ボクの師匠はダメ人間! (胡椒こしょこしょ)
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ボクの師匠は面倒くさい

どんなことでも、一番になったなら大したもん。


大きな講堂。

講義前の講堂では生徒たちがそれぞれ仲の好い者同士会話しており少し騒がしい。

皆後ろの席に集中しており、前にはまばらしかいない。

勿論、ボクは一番前の席に陣取っている。

 

すると前の扉が開いて、一人の成人男性が入ってくる。

髪の毛はぼさぼさで服もだらしなく気崩している。

眼鏡の奥には不健康そうな隈が出来た死んだ魚の目のような眼。

やる気なさげに髪を掻きまわしている。

 

そして、教壇の前に立つと生徒たちが一瞬静かになる。

その様子を見て、彼は口を開いた。

 

「えぇ~、まぁ間違えることなんかないとは思いますけど、ここは呪言科呪術専攻入門Ⅱの授業です。もし間違っている人が居るとしたら退室してください。まっ、陰湿で地味な呪術学と他学を間違える者など居やしないと思いますけど。」

 

どこか棘のある口調でそう言う先生。

しかし、これも恒例の挨拶なので生徒たちは特段思う所もない。

そう言った後に暫く見回した後に、先生は一息吐くと教壇の上に広げていた本を開く。

 

「間違いはないようですね...それでは...おい。そこの茶色の髪の君と金髪の君。授業が始まる前だというのにいちゃつくんじゃない。」

 

授業を始めようとした瞬間、先生が表情を変えずにあるところを見て、言葉を紡ぐ。

生徒たちが視線を向けると、そこには茶髪の青年と金髪の女性。

二人は確か....カップルだったか。

どうにもお互い手を握り合っている。

 

あぁ....また始まったか。

他の生徒も同じくそういう表情をしている。

しかし、先生は言葉を続ける。

 

「えー、ね。先生の授業に関わらず他の教授の方の授業もそういう行いは失礼に当たりますし、それ以上に先生の授業でそういう行為をするということは私は今日の授業は欠席扱いにしてもらって構いませーんっていう意思表示と私は捉えますよ?舐めてるのか分かりませんけど、先生をあまり侮るなよ。数分時間をもらえれば今すぐ君たちのような半人前の魔術師なんか呪い殺すことが可能なんだからな....ってなぁ、君。私が説教している間に手を繋ぐどころか引っ付き合ってるじゃないか、喧嘩を売っているのか?まったく...。」

 

こめかみを押さえながらも顔を顰める先生。

そして、溜息を吐くと再度ボク達を見回した。

 

「とにかく講義前は少しは学生らしく慎ましく居なさい。良いですね?というわけで今日は45頁から....あっ、そうだ。あと先生、新しく本を書いたので買ってくれると嬉しいです。ちなみにこの講義には全く関係ありません。」

 

真面目な顔で話し始めたかと思えば、急にとある本を生徒たちに見せる。

それは『ケムブリッド学院呪言科教授ルイン・マカートニーのどんと来い、錬金術師』というタイトルと共に表紙がルイン先生がこちらをどや顔で指差している物だった。

生徒の何人かがクスクスと笑う。

そしてボクも苦笑いを浮かべるのだった。

 

この残念な男の人こそ、この魔術最大学府であるケムブリッドで10後半の若さで呪術と言霊術において頭角を現し、元々小さな部門でしかなかった二つを合わせて一つの学科にまでのし上げて、20代後半で教授にまで上り詰めた天才、ルイン・マカートニー。

名門マカートニー家の当主にして、ボクの師匠だ。

 

 

 

 

 

 

 

古臭く埃被った廊下を歩く。

呪言科は成立が最近だ。

だからこそ、こんな僻地のような場所に研究室が宛がわれている。

先生も、そこら辺は老害どもめと苦い顔をして言っていたなぁ。

 

そう思いながら歩いていると、その研究室の前に辿り着く。

扉の横には呪言科ルイン研究室と投げやりになったような適当な文字で書かれた立て看板が置いてある。

その老朽化した扉に手を掛けると、開けて中に入る。

ギギギッと嫌な音を立てた先には、本棚など整理された中で一つ、不自然なくらいに散らばった机の上でルイン先生が指にナイフを押し付けようとしていた。

 

