モンスターハンター 焔の心 (たつえもん)
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第1話:ハンター誕生

 どうも皆様、初めまして。たつえもんと申します。

 初めましてと言いながらも、実は私ネットでの活動をもう5年近く続けており、このサイトはもっと前から存じておりました(アカウントを作ったのは数日前だけど)。
 普段は他のHNを使用していますが、ハーメルンではこの「たつえもん」という名前を使わせて頂きます。

 さて、前置きが長くなっても仕方ないので本文に移ろうと思います。それでは、また後書きで。


 これは、今この物語を読んでいる貴方のいる世界とは違った世界で繰り広げられる物語。

 

 

 

 

 この地球には大小様々な生命が存在しているが、その中で高い知能を持ち、独自の文明を繁栄させた種族、人間。

彼らは力は弱かったが、その知恵と協調性を武器にあらゆる生物と戦ってきた。

 その中でも、特に強く危険なモンスターと呼ばれる生命体と戦い、それらの爪や鱗を使い武器や防具を作り、更に強力なモンスターを相手にする。

 そんな、モンスターを狩ることを生業とする者達は「モンスターハンター」と名付けられ(単に「ハンター」と呼ばれる場合も多い)、人々から敬われ、また多くの人が志す存在でもあった。

 

 そして、東方の大陸の一角の山岳地帯に存在する、ホムラ地方と呼ばれる地域の山奥に存在する一つの小さな里、カムラ。

 

 今ここに、新たなモンスターハンターが誕生し、一つの物語をつくろうとしていた-!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん、もうこんな時間か」

 とある一軒家の中、畳に布団を敷いて寝ていた青年が目を覚ます。

 黒髪は短く刈り揃え、微かに赤みを帯びた両目とやや大人びた顔立ちからは落ち着きと、内に秘める熱意を感じさせた。

 窓から空を見れば、既に日は高く登り、もう昼になりかけている頃だった。彼は普段からよく寝る方だったが、この日はいつもより早起きする予定だったので少し損をした気分になった。

「まったく、今日は大事な日だって知ってたはずなのに。もう少し早く寝させてくれてもいいんじゃないか」

 

 この男、ハルト・クルーガーはつい昨日17歳の誕生日を迎え、同時に全世界のハンター達の動向を把握・管理する機関であるハンターズギルドから彼をハンターとして狩場に出向くことを許可するとの通知が来た為、里の住民によりそれは盛大な祝宴が開かれ、その主役であったハルトはなかなか帰してもらえず、就寝したのはすっかり日付が変わった真夜中であった。

 

 まだ昨日の宴会の疲れの少し残る身体を起こすと、ハルトは家の入口に二人の女性が立っているのに気が付く。

 共にすらりとした長身で、非常によく似た美しい顔立ちをしている。纏めた黒髪からは、人間のものとは違う三角形をした耳が覗いていた。

 身に付けている赤い装束もほとんど同じ作りであり、違う点を上げるとすれば、やや表情が柔らかく髪留めを向かって右側にだけ付けているか、左右対称に髪留めを付け少し冷淡そうな顔をしているかというくらい。その二人の美女はとにかく似ており、まるで間違い探しのような瓜二つの容姿をしていた。

「あら、気付かれてしまったようですね」

「ヒノエ姉様も人が悪いですわ、せっかく我が里から久しぶりに期待のハンターが誕生するというのに、そのハンター様のご自宅に忍び込んで悪戯しようなどと」

「いや、ミノト。そう思うなら止めてくれないか?

第一、勝手に他人の家に上がり込む時点で悪いことだと思うんだが」

「何を今更。私達はハルト様が幼子の頃からずっと暮らして来たのです、今や私達だけではなく、里の皆様全員家族のようなものではありませんか」

「家族………ね。ま、それはいいや。それで、二人はわざわざ俺を起こしに来てくれたのか?手をかけさせてすまないな」

 正直、ハルトが突っ込みたかったのはそこではないのだが、気にしているとキリがなさそうなので話題を変える。

「ええ、里長も昨日は少し盛り上がり過ぎたかもと反省しておられましたよ」

「別にフゲンのじいさん一人の責任じゃないだろ、あの人はまた」

「まあまあ、よろしいではありませんか。そのフゲン様が貴方をお待ちです、仕度を済ませてくださいませ」

「そうか、すぐに行く。先に行っていてくれ」

 

 ヒノエ、ミノトと呼ばれた女性とのやり取りを終えた後、ハルトはカムラの伝統的な装束であるカムラノ装シリーズを着込み、家の外に出た。

 

 カムラの里は、辺りを山に囲まれていることからモンスターも寄り付きにくく、近くに豊富な鉱脈もあった為にそれを加工するたたら製鉄の技術を定着させた。

 気候は温暖湿潤で過ごしやすく、また他の地域とは大きく異なる独自の文化を持つ事から、旅のハンターが山を超える際の中継地点としてカムラの里を利用することもある。

「しかし、まだ見慣れないな。俺が子供の頃はこんな立派なもんじゃなく、もっと殺風景な所だったんだが」

 

 ハルトの言う通り、元々この近辺はただの山岳地帯であったが、この土地を訪れた人々が辺りを整地して里をつくったのだ。

 しかしながら辺境の土地ということもあり滅多に人が寄り付かない寂れた里であったが、それは少し前までの話。里長・フゲンをはじめとした住民の手厚い貢献によりめざましい発展を遂げ、今ではハンターズギルド本部公認の地となっている。

 そして、ハンターの為の設備が整ってきたのもまだ最近のことなので、ハルトはこの数年間は別の土地でハンターの修行を積んでおり、それで急激に発達した今のカムラを見て驚いていたのだ。

 

 そんな、過去の自分の記憶と今目の前に広がる光景の違いを視界に焼き付け、ハルトは里長・フゲンの元へ向かうのであった。

 

 

次回につづく




 皆様改めまして、作者のたつえもんです。

 いかがでしたか?文才が無いなりに頑張って書いてみたつもりです。
 ちなみに学生時代、国語の成績はあまり良くなかったです。

 この小説を出そうと思ったきっかけが、先日発売されたモンハンライズをのんびりマイペースにプレイしていたら、自分の中に「こういう人物を中心にこんな展開があったら面白いんじゃないか」みたいな妄想がどんどん浮かんで来たんです。
そして頭の中のキャラの設定やら何やらを携帯のメモアプリにおこしてみたら、予想以上にものすごく長いストーリーが形成されていったので、思い切ってこのサイトで掲載してみようと思い、今回に至るワケです。

 前述の通り、私は既にネットでの活動をしており、Twitterアカウントも持っていますが、そこで更新報告をするのもなんだか恥ずかしいのでまた別でハーメルン用のアカウントを作ろうとも考えています。
 またその時はお知らせします。

 そして、今この後書きを書いている約1時間後にはモンハンライズのアップデート情報が公開されます。
 ヌシレウスやオオナズチの他にはどんなモンスターが実装されるのでしょうか。
 私個人的には獣竜種モンスターが好きなので、ディノバルドやウラガンキン、ドボルベルクなんかが出てくれると嬉しいですね。
 後はやっぱりイビルジョー!アイツが出てきた時の怪獣映画的なBGMってドキドキしますよね。
 他には、私は3Gでモンハンデビューしたので、ラギアクルスとかブラキディオスみたいな、3Gで活躍したモンスター達も来て欲しいですね。


 さて、そろそろお別れの時間が近付いて来ました。
 二度目になりますが、更新は不定期となっており、次話の更新はいつになるか分かりませんが、楽しみにして頂ければ幸いです。
 最後まで読んでくださってありがとうございました!
 またお会いしましょう。


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第2話:百竜夜行

 カムラの里には、長らくハンターと呼ばれる人物がいなかった。

 では、今までは誰がモンスターから里を守っていたのか?

 

 それが、今ハルト、ヒノエ、ミノトの三人の前にいる老翁、カムラを治める里長・フゲンである。

 かつて彼は名うてのハンターだったらしく、老人らしく頭髪と顎髭は白くなり、ペイントを施した顔には深い皺が刻まれているが、首から下の身体は引き締まった体型をしており、まだまだ老いぼれてはいない様子が見てとれる。

 既にハンター稼業は引退しているものの、その実力は未だ衰えてはおらず、引退後も後継のハンターを育てる為積極的にモンスターや武具の知識を吸収している。

 強さと、細かいことをいつまでも悩まない豪快な性格、そして住民全員を家族のように思いやる優しさ。これら全てを兼ね備えたフゲンは、里の民から絶大な信頼を得ていた。

 

「里長、ハルトさんをお連れしました」

「うむ、ご苦労。ハルトよ、ハンターとして認められたことを改めて祝福しよう。本当におめでとう」

「ありがとう、じいさん。俺、この里で育ったことを誇りに思うよ」

「カッハッハ!誇りも何も、お主は儂の家族同然!いつかはハンターになること、とうに分かっておったわ。今更他人行儀なことを言うでない」

「(なんかさっき、ミノトも同じようなこと言ってた気がする)」

「でも、このようなタイミングでこの地に新しいハンターを認可するということは、何か重要なことでもあるのですか?」

とヒノエが問うと、フゲンは口を閉ざし頷く。

 

 

 

「『百竜夜行』」

 

 里長の口からその言葉が発せられた途端、三人は身構え、重い空気が流れる。

 フゲンは彼方の記憶を思い起こすかのように目を細め、静かに続ける。

「50年前に里を襲った悲劇、決して忘れはせん。それが此度、このカムラの地に再び訪れるやもしれんのだ」

 

 

 

 

 

 

 百竜夜行とは、何体もの大型モンスターの大軍勢が里に押し寄せる怪奇現象である。

 特に50年前の百竜夜行はかなりの大規模で、カムラを壊滅寸前の状態に陥れたという。当時フゲン率いる人々は果敢にもモンスターの群れに立ち向かい、多大なる犠牲を出しながらも里を死守した。

 幾年もの時が経った今でも、何故大型モンスターの大群は襲撃して来たのか、モンスター達の目的は何だったかなど、詳しいことは分かっていない。

 カムラの里は最近まで発展途上の寂れた里だったと言うが、実際には百竜夜行による被害があまりに大きく、里の発展に手を回す余裕がなかったというのが正しい。

 

 

 

「………来るのですか。あの、伝承で見聞きしただけでも恐ろしい百竜夜行が」

「いつ、それが現実になるかは分からん。だが、ここ最近の大型モンスターの活発化からして、百竜夜行は確実に起こるそうだ」

 四人の間に重い沈黙が続く。しかし、それを打ち破らんとする明るい声音で、ヒノエが片方だけに付いた髪飾りを揺らしながら言う。

「心配いりません。我々カムラの民が修行を積んで来たのは、寧ろこの為!今こそ、我ら里の民で手を取り、この地を守り抜きましょう!」

 それに感化されたのか、ミノトも続ける。

「姉様の言う通り。いくら百竜夜行が恐ろしいとはいえ、隠れて震えているだけでは何も始まりません。私達は私達に出来ることをするまでです」

「それでは、私達は住民の皆様やハンターズギルド本部に百竜夜行のことを伝えて参ります」

 

 そう言って、双子の姉妹は去っていった。

 ハンターでもないあの二人が、百竜夜行を恐れないはずがない。だが、双子は冷静かつ前向きだった。絶望的な現実を受け止め、その上で里を、民を守る為に手を尽くす。自分なんかより余程できた人物であると、ハルトは自覚していた。

 ヒノエ、ミノトの背中を見届け、フゲンは大きく口を開け笑い飛ばす。

「いやあ、頼もしくなったものよ!やはり、この里の者は逞しいわい。時にハルトよ、お主はどう考えるかね」

「俺は………せっかくハンターになったんだ、モンスターを狩りまくる。少しでも百竜夜行の被害を抑えなきゃ」

「その心意気、大いに結構!しかし、お主はまだハンターになったばかり。何事にも順序というものがあろう。

まずはギルドで登録を済ませ、装備を整えるのが先ではなかろうか?」

「…………そうだね、まだ今すぐに百竜夜行が来るわけじゃない。それまでにハンターとしての腕を磨いておかなきゃな」

「うむ、ではハンターズギルドに向かうがよい。ゴコクがお主を待っておるはずだ」

 

 

 この里のハンターズギルドは、里の奥地にある赤を基調とした絢爛たる建物である。茶屋を兼ねており、オテマエという名のアイルーと呼ばれる猫に似た姿の獣人が女将を務めていた。

 その入口近く、赤い大きな蛙のようなモンスター・テツカブラ(幼体)に乗った男性が手にした紙に筆で何かを凄い勢いで書き記していた。

 その男性は小柄で太っており、尖った耳の下部、人間の耳たぶにあたる部分は膨らんで垂れ下がっており、どこかご利益を感じさせる風貌をしている。

 彼こそカムラの里のギルドマスター・ゴコクである。

 

「おーう、ハルトや。遅かったでゲコね」

「まあ、昨日あんだけ飲み食いすりゃ寝るのも遅くなりますよ」

「お前さんがここに来た目的は分かっとる、ハンターズギルドへの登録ゲコ?そんなもんは済ませといたゲコよ」

「え、それ本当ですか?」

「ハルトのことは赤ん坊の頃から肉親のように面倒を見てきたゲコ、お前さんの実力はよく理解しているつもりでゲコ」

 

 ハルトに両親はいなかった。厳密に言えば、彼が幼少の頃にこの世を去ったのだ。

 母親はハルトを産んで約一ヶ月に病気で亡くなり、ハンターであった父親もその一週間ほど後にクエスト中に殉死。

 フゲンとゴコクは親の顔を知らずして孤児となったハルトを哀れみ、親代わりとして彼の面倒を見ることを決めたのだった。

 

「そう、ですね。フゲンのじいさんやミノトも言ってました、里の民は家族同然だと。俺はこんないい里のハンターになれて幸せです」

「よくぞ言った、愛弟子よ!」

 どこからともなく勇ましい声が聞こえる。ふとギルドのテラス席を見ると、逆立った髪と目元の傷が印象的な男性が腕を組んでこちらを見ていた。

 カムラ出身のハンター教官、ウツシ。かつてハルトが在籍していた養成校では学年主任を務め、彼に狩りの基礎を教えた恩師である。ハルトの卒業と同時期に里に赴任し、フゲンと共にカムラ独自の戦術を編み出したのも彼だ。

「教官。今までどこ行ってたんです」

「ちょっと用事があってね。それより、ハンターになったとあれば使う武器を選ぶ必要があるけど、もう決めてるのかい?

もしそうならば、ハモンさんに言って見繕ってもらうといい」

「はい。少し悩んだんですけど、決めてあります。」

と言い、ハルトはギルドを出て加工屋へ向かう。

 

 

 加工屋を訪れると、頑固そうな面構えの老人が真剣な面持ちで刀を研いでいた。

 彼はハモン、この里で加工屋の店主を務める職人である。

 若かりし頃はハンターをしており、フゲンと共に狩場へ赴いたこともあるという。

「……来たな、ハルト」

 

 加工屋は武器や防具の製造・販売を行う店であり、ハンターにとって無くてはならない施設であった。

 多くの地域では、竜人族と呼ばれる亜人種が加工屋を営む。

 竜人族は古くより人間と友好関係を結んでおり、特徴として尖った耳と長い寿命、そして高度な技術や豊富な知識を持っている。その技術を活かし、人間には加工が難しい鉱物やモンスター素材を武具に仕立てることが可能なのだが、古くから製鉄業が盛んなカムラでは人間のハモンが加工屋を営んでいる。

 しかし、里に竜人族がいないわけではなく、雑貨屋のカゲロウやヒノエ、ミノト姉妹、更にはゴコクも竜人族である。

 

「はい、今日は俺の武器を作って欲しくて」

「この里にハンターが産まれるとなれば、必然的にワシの仕事も増えるということだ。武具を粗末に扱うということは、カムラの製鉄技術を、里の伝統を侮辱することだと思え」

「はい、重々承知しています」

「……うむ、それで武器だったな、どうするんだ

 

 

「ほほう、そいつを選んだか。悪くない選択だ」

「養成校でも、ハルトは片手剣を多く使っていたからね。何となく分かっていたよ」

 ハルトが選んだのは、カムラノ鉄片刃Ⅰ。片手剣と呼ばれるタイプの武器で、切り出し小刀のような菱形の剣と、角張った形の盾がセットになっている武器である。

 

 片手剣は剣と盾を用いることで、攻撃と防御のバランスが取れている武器だが、双方共に小さく軽量な為、剣の一撃は強くなく、盾も防御性能は高くない。

 しかし、片手剣の本懐はその機動力にある。動きを阻害しない為、武器を構えた状態でも軽快な動きを可能とし、一発の威力は低くとも繰り返し命中させることで効果的に敵モンスターの体力を削ることができる。

 これにより、敵の攻撃を躱す、盾で受ける等でいなし、隙を見て急所に連続攻撃を叩き込むという立ち回りが可能なのだ。実際、片手剣を使うハンターの中には、盾によるガードはほとんど行わず、どうしても攻撃を避けられない時だけ盾で防ぐという戦法を取る者も多い。

 

「さて、武器もアイテムも揃ったことだし、クエストに向かうかい?」

「そうですね。ヒノエ、今届いてるクエストはどんなのがある?」

「んー、そうですね。今は火玉ホオズキの納品にジャグラスの討伐、探索ツアーならいつでも行けますよ」

「ま、初日から大層なクエストが届くこともないか。なら、素材の採取も兼ねてホオズキの納品クエストにでも行くとするよ」

 そう言うと、ハルトは幾らかの小銭をヒノエに手渡す。ヒノエはそれを受け取ると、書類にハルトの名前を書き込み押印する。

 

 ハンターがクエストを受けるには、その難易度に応じた契約金を支払う必要がある。ギルドから認められた正当な依頼である証明になるし、ルーキーがいきなり上級のクエストを受けるのを防ぐ意味合いも込められているのだ。

「はい、クエストの受注承りました。気を付けて行ってらっしゃいませ」

 

 ハンター就任後の初仕事というには地味だが、新人のうちは下積みが重要なことはハルト自身よく理解している。住民に盛大に見送られながら、ハルトは依頼地へ向けて出発するのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。作者のたつえもんです。


 2話では、原作ゲームのテーマの一つである百竜夜行に触れ、ハルトが武器を選びました。
 ハンターにとって武器の選択は重要で、ハンターとして戦う我が身の延長のようなもの………らしいですね。

 ライズをプレイされている皆様は、どんな武器を使っていますか?
私は毎回、「今作はこの武器一筋でいく!他の武器に浮気はしない!」と決めるのですが、プレイを進めるうちに別の武器も気になり、結局色々な武器に手を出してしまいます。
今作は片手剣→太刀→チャージアックス→ランス→ハンマー→双剣→大剣と触れていき、現在はランスに落ち着きました(今でも大剣はたまーに使います)。

 そして、今回のお話を投稿する一日前にライズのアップデートが実装されました。今回はテオ・テスカトルやクシャルダオラ、オオナズチなど古龍がメインに追加され、ヌシモンスターと通常のフィールドでも戦えるようになったとか。
 ちなみに私はまだ戦ってません(HR6)。


 さて、そろそろ皆様とお別れの時間が近付いて来ました。
少しだけ予告をすると、次回ハルトがついに大型モンスターと初戦闘を繰り広げます。まだハンターになったばかりの彼は、いったいどのような戦いをするのでしょうか?

 では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回でお会いしましょう。



※追伸
この小説の登場人物のプロフィールも掲載していく次第です。
ひょっとしたら、3話より先に投稿するかもしれません。


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第3話:風裂く大鎌

 ハルトがハンターになってから、早いもので一ヶ月が経っていた。

 この間に、ハルトは火玉ホオズキの納品をはじめ、特産キノコの納品、ジャグラスの討伐クエスト等をこなしていた。

 何度かハンターが里を訪れることもあり、里全体に少しずつ活気が出てきた。

 

 そして、今日はイズチと呼ばれる小型モンスターの討伐に向かうところだ。しかし、ハルトには一つ気になる点があった。

「それにしても、まだイズチの討伐依頼が出てるのか。もう4回目にはなるぞ」

「そうなんですよ、ここのところイズチの数が減らないみたいで。

大量発生しているとはいえ、私もさすがに多すぎるとは思うのですが」

そこまで聞いて、ハルトの中に一つの推測が浮かぶ。

「………ミノト。今、大社跡の辺りのモンスターの出現状況は?」

「今のところは、前回のクエストと変わっていないみたいですね。

ブンブジナ、ブルファンゴにケルビと、後はブナハブラがいるそうですが」

「………そうか、だったらいいんだが」

 ただの杞憂だったかと思うと、ハルトはポーチの中のアイテムを確認し、クエストに向かう。

 

「ハルトさん、心配性ですねえ。クエストをこなしていけば、そのうちイズチ問題も収まるかと思うんですけど」

 大社跡に向かうハルトを見送りながら、ヒノエは先程のやり取りを思い返していた。

「……姉様。ひょっとしたら、ハルトさんは何かの異変を察知しているのかもしれません。例えば、大社跡で予期せぬ出会いがあるかのような」

「大社跡………そういえば、一時間程前に旅のハンターが探索ツアーに向かっていたゲコね。何でも、この辺りに来るのは初めてだからフィールドの情報を覚えておきたいとかで」

「そういえばそうでした、まだハルトさんは会ってない方ですよね。

もう少ししたら入れ違いになって戻って来るか、ひょっとしたらハルトさんとすれ違うかも」

 

 

 依頼地となっている大社跡は、高低差があり草木が生い茂る平原である。昔は神職者が祈祷する場所だったらしく、そこかしこに古い建築物の残骸が残っている。

「うし、さっさと終わらせるか。

ゴコクのじっちゃんは旅のハンターが来てるって言ってたし、帰ったら挨拶しとかないとな」

 拠点(メインキャンプ)に到着するや否や、ハルトはテントの近くに置かれた青い箱から緑色の液体が入った瓶と、紙に包まれたものを取り出してポーチに入れる。

 

 ギルド本部を通して出された公認の依頼は、このように支給品が手配されることになっている。ハルトが手に取ったもののうち、瓶に入った液体は体力を回復させる応急薬、紙包みはスタミナを一時的に増やす支給用携帯食料と呼ばれるものだ。他には空きビンやボウガンの弾など、ガンナー向けのアイテムも入っており、依頼の内容によっては、解毒薬やウチケシの実など別のアイテムが支給される場合もある。

 

 近くにあった薬草を採取し、拠点から伸びる下り道を降りると、広大な原っぱが広がる。

 そこはエリア1と呼ばれる場所で、ウチケシの実やホオズキが自生する他、ハチミツの採取も可能となっている。

 エリア1を駆け足で移動するハルトの視界に、何匹かの狸獣ブンブジナが映る。

 ブンブジナはほとんど人間を襲うことのない穏やかな性質をしており、今はのんびりと草を()んだり昼寝をしたりしている。ブンブジナからは生肉や、発火性の高い体液を採ることができるが今必要なものではないので無視してハチミツを取りつつ次のエリアに向かう。

 

 エリア1を北東に進み、細い上り坂を抜けると木漏れ日の差すエリア3に出る。

「あれ?」

 エリア3に入ってすぐ、ハルトは異変に気付く。

 通常、このエリア3ではジャグラスと呼ばれる鳥竜種が見られるのだが、今日はそれらが一匹もいない。

 多少の違和感を覚えながらも、何かのモンスターの骨の残骸を幾らか拾いエリア3を足早に去る。坂を駆け上がり、エリア7へと向かう。

 

 そうしてエリア7に到着すると、前方に何匹かのモンスターの姿が見える。

 首と尻尾は長く伸び、前脚は小さく退化していたが後脚はその分発達しており、鳥竜種特有の「丁」の字を思わせる体型をしている。その体はオレンジと白の体毛で彩られ、尾の先端には湾曲した一本の長い棘が生えていた。

 今回のクエストの標的(ターゲット)、イズチである。

「やっぱりここにいたか、さっさと片付けるぜ」

 言うが早いか、ハルトはカムラノ鉄片刃を抜くとイズチ達に向けて切りかかる。

 

 既にハルトはイズチ討伐のクエストを三回もこなしており、イズチの習性や行動パターンはほとんど理解している。だからこそ今回は前回までと同様にエリア7にイズチがいると踏み、真っ直ぐ向かって来たのだ。

 イズチの一匹がこちらに気付くと、甲高い声を上げて仲間を呼ぶ。ハルトはその隙を見逃さず、勢いそのままに声を上げていたイズチに向けて二度、三度と斬撃を繰り出す。

 刃がイズチに当たるたび、切られた体毛が舞い散る。攻撃にイズチは一瞬驚くも、すぐに持ち直す。ハルトに噛み付こうと口を開けるも、ハルトは既に横転してイズチの横にいる。そしてもう何度か片手剣を振るい、イズチの一匹を沈黙させた。

 そこへ、新たに三匹のイズチがやって来る。先程のイズチの加勢に来たのだろう。

 仲間が来たのを見計らい、既にその場にいたイズチが飛びかかる。距離があった為、ハルトは難なく避けると、イズチの勢いを利用しカウンター気味に斬りつける。一太刀で皮と肉が裂け、今度は一撃で動かなくなる。

 仲間の声に駆け付ければ、自分達を呼んだであろう一匹は既に亡骸となり、もう一匹は目の前で屠られた。人間が只者ではないと察した三匹のイズチは、声を上げて更なる加勢を呼ぶ。

「隙だらけだ、行くぞ!」

 と、ハルトが再び特攻を仕掛けようとした時、ザッザッと草を踏む足音が聞こえる。

 イズチにしては大きく重い足音であり、もしやと思いエリア7の更に奥を見ると、その予感──更に言えば里を出る前から考えていたことが的中した。

 

 イズチと体型はほとんど変わらないものの、大きさはその倍以上。そして尻尾の棘は鎌のように長く鋭くなり、鎌鼬(れんゆう)竜の名に違わない風貌となっている。

 イズチの群れを束ねるそのモンスターの名は、

 

「オサイズチっ!」

 予想はしていたものの、まさか本当に現れるとは。

 現状、ハルトの手元にあるのは支給品の応急薬と携帯食料に、回復薬が四本と採取したハチミツや骨。更に片手剣はイズチとの戦闘で少し消耗してしまい、満足に戦える状態ではない。

 かと言って逃げられる状況ではない。周りをイズチに囲まれてしまったのだ。鳴き声で指揮を取っているのか、イズチ達の間に統率が生まれている。

「ウォォオーーーーーッ、グォォオーーッ」

「くそっ、もっと回復薬を持って来るべきだったか」

 今更後悔しても遅いが、次からは簡単なクエストでも準備を怠らないようにしようと決める。そんなことを考えていると、目の前のオサイズチがこちらへ走って来る。

「やべ………!」

 咄嗟に横っ飛びに転がり、その直後にハルトが立っていた場所に尻尾が突き刺さる。深々と抉られた地面が、その威力を物語っていた。

「くっそ、どいてろ!」

 回避行動を行ったことで相対的に自分の近くに来た1匹のイズチにカムラノ鉄片刃を叩きつける。

 毛が数本散らばるが、致命傷には至らなかったようだ。

 群れの一匹が攻撃を受けたことで、他のイズチも反撃を開始する。まるで軍隊の陣形のように一匹が攻撃したら後退し、別の一匹が攻撃を仕掛ける。オサイズチがいるからこその連携だろう。

 イズチからの猛攻の合間を縫って、どうにか群れの一匹を仕留める。ふとオサイズチを見ると、身体を屈めて尻尾を振り上げている。危機を感じ、ハルトはすぐさま盾を構える。

 

 刹那、鎌鼬竜が太刀の奥義・気刃大回転斬りのように尻尾を振り回しながら突撃する。ヒュンヒュンと風を切る音と共にオサイズチがすぐ近くまで迫り、盾からガリガリと金属を擦る音が鳴る。

 しかし片手剣の小さな盾では威力を殺しきれず、右手ごと盾を弾かれ、ハルトは体制を大きく崩して後ずさりする。

何とか持ち直し、盾の表面を見るとオサイズチの鎌の一撃を受けたであろう箇所が一直線に削られていた。盾を構えるのがあと一歩遅れていたら、今頃ハルトの身体は一刀両断されていたに違いない。

「あれは……絶対に喰らっちゃダメだ」

 どうにか立ち直るがイズチが眼前まで迫っており、噛み付こうとするも回避する。しかし、その隙を狙い鎌鼬竜は体当たりを仕掛けて来た。これは避けられず、まともに受けてしまう。

「がは………!」

 何度も地面を転がり、崖の壁面に背中を打つ直前でようやく勢いが止まる。体制を立て直そうとするが、既にオサイズチは次の行動に移っていた。体を低くして尻尾を振り上げる、先程も見せた回転攻撃の構えだ。

「くそ…………俺、ここで死ぬのかな………。

久しぶりに里のハンターが生まれたって期待されてたくせに、随分呆気なく終わるんだな」

 今、彼にはそれを避ける体力も盾を構える余裕もない。

 オサイズチが低くいななき、ハルトは死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドガッッ!!!

 

 

 

「ギャオォォォ!?」

 

 しかし聞こえて来たのは風切り音ではなく、何か硬いものがぶつかり合う音と鎌鼬竜の鳴き声だった。すかさず視線を上げ、オサイズチの方を見ると、そこにはハンター用の防具を身に付けた人物が自分と同じくらいの大きさの鈍器を振り下ろしていた。恐らく、先程はそれでオサイズチを殴り付け、予期せぬ方向からの襲撃にオサイズチが怯んだのだろう。

 鈍器を持ったハンターはハルトに気付き、武器を納めると駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか!?」

 

 その人物の声を耳にし、更に近寄って来た顔を見て、ハルトは驚いた。そのハンターは少女だった。それも、自分と歳がほとんど変わらないように見える。

「あのモンスターの攻撃を受けたのですね……立てますか?」

「あぁ、何とか…………いてて」

 少女に手を借りながら、ハルトはようやく起き上がる。更に応急薬を飲み、ダメージもある程度は回復する。

「ここは私が食い止めますので、その間に逃げてください。私も後から追い付きますから」

「えっ………そんな、だったら俺も残って戦う。

あいつらと一人で戦うなんて、そんなこと」

「それができるのは万全な状態ならの話です。生憎、私も回復薬はほとんど残っていませんし、それにここで二人とも果てれば元も子もありません」

 ハンターとはいえ会ったばかりの人物を一人残して去るのは気乗りしなかったが、その少女は冷静に自分達の現状を把握していた。それに、その眼差しは反論を許さないと言わんばかりに力強い。

 

「………分かった、エリア1で合流しよう。

必ず来いよ!」

 と言い残し、ハルトは通過点であるエリア3まで走り出す。それを見て、少女は自身のポーチから球状のものを取り出し、イズチ達目掛けて投げ付ける。その直後、眩い光が辺りを覆い、視界が一瞬ホワイトアウトする。

 閃光玉を投げたのだ。

 閃光玉はカプセル状の球の中に光蟲という昆虫を閉じ込めたアイテムで、投げ付け、割れると刺激を受けた光蟲が強い光をほとばしらせ、しばらくの間モンスターの視界を奪うことができる。しかし、中には著しく効果が薄いものや、一切効かないものもいる。

 イズチとオサイズチには効果を発揮し、目を開けられず狼狽していた。その間に少女もモンスターの群れを抜け、ハルトと同じルートを辿りエリア1へと向かうのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。作者・たつえもんです。

 ということで、ハルトの初めての大型モンスターとの戦いはクエスト中の乱入、あえなく敗走という形に終わりました。
そして、ハルトに助太刀したハンター少女は何者なのか?
 察しのいい方なら気付いてるかもしれませんが、そういうことです。
 あと、次回はハルトの隠された特技がちょっと分かったりもします。お楽しみに!

 さて、そろそろお別れの時間が近付いて来ました。
 読んでる方の中には「今回、後書き短くね?」って思う方もいらっしゃるかもしれません。
 今回は戦闘中の描写を書き込んだのもあって本文がかなり長くなったので、その代わりに後書きを短めにしました。
 では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第4話:ハンター少女との邂逅

※お詫び

 前回の後書きで「ハルトの隠された特技が分かる」と書いていましたが、長くなり過ぎるのもどうかと思ったので今回のパートを2分割し、更にプロットを修正したところ、その部分は次回も入らないことになりました。
 ハルトの特技はまた後日の更新でということで……。

 では、本編どうぞ!


 大社跡、エリア1。

 

 ハルトと見知らぬ少女はオサイズチからの逃走に成功し、川辺で座り込んでいた。

「はぁ、閃光玉があるならもっと早く言ってくれよ」

「すみません、あれが最後の一つだったのです。一つ分の効果時間の間に二人共逃げられる確証はなかったので」

「………それもそうだな」

 言い終えると、ハルトは少女の装備を眺めていた。

 

 彼女が背負っているのは、その身長には不釣り合いにも見える棘の生えた大きな骨を加工し、中を通すように穴を開け青い蓋のようなパーツが付いた鈍器。

 ボーンホルンという、狩猟笛に分類される武器だ。

 

 狩猟笛はその大きさを生かし、ハンマーのように相手を殴り付けて戦う。更に音を出す特殊な機構が組み込まれており、吹き鳴らすことで自分や周囲の味方に有益な効果をもたらしてくれるのだ。

 防具は濃紺のベースウェアの上から茶色のベストと篭手を着け、頭にはゴーグルを付けている。

 彼女の防具はレザーシリーズ。名前通りモンスターの毛皮をなめして作った防具であり、必要な素材も少なく安価に作れる為、初心者ハンターによく選ばれる防具の一つである。

 女性用と男性用であまり見た目が変わらない装備だが、女性用レザーシリーズは女性らしさを強調するかのように大胆に太腿を露出している。

 

 そして、改めて少女の顔を見ると、それは驚く程に可憐な顔立ちをしていた。

 肩に少しかかるくらいのセミロングの金髪に白い肌、優しげな淡い緑色の瞳はどこかお淑やかな雰囲気を醸し出している。

「あの………どうかしましたか?私の顔、何かついてます?」

「あ、いや!やっぱりハンターだからさ、装備とか気になっちまって」

「そうでしたか、お気持ちは分かりますが、あまり人をじろじろ見るのは感心しませんよ?」

 彼女の言い分はごもっともだった。

 苦笑を浮かべ、ハルトは謝罪の後に自己紹介がまだだったのを思い出す。

「あぁ、悪い……っと、そういえばまだ名乗ってなかったな。

ハルト・クルーガー。カムラって里の新人ハンターだ」

「アリス・フューリと申します、私もまだ最近ハンターになったばかりです。

あぁ、カムラの里なら先日訪れましたよ。少しの間滞在する予定なので、フィールドのことを知っておこうと探索ツアーに出ていたんです」

 アリスと名乗る少女の言葉を聞き、頭の中で何かがピタリと当てはまる。

「ひょっとして、ゴコクのじっちゃん……ウチのギルドマスターが言ってた里に来てるハンターってアリスのことか?

