スローライフしたかった黄金騎士 (ユーザーU)
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ルト村編
プロローグ


まだ二作品をほったらかしにしてるのに懲りずに新作を書く漢です、すみません


俺は…あることに気づいた

 

ネガ・セルヴィ13歳、男

気づいたというよりは…思い出した?、俺なのか俺じゃないのか、ただ簡潔に言えば記憶(・・)がある、俺の記憶なんだが…それはとてつもなく違和感がある物で…その記憶だと12歳だし、しかもその記憶の結末では俺は最後に死んでいる…つまり、これは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「おーい、セルヴィ~!!」

セルヴィ「…ハァ」

全身を写せる鏡とベッド、それとクローゼットにテーブル、キッチン、それぐらいの質素な物しかない俺の愛する木造の家にいつも通りの平和なゆったりペースの1日の始まりを告げる、幼なじみの声が響いた。

???「まだー?」

セルヴィ「…今行くよー」

こっちもちょっと大きめの声で返事するとあの子は満足そうに黙った。

 

(例え前世の記憶(・・)だとしても、今の俺の人生には関係ない)

 

セルヴィ「おはよう、ルナ」

ドアを開けるといつも、通り首のちょっと下ぐらいまで黒髪を伸ばしたルナが居た

ルナ「うん、おはよ!!」

ルナは一言言うと先に仕事場へ行った。

セルヴィ「あ~…眠いな…」

フラフラした足取りで家を出ると、周りでは小さな畑で農作業をしているこの村のじいちゃんばあちゃん達が農作業していた。

セルヴィ「おはよー!!」

朝から畑仕事等で元気に働くじいちゃんばあちゃん達に元気な挨拶をしながらゆったりとルナの後を追った。

ゆっくりボーっと、そしてルナに追い付いた。

井戸を中心にしていて良く人がいる。

ルナ「遅いよ?」

セルヴィ「だって眠いし」

ルナ「まぁ別にいいよ、ほら行こ?」

セルヴィ「そうだね」

少し歩いて村の中央ぐらいに着いた

井戸を中心にした広場だ。

ルナ「狩りとか畑とかお互い沢山やることあるね…」

めんどくさそうに言っているけどいつも楽しそうにやってる

ルナ「ほら、セルヴィもアーロンおじさんの所に行ってきなよ」

セルヴィ「じゃ、行ってくる」

ルナ「いってらっしゃい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある木造の家の前に着くと俺はドアをノックした。

ここはこの村の狩人の一人のアーロンおじさんの家だ。

確か元冒険者でしかもただの有象無象じゃない。

B+、つまりプロレベルだった。

アーロン「おぉ、セルヴィか」

すぐに扉が開いてアーロンおじさんが出てきた。

色白で綺麗な黒髪を少し長めに伸ばしている。

確か結構歳はいってる筈なのに若々しく目が鋭い。

セルヴィ「そろそろ今日の狩りの時間でしょ?」

おじさんは『あぁそういえば』、という仕草をすると「少し待ってくれ」と言って家の中へと戻った

少し経つと弓矢と肩に通す紐が着いた矢筒とナイフを二人分持ってきた

アーロン「ほらよ」

セルヴィ「ありがとう」

道具を受け取るとナイフをベルトに通し矢筒を背負った、おじさんも同じようにした。

アーロン「行くぞ」

セルヴィ「わかった」

 

 

 

 

昔から良く行く近くの森で獲物を狩る予定だ、森への道を歩いている途中おじさんが話かけてきた。

アーロン「今日はとにかく肉だ、肉を取るぞ」

セルヴィ「あっ…そういえば今日は新月だからお祭りか…」

アーロン「なんだ?、忘れてたのか?」

セルヴィ「ハハッ…うっかり」

アーロン「まぁ、とりあえず今日は食いまくるぞ…肉をな!!」

セルヴィ「そうだね!!」

勢いよく答えると今日はおじさんも調子が良いことが分かる、なんだかテンションが高い。

今日は早く終わらせよう、お腹が減って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、ちょうど狩りが終わった所だった。

三本の矢がの内アーロンおじさんの放った一本の矢だけが綺麗に猪の急所を貫いていた。

セルヴィ「ふぅ…疲れた」

アーロン「あぁ…そうだな、なぁこの猪、ストレスか何かで弱ってるぞ」

セルヴィ「えっ?」

全く気づかなかった…やはりおじさんはプロだからだろうか?。

でも確かにおかしい、この森は環境がかなり良い筈、果物だって沢山実ってるし俺の村の食糧や稼ぎもかなりお世話になってるレベルだ。

その為かなり厳重にこの森の扱いに気を付けてる、だから別に果物の採りすぎで動物の分が無くなるなんて事はないはずなのに。

セルヴィ「たまたまじゃない?」

アーロン「かもな…」

おじさんはまだ気にかけてるようだ。

(何かの理由で生態系が崩れたのか?…しかし何故、まさか外来種か何かか?)

アーロン「…そろそろ帰るぞ…なんだか嫌な予感がする」

セルヴィ「えっ?」

アーロン「早く」

セルヴィ「あぁ…うん」

 

この時、どういう事か分からなくて不思議に思いながら帰った。

そして、この時のおじさんの嫌な予感というのは少し時間を開けて的中する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の広場で集まってキャンプファイヤーを囲みながら村の人達は大騒ぎしながら夜の祭りを楽しんでいた。

しかし、そろそろ俺の腹は限界だ、マジでムリ。

セルヴィ「…ヤバい」

ルナ「大丈夫?」

セルヴィ「うん…そろそろ……無理…ごめん帰る」

ルナ「気をつけてね?」

セルヴィ「うん……うっ…」

そんな会話をしていると一人の眼鏡を掛けた長髪の男性がよってきた。

シュイ「大丈夫かい?」

セルヴィ「あっ…シュイ先生こんばんは…」

シュイ「君見たいにお腹を壊す人が居ると思ってね胃の薬を幾つか持って来ているんだ、ほらこれを飲みなさい」

セルヴィ「ありがとうございます…」

この村の唯一の医者で皆から慕われてるシュイ先生…やっぱ頼りになるなぁ…。

そのまま粉薬を受け取ってシュイ先生から受け取った水と共に飲み込んだ。

セルヴィ「ふぅ…ありがとうございます、それじゃ」

シュイ「気をつけなよ?」

セルヴィ「はい」

ルナ「それじゃ、おやすみー」

セルヴィ「おやすみ」

そういって少しふらついた足で帰路に着く俺を心配そうに二人がみているのを感じながら帰った。

 

 

 

 

 

 

 

満腹感を越えると起こる気持ち悪さと格闘してやっと家に帰れて今中に入った所だった

セルヴィ「ふぅ…」

???「随分と食った見たいだな」

セルヴィ「うるさいよ…」

頭の中に声が聴こえる。

???「大丈夫か?、坊主」

新月の日だけ何故か聴こえる誰かの声、今までは何なのか分からなかった。

セルヴィ「大丈夫だよ…」

しかし、今は。

???「ホントか?」

セルヴィ「あぁ…大丈夫だよ」

前世の記憶がある、この声はテレビで昔から聞いていた。

セルヴィ「ザルバ

ザルバ「ほう…なんだお前、前世の記憶を取り戻したのか」

セルヴィ「今日は体調が悪いんだ…明日詳しく聞かせてもらうよ」

ザルバ「俺は今の所、新月の日しか喋れないぞ」

セルヴィ「はぁ…そうだったな…でも別に大丈夫だ、自分が異世界転生してお前が転生特典の一つって言う簡単な事は理解してる」

ザルバ「なら、細かい事は大丈夫だな」

セルヴィ「ああ、今の所お前も牙狼(ガロ)も必要にはなってないから、心配なんていらない」

ザルバ「わかった、だったら今日はもう寝ろ、疲れただろ?」

セルヴィ「ああ、おやすみ」

 

そのままゆったりとベッドに向かうと直ぐに意識は眠りへ落ちていった。

 

 

 

 

 




ザルバ「大事な者、それを傷つける者、まだ守る事を知らぬ震えたその手で何を決断する?次回、少年…今はまだ枷となる幼さの中でお前ならどうする?」
 

 


本家風の次回予告はまたやるか分からん


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少年

そういえばプロローグの最後に本家風予告追加してます


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は久しぶりに夢を見た、きっと前世の記憶なんて物を思い出してしまった事実に対して来たショックは自分が思ってるよりも激しい物だったんだろう。

白い空間の中、俺の目の前にある黒いマントを掛けた狼を模した黄金の鎧も夢だ。

でも、それにしては妙に思考がはかどる、ハッキリする、なんでだ?自分の夢を自分で操れる明晰無(めいせきむ)だとか言うやつは夢を見てる間意識がハッキリしてるらしいが操作できるんなら今すぐ別の夢に切り替えてる。

しかしそんな事が出来る気配はまったくない。

目の前にある鎧の緑色の瞳がこっちを見つめているような気がして少し怖くなって来た。

前世ではテレビのヒーローとして見ていた…でも今は関係ない

その事に対して少しだけ寂しさと同時に「なんで思いだしたッ!?」と言う強い苛立ちを感じた、これからの新しい人生の邪魔になる…邪魔になるが…邪魔になるような存在でいて欲しくない記憶だ。

暗い気持ちでうつむいて居ると急にガシャンと言う金属質な音が聴こえた、なんなのかは聴こえた方向でハッキリと分かった

顔を前に戻すと目の前の黄金の鎧が一歩を踏み出して居た

俺が「えっ?」と声を出すと一歩、さらに一歩近づいて来た

もう黄金の鎧は目の前だ、何も言えず固まって居ると意味の分からない出来事が起きた

セルヴィ「!?」

殴られた、咄嗟に両手でガードしたがそれでも吹き飛ばされ腕に焼けるような痛みが響いた

セルヴィ「ッうわあぁあ!!何で!?ハァッハァ!!」

黄金の鎧の方を見ると長剣を右手に握っていた

鎧の腹部にもある三角の紋章と黒い刀身の銀の装飾が特徴的な剣だ

あの剣に殺される、そう感じ後ろに向かって走り始めた。

それなのに背中には恐らく振り下ろされた剣によって熱い痛みが走った

その痛みに対してもはや声も出せず倒れた

助けて、そう心で叫んだ、しかし自分を助ける者なんて何処にもいない

必死に探した、何かを、助かる為の何かを探した

そして視界に入ったのは同じ剣だった、自分を殺そうとしている黄金の鎧と同じ剣だった

気づくと俺は目の前にある剣に手を伸ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「ッ!?」

呼吸を取り乱しながら、いつも通りのベッドの上でまず思った事は…何もない、ただ混乱した

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「マジでなんだあの夢は、洒落にならん」

ルナ「そんなに怖い夢だったの?」

セルヴィ「うん…ヤバい、ヤバかった」

ルナ「フフッ」

畑仕事をしながらそんな事を話しているとルナに笑われた

セルヴィ「…ホントにヤバかったからね?」

ルナ「分かったって」

笑い混じりに返事された

セルヴィ「まぁいいや…そろそろ終わろっか」

ルナ「うんっ」

そう言って畑から出るとよく見る光景が有った

ロン爺「ちょっ、ちょっ待っ…」

コロ「ほら早く!!、ロン爺!!」

六歳のコロの遊びにまたロン(じぃ)が付き合わされている、多分追いかけっこ?をしているのだろうがロン爺はかなり歳がいってるからさすがに追い付けてない

セルヴィ「あんま無理させんなよ~」

コロ「!?、セルヴィじゃん!!遊ぼうぜ!!」

セルヴィ「また後でな」

適当に手を降ってその場を去った

ルナ「またね~」

コロ「…ロン爺!!、続きやるぞ!!」

ロン爺「ハフッフゥハァフゥ」

かなり息が上がってるがシュイ先生によると若い頃運動してなかったからあれが以外といい運動になってるらしい

 

 

ルナ「…ねぇ」

セルヴィ「ん?」

歩いていると急に話しかけて来た

ルナ「もう家に帰るの?」

セルヴィ「えっ?、うん」

ルナ「ほら、まだ明るいしさ…どっかで遊ばない?」

セルヴィ「でもこの村遊べる場所とかないよ?」

このラゼルア王国の領土であるこのルト村には特に遊ぶ場所がない、マジで娯楽がない…前世の記憶が戻ってさらにそれを痛感するようになった…

ルナ「じゃあさ…お花畑!!」

セルヴィ「ん?、あぁ…まぁいいけど」

ルナ「じゃあ行こ!!」

セルヴィ「うん」

 

 

 

 

 

 

ルナ「綺麗だなぁ…」

セルヴィ「うん」

石で出来た塀に座りながら沢山の花を眺めていた

ルナ「そういえばさ、ラゼルア王国がさ、なんか色々上手く行ってるらしいね」

セルヴィ「ああ…なんか聞いたよ…つーか政治とかの話するんだね」

ルナ「そりゃ…するよ、出来るだけうちの村に潤ってて欲しいし」

潤ってて欲しいってのは同じ気持ちだ、もっと薬類が豊富になれば安心だからな

セルヴィ「そうだね……それじゃ、俺は家に帰るよ」

ルナ「うん、それじゃ私はロン爺が大変な事になってるだろうから行ってくるね」

セルヴィ「それじゃ」

そしてゆったりと帰路に着いた

 

セルヴィ「…………」

特に眠たい訳でもないがベッドの上でぼーっとしていた

すると急にドアから激しいノック音が聞こえた

セルヴィ「なんだ?」

ベッドから飛び起きドアの方へ向かい、開いた

シュイ「セルヴィ君!!、コロ君とロンさんとルナちゃんを見なかったかね!?」

セルヴィ「えっ?……何かあったんですか!?」

シュイ「もうすぐ暗くなるのに村の中に居ないんだ…もし外に居るなら危険だ!!、君も探してくれ!!」

セルヴィ「は!?、すいません!!どいてください!!」

俺は先生を押し退け場所も見当がついていないのに走り出した。

 

ルナ…何処に居るんだ?……まず村以外に行くような所は森か?…クソ!!取り敢えず行くしかない!!

 

俺はとにかく走り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「!?、ロン爺!!」

案の定森への道を進んでいるロン爺は居た…でも、他の皆は…?

