オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結] (てっちゃーんッ)
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1話

オトモガルクはフィールドを素早く駆けるよね?

駆けるって走るだよね?

走るってウマ娘だよね?

ウマ娘ってパートナーだよね?

パートナーってMHではオトモだよね?

オトモってなんか特別だよね?

それってRISEでウマ娘だよね?

うまぴょい!!←いまここ


どう言うことだってばよ…
ではどうぞ


 

皆は狩人である以上これは知っているだろう。

 

 

『オトモ』と言われる存在の事だ。

 

 

代表とされるのは『アイルー』と言われる猫型の獣人族であり、社交性が高く人間社会に紛れて共存をしている愛らしい存在。 知能は人間並みに高く、非常に器用であり、獣人だけあって一部の能力は人間を超えている。 また人の言葉で会話する個体も多く存在する。 そしてその能力を活かした"ネコタク"と言われる回収班として活躍している。 モンスターとの戦闘にて半殺しに会い、それでもまだ息が有るならばアイルー達が急いで回収してくれるからだ。 そうしてハンターの命を繋いでくれる勇猛な一族。

 

ちなみにアイルーは猫では無い。 猫の形をしただけの獣人族だ。 それでもマタタビが好きだったりと猫に近い存在でやはり愛らしいことには変わりない。 マスコットと言えばわかりやすいだろう。

 

そしてアイルーにはハンターを『オトモ』してサポートする『オトモアイルー』と言われる職業が存在している。 狩で命を賭けて戦うハンターを助けるためアイルーにしか出来ない特技で支えたりと狩では欠かせない存在だ。 無論、己の腕一本で戦うソロハンターも少数ながら存在するがオトモがいるだけでそれは劇的に狩りが変わるだろう。 それだけに『オトモ』は価値がある。 狩人賑わう街ミナガルデを始めとしてオトモアイルーは浸透してきた。

 

 

ちなみにオトモはアイルーだけでは無い。

 

 

かなりの希少数であるが、奇面族と言われる種族であり『チャチャブー』と言われる背丈の小さな人型をしている。 厳密にはチャチャブーの子供である『チャチャ』がハンター共にモンスターと戦ってくれる。 しかし実際のところチャチャにはオトモなんて概念は無く、物好きな少数な個体がオトモをしているだけ。

もしくは「お前を子分にしてやろう!」の目的でハンターに近づいただけでチャチャ自身はオトモのつもりが無いかもしれない。 しかしアイルーと同じで人の言葉を理解して喋ることが可能である。 ただアイルーとは違って気性が荒いものが多いが戦闘能力は高く、被る仮面によって多彩にハンターを手助けし、更に水中戦もこなしたりとオトモの中では攻撃寄りだ。

 

 

あと『ホルク』と言われるガブラス程度の大きさを持つ鷹の存在もいる。 ただしオトモに部類するのかは微妙で有るが、狩に出かけるハンターに随従して一緒にモンスターの攻撃してくれる。 名前も付けれる。 だがオトモ関連の話をするならばホルクについては省こう。 ホルクに関してはオトモと言うには違うからだ。

ただハンターの狩をサポートする存在は飛んでいる生物もいるということをちょっとした知識として深めてほしい。 それだけである。

 

 

 

さて、指で数えれる程度だがオトモにも複数の種類が存在すると言うことがわかっていただけただろう。

 

 

しかし、こうも思う。

 

 

……まだ他にもいるのでは?

 

 

 

 

それは 正解 で有る。

 

 

 

最近ではこんなオトモが現れた。

 

たたら製鉄が盛んな、山紫水明の里。

 

そこは『カムラの里』と言われており、地理的に近いユクモ村と雰囲気が似ているため紅葉彩られる豊かな和を感じさせている。 里の中ではそこそこ大きくギルドも存在する。 つまり狩人でそこそこ盛んな里なのでハンターライフを送るためのサポートはしっかりしている。 故にここでも『オトモ』の存在がハンターを助けている。

 

もちろんオトモアイルーは健在だが、本命はまた別。

 

それはカムラの里のみ生息する牙獣種の『ガルク』と言われる狼のようなオトモガルクだ。 アイルーや希少数であるチャチャとは違って牙獣種のガルクは移動能力が非常に高い。 それに伴ってガルクはハンターを背に乗せてその足となってくれる。 広大な大地を駆ける狼はこれまでと違うオトモだろう。 ただし人語を語ることはできない。 しかし人の言葉は理解できるようで、また口笛のなどで即座にハンターのオーダーに答えたりとアイルーに劣らずとても賢い。 長い狩の中で随従してくれる頼もしいオトモだ。

 

 

さて、ここまであらゆる個性的なオトモの話をさせてもらった。

 

 

限定された地域にしか存在しない奇面族のチャチャはおまけとしても、オトモアイルーとオトモガルクの存在は今の環境下で親しまれている。 厳しい狩には欠かせないその心強さは、いつまでも頼もしい存在。

 

この二つのオトモを知っていればオトモの存在は認知したことになるだろう。

 

 

 

 

 

さて、ここで一つ、こんな話を。

 

 

オトモとは、人間じゃ無いことが条件だ。

 

 

人間に対してオトモとは言わないからだ。

 

 

またそこに随従する力を持つ事で成立する。

 

 

つまり、獣人族や奇面族や牙獣種のように人外がその条件下をクリアしたときにその名を評することが可能である。

 

いや、評するというのは少々差別的な言葉かもしれない。

 

 

まず「オトモ」の名前で縛るのは強制では無い。

 

中にはオトモアイルーやオトモガルクに対して「パートナー」や「仲間」に「相棒」などの言葉で共にするハンターもいるのだ。 それは間違いではなく、正しくともある。

 

もちろん「オトモ」でも構わない。 個人それぞれの捉え方の話であり、オトモはオトモでも間違いではない。

 

どうであれ狩で命を共にすることは間違いでは無いからだ。

 

 

 

 

さて、ここまでやや遠回しな話をした。

 

 

 

本題はここからで有る。

 

 

 

アイルー、チャチャ、ガルク、これらの他にもう一つだけハンターに随従してサポートする生き物が存在がする。

 

 

しかしそれは比較的に形が " 人間 " である。

 

竜人族のように人間にとても近しい姿形をしているが、オーダーまたはトレーナー(指導者)がいることでそれは"彼女"達に存在意義がもたらされる。

 

そんな彼女達をオトモでは無く…

 

付き従う意味で『お伴(おとも)』と言われた。

 

 

 

馬人族の【ダービー】と言われる女子たち。

 

 

 

それはまるで…

 

絵に描いたような美しき、絵馬(えま)の娘。

 

 

故に、彼女達の存在をこう名付けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カムラの里にて彼女達はその足を駆ける…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおお! 気焔万丈ォォ!!」

 

「逃げながら言っても少しダサいかなぁ?」

 

「うるさい! 後方に全速前進なんだよ!」

 

 

 

 

俺たちは今、逃げている。

 

 

 

「いやいや、しかし、まさかここまで盛大に見つかるとはね〜」

 

「お前本当に余裕そうだな」

 

「逃げるのは得意だからね〜」

 

「そりゃお前適正『逃げ』だもんな」

 

「うんうん、だから先に行ってるよー」

 

「あ、ひどい!」

 

 

なんで大社跡にラングロトラがいるのか不思議で仕方ない。 でも雑食のラングロトラは虫を食べるから虫の豊富なこの場所まで来たとかなら話はわかる。 まぁ、大方は百竜夜行の余韻が原因だと思われるけどこんなところに残ってないでさっさと火山か砂漠に帰ってくれるとありがたい。

 

ちなみに見つかった原因は普通にコイツが転がってきて急停止すると四足歩行に形態を変えて俺の目の前に立つ。 俺とラングロトラの顔がぶつかる30センチくらいのあたりで目が合わさり、互いに接敵したことを悟った、そんな流れ。 あと危うくファーストキスが虫食い野郎になりそうだったから、その顔を盾で殴ったらものすごい怒られた。 もしかして野郎じゃなくて女の子だった感じ? 女は顔命だもんね。 悪いことした。

 

 

 

「流石に武器二つ抱えて翔蟲はしんどいな。 これ一旦置くか? いや、このまま坂を利用して逃げよう」

 

 

 

武器二つとは剣と盾では無い。

 

一つは俺は自分が使う片手剣。

 

もう一つは半刻前にネコタクで連れてこられたハンターがモンスターに討たれたときに紛失した武器である。 こちらは大剣で非常に重たい限りだ。 機動力が申し分無いハンマーならともかくアオアシラ相手に大剣は頑張りすぎだろう新人ハンターめ。 それで俺はこうして『回収(ハン)ター』として立ち回っている訳だ。

 

ちなみに「(ハン)ター」は俺が勝手に言っている。

 

 

 

あ、そうだ。

 

大剣を坂に滑らせば良いのでは?

 

 

 

「お、おお、おおお!」

 

 

 

そう思って試したら鉄で滑りやすいから坂道は滑らかである。

 

それでも剣は側面が脆いからあまり雑に扱えないが…でもそれはまぁ良いでしょう。

 

俺の仕事は回収できたら、だけの話だし。

 

絶対果たさなければならない訳じゃ無い。

 

そもそもモンスターに討たれても命があるなら武器なんか無くても安い話だ。

 

生きてるならどうとでもなる。

 

集会所で紅葉を眺めるのが好きなナルガ装備のお姉さん方もライトボウガンで戦線復帰目指しているんだから命あるだけマシ。

 

しかしそれでもハンターの仕事を継続して狩を続けるならやはり武器を必要とする。

 

それこそ手に馴染んで使い慣れたモノなら惨めに討たれたとしても取り返したいモノだろう。

 

だから俺が居る。

 

武器が綺麗に返ってくる補償は無いが。

 

やるだけやってやろう。

 

 

「キェ!キェ!?」

「キョェ!?」

 

 

そして驚くブンブジナ。

 

それもそうだ。

 

なんせ大剣の上で正座して滑ってくる男と、顔面殴られて大怒りの球体な女の子が転がって追ってくるんだもん。

 

俺がブンブジナなら「ぶんぶじなぁ!?」って悲鳴をあげるはずだ。

 

わからないこともない。

 

 

「アマグモ! 雷光虫をそっちに誘導したよ!」

 

「!」

 

 

俺は視界を確保しながら投げナイフを投げて雷光虫を刺激する。 すると強烈な光が発生してラングロトラは驚いて体勢を崩し、壁にぶつかって止まった。 ブンブジナも閃光に目が眩んでそこらへんをワチャワチャしている。

 

 

 

「ナイスカイ」

 

「ええー? ナイスとスカイを合わせたナイスカイだと言うならイマイチだよ?」

 

「あ、だめ?」

 

「くもだけに、(うん)だよ」

 

「あ、それ昨日使ったからダメー」

 

「えー、そのくらい、いいじゃん」

 

「ダメー」

 

「ぶー」

 

 

 

互いにスキルの渾身がないからギャグも渾身にならないらしい。

 

まぁ俺たちはそんなハンターじゃないから攻撃スキルは必要ない。

 

そんなことを考えながら大剣を回収してベースキャンプに逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クエスト終了して報告を済ませた後、帰り道にヨモギちゃんからお団子のお土産を買ってからブラブラと喋りながら帰宅中だ。

 

 

「なぁ、さっきのラングロトラは女の子だったのかな?」

 

「え? もしかして惚れたの?」

 

「いや、なんというかラングロトラって真正面からよく見たら少しイケメンだったもん。 虫食い野郎なのに悔しい」

 

「女の子なのか野郎なのかハッキリしなよ」

 

「じゃあ今日は女の子で」

 

「日替わりで性別変わるとかなにそれ怖い…」

 

 

 

俺の隣を歩くオトモ…と、言う表現は嫌だな。

 

強いて言うなら「パートナー」がしっくりくる。

 

なのでパートナーである"彼女"は首の後ろに腕を組み、帰ってから食べるだろうお団子を楽しみにしながら夕焼けの中を歩く。

 

 

「ご機嫌だな」

 

「お空がオレンジで綺麗だからね」

 

 

緑色と白色で塗装されているジャギィ系の素材を使った運動性の高い装備を揺らしながら、鼻歌を歌っては街歩く人たちとすれ違いながら挨拶している。

 

彼女はとても親しみやすい性格をしてるからカムラの里では可愛がられていて、ちょっとした人気者。 それはどのオトモよりも人の形をしていて、彼女の特徴的な部分を隠せば竜人族とはそう変わらない人。

 

よく笑い、よく食べて、よく走る。

 

でもそれを後押しするように目を引くのは彼女が特別な"娘"である。

 

何せ彼女は数少ない馬人族の【ウマ娘】だから。

 

 

 

「ねー、アマグモ」

 

「んー?」

 

「今日の夜ご飯はなにかなー」

 

「ゲンコツ米一粒にまるまるサシミウオのたたきを練り込んだおにぎりにする予定」

 

「おおー! ……それでニンジンはある?」

 

「激辛ニンジンなら」

 

「ああー! それは却下!」

 

「冗談だよ。 俺も食べれない。 それで普通のニンジンなら細く切って塩に漬けてあるよ」

 

「!」

 

 

 

耳がピクピクと動いた。 すると常にホワホワしたような顔に活力が漲るとニンジンのワードをブーストにして彼女は「いえい!やった!」と軽い足取りで走り去る。 花より団子ではなく、団子よりニンジンな彼女は馬人族の足だから、軽い足取りでも既にこの場所からもう見えなくなった。 まぁ"逃げ"馬だから駆け出しが早いのは当たり前か。

 

 

 

「ウマ娘か……」

 

 

 

 

突如、どこから現れたのかわからない存在。

 

それがウマ娘。

 

それとは別でカムラの里で育てられている牙獣種のガルクに関してもはっきりとした生息地が明かされてない。 まぁこれは悪用されないようにするとかそう言った話で秘密にされている。 ガルクはアイルーよりも人間に気を許しすぎる生き物だからだ、その生息域などはあまり語られない。 けれどカムラの里からガルクが雇用できる事実は明かされているため、ガルクの秘密はカムラの里にあることがわかる。

 

 

しかし、だ。

 

 

馬人族のウマ娘に関しては全くと言って良いほど何も知らない。 誰も知らないのだ。 例えばユクモ村で奇跡的に凄腕と言えるレベルの龍暦院ハンターと出会い、ユクモ温泉でゆっくり会話させてもらった。 骨好きの悪趣味な大王イカの話は面白かったが、ウマ娘に関しての話はまったくと言って良いほど収穫はなかった。 凄腕と言われるレベルの龍暦院ハンターがわからないならもうそれ以上は求めても無いだろう。

 

ただ唯一わかることは、それは突如姿を現した事で、ユクモ村を含めたこの地域だけにウマ娘は出現した。

 

なら突如姿を現したウマ娘本人に聞けば良いのでは? と、思った…が、それを彼女達は話さない。

 

いや、話すことが許されていないのだ。

 

尋ねてもすごく困ったような顔をする。

 

今は俺のパートナーとなっている彼女の耳は酷く垂れ下がっていてそれはもうすごく複雑そうに笑っていた。

 

だからもう聞かなかったし、もう1年以上はその件について尋ねて無い。

 

ただ彼女からは「人間の助けになるために来た」と言われた。

 

「言ったら上から天罰が降ると怖いから…」

「教えれなくてごめんね…」と、いつもの彼女らしく無い雰囲気で告げられた時は、俺達人間が思う以上に深刻な事であり、また契約や条約のような類いで口から語られることが許されないのだと察せるほどに理解できた。

 

 

でも何故現れたのかは大凡憶測が付く。

 

それは"百竜夜行"が原因だと考えている。

 

百竜夜行が始まる一年前、カムラの里はその予兆にて混乱が起きた。

 

またあの悲劇が起こるのかと…

 

フゲンさんは顔を顰め、ハモンさんは傷口を押さえて気にしていた。

 

 

するとそのタイミングでウマ娘が現れた。

 

時が進むごとに次々とウマ娘は姿を見せる。

 

カムラの里を中心に、そしてユクモ村と言った狭い範囲に急遽現れた。

 

百獣夜行が始まった今も少しずつウマ娘は現れている。

 

どこまで現れ続けるのかは知らないが「人間の助けになるため」が百竜夜行に立ち向かう力無き人間達のことを示すなら、百竜夜行に夜明けが訪れるまで彼女たちは俺たち人間を助けてくれる。

 

それは非常にありがたい事だった。

 

俺もカムラの里を助けるため1年前にユクモ村から派遣された身だったが正直それでもこの里のハンターは人手不足。

 

そもそもハンター自体どこも人手不足であるが、ここは足りない分を民兵として里人が戦っている。

 

里人とは言え皆頼もしく、そして民兵として何百年と戦ってきた一族だからこそ百獣夜行でも勇猛に戦っている。 だからバリスタなどの設備兵器にどこよりも長けているのだろう。 あの峯山龍を迎撃するために撃龍船に搭載されたバリスタや龍撃砲なんかよりも充実された兵器が備わっているこそ、ハンターじゃない里人でも戦える。

 

 

けど違う。

 

そうじゃない。

 

本当は無理なことをしてほしくない。

 

消費者と生産者は戦ってはならない。

 

万が一が起きたらそれでは里の衰退になる。

 

けど致し方ないを理由に里人は武器を握る。

 

正直見ていて心苦しかった。

 

中にはアオアシラの大腕で重傷を負って今も寝たきりの者もいれば、リオレイアの猛毒で解毒の手当が間に合わず亡くなってしまった若者もいる。 あのヨモギちゃんですら重たい銃を背負って戦線に立ち、イオリくんですらも戦線に赴いてハモンさんを心配させていた。

 

百竜夜行は全力で食いちぎろうとする。

 

強くても弱くても関係ない。

 

残酷な宴を皆で乗り切らなければならない。

 

そうやって全員が戦わなければならなかった。

 

 

 

 

けど、ウマ娘が現れて、それは変わった。

 

 

身体能力は訓練を積んだハンターと同じかそれ以上だから。

 

 

武器を扱う能力はあまり持たないが、後方支援に駆けるその脚はすごく頼もしかった。

 

 

重たい空気が舞う戦場でウマ娘は走り続ける。

 

 

バリスタの補充と装填が何倍にも捗った。

 

大砲の補給が早くなって火力は加速した。

 

足軽としての伝達が早く統率が保たれた。

 

回復薬や怪我人を運んで命を繋ぎ続けた。

 

耳の良さであらゆる危機を捉えて凌げた。

 

諦めを見せない健気は皆に希望を見せた。

 

 

あらゆることが百獣夜行の中で皆の平和を近づけてくれる。

 

カムラの里に集うウマ娘はそれほどに大きい存在と化していた。

 

 

 

「はちみー、はちみー、はちみー、はっちっみーをなめるとー」

 

 

「おや?」

 

 

「!!」

 

 

ご機嫌なその子は俺を見つけると耳がぴーんとなる。

 

するとブンブン、ブンブジナと、尻尾をご機嫌に振りながら軽い足取りで近づいてウマ娘の彼女はこう言う。

 

 

 

「はちみつください」

 

 

「なんかそれ嫌」

 

 

 

即座に断られたのが嫌だったのかはちみつを強請(ねだ)って来たウマ娘はつまんなそうにぶー垂れる。

 

 

 

「今日は採取クエストじゃないから、はちみつは無いよ、諦めて」

 

 

「ちぇー」

 

 

「そのかわり団子買ってるから家に来い、それで良いか?」

 

 

「本当!? うんうん!行く! 行こう!」

 

 

 

ラングロトラと玉転がしで疲れていたところだけどこれだけ元気を見せられると不思議とこちらも元気になれる気がする。 俺の家を知っているはちみつ好きの彼女を追いかけて夜ご飯の仕込みを考える。 そして俺の住まう家の前にたどり着つくと既に装備を外して日常的な格好に着替えた俺のパートナーのウマ娘が待っていた。

 

 

 

「先に帰ったわたしが言うのもなんだけどゆっくり帰って来すぎだよ」

 

 

「献立を激辛ニンジンにすればその足取りは重くなったかもな」

 

 

「うぇ…それはちょっと…」

 

 

「冗談だよ」

 

 

好物のニンジンだろうと猫舌関係なく辛いのはダメそうだな。

 

いつも助かってるからそんなことはしないが、たまには辛いのは食べたいものだ。

 

今度ヨモギちゃんに辛い団子でも提案しよう。

 

 

 

「やっほー! 遊びに来たよー!」

 

「おーと、私とは相対的に駆け足のお客様だね」

 

「むー、それどう言うこと?」

 

「いやいや、別に〜? まぁ、とりあえず…と、アマグモ」

 

 

「?」

 

 

 

彼女はこちらを見て軽く微笑む。

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

「おかえり、アマグモ」

 

 

「ただいま、セイウンスカイ」

 

 

 

 

 

雨雲(アマグモ)青雲(セイウン) の 全く異なる二人の名前。

 

 

しかし二人のハンターライフは雲のようにゆっくりだ。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 




描き終えてまず最初にこう思った。


俺は何を思ってこれをコラボしたのだろうか。

コレガワカラナイ。


《逃げ》

追い、差し、先行、逃げ のスタイルが存在する。
名の通りに「逃げ」ることに特化している。
足が早く、生存率が高い。
先行のスタイルが得意なウマ娘に劣るが、エンエンクなどを使うことで、モンスターを陽動したり、その注意を引いたりと、モンスターから追われる囮になることも可能である。


ではまた


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2話

《まえがき》
プレイヤーとしてモンスターハンターの世界観に限度を求めるのは愚かにしてもだ。 百竜夜行とは言え、あんな大軍の大型モンスター相手に少数のハンターやオトモ達、あと里人、それだけ戦えるとは思えなくて、それでももう少しくらい何か後押しないかな? と思ったら…

選ばれたのはウマ娘でした(綾鷹並の発想)


こんな感じにこの小説が始まったんですね。

ではどうぞ



 

カムラの里に来てから翔蟲と言うものに出会った。

 

ユクモから派遣されたハンターとは言え、素性が分からぬよそ者だった俺だけど、その実力が認められた頃にウツシ教官から直々に翔蟲の使い方を学んだ。 これを使うことで壁を登ったり、また武器に力を纏わせて火力を高めたり、なんならエネルギーを保持して解放したらと、使い方は様々だ。 翔蟲の存在で狩は進化したように思えた。

 

まぁ、とある地域ではモンスターの背中に乗ってその背骨や脊髄などデリケートな部分を刺激して強引に転ばせる技術を得ているハンターとかもいるくらいだ。 モンスターをロデオするなど何事かと思った。

 

だがそんなユクモ村も負けてはない。 あの村は武器の技術開発が盛んであり、太刀ならば鬼神大回転の様な一閃を編み出せば、片手剣は盾も混ぜ合わせた連撃を限界まで振るい続けるコンボ、弓やガンナーにも曲射や構えを増やしたりと、連撃の概念に可能性を持たせた場所だ。 また初めてスラッシュアックスの開発に成功しただけではなく形態変化を行いながら攻撃もできるように技術も込められているあたり、ユクモ村と言う場所は武器の扱い方に技術を深めた紅葉の如く華麗な地域なのだろう。

 

ただこうなったのはジンオウガのようなモンスターと戦う環境なので、力に任せただけの武器では戦えないからそうする必要もあったと話を聞いた。 地域によって狩は変わるのだろう。

 

そしてここカムラの里では翔蟲の存在が更に狩を後押しする。 広大なこのフィールドで足となってくれるガルクの存在もだが、壁すらも戦場にしてしまうカムラの里で戦うハンターには驚きしかなかった。 攻撃にも使用できるなどこの里にしかない魅力が込められている。 俺はこの里に来て一年は越えたがその華やかさはいつも胸いっぱい感じているところだ。 一体狩はどこまで進化するのだろう?

 

そしてそれを後押しするように現れたのが…ウマ娘だ。

 

 

「セイウンスカイ、いつも通り回収したら一気に逃げるぞ。 君はあの道具袋を頼んだ」

 

「うん、いつでも良いよー」

 

 

ウマ娘のセイウンスカイと8のエリアと言われる場所だろうか、隠し通路からこっそり顔を出して観察…いや、機会を伺っている。 先程までイズチ以外何もいなかったがリオレイアがタイミング悪く降りて来た。 野ざらしにされているライトボウガンを眺めているが、あの感じだと大地を踏み締める女王の足直々に踏み潰して壊すだろう。 飛竜はなにかと頭が良いからハンターが紛失した武器を破壊する知能も少なからず持ち合わせている。

 

 

「3、2、1……今!」

 

「!」

 

 

閃光玉を投げてリオレイアの視界を眩ませる。 俺はリオレイアの足に一撃だけ片手剣を切り込むと破損したライトボウガンを背負って回収する。 その傍では鬼神薬や焼肉セットと言った貴重なアイテムを回収したセイウンスカイの姿。 鬼神薬はともかく焼肉セットを軽々と片手で持ち上げるあの小柄な体身体にどんな力が込められているのか? それと同時にウマ娘の心強さに今一度感心しながらリオレイアから走り去る。

 

しかしこれだけで終わる筈はない。 6のエリアまで駆け抜けようにもあのエリアはモンスターにとって重要な水飲み場となる。 出くわす可能性も捨てきれない。 かと言ってリオレイアのいる場所に引き下がるのも難しい話。 セイウンスカイとは二手に分かれた。 逃げ馬の彼女だから足並みを合わせることは難しく、アイテム回収だけに意識を高めてもらっている。 俺の事はあまり気にしないようにしてもらっている。

 

だからこの場をなんとか抜けるには俺自身でなんとかするだけの事。 幸いにも今回の回収物は前回の大剣とは違って軽めのライトボウガンだからそこまで重量は無い。 翔蟲をつかえるはずだ。 しかしできれば翔蟲は使いたくない。 これは強力な分、切り札なのだからそう安安と切る事は出来ない。 一応野生の翔蟲を回収する事も可能だが扱いが難しくて気づいたら何処かに逃げてしまう。 カムラの里で育成された翔蟲だけが頼りなら、確実に頼りになるタイミングで使うべきだろ。

 

 

この緊張感と共に6のエリアに抜け…

 

俺以外のものに出会した。

 

 

 

「アマグモさん! こっちです!」

 

 

「なっ!」

 

 

緑色の耳にオレンジ色の長い髪、お淑やかそうな振る舞いだが、容易く射抜かれそうな静かなる眼光を兼ね備えた一人のウマ娘。

 

 

「お前スズカか!……じゃあ、そうなると」

 

「はい"あの人"もいます、今頃リオレイアに斬りかかっているかと」

 

 

 

 

 

__うおおお! 気炎万丈ッッ!!

 

 

 

 

 

「あ、聞こえた、たしかにいる」

 

「はい。 ともかくここからはわたしが"先行"します。 ついて来てください」

 

「頼んだ!」

「はい」

 

 

 

他人の武器ってのは怖い。

 

特にライトボウガンや狩猟笛のようなものには変な癖をつけられている可能性がある。 誤ってなにかの属性弾が発火したり、リミッター以上に音を出して自身の鼓膜を攻撃して、さらにモンスターを引き寄せたりと、他者の武器は扱いが難しい。 モンスターの素材をあまり使わないカムラ製の鉄で作られた大剣やハンマーのようものなら単純一途で困らないが、それ以外は神経を使う。 片手剣ですら誤って自身の肌に傷を入れてしまって、それがフロギィのような毒属性の武器だったら笑いどころではない。 だから回収(ハン)ターってのはこの時に結構神経を使う。 もちろんモンスターの襲撃にも対応しなければならない。

 

しかし周囲警戒を代わりに補ってくれるウマ娘がいるとしたらどうだろうか? それは当然とても頼もしいの一言に尽きる。 また身体能力が高いだけで比較的人間とはそう変わらない彼女達だからこそ意思の共通が滑らかだ。

 

もちろんオトモアイルーもそれは可能な事だがアイルーはなにかとパニックになりやすい。 百戦練磨のアイルーならともかくだが、それでも人と人ってのは安心感がとても大きい。 だから連携が大事なハンターにとって人間と喜怒哀楽変わりないウマ娘が寄り添ってくれるのは本当に助かる話。

 

現に"先行"してくれる彼女が行先の周囲を警戒してくれる。

 

今この地域は百竜夜行にて環境は不安定で様々なモンスターが現れる。 クルルヤックの様な奴なら放っておくがアオアシラとか気性が荒いモンスターは面倒極まりない。 見つかるとそれこそ面倒である。 万が一、ナルガクルガのレベルが現れたらライトボウガンどころの話ではない。 むしろライトボウガンをタル爆弾代わりにして逃げるところまで考える。 有りったけの閃光玉と音爆弾で凌げるならそうするが、もし出会った場所が狭い通路なら考えは変わる。

 

人間にとってモンスターから逃げ延びるのはそう簡単ではない。

 

 

ならどうしたら良いのか?

 

 

それは最初からモンスターと出会わない事だ。 そしてその状況を揃えてくれるのが"先行"してくれるウマ娘である。 フクズクとはまた違った安心感と共に俺は無事に駆けれるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマグモ!」

 

「スカイ、迎えに来てくれたか」

 

 

ベースキャンプから近いエリア1までやってきた。 ウマ娘のよく聞こえる耳を使ってスズカがモンスターのいない道を探して先行してくれたので助かった。 すると蔦から降りて来たセイウンスカイが迎えに来てくれた。 互いに無事な様だ。

 

 

「あ! スズカが居るって事はあの人もいるの?」

 

「スカイさん、こんにちは。 ええ、あの人も居るわ。 オトモアイルーを二人連れてリオレイアを狩猟してるところです。 わたしは念のために来たの」

 

「いやいや、スズカさんが居るなら頼もしいよ。 アマグモを無事に連れて来てくれたみたいだし」

 

「すごい頼もしかった。 ありがとうサイレンススズカ」

 

「いえ、大丈夫よ。 それではあの人のところに行ってくるわ」

 

 

 

そう言うと風を切ってまた走り出す。

 

うわ、やっぱり早い。

 

ハンターを乗せてないガルクの速度と同じとかやはりすごいなウマ娘。

 

 

 

「じゃあ俺たちもこのライトボウガン届けるか」

 

「うん、そうしそうしよ。 あ、ところでそのライトボウガンってどんなのなの?」

 

 

気ままな彼女だけど、ふわふわとした感じに訪ねてくる。

 

 

 

「これは『ヴァルキリーファイヤー』ってライトボウガンだ。 毒の性能に優れた武器で素材はリオレイアだ」

 

「あ、じゃあ…」

 

「うん、リオレイアがこのライトボウガンに近づいたのは多分そう言う事。 どんな感情を持ち合わせてこのライトボウガンに近づいたのかは分からないけどな」

 

「同胞が! とか、そう言うのかもね〜」

 

「かもな。 じゃあ帰ろうか。 リオレイアを狩ってる人があのハンターならなにも心配いらない」

 

「うん、カムラの里、最強のハンターだからね」

 

 

 

 

 

ちなみにリオレイアに斬りかかったあのハンターは無傷で帰ってきた。

 

そんで持ってちゃんと狩猟したらしい。

 

飛竜相手に数時間で帰ってくるとか人間やめてんだろアイツ。

 

てか、たまに居るんだよな人外のようなハンターが。

 

なんならユクモ村の専属として戦う先輩ハンターもジンオウガを2頭を同じエリアで同時に相手して無事に狩猟を終えて帰ってくるくらいだし。 終いにはユクモ温泉での土産話が「お気に入りのユクモの三度笠が台無しだ」と苦笑いしてた先輩ハンターのとフィジカル差は次元が違いすぎた。 正直アレくらいの強さは憧れるが、ああはなりたくない変な気持ちもある。

 

 

それだけのはなしだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はちみつください」

 

 

「だからソレやめろ、トウカイテイオー」

 

 

「ぶー! なにさ! なんでボクのために持って帰って来ないかな? このテイオーに献上出来るなんて光栄極まりないのにね。 それともこのボクの魅力に気づいてないのかな? にっしし」

 

 

 

手を伸ばしてテイオーの鼻をつまむ。

 

 

 

「ぴぃ!!?」

 

 

「お前みたいなクソガキは一度わからせてやろうと思ってたところだ」

 

「まー、まー、それまでにしなよ。 お土産のお団子冷めちゃうよ?」

 

「だな」

 

 

「もう! なんだよ! 二人して!ふーんだ!」

 

 

涙目になりながら撤退するトウカイテイオーの姿だが向かったは俺の家の方角だ。

 

まーた団子をたかられるのか。

 

やれやれ、追加で買っておこうかな?

 

 

 

「む、しばらく団子は無いぞ」

 

 

「「え?」」

 

 

 

トウカイテイオーとはまた別のウマ娘が横長い椅子に座って食べている。 しかも何段も重ねられていて、それはまるでカムラの里の受付嬢を務める健啖家なヒノエさんの如く、ウマ娘の彼女もまたその団子の量は負けていない。 食べたものはすぐに消化してしまうだろうが、ぷっくり出ているお腹に対して食べる速度が落ちない光景は何度見ても驚く。

 

 

 

「相変わらずだな、オグリキャップ」

 

 

「ヨモギちゃんのお団子が美味しいのがいけない」

 

「あっ、それわかるよ〜」

 

 

 

たしかにヨモギちゃんのお団子は美味しい。

 

ユクモ村でもお団子は美味しいがヨモギちゃんが作るお団子は元気が込められている味だ。 クエストも元気に熟る。 何より翔蟲や壁など忍者のように立体的に動くからお団子は程よい量で有り難い。 あとクエスト中でも持ち運べて、クエスト中でもベースキャンプで一息つくときに食べるお団子は疲れが取れるし「もう一息だよ!」とヨモギの元気が伝わる。 もちろん集会所で作ってくれるキッチンアイルー達のお団子も美味しいが、ヨモギちゃんのはまた一段と違う。

 

そのくらいにお団子が進むのだ。

 

その結果がお腹を出したオグリキャップ。

 

傘鳥アケノシルムの素材が使われた装衣でも強引に腹を出せるのだからどれだけ食べていることやら。

 

 

 

「ともかく、追加のお団子はいま無いんだな?」

 

 

「ああ、申し訳ない。 しかしお団子が美味しいのが悪い。 "差し"馬だけに、串に()してる団子達が、胃袋のターフを次々と駆ける」

 

 

「え? あ、うん。 ……それで?」

 

 

美味(うま)ぴょい」

 

 

「「………」」

 

 

 

前に「こいつら美味(うま)ぴょいしたんだ!」と悲鳴が聞こえたがおそらくこの事だろう。

 

 

追加のお団子は諦めてセイウンスカイと帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに待ちくたびれたトウカイテイオーが玄関で寝ていたのは余談である。

 

 

 

つづく

 





実況「おおと!追い上げて来た!オグリが指している!オグリが(団子を)刺している!」


《先行》
追い、差し、先行、逃げ、のスタイルの中で絶妙な足捌きが求められる。 何かしらを率いる能力が非常に高く、モンスターが見失わない絶妙な距離感で惹き付けて誘導したり、運搬や逃走などで進行方向に障害などの有無を前線で確認したり、名の通りハンターより"先行"する能力が高いウマ娘の事。 ただし耳や感覚などを通してその時の高い集中が無ければならない難しい役割でもある。


ではまた


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3話

ウマ娘を育てるじゃなくて、一緒に命を賭けて生き延びる。

そんな感じの小説だったりする。


交易と言うものはご存知だろうか?

 

簡単に言えば外洋を超えて物を交換したりする商業だ。

 

そしてこのカムラの里には大河が続いており、そのまま海へと出ることができる。 ここではオトモも交易のためにカムラの外に出たりもしている。 そんなオトモたちを集会所の茶の間から見送ることが可能だったりと、ユクモ村と違ってカムラの里は交易がやや盛んだ。 ユクモ村にはオトモ広場ってのは無いが、大きな畑や立派ない鉱山や炭鉱が備わっており、そして素材となる虫が集いやすい地域なのでハチミツもよく取れる。 死んだ虫を川にばら撒いて網漁も可能だったりと、有名な温泉も含めて自然の恵みを受けやすいのがユクモ村である。

 

だからカムラの里に来た俺からしたら交易は何かと新鮮な気分だ。 それでも交易自体あまり活用したことはない…と、言うよりかは数ヶ月前に商業もどきな事をしてる太刀使いのロンディーネが現れた感じ。 最初は警戒したけど全然良い人でややロマンチックな部分があったりと親しみやすい。 そんなロンディーネさんからは珍しいものを交換してもらった事がある。 ドスキレアジの素材を使った砥石を貰ったが、加工の仕方がカムラの里とは違って本来ある砥石とは握り方が違ったりと外洋とはまた違う砥石に感心した。 あと貰ったのは太刀専用のドスキレアジを使った砥石で、一応片手剣にも使えるので前のクエストで試したが切れ味の回復速度が半端なくやばい。

 

ちなみにハンマー専用の砥石も存在するらしい。 元々キレアジ系は砥石としての需要が高く、上手く加工すればカムラの里の秘伝の砥石よりも強力なアイテムとなる。 それが"ドス"キレアジになるとひと撫でするだけで新品の様に刃を元通りにしてしまう。 切れ味の回復がこれだけ早く見込めるのなら戦闘中の合間に使えたりとキレアジの需要はますます高まるだろう。

 

商業もどきな事をしてるロンディーネだったが良いものを見せてもらえて良かった。

 

 

 

「あら、どうもこんにちは」

 

 

「こんにちはグラスワンダー、その着物似合ってるぞ」

 

 

「あらあら、うふふ、ありがとうございます」

 

 

 

グラスワンダーの名前を持つ彼女もウマ娘の一人であり、どこかしら外洋から来たロンディーネと似たような雰囲気を持つ。 しかし彼女もセイウンスカイと同じように現れたのはこの地域からであり、遠くからやって来た訳では無い。 そして共に百竜夜行を凌いだ心強い仲間である。

 

 

「しかしグラスワンダーはオトモ広場が好きだね」

 

 

「ええ、ここは癒されます。 訓練に勤しむアイルー達を眺め、遠吠えをガルクの声を聞き、ロンディーネさんと会話に花を咲かせるのは楽しいございます。 アマグモさんもこれからご一緒にどうですか?」

 

 

「そうだな、ご一緒……っと?」

 

 

 

グラスワンダーの誘いでも受けようと思ったらフクズクが俺の方に飛んでいた。 すぐに布を取り出して腕に巻き、爪の食い込み防止を作るとフクズクは腕の上に乗っかる。 フクズクが口に咥えている巻物を取り出して開封しようと思ったがかなり強くひもが結ばれていたので片手でうまく解けない。 するとグラスワンダーが「失礼します」と言って巻物を取って紐を解く目の前に紙を伸ばしてくれた。

 

 

 

「ありがとう、悪いな」

 

「いえ、むしろ出過ぎた真似をしました…」

 

「気にしないで。 それでええと? ふむふむ。 ああ…グラスワンダー、残念ながらお誘いは断るよ。 今からクエストだ」

 

「あら」

 

 

巻物を丸めて特殊な結び方をした。

 

依頼に対して『受注』と答える結び方や『保留』や『却下』など実は色々ある。

 

まぁ断ることはあまりないので基本的に受注のサインを出す結び方しかしないが、まぁそこは良い。 巻物を咥えさせると腕を空に向ければフクズクはバサバサと飛んでいった。 さて、俺も二度寝中のセイウンスカイを起こしてクエストに向かわないとな。

 

 

「いってらっしゃい」

 

「ああ、行ってくる」

 

 

グラスワンダーに見送られながら今日の依頼をこなしにオトモ広場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、武器の回収依頼多くない?」

 

 

「百竜夜行の影響にてあちこちでモンスターがうじゃうじゃしてるからな。 残党処理などで色々とクエストに駆り出される事が多い。 こう言う時に頑張るのが回収班ターだよ、セイウンスカイ」

 

 

「大変だね」

 

 

「前線で戦うハンター達に比べたらまだマシさ。 そのためには可能な限り武器を回収して、まだ闘志が揺らいで無いハンターがいるのなら前線で頑張ってもらわう。 そうして繋がないとカムラの里は滅んでしまう」

 

 

「うん…そうだね。 あの里でお昼寝するの気持ちいいからさ、百竜夜行を退いてみんなで心置きなくお昼寝できるように平和を作らないとね」

 

 

「ああ、だから今日も気炎万丈…! って感じでな」

 

 

 

 

現在エリア5のところにいる。 大社跡の中央に高い丘があるが、明らかに人の手が入っているような場所であり、所々に祠や家らしき建物が立っている。 カムラの里中では神聖なところであり、過去に住職が住んでいた歴史がある。 今は至る所が倒壊して住めなくなっている。 モンスターがこの一帯を破壊したと聞くが、一説では怒り狂った嵐龍アマツマガツチが通り過ぎた事でこの一帯を薙ぎ払われたと言われている。

 

ちなみにジンオウガ2頭を相手にした先輩ハンターはこの嵐龍が原因だと言っていた。 縄張りを追われたとかそんな感じだろう。 やはり古龍は厄災そのものだろう。 そしてここ大社跡のエリア5もその厄災にて壊されたのだと仮説が建てられている。 それ故に人の手が無くなったこの場所だからこそ…

 

 

 

「グォォォ、グゴゴゴォ…ブゴゥ…」

 

 

 

「え? 何アレ…」

 

「ラージャンだよ。 めちゃくちゃ危険なモンスターだ」

 

「そ、それは知ってるよ。 か、かなり恐ろしいよね? 今は寝てるからそれほどじゃ無いけど…」

 

「…君だけでも退いても全然良いんだぞ?」

 

「だ、大丈夫だよ。 ええと、それで武器らしきものは見えないけど…いや、待って。 もしかして、あのラージャンの腕に抱いてアレがそうなの?」

 

「ああ。 "おやすみベアー"ってハンマーだよ」

 

「え……あれ、武器なの?」

 

「みたいだぞ。 あの一撃に叩かれると睡眠に誘われる」

 

「永眠の違いでは…?」

 

「どの道永眠となるから変わりない。 それで、アレを回収と言われてるが、どうしようかな」

 

 

 

大社跡にはラージャンも現れる。

 

リオレウスとかならわかるけどあんな大猿まで現れるとか百竜夜行の影響を受けている地域は無法地帯で本当に笑えない。 生存競争のランクが一気に跳ね上がって最近ではオサイズチがあっちこっち移動しては村の畑とかに被害をもたらそうとする。 百竜夜行が起こるまではこの辺りも非常に穏やかだったのに今ではこんなヤベーヤツも彷徨いたりと厄介極まりない。 そりゃネコタクで運ばれてくるハンターもあとが絶えないわけだ。 しかももちろんネコタクで運ばれずクエスト中の死亡者も百竜夜行が始まってからは1.5倍近くまで増えてきた。

 

未来ある若い芽が摘まれてしまう現状にフゲンさんは心痛めてたよ。

 

 

「あのおやすみベアーはどうするの? 諦める…?」

 

 

「俺個人としてはそうしたいところだけど、ここまで登ってきたんだからすぐに帰るのも嫌だな。 カブラスに注意しながら様子を見よう。 もしかしたら動きがあるかも」

 

 

「わかった。 いやー、しかし、あのラージャンしっかり抱きしめているね。 あの剛腕から引っ張り出すのは無理そうだ。 正直、そんなにぬいぐるみは良い物なんだろうって錯覚するほどにギュとしているね」

 

 

「あ、そういや前にテイオーからセイウンスカイが昼寝してる時にギュと抱きしめていたって聞いたけど」

 

 

「!!?……え、ええと、それって?」

 

 

「え? いや、テイオーが愚痴るように言ってたから、セイウンスカイがテイオーを抱きしめてビックリさせたとかそう言う事じゃ無いのか? どこか不機嫌そうだってし」

 

 

「ッ〜!! あ、ええと、それは、その…いや、別に大した事じゃ無いよ?? うん、気にする事じゃ無い!」

 

 

「?? …まぁいいや、とりあえず二度寝した分頑張って起きて粘るぞ。 もしかしたらチャンスがあるだろうから。 そんじゃ俺は屋根の上から様子みるから、下は任せた。 …暇になって寝るなよ?」

 

 

「う、うん! いってらっしゃい!」

 

 

 

俺は翔蟲を使って屋根の上に飛ぶ。

 

セイウンスカイは岩陰に隠れて様子を伺うことにした。

 

 

 

「……心配しなくても、しばらく眠れなさそうだよ、君のせいで…さ」

 

 

 

ほんのりと頬が赤い彼女だが夕日のせいだと言い訳しながらラージャンを眺めて待機した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気持ちよくイビキをかいた大猿を観察して1時間が経過した。

 

ラージャンはぐっすりだ。

 

あのおやすみベアーは相当寝心地良くするだろう。

 

 

 

 

 

だが、次の瞬間。

 

事態は急激に変化した。

 

 

 

「グォォォオオ!!!」

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

空からリオレウスが奇襲してきた。

 

しかし狙いは俺では無く、ラージャンに対して襲いかかる。 リオレウスの咆哮を聞き、殺意を感じたのかラージャンは目を見開くとリオレウスの空中ブレスを回避する。 ラージャンはおやすみベアーを握りながらもしたから電撃の球体を放ち、リオレウスはそれを回避するとその脚でラージャンを引っ掻き殺そうと襲いかかる。

 

戦いの規模は縄張り争いへと進む。

 

 

 

「っ」

 

 

俺はセイウンスカイに指示を出す。

 

急いでそこから離れろと。

 

しかし…

 

 

 

「ッ、ッ、ッ!」

 

 

あれはまずい!

 

セイウンスカイの足が震えて動けていない!

 

ウマ娘は人の姿をしているがそれでも"馬"である。 馬人族と言われてるがその前にまず意識は動物に近しくもある。 故に、目を覚ました絶対強者を前にした事で自慢の足からいつもの力が発揮しない。 そしてウマ娘は人間でもある。 感情豊か故に大きく蝕む恐怖心が彼女の判断を鈍らせる。 更に述べるならセイウンスカイは逃げ馬である。 差し馬のようにモンスターと対面する能力は無く、そのプレッシャーに巻き込まれず背中だけに感じながら逃げる力でしか無い。 その時の逃げ馬は誰よりも速くて生存力が高いのだ。 しかし、大型モンスター2体の重圧を浴びてしまった逃げ馬は恐怖で動けて無くなる。

 

速いけど、脆いのだ。

 

 

 

「セイウンスカイ! 目を閉じろ!」

 

 

「!!」

 

 

 

縄張り争いに割り込むように閃光玉を投げつけてラージャンとリオレウスの視界を奪い取る。 さらに着地と同時に煙玉を踏み潰して一気に煙を広げた。 ラージャンとリオレウスは暴れながらも近くに敵がいるならがむしゃらに攻撃している。 巻き込まれたらただでは終わらないだろう。

 

 

「セイウンスカイ、しっかり」

 

 

「ぁ、わた、し、その…」

 

 

「大丈夫だ、逃げよう。 動けるな?」

 

 

「ッ、うん…っ!」

 

 

 

手を強く握って彼女を先導する。

 

震える足を頑張って動かした。

 

しかしモンスターは無慈悲である。

 

リオレウスの火球がセイウンスカイを狙った。

 

 

 

「ッッ!!?」

 

 

俺はセイウンスカイの体を引っ張って火球から逃れる。たまたま飛んで来たにせよあんなの直撃したらまともでは済まない。 しかし一難さってまた一難とはこの事を言う。 ラージャンはおやすみベアーでリオレウスを叩き殴り、もう一度フルスイングで殴る。 怯んだリオレウスの尻尾がおやすみベアーに直撃するとラージャンの握力から解放された。 しかし勢いよく飛んで来た先に俺とセイウンスカイがいた。

 

 

 

「がぁぁっ!」

 

「!?」

 

 

なんとか盾で防いだが勢いが強すぎる。

 

抑えきれなかったノックバックはセイウンスカイを巻き込み、そしてセイウンスカイは崖から押し出された。

 

 

「ぁ___」

 

 

「!!??」

 

 

崖外に突き飛ばされたセイウンスカイ。

 

崖の上から落ちる重力下を悟ったセイウンスカイは死を覚悟した。

 

 

 

 

 

___ア、アマグモ…

 

 

 

 

 

 

 

届く事が叶わない手を伸ばし、震えるように吐き出されたその言葉が彼女の最後になってしまうだろう。

 

 

 

 

いや、そんなことは絶対にさせない。

 

 

 

 

 

俺は盾を捨てるとセイウンスカイに飛び込む。

 

可憐なその体を掴み取り、腰をグッと引き寄せて抱きしめながら翔蟲を壁に向けて放つ。

 

 

腕が引きちぎれるような痛みが走るが食いしばった。

 

 

とりあえず落下は防げた。 しかし翔蟲は大剣やハンマーのように一度エネルギーを込める必要が。 それは僅かな時間だけで良いが、照準を合わせる程度の時間を設けてから翔蟲を放たないと中途半端にしか効力が保たれない。 翔蟲も生き物なのだから準備と言うものはある。 故に翔蟲を使ってぶら下がる時間は作れなかったのだ。

 

 

 

「このっ!」

 

 

 

だから俺は片手剣を抜刀して壁に突き刺す。

 

 

強引にねじ込む事ができた。

 

 

二人分の重さに耐えるように片手剣は壁を抉りながらガリガリと下に削れてゆく。

 

 

両足でも壁に擦り付けてブレーキをかけて…

 

 

 

 

なんとか止まった。

 

 

 

 

「はぁ…! はぁ…! はぁ…ッッ!」

 

 

「ァ、ァ、アマグモ…」

 

 

「無事だなセイウンスカイ。 かなり強く絞めてるけど痛く無いか?」

 

 

「だ、大丈夫、だけ…ど、その…わたし…」

 

 

「何も言うな。 何が悪いとか、何が良いとか、そうじゃ無くてな、この世界は残酷だから、これで普通の事なんだ。 いずれ、何処かで、突拍子もなく死ぬ。 それが普通なんだよ、セイウンスカイ」

 

 

「ぅ、ぅぅ、アマグモ、ごめんね……ごめんなさい……」

 

 

「気にすんなって」

 

 

 

両手が塞がってるから頭を撫でてあげれないのが悔やまれる。

 

そして崖の上ではまだラージャンとリオレウスが争っている音がする。

 

振動がここまで来て壁に突き刺している片手剣が揺れで抜けてしまうのはいただけない。

 

 

 

「セイウンスカイ、腰のポーチから怪力の種を取り出せないか? それを俺に食べさせてくれ」

 

 

「ぇ? ぁ、うん、まってて…」

 

 

言われた通りポーチから怪力の種を取り出した。

 

 

「皮付きのままでいいから食べさせて」

 

 

「でも喉に引っ付いてしまうよ? むせると危ないから…待って、ほんの少しでいい」

 

 

セイウンスカイは手で剥こうとするが体制が危なくてうまく向けない。 それを考えるとセイウンスカイは自分の口に持っていき、歯を突き立てて皮にヒビを入れる。 ひまわりの種のように皮が割れて剥ける。 それを次に俺の口に放り込むと、俺はそれをかじった。

 

 

「すぅぅ……ッッ!!」

 

 

怪力の種は即効性がある。

 

既に力がみなぎっていた。

 

俺は大きく呼吸すると足腰に力を入れて、武器を手放した。

 

 

「!!?」

 

 

重力に従って落ちる中、俺はセイウンスカイをもっと上に引っ張り上げ、腰と太ももの裏に腕を通して抱き寄せる。 お姫様だっこと言える状態だ。 無防備な状態になったためこれで動きやすい。 カムラの里に来て訓練した壁翔(かべかけり)を実行する。 即座に足の引っ掛けれる凹凸や窪みを見つけてはそこに足を滑り込ませて次の窪みなどを探す。 壁を走るようにゆっくりと下へ降りてゆく。 伸び切った竹を交わしながら地面がよく見える。 罰当たりながらも地蔵を踏みつけて、そのまま地面に着地した。

 

「キー!?」

「キーィィ!!」

 

突然現れた俺にジャグラスは驚いて散り散りに去ってゆく。

 

イズチがいたら面倒だったが運良くいないようだ。

 

 

 

「はぁ……恐ろしかった」

 

「…」

 

 

セイウンスカイを下ろす。

 

互いに無事である事を確認した。

 

 

 

「っ…アマグモ!」

 

 

「うおっと!?」

 

 

 

突然抱きしめて来たセイウンスカイ。

 

しかし耳は垂れ落ちて体はガクガクと震えている。

 

 

「怖かった…怖かった……ぅぅ、ぁぁぁ…」

 

 

「……ああ、そうだな。 俺も…」

 

 

 

_お前を失うと怖かった。

 

それを言葉に出すことは出来なかったが、震える彼女を抱きしめて頭を撫でる。

 

だがここはまだモンスターの生存区域。

 

このままでいる訳にもいかない。

 

 

「一度ベースキャンプに戻ろう。 それから考え__」

 

 

 

ドスーン!!

 

 

 

「「!!??」」

 

 

 

リオレウスが落ちて来た。

 

ラージャンに叩き落とされたのだろうか。

 

しかし外傷はそこまで見当たらない。

 

だがその足取りはかなり重そうだ。

 

 

 

「もしや、睡眠属性のおやすみベアーで殴られて意識が飛びそうになってるのか??」

 

 

 

まぁいい、逃げるなら今だ。

 

ラージャンが降りてこない内にエリア4から急いで去った。

 

 

 

 

 

 

 

あと久しぶりに クエストリタイア で終えた。

 

 

その上…俺すらも武器を紛失した始末だ。

 

 

盾はエリア5で、剣は壁に刺さったまま。

 

 

しかし今回は仕方ない。

 

 

俺の判断ミスもあり、俺の弱さも原因だ。

 

 

クエストリタイアはハンターとして恥ずかしい事この上ないが、でも生きてるだけ儲けものだろう。

 

 

失った分は今回の授業料として考え、俺はギルドマスターにその報告を済ませてると終始無言だったセイウンスカイを連れて帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマグモ、わたしって恥ずかしいウマ娘だよね」

 

 

「え? なんで?」

 

 

「ウマ娘は人を助けるために来たのに、私が助けられたんだもん。 これでは意味がないよ。 あなたの側にいる意味が、無いよ…」

 

 

「……随分とまぁ、君の名前にそぐわない顔色をしている」

 

 

「ご、誤魔化さないで! わたしは!」

 

 

「いや、待て。 それを言うならラージャン相手に撤退まで考えた筈なのに俺が個人的な理由で残ろうと言ったのも原因だ。 それが危機に繋がってしまったのなら事の発展は間違いなく俺にある。 セイウンスカイが恥じる理由にはならない」

 

 

「違う! ウマ娘は人間からオーダーがあるから力を尽くせるんだ! ならばアマグモが『残る』は応える理由になる。 それを最終的に震えてしまった私が全うできなかった弱いウマ娘だからだ…! だからアマグモが悪いんじゃない。 あなたのその腕も、使っていた武器も、全部、全部……私がダメだったから…」

 

 

「セイウンスカイ!それはちがう!!」

 

 

「!!」

 

 

「この始末に誰が責任を負う負わないの話じゃ無い! お前はウマ娘で! 人間を助けようと、応えようと、それを全うすることに存在意義があるだろうがな、俺にはそんなの"どうでもいい"んだよ!!」

 

 

「ッ…!?」

 

 

「俺と!お前が!無事だった! これじゃダメなのかよ…?」

 

 

「ぁ…」

 

 

「たしかに色んな事が起きて、忘れられない怖い思いをして、それで失った分も多くて、依頼を失敗したハンターの恥で、けど今はこうしていつもの我が家に帰って来れて、二人の命はまだこの場所にある。 俺はそれだけですごく報われた。 お前が生きていてすごく嬉しい。 良しも悪しも関係ない。 セイウンスカイが無事ったことに俺はいっぱいなんだよ…」

 

 

「ぁ、ぁぁ…」

 

 

「もう、気にするな。 もう、悔やみすぎるな。 忘れるなとは言わない。 でも、俺の気持ちを分かってくれ。 セイウンスカイ、共に生きて帰って来れて、それだけで俺は報酬を得ている。 だから本当によく頑張った。 ありがとう、セイウンスカイ」

 

 

「ぅぅ……わたしは…青雲(せいうん)なんだよ……だから、泣くなんて、あまり、したくないのに…」

 

 

「たまに雨雲(あまぐも)に委ねろ。 気持ちを抑えて渇いてしまう必要なんてない。 天気はいつだって動いてる。 だから今日は天気が悪いんだ。 それだけのはなしだよ」

 

 

「ぅぅ…ぐ…ぅ、ぅ……うああああ!!!」

 

 

 

 

 

モンスターをハンターする生き物は毎日死を覚悟する。

 

どれだけ飄々としても死と隣り合わせでいる事を忘れない。

 

忘れてしまった時、それは死んでしまうから。

 

だから大地を枯らしながらも、血でその渇きを少しでも癒し、命をかけて過酷な世界を踏み込む。

 

耐えれなくなった時、涙を流して大地を潤す。

 

そうしてまた踏み締めれるように人は繰り返す。

 

いずれ涙を流さずとも踏み締め慣れた足が出来たのなら、それはそれで良い。

 

俺だって時々泣いてしまう。

 

でも今は抱きしめている彼女に任せる。

 

俺の分も、どうか潤して欲しい。

 

 

雨雲 に 青雲 が必要なように…

 

青雲 にも 雨雲 が 必要なのだから。

 

 

 

 

 

 

つづく






セイウンスカイの一人称「わたし」なんですね。
「ボク」って言いそうな感じがしているけど。
トウカイテイオーと被るからかな?


あとおやすみベアーを抱きしめて寝るラージャンは少しだけクスリときた。


《 アマグモ 》その1
約1年前にユクモ村からカムラの里にやってきた狩人であり、ユクモ村専属の先輩ハンターと共にジエン・モーランの討伐後は上級ハンターへ昇給したがそのタイミングで異動を言い渡される。
フィールドワークが得意であり、主にクエストで紛失した武器や遺品の回収を務める珍しいハンターである。 それ故に環境生物の扱いに長けており、ユクモ村でもそれらしい事をしていたためカムラの里の適正能力の高さから派遣された。
これでもソロでジンオウガを討伐する腕前はあり、当時は下位ながらも水没林に乱入してきたナルガクルガの亜種を相手に5日かけて討伐した偉業を持っている。
使用武器は動きやすさから片手剣を選んでいるが、太刀を除いて両手持ちが苦手であり、ユクモ村開発のスラッシュアックスの扱いのセンスの無さにユクモ村のハンターとして落胆した事がある。
過去にオトモアイルーが1匹いたが、ジエン・モーラン戦の怪我にて戦線を降りてしまい、今ではユクモ温泉のドリンク屋2台目として楽しく切り盛りしている。
年齢は二十歳前半で、ここ最近急激に強くなったカムラの里のハンター(主人公)と同い年らしく、団子の早食い競争に勝てない。

ではまた


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4話

 

カムラの里は歴史がある。

 

大きな傷跡共に負った歴史がある。

 

50年前の百竜夜行にて里壊滅寸前まで追い込まれた話は有名であり、この里に住む者にとって忘れてはならない傷跡だろう。 まだこの里に来て一年程度の俺なんかがこの里で生まれ育って、そして戦ってきた者達の痛みも思いを全て理解してる訳でもない。 ただモンスターは人の住まう場所を荒らし、喰い殺し、脅かし、それが大群となって悪夢になる。 そのくらいの認識でしかない。 もちろんハンターになった以上はその名が人々にとって救いとなるように奔走する。 ユクモ村でもその覚悟と使命を持って奮ってきた。

 

だから今日もそうなった責務を果たそうと…

 

 

 

「気炎万丈ォォッ!!」

 

 

 

するために、逃げる。

 

後ろへ! 全力で! 逃げるんだよ!

 

 

 

「てか、慣れない片手剣だから体重移動が難しい!」

 

 

 

俺が愛用していた片手剣は前日のラージャンとリオレウスの縄張り争いに巻き込まれて紛失した。 クエストをリタイアした時のハンターが紛失した武器やアイテムを回収するハンターの俺もが、武器を失ったのだ。 それでカムラの里で作られる"カムラノ鉄片刃"って名前の片手剣で代用している。 いつもよりも少し重たい。

 

 

「そう言えば、なかなか見ないと思ったけど久しぶりに出会ったなお前には!」

 

 

「クエ、クエ、クエ、スト、リタイ、アァァァ!!クエエエエ!!」

 

 

「それ前日の俺に対する当て付けかクルペッコ!!」

 

 

 

野生の翔蟲を回収しながら悪態を浮くが、そのお相手が彩鳥のクルペッコだ。

 

しかも珍しいことにその“亜種"と出会ってしまった。

 

久しぶりと言ったがこれは本当である。 クルペッコとはユクモ村から出てからピタリと合わなくなった。 しかし今日一年振りに出会った。 一応今いる水没林はクルペッコの生息域なのでいる事は別に珍しくもない。 しかし、クルペッコは急に姿を減らした。

 

原因は言わずもがな、百竜夜行が原因らしい。

 

まず鳥類種クルペッコの説明だが、喉の機関が発達しているモンスターであり、他のモンスターの声真似が得意だ。 例えば他のモンスターのメスの声や、縄張りを脅かしに来たモンスターの声などを上手く使い分けて、そのモンスターを誘き寄せる能力を持っている。 あと羽には火打ち石を持ち合わせている武器は厄介だが戦闘能力はそこまで高くない。 しかし他のモンスターを声で誘き寄せる能力はこの上なく面倒だ。 しかもいま俺を追いかけてきている亜種に関してはあのイビルジョーですら呼び寄せてしまう始末である。 ちなみにクルペッコがそのままイビルジョーに食べられてしまった話は有名だが、亜種ならそんな暴食竜すらも呼び寄せれる能力はこの上なく厄介極まりない。 まだ空腹のアオアシラが2頭同時に追ってくる方がマシだ。

 

 

「しかしお前もこの水没林で独り身で寂しい奴だな! 他の仲間と渡らなかったのか! ええ?」

 

 

「グェ! グェェェエ!」

 

 

クルペッコがあまり姿を見せなくなったのは百竜夜行が原因だと言ったが、ユクモ村から近い渓谷では普通に見かける。 しかし孤島や砂漠、それに今俺がいる水没林と言った場所では滅多に見なくなってしまったらしい。

 

それで何度も言うがこれも百竜夜行が原因だ。

 

クルペッコは声真似でモンスターを誘き寄せるが、その数が多くなり過ぎたことでコントロールが聞かなくなり、クルペッコの同胞が集まり過ぎたモンスターに襲われる事態が起きたらしい。 そのため百竜夜行の影響があまりないユクモ村から近い渓谷にしかクルペッコが現れなくなったらしく、一時期ユクモ村近辺で急激に増えたりもした。 しかもそれが合わさったように繁殖期に入ったジンオウガも活発になり、アマツマガツチの出現にて生態系は混乱し始めたりと、ユクモ村もクルペッコも大変だ。

 

その分、亜種は頭が良いから生存競争に強いが、でも本当に久しぶりに見たな。

 

 

 

「逃げるだけなら簡単だけど…互いに独り身だ。 寂しさをぶつけるために闘争でも描くか亜種ペッコ? あいにく様、今日は俺の相棒はお休みでな」

 

 

「グェェェエ」

 

 

今日はセイウンスカイがお休みである…と、言うかお休みにさせた。 何せ前日のクエストが響いたのか元気がない。 もう気にするなと言ったけどそこから先は本人の問題だ。 しかし彼女は無理して付いてこようとしたが不調気味なウマ娘は危ないので却下した。 しかも今日は水没林であり泥濘(ぬかるみ)が多い場所だ。 いつもの調子ならともかく脚を100%を発揮できないウマ娘が付いてきたところで大怪我を負ってしまうのがオチ。 何より死ぬ可能性が高すぎるため、俺はそこに恐れて彼女を置いてきた。

 

 

「…」

 

 

俺はセイウンスカイが大事だ。

 

アイツとは長く付き合っていきたい。

 

雨雲を青雲にしてくれる彼女が必要だ。

 

だから、死ねないし、死なせない。

 

 

「グェェェエ!」

 

 

わざと攻撃が当たるギリギリの距離を調整しながらジリジリと後ろに下がる。 すると亜種ペッコは火打ち石をカチカチと打ち合わせて温め始めた。 俺は投げナイフで牽制すると亜種ペッコはそれを引き金に飛びついてきたが、こちらも翔蟲を暖めていたのでそれを真後ろに投げ飛ばして亜種ペッコの攻撃を回避する。 その時に俺はマキムシを撒いていた。 硬くて尖った背中を持つマキムシなので踏んづけてしまうならば痛くてたまらないだろう。 亜種ペッコは火打ち石攻撃のために力強く踏み込んだその足でマキムシを足裏に引っ掛けて悲鳴を上げる。

 

 

「グェェェエ!!!? グェ、グェ! グェェェエ!」

 

 

大口を開けて怯む亜種ペッコだが、即座に持ち直すとそのまま天に向けて声を放つ。 モンスターでも呼ぶのかと思ったが綺麗な音色なので狩猟笛と同じ自己強化に入るつもりだ。 やらせない! あと今日の俺は運が良いらしく着地したすぐそばにドクガスカエルが隠れていた。 それを拾い上げてドクガスカエルの尻を叩いて刺激すると亜種ペッコに投げつける。 すると亜種ペッコの口に入った。

 

 

「うお、まじか」

 

 

入るとは思わなかった。 すると亜種ペッコはひどくむせ始めると、鼻や口から毒ガスが漏れ始める。 なかなかにシュールだ。 それを急いで吐き出した亜種ペッコだが毒が回り始めてフラフラしている。 更に言えばクルペッコは自己強化のための演奏が強引に解除されて、音色が周りに爆発する。 すると狩猟笛と同じ仕組みなのか音色を聞いていた俺が強化状態に入った。 力がみなぎる。

 

 

「はぁぁぁぁあ!」

 

 

先程回収した野生の翔蟲が痺れを切らして逃げる前に俺は亜種ペッコにその翔蟲を飛ばす。 グイッと引っ張る翔蟲の勢いに乗ると俺は亜種ペッコに片手剣を抜刀して飛びついた。 飛影と言われる翔蟲を使った片手剣の技で亜種ペッコの喉を斬りつけて、落下しながら盾で頭を殴って脳にダメージを与える。

 

ドクガスカエルノの影響で力が緩んでいるのか肉質が少しだけ柔らかい。 そのため切れ味がそこまで良くないカムラノ鉄片刃でも切り込む事ができた。 毒でふらつきながらも暴れだす亜種ペッコだが、マキムシを撒いた時に使った翔蟲が手元に戻ってきたので野生の翔蟲とカムラの里から連れてきた翔蟲を使い、その場でグルグルと回す。

 

鉄蟲糸技と言われる"糸車"と言われる技で敵の攻撃をいなしながらこちらが一方的に攻撃する技。 その過程で片手剣の刃を糸車の中に乗せて連続で斬り刻み…

 

 

「気炎万丈ォォ!!」

 

 

亜種ペッコの演奏が効いてるのか気持ち良いくらいに力が乗る。

 

最後はその脚を斬り払って亜種ペッコを怯ませる。

 

 

だが、これではまだ終わらない。

 

 

翔蟲が元気なうちに亜種ペッコに翔蟲を引っ掛けると俺はその背中に乗って自由を奪う。

 

硬い壁に向けると強引に亜種ペッコを走らせて俺は飛び降りた。 勢いを殺さないその巨大がズシズシと進む。 そして亜種ペッコはものすごい勢いで壁にぶつかり、ふらつきながら最後は地面に倒れた。

 

 

「グェ、グェ…グェ…」

 

 

死んではいないがしばらく立てないだろう。

 

俺は亜種ペッコに近づいて片手剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亜種ペッコは倒せなかった。

 

いや、倒すつもりは無かったし、そもそもこんな武器で倒せるわけがない。

 

原種ならともかく能力が高い亜種を相手にするのは苦しい。

 

もし超が付くほどのベテランハンターならカムラノ鉄片刃でも時間をかければ倒せるだろうがあいにく俺の腕前では無理… てか水没林で3日以上の狩はやりたくない。 こんな湿地帯で身も心もボロボロになる。 そして水没林にいると半年前を思い出す。 大嵐で救助が見込めなかったあの5日間、下位ハンターながらも死に物狂いでナルガクルガの亜種を討伐した経験があるが、あんな長い地獄の時間は二度とごめんだ。 鬼人薬とか秘薬を飲みまくってしばらく中毒になったりと大変だったし。

 

そもそも装備のレベルに見合わないモンスターと戦うなんて命知らずも良いところだ。 モンスターの乱入とか不安故に訪れる被害ならともかく、強いハンターになるなら確実を目指すべきだ。 わざと装備の質を落としてモンスターと命のやり合いを楽しむ狂人もいるがそんな酔狂を抱えているハンターのつもりは俺にない。 だからあの場で亜種ペッコを討とうとは思わなかっただけの話。

 

ならなぜ逃げに徹しなかったのか?

 

 

それは俺が身勝手なバカだから。

 

 

そして、一つだけ、彼女のために考えていたから…

 

 

 

「ケ!? アナタはもしかしてアマグモでありますか!」

 

 

 

エリア1へ差し掛かったところで少しイントネーションが特殊な元気な女の子の声が聞こえる

 

正しくは、とあるウマ娘の声だ。

 

 

 

「あ、確か君は…」

 

「はい! わたくし"エルコンドルパサー"でーす! 空をかけてこの水没林まで駆けに参りました! …っとと、悠長に長話できません! 早く"差し"に向かいまーす! それでは!」

 

 

「ああ、泥濘に気をつけ…いや、その心配無いか」

 

 

「イエス! わたしは砂や泥の上も問題ありません! では!」

 

 

 

エルコンドルパサーは元気よく走り去る。 足場が砂や泥と言ったいつもと違う環境だが、彼女はそんなことを気にせず足場の悪い水没林を抜けていく。

 

そしてハンターよりも少し遅れて向かう彼女は"差し"が得意なウマ娘だから。

 

差し馬とは、逃げや先行と違ってワンテンポ遅れて加勢に向かうウマ娘であり、主に物資補給のためにその脚を使う。 水を差す…って言葉があるがそれはモンスター側からの言葉であり、ハンターからしたら"差し水"だろうか? それで差し水は"増す"の意味だ。 アイテムが尽き始めるハンターのために回復薬や携帯食料や怪力の種などを渡しに向かうのだ。 減ったところに差し水だね。

 

さて、そんな差し水がなんなのか? 単純な話、ハンターはアイテムを無限に持てるわけも無いからだ。 クエスト中にアイテムを持ち込み過ぎても戦闘で邪魔になるため多くは持ち歩けない。 片手剣や双剣のように手軽ならともかく、取り回しが広いハンマーやガンランスはアイテムを持ち運ぶ事が邪魔になり、ガンナーなら弾を持ち込むだけで回復薬アイテムなど邪魔になって持ち込めない事が基本だ。

 

そんな時にリアルタイムで物資補強をしてくれる存在は大きく、水没林のように広い場所で常にモンスターを追わなければならない環境では大変ありがたい限りだ。

 

元々物資補強をするハンターも少なからず存在するが、そのハンターでさえ生き残る必要がある。 故に物資補強は確実ではない。 ミイラ取りがミイラになる様に、途中でモンスターに追われて物資補強どころじゃなくなり、モンスターに討たれてしまう二の舞が度々起きたりと、物資補強は現実的ではなかった。

 

ならばアイルーを使えば良いと言う意見も出るが、アイルーで物資補給をするくらいならオトモとして同行してもらい、野草を集めて回復薬を作るなどをした方が効率的だ。 そもそもアイルーが物資補強と言えるくらいに多く持ち込める訳じゃ無いので気休めも良いところだ。

 

しかし、ウマ娘の身体能力の高さを活かした脚と持久力はモンスターに引けを取らない。 戦闘能力は無くとも走る能力は高く、モンスターに見つかってもその足で追われることはなく、人間と同じ知能を持ち合わせているため常に状況判断を任せる事が可能。 しかもエルコンドルパサーの様に脚をためながらタイミングを測り、隙をついてハンターに物資を補給してくれる"差し"馬はそれに特化している。 これほどの適任はいないだろう。

 

なので見送ったエルコンドルパサーの肩に担がれた荷物には回復薬や携帯食料、そして腰には水没林で回収した環境生物が入っているのが確認できた。 俺とは別のところでモンスターと戦っているハンターへ届けに向かったのだろう。 あとよく見たらフクズクが上に飛んでいる。 エルコンドルパサーはフクズクのサインを受けてからベースキャンプから取り出したのだろう。

 

さてここまで説明したけれど、まぁそれでも物資補給はアイルーで間に合うとか、そもそもそんな役割は必要なのか?とか、意見は出るくらいに地味な役割だけど、もう一つだけ差し馬ならではの有用性の高い運用がある。

 

それは百竜夜行だ。

 

この時の差し馬ってのは本当に輝く。

 

差し馬はプレッシャーに強い。

 

なのでモンスターがうじゃうじゃ集う百竜夜行でもそのメンタルは高く保たれる。

 

そして届ける能力の高さからバリスタの補給が捗るのだ。

 

ハンターの様にモンスターを倒すための重たい武器を持てない民兵にとって、バリスタや大砲のように設置された兵器に対しての依存性が高い。 そもそも攻撃手段がこれしかない。 しかしそれを使うには弾が必要であり、弾は無限ではない。 弾を補給してバリスタなどにリロードする事が必要だ。 そのため武器となる弾を即座に運んで届けてくれるウマ娘は、百竜夜行の様に長時間に渡る戦闘にて大きな生命線となっている。

 

実際にウマ娘も支援に入ってくれた1週間前の百竜夜行では大変助かった。

 

俺も前線で武器を持って戦っていたが、後方支援となるバリスタの攻撃が絶えることなく、バカでかいリオレイアを集中砲火して倒す事ができた。 これも補給線が安定したからだろう。

 

だからこのように人手不足を補ってくれる差し馬…

いや、ウマ娘に頭が上がらない限りだ。

 

 

そんな訳だから…

 

 

 

「今から帰るぞ、セイウンスカイ」

 

 

 

ウマ娘の彼女に日頃の感謝を込めたいと考え、俺はお土産を作って水没林を後にした。

 

 

 

ちなみに回収したのは壊れたライトボウガンと沢山の鬼人薬グレートである。

 

武器ならともかく強化物アイテムは何故かと言うと、これを誤ってモンスターがこれを飲んで生態変化とか起きられると困るからだ。

 

とある地方では獰猛化の原因じゃないかと言われてるくらいだし。 中にモンスターが強走薬グレートを飲んで疲れ知らずで襲ってくる話がある…事を、ユクモ温泉で龍暦院ハンターから聞いたので、可能な限りだこう言った強化アイテムの回収も個人的に頼まれている。 一応ギルドからも"サブクエスト"の形で回収班ターの俺に依頼するのだ。

 

 

それだけのはなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー、ねー、セイウンスカイのトレーナー、聞いてよ」

 

 

「どうした?」

 

 

「セイウンスカイからなんか、こう…ドキドキする事聞かなかった?」

 

 

「どう言う事?」

 

 

「いや、ほら、前にボクが話したよね? 眠っている時に誤って抱きついた話」

 

 

「あー、それか。 たしかにセイウンスカイ聞いたけど、それってテイオーが被害にあった云々の話じゃないのか? それともお詫びにハチミツよこせって話?」

 

 

「違うよー! はちみーは嬉しいけど違う〜! もう、トレーナー、少しは考えてよ。 セイウンスカイが抱きしめたのはボクじゃないんだよ」

 

 

「え? じゃあ、誰…………待て、おれ?」

 

 

「にっしし、そこから先は言わないよ〜? まぁ、なんというかあのセイウンスカイが取り乱すくらいだから、いつもの調子を崩せるかな〜、ってね」

 

 

「いや、意味が分からん。 てか何がしたいんだよ」

 

 

「別に〜? ただ、今日のセイウンスカイ、いつもと元気が無いから、こう…ぎゅっとしてあげたらあの調子も忘れてくれないかなって思ってね……だから、その、セイウンスカイを元気にしてあげるの、トレーナーにしかできないならさ」

 

 

「…」

 

 

「お団子とハチミツを食べる仲として、少なからずボクもセイウンスカイの事を気にしているんだよ? 今日はその時間が無いみたいだから大人しくするけど、明日からはいつも通りなセイウンスカイをボクは求めるよ。 だからトレーナー、お願い…ね?」

 

 

「やれやれ、随分とまどろっこしい事をするなテイオー? でも大丈夫だ。 セイウンスカイは弱く無い。 まだ数ヶ月程度の付き合いだけど俺はセイウンスカイを知ってるつもりだ。 任せてくれ」

 

 

「そっか、ならよろしくね? 今度はマヤノも連れてくるから」

 

 

「マヤノはマヤノのハンターにゾッコンだろ? 着いてこないと思うけどな」

 

 

「あっはは、それはそうかもね。 じゃあボクもそろそろクエストに行くね。 ハチミツを沢山集めないと」

 

 

「クエスト中は打って変わって真面目になるのは知ってるけど、ちゃんと先行しろよ?」

 

 

「もう心配性だな? しっかりハチミツまでアオアシラを先行するよ」

 

 

「一応誘導してる事には変わりないけど、なんかテイオーだと釈然としないなぁ」

 

 

「えー! 酷くなーい? ……ああ! ト、トレーナー! もう遅いよー! はやくー! はやく!」

 

 

 

トウカイテイオーは自分のハンター(トレーナー)を見つけると耳をピーンと立てて尻尾は興奮気味にフリフリとする。 レイア装備で固められているにもかかわらずそれでもスリスリと抱き締めるテイオーはまるで父と娘のようだ。 ただレイア装備のハンターさんも人が見ている中でスリスリし始めるテイオーに困っている。 普通に微笑ましいな。

 

 

さて、俺はいつも通りヨモギちゃんの所に寄ると「待ってたよ!」と元気よく出迎えてくれて、そして既に作ってくれていたのかお団子を受け取った。 横を見ればオグリキャップがお腹を出してお団子を頬張っている。 ヨモギちゃんも餅つきのアイルーも大変だろうに「よーし!じゃんじゃん作るぞ!」「「にゃー!」」と意気込んでいる。 本当に元気な子だな。 彼女が手がけるお団子も食べればそりゃ元気になる訳だ。

 

 

 

「ただいま、セイウンスカイ」

 

 

「あ……お帰り」

 

 

「2日ぶりだが、ちゃんとご飯食べた?」

 

 

「うん。 ありがとう、ちゃん食べて、昼寝も沢山したよ」

 

 

「そりゃ良かった」

 

 

「あ、もうすぐだと思ってお風呂温めていたから、すぐに入れるよ?」

 

 

「ああ、昨日は水没林だったから助かる」

 

 

セイウンスカイが用意してくれたお風呂に入って体を癒す。 湯は一人分の規模だが借りている家なので贅沢は言わない。 お風呂があるだけましだ。 水没林でのクエストを振り返りながら筋肉をほぐしているが、ちょっと腕が痛い。 おやすみベアーのラージャン件でセイウンスカイを助けた時に片腕を無理したのが響いている。筋肉痛の様なものだが、糸車をした時に力みすぎだ。 まぁ亜種ペッコの強化が入って筋力のコントロールを半分ほど捨てた様なものだからな。 肉体的緊張感が抜けてウデが悲鳴をあげている。

 

風呂上がったらしっかりケアしないとな。

 

 

 

 

 

入浴を終えて茶の間に向かうとセイウンスカイが待っていた。

 

 

「体、ほぐしてあげようか?」

 

「本当? じゃあ頼もうかな」

 

「はーい、一名様ご案内。 では寝転がって」

 

 

並べられた座布団に身を任せる。

 

するとセイウンスカイが腰に手を添えてグイッと押し込む。

 

あったかいお風呂で緩んだ筋肉に程よく染み渡る。

 

だんだん眠たくなってきた頃に、セイウンスカイは痛む腕の方に手を伸ばした。

 

すると、施術が止まる。

 

まるで躊躇う様に。

 

 

 

「やはり、まだ立ち直れない…かな」

 

 

「気にしすぎだって」

 

 

 

俺は気にしていないし、振り返ろうとしない。

 

傷跡は覚えても引きずろうとは思っていない。

 

でも彼女の空は晴れず…

 

 

 

「でもまだ曇り空かな…」

 

 

 

困ったようにそう言った。

 

 

だから、俺は水没林で考えていた。

 

 

 

「なら、俺がその空に虹をかけてやりましょう」

 

 

「え?」

 

 

 

俺はセイウンスカイの頭を撫でながらその場から立ち上がると、クエスト中に持ち込んだ道具袋に手を伸ばして、あるものを取り出した。

 

 

それは…

 

 

 

「セイウンスカイにお土産を持ってきた」

 

 

「!! …すごく綺麗だね? ……でも、これは?」

 

 

「クルペッコと言われる亜種の鳥から奪い取ってきた羽根だ。 クルペッコ自体はそうでなくとも原種と違って亜種は強い。 あいにく俺は奴を倒す装備を持ち合わせて無かった。 でも俺は、君を助けた時に痛んだこの腕を持って奴を斬り刻んできた」

 

 

「!」

 

 

「普通の羽根では無く"極彩色の艶羽根"と言われる超高級品の素材だ。 虹の様に色鮮やかな亜種ならではの羽根なんだよね。 それを君に持ってきた」

 

 

「っ、な、なんで?」

 

 

「元気になってほしいから。 この羽根のように君に青雲を齎したかった。 雨雲が引いて虹が掛かったら素敵だな…って、思った。 ……格好つけ過ぎかな?」

 

 

「ッ…そんな事ない……そんな事ないよ。 あ、あはは、そっか。 そうなんだ。 もう、セコイよ、アマグモ。 そんなこと言われたら、曇り空なんかに出来ないじゃないか」

 

 

「なら受け取れ。 君に雨雲は似合わない」

 

 

「……うん、わかった。 わかったよ。 ありがとうアマグモ」

 

 

 

そう言ってほんの少しだけ涙を流すセイウンスカイだけど、虹をかけるには少しの雨水が必要だから、俺はそれで良いと思った。

 

 

 

「ねぇ…少しだけ、良いかな?」

 

 

「?」

 

 

 

そういうとセイウンスカイは寄り添い。

 

そして、こちらを抱きしめてくる。

 

突然な抱擁に少し驚いたが、俺も彼女の頭を撫でる。

 

くすぐったいように彼女の耳がピクンと揺れるが、だんだんと力が抜けてきたのか耳がゆっくりと降り曲がる。

 

 

 

「雨雲は掴めないけど、トレーナーのアマグモはこんなにも優しくて暖かいんだね」

 

 

「…それを言うなら、青雲には何もないと思ったけど、君のセイウンはこんなに彩豊かなんだ。 それはお互い様だろ?」

 

 

「えへへ、そうだね、アマグモ」

 

 

 

 

やっと雨雲は払われて、空は青くなる。

 

彼女の名前に負けないほど青雲に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと、前に眠りこけて抱きついた云々の話したけど、あれってテイオーじゃなくて…」

 

 

 

「へ…?」

 

 

 

「俺だったんだな?」

 

 

 

「ッ〜!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

今の夕陽に負けない日本晴れの様に彼女は赤かった。

 

 

 

 

つづく

 

 




セイウンスカイを書けば実装されると聞いたので頑張ってるけど、本当にいつ実装されるんだろう? もしかして菊花賞に合わせてかな? 秋まで待つのは長いなぁ。 いや、でも菊花賞による特別衣装のセイウンスカイが実装されると考えると、普通のセイウンスカイはそれより早く実装されるんじゃないかな?…って、ワクワクしながら4話書いてました。


あと素直に評価欲しい。
タグ増やしてもっと見てもらえる様にした方が良いのかな?




