神喰らいの狼 (砂原凜太郎)
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プロローグ in ペニーウォート
プロローグ~ビバ!!神狩り生活!!~


 自分を…………認める。

 なんだ、そんな事だったんだ。

 

 落ちて行く時間が、とてつもなく遅く感じる。正面に見える、ワニの様な物の口が開いていく。

 自分と向き合えた今なら、本当に、変われる気がする。

 

 最後に気が付けて、良かったな。

 ふと、視線を感じた気がして、ゆっくりと顔を向ける。

 私が好きで、私が罪をなすりつけようとして、結局失敗した男。

 白コートの新村コウが、こっちを見ている。

 

 その顔は、後悔しているようにも見えた。その瞳に涙がたまってる。

 ハッ、何後悔してるんだよ。私は狼なんだ。誰かを犠牲にすることもせずにただアイツを殺した狼。

 泣くなよ。そう言うつもりで、口を開いた。

 

「バイバイ。」

 

 大好きだよ、コウ。

 お前は絶対、生き残れよ。

 

 バクン!!

 激痛と共に、私、神木リツの人生は、終った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「オラッ!!さっさと歩け!!」

「キャイン!!」

 

 端的に言おう。私、神木リツは生まれ変わった。

 しかし、最悪なことが3つ。

 1つは、この世界は【灰域】って言う一般人ならその場に居るだけで死んじまうヤベー場所に包まれてること。

 2つ目は、この世界にはアラガミって言うなんでも食べるバケモンが絶えず辺りをウロチョロしてること。

 そして、3つ目。これが一番最悪なんだが、私は、件のアラガミをぶっ飛ばせる存在、ゴッドイーター。

 しかも、灰域内で活動できるようになった、特別な【編食因子】を持つ存在、【対抗適応型ゴッドイーター】通称AGEへの適合試験を受けることになってること。

 

 最後の3つ目最高じゃん。とか思った奴、この世界に飛んで来い。そして今すぐ私と変われ。

 このAGE適合試験は適性がなかった場合普通に死ぬ。

 しかも、これロクに戸籍登録されてない孤児をまとめてトラックに詰め込んで、ここに運んできて強制的に適性があるかないか分からない状況で、無理やり受けさせられる。

 お前ら…………ゲシュタポかなんかの生まれ変わりか?私達はユダヤ人なのか?そうなのか?

 

 そんな文句を心の中でぶつくさ言っていると、私の番が回って来た。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 私は椅子に座っている。傍には、監視員である一般のゴッドイーターが立っている。

 

『AGE適合試験を開始します。気を楽にしてください。』

 

 そう機械音声が響き渡る。しかし、こんな状況で気を楽にできる奴がいるならお目にかかりたい。

 

『第1フェーズ。喰灰による浸食を開始。』

「ぐっ!!うぅぅ…………!!」

 

 その声が響き渡った途端。私の左腕に何かが注入され、激痛が迸る。

 見れば、私の左腕には、黒いひび割れの様な痣が浮かび、体をむしばんでいる。

 

『第2フェーズ。編食因子を投与。』

 

 そんな声と共に、左腕の腕輪が閉じられる。

 

「あっ!!あぁぁ…………ッ!!」

 

 投与された編織因子と喰灰がせめぎ合い、身体が悲鳴を上げる。

 

『第3フェーズ。神器を実装。』

 

 右側を見れば、手の位置に、大きな剣、アラガミを倒すための神器が置いてある。私はそれをもうろうとする意識の中、掴んだ。

 すると、右腕の腕輪が閉じられ、さらなる激痛が全身に迸る。

 

「うっ、うわああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 余りの痛みに絶叫したその後、腕のヒビが消えて行き、痛みが引いて行った。

 

『編織因子による喰灰の中和を確認。おめでとうございます。貴方は対抗適応型ゴッドイーターに任命されました。』

 

 そんな言葉と共に、椅子の拘束が解除される。

 

「うわっ。」

 

 その瞬間、身体を襲った脱力感で、私は地べたに投げ出された。

 それでもなお、神器を杖に立ち上がる。

 

「生き残ったか。」

 

 そう達観したかのような表情で眺めてくる一般ゴッドイーター。手元のタブレットを一瞥すると、

 

「【甲判定】。ここらじゃ見なかったレアものだな。」

 

 そう呟くと、私に顔を向けた。

 

「どうだ、人間やめた気分は?」

「上等だよ……………。」

 

 一般ゴッドイーターの言葉に、皮肉を返す。

 

「今度は…………ワタシが……………、オマエらを…………守ってやる…………よ…………。せいぜい…………感謝しとけ。クソ野郎。」

 

 そう言い、ニヒルに笑ってやる。

 

「ほう……………いい度胸だ。威勢だけは認めてやる。」

 

 そう言う、イラついた表情の看守が、目に映った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「…………い。おい、起きろ。」

 

 誰かがアタシの体を揺さぶる。でも……………、まだ寝てたい。

 

「ムニャ…………。あと4時間……………。」

 

 そう言うと、ハァ。と、ため息が聞こえてきた。

 

「長いぞボケ。おら、起きろクソ猫。」

 

 そう声がし、私の頬を思いっきり抓って来た。

 

「あだだだだだだ!!」

 

 余りの痛みに飛び起きる。

 そこには、白地にペンキで水色のラインが引かれたボディースーツを身に纏った、双葉アホ毛の男。

 私が前世で愛した男、新村コウがいた。何を隠そう、あの時の試験、コイツも受けていたのである。

 出会った時は驚いた。私は泣いたし、アイツは、私を離すまいと抱き締めて来た。

 

「もう、何処にも行かせない。」

 

 その言葉を、私は一生忘れないだろう。

 

「すっごく…………、痛かったんだからな。」

 

 アイツの胸の中で、そう呟いた私に、すまないと投げかけられた時の温もりは、今でも鮮明に思い出せる。

 ちなみに今の私の服装は、灰域で見つけたネコミミキャップとかぶり、支給されたパーカーにはいくつものワッペンが付いている。

 そんな過去は、今の私達の状況からは到底想像できないだろう。

 

「イテェんだよこのバカコウ!!」

「お前が起きないんだろこのアホリツ。」

 

 私の涙目の訴えを冷たいまなざしで跳ね除ける。解せぬ。

 

「キュウ。」

「ニャァ。」

 

 すると、私とコウのベットの上から、それぞれ動物の鳴き声がした。

 

「おう、どうしたミント。腹減ったのか?」

「どうした?バク太郎~。ご飯ならやるぞ~。」

 

 その瞬間、ベッドに振り返り、コウはAGEになる前の孤児時代に偶然拾った猫のミントに、私は灰域で拾った超小型アラガミのバク太郎に、猫なで声で語りかける。

 コウは猫好きの看守からもらっているキャットフードを、バク太郎にはネジやマグネシウムと言った、灰域で拾ってきた物を与える。

 ちなみに、何でもバクバク食べるからバク太郎って読んでる。アラガミだけど、エサ与え解けば人畜無害だ。アラガミを察知したら鳴き声を上げるから、アラガミ探知機にもなる。

 ついでに言うと、コイツの脚は吸盤みたいになっていて、吸い付く。いつも頭の上に載っているが、激しく動いても基本落ちない。

 癒し系という事もあり、運のいいことに看守からこの2匹は黙認されている。

 

「相も変わらずだな、お前ら。」

 

 私達の居るAGE用の牢獄の、同年代の同居人。年少組の兄貴分でもある、ユウゴだ。傍には彼の幼馴染の白髪の女、ルカもいる。

 

「うるせー。それよりコウ、何で起こしたんだよ?」

「ユウゴも、何かあったの?」

 

 私はコウに、ルカはユウゴに語りかける。

 

「ああ、それがな。」

 

 コウは目を泳がせた。言葉を選んでるのか?