セルヴィ「ロン爺!!、皆は!?」

ロン爺「せっセルヴィ!!、コロが森に入って行ってそれをルナが追ったんじゃ…」

セルヴィ「まず村の皆を呼べよ!!、先に帰ってて!!」

そういって森の中へ走った

 

 

 

 

セルヴィ「何処にいんだよ!!」

この森は広い、慣れないとすぐに迷う…二人ともこの森には慣れてない筈だ、ヤバいな…速く探さないと

???「セルヴィ!!」

セルヴィ「!?、コロ!!」

泣きながらコロが走って来た…様子がおかしい

セルヴィ「ルナはどうした!!」

コロ「ルナが…!!、俺を守って怪我してるんだ!!」

セルヴィ「ハァ!?、クソッ!!…おい、お前はここをまっすぐ行け、多分まだ来るときの道にロン爺がいる筈だ」

コロ「うん、分かった!!」

コロは俺が指を刺した方向へ走って行った

そして俺はコロが来た方向を見つめた

セルヴィ「…何か有るのか?……」

俺は嫌な予感と言う物を初めて本気で感じた。

この前、狩りをした時アーロンおじさんが感じた嫌な予感はこんな感じなのだろうか、とにかく念のため…アレを出すか

俺は有る剣を左手に来いと念じた

セルヴィ「牙狼剣(がろうけん)……」

左手に表れた剣を見つめると直ぐに走りだした

 

牙狼剣…基本時には鞘、持ち手、全体的に赤色で金の装飾と持ち手にある黄金の三角の紋章等が特徴的な剣だ…そして牙狼の鎧を召喚する事が出来る。

俺に与えられた転生特典の一つ、そして最大の武器。

 

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「ルナァ!!」

ルナを見つけた…だが背中の大きな切り傷から大量の血を流しながら倒れている

セルヴィ「…!?、ルナ?…ルナ!!」

気絶しているのか近づいて揺らしても何も反応が無い

早く村へ連れ帰らないとかなり危険だ

セルヴィ「ヤバい…速く連れ帰らないと…」

抱き抱えようとしたその時、大きな吐息が聞こえた

後ろから聞こえて来る吐息は明らかに人間の物ではない、それぐらい分かる。

後ろを振り向くと手に刃物と呼べる物がめちゃくちゃに生えた人間と同じぐらいのサイズの赤黒い鱗が身体中に有る化物が居た

セルヴィ「……………」

化物「シャアアァア!!」

こいつを倒さないと運ぶのは無理か…

左手に持っていた剣を引き抜くと鞘を放り投げ、両手で剣を構えた

化物「フゥウゥウウゥウウウ!!」

なんだかキレてるがこっちのがキレてる

走って来た化物を切りつけるが腕の刃物に邪魔されて通らない

セルヴィ「ッ!?」

まずは…ルナから引き離さないと…!!

攻撃の体制をやめ走りだし、距離を取った

こっちの思い通り化物が走って来たが…ここからどうするかが分からない、剣は腕に塞がれ、バカ真面目に近接戦闘なんて物をしようものなら瞬殺される

鎧の召喚……はそんな隙は無い

しかし、後ろの木を見てふと思い着いた

 

まっすぐ化物は走って来ている

上手く行ってくれよッ!!

後ろへ走り出し木を蹴って化物の後ろへ飛んだ

化物「!?」

セルヴィ「おらぁ!!」

がら空きの背中へ剣を突き刺した

化物「キシァアアァア!!」

痛々しい声を上げているがさらに突き刺す

セルヴィ「はっ!?」

しかし、化物の腕に吹き飛ばされた

腕でガードした為腕以外に傷はないが代わりにそこらに生えている木に叩きつけられ倒れた、だが右手には握りしめていた牙狼剣がまだある。

セルヴィ「クソッ……!!」

意識を失いそうな状況で目を開けると化物の傷は直ぐに癒えルナの前に居た

ルナに手を伸ばそうとしている化物は赤い目をさらに血走らせ口をご馳走を前にして押さえきれず開けているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、ホントにキレた

 

 

 

 

 

 

 

俺は牙狼剣を地面に突き刺し杖にして立ち上がった

化物「?」

化物はまだ生きてたのかと不思議そうに見ている

セルヴィ「おい…」

剣を引き抜いた

セルヴィ「その子に触れるなよ…?」

化物「?」

血と傷だらけの腕に力を込めた。

剣を上にかざし、光の円を描き剣を振り下ろした、すると俺を円からの光が照らし一瞬、さらに光が強くなった

鎧のパーツが次々と円から表れそれは俺の体に(まと)った

 

これが黄金騎士…牙狼

俺の体は青色の目の狼を模した黄金の鎧を纏っていた

それと同時になんと言えば分からないが俺の中で99.9秒の時間制限の感覚が分かるようになった

夢の中で見た牙狼と同じように牙狼剣もいつの間にか戻って居た鞘と共に黄金のもっと大きめで派手な剣へと変わっていた

牙狼「来い」

また化物が走って来た、そして左からパンチをしようとしたがそれを簡単に左手で受け止めた

化物「ッ!?シャアアァア!!」

すると、化物の腕は焼けた…牙狼の鎧は剣と同じソウルメタルと言う特別な金属で出来ている、恐らくこの世界では唯一無二であろう金属だ

それと、この焼けた腕はまだ離さない

牙狼「フンッ!!」

一瞬だけ剣を空中に投げると右手で顔面を殴った

そして剣をキャッチした

俺のパンチで吹き飛ばされた化物は直ぐに立ち上がり周りの大きな木の上まで届く程にジャンプした

牙狼「逃げる気か?、ふざけんな!!」

 

78.6

 

俺もジャンプし化物を殴った

化物も負けずと痛みを我慢し俺を下へ投げ飛ばした

化物「シャアアァア!!」

牙狼「………!!」

隙が出たと判断したのか空中で飛びかかろうとした

しかしその前に俺は対応の仕方を考えてある

背中の両側に有る突起が鎖と共にワイヤーのように両側の木に射出される、そして取り敢えずはそのまま落ちる

化物「シャアアァア」

そして、ここで巻き取る

鎖が一気に巻き取られその勢いを利用し両足で化物を蹴った

化物「ッ!?」

牙狼「止めだ」

牙狼剣を鞘から引き抜き化物の胴体を簡単に切り裂いた

横に真っ二つになった化物の体は空中で炭のようになり消えていった

そもそも一体こいつはなんだったんだ?…

 

そんな疑問も考える暇もない

 

地上に戻ると直ぐにルナに駆け寄った

セルヴィ「腕だけ鎧を部分解除して連れて行けば……あれ?」

出来ない

セルヴィ「なっ!?、鎧の力がないと間に合わない!!」

どうすればいい?…このままつれて行けばルナの体を焼く事になる……でも鎧を使わないと間に合わない

 

セルヴィ「なんでこんな簡単な事が出来ないんだよ!!」

俺は…どうすればいいのか分からず、ただ…震えていた

 

 

 

 

 

 

 




ザルバ「どれだけ後悔しても戻ってくる過去など何処にもない、お前が今してる後悔の意味を良く考えるんだな、次回後悔、言っとくが俺様のアドバイスは素直に聴いておけ」



炎の刻印勢「村…主人公と仲がいい女の子…ウッ頭が…」
ザルバ予告は思い着いたら追加します
追加しました


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後悔

???「おい、朝だぞ坊主、起きろ」

セルヴィ「……………………」

???「おい」

セルヴィ「はあ……」

???「なんだ、その返事は?」

さっきから起きようとしない俺に対してザルバが嫌みたらしく言った

セルヴィ「何?」

ザルバ「さっきから言っているだろう?、起きろ」

セルヴィ「………………」

この骸骨の胴体見たいな台座にぶっ刺さってる骸骨見たいな顔をした指輪がザルバだ、指輪が喋っている、文字にすると随分とファンタジーな物だがザルバの見た目は実際に見てみればかわいらしいファンタジーの欠片もない

セルヴィ「わかった、起きる」

嫌々ベッドから出た…なんだか、だるい

セルヴィ「……つーか今日休みじゃん」

ザルバ「そうだな」

またベッドに戻った

セルヴィ「…寝る」

ザルバ「おい、さっきから起きろと言ってるだろう!!、何回言わせる気だ?」

セルヴィ「はぁ…俺の寿命、お前に1ヶ月につき1日分やってんだろ…文句言うなよ」

ザルバ「ふん、まぁいい…それはそうと、あの女の所に行かないのか?」

セルヴィ「は?」

ザルバ「なんだ?、もう五年経ったのにまだ引きずってるのか…」

セルヴィ「……………………」

何も……言えなくなった

ザルバ「こりゃ重症だな」

セルヴィ「チッ……」

ザルバ「いいか?、お前が引きずっててもあの女はお前と話たりしてずとぶんと楽になってるようだぞ?」

セルヴィ「…その子を傷つけて……人生に酷い影響を与えたのは何処の誰かは分かってるだろ…」

ザルバ「お前だろ?」

セルヴィ「もう一度言う、お前に俺の寿命を与えてやってるんだ、二度とルナの事は喋るな」

俺はそれだけ言うともう一度大きく布団を被った

それなのに、ドアからはノック音がした

セルヴィ「………………」

ザルバ「大体、もう何年も話してない見たいな言い方してるがほぼ毎日会ってるだろうが」

頭に手を乗せると愚痴が口からこぼれた。

セルヴィ「はぁ…まったくもう……お前黙ってろよ?」

ザルバ「そんな無粋な真似はしない」

セルヴィ「はぁ…」

ドアへ向かい、ゆっくり開けた

 

あぁ…、やっぱり直視出来ない…出来るわけがない

ルナ「おはよ!!」

セルヴィ「おはよう」

 

 

この怪我は俺のせいだ

火傷が体中にある…基本的に殆どの場所が感覚を失ってるらしい

もう五年、村の皆も慣れて普通に接している

でも……俺だけは罪悪感を受け止めきれずにいる

ルナ「?」

さらに辛いのが…ザルバの言った通り俺と接する事で楽になっているらしい

ルナ「おーい」

セルヴィ「あっ…」

いつの間にかルナが不思議そうにしている事に気づかなかった

ルナ「とうしたの?」

セルヴィ「あっいや……そういえば何?」

ルナ「ちょっとさ……ご飯分けてくれない?」

セルヴィ「えっ?」

ルナ「夜の分の食材が…無くて…」

そんな事か…まぁ良く食べる子では有るがここまでか

セルヴィ「作ろっか?」

ルナ「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「…なぜこうなったんだろ」

ザルバ「自分で言っただろう?、俺様はあの後止めたからな」

セルヴィ「…朝からルナの所に行けって言ったり…行くなって言ったり…」

ザルバ「流石にお前、直接家にまで行ってしかも長時間一緒に居たらお前がヤバいだろ」

セルヴィ「…大丈夫だよ」

俺は今、約束通りルナの家で料理を作っていた…右中指の指輪と喋りながら…。

それにしても魔道具ポジションで蛇口捻ったら水出るのなんかすげぇな

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「ふぅ…出来た」

ザルバ「ほう…やるじゃないか」

これは旨い…絶対に……

ザルバ「随分凝ってるじゃないか」

セルヴィ「そりゃあな」

ザルバ「?」

不思議そうな反応のザルバを他所に配膳を始めた

セルヴィ「明日はルナの誕生日なんだよ」

ザルバ「…だったら明日作ってやればよかっただろ」

セルヴィ「なんで二日間もご飯作らなきゃ行けないんだよ…ルナの事は独り暮らしだからって心配しなくていいよ、あれで自分でご飯ぐらい作れてるらしいし」

ザルバ「…お前なぁ……そんな邪険に扱うなよ」

セルヴィ「………………………」

ザルバ「おい、聞いてるか?」

ザルバを無視していると二階から足跡が聞こえて来た

ルナ「出来た?」

セルヴィ「うん、出来たよ」

丁度配膳が終わった所だった

セルヴィ「…どう?」

ルナ「凄いじゃん!!」

それを聞いて少しだけ、俺は笑った

 

 

 

 

 

 

 

セルヴィ「ふう…お腹いっぱい、もうそろそろ寝よっかな」

食べ終わった後ルナはもう二階に上がった

ザルバ「ならもう帰るか?」

セルヴィ「ああ…じゃあルナに挨拶してくる」

椅子から腰を上げ、二階に上がると少しだけ不思議に思った

セルヴィ「あれ?、ベッドが二つある…」

そう言ったと同時に窓際の方のベッドで恐らく寝ていたルナが起きた

ルナ「ん?、どうしたの?」

セルヴィ「ああ…もう帰ろうかと思って」

ルナ「泊まってけば?」

セルヴィ「え?」

ルナ「この前女友達が来た時にアーロンおじさんに作って貰ってお古のベッドが丁度あるし」

使われていない方を確かに良く見れば結構…ボロボロというか…何て言うか……多分寝心地が………

セルヴィ「ん~……どうしよ」

考えながら片手で頭をかきむしる。

ルナ「せっかく来たんだから別いいじゃん」

セルヴィ「え~と……分かった…」

押しが強すぎる…

 

 

 

 

 

 

 

ルナからの押しに負けて俺はいつもとは違う寝心地の悪いベッドの上で布団から両手を出してお腹に乗せる体制で横たわっていた

俺は静かな空間の中、ただぼーっと天井を見ていると急にルナが喋った

ルナ「そう言えばさ、その指輪何?」

セルヴィ「え?(やべぇザルバの事聞いてくるとは思わなかった)」

何を言ったら良いんだろう…と考えていると急にルナが右手を触ってきた

そしてそのまま掴んで自分の方へ持っていった

ルナ「何これ?、なんか高そうだな~…これ骸骨?」

セルヴィ「え~と…」

反応に困っていると急にルナが不思議そうな顔をして固まった

セルヴィ「ん?、どうした?」

ルナ「なんか……この指輪にめんどくさそうな顔されたような…」

セルヴィ「へっへぇ……(ザルバ…動きやがったな…)」

一瞬、痛い所を突かれた事で焦ったが直ぐにルナは手を離した

ルナ「私ってさ…ほら、こんな体じゃん?」

セルヴィ「うん……」

急に五年前の事を話し始めて動揺した

ルナ「それでさ、五年ぐらい前に火傷しちゃって…その時の友達とか大体の人からは避けられちゃったんだよね……他の同世代からの態度も酷くなっちゃって…まぁ何人かの友達は居るけどね」

なんでそうなったか、それは俺のせいだと言う事は自分でよく知ってる

 

視線が自然に下へと向かおうとするがその前に驚き、ルナを見つめた

どこか、悲しい笑顔で言った

ルナ「私、自分を女の子だと思っちゃ駄目かな?」

それに対し、俺は…一つため息をつくと正直に、そしていつも通りの感じで言った

セルヴィ「ふう……駄目なんなじゃないよ、そもそもルナは正真正銘女の子でしょうが?、あんま自暴自棄やってると怒るからね?」

 

 

すると、今度は急に黙りこんで天井を見つめ始めた

ルナ「私さ……1ヶ月後に…」

そこで一旦、苦しそうに止まった…ずっと、一緒に居たから…いや、誰でも分かる…かなり苦しい思いをしてる。

セルヴィ「どうした?」

ルナ「1ヶ月後にね……村、出ていく事になったの」

震えた声で伝えられた事実は…俺の頭を真っ白にさせた、まず頭に出てきたのは「なんで?」じゃない、「嫌だ」だ。

セルヴィ「えっ?……ねぇ…それって………え?…どういう事?」

俺もルナと一緒で震えてしまう。

ルナ「あのね……王都に特別な学校があるでしょ?、あそこに行く事になったの」

セルヴィ「えっ?、でもあそこは貴族とかの…」

ルナ「私にスキルボードが…有ったんだって」

セルヴィ「えっ!?」

ルナ「だから…ね?」

セルヴィ「それで俺を家に誘ったりしたんだ…それ、言うために」

ルナ「うん…」

セルヴィ「……………………」

何も言えなくなる

 

