だから、誰よりも早く鍛錬を再開し、彼に追い付きたいと思ったのだ。

 

(もっと──もっと、打ち込まなきゃ!)

 

ただ、打ち込むだけで急に強くなれるかと云えば──否

だが、ひたすら地道に経験を積むことによって体は"答え(・・)"てくれる

 

通常のサンドバックでは彼女の一撃だけで破けてしまうので、特殊材料プラス魔法で

加工され、どんなに殴っても破けない仕様になっており、非常に小猫には

助かる代物であった。

 

ふと、ずっと集中していたため気づかなかったが、視線を感じた。

 

(誰?)

 

小猫は打ち込みを止めると、周囲を見渡し──すると、少し離れた木にもたれかかりながら

松葉杖で体を支えている、怪しい人物を発見した。

 

「──何か御用ですか?」

 

ジッとこちらを観察している男に、臆せず彼女は声を掛けた。

 

「いえ──ただ、打ち込むなら一度呼吸を整え、もっと重心を低くし、

 体のバランスを整えた方が効果的だと思いまして」

 

最初はいい音を出していたのだが、打撃するに連れてどんどんと重心がくずれ

鈍い音に変っていたのだ。

 

その事を指摘する怪しい男──ひしぎは体術のエキスパートと戦ったことがあるからこそ

小猫がこのまま続けても余り効果は無く、非効率的だと思い、

やるからには効率の、効果が出るやり方をしたほうが良いと思ったのだ。

 

「そして、打撃をするならもっと殺気を込め、一撃で仕留める気でやった方が

 もっと効率が上がります」

 

ただただダメージを負わせる事は誰でも可能なのだが、見るからに彼女は

体術メインで戦闘をするタイプだと判断した彼は、意識の持ちようで

打撃に効果が付属することを教えた。

 

「その方が、相手の身体だけではなく、精神にもダメージを与えることが可能なのです」

 

怪しさ満開の男を不審に思いながら、黙って話を聞いている小猫は、

なんとなくだが、男の言っている事は嘘ではない──と感じていた。

 

「後はお好みですが、お嬢さんの攻撃力だと拳が相手に当たる瞬間手首を内側に捻れば

 更なるダメージを期待できると思います。」

 

あたる衝撃を一点集中でき、体の内部破壊もできる。

彼女の攻撃力であれば、十分に必殺の一撃になると──ひしぎは思った。

 

「騙されたと思って一度やってみてください」

 

その言葉に、小猫はサンドバックに向き直り構え──

 

(重心を低く、そして体のバランスを整え──殺気を込め、一撃で倒すように!)

 

聞いたことを頭で反芻しながら──そして

 

「──ハァ!」

 

勢いよく繰り出された拳はサンドバックに突き刺さると同時に、衝撃波で土埃が舞い、

とても鈍い快音を周囲に響かせ──周囲の木に止まっていた鳥たちはびっくりして飛び去り、

そして、木が軋む音を醸し出した瞬間、釣っていた部分の木が割れ

サンドバックが回転しながら吹き飛び、何度かバウンドして後ろに生えていた木に

ぶつかり、漸く止まった。

 

「──えっ」

 

拳を放った張本人は、分けも分からず呆けていた。

 

「おめでとう、それが貴方の本来の威力です」

 

予想より遥かに威力が出た事に拍手をして賞賛をおくるひしぎ。

 

「迷いや、焦りもなく。ただ相手を仕留めるだけに特化した拳は何より

 武器になるので覚えていて損はありません」

 

だたの打撃でも、鍛えれば鍛えるほど威力が増し、その道を極めることが出来た

あかつきには一撃必殺と成り得る。

 

だからこそ、武器を持っていないからって無警戒は油断禁物なのだ。

彼女には素質があり、そこに至る事が──出来るかも知れない逸材であった。

 

「打ち込んだ部分を見てください」

 

ひしぎは地面に転がっているサンドバックの中心を指差した。

 

「?」

 

何か、と思いながら小猫はサンドバックに近づき、指された部分を見てみると

ちょうど拳ぐらいの大きさの穴が──何かにねじ切られた形跡があったのだ。

 

「これは──」

 

「ええ、それはあの速度、威力で打撃した結果ですよ」

 

そう、本来ならば、打撃した瞬間に衝撃は全体に響き渡るものなのだが、

今回手首を捻った結果、衝撃は通常より分散しないが、威力が一点へ収集し

皮をねじ切ったのだ。

 

「本来、分散する威力を一点に集めた場合がコレです。通常の打撃でも十分な

 威力なのですが、少し捻りを加えるだけで、更に倍以上の威力が追加され

 同格相手ならば致命傷モノ、格上にも十分なダメージが期待できます」

 

いつの間にか横に来ていたひしぎは説明し始め、聞いている小猫の視線の先では

静かに中に詰まっていた砂が零れ落ち始めた。

 

(これが私の"力"──)

 

「ただ練習するに当たり、もっとサンドバックを今まで以上に"強化(・・)しないと

 後片付けが大変になるのが、玉にきずですがね」

 

ひしぎの何気ない言葉の一部分に反応する小猫

 

(この人、コレが強化されていると──看破している)

 

少し得体の知れない何かを感じ少し後ずさり──

 

「──貴方は一体何者なんですか?」

 

「ただの怪我をした保健の臨時研修生です」

 

「──保健の研修生が行き成り怪我をしているんですか?」

 

「ええ、まぁちょっとした事故にあいましてね」

 

小猫のツッコミを普通に受け応えする彼は──嘘を言っている雰囲気ではなかった。

とても怪しいが、校内(・・)に居るということは本当だと納得してしまうが、

 

(後で一応リアス部長に確認してみよう)

 

「訓練の邪魔してすみません」

 

「いえ、貴方のお陰で私自身の"力"の使い方が分かったので、こちらこそ

 ありがとうございます」

 

素直に頭を下げる小猫。

 

「余計なお節介にならなくて良かったです」

 

ひしぎはそう言うとゆっくり身を翻し去ろうとして──

 

「──ぁ、あの!」

 

咄嗟に小猫は呼び止めてしまい、ひしぎは顔を振り向かせた。

 

「何か?」

 

「貴方の名前──教えてください。」

 

口から出た言葉はそれであった。

 

「ああ、私の名前は──」

 

彼はそういうと器用に体を小猫に向け、言おうとした時、

誰かが声を掛けてきた。

 

「ひしぎさん、ここに居たんですね。会長がお呼びです」

 

「椿姫さん──どうしてここに?」

 

「──副会長」

 

現れたのはソーナから伝言を頼まれた生徒会副会長の真羅椿姫であった。

 

「会長は今、手が離せないので代わりに貴方を呼んできて欲しいと頼まれました」

 

「なるほど──ありがとうございます。すぐに戻ると伝えてください」

 

「分かりました。では私はこれにて──」

 

返答を貰うと椿姫は去っていき、それを確認したひしぎはもう一度向き直ると、

 

「名乗る前に呼ばれてしまいましたが、私の名前はひしぎと言います」

 

「私の名前は塔城小猫です」

 

名乗り返す小猫──すると

 

「小猫ですか、愛らしい名前ですね、実に貴方に似合っていると思いますよ」

 

行き成りのほめ言葉に一瞬呆気に取られるが、意味を理解して少し頬を赤く染めると

お礼を言った。

 

「──ありがとうございます」

 

「では、小猫さん。私はこれで失礼します」

 

今度こそひしぎは去ろうとし──小猫は一瞬心に過ぎった思いを口にしようと

もう一度呼び止めた。

 

「あ、あの!」

 

「──?まだ何か?」

 

一瞬言葉に詰まったが、素直に口にした。

 

「──っ!──あ、あの、また、訓練見てもらえますか?」

 

小猫は、更に強くなるために彼のアドバイス、指摘を欲したのだ──

行き成りの出会いで、怪しさ満点の人だが──教えてもらうことが出来れば

自身はもっと強くなれると、心の中で思ったのだ。

 

──今の自身が強くなるためには、プライドや偏見などは不要、なりふり構わず

教えを乞うた方が良いと判断したのだ。

 

「ええ、それぐらいなら構いません──また、明日も来ますね」

 

元々やる事の無いひしぎは、この世界の"力"を知る為にいい機会だと思い、

了承した。

 

彼の言葉に、もう一度頭を下げる小猫。

 

「──よろしくお願いします」

 

了承を貰えた事に嬉しさが少し表情に表れ、彼女は微笑んでいた。

 

「では──」

 

その笑顔にひしぎは微笑みで返し、今度こそ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーナ、彼は本当に危ない人物では無いのね?」

 

「ええ、ここ数日間彼のお世話をしていましたが、まったく問題はないわリアス」

 

ひしぎを椿姫に呼びに行かせた本人は、リアスの部室を訪れここ数日間の

事の顛末を話していたのだ。

 

「まぁ、貴方がそういうなら、私からは言うことないわ──

 私自身もここ数日忙しすぎて話が聞けなかったのもあるし」

 

リアスは婚約解消後、お互いの家に正式に報告する為に学業が終わり次第、

故郷に戻っていたのだ。

 

故にソーナの報告は聞いていたのだが、直接話す事は今日まで出来なかった。

今更決まった内容を多い覆すほど、彼女も"鬼"ではない。

 

問題を起こしていないのなら、そのままで良いと判断した。

 

「ありがとうリアス。一応学園長と相談した結果、保健の臨時研修生という肩書きで

 彼には学校で療養してもらう事になったわ。」

 

一般の生徒や、その親御にみっかった時の対処法で、肩書きさえあれば

説明がしやすい。

 

「なるほど、でもどうして保健なの?」

 

「話を聞いていた限り、彼は生前医者のような立場も経験していたと話していたので

 他の現代知識はまだ勉強中だから、そちらの方なら多少知識はあると本人に

 確認が取れたからです」

 

知っているなら自然に演技がしやすいと思い採用したのだ。

 

「わかったわ──まぁ、私も余裕が出来たら一度彼と会ってみるわ」

 

「ええ、有意義な話が聞けると思いますよ」

 

リアスの提案に頷くソーナ。

 

そして、もう一つの案件があったことを思い出し、ソーナは切り出した。

 

「そういえば、眷属の顔合わせはいつにしましょうか?」

 

今後のことを考えて、顔合わせしたほうがメリットがあるとこの間提案した件であり、

ソーナは直接リアスの新しい眷属の二人と話してみたいと思っていたのだ。

 

そしてもう一つ彼、匙が一誠を自身が相手をしなければならない相手と再確認させる

目的もあり、願わくば自身とリアスの関係のように良いライバル同士に

なって欲しいと思う親心。

 

「──そうね、お互いの予定を調整するとして、球技大会の練習もあるし

 5日後ぐらいでどうかしら?」

 

彼女たちの本分である学業の、今期初めてのイベントが球技大会、

それが来週に開催される予定もあり、勿論彼女たちも出場予定なので

練習しなければならなかった。

 

「そうですね、分かりました。眷属たちにはそう伝えておきます。」

 

「ありがとうソーナなら決まりね!」

 

「では、私はそろそろ戻ります──」

 

良い返答をもらえたので、出された紅茶を飲み干すとソーナは立ち上がった。

 

「あら、もう帰ってしまうのですか?」

 

リアスのそばで控えていた朱乃が残念そうに言った。

 

「もう少し話をしたいのは山々なんですが、彼のリハビリを手伝う時間なので」

 

「あらあら、そういう事情でしたのね」

 

椿姫に折角呼びに行かせてたので、二人を待たせることは出来ない。

 

「ソーナ、貴方自らリハビリを手伝ってるの?」

 

ソーナの言葉に少なからず驚いた表情をするリアス

 

「ええ、何か問題点でも?」

 

その言葉に不思議な表情を浮かべるソーナ。

 

「いえ──ないけど・・・・」

 

「そう、では──ごきげんよう」

 

そう言って退出するソーナ。

部屋に残された二人は、その姿が見えなくなると顔を見合した。

 

「ソーナが自らそういう行動を取るなんて──見たこと無かったわ」

 

あごに手を添えて考える素振りを見せるリアス。

 

「あら、そうなのですか?」

 

「ええ、幼い頃から彼女を知っているけど、行き成り出合った男性相手に

 あそこまでお世話をするなんて──はっ!?」

 

幼い頃からの親友同士である故に、ソーナの交友関係は全て把握済み、

そしてソーナ自身にも婚約者が居たが、チェスで婚約破棄を勝ち取るなど、

ほとんど男性に興味すら持って無さそうにしていた感じていたリアスは

 

「まさか、あの仏頂面のあの子に──春が来たのかしら!?」

 

とんでもない勘違いを炸裂させた

 

「あらあら、それは勘違いだと思いますわ」

 

話を聞いている限り、そんな事は感じられないと思っていた朱乃。

 

「いいえ、これは──あの子自身が気づいていないだけ!

 出会ったばかりの男性に甲斐甲斐しく世話をするなんて──恋以外考えられないわ!」

 

「はぁ──」

 

もう、なんて返して良いか分からない朱乃はため息を漏らしたのだ。

 

「ふふふ、おめでとうソーナ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅんっ」

 

二人が待つ部屋へ戻ろうとした何の前触れも無く、突然くしゃみしたソーナであった。




こんにちは、夜来華です。

話を書くにつれて、思ったのですが・・・・・内容の進行速度遅い。
そして、もう一つ、既にひしぎの存在感が薄い。

感想、質問、一言でも書いて頂けるととても嬉しいです。



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第3話 聖剣使いと悪魔


なるほど──何と無くは予想していましたが、

この魔の気配を持つ彼女達は本物の悪魔だったのですね。

まぁ、私自身もある意味"神"の血を引いているので驚きはしませんが──





 

 

あの日約束した通り5日後眷属たちに予定を空けさせ、リアスとソーナはお互いの眷属の

顔合わせを実行した。

 

リアスに授業が終わり次第すぐに部室に来るようにと言い渡された一誠は授業が終わると、

アーシアを連れすぐに部室へ訪れた。

 

「遅れてすみません!」

 

時計を見たら、予定より少し遅れ気味だったので一誠は扉を開口一番に謝罪した。

 

「大丈夫よイッセーまだ、彼女達は着ていないから」

 

リアスの言葉を聞いて部室内を見渡すと、紅茶の準備をしている朱乃、

ソファーでお菓子を食べて寛いでいる小猫、窓際で心あらずといった表情の祐斗、

そして部長であるリアスは自身の机で朱乃に入れて貰った紅茶を優雅に

楽しんでいた。

 

「よかった、ですー」

 

その言葉に、一緒に走ってきたアーシアはその場にへたり込み、息を整え始めた。

その光景を見た朱乃は微笑みながら、ソファー近くにあるテーブルに二人の分の

紅茶を置いた。

 

「あらあら、アーシアちゃん。そんな所に座っては服が汚れますわ──

 さぁ、こちらであの人たちが来るまでゆっくりしてくださいね。

 イッセー君もどうぞ」

 

朱乃に促され一誠はへたり込んでいたアーシアに手を貸し、立ち上がらせ

二人はソファーに座った。

 

「イッセー先輩、祐斗先輩に何かしたんですか?」

 

お菓子を食べていた小猫が一誠に小声で話しかけてきた。

 

「ええ?! ひどいょ小猫ちゃん。俺、何もしてないからね!?」

 

祐斗の様子がここ最近おかしい事に皆疑問を感じていた。

いつも、笑顔を絶やさず気配りの出来る彼だが、ここ数日間まったくと

言っていいほど無表情で、何かを考えている様子だった。

 

そして、みな心当たりが無く、直接本人に聞いてもはぐらかされるだけであった。

 

「──本当ですか?」

 

マスコットキャラの小猫にジト目で見られると、新たな価値観が湧き上がりそうになるが

必死に押しとどめる一誠。

 

「本当だよ!信じてよ、小猫ちゃん!」

 

──これ以上その目で見つめられると

 

「──わかりました」

 

そう言って小猫はお菓子に視線を戻した。

漸く視線から逃れた一誠は溢れ出た冷や汗をぬぐっていた。

 

(ふぅ──あぶなかった・・・!あれ以上見つめられたら、何か新しい価値観が

 開けそうな勢いだった・・・・!!)

 

自身を決してロリコンでは無いと否定しながら、あらぶる価値観を治めに入り、

気を紛らわす為、祐斗の様子を観察し始めながら、ここ数日間の彼の行動を

思い出してみる。

 

(確か、うちに来てアルバム見てから雰囲気がおかしくなった気がするなー)

 

数日前に旧校舎が大掃除の為、一時部室が使えなくなり、一誠の家で

部活会議をする事になり、みんなで集まったのだ。

 

そして、会議の途中に一誠の母親が幼い頃の一誠のアルバムを持って

登場、勿論会議は中断し、みんなでアルバム鑑賞会を急遽開いたのだ。

 

一誠の今までの成長が赤裸々に皆に知られ、可愛らしい頃の写真で

リアスとアーシアは興奮状態に陥り、裕斗もすごく楽しそうに鑑賞していた。

 

何枚もめくっていく内に、一つの写真が裕斗の視線を釘付けにしたのだ。

 

それは一誠が幼稚園児の頃の写真で、当時の近所に住んでいて仲良かった

男の子(・・・)の家で遊んでいる写真であった。

 

その子と一誠はゲームを片手で持ちながらカメラへポーズをとっており、

背景には暖炉と、古ぼけた西洋の剣が立て掛けてあったり、

模造品だとおもうが、写真を見る限りでも本物のような気がするほどの

品物であった。

 

「これに見覚えは?」

 

いつに無く真剣な表情を浮かべた裕斗、いつもと若干声のトーンが下がっていて

 

「すまん、ガキの頃すぎて覚えてない」

 

「なるほど・・・こんな事もあるんだね。思いもかけないこんな場所で

 見かけるなんて」

 

苦笑する祐斗の表情を見た一誠は背筋が悪寒に支配されるほど、

彼の表情は憎悪に彩られた笑みだったのだ。

 

「これはね、聖剣なんだよ──」

 

そして、その時から裕斗の様子が何かに取り付かれたようにおかしくなった。

その事を思い出した一誠は、裕斗に聞こえないように小猫に話した。

 

「小猫ちゃん、当たりかどうかは分からないけど、この間うちでアルバム見たでしょ?」

 

「はい」

 

一誠の問いに頷く小猫。

 

「その時、一枚の写真に確か──本物かどうか分からないけど、聖剣が映っていて

 それを見た瞬間にああなった気がするんだ」

 

「──聖剣ですか。でも、どうしてイッセー先輩の子供の頃の写真にそれが?」

 

その問いはもっともなのだが、覚えてない一誠。

 

「すまん、友達の家であった──と、云う事ぐらいしか覚えてないんだ」

 

「──肝心な所は覚えてないんですね」

 

トゲあるツッコミに崩れ落ちる一誠。

 

(でも、年下からコウ、辛辣な言葉が貰えると──何と言うか、

 いけない気持ちになりそうっ!)

 

何事にも前向きで考える一誠は、逞しく、そして変な方向に生きていた。

その後祐斗の様子を気にしつつも雑談していると、ノックが響いた。

 

「どうぞ」

 

リアスが返事をすると

 

「失礼します」

 

扉から入ってきたのは、ソーナとその眷属たち──全て生徒会の生徒であり、

それを見て立ち上がる一誠達。

 

「ごきげんようリアス、皆さん」

 

「ごきげんようソーナ、遅かったわね」

 

「ええ、ちょっと球技大会の不備を調整していたら遅くなってしまったの

 ごめんなさい」

 

生徒会役員である彼女達は、球技大会運営のサポートも兼用しているので

備品に少し不備が出てしまい、それの調査に奔走していて遅れたのだった。

 

「いいわ、この時期の生徒会も大変なのだから──さぁ、時間もあまりないから

 さっさと始めましょうか」

 

「ええ」

 

ソーナはそういうと後ろに控えていた、匙の方に振り向き頷くと、

彼はソーナを追い越し前に出た。

それを見た一誠はリアスの方に向きなおり──

 

「部長──これは一体?」

 

「あれ?リアスさんはもしかして俺たちのことをまだ話してなかったんですか?」

 

その疑問に答えたのは匙であった。

 

「ごめんなさいね、驚かせようと思って会わせたい来客が来る──

 としか説明してなかったの。」

 

してやったりの笑顔を作るリアスに、匙は苦笑いする。

 

「なら、私から説明させていただくと、お互い新しい眷属が増えたので

 その顔合わせを──と、思って」

 

「眷属って──まさか?」

 

ソーナの言葉に驚く一誠、目の前に居る彼女達は同じ悪魔だと知らなかったのだ。

そしてその疑問に隣に来ていた朱乃が説明してくれた。

 

「この方の本当の名前は、ソーナ・シトリー様。上級悪魔「元72柱」シトリー家の

 次期当主様ですわ。ちなみに、この学校はグレモリー家が実権を握っていますが、

 『表』、いわば日中は彼女たち──シトリー家に支配を一任しておりますの」

 

その言葉に一誠は絶句し、

 

「もしかして、学園に他の悪魔もいてるんですか?!」

 

一誠は悪魔はリアスとその部員のみだと思っていたので、驚きの表情を

作っており、それを見た匙が付け加えた。

 

「お前が知らないだけで、他にもこの学園にはもっといてるんだ。

 同じ悪魔なに気づかなかったのか?」

 

やれやれといった感じで答える匙に、ソーナが止めた。

 

「匙、私達は基本お互いに干渉しない事になっているの。兵藤君が知らないのは

 当然です」

 

「会長と俺達が日中動き回ってるからこそ、平和で安定した学園生活を

 送れるんだ。その事だけは覚えておいてくれ」

 

悪魔は外敵が多く、この学園も例外なく狙われているが彼女たちが日中の警備や、

不確定要素を予め排除しているからこそ生徒は安全な学園生活を送れているのだ。

 

匙は、その生徒会の仕事に誇りをもってしてるのだが──ただ、その事を

他の悪魔達にも知ってほしかったのだ。

感謝や、お礼が欲しいわけで言ったのではなく、ただそういう事(・・・・・)が"ある"

と、言うことを。

 

「ああ、ちなみにお前名前は?」

 

「匙元士郎、お前と同じ二年生で会長の『兵士(ポーン)』だ。お前の名前は

 変態三人組で有名だから知っている、兵藤一誠。その、なんだ──

 同じ『兵士』として、よろしく頼む。」

 

そう言って匙は一誠に右手を差し出した、

予めソーナは、余り言い印象を持ってないと聞いていので、自分の使った兵士の駒の数と

一誠の使った駒の数と、フェニックス戦での彼の活躍ぶり、一騎打ちで勝利した事を

予め聞かせ、恥をかくようなマネはしないように、紳士的な態度で

挨拶するようにと匙に伝えてたのだ。

 

そして、駒の数は違えど同じ『兵士』で『王』を圧倒した事を聞いた彼は

変態三人衆と呼ばれて居た一誠を嫌悪していたがその話を聞いて見直したのだ。

 

「よろしく頼む!」

 

ガッチリと握手を交わす二人、その光景を見てリアスとソーナは頷きあう。

そして、匙は一誠のもう隣に来ていたアーシアに向き直り、

 

「アーシアさんもよろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

 

屈託の無い笑顔で答えるアーシア。

 

「兵藤一誠君、アーシア・アルジェントさん。うちの眷属は貴方達より実績が無いので

 もし宜しければ、同じ悪魔同士仲良くしてあげてください」

 

微笑みながらソーナは二人にお願いをすると、二人は笑顔で頷いた。

 

「後、一応忠告しておきますが、私はこの学園を愛しています。

 ですから、学園の平和を乱す人間、悪魔、たとえ親しい友、自身の眷属でも許しません。

 "力"を持ったものは責任のある行動をお願いします」

 

と、今居る3人の新人悪魔に向けられた言葉である。

 

「これで、お互い新人の紹介は十分でしょう。そろそろ私は別件があるので

 失礼します」

 

ソーナはそう言って身を翻し、扉の方へ歩いていく。

 

「会長──いえ、ソーナ・シトリー様、これからもよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

グレモリー眷属としての、リアスの友人であり上級悪魔への礼儀を忘れずに

挨拶をする一誠とアーシア。

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

 

その言葉にもう一度微笑みを返したソーナは眷属を連れ扉の向こうへ行き、

 

「球技大会楽しみね、リアス」

 

「ええ、今年こそ勝たしてもらうわよ」

 

その応酬を聞き、本当に仲のいい二人なんだと、グレモリー眷属、シトリー眷属の

皆が感じた感想である。

 

そうして彼女たちの姿が消えたのを確認すると、リアスは二人に微笑みながら言った。

 

「イッセー、アーシア、匙君と仲良くね。同じ学び舎で過ごすもの同士、

 喧嘩はダメよ?」

 

「はい!」

 

二人は良い返事をし、

 

(俺たち以外に悪魔がいたなんて──まだまだ、この学園には秘密がありそうだ)

 

と、一誠は思ったである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は雲ひとつ無い青空で、天候に恵まれ絶好のイベント日和になり、

この日の為に練習し、成果を出すために待ちに待った球技大会が開催された。

 

そして球技大会当日、ソーナの提案により現代知識をより知って貰う為、

ひしぎも校内、屋上から観戦できるように、学園長に申請し、必ず監視は一人つける条件で

許可された。

 

最初は彼女たちの邪魔、忙しさを増やしてしまうため辞退しようと考えていた

ひしぎだが、ソーナの度重なる説得に漸く折れ、その厚意を受けることにした。

 

流石に校内から全体は見れないので、今日は球技大会の為立ち入り禁止にされている

屋上を選び、そこに陣取った。

 

屋上も毎日解放されている為、事務員さんによる清掃が行き届いており

綺麗な花を咲かせている花壇や、休憩用のベンチもあり、十分に

くつろげる空間であった。

 

松葉杖で一階から屋上までリハビリがてらゆっくりと登り、一応ソーナは運営の方に

顔を出さないといけないので不在だったが、代わりに副会長である椿姫が

彼の監視兼、リハビリのサポートを担当していた。

 

「──お忙しい中、手を煩わせてしまいすみません」

 

見るからに忙しそうな彼女たちに申し訳なくおもうひしぎ

 

「いえ、私達は今回ただのサポート要員ですのでお気に為さらずに、それに

 貴方のリハビリ、お世話は仕事の一環なので。」

 

ソーナと椿姫は、手が空いているほうが彼の監視兼リハビリを担当することに決め、

二人同時に仕事が出来た場合、ソーナは会長なので業務を優先し、副会会長の

椿姫の仕事は、他の眷属たち頼み、回している。

 

実際男でもあったらもっと回しやすくなるのだが、もし万が一の事が

起こってしまったら、生徒会唯一の男である匙にはまだ荷が重過ぎると判断し、

他の眷属も然り、故に対処できるソーナと椿姫でしているのだ。

 

そして、ひしぎが見ているなか、校庭でソーナによる開会式の挨拶が始まり、

盛大に球技大会が開始された。

 

各種目は時間差で行われると説明があり、出る選手は出場準備、出ない生徒は応援準備を

し始め、各自陣へ戻っていった。

 

「みなさん気合が入ってますね」

 

眼下の生徒の気合、テンションを見て苦笑しながらひしぎは呟き、

壬生一族では、水舞台ほか、子供達のみで強さを競い合う舞台を思い出していた。

 

「ええ、みんなこの日の為に楽しみに練習してきたので──これをどうぞ」

 

ベンチに置いていた荷物から、給すを取り出しお茶をコップに入れ、ひしぎに差し出す。

 

「ありがとうございます」

 

それを受け取り、少しづつ飲みながら視線をグラウンドへ向けると、見知った少女が居た。

──小猫である。

 

数名の仲間と円陣を組んで何かしていた。

 

「あれは、なんていう競技なんですか?」

 

「あそこで開始されるの学年別のドッジボールと云って、各決められた枠内に入り、

 ボールを枠内の人に当てる競技です。ちなみに今は作戦会議をしているのでしょう」

 

椿姫の云ったとおり、円陣を組んでいた小猫たちは枠に入り、審判の声と共に

ボールの投げあい、応酬が始まった。

 

「中々、面白そうな競技ですね」

 

小猫が投げると、相手の男の子が吹き飛び黄色い歓声が沸き、

そして、数分後、小猫の圧倒的な攻撃により相手クラスは蹂躙され

ほぼ無傷で小猫所属のクラスが勝利を収めた。

 

その後、椿姫が一つ一つ競技の説明、ルールを解説してくれ有意義な観戦が

送れていた。

 

すると、生徒の団体がどんどん同じ方向へ向かっていくのが見れた──そこには

テニスコートを呼ばれる場所で、その周りを生徒達が囲っていたので、椿姫に

聞いてみると、

 

「そろそろ会長とリアスさんのシングル対決が始まるので、恐らくその応援かと」

 

この学園でトップの人気を誇るリアス、同じく大人気のソーナが試合するのだ、

リアス側には男子生徒の応援が多く、ソーナ側は女子生徒が多い。

ほとんどの生徒が彼女達の試合を応援するために駆けつけてきたのだ。

 

「お二人とも大人気なのですね」

 

「ええ、リアスさんは『二大お姉様』と称され、男子生徒の憧れの的で、

 対する会長は、学内でも3番目の人気で、ああ云った雰囲気を纏っていますので

 男子生徒より、女子生徒から人気が高いです」

 

「確かに、彼女はキツイ目つきも関係して怖そうな雰囲気を醸し出していますが、

 実際は普通の女性だと思うのですが」

 

「はい、実際に話された方は分かりますが、会長はリアスさんと同じ、それ以上に

 お優しい方なんですが、ただの見た目だけで判断する人が多いようなので──」

 

若干、ソーナびいきの意見であるが、確かに他者は見た目的には、見るからに

優しそうな雰囲気を出しているリアスの方が近寄りやすく、正反対の雰囲気の

ソーナは会長と云う肩書きもある所為か、近寄りがたいと、認識されやすいのだ。

 

 

 

 

そう言ってる間に、テニスウェアを着た二人が現れると、男子の興奮した声援が飛び交い、

両者は苦笑している。

 

その後、運営から注意され声援が一瞬鳴り止むと両者は互いのコートに入り

睨み合う。

 

「今日こそ決着をつけるわよ──ソーナ」

 

「ええ、望む所です──リアス」

 

笛の合図が鳴ると共に試合が開始された。

 

リアスが軽快の動きで左右に打ち込み揺さぶりを掛けるが、ソーナは難なく対処、

お返しとばかりに、球にスピンなどを掛け翻弄していく。

 

お互いが球の応酬を繰り広げているなか、フェンスの向こうで一際目立つ『生徒会』の

刺繍が入った旗を振り、大声で気合の入った応援している匙の姿があった。

 

「会長ぉぉぉぉぉ! がんばってくださいぃぃぃ!」

 

その声は周囲の視線を集め、隣で同じく応援していた生徒会メンバーが恥かしさのあまり

顔を赤面していた。

 

そして、屋上にまで届き、

 

「彼、とても元気ですね」

 

苦笑するひしぎの隣で、あの場に居なくて良かったと安堵する椿姫。

凄まじい間での接戦でどちらもゲームを制することが出来ず、長い戦いを

強いられ、結果、お互いのラケットのガットが耐え切れず切れる結末になり、

再戦は流石に時間的に無理と判断し、決勝試合であったが両クラスの

同位優勝と言う事で試合が終了した。

 

その後、いくつか球技の観戦をしているとお昼の時間となり、生徒は各クラスの

持ち場へ戻りお弁当を食べ始めた。

 

ひしぎ達もベンチへ戻りお弁当の準備をしていると、ソーナが扉を開けて入ってきた。

 

「お疲れ様です、会長」

 

「ええ、やはりリアスは手強かったわ」

 

椿姫はタオルと水を持ち、彼女の元へ駆け寄り労わった。

それを受け取りタオルで汗をふき取りながら、もう一つの手で受け取った水を飲み干した。

 

「優勝おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

ひしぎの賞賛に笑顔で答え、空いているベンチに腰を掛けた。

 

「午後からは私が出る球技はもうありませんので、交代します──椿姫、負けてはダメよ?」

 

「はい、必ずや朱乃さんに勝ってみせます」

 

午前での球技参加は無かった椿姫だが、午後からのテニス個人戦に登録してり、既に対戦相手は

抽選で決まっていたのだ。

 

奇跡的な確率で当たった抽選、お互いのランクは『女王(クイーン)』であり、

リアス、ソーナと同じようにライバル同士である彼女たちにとっても負けられない

一戦であったのだ。

 

その後3人は他愛も無い雑談をしながら昼食を取りながら時間をすごしていると、

白髪のウェーブの掛かった女子生徒が飛び込んできた。

 

「か、会長!」

 

ソーナは声がした扉の方向へ視線を向けると、呼んだ人物を把握した。

 

「桃、そんなに慌ててどうしたんですか?」

 

桃と呼ばれた女子生徒は、彼女たちと同じ生徒会に在籍し、勿論ソーナの眷属であり

ランクは『僧侶(ビショップ)』。

彼女は体操着のままで、息を切らしていた。

 

「あの、あのっ!」

 

言葉の先をいいたいのだが、息が詰まって先が言えず、

ソーナは近く間で駆け寄ると、彼女の背を優しくさすってあげ、

その隣には水を用意した椿姫の姿もあった。

 

「落ち着いて、先に水を飲み──一度呼吸を整えなさい」

 

言われるがままに桃は水を飲み干し、深呼吸をして息を整え始めた。

彼女が落ち着くまでソーナは優しく撫で続け、椿姫も持っていたタオルで

彼女の額に流れている汗を拭いてあげていた。

 

その光景を微笑ましく観察するひしぎ

 

(やはり彼女は、誰よりも厳しい反面、それ以上に優しい心を持った子なんですね)

 

心の中でそう考えていると、扉の向こう側──まだ、視界には入っていないが

また、違った"気配"を持つ二人組みがゆっくりと下からこちらに迫ってきてるのを

感知していた。

 

(今度は魔──では無く、正反対の気配ですね──さしずめ"神"いや、

 "聖"の雰囲気ですね──こちらもどこかで)

 

前回はすんなり思い出したが、今回は思い出せなかった──

 

扉の近くにいてる彼女達はまだ、気づいていなく、

そして、漸く桃が呼吸を整え話し始めた。

 

「大変です、教会の者が突然来訪してきて──」

 

「邪魔するよ」

 

桃の言葉を遮る様な形で、遂に来訪者が扉の向こうに姿を現した。

数は二人、白のローブで頭部からひざ下まで隠しており、1人の背中には

布で巻かれた大きな何かを背負っており、発せられる気配で自身達の天敵、

天界からの使者と分かった。

 

咄嗟の来訪者に3人は一瞬で後方に下がり距離を取り、ソーナと桃を庇うようにして

椿姫が前に出た。

 

「最近の悪魔は、警戒心はが薄すぎる──私達の接近をこうも許すとは」

 

背に物を背負った方が一歩前にでて、彼女達に指摘する。

それを聞いたソーナはなぜ、ここまでの接近を許したのか一瞬思案し、状況を整理してみた

 

(この状況は間違いなく"ありえない"──学校には簡単な感知結界が張っていたはず

 なのに、何も反応しなかった)

 

シトリー眷属で学校を囲うようにして、簡単な術式で感知魔法を掛けていたのに

引っかからず、そしてそれ以上におかしいのが、ここに来るまでに

何人もの"悪魔"と出会っているはずなのに騒ぎ立てられた気配がない。

故に、慎重に相手の気配を探ってみると、少しずつだがどんな手口を

使ったのかが把握できた。

 

「──良くもまぁ、巧妙に存在感を"擬態"させておいて、妙な言い掛かりですね」

 

相手の二人から感じる気配の半分以上は、校舎や物、空気と一体化していて

"意識"せずに見ると脳がには建物や空気と認識してしまっていたのである。

 

「へぇ、もう私達の"カラクリ"を見破ったの──流石はシトリー家の次期当主様」

 

何も持っていない方が素直に賞賛を送る。

 

「"カラクリ"を見破っても、ここまで接近できれば勝負は付いたも同然だが──

 今日は戦いに来た分けではないんだ」

 

そう言って先に前に出ていた一人がフードを取る──緑色のメッシュを入れた青髪短髪で

鋭い目つきの美少女であり

 

「少し貴方達に聞きたいことがあって来たの」

 

もう一人も同じくフードを取ると──中からは、亜麻色のツインテールをした

とても活発そうな性格をしてそうな美少女である。

 

「"教会"の使者が私達に一体なんのようです?」

 

いつでも対処できるように、魔力を手に集中させながらソーナは問うた。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側の正教会側に

 保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 

説明しだしたのは、亜麻色の髪をした少女──紫藤イリナだった。

 

「貴女方もご存知の通り、本物の『原点』であるエクスカリバーはもう、

 この世には現存していません」

 

「確か、その折れた『原点』の破片を集めて、錬金術で7本の聖剣が作られたって

 話ですよね?」

 

イリナの説明にソーナが付け足すと、彼女はそこら辺の説明が不要と感じ、

頷き続けた。

 

「ええ、ですので彼女の分を含めてカトリック教会側に2本、プロテスタント側は

 私の分と含めて2本、正教会側に2本、そしてもう1本は、先の大戦中に行方不明となり

 現在我々は6本を保管していたのですが、先日強奪事件が起こり各陣営から

 1本ずつ盗まれたんです」

 

隣で同じく説明を聞いていた青髪の少女と自身を今後に指をさしながら説明するイリナ。

青髪の子は背負っていたモノを前に出し布を取、見せ付けた

 

(あれが7本のうちの一つ)

 

「これはその内の1本『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』、そしてイリナが

 持っているのは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』だ。」

 

二人はそれぞれ持っている聖剣を彼女たちに見せるとソーナ達は、畏怖──恐怖──戦慄──が

一瞬で体中を駆け巡り、悪寒を感じた。

 

(本物のようですね──!)

 

たとえ『原点』でなくとも、対悪魔には絶大な効力を発揮する。

 

恐らく彼女達は話を信用してもらうために見せたのだと判断し、

そして、話の展開の先が読めたソーナは無意識に呟いた。

 

「まさか、この地にその強奪犯が逃げ込んだ──と、云う事ですか?」

 

「ああ、その通りだ」

 

その問いに青髪の少女──ゼノヴィアが頷く。

 

「ちなみに奪った犯人は『神の子を見張る者(グレゴリ)』の幹部──コカビエルだ」

 

その名前を聞いたソーナ達に衝撃が走る。

 

「コカビエル──まさか、古の戦からの生き残る堕天使側の幹部──まさか、

 聖典や書物以外からその名を出されるとは」

 

先の大戦で生き残った堕天使側の幹部であり、実力は相当なモノで

実際に聖書や普通の書物でも名前がのる大物であった。

 

そんな彼が動く──と、云う事は通常の戦力だけでは歯が立たない。

 

(話を聞くに彼女達は聖剣使いですか──確かに堕天使相手にも聖剣があれば後れは取らないと

 思うけど──コカビエル相手では戦力不足だわ)

 

ゼノヴィアとイリナはソーナの目から判断しても、相当な実力を擁していると

分かるが、古の化け物を相手にするにはそれでも戦力不足と判断したのだ。

 

「先日から、我々が派遣したエクソシストが悉くこの地に入ったとたん

 音信不通になったので──捜索と、この地で戦闘する許可が欲しくて、

 訪ねてきたわけだ」

 

「なるほど──ですが、私の一存で決められません──一応話しておきますが

 私の管轄はこの学校のみなので、校外の許可を取りたくばリアス・グレモリーと

 協議しなさい」

 

実質、グレモリー家がこの地を統括しているのでソーナ自身が決められることでは

なかった。

 

「ですので、明日の夕方もう一度ここへ来てください。リアスにはこちらから

 話を通しておきます」

 

学業が終わり次第事実確認の為、眷属を総動員して情報収集に当たらせ、

自身はリアスへ事情を話しにいかねばならなくなった。

 

「了解した──では、明日また訪ねよう──行こうかイリナ」

 

「ええ、では悪魔の皆さんまた明日ね」

 

そう言って教会側の二人組みは身を翻し、また来たときと同じような"擬態"を

発動させ姿を消していった。

 

「会長──これは」

 

「ええ、相当厄介なことに巻き込まれそうですね。桃、貴女は皆に連絡して

 業務が終わり次第情報収集に」

 

「分かりました」

 

「椿姫、貴女はその情報の統括を──私は直接リアスの所へ向かいます」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー会長ひとついいですか?」

 

「なんですか桃?」

 

桃は彼女達の後ろでお弁当をつまんでいるひしぎに指をさし

 

「あの人は一体誰なんですか?──と、云うか今の話聞いてても大丈夫だったんですか?」

 

「──っ!」

 

ソーナと椿姫はその言葉に──ゆっくりとひしぎの方に振り向くと

彼は用意してもらったお弁当を食べながら、

 

「とても面白そうな話でしたね」

 

新しい興味が出てきた──と、いった表情をしていた。

 

話の途中に完全に気配を消し、そのまま普通に聞いていて、彼の中に

あった問いの答えが得られたのだ。

 

(なるほど、彼女達の正体は"悪魔"だったのですね──本当に退屈しなくて済みそうです)

 

──と。

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

そろそろ原作と乖離した部分がちょこちょこ出てくると思いますが
お許しください。

あと、キャラの性格も少し変っている部分も今後あると思います。

感想、質問、一言頂けると嬉しいです。

では、また次回にお会いしましょう。


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第4話 心の在り方

天使──翼を持ち、"神"に仕える使徒

思い出せません──だけど、その気配はなぜかとても懐かしい感じがします

そう、とても大切だった子供の頃の記憶──





球技大会が終了し、後片づけを実行委員会に任せるとソーナは眷属たちを総動員して

街に情報収集に当たらせた、彼女たちが嘘を言っている雰囲気では無かったが、

そんな大物がこの街に潜伏しているならばそれ相応の準備も必要になる。

 

聖剣のオーラは凄まじく、彼女たちがさった後でもそのオーラの残滓は残っており

すぐさま『ベイ』に覚えさせたら、街に解き放ち、ソーナの読み通り街の意たる所で

残滓を発見し、報告のあった場所へ眷属たちを向かわせたのだ。

 

『昨晩、神父と思しき男性が殺害されたと、近所の方が話してます』

 

ソーナが渡した通信機器から、一番近かった現場に辿り着いた桃から連絡が入り、

状況を伝えてきた。

 

彼女の視線の先には住宅地だが、殺害された場所と思しき通路は警察の手により閉鎖され

今も、街の人々が不安そうに現場を覗いていた。

 

近所の方に話を聞くと、昨晩時計の針が0時を回ろうとしていた時に、突如男性の

悲鳴が聞こえ、慌てて窓を開け外を確認してみると、ちょうどその聞こえた場所は

街灯の真下で、神父の様な服装をした男性が背中から血を流しながら倒れており、

その隣には、切ったと思われる白髪の男が居て、その手には西洋の剣が

握られていて、その後男は走り去り、暗闇の中へ消えて行ったと聞き猟奇殺人として

警察が調査をしてる所だ。

 

閑静な住宅街で突如起こった事件に周辺に住む人々の表情は恐怖と不安に彩られていた。

 

『警察の話を聞くと、ここ数日意たる所で外部から来た神父が何者かに殺害された

 事件が多数発生してると──そして、現場で目撃された男は同様の人物みたいです』

 

犯人はその犯行を隠しもせず、堂々としており目撃者が大量にでており、

見た人は皆口をそろえて「白髪で長身の男性」と、答えている。

 

「わかりました。引き続き男の行方を追ってください──ただし深追いはせず、

 危険と判断したらすぐに逃げるように」

 

『了解しました』

 

ソーナが指示を出すと通信が切れ、そのまま通信越しで聞きながら書いた

書類に目を通す。

 

何の目的があるかは分からないが、ここまで隠す気ゼロの堂々とした行動は

とても嫌な予感しかしない──ともかく、万が一こちら側に牙を向かれる前に

犯人像とかを抑えたいソーナであった

 

その様子を近くのソファーでじっと観察しているひしぎの姿があった。

あの後、ソーナ達は彼を誤魔化せるはずも無く、球技大会を観戦しながら

悪魔の事、天使の事、堕天使の事を語った。

 

そして、自身が悪魔の中でも「元72柱」、シトリー家の次期当主であり

生徒会の人間は全て自身の眷属であることを言った。

 

普通の人間であれば、冗談かと思うほどの話だったがソーナの話を

真剣に聞いてくれる彼に証拠である悪魔の翼まで見せた。

 

「今まで黙っていてごめんなさい。悪魔が人間のお世話をするって裏がありそうで

 気味悪いですよね」

 

そう言ったソーナの顔には、はじめから正体を明かさなかった後悔と

このまで親しくなったのに──嫌われると思ったのだろう、無意識に悲しそうな

表情を浮かべていた。

 

それを見たひしぎは優しく微笑むとこう返した。

 

「昔はそう云った者も居ましたので、私は全然気にしていませんよ──それに、

 貴女がお世話をしてくれるのは本心からでしょう?

 裏がある"者"はここまで親身になってしてくれませんよ。

 ──ですので、私は貴女が悪魔だろうが天使だろうがまったく気にしません。

 今まで通りに接してくれると私は嬉しいです」

 

その言葉を聞き、ソーナの心の中にあったわだかまりが晴れた気分になった。

今まで、普通(・・)の人間に事情を──自身の正体を開かした事が無かったため

そう思われているだろうと、思っていたが──それが杞憂であったのだ。

 

「──っ、ありがとうございます」

 

「いえ、私も貴女に秘密にしていた事がありまして、この事は他言無用ですよ?」

 

彼女が自身の秘密、正体を明かしたのならば、自分自身も明かすべきだと思い

誰にも言わない事を約束し、語ったのだ。

 

道教を祖とする陰陽道、古代エジプトから発生した錬金術、

世界中のありとあらゆる呪術や医術を掌握し、遥か太古の昔から日本を影で

支え、動かしていたとされる幻とされる壬生一族の出身であり、

その中でも一握りしかいない地位にいた彼は──太四老と呼ばれ、

壬生一族を守護していたと。

 

その言葉に昔祖母から聞いた話を思い出していた。

 

「──確か、お婆様に聞いたことがあります。太古の昔から絶対に日本に

 手を出してはいけない一族があり、彼らは『鬼神(おにがみ)』と呼ばれ、

 怒らしてはいけない──と、もしそれを破れば『鬼神(おにがみ)

 たちが来て、皆殺しにされると聞いていましたが──本当の事だったのですね──」

 

小さな頃祖母が話してくれた幻の一族の話、祖母自身も子供の頃聞いた話なので

ソーナにもよく聞かしていたのだ。

 

泣き止まないと『鬼神』が来るぞ、と。

 

大昔、まだ日本に名前がついて間もないとき、悪魔側のある魔王と『元72柱』の一部が

日本の領土を支配を目論み、大部隊を派遣した事件があったのだが、天使側もそれを

阻止すべく、同じく大部隊を派遣し、とある日本の領土で戦争が起きたのだが、

彼らは『鬼神』の怒りに触れ、侵略してきた悪魔と魔王、阻止しにきた天使もろ共

皆殺しに合い、その後日本では戦闘を行わない事と誓い合ったのだが、

歴史は遥か昔で、実際その戦闘を経験した者の帰還者はごく数名であっり

お互い、無駄な戦力を消費した事を隠した為、真偽が分からず、

御伽噺になっていたのだ。

 

実際ソーナが日本に来てから、ふと思い出して一度検索してみたが一切そんな一族は

存在しなかったのだが、ひしぎの表情を見ると──冗談を言ってる感じではなく、

本物だと確信したのだ。

 

「信じてくれるのですか?」

 

「ええ、貴方が私を信じてくれたように、私も貴方を"信じ"ます」

 

 

証拠が無いのだが、ソーナは彼が嘘をついているとは思えなかったのだ。

そして、彼も自身のことを疑うことなく信じてくれた──だからこそ

ソーナも彼を信じる事にしたのだ。

 

故に本当の意味で、距離が縮まった二人──

 

「私にも何か手伝うことが出来ると思うので──頼っていただいても

 大丈夫ですよ」

 

そう言ってひしぎが提案すると──ソーナが少し思案し、頷いた。

 

「──分かりました。よろしくお願いします」

 

自身より長生きしている彼ならば違う視点で物事を考えたり、

指摘してくれると思い受け入れた。

 

──ただし、ひしぎの正体はまだ誰にも明かさないと云う条件だが。

 

そういう過程があり、現在生徒会に設置してあるソファーからで彼女達の作業風景を

眺めているのだ。

 

(この学校の半分は悪魔で、そしてこの街はリアス・グレモリーと云う少女の

 縄張りですか──)

 

話を聞く限りでは他の街にも悪魔が自身の縄張りを持ち、お互い取り合いになる事も

暫しあるという。

 

(まったく、人間の住む世界を悪魔が我が物顔で支配するとか──中々面白い時代に

 なってますね──もし、吹雪が生きていたらどんな顔をしたか)

 

ひしぎにとっては悪魔も壬生一族も同じようなモノと内心思っているので、

別に悪魔が支配しようが人間が支配しようが関係なかったが、ただ勝手に

自身の縄張りだから──と、云われるのは不愉快を感る、彼の親友である

吹雪は人間を、壬生一族を愛しているので──憤ると、思ったのだ。

 

ソーナ自身は人間界での学校のシステムを知る為、悪魔の生徒を守るための支配なので、

悪い印象は無いのだが話に出てきた、リアス・グレモリーの支配の方は

いい印象はもてないと思うひしぎ。

 

(まぁ、実際会って見ないと分からないですがね)

 

別にこちらから会いに行く必要性はまったく感じられないので、

そのまま放置することに決めた。

 

そして、思考を切り替えソーナの動きを観察する──若いながらも冷静で

十分な指揮、判断能力があり将来が楽しみになる。

 

「椿姫、そろそろここを任せていいかしら?」

 

「はい」

 

「私はリアスにこの件を話してきます──そろそろ日も暮れそうなので、

 全員帰還するように伝えておいて」

 

窓の外を見ると徐々に日が沈んできており、そろそろ交代の時間でもあるが

皆球技大会後すぐに行動を移したので疲労感が多いと判断し

切りのいい所で切り上げの指示をだす。

 

「私はすぐに帰って来れないと思うので、全員帰還を確認したら各自解散で」

 

「了解しました──ひしぎさんはどうしますか?」

 

眷属の指示は貰ったのだが、ひしぎの事が気になる椿姫。

昼から彼女は試合に出るべく、席を外していたので何があったのかが分からないが、

ソーナが一緒に連れてきて、話を聞かせていたのだ。

 

(あの後二人に何があったのでしょう──)

 

何と無くだが、二人が今までより親しく会話しているように見えたのだ。

 

(会長に限って──そんなことは無いと思いますが)

 

「ひしぎさんはどうしますか?」

 

椿姫に聞かれ、そのままソーナがひしぎに問うと

 

「私は約束があるので少し、校外を散歩してきます」

 

そう、小猫との約束の時間がそろそろ迫ってきていたのだった。

 

「分かりました──では、椿姫。後は頼みました」

 

ソーナは自身の机から立ち上がると、生徒会室を後にした。

彼女を見送った後、ひしぎも傍らに置いていた松葉杖を取ると立ち上がり、

 

「椿姫さん、大変だと思いますが気をつけてくださいね」

 

「はい、お気遣いありがとうございます。ひしぎさんもあまり無理をなさらぬように」

 

「ええ、ではまた明日」

 

そういって彼も部屋を後にし、目的の旧校舎裏へゆっくりと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎが旧校舎裏の林に付いたときには既に、球技大会後だったので体操着と呼ばれる

服装のまま、小猫が先日と同様にサンドバックを相手に訓練をしていた。

 

教わった所を頭の中で反芻し、同じ型を何度も何度も反復し練習を重ねており、

破れて壊れたサンドバック数個、周辺に転がっていた。

 

「こんにちは小猫さん、随分と練習なさった様ですね」

 

「──こんにちは、はい。教えていただいた事を忘れないように体に

 覚えさせようと思ったので」

 

そう言いながらも、サンドバックに打撃を入れると重低音が響き、

打ち込んだときの衝撃で砂埃が舞う──今回は捻りを入れてないので

1発では表面は破けていないが、その代わり衝撃が凄まじく振り子状態になっており、

戻ってきた所に──もう一撃。

 

型は練習の成果が出ており、固定して打つだけならば重心、バランスが崩れていない。

何度も何度も打ち込むが──型は安定している。

 

それを確認したひしぎは次の段階に進んでも大丈夫と判断し、

 

「小猫さん。次の段階の訓練に移る前に少し戦闘に関して説明しておきます」

 

恐らく初歩的な事は知ってるとおもったが、今一度簡単に説明をし始める。

 

戦闘においてまず、相手が棒立ちという事態はそうそうに無い、あるとしたら二通り、

絶対的な力の差を見せ付ける場合と、ただの慢心、油断をしている場合のみ。

 

後者は力に溺れた者が頻繁にする思うが、前者である状況はまず引くことを提案する。

たとえどの様な状況でも冷静に自身と相手の力の差を見極めるべきであり、

力の差が分からず対峙するのと、分かって対峙するのとでは行動の取り方が

まったく違ってくる。

 

相手にとっては、状況が分かってない相手ほど楽な戦であり、力の差を見極め

例え倒せなくても向かってくる者ほど面倒な相手はいない。

 

故に自身の置かれた立場、戦場を十分に理解することで自身が今何をすべきなのかを

考えることが──生き残る秘訣なのだ。

 

例えば、相手との力の差を知りながらも絶対に後には引けない状態になれば話は

別だが、ほとんどの場合そんなことは無いはずなのだ──仲間がいる限りは。

 

自身の力が及ばない相手に仲間に頼ることは恥ずべきことでは無く、むしろ相手からは

賞賛を送られる事が多い。

 

次に覚えておくのは──戦闘の基本、回避行動。

 

可能な限り相手の攻撃を喰らわない事。

たとえどんなに防御、肉体の頑丈さに自信があろうと、何度も喰らえばダメージは蓄積してくる

圧倒的な力の差があれば蓄積するダメージも無い事もあるが、逆の場合、防御など

紙に等しくなり一撃で沈められる可能性もあるのだ。

 

あと、同等の力を持つ相手と戦うならば、こちらも防御せず回避にすべきであり、

当たれば当たるほど、スタミナは削れ、同等だった勝負が崩れる場合もある。

 

故に回避行動は基礎中の基礎であり、まずは自身が回避行動を取るか、相手に取らせるかで

勝負の先手がとりやすく、有利に運べる。

 

そして、攻撃に関しては──中途半端な攻撃行動は避け、全て一撃で沈めるような

気持ちで望むこと。

 

中途半端な攻撃はいたずらに戦闘時間を長引かせるだけであり、スタミナに自信が

あれば別にいいが、あまり自信が無いのなら最初から全力で攻撃したほうが

時間も、スタミナ消費も抑えれる事もある。

 

ただひしぎ自身は死の病に冒された体は"悪魔の眼(メデウサ・アイ)"の乱用や激しく体力を

消耗する事が生死に関係するため、圧倒的な力をもつ彼は最初から全力を出さない戦い方が

体力温存に繋がるため、そちらのほうが身についたのだ。

 

ただ、小猫の場合は戦闘スタイルが近接のみなので、全力スタイルの方が合ってると

おもったのだ。

 

そして、次はスタミナ──これ長いと話にならない。

本当に戦闘の基本であり、これがないと勝てる勝負も逃す場合もある。

 

攻撃するのにも、回避するのにも全ての行動を取るにもまずスタミナが重要となり、

互角の力を要する相手と戦い勝つために重要な要素の一つであり、

格上に対しては回避に専念し、相手の冷静さを奪いつつ消耗戦を仕掛けることで、

勝機が見えてくる。

 

どんな格上でも冷静さを失えば、隙が生まれそこに全力を叩き込めれば、勝てる確率もある。

 

そして、最後は精神力──心の在り方によってスタミナと同等に勝敗を決める要因の一つ。

たとえ、パワー、スピード、防御で負けていても、"勝つ"、"負けたくない"と云う心を

持ち続ける事で自分自身に力を与えるのだ。

 

──結局は精神論で、当てにならないと、云う者もいるかも知れないが、

心の中に"強き信念"がある者は何者にも負けない強さを発揮するのだ。

 

どんなに窮地に立たされても、体中ボロボロになっても"心の在り様"次第では

全てを覆いつくせる可能性もあるのだ、

 

──そう、自身を負かした鬼眼の狂のように──

 

 

「──心の在り様ですか?」

 

「ええ、たとえ苦しい状況に立たされていても、しっかり気持ちを持っていれば

 難しいかもしれませんが勝機が見えてきます」

 

今のひしぎの長い説明を聞いて、納得できる部分が多かった。

 

自身の戦闘の仕方は『戦車(ルーク)』の特性もあり、防御に自信を持っていたが

結局それ以上の攻撃を受けると──たとえ自信があってもフェニックス戦と同じように

一撃で戦闘不能に持っていかれると感じたのだ。

 

それほど彼女にとってフェニックス戦での一撃によるリタイアはずっと心の中に

残っていた。

 

もし、あそこで危険を察知して回避行動が取れていれば、もしかすると状況が

"変って"いたかもしれない──そして、今までのはぐれ悪魔との戦闘により

毎回服が破けているのは回避行動を取らずにそのまま攻撃を受けていたから

と、思い出したのだ。

 

(私も祐斗先輩みたく、スピードを訓練すればいいのかな)

 

今思い返してみると、木場祐斗の戦闘スタイルは決して相手の攻撃を喰らわずに

回避を専念し、相手の隙を見つけたと同時に斬撃を叩き込む戦法。

 

そう思うと自身の動きにスピードが無いことに気が付き心が沈んでいく。

 

(やっぱり──私には才能が無いのかな)

 

遠距離固定砲台と化しているリアスと朱乃に取ってはスピードはあまり重要でない。

近距離前衛の自分は同じ、ポジションの裕斗と一誠には既にスピードに

差がつき始めているのだ。

 

元々『騎士(ナイト)』の特性でスピードが強化されている祐斗、

『赤龍帝の籠手』の能力により全ての能力値の倍加、

その二人に対して自身はまったくと云っていいほど早さが無かった。

 

直接対峙しなくても──分かるのだ、祐斗には自身の現状の力だと

1発も相手に入れられない事。

 

一誠に対しては攻撃は当てられる分ましだが、数分後には倍加の力により

自身の力をすぐに上回ることを──。

 

今思えば全てにおいて負けている──力に関しても常人より上、防御に関しても同じ

何の取り得もないと──感じてきたのだ。

 

(眷属の中でもやっぱり私がお荷物──それでも私は──強くなりたい)

 

みんなに置いていかれない様に、みんなのお荷物に成りたくない一心が

今の彼女の心を占めているのだ。

 

「──私は何の特徴も無く、そんなに早く動けないのですが、それでも──

 強くなれるんでしょうか?」

 

その言葉は不安に彩られ少し震えているのを感じたひしぎは出来るだけ優しい

声でかえした。

 

「大丈夫ですよ、十分に貴方は"強い"。もっと自身を持ってください。

 そうすれば、貴方の内に眠っている"力"に溺れず、

 たとえ現状誰かに負けていても、"心"で負けなければいいのです。

 強くなりたいと、思っている時点で、貴方は更に強くなれますよ、

 修行をすればするほど体は"答えて"くれますから──だから、気を落とさず

 頑張りましょう」

 

「──私の正体、いえ、この"力"の正体をしているんですか・・・・?」

 

ひしぎの示した言葉に、更に不安を掻き立てられる小猫。

彼女のうちに眠る"力"は既に彼は感じ取っており、そしてその力を使うことを

嫌悪している雰囲気を感じ取っていたのだ。

 

「正確には、どんな力かはわかりませんが、貴方はその力を使うことを躊躇っている」

 

指摘され唇をかむ小猫──その瞬間、脳裏に同じ力を持っていた、とても優しかった

姉が力に溺れ豹変した記憶が蘇り、体がふるふると振るえ涙が零れ始めた。

 

慕っていた姉に裏切られ、捨てられ、もう生きていく事を諦めた過去を

思い出したのだ。

 

「──私は、あんな黒い力なんていりません──ただ、人を不幸にするだけの力なんて

 いりません・・・・・」」

 

それを聞いたひしぎは、本当に辛い過去があったのか──と、思ったが続けなければ

成らなかった。

 

「過去に何があったのかは知りません。ですが、持っている力は"貴方"の力なのです

 自身の使い方により、その力は貴方にとってプラスになるかマイナスになるかは

 心の持ちよう次第なのです──どんな力でも自身に備わっているという事は

 それは、貴方の一部、素直に受け入れてあげてください。

 大丈夫、貴方は強い、決して"力"に溺れる事はありません

 ──もっと自分自身を信じてあげてください」

 

 

その気を使った優しい言葉に俯いて涙を流していた小猫は──

 

(ああ──私は──誰かに知ってほしかったのかな)

 

自分自身の今までの努力を、心の在り方を、誰かに知って欲しかったのだ。

決して自分の進んできた"(かこ)"が間違っていなかった──と。

眷属同士では話しづらかった、リアスに対しても聞きづらかったのだ

恐らく聞いた場合の返答は自身に気を使って言ってくれる。

 

でも──このひしぎの言葉は、自身の事ををまったく知らない彼が、

こう言ってくれた言葉は何より、心にしみ、

そして、自身に中にある忌まわしき"不"の力──それをも彼は認めてくれたのだ。

 

「だから、涙を拭いて──折角の可愛らしい顔が台無しになりますよ?」

 

ひしぎはそう言って小猫に近寄り、膝を折り視線を同じぐらいにして

右手で彼女の頭を撫でながらあやし、空いてるほうの手でハンカチを

差し出した。

 

「──っ、ありがとうございます」

 

ハンカチを受け取ると涙を拭き取り、ひしぎの言葉で胸につかえていた不安や、

恐怖が取れたのか──笑顔を見せた。

 

「ええ、そのほうがとっても似合います」

 

(私は──私自身を信じる──もう、力になんて迷わない──)

 

自身の中に眠る力を小猫は受け入れることを決心したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

球技大会が無事終了し、一誠とアーシアは帰路についていた。

普段ならば、ここにリアスの姿もあるのだが、帰り際にソーナに呼び出され、

先に帰ってと言い残し彼女は部室に戻っていたったのだ。

 

「会長さん、何かあったのでしょうか」

 

呼び出されたリアスの表情を思い浮かべると、よほど深刻な相談なのだろうと

おもったアーシア。

 

「まぁ、今日は球技大会だったし忙しいのもあったんじゃねーの?」

 

適当に相槌をする彼もハードな種目をこなしていた為に体力がほぼ

底を尽きていたのだった。

 

「もーイッセーさんたら、真面目に答えてください」

 

適当な返答に頬を膨らませるアーシア、それを見た一誠は疲れたに

元気がわいてきた。

 

(やっぱアーシアは怒った顔も可愛いなぁ)

 

あまり学園から距離が離れていないので数分後、家の前に付き、

玄関を開けようとした一誠の背に得体の知れない悪寒が走った。

 

(な、なんだこれ)

 

体が震え、彼の中の本能が危険信号を出していた

 

(前にも感じたことがあるぞ──確か初めてであったアーシアを教会まで

 案内して、教会を見たときに走った悪寒だ)

 

そう、元はシスターだったアーシアは元々教会に用がありこの地を訪れ、

迷子の所を一誠に出会い、案内してもらった経緯がある。

 

すると、アーシアも同じように感じたのか震えながら一誠の服をギュッと握った。

 

(これは、悪魔だからこそ感じられる事なのか──)

 

家の中に得体の知れない何かが"いる"と云うことなのだ。

そして一誠の脳裏に母が危機にが迫っていると──よぎったのだ。

 

「母さん!」

 

勢いよくドアを開け母親を呼ぶ一誠。

彼の頭の中には先日出会った、イカレた神父の姿が思い出された。

 

その神父は元エクソシストで、悪魔はもちろん、それに関係した人間すら何の躊躇い無く

殺したことにより天界から追放されたのだが、堕天使側に拾われ、

自由気ままに殺しを楽しんでいる──殺人鬼なのだ。

 

先日の堕天使との戦いでその男だけ生き残り行方をくらました、

故に一誠の事は悪魔と知っており、その家族である母親を襲う──と、思ったのだ。

 

まずは台所へ向かうが姿が無く、他の部屋を探そうとした時、

リビングから楽しげな話し声が聞こえてきたのだ。

 

その声が発せられるリビングを一誠とアーシアは恐る恐る覗いてみると、

見知らぬ美少女二人と、母親が談笑する姿が見えた、

 

 

「これがね、イッセーの小学校時代のアルバム。これは1年生の時、運動会のリレーで

 一等賞を取って大はしゃぎしている写真、かわいいでしょ」

 

またも一誠の幼い頃の赤裸々写真を見せびらかしていた。

 

「か、母さん・・・」

 

元気そうな姿を見て呆けてしまう一誠。

 

「はぅ、よかったです」

 

その隣で母の無事を安堵するアーシア、気が抜けたのかそのまま座り込んでしまった。

 

「あら、イッセー、アーシアちゃんお帰り。どうしたのそんな血相を変えて」

 

一誠は一度深呼吸をして、母親の前に座っている二人の美少女に視線を戻すと、

彼女達の胸元には十字架がぶら下げられ、自分自身と同じぐらいの年齢に見えた。

 

片や青髪の一部に緑のメッシュが入った目つきの鋭い美少女、

もう一人は亜麻色にツインテールの人懐っこそうな表情をしている美少女。

 

一誠はまだ、知らないが先ほど学校に表れた二人組みであった。

 

二人とも同じローブで身を包んでおり、

 

(──教会の関係者か)

 

と、内心疑問に思っている一誠に亜麻色のツインテールの子が話しかけてきた。

 

「こんにちは、兵藤一誠君」

 

微笑む彼女の顔に一瞬流されそうになったが、その視界に入った青髪の子の

隣に立てかけてあった、布に巻かれた長い獲物から発せられる気配を

感じ取る。

 

(──やばい、何か分かんないけど。アレは"俺たち"に対して絶対的な

 何かをもつシロモノだ)

 

ぎこちない笑みを造りながらも一誠は挨拶を返した。

 

「はじめまして」

 

その言葉に怪訝を覚えたのか、少し眉があがった。

 

「あれ?覚えてないのか?!私だよ!」

 

自身を指差す亜麻色の子に、困惑していた一誠に母親が一枚の写真を

手渡した。

 

手渡された写真を見ると例の聖剣が写った写真で、母親が写っている幼い頃の

男友達を指差していった。

 

「この子よ、紫藤イリナちゃん。この頃は男の子ぽかったけど、今じゃとっても

 立派に女の子らしく成長していて母さん一目見たとき誰か分からなかったわ」

 

その言葉に心の中で絶叫する一誠──すると、イリナがその言葉に続く。

 

「お久しぶりねイッセーくん、もしかして男の子と間違えてたの?

 まぁ、あの頃の私は男の子顔負けにヤンチャしてたから間違えても仕方が無いかー。

 お互いしばらく会わないうちに、色々と合ったみたいだね。

 本当、再会ってなにがあるかわからないものね」

 

その意味深な言葉は、一誠でも瞬時に分かった。

 

(ああ、俺たちの正体を気づいているのか)

 

無意識に喉を鳴らし、覚悟を決めた一誠。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その覚悟も杞憂に終わった──彼女達はその後も、母親と雑談し、

30分ほどだって帰っていったのだ。

 

久しぶりに帰ってきた日本に懐かしさを感じ、ついつい寄ってしまったらしく、

幼い頃、親の仕事でイギリスへ渡って以来だったらしい。

 

一誠は出来るだけ関わりを持たぬように、すぐさま部屋に戻りアーシアを

無理やり自室に待機させ、事の成り行きを見守っていたのだ。

 

いざと云うときは、母親とアーシアを命に代えて──守る、と云う覚悟を

腹の中で決めていたのだが──何事も無く終わった。

 

そして、彼女達が帰った後リアスが帰宅──ソーナから先ほど起こった顛末を説明された

彼女は一目散に帰宅し、一誠とアーシアの無事を確認した瞬間、二人を抱きしめ

 

「本当に無事でよかった」

 

と、リアスは心の底から安堵したのだった。

 

「私もイッセーさんも何もされなかったので、大丈夫です」

 

その言葉によりいっそう二人を強く抱きしめる──二人の温かさ、無事を

心の底から感じられるように──と。

 

「貴方達に何かあったら──私は」

 

グレモリー一族は特別情愛が深い一族と自身の『神器』に宿る『赤い龍の帝王(ドライグ)』から

聞いていた一誠。

 

安堵と共に涙を流すリアスを見てそう思い出したのだ。

その後、リアスは涙を拭い、ソーナから聞いた話を二人に説明しだしたのだ。

 

ソーナ自身、恐らくリアスが先に返した二人を心配すると思い、簡単に説明したのだ。

教会の事──そして、リアスに協議の申し込みがあったということを。

 

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

今週から週1~・・・時間が取れたら2、3更新予定です。

ルーキーランキング1位になってました・・・
本当に評価を入れてくれた方、感想をくれた方、本当にありがとうございます。
これからも、頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします。

感想、誤字脱字報告、質問、一言、あれば嬉しいです。

では、次回にお会いしましょう。


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第5話 悪魔vs聖剣使い

──あれが悪魔、何と云うか

信じられないほど──弱く見えます

恐らく彼らは悪魔の中でも新人なのでしょうか

あれほどの実力であれば、壬生の下級戦士すら・・・敵うかどうかです




ソーナの報告どおり、リアスは学業が終わり次第眷属達を部室に呼び、

待機させた。

 

朱乃はいつも通りニコニコと微笑みながら皆に紅茶を用意し、その隣で

時間を少し気にしながら運ぶ手伝いをする小猫の姿があった。

 

祐斗もあのままの状態だが、ちゃんと部室に来ており、窓際で無表情のまま

外を見ている。

 

一誠とアーシアはソファに座りながら来客の正体を知っているので妙にそわそわして

落ち着きが無い、万が一戦闘になったらどうしよう──と内心思っていた。

 

そして、時間になると扉の前に突然気配が現れた──そして、ノック

 

「──っ!来たようね・・・どうぞ、開いてるわ」

 

リアスも突然の気配に、一瞬驚いたが平然を装い、鳴らした来客者を促した。

 

「お邪魔するよ」

 

昨日のイリナと呼ばれる幼馴染の声で無いと判断した一誠

扉を開け、先頭に入ってきたのが青髪の美少女、そして続いて入ってきたのが幼馴染のイリナ。

そして、青髪の背には昨日リアスから直接聞いた──聖剣の姿があった。

 

「どうぞ、座って頂戴」

 

リアスにそのまま促された二人は、空いているソファーに腰をかける、対面に座っていた

一誠とアーシアは腰を上げ、部屋の片隅に移動すると、変わりにリアスと朱乃が

対面に座りなおした。

 

彼女達は二度目の説明になるのだが、初対面の彼女たちに自身の所属、名前、

そして自身たちが今装備している──聖剣を紹介した。

 

祐斗の目は最初は無表情に彼女たちを見ていたが、話を聞くにつれて段々と

険しくなり、いつ斬り掛かってもおかしくないほどの雰囲気をだしていた。

 

恐らく彼に残った最後の理性が押しとどめている様であり、それを見た

一誠とアーシアは何ともいえない表情を作った。

 

昨晩、リアスから祐斗の過去──聖剣に拘る理由を聞いてしまったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖剣計画?」

 

一誠の言葉にリアスは頷いた。

 

「そう、祐斗はその計画の生き残りなの」

 

数年前までキリスト教内で聖剣エクスカリバーを扱える者を育成する

機関があった。

 

「聖剣は悪魔に対して最大の武器、私たち悪魔が聖剣に触れるだけで、身を焦がし、

 斬られるとなす術も無く消滅してしまうの──例え不死性を持つフェニックスも

 例外なく消滅するわ。神を信仰し、悪魔を敵視する彼らにとって最大で究極の

 武器になるの」

 

たとえ魔王であっても対抗する術が無ければ消滅してしまい、悪魔にとっては

忌むべき兵器なのだ。

 

聖剣出自は色々だが、知名度で言えば新人悪魔の二人でも知っているエクスカリバーが

有名であり、星々が鍛え生成したと噂される神造兵器と呼ばれる事もあり、

または神の領域まで達した者が魔術、錬金術を用いて生成したと噂されている

──ただ実際誰が造り上げたかは不明である。

 

その聖剣は通常の者では扱えず、常に聖剣は担ぎ手を選ぶ。

 

故に聖剣を使用できる人間は数十年に一人とされ、教会側を悩ませた。

話を聞いてて一誠は一つ疑問が出来た。

 

「木場は魔剣を造り出す能力を持つ『神器』なんですよね?──逆に聖剣を

 造り出す『神器』はないんですか?」

 

その疑問にリアスは無いわけでは無いと、曖昧に答えた。

現在彼女の知る中では、聖剣を造り出す『神器』をもった人物は知らない

だが、聖を宿した『神器』なら知っていた。

 

その名を──『黄昏の聖槍(トウルー・ロンギヌス)』、『神滅具(ロンギヌス)』の一つで、

イエス・キリストを殺した者が持っていた過去があり、『神滅具』の代名詞と

なったと言われている。

 

 

ただ、本物のエクスカリバー、デュランダル、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)、クラウ・ソラス、

それらの聖剣が強力すぎて、匹敵する聖なる『神器』は現時点で存在しない。

 

「そして、祐斗は聖剣──特にエクスカリバーに適合するために人為的な養成を

 受けた者の一人なの」

 

エクスカリバーの担ぎ手を造り出そうと教会が秘密裏に、

身寄りの無い子供達を買い取っては、適合者を造る実験を行っており、

実験体にされた子供の一人が裕斗である。

 

しかし誰も適合せず、祐斗と同期に養成された子供達は欠陥品と烙印を押され、

処分を言い渡されたのだ──ただ、聖剣に適応できなかった為──だけに。

 

毒ガスを散布され、死にかけていた子供達はまだ助かる見込みのあった

裕斗を逃がす事を決意し、所員が子供達が死んだか確認する為、ドアを開けた瞬間、

生き残った子供達は一斉に所員に襲い掛かり、祐斗を逃がしたのだ。

 

仲間たちが命を賭けて時間を稼ぎ、祐斗は命辛々施設の外へ逃げ切り、

追っ手を撒いた所で力尽きたのだ。

 

リアスが祐斗を発見した時には既に虫の息であり、助かる見込みが無かったが、

悪魔に転生させる事により、彼は一命を取り留めたのだ。

 

だが、彼は瀕死の状態でありながらも目は、死んでおらず

強烈な憎悪を滾らせ、復讐心に身を焦がしていたのだ。

 

聖剣によって人生を狂わせられた彼を悪魔にする事で、少しでも

救いを──と、思っていたのだが、彼は"ソレ"を思い出してしまったのだ。

 

(部長はお前に聖剣なんかに拘らずに、悪魔として第二の人生を送ってほしいと

 願っていたのに──ちくしょう)

 

祐斗の過去を知ってしまった一誠はとても、この状況が早く終わってほしいと

切に願うのだった。

 

現在、青髪のゼノヴィアと云う少女がエクスカリバー強奪の件を話しており、

強奪犯コカビエルの名前が出た瞬間、ソーナの時と同じような

リアクションを取るリアスと朱乃。

 

実際に前大戦を経験していない彼女たちにとってはあまりにも有名な名前であり、

敵として出会いたくない分類に入るのだ。

 

だが、現実はこの街に潜伏していると聞き渋い表情を浮かべる二人。

何も起こらなければいいのだが、現状の戦力では足止めすら出来るかどうかの

戦力差なのだ。

 

「私達の依頼──いや、注文は私達と堕天使との戦いに、この街に巣食う悪魔が

 一切介入してこない事、今回の事件に関わらないでほしい」

 

ゼノヴィアの言葉に眉を顰めるリアス

 

「随分な物言いね、それは牽制かしら?もしかして、私たちが堕天使と組んで

 聖剣を──どうにかすると?」

 

リアスの声音が徐々に低くなってきている──

 

「ああ、本部は可能性があるかもしれないから──とね」

 

その言葉にリアスの目は据わり、空気が凍る。

自身の領土まで態々足を運んだ敵が、自分達のやる事に手を出すなと、

更に他の組織と手を組んだら許さない──と、好き勝手いっている彼女に、

リアスは怒りが爆発しそうになる──が、魔王の妹であり、グレモリー家の次期当主と

云う肩書きがある彼女は、恥を晒す事は出来ない。

喉にこみ上げてきた怒りを飲み込み、堪える。

 

目の前のリアスが怒っているの知りながらも無視、ゼノヴィアは続ける。

 

彼女の上司は悪魔、堕天使を信用しておらず、聖剣をこちら側から引き剥がせば、

悪魔側にも利益はあり、それ故、手を組んでもおかしくないと

考えたのだ。

 

だから、牽制としてまず彼女たちにコンタクトを取り、万が一コカビエルと

組んだ場合総力を挙げて自分達たちを消滅させると──たとえ三竦みの状態が

解除されるきっかけとなったとしても──と、通告してきた。

 

そして、リアスの答えは、堕天使と組まない、魔王の顔にドロを塗る事など

出来ないと誓った。

 

この答えに満足したゼノヴィアは肩に張っていた力を抜いた、

答え一つで即戦う準備はしていたのだ。

 

「それが聞けただけでも十分だ──」

 

そう言って彼女は席を立つ──十分話し合いはしたので、もうここに居る理由が

無くなったのだ。

 

「イリナ、帰るぞ」

 

「あら、お茶ぐらい飲んでいかないの?」

 

「いらない」

 

「ごめんなさいね」

 

二人はそう云うとドアの方に向かい──ふと、ゼノヴィアはアーシアと目が合った。

 

「兵藤一誠の家であった時は、もしやと思ったが、君が『魔女』アーシア・アルジェントか?

 こんな地で出会えるなんて、思いもしなかった」

 

この言葉が切っ掛けで、ゼノヴィアとイリナ、一誠と祐斗で手合わせをする事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシアの事を『魔女』と呼ぶ彼女たちに真っ先に反論したのが一誠であり、

何も言葉が出ず、ただただ糾弾されるアーシアを庇う、守るために一誠は

挑戦的な言葉を発し、彼女たちがソレに乗ってきたのだ。

 

そして、もう一人部屋の中で燻っていた祐斗が介入してきた、

彼の心は憎悪と怒りで支配され──既に爆発しかけていたのだ。

 

かくして、4人はリアスの制止を振り切り、手合わせをする事にしたのだ。

一方は自身達の信仰、そしてグレモリー眷属の力を測るために、

もう一方はアーシアの為に、そして自分自身の復讐の為に。

 

そして、その光景をたまたま小猫の訓練の時間だったため、旧校舎の裏に

訪れていたひしぎの目に留まったのだ。

 

(なるほど──片や教会の聖剣使い、そして噂のリアス・グレモリー眷属の

 子供達ですか)

 

ソーナからリアスの眷属の名前を聞いており、その中に小猫の名前があった事に

少しだけ驚いていたが、あのときの状況を思い出すと納得したのだ。

 

お互い距離を取り、1対1の状況が作り出される。

ゼノヴィアと祐斗、一誠とイリナの組み合わせだった。

 

そして、周囲にはリアス、アーシア、朱乃、小猫といったグレモリー眷属が彼らを

見守っており、周りに被害が出ないように朱乃が結界を張っていたのだが、

ひしぎは普通に侵入出来てしまったので、気づかれたら下手に巻き込まれ

そうなので、気配を消したまま、木にもたれかかり見学を開始した。

 

(この世界の戦力を測る──いいチャンスですね)

 

彼ら、今の世界の者たちの実力を知るいいチャンスだった。

 

まず、動いたのが祐斗──彼はすぐに魔剣を造り上げると、ゼノヴィアに切りかかった。

巻いていた布の中から『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を取り出し

難なく受け止め、そのまま弾き返し横に薙ぐ。

 

弾き返された反動を利用し、そのままバックステップを駆使し避け、地を蹴り

もう一度ゼノヴィアに肉片し、懐に入り込め一閃──

 

「甘い!」

 

咆哮と共に、姿勢を建て直すゼノヴィア。

祐斗の持ち味である速度、スピードが見切られており柄の部分で刃を止める。

 

「──っ、まさか柄の部分で止められるとは思っても見なかったよ」

 

完全に一撃が入ると思っていた彼は、力の込めにくい柄で止められるとは予想外だったのだ。

 

「あいにく、この剣は小回りが利かなくてね──使いこなすのに苦労したよ」

 

彼女と同じ背丈のある剣の為、小回りが利かず、実践で何度も懐に入られた過去があり、

九死に一生を体験したため、入られても対処が出来るようになったのだ。

 

そのままゼノヴィアは蹴りを放つ──それを見た祐斗は一旦体を離し、後退。

そして今もって居る魔剣を消失させると、今度は両手に新たな魔剣を創造した。

 

右手に『燃焼剣(フレア・ブランド)』、左手に『氷空剣(フリーズ・ミスト)』を

構え再突撃をかける。

 

「ほぉ、炎に氷か──おもしろい」

 

正面から受ける事を選ぶゼノヴィア──更にスピードを上げた裕斗、正面と思いきや四方から

攻撃を加えるが、最小限の動きで炎と氷の剣舞を回避。

 

「──砕け散れ」

 

その言葉通り、裕斗の次の攻撃に合わせ剣を振りかぶるとクロスさせた二振りの魔剣は聖剣と激突し、

ガラスが砕けるような感じで砕け散った。

 

「──なっ!」

 

自分の剣がいとも容易く破壊された事に驚いた裕斗はそのまま振り下ろされる

聖剣を紙一重で回避し、剣は地面へ激突──すると、轟音が響き、突然の

地響きに大地が泣き叫ぶように割れ、土埃が舞い上がり、土煙で周囲を隠し、

その煙の中から聖剣が発生させた衝撃波を喰らい祐斗が吹き飛ばされてきたのだ。

 

その近くで戦っていた、イリナと一誠も突然の地響きにより立つ事がままならず、

膝を突き、音がした方向に視線を向けた。

 

すると、次第に土煙が収まると、ゼノヴィアが立っており、その足元には数メートルの

クレーターが出来ていた。

 

「これが私のエクスカリバーだ。有象無象全てを破壊する剣、

 これが『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』だ」

 

その言葉を聞いて、苦い表情を作る祐斗。

1本目からこんな馬鹿げた性能を持つ聖剣の力に、他の6本の破壊も厳しく思えたのだ。

 

そして、その光景を見ていたひしぎは──別に驚く素振りが無く淡々と見ていた。

 

(確かに剣としては──優秀な分類に入ると思いますが、使い手が扱いきれてませんね

 剣との会話すら出来ていないとは──もったいない)

 

そんな特性が有るのなら最初の激突時に既に勝負が付いていたはずなのだ。

確かに相手の力を見るために手を抜いて居たのかもしれないが、その後の動きに

無駄がありすぎて、剣も振りかぶりすぎて、ひしぎの目には隙だらけに

映っていたのだ。

 

そして、祐斗の方は確かにスピードがあるが、所詮"早い"と云う程度。

ゼノヴィアと違い、好きの無い攻撃をしていたが、剣が"軽い"と判断した。

 

(彼の方は筋がいいのですが、防御も無い、力も無い──流石にスピードでは

 壬生の下級戦士とタメを張ることが可能ですが──勝負になりませんね)

 

壬生一族の下級戦士は、一般人のレベルで云うと最高峰の暗殺技能を持ち、

一撃で大地を割り、速度は残像が出来るほど、そして何より無駄の無い動きをする。

たった二人で徳川の精鋭伊賀忍軍を半壊させた歴史もある。

 

そんな彼らと比較するのは可哀想なのだが、ひしぎはそれ以外の比較できる人物は

思い当たる節が無かったのだ。

 

(そして、ソーナが気にかけていた彼、一誠といいましたか。

 色々と──酷い)

 

今まで見てきた戦いの中で、煩悩のまま攻撃を繰り返す人物など見た事無く、

普段あんまり笑わないひしぎが、笑いを我慢していたのだ。

 

一誠はイリナとの戦闘を開始後、彼女の持つ『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』が擬態した

刀の攻撃をうまくかわしながら、彼女に触れる機会を待ち望んでいた。

 

既に、彼の中から彼女たちに対する怒りは消え、新技『洋服破壊(ドレスブレイク)』をいかにして喰らわそうか

煩悩丸出しの攻撃を放っているのだ。

 

先ほどまで何かを探していた小猫から一誠がしようとしている事をイリナに伝えられ、

彼からの攻撃を彼女は全力で回避していたのだ。

 

「ちょっと、イッセー君!目つきが本気でいやらしいわ!」

 

彼女からの罵倒も素直に受け取り、手のひらをどうにか彼女に当てようとする一誠

 

「こら!逃げるな!」

 

「いやよ!変態!」

 

本気で戦闘している二人が居るのに、こちらは戦闘と呼べないぐらいの戦い方だった、

そして、タチが悪い事に時間を掛けるが掛けるほど一誠のスピードが倍加されていき、

最初は余裕で避けていたイリナも次第に本気になり、額に汗が流れて来ており

刻々と時間が経ち、煩悩のなせる業なのか、彼女の行動の先読みが出来、そして──

 

「剥ぎ取りごめーん──!」

 

勢いよく、手をわしわしさせながら飛びついたのだ。

完全に逃げる方向を読まれ、絶体絶命のイリナは──咄嗟にしゃがんだ。

 

一誠は勢い付けすぎたのか、イリナを飛び越え、後ろで観戦していた小猫とアーシアの

方に飛んで行き、アーシアはびっくりして腰を抜かしてしゃがみ込んだが、

咄嗟の事で反応できなかった小猫は逃げ遅れ、肩に一誠の手が触れ、

 

──『洋服破壊(ドレスブレイク)』発動

 

その瞬間、小猫の洋服が弾け飛び、まだ未成熟な体つきで、控えめな胸が

一誠の前に現れ、彼の目に映った。

 

そして、彼の中で何かが破けた音がし、鼻から血が垂れてきたのである。

だが、彼は血を拭わず──

 

「小猫ちゃんこれは、事故なんだよ!いや、確かに成功しているけど・・・!