《差し》

エルコンドルパサーの登場で説明した様にハンターより一歩後ろにつく形で支援するウマ娘のスタイル。 オトモアイルーと被る立ち位置だがウマ娘にしかないやり方でハンターを支える能力。 中には割り込む様に環境生物を使って後方支援…良い意味で水を差してバックアップするウマ娘もいる。 そのかわり知識がそのための必要であるため、難しいスタイルだろう。


ではまた


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5話

セイウンスカイは雲の上にいた。

 

今日はとても幸せなことがあったから。

 

彼から貰った極彩色の羽根の如く、天に登るような気持ちがあったから。

 

そして、その雲の上に誰かいる。

 

 

彼だ。

 

 

青雲と共に流れる雨雲の様なあの人だ。

 

 

感情が膨れ上がる。

 

 

耳が立つ。

 

 

尻尾が落ち着かない。

 

 

鼓動がうるさい。

 

 

青雲が震える。

 

 

 

「あ! あ、アマグ__え?」

 

 

 

誰かがいる。

 

あの人の隣に誰かがいる。

 

 

そして青雲が黒く濁る感覚。

 

 

 

エ?

 

ダレナノ?

 

ダレダ?

 

ナゼトナリニイル?

 

ソコハワタシノダヨ?

 

 

 

 

 

しかし…

 

そこにいたのは見知った顔のウマ娘。

 

その子は…

 

 

 

 

「え? ス、スペシャル…ウィーク?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「なんで? あなたがアマグモの隣にいるの?」

 

 

 

「…」

 

 

 

 

彼女は何も語らない。

 

 

 

それが少しイラッとした。

 

 

 

そのトレーナーはアマグモだ。

 

 

 

セイウンスカイが隣に立つべき人だ。

 

 

 

すると彼女からボソボソと声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

「………ま、せん…」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 あ げ ま せ ん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃーー!!!」

 

 

「ぐはぁっ!? が、がぁぁ…ウマ娘の、足、やべぇ……ぐふっ」

 

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うことがあってだな、茶の間で二度寝中のあいつに近づくことをしばらくやめようか考えている…てか、セイウンスカイがまた曇りそうになっているんだが、あの子の天候荒れすぎでは?」

 

 

「へー、なんか嫌な夢でも見たんですかね? でもアマグモさんの見立てだとスカイさんはいつも通りなんですよね? なら大丈夫ですよ!」

 

 

「随分と軽いなスペシャルウィーク? まぁ、昨日よりは爽快だから大丈夫だろう。 いつまでもクヨクヨしてるような子じゃ無いからそのうち『青い空の様にセイウンスカイだよ〜』ってフワフワしてくれるだろう」

 

 

「はい! ……あ、そろそろ私行かないと! あ、あとさっきからアマグモさんが見てるこのお団子はトレーナーさんのお団子なのであげませんよ?」

 

 

「いや、自分のあるから」

 

 

 

何故か知らないけど一瞬だけヒヤッとしたのは名前にスペシャルって文字が入ってるからか? それならテイオーが帝王なら…いや、まず素行が帝王らしからので、そうでも無いなうん。

 

そんなくだらない事を考えながらヨモギちゃんのお団子を食べているとまもなく約束の時間だ。

 

そろそろ向かうか。

 

 

さて、何が一体約束の時間なのか?

 

それは…

 

 

「ハモンさん、こんにちは」

 

「来たなハンター、時間ぴったりだ」

 

 

カムラの里1番の加工屋であるハモンさん。

 

若い頃はカムラの里のハンターとして活躍し、50年前の百竜夜行を乗り切った強者。 また仕留めるに到らなかったにせよマガイマガドと言われるやばいモンスターと一戦交えては生きて帰ってきたりと様々な武勇伝を持っている。 元々加工屋としての才能もあり、戦線を引いて裏方でハンターを支えているカムラの里のいぶし銀だ。

 

さて、ハンターのオレが加工屋のハモンに話しかけるのはただ一つ。

 

 

「受け取れ"闘士の剣"だ。 ハンターナイフを強化した武器だ。 一人前のハンターが使う事で価値を発揮する。 今のアマグモなら相応しいだろう」

 

 

「ありがとうございます。 あと俺は一人前なんですね」

 

 

「ワシから見たらな。 お主は幾度なく死線を超えた狩人の目をしている。 その右の手のひらの厚さも、本来なら片手剣では無い武器を使ってきたのだろう」

 

 

「!……そんなことまで分かるならハモンさんの目利きは本物ですよ。 ええ、俺が使っていたのは片手剣ではありません。 しかし今は回収班ターとしての役割を果たす故に片手剣が適任だと判断したまでです。 それだけの話ですよ」

 

 

「そうか。 それもまた助かる役割よ。 加工屋として武器は大事にしてもらいたい思いだ。 お主の様なハンターがいるからこそ手に馴染んだ最高な武器が帰ってくる。 里を、頼んだぞ」

 

 

「わかりました」

 

 

そう言ってハモンさんは加工中の武器をジャリジャリと研いで集中し始める。

 

俺は我が家まで歩きながらハンターナイフを超えた闘士の剣を軽く振って確かめる。

 

うん、盾の重量が丁度いい。

 

それに殴りやすいように強固されている。

 

ありがたい。

 

 

「ただいまセイウンスカ……おや?」

 

 

 

セイウンスカイのほかに誰かの靴がある。

 

お客さんだろうか? 茶の間で確認すると…

 

 

「アマグモさん、お邪魔しています」

 

「お邪魔してますわ」

 

 

一人はオトモ広場が好きなウマ娘だ。 その子は…

 

 

 

「グラスワンダーか。 それと…」

 

 

そしてもう一人のウマ娘。 綺麗に手入れされたやや長めの髪に、青色の耳当て。 そして傘鳥アケノシルムの素材を明るい緑色に塗装して作られた装衣で身なりを整えられているその子は…

 

 

「キングヘイローも居るのか。 珍しいな?」

 

 

「この家に来るのは確かにそうですわね」

 

「ふふっ、私たちは少しセイウンスカイさんと話をしたくて来ました」

 

「ええ、最近元気が無いと聞きませて、少しだけ心配になりましたですのよ?」

 

「もう、私はいつも通りだよ〜? この通り、お昼寝を邪魔されて少しだけ不機嫌なセイウンスカイだ〜」

 

「あらあら? アマグモさんが帰ってくるまでソワソワしていらっしゃったのに」

 

「ぅぇ!!?」

 

「セイウンスカイ、あなた案外わかりやすい子ですわね。 これは面白い事を知りましたわ」

 

「ちょちょ! な、何言ってるのかな? ええと…ア、アマグモ! クエストとか無いのかな? 久しぶりに動きたいと言うか…」

 

 

「セイウンスカイから動きたがるとか明日は落雷でも光るのか?」

 

 

「むむむ! それって青雲たる私に対する当て付けかな〜? アマグモ〜?」

 

 

「いてててて、頬を引っ張るな、やめい」

 

 

こちらの頬っぺたを引っ張って抗議するセイウンスカイに俺は抵抗するけどなんか今日はしぶとい。 いつもなら緩い感じなのに、今日は少しお堅い感じだ。 あとほんのりとセイウンスカイの顔が赤いのは気のせいでは無い…?

 

 

「ふふふっ、どうやら元気みたいですね、キングヘイローさん」

 

「そうですわね。 邪魔者は帰りましょうか」

 

 

「なっ…君たち、二人は! もう、帰った帰った。 今は気持ちよくお昼寝できる時間なんだよ。 来るなら別の日にしてよね」

 

 

「ふふふっ、そういたしますわ。 では、アマグモさん、お邪魔しましたわ」

 

「それじゃあねスカイ。 あとセイウンスカイのトレーナーさんもスカイをよろしくお願いしますわ」

 

 

そう言って家を後にした二人。 そんなセイウンスカイはテーブルに顔を乗せると少しプクーと膨れ面なり、二人をいつまでも牽制していた。 うーん、なんか今日はいつものセイウンスカイらしからぬ、そんな感じだ。 今日の二度寝から目覚める時の鳩尾蹴りと言い、どこか少しだけ余裕が無い。 しかしセイウンスカイは3日間程走ってないからエネルギーが溜まっているのだろう。 人間が日光を浴びて免疫つけるように、ウマ娘も走って体の衰えを抑える。 精神的にも肉体的にもケアするならウマ娘は走らないとダメだ。

 

 

それなら…

 

 

 

「セイウンスカイ、今から砂漠に行くぞ」

 

「え? 唐突にどうしたの?」

 

「ちょっと依頼があってな。 お団子屋さんのヨモギちゃんからデルクスの素材を求められているんだ。 お団子の開発に使いたいらしく、数匹ほど狩猟しておきたい。 あと表向き期限外となった武器の紛失依頼も探しに行く」

 

「期限外??」

 

「依頼ってのは公式上だと一定期間設けられるが、優先順位が低い依頼は新規として張り出される他の依頼に枠を譲らないとならないため、表向き抹消されてしまうけれど大雑把な依頼として『サブ・ターゲット』や『フリークエスト』と言う形にスライドされ、その依頼は裏向きとして無期限として続くんだよ」

 

「え、ええと……?」

 

「デザートは別腹」

 

「えー、それだとますますわからないよ」

 

「冗談だよ。 それでな、回収班ターでも『フリークエスト』と言う形でも紛失した武器を探して欲しいって依頼が出るんだよ。 それが残っているかも怪しいけど、見つけれてくれたなら回収して欲しい、そんな片手間の話が出るわけだ」

 

「ふーん。 じゃあ基本的にはヨモギちゃんの依頼なんだね? それで寄り道する感じって事?」

 

「その認識でいいよ。 本当は滅多に受けないけど、俺個人として向かいたいところ……まぁ、本当の寄り道って奴だな。 その俺の寄り道に、フリークエストとして寄り道するぞって話を」

 

「え、ええ? ええ?? ちょ、ちょっと待って、またわかんなくなっちゃたよ〜? 寄り道の寄り道で? ええと…」

 

「あっははは! まぁ、あまり深く考えるな。 セイウンスカイは俺と来て欲しいって事。 それだけのはなし」

 

「!……あ、うん、そうか。 うん、いいよ〜、アマグモについて行くね」

 

「じゃあ準備しよう」

 

 

 

装備を確認して、アイテムも持ち込む。

 

カムラの里から砂漠への移動は半刻程度だろうけど、砂漠についてからは3日程の期間を過ごす可能がある。 うまく音爆弾を引っ掛けれるならデルクスは簡単に狩猟できるし、今はディアブロスも暴れてない時期だ。 ティガレックスにさえ気をつければ今の砂漠はそこそこ安全だろう。

 

 

 

 

 

「ふーん? お、俺と来て欲しい……か。 アマグモが私に、俺と来て欲しいと。 ……え、えへへ。 も、もう…し、仕方ないなぁ。 ならこのセイウンスカイがついて行こうでは無いか〜、ふふ〜ん」

 

 

 

なんか楽しく独り言を呟いてるが今日のセイウンスカイは元気だ。

 

いつも通り、ゆるりとした調子のクエストになりそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルウララ!頑張りまーす!」

 

 

「いや、君はもうカムラの里に帰るんじゃ無いのか?」

 

 

「おお!? そうだった! じゃあじゃあ! カムラの里に頑張って帰りますって事になるんだね! そしたら! 今日のお使いでトレーナーさんが集めた熱帯イチゴを凍らせて! それで頭をキーンとするんだよ! 楽しみだね! むふふ〜、ウララ〜」

 

 

 

なんかもうかなりいろいろやばいくらいにめちゃくちゃすごくすげぇげんきすぎる、って語彙力が溶けたくらいの言葉が似合うほどに入れ違う形でカムラの里に帰る彼女はまだまだパワフルだ。 ハルウララの|トレーナーもその元気に置いていかれてる。

 

ちなみにハルウララは良く砂漠のクエストに向かっては採取をメインで活躍する。 それはには理由がある。 彼女はウマ娘の中で特に脚が遅く、ガルクに追い抜かれてしまうくらいに遅い。 そもそも荒事は向かない性格なのでモンスターとの討伐面で無理強いできない。 不向きがあるのは仕方ないが、でも彼女にしか無い得意がある。 それは砂漠であることが条件だ。

 

彼女の真価値は砂上を駆け抜けるその脚だ。

 

ハルウララはオトモダービーの中ではかなり珍しいタイプであり、砂上や泥濘を得意とするウマ娘。 いや、言い方を変えるから砂の上でも走る速さが変わらないと言った能力だ。 まず砂漠は足がとられて動きづらい。 デルクスやディアブロスなどが潜って砂を掘り返せばさらに動きづらくなる。

 

そのため砂漠は暑いことが大変じゃ無くて、その足場の悪さが難敵である。 あのガルクでさえ砂上を走る訓練をしなければうまく走れない。 しかも条件としてそこそこ重たい装備をつけた上に、ハンターを背に乗せての疾走だ。 それならまだ重たい装備をつけた上で砂漠に足が取られない走り方を心得ているハンターの方がマシでもある。

 

そのため砂漠ってのは馬鹿にならない。

 

だがハルウララはどれだけ荷物を持っても砂漠に足が取られず、変わらない速度で駆け抜けることができる。 走る速さは遅いが、その速さが遅くなることはない。 よくわからない人からしたら、頼もしような、頼もしく無いような、そんか微妙な評価だろう。

 

しかしエリア10やエリア9と言った砂上でなければ収穫できない三つ星サボテンや熱帯イチゴと言ったクエスト中の"精算アイテム"と言われる収穫物はハルウララでなければ安定して納品できない事実がある。

 

しかも砂漠でしか収穫できない精算アイテムのサボテン系に関しては庶民の中で需要が高く、料理や美容に鑑賞など取引として非常に価値が高い。 下手したら飛竜に対して命をかけた1回分の討伐クエストより、精算アイテムを収穫する3回分の納品クエストの方がまだマジかもしれない。

 

植物なら大社跡、昆虫なら水没林、魚貝なら寒冷群島、鉱石なら溶岩洞。

 

 

そしたら砂漠なら……骨塚?

 

 

いや、本当に美味しいのは精算アイテムだろう。

 

 

 

「ハルウララ、君のトレーナーが呼んでるよ」

 

 

「あ! 本当だ! じゃあねアマグモ! またー!!」

 

 

 

 

そしてどのウマ娘よりも得意とし、どのウマ娘もハルウララに勝てないものがもう一つある。

 

それはあの元気の良さだろう。

 

これには勝てる気がしない。

 

 

 

「セイウンスカイ、行こうか」

 

 

「うん、ぼちぼち行こう。 しかしあのハルウララのトレーナーさん、めちゃくちゃ疲れていたよ。 砂漠が過酷なのは知ってるけど、あの子に元気吸われているじゃ無いかって苦笑いしていた」

 

 

「2日間って短く思うけど砂漠では長く感じるから元気ってのはそう保てない筈だ。 けど終始あの元気を継続してるとしたらハルウララの最強の武器は間違いなくそれだよ。 それに関してはどのウマ娘よりも強い」

 

 

「うん、私も本当にそう思うよね〜。 ハルウララのトレーナーさんも『あの元気にはわたしも勝てないわ…』って力なく笑ってた。 あとハルウララのトレーナーさんって女性だったんだね」

 

 

「ああ。 まだ新入りだけど砂漠でのクエストを無事に達成できるなら腕は確かだよ」

 

 

 

さて、ハルウララの話も良いがココは常にナツウララって感じの暑さが引かない土地だ。 しかし夜になると一変した寒さに切り替わる。 そのため体調管理が非常にしんどい場所であり、初めて砂漠に向かうハンターは一日研修を受けてから、向かわないとならないレベルだ。 出てくるモンスターもタフな奴ばかり。

 

実のところ激戦区と言われる火山や溶岩洞よりも砂漠の方が死亡率が高い。

 

主に体調管理が取れずに砂漠のど真ん中で焼け死ぬパターンだ。 普通に迷って死ぬパターン。 または蜃気楼を見て足を踏み外して高いところから落下するハンターや、砂地獄に巻き込まれて四方八方からデルクスに噛みちぎられた酷い死に方もある。 あと水分補給が取れずに干からびたり、特に気性がとてつもなく荒いディアブロスに殺されてしまう新人ハンターが絶えない。 砂漠デビューは新人ハンターからした大きな壁である。 俺も最初は辛かった。 無事に帰って来てからは2週間くらい敬遠したレベルで砂漠は苦手になりそうだった。 砂漠までディアブロス討伐に向かうための脚が重かったのは今でも思い出す。

 

 

 

「アマグモ、あれがデルクスだよね?」

 

 

「そうだ。 あのぴょんぴょんしてる奴がそう」

 

 

「そうなんだ。 わたしもアマグモと砂漠に来るのは3回目だけど、ここまで来たのは初めてだね」

 

 

「そうだな、基本的に荒野の辺りまでしかセイウンスカイとは来て無いな。 まぁそもそもエリア9や10で戦って武器などが紛失したとしても、砂の中に武器が沈んで飲まれたらもうそれは探せるところの話じゃないからな。 だから回収班ターとして砂漠の奥地まで向かうのは無いに等しい」

 

 

「でも今日は回収メインじゃないからここまで来たんだよね?」

 

 

「そう言うこと。 じゃあちゃっちゃデルクスが移動するポイント見極めたら音爆弾投げ込んで、それで新調した闘士の剣で試し切りと行くか」

 

 

「おお〜、頑張ってね」

 

 

「…頑張って? おめぇもがんばんだよ」

 

 

「冗談だよ〜、もう、砂漠の熱だけにカリカリしない」

 

 

「ははは、骨塚だけにカラカラ笑ってやるよ」

 

 

「なんだと〜?」

 

 

 

やっぱりセイウンスカイはこうで無いとならない。

 

それが嬉しいから砂上での移動も軽く感じる。

 

ちなみにウマ娘にも得意と不得意は存在する。 ハルウララが砂上での走り方を得意とする話をしたが、それはエルコンドルパサーも似たようなものであり、彼女も足場の悪いところでの走りが得意…いや"強い"って表現が正しいか? もちろんセイウンスカイも砂上だろうがウマ娘としての脚で駆け抜ける。

 

しかし彼女が持ち合わせるトップスピードにまでその足は至らない。 足は速いのにいつもの力が発揮されない。 どうも不安になる話だ。 かと言って走る脚が遅いわけでは無い。 だがいつものポテンシャルを発揮しようと己を無理をするならば確実に大怪我を負ってしまう。 慣れないことをして怪我するのは人間も同じ。

 

なので自然とリミッターをかけて怪我しない程度に速さを抑えているわけだ。 そこら辺は人間としての理性のコントロールと、馬としての野生の本能がそうさせている。

 

一応「全力で走れ!」とオーダーを出せばトレーナーに応えようとウマ娘は喜んでリミッターを外して駆けようとする。 もちろんそんな事はしてならないが、彼女達は人間を助けるために現れた。 例え、過酷なオーダーの中でそれに対する"適性"が無かろうともウマ娘は応えるために走る。 だからトレーナーと慕って随従するウマ娘をこちらも理解して彼女達を頼り、そして頼らせさせないとならない。

 

 

 

「セイウンスカイ!」

 

 

「あいよ〜!」

 

 

 

セイウンスカイはデルクスへ先回りして音爆弾を投げる。 音の衝撃に驚いたデルクスは砂上から飛び上がり、ピチピチと暴れている。 俺は片手剣を構えてデルクスに振り下ろし、流れるように次のデルクスを斬りつける。 うん、カムラノ鉄片刃とは違ってなかなかに使いやすい。 そもそもハンターナイフが原点だから当たり前か。 実際のところ闘士の剣とは言っても形はハンターナイフで、少しだけ重量を弄っただけのオーダーメイドだ。 使いやすさは抜群である。

 

 

「あ、デルクスが何匹か逃げたよ」

 

「2匹倒したし充分だ。 安全なところまで引っ張って解体する」

 

「ところでヨモギちゃんはこれをお団子に混ぜるの?」

 

「らしいぞ。 まぁデルクスは乾きやすいからな。 お団子の余分な水気をとって少し何かするんじゃ無いのか? 例えば表面はカリッと、中はもっちりとか」

 

「おお〜、ぜひ食べたいね〜」

 

 

 

デルクスの解体を終えて持ち運べる形にする。 それを近くのサブキャンプに持っていき、フクズクを飛ばしてサインを出す。

 

さて…

 

 

 

「ごはんを釣り上げるぞ」

 

「おお! 釣りなら任せて〜」

 

「君寝ちゃうからダメ」

 

「え〜」

 

「冗談だ。 サシミウオ釣って欲しい」

 

「わかった〜、スカイちゃんサシミウオをテイクオフしちゃうね〜」

 

「マヤノ補正掛かってるし中途半端に期待できそう」

 

「なんかそれバカにされてる?」

 

「そんな事は(ぎょ)ざいません」

 

(うお)っと、これは寒い寒い…」

 

「さーて、何から調理しようかな」

 

「おいこら〜、逃げんな〜、アマグモ〜!」

 

 

そんな感じにセイウンスカイが近くの池で釣り糸を垂らしてサシミウオを釣り上げた。 味が美味しい上に失った塩分を補給してくれる素晴らしい魚である。 その間に俺は持ってきた干し肉の携帯食料をトウモロコシの油で炒めてこんがり焼きながら、途中採取した三つ星サボテンをスライスする。 セイウンスカイが釣り上げたサシミウオを〆るとそれを薄く解体した。 そして焼いた携帯食料と、スライスした三つ星サボテン、サシミウオの三つを挟んで……それを食べる。

 

 

パクッ

 

 

 

「「うおぉぉぉ!! うまいッッ!!」」

 

 

 

やばい、なにこれ、最高すぎる。

 

 

 

「美味そうニャ」

 

 

 

食べたいると傍から声がする。

 

声の方向に顔を向けると…

 

 

 

「んん? ……おお!? お前ニャン三郎じゃないか!? 久しぶりだな!!」

 

 

「ご無沙汰しているにゃ、アマグモ」

 

 

 

樽を転がして現れたのは運び屋のアイルー。

 

ユクモ村で代表する運び屋の"ニャン次郎"ってユクモの三度笠が似合うアイルーがいるが、その次男であるニャン三郎ってアイルーもいる。 兄弟に憧れて運び屋に職をつけているのだ。 そして当然ながらニャン三郎はユクモ村出身のアイルーである。

 

いやー、久しぶりだな。

 

 

 

「あ、食べていく? 美味いぞ」

 

 

「あやかってもいいかニャ?」

 

 

「いいぞ。 あ、セイウンスカイ、このアイルーはニャン三郎って名前で砂漠の運搬を担当している。 オフ中は温泉で良く話していた」

 

「そうなんだ〜。 わたしは青い空のようにセイウンスカイだよ〜」

 

 

「よろしくニャ」

 

 

ニャン三郎を交えて3人でお昼ごはん。

 

あまり長居できないがそれでも軽く話が弾む。

 

そんな会話の中で…

 

 

「そういや聞いてニャ! あのノッポなウマ娘、火山の落石を利用してティガレックスを倒したらしいにゃ!」

 

 

 

ノッポなウマ娘?

 

たしか…

 

 

「ええと、もしかしくなくとも…あのウマ娘か?」

 

 

「うにゃ。 話ではなニャ……第13惑星から受信した大砲モロコシがハリケンアッパーの秘術を暴くとハチミツ星人の副隊長を忍耐の種と特産キノコの関節を使って頭皮にぶちまけると次に斜め45°からドロップキックを冷却中のガンランスにぶち当ててウマ娘の左足の謎を改名したらユクモ温泉で茹でたゆで卵を人質に取りながらジャギィに俺の名を言ってみろと脅迫したあとピッケルを持ってルドロスの調教をブナハブラ先輩とケルビ二等兵に任せてから生肉にラインハルトくんと名付けてそれをマックイーンに任せると畑で収穫した長ネギに聖剣ドンパッチソードと名付けで火山に殴り込みに向かってからラングラトラとワンコそばロッククライムゲームを右手縛りで楽しんだのちに落石でティガレックスを倒したらしい」

 

 

「待て、待て、おい待て、意味が分からん」

 

「うん、わたしもなにがなんだかね〜」

 

 

 

なにが起きてるかわからないし、脚色を加えるにしろどうしてその発想に至るのかわからないが、真面目に考えるだけ無駄なことを悟る。

 

それを代弁するようにニャン三郎がため息をつく。

 

 

 

「まぁ、仕方ないにゃ…」

 

 

 

 

 

そう、仕方ないのだ。

 

 

だって…

 

 

 

 

 

 

「「「ゴルシだし」」」

 

 

 

 

 

 

お腹も、意見も、満たされたお昼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、ストップだ。 エリア6にボルボロスいるじゃねーか。 うーん、どうしようかな…」

 

 

「でもあのボルボロスから得体素材があるんだよね?」

 

 

「正しくは"落とし物"と言う方が正しいかな? だから落とし物として砂漠のどこかにあったらラッキーだなの感覚でここら辺を徘徊する個人的な理由だったが、まさか本人様ご登場だとは少し予定外だ。 でも、そうだな、一度かちあうか」

 

 

「え、珍しく戦うんだ!?」

 

 

「必要とあらば俺は武器を持って戦うよ。 だから、セイウンスカイは巻き込まれないように見てて」

 

 

俺は翔蟲を確認して、さらに野生の翔蟲が飛んでそうなポイントも再確認する。

 

すると袖をチョンとつまんで引っ張れたような…

 

いや、セイウンスカイが摘んでいた。

 

 

 

「ぁ……ッ、その! アマグモ!」

 

「?」

 

「わ、わたしに出来ることは無い……かな?」

 

 

 

セイウンスカイの耳が少しだけ垂れ落ちる。 恐らくこの言葉を言うのに勇気と恐怖を持ったのだろう。 そして彼女は"逃げ"のウマ娘であり、戦闘に向いたウマ娘では無い。 "差し"とは違って加入するスタイルは向かないのだ。 一応"先行"も出来るがそれでもその脚を使ってモンスターを引きつけたり誘導するに特化した能力のみ。

 

そんな彼女が戦闘に関わる事はできない。

 

けど…

 

 

「じゃあさ…エンエンクを使ってエリア5までボルボロスを引き連れてくれないか?」

 

 

「!」

 

 

「そこで泥遊びをさせてから、ボルボロスと戦い、わざと怒らせて活性化させて、欲しい素材をいただく。 このプランで行こう」

 

 

「じゃ、じゃあ!」

 

 

「頼んだよウマ娘」

 

 

「ッ〜! う、うん! もちろんだよ〜、任された〜! このセイウンスカイがしっかり雨雲の中に巻き込むから!」

 

 

「ああ、嵐の前の静けさの青雲に心躍るよ」

 

 

 

俺は怪力の種を齧りながらエリア5に移動して、セイウンスカイはエリア6に駆ける。

 

さっそく作戦は開始された。

 

 

 

「モンスター! こっちだよ〜!」

 

 

「グォォォオオオ!!」

 

 

 

セイウンスカイはエンエンクを使って自分の体に振りまき、さらにエンエンクのフェロモンを塗りつけた投げナイフをボルボロスに投げると、ボルボロスはセイウンスカイを発覚して大声をあげる。 セイウンスカイはよく聞こえる耳を伏せながらしっかり足を走らせる。

 

ボルボロスもセイウンスカイを追いかけて、追いかけられるセイウンスカイは逃げに徹する。

 

逃げのウマ娘としての能力いま発揮される。

 

あまり本気で走ればボルボロスは見失ってしまうだろう。

 

だがここは砂漠でやや走るには慣れない荒地だ。

 

しかし駆ける脚が軽く、胸の奥は高調する。

 

それはセイウンスカイがトレーナーのオーダーに応える気持ちが強いからこそだった。

 

 

 

でも俺は知らない。

 

セイウンスカイはアマグモだからその力が満遍なく発揮されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしはセイウンスカイ。

 

彼の『オトモダービー』として随従する。

 

彼は…

 

いや、トレーナー(ハンター)であるアマグモはとても良い人で、わたしの自由とこの陽気さを受け止めてくれる。

 

最初は百竜夜行を乗り越える同じ目的の上で、それでウマ娘として人間を助ける、その程度だった。

 

でも彼と時間をかけて共に居るうちにそれ以上の物で満たされる。

 

助ける関係と、助けられる関係。

 

これだけを認知していれば充分。

 

もちろん仲良くして、それで苦楽に生きるのも良い事だ。

 

 

でも最近は…

 

アマグモがとても……良いと思って。

 

 

うぅ〜、言葉にすると面映いなぁ〜

 

 

ふふふ、なんだからしくないね。

 

 

でも、彼に応えたいが強くなってるから、この脚でどれだけをアマグモに捧げれるのか、自分でも不思議なくらいに気持ちが大きい。

 

 

だから、その時に限ってわたしはおやすみベアーを握りしめたラージャンのアクシデントに身を震わせて、それでアマグモに悲しい思いをさせそうに…いや、させてしまった。

 

本当はあのモンスターが怖くて、それで脚が言う事を効くのか心配した。

 

でもウマ娘は『応える』が存在意義だ。

 

だからアマグモに応えようとして、空回った。

 

さらにわたしは崖から落ち、そしてアマグモはわたしを助け、腕に引きちぎれるような痛みを走らせた。 アマグモはわたしを命懸けで助けてくれた。 けど痛みにガタガタと震わせる腕は本当に痛そうで、でもわたしを絶対に落とすまいと彼は堪えて、そして二人は助かった。

 

そのあと青雲らしからぬ大雨が眼から溢れて、またそこでアマグモに慰められて、自分が恥ずかしくて、情けなくて、どうしようもなかった。 無理させまいと彼はわたしを家に置いて、一人でクエストに向かい、なんとか気持ちを取り戻そうとお留守番をしていた二日間を頑張った。

 

そして彼が帰ってくる気がしたからお風呂を温めたから本当に帰ってきて、少しでも報いたいから気持ちを取り戻したフリをして、それで体をほぐしてあげようと頑張った。 でも腕を見て震えがまた出てしまう。 ウマ娘は怪我に敏感だから、アマグモの腕を見て泣きそうになった。

 

彼は困ったようにする。

 

わたしは青雲なのに曇らせてばかりだ。

 

でも彼はたまに雨が降らないとならないと言う。

 

 

でも元気つけるためにアマグモは証明した。

 

 

極彩色の艶羽根 と言われる超が付くほどの高級品素材で、それでわざわざわたしのために持ってきてくれた。

 

引きちぎれそうになったこの腕が、脆くて仕方ない人間の腕だけど、それでも自分よりも大きくて強い亜種のモンスターを覆して、しかもその理由がわたしを元気つけるためにだ…

 

 

 

アマグモ…

 

アマグモ……ッッ!

 

 

 

わたしは、あなたの青雲でいたい!

 

 

そしてあなたの雨雲に潤わされたい!!

 

 

だから!

 

 

あなたのために応える!

 

証明してソレを応えてくれたあなたに!

 

 

わたしは…!!

 

わたしの出来るこの脚で雨雲の上を駆けたい!!

 

 

 

「アマグモー!!」

 

 

 

 

この砂漠に広がる青雲に、青雲の声を広げる、

 

 

 

 

 

「よくやった、セイウンスカイ」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

彼はボルボロスの通る場所に飛び降りた。

 

 

そして、その盾を強く握ると……狩人の眼が開く。

 

 

 

「!?」

 

 

 

モンスターをハンターするためだけに実行するようなその眼。

 

潜めていただろう威圧感。

 

いつもとは見たことない姿にわたしは走る足を止めてしまいそうになる。

 

 

 

 

 

__雨雲が荒れている。

 

 

 

 

 

 

そう思わせるような一撃を振り下ろした。

 

 

 

 

「グォォォオオオァァァ!!!??」

 

 

 

あの巨体を持ってボルボロスにものすごい大音を響かせて殴り倒したアマグモの姿。

 

あまりにも強力な裏拳から放たれる盾の打撃にボルボロスは自分よりも小さな人間に対してのけぞった。

 

 

 

「さぁ、一狩り行こうぜ…」

 

 

「グォォオ…! グォォォオオオ!!!」

 

 

 

わたしは安全な場所に退避する。

 

そしてアマグモとボルボロスは戦う。

 

ボルボロスは思ったよりも動きが早い。

 

しかしアマグモは難なく攻撃を捌く。

 

盾だけではなく片手剣でも受け流す。

 

 

 

「すごい…」

 

 

 

わたしは、ウマ娘は武器が使えない。

 

でもなんとなく凄いことがわかる。

 

アマグモは少し違うんだ。

 

片手剣の戦いじゃない。 まるで…

 

 

 

「お侍さんみたい…」

 

 

 

大きく踏み込みながら放たれる回転の一撃。

 

片手剣になにかエネルギーが備わっている?

 

いや、なんとなくそう見えるだけ…

 

薬やアイテムを使った様子はない。

 

ただ肉を食らい付いた"鬼"が備わったような…

 

広い範囲を一瞬で裂いてしまう大回転斬り。

 

 

 

「あ…」

 

 

 

ボルボロスは突進を回避されて泥水のところまで転げる。

 

しかし突進はフェイクでそのまま泥遊びを始めた。

 

なかなかに賢いことをしている。

 

しかしアマグモは「やっとか」と言って砥石で片手剣を研いでボルボロスを待つ。

 

そしてボルボロスは興奮気味になり、泥の色が少しだけ濃くなった。

 

アマグモはチャンスとばかりに詰め寄り、ボルボロスは尻尾を薙ぎ払って迎撃するが、目の前には閃光玉が弾ける。

 

急な光にボルボロス目が眩んで怯むと、アマグモをなにかを投げた。

 

あれは環境生物のイチモクラブだ。

 

それをボルボロスの顎下から風が噴射する。

 

そして…

 

 

 

「気炎万丈!!」

 

 

 

盾を構えながらイチモクラブが吹き出す部分まで滑り込み、ボルボロスの顎下を強烈にかちあげた。

 

 

 

「ガァ…!!? …ァ……ァグ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

 

 

青雲に向けられて放たれるアマグモの一撃。

 

ボルボロスはめまいを起こしながら…

 

その巨大を地面に倒した。

 

 

 

 

 

 

つづく




スペちゃんの「あげません!」が凄い中毒になっている。
ヨヨヨ〜(涙)


若干セイウンスカイの口調安定しないけど
青雲じゃない雨雲な、シットリスカイも良くない?良くなくない?

あとアマグモくんなろう系の主人公ムーブしてる。
大丈夫? 無意識にハーレムしてしまわない?
セイウンスカイは大丈夫?? なんか曇ってきたよ?




あとゴルシはゴルシなので、なにも考えるな。
いいね?


ではまた


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6話

あ"あ"あ"あ"あ"あ!!?
切れ味(評価バー)のゲージが赤になってる!?
と、研がないと!!(ハンターの鏡)

いや、研いだら下がるのですがそれは…(鈍器スキル)

あ、筆記者として普通に嬉しい事ですよ!
無茶なコラボだと思われて敬遠されがちですけど…
でも少しずつ評価されて嬉しい…嬉しい…

もっと切れ味を良くしたり悪くしたりしろ(匠スキル)


ではどうぞ


砂漠でのクエストと個人的な私事を終了してカムラの里に帰ってきた。 ヨモギちゃんにデルクスの素材を渡すと喜ばれてお団子をご馳走になった。 デルクスの素材を使ったお団子に関してはまた試作品を味見させてくれるようなのでその時を楽しみにする。

 

さて、カムラの里に戻って来てから俺はボルボロスの戦利品を広げて早速作業に取り掛かろうと考えた。

 

 

「早速なんだ?」

 

 

「ああ、乾かないうちにな。 しかしなかなかに骨が折れる」

 

 

「あんなアッパーカットをしたら本当に折れそうだけどね〜? でもなんでボルボロスを狙ったの? 武器は新調して、装備も動きやすさを重視して軽装備なんでしょう? ……もしかしてコレクション?」

 

 

「ボルボロスでコレクションとかなかなかに個性的だけど、セイウンスカイにプレゼントした極彩色の艶羽根だけだよそんな事するのは。 それで俺がやりたいことはこれを使った"畑弄り"だ」

 

 

実は家に小さな畑がある。

 

横に3メートル程度の規模だが結構気に入っている。

 

まだセイウンスカイと出会う前、当時は借りたこの家も住まうには不自由しなかったがお庭が殺風景で雑草で荒れていた。 それでユクモ広場で収穫したり物資を調達してた頃を思い出したので畑を耕して作り上げた。 マカライト鉱石を使った鉄平石などで足場を作ったりとアレンジしながら自前の蜂箱も作ったりお庭は雑草で荒れていた頃よりも賑やか。

 

しかしメインは畑である。

 

 

 

「怒りで活性化したボルボロスに付着しているこれは"肥沃なドロ"と言うものだ。 一見ただの泥に見えるし、そこら辺にある泥遊びで体にコーティングしただけの何ともないモノだと思うだろ? だけど怒りで活性化したボルボロスの皮膚から湧き出す蒸気熱は特別な効果があってだな、泥の質を格段に高めるんだ。 それをこの畑に混ぜて使っている」

 

 

「へ〜」

 

 

「ユクモ村にあるユクモ広場でも同じことをしている。 そこから収穫できる野菜はうまいぞ? 特に"ニンジン"のような根菜類は本当に美味い」

 

 

「!?!?」

 

 

相変わらずテーブルに顔をちょこんと乗せてとろけているセイウンスカイだがニンジンと聞いて耳がピーーン!と伸びる。 やはりウマ娘だけあってニンジンに眼がないのだろう。 しかも説明の限りだと美味しい野菜が収穫できるのだからセイウンスカイも落ち着きがなかった。 尻尾が興奮気味にブンブンしてる。 わかりやすい。

 

 

「あと成長も早くなるからニンジンに関しては待たずともすぐに食べれるだろう。 そのかわり腐りも早まるから収穫したら直ぐに食べないとな」

 

 

「にゃっはは〜! それはもう任せてよ〜!」

 

 

 

クエスト後で疲れているだろうにでもご機嫌になるセイウンスカイに俺も笑みをこぼす。

 

しばらくこのままのんびりしよう。

 

そう思っていたら…

 

 

 

ガラガラ!!

 

「ニンジンと!」

「聞きまして!」

「このテイオー様がやって来たぞー!」

 

 

 

「ふぁ!?」

 

「うあああ!? び、び、びっくりしたー!?」

 

 

 

突然の訪問者。

 

招いた記憶はないが……

 

ああ、そう言うこと。

 

 

まずニンジンの単語に飛び出して来たスペシャルウィークと、恐らく勝手に家に上げたのだろうトウカイテイオーと、さらに双子姉妹のヒノエさんまで何故かやってきた。 純粋な腹ペコのウマ娘とクソガキムーブのウマ娘二人はともかく受付嬢のお前はマジでなにやってんの?

 

 

「うふふ、美味しい話があると聞きまして」

 

「まだ未来形だけどな?」

 

 

 

「ねー、ねー、スペちゃんスペちゃん、セイウンスカイがアマグモのニンジン独り占めにしようとしてるらしいよ? 僕たち友達なのにね」

 

「独り占めなんて…させません!!

 

「ちょっと落ち着いて!? あとそれなんか怖いから!」

 

 

 

「あのヒノエさん。 テイオーが勝手に上げたにしろ、流石に不法侵入は不味いですよ? いや、もしかして他の家にもそんなことしてません? てか…してますよね? うん、そういやこの人してたわ。 前にサイレンススズカのハンターも不法侵入してくる双子の奇行に驚いてたし」

 

「カムラの里は皆が家族。 家の扉にしきりはありませんわ」

 

「クエストの案内をするあんたが乱入クエストしてどうすんだよ。 まるでイビルジョーじゃないか…てか、ある意味イビルジョーだったわ胃袋的な意味で」

 

「あら、それならウケツケ(受付)ジョーになりますわね」

 

「もうやだこの人! アイボー(妹のミノト)! この乱入クエどうにかしてくれよー!」

 

 

 

 

畑を弄る前にヒノエに弄り弄られるとか、これも百竜夜行が原因だから環境不安定になって乱入されやすく……って、んな訳あるか。

 

 

純粋にまずテイオーが悪い……いや、待て。

 

そもそもヒノエさん達が不法侵入をするからテイオーがこの悪事を覚えたのでは?

 

 

 

あり得て頭が痛くなってきた。

 

 

 

「それはそうと大事な要件を忘れるところでしたわ」

 

 

「はい?」

 

 

 

すると真面目な雰囲気になる。

 

彼女は元々かなりの腕前を持ち、弓使いとしてならすぐに上位のハンターになることも可能と言われている。 だからそれ相応の空気を持っており、ハンターとしてのスイッチが入れば雰囲気がガラリと変わる。 穏やかそうな顔だが狩人の眼が、カムラの里で受付嬢として役割を果たす佇まいが、今そこに現れている。

 

 

 

「まもなく百竜夜行が始まります…」

 

 

「「「!」」」

 

 

 

セイウンスカイに詰め寄るトウカイテイオーとスペシャルウィークもその言葉に緊張感が走る。

 

百竜夜行……これがあるからカムラの里は平和へと落ち着かない。

 

忌々しくも悲しくて恐ろしい言葉。

 

 

 

だが…

 

 

 

「いや、忘れちゃいかん内容だろそれ…」

 

 

「うふふ、最近またお団子が美味しくて、一緒に消化してしまったのかしら?」

 

 

「消化するのはハンター側だろ、クエスト的な意味で」

 

 

「あら」

 

 

 

 

最近この人が良くわからん…

 

 

しかし、また始まるのか百竜夜行…

 

なら、ボルボロスに続いて次のプランを考えよう。

 

 

そうなると少しだけ急ぐ必要があるな。

 

だからまたこの武器を振おう。

 

 

新たに来る、百竜夜行に備えるために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと不法侵入の罰でトウカイテイオーとスペシャルウィークのあたまグリグリして反省させて尻尾がシュン…と、垂れ落ちたが、育ったニンジンはおすそ分けすると言って元気になり二人は帰って行った。

 

 

ちなみにヒノエさんも嬉しそうに帰った。

 

いや、あなたには言ってないんですが…

 

ああもう、この人こそ胃袋の百竜夜行だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜は暗くて見え辛い。

 

しかし水が流れているエリアは場所が大きく開けている場合が多く、お月様がご機嫌だと案外明るい。

 

流れる水が反射してハンターの視界を助けてくれるから。

 

そんな大社跡のエリア6もお月様が出ていれば夜でも明るく動きやすい。

 

 

あとユクモ村から近い渓谷を思い出す。

 

彼処はどこでも満月が綺麗に見える場所だ。

 

月に向かって遠吠えするジンオウガはなかなか絵になる。

 

 

 

「アマグモ、いたよ」

 

「ああ、予想通りだな」

 

 

だからこそ水を頼りにして月明かりの下に集まる夜行性ではないモンスターは自然とそこに足を運ぶ。

 

なので夜の世界でモンスターを探すなら水を頼りにするとある一定のモンスターと出会いやすいことがよくわかる。

 

 

 

「綺麗なモンスターだね」

 

 

「ああ。 でも騙されるなよ? その見た目はすごく優雅で花びらのような鰭を生やした美しい容姿に妖艶を秘めたモンスターだけど、実はオスなんだよね」

 

 

「え"…」

 

 

「そもそも縄張りを広げるため表に出てくる泡狐竜のほとんどオスと言われている。 だからアイツもオスだろう」

 

 

「そうなんだ…」

 

 

「性別は関係なく性格は比較的温厚だ。 ただし怒ると怖い。 まぁそこら辺は優しい人が怒ると怖いのはモンスターも同じらしく、毛の色と共に怒りに染まった"タマミツネ"はそりゃかなり危険だ。 あのジンオウガに引けを取らないモンスターだったりと、ベテランハンターでも油断できない」

 

 

「にゃはは、なるほど。 それでアマグモはあのタマミツネに用があるんだね? 討伐でもするの…?」

 

 

「いや、ボルボロスと同じようにとある素材だけをいただきたい。 できれば余分に貰いたいな」

 

 

「でも、どうやって? また真正面から立ち向かうの?」

 

 

「いや、寝込みを襲う」

 

 

「あ、野郎を襲うのか…」

 

 

「やめろ、いま発言間違えて後悔してんだ」

 

 

 

俺はこっそりタマミツネの近くまで移動する。

 

タマミツネは大社跡エリア6でグッスリ眠っている。

 

しかしタマミツネは警戒心が強くて耳も良い。 なのであまり近づきすぎると目を覚ましてしまうだろう。

 

だからそのためとある環境生物を探して連れてきた。

 

それは…

 

 

「ネムリガスカエルだ」

 

「カエル系だね。 でもなんか大人しいね」

 

「カエルは基本的に大人しい。 しかし大型モンスターに対しは過激に反応する。 その時にやっとガスを吐いて抵抗してくれるんだよね。 あとは尻でも叩いて危機を知らせればガスを噴射する」

 

「なるほどね〜、それをタマミツネのところに置いて更に眠り深く落とすと…」

 

「そうだ。 ちなみにセイウンスカイも寝たいならタマミツネのところで眠っても良いぞ」

 

「にゃはは〜、たしかにあのタマミツネの戸愚呂(とぐろ)の中にすっぽり収まって眠ると気持ちよさそうだね。 まぁ、でも、うん…出来るなら…ぁ、アマグモと…なんて…」

 

「そんじゃセイウンスカイは周りを警戒してて。 俺は野郎を襲ってくる」

 

「ふぇ? あ、あ、うん。 にぁはは、その開き直りに感心するよ……バカ

 

 

 

俺はタマミツネに近づいてネムリガスカエルを取り出す。 するとタマミツネの存在に気づいたネムリガスカエルは一気に睡眠ガスを噴射した。 タマミツネは起きる様子もなく更に眠りの奥へと誘われたのか力が抜けて倒れた。 眠りながらの警戒状態が解けたんだろう。

 

そして役目を終えたネムリガスカエルは水の中に飛び込んで水に流れてゆき、そのままセイウンスカイの足元を通り過ぎていった。 俺はネムリガスカエルを見送ると空瓶を取り出してタマミツネの毛並みに手を突っ込む。 少しワサワサと擦ったのちに空瓶が少しだけ重くなる。 それを取り出すと空瓶に滑液で満たされていた。 ほんの少しだけ喩すれば瞬く間に泡塗れだ。 へー、こりゃすごい。

 

そしてもう何本かタマミツネの体に空瓶を突っ込んで液体を摂取する。 瓶が満タンになると取り出し、消散剤を染み込ませた布で採取した瓶の泡を拭い取ってからポーチに閉まうと、また新しい空瓶を取り出したタマミツネの体の中に手を突っ込んで採取する。 それをしばらく繰り返す。

 

そんな俺のことをセイウンスカイは不思議なものを見るように見ていた。 うん、やってることは地味であまり想像つかないだろう。 でも素材を得るためにモンスターを倒すだけが全てじゃない。

 

ボルボロスの時もそうだが俺は奴を討伐してない。

 

イチモクラブを利用したアッパーカットでボルボロスをスタンさせて地面に伏させると、ナイフで泥ををかき集めてそれを皮袋に詰め込んだ。 そして、俺はボルボロスを討つことなくその場からおさらばした。 もちろんボルボロスを倒すには充分な装備で、セイウンスカイも共にいたのだからそれは可能だった。 でもそうしなかったのはそうしなくても素材が手に入るからだ。 だから討伐は考えなかった。 そのため今こうしてタマミツネを討たなくても素材が手に入る方法で……野郎の寝込みを襲っている。

 

うん、最後のは文にすると悲しいな。

 

 

 

「よし帰るぞ、明日が楽しみだ」

 

 

「終わった? じゃあ、のんびり帰ろう」

 

 

「えー、俺はさっさと帰って寝たい」

 

 

「えー? わたしは正直お昼寝して眠たく無いからな〜」

 

 

「俺の意見ない感じか?」

 

 

「にゃはは〜、冗談だよ。 ただね、ゆっくり歩きたいなって思って。 ココは危険な場所だけど最近はアマグモと自然の中であまり歩いてなかったからさ」

 

 

「!…そうだな。 まぁ元々俺たちは駆け足でクエストを果たす回収班ターだからそんな時間もあまり無い気がするけど、でも最近はクエスト中にセイウンスカイとゆとり持って話す時間は設けなかったな。 実際に前日の砂漠でボルボロスとかち合う前にサシミウオと三ツ星サボテンの料理を作ってさ、君とゆっくりご飯を食べるなんて久しぶりだった。 途中ニャン三郎がゴルシの話持ち込んで来たけど、でも我が家にいる時を除いてセイウンスカイと共にする時間は久しぶりだった」

 

 

「うん、そうだね。 とても楽しかったよ砂漠。 ウララちゃん程じゃないかもしれないけど、わたしはアマグモの事をよく知れて…その…」

 

 

「?」

 

 

「嬉しかったよ」

 

 

「!」

 

 

 

月明かりの下で、彼女は笑う。

 

流れる川を煌びやかに反射した光が彼女を作り上げる。

 

普段は青雲のようにふわふわした彼女だけど、この時間に微笑みながら、川へ足をつけてちゃぷちゃぷと遊ばせる。

 

青雲のように透き通る(まなこ)は優しさと幸せに染まっていて、それは見ていて惹かれるようで、今だけ不思議と纏う微々たる蠱惑と澄んだ香りが、頬と肌を撫でるから密かに心臓を騒がせてしまう。

 

静かなる時間も、弾ませる時間も、いつだって気まぐれな花を咲かせる今日の彼女は、月が特別扱いするように唯一、夜闇の中で幻想のように彩られていてるから……

 

 

 

 

 

 

__すごく綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

「へ……?」

 

 

「え…? どうした?」

 

 

「え? えぇ、と? あ、うん? い、いや、な…何でも無い…け……ど、あ、アマグモこそ、どうしたの?」

 

 

「…? いや、別に? 今日はよく会話が弾んで元気だなって思って。 あ、いや、そうして欲しかったから安心したのもあるけど。 なんというか、とりあえず良かったよ」

 

 

「あ〜、あはは…うん、心配かけたね。 でも大丈夫だよ。 アマグモが証明してくれたから。 わたしはそれを持ってきてくれたアマグモに恥じないウマ娘であることを約束しないと、君に選ばれた意味が無いからね」

 

 

「そんなに気を負うな。 共にやれる範囲を頑張って、その時にできる事に全力ならば、それ以上は求めない。 俺はセイウンスカイにそこまでを望んでいる」

 

 

「にゃはは、それはありがたいね。 はっきりとしたメリハリはウマ娘にとって最高のターフだから。 うん、大丈夫、アマグモなら大丈夫だよ」

 

 

 

もうセイウンスカイは心配無い。

 

だから明日からも回収班ターとして彼女と共にやれることを全うする。

 

天気やそれぞれの雲は変わり動いても、この変わりない日常とハンターライフに俺は心地よさを感じている。

 

 

だから許される限り…

 

セイウンスカイと駆けて行こう。

 

 

「それじゃ、朝日が登る前に帰るぞ。 明日も頑張らないと」

 

「おおう〜、了解だよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、アマグモ。

 

まったくもう、本当に君ってのは…

 

あまり困らせないでほしいな〜

 

あのね、アマグモは知ってるよね?

 

わたしはウマ娘で、寄り添うだけの存在だよ。

 

だから求めれるラインってのはある。

 

私たちは人間を助けるためにここまできた。

 

ウマ娘としてを果たすまでやってきた。

 

オトモダービーと名付けられてこの脚で奮う。

 

そう、わたしはあくまでオトモの立ち位置。

 

たしかに人の様に喋るし、笑ったりもする。

 

姿形は竜人族の様に人間かもしれない。

 

でも本質は人間よりも強い人外なんだよ。

 

豊かに感情を持ち合わせてしまった生き物。

 

 

だから…

 

できれば…

 

 

そこまでであって欲しかったな。

 

そう思ってたんだ。

 

でもここ最近急激に変わったよ。

 

元々は密かには抱えていたけど…でも。

 

君が私の空を彩る。

 

雨雲だからこそ良く天候が変わるのかな。

 

だからわたしの青雲はいつも何かに揺れ動く。

 

君はすごく厄介だけど、すごく暖かい雨水だ。

 

頭から、指の先へ、足の先へ、毛の先へ…

 

浸されるその雫はいつも心地よい。

 

青雲の中で降るお天気雨は私を乾かせない。

 

だから…

 

本当に…

 

君は厄介な雨雲のお天気なんだ…

 

 

それに…

 

 

「綺麗だなんて、私にもったいよ………」

 

 

 

 

 

雨雲の雨水に濡れると風邪を引いてしまう。

 

だから震えるこれは…勘違い。

 

嬉しさに震えるなんて勘違いなんだよ。

 

そう、少し眠たいだけ。

 

欠伸に体がブルブルしただけ。

 

揺れる尻尾も勘違い。

 

幸福に染まる頬も勘違い。

 

微笑みが本物になってしまうのも勘違い。

 

勘違いだから…

 

 

 

 

「えへへ、アマグモ……あまりダメだよ〜」

 

 

 

 

今だけ私の青雲は夕焼け色になっている。

 

 

どうも最近は天気の行方がわからない。

 

 

いつもいつも何かに乱されてしまう。

 

 

でもそれは間違いなく…

 

 

突如降り注ぐ雨雲(アマグモ)のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_君はセイウンスカイか。

 

 

_俺の名とは対照的だな。

 

 

_でもよろしく、共にゆるりと頑張ろうな。

 

 

_え? まぁ、今の俺は回収班ターだから。

 

 

_だからそんなに気張らなくて良い。

 

 

_でも…

 

 

_ハンターである以上は命懸ける必要がある。

 

 

_とても危険で、いつか死ぬかもしれない。

 

 

_けれど俺はそうして行く事を決めている。

 

 

_だからウマ娘の君に聞くよ。

 

 

_君はそこに【()ける】命はあるかな?

 

 

 

 

 

 

 

あるよ。

 

 

君の雨雲の下でセイウンは駆けるから。

 

 

だからこれからも、その雨雲で潤してね…

 

 

アマグモ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




なんか、こう、もう……うまぴょい!!
↑↑↑
(何を言って表せたら良いのかわからない時にとりあえずこれを言えば良いと解決すると思っている判断のできないトレーナーの屑)


「あげません!!」だけでは無く「させません!!」まで言い出すこのスペちゃんは間違いなく独占欲ありますね。
テイオーとマックイーンとスペちゃんのトレーナー好き好きで距離感バグなあのうまぴょいな画像(コマ)本当に好物です。 もちろんスズカも良し。


ではまた


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7話

 

エンエンクって環境生物はご存知だろうか?

 

俺たちハンターでは『地獄への切符』と言われている。

 

エンエンクの振り撒くフェロモンは惹きつける効果がある。 例えばハンターがエンエンクのフェロモンを纏い、その状態でモンスターに接敵などを起こしてエンエンクのフェロモンを擦り付ける。 そうなるとモンスターは一目散にそのハンター目掛けて追いかけるようになるので、これを利用して別のエリアなどに誘き寄せて移動させるのだ。 もしうまくいけば他のモンスターと衝突させて戦わせることも可能である。

 

しかし人間の何倍も早いモンスターだ。

 

ただの脚では簡単に追いつかれてしまう。 その場合は翔蟲またはガルクを使って移動力を増やすのだが、追われてしまう立場ってのはそう甘く無い。 アオアシラやクルルヤックのような中型サイズのモンスターならともかく、ボルボロスよりも大きなモンスター相手に背中を向けて追いかけっこなど自殺行為も良いところだ。

 

そもそも大型モンスターと戦う時は基本的に重装備であり、突然ながら強固な鱗を貫くために大剣やランス、ヘヴィボウガンの様な重たいものを頼りにする事が多い。 しかしそのような重量でガルクに乗ったとしても疾走できるだろうか? むしろ失踪してしまい、共にモンスターの餌食となってしまう。

 

歴戦練磨を乗り越えて鍛え抜かれたガルクなら背に乗せるハンターが重装備だろうと逃げ延びるくらいは可能だろが、そもそもエンエンクを使ってまでモンスターに小細工を仕掛けるハンターなどあまりいない。 万が一追いつかれてその背中を食いちぎられてしまいなど、モンスターに対して背を向けて死んだハンターは死後も恥だ。 このようなリスクを負ってまでハンターはエンエンクを使うことはない。 だからエンエンクを好んで使うハンターはモンスターと闘争を描きたい狂人くらいだろう。

 

しかし意図的じゃ無いにしろエンエンクでの事故も存在する。 例えば足元にいたエンエンクに気づかず、誤って刺激してフェロモンを纏い、モンスターに狙われて殺されてしまったハンターが存在する。 だからエンエンクの生息範囲を理解してクエストを熟すならばその事故は防げるだろう…が、その事を気にしてまでクエストを果たすハンターは居ない。 大型モンスターに喰われぬよう必死なのだから、例えそこにエンエンクがいたとしてもそれは不運または事故でしか無い。

 

可愛らしい顔に見合わず、その真っ白な毛並みは血染めとなってしまう地獄の切符である。

 

だからエンエンクはハンターの中で一番恐れられている環境生物だ。

 

 

 

 

 

しかし、それを使う事で輝く存在がいる。

 

 

 

 

 

それは…

 

 

「スカイ! 気をつけろよ!」

 

 

「にゃはは〜、大丈夫だよ!このニャンコは任せて!」

 

 

 

ウマ娘の脚はモンスターに引けを取らない。

 

追いかけても、追いつかない。

 

逃げが得意ウマ娘なら飛竜すらも逃げれる。

 

その力があるならばエンエンクが誘う地獄のキップも関係ないだろう。

 

だからここ最近のエンエンクの評価はウマ娘がいることで変わった。

 

特に"逃げ"や"先行"が得意なウマ娘がパートナーならばこれほど頼もしいことはあるだろうか?

 

むしろモンスターを惹きつけるための脚を使い、逃げることで輝くウマ娘にはエンエンクが必要不可欠である。 そう言わせるくらいにウマ娘と環境生物のエンエンクは相性が非常に高かった。 同じ速さで駆けるだろうガルクでもエンエンクを使った誘導や囮は可能であるが、やはり言葉を交わして意識を伝え合い、状況判断を任せる事が可能なウマ娘は違う。

 

 

 

「ニャンコとは言うけどナルガから背を向けて逃げるなんて正気の沙汰では無い。 ウマ娘だから出来るけど…いや、理解してても見慣れないなありゃ」

 

 

 

ナルガクルガはモンスターだけど、ハンターのハンターでもある。 そのしなやかさは迅竜と言われる程に早い。 そして影の暗殺者とも言われている。 その眼はギラギラと鋭くて獲物を逃がさない。 耳はキリキリと動いて微かな音も拾う。 尻尾はギザギザで良く伸びて敵を轢き潰す。 翼はザクザクと大木すら切り裂いてしまう暗殺のブレード。 そんな暗殺者と夜のフィールドで戦ってみろ。 並程度のハンターなら1分も保たずに殺されてしまうぞ。

 

 

 

「逃げに徹するセイウンスカイは速いけど、ナルガ相手は流石に心配だ。 けれど信じよう。 ウマ娘である彼女の足を。 それに……」

 

 

 

 

__アオォォォン!!!

 

 

 

 

「今日はジンオウガが彷徨いている。 ソイツにぶつけてしまえばいい話だ」

 

 

 

俺は回収班の一人としていつも通り、クエストリタイアしたハンターの紛失物を探す。 エリア8で手際良く武器が隠れやすそうなポイントを光蟲で照らして不自然な茂みなどをかき分ける。 ナルガクルガが去った事で出てきたジャグラスが俺を見て威嚇するが構ってあげるつもりはない。 投げナイフで追い払い、最後のポイントを探すと…

 

 

 

「うわ…!? ガ、ガンランスが真っ二つじゃ無いか……さすがナルガクルガだな。 これすら簡単に刻んでしまうのかあのモンスター」

 

 

「おー、すごいねー」

 

 

「ふぁ!? …え? セ、セイウンスカイ? 早いな…」

 

 

「にゃはは、驚いた〜? あのワンワンもニャンコの気配を感じたのか彼方からやってきてね。 私も閃光玉でくらませてから離脱して押し付けてきた。 今頃暴れてるよ」

 

 

「そうか。 しかし手際良くなった? 頼もしいよ」

 

 

「アマグモの真似をしただけだよ〜? でも危険極まりないよね。 だからもうアマグモがそんな危険を背負わないように私が助けないとダメだよね? だから、また任せてよ」

 

 

「ああ、頼りにしてる」

 

 

「むふふ〜ん」

 

 

 

怪我も何もなくて安心した。 俺は火薬の詰まった方のガンランスを持ち上げ、セイウンスカイは刃が付いてる方を持ち上げる。 それをベースキャンプに運ぶためエリア6に進むと…

 

 

「あら?」

「!」

「にゃぁ?」

「ガルル…」

 

 

「おやおや、これは〜」

 

「!」

 

 

白色と薄い緑色に塗装されたタマミツネの素材を使った装衣を着こなす赤毛のウマ娘と、そのトレーナーであるカムラの里一番と言われた太刀使いのハンター。 あとオトモアイルーとオトモガルクを率いたカムラの里を代表する御一行様。

 

 

 

「サイレンススズカと"ケシキ"か」

 

 

「先輩、久しぶりです」

 

 

「ケシキ、俺のことは先輩と言わなくて良い。 先輩だったのは最初の1週間でもうお前は一人前だ。 今はカムラの里の為に肩を並べるハンター同士なんだ。 その太刀と共に里の命運を背負え」

 

 

「はい」

 

「私も一緒に背負います」

 

「そうか! とても頼もしいよスズカ!」

 

「い、いえ…! そ、それほどでも…」

 

 

 

「おお〜、これは熱いお二人だね〜」

 

 

 

「ス、スカイさん!? べ、別にそんなことは…ないですから!」

 

「え? 熱い? いや、今日は涼しいと思うが…スズカ、熱いのか? あ、もしかして風邪か!?」

 

「ふぇ!? い、いえ、大丈夫ですよ! わ、わたしは元気です! ええと…ケ、ケシキさん、行きましょう! モンスターを見失う前に!」

 

「おお! そうだな! では先輩、また! 行くぞみんな! 気炎万丈ォォ!」

 

「やれやれ、旦那さんも相変わらずだニャ…」

「わん? …わん!!」

 

 

ケシキはガルクに乗って走り出し、スズカとアイルーも併走する。

 

またたくまに消え去った。

 

 

いや、待て…

 

 

 

「まさかジンオウガとナルガクルガを同時に狩猟するのかアイツ?」

 

「片方が狩猟対象だけど、恐らく同時にやりそうだね。 あと一般ではああ言うのを化け物って言うんだよね?」

 

「そうだな。 それを証拠に装備や武器を外して本気出して走ればハルウララすら追い抜いてしまい、エルコンドルパサーとの取っ組み合い(プロレス)に勝ってしまう」

 

「にゃはは〜、他にあげるなら福引ではあのマチカネフクキタルよりも引き運が良くて、マヤノよりも感が鋭く、あのナリタブライアンには腕相撲で勝ってしまう。 あとシンボリルドルフやエアグルーヴの威圧感すら物ともしない。 もう、あげるとキリがないあの人はぶっちゃけ化け物だよね」

 

「うん、間違いないな。 だからケシキに先輩って呼ばれるのもなんかこう怖い気がする」

 

「でもアマグモが色々教えたんだよね?」

 

「ウツシ教官の代わりを務めるときに太刀の使い方を教えた程度だ。 あと利用価値の高い環境生物の使い方。 関わりとしては役1週間程度で、そこから先はオトモを雇用するともうメキメキと伸びて、スズカのトレーナーになると更に伸び始めた。 もう百竜夜行と戦う為に生まれたカムラのハンターだ。 まるで物語に出てくる主人公の様な奴だよ」

 

「ふーん……アマグモはそんな彼が羨ましい?」

 

「いや別に? まぁ、あの強さは羨ましいけど、その分色々と強いられるだろ? 水中に直接潜って魚を捕まえるより、釣り糸垂らして捕まえる程度が俺は好き」

 

「うんうん! それだよね! やはり釣りは良いよ。 時の流れに任せて自由に釣りをする方が良い。 いや〜、アマグモは良くわかってるな」

 

 

 

 

 

>気炎万丈ォォォォオオ!!!

 

 

 

 

 

「あ、勝ったな」

 

「うん、これは勝ったね〜」

 

 

 

この声が聞こえたらもう気にすることもない。

 

ケシキをサポートするオトモのアイルーとガルクも強くて、何よりサイレンススズカが付いている。

 

それこそナルガクルガやジンオウガはニャンコやワンワンにされてしまうだろう。

 

 

心配することもなくベースキャンプに到着した。

 

クエストクリアしたがまだ時間はお昼頃。

 

朝早くからクエストに出たのでお日さまは真上でお元気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たな、ハンター?」

 

 

「はい、来ました」

 

 

 

クエストの報告を終えると先に帰ったセイウンスカイと別れて俺は加工屋のハモンさんの元までやってきた。 ハンターが加工屋を尋ねたら目的は一つだ。 そしてハモンさんもその日店を開けた1番目の客である俺の武器の加工依頼を昼過ぎ頃に終えていた。 相変わらずの予定通りの腕前に感心しつつ、ハモンさんから新たな武器が受け取る。

 

 

 

「タマミツネから採取した"泡立つ滑液"を強化素材として闘士の剣から鍛えて上げた『オデッセイブレイド』の片手剣だ。 一度握って確かめてみろ」

 

 

 

ハモンさんからオデッセイブレイドを授かる。

 

青色に鮮やかな刃は闘士の剣の面影を見せる。

 

しかしグラシスメタルで更に鋭さと切れ味を高めた逸品は、水属性の斬撃を持ち合わせており、硬い肉質を持つモンスターを簡単に斬り裂いてしまうだろう。 盾もグラシスメタルの素材が使われていて、かなり頑丈だ。 闘士の剣よりも圧倒的に使い勝手と性能が高くなっている。

 

 

「重さも前と同じだ。 ありがとうございます」

 

 

「うむ、問題ないな。 しかし定期的な手入れの際はタマミツネの滑液で剣の汚れを洗い落とす様にするんだ。 滑液で少量でかまわぬからそこは覚えておけ。 わかってると思うが武具の手入れは怠るな」

 

 

「わかりました、では」

 

 

「ああ、里を頼んだぞ。 ……まもなくだからな」

 

 

「!?」

 

 

 

そうか、もう間も無くなんだ。

 

たしかに周りを見たら店仕舞いを始めているところもある。

 

俺も一度帰って準備をしておこう。

 

 

 

「セイウンスカイ」

 

 

「うん、わかってるよ。 周りも騒がしいからね。 そうなると、今日の可能性も高いね」

 

 

「遅くても明日の夜中だが、それでも確実に始まる。 里のフクズクも騒がしいし、さっきシンボリルドルフもフゲンさんと忙しそうに走っていた。 仮に今日じゃなくても明日の昼頃からはもう百竜夜行に向けて始まるだろう。 ……だから、招集がかかる前に寝るか」

 

 

「おっと?」

 

 

「少しだけ眠い。 寝よう」

 

 

 

装備を置いて水で汗を流す。

 

軽く昼食を取ってからお茶を飲み、茶の間に座布団を敷いて寝転がった。

 

セイウンスカイも隣に転がり、ボーッと外を眺めながら仮眠に入る。

 

そのかわり俺もセイウンスカイも窓を開けて耳は立てる。

 

半分眠って半分起きている状態。

 

午前中の疲れを少しでも取れる様に心がけながらも、程よく緊張感を持って体を休める。

 

背筋に誰かの額がぶつかる。

 

 

「わたしが、あなたの青雲だ、から……スゥ…」

 

「………」

 

 

彼女の眠る速さには慣れたものだが、寝言が首筋をくすぐって仕方ない。 けど背中に感じる温度はたしかに一人じゃない。 今は彼女がいる。 だから百竜夜行が悪夢となって襲いかかっても青雲が晴らしてくれるだろう。

 

その頼もしさを感じながら眠り付き…

 

その数時間後……けたたましい鐘の音が里中に鳴り響く。

 

 

「!」

 

「!?」

 

 

目を覚ますと背中と首元の圧から解放された感覚と共を覚ました。

 

鐘の音がソレである事を確認すると意識が完全に覚める。

 

セイウンスカイも残りのお茶を飲み切ってしっかり目を覚ますと俺見てこう言った。

 

 

 

「アマグモ、始まるよ」

 

 

「ああ、行こうか、セイウンスカイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

カムラの里に襲う悪夢のような宴。

 

 

百竜夜行の始まりだ。

 

 

 

 

 

つづく

 






夕方まで眠るくらいに余裕ある二人だが、もし互いに一人だけだったら眠らずに起きて奮わせていたと思うと、二人が共にいることで出来たお昼寝ですね。 あとオデッセイブレイドがどこまで振るうかな?


ではまた


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8話

翡葉の砦(ひようのとりで)にハンター達が集まる。

 

 

 

そして、まもなく百竜夜行が始まる。

 

 

何故この様な宴が始まったのか分からない。

 

 

理不尽にカムラの里を襲う獣たちの宴。

 

 

参加費はその命で支払われてしまう悪夢の祭り。

 

 

夜が明けるまでつづく残酷な生存競争。

 

 

カムラの里で生きる者はこれに抗うため、戦う…

 

 

 

「ナイスネイチャ、緊張しすぎるのも良くありません。 いつもの自分を保って戦えば問題は無いでしょう」

 

「そ、そうは言うけど、ほら? モブみたいなわたしが出来ることなんて…」

 

「関係ありません。 百竜夜行だろうがあなたらしくやれば良い。 いつも通り、ゆるりと行く…で、良いではないですか」

 

「あ、あははは……やれやれ、あなたには敵わないわね。 でも、トレーナーがそう言うなら…うん、わかったよ。 いっちょやってやりますよ」

 

 

ルドロスの装備で固めたハンマー使いのハンターは戦線に赴く。

 

理系的に丁寧な口調を持ち合わせるも、鋭く放たれるその視線は来たるモンスター達を狩り尽くそうとしている。

 

 

 

「腹は決まってるかい? オグリキャップ」

 

「もともと腹は決まっているが、まだ少しだけ腹は満たされないな、もぐもぐ…」

 

「はは! そりゃ頼もしいねぇ? なら帰ったらあたいとたらふく食べるとするかねぇ!」

 

「むぐ……うん、そうしよう、トレーナー」

 

 

バサルモスの装備で固めた狩猟笛使いのハンターは戦線へ意気込む。

 

女性ながらも重装備を纏った逞しいその佇まいと、そこから始まる演奏は勝利のために鳴り響く。

 

 

 

「うぅ…はぁ…緊張する…怖いなぁ…」

 

「大丈夫だよ! ハルウララとトレーナーさんが戦って! みんなを助けるだよ!」

 

「っ、う、うん! そうだね! みんな戦うんだもん! わたしも負けていられない!」

 

「その通り! ハルウララ!がんばりまーす!

 

 

イズチ装備で固めた新人ハンターはライトボウガンを担いで戦線に震える。

 

けれど笑顔を絶やすことをやめない彼女に元気を貰って百竜夜行へと一歩ずつ進む。

 

 

 

「百竜夜行だがなんだが知らねえが、オレはいつも通りに楽しく狩らせてもらうぜ。 まぁハンターとしてしっかり果たすさ。 安心しろ」

 

「ふふっ、どんな時でも揺るがないその姿勢は一流の佇まいですわね。 だからその大腕をキングである私と共に振るう権利をあげますわ!」

 

「やれやれ相変わらず物好きな小娘だ。 こんなオレについて行くなどよく飽きない…が、それもまたお主だろう! さぁ今日も行くぞ! 楽しい狩の時間だ!!」

 

「言わずとも! このキングが皆に安静を齎せますわ!」

 

 

ゴシャハギの装備を纏ったベテランハンターは大剣を掲げて進軍する。

 

これから来たるモンスターを狩り尽くすつもりで、その剛腕はいつでも狩のために温めているから。

 

 

 

「うおお! すごく燃えてきたな!そうだろ!!」

 

「はい! サクラバクシンオー! いつでも燃え盛る勢いであります!」

 

「ならば後は驀進のみ!! 驀進の先を求めて!! うおおおお!! やってやるぜェェえ!!大驀進だぁぁあ!!」

 

「ダイ!! バク!! シーン!!!!」

 

 

不安すら感じさせない声と共にアケノシルムのランスを抱えて戦線に爆進する。

 

爆進と驀進、それに爆進、あと驀進を込めれば、爆進する百竜夜行に向かって大驀進する爆進的な熱意を込めることで驀進の加速は更に爆進して大驀進と化す二人は大爆進の大驀進だ。

 

 

 

「おお、猛き炎よ…! 皆の心は今日を乗り越えようと団結してる。 とても素晴らしい闘気だ。 これは出遅れることはできないなエアグルーヴ。 私たちも出来る事を果たそう!」

 

「言わずもがなウツシ教官。 わたしは大丈夫だ」

 

 

「シンボリルドルフ、各エリアに位置ずるウマ娘達の作戦に問題ないな?」

 

「ああ、心配はご無用だ。 ウマ娘の皆は強い…と、言いたいが百竜夜行は今回が初めてと言うウマ娘もいる。 何名か新人ハンターもいるようだが、ここに立つ以上もう引き返せないだろう。 立ってしまったターフは駆け抜けるほかあるまいからな」

 

「そうか。 しかし、カムラの里で戦うハンターにはカムラの御加護がある。 それぞれが抱える力と強さを信じよう」

 

 

 

真上を飛んでいたフクズクが騒ぎ出し、空は赤色の煙幕を散りばめる。

 

 

モンスターに動きが起きたようだ。

 

 

 

第一波が訪れようとしていた。

 

 

 

「バリスタ構え!」

 

「「「!!!」」」

 

 

バリスタの迎撃部隊の班長が叫び、里人達が構える。

 

侵入口から現れるポイントに銃口を合わせて徹甲榴弾の装填を終えた。

 

静かに時が流れ……

 

指先が震える緊張感の中で何かのモンスターの雄叫びが聞こえた。

 

そいつらは現れた。

 

 

 

 

「っ……今だ!放て!」

 

「「「!!!」」」

 

 

里人やハンター達はバリスタから徹甲榴弾放った。

 

もちろんガンナーも自前の武器から徹甲榴弾を放ち、侵入口の先頭にいたアオアシラやヨツミワドウの顔に直撃させると目を眩ませて地面に跪かせる。

 

爆発する投げナイフでも援護だ。

 

すると気絶して倒れたモンスターが障害物となり、後方のモンスターは倒れたモンスターを乗り越えて進んできた。 そこに水流が降り注ぎモンスターを濡らすと雷属性を纏った大砲が放たれる。 強烈な電撃が走らせた爆発はモンスターを感電させて動きを止めた。

 

 

「集中砲火だ! 連射砲撃ち方はじめ!」

 

 

連射砲は弾がある限り最後まで放ち続ける。 一方的に攻撃を受けるモンスターは連射砲の嵐の中で蜂の巣となり、次々と討伐に成功する。 命の危機を悟るモンスターは失っていた冷静さを取り戻すように退いてゆく。 逃げ帰るなら深追いはしない。 それでも命知らずで襲いかかってくるモンスターはバリスタや大砲で集中砲火を行って防衛戦戦の中で封じ込める。

 

 

今のところ兵器だけで百竜夜行を抑えている。

 

この調子ならば百竜夜行の第一波は完封出来るだろう。

 

 

 

 

そう、"第一波"は…の話である。

 

 

 

「次だ! 速やかに準備しろ!」

 

「第二波に備えろ!急げ!」

 

 

ナルガ装備の女性ハンターとナリタブライアンの声が響き渡ると、翔蟲を使って上からや、設置台の傍や、その地下に隠れていたウマ娘とハンターが次々と出てくる。

 

ハンターは道具箱から罠を取り出して地面に印されている部分に設置する。

 

しかし設置するならば動きを封じ込める罠だけではなく、攻撃で大ダメージを与えるタル爆弾も置きたい。

 

だがタル爆弾は火薬などが詰まってなかなかに重たく、そう安安と運べる物ではない。 鍛えたハンターでも苦労する。

 

なぜなら重たい装備を背負った上で運ぶのはかなり苦労するからだ。

 

そもそもタル爆弾はこのような短い時間の中で設置するのではなく、あらかじめモンスターを誘う位置に設置してから余裕を持って扱うことが基本。 そのため第二波が来る短い時間とその緊張感の中で罠と同時に設置など危険である。 力自慢の里人でも持ち運びは苦労を強いられ、戦えない身で戦線のど真ん中に降り立つなど正気ではない。

 

だからタル爆弾を取り扱うことは案外にも難しい。

 

しかし走る事を優先とした軽装備のウマ娘ならそれは容易だった。

 

身体能力の高さから大型のタル爆弾を軽々と持ち運ぶことが可能であり、第二波が来る短い時間でも余裕を持って次を備えてくれる。

 

しかも次に出てくるモンスターに合わせた属性のタル爆弾を選べることは大きい。

 

空を見上げれば各色に塗装された煙幕が放たれる。

 

 

「赤は炎で黄色は雷デース!みんなエルに続いてくださーい!」

 

「この王者である僕こそテイエムオペラオーに任せたまえ!」

 

「うむむ……お団子みたいに美味しそうだな…」

 

「まぁまぁ、それは後で美味しく頂きましょう」

 

 

第二波の先頭に立つモンスターの情報が空に打ち上げられた煙幕で把握できる。 第一波のように徹甲榴弾で気絶させて転ばしたモンスターを利用したバリケードを作ればバリスタなどの兵器で撃退は捗る。 そのためには確実にモンスターを地に伏せさせる必要がある。 そのため的確な属性のタル爆弾を使ってモンスターを怯ませ、それでもダメなら徹甲榴弾で目眩を起こしてソイツらを跪かせ、そのバリケードを乗り越えてきたモンスターは設置された数々の落とし穴に嵌める。

 

第二波はこのように乗り越える。

 

そのためにはまずタル爆弾での攻撃が効率的である。

 

だからこそ煙幕の色を確認したウマ娘を使うことで各属性が備わったタル爆弾をこの短時間で設置して、第二波に向けて可能な限り猶予を作り上げる。

 

だがこのためのプレッシャーは大きい。

 

もしかしたら急にこの場にモンスターが現れるかもしれない。

 

このような恐怖心も隣り合わせにタル爆弾を設置する必要がある。

 

だがそれに負けない精神力を持ち合わせた"差し"のウマ娘が輝く。

 

 

いつだったか百竜夜行の中でも"差し"のウマ娘は輝くと言った筈だ。

 

まさにこれがその一つだ。

 

 

誰でも百竜夜行は怖いもので危険と知っている。 その恐怖心を押し殺して皆は戦う。 それはウマ娘も同じ。 誰よりもその先を駆ける事がウマ娘の魅力で最大の力となる。 特に逃げや先行と言ったウマ娘は最初から最後まで先頭を目指して後ろを見なければ、そいつらの後ろすらも拝もうとしない。 だから背筋に感じるプレッシャーを真正面から受けることができるウマ娘は早々いない。 そもそも『馬』は敵に立ち向かわない生き物だ。 その脚で逃げ延びるために力が備わっている。 だからラージャンの威圧感を真正面から受け止めたセイウンスカイを思い出す。 可哀想な事をしたと今でも後悔するくらいに彼女達は脆い。

 

 

しかし例外は居る。

 

エルコンドルパサーやオグリキャップ、他にもグラスワンダーやキングヘイローなど、そう言ったウマ娘はむしろその威圧感と闘おうとする精神力を持っている。

 

武器は握れないにしろモンスターと対面して戦うハンター達と似た何かを持ち合わせている。

 

あと何というか"差し"の特性を持つウマ娘は『自分に揺るが無い』子が目立って多い。

 

なんなら自分を理解してると言った方が正しいか…?