 

「今度の仕事を、取って来たんだ。」

 

 ルカのベッドの隣にユウゴが座り、私の隣にコウが座ってくる。

 

「相当濃い場所だよ。リツ。」

「灰域濃度が。って事か?」

「そうだな。」

 

 そう言うと、らしくないため息を付いて、上を見上げた。

 

「そろそろ、年貢の納め時かもしれない。」

 

 ユウゴも同様に上を向き、弱音を吐く。

 

「いずれは生命線である編織因子の投与を断ち切られ…………それで…………。」

「何弱気になってるんだよ?コウ。らしくねー。」

「俺達は死なない。でしょ?」

 

 私はコウに、ルカはユウゴに声をかける。

 

「ああ、そうだな。」

「全くだ。情けない。」

「さてと。仕事だろ?行こうぜ!!」

 

 ルカはユウゴと腕輪を打ち合わせ、私はベットから降り、コウを引っ張って看守の前まで連れて行く。

 

「任務だろ?看守。さっさと扉を開けろよ。」

「相変わらずだな。お前は。」

 

 得意げに言う私に、コウはため息を付く。

 

「チッ、減らず口を叩きやがって。せいぜいミナトに損害を駆けるなよ。」

 

 ミナトってのは、この世紀末で人が集まってる集落の事だ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さてと。ここが濃いとこか。」

 

 灰域の目標地点に付いた私は、高台に座り、新しい景色を見下ろした。

 

「ああ。楽しみだ。そうは思わないか?」

 

 コウが語りかけてくる。

 

『おい、無駄口を叩くな。』

 

 看守の声が響いてきた。

 

「フン。この拘束を解除しないと、仕事が出来ない。無駄口を叩くしかない状況にしてるのはお前らの怠慢だが?」

「ああ。全くだな。おーい看守。さっさと手のこれを外せよ。」

 

 と、文句を言いながら両腕の腕輪を利用した拘束具を外すよう求めると、

 

『減らず口を…………まぁいい。

 ペニーウォート専属AGE、ウルフ1(アイン)ウルフ2(ツヴァイ)の拘束解除を許可する。行って来い。狂犬ども。』

 

 と、声がした。

 その瞬間、私とコウの拘束が解かれる。

 私はの神器は突進力と、【チャージグライド】が売りのチャージスピアに、機動力が売りのショットガン。展開速度に優れたバックラーの組み合わせ。

 コウは、バツグンの破壊力を誇るバスターブレード。アラガミから身を隠す【ステルスフィールド】を搭載したスナイパーに、防御力重視のタワーシールドで組んでいる。

 

「さてと、行くか!!」

 

 勢いよく飛び出す私に、

 

「援護は任せろよ。」

 

 とステルスフィールドを張り、散開していった。

 私とコウの、今日の神狩りが始まった。




 次回 同室の少年AGE、ショウの様子がおかしい?彼の病気を治すため、医療キットを探せ!!

 次回【ウェア・イズ・医療キット?】


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ウェア・イズ・医療キット?

「コウ、見つけたぜ。マイン・スパイダー1匹。アックスレイダー3匹だ。」

 

 アラガミレーダーの情報を頼りに、廃教会の近くの広場に、四体のアラガミを発見する。そいつらを、物陰に隠れて様子をうかがう。

 マイン・スパイダーは、遠距離攻撃が主体の厄介なアラガミ。

 特に、気を付けなきゃいけないのが自爆。マイン(爆弾)の名の如く、死に際に自爆してくる。

 アックスレイダーは、イノシシみたいなアラガミだ。

 気性が荒くて、単純に突進力は厄介。良くも悪くも、初心者向けのアラガミだ。

 

「ああ、見えている。」

 

 そう言うコウ。どこにいるのか、レーダーを見てみると、瓦礫に潜んでるっぽい。でも、細かい位置は見えない。

 

「フン。俺じゃなくて、奴らに集中しろ。」

「わーってるよ。まずは蜘蛛から潰す。で、いいんだよな?」

「ああ。アックスレイダーを狙い、マイン・スパイダーに遠距離から妨害され、囲まれてサンドバック。なんてパターンが嫌ならな。」

「うっ、それは一度味わいかければ十分だよ。」

 

 マジであの時は死んだと思った。

 

「ま、まかせろよ。」

 

 そう言い、チャージスピアを握る。スピアに意識を集中させ、オラクルを送る。

 槍の先端が開かれ、オラクル細胞で形成された第二の穂先が現れ、リーチが伸びる。

 これが、【チャージ】だ。

 

「一気に行くからな。ちゃんと援護しろよ。」

「フン。誰に言っている。さっさと行け。」

「へいへい。」

 

 そんな言葉と共に、瓦礫の陰から飛び出す。アラガミの集中が一気にこっちに向いた。

 三体のアックスレイダーが、こっちに突進を開始する。が、

 

「おいおい、お前らは大人しくしていろ。」

 

 三発の氷弾が、バスバスと刺さり、アックスレイダーが動きを止める。

 ステップで、素早く三匹の間を駆け抜ければ、マイン・スパイダーが二発の光弾を飛ばしてくる。

 

「そこぉっ!!」

 

 その間を、小さい身体を最大限利用して潜り抜け、突撃をぶっさす。

 【チャージグライド】一気にアラガミに距離を詰めれる技だ。

 そのまま、槍を引き抜き、下から上への切り上げ。その反動で上に飛ぶ。

 素早く後退、回避を、攻撃と同時に行う【バックフリップ】だ。

 

「コウ!!」

「言わなくても分かってる。」

 

 減らず口と一緒に飛んできた光線が、マイン・スパイダーを倒す。十分安全マージンを取ってるから、爆発は当たらない。

 正面から突っ込んで来たアックスレイダーを躱して、神器を【捕食形態】にする。

 アラガミの口を彷彿とさせる神器が、アックスレイダーにかぶりついて、オラクルを吸収する。

 こうすることで、私たち神器使いはバーストする。

 

「そらよッ!!」

 

 その一撃でレイダーにトドメを刺す。

 そのままチャージグライド。二匹目を大きくひるませて、横を駆け抜ける。

 駆け抜けざまに回転の威力を上乗せした槍で切り払う。

 

「コウ!!」

 

 そう言えば、残った三匹目の傍に、突如コウが現れる。

 コウは、ステルスフィールドに調整を咥えていて、アラガミから姿を完全に消すことが出来る。

 私達ゴットイーターでも見えなくなるし、狙撃銃形態を展開している時しか使えないから、使い勝手のいい能力ではないけど。

 

「死んでろ。」

 

 その声と共に、高々と振り上げられた大剣が、アックスレイダーに振り下ろされた。

 それで潰されたアックスレイダー。

 発見したら強襲。即撃破が私達の戦い方だ。

 そして、残ったアラガミの死体を捕食形態でムシャムシャして、アラガミの素材を回収する。

 

「ふぅ。任務完了だな。コウ。」

「ああ。地獄に帰るか。リツ。」

 

 お互いの顔を見つめ合って、フフッ、と笑った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「イテテ……看守の奴ら……。」

「今日は派手に絞られたな~。」

 

 そう言い、まだ痛むところを擦るユウゴとルカ。看守に逆らってこうなったらしい。

 

「フン。命令違反なんてするからだ。」

「コ~ウ。生意気で殴られそうになったワタシらが言える事か?」

 

 そう、ワタシ達も、任務の後、殴られそうになった。

 殴られなかったのは、コウが看守の弱みを握ってるからだ。

 たとえば、少年AGEの回収した素材の一部を巻き上げて、申告せずに自分のポケットに入れてるとか。

 あと、AGEの食費ケチって私服肥やしてるとか、実はゲイとか。

 最後のはどうでもいいけどほとんど私服肥やしてるな。

 

「……何かずるいね。」

「……ああ、何と言うか、ずるいよな。」

 

 不平を漏らす二人。すると、

 

「随分としけたつらしてんじゃ~ん。」

 

 と言う声と共に、背中を小突かれるユウゴ。しかし、看守にみっちりじっくりがっつりこってり絞られたユウゴにはクリティカルヒットだったようで、

 

「痛ってぇ!!」

 

 と悲鳴を上げ、自分を小突いた金髪の青年を見た。

 

「テメェ、ジーク。戻ったのかよ。」

「おうよ。ついさっきな。」

 

 ジークは、気さくなブーストハンマー使い。

 探索が得意で、色んなオモチャを年少組の奴らに渡している。

 ワタシも少し探索のイロハを教えてもらったけど、ありゃ天性の才能だな。

 

「それより、聞いたか?この近くのミナトが、灰域に呑まれたって話。」

「ん?そんなの別に珍しい話じゃねぇだろ?」

 

 灰域にミナトが呑まれるのは珍しい事じゃ無い。何人死んだかは知らないけど、運が悪かったって話だ。

 普通の人間じゃそうは割り切れないかもしれない。でも、ワタシは狼ゲームを経験して、AGEの仲間達がバタバタ死んでくのを見て、一度死んで、死がすごく当たり前の様に感じてる。

 

「ああ。けどな、その灰域、段々こっちに近づいてるって話が、オマケで付いて来たとしたら、どうする?」

 

「……灰乱がおきてるのか……?」

 

 その言葉に、コウがそう問いかけた。

 灰乱。それは全てを飲み込む、超危険な灰域。

 私達AGEも、呑み込まれれば死は避けれられないレベルだ。

 それがこっちに近づいて来てるとしたら………………………。

 

「コホッ!!ゴッホ!!ゴッホ!!」

 

 その時響いた、大きな咳の音に、ワタシは振り向いた。

 咳の主は、年少組のショウだ。ここのところ、体調がすぐれない。

 薬を処方してもらってるらしいが、看守がショウのスープに怪しいオクスリを入れているらしい。

 

「あ…………、ごめん…………。うるさかったよね。大丈夫だから。」

 

 やつれた顔で、ワタシらを心配させまいと無理して笑みを浮かべる。このままじゃショウは…………。

 

「まぁ、灰乱より、目先の問題だな。」

 

 深刻な顔で切り出したのは、ユウゴだ。

 

「ショウの事でしょ?最近、咳が酷いもんね。」

「そう思って、灰域で医療キット探したけどよ…………、ああいうのって、いらない時にはゴロゴロ落ちてんのに、いざ欲しいときに無いんだよな。」

 

 沈んだ顔でそう言うジーク。でも、ジークの探索で駄目なら。

 

「明日、全員で探す。」

 

 コウがそう切り出した。

 

「任務の場所は広いんだ。医療キットの一つや二つ、必ず落ちている。」

「でも、ジークの探索でも…………。」

「偶然見つけられなかっただけだ。サルも木から落ちる。コイツはサル以下な訳だから、偶然見つけられなくても仕方がない。」

「そうそう、今度こそは……ってオイ!!誰がサル以下だ!!」

 

 ジークの講義を、コウは黙殺する。

 

「アハハッ!!なんかやる気出て来た!!」

 

 それがつぼったのか、大笑いしたルカは、そう言ってガッツポーズをした。

 胸が揺れてる…………羨ましくなんかないやい!!