 

 

そこからは何も話せず、一晩が経ち…俺は家に帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ザルバ「なんだ?、いつの間に契約したのかだと?…そうか、ならば教えてやろう、何があったのかをな…次回契約、あいつには命を減らしてまで助けたかった奴が居る」



スキルボードがどうのこうのの設定は次回で話す予定でしたが読者さんがもやもやするのでここでざっくり説明します

スキルボード
経験を得る事で手にいれられるポイントを使って能力等のスキルを増やす事が出来る物理的な存在ではなく頭の中でイメージしたりする事で使える、場合によってはかなり稀だが特殊なシステムの物もある、基本的には貴族の一族で継承される為に平民等の一般人に発現するのは稀、スキルボードを継承させても手にいれたスキルは基本消えない、血縁者にスキルボードを持つ物が居ると発現する可能性が上がる人によってスキルボードで入手できるスキルは違う

スキル
基本的には自力で練習で魔法や特殊な剣技を習得する事は可能だがスキルとして入手すれば使いやすくなる本来ならばスキルを持つ者はスキルボードを持っているがネガ・セルヴィはスキルボードを持っていない





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契約

牙狼 ちょこっと紹介

ザルバ CV影山アキラの骸骨見たいな見た目の喋る指輪

時系列は2話と3話の間です。


セルヴィ「……………………」

もはやいつもの事で、清々しい朝なんてどれぐらい味わってないだろうか。

一年……無意識にあれからどれだけ経ったのかのカウントをしてしまう度に気分が悪くなる。

セルヴィ「はぁ…」

確かに気分が悪い、それでもしょうがない…起きないと。

溜め息混じりにベッドから立ち上がり幼なじみの事を考える、今日も全く体は良くなっていないのだろうか?。

未だに退院の目処が立っていない、何故かいつまで経っても良い方向への進展がない。

酷い火傷のせいで意識を失ったまま、それは俺が簡単な事が出来なかったからだ…明日、何故それが俺には出来なかったのか…やっと聞ける。

重い足取りでドアを開け、近くの丘の上に有る病院に向かう。

丘を登る途中、俺はここから見える森を抜けた平原にある大きな建物を見つめた。

セルヴィ「…心配だ」

本当に心配だ…下手したらルナにも関わってくるかも知れない。

あれは、ここの領主の砦だ…つまりはルト村の管理をしている、そして問題は前とは違う、おかしい(・・・・)、前まではそれなりに村は潤っていた…が、流れてくる物資の余裕が段々と少なくなっている。

つまり、物資が少なくなればルナに使っている薬が枯渇する可能性が出てくる……最近は特にそうだ、領主からの配給の物資の質まで悪い時まである。

セルヴィ「はぁ…明日の配給は、何事も無いといいんだけどなぁ…」

不安だが取り敢えず、足を進めた。

丘の上へ着くともう慣れてしまった景色の良さを眺めた、この景色を早くもう一度ルナに見てほしい。

この馴染みの病院できっといつか良くなる。

その()()()()()()に目を移した

二階建てで全体的に白く横に伸び、周りには花壇が植えられ色とりどりだ、子供の頃ここの見た目が何故か好きだったな。

一年前に変えたばかりのドアを軽く叩き、シュイ先生の名を呼んだ。

もっとちゃんとした日課を持った方が良いんだろうか?と、何故かふと考えたが他にやることなんて無いからな……。

少し待つと、足音が聞こえてドアをシュイ先生が開けた。

シュイ「ああ、セルヴィ君か」

セルヴィ「お見舞いに来ました」

少しだけ、シュイ先生は笑顔になった。

シュイ「毎日お見舞いに来てくれるのは君だけだよ…後は何人かの友達達とコロが定期的に来てくれるかな、まあ取り敢えず入りなさい」

先生が奥へ行く。

セルヴィ「はい」

一歩進み、病院内に入ると無意識に立ち止まった。

左には窓際にカーテンで周りが閉じられたベッドがある、そこへ体を向けるとただ見つめた。

シュイ「えーっと…」

先生の方を向くと奥の薬等が置いてある棚の前で何かを探している、いつもお茶を出してくれるがそれを探しているのだろうか。

シュイ「二階だったかなぁ…?、ちょっと二階からお茶を持ってくるよ」

先生は階段で二階へ上がって行った。

もう一度、ベッドの方を向いた。

これはルナのベッドだ……それ程に火傷が酷いのか先生は誰にも様子を見させない。

セルヴィ「………………………」

急ぎ足でベッドの前へ立った、そこで俺は色々な不安が頭に浮かんだ。

 

「どれだけ酷い?」「どれぐらい治った?」

「いつになったら治る?」「まだなのか?」

 

沢山疑問を出したが、それはとても短い時間の間だと思う。

俺はいつの間にか右手でカーテンを強く握っていた。

後は、カーテンを開けるのかどうか…たったこれだけの事だけど、とても長く感じる程沢山考えた、でもきっとこれも短い時間で決めた事だ。

 

 

 

 

シュイ「セルヴィ君、お茶を持って来たよ」

セルヴィ「!?」

直ぐに手を離し後ろを向いた、そこには階段を降りてる途中のティーポットと二つのカップを両手に持ったシュイ先生がいた。

セルヴィ「ありがとうございます…」

シュイ「あまり高級な物じゃないけどね」

シュイ先生はそう言うと、いつも通り部屋の隅にある小さめの白いテーブルに配膳した。

向かい合うように椅子に座り、先生がカップへ注ぐと前世でよく飲んだ麦茶のようなお茶が出てきた。

シュイ「はい、どうぞ」

セルヴィ「ありがとうございます」

カップを手に取り飲む、味も麦茶っぽい、飲み慣れた物と味が似てるせいかこのお茶が一番飲みやすいし、家でもよく飲んでる。

やっぱりお茶がどうのこうので自分を誤魔化せないよな……、やっぱり今は…ルナの事を少しでもハッキリさせたい。

セルヴィ「ルナって……そんなに体、酷いですか?」

先生はカップを口へ運んでいた手を止めカップをテーブルに置いた。

シュイ「…ああ……いつ治るのか……それすらも分からない…」

今日も…いつもと替わらずにいつ治るのかすら分からないのか。

セルヴィ「そう…ですか……」

少しだけ、先生の言葉に間が空いた。

シュイ「君だけに言うよ」

セルヴィ「えっ?」

シュイ「…ルナちゃんは投薬をやめたら亡くなってしまうかもしれない……その上、薬に余裕が失くなって来て…配給で何とかやってる、実は今ルナちゃんはとても危険な状態なんだ」

今…なんて言った?

体が自分でも何か考える前に立ち上がっていた。

セルヴィ「!?、薬を止めたら死ぬなんて聞いてないですよ!!」

シュイ「ああ…誰にも言ってない、君だから言ったんだ」

セルヴィ「は…?」

シュイ「君だから…誰よりも、あの子を大切に思ってる筈の君だから言ったんだ」

セルヴィ「…………………」

先生は真っ直ぐこちらを見つめていた。

シュイ「大丈夫、あの子は死なない」

セルヴィ「はい…」

ゆっくりと椅子に座った。

シュイ「…前にさルナちゃんの背中に火傷の跡が有るって言ってたよね」

セルヴィ「…はい」

シュイ「あの傷…そのままだったらここでは処置出来なくてそのまま多分……亡くなる筈だったと思うんだよ、でもね、火傷で傷が閉じられてた…それで助かったんだよ」

セルヴィ「えっ?」

これも聞いた事がない話だった…そんなにアレは意味が有ったのか…良かった。

シュイ「それから…思ったんだよ、きっとあの火傷は人のせいなんだろうけど…ルナちゃんを苦しめる為の物であったのかな?ってね」

セルヴィ「…………………」

シュイ「勿論、違うかも知れないけどね…でもその考えが頭から離れないんだ」

笑顔でそう話した

沢山話を聞けた、今日はもう…帰ろうかな。

セルヴィ「それじゃ…今日は帰ります」

シュイ「今日()…ね……やっぱり君見たいにあの子を待っていてくれる人が居ると頑張れるよ」

セルヴィ「それじゃ…ありがとうございました」

扉へ向かい、外へ出た。

今日はゆっくり休もう…。

家へ歩き出し、先生の話を思いだして…歩きながら……一年前の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年前、あの日

 

 

 

 

セルヴィ「なんでだよ…!!クソ…やるしかないのか?」

自分の鎧を纏った腕を見つめた、傷着けずに、それでいて速くルナを運ぶ方法…思い付く限り全てが出来なかった。

鎧の一部解除、鎧の中へルナを入れるのも鎧を解除してからルナを入れようとすると光の円が表れなかった。

すると…ルナを運ぶ方法、それは…ルナの体を焼く事になる…一体どれだけの影響がルナの一生に及ぶのか…。

でも、死んで欲しくなかった…だから……俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

セルヴィ「うぉっ!!」

あまり考え事に集中しすぎていたのか転びかけた、何とか体制を立て直したがボーっとしていた時に転んだせいでガチで寒気がした。

久しぶりに体験した「死ぬかと思った」ってやつだ。

セルヴィ「はぁ…」

早く帰ろう。

帰ったらもう寝ようかな…そうすれば、速く明日が来るように感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年前、あの日

 

 

牙狼剣を地面に刺した。

倒れているルナの服の背中部分を手で破る、背中の傷は思ったよりも酷い物だった、傷がまず大きい…肩の近くから背中の下まで斜めに血を出しながら延びている、血のせいで見えにくいがなんとか骨まではギリギリ達していないように見えた。

そして、何か知識があるわけでもないし間違っているのかも知れない…でも、先ずは血を止めないといけない…そう思った。

これであっているのか分からない、しかしやるしかない。

手を上の方の傷に押し当てた。

肉が焼ける生々しい音と水分が蒸発しているのか煙が上がった、そこで泣きそうになったけど…一番不安だったのが意識を失っているからってこの痛みでも起きない事に対して俺は一番怖かった。

そのまま手を下の傷まで動かした、それでも声すら出さない。

もう死んでいるかも知れない…その可能性が怖かった。

直ぐに抱き抱えた、また焼ける音に煙…こんな事しか出来ないのが辛い。

もう周りは暗くなって来た…速く村に戻らないと。

セルヴィ「ごめん…!!」

走った、とにかく……走った、今までで一番速かったと思う…そうじゃないと意味がない。

走り続けて、村が見えた。

48.3

鎧の制限時間は持つのだろうか…そんな事、計算する余裕なんてない。

村を通らず、外側から一気に丘の病院へと向かう…一番速いし鎧の事もばれない。

丘へ向かった、いつもとは逆方向からのせいで丘は昇る場所がない…でも今は鎧が有る。

セルヴィ「ルナ…もうすぐだから……!!」

少しだけ助走を付けて上へ跳んだ。

上へ着地するとやっと病院が見えた…後少しだ。

セルヴィ「!?」

体が倒れそうになった、やっと近くに来たせいか気が緩み、鎧の召喚にかなりの体力を使っていた事に今さら気づいた。

セルヴィ「ハァ…ハァ…まだ……倒れたら…駄目だっ!!…」

体の感覚がおかしくなってきた…。

5.8

後少しで着く。

セルヴィ「もうすぐだから…」

3.6

扉の前に立つとまた体が倒れそうになる。

セルヴィ「ハァ…ハァ……やばい…」

扉を開けようとするが開かない、鍵が掛かっていた。

1.7

セルヴィ「…!?、時間が無いのに!!、あぁああ!!」

もう体が倒れそうになる、まだそういう訳にはいかない、俺は叫びながら右手で扉を吹き飛ばした。

セルヴィ「遅くなって…ごめん」

0.14

吹き飛ばすと同時に「戻れ」と心の中で唱えた。

頭上に光の円が現れ、鎧が一週だけ輝くと円の中へ入っていった。

セルヴィ「ハァ…っ…足が……」

足を引きずりながら歩く。

ルナの体には血が沢山付いていた。

手に暖かい感覚がする、この感覚は多分…血だ、病院の中は暗く、うっすらとしか見えない。

暗闇の中で血が下に落ちる音がする。

やっとベッドに着き、ルナをゆっくり横たわらせた。

セルヴィ「…皆を……呼んで来るから…」

俺は村へ歩き始め、吹き飛ばした入口を通って外へ出た。

そこで視界がぼやけて…見えなくなって……意識が無くなった。

 

 

次に目が覚めたのは病院だった。

暗くなっていた筈の周りは朝日で明るくなっている。

もしかして気絶してたのか?…周りがカーテンで遮られた病院のベッドの上で少し遅れて状況を理解しはじめる。

ルナはどうなった?…この時やっと意識がハッキリした。

セルヴィ「誰か!!」

今すぐにどうなったのか、それを知りたかった。

すると、慌てたような足音がこちらに向かって来た。

直ぐにカーテンを開けられ、その人はシュイ先生だった。

シュイ「…良かった……意識を取り戻したんだね…」

ホッとしたような顔をしている。

セルヴィ「ルナは…?」

シュイ「…言えない」

セルヴィ「!?、…………」

何も言わなかった、それはシュイ先生の顔からルナの事は出来るだけ聞いてはいけない、そう感じたからだ。

ただ、これだけハッキリさせたい。

セルヴィ「生きてますよね…!!」

シュイ「ああ」

力強く、答えてくれた。

ただ、今…どういう状態(・・)なのか、それを答えてくれなかったのはそれだけ…酷いんだろう。

俺に言えるわけないよな…言う側だって辛い筈、俺自身…どれだけ酷いのか詳しく知るのが怖い。

 

嫌だな…大切な人を傷つけるのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在 早朝

 

周りはまだ暗い、実質夜だ。

そんな時刻に起きてベッドの上に座っていた。

セルヴィ「…ザルバ」

とにかく、ハッキリさせたい。

ザルバ「どうした?、こんな早くから」

頭の中に声が聞こえた。

セルヴィ「さっさと聞くけど、俺がなんで牙狼の鎧の部分解除だとか他の人を鎧の中に入れたりする事が出来なかった…?」

ザルバ「は?…お前さん、その前に牙狼剣を持てたのか?」

セルヴィ「ああ…一応な」

ザルバ「一応?、どういう事だ?」

セルヴィ「スキルで持ったんだよ」

そう言うと不思議そうに言った。

ザルバ「なんだそれは?」

セルヴィ「は?」

ザルバ「だから、そのスキル(・・・)というのは何だ」

セルヴィ「その前に、そもそも…お前何なんだよ、俺がテレビで見てた世界から飛び出して来たのか?、それとも別の物なのか?」

ザルバ「別の物、らしいな」

セルヴィ「らしい?」

ザルバ「俺様に分かるのは俺様はテレビの物じゃない、別の物だし記憶なんて魔戒(まかい)騎士関連だけだ、しかも曖昧な…」

セルヴィ「記憶がない?……じゃあ何でテレビの中のやつじゃないって事分かるんだよ」

ザルバ「さぁな、俺様はそう感じるんだ、何故かは知らんがな」

セルヴィ「ふーん…」

ザルバ「なんだ、興味なさそうに、お前が聞いただろう…」

どうしようもないな。

セルヴィ「まぁいいや、それじゃスキルの事だな」

 