 

エルコンドルパサーやキングヘイローの様なタイプはわかりやすい。 自分を持ってそれに立ち向かわせる力を持っている。

それは強さだ。

 

グラスワンダーやナイスネイチャーの様なタイプは一旦退いてるも、どこで差すべきタイミングが大事なのか自分の力量を持って弁えている。

これと差す強さだ。

 

オグリキャップは言わずもがなアレは大物だ。 あとテイエムオペラオーもこの地獄の様な宴でもまったく揺るがない。 余裕の強さだ。

 

あいにくカムラの里にはウマ娘は多くて、それで百竜夜行に強い精神力を持つ差しのウマ娘で多い。

 

もちろん逃げや先行がダメとかそうではない。

 

百竜夜行ではない時のクエストはむしろ迎撃ではなく"討伐"がメインだ。 しかし百竜夜行の余韻にてモンスターが近くで固まっている場合が多く、特にカムラの里から近い大社跡なんかはモンスターを分断させないとクエスト中の事故が起きやすい。 そのためか万が一の回収班が求められる。 これではネコタクも休まらない。 でもその事故を減らしたい時に力を貸してくれる"逃げ"や"先行"のウマ娘は頼もしい。

 

これに関してはセイウンスカイやサイレンススズカを通して嫌と言うほど俺は知っていている。

 

だからそれぞれの適正を持ってそれぞれの場面でウマ娘を頼りにする。 だから百竜夜行の中で逞しくその脚を使ってくれる差しのウマ娘に感謝してカムラの里はこの宴に負けないために戦う。

 

 

 

 

 

ならば、百竜夜行の中で逃げや先行を得意とするウマ娘はどこで戦うのか?

もちろん差しのウマ娘と"併走"して足並みを合わせるだろう。

 

タル爆弾を置いて、バリスタの補充などに駆ける。

 

馬は群れる生き物だからその特性を持てば差しのウマ娘に続いて役割を果たせる。

 

だから百竜夜行でタイプが"差し"じゃないからと言って何もできない訳じゃないのだ。

 

 

 

 

けど、俺とセイウンスカイは違う。

 

 

 

 

百竜夜行は翡葉の砦まで続く"道"がある。

 

これ利用して百竜夜行の進行を遅らせるのが俺の役目だ。

 

 

そもそもなぜ『第一波』や『第二波』が存在するのかご存知だろうか?

 

 

それは大群が押し寄せないようにするためだ。

 

命を怖ない人海戦術はこの上なく怖い。

 

知性を持たない獣はどうでも良いが、人生を豊かに生きる人間はどうでも良くない。 差別的な言葉だが、そんな獣と人間を比べたらまだ知性を持って生きる方に大地を踏み締めて欲しいと俺は思う。 互いに殺させれるつもりはないけど、俺たち人間が生きている場所にモンスターを踏み込ませるつもりはない。 平穏を侵す者は淘汰されるべきだ。 けれどモンスターは獣の如く命惜しまず大群となって襲いかかる。 それではカムラの里は持たない。

 

ならばその大群を分断させ、兵器が充実している翡葉の砦で向かい打てばモンスターは無理なく迎撃できるだろう。

 

 

ではどのように分断させるのか?

 

まずカムラの里は高山が多く谷底も多い。

 

そしていくつか別れ道が存在する。

 

翡葉の砦まで続く道や、ぐるりと一周できる道が存在する。

 

翡葉の砦の道まで続く別れ道には関門が取り付けられていて、モンスターを分断して夜行の進行方向を変えたりも可能だ。

 

しかしそれだけではダメ。

 

しっかりと手を施してモンスターをコントロールする必要がある。

 

高い崖の側面に取り付けられた撃龍槍、高台に設置したバリスタの後退弾、肥やし玉や閃光玉を使って進行を遅らせ、可能ならばそこで迎撃もする。

 

しかしそれでも10%ほどの迎撃にしかならず、関門や柵を壊してモンスターは乗り越える。 それでもある程度は分断できるので闘技場で使われるような地面から飛び出す柵を使って取り残されたモンスターを一時的に堰き止める。

 

タル爆弾を崖の上から降下してモンスターにダメージを与えたりする。 そして最終手段は先頭のモンスターを"操竜"してエンエンクのフェロモンを振り巻いてから命懸けの鬼ごっこをする。

 

するとエンエンクのフェロモンは密集するモンスターに感染して、操竜されているモンスターを追いかける。

 

 

これがもう怖い。

 

 

 

てか、俺がこれをやっていた。

 

 

操竜しながらマキムシを撒いたり、雪玉コロガシを後ろに投げつけてモンスターの動きを鈍らせたりと、あらゆる環境生物を使って抵抗しながらフェロモンが続く時間ギリギリまで鬼ごっこをする。

 

カムラの里の最終防衛戦である翡葉の砦も大変だが、そこまで続く舞台裏でもこれだけの苦労を抱えて戦っている。

 

しかしそうしなければ里は蹂躙されてしまう。

 

皆が命懸けなんだ。

 

 

だから地獄の鬼ごっこも耐えないとならない。

 

 

 

しかし、それはいま、別の者に託された。

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ! この程度! まだ爆進を…!」

 

「そろそろね。 スカイさん、まだ行けますね?」

 

「問題ないよ〜、スズカさん! 全然行けるって! むしろ"長距離"は得意だからね!」

 

「マヤも全然テイクオフ出来るよー!」

 

「わかりました。 では離脱します!」

 

 

 

駆ける脚は誰よりも速いサイレンススズカだが、長い距離は苦手であり息が耐える。 しかしモンスターを引き連れる一週目は彼女が適任だ。 元気有り余るモンスターの脚はサイレンススズカに追い付かず、そして追いかけるに夢中なモンスターはバリスタなどのダメージで体力を削っていく。

 

そして翡葉の砦に続く関門を塞がれると残った別れ道に進み、またグルリと回る二週目で長距離を得意とするセイウンスカイやマヤノトップがサイレンススズカやサクラバクシンオーとバトンタッチで代わり、モンスターを引き連れる。

 

ちなみに"バトンタッチ"と言うよりかは"地獄の切符"を託すと表現が正しいだろう。 そしてバトンとなる代用品は"陽動"のスキルが込められた"護石"である。 それにエンエンクのフェロモンで更に効果を引き出してモンスターを引き寄せるのだ。 陽動はモンスターに狙われやすい効果を持っており、そこにエンエンクのフェロモンをプラスして、逃げや先行のウマ娘はそれを持ってモンスターとの追いかけっこを始める。

 

このようにぐるぐると立地を活かして第二波になった群れを分断する作戦。

 

見ているとヒヤヒヤものだがウマ娘の脚だからできること。

 

戦力を過剰させずに百竜夜行の流れをコントロールして、最後は仕留める。

 

 

 

「セイウンスカイ…」

 

 

 

俺が操竜して逃げていたよりも安定したレース。

 

これほどに適材適所と言える存在がいたのか?

 

ああ、そうとも…

 

彼女達は竜夜行からカムラの里を救うために現れてくれたのだ。

 

 

 

けど最初は皆が思った。

 

 

 

_【馬】と【人】が合わさった馬人族に何が出来るのだろうか?

 

_オトモダービーと名付けられた彼女達に何を求めたら良いのか?

 

_駆けるだけのその脚にどこまで可能性を秘めているのだろうか?

 

 

 

 

間違いなく、カムラの里における全てだ……

 

 

 

 

「おっと? 何匹か道を間違えて逃げ帰ってたようだ。 行くぞ!」

 

「うっしゃぁぁあ! 燃えてきたぜぇぇ!」

 

「気炎万丈ォォ!!」

 

 

サイレンススズカのトレーナーを除いて細道でバリスタなどを務めていた俺を含めるハンターは崖から降りて『帰り道を間違えた』モンスターに向かって攻撃を仕掛ける。

 

当然ながら本命の迎撃ポイントとなる翡葉の砦でボコボコにされてふらふらと来た道を戻ってきたモンスターに翔蟲を使って攻撃を叩き込み、操竜状態にすると奴らの来た道を逆走させる。

 

別れ道の関門を超えて翡葉の砦に向かおうとする第二波のモンスターに向けて勢いよく突進させた。 正面衝突が始まる数秒前に操竜から離脱して翔蟲でその場から退避すると、その間に逆走するモンスターと向かってくるモンスターの肉同士がぶつかる音が響き渡った。

 

成功したようだ。

 

 

「ざまーみろ、バーカ」

 

「あっははは!! なかなかに燃える操竜だった!!!」

 

「ふっ…たわいもないな!」

 

 

 

それでも百竜夜行は止まらない。

 

まだ第三波が残っている。

 

ウマ娘の脚は疑わないがセイウンスカイが心配だ。

 

そう思ってバリスタのエリアに戻ろうとした…

 

 

 

その時である。

 

 

耳をつんざくような音と、背筋が凍るナニカ…

 

 

 

 

「くっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

紫色の炎が嵐となって襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!???」

 

 

 

なんとか体は反応していた。

 

 

心臓を守るように盾を構えて何かを凌いだ。

 

 

そして生存本能故か腰に手が伸びていた。

 

 

翔蟲を握って岩壁に隠れるように後方に放つ。

 

 

 

「くっ…なんだ今のは!? 何かが薙ぎ払われたのか!? ラージャンの光線か!? いや、もっとあれは持続的だ。 今のは弾け飛ぶような破壊力だ…何が一体」

 

 

 

 

すると…

 

ランス使いのハンターが弾けた。

 

 

 

「ぐぁぁあ!!」

 

「おい!? どうしたと…ッッ!? がっ!!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

突如爆発が襲う。

 

ランスハンターは壁に吹き飛ばされた。

 

そしてもう一人のハンターすらも爆破が襲い、壁に吹き飛ばされる。

 

 

 

「!?」

 

 

 

な、何が起きている!?

 

ば、爆発…??

 

 

いや、冷静にならないとダメだ。

 

あの破壊的攻撃は…

 

そう、あの方向から…

 

 

 

セイウンスカイが走る……

 

 

 

 

 

「はっ!!? セイウンスカイッッ!!!?」

 

 

 

 

 

彼女の顔が浮かび上がる。

 

 

岩影から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが迂闊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ____」

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルルルル…」

 

 

 

 

 

 

 

死んだ__

 

 

 

そう思えるくらいに、まずかった。

 

 

 

見たことない正体がこちらを嘲笑う。

 

 

 

いつのまにか漂っていた紫色の炎。

 

 

 

これが最後の景色かのように……弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

つづく




カムラの里にとって命がけの百竜夜行をビュフェやバイキング感覚で訪れたマガイマガド君好き。
さっさと玉を落とせや。

あとアマグモ以外に出てくるハンター達はRisz体験版に出てくるハンターたちが元ネタです。
ルドロスのハンマー使いやイズチのライトボウガンの女性とか。


百竜夜行の構造は作者のご都合主義です。
ウマ娘を使うならこのような形が求められると思ってのご想像でした。

一応イメージとして頑張りました。

[ 大社跡とか]
→→↓←←←←←←
□□↓□□□□
□□↓□□□□
□ ← ← ←←□
□↓□□□↑□<<ウマ娘がぐるぐる
□↓□□□↑□<<距離は1マイル位?
□↓□□□↑□
■↓ → → ↑□
[関門]■□□<<黒いのはバリスタとか
□↓↓□□□□
□↓↓□□□□□□
□↓↓→→→→→[出口]
[翡葉の砦]□□□
□□↓↓□□□
□□□↓↓□□
□□↓↓□□□
□↓ ↓ ↓ □□
[最終関門]<<イブシマキヒコ戦の場所
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
[カムラの里]


ただ『第二波』とか『第三波』とか都合よくあるくらいならどこかで分断して、時間稼ぎして、戦えるエリアで撃破ができるようにしてるのでは? と、ご勝手な想像から生まれました。 まぁモンハンのゲームにマジレスなんてどうかしてますが、描写上はこれイメージしてます。それでもフィールドの構造が研究不足で矛盾点があるならもう何も言うまい…うん。


あと百竜夜行で差し馬を活かしてみた解釈でした。
ゲームじゃタル爆弾をハンターはポコポコ置いてるけど、設置するのにかなりの労力とプレッシャーを必要する考えならば、その身体能力を使えるウマ娘が代わりにやってくれるなら? と、考えて完璧な後方支援です。
里人がバリスタや大砲を操り、ハンターが心置きなく武器で戦い、ウマ娘が即座に罠を仕込み裏方でも物資補給のためにの差し馬は輝く。

百竜夜行が安定した瞬間でした。

それでもマガイマガドみたいな理不尽には勝てない。
これがモンスターハンターの怖いところですね。


ではまた


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9話

 

 

体が痛い。

 

 

 

足は付いてる?

 

 

 

手は残ってる?

 

 

 

頭は動いてるか?

 

 

 

眼は見えているか?

 

 

 

脳はまだ生きてるか?

 

 

 

俺はまだ戦えるのか?

 

 

 

 

「ゼェ…ゼェテ……死んで…たまるか…ゼェ……絶対に…死ねない……死にたくは……死にたく……」

 

 

 

死にたく『ない』まで言い出せばそこで張ってきた虚栄は欠如してしまう。

 

俺はそれを堪えて、誤魔化すように、鬼人薬と硬化薬を飲んで、感覚を麻痺させる。

 

力が体に染み渡る。

 

人間の脆さを鬼で誤魔化す。

 

悲鳴をあげる体を忘れさせる。

 

 

……味はしないな。

 

繋ぐように飲み続けたから。

 

でも飲む量には困らない。

 

生憎この場所は虫や木の実や種で溢れているから調合の素材には困らない。

 

 

だがモンスターも溢れている。

 

何よりここは狩猟環境が不安定だから。

 

けれど、それを承知の上で乗り込んだ。

 

 

 

「もう、4日目だ……救助に、期待なんかしない…」

 

 

 

最初はただの採取クエストだった。

 

 

しかし大嵐が起きた。

 

 

何日も収まらない大嵐で荒れ続ける。

 

 

小型モンスターは隠れて雨風を凌ぐ。

 

 

俺も隠れていた。

 

 

だが"奴"はこの大嵐の中でも俺を探す。

 

 

 

「左目と、左耳と、左首と、左足と、左前足は、4日掛けてズタズタにしてやった……勝機はあるさ…ゲッホ……ぐっ…!」

 

 

 

生捕にしたサシミウオの頭を叩き斬り、その身にかじりついて、少しでも多く秘薬を摂取しようと、混ぜて、それを体に流し込む。

 

 

「んぐぅッッ…!? おえええ"え"…が、が……ごはっ…」

 

 

 

秘薬は万能で、瞬く間に傷を癒す。

 

皮膚に塗り込むことで出血などの傷は塞がり、飲むことで体内の出血を抑えてしまう。

 

治癒力も高めて助けてくれる強力な代物。

 

それでも薬には変わりない。

 

過剰に薬を取ると言うのは危険だ。

 

クエスト中でもその過剰摂取を抑えるためにハンターは持ち込む数を抑えてくるのだ。

 

 

 

「けっほ……くっ…」

 

 

 

体が俺にこれ以上は秘薬を飲むなと訴える。

 

数日続けてこの状態だ。

 

でも体は薬を欲して、脳が薬を拒否する。

 

しかしこのままでは死んでしまう。

 

そもそも既に体が千切れてもおかしくないくらいだ。

 

そのため体の裂傷を癒してくれるサシミウオを食べて、それを秘薬で強引に治す。

 

活力剤も飲み物代わりに喉に流し、染み渡るこの感覚で体の悲鳴を麻痺させる。

 

痛みも、恐怖心も、震える体も、騙す。

 

死ねない。

 

死んでたまるか。

 

 

 

「もうすぐ晴れる…な…」

 

 

今は夜だが…

 

ああ、綺麗な月が見えるだろ。

 

今日は満月かな?

 

それが最後の日になるのかもしれない…

 

 

 

「そんなの、関係無いな…はは…」

 

 

真夜中でも晴れることで視界が良好になり、音もよく聞こえて戦いやすい。

 

しかしそれはモンスターも同じことだ。

 

人間よりも嗅覚や、聴覚や、視覚など、優れている化け物はいくらでも存在する。

 

フィールドの天候が好条件だからと言ってハンターが一方的に勝ることなど考えない。

 

だから今この大嵐は俺を追い続けるあのモンスターから活かしてくれている。

 

 

「はっ…この大嵐の所為でこんな酷い目にあっているけどな…皮肉なことだ…」

 

 

サシミウオで腹が満たされたのかわからない。

 

体がどのくらい正常なのかもわからない。

 

濁った水面に映る俺の顔は当てにならない。

 

息を絶え絶えに、脚を引きずり、視界はぐらぐらと揺らぐ。

 

生きているのか?

 

いや、まだ俺は生きている。

 

ツタの葉を掴み取り、蜘蛛の巣を回収して、廃棄されたトラップツールを使えるところまで直した。

 

凡ゆる物を使って落とし穴を作る。

 

効果は半分以下だろう。 でもこれに全てを賭ける。

 

俺もだが、アイツもまもなく死ぬだろう。

 

 

 

「来いよ……まもなく晴れるだろ?」

 

 

 

そうすれば半殺しな俺の息遣いが聞こえるだろ?

 

心臓が、命の灯火が、よく見えるだろ?

 

 

そうだろ?

 

出てこいよ。

 

 

 

「ごく…ごくっ……ぷはぁ………おぇっ…」

 

 

もう何本目かわからない、おそらく2桁は飲み続けた鬼人薬と硬化薬を投げ捨てて、怪力の種を齧り、秘薬となる砕いたケルビの角を傷口に抉り、活力剤を半分飲んでからもう半分を首筋に掛けて、半分に折れてしまったプリンセスレイピアの片手剣を構える。

 

 

それでも奴の喉を掻っ切るなら充分だ。

 

 

 

そして、現れた。

 

 

 

 

「グルルル…」

 

 

「……」

 

 

 

俺を4日近く追い続けたそいつは威嚇する。

 

でも初対面で俺を襲った時の面影はもう無い。

 

左目が抉れて溶けており、左耳は腐食して額の骨が見えており、左首は皮膚が爛れて肉が飛び出して、左足前後はガクガクと震えて地面を引きずるから、毛が抜け落ちて骨が見え始めている。

 

 

しかし俺を殺すまで奴は死のうとしない。

 

 

その姿勢は未だに"暗殺者"を果たそうと俺を睨む。

 

 

 

 

「グォォォ……キシィィィ…」

 

 

 

 

水没林に潜む緑色の毛を持つ迅竜。

 

 

深淵の暗殺者である"ナルガクルガ亜種"はこちらの命を狙う。

 

 

そして俺の首を刈り取ろうと飛びついた。

 

 

 

「あははッ…!」

 

 

片手剣を右手に持ち替えて亜種ナルガの攻撃を回避する。

 

ナルガクルガ相手に見てから回避など出来るはずも無い。

 

しかし4日続いた戦いの中で亜種ナルガはリオレイアの毒に蝕まれていた。

 

そうとも、この片手剣が折れるまで何度も切り裂いては奴を毒に脅かしてきたのだ。 右利きの俺は少しでも戦いやすくするために亜種ナルガの左側を攻撃し続けてた。 結果として眼や耳、足や翼はレイアの毒で蝕んで溶かし続けた。

 

当然ながら亜種ナルガは動きが悪くなる。

 

何せ左側全ての機能を奪ったのだ。

 

本来ある亜種ナルガもスペックを半分を損失している。

 

まずナルガクルガ種はしなやかに動かすためだけの筋肉を付けてきた生き物だ。 爆発的に全身の筋肉を膨らませて敵の懐に飛び込む戦いをする。 尻尾が伸び縮みするのも筋肉の使い方が上手いからな。 だから暗殺者のような動きが可能である。

 

しかし左側全てが使い物にならない今、全身の筋肉を爆発させて飛び込む動きはもうできない。 かと言って今までの戦いを直ぐに変えることはできない。 そのためこれまでの爆発力を全て右足で補っていた。 お陰で亜種ナルガの動作がよく分かる。 フラフラのこの体でも奴の攻撃は回避できるくらいに奴はもう弱い。

 

 

 

「あっはははは!!」

 

 

「グォォォア!?!?」

 

 

 

亜種ナルガから見て左回りに攻撃してくる俺に対応が取れずイライラを隠せない。

 

亜種ナルガは痺れを切らして左側を尻尾で払おうとするが、尻尾の大ぶりに対して左足は支えきれず転倒した。

 

惨めな姿を晒す死に間際なソイツを俺は嘲笑う。

 

皮膚が爛れている首筋の肉に向けて狙いを定める。 右手で握りしめているプリンセスレイピアを逆手に持ってねじ込み、左手はファンゴの牙でその肉をガリガリとこじ開ける。 ぐちゃぐちゃとほじくり、柔らかい肉からは激しく血しぶきが上がる。 亜種ナルガは悲鳴をあげた。

 

 

「キィィィィ!!」

 

「はっはっはっは!!!」

 

 

 

ここは湿地帯だから水分が多く、水没林に住むモンスターは少しだけ皮膚が柔らかくなる場合が多い。 それは水没林で縄張りを作るナルガクルガ亜種も同じだ。 そこにレイアの強力な毒で皮膚の腐敗が加速させたのでファンゴ程度の牙でもその肉をぐちゃぐちゃにこじ開けることができる。

 

 

「グォォォア! グォォア!!? ググアア!!!」

 

 

深淵の暗殺者は大きな悲痛を上げながらその巨大で暴れる。 プリンセスレイピアは亜種ナルガの血肉を纏いながら抜けてしまう。 そんな亜種ナルガは怒りと恐怖を交えながら狂乱して俺から離れようとする。

 

しかし右脚から落とし穴に突っ込んでしまう。

 

 

 

「どうだ? 毒々しい罠の味は?? なぁ??」

 

 

「ギャァァァァア!!!!」

 

 

半分以下の効果しか発揮できないだろうトラップツールだが、別にそれでも構わなかった。

 

ドクガスカエルやフロギィの毒袋などを使って確実に毒に沈み込ませるための毒々しい落とし穴だ。

 

けれど雑な落とし穴なのだから、亜種ナルガならこの程度直ぐに抜け出すだろう。 しかし亜種ナルガは運悪く右側部分を落とし穴に突っ込んでしまう。 落とし穴に囚われた右脚では抜け出せない。 そのため落とし穴の外に出ている左側全体を使って抜け出そうとする…が、今の亜種ナルガでは抜け出せる訳がない。 弱々しくなった左足を使って必死にもがき続けるが、ここは足場が滑りやすい水没林だ。 こんなところで抜け出せる訳もなく、ガクガクと足を動かしながらもがき苦しみ、毒々しい落とし穴の効果でさらに奴を追い込む。

 

 

もうまともに動けないだろう。

 

 

 

「終わらせようか」

 

「!?」

 

 

亜種ナルガは俺を捉えたその右目で威嚇する。

 

 

笑わせるな。

 

どうみてもその眼は恐怖だよ。

 

 

 

「…」

 

 

「ギャァ!ギャァ!!」

 

 

近づく俺に向けて威嚇する亜種ナルガ。

 

死に征く声になんの価値もない。 左手に握っていたファンゴの牙を捨てるとドクガスカエルを取り出した。 亜種ナルガはその牙を剥けながら掠れた声でこちらを威嚇する。 俺はその空いた口に左手を突っ込んだ。 亜種ナルガの牙が左腕に食い込むが痛みは感じない。

 

もう体に感覚は無い。

 

薬物の取りすぎで俺がどこまで俺なのかわからない。 わからないけど関係ない。 俺は弱いが、俺がお前を追い込んだ。 俺より強いお前は俺より弱くなるように追い込んだ。 今のお前は俺より良い。 弱いから強い俺に殺されろ。 強かったお前は弱い俺に殺される。 弱いお前が弱いから殺される。 お前はもう弱い。 弱くなったから殺されろ。 強いは弱くなった。 弱いは強くなって弱いお前は弱かった俺に殺されろ。 ああ、弱い俺に弱いお前は強いだろうが弱くなったお前は強い弱いになったから殺されろよ。 殺されよ。 殺されてくれよ。

 

 

 

「さっさと死ねよぉォォ?????」

 

 

ドクガスカエルを握りつぶして亜種ナルガの体に流し込む。

 

異物を放り込まれて抵抗する亜種ナルガ。

 

 

 

うるさい…

 

ドクガスカエルの血肉と毒液の混じったその左手で亜種ナルガの右目に触れると爪を立て掻っ切る。

 

悲鳴をあげる亜種ナルガにプリンセスレイピアを逆手に持って振り下ろす。

 

レイピアは左目を深く貫き、口内を貫き、舌を貫き、顎を貫き、口が開かないように固定するする。

 

ドクガスカエルを吐き出せない亜種ナルガはガクガクと痙攣を起こして泡を噴き出し始める。

 

 

 

「あぁ……はは、ここに、あったのか…」

 

 

亜種ナルガと戦って失っていたプリンセスレイピアの盾を運良く見つけた。

 

それを拾う。

 

掠れて死にゆく亜種ナルガに近づき…

 

その頭を叩く。

 

 

 

「ガッ……ガッ……ガッ………ギィ…ガッ…」

 

 

 

叩く。

 

叩く。

 

何度も叩く。

 

力か続くまで叩き潰す。

 

殺し切るまで何度でも……殺す!!

 

 

 

 

「……… … …」

 

 

 

 

 

気がついたら白目を剥いて絶命していた。

 

 

ああ、終わったようだ。

 

 

嵐は収まっている。

 

 

すると亜種ナルガの口から吹き出したドクガスカエルの煙を吸って、視界が揺らぐ。

 

 

 

「んぐっ………!!!???」

 

 

 

酷く嘔吐する。

 

あらゆる薬物を摂取した体が壊れた。

 

 

 

「ひゅ……ひゅ……」

 

 

 

な、なにか、飲んで抑えないと…

 

 

薬は?

 

 

ああ、無い……無い!

 

 

クスリはドコダ?

 

 

っ、左手に握る、それでも良い。

 

 

ぐにゃりとした、ソレを飲み込んで、抑える。

 

 

 

 

「あ、は……」

 

 

 

そして、意識が薄れて、倒れた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

4日続いた水没林での死闘。

 

 

嵐が静まったそのど真ん中で、俺は倒れる。

 

 

静かになった事で水没林は騒ぎ出す。

 

 

次々とモンスターの声が聞こえてきた。

 

 

とても危険な状況。

 

 

けど、もう、動けない。

 

 

何もできない。

 

 

このまま食われて死のだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ヒヒーン!!

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ…」

 

 

 

 

 

幻想的な白い姿を捉える。

 

 

嵐は収まったのに、雷が落ちている。

 

 

 

しかし、それだけではない。

 

 

誰かが、もう一人だけそこにいた。

 

 

 

 

 

_兄ちゃん! まだや! まだあかんって!!

 

_そんなところで死ぬんじゃないで!!!

 

 

 

 

 

 

 

少女の声も聞こえる。

 

 

あれは、誰だろうか?

 

 

ハンターか?

 

 

いや、そんな雰囲気はしない。

 

 

けど(いかずち)のように鉢巻を靡かせた少女だ。

 

 

 

 

 

「ぉ、ま……ぇ、は……」

 

 

 

 

 

 

__もう語ったらあかん! 声出すと死ぬで!

 

 

 

 

 

しかし、語らずとも死ぬだろう

 

 

だんだんと……呼吸が小さくなる。

 

 

だめだ、このまま死ぬのだろうな…

 

 

 

 

 

 

__そんなことはウチがさせんわ!!

 

__気をしっかりもたしいや!!

 

 

 

 

 

彼女は俺の死を否定する。

 

 

すると白い獣と、俺に近づく。

 

 

いや、これは獣と言える存在なのだろうか?

 

 

感じたことない威圧感が俺の頬を撫でた。

 

 

いつのまにか他のモンスターの気配が無くっていた。

 

 

 

 

これは……竜?

 

いや、龍?

 

いや、どれも違う…

 

 

………これは……もしかたら……幻獣??

 

 

 

 

 

 

__さぁ、飲み込むんや…

 

__飲んで、生きて、(きた)るべきことのために…

 

__あんたは必要なんや、だから頼むわ…

 

 

 

 

 

何かが喉に通る。

 

 

薬を欲して痙攣していた体が治る。

 

 

呼吸が元に戻り始めた。

 

 

 

 

「あな…た…は…だれ…です……か?」

 

 

 

 

問いかける。

 

すると案外感情をコロコロさせるようだ。

 

困ったように首をかしげる。

 

 

 

 

__うーん、それは堪忍してほしいわ。

 

__でもまた会える時が来ると思うから…

 

__そのために(あん)ちゃんは生きるんやで……

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に聞いて、雷が落ちた。

 

 

水没林は白色に光る。

 

 

その少女も背を向けて雷に走り出す。

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

よく見たら、耳と、尻尾が、生えている。

 

 

いったい、あの子はなんなのか?

 

 

 

 

 

だが、言葉に表すなら…

 

 

それはまるで "白いイナズマ" の如くだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ははっ」

 

 

 

 

走馬灯ってあるんだな。

 

 

でも、痺れるような雷が体を走った気がする。

 

 

それが俺の命を食い繋いでくれた…気がした。

 

 

 

 

「グルルル!」

 

 

「ッ!」

 

 

 

謎の爆発にて打ち上げられ、そのまま地面に衝突する瞬間に意識を取り戻す。

 

体を捻って辛うじて地面に着地した。

 

すると意識がある俺に気づいた紫色の獣はトドメを刺そうと鋭い尻尾を伸ばしてきた。

 

右手から離さなかったオデッセイブレイドを斜めに向けるとそれを弾き、体を捻りながら爆破投げナイフを飛ばして紫色の獣に直撃すると火薬と共に強烈な色で弾けた。

 

 

 

「!」

 

 

いつのまにか紫色の煙が着地する場所を漂う。

 

これは初見殺しの爆発の正体か!!

 

 

 

「すぅっ…!!」

 

 

俺は体を1回転させながら大股一歩分を引いて攻撃を回避する。

 

すると先程いた場所にフヨフヨと浮く紫色の煙は爆発した。

 

 

 

「ッ!」

 

 

一気に踏み込んで煙を払うように一閃する。

 

しかし片手剣では間合いが足りない。

 

 

 

「グルルル……グォォ!!」

 

 

 

紫色の獣は一閃を回避すると俺を睨むが、突然その場をジャンプすると壁を走って俺を飛び越えた。

 

 

「!」

 

 

まずい! あのまま翡葉の砦に向かうつもりだ。

 

俺は追いかけようと思い体を動かすが負ったダメージにて跪いてしまう。 だめだ、こんな体では追いつけないな。 まずこの痛みをなんとかしないと。 あと仲間のハンター達も心配だ。 懐から生命の粉塵を取り出してそれを周りに振り撒く。 すると傷口に粉塵が纏わり付き出血などを抑えてダメージを回復してくれる。 ひとまずこれで大丈夫だろう…が、早く起き上がって移動しなければ百竜夜行のモンスター達に巻き込まれてしまう。 俺はランスのハンターを叩き起こして避難するように呼びかけて、俺は関門の方に向かう。

 

 

「っ」

 

 

 

俺よりもウマ娘が心配だ。

 

 

そして無事だろうか!?

 

 

どうか声が届いてくれ!

 

 

返事をしてくれ!

 

 

 

「セイウンスカイッッ!!」

 

 

「なーに?」

 

 

「ふぁ!?」

 

 

 

間抜けな声が飛び出して、それを聞いた彼女は一度目を丸くするが、でも俺の様子を悟った彼女はニンマリと笑って無事を教えてくれる。

 

 

 

「っ、無事で良かった!」

 

 

「にゃはは、アマグモも無事で良かっ…うわっ!!?」

 

 

無事である彼女をもっと知りたい。

 

その可憐な両方を掴んで抱き寄せる。

 

 

 

「ああもう! あんなのが来たものだからすごく心配だったぞ! はぁぁぁ、良かったぁ…本当に無事で…」

 

「!、!? ぁぁ、ええと…その…ぶ、無事なのは、嬉しいけど…ええと……その…ぅぅ…ぅ」

 

 

 

 

 

「アマグモさん」

 

 

 

「「!」」

 

 

仄かなオレンジ色の髪を靡かせるウマ娘、サイレンススズカが姿を表す。 他にも百竜夜行をマラソンで惹きつけてくれたウマ娘達が無事な姿を見せる。 あと関門のグルグル回れるところからは騒ぎは聞こえない。 もしや百竜夜行のモンスター達は去ったのか? だとしたらここに留まる理由もないな。

 

それと…

 

 

 

「はい、アマグモさんも接敵したと思いますがあの見たことないモンスターが百竜夜行のモンスター達を蹴散らしました。 それで来た道を逃げるモンスターに巻き込まれないようわたし達は岩陰や地下に隠れてやり過ごした、そんな流れです」

 

 

「そうか。 スズカ達も無事で良かった。 とりあえず移動だ。 まだ足が動くものは翡葉の砦に向かう」

 

 

動けるウマ娘達を連れて翡葉の砦で戦うウツシ教官やフゲンさん達のところに向かう。

 

この百竜夜行……何かがおかしい。

 

翔蟲を使ってショートカットを行い、一足早く翡葉の砦まで向かう。

 

 

 

「ところでセイウンスカイさん」

 

「へ? ええと…な、なにかな…スズカさん」

 

 

勘の良いセイウンスカイだからこそ嫌な予感は気のせいだと思いながら声をかけるサイレンススズカに首を向ける。

 

 

「アマグモさんとなかなかに、お熱い…ね?」

 

「ッッ〜!!」

 

 

 

「?」

 

 

 

セイウンスカイ頬を染めながら耳を畳む。

 

そして俺と顔を合わせるとセイウンスカイは慌てたように速度をあげて走って行った。

 

ちょっと!? せっかくウマ娘よりも先にショートカットしてるのにそれよりも先に行ってどうする!?

 

あー、まったく……翔蟲足りるかなぁ??

 

やれやれ、人間の身でウマ娘を追いかけるって大変なんだよ。

 

 

それから本戦となる翡葉の砦の近くに到着した。

 

ウマ娘達は隠れ道に入ってもらい、カムラの里の最終関門まで進んでもらう。

 

その先にシンボリルドルフがエアグルーヴがいるはずだ。

 

指示を貰い受けて次に備えるはずだろう。

 

 

 

だが…

 

あの紫色の獣は最後のモンスターを食いちぎると去って行ったらしい。

 

どこかに隠れている?

 

いや、そんなことはない。

 

匂いが遠くに向かって行った。

 

 

 

「わかるのですか?」

 

 

「わかるよ。 さっきアレと交戦した時に爆破投げナイフをぶつけてやったんだが、爆発の中に"ペイントの実"を混ぜている。 強力な着色と独特な匂いを付与する代物だが、グラスワンダーもロンディーネのところで見たことあるだろ?」

 

 

「ええ、珍しいものでした」

 

 

「ここではフクズクを使って位置を確認したりできるからペイントの実は出番ないけど、俺の生まれた村ではペイントの実を使ったペイントボールが手放せなくてな。 万が一のためにペイント系は用意してる」

 

 

「なるほど、たしかに…匂いが独特ですわね」

 

 

 

独特な少しだけ匂いは残っているが、でも遠くに流れている。 あの紫色の獣はここを離れてくれたようだ。 ちなみにケシキが一太刀浴びせて牽制したらしい。 俺なんていきなり吹き飛ばされて、それで攻撃は簡単にいなされたのに、良くやる奴だよ。

 

 

ともかく、こうして百竜夜行は乗り越える事に成功した。

 

しかし不安要素を残しつつ戦線の状況を整理する。

 

フゲンさんと共に付き添うシンボリルドルフもまだ緊張感を残して今後の話を広げている。

 

まだ解決したわけでもなく、また一つだけ宴を乗り越えた、ただそれだけなんだ。

 

 

 

「なんだったんだ、アレは…」

 

 

ジンオウガのような四足歩行だが、圧倒的にこれまでとは違うモンスターだ。

 

アレが百竜夜行の原因なのか?

 

 

……いや、そう決めるのは早い。

 

例えばユクモ村でも近辺の災害や環境の変化はジンオウガのせいだと思ってたが実の正体はアマツマガツチと言われる嵐龍だった。

 

ならばあのモンスターは百竜夜行の一部だと考えて身構えた方が良いだろう。

 

たしかにあの紫色の獣はかなり強そうなモンスターだったが……けど、それだけだ。

 

こんな異常事態が起きているのだ。

 

もっと何か、とんでもない何かがあって、カムラの里は脅かされようとしている。

 

そう思ってならない。

 

 

 

「……ともかく、帰って休みたい」

 

 

 

百竜夜行を乗り越えた朝日を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

パクッ

 

パリパリ、もっきゅ、もっきゅ…

 

 

!!

 

 

 

「なにこれすごい!」

 

「おお〜、外カリカリで中身もっちり!」

 

「うむ、おかわり」

 

 

「あははオグリさん。 それあくまで試作品だからおかわり無いんだよね。 普通のうさ団子で良いならあるけど?」

 

 

「うん、それがあるなら是非いただきたいヨモギちゃん」

 

 

 

相変わらずオグリキャップはよく食べる。

 

さて、あの百竜夜行から3日が経過した。 紫色の獣に関しては"マガイマガド"と呼ばれるモンスターであり、今よりも若くて現役だったフゲンさんとハモンさんは奴と交戦経験があったことが明かされる。 討伐には至らずハモンさんが大怪我を負っただけで生きて帰ってきたらしい。 それが引き金でだんだんと武器が持てなくなり、ハンターを辞めて加工屋になったとか?

 

百竜夜行も合わさって不安が膨らむ中、それでもヨモギちゃんが元気を振る舞ってカムラの里に活気を呼び寄せる。 その過程でデルクスを使ったうさ団子を開発すると俺とセイウンスカイを呼び寄せ、そして試作品のこの団子を頂いている。 試食に関しては素材を手に入れてきた俺とセイウンスカイに任せたいと思ってたら…

 

オグリキャップが差してきた。

 

うん、知ってた。

 

 

「きな粉と混ぜて更に水分を吸い上げたのか。 それで表面は硬くて噛み応えを作ったんだな? 良いアイデアだ」

 

「うんうん、とてもおいしいよ〜」

 

 

「えっへへ〜、ありがとう二人とも!」

 

 

名前は何になるだろうか?

 

そんな事を考えていたが…

 

 

 

「でもね、それは無しにしようかなって思う」

 

 

「え? そうなのか?」

 

 

「うん。 お団子はやっぱりもちもちしてた方が美味しいから。 パリパリなのは焼き海苔とかで良いかな?って考えたんだ。 ごめんね、せっかく遠い砂漠までデルクスを狩猟してくれたのに…」

 

 

「いやいや、別に良いさ。 美味しいお団子をありがとう」

 

「にゃはは〜、また試作品ができたら味見させてね〜」

 

 

「うん! その時はよろしくね!」

 

 

ヨモギちゃんは次のお客さんを見つけると元気よく迎える。

 

俺は残りの試作品を味わいながら緑茶を楽しみ、セイウンスカイもポワ〜と空を見て眠りそうになっている。

 

とりあえず今は平和なんだな。

 

 

 

「セイウンスカイ」

 

 

「ん〜? な〜に〜?」

 

 

「明日さ、少し戻ろうと思う」

 

 

「?」

 

 

 

緑茶を飲みながら一息つく。

 

集会所の入り口から聞こえる太鼓を環境音にしながらセイウンスカイは耳をピクピクと動かす。

 

俺は緑茶を飲み込みながは紅葉を眺め、あの場所も同じ光景だったな……と、懐かしみながらセイウンスカイに答えた。

 

 

 

「戻るってどこに?」

 

 

「ユクモ村」

 

 

「え?」

 

 

「そこに一度帰ろうと思う。 "アレ"を回収するために」

 

 

 

 

 

アレに握れば、その時を思い出す。

 

 

水没林で味わった5日間の地獄を…

 

 

でも、いつかどこかで役に立つだろう。

 

 

そう予感する。

 

 

何故、急にアレ思い出したのか。

 

 

間違いなく走馬灯が原因だと。

 

 

 

「セイウンスカイ、着いてくるか?」

 

 

「ユクモ村に?」

 

 

「ああ」

 

 

「にゃはは、当然行くよ。 仮に一人で勝手に行っても、逃げられると思わないでね?」

 

 

 

 

 

逃げが得意な彼女よりも先に進めるわけがない。

 

 

そう笑ってユクモ村に帰るための準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

つづく

 





走馬灯??
アレは一体なにクロスなんだ??

「モンハンのダブルクロスやで」

なるほど!!



さて、良くある主人公の過去がヤベー事があったテンプレパターン。
まぁでも好きですよ?

あとしれっとマガイマガドくん相手に戦ったアマグモくんもなかなかですね。
こいつはもしかしたらエースって奴だな!


あと次回はユクモ村編です。
もちろんユクモ村にもウマ娘もいます。

誰が出てくるかな?


ではまた


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10話

カムラの里と同じくらいに和風と紅葉が彩るこの場所は湯治地として有名な"ユクモ村"である。

 

観光客はこの温泉を求めてこのユクモ村に訪れるが、一年前までジンオウガがユクモ村の近辺で暴れていたため、来たる観光客などに被害をもたらしては客足が途絶えるなどそこそこ大変な時期があった。

 

今はなんとか現状が落ち着き、観光客も増えつつある中、俺とセイウンスカイもそれらに紛れるかのようにユクモ村に訪れた。

 

 

「アマグモじゃないか!?」

「ア、アマグモさん!」

「アマグモじゃないですか!久しぶり!」

 

 

村の人達は俺を覚えていたのか一眼見て名前を言い当てる。 ここは落ち着いた村だから人々の声が良く聞こえるため、俺の名前を叫ぶ人々の声にゾロゾロ集まってきた。 やれやれ、だから観光客に紛れてこっそりと来たかったが毎日ユクモ村の入り口に腰掛けてるあの野郎が騒ぐから無理に等しかった。

 

仕方ないので「ただいま」と言って出迎えてもらうことにした。

 

 

「ねー!アマグモ兄ちゃん!お隣さんは?」

「あー! 隣とお姉ちゃんはもしかして?」

「やっぱり耳が生えてるからウマ娘だよ!」

 

 

紅葉狩りをしていた子供たちは手を止めて集まると質問攻めを始める。

 

一応俺もこの村で上位ハンターとして認められて、ジエン・モーランを討伐した実績は持っているからそこそこ有名人である。

 

そのため大人も含めて子供たちは俺のことを知っている者は多い。 一緒に温泉に浸かってクルペッコの人形を湯船に浮かべて遊んであげたりとしたこともあるので、懐いてくれてる子供達からはアマグモ兄ちゃんと慕われている。 村を出る時も「行かないで!」と泣きつかれたこともあるくらいにだ。 そんな子供たちにセイウンスカイは自己紹介する。

 

 

「にゃはは〜、わたしは空のように青いセイウンスカイだよ〜」

 

 

「セイウンスカイお姉ちゃん!」

「よろしくー!」

「?? ……ねー、ねー、アマグモ兄ちゃん」

 

 

「どうした?」

 

 

 

ちょんちょんと服をつままれる。

 

何か聞きたいことがあるんだろう。

 

 

 

無垢な表情の子供の言葉を待っていると…

 

 

 

「お姉ちゃんって……アマグモのお嫁さん?」

 

 

 

「「ぶふーーッッ!!!!!」

 

 

 

「「「「!!!???」」」」」

 

 

 

 

 

この後めちゃくちゃ大変だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、少々面倒なことになった。

 

まず無垢な子供達からジンオウガの攻撃なんかよりも強烈な一撃を貰ったセイウンスカイは1乙すると「無理ー!」と叫び、そして知らない村の奥に逃げてしまった。

 

ここで逃げ馬しなくても良いのだが、子供達の大タル爆弾G発言はかなり強力で、羞恥心を部分崩壊させられたセイウンスカイはぷるぷる震えながら耳を折り畳んで、尻尾は恥ずかしさで萎れてしまい、怒ったウラガンキンよりも煙を吹き出したその顔を手で隠してユクモ村のどこかにエリア移動してしまった。

 

中々にやり手なこの子供たちは将来頼もしいボマー系のハンターになるんだなと俺は遠い目をしていると大人達からも揶揄われる。

 

俺はトレーナーとオトモダービーのパートナー関係だと説明したが、むしろパートナーの発言に茶化されて面倒だった。

 

そしたら一人が「夜は乗りこなしたのか?」と意味深に要らない発言をして来たのでその頭をアイアンクローしてそのまま足湯の温泉に投げ飛ばした。

 

さすがに子供達のいる近くでその発言は許されなかったので村人から咎められていた。

 

馬に蹴られて地獄の湯船に落ちろ。

 

 

 

「あ、村長さん!」

 

「あら、アマグモさん、おかえりなさい。 お久しぶりでございます。 しかし今日は突然どうしたのですか?」

 

「アレを回収しに参りました。 あとユクモ村の温泉も恋しくなりまして、少しだけカムラの里を空けて…まぁ、休暇という形ですね」

 

「あら、そうなのですね。 それでしたらしっかりとこの村で体を休めてください」

 

 

会話を終えた村長さんは落ちてくる紅葉を手のひらに受け止めながら微笑んで、村の平穏を噛み締める。

 

これだけ悠々とした姿勢でユクモ村の時間を過ごしてる村長さんは安心感の塊だ。

 

ユクモ村に帰って来たと思えるくらいである。

 

 

 

「さて、セイウンスカイは何処だ?」

 

 

正直あの子供達の大タル爆弾G発言はびっくりしたし、俺もポーカーフェイスの中で心拍数を抑えるに必死だった。

 

あの場から逃げ出したくなるのはわかる。

 

けれど知らない村で逸れるのは些か心配だ。

 

一応村長さんも見たことないウマ娘が勢いよく走り去った姿を見たようなので、間違いなくセイウンスカイであることが分かる。

 

そんなわけでセイウンスカイの情報を集めていると…

 

この世で一番面倒な奴にエンカウントした。

 

 

 

「おお? これは新たな獅子脅し(ししおどし)マスターか?」

 

 

 

後ろから突然声をかけられる。

 

関わると面倒そうな雰囲気を感じたが、無視するのも難しいので諦めて振り返る。

 

 

「それは脅すのか、脅されるのかどっちなんだ?」

 

 

「そりゃもちろん省みぬの方だろ?」

 

 

「いや、何に対してだよ"ゴールドシップ"」

 

 

「何に対して、って…そりゃ袋叩き系男子たるカボチャの種に対してだろ?何言ってんだコイツ」

 

 

「ししおどしの要素何処行ったよ、何言ってんだコイツ」

 

 

背の高い彼女の名前はゴールドシップ。

 

彼女はカムラの里ではなくユクモ村に滞在する数少ないウマ娘だ。

 

何故ユクモ村かというと「第14惑星よりも面白そうだから」を理由にしてカムラの里ではなくこちらの方で活動している。

 

これに関してはシンボリルドルフも手綱を握ることができず彼女に対して困っていた。

 

それでもユクモ村にウマ娘を活動させる計画はあったようなので現状そのままにしているらしい。

 

一応ゴールドシップも里の役には立ってる。

 

 

あとカムラの里は第14惑星なんだな。

 

うん、どうでもいい情報ありがとう。

 

 

 

「そんな獅子脅しマスターにいい情報あるぜ」

 

 

「情報?」

 

 

 

もしかしてセイウンスカイのことか?

 

 

だとしたら助かる…と、思ったが。

 

 

 

 

「マカライト鉱石をココットライスで食べる方法なんだけど」

 

 

「あ、結構です」

 

 

「いやいや遠慮しなくて良いぜ! 慣れるとドラグライトまで食えるようになるかさ! そしたら一緒にバサルモスごっこしようぜ!」

 

 

「お前はまず常識を食ってくれ」

 

 

「味噌汁こぼして捨てたから無理だな」

 

 

 

話にならないことがよくわかったゴールドシップに頭を抱えているとメジロマックイーンが走って来た。

 

ゴールドシップは「やべぇ邪神の福神漬けにされる!」と言い残してティガレックスの素材を使った装衣を揺らしながらメジロマックイーンから逃げて言った。

 

ゴルシは変わらずゴルシのようだ。

 

 

「あ、すみません。 セイウンスカイ見ませんでした?」

 

「あ、はい! 見ましたよ! 集会所の方まで走って行きました! 石階段を駆けて行きましたが中々鍛えられた足腰でしたね! よーし! もうワンセット筋肉を追い込もうかな!」

 

 

 

なるほど集会所の方か。

 

間違って温泉にダイブしてなければ良いけどそこまでドジでもないだろう。

 

俺は久しぶりにこの石階段を登って集会所に足を運び、集会所の中に入れば温泉の香りが強くなる。 ここは珍しいことに集会所の中に温泉が付いている。 それもかなり大きい温泉だ。 竹で柵を作っているが身を乗り出さなくても温泉が全然見える程である。 しかも混浴だ。

 

流石に女性用のエリアも存在して、そこはしっかり壁を作って隠している。 それでも混浴のエリアに関しては丸見えで、湯煙が立ってなければ受付嬢の仕事姿も湯船に浸かりながら見える程だ。 かなりオープンな場所の上に、集会所は温泉の湿気で大丈夫なのかと心配だが大半は露天風呂のように外に出ているので湿気は外に飛ぶ…と、言えども嵐で外を閉めてる時は集会所の熱気も上がる。 上に湯気を逃す場所があるとは言え、正座してあまり動けない受付嬢が少しだけ可哀想に思えるが、彼女たちもプロでありそこら辺は慣れているらしい。

 

 

 

「あ、セイウンスカイ」

 

 

「!」

 

 

「温泉眺めていたのか? 入りたかったら入って来ても良いぞ。 俺は色々と用があるからしばらく暇になるだろうし」

 

 

「あー、ええと…ま、まだ後でいいかな? アマグモの用事に付き合うよ。 そのために来たから」

 

 

「そうか? じゃあ加工屋に向かうぞ。 アレは加工屋が管理してるからな」

 

 

「わ、わかった………その、アマグモ、探させてごめんね」

 

 

「ああ、気にするな。 それとなんだかんだで温泉気になってたんだろ? 今日はユクモ村で泊まるから好きな時に好きなだけ入ったらいいさ」

 

 

「あ、うん。 ありがとう」

 

 

 

まだどこかぎこちないけど少し落ち着いたセイウンスカイを連れてユクモ村を歩く。

 

もうワンセット筋肉を追い込むウマ娘とすれ違いながら来た道を戻るだけだが、こうして今一度ゆっくりと紅葉の下を歩いていると心が落ち着く。

 

観光しながらユクモ温泉タマゴを啜るとこれがまた美味しんだよなぁ。

 

後でセイウンスカイと食べたいところ。

 

 

 

「加工屋さん、久しぶり」

 

 

「オウオウ、久しゅうなぁアマグモや。 どれ、ここに来たということはアレじゃろう? ならここの裏に回って2番目の蔵を覗けい。 真ん中に置いてあるわい」

 

 

 

俺は加工屋の裏に回る。

 

 

言われた通りに2番目の蔵を開けて中を除いた。

 

 

するとそのど真ん中に……アレがあった。

 

 

 

「アマグモ、もしかしてアレ?」

 

 

「ああ」

 

 

 

蔵の中には加工した武具が飾られている。 中には廃棄されるであろう物までも散りばめられていた。 そこそこごちゃごちゃしたような蔵の中であるがとある一角…いや、奥の真ん中まで続く道を開けるようにそこだけは足場を確保されていた。 この蔵に初めて入ったセイウンスカイだが、俺がユクモ村まで求めてやってきた代物に対して直ぐに理解したみたいで、ソレに指をさす。

 

 

「もしかして、この細くて緑色に細長い片手剣の……あれ?」

 

 

折れている。

 

それが率直な感想だ。

 

彼女のその表情も見るだけで分かる。

 

 

 

「ええ!? お、折れてるけど!?」

 

 

「それは"プリンセスレイピア"と言われるリオレイアの素材で作られた片手剣だ。 あと心配はいらない。 レイピアの半分はとある闘いで折れてしまった。 だから折れているのは前からなんだよ」

 

 

加工屋で壊れたと思っていたらしいく、セイウンスカイは俺のために慌ててくれたらしい。

 

あたまをポンポンと撫でて落ち着かせると、俺は更に奥に立てられて飾られている武器に指を刺す。

 

 

「プリンセスレイピアの片割れはこれと一緒だ」

 

「!!」

 

 

セイウンスカイは目を見開く。

 

彼女がイメージしていたソレよりも規模は大きいから。

 

 

「片手剣…じゃない?」

 

 

 

俺はうなずく。

 

回収しに来たソレは片手剣では無い。

 

二人で武器を眺める。

 

 

濁ったような濃ゆい緑色の鞘。

 

眺めるているだけでその眼を刻むような刃筋。

 

いや、実際にその眼を刻んでやった代物。

 

正しくはその末路を描いて刃となった存在。

 

長き死闘の中で得た新たなる長刀の産物。

 

樹海に潜みし深淵の暗殺者の名に恥じぬ切味。

 

これまでの武器よりもそれは遥かに優れる。

 

 

その武器の名は…

 

 

 

「疾風刀・裏月影……太刀だ」

 

 

「太刀!? か、片手剣じゃなくて、太刀?」

 

 

「ああ。 …驚いた? 俺は片手剣だけじゃなくて太刀も使える。 ハンターのデビュー当時は片手剣だったけど、大型モンスターと戦う時は太刀を使って戦ってきた。 元々ハンターは一つの武器に縛られず戦える生き物だ。 無論それぞれの拘りを持って一つの武器のみを高めるハンターは多い。 その方が最大の武器でもある。 俺はなんでも使えるわけじゃ無いけどその時に合わせて武器を変えてきた。 太刀が使えるのもそれが理由だ」

 

 

「だからケシキに太刀を教えてたと、言ってたんだ」

 

 

「そういやそうだったな。 太刀はそこそこの経験はあるから、小型モンスターの斬り方と、中型モンスターの戦い方と、大型モンスターの捌き方を教えた。 ケシキはセンスがあったのからものすごい勢いで化けたな。 すこしだけ誇らしい」

 

 

「ふーん、そっか。 でもアマグモもちゃんと自分の太刀を持っていたんだね。 でもなんでカムラの里に持ち込まなかったの?」

 

 

「役割が決まってたから。 カムラの里でも武器の回収班としてギルドマスターから目をつけられて派遣させられたんだ。 もちろん大型モンスターとも戦えるけど、いまやっている回収班ターとしての腕前もあったからさ。 なら太刀は良いかなって思った。 それに持ち運びが大変だったし……まぁ、何よりこの武器を通して上位ハンターである事を隠す必要がある」

 

 

「え、ええ!? あ、アマグモって、下位ハンターじゃ、無いの?」

 

 

「あれ?言ってなかったけ? 俺はユクモ村では上位ハンターだよ」

 

 

「うそ! 初めて知った!!」

 

 

「そうか。 まぁ何というか、色々と都合があってカムラの里では下位の扱いなんだ」

 

 

「都合が良い??」

 

 

「何というかユクモ村って"専属ハンター"ってのが少ないんだよね。 ユクモ村が代表するハンターは上位になる事が条件…と、言うのは少し違うけど専属ハンターとして恥ずかしくない証は上位ハンターであること。 そんな俺も上位として腕前が認められるようになって、そのまま俺もユクモ村の専属ハンターになろうとしたその直前だった。 丁度ギルドカードを更新するハンコを押す間際にカムラの里の話が舞い込んできた」

 

 

 

_ハンター殿、お主にお願いがあるにゃ。

 

_とある国へ派遣して助けやってほしいにゃ。

 

_ここで上位になると難しい、頼むにゃ。

 

 

 

「上位になるとフットワークが重くなって異動が難しくなる。 俺もそれは理解していた。 特に専属ハンターがあまりいないユクモ村にとって上位ハンターは村の英雄なんだ。 村の安平が約束される剣として皆から慕われる。 そんな村の英雄を容易く扱ってはならない」

 

 

「だから、上位に更新する前のアマグモが?」

 

 

「ああ。 上位になると自然とその村の専属みたいになる。 そのためギルドの登録状況まだ下位である俺が選ばれた。 もちろん異動を断ることが出来た。 でも俺の代わりに専属ハンターとしてユクモ村を支える人が他にいたから承諾した。 あと個人的な理由でタイミングも良かったからな。 それでギルドは回収班をカムラの里に連れて今があるんだ。 都合が良いとはそう言う事であり、役割が決まっているから太刀を持っていく必要が無くなった……が、百竜夜行を考えるとそうも言えなくなる」

 

 

「マガイマガド…」

 

 

「ああ。 あんなのが出て来てしまったんだ。 もしかしたら俺にも本来の在り方を求められるだろう。 それに最近はカムラの里のギルドマネージャーも動きが激しい。 あと恐らくユクモ村から俺の話も通っているはずだから、モンスターの討伐に狩り出される可能性は高い。 そうなったときのためにこれを回収したかった」

 

 

「なるほど、ね〜」

 

 

 

疾風刀・裏月影を手に取って鞘に収める。

 

折れたプリンセスレイピアも布に包んで持ち運び、セイウンスカイと蔵の外に出た。

 

久しぶりにそれを背負う。

 

ああ、とてもしっくりくる。

 

 

 

「にゃはは、綺麗な緑色だね。 とてもおどろおどろしく濃ゆい色してるけど」

 

 

「素体が元々緑色なんだけど、この折れたプリンセスレイピアの片割れを溶かしてそれを着色に変えたからいつもよりも濃ゆい緑色なったんだよ」

 

 

「ふーん、なるほどね……あれ? そうなるとレイア素材が使われてるなら着色に使ったそれって…」

 

 

「お? 気づいたか。 毒に慣れない人が握ると皮膚が溶けるぞ、この鞘」

 

 

「ええ!!? 嘘ぉ!!?」

 

 

「あははは、冗談だよ。 加工時に毒は抜かれているから問題ない。 でもそう言って脅してるからこの太刀に触れる人は居ないよ? だから盗みの心配がないな」

 

 

「な、なーんだ。 もう、ビックリさせないでよね」

 

 

「悪いな。 でも尻尾がピーンとして可愛かったぞ」

 

 

「っ!? あ、あはは〜、にゃ、にゃにを言ってるかな〜? セイウンスカイが可愛いなんて、アマグモは見る目が無いんじゃない〜? ほら、可愛いと言うなら、まだグラスちゃんとか、テイオーの方が、その…可愛いでしょ?」

 

 

「いや、俺はお前が良い」

 

 

「ッ〜!!」

 

 

「あ、逃がさないよ。 また逸れると面倒だから」

 

 

「え、え、ええ!? …ま、待って! いや! だめ! お、おもはゆいんだけど!? なんでアマグモもそう簡単に、こう、こう…ええと、恥ずかしくもなくそう言っちゃえるのよー!」

 

 

「ユクモ村の人間はな、大体こうだ」

 

 

「なにキリッと言ってるのかな!? うわー! もう! 逃げ馬なんだから逃してよ〜!」

 

 

さっきほどまで、探させる手間を掛けさせたセイウンスカイに仕返しとして揶揄いながら加工屋を後にする。 半分は俺のせいだがユクモ村に来てからぜんぜん落ち着きないセイウンスカイにユクモの温泉卵を渡して食べてもらうと大変気に入ってくれた。 名物に舌鼓して落ち着いてくれたセイウンスカイの手を引いて次はユクモ農場まで向かう。

 

一応この村の目的は済んだけど、折角帰ってきたので軽く見て回ろうと思う。

 

なのでハンター生活に入ってからお世話になり続けたユクモ農場まで足を運び、セイウンスカイと見て回る。 カムラの里にも似たような施設はあるがユクモ農家はその何倍も大きく、その中で高級なキノコの木の存在に驚いていた。

 

他にも虫籠やハチの巣箱を農場見学のように見て回る。

 

 

そして"採掘場"までやってきた。

 

採掘場で働くアイルーに挨拶をすれば「アマグモかニャ!?」と驚かれた。 そんでもって久しぶりに帰って来た人が女性を連れてきてるものだから「可愛いそちらはアマグモの奥さんかにゃ?」と揶揄われてしまうのがお約束。 そして尻尾をピーンとさせてその場から逃げ出そうとするセイウンスカイだけどその手を掴んで逃がさない。 俺は目で諦めろよ、と訴えてセイウンスカイは耳を元気なく折り曲げて諦めた。

 

それはともかく折角来たのだから採掘の体験でもと思ってアイルーから許可を貰い、セイウンスカイにピッケルを握らせてカンカン叩いてもらう。 丁度良いポイントを見つけたので採掘してもらうと出てきたのは大地の結晶だ。 ユクモ村はなにかと手に入りやすい。 それをアイルーに渡してから採掘場を後にする。

 

 

次に"虫の木"までやってきた。

 

虫の木を管理するアイルーから「アマグモじゃにゃいか!」と帰還に驚かれる。 そして「虫よりも奥さんを捕まえてきたのかにゃ〜?」と揶揄われて尻尾ピーンのセイウンスカイをカバディしてから逃がさないように確保する。 俺は目で慣れろよ、と訴えてセイウンスカイは尻尾をしなっと落としていた。

 

せっかくなのでネコシーソーがどんなのかを見せるために俺は武器を置いて高台に登り、勢いよく飛び降りてシーソーを踏んづける。 テコの原理で飛び上がったアイルーは何かを見つけて虫の木をガサガサと探る。 そして着地。 見つけたのは珍しいことにゴットカブトだ。 ユクモポイント増えるなこれ。 一応精算ポイントとして加算できるが今のギルドカードはカムラの里で登録されてるからユクモ村での精算は手続きが面倒である。 それをアイルーに渡すと代わりに温泉のドリンク引換券と交換してもらった。 ありがたい。

 

 

次に魚籠(びく)までセイウンスカイを案内する。

 

魚籠の網を手入れしているアイルーに声をかける「おやおやアマグモじゃにゃいか」と久しぶりの再会を喜ぶ。 そして「こりゃ魚よりもめんこい女子を獲ってきたにゃ」と揶揄われて尻尾ピーンから逃げようとしたセイウンスカイに網を広げて阻止しする。 俺は目で落ち着けよ、と訴えてセイウンスカイの耳と尻尾は先に諦めてていて、最後は彼女も諦めた。

 

せっかくなので魚籠がどんなのか見せようと思って餌をぶん投げると魚が寄ってくる。 捕まえるアイルーは居ないので代わりに網を投げて魚を捕まえるとサシミウオが数匹取れた。 釣りと魚が好きなセイウンスカイのために俺はその魚をもらってとある場所まで足を運んだ。

 

 

それは"よろず焼き"と言われる装置であり、肉や魚を一本の串に沢山刺して焼くことができる。

 

今回は2匹分なので程よい量の薪を燃やして、サシミウオを串に刺すと、セイウンスカイにぐるぐると肉焼きセットのように回してもらう。 俺は大団扇で仰いで炎の火力を上げているとセイウンスカイの頭に「!」とビックリマークが浮かんだ気がした。

 

そしてグッと串を上げるとこんがりとしたサシミウオが完成。 口からじゅりと垂らして尻尾は興奮気味にぶんぶんブンブジナしてるセイウンスカイとこんがり魚に齧り付く。 焼き立てで美味しい。 そこにユクモの温泉卵を垂らして齧り付いたらセイウンスカイも同じことして齧り付き、そして蕩け始めた。

 

 

お腹を満たすと俺はよろず焼きの副産物である灰を回収する。

 

 

それを"畑"に持っていった。

 

畑の雑草を捕まえて引っこ抜いているアイルーに声をかけると「おうおうアマグモじゃにゃいか!」と久しい再会を喜び合った。 そして「アマグモの可愛いおにゃのこを捕まえてきたか」と揶揄われて尻尾ピーンのセイウンスカイだったけど流石に4回目なのでリアクションも疲れてのかもう諦めていた。

 

揶揄い好きのアイルー達の茶化しに慣れたフリをして、むしろ開き直りながら「そ、そうだよ〜」とほんのり赤い顔で自己紹介をする。

 

俺は灰を持ってきてアイルーに渡した。

 

灰は畑の肥料になるので大変喜ばれて……とある畑にアイルーは持っていく。

 

 

っ、この畑は…

 

 

 

「まだその畑を残してたのか…」

 

 

「うにゃ、まだ残してるにゃ」

 

 

「そうか。 でも俺は大丈夫だよ。 あれから2年近くは経っているんだ。 体はまともだし、今は自分で畑作ってそれ様に管理している。 それにまだユクモ村に腰を落ち着かせないから使う機会は訪れない。 だからこれはもう良いさ」

 

 

「うにゃ、そうかい。 そこまでいうならこの畑は変えるにゃよ」

 

 

 

それだけ会話して畑を離れてユクモ農場を出る。

 

 

いつのまにか夕方だ。

 

 

急いで宿を取らないとな。

 

 

 

「アマグモ? その、今の話って何なの?」

 

 

「畑の事か? まぁ、ユクモ村にいた頃にちょっと大変な事があってだな。 俺ように作ってくれたんだ」

 

 

「…何かあったの?」

 

 

「………まぁ、色々とだ」

 

 

 

今はもうそこまでひどくない。

 

 

この太刀を背負って克服してきた。

 

 

だから、俺は大丈夫な…筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クスリは、ドコダ?

 

ハヤク、ノミタイ。

 

ノドが乾く、ノんで潤サナイと。

 

 

 

 

「っ…」

 

 

 

 

 

もう、大丈夫なはずだから。

 

克服した、はずだから…

 

頼むから…

 

その姿を彼女には見せないでくれ。

 

お願いだよ。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




プリンセスレイピア…

疾風刀・裏月影…

薬…



水没林での5日間が響いてますね。


ではまた。


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11話

宿を確保したが部屋はひとつだけしか取れなかった。

 

少しゆっくりしすぎた様だ。

 

セイウンスカイにはこの部屋で泊まるように言って、俺はどこか一夜過ごせる場所を探したがセイウンスカイはこの村でひとりにしないでと不安そうにしていたから夜は部屋を共有することにした。 しかし彼女と部屋を共にして寝るのは初めてかもしれない。 家の寝床に関しては俺は自室、セイウンスカイは茶の間で敷布団を敷いて眠っている生活スタイルだ。 元々小さな家だから二人暮らしも難しい。 そこは仕方ない。

 

でも今日は一緒の部屋。 そんな彼女は「そ、そんなの気にしないよ〜」と言うけど、少しだけぎこちない。 俺もぎこちないが、ただ眠るだけだと部屋と意識を傾けて割り切ることにする。 心拍数はほんの少し落ち着いた。 無事に…と、言えるか難しいがともかく宿屋の確保は終えたので夜ご飯を食べるためにユクモ村を歩いていると…

 

 

 

「誰がぁぁぁぁぁ! 誰がぁぁぁぁぁ! ドレーナをダズゲェでェェ!!」

 

 

「「!?」」

 

 

 

ユクモ村の入り口から女性の声が聞こえる。

 

いや、女性と言うより……子供か?

 

 

そしてウマ娘だ。

 

青色のツインテールの彼女は泣き叫ぶ。

 

 

村長さんも騒ぎを聞いて入り口までやってきた。

 

 

 

「ダズゲェで! ごのままじゃドレーナーがぁ!」

 

「落ち着いてください。 あなたのトレーナーだと言うことはユタカの事ですね?」

 

 

 

「っ、ユタカ…だと!?」

 

「ア、アマグモ?」

 

 

俺がユクモ村のハンターになった時に色々と教えてくれたユクモ村が代表する英雄のハンターだ。 デビュー時期は1ヶ月程度差だがそれでも俺の先輩に辺り、彼とは良くコンビを組んではクエストを熟していた。 最後に組んだのは一年前のジエン・モーラン戦以来であるが、そんな彼がどうしたと言うのだ?

 

 

「うあああんん!!」

 

「一度落ち着いてください。 誰か彼女にお水を持ってきて。 そして今すぐ動けるハンターを…」

 

 

「あ、自分が行きますよ!」

 

「アマグモ!?」

 

 

立候補する。

 

他にもハンターは居るが、誰かを助けに迎えるほどの腕の立つものは居ないみたいだ。

 

なら俺が行こう。

 

 

 

「アマグモさん。 しかし、あなたは今…」

 

 

「いえ、構いません。 俺は今カムラの里のハンターですが心はユクモ村と共にあります。 今すぐユタカ先輩を助けに向かいます!」

 

 

「かっこいいこと言うじゃないか!」

「アマグモ! ユタカを頼んだー!」

「ユタカならアマグモが行かないとな!」

「お願い!! 私達の英雄を救って!」

「アマグモー!持ってけー!回復薬だ!」

 

 

 

俺は村人の声援を受けて最後に村長を見る。

 

 

村長も判断を遅らせまいと考えて承諾した。

 

 

俺はお辞儀してセイウンスカイと走り出す。

 

 

太刀の紐を今一度閉めて村を出て方角を確認。

 

 

 

「道沿いか。 急いだほうが良いな…」

 

 

 

 

 

 

 

「なら背中に乗っていきな」

 

 

そう言うと一人のウマ娘が現れた。

 

 

ゴールドシップだ。

 

いつもとは違って真面目な表情だ。

 

 

 

「……軽装備とは言え背負ってるのは太刀だぞ?」

 

「はっ、ウマ娘の身体能力舐めんじゃねーよ。 その程度は気にはしねぇ! おら、急ぎな!」

 

「わかった。 セイウンスカイ、一気に走るぞ!」

 

「致し方ないよね……うん、特別にアマグモは任せるよ」

 

 

高身長な彼女だからこそ成人男性も背負えるくらいに背中に余裕がある。

 

屈んでいたゴールドシップに背負われると一気に走り出した。

 

ガシャガシャと太刀が揺れる中で駆けるウマ娘だがその脚質は落ちることない。

 

 

 

「到着したらこのゴールドシップ様は戦術的撤退として引っ込むからな。 モンスターが弱ったら"追い込み"入れるからそれまでは若者に任せるぜ。 まぁ、別に倒してもいいんじゃろ?」

 

「それ言う側が違うだろ? てか罠は使い慣れてるのか?」

 

「あたぼうよ! 頭から落とし穴にぶち込んでやったるぜ!」

 

「それだと捕獲用麻酔玉の煙吸わないだろう」

 

「問題ない! 春巻き用ドレッシングの準備はできてる!」

 

「全然ッッ問題有りだろ」

 

 

ウマ娘での"追い込み"と言われるスタイル。

 

弱ったモンスターに対して強気にアクションを起こせるウマ娘。

 

例えばモンスターが逃げる先に回り込んで閃光玉などで足止めしたり、罠を仕掛けて嵌めたり、環境生物を使って追撃を入れたりと、弱ったモンスターに対して一気に追い込みを入れる役割を持つ。 他にも移動したモンスターを"追い"かけてしてからペイントボールをぶつけてハンターの位置を知らせたりと、比較的アシスト系のアイルーと似たような動きが出来る。 生命の粉塵も撒いたりもするため一部のアイルーのお株を奪うようなスタイルだ。

 

そのかわりアイルーと違ってウマ娘は武器を持って戦えないが、その役割に集中してくれるため確実にトレーナーのオーダを果たしやすい。

 

そんな感じにリアルタイム中は積極的にアイテムを使ってくれたりと、武器を持たないで、アイテムのみを使うハンターの様な感じだ。

 

もちろん戦いに巻き込まれないように下がっている。

 

ともかくこの活躍によってクエスト中の事故率が下がりやすい。

 

 

何せ追い込まれたモンスターは最後が怖い。

 

最後の最後で大暴れを起こして討伐をしくじったり、何処かに逃して討伐対象を見失ったりと、詰めどころを間違えてクエストの失敗は珍しくない。 あと一歩だった。 あと数分有れば耐えれたとか、そんな僅かならところでクエストの成功を取りこぼすケースが起きる…てか、ユクモ村はベテランハンターが少ない故にクエストの成功率が安定しない。

 

だから追い込みがその確率を少しでも上げる。

 

まぁなんというか…

 

極論からすると時間を掛けるほど失敗する確率はあがってしまう。

 

経験不足から油断が生まれて、詰めの甘さが表れやすい。

 

時間を与えるごとにこちらも足元が掬われやすくなる。

 

ならどうしたら良い?

 

 

 

__とっとと捕獲すれば良いじゃん

 

 

 

ごもっともな話である。

 

そこで"追い込み"のウマ娘が罠で支援して、捕獲なり、速攻で決着をつけるなり、ハンターのクエスト成功を早めて手伝うのだ。

 

ただし、コレ、かなり難しい役割だ。

 

人間でも難しい。

 

何せモンスターを見極める能力が必要であり"追い込み"ができるウマ娘は全くと言って良いほどいない。

 

だがゴールドシップはこう見えて状況把握は得意であり勘もハンター並みに鋭く、彼女が冷静な時は本当に心強い。

 

そのかわり扱いづらい性格が帳消しにしている感じだが、果たすときはちゃんとオーダーを果たしてくれる。

 

それが"追い込み"を得意とする彼女だ。

 

本当はカムラの里でその力を活かしてくれたら回収班の役割も減って、俺は討伐ハンターとして戦えるけど、最近のユクモ村は生態系の変化が激しく、タマミツネなど現れ始めている。

 

そのため捕獲したモンスターの研究が重要となっていた。

 

どこから来たのか? どこで生まれたのか?

 

それを知る必要があるため、ゴルシの力はユクモ村でも活かされている訳だが。

 

 

 

「見えた! あそこか! ……って "トビカガチ"がユクモ村近辺に生息してんのか!?」

 

「おおー、ギザギザしてなんか常に反抗期な感じだなあのモンスターは? どこかの扱い辛い誰かさんみたいだぞ」

 

「おう、自己紹介お疲れ様」

 

「じゃ、ギャラもらって、ギャラもらうから」

 

 

 

欲張りなその言葉になにか意味があるのか?

 

 

 

いや、意味なんてある訳が無い。

 

 

深く考えても「ゴルシだし」の5文字で終わってしまうから気にするだけ無駄だが、それはともかく5分も掛からずに来れたのは彼女のお陰だ。

 

お礼を言いながら太刀に手を掛けて翔蟲を真上に放つ。

 

大ジャンプしてからトビカガチの背中を捉えると尻尾目掛けて一気に斬り込んだ。

 

 

スパッン…

 

 

 

「キシィィィ!!?」

 

 

 

 

「おお? なんだなんだぁ??」

 

 

トビカガチの尻尾は疾風刀・裏月影の一撃で容易く切断されてしまう。

 

そして俺の加入に戦っていたハンターは驚いていた。

 

それも、俺の顔を見て。

 

 

 

「久しぶりだな、ユタカ」

 

「もしかしてアマグモか!? なるほど……へへ、こりゃ良いぜ」

 

「良いって…何がだよ?」

 

「仲間と言う最強の武器が届いたことだな! ははっ! おい!ゴールドシップ! でかしたぜ! あとで足湯の温泉水飲ませてやるよ!」

 

 

 

 

>白だし味じゃ無いと嫌だからなー!

 

 

 

 

 

「扱い方慣れてるな」

 

「ユクモの様にゆったりも悪くないが、自由であることを全力に楽しむ奴はもっと好きだ! あ、ところで俺様のオトモダービーは無事か? 左腕が折れただけなのにメチャクチャ泣いてしまってなぁ。 あの状態だと巻き込まれて危ないからな、助け呼んでくれって安全な村に行かせたんだわ」

 

「無事だけど、スラッシュアックスを片手で使ってたのか? そりゃ厳しいな」

 

「バーカ! 片手程度ハンデだっつーの! しかし見たことない奴だな。 動きは面白いが上手く攻撃があたらねぇ。 まぁ、どうでも良いか! とりあえずアマグモ! 片足だけでも良いから斬り込んで転ばせろ。 俺様が一撃でぶちのめしてやる」

 

「ふーん? 転ばせると思うか? 俺がそのまま倒してやるよ」

 

「ハッ! 言うじゃねーか! おもしれぇ! なら早い者勝ちと行くか! そっちのほうが燃えた滾るねぇ!」

 

 

 

こんな奴だけどユクモ村が代表する英雄…

 

てかユクモ村最強のハンターだ。

 

ジンオウガを2頭同時に戦って打ち勝ち、次の日にリオレイアとリオレウスの夫婦をぶちのめしてきて、次の日にガノトトスを仕留めてきたりとバイタリティのヤベーとんでもない野郎。

 

なんから急に「アオアシラの素材欲しいな」と真夜中に飛び出して、朝になると「アシラは逃したけどレイアの尻尾だぜ!」とプリセスレイピアの開発が早まったりした変な話もある。

 

そんな感じに感覚で生きているような体育会系で、まどろっこしい事が苦手。

 

しかもユタカの名前に見合わない雑な性格。

 

本当にユクモ村でも生活してるハンターかと疑われるが、実はこの人は他所から来たハンターであり、ユクモ村出身ではない。 なのでユクモ村の遺伝子は全くない。 しかしその強さは誰もが認めるほどであり、細かいことを気にしない勇猛な戦士。 故に恐怖心を母親のお腹の中に忘れて生まれてきた男と言われている。

 

俺はそんな奴から狩を教わった言うが、実はそこまで教わった訳ではない。

 

しかしダメージの与えやすい攻撃のやり方と、間合いの取り方といった、意外と脳を使う立ち回りだったので流石に俺も「どうした急に」と心配になった。

 

てか皆んな「どうした急に」と言っていた。

 

なんというか、勘違いされやすい雰囲気を持ってるけどユタカはバトルセンスの能力が高くて観察眼もあるため、モンスターとの戦い方は結構上手く口で説明することができる。

 

まるで物語の主人公みたいな奴だお前?