「せんせ、何してるんですか?」

 

ボクは先生にそう尋ねる。

すると、先生はボクが入ってきたことには目も暮れずに目をガン開きにし、口元に笑みを浮かべながら返答する。

 

「なんだお前、俺の弟子でありながらさっきの講義出ていなかったのか?さっきのカップルに大人を舐めるとどうなるか教えてやろうとしているんだよ....へへへ.....」

 

思いのほかしょうもない理由で呪いをかけようとしていた。

つい呆れた嘆息してしまう。

 

「そんな大人げない....、それで、どんな呪いをかけるつもりなんですか?」

 

ナイフを突き立てようとしているのを見るに呪いをかけようとしていることはすぐに分かった。

多分、先生のことだから生徒にそんな危ない呪いはかけてないだろうけど。

すると、先生は悪そうな笑みを浮かべて口を開く。

 

「そりゃお前....アレだよ。鍵穴に鍵が極端に入りにくくする呪いだよ。これでアイツら、夜洒落こもうとしてもたつくぞ.....。」

 

しょうもない理由に相応しいしょうもない呪いだった。

というか、それって考えてみると地味に嫌な呪いだ。

陰湿なことこの上ない。

この人はこういう人なのだ。

 

「そんなどうしようもない呪い掛ける為に自傷するなんて馬鹿らしいですよ、止めましょうよ。」

 

「どうしようもないとはなんだ。どんなに被害が少なくても、呪詛は呪詛だろうが。」

 

そう言いながらも、ナイフをそこらに放る。

そして椅子に座ると、溜息を吐いた。

その様子はどうにも気落ちしているように見える。

正直、今回の講義で起きたようなああいうことは毎日ざらにあるが、それにしてはいつも以上に元気がない。

一体どうしたと言うんだろう?

 

「えーと...どうしたんですかって...聞いた方が良いですか?せんせっ?」

 

そう言うと、彼は静かに口を開き始めた。

 

「....なぁ、君達学生諸君の間で、ケムブリッド学院教師抱かれたくない男ランキングなる物があったそうだが、君は....誰に入れた?」

 

顔を伏せたまま、そう尋ねてくる先生。

抱かれたくない男ランキングぅ?

はて....そんな物があったかどうか.....あっ!

もしかして一回良く話すあの子が聞いてきた奴かな?

それなら.....。

 

「それなら、よく分からなかったのでそもそも投票してないですよ?」

 

「あー!どうだか。気を遣っているなら余計なお世話だぞ。」

 

吐き捨てるかのようにそう呟く先生。

....いい加減、ちょっと面倒臭いぞ。

 

「もう!さっきからうじうじうじうじ!良いからなんでそうなってるか言ってくださいよッ!!」

 

私がそう言うと、先生は一つの紙を取り出す。

すると、どうやらその紙にはランキングが乗っていて、教授陣たちが掲載されている。

その中で.....。

 

「えっと....せんせぇの名前が、一番上に....ありますね.....。」

 

ボクがそう言うと、先生は僕の目をしっかりと見る。

その目はどこか悲哀を湛えていた。

 

「そうだ....俺は、この学校の教授陣の中で、抱かれたくない男ランキングナンバーワンなんだ.....。」

 

先生の口から紡がれたその言葉。

そこには先生の深い悲しみが声に乗ってボクに伝わってきた。

 

「あ...あえっ?せ、せんせぇが?い、いや流石に先生は人間としては良い人とは言い難いですし、だらしないし清潔感もあまりないですけど、流石にそれは言い過ぎ.....。」

 

「そもそも呪術とかの教授の時点でなんか性格悪そう、陰湿そう。だらしない、清潔感がない。くさそう。哀れ。そもそも呪術って何してるか分からない(笑)。単純にタイプじゃない。カップルに毎回噛み付いているとか痛々しい....まだまだ理由があるぞ。」

 

うわぁ....中々完膚なきまでに書かれている。

もう少し、なんていうか...手心というか....。

先生、繊細な人だから.....。

 