今カムラに来てるハンターは一人って言ってたし」

「恐らくはそうだと思います、偶然は重なるものですね。

ところで、ハルト様」

「は、はい?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

 考えて見れば、ハルトは自分と同じくらいの年齢の女性(多分)とこんなに話すのは初めてだった。

「お腹、空いてませんか?」

と言われ、里を出てからしばらく何も食べていないのに気付く。空腹を自覚すれば、ますます気になってくる。

「あぁ……大丈夫、まだ支給品の携帯食料がある」

「待ってください。今ここは安全ですし、お腹が空いている時はもっと美味しいものを食べた方が気分も満たされると思いますよ」

 携帯食料は、大量生産と長期保存を目的に作られたものであり、はっきり言ってあまり美味しくはない。

 二人の近くに人を襲うようなモンスターはいないし、どうせ食べるなら美味しい方がいいに決まっている。

「ちょっと待っててくださいね、すぐに用意しますので」

と言うと、アリスは折り畳まれた機械を取り出し、地面に起きレバーを引くと二本のYの字型の金属の棒が展開する。

 

 ハンターの常備品、肉焼きセットだ。文字通り生肉を焼く道具で、上手く焼けば携帯食料を遥かに凌ぐスタミナを回復できるこんがり肉を作れる。

 骨にハンドルを付けた生肉をセットし、下側の台に火打石を使い着火させる。肉が炙られ、辺りに香ばしい香りが漂う。アリスはハンドルを回しながら無心で肉を焼いているように見えるが、頭の中では一定のリズムを刻んでタイミングを見計らっていた。そして、均一に火が入った瞬間を見計らい、肉を火から上げる。

「上手に焼けました!ハルト様、どうぞ」

 アリスは焼きあがった肉からハンドルを外すと、湯気を纏ったそれをハルトに差し出す。

「でも、アリスはいいのか?」

「私はいいんです。さあ、冷めないうちにお召し上がりください」

 再び勧められると、ハルトは大人しく受け取り、焼きたて熱々のこんがり肉に齧りつく。

 一口頬張ると、野趣(やしゅ)溢れる肉の旨味が味覚を支配し、咀嚼すれば染み出す肉汁が口一杯に流れ込んで来る。

 料理というにはあまりに粗末なものだったが、ダイレクトに肉の味を感じることができ、更に天気はよく心地よい風が吹き抜ける中で食べるそれは至福の瞬間を演出する。

 半分ほど食べたところで、アリスが興味深そうにハルトのほうを見ているのに気付く。

「どうした、じろじろ見るなって自分で言ってたろ……

あ、ひょっとして食べたかったか?」

「いえ、あんまり美味しそうに食べるもので、つい……

焼いてあげてよかったなあって、思ってたところです」

「そっか、ならいいけど」

 

 そして完食する頃には、ハルトはすっかり身も心も満たされていた。手拭いで口を拭き、肉焼きセットを片付けるアリスに礼を述べる。

「本当にありがとう、美味かったよ」

「喜んでいただけて何よりです。では、里に戻りますか」

「あれ、オサイズチと戦わないのか」

「本来なら、ハルト様はイズチ討伐、私は探索ツアーという名目で大社跡(ここ)に来ていたはずです。あのモンスターが出るのはギルドも想定外のはずですから、正式に狩猟依頼を出していただかないと」

「それもそうだな。アリスは凄いよ、俺と同じくらいに見えるのに、ちゃんと冷静に判断ができて」

「そんな……褒めても何も出ませんよ?」

 恥ずかしそうに頬を赤らめて微笑むその表情はとても可愛らしく、直視していれば並大抵の男は悶絶していただろう。

 

 この日初めてハルトはクエストに失敗した。

 しかし、彼の心にはこれは決してただの失敗ではなく、意味のあるものだという確信があった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。作者・たつえもんです。


 今回は、ハルトの窮地を救った少女との会話メインのお話でした(わざわざ名前を伏せているのは、後書きから読むタイプの方の為です。ハーメルンでは難しいかもしれませんが)。

 そして、今回のお話を書くにあたりライズでも女性キャラを作り、動かしてみたんですよ。

 いやあー…………可愛いっすね。
 執筆の参考のため、狩猟笛に初挑戦したんですが、ライズで狩猟笛の操作が簡単になってるらしく雑に殴ってるだけでバンバン自己強化できて楽しいですし、武器を構えてる時にゆらゆらするのがユニークでいいですね。
 本編に登場した女性ハンターと同じ名前でプレイしてるんですが、ボイス13がイメージにぴったりなんですよ。
 私は今までモンハンに限らず、どのゲームでも男性キャラしか使わなかったのですが、女性キャラを使う男性プレイヤーの気持ちが分かった気がします。


 さて、そろそろお別れの時間が近付いて来ました。
 次回はハルトがアリスと一緒にカムラの里に戻って来るのですが、そこでもまた一悶着あるとかないとか……。
 それでは、最後まで読んでくださりありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第5話:帰還後、ギルドの茶屋にて

「そうですか……では、我々からハンターズギルドにオサイズチの出現報告をしておきますね」

「あぁ、頼んだ。もう何日かすれば、正式に依頼として公開されるかもな」

 カムラの里に帰るやいなや、ハルトはすぐに鎌鼬竜が大社跡に現れたことをミノトに伝える。

「ともかく、しばらく大社跡には行けないでゲコね。オサイズチの狩猟クエストが出るまでは里の中で過ごすゲコ」

「あぁ……それはいいんだけど」

そこまで言うと、ハルトは茶屋の座席のとある一角をちらりと見る。

 

 そこでは、一緒に戻って来たアリスがカムラの住民(半分以上が男)に質問攻めに遭っていた。

 出身はどこか、年齢はいくつか、いつ頃ハンターになったのか、何故カムラに来たのか、恋人はいるか、等々次から次へと質問を投げ掛けるものだから、アリスはあちらこちらを見ながら戸惑っていた。

 そんな様子を見かねたハルトは、

 

「お前ら、いい加減にしとけよ。アリスが困ってるの、見て分からないのか?」

 彼にしては珍しく怒気を込めた口調でそう言うと、群がっていた衆は静まりかえる。

 それを見ていたヒノエとミノトは軽く微笑み、ゴコクは黙って頷いていた。そしてフゲンは肩を組んで来て満面の笑みで、

「カッハッハッ、ハルトらしいのう!

こやつの言う通りじゃ。お主ら、この辺りで女のハンターが珍しいからと言ってそう追い詰めるでない」

 フゲンの忠告を聞いた里の民は、各々顔を見合わせ自重する。

「アリスと言ったな。質問全部に答える必要はないから、答えられるものから答えてやれ。

ウチの民達がすまないことをしたな」

 フゲンが里の衆の代わりに謝罪すると、アリスは立ち上がり自己紹介を始める。

「はい、では………

アリス・フューリと申します。年齢ですが、今16歳で……」

「まぁ、ハルトの一つ下じゃないかい!仲良くなれそうだねぇ」

「おばさん、別に俺そういうつもりじゃ……」

「そ、それで、一ヶ月前にハンターになったばかりで」

「一ヶ月!?それもハルトと一緒ときた。ハルトよ、やるじゃねぇか!こんなべっぴんさんの、歳も近くて同期のハンターを偶然捕まえて来るなんてよっ!」

「あんたらは少し黙ってろ!」

 

 

 その夜、里では宴会が開かれ、集まった住民は各々盛り上がっていた。ハルトは住民の輪の中に拘束され、抜け出せないでいる。

 そしてアリスは、少し離れたヒノエのところと一緒だった。

「アリスさん、カムラの里はいかがですか?」

「私の故郷とは文化が全く違って、楽しいです。

里の皆さんも、さっきはあんなことがありましたけど悪い人ではなさそうですし」

「ええ、そういえばアリスさんは、オサイズチに襲われていたハルトさんを助けたんですって?彼から聞きましたよ」

「助けたなんて……私はただ、偶然その場に通りかかっただけです。

それに、私も先程はハルト様に助けていただいて」

 ヒノエはそれを聞き、口元に手を当て上品に笑う。

「うふふ、情けは人の為ならずとはまさにこのことですね」

「情けは人の為ならず………ですか?」

「はい、それにハルトさんは昔から困っていそうな人を助けずにはいられないお方なんです。あいつの親そっくりだって、いつも里長は嬉しそうにするんです」

「ハルト様のご両親は、お優しい方なのですね」

「ええ。父親譲りの勇気と、母親譲りの優しさ。そんなハンターを持てて、この里は恵まれています。

アリスさんは、しばらくカムラに滞在するのでしょう?

ハルトさんと仲良くしてあげてくださいね、私はあなた達二人はいいご関係になると思いますよ」

ヒノエの言葉を聞き、アリスは赤面しながら俯き慌て出す。

「わっ、私は別にハルト様と、その………そのような関係でいたいなどと……」

「あら、私は何も言っていませんよ?」

 顔を赤くして狼狽するアリスを見て、ヒノエは悪戯っぽい笑みを見せた。

 

 時間が過ぎ、そろそろ宴会も終わろうかというところで、

「さて、アリスよ。お主はカムラ(ここ)にしばしの間滞在すると言っていたが、ちと問題がある」

「問題、ですか?」

「うんむ、今ちょうど里に商隊が訪れていてな、宿が空いておらんのだ。そこでだ」

 そこまで言ったフゲンは、ハルトの方を見ると、

「ハルトよ、お主の家に泊めてやってはくれんだろうか」

 

 

「えぇぇえっ!?」

 しばらくの沈黙の後、ハルトは驚きの声を上げた。

「俺の家じゃないと駄目なんですか?」

「うむ、ハンターが使う武具や道具には危険なものも多く、普通の民間人の家にそれらを置いておくのは厳しいだろう。幸い、お前さんの家は空き部屋も多いし問題はなかろうて」

「でも、家に女性を泊めるなんて俺一回も……」

「お前がそんな輩ではないことはよく知っとるゲコ。それとも何か、彼女にそういうことをする気があるゲコか?」

「ないッ!断じて!!」

 更にゴコクも加勢し、ハルトはどんどん追い込まれていく。

 ハルトは助け舟を求め、アリスの方を見やる。その視線に気付いたアリスは、

「そうですね、私も里長様やギルドマスター様に賛成です」

 

「はぁぁぁ!?」

「他に私が泊まれるような場所はないのでしょう?それに、ハンターが同じ家に住んでいれば、アイテムや情報の共有なども出来ますし利点も多いかと」

「う………ぐ」

 アリスの言葉は正論であり、ハルトは返す言葉がなく言葉を詰まらせる。

「分かったか、ハルトよ。もうお前さんに拒否権は無いに等しい、大人しく彼女(アリス)を家に泊めてやれ」

 更には、住民までも加わり口々に抗議の声を上げる。いよいよ観念したのか、ハルトは頭を掻いた後宣言する。

「分かったよ、他に場所がないんなら、仕方ねぇ!

アリス、俺の家に来い。少しの間よろしくな」

「はい、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね」

 とアリスは満面の笑顔で礼を伝えるが、ハルトはそれを最後まで聞かずに「俺の家はこっちだ」とその場を後にする。

「まぁ……なんだ、少々不器用で大雑把な奴だが、仲良くしてやってくれ」

「はい、それでは私も失礼します」

 丁寧にフゲンに頭を下げると、アリスも後を追ってハルトの家へと向かうのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。作者のたつえもんです。

 今回はそんなに書くこともないので、挨拶だけで失礼します。

 では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第6話:アリス、里を知る

「………ん、ここは」

 

 目を覚ますと、見慣れない天井がアリスの目に入って来る。そして上体を起こすと、天井だけでなく布団から部屋の内装に至るまで、ほとんどが初めて見るものである。外はまだ日が昇り始めた頃で、まだ朝早い時間だった。

「えっ………と、確か昨日は」

 昨日は色々なことがあって疲れていたのか、着替えて布団に入るとすぐに寝てしまった。しかし、朝日を浴びて脳が覚醒し始め、次第に昨日あったことを思い出す。

 

 

 昨日の昼頃にカムラの里に到着し、ギルドでしばらく滞在することを伝えた後、大社跡の探索ツアーに向かった。そこで素材をある程度採集し、里に戻ろうかという時、見たことのない大型モンスターがいた為、近くに行ってみれば一人のハンターがそのモンスターと戦っていて、しかも攻撃を受けて吹き飛ばされていたのだ。

 武器も防具も初めて見たものだった為その人物の力量は分からなかったが、直感的に危険を感じた為、強引に介入し逃げさせた。

 そして里に戻り、なんとかハルトを説得して彼の家に泊まることになったのだ。空き部屋の一つをハルトに貸してもらい、布団を準備するとすぐに自室に戻ってしまった為、里に戻ってからはハルトとあまり話せていない。

 

「そうでした、ここはハルト様のご自宅。

お部屋を貸してくださったのでしたね」

 記憶を整理し終わると、冷静になった頭の中に一つの雑念が浮かんで来る。

「わっ……私、他の方のお家に泊まるのは初めてなのに、それも男性の………!」

 昨日はハルトを納得させる為にああ言ったが、アリスは今まで他人の家に外泊したことはない。更に言えば同性ならまだしも、相手は男性。異性の家に泊まったことを急に意識してしまい、顔が一気に熱くなる。

 とりあえず、顔を覚ますついでに散歩に行こう。そう思い、着替えてハルトの寝る居間に向かうと彼はまだ寝息を立てて眠っていた。

「ハルト様も疲れていますよね。少しだけ、風に当たって来ます」

 小声で言い残し、机に書き置きをして起こさないよう静かに戸を開けて出る。

 

 外に出ると、まだ早い時間にも関わらず人々がせわしなく働いていた。息を深く吸い込むと、朝の澄んだ空気が肺に取り込まれ心が軽やかになってくる。

 アリスは伸びをすると、目の前の少年が店番をしている露店に立ち寄る。露店には白い三角形の塊が並んでおり、アイルーの顔を模したものもある。

「あ、昨日のハンターのねーちゃん!いらっしゃい。おにぎり、食べていく?」

「これはオニギリ、という食べ物なのですか。私の地元では見たことありませんでしたね…おひとついただいてもよろしいですか?」

 と言って代金を払い、少年からおにぎりと呼ばれた物を受け取ると一口頬張る。感動的な程美味しいというわけではないが、米の味と程よい塩気が体のスイッチを入れてくれるような気がした。

「美味しいですね。ここのご飯はどれも美味しいです」

「気に入ったらまた買いに来てよ、今度はハルトと一緒でもいいんだぜ」

「あら、セイハク。朝からアリスちゃんとお話とは羨ましいねぇ」

すると、通りかかった女性が茶々を入れて来る。

「なんだよ、別にいいだろ。アリスさん、ウチのおにぎり美味しいって言ってくれたんだぜ」

「そうかい、良かったねぇ。コミツちゃんからやきもち妬かれないようにしなよ?」

「なっ……ちげーし!別に、そんなんじゃねーから!」

 既に完食していたアリスは、二人の会話を微笑ましげに聞くとその場を後にする。

 

 おにぎり屋を離れたアリスは、カゲロウが営む雑貨屋と通路を挟んだ向かい側にあるベンチにヒノエと二人で座って話していた。どうやら二人は馬が合うようで、昨日のうちにすっかり打ち解けたらしい。

「それにしても、アリスさんは早起きですのね」

「いえ、実家では親が厳しかったこともあって、もっと早い時間にはもう起きていましたよ。ところで、ハルト様は起こさなくてもよろしいのでしょうか?」

「ハルトさんなら、昼前までには起きて来るんじゃないですか?」

「そうですか……あまり、他の人が起きる時間というのを気にしたことがないのですが、男性とはそんなに長く寝るのですか」

「ハルトさんは特別ですよ、元々起きるのが遅い方ですし。

そうですね、まだ朝も早いですから、良ければ里を案内しましょうか?」

「はい、是非お願いします」

 ヒノエの提案に、アリスは快く返事をした。

 

 

 それから、ハンターズギルド集会所、カゲロウの雑貨屋、ハモンの加工屋、コミツの林檎飴屋、ヨモギの茶屋と見ていった。既に日は高くなり、もう昼になったところだ。

 そして、今二人がいるのはオトモ広場。たくさんのアイルーと、ガルクと呼ばれる大型犬のような姿のモンスターがおり、海に面した橋では緑色の異国の服を来た交易窓口を担当する女性・ロンディーヌの指示のもと、アロイネコシリーズを着用したアイルーが重そうに木箱を運んでいた。

 広場にいるアイルーとガルクは、前髪で左目を隠した心優しい少年、イオリが世話をしている。

 イオリは加工屋のハモンの孫で、ハモンは加工屋の家系に生まれながら軟弱な孫だと言ってはいるが、本心ではイオリをとても心配していた。

「ヒノエさん、こんにちは。それと、昨日来たアリスさんだよね。オトモをクエストに連れて行きたい時は僕に言ってね」

 アイルーとガルクと戯れていたイオリは、二人に気付くと笑顔で挨拶する。

「ありがとうございます、ではまた後日頼りにさせてもらいますね」

 

「お、いたいた。オトモ広場に来てたのか」

 背後から聞こえる声に振り向くと、ハルトがこちらに歩いて来ていた。

 昨日はカムラノ装シリーズを着た姿しか見ていなかったからか、私服姿のハルトは少し新鮮に見える。

「あら、ハルトさん。おはようございます……と言っても、もうお昼ですが」

「ハルト様は、いつもこんな時間まで寝ていらっしゃるのですか」

「いや、今日は特に遅いかな。昨日、色々とあったからさ」

 言いながら目を擦るハルトを見て、彼も自分と同じように疲れていたのかと笑みを零す。

「そうだ、あと一箇所案内していない場所がありますが……ここはハルトさんが案内した方がいいですね」

オトモ広場(ここ)に来てるってことは、あそこか。

よし、行こうぜアリス」

 と言って停めてあったボートに目をやると、ハルトはアリスと二人乗りでボートを漕ぎ、ヒノエはそれを手を振って見送る。

 

 

 そうして、二人を乗せたボートは広い空洞に辿り着く。

 手前には大きな箱の中に何本もの武器が立ててあり、奥の広い空間にはヨツミワドウと呼ばれるモンスターを模した巨大なカラクリが設置されている。

「ここはウツシ教官とフゲンのじいさん、加工屋のハモンさんが造ったハンター向けの修練場だ。その箱に入ってる模造武器で動きの練習だったりとか、あのカラクリは攻撃を仕掛けるよう設定できるから防御の特訓もできる」

「すごいですね……こんなに手の込んだ練習場も珍しいと思います」

 そう言いながら、アリスはあちらこちらへと興味深そうな目を向ける。

「でも、ハルト様はそれだけ期待されていたんですね。羨ましいです」

「別に……俺だけの為に造ったわけじゃないだろ?」

 そのまま、「アリスはハンターとして期待されなかったのか?」と聞こうとしたが、やめた。

 ハルトがアリスの方を見ると、彼女はどこか悲しそうな目をしているように見えたからだ。

 

 

 それから時間が過ぎ、空には夜の帳が掛かり始めている。

 二人のハンターはハルトの家に戻っており、台所でハルトが夕飯の支度をしていた。

「すみません、食事まで用意させてしまって」

「気にすんなって、俺がやりたくてしてるんだから。

もうすぐできるから、もう少し待っててな」

 

 そして、食卓には米と味噌汁、特産キノコとホワイトレバーの炒め物という献立が並ぶ。味噌汁には野菜を多めに入れており、シンプルながらもバランスの取れたメニューだ。

 ちなみに、アリスは箸で食事をしたことがない為フォークを出そうかとも提案したが、本人が箸を使うのに慣れたいと言った為そちらの意見を尊重した。

「もうちょっとで俺も座るから、先に食べてていいぞ」

「では……いただきます」

 と言うと、アリスは味噌汁を一口すする。

 彼女はこれを口にするのは初めてのはずだが、どこか懐かしさを覚える味だった。喉を通ると体の内側から安心感が広がり、ふぅと息をつくと、感じていた緊張も幾分か和らぐ。

「不思議ですね。初めての味なのに、なんだか心が落ち着くような感じがします」

「味噌汁はそういうもんだよ、作る家によって具とかも変わるらしいけどな」

 ハルトも向かい側に腰掛け、食事をとり始める。

 続けて、レバーとキノコの炒め物をアリスは慣れない箸を使って小皿に取り、手先を震わせながらも口に運ぶ。そうして何度か咀嚼をすると、彼女は目を見開いて言葉を失った。

「ど、どうした、硬い物でも混ざってたか!?」

「あ……いえ、食べたことのない味付けだったので、少し驚いてしまって。とても美味しいです」

 そう、美味しかったのだ。

 以前、旅に出て間もない頃に自分も同じ特産キノコとホワイトレバーの炒め物を作ったことがある。だが、今食べたものは自分が作ったそれよりもずっと美味しい。

 女性として重要な要素である料理の腕で、しかも男性のハルトに劣っていると分かったアリスは少し落ち込んでしまった。

 

 食事を終え、二人で食器の後片付けをしている時にアリスは一つ質問をしてみる。

「あの、ハルト様はよくお料理をされるのですか」

「そうだな。家に自分しかいない時も多かったし、ハンターは体も資本だからな」

 それを聞いてアリスはそういうことかと納得する。

 あの時、自分はまともに料理なんてしたことが無かった。かと言って、今でも出来るようになったとは言えない。長年の経験と練習があそこまでの差を作ったのだ。

 自分が旅を再開するまでに、ハルトに料理を少し教えてもらおうと決意したアリスであった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。たつえもんです。

 突然ですが、前までの話に少し手を加えました。と言っても、文頭を1字分開けたり、改行のバランスを少し変えた程度ですが。

 今回は、アリスがカムラに詳しくなった回です。モンハンの小説のくせに全然モンスターとの戦闘シーンがありませんが、次回ついにオサイズチとのリベンジマッチが訪れます。ご期待ください!
 そして、以前後書きで書いたハルトの特技。何とも羨ましい限りですね。私も料理はそれなりに出来る方ですが、自信があるメニューは2つくらいしかありません(苦笑)。

では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
また次回お会いしましょう。


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第7話:再戦、鎌鼬竜

「ついに来たか」

「そうですね………」

 ハルトとアリスは、神妙な面持ちで集会所のクエストボードに貼り出された一枚の依頼書を見つめている。既に二人共それぞれの武器と防具を身に付け、アイテムの用意も万端だ。

 二人の目線の先には、オサイズチの狩猟依頼が出されていた。依頼地は、前回と同じ大社跡。

 

 鎌鼬竜オサイズチ。

 先日戦った時は準備不足だったこともありとても歯が立たず、戦線離脱を余儀なくされた相手。そのモンスターと、今一度決着をつけるチャンスが来たのだ。

「オサイズチによりブンブジナ等の小型モンスターは隠れてしまい、イズチも群れのボスが現れたことで活発化して非常に危険な状態です。

ハルトさん、アリスさん。こちらのクエストをお受けになられますか?」

 ミノトの問いに、二人は一度顔を見合わせ、同時に言う。

「「 はい 」」

 

 

 

 大社跡の拠点(メインキャンプ)に着いた二人は、支給品を均等に分け、自身のポーチに入れる。

 前回のようなイズチ討伐や探索ツアーとは違い、今回は本格的な大型モンスターの狩猟クエスト。当然、回復薬や食料等のアイテムの類は二人共十分な量を用意して来た。

「ハルト様、今回は………勝ちましょう。私達二人で」

「あぁ、勿論だ」

短く言葉を交わし、二人の狩人はエリア1へ向かう。

 

 エリア1に着くと、ハルトはすぐに周囲の様子を伺う。オサイズチが現れた影響からか、いつもならここで暢気な姿を見せるブンブジナがいない。

「どうする?ここからどのエリアに向かおうか」

「以前、私達がオサイズチに遭遇したのはエリア7。今回も、その辺りにいる可能性が高いかと。私はエリア3から7へと向かうルートを提案します」

「そうだな、確証はないけど、俺も同じ意見だ。決まりだな」

 アリスの言葉に同意を示し、二人は坂を駆け上がりエリア3へ、そして続く坂道を登りエリア7を目指す。

 

 エリア7に着くと、そこには三匹のイズチがいたがオサイズチは見当たらない。

「どうしますか、ハルト様。あのイズチを倒しますか」

「どうせオサイズチは子分のイズチを呼んで来るんだ、ここで減らしておくのもいいだろう。

それに、俺が前に行った時みたいにイズチが親玉を連れて来るかもしれない」

「では、討伐しますか」

 というやり取りの後、ハルトはカムラノ鉄片刃を、アリスはボーンホルンを構えて突貫する。丁度イズチ達は余所見をしていた為、気付かれることなく不意打ちに成功する。

 ハルトは一番手前にいたイズチの首元目掛けて剣を振るう。それは見事に決まり、皮を裂きイズチを怯ませる。そのまま二撃、三撃と斬りつけ、反撃の隙を与えずに絶命させる。

 その一方で、アリスは別のイズチに狩猟笛を叩きつける。更に体ごと捻るように笛を振り回し、近くにいた二匹のイズチにまとめて攻撃をヒットさせた。一匹が噛み付こうとするも、アリスは転がって回避、その勢いを乗せた重い打撃を喰らうとそのイズチは吹き飛ばされ動かなくなった。

 数で不利になったと判断すると、残った一匹はさらに奥、エリア9へと走り去って行った。二人共深追いはせず、一度呼吸を整え砥石で切れ味を戻すことにした。

「よし、とりあえず二匹倒したな」

「あのイズチの行動………恐らく、エリア9か隣の10にオサイズチがいると思います」

「そうだな、間違いないと思う。剥ぎ取りをしたらエリア9に行こう」

 アリスとハルトはそれぞれイズチの死骸に近付くと、腰に収めたナイフを取り出し毛皮や尻尾の棘を取り、普段から携行しているアイテムポーチとは別の袋、臨時ポーチに入れていく。

 ハンターはモンスターを討伐するだけでなく、倒したモンスターの素材を活かし新しい武具を作る。モンスターから素材を採取することを「剥ぎ取り」と言い、ハンターと殺戮者を分ける明確な要因である。

 残った骨を地面に埋めると、二人はかつて門であったであろう木組みを通り、隣のエリア10にかかる大きな水溜まりが中央に存在するエリア9に入る。

 そして、その水溜まりのほとり、ブルファンゴの死骸の近くに奴はいた。

「やっぱり……ここにいたな」

「ハルト様、オサイズチと交戦していて気付いたことがあれば私に伝えてください」

「分かった、アイツの挙動をよく観察しておく。それじゃ………行くぜ!」

「はいっ!」

 ハルトの掛け声と共に二人は走る速度を上げ、鎌鼬竜目掛けて突撃する。

 その二人に気付いたオサイズチは、バシャバシャと水溜まりを蹴りながら近付いて来る。そして、鮮やかなオレンジ色の体毛を逆立て、低い声を上げ威嚇する。

「ヴォォオーーーーーッ!」

 先制攻撃を仕掛けたのはアリスだった。ボーンホルンを構え、走っていた勢いそのままに頭部を殴り付ける。そのまま何度も振り回し、繰り返し鎌鼬竜の頭に打撃をぶつけていく。狩猟笛が振るわれる度、風切り音とは違うぶぉん、ぶぉんという低い音が鳴る。少し遅れてハルトも攻撃に参加し、握り締めたカムラノ鉄片刃で後脚に斬り掛かる。刃が当たり、切られた毛が数本舞い散る。

 オサイズチもいつまでも喰らいっぱなしでいる程馬鹿ではない。アリスの方に顔を向け、噛み付こうと口を開く。しかし彼女は予備動作を見るとすかさず後転、噛み付きは失敗する。その攻撃でオサイズチの体の向きが変わったことでハルトの剣刃は尻尾の先、曲がった鋭い刃尾に当たる。しかしそこは金属のように硬く、ガキッという音と共に弾かれてしまう。

「チッ………やっぱり尻尾の先は硬いか」

 今度はオサイズチはハルトに狙いを付け、振り上げた尻尾を地面に叩きつける。すんでのところでハルトは横転で躱し、彼の立っていた場所に刃尾が突き刺さる。そこへ再び剣を振るうも、硬い刃尾に弾かれる。

 その間、アリスはリーダーのオサイズチの声に反応して集まって来たイズチを掃討していた。少しくぐもった音を鳴らしながら、自分とほぼ同じ大きさのボーンホルンで群がるイズチを殴り飛ばしていく。

 程なくしてアリスも鎌鼬竜への攻撃を再開する。オサイズチを挟むように、ハルトが後ろ側、アリスが正面を攻撃する。二人の連続攻撃に翻弄されていたオサイズチだが、アリスの方を見ると体制を低くし、尻尾を振り上げる。それを見たハルトは、前回の狩りの光景を思い出す。

「来るぞアリス、避けろ!」

 その声を聞いたアリスは一度ボーンホルンを背負い、真横に飛び込むようにして回避、直後に体ごと尻尾を振り回しながらオサイズチが物凄い速度で通り過ぎて行った。

「あ、あれが前回ハルト様が見たというオサイズチの大技ですか………でも、今なら!」

 顔に少し泥が付いたが、それを気にする暇もなく立ち上がったアリスはオサイズチに向かって駆け出す。回転攻撃を繰り出した鎌鼬竜は、その威力の分身体への負担も大きいのかその場で威嚇の為に声を上げる。

 今度はハルトが斬りこみ、オサイズチの首に斬りつける。皮を少し切った感覚が伝わり、僅かだが攻撃が効いているのを実感する。そこへアリスも追いつき、構えたボーンホルンをその場で自身の体と一緒に振り回し、オサイズチの脇腹を何度も殴りつける。そして、狩猟笛を縦に構え柄に開けられた穴から息を吹き込むと、朗々とした笛の音が鳴り、それを聞いたハルトは自分の体に力が湧くのを感じる。

 

 これこそが狩猟笛の真骨頂、演奏による自分と味方の強化である。狩猟笛は振るわれることで中の複雑な隙間に空気を取り込み、音色と共に溜めた空気を放出し自身や周囲のハンターに有益な効果をもたらすのだ。特に今アリスが行ったのは三音演奏と呼ばれる技で、笛の種類ごとに違う三つの強化効果をいっぺんに発動することが可能である。

 ボーンホルンは地形ダメージの無効化、攻撃力上昇、防御力上昇の効果を付与できる。このうち、特殊な足場のない大社跡では地形ダメージ無効化は無意味だが、攻撃力と防御力を上げる効果は確かに二人に効果を与えていた。

 息つく間もなく、二人掛かりでオサイズチに打撃と斬撃を浴びせていく。すると、オサイズチは周りの鬱陶しい連中を追い払おうとハルトに体当たりを喰らわせる。攻撃の最中だったので回避もガードもできず、まともに受け吹き飛ばされてしまう。

「ハルト様っ!」

 しかし、地面に倒れる直前にハルトは手から緑色に輝く大型の羽虫を飛ばし、その虫の尻から伸びている糸を握るとその糸を手繰り寄せるかのように空中を()け、クルッと宙返りをして着地する。

 

 ホムラ地方には翔蟲(かけりむし)と呼ばれる特殊な昆虫が生息し、非常に強度の高い糸を生成する。この地方のハンターはその特性を狩りに役立て、独自の戦法を編み出していった。

その一つが、今ハルトが見せた翔蟲受け身である。空中で体制を立て直し、地面にぶつかる衝撃を回避すると同時にすぐ反撃に向かえるのだ。

「ってぇ、やりやがったな」

 着地したハルトは応急薬を飲み干し、ビンを雑に投げ捨てる。先程の狩猟笛の演奏で防御力が上がっている為か、前回より痛みは少ない。

 

 既にオサイズチは子分のイズチを連れて別のエリアに移動しており、二人の間に束の間の静寂が訪れる。アリスはハルトの元に駆け寄ると、不安そうな表情を浮かべる。

「ハルト様、大丈夫ですか?いくら防御力が上がっているとはいえ、真正面から体当たりを受けたのですよ」

「平気だ、心配すんな。アリスが演奏をしてくれていなかったら、もっとヤバかったな。ありがとう」

「ほえっ………ど、どういたしましてっ」

 唐突に感謝の言葉を述べられ、アリスは思わず上ずった声が出てしまう。

「しかし、俺は複数人でクエストに行くのは初めてだが、なんだか一人の時よりフィールドがよく見える気がするな」

「そうですね、気持ちの問題かもしれませんが、やはり一緒に戦ってくれる人がいるのは誰だって心強いですから」

 以前はオサイズチを初めて見たこともあって、動きもぎこちなかったが、今回は二度目の戦闘でしかもアリスという仲間がいる。前回と同じように体当たりを受けたとき、冷静に翔蟲受け身を取ることができたのはその為だろう。

 二人は砥石で武器の切れ味を戻し、オサイズチを追って別のエリアに向かうのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。作者のたつえもんです。

 いやー、GWも終わりですね。と言っても、私の職場は祝日も仕事があるので「連休?何それ食べ物?」状態だったわけですが(苦笑)。

 ということで、久しぶりの狩猟シーンが描かれた第7話でした。やはり、モンスターと戦うのがメインの回は長くなりがちですね。その為今後も大型モンスターの狩猟回は更新が遅くなるかと思います、ご了承ください。
 また、今回のような狩猟メインの回は後書き短めか、もしくは無しで行きたいと思います。ただでさえ本文が長いのに後書きも長くては読んでて疲れるかなーと思いまして(本音は自分も疲れるから)。

 では、最後まで読んでいただきありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第8話:気焔万丈

 体勢をを立て直しエリア9を離れ、次にハルト達がオサイズチに会ったのは前回オサイズチと出会ったエリア7だった。

 

 オサイズチは二人に気付くと、発達した後脚の跳躍力を活かして飛びかかって来る。離れていた為難なく避けるものの、一瞬にして距離が縮まる。先程と同様にアリスは狩猟笛で鎌鼬竜の頭を殴り付けていく。一方のハルトは、尻尾の方に回るとその先端、湾曲した刃尾に斬り掛かる。

「ハルト様、オサイズチの刃尾は簡単にダメージを与えられません!他の場所を狙ってください」

 アリスの言葉通り、尻尾の棘は硬く剣が弾かれてしまう。ハルトは諦めずに何度も尻尾を斬りつけていくが、やはりことごとく弾かれ効果的なダメージを与えられない。

 攻撃を受け続けていたオサイズチはハルトの方へ向き直り、尻尾を振り下ろす。刃尾が当たる直前に盾を突き出し、何とか軌道を逸らしてダメージは防ぐ。

 攻撃を受け流されたことで先端が地面に突き刺さり、動けないでいる鎌鼬竜。チャンスとばかりに攻めに転じるも、先程と同じようにハルトは刃尾に攻撃を加え続ける。当然、同じように攻撃を弾かれるばかり。

「ハルト様………どうして?私は信用に至らないというのですか?」

 アリスが辿り着いた時には既にオサイズチは尻尾を引き抜き、後ろに跳躍して距離を取っていた。そして短く鳴くと、先程の回転攻撃の構えを取る。ハルトがその予備動作を見るのは既に四回目であり、真横に走ってオサイズチの刃尾を回避する。

 

 

「ぐぅ………っ!?」

 

 だが、次の瞬間ハルトは腹に衝撃を喰らい、吹き飛ばされていた。翔蟲を出す間もなく、地面に叩きつけられる。何とか起き上がり、追撃してくるオサイズチを横転して避ける。

「まさか…………イズチか!」

 確かにハルトは、オサイズチの攻撃は躱した。しかし、従えていた両隣のイズチも連携して同様の回転攻撃を仕掛けて来たのだ。オサイズチがイズチの群れの統率を行うのは知っていたが、まさか連携攻撃までしてくるとは。幸い、イズチは攻撃力が低く、更に尻尾の付け根に当たったので大したダメージにはならなかった。

「はあぁっ!」

 そこへアリスが駆けつけ、思い切りボーンホルンをオサイズチの頭にぶつける。すると、

 

「ギャワォォッ!?」

 オサイズチが目を回してその場に倒れ、起き上がろうと手足をばたつかせてもがく。アリスは上手くいったとばかりに笑みを零し、続けてオサイズチに打撃を加える。

 ハンマーや狩猟笛など、打撃系の攻撃ができる武器は頭部を何度も殴ることで、脳を揺らし一時的に閃光玉のようにモンスターを気絶させることができる。なおかつオサイズチは頭への攻撃が効きやすく、だからアリスはオサイズチの頭を重点的に攻撃していたのだ。

 その一方で、応急薬を飲みダメージを回復させたハルトは周りのイズチを掃討していた。

 狩猟笛は片手剣に比べて攻撃力が高めで、一撃の威力も大きいものの大振りで隙が大きく、攻撃の途中で小型モンスターに奇襲されることも少なくない。アリスがオサイズチに攻撃する役をしているのを見て、更に片手剣は小回りが効きやすい為ハルトがイズチの対処に回ったのだ。

 周りのイズチを全て倒した頃、ようやくオサイズチは起き上がり坂道を駆け下りてエリア3に向かう。ハルトが砥石を使って片手剣を研いでいると、不安そうな顔でアリスが歩み寄って来る。

「ハルト様、どうして尻尾ばかり狙うのですか?攻撃が通用しないのは分かってるはずなのに………

私の言っていることは、信じられませんか?」

「言ってたことを無視したのは素直に謝るよ、でも俺にだって考えがあるんでね」

「そうだったのですね、よければ教えてもらえませんか?」

「いいぜ、実はな………」

 

 

 作戦を話し合った後、二人はエリア3へと向かう。そこでは周りにイズチをおき、オサイズチが口から涎を垂らしながらモンスターの死骸に齧りついていた。攻撃を受け続けた結果、オサイズチも疲労しているのだ。

「あのまま回復されたら困るな、よし!」

 ハルトは懐からクナイを数本取り出し、オサイズチ目掛けて投げ付ける。それらは全て背中に突き刺さり、ハルト達の存在に気付いたオサイズチは食事をやめ襲いかかって来る。

 しかし、オサイズチ達が標的にしたのはアリスの方だった。ハルトはアリスよりも遠くから投げクナイを投擲したので、近くにいたアリスの仕業だと思ったのだろう。

「来たぞ、準備はいいか?」

「はいっ!」

 ハルトの問いかけに返事をし、アリスは背負っていた狩猟笛を担ぐ。そして、眼前まで迫ったオサイズチが尻尾を振り下ろして来る。アリスは刃尾が当たるギリギリのタイミングでボーンホルンを振るって受け流し、そのまま演奏に繋げ自己強化を行う。

 演奏を終えるとすかさず、地面に刺さって動けない鎌鼬竜の尻尾に攻撃を加える。アリスは刃尾に攻撃するのは初めてであり、硬い感触を感じながらも弾かれることはなく打撃を続けざまにヒットさせていった。オサイズチは疲れていることもあり、先程よりも刃尾を抜くのに時間がかかっており、その分多くの攻撃を加えていく。その間、ハルトは首元をカムラノ鉄片刃で斬りつける。研がれた刃はオレンジ色の毛皮を斬り裂き、辺りに毛を舞い散らせる。

 詳しい原理は不明だが、狩猟笛の演奏には自分の攻撃が弾かれにくくなる効果もあるらしい。これにより、普通は攻撃が通用しない硬い部位に繰り返しダメージを与えることができるのだ。

「行きますっ!」

 そして、尻尾目掛けて翔蟲の糸を纏わせたボーンホルンを突き立てる。

 

ヴヴゥゥゥンッ!!