 

けれど俺はそんなコイツにほんの少しだけ羨ましくも感じた。

 

それでユタカの性格に少しだけ影響受けてしまったりと俺のハンターライフにユタカの要素はある。

 

だが嫌ではないし、皆んなもユタカを嫌ではない。

 

むしろ逆だと言えるほどにコイツは魅力的だ。

 

 

 

「オラオラオラ! どうしたオイ!!」

 

 

「キシィィィ!?!?」

 

 

しかし片手で器用にスラッシュアックスを変形させやがる。 しかもトビカガチの背中にスラッシュアックスを食い込ませながらカートリッジを交換すると、素早く変形させてその場で回転斬り。 着地と同時に石ころを蹴飛ばしてトビカガチの眼に当てた怯ませ、ユタカの着地狩りの攻撃を中断させたりとバトルセンスが高い。

 

お前本当に援軍必要なの?

 

 

「必要だ!! そろそろ手が痺れてきたからな!! あと腹も減った!! あと喉も乾いた!!あとついでにお腹が減った!!」

 

「めっちゃピンピンしてる様に見えるんですがそれは」

 

 

トビカガチの飛来を鞘で弾きながら一気に詰め寄る。

 

するとトビカガチが羽ばたいて回避しようとしたが、閃光玉が飛んで光る。

 

しかも上手いことに俺の真上で光るから俺は閃光に巻き込まれないでそのまま攻撃に移れた。

 

 

しかし投げたのはセイウンスカイ?

 

いや、彼女は隠れている。

 

 

それともユタカ?

 

いや、片手は塞がってる。

 

 

ならば…

 

 

 

「やっぱりか!」

 

 

投げた人物が刃に反射して映る。

 

なるほど、ゴールドシップだった。

 

素晴らしい閃光玉だ。

 

やるじゃないか。

 

 

 

「すぅぅ…!」

 

 

目を眩ませて落下したトビカガチのマントを切り裂いて飛行能力を奪い取り、一息挟まず翔蟲でトビカガチの首を巻きつける。

 

そしてグッと踏み込んで刀を振り抜いた。

 

一閃。

 

背首から血飛沫を上げる。

 

 

 

「食いしばれモンスターぁ!!」

 

 

するとユタカはスラッシュアックスでトビカガチの顔を下から殴り飛ばした。

 

トビカガチの顔は真上にかち上げられる。

 

背首が斬られて、首が動きやすくなっているトトビカガチの視点は夜空に動いた。

 

そのまま目眩を起こしながら顔から力が抜けて、重力に従って垂れ下がる顎をスラッシュアックスのソードモードの剣先が刺す様にトビカガチの顔を受け止める。

 

 

ユタカは叫んだ。

 

 

 

「弾けてしまいな、ザコが!」

 

 

 

 

スラッシュアックスが属性解放する。

 

 

トビカガチは吹き飛び、そのまま絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゔあ"あ"あ"あ"あ"あん!!!」

 

「おい! さっさと泣き止め!」

 

「うあ"あ"あ"ん!だっでぇ! ターボすごくじんばいじだんだぞ! トレーナーがあぶながだんだもん!! うあああああん!!」

 

「ったく、腕が折れただけで大袈裟だっつーの。 こんなの唾つけとけば1時間で治る!」

 

 

「「「「そうはならんやろ!」」」」

 

 

 

村人総員にツッコミを入れられたユタカをよそに俺は村長と話していた。

 

トビカガチの生息域はユクモ村近辺まで伸びてきている。

 

モンスター図鑑の更新を急いでユクモ村でもトビカガチの情報がハンターに伝わるようにとするためまた忙しくなりますね、と言っていた。

 

そして村を代表してお礼を言われるが、俺はユクモ村のハンターであるつもりだから、ユクモの仲間を助けることは当然だと伝えた。

 

それに元相棒を助けたまでだと付け加えて村長は「そうですか」と静かに笑っていた。

 

 

「おいアマグモ、なんだかんだで助かったぜ」

 

「お互い様だろ? まぁしっかり腕は治せよ」

 

「秘薬飲んで唾つけとけばそのうち治るさ。 おい! それより腹が減った! なんか上手いものねぇか? 腹減ったんだ! 泣いてるコイツのためにもニンジン頼むわぁ!」

 

 

「おっしゃー!そうこないとな!」

「じゃあ用意するぜ!」

「英雄の帰還に宴だー!」

「わーしょい!わーしょい!」

 

 

 

またたくまにユクモ村は賑わう。

 

毎日のように賑わっているけど今日は特に賑わいが激しい。

 

肉まんや焼き鳥、とうもろこしやココットライスの炒め物など村から出されて夜は楽しくなった。

 

 

 

「セイウンスカイ、俺たちも食べるか。 元々夜ご飯食べるために外出た訳だし」

 

「にゃはは、外どころから村の外に出たもんね? ともかく好意にあやかるとしますか〜」

 

 

「おうおう! 食ってケェ! ウマ娘なくてハンターは戦えねぇ! いや、俺は戦えるから関係ねぇがウマ娘がいるともっっと戦えるんだ! ハンターに役立つためにしっかり食ってけ! 食え食え食えぇ!!」

 

 

「あはは〜、なんかすごい人だね」

 

「ユタカはそう言う奴だ。 色々とざっくりしていて、でもその言葉に見合う強さを持っていて、羨ましい限りだよ」

 

「でもアマグモの太刀筋すごくカッコ良かったよ。 あんな動きして戦えるなんて初めて見た…いや、どこか片手剣でそんな感じの動きは見たことあったけど、実際に太刀を握りしめてモンスターに立ち向かうアマグモは……その、ええと…」

 

「?」

 

「か、カッコよか__」

 

 

 

「君がユタカの助けてくれたハンターだな! ターボ見覚えあるぞ!」

 

 

 

「うわっ!?」

 

「君もウマ娘なんだな。 それとユタカの危機を知らせてくれてありがとう」

 

 

 

「どうってことないぜ! だってターボはユタカの自慢のオトモダービーだからな! って事でターボはお利口だからちゃんと恩人にお礼参りしたぜ! じゃあなー! たくさんありがとう!!」

 

 

 

「お礼に参ったじゃなくて、お礼参りなのか、ははは」

 

「…」

 

「で? セイウンスカイ、その先はなんだ?

 

「!? ……わ、忘れた、かな? あははは…」

 

「そうか、そうか、俺の太刀筋がカッコよかったのか。 なるほど、ありがとうな」

 

「ッ〜!! い、言わなければ良かった! もう…」

 

 

 

そう言ってセイウンスカイは別の料理を取りに席から離れる。

 

今日は意地悪しすぎたかも知らない。

 

 

あとで謝っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマグモのバカ…」

 

 

「おっと? アマグモと喧嘩か? 俺様も久しぶりに喧嘩したいなアマグモとは」

 

 

「!?」

 

 

「おお、悪い悪い、驚かせたか。 あ、知ってると思うがユクモ村専属ハンターのユタカだ。 そんであそこにいるやかましい相棒はツインターボって奴だ。 今日は特別泣き虫だけど根は良い奴だ。 ここにいる間だけでも良いから同じウマ娘として仲良くしてくれや」

 

 

「あ、はい、どうも…」

 

 

「しっかしアマグモにも良いパートナーができたもんだな。 昔とは良い感じの表情で笑う」

 

 

「え?」

 

 

「なんと言うかな…アイツはな、昔そんなにコロコロ表情を作らねぇ今よりもつまらない奴でなぁ? 笑えるけど笑うことがあまりなかった。 俺様と同い年なのにちょっとそれが嫌になってしまってな? まぁ人間はソレゾレがあるから勝手な事は許されねえけどよ、でもハンターとしていつ死ぬかわからないんだから死んでも後悔しないくらいには笑った時間を覚えてろ!と柄にもなく説教してな。 そしたら冗談で人を困らせたその反応を見て、自分が笑うようになった。 まぁそんな良い感じに面白みのある奴になってくれた」

 

 

「…」

 

 

「それから笑うようになったし、よく叫ぶようになって、それで生きるための必死さで溢れている。 元々それができる奴だったからハンターライフでも経験を積んで、余裕が持ち、どんなに過酷でも余裕面の虚栄を貼ろうとするくらいに、やり遂げれるハンターになった。 なんというかアマグモらしくなったんだ。 でもな、その冗談を言う相手の中で、アイツが一番と言えるほどに笑顔にさせれる相手ってのはなかなかにいなかった。 俺含めてもな。 でもお前さんが隣にいるとな、もう面白いくらいに味が出てる。 なんと言うかあれだ? "特別"ってヤツだ」

 

 

「へ?」

 

 

「お前さんはアマグモにとって特別なんだろうな。 こんな俺様でもアイツと3回に1回と多いペースで相棒組んで色んな依頼をこなしてきた。 俺様の出来ない強さを持って足並み合わせてきた。 いまもあの最後を覚えてる。 ジエン・モーランを打ち取りに行って、ジエンの中に飲み込まれたアイルーを助けるために大銅鑼を慣らし、アイツすらも口の中に入って、それで俺様に大砲を頼んで、そしてジエンからアイルーを引っ張り出して、二人で死ぬ気で立ち向かって、最後は討ち取るところまできた。 ベトベトの砂まみれで大の字になって大笑いしたっけな。 ありゃ最高だった」

 

 

「…」

 

 

「そのあと上位ハンターとユクモ村専属の座を俺様に譲って、アイツは下位のままでユクモ村を去った。 アイツも強いのに下位での異動ほんの少し嫌だった。 けどな、アマグモは『俺にできることをやります』と言ったんだ。 それがアマグモらしさだった。 だから良く相棒組んでた俺様はアイツが去ったあと泣いちまってなぁ、もう、本当におもしれぇ奴になったと嬉し泣きだよぉ。 だがな、ユクモ村を出たアマグモらしさを、更に引き立てているのは間違いなくお前さんだろうな」

 

 

「!」

 

 

「ええと、お前さんはセイウンスカイだったか? ほうほう、なるほどな? 雨雲に青雲か。 そりゃ晴れ晴れとして潤っている訳だ。 ガサガサでゴワゴワなアイツはいま、セイウンスカイがいることでアマグモな訳か。 ふっ、少しだけ妬いちまうな…」

 

 

「!! ええと、でも、わたしは、その…たまたま彼のオトモダービーになっただけで、もしかしたら他の女の子でも…」

 

 

「おいおいそんなの考えてもわからねぇよ。 結局、誰がとか、あの人がとか、その方がとか、そんなの狩と同じで結果論に持ち込んでも意味なんかねぇ。 もしかしたら最高のパートナーがいて、最高の選択技があるかも知らないけどよ、そんなは想像の中で止まってしまう。 考えるだけその時間に意味はない。 結局はさ…」

 

 

 

 

 

 

_その時、その時の【雲行き】だろ??

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

「アマグモのパートナーはお前さんだ。 その脚で助けてきたんだろ? なら変わらずその脚でアマグモ(雨雲)の下を駆け抜けてやれ。 アイツは今はとても天気が良いからな」

 

 

「わたしが、特別…」

 

 

「ああ、特別だ。 間違いない。 だってお前さんはさっきの発言では『もしかしたら』の後に普通ならば『他のウマ娘』と言うところを『他の女の子』って言ったからな? お前さんもそれだけアマグモが特別なんだろよ」

 

 

「!!?」

 

 

「特別と思って、特別と思われてる。 もうこれは最強じゃねーか? そこに勝るものはないって思うけどな。 じゃあな、長話悪かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_元相棒の事、頼むぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ユクモ村の英雄はそれだけを残して大団円の中に戻っていく。

 

 

一人佇むウマ娘を他所に、ユクモ村の宴はまだ熱の覚めることない夜として…

 

 

 

 

 

つづく








A_ところで恋のキューピッドは誰ですか??



「このゴールドシップ様に決まってるだろ」


あ、はい。




ラブコメの波動を感じる、そんな回でした。
そして次回は温泉回だぞ。

あとサラリとジエン・モーランの中に入ってオトモアイルーを助けているアマグモかなりヤバいですね。


《ユタカ》

ユクモ村の専属ハンターであり、スラッシュアックス使いの上位ハンターとして最前線を戦う。 ハンター歴はアマグモの1ヶ月先であり、相棒として良く組んではクエストをこなしてきた。 現時点でのケシキよりは強いが、どちらも主人公なので化け物になるのは変わりない。 ちなみにこの話の宴から10日後に秘薬と唾を付けて早々に腕を完治させると霊峰まで向かってアマツマガツチと殴り合ってきたらしい。 倒せなかったが尻尾を持って帰ってきた。 初見でやりあってしかも生きて帰ってきたこいつかなりヤバい。


ではまた


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12話

愛情の受け方が少し下手でしかも自己評価が低い上に依存しそうになるけど好かれたい嫌われたくない隣にいたい実はそうであって欲しいとかなんかいろいろクソデカ感情の制御が下手くそでソレを見え隠れさせるめんどくさい女ってなんだろう?と考えながら気持ち悪いくらいに落ち着いた真夜中のテンションで一万字描き切った結果が今回の話(自分でも何を言いたいか分からない)


ではどうぞ


夜ご飯を食べれたと言え、ゆっくり腰を落ち着かせる時間は無く、集まった村人から質問攻めなどで夜遅くなった。 気づいたらお月様は真上まで登っており、宴もピタリと終わって村も静かになっだ。 酔っ払って道端に座り込んでいる大人を除いて各家は戸締りと店仕終い、次の朝までユクモ村は眠りにつく。

 

そう言えばセイウンスカイが見当たらない。 村の里には出てないと思うが何処かでのんびりしているのだろうか? 少しだけ心配だが宿屋も知っているだろうから勝手に戻ってくるだろう。

 

あとユクモ村まで来たのに温泉に入ってない事を思い出す。 汗もしっかり流しておくべきだろう。 そう考えると足取りは軽くなる。 やっと温泉好きである事が思い出して集会所まで足を運び、ユクモ温泉に入れるか確認に向かうと、久しぶりにとあるアイルーに出会った。

 

 

「アマグモの旦那しゃん!」

 

「久しぶりだなシュンギク、2代目ドリンク屋として繁盛してるか?」

 

「お陰様でにゃ。 グイッと飲んでくれるハンターたちを見るのは楽しいにゃよ」

 

「そうか」

 

 

シュンギクの名前を持つ俺の元オトモアイルーだ。

 

ジエン・モーラン戦を最後にオトモアイルーを引退した。

 

理由は武器を持てないくらいに全身を粉砕したからだ。

 

最終決戦のために砂漠へ停留させた迎撃船にジエン・モーランが近寄り、その巨体で船が押しそうと向かってきた。 大銅鑼をならしても引かないジエン・モーランに大樽爆弾Gで特攻したシュンギクがジエンの牙を破壊して止めてくれた。 しかしシュンギクは激痛にのたうち回るジエン・モーランの牙に薙ぎ払われて、そのまま口の中に投げ出されるアクシデントが発生した。

 

あとこの時のシュンギクは気絶していた。

 

元々シュンギクも満身創痍で退くことを命令したのに、船が壊されてしまう事態を防ぐため決死の覚悟を込めて大樽爆弾の特攻を行う。 そして大爆発で意識を失って、ジエンの中に脱出できない状態で入り込んでしまう。 あれはかなり焦った。

 

それで拘束バリスタでジエンを捕まえて、俺も口の中に入り込むと、腰の武器が運良く喉に突っかかっていたシュンギクを見つけて回収する。 ユタカの援護で怯んだジエン・モーランが大口を開けた瞬間にシュンギクを抱えて脱出した。

 

その後は討伐まで駆けつけたがシュンギクは体がボロボロでオトモとしての復帰も見込めなかった。 武器を無理して振るうと骨が痛むらしい。 やはり大樽爆弾Gを抱えて特攻した代償だった。 それから俺がシュンギクに引退するように勧めた。 これ以上は危うい。 むしろ歩けるまで回復したのだから体を大事にしろと説得した。

 

それに俺も異動するタイミングが出来たりと、それぞれの分岐点が出来上がったのでシュンギクは戦線を退くことを決めたらしい。 元々温泉やドリンク好きだったアイルー事もあり、今はドリンク屋のアイルーとしてハンターの手助けをしている。 オトモ歴として一年未満だが、ジエンの討伐が認められたため上位クラスのオトモアイルーとしてギルドに登録されている。 引退時にジエン・モーランを討伐した優秀オトモとしてジエンの牙の素材を使った勲章を貰った。

 

短くも分厚いオトモ生活を送っていた俺の元オトモアイルのシュンギクだ。

 

 

 

「温泉は入って大丈夫か?」

 

 

「……本当は水質の点検のため、そろそろ利用は止めないとならない時間だが、特別にアマグモは入れてあげるにゃ。 見てないフリするだけだがにゃ」

 

 

「ありがとう。 うまく岩陰に隠れるよ」

 

 

「そうしてにゃ。 特別にドリンクも裏に置いとくにゃ。 氷結石も入れておくからいつでも冷たいにゃ。 アマグモだから特別にゃ」

 

 

 

早速脱衣所で衣類を脱いで温泉に入る。

 

温泉に入るための温泉下着と言われるユアミスガタに着替えて、ユアミタオルを頭に乗せて温泉に浸かった。 そのまま岩陰に隠れながら入るための露天風呂側に泳いでいく。 温泉の一番端側まで向かい、 岩陰に腰掛けて外を眺める。 ユクモ温泉に浸かりながら眺める夜空はめちゃくちゃ綺麗だ。 観光客にも人気のスポットで、またこの場所で外を眺めたくなる程である。

 

あと、ここから先程トビカガチと戦った場所がギリギリ見える。 それで討伐したトビカガチの搬送も既に終えている様で道も開通していた。 ユタカが帰り道に襲われたと説明していたが、トビカガチがここまで来ていたのは驚いた。 しかし見たところやや痩せている様に見えたので迷ってこの辺りまで来たのかもしれない。 それでも繁殖域がこの辺りまで来ているのならユクモ村も対策を考えるだろう。 でもユクモはナルガの生息域でもあるから素早い敵に対しては滅法強いハンターが多い。 直ぐにトビカガチの戦い方も広まるだろう。

 

 

「……」

 

 

疾風刀・裏月影の回収目的は終えた。

 

明日にはユクモ村を出てカムラの里に戻る。

 

しっかり温泉で疲れを取ろう。

 

そんな事を考えていると…

 

 

 

「アマグモ?」

 

「っ、セイウンスカイか!?」

 

「本当にいた。 ドリンク屋さんのアイルーが言った通りだったね」

 

「ああシュンギクか、なるほど…」

 

「それで、一緒に隣…いいかな?」

 

「あ、ああ、良いよ」

 

 

ユアミタオルで巻いてるセイウンスカイ。

 

彼女はウマ娘だけど、その前に女性でもある。

 

耳と尻尾が無ければ村娘とはそう変わりない。

 

だから、タオル越しの膨らみと、湯船にて赤く日出る肌は、異性を揺さぶる。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

二人揃って湯船に浸かるのは初めてだ。

 

俺もセイウンスカイもどうしたら良いかわからない。

 

いつも飄々と雲のように自由な彼女だけどそんなセイウンスカイの姿は今ない。

 

静かに流れる時間だ。

 

気まずい。 何か話すべきだろう。

 

 

 

「そういえば、どこか行ってたのか? 部屋にも戻って無かったし」

 

「ええと…さっきまでユクモ農場に居たんだ。 それでね、わたし聞いたよ」

 

「?」

 

「管理人から"あの畑"のことを」

 

「!」

 

 

ユクモ農場の畑にアマグモ専用の畑がある。

 

あれはただ独占するためではなく、必要だったから作っていた畑。

 

その理由をセイウンスカイは聞いたようだ。

 

 

 

「アマグモ、すごく大変だったんだね。 それで今も大変なんだよね。 カムラの里でも、私たちの住まう家に小さなお庭に畑を作っていたけど、ただ美味しいニンジンを作るためじゃなくてアマグモは"治療"していたんだ」

 

 

確かに聞いたみたいだ。

 

隠しておきたかったけど…

 

彼女に隠し事は難しいだろう。

 

 

 

「昔はそうだったけど、今はそんな大袈裟なことじゃないよ。 むしろそろそろ克服しないといけない。 だから趣味を建前にした畑弄りは止めないといけない…」

 

 

 

そうとも、趣味を建前にそろそろ離れないといけない。

 

もしくは畑に植えるものを変えるまでして、俺は過去から引きずっていることに、踏ん切りをつけるべきだらう。

 

いつまでも甘えるのではなくて…

 

 

「アマグモ」

 

「なんだ、セイウンスカイ?」

 

「アマグモがユクモ村でどれだけ大変だったのか。 あの太刀を背負うまでどれだけ大変だったのか。 わたしは知りたい。 ダメ…かな?」

 

 

ユクモ村に来た以上は話すべきだろう。

 

いずれ明かされるだろうから。

 

 

「………面白い話じゃないぞ?」

 

「ううん。 わたしはアマグモを知りたい」

 

「……そうか」

 

 

無意識にユクモ農場へ目を向ける。

 

 

畑弄りが…いや、それを使って克服していかなければならない、俺の、酷い足跡を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切っ掛けは水没林の採取クエスト。

 

 

 

いや…

 

あれは"乱入クエスト"と言った方が正しい。

 

 

そこから始まる5日間の地獄は今も忘れない。

 

 

大嵐の中で現れたのはナルガクルガの亜種。

 

 

俺は必死な思いで逃げて、そしてピラミッドに立て篭もりながら戦いを繰り広げた。 ピラミッドの中にはアイルーやケルビなど小動物の怯える鳴き声が聞こえてた。 隠れている奴らは大嵐に怯えているのではなくナルガクルガ亜種から隠れているのだろう。

 

かなり危険な相手であることを再確認しつつ奴の隙をついてはベースキャンプに向かう。 だが奴は先回りして俺の首を狩ろうとしていた。 少しでも触れると体は真っ二つに裂かれてしまうだろうブレードを死ぬ気で避ける。 背中に一撃を貰ったが、それでも足を止めずに元いた場所まで逃げる。

 

だんだんと遠ざかるベースキャンプに絶望を感じるが、俺はナルガクルガ亜種にベースキャンプの位置を悟られる事を嫌がった。

 

いや、ナルガクルガ亜種に限らず大型モンスターには可能な限りベースキャンプの位置は知られてならない。

 

ギルドからそのようなお達しは無いが暗黙の了解という事であり、皆はそこに注意を払ってベースキャンプを活用していた。

 

そんなナルガクルガ亜種は俺が向かう先にベースキャンプがあるかどうかは知らないが、逃走経路を理解しているように先回りする。 恐らくナルガクルガ亜種は俺以外とのハンターと交戦経験があり、その経験則からハンターが逃げる方角を理解してるのだろう。

 

その結果として俺は背中に一撃を切り裂かれた。

 

なんとも高い授業料だ。

 

逃げた先で出血は酷く、息がしんどくなる。

 

だんだんと冷たくなる体に鞭を打って秘薬となる素材をかき集めて、朦朧とする意識の中で調合を進める。

 

完成させた秘薬を飲んで、塗って、環境生物を集めながら奴に対して対策を立てる。

 

逃げれない。

 

逃してもらえない。

 

死ぬまでこの水没林で奴と追いかけ追われる。

 

救助も期待できない。

 

だから運にも見放された大嵐の中で覚悟を決める。

 

血の色に染まり始めるジャギィ装備を握りしめて恐怖を抑えて水没林を駆け巡る。

 

凡ゆるものを採取して、必要とあらばモンスターを殺して、俺は体を壊しながら奴に立ち向かう準備を始める。

 

 

 

鬼人薬を沢山飲んだ。

 

筋肉が活性化するが筋肉が痙攣を起こす。

 

 

 

 

硬化薬を沢山飲んだ。

 

痛覚がわからなくなりどこかに激痛が走る。

 

 

 

 

 

強走薬を沢山飲んだ。

 

心臓の音がうるさくいずれ爆発しそうだ。

 

 

 

 

 

 

回復薬を沢山飲んだ。

 

苦味に慣れて舌が死んだからか味がしない。

 

 

 

 

 

 

解毒薬を沢山飲んだ。

 

ホルモンバランスが崩壊して脳の震えが酷い。

 

 

 

 

 

 

活力剤を沢山飲んだ。

 

正常がわからなくなり意識が飛びそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

秘薬を沢山飲んだ。

 

飲むたびに手が震えて体が拒否反応を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

いにしえの秘薬を沢山飲んだ。

 

傷を治しながら嘔吐を繰り返して喉が荒れる。

 

 

 

そうやってナルガクルガ亜種と死闘を繰り広げる。

 

 

戦って、逃げて、採取して

 

調合して、摂取して、嘔吐して

 

戦って、逃げて、採取して

 

嘔吐して、戦って、逃げて

 

嘔吐して、戦って、逃げて

 

採取して、調合して、嘔吐して

 

調合して、摂取して、逃げて

 

嘔吐して、摂取して、戦って

 

採取して、逃げて、嘔吐して

 

摂取して、戦って、逃げて

 

戦って、嘔吐して、調合して

 

逃げて、嘔吐して、嘔吐して

 

摂取して、嘔吐して、調合して

 

嘔吐して、摂取して、嘔吐を繰り返して…

 

 

気づいたら4日目に入る。

 

奴の目をくり抜き、突き刺して、毒殺する。

 

夜が訪れて、とうとう奴は倒れた。

 

そのタイミングで5日目に入った。

 

体はボロボロ、血も何もかも足りない。

 

免疫力なんてないに等しい。

 

ほんの少し吸った毒ガスがトドメとなる。

 

俺は死に行く事を悟って倒れた。

 

 

 

それから"ナニカ"に助けられた。

 

 

そのナニカはあまり覚えてい無い。

 

 

でも何かを飲んで、体が軽くなった。

 

 

けど治った訳ではない。

 

救出はされた。

 

俺は生きていた。

 

しかし目を覚まして、薬を欲する。

 

狂乱して、見つけた薬物を飲む。

 

頭痛と嘔吐が止まらず、喉を掻きむしる。

 

精神状態の崩壊一歩手前まで来ていた。

 

もうハンターの引退すらもあり得た。

 

 

 

過剰摂取による薬物中毒。

 

または薬物依存症が正しいかもしれない。

 

まぁどっちでも良い。

 

酷い有様には変わりない。

 

 

ああ、生き残ろうとしただけなのに酷い有様だ。

 

そのまま液体恐怖症にもなって水分すら取ることも苦労した。

 

好きだった温泉すらも拒否反応を起こす。

 

何もかもがダメになり始めた。

 

 

もう、死ぬしかないのだろうか?

 

 

諦めを感じた。

 

 

 

しかしとある人物が訪れた。

 

ブカブカな被り物をして素性がわからない。

 

けれどその人物はとあるものを差し出す。

 

薬物中毒などの症状を抑えるための薬だ。

 

 

近くに医者はいたが、施しようのない状況ゆえに医者も最後の頼みと目をつぶっていたから、その薬は誰も止めない。

 

 

俺は薬物中毒だから…

 

それを疑いもなく喜んで受け取る。

 

 

俺は直ぐにそれを飲んだ。

 

そして体に変化が起こる。

 

重苦しい気分が引いて行き、震えていた目の焦点も落ち着き、意識ははっきりと取り戻し、荒かった呼吸も喉も収まり、壊れ始めていた俺は元に戻り始める。

 

 

気づいたら、水没林から帰って来てから酷かった症状が嘘のように無くなった。

 

 

飲み物を見てもそれを手に取って喉を潤せば、温泉の匂いに早く体を癒したい要求に掛けられる。

 

 

皆が驚いていた。

 

俺は正常なのか?

 

確かめるために一度歩こうとしたが一瞬グラッと来て倒れそうになる。

 

誰かに柔らかく支えられる。

 

薬を渡してくれた人だ。

 

その人は俺をそのまま柔らかく抱きしめると豊満なその胸に深々と沈め込ませて「良い子、良い子」と赤ん坊をあやす様に頭を撫でる。

 

この時に初めてその人が女性だと知った。

 

最後は「あの子を助けてくれてありがとう」と言ってその女性は姿を消した。

 

 

あの女性も、あの子の意味も、名前もなにも聞けなかった。

 

 

でもそれだけの体験をして俺はハンター復帰を目指した。

 

 

けど完全に完治したわけでは無い。

 

あの感覚は体に染み付いている。

 

 

まだ体は薬を欲しようと騒がしい。

 

だから対策を立てた。

 

 

俺は怪力の種を齧ることで一時的に症状を落ち着かせる。

 

効果はある。

 

しかし鎮静剤として弱過ぎる。

 

かと言って永続的に効果が出てしまう鬼人薬グレートを飲むわけにもいかない。

 

怪力の丸薬にしてしまうのも些か抵抗がある。

 

 

考える。

 

一時的に抑える効果を作れる事が好ましい。

 

そこから少しずつ慣らして克服すれば良い。

 

 

考える。

 

皆も考えてくれた。

 

ユタカも、雇用したばかりのシュンギクも考えてくれた。

 

 

俺はハンターライフ復帰のためにユクモ農場を徘徊していると畑に撒く肥料を見て、何か閃きそうになる。

 

続けてユクモの温泉卵をグツグツの煮込む湯気を眺める。

 

 

 

その時、閃いた!

 

このアイディアなら、俺の

 

症状の緩和に、活かせるかもしれない!

 

 

 

俺は資料を引っ張り出してモンスターの怒りに比例する活性化について調べる。 方法は早く見つかった。 そしてボルボロスの"肥沃なドロ"を求めて狩猟するとそれを持ち帰った。

 

ユクモ農場に肥沃なドロを持ち込んで土に混ぜた特別な畑を完成させる。 アイルーも協力的だったから俺専用の小さな畑を作り、そこに怪力の種を植えて、特別な怪力の種を作り上げた。

 

ボルボロスの肥沃なドロで植物類の効果を増幅させた。

 

例を挙げるなら液体類に対してのアルビノ"エキス"の様なものである。

 

それを使って怪力の種を育て、強めの鎮静剤として作り上げる。

 

肥沃なドロお陰で効果は大きいが持続時間はとてつもなく短い。

 

まるでボルボロスが怒っている僅かな時間みたいに効果時間は短い。

 

そのかわり怒り状態の如く効果は高まる。

 

これを使って中毒状態だった余韻を一気に満たしながらクエストに挑む。 そのかわりソレを摂取したら体を動かして活性化させること。 薬物に頼らず自身の体を動かして怒り時のボルボロスのように中毒時の要求と熱量を消費しながら活性化を繰り返して、着々と免疫を付ける。

 

 

しかし自分でも克服するのだ。

 

 

俺はナルガクルガ亜種の素材を使った疾風刀・裏月影の太刀を握りしめて、あの時を乗り越えようと大型モンスターに挑む。 そうやって太刀を握るたびにあの死闘を思い出すが、メンタル面で克服して乗り越えようと意気込んだ。

 

 

あの時、中毒で死ぬしか無かった俺のために、名前の知らない者達が繋いでくれた、この命を生かすために。

 

 

中毒も、恐怖も、脆弱も、何もかも、乗り越えようとして、セイウンスカイと出会った今も乗り越えようとしている。

 

カムラの里でも借りているお家の小さな畑を作って、定期的に肥沃なドロを混ぜては特別な怪力の種を育てる。

 

ついでにニンジンも育てて彼女を喜ばせることにした。 肥沃なドロを混ぜて作る野菜はなかなかに美味しい。 いまはそのくらいに余裕を持って畑弄りを趣味に怪力の種を齧る。

 

 

あれから2年近く経った今、特別な怪力の種を食べる数は少ない。

 

もうそろそろ食べなくても良いだろう。

 

だからセイウンスカイと向かったボルボロスの肥沃なドロの採取は最後にしたいところだ。

 

今はもう食べてない日の方が多い。

 

いずれ、ただ怪力の種をクエストのために摂取する日が訪れる事を願い、鬼人薬や硬化薬も飲んでモンスターに立ち向かえるその時まで…

 

だからもう、あのような事は望まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はセイウンスカイがいるから。

 

 

そんな惨めな俺を見せたくないから。

 

 

彼女のトレーナーであるから。

 

 

綺麗なこの青雲を曇らせたくないから。

 

 

もう、いやだから…

 

 

 

 

「俺は、ここまでそれを続けてきた、そういう話だ。 ……なっ? 面白い話じゃないだろ?」

 

 

「っ…ううん、そんな事ないッ、そんな事ないよアマグモ。 あなたは雨雲に負けず凌いで来た。 あなたはとても強い人だよ」

 

 

「でも、気持ち悪いだろ? 薬物中毒で、薬の依存症で、どうしようもないハンターだよ」

 

 

「違う! 違うよ!」

 

 

「!」

 

 

 

セイウンスカイは否定する。

 

 

 

「アマグモは生きるためにそうした。 その地獄を乗り越えるその覚悟だった。 あなたはそうなってまで、生きて、生きて、足を止めないで、生きてくれた。 それのどこが気持ち悪いのよ! っ、わたしは知ってるから。 その太刀を回収するために、普段あまり握らないわたしの手を引いて、奥へ進むごとに、震えそうになるあなたの手を、知ってたよ」

 

 

「!」

 

 

「でも乗り越えた。 いや、乗り越えていた。 あなたは向き合って太刀を背負った。 その太刀となったモンスターに大きく背中に傷を刻まれたにも関わらず、その痛みも、その恐怖も、その惨さも、背負い切った。 だから本当にかっこよかったんだよ。 アマグモが背負っていたその太刀から引き抜かれた斬撃は、何もかもを斬り払うかのようにすごくかっこよかった。 砂漠のボルボロスの時も同じ。 あなたの背中を見ていた。 あんな大きなモンスターと戦うアマグモは誰よりも強く感じた。 なのに…」

 

 

するとセイウンスカイは悲しそうに目を伏せた。

 

 

「逃げるためしか取り柄のないこの脚は、モンスターから背中を向けてばかりのわたしは、あなたの傷をこの背中に背負えない。 怖かった。 怖かったんだ。 あの時のラージャンとリオレウスと同じ。 わたしは逃げれる事が取り柄なのに、それを忘れてしまった弱いウマ娘だったんだよ。 あなたに慰められてわたしは惨めだった。 ウマ娘として人を助ける事は出来なかった。 涙を流して、あなたを困らせたセイウンスカイの名前に青雲は無かった」

 

 

セイウンスカイは膝を抱きしめて悲しむ。

 

 

「極彩色の羽根で青雲に虹をもらって、やっとセイウンスカイの名前を取り戻した。 アマグモに貰わなければ何もわたしは出来なかった。 逃げないで良いところで逃げるしかしてない弱いわたし。 逃げなければならないところで逃げれない弱いわたし…っ! ぁぁ、ウマ娘が人間より強いなんて、嘘だ、嘘つき、わたしだけはウマ娘じゃない嘘つき。 弱い、弱すぎるんだ。 だけど隣のあなたはもう回収班ではなく、モンスターと正面を向いて戦えるアマグモなんだ。 逃げる事をしなくなるアマグモなんだ。 それが今日わかったよ。 わたしは、何も出来なかったもん。 トビカガチに何も出来なかった。 けどゴールドシップは出来た。 完璧だった。 わたしにはできなかった」

 

 

セイウンスカイは悔しそうに体を震わせる。

 

 

「ああ、嫌だな、こんなの、ダメなのに、収まらないよ。 羨ましいよ。 羨ましい…っ。 佇まいが変わらないグラスワンダーが羨ましい。 真っ直ぐで変わりないスペちゃんが羨ましい。 自分に自信が変わらないエルコンドルパサーが羨ましい。 王者に揺らぎなく変わらないキングヘイローが羨ましい。 皆から好かれるトウカイテイオーが、元気で笑顔にするハルウララが、強さが足に現れるスズカさんやオグリキャップが、皆んなが、皆んなを、皆んなが、逃げるしかない、逃げるだけしか、できない、わたしなんかよりも…!」

 

 

セイウンスカイは顔を上げて涙を見せる。

 

 

「みんなの方が今のアマグモの脚質に合うんだ。 ねぇ…わたしはアマグモのオトモダービーで良いのかな? わたしはアマグモのパートナーで良いのかな? わたしはアマグモの脚で良いのかな? わたしはアマグモのウマ娘で良いのかな? わたし、わたしは……ッ」

 

 

そして彼女は震える声で…

 

 

 

「アマグモの隣にいてもいいのかな?」

 

 

 

どこか濁ったような目に見える。

 

いや、濁ったように見える悲しい目。

 

抱えていた感情が弾ける痛々しい眼差し。

 

何かに期待して、何かに恐怖した、濁り方…

 

そこに青雲は何も映されていない。

 

 

 

「……」

 

 

 

彼女はずっと考えていたのか。

 

逃げるウマ娘の脚で、けどそれが今、俺の隣に相応しいのかどうかを。

 

これまでの事が、アマグモにそぐわないウマ娘じゃないのかと、不安で潰されそうになっている。

 

そして今日の出来事で、彼女は考えることになった。

 

 

 

 

 

 

けど、なんというか…

 

 

 

 

「案外めんどくさいんだなセイウンスカイって」

 

 

「…………え?」

 

 

 

なんか色々話が飛んでないか?

 

落ち着こう。

 

少し整理しながらこめかみを押す。

 

 

 

「あー、なんだ? その、俺が超えてきた過去に同情してくれて、それで強くなったと褒めてくれ…たのか? まぁ、良いや。 それで太刀を握りしめた俺はこれまでよりも強くなる。 けどその隣にいるセイウンスカイは弱くて、逃げるしか取り柄が無くて、もう今のアマグモにはそぐわないウマ娘になるだろうから、不要になってしまうことは決まったようなものが、でも、これまでと変わらず隣にいて良いかな、って事だよな? うん、口に出してやっと追いついた。 それでその質問だけど…」

 

 

なんか、急すぎて、その、なんだろう?

 

こう、あれだ…!

 

 

「なんか少しだけイライラしてきたなぁ!っ、セイウンスカイ!」

 

 

「え? っ、ひゃん!!? ぁ、ぁっ、ぁぁあ!」

 

 

飛び出している尻尾をキュッと握りしめてイタズラする。

 

それだけじゃない。

 

怯んだ隙に両耳をワサワサとカサカサと雑に撫でくりまわす。

 

ウマ娘は耳が高性能な分かなり敏感なので急に触られると身が飛び跳ねてしまうくらいにくすぐったい。

 

まるで弱点のように感じる。

 

 

 

「てかさー、お前さー、俺が強くなるから隣に不要だとかさー、一体全体何を勝手に決めてんの? 馬鹿なの? 馬なの? ウマ娘なの? 馬だったな」

 

 

「ぁ、ぁ! ちょ、ぁあ!ふぁ…んんっ!」

 

 

「それで勝手に自己分析始めてたら、わたしは不要になるだろうって回答に行きついて、それで俺に懇願し始めて、そしたらよ、いきなり眼が濁り出してきやがってビックリしたぞテメェ! 聞いてんの? この耳は聞こえてまーすーか?」

 

 

「はひゃ、ぁあ、ちょっ、まっ、待って!あん! き、聞こぇ、ひゃぁぁー!」

 

 

「で? 何? 隣にいて良いか? それは言わないとわからない事なの? このあたまセイウンスカイがッッ!」

 

 

「ぅぁ、痛い!」

 

 

最後はデコピンして解放する。

 

俺は温水をバシャバシャと顔を洗ってから目元を腕で拭く。

 

その後デカいため息を吐き、その姿を見たセイウンスカイは不安そうに顔を伺う。

 

そして俺はジロっと彼女を見て、セイウンスカイは耳と尻尾がピーンとなる。

 

ジト目と言うやつだ。

 

このまましばらく無言の圧力でセイウンスカイを追い込んだ。

 

少しずつ萎れていくその耳を見て……俺は笑みが溢れる。

 

 

「セイウンスカイ、君は本気で俺がそう思っていると、考えてるのか?」

 

 

「え?」

 

 

「『アマグモの隣に居ていいのか』ってさ? ……なぁ、セイウンスカイは今日のこと忘れたのかな? 少なからず俺は蔵で言ったぞ?」

 

 

「な、何を?」

 

 

「『お前が良い』ってさ」

 

 

「!!」

 

 

「蔵で太刀を回収した後に君は『グラス』とか『テイオー』とか急に比較してきたけど、でも俺は言ったよな? お前が良いってさ」

 

 

「ぁ、でも、それは、可愛いとか…」

 

 

「皆たしかに可愛いし美人だと思うよ? 何故、ウマの『娘』なのか意味がわからないけど、でも皆とても良い娘だと思う。 健気で、人間を助けるために戦うとても良き女性だと思う。 でもさ、俺が隣で走って欲しいのセイウンスカイしか居ない」

 

 

「っ!」

 

 

「なので、仕方なーいーのーで、答えてやるよ。 隣に居ても良いかって? ああ、隣にいて良いよ。 今も、この先も、どこまでも、俺の隣にセイウンスカイが居ろ。 オトモダービーだからとか関係ない。 セイウンスカイってウマ娘だから意味がある。 前に雨雲と青雲の二つが大事なんだって話した通りに、アマグモとセイウンスカイだから意味があるんだ」

 

 

彼女の頭を撫でる。

 

 

「隣で走れ。 雨雲の下を駆けろ。 走る先が青雲であれ。 そうしてくれるセイウンスカイが俺は好きだ。 わかった?」

 

 

「ぁ、ぁぁ…」

 

 

「だから不安になる必要は無い。 いつも通り雲を眺めて良い。 俺も眺める。 それが青雲だろうが、雨雲だろうが、その空の下で俺がいて、その隣にはセイウンスカイがいる。 だからさ、君の抱える青雲をそう曇らせるな。 仮に雲せても、それは雨雲だけだ。 わかったな?」

 

 

「っ…ぐすっ…ぅぅ、ぅ、うん……アマグモ、うん…わかった。 わかったよ! わたし、隣で空を見てるね。 あなたと、一緒に…ぅぅ、ごめんね…アマグモ、ごめんね。 いつも、いつも、泣き虫になってしまって、今日も、変なこと聞いて…」

 

 

「気にするな。 雨水は太刀と一緒に背負うよ。 だってアマグモ(雨雲)だからいくら濡らしても変わりないさ」

 

 

 

彼女のお天気雨はユクモの温泉の中に沈んでいく。

 

 

もし今日の点検で水質に変化が起きていたとしたら彼女の涙のせいだろけど、おそらくそれは起きない。

 

 

湯気と共に夜空の青雲へと消えてゆくから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃはは、変なところ見せちゃったね」

 

 

「湯気で見えなかったことにするよ」

 

 

「あー! 女の子の涙を無かったことにするんだ! ふーん? ならテイオーに言いつけてやろうかな〜」

 

 

「むしろテイオーが『スカイちゃんまた泣いたのー? 君良く泣くんだね!にっしし』って揶揄うと思うけどな」

 

 

「ぐっ…なんて卑劣な事をっ!」

 

 

 

宿屋に戻って一緒の部屋で敷布団を伸ばす。

 

……近くない?

 

 

 

「だって……と、隣に居ろって言ったでしょ?」

 

 

「そう言う意味じゃないぞ?」

 

 

「……」

 

 

「あー、もう、ウマ娘はわかりやすく耳で反応が知れるから困るなぁ。 いいよ、セイウンスカイの好きにしていいよ。 ほら、もっと近づけろ」

 

 

「! ち、近すぎる…んじゃない?」

 

 

「え? 何? 恥ずかしがってるの? ああ、それなら離すか」

 

 

「!! ダメ、これで良いから! このままで良いよ。 ほ、ほら、もう寝よう? ね?」

 

 

 

ろうそくを消して潜り込む。

 

そして自然と、だけど…セイウンスカイと向き合っていた。

 

 

 

「……えへへ」

 

「?」

 

「お昼寝なら一緒にあるけど、アマグモと夜を寝るの初めてだね。 なんかドキドキするな〜」

 

「俺は、眠り辛い」

 

「もしかしてお相手が女の子だから?」

 

「…」

 

 

彼女はニヤニヤとにんまりと笑う。

 

 

 

「違うな」

 

 

「違うの? ならどうして〜?」

 

 

背を向けながら答えを言う。

 

 

 

「相手がセイウンスカイだからだよ」

 

 

「…………ふふ、その手には乗らないよ〜」

 

 

 

そう言って彼女も背を向けて眠りつく。

 

寝息がふたつになった。

 

 

だが、その時の彼女は耳がわかりやすいくらいにフニャリと落ちていて、セイウンスカイは感情を抑えるに精一杯だったらしいが、俺はその事を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 





しっとりしてるのはユクモ温泉のせいだから(湯気)

セイウンスカイって結構感情を隠してるタイプで、自分が思ってるよりも感情の処理が苦手で、何処となく怖がりで負けず嫌いで、弱さがある自分が許せなくて、虚栄を張る事で保とうとするけどでも思った以上に脆い、そんな感じのビジョンを浮かべた結果の話。

ここまでの話でそんな伏線あったかもわからないくらいにごちゃごちゃしたけど、ユタカの『特別』って言葉に色々考えさせられたセイウンスカイのつもりだった。

反省してる。 後悔はしてない。

でも本音を言えば一度盛大に曇らせたかったです。
はい(俗物)

そして実装が待てないトレーナー(作者)の末路です。
はい(白目)


あと水没林でのアマグモと、ジエン戦でのシュンギク、ハンターとオトモ揃ってなかなかに強烈な死線を駆け抜けてますね。
これで生きているとかお前らさては主人公だな?

ではまた


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13話

ユクモ村から帰ってきて1週間が経過。

 

ナルガクルガ亜種の素材を使用して生産された疾風刀・裏月影の名を持つ太刀を回収して、カムラの里に戻ってきた。 しかしアマグモは片手剣を得意とするハンターの認識が強かったせいか、立派な太刀を背負って帰ってきた俺の姿を見たハンターやウマ娘達は何事かと騒いでいた。

 

俺としてはこっそり持って帰って来たかったけど入り口の元気な御上さんが元気よく迎えたところから引き金となる。 とりあえず触ると肌が溶けるぞと冗談を交えて太刀に関しては軽く説明しておいた。

 

それで何故かセイウンスカイが誇らしげに「にゃはは〜、どうだどうだ〜、セイウンスカイのパートナーは凄かったんだよ〜!」って自分の事のように自慢していた。 シンボリルドルフを自慢するテイオーみたいだな?と、揶揄ったら耳を引っ張られた。 ウマ娘の力つよいから手加減しろ痛い痛い痛い。

 

しかし太刀を回収した話はギルドには告げず、噂程度に広めて、そこら辺はじっくりと足を突っ込む事にする。 まぁフゲンさんやハモンさんは俺の腕前について把握してるみたいだから遅かれ早かれな気はするが、そこら辺はゆるりと雲のように流れて待つ事にしよう。

 

 

 

そんなわけで…

 

 

 

 

「寒い…」

 

「寒いね〜」

 

 

 

ここは寒冷群島と言われる地帯。 名前からして寒いところ。 ホットドリンクをちびちび飲みながらセイウンスカイと寒さを凌いでいる。 たまに翔蟲にもホットドリンクを与えて凍らせないようにいるところだ。 あとエリア7から遠くに見えるイソネミクニはなかなかに幻想的で人魚に見える。 ギルドからも人魚竜と言われるくらいだからそれも当たり前か。

 

しかしあいつかなり交戦的な性格で気性が荒く、そのあたりラージャンに負けていないモンスターだ。 危険度は低めだが正面から顔を見たら怖いお顔をしている。 まだおやすみベアーを抱きしめて仰向けに寝ていたラージャンの方が可愛かったぞ。

 

 

 

あ、ちなみに俺もセイウンスカイを抱きしめてるところだ。

 

 

後ろからだけど。

 

 

 

「…動き辛くない?」

 

「いやいや〜、ぜんぜん余裕だよ〜」

 

 

 

何をやっているかと説明したら、俺はセイウンスカイに背負われていると説明するしかない。

 

では何故このようなことになっているのか?

 

そこまでを説明すると、彼女はもっと俺の役に立ちたいと言ってこの現状にとりあえず行き着いた。 まず彼女が役立つとするなら"逃げ"の能力を使った支援であり、モンスターの誘導や分断に一役買ってくれる。 これだけでも大変助かるのだが、先週のユクモ温泉での急な独白からセイウンスカイもまたその後、少しだけ考えていた。 今の自分がアマグモにもっと役立てるウマ娘はなんなのか? とりあえずアマグモの負担を少しでも軽くしたいと考えた結果、背負って移動することだ。

 

 

 

 

うーん、ガルクで良くない????

 

 

 

「ダメ、ゼッタイソンナコト、ユズラナイカラ」

 

 

「!?」

 

 

 

寒気がした。

 

 

いや、寒気はしてるのになんか寒気がした。

 

 

……俺は何を言っているんだ??

 

 

 

「……なーんてね、冗談だよ。 別にアマグモがガルクの方が効率が良いと思って雇用するならそれでも良いよ? わたしだけがわがままと独断でそんなことはしないよ」

 

 

健気に振る舞ってそうは言うけど、背負われていることで近くで見えるその耳が沈みそうになっていることがよくわかる。

 

これはウマ娘が不安を感じている時に良くある仕草だ。 セイウンスカイの事を見てるとそれは嫌でも理解できる。 しかしそんな彼女は私情を押し込んで効率を選ぼうと発言した。 クエストを果たすためのだけの存在ならこれはよく出来ているウマ娘だろう。

 

 

けど、俺はそんな彼女を求めない。

 

 

 

「何言ってんだ。 ガルクなんて雇用するわけないだろ。 俺たちはセイウンスカイと『二人だけ』で充分だ。 仮にガルク雇用しても家は狭くて面倒見きれないし、ケシキの様にモンスターに強襲する訳でもない。 例え討伐向けの太刀を持ち帰って来たにしろ、今の俺たちはまだ回収班ターである。 ガルクは使わない」

 

 

「……そっか、ならいいよ」

 

 

「何が『いいよ』だよ、まったく。 そんなに俺を信用出来ないのか?」

 

 

「別にそうじゃないけど、でも、やはりわたしがやろうとしてることは他のオトモならうまく補える事でしょう? なら、そうした方が良いとか、考えるだろうなって、思ったりしてね…」

 

 

「まぁ、シュンギクは居たよ? 俺が薬物依存症でおぼつかない時にユタカが勝手に雇用して来て、それで確かにシュンギクがオトモとしてサポートしてくれたし、助かったことは指で数え切れない。 でもシュンギクと離れてからカムラの里に来て、一人で歩む努力をした。 セイウンスカイが現れるまでの1年間はオトモに慣れていた身として大変だった。 薬物依存症を抜きにしてもやはりサポートの有る無しではクエストの捗り方は違うし、一人で女々しく不安になったりもした」

 

 

「…」

 

 

「それで普段集まらないハンターと最初の百竜夜行を共に切り抜けて、それでやはり誰かが近くにいる事は今の狩り業界にて大きいことを再確認した。 そこにオトモダービーの名を聞いて、カムラの里にウマ娘が現れて、俺はセイウンスカイを選んだ」

 

 

 

 

 

 

__おや〜? もしかしてこの私を選ぶのかな?

 

__逃げる事だけに脚が慣れてあまりご期待に添えれないかもよ?

 

 

 

__だからこそだよ。

 

__今の俺にはお前が必要だと感じてる。

 

 

 

 

 

 

 

「そこから劇的に変わったさ。 セイウンスカイが隣にいて大きく変化した。 恐らく…いや、間違いなくアイルーやガルクを雇用するよりもそれは存在の大きいお供(オトモ)だよ」

 

 

 

背負われながらだけど、目の前にあるその頭を撫でる。 すると一歩ずつ駆けるその脚の速度が落ちて、だんだんとゆっくりな歩みになり、静かにその場で止まった。 何も言葉を発さない彼女だけど、耳は機敏にピクピクと動いている。 これは何かの気を紛らわせたい時、または何かを隠したい事がある時、あるいは抱えている気持ちを誤魔化したい時だ。 どうであれセイウンスカイは俺の言葉に困っている訳である。 それは良い意味でなのか、悪い意味でなのかは、聞かれた本人次第だろう。

 

 

 

「アマグモは、すごく……その、セコイ人だよね…っ、もう、あなたに、そんなこと言われたら、わたしは、何も、アマグモに言えないじゃない…」

 

 

「俺はセイウンスカイに何も不満が無くむしろこれ以上を求めたいとは思ってない。 ただそのままのセイウンスカイが良い言ってるのだからアマグモに何も言えないのは当たり前だ」

 

 

彼女の背中から降りて、その細い体を後ろから抱きよせ、雪で積もりそうになるその頭をゆっくりと撫でる。 彼女の頬と自分の頬を合わせて冷たい肌を貰い受ける。 その状態でもう一度良く聞こえるにセイウンスカイに言う。

 

 

 

「俺はお前が、セイウンスカイが良い」

 

 

「……うん」

 

 

「セイウンスカイの出来ることをこの俺だけにくれ。 他の者に譲るな。 …良いな?」

 

 

「……言われなくても、セイウンスカイのトレーナーはアマグモだけなんだ。 だからそんなに近くで改めさせなくても良いよ」

 

 

「お前は逃げるからな。 逃げなくても良いところで逃げるからしっかりと近くで伝えてやらないと。 それに……」

 

 

「…それに?」

 

 

「セイウンスカイはめんどくさいから、何度も言ってやらないと、答えを求めに勝手に駆け出す困ったウマ娘だ。 だからその必要ない様に俺が答えになってやらないとダメな訳だ」

 

 

「……うるさいなぁ。 だってアマグモがめんどくさいウマ娘ってわたしに言ったんだから、めんどくさいわたしである事を隠せなくなったんじゃん。 青雲のつもりだった私の事を雨雲で湿らせたアマグモが悪いんだからね……ばか」

 

 

「セイウンスカイに言われたくないな、ばーか」

 

 

「バカって言う人が馬鹿なんだよバーカ。 それと私は鹿じゃなくて馬だから」

 

 

「やーい、うーま、うーま」

 

 

「あまりやかましいと雪原地のど真ん中に置いていくよ?」

 

 

「寂しがりやで一人置いていけないくせに強がんなよ。 ほら、寒いから背負ってくれよ。 ホットドリンクじゃこの寒さは保たない」

 

 

「いいよ、私も寒いから背負わせてもらうから」

 

 

 

彼女は笑いながら屈んで背中を見せる。 後ろから抱きしめていた様な状態だからそのまま彼女からヒョイと軽く持ち上げられて走り出す。 ウマ娘の力の強さと身体能力の高さを今一度感じながら彼女の足取りは軽い事を知る。 雪原で足が取られやすいはずなのに走る速度は落ちず、走りやすいところを順次に把握しながら駆けていく。 これはむしろガルクよりも安定してるのじゃないのか? いや、俺があまりガルクに乗った事ないからこのような視点になってしまうだけだろうが、でもそう思えるのは俺の脚となって駆けてくれる存在がセイウンスカイだからだ。

 

 

「っ、止まるよ」

 

 

 

セイウンスカイは何かを見つける。

 

そして音が届かないだろう距離を測って減速した。

 

 

「ウルクススだな」

 

「うん、これ以上は踏み込むと聴こえるよね…」

 

 

うさぎなのか、くまなのか、ともかく牙獣種に分類される巨大な体を持つモンスターであり、雪バージョンのアオアシラみたいなやつだ。 獣だけあってやはり交戦的で、目が合うと直ぐに襲いかかってくる。 雪原では高い機動力を持ち、アオアシラと同じ感覚で戦うと手痛い反撃を喰らうだろう。 あと音爆弾に弱い。 それだけ耳が発達していてるので、セイウンスカイもそれを理解して発覚を防ぐために急停止してくれた。 下手なオトモよりも良く出来てる。

 

 

 

「出来ればどこか行って欲しいな」

 

 

「だったら、ここは得意のわたしが誘き寄せるよ」

 

 

「いや、ここ一帯は冷水地で占めていて、そこにウマ娘を走らせる訳にもいかない。 走ってる間は熱で昂まって大丈夫かもだけど、脚が凍えると流石に危険すぎる」

 

 

「ならどうするの?」

 

 

「今回の回収物は双剣の片割れでそこまで重たくない。 なら俺がウルクススの気を惹くからセイウンスカイが双剣を持って撤退して欲しい。 タイミング見て俺も高台に離脱するから」

 

 

「むしろわたしが惹きつけるのはどうかな?」

 

 

「いや、使用するアイテムの関係で俺がやる。 それで双剣の片割れは蔦の近くにあるらしい。 俺も探すけど、見つけたら回収してこのエリアから即離脱してほしい。 良いね?」

 

 

「わかった。 じゃあ……行くよ!」

 

 

 

セイウンスカイは俺を背負いながら雪原を走る。 するとウルクススがこちらに気がついて威嚇を始めた。 俺はセイウンスカイから離脱して滑り込む様に片手剣を抜刀、ウルクススの左腕をオデッセイブレイドで斬りつけて先制攻撃を行う。 ウルクススのヘイトが完全に俺に向いたので盾を構えながら向き合う。

 

 

 

「フギィィ!!」

 

 

「可愛くないうさぎだなお前! まだユクモ村にいたプギーの方が可愛かったぞ!」

 

 

 

ウルクススは大腕を振るいながら飛びついてくる。 横に回避してホットドリンクの液体を顔にぶつけると眼に入ったのか苦しみ始めた。 投げナイフで鼻目掛けて投擲する。 火薬草と唐辛子を織り交ぜた爆破投げナイフなので大きく息を吸ったウルクススはむせる様な悲鳴をあげる。 ウルクススは自分の顔をぐしゃぐしゃと掻き乱して火薬を取り払おうとのたうちまわり、その間に俺はセイウンスカイを確認する。 まだ双剣の片割れを探してるらしい。

 

 

てか双剣の片割れだけなら新しいの作れば良いんじゃないのか? って思うかもだけど今回のはモンスターの素材を使った双剣なので放置するのは好ましくない。 もし鉱石とかで作っていたのならまだ良いけど、モンスターの素材で作られた武器に関しては放置はあまりよろしくない。 それを構わず食してしまうモンスターがいる場合、その武器を消化して何かしらに変化する事を嫌がるからだ。

 

例えばフルフルにも赤いフルフルがいるらしく、そいつは亜種と言われてる。 そして原種のフルフルは火属性に弱いのに赤いフルフルは火属性に強い謎の耐性を抱えている。 それでとあるクエストの報告にて痕跡がフルフルと聞き、討伐に向かったハンターは火属性の武器を持ち込んだが、現れたのは同じフルフルでも赤いフルフルが現れたらしく、返り討ちにあってしまい、ネコタクも間に合わず捕食された悲惨な話を聞いたことある。 それで武器を捕食するフルフルに関してだが奴らは目が無いので武器である事を知らず、モンスターの素材で作られたその匂いとモンスターの返り血にて生物の死骸だと勘違いするケースが稀にあるらしい。 それを食べて赤いフルフルの様なやつが生まれるとか。

 

なので武器の放置するにも生産した時の系統によっては回収が強要される事もある。 そんなわけで今回のクエストは"骨系"の産出物であることが分かるわけだ。 まぁでもリタイアしてハンターがその武器を気に入ってるパターンばかりで、大半は系統なんか関係なく回収を望まれるので、ギルドのお達しじゃなかろうとも回収班ターはそのために毎日動くわけだ。

 

 

 

「フギィィィ! グギギ!」

 

 

ウルクススが突っ込んできた。

 

直線上にマキムシを撒いて引っ掛けてやると顎下に食い込んでしまい、激痛で地面にのたうちまわっている。

 

俺は翔蟲でウルクススの首に飛び乗り、音爆弾を取り出してからウルクススの両方の耳の中にひっかける。 首に乗られていることで振り下ろそうと暴れるウルクススの首にオデッセイブレイドを突き立てて深く食い込ませて、振り落とされないように耐える。 するとウルクススは二足歩行になって首のオデッセイブレイドを引っこ抜こうと暴れ始めた。

 

俺は高くジャンプしてウルクススから離脱すると、飛び降りながらよく見えるその顔を盾でおもいっきり右からガツンと殴りつける。 するとパキィィィーーン! と耳を貫く様な音が響き渡り、ウルクススは「カッ…」と首を絞められたような声を出して二足歩行でふらつき、翔蟲でオデッセイブレイドを引き抜きながら次はその首を翔蟲で巻きつけて一気に顔を引っ張る。 そして裏拳の容量で次は左側からアッパーカットを放ち、殴られた衝撃でウルクススの左耳から音爆弾が弾ける。

 

すると何も反応は無くなり、そのまま大の字で白目を剥きながらウルクススは倒れた。 オデッセイブレイドの血を払いながらウルクススを確認する。 死んでは無いようだが両耳の鼓膜を破壊されたことでウルクススはピクピクと痙攣している。 うん、所詮牙獣種だな。

 

 

 

「よし、これでしばらく起きないだろう」

 

 

「や、やる事が、エグいよ……閃光玉で良かったんじゃ無いの?」

 

 

「それでも良かったけど、探すために暴れられると邪魔だから行動不能にしたかった。 なのでゼロ距離で両耳の鼓膜ぶち破る事にした。 お陰で大人しくなったな」

 

 

「もしかして私に任せなかったのは音爆弾を使うから?」

 

 

「ああ。 閃光玉で切り抜けるのは最後の手段として考えて、音爆弾が有効ならそうするつもりだったから。 あとウマ娘も音はよく聴こえるだろ? そこら辺任せると危ないから俺に任せて欲しかったのはそういうことだ」

 

 

「なるほどね〜。 しかしアマグモはハンターだとしても自分の2、3倍ある体格のモンスター相手に良く戦えるよね」

 

 

「でもそれ言うと20倍(飛竜)30倍(魚竜)どころか700倍(峯山竜)以上あるモンスターの討伐経験あるから2倍程度じゃそうでもないって。 それじゃ、とっとと回収して帰るぞ。 調子乗ってホットドリンク無くしたから寒い

 

 

「投げたアマグモが悪い」

 

 

「セイウンスカイの背中があったかいから無問題だな」

 

 

「こらこら〜、人を湯たんぽ代わりにしない」

 

 

「何言ってんだ。 カムラの里に帰ってきてから夜は一緒に寝るようになって、それで湯たんぽ否定するのは些か難しいな」

 

 

「むー! そんなこと言うならアマグモとはもう一緒に寝な…………いや、ダメ、離れるの、だめだから」

 

 

「不安になったりならなかったり忙しいな君」

 

 

 

そういや実験の好きなウマ娘から「ほぉ、これは良い"独占欲"の眼をしてるねぇ?」って興味深そうな感じに意味深な言葉を貰ってたけど、つまり、これは、そういう事なんだろうか?

 

セイウンスカイはほわほわしてる様な一面を常に見せているけど、その時になると何処かしら濁った様に感情が溢れ出すこの子はほんの少しだけ怖い時がある。

 

でもそうさせてしまったのは俺だから、受け止める他あるまい……と、言うか俺に限らずウマ娘の殆どが「トレーナー」と慕う対処に向けての"信頼"イコールの形が変に強すぎる。

 

ウマ娘ってそのような種族なんだろうか?

 

随分とまぁクソデカ感情に躊躇いが無いというか…

 

 

「アマグモ、あったかい?」

 

 

「あったかい。 あと寒い、はやく帰りたい」

 

 

 

白目を剥いて倒れているウルクススを横目に寒冷群島のクエストは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむやはり独占欲から始まるバロメーターに強い変化はある様だが一般的には信頼は強さに変化すると言う事であり結局はそこに応えたい力と現状のやる気にてリミッターが少しだけ外れる仕組みで変化するだけだがしかしウマ娘の信頼の形は人間からするとほんの少しだけ歪んでいる方向性になるものみたいだねしかしその分倍率的な話にするならば人間よりも身体能力の高いウマ娘だからこそ上昇する量は今も計り知れなくていやはや尽きない神秘だしかしウマ娘はそれ特有に歪んだ感情として変換してしまうケースがある様だからトレーナーがどれだけにストッパーとなり安全装置として働けるかもまた試されてるあたり変化の訪れを見逃すことはこの私が……へっ、くちゅん!」

 

 

「息を絶やさず言い切って凄いかな、と思ったけど最後のくしゃみでアホさ加減が見え隠れして何をどう反応したら良いかわからないなこれ。 そもそも厚着しないでこんなところに来る辺り本当に頭良いのか悪いのか悩ましい」

 

 

「やれやれセイウンスカイのトレーナー君、結局人は暖を求めるのに衣類では補えない。 大半の生き物の体内構造は凍えない様に筋肉を震わせる仕組みを持っている。 へっ、くちゅん!…その震えを阻害する吹き付ける冷気だけを防げば薄着でも生きていけるのだよ。 ……へっ、くちゅん!」

 

 

「はいはいわかったから君のトレーナーが持ってきてくれたウルクススの上着を着こなしたらどうだ?」

 

 

「暖をとり過ぎるとむしろ、くちゅん! …に、鈍るからね。 今から個人的な興味、くちゅん! …のために探し求める大型のウミウシをくちゅん! …逃さ、くちゅん! ふぇ……こ、こほん、…ウミウシを逃がさない様にするため程よく…ちゅん! 寒い方がちょうど、くちゅん! は、は、はくちゅん!……ぅ……げふっ」

 

 

「一旦寒いの定義調べ直して来いアタマヌケテマスタキオン」

 

 

「くちゅん!」

 

 

 

クエストを終えて寒冷群島から抜けようとしたところにアグネスタキオンとそのトレーナーであるウルクスス装備のハンターとすれ違った。 どうやらドスバギィの実験だと言ってわざわざこんな悪環境までやってきたらしい。 実験内容は永続的な元気ドリンコの効果を試すとか言って眠狗竜を相手に睡眠されて来いの話だった。

 

いやおまえ肉食獣を相手に頭おかしいだろ。

 

 

 

「タキオン、風邪を引く方が効率の悪いからしっかり着てくれ」

 

「安心したまえトレーナー君。 寒いとは言え薬で予防してる。 風邪は引かないさ」

 

「だがくしゃみする度に凍えてそうなタキオンが心配だ! 僕は安心してドスバギィの睡眠をくらえないじゃないか!」

 

「むっ…それは困るな……致し方ない」

 

 

 

いや、お前ら何言ってんの?

 

 

 

「じゃあ厚着することは決まりだな! ほら! ウルクススの素材を使った上着だ! とてもあったかいぞ」

 

「問題はそこじゃ無いが…仕方ない。 トレーナー君に心配事を残すと実験に支障が残る。 実験のためにしっかり厚着をしようではないか。 やれやれ、衣服はともかく厚着は少し苦手なんだが……おい、待ちたまえ。 この上着の袖、些か長いでは無いか?」

 

「いや、それが良いんだよ! いまは視覚的効果にて今回の実験成功率は高まったさ!」

 

「ほぉ? 何がどう視覚的効果なのかはわからないが、見たところ今のモルモット君のバロメーターは高水準に満たしている様だねぇ。 わたしがこの格好で……格好? まて、もしや馬鹿にされてるのか?」

 

「まさか! 愛バのすがたが愛らしい理由で馬鹿にする意味として繋がらないな! それに君さっきほど説明していた事だよ。 愛情の形が力をくれるのさ! それはこの僕が愛バの萌えにて鼓動の高鳴りが生命の強化に繋がり実験の成功に導いてくれる話だけ! さぁさぁ、その姿を崩さずにドスバギィの元までいこうでは無いか、 大丈夫、奥歯に秘薬は詰めてある。 容易く死にやしないさ!」

 

「か、かわい…………ふぅ、実験は中止にしようモルモット君。 なんだか納得がいかないからねぇ。 ウミウシだけ見て帰るとしよう」

 

「なんと!? 何がダメだと言うんだ!!」

 

 

 

 

 

「……帰るか、セイウンスカイ」

 

「……うん」

 

 

どうやらドスバギィに身を差し出す狂気は免れた様だがなんとも言えない気持ちになった。

 

 

……モルモットになるって怖いな。

 

 

 

 

 

つづく

 





殺そうと思えばウルクススを殺せる辺りアマグモもやっぱり強いですね。 ちなみに殺すとその臭いバギィが寄って来るからそうしなかった裏設定。 やってること鼓膜破壊とかエグいけど、ナルガ亜種の件も考えるとアマグモはこのスタイルが得意なんだろう、そんな描写です。



ちなみにアグネスタキオンのモルモットになると言うのはそれで普通なのでこれに異常に感じることがむしろ異常だからしっかりモルモットの気持ちを理解しようね。 モルモットレーナーとの約束だぞ。



ではまた


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14話

 

 

 

マガイマガドと戦ったケシキが戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレンススズカを両手に抱えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告だと、エリア10でこの辺りだな」

 

「泥水の底に隠れて見つからないかもしれないね」

 

「とりあえず探す。 セイウンスカイは陸地を探して。 俺は泥水を探る」

 

「別にわたしは泥水に汚れても気にしないよ?」

 

「エルコンドルパサーのような子を除いてウマ娘はあまり足場の悪いところに足を突っ込まないで欲しい」

 

「もう、心配しすぎだよ? 別に走らなければ足を突っ込む分は大丈夫だから。 わたしも探すよ」

 

「…わかった。 じゃあそっち側を頼む」

 

「にゃは、了解したよー」

 

 

 

 

ケシキはマガイマガドの討伐に失敗した。

 

 

あと一歩のところで彼は敗走した。

 

 

しかし生きて帰ってきた。

 

 

それだけが何よりも大きいだろう

 

 

 

しかし、その代償は大きかった。

 

ケシキに随従するサイレンススズカが目を覚さない。

 

それと彼女は死んではいない。

 

だが、折れてしまったその片脚はとてもじゃないけど、痛々しい光景だった。

 

 

ケシキは彼女の事をこう語る。

 

サイレンススズカは、マガイマガドに追い込まれたケシキを助けるために飛び出した。 ケシキは瀕死のマガイマガド最後の猛攻を凌げず、泥水の中に投げ出されてしまい、マガイマガドはその前足でケシキを泥水の中に押し込んで溺れ殺そうとしていた。 ケシキはその大足を退くことはできず、泥水の中でもがき苦しむ。 そんな彼を助ける存在はいなかった。 ケシキのオトモ達も3日以上の戦いによって怪我を負い、疲弊して、戦線を離脱していた。 そして残るは陰で見守るサイレンススズカただ一人だけ。 しかし彼女も長い時間の中で走る力を使い果たしていた。

 

彼女は短い時間帯でどのウマ娘よりも鋭い健脚で駆けることはできるが、長期的なクエスト向きの脚ではなかった。

 

ウマ娘にも"適正距離"ってものがある。

 

言い方を変えれば遂行可能なクエスト時間の事であろうか。 例えばサクラバクシンオーは短い時間内でとんでもない爆発力を発揮し、その脚を使って駆け巡る。 限られた時間内なら難しいオーダーをいくつも熟してくれる辺り、短期決戦に向いた能力である事が伺える。 この時のサクラバクシンオーはガルクよりも驀進的であるが、長期的なクエストには不向きだ。

 

それと相対するようにセイウンスカイは脚こそ他のウマ娘よりも劣るかもしれないが長期的なクエストに対して強い。 長時間のクエストだろうといつでも自身のポテンシャルを最大限に発揮してくれる。 常に雲のように緩やかな彼女だからこその脚質だろう。

 

しかしサイレンススズカはそうではない。 サクラバクシンオーよりもやや長い時間のクエストが遂行可能であるが3日も走れる力があるかと言うとそうで無い。 むしろ1日中走れたらそれは上出来な方である。

 

しかしだ、普段なら2日も掛からずにモンスターを討伐まで漕ぎ着けるケシキであるが、百竜夜行で一太刀だけ牽制した以来マガイマガドとはほぼ初見での討伐だ。 故に時間がかかった。 そんなサイレンススズカもその時間分を駆ける足は無いに等しかった。 むしろ1日中で充分なのに3日は本当に良く保った方である。 それだけケシキに応えたくて脚を動かしだろう。

 

 

だがそこから先は自殺行為であった。

 

 

俺は前に少しだけ砂漠における適正と、そして何がなんでもオーダーに応えようとするウマ娘の話をしたことを覚えているだろうか?

 

ウマ娘がトレーナーと認め、または慕う存在に対して何がなんでも応えたい生き物である話をした。 ウマ娘はトレーナーのオーダーに応えたいために持ち合わせる脚で駆けようとする。 人間を助けるための使命を掲げ、ウマ娘としての存在意義がそうである。 それが走り慣れない砂漠の上だとしてもウマ娘はトレーナーに応えようと全身全霊で走る。

 

それが人の期待を乗せて走る馬でもあるから。

 

もちろん性格上の個人差はある。 ゴールドシップの様なウマ娘は流石に特殊すぎるが、スペシャルウィークやグラスワンダーのようなウマ娘は健気で真面目である。 それはサイレンススズカも同じ。 だがサイレンススズカはやや行き過ぎた部分がある。 ケシキとはただの信頼関係では収まらないほどだった。

 

 

ではこれが一体なんだと言うのか?

 

 

サイレンススズカはケシキを想うあまり応えるの意味を通り越してしまった。 ウマ娘はモンスターの前に躍り出て戦ってはならない。 いくら普通の人間よりも身体能力が高かろうと、武器を扱えない身としてその命を曝け出す事は許されない。 そう言われている。

 

サイレンススズカもそれは承知の上でいつもケシキを見守っていた。 どんなに危険だろうとウマ娘は戦わず、トレーナー(ハンター)を信じる。 だが彼女はケシキを助けようとするために彼が手放した太刀を持ってマガイマガドに斬りかかった。 いくら身体能力が高いウマ娘でも武器を扱う能力は無いに等しい。 だからモンスターに勝てる力は無い。 閃光玉や環境生物以上のモノを扱ったことない彼女が太刀を握ったところでマガイマガドには通用せず、その尻尾で打ち払われてしまい、壁に打ち付けられた。

 

壁の瓦を壊しながら横たわる彼女の姿が、泥水の中から解放されたケシキはそんなサイレンススズカを見て、感じた事ない感情が弾け飛ぶ。

 

 

 

……そこから彼は記憶がないと言う。

 

 

 

気づいた時には脚を引きずって逃げるマガイマガドを他所にケシキは折れてしまった太刀を手放して、モンスターを討伐する使命を忘れると、サイレンススズカを抱えてカムラの里に戻ってきたらしい。

 

 

初めてクエストリタイアの形で終えたケシキだった。

 

 

 

 

 

さて、まだマガイマガドは生きている。

 

だが今のところマガイマガドの報告は無い。

 

どこかに隠れているのだろうか。

 

油断はできない。

 

 

それと彼が使っていた太刀は大社跡で紛失した。 ギルドからもその話がすぐに出て、俺宛に依頼が飛んできた。 フクズクから伝票を受け取り、中身を確認すると"環境不安定"の文字が警告として書かれていた。 随分と穏やかなじゃ無い内容だがケシキのリタイアからそう掛からないで俺のところに話が舞い込んできたと言うのは、環境不安定の中でクエストを遂行できるハンターはアマグモだと言う事だろう。 評価されてると言えば響きは良いが、扱いは俺に対しての特務…言わば"緊急クエスト"の様な扱いだろう。

 

里のために命を賭けて来い、その意味だろうか。

 

 

 

まぁ、いつも命懸けであるのは変わりないが。

 

 

 

「アマグモ! 見つけたよ!」

 

 

 

セイウンスカイは泥水の中からケシキが使っていた太刀を引き摺り出して、俺に見せる。

 

思ったより早く見つかった。

 

 

 

「わかった。 回収して早めに戻__」

 

 

 

俺はオデッセイブレイドを腰に手をかけてセイウンスカイに目掛けて投げる。

 

紫色の煙を切り払った。

 

 

「!?」

 

 

セイウンスカイも耳が立っているあたり、今何が起きたか気づいたようだが、泥水の音に運悪く遮られて大型モンスターの接近に気を許していた。 しかも漂う煙は音もない。 この初見殺しは俺も百竜夜行で味わった。

 

 

「っ」

 

 

そして彼女は泥水の中に足が囚われている。

 

すぐに走れない。

 

 

 

「グルルル!」

 

 

 

静かに接近してきた大型モンスター。

 

マガイマガドが現れる。

 

投げたオデッセイブレイドを翔蟲で引き寄せて、そのままもう一度投擲する。

 

その片手剣を尻尾弾こうとするが、その尻尾にオデッセイブレイドが突き刺さり、血飛沫をあげるとマガイマガドは目を見開く。

 

なるほど肉質の関係で水属性の武器に弱いのか。

 

あとマガイマガドは投擲物を尻尾で弾き返すことに慣れ過ぎている。

 

その結果として今なのだろう。

 

 

「セイウンスカイ」

 

「!」

 

 

逃げ馬の性質上セイウンスカイは驚きすくみ上がり、その足を硬直させそうになっていたが、俺が声をかけるとスッと冷静さを取り戻す。

 

そしてセイウンスカイ自ら腰にしまっていた閃光玉をマガイマガドに投げつけて離脱する。

 

 

「ブゴゥ!」

「ブヒィィ!!」

 

 

ブルファンゴが閃光玉で目を覚まし、そしてマガイマガドの存在に気がつくと逃げるどころか突進した。

 

いまがチャンスだな。

 

 

「セイウンスカイ、その太刀を持ってベースキャンプに走れ。 それでケシキの太刀の納品を終えたら次は…俺の太刀を持ってきてエリア7まで持ってきてくれ」

 

 

「!?」

 

 

「アイツをこの場で倒す」

 

 

「いや、でも…っ………わかった! 私が来るまで死なないで!」

 

 

 

セイウンスカイは一度その作戦に反論しようとしたが、それを飲み込んで耐えると太刀を背負って直ぐに走り出す。 俺は音爆弾を投げて目が眩むマガイマガドを撹乱しながら近くにいた環境生物を回収して足場の悪いエリア9から離脱する。 マガイマガドはブルファンゴの攻撃を蹴散らしながら俺を探していた。

 

 

 

「こっちだモンスター」

 

 

「グルルル!」

 

 

 

翔蟲を使って一気に移動する。

 

その派手な動きにマガイマガドは俺の存在を視界に捕らえて走り出す。

 

しかし細い関門に撒いたマキムシを踏んでマガイマガドは怯んだ。

 

 

 

「何やってる間抜けが、さっさと来いよ」

 

 

「グルルアアア!!」

 

 

 

投げナイフを顔にぶつけて挑発する。

 

マガイマガドも完全に敵と見做したのか起き上がって、追いかけてきた。

 

ジンオウガと同じくらいの迫力か、強者であることがよく分かる。

 

そしてエリア7までマガイマガドと連れてやってきたことでブンブジナがキョェ!と驚いて逃げ出す。

 

 

 

「…」

 

 

「グルルル…」

 

 

 

互いに見合って牽制する。

 

そしてマガイマガドが動き出した。

 

ジンオウガの様に大腕を奮って叩きつぶしてきたが、思ったよりも動きが鈍い。 ケシキがかなり弱らせていたのだろう。 よく見たら至る所に刻まれた跡があり、ケシキとの激闘から命からがら逃げ延びたのだろう。 耳をすませばフー、フーと、息をしているあたり余裕ではないらしい。

 

 

「なんだ、随分と死にそうじゃないか。 どうした? 尻尾巻いて逃げるか? ジンオウガのメスならまだ勇猛だぞ?」

 

 

「グルルアアア!!」

 

 

 

言葉を理解してるのか分からないがマガイマガドは俺が挑発してることはよく分かるらしい。 紫色の煙を纏うとそれを放ってきた。 爆発するやつか。 翔蟲で一気にマガイマガドに詰め寄って盾でその顔を殴る。 ガツンと音を立ててマガイマガドの角をへし折り紫色の煙は消え失せる。 どうやらあの煙は意識を集中して使わないとダメらしい。

 

これは大きなスキだな。

 

なんとか使わせてもう一度……いや、基本的に四足歩行のモンスターのパターンを思い出せ。 アレは自分を強化するための技術でもある。 体内のエネルギーを爆発させる"玉"が体の中にある。 これは牙獣種の特徴とも言えるな。 環境に適応しようと変化したモンスターとは違う。 基本的に奴らは口から放出するための"袋"を生成する。 ロアルロドスやフルフルのようなやつだ。

 

そして牙獣種の四足歩行は体内に玉を持ち、それエネルギーに変えて戦える能力を高める。 そのため攻撃はむしろ副産物に等しい。 そうなるとまだ隠し球がある事を前提にして、体力的に恐らくあと一度だけ強化状態に入るだろう。 マガイマガドの強化状態は紫色の炎、または鬼火を纏う報告を受けている。 牙獣種と言えども"怨虎竜"の別名で通っているあたりなるほどと言える。 鬼火は触れると不味いが理解していれば問題ない。

 

わかることは尻尾の扱いに長けている。

 

また強化状態がある。

 

鬼火は触れると危うい。

 

ジンオウガ並みの機動力を持つ。

 

知能は高い方。

 

 

 

「これだけわかっていれば充分だな」

 

 

それでも弱っていることに変わりはない。

 

勝機は充分だ。

 

 

「蟲車!」

 

 

オデッセイブレイドの盾を翔蟲に引っ掛けてぐるぐる回す。 鬼火を払いながら盾で顔を殴りマガイマガドの目眩を誘う。 マガイマガドの破れかぶれな反撃に対しての遠心力を使って大きく回避して、先程回収した雷毛コロガシの環境生物を投げつけて雷やられ状態を誘う。 俺は遠心力で大きく退いた反動を活かして後方の壁を蹴り、マガイマガドに飛び付くと再びその盾でその顔を殴る。 マガイマガドは強烈なスタン攻撃に足を崩して地面に倒れる。

 

おぼつかなく暴れるマガイマガドに回り込んでオデッセイブレイド引き抜き、付着した血を洗い流すために液体を根本から流す。 オデッセイブレイドに翔蟲を引っ掛けてその場で回転させて液体に包まれた血を払う。 そのままオデッセイブレイドを真上に放ち、その勢いを利用して高く飛脚するとマガイマガドの真上を取ったのに、丸見えの脇腹に目掛けて突き刺した。

 

 

「グァァア!??」

 

 

四足歩行のモンスターは基本的に腹は柔らかい。 たった一撃とは言えそれは深い傷となった。 そしてあわよくば体内の玉にダメージを与えて一気に追い込む。 マガイマガドは尻尾を使って俺を振り払おう伸ばしてきたので盾で弾きながら前足を撫でるように切り上げて、そのまま流れるように後ろ足にも攻撃を入れる。 一気に距離を取って離れると盾を横にバッと伸ばしてマガイマガドを待ち構える。

 

 

「来いよ、哀れな亡霊武者」

 

 

マガイマガドは「言わずもがな!」とばかりに冷静さを欠いて距離を詰める。

 

 

攻撃手段である尻尾か?