 大丈夫小ぶりのオッパイでも需要はあるから!あ、いや、イリナが避けるから悪いんだよ!?

 決して小猫ちゃんを狙ったわけじゃないんだ!でも、ありがとうございます!」

 

言い訳をしながらも視線は外さないのが彼である。

片手で胸を隠しならが、怒りに震える小猫──そして

 

「──ぶ」

 

無言で殴りつけ、鈍い音と共に一誠の周辺から衝撃波が舞い、またも土埃を

舞い上がらせ土煙は小猫の姿を隠した、一誠は煙の中から勢い良く飛び出て、

何度も何度も地面にリバウンドを繰り返し、少し離れて立っている木に

ぶつかり漸く止まった。

 

ぶつかった時の衝撃が強すぎたのか、枝が大きく揺れ葉を散らし、

そしてあまりの威力に一誠は気を失っており、そのまま崩れ落ち、後方に居た

リアス達は勿論、戦闘をしていたゼノヴィアと祐斗も戦闘を一時止め、

何が起きたのかを確認するほどだった。

 

煙が晴れると、中から裸になったはずのに小猫が白衣を着ていた。

 

「──小猫、その服どうしたの?」

 

「はい?」

 

リアスの呟きに、頭を傾げる小猫──本人さえも気づいていなかった様子だ。

朱乃が指を指した部分を確認すると、自身が服を──白衣を着ていることに驚く小猫。

 

「──え?私裸になったはずなのに」

 

「一体どういうことなの」

 

本人が分からなかったら、余計に分からないと感じたリアス達は、周囲を見渡すが誰もいない。

ゼノヴィアと祐斗も彼女達の混乱ぷりに戦闘を止めたまま、気配を探す。

 

だが、誰が居た形跡は無く、結界が張っているので破られた、何かされれば

張った朱乃がすぐ反応するはずなのだが、彼女自身も困惑している。

 

小猫も何か手がかりが無いか白衣を調べ始めると、人間には感知出来ないほどの僅かな匂いが

残っており、その持ち主は──

 

(この匂いは──ひしぎさん)

 

そう、この間会ったときの彼の匂いと同じ、白衣もその時彼が着ていたものと同じのだと

分かったのだ。

 

体を隠しながらキュッと白衣を握り締め、目を瞑ると彼に抱きしめられている感覚に

陥り、頬が緩み、嬉し恥ずかしいくなり──彼女の頭からは猫耳が生え、

小ぶりのお尻からは尻尾が生えたのだ。

 

「にゃぁん」

 

まるでまただびを得た猫の様に顔を真っ赤にする小猫──彼女は転生悪魔になる前は

猫又であり、その仕草は本能で、悪魔となってからもその能力は生きているのだ。

 

「ちょ、ちょっと小猫どうしたの?!」

 

その豹変振りにリアスは心配そうに小猫に駆け寄る。

皆に見られ、あまりの恥ずかしさに頭から白衣を被り、全てを隠す小猫。

 

「──す、すみません。恥ずかしかっただけです」

 

すぐに戻るから、放って置いてほしいと云われたリアス達は顔を見合わせた。

そして、相手が突然のリタイアになり、呆然としていたイリナは

気絶している一誠に向かって

 

「天罰が当たったんだよイッセー君。ああ、主よ、彼の魂に救済を──」

 

胸元で十字を切ると祈りだし、イリナの勝ちとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは先ほどと同じ場所で片膝をつき、呼吸を整えていた、

 

(まさか、あの動きだけで──これ程とは)

 

裸になった小猫が可哀想になり、自身が羽織っている白衣を光速で彼女の元に移動し、

白衣を肩に掛けてあげ、すぐさま戻ってきたのだ。

 

全盛期には程遠いほどの速度であったが、彼らは一切気づいておらず、感知も

されなかったのだ。

 

そして、久々に動いたひしぎは足に負担を掛けてしまっていた。

 

(本当に無様な姿ですが──逆を言えば動けるほどには回復している、と云うことですね)

 

もう松葉杖がいらないと思えるほどの動きが実際出来たのだ、

完治にはもうしばらく掛かるが、戦闘可能なぐらいは回復出来ていた。

 

(それにしても、猫みたいとは思っていましたが、本当に猫だったとは)

 

息を整えながら彼女達の様子を見ていると、小猫の気配が変わったのを感じていたのだ。

 

(なるほど、彼女の正体は猫又だったのですね)

 

ひしぎが生きていた頃、普通に猫又は生息しており、珍しいものではなく

むしろ親しみを感じやすかった──などと、思い出していたら、

視線の先で、漸くもう一組の戦闘が再開された。

 

 

 

 

 

 

気を取り直し、気合の入った声で新たな魔剣を造りだす。

 

「これが、今僕の造れる中で最高の破壊力を持つ魔剣、君の持つ聖剣と

 どちらが破壊力が上か──勝負だ!」

 

生成された魔剣はゆうに2メートルは超え、禍々しい気配を発し、祐斗はソレを

両手で掴み、担ぎ上げ突撃を開始した。

 

それを見たゼノヴィアの表情は心底落胆していた。

 

「君の持ち味は──多彩な魔剣で相手を翻弄し、常に先手を打てる速度を兼ね合わせた

 戦法なのに──選択肢を間違えたな」

 

その剣を担ぎ突撃する祐斗の速度は誰から見ても"遅い"と感じたのだ。

正面からの打ち込みに、ゼノヴィアはそのまま聖剣なぎ払う。

 

大きな金属音を周囲に響かせ──周囲に金属が飛び散る。

 

祐斗は薙ぎ払われた聖剣を受け止め、そのまま押し切るつもりだったのだが、

衝突した途端、刀身が割り砕かれ、彼の視線には自身の砕かれた魔剣の先端が地面に突き

刺さったのだ。

 

「持ち味を活かしきれない攻撃ほど、大きな隙が出来る」

 

ゼノヴィアはそのまま聖剣の柄頭の彼の腹部にめり込ませた。

たったその部分だけの攻撃であったのだが、衝撃波凄まじく、彼にダメージを負わせていた。

 

「ぐっ」

 

口から血を吐きながら崩れ落ちる祐斗。

 

「もう、終わりにしよう"先輩"、今の一撃で立ち上がれないはずだ」

 

防御力の無い裕斗にとって、たった今の一撃だけで十分致命的な

ダメージを負ったのだ。

 

「ま、待てっ!」

 

必死に手を伸ばすが、それをひらりとかわし、身を翻すゼノヴィア。

──既に勝負は決したのだ。

 

「リアス・グレモリー先ほどの話の件は頼むよ、後眷属は大事にするのはいいが、

 もっと鍛えないと──弱すぎて話にならない、センスだけでは限界があるぞ」

 

彼女の言葉はもっともで言い返せないリアス。

少し離れている所に置いてあった荷物を持つと、彼女は立ち去っていく。

 

「あ、待ってよゼノヴィア!では、イッセー君によろしく伝えて置いてください。

 『裁いて欲しくなったら、いつでも呼んでね』と、では!」

 

イリナもそういうとゼノヴィアの背を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘の一部始終を見終わった頃にはすでに、足も回復しており立っていたひしぎ。

ソーナから聞いていた彼らの力を自分なりに評価してみた。

 

(まずは彼、一誠と呼ばれる少年ですか)

 

見たところ本当に素人だが伸び代はあり、能力のお陰もあるのだが、倍加するその力を

すぐさま最適化し、相手を追い詰めていく動きは良かった。

 

思考が煩悩でまみれでも相手を追い詰めるほど、動けるという事は一種の天才であり

そこはひしぎでさえも驚いたのだ。

 

変態な部分を無しと考えても、十分な速度であり、攻撃力は見れなかったのだが

十分やっていけると判断した。

 

(次に木場祐斗)

 

スピードは壬生の下級戦士並にあり、剣の技術もそこそこあるが、あまりにも非力で耐久力が

まったく無く、あれではどんなに高速移動し、技術で翻弄しても各上が相手ならば、今と同じような

結果なると思い、勿体無いとおもったひしぎ。

 

ソーナからは冷静沈着と聞いていたのだが、今日の彼は正反対であり、

まったく状況が見えていなかったのだ。

 

普段の彼ならば彼女、ゼノヴィアを圧倒できるほどの技術をもっているのだ。

 

(そして、小猫さん)

 

彼女はひしぎに教えてもらった通りの力を用いて、一誠に喰らわした──結果、

予想通りの破壊力と打撃力で、十分な実力を擁するイリナ圧倒していた一誠を

一撃で落としたのだ。

 

ただ、惜しいと思ったのが止まった相手だったということ。

 

一誠が動いていて当てたのならば、もっと結果は良かったのだが、

状況的に仕方が無かった。

 

(これが──弟子をもつという感覚ですか)

 

生前彼は弟子と呼べる者は取っておらず、少なからず弟子を取っていた親友を羨ましく思って

いたが、今の彼には──小猫が弟子のように思えてきたのだ。

 

彼女がキチンと成果を残した事により、嬉しく思うひしぎ。

 

(教えたかいがありました)

 

そして、今度は教会側の二人組み。

 

(まずは、イリナと云う少女は、回避だけしか見ていないので何ともいえません)

 

戦闘が開始してすぐに一誠の煩悩を感じ取り、ずっと回避行動を取っていたのだ。

その能力は低くも無く、決して高いものではないのだが実践を

経験している動きで、最初は一誠を翻弄していたのだが、彼が倍加するに当たり、

同等、いやそれ以上になった時でも、ギリギリで回避できていたのだ。

 

回避はできていても、武器は持っていながら攻撃する素振りを見せなかったので

全体的な評価に困るひしぎ。

 

(そして、最後、ゼノヴィアと云う少女)

 

ひしぎの中では一番彼女が評価が高かった、ただ勝ったからだけでなく、

戦闘中の思考や、自身の持ち味を活かした戦法を取っており、スピードが無い為

ひしぎからみたら隙だらけであったが最小限で回避行動を取ったり、剣の大振りもあるが

それを自覚して懐への欠点を補っていたのだ。

 

戦闘中は辛口な評価を彼女に送っていたのだが、全体を通してみると

彼女なりに自身の不得意を克服しようとする動きが見れたので、考えを改めたのだ。

 

そして、彼女は相手を見る能力があり、それだけでも十分に評価に値した。

 

ひしぎの中では、現在の彼女達の実力をランク付けすると、一番がゼノヴィア、二番手に一誠

三番手に小猫、四番五番は同等で残った二人。

 

聞いた話ではリアス・グレモリー眷属の中で一番強いのが木場裕斗と聞いていた

彼だが、今回の戦闘を見て落胆したのだ。

理由はどうあれ、己の持ち味を活かせない時点で勝負にすらならない、

今回の戦いは負けるべくして負けたようなもの。

 

彼女達はまだ『原石』であり、今後宝石になるかただの石ころになるかは

彼女たち次第だと思ったひしぎ。

 

潜在能力的には一誠が一番高いと感じたが、ほかの子達も負けておらず

今後が楽しみと感じた。

 

(最初は弱いと思っていましたが──まぁ、まだ彼らは若いですし、

 あのような戦国時代でもなかったのでこれが普通かもしれませんね)

 

生きる為に幼い頃から鍛える必要が無くなった現代──ここはもう殺伐とした

戦国時代ではないのだ。

 

昔と違うと改めて実感したひしぎであった。

 

 




こんにちは、夜来華です。

今回は話の展開上、リアス側を書いてみました。
そして、やっぱりひしぎの存在感が薄すぎる。

話の構成上飛ばしてしまっても、原作を読んでいる方は納得できると
思いますが、原作知らない方にも分かりやすく進めるため書きました。

感想、誤字脱字、質問、一言頂けると嬉しいです。


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第6話 コカビエル

リアスからの報告で、匙が巻き込まれていた様子

でも、話を聞く限り彼は自ら協力を申し出たらしい

匙、貴方はとっても優しい子ですから──ですが、罰は罰です





ゼノヴィアとの一騎打ちに負けた祐斗は、これから起こす行動でリアスにこれ以上迷惑が

掛からぬよう眷属を辞めると申し出、そのまま学園を後にした。

 

祐斗の目的は、コカビエルが奪ったとされる聖剣を持っていたフリード・セルゼンを

見つけ出し、彼が持っている3本の聖剣を叩きおる事。

 

球技大会後、夜な夜な道を歩いていたらフリードが教会関係者を斬り殺した現場に

出くわし戦った。

そして、その時フリードが手にしていたのは、奪われた1本、

懐には同じく奪われた2本の聖剣を隠し持っていたのだ。

 

戦闘は拮抗し、戦闘音に気づいた人が徐々に集まってきており、

祐斗はリアスに眷属を辞める宣言をしたのだが許可を貰えておらず、これ以上騒ぎを大きくする事は彼女の名に傷が付くと思い、戦闘続行は不可と認識し、

苦渋の決断だった。

 

フリードの方もある程度は自由に動いていいと、彼の"ボス"から言われていたが

行動を起こすまでは、神父狩り以外はあまり騒ぎを立てる事は禁じられていた事で、お互い思惑があり勝負を一旦預けた。

 

 

そして今日、聖剣の一つの担ぎ手であるゼノヴィアの力を目の当たりにした祐斗は、

フリードが完全に聖剣の能力を使いこなせる前に破壊しなければと思い、

行動を起こすべく、真夜中の暗闇へ姿を消していった。

 

 

 

次の日、リアスと祐斗のやり取りを見ていた一誠は、こっそりと同じ『兵士』である匙に連絡し、

彼を駅前に呼び出した。

 

「で、俺を呼び出した理由はなんだ?」

 

生徒会の仕事を一旦終わらせ、態々来てくれた匙。

 

「・・・・そうです、二人で何をしようとしていたんですか?」

 

一誠の服を掴み、逃がさないようにしている小猫。

偶々道中で出会い、様子がおかしかった一誠についてきたのだ。

逃げようとしたのだが、掴まり、そのままの状態であった。

 

「まぁ、呼び出した理由は──聖剣エクスカリバーの破壊許可をあの二人から

 もらうんだ!」

 

その言葉に小猫と匙は目を丸くして驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が昼から休みだったので、生徒会室でソーナは椿姫とひしぎの3人が居た。

 

ソーナと椿姫二人は元々球技大会後の事務処理があったので、生徒会業務を淡々とこなし、

他のメンバーは各自の業務終了後街に繰り出し、警戒の為巡回作業に入り

そして、リハビリがてら松葉杖無しでひしぎが廊下を歩いていた時、

ソーナが偶々職員室からの帰りでそのまま彼を招待したのだ。

 

椿姫に入れて貰ったお茶に口をつけた。

 

「いつ飲んでも椿姫さんが入れるお茶はおいしいですね」

 

「ええ、私も自分で入れるより椿姫の方が好きですね」

 

「ありがとうございます」

 

二人の賛辞に恐縮する椿姫──そう言ってもらえると、お茶係をしていたかいが

あったと、心の中で思った。

 

「さて、ソーナさん昨日あった話はもう貴方の耳に入ってますか?」

 

リアス眷属と教会側の手合わせの話だ。

 

「ええ、直接電話でリアスから聞きました──あと、もう私の事は呼び捨てで構いません」

 

彼の方が年上と知ったので、もう年下に畏まる事はしなくていい事と、

もうお互いの正体を知っているので他人行事では少しさびしく感じており、

そう思ったソーナは提案したのだ。

 

その言葉に、一瞬呆気に取られ、意図を理解したひしぎは頷いた。

 

「分かりましたソーナ。椿姫さんも呼び捨てで構いませんか?」

 

突然話を振られた椿姫も一呼吸置いて頷く。

ひしぎ自身も自身の事は呼び捨てで構わないと言ったのだが、

年上なのでと云い、拒否された。

 

「ひしぎさんはその話をどこで?」

 

ふと、学校関係者でない彼がなぜその話を知っているのか気になった為、話を戻した。

 

「実際私はあの場に居て、直接見ていましたので」

 

さらりと、爆弾を投下し絶句する二人。

椿姫もソーナから聞いた話なのだが、リアスと眷属、教会側の二人以外は

誰も居なく、結界も張って外部から遮断していたのに。

 

「──貴方は一体何者なのですか」

 

椿姫は彼の正体をまだ知らないので、その目に警戒の色が現れる──が、ひしぎは

まったく気にしておらず、心当たりがあるソーナは納得し、

椿姫を制止する。

 

「椿姫、私は彼の正体を知っていますが決して敵ではありませんよ。

 ただ、まだ公表できないの」

 

「ええ、すみません椿姫。私もある確証を得るまではあまり公表したくないのですよ」

 

事情があり、正体を知っているのはソーナだけと知り、彼女が敵でないというのならば

眷属である自分はただそれに従い、信じるだけである。

 

「わかりました」

 

そしてひしぎは自分視点で見た感想を彼女たち二人に語りだした。

レーティングゲームの事も聞いていたひしぎに分かりやすく彼らの戦力評価を

教えた。

 

まず、兵藤一誠は煩悩が絡むと急激な戦闘経験の蓄積、行動の最適化を本能でし、

『神器』の能力も合って一番化ける可能性があると指摘。

 

そして木場祐斗に関しては、今回は冷静さが無くボロボロだったが、

本来の戦い方を取り戻すと速度が圧倒的なので、彼のスピードを追える

人物、対策が取れないと厳しくなる。

 

そして、最後は自身の弟子(正確には弟子ではない)小猫。

現在は同じランクの『戦車』を当てれば彼女を封じる事は可能だが、

移動しながらもあの1発が撃てるようになったら、一番の脅威になると教えた。

 

その戦力評価を聞き、頭の中でソーナは自身の知っている情報から更に修正を加える。

 

現在眷属の数では勝っているが、フェニックス戦後、数で勝っていても

それは無意味とその戦いを見て確信し、各自の能力アップを勤めていたのだが、

リアス側の眷属の成長の方が早いと感じたソーナ。

 

既に一誠の方はソーナの懸念通り成長スピードがおかしい、

本当に彼は素人だったのか、と思えるぐらいに成長していたのだ。

 

今、ソーナの眷属の中で勿論椿姫が断トツで強いのだが、彼女には

その3人よりまだ強い同じ『女王(クイーン)』である朱乃の相手をしても貰わないと

いけないので、他の3人は相性で当てるしか現状いい手が思い浮かばない。

 

難しい表情をしているソーナを見て、何に悩んでいるか把握したひしぎは

ある提案を出した。

 

「──私が暇な時に、椿姫やほかの眷属の修行をお手伝いしましょうか?」

 

「──え」

 

「実際、塔城小猫さんには放課後修行を見て欲しいといわれまして、

 フェアじゃないのでこちらも見ようかと」

 

一応彼女がいい、と言うまでは約束を守るつもりで居るひしぎは、

片方だけに教えるのはフェアじゃないと思い、言い出したのだ。

 

「──是非、お願いできますか、元々は私からお願いしようかと思っていたんですが、

 本当にいいんですか?」

 

状況がもう少し安定してから彼にお願いしようとしていた事を

ひしぎの方から提案してくた事により、表情を緩めるソーナ。

 

「ええ、いいですよ。ただ、本当にアドバイスぐらいしか出来ませんので

 あまり期待はしないでくださいね」

 

弟子を取ったことのない彼にとって本当に簡単なアドバイスぐらいしか

出来ないが、喜んでくれるなら、恩返しにもなると思った。

 

「ええ、宜しくお願いします」

 

眷属を従えるものとして頭を下げるソーナ。

 

隣で成り行きを見守っていた椿姫は、ひしぎの正体が分からないため

彼の実力が分からない──が、ソーナがそう云うのだから、ある程度の

実力者と認識したのだ。

 

ならば先に自身の眷属の事をもっと深く知ってもらう為にソーナは

まずは自分から一人ずつ説明した。

 

ソーナ・シトリー、ランクは『(おう)』であり、事実上の総指揮。

水の魔法での攻撃を主体とし、近接はあまり得意でない。

 

真羅椿姫、ランクは『女王』であり、前線指揮官であり、

近接戦闘が主体で、武器は長刀(なぎなた)で、加えて『追憶の鏡(ミラー・アリス)』と云う『神器』を

所持、効果は自身の任意の場所に鏡を出現させ、その鏡が破壊された時その威力を倍化し、

壊した相手へ返す、カウンター用の『神器』である。

 

匙元士郎、ランクは『兵士』であり、近接攻撃型兼補助役。

彼の持つ『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』は非常に優秀であり、

接続した相手の力を奪う能力があり、戦闘補助役としても十分に活躍できる。

 

由良翼紗、ランクは『戦車』であり、近接攻撃型の武器は使わず体術を得意とする。

 

巡巴柄、ランクは『騎士』であり、近接攻撃型で武器は刀を使用。

退魔を生業とする一族出身であり、悪魔でありながらも一族の術も使える。

 

花戒桃、ランクは『僧侶』であり、後方支援型で防御結界や遠距離魔法が得意。

 

草下燐耶、ランクは『僧侶』であり、後方支援型、索敵や諜報を得意としている。

 

仁村留流子、ランクは『兵士』であり、近接攻撃型、主に足技を得意としている。

 

全体的に見れば近接戦闘型の方が多いのだが、十分にバランスが取れていると思うひしぎ。

そして聞いた感じだと、主力はソーナ、椿姫、匙の3人で他は実力的に

補助役であるが、ソーナは『王』なのでまず最初から前線に出る事はないので

実質2人である。

 

実際彼女達の実力はまだ全部は見ていないが、実践を経験していないと聞き

実践を経験しているリアス達相手にするのは現状分が悪いと判断したひしぎは

一つ提案した。

 

「とりあえず、今度私一人でソーナとその眷属全員を相手にして実力を測りましょうか」

 

そうすれば、全員の実力を知りどこをどうアドバイスすればいいかが分かると思ったのだ。

 

「──それは、会長と私達を全員相手にしても勝てると踏んでの言葉ですか?」

 

ひしぎの言葉に椿姫は少し憤りを感じたのだ──会長と自身達全員の力を合わせれば

最上級悪魔、伝説の龍達にも勝てる自信はあったのだ。

 

実際ソーナの実力は既に上級悪魔クラス、自身も中級の自信はあり、その他は

下級でも上位クラスと自負してるのだ。

 

故に、彼女のプライドに火が付ききつい言葉で返してしまったのだ。

 

「──椿姫おやめなさい」

 

「いえ、会長。これだけは譲れません──私達はただ遊んでるだけではありません

 全員同じ夢があるからこそ今までのきつい修行にも耐えてきたのです」

 

ソーナは制止するが、椿姫は取り下げる事はしなかった、だって、ソーナの

初めての眷属が自分なのだ。

 

主と自分達の実力を"全員一辺に測る"と云う事は全員相手にして自身が推し量る

即ち、相手にしても勝てる自信がある──と、椿姫は捉えてしまったのだ。

 

「あ──言い方が悪くてすみません。ただ、一気に測りたかったもので」

 

椿姫に不愉快感を与えてしまった事に謝罪したひしぎ。

 

その言葉を聞いて冷静さを取り戻した椿姫も謝罪した。

 

「──すみません、私も頭に血が上ってしまったようです」

 

「ただ、修行を見る代わりに一つお願いがあるのですか」

 

気を取り直してひしぎは話を変え、修行に必要なものを思い出したのだ。

 

「なんでしょう?」

 

「刀──なるべく大刀を用意していただけると助かります」

 

そう、今自身は完全に丸腰なのであり、体術にも自信はあるのだが

やはり剣を持っている子にアドバイスするならこちらも持っていたほうが

見本で見せやすいと思ったのだ。

 

手元に『白夜』があれば、こんなお願いしなくてもよかったのだが、無いモノは

仕方が無い。

 

「それなら、昔私が使っていた大刀がありますので後で持ってきます」

 

昔は大刀を使っていたのだが、自身の戦闘スタイルにあわず長刀に変えた

椿姫、家に誰にも使われずに眠っているので調度いいと思ったのだ。

 

「──助かります」

 

一時は二人の関係が拗れるとおもったのだが、すぐに修復出来たので

内心ほっとするソーナ。

 

自身の信頼する二人が喧嘩するのは見ていて"心"が痛い。

 

(よかった──これで──っ!?)

 

ふと、通信機器から連絡が入ったのだ

 

『大変です会長!──街の東の方で魔力の波動を探知しました』

 

街で巡回していた桃からの連絡であった。

それと同時に携帯電話も鳴り──着信相手はリアスだった。

 

『花、少し待っててください』

 

とりあえず、花の話を聞くためリアスに掛け直すと伝えるために着信にでると

 

『ソーナ大変よ、東の街で私の眷属と貴方の眷属の匙君がはぐれエクソシストと

 戦闘を始めたわ!』

 

「──なんですって」

 

「──会長?」

 

電話に出たと思いきや驚きの表情を浮かべたソーナに椿姫は首をかしげた。

 

「わかりました、転移ポイントを送ってください。──すぐに行きます」

 

そう言って電話を切ると花に指示を出した。

 

「事情はこちらでも把握しました。貴方はほかの子たちと合流し、一旦戻って来て下さい」

 

『了解しました』

 

通信機器から電波が途切れると、ソーナは意識を切り替え、椿姫とひしぎに

向き直り

 

「緊急事態が起きました、東の街でうちの匙とリアスの眷属の子がはくれエクソシストと

 戦闘を開始したようです」

 

「すぐに準備します」

 

椿姫はそう言うと席を立ち、転移の準備を始めた。

 

「話の途中すみません、私達は匙を回収してきます」

 

話の途中で申し訳なく思ったソーナが頭を下げる。

 

「いえ、気にしないでください」

 

それを笑みで返すひしぎ。

 

そして携帯に転移先の情報が添付されて来るとそれを椿姫に見せ、数秒で準備が

整い、二人は魔法人の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙、これは一体どういうことですか?」

 

二人が到着と同時にリアスも朱乃をつれて到着し、状況を把握すると、

既に戦闘は終了し、聖剣破壊同盟を結べた一誠の所にゼノヴィア達が加勢に駆けつけた

途端、はぐれエクソシスト──フリードは撤退した。

 

それを祐斗とゼノヴィア、イリナが追い、残りの3人は出遅れ彼女たちに捕まり

現状の報告と、勝手な行動をしてお叱りを受けている最中である。

 

「すみません会長──どうしても、俺、木場の力になって上げたかったんです!」

 

最初は手伝うことを拒否していた匙は木場の生い立ちを聞き、心から

彼の手伝いをしたいと思ったのだ。

 

ソーナから怒られる事を確信しながらも彼は手伝い──後悔はしていなかった。

 

生徒会の人間として、一人の人間として、困っている生徒、友達を

見捨てる事は彼には出来なかったのだ。

 

「だから俺はこの事件が解決するまで彼らの力になりたいんです!お願いします!」

 

匙はそう言って土下座しソーナに許可を求め──ソーナは椿姫と一瞬顔を合わせ、

微笑むと、匙の方へ向き直り言った。

 

「──解りました、今回は特別に許可します」

 

額を地面に擦り付けていた匙はソーナに許可が貰えた事に安堵するが、

ソーナの言葉は続いていた。

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし、勝手に動いた罰はキチンと受けてもらいます──お尻叩き1000回です」

 

彼らの取った行動は決して良いとは云えない。

逆に今の三竦み状態に亀裂、崩壊に繋がる恐れもあったのだ。

 

本当は友達を助けるために力を振るった事に怒る事はせず、誉めてあげたかったが、

今回の状況はあまりに軽率だったため、叱らねばならなかったのだ。

 

(匙、本当に貴方を眷属にしてよかった)

 

そう言って彼のお尻をたたき始めた。

 

 

 

1時間後、ソーナは正式に協力を申し出、快く受け入れたリアス。

まずは使い魔を使役できる眷属悪魔は全員街に使い魔を放ち、情報収集と祐斗達の

探索を指示──そして、彼らの位置を把握でき次第動くという事で、

それまで各自自宅待機となり、現地解散した。

 

匙は少なからず戦闘で消耗していたので先に帰宅させ、ソーナと椿姫は

学園に残っている眷属達に指示を出し、自分達も身を休める事にしたのだ。

 

この場に残っていても、重要拠点でないので彼らが戻ってくる確立はゼロに等しく、

誰かに嗅ぎつけられる前に、退却したほうが良いと判断したのだ。

 

 

 

 

そして、その日の深夜に事態は急変し加速した。

 

リアスの使い魔が東の丘の公園に続く道端でイリナを発見した──

使い魔から連絡を受け取ったリアスはすぐさまソーナと眷属達を現地招集した。

 

向かう途中で全員合流でき目的地へ付くと、使い魔が人間に変身し彼女を

介抱していた。

 

イリナは見るからに無残な姿で放置されており、大きな出血はないが全身に傷があり、

ローブの中に来ていた真っ黒の戦闘スーツは無残に引き裂かれ、

肌を晒しており、意識はなかった。

 

そして、突如強大なプレッシャーが彼女たちを支配し、空を見上げてみると

月を背にして、黒い翼を十枚はやした堕天使がそこに居た。

 

装飾に凝ったローブで身を包み、空から全員を見下している若い男だった。

目は赤々と禍々しく光っており、見たもの全てに畏怖を与えるような

瞳であった。

 

「初めまして、グレモリー家の娘よ。貴様の紅髪を見ると、忌々しい貴様の兄を

 思い出して反吐が出る」

 

挑発的な物言いにも応じず、普通に返すリアス。

 

「ごきげんよう堕ちた天使の幹部さん──いえ、コカビエル。

 私の名前はリアス・グレモリーよ、お見知りおきを」

 

乗ってこないリアスを詰まらないと思い、鼻を鳴らした。

 

「──そういえば、土産は気に入ってもらえたかな?他の二人は、

 逃がしてしまったんだが、態々俺の根城まで攻めてきたから歓迎してやったのだ」

 

使い魔の腕の中で意識を失っているイリナに視線を向けるコカビエル。

そう、彼女はフリードにやられたのではなく、彼と直接戦闘して負けたのだ。

裕斗とゼノヴィアはイリナを助ける余裕もなく、一瞬でやられてしまったので、

ここで3人全員やられる前に苦渋の決断をし、撤退したのだ。

 

そして、彼──コカビエルは語ったのだ。

政治的話し合いをする為に着たのではなく、彼はこの三竦みの状態を崩壊させるために

この街に来たと。

 

この街に巣食う悪魔は現魔王サーゼクス・ルシファーの妹であるリアスと、もう一人の

現魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹であるソーナ。

 

彼女たちが支配している学園で暴れたらこの緊迫した状態が破壊され戦争が

起こると踏んだのだ。

 

彼の望みは──戦争の再開。

 

この停戦状態になってから彼は退屈で退屈で仕方なかったのだ。

だから、求めたのだ──血を、戦を、戦争を。

 

彼にとっては戦いこそが快楽を得られる唯一の喜び──故に今の状況に我慢の

限界が達したのだ。

 

最初は聖剣を盗む事で天使、神側との戦争再開となると思っていたのだが、

自身の所に来たのは聖剣使いたった二人だけ、その他の戦力はまったく来ない事に

気が付き、計画を変え、この街にやってきたのだ。

 

そしてこの街に来て、事態は彼の思うままに運ぶ事ができ、あとは学園で

暴れるだけとなったので姿を現したのだ。

 

「この戦闘狂め──」

 

一誠が忌々しく呟く。

 

「ああ、戦闘狂で結構。俺は俺自身の欲望を欲するままに行動し、戦争を再開させる

 ──誰にも邪魔させない、漸くアザゼルの目を掻い潜ってここまで来れたんだ。

 ──だから、お前達の学園は俺が貰った」

 

アザゼル──『神の子を見張る者(グレゴリ)』の総督の名前、

彼は、自身のボスであるアザゼルが戦争を再開させる気が無いと知り、

今の行動に出たのだ。

 

そう言って彼は学園のある方向に体を向けた。

 

「おれっちも参加させて頂きやすね。もう4本の聖剣を手に入れた俺様に死角無し!

 聖剣使いで歴代最強じゃね?!つーわけで、いっちょ派手にやりやしょうや!」

 

それに続き、フリードが懐から丸いボールのような物を取り出し、地面へ叩きつけた。

 

その瞬間閃光が彼女たちを襲い、視力が回復したことには既にコカビエルと

フリードの姿はなかった。

 

「くっ!みんな学園へ急ぐわよ!」

 

戦争を止める為に彼女達は彼を止めるしか方法はなかった。

 

一斉に学園へ向かう中、ソーナは学園で寝泊りしているひしぎの顔が

脳裏に過ぎった。

 

彼の正体は知っている──本当に彼が『鬼神』の一族ならばコカビエルにも

引けは取らないと思うのだが、彼は今身体機能が著しく低下しているのだ。

 

だから、本来の力を出せないまま彼と対峙すれば、ひしぎが負けると思い、

手に冷や汗が流れた。

 

(──お願い、無事で居てください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園を大きな結界で囲みました──よほどの事がない限り、外へ被害は

 出ません」

 

ソーナが眷属を召集し、桃を筆頭に全員の力で学園を覆えるほどの防御結界を展開したのだ。

上級悪魔でさえも簡単には破れないほどの強固さを誇るが、相手はコカビエルであり、

悪魔にしたら最上級クラスの力を持っている。

 

この結果はあくまでも"被害"を最小限に抑える為のものとなり、

彼が本気になり、結界を直接攻撃すれば一瞬で崩壊し、街も消滅させられる恐れはある。

 

だからこそ、結果に手を出される前に彼を倒すか、消耗させるかで、

結果が変る。

 

「既に、コカビエルが校庭で力を徐々に解放してきています。

 私達は会長と一緒に結界を外から維持します──正直、学園を壊されるのは

 悔しいですが、学園の犠牲だけで彼を止めれるのなら堪えなければなりません」

 

悔しそうな表情をしながらリアスへ情報を通達する椿姫、彼女自身もソーナと同様に

学園を愛している──苦渋の決断だったのだ。

 

「わかったわ、ありがとう──ソーナはどこへ行ったの?」

 

周りには椿姫と匙、他の眷属しかおらずソーナの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「会長は彼の安否を確認するために一人で学園の中へ入って行きました」

 

「──なんですって?!」

 

そう、既にソーナは現場指揮を椿姫に託し、ひしぎの元へ走っていったのだ。

それを知っているのは椿姫だけであったが、中で戦闘をするリアスの耳に

入れておきたかったのだ。

 

「わかったわ」

 

ソーナならきっと大丈夫だと──リアスは信じた。

 

「リアスさん、相手は古の化け物です。現状我々の実力では勝機はゼロです」

 

「ええ、そうね──でも、やるしかないの。朱乃がさっきお兄様に勝手に

 打診したらしく、援護が来るのは一時間後らしいわ。

 それまでどうにかして持たせないと──」

 

自身の根城で起きた事件なのでリアスがサーゼクスに迷惑を掛けたくなく、

独自で処理しようとしていたのだが、実力差を知っている朱乃はもう、この件は個人で

解決できるレベルじゃないと判断し、独自に連絡を取っていたのだ。

 

そしてこの件で不満を漏らしたリアスを叱り、納得させたのだ。

 

「一時間ですか──分かりました。会長の名に掛けて我々シトリー眷属は全力で

 結界を張り続けます──ですので、よろしくお願いします」

 

「ええ、任せておきなさい。さぁ、行くわよ私の可愛い眷属たち!

 これは、フェニックス戦と違って命を賭けた『戦闘』になるわ。

 絶対に死ぬ事は許さない!生きて普通の生活を取り戻すのよ!」

 

リアスの号令と共に彼女達は結果以内へ突入を開始した。

それを見守るシトリー眷属達。

 

「リアスさん──ご武運を」

 

無事に帰ってくることを祈りつつ、各自持ち場に着き結界を維持し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーゼクスの妹とその眷属がこの学園へ侵入してきました。

 一方レヴィアタンの眷属どもは周りに被害が出ぬよう、結界を展開しています

 ただ、レヴィアタンの妹は先ほど一人でこの学園に侵入した形跡があります」

 

空に玉座は浮いており、月光を浴びながら優雅に佇むコカビエルの周辺に

8人の堕天使が姿を現し各自報告をしてきた。

 

彼らはコカビエルの考えに賛同し共に暗躍していたのだ。

そして彼ら自身もコカビエルの様に聖書や様々な書物に名は載っていないが、

大戦の経験者であり、十分な力を有している。

 

「そして、元々学園内部に人の気配が合ったので先に2人向かわせています──どうも、

 レヴィアタンの妹はその人間の所へ向かってるようです。

 ですので、その人間を見つけ次第殺害し、あの娘に見せてあげようかと。

 ──さぞ、お喜びになると思います」

 

一人で助けに向かうという事は、さぞ重要な、大切な人間なのだろうと

思い──自身の無力さを親切に教えてあげようかと画策したのだ。

 

 

「ハハハハハ!中々面白い余興だ──無力さを知った娘の表情は良い酒のつまみになる」

 

部下の凝らした趣向に上機嫌になるコカビエル。

 

「いいぞ、もっとやるんだ──ああ、お前達手分けしてレヴィアタンの娘を生け捕りにして、

 結界前に行き、術を展開している眷属を全員嬲り殺しにしてやれ。

 お前達にもう一人の魔王の妹殺しの功績をやるよ──ああ、その時娘がどんな表情で泣き、

 叫んでいるかは後で俺に教えてくれよ?──出なければ戦争前に景気付けが

 出来なくなってしまう」

 

その言葉にニヤニヤと面白そうな表情を皆浮かべ、了承した。

 

「サーゼクスの妹の方は、俺とフリード、バルパーでやる」

 

彼の視線の下では、校庭の中心に神々(こうごう)と輝く4本の聖剣が宙に浮き、

その下の地面には、魔方陣が描かれておりその中心にはバルパー・ガリレイと云う

初老の男性が立っていた。

 

彼は教会が行っていた『聖剣計画』の責任者で、聖剣が大好きであり、自身の欲望を

満たすためだけに人体実験を繰り返し行い、それが遂に発覚し天界、教会から

追放され、コカビエルが暗躍して戦争を起こそうとする事を知り、協力を申し出、

追放した彼らに復讐をしようとしているのだ。

 

「バルパーその魔方陣はいつごろ出来上がる?」

 

その言葉に初老は視線を上げ答えた。

 

「4本ぐらい統合するだけならばもう5分もいらんよ」

 

彼は、コカビエルが奪取した4本の聖剣を統合し、一つの聖剣を作ろうとしていた。

3本の聖剣はフリードが使用していた物で、残りの1本は先ほどイリナから

奪った聖剣だったのだ。

 

「そうか──その後の術式は?」

 

統合後に、4本の聖剣の力を収束させもう一つの術式が稼動するのだ。

 

「そちらは、剣の完成後約20分だ」

 

「なるほど──楽しみだな」

 

「ああ、私としても願いが成就する」

 

二人は高らかに笑い──

 

「そろそろやつ等が来る──お前達は見つからぬように先ほど話したとおりに

 動け」

 

「了解しました」

 

そう言って8人の堕天使の姿はコカビエルの周りから陽炎のように消えうせた。

 

「──漸くだ、ああ、待ち望んでいた戦いが再開できる──その前の余興に

 俺を楽しませてくれよ?──サーゼクスの妹よ」

 

彼の眼下に到着したリアス達を歓迎するコカビエル。

 

堕天使の幹部、古の化け物との大決闘が始まろうとしていた──。

 

 




こんにちは、夜来華です。

そろそろ原作との乖離が目立つようになってきました。
次話は漸く彼が動きます、主人公らしく書けたら良いのですが。

感想、誤字脱字、質問、一言頂けると嬉しいです。




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第7話 実力差


現場の指揮を椿姫に託した、数分ならば眷属達だけでも守りきれる

だってあの子達は私の自慢の眷属なのだから

だから、私は走った──

一刻も早く彼を救出しなければ──!




 

ソーナは椿姫に結界の維持と、自身が戻るまでの指揮を託し、ひしぎの元へ走る。

転移を使えば一瞬なのだが、コカビエルが力を解放している所為で、

その力にあてられた周囲の魔力が不安定になっており、座標固定が出来ず、

走って向かうしかなかったのだ。

 

自身の走る速度を強化しておいたほうが良かった──と、ソーナは後に語った。

 

現在ひしぎが寝泊りしているのは保健室の隣にある特別な個室であり、

主に悪魔が何らかの魔法、特殊能力で怪我した際に寝泊りできる用になっており

彼が使用していた。

 

(もうすぐ──次の角を曲がれば!)

 

幸い、その個室は1階にあるので階段を上らずに済み、廊下を曲がると──

あるモノが視線の中に入り立ち止まった。

 

部屋の明かりは付いていないのだが、悪魔である彼女は暗闇でも物、色の識別が可能で、

昼間と大差なく判断でき、個室の扉は開いていて、中から発生したとおもわれる血が外の廊下、

壁、窓にまで飛び散って付着して下に垂れていた。

 

その光景を見て息を飲むソーナ

 

(遅かった!?)

 

初めて見る血の量に足が止まっていたので、気力で前進させた。

そして、恐る恐る彼女は個室の前に到着し、中を見ると──

 

 

最初に会った時の服装をしたひしぎが個室の真ん中に立っており手には、夕方、椿姫から

譲り受けた『大刀』が握られており、刀身の先から血が滴り落ちていた。

 

そして、視線を刀身から床に移すと──何かがバラバラになったモノが床に散らばっており、

現場を見ていたらソレが何と無くは分かっていたのだが、ソーナの脳はソレを

"細切れにされた堕天使"と認識したくなかったのだが、

認識した途端、何か込上げてくるものを感じたソーナは血溜まりの中で膝を付き、

口元を押さえると──優しく背を撫でられた。

 

「大丈夫ですか、ソーナ」

 

いつの間にか傍らに来ていたひしぎ──ソーナはいつもと変らない彼の表情を見て、

怯えてしまいそのまま後ずさってしまった──優しそうな彼が、こんな事をするとは

思わなかったのだ。

 

「──っ」

 

その瞬間、ひしぎの優しく気持ちが落ち着くように介抱してくれていた手は離れ、

でも、怯える彼女に彼は何も言わなかったのだ──ただ、ソーナはその瞬間初めて見る

彼の悲しそうな表情を見た。

 

この惨劇はひしぎ自身が意識を覚ましてから、初の戦闘であり、まったく手加減できなかった、

故に、起きた事であって言い訳はしなかった。

 

(ああ、嫌われてしまいましたね)

 

誰だってこんな現場を見せられたら恐怖を感じ、精神が不安定になる。

 

後ずさった時に廊下に出ており、そのまま尻餅を付いたままのソーナ。

 

彼女の思考は初めて見る死体に極限まで停止していた、故に──横から

約3メートルはあろうかとする『光の槍』の出現に反応が遅れた。

 

廊下で隠れて様子を観察していたもう一人の堕天使が、部屋から出てきた

人物をひしぎと勘違いし、『光の槍』を手に生成すると投擲した。

 

距離自体は10メートルぐらいしか空いておらず、発せられた光に気づいた

瞬間には彼女の目の前に迫ってきていた。

 

(──あっ)

 

1秒も満たない時間の中、ソーナは自身の取った行動を迂闊に思い、

そしてひしぎを無意識に傷つけてしまった事に後悔した。

 

(──分かっていたのに──ごめんなさい)

 

彼の元に堕天使の死体があると云う事は、彼を拉致か殺害しにきて、

ひしぎに返り討ちにされた──と、漸く判断したのだが、時は既に遅く、

 

避けきれないと思い、目を瞑ったソーナ──だが、何もおきなかった。

 

恐る恐る目を開いてみると、眼前に手が差し出されており、『光の槍』を

手のひらで受け止めていたのだ。

 

そう、腕の持ち主は勿論ひしぎであり、あの一瞬、1秒にも満たない間に彼は攻撃の気配を

感知するとソーナの隣へ移動し、腕を突き出したのだ。

 

「・・・・」

 

無言で『光の槍』を砕くひしぎ。

 

「──ひしぎさん」

 

その光景に呆気に取られているソーナ。

 

ひしぎは彼女を守るべく体を彼女と敵の間に移し、背を向けたまま

ソーナに語りかけた。

 

「安心してくださいソーナ──この戦闘が終わり次第、私はこの学園から出て行きますので、

 もう少しだけご辛抱ください」

 

助けてくれた彼女をこんなに怯えさしてしまった事、そしてこのような惨劇を

起こしてしまった事で、ひしぎはこれ以上彼女に迷惑を掛けない為にも、

この学園を去ることを決めたのだ。

 

(小猫さんにもどう詫びたらいいか)

 

体が戦闘可能まで回復したので、もうここに執着してまで居る必要は無いと判断し、

ここで暴れている輩を全て排除する事で、助けてもらった恩を返そうと決めたのだ。

 

「──遅いです」

 

自身の最大の力を圧縮した『光の槍』を片手で止められた堕天使は、

もう二撃目を放とうと手に力をためた瞬間──後ろから縦一閃に叩き切られたのだ。

 

「本当に──戦闘経験者と思えないほどの遅さ、弱さですね」

 

一瞬で崩れ落ち、絶命した堕天使の死体を見ながら呟いたのだ。

 

「──では、ソーナここで待っていてください」

 

そう云って『大刀』の血糊を拭くと鞘に収め、身を翻した。

 

「今までありがとうございます──本当に貴方とあえて良かった」

 

その言葉にハッとしたソーナは

 

(嫌──嫌だ!)

 

ここで彼と別れてしまったら、もう二度と会えないような気がしたソーナは

咄嗟に彼の裾を掴んだ。

 

「──ソーナ?」

 

彼女の行動に疑問を浮かべ、出来るだけ優しい声で名前を呼ぶひしぎ。

 

「──嫌です、ここから出て行くなんて許しません!」

 

彼にそんな表情をさせてしまった事、去らなければならないと思わせた行動を取った自身の

迂闊さを呪いながら必死に裾にしがみ付き、懇願した──

その彼女の目には後悔と自身の不甲斐なさで涙が溢れていた。

 

「ですが、私はこのように貴方に恐怖を与え、迷惑も掛けてしまいました」

 

「──確かに怖いと思いました。でも、それはこれが生死を賭けた『戦闘』の結果なんですよね?

 私は未熟で本物の生死を賭けた戦いなんて今まで見たことも、体験した事もなかった。

 でも、私はいずれそういう事を『体験』する事は決まっていました

 だから、気にしないでください──もう慣れてきましたから」

 

搾り出す言葉とは裏腹に、声音が震えていた。

 

シトリー家の次期当主である彼女は遅かれ早かれ、そういう生死を賭けた

戦に出陣する事は決まっていたのだ──心の中ではそういう風景を見る事を、

覚悟していたのだが──現実はそんなに甘くはなかったのだ。

 

だから、ひしぎが病む事で無いと、出て行くことは無いと──伝えたかったのだ。

 

「──私はまた、同じような事を繰り返すかもしれませんよ?」

 

そう、襲われたら黙って襲撃犯を帰すほど、彼は穏やかではないのだ。

 

歯向かう者、襲ってくる者を全て生きて帰した事は無く、故に最強の処刑人とまで謳われたのだ。

 

「それでもです!ここを離れる理由にはなりません!──それに、約束したはずです。

 私たちの修行を見てくれるって!」

 

その言葉に困惑するひしぎ

 

「確かに約束しましたが、でも私は貴方達に迷惑を──」

 

「構いません!人一人匿えずに次期当主など務まりません──だから、お願い。

 私の前から消えないでください──約束してください」

 

裾を必死で握り締め、涙を流しながら願う彼女を見たひしぎは

 

(──二度も同じ女性を泣かしてしまうとは)

 

立派な彼女を二度も涙を流させるような事をした自身の言動に、

反省しながら──ここまで言わせてしまった事を心に刻み、覚悟をきめた。

 

「──分かりました、ならばこの命、地獄の底まで貴方と共に──

 悪魔の夢の手伝いをするのも悪くはありません」

 

優しく彼女の頭を撫であやしながら、言葉を続ける。

 

「貴方の夢に立ちはだかるモノ全て私が破壊し、お手伝いしましょう」

 

この間ソーナは自身の夢を語り、言ったのだ──自身の夢には敵が多すぎる──と。

 

「──はい!」

 

その言葉に漸く笑顔を取り戻したソーナ

 

(──また必要とされるこの命──悪くはありませんね)

 

吹雪に自身の命を必要とされた記憶が蘇り、心が温まるひしぎ、

──ここにも本当に自身を必要にしてくれる人がいたと、云う事を実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃校庭では、リアス達はコカビエルが地獄から連れて来た──ケルベロス

一体を相手に苦戦を強いられていた。

 

10メートル以上の巨体で、四足の一つ一つは建造物の支柱以上に太く、

その先に生えている爪鋭すぎて、当たれば重症は間逃れない悪寒が彼女たちを襲う。

 

コカビエルと同様に闇夜の中でもギラギラ輝くほどの真紅の双眸。

突き出された口から覗くのは、凶悪極まりない牙であり、

牙と牙の間から白い吐息が漏れていた。

 

見た目は絵本や聖書で描かれている姿そのものであり──三つ首を持つ犬。

 

地獄の番犬、三つ首の魔獣と呼ばれ、本来冥府の門周辺にしか生息していない

生物なのだが、コカビエルはそれを捕獲し、ペットとして使役していた。

 

「──っ!こんな生物を人間界に持ち込むなんて!」

 

リアス自身も実際本物を見るのは初めてだったが、書物に記されている通り、

その巨体でありながらも俊敏に動き、襲い掛かってくるケルベロスを

避けながら、滅びの魔法を弾丸の様に放つが、一つ一つの威力が

小さいためか有効打にはなっていなかった。

 

「もう少し威力を貯めたい所だけど──っ」

 

相手の動きが俊敏すぎて、まともに魔力を生成する隙がない。

 

全員で相手をしているのだが、全方向に視界がある為、立ち止まり魔力や力を

込めようとするとすぐに襲い掛かってくるので、立ち止まるわけにはいかなかった。

 

このままではジリ貧になるので、リアスは一誠に自身たちがケルベロスの注意を

引くから、一誠のもう一つの技『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』を

自分達に使用する事を指示した。

 

この技は、籠手の能力で増加した力を他人へ譲渡する業であり、フェニックス戦で一誠はこれを

裕斗に使用し、形勢逆転ができたのだ。

 

「頼んだわよ!」

 

自身と朱乃に譲渡を頼み、空中でケルベロスの注意を引き付けてくれている

朱乃の元に飛び去った。

 

「朱乃!」

 

ケルベロスが三つ首全ての口から、朱乃、リアス、小猫を狙い、炎を吐き出した。

 

灼熱地獄の熱量を誇るブレスに、リアスは翼を自在に操り空中で回避、

朱乃は自身の前に防御魔法を展開し、炎を凍らせる。

 

距離的に一番近かった小猫もギリギリ回避した──『戦車』であっても、

この熱量は耐え切れるレベルではなかった。

 

そして、そのままケルベロスの顔の一つの真下に転がり入り──跳躍

 

「喰らえ」

 

小猫の強烈な一撃がアゴに入り──巨体は上半身が浮き上がり、

追撃を入れようとしたが、残り2つの首が小猫が居た位置に炎を吐き出す。

 

直撃するかとおもいきや、間一髪の所で朱乃が小猫を拾い上げ、

空中へ退避できたのだ。

 

視線の下では打撃を受けた顔が、横に頭を振っていた。

 

(──っ!浅かった)

 

一撃で仕留める気で打ち込んだ打撃だが、跳躍した瞬間にバランスを崩してしまい、

本来の威力が出せなかったのだ。

 

(でも、もう一度)

 

そのまま急降下する小猫──目標はまだ打撃の後遺症が残っている顔。

 

「朱乃!」

 

「わかりましたわ!」

 

小猫の行動を悟り、援護を促すリアス。

 

小猫を迎撃するために他の2つの顔が炎を吐くが──それをリアスと朱乃の魔法で

相殺する。

 

「仕留めなさい!」

 

二人に援護され、拳を振りかぶる小猫

 

「沈め」

 

轟音と共にケルベロスの頭の一つを殴打──その瞬間体を支えていた四足が地面へめり込み

4つでかいクレーターを造り、殴打された事により上と下の牙が合わさりあい

鈍い音と共に牙が砕け散り──そして遂に打撃の衝撃波に耐え切れなくなったのか、

四足を広げ、そのまま全身地面へ激突した。

 

その光景を見たリアスと朱乃は止めを刺そうと魔力を高め始めた瞬間──

 

「部長!朱乃さん後ろ!」

 

倍加中の一誠は見たのだ彼女達の背後に突如空間が裂け、その中から二匹目のケルベロスが

彼女たちに突進してきた所を。

 

「もう一匹いたの・・・・!」

 

彼の声に反応し、回避行動を取りながら苦々しい表情を浮かべるリアス。

 

もう一匹を助けるためか、小猫の方にそのまま突進するケルベロス──

 

「危ない小猫ちゃん!」

 

一誠は全力で彼女を助けに行こうとダッシュするが間に合わない。

 

すると、突進を掛けていた側のケルベロスの首の一つが宙に舞った。

 

「加勢に来た」

 

小猫の前に現れたのは『破壊の聖剣』の使い手ゼノヴィアだった。

斬られた首はそのまま塵となって消えて逝く。

 

突如首を失ったケルベロスは絶叫を上げながら暴れまわる。

 

ゼノヴィアは剣を担ぎ直すと、ケルベロスの懐に入り込み腹部に一撃、

そのまま流れるようにして前右足に一閃し切断。

 

突如として足を失いバランスを崩すケルベロス──だが、ゼノヴィアの攻撃は

まだ終わらず、懐から脱出した彼女は後ろへ回り込み、後ろ右足をも

斬りつけ消失させたのだ。

 

右側の両足を失ったケルベロスは立つ事もままならず、崩れ落ちた。

 

「聖剣の一撃は魔物に対して絶対的なダメージを負わせることができる」

 

止めといわんばかりに、倒れこんできたケルベロスの胸に剣を

深々と差し込んだ。

 

「──許せ」

 

その瞬間、ケルベロスの体は全身が塵となって宙へと消えていった。

 

ゼノヴィアが単体で相手をしてくれた事により、一誠の倍加が譲渡できる状態となり、

リアスと朱乃の元へ駆け寄り、肩をに触れ力を譲渡した。

 

傍から見ても、彼女達の力が増大した事を感じ取った一誠。

 

「これなら、いけるわ!」

 

「はい、天雷よ!鳴り響け!」

 

陥没した地面へダウンしていたもう一匹のケルベロスは、彼女達の

攻撃を察知し、未だに震えている四肢に力を入れ回避行動に移ろうとしたが、

 

「逃がさないよ」

 

四肢全てに無数の剣が貫いていく。

 

いつの間にか接近していた祐斗が『魔剣創造』を発動させケルベロスの四肢全てを

地面へ縫い付けたのだ。

 

逃げれなくなった、ケルベロスに天からの雷が降り注いだ。

倍加された雷は校庭の半分を包み隠すほどであり、ケルベロスの巨体は雷の

渦へと飲み込まれていった。

 

全員が耳を押さえるほどの轟音、青白い光が辺りを照らし眩しくて

目が開けてられないほどであった。

 

数秒間振り続け、光が止むと、そこには何も残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーナ、終わりましたよ」

 

ソーナが落ち着くのを待っていたひしぎの元に、帰ってこない仲間の様子を

確認しに来た堕天使が二人来たのだが、一人は声を発するまもなく、

大刀を頭部に受け、顔が消し飛び、もう一人は空いていた左手で首を掴むと、

力を込め、へし折ったのだ。

 

これに要した時間は1秒にも満たなく、ソーナはあまりの早さにひしぎが

何をしたのかが把握できなかったが、ただ1つ分かった事は、

一瞬で6枚羽根を持つ堕天使二人が絶命した事。

 

「中々面白い事になってますね」

 

窓の外から周囲を覆うほどの青白い光の支柱が、二人を照らした。

 

「──恐らく、赤龍帝の倍加の力を譲渡された朱乃の攻撃ですね」

 

本来ならばあれ程の規模の魔法は彼女には撃てない。

故に、フェニックス戦で見た一誠の業を思い出したのだ。

 

「なるほど──興味深い『神器』ですね」

 

自身の倍加だけでなく、他人へ譲渡出来るだけでも、戦術の幅か大いに広がる。

 

「──ソーナ、学園の外壁付近に今のこの者たちと同じ気配を持つ者が

 6人居ます」

 

ふと、周囲の気配を探っていたひしぎは椿姫の気配の近くに、堕天使の

気配を感じたのだ。

 

「──まさか、別働隊が居たなんてっ!」

 

今回のような状況以外なら直ぐに気づけた彼女だが、今回はあまりにも

不確定な出来事ばかりで完全に失念していた。

 

自分の眷属は実力にも申し分はないのだが──それはあくまでも新人悪魔としては──だ。

 

それに結界を維持しなければならないので、分が悪すぎる。

 

「椿姫達が危ない──!」

 

焦った表情を作るソーナを見て、ひしぎは微笑んだ。

 

「──分かりました」

 

そう言ってひしぎがいきなりソーナを抱きかかえた。

 

「えっ?えっ?!」

 

突然お姫様抱っこされたソーナは羞恥で顔を真っ赤に染め

 

「しっかり掴まっていてくださいね」

 

その言葉を発した直後、ソーナを抱きかかえたひしぎの姿が掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椿姫と匙は今だかつて無い危機に陥っており、相手は8枚羽根の堕天使であり、

防御結界の術式展開している桃を守るべく、二人は結界内に入り対峙したのだが、

圧倒的な実力の前に、二人は既に衣服は破けボロボロに消耗していた。

 

堕天使側は一人で二人を相手し、残りの5人は少し上空で高みの見物をしていた。

何かを待っているのか、暇つぶし程度に相手をしている感じだった。

 

「おい、あまりボロボロにしてやるなよ──メインデッシュが来る前に

 死んだら意味がなくなる」

 

「わかってるさ──でも、新米悪魔達に稽古をつけてやらねーとな!」

 

切りかかってくる椿姫の長刀を余裕で体を捻り回避し、そのまま勢いを少し付け

回し蹴りを椿姫の背中に叩き込んだ。

 

「──くはっ」

 

勢い良く飛ばされた椿姫を

 

「危ない!──ライン!」

 

匙の腕に付いている籠手から紫色の線のような物が椿姫の元へ延びていき、

体に線が巻きつくと。

 

「はぁ!」

 

力任せに線を引っ張り、木に激突しようとしていた所を阻止した。

 

「くっ」

 

激突は間逃れたものの、口から血を吐き出す椿姫──それを見た

匙は線を引き戻すと、堕天使へ向けて発射した。

 

「いけ!」

 

堕天使は伸びてくる線を右手に受け止めた、線が巻き付いたことにより、

能力が発動し、一人封じたと思った匙──だが

 

「あまい──あますぎる!」

 

相手の能力を奪う効果が発動しているのにも関わらず、堕天使は両手で

線を掴み、力いっぱい引っ張ると匙は一瞬で宙に浮き、そのまま大きく振りかぶられ

学園の壁に体の側面から激突した。

 

まともに防御も出来ず壁と衝突した匙は、意識を手放してしまう。

 

「元ちゃん!」

 

結界外から桃が叫ぶように呼ぶが、まったく反応しない匙。

 

「よくも!」

 

椿姫は体中の痛みを我慢し、背後から斬りかかるが軽くあしらわれる。

 

「おいおい、そんな遅い攻撃に当たるわけねぇーだろ。

 お前達のレベルでは早い分類かもしれないが、大戦を生き残った

 俺達にしちゃ──遅すぎだぜ」

 

その言葉に見物していた堕天使達も同意し、椿姫達の実力を嘲笑う。

 

「まじで、最近の悪魔は弱すぎて張り合いにもなりやしねぇ──

 これじゃあ、いくら倒しても俺の渇きは潤せねぇ」

 

椿姫と対峙する堕天使は遂に哀れむような目で彼女たちを写したのだ。

 

「あーあ、魔王の妹の眷属でなければもう少しは長生きできたと思うんだけどな、

 己を眷属にしたあの女を恨むんだな」

 

ソーナの眷属でなければ、彼らはもう少し生き残れると言った。

 

その瞬間椿姫の中でどす黒い憎悪が湧き上がる──自身の敬愛している主を

侮辱されたのだ。

 

「──殺してやる」

 

呪詛のように呟く彼女を見て、堕天使は苦笑する。

 

「口だけは達者だな──実力を伴わない言葉ほど、意味の無い事だと知っておくんだな」

 

実力がモノを云う世界では、そういう言葉ほど哀れなものは無い。

だから、堕天使は決めた。

 

「哀れだなお前──せめてもの慈悲だ、自身の弱さを主が知る前に

 ──殺して(すくって)やるよ」

 

堕天使はこの戦いが始まってから初めて構え、右手に光の槍を生成する。

 

その光景を見た結界外にいた桃達が悲鳴をあげ駆け寄ろうとするが──遅く、

 

「じゃあな──名も無き眷属よ」

 

振り下ろされる光の槍、椿姫の体は既に限界に近く、もうよける事さえ出来ずにいた、

ただ、彼女の瞳は振り下ろされる瞬間まで彼を睨み続ける。

 

内心悔しくて仕方が無く、これほど自身が無力を実感した事は無かった。

 

確かに8枚羽根相手に中級悪魔になってない彼女には荷が重たすぎる相手だが、

実戦で相手を選ぶことなど不可能に近い。

 

当たってしまったからには戦うしかなかった。

 

ここの指揮を託された時点で撤退の文字は彼女の中にはなく、もじ道理命を賭けて

守るつもりだった。

 

だけど──ここまでの実力差をその身で感じた椿姫は悔しくて涙が溢れ出ていた。

 

(くやしい──主を馬鹿にされて、何も出来ない私自身が憎い)

 

最後の最後まで命を諦めないと、眷属になった時に誓った事を思い出し、

故に彼女は立たない足に無理やり力を込め、思い切り横に倒れる事で、

間一髪回避できた。

 

「──ほう、意地だけは認めてやるよ」

 

もう動けないと思っていた彼女が攻撃を回避した事に嬉しさを隠せない堕天使、

意地だけは、諦めない精神だけは評価に値するものと感じたのだ。

 

今度は確実に逃がさないように倒れた椿姫の背に足を乗せた。

必死にもがく彼女だが──相手の足を退けるほどの力は残っておらず

 

「もう、終わりだ」

 

振り下ろされた、死へと誘う光の槍が彼女に刺さろうとした瞬間──

 

「──終わりは貴方の方です」

 

堕天使は突如背後から聞こえた声に反応し、顔を振り向けた瞬間、黒い何かが

顔面にめり込み──横に思い切り吹き飛んでいった。

 

そして、そのまま塀にぶつかり岩が砕ける音と共に土埃が舞うが、その中から

堕天使が現れることは無く──煙が消え、見えるようになると、首が変な方向に

曲がっており、ピクリとも動かない男の姿があった。

 

「危ない所でしたね」

 

椿姫は頭上から聞こえる声に顔を上げてみると、ソーナを抱きかかえたひしぎの

姿があった。

 

彼は椿姫を押さえつけている敵の背後に回りこみ、ソーナを抱きかかえていたため

手は使えず回し蹴りを放ち──彼女の窮地を救ったのだ。

 

「──貴様何者だ!」

 

突然仲間が吹き飛ばされた事に驚いた堕天使達が叫ぶが──ひしぎはそれを無視。

 

「ソーナ、早く彼女と彼の手当てを」

 

ひしぎはソーナを地面に下ろすと、椿姫と少し離れている場所で倒れている匙を

指差した。

 

「──わかりました」

 

その言葉に頷くソーナ。

 

「──彼らは私が処理しますので」

 

そう言って漸く宙に浮いていた残りの堕天使へ視線を向け、腰に装着していた大刀を

鞘から抜いた瞬間、姿が消えた。

 

「──なっ!」

 

目の前から一瞬で消えたひしぎに驚き、周囲を見渡す堕天使達。

 

そして──

 

「がっ!」

 

端っこに居た堕天使の一人が突如苦痛を口にし、皆そちらを見ると、

体を斜めに両断された姿が映り、バランスが保てなくなった一人は

そのまま血を撒き散らしながら墜落していった。

 

一瞬の出来事に呆気に取られていたが、彼らはすぐさま散開する。

 

動いていなければやられると──本能で感じたのだ。

 

「どこだ、どこに居やがる!」

 

攻撃を受けた事すら認識できず、ただ闇雲に彼の姿、気配を探るが見つからず。

 

「──うぉ!」

 

行き成り足首を掴まれたと思ったら、思い切り地面へ叩き付けられる堕天使の一人。

高さは十分にあり、そこからやられた事により、数メートルのクレーターを

地面に造り、衝突時に石などが体のあっちこっち刺さり、裂かれ、

血が噴出しながら沈黙した。

 

仲間がやられた事により、漸くひしぎの姿を確認し手に光の剣を生成し

一人が切りかかるが、"何も無い"左腕で受け止められ──動きを止められた所を、

右手に持っていた大刀が横に振られ、避けきれずに上半身と下半身が別れ、

崩れ落ちる。

 

「──残り二人ですね」

 

殺す事に何の躊躇いもしない彼の存在に、初めて人間に恐怖を抱く堕天使達。

 

今だかつてこれほど自身達を圧倒できる人間には出会ったことが無く、

彼らは堕天使の中でも強い分類に入る実力の持ち主なのだが──今回ばかりは

相手が悪すぎたのだ。

 

 

残った二人はお互い顔を見合わせた──人間相手に全力を出すのは実に不本意な

事であるが、そうも云ってられる状況では無いと判断。

 

本来ならば自身のボスであるコカビエルに報告しに行くべきなのだが、

たかが人間相手に自身達は全滅しましたと言えるわけが無く、

互いに光の剣を生成し、同時にひしぎへ突撃を掛けた。

 

「・・・・」

 

彼らの全力の突撃は、木場裕斗の全力のスピードの4倍以上あり、

ソーナと椿姫の目には、黒い線が一直線にひしぎの元へ向かうぐらいにしか見えず、

 

──そして、ひしぎは体を少し動かしただけで回避した。

 

「・・・な・・・に・・・」

 

ただ、避けただけと彼女達はそう判断したのだが、ひしぎの横を通りすぎた

堕天使二人の呟きに、視線を向けると、体中のいたるところから血が

吹き出ており、血とボロボロになった羽根を撒き散らしながら二人は倒れこんだ。

 

そして彼女達は理解したのだ──彼らはすれ違いざまの一瞬に、全身を切り刻まれていたと

云う事に、それも二人同時に。

 

相手は神速以上の動きを見せていたはずなのに──ひしぎの速度はそれ以上だった。

 

ソーナは内心思った──彼らは決して弱くなんかなかったと、天使と堕天使の強さは

ほとんど羽根の枚数も関連しており、コカビエルは10枚羽根、校舎内に居たのは6枚羽根4人、

そして今の6人は全員8枚羽根であったのだが、彼に手も足も出なく、全滅した。

 

少なくともひしぎのスピードは光速以上、堕天使の猛者でさえ彼を

捕らえきれる事は出来なかったのだ。

 

恐らくそのスピードに対応出来るのは最上級悪魔、魔王クラスだけであり、

そしてもっと恐ろしい事に、彼はまだ"万全"で無い──故に、底知れぬ

強さを肌で感じ取ったソーナ。

 

(──本当に御伽噺に出てきた『鬼神』みたいです)

 

その強さに子供の頃聞いた、御伽噺を思い出していた。

 

 

 





こんにちは、夜来華です。

うーん、久々に戦闘シーン書いてみたのですが、難しい・・・
あと、ちょっと詰め込み、無理やりすぎた感もあります。

もっとうまく書けるように練習しなきゃです・・・。

感想、誤字脱字、一言頂けるとうれしいです。


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第8話 聖と魔

なんなのよあれは──


本当に人間?


あんなの聞いた事も、見たことも無いわ──





 

ボロボロに負傷していた椿姫と匙を地面へ横並びに寝かすと、ひしぎは片膝を

地面へつけ、法力治療を開始した。

 

法力治療とは、生物全てに備わっている再生能力を自身の"(オーラ)"を分け与え、

サポートする事でトカゲの尻尾以上の再生能力が発動し、傷を瞬時に回復させる事が出来、

例えば切断された腕とかであっても、くっつける事が出来るのだ。

 

ただし、表面上は治っていても中身の部分は少し完治に時間は掛かり、

すぐさま激しい運動や、戦闘をすると傷が開く場合もある。

 

法力の能力を使えるのは人間の中でも"シャーマン"と呼ばれる特殊体質を

持った者達だけである。

 

ひしぎは、"シャーマン"では無いが、昔彼の助手であった"友"に教えてもらったのだ。

 

体中傷だらけで、血まみれであった二人の体は、温かな光が二人の体を包むと、

どんどん傷は塞がっていき、

 

「──これで、傷は全て塞がった筈です」

 

数秒後には傷ひとつ無い体になっていた二人──

 

「──痛みが消えた」

 

意識のあった椿姫は、体の状態が瞬時に回復したことに驚いていた。

ただ、匙の方は依然意識が戻っておらず、彼の顔を心配そうに覗き込むソーナ。

 

「ちょっと強くに衝撃を受けただけで、頭部には傷はありませんでした。

 もう少ししたら意識が戻りますよ」

 

壁とぶつかる瞬間に、咄嗟に匙は頭を守ったお陰で、傷1つなかったが、

思い切り揺さぶられたために意識が落ちたままであった。

 

法力治療を終えた、ひしぎは立ち上がると校庭の方に視線を向けた。

 

「──あまり、状況は芳しくないようですね」

 

激しい轟音が、断続的に聞こえて来て──激しい戦闘が繰り広げられているのが分かる。

 

「戦線へ向かう前に、少し結界を強化しておきます」

 

そう言って、学校の入り口まで歩いていきシトリー眷属達が張っている

結界に右手を触れさせた。

 

ひしぎの行動に怪訝を浮かべるソーナと眷属達。

 

すると、触れた場所から黒い雷の様なモノが一気に発生し──結界の色を黒の線へと

全て塗り替えたのだ。

 

「──っ!これは」

 

その光景に息を飲む彼女たち──そしてその結界に触れてみると、今の数倍以上の

強度が上がってるのを感じられた。

 

「すごい、これならコカビエルの攻撃にも耐えれるかもしれない」

 

結界の術式担当していた桃がポツリと呟いたのだ──防御結界が得意な彼女だからこそ、

瞬時にその強度理解できたのだ。

 

ひしぎはそのまま彼女たちを覆うように結界をもうひとつ作り出した。

 

「これで、しばらくは大丈夫です──」

 

彼女達はこの結界により外部から攻撃を受けても結界を張り続けられるようになった、

 

結界と、その強化を施したひしぎは身を翻し校庭に向かおうとすると、

 

「──待ってください」

 

最後まで彼の戦いを見ていたいと思ったソーナは、咄嗟に声を掛けてしまった。

 

内心、この場に残るべきか悩んでいると、

 

「会長、ここはもう大丈夫です。リアスさんたちの援護を」

 

「はい、この強度なら私達だけでも十分ですので、加勢してきてあげてください!」

 

椿姫と、桃に言われたソーナは決意した。

 

「わかりました、ですが何かあれば直ぐに連絡を──」

 

「はい」

 

「──では、ソーナ。参りましょうか」

 

彼女達のやり取りを最後まで見届けたひしぎは、校庭へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校庭ではケルベロスとの戦闘している間にバルパーの術式が完成、4本の聖剣エクスカリバーは

1本の聖剣となり、その膨大な力によって連動した術式も完成し、

20分後にはこの街全てを破壊する光が生まれる事になった。

 

その術式をコカビエルの魔力も絡んでおり、解除するにはコカビエルを倒さねばならなく

なっていた。

 

援軍は間に合わず、自分達でどうにかしないといけなくなった彼女達は一斉に

コカビエルに向かおうとすると、統合した聖剣をバルパーから渡されたフリードが

立ちふさがった。

 

「ヘイヘイヘイ!ボスと戦いたくば、俺様を倒してからにするんだな!

 まぁ、もっともチョー素敵仕様になったエクスのカリバーちゃんと最高の俺様が

 合わさった事で、ボスに辿り着く前にお前らみんなチョンパしてやりますけどねぇ!」

 

4本の聖剣の力が合わさった一振りを使用できる事に興奮を感じているフリード、

元はエクソシストであった彼でも聖剣には憧れを持っていたらしく、

それが抑えきれずに、いつもより感情がハイになっていた。

 

フリードの持つ異形の聖剣を見たゼノヴィアは隣に並んでいた祐斗に話しかけた。

 

「なぁ、グレモリーの『騎士(ナイト)』、共同戦線の話が生きているならば、

 共にあれを破壊してもらえるか?」

 

その言葉に虚を付かれた祐斗

 

「──いいのかい?」

 

ゼノヴィアは不敵に笑い言い放った。

 

「最悪、あの聖剣の中核である『コア』の破片さえ回収できれば、修復は可能なんでな。

 それに、アレはもう聖剣であって聖剣でないモノ──使い手によってそれが聖剣なのか、

 そうでないかが変る──アレはもう異形の剣だ」

 

「くくく・・・確かに君たちから見れば、そう思えるかもしれないが、

 私にとっては最高の『聖剣』だよ」

 

彼女の言葉を聞いて苦笑するバルパー。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残り──いや、正確には貴方達に殺され、

 悪魔に転生したことで生きながらえている」

 

自身の過去をバルパーに告げる祐斗、その目は憎悪の炎を宿していた。

 

「ほぅ、あの計画の生き残りか。これは数奇な運命だな。こんな極東の地で会うことに

 なろうとは──縁を感じるな」

 

見る物すべてに嫌悪を与えかねない笑い方だった。

 

そして、そのまま祐斗に聞かせるように彼は語りだした。

 

自身は聖剣が大好きで、夢に出るほど愛おしく、幼少の頃からエクスカリバーの伝記に

心を躍らせ、将来は担ぎ手になる夢を抱いていたのだが、自身に聖剣使いの

適正がなく、絶望に落とされた。

 

そして彼は、聖剣を扱える者に憎悪、嫉妬を抱いていたのだが、次第にソレは薄まり、

逆に憧れを感じ始め、その想いは高鳴り──自身で聖剣の担ぎ手を人工的に

創り出す研究をはじめた。

 

──そして、彼は完成に至ったのだ、祐斗達のおかげで。

 

聖剣を使うに必要な因子がある事に気が付いた彼は、被験者をもう一度検査にかけた結果、

全員がその因子を持っていたのだが、エクスカリバーを扱えるほどの数値ではなかった。

 

そして、彼は1つの結論に至ったのだ『それを抽出し、集める事はできないのか?──と』

 

「──読めたぞ、聖剣使いが祝福を受ける際に体に入れられるもの──」

 

「ご名答、流石は聖剣使いの少女。因子を持っている者達から抜き取り、結晶を

 作ったのだ──ソレがコレだ」

 

そう言ってバルパーは懐からゴルフボールぐらいの大きさをした光り輝く球体を取り出し、

彼女たちに見せ、話を続けた。

 

これによって彼の研究は飛躍的に向上したのだが──教会の者はそれを異端とし、

研究材料、資料を全て回収し彼を排除したのだ。

 

「貴殿を見る限り、研究は続けられているという事か──ミカエルめ、私を断罪しておいて

 未だに聖剣使いを増やしているとは、まぁ、あの天使ならば因子を抜き出すにしても、

 殺しまではしない分、私より人道的と思えるが──所詮何かの犠牲無くば、

 何も生まれないのだよ」

 

愉快そうに笑うバルパー、それを聞いて全員が分かった──現時点で人工的な

聖剣使いを増やすには、犠牲を伴うという事を。

 

「──同志たちを殺して、聖剣適正の因子を抜いたのか?」

 

祐斗の言葉一つ一つに殺気が篭っている。

 

「そうだ、この球体はその時のモノだ、フリード達に3つほど使ってしまって、

 残ったのはコレだけだ」

 

「フフフ、俺以外の奴等は途中で因子に体が付いていかずに、みんな死んじまった!

 やっぱ、俺様は特別だから耐えられたわけよ!」

 

彼の口ぶりでは、他に因子を貰った者がいて、耐え切れずに全員死んだ事になる。

 

「バルパー・ガリレイ、お前は、自身の研究、自身の欲望の為にどれだけの命を

 もてあそんだんだ・・・・!」

 

怒りに震える祐斗

 

「ふん、そんなの数えていないな──よく知っておくんだ小僧。世の中には、

 何かの犠牲なくして、自身の夢や欲望を叶える事が出来ないと云う事を──な。

 この世は色々な人間の犠牲の上に出来ているのだ──小僧、貴様とて、

 同志の犠牲の上で脱走でき、生き永らえているのだからな。

 ──まぁ、この結晶は貴様にくれてやる。環境さえ整えば、結晶の量産できる

 段階まで研究は来ている──だから、その前の景気付けにこの街から破壊しよう

 そして、聖剣使いを量産し、統合した聖剣を用いてミカエルやヴァチカンに

 攻め込むとしよう──ああ、私を断罪した彼らに私の研究成果を見せ付けてやるのだ」

 

バルパーは唄うように続ける

 

「さぁ、戦争を再開しようではないか──」

 

バルパーがコカビエルと組んだ理由は、お互い天使を憎み、戦争の再開を望んでいる事。

 

バルパーの投げた結晶は祐斗の足元に転がっていき、祐斗は身を屈めてソレを

手にした。

 

哀しそうに、愛おしそうに、懐かしむように結晶の表面を撫でた。

 

「・・・・皆・・・」

 

祐斗の頬には涙が流れ落ち、その表情は悲哀に満ちていた。

 

すると、結晶が淡い光を発行し始め、その光は徐々に徐々にと広がっていき、

校庭を包み隠すほど拡大し、校庭の地面の各所から、光がポツポツと浮いてい、

人の形を生成していく。

 

彼を囲むようにして表れたのは、青白く淡い光を放つ少年少女達だった。

 

この戦場に漂う様々な力が、因子の球体から魂を解き放ったのだ。

 

「僕は・・・僕は!」

 

祐斗は彼らに懺悔するように言葉を搾り出した。

 

「ずっと、ずっと思っていたんだ、僕だけが生き残っていいのかと──。

 僕より夢を持った子がいた、僕より生きたかった子もいた。

 僕だけが平和な暮らしを過ごしていいのかって──」

 

淡い光を放った一人の男の子が微笑みながら、祐斗に語りかけた。

 

──泣かないで、僕達は僕達の意思で君を助けたかったんだ、だから"生きて"

 

その言葉に涙を流し続ける祐斗。

 

彼の表情を見て、少年少女達は顔を見合わせると、口をパクパクと

リズミカルに同調させていった。

 

「──聖歌」

 

一誠の隣で彼らを見守っていたアーシアが呟いた。

 

彼らは聖歌を歌っている、祐斗も懐かしむように口ずさむ。

 

この歌は被験者となり、辛い人体実験を乗り越えるために唯一希望と夢を

保つために手に入れたモノ──過酷な生活で唯一手に入れた生きるための糧。

 

そして、青白い光が祐斗を優しく、温かに包み込み──

 

昇華されていく彼らの魂は天へと昇り、ひとつの大きな光となって

祐斗を包み込んだ。

 

「──ああ、ありがとうみんな。これからは──一緒だ」

 

『神器』、所有者の想い、願いが、この世界に漂う『流れ』に逆らうほどの

劇的な転じ方をした時、『神器』は成長する。

 

──そして彼は『禁手(バランス・ブレイカー)』に至った。

 

皆に励まされた祐斗は、同志達と魂を一体化させ、昔達せなかった想い、願いを

胸に、自身の『神器』と魂を同調させ、カタチをなしていく。

 

彼の右手にには、神々しい光と禍々しい光両方を併せ持つ一振りが表れていた。

 

それは、彼が『禁手』に至る事で発現させた、聖と魔を有する剣。

 

──『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)

 

それを手にフリードへ斬りかかり、戦闘を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館の屋根の上で、一部始終を観察していたひしぎとソーナ、

本当はすぐさま参戦する予定だったのだが、横槍を入れれる雰囲気ではなかったため

ここで待機していたのだ。

 

「聖と魔を宿す剣ですか──相反する力を一つに、中々興味深いですね」

 

ほぼ有り得ないとされていた聖と魔の融合を裕斗はやってのけたのだ。

 

「ええ、この現代においては恐らく彼が初かと」

 

ひしぎの言葉に相槌を入れるソーナ、自身達は悪魔故に、聖の力を宿すモノには

触れれば怪我をする──だけど彼は、その常識を覆したのだ。

 

悪魔であっても聖剣を使役できる存在──それは、同族同士の戦いに置いても

アドバンテージを手に入れ、優位性を誇れる。

 

(そして、『騎士』だから余計に手に終えなくなりそうですね)

 

今後の事を見据えると、少し背筋に悪寒を感じたソーナ。

 

そして、二人の視線の先では、フリードと裕斗は斬りあっており、

途中からゼノヴィアまでもが参戦した。

 

4つの聖剣の特性を駆使して裕斗を翻弄するが、冷静さを取り戻した

彼に全て捌かれていた。

 

すると、ゼノヴィアは何かを唱え始めると空間に手を突っ込み、一振りの大剣を

取り出した。

 

「──っ!まさか、デュランダル!」

 

その剣を知っていたソーナは驚きの表情を隠せなかった

 

デュランダル──かの、聖剣エクスカリバーに並ぶ聖剣の一つであり、

破壊力においては、エクスカリバーを超えると噂をされている。

 

そして、このデュランダルは本物であり、本来ゼノヴィアはこの剣の担ぎ手であり、

エクスカリバーは兼任していたに過ぎなかったのだ。

 

ひしぎもその剣の名前は聞いた事があった。

 

「その名前でしたら、私も昔聞いた事があります──聖剣の中でも一番の暴れん坊だと」

 

触れるもの全てを切り刻み、担ぎ手であるゼノヴィアの言う事も聞かず、

危険極まりないので異空間に封印されていたのだ。

 

「私も、本物は初めて見ました──まさか、こんな所でお目にかかるとは」

 

対悪魔兵器の一つであり、悪魔ならば誰もが知っている剣。

 

「流石に、あの聖剣ではデュランダルには耐えられないようですね」

 

十分な力を要したエクスカリバーだが、本物の聖剣には敵わず、一薙ぎで砕き割られたのだった。

そして、入れ替わりに懐に潜り込んだ裕斗にフリードは斬られ、

鮮血を噴出しながら倒れこんだ。

 

そして、その光景を見たバルパーは何かを悟り、言い放とうとしたが、コカビエルの

光の槍に貫かれて絶命した。

 

その彼は、眼下にいるリアス達に何かを言いはなち、漸く腰を上げた。

 

「来い──リアス・グレモリーとその眷属達、俺を楽しませてくれ」

 

そうして、第2ラウンドが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスは一誠から力を譲渡してもらい、特大の滅びの魔法をコカビエル目掛けて放つが、

堕天使のオーラの源である光力を両手に集中させ、時間は掛かったが

その特大の一撃を防ぎきった。

 

「フフフ、フハハハ!いいぞ、今の一撃は中々痺れた!流石はサーゼクスの妹。

 兄に負けず劣らずの才能を持っているようだな!」

 

魔法を受けた際に全てを相殺しきれず、ローブはボロボロとなっており、

所々両腕に傷が出来ていた。

 

「その調子で俺を楽しませてくれ!」

 

両手に光の矢を生成すると、リアス目掛けて放つ──自身のキャパシティを超えて

撃った為、身動きが取れないリアスの眼前に朱乃が入り込み、防御壁を展開、

そしてそのまま、予め術式展開していた攻撃魔法を起動させる。

 

「雷よ!」

 

「次は貴様か!バラキエルの娘よ!」

 

天から降ってくる、雷の嵐を翼の羽ばたきによって消滅させる。

 

「──っ!私をあの者と一緒にするなっ!!」

 

激昂した朱乃は、雷を連発するが、全て翼によって薙ぎ払われていく。

 

バラキエル──堕天使の幹部の名前であり、『雷光』の二つ名をもつ雷の使い手。

単純な戦闘力では、総督であるアザゼルに匹敵するほどの力の持ち主であり、

朱乃はそんな彼の娘であり、とある事情から決別し悪魔となった。

 

リアスは漸く動けるようになったと同時に、朱乃を援護すべく、

滅びの魔法を連発して彼の逃げ道を奪おうとするが、

 

「先ほどの威力ではまだしも、こんな威力じゃ蚊すら殺せんぞ!」

 

そう言って朱乃の雷を翼で軌道を変え、リアスの方に。

リアスの魔法も翼で消滅させず、弾き朱乃の方に飛ばした。

 

「きゃ!」

 

「くっ!」

 

一瞬の事で、咄嗟に防御術式を展開するが直撃を受け、

二人とも地上に落ちる。

 

その様子を見ていた、ゼノヴィアは一気に走り出し、祐斗の隣を通り過ぎ

 

「一緒に仕掛けるぞ」

 

と呟き、デュランダルをコカビエル目掛けて振るが、一瞬で反応した彼は手に

光の剣を生成すると、その一撃を止めた。

 

「やはり、この輝きは本物──しかし、当たらなければどうという事はない!」

 

もう片方に担いでいた『破壊の聖剣』を放とうとするゼノヴィアだが、

コカビエルは空いている手で魔法の波動を放ち、彼女の体を浮き上がらせると、

そのまま腹部に蹴り入れ、吹き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

吹き飛ばされたゼノヴィアは一旦、空中で姿勢を立て直し、地面へ着地すると、

再度突撃を掛ける──今度は裕斗もタイミングを合わせ、同時に斬りかかった。

 

「ほぅ!聖剣と聖魔剣同時に来るか!いいぞ!面白い、実に面白いぞ!