 

「ギャワゥゥッ!?」

 そのまま狩猟笛を吹き鳴らし、音の波は糸を伝わって尻尾に届き、振動による衝撃波となって更なるダメージを与える。

 翔蟲の糸を使ったこの地方独自の技、鉄蟲糸技(てっちゅうしぎ)。そして今放たれたのは、狩猟笛の鉄蟲糸技の一つ、震打(ふるえうち)である。

 

 尻尾に重点的にダメージを受け続けたことで、オサイズチは大きく仰け反る。

 そして立ち直る頃には、息は荒く目を血走らせながら何度も二人を威嚇しており、怒っているのは一目瞭然だった。その怒りの矛先は、自身の尻尾に執拗に攻撃を仕掛けてきたアリスに向けられている。

 大型モンスターは、一定量ダメージを受ける等の特定の条件を満たすと怒り出し、攻撃力や移動速度が向上する。その為、怒っているモンスターを相手にする際は一層気を付けなくてはならない。

 オサイズチの噛み付きを前転で回避するアリス。しかし、

「ギャァッ!」

「っ、しまっ……!」

 横から尻尾攻撃を仕掛けるイズチへの判断が遅れ、足を引っ掛けて転んでしまう。更に、そこへ待っていたとばかりにオサイズチが飛びかかり攻撃を仕掛けて来る。体勢を崩したアリスには防ぐ術がなく、オサイズチの上半身に勢いよく当たり吹き飛ばされる。

「アリスッ!」

「ぐっ…………あ………」

 背中を強く地面に打ち付け、一気に肺の空気が押し出される。アリスはホムラ地方の狩りにまだ慣れておらず、翔蟲を出して受け身を取る余裕はなかった。何度か地面を転がり、全身の痛みで視界が霞む中、どうにか体を起こすが、

「いっ……つぅっ……!」

 立ち上がった瞬間、左足に鋭い痛みが走り膝をついてしまう。先程の攻撃で捻挫してしまったらしい。

 足の痛みで立ち上がれない中、オサイズチがこちらに駆け寄って来るのが見える。武器を持つ手にも力が入らず、今この状態から攻撃を防ぐのは絶望的だ。

「ガゥゥゥ!」

 そして、オサイズチが噛み付こうと口を開き、アリスは恐怖に目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつまで経っても身体に痛みは訪れない。恐る恐る目を開けると、

 

 

「ガ……ガァゥ………」

「くっ……そ、どうにか、間に合ったみたいだな」

 

「ハルト…………様……?」

 そこには、自分の前に立ち塞がり、鎌鼬竜の口に盾を押し込んで牙を封じるハルトの姿があった。

 

「カムラの民たる者」

「えっ………?」

 不意に、ハルトが何かを呟き始める。

 

「カムラの民たる者!燃ゆる(ほむら)の心を携え、万事に(じょう)を尽くすべし!

それこそが…………」

 そこまで言うと、ハルトは盾を構えた右手を振るい、オサイズチの牙を振りほどく。そして、

 

 

 

「気焔、万丈ッ!!」

 

 

「グギャオォォォ!?」

 

 オサイズチ目掛けて突進斬りを放ち、それは寸分の狂い無く刃尾に命中する。

 剣を受けた刃尾は細かいヒビが入り、乾いた音と共に曲がった先端が砕け散る。先程から二人が狙っていた、尻尾の部位破壊に成功したのだ。

 刃尾を破壊されたことで、鎌鼬竜はハルトに狙いを変更する。ハルトも気付いたらしく、一度剣を収めて走って距離を取る。

「こっちだ、掛かって来い!」

 彼の挑発を受け、オサイズチは二匹のイズチを呼び回転尻尾攻撃の構えを取る。だが、ハルトは盾も構えずその場で直立して動かない。

「ハルト様………何を……?」

 

「ギャウゥッ!」

 そして、オサイズチは両隣のイズチと共に連携攻撃を放つ。折れた刃尾と二つのまだ未熟な刃尾が、風切り音と共にハルトに迫る。

「ハァッ!」

 

 

「ギャオゥッ!?」

 しかし、ハルトは突然オサイズチ達の目の前から姿を消す。獲物が見えなくなり、三匹は振り返るがそのにはいない。彼は────頭上にいた。

「おらぁっ!」

 

「グギャオォォッ!」

 そして、落下重力を活かしてカムラノ鉄片刃を後脚に叩きつけ、皮が裂けオサイズチは横倒しになる。

 

 オサイズチ達が尻尾攻撃を仕掛けて来た時、ハルトは空中に翔蟲を放ち、糸で高速移動する疾翔(はやか)けを行ったのだ。横にも後ろにも避けるのが難しいなら、上に避ければいいと判断しての行動だった。

 アリスは自分に襲いかかるイズチに、動けないなりにボーンホルンを懸命に振り回して反撃する。どうにか三音演奏を行い、その音色を耳にしたハルトの攻撃力が高まる。

 演奏による支援を受け、勢いよく攻め立てるハルト。次々に斬撃を繰り出し、オサイズチの皮に傷が刻まれていく。

「これで、終わらせるッ!」

 気合いを込めた掛け声を放ち、柄に翔蟲の糸を括り付けたカムラノ鉄片刃を振り回してオサイズチを切り刻む。片手剣の鉄蟲糸技、風車が決まったのだ。そして、ようやく起き上がった鎌鼬竜の顔面に、とどめとばかりに力強く踏み込み剣を振り抜く。

 

「グワォォォーーーーーー…………ッ……!」

 渾身の一撃を弱点に喰らい、首をもたげて断末魔の叫びを上げると、オサイズチは生気を失い倒れて動かなくなった。群れのボスを失ったことで、イズチ達は一斉に退却する。

 絶命したオサイズチを前にしても、まだ実感を掴みきれず立ち尽くすハルト。息はあがり、何度も斬りつけたせいで剣は刃こぼれを起こし、柄を握る腕は痺れている。

「やった………のか、俺達」

 

「はい………私達、オサイズチに勝ったんですよ」

 そこへ、足を引きずりながらアリスが歩み寄る。彼女は疲れと足の痛みに耐えつつ笑顔を見せ、それを見たハルトの胸の内に喜びと、そして初めて大型モンスターを討伐した感動が広がって来る。

「そうか……………俺達、本当に倒したんだな……!」

 

 次の瞬間には、彼は込み上げる感情を抑えることなく爆発させたのだった。

 

 

次回へ続く



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第9話:激闘の後で

 大社跡に赴いたハルトとアリスは、激闘の末見事オサイズチを討伐した。二人共既に剥ぎ取りを終え、エリア3の端に座り込んで体の疲れを癒していた。

 

「よし、そろそろ里に帰ろうか」

「そうですね、行きましょう………っ!」

 十分に疲れも取れたので、拠点(メインキャンプ)に向かおうと立ち上がるが、アリスは上手く立てずに膝を突く。

「やっぱり、まだ痛いか………

応急処置だけでもするぞ、一回座りな」

「ですが、ハルト様のお手を煩わせる訳には……」

「オサイズチと戦ってる時、何度も助けてくれただろ?そのくらいの恩は返させてくれよ。

それに放っておくと余計に悪化するぞ」

 結局、アリスは言い返すことができず大人しく応急処置を受けることにした。ハルトが薬草の採取に向かう間、アリスは座って待つ。

 

「採って来たぜ、痛む所を見せてみな」

「は…………はい」

 そう言うと、レザーパンツの左脚甲を外す。更に足首に着用していたインナーも脱ぎ、細く白い脚が露わになる。その中で、足首の辺りだけが赤くなっている。

「(な、なんだか……恥ずかしいです)」

 応急処置の為とはいえ、自分は今ほとんど何も着けていない脚を見せている。アリスは羞恥心に頬を熱くさせ、俯いてしまう。ハルトもどこか恥ずかしいのか、なるべく患部だけを見るようにしてすり潰した薬草を塗っていく。そこに布を当て、更に包帯を巻いて手当を終える。

「これでよし………と。痛みが引くまでは時間がかかるから、しばらくは安静にする必要があるな」

「すみません、私の不注意でハルト様を手間取らせてしまって………」

「いいじゃないか、オサイズチは討伐したんだ。終わったことを気にしても仕方ないだろ?」

 懸命に励ますも、アリスはしょんぼりとしたまま立ち直れないでいる。それを見たハルトは少し考えた後、

「なぁ、アリス。腹減ってないか?」

「へっ?」

 予想だにしていなかった問いを受け、思わず間の抜けた声が出てしまう。直後、腹の虫がぐぐうぅっと元気よく返事をした。アリスは顔を真っ赤に染め、慌てふためく。

「すっ、すみませんっ………私としたことが」

「いいよいいよ、それじゃあ決まりだな」

 言うやいなや、ハルトは肉焼きセットを取り出し、生肉をセットすると点火、肉焼きを始める。頭の中で一定のリズムを刻みながら、目で、耳で、鼻で肉の焼け具合を確かめる。そして、頃合いを見て肉を火から上げ、

「上手に焼けました………だな。ほら、熱いうちに食べな」

「ありがとうございます、では………いただきますっ」

 焼けたばかりのこんがり肉を手渡す。少し遠慮がちに受け取り、一口食べるとぱぁっと表情が明るくなり、嬉しそうに残りの肉も食べ進めていく。食べ終わる頃には、アリスはすっかり満足そうな笑顔になっていた。

「それにしても、何だか不思議ですね」

「不思議?何がだ」

「私達が最初に会って、オサイズチから逃げた時は私がハルト様にお肉を焼いてあげたじゃないですか?でも、オサイズチを討伐した今は、逆にハルト様がこんがり肉を私に作ってくれた」

 言いながら、二人の脳内にはその時の情景が思い浮かぶ。たった数日前の出来事なのに、ずいぶん前の事のように錯覚する。

「私、最初に故郷を出て旅に出る時は不安だったんですけど………でも、今はカムラの里に来て、ハルト様に会えて、ハンターになって良かったって、そう思います」

「あぁ、俺もだ。よし、そろそろ帰るか」

「はい、ご迷惑をお掛けして………っ」

「そっか、まだ痛いんだな。んー………ほれ」

 立ち上がった直後に顔をしかめたアリスを見て、ハルトは背中を向けしゃがみ込む。彼女はその意味を悟り、またしても赤面する。

「え、そ、そんなこと………結構ですっ」

「まともに歩けないんだろ?ならこうするしかないだろ。拠点に着いたら、ポポ車に乗るから少しの間だけだ」

「で………では、失礼して」

 そっとハルトの背に乗り、肩に手を置いて体重を掛ける。人が乗っているのにその背中は軽く、ハルトはすんなりと立ち上がり、アリスの膝を支えて歩き出す。

 

 

 自分はあくまで、旅の途中でカムラの里に立ち寄っているだけ。その時が来たら、いつか里を去り、彼に別れを告げなくてはならない。だけど今はもう少し里での、彼との時間を楽しもう。

 いずれ訪れるであろう現実に思いを馳せ、レザーシリーズを纏った一人の少女は少しだけ彼の背中に身を寄せるのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前々回ぶりです。作者です。

 ということで、今回はちょっと短めですが、オサイズチを狩猟した後での二人の時間を描いてみました。
 普通、ゲームだと目的のモンスターを討伐して、剥ぎ取りを終わるとその後は1分が過ぎるまで暇になるじゃないですか?取りに行きたい素材があっても、倒したい小型モンスターがいても1分経ったら強制的に帰らないといけないので、これは二次創作ならではの描写です。
 それにしても、アリスはよく赤面しますね。ちょっとだけ先の展開に触れますが、彼女は世間知らずで男性と関わった経験もほぼゼロなので、そこに関して純粋なんです(ハルトも同じく女性経験は限りなく少ないですが、里長とギルドマスターに男前パワーを鍛えられてるので)。

 さて、次回は新しいフィールドに出向きます。大型モンスターとの戦闘はありませんが、二人の装備も変化が訪れるかも?(←変化ある時の言い方やん。)

 では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第10話:氷雪の上で

「おっ、あれだな」

 雪の積もる高い丘に登り、崖付近で白く光る鉱脈を見つけると、小走りしながら採掘に向かう。

 

 先日、オサイズチの討伐を完了したハルト達。その二人は今、寒冷群島に来ていた。

 寒冷群島とはその名の通り、寒冷地の海域に浮かぶ幾つかの島からなるフィールドである。一年を通して厳しい寒さに見舞われ、ところどころが凍り雪が積もる場所だが、他の場所では入手できない素材なども見つかる為に、寒冷群島を指定した依頼や、進んで訪れるハンターも多い。

 今回はイカダガキと呼ばれる、寒冷群島にのみ生息する大振りの牡蠣の納品依頼に来ていた。イカダガキを採集するついでに、今はエリア8と10の間の丘にこうして鉱石の採掘に来ているというわけだ。ちなみにアリスも同じクエストを受けたが、現在は別行動中である。

 

「よい、しょっと」

 体全体で勢いを付け、鉱脈目掛けてつるはしを振り下ろす。鉱脈に当たると火花が散り、一部が欠けて雪の中に幾つか鉱石が落ちる。

 その中に、大社跡では見られなかった白色に輝く結晶があった。アイシスメタルと呼ばれる、寒冷群島でのみ手に入る貴金属であり、加工することで非常に硬く粘り強くなる為、ハンター用の武具の素材として重宝される。

「だいぶ集まって来たな、あともう少しだ」

 既にハルトの臨時ポーチには、鉱石の他にガウシカの角や翼蛇竜ガブラスから剥ぎ取った皮も入っている。そろそろ別の場所に移動しようと、疾翔けを使い崖を降りる。

 

 そして、地面が凍結した開けた場所であるエリア10に着くとハルトは目を見開く。

「な………アリスーッ!」

 そこでは、アリスがエリア10の中央辺りに倒れ込んでいた。急いで駆けつけ、体に付いていた雪を払って起こす。

「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!アリス!!」

 何度も呼びかけ肩を揺すり背中を叩くが、目を閉じたまま動かない。まさか、とハルトの頭の中に最悪の事態がよぎり、背中を冷や汗が流れる。

「そんな…………アリス、ここでやられちまったのか?嘘だよな、そんなことあるわけ………!」

 

 

「…………ぅ………ん……」

 すると、不意に目を閉じたままアリスが何か言葉を口にする。まだ生きていると確信し、少し安堵する。

「アリス!?どうした、何か………」

「ふにゅぅ………だめですよ、ハルト様…………私の分のお肉、残しておいてくだ、さぃ……」

 

「えっ」

 アリスの口から出て来た場違いな台詞に驚くも、すぐに寝言だと分かる。どっと体から力が抜けるが、何度も身体を揺すり起こす。こんな寒い場所で寝れば本気で命が危ないし、第一彼女は採集クエストとはいえ肉食モンスターもいる所に来ているのだ。

「おい、起きろアリス!こんなとこで寝てんじゃねえ!」

「んぅ…………………ほぇ?ハルト様、何故家で防具を着ているのですか」

「寝ぼけてんじゃない、ここは寒冷群島だ!俺と二人でイカダガキの納品依頼に来てただろ!」

「寒冷…群島……………はっ!?す、すみませんハルト様、私いったい何を」

 寒冷群島の言葉を聞いたアリスは飛び起き、一応ハルトは安堵して溜め息を漏らす。

「目が覚めたか、いくら眠いからってエリアの真ん中で寝るなよ、死ぬぞ。徹夜でもしたのか?」

「それが、先程あのモンスターと戦っていたら急に意識が薄れてきて、気がついたらこんなことに………」

 と言って彼女の指が指す方向に目を向けると、そこには頭の出っ張ったトサカと青い体色が特徴的なイズチに似たシルエットのモンスターが三匹こちらの様子を伺っていた。バギィという、寒冷地にのみ暮らすモンスターであり、イズチと同じ鳥竜種に属するモンスターである。

「あいつらと戦ってたら寝ちまったのか?それって……」

 しばらく様子を見ていると、バギィ達の近くに一匹のガウシカが現れる。それを見つけたバギィは仲間と共にガウシカを取り囲み、背後に回った一匹が口から水色の液体を吐き出す。ガウシカはそれを受けると、角の生えた頭を何度か振ったのちにその場で眠ってしまった。

「そういうことか、それであんなとこで寝てたんだな」

 どうやら、バギィが吐き出す液体には強力な催眠成分が含まれているらしく、液体を浴びると否が応でも眠ってしまうのだ。あのまま寝ていれば、アリスは今頃バギィ達の餌になっていたかもしれない。

「獲物を眠らせた隙に襲うだなんて、なんと卑劣極まりないモンスター!即刻討伐してみせます」

 言うが早いか、アリスはボーンホルンを担いでバギィに突撃する。ハルトも続き、2分もしないうちに三匹のバギィは残らず倒され、二人は剥ぎ取りを行っていた。

「(さっきのは、絶対に私怨も含まれてたな。小型モンスターに眠らされたのがそんなに悔しかったのか)」

「(うぅ、私としたことがハルト様にあんなみっともない所を見られて…………変なこと言ってないといいんですが)」

 二人の考えていることは、微妙に食い違っていた。彼女の心配していた寝言はバッチリ聞こえていたのだが、言うのも気が引けるのでハルトは聞かなかったことにした。

 

 その後、首尾よく目的のイカダガキを採集し、さらに素材を集めた二人は里に戻る。

 そして翌日、二人はハモンが営む加工屋に来ていた。寒冷群島で手に入れた素材により、ハルトのカムラノ鉄片刃とアリスのボーンホルンはそれぞれ強化されていた。しかし、武器に限った話ではなく、

「よし、これで完成だ。これでより安全に戦えるはずだ」

「ありがとうハモンさん、少し体に馴染ませておかないとな」

 ハルトは、新しい防具も手に入れていた。ハンターシリーズという、鉱石と小型モンスター素材を中心として作られた装備だ。アリスは以前と同じレザーシリーズだが、鎧玉を使い防御力を高めていた。

「でしたら、スクアギルの討伐依頼が入っているそうなので、そちらに行きませんか?」

「そうだな、それくらいならちょうどいいか。よし、アイテムの準備をしたら出発するぞ」

 

 

 その頃、ハルト達のいるカムラの里から遠く離れたとある街のハンターズギルドでは、一人のハンターがクエストカウンターで手続きを行っていた。その背には、棒の先端に刃を付けた薙刀のような細長い武器を背負っている。

「はい、クエスト完了ですね。お疲れ様でした。

それにしても、拠点を置いている村があるのに、相変わらず色々な所でクエストを受けているんですね」

「そうね、贔屓目に見てもあの村は少し寂れているもの……

それに、今はモンスターの動きも落ち着いてるみたいだし、こうして旅に出てる方が落ち着くのよねぇ」

「そうですか、ゆっくりしていってくださいね。ハンターは体が資本ですから」

「えぇ、そうさせてもらうわね………

 

どこで待っているかしら、体感したことのない刺激的(スリリング)な出会い、そして………まだ見ぬ恋人よ」

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。たつえもんです。

 ということで、今回は二人で寒冷群島に出向き、武器の強化&新しい防具も手に入れました。ちなみに、カムラノ装→ハンターシリーズというのは私と同じだったりします。
 そして、途中で出て来たアリスの寝言シーン。作者が言うのもなんですが、可愛くないですか?彼女は私の思う「可愛い」の権化みたいなもので、女性への理想をぶつけてるような感じです。勿論、アリスみたいな女性だけが可愛いというわけではありませんが(誰得アピール)。

 また、最後に受付嬢との会話だけ出て来たハンター。ハルト達と絡むのは少し後になりますが、かなり印象に残るキャラに仕上げました。お楽しみに!


 では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第11話:変幻の唐傘鳥

「おぉ…………これが」

 ある日、加工屋の前で出来たばかりの武器をまじまじと見るハルトとアリス。

 手に握られたそれは、氷の剣。厳密にはアイシスメタルを加工したものなのだが、青く煌めく刃と盾の装飾は、一見本物の氷のようだった。

「そいつがフロストエッジだ、アイシスメタルを使うことで氷属性の攻撃が可能になっている。狩りに役立てるといい」

「ありがとう、確かモンスターの弱点の属性で攻撃すれば大きなダメージを与えられるんだよな」

「逆に、属性によってはほとんど効果がないものもいる。相手によって見極めることが重要になるだろう」

 

「ハルト様、新しい武器を試してみたくはありませんか?」

「まぁ、確かにそれは思ってるけど………そんな都合よくモンスターの討伐依頼なんて入ってるかね?」

 しかし、偶然とは恐ろしいもので、常にこちらの期待を良くも悪くも裏切るものである。二人がヒノエの元に向かい、クエストを確認すると、

「お二人とも、お待ちしてましたよ。新しいクエストが追加されています。それも、大型モンスターの」

「マジかよ………なんてタイミングだ、まぁフロストエッジを試すいい機会だな」

「それでヒノエ様、そのモンスターとは何なのですか?」

 アリスの質問に対し、ヒノエは微笑んだまま告げる。だが、少しだけ険しい表情にも見える。

「アケノシルム」

 

 

 

 クエストの受注手続きを終え、二人は依頼地である大社跡の拠点(メインキャンプ)に到着する。ハルトは今回、先程完成したばかりのフロストエッジⅠを装備して来ている。

「アケノシルムねぇ、また初めて戦うモンスターだな」

「ヒノエ様のあの様子からして、どうやら今までのモンスターとは一味違うようですね」

 アケノシルムは、オサイズチ等と同じ鳥竜種に属するモンスターだが、その前脚は翼となっており、空を飛ぶことも出来る。オサイズチは「竜」として進化を遂げたのに対し、アケノシルムは「鳥」としての進化を遂げていると言えよう。

「ま、フィールドが大社跡なだけ助かったか。よし、まずオサイズチと同じようにエリア7に向かってみるか」

 

 二人は拠点を出てエリア1から3へと移動し、そのままエリア7へと向かう。そして、そこに標的(ターゲット)はいた。

「あれが………アケノシルムですか」

 まず目に入るのは、細長い首に付いた頭の大きなトサカと長く尖った嘴。全身を白い羽で覆っており、ところどころに赤い模様が入っている。一本足で立ち、翼を前で合わせた姿は傘鳥という別名そのものだった。

 アケノシルムはこちらに気付き、ゆっくりと歩み寄ってくる。そして頭をもたげると、

「クワァァァァアーーーーッッ!!」

 

「なっ…………!?」

 突如、傘鳥は咆哮を上げた。その見た目からは想像し難い重く響く声に、二人はその場で耳を塞いでしまう。ようやく身体が動く頃には既にアケノシルムは眼前まで迫って、身を屈めている。

 危機を感じたハルトは咄嗟に横転し、直後に彼のいた場所が翼で薙ぎ払われる。そのままもう一度同じ攻撃を繰り返し、それが終わったタイミングを見計らってボーンホルンを構えたアリスが突っ込む。

「はぁぁっ!」

 足を踏みしめ、胴体に狩猟笛を打ち付ける。弾かれはしなかったが、鱗が変化したアケノシルムの羽は見た目以上に硬く、簡単にダメージを与えられそうにない。続けて体制を立て直したハルトが脚に斬り掛かるが、羽に変化せずそのままの鱗で覆われた脚は硬く、刃が通らず表面を浅く削るだけに終わる。しかし、振るわれたフロストエッジは冷気の軌跡を描き、斬りつけた部分には氷の破片が飛び散る。物理的ダメージは少ないが、付与された氷属性によって確実にダメージを与えていた。

「ちっ、こりゃあ手こずりそうだな」

 すると、アケノシルムが翼を広げて後退しながらホバリングを始める。そして、開かれた嘴から赤く光る塊を幾つか吐き出す。それらは地面を跳ねながら、少しずつ小さくなって消える。見ると、塊が地面に着いた所は着火し燃えていた。

「火も吐けるってか、確かに今までとは違うな」

 正しくは、ブンブジナの体液と同じような発火性の高い液体なのだが、炎による攻撃が可能なのは変わりない。アケノシルムが火炎液攻撃をしている間も、アリスはボーンホルンを振るい攻撃を加える。片手剣はリーチが短く、相手が空中にいる間は思うように攻撃を当てられないので、飛んでいる時の攻撃はアリスに任せていた。

 一度アケノシルムが降り立ち、首を反らして頭を高く持ち上げる。アリスは攻撃をやめ、横っ飛びに回避する。

 刹那、尖った嘴がドガンッと音を立てて地面を砕く。その威力に目を丸くするも、地面に嘴の先端が刺さって動けない傘鳥の頭を打ち据える。アケノシルムも頭はダメージを与えやすく、今回も狩猟笛の打撃によるダウンを狙っているのだろう。反対側から、ハルトはトサカを斬りつける。頭と同じく、トサカも幾分か攻撃が通りやすいようだった。

 傘鳥が地面から嘴を抜き、体制を立て直すと翼を広げ、そのまま別のエリアに移動する。二人は同時に座り込み、息を整える。

「はぁ、まさにアリスが言った通り、今まで戦ったモンスターより強い感じがするな」

「ええ、空を飛び火を吐き、更に硬い羽や鱗を持つ。もっと強い飛竜種のモンスターに通ずるものがありそうですね」

 

 次に二人がアケノシルムに出会ったのは、エリア4と呼ばれる場所だ。エリア1、2と3へ繋がり、崖の下にある三角形のエリアで、先程のエリア7とは直接繋がっていないのだが、空を飛べるアケノシルムには関係ないことである。

 こちらに気付いた傘鳥は、嘴を開き先程見せた火炎液を放つ。しかし今度は地面を跳ねず、真っ直ぐハルト達に向かって飛んで来る。二人は真横に移動し回避するが、アケノシルムは続けて左右にも火炎液を吐き出して来た。着弾するギリギリのところで何とか踏みとどまり、アケノシルムへと接近する。

 すると今度は、トサカを真っ直ぐ伸ばした頭を正面に向け、こちらへ突進して来る。その標的はハルトに向いていた。ハルトは走って回避するが、背後でアケノシルムが方向転換をしたのには気づけていなかった。こちらへ向けて突進を続けるアケノシルムが視界に入って来た時にはもう遅く、トサカに当たり突き飛ばされる。しかし、翔蟲受け身を取った為、地面にぶつかるのは免れた。

 それを見て安堵したアリスは、腹を擦り付けて勢いを殺したアケノシルムの尻尾にボーンホルンを突き立て、震打でダメージを与える。

「クアァァァァアッ!!」

 その攻撃に業を煮やしたのか、アケノシルムは再び咆哮を上げる。ハルトは距離があった為影響を受けなかったが、アリスは耳を抑えてその場に立ちすくむ。アケノシルムがこちらを向くと、嘴の端からは怒りを表すかのように火が漏れ出ていた。

 アリスの方を向いたアケノシルムが、体勢を低くし、その場で宙返りして掬い上げるように尻尾を叩き付ける。咆哮から解放され動けるようになっていたアリスは後転して直撃を免れたが、巻き起こった風圧にまたしても動きを封じられる。

 アケノシルムは一度着地し、反転して身動きの取れないアリスに翼を打ち付ける。今度はクリーンヒットし、軽々と吹き飛ばされてしまう。

「アリスっ!」

 何度か地面を転がり静止するが、アリスは動けないでいる。どうやら今の衝撃で目眩を起こしたらしい。そこへ、追撃を仕掛けようと傘鳥が迫る。

「ぁ………ぅ………っ」

 辛うじて声は出るものの、手足が言うことを聞かない。ノイズの混ざる視界の中では、アケノシルムが嘴を高く上げ、先程も見せた突き刺し攻撃を繰り出そうとする。あの威力なら、レザーシリーズなど簡単に突き破ってしまうだろう。自身の死を覚悟した、その時だった。

 

 

 

ガギィィッ!!

 

 

「ぐぅ…………っ」

 

 ハルトが自分の前に立ち塞がり、盾でアケノシルムの嘴を受け止めていた。そして盾を払い、軌道を逸らされた嘴は彼のすぐ横に刺さる。しかしハルトは反撃はせず、アリスに肩を貸し場を離れる。更に嘴が抜けたのを見計らい、近くに飛んでいた虫に剥ぎ取りに使うナイフを振るう。

ビカァァッ!!

「クワォォォ!?」

 直後、眩い光がエリアを包み込む。直視してしまったアケノシルムは目を開けられず、その場で右往左往する。

 今のは閃光羽虫という、空中を舞う一回り大きな光蟲である。刺激することで、閃光玉と同じようにモンスターの視界を一時的に奪うことが可能なのだ。

 閃光でアリスも意識を取り戻したようで、二人はエリア1へと一時退却するのだった。

 

 

次回へ続く



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第12話:少女は再び立ち上がる

 アケノシルムから逃れ、二人はエリア1で負ったダメージを回復させ、疲れを癒していた。近くにブンブジナが数匹いるが、特に気にせず草を食べたりしている。

 アリスは沈んだ表情のまま俯いており、先程から一度も言葉を発していない。

 

「ハルト様………すみません。私の不注意で、オサイズチの時に続いて二回も助けていただいて」

「いいんだよ、俺がしたくてやってることなんだから。アリスの防具に風圧耐性は付いてないし、大した怪我もなかったんだろ?」

「ですが、いずれも強力な技ばかりで、ハルト様も危なかったはずです。ご自身を危険に晒しながら守っていただいて………申し訳ない限りです」

「過ぎたことを気にしても仕方ないって、前にも言っただろ?それに、ハンターである以上、俺も危険は覚悟してるよ」

「ハルト様は…………優しすぎます。片手剣はガード性能が高くないのに、無理して助けていただかなくても……」

 何度も励ますが、アリスはなかなか立ち直ることができずにいる。ふと顔を上げると、ハルトは悲しそうな表情を浮かべていた。それを見て、彼女はまた俯く。目尻には涙も浮かんでいる。

「ハルト様……………私、パーティメンバー失格ですね。こんなに迷惑をおかけして………」

 

 

「アリスっ!!!」

 

 突然、強い口調で呼びかけられ、驚いてアリスはビクッと肩を強張らせる。彼は、ハルトは怒っている。彼女と出会って以来、初めて彼は怒りを露わにしていた。

「お前、いつからそんな意気地無しになっちまった?なら、ここでクエストをやめて里に戻るか」

 一瞬、本当にそうしようかという思いがアリスの頭をよぎる。本来、途中で諦めることは許されないが、今の彼女にそんなプライドはない。

「諦めるのは、嫌です、けど…………でも、このままハルト様に迷惑をかけるのも」

「俺は一回も、アリスを迷惑だなんて思ったことはない。いつもクエストでは助かってるし、今回の依頼にも一緒に来てくれて有難いと思ってる。もしアケノシルムとの戦闘をここで諦めると言っても、俺は止めない。アリスが決めたことだから、アリスを信頼してるから」

 ハルトの口から発せられる言葉を、アリスは涙を流しながら黙って聞いていた。しかし、その涙は先程とは違う。

「ハルト様…………ありがとうございます。私、そんな風に人から頼りにされたの、初めてで」

「それで、どうする?ここで里に戻るか、もう一度アケノシルムに挑むか」

 彼の問いかけに、手の甲で涙を拭い、両手に握り拳を作って力強く答える。

「勿論、もう一度挑みます!先程は失態を犯しましたが、今度はしっかり名誉挽回してみせます!」

「よし、その意気だ。絶対にあいつを討伐してやろうぜ」

 

 

 二人が次にアケノシルムを発見したのは、エリア6と呼ばれる、上流にあるエリア12から流れ落ちる大きな滝が特徴的な場所である。

 ハルトは投げクナイを投擲し、こちらへ注意を向けさせる。思惑通り、こちらに気付いたアケノシルムは咆哮を上げ威嚇するが距離があった為二人共影響は受けなかった。

 咆哮を止め、トサカを伸ばした頭を突き出してハルトに向けて突進を繰り出すアケノシルム。今度はしっかりと動きを見て最後まで避け、停止した傘鳥に向けて無傷のまま攻撃に転じる。扇形の尻尾をフロストエッジで斬りつけ、返す刀で更に一撃。片手剣の攻撃速度を活かし、アケノシルムが起き上がるまでの間に何度も何度も斬撃を加える。

 その一方で、アリスは三音演奏で溜めていた旋律を解放、自身の強化と共にハルトにも演奏の効果を与える。アケノシルムが立ち上がり、振り向いて炎ブレスを三発連続で放つ。二人は既に距離を取っていた為、これもあっさり躱す。その隙に、アリスが横からボーンホルンでアケノシルムの頭を思い切り殴り付ける。

「クァァァア!?」

 頭部を振り抜いた一撃は、傘鳥をダウンさせ転倒させた。二人はこの隙を見逃さず、アリスは引き続き頭を、ハルトは翼を攻撃していく。次々に繰り出される攻撃に、起き上がったアケノシルムは咆哮で二人の動きを止める。嘴からは火が漏れており、再び怒り状態になったのが見てとれる。

 アケノシルムは空に舞い上がり、羽ばたき空中で静止する。そのまま嘴から火の球をあちこちに発射する。射線上にいたアリスは火炎液を喰らってしまう。

「熱いっ、熱いっ!」

 火炎液はレザーシリーズに燃え移り、あちこちが火を上げている。手で火を払うが、アケノシルムの体内で生成された火炎液の火はなかなか消えず、熱が少しずつアリスの体力を蝕んでいく。そこへアケノシルムが嘴を突き刺そうと迫り、それに気付いたアリスは横っ飛びに回避する。足元の川に頭から飛び込んだせいで全身水浸しになったが、それが功を奏し防具の火は無事消えた。

 

 その時、エリア8へ繋がる通路から何者かが現れる。丸みを帯びた体つきで、体毛や甲殻は青みがかっており、鋭い爪の生えた前脚の甲殻には棘が生えている。

「アオアシラ!?」

 青熊獣の別名を持つ牙獣、アオアシラ。二人は一度アオアシラを討伐したことがあるものの、ただでさえアケノシルムに苦戦しているのに、今から同時に相手をしなくてはならないのか。

「グォォォォオッ!」

 そんなことを考えていると、二本足で立ち上がったアオアシラが両腕を振り上げて威嚇する。しかし、その矛先はアケノシルムへと向いていた。傘鳥もそれに答えるように低く唸り、お互いに突進しぶつかり合うが、体格の大きいアケノシルムに軍配が上がり、アオアシラは足を止めて狼狽する。それを見たハルトは、

「ひょっとしたら………いけるかも!」

 アオアシラに向けて翔蟲を放つと、鉄蟲糸を括り付けて背に飛び乗ったのだ。アオアシラはハルトを振り落とそうと暴れるが、ハルトは鉄蟲糸を巧みに操り、アケノシルムに向けて走らせる。

 複数の大型モンスターを相手にする際に役立つ、操竜と呼ばれるカムラ独自の戦法だ。特定の攻撃を受けることで隙を見せたモンスターに鉄蟲糸を絡ませることで、まるでモンスターを操るかのように暴れさせることが可能なのだ。

「行けっ!」

「ガゥゥ!」

 鉄蟲糸を握ると、アオアシラは腕を振るい引っ掻き攻撃を繰り出す。それらは全てアケノシルムにヒットし、翼の羽鱗を裂きダメージを与える。モンスターは人間より遥かに力が強い為、ハンターの武器による攻撃とはまるで比べ物にならない威力を発揮していた。アオアシラは続けて突進を行い、正面から喰らった傘鳥を仰け反らせる。これらは鉄蟲糸の束縛から解放されたいが為の行動だろうが、一見すると手綱を握るハルトに操られているかのようにも見える。

 その後、アオアシラが引っ掻きを何度か喰らわせたタイミングでハルトは振り落とされてしまうが、空中でバランスを取り上手く着地する。鉄蟲糸から解放されたアオアシラは逃げ出す一方、アケノシルムは相当な痛手を負ったのか、横倒しになってもがいていた。

「ハルト様、すごいです!初めてで操竜を成功させるなんて」

「あぁ、土壇場だけど上手くいったな。このまま攻めるぞ!」

 二人は未だ起き上がることのできないアケノシルムに向けて、各々武器を構えて走り出すのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、どうもこんにちは。作者です。

 ということで、今回は初めて操竜の描写を入れてみました。あれ、ゲームでは簡単そうにやってますけど、実際かなり体幹を使いそうですよね。運動の苦手な私が真似したら5秒でギブアップすると思います。
 そして、前回の狩りから窮地をハルトに助けられてばかりのアリスが立ち直るシーンもありました。人間、誰でも「頼りにしてる」って言われたら嬉しいですよね。
 あと、本編に出てないところでもハルト達は大型モンスターを討伐したりしています。さすがにゲームに登場する全ての大型モンスターとの戦闘を書くのは大変なので。一応、初登場のモンスターは全部狩猟シーンを出す予定です。

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第13話:黄昏の決戦と決意

「せいっ!」

 二人は転倒したアケノシルムに突貫し、斬撃と打撃を交互に浴びせていく。ハルトの剣が左翼を裂き、羽鱗の奥の地肌が露出する。その一方で、アリスは狩猟笛で頭部を殴り続ける。三音演奏で自分達を強化しつつ、傘鳥のトサカの部位破壊に成功した。

 アケノシルムが起き上がると、ハルトはアリスに目配せをする。彼女はその視線に気付くと、首を横に振り否定の意を示す。アオアシラの攻撃とハンター二人の連撃を受け、さしものアケノシルムもかなり疲弊しているらしく、嘴から涎を零していた。

 ハルトが追撃を加えようと足を進めると同時に、アケノシルムは彼らに背を向けて走り出し、翼を広げて別のエリアへと飛び立つ。

「行ったか…………止めてくれてありがとうな。正直、あれ以上攻撃をするのは、体力的にもフロストエッジの切れ味も厳しいところだったし」

「ええ、アケノシルムもそろそろ移動するところだと思いましたし。次のエリアで畳み掛けることにしましょうか」

 二人は砥石を使い、武器の切れ味を戻すとエリアを移動し始める。

 

 二人から逃れたアケノシルムは、エリア9にいた。既に日は落ち始め、夕陽が水面を橙色に彩っている。

 ハルトが傘鳥を発見すると、持ち前の機動力を活かして気付かれる前に背後から斬り掛かり、先制攻撃を仕掛ける。アケノシルムは振り返り、翼で薙ぎ払うも、疲労からかその動きはかなり緩慢になっている。ハルトは難なく躱し、更に一撃を入れ、やや遅れて追い付いたアリスもボーンホルンで脇腹を殴る。

 それに対しアケノシルムは炎ブレスを吐こうとするが、火炎液の分泌量が少なくなっているらしく不発に終わる。その結果、アケノシルムは無防備な状態になり、更なる追撃を受ける。アリスが震打を叩き込み、左翼に続き右翼も部位破壊される。ハルトも風車を繰り出し、無数の斬撃を身体中に見舞う。

「クワォォォォォオッ!!」

 しかし、ずっと攻撃を受け続けたことに業を煮やし、三度アケノシルムは怒り出す。その場で咆哮を放ち、近くにいた二人は耳を塞いで動きを止めてしまう。その直後、飛び上がって尻尾攻撃をハルトに喰らわせる。ハルトは正面から攻撃を受け吹き飛ばされるものの、翔蟲受け身で体勢を立て直す。そして彼は自分を見るアリスに気が付き、頷いて返す。

「行きます!」

 攻撃を終えた後の隙を突いて掛け声と共にボーンホルンを振るい、三音演奏で二人を強化する。だが、それだけでは止まらない。アリスは更に全身を捻り、身体ごと狩猟笛を力強く振り回してアケノシルムを打ち据え、吹き鳴らすと全身に力の滾りを感じる。そして、その旋律を耳にしたハルトにも同様の効果が現れる。

 狩猟笛の秘技、気炎の旋律である。何度も攻撃を重ね、特殊な音色を奏でることで自分と周囲の味方の攻撃力を大きく上昇させることができるのだ。

 アリスは一度武器を納め、ハルトの元に走り出す。アケノシルムは愚直にも走るアリスの後を負い、そして………

 

「クァァァ!?」

 突如、傘鳥の全身を黄色い電気が包み、アケノシルムは身体を痙攣させて動きを止める。その足元には、金属の円盤が回転しながら光の粒を放出していた。

 これはシビレ罠と呼ばれる道具であり、円盤の中に雷光虫という電気を出す昆虫を仕込むことで、罠を踏んだ大型モンスターを一時的に麻痺させることが出来るのである。先程二人が話し合っていたのはこれのことであり、アケノシルムの攻撃を喰らい距離をとったハルトが仕掛けたのだ。麻酔玉を使えば捕獲することも可能だが、二人は持っていないのでそのまま攻撃に転じる。

 気炎の旋律の効果が乗った攻撃は強力で、二人は確かな手応えを感じている。息は上がり、武器を持つ手は痺れているが、それでもハンター達は剣を、打撃を止めない。ここで仕留めることが出来なければ、勝算はないと思っていたからだ。

 しかし、無情にもアケノシルムは麻痺から脱出し、足元に仕掛けられたシビレ罠は煙を上げて動作を止める。罠は使い捨ての為、壊れてしまったものはそれ以上使うことができない。

「そんな、もうこれ以上は…………」

「まだだっ、諦めて、たまるかぁっ!!」

 

 

バキィッ!!