 

「そうだな。よしお前ら、絶対見つけるぞ!!」

「「おー!!」」

「…………」

 

 コウだけ参加しなかった。空気読まないよなアイツ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そう意気込んだはいい物の…………。

 

「無い!!」

 

 瓦礫の下にも、

 

「無い!!」

 

 廃教会にも、

 

「無い!!」

 

 前に見つけたアラガミの巣の中も、

 

「クソッ!!どこにあんだよ!!」

 

 全く見つからない。八つ当たり気味に、瓦礫を蹴飛ばす。

 

「おい、時間だリツ。行くぞ。」

「それで良いのかよ!!まだ医療キットは」

「見つからなかったものは仕方がない。」

「何でそう割り切れるんだよ!?コウはショウの命が大切じゃないのか!?」

「そんな訳はない。だが、見つからない物は見つからないんだ。また明日探すしかない。」

「けど!!」

「もう任務は終わってる。ここで看守にどやされて時間を食うのは愚策だ。」

「……わかった。」

 

 奥歯を噛んで、そう言った。

 コウは合理的だ。アイツはショウを見捨てる気は無い。けど、頭がいいから呑み込んでるんだ。常に冷静に、切り捨ててる。

 ワタシは余り頭は良くない。だから、ワタシにコウの気持ちは分からない。

 だからこそ、呑み込んだ。

 明日こそ、医療キットを見つけよう。

 そう心に誓って。




 キャラ解説!!
 ルカ・ペニーウォート
 性別:女性
 年齢:16歳
 ボーイッシュな、白髪の少女。
 白のショートヘアに黒メッシュ。ブルーの瞳は、一見すると男性っぽいが、胸のふくらみが、それを大きく否定している。
 明るく、めげない。
 ドジな所があり、たまに素でボケるアホの子。
 ユウゴとペアを組んで行動しており、素早く連撃を叩き込むアタッカー。
 なお、笑いのツボが浅い。


 次回予告!!
 今回の次回予告を担当させてもらう、ユウゴ・ペニーウォートだ。
 リツはああ心に決めた。俺達も血眼になって探すが。来る日も来る日も医療キットは見つからない。
 そんな時、俺達のミナトへと襲い来る灰乱。度重なる不幸だが、必ずこれを突破して見せる!!
 次回【菊とドリルとワタシらと】
 これでいいのか?え?何何?カンペを見ろ?
 え~っと、俺は止まらねぇからよ……お前ら……だから……止まるんじゃ……ねぇぞ……。
 ………?何だこれ?


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菊とドリルと灰嵐と

「クソッ!!」

 

 また外れた。悔しくて神器を瓦礫に叩きつける。

 

「おい止めろ。破損させたりしたら看守にどやされるぞ。」

「だってよ!!今日もだぜ!!もう何日アタシらは医療キットを探しては空振りに終わり続けてるんだよ!!」

「…………確かにな。そろそろヤバいんだが…………ッ!!リツ、アレを見ろ!!」

「?何だよコウ…………おい、嘘だろ…………?」

 

 アタシたちの視線の先にあったのは、馬鹿でかい黒い波。あれは……あれは…………

 

「灰嵐だ…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 EP.03 ドリルと灰嵐と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいアレ…………港の方に向かってねぇか?」

 

 同時刻、別方向でユウゴ達三人も灰嵐を確認していた。

 

「このままじゃミナトの子供たちが…………急がなきゃ!!」

「待てルカ!!今から行っても…………先回りするのは不可能だ。。」

 

 距離を計算したユウゴがそう声をかける。

 

「だったら!!…………クソッ!!どうすれば…………。」

「騒ぐんじゃねぇ。絶対手がある筈だ。仲間は絶対死なせねぇ。」

 

 なんとか三人はこの危機的状況を打破しようと頭を回転させる。しかし、一向に考えは浮かばず、時間だけが過ぎて行ったその時だった。

 

こちらキャラバン周囲のAGEに通達。現在灰嵐が発生中。誰か応答願えるか?

 

 無線がオープン回線の通話をキャッチした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「こちらAGEだ。状況を伝えろ。」

 

 コウが無線に出ると、

 

『つながった。話は後よ。この船の航路上に居る中型アラガミ二匹を排除して。』

『待て!!何をする気だ?』

 

 無線からはユウゴの声も聞こえてくる。

 

『話は後と言った。貴方達は二組に分かれてるわよね。お互いの元にアラガミが…………グッ!?』

「!?おい、何があった。応答しろ!!」

 

 衝撃と共に無線が一時途絶えたが…………

 

『問題ないわ。アラガミの攻撃が当たったけど。そのアラガミ。私達を無視してそっちに向かったようね。報酬の話なら後からいくらでも聞くわ。本線は港の救援に向かってる。事態は一刻を争うの。』

 

 と、声が聞こえてきた。

 

「うち等のミナトって事か。仕方ねぇ。やるぞコウ。」

「ああ。当然だ。その依頼受けさせてもらうぞ。」

『了解した!!直ちに向かう!!…………港には、AGEのガキ共が取り残されてるはずだ。そいつらを…………』

『必ず助けると約束する!!通信は異常!!健闘を祈る!!』

 

 そんな言葉と共に、通信が切れた。

 

「さてと、アラガミがこっちに来てるって話だったが…………。」

 

 神器を構えれば、現れたのは深紅の鳥みたいな頭部をして、腕には剣に似たパーツが生えている中型アラガミ、【ネヴァン】だ。

 

「あれで間違いなさそうだな。コウ。」

「フン。中型の相手なんて初めてだな。」

 

 バスターソードを構えるコウ。

 

「前衛は任せるぞ。リツ。」

「ああ。仕方ねぇ。行くぜ、コウ。」

「ああ、リツ。」

 

 目くばせをしたアタシらの腕輪に黄色い光がまとわりつく。ちょうどチャージ完了か。

 

「「エンゲージ!!」」

 

 

     獣の本能/

/デリート・プロセス

 

 

 アタシらを一つながりの黄色い光がつつんだ。アタシらの力を最大まで高める力。エンゲージだ。

 

「一気にカタす!!」

「生憎仲間が待ってるんでな。時間は裂いてやれないぞ。」

 

 ネヴァンが勝負を挑むかのようにアタシらに手の剣をを向けてくる。

 アタシたちは同時に地面を蹴った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これが逆転のチャンスって訳か。」

 

 握り締めた拳を見つめ、そう呟いたユウゴは、振り向いた。

 

「いっちょやってやろうぜ。」

 

 と、ジーク。

 

「ボク達なら………どこまでも行ける。」

 

 腕輪を差し出してくるルカ。

 

「ああ。そうだな。」

 

 それを打ち合わせると、ガリガリと言う岩を削るような音が聞こえてきた。

 振り返った先に居たのは、左腕がドリルとなっている中型アラガミ。バルバルスだ。

 

「ちょ、威圧感すげぇんだけど。」

「死なないように。だね、ジーク。」

 

 ニコッ、と笑って彼女の神器。【ヴァリアントザイス】を構える。

 

「行くぞお前ら。ひっくり返すぞ。全てを。」

「「おう!!」」

 

 彼らも、バルバルスに向けて地面を蹴った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「一気に行くぞコウ!!」

「分かってる!!」

 

 ネヴァンの突進をかわしたアタシたちは、神器を捕食形態にしてネヴァンにかぶりつく。そうすることでバーストして、バースト中だけの神器の技【バーストアーツ】が使えるようになる。

 

「いっくぜー!!ニャラァ!!」

 

 ネヴァンの連続突きを直観と反射神経を駆使して躱してチャージグライドを叩き込む。

 チャージグライド後の隙を突こうと突きを放ってくるが、普通ならあり得ないような速度で放ったアタシの【バックフリップ】のおかげで見事にスカッた。

 

「かかった!!見たかアタシの【スラスト&アウェイ】を!!」

「Kieje!!」

 

 吠えるネヴァン。けど、

 

「これで止まれ。」

 

 コウの放った弾丸が、ネヴァンの膝関節を直撃すると破砕音が響いた。【結合崩壊】だ、アラガミの部位を破壊した。

 ダメージを喰らったネヴァンが膝を突く。

 

「リツ!!」

「任せろよ!!」

 

 狙うは一番初めにチャージグライドを叩き込んだ右腕!!