 そのぐらいでなければ俺は倒せんぞ!」

 

空いていた、もうひとつの手にも光の剣を生成し、二人同時の剣舞を

捌いていく。

 

4つの剣を2本の剣でうまく捌いていき、剣の技量さえも祐斗、ゼノヴィアより

高かった。

 

ゼノヴィアの上段攻撃、裕斗の下段攻撃の同時攻撃を斜めに跳ねるだけで回避し、

反撃を入れようとしたその時──小猫が拳を打ち込んだ。

 

「ぬぅ!」

 

予想外の追撃に合い、何とか光の剣をクロスさせ直撃は防いだものの、

剣は砕かれ、土煙を上げながら、吹き飛ばされる衝撃に足で踏ん張りながら、

数メートル彼らと距離を開け停止した。

 

「まさか、こんな力があったとは──やはり戦闘では何が起こるか分からんな!」

 

吹き飛ばされたコカビエルの顔は歓喜に震えていた──ただの打撃で

これほど飛ばされたのは戦後初だったのだ。

 

「──そら!これはソノお礼だ!」

 

両手に剣をもう一度生成し、翼を鋭い刃物化させ、小猫に突撃を掛けた。

コカビエルの突撃スピードは遥かに予想を超えた速度であり、祐斗とゼノヴィアは

小猫を守ろうとするが、一瞬で彼女は切り刻まれ吹き飛ばされ、

地面に叩き付けられた彼女の体からは鮮血が噴いていた。

 

「小猫ちゃん!」

 

「余所見する余裕はあるのか!」

 

コカビエルはそのまま、隙を見せた祐斗の腹部に膝をめり込ませ、崩れ落ちた所に

もう一度蹴りが入り、彼は耐え切れるはずもなく地面へ転がった。

 

その勢いのままゼノヴィアを斬りつけるが、デュランダルと『破壊の聖剣』で

受け止められるが、そのまま翼を駆使して体中を切り裂いた。

 

「くそっ・・・!」

 

体中血飛沫を上げながら崩れ落ちるゼノヴィア。

 

「死ね!」

 

ゼノヴィアに止めを刺そうと光の剣を振りかぶるコカビエル

 

「──させない!聖魔剣よ!」

 

祐斗の叫びの答えた剣は、コカビエルの足元から剣山のように地面から刀身が生え、

咄嗟に後方に飛び、回避した彼の周辺を聖魔剣で固める。

 

「無駄だ!」

 

幾重にも張り巡らされた剣群は、コカビエルの翼によって全て砕かれた。

 

「その程度の強度では、閉じ込める事は不可能だ!」

 

祐斗は、攻撃態勢と整える前に肩へ切りかかろうとするが、

コカビエルは剣を消し、二本指の間に刀身を挟み止めた。

 

「──なっ!でも、まだだ!」

 

空いている片方の手に聖魔剣を生成し、切りかかるが、こちらも

空いているほうの手で同じように止められた。

 

「──っ!これはどうだ!」

 

口元に器用に剣を生成し、柄の部分を口に咥え振るった──

 

流石に虚をつかれたコカビエル咄嗟にバックステップを使い、後方に

回避したが、避け切れておらず頬に線の切り傷が出来た。

 

「しかし、よくも貴様ら仕える主を亡くして、お前達神の信徒と悪魔はよく戦う」

 

そのコカビエルの一言に追撃しようとした祐斗含めて全員固まる。

 

「・・・・・どういうこと?」

 

リアスの呟きに、コカビエルは心底笑い始めた。

 

「フフフ、フハハハハハ!そうか、そうだったな!お前達下々には真相が

 語られていなかったんだな!なら、冥土の土産だ、教えてやる。先の三つ巴の戦争で、

 四大魔王と共に神も死んだのさ!」

 

彼は愉快そうに語った──神が死に、その世界の均衡を守るべく、彼ら三大勢力のトップは

神の死を隠したのだと。

 

人間は神が居なくては心の均衡、法や定めすらも機能しない不完全な者といい、

どこから漏れるか分からないからこそ、堕天使、悪魔さえも

下々の教えるわけにはいかなかったと言い放つ。

 

各陣営は戦後の疲弊状態は凄まじく、人間に頼らねばならなかった為の措置だった。

 

その言葉にアーシアと血溜まりに沈んでいたゼノヴィアは放心状態となる。

彼女達は今の今まで神の存在を信じて生きてきたのに──全てを否定された。

 

「そんな中途半端に、振り上げた拳を下げることなんて、くそ喰らえだ!

 ふざけるな!俺たちは負けていなかった!あのまま継続していれば、

 我ら堕天使の勝ちだったんだぞ!人間の『神器』に頼らねば生きていけない

 堕天使に何の価値がある!だからこそ俺たちは立ち上がったのだ!」

 

部下の大半を戦争で亡くしたアザゼルは『二度目の戦争は無い』と言い放ち、

各陣営も疲弊しきり、神と魔王を失ってまで継続する理由は無かったのだ。

 

耐え難い屈辱を味合わされたコカビエルは持論を強く語り

 

「だから俺一人でも戦争を再開する。お前達の首を土産に、あの日の再現を!

 俺達堕天使が最強だと、サーゼクスやミカエルに見せ付けてやるのだ!

 ──だから、お前達はその礎と成って──死ね」

 

コカビエルは空中に羽ばたくと、両手で特大の光の槍を生成する。

 

「──まずは、貴様ら二人だ、跡形も無く消し飛ばしてやる」

 

血まみれの小猫と放心しているアーシア目掛けて、槍を振り下ろした。

 

「小猫!アーシア!」

 

咄嗟に動ける者、朱乃、一誠が駆け寄ろうとするが光の槍の速度の方が速く

彼女達の脳裏に絶望が走る。

 

大きな光と共に、轟音が立ちこめ、周囲に居たゼノヴィア、祐斗、朱乃、一誠は

その余波で吹き飛ばされた。

 

数メートル吹き飛ばされた彼らの目に写ったのは、立ち込める煙とクレーター。

 

「──そ、そんな」

 

動けなかったリアスは腰を落とした──最愛の眷属が殺されたのだ。

 

「コカビエルゥゥゥゥ!!!!」

 

涙を流しながら、元凶を睨み付けるリアス。

 

「ふん、たかが眷属の一人や二人死んだだけで、そんなに憤るな。

 俺なんて100人は居た部下は、戦後にはたった10人だけだったんだぞ。

 ──たったそれだけで絶望など、甘すぎる。

 安心しろ、眷属全員皆殺しにした後、お前は最後に殺してやる。

 ──ああ、どんな声で泣くかが楽しみだ」

 

愉快そうに表情を歪めるコカビエル。

 

「──さて、お次はそこで放心している赤龍帝の小僧達だ」

 

爆心地を凝視しながら放心している一誠と裕斗に向けて、同じように

特大の槍を生成する。

 

「──じゃあな、赤龍帝。貴様の力はもう少し体験してみたかったんだが、

 とんだ期待はずれだ」

 

そう言い放ち、槍を投擲するモーションに入るコビカエル、すると──

 

「──ん?」

 

先ほど放った爆心地の煙から人影が薄っすらと浮かび上がってきていたのだ。

 

すると、煙の中から黒い1本の腕が出てきて、煙を払った。

 

煙の中から現れたのは、全身黒づくめの男、腰には大刀が納められており、

無表情のままコカビエルを凝視していた。

 

「──何者だ貴様」

 

「・・・・」

 

何も答えない男、その後ろには放心のままのアーシアと、治療が施されていた

小猫の姿があった。

 

「──答えろ!」

 

得体の知れない気配を感じた、コカビエルは光の槍を男──ひしぎ目掛けて

投擲した。

 

ひしぎは避けるそぶりも、慌てるそぶりも見せず、腰にかけていた大刀の

柄に手を掛け、居合いの形を取った。

 

──そして

 

「──コレが貴方の初陣です『夜天(やてん)』」

 

そう、大刀に語りかけると鞘から見えていた刀身が光り輝き、

 

──そのまま大刀を振り抜いた。

 

光の槍は一瞬でその光の斬撃に砕き割られ、そのままコカビエルヘ

 

「ぬう!」

 

自身の槍が砕かれた瞬間、その中から光の洪水が見え、咄嗟に本能で体を

捻ったが──

 

「うおおおお!」

 

光の放流を避け切れず、右腕の付け根から下と、片方の翼全てを両断された。

翼と腕を失い、空中でのバランスが取れなくなったコカビエルは、

苦痛を声に出しながら地上に落下した。

 

「──な、なにが起こったの」

 

状況が把握できないリアス、その瞬間ソーナが隣にの来た。

 

「リアス、今のうちに眷属達に応急処置を」

 

「で、でもまだ戦いは」

 

「いいえ、もう決着も付いたも同然です」

 

ソーナの視界に映るのは、地上に落下したコカビエルが切断面を必死に抑えており、

その傍までひしぎは既に移動していた事。

 

(よほど小猫さんがボロボロにされた事に、怒ってるみたいですね)

 

ひしぎの醸し出す雰囲気を読み取ったソーナは、少し心が痛くなった。

 

(──っ、どうして痛みが?)

 

その痛みがどういったモノか、まだ把握できていないソーナ。

 

──それは小猫に対しての嫉妬だった。

 

そんな事を今まで感じた事が無かったため、困惑しながらも、倒れている

ゼノヴィアや小猫の介抱を始めた。

 

 

 

「き、貴様!よくも俺の翼と右腕を──っ!」

 

憤怒の形相をしたコカビエルが震える両足に力を入れ立ち上がった。

 

「──殺してやる!殺してやるぞ!」

 

残った左手で光の剣を生成し始めるコカビエル、流石に痛みにより

集中力が続かないのか、先ほどまで一瞬で造り上げた剣でさえ、時間が掛かっていた。

 

それを無表情で見つめていたひしぎは、顔を少し振り返りながら小猫の

様子を視界に入れ──向き直り、漸く喋りだした。

 

「──しかし、貴方も不運ですね。私の教え子に手を掛けるとは、

 もう、楽に死ねるとは思わないでください」

 

 




こんにちは、夜来華です。

始めに、ひしぎさん無双を期待していた読者様、本当に申し訳ございません。

今回最初から介入させてもよかったのですが、木場君の『禁手』イベントが
合った為、話の構成上どうしても外せなかったので、こういう構成に
なりました。

本当に期待していた方、すみません。

感想、誤字脱字、一言頂けると嬉しいです。


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第9話 慈悲

本当にアレが人間なのかよ──

あの特大の光の槍をまともに喰らって無傷とかありえないだろ

もう、俺の常識が今にも崩れそうだ




リアス達の目には、あれほど一方的な強さを誇っていたコカビエルが一方的に

やられる様を見せ付けられていた。

 

「まずは、一本」

 

光の剣を振りかぶり、上段から切り掛かってきたコカビエルに対して、ひしぎは体を少し

ずらすだけで回避し、すれ違いざまに剣を握っている薬指と小指を掴み、そのまま逆の方向へ、

鈍い音を出しながらへし折った。

 

「がっ!」

 

痛みを堪えながら、相手の手を振りほどき勢いよく体を回転させ、ひしぎの居た場所に剣を

薙ぐが、すでに彼は居なくなっていた。

 

彼の姿を探そうと顔を回していたら、背中に拳が叩き込まれ、正面から地面へ

倒れこんだ。

 

「────!!」

 

既に声にならない叫びを上げるコカビエル──だが、彼の目はまだ死んではおらず、

必死にひしぎに喰らい付こうとして、震える四肢に力を込め立ち上がった。

 

「く・・・・貴様・・・!」

 

「ふむ、まだ言葉を喋れる元気はありましたか──では」

 

その瞬間またもやコカビエルの視界から彼の姿が消えうせ──

 

「あああああああ」

 

口の両側に生えていた上の牙2本を無理やり抜かれ、口周りから血が噴出した。

剣を落とし、口を押さえるコカビエルだが、血は止まらず、

腕と翼の傷は筋力に力を入れ、魔力で補強したお陰で血は止まっていたのだが、

ここに至るまで流しすぎて、意識が朦朧とするコカビエル。

 

自身をここまで追い詰め、一方的な実力差を感じた瞬間、恐怖が心を襲った。

 

人間如きに後れを取る事など──考えてもなかった。

特殊な『神器』、『神滅具』を持っているなら、まだ納得、理解は出来るのだが、

この人間は、そういう類の物を一切持っておらず、武器はただ腰に掛けてある

大刀のみだった──なのに、これほど圧倒される事が理解不能で、

コカビエルの脳内は混乱を極めていた。

 

「──貴様・・・本・・当に、人間・・・か」

 

口の中が血の味で充満しながらも、漸く搾り出した言葉に、ひしぎは

漸く動きを止めた。

 

「──ええ、ただの人間ですが何か?不思議ですか?堕天使である自分が、

 ただの人間にここまでされる事が」

 

「あたりまえだっ!たかが人間如きに、堕天使である俺が負けるはずがない!」

 

コカビエルの咆哮に鼻で笑うひしぎ。

 

「──それは貴方の持論です。世の中には、人間であっても貴方達の云う"神"と同等以上に

 力を持つ者もいるのです。たかが数世紀生きただけで人間を下等と蔑む貴方は、

 世界を知らなさ過ぎる」

 

そう、ひしぎの考えが当たっていれば、この日本中のある場所にコカビエル以上の力を持つ

人間はいる。

 

「それに、先ほど貴方は自身の欲望の為に戦争を再開すると言っていましたよね?」

 

確認すような口ぶりで聞き返すひしぎ。

 

「ああ、そうだ!俺はこの世界を、俺の欲望を満たすためだけに混沌に落とす!

 誰にも邪魔させねぇ!──戦争の中こそが俺の故郷だ!戦いこそ俺の生きがいで全てだ!

 戦いの中で死ねるなら本望だ!俺の望みは戦争の中にしかない!

 戦いのない日常など、滅びてしまえばいい!戦うために"力"を持ったのに、

 それを使わずして何に使うと云うのだ!アザゼルもミカエルもサーゼクスも

 俺から言わせてみればみな腑抜けだ!牙、爪のない肉食獣ほど怖いものは無い」

 

「コカビエル貴方・・・!どこまで魔王様を侮辱すれば気が済むの!」

 

コカビエルの叫びを聞いていたリアスが憤る。

 

「はん!戦わぬ魔王を侮辱して何が悪い、本当の事だろう!

 本来悪魔は、戦うべくして生まれた存在だ、その存在意義を忘れた時点で

 悪魔は滅びるべきだ!天界もそうだ!悪魔の存在を野放しにしている時点で、

 同罪だ──だからこそ、本来あるべき姿に戻す、あの頃のようにな!」

 

コカビエルは確かに戦争を望んでいた──だが、自身の欲望ともう一つ理由があったのだ。

天使、悪魔、堕天使は本来あるべき姿に戻って欲しいと、言葉には出さないが

深層心理の奥底で願っていたのだ。

 

牙を失った彼らを見ていると、存在意義をどんどん忘れていき、将来全ての種族が

消えてしまうのでは無いのか、と思っていたのだ。

 

先の大戦後、徐々に戦闘意欲が失われていく中、一つの解決策を思いついたのだ

──戦争を起こせば再び彼らは存在意義を思い出し、闘争本能が目を覚まし、

自分達が何者であるかを思い出すと。

 

(俺は俺である為に戦いを欲した!)

 

戦争の無くなった日々は、徐々に自身の心を大きく蝕み、精神が磨り減り、

自分自身の存在が無くなるとさえ思えるようになり、恐怖まで感じたのだ。

 

そして、このまま戦争のない日々を生き、朽ちていくなら──戦闘の中で死にたいと

思えるようになり、残った部下に自身の意思を伝え、行動に移したのだ。

 

だからこそ、こんな所で躓くわけにはいかなかった。

 

「俺は──俺は!俺の存在意義を確かめる!──だから邪魔をするな!人間!」

 

コカビエルの心からの叫びに、目を伏せたひしぎ

 

(ああ、なるほど──自分自身が失われていく恐怖を感じていたのですね)

 

言葉にしていなかったが、彼の深層心理を読み取り理解した──だが。

 

「──貴方の言っていることは分かりますし、否定もしません。

 確かに、貴方の言っている世界こそが本来あるべき世界なのかも知れません」

 

「ならば、なぜ俺に攻撃する!」

 

自身の言葉を肯定するひしぎの考えが分からなかった。

 

「私は、この世界がどうなろうと興味がありませんし、戦争が起ころうが起きまいが

 興味ないです。知ったことではありません。

 ──だけど、貴方はソーナの命を狙い、私の教え子を傷つけた」

 

戦争を再開するための生け贄としてソーナを殺そうとした事、彼と戦い傷ついた小猫の為に

剣を振るうのだ──それ以外の理由など無い。

 

「──たった、それだけの理由でか?」

 

そんなちっぽけな理由で自身の行動を阻害されたコカビエルは怒り散らした。

 

「ふざけるな!ふざけるなよ!たがか、小娘達の為に邪魔をするだと!?

 たったそれだけの事で俺の夢を、願いを壊されてたまるか!」

 

「貴方にとってはちっぽけと思いますが、私にとっては世界よりそちらの方が

 重要でなのです」

 

第二の人生を歩み始めたひしぎにとって、世界がどうなろうと関係なかった。

 

自分が思うように生きると決めたので、降りかかる火の粉は振り払うが、

積極的に世界に干渉しないと決めたのだ。

 

ただ、例外となるのはソーナと小猫の二人の事。

 

自身の存在を認めてくれた子と、自身が見てあげないと壊れそうな子、

二人を守るためならば、この忌むべき力すら全て使用すると決めた。

 

故に、ソーナを殺そうと画策した事、小猫を傷つけたコカビエルを許せなかったのだ。

 

「──ですので、もう死んでください」

 

ひしぎが大刀を抜き、上段から斬りかかり、コカビエルはそれを受け止めようとして、

光の剣を横に構えるが

 

「無駄ですよ」

 

大刀と光の剣が接触した瞬間、光の剣は一瞬で真っ二つになり、そのまま肩から、

腹部まで縦に切り裂かれ、血しぶきが舞う。

 

そのまま、ひしぎは動きを止める事無く、背後に回り一閃、

前のめりになるコカビエルを正面に移動し、アゴを蹴り上げ浮上させた。

 

「彼女の痛みはこれだけではありませんよ──」

 

ひしぎがコカビエルの体を浮上させるように斬り上げていく。

彼の体は斬られる度に、空中へ上昇していき──浮上した直後は、

どうにかもがいていた彼だが、十を越えた辺りで既に抵抗らしい抵抗は無くなり、

斬られるままに上昇していき、高さが数十メートル越えたときに、ひしぎは斬るのをやめ、

彼の上へ回り込み、体を捻り回転させ勢いをつけ、彼の腹部に右足をめり込ませ、地面へと叩き落した。

 

轟音と共に地面へ激突し土煙が舞い、数メートルのクレーターを生成する。

煙は晴れ、陥没した地面の中心には全身血まみれで咳き込んでいる

コカビエルの姿があった。

 

「ごふ」

 

全身を斬り刻まれ、今の蹴りで内臓数箇所と背骨が折れ、

既に立つ事も、剣を握る握力さえも失っていた。

 

辛うじて意識を繋ぎ止めているコカビエルの心は既に、恐怖と絶望に塗り替えられていた。

 

(なんなんだコイツは・・・!──殺される!)

 

いかに歴戦の猛者であったコカビエルであっても、ここまで一方的に蹂躙され、

遂に心が折れてしまったのだ。

 

空中から自由落下を始めるひしぎは、コカビエルの姿を視線に入れると、

『夜天』を鞘にしまい、居合いの形を取る。

 

(やばいやばい!逃げなければ!)

 

その形を視界に入れたコカビエルは必死に腕や足に力を入れるが、まったく

動かなかった。

 

既に上空に斬り上げられた際に、肩の腱、足の腱、手首の筋肉を両断されており

痛みのあまり、いつの間に斬られたのかが分かっていなかった。

 

(光が──光の洪水が来る!)

 

自身の最大魔力をつぎ込んだ光の槍を割った攻撃が──来ると感じたのだ。

 

「・・・・」

 

ひしぎは無表情のまま、光速で2本放った──

 

光の斬撃は2本、コカビエル目掛けて放たれた。

 

「あぁぁ──あああああああああ!」

 

もう叫ぶ事しか出来ないコカビエル──無慈悲にも光の洪水が彼に降り注ぐ。

 

大音量の大地を割る轟音と共に、衝撃波で周りの視界が土煙で塞がる。

 

「きゃ!」

 

あまりの圧倒的な戦闘であった為、言葉を忘れたような感じで凝視していたリアスと

グレモリー眷属達は、突如発生した衝撃波により、吹き飛ばされてしまう。

 

「うぉ!」

 

「くっ!──一誠君捕まるんだ!」

 

咄嗟に祐斗は聖魔剣を地面に突き刺し、飛ばされていた一誠を掴み、足に力を入れ踏ん張り始める。

 

「リアス、掴まって!」

 

「──っ!ソーナ!」

 

予めソーナに周辺に結界を張っていたひしぎ、そのお陰でソーナは余波を受けずに居た。

 

飛ばされてくるリアスと朱乃を咄嗟に掴み、結界内に引き込む。

 

そして、勿論小猫の周辺にも張っていたので、小猫とアーシア、治療中の

ゼノヴィアも結界内に入っていたので飛ばされずに済んだ。

 

「・・・これは」

 

その轟音で、コカビエルに切り刻まれた際に意識を失っていた小猫が目を覚まし、

周辺を見て呟いた。

 

「行き成り、ソーナ会長と黒ずくめの男の人が助けに来てくれて、今黒ずくめの方が、

 コカビエルと戦闘中なのです」

 

アーシアは事の顛末を簡単に説明する──すると、アーシアに治療されている

ゼノヴィアが補足した。

 

「戦闘中──いや、蹂躙中と言った方があっている気がする──私たちが、束になっても

 かすり傷しか負わせられなかったコカビエルが手も足も出ない状態なんだ」

 

自身達に圧倒的な実力差を見せ付けたコカビエルが、まるで赤子扱いされている。

 

「──恐らく、アレはまだ実力の半分も出しておらず、コカビエルをギリギリ生かしながら

 痛めつけているように見える」

 

ゼノヴィアの言うとおり、ひしぎは実力の半分以下しか出していないのだ

──体が回復しきっていないので、今出せる力を調整し、コカビエルを生かしながら、

斬り刻んでいた。

 

本来ならば、一太刀で楽にさせてあげるほどの優しさを持つ彼だが、ソーナの命を狙い、

小猫を傷つけた報いとして、戦闘しながら死ぬ事が本望だと、言ったコカビエルの

願いを叶えさせない為に、徐々に命を削り、絶望と恐怖を与える事にしたのだ。

 

──それが、彼がコカビエルに与える罰。

 

「──ああ、見ているこっちが恐怖を感じるほどの実力差──まるで『処刑人』だな」

 

ゼノヴィアの目には、罪人を断罪する処刑人に見えたのだ。

 

「・・・・」

 

小猫はゼノヴィアの言葉を聞きながら、黒ずくめの男を捜し、正体の確認を急いだ。

 

(黒ずくめの男性──あの人しか居ない)

 

既に脳裏に映し出しているのは、白衣を来たひしぎ──ただ、本当かどうかを

確認したかったのだ。

 

そして、漸く視界に写す──ひしぎはゆっくりと地面へ向けて降下中だった。

 

(──ひしぎさん)

 

「ちなみに、小猫ちゃんの体の治療をしたのもあの人です」

 

アーシアがひしぎを指差す。

 

「──え?どういうことですか?アーシア先輩の力ではなく?」

 

その言葉に耳を疑った小猫。

 

「残念ならが本当の事だ。アーシア・アルジェントは君を治療していない、

 あの男が君に手をかざすと、彼女の『神器』と同様に暖かい光が

 体を包み込み、体を癒したのだ」

 

コカビエルに切り刻まれた小猫を治療すべく、アーシアは駆け寄ろうとするが、

あまりにも戦闘が激しく、余波も激しく近づけずにいた。

 

そして、漸く小猫の元に辿り着き治療を開始し始めようとした時に、あの槍が

投げつけられたのだ。

 

その瞬間アーシアは目を瞑り、近くで倒れていたゼノヴィアは虚ろな目で

その槍を凝視して──死んだ、と思った瞬間に、行き成り黒い影が彼女達の前に表れ、

片腕でその槍を地面へ叩き落としたのだ。

 

その衝撃に呆気に取られていたゼノヴィアの視界に、黒ずくめの男が立っており、

そのまま横たわる小猫の横に膝を付き、優しく顔を撫でた。

 

「──よかった、間に合いました」

 

黒ずくめの男──ひしぎは、安堵をもらすとすぐさま椿姫と匙に施した様に、

小猫にも法力治療を開始した。

 

「──だ、誰ですか!?」

 

漸く目を開けたアーシアは正面に居たひしぎにびっくりして後ずさった。

 

「怪しいものではありません。ソーナと共に助っ人に来た者です」

 

ひしぎはそう言うが、彼女達の目には黒ずくめで怪しい人物にしか見えなかった。

 

「──小猫さんの治療は終了したので、貴方はそちらで倒れているお嬢さんを

 治療してあげてください」

 

そう言ってひしぎは立ち上がると、彼女たちを庇うようにして立った。

 

「あの者は私が処理しますので、安心してください」

 

そして、コカビエルとひしぎの戦闘が開始されたのである。

 

 

 

 

「と、云う状況だったのだ」

 

ゼノヴィアの説明に漸く事態を把握した小猫──でも、一つ腑に落ちないことがある。

 

「──あの人もアーシア先輩と似た『神器』を持っていたんですか?」

 

その疑問に、ゼノヴィアとアーシアは首を振る。

 

「いや、『神器』の気配はなかった」

 

「ええ、感じたのだ彼の"(オーラ)"だけでした」

 

『神器』を使用していたのならば、それ特有の気配があるのだが、まったく

ひしぎにその気配を感じられなかったのだ。

 

そして、アーシアは"気"の流れが彼から放出されている事ぐらいしか分からなかったのだ。

 

「──謎ですね」

 

小猫の呟きに、二人は頷く。

 

そして、そのまま小猫はひしぎの姿を再び視界に入れ──

 

(──助けに来てくれた)

 

自身を治療し、あまつさえコカビエルと戦ってくれている彼の姿を見ているだけで、

心の奥底が暖まる感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは静かに陥没した地面の中心に降り立つと、眼下に横たわっている

コカビエルを無表情に眺めた。

 

「ぅ・・・・ぁ・・・・」

 

既にうめき声でさえ消えかかっているコカビエル。

 

今の攻撃で残った片腕と片翼5枚、両足が両断されており、四肢全てを失った。

 

涙と血でぐちゃぐちゃになっているコカビエルの表情はとても痛ましいと、

思えるほどであったが、ひしぎは顔色一つ変えなかった。

 

ただ、この惨劇はあまり他には見せたくない──と、心の中で思うだけであった。

丁度地面が陥没しており、彼女たちからはコカビエルがどんな風になっているかが

ハッキリ見えないのが幸いであった。

 

「・・ご・・・ごろ・・じ・・で・・・ぐ・・れ」

 

必死に声を絞り出し、懇願し始めたコカビエル──既に痛みで気が狂いそうなほどであり、

唯一戦士としての本能が、それを押しとどめていたのだ。

 

「──貴方はこの戦いで、満足できましたか?死ぬ寸前まで、戦えたのに、

 どうしてそんな事を言うのです?」

 

彼は、戦いこそが本望と言っていた──だが、既に心が折られたコカビエルには

それを反論する事すら出来なかった。

 

「だ・・のむ・・・」

 

答えになっていないコカビエルの返答に、ひしぎはため息を付くと──

 

「──分かりました。流石にこれ以上苦しませるのは私の趣味ではありません」

 

そう言ってひしぎは腰を屈め方膝を地面へつき、左手の掌を彼の目の前に突き出した。

 

「──せめてもの慈悲です、痛みはありませんよ。塵も残さず消えるだけなので」

 

ひしぎは目を瞑り、左手に宿っている"力"に語りかけた。

 

(左手に宿りし"悪魔の眼(メドウーサ・アイ)"よ、今再び姿を表せ──)

 

コカビエルは見た──つき出された左手の掌が上下に割れ、その中から見るもの

全てを惹きつける、悪魔の魔眼が表れ、自身を凝視し脈を打っている。

 

目を直視した瞬間、彼の切断された両手両足部分は石化が始まり"灰化"し始めた。

更々と砂が崩れるような音が、聞こえ始めた。

 

「・・・な・・・に・・・」

 

そして、自身の体が石化した部分から灰化していく様を見、呟いた。

 

「この眼を見たモノは全て"灰化"する──では、さようなら堕天使の若き戦士よ」

 

"悪魔の眼(メドウーサ・アイ)"を掌から消すと、ひしぎはコカビエルを一瞥

すると、立ち上がり背を向けた。

 

既に頭、顔も"灰化"が始まっていたコカビエルは、呟く事も出来ず、そのまま灰になり、

風と共に散っていった。

 

コカビエルが消滅した為、校庭あった魔法陣も光が消えていき、同じく消滅した。

 

これで、街が消滅せずに済んだのだ。

 

そしてその光景を見て、何も言葉が出ないリアス達。

少なくとも自身達は悪魔であり聖剣使いであり、ただの人間より強いと自負していたが、

今までの彼女達の常識を多い覆す出来事が一度に起こり、整理する

時間が必要になった。

 

「──そんな・・・あの古の化け物が、ただの人間に負けるなんて」

 

リアスの脳内ではコカビエルを圧倒できる者は、数える程度しか思い浮かばなかった。

 

それが、突如表れた人間がやってのけた事実が、よほど衝撃的だったのだ。

 

ソーナは先ほど実力を目の当たりにしていた事で、立ち直りが早かったが、

流石に、コカビエルさえもここまで圧倒できるとは予想外だった。

 

「──ひしぎさん」

 

漸く、ソーナは思考を切り替え、ひしぎの元へ駆け寄ろうとした瞬間。

 

「──ソーナ。戦いはまだ終わっていないみたいです」

 

ひしぎは言葉で静止を掛け、視線を空へ向け──

 

「あの者が残っているので、そのまま結界内にいてください」

 

ひしぎの視線を追い、彼女たちも視線を空へ向けると、そこには白き全身鎧(フルプレート)

身を包み込んだ者が居た。

 

顔も鎧の一部に覆われており、中に居る者の表情が伺えない。

 

背中から生える8枚の光の翼は神々しさを醸し出しており、見るもの全てを魅了する

美しさであった。

 

だが、彼女たちには見覚えのあるシルエットだった。

 

──そう、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

一誠の鎧姿と酷似していたのである。

 

『・・・・『白い龍(バニシング・ドラゴン)』』

 

ポツリと呟いたのは、一誠の籠手に宿る『赤い龍(ウエルシュ・ドラゴン)』であった。

 

ひしぎと彼女達の視線に気が付き、白の全身鎧が降下してきた。

 

「・・・ふふふ、俺の存在にも気が付くとは」

 

全身鎧から発せられる声は男の声であり、存在を感知された事に喜びを感じていた。

 

「──早速で悪いが、勝負だ!」

 

男はそう言い放つと、一直線にひしぎに向けて降下し始めた。

目にも留まらぬスピードは白き閃光と化し、夜闇を切り裂きながらひしぎへ突撃をしかけ、

拳を振りかぶった。

 

金属がぶつかる音と大地が割れる音が同時に発生し、周囲に響かす。

ひしぎは鞘から抜いた『夜天』の刀面で白き龍の拳を受け止めいた。

 

だが、降下の勢いと白き龍の実力が合わさり、受け止める事が出来たが、

ひしぎの足元には地面がその威力、衝撃が殺せず地割れが起きてしまった。

 

そのまま『夜天』に力を入れ、白き龍の腕を弾き返したひしぎ。

 

「──っ!」

 

弾き返された勢いに身を任せ、白き龍は距離を取る──ただの人間に、

力で負けるとは思っていなかったのだ。

 

「まさか力で俺が負けるとは──面白い!」

 

白き龍は構えを取り、再度突撃を掛けようとした瞬間、白の全身鎧に埋め込まれていた

宝玉が突如光を発した。

 

『待て!ヴァーリ!弾かれた腕を見てみろ!』

 

ヴァーリと呼ばれた男は声の指摘に素直に従い、弾かれた右腕を見た。

すると──小指の部分から肘にかけて鎧が斬られていたのだ。

 

「なん・・だと・・」

 

ひしぎは彼を弾き返す瞬間に、刀面を一旦下げ、腕が進む前に一瞬で刃の部分と入れ替え

弾いて見せたのだ。

 

『腕は切られていないが、踏み込みが後1歩前進していたら腕は裂かれていた』

 

冷静に分析する宝玉の声に、ヴァーリは鎧の中で歓喜な表情を浮かべていた。

 

(こいつは──本物だ)

 

足に力を込め始めると8枚の翼が今まで以上に光を発した。

 

(次の一撃で──決める)

 

彼を中心に、地面は力の圧力が掛かりひび割れ始め、圧倒的な力の流れに、

物理法則を無視して石が上空に舞う。

 

小細工などひしぎには通用しないと思い、全身の力を足と腕に集中させる。

既に一撃目で実力差を感じていた──だが、彼にはソレは戦闘を止める

理由にはならなかった。

 

彼もコカビエルと同じく、戦いを愛するものであり、戦闘狂であったのだ。

 

故に──コカビエルと戦えると期待していた彼の視界に入ったのは、

圧倒的に蹂躙されるコカビエルの姿だった。

 

その姿を見ていたヴァーリはアザゼルからの命令を忘れ、

戦ってみたいと思ったのだ。

 

「ハァァァ!!」

 

膨大な力の奔流を体に巻きつかせながら、咆哮と共に地面を蹴るヴァーリ。

蹴られた地面は力によって爆発し、周囲に石や砂を撒き散らかす。

 

「・・・・」

 

先ほどより突撃速度が上がっていたが、ひしぎは無言のまま彼を見据え、

一瞬で距離がゼロとなり、拳を突き出すヴァーリ

 

(今度こそ──捉えた!)

 

自身の視界には避けず、ただ佇むひしぎが写っており、拳が彼の腹部に

突き刺さろうとした瞬間──頭部が掴まれ地面へそのまま叩き付けられた。

 

「がはっ!」

 

自身の突撃の衝撃をそのまま頭部に受け、

顔の鎧が割れ、苦悶をもらすヴァーリ、叩き付けられた威力により、

彼の中心から約10メートルのクレーターが出来上がった。

 

「──まったく。行き成り襲い掛かってくるとは、お仕置きが必要ですね」

 

ひしぎはそう言って、左手で彼の頭部を押さえ込み、右手に力を込め振り下ろす。

 

「ぐっ!」

 

鎧で覆われていたはずの左足は、鎧を砕き割られ、そのまま中の足の骨まで粉砕された。

足を潰された事により、悲鳴が漏れそうになるが我慢するヴァーリ

 

「──さて、質問します。貴方は何をしにここに来られたのですか?」

 

ひしぎはとりあえず目的がわからないので、質問した。

 

「──っ!」

 

割れた鎧の中から見える銀髪で端正な顔立ちの男──ヴァーリは、

ひしぎを睨み付け、言葉を発さなかった。

 

言葉を発してしまったら、戦いが終了してしまうと思ったのだ。

 

「──ふぅ。答えないつもりですか。分かりました。

 ──全身砕き割られる事がお望みなんですね」

 

答えるつもりが無いと判断したひしぎは一旦ため息を付くと、もう一度右手を振りかぶり

今度は腕を砕こうとした瞬間──

 

『堕天使総督アザゼルからの命令でコカビエル回収の為にやってきた!

 貴殿と戦う為に来たのではない!』

 

いきなり宝玉が光を発し話し始めた。

 

「っ!アルビオン!お前!」

 

突如事情を話しはじめた宝玉──アルビオンにヴァーリが止めようとするが。

 

『ヴァーリ!お前はここで再起不能にされるのが望みなのか!違うだろう!

 少し頭を冷やせ!私達は、戦いに来たのではない!』

 

アルビオンに言われ、ヴァーリは下唇を噛んだ。

確かに彼ら悪魔側と戦いに来たつもりでは無かった──故に言い返せなかったのだ。

 

「──訳を話してもらえますか」

 

ヴァーリを拘束していた左手を離し、宝玉へ語りかけるひしぎ。

 

『相方の暴走を謝罪する』

 

アルビオンはヴァーリの取った行動を謝罪し、自身達が来た理由を語り始めた。

 

元々堕天使の総督であるアザゼルは、コカビエルの不穏な行動に早くから目を付け

監視をつけていた。

 

そして不穏分子を全員炙り出す為にそのまま泳がし、監視していた。

そして漸くコカビエルが動いたので、自身の部下である『白い龍』に事態の収拾、

即ち、コカビエルの回収を頼んだのだ。

 

居場所を突き止め、現地に着いた頃には既にコカビエルはボロボロであり、

負けていた。

 

元々コカビエルと戦う気でいたヴァーリーは相手をとられた事により

不完全燃焼に陥り、そのまま暴走してしまい、ひしぎを襲ったのだ。

 

「なるほど、貴方達の事は理解できました──ですが、彼は私が消してしまったので」

 

『ああ、それはこちらでも確認した。だから、そこで伸びているエクソシストだけ

 回収する』

 

裕斗に負けたフリードは依然意識が無いまま、校庭に転がっていた。

 

「──では、早々にお願いしてもいいですか?」

 

『了解した──ヴァーリ。仕事だ』

 

「──ああ。分かったアルビオン」

 

アルビオンの話を黙って聞いていたヴァーリはその間に頭を冷やし、頷いた。

 

左足は砕かれて使えないが、翼で空中を飛び、フリードを肩に担ぎ上げ、

ひしぎの方に顔を向けた。

 

「──貴方、名前は?」

 

「ひしぎと云います」

 

ヴァーリの質問に名乗るひしぎ。

 

「また、いつか俺と再戦してくれ──」

 

続く言葉に目を丸くするひしぎ──彼は、実力差を見せ付けられてもなお、再戦を

希望する。

 

ヴァーリの目はコカビエルとは違い、生き生きとしていた。

 

(──なるほど、厄介な人に目を付けられたかもしれませんね)

 

まるで、おもちゃを見た子供のように無垢な表情を浮かべているヴァーリ

 

「──ええ、分かりました。いずれまたお相手しますよ」

 

そういう表情を見せられたら、断りきれなかったのだ。

 

その答えに満足したのか、そのまま飛び去ったヴァーリ。

 

その姿が消えるまで見届け、漸く長い戦いが終了した。

 

誰もが予想できなかった、一方的な蹂躙でコカビエルの死。

 

白き龍の到来。

 

その二天龍の片割れすらも圧倒した人間の存在。

 

今までの彼女達の常識を多い覆す出来事が一度に起こり、整理する時間が必要に

思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその30分後大急ぎで来た魔王直属の援軍が到着し、リアスとソーナは

事の顛末をとある部分を濁し、改ざんしながら説明し、事後処理を彼らに任せ、

体を休めるために皆、帰宅した。

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

ちょっとやりすぎた感のある話です。
そして、ヴァーリーがひしぎに興味を持ち、一誠を無視しての撤退。

原作乖離の部分がまた徐々に浮き出て来ました。
ちなみに、アーシアのコカビエルの呼び方は呼び捨てだったでしょうか?
調べてみたのですが、見つからず呼び捨てで書いてみました。

感想、誤字脱字、一言頂けると嬉しいです。


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第10話 夢に向けて

人間でありながらも、最上級悪魔、魔王に匹敵するほどの力


そして彼はまだまだ本調子では無いと言う


だったら、貴方の本気は──



コカビエル襲撃事件から数日後、ソーナに用があったリアスは生徒会室を

訪れていた。

 

「どうぞ」

 

生徒会室の備品の一つのソファーに腰を落としているリアスに、お茶を出す椿姫。

部屋の中には会長用の机で書き物をしているソーナと、そのお供である椿姫と、

訪れたリアスだけしかおらず、その他のメンバーは休暇を命じていた。

 

「──ごめんなさいリアス。今終わったわ」

 

生徒会業務を優先していたソーナはそれを終え、書類を机の中にしまい、

彼女の対面へ移動し腰を下ろした。

 

その彼女の後ろで椿姫が待機の状態をとり始めた。

 

「仕事中ごめんなさいね──だけど、私が訪れた理由は分かるわよね?」

 

「──彼の事ですか?」

 

「ええ──単刀直入に聞くわ。彼は一体何者なの?」

 

あの戦闘後、ソーナは彼の正体は後日説明するといいあの場を後にしたのだ。

本当はその場で問い詰めたい衝動に駆られたリアスだが、事後処理を

優先しなければならなかったので、後回しにした。

 

彼の正体が分からないが、彼があの場を救ってくれたのは事実。

だからこそ、待てたのだ。

 

──心底期待していたリアスにソーナが返した言葉は

 

「ごめんなさい。貴方であっても彼の正体は言えない」

 

拒否の言葉であった。

 

「──なっ!」

 

流石のリアスも開いた口が塞がらなかった。

 

「たとえ魔王様に聞かれても"今"は答える事ができないの──そう彼と約束したから」

 

ひしぎ自身から、自分がある確証を得られるまで、正体を明かさないで欲しいと

約束したソーナは、例え魔王である姉から聞かれても答えるつもりは無く、

あの時は場を収める為に後日説明すると口走ってしまった事を少し後悔していた。

 

たとえ明かしてもいいと言われても、どう説明をすればいいのか分からない部分もある。

 

幻の一族であり、自分達は彼らの存在すら知らず、童話の御伽噺程度でしか聞いた事が

なかった為である。

 

「──それで、私が『ええ、わかったわ』なんていうと思った?」

 

「いえ、思っていませんよ」

 

そんな簡単に引き下がる彼女ではないと、ソーナは嫌と云うほど知っている。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

無言でにらみ合う二人、お互い性格を知り尽くしているが故、どちらも譲らず

引き下がらない。

 

「──私はこの件を詳細にサーゼクス様に報告しなければならないの。

 彼の正体が分からなかったら報告しようが無いの──お願い」

 

今回リアスの領土で起きた事件であり、その領土の主たるリアスが魔王へ

直々に説明しなければならないのだ。

 

事件の詳細は見たことそのまま報告できるが、自身の領土に正体不明の人間が、

圧倒的な力を振るい、コカビエルと『白き龍』を撃退した事も報告しなければならない。

 

だからこそ、詳細を求めたのだ。

 

「──リアス。今回の事件の報告は全て私がするわ──勿論サーゼクス様にも

 私から話します」

 

ソーナは彼女の願いを拒否し、全て自身が処理すると言ってきたのだ。

 

「──本気?ここは私の領土なのよ?」

 

リアスのその言葉、その考えに"危険"を感じたソーナは一旦深呼吸した。

 

「ええ、分かってるわ。でも、ここは"人間界"なのよ? 例えこの場所が貴方の領土であっても

 それは私たち悪魔が勝手に決めた事です──リアス、親友として忠告しておきます。

 決して人間を私たち悪魔や堕天使、天使達の庇護が無ければ生きていけない存在と

 驕らないように。

 あの人と同じように、その気になれば一瞬で私たちを葬る力を持っている人が

 いるかもしれません」

 

身近にいたソーナだからこそ、ひしぎが明らかに万全でない状態でもコカビエルを

圧倒できる実力を持っているのだ。

そして実際に見てしまった力を理解したソーナの言葉は"重い"

それに彼の予測が当たっていれば、自分達より強い人間が大勢居るという話なのだ。

 

実際人間を蔑み、見下している悪魔は大勢居る──人間界に侵略が無いのは、

3竦みの状態と現魔王達の政策のお陰でもある。

 

万が一、その状態が崩れ侵略などが開始されたら──と、想像するだけで背筋に

悪寒が走ったソーナ

 

「それに貴方も感じたはず──どんなに気配を、強さを測ろうとしても測れず、

 ただの人間としてしか感じなかったことを」

 

戦闘前のひしぎの発する気配は、そこいらに居る人間と何の変わりも無かったのだ。

そして、戦闘が始まってから一度も気配が代わることがなかったのだ。

 

「──この件は私が責任をもって報告させてもらいます。 

 例え貴方であっても譲る事が出来ないの──ごめんなさい」

 

今回起きてしまった事は確かに、ソーナが報告すべき事では無いのだが、

自身と学校を護ってくれたひしぎに恩を返すべく、約束を守ると決心したのだ。

 

お互いの瞳を見つめあうこと数分間──先に折れたのはリアスだった。

 

「──ふぅ。わかったわ、好きにして頂戴」

 

ため息を付き、柔らかい表情を浮かべるリアス。

 

「ありがとう──今度何か奢らせて貰うわ」

 

同じく表情を崩すソーナ。

 

事件を起こした犯人が堕天使の幹部という事であり、報告には詳細を

求められており、リアスは一瞬心の中で強行策を考えていたが、

親友であるソーナの為、そして何より強攻策に出ても返り討ちに合うと確信したのだ。

 

コカビエルにさえ手も足も出なかった自分達。

 

それを圧倒した彼の前に何が出来ようか・・・・。

 

考えてみたものの、現実的ではないと判断しその考えを捨て了承したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この事件のお陰で各陣営に緊張が高まったのは事実。

悪魔側としては、堕天使側への責任と説明の要求を打診し、天使側は悪魔側に

『堕天使の動きが不透明で不誠実なため、遺憾であるが連絡を取り合いたい』と、

そして、バルパーを過去に取り逃がした件を謝罪してきたのである。

 

堕天使側──総督アザゼルから直接両陣営に連絡が来て、エクスカリバー強奪は

コカビエルとその一派の単独行動であり、他の幹部は知らなかったという事。

自分達の組織の者が起こした暴動は自分達の組織のもので収拾させる為に、

白い龍(バニシング・ドラゴン)』を派遣したが、何者かにコカビエルは

消滅させられたと──その者についての詳細を両陣営側に求めていた。

 

本来ならば、再び戦争を起こそうとした罪により『地獄の最下層(コキユートス)』で

永久冷凍刑が執行される予定だった。

 

だが、コカビエルは灰化により死体すら残らなかったのだ。

 

そして、アザゼルの要求で天使側の代表、悪魔側の代表が集まり会談する事となった。

事件に関わったとされるリアス・グレモリーと眷属達、ソーナ・シトリーも会談に

招待されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある一室で、堕天使側の総督であるアザゼルは備え付けのソファーに持たれかかりながら

グラスを片手に、今後の事を考えていた。

 

(大体は俺の思惑通り、事は進んでいる──だが、不確定要素が一つ)

 

グラスの中に入った酒を飲みながら、もう片方の手にある1枚の写真を凝視していた。

そこには、こちらを無表情で見つめている全身真っ黒な服に身を包んだ男で、

手には大刀が握られており、陥没した地面のクレーターの中心部分に立っていた。

 

(何者なんだ・・・こいつは)

 

ヴァーリとアルビオンの報告によると、一方的にコカビエルを蹂躙し尚且つ自身も

同じようなめに合ったと言われた時は、流石のアザゼルも冗談かと思っていた。

アザゼル自身、現状のヴァーリと戦えば確実に勝てる──が、彼のポテンシャル、戦闘センスは

ずば抜けており少なからず苦戦はする。

 

事件後本部に帰ってきたヴァーリは痛みで表情が歪んでおり額に裂傷、左足の骨は

文字通り粉砕されており、すぐさま医療ポッドへ搬送されていた。

 

現状ヴァーリは堕天使側の戦力でも上位の分類に入る強さを持っており、

堕天使側の幹部達にも事の重大さが伝わったのだ。

 

治療が完了し、ベッドで安静にしている所をアザゼルは訪れ、事の顛末と

アルビオンから外部データを渡されたのだ。

 

(話によると、悪魔でも天使でも堕天使でもなく。尚且つ神器すら持っていなかった)

 

手に持っている大刀自体も神器ではなくただの武器。

目を伏せながら考えるアザゼル。

 

(確かに人間でも稀に強い奴は存在するが──英雄の子孫である可能性もあるか。

 確かそれ以外に──っ!なんだ、この嫌な感覚は)

 

人の中でも過去の英雄の子孫である人間は、何かしらの力を受け継いでおり、

十分にこの3種族と戦える力を持っている。

 

そして、この写真の人物を見ていると何か思い出したくも無い何かが頭の中を過ぎっている。

変な感覚に陥りそうだったアザゼルは、思考を振り払った。

 

(まぁいい。悪魔側の返答によると、リアス・グレモリーからの報告待ちらしいし、

 現状どの陣営にも属しておらず──か。こりゃあ、こちらからも調査した方が

 いいかもしれん)

 

はっきりいって悪魔側の報告を完全に鵜呑みにしない為にも、調査隊の派遣を元より

決めていた。

 

(俺の目的、思惑の邪魔にならなければいいだがな──)

 

アザゼルの目的は唯一つ──この3竦みの状態の破壊である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各陣営で騒がれている中、ひしぎ自身は自室でゆったりとしたイスに座りながら読書をしていた。

手に持っている本の内容は、天使や堕天使の記述が載っている本であった。

 

自身が倒した相手がどういうものだったのかを知る為であり、

つい先ほど完全には思い出す事は出来なかったが、あのような者達と戦った記憶を

思い出したのだ。

 

「ふむ・・・・・」

 

頑張って思い出そうとしたが肝心な部分が思い出せないため、一度この件は保留とした。

そして、自身の体の回復具合をもう一度確認する。

 

(全盛期まではまだ時間かかりますが、6~7割は回復したようですね)

 

久々に体を激しく動かしたため、あの後一時的に体が動かなくなっていた。

"この体"での初戦闘だったため体中が悲鳴を上げたのだったが、直ぐに回復し

何事も無かったように振る舞い、ソーナ達には気づかれずに済んだ。

 

(ただ、今回の一件で私自身も狙われる可能性は発生した訳です)

 

ひしぎ自身は彼らが各陣営内でどれほどの強さを持っていたのかは知らない。

だが、各陣営にすれば脅威以外何者でもない──少なくとも自分ならば調査、監視は付ける。

目的も、正体すら不明な存在を野放しにするほど組織は甘くないのだ。

 

彼自身は世界がどうなろうと、直接自身に火の粉が掛からない限りは静観する事を

決めている。

 

ただし例外はソーナと小猫の存在である。

しかし、彼女達の強くなりたいという意思を尊重するために本当に危険な場合と

明らかに彼女達の実力を凌駕している相手がいた場合のみ助けに入ろうと決めたのだ。

 

遥か昔、同じような事で過保護すぎると親友である吹雪と村正に注意された

記憶を思い出したのだ。

 

古く、とても懐かしい記憶を思い出しながら読書を再開しようとした時、

扉を叩く音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

気配で誰が来たか分かったひしぎだが、そんな素振りを感知させず入ってくるように

促した。

 

「失礼します」

 

声と共に扉が横に開かれ、訪ねてきた人物はソーナと椿姫だった。

元々リアスとの会議が終わり次第伺うと聞いていたので、ひしぎは散歩をせず待っていたのだ。

 

「早速で申し訳ないのですが、あの件。今からでもいいですか?」

 

少し申し訳無さそうにソーナが切り出した。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

表情を柔らかくしてひしぎが答えるとソーナは表情を緩めた。

 

「ありがとうございます」

 

軽くお辞儀をしながら感謝の言葉を口にするソーナと椿姫。

 

「では、どちらへ向かえば?」

 

「私たちの後についてきてください」

 

ひしぎに宛がわれた部屋を後にすると、数分後、目的地の生徒会室には

3人の姿があり、椿姫が前に出て床に手を当てて魔方陣を展開していた。

 

「会長準備は整いました」

 

「ありがとう椿姫。では、ひしぎさんこの魔法陣の中に入ってください」

 

ソーナ自身も魔方陣の中に入り、ひしぎもそれに習う。

そして二人が入ったのを確認した椿姫も入り

 

「行きます」

 

3人が向かった先は、以前リアスとライザーがレーティングゲームで使用した擬似空間の中に

造られた駒王学園の生徒会室だった。

 

ソーナが眷属達とゲームに向けた強化訓練する為に魔王である姉のセラフォルーに

使用許可を求め、色々な手続きを経て使用許可が得られたのだった。

 

「皆は先にグラウンドで待機しています」

 

リアスとの会談があった二人以外は、先にこの空間へ向かわせ、訓練の準備を

させていたのだった。

椿姫の言葉にソーナとひしぎは頷くと、薄暗くなったままの生徒会室を出て

グラウンドを目指した。

 

擬似空間では水と電気は通っているが、空間が暗い為どんよりとした雰囲気が

学園全域を包んでいるが、不快感は無く、気温も適度であり暗さに慣れてしまえば

比較的住みやすい空間なのである。

 

特に静かに読書を嗜むひしぎに取っては最高の空間だった。

 

3人がグラウンドに着くと、体操着に着替えた6人の女子生徒と1人の男子生徒が

準備体操を行っていた。

 

「お待たせしました」

 

ソーナが彼女達に声をかけると、体操を中断し集まってきた──そしてその中に

ひしぎの見知った白銀の小柄な女の子も混じっていた。

 

「──よかった、来てくれたんですね」

 

彼女の姿を確認したソーナは安堵した。

少し他の子達と距離を取っている小猫は恐る恐る目の前に居るソーナに問いかけた。

 

「──あの、本当に私も参加して良かったんですか?」

 

「ええ、時間は有限です。同じ人に教えを乞うならば一緒の方がやりやすいので。

 それに小猫さんなら私も信頼してますし」

 

リアス・グレモリーの眷属である彼女は本来ここに居るべきではないのだが、

ひしぎの体調を考えると一緒にしたほうがいいのでは?

それに、彼のあっちこっち場所を変える手間を省こうとした結果、

こう言う事になったのだ。

 

ひしぎ自身も承諾し、椿姫にリアスとの会談前に小猫に接触を命じたのだった。

ただ、他の眷属からは今後レーティングゲームで対戦する場合こちら側の戦力を把握され

不利になるのでは、という声もあったが、

 

──問題ありません、戦力を把握されようが対策出来無いぐらい

  私たちが強くなれば良いだけの話です──それに私は彼女を信頼してます

 

と、彼女達を納得させたのだった。

ソーナ自身、小猫の性格はリアスから聞いていて、外部に情報を漏らすような子ではないと

確信しており、漏れたとしても自身の言葉通り強くなれば良いだけの事である。

 

「──わかりました。よろしくおねがいします」

 

頭を下げる小猫。

 

「では、私と椿姫は着替えてきますので、みんなは準備の続きを

 ──ひしぎさんも少しだけ待ってて下さい。戻って来次第

 彼女達を紹介します」

 

「ええ、わかりました」

 

そう言って二人は校舎の方へ走って行き、残った眷族である彼女達はひしぎに

一瞥し、準備を再開した。

 

そして、残った小猫がひしぎに近づき、深々と頭を下げた。

 

「──あの、あの時は助けていただいてありがとうございました」

 

あの後、外面の傷は完治していたが動くと傷が開くと言われていたので

自宅で寝かされていたので、直接お礼を言う機会が中々無かったのであった。

 

「いえ、大事がなくてよかったです。それに、コカビエルへのあの一撃は良かったですよ」

 

ひしぎはそう言って、小猫の頭を優しくなで始めた。

ケロベロスとの戦いでは十分な戦果を出し、コカビエル相手に、実力の差が歴然であっても

臆さず一撃を入れにいき、防がれたが相手に防御を取らせた事を素直に褒めた。

 

「──でも、防がれてしまいました」

 

まともに拳を入れれなかった事に気落ちしながら小猫は呟いた。

 

「ええ、ですが仲間が手も足も出なかった相手を怯ませただけでも"今"は十分です」

 

倍加したリアスの攻撃以外でまともに怯んだのは小猫の一撃であり

相手の武器を破壊したのも彼女だけである。

 

「だから、気を落とさないでください。せっかくの愛らしい表情が台無しですよ?」

 

優しく語り掛けてくるひしぎの言葉に、くすぐったくなったのか、表情を紅く染めて

両手で隠してしまった。

 

その光景をみて微笑むひしぎ

そして、小猫が呟いた。

 

「──わかりました」

 

そして、数分後には体操着に着替えた全員(ひしぎを除き)が揃っていた。

ソーナは眷属達を一列に並ばせ、ひしぎの隣に立ち一人一人眷属を

紹介していった。

 

右から準備

 

青髪でほっそりとした体型で長身の由良翼紗──ランクは『戦車』

 

少し暗めの赤髪ツインテールで元気っ子の巡巴柄──ランクは『騎士』

 

白髪ウェーブで大人しそうな雰囲気な花戒桃──ランクは『僧侶』

 

茶髪短髪で眷属の中で唯一の男子である匙元士郎──ランクは『兵士』

 

茶髪で長い髪をおさげにし、桃と同じような雰囲気を出す草下憐耶──ランクは『僧侶』

 

同じく茶髪でツインテールで眷属の中では一番幼く見える仁村留流子──ランクは『兵士』

 

一人一人の特徴や、ランク、得意な戦い方をひしぎに説明した。

ソーナが説明している途中、匙は小声で隣に居た桃に話しかけた。

 

「あの会長の隣に居る人、本当に俺たちより強いのかな?」

 

その質問に驚いた表情を見せた桃だが

 

「──あ、そっか。元ちゃん気を失ってたから見てなかったんだったよね。

 本当に物凄く強いよ」

 

あの時頭部に衝撃を受けて気を失っていた匙の事を思い出し、目の前にいてる人物の強さは

見ていなかったことを思い出した。

 

「たぶん、驚くと思うよ・・・最初はみんな開いた口が塞がらなかったぐらいだし」

 

あの時の一瞬の攻防戦。いや、一方的な蹂躙は匙を除いた全員が鮮明に覚えている。

敵は歴戦の猛者だった──その相手を数秒足らずで倒した人物。

忘れようにも忘れられない光景だった。

 

「そ、そんなに?!」

 

「うん──本当に凄かったよ」

 

内心、あの強さを思い出す度にすでに驚きを超越して憧れを感じるようになった桃。

うっとりとした表情を浮かべる桃に対して匙は若干表情を引きつらせていた。

 

自身の眷属達の紹介が終わると、ソーナはひしぎの事を彼女達に紹介した。

 

「こちらは今日から私たちの修行を見てくださるひしぎさんです。

 彼は私たちと同じ悪魔ではなく"ただの人"なので間違えないように」

 

軽く会釈をするひしぎ

 

「よろしくおねがいします」

 

「そして、小猫さんは私が彼にお願いする前から見てもらっていたので、

 私たちが一緒に訓練させてもらう形となっていますので誤解無い様に」

 

元々先に約束していたのは小猫だったことを皆に説明するソーナ。

 

「では、ひしぎさんよろしくおねがいします」

 

ソーナが頭を下げると、それに習うかのように眷属達+小猫がひしぎに向かって

頭を下げた。

 

「わかりました、微力ながらお手伝いさせていただきます」

 

そうして彼女達の修行が開始された。

 

まずひしぎが彼女達に出した指示は全員が全力で自身に攻撃してくる事。

言葉では何が得意で、どんな戦い方かは知ったが、立ち振る舞いや仕草、

雰囲気である程度の実力は把握できたが、実際の実力は受けてみない事には正確には測れない。

武器や魔法も使用可能にし、自身を殺す気でかかってくるようにと伝えた。

 

ひしぎと数十メートル間を開けて彼女達は対峙する。

実力を知らない匙は

 

「私を殺す気でお願いします」

 

と、言う言葉に少なからず戸惑いを感じソーナに問いかけた。

 

「会長──本当にいいんですか? 流石に会長と副会長が本気で攻撃すると

 あの人死んでしまうんじゃ・・・・?」

 

少なくとも匙はソーナの実力は上級悪魔クラス、椿姫にいたっても中級クラスと

知っている為、本当に殺してしまう可能性があると感じた。

 

「匙、貴方は本当に優しい子ですね。その心配は要りません。恐らく現状の

 私たちが本気で攻撃しても傷一つ与えられたら良いほうかと──」

 

「え──じょ、冗談ですよね?」

 

流石に匙はソーナがリラックスさせるために言ったのかと思ったが、

隣に居た椿姫が首を振り否定した。

 

「いえ、会長の言葉通りですよ匙。だから貴方も持てる力全てを

 あの人にぶつけなさい」

 

「──椿姫先輩の言葉に同意します」

 

いつの間にか近くに来ていた小猫までもが同意する。

 

「──なっ」

 

その言葉に絶句する匙、そのまま他の眷属達を見てみるも、

他の皆も真剣な表情を作り首を縦に振っていた。

 

「──話はここまでにして行きますよ!」

 

その言葉と同時に、前衛である『戦車』由良、『騎士』巡、『兵士』留流子、

『女王』である椿姫、そして『戦車』の小猫がひしぎに向かって疾走する。

 

ソーナは魔力で水を精製し、それを更にドラゴン、大鷲、獅子や動物達を形造る。

桃はそのまましゃがみ込み両手を地面に手を当てて魔方陣を生成する。

その隣で憐耶も同じような動作を取る。

 

一瞬にして出遅れた匙も意識を切り替え、先に行った5人達を追いかける。

 

一気に距離をつめた5人はは躊躇する事無く攻撃動作に入った。

 

ひしぎは腕を組んだままであり、彼女達を静かに観察している。

 

すると、突如としてひしぎを囲むかのように地面が割れ、その中から白い鎖の様な物が数十本、

四方八方から出現し、一瞬にしてひしぎの全身に巻き付いた。

 

「・・・・」

 

驚いた様子さえ浮かべないひしぎはこの拘束魔法は桃が生成し、憐耶が魔力補強している事を

瞬時に見抜いた。

 

そして、数秒後れで匙の『黒い龍脈(アブソブション・ライン)』がひしぎの腕に絡みついた。

 

「よし!」

 

相手の拘束状態を確認すると、椿姫と巴柄が同時に空中に飛び上がり、

長刀、刀にそれぞれ魔力を刃に乗せ、構え、

小猫と由良は左右に展開し、留流子は一気に速度を加速させ背後に回りこみ、

5人は同時に攻撃を仕掛ける。

 

「はぁぁぁ!」

 

一斉に掛け声を出し、椿姫と巴柄は頭部目掛けて各々の武器を振り下ろし、

小猫と由良は腹部目掛けて渾身の打撃を打ち込む

そして、留流子は無防備な背中目掛けて、上段蹴りを放つ。

 

全て当時にひしぎにヒットしたため、彼を中心とした地面からは攻撃による衝撃波が生じ、

一気に砂埃が5人の視界を奪うが、当たった感触は確実に合った。

 

後方に居た4人の下にも衝撃波が伝わり、咄嗟に顔を背けてしまう。

 

が、すぐさま状況を確認すると──そこには信じられないような光景が煙の中から

見えてきた。

 

「──うそだろ・・・」

 

匙は思わず呟いた。

 

ひしぎは一歩も動く事無く、攻撃を受けている。

椿姫と巴柄の刃は当たる直前に頭部を左右に振り、肩で受け止め、

小猫たちの打撃はひしぎに当たったまま止まっている。

 

「くっ・・・・ここまでとは・・・!」

 

椿姫はいくら力を入れても肩に刃が食い込まない事に、冷や汗を流していた。

岩に目掛けて振り下ろした様な感覚に陥り、逆にその力が反発して

自身の手に痺れを感じていた。

 

「皆!離れなれて伏せなさい!」

 

ソーナの緊迫した声に反応した5人はすぐさまひしぎから距離をとる。

 

「「鎖爆破(チェーンブレイク)!」」

 

桃と憐耶の詠唱が聞こえ、ひしぎに巻き付いていた鎖が一気に光だし地面から伸びている部分から

轟音を響かせながら連動して鎖が爆発していく。

 

何十にもまかれた鎖は連鎖爆破により数十秒間ずっと爆破したままであり、

前衛5人の近くまで爆破の衝撃が襲う。

 

「ちょっとあの二人!やりすぎ!」

 

爆破により地面の岩などが中に舞い上がり色んな所に振ってくるため、地面に伏せながら

頭部を守る留流子は愚痴をもらしていた。

 

追撃といわんばかりにソーナは生成した水の爆弾もひしぎ目掛けて放つ。

大型の生物に姿を変えた水は四方八方から連鎖爆破の中に突撃し、同じように

姿を爆破させる。

 

戦争で例えるなら、一箇所に戦闘機や航空爆撃機による集中空爆を行っている感じである。

 

手を休める事無く攻撃を続けるソーナと二人の『僧侶』

 

更に数十秒後漸く爆破の轟音がやむと、既にひしぎのいた場所は数十メートルの

クレータが出来ており、見渡すかぎりグラウンドの地形は変化していた。

 

前衛である5人は、自身の体に覆いかぶさった砂や埃、瓦礫を除けながら漸く

体を起こした。

 

「ゴホ、会長幾らなんでもやりすぎですよ」

 

漸く体を起こした匙は少し非難するような視線をソーナに向ける──が、

彼女はじっと爆撃の中心地を凝視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂となったはずの場所からは、ゆっくりと何かの足音が全員の耳に聞こえて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそだろ・・・・」

 

 

 

 

 

 

爆破で出来た煙はまだ晴れていないが、音の主は徐々にこちらに近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「流石に、これほどとは・・・・」

 

 

 

 

 

漸く起こした体だが、その音を聞いただけで力が抜けてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

彼女達は万全な体調であり、今もてる全ての力で攻撃した結果が──

 

 

 

 

 

 

「──中々のいい攻撃の仕方です。ですが、全然殺意も、威力も足りません」

 

 

 

 

声の主は、普段どおりの喋り方で

 

 

 

 

「まぁ、貴方達の力は把握できました」

 

 

 

何の傷も無く、服さえも汚れていないまま

 

 

 

「少し私の訓練は厳しいかもしれませんが、覚悟してくださいね」

 

 

 

悪魔の様な囁きを告げ、煙の中から姿を現した。

 




こんにちわ、お久しぶりです夜来華です。

更新が5月から止まってしまって本当に申し訳ございませんでした。
感想や一言、ありがとうございました。
本当に嬉しかったです。

夏に仕事場で事故にあい、腕と左足に怪我を負い、10月半ばまで入院生活を
送っておりました。

そして漸くリハビリも終わり、仕事も一旦終わったため時間が取れたので
一気に書き上げました。

元々半分以上は出来ていたのですが、今後の物語の改変に伴い
書き直し、修正を大幅にいれました。
そろそろ原作乖離が大きく目立ってくると思います。

更新が出来ずに本当に申し訳ございませんでした。
休みの間は出来る限り執筆に時間を取る予定なので、次回はあまり待たせず
更新できると思います。

もし、宜しければ感想、一言頂けると嬉しいです。


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第11話 魔王

遂に、3勢力による会談が開催されようとしています。


何も起こらずに終わる事を祈るばかりです。


──お願いですから、姉さまそのカッコで会談に出るのはやめてください!


ソーナ達がひしぎの訓練を受けている最中に、一誠の元には様々な出来事や

変化があった。

 

まずは、今回の戦いにより神の死を知った事により、教会側から異端認定され追放され、

信じるもの、帰るべき場所を失ったゼノヴィアはリアスの提案により、悪魔に転生し

グレモリー眷属となった。

 

ランクは『騎士』である。

 

そして、『白龍皇』であるヴァーリがあの夜、『赤龍帝』である一誠に対して挨拶を

忘れていたので、学園へ訪れた事。

 

極めつけは、一誠のお得意さんであるお客さんが堕天使の総督アザゼルだと

発覚した事。

 

会談の日が徐々に徐々にとなくなる一方慌しさが伺える週だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙君、もっと力を入れて攻撃してきてください。それでは蚊すら

 殺せませんよ?」

 

今のところ『黒い龍脈』によるメイン攻撃方法を獲得していない匙は、この1週間

ずっと体術のみを訓練させられていた。

 

ひしぎの顎へ向けて鋭い拳を繰り出すが、簡単に手に平で弾かれそのまま投げ飛ばされてしまう。

匙が投げ飛ばされた瞬間に入れ替わるようにして、小猫が腹部目掛けて突きを入れるが

弾かれてしまう。

 

「狙いはいい感じですよ、ですがまだまだ、スピードと威力が足りません」

 

そのままいなされると、背後から由良が上段蹴りを放つが、振り向く素振りをみせず

少しだけ頭を前に下げ交わすひしぎ。

 

「由良さん、背後から攻撃するならばもっと早く攻撃に移りなさい」

 

「はぁぁ!」

 

由良の背中を蹴って上空に飛び上がり、体を1回天させ踵落としで攻撃をしかける

留流子に対して、横に捻るだけで軽かる避ける。

 

「攻撃動作に余計な動きが多すぎますよ」

 

そのまま落ちてきた足を掴むと、先ほど投げ飛ばした匙の方向に彼女も投げた。

すると、匙はまだ体を上半身だけ起こしただけであり──

 

「ちょ!わぷ!」

 

投げ飛ばされた留流子のお尻を顔面で受け止めてしまい、そのまま二人はもつれるようにして

地面に倒れた。

 

これは僅か1~2秒の出来事であり、その間にも小猫はいなされた姿勢のまま無理やり体を捻り

回し蹴りを放つが

 

「甘いです」

 

いとも簡単に掌で受け止められてしまう。

 

「──っ!」

 

そのまま押し切ろうとするが、ビクともしない。

由良は先ほど留流子に背中を踏み台にされたため姿勢を崩して居たためすぐさま

追撃はできずにいたが、漸く攻撃姿勢を獲得し、しゃがみ込んだまま

高速で足払いを背後から掛けるが、少しジャンプされ回避される。

 

「後ろにでも目がついてるんですか・・・!」

 

流石に振り向かずに攻撃を何度も避けられ、苛立ちを隠せない由良。

 

「いえ、気配でどんな攻撃が繰るかはわかるので、振り向くまでもありません」

 

易々と答えるひしぎだが、そんな芸当できるのは上級戦士以上の者だけである。

受け止めていた小猫の足を掴むとそのまま由良に衝突させ、軽く吹き飛ばす。

 

「「・・・っ!」」

 

地面に倒れこむ二人、そして──

 

長刀を構えた椿姫が待ってたと言わんばかりに、背後からひしぎ目掛けて横薙ぎを放つ

 

「いい感じですよ──最初よりはスピードは上がってます」

 

だが、2歩歩いただけでそれを避けられてしまった。

 

「えぃ!」

 

正面から刀を水平に構えた巴柄が突撃をかけ──顔面目掛けての突きを高速で放つ

 

「狙いは正確ですが、正面からでは避けてくださいといってるようなものです」

 

簡単に顔を捻るだけで避けられてしまう

 

「まだまだ!」

 

刀を引くとそのまま、高さを下げ、胸目掛けての2連続突きを放つ

 

「・・・・」

 

これすらも簡単に体を捻るだけで避けられる──そして後ろからは

椿姫が追撃に、先ほどの薙ぎの勢いを殺さず、そのまま追加させ

もう一度横薙ぎを放つがあと数ミリ足りなかった。

服に当たりそうになっただけでかわされてしまう。

 

「今のスピードを常時だせるように」

 

「はい!」

 

正直、現状の彼女達の攻撃をまともに食らっても傷を負う事がないひしぎだが、

よける事により、彼女達に最後まで攻撃の動作を行わせ、攻撃の手数を

増やさせる事、そして何より体力を付けさせるために避けているのだ。

 

攻撃を何度も何度も最後まで行うことにって、普段以上に体力を消費する。

戦闘でまず必要なのが体力と精神力なのである。

 

制限時間内に自身に攻撃を当てなければ彼女達に休憩させるつもりは無いひしぎ。

 

かなりのスパルタだと思わせるが、彼女達のレベルに合わせかなり手加減をしている

それ故ある程度は当たるようになってきている。

 

匙の上に多い被さったままの留流子は目を回している。

 

「うぅぅ~」

 

「おい、早くどいてくれ!」

 

視界が真っ暗で柔らかいものに顔を包まれている匙は嬉しさ半分、息苦しさ半分といった所であった。

 

「ひゃあ! 匙先輩息がくすぐったいですぅ!」

 

「いいから早く!息が持たない・・・!」

 

絡み合う二人を見たひしぎはため息をついて声をかけた。

 

「二人とも、早くしないとレベルを上げますよ?」

 

「「は、はい!」」

 

逆に反対側に飛ばされていた小猫と由良は既に体勢を整え、椿姫と巴柄の

猛攻のスキが出来るのを待っている。

 

何度も何度も繰り返しているうちに、椿姫と巴柄のコンビネーション攻撃はかみ合い、

トップスピードを維持したままお互いの動きが邪魔にならないように

斬撃を放つ事ができるようになった。

 

だが、それでもひしぎには"届かない"のである。

 

そして、二人はひしぎの背後に居る小猫に視線を送ると

 

「──はぁ!」

 

小猫は大きく息を吐くと、全身の力を右手に集中させ地面に拳を放った。

 

その瞬間、込められた力が爆発し、くぐもった唸りを発して震動しと、大地が割れ、

小猫を中心とした地面が陥没、そのまま周辺一体に亀裂が走り、

中心から十メートル以上の地面が割れたのだ。

 

地の底から突き上げられたのように音高く弾け、無数に隆起し、

鋭い先端を持つ大地の針が地面から生えていった。

 

そしてそのまま軸線上にいるひしぎ目掛けて、大地の柱が

ひしぎを囲うようにして襲い掛かる。

 

既に椿姫と巴柄は離脱しており、ひしぎは振り向くと同時に右手で巨大な岩を

砕き払いのけた。

 

周囲の空中には砕き割られ散乱しており、その中から

 

「貰った!」

 

岩に身を隠し接近していた由良が姿を現し、渾身の右ストレートを放つ

 

「・・・・」

 

慌てるそぶりを見せないひしぎは、不安定な足場だか軽くバックステップし

回避行動を取る──が、

 

「──なるほど、コンビネーション能力が高まってきてて私は嬉しいです」

 

同時に背後から椿姫と巴柄の左右からの振り払いに逃げ場が塞がれており、

 

「今日はこれで一旦休憩にしますか」

 

振り向かず、そのまま両手の掌で二人の刃を掴み止めたひしぎは休憩宣言を出した。

 

その瞬間、全員が腰を落とし全身で呼吸を始めた。

 

「──ただし、そこでまだ縺れている二人はグラウンド10週してから休憩です」

 

「「えええ!?」」

 

匙と瑠流子が悲鳴を上げると、無言の視線を送るひしぎ

 

「・・・・」

 

「「は、はい!いってきます!」」

 

二人は仲良く姿勢をただし走り去った。

 

「では、30分の休憩にするので今のうちに水分を補給してしっかりと

 体を休めておいて下さい」

 

崩れ落ちた4人に声を優しくかけて、ひしぎは校舎の方へ向かった。

 

グラウンドと少し離れた校舎近くには桃と憐耶が結界術式と拘束術式の

改良に取り組んでいた。

 

ひしぎ自身は魔法の事はからっきしだが、この二つは法力に通じる物があり

似たような形式であるため、ひしぎでも教えれる部分はあったのだ。

 

「お二人とも、術式の進行具合はどうですか?」

 

地面にしゃがみ込む形で、術式を書き込んでいる二人に声をかけると、

 

「結界の方はもう少しで、ひしぎさんに教えてもらったような

 広範囲で強固な結界は完成できます──ただやっぱり、こう魔法術式の間に

 法力を混ぜるっていうのが、たぶんこの世界で始めての試みなので、

 どの部分で書き加えていいかが・・・なんとか候補は数通り見つけたんですが、

 どこが一番馴染む・・・いえ、同化するかがまだ試している最中なのです」

 

桃は元々魔法でも結界、防御などに素質があり、その所為なのか、

少しだけひしぎに法力の素質を分け与えらことですぐさま開花したのである。

 

元々ひしぎは桃を見た瞬間から本人は気づいていないが心の奥底に何かの力が

眠ったままの状態だと見抜き、その力が法力だと云う事に薄々感じていた。

そして、彼女の張った結界に触れた瞬間それは確信となり、今回、切っ掛けを

与えた事によりその力が眠りから覚めたのだった。

 

ちなみに、憐耶の方は法力の力が無い為、諜報の部分の強化と、魔法に関して

緻密なコントロールは憐耶の方が上なので桃の魔法のサポートにつくようにいわれていたのだ。

 

ただ、法力はどちらかといえば属性は『光』よりであり、悪魔である彼女達に

『毒』にもなる可能性はあったが、桃の体調はまったく変化がなく、

むしろ、普段より体の調子がいいと伝えられたのである。

 

万が一、それが体を蝕むのであればひしぎは迷う事無く、法力の力を

彼女の体内から"排除"するつもりだった。

 

法力の知識を一対一で教え、法力は使い方によっては自分自身の体に悪影響を与えると

注意したのだった。

 

「恐らくですが、魔法と法力は根源が似ている部分がありますので」

 

流石にひしぎでも魔法と法力がどうやって発現したのかまでは知らないが、

ソーナと桃の話を聞いているうちに根本はおなじなのかと、思い始めていた。

 

「はい、私もそう思います──だから、もしこれが成功すれば、

 同じ悪魔でも結界に関しては優位に立つ事ができます」

 

二人は相談しながら熱心に地面へ術式を書き込んでいく、

確かにこの新しい魔法と法力の融合した結界が出来れば『光』属性に弱い

同属の悪魔に対してアドバンテージが上がり戦略が広がる。

 

熱心に取り組む姿勢に満足したのか、ひしぎは表情を緩めて彼女達が

気が散らないようにそっと傍から離れていき、備え付けのベンチに腰を落とし

空を見上げた。

 

擬似空間なので空はどんよりとしているが鈍く光る月があり、それを見ながら

ひしぎは呟いた。

 

「弟子に教えるのはこれほど大変なものとは思いもしませんでしたよ

 ──吹雪、村正」

 

生前は一度も弟子を取らずに居たため、戦い方を教える大変さを

初めて身にしみたひしぎであった。

 

「──さて、今ソーナはどこら辺にいてるんでしょうか」

 

ソーナはあの時の戦いの詳細を報告する為に、昨日学園が終わった後冥界へ一度

戻っていたのだった。

 

そして今日の学園を休んでおり、予定では夜には戻ると言っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っ、今誰かに呼ばれた気が・・・・気のせいですか」

 

ソーナは冥界から出ている駒王町行きの地下列車に乗車していた。

窓の外は真っ暗であり、ずっとトンネル内部に居るような感じで、景色など見えず

窓側に体をもたれさせながら、実家にあった本を読みふけっていた。

 

本の題名は『鬼神(おにがみ)の伝説』という子供用に作られた御伽噺の同書、

冥界に着いたとき、実家にいてる祖母に連絡を取り帰り際に持ってきてもらったのだ。

 

「やはり、何も書かれていませんね」

 

少しだけ何か彼の事が分かるかな、と、期待していたのだが所詮子供用の

本であり、ただただ『鬼神』を怒らせてはいけないとしか分からなかった。

 

「ふぅ・・・・」

 

ソーナは一旦本を閉じて全身の力を抜き、体をリラックスさせた。

昨日からずっと力の入れっぱなしだったので、体力の消耗が激しかったのだ。

 

(流石に、完全に誤魔化せた──とは、言いがたいですが。何とか彼への追求を

 止める事には出来た)

 

昨晩、ソーナはこの列車に乗り込み冥界に着くと、冥界を仕切る者達が

集まる城へ赴き、謁見の間にて、今回の件を現魔王4人と悪魔界の

仕切る評議員達にソーナは簡潔に報告した。

 

まず、今回の事件は首謀者である堕天使コカビエル、その部下十名と元教会側の人間二人に

よって起こされた事件であり、その真意は3竦みの状態を破壊し、戦争を

再開させることだった。

 

事件の当事者であるリアス・グレモリーと自身ではまったく歯が立たず、

苦戦していた所、自身が助けたただの人間が自分達を守るために戦い、

それに勝利し、その後暴走した『白き龍』をも迎撃した事を説明した。

 

ひしぎの事を壬生一族という部分を隠しながらどういった人間で

知り合った経緯、そして望みを説明した。

 

「その人間は本当に"神器"を持っていなかったのか?」

 

1人の初老の男性悪魔がソーナに問い掛け

 

「はい」

 

「その人間は危険ではないのか?」

 

髭を生やした議員が問う

 

「彼はそんな危険な人物ではありません」

 

「だが、あのコカビエルを消滅させる人間だぞ、ほおって置くのは危険すぎる!」

 

その言葉に何人もの議員が同意する。

 

「ですが、彼は我々を守ってくれました!」

 

「それこそ何か裏があるに違いない!力を持った人間はろくな事をしないからな」

 

どんどんと否定的な言葉が、ソーナに浴びせられ──

 

「もう!おじいちゃん達!それ以上ソーナちゃんをいじめると氷漬けにしちゃうからね!」

 

突如魔王の席に座っていた少女が議員達に向かって吼えた。

その反応にどうしていいか困る議員たち。

 

「こらこら、セラフォルー落ち着いて、魔王であるキミが真っ先に

 怒ってどうするんだ」

 

隣に居たもう一人の魔王がなだめに入る

 

「だって!ソーナちゃんが・・・・!」

 

「分かっている。おじいさま方ここは、その人間の監視を彼女に一任してみてはどうでしょうか?