 

「クオォォ!?」

 

 ハルトは声を上げ、剣を握る左手ではなく盾を持つ右手を引き、アケノシルムの頬を殴り付ける。これまでのアリスの打撃も重なり、盾の殴打を受けたアケノシルムは目を回して転倒する。その隙に、ハルトはバックステップで後方に下がり、剣を引いて力を込める。そして足のバネを利用し、突進と共にフロストエッジを叩き込んだ。

「うおぉぉぉぉぉお!!!」

 その勢いのまま、片手剣の必殺連続攻撃・ジャストラッシュを繰り出す。斬るというよりは力任せに剣を叩き付けているような感覚だったが、それでも荒々しい連撃はアケノシルムの羽鱗を裂き、体力をどんどん削る。一方、アリスも演奏で味方の攻撃力を高めつつ的確に打撃を当てていく。

「これで、どうだっ!!」

「やぁぁっ!」

 そして、ハルトの旋刈(つむじが)りとアリスの叩きつけが同時にヒットし、アケノシルムはその拍子に一度立ち上がる。既に二人の体力はほとんど残っておらず、攻撃も防御もままならない程疲弊していたが、それを悟られないよう痺れる腕で武器を構え、両脚は震えながらも膝を付かずしっかりと立ちながら傘鳥から視線を外さない。

 

「クォォォォオーーーー………」

 

 そして、アケノシルムが唸りながら首をもたげ、炎ブレスを仕掛けて来るかと思い二人は身構える。だが、次第にその身体から力が失われていき、傘鳥はその場に倒れ伏した。

 

 

「や………やった、のか?」

「そう、ですね…………何だか、実感が湧かないですけど………」

 生気を失い、動かなくなったアケノシルムを前に二人はぺたんと地面に座り込む。同時に、さっきまで表に出すまいとしていた疲労感がどっと押し寄せる。

「ふーっ、疲れたな。今までの狩りとはまるで手応えが違ったぜ」

「はい、ですが私達もその分ハンターとして成長できたということですね」

「じゃあ、早速剥ぎ取りといきたいところだけど…………

もうしばらく、休んでいようか」

「そうですね、私もまだ動けそうにありませんし」

 

 アケノシルムとの戦いで、お互いヘトヘトになったハルトとアリスは座ったまま笑い合う。

 同時に、アリスの脳内には一つの思いが生まれていた。

 

 

 元々自分は旅の途中でカムラの里に立ち寄っているだけ。里に、家を貸しているハルトにいつまでも迷惑はかけられない。

 

 

 

 夕暮れの中、アリスは里を去ろうと決意していた───

 

 

次回へ続く



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第14話:少女の旅立ち

「皆様、本当にお世話になりました。里で過ごした日々は忘れません」

 

 ハルト達がアケノシルムを討伐すると、その帰り道にアリスはもうじきカムラを離れることをハルトに話した。その時ハルトは少し目を見張りながらも頷いていたが、感情を出すのが苦手な彼なりに精一杯驚いてみせたのだろう。

 そして、二日後。アリスは里の住民全員に見送られながら別れを告げていた。

 

「うんむ、お主は元々旅のハンター故、いずれこうなることは分かっておったが………少し寂しくなるのう」

「ここでの経験は、少なからず君のハンター人生の糧となるはずだ。君ならば更に腕利きのハンターになれる、僕が保証しよう」

「フゲン様もウツシ様も、色々とありがとうございました。ここでは新しい経験がいっぱいでした」

「アリスちゃん、またこの里に遊びに来てよね。次に来た時の為にお土産をいっぱい用意しておくからね」

 一人の婦人がそう告げると、後に続くように周りの衆も口々に同様の意を示す。それを受け、アリスは口元を覆い上品に笑う。

「やっぱり、この里の皆様はお優しい方ばかりです。また、必ず来ますね」

「ほっほっ、カムラで過ごしたとなればもうオヌシはワシらの家族同然でゲコよ。この辺りのフィールドで依頼を受けることがあれば、里の民を思い出して欲しいゲコ。

 

ところで、同じ家で過ごし、同じクエストに行っていた、一番家族らしい行いをしていたハルトからは何かないゲコか?」

 

「うわ、ちょ……………おい、やめっ」

 ゴコクに名を呼ばれ、集まっていた住民達は道を開け背中を押し、衆の中にいたハルトは半ば強引な形でアリスの目の前に立たされる。大勢の前で何か気の利いた言葉を期待されるのが照れくさいのか、ハルトは目線を逸らしながら頬を掻く。

「あー………なんだ、その」

「ハルト様……………フィールドでは何度も助けていただいて、ありがとうございます。私一人では達成できなかったかもしれない依頼でも、一緒だったから成功できました」

 瞳を潤わせて話す彼女の脳裏には、カムラでの狩りの記憶が思い起こされていた。

 初めてハルトと出会い、オサイズチから逃げたこと。足を痛めて動けない自分を庇ってくれたこと。バギィの攻撃を受けて眠ってしまった自分を介抱してくれたこと。そして、つい先日のアケノシルムとの死闘。

「いつか、また会うことがありましたら…………その時は、また私と一緒にクエストに行きましょう。本当にありがとうございます」

 言い終わると、アリスは深々とお辞儀をする。頭を下げながら心の中では、「(結局、ハルト様にお料理教えてもらってなかったなぁ)」と少し後悔していた。

 

 

 

 

「アリス。お前、それでいいのか?」

 

「………えっ?」

 黙って彼女の話を聞いていたハルトは、不意に誰もが予想だにしていなかった返答を投げかける。

「本当にまた旅に出ても、この里を離れても何一つ心残りはないってか?」

「…………それは、」

「もしそうだって言うなら、俺は止めない。それがアリスの選んだ答えだから」

「………私は………………」

 彼の問いかけに、アリスは俯いてしばらく考える。

 その間も、彼女の脳裏には狩りだけではない、里での日々が次々と浮かんでくる。

 

 

「…………っ、私………」

 旅に出なくてはならない。

 そう言おうとすると、胸の奥がチクリと痛む。視界がぼやけ、内側から何かが競り上がって来る。

 

 

 

「私、旅になんてっ、うぅ、出たく、ない………

まだこの里で、ハルト様と、一緒に狩りに、行きたいっ、皆と………もっと一緒に、いたいよぅ……………っ!」

 

 気が付けば、手に握り拳を作り、目尻から熱いものを零し、いつもの丁寧な口調も忘れて浮かんで来るままの気持ちを吐露していた。

 

「なぁ、フゲンのじいさん。そういうわけだが、このままアリスがカムラにいても問題ないか?」

「何を今更、アリスはこの里に十二分に尽力してくれたし、お前さんも仲間がいる方がハンターとして有難いだろうに。拒否する理由などないわい」

「それに、現実的な話になるゲコが、二人が里のハンターとして正式にチームを組んだことをギルドに申請すれば、ある程度の援助金も発生するゲコ。むしろ、里にとどまってくれたメリットの方が大きいのではないかと思うゲコ」

 ゴコクの言葉に、住民は一斉に頷く。ハルトはそれを一瞥し、アリスに向き直る。

「これらを踏まえてもう一度聞くぞ、アリス。本当に里を出て、旅を再開するか?」

 質問を受け、アリスは俯き少し考えた後、

 

 

「決めました!私、この里に駐在してハンターを続けます!そして、ハルト様とチームを組みます!」

 顔を上げ、目元に涙を滲ませながらも明るく晴れやかな表情ではっきりと答える。それに対し、里の民は拍手と歓声を上げる。アリスは右手を差し出し、ハルトもそれに応じてがっちりと握手を交わす。

「そういうわけで、ハルト様。今後ともよろしくお願いしますね」

「あぁ、こちらこそよろしく。

ところで、さっきの「本当に里を出ていいのか」って言葉だけどな」

「………はい?」

 

「あれは建前だよ。本当は、俺もまだアリスと一緒に狩りがしたかったんだ」

 少し恥ずかしそうな彼の言葉に感激し、再びアリスは涙を溢れさせ口を両手で覆う。

「……………っ!ハルト、様…………」

「だからさ、カムラ(ここ)に残るって言ってくれて俺も嬉しいよ。ありがとう」

 ハルトはそう言って、今まで見せたことのない優しい笑顔を見せる。次の瞬間アリスは駆け出し、ハルトに思い切り抱きついていた。

「うっ、うぁ、うあぁぁぁぁぁぁあ、っぐ、うぁぁぁぁあん、ひぅっ、うあぁぁあぁ」

 内側から溢れ出る感情と涙を止めることが出来ないまま、アリスは周りの目をよそに目一杯泣き出す。それを背に受け、ハルトは彼女の背中を優しく叩く。周りの衆は拍手を贈り、中にはもらい泣きをする者もいる。

「全く、歳は取りたくないものだな。のう、ハモンよ」

「……………さあな」

 目元に涙を浮かべたフゲンは、すぐ横のハモンに語りかける。ハモンは背を向けていた為、その顔は分からなかったが、肩は僅かに震えていた。

 

 

 

 

 東方の山岳地帯に位置する里、カムラ。

 

 今日、この里は新しく一人のハンターを迎え入れた。

 

 その近辺の山々には、ハンターとしてではない、一人の少女の泣き声がこだましていたのだった。

 

 

次回へ続く



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第15話:雪のち白兎獣

 アリスがカムラ所属のハンターとなってから、早いもので3ヶ月が経過していた。正式にチームを結成した二人は、共に様々なモンスターとの狩りを経験し、ハンターとして更なる成長を遂げていた。

 

 そして今、ハルトは白兎獣ウルクススの狩猟クエストで寒冷群島に訪れている。アリスは別の依頼を受けていた為、今回は久しぶりに単独での狩りとなる。二人はチームを組んでいるとはいえ、必ずしも一緒にクエストに行かなくてはならないという決まりはない為、何も問題はない。

 しかし、ハルトも完全に一人という訳ではなく、アリスとは違う、頼れる仲間を連れて来ていた。

「よし、あそこだ。出来るだけ音を立てずに近付くぞ」

「ガゥッ」

 そう言って、ハルトは近くにいた大型犬のような姿のモンスターに跨り、彼を乗せたそのモンスターは素早くしかし静かに駆け出す。

 

 そのモンスターはガルクと呼ばれる種族で、人間との親和性が高いことから、ホムラ地方周辺では人間の仕事を手伝うことが多く、訓練を受けたガルクはハンターのオトモとして狩りを支援することも可能である。

 別の地域で一般的なオトモアイルーと違い、人語は話せないものの、ほぼ同等の知能を持つ為言葉を理解することは可能であり、アイルーに比べ体格が大きく力も強い為ハンターを背に乗せたまま走ることも出来る。

 このガルクは、先日オトモ広場のイオリが紹介した中からハルト自らスカウトした一匹であり、濃紺の体色をしていたこの個体はスバルと名付けられた。

 

「行くぞっ!」

 標的のもとに辿り着いたハルトはスバルから飛び降り、腰から剣を抜き斬りつける。その手にはそれまで使っていたフロストエッジやカムラノ鉄片刃とは違い、イズチやオサイズチの素材を使用した片手剣、イーズルシックルを持っていた。

「ガァァァァァ!」

 その攻撃でウルクススはハルトの存在に気付き、前脚を振り上げて威嚇する。ウルクススは白兎獣の名の通り、全身の白く柔らかい毛皮が特徴なのだが、兎というには顔はいかつく、腹部は皮膚が硬質化した黒い甲殻に覆われており、体格もアオアシラと同じくらいの大きさである。兎の要素を上げるとすれば、笹の葉の形をした耳が辛うじて兎に見えるくらいだろう。

 ウルクススは前脚を振り回してハルトを追い払おうとするが、彼は既に距離を取っており攻撃は当たらない。一瞬の隙を突いてイーズルシックルで斬りかかり、反対側からはオトモガルク用の短刀を口に咥えたスバルが白兎獣を攻撃する。

「ベェェェェ!」

 一人と一匹から攻撃を受けていたウルクススは独特な鳴き声を上げ、地面の雪に爪を突っ込む。そして、ジャンプと同時に掘り起こした雪の塊を放り投げた。すかさずハルトは横っ飛びに回避し、さっきまで立っていた所に投げ上げられた雪が着弾するが、彼の視界ではウルクススが四つ足を地面に着けて縮こまっていた。

 ハルトが危機を感じた次の瞬間、

 

 

「ぐぁ………………っ!?」

 

 彼の全身に凄まじい衝撃と激痛が走り、身体は宙を舞っていた。地面に落ちる前に翔蟲受け身を取り、頭を打つのはどうにか避けた。

 ウルクススは腹を使って滑走し、そのまま体当たりをしてきたのだ。おそらく、その攻撃を繰り返すうちに滑りやすいよう腹が硬化したのだろう。

「今のが滑走攻撃か、素早い動きに気を付けるってのはこれか」

 体勢を整えたハルトは応急薬を飲み干し、再び剣を構えて白兎獣に向き直ると、再びウルクススが滑走突進攻撃を行おうと、身体を縮こまらせる。そして滑り出す瞬間を見計らい、ポーチから取り出した球状の物体を投げつける。それはウルクススの顔に当たると破裂し、キンッという高音を響かせる。その直後、

「グォォォ!?」

 滑走していたウルクススはバランスを崩して転倒し、立ち上がろうと手足をばたつかせる。その隙に、ハルトはガルクと共に突撃する。

 今使ったのは音爆弾という道具であり、ウルクススのような聴覚が敏感な一部のモンスターに絶大な効果を発揮するのだ。

 一気に距離を詰めたハルトは、頭部に向けてイーズルシックルを何度も叩き込む。ウルクススは頭の肉質が柔らかく攻撃がよく効くのだが、立っていてはリーチの短い片手剣では届かず、かと言って正面から斬りかかっては返り討ちを受ける危険性が高い。なので、こうして攻めるべきタイミングで的確に繰り返し斬撃を弱点に当てるのである。

 ウルクススは立ち上がると、口から白い息を吐きハルトを睨みつけ、大きく開いた口で吠え威嚇する。

「怒り状態か。負けねぇぞ」

 

 

 

 

 あの後、スバルの協力もあり首尾よくウルクススを討伐したハルト。既に今はカムラに帰って来ており、加工屋のハモンにウルクススの素材を見せていた。

「うむ、確かにこれは白兎獣の氷爪だな」

「ようし、あとはマカライト鉱石を集めればフロストエッジを強化できるな」

 ハルトがウルクススを狩りに行ったのは、フロストエッジの強化に必要な白兎獣の氷爪を入手する為だったのだ。だが、他に必要なマカライト鉱石が採取できるフィールドにはまだ行けないので、強化そのものはとうぶん後になりそうだが。

「ところで、ハルト。武器の強化はいいが、依頼の達成報告は済ませたのか?」

「やべ、そうだった!じゃあまたっ」

 ハモンの言葉を聞き、ハルトは慌ててハンターズギルドへと向かうのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、こんにちは。作者のたつえもんです。


 ということで、今回は初めて狩猟シーンを簡単にまとめてみました(できてるか分からないけど)。今作が初登場のモンスターでなければ、新しい登場人物が出てくるわけでもない場合はこういうことも増えてくると思います。

 あと、劇中ではさらっと触れていましたが、依頼の達成報告を忘れるなんてのはとんでもないことです。「私はこの日の仕事をちゃんと終わらせました」って言わないと、無限に残業することになって不当に残業代を支払われて………なんてことがあるかは分かりませんが、とりあえず大変なことです(現社会人より)。


 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第16話:装備一新

「すまん、クエストの達成報告………ん?」

 ギルドに入ると、鎧を着込んだアイルーを連れた見慣れない服装の人物がクエストカウンターに立ってミノトと話していた。だが、その人物はハルトを見るとすぐに場所を移動した。

 

「はい、クエスト完了です。お疲れ様でした」

「ああ、どうも………って、そう言えばその人は?」

 報酬金を受け取ったハルトが、横に退いた人物についてミノトに尋ねると、

「おや、ハルトさん。チームメンバーのお顔をお忘れですか?」

「チームメンバー………………って、ひょっとしてアリスか!?」

「はい、ハルト様」

 そう答える声を聞き、ハルトは彼女がアリスだと確信する。確かに肩辺りまで伸びた金髪や、明るい緑の瞳はアリスのそれだ。しかし、今まで長い間レザーシリーズを着用していた為、そのイメージが定着してしまったのだろう。

 そして、彼女が連れていたアイルーは、ハルトと同じ日にオトモとしてアリスがスカウトしたのだ。橙色の虎毛をしたこのアイルーはヒグラシという名を付けられ、先日討伐したアケノシルムの素材を使ったアケノネコシリーズを身に付けていた。

 

 

「そうか、アリスも新しい防具にしたんだな」

「はい、さすがにずっとレザーシリーズだと厳しいので」

 二人はオトモ広場へ向かいながら、新しいアリスの装備について話していた。

 アリスの防具は、掻鳥クルルヤックの素材を主に使ったクルルシリーズ。全体的に橙色を基調とし、袖やズボンの裾は丸みを帯びており、今は外しているが頭用装備の目元から下を隠した布や頭の羽飾りも相まって、異国の踊り子のような見た目だ。一見すると防御力が低いようにも見えるが、内側は骨や牙で補強してある上に丈夫な掻鳥の鱗を使用している為、見た目よりもかなり頑丈に出来ている。

 更に防具としての実用性の側面で言えば、このクルルシリーズにはKO術やスタミナ奪取の他、笛吹き名人のスキルも付与されている。狩猟笛を扱うアリスにとって、クルルシリーズは最適だった。

「なるほどな、まさに狩猟笛のための装備ってこったな。アリスにぴったりじゃないか」

「ありがとうございます、ですが、まだ着慣れていなくて…………ちょっと恥ずかしいです」

 と言って、腹部を手で隠すアリス。防具としての性能は高いものの、要所要所からは地肌が見えており、レザーシリーズよりも肌の露出は多くなっている。

 これから着ているうちにアリス自身が慣れていくだろうと思いながら、ハルトは自分の目にも慣れさせていかないとな、と思っていた。

 

 

 そうこうしているうちに、オトモ広場に到着した二人。今回、二人の目的は交易窓口にあった。

「ロンディーネさん、センテイガキの納品終わったぜ」

「私も、狐火ホオズキを納品してきました」

「うむ、これで交易先の方々もこちらに協力してくれるだろう。次からは交易がより捗ると思うぞ」

 

 前回ハルトが寒冷群島を訪れたのは、ウルクススの狩猟だけではなく、ロンディーネからの依頼でセンテイガキを採取する目的もあったのだ。もう一つの要求である狐火ホオズキは大社跡でしか採れない為、アリスは別のクエストを受けていたのだ。

「ご主人、ボクも頑張ってきたニャ。いっぱいハチミツを貰ってきたのニャ」

「ありがとうワカバさん、お疲れさまです」

 ワカバと呼ばれた緑色の毛をしたアイルーは、スバルとヒグラシと同じようにイオリに紹介されたアイルーなのだが、狩りは苦手だと言っていたので交易で活躍してもらっている。アリスはワカバから受け取った布の袋の中を覗くと、瓶詰めのハチミツが大量に入っている中に、一つだけ見慣れない桃色の昆虫が入った瓶を取り出す。

「これ、交易で頼んでないですよね?交易先の方が入れてくれたのでしょうか」

「おお、それはハナスズムシではないか!ハンターの武器にもなる珍しい虫だぞ」

「武器?これを使って作れる武器がないかハモンさんに聞いてみようぜ」

 そう言い、二人はハチミツをハルトの家の収納庫にしまうと、ハナスズムシの入った瓶を握り締めて加工屋に向かう。

 

 

 そして、一時間後。

「ほえぇ…………可愛いですっ!」

「正直な感想としちゃ、あんまり武器には見えないけど………ハモンさんが言うなら、期待できそうだな」

 アリスは、新しい武器に目を輝かせ、ハルトは興味深そうな目を向けていた。

 

 ハナスズムシを素材として作られたその狩猟笛───マギアチャームは、まるでおとぎ話の魔法少女が持つ杖をそのまま巨大化したような見た目をしていた。一見すると狩猟笛には見えないが、ちゃんと演奏もすることが可能だ。

 一説によれば、とある狩猟笛使いの女性ハンターが強い要望を村の加工屋に出し、試作品でクエストに向かったところ、チームを組んでいた流れのハンターがそれを広めたことでハンターと加工屋の間でよく知られる武器になったらしい。現在では、実用以外にもコレクションとしての需要も高まっているという。

 

「そういえば、さっきアリスはクエストカウンターにいたよな。何か依頼を受ける予定だったのか?」

「あぁ、それなんですが…………」

 

 

 

「狩猟依頼がない、か」

「はい。最近はモンスターの動きも落ち着き、わざわざハンターが出る程の依頼も少ないんです」

 加工屋を後にした二人は、ミノトの元に向かいクエストを確認していたが、めぼしい依頼は出ていなかった。平和なことは本来喜ばしいことなのだが、ハンターとして仕事がないのは致命的だ。

 

「それならば、二人共別の地域に出向いて依頼を受けて来てはどうゲコ?」

 すると、話を聞いていたゴコクが二人に提案をする。

「確かに、それも選択肢には入りますが…………ゴコク様、ハンターが里に全くいないというのは安全という点でどうなのでしょうか?」

「この里にはウツシやフゲンもおる、既に本業を引退したとはいえ、仮にモンスターが出ても余程でない限り狩猟は可能でゲコ」

「あぁ、並大抵のモンスターにやられる程落ちぶれてはいないさ。ここは俺達を信じて、行っておいで」

「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 更に本人からの後押しも受け、ハルト達は大人しく提案に従い遠征へ行くことにした。

「それで、肝心の行き先だが……かつて俺やハルトが在籍していたハンター養成校があった辺りの、ドンドルマなんてどうかな。あそこにはハンターズギルド本部もあるし、ルーキーから上級者まで幅広いハンターが受けられる依頼が揃っているはずだよ」

 ウツシの言葉に、アリスは「ドンドルマですかっ!?」と目を見開く。

「私、実家の近所の養成校に通っていたのでドンドルマには行ったことなかったんです。楽しみになってきちゃいました」

「それじゃ、決まりだな。今日の残りの時間を使って準備をして、明日には出発するぞ」

 

 

 そして、翌日。二人は朝早くに住民に見送られ、定期船でドンドルマまで向かう。

 そこでは、二人の記憶に刻み込まれる新たな出会いが待っていることをまだ彼らは知る由もなかった。

 

 

次回へ続く



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第17話:ドンドルマでの出会い

「お客さん達、着いたよ。ここがドンドルマだ」

「ようやく到着したな、ありがとう」

 定期船に揺られ、更にアプトノス車を使い、里を出発してから10日後、ハルトとアリスはようやくドンドルマに到着した。

 

「ほえぇ…………本当に人が多いですね」

「ああ、里もそれなりに住民は多い方だと思うが、比べ物にならないくらいだな。気の所為かもしれんが、俺が養成校に通っていた時よりも増えた気がする」

 待合所を出た二人の目に最初に入ったのは人、人、人である。多くの人でごった返しており、通れないわけではないが子供はすぐにはぐれてしまいそうだった。少なく見積もっても、今目に入った人数だけでもカムラの里の全人口の倍はいるだろう。

 ドンドルマはカムラの里がある東方大陸から海を挟んだ先の中央大陸の中心に位置する大規模な商業都市であり、街路には数多くの店が立ち並び、街の中心地にはハンターズギルド本部がある。その為、ハンターから商人、観光客まで連日多くの人で賑わう大陸内でも有数の繁華街である。

 ちなみに、ハルト達は既に防具を着用しているが、ドンドルマには同じように防具を着たまま歩くハンターも多いので違和感は全くない。

「とりあえず、ハンターズギルドに行こうか。道は覚えてるけど、一応地図を見ながら行こう」

「あっ、待ってください」

 早速ギルドへの道を行こうとするハルトを呼び止めるアリス。振り返ると、彼女は少し恥ずかしそうにもじもじしている。

「その…………手を、繋いでもいいですか?えっと、これだけ人が多いと、はぐれてしまいそうで………」

「そっか、アリスは初めて来るんだったな。いいぜ、そういうことなら」

 と言うが早いか、ハルトはアリスの手を引き、道を歩き始める。ハルトに先導されながら、アリスは少し俯き彼に見えないように頬を紅潮させた。

 

 

 

 そして二人は大勢の通行人をくぐり抜け、何とかハンターズギルドに辿り着き、戸を開けると思わず絶句した。

 そこでは、グラスを打ち合わせる音、人々の話し声、食器が配膳される音などが混ざり合う喧騒の中で、多種多様な防具を身に着けた途轍もない数のハンターと私服を着た少しの町民が各々テーブルを囲み、料理を食べ酒を飲みながら狩猟談義に花を咲かせていた。勿論、入って来たハルト達に誰も気付いた様子はない。

 ドンドルマのハンターズギルドは酒場を兼ねており、ハンターでない一般人も利用可能だが、基本的にはハンターが利用客の大多数を占めている。ハンターは職業柄、仕事をする時間が毎日決まっていないので、こうして昼間から宴会をすることも少なくない。

 

 そんな様子を見ていた二人は、顔を見合わせ互いに苦笑する。

「す、凄いですね…………ハンターというのは本来、あんなに宴が好きなのでしょうか?」

「一概には言えないと思うけどな。ちょうど飯の時間だし腹も減ってきたけど、まずはクエストカウンターでハンター登録をしないとな」

 二人は早速クエストカウンターに向かい、受付嬢にギルドカードを提出し、書類に名前や色々な情報を記入していく。

「はい、登録完了しました。依頼を受ける際はそちらの掲示板からどうぞ」

「ありがとうございます、それではどんな依頼が出てるか見てみましょうか」

 と言って、二人はカウンター横の掲示板(クエストボード)の前に移動し、二人でも受けられそうな依頼がないか張り出された紙を注視する。

「ティガレックスの狩猟にジンオウガの捕獲、タマミツネとトビカガチの同時狩猟なんてのもあるのか。まあ、どのみち今の俺達には無理そうだけど」

「やはり、経歴の長い上級ハンター向けのクエストが多いですね。私達にもできそうなものは………」

 

 

「おいおいそこの嬢ちゃ~ん、可愛いじゃねぇかよォ~」

 

「ほえ?わ、私のことですか」

 難易度の高いクエストに頭を悩ませていると、突然見知らぬ二人の男性ハンターが声をかけてくる。二人共顔は赤く足元はふらつき、明らかに酔っ払っていた。

「勿論だぜぇ。なぁ、クエストに悩んでるなら俺達と行かないかぁ~?安心しな、俺達ぃ結構強いから色々助けてやんよ~」

「えっと………私、」

「何なら狩り以外のことも教えてやろ~かぁ?手取り、足取り、ゆっくり丁寧に」

「(まっ…………まさか、これが「なんぱ」というものなのですか!?でもっ、私どうしたら)」

「アンタら、いい加減にしとけよ。困ってるだろ?」

 対応に困るアリスを見かねて、ハルトが立ち塞がる。男達は、水を差されたのが気に食わないのかこめかみをピキッと震わせハルトを睨む。

「なんだボウズ、邪魔すんなよな」

「彼女は俺のチームメイトなんだ、見知らぬハンターにそうやすやすとパーティを組ませてたまるか。どうしてもって言うなら、俺と四人で行ってもらうから」

「は?お前、まだハンターシリーズなんか着けてる分際で俺達に口出しすんなよっ!」

 

「っ………!()ってぇ、何しやがる」

「ハルト様っ!?」

 遂に耐えられなくなった一人が、防具を着けたままの拳でハルトの頬を殴る。ハルトは床に尻餅をつき、アリスも慌てて駆け寄る。

「さぁお嬢ちゃ~ん、あんな弱っちょろいヤツほっといて俺らと一緒に行こうぜ?優しくしてやるからさぁ~」

「あ、その、私は……」

「だからっ、やめろって言って………」

「しつけぇぞ!!」

 立ち上がりなおも行く手を阻むハルトに対し、もう一人が怒鳴ると共に、今度は腹を思い切り蹴りつける。モロに喰らったハルトは吹き飛ばされ、咳き込みながら腹を押さえてうずくまる。

「………あ…………」

 邪魔者がいなくなり、二人組はアリスの肩を抱いて連れ去ろうとするが、アリスはハルトを見たままその場から動こうとしない。

「や、や……め………」

 そしてアリスが動かないのをいいことに男が乱暴にアリスの肩を掴み、腰の辺りを撫でたその時、

 

 

 

ダァンッ!!!

 

 

 突如、入口のドアが音を立てて雑に開けられる。その音に酒場は静まり返り、アリス達を含めた全員がそちらを見ている。

 間もなく、一人の男性がゆっくりと歩いて入って来る。それを見た酒場の客は次第にどよめきを上げ始める。その人物はかなりの長身で、ツンツンした暗めの茶髪に長いまつ毛を蓄えた青い瞳が特徴の、鼻筋の通った美形の青年である。首から下にはモンスターの素材を使った黒い防具を着ており、ハンターであることは明確だった。それも、アリスが見たことのない素材が使用されていることから、かなりの上級者だろう。

 そして彼は人々の中心に立つと、胸を反らし右手を振り上げ、大袈裟にポーズを決める。直後、拍手と歓声に加え、女子達の黄色い声が上がる。そのハンターは手を振って応じ、アリス達のもとに歩み寄る。

「お、おい…………」

「まさか、ドンドルマに来てたなんて!?」

 ハルトを黙らせた二人はそのハンターが現れてからというもの、戸惑った表情で酔って赤くなっていた顔を見合わせている。

 やがて、彼が二人組のところに着き、あっさりとアリスを引き剥がして少し距離を取らせると、笑顔で彼らの肩に手を置き、

 

 

 

「ガァッ、デェム!!!」

 

「「ヒィィィ!?」」

 整った顔は怒りの表情に変わり、凄みを効かせた声で、二人を思い切り怒鳴りつける。

「アナタ達、腐ってもハンターならばモンスター以外に暴力を振るうのはおやめなさい?加えて、レディーは丁重にエスコートするのが通例というものよ」

 離れたところからそのやり取りを見ていたアリスは、呆気に取られていた。何故なら、その男性は端正な顔立ちと先程の怒声からはとても想像できない、女性のような言葉遣いで話していたからだ。

「それとも、そんなに溜まってるのであれば…………」

 一度言葉を切り、二人に顔を近付けると、

 

 

「このワテクシが、思う存分た~っぷり愛してあ、げ、る」

 バチッとウインクをして、優しく微笑む。だが、その笑顔の裏には明らかに闇を含んでいた。

 それを見て二人組は一目散に退散し、ギルドを飛び出ていく。一部始終を見届けていた人々は再び拍手喝采を送り、彼は一礼して応じる。そして、一度アリスに向き直り、先程とは違う心からの優しい笑みを浮かべる。

「大丈夫だったかしら?ちょっと派手にやり過ぎちゃったかしらね」

「い………いえ、私はいいので、それよりハルト様を」

 と言って、アリスが指す方向を見ると、ハルトは腹を押さえながらも壁に手を付きどうにか立ち上がっていた。男は頷き、ハルトの元に歩み寄り、アリスも後に続く。

「ハルト様、大丈夫ですか?防具を着けたまま殴られたり蹴られたりして、骨折でもしていたら………」

「心配すんな、少し痛いけど。

あの、さっきはすんません。わざわざ巻き込ませちゃって」

「いいのよ~、ワテクシが好きでやってることなんだから。それと、敬語は使わなくても結構よ。堅苦しいのは苦手なの」

「でも…………さっきは本当に自分が不甲斐なかった。一方的に酔っ払いにボコられて、通りすがりに助けられるなんて…………チームメイトとして、アリスを守ってやれなかった。こんなんじゃ、モンスターと戦うハンターとして情けない」

 ハルトは先程の自分の無様な姿を思い出し、悲壮感に囚われ俯いてしまう。アリスはどう言葉を掛ければいいか分からず、困った顔を浮かべてただハルトを眺めていた。そんな二人を見た彼は、

「顔を上げなさい、ハルトちゃんだったわよね。アリスちゃんは、どこも怪我をしていないでしょう?それに、アナタは一度も手を上げることなく彼女を守った。それで十分じゃないの」

「だけど、アイツらの言ってたことも少し分かる。まだ俺はハンターになって日も浅いし、強いわけでもない。もっと俺が強かったら……………」

 まだ立ち直れないハルトに、アリスはしゃがんで目線を合わせる。

「ハルト様、今のははっきりと断らなかった私にも責任があります。それに、今すぐに強くならなくたっていいじゃないですか。私達はチームなんですから、これから一緒に強くなりましょう?」

「アリス………………うん、そうだな。すまん、いつまでも落ち込んでちゃ仕方ないよな。これから俺達でもっと強いハンターになろうな」

 アリスの言葉を受けたハルトは立ち上がり、男に向き直り礼を述べ頭を下げる。アリスもそれに倣い、お辞儀をする。

「ところでアナタ達、見たところ依頼を選ぶのに困ってるんじゃないかしら?」

「え、どうして分かるんですか!?」

「女の勘ってやつよ。もし良ければ、ワテクシが一緒にパーティを組んであげてもよろしくてよ?」

「本当か!?そりゃ有難いよ、アリスはどう思う?」

「はい、私も賛成です!」

「それじゃ、決まりね。そういえば名乗ってなかったわね、ワテクシはエリザベス、そう呼んでくれたらいいわ。よろしくねん」

 その直後、二人の代わりにそれぞれの腹がぐうぅっと盛大な音で返事をした。ハルトはあまり表情を変えなかったが、アリスは赤面して慌てふためく。

「す、すみませんっ、私としたことが」

「いいのよ、食欲があるのは健康の証。せっかくだからご馳走してあげるわ、席に着きましょう」

 そして、エリザベスを含めた三人は空いたテーブルを探し、椅子に座ると各々料理を注文し、食事を始めたのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、どうもこんにちは。最近夜更かしが多くなりがちな作者です。

 ということで、今回は二人がドンドルマに訪れ、そこで新たなハンターと出会いましたね。このパートは分けたくなかったのでぶっ通しで書き進めた結果、いつもより遥かに長くなっちゃいました。
 皆様、あのキャラどう思いますか?ギャグキャラっぽく扱われることも多いですが、私はああいう人物結構好きなんですよね。とりあえず、初見のインパクトはかなり強くしてみました。

 さて、次回は初めて三人での狩りに出向く予定です。果たしてどんなモンスターと戦うのか?初登場キャラはどんな戦い方をするのか?そしてたつえもんの寝不足は改善するのか?