 

「【デスブリンガー】!!」

 

 地面を踏みしめ推進力にして最速の一突きを放つ。

 

「コウ!!」

「フン。リツにしては上出来だ。」

 

 ステルスフィールドを解除したコウが目の前に現れ、バスターブレードを肩に担いで【チャージ】を始める。

 コウのチャージが終わったのは息を整えたネヴァンが立ち上がろうとした瞬間だった。

 

「死ね。【ライジングクラッシュ】!!」

 

 敗北を悟り、死の間際、コウを恨みがましく見たネヴァンの顔面を、思いっきりかちあげる一撃。顔面を砕かれたネヴァンはそのまま勢い余ってぶっ倒れた。

 動かなくなったネヴァンを見たアタシは、ニッ、と笑ってコウを見る。

 

「やったな。コウ。」

「そうだな。リツ。」

 

 皮肉な笑いではない、いい笑みを浮かべたコウの顔がある。今日はいつものAGE用のクソ不味いレーションが美味く感じそうだ。

 

「さてと、向こうの方はどうしているか。」

 

 ふと、コウはユウゴ達がミッションに向かっていた方角に目をやる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「オ…………ラァ!!」

 

 バルバルスのドリル攻撃を飛び上がって回避したジークは、バルバルスの顔面を強打して離脱。走りながらショットガンを連射して注意を退く。

 

「へへッ、こっちだぜ!!」

「いい動きだジーク!!行くぞルカ!!」

「まっかせて~!!咬・刃・展・開・形・態ッ!!」

 

 伸縮するヴァリアントサイズの刃が、バルバルスの脚を払った。

 

「Gaaa!?」

「ヘッへ~ん!!ヴァリアントサイズはこんな使い方もあるんだよ!!ユウゴ、やっちゃえ!!」

「任せろ!!【ディバイドゼロ】!!」

 

 ステップを踏んで切り込んだユウゴのロングブレードが、三本のドリルの一角を切り落とす。

 

「これでもう地中に潜れねぇだろ!!ジーク、ルカ!!」

「おっしゃあ!!【ぶち壊し!】だぁ!!」

「咬・刃・展・開・形・態ッ!!噛み砕け、【ヘルオアヘヴン】!!」

 

 ジークのハンマーの後方にロケットブースターが現れる。これが縦横無尽の機動力を有するブーストハンマーの【ブースト】だ。そのブーストの威力を最大まで乗せた一撃に、バルバルスの顔面が結合崩壊を起こす。

 さらにそこを、ちょっとでもタイミングが狂えば発動しないため、AGEの中でも一握りの実力者しか使えない上級バーストアーツ、【ヘルオアヘヴン】がとらえ、圧倒的な威力でバルバルスを引き裂いた。

 

「ま、こんなもんか。さてと…………ガキ共は…………大丈夫か?」

 

 ユウゴ達は、不安そうにペニーウォートのミナトの方を見つめた。




 キャラ解説!!
 ユウゴ・ペニーウォート
 ロングブレード【イマジニア】を愛用する、ペニーウォートの兄貴分。
 生真面目な性格で、受けた仮は必ず返そうとする。
 味方に優しく、敵に厳しい。
 ロングブレードの剣さばきは一級品だが、全体のサポートに回るため、あまり評価されずらい。
 また、ルカの事になると壊れることがある。
 日に日に女性らしい体つきになって行くルカだが、スキンシップが子供時代から変わっていないので困っているらしい。
 
 次回!!あの二人が大活躍!?【菊の奮闘】


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【菊の奮闘】

投稿遅れてすみません。今後はしっかり投稿していきたいと思います。


 コウとリツがネヴァン、ユウゴ達がバルバルスを相手している間、彼らに中型の相手を頼み込んだ人間達は、彼らの駆る壊域踏破船【クリサンセマム】を、開け放たれたペニーウォートのメインゲートから、ペニーウォートに入港させていた。

 

「駄目です。ペニーウォートとの通信、依然つながりません。」

 

 桃色の髪をした少女は、無線機に手を当てたまま、そう言う。

 

「感応レーダーがまだ動いてた時、ペニーウォートから出ていく船団の反応が感知できてた。おそらく、お偉いさん方はすでにトンズラこいてますねこりゃぁ。」

 

 少女の隣のサブコントロールボードを動かしながらそう言うのは、着流し風の服を着た優男。右腕につけた腕輪から、おそらく、一般のゴットイーターなのだろう。

 

「灰嵐が迫ってきています。周辺の壊域濃度、依然上昇中。どうしますか?オーナー。」

 

 桃色の髪の少女が問いかけたのは、壊域踏破船のブリッジ、その艦長席に足を組んで座る、左目に方眼鏡(モノクル)をはめた女性に問いかける。

 

「私たちの為にアラガミの足止めをしてるAGE達に、子供たちの事を頼まれてるでしょう?ペニーウォートの職員は、AGEを消耗品としか考えてないわ。力のない子供たちを連れて行ったとは思えない。約束通り、子供たちを救出するわよ。」

「しかし、入り口の扉も開け放たれてるし、中の壊域濃度の濃さも分かりません。それに、感応レーダーに座ってたAGEの彼も、さっきの衝撃で負傷して…………。」

「やむを得ないわね。リカルド、行ける?」

 

 そう言い、オーナーと呼ばれた彼女は、優男の方を見る。

 

「ええ。オーナーの頼みとあらば。それに、あのガキ共を、放っておくわけには、行かないんでね。」

 

 肩をすくめて、優男は彼女の頼みに応じた。すると、

 

「私も行きます!!」

 

 と、エレベーターのある方向から声がした。

 そこに駆け込んで来たのは、金髪の、まだ顔に幼さの残る少女。

 

「貴方、確かフェンリル本部から輸送任務で護衛として派遣された、」

「クレア・ヴィクトリアスです!!事情は聴きました!!子供たちを放っておくわけにはいきません。それに、私もゴットイーターです!!」

 

 そう言い、己の右腕の腕輪を見せる。

 

「…………そうね。ではヴィクトリアス女史、リカルド、お願いできる?」

 

 クリサンセマムのオーナーの頼みに、

 

「はい!!」

「応さ。」

 

 と、二人は各々の返事を返した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さてと、お邪魔しますよっと。」

「答える人は居ないでしょう…………。」

 

 チャージスピアを装備したクレアと、ヴァリアントサイズを装備したリカルドが、ペニーウォートのがらんとしたロビーになだれ込んだ。

 室内は、よほど職員たちが慌てたのか、物が散乱しまるでホラーゲームの廃墟の様だ。

 

『周辺の壊域濃度、依然上昇中ですが規定範囲内です。しかし、この上昇幅だと、通常のゴットイーターであるお二人には、この調子だと残された時間は、あと30分が限界かもしれません。安全を見積もって、20分後には撤退を推奨します。』

 

 と、桃色の髪の少女、エイミー・クリサンセマムがオペレートする。

 

「たったの20分!?待ってください!!そんな短時間でこのミナトの中を散策しきる事なんてとても…………。」

「落ち着けよ嬢ちゃん。俺は以前、このミナトに来ててね、ガキ共の牢屋…………居住スペースも見てる。」

「そういう事なら大丈夫そうですね…………時間がありません。案内してください。」

「応ともさ。こっちに…………ん?」

 

『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたゲートを乗り越えると、ジリリリリ!!とサイレンが鳴り響いて、警備用の小型ガードロボットが襲来する。

 完全自動で命令に従って警備をするロボットで、小型の機銃を備えている。

 

『警告。アナタ達ハペニーウォート港ノ規定ニ違反シテイマス。即刻立チ退キナサイ。』

「やれやれ、警備システムは生きてんのかよ。仕方ねぇ、嬢ちゃん、強行突破して…………。」

 

 と言って振りむこうとした瞬間、ズダダダダダ!!と連続的な発砲音が響いて、ロボット達が次々と吹っ飛んでいく。

 

「時間が無いので強行突破しますよ!!」

 

 そのままチャージグライドで突っ込み、さらにロボットを吹き飛ばす。

 

「やれやれ、肝っ玉の座った嬢ちゃんだこと!!」

 