 現に、その人間は自身に火の粉が降りかからない限り干渉はしないといっているんですから

 ──そうだよね?ソーナ君」

 

魔王──サーゼクス・ルシファーに話を突如話を振られたソーナ

 

「はい、それは私が直接彼に聞いた言葉なので信用できます。

 彼のことは私にお任せしてください──万が一彼が暴走したら

 シトリー家の次期当主として、この命に代えてでも止めます!」

 

ソーナの真剣な訴えにより、先ほどまで騒がしかった議員達は黙り込む。

 

「ソーナちゃん・・・」

 

それを心配そうに見つめる魔王──セラフォルー・レヴィアタン。

ソーナの実の姉である。

 

サーゼクスの提案は過半数以上の議員が猛反発した。

理由は様々であり、存在自体が危険だと主張した。

 

すると今までずっとソーナの言葉を真剣に聞いていた、議長が口を開いた。

 

「ソーナ・シトリーよ。その者を"歴史上の人物"に例えるなら何になる?」

 

その問いに一瞬ソーナは何と答えるべきかと思案したが、一つしかなかった。

ただこれはひしぎが壬生一族出身とばれてしまう可能性があった──が

議長のこの言葉の真意を確かめるため、そして他の議員達の反応を見る為に

遠回しに例える事にした。

 

「そうですね、人物というより絵本などで出て来る空想上の『鬼神』と、

 感じました」

 

その瞬間、議長の目と眉が少し跳ねたのをソーナは見逃さなかった。

そして他の議員達の反応はというと──

 

「ははは!子供のような感想だな!」

 

「まったくシトリー嬢は、可愛らしい乙女ではないか!」

 

「そうじゃな!」

 

議員たちの笑い声が謁見の間を支配する。

だが、ソーナはそんな声など気にもしていなかった、ただただ議長を凝視する。

 

「・・・・」

 

議長はソーナの視線に当てられ、そっと目を閉じた。

そして──

 

「──ご苦労であったソーナ殿。その人間の件そなたに一任しよう」

 

「議長?!」

 

唐突に言い渡される決定に他の議員達は目を丸くする──勿論4人の魔王達もだ。

 

「──私は反対ですぞ!彼女はまだ若くて弱い!監視を付けるならば

 最上級悪魔に担当させるべきです!」

 

議員の中でも比較的若い分類に入る男性悪魔が意義を唱えるが

 

「──二度も言わせるな小僧。この件はわしが預かる」

 

初老とは思わぬほどの鋭い視線を浴びせられ、萎縮する男。

そして他の者も黙り──魔王たちも黙って聞いている。

 

「ありがとうございます」

 

ソーナは感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。

 

「では、これに終了する──解散!」

 

手元にある鐘を議長が宣言と同時に鳴らすと、他の議員達は席を立ち、

ぞろぞろと部屋を後にしていく。

 

そしてソーナももう一度議長に頭を下げ、謁見の間を後にし、すぐさま帰りの

列車に乗り込んだのだ。

 

(あの質問、そしてあの反応──議長は明らかに彼の正体に薄々感じているはず

 ただ、あの反応をしたのは議長のみ、それ以外は失笑していた。

 魔王様たちも特に反応はしなかった)

 

冷静にあの時の状況を思い返してみると、明らかに議長は何かを感じ取っていた。

ただ、それを回りに言わず、自身が預かると言って終了させたのだ。

 

(──やはり、あの幻の一族は存在しているのですね)

 

ソーナ自身ひしぎの言葉は疑っていないが、何か確証を得るものが欲しかったのだ。

だから、遠回しにいい、反応を確かめたかったのだ。

 

手応えはあり、収穫ができた。

 

そして会議の途中その人間を眷属にしないのかという質問に

 

「今のところ予定はありませんし、本人にもその気はありません」

 

実際はしたくても"出来ない"というのが答えだった。

残っている駒では彼を転生さす事ができない──いや、どの駒が

残っていようと彼を転生さす事は不可だと推測するソーナ。

 

彼の戦闘力はソーナの予想では魔王クラスかそれ以上だと

思っているため、転生は不可だと考えている。

 

それに聞いた話では、転生しなくても不老不死と聞いたので

転生するメリットがない、デメリットが増えるだけである。

 

故にソーナは諦めが付いたのだ。

 

(それに私は眷属ではなく彼とは"対等"でありたい)

 

ソーナの心にはひしぎに対してそういう感情を持っていたのだ

 

(今後どうなるかはわかりませんが──ただ、ひとまずはゆっくり出来ます)

 

 

 

 

 

 

 

謁見の間には全員が退出し、議長のみが自分のイスに全身を預けならが

目を閉じ思案していた。

 

(まさか、『鬼神』が表に出てくるとは・・・いや、しかしまだ確証はないが、

 万が一の事を考えると──現戦力であの『鬼神』クラスにまともに対抗できるのは

 魔王である4人か──荷が重過ぎるな、保険としてあやつに声をかけておくか。

 まぁ、こちらから手を出さない限り彼らは動かないのが幸いじゃ・・・)

 

あの時の過ち、悲劇を繰り返さないために、最古の悪魔はゆっくりと腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナが学園に戻り、数日後授業参観日の日がやってきた。

この日は、学生の親御さん、そして駒王学園中等部の学生も見学が出来る事もあり、

その親御さんも参加できるという、フリースタイルな授業公開の日なのだ。

 

それ故、ソーナはひしぎに学園がどのようにして運営、授業しているか案内、紹介するには

絶好の機会であった。

 

これだけの大勢の人が集まれば彼1人堂々と学園内を歩いても不信と思われない。

ただ、普段の格好は怪しすぎるため、軽めの真っ黒な着流しを渡し

溶け込むようにお願いした。

 

ただ実際、着流しも普通の一般人は着ないという匙のツッコミは普通にスルーされた。

 

ソーナと椿姫は別件で用があると云い、ひしぎへの校内案内役は桃に一任されていた。

 

「先生、どうですか私達の学園は」

 

通常の学園とは思えないほどの豪華な造りで出来た入り口を通り、

色々な教室を案内している最中に桃が質問した。

 

そして、修行の最中からひしぎへの呼び方が先生に変わっていた。

 

「ええ、非常に興味深い建物ですね──それに、清掃も行き届いていて

 綺麗ですね」

 

「はい!私も入学した当初は驚きの連続でした。違う場所に来たのかと

 思ったぐらいです」

 

公開授業のお陰とあってか、廊下はワックスで磨かれており、窓ガラスも

曇り一つ存在せず、来るものを歓迎しているような感じである。

 

「どこか気になる場所とかありますか?案内します!」

 

再度の質問に少しだけ思案し

 

「そうですね。理系の部屋など見てみたいですね──後は大きな図書室ですかね」

 

「わかりました!」

 

ひしぎがそう答えると、桃は嬉しそうにして彼を先導する。

 

(現代の生物学、科学がどれほど新化しているか見てみたい気もします

 それにソーナから聞いていた学園屈指の図書館。これを逃したら何時行けるか

 分かりませんし)

 

現状ひしぎは肩書きは貰っているが、学園長からの許可がまだ下りず、

未だに校内の行動は制限されている。

 

ただ、今日のみ生徒会の誰かが付いているならば、行動しても良いと

許可がでたのだ。

 

実際に学園長はまだひしぎを信頼していないが、行く当てもない彼を

追い出すのは出来ないという、立場と情に挟まれ悩んでいる最中なのだ。

 

そこから、桃の案内で生物学部屋、理化学部屋、をゆっくりと周り、

道中、ひしぎが暇にならないように桃が自分自身の悪魔になった経緯や、

今目指している夢などをひしぎに語り聞かせていた。

 

聞き手となったひしぎは時折、優しく相槌を打つなどして

桃の話をちゃんと聞いていた。

 

そしてメインである図書館を案内され、ひしぎは表情ではあまり表さなかったが

素直に喜んでいた。

 

すると、図書館の入り口付近で数人の生徒が体育館でなにやら騒ぎがあるらしいと

生徒会役員である桃に伝えに来たのだ。

 

現状自由に動ける役員は自分しか居ないと知っている桃は申し訳無さそうに

ひしぎに伝えると

 

「ええ、私のことは気にせず、その体育館とやらに行きましょうか」

 

優しく了承してくれた。

 

そして二人は図書館を後にする。

すると──廊下を歩いていたひしぎは突如足を止め、真剣な眼差しで

窓の外、学園入り口を見ていた。

 

その様子をみた桃は今までと雰囲気が変わったことを、感じながら

恐る恐る声をかけてみた。

 

「あ、あのどうかしたんですか?」

 

「・・・・・」

 

ももの質問に答えずひしぎは黙って入り口を凝視する

 

(かなり巧妙に隠していますが殺気の篭った闘気を纏った人物が、

 この学園に入ってきた)

 

よく目を凝らしてみて探す──ほとんどは一般人であり、悪魔の気配を

漂わせている親子

 

そして、数秒後漸く問題の人物を見つけた

 

(──あれは・・・・ふむ、なるほど)

 

生前生きていたときに、見知った人物と瓜二つの顔を見つけたひしぎは

無意識に笑みを浮かべていた。

 

そして深く探ってみると、その人物は自分の知っている人物に似ているが、

まったくの別人である事まで分かった。

 

(なるほど、あれほど闘気を放出していても悪魔達は気づかないのですね)

 

悪魔である彼らが自身の気配を読めないカラクリが漸く分かってきた。

 

悪魔や堕天使、天使達は、魔力や神器の気配、魔の気配、聖の気配、

常時それらに当たっているため、純粋に発生させる闘気(オーラ)には

鈍いのである。

そして相手は学園に入った瞬間一気に闘気を消してしまったので、

悪魔達は気づかずそのままだった。

 

万が一感知していても、気のせいかと思わせるぐらいの達人級なのだ。

 

(さて、何の目的で着たのか──何と無くは予想付きますが、

 これは当分暇にはならなさそうですね・・・)

 

漸く窓側から視線を外し、桃に向き直り

 

「すみません、少し見知った顔の人を見つけたので」

 

「そうだったんですか?もしよければ体育館の後に一緒に探しますけど?」

 

「いえ、よくみたら別人だったので気にしないでください」

 

そういってひしぎはやんわりと断った。

 

「はぁ、わかりました。では、行きましょうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が問題の体育館に付き、真っ先に視界にはいったものは──

 

「ソーナちゃん、みーつけた!」

 

ソーナに魔法少女のコスプレをした美少女が抱きついていた。

 

「「・・・・」」

 

流石に言葉を失ったひしぎと桃。

すると、ソーナの後ろに居た赤毛の長身の男性が──

 

「ああ、セラフォルーか、キミも来ていたんだね」

 

「あ、サーゼクスちゃん。うん、あたりまえでしょ!ソーナちゃんの公開授業だよ?!」

 

「はは、そうだったね」

 

その二人の後ろで、リアスと一誠の会話がこちらにも聞こえてくる。

 

「この方は現四大魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタン様よ。

 そして、ソーナの実のお姉さんなの」

 

「えええええええええええええ!?」

 

一誠の驚愕した声が体育館に響き渡る、そして周りに居る匙や、

他のソーナの眷属達も驚いた表情を作っている──勿論ひしぎの隣に居る

桃でさえ素敵な表情を浮かべていた。

 

彼女達は話しては聞いていたが、実際に会うのは椿姫を除外して全員

初めてだったのだ。

 

(性格が正反対の姉妹ですか──それに、なんとも表現に困る

 摩訶不思議な服装ですね)

 

と、ひしぎは内心思っており、そして面倒ごとになるのが嫌なので、

気配を消した。

 

故に、サーゼクスは入り口から距離が離れている事、そして完全に気が緩みきってる

事も有り、死角にいてるひしぎには気づかなかった。

 

ただ、逆にセラフォルーからは丸見えであり

 

「「・・・・・」」

 

一瞬だけだが視線が合った。

 

(なるほど、中々抜けてそうな感じでしたが──私に気が付くとは)

 

気配を消しているためかなりの実力を持つ者でなければ視界に入っても、気づかれず

視線さえ合わないが、彼女はひしぎの存在に気が付いたのだ。

 

だが、彼女はこちらに来る事無くソーナと会話を続けた。

 

「ソーナちゃんどうしたの?!お顔が真っ赤だよ?!もしかして風邪引いちゃったの!?

 お姉ちゃんと保健室に行く?!」

 

ソーナはあまりにも姉の服装、言動に恥ずかしさを感じており

 

「お、お姉様。ここは私の学び舎であり、生徒会会長でもあり、いくら身内とは云えど、

 その格好、この騒ぎは容認できません・・・・!」

 

ソーナ達が来る前、セラフォルーの撮影会が行われていたのだ。

彼女自身が開いたものではないのだが、美少女であり、可愛らしい魔法少女の

コスプレ写真を撮りたいと思った男子が群がり、ちょっとした騒ぎに

なっていたのだ。

 

「えー、ソーナちゃんにそんな事言われたらお姉ちゃん泣いちゃうよ?!」

 

こんなやり取りが、この後も数回続き

 

「もう、耐えられません!」

 

姉から身を翻して、あの冷静沈着なソーナが目元に涙を潤ませ一目散に二人の居る

入り口へ向かって走ってきた。

 

そして──

 

「・・・・」

 

「~~!!」

 

視線が合い、ひしぎに見られていた事に気が付き、両手で顔を隠して彼の横を

通り過ぎて走り去っていった。

 

「待って!お姉ちゃんを置いて何処に行くの?!」

 

セラフォルーがソーナを追ってこちら側に走ってきた。

 

「ついてこないでください!」

 

「いやぁぁん!お姉ちゃんを見捨てないでぇぇ!ソーナたん!」

 

「『たん』付けは止めてとあれほどっ!」

 

そう言いながら、走り去っていくソーナ。

 

ひしぎの横をセラフォルーが通過しようとした瞬間

 

(後で屋上でにきてちょーだい)

 

桃には聞こえないように、ひしぎに向けてメッセージを残して

去っていった。

 

(・・・・ふぅ)

 

心の中でため息を付くひしぎ──とりあえず後で行ってみる事にした。

 

 




こんにちは、夜来華です。

少し予定外よりも早く投稿できました。

物語の進行具合がかなり遅くなってますが、一応ダイジェストでは
流せない部分なので、丸々一話使った感じになりました。

ちなみに前回書いた桃と憐耶の技はオリジナルです。
原作、テレビを見直しても攻撃魔法を使ってるシーンがなかったので、
追加してみました。

感想、一言あれば嬉しいです。


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第12話 姉として

まったく、お姉さまと来たらあんな格好で構内をうろつくなんて


それに、あの人にも知られてしまいました・・・


あれ?お姉様?先ほどまで私を追っかけていたのに・・・?



ひしぎはあの後、桃に疲れたから少し休憩するといい、自室まで

付き合ってもらい、彼女が生徒会業務に戻る事を確認した後、

居ない彼女に謝罪しながら気配を消し、セラフォルーの指定した

屋上へと向かった。

 

「おや、遅かったねー」

 

「お待たせしてすみません。まだ私は日中一人で行動しては駄目とクギを

 刺されていましてね、抜け出すのに時間がかかりました」

 

既に屋上に居たセラフォルーの言葉に肩をすくめて答えるひしぎ。

 

「とりあえず、改めて自己紹介するね。私は4大魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンです」

 

「ひしぎです」

 

「よろしくね」

 

「ええ」

 

「──すみません、あまり時間がないので単刀直入に聞きます。

 魔王である貴方が私に何の御用でしょうか?」

 

二人っきりで、盗聴の可能性がない事を確認した後、時間がないので話を切り出したひしぎ。

 

「うん、色々聞きたい事はあったんだけど──まず、ソーナちゃんを

 守ってくれてありがとう」

 

魔王である前にソーナの姉なのだ、妹の危機を救ってくれた恩人に

まずはお礼がいいたかったのだ。

 

非公開だろうと魔王がただの人間に頭を下げるという事は、

悪魔界では許されない掟であり、通常は人間界に降りるというと監視の目があるのだが、

幸いにも今回は公開授業といって監視の目がなく人間界に降りる事ができる

日だったのだ。

 

そして彼女は行動を起こした。

 

今回の目的は、こちらの方が優先度が高かったのだ。

 

「魔王様が、ただの人間に対していいんですか?頭を下げて」

 

「良くないけど、私はソーナちゃんのお姉ちゃんだから、妹の危機を

 救ってくれた恩人に頭を下げるのに、肩書きなんて関係ないよ」

 

「──そうですか」

 

一応彼女の肩書きを心配しての質問だったのだが、それは杞憂だった。

 

「貴方が居なければソーナちゃんは殺されていた。もちろんリアスちゃんも」

 

「確かに、力の差は歴然でしたね」

 

その言葉にセラフォルーは肯定すると、お互い無言になる

そして少し間をあけてセラフォルーが言葉を零した。

 

「少しだけ愚痴ってもいいかな?」

 

「ええ、私でよければ」

 

「あの時ね、本当ならすぐさま駆けつけたかったんだけど、魔王という肩書きが邪魔しちゃって

 動けなかった──妹の危機に駆けつけることが出来ないなんて、

 あの時本当に魔王の座を降りたいと思ったよ」

 

セラフォルーは手すりの背をもたれさせながら、顔を上げ空を見上げたまま

語り、静かにひしぎはそれを聴いている。

 

「・・・・」

 

「コカビエルクラスを相手にするのに、魔王以外だと最低でも上級悪魔クラスが

 必要で、手が空いていてすぐさま救援に駆けつけてくれる悪魔を探すのに

 時間がかかったの」

 

上級悪魔でもコカビエルの名を聞いて、答えを出し渋ったり、急用ができて

手が離せないといった輩は大勢いたのだ。

 

それ以外にも、シトリー家とグレモリー家の失脚を狙ってあえて出すといいながら

準備に時間をかけたりした悪魔貴族も居たのだと、語り、

それが、あの時救援が来るまでに掛かる時間の真相だった。

 

(なるほど・・・それで、アレだけの時間がかかったんですね

 悪魔も一筋縄ではないようですね)

 

「魔王だからって一つ二つの家柄を贔屓せず、悪魔界全体の模範となるように

 行動すべきって議員達に言われちゃった」

 

先ほどまでアレだけの騒ぎを起こした人物とは思えない程の雰囲気を

出しているセラフォルー。

 

「議員の中には、見捨てる選択肢を提示したおじいちゃんもいた。

 救援が間に合わないのなら、そのままで──彼らがこちらに

 攻め込むまで静観したほうがいいんじゃないかって・・・・」

 

起きてしまったものはしょうがないとして、下手に抵抗して長引かせるより

彼らが冥界に来るのを待てばいい、来るにしろ、来ないにしろ、堕天使側との

交渉のテーブルは有利に立つ事が出来ると考えての提示だったのだ。

 

あの時ただ誰一人として戦争の再会を望んでは居なかったが、

その後の悪魔側の立場の有利は確保しておきたかった考えである。

 

「あの時ほど私は魔王になったこと後悔した事はなかった・・・・

 何もかも捨てて駆けつけたかった──でも、私はレヴィアタンの名を

 受け継いだ責任は放棄は出来ない──もう、どうしていいか

 分からない間に事件が終わっちゃったから」

 

だからこそ、セラフォルーは彼に会って「ありがとう」と伝えたかったのだ。

 

「──っと、ごめんなさい。行き成り愚痴を聞いてもらって」

 

空に向けていた視線をひしぎへと戻し、儚く微笑む。

立場上誰にも相談できず、ましてや妹にも心配かけたくなかった。

 

でも、目の前の彼ならば、事情を知っており尚且つ悪魔側と接点が

無かったから、つい零してしまったのだ。

 

「ただ、貴方にありがとうと云いたかっただけです」

 

その表情、言葉を聴いたひしぎは昔を思い出していた。

肩書きによって動く事を許されない歯がゆい思い、

立場上、公には動く事すら許されなかった事。

 

──だけと、あの者達と出会い、教えてもらったのだ。

 

「──そうですか。ならば私からも一つ。

 貴方は貴方の思ったとおりに動けばいいと思います。肩書き?

 そんなの所詮肩書きでしかありません。難しい事は考えずに、終わってから考えればいい」

 

そう、後悔するぐらいならば動けばいい、行動すればいい。

 

「私もそういう時期もありました──ですが、とある"バカ"に教えられたのです。

 何を考え、どう生きようがそいつの自由であり、したいことして

 何が悪い──とね」

 

死ぬ直前だったが、それでひしぎは救われたのだ。

 

「現状に安住して、案件を先延ばしにしている者に未来(さき)など

 ありません。ただただ堕ちていくだけ──と、その"バカ"は言ったんです」

 

あの者は常に未来を"先"を自身の確固たる信念で目指していた。

だからこそ、過去ばかり振り返っていた自分達は敗北したのだと

思い出した。

 

それを黙って聞いているセラフォルー。

 

「私自身はそれで救われました──ただ、気づくのは遅すぎたんですがね

 だから、私のように後悔するより、貴方は自分の未来を自分で決め、

 肩書きなどと云うモノに縛られずに自身の意思で動けばいいと思いますよ」

 

普段はこんなに語る事がないひしぎだが、ただ自分自身と同じような

後悔だけはしてほしくないと思ったから言葉を紡いだのだ。

 

「──うん、ありがとう」

 

優しく微笑むセラフォルー

 

(やはり似た姉妹ですね)

 

微笑む表情が瓜二つだったのだ。

 

「それはよかった」

 

 

 

 

 

その後は他愛もない雑談をはさみ、時間となったので

 

「これからもソーナちゃんの事よろしくおねがいします」

 

「ええ、微力ながらお手伝いします」

 

「じゃあ、最後に」

 

右手を差し出され、虚をつれたひしぎだが、優しく握り返した。

 

「また近いうちに会おうね」

 

「ええ、また」

 

セラフォルーはそういい残し、手を振りながら扉の向こうへ消えていった。

 

そしてその後、元気を取り戻したセラフォルーはソーナを見つけ、

再び逃走劇が再開となったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束の間の平穏を取り戻した彼女たち。

 

ソーナとその眷属達は普段どおり、学園が終わった後、擬似空間へ行き

ひしぎに修行を見てもらい

 

リアスは小猫以外の眷属達と、兄であるサーゼクスから今までの功績と力量を

認められ、旧校舎に封印されているリアスの眷属である『僧侶』

ギャスパー・ヴラディの説得に動いていた。

 

そして週末、約束の日を迎えた。

 

3勢力の会談場所となるのは、ここ駒王学園の新校舎に当たる職員会議室であり、

休日故に校舎には会場の設置を担当したソーナの眷属以外は

招待されている者はいなかった。

 

既に各勢力のトップとその護衛は宛がわれた休憩室で待機しており、

開始時間を待っていた。

 

外では、天使、堕天使、悪魔の軍勢が学園の周囲を完全に囲んでおり一触即発の雰囲気を

漂わせていた。

 

万が一、この会議で交渉が決裂した場合、即戦争になってもおかしくない位の

戦力がここ駒王町に集中していた。

 

そして、時間となりソーナは各陣営のトップを眷属達に先導させ案内させる。

悪魔側からは

 

『魔王』サーゼクス・ルシファー

 

『魔王』セラフォルー・レヴィアタン

 

『護衛兼給仕係』グレイフィア・ルキフグス

 

の三人が出席

 

天使側からは、事実上トップである

 

『四大熾天使』ミカエル

 

『四大熾天使』ガブリエル

 

『護衛』紫藤イリナ

 

の三人が出席

 

堕天使側からは

 

『総督』アザゼル

 

『白龍皇』ヴァーリ

 

の二人

 

そして、今回の会議を開催する事となった事件の当事者であり、

最重要禁則事項である『神の不在』を知った者達

 

リアス・グレモリーとその眷属達

 

ソーナ・シトリーとその眷属達のみである。

 

ちなみに、紫藤イリナはあの当時、コカビエルの攻撃により気を失い

事件解決まで治療の為ソーナに寝かされていた事もあり、『神の不在』を

知らなかったのだが、ゼノヴィアの異端扱いの真相をミカエルに問い詰め、

自身も当事者である事を主張し、教えられたのである。

ソーナの眷属達もサーゼクスから直々に説明があり参加資格を得たのだ。

 

ひしぎは興味が無いと云わんばかりに自室でゆったりと読書を続けていた。

この前の公開授業時に、図書館へ案内されたときに、大量の本を

借りたため修行がない日は読書で一日を潰しており、

充実した毎日を送っているのである。

 

その事実を知っているのはソーナと眷属達のみである。

 

参加メンバーが全員宛がわれたイスに座るのを確認した

サーゼクスが口を開いた。

 

「全員が揃った所で、会談参加の前提条件である『神の不在』を

 認知しているとして話を進めようか──では、私から」

 

このままサーゼクスが話しようと続けようとした瞬間──

 

「──その会談、ワシも参加させてもらおうかの」

 

突如として扉が開かれ、全員の視線を釘付けにした。

そこには、古ぼけた帽子を被り、白いひげを生やしており、

その長さは床に着きそうなぐらいであり、質素なローブに身を包んだ

隻眼の老人だった。

 

そしてその後ろには白銀の鎧を身にまとい、銀髪ロングストレート、

鎧を纏っているが物静かそうな印象を与える女性が控えていた。

 

その姿を確認したサーゼクスは思わず立ち上がってしまった。

 

「オ、オーディン殿なぜここに?!」

 

流石の兄の驚きようにリアスとその眷属達は目を丸くしていた。

 

「なに、古き友にこの会談の成り行きを見守って欲しいと──、

 万が一決裂した場合に、仲介に入るように頼まれてのぅ」

 

「はっ!遠路遥々ご苦労なこった!北の田舎のクソジジイは暇人なのか?」

 

思わぬ登場人物によりアサゼルも一瞬と惑ったが、普段の落ち着きを

取り戻し、皮肉げに言い放つ。

 

「ふん、あやつの頼みではなければ、こんな若造共の会議など来るものか。

 それこそ、若い乙女を追いかけていたほうが有意義に時間が使えるわい」

 

「へっ、いってくれるぜ」

 

皮肉の応酬に、オーディンの背後に居た鎧を着た戦乙女──ヴァルキリーの

女性が仲裁にはいる。

 

「オーディン様、抑えてください。でなければ会談がはじまりません」

 

「お主もお堅いのぉ、これた単なる挨拶じゃよ。もっと肩の力を抜け

 ロスヴァイセよ。そんなんだから、彼氏居ない暦=年齢なんじゃ」

 

オーディンの何気ない一言にロスヴァイセと呼ばれた戦乙女は目に涙を

貯めて泣き始めた。

 

「ど、どうせ私はお堅いですよぅーだ!ううぅ!」

 

その言葉にオーディンもため息をつき

 

「すまんの、こやつはわしの現付き人であるんじゃが、器量はあるんじゃが、

 お堅くてのぉ、男一ついないのが現状じゃ──と、冗談を言いに来たのではない。

 会談には基本的には口は出さん。だが、決裂や"万が一"の事が起こった場合のみ

 出させてもらう──異論は認めん」

 

先ほどまでの冗談が嘘だと云わんばかりに鋭い眼光を3勢力のトップに

向けた。

誰の差し金かは分からないが、ただ言える事はこの会談が決裂した場合、

戦争になりかねない──それの抑止力になる為に派遣されて来たのだと

全員が認知した。

 

万が一オーディンを巻き込んだならば、アースガルズの神々をも

敵に回す事になる。

 

現状この3勢力は、他2勢力を相手しながらアースガルズの神々をも相手にするには

かなりの戦力不足であった。

 

その意味を理解したアザゼルとミカエルは

 

「俺は異論はねぇ」

 

「私もです」

 

「わかりました──では、会談を続けようか」

 

サーゼクスも了承した。

 

ソーナの指示の元、オーディンとロスヴァイセのイスを並べそこに二人が

座るのを確認した後会談は再開された。

 

会談は順調に進み、一誠以外の人物は会談の内容をよく理解しており、

1人だけ理解できず取り残される一誠に、リアスと朱乃がよく噛み砕きながら

小さな声で説明している。

 

その光景を見つつ、話はちゃんと聞いているものの心此処に在らずといった

ソーナが居た。

 

予想外の人物の登場、外は一触即発の雰囲気であり、自分たちとは比べものに

ならないぐらいの強固な結界が学園を覆っている。

 

そしてこの場に居ないひしぎ──コカビエルの一件で彼に目を付けた者は

少なからず居る、そして今日は接触できる絶好の機会なのだ。

 

周りは3種族の気配が充満しており、誰がどう動いても不思議ではなかった。

 

本当ならば近くに居て、安全を保障したかったが魔王である二人に

事件の説明を頼まれていたので、欠席はできず

 

すると、会話が一段落したサーゼクスがリアスとソーナの方に

向き直り

 

「さて、リアス、ソーナ君。そろそろ先日の事件について

 説明をお願いする」

 

サーゼクスに促され、二人とその眷属達は立ち上がりこの間の

コカビエル戦の一部始終を話し始めた。

 

前半部分はリアスが説明し、後半部分をソーナが説明した。

その二人の言葉を真剣に聞く3勢力のトップとオーディン

 

そして、例のひしぎの話となると、オーディンの眉がほんの少し

動いたのをソーナは見逃さなかった。

 

(やはり──オーディン様を呼んだのはあの人しか居ない)

 

明らかに予定のない彼の登場には何か裏があると踏んでいたソーナは

高い確率でひしぎの件だと気づいており、それが確信に変わる。

 

内心そう思いつつも話を続けるソーナ。

 

「──以上が、我々二人とその眷属悪魔が関与した事件の報告です」

 

「ご苦労様、もう座って良いよ」

 

サーゼクスは二人にねぎらいの言葉をかけ、座るように促した。

そしてそのままアザゼルの方に向き直る

 

「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使総督としての意見を聞きたい」

 

その言葉にアザゼルは不敵な笑みを浮べたまま答えた。

 

この事件はコカビエルとその部下による単独で引き起こした事、

そして、事態の収拾に『白龍皇』であるヴァーリを派遣。

想定外のことが起きたが、もしその人間が現れていなくとも、

コカビエルを捕縛し、組織の軍法会議によって決まっていた

地獄の最下層(コスキュート)』で永久冷凍の刑にされ、

永遠にでて来れなくした、と、説明する

 

するとミカエルは報告書に書いてあるアザゼル自身が大きい事を

起こしたくないとあったので、言葉での確認を取ると

 

「ああ、おれ自身、戦争に興味はねぇ──コカビエルの奴もそういってただろ?」

 

肩を竦めながらそう説明した。

そして、その後もアザゼルがなぜ『神器』を集めているのか問いただし、

それは個人の趣味も含まれているが、『神器』研究の為と返した。

その後も何回か言葉のやり取りをしていると

 

「あーもう、まどろっこしいなお前ら──ならよ、和平結ぼうぜ。

 もともとそのつもりもあったんだろう?悪魔も天使も」

 

アザゼルの唐突の言葉に全員が驚き──ミカエルがそれに同意した。

元々天界側も今回の会談で二つの陣営に和平を提案するつもりだったと話、

サーゼクスもそれに同意した。

 

これ以上3戦力で争っていても、未来(さき)に待つのは種族の滅亡、

それを避けるための和平であると主張した。

 

3勢力全ての同意が得られ、すぐさま各陣営の戦力や、兵力、勢力図に

ついて協議した。

 

そしてひと段落ついた所へ、ミカエルが一誠の方に振り向き話しかけた。

元々一誠はとある件で先にミカエルと会ったときに一つ疑問があると伝え

話がしたいと言い、ミカエルもそれに了承し、それが今となったのだ。

 

一誠は隣に居たアーシアに許可を取り、なぜアーシアが追放されなければ

ならなかったのかを質問した。

 

その質問に全員が「今更なにを・・?」という顔をしたが、

一誠は聞いておきたかったのだ。

 

──あれほど神を信じていた彼女を、教会から追放した理由を。

 

すると、ミカエルは真摯な態度で答えた。

 

神が消滅したあと、慈悲と加護と奇跡を司る『システム』だけが残り、

その『システム』はミカエル達すら手に余る代物で、神以外の人物では完全に

制御ができなかった。

 

そして、その『システム』に不具合が生じ、天界側の『熾天使(セラフ)』を

総動員して何とか起動させる事には成功したが、外部からの影響が

受けやすくなり、『システム』に悪影響を及ぼす物は教会から

遠ざける必要があったのだ。

 

そして、アーシアの持つ『聖母の微笑(トライワイト・ヒーリング)』は

悪魔も堕天使も癒してしまう『神器』なので、信徒の中にそれがあるだけで

周囲の信仰に影響が出てしまう。

信者の信仰は天界の住む者の源であり、それに影響してしまう為

追放せざるえなかったのだ。

 

そして、他の例として『神の不在』を知ってしまった者。

『熾天使』と上位天使以外で『神の不在』を知った者が本部に近づくだけでも

悪影響がでるために、かなりの痛手であるが、ゼノヴィアも異端という

形になったと説明し。

 

自身達の不手際の為に、彼女たちに不幸を与えてしまったとミカエルは

謝罪した。

 

イリナの場合は『神の不在』を知る前にミカエルが直接『熾天使』の加護を与え

上級天使でないが、本部に戻っても『システム』に悪影響が出ない様になっている。

 

その答えに、アーシアとゼノヴィアは納得し、微笑を作っていた。

 

ミカエルに続きアザゼルもアーシアが転生悪魔になったのは、

自分の部下の暴走によりと、謝罪した。

 

そして、その後話を切り替えるようにアザゼルは一誠と

ヴァーリに意見を求めた。

 

「俺たち以外に世界に影響を及ぼすほどの力を思ったお前さん達二人は、

 この世界をどうしたい?」

 

その問いにヴァーリはすぐ答えた

 

「俺は強い奴と戦えればいい──最強を目指すだけだ」

 

「赤龍帝は?」

 

「俺、頭悪いからどう答えたらいいか分かりませんが、正直、後輩を

 見るのが精一杯の俺に世界がどうこう言われても、実感がわきません」

 

そう、一誠は新しくできた後輩、ギャスパーの面倒を見るだけで一杯一杯なのだ

他に考える余裕などなかった。

 

「なるほど、確かにお前さんはまだ悪魔に成り立てだから分からな事も理解できる

 だが、お前の持っている力は世界を動かすほどの物なんだ。

 だから、選択を決めてもらわないと俺たち、各勢力のトップが

 動きづらいんだ」

 

そして恐ろしいぐらいに説明を噛み砕いたアザゼル

 

「まぁ、要するに戦争になれば主であるリアスを抱けない。

 和平になるとリアスを抱ける──簡単だろ?」

 

一誠意味を理解した瞬間、即答した。

 

「和平でお願いします!」

 

と、理由が理由なだけに皆は呆れていたが、一誠のお陰で会談は和やかに成った。

 

「とまぁ伝説のドラゴン達の意見も聞いた事だし、最後の議題に移ろうか」

 

アザゼルはそう言い懐から一枚の写真を取り出し、テーブルの真ん中においた。

 

「・・・っ」

 

ソーナは一瞬息を呑み

 

(ついにきてしまった)

 

「正直、今日俺は和平の為に開いてもらった会談だが、この件もお前たちに

 問いたかったんだ」

 

アザゼルはソーナの方に視線を向けながら言葉を続ける。

 

「この人間の詳細は不明であり、現状情報では名は「ひしぎ」と云い

 この学園の自室を一つ借りて住んでる所までしか分からなかった。

 こいつの強さは尋常じゃない──恐らくサーゼクス、お前と同等か

 それ以上かと推測している」

 

その言葉に黙って聞くサーゼクスとセラフォルー

 

「こいつも世界のバランスを傾けるぐらいの力の持ち主だ。

 だから、こいつの情報を知ってる限りで良いから

 堕天使側にくれ」

 

「それは天界側としても同意見です」

 

アザゼルと同様にミカエルもひしぎの強さに危険を感じていたのだ。

二人の視線を浴びながら、サーゼクスは静かに口を開いた。

 

「──ふむ、正直私もこの人間の思想、思惑など一切把握していない。

 唯一つだけ言えるのは、彼はここに住んでいるが悪魔側ではない事。

 そして知っている情報はアザゼル、ミカエル、君たちと同じ程度しか

 得ていないんだ──それに、この人間に関してはソーナ君に

 一任され、僕達魔王でも干渉不可なんだよ」

 

「な・・・」

 

流石のアザゼルもサーゼクスの言葉に絶句した。

 

「じゃあ、なんだ。このまま核爆弾をこの学園で飼い続けるって事か?」

 

アザゼルの言葉の使い方にソーナは一瞬口を挟もうとしたが、

サーゼクスの言葉の方が早かった。

 

「ああ、言い方は好きじゃないが、そうなる──これは悪魔側の総意と取ってもらった方がいい」

 

元々自分自身も提案した件であったため、サーゼクス自身は

ソーナを支持する派なのだが、実際反対意見が多かった事により

複雑な心境だった。

 

「なんと・・・」

 

ミカエルさえも唖然としていた。

 

「ただ、何もしないって事はないよ──万が一の対策は考えてある」

 

その言葉に渋々引き下がる二人──すると、ソーナが立ち上がり

 

「サーゼクス様一つ宜しいでしょうか」

 

「ああ」

 

ソーナは一度だけ深呼吸する、緊張で震えている体に渇を入れ

 

(ここで、私が言わないと彼に迷惑がかかってしまう)

 

その一心で、3勢力のトップに言葉を投げかけた。

 

「彼は我々悪魔や天使、堕天使と敵対するつもりは無いと、明確に話していました」

 

「ほう」

 

「彼については悪魔側に出した同じ資料を皆様方にお配りします──椿姫」

 

「はい」

 

そういって予め用意されていたひしぎに関する報告書をソーナは

各勢力のトップに渡し簡単に説明した。

 

何らかの事故で転移してきて、帰る場所がないために自室を借りている事、

今回の件については恥ずかしい事なのだが、自身と弟子である小猫を守るために

コカビエルを討ったと言う事。

行く当てのない自分を保護してくれたお返しに自分達に修行の稽古を付けてくれると約束した事。

ひしぎの正体を伏せながら、彼がしてくれた事を明確に読み上げ、

彼らに説明した。

 

「ただ、身に降りかかる火の粉だけは振り払うと──そう伝えて欲しいと言われました」

 

「なるほどね──敵対はしないが、自身に手を出してくるなら容赦はしない

 ──と、言う意味で受け取っていいのかなシトリー嬢」

 

言葉を皆に分かり安いように言葉を砕き今一度確認を取るアザゼル

 

「はい、彼の事を私にお任せください──シトリー家の名にかけて

 彼が我々に敵対しないように導きます」

 

ソーナはそのまま(こうべ)をたれ3勢力のトップに頭を下げた。

 

「ソーナちゃん・・・・」

 

それを心配そうに見つめるセラフォルー

 

難しい顔を作るアザゼル、ミカエル、サーゼクス。

 

「個人的には賛成だが。堕天使側の総督としては反対だな──不確定要素が多すぎる」

 

「ええ、私もアザゼルと同じです」

 

アザゼルはそう答え、ミカエルも同意する。

個人的には賛同したいが、自分たちは組織の頭なのだ。

和平を結ぶにあたり、危険な芽は速めに摘みたいと各々が考えており

ひしぎが最重要危険人物に各勢力にピックアップされているの。

 

特に世界のバランスを変えてしまうほどの力の持ち主故に。

 

──すると、思わぬところからソーナに援護が来た。

 

「わしはソーナ嬢を支持しよう」

 

「オーディン様?」

 

「くそじじい・・・」

 

「オーディン殿・・・・」

 

今の今まで静観していたオーディンがこの状況に苛立ちを覚え

3勢力のトップを一喝した。

 

「若造共、こんないたいけな少女が頭を下げているんじゃぞ?

 貴様らもっと器量を見せんか!それでもトップの器か!

 家名を出してまで願い下げてるのに、なぜその想いを考えぬ!」

 

「し、しかしこの人物は危険なのですよ?とてもシトリー嬢

 1人では荷が重過ぎると思うのですが」

 

ミカエルはオーディンの行き成りの一喝に驚きながら反論した。

確かに誰が聞いても、彼女1人では荷が重いと思う

 

その意見はリアス達も同意していた。

 

「オーディンの爺さんさっきも言った通り、何も俺たち個人の意思で、

 反対を出している訳じゃない──彼女の命の安全と、各勢力を守るためだ」

 

「乙女心を分からぬ小童共──少なくともこやつはソーナ嬢を

 守るためにコカビエルを討ったと報告書に書いてあるではないか!」

 

「ええ、ですが、それが本心なのかが我々にはわかりません」

 

尚も食い下がるミカエル

 

「ならば、こやつが敵に回った場合わしが先頭に立って貴様ら

 弱輩者(こわっぱども)を守ってやる!異論は認めん、断じて認めんぞ。

 わしの要求を飲まぬと言うならば、わしにも考えがある」

 

「オーディン様・・・」

 

なぜここまで自分自身を援護してくれるのかが、今一理解が

追いついていないソーナ

そして、今まで黙って聞いていたセラフォルーはあの時の事を

思い出していた。

 

(何を考え、何を決めるかは自分の自由。したい事をして何が悪いのか)

 

あのときの言葉一つ一つを思い出し。

 

(肩書きなど云うモノに縛られず、自分の意思で動けばいい──か

 そっか、今がその時だよね──ひしぎさん)

 

胸に決意を抱いてセラフォルーが口を開いた。

 

「私からもお願いします。彼の事はソーナ・シトリーに任せてください!」

 

「えっ・・・・」

 

今までとは全然違った口調で言葉を発した彼女に、ソーナは勿論

全員が呆然としていた。

 

「まかせて。万が一の時は私も一緒に責任を取ってあげるから」

 

「お姉様・・・・?」

 

「大丈夫。私は貴方のお姉ちゃんなんだよ? 信じて」

 

いつになく真剣で優しい姉の心遣いに、心が温まり目に涙を溢れさすソーナ。

 

姉妹のやり取りを見たオーディンは一呼吸すると、口調を柔らかく発した。

 

「アザゼル、ミカエル、お主らはこれでもまだ反論するか?」

 

「はっ・・・わかったよ」

 

「ええ、乙女を泣かしてしまったら皆に怒られてしまいます」

 

「元より、僕は彼女の提案に賛同していましたし、悪魔側の総意ですから」

 

それぞれが彼女の主張を認め、ひしぎの事を一任した。

 

「ありがとうございます」

 

もう一度頭を下げるソーナ──そして、世界は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ソーナ?」

 

ぼんやりと部屋を明るくさせるランプの下で、壁に背もたれさせながら

ゆったりと読書をしていたひしぎに変な感覚が襲った。

 

「これは、時間停止のたぐいですか──」

 

窓の外を確認し、世界が"止まっている"と感じたひしぎはそう推測した。

そして、傍らにおいてあった『夜天』を腰にぶら下げると、その部屋から

姿をかき消した。

 

 




こんにちは、夜来華です。

休み中にがんばったので、早めに投稿できました。
ただ、今日から仕事が始まったので、どこまで維持できるかは・・・わかりません

妹を溺愛しているなら、これぐらいの行動はとった・・・はずと、
妄想をフル回転させながら書きました。

お陰で原作とはかなりかけ離れたセラフォルーになってしまいました。
そして、まさかのオーディンとロスヴァイセの登場です。
3勢力のトップを納得させるにはそれ相応の人物を用意しないと
いけなかった事もあるのですが、今後の話しの展開により
早期出演が決まっていたお二人です。

かなり原作乖離になってきましたが、これからも頑張ります。

感想、一言頂けたら、とっても嬉しいです・・・!


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第13話 レヴィアタン

圧倒的な存在感

見るもの全てに威圧感をかける鋭い眼光

暴風のように吹き荒れる放出された魔力

姉様から聞いていた、けど、実際に、それは──恐怖の塊でしかなかった。


鉛色でどんよりとした上空に、突如として転送魔方陣が出現し、

その中から黒いローブに身を包んだ魔術師ににた者達が、大量に出現し、

その数は勢いを増し、上空から、校庭の至る所までびっしりと人影らしきモノが

現れた。

 

そして其の者たちは一斉に掌、杖、などを新校舎にある職員会議室に向けられ、

魔力弾を生成し、一斉に射出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

一誠が気がついたときには、会議室の雰囲気がガラリと変わっていた。

 

ミカエルとガブリエルは窓の外を凝視し、サーゼクスとセラフォルーは

グレイフィアと真剣な面持ちでなにやら相談していた。

 

オーディンはさほど変わらず、イスに座りながら寛いでいた。

 

すると、自身に気がついたアザゼルがこちらに近づきながら声を

掛けて来た。

 

「お、赤龍帝の復活か」

 

その言葉に疑問を持った一誠は周囲を見渡してみると、動いている者と

停まっている者に分かれている事に気がついた。

 

各勢力のトップは全員動けており、他に動いている者は

 

ミカエルの加護を持つイリナ

 

イレギュラーな聖魔剣を宿している祐斗

 

聖剣デュランダルを発動させているゼノヴィア

 

戦乙女の祝福を持つロスヴァイセ

 

『白龍皇』であるヴァーリ

 

『赤龍帝』である一誠

 

一誠の手に触れていたお陰で動けるリアス

 

そして、気づかないうちにひしぎに"浄化"の加護を掛けられているソーナ

 

ソーナと同じように"浄化"の加護を持つ小猫

 

のメンバーのみだった、朱乃や椿姫、アーシアやシトリー眷属は全員

停まったままの状態だった。

 

「な、何があったんですか?」

 

流石の一誠もただ事ではない雰囲気を感じ取っていた。

そして、それに答えたのがアザゼル

 

「テロだよ。テ・ロ。ほら窓の外を見てみろ」

 

アザゼルは焦る様子を見せずに淡々と答え、一誠に窓を見るように言った。

一誠は言われるがままに窓に近づくと

 

──眩しい閃光が眼前に広がった。

 

「わっ!?」

 

突然の閃光に後ずさる一誠、そして眩しそうに目を窄めて窓の外を

見てみると

 

「──うそだろ・・・」

 

至る所に人影があり、その全員がこちらへ向けて攻撃を行っているのだ。

理解が追いつかない一誠に、アザゼルはまたも言葉を砕きながら

説明し始めた。

 

「世の中にはな、大きな勢力が手を結ぼうとすると、それを嫌がる連中は

 必ず存在するんだ」

 

今まで睨み合っていていた勢力が手を組む事によって、それらと

敵対している所が手を出しにくくなるのだ。

 

だからこそ、会談さえ潰せばその和平の道はなくなる──と、浅い考えを

持つ者がこういう行動を起こしてくるのだと、説明し。

 

今は3勢力のトップが自ら強力な防御結界を張っているため、

被害は出ていないといいながらも、長引くと不利になると言った。

 

理由は、先ほどの時間停止である。

 

彼らが調べた所、外に居る3勢力の軍勢たちは全て停まっており、

上級、最上級クラスが居ないにせよ、外に待機している全ての戦力が無効化されていた。

 

そして、その原因はリアス・グレモリーの『僧侶』ギャスパーのもつ『神器』

停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』が強制的に『禁手(バランスブレイカー)』状態にされ、

制御できずに暴走と云う形で発動させられたのだ・

 

本来なら使い手よりも上位の実力者は止めることができないのだが、時間が経つにつれ

出力が上がってきており、後数分もすればトップの内の誰かさえも

止めてしまうほど効力だった。

 

結界を張っているにも関わらず、敵は内部にいとも簡単に侵入してくる。

そして倒しても倒しても途切れる事無く、転移を繰り返してくる。

タイミングといい、テロの仕方、運用する戦力の規模を考えると、

内情を知っている者が手引きしている可能性があると指摘し、

このままずっと同じ事の繰り返しでは、現状ではまだまだ余力はあるが

いずれ体力、魔力が底をつき、敗北は目に見えている。

 

だからこそ、アザゼルは現状を打破するために提案をだした。

 

自分たちトップは下調べや結界の維持で動けないためここで囮になり、

ここでできる限り篭城戦を仕掛け、相手の黒幕の痺れを切れさせ、

出現した所に一気に殲滅する事。

 

そして、囮となっている間に数名が、ギャスパー・ヴラディの奪還する事。

 

奪還メンバーはリアスと一誠が立候補して、すぐさま作戦は開始された。

 

 

 

 

(ひしぎさんは・・・恐らく大丈夫ですよね)

 

内心、向かいの校舎の自室に住んでいるひしぎの安否が気になるソーナだが、

あの強さを見た後なので、生きているとは確信しているが、

危険人物である彼を敵が野放しにしておくか──答えは否だ。

 

どの勢力でも彼の存在、力を危惧している。

 

本人自身は気にしている様子ではないが、事情を知ってる身としては

心情に悪い。

 

本当ならば、すぐさま駆けつけたいところだが自分自身の力では一時的な突破は

可能だが、圧倒的な兵力の前に成すすべなく包囲殲滅されるのは目に見えていた。

 

だから今は彼の身を案じながら事態の打破を考えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

転移の準備をしている間、アザゼルはヴァーリに成功確率を上げる為に、

外に出て敵の注意を引き付ける様に指示をだし、

了承したヴァーリは『禁手化(バランス・ブレイク)』を発動させ、

全身白き鎧に包まれ、会議室の窓を開け、敵陣へ吶喊した。

 

稲妻の様な軌道を取りながら、敵を薙ぎ払い、切り裂き、一方的に

蹂躙を開始する。

 

敵も迎撃体勢をとるが、まったくスピードに追いつけず

その数を減らしていく──が、連続転送により敵が大量に転移してくる。

 

その光景を見ていたサーゼクスがアザゼルに向き直り

 

「アザゼル、先ほどの続きだ。神器を大量に集めて何をしようとしていた?

 『神滅具(ロンギヌス)』の所有者も何名か集めたそうだな。

 神はもういないのにどうして神殺しの武器を集めていたんだ?」

 

サーゼクスの意見はもっともであり、他の者もいつの間にか

アザゼルの答えを待っていた。

 

すると、アザゼルは首を横に振り否定した。

 

「いや、備えていたんだ」

 

「備えていた? 戦争を否定したくせに随分不安を煽る物言いですね」

 

あきれたようにミカエルが返す。

 

「さっき言ったように、俺はお前たちと戦争をするつもりは無かった。

 こちらからも戦争を誘発するような事はするつもりはない。

 ──だが、自衛の手段は必要だ。別にお前たちに備えてじゃなかった」

 

「と、いいますと?」

 

「──『禍の団(カオス・ブリゲード)

 

聞いた事もない組織の名前であり、サーゼクスとミカエルは説明を求めた。

 

アザゼルは隠す事無く、知っている情報を語りだした。

組織名、背景が判明したのはごく最近で、堕天使側の副総督であるシェムハザが

不審な行動を取る集団に目をつけ情報収集。

 

構成員の半数以上は3勢力の危険分子であり、中には『禁手(バランスブレイカー)』に

至った神器もち人間、『神滅具(ロンギヌス)』の担ぎ手も数人確認されていた。

 

「奴らの目的は、秩序の破壊と混乱だ。分かりやすい連中だろ? この世界の

 平和が気に入らない──ただのテロリストさ。ただ、最大級に性質が悪い。

 奴らの親玉が──『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の

 力を凌駕する最強で、最悪のドラゴンだ」

 

「──っ!」

 

アザゼルと一誠以外を抜いた全員が言葉を失っていたのだ。

 

「──そうか、彼女が動いたのか。『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』、オーフィスが。

 神が恐れ、この世界が出来上がったときから、最強の称号を持つ龍」

 

流石のサーゼクスも顔の表情を険しくされており、一誠にも事の深刻さが伝わった。

誰もが言葉を発せずいた部屋の中に、聞きなれない女性の声が割り込んできた。

 

「そう、オーフィスこそが我々『禍の団(カオス・ブリゲート)』の象徴!」

 

声と同時に部屋に光が生まれ、そのまま魔方陣を形成していく

それを見たサーゼクスが急いでグレイフィアに指示を飛ばし、リアスと一誠を

ギャスパーの囚われている旧校舎へ転送した。

 

「──レヴィアタンの魔方陣」

 

形成されていく魔法陣を見ながら、サーゼクスはそう呟いた。

他のものも表情を険しくさせながら、魔方陣を睨みつけていた。

 

そして、形成が終わりその中から褐色の肌で深いスリットに身を包んだ女性が

現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・さて、どうしたものでしょうか」

 

新校舎のむかい側にある校舎の屋上から、職員会議室の様子を観察している

ひしぎの姿があった。

 

既に周りには鮮血に混じって体の一部と思わせるような肉片が、撒き散らされており、

至る所に無惨に切り裂かれた魔術師たちの骸が転がっていた。

 

ひしぎは見つからないように、不可視の結界を張り彼らの眼をやり過ごして

状況の確認と、ソーナと小猫の生存を最優先で確認していたのだ。

 

そして、彼女たちは魔王達の結界に守られているため、

下手に救出するより、静観していたほうがいいと考えていた。

 

眼前に大量に沸いて出てくる敵の強さは、壬生の下級戦士から中級戦士と

いった混成部隊。

 

悪魔側の強さで言うと、中級から上級手前のクラスである。

 

現段階では突出した強さを持っている相手は、行き成り会議室に現れた

女性のみだった。

 

「これぐらいならば、私の出る幕は──ありませんね」

 

相手一人だったらあそこに居る各勢力のトップが何とかするだろうと

結論付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現れた女性はカテレア・レヴィアタンと名乗り、先代魔王レヴィアタンの

血を引く者であった。

 

現魔王達は名を引き継いでいるが、血縁者ではなかった。

戦後、冥界では四大魔王が滅びた後、新たに魔王を立てようとしたとき、

血縁者ではなく、魔王にふさわしい器、即ち"強さ"を持った人物を選ぶことになったため、

この決定に意を唱え最後まで徹底抗戦を取ったのが、旧魔王の血を引く者達だった。

 

候補として8名ほど選ばれ、その中には血縁者はおらず、

最終的に4人の候補者が降り、魔王が決定したのだ。

 

疲弊しきった悪魔側には余裕が無く、種の存続を急務としていたため、

実力行使に出て抵抗する旧悪魔側の一門を冥界に隅まで追いやり、新政権を樹立したのだ。

 

そして、カレテアは3勢力のトップを見回す挑戦的な笑みを浮かべ

 

「我々、旧魔王派のほとんどの者達は『禍の団(カオス・ブリゲート)』に協力する事に

 決めました」

 

これは、現魔王派に対する宣戦布告でも有り、クーデターである。

テロリスト集団と共に現世界を破壊し、オーフィスを力の新世界の象徴として

奉り、再構築した世界を自分たちが仕切りなおすと宣言したのだ。

 

「ふん、小娘が・・・・あまり粋がるなよ? 所詮オーフィスの『力』が無ければ

 小童共に喧嘩を売ることさえ出来ぬくせに」

 

「なっ・・・・!オーディン!?貴様!私を愚弄するか!」

 

オーディンの呟きに、挑発的は表情から一辺、険しい表情をつくり

今にも攻撃を加えようとする雰囲気を爆発的に発生させた。

 

その瞬間、オーディンの後ろで待機していたロスヴァイセが、

彼を庇う様にして陣取る──その眼は先ほどの弱々しい眼ではなく、

歴戦の戦乙女を沸騰させる眼だった。

 

カテレアは、全身から魔力のオーラを迸らせ、ロスヴァイセも全身に術式魔法と

精霊魔法を無言で展開する。

 

一触即発の空気が流れ──

 

「カテレアちゃん・・・どうして・・・」

 

セラフォルーがポツリと呟いた。

 

「セラフォルー!私から『レヴィアタン』の座を奪っておきながら、よくも

 抜けぬけと・・・・!正当な血筋である私こそが、魔王にふさわしかった!」

 

「カテレアちゃん・・・」

 

「まぁ、それも今日で終わりです!貴方を殺し、私が真の魔王レヴィアタンであると

 名乗りましょう──簒奪した罪は重いですよ? 貴方の一族を根絶やしにする事さえ

 生ぬるい・・・!だから、溺愛してる妹を貴方の目の前で殺してあげます!」

 

狂気を宿した瞳でセラフォルーからソーナへ視線を動かした。

 

「──っ! 確かに貴方に悪い事したと思ってる! だけどソーナちゃんは

 関係ない」

 

咄嗟にソーナの前に移動し盾になろうとするセラフォルー

 

「ね、姉様!」

 

困惑した声を上げるソーナ、本来ならばソーナがセラフォルーの盾になるべきだったのだ。

セラフォルーの身に何かがあった場合、現魔王側に『レヴィアタン』を受け継ぐ人物は居ない。

現政策は今の魔王達4人でギリギリ回っており、一人でも掛けると冥界の

バランスが崩れる事を意味するのだ。

 

「自身の身を第一とお考えください!」

 

ソーナは必死に懇願したが

 

「いやだ、ソーナちゃんが居なくなったら、この世界に私の生きる意味なんて無いんだよ」

 

「えっ・・・」

 

「それにね、姉は妹を守るために生まれてきたんだよ?

 だから、私に貴方を守らせて」

 

そうソーナに微笑みかけ、セラフォルーも全身に魔力を解放した。

その瞬間、部屋一帯の温度が急激に下がり、無機物のテーブル、窓、イスなどが一瞬にして

音を立てながら凍り始めた。

 

「──っ! 忌々しい魔力量です!」

 

魔力の猛吹雪に当てられたカテレアは全身から冷や汗をかきながら、

その場に踏みとどまった。

 

「ほれ、それが貴様とセラフォルーの力の差じゃ。現実を見よ。

 ──魔王の器は強さに比例しておるのじゃ。『レヴィアタン』の座は元より

 貴様に合わぬ」

 

その様子を感じ取ったオーディンが失笑する。

 

「北欧のくそ爺が! 冥界側の事情に口を挟むなぁぁぁあ!」

 

その瞬間、カテレアは一気に空中を蹴り、オーディンへ向けて疾走し

魔力を滾らせた拳を振りぬいた。

 

しかし、その拳は届く事無く、ロスヴァイセが瞬時に展開した堅牢な防御方陣に阻まれる。

カテレアはそのまま振りぬいていない拳に魔力弾を生成し、邪魔な

彼女を先に葬ろうとした瞬間、目に入ったのは、

ロスヴァイセの周囲に無数の攻撃方陣が展開しており、既に発射寸前の状態と成っていた。

 

「速い・・・!」

 

流石にこの距離で全弾直撃を受ければ、只では済まないと瞬時に悟ったカテレアは

魔力弾を消し、防御方陣を張りながらバックステップで後退した。

 

「──撃ち抜け!」

 

ロスヴァイセ発した言葉により、ありとあらゆる性質と属性を兼ね揃えた光の奔流は

一瞬にしてカテレアを飲み込み、轟音と共に会議室の窓を破り、外で射線上にいる

魔術師達をも蒸発させ、学園を覆う結界にまで伸びると極太の砲撃は止んだ。

 

「流石と云うべきか、アンタの護衛は優秀だな」

 

咄嗟の判断力、魔力量、そして四大元素を元にした砲撃に、アザゼルは素直に

賛辞をおくる。

 

だが、ロスヴァイセの真剣な表情を浮べたまま、会議室の窓枠に近づき、

外の上空を見上げると

 

「今のは流石に危ない所でした。咄嗟に判断を間違えていたら

 どうなっていた事やら」

 

体中至る所に火傷を負い、せっかくのドレスがボロボロになっていたが

カテレアは健在だった。

 

そのまま無言で追撃に出ようとしたロスヴァイセ

 

「ロスヴァイセよもうよい。今回のわしらは外部の者じゃ、それ以上手を出す必要は無い。

 後はこやつらにまかせよ」

 

「──わかりました」

 

オーディンの言葉に頷きロスヴァイセは後退した。

 

「先手は取られてしまったが、ここは俺がやるか、サーゼクス、ミカエル、手を──」

 

アザゼルが一歩前に出て言い終わる前に別の声が割り込んだ。

 

「──私がカテレアちゃんをやります」

 

宣言したのはセラフォルーだった。

彼女はそう言うと、ソーナから離れ会議室の窓際まで来た。

 

「あの子がああなったのは私の責任でもあるから──だからけじめは付ける。

 だから誰も手出ししないで」

 

そういい残し、カテレアの待つ上空へ飛んでいった。

 

「お姉様・・・・」

 

ソーナはそう呟き、視線で姉の姿を追った。

カテレアが『禍の団』に協力するようになったのは原因は一概にも

セラフォルーだけの責任ではない、9割がた現政策の所為でもあるのだから。

 

それでも、彼女は負い目を感じていた。

 

だからこそ、彼女の相手は自分がしなければ成らないと悟ったのだ。

そのまま地面を蹴り、カテレアと同じ高さ目で飛び数メートル距離を取って

対峙した。

 

「──決着を付けようか、カテレアちゃん」

 

「──っ!貴様・・・!」

 

カテレアの瞳に映るのは──セラフォルーの顔には何の表情も浮かんでいなかった。

ただ真っ直ぐに漆黒の瞳で自身を映していた。

 

それを見た瞬間、カレテアの本能が危険信号を最大音量で鳴らしていた。

 

──危険だ、と。

 

いつもの彼女は何処に居てもどんな時でも、笑顔を絶やさなかった。

それは彼女を知っている者達は全員が知っていた──だが、

 

(今までとは全然纏う雰囲気が違う──違いすぎる!)

 

表情では何とか取り繕う事ができたが、内側から氷漬けにされるような

感覚に陥っていた。

 

それを振り払うかのようにカテレアは周囲に4つの攻撃魔方陣を展開させ、

闇属性を纏わせ、手の平をセラフォルーに向け4砲門同時に一斉砲撃を仕掛けた。

 

「消えなさい!」

 

真っ黒でマンホールの蓋とおなじ位の大きさの4つの砲撃は、セラフォルーに

向かってのび

 

──自身に迫り来る砲撃に焦る事無く、全身から魔力オーラを

迸らせ静かに呟いた

 

「──凍てつけ」

 

迫り来る4つの塊は、セラフォルーの少し手前で見えない壁にぶつかったと思うと、

着弾部分から魔力の砲撃が一気に凍り始めた。

 

そして一瞬にして周囲に浮かぶ攻撃魔方陣さえも凍ってしまい

 

「なっ・・・・」

 

何の動作もせず、ただの一言だけで自身の攻撃を止められたことに

驚きを隠せなかった。

 

「──っ!まだまだこれからです!」

 

もう一度新たな魔方陣を生成し、今度は自身の周囲とセラフォルーの四方に

先ほどの4倍の数を展開し、砲撃魔法ではなく、砲弾魔法に切り替え一斉に射出した。

 

バレーボールぐらいの大きさの弾は、セラフォルーの死角を含めた四方八方から

音速で襲い掛かるが、やはり、彼女に当たる一歩手前で全て凍らされ、

地上へ落下していく。

 

セラフォルーは一切防御魔方陣を使っていない、ただ自身の周囲に魔力を放出している

だけであり、その魔力に接触したカテレアの砲弾が勝手に凍りついているのだ。

 

それほどの力の差が彼女たちの間にあったのだ。

 

隙など与えないつもりで絶え間なく攻撃を続けるが、魔力壁を突破出来ていなかった。

 

敵の親玉を完全にセラフォルーが抑えており、その隙にオーディンとロスヴァイセ、

停まった者を除き、他の者達は全員校庭に降り立った。

 

ミカエル、ガブリエル、サーゼクスは残っている者達を守るために新校舎に

結界を新たに張り直した。

 

サーゼクスから周りの魔術師の排除を任かされた祐斗、ゼノヴィア、小猫とソーナは

2組ずつに分かれて、敵の中へ吶喊していく。

 

イリナとグレイフィアは結界を張る3人の護衛としてその場に待機、アザゼルは相手を

取られた鬱憤を晴らすかのように、上空を縦横無尽に飛びまわりながら

敵を減らしていく。

 

流石の魔術師たちも『白龍皇』と堕天使の総督であるアザゼルを相手に、

転移スピードが追いつけず、徐々に徐々にと数が減っていく。

 

頼みの綱のカテレアもセラフォルー相手に苦戦中で、敵側の指揮の低下は

否めなかった。

 

そして漸くセラフォルーが"動いた"

 

「もういいよね──カテレアちゃん」

 

その呟きと同時に足場にしていた魔法陣を蹴りる、その瞬間に彼女の姿がかっ消え、

気づいたときにはカテレアの目の前まで一気に距離を積め、右手で彼女の右手を

掴んだ。

 

「は、放しなさい!無礼者!」

 

手をつかまれて漸く自分が"捕まえられた"と認識したカテレアは

体を大きくゆすり、無理やり彼女の手を離させた。

 

元よりセラフォルーは彼女の手を軽く掴んだだけだったので、手を

引っ込めて距離をとった。

 

その表情は変わらず無表情である。

 

一方カテレアの方は触れられた事の嫌悪感を思い切り表情に表していたが、

体の異変に漸く気がついた。

 

「右手が動かない・・・?」

 

いくら右手を動かそうとしても動かなかった。まるで、右手の神経が切られたような

感じで感覚すらなかったのだ。

 

「セラフォルー!私の右手に何をした!」

 

「壊死させただけだよ」

 

さらっと、彼女は答えた。

 

「なっ・・・!」

 

触られた部分のドレスを左手で引きちぎって見てみると、褐色だった肌の色が

濃くて薄暗い紫色に変貌していた。

 

一瞬冷たいと感じた程度だったのに、その部分の神経と骨と肉が

壊死していることに気がつき、完全に生きている部分と遮断されてしまったので、

完全に右手が使い物にならなくなった。

 

(ここまでの差があるとは・・・・!悔しいですが)

 

完全に力の差を読み間違えていたことを悟ったカテレアは逆に思考が

段々と冷静に戻ってきていた。

 

目の前にいるセラフォルーはこちらをじっと見据えながら沈黙して

こちらの出方を待っている。

 

(何を考えている・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

(ごめんね、カテレアちゃん──)

 

セラフォルーは別に彼女に対して、情けを掛け様とは思わなかった。

最初からカレテアを()るつもりで望み、ただ単に、少し長くてかなりの

集中力の要る魔法の詠唱の為に時間稼ぎを行っているだけだった。

 

本来なら、大技一発で消し去る事が可能なのだが、その技の余波で

サーゼクス達3人が強力な結界を張っていても破壊してしまう恐れがあるのと、

校庭には自身の妹とその友達の眷属達もおり、巻き込まない自身は無く、

彼女たちを殺してしまう可能性があるからだ。

 

──それに彼もこの学校のどこかにいてるはず

 

あの時愚痴を黙って聞いてくれた存在を思い出し、迷惑を掛けないように

自制をかけたのだ。

 

(そろそろ、仕込みは終わり)

 

 

 

 

 

嫌な雰囲気を感じ取ったカテレアは咄嗟に胸元に隠して二つのビンを左手に隠し持った。

すると、セラフォルーが右手の掌を彼女に向け

 

「──出ておいて、『氷の氷槍(ダイヤモンド・スピア)』」

 

そう言葉を発した瞬間、

 

「がっ!?」

 

カテレアの全身に内側から食い破られるかのような激しい激痛が走った。

すると、体の至るとことから皮膚が盛り上がり、全身を絶え間なく刺激する。

 

激痛により空中の魔方陣が維持できなくなり地上へ落下するカテレア。

完全に受身が取れない状態で運よくだが背中から落ちたが、その衝撃で肺の

中に溜まった空気と鮮血が口から吹き出す。

 

「ガハッ」

 

痛みで思考が乱れ、意識が飛びそうなのを気力で繋ぎ止め自分自身の体に

何が起こっているのかを確認する為、頭を持ち上げぼやけた視界に映ったのは

 

体の至る所から無数の氷の氷柱(つらら)が"生えていた"

 

内部から肉を突き破り、褐色だった肌を鮮血に染め剣山の様にそびえ立っていた。

 

セラフォルーが初めて空中でカテレア対峙したときに、既に仕込が開始されていた。

放出した魔力で視認出来ないぐらいの氷の種を生成し、

こちらへ攻撃をしている最中に、それを彼女の周りに散布させ、目や耳、鼻から

一気に侵入させ、血管に入り込み全身へその種を循環させる。

 

魔力操作された氷の種は血管の中でお互いくっ付き合い徐々に肥大化していき、

ある程度の大きさになった瞬間に、セラフォルーの合図と共に、

外へ突き出ようとする力を生み出し、人体の内側を突き破って外に出たのだ。

その結果が、今のカテレアの成り果てた姿である。

 

「あ・・・・・あぁぁぁぁぁ!」

 

漸く事態を飲み込めたカテレアは己の体を食い破った氷に恐怖を抱き、

顔を歪ませて悲鳴を上げた。

 

表情一つ変える事無く上空から見下ろしているセラフォルー。

ただ、手には氷で出来た剣が握られていた。

そして彼女はそのまま剣を構えこちらに向け落下してくる。

 

(来る!・・・・どうにかしないと・・・!)

 

未だに内側から鈍い音と共に骨を砕き、肉を食い破る氷が増え続けており

 

(このままでは・・・死ぬ・・・!何もしないまま死ぬのは──嫌!)

 

心の底まで恐怖に染められたカテレアは、必死に左手を動かした。

腕を動かすたびに、ノコギリのようなもので肉を切られている痛みが走る。

 

それでも、彼女は最後の力を振り絞って握っていた二つの瓶を

血と涎でベトベトになっていた口の真上へと持ってきて、握りつぶした。

掌にガラスが食い込む痛みを我慢し、指の間から滴る己の血と、

真っ黒な"蛇"の形をしたナニカと透明の液体が口の中に入り込み、喉をならした。

 

3つの液体を飲み込んだ瞬間──すぼみ掛けていた目を見開き、

セラフォルーの剣が自身の喉へ到達する瞬間に体を思い切り右へ寝転がせ、

一回転したのち立ち上がり、地を蹴りそのまま距離を取った。

 

その行動のお陰で体に生えていた氷の氷柱は全て粉砕し、体には付いておらず、

食い破られた体中の傷は全て塞がり再生していた。

 

ただ、避けた拍子に剣の刃がかすり首筋には一線の傷があり血が流れていた。

 

地面へ剣を付きたてたままのセラフォルーがカテレアの方に向き直り、

その回復ぶりをみて悟った。

 

「フェニックスの涙ね」

 

「ご名答です。流石ですねこの薬は。あれほどの傷を一瞬にして

 治療、再生してしまうなんて」

 

そう、胸元に隠していた瓶の一つはあのいかなる傷をも瞬時で回復させる

『フェニックスの涙』だった。

 

彼女たち『禍の団』は裏ルートでこれを入手していたのだ。

 

「──そう、でも。貴方と私の力は歴然。直した所で、結果は見えてるよ?」

 

セラフォルーの言葉通り力の差は歴然であり、直した所で"先ほど"のままでは

また瞬殺される既知感が頭を過ぎるが──カテレアは不敵に微笑んだ。

 

そして、もう一度全身に魔力を迸らせると──先ほどとは大違いの

膨大な魔力のオーラは噴出した。

 

その質量はセラフォルーにも引けを取らない位になっていた。

 

「──その"力"、そのオーラ」

 

異常なまでに膨れ上がった魔力にこの戦いで漸く表情を

動かしたセラフォルー

 

それをみたカテレアは愉快そうに笑い、答えた。

 

「素晴らしいでしょ? この力はオーフィスがくれたモノなの。

 これさえあれば、例え力の差が開いてたとしても同等──いえ、それ以上の

 力を得ることが出来るのです──そして、今まででは使えなかった

 技すら可能となる」

 

カテレアは右手で首筋にある傷を掌で押さえ、血を大量に付着させる。

 

「今日、この場所でこの力を使い私は貴方を超える──!」

 

セラフォルーは、このまま彼女の思うままに行動させては拙いと悟り、

剣を構えて地蹴り疾走する。

 

「無駄です!」

 

心の臓を狙った突きを左手で剣を握られ難なく止められた。

セラフォルーは断じて手を抜いたわけじゃない──だが、止められたのだ。

先ほど触れられるま気づかなかった彼女には今回のセラフォルーの動きは"視えて"いたのだ。

 

そして握った手からは普通ならば刃を握っているため、触れている部分は斬れ

血が出るものだが、彼女の手からはそれすらなかった。

 

「──っ!」

 

止められた事実に、時間上0.1コンマだが勢いすら止めてしまった事により

彼女に隙を見せてしまう。

 

そして、カテレアはその隙を見逃さずに

 

「準備は整いました!」

 

剣を止めた左手を大きくしならせ、剣を弾き──自身もまた

バックステップにより、セラフォルーから大きく距離をあけ、自身の血が大量についた

右手で地面を叩いた。

 

「──我、レヴィアタンの血を引く者! 古の血の盟約により、

 封印されし『終末世界の象徴』よ!今こそ、その楔を解く!

 汝、我に従い、その力をもって我を守護し、我の敵を討ち滅ぼせ!

 ──我呼びかけに応えよ!『陸の魔獣王(ベヒーモス)』!」

 

カテレアの血で描かれた召喚魔方陣は、見るもの全ての視界を遮るような

光を放ち、濃い魔力を帯び、その瞬間魔方陣から魔力を纏った暴風が吹き荒れる。

 

セラフォルーは勿論、魔術師、それらを相手にしていたアザゼルとソーナ達は

身に重圧を感じるほどの魔力質量に動きを止めた。

 

「まさか・・・・」

 

サーゼクスは有り得ないと言った表情を作っていた。

 

「ほぅ・・・まさか、アレを召喚できるようになっていたとは」

 

旧校舎の窓際から静観していたオーディンの顔にも余裕が消えていた。

 

「おいおい・・・冗談だろ・・・」

 

アザゼルも全身から冷や汗を流しならが、魔方陣を凝視していた。

なぜなら、魔王すら凌駕する魔力質量を持った存在が、召喚魔方陣の

向こう側から近づいてきているのを肌が感じ取っていた。

 

徐々に徐々にとその存在は出口へ近づいてきており

 

 

 

その"魔獣"は一歩

 

 

 

また一歩と前進

 

 

 

魔方陣から鋭く漆黒の二本角が姿を現し

 

 

 

狼を沸騰させるような顔つきで──口にはびっしりと並んだ鋭い牙

 

 

 

四足歩行でありながら上半身に強大な体格を持ち

 

 

 

前足後足には、枷があり途中で切れている鎖を引きずりながら

 

 

 

カテレアの3倍以上の全長があり、ゆっくりと姿を現した

 

 

 

圧倒的な威圧感、魔力質量

 

 

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』はゆっくりとその獰猛な口を開け

 

 

 

「オオオオオオォォォォンン!!!」

 

 

 

轟音とも取れる咆哮を放ちながら──セラフォルーと対峙した。

 

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

ひしぎの戦闘を想像していた方、申し訳ない。。。
完全に彼は気配を隠している話です。

やっぱり原作の主要キャラが動く場合、どうしても彼の存在感が
薄くなってしまう。

今回は原作乖離でレヴィアタン対決です。
原作やアニメでやっぱり戦って欲しかったので・・・書いてみました。
後、ロスヴァイセさんが既に強キャラ扱いです。

感想、一言頂けると嬉しいです。



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第14話 魔獣

レヴィアタンの名を受け継ぎし者

レヴィアタンの血を受け継ぎし者

どちらかの資格を有する者を守護する『最悪の魔獣』


セラフォルーは目の前に居る魔獣を目にするのは、これで3度目だった。

 

一度目は、幼き頃の戦争中

 

二度目は、レヴィアタンの名を受け継ぎいた時に、契約した自身の眷属。

 

そして、今回が三度目だった。

 

セラフォルー自身も『陸の魔獣王(ベヒーモス)』を眷属として召喚する事は

可能だが、未だに完全な制御は不可の状態であった。

 

普段は温厚で穏やかな性格なのだが、召喚魔方陣を使って召喚する場合、

何かしらの力が働き、凶暴で残忍な気性に変貌しているのだ。

 

召喚すれば数日間は破壊衝動が収まらず、悉く目に映るものを破壊し、

全てを灰燼に帰す。

 

故に彼女は契約後、一度も召喚した事がなかった。

 

いや、召喚できなかった

 

なぜなら──幼き頃に見た、暴走した『陸の魔獣王(ベヒーモス)』を見て

心の底から恐怖を覚え、今でも覚えている。

 

あの時7日7晩破壊の限りを尽くし、冥界にある大陸を10以上破壊し、

数万以上の戦死者をだしたのだ。

 

人体の一部だった肉片や骨片や血などが燃え盛る大地を彩り、

悲鳴と絶望の呻き声が絶え間なく聞こえていたのだ。

 

それは子供だった彼女の心に酷く大きな爪あとを残したのだ。

 

そして彼女だけでは無く、サーゼクスもミカエル、アザゼルも同じような経験をしていたのだ。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は天界に住む、神獣、聖獣や冥界の魔獣、ドラゴン達の対抗策として、

魔王の手によって創られた生体兵器である。

 

元となった『原初の真魔獣王(オリジナルベヒーモス)』は初代魔王の眷属ではなく、戦友として当時に合った

大規模な戦争に参戦し、圧倒的な力を奮い、天界側に大打撃を与えるが、

神の策謀により『真なる赤龍神帝(グレートレット)』、『無限の龍神(オーフィス)』と並び、

最強と呼ばれるドラゴンと戦闘になり、互角の戦いを繰り広げたが、敗北。

 

その後初代魔王が『原初の真魔獣王(オリジナルベヒーモス)』の体から血と肉を採取し

自身の血肉を融合させ誕生させたのが現在の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』である。

この真相を知っているのは、初代魔王の血縁者と、歴代魔王のみである。

 

生体兵器として新たに生まれ変わった『陸の魔獣王(ベヒーモス)』だが、『原初の真魔獣王(オリジナルベヒーモス)』の

強さの7割程度しか発揮できず、完全再現にはならなかったのだ。

 

それでも、魔王と同等の力を持ち、複数存在するのだ。

 

そして、それらは代々魔王の血を受け継ぐ者に託され使役されてきた。

ただ、初代魔王以外は完全に制御下に置く事が適わず、全て暴走していたのだ。

 

冥界の最下層に住む魔獣達の強さは暴走状態で魔王と同等かそれ以上であり、

それ位ならば、魔王が単体で簡単に処理できる。

 

しかし、この『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はほかの魔獣とは違い、

4大魔王が束になっても倒すのが難しいのだ。

 

理由は簡単であり、単純である。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』を含む魔王の使役する生体兵器には、

体の表面に障壁が張ってあり、それらは魔法を消してしまう効果がある。

 

──『魔力消失(ウィズ・キャンセラー)

 

全ての攻撃動作に付与され、対魔法の特殊能力である。

 

初代から現代魔王まで戦い方は全て魔法を使用している。

何かしらの動きに全て魔法が付与されており、故にこの魔獣には一切効果が見込めず、

近距離であろうとその障壁を突破する事は不可能に近い、突破できたとしても

魔獣の皮膚自体堅牢のような硬く、まともなダメージを与える事は難しく、

尚且つ、巨大な体格の割りに俊敏に動き、近接戦闘も得意である為、

近接戦闘の不得意である、魔王を含めた神は相性が悪すぎて、

一方的な戦いになるのだ。

 

召喚する者の力によって個体差は大きく変化する。

先代魔王の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の全長は十メートルを超えていた、

そして今回のカテレアの召喚した魔獣の全長は3メートル強だった。

 

だが、ぞれでも脅威である事は変わらない。

 

例えバアル家特有の『滅びの力』すら、無効化されてしまう。

逆に、純粋な格闘術、剣術ならば押さえ込む事が可能なのだ。

 

魔王達は万が一召喚した場合に備えて、眷属の中にそれらに該当した

メンバーを有している。

 

そして現在動いているメンバーで対抗できる存在は、ゼノヴィア、イリナ、祐斗、小猫、

ヴァーリ、一誠のみである。

 

しかしゼノヴィア、イリナ、祐斗、小猫は圧倒的に実力不足で、なす術がない。

唯一対抗できるのはヴァーリと、『禁手化』を絶対条件とした一誠のみである。

 

 

 

 

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』と対峙する、セラフォルーは最悪の事態を

脳裏に描いてしまい、それを否定するように頭を横に振った。

 

(──ダメ、そんなことだけは絶対にさせちゃダメ)

 

幼い頃に植えつけられた恐怖が瞬きをする毎に浮び上がり、体が震え気力を奪っていく。

相手はそれを無視するかのように、一歩、また一歩とこちらへ前進してくる。

 

だが、彼女の後ろには──守るべき大切な"(ひと)"がいる。

 

そして、魔王レヴィアタンの名を受け継いだ者として、退くという選択しは──無い。

 

だからこそ、震える足に力を入れ、恐怖に染まった心を拒絶する。

 

今必要なのは、自身の命令を聞く体と、戦う意思のみ──ほかは要らない。

 

「ふふふ、流石の貴方でもこの子(ベヒーモス)には勝てませんよ。

 もちろん、そこにいるミカエル、サーゼクス、アザゼル、ガブリエルもね」

 

只の虚勢ではなく、事実である事に変わりない言葉。

 

「行きなさい!私のかわいい『陸の魔獣王(ベヒーモス)』よ!」

 

彼女の本来の力であれば召喚も不可であり、勿論こと制御不可能であったのだが、

オーフィスから与えられた力を増幅させる『蛇』を使用し、

それらが可能となったのだ。

 

ただ、無理やり『陸の魔獣王(ベヒーモス)』を制御する代償として、

自身を増幅させる筈だった力の7割が奪い取られていたのだ。

 

それ故、彼女は召喚の反動で動けずに居た。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は号令と共に、4つの足で地を蹴る。

そのスピードは巨大な体格をハンデとせず、全身の筋肉を使い、

魔獣の中では有り得ない速度を発生させる。

 

(──っ!? 早い!)

 

一瞬の内に、自身の目の前で後ろ足のみで立ち、拳を振り上げている

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の姿が映し出された。

 

セラフォルーは咄嗟に防御魔方陣を張ろうとしたが、敵の特殊能力を思い出し、

詠唱を中断し、無理やり右足でバックステップを取り、空中へ飛び上がる。

 

その瞬間、セラフォルーが居た場所に拳が着弾し、大地が悲鳴を上げながら

表面が陥没し、数メートルのクレータが誕生した。

 

先代の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』より小柄だが、自身を殺すに足りる力を

備えている事を再確認したセラフォルー

 

(あの拳に、一度でも当たったら──粉砕される)

 

いくら防御魔方陣を自身の体に重ねて展開しようにも、『魔力消失』が付与されている為、

紙と同じであり、威力をそのままに受けてしまう。

 

セラフォルーはそのまま、自身の周囲に多数の魔方陣を展開し、

西洋の剣をイメージして作られた氷の造形品を空中に十を超えるほど生成し、

唸り声を上げながらこちらを凝視している『陸の魔獣王(ベヒーモス)』に向かって一斉に射出した。

 

「──貫け!『氷の流星雨(アイス・メテオール)

 

生成するのに魔力を使ったが、氷の塊による完全遠距離物理攻撃だった。

空に流れる流星群のように一斉に敵へ迫る。

 

まるで航空爆撃機が攻撃しているように、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』へ氷の剣が

降り注ぎ、着弾して爆発し、轟音を辺りに振動させる。

 

セラフォルーは一切手を抜かずに、連続爆撃を続ける。

次第に爆発による影響で、煙が周囲を覆い隠し──突如それは出てきた。

 

煙の中から『陸の魔獣王(ベヒーモス)』がこちらへ向かって吶喊してきたのだ。

セラフォルーは驚きながらも、攻撃の手を緩めない

 

だが、敵は減衰する事無く、拳を作り──右前足を振り上げた。

咄嗟にセラフォルーは上半身を後ろへ逸らす事で、直撃を間逃れたが、

拳の圧でへその部分から、首元まで服が裂かれ、可愛らしいオレンジの下着が露となった。

 

彼女はそれを恥じる事すら、余裕に無く。

そのまま沿った勢いで空中で一回転し、右手に2メートルは在ろう氷塊を作り出し、

拳を振り上げた状態の為、懐が空いており──思い切りぶつけ

 

「──吹っ飛べ!」

 

氷塊に何十もの加速魔法を付与し、射出する。

思い切り氷塊の直撃を受けた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はそのまま、懐に

氷塊と抱えたまま地上へ落下させられる。

 

そしてセラフォルーは追撃に先ほどの『氷の流星雨』を再展開し、

数秒後れで射出した。

 

けたたましい爆音と共に大地に巨体がめり込むが──

 

「ガァ!」

 

寝た状態のまま両腕に力を込め、軽々と氷塊を砕き──鋭利な牙の並んだ口を空ける

 

「■■■──!」

 

口元に、揺ら揺らと空間が熱量により変化し、喉の置くから真っ赤な炎が生まれ、

迫りくる氷の剣目掛けて放射した。

 

高質量の熱線は一瞬にして氷の剣を溶かし、そのまま身を起こしてセラフォルーの

いる場所に目掛けて連続放射する。

 

「──っ!」

 

咄嗟にその場所を飛び退き、紙一重で回避するセラフォルー

 

(──氷の塊でも効果が見られなかった)

 

回避行動をとりながらも、戦況を分析し、相手に有効ダメージを与える

手段を模索していた。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』をよく見て調べると、所々掠り傷的なものは、

先ほどの氷の剣が着弾し、爆発したさいに氷の破片が、表面を傷つけていた。

だが、所詮は掠り傷であり、なんとも無かったように動いて攻撃を

放ってくる。

 

遠距離物理攻撃ではあまり効果が見込めないと判断したセラフォルーは

 

(リスクは高いけど、もう手段が限られている)

 

熱線を回避しならが地上へ降り立ち、着地と同時に姿勢を低くして

そのまま地を蹴り、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』に肉片し──

 

(来なさい!『双燐火(そうりんか)』)

 

セラフォルーは心の中で念じ、自身の家に残してきた武器を転移させ、

彼女の突進に合わせた拳が迫り──右頬を掠りながら回避し、両手に二振りの刀が転移し、

掌で柄の感触を確かめ、そのまま二閃──

 

二人が交錯した瞬間に、鮮血が舞い、地面を彩る。

 

彼女は、そのまま『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の横をすり抜け、相手の背から数メートル

開けた距離で止まると、右頬に一線の傷跡と、髪の毛が数本切れて地面へ落ちた。

 

そして、振り返ると──胸部に十字傷を刻まれ、鮮血を流している『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の

姿があった。

 

だが、その傷は一瞬で再生した。

 

──自己再生である。

 

脳か、心臓が壊されない限り、体の部分が欠損する大怪我であろうと再生可能なのだ。

確実に倒すためには、脳と心臓を同時に直接破壊するか、細胞一つ残らず消滅させるかである。

 

何事もなかったかの様に、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はセラフォルーに突撃をしかけ、

両手に拳を作り、連打を放つ。

 

暴風と呼んでいいほどの風をまとった拳を避けるたびに、衣服が切り裂かれ、

肌に傷が入る。

 

セラフォルーも負けじと、巧みに双剣を操り、カウンターで斬撃を叩き込むが、

敵は怯む事無く拳を放ってくる。

 

徐々に徐々にと拳の速度が上がってきており、セラフォルーは寸前で避けるのが

精一杯に成っていた。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は右前足を大きく振り被って拳を突き出し、

セラフォルーが紙一重に避け、自身の懐に入ってくる事を確認すると、

そのまま勢いを止めず、わき腹に刃が食い込む感触が発生するが、

そのまま無理やり全身を回転させ──勢いのついた尻尾をセラフォルー目掛けて薙ぐ。

 

咄嗟に尻尾が迫ってくる事に気がついたセラフォルーは脇腹に食い込ませた刃を

引き抜き、全力で回避行動に移るが。

 

(──っ!間に合わない!)