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第18話:秘密の花園

※土曜日の昼に投稿時間設定を忘れて今回のお話を即時投稿してしまった為、一度削除しました。
こちらは事実上の再投稿となります。
昼に見られた方は明日いい事がおこるとは限りません。


 即席パーティを組むことになった三人は、現在ギルド内の酒場で昼食を取っていた。その中でもエリザベスは女性を中心とした大勢のファンに囲まれており、彼は笑顔で手を振っている。

「それにしても、エリザベス様は有名な方なのですね」

「まあ、それなりにね。お買い物もしにくいし、有名になり過ぎるのもいいことばかりじゃないのよ」

「有名かどうかはさておき、装備を見た感じじゃハンターとして結構強そうだな。同行してくれるのは嬉しいよ」

 そう言うと、ハルトはエリザベスの防具に目を向ける。

 彼が着ているのは迅竜ナルガクルガの素材を使ったナルガシリーズと呼ばれる、黒を基本に赤い模様のアクセントが映える防具である。全体的に忍者装束のような見た目をしているが、上半身は胸や肩がナルガクルガの毛を織った糸で出来たメッシュのような網目の生地になっており、鍛えられた胸筋が露出している。

「ええ、なかなか素材が揃わなくて大変だったわ。

さてと、食べ終わったことだし、依頼を選びに行きましょうか」

 

 食事を終え、ハルトとアリスは再び掲示板(クエストボード)の前に立つ。だが、今回はエリザベスも一緒だ。

「安心なさい、無茶苦茶に難しいクエストを選ぶようなことはしないわ。ギルドカードを見せてもらえるかしら?」

 そう言われ、二人はギルドカードをエリザベスに手渡す。ギルドカードには直近に受けた依頼や大型モンスターの狩猟数などが記録される為、そこから大まかな力量を判断できるのだ。

「ふんふん、だとしたら…………これかしら?」

 エリザベスは受け取ったカードの情報を見て、掲示板に貼られた依頼用紙の一枚を指差す。そこに書かれていたのは、砂原での土砂竜ボルボロスの狩猟依頼だった。ハルトとアリスはボルボロスの狩猟経験はなかったが、砂原を訪れるのは初めてではない。

「どう?あなた達に勝てない相手ではないと思うけど。砂原に行ったことはあるかしら?」

「一回だけクルルヤックを狩りにアリスと。アリスはそれ以外では?」

「いえ、私もそれだけです」

「決まりね、じゃあ申請しましょ」

 と言うと、エリザベスは用紙を手に取ってカウンターに提出する。二人もその後に続き、参加手続きを済ませる。

「じゃあ、今日のところは休んで、明日の朝に出発しましょうか。ドンドルマからだと砂原は距離があるから、今から行くと着くのは夜になっちゃうもの」

 二人はその言葉に従い、ギルドに併設された宿に宿泊することにした。この宿も酒場と同様に一般客も利用可能だが、ドンドルマで登録をしたハンターは格安で宿泊することができる為、三人はそれぞれ個別で部屋を取った。

 

 

 その夜、アリスは自身の泊まった部屋で入浴を済ませ、寝間着のワンピースに着替えて髪を纏めていると、ドアがノックされる。それに応じて戸を開けると、

「ハル…………いえ、エリザベス様でしたか」

「こんばんは。せっかくだから、夜のガールズトークと洒落込みましょう」

 入口に立っていたのは、ハルトではなくエリザベスだった。ガールズトークという彼の発言に関してはつっこまないことにし、アリスは彼を部屋に入れた。

 

「へぇ、あなたとハルトちゃんはカムラっていう里に拠点をおいてハンターをしてるのね」

「はい。あそこは本当にいいところで、ハルト様が旅を再開しようとしていた私に里に残っていてほしいと言ってくれたのは本当に嬉しかったです」

「そう、ワテクシも時間があれば行ってみようかしらね。

ところで、あなた達二人………」

「は、はい?」

 急にエリザベスの目の色が変わったのを見て、アリスは思わず身構える。

「単刀直入に聞くわよ、どっちから告白したのかしら?」

 

 

「ほえええ!?」

 予想だにしていなかった質問を受け、彼女の顔が一気に耳まで赤く染まる。

「そ、そ、そんなっ、ハルト様と私、そんな関係ではっ」

「あら、初々しい反応。でも、いずれ彼とそうなるかもしれないってこと、考えたことあるかしら?」

「私と、ハルト様が……………」

 エリザベスの言葉を受け、アリスはまだ顔が熱いまま俯き頭の中で思考を張り巡らせる。そして彼との日々を連想し、

 

「は、はわわわわぁ…………」

 アリスの顔は、熟したトマトのような真っ赤になってしまった。

「ごめんなさい、少しからかい過ぎたわ。でも少なくとも、彼はアリスちゃんを信頼してるはずよ。でなきゃ、わざわざ里から遠いドンドルマまで着いて来て、なんて頼まないはずだもの」

「は………はい、私も、ハルト様のことはすごく頼りにしています。モンスターと戦ってる時には、何度も助けてもらって」

「そういうの憧れちゃうわね、ワテクシはいつも一人で行ってるから。明日のハルトちゃんの活躍が楽しみね、それじゃお休み」

 言い終わると、エリザベスは手を振りながら部屋を出て行った。

 エリザベスが去り、アリス一人になった部屋は急に静かになったような気がした。嵐のようとはこのことを言うのだろう。だが、彼女の胸の奥は、今尚ドクンドクンと五月蝿いくらいに心音が響いていた。

 

 

 

 そして翌日、三人は砂原の拠点(メインキャンプ)でそれぞれの装備を確認していた。今回の相手であるボルボロスには氷属性の攻撃が有効であるとエリザベスから聞いていた為、ハルトはフロストエッジ、アリスは前回生産したマギアチャームを持ってきていた。

 そして、エリザベスはモノトーンカラーの長い棒の先に橙色の刃を取り付けた薙刀のような武器を背負っていた。アンバーハーケンという、氷牙竜ベリオロスの素材を使った武器であり、これも氷属性が付与されている。

「さてと、行き道でも話したけど、ボルボロスは基本的に頭を使った攻撃が多いわ。できるだけ横か後ろから攻撃を加えるべきね」

「分かった。アリス、ボルボロスと戦うのは初めてだけど頑張ろうな」

「は、はい…………」

 ハルトがアリスの方を見ると、彼女は素っ気ない返事と共に目を反らしてしまう。何か昨日気に障ることでもしたかと、ハルトは少し不安になってしまった。

 

「(どうしよう…………昨日、エリザベス様と話してから私、ハルト様の顔を見ると…………)」

 だが、それは正しくは顔を直視出来ない故の行動だった。果たしてその気持ちがエリザベスと話したことによるものか、もしくは元々持っていたものが表に現れたのかは、初めてそれを経験するアリスには分からず、当のハルトもそれを知らない。

 一抹の不安を抱えたハルトと、そのハルトに言葉で表せない気持ちを抱えるアリス。そして、二人を奥ゆかしい気持ちで見つめるエリザベスは、標的(ターゲット)であるボルボロスを目指し出発するのだった。

 

 

次回へ続く



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第19話:侵攻の土砂竜

 拠点(メインキャンプ)を出た一同は、エリア1に入る。今回は、ボルボロスとの狩猟経験があるエリザベスが二人を先導する形を取っていた。

 エリア1に入るとすぐに、猛烈な暑さが襲いかかってくる。耐えられない程ではないが、視界に広がる蜃気楼が余計に暑さを感じさせる。

「まだ砂原は二回目だけど、やっぱりこの暑さは慣れないな」

「でも、別の地方ではクーラードリンクという専用のアイテムがないと活動できないこともあるのよ。それに比べたら随分マシだわ」

 三人の近くには、後頭部に襟巻を持った甲殻に覆われた中型の草食モンスター・リノプロスが横たわっていた。リノプロスは敵を発見すると突進してくるため、気付かれないよう速やかに通り過ぎる。

 

 続けてエリア6も通過し、エリア5に到着するとハルト達の見慣れないモンスターが水溜まりの中心に立っていた。

「あれがボルボロスなのですか?」

「そうよ、初めて見た感想はどうかしら」

「見るからに硬そうですね、攻撃がなかなか通らなさそうです」

 アリスの言う通り、そのモンスター───ボルボロスは全身が岩肌のようなゴツゴツした褐色の甲殻で覆われ、特に頭部の甲殻は大きく、王冠のような形をしている。更に各部には泥を塗り付けており、土砂竜の名に違わない見た目をしていた。

 ボルボロスがこちらに気付くと、ゆっくりと三人のもとへ歩み寄って来る。そして、

 

「オオオォーーーーーッ!!」

 獣の如き咆哮を放ち、ハンター達を威嚇する。三人は成す術なく耳を塞いで立ち往生してしまう。

 開戦を告げる遠吠えが止み、ボルボロスはその場で尻尾を振り回して群がるハンターを薙ぎ払おうとするが、三人はギリギリで回避する。攻撃が終わったのを見てハルトは素早く斬り掛かるが、ボルボロスがこちらを向き剣は頭部に当たる。

「ってぇ………、確かに硬いな」

 フロストエッジは氷属性のダメージを与えるも、ガキンッという岩を殴ったような音と共に弾かれてしまう。その一方で、アリスはマギアチャームで脇腹を、 エリザベスはアンバーハーケンで脚を攻撃していた。お互いに硬い感触を受けながらも、弾かれることなく確実にダメージを与えていく。

 すると、ハルトの方を向いていたボルボロスが頭を振り上げる。そのまま地面目掛けて頭突きを喰らわせるが、ハルトは後転して躱す。しかし、

「うわっ!?」

 頭突きの拍子に、ボルボロスの頭部に被さっていた泥の一部が飛んで来たのだ。泥の塊はハルトに直撃し、ハンターメイルが泥だらけになるもダメージはほとんどない。

 続けて、ボルボロスが縮こまって何度か足踏みをすると、全身をブルブルと震わせ纏っていた泥の一部を撒き散らす。ハルトとアリスは不規則な地点に着弾する泥をジグザグに走って何とか避け切る。

 一方、既に距離を取っていたエリザベスが操虫棍を振るうと、右腕に停まっていた大型の甲虫がボルボロス目掛けて飛んで行き、頭部に一瞬噛み付くとエリザベスの元へ戻って来る。そして彼の腕に再び停まると、エリザベスの体が一瞬赤い光を纏う。

 これこそが操虫棍と呼ばれる所以となった、猟虫を駆使した自己強化である。猟虫は大型モンスターから部位ごとに異なる種類のエキスを吸い取り、主であるハンターに浴びせることでエキスに応じた効果を与えることができるのだ。

 ボルボロスは猟虫の攻撃でエリザベスに矛先を向け、彼の方を向くと頭を下ろし頭殻の出っ張りからシュウゥッと蒸気のようなものを噴き出す。刹那、その巨体からは想像もつかない速度で突撃する。

「アイツ、あんなデカい図体してなんて速さだ!」

「エリザベス様、避けてください!」

 しかし当のエリザベスは、向かって来るボルボロスを前にアンバーハーケンを構えたまま動かない。そして、

 

「とぅっ!」

 

 

「と………………飛んだ……!?」

 エリザベスは一度武器の刃を折り畳むと、操虫棍の先端を地面に突き立て、その勢いのまま跳躍したのだ。その体はボルボロスを軽々と飛び越え、突進を簡単に避ける。

 さらに、エリザベスはアンバーハーケンにしがみつくと柄頭から印弾を発射し、それを推進力として空中でボルボロスとの距離を詰める。そのまま操虫棍を車輪のように振り回し、ボルボロスの背中の泥を削ぎ落としていく。

「翔蟲を使ってないのに、あんなに空中で自由に動くことができるのか」

 ハルトは操虫棍の機動力に舌を巻きつつも、負けじとボルボロスの元へと走り、後脚に剣撃を浴びせる。土砂竜は先程と同じ泥飛ばし攻撃を行うが、ハルトは横転を繰り返して躱しながらも斬撃を見舞う。

 一方、少し離れた場所にいたアリスはマギアチャームを構えたまま翔蟲を放ち、糸を手繰り寄せてボルボロスに急接近する。その勢いを殺さぬまま武器を振るい、演奏で自己強化を行う。震打に並ぶもう一つの狩猟笛の鉄蟲糸技、スライドビートを使ったのだ。

 その直後にボルボロスが三人に背を向けて歩き出し、別のエリアへと移動を始める。アリスとエリザベスは一度武器を収め、砥石を使おうとするが、そこでハルトの様子がおかしいのに気が付く。今回はまだ目に見えて強力な攻撃を受けていないにも関わらず、彼は地面に座りこんで息を荒らげていた。

「ハルト様、どうかなさいましたか?体調でも悪いのですか?」

「悪い…………なんか、いつもより体が重い気がしてな」

「水やられになっているのね、ちょっと待ってなさい」

 そう言うと、エリザベスは近くに生えていた植物から青みを帯びた果実をもぎ、ハルトに手渡す。

「ウチケシの実を食べれば治るはずよ。ボルボロスの飛ばした泥を被ると、水気で体が冷えてスタミナが回復し辛くなるの」

「そうだったのか、打撃以外にも気を配る必要があるってことだな」

 ハルトは受け取った実を齧ると、一度伸びをして立ち上がる。

「心配かけて悪かったな、もう大丈夫だよ」

 その声を聞いてアリスは安堵し、エリザベスに続いて二人も砥石を使って斬れ味を回復させる。そして、移動したボルボロスの後を追ってエリア6へ向かうのだった。




 皆様、お久しぶりです。最近とある漫画を読み始めた作者です。

 まずは、更新が遅くなって本当にすみませんでした。
 初登場であるエリザベスは操虫棍を使うキャラのくせに、私は操虫棍を一度も使ったことがなかった為、アクションの描写に苦労しました。それで、攻略サイトを見ながら動きを何度も練習し、未だに不完全な知識のまま今に至るというわけです。

 そして、先日モンハンライズのアップデートが実施されましたね!やはり気になるのはバルファルクですね。私が大学生の頃遊んでいたダブルクロスのメインモンスターだったので、個人的にかなり嬉しいですね。まあ、作者はまだ戦えないんですけど(HR7)。

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第20話:不撓不屈の戦士

 ボルボロスを追ってエリア5へ到着すると、丁度ボルボロスは一同の方を向いており、三人を発見すると低く唸って威嚇する。

 まず、牽制とばかりにエリザベスが猟虫を飛ばす。今度は背中に噛み付き、エリザベスの腕に留まり先程とは違うエキスを彼に浴びせる。それに反応してか、ボルボロスはエリザベスの方に歩み寄り、地面に頭突きを繰り出す。直前に横に転がり、頭突きの直撃だけでなく泥も躱すと前脚を斬りつける。ボルボロスの前脚は他の部位より若干攻撃が通りやすいようで、先程までよりも簡単に刃が入っていった。

 その間、ハルトは後脚を、アリスは頭を攻撃する。演奏で強化されたマギアチャームの打撃は弾かれることなく、僅かながらも確実にダメージを蓄積させていく。

 しかし、そのまま攻撃を喰らいっぱなしでいるボルボロスではない。

「グォォォーーーーーッ!!」

 突進の予備動作と同じように頭殻から蒸気を噴き出し、咆哮を上げハンター達を威圧する。怒り状態になったのだ。三人はたまらず耳を抑えて立ちすくんでしまう。

 かと思いきや、アリスだけは動きを止められず攻撃を継続していた。自分の咆哮が聞いていない存在がいるのに気付いたボルボロスは、アリスに頭突きを喰らわせるが彼女は横転して回避、飛んで来る泥の射線から外れたことでそれらも避ける。

「アリス、どうして咆哮が効いていないんだ?」

「この狩猟笛の旋律のおかげです!」

 あらかじめ彼女はマギアチャームの持つ旋律効果の一つ、音の防壁を発動していたのだ。特殊な音を奏でることで、一度だけダメージをある程度軽減するバリアのようなものを纏うことが出来るのである。ハルトとエリザベスはその時離れていたので効果を受けられなかったが、モンスターの咆哮なら完全に防げる。

 初めて使う武器の性能を最大限に活用するアリスに感心しながらも、咆哮の影響から立ち直ったハルトはフロストエッジを振るい後脚を斬りつけ、一度距離を取ったエリザベスは猟虫で尻尾からエキスを採取して自身を強化する。

 一度ボルボロスはアリスに背を向け、移動するかと思ったアリスは武器を納めるが、その直後にボルボロスは顔をこちらに向け尻尾を振り上げる。危機を感じたアリスが横っ飛びに回避したすぐ後に、彼女の後ろに尻尾が叩き付けられ、尻尾の泥と砕けた地面の一部が飛び散る。

「アリスちゃん、大丈夫かしら?」

「はい、何とか………ボルボロスは頭を使った攻撃が多いと聞いていましたが、見たところ尻尾での攻撃も多いように見えます」

「そうね、だとしたら私とハルトちゃんで尻尾の切断を狙うのもいいかもしれないわね。尻尾の位置が高いから、片手剣のハルトちゃんは難しいかもしれないけど」

「でも、相手の攻撃範囲が制限されるなら狙うに越したことはない。やってみるか」

 作戦のやり取りを手早く済ませ、三人はそれぞれ別の方向に移動する。直後、三人の中心をボルボロスが突進で通り過ぎた。

 突進の後の隙を突き、アリスは三音演奏で自己強化と同時にハルトとエリザベスの体力を僅かに回復させ、音の防壁を付与する。エリザベスはアンバーハーケンで尻尾を斬り付けて泥を削ぎ落とし、ハルトは後脚を攻撃して転倒を狙う。そして、それまで蓄積していたダメージも加わり、ボルボロスの片足が地面から浮く。

 

 

「ガゥゥウッ!」

 

「何っ!?」

 だが、ボルボロスはそのまま転倒することはなく、もう片方の脚を踏ん張って持ち堪える。

 ボルボロス等の獣竜種に分類されるモンスターは、その発達した後脚により転倒しそうになっても踏み留まることがあるのだが、ハルトとアリスは初めて獣竜種と戦う為それを知らなかったのだ。

 ボルボロスはすぐに持ち直し、回転して尻尾を振り回す。驚いていたハルトは避けきれず、直撃を受け吹き飛ばされてしまう。

「ハルト様っ!」

 尻尾の攻撃は音の防壁でも勢いを殺しきれず、そのままハルトは受け身を取る間もなく地面を何度も転がり、倒れたまま起き上がれずにいた。そこへ、無慈悲にも追い打ちを仕掛けようとボルボロスが迫る。それを見たアリスは、ハルトの前にマギアチャームを構えて立ち塞がる。

「アリ………ス……?」

「私は今まで、2回もハルト様に窮地を救っていただいたのです。だから、今度は私がハルト様を守る番!」

 アリスは力強く叫び、迫り来るボルボロスの顔目掛けて狩猟笛を突き立てる。そしてマギアチャームを吹き鳴らし、鉄蟲糸を伝って音波がボルボロスの顔を震わせ、同時に頭の泥が弾け飛ぶ。

 

「グルゥゥ!?」

 

 震打が決まり、土砂竜は目を回して今度こそ倒れ込んだ。狩猟笛の音波攻撃は肉質を貫通する為、硬いボルボロスの頭に攻撃を通してスタンまで取ることが出来たのだ。勿論、今までアリスが喰らわせていた打撃の蓄積もあるだろう。

 ボルボロスが身動きが取れなくなったのを見て、アリスは素早く武器を背負ってハルトの元に駆け寄る。

「ハルト様、大丈夫ですか?」

「あぁ…………すまない、あのままアリスが反撃を喰らうかもしれなかったのに、わざわざ危険な目に遭わせて悪かった」

「ハルト様…………優し過ぎます。自分のことも心配してあげてください」

 アリスは泣きそうな声と顔でハルトに訴えかける。エリザベスは、少し離れたところから二人の様子を見ていた。

「とりあえず、ハルトちゃんは大丈夫そうね。

それにしても、あれが信頼できるチームメンバーってヤツか………

 

 

少し、嫉妬しちゃうじゃないっ!」

 エリザベスは二人を横目にアンバーハーケンを振るい、ボルボロスに突貫する。そしてアリスと体力を回復したハルトも、その後に続くのだった。

 

 

次回へ続く



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第21話:泥塗れの決着

 起き上がれず手足をばたつかせるボルボロスに、三人はそれぞれの場所から連続攻撃を加える。エリザベスは前脚、アリスは頭、そしてハルトは尻尾を狙っていた。

 そしてエリザベスのアンバーハーケンが前脚の泥をほぼ全て落とした頃、ようやくボルボロスは起き上がるが、まだ気絶から立ち直っていないのか出鱈目に頭突きをしたり尻尾を振り回したりしている。勿論、狙いの定まっていない攻撃は三人に当たらない。

 正気を取り戻したボルボロスは、口から涎を垂らして息を荒らげており、さしもの土砂竜も疲れているようだった。三人はその隙を見逃さずに攻撃を再開するが、ボルボロスは背を向けエリア11と呼ばれる地下洞窟へと入っていく。

「あそこは確か…………二人とも、出来るだけ早くエリア11に向かうわよ!ここまでの苦労が台無しになっちゃうわ」

「まさか、ボルボロスのエサ場があるのか?」

「ちょっと違うけど、そう思ってていいわ。とにかく、急ぐわよ」

 

 手早く砥石を使い終えた三人がエリア11に到着すると、ボルボロスは水溜まりの中で寝転がってゴロゴロと身体を擦り付けていた。

「少し遅かったみたいね………」

「あれって、まさか?」

 大方の予想通り、起き上がったボルボロスの身体には、最初と同じように泥があちこちに付着していた。エリザベスが言っていた苦労が無駄になるとはこのことだったのだろう。だが、先程エリザベスが攻撃していた前脚には泥が付いておらず、砕けた甲殻が露わになっていた。

「こんなこともあろうかと思って、前脚は部位破壊までしておいたの。部位破壊に成功すれば、その部分には泥が付かなくなるのよね」

 得意げに言いながら、エリザベスは再び猟虫を飛ばす。後脚からエキスを採り、彼の腕に留まり能力を上げさせる。それでこちらに気付いたボルボロスは三人に歩いて近付くものの、疲弊したその体の動きはあまりに遅い。

 ボルボロスは地面に頭突きをするが、既に三人は泥も当たらない位置に移動しており、ハルトとエリザベスはそれぞれ尻尾に攻撃を加える。アリスは演奏で自分を強化したのち、先程と同じように頭を殴っていく。

 邪魔者を追い払おうと尻尾を振り回すが、エリザベスは難なく躱し、ハルトは弾かれながらも盾でガードし、アリスは尻尾が迫る直前にスライドビートで距離を取る。カムラに来たばかりの頃は慣れない翔蟲の扱いに四苦八苦していたアリスも、練習と実戦を重ねたおかげで今ではハルトに並ぶほどに翔蟲を使いこなしていた。

 今度はボルボロスは全身を震わせて、泥を飛ばしてくる。ハルトとアリスは距離を取って避け、エリザベスは空中で操虫棍を振るって背中を何度も斬りつけ泥を落としていく。ボルボロスは自身の背を執拗に狙うエリザベスを追い払おうとするが、空中への迎撃手段がないらしく滅茶苦茶に頭や尻尾を振っていた。

 そして、泥の隙間から覗く甲殻にアンバーハーケンの刃を叩き付けると、背中の甲殻が砕けて破片が泥と一緒に飛び散る。

 泥を再び纏ったとはいえ、それまで与えたダメージは残っている。エリザベスは空中から背中を何度も攻撃していた為、部位破壊に成功したのだ。

 背中の甲殻を割られたボルボロスはたまらず大きく仰け反り、大きな隙が生まれた。地上にいた二人はそれを待っていたとばかりに鉄蟲糸技を用いて追い打ちを仕掛ける。ハルトは風車を繰り出し部位破壊された前脚の甲殻をフロストエッジが更に削り、アリスは震打で頭を狙い、もう一度頭部の泥を吹き飛ばす。

 度重なる攻撃にボルボロスは三人から逃げ出し、洞窟を出ていく。ハルト達も追いかけ、先程と同じエリア5に戻って来る形となった。

「さっき、ボルボロスは足を引きずっていたわ。もう少しで討伐できそうだけど、油断しないようにね」

 

 エリア5に到着し、エリザベスが牽制とばかりに猟虫をボルボロスの尻尾に飛ばす。猟虫の噛みつきで土砂竜は三人を見つけると頭から蒸気を上げ、重く響く咆哮を飛ばして再び怒り出した。そのまま顔を地面に向け、猛烈な勢いで突進する。

 だが三人は冷静にその突進を避け、すぐさま反撃に向かう。ボルボロスも身体を震わせて泥飛ばしで迎え撃とうとするが、泥を纏っていない場所からは当然泥は飛んで来ない。その結果、腰から後ろ辺りにしか泥が残っていないボルボロスは上半身が無防備な状態となった。

 ハルトとエリザベスは土砂竜を挟むように前脚を斬りつけ、アリスは三音演奏から気炎の旋律に繋げて自分を含むチーム全員を強化し、そのまま力いっぱいマギアチャームで頭を殴り付けた。

 

 

 

バッカァァアン!!!

 

 

「グワォォォ!?」

 

 

 直後、乾いた音と共にボルボロスの王冠のような頭の甲殻の上部、中央が少しくぼんだ丸い突起が並んだ部分が分離し、ゴトッと硬い音を立てて地面に落ちる。

「やった、部位破壊できました!」

「アリスちゃん、凄いじゃないの!」

 

 どうやらボルボロスの頭部は、ハンマーや狩猟笛による打撃系統の攻撃でないと部位破壊ができないらしい。アリスはいつも通りモンスターの気絶を狙おうとボルボロスの頭を殴り続けただけだったが、結果としてそれが功を奏して部位破壊に成功したようだ。

 ボルボロスは自分の頭の甲殻を壊したアリスにますます怒りを強めたらしく、勢いよく尻尾を振り回して辺りを薙ぎ払う。しかしそれだけでは終わらず、尻尾で地面を掘り起こして泥と一緒に土塊(つちくれ)を飛ばして来た。全く予期していなかった攻撃に、アリスは正面から泥の混じった土の玉をぶつけられる。それは思った以上に質量を持っており、アリスは軽々と吹っ飛んでいった。

「アリスっ!」

 

「あらあら、レディを泥で汚すイタズラっ子ちゃんにはお仕置きが必要ね」

 

シュザザザザザザッ!

 

 そう言うと、エリザベスはエキスを採取して自分を強化し、物凄い勢いで無数の斬撃を見舞う。そして、突進を華麗に跳躍で躱すと、落下重力も利用してアンバーハーケンを一閃させた。

「喰らいなさいっ!!」

 

 

「グオォォォォーーーーー……………」

 

 

 エリザベスの渾身の一撃を受け、ボルボロスは断末魔の叫びを上げズシンッと倒れた。そして、既に生気を失ったその体はもう動かない。

「討伐完了ね、二人ともお疲れ様。ごめんなさいね、最後においしいところ持っていっちゃって」

「いや、謝る必要なんてないよ。エリザベスがいてくれて本当に助かった」

「そうですよ、エリザベス様、本当にありがとうございました」

 ボルボロスの泥攻撃を喰らっていたアリスも合流し、泥だらけの防具をそのままにすぐさま感謝を伝える。それは気遣いではなく、心からの言葉だった。

「そう?二人とも優しいわね、さすがコンビを組んでるだけあるわ。

さて、それじゃあ剥ぎ取りと行きましょうか。ちなみに、ボルボロスの壊れた頭からも剥ぎ取りはできるわよ」

「そうなのか、素材を使うかは分からないけど一応やっておくか」

 

 そうして、素材を剥ぎ取った三人は一度拠点に戻る。その道中で、

「それにしても、三人での狩りって初めてだけど心強いな」

「そうですね、やっぱり仲間がいるのは有難いです」

「ええ、ワテクシも久しぶりにパーティを組んで狩りに行ったわ」

「ところで、俺達は里に帰ろうと思うけど、エリザベスはまだドンドルマにいるのか?」

 ハルトから質問を受け、エリザベスは少し考えた後、

「そうね、一度ワテクシの故郷の村に帰ろうかしらね。その村にいるハンターはワテクシだけだし、さすがにずっとハンターがいないのも心配だわ」

「そっか、じゃあ一度お別れか。また会ったら一緒にクエスト行こうぜ」

 

 

 その後、ドンドルマのハンターズギルドで依頼の達成報告を済ませ、エリザベスと別れを告げた二人はカムラに向かう定期船に乗る為アプトノス車に乗る事にする。二人はその車内で今回の遠征の話(主にエリザベス絡み)をしていた。

「それにしても、エリザベスは凄い人だったな」

「はい、最初は話し方で少し驚きましたけど」

「ちょっとじゃないよ、かなり驚いたって。でも、強さは本物だった。さすが一人で旅をしてるだけあるなぁ」

「ええ、私もカムラに留まるまでは旅をしていましたが、大変でした」

 しばらく話した後、ハルトは少し考えてこう言った。

 

「…………三人目か」

「えっ?」

「いや、今までは俺達二人でクエストに行ってただろ?今回の狩りで、三人目のチームメンバーを入れてもいいかもと思ったんだ」

「……………そう、ですね。私も、賛成します」

 

 

 次はどんなヤツがいいかなー、大剣とか攻撃力の高い武器を使うハンターもいいけどガンナーも欲しいなー、等とハルトが独り言を言う横で、アリスは神妙な顔をしていた。

 さっき、ハルトが三人目の仲間が欲しいと言ったとき、賛成するとは言ったが少し返事に迷ってしまった。

 このままハルトと二人きりで狩りをしていたい。

 でも、ハルトの言う通り仲間を増やしたい気持ちもある。

 そう考えるアリスの中には、一つの確信が生まれていた。

 

 

 

 

 自分は、彼が─────ハルトが好きだ。

 

 

次回へ続く




 皆様、こんにちは。作者のたつえもんです。

 ということで、いろんな意味で長かったドンドルマ編も一旦終わり、次回からはまた里での狩りが始まります。いやー、ボルボロスとの戦闘シーン大変だった!更新お待たせして本当にすみませんでした。
 以前も後書きに掲載したんですが、エリザベスが操虫棍を使うキャラなのに、私は今までゲームで操虫棍を使ったことがなかったんですよね。それで実際にエリザベスと同じアンバーハーケンを持ってボルボロスと戦いに行ったりもしました。エキスを管理する手間はありますが、操作がシンプルで動きも軽快でいいですね(個人的に一番驚いたのはXA同時押しのコマンドがないこと)。
 それにしても、最近すっかり暑くなりましたね。自宅と私の職場では既にクーラーが使われています。まだ6月なのに、7月に入って夏本番になったらどうなっちゃうんだろう………。過去シリーズにあったクーラードリンクが飲めればなあ。なんでライズのハンターは溶岩洞でも平気なんだろう?