「こ、こんなもの気にしなくても良いですよ!せんせぇの良さが分かっていないんですみんな!答えを見るに、呪言科の生徒以外の意見も多そうじゃないですか!」

 

ボクはなんとか先生を励まそうとする。

それほどに、先生は凹んでいた。

 

「そうだな....呪術について見識が深ければ、このようなことは言えない。私がだらしなく敢えて風呂に入らなかったりするのは、不浄を扱う以上は自身も汚れていなければ、その穢れを許容することが出来ないからだ!これは単純な知識の話だからまだいいんだ。...陰湿そうってなんだ!科目のイメージを個人に押し付けるなんてどうかしてるぞ!俺は陰湿な人間じゃない!清廉潔白で模範となるような人間だ!」

 

「あ...あぁ、は、はい....。」

 

いや、カップルにキレ散らかした後に講義後に呪いをかけようとする時点で陰湿ですし、模範とはならないんじゃ....。

それでも、敢えてボクは先生に賛同する。

ここで更にいじけられると本当に面倒だからだ。

 

「そして今度は抱かれたい男ランキングを見てみろ!あの錬金術科のあん畜生が一位に輝いてやがる!そりゃ錬金術科は母数が多いから、仕込みすればここまでなるでしょうねぇ!!」

 

先生はもう一枚の紙を般若の形相で指さしていた。

そこにあるのはアレクサンダー先生。

錬金術科の助教授にしてイケメンだと生徒の間では人気の先生だ。

でも....。

 

「せ、せんせぇも...人間の層は違いますけど....生徒には好かれてると思いますよ....。」

 

どちらかと言えば男子生徒にネタ扱いされているけれど。

すると先生はジト目でボクを見つめる。

 

「男としてか?このアレなんちゃらよりも好かれているのか?」

 

「あっ...それはそのっ......、種類が違うって言うか.....。」

 

言葉を濁すと、先生は更に目を細めた。

バレてる.....。

これまで先生はアレクサンダー先生を嫌っているように言っているが、どうにもアレクサンダー先生のこと自体は嫌いではなさそうなんだよなぁ....。

 

そもそも呪術は、先生が呪言科を作るまでは副教科のような扱いを受けており、重要度も二の次だった。

それに人を呪うという所から地味で陰湿なイメージが付き物で、人も少なかったのだ。

それとは対照的に錬金術科はメジャーで人が多い分、その錬金術師に呪術がよく馬鹿にされることがあるのだ。

そして先生は自称する通り割と多才なのだが、どうしても錬金術が出来なくて目の敵にしているらしい。

 

「で、でも!別に生徒にどう思われていようと良いじゃないですか!」

 

ボクがそう言うと、先生は溜息を吐いて窓から空を見上げる。

そして、ぽつぽつと言葉を吐き出す。

 

「確かにな。でもな....モテないのは事実なんだよ。そしてな、もう少しで三十路だ。...結婚したいんだよ。散々見下してた教え子に手を出した天体魔術のご老体の事を羨んでしまう自分が嫌なんだよ...とにかく、結婚したい。自分の老後が漠然と一人なんじゃないかと思うと、不安で夜も眠れないんだよ....。」

 

「そ、そう...ですか....。」

 

どうやらあのランキングはかなりタイミングが悪かったようだ。

この前は爆笑しながら馬鹿にしてた天体科の教授を羨んでいる辺り、かなり深刻だろう。

先生は焦っているのか。

確かに魔術師、しかも名門であれば20前半辺りには既に婚約者が居るのがざらだし。

先生はもうすぐ三十路だ。

行き遅れと言える。

かなり重いし、気の毒だ.....。

 

「せんせぇ....。それなら、やっぱり少しは身だしなみを整えたらどうですか?呪術を使うのに支障が出るのなら、その時だけとか。清潔感があるだけでかなり違いますよ。」

 

ボクがそう言うと先生は考え込む。

そして、顔を上げると神妙な顔で頷いた。

 

「そうだな。確かにそうだ.....。流石は我が弟子。お前に教わることがあろうとはな....。」

 

「せんせぇ.....。」

 

目と目が逢う。

瞬間、先生がボクの言葉を聞き入れてくれたと気づく。

先生は頑固だから、ボクの言う事を素直に聞いてくれるなんて珍しいな。

やっぱり弱っているからだろうか?