 

脇腹の筋肉が思い切り締め付けられていたため、刃を抜くのに時間がかかってしまい、

結果──尻尾の射程外には逃れれぬ事を悟り、右足で地面を思い切り後ろへ蹴り、

体を守るように双剣をクロスさせ防御姿勢をとった瞬間、

体を全身を打ち抜くかのような衝撃がセラフォルーを襲い、

勢いよく吹き飛ばされる。

 

「クッ」

 

防御体制とバックステップのお陰か、体の中の息を吐き出す程度で済んだが、

両腕は衝撃により一時的に感覚麻痺に陥っていた。

 

そして、今まで召喚の代償により大量の魔力と体力を消費し、回復専念しながら

二人の戦いを静観していたカテレアが遂に動き始めた。

 

地面へ膝を付き両腕を下げたまま、肩で呼吸しているセラフォルーに拘束魔法を唱え、

彼女の足元から鎖状が出現し、そのまま足に絡みつき地上から逃がさないようにする。

 

ずっと意識を『陸の魔獣王(ベヒーモス)』へ向けていたため、咄嗟に気がついたが

逃げ遅れたセラフォルー。

 

地面へ拘束されたセラフォルーの姿を確認するとカテレアは『陸の魔獣王(ベヒーモス)』に命令を飛ばした。

そして、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』鋭く歯が並んだ口を開け、収束し濃縮した魔力砲をセラフォルーに向けて放った。

 

放たれた瞬間、大気が振るえ、砂塵が舞い、震動を受けた大地が悲鳴を上げる。

魔力砲の下の地面は、巨大な何かに引き剥がされたような様子で、

左右にめくてれ隆起するような感じで溝を造っていた。

 

セラフォルーは痺れる両腕を無理やり動かし防御魔方陣を展開し、全魔力をつぎ込むが

 

(──っ!このままでは!)

 

魔力を消失させる効果もある収束砲はじりじりと彼女の防御魔方陣を

文字通り消失させていく。

 

後ろには友人の眷属とソーナがおり、避ける事はできなかった。

 

そして後数秒も持たないと悟ったセラフォルーは全力で防御魔方陣の角度を変え、

収束砲が空へ流れるように仕向けた。

 

収束砲はそのまま、上空にいる魔術師達を巻き込みながら、ガラスを割る様な

音を響かせながら結界を貫通し、外にいる停まっている者達をも消し飛ばしてしまった。

 

「まさか・・・私の結界すら撃ち抜かれるなんて・・・」

 

砲撃が結果外に出ないようにガブリエルが着弾箇所に強固な3重結界を施したのだが、

貫通させられたのだった。

 

「背中ががら空きですよ?」

 

セラフォルーは収束砲を正面から受け止めた衝撃で完全に腕が動かなくなり、

それに気をとられていた瞬間に背後から、カテレアが接近し、

振り向くのが間に合わず、全魔力を込められた蹴りが背中を強打する。

 

肺に溜まっていた空気が強制的に吐き出され、重い衝撃と共に、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の方向へ吹き飛ばされるセラフォルー。

 

すると、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』がセラフォルーに向けて猛突進をしかけ、

左前足で拳を作り飛ばされてきた彼女に向けて放った。

 

蹴られた衝撃で目を瞑ってしまった事により、眼前に迫る拳に対して

対応が後れ──顔面に左拳が炸裂し、思い切り地面へ叩き落されそうになるが、

追撃の右前足の拳が、下からえぐり込む様に腹部へ放たれ、

先ほどと比べ物にならない衝撃が、小柄な彼女の全身を揺らした。

受け止めた骨が軋みを上げ嫌な音を奏でながら数本折れ、ガードした筈の胸が圧迫され、

内臓の一部がその力によって損傷し、食道を通って鮮血が口から吹き出る。

 

「ガッ」

 

小さな呻き声と共に彼女は上空へと打ち上げられる。

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は振り上げた拳を解き、追撃とばかりに

獰猛な口を開き──今度は収束砲とは違い、広範囲の『獣の吐息(ビースト・ブレス)』を放った。

 

たった2撃により意識を刈とられたセラフォルーには

防御魔方陣を展開する事も、よける事も出来ず──直撃した。

 

大気中に大規模な爆発が発生し、戦闘をしている者の動きさえ止めてしまうほどの

衝撃であり、近くに居た魔術師は爆発に飲まれ──一瞬にして肉塊に変化した。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』続けざまに、2発目、3発目を発射し、

大規模爆発を連鎖させ──辺りは黒くて濁った煙が大量に発生する。

 

何度も、何度も、何度も、魔王の魔力砲に匹敵する吐息(ブレス)を直撃させる。

周囲には突風が生じ、普通の魔術師では浮遊する事ができないぐらいの暴風が吹き荒れる。

 

カテレアも地上から20を超える攻撃魔方陣を展開し、連続砲撃を開始する。

 

大量の無慈悲な砲撃が──セラフォルーへと吸い込まれていく。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は、十を超えた辺りで漸く吐息を止めた。

カレテアも百を超えた為砲撃を中断、様子を伺った。

 

「姉様・・・!」

 

離れた場所から、姉の異変に気がついたソーナは爆発の中心部分に向けて、

大声で叫びその場へ向かおうとするが、魔術師たちに阻まれる。

 

数秒後、上空に発生した黒くて濁った煙の中から、突き抜けるようにして

落下したセラフォルーの姿が受身をとる素振りは見せなかった。

 

──否

 

意識を失ったままで、とる事ができなかったのだ。

そのまま、地上へ激突し、轟音と共に砂塵を舞い上がらせ、彼女は地面へ

横たわっていた。

 

真っ黒で手入れが行き届いていた髪は無惨に煤と灰により汚れ、

服は至るとことが消滅しており、胸の部分は布一枚となっており、

腰の部分のスカートが引き裂かれており、下着が見えていた。

 

そして、右腕は有り得ない方向に曲がっており、可愛らしい顔には

頭部を切ったのか、血が顔に掛かり、口からも血が流れて、

左目は閉じられており、開いている右目は視点が合ってなく、

尚且つ光が無かった。

 

体中は焼け焦げた後のような部分が目立ち、酷く臭う。

 

「あれだけ砲撃を受けてもこの程度の傷ですか。流石です。

 ──ですがこれは、貴方が招いた結果ですよ──セラフォルー」

 

落下して横たわっていたセラフォルーの近くに降り立ったカテレアは

一瞬表情を少しだけ曇らせていたが、すぐに元通りに戻す

 

「レヴィアタンの名さえ受け継がなければ、このような事にはならず、

 もっと生き永らえたでしょう」

 

そっとセラフォルーにだけ聞こえるように呟き、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』をこちらへ

来るように指示し、

 

「──もう、止めを刺しなさい」

 

カテレアの命令を受け取った『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は後ろ足で立つと、

右手に拳を作り振り上げ

 

その拳は完全に彼女を仕留めるために、頭部を狙っており

当たれば、頭部は確実に粉砕し、例え『聖母の微笑(トライワイトヒーリング)』や『フェニックスの涙』を

使用しても再生出来ないようにカテレアは命令を出した。

 

流石に頭部が粉砕される光景が見たくないのか、カテレアは背を向けて

歩き出した。

 

「──さようなら、セラフォルー。本当は私、貴方の事嫌いではなかったわ」

 

血筋ゆえに、子供の頃から同世代に媚を売られ、大人からもそういう態度で接され。

唯一彼女、セラフォルーだけが"彼女自身"を見て接してくれた事を思い出し、

誰にも聞こえないように呟き

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は無慈悲にもその拳を振り下ろし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!マジかよ・・・!」

 

一番近くに居たアザゼルが咄嗟に間に入り込むために──全速力でその場に

移動しようとした瞬間──

 

「ぐはっ!」

 

突如として、背中に衝撃が走り、地面へと叩き落された。

 

 

 

「やめて・・・! お願い!」

 

必死に横たわる姉の下へ向かうソーナだか、数人の魔術師に取り押さえられ、

地面へ押さえ込まれる。

 

 

 

「助けないと・・・!」

 

小猫は魔術師を吹き飛ばしながら前進するが、魔力弾の集中砲火を浴び

足不止めを食らう。

 

 

 

「くそ・・・!キリが無い」

 

祐斗とゼノヴィアは大量の魔術師に囲まれて身動きが取れない状況にあり

 

 

 

「セラフォルー!」

 

サーゼクスが結界から飛び出し、グレイフィアもそれに続く。

 

 

 

「一体どういう状況なの?!」

 

旧校舎から一誠と奪還したギャスパーを連れ、現れたリアス。

 

 

 

拳が迫る中、セラフォルーは漸く意識を取り戻していたが、すでに動けるほどの

力は残されていなかった。

 

魔王級の戦いであるからこその一瞬の油断が招いた結果であった。

 

食道には溜まった血が残っており、呼吸をする毎に血が吹き出る。

既に体中が麻痺をしていて、痛みさえ感じなくなっていた。

 

そしてぼやけた視線の中に──魔術師に組み伏せられた大事な妹の姿が映っていた。

 

(ソーナちゃん・・・・どうして、そんなに泣いてるの)

 

ソーナがこちらに向けて言葉を発しているが、聞き取れなかった。

ただ、なぜ彼女が泣いてこちらに手を伸ばしているのかを理解するのに、数秒掛かり

 

(あ、私負けちゃったのか・・・・)

 

漸くその事実を認識し、体に力を入れようとするが、自身の体ではないような

感覚があり、視線を動かしてみると、あらぬ方向に曲がった自身の右腕が

映っていた。

 

(だから、さっきから感覚がないのか)

 

ただ、泣き叫ぶ妹の姿をみたセラフォルーは

 

(私の妹を泣かす者は・・・・!)

 

意識のみで最後の残り少ない魔法を発動させ、ソーナを組み伏せる魔術師の

顔を凍らせた。

 

そして──力尽きた

 

(──ごめんね、不甲斐ないお姉ちゃんで。ごめんね、最後まで守ってあげられなくて)

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』が咆哮と共に拳を振り下ろしてきたのを視界に入れた

セラフォルーはソーナに謝り

 

──そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──誰か、誰か姉様を助けて!」

 

(──ひしぎさん!どうか、姉様を助けて!)

 

少女の必死な祈りは──黒い一陣の風を呼び寄せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──来た」

 

迫り来る存在を感知し、口元に笑みを作る──オーディン。

 

「オーディン様?」

 

絶体絶命の中、行き成り笑みを作る主に困惑するロスヴァイセ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴風を纏った拳が振り下ろされ──鈍い大地が割れる音を響かせ、

周囲の砂塵が一気に吹き荒る。

 

砂塵の中がどうなっているか分からないが、彼女の気配が既に感じられず、

皆の視線に映ったのは──砂塵の中から真っ赤な鮮血が飛び散り、

周囲を染めた。

 

そして──

 

「──いや・・・・嘘ですよね・・・・姉様」

 

崩れ落ちるソーナ

 

 

 

 

「ヴァーリ!お前なんて事を!」

 

アザゼルは自身の行動を邪魔した者──ヴァーリに向かって吼える。

 

 

 

「悪いアザゼル──こうした方が俺にとっては都合がよかったんだ」

 

上空から仮面で表情を窺わせないヴァーリが素直に答える。

 

 

 

「そんな・・・間に合わなかった・・・」

 

咄嗟にセラフォルーに防御結界を張ろうとしていたガブリエルは直前に、

カテレアに邪魔されたのだ。

 

 

 

「──この匂いは」

 

発生した突風により、彼の匂いを感知した小猫。

 

 

 

砂塵が漸く収まりつつあり、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の頭部が見えて、

異変に気がついたサーゼクス。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は敵意を剥き出しにしたまま、

自身の下──つまり、煙の中を睨んでいたのだ。

 

そして、腕部には未だに力を入れ続けているのか、筋力が盛り上がっている。

 

「どういうことです・・・・」

 

ミカエルも同意見であり、結界内部から風を起こした。

 

突風は魔術師やソーナ達をすり抜け、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の周囲の砂塵を巻き込み

それらを吹き飛ばす。

 

すると、徐々に見えてきたのは──

 

 

 

 

「よく見ておくのじゃロスヴァイセよ──あれが、魔王も神も我々すら凌駕する

 人の形をした『鬼神(おにがみ)』じゃ」

 

煙の中から現れた人物を確認すると、懐かしむように片眼を細めたオーディンは

感慨に耽りながら、ロスヴァイセに促した。

 

「──『鬼神(おにがみ)』ですか・・・?」

 

その人物に視線を放さないまま、聞きなれない単語に疑問を持つ

 

「そうじゃ──太古の昔から人間達の守護者であり、万物を創造し()万物の破壊()を司る神である」

 

 

 

 

 

 

 

地面に横たわっていたセラフォルーは、一向に来る気配のない拳に異変を感じ、

静かに、ゆっくりと右目を開いてみるとそこには、

右手で構えた大刀の刀身で『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の拳を受け止めている黒尽くめの男

 

──ひしぎが、自身を庇うかのように立っていた。

 

「──見た目通りの馬鹿力ですね」

 

ひしぎは焦ることなく、普段と同じように言い放ちながら、右腕に力を入れ踏ん張る。

既に拳を受け止めた衝撃で、自身の足元にはクレーターが出来ており、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』が自身の手に刃が食い込みながらも気にした様子もなく、

力を込め続けているので、徐々に徐々にとさらに地面が割れ溝を深くしていく。

 

「流石にこれ以上の力比べは──ご免ですね」

 

ひしぎは大きく吸った息を吐き、腕に全力を注ぎ『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の拳もろ共、

右前足を両断し、その巨体が衝撃で全身浮いた隙に、ひしぎは体を回転させ、

"今"の出せる力の全てを右足につぎ込み、空いた腹部に回し蹴りを放つ。

 

腹部が凹むと同時に鈍い音が響き、肋骨を粉砕し──口から鮮血を吐き出しながら、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は数十メートル後方に吹き飛び、

旧校舎の壁をぶち抜いて教室の反対側で漸く止まった。

 

仰向けで倒れ、腹部に穴が開き、そこからおびただしい量の血が教室の中を染めていた。

 

その光景に呆気にとられるカトレアと救援に駆けつけようとした者達。

 

ひしぎはそれらを無視して、足元にいたセラフォルーの横に腰を落とし、

『法力治療』を開始した。

 

(──かなりの重症ですね)

 

簡単に診た所、体中の骨が粉砕されており、内臓も数箇所破裂している。

顔も先ほど拳を受けたお陰で腫れており、かわいらしい顔が台無しになっていた。

 

ひしぎは、まず最初に顔の腫れを取り、内臓部分の応急処置を開始した。

 

セラフォルーは一瞬何が起きたか把握できずに居ると、暖かい光が顔に触れた瞬間に、

思考と視界が戻り──ひしぎが治療してくれていることに気がついた。

 

「・・・ひ・・・しぎ・・さん・・・?」

 

口の中にまだ血が残っているため咳き込みながら彼を呼ぶセラフォルー。

その声を聞いて、ひしぎは優しい笑顔を作り、空いている左手で優しく頭を撫でた。

 

「よく頑張りましたね──後は、私に任せてください」

 

 

 

ひしぎ自身元々この戦闘には介入するつもりはなかった。

元々会談には興味が無く、和平を結ぼうが戦争になろうが、どうでもよかった。

その会談がテロによって邪魔されようが、魔王一人殺されても気にもしなかった。

だけど──

 

──魔王という"責任"を小さな両肩で抱え込んでいた一人の少女の儚げな顔がちらつき

 

──その少女は姉妹を、家族を守るために命を懸けて戦っている

 

その姿を見て、生前の生きていた戦友の姿と重ね合わせてしまい。

そして、大切な者を亡くした気持ちは痛いほど"知っている"

 

満身創痍で今にも消えそうな灯を守るために──ひしぎは無意識に動いていた。

そして今までに無かった感情が湧き上がる感覚に陥っていた。

 

──私はこれほど、激情家だったのだろうか?

 

──私はそれほどあの少女とは接点が無いのに?

 

──私は──どうしたんでしょう

 

そして、その感情を冷静に考えるもう一人の自分が居た。

それに困惑しながらも、ひしぎは動いていたのだ。

 

ただ、それは元々彼が若き頃に持っていた感情であり、

親友である吹雪、村正が居ればこう言っただろう。

 

──昔のお前に戻った、と

 

もし、これがサーゼクス、ミカエル、アザゼル、ガブリエルの誰かだった場合、

ひしぎは動かずそのまま傍観していた。

 

セラフォルーだったからこそ動いたのだ。

 

ソーナに助けられ、小猫と出会い、セラフォルーと知り合い、

様々な日々を過ごす内に、全てに絶望していたひしぎの心をゆっくりと癒し、

昔の穏やかで優しかった心が戻りつつあるのだ。

 

 

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は既に自己再生を終えており、ゆっくりと

旧校舎の壁の中から姿を現していた。

 

「──オオオオ!」

 

突如として横槍を入れてきたひしぎに向かい──咆哮と共に憎悪の篭った瞳を向けた。

 

「──なるほど、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の名に相応しいほどの憎悪と殺気ですね」

 

ひしぎはセラフォルーの応急処置が終え、優しく両腕で抱き上げ

 

「そこで、少し待っていて下さい──すぐに殺して差し上げます」

 

そう言って、姿を消した。

 

 

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

前回の話でベヒーモスに関していくつも質問を頂けたので、その回答の回です。
作者様のブログでは先代が死亡したときに、大陸の奥で隠居生活に
入ったと記されており、その下の部分でセラフォルーの眷属となった
ベヒーモスが居るといわれている、と、記載していました。
この書き方を参考、熟考しオリジナル部分を追加させていただきました。

原作でもまだ未登場なので現在の魔王達が使役している魔獣は
生体兵器と、云う扱いで今後も使用していこうかと思います。
色々と原作改変が多発していますが、今後の話の構成上の必要な事なので・・・

感想、一言頂けると嬉しいです。




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第15話 古の戦い


目の前で起こっている戦いは


正直、私達の遥か想像を超える戦いでした


魔王すら凌駕する存在相手に、あの人は──



 

ひしぎはセラフォルーを抱えたまま、結界を中和し新校舎の会議室へ乗り込んだ。

行き成り室内に現れたひしぎにロスヴァイセはオーディンを守るようにして、

咄嗟に身構える。

 

(──気配が無かった・・・!)

 

得体の知れない人物に警戒心を抱くが

 

「殺気を収めよロスヴァイセ、彼は今のところ敵ではない」

 

オーディンは焦る様子すら見せずに、優しげな視線で彼を見ていた。

当の本人は、二人の視線を無視したままそのまま部屋の中に進み、

ギャスパーの停止能力が解除され、解放されて状況の把握ができていない桃の

目の前に立つと、優しくセラフォルーを床に寝かしつけた。

 

「桃、この子の治療を頼みます」

 

「え? は、はい!」

 

状況が漸く飲み込めてきた桃は、セラフォルーの横で膝を付き両手をかざした。

すると、淡い光がセラフォルーの全身を包み込み始めた。

 

桃の法力治療がキチンと発動したのを確認すると、ひしぎは腰を上げ、

彼女達に背を向けて歩き出した。

 

「──あの時と変わらず強さじゃな」

 

隣を通り過ぎようとしていたひしぎにそっとオーディンが言葉をかけた。

その言葉に表情を崩すひしぎ。

 

「貴方はかなり年を取られたのですね──最初見た時、全然気づきませんでした」

 

まるで以前から知り合いのような口調で話す二人に困惑するロスヴァイセ。

 

「まぁのぉ。あれから何十世紀も経ったんじゃ。むしろお主が若すぎるんじゃ」

 

「──そうですね。我々は一定の年齢を過ぎると容姿に変化が殆ど無くなるので」

 

その言葉に笑い声を上げるオーディン

 

「まったく、羨ましい限りじゃ」

 

「──まぁ、とりあえず昔話は後ほど。私も貴方に色々聞きたい事がありますし」

 

「分かったわい」

 

既にひしぎの居場所を突き止めた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』がこちらに向けて、

徐々に近づきつつあった。

 

「ただ、私が相手をするのはあくまでも『陸の魔獣王(ベヒーモス)』のみです、

 邪魔すれば容赦はしない──と、伝えてもらえますか?」

 

勝手に乱入してくるのは別だが、魔獣以外ひしぎが戦う理由はないのである。

そして勿論の事、自身の戦いに邪魔を刺すなら容赦なく切り捨てると、

伝言をお願いしたのだ。

 

「分かった──ロスヴァイセよ。アザゼルとサーゼクスにそう伝えよ」

 

「──わかりました」

 

一瞬、傍を離れても大丈夫なのかと思案したが、黒尽くめの男からの敵意が

感じられない事を確認し、頷き外へ飛翔した。

 

ひしぎはロスヴァイセが伝言を伝えに飛翔したのを確認すると、

同じようにして開いている窓からそっと地面へ降り立ち、

腰に下げてあった夜天を構えた。

 

「オオオオ──!」

 

ひしぎ目掛けて突進してきた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は右前足を振り上げると、

頭部目掛けて拳を放つ。

 

ひしぎは焦る事無く顔を左に逸らし、振り下ろされた拳を回避し、そのまま懐に入り、

夜天の柄の部分で『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の顎と下から強打し、

巨大な体格を浮かせると、自身も跳躍しそのまま股の辺りから頭部まで夜天を

振り抜き一直線に切り裂いた。

 

空中で真っ二つにされた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は大量の鮮血を断面から

噴出させ、咆哮を上げながら鈍い音と共に地面へ落ちた。

 

誰もが、倒したかの様に見えたが隣に降り立ったひしぎの表情は気を

緩めていなかった。

 

(肉質が変化している)

 

最初腕を両断した時の感触と、今両断した時の感触の感じが若干異なっている事に

気がついたひしぎ。

 

(先ほどより若干ですが、硬くなってますね)

 

肉質が先ほどより硬化していたのだ。

 

(それに、まだ生きている)

 

ひしぎの眼下では、急速に体が再生しつつある『陸の魔獣王(ベヒーモス)』。

無言のままひしぎは夜天を構え、トドメを、心臓を刺そうとすると──

 

「させません!」

 

今まで手も足も出せずに見ているだけだったカテレアが漸く事態の拙さに気がつき、

手に生成した魔力砲をひしぎ目掛けて放つ

 

「おっと、お前さんの相手は俺だ」

 

ロスヴァイセから連絡をもらったアザゼルは一番彼らとの距離が近かったため、

間に割り込み、防御魔方陣を最大展開し魔力砲を受けきった。

 

(なぜ、奴が出てきたのかが分からないが、この状況利用させてもらう)

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』との相性が悪いため、自身とサーゼクスでは、

足止めしか出来ないと悟っており、ひしぎが『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の相手を

すると聞いたため、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』さえこちら側にこなければ事態の収拾の

目処が立つので、このひしぎの行動を最大限に活用しようと考えたのだ。

 

「くっ・・・!」

 

道を阻まれたカテレアは表情を歪めながら、上空に居るヴァーリへ向けて叫んだ。

 

「彼の相手は貴方に命令していたはずですよ!?」

 

堕天使側を裏切り、アザゼルの妨害をした後、空中に待機していたヴァーリ。

叫ばれたヴァーリは表情は鎧により隠されていて読めないが、肩をすくめる様な仕草を

取りながらカテレアの傍に降り立った。

 

「──カテレア、忘れているようだからもう一度言う。確かに俺はお前達『禍の団(カオス・ブリゲート)』と

 手を組む事は了承した──が、俺に命令出来るのは俺が"認めた人物"のみだ。

 それ以外の命令はその時判断すると、組む条件として提示しそれはお前らも承知のはずだ」

 

「──なっ」

 

ヴァーリの言葉に言葉を失うカテレア

 

「分からないのなら言ってやる──俺はお前の命令は聞かない。戦う相手は俺自身が決める」

 

ヴァーリはそのままカテレアの横を通り過ぎると、こちらに向かって歩いてきていた

人物の前に向き直った。

 

「そういう訳だ──俺は今の君に実力を知りたい。我好敵手(ライバル)──兵藤一誠」

 

「ああ、俺もそんな気はしていた──受けて立つぜ」

 

ドライグから様々な歴代『赤龍帝』の話を聞き、避けては通れない道と判断した一誠は、

あの時、彼が学園を訪れてから覚悟を決めていた。

今の自分の実力では、はっきり云って足元にも及ばないかもしれないが、

逃げるような真似だけは仲間の前では見せたくなかった。

 

「いい顔つきだ──ならば存分に戦おう」

 

一誠の真剣な顔つきにヴァーリも嬉しそうな表情を浮かべる。

歴代『赤龍帝』でも最弱かも知れないと、相棒のアルビオンから前から聞いており、

ヴァーリは最初は落胆していたが、今日この日この場所で、再会した時に自身に向けられた

一誠の瞳には戦う意思が宿っていた事を知り、前から打診されていたアザゼルの

相手を放棄し、一誠と戦ってみたくなったのだ。

 

ヴァーリは堕天使側を裏切った理由──それは"最強を目指す"事であり、

3勢力側にはまだまだ自身より強い人物が大勢いる。

それらと戦うには、和平を組まれてしまったらそう簡単には戦えない。

戦えたとしても本気の戦いにはならないと悟り、

そして、もう一つの目的の為に裏切りを決意したのだ。

 

「──っ! この戦闘狂め…!」

 

カテレアはそう吐き捨てると、アザゼルの方に向き直った。

 

「まぁ、あの程度ではまだ『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は消滅できません」

 

再生しているという事は、コアが無事な証拠であり、まだ『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は

戦闘継続が可能なのを確認した。

 

「では、堕ちた天使の総督よ! その命私が貰い受ける!」

 

「──はっ! やれるもんならやってみやがれ!」

 

 

 

 

 

振り下ろした夜天の刃が胸へ刺さり心臓へ到達する直前に、

突如左側から攻撃の気配を感じ、左腕で防御体制をとるが衝撃までは

防げなかったため、吹き飛ばされるひしぎ。

 

咄嗟に刀身を地面へ差し込み、飛ばされた勢いを止め着地する。

 

そして自身が居た場所に視線を向けると、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の尻尾が

ゆらゆらと揺れており、尻尾を使い勢いよく飛び起きた。

 

既に両断されていた部分は再生が終わり

 

「■■■──!!」

 

天に向けて咆哮を放った瞬間──『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の全身から、

赤黒い闘気(オーラ)が勢いよく噴出し全身の筋肉が盛り上がるが、全長は収縮し、

2メートル強ぐらいまで縮んだが、先ほどとは比べ物にならない位の威圧感を周囲に放つ。

 

「なるほど、それが貴方の本気ですか」

 

暴走状態であったが、不完全な召喚だったため全力が出し切れていなかったのである。

そして『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は漸く、本来の持てる力を全力で放出する事が

可能となったのだ。

 

そして、カレテアから奪ったオーフィスの『蛇』の力も取り込んでいるため、

先代魔王の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の力は既に超えており、

初代魔王が使役したレベルに匹敵するぐらいの力を得ていた。

 

後ろ足でで大地を蹴った瞬間、暴風が生まれ周囲の砂塵などを舞い上がらせた。

 

(──速い)

 

セラフォルー戦の時より目に見えて敏捷さが上がっており、ひしぎは繰り出された

拳を避けるも、拳圧で服が裂かれた。

 

暴風のような拳を連続で放つが、紙一重で避けるひしぎ──ただ、その表情には

余裕さが消えていた。

 

"今"の彼の状態では、このパワーアップを果たした『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の

攻撃をまともに食らえば無事ではすまない。

 

ひしぎがカウンターで何度か夜天を叩き込むが、かすり傷程度しか負わせれず、

相手の攻撃を緩める事すらできていなかった。

 

(やはり、斬撃による耐性が上がってきているのですね)

 

冷静に分析しながら、いたるところに斬撃を放ち、効果を確かめていた。

そう、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』のもう一つの特殊能力である。

『物理耐性』が発動し、体内に要する魔力を放出する事で、体の表面の防御力、

斬撃、打撃による耐性を高めている。

 

只の斬撃では既に大したダメージは与える事ができなくなっていた。

 

「では、これならどうです?」

 

横から放たれた尻尾の薙ぎを避け、そのまま地面を蹴って跳躍し、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の顔の辺りで左手を突き出したひしぎ

 

「──"悪魔の眼(メドウサ・アイ)"よ」

 

掌の中央が上下に裂け、神々しい光を放ちながら"悪魔の眼(メドウサ・アイ)"が姿を現し、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』を睨み付けた。

 

その瞬間、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の頭と両足から灰化が始まる。

 

「■■■──!!」

 

 

足がなくなり、立つ事が出来なくなったため咆哮を上げながら倒れ込み、

決着が付いたかのように見えたが、ひしぎの目には思いもよらぬ光景が映っていた。

 

「──まさか、灰化より再生スピードの方が速いとは・・・」

 

灰化している部分より再生スピードの方が速く、一気に消えた部分も元通りになった。

 

ひしぎが全盛期に戻れば、完全に"悪魔の眼(メドウサ・アイ)"をコントロール出来る為、

一瞬で全身を灰化させることは出来るが、今の状態じゃ出力が足りず、

こういう事になるのだ。

 

何より『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は心臓と脳両方を破壊しない限り、

永遠に再生し続けるのである。

 

すると、カテレアと上空で激闘を繰り広げているアザゼルが、

眼下のひしぎに向かって叫んだ。

 

「──そいつは、心臓と脳の両方を破壊しなければ再生し続ける!

 倒すなら、両方壊さないと無理だぜ!」

 

「アザゼル! 貴様!」

 

弱点を晒されたカテレアは激昂のままアザゼルに向かって吶喊する。

 

(両方ですか──)

 

今の言葉を聞き、今までの攻撃では片一方しか破壊していなかった為、

再生していたのかと納得するひしぎ。

 

完全再生が終わった『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はすぐさま体勢を立て直し、

ひしぎへ襲い掛かり、戦闘が再開される。

 

 

 

 

 

 

一誠はアザゼルから事前に貰っていた、腕輪のお陰で代償を払わずに

"禁手化"を発動させる事ができ、やや不利な状態だが何とかヴァーリの攻撃を

凌いでいた。

 

こちらの能力は倍加、向こうは半減であり、一誠がいくら倍加しても、

ヴァーリが半減を掛けて来る。

 

そして、半減した力はヴァーリ自身へと加算されていき、ヴァーリのみが

パワーアップしている状態である。

 

一誠がミカエルから譲り受けた聖剣アスカロン──龍殺しの力を帯びている剣が一太刀でも、

ヴァーリに当たれば大きなダメージを与える事が可能なのだが、

効果をアルビオンから聞いているヴァーリは簡単には当たってくれない。

 

剣術をまともに習っていない一誠の斬撃は高速で移動するヴァーリに簡単に避けられ、

カウンターで腹部に拳を貰う。

 

「ぐっ!」

 

衝撃で体がくの字に折れたかと思うと──

 

『相棒! 追撃がくる! 避けろ!』

 

咄嗟に籠手からドライグが叫ぶと、一誠はそれに反応し、無茶苦茶な体勢だが

両足で思い切り後ろえ飛ぶ。

 

飛ぶ瞬間に頭部に何かが掠った音を響かせたと思うと、先ほど一誠の居た場所に

ヴァーリの踵落しが地面へたたきつけられ、小さなクレーターが出来ていた。

 

「あぶねぇ・・・!」

 

あれをまともに食らっていたらいくら、"禁手化"状態でも意識を刈り取られるどころか、

頭部が粉砕されかねない威力だった。

 

「へぇ、今ので終わったかと思ったんだが、意外にしぶといね」

 

意外そうな声をだしながら、ヴァーリはこちらに向き直る。

そして──

 

「戦う意思は立派にもっているが──まだまだ、経験地不足だね。

 まぁ、つい最近まで人間だったのもあるが、これはどうしたものか・・・」

 

何度も何度も拳を受けながらも、立ち上がり、こちらへ攻撃を仕掛けてくる

姿勢にヴァーリは評価しているが、その立派な姿勢に実力が伴っていない事に、

ヴァーリは残念がっていた。

 

「この差を埋めるには、どうすればいいと思う?」

 

「知るかよ!」

 

痛む腹部を押さえながら、一誠は次の攻撃に備えて構えを作る。

だが、ヴァーリは構えすら取っていなかった。

 

「──ならば、兵藤一誠。一つ君に提案がある」

 

「なんだよ?」

 

「キミがもし俺に負けたら、君の両親、そしてキミの守るべき主を殺す

 ──そして、キミは復讐者となってこの"力の差"を埋めてくれるだろう」

 

一瞬一誠の頭にはヴァーリが何を言っているのかが理解できなかった。

 

「なぁに、ちゃんとキミに彼女はどんな風に泣いて、叫んで、懇願して、助けを求めて

 死んでいった様を教えてあげるから──安心して意識を手放してもいい」

 

その言葉で、一誠の頭の中でナニかが切れた。

 

「──ふざけんじゃねえぞテメェ──!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

一瞬にして一誠の周辺の大気が弾け、あふれ出した力により、

足元の地面はひびが入り、重力を無視したかのように割れた石や砂塵が浮き上がる。

 

「──やはり正解だったなアルビオン。彼は怒りによって力が桁違いに上がった」

 

『ああ、神器は単純で想いが強ければ強いほど力の糧とする。純粋に兵藤一誠の怒りは

 お前に向けられており、真っ直ぐな者、それこそがドラゴンの力を引き出せる

 心理の一つだ』

 

本当はそんな事をするつもりはなくただの挑発だったが、見事に一誠は引っかかり、

ヴァーリとの差を縮めるほどの力を体に宿したのだった。

 

「さぁ、第二回戦の始まりだ!」

 

純粋にそれが嬉しくも有り、ヴァーリは嬉々として一誠に向かって吶喊した。

 

 

 

 

 

 

ひしぎと『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の戦いの余波で、グラウンドの地面は

もう見る影もなく荒れ果て、全体的に数メートル陥没していた。

 

斬撃の痕は校舎まで及んでいた。

実力者でなければ、二人がどう云った戦いを繰り広げているか視認出来ない位の

速さであり、未熟な者達には台風のような二つの嵐がぶつかり合う感じでしか

判らなかった。

 

光の洪水が現れたかと思うと、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の体の一部が吹き飛び、

鮮血で辺りを彩っている。

 

だが、体の一部を飛ばされても完全に動くきを止める事無く攻撃を続ける『陸の魔獣王(ベヒーモス)

暴走状態ではあるが、本能が一度でも止まれば殺されると悟っており、

お構い無しに暴れ続ける。

 

(キリがないですね)

 

通常の斬撃ではあまり効果はなく、光斬撃による攻撃では効果的なのだが、

一つ問題があったのだ。

 

現状のひしぎの状態では連続で放つことが出来るのは2回なのである。

ただ、ひしぎの体の問題ではなく──『夜天』の方に問題があったのだ。

 

宿主であるひしぎの力が強すぎて、『夜天』が2回までしか耐えれないのだ。

夜天は業物の分類に入るが──ひしぎの力は強すぎるため、

特別にこしらえた物でしか耐え切れないのだ。

 

唯一、ひしぎの全力を耐えれる刀は──刀匠・寿里庵(ジュリアン)の創った

『白夜』のみである。

 

そして『夜天』は椿姫から譲り受けた物なので、大切に扱っていたがここに来て、

それが枷となっていたのだ。

 

(なんとか、他の方法を探るしかありませんね)

 

体術でも十分に戦えるが──この巨大な魔獣相手に決め手が無い。

むしろ戦いが伸びてしまい、体力的にこちらが不利になると悟った。

 

ひしぎが考えながら後方へ距離をとった瞬間、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は

両腕を持ち上げ、それを思い切り地面へ叩きつけた。

 

その瞬間地面は地割れを起こし、下から持ち上げられるかのように隆起し、

鋭く尖った岩の破片がひしぎに襲い掛かる。

 

ひしぎは、思い切り足に力を入れ、襲い掛かる岩の数が多すぎるため、

それらを回避するために跳躍し、上空へ逃げる。

 

それを待っていたかのように『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は口をあけると、

収束砲を放つた。

 

地上で交戦時、何度か他の吐息(ブレス)は耐えることができたが、流石に力を凝縮した

収束砲を食らえば無事では済まないと悟ったひしぎは、『夜天』を2度振り下ろす。

 

二つの光斬撃は収束砲とぶつかり、上空で大爆発を辺り一面を吹き飛ばしながら

相殺する事ができた。

 

そして、ひしぎの目に映ったのは2撃目を放とうとしている『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の姿だった。

 

(これはまずいですね)

 

空中では流石のひしぎでも身動きが取れない、そして光斬撃は連続で2発撃ってしまった為、

数分間、夜天の熱が収まるまで撃てなかった。

 

奥の手は残してあるが、万全の状態以外で使うのは危険すぎるため、出来なかった。

そして何より、それを使ってしまえば離れた場所で魔術師と戦っているソーナを

巻き込んでしまう可能性があったからだ。

 

(──今の状態でどこまで防げるか判りませんが)

 

そう、ひしぎが覚悟を決めた瞬間──夜天が輝きだし、ひしぎに語りかけてきた。

 

私の事は気にせず、撃ってください──と

 

「──夜天?」

 

2代目の愛刀の言葉に耳を疑うひしぎ。

 

「ですが、これ以上撃ったら貴方の体は」

 

『ええ、耐えれないかもしれません。ですが、貴方を失うぐらいなら壊れてもいい』

 

「…」

 

必死に語りかけてくる夜天

 

《私は貴方と出会えてよかった。これほど私を、刀を愛してくれる人に出会えたのは

 初めてです》

 

刀として生まれ、『夜天』は真羅一族に代々受け継がれてきた業物であり。

魂が宿った時には既に時代は刀が必要ではなくなっていた事も有り、一族の中に

使い手がいなかった為、倉庫で眠り、使ってくれる者をずっと待っていたのだ。

 

そして、椿姫が一族を破門されるさいに母親から託されたのだが、

椿姫は長刀が合ったためそのまま家で眠さされていたのだ。

 

そして漸く主であるひしぎと出会い、コカビエルの一件で刀としての存在意義が自分にも

合ったと証明された。

 

ひしぎは暇があれば、手入れ等をしたり、読書の合間に"会話"していたのだ。

そんな自身を大切に扱ってくれる主を、自身の力不足で失いたく無いと『夜天』は思ったのだ。

 

『短い間でしたが私は幸せでした。刀として生まれ、刀として死ねるなら本望です』

 

「…」

 

『だから、私に気にせず──あいつを倒してください』

 

その瞬間『夜天』の輝きが一層に増した。

そしてその光は優しくひしぎの周りを駆け巡り、体の中に溶け込んでいった。

 

「──貴方の思い受け取りました。ならば、貴方に私の全力を御見せします」

 

放たれた収束砲に向かってひしぎは、剣先を向けると呟いた。

 

「──全て消し去りなさい。『白夜調(闇無き夜の調べ)』」

 

一振りにて、5本もの光の洪水が発生した。

その瞬間、『夜天』の刀面にヒビが入る。 

 

上空の辺り一面が光る洪水に照らされ、その場に居る者全ての視界を奪う。

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の瞳には先ほどと比べ物にならない

速さの光斬撃が映し出され、自身の収束砲が触れると同時に切り裂かれ、

そのまま巨大な光斬撃が自身へ降りかかってくる所まで見え──直撃。

 

轟音が周囲に響き渡り、直撃した衝撃で数十メートルの亀裂が縦横無尽に

地面に発生し、地上で戦って居る者全ての足場を揺らす。

 

そして、近くにいた者の中には直撃により発生した衝撃波により

吹き飛ばされ、地面へ転がる者も居た。

 

陥没したクレーターの中には胸から下が消滅している『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の

無惨な姿があった。

 

咄嗟に回避したものの、胸から下に全て攻撃が直撃し細胞が一つ残らず消されていた。

傷口の断面からは、心臓が見えており、おびただしい量の血が地面を染めていた。

 

そして──徐々に再生が始まる

 

だが、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の瞳にはもう一度構えを取るひしぎの

姿が映っていた。

 

「流石は『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の名を持つ者ですね。

 久々に楽しめました──ですが、これでお別れです」

 

落下しながらひしぎは、『夜天』を十字に振った。

 

「──『白夜の断罪(ディバイン・クロス)

 

太刀筋から先ほどの数倍以上の大きさの光斬撃が十字の形を取りながら放たれた。

数十メートルにも及ぶ光の十字架に咄嗟に吐息で相殺しようと放つが、

何の効果も無く、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は全身を飲み込まれた。

 

先ほど以上の轟音と、衝撃が辺り一面を吹き飛ばし、近くの上空で戦闘中であった

ヴァーリと一誠すら吹き飛ばし、ミカエルたちの結界にすら悪影響を及ぼすほどの

威力であった。

 

地面には底が見えない十字型のクレーターが出来、グラウンドに大穴を開けていた。

 

落下しながらひしぎは『夜天』を見ると──刀身から柄まで亀裂が走っていた、

これは、刀にとって"死"を意味する事であり

 

「すみません、私がもう少し手数が多ければ貴方をこんな目に合わさずに

 済んだのに」

 

『気にしないでください。私は最後に貴方に勝利を与えて貰って満足です』

 

『夜天』は意識が消えかかる中、最後の力を振り絞っては答え

 

『さようなら、私の最初で最後の主様』

 

輝きを放っていた刀身は見る見るうちに光を失い──音を立てながら

全身にヒビが入り──砕け散った。

 

「──『夜天』短い間でしたが、楽しかったですよ」

 

砕け散った破片から、蛍火みたいな淡い微かな光が天へ上っていく

 

そして──『夜天』の中に宿っていた魂、少女の形をしたモノがひしぎに

優しく微笑みかけながら消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは戦闘が終わり、地上へ降り立つと周囲を見渡した。

 

「流石にやり過ぎてしまいましたね」

 

もうグラウンドとしてみる影も無い風景に、ポツリと呟き。

自身の体を確認し始めた。

 

服は至る所が裂けて破れており、その部分からは出血までしていた。

軽症だが服の着ていない場所に火傷が数箇所。

 

制限付きではあるが、今の出せる全力をだした戦闘だった。

 

そして、柄だけとなった『夜天』。

足元に落ちている『夜天』の破片をそっと優しく拾いながら、未だに激突音が聞こえる方に

視線を向けた。

 

「まだ、決着がついていなかったのですか」

 

彼の視線の先には、ヴァーリと一誠の壮絶な殴り合いが未だに続行されていた。

 

 

 

 

 

ヴァーリと一誠の鎧はお互い色んな部分が砕けており、顔を覆う兜の部分も破壊され、

顔がむき出しの状態であり、口や鼻から血を流しながらも、

お互い殴り合っていた。

 

ヴァーリは嬉々とした表情であり、一誠は怒りを灯した表情であった。

あの後、ヴァーリはさらに一誠を強くするために、周辺一帯を半減するといい、

偶々近くで戦闘していたアザゼルが恐ろしく噛み砕いて説明する。

 

「やつの半減の力で、お前の主や仲間たちの胸が半分にされるぞ」

 

と、聞いた一誠は更なる怒りで力を増幅させヴァーリを上回ったのだ。

一瞬にして一誠に与えていたダメージの倍以上が反され、

状況は一気に傾いたかと思うと、ヴァーリも底力を見せ、

五分五分に並んだ。

 

「オッパイを半分にされてたまるか!」

 

鋭くて重い拳が、腹部に突き刺さり口から鮮血を吐くヴァーリ。

だが、負けじと下から抉り込むように顎に目掛けて拳を放つ。

 

「楽しいぞ! まさか女の胸に関することでここまで強くなれるとは!

 面白い!」

 

「うるせぇ!」

 

顎に受けた衝撃で体が浮き、一瞬意識が飛びそうになるが気力でもたせ、

そのままヴァーリの顔を蹴り上げる。

 

同じように浮き上がったヴァーリは体をよじり、半回転させ一誠のわき腹に

蹴りを放つ。

 

その衝撃で、地面へ激突しボールのように跳ねたかと思うと、無理やり体勢を

整え、両足で思い切りヴァーリの方へ地面を蹴る。

 

蹴った後だったで体が後ろに向いていたため、一瞬反応が遅れ、

背中に思い切り頭突きが刺さる。

 

「ガッ!」

 

弓なりに背が曲がると、そのままヴァーリは吹き飛ばされ、一誠も地面へそのまま落ちる。

数メートル先で土煙を舞い上がらせながら倒れこんだヴァーリ。

 

二人は震える足に力を注ぎながら直ぐに立ち上がろうとする。

だが、正直体はボロボロであり、お互い殆ど力は残っていなかった。

 

一誠は魔力付与による打撃で内部にもダメージを負い、

ヴァーリもアスカロンの力が付与された拳で殴られているので、同じような状態であった。

 

「ははは、やっぱり面白い! これなら、この強さをもつキミになら、

 白龍皇の『覇龍(ジャガー・ノート・ドライブ)』を見せる価値はありそうだ!」

 

口から鮮血を拭いながら、ヴァーリは笑っている。

 

『ヴァーリ、その選択肢はこの場では良くない。それに、無闇に『覇龍(ジャガー・ノート・ドライブ)』を

 使えば、ドライグの呪縛が解けてしまうぞ』

 

アルビオンがヴァーリのやろうとしている事を止めようとする。

 

「それで、彼が強くなるなら願ったり叶ったりだ。アルビオン」

 

アルビオンの制止も聞かず、詠唱を始めようとし、一誠はその不穏な行動を止めようと

動こうとした瞬間──

 

月をバックに人影が一つ、彼らの間に降り立った。

 

「時間切れだぜぃ、ヴァーリ」

 

その人物は戦国時代の武将が着る鎧のような物を纏っていた。

 

「何をしにきた美猴(びこう)──今からいい所なんだ邪魔をするな」

 

ヴァーリは口元から流れる血を拭きながら、美猴と呼ばれる男を睨む。

 

「おいおい、それは酷いんじゃねぇ?! 相方がピンチだっーから遠路はるばる

 救援に駆けつけて来たのによぅ。それに本部からの連絡だぜぃ」

 

美猴の元にヴァーリが不利な状況に立たされていると情報が届き、魔術で転移して来る最中に

『禍の団』本部から、任務を失敗したヴァーリを連れて退却せよと指示が入り、

オーディンがアースガルズにいない情報を掴んだ本部は、この好機を逃さず、

アースガルズと一戦交える作戦を実行していた。

 

その話を聞き、ヴァーリは漸く構えを解いた。

 

「分った──兵藤一誠。この続きはまた今度にしよう。それまでに自力で

 "禁手化"になれるようになっていてくれ。そして今よりさらに激しく戦おう」

 

子供のような笑みを浮かべながら、一誠に向き直り言葉をかけたヴァーリ。

 

「お、おい待てよ!」

 

咄嗟に逃がさまいと、前に出る一誠だが体中に激痛が走り──"禁手化"が解除され

地面へ崩れ落ちた。

 

「では、またな」

 

そういい残し、ヴァーリは美猴と共に闇の中へ消えていった。

それと同時に魔術師達も撤退し、全ての戦闘が終了した。

 

今回の事件の首謀者であるカテレア・レヴィアタンは、

アザゼルとの戦闘中死亡。

 

『蛇』により強化されていたが、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の無理な召喚の代償により、

強化した力と、本来の何割かの力を奪われていたため、堕天使の総督であるアザゼルの

敵ではなかった。

 

力の差を知り、実力で勝てないと踏んだ彼女は体の一部を変化させ、

アザゼルの左腕に絡みつき呪術による自爆でアザゼルを道ずれにしようとしたが、

何のためらいも無く、自身の左腕を切断したアザゼルはそれを拒否。

 

既にカウントが開始されていたため──彼女は誰も道ずれに出来ず、死んでいったのだ。

 

ひしぎは、ソーナと小猫の無事な姿を確認した後、傍に行き

自身達より実力が上だった魔術師相手に怖気ず、果敢に戦った事を褒めた。

 

「よく頑張りましたね、二人とも」

 

褒められた二人は素直に喜んだ。

そしてひしぎは一つだけ頼みごとがあることを思い出し、ソーナに言った

 

「ソーナ一つだけ頼みがあります──会議室にいる御老人と後ほどお話する事があるので、

 生徒会室をお借り出来ますか?」

 

「はい、大丈夫だと思いますが──他の方もお呼びするのですか?」

 

オーディンと話し合うなら、他のアザゼルやサーゼクスも立ち会うのかと思いきや

 

「いえ、あの御老人とお付の方だけで結構です──ああ、貴方と小猫さんなら

 歓迎しますよ。まぁ、あまり面白くないお話ですが」

 

それ以外の者はきっぱりと拒否したひしぎ。

 

「分かりました。では、事後処理が終わり次第向かいます」

 

「私も行きます」

 

「では、私は先に生徒会室で待っていますので」

 

そういうと、ひしぎは二人の目の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずひしぎの事はソーナに任せ、サーゼクスやミカエルが事後処理に動き出し、

カブリエルとアーシアがセラフォルーの治療に協力する。

 

各勢力の3人が外部へ連絡を取り、学園を覆う結界の解除をすると

そこには信じられない光景が全員の目に映し出された。

 

数百を超える天使、悪魔、堕天使の軍勢は全て倒されており、

幸い、学園から住宅地へかなり距離があるため、住宅街への突っ込んでいる者は

いなかったが、学園周りを囲うかのようにして、折り重なるような形で全員が崩れ落ちていた。

 

サーゼクス達がすぐさま何があったか探るために、意識あるものを探す。

すると学園の壁側に体育座りをしながら震えている悪魔を発見した。

 

サーゼクス達はその者の近くに駆け寄り、何があったか優しく問い詰めると

 

「──わ、分かりません! 分からないんです! 人間が現れて──それで」

 

恐怖で震えながら若い悪魔は語った。

何らかの時間停止の力を受け、その呪縛が解けたかと思うと、空に展開していた

各勢力の者達が消滅しており、元々一触即発の雰囲気だった為、

それを切っ掛けにお互いの感情が爆発し、小規模な戦闘が発生た。

 

各勢力の者達の戦闘は、結界を張らず、縦横無尽に住宅街を飛び回り、

深夜ではあるが、人間たちに被害を及ぼす程の激しさを増していき──

 

突如、そんな彼らを囲むようにして結界が張られ、学園前に一人の人間が現れ、

3勢力に攻撃を仕掛けてきた。

 

乱入者が人間だった事もあり、彼らは五月蝿い蝿を追っ払うかのような仕草で

反撃し、戦闘を継続しようとした瞬間──大勢の者が"水の龍"によって蹴散らされた。

 

圧倒的な力の前に、3勢力の者達は一気に飲み込まれ、一人を残して

意識を刈り取られたのだった。

若い悪魔はそう言ったきり恐怖で口を閉ざした。

 

納得できる部分は無かったが、まずは目先の件を処理しなければならないので、

この件は保留となった。

 





こんにちは、夜来華です。

何度も何度も戦闘描写に納得がいかず・・・書き直しての投稿です。
無双には程遠いですが、限られた制約の中での全力戦闘でした。

原作とは違い、一誠の禁手化の仕方の変更。
一誠の方も色々と強化というか、弄る予定です。

後、ひしぎの光の斬撃ですが、そのまんま『光斬撃』と命名しました。
後は、オリジナル業も・・・増やす予定です。

そして、最後はお待ち兼ねの・・・

感想、一言頂けると嬉しいです。


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第16話 葬られた歴史

この場に居る者にしか分からない話


彼は、いや、あの幻の一族は存在していた


歴史の闇へと葬られた事実をしった私達は──


冥界、天界、堕天使の本部から応援を呼び、学園の修復、負傷者の搬送を急いだ。

セラフォルーは桃、ガブリエル、アーシアのお陰で意識はハッキリとしていて、

外傷は消えたが、念の為冥界で検査入院する事が決まった。

 

アザゼルは堕天使達を動員して各勢力の負傷者の搬送を担当し、

ミカエルは天使達に負傷者のその場での応急処置を指示

サーゼクスは応援に来た悪魔達とリアス、負傷をしている一誠を除く眷属達、

ソーナとその眷属達と一緒に学園の修理補修を担当し、皆力を合わせて事後処理に

取り掛かっていた。

 

ひしぎは先に生徒会室でオーディンとロスヴァイセ、ソーナ、小猫が来るのを

壁際の窓から、グラウンドの様子を見ながらまっていた。

 

オーディンはすぐさま本国に『禍の団』の襲撃に備えて警戒態勢を指示し、

3勢力から安全が確保されるまで会議室での待機をお願いされそれに従っていた。

 

約1時間後警戒態勢が解かれ、オーディンとロスヴァイセがソーナと小猫に案内されて

漸く生徒会室にやってきた。

部屋の中では、待つ時間暇になったのか、イスに座りながら優雅に読書している

ひしぎの姿があり、とても戦闘後とは思えないぐらいの寛ぎっぷりだった。

 

「待たせてしまってすまんの」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

オーディンが遅くなった事に謝罪すると、読んでいた本を閉じ顔を上げた。

ソーナはそのまま3人をひしぎと対面席に座らせ、自身も会長席に座る。

 

「そうですね、どこから話していいか分かりませんが、貴方は

 "あの時"のオーディンさんで合っていますか?」

 

自身が読んだので、話を切り出すひしぎ──そして、自身が昔会った事のあるオーディンと

同じ人物か確かめたかったのだ。

 

「ああ、合っているぞ。ワシはちゃんとお主の名前、存在を覚えておる」

 

懐かしむような笑みを浮かべてオーディンは肯定した。

 

「そうですか──なら、この世界は私が存在していた世界であっていると、云う事ですね」

 

オーディンの言葉により、漸く生前生きていた同じ世界だと認識でした。

心の中では、本で読んだ"平行世界"の可能性も捨て切れていなかったのだ。

 

壬生一族は存在するが、違った結末をたどった世界かと、内心思っていたのだが

漸く確証が得られたのだ。

 

「ならばお主は報告にあった通り、一度死んだのか?」

 

「ええ」

 

「なんと・・・! お主ほどの実力者が亡くなるとは・・・一体どんな者に

 やられたのじゃ?!」

 

オーディンは信じられないといった表情を作ると、それを見たロスヴァイセはオーディンの

豹変振りに驚きを隠せなかった。

 

(オーディン様がこれほど取り乱すとは・・・)

 

その言葉にひしぎは苦笑し、ソーナに説明した時と同じように説明した。

 

「原因不明の病気、『死の病』に掛かってしまいまして、治療方法がなかった為、

 延命措置だけは出来ていたのですが、少し無茶をしてしまって

 それが悪化し、死んだだけです」

 

彼の反応を読み取り、明らかに壬生一族の情報が出回っていない事を読み、

鬼眼の狂との死闘をへて死んだと言わずにそう濁した。

 

彼らが生きていて新しい一族の未来があり、悪の歴史を辿っていた一族の事を話し、

彼らが折角気づきあげた未来を汚したくなかった。

 

本来の一族の歴史は、生き残った者達が伝えるべき──と、ひしぎは考えた。

 

故に、同じように話を濁したのだ。

 

「ふむ、なるほどのぅ。それでお主は死んだ後現代に蘇った、という事なのじゃな」

 

「ええ、何の思惑が動いたか分かりませんが、その通りです」

 

その後も当人にしか判らない会話を続ける二人。

他の3人は話についていけず、疑問ばかりが募り、ついに小猫が

手を上げて質問した。

 

「──話の途中ですみません。一つ質問があります」

 

オーディンとひしぎは会話をやめ、小猫の言葉に耳を傾け返事をした。

 

「どうしました?」

 

「オーディン様とひしぎさんは一体何処で知り合いになったんですか?」

 

小猫の質問に、ソーナとロスヴァイセも頷く。

 

「ふむ。そうですね」

 

ひしぎは顎に手をやり、オーディンの方に向き直ると、オーディンは肩を

竦めながら答えた。

 

「その回答にはワシが答えよう──そうじゃな、天界、冥界、北欧や他の地域でも

 語られている、初代魔王が引き起こした戦争時の話じゃ」

 

オーディンは懐かしむように語りだす。

 

「──あれは、開戦後数世紀たった後、ワシ等北欧神話系に天界側から救援を

 求められてのぉ。当時はまだ北欧側は天界よりの陣営じゃった」

 

初代魔王と神の戦いは苛烈を極め、冥界、天界全域が戦場だった。

そして、初代魔王が盟友である真魔獣王達の参戦により、一気に戦線は傾き、

悪魔側が優勢に成っていた。

 

聖獣などを投入するも、勢いの付いた悪魔側を押し込むことが出来ず、

戦線は劣勢状態だった。

 

神は苦渋の決断により、当時まだ親密に近い関係だった北欧神話の神に援護を求め、

北欧側もそれに了承した。

 

援軍に向かったのはオーディンとフレイア、ヘイムダルの3人と戦乙女約5千。

神が救援を出した戦域は、丁度冥界と天界の狭間にある出来た人間界の入り口付近である。

 

戦争が長期化しているさなか、元々大陸のみだった世界に生物が誕生しその過程で

人類が生まれ、徐々に数を増やしていた。

 

丁度人類が誕生して数世紀たった後のことだった。

初代魔王は神が何度も人類を救済している話を聞き、人類を天界側の尖兵として

召還するするかもしれないと判断した魔王のうちの一人、初代ベルゼブブは

盟友の『原初の真白蛇王(ファラク)』と悪魔の軍勢約5万を人間界に派遣。

 

魔王軍の侵入経路は大規模な軍勢の為、未開拓地にゲートが設定されており、

そこから各地へ襲撃する予定だった。

 

現世に侵入してきた魔王軍に北欧側は、ヘイムダルに4千の戦乙女を与え、

魔王軍の正面から衝突させ、オーディンとフレイアは500づつ率いて両方の側面を強襲。

 

侵攻してきた魔王軍の横ばいに思い切り打撃を与え、強襲してはすぐ撤退の

繰り返しをして魔王軍の勢いを削いだ。

 

だが、魔王軍も虚をついた強襲と撤退に対応し、1万ずつの軍を切り分けて

対応し、左翼、右翼に1万づつ配置し、正面に2万、中央に1万と『原初の真白蛇王(ファラク)』が布陣。

この布陣により、オーディンとフレイアは中央まで攻撃が届かず、数十倍以上の

敵の猛攻を受け一度撤退し、合流を図った。

 

 

ヘルダイムと戦乙女達が遠距離固定砲台に徹している為、自軍の5倍もの敵軍を

頑張って足止めをしているが、それも時間の問題である。

徐々に徐々にと距離をつめられていた。

 

魔王軍の勢いをもう一度削ぐため、オーディンとフレイアは今度は二人で、

一気に右側からの強襲をかけた。

 

狙うはベルゼブブの眷属である指揮官。

一気に右側の軍を突き抜けた瞬間、オーディンの思考に何か引っかかるモノを

感じたが、ここで止めると次はチャンスすらないと感じ気にせず吶喊した。

 

縦横無尽に悪魔を屠りながら突き進んでいくと、中央軍に指しかかろうとした瞬間、

紅に染まる獄炎が行く手を阻み、オーディンは咄嗟に紙一重で回避に成功したが、

フレイアと戦乙女の半数が飲み込まれた。

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

断末の様な悲鳴が辺りを木霊し、焼け焦げる匂いがその空間を支配する。

オーディンは防御魔方陣を体に展開すると、獄炎の中に飛び込みフレイアを救出したが、

全身に大火傷を負ったフレイアは辛うじて意識はあるものの、戦闘続行は

見る限り不可能であった。

 

「当時のフレイアはまだ若く幼くて、北欧の神々の中でも力は下のほうであり、

 ワシもまだまだ未熟だったこともあり、彼女を庇うことすら出来なかったのじゃ」

 

そのままオーディンは続ける。

 

負傷したフレイアを抱えるオーディンの目の前に現れたのは『原初の白蛇王(ファラク)』であった。

全長30メートルはあろうかとする巨体を持ち、全身の色は白銀であり、

見るもの全てを魅了する色合いであるが──見た目に反して、性格は凶暴で残忍だった。

 

原初の白蛇王(ファラク)』は体内にある魔力操作により、全長を調節でき、

今回は現世に出るゲートの大きさに合わしての全長だった。

 

「流石のワシも、フレイアを庇いつつあの魔物(ファラク)を相手をするには、

 分が悪すぎたのじゃ」

 

フレイアを庇いつつ全力で戦う反面、部下に撤退指示を出していた。

だが、オーディンの予測を上回る速度で、左側に居た軍勢が後方から回り込み、

撤退ルートを塞いでいた情報が耳に入っていた。

 

元々右側に居た軍勢はあまり抵抗せずに防御に徹しており、左右に分かれ、

彼らを中央内部まで誘導していたのだ。

 

そして半数になった軍の一つはオーディン達の包囲網を完成させるために気づかれないように、

彼らの後方を塞ぎ、もう半数の軍は、正面の軍へと合流し一気に正面の攻勢に参戦していた。

 

急ぎすぎた為、まんまと敵の策に嵌りフレイアは負傷し、自身も包囲され撤退が

出来なくなっていたのだ。

 

それでも、オーディンは諦めずに事態の打開を開くために奮戦するが、

戦力の欠けた自軍が崩壊するのはそう時間はかからなかった。

 

撤退ルートの確保に動いていた戦乙女部隊は壊滅、ほぼ全員が戦死。

オーディンも『原初の白蛇王(ファラク)』との戦闘で重症を負っていた。

この魔獣も『原初の真魔獣王(ベヒーモス)』と同様の特殊能力を備えており、

相性が悪すぎる相手だったのだ。

 

「絶体絶命の最中、覚悟を決めたその時じゃ──雲の奇怪な化け物と周りに展開している

 悪魔達の頭上に光の雨が降り出した」

 

原初の白蛇王(ファラク)』の放った獄炎が雲の化け物に飲み込まれ、

周囲の悪魔達を光の洪水が消滅させていた。

 

何が起きたか把握できないオーディンとフレイアを護るかのようにして、

二人の男女が降り立った。

 

二人は非常に若く、まだ子供の域を漸く終えたばかりのような幼さだった。

女の方は男の子より少し年上のような感じであり、可愛らしい顔立ちで

好戦的な表情を浮かべたショートカットの髪型をし、軽めの着流しに短パン姿と下駄を履いていた。

 

もう一人は男の子で、女の子とは違い無表情であるが端正な顔立ちの少年──ひしぎだった。

 

「んじゃ、ひしぎ周辺の雑魚達の頼んだっ。あちきは、あのデカ物を相手するよん」

 

「わかりました」

 

そう言って二人は別れ──戦闘が再開された。

 

原初の白蛇王(ファラク)』と女の子との戦いは、序盤『原初の白蛇王(ファラク)』が

押していたが、特殊能力を全て把握し反撃に出た女の子の猛攻により、細切れにされ消滅。

子供と侮られていたひしぎだが、悪魔相手に一歩もひかず一方的な虐殺を開始していた。

 

その光景に言葉が出なかったオーディンとフレイア。

 

そして数分後、周囲の敵の殲滅を確認した二人

 

「あちきはこのまま敵本陣を潰してくるから、ひしぎはあの二人の治療をしてやるんだ」

 

「いいんですか? それは命令には無かった筈ですが」

 

「大丈夫、思惑は違えど、この二人も人間を護ろうとしてたんだ。罰にはならないよん」

 

「──わかりました」

 

そういって女の子は中央軍へ吶喊をし、ひしぎは倒れている二人の横へ行き

治療を開始したのだ。

 

「その後ワシとフレイアは安全圏までひしぎ君に護衛され生き延び、

 だから、彼とはその時知り合ったのじゃ」

 

オーディンの言葉にソーナ、小猫、ロスヴァイセは言葉を失っていた。

 

各地に伝わる話だとオーディンとフレイアが『原初の白蛇王(ファラク)』を倒した事に

なっており、当事者の言葉でそれは否定され、消された歴史の真実を聞き、

頭が混乱していた。

 

そして何より、ひしぎはその時代から存在していたことにさらに驚愕していた。

ソーナより混乱している小猫とロスヴァイセにはひしぎから壬生一族の存在を教えられ、

寿命がないことに関しては納得してもらった。

 

「だがらワシとフレイアにとっては命の恩人なのじゃ」

 

「なるほど、そいういう訳だったからあの会談でシトリーさんの支持を表明したのですね」

 

漸く主のあの時の会談の行動、支持表明の理由を知り納得するロスヴァイセ。

 

「そうじゃ。もしあの時ひしぎ君達が現れなかったらワシとフレイア、ヘイムダルは戦死し、

 人間界も蹂躙されており、今の情勢はもっと変わっていたぞい」

 

あの一戦で世界の未来が少なからず変わったのは事実だった。

悪魔側一強の勢力となり、天界、北欧神話側は衰退の一途を辿る事になっていたと、

オーディンは語った。

 

あの時の天界側には『原初(オリジナル)』の魔獣達への対抗策が無いに等しいぐらいだったが、

ありとあらゆる策を実行し膨大な犠牲を払いつつも倒すことに成功していた。

 

「これでお主達も理解したじゃろう」

 

その言葉に頷く3人。

当の本人であるひしぎは懐かしさを感じて口元に笑みを浮かべていた。

そして口を開いた。

 

「貴方の方が年上なのですから、君付けはいりませんよ」

 

「わかった。まぁ、昔話もこれで終わりにしてお主に伝えておかねばならぬ事がある。

 話してもよいか?」

 

オーディンは優しかった口調を変え、真剣さを滲ませひしぎの方に向き直ると、

ひしぎは軽く頷いた。

 

「今回の戦いであの小僧共はお主の力を直に感じて、個別に会談を開くそうじゃ」

 

その言葉に一番驚きを表したのはソーナだった。

 

「私に一任して頂いた筈では?!」

 

「うむ、"あの時"はシトリー君に一任していたのじゃが、あの戦いをみて、

 アザゼルとミカエルは危機感を覚え、サーゼクスもシトリー君一人に

 任せても良いのかと疑問を感じ始めたらしくてのぉ。意見の一致した3人は

 秘密裏に会談を開くらしくてのぉ。その情報がワシの耳に入ってきたのじゃ」

 

「なっ・・・私は信用されていないということですか・・・」

 

オーディンの言葉にソーナは信用されて無いと感じ取り気落ちするが、

それも仕方のないことだと悟った。

 

魔王であるセラフォルーを倒した相手と互角以上の戦いを繰り広げ、

圧倒的な力を見せ付けた。

 

故に組織、勢力のトップは個人の感情は無視して各仲間を守るために、

もう一度会談を開くということなのだ。

 

「シトリー君のその考えでだいたい合っとる。ワシもその考えは共感できる。

 だたのぉ、一任したシトリー君を外した"会談"はいただけぬ」

 

「…」

 

ひしぎは目を瞑りながら黙って聞いている。

 

「だからのぉ、その会談にワシを"呼びざる得ない"様に一つ策を講じることにした」

 

3人の極秘会談に何とか潜入できないか思案していたオーディンはここに来る途中、

咄嗟にいい案がひらめいたのだ。

 

「──ロスヴァイセよ。オーディンの名の下に命じる。ひしぎの護衛兼部下の任に就け」

 

突然名を呼ばれ、その内容を聞いてロスヴァイセは慌てて立ち上がる。

流石のひしぎも呆気に取られていた。

 

「オーディン様?! どうしてです!」

 

「そなたが護衛としてひしぎの傍に居るなら"何か"あった場合真っ先に北欧側に

 情報が届くのも一つ。そして先にこちらから"監視"という名目でそなたが

 傍らに居れば、あの小僧共は監視要員をこれ以上増やそうとしないはず」

 

既に、ソーナという監視要員が居る状態であり、そこに一人足すだけでも

十分効果はある。

 

そしてひしぎがら警告を貰っている3人はそれ以上の監視要員を

出せない状態となるのだ。

 

オーディンはそれを見越して先手を打つことにしたのだ。

あの時宣言したように、自分が責任もって"見る"という行動を示すために。

それならば、あの3人も文句は言ってこないだろうと踏んだのだ。

 

「オーディン様、ご自身護衛はどうなさるつもりですか?!」

 

「ロスヴァイセよそれは杞憂じゃ。ワシ一人なら特殊転移魔法が使え、

 一瞬で本国に帰還できる」

 

「ですが──」

 

尚も食い下がるロスヴァイセにオーディンは厳かに告げた。

 

「ロスヴァイセよ。ワシの命令が聞けぬのか?」

 

鋭い眼光に射抜かれたロスヴァイセは、オーディンは本気でこの任務を

命じているのだと悟り──個人の感情を切り捨て、考えを改め、地面に片膝を立て頭を垂れた。

 

「──承知しました。このロスヴァイセ、我主オーディン様の命により、

 ひしぎ様を我命に代えてもお守りいたします」

 

その姿勢を受け、オーディンは満足そうに頷いた。

 

「──受けてもらえるかな? ひしぎよ」

 

二人のやり取りを最後まで見届け、その心遣いに感謝しつつ

オーディンのもう一つの思惑の存在に気がついた──

 

なぜなら、自身の強さを知っているのに"護衛"をつけるという

不自然極まりない提案であり──なにより、"護衛兼部下"という言葉が

そのままの意味合いで取れることもある。

 

(部下にしてこの娘を守れってことなのでしょうか? まぁ、丁度この世界で遣る事は

 無いですし、監視の目が減るのはありがたいので、断る理由はありませんね)

 

何者かから彼女を守るために、自身を選んだのだと把握したひしぎ。

恐らく自分の戦いは3勢力以外にも知れ渡っていると読み、

この世界を知る為にいい機会だと思いこの提案を受けることにした。

 

「──わかりました。お願いします」

 

オーディンとロスヴァイセに向けて頭を下げたひしぎ。

その言葉を聴いたロスヴァイセはオーディンの傍らから離れ、ひしぎの元に歩み寄り、

先ほどと同じ姿勢を取った。

 

「今日、今この時、この瞬間から私は貴方の『矛』であり『盾』。

 貴方を狙う全ての者から全身全霊をもってお守りいたします。ひしぎ様」

 

ロスヴァイセは二人の思惑に気づかないまま、

中世の騎士のような言葉を並べ、新たなる主となったひしぎへ誓いを立てた。

それを見て聞いたオーディンは漸く表情を崩す。

 

そう、ロスヴァイセは気づかなくても良い事なのだ。

 

「こやつはお堅くて融通が利かず、彼氏も未だに作った事が無く、見た目は魅力的なのじゃが、

 中身が残念戦乙女である。じゃが、それでもワシの護衛を一番長く勤める事が出来た、

 非常に我慢強く優しい優秀な娘じゃ」

 

貶しつつも褒めるオーディンの言葉にロスヴァイセは思わず声を上げる

 

「ちょっと!? オーディン様!」

 

「じゃから──ひしぎよ、ロスヴァイセの事を"頼んだぞ"」

 

最後の真剣で優しげな言葉はひしぎの方に投げかれられ、

彼はそのまま頷いた。

 

「わかりました」

 

3人のやり取りを最後まで黙って聞いていたソーナと小猫は複雑な気持ちで一杯だった。

ソーナは、姉を助けて貰った恩人に対して、自身の王が"そういう"行動を取ったことに、

意味が理解はしているが、個人の感情としては憤りが生まれた。

 

確かにあの力は誰が見ても恐怖や不安を与えかねないぐらいの衝撃だったが、

結果的に自分たち悪魔と天使、堕天使の勢力は"守られた"のだ。

 

だからそこ、理性では理解していても、感情では理解したくなかった。

 

小猫の場合も、ほとんど同じ状況だった。

ソーナほど理解は出来ていなかったが、あの戦場でもしひしぎが助けに来なければ、

セラフォルーは戦死、恐らくサーゼクス、ミカエル、ガブリエル、アザゼル以外の

全員が殺されていたと、小猫は本能で悟っていた。

 

だからこそ、ひしぎに感謝の言葉は送れど、そういう態度は頂けないと感じていた。

実際、ソーナと小猫、オーディン、ロスヴァイセはお礼を言ったが、

勢力側からの言葉は無かった。

 

ただただ、警戒心丸出しの仲間たちに少し不満を感じていたのだ。

確かにあの力に対する、彼女らの出した態度、雰囲気は理解できるが、

言葉一つぐらい送っても罰は当たらないだろうと思う。

 

だが、実際それはひしぎを知る者はそう感じるが、知らない者の反応としては

当然である。

だからこそ、小猫の心に"亀裂"が入った。

 

「では、ワシはそろそろ小僧共から連絡がくるはずじゃから。

 あの会議室に戻っておく」

 

オーディンはそういうと椅子から腰をあげ、手を振りながら生徒会室を

後にした。

 

そして残された4人は

 

「とりあえず、ロスヴァイセさん」

 

「さんは、要りません我主。私のことはロスヴァイセ、言い辛いなら

 ロセでもかまいません」

 

「わかりました──ロセ」

 

「はい。なんでしょうか」

 

「私は住んでいる場所が借りている個室なので──」

 

そう、ひしぎは未だに学園の個室を借りている身であり、実際二人も住める部屋ではなかった。

だから、ソーナと小猫の方に向き直り

 

「ソーナ、小猫さん、すみませんがロセの新居が決まるまで

 どちらかの家にロセを泊まらせてもらえないでしょうか?」

 

完全に面を食らった3人。

だが、よく思い出してみるとオーディンはロスヴァイセをひしぎの護衛の任に

付かせたのはいいが、どこに住み、どこで活動すれば良いかが、

まったく説明されていなかったのだ。

 

あやうく衣食住無しの生活が始まろうとしていたロスヴァイセは青ざめていた。

 

「オーディン様め・・・!」

 

肝心な所を説明せずに姿を消した元主に怒りを向ける。

 

「わかりました。私は個人宅なので部屋に空きがありますから。

 ロスヴァイセさんは私の家で預からせていただきます」

 

そう提案したのはソーナだった。

元々学園にある寮生活だったのだが、姉が尋ねてくる事が多く、

あの姿を生徒に見せたくない思いもあるが、万が一の事を考えて、

個人宅に移住し、予定より遥かにでかい家となっているので

空き部屋がいくつもある状態だったのだ。

 

「では、お願いします。ロセもいいですね?」

 

「はい。不束者ですがよろしくおねがいします」

 

住を提供してくれたソーナに深々と頭を下げるロスヴァイセ。

 

その後も、ロスヴァイセがこの地に住むことになった為に、

必要な物が大量に要るようになった。

 

何より一番の問題は資金だった。

 

「これは──ある意味最大の敵ですね」

 

真剣な表情を作りながらひしぎは呟いた。

今の今まで忘れていたのだが、ひしぎ自身文無しだったのだ。

お腹は減るし、乾きもあるが基本的に断水、断食しても死なない。

 

生きている頃は、壬生一族でも太四老だったため金銭的には

十分潤っており、手元に必要な分だけ残すと余った分は城下町の貧しい者達に配っていた。

 

だが、彼は一度死に蘇ったため。

職無し、文無しの身分まで下がっていた事に今更気がついたのだ。

 

「盲点でした」

 

本気で忘れていたひしぎのこの言葉に、3人は何て声をかけて良いかが分からなかった。

そして、ある事を思い出した。

 

「そういえば、ソーナ。あの保健の研修医って話はまだ有効ですか?」

 

「え、ええ。まだ大丈夫です」

 

この学校を散歩するために女医がひしぎに研修医という肩書きを与え、

学園長からはもし帰る場所がこのまま見つからなければこの学園で雇ってくれると、

いう話だったのだ。

 

本来の学園ならば理事長の許可が要るのだが、この学園の理事長は基本留守である為、

実質学園長の独断で運営している部分もあり、この件も学園長の独断だった。

 

「ならば、完全に動けるようになったのでその話を受けたい──と、

 話してもらっても良いですか」

 

「わかりました。すぐ連絡を入れてみます」

 

「ありがとうございます──あ、後ロセもこの学園に入学とかは出来るでしょうか?」

 

話を聞く限り、ソーナと同年齢である為、ひしぎは提案した。

 

「私は飛び級で北欧側の学園を卒業してしまったので」

 

彼女は非常に成績が優秀だったため、戦乙女の通う学園を飛び級で卒業していたのだ。

だからこそ、学生の年齢だったがオーディンの護衛という仕事についていた。

 

「遊べるうちに遊んでおいたほうが良いですよロセ。卒業後は死ぬまで働くことに

 なるのですから──学生としてこの学園を卒業しなさい」

 

言い方は少しきついが、ロスヴァイセの事を思っての言葉だった。

 

「──ひしぎ様がそう仰るなら。ソーナさんお願いできますか?」

 

一瞬考えたが、ひしぎの言葉に従う。

 

「わかりました。学園長に一緒に話してみますね」

 

その後も4人で今後のことを相談し、来週の休みには何も無ければ、

ひしぎとロスヴァイセの二人を街に案内することが決まった。

 

 

 

 

そして、生徒会室を後にしたオーディンの元には彼の予想通り、

会談の参加要請を伝えにきたガブリエルが姿を現した。

 

先ほど使っていた会議室にはサーゼクス、アザゼル、ミカエルが

先ほどと同じ席に座っており、それ以外の者は居なかった。

 

案の定、ひしぎに関する会談が始まり、オーディンがロスヴァイセを

彼の監視役につけたと報告し、これ以上の監視者を増やすのは危険だと主張し、

彼らの意見を退けた。

 

ならば、万が一のことを考えて学園内部に各勢力の実力者を配置させる案が

出たが、これも彼を刺激するとしてオーディンは却下した。

 

元より、こちらから手を出さない限り向こうも何もしないと宣言している事を

もう一度3人に聞かせ、これ以上の会談は意味がないと主張した。

 

彼らの言い分は正しいのはオーディンも良く判っている。

だが、向こうの言い分もきちんと聞いていれば手を取り合えることが

可能だ知っていた。

 

だからこそ、この件に関してはソーナに一任する事を最後まで貫き通す事を

決めていたオーディン。

 

そして、万が一のことがあれば自身が先頭に立ち、責任も自身が取ると今一度宣言し、

会談を終了させた。

 

皆が退出した後、オーディンは本国へ帰還するために転送魔方陣の準備にかかっていた。

そして今日一日の事を振り返る。

 

閉鎖的となっていた北欧領土から久々に出てきてみれば、衝撃的な事が連続して起こり、

昔の騒々しかった日々を思い出し苦笑する。

 

そして──オーディンの思惑通り事は運べた。

 

(これで、あの娘には最強の護衛がついた)

 

先ほどまで自身の護衛を担当していたロスヴァイセの事である。

 

(恐らくひしぎはワシのこの"行動"を認知した上で引き受けたじゃろうな)

 

昔の恩を返すために、善意からとった行動だったが、もう一つの思惑もあった。

それは、ロスヴァイセが何者かに狙われている──いや、"狙われる"と言った話を

知己の預言者から聞いていた。

 

ただ、それは何時なのかは不明だったため、オーディンは彼女が学園を飛び級で

卒業した知り、すぐさま護衛に抜擢したのだ。

 

なぜ、一介の戦乙女にここまでしようとするのには理由があった。

彼女の祖母であるゲンドゥルに若いころから色々と助けてもらった借りがあり、

彼女の父母もアースガルズに多大な貢献をもたらしており、欠かせない人物となっていた。

 

だからこそ、その恩を返す為に彼女の"護衛"をオーディンがしていたのだ。

この事を知っているのはフレイア、フレイ、トール、ヘイムダルのみである。

 

それ以外の者から見ればオーディンの護衛としてのロスヴァイセなのだが、

実際は逆だった。

 

そして、3大勢力との接触が切っ掛けで、自国に不満を持つ者、

もし神々の中で裏切り者が現れ、実力行使でこられたら幾らオーディンでも

ほかの神相手では彼女を守りきる自信はなかった。

 

どうするか思案していたところに、戦友である初老の悪魔から話を聞き、

もしやと思い、行動に移したのだ。

 

そして、結果は云うまでもなく。

 

ロスヴァイセは最強の護衛に守られる形となったのだ。

思惑を看破しながらも提案を受けてくれたことに、オーディンは心から

ひしぎに感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、冥界へ緊急搬送された悪魔側の兵士達が目を覚まし、

何があったか今一度話しを聞いてみると。

 

「人間の少女だ──リアス・グレモリーと同じ年齢ぐらいの少女が

 我らと天使、堕天使達を壊滅させたんだ」

 

二刀の刀を操り、髪は黒色でソーナ・シトリーと同じような髪の長さであるが、

切り口はばっさりであり、ただし、体つきはリアス・グレモリーを同等、

服装は花びらが描かれている着流しにロングスカート、後は胸元に勾玉の紋が3つあり、

それが円を描いていた──知って居る者ならば『巴紋(ともえもん)』と呼ぶ。

 

刀を一度振る度に刀の刀身から無数の水の龍が現れ、縦横無尽に駆け回っていおり、

誰も接近する事が出来ずに水龍に呑まれ、叩き落されていった。

 

ようやく接近することが出来た者は──圧倒的な力により叩き潰された。

 

そして悪魔達はその人間を──少女を見て恐怖を感じた。

 

「あれは、あの人間は──人の皮を被った化け物だ!」

 

と、意識を取り戻した悪魔の兵士達が語った事実だった。

 

 




こんにちは、夜来華です。

回想をメインにしつつ、各勢力の対応回でした。
一番大きく動いたのが北欧側、ロスヴァイセの立ち居ちは完全に原作乖離です。
そしてひしぎは生活する為の、ある意味最強の敵と出会いました。

ちなみに、桃の法力の力は朱乃は見ていません。
後、最後に話で出てきた者の正体は・・・!?