 エネルギーレーザーを継続して照射する銃器、レイガンに形状を変形させ、ロボット軍団をなぎ倒していく。そして、警備システムの妨害を突破してエレベーターの元までたどり着いた。

 

「コイツで降りるぞ!!」

「何階ですか!?」

「一番下だ!!」

「了解!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《ペニーウォート港地下3F AGE居住施設。》

 

 チン。と音がしてエレベーターが開く。その中から素早く飛び出し銃形態の神機を構えた二人だったが、警備ロボットは居なかった。

 

「大丈夫なようだな。」

「警備ロボットに時間を割きすぎました。限界活動濃度到達まで残り15分しかありません。急ぎましょう。」

『気を………く…さい…!!ち………お……たア…………は…………!!』

「エイミー!!おい、エイミー!?クリサンセマム、応答しろ!?」

 

 しかし、無線はザー、ザーと音を響かせるだけだ。

 

「チッ、通信がイカれたか。地下だからか、それとも壊域濃度が急激に上昇したのか…………。」

「どちらにせよ、急ぎましょう。」

「おうさ!!」

 

 そして、リツ達の後輩である三人の子供たち、マール、ショウ、リルの三人を見つけた。

 

「あ、この間のオジサン!!」

 

 バク太郎を抱えたリルが、声を上げる。

 

「応チビッ子共、今回は前回の視察と違ってな、オジサンちょっと手荒に行くぜ。下がって…………な!!」

 

 ヴァリアントサイズを振るい、扉の鍵を破壊する。

 

「さぁ!!急げ!!灰嵐が来るぞ!!」

「お、おう!!」

「はい!!」

「い、急がなきゃ…………う……。」

 

 しかし、ここで問題が発生した。ここ最近具合の悪かったショウが、倒れたのだ。

 

「「ショウ!!」」

 

 マールとリルの二人が声を上げる。

 

「撤退推奨時間の20分です!!急ぎましょう!!リカルドさん、あなたがおぶって!!」

「ああ仕方ねぇ!!坊主、もう少しの辛抱だからな!!」

「うぅ…………。」

 

 苦しそうにするショウをその腕に抱え、二人を戦闘がクレア、後方がリカルドになるようにマールとリルを挟む。その瞬間、ズズン!!と音がして建物全体が揺れた。

 

「急ぎますよ!!このエレベーターをt」

 

 使いましょう!!と言おうとしたところで、プチン。と音がした。どうやら、エレベーターのワイヤーが切れたらしい。ドスン!!と音を立ててエレベーターが落ちる。

 

「ああもう使えない!!階段を使いますよ!!」

「全く、ガキ共の前でダサいところは見せられないからな!!お前たちも、行けるな!!」

「「うん!!」」

 

 リカルドの声に、マールもリルもうなずく。

 

「よし、走るぞ!!」

 

 何とか地上1Fまで上り詰め、正門から飛び出す。

 

「急げ!!クリサンセマムに!!」

『リカルドさん!!クレアさん!!急いでください!!感応種の接近を確認しました、これは…………スパルタカスです!!このエリアに到達するまで、残り100秒!!』

「ああクソ!!次から次へと厄介ごとが降りかかりやがる!!」

 

 感応種。それは、アラガミを従え、自分を王とした群れを成す、危険なアラガミ。その恐ろしさは、アラガミの一種ともいえる神機にも、その権能を作用させてくること。AGEは別だが、従来のゴットイーターにとっては、自分の神機を封殺させてくる強敵だ。

 

「聞こえたなイルダ!!急いでガキ共を乗せる!!クリサンセマムを緊急発進(スクランブル)させろ!!」

『もうスタンバイに入ってるわ!!リカルド、貴方達も急いで。』

 

 そして、リカルドとクレア、マール達はクリサンセマムに滑り込んだ。

 搬入口のゲートを開け、エアロックのようになってる部分に入り後方の扉を閉める。

 

「入ったぞイルダ!!」

『分かったわ。クリサンセマム、全速回頭!!直ちにこの区画を離脱!!』

『りょ、了解!!』

 

 こうして、クリサンセマムはリツたちの待つエリアへと急いだ。




 ビデオを見る限り、こんな切羽詰まった描写ではないのですが、こうだったら面白いな~という筆者の妄想を詰め込んだ短めエピソードとなってしまいました。すみません。

 次回 壊域踏破船、【クリサンセマム】の面々と合流したユウゴ達。しかし、そこに新たな課題が舞い込んでくる!!【一難去ってまた一難】お楽しみに!!


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クリサンセマム~新航路開拓編~
一難去ってまた一難


「よっと。おす、ユウゴ。」

「待たせたようだな。」

「いや、問題ない。俺たちもさっきついたところだ。」

 

 ネヴァンを倒したワタシ達は、無線の主から指定されたポイントに集合した。

 ワタシとコウより先に着いてたユウゴ達に、声をかける。

 

「しっかし、こっちは運よくアラガミが来なかったけどよ、そっちはダイジョブだったの?」

「問題ない。俺にはこれがあるからな。」

 

 ジークの問いに、コウがスナイパーの神機を掲げて見せる。

 

「あ~、あのコウ特性のアレね~。 ステルスフィールドと違うんでしょ? アレ。どうやってんの? なんだっけ、アレ。」

 

 と、アレアレ連呼するルカの問いに、コウは呆れたような顔で、スナイパーにつけた外付けのデバイスを見せて、

 

「アレアレうるさいぞ。ミラージュシステムだ。」

「あ~、キースと結構前からガチャガチャいじくってたやつだよね。ボク達にも見えなくなるのってすごいよね。けどさけどさ、この間もソレ弄ってたけど。」

「…………あいにく、看守も目を向けないようなボロパーツでやりくりしてるものでな。

 使う回数にも制限があるし、連続で起動しているとイカレる。おまけにバッテリーは長持ちしない欠陥品だ。」

 

 丁寧に手入れしないといけないんだよ。と言うコウ。だから最近ガチャガチャやってたのか。

 

「でもよ、それだとリツはダイジョブだったのかよ?」

 

 耳のいいアラガミとかもいるんだろ? っつうジークの質問に、コウはニヤリと笑う。……まさか…………。

 

「フン、そんなの当然」

「おいやめろ。」

「どうした? リツ。」

「お前!! アレを言うつもりじゃないだろうな!?」

「ん? 何かあったのか?」

「何でもないぞユウゴ。コイツが」

「わーっ!? のわーっ!? やめろバカーッ!!」

 

 ミラージュシステムのフィールドに入れてもらうためにおんぶしてもらったなんて言えるわけないだろ!? 恥ずかしすぎて死ねるわ!!

 ジークに聞かれたらにちゃにちゃしながらイチャついてるとか言われんだろ!? 確かにコウは好きだけどそういうのを言われるのはハズいんだよ!! 分かれ!!

 

「バカだと!? この俺が!? 俺がバカならお前は何なんだ!?」

「知らねーよ!! このデリカシー皆無のクソバカ野郎!!」

「フン。お前みたいな暴走と言う言葉が形になって歩いているようなアホに言われるとはな。」

「アホだと!?」

「事実だろうが!!」

 

 フシャーッ!! と威嚇する私に怒鳴り返す。そんなギャアギャアやってるワタシ達に、

 

「はいはい、おなか一杯なんでそのバク太郎も食わねぇ痴話喧嘩を終わらせてくれませんかね?」

 

 と、ジークが割って入った。

 

「「誰が夫婦だ!!」」

 

 顔を真っ赤にしたワタシとイラついたコウのセリフに、

 

「そういうところだな。」

 

 とユウゴがあきれ顔で突っ込んでいると、地面が揺れる音がした。

 

「これって…………。」

「フン。ようやくお出ましか。」

 

 ルカの言葉に、コウがつぶやく。

 そして、やってきたのは、

 

「で、」

「デッケェ。」

 

 巨大な、船だった。正確に言えば陸上戦艦。この灰域を切り抜けるための船。灰域踏破船だ。

 しかもコイツは大型の。ペニーウォートには、少なくともこんなデカい船はなかった。

 すると、ハッチが開いて、中から着流しみたいな服装のおっさんが出てきた。

 

「よう。あんたらが俺たちを助けてくれたAGEか。ありがとうな。」

 

 と、声をかけてくる。

 

「ああ。アラガミは倒したぜ。……ガキどもは?」

「安心してくれ。牢獄にいた奴らはちゃんと保護した。」

「アイツらは無事か……よかった。」

 

 ホッと胸をなでおろすジーク。だけど、その考えは間違いだったと、知らされることになる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「は?」

 

 リルたちからの話を聞いて、ジークの顔色が変わった。

 きっかけは、不安そうな顔をしていた三人と再会した時、コウとジークは、キースについて言及したことだった。

 