 

大腕のスタンプか?

 

また鬼火か?

 

 

いや…

 

 

 

「そんなのは関係ないな」

 

 

 

盾を持つその手には小型のハンターナイフを逆手に持ちで構え、盾で見えなくしていた雷光虫をスッと動かしてマガイマガドに晒し出し、ハンターナイフで雷光虫に刺激を与える。 盾の内側から一気に放たれる閃光にマガイマガドは不意を食らって再び目が眩む。 驚きのあまりに一度体を硬直させてしまうが、マガイマガドからしては今更閃光による目眩し程度でその歩みを止めない。 俺が立っている場所を把握しつつ広範囲に攻撃を切り替えて、今一度踏み込もうとして……転倒した。

 

 

「グゥ!?!?」

 

 

足を斬られた!?

 

顔を殴られた!?

 

しかし接触を受けた気配はない!

 

なら一体何が!?

 

そんな感情がよく伝わる声。

 

 

 

「効果的面だな」

 

 

 

マガイマガドの足がひどく滑る。

 

巨体を支えきれない。

 

中途半端に踏み込んでしまった石階段から足が滑り落ち、ぐしゃっと顎から地面に落ちるその姿はあまりにも間抜けだ。

 

 

「タマミツネの潤滑剤はジンオウガすら転ばせる。 縄張り争いでタマミツネがジンオウガに引けを取らないのはこういうことだ」

 

 

オデッセイブレイドに流した液体はただの液体ではない。

 

タマミツネの素材の一つである"滑らかな滑液"と言われる潤滑剤だ。

 

ハモンさんからオデッセイブレイドの汚れを落とす時はタマミツネの滑らかな滑液を使うように言われている。 普段なら少量で刃に垂らして布を擦って血肉などを洗い落とす。 しかしそれを多量に使うことで刃にタマミツネの潤滑剤を纏わせることが可能であり、出来上がるのは泡立つ剣。 それをマガイマガドの4本足にバターを塗るような感覚で撫で切った。 今のマガイマガドの足裏は沢山の泡に包まれて上手く動けないだろう。

 

しかしこれは普通の武器では出来ない技である。

 

だがオデッセイブレイドの元となった素材は大地の結晶よりもツルツルとしたグラシスメタルと、タマミツネの滑らかな滑液によって属性を高めた片手剣だ。

 

非現実的であるが、敢えて説明するならタマミツネの泡となる液体で作った片手剣と言うことだ。 強化手段が泡立ちやすい素材なのだから、そこにタマミツネの滑らかな滑液を使えばその効果はタマミツネが使う"泡やられ状態"の攻撃に発展させることが可能だ。 これはチャージアックスと似た理論である。 俺はオデッセイブレイドに泡の属性を付与した。 そして水属性に弱いマガイマガドだからこそ簡単に泡やられ状態に堕とすことが出来た。

 

故に今のオデッセイブレイドはマガイマガドを殺すためだけにある。

 

 

けれど、この武器で倒すつもりはない。

 

 

 

「アマグモ! 受け取って!」

 

 

「待ってたよ」

 

 

 

セイウンスカイの声が聞こえる。

 

オデッセイブレイドを手放し、セイウンスカイから投げられた太刀を受け止めると水平をなぞる様に腰に押して「すぅぅぅぅ」と鋭く息を吸って構える。

 

 

 

カチン__太刀が鞘に収まる音が静かに響く。

 

 

 

疾風刀・裏月影…

 

環境不安定の情報があるからこそ今回のクエストに持ち込む事を決意して今この手に収まっている。

 

 

 

「…」

 

 

 

ギラリと見せるその刀は深淵の暗殺者が首を狙おうと覗かせている。

 

この間合いに一歩そこに踏み込めば、次はマガイマガドの頸が地面に落ちるだろう。

 

そのマガイマガドは泡やられ状態でまともに立ち上がることはできず、その坂道を滑らせながらこちらに迫ってくる

 

 

 

「グルルル!??」

 

 

 

俺は静かに眼を見開く。

 

 

 

 

 

「ああ、よく見える…」

 

 

 

 

疾風刀・裏月影を握りながら深く構える。

 

 

マガイマガドの斬るべきところが露わになった。

 

 

あとは……斬るだけ。

 

 

 

 

「グァァァァァァア!!?」

 

 

 

 

 

止まらない巨体に恐怖の一閃が頸を狙う。

 

 

刀はただしなやかに剣戟を描くだけで。

 

 

ゴトリと、落ちる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、怨念を纏う亡霊武者が葬られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マガイマガドを討ってから次の日のこと。

 

少しばかり不本意であるが俺は英雄として帰還を受けて宴が始まった。

 

正直に言えばケシキがマガイマガドを9割ほど追い込んだのだから俺はそこに漁夫の利した形になって討伐成功は些か受け入れ難い。

 

それでもカムラの里に一つ平穏が齎されたのだから里人達は大いに喜んでいた。

 

そして宴が終わった翌日にサイレンススズカは目を覚ました。 片足は完全に折れていて治るのに時間がかかるらしい。 命に別状は無く、サイレンススズカも「ケシキさんの命が助かって良かったです」と微笑んでいた。 だがケシキはそのスズカの姿に自分の弱さが許せなくなったのか、地面に頭を砕く勢いで土下座して謝っていた。 なんども打ち付けるものだから流石に止めた。

 

さてウマ娘の医師らしい医師はいないがとりあえずアグネスタキオンがサイレンススズカの状態を見て診断する。 安静にしていれば足は自然と治るらしい。 ただし、いにしえの秘薬など使って強引に治すことはオススメされなかった。 ウマ娘の人体構造はやや特殊であり、筋肉の関係上、薬で治癒するのはこれまでの力が出せなくなるらしい。 ウマ娘の中の細胞がウマ娘を治させ、必要な組織を再構築させる。 それでも治癒を早めたいのならニンジンを食べるとか、体の健康状態を高めるための運動など、俗に言うリハビリをするまでだと。 そして無理のない程度に体を追い込む。

 

そうすればウマ娘の体内の細胞が治そうと活性化するのでわずかに治癒が早くなるだろうと言っていた。

 

 

なので…

 

 

 

「ユクモ村の温泉行って来いよ」

 

 

「「ユクモ村?」」

 

 

「俺の生まれ故郷だ。 あそこは温泉地だけあって"秘湯"とかもあるからな。 モンスターが住う自然の中に入らないとソレは見つからないが、俺の元相棒がモンスターが少なくて入りやすい秘湯に詳しい。 だから…」

 

 

 

懐から紙を取り出す。

 

 

 

「これを元相棒のユタカって奴に渡せばアマグモの知人だと認識してくれる。 それで秘湯を利用できるはず……てか、隠れてるシンボリルドルフとエアグルーヴ、そこにいるんだろ?」

 

 

 

「おや、見つかったか」

 

「アマグモ、貴様のその言い分、どうやら知っているようだな」

 

 

ケシキの家の入り口から二人のウマ娘が姿を現す。

 

 

「シンボリルドルフ、ユクモ村にウマ娘を置いてる理由ってこのためだろ? ウマ娘の怪我を治療するための秘湯を管理するために。 それを"とある家系"に任している、違うか?」

 

 

「やはり知ってたか。 いや、ユクモ村出身だからこそか。 うまく隠してつもりだが、君には無駄だったな」

 

「だが勘違いないで頂きたい。 貴殿に負い目があるから隠していたわけじゃない。 その必要があるからな」

 

 

「そこは大丈夫だエアグルーヴ、そこは俺もわかってる。 むしろユクモ村には貢献してる形だからウマ娘には感謝している」

 

 

 

何故カムラの里以外にも少数ながらユクモ村にウマ娘がいるのか? それはウマ娘の治療のために秘湯を管理する必要があるから。 まずウマ娘は強いが、その分非常に脆い生き物だ。 そして大怪我を負いやすい。 更にその怪我から死に直面するケースが非常に高い。 しかも不自由なことに怪我を治す方法も限られており、先程のスズカの説明通りに秘薬などで強引に治すことはウマ娘の力を失わせてしまう事になる。

 

ハンターは強くないし、脆いけど、薬で体を治すことができる。 回復薬を使えば切り傷は瞬く間に消え失せ、秘薬を使えば致命傷から瞬く間に回復する。 いにしえの秘薬なら骨折すら数分で治ってしまうだろう。 そのかわり綺麗に骨をつなげて治さないと複雑な治り方をするが、それでも其処さえ守ってしまえば強力な薬を摂取して即座にハンターとして舞い戻る事ができる。 これが人間の強みだろう。

 

でもウマ娘に関してはそうはいかない。

 

自然治癒で治さないと本来の力を取り戻すことはできない。 だからこの常態からサイレンススズカを薬で治すのはリスクが高すぎる。 二度とあの速さは手に入らない。 それがウマ娘との意味を無くしてしまうだろう。 だが自然治癒を手助けする事は全然アリな話で、回復を早めることにリスクは無い。 その手段として秘湯が一番有効である。 ウマ娘にとっての秘薬みたいなものだ。

 

その秘湯を管理しているのがユクモ村に居るウマ娘であり、そして"とある家系"である。

 

 

「ユクモ村の秘湯についてだが、サイレンススズカの足を治すために是非利用して頂きたい。 この手紙を渡せば秘湯を管理してる"メジロ家"が案内してくれるだろう」

 

 

「あ、メジロ家の事は言ってしまうのか」

 

 

「私とエアグルーヴは知っていて、ユクモ村で生まれたアマグモも理解している。 そしてこれからユクモ村に向かう二人も接触してもらうからな。 ならばここにいる者たちで隠す必要はあるまい」

 

 

「たしかに」

 

 

 

疾風刀・裏月影の回収をメインとしてたから、其処ら辺はあまり触れなかったが現在のユクモ村にはメジロ家が存在する。 そしてユクモ村に滞在するウマ娘はメジロマックイーン、メジロパーマ、メジロライアン、メジロドーベル、他にもウマ娘で無かろうともメジロの関係者が何人かいるらしい。 それでメジロ家が現れたタイミング的については、ユクモ村には俺が出た直前だったとか。 あの頃から動き出してたのかと少し驚いた。 それで少しずつメジロ家の関係者が現れて、今はウマ娘に効く秘湯の管理を勤めている。

 

ただメジロ家に関してはどこから現れたのかは全く知らない。 でも中心となるウマ娘自体が皆揃ってその出所を黙秘してるようにメジロ家もおそらくそうなのだろう。 だとしても申し訳ないが突然現れた辺り怪しさ満点である。

 

でも村長がすぐに受け入れた辺り、ユクモ村とメジロ家には何か繋がりと歴史があるのだろうと考えている。 そもそもカムラの里にウマ娘がどんどん現れて、フゲンさんもギルドマスターも受け入れてる辺りやはり何かあるとしか思えない。 オトモダービーと直ぐに名付けた辺り随分と手慣れていると言うか…まぁ、カムラの里を助けるために現れたのは真実なのでそれ以上は模索するつもりは今のところない。

 

いずれ明かされるだろう。

 

だからそれに伴って俺はメジロ家の話を初めて聞いたとき、どこかの外交官かと最初は思ってたけど、まさかウマ娘関連の関係者である事は寝耳に水だった。 でもメジロマックイーンの話はトウカイテイオーから聞かされてたので、そこからメジロ家に関しては何となく予想はついていた。 さりげなく情報がしっとりとダダ漏れであるからテイオーにあまり内部の話は喋らないよう言い聞かせた方が良いのでは?

 

もちろんメジロ家に関しては秘密なのであまり広めてはならないと言われている。 ユクモ村に滞在するウマ娘に『メジロ』の名前は多いけど、村人も「へー」の程度であまり気にして無いらしい。 だからメジロの意味を知ってるのは村長とユクモ村のギルドマスター、あと受付嬢だけである。 一応ユタカも知ってるがあの性格だと気にしないだろう。 多分何処かのお偉いさん程度の認識だと思う。 これに関しては間違い無いな。

 

ちなみに俺の場合だとユクモ村出身だけあって遅かれ早かれ知られるだろうとシンボリルドルフは諦めていた。 案の定村を出る時、カムラの里に居る時、前に帰ってきた時、その三つの情報を答え合わせをして納得したまでである。 まぁ、その真実を知ったところで別に何かしたいわけも無く、メジロ家には何も触れやしない。 てかゴールドシップの存在が強くてメジロ家どころじゃなかったが。 あとセイウンスカイの独白もインパクト強くてユクモ村に帰ってきたのか少し疑いそうになったのは秘密。

 

ちなみにメジロ家とは関係ない"ツインターボ"

ってウマ娘に関しては間違えてユクモ村に向かってしまったらしい。 確信犯のゴールドシップとは逆のパターン…てか、アレはゴルシがおかしいだけなので。 そしてツインターボはユタカに気に入られて、ツインターボもユタカを気に入って、それで互いに波長が合い、今ではユクモ村の名物コンビだとか。 ギザギザの歯が二つユクモ村を賑わせる。

 

あと、あの時ツインターボが泣き喚きながらユタカを助けて欲しいと叫んでいたが、実はユタカはあの日メジロ家からクエストを受けて秘湯まで向かっていたらしい。 秘湯もついでに入って腕の悪い調子を治したとか。 それでユクモ村に帰還する途中にカガチが現れた流れらしい。 そして腕を折った。 治して折って器用だなオイ。

 

 

 

「そうなると、モンスターの討伐ハンターは一人減ってしまうことになるんですか?」

 

 

「ケシキレベルのハンターが一時的にいなくなるは痛いけど、マガイマガドの狩猟からしばらく落ち着くと思うから大丈夫だろう。 百竜夜行もウマ娘がいるから心配無い。 それに…」

 

 

「?」

 

 

「ケシキの穴埋めは俺がやる」

 

 

「アマグモ先輩が!?」

 

 

「今日の朝、フゲンさんとギルドマスターからそのお達しが来た。 スズカもだけどケシキも怪我して本調子じゃない。 だからその穴埋めにアマグモが動いて欲しいと。 回収班から討伐班にスライドして、ケシキとスズカが戻るまでアマグモがモンスターの狩猟に赴く様にとね」

 

 

「……申し訳ないです」

 

 

「謝るな。 ハンターやっていればこう言うこともある。 俺も怪我して、病気になって、誰かが代わりにそこを頑張っていた。 次は俺が代わりとなろう」

 

 

「先輩…」

 

 

「それにさ、マガイマガドの討伐まで漕ぎ着けれたのはケシキが命懸けで闘ってくれたから。 俺はお陰で奴を倒せた。 漁夫の利な形で申し訳無いけど、マガイマガドに立ち向かったケシキに敬意を表するよ。 ありがとう、カムラの里のために」

 

 

「……いえ、仇を討ってもらった。 礼を言うのはこちらです」

 

 

「そうかい。 まぁともかく、さっさと準備してユクモ村まで旅立て。 二人とも早く怪我をカムラの里に戻って来てくれよな」

 

 

「わかりました。 すぐに治して戻ってきます」

 

 

 

「うむ、どうやら話は決まった様だな。 私たちが来るまでもなかったか。 エアグルーヴ」

 

「はい」

 

 

 

二人はケシキの家を出ながら打ち合わせを始める。

 

 

俺も「ユクモ村を楽しんで来いよ」と言って家を出た。

 

 

 

 

「スズカ、早速準備して明日には向かおう」

 

「……その、ケシキさん。 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。 わたしは…」

 

「もう良いんだスズカ。 自分は君のおかげで助かったんだ。 でも…約束して欲しい。 もう二度とあんな事はしないと。 そのかわり自分も約束する。 君があんなことをしないで良いようにもっと強くなってみせるから。 だから近くで見ていてくれ。 君の景色(ケシキ)となるから」

 

「っ、はい。わたしだけの景色(ケシキ)を、あなたに求めます」

 

 

 

トレーナーと慕う彼の肩を借りて立ち上がるサイレンススズカ。

 

そして話合いが終わったことでオトモたちがタイミング見て家の中に戻り、二人を支えてユクモ村に向かう支度を手伝う。

 

 

 

そして、次の日。

 

朝早くから二人はカムラの里を出てユクモ村に向かった。

 

新婚旅行のように見えたの気のせいだろうか?

 

 

 

 

そして、俺はケシキが帰ってくるまで討伐班としてモンスターと戦うことになる。

 

本来のモンスターハンターとして。

 

 

 

「セイウンスカイ、このクエストの討伐対象はジンオウガだ。 北にクルルヤックが放浪してるようだからうまくぶつけて少しでも消耗させよう」

 

 

「わかった…けど、アマグモ、大丈夫だよね? 本格的な討伐って久しぶりなんだよね?」

 

 

「そうだな。 基本的に加入したり、漁夫の利だったりと、仮にモンスターと戦っても必要な素材だけ頂いてオサラバが多かった。 クルペッコ亜種も、ボルボロスも、タマミツネも、倒すことなんてしなかった。 でも今日からは違う。 1から終わりまで大型モンスターと付き合うのはおおよそ1年ぶりで、最初から太刀を背負って大地を踏み締めるのはジエン・モーラン以来だからな」

 

 

「ならジンオウガはステップアップとして大き過ぎるんじゃないかな…?」

 

 

「いや、案外そうでもないかな。 まだクルルヤックの方が大変かも」

 

 

「どうして?」

 

 

 

高台からジンオウガを見下ろしながらニヤリと笑う。

 

 

 

「ユクモ村のハンターはな、四足歩行のモンスターに滅法強いんだよ。 そうでなければマガイマガドなんか倒せなかった…さ!」

 

 

 

高台から飛び降りてジンオウガに太刀を振り下ろす。

 

ジンオウガは気づいたのか回避して数歩の間合いをとって威嚇する。

 

しかし威嚇した場所に小樽爆弾が落ちてきて、ジンオウガの顔に直撃すると爆発する。

 

 

 

「ガァウ!?」

 

 

「いちいち敵を威嚇するあたり所詮牙獣種だな。 そんなことしてるくらいなら俺に攻撃してこないと…」

 

 

 

怪力の種を飲み込んで一気に踏み込む。

 

 

 

「一方的にやってしまうぞ」

 

 

 

久しぶりに着こなすユクモ装備が落ち葉を纏いながら裏月影を輝かせる。

 

 

場所はカムラであるが…

 

 

気分はユクモ村のハンター。

 

 

でも、今だけは…

 

 

 

「気炎万丈ォォ!」

 

 

 

カムラの里のためにこの腕を奮おう。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 





村クエのストーリーは終了です。
RISE主人公のケシキは一旦離脱しました。

アマグモは一時的に討伐班として活躍することになるでしょう。
でも戦闘描写苦手だからあまり描きたく無いので討伐班設定は飾りになるかもですね。
そもそもセイウンスカイとイチャイチャを書きたいのだ。
それでもっと雨雲の様にしっとりするべきだろうか?
あと実装はよ(俗物トレーナー)


さて、次回から集会所ストーリーとして始まります…が、原作ゲームのアップデートが無いと原作沿いとして話が進まないので、それに合わせて更新も止まるかもしれない。 あ、もちろん玉球抱えた姫さんまでは頑張ります。 よろしくお願いします。

それとUAが一万超えてびっくりしました。
人気コンテンツの効果ってやっぱりすごいですね。


ではまた


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15話

外は少し明るい。

 

あと数刻ほどで大社跡は朝になるだろう。

 

 

 

「……すぅぅぅぅ…」

 

 

息を鋭く吸って、目の前の獲物を見据える。

 

エリア12で深く眠りつくリオレイア。

 

その顔の前にカクサデメキンで強化した大タル爆弾Gを置いて睡眠爆破を行う数秒前。

 

チリチリと音を立てる小タル爆弾とタイミングを測る。

 

俺は疾風刀・裏月影を引き抜いて、翔蟲で真上に伸ばしたまま構える。

 

 

「!」

 

 

 

子タル爆弾が爆破した。

 

その連鎖爆撃で、大タル爆弾Gが大爆発を起こす。

 

まだ朝日は出ていない。 起こすにはあまりにも早い時間帯で、優しさなんて微塵もない過激的なモーニングコールにリオレイアは目を見開きながら悲鳴を上げて爆炎に苦しむ。 無防備な顔が焼け焦げてのたうち回るが、目の前に一人だけ誰かいることに気づいた。 空色の髪の毛と白い衣装で飾る女性がそこに立っている。 リオレイアの目にセイウンスカイが映っていた。 彼女はエンエンクを逃す。 フェロモンを纏ってリオレイアを挑発した。

 

リオレイアはセイウンスカイに吠える。

 

だが叫ぶその瞬間……声が上手く出なかった。

 

 

 

「ガァ…ゥ……??」

 

 

 

何が起きた?

 

 

 

リオレイアの視界に血飛沫が広がる。

 

 

 

首を斬られた。

 

 

 

 

「俺のセイウンスカイに手を出すな」

 

 

 

爆発する瞬間に翔蟲で真上に飛んで視界から大きく外れ、そのまま重力を活かした一刀両断はリオレイアの首半分を切り裂いた。

 

 

「グォ……! ガゥ……グァ…!」

 

 

原種のナルガクルガよりも切れ味のある刀から放たれた渾身の一撃は、油断していたリオレイアの肉を簡単に裂いてしまった。 俺はすかさずその足を斬り、もう一度斬り上げてリオレイアを転倒させると、翔蟲でその首を巻きつけて飛び込み、更に首に斬撃を叩き込んでリオレイアの出血量を早めた。

 

 

 

「セイウンスカイ、退くぞ」

 

「にゃは! 了解だよ!」

 

 

 

太刀を納刀しながら蔦を走って登りリオレイアから走って逃げる。

 

喉を切られたリオレイアは声を上手く出せないが精一杯の威嚇で追いかけて来る。

 

セイウンスカイが纏うエンエンクのフェロモンを追いかけてリオレイアはエリア12までやってきた。

 

 

「こっちだ! こっちきに来なよ、化け物!」

 

 

セイウンスカイの言葉を理解してるとは思わない。 しかしその背を追いかけて食い殺そうと眼に怒りを染めるリオレイア。 しかし冷静さを失っていたリオレイアは一歩踏み込んで、視界がガクンとズレる。 どうやら落とし穴に落ちたようだ。 それを理解するには遅く、セイウンスカイは引っかかった事を確認して閃光玉を投げ入れて更にリオレイアの視点状況を悪化させる。

 

リオレイアは暴れる。

 

大地の女王がこの様な有様で良いのか?

 

良くない。 だが動けない。

 

 

「気炎万丈ォォ!」

 

 

完全な不意打ちの罠に冷静さを欠いてるもがくリオレイアも真上から響く声を聞いて動きが止まる。 一瞬だけ暴れる事を止めてその声の意味を理解しようとした。 知能の高いモンスターはこうして良く考える事が多い。 突撃するしか脳の無いブルファンゴと違って、脳ある大形モンスターはそれが何なのかを理解して対策を立てるのだから。

 

 

だからそれがいけなかった。

 

 

俺はもう一度渾身を込めた斬撃を丸出しの首に目掛けて振り下ろす。 動きが一瞬でも止まってくれたおかげで更に首を斬りつける事ができた。 原種の太刀よりも鋭い亜種の太刀はリオレイアの首元を簡単に斬り開き、またたくまに視界全てを埋めつく様な血飛沫で大地とその緑の体を赤く染める。 血風を浴びながらもう一度翔蟲で首を巻きつけて太刀を構えて、一気に踏み込んだ。

 

 

次の瞬間…

 

 

リオレイアの胴体から、顔が跳ね飛ばされた。

 

頸を落とされて機能が停止したリオレイアの胴体は落とし穴の中でズシンと音を立てて動かなくなり、足元に転がる大地の女王の顔は俺と眼が合う。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

静かにその瞼は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

討伐班として戦うのも慣れたこの日、いつも通りにヨモギちゃんからうさ団子を購入して帰ろうと寄り道する。

 

 

 

「もぐもぐもぐ…むっ? お帰り」

 

 

「相変わらずだな、オグリキャップ。 そんなにヨモギちゃんの気に入ったのか」

 

 

「予想以上だった」

 

 

「…予想? まぁ、俺も美味しいと思っていた団子だったが初めて食べた時は驚いたな」

 

 

「そう言うわけでは…いや、なんでもない。 ともかく美味しいのは間違いない。 ヨモギちゃん、お代わりあるか?」

 

 

「はいはーい! ありますよ! あとアマグモさんのも急いで作るね!」

 

 

「ありがとう」

 

 

 

ケシキがユクモ村に向かってから早くも2週間が経過した。

 

俺はオデッセイブレイドの片手剣よりも、疾風刀・裏月影の太刀を背負ってクエストに向かう回数が多くなった。 この武器は討伐向けと言うべきか、こちらの方が破壊力はあるからな。 中型レベルなら小回り重視でオデッセイブレイドを持ち込むが、最近はほぼ大型モンスターの討伐ばかりだが、ユクモ村にいた頃の感覚は完全に取り戻したから今更レイア程度じゃ遅れ取らない。 何よりユクモ村から持ち込んだこの太刀の強さが後押しする。 そもそも武器が上位クラスであり、まだ下位だった当時の俺からしたら過剰すぎる武器なので使うことにやや抵抗はあったが、乗り越えるために使う必要があったから握りしめ続けた。 今では手に馴染んでいる様なものだからすぐに討伐班としてカムラの里に貢献している。

 

しかし、なんというか、ここ最近ハンターの視線がやや冷たい。 でも理由はわかる。 てか経験したことある眼差し。 それは太刀に対してだ。 下位程度のハンターがそんな豪華なモノを使うのか?と意味深な視線である。 主に嫉妬の感情であろう。 だがその視線はまもなく意味が無くなる。 何故なら俺は上位ハンターになるための試験中だから。

 

今現在クエストを熟すのと同時にギルドから指定されたモンスターを討伐しているところだ。 それが今日討伐したリオレイアと、後日にクエストとして出されるだろう"リオレウス'である。 この飛竜夫婦を討伐することでギルドからアマグモは上位ハンターと認められることになる。 この太刀を使ってそれを証明しよう。

 

そもそも…下位のハンターが上位の武器を使ってはならないルールは無いが、素材の関係で下位程度のハンターでは入手不可能なので低いハンターランクで上位武器を使えるパターンはほぼあり得ない。 俺の場合はあの時のナルガクルガ亜種を素材にしたから入手できた様な物だが、かと言ってそのために命なんて賭けたくはない。 強い武器欲しさに欲張って死んだハンターは何人か見てきた。 身の丈にあった歩み方がプロハンの秘訣である。

 

 

 

ポツ、ポツ、ポツ

 

 

 

「なんか雨降ってきたな」

 

「!」

 

 

「うそ! お団子作るの急ぐね!」

 

 

 

うさ団子のお店は屋根がないから雨降ると大変なんだよな。 あと夏はすごく大変。 冬は焼き餅に火を使うから暖かい。 でもヨモギちゃんは季節問わず元気なのでこのお店に来れば絶対元気になれるだろう。

 

 

 

「ごちそうさま。 店仕舞い、よければ手伝う」

 

「オグリキャップさん!? いや、でも」

 

「いつも沢山のお団子にお世話なっている。 それと思ったより雨が激しくなるだろう。 急いだほうがいい」

 

「あ、う、うん!」

 

 

オグリキャップはお団子のお皿を下げると洗い始めた。

 

俺も手伝いたいところだがクエストで汚れているので邪魔するのはよそう。

 

 

「大きな雨雲だね」

 

「黒いし雷雲かもしれないな」

 

「でも、雨は嫌いじゃないかな」

 

「そうなのか?」

 

「うん。 なんかさ、いつも青雲に澄んだ空に身を任せてるとそのまま透き通ってしまいそうで、ちょっとだけそれが怖い気がするんだけど、雨水がわたしに降り注いで雫がぶつかるとそこにいる気がする。 そうなると青雲に浮いてるだけのわたしじゃない気がしてね、雨は嫌いじゃないんだ」

 

「そうなのか。 そういや前にわざと濡れて帰ってきた事あったな。 風邪引くんじゃないかと心配した」

 

「にゃはは、うん、そうだったね。 でもそのくらいに雨って良いんだ。 だから…青雲だけじゃなく、心も体も潤してくれる雨雲(アマグモ)って、わたしは好きだなって思ったりしてね」

 

「お、おう。 なんか、こそばゆいな…」

 

「………そりゃあなたに言ったからね

 

「え?」

 

「ううん、何でもない。 ほら、帰ろう。 濡れるのは好きだけどお団子は濡らしたくないでしょ?」

 

「そうだな」

 

 

 

セイウンスカイを連れて帰宅する。

 

あと、その時の彼女はわからないけど…

 

なんだが少しだけ、直視し辛いのは気のせいだろうか?

 

何故だか、そんな感じだ。

 

 

 

「「ただいまー」」

 

 

 

誰もいない家に二人でただいまの挨拶。

 

俺は武器を外し、お土産のお団子をテーブルに置く。

 

セイウンスカイはズボンを捲るとお風呂のお湯を沸かし始めた。

 

俺はお湯が沸くまでユクモ装備を外しながら樽に洗剤を投入してかき混ぜる。

 

樽の中に衣類をぶち込んでぐちゃぐちゃにかき混ぜたあとしばらくつけておけば綺麗になる。 タマミツネから採取できる滑らかな滑液をほんの数滴入れればけっこう泡立つ。 オデッセイブレイドの強化素材を集めるときに余分に取ってきて正解だった。 ちなみにタマミツネの素材を使った洗剤は高級品として売られている。 あと精算アイテムのサボテンの液体と混ぜれば超高級品になる。 貴族はこれを欲しがるのでサボテンの精算時のポイントが高いわけ。 食べるだけではないのだよ。

 

 

 

「アマグモ、お湯沸いたよ」

 

 

「先に入っていいぞ」

 

 

「…ええと、今日はアマグモが先に入っていいよ。 わたしは少しやりたい事があるから」

 

 

「? …じゃあお言葉に甘えるぞ」

 

 

「どうぞ」

 

 

 

しかしやりたいことってなんだ?

 

 

まぁいいや。

 

 

衣類を脱いで樽にぶち込み、風呂場に踏み込む。

 

掛け湯で汚れを落としてお湯に浸かる。

 

 

 

「ああー、疲れたぁぁ……いい湯」

 

 

お風呂は檜風呂だが座って膝を抱える形に入らないと狭い。

 

それでもあと一人分入れるくらいには余裕ある。

 

 

それでも狭いことには変わりない。

 

 

…具体的なサイズを述べるとしたらどのくらいだろうか?

 

 

とりあえず俺が入り、それでサイズ的に許容するならば…

 

 

 

「入るよー」

 

 

 

 

そうそう彼女だ。

 

 

セイウンスカ__

 

 

 

「イーィィィ!!? …え!? 待て!? えええ!?」

 

 

「ッ!……さ、騒ぎすぎだよ?」

 

 

 

男の俺が入る風呂場にタオルを巻いた姿の彼女が現れた。

 

え? 疲れて幻覚を…って、訳じゃないな。

 

たしかにそこにいる。

 

 

 

「いや、でも、え、何してんの??」

 

 

「その、い、一緒に入ろうかな、って思った」

 

 

 

一緒にか。

 

 

……いっしょにね。

 

 

……いや、待て待て。

 

 

落ち着け。

 

 

 

「…ええと、俺は上がるから、ゆっくり浸かってくれ」

 

 

「だめ、逃がさないよ」

 

 

 

そうすると肩を押さえつけられる。

 

行動も早かった。

 

あと当然ながらウマ娘の力に勝てない。

 

ウマ娘じゃなくても肩を抑えられると人は立ち上がれないが。

 

 

「前にユクモ温泉で一緒に肩並べて入ったんだから別に初めてじゃないで…しょ?」

 

 

「どうした急に」

 

 

「……何というか、アマグモと入りたい」

 

 

「どうした急に」

 

 

「2回も言わないでよ」

 

 

 

俺はセイウンスカイに振り向く。

 

 

ああ、たしかにそこにいる。

 

 

……鍛えられて締まっている体だ。

 

足のラインから肩まで無駄がない。

 

やや小柄とは言え、綺麗なボディーラインを作ってある。

 

ふくよかに膨らむ二つの小山は、体の細い彼女の魅力を自重して、タオルからはみ出す肩はとても綺麗で、清楚に気を使うそこら辺の女子と変わらない。

 

デリケートに大事な部分はちゃんとタオルで隠れているが、尻尾が体を包むタオルを巻き上げてるからかなりギリギリだ。

 

でも彼女のその足はこれまで俺のために駆けてくれた証で、強くて逞しく、でも両手で握れば折れてしまいそうで、まるで雲のような脆さを見え隠れする。 心臓の鼓動の様に動く尻尾も綺麗で、空色に染められたそれはセイウンスカイだと思わせる。

 

 

ああ、とても綺麗なウマ娘だ。

 

 

 

「!!………たらし、アマグモはセコイ、いや卑怯だよ」

 

 

「え?」

 

 

「もう、無自覚は罪だよ。 ……もういい、なんでもない。 ほら、詰めてよ、わたしも入るから」

 

 

「!」

 

 

そう言うとタオルを脱いだセイウンスカイに俺は急いで視界を外す。 すると風呂場へ強引に入り込みそのまま俺の隣に並ぶ。 お湯は二人分の密度に押し出されて檜風呂から溢れる。 ユクモ温泉の時よりも彼女との距離は近くて、どこか折れそうな程に可憐なその肩が触れ合う。 狭い檜風呂の中だから湯船の温度と同時に彼女の温度すらもよく伝わる。

 

 

 

「セイウンスカイ、恥ずかしくないのか?」

 

 

「そりゃ、恥ずかしくよ。 でもアマグモだからこの恥ずかしさは別に嫌な気持ちにならなくて、嬉しいと言うか、うん。 またアマグモと入れて嬉しいって気持ちの方が強いかな」

 

 

そう言って彼女はこちらの肩に体を寄せて触れてきた。

 

視線を落とせば彼女の色々が見えるだろう。

 

正直、困る……

 

 

「にゃは? もしかして恥ずかしい? へー、アマグモって案外ウブなんだね? まぁウマ娘ってみんな綺麗だからね。 わたしはその中で上位とは言わないけど、アマグモがドギマギしてくれるならわたしもなんだか自信が付くよね。 でもそうかそうか、わたしのトレーナーは湯船を一緒にして恥ずかしいのか」

 

 

 

なんか、すごい調子に乗られている。

 

へー、そうかい、そうかい。

 

 

なら、こちらも遠慮しない。

 

ちょっとわからせてやろう。

 

 

 

「ああ、恥ずかしよ。 だってセイウンスカイが一緒だからな」

 

 

「ふふふーん、案外白状したね」

 

 

「だって気持ちに偽りはないからな。 セイウンスカイとお風呂にすごくドキドキして仕方ない。 だって俺と共に命を賭けてくれるウマ娘がこんなにも可愛くて、それで愛らしくて、もっとその走る姿を見たくて、これからも共に過ごしたくて仕方ない。 俺は君にすごく夢中なんだよ」

 

 

「へ…?」

 

 

「俺は思う。 セイウンスカイはすごく良いウマ娘だよ。 だからケシキとサイレンススズカの二人を見てなんだかすごく悔しくなる。 だって俺もセイウンスカイと幾度なくクエストを乗り越えて来た。 互いに出来ることは違う。 でも同じ時間と空間で、俺がこの腕で戦い、君がその足で駆け、共に息を合わせて、肺に込める空気すら同じで、セイウンスカイが俺と一緒なんだ」

 

 

「ア、アマグモ?」

 

 

「俺はどうして、こんなに良いウマ娘を…いや、こんなに素晴らしく、そして愛おしくも感じれる隣人(となりびと)を与えてくれたんだと思う。 君が来るまでの時間は一人で、けど慣れたつもりだった。 それでも不安はあったし限界もあった。 過去の痛みも苦行も乗り越えようしたけど何かが足りなかった。 でもセイウンスカイが来てくれたことで色んなことが豊かになった。 生きているけどそれ以上に、生きていると思える様になった。 君と戦う事であの太刀を背負える。 とても軽いんだ。 苦難に立ち向かう足取りは青雲の様に軽やかで澄んでいる。 今日倒した大地の女王なんか苦でも無かった。 何故なら俺にはセイウンスカイがいる。 そのくらいセイウンスカイは大きな存在だ。 俺にとって不可欠だ。 大丈夫な隣人なんだ」

 

 

「ぁ、ぁ、わ、わかったから、そのくらいで…」

 

 

「空を見てる君も良い。 今みたいに少し生意気な君も良い。 気持ちよく寝ている君が良い。 眠そうに起きている君も良い。 俺の作るニンジンを美味しそうに食べる君が良い。 何かを会話するときの楽しそうな君も良い。 冗談を言い合って笑う君も良い。 空を眺めて楽しそうにする君が良い。 その足で幾度なく駆ける君が良い。 少しロマンチックに語る君は良い。 眠気に堪えようとする君も良い。 真面目な性格を隠そうとする君が良い。 ゆるりとした君を良いと思う」

 

 

「ぅぅ…」

 

 

「実は感情を隠すことが下手な君が良い。 隠してるつもりだけど負けず辛いな君は良い。 自分の弱さに許せなくて涙を流す君が素敵。 色んなことを良く考える君も素敵。 それでいて努力家な君は素敵。 応えようと頑張って奮闘する君が素敵。 案外泣き虫なところがある君が素敵。 不安な気持ちに素直な君が素敵。 心豊かに反応した耳や尻尾や瞳を揺らす君が好き。 名前を呼んだと時に笑みを浮かべる君が好き。 俺の名を呼ぶ時の声が好き。 俺はセイウンスカイのあらゆる事が良いんだ。 素敵なんだ。 ああ、そうともっ、素敵で好きで仕方ないんだよ!」

 

 

「ひゃ!」

 

 

 

隣に座っていたセイウンスカイの脇に手を通してヒョイとその軽い体を持ち上げて膝の上に収める。 尻尾をピーンとさせながら湯船を揺らす彼女を俺はその両腕で抱きしめる。 耳が行きどころが分からず伸びたり縮んだりをする。 ああ、この耳も好きだな。

 

 

 

「俺はセイウンスカイって全てに感謝と愛おしさが混ざり合う。 こんなに小柄だけど、でも俺よりも力は強くて、けど俺より脆くて、だから大事にしたくて、そして知りたくて仕方ない。 ああ、本当に思うよ。 百竜夜行なんか関係無くセイウンスカイに出会えたらって思ったりもする。 なんならハンターじゃなくて、モンスターもいなくて、ただ走る君をサポートする本当のトレーナーになって、平和な世界で二人三脚ができる、そんな関係にも憧れる。 けどそれはできない。 命を賭ける世界に生まれたから。 だからその命を繋ぎあってセイウンスカイを大事にしたい」

 

 

「アマグモ…」

 

 

 

抱きしめる。

 

空の様に青く、雲の様に澄んで、可憐な体は脆くても、彼女を後ろから抱きしめる。

 

その後頭部に額をコツンと触れて、彼女の温度が良く伝わる。

 

セイウンスカイはそこにいる。

 

だから今こんなにも弾け飛びそうなんだ。

 

 

 

「恥ずかしいを抱えても嬉しいが勝る。 今は互いに布を包まない素体で触れてるけど、俺はこの状態が幸福にも思うんだ。 …それとも嫌いかな? そんな俺のことは」

 

 

「…………やっぱり」

 

 

「…」

 

 

「アマグモってセコイよね。 何も言えなくしてしまうんだもん。 本当にセコイよ。 それにアマグモも人のこと言えないよ。 唐突な独白だって、私を揶揄ったけど、ア、アマグモも大概だよぉ……尻尾が、心臓が、煩いよ。 耳が落ち着かないよぉ、もう…ばか、ばか、アマグモのばか。 そんなに言われたら、わたし、湯船で熱いのか分からない。 ぅぅ、もう、あたまがふっとうしそうだよぉ…どうしてくれるのよ…」

 

 

 

ああ、可愛いな。

 

セイウンスカイが愛おしくて仕方ない。

 

どうしてこんなにも夢中になるんだ。

 

そこに、ウマ娘だからとか、関係ない。

 

セイウンスカイだから、仕方なくなる。

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 

 

羞恥心も何も通り越したのか、俺もセイウンスカイも、何も言葉を発することはない。

 

ただ湯船を静かに揺らして、水面に波紋を作り、誤魔化せない息遣いと心臓の音が、静かな檜風呂に浸透する。

 

でも互いにこれ以上を求めない。

 

これが今、幸福なんだと直ぐに理解したから、許される限りを共有する。

 

肌と肌を触れ合い、ふさふさなその耳に腕を擦らせながらその頭を撫でる。

 

大雨が降る外の音と共に、セイウンスカイは力を抜いて全てを預ける。

 

俺よりも一回り小さな体だから、彼女の頭がこちらの肩を背もたれにして、トロンとした目が壁と窓辺を見つめる。

 

湯煙に合わせたら息遣いが、胸にいっぱいなこの時間の幸せを吐息としてもらす。

 

もっと彼女を感じたい。

 

その頭に頬を傾けて、彼女頭を撫でながら、余る片腕で彼女を抱きしめる。

 

彼女もこちらの腕に手のひらを添えて、離さないように、動かさないように、キュと抱きしめる。

 

綺麗な空色の髪の毛から雫が落ちて、湯船に音を立てた。

 

耳をすませば聞こえる彼女の全て。

 

 

 

「このまま…」

 

 

彼女は虚な目で、呟く。

 

 

 

「時間も空も止まれば良いのに…」

 

 

偽りなく吐き出される彼女の本心。

 

得意としてある取り繕う姿をやめた彼女から深く吐き出された声。

 

 

 

「ああ、本当に…」

 

 

ハンターも、果たす役目も、背負った使命も、何もかもを、彼女のために捨てれば、それは叶えられる。

 

 

そうしたとしてもおそらく誰も止めないと思う。

 

 

こんなにも満たされているのだから、誰もそれを阻害しないさ。

 

 

 

 

 

でも…

 

 

 

 

「でも、俺はモンスターハンターだから、死ぬまでこの命を戦いに持ち込まないとならない」

 

 

 

俺はハンターだ。

 

 

弱き人のために奮う存在。

 

 

 

「だから、時間も、空も、俺は止められない。 セイウンスカイのために止めることは出来ない」

 

 

「うん、知ってるよ。 ならば、流れる雲の下を走れば、止まったように見えるはず…」

 

 

「そうだな。 なら、その足に置いて行かれぬように、俺は戦うよ」

 

 

「そうだね。 なら、アマグモを置いて行かないように、私は駆けるよ」

 

 

 

二人でクスクスと笑う。

 

相変わらず、言葉にすると恥ずかい事ばかり俺たちは掛け合う。

 

でも、それでも良い。

 

彼女だから、心地よいのだ。

 

 

 

「…セイウンスカイ」

 

 

「んー」

 

 

「ありがとう、俺のウマ娘になってくれて」

 

 

「わたしこそ、トレーナーになってくれてありがとう、アマグモ」

 

 

 

 

長風呂は危ないけど、もうしばらく彼女と湯船の中で肌を重ね合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃはは、アマグモも今日からここで寝るからね」

 

 

「自室に敷布団が無いと思った、こう言うことだったのか」

 

 

 

一応、この家にも2階部屋がある。

 

6畳程度の小さすぎる部屋がひとつだけ。

 

それでもアイテムを整理したりするには充分だが、そのかわり寝るには少し狭い程度だ。

 

本当はセイウンスカイが来るまで俺が茶の間で敷布団を伸ばして寝ていたのだが、ウマ娘ってことなので寝床を共にするのは好ましくないという事で、俺は2階部屋に寝床を移した。

 

まぁ、ウマ娘だけあって鼻もそこそこ効くみたいだからセイウンスカイは俺に隠れて茶の間でスンスンと空気を確かめていた時は俺も察したし、少し恥ずかったけど追及はされずに彼女は茶の間で眠ることになった。

 

こんな感じに、俺は自室の2階部屋で、彼女は茶の間の一階部屋だった。

 

 

でも彼女が自室から俺の敷布団を持ち込み、そしてくっつけて並べた。

 

 

昼寝の時は座布団を並べて彼女とお隣で寝息を立てていたが、こうして一緒に寝ることになるのはユクモ村の宿屋以来であり、我が家で夜を過ごすのは初めてだ。

 

 

「明日はオフなんだよね? ならゆっくり寝ても大丈夫だけど…互いに疲れてるし、もう寝る?」

 

 

「そうだな。 もう寝るか」

 

 

「ん」

 

 

 

今更、恥ずかしがる事もない…と、思うけどやはり恥ずかしさは隠せない。

 

湯船で一緒に入るのとはまた違う感じだ。

 

 

 

「ふふっ、アマグモが近くにいる」

 

「これがそんなに特別か?」

 

「うん。 寝るってさ、眠ると違って、わざと無防備になって晒すでしょ? 眠らされる睡眠状態とは訳が違う。 不可抗力かどうかの話なんだよね。 でも夜を過ごすために一緒に寝る行為は、その人に許されてないと成立しないかつ、特別な関係じゃないとそれは起きない話。 ならアマグモとわたしってそれだけ特別なんだよね? だからすごく嬉しいな〜、って思ってるよ」

 

「そうか。 俺は特別か」

 

「うん。 アマグモだけだから」

 

 

布団に寝転び、彼女と向き合う。

 

月明かりに照らされる彼女の微笑みに魅入られる。

 

心臓が騒がしい。

 

ああ、ウマ娘は耳も良いから悟られてるな。

 

でもセイウンスカイだから良いかな、別に。

 

 

俺も特別だから、君が。

 

 

 

「ねぇ…」

 

 

「?」

 

 

「湯船で、私を『良い』とか『素敵』とか言って、最後ら辺で、その、す…『好き』って、言ったよね?」

 

 

「…言ったな、覚えてる」

 

 

「本当なんだ?」

 

 

「……早まってしまうこの心臓の音が聞こえてるなら、本当だよ」

 

 

「…ぁ……………えへへ、そうなんだ、そっか。 アマグモは、わたしが……にゃは、は、もう、眠気がどこかに飛んじゃうなぁ。 アマグモって、やはりセコいトレーナーだな。 ウマ娘を困らせるダメなトレーナーだ。 ウマ娘のトレーナー失格だよ」

 

 

「別にトレーナーってつもりは無いけどな。 俺はハンターで、君はウマ娘で、隣に居てもらって、隣に居させてもらってる状態だ」

 

 

「でもトレーナーって名称はウマ娘にとって特別だよ。 アマグモにとっての隣人(となりびと)に非常に近い表現だよ」

 

 

「そうなのか? 重バも良いところだな」

 

 

「ウマ娘は応えたい生き物。 それは応えたいと思わせてくれる存在に惹かれて、そこに随従したくて、隣のゲートを譲れないくらいに重い(重バ)。 それを踏み慣れた時、その人のためにどこまでも走って応えれるんだ。 セイウンスカイにとってのアマグモはそのくらいある」

 

 

「…」

 

 

「アマグモ、わたしもあなたが好きだよ。 好きで収めれるかわからない」

 

 

セイウンスカイは布団を掻い潜るとこちらの敷布団に体半分を乗せて、より一層その表情がうかがえる。 月明かりを吸収するその眼は吸い込まれそうだ。 大空に全て預けてた蠱惑が背筋を撫でる。 心臓が煩い。 でも彼女の早い鼓動も聞こえる。

 

 

「アマグモ、ここからはわたしの番だよ。 湯船で言われるだけ言われて、満たされたつもりだけどわたしもあなたを満たす」

 

 

「俺は満たされてる」

 

 

「嫌だ、あなたから受けとってばかりなんて嫌だ」

 

 

セイウンスカイは自分の敷布団から脱して、こちらの敷布団に全てが収まる。

 

 

「わたしはあなたが良い。 あなたの雨雲が良い。 あなたの優しさが良い。 武器を握れば強いあなたも良い。 どこでも名前を呼んでくれるあなたが良い。 楽しいあなたが良い。 楽しさをくれるあなたが良い。 優しくあたまを撫でてくれるあなたが良い。 意地悪に耳を触れるあなたが良い」

 

 

 

セイウンスカイは止まらない。

 

 

 

「あなたが素敵。 過去を乗り越えるあなたが素敵。 生きるための眼を持つあなたが素敵。 ウマ娘を大事にするあなたが素敵。 青雲に向けて深呼吸するあなたが素敵。 絶やす事なく語りかけるあなたが素敵。 太刀で気炎万丈に奮うあなたが素敵。 時折り鋭く見据えるあなたが素敵。 雨雲って名前のあなたが素敵だ」

 

 

 

セイウンスカイは収まらない。

 

 

 

「あなたが好きだよ。 わたしはあなたが好きなんだよ。 あなたのことが好きで仕方ないんだよ。 あなたの雨粒が好きなんだよ。 青雲を好いてくれるあなたが好きなんだよ。 涙を与えて心を潤すあなたが好きなんだ。 枯らさずに雨水を注ぐあなたが好きなんだよ。 乾かない大雨に沈ませてくれるあなたが好なんだよ。 わたしは、あなたが、あなたの雨雲が、アマグモのあなたが大好き。 大好きなんだよ。 青雲と雨雲の二つが大好きて、大好きで、大好きで…」

 

 

 

そして、セイウンスカイは止まった。

 

布団の中で顔を下から覗かざる。

 

耳が沈み、頬は熱に染まり、眼が透いてる。

 

 

 

ああ…

 

 

ダメだ…

 

 

これは…

 

 

次は…

 

俺が止められなくなるじゃないか…

 

 

 

「セイウンスカイ」

 

 

「ん…」

 

 

 

その頬に触れて顔を引き寄せる。

 

 

彼女は眼を瞑り、吐息が交わる。

 

 

心臓は押さえる事を忘れた。

 

 

一人分の布団の中で二つの 雲 が重なり合う。

 

 

 

「ん、んんっ…ちゅ…」

 

 

 

その肩を…

 

抱き寄せて、抱きしめて、抱き締める。

 

 

「ぁ、あま、ぐ、も…」

 

 

恍惚に染まる彼女は名前を呼ぶ。

 

愛おしい。

 

愛おしくて仕方ない。

 

セイウンスカイが愛おしくて堪らない。

 

雨雲が、外の大雨よりも激しくなる。

 

雨風凌ぐとを忘れたように、降水で溢れる。

 

 

 

 

 

「……アマグモ」

 

 

 

 

 

いま名前を呼ぶなセイウンスカイ。

 

 

 

 

「……わたしの、アマグモ」

 

 

 

 

 

愛惜しく名前を語らないでセイウンスカイ。

 

 

 

 

 

「……わたしだけの、アマグモ(雨雲)

 

 

 

 

 

 

「____ セイウンスカイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はどうやら

 

青雲の空を吸いすぎたらしい。

 

 

 

 

そして、雨雲は大雨と変わる。

 

彼女の青雲を、雨で沈めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命懸けで守る者が出来た、そんな顔をしてるな」

 

 

「…ハモンさん?」

 

 

「何、老人の戯言だ、気にするな」

 

 

 

ジョリ、ジョリ、鉄が擦り合う。

 

朝早い仕事の鉄の音が響き渡る。

 

 

 

「……ハモンさん、少し違いますよ」

 

 

「?」

 

 

 

鉄の音と、その手が止まる。

 

 

 

 

「一緒に守り、支え合う、そんなんだと思います」

 

 

「……ふっ、そうか」

 

 

「はい」

 

 

「……だが」

 

 

 

と、ハモンさんは砥石を続ける。

 

 

 

「それはハンターとして永遠と続く致命傷だ、アマグモ」

 

 

「…」

 

 

 

砥石の音が収まる。

 

水で濡らされ、布で拭き取り。

 

そして、新たなる武器の刃が朝の日に光る。

 

 

 

「致命傷だからこそ必死になれ。 気炎万丈に、その命を絶やすな」

 

 

 

ハモンさんから強化された武器…

 

片手剣の オデッセイブレイド|| を受け取る。

 

 

 

「アマグモ、これは"火竜の紅玉'と"雌火竜の紅玉"を使って強化した武器だ。 空の王者を討ち取り、上位ハンターとして認められたアマグモに相応しい片手剣だろう。 だから…」

 

 

「…」

 

 

「死んではならない。 ……良いな?」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

受け取ったその刃は…

 

彼女のような 空の色 をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 




こいつら うまぴょい したんだ!!




って、セリフを言わせるためにハッピーミークを出そうか迷った。

多分これで良い。

ちなみにうまぴょいしたかは今日の青雲と雨雲を見て判断してください。

あとしっとりスカイ好き。



あとオデッセイブレイドは基本的に青色。
ハモンさんはそれを知っていましたが…
"勝手に"色を薄めて空のように薄く染めた。
さらに握る取手の部分を"葵色"にしてます。
『葵』の花言葉は【豊か】【将来】【実り】
紅玉と共に手に入れた上位ハンターの証です。
若き芽を祝福する様にオーダーメイドしました。

ハモンさんかっこよすぎ。



作業BGM【 月光 】

ではまた


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16話

リアルが3200芝で長かったのだ…
更新速度下がるかもだけど、頑張ります。



ボロボロの戦場。

 

しかし今日も地獄の宴を乗り越えた。

 

 

「ぐぅ…う、腕が…」

「こりゃひでぇ……秘薬で治るか?」

「とりあえず固まれ、粉塵撒いてる」

「ちっ、こりゃ明日は畑仕事無理だな…」

「おいおい、朝日迎えるからもう今日だぜ?」

「お、そうだな! あっははは!」

「はー、きちぃ……帰って寝てぇ…」

「なんかここ最近勢い増してねぇか?」

「ああ、回数重ねるごとに過酷になってきた」

「こりゃもっと設備強化に勤しむ必要あるな」

「やれやれ、随分と暇しない事で」

「だな」

「てかウマ娘がいなければもっと酷かったな」

「「「それな」」」

 

 

 

百竜夜行を乗り越えた里人達は乗り越えた安心感に尻餅をついて朝日と共に愚痴を言い合う。 かと言って悪態はつきながらも、バリスタや大砲などの設備兵器で自分達の倍以上は大きいモンスター達を退けた益荒男たちは生き残れた事を第一に笑みをこぼしていた。 中には怪我を負って痛みに苦笑いする者達もいるが、朝日を迎えれたことの安心感が大きかった。

 

 

もちろん…

 

 

 

「やれやれ、なんとか乗り越えましたな、ネイチャさん」

 

「いや、もう、ほんと、きつかったですよ…」

 

 

 

「おい見ろよグラス! ヘビィが壊れちまった!!」

 

「あらあら、ではまた素材集めに勤しまないとですね。 あとウンディーネさんからも取り寄せないとですね」

 

 

 

「がっはは! 今日もまた一段と険しく楽しい狩だったぜ…だろ!!」

 

「ぅえ!? こ、こほん…と、当然ですわ! キングに相応しい宴でしたわ!」

 

 

 

「うぅ…こ、怖かったぁ…生きてて良かったぁ…」

 

「トレーナーさん!? だ、大丈夫だよ! ウララが元気を分けてあげるから!!」

 

 

 

「なに!? ランスが折れただと!?これでは驀進できないじゃないか!!」

 

「ちょわっ!? なんということになったのでしょう!! こりゃハモンさん驀進的修復を施さなければ!!」

 

 

 

「あたいは狩猟笛の演奏が長引いて耳が痛いね」

 

「わたしは腹が減って胃袋が痛い…」

 

 

 

それぞれの腕を振るい、それぞれの足で駆ける。

 

二人三脚なハンターとウマ娘達も百竜夜行を乗り越えてカムラの里に戻り始める。

 

だが、それは無事なメンバーのみだった。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そんなッッ、すまない! すまない!! すまない!!! あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

「もうトレーナーちゃん、少し大袈裟だよ? そんなに泣かないで。 しばらくトレーナーちゃんを夢中に出来なくなっちゃうけど、でも足は治してまたトレーナーちゃんのために走るから元気出してね。 ユー、コピー?」

 

 

 

「……………すまない、無理させた」

 

「問題ありません。 損傷箇所は修復可能です。 ダメージから判断して5日程度のユクモ村に滞在。 それまでトレーナーのクエスト成功率は僅かに低下しますが……貴方ほどの腕ならば些細な事です。 必ずマスターの元に戻って来ます」

 

 

 

「大丈夫です。この程度かすり傷です。 回復薬を飲めば元通りだからあまり泣…ぐっ…思ったよりも深いですね…」

 

「ぅぅ、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい! やはりライスが! ライスがお兄さまのウマ娘だから不幸にしたんだ! ライスが、ライスが…! ぅぅ、うええええん!!」

 

 

 

 

怪我した者。

 

怪我に悲しむ者。

 

百竜夜行を乗り越えるに苦しんだハンターやウマ娘も全員が無事とは言えなかった。

 

腕を痛め、足を傷つけ、どれだけ悲惨だったのかを物語る。

 

死人が出ていないだけ奇跡なんだろう。

 

しかし、それも段々と危うくなって来た。

 

 

 

「ルドルフ、まずはご苦労だった。 今日も気炎万丈に激らせ、カムラの里は皆で乗り越えた。 しかし皆も薄々気づいておるが、回数を重ねるごとに百竜夜行の勢いが増しているな。 まだ予兆があるからこそ対策は取れるが消耗している事実は確かだ。 これからさらに厳しくなってくるだろう」

 

「ハンターと同じようにウマ娘も無限ではない。 ユクモ村の秘湯を使っているとは言え、それでもウマ娘は怪我の治すのに時間がかかる生き物だ。 駆ける足数が減り続ける現状は芳しくない…が、しかし、それでも立ち向かわなければならない」

 

「うむ、その通りだ…時を得て、約束してくれたからな」

 

「?」

 

 

 

 

 

_お主は今どこにいるのだ?

 

_それとも、50年はおぬしにとって、そうなのか?

 

_たづな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁセイウンスカイ。 俺の見間違いじゃなければなんだけど、最後のラージャンっておやすみベアー抱えてなかった?」

 

「にゃはは、アマグモもそう見えた? じゃあやっぱり見間違いじゃ無かったんだね」

 

「百竜夜行に紛れて現れた時は何事かと思ったよ。 出来ればサブクエスト化してしまったおやすみベアーの回収依頼をこの場で果たそうか思ってたけど、流石に百竜夜行の中でそれは厳しすぎたから見送ったが…」

 

「にゃはは、無理して死んだら意味が無いからそれで良かったんじゃない? 私たちは分断するために細道にいたんだから」

 

「それがメインだからそうなんだけど。 あと今回の百竜夜行はてっきり翡葉(ひよう)の砦に回されるかと思ってた。 今の俺ってモンスターの討伐班だからさ?」

 

「うん、私もそう思ってた。 けれどこのエリアを任せれるハンターって中々居ないよね? アマグモは百竜夜行が始まってからずっとこのエリアを任されていて、カムラの里からは適任者として思われてるってことでしょう? それを証拠にアマグモはこのエリアの司令塔」

 

「荷が重いのですがそれは…」

 

「でもそれだけの事が出来て、それでいて認められているって事は、わたしはトレーナーであるアマグモのウマ娘として誇らしいよ」

「ありがとう」

 

 

 

セイウンスカイを中心にウマ娘を集めて生存報告を確かめる。

 

もちろんハンターやバリスタで援護してくれた里人達にも離脱者はゼロだった。

 

死人もなくそれは嬉しい報告となった。

 

 

だが俺自身の内心は穏やかでは無い。

 

 

 

「これは、しんどいな…」

 

 

 

日に日に増して行く百竜夜行の勢い。

 

ウマ娘の力があるからこそ今はどうにかなっているが、それでも人的資源は無限ではない。

 

里人も、ハンターも、ウマ娘も、モンスターの宴の中で怪我を負って次々と離脱して行くこの現状。

 

マガイマガドを討てば少しは収まるだろうか? と考えていた。

 

もちろんマガイマガドが乱入してきた百竜夜行を乗り越えてからはしばらくは静かだったけど、また再び百竜夜行が始まり、リオレイアやタマミツネの様に危険度の高いモンスターすら現れる様になった。

 

そして今回はラージャンまで現れる始末だ。

 

環境生物のクグツクモがストックにあったから糸をぶつけて躁竜して奴のコントロールを握り、なんとか被害を止めた。 だが危険度が桁外れに高いモンスターの登場に俺も必死だった。 ラージャンがおやすみベアーを握ってモンスターを殴る姿は些かシュールだったにしろ、被害が大きくならないで済んだことに胸を撫で下ろした。 正直怖かった。

 

だがこの勢いが収まらないとしたらカムラの里はどうなる?

 

 

それはもうこの場所を捨てるしか無いだろう。

 

 

そんな未来すらも見えている。

 

 

 

「兵器が弱いな…」

 

 

「え?」

 

 

「ハンターもウマ娘も有限だ。 そこに里人が加入して兵器で戦っているが、兵器がインフレに取り残されるとしたら里人が戦っても意味もなくなる。 そこから先は物量で負ける未来しかない」

 

 

「なら、兵器を強くすれば現状を変えられるのかな?」

 

 

「乗り越え続ける前提ならそうなる。 しかしこれに終わりがないとしたら、百竜夜行の"原因"を突き止めない限り終結しないと考えてるよ。 なぜ地獄の宴がカムラの里を巻き込む形で始まっているのか? そこを解決しないとカムラの里はいずれ疲弊して、食い尽くされる」

 

 

「……あまり考えたく無いね」

 

 

「ああ。 でもそれを考えないといけない」

 

 

 

ため息が出てしまうここは薄暗い宴の細道。

 

 

しかし段々と明るくなり始める。

 

 

どうやら朝日が登って来た様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマグモ、わたしがアマグモのためにもっと役立つための方法とか手段とか、何かないかな?」

 

 

「それはクエストに於いてか?」

 

 

「主にそうだね。 あ、もちろん日常でも、いつでも、アマグモのためになることがあるならなんでも言って」

 

 

「別にそこまで頑張らなくても良いよ。 さて…なんだっけ? クエスト関係でもっと役に立つ話か。 そうだな…」

 

 

 

正直に言えばこれ以上求めなくても充分すぎるほどに役に立っている。

 

セイウンスカイは逃げ馬としてモンスターを誘導する能力は高い。

 

これだけでも非常に助かっているのだが、本人の希望にて環境生物の扱い方や飛竜に対する閃光玉のタイミングなど、ハンターが実戦でやっていることも知識としてセイウンスカイに落とし込んだ。

 

 

それでも彼女は更に役に立ちたいと言うのだ。

 

 

 

「かと言って、キャパオーバーを求めるのは違うよな…」

 

 

「?」

 

 

「なんでもないよ」

 

 

 

月明かりのおかげでほんのりと部屋が見えているため、すぐそこにセイウンスカイがいる事が確認できる。 意図的に差し出された彼女のあたまを撫で、それに答えてくれた喜びを表す様にウマ娘の耳がピクピクと動き、触れる手にペチペチと耳で柔らかく叩かれる。 彼女の細やかな愛情表現を受け止めつつ布団の中で天上を眺めて、しばらく悩ます。

 

ちなみに今は夜。

 

俺は百竜夜行を乗り越えてそのまま一徹の状態でカムラの里で事後処理などに1日を費やした所である。 大変だったけどそこは人間の役割なので頑張った。 ちなみにウマ娘のまとめ役であるシンボリルドルフやエアグルーヴを除いて他のウマ娘はしっかり足を休めていた。 同じくセイウンスカイも自宅に帰ると朝風呂に入るとそのまま一度寝て、起きたら家事をしてのんびり過ごしていた。

 

俺は夕方に帰宅して、浅漬けのニンジンと米で夜ご飯を食べてから寝る準備を始める。

 

いつも通り茶の間に敷布団を2つ並べてから二人揃って就寝する。

 

しかしセイウンスカイは自分の敷布団に寝転がず、体半分こちらの敷布団に侵略していた。 満足そうな声と共に腕を抱きしめてホールドすると、足と足を絡めてより密着しようとする。 お陰で体温が少し高くなるがこれはいつもの事であり、彼女は幸せそうな吐息を漏らして頬をスリスリと寄り添う。

 

しかし先程問いかけてきた声だけは透き通る様に覚めており、自分の活躍の幅がもっと広がらないかとセイウンスカイは相談する。

 

 

 

「装備を充実させるわけにもいかない。 そもそもハンターの様にガチャガチャした物を纏わせるのはウマ娘としての力を取り上げてしまうから却下だな。 たが、しかし…」

 

 

「にゃは……アマグモ、今日はもう良いよ。 ごめんね。 眠たいのに、色々考えさせて…」

 

 

「気にするな、俺はお前のトレーナーだ」

 

 

「……そんなこと言うから、わたし、アマグモに掛かってしまいそうになるよ?」

 

 

「死ぬほど疲れてるから今日は我慢して」

 

 

「……この代償はとてもうまぴょいだよ」

 

 

「いや、とてもうまぴょいってなんだよ」

 

 

 

懐に潜り込むセイウンスカイを抱きしめながら寝息を立てて意識は闇の中に堕ちる。

 

 

 

「おやすみ、アマグモ」

 

 

 

彼女の声を聞き届けながら夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百竜夜行から数日後のことだ。

 

討伐クエストでは無い採取クエストなので、オデッセイブレイドとレザー装備をメインに整える。

 

そしてピッケルを多めに持ち込んだ。

 

 

 

 

「ここって溶岩洞とはどう違うの?」

 

 

「火山だから文字通り山として登る感じだ。 溶岩洞は洞窟だからやや降る感じかな。 あとは大体同じ…と、言いたいがハンター業界でこの火山は非常にホットなスポットがある。 深部はマジでホットすぎるけど」

 

 

「燃え尽きるって意味かな?」

 

 

「うん、めちゃくちゃ暑いぞ。 鉄の素材を使った鎧とかとんでもないことになるから熱が籠らない装備じゃないと大火傷を負うハメになる。 今回な俺はレザー装備だからその心配は無いが、ピッケルとかでも火傷するから気をつけような?」

 

 

「了解だよ〜」

 

 

 

さて、俺とセイウンスカイは"火山"までやってきた。 ちなみに溶岩洞では無い。 あと火山にも種類があるので「どこの火山?」って話にもなる。 なのでここがどこの火山かと言えばユクモ村でハンターやってる頃によく来たことある火山だと説明するしかない。 一応それぞれの火山にも名前はある。 さて、この火山の特徴としてはウラガンキンやティガレックスに亜種系が盛んに生息していることだろう。

 

そしてゴールドシップがティガレックスを落石で倒してしまった場所でもある。 前に砂漠のサブキャンプ場で出会ったニャン三郎が話した例の件である。 ティガレックスに関しては元々弱り始めていたにしろ、ゴルシが何かの手違いで落石を起こして倒してしまった。 漁夫の利な形だったがゴルシのハンターも討伐に漕ぎ着けたのでゴルシと大変盛り上がったらしい。 これがホットスポットか!と、なんか勘違いしてたらしい。 なんでもありだなあのウマ娘。

 

 

 

「火山の蜂蜜ってかなり癖になるぞ。 少し食べてみろ」

 

「ほほう〜、これはこれは。 ではお言葉に頂きます。……うぇ!? 甘い!! でも、美味しいねこれ。 お代わり貰っていい?」

 

「食べすぎると喉乾くぞ」

 

「ええー」

 

「安心しろ。 クーラードリンクに混ぜて美味しくするから。 それで火山に入ったタイミングで味わいつつしっかり飲み干してくれ」

 

「それなら火山に早く行こうアマグモ」

 

 

 

火山は基本的に栄養素が高い地域でもある。

 

そこで育つ植物は栄養が豊富であり、蜂達も火山で育った花達から蜜を回収して美味しいハチミツを作り上げてくれる。

 

しかしココは暑い場所だから寄り道でハチミツを食して喉を渇かせることはまず考えないだろう。 しかし持参したクーラードリンクと火山で回収したハチミツを混ぜれば"にが虫"の独特な苦味を相殺してくれる上に、ハチミツの甘さがそれを勝るのでクーラードリンクが美味しくなる。 回復薬にも混ぜて苦味を消して飲みやすくするからハチミツは偉大だ。 それが火山で採取できる栄養満点のハチミツとなると最高である。 これにはハチミツ好きのトウカイテイオーもテイオーステップが止まらないだろう。 気が向いたら持って帰ってやる。

 

 

 

「…待ってアマグモ、なんか来るよ。 ゴロゴロって音がするけど…いや、これはグラグラ? 軽い感じゃ無い」

 

 

「ラングロトラ、じゃ無いな? そうなるともしや…セイウンスカイ、身を潜めよう」

 

 

 

エリア5の中央にある岩陰を利用して隠れる。

 

そこら辺を徘徊してたメラルー達もこのエリアにやってくる大型モンスターに威嚇しつつ後ろに下がっている。

 

 

「え、あれもモンスターなの?」

 

「ああ。 名前はウラガンキンだな。 しかも青色と言うことは"亜種"だな。 早速お出ましか…」

 

 

 

ウラガンキンはそこまで目は良くないモンスターだ。 あと耳もあまり良くない。 そのかわり自身を守るその鎧の様な鱗は強固であり生半可なハンマーなんかでは太刀打ちできない。 ティガレックスですら噛みちぎることを諦めるだろう。 水属性の弾が放てるヘビィボウガンで戦えば多少はマシだが、あのローリングに巻き込まれればどんな装備でも一撃で死ぬだろう。 間違えてもランスの盾で防げると思うな。 容易く轢き殺される。

 

 

 

「ウラガンキンがメラルーに注目してるうちに行こうか」

 

 

「う、うん。 あんなモンスターがいるんだ…」

 

 

「出来れば二度と戦いたくないモンスターだな」

 

 

「倒したことあるの?」

 

 

「まだプリンセスレイピアがあった頃に毒殺した。 ウラガンキンは鎧が硬い代わりに免疫力がそこまで高くない。 だからユタカとウラガンキンの顎を爆弾で破壊して、それで顎に毒のナイフを何本も奥深くまで突き刺して、顎の肉質を毒でグジョグジョにした後にユタカがスラッシュアックスで属性解放ぶち込んで、最後はウラガンキンが眠ったところに爆弾で攻撃して、なんとか倒した」

 

 

 

あんなの斬撃で倒せるわけない。

 

ユタカもスラッシュアックス一筋だから打撃系の武器なんか持ち込まなかった。

 

なのでジワジワと毒で殺すことにした。

 

3日連続で火山の中で活動なんか出来るわけないので何度もベースキャンプに戻ってはウラガンキンを探しに向かった。

 

まあベースキャンプで立て直してる間にウラガンキンは毒に蝕まれて苦しむからあえて長期戦で挑むことにしたけど、できればガンキン系とはあまり戦いたくない。

 

まだ危険度が同じレウス系と戦う方がマシだと言える。

 

 

 

「でも今持ち込んでるオデッセイブレイドならあの鎧はもしかしたら切れるかもだけど、体力が多くて大変なので倒そうとは思わない。 やるなら毒殺だ」

 

 

「毒、好きだねぇ」

 

 

「一番安全且つ、殆どのモンスターに有効だからな。 そもそもモンスターは毒を分解する能力は無いに等しい。 人間の様に解毒薬を飲むわけでもあるまいし。 だから絶やさず毒を盛り込んでやれば永遠と苦しみ続けてくれる。 そうすればあとは煮るなり焼くなり、好きにするさ」

 

 

 

ウラガンキン亜種から気付かれぬ様にエリア5を後にしてエリア8までやってきた。 クーラードリンクを半分ほど飲みながらモンスターを警戒する。 一応ウロコトル対策として音爆弾を片手に用意するができればセイウンスカイがいるところでコレは使いたく無い。 ウマ娘も耳が良いから音爆弾に耳を痛めてしまう。 なので俺より先行するセイウンスカイの感知力を信じて奥に進むことにした。

 

 

 

ゴボゴボ…

 

 

 

「!」

 

 

 

セイウンスカイは地面から何かを感知すると飛ぶように後ろに下がる。

 

 

 

「グォォォ!_ガァ!!?」

 

「やかましい」

 

 

ウロコトルが地面から飛び出てきたがオデッセイブレイドの盾で殴って(くちばし)をへし折り、その口の中に音爆弾を投げ入れるともう一度コトルのあたまを殴る。 するとウロコトルの体内からパキーンと音が鳴り引き、白目を剥いて倒れた。 動かないところにオデッセイブレイドの刃を突き立ててウロコトルの喉へ一気にねじ込んでトドメを刺した。

 

 

 

「やはりウマ娘は耳がいいな」

 

 

「う、うん、そうだね。 それとありがとうアマグモ」

 

 

「倒すのは任せろ。 だから先行は任せた」

 

 

「了解だよ、トレーナー」

 

 

 

その後もコトルの奇襲が何度かあったがセイウンスカイのお陰で事故はなかった。

 

大型モンスターとの接触は無いままエリア8を超えて……とうとうやってきたエリア9の山頂付近まで。

 

めちゃくちゃ暑いぜ!!

 

 

 

「うぁぁ、これは…暑い……アマグモ、暑いよ…」

 

「ほら、クーラードリンク飲めって、ハチミツ混ぜて甘くしてるからしっかり飲め」

 

「ぅぅ…ぬるい…」

 

「ここまで来たらそれは仕方ないだろ。 流石にクーラードリンクも緩くなってしまう。 むしろ熱湯にならないからすごいんだけど」

 

 

 

さて、セイウンスカイがクーラードリンクを飲んでる間にピッケルを組み立てしっかりと固定する。

 

マカライト鉱石を使った丈夫なピッケルだからそう簡単に壊れないだろう。

 

手袋を付けてから、めぼしい部分を探す。

 

 

 

「この辺りはまだ手をつけられて無いな。 溶岩も引いてるし今なら掘るチャンスだろ」

 

「ええと、なんだっけ? 確か"お守り"を探すんだよね? "護石"って言わないんだ…」

 

「お守りはあくまで鑑定する前の名称であり、鑑定してから護石って名前に分類される。 だから別に護石と言っても間違いでは無い。 だが掘り当てる時点ではまだ『お守り』ってハンターは言っている。 そしてそれには理由がある」

 

「理由?」

 

「掘り当てるお守りはそもそも人の手で作られていた代物なんだよ」

 

「!?」

 

「例えば俺たちがいるこの火山の場所は、そりゃ気が遠くなるほど大昔に人間が住んでいたらしく、いつしか大陸となるくらいに火山が盛り上がった。 それから生きていくには厳しくなり、この大地を捨てた先人達の遺産がお守りとして形に残ってるらしい。 今もたまに見つかる」

 

 

 

カン、カン、カン

 

 

 

「こ、この辺りに人が生きてたの?」

 

「みたいだぞ。 最初は面白い形の鉱石だと思ってたが、それが人の手で作られていたお守りと気付いてからこの大陸には気が遠くなるほど昔に人間が住んでいたのだとギルドは知ったらしい。 もちろんそんな事はあり得ないと言う学者も現れたが、綺麗に文字が刻まれているお守りが見つかってからそれが証明された。 そして力も秘められていることがわかった」

 

「それはまた不思議だね…」

 

「まぁな。 それにお守りにも"レア度"ってのがあるんだ。 例えば当時よりも原型が残っているもの。 または文字が刻まれているもの。 あとは使われている鉱石の質にもよるもの。 主にこの三つでレア度を測っている」

 

「ふむふむ」

 

 

 

カン、カン、カン

 

 

 

「ちなみに俺は金策として全て売った」

 

「えー、もったいない!」

 

「全部レア度が低い奴しか出なかったからな。 それを持ってても効果は無いに等しかった…と、いうか本当に効果が発揮されてるかも怪しかったからな」

 

「えぇ…」

 

「何度も言うけどそりゃ気が遠くなるほど大昔の産物なんだよ? 形が良さそうなものでも実はその当時に比べたら大したことないお守りの可能性もある。 むしろ形が悪くて汚い字が刻まれているお守りの方がすごい効果を発揮してる可能性すらあり得る話も出ている。 そのくらいに今の世代なんかでは測れない産物な訳で、ピッケルを持ってお守りを掘り当てようとするなんて今では龍暦院ハンターくらいな訳だ。 それに…」

 

「?」

 

「今はマカ錬金で護石を作れるからな。 わざわざ危険なところまで掘り当てに行かなくても護石が手に入る訳だ」

 

「あ……うん、そうだね…」

 

 

 

カン、カン、カン……

 

カ…キンッッ!!!