どちらにせよ、聞き入れてくれたのは少し嬉し.....。

 

「よしっ!それじゃ錬金術科の馬鹿ども使って惚れ薬でも作らせるかぁ!!」

 

「何でそうなるんですか。」

 

前言撤回。

どうやら聞き入れてくれたわけではなさそうだ。

あの時の同意はただの自己完結か、もしくはボクの言葉なんかしっかり聞いてなかったという事だろう。

 

「物に頼ったらそれこそおしまいですよ!!止めましょうよ!!てか、せんせぇ錬金術の教授と仲悪いでしょ!!」

 

「大人と言うのはな、時には下げたくない頭も下げなくてはいけない時がある。この学科を作る時も、そうだった。大丈夫だよロッティ。俺も、頑張るから。」

 

良い笑顔でボクにそう言ってくる先生。

なんでこんな話題の時は錬金術科に頭を下げられるのに、予算の時には下げられないのだろう?

純粋に不思議だ。

 

「こんなことで頑張らないでください!焦っているのは分かりますけど、道具を使って人の心を惹きつけようだなんて、虚しいだけですよ!それにせんせぇが頭を下げた所で錬金術科の教授陣が話を聞いてくれるか...ってどこ行くんですか!」

 

「どこって錬金術科だが。こうして弟子である貴様の講釈を長々と聞いているくらいなら行動した方が建設的だと俺は判断したからな。」

 

先生はそう言って、こちらから目線を外す。

人がせっかく言っているって言うのに.....!

 

「なっッ....!!ふんっ!もう知りませんからね!好きにすれば良いんです!!」

 

「あぁ。そうさせてもらうよ。」

 

そう言って手をフリフリさせると、扉に手を掛けて研究室から出る。

むくれていると、一抹の不安がボクの頭をよぎった。

....先生、錬金術科でなにか問題起こさないかな....。

多分、錬金術科に行けば先生は一度は揶揄されると思う。

まぁメジャーな錬金術から見ればドマイナーな呪術だからしょうがないけど。

でも、今の先生にそれを受け流せるほどの元気はない気がする。

....しょうがない、か。

 

ボクは立ち上がると、扉を出る。

そして右に走り出した。

するとしばらく走っていると、先生の背中が見える。

ボクは声を上げた。

 

「せんせぇ!ボクも一緒に行きます!!せんせぇ一人を錬金術科に行かせるなんて不安なんで!!」

 

ボクがそう言うと、先生は振り返って笑顔を見せる。

 

「そうか....流石は俺の弟子。君も、錬金術科に共にカチコミをかけに行ってくれるのか....」

 

「いや違いますからねっ!?惚れ薬作ってもらうんでしょ!?....作ってもらえるか分かりませんけど。」

 

先生の分からず屋具合に疲れて言葉尻が萎む。

そんなボクの様子を見て、先生は高笑いを上げた。

 

「ハッハッハッ!弱気になることはない。あんな連中、勢いで押せば首を縦に振るに決まっている!」

 

そう言って先を歩く先生。

そんな先生になんとかついて行こうとする。

相変わらず、この人は滅茶苦茶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、教授はルイン先生に会いたくないし、先生の頼みはどのような些末な事でも聞いてやるつもりはないらしいですよ。」

 

錬金術科は呪言科とは違って建物一棟丸々を研究室に貰っている。

一つの塔が丸々錬金術科の研究室。

不必要にデカくするのは力を誇示したいからかねぇと先生が嗤っていたのが懐かしい。

そんな先生は今....。

 

「呪言科から態々私が赴いたのに、対応しないとはどういう了見だ!クソッ、あのジジイ....名門魔術師様はやることが違うなぁ!!」

 

「せんせぇも名門の出でしょうが。」

 