 キース・ペニーウォート。ルカの事を先輩。としたってる良いやつで、感応率が低くく、戦闘には参加できないがその代わり、機械いじりが得意な奴だった。

 さっきルカが言ったように、コウと協力してあの改造ステルスフィールド、【ミラージュシステム】の改良や設計も、コウとの共同作業だった。

 

「キースが、連れてかれちゃったんだ。」

 

 リルの言葉に、ジークが目の意を炉変えたんだ。

 

「オイ!! どういうことだよ!? だってアイツは戦えないだろ!?」

 

 あまりの動揺に、マールの肩を掴んで訴えかける。

 

「わ、わっかんねぇ。ただ、看守(アイツら)が、お前も来い。って牢屋から引っ立てられちゃって………。」

「う、ウソ、だろ。」

 

 あまりの動揺に座り込むジーク。

 

「……クソッ」

「ユウゴ……」

 

 悔しそうに俯くユウゴに心配そうな顔を向けるルカ。

 

「…………あくまで、戦力として見ていないことを願おう。技術者として見ていることをな。」

 

 腕を組んで、そう呟くコウ。けどよ、いくら技術者として見てたって、あのクズどもが、AGEをどう見てるかなんて…………。

 

「あれだけ頑張って助けて、待ってるのは次の悲劇かい…………やるせないねぇ。」

 

 おっさん、いや、リカルドって名乗ったソイツは、頭をかいてそう呟いた。

 

「…………そう、そんなことが。」

 

 その話を聞いていた、この灰域踏破船【クリサンセマム】の艦長で、おんなじ名前のミナト、【クリサンセマム】のオーナーらしいイルダさん。

 …………どことは言わないし、こんな時だからデリカシーがねぇかもしれないが、デカい。ルカもそうだし…………。

 ワタシは無言で自分の体を見る。リルの二倍は年上なのに、背丈はそれよりちょっと上なだけ。体の起伏なんてないに等しい。…………羨ましくなんかねぇよ!!

 

「…………残念だけど、私達にはどうすることも出来ないわ。……謝罪と、その彼が生きていられるよう祈ることくらいしか。」

「…………いや、それで十分だよ。」

 

 かすれるような声でジークはつぶやいた。

 

「信じるさ。アイツは生きてるって。俺たちのために必死に機械いじりを覚える努力家なんだぜ? 兄貴としちゃあ情けねぇけどよ、アイツは俺より何倍も賢いんだぜ? 看守共なんざ足元にも及ばない知恵で、今頃看守の下をグルグル巻かせてやってるはずさ。」

 

 そう言い、微笑む。

 ジーク…………強がりがバレバレだぞ。

 それを言うほどワタシは野暮じゃねぇ。すると、

 

「イルダ、とか言ったか?」

 

 ユウゴがイルダの方に向き直る。

 

「確かにキースはいないが、マール、ショウ、リル。この三人を助けてくれたこと、感謝する。先ほどの無線の報酬の件、それだけで十分だ。」

 

 そう言い、頭を下げた。

 

「頭を下げないで頂戴。あなた達がアラガミを倒してくれたおかげで私たちは救われたし、その、」

「いや、こうじゃないと筋が通らねぇ。だから、この感謝は受け取ってくれ。」

 

 そう言うユウゴの目を見たイルダは。

 

「いい目ね。まっすぐな目。そういう目の人は信頼できるわ。」

 

 そう言ってから。

 

「じゃぁ、この感謝は受け取るわ。そして、私からも言わせてもらうわね。ありがとう。ここのクルーを救ってくれて。」

 

 と、頭を下げる。

 

「ああ。その感謝はありがたく受け取らせてもらう。」

 

 そう返したユウゴに、イルダは笑みを浮かべて、

 

「だけど、この状況も、長く続かないのは、わかってるわよね。」

 

 ユウゴは、その問いに顔をしかめる。

 原則、AGEの移動はミナトの権利者と、ミナトを統括してるグレイプニルの許可なしに出来ねぇ。そして、ワタシらは看守以上の階級の奴とあったためしがねぇ。

 

「ま、そのことはおいおい考えるさ。生きてさえいれば、なんとでもなる。」

 

 ま、キースの事とか、ワタシも頭がぐちゃぐちゃになってっからな。

 

「……とりあえず、貴方達は灰域航行法にもとづいてクリサンセマム保護させてもらうわ。ペニーウォートの責任者は、先の灰嵐のおかげで、軒並み行方不明なの。

 どうやら逃げたみたいなんだけど…………行く当てもないまま灰嵐に巻き込まれていたりしたら、」

「うっわ。喜ぶ奴と悲しむやつで分かれそうだぜ。」

 

 思わず、そうつぶやいた。

 

「止めとけ、リツ。」

「何でだよ。」

「たとえそうだったとしても、俺は喜ぶ気にはなれない。」

 

 …………ま、確かにな。

 

「悪かったよ。」

「いいんだ。そういう気持ちがあるのも理解できる。」

 

 コイツ、ホントにリーダーの器してやがるぜ。ワタシらをこんな風に言えるとか、菩薩かキリストか何かか?

 

「道中何かあったら、手伝ってもらうことになるかもね。」

 

 そう微笑むイルダに、ユウゴは笑みで返した。

 

「任せろ。だが、ギブ&テイクだ。タダ働きはしない。」

 

 いい悪い笑みでな。それに、イルダも方メガネ(モノクル)を直してから、余裕の笑みで返した。

 

「ええ。露払いをしていただくことがあるでしょうね。」

「上等だ。そこらのAGEとは、一味も二味も違うというのを見せてやるぜ。」

「あら? 期待しておくわ。」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「航路?」

 

 その後、ワタシ達には、女性部屋と男性部屋の空きベットが用意された。

 男部屋にお邪魔したワタシは、そこでコウからそんな言葉を聞いたのだ。

 

「ああ。ユウゴ達が交渉した結果だ。俺たちは、グレイプニルまでの新規航路の開拓を手伝うことになった。」

 

 航路。それは灰域濃度の薄い場所()場所()を、線でつなぐようにした形で作った、比較的に船で通るのに安全な道だ。それを新しく開拓できれば、その道の手数料でガッポリ儲けられる。

 

「報酬は?」

「手数料の五割。」

「吹っ掛けたな。」

 

 ユウゴの答えに、ジークがそういう。

 

「そういうな。初めはコイツ、7:3なんて言い出したんだぞ。」

「そりゃ吹っ掛けたな。」

「スマン。さすがに調子に乗った。」

 

 コウの暴露に、ユウゴが項垂れる。

 

「それで? 今は?」

「休憩だ。ルカが、船の目ともいえる感応レーダーの適性があってな。」

「しばらくは大丈夫らしい。しばし休憩だ。」

 

 今のうちに体を休めとけって話な。そういうことなら分かった。すると、

 

「おや、これが新入りの皆さんですか。」

 

 と、声がした。入ってきたのは、着物姿で、羽織を肩に掛けて羽織ってる、糸目の男だ。両腕のそれは、腕輪。

 

「……アンタは?」

 

 ユウゴが睨むと、笑みを浮かべたソイツは、

 

「これは失礼。コジョウ・クリサンセマムと申します。クリサンセマムの、数少ないAGEですよ。

 まぁ、先の襲撃で少々ケガをしているお陰で、今は療養中のみですが。」

 

 そう言い、右腕を見せる。

 

「見事にギプスでグルグル巻きだな。」

「ええ。腕が鈍ってしまいそうです。」

 

 そう答えてから、

 

「この度は、私の負傷のせいでご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」

 

 と、丁寧な物腰で。頭を下げた。

 

「気にすんな。こっちはそれだけ利益が出る。」

「それはそれは。何はともあれ、これからよろしくお願いいたしますよ。」

 

 そう言ってから、

 

「そういえば、お名前を伺いしていませんでしたね。」

「ああ。ユウゴ・ペニーウォートだ。」

「改めて、宜しくお願い致します。」

「ああ。」

 

 そうして、手を握り合う。

 

「(この男、クリサンセマムはデカい船なのにたった一人で守ってんのか? もしかしなくても相当な実力者かもな。)」

「(この青年、腹に一物抱えていますね。イルダさんの護衛であった海千山千のタヌキどもと似た様な、危険な香りがします。)

 

 心の中では、蛇が鎌首もたげてたけどな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《No Side》

「ほら、ここだ。さっさと入れ」

「うわっ!?」

 

 ペニーウォートの大型船。キースは、そこの、どこだかわからない場所放り込まれていた。

 

「イテテ…………人使いが荒いよ。」

 

 エンジンの整備やら何やらと手伝わされて、挙句の果てにここに放り込まれたのだ。文句はしょうがないだろう。

 

「あ、ほらっ、言われてた新入りクンっスよ? レイト君、起きてくださいっス~。」

 

 すると、声がした。

 

「ふあ? な、何?」

 

 こんどは、眠そうな声が。

 