 

 

 

「でも、ロマンは負けないさ」

 

「!」

 

「塊を採掘したけど表面見てみな? 化石の様にそれっぽいのが一つ埋もれてるだろ? これがお守りだよ」

 

「おおー! 本当だ! それになんか文字が刻まれている。 うん、たしかにロマンだね」

 

「だろ? マカ錬金から手に入る護石よりも歴史が刻まれた代物だ。 そりゃコレクターが高値を出してまで欲しがる訳だよ。 マチカネフクキタルもコレクションしてるくらいだし」

 

「ふむふむ。 あ、ちなみにどのくらいで売れるのかな?」

 

「文字さえ刻まれていれば2000は出る」

 

「すごっ!?」

 

 

 

思わず尻尾ピーンのセイウンスカイに笑いながらしばらく採掘を進めた。

 

ある程度収穫できた。

 

そのタイミングでクーラードリンクが残り一本になった。

 

アイテムを切らしてまで粘る必要もないのでほどほどに切り上げてエリア8に戻り、セイウンスカイは千里眼の薬を飲んで視覚と聴覚を強化する。

 

ウラガンキン亜種のいるルートを回避しながらエリア5に進む。

 

するとお宝を持って帰る俺たちを見たメラルー達が目を光らせて襲ってきた。

 

俺はセイウンスカイに「先に行け」とお宝を渡してからオデッセイブレイドを構えてメラルーと警戒する。

 

 

 

「そこから一歩動いてみろメラルーども。 その首を捻ってティガレックスの撒き餌にするぞ」

 

 

「「シャー!?」」

「こ、怖い! ど、どうするにゃ…?」

「ユ、ユニオン鉱石を持ってるにゃ…」

「けどあのハンター只者じゃないにゃ」

 

 

 

しばらく睨み合いを続ける。

 

 

セイウンスカイがエリア5を抜けたあたりで音爆弾を投げ込んでメラルー達を怯ませた。

 

猫だけあって耳が良いから唐突な高周波に頭を押さえて苦しんでいる。

 

俺はその隙に翔蟲を使って一気にエリア3まで離脱した。

 

 

 

「お帰り。 あとアマグモ。 猫相手に物騒だよ…?」

 

「セイウンスカイが猫好きなのは知ってるけど、メラルーは猫の見た目をしてる獣人族だから厳密には猫じゃないぞ?」

 

「ええー、でも……可愛いし」

 

「だとしてもその前に奴らは蛮族だ。 気を許さないでね? 俺とセイウンスカイが苦労して手に入れたお宝なんだから横取りなんか許せない」

 

 

 

エリア1を通ってベースキャンプまで進む。

 

ハチミツを回収しながら安全なところまでたどり着いて一息つけた。

 

あー、何処かで水浴びしたい。

 

 

そんなことを考えてると…

 

 

「あれ?? お前…」

 

 

「なっ! アマグモ先輩!?」

 

 

なんと火山のベースキャンプからケシキが現れた。

 

彼は今サイレンススズカの治療に付き合うためにユクモ村に滞在していてはずだ。

 

もちろんケシキ自身も怪我をしていて、ユクモ村の秘湯で傷を癒しているところ。

 

しかし彼の装備を見る限りもう既に万全であることがよく分かる。

 

 

 

「久しぶりだなケシキ、クエストか?」

 

 

「あ、はい。 リハビリとして燃石炭の採掘依頼を受けてここまでやってきました」

 

 

「そうか。 ところでサイレンススズカの調子はどうだ?」

 

 

「順調ですよ。 それにしてもユクモ村の秘湯はすごいですね! マガイマガド戦の傷が綺麗に治ったんですよ! あとリハビリに関してはメジロ家にもお世話になっています。 スズカも頑張っています。 そういや、また何人かウマ娘がユクモ村に来ました。 やはり…百竜夜行ですか?」

 

 

「ああ、前回のは相当やばかった…の、手前まで来ている。 だが百竜夜行は回数を重ねるごとにその脅威は深まるばかりだ。 次はどうなるかわからない。 そのためカムラの里は設備兵器の改善に急いでるところ」

 

 

「そうですか…」

 

 

「ケシキ、サイレンススズカとしっかりと治してからカムラの里に戻ってこい。 それまでは任せろ」

 

 

「っ、わかりました。 絶対に戻って来ますから」

 

 

 

そう言うとケシキは双剣を背負って奥に消えていった。

 

そういや太刀じゃ無いんだな。

 

まぁ採取クエストだから重たい装備である必要は無いだろう。

 

 

 

「帰るぞ、セイウンスカイ」

 

 

「おえぇ…やはり甘すぎる…」

 

 

「喉乾くからやめとけって」

 

 

 

癖になるハチミツの甘さだが、乾きを潤す飲み物が足りなくてセイウンスカイが少し大変になった事は言うまでも無い。

 

 

つづく




百竜夜行の離脱者が続出してます。
化け物だらけの群れに対して無傷は流石に厳しい。


今回アマグモ達が向かった先はMHP3の火山です。
RISEには登場しない、ユクモ村から行ける場所です。
お守りを探しにピッケルを持ち込んだツアーでした。
炭鉱夫してたのが懐かしいですね…楽しかった。


ケシキがユクモ村に向かってから3週間が経過してます。
ウマ娘は治療に時間が掛かりますので…


それと誤字と脱字の報告感謝します!
そそっかしい作者故に大変助かっております!

ではまた


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17話

「結果発表ォォー!」

 

「いえーい」

 

「これはこれは!素晴らしく物々しいでありますね!」

 

 

火山ツアーからお守りを回収してカムラの里に帰ってきた。

 

それから待ちかねたマチカネフクキタルと共にお守りの鑑定を始める。 採掘したお守りがどんな護石なのかを見極めるための資料や参考書があるのでそれと見比べてレア度を確認できる。 その前にお守りにくっついてる岩や不純物を削って綺麗に取り出さないとならないので、しばらく地味な作業が始まる。

 

茶の間でお団子食べながらゆっくり進めよう。

 

 

 

「いやはや! 歴史が詰まった美しさがありますねぇ! これは楽しみですよ」

 

 

「ご機嫌だな、マチカネフクキタル」

 

 

「そりゃお守りの採掘と聞いてお伺いしない訳には行かないですよ! マカ錬金の運が試される瞬間も良き事ですが、これはまた違う輝きがあります! 灼熱たる危険な地へとその足で赴き、鉄のピッケルを片手にロマンを求め、歴史を掘り当てた鉱物にはどの様な古が秘められているのか! いやいや楽しみで仕方ありませんね! ハッピーカムカムフクヨコーイ!」

 

 

既に俺たちの倍のスピードでお守りを鑑定するマチカネフクキタル。

 

ガリガリと付着する岩石を削ってお守りを掘り出す作業を進めていた。 俺もぼちぼち作業を進めながらお茶を啜り、セイウンスカイはテーブルに突っ伏しながらのんびり鑑定を進めている。

 

たまに足をこちらに伸ばして太ももをツンツンしてくるので足の裏をくすぐって反撃すると耳をピクピク揺らしながら身を捩らせる。

 

時間が経つことにだんだん顔が蕩けている。

 

 

 

「セイウンスカイさんはトレーナーさんと仲が良いですね」

 

「! むふふ〜ん、そうでしょう、そうでしょう? アマグモはわたしだけのトレーナーだからね」

 

「私のトレーナーさんも私の事を良くしてくれるのでお気持ちわかりますとも。 前に護石を集めすぎてほんの少しだけ怒られましたが、私専用のお宝ボックスを用意してもらいましてもう感激大吉福きたる! そんな訳なので、今日はアマグモさんのお零れを預かって私専用のボックスに収めさせていただきますとも!」

 

 

 

今日は討伐クエストも無く静かである。 やはり百竜夜行からしばらくの間は静かになることが多い様だ。 ただし寒冷群島とか別の大陸は変わりなくモンスターの討伐にハンターは駆り出されるようだ。 その分カムラの里から近い大社跡の様なところはクルルヤックやアオアシラ程度のモンスターしか出ないため、そのレベルに合わせて下位ハンターが討伐に向かっている。 そのため上位ハンターが出る幕は今の所なしである。 今日はそれで丁度良かった。

 

 

 

「アマグモ、お守りの詳しい鑑定ってどうやるの?」

 

 

「なんの護石なのかを当ては嵌めるための資料がある。 文字の多いさ、刻まれている画数、あらゆる印、傷跡の数、どれだけ一致して、どれだけ丁寧に施されているのかを見極めるんだ」

 

 

「うへー、長丁場になりそう…」

 

「見極めに関してはこのマチカネフクキタルにお任せを!!」

 

 

「彼女を今日呼んだのはそういう事だ」

 

 

 

ある程度ガリガリと削ったり擦ったりしてお守りを綺麗にする。

 

横に流すようにマチカネフクキタルに渡してどの護石なのか鑑定してもらい、セイウンスカイは日差しを浴びてウトウトする。

 

しかしセイウンスカイは飽きたのか小道具を手放し、モゾモゾとこちらに体を寄せると勝手に足を膝枕して眠りついた。

 

 

「一個も終わって無いじゃないか」

 

「むにゃ…むにゃ……すぅ…」

 

 

 

10分も経たないうちにこれである。

 

昼寝好きは相変わらずというか。

 

……このまま放っておこう。

 

 

 

「そうですアマグモさん、今からわたしの目を見つめ続けてください」

 

「へ?」

 

「今からあなたをハッピーにします」

 

「なにそれ怪しすぎる」

 

「そんなことありません! 至って健全です! (ガン)を飛ばし(がん)を齎す……む、むふふふっ!」

 

「笑って自爆してるようで悪いけど、椎茸の様な眼をしてる事しか分からん」

 

「ガーン!? …あ、今のは(がん)だけにですね!」

 

「わかったから(がん)をガンガン削れ」

 

「ふぁ!? むむ、なかなかにやります…この人」

 

 

 

なかなか面白いなこのウマ娘。

 

シンボリルドルフが気にいるだろう。

 

 

こんな感じに彼女のユーモアに付き合いながら暇もない時間を過ごす。

 

すると…

 

 

 

「あ、これ"女王の護石"クラスか」

 

 

「おお、これはこれは! 良く見せてください! …ふむふむ、たしかに女王の護石ですね! この画数と文字の深さ! 何より淵に使われている鉱石がなかなか無いものです!」

 

 

「それで刻まれてるのは"呼吸"と"持久"の文字か?」

 

 

「ふむふむ、どうやらみたいですね。 この彫り具合は持久で確かです。 呼吸に関してはやや際どいですがそれ以外は見つかりませんね。 あ、この最後の文字は"早める"ための文字ですよ。 そして二つのマークがついてるこれは両立してる意味を示します」

 

 

「スキルが二つと言うことか? わざわざそのマークが付いてるとことのなら確定じゃないか。 こりゃお高いな」

 

 

「なな! それを売るなんてもったいない!」

 

 

「いやいや売らないよ。 現環境だとこのスキルは相当ありがたい」

 

 

 

何かしらの会話を挟みながら次々と護石の種類を暴き出す。

 

マチカネフクキタルも聞き上手なのか俺の話をいつまでも聞いていた。 しばらくしてセイウンスカイが目を覚まし始めるのと同時に全ての鑑定が終了した。

 

膝が軽く痺れたのでポンポンと頭を叩いてセイウンスカイを起こす。

 

 

「むにゃ、終わったんだ…」

 

「気持ちよさそうに寝やがって」

 

「ふへへぇ、日向が気持ちよくてぇぇ…お休み」

 

「蕩けすぎだろ。 てか起きろ」

 

 

 

結局彼女は寝るだけだったがマチカネフクキタルのお陰で作業は無事に終了。

 

鑑定済みの護石の半分はマチカネフクキタルにプレゼントして、実用性の高い護石はアイテムボックスにしまった。

 

あとマチカネフクキタルからお礼とばかりに何かのお守りをくれた。

 

どうやら安産のお守りだった。

 

その意味を知ったセイウンスカイが耳をふにゃふにゃと閉じてモジモジと蹲っていた。

 

それを見て「ある意味大吉ごちそうさまです」と煽ってきたマチカネフクキタルの額をデコピンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、しばらく時間が経ちケシキとサイレンススズカが帰ってきた。 二人揃ってユクモ村の秘湯はよく効いたと言っていたが心なしかスズカの肌がツルツルだった。 ユクモの温泉の疲労回復効果は凄いけど美容効果はそんなに高かったか? あとなんかすごい幸せそうな表情をしている。

 

それはそうとまた百竜夜行が始まるようだ。 最後に百竜夜行が起きたのは4日前である。 随分と区間が短い。 まだ完全に兵器の配備が終わった訳じゃないのにモンスターは俺たちに安息を与えてくれないらしい。 ギルドマスターやフゲンさんもこの現状に穏やかではないがケシキが来たことで乗り越える見込みが出てきた。 だが兵器がモンスターに対してのインフレに対応できるか心配なところ。

 

ただ開発で連続で放てるバリスタを完成させたりとモンスターの進撃を防ぐ確率を少しでも高めてくれている。 しかしハンターの数が心持たない。 死者はいなくとも離脱者はいるのだ。 ケシキが戻ってきたことでおおよそプラマイゼロになるだろうけど、今回凌げたところで次回が不安である。 それでも今は乗り越えるだけを考えないとならない。

 

 

そしてもう一つ悲報だ。

 

大きなモンスターが現れたらしい。

 

その名が"イブシマキヒコ"ってモンスターだ。

 

どうやらヒノエさんがそのモンスターと共鳴したらしく、そしてこのカムラの里に襲いかかってくると予知した。 話だけではピンと来なかったが、大社跡で一部始終を見ていたサイレンススズカから話を聞いたところどうやらアマツマガツチの様な奴が現れた事を理解した。 そしてあんな厄災が里に襲い掛かって来るのかと俺も顔を顰めた。

 

 

古龍クラスがそう安安と里にくるんじゃねぇよ。

 

 

 

「それでアマグモ、今日から回収班戻るの?」

 

「ああ、討伐班のケシキが戻って来たからな。 役1ヶ月程度の討伐班だったが太刀の勘を取り戻すにちょうど良かった。 しばらくは片手剣に戻るだろうけど」

 

「じゃあのんびりと出来そうだね〜」

 

「ハイテンポじゃなくなったのは確かだけど、変わらず高難易度なクエストばかりだぞ」

 

 

 

そんな事を考えてると茶の間にフクズクが飛んできた。

 

腕の上に乗せて巻物を受け取る。

 

そして中身を開封する。

 

 

とんでもない内容が書かれていた。

 

 

 

「セイウンスカイ、冗談抜きでかなりヤバめのクエストが届いた」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「詳しい話はギルドマネージャーのところに向かってからだ」

 

 

「……そのレベル??」

 

 

「ああ。 とりあえず行ってくる。 留守番よろしく」

 

 

家を出て集会所に向かう。 今日もウサ団子屋さんでパクパクしてるオグリキャップは相変わらずのご様子。 二人に軽く挨拶しつつカムラの里のギルドマネージャーの元まで向かった。

 

すると珍しくテツカブラの幼体から降りたギルドマネージャーは俺が来る事をわかっていたかのように待ち構えていた。

 

そして話を伺う。

 

クエストは武器の回収だ。

 

 

回収班としてのクエストである。

 

それだけなら普通なのだが厄介なことが起きていた。

 

 

 

「水没林のピラミッドに"オオナズチ"?」

 

 

「うむ」

 

 

 

オオナズチとは霞龍の異名を持つ古龍である。

 

ただ古龍と言えども厄災を齎すモンスターの中では比較的大人しめな個体であり、オオナズチを知らないハンターがオオナズチと出会ってもそいつが古龍だとは気づかないくらいである。

 

しかし戦闘能力は非常に高く、オオナズチの吐き出すあらゆるブレスは非常に厄介であり、ほんの少し触れるだけで容易く溶けてしまう溶解液などを吐き出す。 そしてオオナズチと言えばステルス状態が有名だ。 簡単に言えば姿が透明になって消える。 そして背後を取られてしまえば…あと言わずもがな。

 

 

 

「ピラミッドの中にある武器を回収して欲しいゲコ。 ただしオオナズチがピラミッドの周りを彷徨いており近づくことが大変困難ゲコ」

 

 

「彷徨う? オオナズチは縄張りを作る生き物とは聞いたこと無いですね。 古龍である事も合わせてステルスの能力を持つ故に外敵から襲われない生き物ですよ? 襲うにも難しい」

 

 

「だがオオナズチはピラミッドに張り付いてるゲコ。 しかし理由は把握してる。 なんとも報告によればピラミッドの中にある武器を狙ってる様じゃの」

 

 

「狙ってる? …それよりもどのようにピラミッドの中に武器が?」

 

 

「まずオオナズチの討伐に向かったハンターが戦って負けたゲコ。 そのハンターはピラミッドの中に撤退したが治療間に合わずそのまま息絶えたこと。 そのハンターのオトモから報告を受けたゲコ。 するとオオナズチはハンターの持っていた武器が気になるのかそれを舌で伸ばして取ろうとしている話まで聞いたゲコ」

 

 

「武器が気になる? もしやレイトウカジキマグロでも抱えていたとかですか?」

 

 

「オオナズチ相手にそんな武器を抱えるハンターはまずいないゲコ。 もちろんそのハンターも古龍を討伐するための武器を抱えていた。 その武器とは大剣"エピタフブレード"と言われる古代の代物ゲコ。 何やらオオナズチはその武器に惹かれているようじゃ」

 

 

「なるほどです。 それで、俺がエピタフプレートを回収するって事ですか? 」

 

 

「ゲコ」

 

 

 

いや、ゲコ(はい)って言われても。

 

 

しかし古龍か…

 

もしこれが討伐に迎えと言うならハンターランクが足りなくてそのクエストを受ける以前の話になるが回収班となるとそこら辺は関係ない。

 

武器回収も採取クエストの様な感覚なのでそこに強力なモンスターが居ようともあまり関係ない。

 

ただし古龍となると流石に腕前の良いハンターを向かわせたい判断だろう。

 

俺がギルドマネージャーならそう考える。

 

そして俺に白羽の矢が立った訳だ。

 

緊急クエストと言う形で。

 

 

 

「アマグモ、行ってくれるか?」

 

 

「わかりました、向かいます」

 

 

「ゲコゲコ! ではアマグモに緊急クエストとして受けてもらうゲコ!」

 

 

 

これ以上オオナズチの討伐などに向かわせて犠牲者を増やすのも不味い。

 

早々に武器を回収してオオナズチを散らさないとならないだろう。

 

 

 

一応太刀も持っていくか。

 

万が一の事も考えて帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして水没林までやってきた。

 

小型モンスターも含めてあまり気配がない。

 

古龍がいることでよくある現象だ。

 

邪魔者が居ないのは助かるが嫌な緊張感が漂う。

 

 

 

「セイウンスカイあまり無理するなよ。 水没林は足場が悪すぎる」

 

「大丈夫だよ、行こうアマグモ」

 

 

 

ハルウララやエルコンドルパサーなら水没林の様な足場の悪いところでも軽やかに駆けるだろうがセイウンスカイはそうじゃない。 本来の半分程度の力しか発揮できない上に怪我をしやすい。 それでもハンターより早く駆けることは出来るだろうが適正力の低さ故にスタミナの消費は早いはずだ。 それでも彼女は長距離向きの力を持ってため持久戦には強い。 ただし爆発力は無い。 しかもそのお相手がオオナズチとなると油断も隙もない。 慎重に進めないと俺もまとめてお陀仏だ。 オオナズチの胃袋に収まってやるつもりはない。

 

 

エリア8の高台までやってきた。

 

 

 

「隠れろ、居た」

 

 

「え? どこ?……あ、もしかしてあれ?」

 

 

「少し見えるだろ? 半端に姿が消えているが…なるほど、角を折っているな。 これはありがたい」

 

 

「角? どう言うこと?」

 

 

「古龍は自然の災害を意味する。 自然災害すら起こせるほどの莫大な力を持ち合わせ、それをコントロールする部分は主に角だと言われている。 何せコントロールしないと自分も危ういからな。 だがその角を砕かれると力を半分ほど無くすらしい。 討伐に至らずともそれで助かったハンターの報告も出ている。 ちなみに角を持つ奴らを"ドス古龍"と表現する奴が多い。 オオナズチもその中のモンスターだ」

 

 

「だから半端に消えているんだ」

 

 

「それでも良く観察しないと見えないだろ? アレが完全に姿が見えなかったらどうしようもなかった」

 

 

 

それでもオオナズチの討伐に向かったハンターはそこまで追い詰めたと言うことだ。

 

しかし言い方を帰ればそれだけの腕前があっても倒されてしまう辺りやはりオオナズチは強いと言うことだ。 霞龍の異名をもつ古龍は伊達じゃない。 凶暴な印象を受け辛いその見た目に惑わされるな。

 

 

 

「ここからどうするの?」

 

 

「夜になったら行こう」

 

 

「え? それだと更に見えづらいのでは?」

 

 

「いや、奴は昼だからこそ姿を消している。 だが暗くて見えづらい夜なら消える必要が無くなる。 この予想が正しければ昼間は姿を消して、夜になると力を回復するために能力を使わない筈だ。 一度ベースキャンプに戻るぞ」

 

 

「にゃはっ、了解でーす」

 

 

 

エリア8を後にする。

 

この間に環境生物を集めて対策を練った。

 

古龍相手にどこまで足止めになるかわからない。

 

それでも持てる知識を持ってやるしか無い。

 

俺とセイウンスカイはこの湿地で駆け回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い稲妻(イナズマ)がこちらに駆けつけている事を、誰も知らない。

 

 

 

 

 

つづく




久しぶりの更新。
他の小説で虐待してました。
楽しかったんじゃ。

お守りはマチカネフクキタルと鑑定してます。
絶対楽しい。 あとこの子普通に可愛い。 目がしいたけ。

さてアップデート来たのでオオナズチの登場です。
ツノは既に折れているので何とかなりそうだが…
古龍相手に油断は出来ませんね。



白いイナズマ…?

「せや、一体何クロスやと思う?」


モンハンタマモクロス。

「ちょちょちょい! そこ答え言うんか!」




ではまた


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18話

古龍は自然災害。
人間如きがどうにか出来るはず無いんだヨ??


※7/4 一度消して修正しました。
(なんとか強引に話を繋げれそう)


月明かりでよく見える闇の中で、雷光虫の群れをエリア8の崖際まで誘導した後、大型の翔蟲を1匹だけ回収して雷光虫を引き寄せるフェロモンを纏わせる。

 

ピラミッドに居座るオオナズチの位置を確認しながら大型の翔蟲を構えて撃ち放った。

 

大型の翔蟲を追いかけるように雷光虫はエリア8からエリア2まで飛び出してオオナズチの方に向かうと。 するとオオナズチは何事かと警戒するがそれが昆虫類だと発覚してからは警戒を解き、寧ろ喜ばしく舌を伸ばす。

 

オオナズチは昆虫類を主食とするため舌が届く範囲に餌が舞い込んできたことに喜んでいた。

 

 

食事を楽しむオオナズチを確認しながら、崖下に身を潜んでいたセイウンスカイが投げナイフを飛ばして雷光虫の群れを刺激する。

 

 

「ギュルルル!?」

 

 

バチバチと激しい閃光がオオナズチの顔を埋め尽くす。

 

そのタイミングで俺は地面に踏ん張らせていた足を解放して、大型の翔蟲から伸ばされる糸に引っ張られて一気にピラミッドへ接近する。

 

目を眩ませるオオナズチの真上を通りピラミッドの入り口まで滑り込んだ。

 

その間にセイウンスカイはエリア1付近まで移動を開始した。 そのエリア1に環境生物である"小泣キジ"を確保しているカゴを茂みから引っ張り出してピラミッドの方に顔を向けると刺激を与える。 すると夜闇の中で「キィー!」と叫び、ピラミッドにいたオオナズチは音を頼りにドシドシと川の中を釣られて進む。

 

セイウンスカイは接近するオオナズチの姿を確認するとすぐに姿を隠して、刃物を構える。

 

オオナズチを攻撃するわけでは無い。

 

エリア2からエリア1に続く道中には、オオナズチの頭上を超える高さに横長く蔦が張られている。 その蔦には生肉が吊るされていた。 その蔦をセイウンスカイはタイミングを測って切り落とした。 オオナズチの周りに蔦ごと生肉がボチャボチャと川の中に沈む。

 

すると川の水面はゴボゴボと激しく波立った。

 

水面は余計に濁り出す。

 

次の瞬間無数の魚たちが牙を剥いて飛び出した。 川の中に落ちた生肉を喰らい尽くそうとするピラニアたちが暴れ出したのだ。 そして近くにいたオオナズチを肉と勘違いしている無数のピラニアたちは恐れ知らずにその胴体へかぶりつく。

 

またたくまにピラニアの宴に巻き込まれて慌てるオオナズチ。 伸ばした舌に運悪く噛みつかれたオオナズチは痛みに暴れ出して泥水の中で転倒した。 その隙にセイウンスカイはエリア2まだ駆け出してピラミッドを目指した。

 

 

「キュルルル…ルゥ??」

 

 

しかし、オオナズチの目はセイウンスカイの行先を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エピタフプレートは……あった!」

 

 

案外近くにあったようだ。

 

何か文字が刻まれた古代の大剣。

 

太刀よりも重たいソレを背負い急いで入口を目指す。

 

入り口を出ると下にはセイウンスカイがいた。

 

遠くにはオオナズチの姿が……

 

 

 

 

「っ、居ない!?」

 

 

作戦ではピラニアたちに食われていた筈だ。

 

しかし…

 

そのピラニア達も宴が終わったのか水面は静かだ。

 

 

 

 

ぴちぴちぴちぴちぴちぴち

 

 

 

「!!」

 

 

 

中に浮く魚の姿。

 

何かに必死にかぶりつく様に暴れる。

 

ぴちぴちと暴れるピラニアは何もないところで上下に揺れる。

 

すると風圧でピラニアは落とされた。

 

 

 

__背筋が凍る。

 

ヒリヒリと震える頬。

 

そこにいると警告した。

 

 

 

「ギュルルルエエエ!!!」

 

 

「ッッ!!?」

 

 

 

オオナズチは姿を見せると舌を伸ばして攻撃してきた。

 

半端なステルス状態だった事もあり視認してからの回避はなんとか間に合った。

 

セイウンスカイも気づかなかったのか一瞬だけ後方を見る。

 

抜け出していた事に気づかなかった様だ。

 

オオナズチの気味悪い声を聞いて再びこちらを見る。

 

 

 

「甘かった……!」

 

 

このオオナズチ、かなり強い個体だ。

 

恐らく閃光玉に対してもめっぽう強いはず!

 

古くなった傷の数も見てハンターとの戦闘経験が豊富なことが伺える。

 

 

そして罠に対しても当然の様に強い。

 

そして古龍は"罠"を避ける能力が非常に高い。

 

これは昔から言われている。

 

古龍は自然と災害を意味する。

 

なら自然から編み出された()には強いと言うこと。

 

これが古龍の強さだとばかりに知らしめてくれた。

 

 

 

「!」

 

 

 

オオナズチの喉がグルグルとゴボゴボと音がなり、何が喉から湧き上がる。

 

俺は即座にその場を飛んだ。

 

エピタフプレートを抱えたまま横に回避するもプシャーと吐かれた霧状のブレスが広範囲に巻かれた。

 

 

「ん"ァ…!? 、!?! が…!!?」

 

 

 

やばい。

 

右目も合わせて色々とやられた。

 

ピラミッドの階段横から高く上から落ちるが腰の翔蟲を受け身に使って地面の激突を回避する。

 

エピタフプレートを手放さなかった俺自身を褒めながら地面を転がって受け身を取るが、立ち眩みにて跪いて地面に崩れ落ちる。

 

 

 

「アマグモ!!」

 

 

セイウンスカイが俺の名を呼びながら必死になって駆け寄ってきた。

 

 

「…!、?」

 

 

 

_隠れてろ!!

 

_何故近くに来たんだ!!

 

 

 

 

声は出なかった。

 

霧状のブレスを浴びて声帯が麻痺を起こしていた。

 

何かを発言する力も無い。

 

更に足元がガクガクと震えていた。

 

毒霧の効果で体の糖分が強制的に乳酸へ換えられてしまった。

そのためひどい疲労状態に堕ちいている。

 

 

 

がぁぁ…だめだ。

 

 

呼吸が荒く、筋肉が言う事を聞かない。

 

 

右目の瞼も上がらない。

 

 

しかも目眩がして、感覚がおかしくなる。

 

 

俺は今は右を向いてるのか?

 

 

それとも左を向いてるのか?

 

 

むしろ前を向けているのか?

 

 

体に触れてるのはセイウンスカイ??

 

 

だめだ、わからない。

 

 

そんな俺を必死に起き上がらせようとするセイウンスカイ。

 

 

だが震える視界と共に生存本能が訴える。

 

 

真上を見るとオオナズチが見下ろしていた。

 

 

ゴボゴボと喉を膨らませるオオナズチの姿を見て一気に危機感が膨れ上がる。

 

 

 

 

__まずい。

 

 

 

俺はエピタフ手放すとセイウンスカイを抱き寄せると彼女の目と鼻を覆い隠し、そして耳すらも腕で押さえる。

 

彼女の呼吸器官から少しでも守れる様に覆い隠した。

 

次の瞬間、オオナズチから大量の毒霧が口から噴射されて俺とセイウンスカイを埋め込む。

 

 

「ァァァ…!? ァァァ…ガァァァ、グェぁ、ぁ、ァグぅ、……ギィぃ!!」

 

 

 

喉が掠れるように悲鳴をあげる。

 

セイウンスカイはその様子に見上げてしまいそうになるが、それを強引に押さえて俺は懐から生命の粉塵を取り出した。 歯で砕いてセイウンスカイを中心に2本3本と絶やさず生命の粉塵を振りまいた。 手の感覚は無い。 しっかり振りまけているのか? でも体だけは何をすべきか理解している。

 

そうして毒霧に侵されて意識が飛びそうになりながらも必死に毒霧に耐えた。 消臭玉を踏みつけて俺とセイウンスカイの立っている空間だけの毒霧を払う。

 

セイウンスカイだけは……

 

なんとしてでも…!

 

 

「___」

 

 

 

毒霧が落ち着く。

 

ブレス攻撃は終わったのか?

 

声帯を奪ったり、持ち物を腐食させる程度の毒霧で良かったが…いや、よく無い。 これが本気の猛毒のブレスだったら溶かされていた。 背筋が寒い。 首の皮膚が爛れて血が溢れているみたいだ。

 

ああ…ダメだ、もう無理だ。

 

体は耐えられなくなり肘から崩れ落ちた。

 

 

 

「___」

 

 

「、、!?、、、!!?」

 

 

「__」

 

 

「!!!、!!!? 、!、!!!!!!」

 

 

 

 

膝から崩れ落ちた俺をセイウンスカイが両肩を押さえて声をかける。

 

 

必死な声なんだろう。

 

 

だけどごめん、上手く聞こえ無い。

 

何も声が出ないんだ。

 

 

酷い表情の彼女が、薄らと見える。

 

 

 

「__げ___ろ」

 

 

 

俺は、震える指を伸ばして、伝える。

 

 

 

 

 

 

_逃げろ

 

 

 

 

 

 

彼女はわかる筈だ。

 

俺が何を言っているのかを。

 

何を言ってるのか理解できてるから…

 

そうしない。

 

 

「ッ!」

 

 

セイウンスカイはオオナズチから守るように俺に覆い被さった。

 

これでは一緒に死んでしまう。

 

そんなの許したく無い。

 

けどそんな力は出ない。

 

セイウンスカイは俺と共にする。

 

 

 

「___」

 

 

 

ハンターならいつ死んでもおかしくない。

 

毎日どこかでハンターは死んでいる。

 

それは俺も例外じゃなく皆と同じだ。

 

今日は俺が選ばれたらしい。

 

ああ、それもそうだ。

 

これは緊急クエストの難易度だ。

 

ギルドからそう下された難しいクエスト。

 

わざわざギルドマネージャーから依頼受けた。

 

それほどの難しさの中で、俺は負けた。

 

古龍の強さに討ち砕かれる。

 

 

 

結果として古龍を相手にどうにかは出来なかった。

 

 

 

ああ、それもそうだ。

 

俺はまた"上位ハンター"だ。

 

【 G級ハンター 】ではない。

 

対古龍(G級ハンター)としての能力が足りなかった。

 

何よりオオナズチの理解が足りなかった。

 

甘かったのだ。

 

飛竜程度のレベルで古龍相手に対策を作ってしまった。

 

もっと対策を練り、もっと良い作戦があるなら、そうすればよかった。

 

 

その結果が………これか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはさせへんで」

 

 

 

 

白いイナズマが水没林に走る。

 

 

 

あれ…

 

なんだろう…

 

懐かしい…

 

これはどこかで…

 

見たことあるような…

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ、すぐに助けていい子いい子しますから〜」

 

 

 

 

あれ…

 

そういえば…

 

この声も…

 

どこかで聞いたような…

 

あまり聞こえないけど微かに聞こえる声色。

 

 

 

 

ああ…

 

そうだ…

 

思い出した…

 

この女性の声は…

 

 

 

 

 

「ヒヒーーン!!!」

 

 

 

 

 

更に幻獣の声がピラミッドの頂上で響き渡る。

 

 

すると雷がオオナズチに降り注いだ。

 

 

雷に打たれて苦しむオオナズチ。

 

 

何もかもが急だが……どこか懐かしい。

 

 

その光景を最後に俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_ねぇ、もし女の子が産まれたら、あなたのイカス名前を付けて良いかしら?

 

 

_え? それは今の名前をですか? それとも、あの名前でしょうか?

 

 

_その名前に決まってるわよ、お腹のベイビーに付けたいですもの!

 

 

_そうですか。 でもそれは辞めておいた方が良いでしょう。 あの名前は今の元凶ですから。

 

 

_いえ、そんな事ないわ。 皆あなたと気持ちは同じだったのよ。

 

 

_ですが、まだウマ娘と言えなかったその名を背負わせるなど…

 

 

_そう……なら代わりにお願いがあるの。 もし私がダメだったら、このお腹の子をお願いして良いかしら? マブダチの頼みと思って。

 

 

_っ、それは…

 

 

_ふふっ、もしもの時よ。 だからその時は、お願い。

 

 

_っ…わかりました。 友達のお願いです。 特別ですからね?

 

 

_ふふっ、ありがとう。 ほらほら、あなたはまだまだキューティクルでファインなんだから、おセンチな顔はノンノンよ、たづな。

 

 

 

 

この光景は、なんだろうか…

 

記憶に無い。

 

だが二人の女性が友達のように喋っている。

 

大事な約束を交えていた。

 

 

 

 

 

 

 

_ふふ、もうすぐ産まれるわね。

 

_男のかしら?

 

_わたしは男の子が良いわ。

 

_イケイケでナウい子供だと嬉しいわ。

 

 

 

女性だ。

 

お腹を膨らませて布団の中だ。

 

 

 

_ああ、それは喜ばしい事だ…が。

 

_出来ればこの役割を引き継がせたくは無い。

 

_産まれる子は無縁を送って欲しかった。

 

 

 

男性だ。

 

隣に座って手を握っている。

 

 

 

_そうね、出来ればそれを望みたい。

 

_使命に囚われずに生きて欲しい…

 

_でも、もし、産まれるこの子が…

 

_私達の" 業 "を終わらせてくれるなら…

 

 

 

女性は複雑そうに悲しく笑う。

 

 

 

_男なら指導者、女なら秘境の長。

 

_どちらも重たい役割を背負わせてしまうな。

 

_だから…わたしにはこんな考えがあるんだ。

 

 

 

男性は提案して、女性は首を傾げる。

 

 

 

_子が産まれたら三人で秘境を出ないか?

 

_秘境の外に出て無縁に生きるんだ。

 

_一族の役目も、種族の役割も捨てるんだ。

 

_そうして遠くで生きていこう。

 

 

 

女性はその言葉を聞いてしばらく考える。

 

しかし女性は笑って、首を横に振った。

 

 

 

_それも一つのターフかもしれない。

 

_でも、誰かが駆け切らないと終わらない。

 

_"馬人族"の…痛みを忘れる事は無い。

 

 

 

よく見たら、その女性は人間じゃない。

 

頭の上に耳を生やしている。 尻尾もある。

 

 

 

_なら、約束してくれ。

 

_産んだ後も最後まで一緒に生きていこうと。

 

_そして三人で終わらせて幸せに暮らそう。

 

 

 

男性は女性の手を握って懇願する。

 

女性は男性の額に口づけして応える。

 

これが種族を超えた愛だろう。

 

なんとも素敵だ。

 

俺もこんなことが出来るかな?

 

青雲のような彼女と共に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから子は産まれた。

 

あまり産声を上げない男の子だった。

 

夫婦の愛情の結晶だ。

 

 

 

だが…

 

女性は産まれた男の子の顔を見る。

 

頬を撫でて柔らかく笑い…

 

その手は力なく落ちる。

 

女性は力尽きた。

 

 

 

_何故死んだ…?

 

_子を残して何故死んだのだ!!

 

_あなたが生きてなければ意味がないのに!!

 

_三女神はどうしてこんなにも残酷を強いる!?

 

_貴様らが! 貴様らがァァァ!!

 

 

 

男は赤子の代わりに悲しみに泣き叫ぶ。

 

怒りに飲まれた男は幻獣に姿を変えた。

 

大きな雷が落ちて、光が広がった。

 

そして、男…だったその獣は走り去った。

 

泣きもしない赤子を一人残して…

 

 

 

_何故、こんな残酷な事をしたのです?

 

_ノーザンテースト、応えたつもりなのですか?

 

_そう、なら、良いです。

 

_わたしは、友達の約束を果たします。

 

_代わりにこの子を…

 

 

 

 

赤子は泣かない。

 

代わりに空が泣き始める。

 

女性は緑色の帽子を取って耳が飛び出る。

 

その緑色の帽子を赤子に被せて、空を見る。

 

雨雲の流す涙は赤子を濡らさぬよう、守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嗅覚は…正常。

 

 

感覚は……正常。

 

 

痛覚も………正常。

 

 

味覚も、視覚も、聴覚も……正常だ。

 

 

右を見る。

 

左を見る。

 

 

完全に目を覚ました。

 

 

 

「……知らない天井」

 

 

「当たり前や。 兄ちゃんはここは初めてやか…いや、ちと違うか」

 

 

 

声に気づいて横を見ると青い鉢巻の子供…

 

いや、芦毛のウマ娘が一人いた。

 

 

 

「あ、言いたいことはわかるで? やけんウチが色々と説明するわ。 けどいっぺんしか言わんからよく聞いてや?」

 

 

「……え?」

 

 

 

なんとか声を出して反応できた。

 

こちらの応答を無視して語り出す。

 

しかし俺自身は落ち着いているため、ややマシンガントークな彼女の言葉は追いついた。

 

 

まずこの子はタマモクロスという名前らしい。

 

白いイナズマの異名を持つウマ娘だと自慢を受けた。

 

それでタマモクロスを筆頭に俺達はオオナズチから助けられたらしい。 オオナズチは撃退して水没林からとある場所まで移動した。 セイウンスカイも無事で今は外にいるとか。 あとエピタフプレートも回収してくれたようだ。

 

それから俺は治療を受けて2日ほど目を覚さなかった。 本当はもっと眠りついてると思ったらしいがタマモクロスが様子を見に来たタイミングで俺は丁度目覚めたらしい。

 

 

 

「この場所って…?」

 

 

「簡単に言えばウマ娘が住む場所やな」

 

 

「………はい?」

 

 

「なんや? 聞こえんかったんか?」

 

 

「いや、聞こえたが……それ本気か?」

 

 

「本気やで」

 

 

 

俺は体を起こしてベッドから立ち上がる。

 

そんなタマモクロスは静かに見守っていた。

 

 

「…」

 

 

 

外が見える窓に近づき、外を見渡す。

 

日差しが少しだけ眩しいが…

 

だんだんと視界が慣れる。

 

 

 

 

そして、そこには…

 

 

 

ウマ娘がたくさんいた。

 

 

 

 

「………なぁ、ココはもしかして」

 

 

「兄ちゃんの想像通りやで。 本当は三女神がお認めにならん人間を入れることは許されとらんで。 けど兄ちゃんは許されてるから連れて来れてんな」

 

 

「どういうことだ? 三女神? お認め?」

 

 

「あー、なんちゅうか…あれや。 ココのリーダー的なもんでな? 認可されん人間は招いたらあかんねん。 しかし兄ちゃんは三女神から認められてるから連れて来れたんよ。 あれや、VIPってやつやな」

 

 

「わお」

 

 

 

それから歩けることがわかるとタマモクロスから外に出て良いと許可を貰い外に出た。

 

 

 

「空気が綺麗だ」

 

 

 

緑が生い茂る草原。

 

澄んだ空気は肺を元気にする。

 

周りを見渡せば高く聳え立つ山々で囲われていた。

 

決して広いと言えないが百人程度のウマ娘が住むに充分な場所だ。

 

そこまで広い場所じゃないがゆっくりと住まうには不自由ではない。 駆けることが好きなウマ娘からしたら物足りるかわからないが、立地からして少しだけ標高が高いところだろう。 少し肌寒さもあるが慣れればむしろ過ごしやすい。

 

まるで山の中にある"秘境"のようだ。

 

そして…

 

 

 

「あれが三女神か?」

 

「せやで。 湧き出る泉のど真ん中にある三つの女神像がそうや。 あとお水が美味しいで」

 

「みたいだな。 みんな肌が綺麗だからそういうことだろう」

 

「ほー? そういう見方があるんやな。 確かに兄ちゃんは"ソレ"やな。 よく見えとる」

 

「?」

 

「なんでもない。 それで_」

 

 

 

「アマグモー!」

 

 

 

聴きなれた愛しい声が聞こえる。

 

振り返ると星雲の香りがする彼女に抱きしめられた。

 

そのままウマ娘パワーで押し倒される。

 

 

 

「セイウンスカイ、無事だったか」

 

「っ、本当に心配だったんだから!」

 

「そうだな……互いに、危険だったな」

 

「っ、ほんと…う、だよ。 だって…あんなに危険なモンスターだって思わなかった。 あんなに恐ろしいモンスターって考えてなかった。 いつも通りに上手くいって、それで無事に終えてカムラの里に帰れると思ってた……でも、けど…」

 

「…ああ、俺もそう思ってた。 でもさ、あれが古龍なんだよ。 だから考えが甘かった。 その上で足りなかった。 俺の失態だ。 死んでもおかしくなかった。 俺はセイウンスカイと死んでしまいそうになった」

 

「わたし、すごく怖かったんだから。 アマグモが、オオナズチから、吐き出される毒霧こら守ってくれたけど、でもすごく怖かったんだから。 本当に……ぅ、ぅぅ」

 

「…」

 

 

 

耳も尻尾も恐怖に震えるセイウンスカイを抱きしめる。

 

頭を撫でながら「ありがとう」と声をかけて落ち着かせる。

 

しばらくそれを続けた。

 

 

取り残されていたタマモクロスは空気を読む様に離れていた。

 

時折チラチラとこちらを見てタイミングを伺っている。

 

めちゃくちゃ空気読める子だな。

 

 

とりあえず俺はセイウンスカイを抱きしめながら起き上がると……寝息を立てていた。

 

 

 

「え?」

 

 

「兄ちゃんのその子、実はウチが来るまでは近くにいて寝てなかったんやで? ずっと起きて近くにいたんや。 それで飯も食わず水分も取らんから危ない思うて一度追い出したんよ。 一度飲み物でも飲んでこいってな。 そのタイミングで兄ちゃん起きたんや」

 

 

「そうなのか。 セイウンスカイ…」

 

 

 

俺は今一度彼女を抱きしめる。

 

もう一度「ありがとう」と言って頭を撫でた。

 

すると強張っていた表情は完全に緩んで、握りしめいた手は重力にしたがて垂れ下がる。

 

お姫様抱っこで抱えてタマモクロスに「どこかに寝かせれるところはないか?」と尋ねた。

 

とりあえず俺が寝ていたベッドに運ぶことにした。

 

 

 

「随分と好かれ…いや、愛されとるな。 なんならうまぴょいしたんか?」

 

 

「!? ………わかるのか?」

 

 

「わかるで。 どことなく匂いで」

 

 

「もしかして、みんなもそれわかる感じ…?」

 

 

「勘のいいウマ娘はら大体はわかるで」

 

 

 

だからマチカネフクキタルは安産のお守り渡してきたのか。

 

てかアイツ勘が良いウマ娘系なのか?

 

なんか少しイラっとするのは気のせいだとしよう。

 

お守りはありがたく受け取るけど。

 

 

 

「ほんで(あん)ちゃん。 本題なんやけどな、ウチらは兄ちゃんを探してここに連れてきたんや」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「せやで。 古龍に襲われとったのは驚いたけど"(おさ)"が冷静なところを見る限りやとどうやら分かって感じやけど…まぁええわ。 とりあえず起きて早々に悪いけど兄ちゃんに頼みがあんねん」

 

 

「頼みか?」

 

 

「せや。 ま、その、前に…」

 

 

「?」

 

 

「なんか食べんか? 2日ほど寝とたんや、腹減っとるやろ? 兄ちゃんはハンターやからな」

 

 

「!」

 

 

「付いてきぃ、丁度クリークが作ってくれとる」

 

 

 

俺はタマモクロスの後ろ歩く。

 

 

周りを見る。

 

 

ウマ娘が風と共に駆けて……それを眺める。

 

 

 

「なぁタマモクロス」

 

 

「なんや?」

 

 

 

俺にとってただの疑問点をぶつけたに過ぎない。

 

 

だがそれを聞くには軽率だったかもしれない。

 

 

 

「ここはウマ娘以外に" 人間 "は居なないのか?」

 

 

「……」

 

 

 

重たい沈黙がタマモクロスの背中に映る。

 

軽率な疑問だったのかと考えたが…

 

 

 

「おらんで。 普通の人間は一人もおらん。 何せここはウマ娘だけの秘境やからな」

 

 

「……」

 

 

 

彼女は応えてくれた。

 

 

秘境には穏やかな風が流れていた。

 

 

いまは重たい空気だけが流れている。

 

 

柔らかく頬を撫でるこの場所は平和だが…

 

 

ザラつくような気味悪さが背筋を撫でた。

 

 

 

「なあ兄ちゃん。 この風景を見て覚えとらんか?」

 

 

「覚え……? いや、俺はここに来るの初めてじゃ無いのか??」

 

 

 

タマモクロスは「そうか」と頷く。

 

彼女は俺に何か隠しているのだろうか?

 

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

「ほなら、聞くけど…」

 

 

 

芦毛の彼女はこう言った。

 

 

 

 

 

「兄ちゃんがこの秘境で産まれたこと覚えとらんか??」

 

 

 

 

 

 

目を見開く他なかった。

 

 

 

つづく

 





本音を言えば、必要な設定なのかも怪しい。
ここまで風呂敷を広めるつもりは無かったんだけど、やっちまったものは仕方ないので頑張る。

ではまた


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19話

「アマグモさん、美味しかったですか?」

 

 

「はい美味しかったですよ、スーパークリークさん」

 

 

「あらあら、わたしはクリークでいいよ〜」

 

 

「わかりました。 そして、この状況は?」

 

 

「2日ほど眠って体が少しお辛いですよね? なのでこのまま座っていただけましたら良い子良い子してあげますので、アマグモさんはこの状態で落ち着いてください。 ほらほら〜、アマグモさんは良い子良い子ですよ〜」

 

 

「…俺は今から赤ちゃんにされてしまうのか?」

 

 

「なに冷静に分析してんねん」

 

 

 

夜になりお腹が空くとスーパークリークがシチューを振る舞ってくれた。 タマモクロスも一緒に夜ご飯を囲いお腹は満たされる。 ウマ娘の好物であるニンジンが沢山入っている優しい味だった。 ごちそうさまです。

 

 

あとセイウンスカイはまだ寝ている。 タマモクロス曰く俺が目を覚ますまで二徹で起きてたらしい。 それで死ぬかもしれないと目を赤くして俺から離れなかったとか。 落ち着かせるに少し大変だけどスーパークリークの母性が優ってセイウンスカイを落ち着かせれたらしい。 文字だけに表すと意味は分からないだろうが、実際にその母性を味わった理解した。

 

この「良い子良い子」かなり強力である。

 

そんな俺はいま床に座っていて、後ろからスーパークリークがギュと柔らかくこちらを抱きしめている。 背中を無理やり預けさせると頭をいつまでも撫でている。 かれこれ10分以上は「いい子いい子」されていた。 すごく落ち着く。

 

タマモクロスに代わるか?と目で訴えたら耳が恐怖に萎れていた。

 

なんか色々と察した。

 

 

 

「二人は何処かで会ったことあるか?」

 

 

「なんや? 口説かれてんのか?」

 

「あらあら、わたしもご一緒で良いですか?」

 

 

「いや、かなり真面目な話なんだが、俺は二人とは初めてな気がしないんだよ。 記憶に薄いが出会いは衝撃であり、とても重要なタイミングで出会った…なんか、そんな感じだ」

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

俺の言葉を聞いて二人は真面目な雰囲気になる。

 

それでも相変わらず俺は良い子良い子されているがタマモクロスは本題に入るように雰囲気が変わった。

 

 

 

「兄ちゃんは覚えてるんやな。 ウチとしては忘れられても仕方なかったかもしれんけど、兄ちゃんの記憶には残ってたんやな」

 

 

「まぁ、最近思い出す様にはっきりして来た記憶なんだけどな」

 

 

「そっか。 ああ、兄ちゃんの記憶どおりやで。 数年前にウチと出会ってるわ」

 

「わたしも同じですね。 数年前にアマグモちゃんと出会ってますね」

 

 

「…」

 

 

 

俺はセイウンスカイと共にする時間が長い。

 

言い方を変えればウマ娘との触れ合いが多い。

 

故に…ウマ娘がよくわかる。

 

耳が、尻尾が、目の動きが、微々たる動作でそれがなんなのかよくわかる。

 

二人は、まだ何か隠している。

 

 

 

「ならその時、俺は死にそうになってたか?」

 

 

「「!!」」

 

 

 

耳が動いた。

 

俺の頭を撫でてくるスーパークリークの手から動揺が感じ取れた。

 

 

 

「やはり、そうか…」

 

 

 

予想通り内容で、穏やかでは無かった。

 

そして『死』に関する事だったと理解できた。

 

それなら記憶に強く残っている。

 

あやふやな部分も多いが、ウマ娘の存在が現れてからはその記憶が鮮明になってくる。

 

特に百竜夜行で現れたマガイマガドの時が引き金だ。

 

走馬灯で見た。

 

あれは、水没林の…

 

 

 

「ナルガクルガ亜種か」

 

 

「!!」

 

 

 

タマモクロスは目を見開いた。

 

隠すこともやめた様にわかりやすく反応する。

 

 

そして…

 

タマモクロスから目を逸らされてしまう。

 

 

 

 

「タマちゃん、言った方が良いのでは?」

 

「それは………いや、せやな。 言わんとならんよな。 ウチも前に出れへん…」

 

 

「?」

 

 

一体なにを言わないとならないのか?

 

彼女の持ち前の雰囲気で「助けたのはウチでした!」では終わらない事なのか?

 

しかしタマモクロスの耳を見る。

 

不安を抱えている時の耳の動きだ。

 

または何かを負い目に感じた時の萎れ方。

 

 

「たしかにウチは兄ちゃんを助けたウマ娘や。 ナルガクルガ亜種と死闘を演じて、傷だらけになり、中毒に侵されては死にそうになったところを助けた」

 

 

「っ、やはりそうなのか! やはりあの時に君が! ああ…だとしたら俺は君にありが_」

 

 

「ッ、待て! 待つんや! 違うんや! 違うんやアマグモ! あれは、ウチが…ウチが悪い事をしたんや!」

 

 

「……え?」

 

 

タマモクロスはお礼を受け取らない。

 

いや、お礼を受け止める事が出来なかった。

 

耳や目の揺れ動き方が負い目を持つ時の感情。

 

バツが悪そうに目を逸らしていた。

 

 

 

「アレは、ナルガクルガ亜種は…」

 

 

 

震えながらも、意を決した様に言い放った。

 

 

 

「ウチが招いた結果なんや!!」

 

 

「……え?」

 

 

 

話ではこうだ。

 

 

タマモクロスは秘境の外に出ていた。

 

目的があったから。

 

しかし道中でナルガクルガ亜種と出会ってしまい、狩る側と、狩られる側の競争が始まる。

 

タマモクロスは必死になってナルガクルガ亜種から逃げた。

 

ウマ娘の脚で必死に駆けた。

 

しかし深淵の暗殺者から逃げることは困難であり、嵐の中で足に攻撃を掠めて倒れそうにもなった。 けれど必死になって逃げた。

 

そして水没林のピラミッドの中に逃げ込んでナルガクルガ亜種から追跡を遮ろうとする。

 

しかしナルガクルガ亜種はピラミッドの近くに隠れてタマモクロスが出てくるのを待っていた。 待ち伏せされていることに絶望しそうになるが持ち前のハングリー精神でなんとか耐えていた。

 

嵐も吹き荒れ始め、ナルガクルガ亜種から逃げてきたケルビやアイルー達と情けなく怯えながらピラミッドの中で震えていると…

 

水没林に俺が現れた。

 

 

採取クエストのつもりの俺にナルガクルガ亜種が襲いかかりそこから俺にとっての地獄の5日間がそこで始まる。

 

その間もタマモクロスはピラミッドの中で隠れていた。 足に傷で動けないこと、それからウマ娘は人間に姿を見せてはならない事。

 

まだこの頃はウマ娘が人間に姿を晒すことは許されてなかった。 なので俺がピラミッドで隠れながらナルガクルガ亜種と死闘を演じていたこともあり、出会してしまう危険性があったため下手に動けなかった。

 

せめて足がまともならと隙をついて一気に駆けて逃げることもできた。 しかしそれが出来ずにタマモクロスはピラミッドの中で耐えていた。

 

だがしばらくして見たことない蛇っぽい謎の生き物が傷を治してくれたらしく、足は駆ける事ができるくらいに治った。

 

しかしタマモクロスはナルガクルガ亜種をこの場所に招いてしまった事で、死にかけそうになる俺に負い目を持って逃げる事が出来なかった。

 

 

だがここに居たところでなにもできない。

 

この嵐の中でウマ娘に何か出来ることはあるのか?

 

惹きつけて、囮になって、逃げる?

 

無理だ、不可能だ。

 

その時の彼女にそんな力は無かった。

 

外の過酷さを理解したタマモクロスは本当に絶望した。

 

 

そして死闘から5日目に到達するあたりでとうとう決着がつきそうになる。

 

そのタイミングで"長"が現れた。

 

タマモクロスを探しにやってきた。

 

 

 

_ウチが殺しそうになってしまう!!

 

_頼むからあの人を助けて欲しいんや!!

 

 

 

長は…

 

また" 幻獣 "はウマ娘のために存在する。

タマモクロスの願いを聞き届けた幻獣はナルガクルガ亜種の横で死にゆく俺の元まで近づくと、タマモクロスは幻獣の角を削ってそれを飲ませて俺は一命を取り留めた。

 

しかし俺は薬物依存症で苦しんでいた。

 

するとブカブカのフードを被った人物が一人現れる。

 

その人物とは" スーパークリーク "だった。

 

いま思い出せば「良い子良い子」と撫でるこの手つきはたしかに彼女だったと思い出す。

 

ブカブカのフードで姿を隠したスーパークリークはより強い薬を飲ませて俺の状態を治した。

 

 

つまり二人の出会いはこの時だったようだ。

 

 

 

「あのナルガクルガ亜種はタマモクロスのせいだと言いたい訳なのか?」

 

 

「ああ、せやで。 ウチが招いて兄ちゃんを追い込んだんや。 だから…っ、本当にすまんかった!」

 

 

「いや、良いよ、別に」

 

 

「早っ!? てか許すんか!?」

 

 

「タマモクロスが招いたにしろそれが自然の流だろ?」

 

 

「!? い、いや、でも、死にそうになったんやで? 兄ちゃんは殺されて、それで終わるところやったんやで?? なんでや…? なんで許せんの…??」

 

 

「……」

 

 

 

俺は考える素振りをしてからスーパークリークに預けていた体を起こしてタマモクロスの元に近づいた。 身長差で俺に見下ろされるタマモクロスは少しずつ震え出していた。 タマモクロスに手を伸ばすとビクッと反応して、耳は恐怖によって後ろにたたまれて、尻尾は引っ込む。

 

 

 

「一つだけタマモクロスに教えてやろう」

 

 

 

頭をポンポンと叩いて落ち着かせる。

 

 

「ふぇ……?」

 

 

 

タマモクロスは目をパチクリとした。

 

 

 

「誰でも自然界に一歩出てしまえば、そこにハンターやウマ娘にモンスターなんて関係ない。 在るのは二つ。 狩るか、狩られるか。 死ぬか、生きるか。 強者か、弱者。 それだけなんだ。 自然界はいつもそれで揺れ動いている」

 

 

俺は笑みながら二回り以上小さな彼女の頭を撫でる。

 

 

「タマモクロスがナルガクルガ亜種を引き連れてしまったと言うけど、でも外はそれで普通なんだ。 君が獲物になってしまい、大型モンスターは獲物を狩ろうと動き出す。 逃げたその先に何者かが居て、そこから衝突するのはごく自然の事なんだ。 中には野良のアイルーが大型モンスターから逃げて、その先にハンターが居て、不幸ながらもそのハンターはモンスターに轢き殺された…なんて話もあるんだよ」

 

 

「け、けど…」

 

 

「ナルガクルガ亜種は不幸な事故だ。 更に言えば嵐も訪れていた。 これらは誰も意図しない不幸な悲劇である。 無慈悲かもしれない。 けどそれすらも込みで俺たちはハンターを全うする。 命の削り合いの世界で生きようとハンターは覚悟している。 だから今頃引き金がウマ娘だとかで騒ぐ話でもない。 常に強者と弱者が生き残ろうとしている。 その枠に責任など持ち込むのは愚かだ。 それを君がやらかしたんだと気に病む話ではないよ」

 

 

 

足を折り曲げて腰を少し落として視線を合わせる。

 

目に涙を溜めそうになる彼女に気にするなど語りかける。

 

 

「タマモクロス、もう気にしないで。 終わった事だ。 それに君は死にかけた俺を助けてくれた。 それで充分だ。 その後が大変だったにせよ俺はタマモクロスを責めようとは全く思わない。 死線を身をもって知り、過酷な世界を再確認した。 それは俺の成長にもなったから全てに増悪は無い。 もう後悔を抱えないで」

 

 

「ぁ、ぁ、ウチは…」

 

 

「それにさ、君はナルガクルガ亜種を相手によく頑張ったな。 あれから逃げ切ったなんてすごいウマ娘だよ。 なかなか出来ないさ」

 

 

「ぅ、ぅぁぁあ…!」

 

 

 

しばらくしてポロポロと涙を落とした。

 

俺は彼女の頭を撫でて落ち着かせる。

 

スーパークリークもほんの少し泣きそうになりながらタマモクロスをあやした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「情け無いとこ見せたわ、もう大丈夫やで…」

 

 

「タマモクロスは強い子だな。 俺なら罪の意識に苦しんでたよ」

 

 

「そんな事ないで。 ウチもたまに泣きそうになったわ。 けど泣いてばかりは嫌やから我慢したんや…」

 

 

「そうか。 でも大丈夫だ。 もしまだ泣きたかったら後はスーパークリークが受け止めてくれる」

 

 

「ええもちろんです。 たっくさん受け止めますよ〜」

 

「チョチョチョイ! やめいや! あんたのはあまりにも沼やからやめい!…まったく、乙女の涙を見た代償はデカいで兄ちゃん?」

 

 

 

タマモクロスは流した分の水分を取り戻そうと飲み物をゴクゴクと飲んで「プハー!」と気持ちを取り戻した。

 

 

 

「しかしナルガクルガ亜種は互いに不幸だったとして、タマモクロスはなんで秘境の外に出ていたんだ?」

 

 

「あ…せや、それがまさに本題や。 しかもこれも兄ちゃんが深く関わってんで」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「当時はウチの他にもウマ娘が秘境の外に出てたんや。 それは何故かと言うとな? 兄ちゃんを探してたからや」

 

 

「俺を…??」

 

 

「せやで。 兄ちゃんを見つけてこの秘境に招こうと思ったんや。 女神の言伝でな? …ウチとしてはあまり女神は好きや無いけどな。 なんか変や、色々とな…」

 

「そうね…」

 

 

二人からしたら女神はあまり好意的では無いのだろうか? 耳や尻尾の動き具合からして嫌悪感が伺える。

 

 

「まあええわ、そこは。 それで兄ちゃん探した理由なんやけど、もちろんそれは来たる出来事(百竜夜行)のためでもあるんや。 兄ちゃんにこの秘境に住んでもらい、数多のウマ娘を率いる力を得てもらうための指導者(トレーナー)になって欲しかったからや。 そんでウマ娘のための存在になって欲しかった」

 

 

「!」

 

 

「急にスケールデカい話なったやろ? けどこれは事実や。それは兄ちゃんがとある一族の子やからな」

 

 

「一族の子…??」

 

 

「細かくは、とある幻獣の子孫が作り上げた一族や。 その一族とやらが兄ちゃんの事やで」

 

 

「幻獣……?? それは__」

 

 

 

後ろから強い威圧感が襲いかかる。

 

 

ハンターとしての生存本能が騒ぎだす。

 

 

その威圧感に振り向くと、そこには…

 

 

 

「うそ…だろ?」

 

 

 

白銀に輝く体毛。

 

額から伸びる角。

 

雷が走れば神々しく光る体。

 

ハンター業界では"古龍種"と認定された…

 

目撃が少なすぎる神出鬼没の幻の生き物。

 

それは…

 

 

 

「もしかして"キリン"なの、か?」

 

 

『肯定ッ! その通りだ!』

 

 

「ふぁ!?」

 

 

 

活発そうな声が聞こえる。

 

キリンは光瞬いた。

 

姿形が変わり、タマモクロスと同じくらいの身長の人間に姿になった。

 

 

 

「うむ! この姿がやはり良い!」

 

 

「なっ、なっ…!?」

 

 

少し大きな白い帽子をキュキュと被り直すと扇子をバッと広げて満足そうに仰ぎ始める。

 

見た目は少し幼いが精神面はどこか成熟した様な雰囲気と姿を兼ね備えている。

 

また、数多を束ねているその威光を密かに見え隠れしていた。 只者では無い。

 

しかしニコニコとしながら人の形に満足していた。 一体なんなのだ??

 

 

 

「ええと……キリン、なのか?」

 

 

「肯定ッ! しかし否でもある! そう! わたしはキリンでありキリンでは無い! キリンの形が許された子だ!」

 

 

「キ、キリンの形が、許され……た?? いや、待てよ? キリンで、ひと? っ、ま、まさか! あの逸話の…!?」

 

 

 

とある逸話では野生のキリンが人間の子供を育てていた事例がある。

 

それは本当に人間の子なのか? または本当にキリンの子なのか? 真実はわからない。

 

しかし後者がそうだとしたらキリンは人間にもなれるのでは?と話も出る。

 

そうなると古龍は人の姿になる事も可能では?

 

こんな話も広がり、この逸話は今もいろんな研究と解釈が続いている。

 

そして目の前にいる彼女がもしその逸話の人物だとしたら…なんと言うことだ。

 

龍暦院達が聞いたら白目剥くだろう。

 

 

 

「はっはっは! 残念だがわたしは逸話の人物ではないぞ? 正しくはその逸話に出てくる人間の血筋を引いた一族だ! そして従姉弟のお主もそれに当確する人間……そう! お主もまた栄光ある血筋の持ち主である!」

 

 

「…………うそやろ?」

 

 

「本当だ!!」

 

 

「………」

 

 

 

 

しばらく空いた口が閉じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やよいはこちらの手を握るとタマモクロスとスーパークリークを残して外に招かれた。

 

 

 

「やよい…さん? 俺をどこに?」

 

 

「頼み事のためだ。 それとわたしはやよいで構わぬぞ? 年は10歳ほど離れておるが従姉弟同士だ。 堅苦しさは抜きにしよう」

 

 

「わかった。 ちなみに俺はアマグモ。 あと…」

 

 

「セイウンスカイのトレーナーだな? 知っておるぞ。 彼女をお主の愛バにしてくれて感謝だ。 あの子はお主で良かった。 一つわたしの願いが果たされたと思うと感謝しかない」

 

 

「?」

 

 

 

感謝しかない? それは長として見守っていたかでた発言なのか? 我が子のように思っていたもかならわかるが、何か意味深な事だろう。

 

 

 

「やよい、俺が従姉弟というのは本当なのか?」

 

 

「本当だ。 お主はこの秘境に産まれた子だ。 母はウマ娘。 父はわたし達一族の血筋を引いた人間だ。 ここで指導者をしていた。 時にはキリンの姿に変えて芝の上をウマ娘と駆け、この秘境で数少ない人間と共にウマ娘を見守っておった」

 

 

「……なら、俺の親はどこに?」

 

 

「どちらも亡くなったのだ。 母はお主を産んで間も無く亡くなり、父は三女神の怒りに触れて秘境の外に追い出された」

 

 

「!?」

 

 

「望んで種馬となって男達とは違い、お主の父は愛妻家でその女性一人を愛した。 だが妻を失い、悲しみ、そして怒り狂った。 キリンの姿に変えると三女神に雷を落としたが、三女神はお主の父に罰を下した。 人の理性を奪い、獣に堕とし、秘境の外へ追放した。 後にハンターに討たれ、獣の如く死んだ」

 

 

 

山の麓まで到着すると深林の中に入り込む。

 

複雑な道だ。 夜だから余計に暗い。

 

まるで迷路のようだ。

 

彼女を見失わぬようついて行き、質問を続ける。

 

 

 

「やよい、そうなると残された俺はどうなった?」

 

 

「だが三女神の怒りは鎮まらず次はお主にも罰を下した。 秘境から永久追放を言い渡し、赤子のお主は外に追い出された。 お主が行き着いた先は後にユクモ村と知った。 たづなはそこに託したのだな…」

 

 

「たづな?」

 

 

「お主の育て親…と、言うにはとても短い期間だが、親を失ったお主の代わりにしばらく親をしていた。 そうしたのは親友の約束だからと言っておったが、そこには確かに愛情はあった。 そしてお主を手放す時に、ひどく悲しんだ。 その上、お主は永久追放で故郷に帰れない状態だった。 たづなは三女神と交渉した。 代わりにたづなは永久追放になり、お主は20年間の追放に緩和された」

 

 

「……彼女は今どこに?」

 

 

「わからぬ。 わたしも捜索した。 しかし三女神は教えてくれぬ。 関わることも許されなかった。 だからお主の血縁は従姉弟であるわたし一人だ」

 

 

 

従姉弟か。

 

嬉しいとは思うけど、困惑が勝る。

 

やよいもそれは理解しているだろう。

 

だが…

 

 

 

「何故この話をしてくれた?」

 

 

「何故って…嫌じゃ無いか?? 産まれも親も、知らないまま生きていくのは」

 

 

「いや、考えた事なかった。 俺は産まれをユクモ村と思っていたし、ユクモ村の皆が親だった。 もちろん孤児である事は聞いた。 でもそこに寂しさは無かった。 別に孤児自体は珍しく無かったから俺もその一人なんだろうと思うだけで、気にはしなかった」

 

 

「そうか…」

 

 

「同情してくれたのか?」

 

 

「………」

 

 

 

やよいは一瞬立ち止まる。

 

握る扇子が少し震えていたが、また歩き出す。

 

声は少し落ちていた。

 

 

 

「正直…お主を憐んでいた。 20年もの間、本当の親を伝えることもできず、産まれを伝えることもできず、一族を追い出されて故郷も知らない。 わたしが長になってからもお主は追放された状態だった。 だが20年が経過して三女神はお主を探すように言った。 ウマ娘の指導者として使うために。 だが予想外な事にお主はハンター業に就いていた。 しかも死に体で彷徨っていた。 だから断念した事を伝えた」

 

 

 

それにしては随分と身勝手な女神だな?

ひどい仕打ちをしておいて、指導者をして欲しいから探せだと?

 

別に俺じゃない一族に任せれば良いだろうに。

 

それとも居なかったのか? やよい以外が。

 

どこか計画性が無くて頭悪いし、腹立たしくも思う。

 

そもそも20年縛りに緩和したと言うがたづなって方が罪を被っただけで、罪自体は消えていない。

 

三女神は何を思ってこんな事をした?

 

本当に中は女神なのか??

 

 

 

「とりあえず家族事情はわかったよ。 俺はどうしようもなく可哀想だったと言うことが。 でもまたこうして秘境に連れてこられたのは指導者として使いたいからか?」

 

 

「指導者はもう必要としておらぬ。 今後一切な。 それで今回お主を呼んだのはハンターとしてじゃ。 …アレじゃ」

 

 

 

秘境の外に出た。

 

身を隠しながら崖の上から見下ろすと…

 

 

 

「グルルルル……グルルルル……」

 

 

 

「!?」

 

「アレを討伐してほしい。 わたしの力では倒せぬ」

 

 

 

そこには戸愚呂を巻くように道端で眠るモンスターが一体。

 

恐暴竜"イビルジョー"がいびきをかいて寝ていた。

 

 

 

「ずっとここに居座っておるのだ」

 

「はぁ!? テリトリーを作らないモンスターだぞ? どう言う事だ…」

 

「味を占めた、と言うしか…無いッ!!」

 

 

 

やよいは扇子を強く握りしめる。

 

見下ろすとその顔は怒りだ。

 

腕を震わせて、無力に震えていた。

 

それが落ち着くとこちらを振り向き…

 

 

「っ…アマグモ、頼む! どうか頼むのだ!」

 

 

彼女は勢いよく頭を下げた。

 

 

「お主を身勝手に振り回した! 三女神を通して秘境に嫌悪感を持ったかもしれぬ! だが彼奴を"問題無く"倒せるのはハンターしかおらぬ! 秘境は知られてはならぬのだ! 故に他の者に頼めない! アマグモ、だから__」

 

 

「!?」

 

 

 

俺はやよいを抱きしめて一気に後ろに飛んだ。

 

 

「なっ!?」

 

「静かにしろ」

 

 

 

 

「グルルルル?? グルル…?」

 

 

イビルジョーが目を覚まして周りを見渡していた。

 

俺はシーと指を口元に伸ばして教える。

 

驚いたようにするも理解したのかコクコクと顔を赤く頷く。

 

 

 

 

あと……

 

やよいから良い香りがする。

 

 

 

 

それはつまり…

 

 

 

「っ、持ってきて良かった!」

 

 

俺はフルスイングで音爆弾を適当に投げる。

 

すると音爆弾は地面に当たって爆ぜる。

 

 

「グォォォオオオ!!!!!」

 

 

 

「ひっ…!?」

 

「落ち着け、違うところを見ている。 今のうちに秘境に戻るぞ」

 

「ぁ、ぁ、ま、まて、足が…」

 

「わかってる。 大丈夫だ」

 

 

イビルジョーが弾けた音の方角を見ているうちにやよいを背負って離脱した。

 

再びイビルジョーが叫んでは匂いを嗅ぎ分けて獲物を探す。

 

もしあのまま崖上に隠れていたらやよいの香りを嗅ぎつけて居場所がバレていたのかもしれ無い。

 

いや、普通に危なかった。

 

 

 

「まったく、イビルジョーが寝ているとは言え近くで大声出しやがって?」

 

 

「す、すまないのじゃ…ぅ」

 

 

 

切り株に座らせて落ち着かせる。

 

 

 

「とりあえずイビルジョーの事はわかった。 アレはたしかに厄介だな。 まさかテリトリーを作って居座るなんて初めてだが、なるほどだとも言えた」

 

 

「…」

 

 

「良いよ。 あのイビルジョーは倒してやる」

 

 

「!?」

 

 

「俺は指導者じゃ無いが狩人だ。 モンスターの討伐依頼があるならそれを受けるのはハンターの役目だ。 だからやよい、その依頼は受けよう」

 

 

「本当か!?」

 

 

「本当だ。 もし三女神直々にお願いしてきたら断るつもりだったが、長のあんたが頭下げて頼んできたんだ。 なら受ける」

 

 

「だ、だが、今回もお主を探したのは三女神の言伝(ことづて)があったからじゃぞ?」

 

「違う、三女神なんざ俺にとってはどうでも良いんだよ。 俺はやよいのお願いを聞いたんだ。 あんなに声を荒げて、お願いしてきて、アレは間違いなくやよいの言葉から、本心だ。 なら聞き届ける意味は充分にある。 その依頼、ユクモ村ハンターのアマグモが受けよう」

 

 

「っ!!」

 

 

「オオナズチから助けてくれたお礼を返す。 でもその代わり強力してくれ。 俺一人では少々手に余るからな」

 

 

「ッッ…感謝!! 依頼の受注、大変助かる! わたしにできることなら何でもしよう! あのモンスターを退くために協力しよう! アマグモの従姉弟して!」

 

 

 

本当はまだ聞きたいことがある。

 

でも今はここまでにして狩人を果たそう。

 

元気を取り戻したやよいと共に秘境に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_この場所に決めよう。

 

 

数少ない馬人族の引き連れてたどり着いた。

 

疲弊しきった皆を見て心が痛む。

 

でもあの里と約束したから。

 

誤ちを引きずりながらもそう決めたのだから。

 

 

 

 

_あなたは何者ですか?

 

 

とある人間がこの場所にやって来た。

 

幻獣の片手剣を持つ彼はとある貴族だと言う。

 

先祖は幻獣に育てられた特別な一族だと胸に誇る。

 

ハンターを家業として世界の恵みを得てきた。

 

 

 

 

_どうか私たちを助けてくれないか?

 

 

貴族は"馬人族"のために力を貸してくれた。

 

雨風を凌ぐ屋根を、農作物の育て方を教えた。

 

また選りすぐりの男を秘境に引っ張ってきた。

 

種を増やすために貴族は己の血筋を連れてきた。

 

生きていくために凡ゆる面で力を貸した。

 

 

 

_私たちの名を【ウマ娘】にしよう。

 

 

その貴族と馬人族は恋に落ちると子を成した。

 

そうして特別な混成の二人の子供が産まれた。

 

人間とウマ娘、それぞれが生まれ落ちた。

 

 

 

 

_片手剣となったこの角を削って飲ませる。

 

 

赤子に飲ませてウマ娘を束ねる一族を作った。

 

ウマ娘は安定したが、人間は不安定だった。

 

それでも二人は一族の責務を果たそうとした。

 

女は長として、男は指導者として。

 

 

 

_幻獣から授かりし、剣と、盾と、血を…

 

 

三つの像を作り上げるとそれを埋め込んだ。

 

馬人族を管理するための三女神を作り上げた。

 

ウマ娘ためだけの神として作り上げた。

 

それが邪神だろうが、女神だろうが構わない。

 

背負ってきたこの業を拭えるのなら…

 

なんだって手に染めよう。

 

それが非道だって構わない…

 

 

 

 

 

 

 

 

人間が私たちにして来たように染まろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また夢を見せられた。

 

 

しかしとても鮮明な夢だった。

 

本当にあった事なんだろうか?

 

 

しかし判断材料が足りない。

どこまでが真実で、どこまで嘘なのか。

 

 

そして何故、俺にこんなのを見せたのか?

それは俺がその一族だからか?

意図がわからない。

女神が意図的に見せたとしたら俺に何かを求めているからだろう。

 

気まぐれで見せているとしたら三女神は身勝手すぎる。

 

いや、三女神からしたら俺なんかただの歯車だ。

 

求められるのは一族としての責務と、その力だけ。

そこに人権なんかありゃしない。

追い出されたけど…

 

 

だが20年の追放期間を終えて秘境に戻って来たからには果たせと?

 

バカバカしい……やってられるか。

 

 

 

 

 

だが今回、ここに手を貸すのはやよいが頭を下げてまで頼んできたから。

あとセイウンスカイの故郷だから…と言うのは建前にする。

 

あとハンターとして頼られたから、ハンターの俺が動いたまで。

 

 

さぁ、気が抜けない討伐依頼だ。

 

オオナズチに引けを取らないモンスターだけど扱いやすい部類だ。

 

切り替えていこう。

 

 

大丈夫だ、討伐じゃないが撃退した経験は……在るッ!

 

 

 

「あ、そういやセイウンスカイって俺がこの秘境で生まれた事を知ってたのか?」

 

 

「いや、知らなかったよ? だからアマグモとはとても近い場所に居たんだねって、スカイちゃんは驚きなんだよね」

 

 

「しかしそうなるとアレだな。 俺に対しては秘境のことを隠す必要無かったのでは?」

 

 

「それ言っちゃう? お昼寝好きのスカイちゃんは寝言で滑らせてしまわないかドキドキしてたんだけどね」

 

 

「うん。 だから色々ご苦労様」

 

 

「…なんか腹立つ」

 

 

 

この秘境に住んでいた頃のセイウンスカイは俺のことについて何も聞かされていなかった。

 

外部からの指導者の噂は聞いていたがシンボリルドルフが現れてからはその意味も無くなり、噂は噂で終えてしまう。

 

ちなみに指導者としての役割は純粋な纏め役であり、皆の成長を見届けて助ける存在の事だ。

 

いるのと居ないとではかなり違うらしい。

 

 

 

「よし、準備完了。 あとは腹ペコにボディーブローだな」

 

「ちなみに早食いレースしたらオグリキャップと良い勝負するかな?」

 

「いや、どう考えてもイビルジョーが圧勝だろう。 オグリも中々だけどアイツは地面ごと食うからな? 唾液が地面すら溶かしてしまう程なので、間違っても口の下に移動するなよ?」

 

 

 

イビルジョーの存在は実のところそこそこ詳しい。

 

え?

何故かって?