 では、今回はこの辺りで失礼します。22話も執筆中ですので、もう少しお待ちください!
 最後まで読んでくださってありがとうございました!
 またお会いしましょう。


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第22話:未明の悪夢

 ハルト達がカムラに帰還してから、何度か里で依頼をこなして一ヶ月が立った頃のある日。

 

 

 黒い帳に覆われた空に月が浮かぶ夜、二人は一体の大型モンスターと対峙していた。

 場所はよく見慣れた大社跡。しかし、その相手のモンスターは見たこともない恐ろしい姿をしていた。全身の至るところから尖った角や甲殻が突き出ており、剥き出しの牙と双眸(そうぼう)は月光を受け鋭く輝いている。

「うぅ、こんなモンスター、私達本当に勝てるんでしょうか……?」

「確かに、アイツは強い。でも、諦めなければいつか勝利への糸口は見つかるはずだ」

 自分を鼓舞したハルトは剣を構え直し、モンスターを睨む。そして、大地を踏みしめ斬り掛かる。片手剣を何度も振るうが、その甲殻は硬く思うように刃が通らない。

 アリスも頭を狩猟笛で殴り付けるが、まるで手応えがなく、攻撃が効いているとはとても思えなかった。

 

「ゴルルルッ!」

 弾かれながらも何度も攻撃をしていると、そのモンスターは鋭い爪を持った太い腕を振り上げる。ハルトは横転で躱し、彼の立っていた地面がドガッという音を立てて砕ける。ハルトは今度は脇腹を斬りつけるが、やはり攻撃が効きづらいようだった。

 それを見て、アリスは演奏でハルトの攻撃を強化しようと試みる。一度笛を体の横に構え、柄に息を送り込もうと口を付ける。だが、その瞬間モンスターがアリスのすぐ近くに迫っていた。回避をしようにもこの距離では間に合わない。演奏の隙を突かれることは何度かあったが、今回のそれは今までとは段違いの危険度だ。

「しまっ……………!」

 もう駄目だ─────アリスはあまりの恐怖に、両目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、いつまで経っても痛みを感じない。おそるおそる目を開くと、そこには────

 

 

「ぐっ………………う………」

 

 

「ハ…………ハルト様!?」

 

 ハルトが自分の前に立ち塞がり、真っ直ぐモンスターを睨んでいた。だが、モンスターの尻尾の先はハンターメイルを貫き、腹に深々と突き刺さっている。

「ハルト様、そんな……………私を庇って……」

「ア………リス、大、丈夫っ、ぐふっ」

 ハルトが咳き込むと、口から赤いものが垂れてくる。それが何であるか、頭で理解してはいるが理解したくない。認めたくない。

 やがて、尻尾がずるっと抜けると、彼の口と腹の傷口からどばっと赤黒い液体が溢れ、ハルトは力を失ってその場に倒れ伏した。

 

「そんな……………ハルト様、ハルト様っ!」

 アリスは武器を放り出し、ハルトのもとに駆け寄り何度も名を呼び体を揺する。

「ハルト様っ、ハルト様!しっかりしてください!ハルト様!!」

 だが、アリスの必死な呼びかけも虚しく、目を閉じ口元と腹を真っ赤に染めた彼は動かない。

「……………………そんな、うそ………です、よね?」

 そんなハルトの様子に、アリスの目から光が失せる。ハルトを討ったモンスターは、口を開けて吠えながら、赤い雫の残る尻尾を振るいアリスを威嚇する。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーっ!!!」

 夜の大社跡に、少女の悲鳴が響いた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ………………!?」

 

 気が付くと、アリスの視界に入って来たのはすっかり見慣れた光景。ハルトの家の、アリスの自室となった部屋だった。よほど汗をかいたのか、前髪は額に貼り付き、寝間着は湿って全身にピタッと纏わりついている。窓を見ると、朝日が山々の間から漏れ始めており、普段彼女が起きる時間よりずっと早い時間だった。

「今のは…………夢、だったのですか」

 ふうっと溜息を零し、安堵すると同時に、胸の中にえも知れぬ不安が渦巻くのを感じる。あれは夢にしてはあまりにリアルで、どうにもただの悪い夢で終わらせられない気がした。

 とりあえず、寝汗で濡れた服を着替えようと思い、倦怠感で重い体を起こしてタンスに手をかける。すると、

 

「どうした、アリス?大丈夫か?」

 バタバタと足音を立て、ハルトが部屋に入って来た。後で聞いた話だが、この時彼は早い時間に目が覚めてしまい、水を飲んでいたらアリスの部屋からうなされる声が聞こえてきた為様子を見に来たらしい。

「ハルト…………………様…………ううっ………」

 夢では得体のしれないモンスターに倒されたハルトが、今自分の前で立っている。アリスはすっかり安心し、涙を零していた。

「ど、どうした!?何かあったのか」

「いえ、少し怖い夢を見てしまって……………でも、ハルト様の顔を見たら落ち着きました」

「そ……………そうか、なら良かった」

 と言いながら、ハルトは顔を背ける。何事かとアリスが首をかしげた直後、ハッとする。

 

 

 先程アリスは起きた後、濡れた服が体にくっ付いているのが嫌だった為に寝間着を脱ぎ、更に下着も汗を含んでいたのでそれらも外した上でタンスから着替えを出そうとした。つまり、

 

 今の彼女は全裸だったのである。

 

「…………………っ!!」

 

 

 アリスは一瞬で顔を真っ赤に染め、声にならない悲鳴を上げた。

 勿論これは夢の中ではなく、今度こそ現実である。

 

 そして、その叫び声は里にいる人のうち半分以上を叩き起こしたという。

 

 

次回へ続く




 皆様、こんにちは。作者です。

 ということで、前回からたった半日で次話を投稿するという、当サイトでも異例のスピードの更新です。
 今回のストーリーは物語の構想段階でもかなり初期から考えていたので、字におこすのも簡単だったのです。

 では、少し短いですが今回はこれで失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第23話:事故のち出会い

 あの後、家での二人の騒動は瞬く間に里の間に広がり、今は住民のほぼ全員がハンターズギルドに集まっていた。

 

「ゔぁあぅぅぅ~~、もぅお嫁に行けませぇん~~~っ」

「わ、悪かったよ。心配していたとはいえ、ノックもせずに入ったのは良くなかったよな」

 そして、張本人である二人のうち、アリスはテーブルに顔を伏せて大泣きしている。ハルトはその隣に座り、何度も謝罪の言葉を口にするが、謝ったとてすぐに許されるものではないと彼自身も理解していた。

「まぁ、なんだ………ハルトも悪気があったわけではなかろう。儂からも頼む、許してやってはくれんか。」

「ふぐぅ……………皆様、この度はご迷惑をおかけしました。本当にすみません」

 アリスはどうにか泣きやみ、涙を拭うと住民達に向き直り頭を下げる。

「いや、アリスに非はないはずだろ?どうして謝るんだ」

「私の行動で、こんなに大勢の方を集めてしまったのです。これで私に非がないとは言えません」

 アリスの否定を許さないと言わんばかりの発言に、集会所が重い空気で包まれる。

 

「そ、そうです。お二人とも、せっかく集会所にいらしたのですから、クエストを見てみてはいかがです?」

 しばしの沈黙の後、ヒノエが場の空気を切り替えようとぽんと両手を打って明るく二人に提案する。

「そう、だな。いつまでもくよくよしてちゃ駄目だよな」

「そうですね。ミノトさん、今はどんなクエストが入っていますか?」

「少々お待ちください、確認致します」

 ハルトとアリスはそれに応じ、書類を調べるミノトを待つ。そして数分後、

 

「お待たせしました、新しいクエストが届いています。内容はドスフロギィの狩猟依頼、場所は水没林です」

 ミノトから告げられた言葉を聞き、二人は固まってしまう。何故なら、二人はドスフロギィと戦うのも、水没林に行くのも経験がないのだ。

「お恥ずかしながら………私、水没林には行ったことないですし、毒攻撃をするモンスターとも戦ったことがないのです」

「あぁ、俺もアリスと同じだ。でも、だからって依頼を受けないわけにはいかないよな。苦戦するかもしれないけど、頑張ろうな」

「は………はいっ」

 アリスは返事をしたが、自身がないことは明らかだった。空気を変える目的だったはずのヒノエの提案は、裏目に出て余計に空気を重くしてしまった。再びギルド内が沈黙すると、

 

 

 

「おはようさん。おろ、なんや人おるやないけ」

 

 不意に、聞き慣れない訛りが混じった声が聞こえてくる。

 入口を見ると、ハンター用の武器と防具を身に着けた青年が入って来ていた。

「えらい静かやったから、まだ誰もおらんかと思っててんけど、ちと安心したわ。ほんで、何やこの空気?」

 天然パーマのかかった桃色を帯びた茶髪と、深い藍色の目をした人懐っこそうな顔立ちは、独特な話し方と相まって剽軽(ひょうきん)な雰囲気を醸し出し、心なしか場の雰囲気も少しなごんだように感じる。

「防具を着てるってことは、あんたハンターか?実はな…………」

 

 

「なるほどー、そういうことならボクも協力したってもええよ。ドスフロギィは何度か倒してるし、水没林も行ったことあるしな」

 ハルトから一連の流れを聞くと、その青年は快く協力の意を示した。

 確かに、彼が着ている異国のガンマンを思わせるような橙色の防具は、ドスフロギィやフロギィの素材を使用したフロギィシリーズだ。一体や二体討伐した程度で素材が集まるものでもないし、彼の言葉に嘘はないだろう。

「本当ですか?ありが…」

「た、だ、し!」

 感謝を伝えようとするアリスを遮り、青年はビシッと人差し指をハルトの眼前に立てる。

「ギブアンドテークや。ボクがドスフロギィ狩猟に協力する代わりに、君らにはこちらの出す条件を一つのんで貰うで」

「条件だと?どんなのだよ」

「そうやなぁ、今回の依頼を達成したら、報酬の分け前はボクが一番多く貰う、ってのはどや?」

 言い終わると、青年はにやっと笑みを作る。その屈託のない純粋な笑顔が、それが様子見でも何でもなく、心から出た言葉であることを表している。

「それだけでいいのか?俺は構わないが、アリスはどうだ」

「はい、私からもお願いします。私も元より、報酬目当てで依頼を受けるつもりではありませんでしたので」

 二人が了承をあっさり受けたことに対し、青年は少々呆気にとられているようだった。

「こら驚いた!あんたら、金に対して執着ってもんはないんか?」

「俺からしたら、そこまで執着心が強いほうが珍しいと思うけどな」

「んー…………ま、ええわ。とりあえず、パーティは成立やな。ボクはユリウス・ライザー、ユーリって呼んでくれや」

「ハルト・クルーガーだ、よろしく頼む」

「アリス・フューリと申します。ユーリ様、よろしくお願いしますね」

 三人のハンターは律儀に挨拶を交わし、その後フゲンの提案もありユーリが里に滞在する間はアリスの時と同様にハルトの家に泊まることになった。

 

「悪いのぉ、わざわざ部屋まで貸してもろて。ホンマ、この里の人らはお人良しっちゅーか何ちゅーか」

「そりゃどうも。それで、今日の夜には水没林に出発するんだろ?今のうちにドスフロギィの情報を教えてくれよ」

「せやな、じゃあ早速やけど、ドスフロギィの特徴といえばやっぱ毒ブレス攻撃や。これには毒液をそのまま吐き出す弾速の早いものと、ガードできひん霧状のものがあんねん。どちらにせよ、解毒薬と漢方薬は必須やな」

「でしたら、私のマギアチャームは旋律で毒を消すことができますので装備していきますね」

「そら助かるわ、でも過信は禁物やで。ほんで、他の鳥竜種と同じように配下のフロギィを呼ぶこともあるから、常に周囲に気を配る必要があるな」

 ハルトとアリスはふんふんとユーリの話を聞きながら、ポーチの中にアイテムを準備していく。

「そして、ドスフロギィは喉元に毒を作る器官があるから、頭を部位破壊すればブレスを弱体化させられるで。まぁ正面に立つ分、ドスフロギィから攻撃を受けるリスクはあるけどな」

「でも、毒攻撃を封じることができるなら狙う意味はあるな。チャンスがあれば頭を狙うことにしよう」

 

 その後、一通りの作戦会議を済ませ、三人はその日の夜ポポ車に乗って水没林へと向かうのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、こんにちは。作者です。

 ということで、今回はまた新しいハンターが二人のもとに現れました。果たして彼はどんな武器を使うのでしょうか?
 ちなみに彼の話し方ですが、私は関西出身ではないので漫画やアニメの登場人物を参考にしています。どこかおかしな部分があったらごめんなさい。
 次回はドスフロギィとの戦闘が始まります!お楽しみに。

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第24話:水没林への道中で

「しっかし、キミらのいる里はホンマにおもろい所や。雰囲気はええし飯もうまいし、何より翔蟲っちゅうの?あんなん今まで見た事ないで」

 

 水没林に向かうポポ車の中では、ユーリがマシンガントークを繰り広げていた。その中で、彼が偶然カムラに立ち寄っていたこと、ハルトと同じ17歳だということも分かった。狩りのフィールドに向かっているにしては緊張感がないと言えるが、逆にそのおかげで三人の間の空気は柔らかくなっていた。

「それにしても、本当によく喋るな。ずっと話してて疲れないのか?」

「ボクからしたら、隣に人がおるのに黙ってる方が苦痛やねん。フィールドに出たら喋ってる暇はなくなるから、今のうちに話しとかんと」

「そういえば、ユーリ様はどうしてハンターになろうと思ったのですか?」

「何でって、そんなん決まってるやんけ」

 アリスが質問すると、ユーリは愚問だと言わんばかりに二人の方を真っ直ぐ見て、

 

「稼げるからや」

 親指と人差し指で輪を作って、それを見せつけながら笑顔で話し続ける。

「世の中は(コレ)で回ってんねん。ハンターっていう職業に反感を持つ人も多いけど、モンスターに苦しむ人はそれ以上にいる。この情勢で、依頼を受けて報酬を受け取る、っていう正当な稼ぎ方ができるのはハンターが一番適してると思わんか?」

「まぁ…………話は分からんでもないが、どうしてそんなに金にこだわるんだ?」

「おおっと、その辺にしといてくれや。あんまり人の経済事情に首を突っ込むのはご法度やで」

「ま、言いたくないなら無理に話す必要はないけどさ。それよか、もうすぐ水没林に着くみたいだな」

 外套の隙間から見える景色が変わったところで、三人は会話を切り上げ(話していたのはほとんどユーリだが)、外していた頭用防具を着けて武器を持つ。

 

 

 水没林はその字が現す通り、湿地帯の中の林となっているフィールドで、年中高い降水確率を保っており、フィールド全体における水辺の割合も高い。湿度が高いため蒸し暑く、人間にとって居心地はいいわけではない。だが、虫にとっては絶好の場所らしく、水没林にのみ生息する昆虫もいる為、その手のコレクターが依頼を出すことも多いのだ。

 

 拠点(メインキャンプ)に到着するやいなや、ムッとした湿気が漂ってくる。更に羽虫もそこかしこに飛んでおり、あまり長居したい場所ではないというのが率直な感想だった。

「ふぅ、どうもジメジメした場所だな。砂原とはまた違う暑さって感じだ」

「ボクは何度か来てるけど、やっぱり慣れへんな。帰ったら風呂入りたいわ」

 短く言葉を交わし、三人は支給品ボックスの中のアイテムを均等に分ける。支給品の中には解毒薬も含まれていたが、それだけで足りるとは初めから思っていなかった為三人とも十分な量の解毒薬に加えて、毒を消すだけでなく体力を少し回復する効果のある漢方薬を里から持参して来ていた。だが、支給品の中にはハルトとアリスが見慣れないものが入っていた。

「何だこれ、肉か?」

「モンスターと戦う時に使う肉エサや。食べちゃアカンで?」

 今回の三人の武器は、アリスは旋律で解毒ができるマギアチャーム、ハルトはイーズルシックル、そしてユーリはライトボウガンであるクロスブリッツを持って来ていた。

 ハンターの武器の中で、ボウガンと呼ばれるものはライトボウガンとヘビィボウガンに分けられ、そのうちライトボウガンは一撃の攻撃力は低いものの、機動力の高さと速射が売りの武器である。

 

 今回はドスフロギィの狩猟経験が多いユーリが先導する形を取ったのだが、ハルトは先程から気になる点があった。

 彼はフロギィヘルムの、本来なら目元から下を隠すように着けるスカーフを、首元に下ろして鼻と口を出していた。だが防具を着崩すハンターは少なくないし、それだけならいいのだが、ユーリは更にクロスブリッツを左肩から斜めに背負っていた。ライトボウガンを携行する際は、普通は右肩から真っ直ぐ垂直に背負うはずなのだが、何か彼には拘りでもあるのだろうか。

 そんなことを考えながらユーリに付いて行くうちに、三人はエリア1に到着する。

 そこでは緑色の分厚い皮膚をした垂皮竜ズワロポスが二匹ゆったりと歩いていた。ユーリはそれらを無視して、小高い丘の崖下に向かう。ハルト達も少し遅れて到着すると、そこには青く光る鉱脈があった。

「へえ、拠点から近いところに鉱脈があるのか」

「ボクは水没林で依頼を受けたら、毎回ここで採掘をしてからモンスターのところに行くんや。それに」

 一度言葉を切り、ユーリは手にしたつるはしを鉱脈目掛けて振り下ろすと、その一部が砕けて色とりどりの鉱石となって飛び散る。アリスはその中に、寒冷群島で見つかるアイシスメタルに似た白い光を放つ鉱物を見つける。

「これ、ライトクリスタルじゃないですか?採れる場所が限られる珍しい鉱物ですよ」

「こんな風に、水没林でしか採れない素材もあるしな」

 その後、ハルトとアリスも交代で採掘をしてから、分かれ道の先のエリア10に向かう。そして、それは坂を登った先にいた。

「おったで、あれがドスフロギィや」

 毒狗竜ドスフロギィは鳥竜種に属するだけあって、これまでハルト達が戦ったオサイズチやドスバギィと似た姿をしているが、全体的に丸みを帯びた流線型の体型で、ユーリのフロギィシリーズと同じ少し暗い橙色の皮を持っている。そして、喉元には紫色の膨らみがあり、目は蛇のようにギョロリとしていて不気味な印象を覚える顔立ちで、有毒なモンスターらしく見るものに危険をアピールする見た目をしていた。

 最初にユーリが背負っていたクロスブリッツを構え、牽制としてLv1通常弾を発射する。それはドスフロギィの背中に命中するがダメージはほとんどなく、しかしこちらの存在を知らせるには十分だった。ドスフロギィは三人に近付き、近くにいたフロギィもそれに続く。

「グォォォォオッ!」

 ドスフロギィが低く唸り、三人の戦いが始まった。

 

 

次回へ続く



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第25話:毒に塗れた水没林

 三人を威嚇したドスフロギィはまず、嘴を開いて噛み付こうとするが、三人は各々違う方向に回避。続けて尻尾を振り回すも、これも距離をとっていた為当たらない。アリスはいつも通り攻撃の合間を縫ってドスフロギィの頭を狙い、小回りの効くハルトとユーリは周囲のフロギィを掃討していく。

 

 そうして三人で連携して攻撃を重ねていると、アリスの方を向いたドスフロギィの首元の袋が膨らんでいた。アリスは咄嗟に横転し、直後に毒狗竜の口から紫色の粘ついた液体が吐き出される。液体はそのまま放物線を描いてべしゃっと音を立てて地面に落ち、そこに生えていた草がみるみる萎れていく様子から、それが毒液であることは明確だった。

 アリスは毒液から漂う刺激臭に顔をしかめながらも、ドスフロギィへの攻撃を再開する。近くにいたフロギィを仕留め終えたハルトも加わるが、ドスフロギィは後ろに大きく跳躍して二人の攻撃を躱した。

 ハルトは短く舌打ちをしてドスフロギィを追うが、対する毒狗竜もハルトの方に近付いて来る。そして体当たりを躱すと、ハルトは何かを閃いて武器を収め、ドスフロギィの視界から外れるように小走りしながらポーチに手を突っ込む。

「よし、試してみるか」

 小声で呟くと、ハルトは先程の肉エサを地面に置く。動きが早いドスフロギィに隙を作り、攻撃のチャンスを生もうと考えたのだ。

 

「ハルトはん、ちゃう!それはモンスターに食べさせるもんやない!」

「何っ!?」

 ユーリが声を挙げてハルトに知らせるが、それがまずかった。予想外の反応にハルトは動きを止めてしまい、そしてドスフロギィも背後の存在に気付いたのだ。そしてハルトがしまったと思い前を向いて剣を構えた時には、目の前でドスフロギィが喉の袋を膨らませていた。

 

「ゴワォォォッ!」

 刹那、ドスフロギィが紫色の霧を吐き出す。ハルトは避ける余裕もなく、正面から毒霧を浴びてしまう。

「ハルト様っ!」

「アカン、今行ったらアンタまで毒を受けてまう!」

「でも………!」

 

「ぐぅ……………っ」

 やがて霧が晴れると、中にいたハルトは青い顔をして片膝をついており、見るからに具合が悪そうだった。その隙を逃さずドスフロギィが体当たりを喰らわせ、ハルトは軽々と吹き飛ばされる。

 それを見たアリスは悲痛な表情を浮かべ、スライドビートで一気に距離を詰め連続して打撃を叩き込む。ドスフロギィはアリスに狙いを変え、尻尾攻撃で反撃に出る。肉薄していたアリスは躱しきれず、尻尾の先が少し肩に当たってしまったが、彼女は気にせず攻撃を続ける。

「あのアホ、冷静さを失っとる!」

 ユーリは弾丸をLv2通常弾に切り替え、速射でドスフロギィを狙撃する。だが、素早く動き回るドスフロギィになかなか狙いが定まらず、背中や尻尾をかすめる程度にしか当てられない。すると、

 

「二人共、目閉じろ!」

 聞こえてくる声に二人は咄嗟に目を瞑る。直後にドスフロギィが悲鳴を上げ、まばゆい光がエリアを包んだ。目を開けると、ドスフロギィは目を開けられず狼狽している。その間に、ハルトは二人のところに戻って来ていた。

「ハルト様!大丈夫ですか」

「あぁ、とりあえずな。心配かけてすまなかったな」

 漢方薬を飲み終えた後、応急薬も飲んだハルトは顔色も元通りになり、体力も幾分か回復したようだった。

「って、ハルトはんもええけど、アリスはん。ジブン、何の為にマギアチャームを持って来とんねん。まずはハルトはんの毒を治すんが先やろがい」

 ユーリの言葉を受け、アリスははっとする。

「す、すみません…………私としたことが、冷静さを欠いてしまって」

「いいよ、もう終わったことなんだから。毒はこの通り治ったし、次に失敗しなければいいさ」

「ま、いつまでもしょげてても仕方あらへんなっ」

 と言い、ユーリはクロスブリッツを構え直す。そこで、彼がボウガンを構える姿を初めて注視したハルトはようやく気付く。

 多くのライトボウガン使いのハンターは右手でグリップを握り、左手で銃身を支える体勢になるのだが、ユーリはその逆、左手でグリップを握って右手で銃身を支えていた。

 ユーリは左利きだったのだ。ならば、今までの独特なライトボウガンの背負い方にも納得できる。

「そらっ!」

 閃光玉の効果を受けたドスフロギィに、ユーリはLv2通常弾の速射を撃ち込む。先程と違い、標的は動き回っていないため的確に銃弾を命中させていく。

 その一方、ハルトとアリスは反対側からドスフロギィを攻撃する。アリスは頭を、ハルトは胴体を攻撃する。そしてアリスが震打を決めると同時に、ドスフロギィも視界が回復した。

「グォッ、グォオーーッ」

 三人を視界に捉えた毒狗竜は目を血走らせながら白い息を吐いており、明らかに怒っているようだ。そのまま二人を追い払おうと尻尾を振り回すが、アリスはスライドビートで躱し、ハルトは盾を構えて衝撃に後ずさりしながらもどうにか防ぐ。

 続けてドスフロギィは毒袋を膨らませ、毒液を発射する。アリスとハルトは横に跳躍して斜線から外れるが、毒液は二人を大きく超えていく。

「まさか、ユーリ!?」

「のわぁっ!?」

 完全に意表を突かれたユーリは慌てて横転するが、毒液が少しかかってしまったらしく、解毒薬を取り出そうとポーチを探っていた。それを見て、ユーリのもとに駆け寄ったアリスはマギアチャームの旋律を解放し、解毒効果のある音色を響かせる。その音を耳にしたユーリの身体からは毒が消え、更に体力も僅かに癒えた。

「ありがとな、今度はちゃんとできたやん」

「何度も同じ失敗は繰り返しません!」

 そう言い終えると、ユーリに追撃を加えようと接近していたドスフロギィに三音演奏の打撃を叩き込む。自身の能力を上げ、加えてパーティ全員に体力回復と音の防壁を付与する。

 攻撃を受けたドスフロギィは三人から離れて行き、別のエリアへ移動を始めた。それを見届けた三人は、砥石を使ったり弾の装填をする等して各々体制を整える。

「そういえば、この肉エサはモンスターに食べさせるものじゃないって言ってたけど、どうやって使うんだ?」

「それは水辺で使うんや。チャンスを見てボクが使うから、貸してみ」

 その言葉に従い、ハルトは持っていた残りの肉エサをユーリに渡す。ユーリはそれをポーチに入れ、全員の準備が終わったのを確認すると三人はドスフロギィを追うのだった。

 

 

次回へ続く



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第26話:毒が紡ぐチームの絆

 ドスフロギィを追って素材を採取しつつ水没林を移動しながら、三人が再びドスフロギィと遭遇したのはエリア8だった。既にドスフロギィは新手のフロギィを従え、モンスターの死骸の近くに陣取っていた。

 フロギィの一匹が三人を見つけて声を上げ、それに反応したドスフロギィも三人に向かって口を開け威嚇する。自身を痛めつけた相手を見たことで先程の怒りがぶり返してきたのか、再び毒狗竜は白い息を吐き怒り状態になる。

 手始めにドスフロギィは牽制とばかりに毒液を吐き出すが、距離があった為三人は余裕を持って回避する。続けてドスフロギィはハルトに狙いを定め、飛びかかって来る。ハルトはこれを盾を使って防ぐものの、片手剣の小さな盾では威力を完全に無くすことができず、大きく後ずさって腕を弾かれてしまう。体勢を崩したハルトにドスフロギィは追い打ちしようと接近するが、

 

ボォォンッ!

 

「ギャゥウ!?」

 突如、毒狗竜の足元で小規模な爆発が起こり、予期していなかった衝撃にドスフロギィは怯んで動きを止める。その隙にアリスが突貫し、後脚にマギアチャームを叩きつけると、それまで受けていたダメージも重なりドスフロギィは転倒した。

 横倒しになったドスフロギィの近くを見ると、小さな装置が地面に仕掛けられていた。先程の爆発は、これが原因だったのだろう。

 速射と同じく、ライトボウガンの機構の一つである起爆竜弾。あらかじめ地面に仕掛けておくことで、衝撃に反応して爆発しダメージを与えるのだ。

 

 起き上がれないドスフロギィに、ユーリはLv2通常弾の速射を、アリスは狩猟笛の打撃を浴びせていく。ハルトも加わろうとするが、フロギィが行く手を阻む。更にもう一匹のフロギィがユーリの射線に現れ、ドスフロギィに攻撃できるのは再びアリス一人になってしまった。ドスフロギィもオサイズチと同様に、フロギィの群れを統率する力を持っているため、親玉のドスフロギィの危機を見て子分のフロギィ自ら邪魔に入ったのだろう。

 ハルトとユーリは歯がゆい思いをしながら、仕方なくフロギィの相手をする。その一方で、ドスフロギィは起き上がり攻撃をしていたアリスに噛み付こうと口を開く。アリスは横転で躱すが、彼女はドスフロギィに集中し過ぎるあまり、背後から迫る一匹のフロギィに気付けていなかったのだ。

「ガゥゥ!」

 

「あっ!…………しまっ、くぅぅっ」

 彼女がそれに気付いたのは、背中に微弱な衝撃を受けてのことだった。フロギィの毒液を喰らったのだ。ドスフロギィのものに比べると効果は薄いが、それでも人間には十分有害であり、がっくりと膝を付いてしまう。アリスはマギアチャームの旋律で毒を消すことができるものの、腕に力が入らず狩猟笛を構えることができない。

 アリスは武器を背負い、アイテムを使うため走ってモンスターから距離を取る。それと入れ替わる形で、フロギィを仕留めたハルトがドスフロギィに突撃し、首元目掛けて剣を振るう。毒袋は意外と丈夫で、切れ込みが入ってもなかなか破れない。

「ちぃ、結構固いな………分厚いゴム風船みてぇだ」

 ハルトは一度前転でドスフロギィの毒液を回避し、ユーリも遅れてドスフロギィへの射撃を再開する。アリスは解毒薬で毒を治すことに成功したものの、フロギィと交戦中だったのですぐには合流できないだろう。

 と思ったその時、ドスフロギィがハルト達に背を向けると、アリスに接近する。彼女もそれに気付いてはいたが、戦っていたフロギィの毒液を避けた隙に体当たりを受けてしまう。

 地面を転がり、クルルシリーズを泥だらけにしながらもマギアチャームを杖代わりにどうにか起き上がり、武器を構えるが直後にドスフロギィはエリアを移動する。

「アリス、大丈夫か?毒攻撃を受けた上に体当たりまで喰らってたが」

「はい、毒は消しましたし、体当たりもとりあえずは大丈夫です。今、回復薬を」

 と、ポーチの口を開けようとしたところで、アリスは違和感を覚える。先程に比べて、重心が下に集中している気がするのだ。そしてポーチの中身を半分ほど地面に置いたところで、不安は的中した。残ったポーチの中身を見ると、青みを帯びた液体に、ガラスの破片と水浸しになった紙包みが浮かんでいた。解毒薬の瓶が残らず割れてしまい、薬包紙にくるんでいた漢方薬も解毒薬に浸かって駄目になってしまったのだ。

「うぅ、多分さっきのドスフロギィの体当たりを受けた時の衝撃で………」

「あっちゃー、ついてへんなあ」

 アリスは解毒手段が自身のマギアチャームによる演奏しかなくなってしまい、地面に座り込んで俯いてしまう。毒を治そうにも、先程のように自分が毒を受けていては満足に狩猟笛を扱うことができず、実質的に毒を治療する手を失うこととなった。

「しっかりしなよ、アリス。俺の解毒薬と漢方薬を分けてやるから」

「ですが、それではハルト様の分が……」

「俺達はチームなんだ、助け合ってこその仲間だろ?それに、俺が毒を受けちまったらアリスの狩猟笛で治してくれよ」

 ハルトはそう言って、にやっと口元に笑みを作ってみせる。その言葉が、アリスの心にはとても強く響いたらしく、彼女は不安を振り払うように力強い眼差しでハルトを見つめ、

「…………分かりました、そういうことでしたらお受け取りします。私も、ハルト様を信じます」

「(この二人、まだチームを組んでから半年も経ってへんらしいやん。それでこの信頼…………)」

 その一方、ユーリは弾丸を装填しながら二人の様子を伺っていた。

 この時、三人の頭には三様の思いが浮かんでいることを、本人達はまだ知る由もない────。

 

 

次回へ続く



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第27話:紫水の決着

 あの後各々準備を済ませ、三人は今エリアの半分以上が水辺となっているエリア2でドスフロギィと対峙していた。毒狗竜は口から涎を零しており、ダメージの蓄積で疲れているようだった。更に三人のハンターとしての勘が、もう少しで討伐できると言っている気がした。

 

「グォォッ、グワォォォ」

 だが、ドスフロギィも武器を構えるハルト達を睨みつけており、戦意を失ってはいないようだ。

 まず毒狗竜が口から得意の毒攻撃を仕掛けようとするが、疲れの影響か吐き出す毒液が著しく少なくなっている。それは三人にとって絶好のチャンスとなった。アリスが頭を殴り、ハルトが尻尾を斬りつけ、そしてユーリが胴体を射抜く。三人の間には、今日初めてパーティを組んだとは思えない無言の連携が産まれていた。

 対するドスフロギィは体当たりで反撃するが、疲れた身体の動きは遅く、ハルトは楽々回避する。そこへアリスがスライドビートで距離を詰め、気炎の旋律に繋げて全員の攻撃力を高める。それを受けたハルトは尻尾攻撃を躱すと、再び接近して風車を繰り出して無数の斬撃を見舞い、ユーリもLv2通常弾の速射で攻撃する。

「ゴアォォォッ!」

 三人の総攻撃に、ドスフロギィは再び怒り出した。そして自身の頭を執拗に狙っていたアリスの方を向き、口を開けて毒液を吐き出す。アリスは震打の構えに入っていた為、避けられずに正面から浴びてしまった。

「くぅっ………………けほっ、けほ」

 毒を受けたアリスは体勢を大きく崩し、口を抑えて何度も咳き込む。解毒薬を使う為、どうにかドスフロギィから距離を取ろうと重い足取りで歩き出すが、毒狗竜がそれを許さず追撃に向かう。

「させるかっ!」

 ハルトはそれを阻止しようと、翔蟲を出して空を駆け、すれ違いざまにドスフロギィの頭を一閃。更にその勢いのまま跳躍し、落下重力と共に盾を頭に叩きつけた。

 片手剣が使えるもう一つの鉄蟲糸技、飛影からのハードバッシュと呼ばれる連携技。片手剣の中でも有数の威力を持つ打撃攻撃であり、大きく空中に飛び上がる必要がある為編み出された当初は難易度の高い技能だったが、ホムラ地方では翔蟲を絡めることで大幅に出しやすくなっていた。

 

 突然頭に強打を受けたドスフロギィは、ハルトに狙いを定めて喉元の毒袋を膨らませる。ハルトは盾を構えガードの姿勢を取るが、吐き出された毒霧は盾など関係なくハルトを包み込む。

 当然、毒霧を浴びたハルトは毒に犯されてしまい、青白い顔で膝を付いてしまう。だが、背後のアリスは解毒薬を飲み終わっており、マギアチャームの旋律を解放してハルトを解毒する。

 その隙を突き、ドスフロギィは再び喉袋を膨らませ、毒を吐く体勢に入る。しかし、

 

ボォンッ!

 

「ギャウゥ!?」

 直前でドスフロギィの頭で爆発が起こり、毒狗竜は目眩を起こして倒れてしまう。二人がユーリの方を見ると笑みを浮かべて小さくガッツポーズをしており、彼の射撃によるものであることが分かった。

 ユーリは徹甲榴弾と呼ばれる、標的に刺さった少し後に爆発する弾丸を撃ち込んだのだ。これを頭に当てることで、打撃系の攻撃と同じようにモンスターを気絶させることができるのである。

「よし、今や!見ときや、肉エサはこうして使うんや」

 その隙にユーリはドスフロギィの近くまで来ており、倒れる毒狗竜のそばに肉エサを置き、すぐに離れる。その直後、

 

 

 

ザババババババババッ!!!