 

スキル、それは一部の人間に宿る物

それが何なのか、かなり諸説ある

神からの贈り物だとか…基本的には宗教的な解釈がほとんどで結局何かは分かってない。

スキルを持つ物には必ずスキルボードがある、少しお上品にスキルツリーと呼ぶやつもいる、まぁこれは好みだな、違いがわからん。

そしてスキルボードは何か…例えば戦闘だ、戦闘の場合、戦えばポイントが貯まる、そしてそのポイントで様々な能力や技が入手できる

それがスキル(・・・)だ。

まぁ別にスキルボードで手に入る技だとかは別に絶対にスキルボードからでしか手に入らない訳じゃない。

剣の技なら習えば、魔法なら勉強すれば、ちなみにプロなら自分で作ったりもいける、まぁ実はスキルボードで入手しても使いやすくなったりするぐらいだな。

ただスキルボードにはそういう物だけじゃない、そのボードでしか手に入らない物もある。

その手のやつは総じて強力なやつばかりだ。

 

ザルバ「ほう…」

ただし、基本的に貴族にしかスキルボードはない

ザルバ「?、何故だ?」

スキルボードは継承ができる、継承すると自分の今まで手にいれたスキルは消えないが増やす事は出来なくなる、そして継承した者はスキルボードが自分オリジナルの物に変化する。

セルヴィ「こういう事が出来るからってのが貴族にしかスキル持ちがいない原因だな、だからスキルボードは権力、力、その他もろもろの象徴になってる」

そして挙げ句の果てに血が繋がっているものにスキルボード持ちが居ると発現する可能性が上がる。

まぁ、そこら辺の村人がある日スキルボードを発現させて冒険者としてまぁまぁそれなりに成り上がったというのも聞いた事があるなぁ…。

セルヴィ「取り敢えず、これがスキルについて知ってる事だな」

セルヴィ「そして、俺のスキルの一つが…魔戒剣、及び魔戒騎士の鎧の強制掌握(きょうせいしょうあく)…」

ザルバ「そうか…わかった、お前が何で鎧のちょっとした部分が使えなかったかもな」

セルヴィ「えっ?」

驚いたな…。

ザルバ「そのスキルとやらで無理矢理牙狼剣を扱ったのが問題だろうな…、本来はそんな軽々しく使える物じゃない」

いつの間にか深くため息が出た。

セルヴィ「…知ってるよ……心技体、本来なら全部揃ってやっと持てる」

ザルバ「スキルでも牙狼の全てを自分の物には出来なかったんだろう」

またため息が出た、やっとハッキリはしたが…。

セルヴィ「…昼からは領主の配給を皆で配らないといけないんだ……もう寝るよ」

ザルバ「まぁ…鎧を召喚したって事はそれだけ危険だったって事だな?……ならもういい」

俺は何も言わずにそのまま眠った。

 

 

 

 

自然と目が開く、眠った時とは違い明るい、それなりに時間がたったみたいだな。

ベッドから起き上がり外に出た、まだ本調子じゃない体に日光を浴びまくり無理矢理起こす。

周りを見渡すとロン爺が居た。

ロン爺「…いつもより遅いのう……」

何かあったのか?、そう思い話かけた。

セルヴィ「どうしたの?、ロン爺」

ロン爺「なんだかのう…いつもより配給が遅いんじゃよ」

いつもなら、大きな馬車に荷物が積み込まれた状態で兵士が二人程来る。

なんでだ?。

コロ「あっ!?、セルヴィ!!」

セルヴィ「ん?、コロか、どうした?」

コロが元気良く走って来た。

コロ「馬車が来たよ!!」

目を瞑り、耳を澄ますと確かに馬が地を蹴る音や車輪のゴロゴロと言った音が聞こえる。

目を開けるともうここから見える程近くに来ている事に気づいた。

でも、。

セルヴィ「あれ?」

おかしい…馬車はいつもはもっと大きい、この馬車は人しか入るスペースがない。

馬車を見ていると剣を腰の鞘に納めた二人の兵士が後ろから降りた。

いつの間にか人混みになり集まっていた周りの村人はざわつき始める。

降りた内の一人の兵士が喋り始めた。

兵士「今日から配給を無しとする!!、これは領主、ラングース様の命令である!!」

セルヴィ「は?」

周りのざわめきはさらに酷くなる。

配給と狩りと畑…これで何とかやってる村に配給をやめるだと…?。

 

俺はここでシュイ先生の言葉を思い出した

 

 

 

 

ルナちゃんは投薬をやめたら亡くなってしまうかもしれない……その上、薬に余裕が失くなって…配給で何とかやってる、実は今ルナちゃんはとても危険な状態なんだ

 

 

 

 

セルヴィ「ふざけんなよ…」

俺は怒りのまま、兵士の前に出て殴る所だった。

この怒りは結構理不尽かもしれない、上の命令を聞いて仕事をしてる人を殴りに行ってるんだ、でもやっぱり理不尽だろうが抑えきれない。

だが、そんな俺に気づいたのか人混みの中から肩に手を伸ばし止めた人が居た。

セルヴィ「!?………先生…!!」

シュイ「駄目だ…抑えてくれ……!!」

兵士「以上!!」

兵士は馬車に乗り、帰っていった。

セルヴィ「ハァ……ハァ…クソッ……」

怒りで呼吸は抑えきれず、体に勝手に力が入る。

シュイ「こっちに」

俺は先生に呼ばれてついっていった。

 

 

 

 

 

病院内で先生は俺に話した。

 

シュイ「すまない……今日の分が切れた」

セルヴィ「!?」

シュイ「明日の夜明けまでに薬を投与出来なければ…多分」

そんなのは、ただ嫌だ。

死んで欲しくない

この言葉で一体どれだけ行動しただろうか。

セルヴィ「俺…そんなの嫌ですよ……!!」

シュイ「…僕は……安楽死を考えてる」

肩に両手を置き、先生の目を見た。

セルヴィ「待っていてください……」

シュイ「何か…可能性があるのかい?」

セルヴィ「はい!!」

シュイ「分かったよ……安楽死なんてしない、大丈夫だ…最後まで君を待つよ」

セルヴィ「はい……!!」

その言葉を聞いた瞬間、外へ走り出した。

 

ザルバ「何処に行くつもりだ?」

セルヴィ「別に…ハァ…ハァ…」

俺は走っていた、森の中を、領主の砦を目指す為に。

ザルバ「領主の所か?」

セルヴィ「ああ…!!」

ザルバ「それでどうする?」

セルヴィ「俺は…さぁな、知らん」

森を抜け、平原に入る前に俺は止まった。

セルヴィ「ただな…取り敢えず領主に会う、そうじゃないと話は進まない…その為に、戦う」

左手に牙狼剣を出現させ、強く握った。

ザルバ「そうか…」

もう一度、俺は走り出した。

広い広い、草しかない草原を走り風を体に受けた。

 

 

 

やっと砦が見えた。

近くで見るとデカイ、入る為の門は開いている、後の問題はその門を守っている二人の兵士だ。

槍を持ってる…当たり方が悪ければ死ぬよな、でも……多分正面突破しかない。

セルヴィ「……………」

堂々と門を通ろうとするが勿論兵士に止められる。

しかも、言葉で止める前に槍を向けて来やがった。

兵士1「誰だ!!」

左右からの槍で身動きが取れなくなくなる、しかしこれで終わるくらいなら正面突破なんてしない。

牙狼剣ではね除け、門へ走った。

兵士2「待て!!」

後ろを振り向くと槍を付き出して来た、驚いたな…問答無用かよ。

剣で槍の軌道をずらし、近付いて腹に膝蹴りをした。

セルヴィ「ごめん、兵士さんに用は無いんだ!!」

少しやり過ぎたのか苦しそうに倒れている。

だが、時間がないさっさと領主の所へ行かないと。

門を通り抜ける、すると広場に出た。

もう一人の兵士に追い付かれる前に周りを直ぐに見回し一番最初に目に入った石造りの塔に走った。

木製の扉を乱暴に開けると直ぐ左に円を描くように伸びた階段が有った今度はその階段を登り始める。

この階段を登りながら思った。

領主はどういうつもりだ?、配給は国からの命令の筈…あの村に来た兵士は配給をやめる事を国から(・・)の命令とは言ってない。

意味が分からない、疑問を考える暇なんてないと俺はもっと足を速めた。

やっと階段が途切れると大きめの木製の扉が有った。

扉を押して開けようとした時「なんで兵士は追ってこない?」と気になった。

気にはするが関係ない、扉を開けた。

中は以外と明るく、広かった…そして中央には豪華な椅子に座ったままこちらを見つめる茶色の長髪に青い豪華な服を着た姿の領主らしき男が居た。

生気がない、そう感じた、そういう人間に今まで会った事なんてない…だから表現が合っているのか分からないが……ただ何かおかしい、そう感じる。

ラングース「ん~……配給の文句?」

腹の立つ声で口を開いた

セルヴィ「…当たり前だろ」

こいつ…かなり余裕だ……でもなんでだ…?こっちは剣を持ってるのに…。

ラングース「ふん…………」

今度は急に黙った。

ラングース「…ハァ、殺しておくか、どうせバレん」

セルヴィ「!?」

こいつ…今とんでもない独り言言いやがったよな…、殺す?、バレない?……なんだこいつ…どういうつもりだ、本気で言ってんのか?。

領主は椅子から立ち、こちらに走り出して来た。

セルヴィ「は!?」

突然の事に驚いたが、領主が殴ろうとしてきているのに気づき反射的に避けた。

セルヴィ「こいつ…」

後ろの扉は吹き飛んでいた…嫌ちょっと待て、まさかこいつ……。

セルヴィ「お前…人間じゃないな?」

何も言わずに殴って来た。

これも横へ飛んで避けた。

セルヴィ「!?、なんなんだよ!!…クソ」

ラングース「こっちは人間じゃないんだぞ、その剣は飾りか?、本気で抵抗すれば数秒は長生きできるかも知れんな?」

こいつ…さっきから上から目線で腹立つな。

セルヴィ「てめぇ!!」

牙狼剣を抜いた。

右斜めに剣を振るが後ろに避けられ左足からの蹴りを食らった、咄嗟に左腕のガードが間に合うがそれでも体が倒れてしまった。

ガードはなんとか間に合った、こいつはヤバい…倒れたまま一瞬意識が無くなりそうだった、とにかく腕が痛い…俺の反射神経が咄嗟に反応しかなかったら……それよりも腕の骨逝ったか…?。

セルヴィ「っ…!!、お前何なんだよ!?」

領主の方を向いて言うとこいつは倒れた俺にまた黙って殴って来た。

セルヴィ「!?」

ヤバい、こいつの攻撃を生身で思い切り受ければ死ぬ……クソ!!、ほんと何なんだよ!!、さっきから煽るだけ煽って大事な事は何も言わないで!!。

セルヴィ「フッ!!」

こいつの拳が体に来る前に顔面へ剣を降った、物凄い速さで横に跳んだが微かに…ほんの少しだけ手応えを感じた。

直ぐに体を立ち上がらせ剣を構えた。

ラングース?「クソ…てめぇ……この…ふざけんな…!!」

切れた頬から緑色のスライムのような物を流しながら文句を言っている。

セルヴィ「少しは黙ってろ!!」

全力で走り出し剣を腹に突き刺した。

ラングース?「ガァ!!」

さらに深く押し込む、苦しそうな声を出しながら領主の姿をしたこいつは震えていた。

ラングース?「貴様ァ!!」

セルヴィ「!?」

腕を捕まれた、しかも下手したら骨が折れる程の力で。

やっとまともに与えたダメージを与えるチャンス、逃したくはなかったが腕を捕まれ剣を段々と抜かれる、余りの力に押し返す事は少しも出来ない。

ラングース?「許さんぞ!!」

勢い良く引き抜かれ後ろへ後退りするが直ぐに構える。

ラングース?「ハァ…ハァ…」

ここで退くわけにはいかない!!。

ラングース?「ガァアァアアアアアァアァアアアア!!」

セルヴィ「!?」

ヤツが急に上げた雄叫びをあげ、何故かヤバいと感じた。

ヤバい、そう感じた瞬間、こいつは急に倒れて動かなくなった。

セルヴィ「…?」

少しだけ指がピクッと動いた。

まだ生きている、ならなんで動かなくなった?…。

剣を握りしめる。

ラングースの体が震え始めた、すると今度は体が縦に破れて中から大量のスライムのような物が溢れ出た。

セルヴィ「は!?」

そのスライムはこの大きな部屋の半分以上を埋めつくした。

セルヴィ「こいつ…まさか、ホラー(・・・)!?」

ラングース?「はは…ハハハハ!!、お前終わりだぞ!!、終わりだからな!!」

スライムの上付近に大きなパーツどうしの位置がズレた顔が現れ、そこから楽しそうに、そして狂気…という物なのかは分からないがそう感じる笑い声が響く。

セルヴィ「マジかよ……」

こいつの巨大さに驚き一瞬動けなくなった。

しかし、直ぐに斬りかかる。

セルヴィ「嘘だろ…!?」

少し経つと直ぐに傷口が閉じてしまう、それはどれだけ切っても同じだった。

セルヴィ「クソっ!!」

ラングース?「フン…バカが……」

攻撃を察知し後ろに跳んだが避けきれずスライムは触手のように体の一部を伸ばし俺の首を締めた。

セルヴィ「ガッ!!」

息が出来ない…しかもこいつ……!!。

ラングース「ふっ…ふふ……ククククっ!!…ふっ」

少しずつキツくして苦しんでるのを楽しんでやがる!!…クソ…力は入らないし身動きも取れない。

剣を振っても力が出ない。

このままじゃ…最終的には首の骨がバラバラになって死ぬ……!!。

ああ…駄目だ、俺が死んだらルナも死ぬ、何処かに貯蔵がまだあるかも知れないんだ。

息を吸え…。

セルヴィ「…………」

駄目だ…完全に閉じてる……少しも吸えない……。

意識が…無くなりそう………。

 

ザルバ「おいっ!!まだ死ぬな!!」

さっきまで黙っていたザルバの声が頭に響いた。

でも…この状況じゃ……。

ザルバ「俺様と契約しろ!!」

?…。

ザルバ「俺様と契約すれば、あいつの弱点や戦い方を教えられる!!、契約しないとそういうのは口が動かなくなるからな……さっさと決めろ!!、お前さんは死ぬ訳にはいかないんだろ!!」