応接室で自分の事を棚に上げて、応対してくれた錬金術科准教授のアレクサンダー先生に悪態を吐いていた。

まぁこうなることは想像に難くない。

錬金術の教授と先生の不仲は有名だ。

今も、通りがかりの錬金術科の生徒がチラチラ見ている。

恥ずかしいから先生、大人しくしててください.....。

 

「アハハ...そういえば、そもそもなんで惚れ薬を?想い人でもいらっしゃるんですか?ルイン先生。」

 

そんな先生を見て、アレクサンダー先生は笑う。

そして、不意に不思議そうに首を傾げる。

すると、ルイン先生は暫く黙り込んだ後に、顔を赤くしながら言葉を続けた。

 

「そのっ....生徒たちの間で、抱かれたくない男ランキングなる物があったのは知っているか?」

 

「あー、なんか話に聞いたことはあります。それで?それがどうしたんですか?」

 

首を傾げるアレクサンダー先生。

すると、先生がアレクサンダー先生の問いに答える。

 

「それで...俺は首位を取ってしまったのだ....。生徒にすらそう思われていては結婚できない。分かるか!アレクサンダー!!だから俺の婚期の為に惚れ薬を作らんかいっ!!」

 

「あー、なるほど....。別に生徒が勝手に作ったランキングですし、気にしなくて良いじゃないですか。先生は充分魅力的ですよ。」

 

耐えきれずに心の声を吐露する先生にアレクサンダー先生は笑顔でそう言う。

すると、先生は卑屈な笑みを浮かべた。

 

「へんっ!流石抱かれたい男一位は余裕ですねぇ?そんな気休め要らんわい!あぁん!?自分が一位だからって調子に乗ってねぇかぁ?処すぞ?処するからな??その心、笑ってるね!!?」

 

「せんせぇ、本当に見苦しいのでやめてください....。」

 

「弟子が師匠の事を見苦しいなど言うな!!」

 

「えぇ....」

 

先生は、こちらをキッと睨む。

でも本当に見苦しいし....。

すると、アレクサンダー先生が嗤いながら時計を見る。

 

「あー、済まないがこれから実習でね。そのっ...シャーロット、ルイン先生を連れて帰ってくれないかな?」

 

「あっ、はい!せんせぇ、帰りますよ!迷惑になりますからっ!」

 

どうやら実習をアレクサンダー先生は受け持っているらしい。

これ以上、時間を拘束するわけにはいかないので、先生に声を掛けるも、先生は聞く耳持たない。

なので、腕を組んで無理やり引っ張っていく。

 

「ちょっ....、ああ!もう!イイだろう!今日は弟子に免じて引いてやるが....次に会った時はお前に小指をどっかの家具の角に強打する呪いをかけてやるからな!覚悟してろよアレなんちゃら!!」

 

「せんせぇっ!!」

 

捨て台詞を吐いていく先生を引いて応接室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「ねっ?せんせぇ、惚れ薬なんてそんな都合よく手に入るわけないんですよ。」

 

ボクが言うと、先生は溜息を吐いて口を開く。

 

「錬成自体が錬金術の領分の時点で、これには無理があったか....。分かったよ...もう他人になど頼まない。自分でなんとかしよう。」

 

自分でなんとかする。

つまりは先生がモテる努力をするということだろうか?

清潔感を保ったり、ファッションの勉強するってことかな?

そんな先生の姿は想像できないが、でも取り組もうとしている時点で大きな進歩だ。

 

「や、やっとわかってくれたんですねせんせぇ!それなら、ボクが服とか見ますよ!それにそういうのに詳しい友達だって.....。」

 

「各地で惚れ薬に似た逸話のある遺物でも探ってみるか。...もしくは言霊術で相手に好意を抱かせるような魔術を自分で作ってみるか?そうだ!そっちの方が手早い!なんにせよ忙しくなるぞ.....。」

 

「せんせぇ...?」

 

前言撤回。

物や魔術に頼るスタンスに変わりはなかった。

いや、魔術師としては正しいのだが、人としてはどうなんだろう....。

 

糸口を見つけたかのように笑みを浮かべる先生を横目で見ながら呆れて溜息を吐く。

やっぱり、ボクの師匠は....ダメ人間だ。



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