 

「ほえええ!?な、な、何ですかあれ?」

 突然、水中から大量の魚が跳ねながら肉エサに群がり、そのついでにドスフロギィに噛み付いていった。

 

 この魚はキガニアという環境生物であり、普段は大人しいが肉の匂いを嗅ぐことで凶暴化し、生え揃った鋭い歯で噛み付いて来るという特徴を持つ。この習性を利用したのが肉エサであり、生肉を持っていれば代用できるという。

 

「よし、あともうちょいや!ここが頑張りどころやで」

 ユーリの言葉に二人も応じ、一斉に連続攻撃を仕掛ける。

 ハルトはこれまでの攻撃とキガニアの牙で付いた喉袋の傷に狙いを定め、イーズルシックルを振り下ろすと、風船が破裂したような音と共に毒袋が破ける。遂にドスフロギィの部位破壊に成功したのだ。

 衝撃で起き上がったドスフロギィは毒霧を吐いて応戦しようとするも、破れた毒袋の隙間から毒が漏れ出しており、その範囲は驚く程狭まっていた。そして、毒攻撃を躱したアリスが震打を放つ。突き立てられたマギアチャームから発せられた音が糸を伝ってドスフロギィの頭を激しく揺らし、ドスフロギィはその威力に吹き飛んだ。

 

「ゴワォォォー……………」

 そのまま断末魔を上げると、目を閉じて動かなくなった。三人を苦しめた毒狗竜は、遂に討伐されたのだった。

 

 

 

 剥ぎ取りを済ませ、里へと帰るポポ車に乗る三人のハンター達。既に全員頭装備を外しており、額に汗をかいていた。

「それにしても、毒攻撃ってのは随分厄介なもんだな。しばらくは戦いたくないな」

「そうやね。せやけど、毒を持つモンスターは結構多いから、経験を積むんも大切やで」

 その後、しばらく談笑した後に、ユーリは思い出したかのように言い放つ。

 

 

 

「決めた!ボクもカムラの里に留まるわ。ほんで、ジブンらのチームに入るわ」

 

 

「「ええっ!?」」

 予期していなかったユーリの発言に、アリスとハルトは同時に驚く。

「なんや、アカンのか?今まではずっと旅をしながら一人で狩りに行ってたけど、今日のジブンら二人を見てたら、なんや仲間ってのが羨ましくなってきてな」

「いえ、まさかユーリ様がそう言ってくださるとは思っていなかったので………私は、歓迎します」

「あぁ、俺もだ。俺もアリスも剣士だから、ガンナーがチームにいてくれるのは有難いよ」

「そんなら、こちらからもよろしく頼むで。

あ、言っておくけど、別に金を要求してるワケやあらへんで?自分の金は自力で稼がんと」

「分かってるよ、これからもよろしくな」

 言い終わると、ハルトとユーリは固い握手を交わし、その後アリスも握手をする。

 

 その後、三人が里に戻るとユーリは里長とギルドマスターにもチームに加入することを伝えた。その情報は瞬く間に里中に広まり、その夜は盛大に歓迎会が開かれたという。

 

 

次回へ続く



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第28話:夜のカムラで

 ユーリがカムラに駐在し、ハルト達のチームに正式に加入すると決めたことは里にすぐに知れ渡った。その後、やはり同じチームのハンターは同じ場所で過ごすべきという意見が出たので、ユーリもアリスと同じように、そのままハルトの家に居候することになった。

 そして、あれから1ヶ月程経ったある日の夜。

 

 

 

 

 

 

「……………寝れない」

 

 畳の上に寝転がりながら、ハルトは呟いた。

 もう何度も寝返りを打っており、眠れたかと思いきやすぐに目が覚めてしまう。

 この不眠の理由はハルトにも分かっている。ドスフロギィの討伐依頼を受けた日の早朝のことを思い出していたのだ。

 

 

 あの日、ハルトは思わぬ事故でアリスの一糸纏わぬ裸体を目撃してしまった。

 全身の白い肌に、「少女」から「女性」へと成長する過程を表したような、全体的に細身ながらも要所要所は柔らかそうに程よく膨らんだ身体。彼女の全身が少し火照っていたのも相まって、チームメイトのアリスが初めて見せる無防備な姿は彼の目に強烈に映り、しっかり脳裏に焼き付いてしまった。普段は大人びた態度を取ることも多いハルトだが、そういう部分はまだまだ思春期の青年であった。

 

「はぁ……………ちょっと外に行くか」

 ハルトは気分を変える為、外気を吸いに出ることにする。アリスとユーリを物音で起こさないよう、できるだけ静かに戸に向かうと、

 

 

「あら………ハルト様」

 

 偶然、こちらの部屋に向かっていたアリスと鉢合わせた。

「アリスか。なんだか寝付けなくてな、ちょっと外に行こうかと思ってな」

「実は私もなんです、お水を飲む為に来たのですが、私もご一緒してよろしいですか?」

 その言葉にハルトは二つ返事で頷き、二人で夜の里を散歩することにした。

 

 

 

 

 

 夜の里は、見慣れた昼間の様子とは違う顔を見せている。いつもなら多くの人が行き交い賑わいを見せる通りも、今は住民は一人として外に出ておらず、店は全て閉まっている。篝火(かがりび)を焚いている竜の頭を模した2本の灯台を除けば、今明かりは月だけである。

 

 辺りを少し歩いて見た後、二人は今ハンターズギルドの手前のベンチに並んで座っている。

「それにしても、いつもの里とは随分雰囲気が違って見えますね」

「そっか、アリスは夜に出歩くのは初めてだっけか」

 アリスは微笑み、静かに頷く。

 

「ところで、ハルト様。先程、寝付けないと仰っていましたが」

「あ、ああ」

 例え冗談であっても、アリスの裸を思い出して寝れませんでした、なんて本人に言う度胸はハルトにない。少し返答に困っていると、

「覚えていますか?ユーリ様が、私達と初めて会った日のことを」

「え………いや、その」

 まさか、アリスは今まさに自分が考えていたことを話す気ではないかと危惧する。もしそうなれば、自分は何て反応をすればいいのだろうか、などと考えていると、アリスはゆっくりと口を開き、彼の予想だにしていなかったことを話し始める。

 

 

「私あの時、悪い夢を見たと言ったんですが」

「あぁ…………そういえば、確かにそんなこと言ってた気が」

 あの日、彼女が服を着ていなかったのは、着替えの途中だったのではないか。アリスはいつも起きる時間よりもずっと早くに目を覚ましていたし、悪夢のせいで寝汗をかいていたとするならばそれも当然である。

「実は、その夢というのが……………はぁっ、ハルト、様が…………」

「お、おい、どうしたアリス?大丈夫………じゃ、なさそうだけど」

 話していると、突然アリスは息が荒くなり、自身の視界がぐるぐると回り出すのを感じる。だが、目を瞑ってどうにか言葉を紡ぐ。

 

「ハルト様が、得体の知れないっ、モンスターに……………殺されていた、夢だったのです」

 

 

「な………………!?」

 

 アリスの口から発せられた言葉に、ハルトは目を見開いて驚く。彼女は俯いたまま、震える声で続ける。

「夢だというのは、分かっています。でも……………私には、それがただの夢であるようには思えないんです。もしかしたら、いつか本当になってしまうんじゃないか、って………」

 ハルトは、神妙な面持ちで黙ってアリスの話を聞いていた。

「ハルト様は、これまで何度もクエスト中に私を助けてくださいましたよね?それは、とても嬉しいんですが……………

 

先日のドスフロギィ討伐の時は、少し怖くて、不安だったんです。あの夢を見たすぐ後だから」

 泣きそうな声で言い終わると、アリスはハルトの胸元に顔を埋め、ハルトは背中に手を添えてやる。彼女の体は、小さく震えていた。

「アリス…………ありがとう、俺に打ち明けてくれて。

 

 

それと、アリスが、チームメイトがそんなに悩んでるのに…………気付いてやれなくて、すまなかった」

 ハルトは優しい声色で話すが、その表情は悲しさと悔しさが混ざった、彼女の心情を理解できていなかった自分を責めるような顔をしていた。

 

 同時に、彼は今の自分の戦い方に疑問を抱いていた。

 

 生まれ育ったカムラの里を守るため、そして里の住民だけでなく、困っていそうな人は助け、守ってやりたい。彼はそんな志を抱いてハンターになった。

 だからこそ、攻守において万能な片手剣を選んだ。だが、片手剣のガード性能は高いとは言えない。それはハルトも理解しているのだが、武器や戦闘スタイルを変える気にはなれない。

 

「アリス…………俺は、今のままでいいんだろうか」

「えっ……………?」

 アリスは顔を上げ、ハルトと目線が合う。ハルトはたった今頭に浮かんでいたことを話すと、アリスは少し考えた後で、

 

「私は、ハルト様が決めたことなら、その意見を尊重します。だって、貴方を信頼していますから」

「アリス…………………」

 まさか、かつて自分がアリスに言ったことをそのまま言われるとは。

「ハルト様は、一人で抱え込みすぎです。たまには、私やユーリ様のことも頼ってください。だって……………仲間なんでしょう?」

 

 アリスの言葉を受け、しばしの沈黙の後ハルトは頷き立ち上がる。

「今日はありがとう、少し気持ちが楽になった気がするよ」

「いいえ、私こそ、ありがとうございました。

 

ところで、ハルト様はどうして眠れなかったのですか?」

 ハルトに続いて立ち上がりながら訊くアリスに、ハルトは悪戯っ気な表情で振り向き「秘密だ」と言う。

「もう、私はあんなに話したのに…………ハルト様はいじわるです」

「へへ、言ってろ。俺にだって言いたくない秘密くらいあってもいいだろ」

 二人は晴れやかな表情で言い合いをしながら家へと戻る。

 

 今夜は、よく眠れそうな気がした。

 

 

次回へ続く



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第29話:大社跡でのぶつかり稽古

 それはある日、アリスが自宅で茶を飲みながら一服していた時のことだった。

 

 

 

「アリスさん、いますか!?」

 

「ヒ………ヒノエさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

 突然、急いでいた様子のヒノエが家の戸を開けて入って来たのだ。あまりに突然のことだったので、アリスは口に含んだ茶を出しそうになってしまう。いつも穏やかな彼女からは考えにくいため、何か重要な用事があるのだろう。

 

「実は、大社跡にヨツミワドウが現れたそうです」

 

「なんですって!?」

 ヒノエの言葉に、アリスは驚愕した。

 

 

 ヒノエの言ったヨツミワドウとは、河童蛙とも呼ばれる大型の両生種モンスターであり、食に対して非常に貪欲な性質を持ち、体格を変化させることも可能だという。ちなみに、里の修練場のカラクリは、このヨツミワドウを模して造られている。

 そして、問題はあと二つあった。一つが、話をしているアリスはヨツミワドウの狩猟経験がないこと。そしてもう一つが、

「今ハルト様は不在で、里にいるのは私とユーリ様の二人だけなんです」

 ハルトは現在別の依頼を受けており、しかもそのハルトはカムラの里のハンターの中でヨツミワドウと戦ったことがある唯一の人物だったのだ。

 今からハルトが戻るのを待っていれば、早くとも翌日の朝になるだろう。

「ええ、勿論把握しています。ですが、このヨツミワドウはできるだけ早急に狩猟していただきたいのです。でないと………」

「ま…………まさか、人が襲われているのですか!?」

 もしそうなら、最初にヒノエが慌てていたのも当然である。ならば一刻も早くヨツミワドウを倒さなくては、罪のない市民が犠牲になってしまう。

「心してお聞きください、実は…………

 

 

 

うさ団子の材料を運ぶ行商人が、ヨツミワドウのせいで大社跡付近で足止めを食らっているそうなんですっ!!」

 

 

 

 

「ほえ?」

 

 ヒノエの口から放たれた予想外な言葉に、アリスは思わず気の抜けた返事をしてしまう。

 彼女の言う「うさ団子」とは、ヨモギが営む茶屋で売られているカムラの里の名物であり、名前の通り兎の顔を模して作られた団子である。ヒノエはこの団子が大好物で、毎日のように食べているらしい。

「しかも、その行商人の荷物には新しいお団子の材料も積まれているらしいのです。新作は一番に私に食べさせてくれるってヨモギちゃんが約束していたのに………あぁっ、このままでは私のうさ団子が…………」

 今のこの反応からすれば、むしろ病的という方がいいだろうが。

「まあ、お団子の是非はともかくとして、モンスターを放っておくのは危険ですね。その依頼受けさせていただきます」

「ありがとうございます、ミノトに話は通しておきますので、里の、うさ団子の未来をよろしくお願いしますね」

 

 

 

 あの後、ユーリに声を掛けた結果同行してくれることとなり、二人で大社跡に向かった。そして今、二人は拠点(メインキャンプ)でアイテムの確認をしている。

「それにしても、アリスはんと二人でクエストに来るのは初めてやな」

「あ………そうですね、言われてみれば」

 今までは、狩りに行く時はどんな組み合わせであってもハルトが同行していた。アリスとユーリに家を貸しているハルトは実質的なリーダーになる為、当然といえば当然なのだが。

 

「ユーリ、オイラを忘れてもらっちゃ困るニャ。正確には二人と一匹ニャ?」

「おぉ、すまんすまん。ヒグラシはんと一緒になるんも今回が初めてやったな、よろしゅうな」

 しかし、大社跡に来ていた者は二人以外にもいる。先日アリスが雇っていたオトモアイルー、ヒグラシである。基本、アリスは一人でクエストに行く時にヒグラシを連れて行くのだが、今回はユーリの合意もあったので協力を仰いだのだ。

「では、今回はどのエリアから見てみましょうか?」

「うーん、河童蛙っていうからには水辺におると思うねん、ならエリア2から6、それから9、10に向かう方向で行こか」

 

 

 

 二人と一匹は最初の打ち合わせ通り、エリア1を北西に進み、エリア2に到着したが、そこにヨツミワドウの姿はなかった。

「いませんね、では当初の予定通りエリア6に行きましょうか」

 アリスの発言にユーリも同意を示しながら、携帯食料を頬張る。エリア2から6に行くには、エリア6から流れ落ちる滝のすぐ横に生えているツタを登る必要がある為、ここでスタミナを増やしておこうという魂胆なのだろう。しかし、

 

 

「ご主人、ユーリ!後ろだニャ!」

 

 ヒグラシの声に振り向くと、右手の茂みの奥から巨大な影が現れる。全身を緑色の苔で覆い、河童蛙の名の通りの幅広な嘴と頭の皿。背中には亀のように大きな甲羅が被さっており、前脚は太く発達していた。

 他のどのエリアとも繋がっていない、エリアの端という二人が全く予想していなかった場所からヨツミワドウは現れたのだった。フィールドにはモンスターだけが使える抜け道が存在する為、このようなことも起こり得る。

 

「グロロォォォォオッ!」

 ヨツミワドウは二人を見つけると、前脚を振り上げ独特な低い声で威嚇する。最初は動揺していた二人もどうにか武器を構え、牽制にクロスブリッツから放たれたLv1通常弾を受けると、ヨツミワドウはのしのしと歩み寄り前脚で前方を薙ぎ払うが、二人はすんでのところで回避する。

 体勢を立て直したアリスは、ボーンホルンを構えて前脚に振り下ろす。苔で覆われたヨツミワドウの皮膚は、攻撃が効いているのか分かりづらい微妙な感触をしていたが、弾かれる程の硬さはなく、連続して打撃を叩き込んでいく。ヒグラシもそれに続き、アケノネコレイピアでもう片方の前脚を攻撃する。

 その一方、ユーリは距離を取って弾丸をLv1貫通弾に切り替え、遠距離から狙撃する。貫通弾は一度撃ち込めば全身を突き通すまで体内で連続してダメージを与える為、攻撃が効きやすい部位を見定めることが可能なのだ。

 攻撃を続けていると、不意にヨツミワドウが低く鳴き、身体を屈める。そして次の瞬間、

 

 

 

 

「と………………飛んだ!?」

 

「アリスはん、そっちに落ちて来るで!」

 

 河童蛙の巨体は、空高く浮かび上がっていた。全身の筋肉をフルに使って跳躍したのだ。その影が自分に重なるのに気付き、アリスがスライドビートで地面を滑走した直後、彼女がいた場所にヨツミワドウが着地し、その重みで大きく水飛沫が上がり地面が砕ける。スライドビートが間に合っていなければ、今頃アリスは下敷きになっていただろう。

 

「あの大きさであそこまで高く跳ぶなんて…………人もモンスターも、見かけによりませんね」

 そう呟いたアリスは、手早くヨツミワドウに向き直り突貫するが、そのヨツミワドウはアリス目掛けて口から水を吐き出す。アリスは横転して回避するが、吐き出された水流は思った以上に横に広く、避けきれず水を被ってしまった。防具の隙間に水が入り込み、身体を冷やしてスタミナの回復が遅くなる。

 一度後退したアリスと入れ替わりに、ユーリがLv1徹甲榴弾を頭に撃ち込む。脳天の皿に刺さった弾が破裂し、その衝撃でヨツミワドウはユーリに狙いを変えた。先程と同じように跳躍してユーリを押し潰そうとするが、ユーリは素早く距離をとってこれを回避。再び徹甲榴弾を発射し、ウチケシの実で水やられを解除したアリスも加わって打撃を見舞う。

 

 しばらく攻防を繰り返していると、不意にヨツミワドウが足元に口を付け、そのまま足元の水を飲み始める。すると、

 

 

 

「な、な、何やありゃぁぁあ!?」

 

「ほえええ!お、大きくなっちゃいました!?」

 

 河童蛙の腹部はでっぷりと膨らみ、上半身が持ち上がり後脚で立ち上がるようになる。

 ヨツミワドウの腹は伸縮性と保水性の高い皮を持ち、大量の砂利と水を飲み込むことで体重を増やし、より重く強力な攻撃を放つことが出来るのだ。普段、二人が里で見ていたヨツミワドウを模して造ったカラクリはこの姿のことだったのだろう。

 

「グルルルォォォオッーーーーーーーー!!」

 

 砂利を飲み力を蓄え、口から白い息を吐き出すヨツミワドウは、野太い声を響かせ二人のハンターを威嚇するのだった。



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第30話:水際の踏ん張り入道

 腹を膨らせたヨツミワドウは、咆哮を終えるとアリスに向かって突進する。彼女は一度狩猟笛を納め、疾駆けで回避する。その間も、ユーリはLv1通常弾でヨツミワドウに僅かながらも着実にダメージを重ねていく。

 突進が終わったのを見計らって、アリスは再びボーンホルンでの攻撃を再開するが、ヨツミワドウが立ち上がったことで頭の位置が高くなり、頭部に打撃を当てて気絶を狙ういつもの戦法が取れなくなっていた。

 

 頭を狙えないアリスはやむを得ず腹を攻撃する。多量の水分を含んだ腹部の皮は弾力性と伸縮性に富んでおり、ゴムボールを殴ったように少し弾かれる感触があったが、苔で覆われた他の部位よりは攻撃が通りやすいようだった。しかし、二回ほど打撃を加えたところで、不意にヨツミワドウがアリスとは反対側にいたユーリの方を向き、狩猟笛は甲羅に当たり弾かれてしまう。そしてユーリに向かって再び突進を繰り出すが、距離があった為落ち着いて避ける。

 

「ゴルルルルッ!」

 突進を躱されたヨツミワドウは、アリス達の方を向くと片方の後脚を持ち上げ、

 

ドゴォォォゥッッ!!!

 

 

「きゃぁぁぁあっ!?」

 

 勢いよく振り下ろし、力士の四股踏みのような形で地面を強く踏みしめる。すると、轟音と共に地面が砕けて持ち上げられ、その地点に立っていたアリスは破砕した岩盤と一緒に打ち上げられる。

「アリスはん!」

「くぅっ…………!」

 

 地面に叩き付けられる直前で翔蟲受け身を取り、どうにかダメージを最小限に抑えたものの、かなりの痛手を負ったらしく、着地してすぐにアリスは膝をついてしまう。ヨツミワドウが追撃を加えるのを鑑みてユーリは徹甲榴弾を撃ち込み、頭部に刺さった後に小規模な爆発を起こすと、ヨツミワドウは狙いを変え、ユーリの方を向く。水吐き攻撃を行うが、ユーリは落ち着いて避けた。

 その一方で、立ち上がったアリスの近くに、大小様々な大きさの緑色の水泡が浮かぶ。手で触れるとその水泡は破裂し、緑色の液体を浴びたアリスは、身体の痛みが引いていくのを感じる。

 オトモアイルーが使うサポート技の一つ、回復しゃぼんの技。ヨツミワドウの四股踏みでダメージを受けたアリスを見て、ヒグラシが使ったのだ。

「ご主人、回復は足りるかニャ?」

「ええ、もう大丈夫です。ヒグラシさん、ありがとうございます」

 心配そうに駆け寄って来るヒグラシに対し、アリスは感謝を伝えると同時に明るく笑顔を作って見せると、ユーリのもとに合流する。ヨツミワドウに肉薄し、後脚をボーンホルンで殴りつけ、三音演奏に繋げてパーティ全体を強化する。

 その直後、ヨツミワドウはおもむろに地面に両手を突っ込む。

 

ボゴォンッ!!

 すると、自身の身体と同じくらいの大きさの岩を掘り起こしたのだ。河童蛙の腹を殴っていたアリスの攻撃は岩に当たり、弾かれてしまう。

 そして、ユーリ目掛けて大岩を投げつける。どうにか前転で躱すが、背後でごうっと鳴る風切り音と重い風圧に背筋がぞわりと冷える。

「ったく、奇想天外な攻撃ばっかりして来るもんやな」

 クロスブリッツを構え直すユーリに、岩を当て損ねたヨツミワドウが迫り来る。しかし次の瞬間、河童蛙の足元で爆発が起こる。予め地面に仕込んでおいた起爆竜弾が起動したのだ。その時、

 

「グワォォォ!?」

 

 今までの攻撃の蓄積も重なり、口から砂利を吐き出してヨツミワドウは横倒しになる。同時に、膨れ上がっていた腹も元通りになった。どうやら、腹に砂利を溜めたヨツミワドウは攻撃を加え続けることで砂利を吐き出させることが可能なようだ。

 二人はこの隙を見逃さず、すぐさま攻撃に入る。アリスは先程までは届かなかった頭を殴り、ユーリはLv2通常弾の速射で前脚や腹を狙い撃ち、ヒグラシは剣で後脚を斬りつける。

 やがてアリスが震打を決めたところでヨツミワドウが起き上がり、二人と一匹から離れてエリア1へと移動する。それを見たユーリとアリスは砥石を使う、弾の装填行うなどして武器を整え、ヒグラシと共にヨツミワドウの後を追うのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、お久しぶりです。作者です。

 まずは、更新が遅くなって本当にすみません!!言い訳させてください。更新までに、以下のようなことがあったのです↓


・職場で新商品の入荷ラッシュ
・ゲームのセーブデータが消えた(モンハンではない)
・描写の再現の為に何回もヨツミワドウに狩猟笛&ライトボウガンで挑もうとした
・けどモンハンする時間がなかなか取れない


 ………ということです。まぁつまりは、やる気出さなかった私の責任ですね。
 ヨツミワドウ編はもう少し続きますので、しばしお待ちください。

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 またお会いしましょう。


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第31話:水浸しの決まり手

 ヨツミワドウを追ってエリア1に到着し、ヨツミワドウを発見するとアリスはすぐさまボーンホルンを構えて突貫する。彼女に気付いたヨツミワドウは水を吐いて迎撃しようとするが、身体を屈めながらスライドビートを用いて接近することですれすれで水吐きを躱し、肉薄すると振り払われる前脚を避けながら打撃を加えていく。

 ユーリもやや遅れて遠距離から射撃を開始し、Lv2通常弾を速射して高い位置にありアリスが狙いにくい頭部を狙う。多くのモンスターは頭への攻撃が効きやすい傾向にあるが、ヨツミワドウも例外ではなく、着実にダメージが重なっていくのをユーリも実感していた。

 

 攻撃を重ねていると、先程と同じくヨツミワドウは一度低い声で鳴きながら体を屈めた後大きく跳び上がった。ユーリは自分の方にヨツミワドウが向かって来るのを見ると、地面の影をよく見て、着地点から十分距離を取った位置で河童蛙が落ちて来るのを待つ。

 

「グオォォ!?」

 そしてヨツミワドウが着地すると、地面に仕込んだ起爆竜弾が前脚の下敷きになって破裂し、ダメージを与えて転倒させる。それだけではなく、今までのダメージも重なり、片方の前脚を部位破壊することに成功したのだ。

「よっしゃ、今やで!」

「はいっ!」

 ユーリの声にアリスは力強く応答し、先程までは攻撃が届かなかった頭部を殴り付けると、打撃が効いている確かな手応えを感じる。その勢いのまま三音演奏に繋げ、更に気炎の旋律で味方全員を大きく強化する。

 アリスの演奏で攻撃力の増加を受けたユーリはもう片方の前脚を部位破壊すべく速射を撃ち込み続け、ヒグラシも剣やブーメランで援護する。

 

「グルルルゥ!?」

 そしてヨツミワドウが起き上がろうかという直前で、アリスの狩猟笛による頭部への打撃が重なったことでヨツミワドウは目を回して気絶し、再び横倒しになる。

「はは、まるでハメコンボやん。アリスはん、容赦ないのぉ」

 二人と一匹は更に攻撃を加え続け、アリスが頭に震打を喰らわせるのと、正気を取り戻した河童蛙が起き上がるのはほぼ同時だった。

 全身に痛打を受け続けたヨツミワドウはたまらず逃げ出し、アリスとユーリも手早く弾の装填や砥石の使用を済ませてヒグラシと共に後を追う。

 

 ヨツミワドウを追って一同が入ったのは、エリア4だった。エリア4に水辺はなかったが、一定の時間なら陸でも活動できるのだろう。しかし、先程のように砂利を飲んで強化することは出来ないため、その点でいえばアリス達にやや分があるといったところだろうか。

 河童蛙はアリスを見つけると低く鳴き、跳び上がって押し潰そうと試みるが、彼女はヨツミワドウの動きをよく観察し、ギリギリまで引き付けて前転で躱す。しかし、ヨツミワドウの巨体が落下したことで近くの地面が揺さぶられ、攻撃を加える為肉薄していたアリスはバランスを崩して動きが止まってしまう。

 そこへヨツミワドウが前脚を振って追撃し、転んだアリスを軽々とつまみ上げると、口の中に入れてしまった。

「ほええええええっ!?」

「嘘やろ!?くそっ、早く吐け!」

 ユーリは急いでヨツミワドウに弾丸を撃ち込むものの、ほとんど照準を定めていない雑な射撃は有効打にならず、アリスも体内で懸命にもがくが抜け出せない。こやし玉を使えばすぐに解放できるが、ユーリもアリスも持って来てはいなかった。どうしたものかと悩んでいると、

 

「グルロロロロォ!?」

 

 突然、ヨツミワドウが全身を痙攣させて動きを止め、同時にアリスを吐き出した。ふと河童蛙の足元を見ると、シビレ罠が作動して光の粒を出していた。

「やったニャ!」

「そうか、ようやったでヒグラシはん!」

 どうやら、シビレ罠はヒグラシが仕掛けたものらしい。ユーリはアリスに駆け寄り、容態を確認する。

「アリスはん、大丈夫か?」

「…………はい、少し驚きましたが、問題ないです」

 彼女の身体は水浸しになり、あちこちに砂や泥が付着していた。どうやら先程は、消化器ではなく砂利を溜め込む器官の中に入れられていたらしい。

 アリスの無事を確認したところでヨツミワドウへの攻撃を始めるが、少し時間を使ってしまったらしく、数発だけユーリが弾を撃ち込むとシビレ罠は故障し、河童蛙は麻痺から立ち直る。しかし、一行に背を向けたヨツミワドウは後脚を引きずりながらエリア6へと向かっており、これまでのダメージは確実に重なっているようだった。

「あと少しですね、最後まで油断せずに行きましょう」

「はいニャ、ここまで来たらもう後には引かないニャ」

 

 エリア6に到着した二人と一匹を見たヨツミワドウは、先程と同じように足元の砂利を飲み始め、腹を膨らせて立ち上がると吠えて威嚇する。

 続けざまに、前脚を張り手のように交互に突き出しながら突進してくる。距離があった為一同は難なく避け、ユーリはすかさず銃を構えて反撃に出る。

 

シュガガガガガッ!!

 

 ユーリの発射した弾は、ヨツミワドウの腹部に着弾すると刃を展開し、表皮に追撃をしていく。

 これは斬裂弾と呼ばれる特殊な弾丸であり、ザンレツの実を鋭く研いだ刃が中に仕込まれており、着弾と同時に刃が飛び出て切断系の追加攻撃を行う仕組みになっている。

 そして、斬裂弾の攻撃を受けてヨツミワドウが怯んだ一瞬の隙を突き、肉薄したアリスが震打を放つ。音波の衝撃が腹部に広がり、河童蛙の腹に大きな傷が幾つも生まれる。部位破壊に成功したのだ。

 ヨツミワドウは大きく後ずさるが、反撃とばかりに地面を掬い上げるように張り手を繰り出すと、まるで竜巻が発生したかのような風圧が巻き起こり、ユーリは巻き込まれて吹き飛んでしまった。

「ユーリ様っ!」

「ボクは大丈夫や、そっちも来るで!」

 ユーリの声で前を向くと、ヨツミワドウが水を吐きかけていた。アリスは身体を屈めてギリギリで躱し、そのまま前転して距離を詰めて打撃を連続で浴びせる。ヒグラシもブーメランで後方支援を行い、腹部の傷に更にダメージを与える。

 ブーメラン攻撃を煩わしく思ったのか、河童蛙はヒグラシに怒りの矛先を向ける。自分への注意が逸れたことを悟り、アリスは隙を見て三音演奏から続けざまに気炎の旋律を繰り出した。

 狩猟笛の音色による強化を受け、二人と一匹はますます勢いに乗り、このエリア6で決着をつけるつもりで一気に攻めたてる。

 そして、ヨツミワドウが猛攻から逃れようと逃げ出した先には、予めユーリが仕込んでおいた起爆竜弾が設置されており、それを踏んだヨツミワドウは思わず転倒する。そこへアリスが突貫し、弱点の頭部へ力いっぱいボーンホルンを叩きつけると同時にユーリの貫通弾がヒットする。

 

「グロァァァアーーーーー………」

 その同時攻撃を喰らい、ヨツミワドウは天に向けて大口を開けて断末魔を上げ、そして動かなくなった。

「はぁ、ようやく……………討伐ですね」

「せやな、お疲れさん。剥ぎ取りをしたいところやけど、少し休んでよか」

 アリスとユーリはしばらく川辺に座り込み、疲れの混じった笑顔を見合わせていた。

 

 

 剥ぎ取りを終え、里へ帰る途中では、今回の狩りを振り返っていた。

「ヨツミワドウは強敵やったな、二人とオトモ一匹でもどうにか倒せたくらいか」

「はい、でも……………ハルト様は、単独でヨツミワドウを狩猟したと言っていましたが」

「マジか、やっぱりハルトはんは凄いのお…………

と言っても、実は今日「ハルトはんが来てくれたら」って何回か考えてまってたけどな」

 そうユーリが言った後で、アリスも被せ気味に話す。

「実は、私もなんです。ユーリ様とヒグラシさんが役不足というわけではありませんが、やはり私達の中で大きな存在になっているみたいですね」

「ああ、ボクらに家まで貸してくれて、ホンマに偉いであの人は」

 

 その後、二人は里に戻り、集会所にいたハルトと会うとすぐさま感謝の言葉を述べたのだった。

 もっとも、別の依頼から戻ったばかりで二人の話を聞いていなかったハルトは、やや困惑していたのだが。

 

 

次回へ続く




 皆様、2ヶ月ぶりです。作者です。

 まずは、長らくお待たせしてしまい本当にすみません!!
 私の職場が忙しいのと、個人的にショックなこともあり、メンタルもスタミナもほぼ無くなりかけていて遅くなってしまいました。次話はもう少し早く更新するようにします……。

 さて、本小説の投稿が滞っている間に、モンハンの大型アップデートが告知されました。実装はまだ先ですが、ますます小説を進めないといけない理由が出来てしまいましたね。

 では、最後まで読んでいただいてありがとうございます!
 また次回の更新でお会いしましょう。


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第32話:強者との出会い

 アリス達がヨツミワドウの狩猟を達成してから、はや1ヶ月。カムラの里も各所で賑わいを見せ、里を訪れるハンターも日に日に増えるばかり。

 しかし、その日里の集会所は珍しく静まり返っていた。

 その原因は、駐在する三人のハンターにあった。

 

「………………どうしたもんか」

「は、ハルト様、元気を出してください。自信がないのは皆同じなんですから」

「って、言ってるアリスはんもやけどな……」

 三人共、 思いつめた表情で後ろ向きな発言をしている。普段の彼らからは考えにくい光景だった。

 

 

 

 

 

 事の発端は、15分ほど前である。

 ハンター三人がいつものようにギルドに向かい、入っているクエストを確認していると、見慣れない依頼書が貼りだされていた。

「ミノトはん、このクエストは何や?」

「そちらは………つい昨日、入ったばかりのものですね。寒冷群島でのフルフルの狩猟依頼になります」

 

 

「「「フルフル!?」」」

 

 ミノトの口から発せられたモンスターの名前に、三人は驚く。

 奇怪竜の別名を持つフルフルは、名前こそ可愛らしい印象を覚えるものの、実際には不気味な見た目と厄介な攻撃の数々から、ハンターからは嫌厭されるモンスターの一種であった。

 そして、この三人のハンターは、いずれもフルフルと戦ったことがない。その為、先程のような淀んだ空気になっていたのだ。

 

 

 

 

 しかし、いつまでも座って途方に暮れているわけにもいかない。そう思ったハルトは意を決して、

「とりあえず、依頼を受けようか。里にハンターは俺達しかいないんだし、俺達がやるしかないよな」

「そ、そうやね。ミノトはん…………」

 と、ユーリが立ち上がり、受付を済ませようとカウンターに向かおうすると、

 

 

「失礼する」

 

 

 突如、ギルドの入口からくぐもった低い声が聞こえてくる。そちらを見ると、モンスターの素材を使った鎧を着込み、大型の武器を背負った人物が入って来ていた。

 頭を丸ごと隠す形の兜を着用していたので、どんな顔かは分からないが、先程の声色や背丈から男性だろうと予想でき、更にその装備からその人物がハンターだということは想像に難くなかった。

 その武器も防具もハルト達が見たことのないものであり、三人とも自分より強いハンターだろうと推測している。そのハンターはカウンターに向かい、ミノトにギルドカードを提出すると一言だけ告げた。

「依頼はあるか?」

「今は……フルフルの狩猟依頼がありますが」

「受けよう」

「ですが………カードによれば、貴方は上位ハンターですよね?こちらは下位向けのクエストですが」

 上位ハンター。

 その言葉で、三人はほぼ同時に顔を見合わせた。

 

 ハンターズギルドは、ハンターの実力を示すものとしてHR(ハンターランク)以外の指標を設定している。

 それが、今ミノトの口にした言葉であり、最初に訓練校を卒業したハンターは下位からのスタートとなり、依頼達成を重ねてギルド本部にハンターとしての実績が認められると上位へと昇格し、より難易度の高い依頼が受けられるようになっている。そこから更にクエストをこなしていけば、より優れたハンター、「G級」として認定され、場合によっては国防レベルの依頼を受けることも可能となるという。

 

 

「構わない」

 ミノトはこの人物がそんな上位ハンターであることを鑑みて発言したのだが、彼は声のトーンを変えることなく返答した。

「ちょ、ちょっと待ってください」

 そのやり取りを聞いていて、ハルトは椅子から立ちハンターの元に向かう。

「その依頼は、俺達のチームが受けようとしてたんです」

「ということは、まだ受けていなかったということか」

「……でも、一応俺達が住んでる里だし、話し合いとか」

「おそらく、お前達はHR上でもこのクエストを受けられるんだろう?にも関わらず、すぐに受けなかったということは、自信がなかったんじゃないのか」

「……………確かに、それは事実です。なら、せめて俺達とパーティを組んで4人で」

「駄目だ。この依頼は俺一人で行く」

 一切の反論を辞さないという意思を示すかの如く、そのハンターは全く同じ声色で話し続けた。

「あのっ!それって、私達が弱そうだから足手まといになるってことですか!?」

 言い淀むハルトの様子を見ていたアリスも加わり、先程の発言に反論してみせる。しかしそれにも全く語気を変えず、

「そんな事は言っていない。俺に仲間は必要ない、ただそれだけだ」

 

 男の発言に、皆再び静まり返ってしまった。しかし、

「あなたにどんな事情があるのかは知らない。でも、この依頼は…………俺達のチームで達成したいんです。だから、お願いします、俺達三人を同行させてください!」

 言い終わると同時に、ハルトは頭を下げる。アリスと、遅れて二人の元に来たユーリも続く。

 そのハンターはしばらく黙って見ていたが、

 

「顔を上げろ」

 と、不意に一言だけ言う。そしてハルトの方を向き、やはり先程までと口調を変えずに質問をする。

「お前は何故、この依頼にこだわる?」

「この依頼を出したのは、遠征から帰ろうとしてた(ウチ)の住民なんです。俺は、里と皆を守りたくてハンターになった。だから……その依頼者は、俺の手で救ってやりたい」

 言い終え、ハルトは真っ直ぐハンターの方を見据える。その眼には、一点の曇りも感じない。

「………………」

 ハルトのその表情を見た彼の脳裏に、ある記憶が蘇って来る。

 

 

 

 

 

『本当にチームを離脱するのか』

『ああ…………俺には、複数人(マルチ)で狩りに行く資格はない』

『お前がそう言うのなら、私は止めん。だが、これだけは伝えておく。

 

過去の自分を責めるな、未来を生きろ』

 

 

 

 

 

「…………………ギル?」

 そのハンターは何かを思い出したかのように小さく呟いた。

「あの、どうかしましたか」

「いや、こちらの問題だ。それよりも」

 と言い、ミノトの立つクエストカウンターの方を向き、

 

 

「先程のフルフル狩猟のクエスト、三名追加だ。四人パーティで向かう」

 

 その言葉を聞いた途端、ハルト達三人の顔が明るくなり、再び頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!」

「危ないと感じたらすぐに逃げろ、フルフルは四人がかりでも勝てないことはザラにある」

「そや、まだ名前を教えとらんかったな。ボクはユリウス・ライザーいいます、ユーリでええよ」

「アリス・フューリです、よろしくお願いします」

「俺はハルト・クルーガー、足手まといにならない程度には頑張るつもりです」

「…………クローム・ヴァリアス。

今日の夜に出発する、早めに準備を済ませておけ」

 

 その後、クロームと名乗ったハンターの助言の元、道具や装備を整えた一行は、フルフルの待つ寒冷群島へと出発するのだった。

 

 

次回へ続く



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第33話:洞窟の真っ白妖怪

 寒冷群島に到着した一行は、支給品ボックスの中の応急薬や携帯食料をきっちり4等分し、向かう途中のポポ車の中でクロームの話した内容を再び確認する。

 

 フルフルは普段は動きが遅いが、怒り状態になると機敏に動くようになる。電気系の攻撃を得意とし、地を這うように発射される電撃ブレスを受けると麻痺状態になり、全身から放つ放電や弓なりに吐き出される雷球を受けると気絶しやすくなってしまう。また、噛みつき攻撃の際は特殊な骨格構造と全身の柔らかい皮膚により、首を伸ばすことができる…………

 

 

「まだ話したいことはあるが、肝心のフルフルの狩猟が遅れては元も子もない。行くぞ」

 最低限気を付けるべき要点を話したところで、一行はクロームが先導する形で拠点を出た。

 

 今回の装備は、ハルトがハンターシリーズにイーズルシックル、アリスはクルルシリーズとボーンホルン、そしてユーリがフロギィシリーズとクロスブリッツといういつもの装備。

 クロームの装備は全体的に丸みを帯びた土のような薄茶色の鎧の中にオレンジ色の尖った部分が目立つ防具に、各所に羽飾りのような装飾のある折り畳まれた機械仕掛けの武器を背負い、右手にはハルトのものよりもはるかに大型の盾を持っていた。

 防具は泥魚竜ジュラトドスの素材で作られたジュラSシリーズ、武器は蛮顎竜の異名で知られるアンジャナフの素材を使用したフラムエルハスタというガンランスだ。

 いずれも、今のハルト達には到底勝てるモンスターではない。改めて、三人はクロームが実力者であることを実感した。

 

 

 フルフルは洞窟の中で暮らす習性があるというクロームの情報に基づき、四人はまず拠点からすぐ近くのエリア2に向かう。

 しかし、エリア2の洞窟を壁や天井まで見渡すも、そこにはブナハブラが数匹飛んでいる程度で、肝心のフルフルの姿は見えなかった。当のクロームは特に気にする様子もなく、無言のままエリア2を出て次の場所へ向かう。

 しかし、先日クロームが初めてギルドを訪れた時から思っていたが、どうにも彼は無口で行動に一切の無駄がなく、機械的というか、人間らしさを感じさせにくい立ち回りを見せていた。一度もハルト達の前でヘルムを脱いだ素顔を見せていないこともあり、少し不気味さを醸し出している。

 

 そして四人は今、エリア10の前に来ている。寒冷群島の最奥に位置する大きな洞窟であり、クロームが言うには最もフルフルが姿を現しやすいらしい。

 エリア内に足を踏み入れると、陽が差して来ないからか一段と冷えた空気が全身を包む。しかし、中の広い空洞に進んでも肝心のフルフルはいない。エリアを移ろうかと思ったところで、突然クロームが声を荒らげる。

「真っ直ぐ走れ!」

 彼が大声を出すのは初めてであり、三人とも咄嗟に言われた通り正面に走り出す。刹那、背後に風圧を感じて振り返ると、

 

「ヒッ………………!」

 アリスは小さく悲鳴を上げ、固まってしまう。その表情は、まるでこの世のものではない何かを見るような目をしていた。

 全身は真っ白な皮膚で覆われ、ところどころに血管が浮かび、飛竜種らしく前脚は翼になっているが、折り畳まれた飛膜は皮に隠れて見えない。そして何より、顔には目も鼻もなく、赤い口からは無数に並んだ尖った歯が見えており、まさしく「怪物(モンスター)」と呼んで遜色のない見た目だった。これこそが、今回の標的(ターゲット)である奇怪竜フルフルである。

 

 そのフルフルは、フンフンと鼻(と思われる部分)を動かしながら周囲を探っている。洞窟の中で暮らすうちに、目は退化し、代わりに嗅覚や熱感知能力が発達したのだという。ハルト達は下手に手を出すようなことはせず、様子を伺っていた。

 そのうちフルフルは外敵の存在に気付いたのか、一行に顔を向け、

 

 

 

「ボォォアァァァァァァァァァァァァァァーッッッ!!!」

 

 

「ッ!?」

 首を持ち上げ、悲鳴に近い大音量の叫び声を上げる。過去に戦ったボルボロスやアケノシルムのものとは比較にならない程、精神に直接恐怖を訴えかけるような咆哮。それが洞窟の中で反響し、何重にもなって全方位から襲いかかり、四人はたまらず両耳を押さえて立ちすくんでしまう。

 そして咆哮が鳴り止むと、クロームは自身と同じく前線を勤めるハルトに短く「行くぞ」と声を掛け、二人同時に突撃するのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、本ッッッ当にお久しぶりです。作者でございます。


 前話から2ヶ月近く経過し、既に2022年になりました。明けましておめでとうございます(遅い)。
 というのも、私の職場では年末年始にかけて忙しくなる傾向にあり、加えて私の個人的な話なのですが、たつえもんは冬が本当に苦手で、世界で2番目に嫌いなものが「寒さ」だったりします(一番嫌いなものは「注射」。痛いとかではなく、針を体に刺すという感覚がイヤなのです)。

 気がつけばサンブレイクの実装もあと半年くらいにまで迫っていますし、早いところこっちのストーリーも進めないといけませんね。今年はもっと更新頻度を早めていきたいと思っております(もう何回目だろうコレ書くの)。

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第34話:怪奇 電撃竜

 いち早くフルフルに肉薄したハルトは、右脚目掛けて握り締めたイーズルシックルを振るう。しかし、その表皮の不思議な感触で刃が受け流され、大したダメージにはなっていないようだった。

 その一方で、クロームのガンランスは火属性を伴った突きで確実にダメージを与えていく。ユーリも遠距離からボウガンで援護を行い、アリスも先程の咆哮で我に返ったのか狩猟笛を担いで接近する。

 

 奇怪竜も攻撃を受けっぱなしではなく、地面に前脚を付けると激しく放電し、周りに青白い電気が迸る。幸い、事前にクロームから予備動作を聞いていたおかげで素早く距離を取っており、全員電撃を受けずにすんだ。

 放電が止んだタイミングを見計らい、再びハルトは斬り掛かる。尻尾目掛けて剣を振り下ろすが、そこは脚とは違い石のように固く、ガッという音と共に刃が弾かれてしまう。

「ってぇ、尻尾は固いな………こんな見た目のくせに」

 姿勢を崩したハルトに、回転攻撃で振るわれたフルフルの尻尾が襲いかかる。動作は遅いが、先程実証した固さに加え、長さがもたらす遠心力で相当な威力になっており、ハルトは簡単に吹き飛ばされてしまった。

「ハルト様っ!」

 いつもと同様にフルフルの頭部を狙っていたアリスは、尻尾攻撃を受けたハルトを見てボーンホルンを振るい、演奏を行うもののボーンホルンの旋律には回復効果はなく、攻撃力と防御力を上げるだけに終わる。マギアチャームなら体力を微量に回復できるのだが、氷属性の攻撃はフルフルには効果が薄いため今回は装備しなかったのだ。

 ハルトは吹き飛びながらも翔蟲を出し、空中で受け身を取り着地する。そして改めて奇怪竜の方を見ると、口元が帯電しているのが見えた。

「アリス、電撃ブレスが来るぞ!」

「はいっ!」

 クロームとユーリはフルフルの両脇にいたので、正面のアリスを狙ったのだろうと判断して合図を送り、彼女もそれに応じてフルフルから距離をとりつつ斜め前に移動する。

「ブォォッ!」

 その直後、おおかたの予想通りフルフルは電撃ブレスを放つ。しかし、ブレスは三方向に分かれながら直進していく。アリスは正面にだけ発せられるものとばかり思い込んでいた為、電撃をもろに喰らってしまった。アリスの全身に電気が走り、身体を小さく痙攣させその場にぱたっと倒れてしまった。

「あ…………う……」

「アリスっ!」

 アリスは追撃を避けるべく距離を取ろうとするが、電撃を浴びた影響で身体が麻痺してしまい、指一本すら動かせずにいる。ハルトは動けないアリスの前に立ち塞がり、武器を構えてキッとフルフルを睨む。だが目のないフルフルには無意味であり、奇怪竜は痺れさせた獲物にとどめを刺すべくゆっくり歩み寄る。

 やがてフルフルが二人のもとに到着すると、奇怪竜は口を開けて噛み付こうとする。ハルトが覚悟を決めた時、

 

発射(ファイア)ッ!」

 

 

ズドゴァァア…………ッ!!