そうだ…もう答えは決まってる……後は声に出すだけだ。

剣を握りしめろ。

力を入れろ。

剣を振り下ろし、切り裂け!!。

ラングース「!?、ガァアァ!!、クソ!!、お前意識が無くなりかけていた筈だろうがぁ!?」

振り下ろした牙狼剣によって触手は切れ、首に残ったのを外す。

セルヴィ「ゴホっゴホっ…ハァ……」

ため息をつくと少しだけ体の力を抜いた。

ラングース?「さっきからしぶとくて邪魔なんだよ!!」

セルヴィ「うっさい」

ラングース「あぁ!?」

セルヴィ「お前は俺が断ち切る」

この化物を睨み付け、静かにそう言った。

セルヴィ「ザルバ、契約だ」

ザルバ「ああ、分かった」

左手を顔の前に持っていき手を見つめた。

緑色の鮮やかな炎が中指の根本に現れ、その炎が収まるとそこに有ったのは銀色で、骸骨の顔を模したような指輪だった。

セルヴィ「これが…ザルバかぁ……」

ザルバを見つめている間、スライムはまるで殴る様に体の一部を高速で伸ばして来た。

確実に人を殺せるスピードだ。

しかし、そのまま牙狼剣をパンチの軌道上に置いて切り裂いた。

ラングース?「ガァアァア!!」

セルヴィ「落ち着いて対処すれば以外と楽な相手何だな…」

この独り言が随分こいつの気に触ったらしい。

ラングース「なんだと!?、ふざけるな!!…最初に言ったよな!?、お前は終わりだと!!、お前は終わりなんだよ!!人間ごときが!!」

今度は十本程また殴る様に体を伸ばした。

セルヴィ「………………!!」

牙狼剣を天に(かざ)し、光の円を描いた。

剣を振り下ろし、円からの光が俺を照らす。

さらに一瞬光が強くなりスライムのパンチはその光に遮られ弾けとんだ。

ラングース?「なっなんだ!?」

円から現れた金色(こんじき)の鎧を体に纏う。

ラングース?「っ!?、クソ……眩しい…!!」

光が収まり、現れた俺の姿は青い瞳の黄金の鎧に身を包んでいた。

左手の甲にはザルバの頭が有る。

そして左手には鎖の付いた金色の鞘に入っている長剣になった牙狼剣を握っていた。

ラングース?「なんだ…その姿は……?」

流石に驚いているようで動きが止まっていた。

牙狼「ザルバ、そもそもこいつは何なの?」

最初から気になっていた事を尋ねる。

ザルバ「さっきセルヴィ、お前さんはホラーと言ったが別にこいつはホラーじゃない、ただの魔物だ」

ザルバ「魔獣スラマ、人に化ける能力を持つ上に戦闘能力もそれなりに高い、高い知性を持ち、基本的には目立つ事はしない魔物の筈だ」

牙狼「へぇ…それで、倒し方は?」

ザルバ「切りまくれ」

牙狼「は?」

ザルバ「ただ切ればいい、攻撃し続ければその内回復出来なくなる」

牙狼「…単純だな、分かった」

スラマ「フン!!」

また、今度は足を狙って殴って来ようとしたが。

スラマ「ガァア!!」

その触手を牙狼剣の鞘で地面ごと刺し、身動きを取れなくした。

鞘から牙狼剣を右手で引き抜き、身動きの取れない触手の上に飛び乗った。

スラマ「っ!?、あっ熱いぃい!!」

焼ける音と煙が俺の足元から出てきた。

この触手は本体と繋がってる、しかもここを走ればダメージも与えられる筈。

俺は剣を構え、触手の上を走り始めた。

スラマ「くっ来るなぁ!!」

スラマは今度は体の三分の二を集めて巨大なスライムの玉をこっちに向かって飛ばした。

スラマ「死ねぇ!!」

牙狼「うぉおおおおおおこ!!」

エコーがかった雄叫びをあげながらそのスライムの塊のような物を下から蹴りあげ、軌道を上の方に変えた。

すると上、つまり天井付近に行ったスライムの塊は見事に壁すらも巻き添えに天井を吹き飛ばし、この部屋を月の光が照らした。

その間も俺は足を止めない。

スラマ「クソ!!」

左からなぎ払うように体を伸ばして来たが手首に付いている銀の刃で切り裂く。

牙狼「ハァアアアッ!!」

スラマ「!?」

もう目の前だ、まず最初の一振りで大きく斜めに切り裂いた。

スラマ「なっ何故だ!?、こんな強さを持った人間が何でこんな所に居るんだ!!」

牙狼「運が悪かっただけだろ…」

そう呟いた。

剣を握りしめ、何度も切り付けた。

月の光が俺を照らし、鎧は金色(こんじき)、剣(つるぎ)は銀色に輝いていた。

その光は、目の前の魔物を切り裂く力として俺の元にある。

それだけで勇気が出る。

もうスラマの原型は崩れ、ほぼバラバラの状態で本体と思われる顔の部分が有った場所は最早人間サイズまで追い込まれていた。

スラマ「なんで…クソォオオ!!」

牙狼「ハァ!!」

スラマを横に切り裂いた。

この言葉がこの魔物のとって最後の断末魔になったらしい。

 

27.3

 

「戻れ」、そう心で念じると鎧は一瞬輝き、現れた光の円の中へ帰って行った。

セルヴィ「ハァ…ハァ…」

体がだるい…。

周りのスラマの体の一部達はゆっくりと溶け始めた。

後ろを振り向く。

途中からこの部屋を照らしていた月はとても細い三日月だ。

鞘を回収し剣を納めた。

ザルバを月に(かざ)し、月の光に照らされ光る銀色のボディを見つめた。

ザルバ「俺様と契約する代償は知っているな?」

勿論知っている。

セルヴィ「ああ…」

ザルバ「月に一度、新月の日に一日分の命を貰う」

セルヴィ「ぐっ!!」

一瞬体の力が抜け倒れそうになるが直ぐに収まった。

セルヴィ「それより…探さないと」

俺はこの部屋を探し始めた。

先ずは最初に目に入った棚を開けた。

セルヴィ「これは…?」

高そうな金の装飾がされた四角い小さな箱だった、それを開けると中に入っていたのは粉が入った丸いガラスのケースだった。

セルヴィ「なんだこれ?」

スラマ「そ…その()はぁ……!!」

セルヴィ「!?」

後ろから聞こえた声に振り向くとそこには口が付いた小さなスライムの塊が壊れた壁の近くにいた。

セルヴィ「薬…だと?」

スラマ「クソ…!!……だがここで死ぬよりはマシだ…俺はまだ死なない!!」

セルヴィ「!?」

周りの残り少ないスラマの体の一部達がスラマに高速で集まり壁から飛び降りた。

セルヴィ「は!?」

直ぐに壁際まで行き、下を見るがもう既にその姿は無い。

セルヴィ「あーもう!!…クソ……」

この薬?が何なのか…聞けずに叫んだ。

右手のあいつがと呼んだ物を見て焦った。

これが何の薬なのか分からなければルナに使えるのかどうか賭けるしかない。

セルヴィ「これしかないのか…?」

疑問、また疑問…気になる事が多すぎてハッキリしない。

セルヴィ「そろそろ行かないと…」

下に降りる為に階段を通った。

体がキツイ…何でだ?、なんでここまで…。

ザルバ「キツそうだな」

セルヴィ「あ…ああ、何でだ?」

ザルバ「無理やり使った影響かもな…まっ、俺様には分からん」

セルヴィ「そっか…」

ちょっとした疑問が一つ解けてくれた。

セルヴィ「……あれ?」

やっと下に着くと床に少しだけ穴が空いていた。

なんだこれ…。

…もしかして下になんか有るのか?。

セルヴィ「ハッ!!」

鞘に入った牙狼剣の先で思い切り床を突いた。

穴の空いていた場所を起点に周りも下へ落ちていく。

下を覗くと石造りの小さな部屋が有った、しかも中の四方には果物や野菜類の食糧も積み上げられていた。

セルヴィ「これは…」

でも、それどころじゃない…人がいる……しかも痩せて死にかけてる。

なんでこんな所に…しかし、良く見れば何故こんな所に居たのか分かる。

ザルバ「なっ!?、人か!!」

セルヴィ「あの人…多分、本物のラングースだ」

さっき倒したスラマと同じ見た目だった。

服は着せてあるが猿ぐつわで何も食べれない、こんな状態のまま中央の地面に伏している。

しかも、一番不安に感じたのは…動いてない。

勿論…今は夜だし寝ているのかも知れない。

いや…そもそも長時間ここに閉じ込められて居るとしたら?。

もしそうならまともな時間の感覚なんてある訳ない。

ザルバ「おい、あいつかなりヤバイぞ」

セルヴィ「ああ…でも、はしごがない」

以外と数メートル深い所にあり、入れば戻れない。

ザルバ「はしご?……ああ、そうかお前は魔戒騎士(まかいきし)じゃなかったな」

セルヴィ「俺が魔戒騎士ならこんなの普通に跳んで戻って来られるよ」

ザルバ「…お前さん、入ってみろ」

セルヴィ「は?」

ザルバ「大丈夫だ、入ってみろ」

セルヴィ「……本当に大丈夫なのか?」

どう考えても降りたら終わり…。

でも、この人を放ってたら…。

セルヴィ「…ハァ……」

覚悟を決めて中に飛び込んだ。

まるで、ほんの一瞬だったけどジェットコースターの感覚を思い出してしまった、つまりはマジで怖い。

セルヴィ「うぉぉお!?」

着地に成功すると冷や汗をかきながら放心した。

ザルバ「おいおい…これぐらいで何を叫んでいる」

セルヴィ「しょうがないだろ…早くするぞ」

猿ぐつわを外しラングースさんを肩に担ぐと上を向いた。

セルヴィ「ザルバ、どうすればいい?」

ザルバ「跳べ」

セルヴィ「……は?」

何言ってんだこいつ。

ザルバ「跳んでみろ」

セルヴィ「お前バカか!?、だからあの高さは無理って言っただろ!?」

ザルバ「いいから跳べ!!」

セルヴィ「…………………」

もう一度上を向き足に力入れた。

セルヴィ「ハッ!!」

ジャンプしたんだから当たり前だが上に動いた、ただ。

セルヴィ「えっ?……は!?」

上まで一瞬で付いた…なんで?……どういうことなんだ…?…。

ザルバ「やっぱりな、」

セルヴィ「は?」

ザルバ「さっきの戦い…スラマにあれだけ戦えたのがおかしいと思ってな」

セルヴィ「でも…なんで?、俺は別に…訓練も何も……」

ザルバ「さぁな」

セルヴィ「…………」

ザルバにも分からないんならしょうがないか…はぁ……これどういうことだよ。

ラングース「うぅ…」

セルヴィ「起きたかな…」

一旦地面に降ろす。

セルヴィ「ラングースさん」

ラングース「えっ?…君は……私は確か魔物に…」

なんだか意識もあまりはっきりしてない見たいだし…やっぱりかなり衰弱してるのか?…早く話をつけよう。

セルヴィ「助けました」

ラングース「えっ?…本当かい?あっ…ありがとう」

ちょっと困惑してるな…。

セルヴィ「外の兵士さんへの説明お願いします」

ラングース「えっ?、どういう…」

また困惑させたけど、直ぐに分かる。

ラングースさんがゆっくり立つとそれと同時に扉を開けた。

兵士1・2「「ラングース様ぁああ!!」」

ずっとスタンバってたのか二人の兵士達が突撃してきた。

セルヴィ「後はよろしくお願いします!!」

俺は急がないといけない、相手はラングースさんに任せよう。

兵士達には目もくれずに走り出す。

兵士1「なっ!?、待て!!」

兵士2「ラングース様の塔には入るなという命令を守っておりましたがやつが外に出たからにはこちらの物!!」

兵士が追いかけて来るが全く追い付けていない。

あとどれくらい時間は有るのかな…。

轟天(ごうてん)が使えればもっと速く…でも俺には無理だ。

この速さが俺の限界…頼むから……間に合ってくれ。

 

 

 

 

 

 




ザルバ「お前さんはどれだけゆっくりでも進む事は出来る、これからも、もっと速く…次回、涙、どれだけ強く、そして速くなるのか…それはまだ誰にも分からない」


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やっと、村が見えて来た。

 

足が痛い。

 

でもそんな事はどうでもいい。

 

リルアを考えると涙が出そうになる。

 

だから、もっと速く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ」

村まで後少し、ホントは牙狼を纏って病院の崖まで飛びたいけど今召喚すれば体力的に気絶する。

村の大きな木造の簡素な門を通ると村の皆が一斉にこっちを見てきた。

「速く!!」

ロン爺が今まで聞いた事も無い覇気の有る声で俺に叫んだ。

「うん」、自分でもちゃんと言えたか必死すぎて分からないがそう言って返事した。

崖の前に着くと、明かりの点いた病院が見えた。

「すぅ……!!」

息を深く吸うと崖をかけ上がった。

呼吸もしないまま崖の上に着くとさすがに限界が来て必死に息を吸い込んだ。

もう目の前だ。

ドアを乱暴に開けて急いでヤツが薬と呼んだ物をポケットから取り出した。

「先生!!」

中にはコロとルナぐらいの年のポニーテールをした女性が居た。

「せっセルヴィぃ…!!」

泣きそうな声でコロが口を開いた。

「先生は!?」

そう言うとコロはカーテンのかかったルナのベッドを見た。

その目線を追って俺もベッドに目を移した。

「セルヴィが来たのか!?」

その声が聞こえるとカーテンの中から先生が現れた。

先生の姿が見えた瞬間、俺はまるでそのまま倒れこむような足取りで先生へ近寄った。

「これを…!!」

薬を先生の手に無理矢理握らせるように渡すと先生の顔をまるで懇願するように顔覗き込んだ。

「これは……まさか…!?」

先生はこれが何なのか知っているような、驚きや混乱が入り交じった表情を見せた。

「お願いします」

そう言った後、急に目眩が襲って来て床に手をついた。

そして先生は何も言わずカーテンの中へ入った。

変わらず目眩は俺を襲い続け、意識が持って行かれそうになる。

「あぁあ!!……クソ…こういう時に限って…」

 

小声で文句を言うとそのまま俺は気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ベッドの上でシュイ先生から伝えられたのはルナの容態は安定した事。

そして、現在の状態から予想するともうすぐ目を覚ますという事だった。

 

自宅

 

「…おい、ザルバ」

自宅の天井を見つめながらそう呟いた。

「なんだ?」

ザルバの不機嫌そうな声が隣から聴こえる。

今日家から帰って来たらベッド横の小さい棚の上にザルバを置く為の骸骨の胴体見たいな台座と赤い目のような飾りが中央に付いている禍々しさを少し感じさせ、下側には 紐の先にアクセサリーが付いた金色のジッポタイプのライターがあった。