「ッ!? だ、誰ッ!?」

 

 警戒するようにあたりを見回すキース。

 

「あ、そうだ。電気は付けないとっスね~。」

 

 そう言うと、パチンという音がして、電灯が付く。

 

 そこは、倉庫のようだった。積み上げられてた箱の上に座る少女と、眠そうな顔を浮かべる青年。二人とも、AGEだ。

 

「ようこそ新入りクン、歓迎するっス。」

「え?」

「あ、ボク、レイト。よろしく…………グゥ。」

「ね、寝た?」

 

 青い髪の青年が、名前だけ言って、また眠りに入ろうとする。

 

「ほら、レイト君、お~き~て~!!」

 

 それを揺さぶって起こす少女。

 

「苗字は割愛するけど、ラキナっス。あんたと同じ、ここに連れ込まれた、お仲間っすよ。」

「お仲間?」

「アナグラ組。」

「へ?」

「Zzz…………。」

「また寝てる。」

 

 再びラキナがレイトを叩きおこしながら、

 

「ともかく、そう呼んでるんすよ。ラキナたちの住処は、文字通りアナグラっスからね。」

 

 そう言うと、キースに顔を近づけた。

 

「という訳で、よろしくっス!!」

 

 ニカッ!! と笑うラキナ。

 

「え、う、うん。よろしく。」

 

 キースは、戸惑いながらもその手を取った。



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襲来 VS AGE

 アラガミがなぎ倒し、ぽつぽつと枯れた木が残るだけとなった、森の跡地。そこで、数人の男女がキャンプをしていた。

 

 皆両手に腕輪をしている。AGEだ。

 

 

 

「今日が、お前との最後の食事になるかもしれんな。」

 

 

 

 飯盒の火を眺めながら、顔に傷のある、紫色の髪の男が、反対側にいる少女にそう言う。

 

 

 

「少なくとも、しばらくは食事を共にできません。」

 

「……だな。」

 

 

 

 機械的に答える彼女に、男は顔を上げる。

 

 

 

「上層部うえの考えが分からん。お前より俺が適任だろうに。」

 

「彼らは、師匠よりも私の方が見た目的に同情を引きやすいと言っていました。」

 

「つくづく思うな。俺たちの命を、連中は何とも思っちゃいない。」

 

「そうですね。」

 

 

 

 ため息を付く。

 

 

 

「ネームレス・ワン。」

 

 

 

 ネームレス・ワン。それは、彼女が今回の任務を行う際の特殊コード。

 

 

 

「お前の任務、しかと果たせ。いろはは叩き込んである。」

 

「了解です師匠。」

 

 

 

 そう言って一礼する少女――ネームレス・ワン。

 

 

 

「しっかし、こういう時くらい俺に飯を作らせてくれてもいいのではないか?」

 

「師匠の料理の技量には問題があると感じざるを得ません。」

 

 

 

 きっぱりと真顔でそういう彼女に、男は苦笑する。

 

 

 

「この馬鹿弟子が。こういう時は世辞の一つも言うものだ。その愚直さは評価できるがな、対応力が無ければ、臨機応変には動けないぞ。」

 

「了解しました。気を付けます。」

 

 

 

 そう言うところが愚直だというのに……。とため息を付いた男は立ち上がる。

 

 

 

「行くぞ、撤収だ。」

 

 

 

 と、周囲のAGEに声をかけ、

 

 

 

「それじゃあ俺はもう行く。バランに有益な情報を持ってこい、ネームレス・ワン。」

 

「はっ。」

 

 

 

 そう言って敬礼する、ネームレス・ワン。

 

 

 

「……頑張れよ、ルル。」

 

「はい。」

 

 

 

 最後にそう言って、男は去っていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そぉらよぉっ!!」

 

 ワタシのチャージグライドがバルバルスのドリルを貫く。

 

『バルバルス、結合崩壊とダウンを確認、一気に仕留めてください!!』

 

 クリサンセマムのオペレーター、エイミーの声が響く、

 

「畳みかけるぞ!!」

「任せなぁ!!」

 

 コウとジークがそれに便乗して渾身の連撃を見舞い、バルバルスは倒れた。

 

『アラガミの活動停止を確認。流石ですね、皆さん!!』

 

 エイミーの嬉しそうな声が聞こえる。

 

「これで、今日のアラガミは排除完了か。」

 

 そう言ってバスタードソードの切っ先を地面に下ろすコウ。

 

「つっかれたー。」

 

 ジークもハンマーを肩に担いでそんな声を漏らす。

 

「さ、帰ろうぜ。下宿先によ。」

 

 クリサンセマムの航路開拓の手伝いとして、ルート上のアラガミを排除する日々。それは、AGEがどうとかという話もなく、充実した日々だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『お帰りなさい、皆さん。今日もお疲れ様です!!』

 

 帰ってくると、エイミーのそんなアナウンスがワタシらを迎える。

 

「く~っ。やっぱあったけぇよなぁ。こういう挨拶。」

「俺なんて驚いたぜ? そんな文化があるんだってな。」

「フン。」

 

 ワタシとジークの言葉に、つまんなそうに鼻を鳴らすコウ。まぁ、コイツなりに喜んでるあかしだけどな。

 

「おう、お疲れさん。」

 

 先に帰還してたユウゴが声をかける。

 

「そちらはネヴァンだったな。どうだった?」

 

 コウがそう言うと、

 

「ああ。危うく翻弄されかけたが、ルカのおかげで何とかなった。」

 

 なるほど、ヴァリアントサイズの拘束力に助けたわけか。

 

「お疲れ様です、皆さん。任務が終わったそうですね。」

 

 すると、そんな声はエレベーターの方からした。

 

「おう、コジョウ。丁度な。」

 

 歩いてきた男、コジョウ・クリサンセマムに手を振る。

 

「すみません。本来なら私が皆さんを助けるのがよかったのですが、」

「全治三か月。それまで戦闘は厳禁、か。」

「はい。リハビリやトレーニングにはいそしんでいますが、皆さん、ご迷惑おかけしています。」

 

 ホント、コイツは腰が低いな。

 

「いや、ケガならしょうがねぇ。そういうのに目くじらを立てるほど、俺達の心は狭くないさ。」

 

 ユウゴが頭を下げようとするコジョウを手で制する。

 

「報酬はもらっているからな。」

「そうですか、それでは、ご飯にしましょう。」

「おっ、今日のメニューは?」

「ミソラーメンです。ホープさんからいい商品が手に入ったんですよ。」

 

 ホープってのは、各地を転々として商品を売り歩く行商人だったな。因みに、クリサンセマムにはもう一人フェイスっつう商人がなぜか住み着いている。

 ホープんとこみたいに珍しい商品こそねぇが、その分品揃えが安定してる

 そしてコジョウの飯は旨い。ただし、麺類に限るが。

 何でほんとこいつは麺類だけ職人顔負けのクオリティの癖に目玉焼きの一つも作れねぇんだ? 誰か教えてくれ。

 

「そういう事なら、ルカを呼んでくる。」

 

 そう言ってユウゴが行こうとする、せっかくだから、

 

「たまにはワタシらが言ってくるよ。」

「私……ら?」

 

 コウがピクリ、と眉を寄せる。

 

「おう。コウも来るだろ?」

「はぁ!? 何で勝手に決めるんだ!!」

「別にいいだろ? 減るもんじゃねぇし。」

「ふざけるな!! 確実に時間と体力が減るだろうが!!」

 

 というコウの声を無視して、ワタシはコウを引っ張ってエレベーターに行き、貨物エリアを選択する。この時間なら、ここにいるだろ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《No side》

「じ―――ッ。」

「…………。」

 

 クリサンセマムの貨物エリア。そこにはフェンリル本部からの積み荷とされるコンテナがあり、そのコンテナに続く扉の前では一人の少女、クレアがそのコンテナを守っている。

 ルカはそのクレアが立つ場所の近くの壁のくぼみに腰かけて、そちらをじっと見ているのだ。

 

「じ―――ッ。」

「…………。」

 

 クレアにとってこの少女(ルカ)の奇行の理由は思い当たる。

 ここに初めてルカが仲間と来た時、クレアはルカたちを冷たい態度で突っぱねたのだ。

 それがムカついているのだろう。

 

「じ―――ッ。」

「…………。」

 

 とはいえ、彼女も人間だ。彼女だってイライラすることはあるし、そもそも基本的にここに立っているのが彼女の任務だ。

 見張りというのは暇な物で、職務上それは結構なことだが生物上人間はそれに納得できる生き物ではない。

 

「じ―――ッ。」

「いつまでそうしてるつもりですかッ!!」

 

 よって、こんな声が上がるのは当然だろう。すると、ルカはにっこり笑って。

 

「やった!!」

「は?」

 

 と、立ち上がってガッツポーズをした。

 