 

おう、お前だよ、クルペッコ亜種。

 

自分で呼んでおいて食われやがって。

 

当時、相方で組んでたユタカと唖然だったぞありゃ。

 

 

 

「二人とも待たせたなぁ!」

 

「アマグモちゃん、お待たせしました〜」

 

「到着…ッ! 来たのだ!」

 

 

 

三人が後ろから走ってきた。

 

クリークは対イビルジョーのアイテム。

 

そしてタマモはエピタフプレート持って。

 

 

 

「しかし人間には重たそうやなコレ。 ほんまに使うんか?」

 

 

「ああ、これから倒すモンスターにかなり有効だ。 大剣は不慣れだけど扱いが複雑なスラッシュアックスよりはマシだ。 さて…」

 

 

 

奴の姿は寝床のところにいない。

 

なのでペイントボールを雑に投げる。

 

 

しばらくする…

 

 

 

「グゴゴオオオオオ!!!!」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

匂いを嗅ぎつけて奴は現れた。

 

 

 

「っ、ほんまにあんのモンスターこの辺りを動かんなぁ!? 食べ歩きが好きじゃ無いんか!!」

 

 

「腹ぺこな事はわかるけどあのモンスターは正直何考えてるかわかんないよ。 …さて! 作戦通りに頼んだぞ!」

 

「今日はゆるりと行かなそうだねぇ…!」

 

 

「頼むのじゃ!! アマグモ!!」

 

 

 

やよいの声援を背中に崖を飛び降りる。

 

オデッセイブレイド構えると目があった。

 

 

 

 

暴飲暴食の怪物。

 

イビルジョーの狩りが始まった。

 

 

 

 

 

つづく




頭痛くなって来た。
なんでこの小説にこんな複雑な設定で挑もうと思ったのか…
数ヶ月前の自分を問いただしたいくらいだ本当に。


作者の力不足故にしばらくご都合主義マシマシなので、よろしくお願いします。


ではまた


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20話

 

晴天の空。

 

雨雲の名を持つハンターが崖から見下ろす。

 

その大地に一つの恐怖が踏み締めていた。

 

 

 

「グルルル…」

 

 

 

ウマ娘が生まれ育つ秘境は山に囲われている。

 

その秘境まで続く抜け道は特定のウマ娘にしか知らない。 複雑な地形をしているため部外者は秘境まで辿り着くことは非常に困難である。 仮に秘境への道を見つけたとしてもキリンの姿に変えたやよいが雷を落として侵入者を追い払うだろう。

 

しかしテリトリーを作らず、日々満たされないハラペコを満たすために食べ歩くモンスターがこの近くに彷徨いていた。

 

恐暴竜イビルジョー、誰もが名を聞いたことある非常に恐られているモンスターだ。 もしこのモンスターと出会った場合、戦闘を行わずに即撤退が鉄則とされている。

 

 

 

「まさか討伐のために乗り出すなんてな…」

 

 

危険すぎる大型モンスターだと言うことはアマグモも承知している。 しかしこのモンスターはこの場から動かない。 過去にタマモクロスが秘境から離そうと誘導したが…

 

 

「ほんま……っ、ほんまあの怪物は! 許さへん! 同胞の命を許さへんからな!」

 

 

上手くいかなかった。

 

奴は秘境の近くに居座っていた。

 

だからタマモクロスは歯軋りを行う。

 

それは同胞の怒り。

 

そして何もできなかつた自身の怒り。

 

 

 

「此奴が来てもう1週間か…」

 

 

やよいは思い出す。

 

ある日のことだ。

 

秘境に戻ろうとしたウマ娘はいつものルートを走っていた。 しかしそのウマ娘は大きな足跡を見つけてしまう。 この一帯はあまりモンスターが寄り付かない場所であるが、大きな足跡を見つけてしまった。

 

秘境の外に出ていたウマ娘は急いで戻ろうとした…が、空から大岩が落ちてきた。 大岩を回避できずに直撃したウマ娘は脚を折ってしまう。 痛みに堪えながらけたたましい声を聞いた。

 

それは秘境にまで届いた。

 

この日、イビルジョーの存在を知ってしまう。

 

イビルジョーに見下ろされるウマ娘は恐怖に突き立てられて悲鳴すらあげることを忘れた。

 

動かない足。

 

恐怖心が支配する。

 

……あとは言わずともわかるだろう。

 

その一帯は血飛沫を広めて食いちぎった。

 

 

 

タマモクロスが駆けつけた頃には血の痕しか残らず悲惨な光景がそれを物語っていた。

 

それからウマ娘代表の"やよい"と言われる秘境の長がキリンの姿にとなってイビルジョーと戦った。 しかしやよいは力不足だった。 弱点である雷属性に関わらずイビルジョーを退けることは出来なかった。 しかしそれはイビルジョーが強いからではない。

 

やよいはキリンに変身したとしても純粋なキリンの力は1割ほどの力しかない。

 

ごく普通の人間を殺す程度には力があっても大型モンスターを殺すほどの力はなかった。 それもイビルジョーとなると雷を落としても倒すことは不可能だ。 むしろ逆鱗に触れてしまい何かの拍子で秘境への道を発いてしまう恐れの方が大きく、やよいは手出しは難しかった。

 

そのうち何処かに消え去ってくれるだろうと希望的観測だったが、イビルジョーはこの場を引かない。 人間よりも強大な力を持つウマ娘は栄養値が高く、引き締まったその肉は暴飲暴食のモンスターすらも舌鼓させてしまう。 テリトリーを気にしないモンスターがこの場から脚を動かさないほどそれは美味しかったのだろう。

 

そうして空腹にも関わらず味のしめた美しい女子を探し続けていた。

 

それを証明する様にイビルジョーはセイウンスカイ目掛けて大地を揺らしながら向かってきた。

 

 

「こっちだよ〜! こっちこっち!」

 

 

 

イビルジョーの狂気を交えた目は悦ぶように見開く。

 

いただきますの咆哮をあげながら真っ先にセイウンスカイを狙った。

 

 

「うわっ、でかっ!」

 

 

その大足は青雲の色が似合うウマ娘を胃袋に収めようと大口を開けて狙う。

 

セイウンスカイは噛みつきを回避しながら音爆弾を投げてイビルジョーの気を引き続ける。

 

 

イビルジョーの周りを駆けながら注意を引いていると…

 

 

 

「俺の愛バに手を出すなァ!」

 

 

翔蟲を使ってイビルジョーに飛びつく上位ハンターの影。

 

刃の先からタマミツネから採取した"泡立つ滑液"が垂れ落ちるオデッセイブレイドを逆手持て背中に飛びかかり真っ直ぐ突き刺す。

 

皮膚と肉を刺された痛みにイビルジョーはターゲットをアマグモに変えた。

 

イビルジョーは食事に割り込んで背中に乗っかってきた邪魔者を食いちぎろうとするが、絶妙に届かない位置にいた。

 

アマグモは叫ぶ。

 

 

 

「クリーク!」

 

「アマグモちゃーん!」

 

 

スーパークリークはアマグモの声を聞いてとあるものを投げる。 紫色の生肉だ。

 

アマグモに投げ込まれた、普通じゃない色の生肉を受け止めると、イビルジョーの口に投げ込んだ。 喉を通ってイビルジョーの胃袋に収まる。 暴走する生き物に餌を与えてる光景に見えるが、次にその巨体はよろけた。

 

 

「グル、ルル??」

 

 

イビルジョーは毒状態に侵された。 原因は紫色の生肉に仕込まれていた毒テングダケだ。 即効性の毒にてイビルジョーは紫色と黄色を混ぜた様な唾液を垂らしながらヨレつく。 セイウンスカイはその機を逃さずに爆破投げクナイを顔に投げてイビルジョーの左目を破壊した。

 

 

「グルルオオオ!?」

 

 

その隙にアマグモは翔蟲を使ってイビルジョーの背中から降りると翔蟲を足元に伸ばして絡め取る。 力が抜け落ちながら歩くイビルジョーを転ばせるには充分だった。

 

更にオデッセイブレイドからは泡まみれの液体が垂れ落ちている。 マガイマガドすら転ばせたタマミツネの"泡立つ滑液"は巨大なモンスターほど効果を発揮しやすい。 その液体が背中から足元に届くとイビルジョーは滑らせた。

 

顎から地面に転倒して顎の棘と牙が折れる。

 

 

 

「戦慄ッ! す、すごいのだ!」

 

 

やよいの驚く声と共にアマグモは怪力の種を齧りながら駆け出す。

 

盾を強く握りしめるとイビルジョーの首元を高台に高く飛び跳ねる。

 

落下する勢いをその腕に乗せてその頭を狙った。

 

__バキッッ!!

 

骨が砕ける音が響き渡る。

 

どんなに硬い頭でも身体の中心を狙えば関係ない。

 

怪力の種で増された筋力と盾で殴りなれた技術を持ってイビルジョーの頭骨を砕いた。

 

 

「アマグモちゃんすごいわ!」

 

 

高台から見守っていたスーパークリークはアマグモの活躍に驚く。

 

それとは別に…

 

 

「あのセイウンスカイはどう言うことや?」

 

「きょ、驚愕ッ! あんなに強いウマ娘では無かった筈だ。 秘境を出たウマ娘の中で継承が一番薄かったはず…だが! これは!」

 

 

 

セイウンスカイは"逃げ"が得意ウマである。

 

差し や 追い込みじゃない限り戦いに参加するなどあり得ない。

 

その脚は駆けるだけに特化していた。

 

だが音爆弾による撹乱と爆破投げクナイの一連はまるでハンターの様だ。

タマモクロスはセイウンスカイが本当にウマ娘なのかも疑う。

 

だが揺れる尻尾とアマグモの声を逃さず拾おうとピクピク動く耳はウマ娘の証拠。

 

またその眼は"応えたい"生き物ならではの色に染まり、ウマ娘としてのセイウンスカイはアマグモに寄り添う。 人間とウマ娘が強く強く信頼してある証だった。

 

 

「グォォォオオオ…!」

 

 

セイウンスカイは次の仕込みに入り、アマグモは滑液に満たされた瓶の蓋を開けてオデッセイブレイドの刃に垂らしながらイビルジョーの攻撃を見切る。

 

太刀使いとしての眼は巨体を使っただけの大ぶり程度の攻撃を難なく凌ぐ。 アマグモは最小限に回避しながらイビルジョーの体を撫でる様に斬りつける。

 

タマミツネから採取した泡立つ滑液に塗れるイビルジョーはアマグモに攻撃をしてもその小さな盾で滑る様に受け流される。 捻り潰すことできないストレスにイビルジョーは大口を開けてアマグモにくらいついた。

 

セイウンスカイに合図を出すと次はスーパークリークから受け止めた黄色の生肉をビルジョーの口の中に放り込む。 ハンターを超えるウマ娘の腕力で投げられた黄色の生肉はイビルジョーの中にダイレクトだった。

 

アマグモは翔蟲で真上に飛ぶとイビルジョーの顎下を狙ってカチあげる。 下からから殴られたイビルジョーは黄色の生肉を飲み込んだ。

 

すると体の神経が麻痺した。

 

 

「グ、ォォ、オゥ!?」

 

 

苦しそうに息をするイビルジョーは目の焦点が合わない。

 

麻痺状態に苦しんでいた。

 

 

「お前は"ヌシ・タマミツネ"を知ってるか?」

 

 

アマグモは"紅蓮石"を取り出す。

 

 

「その凶暴性と比例する様に泡は燃えるんだぞ」

 

 

紅蓮石を砥石代わりに刃に鋭く研いだ。

 

 

_カチン!!

_ゴォォォォォ!!!

 

火打ち石の様に鉄と鉄が打ち付けられる。

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

高台から見ていたタマモクロスとスーパークリークとやよいは目を見開いた。 オデッセイブレイドの刃と同じ葵色の炎に燃えあがっているではないか。 まるでチャージアックスのように属性を付与した現象に眺めていた者達は目を見開く。

 

アマグモは次の攻撃に移ろうと翔蟲を取り出そうとした…が、まだ翔蟲はエネルギー充電を終えていない。

 

少々使い過ぎたかと諦めているとセイウンスカイがアマグモの進行方向に飛び出す。

 

 

「アマグモ、翔んでよ!」

 

 

両手を腰の位置に重ねて声をかける。

 

アマグモは走り出した。

 

 

「じゃあ、跳ぶぞ!」

 

 

オデッセイブレイドを構えて彼女の目の前に一歩踏み込む。

 

アマグモの足はセイウンスカイの手に収まるとそれを一気に上へと打ち上げた。

 

ウマ娘の腕力に改めて感心しながらイビルジョーの背中よりも高く飛び跳ねるアマグモは葵色に燃えるオデッセイブレイドでイビルジョーの背中を斬りつける。 すると背中から垂れ落ちる滑液は油が着火した如く一気に燃え上がり、イビルジョーの背中を始めとして腕、脚、首、頭は妖しい色の炎に燃やされてしまう。

 

 

 

「グォォォオオオ!!!」

 

 

 

 

_ " 鬼火まとい状態 ” _

 

 

マガイマガドの討伐から手に入れた"怨虎龍の魂結晶"と言われる素材を使った新たな攻撃手段。

 

まずタマミツネから採取した泡立つ滑液を空き瓶に注ぎ込んだ"滑液瓶"と名付けられたアイテム。

 

その滑液瓶に怨虎龍の魂結晶を混ぜる。

そして" 滑液鬼瓶 "を作り上げた。

(火ン)だけに洒落た名のアイテムだ。

 

 

使い方は単純だ。

 

最初にモンスターを泡まみれ状態にする。

 

次に滑液鬼瓶でオデッセイブレイドに付与してから、紅蓮石を火打ち石の様に打ちつけて熱を与える。

 

すると刃は一気に燃え上がる。

 

その状態で泡まみれ状態のモンスターに斬りつけると泡が一気に鬼火へと変化して、モンスターを鬼火やられ状態にする事が可能だ。

 

 

アマグモは一度だけ"ヌシ・タマミツネ"を見た事があり、鬼火の様に青い泡を纏うタマミツネの姿を見て…

 

その時、アマグモは閃いた!

これは戦いに使えるかもしれない!!

 

 

片手剣に酷似しているチャージアックスの性質を利用する。

またタマミツネの素材の泡立つ滑液で強化したオデッセイブレイドならそれは大いに可能だと考えた。

"大空(レウス)"の"大地(レイア)"の紅玉に備わるエネルギーが加速させる。

 

努力と知識の結果により…

 

イビルジョーは鬼火に苦しめられていた。

 

 

 

「タマモクロス!」

 

 

「準備は既に済んでるで!!」

 

 

後方で落とし穴を仕掛け終えていたタマモクロスはエピタフプレートを持って指定された崖のところまで移動していた。

 

彼女がとても優秀なウマ娘である事と"差し"の適性があるからこそ行動は早かった。

 

アマグモはタマモクロスの位置まで移動するとエピタフプレートを受け取る。 アマグモはセイウンスカイとアイコンタクトを取ると彼女は角笛を吹く。

 

イビルジョーは鬼火に苦しめられながらも角笛の音に起き上がり、アマグモを見る。 ここから先の出番は無くなったセイウンスカイはそそくさと退散して、タマモクロスは姿を隠す。

 

イビルジョーはアマグモを睨む。

 

今は空腹よりも怒りが勝っていた。

 

 

「グォォォオオオ!!!」

 

 

 

撤退するウマ娘二人よりも食事の邪魔をするハンターに咆哮する。

 

アマグモは翔蟲を真上に伸ばしてエピタフプレートを構え、イビルジョーは鬼火に焼かれながらもアマグモを食いちぎろうと迫る。

 

怒りに周りが見えないイビルジョーはあからさまに仕掛けられた落とし穴に気づかず、足を踏み外してその巨体は穴の中に埋もれる。

 

 

「グゥ!??」

 

 

 

「すぅぅぅぅゥゥ…」

 

 

大剣は使わないアマグモだが、単純かつ破壊力のあるこの武器に理解はあった。

 

両手に持つ太刀としての経験も豊富なので大剣は使えない武器ではない。

 

片手剣の盾をハンマーのような鈍器にしてしまう程の腕力が備わっている彼は大剣に対しての力の入れ具合は手に取って理解していた。

 

大剣にエネルギーを溜める。

 

 

「頼むのじゃ!!」

 

 

やよいは扇子を開いて雷を放つ。

 

その雷はエピタフプレートに刻まれた古代文字に向けられた。

 

古代文字は(イカズチ)に染まって黄色に輝く。

 

 

 

「鉄蟲…!!」

 

 

地上を翔んで翔蟲に空高く引き寄せられる。

 

真下を見れば鬼火に焼かれながら落とし穴に苦しむイビルジョーの姿。

 

 

 

「消し飛べぇぇ!」

 

 

 

「!? グォォォオオオ"オ"!!」

 

 

 

落とし穴に落ちながらもイビルジョーは咆哮する。

 

破れかぶれな咆哮なため普段よりも弱々しい声だった。

 

だがその威嚇は並のハンターを怯ませるに充分な威力だった。

 

巨体に備わる圧力感に押し退かれてしまうこともあり得ただろう。

 

しかしアマグモは、何かに護られるように一切怯むことはなかった。

 

 

イビルジョーは不運である。

 

何故ならアマグモは"とある護石"を装備していたからだ。

 

 

レア度は高いが使い道がわからない、護石。

 

そもそも使う必要があるのか怪しい、護石。

 

利用価値が問われながらも使ってみた、護石。

 

 

 

しかし、今回はこの護石があるからこそイビルジョー最後の抵抗に打ち勝つことができた。

 

 

 

 

 

それは『ジャンプ鉄人』と言われるスキル。

 

 

恐暴竜を討つまで漕ぎ着けた、この瞬間だけは神スキルのような護石だった。

 

 

 

「気炎万丈ォォォォ!!!」

 

 

 

古龍の力を備えた 雷属性 が裁きを下す。

 

古来の力を秘める 龍属性 が怒りを叩く。

 

弱点の雷属性と龍属性を同時に受けたイビルジョー、元から砕かれていた頭骨は大剣のエピタフプレートにてそれは容易く斬り砕かれた。

 

左右に一刀両断。

 

さらにイビルジョーの体中を纏う鬼火はアマグモの攻撃に反応して大爆発を起こした。

 

その爆発により巨体の血肉が一帯に弾け飛び…

 

 

「ガ…ァ………ァ………__」

 

 

 

 

恐暴竜は絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イビルジョーを無事に倒せたのは良いが少しだけ損傷してしまった。

 

ひとつまみする程度の範囲だが後ろ髪がイビルジョーの唾液で溶けてしまった。

 

ほんの少しだけ触れてしまったらしいが、髪の毛程度容易く溶かしてしまうイビルジョーの唾液には参ってしまう。 常に腹ペコだったから唾液が止まらなかったのだろう。 そのかわり水分も無くなって動きは鈍かったし、力が入らなくてよく転んでくれた。

 

ワナ肉も躊躇いなく飲み込んでくれて常に主導権を握れて討伐まで漕ぎつけた。

 

代わりにギルドに登録されてる俺の名前にイビルジョーの討伐はカウントされてないだろう。 クエストの依頼もなく非公式で倒したからだ。 当然ながら討伐時の報酬も無く、ギルドポイントも加算されない。 フクズクを飛ばせばギルドに知らせる事はできるが、秘境は知られてはならない場所なのでそんな事もできない。

 

そもそも今現在フクズクはいないのでノーカンである。 致し方ない。

 

死体となったイビルジョーはウマ娘達が開けたところに運んでから燃やしている。 証拠も残らないので今回の討伐はタダ働きである。 てか恐暴竜相手にタダ働きってとんでもないな。 普通なら命が幾つあっても足りないし、ハンター業界ではイビルジョーと出会ったら即撤退する事が鉄則と言われている。 倒すなんて普通は考えない相手だ。

 

しかし、秘境に住まうウマ娘達はこの脅威から救われた。

 

だから沢山感謝された。

 

 

 

「どのくらい切る? 半分くらい切ってしまう?」

 

「半分くらいでお願いします」

 

 

 

とりあえずイビルジョーの討伐で溶けた後ろ髪を切ってもらうことにした。

 

燃えたじゃなくて溶けた、だ。

 

やよいの紹介で散髪の得意なウマ娘にお任せしてるところだ。

 

 

 

「少しお洒落な感じにする?」

 

「遠慮しておくよ。 変に弄ってしまうと狩で何が起こるか分からないから、切るだけで頼む」

 

「そうね、あなたはハンターだからね。 それならベッドマッサージとかはどうかしら?」

 

「ベッドマッサージ?」

 

「簡単に言えば頭の疲れを取る施術、スッキリするわよ? 秘境を守ってくれたお礼にどう? アマグモ」

 

「それならお願いしようかな、ゴールドシチー」

 

「了解」

 

 

 

別に頑張ってお礼する必要は無いのだがベッドマッサージってやらは気になるので散髪後にお願いした。

 

 

「しかし男性の散髪なんて初めてね。 昔は人間の男性も住んでた人も居たらしいけど」

 

「俺とかやよいの一族のことか。 今はこの秘境に人間もいないんだよな?」

 

「いない。 他所から来ることも無くなった」

 

「…他所から?」

 

「人間の男性が、種馬としてね」

 

「あ……なるほど」

 

 

 

種馬……別に珍しい話でもない。

 

人間社会にもそう言った話はある。

 

子孫を作るため、強い種族を産むため。

 

それは昔から生物として起こりうる話しだ。

 

しかしこの秘境では種馬を使っていたのか。

 

 

 

「なあ、もしかしてそこらの人間から獲って来た…とか?」

 

「いえ、それは無いわ。 とある一族が10年周期でこの秘境に来てたのよ。 その一族は血統の高い貴族達で唯一秘境の存在を知る者達。 その当時の長が決まって数人ほど連れて来てたの。 ハンター稼業も盛んだから強い男が多かったと聞いた。 でも10年前に滅んだ知らせを聞いたわ」

 

「滅んだ?」

 

「…これは、内緒話なんだけどわたしは長の命令を受けてその場所に向かったことあるのよ。 ひどい有様だった。 同行してたタマやクリークも言葉を失っていたわね。 全て倒壊して建物には、雷が落ちて焼け焦げたような跡、嵐が通り過ぎたような惨状、貴族が全滅したことは想像するに容易だった。 でもイナリワンとオグリが耳を立てて一人だけ見つけた。 でも赤子だったけど」

 

「その後はどうなったんだ?」

 

「わからない。 一応保護はしたけど次の日に長とオグリが赤子を抱えて秘境を出た。 同行したオグリの話ではとある商人の竜人族に引き渡したらしい。 そこから先はわたしも知らない」

 

「そうか。 しかし繁栄のための種馬が無いとしたらどうするんだ? またどこからか引っ掛けてくるのか?」

 

「知らない。 でも長は焦らなかった。 何か考えているんだと思う。 わたしとしてはなんとなく予想はついてるけど確信には至らないからまだ言わない。 でも、凡ゆる事でタイミングが良すぎたと思ってる」

 

 

 

彼女は話しかけながらも手際良く散髪を続ける。

 

俺は彼女の言葉を考えながらじっとしていた。

 

しかし種馬か。

 

納得はするけどあまり聞きたい話でも無い。

 

でもその種馬となった貴族が無くなった今どうするのか? 残された赤子に任せる? いや、もしその子が女性だとしたら終わりだ。

 

それで種を残せるわけもない。

 

 

 

それなら外に出て……

 

 

……ああ、だからか。

 

 

 

「やよいは考えたな。 百竜夜行にてウマ娘の存在が知られるなら、むしろそれで良いんだと」

 

「かもね。 わたしはそう思う」

 

「しかしそうなると秘境はどうなるんだ?」

 

「わからない。でもこの世代は確実にこれまでとは違う。 ウマ娘が左右される大事な世代よ」

 

「なるほど。 だからトレーナー(隣人)なのか。 そう言うことなのか。 ふーん、まるで"婚期"のようだな。 外部からは殺伐と迫っているが…」

 

「外部って百竜夜行の事ね。 でも、わたし意味が分からないの」

 

「と、言うと?」

 

「なんでウマ娘は秘境に住んでいるのか? もし百竜夜行に立ち向かうカムラの里にウマ娘が力を貸すと言うのなら、カムラの里に住んだ方が効率が良くないかしら?」

 

「ああ、それ俺も思った。 でも三女神の絶対主義がウマ娘を縛っているんだろ? あとはあまり世間に知られてはならないとか、デリケートな部分があるんじゃないのか? 全てはウマ娘のために…とかそんな感じでは?」

 

「つまらないわね」

 

「なら秘境の外に出たりしないのか?」

 

「出たかった。 でも長とはそこそこな付き合いだから頼りにされていて出なかったの。 他にもオグリキャップを除いてタマモクロスやスーパークリーク、イナリワンと言った決まっているメンバーは秘境に残って長をバックアップしている。 わたしも一応その枠らしい」

 

「でもいずれ出るんだろ? トレーナーを求めに…」

 

「最初はあまりそんなつもりなかったけど、でもあなたのセイウンスカイを見てその意識は少なからず高まった。 あなたってすごいよね? あのセイウンスカイをあそこまで立ち上げたんだから」

 

「?」

 

「あ、その感じだとわからない? まあ、知らないなら知らなくて良いかもね。 セイウンスカイもその方が幸せだろうから。 はい、髪の毛切り終わったよ」

 

 

 

どこか意味深な言葉を残してくれたゴールドシチーだが散髪は終わった。

 

切って貰った後ろ髪に触れてみるとイビルジョーに溶かされた部分は綺麗に切り落とされていた。

 

お陰で頭が軽くなった気分だ。

 

それからベッドマッサージも受けてみた。

 

疲れが取れたのか更に頭が軽くなった気分だ。

 

ちなみ彼女の趣味で香水も軽く振り撒かれた。 ほんのりと甘い香りを漂わせながらゴールドシチーにお礼を言って外を出る。

 

そのまま使わせて貰っている個室に戻るとセイウンスカイが待っていたがスンスンと香りを嗅いだ後「なんか嫌だ」と言われた。 香水のことを話すとブスっと不機嫌になり、彼女から頭をグリグリと胸元に押し付けられる。 青雲の香りに変えられた。

 

 

マーキングかな?

 

彼女は満足そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、夜になった。

 

俺としては早くギルドに生存報告したいとこほだが、やよいの要望により宴に参加して欲しいと言われた。

 

あと1日ならと、了承して参加している。

 

宴は至って普通なのだが困り事が一つ。

 

ウマ娘って、その…あれだ。

 

人でもあるけど馬でもある。

 

 

こんな言い方良くないが メス の表現が近い生き物だ。

 

"メス"の役割は子を作る事。

 

そして馬となるとそりゃ激しい。

 

それ以前に彼女たちは人と同じように女性だから、そりゃ魅力的でカッコいい男が好きである。 それが普通。

 

 

もちろん男性だって同じ。

 

美しい女性、可愛い女性、異性として惹かれるお相手が良いだろう。 それと同じ。

 

 

え?

何が言いたいかって??

 

馬としてのメスっ気。

 

女性としての要求。

 

 

ああ、彼女らは、つまり。

 

純粋に"強い男"が好きだと言うこと。

 

 

 

 

「いででで、首が閉まる!!」

 

「アマグモはわたしのだから、ユザラナイ」

 

 

「良いなぁ…」

「羨ましい! 羨ましいぃよ!」

「うー!! その人の子供欲しい!」

「先ぴょい! 先ぴょいだけで良いから!」

 

 

「だめだよ、それにうまぴょいはわたしがしてるから。 君達ではもう遅いよ」

 

 

こちらの首に抱きつき、尻尾は腰を巻きつく様にピタリと絡まり、ギリッと他のウマ娘を睨んで牽制するセイウンスカイ。

その眼は天候の悪い雲の様に濁っているようにみえる。

耳も感情の激しさに比例して鋭くピーンとなって、首を絞める腕がめちゃくちゃ痛い。

 

 

「なんや、兄ちゃんも随分とモテモテやな」

 

「モテモテのモテモテや」

 

 

「そう思うなら助けろタマモクロス、イナリワン」

 

 

「「ええ、どないしようかな〜」」

 

 

「お前ら絶対楽しんで…がああ!痛い!痛い!痛い!!」

 

 

手加減してくれてない痛みを感じながら周りを見渡す。

 

ウマ娘の宴だから基本的ににんじんパーティーだ。

 

スーパークリークが美味しい料理に腕を振るう。

 

あとやよいがイビルジョー討伐に大層喜び「恐暴竜を倒した英雄だ!」と集められたウマ娘達に紹介したがご覧の有様である。

 

セイウンスカイがイビルジョーに負けないだろう威圧感と共に独占欲を発揮しながら抱きしめ…つけている。

 

苦じい。

 

助げで。

 

 

 

「はいはい注目、新しいにんじんシチューだよ、暑いうちに召し上がれって」

 

 

「あ! ゴールドシチー!」

「わーい! シチーのシチューだ!」

「美味っ…ぴょい!!」

 

 

新しい料理が持ち込まれる。

 

するとゴールドシチーから「今のうちに」と目で合図してくれたのでここは甘えて撤退することにした。俺は抱きついているセイウンスカイを持ち上げてそのままお姫様抱っこして駆け出すと彼女からは「うひゃ!」と驚きを交えて嬉しそうな声が漏れていた。

 

それをみて茶化してくるタマモクロスとイナリワンを横切り、しばし宴から姿を消すことにした。

 

 

 

「にゃはは、惚れ惚れする逃げ適正ですねぇ」

 

「やかましい」

 

 

揶揄われながらもある程度足を進めると三女神の近くまでやってきた。

 

月明かりに染まる泉が綺麗だ。

 

その近くでセイウンスカイを下ろした。

 

 

 

「やれやれ、首が痛いぞ」

 

「にゃはは、ごめんごめん。 ちょっと油断ならなすぎてね」

 

「それにしてはやり過ぎだ」

 

「でもでもアマグモ考えてみてよ。 ウマ娘は基本的に人間よりも力が強いんだよ? いくらハンターでも複数のウマ娘を相手にどうにか出来る??」

 

「それは無理だな」

 

「でしょ? そこらの娘に取られないようわたしがアマグモの全てを占領するんだよ。 わたしはアマグモが他のウマ娘に取られるの嫌だよ? アマグモの愛バはわたしだけなんだよ。 わたしだけがアマグモの側に居ればいいんだから。 わたしのアマグモ。 君の雨雲はわたしだけが潤う。 この空は他の誰にも譲らない、絶対に…ー

 

 

 

眼を濁しながら両肩を掴んで握力を上げる。

 

眼を濁している事については確信犯だと分かるくらいに表情を見え隠れさせているので、暴走している訳では無いだろうが、俺をそのまま草原に押し倒すとセイウンスカイはこちらよ胸元に顔を擦り付けて喉を鳴らす。

 

マーキングされている気分だが、空色のその頭に手を乗せてセイウンスカイを撫でる。

 

彼女は耳をピクピク動かすと満足げな声を漏らし、全身の力を抜いて全てをこちらに預けながら、ふにゃふにゃと耳は垂れ落ちて「くふぅぅ…」と幸せそうに息を吐く。

 

セイウンスカイがリラックスしているときの声だ。 思わず笑みが溢れてしまう。

 

 

 

「………女神像、だね」

 

「え? ああ…」

 

「わたし、アレ、嫌いなんだ」

 

 

 

彼女は胸元に擦り寄りながら横を向く。

 

耳は半折のままだがこれは嫌悪感を抱いた時の表現だ。 証拠に掴まれている肩が震える。

 

無意識だろうか、彼女の手に力が入っていた…

 

 

 

「アマグモは"因子継承"って聞いたことあるかな?」

 

「因子継承?」

 

「成長期が終えたウマ娘はこれまで高めてきた能力を因子に変えて三女神に一度預ける。 するとその因子は次世代に託される事になる。 これが因子継承だよ。 それを何度も重ねて優秀な因子を増やし、三女神は来る時のために沢山の因子を蓄えた」

 

 

なるほど。

 

三女神はそのために存在しているのか。

 

百竜夜行に向けて強い戦士を作るために。

 

また器となるウマ娘も管理するために言伝を与えて、従わせて、秘境とウマ娘を護る。

 

そこに危険異分子が存在するなら、それも排除する事に躊躇いは無いほどだ。 俺の父親もそうだったのだろう。

 

 

 

「私たちは"最後の世代"と言われている。 百竜夜行に立ち向かう世代だから、優秀な因子が必要になる。 その中でシンボリルドルフが最高傑作だった。 もちろん他の皆んなも優れたウマ娘になり三女神の計画は完璧…の、はずだった」

 

 

 

彼女は自分の世代を誇らない。

 

 

 

「ほんの少しズレが起きて一人分だけ足りなかった。 だから貧乏くじを引いたウマ娘がね、一人現れたんだよ、にゃはは…」

 

 

彼女は力なく笑う。

 

怒りよりも悲しみが勝る。

 

その表情が答えだった。

 

 

 

「もしかして…」

 

「うん、アマグモの予想通り。 貧乏くじを引いたウマ娘はわたし。 秘境を出るウマ娘の中でわたしが1番の最弱になった」

 

「…」

 

「ハズレを引いた…いや、ハズレを引かされたんだと理解した。 三女神はこのウマ娘なら良いかと思ってそうしたんだ。 でも理解したところでどうにもならないと悟ってカムラの里に向かったよ、脆い虚栄心を張って」

 

 

 

 

 

 

 

__おや〜? もしかしてこの私を選ぶのかな?

 

__逃げる事だけに脚が馴れてあまりご期待に添えれないかもよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしは三女神が嫌いだ。 三女神の所業も嫌いだ。 三女神の全てが嫌いだ」

 

「…」

 

「弱くてもトレーナー(指導者)がいたらウマ娘は変わるなんて聞いたけど、カムラの里ではトレーナー(となりびと)で意味は違った。 長からそう教えられたから。 未来のわたしに、わたしは期待もできなかった。 百竜夜行に蹂躙されてしまうウマ娘なんだと諦めそうになった。 でも、アマグモが現れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

__だからこそだよ。

 

__今の俺にはお前が必要だと感じてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運命ってあるんだな…と、思った。 餌をつけて糸を垂らした訳じゃないのに大物がやってきた。 いや、むしろアマグモがわたしを釣り上げたんだよね。 ふふっ、浜に打ち上げられた小魚のスカイさんを獲ってくれたんだよね、にゃはは」

 

「まあ、当時のセイウンスカイは小魚みたいな感じだったな。 浜に打ち上げられたのにちっともピチピチしない感じ。 でも君の鱗模様()は俺の琴線に触れた。 俺にはお前なんだ…と、感じた」

 

「それから始まる成り上がりですかねぇ、にゃはは。 前までラージャンとリオレウスの縄張り争いを目の当たりにして怯えて竦んでたのに、今はイビルジョーに爆破投げナイフを投げている。 昔のわたしでは考えられなかったよ」

 

「たしかに因子継承によってセイウンスカイのスタートラインは遠かった。 でもそれだけで、君は誰よりも前に駆け抜ける力があった」

 

「違うよ。 アマグモがわたしの手綱を握ってくれたからだよ。 走る方角も、道も、芝も、違えなかったのは全てアマグモのお陰だ」

 

 

 

彼女は三女神の像から目を離してこちらを見下ろす。

 

その目は濁るように。

 

でも縋るように染まらせ…

 

 

 

「だからお願い。 その手綱は絶対に離さないで。 わたしは一人で走れないから」

 

 

 

三女神から視線を外した彼女は「んっ…」と声をこぼしてその頭を差し出す。

 

撫でてと言わんばかりに耳がテシテシと体を叩いて訴えるから、俺は撫でて答える。

 

櫛のように立てた指で髪を梳かせば、指と指の間に空色が柔らかく流れ落ちる。

 

ひと撫でする毎に身を震わせて反応する彼女の名前を耳元で囁いてあげれば、彼女も答えるように抱きしめ返して甘えてくる。 尻尾は腰に巻きついて自分のモノだと主張して、耳はテシテシと、さわさわとこちらの頭に触れる。 そのままゆっくりと横に倒れて互いに目が合わさる。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

それから自然と互いの唇が触れ合った。

 

 

彼女はやや強引に啜る。

 

 

拒まずに受け止めて、優しく頭を撫で続ける。

 

 

しばらくして解放された。

 

 

 

「俺はセイウンスカイだけを見る。 因子とかそんなのどうでも良い。 セイウンスカイってウマ娘が俺のために走れ。 …いいな?」

 

「うん、良いよ。 いくらでもあなたに委ねる。 わたしは君の愛バだから、どこまでも走るよ。 そのかわりあなたの空をわたしに頂戴。 沢山、潤して…」

 

 

 

これは何度もやっている問答。

 

 

でも何度だって伝えてやる。

 

 

君を愛バに出来るのは俺だけなんだと。

 

 

君の愛バに染まるのは私だけなんだと。

 

 

 

 

 

ぐぅぅ〜

 

 

 

「……お腹すいた。 アマグモ成分だけじゃ満たされないのかな? にゃは」

 

「ウマ娘は良く腹が減るよな。 ハンターもだけど」

 

「にゃはは、どちらもたくさんエネルギー使うからね。 わたしは戻ってなんか食べてくるよ。 アマグモは?」

 

「もうしばらく泉を眺めてるよ。 宴が落ち着いたら食べる」

 

「わかった」

 

 

 

セイウンスカイは体を起こすと尻尾を揺らして宴のところまで足を進める。

 

俺は寝転びながら彼女を見送って、三女神の方に視線を向けた。

 

像だからなにも動きやしない。

 

上半身だけ起こしてあぐらをかき、睨むように三女神を眺める。

 

 

 

「俺も…お前が嫌いだよ三女神。 あんなに美しくも可愛い女子(おなご)達を何故闘わせるような事をしている? 駆けるだけの足ならば百竜夜行のためではない、自由な芝の上で走らせろよ。 そうすれば普通に生きることだって…」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな、それが普通だろう」

 

 

 

 

横から声が聞こえた。

 

その声はここに来て何度も聞いた。

 

その人物を予想しつつ横を見る。

 

扇子を持ったやよいが立っていた。

 

 

 

「たしかにウマ娘は何故、百竜夜行に立ち向かっているか知らぬ。 それがウマ娘の使命だと聞かされ、皆は育つ。 だから来る日のために築き上げてきた。 さて…お主はゴールドシチーから聞いたな? 種馬のことなど」

 

 

「聞いた。 なんで知ってる?」

 

 

「一族としての生まれなのか、そう言った類はどんなに離れてもよく聞こえるのでな。 だから秘境の存在について口外しようものなら雷で天罰を落として黙らせることもできる。 あまりこんな事はやりたくはないが、秘境は知られぬから秘境であり、ウマ娘を知られる訳にはいかないのは私も三女神に同調しておる」

 

 

「でも不自由な生き方だな。 三女神の管理下の元で産まれ、育ち、成熟したら好きでも無いだろう人間の種を受けて子を産むんだから」

 

 

「そして、早死にするだろうな」

 

 

「……え?」

 

 

「ウマ娘は寿命が短い。 人間の何倍もエネルギーを働かせることで人間の身体能力を凌駕するが、代わりに命も激しく消耗する。 そこで子を産めば更に命の半分が取られるだろう。 でもそうしなければ強い子を産めぬのだ。 だから秘境で生きてきたウマ娘は三十代まで届かず、早死にする」

 

 

「!?」

 

 

「だからトレーナー(指導者)が必要だ。 早死にせぬよう少しでも寿命を長く伸ばし、その足と伸び代を高め、強いウマ娘を育てる。 ウマ娘は自分が思ってる以上に力の加減が下手なんじゃ。 誰かが手綱を握らねば無駄に命を消耗してしまう脆い生き物。 強いが、弱いのじゃ」

 

 

「……」

 

 

「お主の母も、子のお主を産んで死んだ。 働かせ過ぎた体は出産に耐えれず、心臓麻痺で命を絶った。 でもお主の母は産むまでは長生きだった。 何故ならトレーナーである父が居たからな」

 

 

「だとしたら三女神は愚かだな。 ウマ娘を活かし生かすためのトレーナーとして使えたはずの俺を秘境から追い出したんだ。 ウマ娘の事を第一に考えてると言うのなら、俺を秘境の外に追放する事は愚策だろうに。 怒りに任せたのは父だけではなく、三女神も変わらなかったと言う事か」

 

 

「三女神も完璧では無い。 これもまた望むだけに過ぎぬ」

 

 

 

だとしたら"女神"なんて言葉は烏滸がましい。

 

ただの指導者に過ぎない存在だ。

 

それでも三女神の働きがあったからウマ娘は増え、強い個体も現れて、その結果としてカムラの里は百竜夜行から生き延びている。

 

ウマ娘がいなかったら蹂躙される未来を想像するのはそう難しく無い。

 

 

 

「わたしはいずれ、全てのウマ娘がこの秘境を発ち、人間社会に生きていけるようにする。 秘境の中で三女神に頼らずともそれぞれが道を選べるように。 だからやよいの名を騙り、カムラの里に『オトモダービー』の名を広めた。 そしてまもなくじゃ。 皆で百竜夜行を乗り越えたその時は…」

 

 

「…」

 

 

「オトモじゃなく、お供(おとも)として、女性として生きていられる事を望むのじゃ」

 

 

 

彼女達は三女神に頼らない時代が来ている。

 

やよいがその先行を走り皆を率いる。

 

そうだ。

 

一つだけ、気になる事ができた。

 

 

 

「やよいは、ウマ娘なのか?」

 

 

「…やはりそう思うか?」

 

 

「ああ、思う。 あと…たづな、って女性もだ。 この秘境にはウマ娘しかいない。 だからウマ娘としての名を捨てた二人が気になる。 おそらく秘境の外に出て、人間と交流を作る必要が出てきたからウマ娘である事を隠さなければならない。 秘密主義を通すために…だろ?」

 

 

「正解じゃ。 たづなは秘境の外で活動するにあたって必要な名前。 わたしも必要だったからやよいの名前を騙る。 お陰でオトモダービーの名を広める事ができた。 たづなも秘密主義を守り、うまく外交を行って秘境を豊かにした。 それに不思議だったな」

 

 

「?」

 

 

「人の名前を騙ると長生きする。 たづなはウマ娘だったが誰よりも長く生きていた。 最後に赤子だったお主の面倒を見て、お主をまたこの秘境に戻って来れるように自身を犠牲に秘境から追放されてこの場所で骨を埋める事を諦めた。 しかしたづなにとってそれは些細な問題で、お主を連れて秘境の外に消え去った」

 

 

「…死んだ訳じゃ無いんだよな? なら…」

 

 

「生きてる…なんて、可能性は考えられるかもしれぬがたづなはウマ娘だ。 それにいまだに生きてるとしたらたづなは『70年』近く生きてることになる」

 

 

「!」

 

 

「人間ならともかくウマ娘でそれはあり得ぬ。 名を騙れば長生きできる精神論がそこにあったとしても流石にもう生きておらぬだろう…」

 

 

「そっか…」

 

 

 

人間でも100歳まで生きるのはごく僅か。

 

70歳でも死ぬ人は珍しい無い。

 

ハンターとして肉体が強い人間は長生きするだろうが、ウマ娘の場合は逆だろう。

 

力を使い過ぎて命を枯らす。

 

たづながそうだとしたら、70年は希望を持ちすぎなのかもしれない。

 

生きてたら、会ってみたかったな…

 

 

 

「ノーザンテースト」

 

 

「え?」

 

 

「わたしは"ノーザンテースト"と言う名のウマ娘だった。 ほれ、耳あるじゃろ?」

 

 

 

帽子を外すと小さな耳が付いている。 やよいは小さく笑いながら耳をピクピク動かす。 俺は目を見開き、やよいはコロコロと笑いながら扇子を広げてパタパタと仰ぐ。 やはり彼女もウマ娘だったか。

 

 

 

「ま、貰い物の名前じゃがな」

 

 

「貰い物?」

 

 

「この秘境を作ったウマ娘の名前がノーザンテーストだ。 わたしにもこの秘境を支える責務を背負わせるため、この名が与えられた…長になって直ぐにやよいを名乗ったがな。 しかも産まれたお主が男だったから私が即選ばれただけの話だ」

 

 

「…なら、たづなは」

 

 

「それは言えぬ」

 

 

「何でさ?」

 

 

「お主が女として産まれたのなら、たづながウマ娘だった時の名を貰う事になっていた。 しかしお主は男で既に人としての名を持っておる。 それを聞かせる必要は無い。 早死にして欲しくない…」

 

 

「俺は人間だよ? そもそもハンター業は死にやすい。 3日前だってオオナズチに殺されそうになっていた。 ウマ娘の名を知ったところで変わりない。 それに俺はウマ娘じゃないから、寿命が短い訳あるか」

 

 

「……なら、約束してくれ。 どんなに過酷でも生き続けると」

 

 

「する。 早々に死んでたまるか」

 

 

 

座っていた草原から立ち上がる。

 

芝の葉を振り払ってノーザンテーストだったやよいと向き合う。

 

力なく折れていた耳はピンと張られ、やよいは口を開いた。

 

 

 

 

「トキノミノル__お主がウマ娘として産まれたら付けられるはずの名前だった」

 

 

 

 

 

素敵な名前だった。

 

 

 

 

 

 

つづく





ユクモ村のハンターとして、ジンオウガみたいな大地を踏みしめる四足歩行の大型モンスターと良く戦うアマグモだからこそタマミツネの戦法を思いつき、さりげなくヌシ・タマミツネの戦術を繰り広げるアマグモの応用力と適応力の高さに脱帽。
これは間違いなくカムラの里で戦えてるハンターの姿。

しかし!
イビルジョー討伐のMVPは『ジャンプ鉄人』だった!
やはり神スキルでしたね!!!


ゴールドシチーって案外古い世代の馬なんやね。 この小説書いてて初めて知ったので、タマモやクリークのいる秘境にスポット当てた感じです。 クリークに負けず普通に美人さん。

あといつもお団子屋でお団子を食べるオグリは…
…まあ、そういうことだよ。
ちなみにオグリにトレーナーはいない。
バサル装備の狩猟笛の女性ハンターはソロ好きで、オグリはその人と臨時で組んでるだけです。
どちらも強い…てか、オグリがウマ娘の中で頭ひとつ抜けてる。


重責を与えるためにノーザンテーストの名を背負わされたやよいだが、一族としての役目を果たせばウマ娘は安泰だとわかってるので三女神の言伝は受けてるけど、そこから脱してウマ娘に自由を与えたいと思っている。 致し方ないとしても、三女神による因子継承などに嫌悪感を抱いたりしているが、そこに背いてウマ娘を苦しめる事ができないので、外にいるアマグモに希望を持っている。 非常にしんどい立ち位置にいる辺り、ある意味アプリと似てるね、この苦労は。


ではまた


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21話

もっと上手く設定を話に練り込めたらと力不足に溺れる俺氏。
ここまでしんどかった…




 

 

 

穏やかで…

 

 

大らかで…

 

 

平和な風景と世界が広がっている。

 

 

良くある人々の営み。

 

 

そこにはなんて事ない村がそこにある。

 

 

 

しかし、少しだけ特殊だった。

 

 

 

人間が住まう村に異人が歩いている。

 

 

馬人族。

 

人間よりも遥かに肉体を凌駕した生き物。

 

男性の馬人族も、女性の馬人族も、関係無い。

 

その駆ける足は風のように早く力強かった。

 

しかしやや不器用なところと、人よりも寿命が半分ほど短い事が欠点だ。

 

それは短く太いと言う事だ。

 

全力でターフを駆け行く生き物たち。

 

 

 

_へい!いらっしゃい!

_やはりお目当ては人参ですね?

 

 

_はい、もちろんです。

_10本ほど貰えますか?

 

 

 

二つの種族は友好関係を築き上げていた。

 

人間はとても器用な生き物なので得意とする農作物で新鮮な野菜を沢山育て、特に馬人族が好物とする人参を沢山売っていた。

 

馬人族はその人間達から好物である人参を買って生活を補っていました。 時にはその肉体を活かして人間達の生活を助けていました。 だが馬人族の本命はその対価として支払う"舞"を披露することです。

 

舞を踊るのは絶世の美女達であり、それは多くて人々を魅了するほどに美しい姿をしていた。

 

しかし競争力が互い種族であり、中央で舞を披露したい彼女達は身内でよく揉める事が多く、勝負事を行ってはその中央を勝ち取ろうと日々奮闘している女性の馬人族で栄えていました。

 

 

このように二つの種族は共存していました。

 

 

 

 

 

だが、人間と言うのは愚かで欲深い生き物。

 

愚かな人間が現れました。

 

 

とある人間は馬人族の女子(おなご)を1人騙して連れ去りました。

 

ある逸話に人魚の肉を食べると不老不死になる話がありました。 舞を踊る馬人族の女子達は逸話に出てくるような人魚の如く美しかったので、それを試したい愚か者達がいたのだった。

 

人間や馬人族に限らず女性と言うのは栄養が豊富な生き物なので、愚かな人間はその女子の肉を求めて引き裂きました。 その肉を食べる事で力を得ると勘違いした人間がいたからです。

 

 

そして、人間はそれを食しました。

 

禁忌を犯した。

 

愚か者達は大層気にいる味だったのか馬人族の女子の乱獲を始めた。

 

 

 

 

そして当然なら馬人族は怒りを持ち、人間達に抵抗しました。

 

有り余る力で愚か者達を返り討ちにして、またその愚か者が住まう村は一夜にして葬られてしまった。 人間の何倍も力がある馬人族だからそれは容易かった。 馬人族の子供でさえ人間の大人の腑を引きずり出せるほどに容易く、人々はその力に蹂躙されてしまい、生き残った村の人間は馬人族を恐れて降伏しました。

 

だがその怒りは収まらず馬人族はその人間達を捻り潰すと、愚かなこの種族に絶望して次へと動き出しました。

 

馬人族は舞を捨てると、血肉を抉るための鉄を脚と手に嵌め、武術に長けたものは薙刀を振るい、獣を掌る仮面をつけてはその拳で胴体を貫き、杖や槌で凡ゆる物を粉々にする。

 

馬人族は有りと凡ゆる村々を駆けては人間達を虐殺の限りを尽くした。

 

 

_誰か!ハンターはいないのか!?

_ええい!ガルクに乗って向かい打て!!

 

 

_同胞の怒り!!人間は皆殺しだ!!

_裏切り者の同族もやってしまえ!!

 

 

 

手を取り合っていた二つの種族はいつしか握っていたその手を血に染めて争っていた。

 

馬人族の怒りは収まらず膨れ上がる一方。

 

 

それから馬人族は進撃を続けた。

 

馬人族は大社跡を制圧すると製鉄が盛んなその里に目をつけてそこを目指しましたが、馬人族の中には人間が好きな者達がいた。

 

人間を恨む馬人族を宥めましたが、尽きる事ない怒りに染まり、ひどく掛かっていたのかそれを聞き入れる事は一切ありませんでした。

 

 

そうして二つの陣営に分かれた。

 

 

反人派の馬人族は、人間を攻撃した。

 

親人派の馬人族は、人間を守った。

 

 

それから睨み合いのように続き、不毛な戦いが始まった。

馬人族同士の力量は五分五分で消耗するのみ。

しかも人間側にはハンターの存在もあり反人派の馬人族は()をこまねいていた。

肉体的に及ばない人間達だがハンターは別物で有り、化け物に対して強い存在だったので馬人族は手出しが難しかった。

 

 

しかし、馬人族とある手段を思いつきました。

 

 

 

化け物には、化け物で対抗する。

 

 

モンスターを使って里を襲う考えを思いつくと、とある人間を捕まえて拷問を施し、翔蟲の存在を知った馬人族はそれを実行しました。

 

得意の脚でモンスターから"逃げ"て誘い、指定の場所まで"先行"すると、捕まえた翔蟲を"差し"て囲い、全員で"追い込み"ました。

 

 

それでもハンターの存在は強大なので、馬人族はもう一押しを考えた。

 

すると大社跡の寺院から逸話を拾ました。

 

 

_対よ! 対よ!

_愚か者に自然の裁きを!

 

 

 

その逸話を辿り【古龍】を目覚めさせた。

 

 

嵐が起き、雷が落ち、厄災の二つが動き出す。

 

人間の住まう里にモンスター達を差し向けて地獄の宴が始まった。

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

 

反人派の馬人族は"風神"と"雷神"の怒りに触れてしまう。

 

 

馬人族は 馬 としての本質を忘れていた。

 

(うま)は手綱を握られる側であり、手綱を握ることはできない。

 

大人しかったモンスター達は風神雷神の力に怯えると理性を忘れたように激しく暴れた。

 

手綱(翔蟲)をうまく扱えない馬人族はモンスター達に跡形もなく食われてしまいました。

 

 

そして皮肉な事か、馬人族を食したモンスター達はその味を占めたのか列を作って動き出しました。

 

狂った様に動き出すモンスター達の進む先は一つの里。

 

味を占めたモンスター達は馬人族を求めて里へ進む。

 

地獄の宴 が始まった。

 

 

 

__キュェェェエエエ!!

__グォォォォオオオ!!

 

 

 

風神は風を放ってモンスター達を進ませる。

 

雷神は雷を放ってモンスター達を狂わせる。

 

 

 

_有りったけの火薬をはなて!

_気炎万丈ォォ!! ッ、 が、はっ…

_嫌だぁ!死にたくない!ああああ?!!!

 

 

 

地獄の宴は日夜を繰り広げた。

 

この厄災から、馬人族と人間は共に戦った。

 

女性は里で窯を炊いた。

 

男性は武器を手に取った。

 

激闘は限りなく続いた。

 

凡ゆるものを失い、凡ゆるものを削る。

 

里が壊滅する、その一歩手前まで来ていた。

 

それでも人間と馬人族は力を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百竜夜行の勢いはいつしか収まった。

 

地獄の宴を乗り越えた。

 

しかし、多くの人間が失った。

 

同じく、多くの馬人族が失った。

 

戦場に出た男児は__皆が死んだ。

 

人間も馬人族も関係なく血肉が戦場に残る。

 

馬人族の『女子だけ』が里に残ってしまった。

 

それが幸運か不運かはわからない。

 

ただ、同族の交わりが無くなったことで馬人族は女子だけしか産めなくなってしまった。

 

 

故に同族での繁栄は__望まれなくなった。

 

 

 

それから人間と馬人族は互いに関わりを持つことを禁じた。

 

怒りと復讐の始まりは人間である。

 

しかし厄災の始まりは馬人族である。

 

だが人間はこの厄災を受け止めて生きていくことを決めた。

 

この先が絶望だとしても、それが贖罪なんだと思って。

 

女子のみしか残らない馬人族はそれをどうにかすることは出来ないと思った。

 

この人間達は、未来に残酷を託すのだと。

 

 

 

_私たちは、未来であなた達を助けます。

 

_このわたくし【トキノミノル】が……いえ。

 

_人の名である【たづな】の名を刻んで約束する。

 

_この厄災と戦う人間に寄り添い続けます。

 

 

 

1人の馬人族は違った。

 

この厄災を忘れてならないと皆に言った。

 

まだ子供ながらも、百竜夜行を引き起こした馬人族の失態と悪行に対して、その責任を持とうと考えていた。

 

 

_ダメだ、お主らは手を引けい!

_これは愚かな人間の誤ちから始まった!

_あなた達は悪くない! ここから逃げるんだ!

 

 

だが人間達はその申し出をことわる。

 

人間社会から手を引くように、強く言った。

 

 

 

_いやです。

_絶対に、私たちは戻ってきます。

_次は、隣人になれるように…

 

 

 

彼女は聞き届けることはなかった。

 

そして約束した。

 

 

もし再び百竜夜行が始まる時にまた現れる。

 

それを告げると生き残った彼女達は姿を消した。

 

 

 

 

そこには 馬人族 がいた…

 

それが、噂として落ち着いた。

 

しかしその里だけが、彼女達の存在を知る。

 

 

だからこそ人間は歴史を書き換えた。

 

罪も、誤ちも、責任も、事実も、真実も、先人達が墓場に持ち込み、隠した。

 

馬人族がいたことも歴史から消して噂だけにした。

 

 

それが正解なのか?

 

または不正解なのか?

 

そんなのはわからない。

 

 

ただ、その里は地獄の宴に苦しむだけ。

 

分からずして、苦しむだけ。

 

ありと凡ゆる【 業 】を背負って栄える。

 

それが人間の贖罪…

 

ただ、それだけだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「身勝手もいい所だな」

 

 

 

まだ夜だ。

 

いや、薄らとだが、朝焼け柄見える。

 

 

 

「はぁ…嫌な目覚めだ…」

 

 

 

夢を見た。

 

ひどい夢だ。

 

そしてこの夢は間違いなく、見せられた。

 

 

その見せた正体は分かりきっている。

 

この秘境に来てから随分勝手に割り込んで来た。

 

まるで訴えるように見せてくるのだ。

 

 

 

「んん……むにゃ……すぅ…すぅ…」

 

 

 

一緒に寝て…いた訳じゃないが、おそらく勝手に潜り込んできた彼女を抱きしめていなかったから本当に最悪目覚めだったと思う。

 

その寝息と何も知らないで幸せに眠る彼女を見て俺は落ち着く。

 

その頭を撫でてあげると耳がピクピクと動いて身を捩らせて、頬を緩ませると幸せそうな寝顔がより豊かになる。 相変わらず可愛い俺の愛バだ。 こちらの名を口ずさむ彼女の寝言を受け止めながら俺は布団を出て静かに外を出る。

 

まだ静かで寒い時間帯だがとある場所まで脚を進めて…

 

 

そして、立ち止まる。

 

 

 

「俺に何を求める、お前らは」

 

 

 

三女神の像は何も語らない。

 

幻獣の武器や血を埋めただけの石像だ。

 

中に女神がいたとしても語ることはない。

 

精神的な世界で訴えるだけ。

 

だから…

 

 

 

「俺が業を背負わされた一族の子だとしたら、言伝くらい受けれるよな、三女神」

 

 

 

三女神の像は何も言わない。

 

 

むしろ、もう伝えることは伝えた。

 

そう訴えるように何も応えなかった気がする。

 

 

「…」

 

 

ああ、本当に御し難い。

 

馬人族の…いや、ウマ娘の業を拭うだけにあるからそれ以外はどうでも良いんだ。

 

時が来たら、その時に必要無いモノだって構わず消して、ソレを成すだけを考えれば小を切り捨てて大を救う。 雑に扱われた俺だって一族だろうが関係無く三女神からしたらその程度で、50年前の業を拭えるのならそこに躊躇いも、道徳も、価値観も、なんの意味もなさない。

 

 

ああ、まるで…

 

 

 

「人間のように愚かだ」

 

 

 

 

怒りはある。

 

理不尽に頭も悩ます。

 

知ったことで悲しみもある。

 

不効率だって思うこともあった。

 

真意も問いただしたいくらいに苛立つ。

 

けど三女神の像はそんなことに取り合わない。

 

 

だって、ウマ娘さえ良ければ絶対にそれで良いのだから。

 

そのくらい身勝手で…

 

でも馬人族を救いたいだけだから。

 

 

 

 

「俺はお前らのためには思わない。 一族のつもりであるつもりもない。 追放された時から歯車になってやる気はさらさらない。 けど…」

 

 

 

秘境に朝日が見える。

 

綺麗な色が1日の始まりを知らせる。

 

 

だから表情は少しは穏やかになれたと思う。

 

でも抱えるこの心は、(たぎ)る。

 

 

 

「百竜夜行は終わらせてやる。 ウマ娘が戦わなくていいように奮ってやるよ。 アマグモの名を持つ俺は…」

 

 

 

 

 

モンスターハンター だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマグモ…」

 

 

 

やよいは見ていた。

 

 

そして映していた。

 

 

持っていた(トキノミノル)名を捨て、人間(たづな)の名を騙ってまで果たそうとするその姿は、秘境に現れる朝日によってその幻覚が映し出された。

 

 

アマグモ と トキノミノル の姿が重なった気がした。

 

 

 

 

「マルゼンスキー…見ておるか? お主が産んだ子供は…」

 

 

 

やよいは朝日が眩しくて目を閉ざす。

 

その時に……薄らと、雫が落ちた気がした。

 

 

 

 

「私達の、馬人族の業を晴らしてくれるかもしれぬ…」

 

 

 

馬人族の夜行に____朝が来た…

 

そんな気がした。

 

 

 

 

つづく

 





本当に、あらゆることがどうしようもないね。

ウマ娘の業を晴らすために道徳など捨て働く三女神も。
業を加速させてまで約束してしまったトキノミノルも。
最後の世代にしようと三女神に否定的に奮うやよいも。
妻を亡くして怒り狂って息子を残したアマグモの父も。

そしてこれも全て愚かな【人間共】から始まった悲劇。
それが百竜夜行として始まった夜明けのない大罪の群。

人間は何度だって過去の誤ちを繰り返す。
竜大戦時代の如く、引き金を人は竜達に蹂躙される。


本当に、本当に、どうしようも、ないね。



ではまた


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22話

踏ん切りが付いたから
更新速度が戻ってきたァー!(直前加速)


 

「おお、これは高いですねぇ〜」

 

「まさに青い空のようにセイウンスカイだな」

 

「にゃは、これはもう私の世界だね」

 

「無茶言うなって」

 

 

 

オデッセイブレイドは装備したままエピタフプレートは壁にかけて、適当な樽箱の上に座る。

 

そして先程テイクアウトしたチーズフォンデュを食べているところだ。

 

 

 

「でもでも! テイクアウトと言えばマヤの十八番だよ!」

 

 

「ええ?」

 

 

テイクアウトしたチーズフォンデュを食べてると一人のウマ娘が割り込んで来た。

 

オレンジ色の髪が風にあおられて靡かすウマ娘。

 

 

「ありゃ? マヤノの場合テイクオフじゃないのですか?」

 

「ふっふっふ! セイちゃん、大人の女性になるにはテイクアウトされる女性になる必要もあるから、マヤちん的にはどっちもアリなんだよ! あ、でもでも、もうトレーナーちゃんにテイクアウトされてるから大人の階段は登ったんだよマヤは!」

 

「ほぉ? 大人の階段ねぇ…? じゃあ、マヤノは君のトレーナーとうまぴょいしたのかな?」

 

「…ほぇ?」

 

 

 

あ、これはあかんやつや。

 

 

 

「う、うまぴょい…って、あの、うま、ぴょい?」

 

「うまぴょいと言ったらうまぴょいだねぇ。 オグリさんの美味ぴょいとは別物。 夜食われる奴ですよ」

 

「う、うま、うまぴょ…い!? ええと! え!? ええ! そ、それって、ト、トレーナーちゃんと!? 私がうまぴょい!? あ、あわわわわ!」

 

「にゃは、マヤノには刺激が強かったかな?」

 

 

余裕面が一気に崩れるマヤノトップガン。

 

同じ逃げウマ娘でも今回はセイウンスカイに勝てなかったようだ。

 

 

「ちなみに私はうまぴょい済みだよ」

 

「えー!?私と同じ逃げウマなのに!!」

 

「セイちゃんは一足先に逃げさせて頂きました」

 

「うわー! 大人(おっとな)ぁー! …でも、むむ……むー! セコイ! マヤも大人になりたい! だからトレーナーちゃんと今からテイクオフうまぴょいしてくる!」

 

「おいおいおい!待て待て待て! テイクオフうまぴょいってなんだ!? あとマヤノトップガン、うまぴょいするのは勝手だがここでするな!」

 

「あ、うまぴょいは許すんだ…」

 

 

やや呆れながらもそのまま勝手に俺の膝を枕にして寝転び始めたセイウンスカイをよそに、空の上でテンション高いマヤノトップガンの暴走を落ち着かせる。

 

てか、うまぴょいってやはりそう意味なのかやっぱり? もっと健全かと思ってたんだが…

 

 

 

「…」

 

 

 

さて、一度現状確認だ。

 

俺たちは今日の早朝に秘境を出た。

 

早起きしたタマモクロスやスーパークリークに見送られながらキリンの姿になったやよいの背中に乗せてもらい、エピタフプレートはセイウンスカイが背負うと一気にベルナ村まで進んだ。

 

秘境からベルナ村まで距離はあるが人間が住まう集落自体はベルナ村の方がまだ近いのでそこまで案内してもらった。

 

あとなんだかんだで秘境の環境ってベルナ村と似ていたように感じたが、山岳とか草原とか地形の関係上でベルナ村がそれに近いらしい。

 

あとやよいもベルナ村には何度か足を運んだことがあるようだ。 秘境にもあったがシチューやチーズフォンデュはベルナ村からレシピを持ち込んだらしい。 料理の得意タマモクロスとスーパークリークがしっかり再現したとか。

 

ちなみにベルナ村を選んだ理由は、秘境から近いから向かったのではなく、その村には飛行艇があるからだ。 そこからユクモ村まで飛ぶ予定である。 本当は前までユクモ村に続く空路はなかったらしいが、ユクモ村の環境が落ち着いたのか空路や船便が開通したようだ。 是非活用しようと思ったまでなので、ユクモ村に到着したら荷車なり何なりでカムラの里に戻る流れだ。

 

 

さすが最前線を行く龍暦院が集う村だ。

 

移動手段も豊富である。

 

 

 

それで…だ。

 

隣で大人の女性を夢見るたウマ娘のマヤノトップガンと偶然この便で出会った感じだ。

 

 

正直びっくりした。

 

ちなみにマヤノのハンターは空酔いして倒れていが「そこがトレーナーちゃんの可愛いところ!」と喜んでいた。

 

俺はそのハンターに少し哀れむ。

 

 

 

「あと…」

 

 

「?」

 

 

「良く生きてたね、アマグモちゃん」

 

 

「! …まぁな。 やはり1週間近く失踪してたから騒ぎになってるか?」

 

 

「うん、フクズクちゃんからも生存が確認されないから、中にはアマグモちゃんが死んだんじゃ無いかと思って人もいたみたいだよ。 でもマヤと仲のいいテイオーちゃんが『そんな事はあり得ないよ!』って言ってたからマヤもそうだなって思ってたよ。 あと上位ハンターになったケシキちゃんもアマグモちゃんを信じてたよ。 古龍が相手だろうがあの人はそう簡単に死なないって」

 

 

 

いや、実際に死にそうになってたけどな?

 

オオナズチが普通にやばかった。

 

でも俺がこうして生きてるのは体内に幻獣のツノが混じっている事と、この血筋のおかげなんだろう。

 

あとユクモ村の温泉に毎日入ってたから代謝機能が高まったりと毒に対する体制が異様に付いていた。

 

それもあるから2年前の薬物依存性からハンターに復帰して打ち勝てた。

その時だけ一族だったことをありがたく思う。

 

でもオオナズチの毒霧の直撃は本当にダメ。

普通なら肉が溶けて声を発するもなく死んでる。

今も良くあの攻撃から生きていたと思う。

 

 

 

 

「とりあえず無事である事は顔を出す事で知らせるよ」

 

 

「うん、それが良いと思うよ! …あ、でも、マヤの予想ではアマグモちゃんが里に戻ってからまず最初に__」

 

 

「あー、やめとく。 マヤノの予想は当たるから」

 

 

 

帰ったら絶対面倒なことになるだろう。

 

まあ、クエスト中の相手が相手だ。

 

死んでてもおかしくないだろうクエストから人が生きて帰ってきたら騒ぎにはなるのは想像に容易い。

 

 

カムラの里に帰ったら確実に面倒になるだろう事後処理に遠い目をしながら俺は飛行艇に揺られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、無事にユクモ村に到着した。

 

マヤノは空酔いしたハンターを介抱するために一泊すると言って村の奥に消えた。

 

次は俺とセイウンスカイだが…

 

 

「おお! 久しぶりに見る顔じゃないか!」

「アマグモ!? アマグモじゃないか!」

「あら! おかえりなさい!」

「アマグモにいちゃん!」

「あ、セイウンスカイだ!」

「わー! お嫁さんと一緒だよ!」

 

 

 

相変わらずお出迎えがやかましい。

 

とても嬉しいけど落ち着いて欲しい。

 

あと沢山の無垢な子供達から揶揄われてしまったセイウンスカイが尻尾ピーンから「無理ィー!」と逃げそうになったけど首袖を捕まえて逃がさないようにした。 そろそろ慣れろって。

 

 

 

「……」

 

 

しかしユクモ村では俺が失踪した話は一切出てこなかった。

 

こちらから尋ねた話ではないがユクモ村の人達からするとアマグモはいつも通りハンターを頑張っている、そんな認識だった。

 

なので俺自身も村の人たちには「俺実は失踪中」と明かさず隠すことにした。

 

本当の意味で騒ぎになるから。

 

 

つまりギルドは俺の現状をまだ黙認してることになる。

 

まだ俺が死んだ事は確定ではないからそう簡単に広め無かったと思う。 心配事が広まるからそれで助かったが、あと数日遅かったら話が広まってたかもしれない。 緊急クエストの相手が相手だからな。 死亡率はバカにならない。

 

 

とりあえずユクモ村からでも良いのでギルドに顔を出そう。

 

なんなら伝書鳩飛ばしてカムラの里にいち早く生存を知らせるのも有りだろう。

 

 

 

「お? 久しいな。 相変わらずジンオウガが二枚爪から解放されたような顔してるな」

 

 

「どんな顔だよゴールドシップ」

 

 

 

やはりいるよな、コイツ。

 

秘境の三女神とは別の方向で疲れる存在だ。

 

 

 

「ゴールドシップ! 待ちなさい!」

 

 

「お! やべぇ! 110番だな! そんじゃバイビーなワトソンくん! マンドラゴラに三角攻めができるようになったらゴルゴル星の3丁目に案内してやるよ」

 

 

「どこだよそれ」

 

 

「中村さんが管理してくれてる魔境」

 

 

 

中村さんって誰だよ。

 

いや、すげーな中村さん。

 

ゴルゴル星とか絶対魔境なのにその一角の管理任されるとかすげーな中村さん。

 

あと相変わらず何かやらかしたのかメジロマックイーンに追いかけられていた。

 

いつも通りで安心したいけど安心したくない。

 

でも仕方ない。

 

それがゴールドシップ。

 

 

 

「村長さんいないね」

 

「集会所かな? 行ってみるか」

 

 

 

セイウンスカイと集会所に向かう。

 

そこに続く石階段をは久しぶりだ。

 

その途中でウマ娘達とすれ違う。

 

 

メジロライアン、今日も筋肉を虐めようと逆立ちで石階段を降りて行く姿が見られる。

 

メジロドーベル、やはり異性が苦手なのか目を合わせると慌てたように目を外した。

 

メジロパーマ、人当たり良さそうに元気よく振る舞いながらこちらに挨拶してきた。

 

メジロアルダン、令嬢であることを示すように礼儀良くお辞儀してくれた。

 

 

やはりユクモ村はメジロが多い。

 

 

 

 

__メジロが、目白押し……ふふっ。

 

何故かわからないが、カムラの里にいるとあるウマ娘のやる気が下がった気がした。

 

 

 

 

まあ、それはそれとして…

 

 

 

「シュンギク、久しぶりー」

 

 

「にゃぁ!? アマグモしゃん!?」

 

「やっほー」

 

 

思わずドリンクを落としそうになった俺の元オトモアイルーに苦笑いする。 ドリンクを抱えながら嬉しそう柵まで近づいてきたので軽く会話を挟む。 シュンギクも俺が失踪してた事は聞いてないようだ。 彼にも心配させたくないので俺が緊急クエストでオオナズチに殺されそうになった事は黙っておくことにした。

 

 

後で温泉に向かうことをシュンギクに告げてから、ユクモ村の受付まで向かう。

 

すると既に俺の姿を捉えていたのか、受付嬢のコノハもササユがひどく驚いていた。

 

 

「う、うそ…!」

 

「ア、アマグモ、さん…!?」

 

 

「あー、その感じだと二人は俺のことを聞いてる感じか?」

 

 

「「!!!」」

 

 

二人は揃ってコクコクと必死に頷いで訴える。

 

やはりギルドではその話が持ちきりになっていたのか。

 

あと俺自身がユクモ村の専属ハンターなのでユクモ村ではその話がすぐに舞い込んだのだろう。

 

随分と心配をかけたようだ。

 

 

 

でもそれを裏切るように俺は秘密を抱えてる。

 

実のところ失踪中にイビルジョーを狩っている。

 

 

でも内緒にしておこう。

心配に心配を重ねたくは無いので。

 

 

それから俺は足湯から帰ってきたギルドマスターとコンタクトを取り、付き添っていた村長さんにも会って無事を知らせた。

 

実は少し涙もろい村長さんなので俺の無事を知って泣きそうになっていた。

周りにいた人たちは何事かと騒ぎ出してたので場所を移すことにした。

 

ギルドマスターと村長さんには傷を癒すためにセイウンスカイと隠れていたことを伝えた。

 

半分嘘だけど、半分は本当だ。

 

申し訳ないがウマ娘のいる秘境の話はできない。

 

 

「カムラの里に戻るのですね?」

 

 

「はい。 戻って顔を出します。 ですが今日はここに泊まります。 温泉が恋しいのであと1日はバチが当たらないと思ってます」

 

 

「そうですか。 でしたら少しでも体を癒やして下さいアマグモさん。 この村はあなたの家なのですから」

 

 

「村長さん、ありがとうございます」

 

 

 

村長さんの言葉はすごく嬉しかった。

 

俺の名前と心はこのユクモ村にある。

 

育ちも、恵も、空気も、この場所からだ。

 

それを育てて、見守ってくれた村長さんが言ってくれるから俺は有難い気持ちに包まれる。

 

アマグモはこのユクモ村で生きているんだと。

 

 

 

「セイウンスカイ、村の外に少し出かけるぞ」

 

「出かける?」

 

「特産タケノコとサシミウオを使った黄金の釜飯丼、食べたくないか?」

 

「!!」

 

 

尻尾ピーンの彼女を見て予定が決まった。

 

まだ時間的にお昼過ぎくらいなので今から渓流に向かってタケノコを収穫すればユクモ村に帰ってくる頃は夕方だろう。

 

 

「決まりだな。 ならネコタク探して行こう」

 

「なんならセイちゃんが背負いますとも!」

 

 

帰ってきて早々だが自然の恵みを得るために出かけることにした。

 

それにしてもユクモ村での採取クエストは何年振りだろうか。

 

村長さんと受付嬢の二人から見送られて俺とセイウンスカイは渓流に向けて足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特産タケコノ狩りを終えたタイミングでペイントボールの香りがした。

 

あと仄かに何か混ざったような香り…

 

この渓流に大型モンスターでもいるようだ。

 

警戒してエリア2まで進むと…

 

 

 

「グルル…」

 

 

 

「え……なんだ、あの赤いアオアシラは…」

 

「で、でかいね…」

 

 

渓流のエリア3で特産タケノコを採取してエリア2に出たところだ。

 

姿形はアオアシラなんだが赤色に染まった巨体がノシノシと歩いている。

 

しかし大地を踏みしめるその足の筋肉は通常種よりも発達しており、運動能力の高さが伺える。

 

まるでウルクススだ。

 

巨体を弾丸のように飛脚するモンスターなのだが、あの赤いアオアシラもそれと同等の筋力を持ち合わせているように見える。

あと赤い頭が兜のように見えるのも只者ではない証だろうか?

 

見た目だけでも並じゃないなあのモンスターは、戦闘は避け__

 

 

 

「やっと見つけたぜェェ! 紅兜(べにかぶと)ォォ!」

 

「ターボも一緒だからな!!」

 

 

 

 

「ふぁ!?」

「うわ!?」

 

 

俺とセイウンスカイがこっそり観察していると一人のハンターと、一人のウマ娘が現れた。

 

そのハンターは俺が良く知る人物で、お得意のスラッシュアックスを構えて紅兜と言われるアオアシラに叫ぶ。

 

元相棒の"ユタカ"だ。

 

そして隣にいるウマ娘は"ツインターボ"だ。

 

目ん玉ギラギラ出走しそうなコンビがエリア2に現れた。

 

 

 

「グォォォオオオ!!」

 

 

「「!!」」

 

 

 

なっ、アオアシラがバインドボイスだと!?

 

 

 

「うるぉぉおあアア!!」

「ターボぉぉぉお!!」

 

 

しかし赤いアオアシラと対立するユタカとツインターボは闘争心を奮わせるように叫び、バインドボイスに対抗していた。

 

そんな荒技あるのか…

 

いや、よくみたらツインターボの首にかけている護石がキラリと光る。

 

もしかしたら…

 

 

 

「ターボは耳栓のお守りで怖くないもんね!」

 

「オレは耳栓は無いが…必要ねェ! 声なら声で相殺すりゃ問題ねぇからなァ!」

 

 

いやいやいや、その理論は分かるけどモンスター相手にそれはおかしい。

 

相手は数倍の肺活量を持ち合わせているんだぞ?

 

 

いや…

 

でも、ユタカだからそれは仕方ないか。

 

納得するしか無い。

 

 

 

「おい!アマグモ! 再開久しいところだがお前が隠れてんのオレは知ってんだ! 巻き込まれない内に退けェ!」

 

 

「おっと、バレてたか!」

 

 

紅兜もこちらの存在に気づいたようだ。

 

どうしようか?

一度エリア3まで退くか?

 

遠回りが面倒だな…

 

 

 

「ユタカ! だったら少し手伝わせろ!」

 

 

「あんだとォ? …ならばお前は右からヤレ!」

 

 

 

セイウンスカイに特産タケノコを預けるとオデッセイブレイドを構えながら鉄蟲を上に放って紅兜の真上を取る。

 

ユタカもそれに合わせてスラッシュアックスを変形させながら斬り込んだ。

 

紅兜は大腕を振るって迎撃するが、タマミツネの滑液でコーティングされたオデッセイブレイドの盾で滑らせるように受け流す。

 

そのままオデッセイブレイドを逆手に持って首に突き刺して固定すると翔蟲で紅兜を絡ませて、ユタカが左足を刻んだ。

 

 

「グォォォオオオ!?」

 

 

 

「調味料の香りがするなコイツ!」

 

「3日前に行商人の荷車が襲われてなァ! 赤いアオアシラと言うから討伐に出たらコイツが出てきなァ!」

 

「それにしてはまともじゃない熊さんだ!」

 

「ギルド曰く紅兜と言われるらしいぜェ!」

 

 

 

会話を挟みながらも紅兜を攻撃を回避しながら翔蟲での拘束を試みしつつ、その間にユタカが強烈な一撃を与える。

 

 

「腕は硬いから頭だァ!」

 

「いや! 腕は爆ぜる!」

 

「ンア? 何する気だァ?」

 

「お手製の鬼火を付与したらユタカは属性解放をぶちこめ! 愉快なことになるぞ」

 

「鬼火ィ? …ハッ! そりゃ楽しみだァ!」

 

 

 

「グルル!! グオオ__」

 

 

 

「「やかましいィィ!!!」」

 

 

「__ゴ、ァ!?」

 

 

 

紅兜がバインドボイスを放つ瞬間に俺とユタカは同時に音爆弾を紅兜の顔に放り込んでキャンセルさせると、俺は走りながらマガイマガドとタマミツネの素材で作り上げた鬼瓶ンをオデッセイブレイドに付与させて、紅兜に飛びかかる。

 

 

ユタカは一歩後方に下がると地面に膝をついて腰から砥石を取り出す。

 

いや、普通の砥石では無い。

 

あれはクルペッコ亜種が使う"電気石"と合成された特別な砥石だ。

 

 

 

「この瞬間が心躍るんだよなァ!!」

 

 

 

ジンオウガの素材から作られた"王牙剣斧【裂雷】"に向けて打ちつけるように研ぐと、バチバチと雷を弾けさせながらスラッシュアックスが瞬いた。

 

 

「このデカ熊ガァ! くらえヤァァァ!!」

 

 

ジンオウガのごとく帯電した剣モードのスラッシュアックスを紅兜に突き刺してトリガーを引いた。

 

轟音を響かせながら放たれた属性解放、それに反応した鬼火が赤と黄と紫色が混じったような爆発を起こす。

 

紅兜から砕けるような音が響き渡った。

 

 

 

「よし、上手くいった」

 

「うおおお! こりゃすげぇぇえェェ!!」

 

「爆破属性に肉質なんて関係ないからな」

 

「そりゃそうだァ! アッハッハ!」

 

 

紅兜はよろけながらエリア6に逃走する。

 

しかしまだ残っていた滑液に足が囚われたのか坂道を滑らせながら紅兜はズルズルと雪崩れ落ちる。

 

しかし道を外れて崖から落ちていってしまった。

 

方向的にエリア5だが正規ルートじゃないな。

 

 

 

「おうおう、なんとも惨めな落ち方だァ」

 

「でも逃げちまったな」

 

「別に良いさァ、今日で最後にしてやるからな。 しかし久しぶりだなアマグモ! 元気してたかァ?」

 

「いや、それが死にそうになってた。 でも悪運が強いのか生きてたよ」

 

「そうかそうか、そりゃ何よりだァ。 ま、こんな稼業やってりゃいつかパタリと沈むけどなァ」

 

「違いない」

 

 

 

 

「セイウンスカイ! 久しいな!」

 

「やっほ、セカンドターボ。 久しぶりだね?」

 

「ツインターボ!! ツ・イ・ン !!」

 

「にゃはは、って…その腰にあるのって?」

 

「これか? ユタカを助けるためのターボの大事なモノ!」

 

「!」

 

 

紅兜が逃げ落ちた方向を眺めながらユタカと再会を交わす。

 

成り行きで共闘したが互いに無傷で退けた。

 

あとユタカからあの紅兜は二つ名のアオアシラだと説明受けた。

 

渓流にはあんな個体も現れているのか…と、考えていたら。

 

 

「アマツマガツチだっけかァ? そいつを撃退してから渓流の環境が落ち着いたが変な奴が現れるようになってなァ、紅兜もその一つだなァ」

 

「は!? アマツマガツチ撃退したのか!?」

 

「強かったぜェ! 倒せなかったがなんとか霊廟さら追い払ったからユクモ村近辺の環境は取り戻したァ! メジロ家の令嬢達の支援があってこそだァ!」

 

「ターボも頑張ったんだぞ!」

 

「おうよ! 知ってるぜェ! さすが俺の相棒だァ!」

 

「ふふん!」

 

 

あの古龍を撃退したのか。

 

なるほど、だからベルナ村からユクモ村の航路が安定したのか。

 

でも撃退と言うことは安全は一時的か。

 

また現れる可能性もあるのか…

 

けどユタカなら問題ないだろう。

 

 

 

「とりあえず悪いな、勝手に手助けして」

 

「構わねェな。 オレとしては先程の爆発と言い面白いモノが見れたから満足だァ! だが、ここからはオレとツインターボでやる。 このクエストはオレ達のだからな」

 

「そりゃそうだ。 邪魔したな、ユタカ」

 

「おう、帰り道は気をつけろよォ」

 

 

 

ユタカは別れを告げると紅兜を追いかけた。

 

ツインターボもユタカを追いかけて後ろ姿を見せるが…

 

 

「え??」

 

 

まて、見間違いじゃ無いよな?

 

ツインターボの腰に装備してるの…

もしかして"武器"か?

 

 

見たところ、ネコ・パンチの片手剣だが…

 

気のせいか?

 

それとも野良のアイルーから回収した物か?

 

だがツインターボが使うサイズに調整されているように見えるし、そこそこ使い古されたように見える。

 

 

 

「………」

 

 

 

そうか、そうなのか。

 

ここでも環境は変わっているのか。

 

 

 

 

わかってるな、ユタカ?

 

ウマ娘は 応える生き物 だ。

 

間違えるなよ…

 

 

 

「セイウンスカイ、行くぞ」

 

「あ、うん…」

 

 

 

俺はユタカを見送りながらセイウンスカイと共にエリア2を抜けてエリア1まで。

 

水辺で子魚を捕まえようとするガァーグ達を眺めながらベースキャンプまで足を進めた。

 

 

「ツインターボ……」

 

「?」

 

「あ、いや、なんでも無いですよ? それにしてもまさかアマグモも戦い始めるなんてセイちゃんは驚きですよ」

 

「え? ああ、ユタカが居たからな。 倒すべきモンスターだと判断した」

 

「息ぴったりだったね」

 

「そりゃ、元とは言え相棒してたからな。 動きは互いに熟知してるよ。 率先して動くのはユタカだけど」

 

「そこにアマグモが合わせるんだね? 息ぴったりなのは見ていて安心するけどセイちゃん的にはちょっと妬いてしまうかなー、なんて」

 

「相棒はユタカだけど、愛バはセイウンスカイだから」

 

「うわー、浮気者ー」

 

「やめい」

 

 

そんな彼女に笑いつつ特産タケノコを入れた籠を揺らしながらベースキャンプに到着。

 

待機していたネコタクのアイルー達に帰ることを伝えると、台車に特産タケノコと俺を乗せてもらう。

 

セイウンスカイもネコタクに乗れたが…

 

 

「ごめん、少し走らせて…」

 

 

何か考えるような表情でネコタクと並走していた。

 

 

 

「…」

 

 

君もなんだなセイウンスカイ。

 

ああ、わかってるよ。

 

ハンターの愛バにした以上はそうなってしまうよな。

 

いずれはそうなると思ってたさ…

 

なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、採取ツアーから帰ると受付嬢とギルドマスターに紅兜アオアシラの話をした。

 

出かける前に渓流の環境が不安定な事は知らされていたにせよ交戦したことに驚かれた。

 

しかしユタカと退けた話をすると感心された。

 

ちなみにユタカに関しては討伐に出て今日で2日目突入らしい。 そうなるとこの夜で倒せなかったら3日目か? ツインターボも良くユタカについて行くものだ、すごいよあの子。

 

 

 

「よし、作る。 セイウンスカイはサシミウオを釣ってきて」

 

「はーい、セイちゃんが絶対釣ってきますとも」

 

 

調理器具を村の人たちが借りた後、オトモ広場の炭を使って釜飯を作り始める。

 

特産タケコノを適当なサイズに切り、オトモ広場のアイルーから貰った野菜も同じくらいに切る。 購入した米も味付のついた出汁の中でかき混ぜて、食材を放り込み、火を起こす。

 

釣り糸を垂らしたセイウンスカイがサシミウオを釣り上げたので焼き魚にして釜飯の中にほぐして放り込む。

 

しばらく待つ。

 

 

 

きゅ、きゅ、きゅ、にゃー!