そしてザルバは今はその台座の上だ。

「いつになったら起きるんだろうなぁ」

「さあな」

俺の無気力でまるで独り言のような問いかけにつまらなそうに即答した。

「あのなー、ちょっと昔話していい?」

「昔話?」

不思議そうな反応は無視してそのまま話を始める。

「俺とルナは変わった育てられ方をしててさ、小さい頃は村の人達が毎日かわりばんこで面倒見て貰ってた…」

「なんでだ?」

ザルバも興味を持って来てくれたのか知らないが、反応が良くなって来た。

「そりゃあね…ルナは親が行方不明、俺は村の門の所に赤ちゃんの時にかごの中に入った状態で置いてあったらしいよ?」

「なら、誰かの養子に何故ならなかったんだ?」

「村がちょうど軽く貧しい時だったから全員でかわりばんこになったらしい、だから俺の名前は村の人達が考えてくれた、そしてそんな事の後さらにたまたまルナも俺が来たのと同じ月に親が行方不明になった」

「幼なじみの上に境遇とか育ちかたも似てる、だから仲が良くていつも一緒だった」

ザルバからの質問に答えると少しだけ口を閉じた。

「だから、頑張れる」

そう言った時にドドドドッドンとリズム良くドアがノックされた。

 

「……は?」

俺の様子が尋常ではないことに気づいたのかザルバが口を開いた。

「どうし「ここに居ろ」

ベッドから飛び起きるとドアを凝視した。

「そもそも俺様は動けない」

嫌味の声が飛んで来るがそんなのは無視してドアに近づいて行く。

ドアノブに手をかけ、開けた。

「おはよ!!」

いつものように元気に挨拶するルナの腕や足、そして首には火傷の跡がクッキリとあるがこの時は罪悪感よりも嬉しさが強くてニヤニヤしていた。

「よかった…やっと起きた……」

「その…ごめんね」

「ありがと、俺の所に来てくれて」

「えっ?」

 

「ありがとう」

今度はちゃんと、普通に笑えたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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轟天 前編

遅くなってすいませんでしたぁあああ‼️


 

 

 

 

夜、ベッドの上でイラつきのまま天井を睨んでいた。

「~~~~!!」

歯をおもいっきり噛みしめて足をじたばたと、怒りや悲しみのまま動かして白い布団にシワが増えていく。

「どうした」

俺の精神状態とは逆にザルバが落ち着いた声で語りかけてきた。

「一週間後、分かるだろ…」

「王立学校へルナが行くんだったな」

ザルバがどうでもいい事のように言った。

それを聞いてルナが居なくなる実感が強まって俺は不意に目を強く瞑った。

「あぁ、未成年のスキルボード持ちは優秀な人材として王立学校へ、本人が望もうが望まない関係なしに入学される…」

「それに、高い地位を得るなんて事も…あそこへ行けば確実になる」

「へぇ…」

ザルバは学校には興味がないんだな……俺もあんな自分とは違う世界の場所の話題を話すなんて思ってもなかった。

「それだけすごいんだよ、きっとルナはこのチャンスを逃さずにこの地味な村からきらびやかな世界に行くんだ…」

頭がぼーっとしてきた、きらびやかな世界…つまり貴族だとかの仲間入りだ、ホントのホントに別世界に行ってしまう。

「あ~…どれもこれも国のスキルボード鑑定人のせいだ」

スキルボード鑑定人、五年に一度国の命令で色んな村だとかを回って優秀な人材やスキルボード持ちを探す仕事をしてる人間。

「この前言ってたやつか」

「そうだ、大体1ヶ月前来た…あの時俺は体調崩して俺は家で寝たきりだったから皆の集まってる所に言ってない、だからルナが鑑定される所は見てない」

という事は、だ。

「セルヴィ、集まってたんなら村の皆は知っていたって事か?」

ザルバは疑問を口にし、直ぐ答えた。

「そうゆう事」

「なぜだ?」

察しはつく、ルナだ。

「…まぁ十中八九ルナが自分で俺に言いたいとか言ったんだろ」

「確かにそれならあり得るし、恐らくそういう事だろう」

「…………………」

そこから沈黙が流れ、今度はさっきとは逆に落ち着いた目で天井を睨んだ。

「はぁ…」

俺のため息が沈黙を破る。

「今日は嫌な夢を見そうだ」

「?」

俺の言葉に対しザルバが怪訝(けげん)な表情を浮かべても何も言わず俺は瞳を閉じ、眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当たり一面真っ白の世界で目を開けた。

 

目の前には俺のトラウマの象徴とも言える、凛とした立ち姿のまま牙狼の鎧が右手に牙狼剣を握り立っていた。

この夢が何度目なのか、もう数える気も起きない。

ただ言えるのは、こいつと苦しみながら戦わないといけない。

勿論、ホントならこんな時に戦う気なんかも起きるわけない。

俺はいつの間にか左手に握りしめた赤鞘の牙狼剣を右手で抜いた。

「……ッ………」

俺の体に緊張が走り、牙狼を睨んだ。

だが、こんなやつの相手をしてる程、今日の俺に余裕は無い。

「こんな気分じゃない…」

無意識にそう呟くと急に白けてきた。

俺は牙狼から目を剃らし、手から力が抜けていく。

 

だがその瞬間、目の前の牙狼が剣を俺へ向かって横方向に切りつけた。

「!?ぐばっ」

その剣は俺の喉を切り裂き鮮血が飛び出す、俺の口からは声と呼べない物が漏れだした。

あまりの痛みに後ろへ飛び、倒れた。

俺が倒れて居る間も後ろからやつが歩く度になる金属音がガシャガシャと近づいてくる。

「っ!!……お前ぇ!!」

この()の空間だと、どんな怪我をしようと痛いだけですぐ治る、死ぬことも無い。

だが、同時に鎧の召喚も出来ない。

それが分かって居てもさっきまでの白けた気持ちをかきけすように奴への怒りが沸いてくる。

(…クソッ!!)

倒れた状態のまま体の体重を両手で支え、後ろのヤツへ向かって凪払うように蹴りを繰り出した。

手応えがある…!!。

勢いのまま立ち上がり少し後ろへ退いたヤツへ剣を向けた。

「今日は、お前を倒す」

これ以上この悪夢に悩まされない為には牙狼を倒す、そういった確信が有った。

「ルナは一週間後居なくなるから…俺はな…笑顔で、元気一杯であの子を見送らなきゃいけないんだ…!!」

思いを叫び、俺はもう一度言う。

「今日で、貴様を倒す!!」

逆手で持っていた鞘を普通の持ち方に変え、牙狼剣と鞘の二刀流のかまえをとった。

「……!!」

この構えへの微かなヤツの反応を俺は見逃さなかった。

 

ヤツへ向かって走り出しその勢いのまま鞘で胴体へと突きを繰り出すが剣で受け止められる…が、そのまま止まらず走り抜ける。

今まで感情の起伏のような物が見えなかった牙狼が驚いたようにこちらへ顔を向けた。

俺とやつの目が会い、俺は奴の顔面へ右の拳で殴り抜けた。

「っ~!!やっぱ効かねぇよなぁ!!」

ヤツの体制が左に傾いた程度でダメージは無いように見える…がこれは俺が想像するヤツの次の一手を出させる為の布石!!…この為に俺はこの焼ける痛みと拳が砕ける痛みを代償に使った。

「がぁあ!!」

ヤツは崩れた体制からそのまま流れるように左側からの斬撃を行い、俺の体は剣で持ち上げられた。

が、その剣を掴み自分へとえぐり混ませた。

「!?」

「ぐぅう…はぁっはあっ…こうくるとっ思った…死ぬことがないこの世界じゃないと…出来なかったなぁ…」

あまりの痛みに途切れ途切れで言う。

「あんたのっ動きは…前から思ってた……プロっぽい、はあっはあっ…こうやって崩れた体制からそのまま次の動きに繋げる……そう思って敢えて剣じゃなくて衝撃を与えられそうな…ごほっ…拳を選んだ、そして左側へ体制の崩れたあんたはその動きをそのまま左側からの斬撃(・・・・・・・)に綺麗に繋げた」

痛みで意識が朦朧になって来るがまだ、絶対に倒れない。

「だからこうやって逃げられないように自分に剣をえぐり込ませた…他にも突きとかが来る可能性も有ったけど、左側から来る前提でやったから対応しやすかったよ…!!」

俺は剣を握りしめ…牙狼の胸へ突き刺した。

「ぐぅうう…」

剣を引き抜き、俺は痛みに悶えながら地面へ倒れ込んだ。

「はあっ…はぁっ……」

体の傷がふさがり始めた…本当にどうなってるんだ、今さらだけどこれがただの夢だとは思えない。

牙狼へ目を向けると、脱力したかのようにただ忽然(こつぜん)と立っていた。

 

「そうか…強いな」

「!?」

 

俺は初めて彼の声を聞いた、だが、まさか、この牙狼は…!!。

 

俺は傷が完全にふさがったのを確認し立ち上がった。

牙狼を前に唖然として俺は何もせずただ立っていた。

「……………」

牙狼がこっちを見つめ直すと鎧が眩しい輝きを放ち、上へと吸い込まれて行った。

そして、そこに立っていたのは俺が知っている人間…だった。

冴島(さえじま)鋼牙(こうが)……?」

凛々しく力強い顔に鋭い目、そして茶色の髪と沢山ディティールの入った黒い服の上に羽織った純白のコートが特徴的な若い男性だった。

俺は…知ってる……俺が憧れて、俺のヒーローだった。

テレビの中のヒーロー…でも、彼は本物だ。

「俺は確かに冴島鋼牙でも(・・)ある、だが今はお前の影とも言う」

意味が分からない…どういう。

「…これは驚いたな……本当に鋼牙か?」

その時俺の左手から声が聞こえた…ザルバだ、確かに今まで居なかった。

「ザルバ!?…一体いつから…」

「俺様も今目を覚ましたばかりだ、一体どこだここは!!何故鋼牙がいる?」

ザルバでさえも慌てている、やっぱりここはそれだけ特別なんだ。

「落ち着け、ザルバ」

鋼牙…さんがザルバをなだめるように言った。

その後、こっちに視線を戻すと口を開いた。

「話を始めるか…」

「まず、ここが何処か分かるか?」

「いいえ…」

あまりの急展開に対して無気力な返事しかできない。

「ここは、内なる魔界…人の邪心につけ込み憑依する魔獣、ホラーを100体狩った魔戒騎士が自らの()と対峙する試練を行う場所だ」

鋼牙さんは丁寧に話した、俺からすれば本来テレビの中の話なだけに実感の湧かない…そう思ったのも束の間直ぐに俺は疑問を口にした。

「俺はホラーと一度も戦ってません…なのになんで……」

「あぁそうだ、お前はホラーと戦って居ないしこの世界に存在しないホラーと戦うことも出来ない」

「……………」

「だからお前は代わりに小さな影を100体狩った」

その言葉に、ただ聞くことしか出来なかった俺は声をだした。

「えっ」

「俺は最後の百体目だ」

困惑、それしか出ない…疑問すらも理解が及ばないから出しようがない。

「…意味が分からないだろうな」

「お前は何度も戦った筈だ、牙狼と」

(でも、勝ったのは今回が初めてなのに)

「お前は忘れてるだけだ、長過ぎる戦いに」

「飽きる程、牙狼と戦い、これを夢だと思った…それが原因だろう」

「…教えてください!!、これは何なんですか?」

「お前は何度も影と戦い強くなった、お前という光が大きくなって行ったんだ、なら対となる影は濃く、大きくなるそして…牙狼剣の記憶とお前の思い、そして成長した影全てが結びつき…この俺の姿をとった」

「俺は最後の試練だった、それをお前は乗り越えた」

…思いだした。

最初は弱かったんだ、あの牙狼は、でも段々と強くなって行って勝てなくなった。

鋼牙さんが俺の牙狼剣を見ると言った。

「こいつが俺の事を覚えてると言う事はきっとこいつは俺が使っていた…冴島家に伝わって居た牙狼剣と全く同じで少し違う別の牙狼剣だろう…人の思いを託した道具は色んな事を記憶する…俺の友(たち)の事もきっとこいつは覚えてる筈だ」

こっちに視線を戻し、俺の目を見た。

「この試練はお前へ力を授ける為の物と言う事だ」

「まさか…!?」

この時、俺は薄々勘づいて居た。

「今のお前は轟天(ごうてん)が使える」

「!?」

俺が驚くと思い出しかのように笑った。

「ふっ」

俺がそれに驚く間もなく、鋼牙さんは少しだけ俺に笑みを浮かべた。

あれ(・・)は俺の真似か?」

あれ?…もしかて二刀流の事…かな?。

「えっと…まぁ」

 

「もっと上手く扱え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと怒った鋼牙さんの顔を最後に、俺の視界は白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ザルバ「守りたい者に近寄る影、渦巻く不安、お前さん、そういうのを愛って言うのか?初めて見たぜ 次回轟天 中編」


次の話書いてたら轟天関係ない話になっちゃったんで予告セリフ変えて中編にしました


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轟天 中編

遅くなってすいませんでしたァアア‼️



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…」

窓からの眩しい日の光に起こされて俺の真っ白な頭が段々と目覚めてきた。

ぼーっとした頭を無理矢理使って目覚めさせる。

「1+1は3……いや2だ!!」

頭がスッキリしてきたのを確認するとまず確かめたい事が有る。

俺は朝日を受けてピッカピカに輝くザルバに話かけた。

「ザルバ…昨日のって…「あぁ、夢じゃない」

ザルバは間髪入れずに答えた。

ザルバが覚えてるという事は昨日の鋼牙さんも本物という証明になる…。

「すっごい…!!」

興奮冷めやらぬまま、まず上半身を起こし背を伸ばした。

小さい頃…いや前世で死ぬまでテレビで見てた大好きなヒーローの本物、それに勝ったんだ。

「うぅ…あれは夢じゃない……よし!!」

俺は一気に、そして元気にベッドから飛び出すとザルバを左手の中指へ雑に嵌めた。

「おいおい…お前さん昨日あんだけやられて良く元気が有るもんだな」

驚きと呆れの混じった顔のザルバに俺は言った。

「うん…それは、俺があの牙狼を必死に倒しそうとしてたのって一週間後のルナの出発を元気に、完璧な状態でやりたかったから…だから!!」

「あの牙狼……まぁ正体は鋼牙さんだったけど、見送りの日にもしボコボコにされて元気がないままルナを見送るなんて事になったらどうだ?、そんなの嫌だ、駄目だと思って…だから俺はあんなに必死だったって事」

これを聞いた瞬間ザルバの顔は「その為だけに!?、あんな捨て身を?」とみるみる変わっていく、ザルバの心の声が漏れだした顔だ。

でも直ぐに元の顔に戻った。

「ふっそうか、必死にやった甲斐があったな」

ザルバは何が面白いのかニヤつきながら言った。

「あぁ…これで未練がましい物を大体は断ち切った」

まだ結構早い時間だが俺は扉を開けてまず最初にルナの所…ではなくて、ある場所へ向かった。

 

 

 

 

 