 

 

「ブゴォォォッ!?」

 

 突如、掛け声と共に凄まじい爆発音が鳴り響き、横から強い力を受けたフルフルの巨体が揺らぐ。声のした方を見ると、クロームがフラムエルハスタを構えており、その砲身は白い煙をもうもうと上げていた。

 これこそがガンランスの切り札、竜撃砲である。その凄まじい見た目に違わず、ハンターの攻撃手段の中でも指折りの破壊力を持つが、発射の瞬間は無防備になる上、一度使うとガンランスがオーバーヒートしてしまい、再使用するには放熱のために時間が必要なため連発はできない。

「あれが本物の竜撃砲かいな、聞いた話通りごっつい威力やなあ」

「フルフルは普段は動きが遅い。放電にさえ気を付ければ、当てるのはそう難しくない」

 

 竜撃砲の直撃を喰らったフルフルは、堪らずその場から逃げ出し、洞窟の奥、天井の抜けた部分から飛び立っていった。フルフルは普段は洞窟内で過ごすが、外で活動ができない訳ではない。既にアリスは麻痺から立ち直っていたが、まだ身体が上手く動かないのかハルトに肩を借りながらクロームとユーリの元に歩いて来た。

「すみません、私のせいで貴重な竜撃砲を使わせることになってしまって」

「いや、どのみち竜撃砲は二回くらいは使うつもりだった。それに、フルフルのブレスは三方向に枝分かれすると言っていなかった俺の責任でもある。悪かった」

 素直に謝罪の言葉を口にし、すっと頭を下げるクロームに、三人はどうにも違和感を覚えた。

「いや、もう今ので俺達は全員覚えたんで。アリスにも大事はないみたいですし、次から気を付けましょ」

「…………そうだな、フルフルは恐らくエリア10に向かった。見失う前に追いつくぞ」

 ハルトの言葉で気持ちを切り替えたのか、クロームはエリア12の出口を指し、武器を納めて歩き始め、三人もそれに続いて出口を目指した。

 

 

 洞窟を出てエリア10に着くと、丁度フルフルが降り立つ直前だった。飛竜種は本来、翼で空を飛びエリアの境目に関わらず移動を行うが、フルフルは飛ぶのがあまり得意でないのか、陸上モンスターと同じく隣りあったエリアにだけ移動するようだ。

 フルフルも近付いてくるハンター達に気付いたらしく、太く強靭な後脚で飛びかかり、四人との距離を一気に縮める。幸い、誰も奇怪竜の下敷きにはならなかったものの、その巨体と普段の緩慢な動きに見合わぬ瞬発力に、クロームを除く三人は舌を巻いていた。

 着地のタイミングに合わせて、クロームはガンランスに備わっていた火器を用いて砲撃を行う。一度距離を取ったハルトとアリスは再び接近し、ハルトは脚、アリスは頭をそれぞれ狙い、ユーリはLv2通常弾の速射で遠距離から胴体を狙撃する。フルフルは反撃とばかりに体当たりを繰り出し、それを喰らったクロームは尻餅を突いてしまうが、大したダメージではなかったようで攻撃をすぐに再開した。

 そしてハルトが旋刈りを叩き込むと同時に、フルフルは一度動きを止めた。もしやと思い奇怪竜の顔を見ると、口元から電気が零れており、それが怒りによるものだとすぐに理解する。

 そして、フルフルは再び首をもたげて咆哮を放つ。ユーリを除く剣士三人は至近距離から受けてしまい、耳を押さえて立ちすくんでしまう。やがて咆哮がやみ、目の前に意識を戻すと白く長いものが横薙ぎに迫って来ており、ハルトは咄嗟に腹這いの姿勢になる。その直後、頭のすぐ上をフルフルの尻尾が通り過ぎ、彼の背中に嫌な汗が滲む。

 今までの鈍い動きに目が慣れていたせいか、怒ったフルフルの動きは非常に速く感じられた。アリスもフルフルの動きに戸惑っているのか、繰り返される尻尾攻撃をギリギリで躱す。

「まさか、ここまで速く感じるなんて…………今まで通りの感覚で戦うのはやめた方がよさそうですね」

 フルフルは再び電撃ブレスを繰り出すが、今度は枝分かれする弾道をしっかり見て全員避ける。続けざまにフルフルはその場に前脚を付け、放電を行うが、これも距離があった為誰も喰らわずにすんだ。そして、放電が終わる隙を見てハルトは剣を抜き突撃する。

「グォォッ!」

バリリリッ!

 

 

「な……………!」

 ハルトは、雪の上を転がりながら直前のフルフルの行動に驚いていた。フルフルは放電が終わり後脚で立った後、再び四つん這いになって再び少量の放電をしたのだ。そしてそれは「電気」とは思えない程の質量を持っており、電撃を受けたハルトは簡単に吹き飛んでしまう。

「アイツ、あんなことできるんか!」

「ああ、だから放電の時は攻撃が完全に終わるまで近付くなと言った」

 ハルトはどうにか起き上がり、応急薬を飲み干す。だが、全身には先程受けた電気が残っており、このまま攻撃を受ければ簡単に気絶、フルフルの追い討ちを喰らうことになるだろう。

 そうならないために、ハルトはポーチの中のウチケシの実を探りながら、どんな攻撃が来ても回避しやすいようにフルフルの斜め前で様子を見る。そしてフルフルが噛みつきの予備動作に入った時、ハルトはウチケシの実を取り出す。だが、

 

 

ズルルルルッ!!

 

 

「ぐぁぁっ!?」

「ヒャアァァァァァ!?」

 

 目の前の怪奇現象ともいえる光景に、アリスは悲鳴を上げながらボーンホルンを落としてしまう。なぜなら、フルフルの首が伸びたのだ。正確には、体の中に仕舞っていた部分が出てきたようなものだろうが、それでも全身と同じくらいまで伸びた首は、初めて戦うハンターの肝を冷やすのには十分であり、ハルトは不意を突かれまたも吹き飛ぶ。

 そして、倒れ込んだままハルトは動かない。恐らく、放電攻撃を受けた影響もあり気絶したのだろう。それを見て、アリスは先程自分がされたように、今度はハルトをかばうように狩猟笛を構えて立ち塞がる。だが、手足は震えており、顔には目に見えて恐怖が浮かんでいる。

 そんなアリスの様子を意に介さず、フルフルは二人のもとに迫るのだった。

 

 

次回へ続く




 どうも皆様、作者です。

 今回は、本作ではかなり長くなってしまいました。ですが、理由が二つあります(どちらも私情が絡んでしまっていますが)。
 まず、自分が投稿した話を読んでいて「内容が濃くないなあ」と思ったんですね。かといって、長くすれば濃い内容になるとも言えないんですが、たまにはちょっと長めの回もいいんじゃないでしょうか。最初は次のエリアに向かう場面で終わる予定でした。
 そして、最近当サイトでめっっっっっちゃ面白い作品を見つけて、毎日読んでるうちに、自分の中での書きたい欲が増幅してったんですよね(その作品も1話あたり10000字を超えるのが普通だったりします)。
 そんなわけで、今回は3500字を超えることになっちゃいました。「長すぎて疲れる」みたいに思ったら、遠慮なく感想に書いてください。どんなお声も真摯に受け止めるつもりです。
 ということで、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!また次回お会いしましょう。


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第35話:決着、寒冷地ののっぺらぼう

 倒れたまま気絶し、動かないハルトに歩み寄るフルフルと、それを遮るように立ちフルフルをじっと見つめるアリス。その目には涙が浮かび、脚は震え腰が引けており、フルフルに怯えているのは明白だった。

「(怖い、怖い、怖い、怖いぃぃぃぃっ……………!

でも、ここで私が逃げたら、ハルト様が………!)」

 だが、すぐ後ろのハルトを守らねばという精神でアリスはどうにか正気を保つ。そしてフルフルは全身に電気を纏い、気絶させたハルトをアリス諸共仕留めようと飛びかかる。

 

「っっっ!!!」

 迫り来る恐怖に、アリスは堪らず目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズデェェェ………ンッ!!

「グゴォォォ!?」

 

 

「ほえ…………?」

 しかし、アリスの身には痛みも何も訪れず、大きく重い物が落ちる音とフルフルの悲鳴が聞こえ、ゆっくりと目を開けると、目の前でフルフルが両脚をばたつかせながら起き上がろうともがいていた。そこへ、弾丸がフルフルの頭に着弾し爆発する。それはユーリのライトボウガンの徹甲榴弾のものであり、恐らく先程も徹甲榴弾で頭部を狙撃し、その衝撃で奇怪竜を気絶させたのだろう。

「すみませんユーリ様、助かりました!」

「こっちこそありがとうな、予め頭を攻撃しとってくれたアリスはんのおかげやで!」

 互いに感謝を述べるとアリスはフルフルに意識を戻し、ボーンホルンでの打撃を再開するべく武器を構える。その直後、突然身体に力が漲る感覚を覚えた。ふと足元を見ると、水面の下で色とりどりの烏賊が並んで泳いで行くのが見えた。

 あれはシラヌイカと呼ばれる、寒冷群島にのみ生息する環境生物であり、触れると体色により異なるメリット効果を得られるのだ。

 クロームもシラヌイカによる強化を受け、一同は勢いよく攻める。アリスは頭部を殴り、クロームは刺突と砲撃で背中を攻撃し、ユーリは遠距離から翼を狙い撃つ。

 そしてアリスが震打を放ったタイミングで奇怪竜は起き上がり、その場で翼を広げて飛び立つ。フルフルに接近していたクロームとアリスは風圧に煽られて動きが止まってしまうが、エリアを移動すると分かり砥石を出して武器の切れ味を回復させていると、ようやく気絶から立ち直ったハルトも合流した。

「すまん、ほとんど何もできなかった。首が伸びるってのは聞いてたけど………あんなに伸びるなんて思わなかったよ」

「ホンマ、どこまでも初見殺しなモンスターやで。クロームはん、竜撃砲の放熱はどない?」

「…………いや、まだかかりそうだな。どのみち、フルフルはまだ倒せそうにないから問題はない」

 クロームは短く返事をし、各々が武器の仕度を終えると立ち上がりフルフルを追う。

 

 一同は奇怪竜の足取りを追い、エリア7で交戦していた。ここまで来ればクローム以外のメンバーもフルフルの動きに慣れたようで、冷静に対処できるようになっていた。

「ユーリ!そっち、電撃ブレス行ったぞ!」

「よっしゃ!」

「放電が来る、剣士は離れろ」

「はいっ!」

 そうして交戦しているうちに、フルフルは口から涎を垂らし始める。これまでのダメージが重なり、疲労したのだろう。

「ブゴォォッ!」

 フルフルは前脚を地に付け放電を試みるも、少量の電気を発したのち、身体を震わせるだけで空振りに終わる。

 ハルトはその隙を逃さず、素早く接近して連続して剣撃を叩き込み、迫る尻尾を躱すとすかさず風車で反撃する。他の三人もハルトに続いて攻め込み、四方八方から攻撃を受け続けた奇怪竜は再び怒り出し、口から電気を零す。

 怒り状態に移行したフルフルはまたしても咆哮を上げる。フルフルの大音量の叫び声は何度聞いても慣れることはなく、一同はその場で動きを止めてしまう。

 ようやくバインドボイスから解放されると、フルフルが立ち上がって口元に帯電しているのが見えた。アリスとハルトはすかさず横転し、その直後にフルフルの口から雷球が放物線を描いて飛来する。それは二人が立っていた場所に着弾し、目の前に意識を戻すとフルフルはユーリに向けて電撃ブレスを放つ体勢を取っていた。

 それを見たアリスはチャンスとばかりに奇怪竜に接近し、三音演奏から気炎の旋律に繋げてパーティ全体を強化する。

「ありがとな、アリス!よっし、一気に………」

 言いかけたところでハルトの動きが止まる。アリスとクロームは何事かと思い、彼の視線の先を見ると、ユーリがその場でフラフラと倒れるのが見えた。

「そんな、ユーリ様、どうして!?」

「………あいつだ。俺が行く」

 と、クロームが向かった先にはバギィがいた。おそらく、フルフルに夢中になっている隙に背後から睡眠液をかけられたのだろう。

 そして、ユーリの危機によりアリスとハルトは目の前の標的から注意を逸らしてしまい、それはフルフルからすればまたとない好機となった。

「ゴワォォォ!」

 

「がぁぁぁっ!」

 フルフルは首を伸ばして噛みつき攻撃を繰り出し、それを喰らったアリスは衝撃で吹き飛ぶ。

「くぅ……………!」

 何度か地面を転がり、アリスは牙を受けた右肩を押さえてうずくまる。フルフルの唾液には酸が含まれている為、その影響でより深く歯が刺さったのかもしれない。そして、フルフルはその隙を逃さず電撃ブレスで追撃を狙う。

「くそっ、させるか!」

 それを見たハルトがブレスの射線を遮るように立ち塞がり、ガードの構えをとるものの、地を這う電撃は盾を無視して足元からハルトを感電させた。

 ハルトもその場に倒れてしまい、現状フルフルを攻撃できるのはクローム一人だけとなってしまう。しかし、そのクロームはバギィの眠り攻撃を受けたユーリの元にいた為、フルフルから離れた場所にいる。

 今からハルト達がフルフルの餌食になる前に攻撃を加えるのは無理があるかと思われたが、クロームの脳裏にはとある過去の記憶が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

『お前、本当にチームを抜ける気なんだな』

『何度も言わせるな。俺はもう、パーティは組まない。生涯一人(ソロ)で狩りをする』

『そうか、それがお前の決断なら否定はしない。

だが、これだけは言わせてくれ』

 

 

『私は、お前をそんな悪い奴だと思っていない。きっと、あいつもそう言うだろうさ』

 

 

 

 

 

「ギル…………

俺は………………」

 

 クロームは小さく呟き、フラムエルハスタを後ろに向ける。

 

 

 

「もう、目の前でハンターの命を失わせはしない!」

 

 その言葉の後、爆発音が鳴り────

 

 

 

 クロームは、宙を舞っていた。

 

 最近新たに生まれたガンランスの技能、ブラストダッシュ。超圧縮した砲撃を地面に向けて発射することで、その反作用でジェット噴射の要領で空中を高速移動できるのだ。

 

 クロームは高速でフルフルに接近すると、その勢いと落下重力を活かしてガンランスの砲身を思い切り首に叩き付けた。

「ゴガァァァッ!?」

 思いもよらぬ打撃を受けたフルフルの頭部の皮が破け、内側の赤い肉が露出する。そのまま手元の引き金を入れ、装填されていた全弾薬を纏めて放つフルバーストに繋げ、それを受けた奇怪竜は横倒しになる。

 

「クロームさん!」

「すげえ…………ガンランスがあんな機動力を見せるなんて」

 行動不能に陥っていた三人も身体の自由を取り戻し、クロームの暴れっぷりに舌を巻いていた。その時、フラムエルハスタの砲身の一部がガチャリと音を立てて閉じる。竜撃砲の放熱が完了したのだ。

 それを確認したクロームは、すかさず盾を構えて銃槍の柄を握り締め、先端をフルフルに向ける。砲口に凄まじい熱量が集束し、小規模な蜃気楼が周りに発生する。

発射(ファイア)!」

 クロームの掛け声の直後、轟音と共に放たれたエネルギーの塊がフルフルの体を直撃する。その衝撃でフルフルは一度立ち上がり、フラフラとよろめいた後に白い巨体が音を上げて倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 

「……………討伐、完了だ」

 

 

 亡骸となった奇怪竜から剥ぎ取りをし、アリスが肩に受けた噛み跡の治療を済ませた一行は、ポポ車に乗り里への帰路へ着いていた。今回の狩猟はハルト、アリス、ユーリにとってはかなり精神的に疲労するものだったらしく、疲れの混じった顔を見合わせていた。

「しかし、フルフルってやつは本当に妙な攻撃ばかりしてくるもんだな」

「はううぅ………………本当に怖かったですぅぅ」

「まぁ、気持ちは分かるよ。帰ったら思い切り寝て休もうぜ」

「せやけど、どないする?あんな顔のモンスター、夢に出て来たら……………」

「やめてくださいっ!思い出したくないぃぃ………」

 

 そんな三人を見ていたクロームが、不意にジュラSヘルムに手をかけると、留め具を外しておもむろにヘルムを脱ぐ。その様子にハルト達は少し驚き、クロームの素顔をまじまじと見ていた。長めの黒髪をオールバックにし、日に焼けた色黒の顔は少し頬がこけ、鋭い両目は先程まで見せていた実力を想像するに難くない歴戦の狩人らしい面構えだった。

「………何か俺の顔についてるか?」

「いや、クロームはんのヘルムの下の素顔、初めて見るんで」

「む………そうだったか」

 それからクロームはしばらく沈黙した後、

 

 

「パーティを組むのも悪くないかもな」

 

 

 と、小さく呟いた。

「………?クローム様、何か仰いましたか?」

「いや、個人的な話だ。気にしないでくれ」

 

 

 

 

 その後、クロームは自身の拠点を置く村に帰ってから、村民達に雰囲気が変わったと噂されたという。

 

 

次回へ続く




 皆様、こんにちは。作者・たつえもんです。


 ということで、フルフル編クライマックスです。クロームが上位ハンターの格を見せつけ、ずっと無双し続けた回でした。

 さて、話は変わりますが、近いうちにハーメルンで新しい小説を投稿し始めるかもしれません。
 今度の小説はモンハンみたいな他のゲームやアニメを題材にしたものではなく、完全オリジナル設定に挑戦してみようかと思ってます。まだ構想段階で色々と不確定な部分も多いですが、ストーリー全体の流れや細かい設定が固まって来たら上げてみようと思います。投稿した際は活動報告とライブドアブログでも報告しますね。


 それでは、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第36話:百竜、来たる

 その知らせは、突然やって来た。

 

 

 

 

 

 

 それは、ハルト達のチームがハンターズギルドに向かい、クエストカウンターで依頼を聞こうとしていた、そんな至極日常的な、いつも通りのこと。

 

「あれ?皆来てるのか………珍しいな」

 一行がハンターズギルドに入ると、里の住民ほぼ全員が中にいた。里長フゲンは勿論、受付嬢のヒノエ、ミノト姉妹に、加工屋のハモンやオトモ仲介役のイオリの姿も見える。

「なあ、ゴコクのじっちゃん。わざわざ皆が集まるってことは、何か全員に伝えることがあるんだろ?」

「その通り。詳しくは、フゲンから話があるゲコ。皆揃ってるでゲコな?」

 里の住民が皆集まっていることを確認すると、フゲンは閉ざしていた口を開き、静かに言い放つ。

 

 

 

 

 

「この里に百竜夜行が訪れる。明日か、遅くとも明後日だ」

 

 

 

 

 

 

「…………………っ!」

 フゲンの言葉に、ハルトは息を呑み、他の村民は顔を見合わせながらどよめく。

「百竜夜行って、前に言うてた………?」

「私も、以前からお話は伺っていましたが…………とうとう現実になるのですね」

 

 

 

「……………ついに、ついに来るのか」

 その中で、ただ一人ハルトだけは俯き、思いつめたような表情をしていた。ユーリとアリスもそれに気付いたらしく、

「ハルトはん?どうかしたんか」

「そういえば、ハルト様は前に仰っていました。自分がハンターを志たのは、百竜夜行がきっかけだって」

「あぁ。百竜夜行から里を、皆を守りたい。そう思ってハンターになろうと思った」

「なるほど、ほんで今回はジブンの目標が果たされるかもしれん。せやから武者震いしとるって感じか」

 

 

「勿論、本当はそう言いたいさ。 でも…………」

 そこでハルトは一度口を止め、少しの沈黙の後に再び口を開く。

 

 

 

 

「怖いんだ、俺。本当に百竜夜行を退けることができるのか、不安なんだよ」

 

 

「ハルト、様……………」

「ここまでハンターとして修練を積んできたのは、間違いなく百竜夜行に立ち向かうためだ。だけど、実際にその時になって、本当にやれるのかどうか…………そんな気持ちになる」

 恐らくハルトは百竜夜行による惨状を実際に目撃したことがあるのだろう、今まで他の者に見せたことのない弱気な表情と後ろ向きな発言に、集会所は静まり返り、チームの二人も何も言えなくなってしまう。

 

 

「だから、頼む。アリス、ユーリ、そして里のみんな。俺に、力を貸してくれないか」

 ハルトはつい先程までの不安そうな様子とは一転、純度の高い勇気を含んだ顔と言葉で皆に言う。

「最初から、俺一人の力で百竜夜行をどうにかできるなんて思っていない。でも、ここには仲間がいる。ほんの少しでいい、モンスターを退けることに協力してくれ」

 ハルトの言葉から少しの沈黙が続き、

 

 

「当たり前です!チームメイトとして、ハルト様に協力しないわけにはいきません!」

「せや、ボクもこの里は気に入っとるし、絶対にカムラ(ここ)を守ってみせるで!」

 ハンター二人に続き、里の住民も力強い言葉を口々に上げ、ほんの数分前の重苦しい空気は一変、活気に満ちたものとなった。

 

「ハルトよ、よくぞ言ってくれた。その通り、あのような悲劇は繰り返してはならん。今こそ、カムラの民が力を合わせる時だ。そして────」

 フゲンは皆を奮い立てたハルトを讃えるように優しく語りかけ、不意に言葉を切り、明後日の方を向く。

 

 

「あら、ここはこんなに賑やかな里だったのね。ま、どんよりした空気よりはずっといいわ」

 

 そこには、ハルトとアリスの両名はよく知っている、それ以外の人物も面識こそないが名前は知る一人の男が立っていた。

「我々には、かのように心強い援軍もいる。そう簡単に里を潰されてたまるものか」

 

「エリザベス様!?」

「来てたのか、でもどうして?」

「そこの里長ちゃんにお呼ばれしたのよ、それがハルトちゃんとアリスちゃんの拠点なら助けないわけにはいかないじゃない」

「エリザベス殿はハンターに関わる者ならば誰もが知る腕利き。ハルト達は知り合いだと聞いたのでな、助っ人の要請をしていたのだ」

「そっか、エリザベスが協力してくれるなら頼もしいぜ。今回もよろしくな!」

「ええ、二人とも元気そうで何よりだわ。ところで、そこの彼は新しくチームに入った子かしら?」

「えぇ、はい!ボク、ユーリっていいます!ってかジブンら、あないな人と知り合いやったんか!?言うてや!」

「悪い悪い、タイミング分からなくてよ」

 ユーリはエリザベスと会うのは初めてであり、チームメイトのハルトとアリスが有名人と面識があるのを知ってひどく驚いていた。二人はユーリに比べて普段の口数が少ない為(そもそも比較対象のユーリは多すぎである)、以前ドンドルマでエリザベスとクエストに行ったことも話していなかったのだ。

 

「では、皆の者。これより二時間後、砦へと向かい百竜迎撃の準備を行う。必要な道具などがあれば用意しておけ。行くぞ、気炎万丈!」

 フゲンの言葉に、住民は再び威勢の良い返事をする。そして、里の民は百竜夜行を退けるべく砦へと向かうのだった。

 

 

次回へ続く




 皆様、こんにちは。作者、たつえもんです。

 ということで、ようやく36話更新できました!毎回お待たせして本当すみません。
 次回はライズ本編のテーマである百竜夜行に、ハルト達が初めて挑みます。果たして上手くいくのでしょうか?(上手くいかなかったら里を襲撃されて話が終わる最悪のエンドなので、まぁある程度の予想はできるかもですが。)
 そして、この先の展開を少しだけ話しますと、新しいハンターも登場予定です。そうです、ハルト達のチームに四人目が加入します!(もちろんゲスト的な感じのハンターも出て来ます)いったいどんな人なのか、お楽しみに!(例のごとくすっっっっごく更新が遅くなるかもですが………)

 ではでは、今回はこのへんで失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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第37話:カムラ防衛戦線

 ハルトや里長の力強い言葉に奮起した里の民は、各々が準備をを済ませた後対百竜夜行の最前線へと向かう。その中には、本来ハンターではない団子屋のヨモギやオトモ仲介担当のイオリ、受付嬢姉妹のヒノエ、ミノトの姿もあった。

 

 

 

 そうして辿り着いた翡葉(ひよう)の砦の入口には、石材と木材で造られたかなり広い部屋が設けられ、普段ハンターが向かう狩場の拠点のように仮眠用のベッドも設置され、事前にギルドに申請を済ませていた為アイテムボックスには応急薬や携帯食料などの支給品も入っていた。

 ハルト達のチームにエリザベスが加わった四人のハンターは、支給品を均等に分けると、石造りの通路を通って砦の中へ入っていく。

 

 そこには、巨大なドーム状の空間があり、至る所に配置されたやや高い段や床の数箇所には何かの設備を取り付けると思われる四角い板が張られていた。大部屋の一角には大きな(かまど)があり、設備の動力炉を担っている。

 四人はウツシから砦の設備について説明を受けると、それぞれの役割を分担する。

「まず、バリスタと大砲の操作は基本的にユーリに任せようかと思う。普段からボウガンを扱っているユーリなら、バリスタでの狙撃も可能だと思うんだが………ユーリは問題ないか?」

「ああ、任されたで。チームのガンナー担当の意地を見せたるわ」

 事実、先程の設備の動作について説明をされた際に、最も早くバリスタや大砲の扱い方を覚えたのはユーリだった。砦のバリスタは回転式の台に巨大なクロスボウを取り付けたような形をしており、日頃のクエストでライトボウガンを使っているユーリにとっては感覚を掴みやすかったのだろう。

「俺とアリスは、ユーリのサポート的に防衛設備を使いながら交代で動力炉を見ていよう。エリザベスは陽動を頼む、出来るだけモンスターを関門に近付けないようにしてくれ。もし余裕があればエリザベスもバリスタや大砲を使ってくれ」

「はい、頑張ります」

 ユーリとアリスがハルトの言葉に賛同する中、エリザベスはどこか興味深そうな笑みを浮かべていた。

「うん?エリザベス、何か不満だったか?」

「いいえ、ただハルトちゃんがリーダーらしくしてるのって初めて見たから」

「ん………ボルボロスの時は、エリザベスがメインだったからな。偉そうだったかな?」

「まさか。これが日頃からチームの皆をまとめてる普段のハルトちゃんなんだなって。アリスちゃんが貴方を慕ってたのも納得できるわ」

「ああ、ホンマにハルトはんは、どこに見せても恥ずかしゅうないウチの自慢のリーダーやで」

「そ、そうですよ。ハルト様はとっても頼りになりますし、それに……………」

「それに、何かしら?」

 エリザベスは言葉を止めたアリスに視線を向け、ハルトとユーリも首を傾げる。アリスは三人の注目を一斉に浴びて緊張しているのか、顔をほんのり赤く染める。

「え…………えっとですね、ハルト様は」

「皆、モンスターが来たぞーっ!持ち場に付けっ!!」

 それを遮るように、見張り番の声が響く。ハルト達の足元に小さな地響きが伝わり、それが砦に接近するモンスターによるものであるのは明白だった。

「全く、タイミングが良いんだか悪いんだか分からへんな」

「すみませんハルト様、お話の続きはまた後で」

「いや、この後のことは考えなくていい。砦を守る。今はそれだけ頭に入れときゃいいさ」

「…………はい、絶対に守りましょう。この砦を、里を」

 

 そして全員がバリスタや大砲を始めとする設備のもとに着くと、モンスターの足音が近付いてくる。いよいよ、百竜夜行との戦いが始まるのだ。エリザベスは丸太の柵を睨み、ユーリはバリスタの照準器を覗き、アリスは目を閉じ合掌して祈り、ハルトは深く息を吐くと静かに呟く。

 

 

 

 

 

「気炎、万丈」

 

 

 

 まず柵を超えてやって来たのはアオアシラとオサイズチ。姿を現したモンスター達に、バリスタと大砲の弾が次々と襲いかかる。

 いずれもハンターの武器に比べてかなりの威力だが、それでもモンスター達は足を止めない。アオアシラは自身に弾を当て続けるバリスタを煩わしく思ったのか、里の民の一人が操るバリスタに向けて突進する。

 

 

「ガルルルッ!?」

 

 しかし突如として、青熊獣の足元で爆発が起こる。ハルト達ハンターはよく知っている、ユーリがいつの間にか仕掛けておいた起爆竜弾だ。アオアシラは一瞬怯んで動きを止め、その隙にバリスタの射撃を大量に浴び、堪らずアオアシラは退却する。

 さらに、エリザベスが鎌鼬竜の気を引いてアオアシラの近くに誘導してくれたお陰で、アオアシラに向けて放たれたバリスタの狙撃の巻き添えをオサイズチにも喰らわせた。そこへ大砲の弾を喰らうと、オサイズチは逃げて行った。

 

 しかし息付く暇も無く次軍がやって来る。次に砦に侵入して来たのはアケノシルムと二体のクルルヤックだった。

 アケノシルムは空を飛びながら、バリスタや村民を狙って火炎液を吐きつけて来る。一発の損害は大して大きくはないが、砲台に燃え移った火がバリスタにダメージを加える。

「バリスタのダメージが大きくなって来たら一度バリスタを下げろ、完全に壊されなきゃすぐ修復できる!」

 そのハルトの言葉に従い、アケノシルムの火に加えてクルルヤックの攻撃を受けていたバリスタの一基が収納され、次のバリスタが現れ一人の乗り手が搭乗し、攻撃を再開した。

 

 

 

ドズゥゥウ………ンッ!!

 

 

 すると、突如として柵の方から重いものが落下する音が鳴り響く。そちらを見ると、ヨツミワドウが砦に入って来ていた。

「そんな、まだアケノシルム達の対処が終わってないのに………!」

 嘆きの言葉も虚しく、ヨツミワドウは防壁に向けて一直線に侵攻する。どうやら、モンスターによってバリスタ等の設備を集中的に狙うものや、反対に砦だけを攻撃するものがいるらしい。

「アカン、このままじゃ里が…………」

 

 

 

「お前ら、止まらんかあぃぃぃいッッ!!!!」

 

 

ギィンンッッッ!!!

 

「ガァァゥ!?」

 

 突然、勇ましい怒鳴り声と共に甲高い音が響き、モンスターは怯んで動きを止める。その隙を突いてバリスタや大砲の弾が降り注ぎ、アケノシルムとクルルヤックの一体を撃退する。

 

「ふう、思ったより大きな音が鳴るのね。ちょっと驚かせちゃったかしら」

 と言い、エリザベスはバリスタから降りる。先程の音の正体は、エリザベスが使った後退弾である。音爆弾のように、着弾するとモンスターを音で威嚇し一時的に動きを止めることができるのだ。

 しかし、最も近くでそれを聞いたユーリをはじめとしたほぼ全員はこう思っていた。

 

 

「(さっきのアンタの男らしい叫び声の方が驚きだよ…………)」

 

 

 しかし、全員すぐに気持ちを切り替え、目の前のモンスターに集中する。まだ、百竜夜行は始まったばかりなのだから。

 

 

次回へ続く




 皆さん、こんにちは。作者のたつえもんです。


 まずは、この「モンスターハンター 焔の心」が、連載開始から一年を突破しました!
 いや~、早い!そして遅い!もう一年も経ってるのにまだ物語の半分も到達してないんだから!百竜夜行はとにかく多くのモンスターが登場する上、通常のクエストと違ってバリスタ等のギミックの扱いをメインに書かないといけないので時間がかかってしまいました。一ヶ月も待たせてしまい申し訳ないです。


 さて、活動報告でも通知しましたが、私たつえもんはTwitterのアカウントを開設しました。基本的には当サイトやライブドアブログの更新報告がメインになると思います。(リンクは活動報告から)

 では、今回はこの辺で失礼します。
 最後まで読んでくださってありがとうございます!
 また次回お会いしましょう。


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