感想、一言頂けるとうれしいです。


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第17話 王と眷属

*小猫の心情を加筆しました。

久々に学生へと戻りました。

やはり、北欧側の学園とは雰囲気がまるで違うので、新鮮です。

このような平和な日々を過ごせる事に感謝を──


駒王学園での会談後、それぞれ拠点に戻り評議員や構成員を召集し、会議を開き、

和平へ向けての準備に取り掛かった。

 

だが、ここで悪魔側と堕天使側はまだ会議しなければならない議題があった。

 

それは、今回開かれた極秘会談が『禍の団』の襲撃を受けた件についてである。

首謀者はカテレア・レヴィアタン、内通者『白龍皇』ヴァーリ・ルシファーである。

 

旧魔王派であり、ヴァーリに至ってはこの事件で自身の出生を明かし

魔王の血筋だと明らかになった。

 

テロ首謀者が悪魔側という事もあり、天界側、堕天使側からの追求を出来るだけ抑える為、

緊急会議を開き、旧魔王派の監視を一層厳しくする事を決定した。

 

そしてもう一つ。

今回の襲撃事件で、特殊な力を持つ眷属を一人で待機させ、その眷属が敵に捕まり力を利用され、

各勢力のトップを危険にさらした事である。

 

利用された者の名は、ギャスパー・ヴラディ。

『神器』の一つ『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の所持者であり、その力は視界に

入った物、生物の時間を停止させるという力である。

また、使い手より上位の実力者は停止させる事は出来ないのだが、今回襲撃者が無理やり彼を

擬似的な『禁手化』にさせた事により、周辺を護衛していた戦力は全て停止され、

各勢力のトップと特殊な力を持つもの以外停止させられたのである。

だが、その力は時間が経つにつれて力が増幅しており、魔王ですら止められるのは

時間の問題だったのだ。

 

この様な特殊な力を持つ眷属をなぜ一人にさせたのか、会議に緊急召喚された

ギャスパーの王であるリアス・グレモリーに会議の場でその理由を問うた。

 

彼女の言い分はこうだ。

 

彼は過去に辛い出来事があり、人前に出る事に恐怖を感じており、今回自身と眷属全員が

会談に呼ばれていたが、各勢力のトップの前で彼が暴走してしまう危険性を感じ、自身の拠点で

待機させていたということ。

 

そして、護衛も付けなかった理由は──自身の認識不足と話していた。

 

周囲を固めた戦力を見て、襲撃に合うとは微塵も思わず慢心していた為に

彼を一人で待機させていたのだ。

 

王としてその行動は軽薄であり、王ならば暴走しないようにその眷属の傍らで

支えるのが眷属達との絆ではないのか? と、一人の議員に指摘され、

彼女は俯いたまま悔しそうに唇を噛んでいた。

 

この件に関しては、幾らリアスを溺愛しているサーゼクスも擁護は出来なかった。

実際、会談に参加していたもう一人の魔王、セラフォルーがこの襲撃で

大怪我を負ったからである。

 

見守ることしか出来ないサーゼクスを無視して、他の議員は更に別件でも追求していく。

 

前回の聖剣強奪事件であり、コカビエルが駒王学園へ襲来したこと。

主犯格が古の猛者と分かりながらも報告を遅らせ、ギリギリになって援軍を要請したこと。

 

日本へ滞在する際に与えられた領土である駒王町で起きた出来事なのに、

その領主であるリアスは報告の義務を怠ったと報告に記されていた。

 

これは重大な監督責任であり、眷属の姫島朱乃の咄嗟の動きがなければ

事は深刻化していたと判断。

 

ソーナ・シトリーも駒王学園を拠点に活動していたが、学園を含む町全体の

管轄はリアス側に所有権があり、彼女が勝手に報告することが出来ない仕組みとなっていた。

その部分は遥か昔から、領主である者の顔を立てなければならない風習がある為であり、

報告義務が発生しない為この件に関してはソーナ・シトリーは不問とされていた。

 

そして、その前の堕天使による一般民間人の殺害の件である。

明らかに堕天使が暗躍している事を察していながらも、泳がせ、無関係の『神器』持ちを

見殺しにしたこと。

結果的に見れば、眷属にしたことによりその者は第二の人生を歩むことが出来たが、

堕天使が悪魔の領地で好き勝手に行動していた事が、議員達は不満を口にしていた。

 

明らかに過ぎた事なのだが、一度不手際を見つけられると、アレやこれと云って

過去の行動にも難癖をつけられ、その一族を権威の落とそうとする議員達のやり口だった。

 

ただ、最初の件は堕天使を一網打尽にする為の動きだったことは、数名の議員達によって

擁護されていたが、あとの二つの案件が完全な不手際だった事は本人も認め、議員達の半数も

認めていた。

 

その結果、議長が下した判決は。

 

──2年間の駒王町の領主権限の剥奪

 

もし学園卒業後駒王町に留まらない場合は、その後の1年間は領土は持てない事になる。

リアス・グレモリーの変わりにソーナ・シトリーが代理領主を務めるように打診した。

 

──その期間内は無償で駒王町に奉仕すること

 

はぐれ悪魔を率先して討伐する事や、今後VIPが駒王町を訪れた時の率先しての護衛である。

簡単にいえば、今まで通り活動して云いということである。

実際指揮権、領地権限だけがソーナに移譲するだけで何も変わらない。

 

ただし、今後の行動でリアス側がミスを起こした場合はリアス本人が罰を受けるという事。

 

指揮権はソーナに移譲したが、リアス側が起こしたミスを

代理領主であるがシトリー側が一切責任取らない事で、シトリー家の当主には話を通していた。

 

もし、リアスが起こしたミスでソーナが責任を取る立場での移譲ならば、

シトリー家はこの件を了承せず、グレモリー家の交友断絶を主張した。

 

過去のリアスの功績などを考慮した結果、剥奪期間はかなり軽減されたが、

これは領主を与えられた者のケジメとして表向きの罰は絶対だった。

 

唯一の救いは、メディアなどでは公表しないという事。

これで、グレモリー一族の面子が保たれる事になった。

リアスの眷属達にその罰の内容を話かはリアスの判断にゆだねられ、

リアスは気持ちの整理が付くまで自身の右腕である朱乃以外の

眷属達には後々話そうと考えていた。

 

そして以下の内容が言い渡されたリアスは、悔しながらも自身が招いた不手際である事を認め、

了承した。

 

会議が終わり議員達が退出していく中、サーゼクスは会議室の真ん中で立っているリアスの

前に歩み寄り優しく声をかけた。

 

「すまないリアス。今回ばかりは僕でも庇いきれなかった」

 

「いえ、お兄様──魔王様。これは私自身が撒いた種なので、自身の責任は自身で取ります」

 

内心かなりのショックを受けていたが、兄を心配させまいと無理やり笑顔を作るリアス。

 

「リアス──」

 

何とも痛ましい笑顔に、サーゼクスは何と言葉を掛けて云いかが分からなくなった。

 

「可愛い眷属達が私の帰りを待っているので、失礼します」

 

サーゼクスに一礼すると、リアスは駆け足でその場を去っていった。

彼女の後姿を目で追いながら、彼はつぶやいた。

 

「これも、上級悪魔になる試練の一つだ──がんばるんだ」

 

どの悪魔でも、生きている限りミスは起こす──起こさない者などこの世に存在しないのだ。

サーゼクスも自身も学生時代に色々なミスを起こしこういう体験を何度も経て、

魔王になったのだ。

 

だからこそ、この一件で妹の心が折れないかが心配だったが、

"信じる"事に決めた。

だってもう彼女ももう直ぐ大人になるのだ──子ども扱いは出来ない。

 

だから、兄は妹の再起を信じて待つことにした。

 

そして、サーゼクス自身も彼の事をソーナに一任したまま、任せきりにせず、

独自のルートで彼と一度二人っきりで話をしてみようかと考えていた。

 

現状彼の力は脅威以外何者でもないが、接触により交友を持つ事により

彼が困っていたら無条件で手を差し伸べ、こちらは"敵意"がないと

直接感じてもらい、有事の際には力を借りれるほどの

協力関係を気づきたいと思案していた。

 

ただ、実際冥界を取り仕切る議長の命令により表立っては動けないため、

どうするべきか考えながらサーゼクスも会議室から姿を消した。

 

 

 

 

一方、堕天使側から悪魔側、天界側に『白龍皇』の裏切り、テロリストの手引きを

した事により各勢力のトップを危険な目に合わした事について、

アザゼル本人から正式な謝罪があり、責任を取る形で総督を降りると宣言するが、

今回の会談の立役者であり和平を唱えた第一人としての功績があり、

各勢力から総督を継続してほしいと要請され、和平を完全に結び、

諸々の事案を処理してから今回の責任を別で取る事となり現状不問とされた。

 

ただ、今回問題を起こしたリアス・グレモリーの眷属に『神器』の制御を

教えると云う事が追加された。

 

今の今まで敵対していた者と手を取り合うことは、非常に難しく一つ一つ処理していかなければ

ならない問題もあり、今総督業を降りられたら話が纏まらなくなると

冥界、天界側がそう判断したのだ。

 

 

 

 

人間界ではソーナの元に冥界からの連絡があり、リアス・グレモリーの領主権限を剥奪し、

その代理を自身にするようにとの打診だった為、ソーナは生徒会室で頭を抱えていた。

 

生徒会室は今は皆、擬似空間での戦闘訓練を行っており、連絡が来たためソーナは

一度訓練を中断し、生徒会室に戻ってきたのだ。

 

「まさか、この様なことになるとは」

 

リアスが冥界で開かれた緊急会議に召喚された事は知っていたが、

まさか、この様な事態になっているとは予測が付かなかった。

 

だが、よくよく思い出してみると、思い当たる節がいくつかあり

例え弁明を頼まれたとしても事実なので、言い訳が思いつかないソーナ。

 

現状学園管理だけで手一杯なのに、それに追加で町の管理まで言い渡されたのだ。

これ以上忙しくなるならば、戦闘訓練の時間を減らすしかないと考えていた所、

続きの連絡が入り、町での奉仕、仕事などは今まで通りリアス・グレモリーが担当すると

書いてあり、ただ権限が自身に移動した事だけだと漸く理解し

 

「なら、今まで通りでよいのですね」

 

ほっと胸を撫で下ろしたソーナ。

椅子に背をもたれさせ、天井を仰ぎ見るソーナは、ふとあの時の光景がよぎった。

数日前の会談襲撃事件で、姉であり魔王でもあるセラフォルーがボロボロの状態となり、

殺されかけた事。

あの時、自身は近くに居たのに──何も出来なかった想いがソーナの心の中で

燻っていた。

 

「力があれば──姉様の援護が出来た」

 

そして、何より自身達が弱いから、巻き込む恐れがあり彼女は全力の魔法術式を

使うことが出来なかったのだ。

 

「私達が姉様の足を引っ張ってしまい──あのような事に」

 

今でも思い出す、目の光が消えた姉の無残な姿。

あの日から夢に出て、全身から汗を流しながら何度も起きたソーナ。

 

あの光景が脳裏から離れないのだ。

 

「もっと強くならなければ──姉様を守る為に」

 

自身の夢の為にでもあるが、やはり魔王である姉を守りたい為に彼女は

あの日から更に力を欲した。

 

ひしぎから教わるのは、戦闘の心構えと体術であり魔法に関してはからっきしだったが、

今回から北欧魔法に長けている戦乙女のロスヴァイセが訓練に参加し、

ソーナと憐耶、桃をメインに魔法に関しての知識を教えてくれた。

大学課程を卒業している彼女は教えるのも上手で、

教員として雇えるぐらいの実力だった。

 

そしてその実力もオーディンの護衛だったこともあり折り紙つきである。

特に攻撃魔法は上級悪魔以上の砲撃と攻撃力であり、ありとあらゆる属性を

兼ねそろえている為、非常に勉強となっていた。

 

「満遍なく皆、力は付いてきていますが──まだ、足りない」

 

自身の眷属達はここ約2週間で前とは比べ物にならないぐらい強くなっていた。

筆頭は『女王』である椿姫。

 

彼女はずっとひしぎ相手に実戦訓練をしている為、速さ、力、回避能力が格段に

上がっており、そしてひしぎがら特別メニューを言い渡されてそれに励んでいる。

 

それはソーナ自身もまだどんな事かは教えてもらっていない。

 

そして次に匙と桃である。

匙は唯一の男だった事もあり、そしてあの襲撃事件後何か心境が合ったのか、

ひしぎに居残り訓練をお願いしていつも一人で最後まで組み手をしていた。

 

桃はひしぎに教えられた法力の力を混ぜた対悪魔用魔法をいくつも開発し、

憐耶に"体験"してもらいながらそれの効果を確認し、改良している。

ロスヴァイセに攻撃術式を教えてもらい、元々防御専門ばかりだった術式は

今では攻撃術式もかなり数を増やしていた。

 

後の皆は同列だが、平均レベルを上回っている。

元々下級悪魔の上ぐらいだったら、今では中級の中の上まで上がっていた。

 

ソーナ自身も水の魔法に磨きを掛けており、一つひしぎがらアドバイスを貰っていた。

それは形の統一である。

 

形を統一した場合、生成する速度が格段に上がる。

これは形を多くするとソレのイメージを頭に思い浮かべないといけないので、

その時の思考時間が生成時間の増加に直結するのだ。

 

だからこそ、常に同じ形をイメージしておけば直ぐに生成することが出来、

短時間で数も揃えれる様になり、攻撃の手数が増えることになる。

 

「イメージは龍ですか」

 

ひしぎからお勧めされたのは龍であった。

冥界に住むドラゴン達の形ではなく、日本の神話に出てくる蛇のような体つきの

龍である。

 

それなら図書館にある伝説の生物図鑑に載っているため、直ぐに形を

思い浮かべることができた。

 

「あのひしぎさんがお勧めするのですから、遣ってみる価値はありそうですね」

 

そう決心すると、もう一人の少女──小猫の事を思い浮かべた。

あの襲撃事件以来何かと自身と行動する事が多くなり、彼女は自身の所属する

『オカルト研究部』にはあの日から顔を出す程度に留め、

すぐさまこちらへ移動してくるようになったのだ。

 

自身の眷属では無いが、リアスと何かあったのかも知れないと思い心配だった。

でも、それは王と眷属の問題であり、他の者が口を出す事は出来ない。

 

だからこそ、ソーナは出来る限り小猫に優しく接し、今日も一緒に

合同訓練をしていた。

 

最近は訓練が終わったら、一緒に買い物に行ったり、勉強を教えるなど

プライベートでの交友関係も築けた。

 

小猫はとても素直で大人しい子なので、一緒に居ても苦にならず、

むしろ楽しいとさえ感じていた。

 

心の中では妹が居たら、こんな感じなのかと思うぐらいである。

 

「リアス、あの子に一体何をしたのかしら」

 

原因が分からないソーナは首を傾げるばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

擬似空間でひしぎとの訓練が休憩に入り、小猫はグラウンドの端にある

手洗い場で頭から水を被り、汗を流していた。

 

歩くことすら許されない、全力での15分間回避訓練を全員が参加し、

皆肩で息をしたり、何人かは同じように頭から水を被り火照った体を冷ましていた。

 

「小猫さん、これをどうぞ」

 

隣で同じように水を被っていた椿姫が小猫がタオルを持っていない事に気づき、

使っていない方を差し出した。

 

その厚意を素直に受け取る小猫。

 

「ありがとうございます」

 

タオルで顔を拭き、濡れた髪の上にタオルを乗せると、椿姫がこちらを気にしている事に

気が付いた。

 

「何でしょうか?」

 

素直に首を傾げ椿姫に問うた。

すると、彼女は一瞬質問して良いのか迷ったが、聞いてみることにした。

 

「部活のほうには顔を出さなくても良いのですか? 最近私達と居る時間の方が

 長いと感じていましたので」

 

「──迷惑だったでしょうか?」

 

その質問に少し顔に影を作りながら答える小猫。

 

「いえ、全然迷惑ではありません。小猫さんと共に訓練するのは楽しいですし、

 勉強になります」

 

慌ててフォローをする椿姫だが、続けた。

 

「ですが、リアスさんが心配してるかと思いまして」

 

「大丈夫です。部長にはきちんと許可もらっていますから、問題ないです」

 

そういいながら、小猫は無理やり笑顔を作った。

その笑顔を見た椿姫は何と返していいかが分からず、

 

「そうですか、なら良いのですが」

 

と、しか返せなかった。

 

小猫の反応を伺うが、彼女は何も言わずじっと流れる水を凝視していた。

その後二人は言葉を発せず、数分たった後椿姫は他の子の様子も

見ないといけなかったので、タオルはそのまま使って良いと小猫に伝え、

その場を後にした。

 

椿姫が去った後、小猫は体を起こし視線を上に向け薄暗い空を

見ながら呟いた。

 

「私はどうして──リアス部長や皆に会う度にこんなに居心地が悪く感じるの?」

 

あの日以降、部活に顔を出すたびに何となくだが居心地が悪くなり、

すぐさま退出してしまう毎日だった。

 

別にリアス達が嫌いになった訳でも無い。

だが本人は気づいていないが、小猫の心の中にリアス達に対する"怒り"が燻っていた。

 

それはあの襲撃事件後にリアス達が取った態度であった。

 

小猫は学園の補修修理を手伝っている際に、リアスに一度尋ねてみたのだ。

学園を、この駒王町を守ってくれたひしぎに対して領主としてお礼を言うのかと。

 

前回コカビエル襲撃の際もリアスはひしぎに対してなんのリアクションも取らなかったので、

小猫は個人でお礼を言いに行ったのだ。

 

そして今回、前回と比べ物にならないぐらいの事件だったのに、彼女の答えはこうだ。

 

「結果的にそうなったかもしれないけど、本当に私たちを助けたのかしら・・・?」

 

本当に自身達の味方ならばこちら側に接触し、最初から会談にも

参加しているはずと──リアスは考えていた。

 

なぜなら、事件の当事者である彼を今回の会談に参加させようと

提案したのはリアスだったのだ。

だが、それはソーナを通して拒否されたのだ。

 

その瞬間小猫は自身の王が何を言っているのかが理解できなかった。

 

「あれほどの力は危険すぎるわ──領主として見過ごせない。でも、彼に関しては

 全てソーナに一任されているの。だから、私は彼に対して『何も』しない」

 

次に出た言葉は、警戒と恐怖にいろどられていた。

そして冥界の決定に従い、彼女は領主として何もリアクションを行わず、

全てソーナに任せたのだ。

 

それはきちんと冥界の決定に従った、正しい判断なのだが──小猫を納得させるには

言葉が不十分だったのだ。

 

何より、自身の眷属が敵に利用された事で頭か一杯だった部分もあり、

"今"の彼女に外部の人間のことを考える余裕は無かった。

 

そして、今回自身に与えられた罰の事はまだ話してはおらず、

だからこそ、この時、この瞬間にリアスと小猫の間に亀裂が走ったのだ。

 

その後、朱乃、祐斗にも同じ質問をしてみたが同じ答えであり、

リアスの行動は正しいと小猫に伝えたのだ。

 

この二人も冥界の決定を認知しており、味方か分からない為、

下手な接触はやめて置いた方がいいと判断したのだ。

何より何かの切っ掛けであの"力"が自身達に向けられた場合、自身の王を守れる

気がしなかったのだ。

だからこそ、完全に味方と判断できるまで警戒しておくに越したことがないと、

朱乃は小猫に優しく言い聞かせた。

 

こういった事情があり、小猫は部室に顔をだしても考え方の違いにより

居心地が悪く感じ、顔を出すだけの日々が続いていた。

 

リアス自身はそうなった原因が分かっており、あの時の自身の言葉が不十分だった事に

反省していた。

 

だが、それも時間が経てば分かってくれるだろうと考えており、小猫を放置していた。

 

小猫自身も冥界の決定は知っていたが、やはりこの地を任されている者として、

思惑はなんであれ、この町を守ってくれた者に対して何かしらの行動は許される範囲だと、

思っていたのだが──否定されたのだ。

 

一度ならず、二度もだからこそ小猫はその答えに納得が出来なかったのだ。

 

姉に捨てられ、その心を癒そうと献身的で打算抜きで

優しくしてくれたリアスの姿はもうどこにも無かった。

だからこそ、怒りもしたが悲しみの方が大きく膨れ上がっており、

そして、リアスに怒りを向け、顔を合わさないように行動する

自身を自己嫌悪していた。

 

リアスの考えは『王』として正しく、それは小猫も十分に理解している。

そして、『個人』としての小猫の考えも正しい。

 

両者がどちらも正しい故、起きた歪みである。

 

そして、小猫自身は確かにひしぎよりの考えだと自覚はしているが、

彼女にとって初めて、内なる力の存在に気が付き、それを肯定され。

力の使い方を優しく教えられ、事件の最中には二度に渡って命を救われたのだ。

 

だからこそ、今までリアスからもらった愛情や絆、信頼と並ぶほど

ひしぎの存在が小猫の中では大きくなっていた。

 

小猫も、リアスもまだ子供なのだ。

だからこそお互いの主張を引っ込めるに引っ込めなくなったのだ。

 

そして時は何も癒さぬまま一刻と過ぎていった。

 

数日後、ひしぎは無事保健の研修生としてのテストを合格し、

その日から働く事になった。

 

ロスヴァイセも、ソーナと同じ学年に転入し2度目の学園生活を

送ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏、学園は休みとなり業務が終わり次第、訓練に励むソーナ達。

その中にはリアス達との関係を修復できないままの小猫の姿もあった。

 

昼から晩まで長い時間訓練が出来るようになり、この夏で大幅なレベルアップを

狙うソーナ。

 

まだ、眷属達に話しては無いが夏の終盤に若手同士のレーティングゲームが

開催される動きがある事を、セラフォルーから聞いていた。

 

まだ確定ではないが、魔王達がそろそろ若手にもゲームの参加資格を

与えるように議員達に相談していたのだ。

 

実際学園卒業後に本格的に参加することになるのだが、その前に

若手同士で対戦させ、ゲームの空気を肌で感じてもらおうとサーゼクスが

前々から提案していたのだ。

 

その議案が最近会議で頻繁に話題となっていたのだ。

 

現状選ばれているのは6つの家系。

シトリー家、グレモリー家、バアル家、アガレス家、グラシャラボラス家、アスタルト家と

云った72柱に連なる名門の家系である。

 

この6つの家系はこの夏、魔王達と議員達から招集が掛かっており、

ソーナはスケジュールを確認しつつ、学園業務が終了しだい帰国する予定だった。

 

そして帰国する際にひしぎも連れて来てほしいとセラフォルーから内密にお願いされ、

ソーナはひしぎに予定を聞いてみると滞在中数日は少し行くところがあるので、

人間界に途中戻るという条件で承諾した。

 

小猫は本当はソーナ達に付いて行きたかったが、自身はリアスの眷属故に、

リアス達と一緒に冥界に入ることとなったのだ。

 

ただ、その直前までは一緒にいていいとソーナから言われており、

ぎりぎりになるまで共に居ようと考えていた。

 

数日後、その日がやって来た。

 

ひしぎは待ち合わせ場所である駒王町の最寄の駅へ着ていた。

学園の休日を利用してソーナや小猫に町を案内されていたので、駒王町は

ほぼ完全にどこに何があるかは把握出来ていた。

 

彼の服装は生前着ていた服に良く似たデザインであり、真っ黒だった。

かなり目立つため、すぐさまソーナ達は発見することが出来、眷属の皆が

集まり次第出発となった。

 

「ふむ」

 

駅の敷地内に入った瞬間、ひしぎは下に何かあると感じた。

恐らく冥界へ行く"何か"なのだろうと悟り、ソーナ達の後を付いていった。

 

「そういえば、先生は冥界へ行くのは初めてなんですか?」

 

隣を歩いていた桃がふと質問してきたのだ。

 

彼女はひしぎが何者であるかはまだ知らない故、ソーナが連れてきた=悪魔の

関係者だと思い込んでいたのだ。

 

その問いに頷くひしぎ。

 

「ええ、冥界は初めてですね。桃は行った事あるのですか?」

 

「会長の眷属になってから一度だけあります」

 

それは去年の夏ごろに一度、冥界の空気を感じてもらうためにソーナは

新しく眷属になった桃や憐耶をつれて帰国していたのだ。

 

この眷属の中で一度も行った事がないのは、匙と留流子のみである。

他は去年に一度冥界入りしていたのだ。

 

「きっと驚くと思いますよ! 御伽噺で出てくるお城などが沢山建っていますので」

 

首都は勿論各領地には豪勢な城が立ち並び、名門であるほど城の大きさ、

装飾に凝っているのだ。

 

「ええ、楽しみにしています」

 

ひしぎと桃の前にはロスヴァイセと椿姫が並んで歩きながら会話していた。

 

「私もまさかこの様なルートで冥界へ行くとは。

 行くとしたらオーディン様の護衛でとばかり思っていましたので」

 

ロスヴァイセも冥界へ行くのは初めてだった。

元々オーディンの護衛として冥界へ赴く予定だったが、あの時護衛の任を解かれ、

あたらな任務に就き、冥界へ行くことがなくなったな、と、思っていたロスヴァイセ。

その感想に椿姫は苦笑し

 

「確かに、貴方にとっては想定外のルートかもしれませんね」

 

「はい」

 

「それに今から使うのはシトリー家専用のルートなので、恐らく外部の

 方を乗せるのは初めてかと」

 

「そうなのですか?!」

 

「ええ、私が知っている限りでは初めてです」

 

椿姫とソーナは中等部からの知り合いであり、その頃から彼女の眷属であった

椿姫は毎年ソーナに付いて冥界へ帰還しており、眷属以外がこのルートで

一緒に帰還したことは一度も記憶に無かったのだ。

 

ロスヴァイセは学園では椿姫と同じクラスに転入したので、

転校当時から何かをお世話になっており、仲の良い友人となっていた。

 

雑談しながら駅内部に入ると、施設の一番奥にあるエレベーターへ皆が乗り込み、

タッチパネルでは上にしか行かないはずのエレベーターなのだが、

ソーナがポケットから取り出したリモコンのような小型のボタンを押すと、

下へ降りていった。

 

そして、扉が開きひしぎ達の目に飛び込んできたのは──地上にある駅と瓜二つだった。

ただ違うとすれば模様や造りが人間界の物では無い部分と、人気がまったく無かった。

 

「これは、流石想像外でした」

 

流石のひしぎもこの光景に驚きを隠せず、呟いていた。

駅の地下にまったく同じ構造で駅を再現しており、悪魔側の技術の高さが

垣間見れた。

 

「私も最初は同じリアクションでしたよ」

 

ひしぎの驚きようを見て、隣に居た桃が苦笑していた。

 

「2番ホームまで歩きますよ」

 

ソーナは先頭に立ち皆を先導していく。

エレベーター近くの通路に入り、何個かの通路を左右に曲がると、

もう一つの空間へ出ることが出来、ホームに列車らしき物が止まっていた。

人間の作った列車より、独特なフォームでシトリー家の家紋が列車に

描かれていた。

 

「あれが、うちの所有する冥界を繋ぐ列車です」

 

「…」

 

もう驚きを通り越して言葉が出なかったひしぎ。

 

流石に個人所有の列車までは想像が付かなかった匙と留流子は、少し後ろで

目が飛び出すほど驚いていた。

 

そのままソーナの先導の元、列車へ乗り込んだ。

本来ならば、次期当主であるソーナは一番前の車両に乗らなければならない

悪魔界の仕来りがあるのだが、彼女はそれを無視して眷属達と同じ

車両に乗り込んだ。

 

勿論他の悪魔にはばれない様に身代わりの人形を一番前の車両に置いてあるので、

入念な検査が無い限りは見つからないようになっていた。

 

列車は荷物などを全部積んだことを確認し、発車の汽笛を鳴らし動き始めた。

 

 

 

 

 

その数時間後、リアスとその眷属達も同じ場所で待ち合わせをして、

全員が集合した後、地下の三番ホームに降り立った。

 

リアスは仕来りに習い、一番前の車両に乗車。

一誠や小猫達は中央の車両に乗り、各自好きな席へと移動する。

 

一誠を中心に朱乃、アーシア、ギャスパー、祐斗、ゼノヴィアが座り

小猫は少し離れたところで一人で座り、寂しそうに窓の外を眺めていた。

 

ここ最近小猫の様子がおかしい事に気が付いた一誠は小声で朱乃に

聞いてみた。

 

「最近小猫ちゃんあまり部活に顔をださないし、落ち込んでるように見えるんですが、

 一体何があったんですか?」

 

部室で小猫の姿を見なくなり、居た時に一誠が卑猥な話をしてもツッコミが来ず、

毒舌も無い。

 

明らかに気落ちしている小猫姿があり、この間一誠は直接聞いてみたが

 

「なんでもありません」

 

と、小猫は答え。

話が終了してしまったのだ。

 

一誠の質問に朱乃は顎に手を当て、天井を見るような仕草で少し

考えた後答えた。

 

「私もあまり事情は分かりませんが、あの襲撃事件以降小猫ちゃんの

 様子がおかしくなったのは間違いありませんわ」

 

リアスから大まかな事情は聞いていたが、あの"事"はリアスの主張が正しいと

判断していたため、それが原因とは思っていなかった朱乃。

だから、他の原因があるのかと考えていた。

 

「朱乃さんでも原因が分からないんですか」

 

「ええ、お役に立てなくてごめんなさいね──ただ、リアスなら何か知っているかも

 知れませんわ」

 

「なら、冥界に着いたら直接部長に聞いてみます!」

 

可愛い後輩の元気の無い姿を見るのは一誠にとって苦痛以外の何物でもなく、

何とかして元気付けようと列車の中で色々試してみたが──全て撃沈された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、余談であるが列車に生まれてはじめて乗ったひしぎは、

誰にも気づかれること無く、この技術の進歩に心を躍らせていた。

 




こんにちは、夜来華です。

丸々一話、戦闘後の後日談みたいな感じで使ってしまいました。
ここ立て続けて彼女の領地で事件が起きており、いつも後手に回っているため
今回この様な措置を書いて見ました。
原作ではそのような描写はなかったはずなので・・・。

後一誠とアーシアが殺された件についての言及は、リアスの管轄内で
"堕天使"の手によって殺されたことが問題となっています。

別に堕天使が人間を殺しても問題はありませんが、監視の中
起こった事件なので。

リアスの小猫への説明不足により王と眷属との関係に完全に亀裂が入った回です。
私の書き方ではどうしてもリアスアンチぽくなるのですが、
リアスの取った行動は正しいく、小猫の意見も正しいのです。
そのすれ違いによって起きた出来事です。

日常回はやはりひしぎの影が薄い・・・私の書く主人公はいつも
影が薄くなりがちなので、治したいところです。

感想、一言頂けると嬉しいです。

追記
リアス側の心情しか書いていなかったので、小猫側の心情を加筆しました。
小猫にとってひしぎの存在は日に日にでかくなっています。
原作の当初はリアスが情愛に深い行動とは思えなかったので・・・。
後、一誠の事ばかりで聖剣事件でも祐斗の異変をそのままで、
過去を語るだけ語ってそのまま放置ぽかったので、小猫の場合でも
こんな感じなのかなと思いながら書いて見ました。
どちらの考えも正しいと伝えれるように書きたいです。


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第18話 冥界


人間界に行き、あの人に一言お礼が言いたかった。

だけど、休養していた間の仕事が溜まり

冥界で束縛された毎日を送っています



 

冥界にあるレヴィアタン領にあるひときはでかいお城の一室で、セラフォルーは

溜まりに溜まった書類に目を通しながらサインしていた。

 

あの事件以降、彼女は冥界の病院にて1週間大事を取って入院していた。

折れた腕や、切り傷などは桃とアーシア、ガブリエルの尽力により病院に着く前に

ほぼ外傷は治されており、内面のみまだ治療が必要だったのだ。

 

医師からはフェニックスの涙の使用を促されたが、高価なものであり

まだまだ量産体制が整っていない為彼女は丁重に断り、緊急時のみ使用すると伝えた。

 

それにこの病院があるのは自身の領地であり、その建物の周囲には

眷属達も待機しているので比較的安全だった理由もある。

 

彼女はまだ安静にしないといけなかったが、座りながらでも仕事は出来ると

自身のマネージャーに言い、病院内で仕事をしようとしたが退院するまで、

仕事を休んでほしいと懇願され、渋々了承し一週間休養していた。

 

そして、業務に復帰したセラフォルーの前には大量の仕事が待っていた。

和平により、外交担当であるセラフォルーの仕事の量が他の魔王より一番増え、

朝から晩まで書類の整理やサインを行わなければ一向に減る気配が無かった。

 

そして彼女は自身のマネージャーの思惑に気が付いた

 

「きっと、あの子はこうなる事を見越して私に休養を勧めたんだわ・・・!」

 

と、セラフォルーは後に語った。

 

彼女は病院で休養している最中、退院したら人間界へ赴き自身を助けてくれた

ひしぎに直接お礼を言いたかった。

 

書面か、ソーナから経由してお礼を言って貰っても良かったのだが、やはり

自身の口から直接言いたかったのだ。

 

人として、一人の個人としてであり、文章などでは本心は伝えられないからである。

だが、この仕事の状況では抜け出す事は不可能に近かった。

 

何か手は無いか模索していたら、そろそろ夏休みなのでソーナが冥界へ里帰りしてくる事を

思い出し、魔王からの命令ではなく、一個人としてのお願いでひしぎに

冥界へ来てほしいとソーナから伝えて貰い、了承を貰え、

漸く自身の願いが叶いそうになっていた。

 

彼が冥界へ付いた時少しでも時間が取れるように彼女は奮起していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方サーゼクスは独自のルートでひしぎがソーナと共に冥界入りする事を知り、

どうコンタクトを取るかを親友であり、魔王であるアジュカ・ベルゼブブに意見を求めていた。

 

何しろ、ソーナには友好的ではあるがそれ以外にはまったく興味を示さない相手であり、

議長が何らかの情報を知っており、魔王である自分たちにさえ手出しを禁ずるほどである。

この様な異例の相手に流石のサーゼクスも初めてであり、下手に接触して

今の均衡を崩したくないので、よりうまく事を運べるようにアジュカに協力を求めたのだ。

 

アジュカは訪ねてきたサーゼクスを自身の部屋に案内し、

備え付けのソファーに誘導した。

 

彼の部屋は本や見た事もない機器などで埋め尽くされており、奥には広いスペースがあり

そこの壁一面には襲撃事件の映像が流れていた。

 

あの事件の最中、サーゼクスが自身の使い魔を使いひしぎの戦闘の一部始終を録画し

アジュカに送っていたのだ。

 

そして彼はその映像を何度も何度も繰り返し見て、ひしぎの動きを解析していた

最中だった。

 

部屋がノックされ、アジュカが返事をすると給仕係が入ってきて、

アジュカとサーゼクスの飲み物を用意し、一礼をしてから部屋を退出していった。

 

サーゼクスは仕事の合間を抜けて来ていたため、率直に彼に質問した。

 

「君から見て、彼の強さはどう判断する?」

 

まず、彼にも事の重要さを判断してもらうために見てもらっていたのだ。

そう聞かれたアジュカは右手で顎を擦りながら少し思案し

 

「そうだね、報告書とこの映像を見る限りでは僕たちで言うと魔王クラス、

 古の神々ぐらいといったところかな?」

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』との戦闘記録だけで言えば、魔王とその眷属達だけでも

彼を抑える事が出来ると判断したアジュカ。

 

相手は人間であり、魔法に対してはからっきしだと言う報告もある。

完全にその報告を信用したわけではないが、現状人間としか分からない為、

その基準で考えるべきだと思っていたのだ。

 

「君か、僕でも十分に対抗できると思う──だけど、それは直接彼を見ていない者の

 意見だ。だから君の感想を聞かしてくれ」

 

映像で見た限りでの判断ではそうだったが、本当にそうならば態々サーゼクスが自身の所に

来て相談を持ちかけてくるはずが無いとアジュカは思っていた。

 

質問を返されたザーゼクスは出された飲み物を一口飲み、そしてカップを置き

一呼吸置いて言葉を紡ぎだした。

 

「実際にこの目で見た彼の強さは──異常だ。彼は戦いながら微かに口元が吊り上り

 楽しんでいる雰囲気があった。そして、映像で見る限り太刀筋がどのように振るわれているかが

 確認できるが、戦闘の終盤あたりは"まったく見えなかった"んだ」

 

サーゼクスが当初ひしぎの太刀筋が見えていたのだが、終盤になるにつれて

徐々に鋭さ、キレが増し刀が光りだした時からもう見えなくなっていたのだ。

 

「僕は思うに──彼はまだ最高の状態じゃない」

 

そう、ソーナの報告にあった彼はまだ療養中の身であり、病人なのだ。

 

「だからこそ、分からないんだ。彼の限界が何処にあるかが」

 

戦闘の雰囲気を直に感じたサーゼクスだからこそ抱いた感想だった。

彼らは知らないが、ひしぎは確かにまだ全盛期の状態ではなく、全盛期の約7割程度の

本気だったのだ。

 

そして、『夜天』の事もありいくつもの制限かの中での『全力』だったのだ。

 

「なるほどね。『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は単体の力では魔王クラスだ。

 それを凌駕するとなれば、彼の力は──僕たちと同等か、それ以上。

 と、いう事なのかな?」

 

確かに映像で見る限り、彼は一度も攻撃を食らっていない。

 

「ああ、僕の予想だとね。だからこそ、出来る限り敵対はしたくない。

 現状の彼は敵対する意思は今のところ無く、かといって友好関係でもない。

 ソーナ君頼みの状態だ。だけど、僕は彼女ばかりに負担は掛けさせたくないので、

 出来る限り僕からも彼に接触してみようかと思うんだ」

 

何かあった場合、ソーナの立場を守れるように、そして漸く結べた和平だからこそ、

余計な敵はこれ以上増やしたくないと考えていたのだ。

 

その確実性を求めるために、サーゼクスは秘密裏に動こうとしていた。

 

「議長からの彼女に全て一任すると、命令を受けているのに?」

 

議長命令はある意味魔王と同等の力を持つ。

 

アジュカは議長の出した命令を合えて口に出し、サーゼクスの様子を探る。

ここで、少しでもぶれれば彼は力を貸さないと決めていた。

中途半端は覚悟では何も成功しないと知っているからだ。

 

「冥界を、若い命を守るためらな喜んで命令を破り──その罰を受けよう」

 

眉一つ動かさず、真剣な表情で答えたサーゼクス。

その言葉を聞き、彼の表情を見てアジュカは目を瞑り、一度深く息を吸い深呼吸すると

 

「分かった。協力するよ──なら本題に入ろうか」

 

アジュカはそう切り出すと、サーゼクスは漸く表情を緩め合意し、

どういった形で接触し、話をするかをアジュカの知恵を借りながら考えていくサーゼクス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ソーナ達は一時間ほどでシトリー領へ着き、駅でメイドやら執事に盛大な

出迎えを受け、実家に着いていた。

 

駅に着いた時やら、実家のお城を見るやら激しいリアクションを取っていた

匙と留流子は流石に疲れたのか、ソーナの家族の自己紹介が終わったあと、

玄関口に備え付けてあったソファーに二人してうな垂れていた。

 

その光景を見て微笑むソーナとその眷属達。

そしてその逆側でひしぎはソーナから自身と姉の命の恩人として親に紹介され、

母親と父親からとても感謝言葉を何度ももらっていた。

 

その後紹介されたロスヴァイセの素性を聞いた親たちはもう一度驚いていた。

 

紹介が終わった後ソーナは眷属達の泊まる部屋を案内し、

各自の用意された部屋はとても大きく、豪華なシャンデリア、天蓋つきのベッドや冷蔵庫、

大型テレビにパソコン、大人数が座れるソファー、キッチンまでもあり、

この部屋だけでも生活が出来そうなぐらい必需品が揃っていた。

 

荷物を置き次第、大広間に集まるように指示をした。

 

勿論、ひしぎとロスヴァイセも呼ばれていた。

 

数分後全員が大広間に集まった事を確認したソーナは備え付けのソファーに

皆を促し、全員座ったところで今後の予定を話し出した。

 

「今日一日は、旅の疲れを癒すためにゆっくりしてください。

 街に買い物に行くのもよし。ただ、その場合は街を案内できる者と

 一緒にお願いします。夜には皆で会食がありますのでその時までには

 戻ってきてください──そして、明日は都市ルシファードへ赴き、

 若手悪魔たちの会合に出席、その後魔王様たちに謁見する予定です」

 

シトリー家のお城の直ぐ近くには人間界の都市ほどの大きな街があり、

初見だと必ず迷ってしまうため、来た事のある者、もしくはシトリー家の

使用人に案内を頼む事になっている。

 

慣れれば一人でも行く事は可能だ。

そして夜には現当主との会食があり全員が招待されている。

明日は今回冥界へ早めに帰還する事となった会合があり、若手悪魔たちが

一同に集い己の眷属の紹介などがある。

 

ひしぎとロスヴァイセはその場所に付き添い、その会合が終わったあとに

セラフォルーに呼ばれており、会う約束があった。

 

その後明日の緻密なスケジュールを確認したのち、一度解散となった。

ひしぎは、一度悪魔の街を見てみたいとソーナに話すと、彼女は

自身が案内すると言い、そのお供にロスヴァイセも加わり3人で街を

散策する事にした。

 

一方匙と留流子ははしゃぎ疲れたのか自室に戻り仮眠を取ると言い残し、

大広間から出て行った。

 

桃、憐耶は同じく買う物があるらしく椿姫に別ルートで街を案内してもらい、

由良、巴柄はお城の中にあるトレーニングルームを使用すべく、

お城の地下へ降りていった。

 

数分後、出かける準備を終えたソーナを先頭にひしぎとロスヴァイセは街へ向かった。

街の風景は人間界と似たような感じだが、建造物などはやはり独特な形をしている。

 

物珍しい建物に指を指してロスヴァイセがソーナにどんな建物か一つずつ聞き、

一歩後ろでひしぎもその会話を聞いている。

 

目的地は無いため、適当に街を散策する3人。

大通りから裏路地へ入ると怪しげな店が立ち並んでいた。

 

「ここが人間界で言う、裏マーケットです」

 

天井は大きな建物に覆われているため、かなり薄暗く、人通りも少ない。

 

「この様な場所は大丈夫なのですか?」

 

この独特の犯罪一歩手前の匂いが漂う場所の雰囲気を感じ取り、ロスヴァイセは

恐る恐るソーナに質問してみた。

 

「ええ、雰囲気は暗いですが。皆きちんと管理されているのでご安心を」

 

仕入れた物などのリストは全てシトリー家が目を通す事になっており、

リストを合わせた現物確認もしている為不正な物は扱っていない。

 

 

歩いていると視界に明らかに怪しげな物が店頭に並んで居るが見えたが、

問題ないとソーナはきっぱりと告げ奥へ進んでいく。

 

ふとひしぎの目に留まった店があり、入ってみたいと促すと二人は了承し

その店へ入っていった。

 

その店は剣専門の武器屋だった。

 

店の壁に無数の剣がかざされており、無骨な物から豪華に装飾された物まで

選り取り見取りだった。

 

その中でもひしぎは刀に分類される剣を物色し始めた。

愛刀『夜天』が壊れてしまったため、『とある場所』に行くまでの代理の武器を

探していたのだ。

 

店の端から端まで一つずつ確認していったが、ひしぎの力に耐えうる刀は

一つも存在しなかった。

 

その後も数件回ったが良い刀には巡り会う事が出来なかった為、

表通りに戻り、今度はロスヴァイセのリクエストを聞き

街を物色した3人。

 

夕方、城に帰宅した3人の手には紙袋が手一杯に下げた3人の姿があり、

疲れた果てた顔をしているソーナ、無表情に見えるが微かに笑みを浮かべているひしぎ、

そして、とても良い笑顔をしているロスヴァイセだった。

 

紙袋の全部はロスヴァイセの生活雑貨であり、散策の途中安売りセールを開いていた店を

発見し、大量に購入したのだ。

 

思わぬ掘り出し物や、格安で色んな物が揃えられたロスヴァイセは終始ご機嫌だった。

ひしぎは流石に量が多くてびっくりしたが、彼女の嬉しそうな笑顔を見て何も言えなくなり、

その笑顔を対価として何も言わずに率先して荷物持ちに徹していた。

 

その後全員が大広間に再び集合し、大食堂へ移動した。

シトリー家現当主との会食であり、豪華な料理が大量にあり、長広いテーブルの上に

彩られており、一種の芸術品と思わせるほどの飾り方であった。

各自椅子に座ると目の前に個人用の料理が運ばれてきて現当主の挨拶が始まり、

会食の開始だった。

 

現当主にお酒を勧められたが、酒が飲めないひしぎ

 

好物の取り合いになり喧嘩に発展した匙と留流子

 

その二人を叱る椿姫

 

肉料理ばかり食す由良

 

それを見て野菜も食べるように促す巴柄

 

料理のレシピを聞く桃

 

その隣で、同じく聞き耳を立てる憐耶

 

高級そうな料理をどれから食べようか迷っているロスヴァイセ

 

皆の光景を優しく見守るソーナ

 

賑やかな会食は1時間続き、その後各自部屋に戻った。

ひしぎは部屋に戻った後、完備されているお風呂で体をゆっくりと癒し、

着流しに着替え、眠気が来るまで読書をしようとソファーに腰をかけた時、

扉がノックされた。

 

ひしぎはソファーから立ち上がり、鍵を開け扉を開けると、そこには

ワイングラス2個とビンを持ったショートカットの黒髪で、優しそうな笑みを

浮かべている男性が立っていた。

 

「お休みの所すまない、まだ飲み足りなくて付き合ってくれないだろうか?」

 

ひしぎは、自分は飲めませんよ? と、苦笑しながら言い彼を部屋の中に

招き入れた。

 

「ありがとう」

 

男は朗らかに笑い案内された部屋の中のソファーに座り込み、グラスを

差し出し、それを一応受け取るひしぎ。

この男の名はエリオット・シトリー、シトリー家現当主であり、ソーナとセラフォルーの

実の父親だった。

 

「さて、ひしぎ君。改めて礼を言う。ソーナとセラフォルーを助けてくれて

 ありがとう」

 

膝に額が当たりそうになるほど頭を下げだしたエリオット。

自身の命より大切な娘二人を助けてくれた事に、もう一度キチンとしたお礼を言いに

ここまでやってきたのだ。

 

二人っきりならば現当主では無く、一人の父親としての立場で会話が出来ると

思ったからであり、ただの父親であれば、幾らでも頭を下げる事ができる。

 

「あの二人は私にとってはかけがえの無い大切な者なんだ」

 

エリオットは昔を、二人の幼い頃を思い出しながら言葉を紡ぎ語った。

セラフォルーはとても気が回り、とても家族思いで今でも、シトリー領を

守る為に眷属の半数を配置している。

彼女は内緒のつもりだが、エリオットには完全にばれていた。

 

ソーナもセラフォルーに負けない位の家族思いで、姉と違い厳しい面が

表に出かちだが、とても優しいと語った。

 

エリオットの言葉に頷きながら、ひしぎは黙って聞いていた。

その後も親ばかな話が時折出てきたが、嫌な顔せず微笑みながらひしぎは頷く。

そして夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日若手悪魔の会合がある為、ソーナ達一行は列車に乗車し

都市ルシファードに来ていた。

 

ソーナが列車から降りた瞬間、ホームからは黄色い歓声が上がり、

若い悪魔たちが手を振っていた。

 

ソーナは魔王セラフォルーの妹であり、名門シトリー家のお嬢様であり、

若い下級、中級、上級悪魔からリアスと同様に絶大な人気を誇っていた。

 

彼女は声援に笑顔で対応しながら、ホームの近くにある地下鉄を目指し、

地下鉄に乗り込む事5分、すぐさま目的地の地下ホームにたどり着いた。

都市の中心部にあり、都市の中でも屈指の大きさを誇る建物だった。

地下鉄をおり、直ぐ傍にあった巨大なエレベーターに全員乗り込み、

ソーナが注意事項を眷属全員に言い聞かせた。

 

「いいですか、誰に何を言われても常に冷静に。

 熱くなってしまえば自身の価値を落とします──今から会う者達は

 将来のライバルです」

 

今から顔合わせするのは同期であり、将来レーティングゲームのライバルと

なりうる者達ばかりであり──自分たちの価値を推し測られる場所なのだ。

眷属達を信頼しているが、一応忘れていないかの確認のため言葉にしたのだ。

 

今一度言葉の意味を噛み締めた眷属達は、気を引き締め扉が開くのを待った。

 

「ひしぎさんとロセは先に待合室に私が案内します。椿姫、手続きのほうは

 お願いします」

 

ソーナは眷属達と一度離れ、セラフォルーに指定された部屋まで二人を

案内する役目を担っていたのだ。

 

そして、シトリー家が到着したと云う手続きを椿姫に代理で頼んでいた。

漸くエレベーターの扉が開き、この建物の使用人達のからお出迎えされ、

二手に分かれた。

 

ソーナを先頭に豪華な廊下を歩いていると、目の前から淡いグリーンがかった

長いブロンドをした髪型で、眼鏡を掛けた若い女性がこちらに向いて歩いてきた。

そしてソーナの少し手前で立ち止まると、両手でスカートの端を摘み上げ

一礼をした。

 

「ごきげんようソーナ。元気にしてまして?」

 

ソーナも相手に一礼を返し

 

「ごきげんようシーグヴァイラ。ええ、元気でしたよ」

 

シーグヴァイラと呼ばれた女性とはリアスと同様の旧知の仲であり、

今回呼ばれた若手悪魔の内の一人、シーグヴァイラ・アガレスであり、

『冥界の大公家』アガレス家次期当主である。

 

「それはよかったわ──結構心配していたのよ? ここ最近色々な事件に

 巻き込まれたと聞いていたので」

 

勿論彼女の耳にもコカビエルの聖剣強奪事件と会談襲撃事件入ってきており、

細かな詳細までは知らないが、ソーナとリアスの命が狙われたと言う情報を聞き、

心配でシトリー家の方に安否を確認したぐらいだった。

 

「確かに色々とあったけど、この通り元気です。心配してくれてありがとう」

 

シーグヴァイラの言葉を聞き、顔を綻ばせ素直にお礼をいうソーナ。

 

「無事ならいいの──所で後ろの方々は貴方の眷属なの?」

 

ふと彼女はソーナの後ろに佇んでいる二人に視線を向け問うた。

その言葉に首を横に振り否定したソーナ。

 

「いいえ、この方たちはお姉様のお客様です」

 

「あら、セラ姉様──あっ、レヴィアタン様のお客様ですか・・・」

 

途中、昔の癖でセラフォルーのあだ名で呼んでしまい、慌ててすぐさま訂正する

シーグヴァイラ。

そして、何事も無かったように振舞い始め、ひしぎとロスヴァイセに

先ほどと同じように一礼した。

 

「どうも、初めましてシーグヴァイラ・アガレスと申します。

 以後お見知りおきを」

 

セラフォルーの客人であるならば、重要人物か外交に来たものと思い、

挨拶しておいたほうが良いと判断したのだ。

 

「どうも、ひしぎです」

 

「初めましてロスヴァイセです」

 

挨拶をし返す二人、本来は名乗らなくても良いのだが

相手の態度に誠意を示すために名乗り返したのだ。

 

「先にこのお二人を案内しないといけないので、また後ほどお話しましょう

 シーグヴァイラ」

 

「ええ、わかりましたわ。では、後ほど」

 

彼女は頭を下げ、3人の横を通り抜け会場のほうに足を進めて行った。

シーグヴァイラの姿が遠くなった後、ポツリとロスヴァイセが呟いた。

 

「アガレスって、あの『旧七十二柱序列2位』の『大公』ですか?」

 

「ええ、そうですよ。そして彼女は『大公』の次期当主です」

 

ソーナとロスヴァイセのやり取りに、ひしぎは付いて行けず

 

「有名な家柄なのですか?」

 

「はい、冥界でも2位に君臨するほどの大きな家柄で、我々悪魔に

 細かい指示をだす役割を司り、冥界でも屈指の権力を持つ家なのです」

 

ひしぎの質問にソーナが答え

 

「北欧側でもアガレス家の名は知られており、冥界を知るものならば、

 彼女の家の名は一度は聞いた事あるはずですよ」

 

ロスヴァイセが付け加え、ひしぎは納得した。

 

冥界の中では魔王、バアル家についで権力を持ち、悪魔たちに指令や指示を

出すのはアガレス家であり、冥界の『中間管理職』なのだ。

その後もひしぎの質問に答えながらソーナ達3人は客人の間を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠たちはグレモリー家で一晩すごした後、ソーナ達と同様に

地下鉄に乗りこの建物に漸く着いたところであった。

 

エレベーターに乗った眷属達にリアスもソーナと同じような言葉で

注意事項を再確認させる。

 

「皆、何があっても平常心を心がけ、手を出されても決してやり返さないように。

 上に居るのは私たちの将来のライバルであり、彼らに無様な姿は

 見せられない。グレモリー眷属として、節度ある行動を心がけて、いいわね?」

 

念には念を、といった言葉に皆は同意する。

あれから関係を修復できていない小猫も意識を入れ替えていた。

現状気まずい雰囲気でも、自身の『王』であるリアス。

彼女の品格を、評価を下げないように行動することを心がけた。

 

そのぎこちない雰囲気を察した一誠とアーシアは昨晩、リアスと話した内容を

思い出していた。

 

昨晩彼は、グレモリー家現当主との会食が終わった後、アーシアを伴い

彼女の部屋に訪れ、小猫と何かあったのかを問うた。

 

リアスは小猫のあの時の問いを一文一句思い出し二人に話し、自身の回答を聞かせた。

その瞬間一誠とアーシアはリアスの回答が間違っていると指摘した。

 

『王』としての取った行動は正しいが、『一個人』としてはその行動は不味いと

いい、小猫の考えを支持したのだ。

 

「俺はバカで『王』としての重みは分からないけど、一個人としてはそれは

 間違っていると思います。人は助けてもらったのなら身分に関係なく

 お礼を言うべきだと思います。たった一言でもいいんです」

 

「それは私もイッセーさんに同意します。確かにリアス姉様の取った行動は

 正しいのかもしれませんが、小猫ちゃんの心情も考えてあげてください」

 

流石に二人に怒られることは想定外だったらしく、リアスはうな垂れていた。

他の者には同意を得られたのだが、彼らは最近悪魔になったばかりで

どちらかというと、人間よりの考えだったのだ。

 

だからこそ、リアスが小猫に対して言葉足らずでだった事に対しても

指摘した。

 

小猫はひしぎと知り合いであり、命の恩人なのだ。

その恩人に対してリアスの取った行動は、不快感しか生まないと一誠は言い切った。

一誠自身リアスが大切だからこそ、間違った事をして欲しくないと願い、

怒られる覚悟で言ったのだ。

 

アーシアも自分の命の恩人に、そういう行動を取って欲しくなく、

勇気を出して言葉にした。

 

「小猫ちゃんも部長に対する態度は頂けないと思うけど、今なら俺は

 小猫ちゃんの心情を理解できます」

 

「ですから、もう一度小猫さんとお話されてみては如何でしょうか?」

 

アーシアの提案に、リアスは沈み込んでいた顔を漸く上げ

 

「わかったわ。もう一度小猫とゆっくり話してみるわ」

 

言葉足らずで、小猫の心情を理解していなかったリアスは彼らの言葉を

ちゃんと心の中で反芻し、反省した。

 

あの時の自分はまったく余裕が無かったのは言い訳になるが、

それは自分自身が未熟で、まだまだ世間知らずだと思い知らされたのだった。

 

そして、まだ彼らに自身に降りかかった罰に関しては伝えていなかった。

その理由は、今は大事な時期で眷属達に不安を与え兼ねないので、

現状話すべきでは無いと判断していた。

 

「ええ、その意気です」

 

「微力ながらお手伝いさせて頂きます」

 

そう言ってその日の会話を終了させ明日に備えて寝に着いた。

 

(部長、まだ小猫ちゃんと話は出来ていないみたいだ)

 

朝からここ来るまで全員で移動していた為、二人っきりで話を出来る

時間が無かったのである。

 

(とりあえず、俺も意識を切り替えないと!)

 

リアスと小猫の関係が心配だが、目の前の会合を疎かにする訳にもいかないので、

意識を切り替えた一誠。

 

そして漸くエレベーターが止まり

 

「皆、行きましょう」

 

リアスの声と共に皆一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナはひしぎとロスヴァイセを送り届けた後、来た通路を戻り

会場のほうへ向かっていた。

 

途中、自身を迎えに来た匙と合流した瞬間、建物全体が大きく揺れ

破壊音が床を通して響き渡った。

 

「な、なんだ?!」

 

突如響き渡った振動と轟音に匙はびっくりした様子であり、ソーナも一瞬驚きはしたが、

すぐさま音がした方向に視線を向け

 

「行きますよ匙」

 

少し小走りで、大きな扉がある部屋へと足を進めた。

 

「あ! 待ってください会長!」

 

慌ててソーナを追いかける匙。

数十秒後、二人は破壊音が聞こえた部屋の入り口前に立っており、

そのまま扉を開けると──破壊しつくされた大広間があり、豪華な装飾やシャンデリアが

半壊しており見るも無残な姿に変貌していた。

 

そしてその中心には、先ほどのシーグヴァイラと服装を崩した男がにらみ合っていた。

両者の後ろには眷属とおぼしき悪魔たちが武器を取り出して一触即発の雰囲気を纏い

殺気立ったオーラを放っていた。

 

言い争う二人の元にソーナと逆側から一人の若い男が近づき、二人に何か話し始め、

男の方がその若い男に何か言った瞬間──若い男が言い争っていたほうの男の腹部へ

拳を放ち、激しい打撃音と共に男は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

意識を失ったのか、そのまま崩れ落ちる。

 

「バアル家め!」

 

吹き飛ばされた男の眷属達が若い男へ切り掛かろうとするが

 

「お前たち、俺に攻撃を仕掛ける前にやるべき事があるだろう。

 まずは、自身の主を介抱しろ──それが今やるべきお前たちの仕事だ」

 

若い男がそう言い放つと、眷属達は一瞬迷ったが武器を収め、倒れた主の元へ駆け寄った。

そして、若い男の視線はシーグヴァイラを捕らえ、彼女は一瞬表情を強張らせたと思うと、

表情を戻し、自身に用意された部屋に戻るべく身を翻して去っていった。

 

若い男の後ろから見知った駒王学園の制服に身を包んだメンバーが姿を現し

 

「あ、兵藤!」

 

匙がソーナの後ろから見知った者に声をかけ、その者達もこちらの存在に気がついた。

 

「匙じゃん! あ、会長も」

 

「ごきげんよう、兵藤君、リアス」

 

これで召集を受けていた全ての若手悪魔たちがこの建物の中に集結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロセ、現代の魔法使いは皆この様な姿になるのですか?」

 

「ち、違います! ええ、絶対に違いますから!」

 

ひしぎは案内された部屋で上映されている映像を見て、ぽつりと呟き

ロスヴァイセが全力否定していた。

 





こんにちは、夜来華です。

漸く原作の5巻に突入しました。夏休み編です。
今回は魔王側の動きと心情をメインで書いて見ました。
そしてシトリー家での現当主も登場。

余談ですが、提督業もしていて両立が難しかったです。
一応イベ全海域突破突破しました。
疲れた・・・。

感想、一言頂けるとうれしいです。





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第19話 夢

私の夢はある意味、冥界の根本を覆すモノであり

誰もが夢物語だと言う

だけど、私はそれでもこの夢を叶えたい


大広間はあの後駆け付けたスタッフにより、魔力で補修されほぼ元通りになり、

改めて若手たちが一部を除いて集まり、皆用意された椅子に座りテーブルを囲った。

見知ったものも居るが、眷属達もいるので自己紹介を始める事にした。

 

「私はシーグヴァイラ・アガレスと申します。『大公』、アガレス家の次期当主です。

 以後お見知りおきを」

 

シーグヴァイラは立ち上がり皆に聞こえるように挨拶をし一礼をして座りなおした。

『大公』と聞いて、各眷属達が騒然としていた。

 

魔王の代理として指示を細かく出す家柄である為、生粋の悪魔でなくても

一度は耳にした事のある家柄だった。

 

シーグヴァイラから時計順に挨拶する事が決まり、次はリアス。

彼女も立ち上がり、先に一礼してから

 

「ごきげんよう、私はリアス・グレモリーです。グレモリー家の次期当主です」

 

そう言って椅子に腰を落とし、隣を向くとソーナが頷き

 

「私は、ソーナ・シトリーです。シトリー家の次期当主です。よろしくお願いします」

 

挨拶の後一礼して座り直す。

そして隣に居た先ほどの若い男が立ち上がり

 

「俺はサイラオーグ・バアル。『大王』、バアル家の次期当主だ」

 

威風堂々とした態度で挨拶をするサイラオーグ。

彼は現在集まっている若手の中でもナンバー1の実力を持ち、そしてリアスの

母方の従兄弟であった。

 

そして、次に優しげな笑みを浮かべた青年が立ち上がり

 

「僕はディオドラ・アスタロトです。アスタロト家の次期当主です。皆さんよろしく」

 

微笑みながら腰を落とし、そして、次は──空席だった。

ここには本来先ほどサイラオーグに打撃を与えられた男が座る予定だったのだが、

未だに姿を現さず。

 

名はゼファードル・グラシャボラス、グラシャボラス家の次期当主候補だった。

なぜ彼が次期当主ではなく、候補であるのかはサイラオーグが皆に説明した。

 

先日グラシャボラス家で騒動があり、本来の次期当主が不慮の事故で亡くなられたと告げ、

そして、彼が候補として急遽抜擢されたのだ。

 

今回召集を受けた若手悪魔が全員集合し、そうそうたる顔ぶれだった。

そして、少し皆で雑談していると、使用人が漸く会場の準備が整ったと告げ、

皆を魔王と評議員たちが待つ会場へ案内した。

 

 

皆が案内された場所は異質の部屋だった。

かなり高いところに席が用意されており、そこに座る議員達。

更に上には議長が座り、その上に魔王たちの席があった。

 

流石に今日のセラフォルーの服装は正装であり、心の中でホッと息を撫で下ろすソーナ。

少しだけだが、姉が奇抜なあの服装でいるかもしれないと思っていたのだ。

 

そして少し遅れてゼファードルが一同の横に並ぶ。

腹部には拳のあとがくっきりと残っており、痛々しい打撃痕。

 

全員が並ぶと、『王』である彼ら6人は眷属達をその場で待機させ、一歩前に出てた。

すると、初老の男性悪魔が厳かに6人へ向けて告げる。

 

「よく集まってくれた。今日この日、次世代を担う貴公らの顔を改めて確認する為、

 集まってもらった」

 

この会合は一定の周期ごとに開催し、若い悪魔たちを見定める為の会合と告げ、

そして、次に比較的若い男性悪魔が、先ほどの騒ぎを皮肉げに言い、

それをサーゼクスが嗜め、そのまま色々説明し、彼らがゲームに本格参戦する前に、

お互い競い合い、力を高めてもらう為にゲームの開催を提案した。

 

サーゼクスの提案に皆、察しがついていたのかあまり驚いた雰囲気は無く、

サイラオーグが挙手し質問の許可を求め、サーゼクスは頷いた。

すると、サイラオーグはレーティングケームには関係なかったが、

現状取り巻く環境、特に『禍の団』の襲撃について質問し、それらに対して

自分たちも戦線投入されるのかと問うた。

 

すると、サーゼクスの答えは、今のところ不明と答えた。

ただ、若い悪魔たちを最前線に投入したくないと思っていると答え、

自身達はまだ若く次世代の冥界を担うもの達故、失う代償の方が大きい為、

大事に段階を踏み、成長して欲しいとサーゼクスは彼らに言い聞かせた。

 

そしてその後議員達から今後のゲームについてなどを言い聞かされ、

最後に、サーゼクスが6人へ質問を投げた。

 

「最後にそれぞれ今後の目標や夢を聞かせてもらえないだろうか」

 

その問いかけに一番最初に答えたのが、サイラオーグだった。

 

「魔王になる事です」

 

正面から、迷いもなく言い放った一言に評議員達は感嘆な声を上げた。

その次にリアスが答えた。

 

「私はグレモリー家の次期当主として生き、レーティングゲームの各大会で

 優勝する事が今の目標です」

 

その言葉に、一誠は初めてリアスの目標を聞いた事に、驚きの表情を作っていた。

今の今まで、そのような事は聞いたことがなかったためである。

 

次にシーグヴァイラ

 

「私もアガレス家の次期当主の名に恥じない行動を取り、レーティングゲームの

 ランカー入りを目指します」

 

その次にディオドラ

 

「僕は冥界に役立つ機器の開発、研究などに携わり冥界へ貢献することが

 第一目標です」

 

その次にゼファードル

 

「俺はグラシャボラス家に自身の力を証明し、『次期当主候補』という肩書きではなく、

 『次期当主』として認めてもらう事です」

 

そして、最後にソーナ

 

「私は、レーティングゲームが出来る学校を建てる事です」

 

その言葉に眉をひそめる議員達、現在でもレーティングゲームを学べる学校は

いくつか存在している為である。

そう一人の議員が指摘すると、彼女はこう答えた。

 

「現状あるのは、上級悪魔と特権階級を持つ悪魔のみしか行く事が許されない学校です。

 私が建てたいのは、下級悪魔、転生悪魔も通える身分関係無く、

 分け隔ての無い学び舎──そして、レーティングゲームに興味の無い悪魔も、

 勉強できるように二つの要素を取り持った学校を建てる事なのです」

 

レーティングゲーム参加したくても出来ない悪魔は数多におり、

それらは全員下級、中級、転生悪魔なのだ。

ゲームに参加するには、上級悪魔に認められ『眷属』と云う形でしか参加できず、

『王』になり眷属を持つ事が現状不可能なのだ。

 

だからこそ、ソーナはその者達も『王』になれるようにそういう環境を

作りたいと考えていたのだ。

 

下級、転生悪魔が『王』として上級悪魔を使役する事も可能になるのだ。

 

そしてもう一つ、全員がレーティングゲームに参加したいという事は無く、

ゲームには興味が無く、ただ勉強がしたいと云う者おり、その者達も普通に勉強できる

場所を提供したいと思っていたのだ。

 

現状、レーティングゲームの学校と少しにていて、上級悪魔、名門の家柄を最優先で入学させ

下級、転生悪魔には残った枠でしか入学させない学校が数多あり、

実際勉強したくても、学校に行けない子供悪魔が大勢存在するのだ。

 

だから、その二つの要素を取り入れた学校をソーナは建てることを夢見ていた。

 

だが、議員達は──大声で笑い、否定した。

 

「それは無理な夢だ!」

 

「夢は寝てから見るものだよ」

 

「これは傑作だ!」

 

「夢見る乙女そのものではないか! 可愛らしいのう!」

 

今の冥界が変わりつつあるが、上級と下級、転生悪魔の間には差別的な要素が

根強く残っているのだ。

 

ソーナはそれを承知の上で言い切った。

 

「私は本気です」

 

すると、一人の悪魔がソーナに冷徹な言葉を口にした。

 

「上級悪魔に下級、転生悪魔が仕えるのは世の摂理。

 その様な事をすれば、誇りや伝統を重んじる旧家柄を根本から否定する事になる。

 確かに、冥界は変わりつつあるが、変えてもいいものと悪いものもあり、

 そなたの言ったことは悪いほうに分類し──冥界の築き上げてきたものを

 壊すつもりか?」

 

その言葉に真っ先に反論したのが──匙だった。

 

「なぜそのようにソーナ様の夢をバカにするのですか! 叶えられない事では無い筈です!

 俺達は本気なんです!」

 

「口を慎め、転生悪魔の若造よ。これは冥界が出来た当初からある決まりなのだ。

 転生悪魔風情が意義を唱えていい事ではないのだよ。

 ──ソーナ殿、眷属の躾がなっていないようだか?」

 

この言葉に、ソーナは一切表情を変えず淡々と言葉を口にする。

 

「申し訳ありません。あとで言ってきかせます」

 

その言葉に匙は納得できない様子だったが──ソーナの手を見た瞬間、

息を呑んだ。

 

彼女の右の手のひらに爪が食い込むほど握られており、今にも血が流れそうな感じであり、

匙は悟ったのだ。

 

自身よりソーナ本人の方がよっぽど悔しくて反論したいが、ここで反論しても意味が無いと

知っていた。

 

なぜなら、現状ただ夢を語っただけなのだから。

 

それを見た瞬間、匙は一気に熱が冷め──ソーナの気持ちを汲み。

 

「申し訳ありません」

 

匙は評議員達に向けて頭を下げたが、笑い声は止まる事はなかった。

何も言わずにソーナは議員達を凝視していたが──急に会場の温度が下がったような

感覚に陥った。

 

すると、魔王の下の席に座り、目を瞑りながらソーナ達の夢を聞いていた議長が瞼を開け

 

「──セラフォルーよ。魔力が漏れておるぞ」

 

その言葉に議員達は自分たちの上に座る魔王セラフォルーに視線を向けた瞬間、

背筋が凍る感覚に陥った。

 

彼女の瞳には色が無く、周囲の椅子と机が漏れた魔力により凍りかけてており、

そして彼女は、議員達に向けて言葉を紡いだ。

 

「ねぇ、おじいちゃん達。私の思い違いかなぁ? 若い子達の夢を笑う為に

 聞いたんじゃなく、どのような夢でも肯定し、応援して希望をもってもらう為の

 質問じゃなかったのかなぁ? 」

 

微笑みながら語るセラフォルーに議員達は心底凍りついたような感覚に陥っていた。

気まずい雰囲気が流れ──会場の笑い声が消え、音も無く時が止まったような感じだった。

 

「さ、寒いな」

 

すると、彼女の隣で自身の腕を擦りながら熱を取っているザーゼクスの姿に

議長が苦笑し、他の場所からも笑いを堪える声が聞こえた。

 

セラフォルーは無表情のままサーゼクスを見つめる事数秒、

軽く息を吐き、溢れ出る魔力を止めた。

 

そのお陰で、冷たい雰囲気から一気に柔らかくなる感じが漂った。

そして、サーゼクスが腕をまだ擦りながらだが、言葉を口にした

 

「ちょうどいい、先ほど提案したゲームをしよう。

 リアス、ソーナ、戦ってみないか?」

 

その言葉に息を呑むリアスとソーナ。

 

「元々リアスの方は近々ゲームをする予定だったが、まだ君たちの中で

 相手が決まっていなかったんだが、ソーナ、そこで君の覚悟を見せてくれないかい?」

 

そう、近日中にリアスの対戦相手を決める予定だったのだが、急遽魔王権限で

ソーナを指名した。

 

若手同士の最初の試合であり、各勢力からも観戦者が来る予定なので、

そこで彼女の、夢に対する本気を見せてもらおうと踏んだのだ。

 

二人はお互い顔を見合い──微笑み、了承した。

 

初の若手同士の試合は、幼馴染でもあり駒王学園の生徒対決だった。

 

「対戦の日取りは、人間界の時間で八月二十日。それまで修行するなり、勉強するなり

 好きに動いて構わない。詳細は後日改めて知らせる」

 

そう言って若手会合は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

少し議員達の言動に頭にきていたセラフォルーだが、意識を切り替え、

ひしぎの待つ部屋へと駆け足で急いだ。

 

会う予定となっていた時間はすでに過ぎており、彼女は急いだ。

廊下ですれ違う悪魔たちが魔王が疾走している姿を見て何事かと振り返るが、

お構い何し、走り──数分後着いた。

 

彼女は扉を開ける前に一度深呼吸をして息を整え、服装が乱れていないか

確認し、そしてドアノブを回し大きな扉を両手で開けた。

 

すると、中には部屋の端にある本棚の前で立ちながら読書をしているひしぎの姿と、

備え付けのソファーに座り、冥界の通販番組を真剣に視聴しているロスヴァイセの

姿があった。

 

「ひしぎさん! これ! これ見てください!」

 

物欲しそうに画面を指差すロスヴァイセ、呼ばれたひしぎは微笑みながら

 

「欲しいものがあれば、後でソーナに頼んでみては?」

 

「はい! メモメモ・・・!」

 

そう促され、テーブルの上に合った紙にペンを走らせるロスヴァイセ。

 

「さて──セラフォルーさん。そこに立っていないで、中に入ったらいかがです?」

 

本に目を落としながらひしぎは、呆然と立っていたセラフォルーに声をかけ、

その言葉に呆然としていたセラフォルーは我に返り、扉をしめて

入ってきた。

 

「ごめんね。お待たせして」

 

セラフォルーは予定より少し待たせてしまった事に謝罪し、空いていた

もう一つのソファーへ腰を落とす。

 

ひしぎも手に持っていた本を本棚に直し、先ほどまで座っていたソファーに戻り、

腰を落とした。

 

ロスヴァイセはテレビを消し、真剣な表情を作った。

彼女、ロスヴァイセがひしぎの護衛に付いたという事はセラフォルーの耳に入っており、

だから、彼女が居ても何の驚きは無かった。

 

だが、彼らにとってはまだ交友でない陣営の部屋で

あそこまでリラックスしていた事に先ほど驚いていたのだ。

 

「では、改めて──あの時は助けてくれてありがとう」

 

セラフォルーは満面な笑みを浮かべながら頭を下げ、ひしぎにお礼を言い

自分は今冥界を離れる事が出来ず、書面や、伝達などでは気持ちが伝わらない為、

申し訳なかったのだが、こちらに招待したと伝えたのだ。

 

ひしぎは彼女の気持ちを汲み、お礼を素直に受け取った。

そして彼女が何かお礼をしたいと申し出たが、気持ちだけで十分と丁重に断った。

なぜなら、昨晩エリオットからも申し出を受け、何度も断ったのだが、

相手も引かず、先に折れたのがひしぎであり、既にお礼をもらっていたのだ。

 

お礼をもらう為に助けたのでは無いので、これ以上もらう意味が無いと

判断したのだ。

 

彼女もまたエリオットの娘なのでそう簡単には引き下がってくれなかった。

だから、ひしぎはある提案を彼女に言った。

 

「なら、もし私が困った時に直面した場合、手を貸して頂けたら幸いです」

 

そう言って彼女を納得させたのだった。

 

その後も彼女の雑談や、先ほど起きた出来事の愚痴を二人は、

頷きながら聞いていた。

 

すると、扉の向こうから控えめなノックが聞こえ

 

「レヴィアタン様。そろそろお時間です」

 

彼女の秘書が時間だとつげ、時計を見たら1時間は有に過ぎていたのだ。

 

「あ、もうこんな時間になの?! もっとお話したかったけど、そろそろ

 私は仕事に戻るね──今日は本当にここまで来てくれてありがとう」

 

セラフォルーは名残惜しそうに、ソファーから腰を上げ、

黙って自身の話に付き合ってくれた二人に感謝をし、使用人を呼び寄せ、

二人を出口まで案内させるように指示をだした。

 

本来なら、自分が出口まで見送りたい所なのだが、大量の仕事がまだまだ残っており

1分1秒すら惜しい状況なのだ。

 

ひしぎとロスヴァイセもソファーから腰を上げ使用人が待つ扉へ向けて

歩き出し──すると、ひしぎが立ち止まり、背を向けながら

一つセラフォルーに質問した。

 

「貴方は、危険な力を持つ私を──どうして警戒しなかったのですか?」

 

そう、あの日自身を見たもの全てがひしぎに対して強い警戒心を抱いていた。

そして、再会したセラフォルーからそのような警戒心が一切感じられなく、

ひしぎの強さに対する疑問や、正体などすら一切聞いてこなかった。

 

普通のものならば、少なからず疑問に思い会話の中で言葉を使い探りを入れてくるはず

なのだが、それすら無かった。

 

だからこそ、最後に聞いてみたくなったのだ。

 

「え? 私やソーナちゃんを助けてくれた恩人を疑うわけないよ。

 だって私は貴方を『信じてる』から」

 

何の躊躇いも無く答えを口にするセラフォルー。

その答えに一瞬あっけに取られたひしぎだが、口元を緩め

 

「──そうですか。では、またどこかでお会いしましょう」

 

そういって部屋の外まで歩いていき、ロスヴァイセは部屋出る直前に

向き直りセラフォルーに向けて一礼をして出て行った。

 

その様子を手を振りながら見送るセラフォルー

 

「うん、また会おうね。ひしぎさん、ロスヴァイセさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下鉄の乗り込み口付近でソーナと合流したひしぎとロスヴァイセは、

眷属達の雰囲気が沈んでいる事に気がついた。

 

恐らく先ほどセラフォルーが話していた、『夢』の話に関連付いていると悟った。

シトリー家に着くまでほとんど会話も無く到着し、ソーナが一度部屋に戻って

着替えたら会議室に来るように全員に指示をだし、ひしぎとロスヴァイセも

是非来て話を聞いて欲しいとお願いされ、二人は承諾した。

 

私服に着替えた全員が集まり、皆椅子に座った事を確認するとソーナは口を開き、

まず、事の顛末を二人に聞かせた。

 

会合で自身の夢を語ったら、議員達が否定され、嘲笑われた。

そして、自分たちの夢に対する覚悟を見る為に、サーゼクスがゲームの提案をし、

人間界の時間で言えば、約二十日後にリアスと試合が行われる事になったと語った。

 

「なので、ひしぎさん、ロセ。今一度修行を一から見てもらってもよいでしょうか?」

 

そう、二人を呼んだのは今一度自分たちを鍛え上げて欲しいからであり、

なぜなら、とある情報によると現状の若手ランキングでは5位と云う

下から二番目であった。

 

1位はもちろんサイラオーグ、2位はシーグヴァイラ、3位はリアス、4位はディオドラ

5位がソーナ、6位がゼファードルだった。

 

『王』の力と眷属の力込みを含めた、外部情報のみでつけられたランキング。

 

だからこそ、今一度自分たちの力を見直し、そういう風にランクをつけた者を

見返してやる気持ちが溢れていた。

 

その気持ちを汲み取った二人は、顔を見合わせ──

 

「ええ、私は構いません」

 

「私も出来る限り力になります!」

 

そういってひしぎとロスヴァイセは了承した。

 

その日は今後のスケジュールを製作し、明日からの本格的な修行を開始する為、

早めに休む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、地獄と云う名の特訓が次の朝から擬似空間内で開始された。

当初はシトリー家の所有する空き地でするつもりだったのだが、

毎回毎回魔力で補修する時間がもったいないと、ひしぎが指摘し、

擬似空間内であれば、自動修復機能が付いている為、そちらの方が

良いとソーナに提案し、擬似空間内で修行をすることにしたのだ。

 

久々に力を図る目的で、ひしぎ対ソーナ、眷属達、そしてロスヴァイセがソーナ側に参戦した。

しかし、今回はより実戦形式をソーナからお願いされ、ひしぎもある程度反撃したところ、

約5分後にはボロボロな姿になった全員が地面へ横たわっていた。

 

流石にひしぎもやり過ぎたと思っていたが、ソレはソーナ達が望んでいた為やむ終えなしだった。

借りている通常の刀を鞘にしまうと、ボロボロになったソーナ達を、一人一人優しく抱きかかえ、

特殊な結界が張ってある場所に寝かせ、範囲術式による法力治療を開始し始めた。

 

皆の傷が見る見るうちに癒され、体力もほぼ全快まで回復させた。

 

「し、死ぬかと思った」

 

冷や汗を全身で流しながら、上半身を起こした匙。

彼は、ラインがひしぎへ命中させる事が出来ず、避けられてばかりで業を煮やし、

体術で挑んだところ、いつの間にか背後に回ったひしぎに上空へ打ち上げられ、

そのまま、空中からの蹴りで地面へ叩き落され気を失っていたのだ。

 

「うぅ・・・こ、怖かったです」

 

隣に寝たままの留流子は怖さのあまり涙を流していた。

彼女もまた、ひしぎに攻撃を避けられ、至近距離からのかなり手加減した光斬撃により撃沈した。

 

「ふふふ、まだこれほどの差があるとは・・・」

 

あまりにも実力の差がありすぎて、笑いが出ていた由良。

匙と同じように体術で挑み、攻撃を避けられた際にカウンターで放たれた蹴りを食らい、

吹き飛ばされ、建物数棟突き破り漸く止まったのだ。

 

「悔しい・・・!」

 

手も足も出なかった事に悔しがる巴柄。

彼女は椿姫とタッグを組み、襲い掛かったのだが正面から彼の斬撃を止められず、

武器を弾かれた時に一瞬ひしぎから目を離してしまい、視線を戻した頃には

光の洪水が彼女を飲み込んでいた。

 

「流石私達の先生ですね!」

 

「桃が壊れちゃった・・・」

 

ボロボロにされた桃だが、恐怖よりもひしぎの強さに感動していおり、

その光景をみた憐耶は顔を引きつらせていた。

彼女達は遠距離から魔法攻撃を放ち、近接組みの援護をしていたが、

匙が空中から地面へ叩き落とされた瞬間、上空から光斬撃が二人に襲い掛かり、

慌てて法力結界を展開し、1撃目は防ぐ事に成功したが2撃目は結界の

再展開が間に合わず飲み込まれたのだ。

 

「まだ、力が足りませんか」

 

近接組みで一番粘った椿姫だが、力の差を痛感していた。

彼女は、匙、由良、留流子、巴柄、が倒された後、何とか残ったソーナとロスヴァイセに

彼を近づけまいと距離が離されないように食らいついていたが、

少しだけギアをあげたひしぎの姿を捉えきれず、背後から放たれた光斬撃により倒れた。

 

「夢を叶える為に──もっと強くならなくては」

 

周囲に展開した水龍達をいとも簡単に切り捨てられ、まったく魔法が当てられなかったソーナ。

彼女は、正面からの遠距離攻撃の打ち合いで負け、水龍達が両断され光斬撃に飲まれたのだった。

 

「これでもまだ、全力じゃないとは・・・」

 

その隣で、地面へ手を付き、自分の護衛が必要なのかと疑問を浮かべているロスヴァイセ。

皆が倒れる中、最後の一人になり全力で抵抗していたが魔法を撃ち過ぎ、魔力切れで

防御障壁が展開できず、光斬撃に飲み込まれたのだ。

 

皆の意識が戻ったところでひしぎは一応謝罪した。

 

「すみません、少しやり過ぎたようです」

 

その言葉に首を横に振るソーナ。

 

「いえ、これぐらいで丁度いいです。悔しいですが、私達は彼らの数倍以上の修行しなければ、

 現状の戦力がひっくり返せない──絶対に勝つために必要な事なのです」

 

そう、他の若手達もこの二十日間で修行するはず──と、ソーナは思っており、

同じ程度の修行内容じゃ何時までたっても追い越せない、だからこそ実戦形式で、

死ぬかもしれないぐらいの苛烈な内容を求めていたのだ。

 

「わかりました──では、続けましょうか」

 

ソーナの意を汲み取ったひしぎは、死なない程度にボロボロにするつもりで、

その後も何度も何度も瀕死まで追い詰め、治療してはまた戦闘訓練をした。

 

夕方、流石に今日はもう休ませたほうがいいと判断し、訓練は終了した。

お城へは戻らず、擬似空間内にある合宿所で男性、女性と分かれた部屋があり、

各々汗を流し、少し食べ物をおなかに入れたと思うと用意されているベッドの上で倒れこみ、

傷や体力面は完全に後を残さず治療しているが、精神的な物までは癒せていない為、

緊張を解いた瞬間、皆泥のように睡眠を貪った。

 

ひしぎは同室の匙が眠った事を確認すると、今日戦った彼らの戦力表を纏めていた。

 

匙は力、速さは標準的だが、諦めない根性は誰よりも強い。

 

留流子は、力、精神的な課題は残るが、速さは『騎士』と同ランクまで上がってる。

 

由良は、力、速さは標準以上だが、直線的すぎる。

 

巴柄は、いい太刀筋だが、力が足りず、由良と同様直線的過ぎて読まれやすい。

 

桃は、法力の力を取り入れた結界で一撃目を防いだ事に賞賛は与えれるが、

次の動作がまだまだ遅い。

 

憐耶は桃のサポートで魔法の補助火力だが、一撃一撃の威力が低く、

桃と同様に次の動作がまだまだ遅い。

 

椿姫は、太刀筋も力も十分で、フェイントを混ぜてくる攻撃は中々の出来栄えであり、

『女王』と云うことだけはあるが、耐久面が問題だった。

 

ソーナはある者と戦っている錯覚にさえ陥るほどの再現した龍の形だった。

だが、あの者達ほど威力や速さが無い──だが、生成するスピードは前回より

格段に上がっていた。

 

ロスヴァイセはオーディンの護衛の名に恥じない実力があり、5分間全力射撃をし続け、

威力も十分にあり、防御面にしても数回光斬撃を防いで見せた。

この者達の中では一つ飛びぬけて実力はあるが──惜しいことにソーナの眷属で無い為、

試合には参加出来ないのである。

 

一通り彼女たちの実力を分析した後、部屋の隅に置いてある刀達に目を向けた。

この修行で刀が必要だったので、ひしぎがソーナに頼みお城にある刀を約30本拝借したのだ。

そして、今日の修行だけでその半数である15本が折れたのだ。

 

1本に付き光斬撃が撃てるのは2回から3回までであり、全て撃った後刀身にヒビが入ったり、

脆い物であれば、一瞬で砕け散ったのだ。

 

彼女たちの修行で相手をするには、体術でも十分なのだが、どうしても力の制御がし難く、

刀を解したほうが手加減しやすい為、存在不可欠だった。

 

だからこそ、早急にこの問題を解決しなければならないと思ったひしぎ。

 

「やはり、あの場所に行くしかないようですね──」

 

椅子に背をもたれさせながら天井を仰ぎ、目を瞑る。

 

そう、この問題を解決するには『あの者』の力が必要であり、この現世が生前

自身が存在していた世界と同じならば、『あの者』はあの聖地──壬生の地にいてるはず。

 

そう思ったひしぎは、数日間修行を見る事が出来なくなる為、

彼女たち一人一人に合わせたトレーニングメニューを考え始めた。

 