見覚えのある塔の上で俺は今、領主ラングースの部屋の前に居る。

俺は部屋の扉を慣れた手つきで開けてあいつを呼んだ。

「よぉ、ラン!!」

俺が()()と呼んだのは椅子に座り、覇気が無く長い青髪の中性的な青年だった。

こんなにも覇気が無いがこいつこそが正真正銘本物のラングースだ。

「見つかった?」

「うーん、やっぱり手がかりないです」

手にもった資料を机に置いて難しそうな顔でランは言った。

俺とランは協力関係に有る。

ランを助けた後、俺はもう一度ここへ来た。

領主という地位の人間の直接的な支援を手にいれる為に。

その支援…いや約束は二つ。

必ずルナの薬や村の支援を絶やさない事。

あの日の火傷の影響なのか…傷も随分治って元気になったとは言え、昔程体が丈夫じゃなくなったルナには定期的な薬が必要だ。

二つ目は…あの時逃したスラマの捜索、あいつから聞き出せばあの日、関係有るかどうかはわからないけど何故あの森に本来いる筈もない凶暴な魔物が居たのかが分かるかも知れない、それに、ルナに使った薬はなんなのか…色んな謎の唯一の手がかりであるあいつだけは全力で探さなきゃ行けない、だからこそこいつの権力に頼った。

それと、まだこの近くにあんなのが潜んでるなら村の人に危害が加わるかも知れない、その為にも定期的に情報を聞きに来ている。

「まぁ、しょうがない」

「すっすいません」

いつもの流れ、こいつは領主なんて物をやってるから案の定貴族だ、良くあるテンプレの影響で貴族は常識が無いだの悪い人が多いだの思っていたがこいつは違う…礼儀正しく優しい。

この協力関係も俺が助けたお礼って事らしい。

まぁそれはそれとして、俺は用事がある。

「よし、帰るわ」

俺が来てから5分も経ってない、もう帰る事にさすがにランも驚いて表情その物がツッコミの代わりになってる程。

「えっもう帰るんですか?」

「用事がある、それと()()は予定の時間に頼むぞ?」

「えぇ…速…」

踵を返して扉を開けると俺は足早に村へ向かった。

階段を音を立てながら駆け抜け出口の木製扉をドンッと開く。

「あっお前!!」

「もうちょっと静かに扉を開けろ!!」

ケンエフ、ガンエフ。

ここを守ってる二人の騎士だ。

この前突撃した時はちょっとドンパチやった。

「あ~ごめんごめん」

と生返事。

意外と村とここは遠いんだ、馬鹿でかい平原を挟んでるからな。

そのまま走り抜けて森へ入った。

 

 

 

 

帰る途中の草原でザルバが急に口を開いた。

「そういえば最近アーロンの所でよく王都や色んな街の事を聞いているのは何でだ?」

その質問が来るとは思わなかった。

ハッキリ言って言いたくない。

だからちょっと誤魔化した。

「あー…えーと…おじさんは昔、冒険者だったろ?しかもプロクラスのB+!!…王都だとか、ここの外には詳しいから…ルナが行く場所を知っていたかったんだよ」

「そういう事か」

「そうそう、そういう事」

さすがに…ホントの理由は話せない。

 

 

 

 

 

村の入り口に着くとそこら変に居たロン爺に挨拶をしてルナの家へ向った。

扉を三回叩くと中から足音が近づいて来て扉がゆっくりとあいた。

「セルヴィ?」

眠そうなルナが靴を履いたのを確認すると俺は手を引いてこっち側にルナを引っ張りだした。

「ほらっ遊ぶ約束したでしょ?」

「えっ?えっ?えっ?ちょっと待ってよー!!」

遊ぶ約束をしたのは嘘じゃない、ただ俺は遊ぶ場所は秘密にして、お楽しみとだけ言った。

後は村の入り口に行く、それだけだ。

あぁ…この日が楽しみだった。

「ふふふっ」

「…ん?」

俺が走りながらルナを引っ張っていると、ルナは急に笑った。

「そんなにニコニコしながら走ってるけど、そんなに楽しみだったの?」

俺は「あっ」と口に出して気づいた。

…笑顔だったんだ、俺。

「ふふっ」

今日はルナの為に色々と大掛かりな事をした筈なのに俺が元気を貰ってた、不思議だなぁ。

馬鹿見たいな感想をいつの間にか心の中で呟いていた。

「んー…疲れた」

「あれは?」

村の入り口に着くとそこには豪華な馬車が止まっていた。

所々に走る金のライン、それを引っ張る二匹の美しい白馬。

どれぐらい美しいかと言うと白馬の王子様の白馬って感じだった。

そう、これが俺のしたかったサプライズだ。

馬車から老紳士という感じの執事が現れ、馬車の方へ手を伸ばした。

「こちらへ」

ルナはさっきから驚いて唖然としている。

「私達に言ってるの…?」

「そうだよ、ほら、村の皆もこの事知ってる」

ロン爺、コロ、アーロンおじさん、シュイ先生、村の皆が俺を囲んでいた。

「楽しんで来なさい」

「なんかお土産持ってきてね!!」

「確か色々遊ぶ場所があるからゆっくり回ってこい」

「お土産は大丈夫だから楽しんで」

「皆…」

ルナは驚きっぱなし、そんなルナを見てるとこっちも楽しくなる。

「どこ行くと思う?」

「えっ……さぁ?、ていうかこれどうやって…」

()()に頼んだんだよ」

そう笑顔で返した。

多分ルナはこれが今度、王都へ行ってしまう自分へのお別れ会の一環という事に気づいてる、だからこそ楽しませる。

パンフレットも読み漁った、金もそれなりに貯めた。

鋼牙さんにも勝った。

よし、完璧だ!!。

そう、大きな自負をした。

と、準備万端になったその時。

大きな声が…いやホントにうるさい声が響いた。

「遅刻だぁあああぁあああああああああぁぁああ!!」

「うぉ!?」

雄叫びをあげながら走って来たかと思えば俺とルナの目の前で急ブレーキ、砂ぼこりが舞った。

「…ごほっ」

「ルナぁあ!!ごめん、遅刻しそうだった!!」

「だっ大丈夫だよ」

この元気一杯なポニーテールの女の子はラフィニ、数少ない…いや多分唯一のルナの女友達。

ルナの女友達何だけれども…幼なじみというレベルでの幼い頃からの付き合いはないから俺とはあまり親しみがない。

が…スラマ戦の時、親身になってルナの側にずっと居てくれた人だ。

だから俺はラフィニに対して一方的に信頼している。

「楽しんできなよ!?」

「うん!!」

でも…マジで付き合いがない、ほら俺にはなんの反応もない。

「あんたもリードしなよ!!」

あっ予想外。

「あっうん」

パン、パンと二回連続で気合い注入の意味合いで方を叩かれた。

流石は村でトップクラスで剣が上手い上に冒険者志望だ…元気だなぁ。

「よし!!、いってらっしゃい!!」

「うん!!」

ラフィニが軽快な足取りでアーロンおじさん達の所へ行ったのを確認すると隣のルナへ視線を移した。

「ルナ、どこ行くか教えてあげる」

「……どこ?」

まだ何も言わず手を引っ張り、馬車へ近づいて執事さんに言った。

「俺の財布、ランから預かってます?」

「ええ、どうぞ」

どこから出したのか執事さんは手に持っていた黒革の財布を俺に渡した。

何だか膨らんでるような気もするがとりあえず礼を言う。

「ありがとうございます」

後ろを向くとルナは馬車をじろじろと見ながら恐る恐るな感じで馬車から少し離れていた。

「ルナ、入っていいよ?」

「えっあっ…うん」

まず俺が最初に右の椅子に座り、ルナが恐る恐る俺の隣に座った。

執事さんが扉を優しく閉めると御者席へ座って馬車が動き始めた。

ルナが窓の外を見ているのに気づいて俺もそれにつられた、皆が手を振っている。

俺たちもいつの間にか手を振っていた。

馬車が揺れながら走りだして皆が見えなくなると静かに手を下ろし、ルナの方を見つめた。

「……王都だよ」

「えっ?」

「王都に行くんだよ」

「……ええぇええええええ!?」

「ふふふっ」

驚くルナとは対照的に俺は静かに、クール振りながら念のため財布の中身を確認した。

直ぐにお金が無くなったら困る、それなりに計画を立てて…ふぁ!?。

「あれぇえええええ!?」

俺の静かさは…すぐに消え去った、でもしょうがない。

俺の目の中に入って来たのは大量の金貨、円に換算すれば一枚10万円。

それを一枚一枚数える。

(ランだ、絶対ランだ、馬鹿みたいに金入れてやがった…)

入って居たのは10枚、それに+俺の金も入ってる…無理ぃ100万ゴールド以上も無理だってぇ…使いきれないってぇ…。

なんか妙に膨らんでると思ったらこういう事だったのか…。

「まぁしょうがないか…」

貴族の友達持ったらこういう事も普通なのか?

納得しきれないけどパンパンに膨らんだ俺の財布を静かに閉じた。

「ねぇ?」

「ん?」

「なんで私を王都に連れて行こうと思ったの?」

「それは…王都しか遊ぶ所ないし、王都の下見も兼ねてる」

「下見?」

「そう、今度行っちゃうのにどんな所か分かんないでしょ?、それに遊ぶのがメインの目的だしそんな固くならなくてもいいよ」

「うん…」

「………」

気まず!!、いやめっちゃ気まず!!…それにしてもごろごろと馬車が揺れて眠くなってくるなぁ…でもまだ寝る気分じゃな…。

「ぐぅ…zzzzzzz 」

「えっ?…ふふっ寝るの早いなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか寝ていたらしい。

「ふわぁ…」

窓からの光で起きた。

まだ眠気が残ってるせいでなにもする気は起きない、ぼーっと窓を眺めていたらある物が視界に写った。

「………あれ?…おお!?」

「ルナぁ!?ルナぁ!?起きて起きて!!壁!!壁!!」

「んっ…なに?」

いつの間にやら寝ていたルナの肩を揺さぶって起こした。

「城壁ぃ!!デカイ!!」

巨大で堅牢な町を囲む城壁、俺は生まれて初めて見た。

窓から必死で外を見ると大きな門の前で止まって兵士に挨拶していた。

多分検問だ。

「あれ、()()()()()じゃないですか!?こんにちは」

「こんにちは、いい天気ですねえ」

外から聞こえたけど執事さんは()()()って名前らしい、いやそんな事より城ぉ!!デカイぃ!!街ぃ!!賑やかぁ!!。

「興奮してるね!!」

「うんうんうん!!」

笑顔のルナに俺は思いっきり頭を連続でふった。

もう一度窓に顔を張り付けて外を見る。

「城!!でっかぃ!!」

今度は街の高い所から見下ろすように立っているでっかい城が見えた。

やばいデカイすごい。

俺が城に釘付けになっていると執事さんの声が聞こえた。

「まず一旦城へ行きますので」

さすがに執事さんの言葉に驚いた、もちろんルナも。

「えっ城ぉ!?」

「こっ興奮してるね…」

「うんうんうん!!」

もう一度俺のテンションについていけてないルナに連続で頭をふった。

城へ続く門を通り緩やかな登り坂を通ると城の納屋についたのか馬車が止まったのを確認して俺は扉を開けて外へ飛んだ。

「城!!デカイ!!庭!!デカイ!!」

「つっ着いた?」

ルナがゆっくりと降りてきた。

「!?、うわぁ…すごい」

ここからの城下町の壮大な景色にルナは見とれていた。

あの城下町を笑顔のままじっと見つめているのからして興奮してるのがハッキリ分かる。

必死に興奮を抑えるルナを見つめていると、俺も嬉しくなるし、落ち着く。

(嬉しそうだな……ん?)

違和感が俺を襲った。

視線を感じる。

上か?。

見られている事が気になり、その方向へ俺は目を移した。

城の窓から帽子を被った俺と同じぐらいの歳の男がこっちを見ている。

…多分、ルナを見てる。

これは…俺が恐れていた事だ、ルナの全身の火傷は普通の人から見ればそりゃ奇異の目で見られるのは分かってる…だからこそ、それを知っていて貰うためにも俺はルナを連れて来た。

が、やっぱりイラつく。

「ジロジロと見るな…」

そう呟き、男を睨んだ。

男は俺に気づくと恐怖を一瞬顔に浮かべ後ずさって見えなくなった。

ルナは気づいてない。

(俺ってああいうのも出来るんだ)

別にこういう技がいつの間にか使える様になってる事は興味が無い。

それよりも、今日は出来るだけ色んな所を回らないと。

「それでは、門の前までお送りさせて頂きます」

「あぁ…はい、ルナ行くよ」

「あっうん!!」

下にある門まで俺たちは歩きだした、歩いてる途中ルナは街を見ている…周りが見えないのかいつの間にか案内約の執事さんより先に進んでいる、そしてそのルナの姿を俺は見ていた。

「セルヴィ様」

「えっはい?」

俺の隣に居た執事さんが急に俺に喋りかけて来て驚いた。

「あまり…ああいう()()のような物は出来るだけ抑えてください」

「あっえっと…」

バレてた…普通にバレてた。

「気づいてたんですね…」

「ええ、気分を悪くなされたのは分かりますが…別にあの方は悪い人ではありませんよ」

「まぁ…はい」

生返事で返した。

「…ここだけの話、あの方…()()()様は王女の護衛なのです」

「えっ!?」

「まぁ、あまり気になさらずに」

いや気になる、えっ?なら俺…王女の護衛にガンとばして後退りさせたって事?、マジかよ、それ大丈夫なのか?。

「なんか罰とかないよな…」

驚きで軽く放心状態のまま歩いているといつの間にか門の前に着いていた。

「後はご自由に遊んで来てください、お帰りの際はここへ」

そう言うとガリーさんは城の方へ戻って行った。

俺はまだ街の方を見つめるルナを引っ張った。

「確かこっちに商店街見たいなの有るから行こ?」

「うん!!」

青空の下、とても賑やかで美しい街だが路地裏には近づかない方がいい。

「……………」

アーロンおじさんも言ってたが治安の良い表側とは違って路地裏だとかには危ないやつがゴロゴロと居る。

現に路地裏の所から壁に背中をもたれながら痩せた男と頭にバンダナを巻いて曲剣を左腰に下げていて太った大柄の男がじろじろとこっちを見ている。

そいつらは何かが壊れきった人間の目…それが第一印象だ。

とにかく、危ないやつ。

しかもそれだけじゃない、そいつらの顔はまるで悪巧みするかのような表情に感じた。

そんな奴らがルナをジロジロと見てる。

お城の時見たいに殺気…のような物を放って見ようかと思ったがあの時は咄嗟の物だったからやろうと思ってやるとやり方がよく分からない。

とにかくもう目の前の屋台のような物がある広場を抜ければ商店街に着く。

(何なんだあいつら…!?)

少し早めに歩いて通りすぎようとしてもあいつらの視線だけはずっとこっちを追ってくる。

「うわぁ…すごいね!!」

ルナは気づいていない、まぁそっちの方が良いけど。

それにしてもあの屋台がそんな凄い…のかな?