「やっと話してくれたね!!」

「は? ちょ、どういうことですか?」

 

 ルカの言葉に、戸惑いを隠しきれないクレア。

 

「初めて会った時、ジークが貴方の態度がどうとか言った時あなたが私達にかけた言葉、覚えてる?」

「え? 言葉? えーっと、」

 

 クレアは記憶の箱をごっそりとひっくり返す。

 

「確か…………。」

 

『第一私とあなた方は無関係です。任務が終われば船からいなくなる関係です。礼儀云々ではなく、そもそもコミュニケーションをとる必要もありません。』

 

 と言ったはずだ。そう言うと、

 

「うんうん。そうだったよね。」

「……それが何か?」

 

 そう聞くと、ルカは笑みを浮かべて、

 

「私の方から一方的に話しかけても、それは関係とは言えないなって思ったの。でもねでもね、貴方の方から私に声をかけてきてくれたら、それって立派な関係せいじゃない?」

「へ?」

 

 つまり、無関係だから、とか言われたのが癪だったから関係を築きたかった、という事だろう。

 

「いやいやいや!! そんなのこじつけじゃないですか!! それに、そんな関係たとえできたとしても意味が」

「でも、関係は関係でしょ? それに、関係に意味なんて求めちゃいけないよ。」

 

 と、ルカは言う。

 

「関係っていうのは、人と人とを繋ぐ糸だから。そこにあるだけですっごく大事だと、私は思うな。」

「大事って……たとえそれがいい関係とは呼べないような険悪な物だとしても、ですか?」

「険悪、かぁ。すっごい険悪だったり、相手が悪い人なら別だけど、意外と、そういう関係でもどっちかがどっちかを助けるようなことが起こるかもよ?」

 

 いやよいやよも好きの内、とかいうじゃない? ホントに心から憎んでたりしない限り、分かり合えると思うんだ、と答えるルカ。

 

「その言葉はセクハラの免罪符では?」

「かもねー。」

 

 愉快そうに笑う彼女を見て、クレアは思わずクスリ、と笑った。

 

「あ、そうだ。あなた名前は!?」

 

 そう問いかけてくる底抜けに明るい笑顔に、クレアは、こんな関係なら、悪くないな。と思った。

 

「私はクレア。クレア・ヴィクトリアスです。」

「クレアちゃんか~。私はルカ。ルカ・ペニーウォート。よろしくね!!」

「ええ。よろしくお願いします。」

 

 そう言って手を出してくるルカの手を取ると、別の所から声が響いた。

 

「ほらなコウ。やっぱいただろ?」

「チッ。だからって俺はお前が俺を連れ込んだことに納得しているわけじゃないぞ。」

 

 そう舌打ちして歩いてくるコウと、うれしそうなリツ。

 

「ルカ~、飯だってよ。コジョウのラーメンだぜ。」

「ホント!? そうだ、クレアちゃんもいこ!?」

 

 顔を輝かせた彼女は、そう言って握ったままのクレアの手を引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと!! 私は警護が……。」

「ダイジョブダイジョブ!! お昼休憩だよ、それにここ悪い人いないし!!」

「限らないじゃないですか!! それにそう言う問題じゃ……。」

「いいからいいから!! こっちにおいでよ!!」

「話を聞いてない!?」

 

 そんな悲鳴を上げるクレアをお構いなしで引っ張って行ってしまうルカ。

 そのあと、なんだかんだで出されたラーメンに舌鼓を打つのも、子供たちから彼女が助けてくれたことを知ってユウゴが頭を下げ、それに彼女が合われるのも、また別の話だ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《Side リツ》

 

「なんていう事もありましたね。」

「よく言うぜ。ほんの数日前じゃねぇか。」

「そうですけど…………。」

「蒸し返す必要はないだろう? リツ。」

 

 その後、親睦を深めるため、と称してイルダはワタシらと数回任務に出させた。この間積み荷はリカルドのおっちゃんが守ってるらしい。

 クレア(通常ゴッドイーター)との連携にも慣れてきた今日の任務はグボロ・グボロとコンゴウの討伐。

 グボロ・グボロとやりあう音を聞きつけたコンゴウとの激闘になっちまって余裕。という訳にはいかなかったけど辛うじて勝利は出来た。

 疲れた体を休ませながらそんな与太話をしてたら、

 

『皆さん、救難信号をキャッチしました。座標を送ります。』

 

 と、エイミーの声がした。

 

「分かった。すぐに向かう。」

 

 ユウゴはそう頷いて、

 

「そういう事だ、向かうぞ。」

 

 と、ワタシ達に言った。もちろん、頷く以外ありえねぇ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここか。」

 

 エイミーから指示されたポイントに付いたが、

 

「おいおい、誰もいないじゃねぇか。」

 

 ワタシが不満げな声を漏らす。

 

「ああ。妙だな。」

 

 ユウゴがハンドサインで警戒を促す。あたりを見回した時だった。

 クレアの方に、今まで隠れてた影がとびかかった。

 

「クレア、あぶねぇ!!」

「ッ!!」

 

 とっさにチャージスピアで攻撃を防ぐが、その瞬間、腹を蹴り飛ばされた。

 

「げうっ!?」

「クレア!?」

 

 壁に叩きつけられるクレアとは対照的に、宙返りを決めて着地したのは、赤い衣服に黒いストレートヘアの女。

 

「女!?」

「何を……!!」

「クレア止せ!!」

 

 立ち上がろうとするクレアを、ユウゴが制止する。

 

「ユウゴ!? どういうつもり!?」

「あぶねぇって言ってんだ。アイツは、AGEだ。」

 

 特徴的な機械のようなパーツのついた腕輪をした女AGEの冷ややかな目。そして、コイツの獲物は、二本に分離したブレード型神機、バンディングエッジ。リーチが短い文懐にもぐりこんだ際の手数の多さと爆発力は舐められねぇ。

 

「ルカ、挟み込むぞ!!」

「オッケー、ユウゴ!!」

 

 タイミングばっちりで走り出す二人。両サイドからヴァリアントサイズとロングブレードの挟撃を仕掛ける。

 女AGEはロングブレードをギリギリで回避。そして襲い掛かる鎌の斬撃を二枚の刃で受け止める。

 スゲェ反射神経だ。バンディングエッジの機動力の高さと手数の多さであの連携を前に上手く立ち回っているが、あの二人の実力はそんなもんで押さえられるほどじゃねぇ。女AGEはだんだん追い詰められていく。そんな時だった。

 

「……起動。」

 

 そう呟いた瞬間、アイツの腕輪の周りに赤い光がともった。そして、その場から、消えた。

 

「何ッ、ぐわっ!?」

「ユウゴ!!」

 

 そして、背後に回ってユウゴを殴りつける。

 

「このぉ、よくもユウゴを!!」

 

 キレたルカが、哮刃展開形態のヴァリアントサイズを振りぬく。それを、あの女はリボーダンスみたいに潜り抜けて肉薄してくる!!」

 

「フッ!!」

 

 その瞬間、哮刃展開形態になっていた刃を引き戻す。女AGE背後からヴァリアントサイズの(ギロチン)が迫る。が、そいつは、

 

「なっ!?」

「嘘だろ!?」

 

 その迫る刃を片方の神機で防いで、もう片方の神器をまっすぐ前に向けたまま、刃が戻る勢いを利用してこっちに向かってくる!!」

 

「くっ!!」

 

 それをルカは上手く持ち手で防ぐが、鈍い音がしてヴァリアントサイズが宙を舞う。

 

「しまっ!!」

 

 飛び上がった女AGEは、バンディングエッジを逆手に持って振り下ろそうとしている。

 その時、あの女AGEの目が見えた。

 その目は、前の、あの日の私にそっくりだった。

 誰かを殺さなきゃ、ワタシが死ぬ。だから殺した。チエ(親友)を。

 

 許されることじゃない。

 ―――わかってる。

 しかもお前は、

 ―――ああ。コウに罪を着せようとした。

 忘れるな。

 ―――ワタシは、自分の私利私欲で人を殺した、クソで外道な狼だ。

 だから奪われる。

 ―――これは、罰?

 

 私の罪に対する、正当な報い? あのゲーム(前の世界)親友(チエ)の命を奪った罰として、この世界で、大切な物を奪われる?

 そんなの、そんなの……、許せねぇ

 

 気が付いたら、ワタシは飛び出していた。見ている間に貯めたチャージグライド。それで空中の女AGEに突撃した。

 

「ワタシがひどい目に合うのはいい。因果応報だ。けどなぁ、」

 

 女AGEの剣を弾いて、叫ぶ。

 

親友(ダチ)を傷つけるのがアタシに対する罰だなんて、ちげぇじゃねぇか!!」

「ッ!!」

 

 ハッ、驚いてやがる。

 

「来いよ、こいつらを殺したきゃ、ワタシが相手だ!!」



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