生前ではまったくした事が無かった取り組みだったので、ひしぎは新鮮さを

感じながら真剣に取り組んだ。

 

そして夜が明け、朝になり──皆で朝食を取った後、

修行を開始する前にソーナに自身にあった刀が必要で、壬生の合った地へ向かうと告げ、

了承を貰い、ロスヴァイセにはここで彼女たちの修行を見るように指示をだした。

 

この空間ならば、現状襲われる可能性は低いと判断し、一応壬生の地へ連れて行く考えも

あったのだが、万が一戦闘になると『あの者』達が相手だった場合、現状の力では

守りきれる自信が無く、それ以前に彼女を巻き込みたくなかったからである。

 

だがら、残していく事に決めたのだ。

一応万が一の為に、ロスヴァイセに自身の気を練りこんだネックレスを渡し、

常時つけているように云い、何かあった場合、自身へ連絡が来るようになっていた。

 

そして、ソーナに頼み皆を集合させ、一人一人に分厚い資料を渡した。

ひしぎが徹夜で書いた、彼女たち一人一人の個人トレーニング方法が記されている資料だった。

 

「すみません。少し急用が出来てしまい、私が居ない間皆それに書いている通りに

 トレーニングをしていてください」

 

急に居なくなる事を皆に謝罪すると、早ければ3日、遅ければ1週間で帰ってくると約束し、

ソーナが呼び寄せてくれた列車の時間が迫っている事もあり、すぐさまひしぎは

擬似空間から退出した。

 

 

 

 

 

 

約1時間で駒王町に戻ったひしぎは一度自室に戻り、部屋にあったある物を懐に仕舞い、

頭の中に地理を思い浮かべながら姿を消した。

 

町の中を屋根から屋根へを飛び、高速で移動するひしぎ。

 

目指すは──霊峰、富士の裾野に広がりし青山ケ原樹海の最も(くら)き深き場所、

紅蓮浄土(ぐれんじょうど)』の更に奥に位置する樹海の最深部。

 

──壬生一族の住む地へ

 

(まさか、この様な事情で、かの地へ戻る事になるとは)

 

もう戻る事は無いと思っていた聖地へ彼は足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、樹海が見え──壬生の地へ繋がっていると思しき道を発見し、

その道を走っている車の上を伝いながら、どんどん追い越してゆく。

 

 

 

 

 

 

 

そして──眼前に広がるのは、昔の風景を所々残したままの壬生一族の地だった。

 

「懐かしいですね」

 

城下町は現世と同じような雰囲気になっており、所々の家は昔の造りのままだった。

子供たちの笑い声が絶え間なく聞こえてきて、人々の活気が溢れており、

ひしぎは感慨に耽りながらも足を進めた。

 

数分後、五曜の門と思しき門を見つけたが、常時開放されている様子だった。

それをくぐり、徐々に奥へと進み──すると、『紅の塔』を沸騰させる塔が

遠目からも確認でき、あれは生前あった『紅の塔』と同じ位置に存在すると確信し、

誰にも見つからないようにその塔を目指した。

 

高速で移動する最中、横目で自身の居城があった場所を見ると、医療関係施設がならび、

ひときは目立つ大きな病院の看板には『御手洗総合病院』と書かれており、

それを見たひしぎは一瞬呆けるが、口元を緩ませた。

 

──戦友(あかり)は、今もなお人々を助けているのだ──と。

 

そしてまさか、自身の根城の場所にこの様な巨大な医療施設が建っているとはまったく

想像が付かなかったのである。

 

そして、ここで漸く『自身の半身』の気配を感知した。

 

「──っ! まさか」

 

感知した場所は、何度か行った事のある──地下迷宮だった。

行く場所が定まったひしぎは、生前使っていた地下迷宮へ行く秘密の抜け場所を探し、

いくつかは壊されていたが、元居城の近くに一つだけ残っており、

すぐさまそこへ身を投げた。

 

下が見えないぐらいの深さであり、懐かしさが滲み出る。

数秒後漸く地面へ着地すると辺りを見回した。

 

「ここはやはり変わっていないのですね」

 

昔の造りのままであり、レンガが積み上げられたような壁がそのまま存在し、

所々はヒビが入っていた。

 

そして空を見上げると太陽の光が小さく見えるほどの深さだった。

 

視線を元の位置に戻すと、気配がする場所へ急いだ。

 

暗く薄気味悪い霧が発生しており、どんよりとした雰囲気の地下迷宮、

ここは昔陰陽殿と呼ばれる建物の最下層であり、きらびやかな上層と違って

全ての汚物を集めて覆い隠していた場所。

 

いわば、陰陽殿の『かわや(トイレ)』と呼ばれた不名誉な場所。

そして、ここの主はひしぎもよく知っている人物であった。

 

だが、今のところ『その者』の気配は感じられなかった。

正直会ったらどう反応していいか分からなかった為、安堵するひしぎ。

 

何度か分かれ道を曲がり、最深部へ向かい──そして、漸くたどり着き、

目に入ったのは

 

──眼前に広大に広がる雲で出来た地面

 

──その雲の地面にそびえ立つ数え切れないほどの墓標

 

そう、ここは『壬生再臨計画』によって生命を奪われた者達の墓場、

ひしぎの罪の一つであり、今も残る後悔が──姿を現したのだ。

 

言葉でどんなに謝罪しても、彼らの気持ちは収まらない。

だからこそ、自身の命で清算する事にした。

 

だが、彼は二度目の生を受けてしまった──だから、ひしぎは彼らの墓前で

膝を付き、頭を下げた。

 

「──許してくれとは言いません。ただ、本当に貴方達の命を奪ってすみませんでした」

 

彼らの憎悪がもし存在するならば、全て受け入れるつもりだった。

だけど、彼らは『何も』言わなかった。

 

ただ、風が優しくひしぎの頬を撫でるだけ

 

化け物と呼ばれた彼らに生きる目的を教えたのもひしぎであり、命を奪ったのもひしぎ、

怨みもあれど、感謝の気持ちもあったのだ。

 

そして、彼らも知っているのだ──ひしぎも本心からでなかった事ぐらいは。

 

墓標は何も語らないが、風が代弁してひしぎに彼らの答えを伝える。

 

──もう、貴方は苦しまなくていい──

 

──貴方も私たちと同じだった──

 

──最後に本心を語ってくれてありがとう──と

 

その瞬間、ひしぎの頬に一滴の雫が流れていた。

 

そして、自分の半身が呼ぶ声が聞こえ──ひしぎは掌で零れ落ちた雫をぬぐい、

顔を上げると、そこには

 

──愛刀『白夜』が刺さった墓標があり、その隣には親友の刀が刺さった墓標も合った。

 

そう、ここは地下迷宮の主である彼女があの戦いの後、3人の墓標を作り、

人知れず見守っている場所だった。

 

自分たちは砂と化し何も残す事が出来なかった為、刀でその墓標が誰のかが

わかる様になっていた。

 

「──まったく、姐さんには敵いませんね」

 

口元を緩めて、ここを作った彼女を思い浮かべる。

 

「『白夜』、お待たせしてすみません。今度こそ最後まで一緒に──」

 

立ち上がり、『白夜』を抜こうとした瞬間──後ろに気配を感じた。

気が緩んでいたとは云え、自身の背後を取る事の人物は早々居ない。

 

(この感じは──まさか)

 

ゆっくりと振り返るひしぎの視線に

 

──軽めの着流しに身を包み、朗らかに笑っている青年が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やはり、貴方でしたか──壬生京四郎」

 

「ええ、お久しぶりです──ひしぎさん」

 

数世紀へて邂逅する二人──

 




こんにちは、夜来華です。

若手達の夢は笑う事、否定するのでなく、例え現実に出来なさそうな夢でも
応援するのが、上司の役割だと思っています。

原作に書いていない若手達の夢はオリジナルです。

そして、再び修行再会で皆ボロボロに・・・・
最後は、お待ちかねのあの人が・・・

感想、一言頂けると嬉しいです。


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第20話 真実

*注意! 今回KYO原作のネタバレ、最大の秘密が書かれています。


あの戦いの、その後を彼の口から聞いた

やはり、あの人は自分と同じで"心"が死んでいた

そして──いくつかの疑問が彼の言葉によって解消された



ひしぎの振り返った先には、生前とあまり変わっていない壬生京四郎の姿があった。

黒の軽めの着流しに、腰には──刀が下げられている。

 

京四郎は穏やかな笑みを浮かべたまま、ひしぎの様子を伺っている。

両手は、下がったままで刀に触れては居ないが──まったく隙が無く、

"今"の自分の状態では、数分も持たず切り伏せられるだろうと、

ひしぎは悟り、目を閉じ一呼吸した。

 

元より戦う為に来たのでは無い為、そう考えていると先に京四郎の方が

口を開いた。

 

「今はなぜ生きているのかは問いません──その『白夜』殿を使って何を

 するつもりなんですか?」

 

正直、ひしぎがなぜ生きているのか疑問で不思議だったが、

それを後回しにして、聞くべき事を先に問うた。

 

ひしぎが『白夜』を持てば、万が一暴れられたら彼を止めることが、

出来る人物は片手で数える程度しか存在しない。

 

京四郎にそう思わせるほど、危険な組み合わせなのだ。

 

ひしぎは京四郎の問いに、嘘をついても仕方が無いので素直に答える事にした。

 

「守るべき者を守る為。そして弟子を鍛える為に、私の力に耐えうる刀が

 必要だったのです」

 

オーディン託されたロスヴァイセを守る為、そしてソーナ達を鍛える為、

中途半端な事はしたくなかった。

 

だから、自身の力が十分に発揮できる刀を欲したのだ。

 

『白夜』がここにあるのは予想外だったが、思わぬ収穫だった。

ひしぎの答えを聞いた京四郎は、目を瞑り数十秒間沈黙した後、瞼を開け

 

「──そうですか、分かりました」

 

そう言って、彼は警戒を解き、腕を上げ指で上にそびえ立つ『紅の塔』を指し

 

「少しお話しませんか」

 

と、誘ってきた。

ひしぎは、腰に『白夜』を下げると頷いた。

 

ひしぎ自身も京四郎に色々聞きたいことがあり、その誘いに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、遊庵や辰伶、時人、四方堂は別件でここを離れていると京四郎から伝えられた。

 

京四郎に案内される形で『紅の塔』に入ると、内部の造りは少し現代風にアレンジされているが、

生前あった塔内部とほとんど似ていた。

 

懐かしさを感じならが、『控えの間』、『龍の間』を抜け更に長い廊下を奥に行くと、

『紅の間』と呼ばれる京四郎の執務室に着いた。

 

そこはかつての先代紅の王の自室であった。

 

部屋の中は書物や書類などが所狭しと積み重なってたりしていた。

そして、一番奥の正面の壁は一面ガラス張りでそこからは、城下町の風景を見る事が

出来る様になっていた。

 

京四郎は部屋のその窓際にあるテーブルの上の書類を他へ持って行き、

テーブルの周りを囲んでいるソファーにひしぎを促した。

 

「少し散らかっててすみませんが、そこにどうぞ」

 

そして、その奥にある自分の机の上にある電話機を押し、お茶を持ってほしいと

連絡し、京四郎はひしぎと対面になるようにソファーに座った。

 

二人が座ると、控えめなノックが聞こえ、給仕係がお茶を持って来たのだ。

 

(──早い)

 

流石に早すぎる仕事にひしぎは表に出さないが、かなり驚いていた。

 

「さて、ひしぎさん。僕から話しますか?」

 

京四郎の言葉はあの後の戦いの話を示しており、ひしぎも是非聞きたかった事である。

 

「ええ、是非お願いします」

 

「そうですね──」

 

京四郎はテーブルに置かれたお茶を一口飲むと、懐かしい思い出に浸りながら話し始めた。

 

ひしぎと吹雪が死んだ後、自分と狂が戦い、狂を先代紅の王を倒せるだけの高みへと導く為に

敵側となり立ちはだかり、目的は達した後、狂に躯を返し、元の体に戻ったが自分自身も

『死の病』が発病していた為体が崩壊し、崩れ落ちそうになった時、真の壬生一族の

躯を取り戻し、狂の覚醒した『血』によって崩壊は止められ、助かった事。

 

その後、先代紅の王と対峙し戦闘になり、狂が『対極の紅十字』を手に入れ、

先代紅の王を打倒した。

 

そして先代が守っていた扉が四つの妖刀村正によって壊され、明かされた壬生一族最大の秘密。

 

先代紅の王の心臓には『紅十字の四守護士(レッドクロス・ナイツ)』の証である紅十字が刻まれてあり、

真の壬生一族に一番近いオリジナルの戦闘人形だったこと。

 

本物の神様が皆いなくなり、一番優しいかった彼が神の代わりを務めていた事。

 

その後、狂や、壬生の若い者達の言葉を聞いた先代紅の王は自分の命をもって

この悪しき壬生一族の時代に終止符を打つ事にした。

 

先代紅の王もまた、優しすぎた為全てに絶望して心を壊していたのだ。

 

誰よりも生とし生ける者全ての幸せを願っていた為、

同じ一族同士での殺し合いに絶望し、人間達が引き起こす争いにも悲観し、

何度も何度も何度もそれが起こるにつれて心が磨耗し──壊れたのだ。

幾千、幾万の時が心を蝕み、涙は枯れ果て、決して枯れる事の無い血の涙へ変わっていた。

 

何を愛し、何を護ろうとしたかさえ忘れるほどに。

 

そしてそれを狂やゆや達の言葉で漸く思い出し──彼は透き通る涙を流しながら消滅したのだ。

 

『紅の塔』は崩壊し、壬生一族が裏から人間界を支配する歴史は終わったのだ。

その後、辰伶や遊庵を筆頭に壬生の町は再建に力を注ぎ、人間たちと共存できる一族を目指した。

 

3年後、先代紅の王から寵愛を受けていた少女。

『壬生再臨計画』で生まれた希少種の生き残り『るる』と云う少女から『死の病』に関する抗体が

発見され、灯の手によって、数ヵ月後病に対するワクチンが開発され、

何十万と云う壬生一族達の命が救われたのだった。

 

『人間』であった灯の功績は今も直壬生一族の中で救世主として語られている。

 

京四郎の言葉を聞きながらひしぎは手に持ったカップの中で揺れるお茶に視線を落とし

 

(灯さん。やはり貴方に託して正解でした)

 

灯なら自分が残した記憶と研究データからきっと壬生一族を救う手がかりを見つけると

信じていた。

 

「灯さんは僕たち壬生一族にとって救世主です。彼のお陰で僕達は今も"生きている"」

 

その後、数年かけて一族全員にワクチン接種を行うと、その頃から、壬生一族に

子供が生まれるようになったのだ。

 

人間界では、徳川の一人勝ちにより天下は平和の道を突き進み、人種関係なく、

異形の者達でさえ彼らは手に取るようになった。

 

情による政治により──真田勢が手を出しににくくなったのは事実。

と、人間界の話はまた今度と京四郎は一旦区切り、話を戻した。

 

歴史の根が深く、壬生一族と人間が和解し完全に手を取り合うまで数十年掛かったが、

それも彼、徳川秀忠の手腕により彼が生きている間にそれが現実となり、

彼は満足そうに生を引き取ったという。

 

その後の壬生一族は最先端の医療技術などを人間界に伝授し、色々な技術を彼らに教え、

順調に人々の生活に完全に溶け込んだ。

 

そして数世紀たった後、異形の者達とは違う者達による人間を襲撃する事件が勃発し、

一度は壬生一族が疑われそうになったが、壬生一族の者達が人間を護った報告が

大量に寄せられていた。

 

いつも後手に回る為、自体を重く見た辰伶は京四郎や遊庵、時人、その他の元壬生戦士に

声を掛け、裏から人間を護る組織を創立した。

 

そして、そのトップに本来の『紅の王』候補だった京四郎が推薦され、

自分はトップの器で無いと主張したが、皆の願いにより先に折れ

──現代の『紅の王』を襲名した。

 

その後この組織は壬生一族メインで構成され、各世界に派遣し、自然災害や人外からの

攻撃から人類を守護した。

 

ちなみに、人間同士の争いには極力介入しないかった。

理由は様々であり、お互い国の威信を掛けた戦いならば一切介入しない。

ただし、理由無きテロなどには問答無用で介入し粛清する。

 

そしてこの場所がその組織の総本部である。

 

京四郎の言っている『人外』と云うのは悪魔や堕天使だとひしぎは推測していた。

ただ、ここ最近思い出した事なのだが、生前ひしぎですら悪魔との戦闘は数える程度であり、

ある時から一切彼らの相手をしなくなった事を思い出したのだ。

 

「──と、まぁ、今の壬生一族の状態はこんな感じです」

 

京四郎の語りに黙って耳を傾けていたひしぎは満足そうに頷いた。

 

「そうですか。やはり子供達に託して正解でした」

 

悪の時代であった壬生一族の歴史は自分たちの命で清算し、辰伶達に

壬生一族を託して本当に正解だったと、そして彼らは自分たちとは違う形で

一族を護り、人間をも護ったことに心の中から安堵した。

 

「辰伶さんが声を掛けなければ、僕達はもう一度集まる事は無かったんです」

 

京四郎は寿命の朔夜を看取った後、自分の罪は消えない為、この命果てるまで

人間に助けようと思い再び世界中を旅をしていたのだ。

 

そして、ある時辰伶が目の前に現れ、力を貸して欲しいと頼まれ承諾したのだ。

 

「僕達はこの地を拠点にして、壬生の力を人々を助ける為に使うと決めたんです。

 だから──例え悪魔や天使、神が人々に手を出すのならば、僕もう一度『鬼神(きしん)』に戻り、

 それらを滅ぼします。それが僕に残された最後の道なので」

 

ひしぎに対しても人々に危害を加えるなら、自分が全力で相手をする──と、

警告しているのだ。

 

それを読み取ったひしぎは、口元を緩め──頷き、自身の答えを聞かせた。

 

「私はもう──この世界に興味はありません。ただ、弟子たちの行く末を見て見たいだけなので、

 貴方方と敵対する理由はありません」

 

その答えに京四郎も満足そうに頷いた。

 

「分かりました。──そろそろひしぎさんの今の境遇を聞いてもいいですか?」

 

「ええ、そうですね」

 

京四郎の質問に今度はひしぎが答える番となり語り始めた。

 

辰伶達を復活させた後、意識が戻った時には既に駒王町にある駒王学園の保健室で

寝かされていたこと。

 

そして何故生きているのか自問自答した後自害しようとして、ソーナと云う少女に止められ、

心が救われ、助けられた恩を返すべく彼女を敵から護り、夢の手伝いをする事になった。

 

そして彼女は人間ではなく悪魔であったという事、ただ、それは別に構わなかった。

悪魔だろうが、天使だろうが、人間だろうが、彼女が自分の心を癒してくれたのは事実。

 

だから、彼女を助けようと思い──今度悪魔側で特殊なゲームをする為に、

修行を一から見て欲しいと頼まれ、修行の過程で自身の力に耐えうる刀が欲しくなり、

この地へやって来たと、京四郎に説明した。

 

「なるほど、そのソーナって言う子の為に動いているのですね」

 

「ええ、そうです」

 

元々『白夜』を発見する確立は低いと考えていた為、所に持っていた布で巻いた物を

テーブルの上に出し、それを広げた。

 

「この子の破片で、寿里庵(ジュリアン)に私の刀をもう一度作って貰おうかと思っていたのです」

 

そう、その布に巻かれていたのは粉々になった『夜天』の破片だった。

彼はそれをベースに寿里庵に自身の力に耐えうる刀を作ってもらう為にここへ来たのだ。

 

ただ実際彼に会い、どう頼むかはまだ思案中であったのは内緒である。

だが、寿里庵以外に自分の刀を作れる者が居ないのも事実であり、彼に頼るしかなかったのだ。

京四郎は視線を天井に向け──少し思案した後、ひしぎに視線を戻し

 

「分かりました。僕からも寿里庵さんにお願いしてみます」

 

京四郎からの思わぬ提案にひしぎは一瞬呆けに取られたが

 

「すみませんが、よろしくお願いします」

 

そう言ってひしぎは頭を下げた。

そして、ひしぎは次なる質問を京四郎に投げかけた。

 

それは悪魔や堕天使、天使についてである。

 

「貴方は先代紅の王が統治していた時、悪魔達やそれ以外の者達と戦った事はありましたか?」

 

「ええ、何度か任務で戦ったことがありますけど、ただそれは一時の物でした。

 僕自身も彼らと戦った記憶は数える程度ですし、ひしぎさん達とあまり変わらないと思います」

 

京四郎でさえ、先代紅の王が統治していた頃悪魔やその他の者達と戦った事は

数える程度だった。

 

そう言って京四郎はソファーから立ち上がり、大きな本棚にある1冊の分厚い資料を取り出し、

ソファーに戻り、その本をひしぎへ渡した。

 

「これは、崩壊した『紅の塔』付近に落ちていた本で──悪魔やその他もモノとの戦闘記録が

 全て書かれています」

 

手渡された資料のページをめくると、自身もしらない戦闘記録がびっしりと書かれていたのだ。

そして、その戦闘を任されていたのは──鎭明と当時の紅の王(壬生京三郎)の二人だった。

 

彼ら二人は主に人外の敵、悪魔や天使、他の神々相手に壬生一族と人間を護っていたのだ。

 

「僕自身も二人がこの様な戦いをしていた事はまったく知らず、この資料を読んで

 初めて知ったんです」

 

その二人の弟だった京四郎でさえ知らなかった事実。

ひしぎが知らなかったのは無理なかった。

 

「確かに、あの二人ならば数など無意味に等しいですね」

 

鎭明は『無明大陰流』の流派であり、『地友気(ちゆうぎ)』を操る、土を司る者。

彼の業は対軍業が多く、彼対して数の量など無意味に等しかった。

 

そして、当時の紅の王は狂や京四郎、村正が操る『無明神風流』を生み出した者であり、

鎭明ほど対軍業は持っていないが、それでも十分な戦力だった。

 

その二人が組み、人間界に侵攻してきた悪魔などを迎撃していたことが書かれていた。

だからこそ、ひしぎや京四郎達は人間界に集中できていたのだ。

 

初めて知った事実に、ひしぎは驚きの表情を浮かべていた。

 

「僕達は二人に影ながら護られていたと云う事だったみたいです」

 

二人を懐かしむように語る京四郎。

 

「そうみたいですね」

 

その言葉に頷き、口元を緩めるひしぎ。

 

「そうですね、現状の僕達の立ち位置も説明します」

 

京四郎はそういうと、自分たちと日本政府、悪魔や日本神話系との関係について説明し始めた。

 

日本政府、世界政府と同等の発言力と権力を持っているが、基本一切の政治干渉はしない。

なぜなら、自分達の力に頼らず、人間がどういう未来を辿って行くか見守るため。

 

そして、悪魔達との関係は、日本政府の特殊機関が窓口であり、

基本悪魔と交渉するのは日本政府。

自分達は彼らの成り行きを見守るだけ。

故に自分達の存在は口外しないように伝えている為、悪魔側は

自分達の存在を知らない。

 

そして日本政府が許可したからこそ、悪魔は悪魔専用の地下鉄などが作る事が出来たのだ。

 

ただ悪魔が現世に進行しようとした場合、自分たちの出番であり、

それは日本政府からの依頼無しでも動く事が可能となっている。

 

あくまでも人類を護る為の行動であるが、ただ、規模によっては見逃す場合もあり、

悪魔側自身がきちんと対処する場合監視のみとしている。

 

それは堕天使、天使、他の神々でも例外は無い。

 

例えば、はぐれ悪魔が出た際、3日以内に悪魔側からの討伐部隊が来なければ

自分たちが処理する形となり、基本その間は24時間の監視体制。

 

ただ、悪魔は気配が違うので、かなり見つけにくい部分もある。

ひしぎや京四郎クラスならばすぐに見つける事は可能だが、基本街を警備しているのは

下級戦士クラスであり、どうしても対応が遅れる場合もある。

 

彼らとて完全な万能では無いのだ。

確か力は有しているが、全人類を護れるとは思っていない。

だからこそ、最小限の被害で食い止めるようにしている。

 

そして、悪魔が人間界で仕事する事については黙認している。

彼らとて一つの生物であり、生きる為の糧だからこそ、それを理解している。

だから、悪魔が人間に悪事を働いてもある程度の事は黙認し、

やりすぎの場合は処理対象にする。

 

先日の駒王学園で起きた襲撃事件が良い例である。

外に待機していた、天使、堕天使、悪魔の兵士たちが小競り合いを起こし

戦闘に発展した事。

 

きちんと街に結界を張っていたのならば、手を出さずに静観していたが、

彼らは結界を張らずに戦闘したため、あの規模の戦闘だった為処理対象となった。

ただ、彼らの会談の内容を事前に把握していた為、死者は出さないように配慮した。

 

基本的にやりすぎでなければ、自分達は動く事は無いとひしぎに説明した。

そして、日本の神話系との関係は、お互い一切干渉しない事となっている。

 

ただ相手側から救援依頼が来た場合のみ手を貸す事となっている。

日本の力の関係は壬生一族が一番上でその下に日本神話系が連なっている。

 

ひしぎが悪魔の少女と共に居るということなので、京四郎は

砕いて説明し、覚えていてもらうことにしたのだ。

 

ソーナが日本や世界で大規模な戦闘を起こそうとした場合、

例えひしぎが護っていても、例外なく処理すると伝えた。

 

その京四郎の言葉に、嘘偽りはないと感じたひしぎは

 

「肝に免じておきます」

 

と、答えた。

 

その後もお互い質問のやり取り押して、空白の時間を埋めるように語った。

 

すると、京四郎がふと時計を見て

 

「そろそろ寿里庵さんが、こっちに戻ってくる時間なので、彼の家に行きましょうか」

 

寿里庵はとある用事で2日前から京都に出かけており、今日の昼過ぎに戻ってくる予定だった。

京四郎が立ち上がるとひしぎも出されたお茶を飲み干し、立ち上がり、京四郎の後を追った。

 

彼の住む家は生前遊庵の領地の近くであり、そう遠くない場所だった。

 

数分後古ぼけた大きな屋敷が目に入り、京四郎は扉をノックすると中から返事が聞こえ、

扉が開いた──すると、上半身裸で豹柄のカーボウイハットを被り、

右目の下には刀の刺青が入った白髪の男が出てきた。

 

「ん、京四郎? 直接来るとは、何かようなのか?」

 

怪訝な笑みを浮辺ながら白髪の男──寿里庵は京四郎を出迎えた。

 

「ええ、少しお願いがあってきました」

 

「──ほう」

 

何時に無く真剣な表情をする京四郎に、笑みを消す寿里庵。

京四郎はゆっくりと半歩後ろに下がり、彼の陰に隠れていた人物、ひしぎが

寿里庵の視界に入るようにした。

 

すると、寿里庵は──

 

「──なっ! て、てめぇは!?」

 

幽霊でも見たような驚きでひしぎに指を指した。

 

「寿里庵さん、少し中でお話してもいいですか?」

 

漸く、京四郎が態々自分の所に秘書も付けずに来た理由を悟り、寿里庵は警戒心を

解かずに二人を屋敷の中に上げた。

 

畳で敷き詰められた客間に、二人を案内し、一応お茶を出して

寿里庵は切り出した。

 

「一体何がどうなってるんだ?」

 

「僕から説明します」

 

京四郎が先ほどひしぎから受けた説明をそのまま寿里庵に聞かせ、

なぜ自分の家に訪れた理由も告げた。

 

その二人の会話を黙って聞くひしぎ。

 

今思えば、寿里庵に自分が殺されてもおかしくないと感じていた。

なぜなら、彼の妻を殺したのは自分自身なのだから。

 

任務とはいえ、彼ら庵一族に怨まれる事をしたのは事実。

どの面下げて会いに来たといわれればそれまで。

だから、自身の願いを聞き入れてもらえる確率は非常に低いと感じていた。

 

だが、彼以外自分の願いを叶えられる人物は居なかった。

 

だからこそ、彼らが望むならどのような罰でも受けるつもりでここまでやってきたのだ。

京四郎の話を真剣に聞き、時おりひしぎに視線を向けてくる寿里庵。

 

漸く説明が終わると、彼は被っていた帽子を深く被りなおし、数分沈黙した後、

こう答えた。

 

「──分かった。ただし一つ条件がある」

 

「それは?」

 

「──伊庵(イアン)の墓参りをしてやってくれ」

 

「──っ! よいのですか?」

 

「ああ」

 

伊庵は寿里庵の妻であり、ひしぎの同僚でもあった太四老の一人だった女性。

彼女は『紅の眼』の秘密を暴こうとして、先代より命を受けたひしぎが彼女を斬ったのだ。

 

寿里庵はひしぎの思いも、記憶も全て知ってい要るため、謝って欲しいとは

一切言わなかった。

ただ元同僚として声を掛けてやってくれと、ひしぎに言い

 

「わかりました」

 

彼の気持ちを汲み、ひしぎは了承した。

 

「で、お前さんの持ってきた子の破片はどこにあるんだ?」

 

湿っぽい空気はいやなのか、すぐさま仕事の話に取り掛かろうとする寿里庵。

その光景を心の中で安堵する京四郎。

 

ひしぎは布に巻きなおした、『夜天』の破片をテーブルの上に置き彼に見せた。

 

「ほぅ、俺様ほどじゃないが、人間にしては良い業物じゃねーか。

 ──いいぜ、5日だ。そうすれば『白夜』に引けを取らない()

 創ってやる」

 

「ありがとうございます」

 

寿里庵はそう言って『夜天』の破片を持ち、屋敷の奥へ歩いていった。

屋敷の奥は彼の仕事場、鍛冶が出来る場所となっており、すぐさま仕事に取り掛かった。

 

その光景を見た二人は顔を見合わせ、そっとその場を後にした。

京四郎はそのままひしぎを『御手洗総合病院』へ連れて行き、

遠目から灯の子孫を見てもらうことにした。

 

病院のすぐ傍のベンチで数人の若い女性が雑談しながら昼食を取っており、

その中で桃色のストレートロングヘアーをした女性にひしぎは目を奪われた。

 

「ええ、彼女が灯さんの子孫で、名は御手洗 燈。 あの灯さんと漢字は違えど、

 同じ名前です」

 

名前も漢字が違うだけで読みは一緒。

そして、容姿までもが生前の彼を思わせるほど似ていたのだ。

ただ、やはり性別の壁があり、こちらの燈の方がとても優しそうな雰囲気を常に出していた。

 

「あの子も灯さんと同じく"シャーマン"であり、類稀なる法力の力を持っています」

 

「…」

 

「ですが、彼女はその力を使わずにこの地位まで上り詰めたんですよ」

 

彼女は決して法力治療のみでこの地位を得たのではなく、初代にあこがれて子供の頃から

法力は緊急時以外使わず、猛勉強して漸く皆に認められ獲得した場所なのだ。

 

「流石は彼の子孫なだけありますね」

 

「ええ、本当に」

 

その後も時間が許す限り、京四郎は今の壬生一族の街を紹介して回った。

 

道中、黒猫と青い小鳥が祭られている神社があり、そこに文字が書いてあり、

黒猫を飼うとご利益があり、幸運にもなる。

 

青い小鳥を見るとその日一日運気が上がる、と、書いてあり、

なんとなく心当たりのあるひしぎは苦笑するしかなかった。

 

京四郎の話によれば、あの時の戦いで辰伶や遊庵、先代に意識を止められていた者達を

復活させる一役を買い、あの後辰伶が黒猫を引き取り、小鳥は時人の元に居た。

ただ、3年後小鳥の方は元の飼い主の所へ戻ったと、話していた。

 

(確かにあの子達がいなければ、復活させる要因が見出せなかったでしょう)

 

話をきいたひしぎは懐かしさを感じながら、1匹の親友に懐いていた黒猫と

狂の刀のいつも止まっていた青い小鳥を思い出していた。

 

すると、第4の五曜の門内部にある大闘技場で誰かが戦っている様子があった。

 

二人は第4の門を潜ると、大きく損傷した闘技場の姿が目に入り、

その中心には槍を持った一人の黒髪の青年と同じく槍を持った虎柄の手拭いを頭に巻いた青年が

激しい戦闘を繰り広げていた。

 

そして、そんな二人から離れた場所で、銀色の甲冑を着た金髪で長いお下げの女性が

静かに見守っていた。

 

一人は生前見たことある人物にそっくりな青年で、もう一人からは壬生特有の雰囲気が

まったく感じられなかった。

 

「あの者たちは?」

 

ひしぎの質問に、京四郎は頬を書きながらどう答えて良いか少し思案し

 

「一人はひしぎさんの察しの通り、トラさんの子孫です。そして、あの女性ともう一人の青年は

 遊庵がとある任務中に拾ってきた・・・らしくて」

 

誘拐でもなければ、洗脳でもなく、偶々遊庵が任務中帰還中にボロボロになった青年と

それを護ろうとする金髪の女性に会い、暇つぶし程度に拾ってきたと話したのだ。

 

「変わりませんね。遊庵は」

 

「ええ、それがあの人の良い所かもしれませんけど」

 

ひしぎの呆れ声に京四郎も笑いながら同意する。

遊庵は生前も前科があり、前も拾ってきた者を自分の家に同居させるぐらいのお人よしだった。

 

そして、今回も同じだと京四郎は語った。

 

二人はそのまま二人の青年の戦いを離れて傍観することにした。

上級の槍同士の戦いはめったにお目にかかれるものではない、トラの子孫と呼ばれた青年の

手には十字槍が握られており、もう一人の手には──

 

「まさか、あの黒髪の青年が持つ槍は"北落師門(ほくらくしもん)"ですか?」

 

「ええ、その通りです」

 

"北落師門"は徳川家代々伝わる『魔槍』であり、四大妖刀の一つであり、

所持者の黒き血を糧にして、その力を発揮する魔槍。

 

所持者にその力を認められなければ、一切の力を発揮せず所持者の精気を吸いとる性質がある。

故に徳川の血を引くもの意外扱うことは出来ないとされていたはずだったが。

 

目の前の黒髪の青年は完全に使いこなせては居ないが、魔槍をある程度扱えていた。

 

なぜあそこまで扱えるのか京四郎に聞いてみると、

 

「ああ、なぜなら彼は──」

 

虎柄の青年が思い切り跳躍し、黒髪の青年目掛けて十字槍を投げた。

 

「これでどうや!」

 

彼の放った槍は螺旋状にもう回転し、流星のように地面目掛けて落ち、轟音と共に周囲を

砂塵で多い、地面に巨大なクレーターを作った。

 

「──の血筋なので、恐らく似ているから、だと思いますよ」

 

京四郎の説明に納得したひしぎ。

確かにあの血筋ならば、徳川家の黒き血と同じようなモノが流れてる可能性があり、

性質が似ている為扱えるとトラの子孫は考え、ハンデとして自分の武器を彼に

貸し与え、彼の考えは当たっていた。

 

槍の地面への衝突時に発生した衝撃波により思い切り吹き飛ばされた、黒髪の青年は

闘技場の壁まで吹き飛ばされ、激突し崩れ落ちた。

 

「ほれ、立たんと次ぎ行くで?」

 

地上に着地した虎柄の青年は十字槍を地面から抜き、柄の部分で肩を叩きながら、

倒れている黒髪の青年に声を掛ける。

 

明らかに虎柄の青年の方が余裕があり、倒れているほうは余裕が無かった。

 

本人たちの間にはかなりの実力の差が存在していた。

 

「──っ! まだだ、まだ俺は戦える・・・!」

 

黒髪の青年は槍を地面へ突き刺し、それに体を支えるようにして立ち上がる。

体中至る所に切り傷があり、口からも、額からも血を流しているが、眼は死んでいない。

 

「ええ根性や。ならワイの──初代の業をみせたる」

 

徳川秀忠には『紅虎』と云う名前を生前持っており、それは代々受け継がれ今はこの青年の名となっている。

そう云って彼──紅虎は青年を殺さないように槍の先端を逆にして、柄の部分を下にして構え、

闘気を全身から放出させ──

 

黒髪の青年は咄嗟に防御の形を取る。

 

「──神影(しんかげ)流奥義、逆さ八寸(はつすん)

 

槍の回転力と突進力を究極にまで高めて撃ち放つ、一点集中破壊技。

そして青年を殺さない為に逆にしたので、技名の前に『逆さ』を付けたのだ。

これは初代が『八寸』をアレンジして、戦友である盲目の侍、アキラの目を

覚まさせる為に生み出した技であり殺傷力はまったく無い。

 

初代はかなり手加減して放った為、直撃受けた頭部が地面へめり込む位の

威力だったが、この紅虎は手加減無用で放ち──

 

黒髪の青年の持つ北落師門の棒の部分に当て、思い切り吹き飛ばした。

 

一点に集中された破壊力を彼は受けきれずに、足が宙に浮き、そのまま思い切り

壁を貫通して塀の向こう側まで盛大に吹き飛んだ。

 

「──!!」

 

座って静観していた金髪の女性が血相を変えて、吹き飛んだほうへ走っていく。

そして放った当の本人は、槍を下げ深呼吸して息を整え、呟いた。

 

「これが、あんさんの目指す世界や──生半可な覚悟では生き残られへんで?」

 

そういい残し、紅虎も青年が吹き飛ばされた方向へゆっくりと足を進めて行った。

 

「流石、と言うべきでしょうか」

 

「ええ、彼もまだトラさんの域には達していませんが、それでも十分に

 強いです」

 

初代は彼より更に強い為、現代の紅虎の超える目標となっている。

あの時の狂の仲間たちの子孫を見ると、本当にかなりの時が過ぎたと、

実感したひしぎである。

 

「戦闘も終わったようですし、そろそろ戻りましょうか」

 

「ええ」

 

そう云って二人は『紅の塔』へ戻り、その後京四郎はひしぎを客室に案内し、

自分は残った仕事を処理する為に、仕事部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは案内された客室にある、ベッドに腰をかけ──一日を振り返り、

久々に疲れたと感じて、身を倒して仮眠する事にした。

 

(ソーナはきちんと修行しているでしょうか)

 

ふと、残してきた彼女たちの顔を思い浮かべながら、意識を手放した。

 

 




こんにちは、夜来華です。

すみません、今回KYO原作のネタバレしてしまいました。
ですが、絶対に必要な事だったので・・・

後、なぜ"あの青年"が北落師門を扱えてるというと、
彼の血筋が紅虎側と似てる、と思ったので、やってみました。


感想、一言頂けると嬉しいです。


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第21話 鬼神


あの人の居ない間でも、私達は全力でがんばっています

あの人が帰ってきた時に、少しでも長く戦えるように

でも、あの人がいないと、少し寂しく感じます


寿里庵に刀の製作を依頼してから、約束の5日が経った。

ひしぎは、その間壬生の街をゆっくりと観光し、久々の故郷を堪能していたのは

余談である。

 

ちなみに、辰伶、遊庵、時人、四方堂は未だ任務中でありその5日間の間一度も

この地へ帰ってきていなかった。

 

彼らの、一人を除いて3人の成長を見たかったひしぎは非常に残念に思っていが、

京四郎から写真と呼ぶ映像を紙に写す機械で取った紙を見せてもらった。

残念な事に辰伶、遊庵、四方堂はまったく容姿が変わっていなかった。

 

ただ、時人はあの頃よりかなり大人びていて、かなり成長していた。

 

(髪型以外は緋時に瓜二つですね)

 

時人の母親であり、村正の妹である緋時の容姿に髪型以外がかなり似ていた。

成長すると彼女に似ると思っていたが、予想以上に似ていたので、驚いたひしぎ。

 

(本当に父親に似なくて良かったですね)

 

親友が聞けば激怒しそうな感想だったが、幼い頃の時人性格は吹雪譲りで強気であり、

今はどっちの性格に似ているかは、会って見ないと分からなかった。

 

そう思いながら彼らが帰還するのを待っていたが、帰ってこなかった。

 

そしてひしぎと京四郎は約束の日の昼過ぎに、寿里庵の屋敷を訪れ、

屋敷の扉をノックした、数分後屋敷の内部から何かを引きずる様な音が聞こえ、

ゆっくりと扉が開かれた。

 

「あぁ・・・お前らか」

 

目の下に真っ黒な隈を作った寿里庵が体を引きずるようにして、現れた。

見るからに疲労困憊で、今にも眠りに落ちそうな雰囲気だった。

 

「だ、大丈夫ですか?! 寿里庵さん」

 

京四郎が心配そうに聞くと

 

「ああ、久々に本気で創ったから、あの日から不眠不休なんだよ」

 

寿里庵は疲れているせいか、笑おうとしているが、顔が引きつっているだけである。

そして、寿里庵は二人に少しまってろ、と言い放ち屋敷の奥へ戻って行き、

数秒後、手に刀を携えた戻ってきた。

 

「ほら、これがお前さんが注文した──新しい刀だ」

 

大きさは『白夜』を少し小さくした感じであり、生前使っていた2本目よりは

少し大きいが誤差の範囲内だった。

 

「名は──『夜天光(やてんこう)』」

 

「『夜天光』ですか」

 

寿里庵から手渡された、『夜天光』を受け取り噛み締めるように呟く。

 

「ああ、元の素材となった刀の名と、お前さんの『光』を合わせた」

 

ひしぎは壬生一族の中でも光を司る業者である。

だから、寿里庵は新しい名を『夜天』と光を合わせたて名づけたのだ。

 

「後、能力に関しては今後のお楽しみだ。単体での攻撃力は『白夜』よりは劣るが、

 能力の特性を生かしきれば最強のコンビネーションが取れるはずだ。

 まぁ、お前の事だ具現化したらすぐにその特性を掴める筈」

 

「なるほど」

 

ひしぎはゆっくりと真っ黒な鞘から刀身を除かせると、暖かい輝きが溢れ出し、

彼を包み込んだ。

 

「ええ、また貴方と共に戦える事をうれしく思います」

 

まだ、はっきりとした言葉は聞こえないが、暖かな光がそう訴えていた。

そして、腰にぶら下げている『白夜』がその光に負けじと輝きだす。

 

「うぉ、まぶし!」

 

いきなり生み出された光に目を窄める寿里庵、その光景を一歩後ろから

微笑みながらやり取りを静観している京四郎。

 

「そうですね『白夜』。今度こそ最後まで共に居ましょう」

 

『白夜』の訴えも頷き、優しく柄をなぞるひしぎ。

その光景を優しく見守る二人。

 

「さて、俺は徹夜続きで眠気が結構限界近くまで来てるから、休む。

 お前さん達二人はどうする?」

 

寿里庵は依頼された刀をひしぎに渡した達成感を感じつつ、

目を擦りながら聞くと。

 

「そうですね」

 

ひしぎが何か思いついたのか、京四郎へ向き直り、

 

「この子の感覚をすぐに掴みたいので──私と手合わせしてもらえますか?」

 

「なっ──」

 

その瞬間、寿里庵は言葉を詰まらせ、彼も京四郎に向き直ると、

京四郎は一瞬考えた後、微笑んだまま。

 

「ええ、僕でよければ喜んで」

 

手合わせの承諾をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寿里庵は流石にこの手合わせは見ておかないと損すると思い、

無理やり眠気を我慢しつつ、二人の後を付いて行った。

 

ただ、京四郎が手合わせをするに辺り、出した条件があった。

それは制限時間である。

 

この後、会議がある為長くは出来ないので、10分間のみの手合わせとなった。

 

数分後、3人が訪れたのは第4の五曜の門内部にある大闘技場だった。

既に前回と同様、紅虎と黒髪の青年が手合わせをしている最中であり、

後方で待機していた金髪の女性に京四郎が歩み寄り、事情を話すと快く承諾し、

戦っている二人に声をかけ、戦闘を中止させた。

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「いえ、私どもは使わせて頂いている身なのでお構いなく」

 

京四郎が突然の申し出に謝罪すると、金髪の女性は微笑みながら答えていた。

 

「では、ひしぎさん。早速ですが始めましょうか」

 

「わかりました」

 

京四郎はひしぎを促すと、大闘技場の中心部まで歩き、彼と対峙した。

 

そして京四郎は数メートル離れた位置にいてるひしぎを見据えながら、

刀を鞘から抜き、ゆっくりと構えた。

 

なぜ、京四郎がひしぎの提案を受けたのには理由があった。

一つは彼が敵に回った場合、どれぐらいの力を有しているかを図る為である。

ひしぎは歴代太四老の中でも最強と謳われ、死の病に冒されながらも、

その称号を維持し続けていた。

 

体の半分が崩れ落ちた状態でさえ、覚醒前の狂や、当時の遊庵と互角以上の戦いを

繰り広げ、"紅き眼"を発動した状態では圧倒するほどの戦闘力を持っていた。

 

だからこそ、万全に近い状態での彼の力を図る良い機会だと思ったのだ。

 

二つ目は個人的な理由であり、最強の処刑人と謳われた彼に対して

自分は最強の"鬼神"(闇の暗殺者)と呼ばれていたので、生前、

一度で良いから手合わせしたかったと云う思いもあったのだ。

 

狂や紅の王、「紅十字」の四守護士(レッド・クロスナイツ)を抜くと壬生一族の

中でも一番強い男が、ひしぎである。

 

だからこそ、彼と手合わせする事で色々な事が把握できるのだ。

 

 

 

 

ひしぎ自身も京四郎と同じような考えを持っていた。

 

確かに、『夜天光』の感覚を掴む理由もあったのだが、

生前、京四郎の強さは先代紅の王から聞いており、強さを求めた一人の男として、

最強の名を持つ彼と一度は戦ってみたいとおもっていたのだが、

死の病により全力が出せない体になってしまい、その思いは死んでいたのだが、

再会と同時に蘇り、好機と思ったのだ。

 

そして、万が一彼らがソーナ達の敵となった場合の最大戦力の力を

把握する為でも合った。

 

お互い思惑があるが、本心から戦ってみたいと思っていたからこそ実現したのだ。

 

 

そして、ひしぎから動いた。

 

一瞬で京四郎の目の前に姿を現すと、鞘から抜いていた『夜天光』を斜めから振り下ろす。

京四郎は構えていた腕を対なす形にし、刃を受け止める。

 

鉄と鉄がぶつかり合う音が周囲に響く。

 

すると、京四郎は受け止めていた刀をそっと流すように後ろに下げ、

ひしぎの刀をいなした。

 

対するひしぎは構うことなくそのまま刃を方向転換させ、下から切り上げるも、

紙一重で回避される。

 

すれ違いざまに京四郎の刀が体を掠める。

 

その後もフェイントを混ぜながら左右や上下から斬撃を無数に

繰り出すが全て受け流されてしまう。

 

だが、剣戟を繰り返すたびにひしぎの攻撃速度が格段に速くなっていき、

観戦している4人にはぎりぎりまだ見える速度だが、天井知らずなのか、

速度は停滞せず、上がり続けている。

だが、そんな速さでも京四郎は寸分違わず相殺していく。

 

ひしぎが刀を振るうたびに、余波で地面に亀裂が走り、剣圧で地面が陥没する。

徐々に徐々にと戦闘区域の中心の地盤が低くなってきている。

 

それでも、お構い無しに暴風のような攻撃を繰り出すひしぎ。

たった一撃受けただけでも致命傷になるぐらいの攻撃力と速さを兼ねそろえているが、

京四郎の表情は崩れない。

 

観戦者の4人はその攻撃のすさまじさに、言葉を失いつつも、

決して目を逸らすことができなかった。

 

圧倒的な速さ、攻撃力の余波で周囲を破壊していくひしぎ。

ただただ、それを難なく相殺、受け流す京四郎。

 

現代においてもこれほどの手合わせを見るのは奇跡に近い出来事だった。

戦う者として、是非とも一部始終を脳裏に焼き付けたいぐらいの戦いである。

 

その後何合か打ち合った後、漸くひしぎは距離をとった。

 

京四郎は追撃せず、そのまま刀を構えていた。

 

すると、ひしぎは確認するように呟いた。

 

「それが噂に聞いた「陰」の太刀ですか」

 

「…」

 

ひしぎの問いかけに、答えない京四郎だが表情を見るからに

正解だと表している。

 

ほとんどの戦いは力量(プラスエネルギー)を競う戦いであり、

業の違いはあれど、力で攻撃して、それを上回る力量の攻撃、防御。

 

いわば「陽」対「陽」(プラスのエネルギー同士)の闘いなのだが、

京四郎のその太刀筋は、「(プラスエネルギー)」の業を瞬時に見切り、

相反する「(マイナスエネルギー)」で受け流し、相殺する。

 

「陰」の太刀とは如何なる業をも無効化してしまう技術である。

 

その攻撃の性質上「陽」と「陰」は対極であり、力押しのタイプには

もっとも苦手とする性質なのだ。

 

ソーナ達悪魔から言わせれば、究極特化したテクニックタイプである。

 

万全とは言いがたいが、ある程度回復しているひしぎの攻撃を

一寸違わず瞬時で見切り、受け流しをする京四郎。

 

「まさか、これほど厄介だとは思いませんでした」

 

話には聞いていたが、実際体験するまでその厄介さを侮っていた。

確かに当時の『鬼眼の狂』を圧倒できた訳だと納得した。

 

すると、眼前の京四郎が刀を逆さにし、突くような構えを取った。

「何か来る」と悟ったひしぎは咄嗟に『夜天光』を鞘に戻し、『白夜』の刀面を顔の前に構えた。

 

その瞬間突風が体を通り抜けたと思いきや、鉄と鉄のぶつかる音が響き、

無数の痛みが全身を襲い、体の至る所に裂傷が走った。

 

ひしぎは追撃を回避する為に大きく後ろへ飛び退き、『白夜』を戻し、

再び『夜天光』を構えそのまま縦に振り、光の斬撃を京四郎目掛けて放った。

 

突きの構えを解いた京四郎は刀身を迫り来る斬撃にそっと当て、軽く振り、

斬撃を消失させた。

 

だが、ひしぎはそのまま無数の光の斬撃を京四郎目掛けて追撃で追加する。

 

光速で迫ってくる斬撃を京四郎は慌てることなく、全て相殺、受け流す。

すると、最後の斬撃を消した瞬間、ひしぎが眼前に詰めて来ており、

刀を上から斜め下に降った後だったため、切り替えしが間に合わないと悟った京四郎は

横から迫り来る刀を、上半身を思い切り後ろへ反らし、回避行動を取る。

 

ひしぎは避けられたのは想定の範囲内であり、すぐさま刀を切り返そうとした瞬間、

下から迫り来る影が視界に入り、咄嗟に身を引いた。

 

するとひしぎの顎を京四郎の右足の膝がかすり、追撃に左足の蹴りが下から襲い掛かってきた。

京四郎は刀を離し、体を思い切り反らしブリッジ状態のまま蹴りを放ったのだ。

 

流石に食らうわけにもいかず、片足で一歩下がるひしぎ──しかし、京四郎の攻撃は

まだ止まっていなかった。

 

そのまま身を翻した京四郎は刀を拾うことなく、一歩前進し

体制を整え右蹴りを放つ。

 

「──っ!」

 

ひしぎは前進しかけていた足を無理やり後ろへ蹴り、腹部を掠めただけで済んだのだが、

目の前の京四郎は蹴りの勢いのまま回転し、左足での回し蹴りを放ってきた。

 

これは避けきれないと悟ったひしぎは、左腕で腹部を防御するが、

衝撃は殺せず、思い切り吹き飛ばされた。

 

轟音と共に思い切り外壁に激突するひしぎ。

 

更に追撃に入ろうと刀を拾った京四郎は前後左右から迫り来る

斬撃の存在を感じ取った。

 

「っ! 何時の間に!?」

 

光速で迫りくる光の斬撃を体を回転させながら全て相殺すると、

 

「これならどうです?」

 

不意に頭上から声が聞こえ、見上げてみるとひしぎが既に上空で光の斬撃を

京四郎目掛けて放っていた。

 

「ならば」

 

京四郎は同じように斬撃を上空へ放ち、全て相殺した。

そのままひしぎは京四郎から距離を取って着地した。

 

「まさか、貴方まで体術を使うとは、それもかなりの熟練度ですね」

 

先ほどの京四郎の体術は内心かなり驚いていたのだ。

 

「ええ、遊庵と手合わせをしていたらどうしても、体術が必要になる時が多いのと、

 極力武器が無くても敵を倒せるようにしたかったので」

 

ひしぎに褒められて頭を掻きながら恥ずかしそうに説明する京四郎。

 

だが、これでひしぎは確信した。

 

京四郎は武器が無くても十分に強いと。

そして、自身の体を見直し、京四郎の方も見る。

 

至る所服が破け、裂傷も十以上ある。

これは京四郎による神速の突きと相殺された時、カウンターで斬撃を

食らっていたのだ。

 

そして、今の蹴りにより左腕が痺れており、もうこの手合わせの間は

左腕が使えない事が分かった。

 

対する京四郎は無傷である。

服は所々汚れているが、目だった破れなどは無い。

 

これらを見る限り、自分と京四郎にかなりの力の差が感じられると、

悟ったひしぎ。

 

やはり『鬼神(きしん)』の称号を持つ者だと再確認した。

 

だが、ひしぎは内心高揚感に満ちていた。

 

久々に出せる全力を全て出してもよい相手に出会えたのだ。

今の今まで眠っていた血と昂揚感が一気に目を覚まし、全身を駆け巡る。

 

そして、ゆっくりと眼を閉じ──意識を切り替え

 

「いきます」

 

右足に力を籠め、思い切り地面を蹴った。

その瞬間地面は陥没し、小規模の穴を創りひしぎは姿を消した。

 

それを見ていた寿里庵を除く3人の体に引き裂かれるような、

全身総毛立つ感覚、今まで感じたことの無い"絶対的な恐怖"が襲い、

体中が最大警報で、危険と発した。

 

「──これは…!!」

 

観戦していた紅虎が襲い掛かる殺気に苦しげに言葉を漏らす。

 

「──っ!?」

 

黒髪の青年は、その重圧に呼吸すら間々ままらない状態で、必死に意識を繋ぎとめようとしてた。

 

「──あいつ、生前の力が戻ってきてるじゃねぇか…!」

 

寿里庵でさえも久々に全身で肌を焼くような感覚を体験していた。

 

ひしぎは音も無く一瞬で京四郎の背後へ回ると、全力で下から上へ斜めに切り上げた。

京四郎は振り向きざまに、刀で受け止めるが

 

「はぁっ!」

 

受け流し、相殺させまいとぶつかる直前に力を籠める。

だが、京四郎もそれは想定内だったが──

 

「──っ!」

 

勢いが良く相殺しきれずに、思い切り上空へ飛ばされてしまう。

だが、ひしぎの攻撃はまだ止まっていなかった。

 

京四郎は自分より高い位置にひしぎの気配を感じ、無理やり刀を上に向け防御姿勢を取る。

一瞬で京四郎の頭上へ現れたひしぎは構うことなく全力で刀を振り下ろし、

まるで、バットをフルスイングしたような勢いで刀を叩きつけ、

 

「──!」

 

京四郎は流星のように猛スピードで落下し、轟音と共に地面へ激突し地面が割れた。

ひしぎはそのまま『夜天光』を振り下ろし、光の斬撃を追撃として京四郎目掛けて

先ほどの倍以上の数を放った。

 

爆撃音が周囲に何度も何度も木霊し、かなり離れて観戦していた4人の元にも

衝撃波や埃が襲い目を開けていられる状態では無かった。

 

二十を数えた辺りで光の斬撃の雨は止み、ひしぎはそっと地面へ降り立ち、

爆撃の中心部に視線を向けるひしぎの瞳は"紅き眼"となっていた。

 

"紅き眼"となる事で先ほどの数倍以上の戦闘力が上がる。

そして、今のこの体の状態でも使える事を確認できた。

 

すると、中心の煙が渦を巻いて上空へと上っていく。

 

数秒後陥没したクレーターの中心部から神風吹き、甲羅のような風景が浮かび上がり、

京四郎を護るべく全方位に張り巡らされ、煙が消えたと同時にソレも消えた。

 

「──無明神風流奥義『玄武』ですか」

 

「ええ、流石にその状態のひしぎさんの光速刀を受けると、無事じゃ済まないので」

 

『玄武』とは無明神風流四大奥義の一つであり、

天地を覆う大気の壁と縦横無尽な神風が織り成す、どんな業でも無に帰(相殺)してしまう

『完全絶対防御拘束業』なのである。

 

ひしぎはこの業を見るのは2度目であった。

 

「…」

 

先ほどと違って京四郎の服はボロボロであり、至る所が土で汚れ、

左腕からは出血が確認されていた。

 

しかし、京四郎は笑みを崩していなかった。

 

そして彼自身まだ"紅き眼"ではなかったのだ。

 

確かに"紅き眼"になれば、現状の京四郎相手ならば五分以上戦いが出来るが、

彼がソレを発動させれば──勝機は無いと確信した。

 

そう、"今"は無いだけである。

 

それを認知しながらもひしぎは更に攻撃を繰り出そうとすると、

外部からけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

「──っと、時間だ」

 

観戦夢中になっていた寿里庵の手に握られていたストップウォッチが時間に

なった事を知らせていたのだ。

 

「終了ですか」

 

「ええ、すみません」

 

申し訳なさそうに謝る京四郎、するとひしぎは首を横に振り

 

「いえ、有意義な時間をありがとございました」

 

そう言って京四郎に一礼した。

 

「ですが、また機会があれば再戦をお願いします」

 

「分かりました」

 

京四郎はそう言うと懐から携帯電話を取り出し、土の業者の者へ連絡を入れ、

荒れ果てた大地となった大闘技場の修復要請をだしていた。

 

「すみません、時間も迫られているので、僕はこれで」

 

「ええ」

 

会議の時間が迫っていたので、京四郎は後のことを寿里庵と紅虎に託し、

急いで自室へ向けて走っていった。

 

「ここは俺たちが後始末をしておくから、お前も休んで来な。

 その腕、もう使えないんだろ?」

 

寿里庵はひしぎが左腕が使えない事を悟っていたので、自分に任せて休むように

言い聞かせた。

 

そう言われたひしぎは、その厚意に甘える事にして

 

「──わかりました。では、お願いします」

 

4人に頭を下げたひしぎは部屋へむけ足を進めた。

 

京四郎とひしぎが居なくなり、土の業者が来るまで暇となった4人。

すると、寿里庵が3人に問いかけた。

 

「お前達、今の戦いを見てどうだった? ──あれが、あの凄まじい戦いが、

 紅虎、お前さんの初代が体験していた戦いだ」

 

京四郎やひしぎ、一部の者と比べると、初代紅虎は数段ランクが落ちてしまうが十分に

神話に残せるほどの強さを持っていた。

 

「ああ、見てただけでも体中の血ィが燃え滾る思いや…! 流石ワイのご先祖様や。

 はよう強よなって、手合わせ願いたいわ」

 

普段は線目な紅虎だが、今は開眼しており、壮絶な笑みを浮かべていた。

 

「なるほどな──曹操、お前はどうだ?」

 

紅虎の隣で、重圧を受けていた際に出た冷や汗を拭いている黒髪の青年──曹操にも

寿里庵は話を振った。

 

「──俺は、自分自身を正直、人間の中でも強い分類に入ると認識していたけど、

 この戦いや、壬生の人々と触れ合って分かった。 自分はまだまだ弱い分類だと。

 特に今の戦い、序盤は見えていたが途中から一切ひしぎさんの攻撃、

 京四郎さんの防御が見えなかったんだ」

 

最近まで自分の力は強いほうだと認知していた彼にとっては、ここで過ごす日々や

手合わせ、そして今の戦いを見てその認識を改める切っ掛けとなっていたのだ。

 

「正直、俺が見ていた世界は狭かったのかもしれない──今は無理かもしれないけど、

 俺もいつかあの人たちを同じような土俵に上りたい」

 

曹操の心の中では童心に戻ったような感覚が湧き上がっていた。

種族関係なく、強さを求める一人の人間としての本能である。

 

「そしてここに来てよく分かったことがある。 聖槍が無くとも俺は強くなっていることに」

 

とある理由で彼は持っていた『神滅具』の一つである『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』は

手元に無く、今は『北落師門』を紅虎から貸し出されている。

 

能力に頼る戦闘スタイルだったが、武器が変わることによりスタイルを一変させた結果。

聖槍を持っていた頃より強くなっていると確信している曹操。

 

「そうか、それはお前さんにとっては良い収穫だったな」

 

「ええ、そうです」

 

寿里庵の言葉に笑みを向ける曹操。

その顔は晴れやかだった。

 

自分と寿里庵のやり取りを見て微笑む金髪の女性に曹操は気がついた。

 

「ジャンヌもそう思うだろ?」

 

「うん、曹君は前より強くなってるし、明るくなったよ」

 

金髪の女性──ジャンヌはそう評価し、曹操の頭を撫でた。

くすぐったそうに目を細めながら曹操は軽くジャンヌの手を押しのけた。

 

「俺はもう子供じゃないんだから」

 

「そうだね」

 

手を払いのけられても柔らかい笑みを崩さないジャンヌ。

彼女の中では何時までたっても手のかかる弟のような感じなのだ。

 

そんな二人の雰囲気を微笑ましく見守る紅虎。

寿里庵も笑みを二人に向けながら、別のことを考えていた。

 

(京四郎はともかく、ひしぎの奴もある意味全力じゃなかったな)

 

京四郎は、誰が見ても手合わせの中での全力だった。

ひしぎの方は寿里庵は本気かと思っていたのだが、

死ぬ前ぐらいの強さであったことを思いだした。

 

言い方を変えれば、左半身が崩れていた状態での強さだったのだ。

見ていた限り、治っているがまだその崩れた左半身を庇う癖が抜けておらず、

時折、攻撃パターンに硬直が数箇所あった。

 

だからこそ

 

(あいつが左半身の崩れる前の強さを取り戻したら…)

 

更に強さが上がると確信し

 

(まいったな・・・遊庵。お前、また強さを超されるかもしれねぇぞ)

 

そう思うと、苦笑するしかなかった寿里庵だった。

 

そして、漸く土の業者が現れ、二人は修復作業をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ひしぎは翌日まで休養し、駒王町へと帰還することに決め、

帰還する前に、京四郎の元へ挨拶に行き、その後寿里庵と共に伊庵の墓参りをした。

 

そして京四郎と寿里庵の二人に見送られながら、故郷である壬生の地を後にした。

 

この6日間は非常に有意義な出来事ばかりであり、とても懐かしさを堪能できる

日々だった。

 

第一の目的である武器の入手

 

壬生の現戦力の把握

 

京四郎と自分の現在の全力での力の差

 

壬生一族の構成する組織の目的や行動原理、どういったたち位置か

 

自分達の『信じた』者達が残した歴史や道など、色々収穫が出来た。

 

そして、若き壬生の戦士たちが今も尚、人々を守護している事に

嬉しくもあり、誇りを感じていた。

 

本当にこの地へ戻ってきて正解だと思える6日間だったのだ。

 

ここにずっと居てもいいですよ? と、京四郎から言われていたのだが、

ひしぎの中では故郷であるが、今の自分の居場所はソコに無いと言い、

ソーナ達の元へ戻ると伝えたのだ。

 

また、暇があれば来ます。 と、言い二人の前から姿を消したのだ。

 

 

 

 

 

 

数時間後、駒王町へ戻ってきたひしぎは、駅へ向かった。

あらかじめソーナに帰る連絡を送っていたので、すでに地下にある駅のホームには

シトリー家専用の列車が止まっていた。

 

前回乗車した時と同様の車掌だった為、ソーナから渡された身分証明書を渡し、

すぐさま乗車した。

 

すると程なくして駅構内で汽笛が鳴り響き、列車がゆっくりと動き出し、

シトリー領へ向けて動き出した。

 

ひしぎはその間に今後の事を考えていた。

この旅により日本の勢力図、現在の壬生一族の戦力をある程度は把握できた。

 

京四郎の話を聞いている限り、遊庵、時人、辰伶、四方堂は生きており、

ひしぎが生存していた、時以上の強さになっていると聞かされており、

恐らく、生前の自分たち太四老クラスかそれ以上だと認識している。

そして、それらの頂点に立つのが京四郎である。

 

あの頃の先代紅の王、真の壬生一族の体に戻った狂を恐らく凌駕していると、

手合わせで感じ取り明らかに過剰戦力である為、敵対はしないようにソーナに

再度忠告しておこうと、ひしぎは考えていた。

 

万が一敵対した場合の対策方法を考えてみるが、今の所思いつかず、

ただ、一つ思ったのは自分も病が治ったことにより、更なる強さを

身に付けることが出来ると確信していた。

 

もう、地位に縛られるような暮らしではない。

好きに生きて云いのだ──ならば、彼らを鍛えるついでに自分自身も

一から鍛えなおそうと考えていた。

 

彼も一人の男であり、負けず嫌いな為、今一度最強への道を歩む事にしたのだ。

そしてゆくゆくは、京四郎と本気の戦いが出来るように──。

 

生きる目的がもう一つ追加され、その表情は生き生きとしていた。

 

そしてもう一つ、ひしぎは刀が出来る間の5日間の間、

観光が終わった後、京四郎に頼み、壬生一族に存在する流派にまつわる資料を

見せてもらっていたのだ。

 

生前、他の流派には興味を示さなかったひしぎだが、ソーナ達の為にほぼ全ての業、

特殊能力を暗記し、誰にどう教えるか、脳内で構築していく。

 

もしそれらを習得できた場合、彼女たちはより一層強くなり、

更なる高みへと上る事が出来るのだ。

 

そして、それらを相手に訓練する事により自分自身の動きを見直し、

磨きをかけることが出来るので一石二鳥である。

 

そう思いながら、ひしぎは目を瞑り、列車の揺れに身を任せながら

思考を深めていく。

 

 

 

数時間後、シトリー領前の駅につくと、ひしぎは車掌にお礼を言って下車する。

そして、前回と同様の道を進み、外へ出る。

 

「ひしぎさん!」

 

外に出た瞬間、駅前にある大きな広場からソーナがひしぎの名を呼び

こちらに向かって走ってきていた。

 

「ソーナ・・・?」

 

呼ばれた方向へ顔を向けると、なにやら深刻そうな表情を浮かべているソーナが

目に留まり、何と無くだがひしぎは悪い予感を感じた。

 

数秒後、ひしぎの傍らに来たソーナは全速力で走ってきたのか、肩で息をして、

胸に手をあて呼吸を整えていた。

 

彼女が言葉を発するまで待つひしぎ、すると、漸く整えたのかソーナは

顔を上げ口を開けた。

 

「おかえりなさい、ひしぎさん」

 

「ええ、ただいまです。ソーナ」

 

久々に言葉を交わす二人、ソーナは先ほど取っていた表情を崩し、柔らかく微笑む。

ひしぎもそれを返すと、ソーナは嬉しそうに喜び、そしてまた表情を戻した。

 

「ひしぎさんに一つご報告があるんです」

 

「…」

 

「小猫さんが一昨日の夜から行方不明なのです」

 

「…なんですって?」

 

その後二人は一旦シトリー家の屋敷に戻るべく、徒歩で岐路についた。

 

 

 




こんにちは、お久しぶりです夜来華です。

大変お待たせして申し訳ないです。
仕事の方で大きな案件が入ってきたので、大忙しでまったく余裕がありませんでした。
後、花粉でもう全てにおいてやる気が・・・

昨日と今日漸く休みが取れたので書き上げました。
しばらく更新は不定期ですが、がんばります。

後、始まったHDDの3期が丁度書いてるところなので、以外にモチベがUP、
背景が読み取り易くて書きやすかったです。


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第22話 小猫



もう、どうしたらいいか分からない


どうしてこんな事になったんだろう


助けて──姉様──ソーナ先輩──ひしぎさん




シトリー家の屋敷に戻る道中、ソーナは簡潔に知っている事をまとめ、ひしぎに伝えた。

一昨日の夜、冥界に各神話の神々が訪問する為、護衛と云う名目でルシファー領にある

お城でパーティに参加した事。

 

その時、ソーナと小猫は一度話をしており、その時から何か無理をしている状態だった。

心配になったソーナは小猫と離れないようにしていたが、議員の一人に呼ばれ、

彼女から離れる事になってしまったのだ。

 

その後、何かを感知した小猫はパーティ会場から抜け出した。

 

「抜け出した後、森の中で何かが起き、気絶した小猫さんは一度リアスに

 保護されたと聞いたのですが、目を放した隙に病室から居なくなっていたと、

 ──リアス自身から連絡がありました」

 

城を抜け出した後、起こった出来事は後ほど説明するとリアスから言われ、

今は小猫を探すのに協力して欲しいと今朝、連絡があったのだ。

 

リアスの話では小猫の精神状態が酷いらしく、詳細に話している時間は無い為、

グレモリー眷属と、家の使用人総出でグレモリー領を捜索している。

 

そして、小猫がソーナと仲がよかったことを思い出したリアスは、一応自身の眷属の

問題なのだが、ソーナに協力を要請し、彼女は了承したのだ。

 

一旦訓練を中止し、匙達に小猫の捜索を指示し、椿姫には問題となった現場へ向かわせ、

城の使用人たちに何があったか聞き込みをお願いしたのだ。

 

ソーナ自身も小猫の捜索に、使い魔である『ベイ』を放ち、自身はひしぎを迎えに行き、

事情を説明した後参加するつもりだった。

 

合流したのち、一旦情報収集の為に屋敷に戻る途中、ひしぎは消え入りそうな

小猫の気配を感じ取ったが、隣にいるソーナはまったく気がついていなかった。

 

「ソーナ」

 

ひしぎがソーナに声をかけ、彼女がこちらを向くとそっと右手で屋敷の外縁部を指差した。

正面から見たら映らない角度だが、屋敷を覆う柵に手を当てながらゆっくりと

ふらふらした足取りで外縁部を歩く小猫の姿があった。

 

「小猫さん!?」

 

まったく気配を感じなかったソーナは驚きの声を上げ、慌てて彼女の元に駆け寄り、

顔を覗くと──

 

「──っ?!」

 

小猫の目には光が無く、焦点が合っておらず、生気が抜けたような表情だった。

体から発する気配も、消えかけており死人のように感じたソーナ。

 

「…」

 

彼女は二人に気づかずゆっくりと前へ進もうとし、隣にきたひしぎが

そっと彼女に呼びかけた。

 

「小猫さん」

 

大きくも、小さくも無いただただ優しげな声で小猫の名前を呼んだその瞬間──

 

「──ぁ」

 

小猫の足は止まり、何かを探すような感じで周囲を見渡した。

そして、ひしぎは膝を折り、彼女の目線の位置に顔を持ってくると、右手で優しく

頭を撫でながらそっと声をかけた。

 

「私はここですよ」

 

その瞬間──小猫の瞳に光が戻り、何度か瞬きした後溢れ出る涙。

雫が顔を伝い、地面を濡らす。

 

「──っ! ひしぎさん!」

 

今まで忘れていたもの、堪えてきたものが一瞬にして湧き上がり

小猫は感情の赴くままひしぎに抱き付き、首に手を回し、肩に顔を押し付けるようにして泣いた。

 

止まる事を知らない涙は、堪えてきた悲しみ、絶望、怒り、戸惑い、恐怖を

全てさらけ出す様に流れた。

 

「よく、がんばりましたね」

 

小猫の涙の意味を感じ取ったひしぎは優しく彼女の撫で続け、小猫の気の済むまで

泣かせてあげようかと思ったのだ。

 

そして開いている片手で、簡単な結界を生み出し、自分を含めた3人を覆い隠すように

展開した。

 

周囲の雑音を遮断し、気配を断ち、誰の目にも留まらぬようにした。

 

ひしぎはそっと小猫を抱きかかえるとソーナに目を配らせると、彼女は頷き、

結界を維持したまま屋敷の中へ入っていった。

 

ひしぎは自分に与えられていた客室へ向かい、部屋に入るとベットの上に小猫を座らせ、

まだ泣き止まない小猫を優しくあやし続けた。

 

よっぽどつらい事があったのだろうと、ひしぎは内心思っており、

小猫の体から彼女ではない誰かの血の匂いが感じ取れていたのだ。

 

すると、扉がノックされひしぎが返事をするとソーナは飲み物を手に部屋に入ってきた。

 

「お父様とお母様には事情を話してきました。 ですが、リアスにはまだ報告していません」

 

ソーナの報告に頷くひしぎ。

 

「ええ、今はそれで良いかと」

 

何となくだが、リアス達の元を離れ、自分達の元へ無意識に来るほどの訳ありだと

判断したソーナは小猫から事情を聞いてからでも遅くないと判断し、

リアスへの連絡は取りやめた。

 

 

 

 

 

 

 

二人は彼女が事情を話せるまで待ち、数十分後漸く小猫は泣き止み、渡された

タオルで顔を拭き、ベットに腰をかけたまま泣き腫らした目は俯き加減で、

ゆっくりと話し始めた。

 

「私は、あの後会場の片隅で少し考え事をしていました」

 

ソーナが議員に呼ばれ離れて言った後、小猫は持っていた飲み物を片手に

そっと会場の片隅に移動し、壁にもたれながら考え事をしていたのだ。

 

どうやったらリアスとの関係が元に戻るかを、小猫は考えており、

現状二人の雰囲気はギクシャクしており、話すに話せない状況だったのだ。

 

リアスには色々助けてもらった過去があり、だからこそ元通り戻りたいと願っていた。

そして、もう一つ小猫の中で燻っている案件があった。

 

それは実の姉の存在である。

この間までは恐怖と自分を捨てていった姉への怒りの方が強かったのだが、

仙術を受け入れてから、覚えの無い記憶が小猫の夢に何度も何度も再現されていた。

 

──君に辛い事を押し付ける事になってしまい、本当にすまない■■

 

──いえ、これは私にしか出来ない事なので

 

──だけど、私は■■■■■んだ

 

──はい

 

──私の愛しい眷属■■。君たち姉妹には感謝しきれぬほど多くのものを貰った

 

──私はそのお言葉を頂けただけで、どんな辛い道でも耐えれます

 

──ああ、ありがとう

 

黒いモヤが掛かった男女の会話、思い出そうとしてもこの先からは思い出せないのである。

とてもとても懐かしい二人の声。

 

この記憶とリアスのと関係の狭間で小猫はかなり精神的にも消費していたのだ。

だが、リアスとの関係の方は先延ばしにしたくないため、どうやって

修復するか模索していると、本来あるはずの無い気配を感じた。

 

「──っ?!」

 

視線の先にある外枠のテラスにあるテーブルの下に黒い猫が小猫の方をずっと見ており、

視線が合うと黒い猫は歩き出し、柵の間から下へ飛び降りた。

とても懐かしく、大好きだった気配──その瞬間小猫は、考え事は消え失せ、

気配の感じる方向へ無意識に足を進めていた。

 

会場のエレベーターで1階まで下り、城の後ろにある森を目指した。

 

気配は森の中から感じるのだ、森の中に足を踏み入れるとそこは闇夜の世界であり、

手入れがされているのか、それほど走りにくい場所ではなかった。

 

生い茂った木々の間をすり抜け、月の光のみを頼りに奥へ進むと数分後、

ひときは大きな木が目の前に現れ、小猫は立ち止まった。

 

気配の持ち主はこの木の上に居ると確信し、恐る恐る顔を上げてみると、

其処には、太い枝に寄り添いながら小猫を優しく見下ろしている、

黒い着物を着た女性が居た。

 

「──久しぶりね、白音」

 

その声、その雰囲気、その眼差し、小猫に懐かしさに全身を震わせながら呟いた。

 

「黒歌姉さま──」

 

黒歌と呼ばれた女性は、小猫の実の姉であり、たった一人の家族だった。

頭部には猫耳が生えており、背後には二つに割れた尻尾が見え隠れしており、

猫又である証拠だった。

 

そして、黒歌に呼ばれた名前こそが本来の小猫の名前であった。

 

「よっと」

 

黒歌は身をゆっくりと体を起こし、枝の上に立ち上がるとそっと地面へ降り立った。

その瞬間小猫は身を硬くして後ずさったが小猫との距離はわずか2メートル。

 

そして黒歌は優しい表情を浮かべたまま、ゆっくり一歩ずつ近づいてくる。

 

「──っ」

 

小猫は近づいてくる彼女に、懐かしさ嬉しさ、そして自身を捨てた怒り、悲しみ恐怖など、

様々な感情が心の中でそれらが渦巻き、身動きが取れなかった。

 

黒歌は小猫の目の前で止まると、そっと両腕を突き出した。

その瞬間小猫は体を震わせ目を瞑ってしまう。

 

「──会えて良かった」

 

優しい言葉と共に両腕が小猫の背に回され、そっと壊れ物を扱うかのように抱きしめた。

 

「──えっ」

 

抱きしめられた小猫は咄嗟に声を漏らし、柔らかいものに包まれた彼女は

そっと目を開けた。

 

目の前には豊満な胸が目の前にあり、自身の顔が姉の胸に埋もれている事を知り、

大好きだった姉の匂いに包まれている小猫は、先ほどまで燻っていた

恐怖や怒りなどが吹き飛び、懐かしい気分が彼女を支配した。

 

黒歌はそっと小猫の顔を胸から離し、抱きしめたまま語りかけた。

 

「──本当に大きくなったね。お姉ちゃん感動しちゃった」

 

右手で優しく小猫の頭を愛おしく撫でながら発する言葉は、とても優しくて、

とても悲しそうに聞こえた。

 

そう感じ取った小猫は何もいえないまま全身の力を抜き、そっと目を閉じ黒歌に身を委ねた。

二人はそのまま数分間お互いの温もりを、離れ離れになった寂しさを

埋めるように抱き締め合った。

 

すると、小猫と同じように目を瞑っていた黒歌がそっと顔を上げ先ほどとは違い、

冷たい瞳で小猫の後ろの林の中に視線を向け

 

「気配を消しても無駄にゃ。仙術を知っている私からすれば、気の流れに少しでも

 変化があれば分かるにゃ」

 

そこにいる誰かに聞こえるように言い放った。

まだ、仙術を受け入れたばかりの小猫は、まだ気の流れを読みきれておらず

気づいてはいなかった。

そっと黒歌から顔を離し、姉の視線を辿ると、真っ黒な林の中から二人組みの

男女が出てきた。

 

「──イッセー先輩、部長」

 

一誠とリアスの二人であった。

 

小猫が会場から出るのを見ていた一誠は最近の小猫の在り方に不安を抱いていたので

追いかけようと思い、エレベーターに乗り扉が閉まる瞬間、リアスも

エレベーターに乗り込んできた。

 

リアスが一誠に何があったのか問いかけると、彼は事情をリアスに話し

二人で小猫の捜索に乗り出したのだ。

 

その後、リアスの放った使い魔が小猫を発見し追いつき現在に至る。

 

そして二人が現れた瞬間、黒歌の後ろから気配がもうひとつ現れ、

その人物は黒歌と小猫の少し右横に止まり、眼前の二人に声をかけた。

 

「よう、お二人さん。久しぶりだな」

 

現れた美猴に少し身を構えながら一誠は相手の名を思い出した。

 

「テメェは確か、──美猴か」

 

「おうよ、俺っちの名前を覚えていてくれたのか。嬉しいねえ」

 

ヴァーリのライバルである一誠に名を覚えられていたのが、嬉しいのか美猴は笑い、

一誠の在り方をよく観察し、前回会った時より体を覆うオーラの量が倍増している事に

気がついた。

 

「お、前回会った時より。かなり強くなってるじゃねえか」

 

その言葉に一誠は目を丸くし、警戒心はそのままでリアスに問いかけた。

 

「部長、仙術って魔法使いたちが使う魔術や魔法とは違うモノなんですか?」

 

一誠の問いにリアスは嘆息しながら説明し始めた。

 

要は仙術は気であり、生命に流れる大元の力であるオーラ。

悪魔の魔力、天使の光力とは別物であり、直接的な破壊力はまるで無い。

仙術は気の流れを操作する術であり、さらに細かく砕いて言えば、

ゲームで言う身体能力向上や、気配探知、周囲にある自然の花や木々などを

一瞬で咲かせたり生やしたり、その逆もできるようになる。

 

つまり、魔力などとは別にある人間の体内に秘めてる未知の部分を使って

使用することができるのだ。

 

二人がそうやって会話している間、美猴は笑みを浮かべつつやり取りを

聞き入っている。

 

そして黒歌はと云うと、誰もこっちを見ていないか確認すると、そっと小猫の

耳元に口を近づけ呟いた。

 

「大丈夫、白音の立場はキチンと護ってあげる」

 

そう、黒歌は冥界でSSランクの指名手配はぐれ悪魔なのだ。

そのような人物と抱擁を交わしたとなると、事情を知っている人物以外が

見ると、テロ側のスパイとして認識される恐れがあるのだ。

 

だからこそ、妹の立場を悪くしない為に黒歌はそう呟き、小猫に仙術をかけた。

 

「──あっ」

 

暖かい何かが体の中に流れてきたと思いきや、全身に力が入らなくり小猫は声を漏らした。

そのまま黒歌にもたれ掛かると優しく抱きしめられ

 

「ごめんね、少しの間だけ辛抱しててね」

 

黒歌はゆっくりと小猫を地面へ座らせた。

 

その光景を見た一誠とリアスは黒歌に鋭い視線を向け、臨戦態勢に入っていた。

 

「テメェ! 小猫ちゃんに何をした!」

 

「小猫!」

 

二人の反応にうまく掛かったと思いながら黒歌は苦笑した。

 

「暴れられると困るから、少し大人しくしてもらっただけにゃん」

 

黒歌の言葉に反応した一誠は飛び出しそうになるが、目の前にリアスの手が突き出され制止し、

そのままリアスは一歩前に出ると先ほどの黒歌の言葉をじっくりと反芻し、二人に問うた。

 

「貴方達の目的は何? テロ? それとも──小猫の身柄かしら?」

 

最後の言葉に一瞬黒歌の耳がピクリと反応したが、二人は気づいていなかった。

 

「──ええ、アタリにゃん。白音さえ渡してくれたら何もせずに帰るし、

 貴方達二人も見逃してあげるにゃん」

 

「──っ!? やはりそうだったのね。あの子を捨てた貴女が今更どうして小猫を

 連れ戻そうとするの! あの時傷つき、壊れそうになったあの子の傍に

 居てあげなかった貴女が!」

 

黒歌の身勝手な言葉に、激怒したリアスはあの時の小猫の様子を思い出しながら

言葉を投げつける。

 

まだ小猫が幼かったとき、黒歌が自身の主を殺害し逃亡を図った。

猫叉の彼女は仙術を扱いすぎた為、世界に漂う悪意、邪気などを取り込んでしまい、

暴走した結果が主の殺害──と、小猫とその周囲に説明された。

 

元々は最上級悪魔の眷属であった彼女は『僧侶』であり、ピース2個を消費するほどの力を

持っていたのだ。

 

だが、彼女は豹変し主を殺し、妹を捨て冥界から姿を消したのだ。

置いて行かれた小猫は、他の悪魔に蔑まれたり、罵られたり、

最終的には姉と同じようになると危惧され、処分する噂が流れていたのだが、

とある案件で冥界を空けていた初老の悪魔が戻ってきた翌日、事情を把握した初老は

すぐさま冥界全土へある命令を発令した。

小猫に害を与えたえるモノは罰を受ける事、そして害を与えたものへの処分を通達。

それ以来小猫への風当たりは無くなった。

 

その後小猫は初老のつてでリアスの兄、サーゼクスを紹介され、

リアスに預けられたのだ。

 

だが、そんな事、黒歌は"痛い"ほど知っていた。

だからこそ、そんな風に小猫を虐め、自分たちを裏切った悪魔達に

言われたくない言葉だった。

 

「──ええ、そんなの知って(・・・)るわよ」

 

誰にも聞こえない小さな声で呟く黒歌。

悔やんでも悔やみきれない後悔の記憶が彼女の頭に過ぎるが、それを振り払うかのように

演技を続ける。

 

「正直言って貴方達二人では私と美猴には勝てないにゃん」

 

前回の実力を聞いている限りでは、自分達の敵ではないと判断したが、

もう一つ強大な気配を遠くから感じていた。

 

(さて、この気配の持ち主がどう動くかによって彼らの選択肢が決まる)

 

「だから大人しくこのまま帰らせて?」

 

黒歌は可愛らしく一誠に向けてウィンクすると、一誠は引き締まった表情から一転、

ふやけた表情になる。

 

「ぶ、部長!? お、俺はどうしたら?!」

 

このままでは自分はあの可愛らしい黒猫を帰らせてしまうと、一誠は本気で思い、

リアスの方に向き直ると──頭を叩かれた。

 

「しっかりしなさい! 勝てなくてもいい、援軍が来るまで足止めさえすれば

 私たちの勝ちよ」

 

城から少し離れているが、戦闘が起きれば城にいてる何人かは確実に気づき、

援軍を寄越してくれるだろうと、リアスは計算していた。

だからこそ、動くには派手に大きく動かなければならない。

 

しかし、黒歌はリアスの思考を読みきっており、これ以上(・・・・)援軍が来られると

拙いと判断したので、先に森一帯に結界を張った。

 

その瞬間リアスと一誠は得体の知れない感覚に襲われた。

言葉に言い表し辛いが、見た目は同じ場所なのだが、空気と雰囲気が

別のモノとなった感じである。

 

「──黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」

 

リアスが苦味を噛んだ様な表情で黒歌に問いかけると、彼女は簡単にネタ晴らしをした。

この森一帯の空間を結界で覆い外界から遮断した為、大規模な戦闘が起きようと、

外には分からず、悪魔たちが入ってくる事は無いと説明し終わった瞬間、

先ほどは遠くにあった大きな気配が4人の上空に現れた。

 

「リアス嬢と兵藤一誠が森に入ったと知らせを受けて来てみれば、結界に閉じ込められるとは」

 

上空から声が聞こえ、4人がその方向へ視線を動かすと、

一匹の紫色の巨大なドラゴンが浮遊していた。

 

「タンニーンのおっさん!」

 

頼もしい援軍であるドラゴンの登場に歓喜する一誠。

その姿を見た美猴は嬉しそうに声を上げた。

 

「おうおうおう! ありゃ、元龍王の『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンじゃないかぃ!