しかもたったの三つ四つぐらい。

焼き鳥と…りんご飴と…。

まぁそんな事よりあれだけの事で面白くて目をキラキラさせるルナは一緒に居て面白い。

「凄いね…」

ルナに合わせて一言だけそう言うとルナの手を引いて広場を足早に抜けた。

あいつらの視線が……どうしようも無くイライラしたから。

 

 

 

 

 

商店街に着くとまた一層ルナは目をキラキラさせた。

大きな白いレンガの道を挟むようにずっとお店が奥まで続いている。

そこで俺は有ることに気づいた。

さっきの奴らの怪しい視線以外は俺が恐れていた様なルナに対する奇異の目がない。

それだけここにはいい人が居るって事なのか?…いや、それが当たり前か。

そうであって欲しい、じゃないとルナがたった一人でここに住むなんて心配で眠れなくなる。

もしかしたら、俺が敏感になっていただけかも…さっきの王女の護衛らしい人もあれは奇異の目じゃなくて心配だった様な気もする。

(まったく、俺は…)

「じゃあ…どこ行こっか」

そうルナに聞くと商店街の奥の奥までまでじっくりとじっくりと見て言った。

「さぁ?」

拍子抜けた返事に少し笑いそうになるのを堪えながら返事した。

「じっじゃあ色々見てみよっか」

そして歩き始めた、野菜や魚の食材の店、アクセサリー店や怪しい骨董品の店、子どもが入り浸る駄菓子屋だとか至って普通のこの国の人達の生活が垣間見える。

「…ねぇねぇ」

「私、色々自分で見てみたい」

あぁ…あれだけ興奮してれば好き勝手歩き周りたいって思うのも当然だよね。

まぁ大丈夫だろ、単純な道だ、迷子にはならない筈。

そう思って「いいよ」と言った。

「!!」

その瞬間嬉しそうな顔をしてルナは走りだした。

「おー速い速い」

「お前さんなら数秒も掛からず追い付けるだろ」

「あっやっと喋った」

「ようやくあの女が離れたんでな」

多分ずっと喋るの我慢してたんだな…なんか申し訳ない。

「今なら喋っても周りの音に溶け込むからな、やっと堂々と喋れる」

「あぁ…ごめんごめん」

「それよりも…お前さん、ルナを追いかけなくてもいいのか?」

そのザルバの顔はかなり心配そうだったがここで迷う筈はないと思ってる俺からしたら不思議だった。

「?…いや単純な一本道だし、見失うって事は無いと思うけど…」

ザルバの顔につられて不安になってルナの走って行った方を見た。

「居ない…!?」

道が大きいのが幸いで人の密度はそこまで大きくないから人が壁になって見えないという事はない筈…なら何処に要るんだよ!?。

「……っ!?」

ルナが行った方へ軽く走って行って当たりを見回した。

何度見回してもどこにも見つからない。

それを繰り返している内、俺は嫌な予感と共に一つの場所に釘付けになった。

「路地裏……!?」

商店街の賑やかさに隠れるように路地裏への道がポツンと有る。

思い出した、確か聞いた事がある。

ここの路地裏は迷路のようにありとあらゆる所へ繋がっていて、そのせいから危ない奴らの溜まり場の様になっているらしい。

この前まではそれを利用して吸血鬼が路地裏へ人間を連れ込み、食べながら長期間潜伏していたせいで危ない奴らもしょうがなく路地裏から出てきて居たが最近その吸血鬼が捕まえられてまたそう言う輩が戻って来たらしい。

奴隷の売買、他にもヤバい薬の流通も路地裏がメインの取引場所らしい。

「待て…奴隷?」

嫌な予感がした、変わった趣味のやつなら全身火傷跡の有る女を側に置きたいと考えるかもしれない、そしてマニアックな分高い金を払う…そういう魂胆でルナをジロジロと…?。

「っ!!」

直ぐに路地裏に入った。

とにかく目の前の道を全力で走る。

だが、進む内に目の前には3つの別れ道が洗われた、右か左か真ん中か、俺は立ち止まった。

「…右か?」

直感で選んだ道へ走る、だが先には高い壁がそり立つだけだった。

「クソっ!!」

「おい!!、セルヴィお前道分かってるのか!?」

「いや…ここは迷路見たいになってるらしいな」

イラつきが募るまま道を戻った。

もう一度別れ道を睨み付ける。

「馬鹿正直にやっても追い付けないか…」

「お前さんどうするつもりだ?」

「こうするんだよ!!」

俺は後退りして助走をつけ、勢いよく目の前の壁へ向かって走りるとその勢いのまま壁を走って登った。

屋根の上に着地するとそのままがむしゃらに走り出して周りを見る。

「何処だ!!ルナァ!!」

叫び続けても聞こえてくるのは周りのうるさい生活音だけ。

「っ!!…ザルバ!、気配を辿れないか!?」

「少し待て!!」

そう聞こえた瞬間俺は体を急ストップさせた。

屋根の瓦がかなり剥がれ落ちたがそんな事はどうでもいい。

ただザルバを見つめて直ぐにでもルナを追う準備をする。

「…………」

ザルバは黙ったまま、ほんの数秒だけで速くルナの元へ走りだしたいという体の疼きが大きくなっていく。

「まだか…!?」

「……!?…右だ!!」

すぐに走り出した。

俺の足が瓦を割りながら向かい側の屋根へ飛び移った。

下側の道を見ながら走り続ける。

「そこだ!!」

「わかった!!」

走り続けて下側にまた新しく道が見えた瞬間、ザルバが叫び。

俺は跳んだ。

空中で下を見た。

あの痩せた男がナイフをルナに向けて壁に抑えつけている。

太った男は隣でニヤニヤと…。

腹が立つ。

ルナと一瞬目が合って俺は微笑んだ。

大丈夫だよ、と。

「おい!!」

「は?」

痩せた男がこっちを振り向く頃にはもう遅い。

やつの頭を横に蹴り跳ばすと。

やつの体がふっ飛び、倒れた。

「なっなんだよ!?おめぇ!!」

着地の体制からゆっくりと立ち上がり、口を抑えて唖然としたルナを横目にヤツへ叫んだ。

「黙ってろ!!」

倒れた相棒を見て驚きながら後退りするのとは反対に俺がジワジワ近寄っていく。

「クソッオラ!!」

観念するとやつは曲剣を引き抜き俺を右上から切ろうとした。

「危ない!!、セルヴィ!!」

「クソったれ」

あぁ、使ってやる。

お前ごときに…だ。

 

牙狼剣を左手に召喚し、抜刀。

甲高い金属音が響いて曲剣の刃が宙を舞った。

「は……?」

納刀(のうとう)、持ち手の先をやつの腹へ思い切りぶちこんだ。

「がはぁッ!!」

グチュッ。

少し生々しい音が聞こえたがそんなん知らん。

「……………」

牙狼剣を消して、ゆっくりと体制を直した。

「ハァッ!!」

そして最後に顔面へと俺の真っ直ぐな蹴りが炸裂して、やつはドスンと倒れた。

「終わったよ」

俺は振り替えると後ろのルナに近づいた。

ルナが俺に不安そうに近づいて言った。

「大丈夫…なの?」

「ん…大丈夫大丈夫、怪我はないから」

「そう…」

元気がない、そりゃ…まだ怖いよね。

周りをキョロキョロと見るルナの仕草からそう思った。

「行こう?」

とにかく、ここから出ないと。

ルナの手を優しく取って歩き出した。

薄暗い路地、淡々と進む俺とは違ってルナは恐怖で周りを見回している。

「ばっ場所分かってるの!?」

「分かんないけど…まぁ大丈夫でしょ」

「それに…さっき見たいな人達がまだ居たら…」

「あぁ…なら」

上を見上げた俺に続いてルナも見上げた。

少しの間不思議そうにしていたルナだがすぐに意味が分かったらしい。

「あっ」と声を漏らし俺の方を見た。

「屋根!!でも…あれどうやって登れば…」

「ちょっとこっち来て…よいしょ!!」

ルナを抱き寄せ、肩に抱えた。

「えっ?えっ!?えっ!?」

足をジタバタと動かしてるけど無視する。

「ちよっと、暴れないで」

「ほっ」

軽々とルナを抱えたまま屋根の上へと跳んだ。

「!?!?!?」

驚きすぎたのかもう声も出せずにルナの動きは止まった。

「おろすよ?」

「あっうん…」

ゆっくりと屋根の上へルナを下ろして周りを見渡した。

「商店街はあっち…か、結構遠いなぁ」

「ねっねぇ?」

「ん?」

()()って…まさか」

()()?」

「ス…スキル…だよね?」

「!?、あ~…えーとねぇ…それはねぇ…」

ヤバイ、ヤバイ、言い訳なんて考えてない…。

何て言えばいい?。

何て言えば?。

何て…言えば…。

何て言えばルナを傷つけたのが俺だとバレない?。

「俺様が説明してやる」

「えっ…」

「ザルバッ!?」

満を持して口を開いたのは俺じゃあない。

ザルバだ。

今まで俺がスキル持ちだとバレないようにただのアクセサリーのフリをしてたのに何で今になって喋りやがった!?。

「なっ何?、誰の声!?」

「お前…ッ!?」

「ハァ…セルヴィ、俺様に任せろ流石に見てられない」

ここまでザルバが呆れるとは思ってなかった。

いや確かにね?。

後先考えずにあんな雑魚風情によ?。

ビビらせる為に牙狼剣使ったけど流石にその態度は酷くない?。

テレビと性格違くない?。

「おい、ルナ…だったか?」

「ハァ…降参」

ため息をついてザルバをルナの方に見せた。

「どっどこ!?、誰!?」

「ここだ」

「…え?」

ザルバを見たルナの顔は驚きに溢れてた。

ギョロギョロとした目でザルバを凝視して固まる。

その反応にザルバが文句ありげに喋った。

「なんだ」

「これなの?喋ってたのは」

「そう、俺様だ」

「これ…どうなって…」

ヤバイ、これ以上は…。

「あー…えーとね?ルナ?とりあえず戻ろ?」

「おい」

とにかく誤魔化そうとするのをザルバが遮った。

「任せろと言っただろ、少し黙ってろ」

「はいはい…」

俺の下手くそな弁解には任せてられないらしい…酷くない?。

「一体どうなって…「こいつはスキル持ち、それだけだ」

「え…?」

「少し特別だがな」

「特…別?」

「そう、だから秘密なんだよ」

「ちょっと待ってよ!!特別とかそんなんじゃ秘密にする理由にならないよ!!」

俺は何も言わずに歩き出した。

「?」

不思議そうな顔を浮かべてルナもついてくる。

「俺には…()()()()()()がない」

「えっ!?」

スキルを持つ者はスキルボードも一緒に持ってる…常識でしょ?」

「そして…セルヴィはスキルボードを持ってない」

それに俺がちょっと口を挟んだ。

「そう、特別…てより異常の方が合ってるかな?」

「異常…?、ううん、そんなんじゃないよ!!」

「そんな事より、スキルは持ってるんだから…私と一緒に王立学校へ行けるんだよね!?」

「いや、無理」

「!?」

その言葉を理解できなかったルナは驚いた顔を俺に見せた。

「なん…で…?」

絞り出すような声に俺は答えた。

悲しそうな顔は…意外とキツイ。

「スキルっていうのは謎、そう謎だらけ…」

「だからこそ、こんな異端(イレギュラー)があそこへ行けばすぐに上へバレて調べられまくる」

「え…?」

「つまり…普通の生活が出来なくなっちゃう」

「国に特別扱いされ、晴れて貴重な観察対象だよ」

「そんな感じにお世話されるような重苦しい生活…俺やだ」

「本当にそんな事になるの?」

「多分…前例、見たいな物は無いけど…近い物なら有るね」

「どういう事…?」

俺は足を止めてルナに振り返った。

瞳を真剣に見つめて、ルナへ指を指した。

「ルナ見たいな色んな所からスキルボード持ちを血眼になって集めてる、その為のスキルボード鑑定人なんて職業作るぐらいに」

ルナはハッとした表情のまま凍りついた。

「…!!………」

「どうしたの?、黙り込んで」

「ううん…なんでもない」

「…」

また俺は歩みを進めた。

歩き続けてルナの表情はさらに凍りついていって何も話さない。

俺も話さない。

そんな事が続いていると呟きが聞こえた。

「私…心配」

「えっ?」

「心配…なの、だってセルヴィがそんな事ばっかり言ってるから」

「あぁ…」

俺はかなり面食らった、だって今まで俺がルナの事を心配ばかりしていた筈なのに今度はルナの方が心配してるんだ。

あぁ…情けない。

「…大丈夫だよ」

「なんで?、もしバレたら…」

俺はその言葉を遮るようにルナの2つのほっぺたをムニュっと握った。

「だってこれは二人だけの秘密でしょ?」

「え…?」

「ほらね?、そうでしょ?」

「!……そうだね!!」

ルナの顔に一気に笑顔が灯る。

俺もいつもの様につられて笑みが溢れた。

(俺様は何で数に入ってないんだ)

「ンフフフ」

ルナは満足そうに声をだしながらニヤケていた。

顔から手を離してまた歩く。

もうそろそろ商店街付近に着く。

それからほんの少しの時間が経って俺は呟いた。

ルナに絶対他の人間に俺のスキルを喋らせない為の言い訳を。

「俺は…平和がいいんだ」

「え…?」

唐突に何を言い出すんだろう?と多分ルナも思った筈、自分でもよく分かってない。

「スローライフ…そう!!、スローライフがいいんだよ!!」

「えっ?えっ?」

困惑気味なルナをおいてけぼりに俺のボルテージは上がり続けた。

「ほ…ほら!!、ルナがスキルの事を話さないでいてくれるなら俺は平和な平和なスローライフを送る事が出来る!!」

「ね?、さっきも言ったけど…二人だけの秘密にしてくれる?」

「!!…うん!!」

よし、念を押した、大丈夫。

ルナは約束を守ってくれる。

はっきり言って殆ど中身の無い言葉だけど、実験台見たいな生活も息苦しそうな特別扱いも嫌。

だから平和で平和なスローライフがいいって言うのは念を押すための方便にしては意外と本心。

(俺のスキルは戦う力なのに…スローライフを望む、ね…)

それだと俺の力の存在意義は?。

そんな疑問が頭によぎる。

でも、世界を救うとかそんな事に巻き込まれる訳じゃない。

目の前の物を守るには不完全でも充分な力だ。

「まぁとりあえず遊ぶよ!!、今日は!!」

「うん!!」

俺はルナの手を取って商店街の元の道に二人で降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「大地を駆ける金色、闇を切り裂く大剣、金色の光が新たなる道へ進む為に因果を断ち切る!!、次回轟天!、こいつはかなりのじゃじゃ馬だぞ?」







ほんとは今回轟天が出る筈だったんですが余りにもデート回が長引き過ぎて轟天の戦闘シーンが無くなりました、ですが次回は確定で出ます。


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