 参ったね! こりゃあ、もうやるしかねぇって黒歌!」

 

戦闘狂である美猴は、元はといえ龍王クラスの登場にもう戦いたくてうずうずしていた。

それを見た黒歌は内心舌打ちをしながら、今後どう動くべきが再確認した。

 

(最上級クラスの気配は当たっていたけど、まさかタンニーンだなんて・・・少しこれは厳しくなりそうにゃん)

 

最上級悪魔クラスのタンニーンは力だけであれば魔王クラスと称されている為、

吐くブレスは隕石の衝撃に匹敵するほどの威力を持っている。

当たれば、無事では済まないほどである。

だが、同じ最上級クラスである自分と美猴二人で掛かれば、有利に戦闘を運ぶ事は出来るが、

自分の傍らには動けない小猫がいてる為、行動が制限されている、

自らの軽率な行動に悪態を付きながらも、少し厳しい戦闘になると覚悟した黒歌。

 

だが、このような状況を自分の些細な願いの為に作り出してしまったことに

同僚の美猴と小猫に内心謝り、その状況を如何に打破するかを考え──

 

「まぁ、こんな状況じゃ仕方ないわね。龍王クラスの首2つ持っていけば

 この失態も不問になるにゃん」

 

そして、一番最初に動いたのは美猴であった。

彼は、武器と足場を召喚しタンニーンへ吶喊した。

 

空中では美猴対タンニーン、地上では黒歌対リアス、一誠の戦闘が開始された。

 

序盤は素早さを生かした美猴はタンニーンを翻弄しほぼ拮抗しており、地上は黒歌が仙術と魔力を

ミックスした攻撃で二人を圧倒していた。

 

3人の戦いを小猫は胸が締め付けられる思いで見ていた。

漸く全身に力が戻ってきているが、どちらとも大切な存在であるが為、

どうして良いか分からなかった。

 

戦場の流れは無残にも止まる事無く、力の差は歴然の為徐々に徐々にと

リアス、一誠を敗者へと近づけていく。

 

どんな強者でも戦場での先の流れは分からない──だが、ここで誰も予想が出来なかった出来事が起こったのだ。

 

一誠がリアスの胸の乳首を両手の指で付いた瞬間──『禁手(バランス・ブレイカー)』に至ったのだ。

 

もう一度言うが、一誠がリアスの胸を付いた瞬間、

 

──『禁手化(バランス・ブレイカー)』に成功したのだ。

 

その瞬間、戦闘中の全員が動きを止め、驚いた表情のまま全身を赤い鎧で身を包んだ一誠と、

胸をさらけ出した状態で、顔を真っ赤に染めているリアスを凝視した。

 

「お、おい貴様ら! 戦闘中に何をしておるんだ!?」

 

真っ先に驚愕の声を上げたのは味方であるタンニーンであった。

流石の黒歌も、行き成り戦闘を中断して何か、策があるのかと思い二人を警戒しながら

見ていたが、まさか、こんな結末になるとは思いもよらなかったのだ。

 

美猴も彼ら二人の思考が別次元にあると判断し、考える事をやめた。

 

小猫は先ほどの葛藤を返せと言わんばかりに、冷たい目で二人を凝視していた。

 

その4人は不可解な行動のあり得ない結果に、真剣に考える事がバカらしく思えると、

口には出さないが、内心感想が一致していた。

 

だが、黒歌は真っ先に『禁手化(バランス・ブレイカー)』状態となった一誠の纏うオーラが

数倍以上に膨れ上がったのを肌で感じていた。

 

ピリピリと肌を焦がすように自然にオーラを叩きつけてくる一誠に対して、彼女は

先ほどのようには行かないと悟った。

 

そして、一誠がゆっくりと手のひらを明後日の方向に突き出し、オーラを掌に籠め、

魔力弾を撃ち放った。

 

刹那──赤い閃光が、森を焼き払い黒歌の張った結界すら貫通し破壊。

そのまま一直線に障害物を破壊しつずけ──遠くの方で大音量の爆発音が発生、

数秒遅れでその衝撃波が全員を襲った。

 

砂塵で前が見えなくなるが、無造作に一誠が腕を払うと突風が生じ、煙を吹き飛ばした。

地上にいる者達からは見えないが、上空にいるタンニーンと美猴の視界には、

幾つモノ山々が破壊された消滅した痕跡が生々しく映し出されていた。

 

その後、戦闘の流れは一気に変わった。

 

黒歌の仙術と魔力をミックスした攻撃のダメージが入らなくなったのだ。

堅牢となっている赤き鎧は生半可な攻撃では一切通じなくなった。

そう──殺す気で行かなければその防御を突破するのは難しくなり、黒歌は次第に

焦り始めた。

 

元々、小猫の仲間なので殺すつもりは無く、敵対する事で小猫の立場を守る為、

ある程度のダメージを負わせたら撤退する予定だったのだが、未熟な彼でも

『禁手化』でここまで強化されるのは計算外であった。

 

だからこそ、最善の一手を模索する黒歌

 

(どうする? 相手は私を本気で倒す気で掛かってきてる)

 

そう、相手は黒歌の事情は知らない、ただ仲間を守る為に戦っているのだ。

美猴はタンニーンの相手で精一杯である。

 

(何か──ないか!?)

 

どんな強者でも戦闘に集中せず、違うことに意識を向けていれば──必ず隙が出来てしまう。

圧倒的な実力差であれば、問題ないが拮抗もしくはそれ以上の場合だと、

それが致命傷となる。

 

一誠が黒歌に向けて極太の魔力砲を放つと、彼女は防ぎきれないと判断し上空へ逃げる、

そう、この時後ろにも注意を向けていたら回避行動は取れていた。

 

だが、彼女の意識は一誠と思考に向けられており、鋭い視線が黒歌の背中に向けられて

いた事に気づかなかった。

 

そして、その視線の主──タンニーンは隙を見せた黒歌目掛けて『龍の吐息(ドラゴン・ブレス)』を放った。

背後に迫る強大な熱量の存在に漸く気がついた黒歌だったが、回避はおろか、まともに

防御魔法を発動させる事が出来ず──直撃した。

 

一誠の攻撃の数倍以上の威力である吐息は、先ほどの轟音以上の音を周囲に響かせ、

空中戦を繰り広げていた美猴と放ったタンニーンの巨体さえも吹き飛ばした。

 

地上にいる3人は近くに合った木々に掴まり、体が吹き飛ばされないように

必死にしがみついた。

 

爆発の衝撃はまさに隕石が衝突した程の衝撃波で、中心部分からは黒煙が当たり一帯を

覆い隠し、その煙の中から体中煙を出し、衣服がボロボロになった黒歌が地上へ、

重力に逆らわず落下していく。

 

「くそ! 黒歌ー!」

 

同僚が落ちていく姿を確認した美猴はすぐさま向かおうとするが、タンニーンに阻まれる。

 

「行かせはせぬ! 貴様の相手はこのタンニーンだぞ!」

 

鈍い音と共に地面へぶつかる黒歌。

 

「姉様!」

 

漸く足に力が戻った小猫は慌てて立ち上がり黒歌の方へふら付きながらも歩き出す。

先ほどからの戦闘を見ていた小猫は、黒歌が本気でない事は分かっていた、

何故?と云う疑問が頭を埋め尽くすが、姉の無残な姿を見た瞬間、

それらは吹き飛び、駆け寄ってしまう。

 

黒歌は超高熱で全身を焼かれており、未だに煙が体中から噴出すが、

意識がある為必死に四肢に力を籠め、体を起こす。

 

防御魔法は間に合わなかったが、仙術を出力最大で全身に纏、致命傷は避けたのだが、

それでも重症に変わりなかった。

 

だが、傷だらけでも尚、彼女の瞳は死んでおらず、眼前の二人を睨み付けていた故に

彼女──リアスは動いた。

 

捕縛するにしても彼女は仙術使いな為、触れられるだけで体内の気の流れを変え、

行動不能にもっていける事を知っているリアスは黒歌の意識を奪う為に、追い討ちをかけた。

 

流石の一誠でもボロボロな状態の女性を攻撃するには躊躇われている為、

主である自分がしなければならない──そして、小猫の為を思って行動したのだ。

 

しかし、ここでリアスにとっても黒歌にとっても予期せぬ方向に事態は動いてしまった。

 

リアスは一誠の倍化した力を譲渡された状態で魔法を放った事、だが、これは誰が見ても

オーバーキルに等しいほどの威力を発しており、コレを撃ったリアス自身も、

意識を刈り取るぐらいに調整したはずなのに、譲渡の力が強すぎて、

調整が狂い、強力な魔法になってしまった事に驚愕し──

 

その強大な魔法攻撃に黒歌も避けきれる自信は無く、諦めたように儚げに笑った。

心残りは色々あるが、最後に愛しい妹に触れる事が出来ただけでも、

満足と思い瞳をそっと閉じ様とした瞬間、黒歌の前に小柄な人物が割り込んできた。

 

その瞬間──黒歌の脳は刺激され、閉じかけていた瞳は見開き、

焼け爛れた全身を蝕む痛みを忘れ、四肢に力を籠めてその人物

──そう、自身と魔法攻撃の間に割り込んできた最愛の妹である小猫を抱きしめた。

 

「…白…音!」

 

立ち上がるのが精一杯だった彼女の体を動かしたのは──大切な妹を守る想いだった。

どんなに妹に嫌われようと、離れ離れになろうと一日たりとも、小猫の事を

忘れた事は無く、ただただ彼女の幸せを毎日願っていた。

 

だからこそ、嫌悪しているはずの自分の盾になろうと前に出てきた妹に、怒りと嬉しさが

こみ上げ、やはり自分は妹の為に──全てを捨てようとあの日(・・・)から、決めていた

覚悟を実行したのだ。

 

覆いかぶさった黒歌の無防備な背中に、無慈悲にもリアスの魔法は直撃した。

先ほどよりは規模は小さいが、十分に威力を要していた為、周辺の木々も一緒に消滅した。

 

(ありがとね白音。本当に愛おしい私の唯一の家族)

 

攻撃が直撃した事を悟り、言葉にしたら、小猫をまた縛ってしまう為内心に押し留め

──そこで黒歌の意識は切れた。

 

「──っ!? 小猫…」

 

咄嗟に飛び出てきた小猫を巻き込んだ結果になった瞬間、

自身の手で最愛の眷属を殺してしまったと思い、リアスは青ざめわなわなと口を震わせながら

小猫の名を呟きながら地面へ 座り込んでしまったのだ。

 

一誠も一瞬の刹那の出来事だったため、その結果に呆然とし言葉を無くしていた。

 

数秒後、黒煙が晴れた爆心地の中心には膝を付きながら黒歌を抱き留めている小猫の姿があった。

 

「姉様…嘘ですよね…? 目を…開けて…ください…っ!」

 

──ごめんね、ありがとうね。白音

 

小猫の顔の近くには、安らかに優しい表情を浮かべたまま目を閉じている黒歌の顔があり、

先ほどまで自身を抱きしめていた両腕は力なく下げられており、

左腕に関しては二の腕の部分の骨と肉が炭化して、ぎりぎり皮と

むき出しの筋肉で繋がっている状態であった。

 

崩れ落ちてくる姉の体を必死に抱きとめる小猫、しかし、頭部に怪我をしているのか、

血が小猫の顔に止めどなく落ちてくる。

 

そして、小猫が黒歌の背中に回した両腕が、人の体とは思えないほどゴツゴツとした感触に触れ、

ゆっくりと姉の体を地面へ寝かせた瞬間彼女の目に入ったのは──

 

黒歌の背中の皮膚が全て消失しており、脂肪と肉が直接むき出しとなり、背骨も一部

見えていた。

 

止めどなく流れる血液、そして生物が焼ける嫌な臭いが小猫の周辺を包み込み、

小猫は真っ赤に染められた、震える両手を視界にいれ、そのまま自身の顔を挟み

クシャっと歪ませ──

 

「──い、いやああぁぁぁぁぁぁ!」

 

唯一の家族である姉を、自分の主の攻撃により無残な姿に変えられ、

小猫の心にも限界が来てしまい──彼女もここで気を失ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、目が覚めた小猫は無意識のままここへたどり着いたと、じっと黙って自身の

話を聞いてくれる二人に説明した。

 

「あの後、どうなったか…分からないんです」

 

姉を探しているうちに、自身でも今後どうして良いか分からない為、深層部分が

二人の存在を求め、ここにたどり着いたのだ。

 

もう少し理性が残っているならば、あの後の出来事をリアス以外の者に

聞いていたはずなのだが、そんな考えすら思い浮かばないほど、小猫の心は磨耗していた。

 

「私もう、どうしていいか分からないんです…姉様()逝ってしまう…!」

 

説明しながら、昨晩の事を鮮明に思い出し、震えだす小猫──自身の腕の中で徐々に熱を失い、

止めどなく血を流していく姉の姿が未だ瞼に焼き付いて離れない。

憔悴しきった彼女を見たソーナはいてもたってもいられず、そっと優しく小猫の体を抱きしめ、

彼女が少しでも安心できるよう優しく声を掛ける

 

「今は少し休んでください。出ないと貴方の心が壊れてしまう──少し休んで、起きたら

 今後の事を一緒に考えましょう」

 

「──でも、このまま目を閉じてしまうと、みんなどこかへ行ってしまう気が…」

 

今のままでは小猫の心砕け、壊れてしまうと悟ったソーナ

 

「大丈夫、私たち二人はどこにも行きませんから!」

 

小猫が目を覚ますまでずっと傍らに居ると約束し、自分達は最後まで小猫の味方であると

言い聞かせた。

 

それでも、大切な人に2度も裏切られた小猫の心はそんな言葉だけでは癒せないと

感じたソーナはこれ以上の言葉を紡いでも効果は無いと悟ってしまった。

 

何より今の小猫の状態は酷く歪になっている為、休ませない限りどうする事も出来ないと、

今まで黙って話を聞いていたひしぎは、彼女たちに歩み寄り、腰を下ろし、

そっと優しく小猫の髪を撫で

 

「ずっと傍らに居ますから、ゆっくり休んでください」

 

「──ぁ」

 

ひしぎの掌から温かいオーラが小猫に流れ込み、優しい温もりに包まれた小猫は

急に来た眠気に逆らわず瞼をそっと閉じ、全身の力を抜きソーナに体を預けた。

 

ソーナは優しく小猫をベッドの上に寝かせ、彼女が何時目が覚めても

自分たちが視界に入るように、椅子をベッドの横に移動させ、もう一つ椅子を用意し、

それにひしぎに座ってもらい、これからどうすれば良いか相談を持ちかけた。

 

非公式ではあるが、大事な自分達のレーティングゲームの初デビューを控えている、

そして小猫はその相手チームのメンバーだが、ソーナにとっては既に自分の眷属と

同じくらい彼女を信頼し、大切な後輩である小猫。

本来ならば、他の悪魔が主とその眷属の関係に割り込むのは無粋であり、

悪魔社会では禁止であったが、それを黙って見過ごす事など

到底ソーナには出来なかった。

 

何より、小猫の姿に自分の姿を重ねていた。

目の前で大切な大切な姉が殺されそうになる気持ちは痛いほど分かる

だからこそ、そんな悪魔社会の常識を破ってでも助けたいと、心の底から思い

思考をフル回転させながら、どの様にすれば小猫に取っての最善になるか考え始めた。

 

ソーナが思案に耽るとひしぎもどうすれば良いか考えた。

自分は悪魔社会の常識、ルールなど知らない、だからこそ小猫が「助けて」と

いえば、彼女の嫌なもの全て破壊、切り捨てる事が出来る。

 

自分に迷惑が掛かるのは良いが、小猫やソーナに迷惑が掛かるのは避けたいので、

自分の出来る範囲で彼女を助けようと思案し、ソーナの考えを待った。

 

数分後、頭を少し下げながら思案していたソーナは考えが思いついたのか、

顔を上げ、真剣な面持ちでひしぎに考えを聞かせた。

 

「私は、小猫さんの境遇をこれ以上見過ごす事は出来ません。

 小猫さんをうちに引き抜きます」

 

「──それは可能なのですか?」

 

「今の現状、不可能に近いです。リアスが小猫さんを手放すとは到底思えません。

 それに一度小猫さんに意思を確認しなければなりませんが、もし本当に彼女が

 こちらへ来たいと言うならば、私に考えがあります」

 

ソーナはリアスに対して有効な手札をいくつか持っているが、

それを使うかどうかは小猫次第である。

 

方針はほぼ固まったので、自身の眷属達に連絡を取り帰還するように言い、

リアスにも小猫発見の連絡をいれ、酷く衰弱しているので明日こちらから連れて行くと

伝えたが、自身がすぐ迎えに行くとリアスは主張した。

しかしソーナは冷たくそれを拒否、『小猫の心情を理解しなさい』と、言い通信を切った。

 

数時間後小猫が漸く目を覚まし、軽く食事を取らせた後、ソーナは話を切り出した。

 

「小猫さん、あなた自身は如何したいですか?」

 

その質問の俯く小猫、未だに自身がどうして良いかが分からない様子だった。

 

リアスの元に帰りたいが、帰りたくない気持ちの方が大きく膨れていた。

恩があるからこそ、許したいけど、許せない(・・・・)

 

二つの感情が混ざり合う。

 

それを悟ったソーナはそっと言葉を続けた。

 

「小猫さんがリアスの元に戻りたい(・・・・)と思えるまで、うちに来ませんか?」

 

「──えっ?」

 

突然のソーナの提案に小猫は顔を上げる──すると普段のイメージからかけ離れたような

優しげな表情でソーナは続ける。

 

「私は小猫さんの事をうちの眷属達と同じぐらい大切と思っています。だから貴女が望むなら

 私がリアスを説得し、ここに居られる様にします。私は絶対に貴方を一人にはさせません」

 

その瞬間、その言葉は小猫の心に染み渡り、瞳からは枯れたはずの涙が再び溢れてきた。

 

──自分と共に居てくれる人と云う人がここにも居た

 

小猫は心の中で温もりを欲していたのだ。

姉は離れ、木場の一件でリアスの心ももう一誠以外の事には向いていないと確信した小猫は

寂しさを感じていた、だからこそまだ幼い彼女は無意識に温もりを求めていたのだ。

 

今でもリアスの事は好きだし、尊敬している。

だが、あの光景を見て心に刻まれ、その前の一件でも歪みがあり、

小猫は心の底からリアスの事を信頼できなくなってしまったのだ。

 

だからこそ一旦距離を開けたいと願い、それを口にした。

 

「私は──ソーナ会長の元に居たいです」

 

 

 





こんにちは、お久しぶりです、夜来華です。

前回の投稿から半年以上停止してしまい本当にすみませんでした。
なぜ、投稿できなかったのかは、活動報告にも記載していますが、
簡単に纏めさせて頂きますと、仕事上の事故で失明しかけていました。
先月漸く眼帯が取れたので、正月休みにリハビリがてら執筆再開しました。

今回の話ですが、ここから大きく原作乖離が目立ってきます。
特に小猫周辺と黒歌の過去、ソーナ陣営の部分でです。

ちなみに、戦闘シーンは小猫の話なので、大分省略した形になりましたが、
ご容赦ください。

書くスピードはかなり落ちてしまいましたが、更新がんばっていきます。

感想、一言頂けると嬉しいです。

では、また次回お会いしましょう。



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第23話 別離

ごめんなさい、小猫

私は、貴方の立場になって考える事ができなかった

貴方の心が一刻も早く癒される事を願ってるわ




翌日、小猫の意思を聞いたソーナは、午前中ある場所を訪問し、

リアスには夕方向かうと連絡を入れていた。

 

その時に、あの後何が起こったかの詳細をリアスから聞き出していた。

 

小猫が気を失い、崩れ落ちた瞬間、リアスと一誠は二人の元に駆け寄ろうとしたが、

目の前の空間に裂け目が生じ、その中から背広を着た若い男性が出てきた。

 

「──っ! 間に合いませんでしたか」

 

眼鏡を掛け、聖なるオーラを発した剣をもった男性は

目の前で止まっているリアスと一誠に目もくれず、崩れ落ちている黒歌の元へ

腰を下ろし、懐から小さなビンを取り出し、黒歌の口の中に雫を垂らすが反応はない。

 

「やむを得ませんね・・・!」

 

黒歌が自力で飲めないと判断した男性は、ビンに入っている液体を全て口の中に含むと、

黒歌の口に持っていき、直接飲ました。

 

意識は失っているが喉が動いたのを確認した瞬間、彼女の全身に淡い光が漂い、

時間の巻き戻しを見ているかのように、傷口がふさがっていく。

 

その光景をみたリアスはぽつりと呟いた。

 

「──フェニックスの涙ね」

 

「ええ、そうです」

 

リアスの問いに頷く男性、傷が完治したのを確認すると

 

「美猴! 撤収しますよ」

 

「了解っ!」

 

美猴は男の言葉に従いタンニーンを巻き、猛スピードで地上へ降り立ち、

二人の壁となるように構えた。

 

男は持っていた剣を振り下ろすと、もう一度空間の裂け目が空き、今度は数人潜れる様な

大きさまで空いていた。

 

そして男はそっと黒歌を抱きかかえ、空間の裂け目の中に足を踏み入れ、顔だけ振り向かせた。

 

「──この借りはいずれ」

 

そう言い残し、3人の姿は空間の裂け目の中に消えていった。

 

姿が消えたのを確認すると、二人は小猫の元に駆け寄り傷がないかしらべ、一誠が

抱きかかえて城へ戻った。

 

帰還中、タンニーンから最後に現れた男が所持していた、武器について教えられ、

リアスと一誠は驚愕した表情を取っていた。

 

悪魔にとって天敵である聖剣の中でも、地上最強を誇る聖王剣コールブランド、またの名を

『カリバーン』、一太刀でも浴びると、魔王クラスでも深刻なダメージを与えれる武器な為、

説明を聞いた二人は、戦闘にならずに良かったと安堵したらしい。

 

そう話を聞いたソーナは小猫に姉の黒歌はフェニックスの涙を服用したので、

高確率で存命している可能性は高いと示唆し、希望を持つように小猫を励ました。

 

その言葉を聞いた小猫はまだ、可能性の範囲ないで安否は不明だが、少なからず

希望を持てた。

 

「──姉様」

 

少しだけだが、小猫の表情に柔らかさが戻り、安堵するソーナとひしぎ。

だからこそ、これ以上彼女の表情を曇らせない為に、動かなければならなかった。

 

リアスから聞いた話を終えたソーナは小猫、ひしぎ、ロスヴァイセに外出準備を

してもらってる間に、姉であるセラフォルーに連絡を入れていた。

 

昨日決心が決まった後、ソーナは既に行動を起こしており、昼前には魔王達や、

評議員達にある案件の了承してもらう為に、都市ルシファードへ赴かなければならなかった。

 

小猫自身に関わる案件である故、小猫自身も行かなくてはならないので、その護衛として

ひしぎとロスヴァイセも同行することとなった。

 

ルシファードでは魔王達と評議会の定例会議が朝から行われているため、

昨晩セラフォルーに無理を言って、議題を無理やり通してもらった結果、

お昼過ぎに時間が取れるとこことなので、それまでに来るように連絡を貰っていた。

 

その後四人はシトリー領から出ている列車に乗り込みルシファードへ、

30分ほど列車に揺られた後目的地へ着き、列車から降りると、議事堂を目指した。

 

数日前に『禍の団』の進入を許している為、議事堂付近は最上級、上級クラスの悪魔達や、

魔王達の眷属が警備に当たっており、テロを警戒するようなピリピリとした空気を発していた。

 

数多の視線が突き刺さる中、それに臆することなく、ソーナは議事堂の正門で身分証明書と

セラフォルーの許可書を提示し、4人は内部へ入る事が許された。

 

来客室に案内された4人は数十分待つと、扉が叩かれ使者が来て、ソーナと小猫に

謁見の間にて魔王達が待っていると伝えられ、護衛として着いてきた二人は流石に

魔王達が待つ謁見の間には入れないので、このまま来客用の部屋で待機してもらうようにし、

ソーナと小猫は使用人に先導される形で部屋を後にした。

 

彼女たちが着いた場所は、この間若手悪魔が魔王達に夢を語った場所に良く似ていた、

やはり、高いところに椅子が用意され、そこに議員達と魔王達が、二人の到着を

心静かに待っていた。

 

既に議題は前もって伝えてある。

ソーナと小猫が謁見の間の中央まで来ると、議長が瞑っていた目を開け、

言葉を掛けた。

 

「遠路はるばるご苦労、シトリー嬢よ。して今回のそなたのもってきた案件、

 既に我らは耳に入っているが、今一度そなたの口から聞かせてくれぬか?」

 

「わかりました」

 

議長の言葉に頷き、ソーナは小猫より一歩前に出て、言葉を紡いだ。

 

「まず、魔王様方、評議員の皆様方、私達のために時間を割いてくれた事に、

 心から感謝いたします」

 

お世辞とも言える言葉をまず口にし

 

「──この度、私の後ろに居るリアス・グレモリーの眷属である搭城小猫さんの事で

 皆様方にお願いがあり、参上いたしました」

 

普通は、小猫の主であるリアスがこの場に居なければならないのだが、居ない。

だからこそ、このケースは異質だった。

 

「皆様も知っての通り、私ソーナ・シトリーとリアス・グレモリーは後数日もしないうちに

 非公式ではありますがレーティングゲームをさせて頂ける事になっていましたが、

 この度、搭城小猫がこちら側に移りたいとの申し出をうけました」

 

従来のゲームならば、引き抜き行為は正当な戦略としてとられている。

ゲーム中に寝返るのも戦略の一つとして考えられているが、後にその相手といざこざが

確実に発生する為、ほとんどの悪魔はある程度の期間を設けてする場合が多い。

 

そして『王』の中には眷属に愛着を持つ者が多いが、本当に駒としてしか考えない『王』も

いてるため、トレード、引き抜き、裏切り行為は正式なルールにも乗っている。

 

引き抜き、裏切り行為と云うのはイメージ的に該当した実行する本人に悪いイメージが付くが、

冥界のこのゲームに関しては、移動した人物が悪いのではなく、その人物を

御し得なかった王が未熟と判断される。

 

故に、ランカーたち、ゲームに参加している悪魔の中でも頻繁に駆け引きが

行われている。

 

そして、ソーナ達の場合引き抜き、トレード行為自体、別に許可が要るわけでもない、

王同士が了承すれば良いだけの話で、運営自体に報告はいらない。

だが今回のゲームは非公式であり、デビュー戦なのだ、だからこそ、公平にしたいが為に

魔王達に説明をした。

 

「うむ、確かに引き抜き行為はゲーム上問題ないな」

 

「ええ」

 

議長が確認するかのように言葉を発すると、ゲームを運営している悪魔議員が頷く。

 

「して、シトリー嬢。コレを確認する為に態々来たのではあるまいな?」

 

別の議員がソーナにそんな事為に自分達の時間を割いたのかと、言う雰囲気を籠めて問うた。

 

「いえ、その先の事でもうひとつ皆様に許可を頂きたいのです」

 

トレードするに辺り、現状リアスは首を立てに振らない可能性が高いとソーナは知っている、

だからこそ──

 

小猫の身柄をゲームの結果に委ねると提案したのだ。

これはソーナ自身も苦渋の決断だった。

 

何より小猫をゲームの景品として扱うのは嫌だったが、これ以外に

彼女が納得する理由が思い浮かばなかった。

 

苦渋の選択だったが小猫自身にそれを話し、その結果彼女自身が結果がどうなっても

後悔はしないとソーナに伝え納得した。

 

だからこそリアスとの試合で自身が勝者となれば、トレードが成立するように懇願した。

流石に魔王達からの命令とあれば、彼女は首を振るしかない。

 

リアスに嫌われようが、卑怯だと罵られ様が、ソーナは既に小猫を助けると

『約束』したのだ。

 

だからこそ、理論武装でリアスを納得させるしかない。

 

そして、一方的な賭けにしない為、ソーナはリアスが勝った場合、

リアスの駒王町領主権限の復活と、罰則を自身が肩代わりする事を条件に提示した。

 

ソーナの言葉に議員達は騒然とする。

 

なぜ、他の眷属である小猫に対して其処まで出来るのか?と、呟かれたり。

 

そうすれば確かにリアス・グレモリーのほうにも受ける価値はあると判断した。

本来ならば、リアスの不手際で起こったことなので、そうする必要はまったくないのだが、

ソーナは一方的な願いを押し付ける事は出来なかった。

 

自身の権限を賭けるからこそ、許可を求めたのだ。

 

「サーゼクス、セラフォルーよ。そなたたちは如何捉える」

 

議長が、当事者の姉と兄である二人に問いかける。

 

「私は、ソーナちゃんがやりたいようにすれば良いと思う。だから賛成かな」

 

「──私は、もう少し期間を開けてほしかったのですが、日程がずらせませんし、

 何より妹の不手際による事なので、賛成するしかありません」

 

そう、前もってサーゼクスは小猫とリアスの間にある歪を報告に聞いており、

昨日の事も耳に入っている為、如何する事も出来なかった。

 

議長や議員は小猫自身にも数回質問し、

其処後議員達は意見を交わし、数分後──

 

「シトリー嬢よ。リアス・グレモリーが交渉に応じない場合その件を、我ら評議会と魔王は許可する」

 

「──ありがとうございます」

 

議長が下した決定に頭を下げるソーナと小猫。

 

「ただし、一つ条件がある。塔城小猫がリアス側の『戦車』としてゲームに参加しない場合、

 シトリー側からも1名『戦車』を不参加とする──よってグレモリー側との公平を図る」

 

追加に言い渡された言葉に、目を見開くが

 

「──わかりました」

 

こちらが無理を言っているので、了承するしかないソーナ。

これはグレモリー側の議員達の思惑が噛んだ提案である。

何しろ、リアス側は少数な為、現在『戦車』は小猫しか居ない、たった一人抜けるだけで

戦力が大幅にダウンする事にはならないが、如何せんリアス側は眷属の数が

ギリギリすぎるため、念には念をと云う事で、ソーナ側からも同じ『戦車』の

不参加を無理やり決定させた。

 

なぜなら、今回のゲームには派閥が絡んでおり、勝利する側に大量に資金が動くのだ、

そして既にその投資は終了しており、今更変更などは出来ない為、

勝利を磐石にしたい浅い議員達の考えだった。

 

実際リアスが普通に話し合いで応じれば、今回の件は切り出さないで済む、

杞憂で終わってほしいと願うソーナ。

 

それに今回の提案は一種の賭けでもあるのだ、実際ソーナの計算ではリアスとの勝負で

現状2対8の割合で自身達が負けるということ、あと約一週間でどれほど詰めれるかが、

勝負でもある。

 

相手の戦力はここ数週間で大幅にアップグレードしている。

それを知っているグレモリー側の議員達にとって、この提案はまさに目の前にでたエサとして

映ったであろう。

 

現状勝率の高いリアス側がそのまま勝てば、今化せられている罰則は帳消しになり、

シトリー側が変わりに受けてくれるというのだ、乗らない事はないと、

そう考えながらソーナと小猫は謁見の間を後にした。

 

その後、ひしぎとロスヴァイセを伴い列車に乗り込み、グレモリー領へ向かった。

向かっている最中に、謁見の間で決定した事を二人に話し、勝率を上げる為に、

今一度厳しい修行をしてもらえるようにお願いした。

 

「わかりました──今のメニューを倍にしましょうか」

 

ソーナの意思を汲み、ひしぎは今皆に課しているメニューを倍にすることを決めた。

この一戦だけに限れば、ひしぎが秘術を使い数倍以上の戦闘力を得る事が出来るが、

あえてそれを提案しなかった。

 

そんなモノで得た強さなどハリボテに過ぎない、そして生物は簡単な方法を知ってしまえば

すぐそちらに頼る習性があるので、自力で強くなってほしいとひしぎは思い、言わなかった。

たとえ、言ったとしてもソーナの性格上断ると確信していたのは余談である。

 

会議と雑談を混ぜながら約1時間後、漸くグレモリー領へつき、そのままグレモリー家に

向かった。

 

「──ソーナさんの家と同じぐらいでかいですね」

 

目の前にそびえ立つ豪華絢爛な城を目の前に、ポツリと感想を漏らすロスヴァイセ。

 

その感想に苦笑するソーナは、そのまま正門を潜ると、玄関付近に大勢の姿を確認した。

 

「──リアス部長」

 

玄関の前でこちらの到着を待ちわびている人物がリアスだと分かると、小猫の体が

少し震えだし、そのまま隣に居たひしぎの服の裾を無意識に掴んでしまう。

 

それは無理もなかった、リアスと実の姉が戦い、実際姉が無残な姿になったのだ。

 

「──大丈夫ですよ、私たちがついてますので」

 

それに気がついたひしぎは優しく微笑みながら、小猫の頭を撫でた。

段々とお互いが近づくと──

 

「──小猫!」

 

小猫の姿を確認するや否や、飛び出し、小猫を抱きしめようと両腕を広げ走ってくるリアス。

その瞬間、小猫の体がビクッとまた震えた──だから、ソーナはそっと小猫の前に出て、

片腕を突き出し、リアスの動きを静止させた。

 

「止まりなさいリアス。小猫さんが怖がってしまう」

 

「──っ!? どうして!?」

 

ソーナの言葉になぜ自分が怖がられなければならないのか疑問に思い、つい叫んでしまう。

だが、ソーナは言葉を続ける。

 

「まさか、本当に分からないとは…」

 

本気でその言葉を言ってるのかと、ソーナは驚いていた

 

「小猫、さぁこっちにいらっしゃい。仲直りしましょう?」

 

笑顔を作りながら、小猫に微笑みかけるリアスだが、小猫の表情が青ざめてきていた。

リアスが自身を助ける為に遣った事だと頭では分かっているのだが、

心が、その姿を見た目が、姉の擦れた声を聞いた耳が、咽る様な血生臭い臭いが鼻が、

あの姉の姿を思い出させる。

 

分かっていても、どんなに理解しても──心が、体が言う事聞かないのだ。

 

リアスの事は大好きで信頼している。今まで良くしてくれた恩も心底から感謝している。

だけど、今の小猫にはリアスの事を信じたい(・・・・)けど、信じれ(・・・)なかった

 

一歩ずつ彼女が近づくたびに小猫の体は後ずさるようになるが、

頭に置かれた暖かな温もりのお陰で、それに抗おうとする気持ちが湧いてくる。

 

「貴方の大好きなお菓子を大量に──」

 

なおも言葉を続けようとするリアスに突然重力が掛かり──彼女は膝を付いた。

 

「──っ! な…に…が!?」

 

「部長!」

 

リアスは必死に体を起こそうとするが、見えない上空から突如発生した

自身を押しつぶすようなプレッシャーで身動きが取れない。

 

それを見た一誠と他の眷属達が駆け寄ろうとするが

 

「がっ!?」

 

一誠たちにも同じような重力(・・)が体の上から降り注ぎ、全員膝を落とした。

必死にもがくが──誰も体を起こせないほどの重圧が圧し掛かっていた。

 

そして──

 

「──小猫さんが怖がっているので止めて貰えますか?」

 

リアスは声が聞こえた方に必死に顔を向けると──そこには小猫の盾になる様な形で前に出て、

這い蹲る自分たちを路上にあるゴミを見るような目つきで眺めている

ひしぎの姿があった。

 

その冷徹な視線に当てられたリアスは全身を射抜かれ、心の底から恐怖に陥った。

傍目から見ていた分には差ほど最上級悪魔と魔王との間ぐらいの実力だと

想像していたが、実際対峙してみると──自身が悪魔だという強者の立場を忘れ

 

(──あの人には勝てない…お兄様といや、それ以上の──化け物!)

 

視線だけで自身との力の差を思い知らされたリアスは、

言葉を発することが出来ず、湧き上がる恐怖に体が震え始め、自身の体を支えている

腕にさえ力が入ってこなくなり崩れ落ちそうになった瞬間──

 

「ひしぎさん」

 

「──すみません、あまりしつこいので」

 

ひしぎはソーナに謝罪しつつ、体から発する膨大な威圧を解いた。

その瞬間リアス達に圧し掛かっていた重圧が消え、急に軽くなった事により、

皆バランスを崩し、倒れこんだ。

 

あまりにも桁違いな力を、威圧のみで自分たちを制圧した相手に、

全員言葉を発することが出来なかった。

 

ソーナはこうなってしまったのは仕方ないと思い、リアスの近くまで歩み寄り、

手を差し出した。

 

「ごめんなさいリアス。立てるかしら?」

 

「──っ、ええ」

 

ソーナの言葉により漸く視線を変え反応したリアスは、差し出された手を

掴み、いまだ完全に足に力が入らないが、体を起こした。

 

「出来るなら、大きな部屋で話がしたいの」

 

話が長くなるといい、出来れば家に入れてもほしいとソーナは伝えるが、

リアスは得体の知れない化け物──ひしぎを家に招く事は出来ないと伝える。

 

だが、ソーナは先ほどの事をもう一度謝罪し、ひしぎ自身も心には篭ってないが

軽率な行動したと表面上謝罪し、自身は何もしない事を約束し、

何なら、部屋の外に護衛を待機させても構わないと言った。

 

「──っ、分かったわ。私も先ほど冷静を欠けていたもの、こちらこそごめんなさい」

 

ソーナの訴えにリアスは先ほどの自身の行動を省みて反省し渋々了承した。

そう何も警戒する必要はないのだ、行方不明だった小猫を連れてきてくれたのだから、

それに、ひしぎと云う男はソーナの指示に素直に従っているので、親友を信じることにした。

 

リアスは一誠たちにも敵対しないようによく言い聞かせ、来客室まで4人を案内した。

煌びやかなシャンデリア、高級家具が置いてあり、その中央に大きなテーブルと

対面になるようにソファーが二つあった。

 

リアスが座るとその対面にソーナ、その隣には小猫が座り、ひしぎとロスヴァイセは二人が座る

ソファーの後ろでたったまま成り行きを見守る事にした。

 

話が始まる前に、朱乃が皆にお茶を配り一息ついたところで、ソーナが口を開いた。

 

「さてリアス。単刀直入に言います──小猫さんの身柄はうちで引き取ります」

 

その瞬間、リアスと後ろに控えている一誠たちの表情が強張った。

だが、そんなの想定済みと言わんばかりにソーナは無表情を貫く。

 

数秒間の沈黙の後、漸くリアスが口を開いた。

 

「──言ってる意味が分からないわ。どういう考えで、そう至ったか説明して頂戴」

 

明らかに怒りの声音を含んだ様子だった。

リアスの中ではまだ、どういう経緯でそういう言葉を掛けられたのかが

理解出来てない様子だった。

 

だが、それは無理もない事。

 

まさか、自身の眷属の中からそのような行動(・・・・・・・)を取る者が出るとは

考えたくない事だったから。

 

彼女は身内に非常に甘く、逆に非常になれない分そういう考えを放棄している節があり、

ソーナは本当に甘いと思うが、そういうリアスだったからこそ愛おしく、羨ましく

自分は親友として助けてあげたい、助けてほしいと思う。

 

だからこそソーナはこれ以上親友のリアスに堕ちて(・・・)ほしくない為、

今までのように対等でありたいと願い、あえて無情にも現実を叩き付けた。

 

「リアス。本当は貴方も気づいてるわよね? 言い難いのは分かります。でも、口にしないと

 皆に伝わらないから、私が言います──小猫さんはリアス、貴方に対して

 恐怖を感じてるからよ」

 

「──っ!」

 

リアスは言葉に詰まる──そう、彼女自身思い当たる節はあったが、認めたくなかったのだ。

小猫の自身を見る瞳が揺れており、逆に自分が見ると、体をかすかに震えさせている事に。

そして、ずっとソーナの傍から離れず、自分たち側に来ないという事が

何よりの証拠だった。

 

「認めなさいリアス──出なければ貴方は王としても失格になりますよ?」

 

認めなければ眷属を従える王としても未熟と判断されかねない事であり、

だからこそ、それを自覚してほしいためにソーナは続ける。

 

「貴方の立場は良く分かっているわ。でもね、リアス。このまま無理やり

 戻してしまえば、完全に貴方達の関係は修復不可能になる。それに、今は良くても

 将来綻びがでて、貴方は本当に眷属を信頼(・・)愛する事(・・・・)が出来なくなる可能性も

 出てきます。だからこそ、一旦間を開ける事も重要よ」

 

今いてる眷属達も将来どうなるか分からない、そして今後入ってくる眷属然り。

だからこそ、無理やり戻したとなるとリアス・グレモリーに対しての評価が断然落ちる。

グレモリー家は『深い情愛』を持つ悪魔として有名ではあるが、そんな事をしてしまったら

その情愛深いとされる部分すら、嘘と噂される事になる。

 

逆に情愛深いからこそ無理やり戻ってこさせたと、捉える事も出来るが、

それはそれで、一種の暴走ととられる場合もある。

 

小猫に助けてほしいと言われ、両方を守るにはこの手しかなかったのだ。

この一件でリアスに嫌われる、侮蔑されるかもしれない可能性もあるが、

親友だから、リアスの事を友達として大切に思っているからソーナはあえて

嫌われるような道を選んだ。

 

何より、大事な友達同士がそうなってしまい、見てられなかった。

本当に自身は損な性格をしていると自覚しつつ、リアスの返答を待った。

 

「──私は小猫自身の言葉を聞きたいわ」

 

漸く沈黙を経て彼女が開いた言葉は、小猫本人からの言葉で聞きたいということだった。

ソーナの事は信頼している、だけどやはり本人の口から本心を聞きたいと思ったリアス。

その視線に当てられた無意識に体が震えるが、今度は逃げないように視線を返す。

 

小猫は深呼吸して、荒れ狂う心を必死に抑え、震える口から言葉を紡ぎだした。

 

「──わ、私は、リアス部長の事は信頼してますし、尊敬しています」

 

必死に紡ぎだしたその言葉にリアスは表情を緩める、だが、小猫の言葉はまだ続いている。

 

「でも、今私自身、リアス部長の所に帰ったら──気が狂いそうになります。

 姉様の事に関してもリアス部長が私を助ける為に取った行動だって理解(・・)してます。

 でも、一旦距離を開けたいです」

 

偽りない本心からの言葉であり──リアスの表情は曇り、後ろにいる一誠たちも

騒然とするが、後ろに控えている彼らには予め会話に入ってこないように命令していた。

 

「──っ」

 

息を飲むリアスだが、最近の起こった出来事から小猫の姉の黒歌の件に関して様々な要素が

関連しており、心の奥底ではこうなってしまった事に納得がいく自分も居た。

 

一誠やアーシアの言うとおりに、ちゃんと小猫を話をしなかった事が悔やまれる。

だが、後悔しても遅い。既に彼女は自身を見るたびに怯えている。

 

無表情だが、人懐っこく愛くるしい学園でも、眷属の中でもマスコット的な

存在だった小猫が、あれほど動揺し怯えている。

 

それほど自分が彼女に与えた衝撃はすごかったのだ、と改めて身をもって知り、

だからこそリアスは決断しなければならなかった。

 

自身と小猫の為にも。

 

お互い大切に思うならば──取る道は一つである。

苦渋の決断だが、これは自分の失態であり、王としての未熟さもあり、

実力に関しても未熟だった為起きた事故である。

 

黒歌に関してはあれは誰も予測が出来なかった事故、それは小猫自身も十分に分かっている。

だけど、目の前でああなってしまえば、分かっていてもそうなるとリアスは理解した。

 

「──我侭を言って本当にごめんなさい」

 

自分が我侭を言ってる事を十分理解している小猫はリアスとその仲間たちに向けて頭を下げた。

だけど、もう心に限界が来ていた。

 

なぜなら両親の顔は覚えておらず、姉が母親の代わりだった。

そして幼い時捨てられ、小猫は心失い成長が止まり──リアスの元で数年かけて

漸く回復してきたがその空白の間心が成長しておらず、

外見と同じぐらい小猫の心は未熟だった。

 

小猫の謝罪を聞き──漸く決心が付いたリアスはふと、表情を緩め優しく小猫に微笑み

 

「──分かったわ。ソーナ、小猫をよろしくね」

 

その言葉に後ろに居る眷属達は何か言いたそうだったがリアスは制止し、

 

「小猫、私達は例え眷属で無くても仲間よ──だから、いつでも帰ってきて大丈夫だからね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

リアス言葉に心から感謝し、もう一度小猫は皆に頭を下げた。

その光景を見ていたソーナは内心安堵していた。

 

前もって用意していた策は使わなくて済み、この二人の様子だと関係の修復に

そう時間は掛からないと確信した。

 

ただ、策は使ってないが結果的に小猫はリアスの『戦車』では無くなるので、

こちら側からの『戦車』の出場も結果的に禁止される形となった。

 

駒が足りない場合ゲームに対して戦略が大きく変動するので、帰ったら一から

考え直さなくてはならない。

 

と、考えているうちに話し合いは終了した。

 

後日、小猫の荷物などはリアス側から配達する事となり、

その日4人はそのままソーナの実家に帰還した。

 

リアスは4人を見送った後眷属達を集めて緊急会議を開き、自らの未熟さを

全員に謝罪し、今後こういう事が起きないようにすると誓った。

 

この日、漸く己の未熟さに向き合う事でリアスは──一歩前進する事が出来き、

眷属との絆を深め合った。

 

小猫も自身の心の弱さを克服する為に、前へ進む事を決意し、

この二人は自分自身へ向き合う事で──成長が始まった。

 

 

 

──リアス・グレモリー眷属、『戦車』搭城小猫 離脱

 

──ソーナ・シトリー側に『戦車』搭城小猫 登録

 

『なお、近日行われるゲームには搭城小猫の参加は禁止。

 公平を図る為に、シトリー側から更に『戦車』の参加を禁ず』

 

との連絡が、正式にソーナとリアスに届いた。

ただ、ゲームの関係者のみ知る事情であり、外部には直前に『戦車』の駒の不調の為、

フィールドに転移出来ないと通達し、直前で分かった為、試合日変更は出来ず、

『戦車』使用禁止というルールで開始すると通達される事となった。

 

 

 

あの日、帰還してすぐに小猫とソーナは自身の眷属で『戦車』の由良に頭を下げた。

自分達の所為で初試合に出場できなくなった事を心から謝罪し、

なぜそうなったか理由を聞いた由良は、怒る素振りも無く

 

「確かに私たちの夢の第一歩である試合に出れないのはすごく悔しいけど、

 大切な仲間を助けた結果なら、私は喜んで欠場しよう」

 

そう言って由良は笑顔で二人を許した。

 

そして、その日から小猫を交え更なる修行を開始。

『白夜』が手に戻ってきたひしぎは制限がなくなった為、皆──死ぬ気で日々を生き抜いた。

 

ソーナは試合日の2日前は修行を午前中で終了させ、午後からは試合について会議を開く事にし、

眷属達とひしぎ、ロスヴァイセを会議室に集合させた。

 

午前中でボロボロにされた皆は一旦風呂と着替えを済ませては居るが、

心の疲労だけは抜けきってはいなかったが、全員気持ちを入れかれる。

 

皆が椅子に座り準備が出来たのを確認すると、隣で控えていた椿姫に促した。

 

「椿姫、映像を」

 

「はい」

 

椿姫はソーナの指示に従い、部屋の側面に付けられているテレビに電源をいれ、

映像を流し始め、皆側面に流れ始めた映像に視線を向ける。

 

そこにはコカビエル戦や、『禍の団』襲撃の際の戦闘映像が流れ始め、

椿姫は機材を操作し、ある人物を中心にもってきた。

そこに映ったのは、聖魔剣を自在に操る金髪の青年──木場祐斗である。

 

「まず、木場くんに関してから進めましょう」

 

そう、この会議の目的はリアス側の戦力の再確認である。

 

「まず彼は神器の『禁手』に至った事よって聖剣も生み出すことが出来、

 我々悪魔に対しての絶対的な優位を持ちます」

 

聖属性に対して絶対的なダメージを受ける悪魔は、彼の作る剣を一太刀でも

受けると致命傷になる。

 

「クラスは『騎士』であり、速さによる高速戦闘が可能。

 彼は我々に一太刀さえ浴びせれば勝利は確実となるので、彼と対峙する場合

 絶対に当たらない事を前提で戦闘するしかありません」

 

ソーナは木場の戦闘スタイル、神器を簡単に説明し、眷属達にどう立ち回りするか徹底させる。

 

「一太刀でも浴びればダメージは底知れないので、一撃で離脱もありえます。

 故に彼とまともに打ち合えるのは椿姫と巴柄だけ、もし他の者が対峙した場合、

 回避優先で撤退するしかありません」

 

一撃必殺を持ち、速さを生かした剣戟は自分達の陣営に対してある意味、

『赤龍帝』である一誠より危険度が高い。

 

「そして次にゼノヴィアさん」

 

祐斗の次に映ったのはデュランダルを振るうゼノヴィアの姿である。

彼女もまた聖剣デュランダルに選ばれし女性、それは転生悪魔になっても変わらない。

 

「彼女も聖剣を扱う希少な転生悪魔です。ただ、木場くんと違って速度より、

 攻撃力重視の戦闘スタイルです」

 

同じ騎士であるが速度は祐斗ほど無く、パワーよりの戦闘スタイルで手数より、

重い一撃を繰り出し相手を叩き潰す戦法である。

 

「彼女の攻撃は彼ほど鋭くも無いので、誰が対峙しても十分戦闘可能です」

 

彼女の繰り出す攻撃スピードはひしぎに鍛えられた全員が対応可能となっていた。

ただ、あの後どれほど成長しているか分からない為、

祐斗の場合のみは2人以外に撤退を促したのだ。

 

そして次に映し出されるのは、『女王』の朱乃

 

「彼女は遠距離型で、雷の魔法を主に使います。攻撃重視ですが、『女王』の駒に

 よって各ステータスも向上しているので総合力では眷属の中でトップクラスの

 実力者です」

 

魔法主体の戦闘スタイルであり、眷属の中でも戦闘の流れを読む事に長けており、

十分に注意しなければならない相手。

 

「彼女と対峙した場合最低でも2人がかり。一対一の場合は

 遠距離型の私や桃、憐耶でしか対処できません」

 

ソーナの解説に頷く眷属達。

 

「そして、未確認情報ですが──彼女の生い立ちは少し特殊であり、

 光属性の攻撃を使用して来るかもしれませんので──防御する際は十分

 注意しなければなりません」

 

これはソーナがリアスから朱乃に関して昔直接聞いた話であり、

堕天使のハーフである事実を知っている。

だが、朱乃は頑なに堕天使の力を使わなかった──だが、今回の試合は

お互い大事な試合である故に、その力を克服、解禁してくる可能性もあった。

 

だからこそ、話を濁しながら眷属達に注意を呼びかけた。

 

そして次に映し出されたのは、ハーフヴァンパイアであるギャスパー

 

「次に、私たちの試合から参戦する『僧侶』であるギャスパー君。

 彼の持つ神器『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』は視界に入ったモノの、

 時間を停止させる能力です。これは皆体験済みなはずなので、彼と戦う際は

 必ず遮蔽物を利用しながら、死角から攻撃する事。幸い彼は、最近まで引き篭もりだったので、

 運動神経に難があるはずなので、そこをつきます。後、吸血鬼なので弱点は多いので、

 神器にさえ注意すれば問題ない相手です」

 

生徒会長であるソーナは彼の素行を全て把握している為、運動能力はまだ低いと

判断でき、視界に映らなければ誰でも対処可能だと教えた。

 

そして、次に映ったのは同じく『僧侶』のアーシア。

 

「彼女に関しては直接的な戦闘能力は皆無ですが。回復系の神器をもつ貴重な存在です。

 こういうゲームに限らず、戦場でも彼女の有無で戦況が変わります。

 なので前線で発見した際、最優先で叩きます」

 

それほど、アーシアの存在は貴重であり危険であった。

次に映し出されたのは一誠である。

 

「彼はあの事件の際に『禁手』に至り、眷属内でも恐らく最大戦力です。

 だから、彼に関しては直接ぶつかると分が悪いので、搦め手を使用したいと思います」

 

あれほどの攻撃力を所持している相手に正面から態々ぶつかる必要は無いのだ。

それに、まだ『禁手』に成り立てなので完全に『禁手化』を制御出来ていない可能性もある。

 

だからこそ、付け入る隙はいくらでもある。

 

だが、ここでソーナの提案に意義を唱えるものが一人居た。

 

「ソーナ会長。兵藤とはサシでやらせてください!」

 

突然立ち上がり、匙はソーナに向けて頭を下げてお願いした。

 

なぜ匙はこのように意義を唱えたかと云うと、一誠に対して特別な感情を持っていたのだ。

同期であり、同じ『兵士』、友人であり、ドラゴンを宿すもの。

自分は五大龍王の一角だが、一誠は伝説と謳われる龍を宿しており、

同じドラゴンを宿すものとしての劣等感を抱いていた。

 

コカビエル襲撃時に何も出来なかった自分、そして『禍の団』襲撃の際も、

何も出来なくて、ただただ一誠の行動を見ているしかなく、

同じ『兵士』として差を大いに付けられた気分だった。

 

だからこそ匙は一誠を目標にし、それを超える為に力を欲し、

ひしぎに鍛えられ、死に物狂いで日々を生き──漸く手が届くかもしれない所まできたのだ。

策など使用せず、正面からぶつかりたいと、ソーナに頭を下げた。

 

ただ、あくまでも今の(・・)目標は一誠だ

 

元々匙の中にそのような感情が燻っているのは修行中何度も言葉として聞いており、

そう云う感情は痛い(・・)ほど知っている。

 

ならば、答えは一つ

 

「分かりました。匙。絶対に兵藤君を倒しなさい。あの日々を生き抜いた貴方は

 十分に強い──だから、絶対に勝ちなさい」

 

ソーナの激励の言葉に、匙は感極まって涙が出そうになるが、堪えて頭を下げて礼をした。

 

「──はいっ!必ずや倒してみせます!」

 

匙が席に座りなおすと映像が切り替わり、最後は『王』であるリアス。

 

「リアスは、基本的に姫島さんと同じタイプですが『滅び』の魔法がとても厄介です。

 ですが、それを上回る力で防御すれば問題ありません」

 

『滅び』の魔法は文字通り全て例外なく消滅させるバアル家特有の魔法である。

だが、そう判断できる材料は幾らでもあった。

例えばコカビエル戦の時、彼女の放った滅びの一撃は、意図も容易く弾かれ、

防御されていた。

 

故に考えられるのは放つ術者の力より、力関係が上であれば防ぐ事は可能と云うことなのだ。

そして長年親友であった故にクセなどは全て承知済み、だからこそ、幾らでも対策は立てれる。

 

それは相手も同じだが、ソーナはリアスへの対抗策を用意できているので、

直接対峙した場合約8割がた負けることは無いだろうと判断していた。

 

それは単なる油断、驕りではなく、綿密に計算された戦略から導き出された結果である。

 

「一通りの説明は終わったので、このまま戦闘映像を見ながら相手のクセや

 パターン、思考などを一つずつ洗いなおしていきましょう」

 

簡単に説明が終わった後は、今日の就寝時間まで戦闘映像を見ながら、

出来る限り相手の戦闘能力を把握し、イメージして更なる対策を皆で考えることにした。

 

そして明日は試合の前日なので完全休養にしているので、今日中に煮詰める感じで

皆、最後まで気合を入れてがんばった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、運命の試合日が漸く訪れる

 

 




こんにちは、夜来華です。

小猫とリアスの別離、再出発の話です。
ただ、状況的に話がほとんど進んでない状態になってしまいました・・・
でも、ダイジェストで終わらせる事は出来なかったので、
ほぼ丸々1話使ってしまいました。

原作より、小猫の精神は幼い設定です。

賛否両論あるかもしれませんが、これによってリアス自身も後は上るだけ、
大幅に成長する形となっています。


そしてやはり、影が薄い主人公・・・・

次回は漸くレーティングケームに入ります。

感想、一言頂けると嬉しいです。

では、またお会いしましょう。


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第24話 ゲーム

待ちに待った夢への第一歩

今日、俺はここであいつを超える

古き悪魔に見せ付けてやる──俺の覚悟(本気)


リアスとソーナの試合を見るために現3大勢力のトップと友好である各世界の大物たちが、

冥界へと足を運んでいた。

 

場所は都市ルシファードにある一番大きな居城で、来賓客たちを持て成す感じである。

なぜ一箇所に集めるかと云うと、護衛のしやすさと敵対勢力に対して、

攻めにくいイメージを与えれるように、自軍の戦力を見せ付ける為である。

 

居城周辺には4大魔王の眷属全員と最上級クラスの悪魔、天使側、堕天使側の戦力が

護衛についており、各神の護衛達も共に配置に付いているので、

現在都市ルシファードは稀に見ないほどの厳重な警備であり、

最大の防御力を有した感じとなっている。

ここに手を出せば、頭の悪い者でも結果が分かるように、目立つように配置している。

 

来賓客の中には、オーディンと新しい付き人のヴァルキリーの姿もあった。

 

その中でひしぎとロスヴァイセはソーナ側のオブサーバーとして招かれる事となり、

試合開始直前まで、ソーナ達と共にいる事ができた。

 

皆緊張な面持ちでシトリー家にある客間で待機していた。

数時間後に自分達の夢の第一歩の道が決まるのだ──ソーナ自身、緊張してないように

振舞ってはいるが、内心不安と緊張が心の中を駆け巡っていた。

 

今回は生徒会長としての仕事ではなく、一個人の将来の道筋を決める第一歩なのだ。

今までとは違う重圧感が体を押しつぶしてくる。

 

でも、それは皆も同じだからこそ、王である自分は表に出してはいけない。

冷静で有ると皆に見せつけ、安心を与えねばならない立場であると、考えていた。

 

そんなソーナの内心を読み取ったひしぎは、柄じゃないが彼らを安心させる言葉を考えた。

 

「大丈夫ですよ。貴方達は勝てます」

 

何気ない、ただの励ましの言葉だが、それでも皆の中で不思議と緊張感や、

気負いが減った気がした。

 

ひしぎとてただ単に気休めで言ったわけでもなく、今までの彼らの修行の成果と

相手の戦力を比べた上で答えを出したのだ。

 

そう、確かに数週間前までは9割近くこちらの負けが確定していた。

ソーナとリアスはほぼ互角だが、眷属同士の戦いとなるとかなり分が悪かった。

向こうは1発当てるだけでこちらを再起不能にもっていける武器を所持しているし、

圧倒的な攻撃力を持つ者も存在する。

 

比べてこちらは身体能力共に平均的で、尖った戦力は居ない。

集団での戦闘なら五分にもって行けるが、個別となると厳しいと判断していた。

 

だが、濃密な修行の成果により攻撃力の差は埋められなくても、

手数などでその差を埋め、個人戦でも五分以上の戦いが出来るほどになっている。

 

もちろん向こうも修行で強くなっていると仮定してだが、毎日数分おきに死に掛ける(・・・・・)ほどの

修行はやっていないと判断した。

 

ソーナを含めて全員一日数十回以上は臨死体験を経験している。

ひしぎはある程度手加減はしているが、殺す気で相手をしており、勿論皆にも自分を

殺す気でかかって来いと指導していた。

 

短期間で強くなる為に命のやり取りを、何百、何千と己の命を対価にして文字通り死に物狂いで

強さを手に入れたのだ。

 

だからこそ、強くなったと誇って良いのだとひしぎは思っていた。

 

「皆前と比べ物にならないぐらい強くなりました。だから、後は油断せずに

 戦えば勝てる相手です」

 

戦力差はかなり縮まったのは事実、だがそれでもまだ差はあるが

本気で掛かれば勝てない相手では無いとひしぎは断言し

 

「だから、気負いすぎず行きましょう」

 

そのひしぎの心遣いに皆表情を和らげた。

その後、皆で何気ない雑談をしていると部屋の中心に魔方陣が現れた。

試合会場の準備が整ったので、参加者を専用ルームへ転送する魔方陣だった。

 

それを確認すると、ソーナは椅子から立ち上がり皆に声をかけた。

 

「皆行きましょうか」

 

参加するメンバーは椅子から立ち上がり、魔方陣の中心へ足を運んでいく。

すると、ひしぎが歩いていく匙を呼びとめた。

 

「匙」

 

「なんでしょう?」

 

匙は呼ばれるがままにひしぎの傍に行くと、ひしぎは誰にも聞こえないように

匙へ語りかけた。

 

「可能な限り、ソレ(・・)の使用は控えるように。まだ、完全に制御出来ていないので

 貴方にどう云った影響を及ぼすか分かりませんので」

 

ひしぎの目は、不自然に包帯が巻かれた左腕を指していた。

その言葉に右腕で左腕を庇いながら、少し考えた後匙は笑みを零しながら答えた。

 

「俺も出来る限りは使わないようにします。でも──勝つために必要になったら

 ためらい無く使います」

 

笑顔で答える匙だが、その言葉は本気だった。

匙の覚悟を再確認したひしぎはそれ以上言うのは野暮だと思い

 

「わかりました」

 

優しく匙の背を押した。

そうして参加するメンバーは全員魔方陣に移動すると、最後にソーナが残るメンバーの

方に向き直り

 

「必ず勝ってきます」

 

その瞬間魔方陣から光が溢れ出し、メンバーを包み込んだ。

残されたメンバー、ひしぎ、ロスヴァイセ、小猫、由良はこの客室で

試合を観戦するため、画面に映像が映るまで体を休め始めた。

 

一方魔方陣で転移したソーナ達は、ジャンクフード店らしき建物が列を成している場所に

降り立った。

 

周辺を見渡すと少し離れた場所には、食材売り場も見える。

 

「試合を行い場所がデパート内部ですか」

 

建物内の構造を見てある程度予測したソーナはポツリと呟き、

建物の支柱に掛かってある看板を見ると、駒王町にあるショッピングモールと瓜二つだった。

 

すると、館内放送が鳴り響くと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『皆様、この度のグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」の審判(アービター)役を

 任命されたルシファー眷属『女王(クィーン)』、グレイフィアでございます』

 

『早速ですが、今回のバトルフィールドは『駒王学園』の近隣に存在するデパートを

 模倣しゲームのフィールドとして異空間にご用意しました』

 

このデパートは2階建てで屋上、立体駐車場つきの横に長い構造である。

 

『両陣営、転移した場所が『本陣』でございます』

 

リアスは二階の東側、ソーナは一階の西側が本陣だった。

 

『今回、特別ルールがございます。陣営に資料が送られていますので、ご確認ください』

 

回復品である「フェニックスの涙」は両陣営とも一つずつ支給されている。

そして作戦を練る時間は放送が終ってから30分間設けられ、この時間内に

相手との接触は禁止された。

 

そして特別ルールの一つは『戦場となるデパートを破壊しつくさない事』

ある程度の破壊は問題無いが、破壊規模が一定のラインを超えた場合、

攻撃を行った選手は強制失格となる。

つまりド派手な戦闘は極力するな──と云う事である。

 

2つ目、これはリアス側の陣営のみなのだがギャスパーの神器は使用禁止。

これは術者がまだ未熟であり完全制御不能な為、ゲームそのものを壊す可能性が有り

台無しになるのを防ぐ為の措置である。

 

ギャスパーはアザゼルから魔眼封じの眼鏡を与えられており、吸血鬼のみの能力で

戦わなければならない事となっている。

 

今回このゲームに適応される特別ルールはこの二つである。

こう云ったルールがある為、単に力だけでは勝てないのがこのゲームの醍醐味である。

 

ちなみにルールは毎回変更されるので、今回この様な戦場が選ばれたのはサーゼクスが

彼女たちに縁のある場所を何個かピックアップし、その中からクジで引いた結果である。

 

外部ゴシップはリアス・グレモリー側は圧倒的な力を有するチームと評価し、

ソーナ・シトリー側は力は平凡だが、連携と知力は相手陣営を抜いていると評価している。

 

リアス側の修行を担当した堕天使総督のアザゼルは戦場が決まるまでのこの試合の予測は

『戦車』が抜けている状態でも、9~8割リアス側の勝利だと確信していた。

 

勿論相手も修行で大幅に戦力が上がっていると仮定しても、元の基礎部分が

圧倒的に違うからである。

 

そして戦場が決まり、特別ルールを聞いた後の予想でも8~7割勝利を確信していた。

 

だが、心のどこかで「本当は逆なんじゃないのか?」と思える部分もあった。

それはひしぎの存在である。

 

自分たちより圧倒的な存在が、相手チームの先生(・・)を担当しているのだ。

勝つために何か仕組んでる気がしてならない。

 

なぜなら、こんな短い期間でその実力の差を埋めるに薬や特殊なアイテムを

使わない限りほぼ不可能と仮定していたからである。

 

だけど、その不安が一切拭えないまま試合開始目前になっており、もうリアス達に

アドバイスはできない為、成り行きを見守るしかないと判断していた。

 

 

 

配られた資料を確認している間、眷属達にソーナは各階フロアの偵察に行かせた。

眷属達が帰ってくるまでにソーナは見取り図を見ながらどう動くか作戦を立てた。

 

(まず、侵攻できる道は4つ。1階、2階、屋上、立体駐車場)

 

まず今回お互いに使役できる『駒』が減っている為、慎重に人選と

相手の考えを読まなければならない。

 

ルール上こちらに少し有利な部分があり、簡単に言えば相手の強力なユニットの

大規模破壊攻撃が使用不可能となっている。

 

(兵藤君の動きがかなり制限される──ですが、

 彼の事は匙に一任してるので問題ありませんね)

 

超近接火力ユニットである一誠の相手をするのは匙。

『禁手化』に至っていない匙だが、ソーナは彼が勝つ事を前提に

作戦を立てる。

 

だって、匙は自分自身に一誠の相手を任せて欲しいと言ったのだ。

 

(だから、匙。私は貴方を信じて作戦を立てます)

 

だが、万が一負けた場合の作戦プランも同時に考え始めた。

 

 

 

色々下準備を整えた後数分後、全員が戻ってきた事を確認したソーナは全員に作戦を伝える。

 

「まず、我々の侵攻ルートは屋上と店舗内の中央突破を取ります」

 

侵攻メンバーは屋上に憐耶、2階匙、1階留流子。

 

「防衛は立体駐車場に椿姫、巴柄、その他は私と桃で回ります」

 

その防衛配置に匙が疑問を投げかけた。

 

「どうして立体駐車場に二人も?」

 

その疑問にソーナは頷く

 

「それは恐らくですが、相手のメイン侵攻ルートが立体駐車場の可能性が

 高いからです」

 

普通なら回りくどい立体駐車場を使わずに屋上、中央突破を採用するが

今回の特殊ルールにより相手の行動が一部制限されている。

 

階数も少なく侵攻ルートが限られている為相手の考えが読みやすかった。

 

中央突破はメインを思わせた陽動担当の一誠を配置してくる。

『赤龍帝』であり『禁手化』出来るユニットであり、

あえて目立つ場所に配置することにより相手は無視できない為、

防衛としてこちらは主力を一誠にあてると考えているはず。

 

屋上は視界が広く索敵がしやすいので、そう云った陽動作戦を取る場合

侵攻ルートには含まれない。

 

ならば少し遠回りになるが遮蔽物が多く、他のルートから援護に行きにくい場所が

立体駐車場になる。

 

ソーナの予想では騎士2人を投入してくると予想した。

 

「中央が囮。メインは立体駐車場ですが、どちらかが失敗しても良いような作戦で

 くると思います。まぁ実際相手の眷属達にソレを可能とする力は

 十分に有しています」

 

万が一騎士二人が失敗しても、一誠が残っていさえすればそのまま中央突破出来る。

 

「序盤ですが、恐らく姫島さんは本陣の少し手前で防衛。アーシアさんは前回と同じ

 運用をしてくると予想します」

 

『フェニックスの涙』は1個しか配布されていないので、味方を回復できるアーシアの存在は

貴重であり序盤で前線に出してリタイアさせたくない思惑もある。

それに本人自身に直接戦闘能力は無い為、強力なユニットの傍に居なければならない。

 

「そして、ギャスパー君ですが。彼は変身能力を有しており恐らく店舗内の

 偵察係のはずなので──コレを使ってください」

 

ソーナは違うテーブルの上においてあった物を手に持ち留流子に渡した。

 

「コレで彼を?」

 

手の上にあるモノをまじまじと見つめる留流子。

 

「ええ、それを持って──して、彼を倒してください」

 

ソーナにソレを使ってどう行動するか説明され、納得した留流子は納得した。

 

その後メンバーに一人一人にどういった行動を取るか説明し

試合開始時間5分前のアナウンスが入った。

 

『試合開始5分前です。各陣営の皆様。準備の方よろしくお願いいたします』

 

「では皆。油断せず、慢心せずに絶対に勝ちに行きます」

 

「はい!」

 

ソーナの号令に皆返事し、配置に付く為皆動き始めた。

 

「匙」

 

「なんでしょうか?」

 

「貴方を信じています」

 

一誠に関して全権を匙に委任すると先ほど伝え、一番危険な場所に着く

匙に対してソーナが今言える出来る限りの激励を言葉にした。

 

すると、匙は口元に笑みを浮かべ

 

「はい。必ずや貴方に勝利を捧げます」

 

そうして試合開始のアナウンスが店内に流れた。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は3時間の短期決戦(ブリッツ)形式を

 採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

3時間が短いと思う者もいれば、長いと思う者もいる。

ソーナは後者であり、時間が設定されてなくても短期決戦で決着付くように策を考えていた。

簡単に勝てる相手ではないため、多少の犠牲は厭わない覚悟を決めていた。

 

 

 

一方リアス側はソーナの予測通りに一誠を1階中央から、祐斗、ゼノヴィアを立体駐車場から進軍させた。

人数が足りない為、朱乃を本陣から少し進軍させ一誠の少し後方で待機させ、

2階の方はギャスパーがこうもりに変身して監視と偵察。

ルール上こちらに不利な要素があり、眷属の数が最低限な為、これ以上の駒を減らさない為に

回復ユニットのアーシアはすぐに救援に向かえる様に朱乃の少し後ろで待機していた。

 

「皆、厳しい戦いになると思うけど、もう私たちは負けられないわ!」

 

インカムを通して進軍を開始している眷属達に激励を送るリアス。

自分自身のため、家のため、そして眷属達の為にこれ以上負けを増やすわけにはいかなかった。

 

「お願い皆、私に勝利を!」

 

『了解!』

 

彼女の決意を聞き取った一誠たちは短く答え、与えられた任務を遂行し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

匙は一人1階のフロアーを警戒しながら走って進軍していた。

ソーナの予想通りなら正面から一誠が来る。

 

『禁手化』により圧倒的な攻撃力を有する彼を足止めするには、

1階中央付近まで進軍しておかなければならない。

 

本陣付近での待ち伏せではこちら側の策が色々ばれてしまう恐れがある。

だからこそ匙は魔力で脚力を強化して一気に距離を詰めていく。

 

そして中央の吹き抜け部分まで接敵せずに付いた。

 

「よし、これで──」

 

足を止めて一息つき、言葉を零した匙は、突如発生した異常なプレッシャーを

正面から感じ取り口を紡いだ。

 

ピリピリと肌を焼くような威圧感が徐々に徐々にと急接近してくる。

 

「──来た」

 

一度大きく深呼吸し、迫り来る敵を見据える──すると、暗がりの向こうから

金属が擦れるような音が徐々に聞こえ──赤い真紅の鎧を纏った一誠が猛スピードで

こちらへ吶喊してきた。

 

その瞬間、匙の体が一瞬震える。

兵藤一誠と戦う事から来る高揚感による震えであった。

 

掌に汗が滲み、心臓が激しく脈を打ち、鼓動が木霊し、

全身の血液が沸騰するように──体中が熱くなってきている。

 

(ああ、漸くだ)

 

自分自身がどこまで彼に追いついたかが試せる。

だから奇襲などせず、正面から一誠と打ち合う事を決め──叫んだ。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

匙の声に反応し、一誠の方も漸く気づくがスピードを緩める事無く

突っ込んでくる。

 

匙の方も自身の魔力を全身強化に全てつぎ込み、最初から全力で

一誠を倒す事だけに集中し、同じく床を蹴り一誠のほうへ向かって走り出した。

 

お互い止まる事無く、邪魔になる存在を瞳に認識させ──

 

「おおおぉぉ!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

鋭い雄叫びを上げながら、お互い全力で拳を放ち──衝突した。

 

 

 

 

 

 

1階へ通じるエスカレーターの傍らで待機していたアーシアは

突然聞こえてきた轟音に体を震わせた。

 

「っ!」

 

その様子を見ていた朱乃は苦笑しながら、一誠が相手の誰かと交戦状態に

入ったと判断した。

 

「一誠君が戦闘開始したとなると、状況は一気に動きそうですわね」

 

朱乃とアーシアは少し移動し現在2階で待機中で、先行偵察にでたギャスパーからの

情報待ちだった。

 

「それにしてもギャスパー君から通信が入ってきませんわ」

 

一階からは立て続けにモノが壊れるような音が断続的に発生している。

『禁手化』している一誠相手に五分の戦いを繰り広げているのが想像できる。

 

だからこそ、早めに情報が欲しいと思った朱乃は一度リアスに通信を送ろうとした瞬間

 

『リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」1名、リタイア』

 

と、云う放送が流れてきた。

 

「ギャスパー君?!」

 

その放送にアーシアはハッとし朱乃に視線を投げかけ

 

「この先に誰かいてると──云う事ですわね」

 

そう頷いた朱乃は耳に手を当てながら、リアスに指示を求めた。

するとすぐさま返事が返ってきた。

 

『アーシアはそこで待機、探知系の魔法を作動させながら朱乃は少し進軍して

 敵の動きを確認して。もし遭遇したら、アーシアの安全を優先しつつ

 撃破できるならして頂戴』

 

リアスの作戦はアーシアの生存を最優先事項に切り替えた。

ギャスパーには悪いが、彼が落とされてもあまり自陣に被害は出ない。

だが、人数差で押し切られる可能性もあるので、これ以上の被害は抑えなければならない。

だからこそ今回アーシアを前線に出し、流石に一人で出すわけにもいかないので、

朱乃と云う万能タイプの護衛を付けたのだ。

 

朱乃は指示通りに探知系の魔法を作動させ、周囲に敵が居ないのを確認し、

アーシアを今の場所に待機させ自身は少しだけ前進した。

 

すると、朱乃の探知魔法に前方に引っかかる者が居た。

まだ距離はあるが、反応は一人である。

 

朱乃は立ち止まると向こうはまだ気づいていないのか、徐々に徐々にと

距離をつめてくる。

 

自身の射程距離に入った先制攻撃を仕掛けるために、手に魔力を貯め

直ぐに攻撃できるように準備し、アーシアに物陰に隠れているように

指示を出そうと振り向いた瞬間──

 

 

 

 

 

 

朱乃の視界に()から剣が生えている(・・・・・)アーシアの姿が映し出された。

 

 

 

 

 

「──えっ…アーシアちゃん?」

 

何が起こってたのか、全然把握できてない朱乃はポツリと呟いた。

現に魔法で探知しているのは自身の前方から来る人物のみの筈なのに。

 

なぜ、アーシアの体から剣が生えているのか──それはつまり

 

「あ…朱…乃…さん…っ」

 

痛みで涙が流れ、口元からも血を流しならが必死に朱乃に向けて手を伸ばすアーシアは

全身が光りだすと消えていき、アーシアの真後ろから亜麻色の髪の少女が

剣を構えたまま立っていた。

 

「──貴方は確か…草下さん…!」

 

名前を呼ばれた憐耶は少し微笑むと──周囲に溶け込むように姿を消した。

 

『リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」1名、リタイヤです』

 

アナウンスのお陰で我に返った朱乃は今度は自身が狙われるかもしれないと思い、

もう一度探知魔法を発動させるが──反応は依然一人のまま。

 

姿が見えないまま接近されればアーシアと同じ目に合うと悟った朱乃は

瞬時に翼を展開すると空中に浮き

 

「雷光よ!」

 

雷と光の性質を持つ魔法を地面へ向けて打ち込んだ。

本当は忌み嫌う"光"を使うつもりは無かったのだが、そう入ってられない状態と

なってしまっていた。

 

姿の無い相手を捉えようとする場合、広範囲攻撃が一番有効であると知っていたのだ。

昔、リアスと戦略を考えている時に一番厄介な相手を想定して

対抗策を構築していた事が役に立ったのだ。

 

ただ、その場合相手が引かない場合に限るが。

 

雷光が着弾した瞬間、自身を中心に数メートルの範囲で雷光が地面を駆け巡り

辺り一帯の小物や無機物などを破壊した。

 

そして──朱乃より2メートルも無い距離で──憐耶は全身から煙を上げならが

膝を付いていたが、その瞳からは闘志が失われ居ない、

朱乃はこの機を逃しては成らないと悟り言葉を発さずそのまま2撃目の雷光を憐耶に直撃させた。

 

雷光の直撃を受けた憐耶は光となってフィールドから姿が消え

倒した確証となるアナウンスが流れた。

 

『ソーナ・シトリー様の「僧侶(ビショップ)」1名、リタイアです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中継モニターで見ていたひしぎは、憐耶が少し欲をかき過ぎたと判断していた。

今回初めて実戦で使い、1回目からうまく行き過ぎて大成功した為、

この次もいけると判断したのだが、相手が悪かったのだ。

 

「憐耶には後で反省文提出してもらいましょうか」

 

ぽつりと呟いたひしぎの言葉に隣に座っていたロスヴァイセは苦笑いをしていた。

 

「ひしぎ先生、憐耶のあの能力は一体?」

 

今回不参加で別のソファーに座っている由良が質問をしてきた。

彼女自身、憐耶の先ほどの業を初めて知った為である。

 

「あの能力は『元素同化(メタ・モルフォーゼ)』と言い、

 カメレオンと同じように周りの風景と同化させ、姿を消す事ができるのです」

 

「気配も?」

 

「ええ勿論、己の気配と装備も一緒にです」

 

ひしぎは、この場にいてる3人に簡潔に能力の詳細を教える事にした。

 

「この世界は魔力が漂っています。無論あのフィールド然りです。

 だから憐耶は自身の魔力を緻密に操作して、極薄の膜を生成し、

 それで全身に覆いつくし、大気中に漂っている魔力と同化させる事で姿を消す事が

 出来るようになったのです」

 

 

憐耶は自身に特徴がない事をずっと悩んでいた。

そしてレーティングゲームが始まるに辺り、ひしぎに相談して、

皆の足を引っ張りたくないと懇願し何か教えて欲しいと願い

ひしぎは彼女の長所である魔力コントロールを使える業が何か無いか探していた所、

昔壬生の中堅戦士が使っていた能力を思い出し、魔力で代用できるかどうか分からなかったが

それを教え、特訓した後見事に成功したのだ。

 

魔力が漂っている場所でのみ使える能力である。

 

今回初披露ととなったが、ソーナは事前にその能力を知っており、

「僧侶」ではあるが、彼女に特別任務を与え無事成功したのだ。

 

「1対1の状況でその能力を過信しすぎると、簡単に対策が取られてしまうのが

 欠点ですが、今回彼女の行動は大金星のようですね」

 

そう、貴重な回復役であるアーシアを倒せたのはかなりでかい。

元より回復前提で、駒の数がギリギリのリアス側はこれからはかなり慎重に

駒を進めなければならなくなる。

 

相手の行動パターンがかなり絞られたのだ。

 

ただ、憐耶が一度退避し違う相手を狙い倒す事ができていれば良かったのだが、

リタイアしてしまっては仕方が無い。

 

「さて、ここから相手側がどう動くか見物ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

本陣で待機していたリアスは突然のアーシアリタイア報告に、

思考が混乱していた。

 

最重要ユニットである彼女の早期離脱は考えていた作戦の中に入っていなかった。

なぜなら、自分の眷属の中でも最優の駒を護衛として共に行動させていたのだから。

 

万が一、そのパーティが敵と遭遇して、数が2~3人であれば朱乃一人でアーシアを

守りながらでも相手できると踏んだからである。

 

だが、実際の展開は大きく裏切られた。

まさか相手側に探知魔法に引っかからない能力を持つ者が居るなど想定していなかった。

 

これは朱乃のミスでは無く、自分自身の作戦ミスである。

幸い、その能力を持つ敵は朱乃が撃破した為、少し安心できたが、

想像以上に雲行きが怪しくなっている。

 

(これ以上駒の数は減らせない)

 

駐車場を経由している祐斗達からはまだ連絡がないため、朱乃と一誠の配置は

そのままにするしかない。

 

現在一誠は一階で匙と戦闘中、朱乃は引き続き接近してくる敵を待ち構えている。

 

(こうなったら朱乃と合流し進軍するしかないわね)

 

ほとんど情報がない中の王自身の進軍は、あまり褒められた行動ではないが、

制限時間も決められている為、決断するしかなかった。

 

それに、自身と朱乃のタッグであれば強行突破出来ると考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

ソーナはとある場所でリアスやその眷属達の行動を全て見ていた。

 

「戦場の情報がない進軍は浅はかな行動よリアス。もう少し眷属達を

 信じ、連絡を待ってからでも遅くはなかったのに」

 

リタイアした駒の数はリアス側のほうが多いが、戦力は落ちていない。

相手側にとって回復ユニットであるアーシアを失ったのは痛手ではあるが、

まだフェニックスの涙がある。

 

リアスはアーシアの回復能力を重要視するあまりに、保守的な作戦を

立てている節がある。

確かに希少な回復ユニットを有効活用しない手はないが、

そのユニットを中心に作戦を立てるのは、今後考え直したほうが良いと

ソーナは内心リアスに忠告した。

 

実際アーシアが撃破された事により、冷静さを保っているように見えるが、

視野が狭くなっている。

 

なぜなら、ソーナ自身の位置すら確認できていない状態なのだ。

 

(相手本陣が何処にあるかさえ分からない状態で、強行突破してきても

 無意味よ)

 

本陣は自由に動かせるルールなので、ソーナが開始直後すぐさま変更し、

違う場所で眷属達からの情報と、とある道具で視覚的にも情報収集をしている。

 

そしてリアルタイムで眷属達に動きを指示していたのである。

 

(ただ、憐耶に関しては私の判断ミスもあります)

 

アーシアを撃破出来たら、憐耶から朱乃も狙ってみたい言われソーナは

もしかしたら倒せるかもしれないと思い、許可を出したのだが、

まさかあんな単調に狙いに行くとは想定外だった。

 

(ですが、今回戦いで能力の良し悪しがはっきりしました)

 

長所、短所が実際の行動で分かったのでこれも大きな収穫である。

これからの行動をどう取るか考えつつも、一つの大きなモニターに視線を移した。

 

そこには壮絶な殴り合いを繰り広げている匙と一誠の姿があった。

 

 




こんにちは、夜来華です。

人間の頭部って結構頑丈なんですね・・・
仕事場で作業工程中のロッカー(仮)5本がドミノ倒しで倒れてきて、
頭部を思い切り打ち付けて下敷きとなりました。
打ちつけた瞬間、記憶飛ぶって本当なんですね。

と、こんな感じでまた怪我してました。
怪我するたびに体が鍛えられていく感じがします。

感想、一言頂ければ嬉しいです。


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