 

きゅ、きゅ、きゅ、にゃー!

 

 

「え、何その踊り…」

 

「なんともポカポカしたアイルーだけが住む村があってだな? こんな踊りがあるらしい」

 

「振り付けがすごく単純…」

 

「でもこれを気が済むまでやり続ける踊りだとか」

 

「恥ずかしさより疲れが勝る踊りだね、これ…」

 

 

 

夜ご飯が完成した。

 

蓋を開ければ黄金色の釜飯が顔を出す。

 

 

夕日は落ちていたが釜飯の中にはまだ綺麗なオレンジ色の景色が残っている。

 

二人で満足の行く晩飯を堪能した。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ユクモ村と言えば当然ながら…

 

 

 

「いい湯だなぁ…」

 

「疲れが抜けるぅ」

 

 

人が少なくなった時間帯の集会所まで足を運んで温泉に入ることにした。

 

湯船を掻き分けながら奥まで進む。

 

湯に浸かりながらユクモ村一帯を見渡せる場所まで腰掛けた。

 

今日は満月でお星様がよく見える。

 

 

 

「アマグモお疲れ様、今日まで色々大変だったね」

 

 

セイウンスカイが湯を掻き分けて近寄ると横に座り、こちらの肩に彼女の頭が乗せられる。

 

湯によって上がった体温は頬を赤く染めて、むふふ〜ん、と満足そうに声を漏らす。

 

そのまま耳がてしてしと後頭部に触れるが労っているつもりだろうか? 変に悪戯好きなところがあるから対して意味なく耳で叩いているのだろう。

 

あとは彼女なりの愛情表現…

 

またはウマ娘特有の独占欲なのか。

 

彼女の湿った耳が首筋にピタピタと触れてほんのくすぐったい。

 

 

「濃い5日間だった。 色んなことを知り過ぎた。 知らなくても良かったことも含めて」

 

「わたしにはアマグモの抱える苦労は測れない。 でもアマグモにはあまり使命感とかとらわれないで欲しいと思ってるよ」

 

「セイウンスカイ?」

 

「アマグモ、秘境に滞在してる間よく長と話していたでしょ? アマグモのルーツが秘境だと聞いた上に、長と同じ一族だとか言い出した。 長はイビルジョーの討伐だけアマグモに頼ったけど、でもアマグモがそれ以上に、その…変に色々と背負うんじゃないかなって、セイちゃんは思うと言うか何というか…」

 

「別にそんなつもりは無いよ? 俺は俺であり、ユクモ村のハンターとして振る舞うまで。 一族だとかは関係ない。 けれどやよいの理想は賛同してるし、手伝えるならそうしてあげようとも考えてる」

 

「長の理想?」

 

「ウマ娘が人間社会に出て、人々の営みの中で生きていけるようにすること…と、言っても俺がやれる事は百竜夜行を終わらせるだけだ。 俺はハンターだからそれしかやれない。 そこから先はやよいの采配次第だな」

 

「そっか、安心した」

 

「ユクモ村からアマグモの名を貰ったこの身はモンスターハンターとして始まった。 そこに全霊を注ぐまで。 だから安心しろ、俺は変わらずだよ」

 

「うん」

 

 

彼女は安心したように声を出しながら頷く。

 

肩に乗せてきたその頭に手を伸ばして彼女を撫でることで応えた。

 

湯船で乱れた彼女の髪の毛を指で掬い上げて耳にかけあげればその表情が良く伺える。

 

まだどことなく幼い顔つきだ。

 

目の奥は落ち着いてどこかしら達観したよくな眼差しだが、案外負けず嫌いな性格であることを俺は知っている。

 

 

「…」

 

 

でも俺はセイウンスカイのそれ以上を知った。

 

そうなった理由をゴールドシチーから聞いた。

 

 

彼女は"ハズレ"を引かされた。

 

原因は俺の父親だが三女神の中に蓄えられた因子が減ってしまったので、三女神はその尻拭いのためにセイウンスカイを選び取り、彼女には充分な因子継承を行わず弱いウマ娘を作り上げた。

 

誰よりも劣るウマ娘のまま秘境の外に出て百竜夜行に立ち向かわされた。 そうやって死地に向かわされた被害者。

 

 

不安で仕方なかった筈だ。

 

それに俺は覚えている。

 

初めて会った時の彼女の目を。

 

 

諦めを抱いていた…

つもりだった。

 

諦めきれない自分に苦しんでいた。

 

虚栄を張って飄々と振る舞う彼女を見た。

 

 

でも俺は彼女の強さとか関係なくて、彼女を選びたかった。

 

あ、この子なんだと。 ただそれだけ。

 

一目惚れに近いのかもしれない。

 

でも彼女とならと鼓動はどのウマ娘を選ぶよりも早かったからその手をとって、その脚を頼りにした。

 

 

それでもタネを明かせば俺が選んだ中で一番弱いウマ娘だと言うこと。

 

 

でも今はどうだ??

 

彼女は俺の立派な愛バだ。

 

つい前日までイビルジョーを討伐に漕ぎつけた優秀なウマ娘だ。

 

弱かったなんて思えない程にその脚は立派だ。

 

 

でも彼女をそこまで育てることが出来たのは俺が一族の血筋を引く者だから出来たとでも言うのから。

 

否、断じて違う。

全力で否定させてもらう。

 

血筋だとか関係ない。

 

俺は彼女と二人三脚で踏み締めてきだけだ。

 

特別なことは何一つ無い。

 

 

 

「セイウンスカイ、のぼせてないか?」

 

「んん……だぃ、ひょう、ぶ…」

 

「お眠だな。 そろそろ上がろうか」

 

「ん…」

 

 

 

本当はもっと湯に浸かっていたいところだが、彼女の事を考えて上がることにした。

 

本当は彼女だけ先に上がらせたらいいのかもだけどこの時の彼女はなかなか上がらない。

変に聞き分けが悪いというか、子供というか。

甘えん坊と言うにも違うか。

 

なので俺が上がると言えば彼女もついてくついてくする。

 

 

まぁ温泉に関してはユクモ村にまた来ればいいだけの話だ。

 

彼女を支えながら湯船から立ち上がり、湯をかき分けてその場を後にした。

 

 

 

明日はカムラの里に帰る日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

地獄の宴は終幕へと進む。

 

 

 

 

 

つづく




さりげない温泉回でしたが、この後マヤノトップガンの予想通りカムラの里に帰ってきたアマグモは大変でした。 でもエピタフプレートはしっかり持ち帰ったので、上位クラスの回収ハンターとしての意地は皆に見せれました。

ユクモ村ハンターのユタカはメジロ家の支援と共にアマツマガツチを撃退して霊峰から追い出しました。 倒せてないのでまた現れますが、この人なら大丈夫でしょう。 セカンドターボ師匠も隣にいるので怖い物なしだ。

メジロマックイーン「かっ飛ばせ! ユタカー!」
ユタカ「とっとと消し飛べやァァァ!!」
アマツマガツチ「ギャース!」


ではまた


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23話

公式だと百竜夜行って数百年続いてる設定で、その中で50年前に大打撃を受けたと言う流れです。
作者はそれを忘れてました(賢さG)

し、仕方ないよね。
モンハンって基本的に設定とかふんわりしてるんだもん。




_マァァーーべラァァアス!!

 

 

 

_マーベラァァアス…

 

 

 

_マーベラァース…

 

 

 

_べラース…

 

 

 

_ラース…

 

 

 

 

 

「………ぷっ、今は…」

 

「くくっ、唐突過ぎる…」

 

 

カラクリで動くヨツミワドウ(サンドバッグ)の音を交えながら突如、真上から女の子の声が響き渡った。

 

ナイスネイチャ曰く非常に独特な叫び声と言ってたが、たしかにそうだと思う。

 

彼女にとって、朝起きる時、挨拶する時、ご飯を食べる時、走る時、話す時、歩く時、寝る時、どんな時にも使われる万能な言葉。

 

故に、不意打ち気味なこの叫び声に思わず吹き出してしまい、武器を握る力が緩んでしまった。 負けた。

 

 

 

 

「にゃはは、今日もあの上にいるみたいだね」

 

「古代遺跡の資料とかを目に通す事を趣味とするあの子なら、この訓練所の真上にある石碑に興味深々だろう。50年前の騒動が深く刻まれてるからな」

 

「オフ中は大体そこに居るみたいだね」

 

「俺も結構前に見に行った事あるけど、百竜夜行の騒動以外何も書かれてなかったぞ。 あとガルクの像がいくつか置いてたくらいだ。 よく見飽きないよな」

 

 

苦しい歴史と戦いが石壁に刻まれているが、百竜夜行と戦う里人やハンター、ガルクにアイルー、今と変わらない光景が石壁に映し出されている。

 

唯一違うのは翡葉の砦が無いことだ。

 

昔もある程度の防衛線はあったが今よりも盛大じゃない。 撃龍槍もなければバリスタなんて今の10分の1しか設置されて無かったらしい。 ガルクに乗って弓を射ることが一番強かった。

 

あとウマ娘……じゃなくて、当時まだ生きていた男性の"馬人族"が槍を持って戦う姿もチラホラ書かれている。 ガルクの速度と並走して駆け回るのだから相当頼りになったんだろうけど、その者達も過去の百竜夜行にて皆死んだ。 一人も残ってない辺りどれだけ悲惨な戦いだったのか想像に容易い。 もしくは想像に収まらない惨劇だったのかもしれない。

 

しかしそれを言ったら人間だって同じだ。

 

フゲンさんとハモンさん。 当時はまだ俺よりも幼い子供だったろうが、この辺りの人間は百竜夜行の戦いを見て来た者達だ。 もちろん他にもこの二人のように長生きしている老人もいるが片手で数える程度しかもういない。 老衰したか、罪の意識に潰されたか、ただ単に百竜夜行が怖くて逃げたか、どれかしらだろう。

 

そうして人間も沢山が死んだ。 後方で釜を炊いていた女子達はそこそこ生きてたらしいがどれだけが残っていたとかは分からない。 多分フゲンさん達は知っているだろうがそれを聞こうとは思わない。 聞いたところで意味はないからだ。

 

過去は過去として、今を考える。

 

百竜夜行は回数を重ねるごとに険しくなる。

 

次の百竜夜行はどこまで凌げるか?

 

最近はヒノエが調子を崩していたりとカムラの里の疲弊を感じる。

 

あまり楽観的にいられないところまで来ているのだ。

 

 

 

「よいっ……しょぉぉお!」

 

 

セイウンスカイが大きな武器を振り下ろす。

 

やはりウマ娘(馬人族)だからか馬力が違う。

 

 

 

「やはりウマ娘パワーは凄いな。 そんな簡単に大剣振りまわされたらハンターの立場ないぞ」

 

「いやいや、重たくは感じるよ? セイちゃんは体が小さい方なので振りまわされないようにするのは難しい限りですよ」

 

「でもセイウンスカイはこれまでの経験を積んで体幹はしっかり鍛えられて来たから、大剣のようにシンプルな武器なら使えるよ」

 

「それにしては何故だかこの大剣はセイちゃんの手に良く馴染むのですよね。 でも握るなら釣竿の方が握るの好きですけど」

 

 

 

そう言って片手で振り回すセイウンスカイ。

 

古代文字が刻まれた深い緑色と黒色の大剣。

 

あの緊急クエストから回収した大型の武器。

 

恐暴竜の頭骨を真っ二つにした龍属性の刃。

 

 

 

「でもこのエピタフプレート、本当に良かったの?」

 

「それの持ち主はもうこの世に居なくて、その人のオトモアイルーも前線を降りたことで完全に所有者が消えたんだ。 普通ならギルドが預かる流れになるが、ギルドマネージャーが俺に受け取らないか?と提案して来たので、疾く二つの返事で了承した」

 

 

 

クエストに出たハンターが先で殺されて、そのハンターの武器や武具だけが残り、所持者が無くなる話は珍しく別に無い。

 

前回の緊急クエストがまさにそれであり、回収したエピタフプレートの行方はギルドに委ねられたが、ギルドマネージャーは俺に譲ると提案した。

 

正直これには驚いた。

 

俺としてはエピタフプレートは緊急クエストとして張り出すレベルでギルドが回収したい最重要候補の認識だったので、回収後は誰かに譲るなんて考えはまず無かった。

 

しかしギルドマネージャーは回収"だけ"は完了したので、回収物のそれ以降の扱いに対して特に判断は無かったらしい。

 

ただ"緊急クエスト"として出したのは古龍のオオナズチが出たからと、不届き者がエピタフプレートに手を出させないようにするため、緊急クエストと言う形で警告を出して一時的にギルドの管理下に置いた。 そうすれば誰も手を出さないだろうから。

 

そもそもギルドからしたら水没林からエピタフプレートが無くなればギルドは万歳だった話で、エピタフプレートの行方は二の次だった。

 

その後はカムラの里にエピタフプレートは委ねられて、カムラの里のギルドマネージャーは俺に「受け取るならコレは譲るゲコ」と話が舞い込んだ。

 

何故俺に? そう尋ねたらまず俺が上位ハンターなので信用できる人物として託せる判断。

 

あと俺はユクモ村からカムラの里に異動した事で下位ハンターの状態が長く続き、上位の昇格が先延ばしにされてしまった話はギルドマネージャーも知っていた。

 

評価されるべき人物が評価されない事は大変よろしく無いと言う事でギルドマネージャーは俺のHRを繰り上げて、昇格報酬としてエピタフプレートを渡された流れだ。

 

しかしまさか自分で回収した武器が自分のモノになるなんて考えもしなかった。

 

それでも回収ハンターしていると、ごく稀に自分で回収した武具などをそのまま貰い受ける話はある。

 

俺も一度だけその経験はある。 過去に回収したガンランスをそのまま貰うハメになったが、断った。 俺としてはまずガンランスをうまく扱うこが出来ないし、普通に回収ハンターとして担ぐには不適合だった。 そもそも武器自体は既に間に合ってた。 貰ったところで腐ってしまうため、それを嫌がって受け取りを拒否した経験がある。

 

 

では今回受け取った大剣はどうだろうか?

 

 

ぶっちゃけると微妙なところだ。

 

大剣に関しては戦闘スタイルは大きく変わるが、扱えないことは無いない。

 

しかし回収ハンターしてる以上は大剣のような重たい武器は持ち運びたく無い。

 

片手剣か双剣、またはライトボウガン程度の身軽な武装にしたいところだ。

 

仮にモンスターを討伐するにも俺は太刀を使うので武器の火力に困っていない。 そもそもナルガクルガ亜種の太刀が非常に強いので、この太刀の代えとなる代物はそうそう無いと思ってる。 あと手に馴染んでることを考えたらコレを手放すことは無い。

 

そうなると俺に大剣は必要としない回答になる。

 

 

 

そう、俺には…だ。

 

 

 

「すぅぅ……うりゃぁぁあ!!」

 

 

 

セイウンスカイは力一杯溜めて振り下ろし、ドスンと音が響き渡る。

 

大男に負けないような大ぶりから放たれた大剣を見て、少しだけ冷や汗を感じる。

 

振り下ろした大剣を握りながら腰に力を入れて、体を捻りながらその場で回転斬りを行う。

 

遠心力を利用してそのまま背中に納刀すると、その場から即座に駆け出して、ウマ娘の脚で回り込むと再び抜刀斬りを行う。

 

 

「器用だな」

 

「で、しょ…っ!!」

 

 

基本的な大剣の使い方。

 

ウマ娘の馬力で行なっているセイウンスカイのことを大剣使いのハンターだと周りに言っても騙せるかもしれない。

 

 

 

「武器、振れてるじゃないか」

 

「不思議と…ね」

 

 

 

ウマ娘は戦えない生き物だと言う。

 

 

その認識は間違っていない。

 

 

半分ほどは。

 

 

馬は戦わずに駆ける生き物であり、武器を持って命のやり取りを行わない。

 

しかし彼女は馬でもある以前に人でもあるため、戦うための知識と能力は備わっている。

 

料理包丁は料理のための包丁だが、生き物の首を掻っ切ることは可能だと考えれるほどに、ウマ娘にも人と同じ脳がある。 だからその気になれば彼女達は武器を振るうことも可能だろう。

 

 

しかしそこに馬としての性質が邪魔する。

 

理性が闘争に対して拒否反応を起こすのだ。

 

 

武器を握ると手が震えたり、頭痛を起こしたりするようで、たとえ武器を握れたとしても命を刈り取る動作に吐き気を催すなど精神的に苦しみ出してしまう。

 

 

だからウマ娘は戦える生き物ではない。

 

そう言われている。

 

 

けれど勘違いをしてはならない。

 

彼女達は戦う能力が皆無ではない。

 

 

そもそも逆だ。

 

 

俺は三女神から見せられた。

 

 

馬人族としての(たが)が外れた場合、理性を失った野生の如く、振るう手や足は人間の如く、その力は殺戮を繰り広げれるほどに恐ろしい生き物なんだと理解した。 なんなら子供の馬人族ですら人間の大人の腑を素手で引き摺り出して殺す様を見た。 彼女達はそのくらいの力を持っている。

 

 

馬としての(こわ)さ。

人としての(つよ)さ。

 

 

両立された高等な生き物。

 

 

でも恐れるな。

 

 

恐れを第一とするな。

 

 

馬人族は……いや、女性の馬人族(ウマ娘)は基本的に穏やかだ。

とても健気で温厚で、献身的な力添えは頼もしいに尽きるだろう。

 

馬として脚で助け、人として寄り添う。

 

身も心も美しい生き物だ。

 

無意味に手のひらを血で染めない。

 

欲に溺れるだけの人とは違う。

 

 

だから見誤るな。

 

彼女達はただの馬ではない。

 

馬のように強い、人なんだと。

 

愚かな人間よりも、己を理解してる高貴な生き物なんだと、俺たち人間は認識しなければならない。

 

俺たちは、俺たちよりも強い彼女達に助けられている側なのだから。

 

 

 

「その大剣は切り札だ。 イビルジョーの頭すら一撃で破壊してしまう高い龍属性の能力を秘めた大型の刃だ。 俺も使うし、セイウンスカイも使う。 良いね?」

 

「ほーい、しっかり手に馴染ませておくね。 何せ…手札は多い方が良いからね」

 

「そうだ。 その時のウマ娘パワーは頼りにしてる」

 

「でも、そうなったとしても出来るかな? セイちゃん、いざその時が来たら震えて何も出来ないかもよ? そうなると賭けに近いでしょ? ウマ娘パワーに感心してくれるのは正直嬉しいけど、でもウマ娘にその方面を求めるのはハイリスクだよ」

 

「でも今の君は爆破投げクナイで攻撃してるだろ? その時点で期待値は高い方だから、その心配事はもう遅いと思うよ」

 

「うっ……た、たしかに…」

 

「君は攻撃を覚えた。 立ち回りを覚えた。 戦いを覚えた。 ハンター視点からしたら生存力の中に戦闘力も注げた者として立派に思うよ。 しかも俺の愛バはそれを両立できるスペックを持ち合わせているんだと思うと、とても誇らしい」

 

「!!…… ピ、ピロ、ピロリン! セイちゃんに対する好感度が上がりました…が、既に限界まで満たしてました。 …てへ!」

 

「なに言ってんだ、このウマ娘」

 

「ブー!ブー! 今のでセイちゃんの好感度が一つ下がりました…が、アマグモ補正で下がりませんでした! ピロピロリーン! やったね!」

 

「なーに言ってだこのウマ娘は!」

 

「ゃ、ぁ、い、いきなり撫でないでよぉ」

 

 

__マーベラスァァァス!!

 

 

 

再び真上から聞こえる奇声と共に尻尾ブンブンのセイウンスカイと戯れながらも俺は考える。

 

 

いきなりだがこんな話を一つ。

 

これはどうしようもない噂程度だが、とある地方には悪魔のように強いアイルーが存在するとか、なんとか。

 

通称、悪魔猫なんて言われるオトモアイルーなのだが、仮に存在してそいつは戦闘能力が桁外れに高く、古龍するも凌駕するその強さはベテランハンターも腰を抜かすレベルらしい。 まぁ、神の悪戯で無ければそんなアイルーは存在しない笑えない夢物語なのだが、ウマ娘はそれに近い存在と化すだろう。

 

 

人間と同等の知識を持ち、人間よりも力のあるウマ娘に武器を握らせ、戦いの知識を注ぎ込む。

 

ハンターのお株を奪うような強さを得らせるソレは正気の沙汰で無い、そう思うだろう。

 

力のない人間からしたらそう思う。

 

俺なら彼女達をそう見てしまう。

 

その矛先を間違えれば人間は50年前のように容易く葬られてしまう。

 

 

 

だが、実のところ、その認識はもう手遅れに近い。

 

その風潮は最初の頃だけであり、ウマ娘が現れて一年以上が経った今、その環境が変わっている。

 

 

 

何せ…

 

このカムラの里にソレは存在する。

 

闘争的に戦えるウマ娘は既にいた。

 

 

 

例えば、ナリタブライアンと言うウマ娘だ。

 

怪我が原因でライトボウガンに切り替えたナルガ装備の女性ハンターに付き添うウマ娘なのだが、作戦の"先行"中に現れたバギィを殴り倒して活路を開いた話は聞いたことある。 やってること勇ましいがウマ娘としては話を疑ったらしいが彼女にはそれが出来る力はあった。 性格が関係してるのか、馬としての性質より人としての意識が強いのだろう。 珍しいタイプだ。

 

 

しかしそれを言うならユクモ村にいるゴールドシップも怪しいところだ。

 

事故に近いが岩を落としてティガレックス亜種を倒した話を聞いた。 でも岩で押しつぶした程度でティガレックス亜種を倒せるだろうか? 俺は原種の討伐経験はあるが、亜種の討伐経験は無い。 正直に言えば何か隠してるとしか思えない。 なんだかんだで賢いアイツの事だ。 落石も計算の上で、何かを施したとしたらゴールドシップはティガレックス亜種を倒す手段を持ち合わせていたと言うことだ。 もしかしたらウマ娘の力を持って己の手でトドメを差した可能だってある。 しかし本人はそれを語らない。 真実は中村さんが一部管理しているゴルシ星の中だろう。

 

 

 

あと他にも グラスワンダー の事も聞いた。

 

しかし彼女の場合は相当無理したらしい。

 

仲の良いロンディーネから薙刀を貰ってアオアシラの片眼を切ったらしい。 彼女はウマ娘の中で特にハンター(トレーナー)の役に立ちたい思いがとても強く、戦闘面でも支えたい彼女だから思い切って薙刀でやったらしい。

しかし己で払った血飛沫を見て身が固まり、怒り狂って咆哮するアオアシラに対して脚がすくみ上がり、ハンターに助けられた話を聞いた。

口元を押さえて震えていたグラスワンダーの姿はとても痛々しかったと、直接グラスワンダーのハンターから聞いた。

想いの強さと、心の強さが釣り合わなかったグラスワンダーだが、彼女は間違いなく武器を握りしめて戦ったウマ娘だ。

 

 

 

 

あともう1人。

 

これは予想外と言うか、意外だった。

 

あの ライスシャワー もその一人。

 

マガイマガドが現れた百竜夜行の時にライスシャワーのハンターが怪我を負ってしまい、ライスシャワーは相当落ち込んだ。

仲間から励まされたのち自分を変えようと鬼神の如く意識は変わり「精神は肉体を超越する…」と呟きながら翡葉の砦の周回コースを何時間も走り込み、ハンターの怪我が治るまで何日も続けて、そのハンターが復帰してからは時折眼の色を青炎に変えて腰の短剣で小型モンスターを切り裂いてたらしい。

今はハンターから止められてライスシャワーは落ち着いたようだが、想いの強さは相当なものだ。

応える生き物の意味を間違えたようにライスシャワーは他のウマ娘よりも狩りの中でハンターに応えたウマ娘だ。

 

 

 

あと実際に目の当たりにしたウマ娘もいる。

 

3日前の事だ。 それはツインターボ。

 

ユタカのウマ娘でありネコ・パンチの片手剣を装備していた。 盾が無いので装備してるのは剣だけだろうがアレで斬りつけて麻痺状態で支援してたことを考えると相当無茶させる。

見たところツインターボは"逃げ"を得意とする馬なのに武器を持たせている辺りユタカはうまいこと叩き込んだようだ。 でもツインターボを見るとすごく健気でユタカに寄り添っていた。

彼女も応えたい生き物としてなのかユタカのオーダーを熟そうとギラギラしている。 ユタカ好みなウマ娘だ。 優秀なメジロ家のウマ娘を差し置いてツインターボが選ばれた理由がわかった気がする。

 

 

 

そして、もう1人。

 

俺の愛バであるセイウンスカイ。

 

ツインターボのそれが最後の引き金になったのかセイウンスカイまでもが今日、武器を握り始めた。 今日この訓練所で大剣を振るっているのは俺の提案なのだが、セイウンスカイの希望もあった。 でも歯切れ悪く言うものだからこちらから「使ってみよう」と提案してセイウンスカイに大剣を握らせた。

尻尾を見たら元気になったから、彼女が望んでいた状態に恵まれて張り切っている。 俺としてはほんの少し複雑だけど、でも彼女の力は必要だ。

 

 

ウマ娘としての強さ。

 

セイウンスカイとしての能力。

 

厳しくなる現状を打破するための手段はいくらでも作り上げる。

 

大剣エピタフプレートもその一つだ。

 

 

 

 

「セイウンスカイ、練習は終わりにしよう」

 

「まって、もう少し、握らせて…!」

 

「いや、それ以上は危ない」

 

「っ…嫌だ、もう少しだけ…!」

 

 

 

ただ、ほんの少しだけムキになって(掛かって)いる。

 

 

いや、焦るようにも見える。

 

でもこれ以上は意味がない。

 

 

 

「セイウンスカイ、俺はしばらくクエストが降りてこない。 ギルドマネージャーからそう言われてる。 だから明日もやろう」

 

「……」

 

 

頭をポンポンと叩いて落ち着かせる。

 

少し必死過ぎたことを理解したのか彼女は呼吸して「わかった」と頷いた。

 

これ以上握らせないようにエピタフプレートを代わりに背負って訓練所を後にする。

 

 

 

「ごめんね。 セイちゃん、柄になく少しだけ必死になりました…」

 

「別に良いよ。 応えようとしてくれたんだろ? 俺はすごく嬉しいよ。 でも今日は終わりにして、あとは夜ご飯までゆっくりしよう。 セイウンスカイと一緒にお昼寝したいし」

 

「!! …にゃはは、ではでは、そうしますか! ふむふむ、なるほど…では! アマグモにはこのもふもふの尻尾を抱き枕にする権利をこのスカイがあげましょう」

 

 

「もう!何真似してるのよ!」

 

 

 

入れ違うように訓練所に入ってきたキングヘイローに文句を言われて一足先に船に走り去るセイウンスカイを追いかけた。

 

フンと呆れたように鼻息を立てて奥に進むキングヘイローだが…

 

彼女のその腰には…

 

 

 

「カムラの剣か」

 

 

 

大きめの片手剣を持っていた。

 

彼女もまた、環境と共に変わり始めている。

 

 

 

 

「やよい、変わっちまうかもな…」

 

 

 

ウマ娘は駆けるだけの存在…と、言うのは時代遅れが来ているのだろうか?

 

 

それとも彼女たちは自然と過去に戻りつつあるのだろうか?

 

 

本当の名に戻ろうとしてるのか?

 

ウマ娘ではない、馬人族として。

 

寄り添う事は無い、強い生き物として。

 

 

けれど…

 

 

 

「俺に止める権利は無いよな…」

 

「?」

 

「何でもないキングヘイロー、怪我すんなよ」

 

「あら、私は一流よ。 この程度どうってことないわ」

 

 

 

また一人変わりつつある、その背中を見送る。

 

相手がキングヘイローだからでは無い。

 

 

人間に、それを止める権利は元からない。

 

選ぶのは彼女達で…

 

 

受け止めるのは俺たち、人間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人分の小さな檜風呂。

 

それを二人で入ると溜めた湯が溢れる。

 

可憐な彼女の体がより密着する時間だ。

 

 

 

「慣れないことをすると疲れるですなぁ」

 

「普段使わない筋力を使ってるからな」

 

「ならばしっかりセイちゃんのことを労わってもらいましょう」

 

「よーし、よーし、セイウンスカイちゃんは、良い仔、良い仔、ですよ〜」

 

「ちょわ!? なんか危険な香りがする!」

 

「ワタクシ、優等生ですから」

 

「バクシン的な回答で誤魔化されないセイちゃんですよ」

 

 

 

ちゃぷちゃぷ、と動き出すセイウンスカイを押さえつけながら訓練所のことを振り返る。

 

やはりウマ娘パワーはすごかった。

 

大タル爆弾を軽々と持ち上げてしまうほどだから大剣くらい容易く持ち上げるとは前から思っていたけど、大剣を握らせて、扱い方を教えればもう既に板につくような出来栄え。

 

 

大剣はそう難しい武器じゃ無いがセイウンスカイの技術力が高いためそこまで教えることはなかった。

 

なんだかんだで俺の難しいオーダーによく応えてくれるウマ娘に育ったから大剣程度彼女にしては棒を振り回す感じだろうか?

 

少し気張り過ぎていたので頭撫でくりまわして戯れたりしつつコントロールしたが、それでもうちに秘めた想いと必死さは大きかった。

 

でもそこをコントロールするのがトレーナーの役割であり、武器に心身を振り回されぬようよ扱いを教えるのはハンターの役割だ。

 

 

「キングヘイローもだけど、ウマ娘たちは武器を手に取り始めていたね」

 

「気づいてたか」

 

「まぁね。 でもスズカさんやスペちゃんのような基本的に穏やかな子は無いと思うかな」

 

 

あ げ ま せ ん ! ! は、空想の中だけなのでたしかにスペシャルウィークは武器を握るような子ではないだろう。 ニンジンを握りしめながらランニングする少し変わった子だが。

 

 

「でもそれ以外は武器を握ると思うよ。 多分それも大勢。 元ある闘争心が戦いに向くか、駆けることに向くかのどちらか。 そして種族が存在意義を超えた時かな…」

 

「『応えたい』って事か」

 

「うん。 わたしも最弱だったから武器は握るつもりは無かった。 一生走るだけだと思ってた。 でも、アマグモの役に立ちたい気持ちがね、何よりも勝る。 そうしていればこの劣等感だって拭える気がするから」

 

「それは”最初”だけだろ? 今は違う」

 

「最初…? 今? ……ふーん、それってつまり知ってたんだ、アマグモは」

 

「??………あ、そう言うことか」

 

「わたしの因子継承、知ってたんだね?」

 

「まぁ…ウマ娘の秘境に居たらな? 俺が一族である事と、連れてきた愛バがセイウンスカイだと言う事と、やよいとは従姉弟である事が合わさったら、そりゃもう色々と聞いてないことまで聞いてしまったよ」

 

「なら、そんな私をどう思ってる?」

 

「どうも思ってない。 なんなら今のセイウンスカイはシンボリルドルフを超えたと思ってる。 流石に統率力の高さはシンボリルドルフの最大の武器で、コレに関しては誰も真似できないと思うけど、それ以外は君に勝るウマ娘は居ないと思ってる」

 

「それは言い過ぎじゃないかな? 比較対象が大きいと求められる量が多くなるからセイちゃん的にはやや控えめでも良いんですけどね」

 

「負けず嫌いが何を言うか」

 

「自分に言い訳をして負けたくないだけ。 別に何かで劣ることも、それは良いと思ってる。 なんだったら全てが凌駕していることを良いとは思わない。 でも存在意義だけは手放したくない。 全てで負けたら、何に頑張れば良いのか分からないから…」

 

「…」

 

「アマグモがわたしのターフ(存在意義)を作ってくれたからわたしは困らないんだよ。 今はもう因子継承の劣等感は無くて、わたしはアマグモの愛バとして作り上げられた。 わたしは強くなれたよ」

 

 

 

彼女は湯気を眺める。

 

消える湯気と違ってあの頃の絶望感は無いから。

 

彼女は安心したように全て預けて湯船の中で息を吐く。

 

 

 

 

「大剣、軽かったよ…」

 

「?」

 

 

 

声の色が、一段階だけ変わる。

 

 

 

「あなたに比べたら、軽いよ」

 

「それは、物理的な話?」

 

「それだったら大剣の方が重たい。 わたしが言いたいのは貴方に【応える】ことが出来ると思うとこの脚は軽い。 でもそれは脚だけじゃない。 腕もなんだ。 不思議と力が漲ってしまう。 なんでも出来てしまいそうで、少し怖いくらい…」

 

 

 

何度だって言う。

 

ウマ娘は応える生き物…

 

または【応えたい生き物】だ。

 

セイウンスカイはその生き物として、誰よりも先を走っているから、他の誰にも出来ないことをやってしまう。

 

 

俺が、そうしてしまった。

 

 

 

「すごく嬉しいよ、アマグモ。 わたしはね? すごく嬉しくてたまらないんだよ。 またナニカであなたの役に立てる。 弱かったわたしがここまで出来る。 溺れないで済むんだよ。 でも溺れるよ。 アマグモで満たされてしまうから」

 

 

 

まるで恍惚に染められた吐息の如く、彼女は今日を述べる。

 

湯船に反射するセイウンスカイの目が一瞬だけ濁ったような気がした。

 

気づけば耳が、てしてし、さわさわ、つんつん、頬を叩いたり、撫でたり、突いたり、一人分の檜風呂の中で彼女の独占欲が始まる。

 

すると彼女のお腹に回していたこちらの手を掴み取ると、少しずつ上に持ち上げられる。

 

 

 

「ふふっ、アマグモの手、大きいなぁ…」

 

 

 

彼女はこちらの手を取って確かめる。

 

その指先を口元に持ち込み……口に加える。

 

 

 

「んー、ちゅぱっ…」

 

「!」

 

 

 

くすぐったくて思わず身を震わしてしまう。

 

 

人差し指と中指が唇に触れ、舌で舐められ、湯船の中の体温がさらに高まる感覚。

 

 

しばらく耐えていると指先を啜るの止めた彼女はその手を下に持っていく。

 

彼女の胸元辺りで静止して…

 

 

 

「んっ…」

 

 

 

心臓の音が良く伝わる部分に触れた。

 

 

手のひらに柔らかな感触が広がる。

 

 

膨らみかけの彼女の胸の手のひらに収まった。

 

 

 

「んっ、ぁは……はんっ……あはっ…」

 

 

 

幸福感と共に漏れ出す恍惚とした吐息。

 

こちらの手の甲に、彼女の手が重なり、指の間に隙間なく彼女の指で埋もれる。

 

彼女はしっかりこちらの手を胸に押し付けることで、その心臓の高鳴りと、異性として(さが)を擽らせようとする悪戯心、この体を貪らせようと誘い、貪りたくて収まらないその独占欲は、触れている彼女の胸の奥で弾ける鼓動がよく伝わる。

 

 

 

「んんッ、ぁ…私は、アマグモを独占する、からぁ、アマグモもぉ、私を独占してよぉ、してぇ、よ…」

 

 

 

力強いようで、甘く溶かすような蠱惑な声。

 

痺れを切らしたように彼女は湯船の中で体の向きを変えて、互いに見合う。

 

頬を両手で支えられて、強引に瞳の奥を見せつけさせる。

 

青雲が情欲に濁った色だ。

 

 

 

「はぁ…はぁ……この脚も、体も、存在も、全部あなたにあげるから、ここまで私を作り上げたのはアマグモだよ。 もう全部君のなんだよ。 でも染めた責任は取らせるから、わたしがあなたに」

 

 

 

彼女は重なり合う手に頬擦りする。

 

その度に湯船が揺れて、彼女は()れる。

 

 

 

「あなたの雨雲は私のもの、私だけがそれを独占する。 私だけを潤して…」

 

 

 

 

青雲と言えども。

 

曇る時は曇り。

 

濁るときは濁る。

 

 

晴れてるからこそ悪天候に染まる前触れの天気。

 

 

 

晴れのち雨。

 

 

お互いにそうやって、何度もお互いを染めてきた。

 

 

だから別に珍しい事ではなかった。

 

 

 

情欲も…

 

肉欲も…

 

独占欲も…

 

 

青雲広がる全てを、受け止めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまぴょいしたんですね?」

 

 

「ミークは黙っとれ」

 

 

 

早起きしてしまった。

 

朝チュンってこういう事なんだろうか?

 

と、言うか、うまぴょいってやはりこの意味なんだろうか? もっと健全な言葉だと思っていたんだけど、実際どんな意味なんだろうか?

 

絶対この意味に限ってる話ではないと思うが、最近そんな風潮で反応に困る始末だ。 まだうさ団子食べてるオグリの「美味ぴょい」の意味の方が宜しい。

 

 

 

「とりあえずおはよう、ハッピーミーク」

 

「…」

 

「………ハッピーミーク?」

 

「……黙っとれ、と、言われたので」

 

「お前良い性格してんなぁ」

 

「それほどでも。 何せ全てに適正ありますから」

 

「この場面だと必要な情報なのか判断に困るなオイ」

 

 

 

ブイっと指でどこか満足そうに返された。

 

実はこの子大人しそうに見えて意地悪な性格なのでは?

 

 

 

「それより早起きだなハッピーミーク。 それと君のトレーナーの名は確か…アオイだっけ? まだ寝てるのか?」

 

「ぐっすり寝てます。 まだまだひよっこの新人ハンターさんなので毎日が大変みたいです。 あと、極度の人見知りさんなのでいずれ訪れる婚期を逃さないかと心配です」

 

「いやまだ早いからな? 心配には早いからな?ミーク?」

 

「時期的にはまだ、逃げ馬」

 

「……いや、待て、それ意味履き違えると終わってるからな?」

 

「では、先行」

 

「新人故にまだ最前線(先行)は早いかな、と」

 

「なら、差しで…いや、わたしがトレーナーを追い込みます」

 

「実はアオイの事嫌いだろ?」

 

「そんな事は無いです。 ウマ娘のことをいつも考えてくれるトレーナーには感謝してます。 しかしそれとは別としてトレーナーは元々争いに向かない人です。 だから百竜夜行を終わらせたらトレーナーにはハンターを辞めて貰おうと考えてます」

 

「そうなのか?」

 

「はい。 だからアマグモさん、あなたの力で百竜夜行の収束に向かいましょう。 そのためにわたしも力を惜しみませんから」

 

「ああ、もちろんだ。 ハッピーミークだけじゃない、皆の力を頼りにしている」

 

「ブイ」

 

 

 

 

 

今日は晴れ。

 

朝日が綺麗な晴れ。

 

 

だからこそ、恐ろしい。

 

嵐の前の静けさだろうか…?

 

もっと穏やかに過ごせる筈なのに…

 

ざわつきが止まらない。

 

 

 

 

「あれはヒノエ…か?」

 

「??」

 

 

彼女も早起きしたのだろうか?

 

しかし、どこか足つきがおかしい。

 

 

 

「__」

 

 

 

何かブツブツと述べながら、フラフラと川に向かう。

 

ヒノエの後をつけた俺とハッピーミーク。

 

その後ろ姿はどこか普通じゃない。

 

すると空を見上げて、何かを語る。

 

 

 

「__対よ、対よ」

 

 

 

「う、浮いた…!?」

 

「おお」

 

 

不思議な人だと思ってたけどあんな能力を持っていた…なんて事はない。

 

あれは異常だ。

 

様子がおかしすぎる。

 

止めようと駆け出そうした時だ。

 

ヒノエは力なく落ちて地面に倒れた。

 

 

 

「ヒノエ!」

 

「っ、わたし、人を呼んできます」

 

 

俺はヒノエの元に駆け出し、ハッピーミークは人を呼びに戻る。

 

彼女の肩を揺らして声をかける。

 

しばらくすると目を覚ました…が、何かに怯えるようにヒノエは口を開いた。

 

 

 

「何かが、まもなく、何かが…」

 

 

 

 

 

尋常じゃない緊張感に包まれる。

 

それは間違いなく百竜夜行だと理解する。

 

 

何せここはカムラの里。

 

業を背負わされた残酷な宴の会場だから。

 

 

 

つづく




気分が乗りすぎて1万文字超えとかこの作者頭がうまぴょいですよ。
しっとりするとなかなか天候晴れないんだもん。
ちかたないね。
「浴場で欲情する……フフッ…」
(エアグルーヴのやる気が下がった▽)


さて、ウマ娘は"戦えない生き物"と設定で薄ら引きずってきましたが、厳密には戦えない(事はない)生き物ってだけで、武器を握らせれば馬人族としてその力は絶大です。
でもそうするきっかけは命を『賭ける』ハンターがいる事であり、命を駆けるウマ娘の『駆ける』対象が変わり、トレーナー(ハンター)に影響されることでウマ娘は命の賭け合いに変わります……的な感じ。
ウマ娘の『応える生き物』はここまで大きく揺れ動く。
過去に人間が馬人族を怒らせて殲滅されたように、ウマ娘は人間次第でなんとでも『応えて』しまうからね。

本当は怖い、ウマ娘。


ではまた


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24話

タグに【残酷な描写】追加しました。
モンハンの小説なのになんでこのタグ入れてなかったんだろう…?



 

 

__グモ…!

 

 

 

 

 

__マ_グモ…!

 

 

 

 

 

__マグ__モ…!!

 

 

 

 

 

「アマグモ!! しっかりして!!」

 

 

「はっ!!? 」

 

 

 

愛バの声で目覚める。

 

そこには心底心配したような顔でこちらを覗くセイウンスカイと、その他のウマ娘達。

 

 

 

ああ、そうだ。

 

 

俺は今…

 

百竜夜行と戦っている途中だ…!!

 

 

「ぐっ、いまの衝撃はなんだった…! っ、あと焦げ臭い…」

 

 

 

鎮火した後なのか、身につけているバギィ装備から焦げた臭いがする。

 

嫌な目覚めだがそれと共に思い出す。

 

 

俺はリオレウスを操竜していて、落ち着き始めたモンスターの波にトドメを刺そうとした時だ。

 

暴風に巻き込まれて、それで…

 

 

そうだ、真上だ。

 

真上に何か通過したんだ。

 

 

それで上昇気流が発生して、リオレウスが火炎放射を吐き散らしながらバランスを崩して、それで火炎に巻き込まれながら下に墜落したんだった。

 

確か、あのモンスターは…

 

 

 

 

 

禍群の息吹が荒れ狂う時に来たれし古龍_

 

__風神竜イブシマキヒコ

 

 

 

 

「あの古龍、本陣に向かったのか!」

 

「アマグモどうする? 向かうの?」

 

 

 

向かう?

 

いや、駄目だ。

 

俺はこの場のリーダーとして任されている。

 

離れる事は出来ない。

 

それに…

 

 

「もしかしたらまだモンスターが続いて来る可能性がある…っ、皆は警戒体制に入れ! 後続が追ってくるかもしれない!」

 

 

ウマ娘達に緊張が走る。

 

既に第三波を凌いだところであるが、回数重ねられた今回の百竜夜行は油断できない。

 

モンスターの球数的には減ったと思う…それでもやはり油断はできない。

 

それに今本陣にイブシマキヒコがいるとしたら、そこへ更にモンスターを向かわせると大混戦となって一気に崩壊する可能性がある。

 

なら俺たちはここでモンスターを足止めして、それで分断する……?

 

 

いや、違う。

 

 

 

「セイウンスカイ、戦闘用の持ってきて」

 

「!」

 

「後続からモンスターが来る可能性は高い。 だが球数的に考えたらそう多く無いはず。 けれど本陣にモンスターを向かわせる事はできない。 なら…」

 

「後続のモンスターはここで討つ…?」

 

「ああ。 それしか無い」

 

「わかった。 あと…アレも持ってくるから」

 

 

 

それだけ言葉を挟むとセイウンスカイは急ぎ足でベースキャンプに戻る。

 

俺は彼女の後ろ姿を見送りながら現状確認のために周りを見渡した。

 

 

今回参加したウマ娘達と、ハンター達。

 

皆これまでの百竜夜行を凌いできた猛者ばかりだが、最初の頃に比べたら3分の2かそれ以下の数しかいない。

 

怪我を負って離脱したウマ娘、今も生死を彷徨ってカムラの里で倒れているハンターもいる。

 

人的資源は多いとは言えない現状だがこのメンバーでやるしか無い。

 

短距離のウマ娘はしんどいと思うが、中距離と長距離のウマ娘に頼り続けるのも負担が大きすぎる。

 

うまくバランス分けして第四波となって来るだろう新たな夜行を凌がないとならない。

 

来たるモンスターは多く無いと思うがこちらもそれ相応に疲弊している。

 

ここからが正念場だ…

 

 

 

「2人はまだ動けるか?」

 

 

「問題ないぜ! まだ驀進できる…だろ!!」

 

「はぁ…はぁ…と、当然です! はぁ…っ、わ、私も! まだ、まだ! 驀進可能…で、あります! よ!」

 

 

「問題ないよ、まだ行けるね」

 

「お、お兄様、あまり無茶しないで下さい。 そうじゃないとライス…また…ッ」

 

 

 

アケノシルム装備のランスハンターと、フルフル装備の操虫棍ハンターはそれぞれ返事する。

 

この2人は百竜夜行時によく組むメンバーであり、関門を通り抜けさせる前の内周エリアでウマ娘と共にモンスターを引き付ける役割を果たしている。

 

特にこのハンター達は操竜を得意としてくれるハンターであり、なんなら片方の操虫棍ハンターの方は腕自慢が集う砂漠の街バルバレから来たハンターであり、モンスターに乗る事は得意としてるとか。 扱っている操虫棍は元々そのための武器なのでモンスターに乗る事自体は得意としてるようだ。

 

あとランスハンターも化け物じみた肺活量で、足の速さを除けばサクラバクシンオーと同じ距離を装備したまま全力で走れるとか。 かと言って分断するための内周コースをランスハンターが走る訳じゃ無いが持続性の高いそのフィジカル性はこのエリアを担当するに適任と言える。

 

どちらもこのエリアを任せれる能力を持った頼もしいハンターだ。

 

 

 

「っ! 見てください! フクズクが!」

 

「なに!? 警戒状態!まさかモンスターが!?」

 

 

 

空を見る。

 

赤い粉を振りまきながら右回りで飛ぶフクズクだ。

 

モンスターが現れるサインであり、場の緊張感が一気に走る。

 

俺はウマ娘達に指示を出してその場から動かすと、操虫棍ハンターは千里眼の薬を飲んで猟虫を空に羽ばたかせる。

 

すると羽ばたいた猟虫はフラフラとして、とある方向に向かおうとしていた。

 

まるで、何かに、惹かれるように…

 

 

 

「?………っ、まさか!!」

 

 

 

操虫棍ハンターは叫ぶ。

 

そして俺もなんとなく理解した。

 

虫が惹かれる要素はまずフェロモン。

 

だが狩猟のために飼いなされた猟虫は違う。

 

操虫棍のフェロモンを宿主として覚えているため離れることは無い。

 

 

だが、虫としての性質は誤魔化せない。

 

その性質を強引に狂わせるような物は何か?

 

それはフェロモンでは無い。

 

 

あるとしたら、それは…

 

 

 

「ジンオウガが来ます!!」

 

 

 

フルフルのフードをガバッと脱いで空高く大きく警告する。

 

それを聞いて場の緊張感が一気に走った。

 

 

 

「「!」」

 

 

 

奥から地面を踏みしめる足音。

 

並ではない強烈な威圧感。

 

 

そして、ジンオウガを象徴する光…

 

だが、その色は 白 ではなく 金色 だった。

 

なにより猟虫すら引き寄せてしまう光の強さ。

 

 

この時点で原種じゃないことを理解する。

 

夜闇の奥から目を金色に輝かせた獣がいる。

 

その姿を晒した。

 

 

 

「ゴオオォォオオオンンッッ!!」

 

 

 

毛は濁ったように汚れており、胴体は真っ黒に染められ、眼光は幾たびの激戦を超えた眼差しを備える。

 

咆哮と共にあたり一面に雷が走った。

 

 

原種でも無く、まだ見たことない亜種でも無く、また希少種でもなく、名だけ聞いたことある二つ名のモンスターでは無い。

 

 

どのジンオウガよりも君臨しようとする姿。

 

 

俺は知っている。

 

 

 

あれは ____ ヌシ だ。

 

 

 

 

「ヌシ・ジンオウガ…!!」

 

 

 

 

 

セイウンスカイと出会う前の事だ。

 

俺はカムラの里に来たばかりの頃に大社跡でヌシ・タマミツネを見たことがある。

 

最初はそれを『ヌシ』とは思わなかったし、そもそもユクモ村でタマミツネ自体あまり見たことなかったのでソレが亜種なのか?

それとも禍々しいその姿で原種なのか?

 

その判断に困っていた。

 

だが観察しているともう一体乱入してきたタマミツネが現れてからそれはハッキリと分かった。

 

乱入したタマミツネの方が原種であり、それはまだ可愛い位だと…

 

縄張り争いはヌシが圧倒的であり、その戦い方や性質は明らかに原種を超えていた。

 

のちにフゲンさんから数ある激闘を超えてきたモンスターの中にヌシと言われる存在がいることを知った。

 

それがヌシ・タマミツネと知った日であり、ヌシと評されるモンスターは原種や亜種または希少種よりも異質な存在であり、危険性はソレとは別物だと知った。

 

 

なら、目の前にいるヌシ・ジンオウガは…?

 

元から高い危険度に、ヌシだと言えるなら…

 

 

 

アオオオオオオン!!

 

 

 

原種を超えたようなけたたましいバウンドボイス。

 

まだ耳を塞いで俺たちは防げるが、耳の良すぎるウマ娘にとってそれは致命的だ。

 

 

 

「ぁ、ぁぁ、ぁぁ…」

 

 

 

そして、それだけ膝を崩す者がいた。

 

 

 

「バクシンオー!」

 

 

 

いつもこの内周コースを先陣として走るサクラバクシンオーはそれを目の当たりにしてしまった。

 

作戦の『逃げ』を得意とするウマ娘はモンスターのプレッシャーを背中に感じることで恐怖心を強走心に変えて駆ける力に変える。

 

特に独走心の高い性格やその個性を持つウマ娘がこの能力を抱える。

 

なのでこの場合でもバウンドボイスからも『逃げ』ることが出来るので耳を塞いで縮こまるような事はない。

 

しかし、そのプレッシャーや咆哮を背中から感じず、それを真正面から受け止めた場合どうなるのか?

 

 

差し馬に刺されたように独走心は決壊する。

 

逃げれなくなったサクラバクシンオーは膝から崩れ、恐怖で硬直して、ヌシ・ジンオウガから視線が外せない。

 

その恐怖を永遠と眺めていた。

 

 

 

ああ、思い出すとも。

 

セイウンスカイだって同じ事が起きた。

 

あの大社跡でラージャンとリオレウスの縄張り争いを目の当たりにして恐怖で硬直したんだ。 自分の役割を忘れ、逃げることも出来なくなり、涙すら流して崩れ落ちそうになった。 その脚は速く、心は激しく、しかしそれらは脆く、崩れるに容易い。

 

逃げ馬は力を発揮する時、それはどのウマ娘よりも驀進的だが、デリケートである。

 

 

では、そのウマ娘が崩れたとしたら支えるべきトレーナーとしてどうするべきか?

 

いや、俺たちはハンターだから、こうする。

 

 

 

「閃光玉、行くぞ!!」

 

 

まだバウンドボイスによる耳鳴りが治らないが閃光玉を高く掲げて周りに知らせると投げる。

 

ランスハンターは閃光を理解したのか盾を構えてサクラバクシンオーの視界を守り、またヌシ・ジンオウガから視界を遮った。

 

なるほど、よくわかるっている。

 

真正面から受けるプレッシャーは視覚認識から始まる。

 

伝わる威圧感は仕方ないにしろ、それは仲間が共にいる心強さで打ち消せば良い。

 

ランスハンターはしっかりサクラバクシンオーを愛バにしてるわけだ。

 

 

「しっかりしろ! おれが付いているぞ! バクシンオー!!」

 

「ぁ…はっ、はい…」

 

「大丈夫だ! お前はおれと同じ優秀! そして優秀はウマ娘! 立て! その背中を仲間達に示すんだろ!」

 

「ッッ、バ、バクッ…シン…!」

 

「驀進だ! 驀進だ! 大驀進だ!!」

 

「ゥ、ゥゥ! ッ、バ、バクシーィィン!!」

 

 

 

立ち直りが早い。

 

彼は間違いなくサクラバクシンオーのトレーナーであることを今の一連で知らせてくれる。

 

そしてサクラバクシンオーは喝を入れながら立ち上がりポケットに手を入れる。 まだ恐怖心が残り震えが治らないバクシンオーだがその眼は『応える』で沢山だった。 短くも疾く駆ける意志の強さを瞳に変えて、ポケットからエンエンクのフェロモンを取り出すとそれを自分に振り撒く。

 

その間に俺と操虫棍ハンターは閃光玉で目が眩んでいるヌシ・ジンオウガに攻撃を加えるが…

 

 

「コイツ! 普通の肉質じゃ無いな!」

 

「くっ、操虫の消耗が激しいか! っ、エキスが上手く取れません! 自分では難しそうです!」

 

 

オデッセイブレイドは切れ味が良い方なのでヌシ・ジンオウガに斬撃は通せたが、それでもあまり手応えを感じない。

 

操虫棍ハンターの操虫もエキスの回収がうまく出来ないようで戦闘力の強化が見込めなかった。

 

それでもまだ手段はある。

 

 

 

「あんた確かフルフルの操虫棍だったな! だったら雷属性だろ! ならこれを使え!」

 

「!?」

 

 

とある砥石を投げ渡した。

 

 

「俺の元相棒から貰った砥石型の電気石だ! それを打ちつけるように砥げ! 属性が大幅に解放されるはず!」

 

「しかし奴は雷の弱点では…ッ、いや、エキスさえ抽出できれば…! これはありがたく頂きます!」

 

 

 

操虫棍ハンターは一度宙に舞うと壁に張り付いてもう一度飛翔、身を隠すに充分な崖に隠れて研ぎ始める。

 

ヌシ・ジンオウガは目眩し状態から立ち直ると俺よりもサクラバクシンオーに注目した。

 

エンエンクのフェロモンに引き寄せられたようだ。

 

 

「このわたくし! 膝は垂れても(こうべ)は垂れません! 常に前を行き! 皆の模範となるのですから!! さぁ!来なさい!モンスター!! バッックシィィィン!!」

 

 

「ゴオオォォオン!!!」

 

 

 

サクラバクシンオーは地面を蹴る。

 

体が一瞬だけブレて、風を置き去りにする様に走り出す。

 

 

 

「はやッ!?」

 

「それでこそおれの驀進だ!! 行け! バクシンオー!!頼んだぞ!!」

 

 

「バクシン!!バクシィィィン!!!」

 

 

 

ヌシ・ジンオウガはその姿を逃すまいと追いかけるがあのサクラバクシンオーの足を捕まえる事はできないだろう。

 

だがサクラバクシンオーも疲弊してる状態で正直心配なのだが、ここまでやり遂げてきたウマ娘だ。 上手いこと別のウマ娘にバトンタッチするだろう。

 

だがヌシ・ジンオウガのその脚力を見て冷や汗が流れる。

 

 

原種以上の筋力を感じる。

 

あの体格と運動性から放たれる攻撃は真正面から受けることができない。

 

また皮膚の硬さは原種より少し硬いくらいで別に斬り込めない事はない。

 

しかし激戦を超えてきたことで培ってきた勘の良さ、純粋な戦闘能力の高さとジンオウガってモンスターであることがマッチして凶悪だ。

 

 

だが、それでも"ジンオウガ"だ。

 

四足歩行だ。

 

やりようはある筈だ。

 

 

 

「さて、どうする?」

 

 

倒すか? それとも凌ぐか?

 

空のフクズクを見る。

 

今のところ追群はアレ以外無いみたいだ。

 

そしてサクラバクシンオーを始めとしてウマ娘達が体制を整えるために時間を稼いでいる。

 

このまま夜行が終わる夜明けを待つか?

 

いや、本陣で今戦っているだろうイブシマキヒコを討伐したとしても、ヌシ・ジンオウガがここから退く補償は無い。

 

それにアレはヌシと言うくらいだ。

 

理性を失ったように夜行を組むモンスター達とは訳が違うに決まってる。

 

なら倒すしか無いのか…

 

 

 

「セイウンスカイがヌシを倒すための武器を持ってくれる。 うまくアイツを足止めしてソレを叩き込めば戦況は変わる」

 

「待て、それはどれほどの武器だ?」

 

「イビルジョーの頭骨を両断できると言ったらどうする?」

 

「大剣か!それは頼もしい! だがそのためにはどうする?」

 

「関門前のバリスタのエリアを使う。 まだ拘束弾がまだあった筈だ。 ソレを使う」

 

「罠は使うか?」

 

「ヌシは戦闘経験盛んだから罠に対して強い。 だが拘束弾の経験は無い筈だ。 なんなら徹甲榴弾で目眩を誘ってもいい。 とりあえずほんの数秒でも良い、足止めさえすれば好機は見える」

 

 

 

大翔蟲を使って関門前に移動する。

 

バリスタで身構えている里人に作戦を伝えた。

 

 

 

「こ、拘束弾ですね。 はい、丁度この場にあります。 しかしそうなると、あのジンオウガの足止めは…」

 

「もちろん俺たちハンターがやる。 君たち里人は拘束弾でジンオウガを束縛して、もしダメだったら場合のことを考えて徹甲榴弾も備えろ。 それでもダメなら銅羅で合図してペイントの実の煙幕弾で視界を奪え。 その時は次を考える」

 

「わ、わかりました! 早速準備を! …ウイニングチケット! 徹甲榴弾だけは奥だ! 持ってきてくれ!」

 

「うぉぉぉおん! わがだぁよぉぉお! ぜっだいに皆んなでがどうねぇぇぇえ!!」

 

 

何故か泣き喚きながら走り出す彼女を見送りながらその場を降りる。

 

関門近くで控えていたウマ娘2人を見つけて指示を出す。

 

マヤノトップガンとトウカイテイオー、2人もこの百竜夜行を乗り越えてきた猛者達だ。

 

しかし既に走っている2人であり、トウカイテイオーに関しては息が上がっている。

 

マヤノトップガンに頼るべきか…

 

 

「ボ、ボクも行けるよ!」

 

「無茶はダメだ」

 

「いや! ボクは分かるよ! あのモンスターはすごく早かった! なら特段足の速いウマ娘で無ければ危険だってことも! だったら足ならボクが誰よりも速い! ボクは行ける大丈夫だから走らせて! トレーナー達のために!」

 

 

 

たしかにトウカイテイオーは速い。 カムラの里にいるウマ娘の中で上位クラスだろう。 その脚は頼りになるが、もう一走させて良いのか?

 

しかし、ヌシ・ジンオウガを考える。

 

アレは間違い無く強い。 だがそこに耐えれるプレッシャーと走力は今ここにいるトウカイテイオーであり、その上バリスタの射程圏内に入るまでのラストスパートでヌシ・ジンオウガの追走から一気に切り離せる脚はこのトウカイテイオーくらいだろう。 これほどの大事な役割を背負わせれるのはこのウマ娘くらいだ。

 

 

「なら、ここからショートカットして第3コーナで待機して、関門からスタートするマヤノトップガンからバトンタッチを受けてここまで戻ってくるんだ。 誤射を避けるためにもバリスタの射程圏内から8馬身以上は切り離すんだ」

 

「まかせてよ! ボクは無敵のテイオーだぞ!」

 

 

頼もしい限りだ。

 

トウカイテイオーに頷いて作戦を決行する。

 

 

 

「マヤノ、また後でね!」

 

「わかった! テイオーちゃん、また後で!」

 

 

トウカイテイオーは床扉を開けて潜るとその地下を使って第3コーナまでショートカットする。

 

マヤノトップガンもトウカイテイオーを見送ると足首を捻りながらヌシ・ジンオウガを待ち構えて…

 

奥から来た。

 

 

 

「アグネスタキオン! マヤノトップガンと交代だ!」

 

 

「!? …ふゥん、そういうことか! これは興味深いねェ!」

 

 

バリスタに装填する拘束弾の姿と、崖上で待ち構える操虫棍ハンターとランスハンター、何より開く気のない関門を見て理解したようだ。

 

残った脚を使ってアグネスタキオンは一気にラストスパートを掛ける。

 

マヤノトップガンもアグネスタキオンに並走してエンエンクのフェロモンが混ぜられた護石を引き継ぐとアグネスタキオンは横に切り返して姿を隠す。

 

ヌシ・ジンオウガはエンエンクのフェロモンに夢中なのかマヤノトップガンの追走を開始。

 

 

「言っとくけど! マヤに夢中になっていいのは私のトレーナーちゃんだけだからね!」

 

 

緊張感を交えながらも余裕の表情で走るマヤノトップガン。

 

それにしても、まだ息切れしないのかあのジンオウガは…恐ろしい。

 

 

「……ウマ娘、様様だな」

 

 

この内周コースはモンスターの波を分断するために使われているが、そこにウマ娘が居なかったと思うと…いや、考えたく無いな。

 

もちろんガルクを使う手もあるが人間並みに言葉を交わさて意思疎通できる彼女達はとても貴重だ。

 

お陰で作戦を編み出しやすい。

 

 

ああ、本当に…助かるよ。 ウマ娘!!

 

 

「アマグモ!!」

 

「来たか! セイウンスカイ!」

 

 

大剣のエピタフプレートと太刀の裏月影を持ってきてくれたセイウンスカイだが、何故かニシノフラワーも隣にいて、その両手に何かを持っていた。

 

 

「あの、アマグモさん、コレを」

 

「!」

 

「この太刀を使うならこの装備だとセイウンスカイさんが言ってたので。 あとこの護石も」

 

「そうか、ありがとう。 すぐに着替える」

 

「いえ。 よろしくおねが……きゃ!」

「ちょっと、アマグモ〜??」

 

 

リオレウスの操竜から落下時に軽く燃えてしまったバギィ装備をその場で外す。

 

するとニシノフラワーは赤くなる顔を両手で隠して後ろを振り向いてしまう。

 

少しやらかしたか…

 

見慣れているセイウンスカイはややジト目でこちらを見て俺は申し訳なさそうにニシノフラワーに一言謝罪して武具を受け取り、急いで装備する。

 

帯の腰を締め終えるとオデッセイブレイドをニシノフラワーに渡して、壁に立てかけていた太刀を背負い、最後に大きめの三度傘の帽子を被って顎紐を引っ張った。

 

 

「ひィィィ! だ、だだ、大凶が来ました! それも超が付く、大大大凶が来ましたよ!!」

 

「!」

 

 

"差し"としてアイテム補充に回っていたマチカネフクキタルもやってきたが、いつも通り情けない声を上げながら耳をピーンと立てて怯え始める。

 

俺は震えるマチカネフクキタルから閃光玉を貰い、この場が激戦区になることを告げる。

ニシノフラワーとマチカネフクキタルに撤収するように告げると2人は急いで走り去った。

 

セイウンスカイとアイコンタクトを取り合うと彼女はエピタフプレートを背負いながら外層の石階段を駆け上がり、俺は鬼人薬と硬化薬を飲み干す。

 

鞘に手をかけて息を吸って集中力を高めた。

 

薬のお陰で心臓が強く鼓動して、体に血が良く流れる。

 

頭も冴え渡り、剣崎まで意識が届くようだ。

 

 

「!」

 

 

遠くからはトウカイテイオーの姿だ。

 

走る距離が半周分とは言え第三波も乗り越えて疲労はある。

 

だが彼女は全力だ。

 

 

 

「ッッ、ぉぉぉおッッ!!」

 

 

 

早い。

 

疾いッ。

 

速いではないか。

 

第四コーナーから 帝王 が駆ける。

 

貯めた脚爆発させたような速さ。

 

まるで飛ぶように駆けるその足捌き。

 

ヌシ・ジンオウガを10馬身と切り離していた。

 

 

背に感じるプレッシャーは半端ないはず。

 

しかしあのジンオウガに対して小さな子供がその足で置いていく。

 

やはりウマ娘はすごい。

 

 

「来る!」

「来たぞ!」

「狙いを定めろッッ!」

「気炎万丈ッ!」

 

 

それぞれが覚悟を決める。

 

 

武器を構え、バリスタを握り、皆が見据える。

 

 

余裕をもって拘束弾を狙える現状下、あと数メートルで拘束弾の射程圏内に入る。

 

 

そこからヌシ・ジンオウガを討つために最後の全身全霊が始まる…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______ え …」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえてしまう。

 

 

小さな歪みが大きく割れる音。

 

 

帝王の足からそれは__響いた。

 

 

 

 

 

「ぁ……」

 

 

 

 

溢れ落ちるように声をこぼし…

 

その脚は走りを拒むように減速する。

 

 

 

「「「「「!!!??」」」」」

 

 

皆が見て理解した。

 

トウカイテイオーは故障が発生した。

 

速い脚を代償に、それは訪れてしまった。

 

 

「拘束弾を放てェェ!!」

 

「は、放ちます!」

 

 

苦渋の決断だが里人は拘束弾を放つ。

 

しかし普通のバリスタ砲と違く、拘束弾は普段よりも射程が短い。

 

射程圏内に入ってないがトウカイテイオーを助けるためにトリガー引き、向かい側の里人もトリガーを引いた。

 

威力や効果は半減するが当たればある程度の拘束は見込める。

 

その間にトウカイテイオーを援護しようとした、が…しかし。

 

勢いを無くした拘束弾に気づいたヌシ・ジンオウガはそれを回避すると、尻尾で振り払い、しかも雷がその場に走り、トウカイテイオーの右足を掠めた。

 

 

 

「ぐぅぁぁぁッ…!!」

 

 

 

「「「テイオー!!!」」」

 

 

追い討ちをかけるように脚を痛めたテイオーはその場で崩れるように転がる。

 

しかしその柔軟性な体でなんとか受け身を取り、即座に腰から閃光玉を取り出してヌシ・ジンオウガを見据える。

 

 

「まだだ、ボクは…っ!!」

 

 

 

額から流れ始める血。

 

痛みで震える脚。

 

荒い呼吸。

 

しかし、その眼は諦めを知らない。

 

 

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ ゥ ゥ ゥ ゥ ウ ア オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ン ン ン ! ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ぁ… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

その闘争心すら掻き消すような咆哮がトウカイテイオーを塗りつぶした。

 

 

金色に輝く雷獣竜(らいろうりゅう)は走る脚を止めてしまったウマ娘を狙う。

 

 

無敵の筈だったウマ娘はその咆哮を聞いて悟った。

 

 

 

 

 

「ボク、は__」

 

 

 

 

 

無敵の帝王伝説は終わるんだと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせない…ッッ!」

 

 

「!!」

 

 

刹那__眼を蒼く妖しく光らせるウマ娘が飛び出す。

 

黒く塗装されているヤツカタギの素材を使われた装備を身につけたそのウマ娘は刃の青い短剣をヌシ・ジンオウガの首へねじ込むように突き刺し、その勢いで壁に殴り飛ばした。

 

 

「ガァァァ!?」

 

 

 

ヌシ・ジンオウガは壁に打ち付けられて悲鳴をあげる。

 

反応はできなかった。

 

 

 

「まさか!」

 

 

長い追走ゆえに集中力が切れていたのだろうが、飛び出したウマ娘のソレは極限的に済まされた太刀使いハンターと同等かそれ以上の突破力で、ヌシ・ジンオウガは反応出来なかった。

 

プレッシャーはプレッシャーで塗りつぶし、柔よく剛を制する如く、しなやかに力でねじ伏せるような鋭さ、その完璧な間合いは"先行"作を使う者に相応しく、全身が洗礼に編み出されている様は、見惚れるほどに理想的である。

 

 

そして…過去の産物が、血筋が、真実が、それを手助けしたことも俺は理解する。

 

 

 

 

「この百竜夜行が終わったらね、皆が幸せになるの。 だから皆を祝福する幸せの花として…」

 

 

 

 

__ライスは届けるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

強者であるほどに、強者に成り得る素質を持つ者たしかにいる。

 

そこに全霊を注げる者のみが許された領域。

 

武器を握りしめた彼女は間違いなくソレだ。

 

 

 

「あぁ…ウマ娘はやはり、そうなるの、か」

 

 

不幸も、幸運も、色々が重なり合う。

 

 

ウマ娘は戦いの中で駆け過ぎたんだ。

 

そして思い出すようにその力を見せた。

 

皆は強くて戦ったウマ娘として映るだろう。

 

 

 

でも俺は違う。

 

今の俺の眼に映るのはウマ娘ではない。

 

 

あれは__馬人族 だ。

 

戦い知っている 強い生き物 だ。

 

 

 

 

「怪我人、もとい怪我馬の救出モードに入ります。 脇を失礼します」

 

「うわっ!」

「あ、ミホノブルボンさん!」

 

「逃走形態に移行、バリスタ発射距離まで8馬身、97%の安全性を持って直損加速、行きます」

 

「うわわわわ!!」

「あ! わ、わたしも!」

 

 

いつの間にかトウカイテイオーの救出に割り込んだミホノブルボンと、その姿を見ていつもの表情に戻ったライスシャワーは「ついてくついてく」して、バリスタの射程圏内から逃れる。

 

ヌシ・ジンオウガはよろけながらも追いかけ始める。

 

 

 

「ッ、小細工なしの激闘か! やってやる!」

 

「行け! 猟虫!」

 

 

こうなった以上は関係ない。

 

持てる力で倒すまで。

 

ランスハンターと操虫棍ハンターはヌシ・ジンオウガに飛びかかり、ミホノブルボンの追跡を遮らせようと武器を振るう。

 

俺も三度傘を被り直しながら背中の太刀に手を添えて駆け出した。

 

 

その時にライスシャワー、ミホノブルボンとすれ違い、両手に抱えられていたトウカイテイオーと目が合う。

 

その眼は悔しさと、情けなさ。

 

なにより申し訳なさが物語っていた。

 

 

 

 

__ごめんなさい…

 

 

 

 

消えるように吐き出された気がした。

 

 

でも、それを責めるつもりもない。

 

人間のために命を()けてくれたその脚に敬意があるから、俺は彼女の頑張りを否定しない。

 

 

だから…

 

 

 

 

「ありがとう、テイオー」

 

 

 

 

それだけを残して裏月影を抜刀する。

 

 

若葉の香り漂わせる ユクモ装備 と共にヌシ・ジンオウガに向けて…

 

俺も…

 

 

__命を()けることにした。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




作者的にヌシ系はジンオウガが一番難しいイメージ。
マルチすると大体事故る。


ちなみにライスシャワーだけじゃなく、本陣(翡葉の砦)ではナリタブライアンやグラスワンダー、キングヘイローも何かしら起こしてます。

本当は怖いウマ娘…


ではまた


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25話

主 人 公 補 正 っ て 知 っ て る ?(勝確)

なんか前日、急にUA数が増えたんだけど…
なにが起こったんだ?

《追記》
ランキングに載ってやがる…
なんて事だ…
中身が案外ガバガバなのバレちまうよォ…





 

 

 

ユクモノカサが揺れ

 

 

 

ユクモノドウギは靡き

 

 

 

ユクモノコテを握り

 

 

 

ユクモノオビを締め

 

 

 

ユクモノハカマと(かげ)

 

 

 

 

 

「ああ、そういうことか…」

 

 

 

ユクモノカサ…

 

この三度笠がほんの少し…

 

ほんとに、ほんの少しだけ、重たい。

 

でも、それは背負いたい、重さだ。

 

 

 

「お前に与えたコレは、次に俺なのかい?」

 

 

 

三度笠に付いている上に伸びた"羽"が違った。

 

 

お洒落のための"ガァーグの羽"では無い。

 

いつだったか彼女に渡した"極彩色の羽"だ。

 

 

弱った彼女を元気つけたくて、勇気を少しでも与えれてたらと思って、クルペッコ亜種から取ってきたとても綺麗な羽だ。

 

使われず、綺麗なまま売れば相当高いだろうが、俺にとってそれ以上の値が付いている代物になった。

 

 

 

「だから君はユクモシリーズを…」

 

 

 

正直に言えばありがたい。

 

何せ太刀を使う時はユクモ装備の方が戦いやすい。

 

馴染み深い装備で、使い慣れてある。

 

あと気分的にもそれは大きい。

 

 

だが、この三度笠だけは、特別だろう。

 

彼女に与えた勇気が、今は俺と共にある気がして。

 

 

 

「ヌシはただモノじゃ無い。 わかってるさ」

 

 

 

ランスハンターと、操虫棍ハンターはヌシ・ジンオウガに突貫する。

 

しかし武器が悪いのか、ヌシ・ジンオウガが異質なのか、2人を寄せ付けない。

 

 

スタミナを回復しきって驀進可能なランスハンターでも、特性の雷打石の砥石で強化した操虫棍ハンターでも、ヌシ・ジンオウガはハンター2人に引けを取らない。

 

まるでハンターや、強者と戦い慣れたように闘争を演じる。

 

 

 

「ぐっ! なかなかに! 一つ一つの攻撃が重いッッ!」

「この装備にでも強引に電気を通すのですか!?」

 

 

 

苦戦の一文字。

 

やはり真っ向から立ち向かうなど正気では無いのだろう。

 

 

ただのジンオウガでは無い。

 

ヌシと君臨するジンオウガだ。

 

亜種、希少種、二つ名、進化系の枠とは違う。

 

 

純粋に強くなった、ひたすらに強いジンオウガ。

 

その姿を見れば、何度喀血(こっけつ)し、黒血に染まれば、そこに行き着くのか?

 

 

姿形だけでそれは普通とは異質である。

 

兼ね備える威圧感に恐怖すら与えるに容易い。

 

 

 

だが、俺にとっては、それでも"ジンオウガ"だった。

 

 

これまでの経験と知識を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

アオアシララングロトラウルクスス

 

 

時に二足となるその様は、暴力の如し。

 

 

 

 

 

 

ロアルドロスギギネブラアグナコトル

 

 

緩急の激しいその様は、奇怪の如し。

 

 

 

 

 

 

 

ベリオロスナルガクルガティガレックス

 

 

強者として轟かせる様は、怪物の如し。

 

 

 

 

 

 

どれも四方の足で地を這って戦うモンスター達。

 

もちろんこの中には、翼を持ち合わせる奴、二足で立ち上がって見下ろす奴、さまざま体勢からハンターを襲う奴、どれも化け物として溢れているが、それでも地上戦を主体とした奴らであり、これらはユクモ村でハンターするときに良く出会ってきた奴らだ。

 

もちろんレウスのように飛竜も存在しているため、出会うモンスターはこんな奴らばかりでは無い。

 

だが空を制する飛竜よりも、地を這うモンスターばかりと戦ってきた。

 

それが、どんなに強くても、どんなに凶暴でも、大地を踏みしめるその足が人間の何倍も大きくとも、俺はそんな奴らとユクモ村のハンターとして戦ってきた。

 

巡りゆく季節を、生い茂る新緑を、枯れ落ちた若葉を、大地に垂れる黒血を、荒地となった修羅を、骸となった生命を、雨雲で潤う恵みを、俺だって沢山をこの足で踏んできた。

 

今だって、愛バであるセイウンスカイと共に幾度なく残酷な外の世界を、この足で駆けて、この体を掛けて、この命を賭けて、この全て懸けている。 それはこれからも続き、これからも増え続ける。

 

 

 

だから、お前の眼はわかる。

 

オマエも、幾たびを超えてきただろう。

 

 

あらゆる激闘を、惨劇を、災害を。

 

乗り越えた上での【ヌシ】なのだから。

 

 

 

 

 

 

「アオオオオオオン!!!」

 

 

 

 

 

 

何のためにこの百竜夜行の中で現れたか、何故この場に訪れたのかも、わからない。

 

ヌシとして闘争に飢えているだけなのか?

 

カムラの里からしたら迷惑な話だ。

 

 

 

だが理由なんてどうでも良い。

 

別にその先を知りたいとも思わない。

 

 

 

お前は凶悪なモンスターだ。

 

 

認めるよ。

 

 

怯えて奮うだけの人間とは違う生き物だ。

 

例えハンターとして認可されても、弱い者はいつまでも弱く、強い者は少数で、容易く蹂躙されるだろう。

 

 

どこかのベテランハンターはオオナズチに屠られ、俺も続いてその古龍に屠られそうになった。

 

厄災にも、理不尽にも、人は勝てない。

 

それくらいに脆い存在だ。

 

 

人間達に力を貸してくれるウマ娘ほど、俺たちは立派な生き物なんて思ってない。

 

この業だって、始まりは人間で、皆は知らずしてこれを抗い続ける。

 

哀れな生き物だろうか。

 

いくら自傷して足りない。

 

 

 

「だが、俺は__」

 

 

 

ハンターだ。

 

弱気者のためにハンターを全うする。

 

ユクモ村で育ったハンターなんだ。

 

酷く醜い人間でも狩人として辞めない。

 

 

例え、それが自己暗示だとしても構わない。

 

俺は、今ある、俺自身を誇る。

 

 

ユクモ村のハンターだと何度でも誇る。

 

それを"強味"にしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………フッ

 

 

 

そうだな。

 

もういいか。

 

 

流石に長ったらしいか。

 

 

予防線を張りすぎたこの自己満足な前口上はこのくらいで良いだろう。

 

 

でも今は許してくれよ。

 

俺はユクモ村のハンターだから、ユクモ装備で身を整えるとさ、随分と落ち着いて、心も深く澄み切る。

 

 

元相棒のユタカも言ってた。

 

この状態アマグモはユクモ村のハンターって誇りが大きな力になるんだと頷いた。

 

 

俺も思う。

 

俺を育ててくれた村の人達も思っている。

 

 

 

 

だから、ヌシ・ジンオウガ。

 

この独白から、一つだけ教えてやろう。

 

 

 

 

 

「ユクモ村ハンターってのはな…」

 

 

 

自然豊かな土地に住む彩りと生きる狩人。

 

紅葉に舞い、若葉を払い、大地を吸う者達。

 

 

 

「四足歩行のモンスターに対してめっぽう強いと言うことを…ッッ!!」

 

 

 

 

疾風刀・裏月影_

 

コレを引き抜いたらもう関係ない。

 

やることは、一つ…

 

 

 

ジンオウガ(モンスター) は ____ 狩る(ハンター)ッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三度笠から見据える彼の眼はいつもよりも鋭く、目の前のモンスターだけにしか視界に入っていない。

 

本気で本当の真っ向勝負。

 

本来ある作戦もトウカイテイオーの故障により失敗に終わったから、武器を握る三人のハンター達がヌシと言われれるジンオウガを命懸けで狩に出る。

 

 

トウカイテイオーの事は恨んでない。

 

むしろあれ程のプレッシャーを放つモンスターを背に感じながら最後まで惹きつけたのだ。

 

それも重大な役割である8馬身以上の最終突破を望まれたが、先行として駆け抜くトウカイテイオーは10馬身以上の差を作っていた。 理想的な走りを見せつけて、作戦を確約させるために彼女は応えようとした。

 

だが、第三波を超えてきた疲労と、その早すぎた脚を代償にトウカイテイオーは最後の最後で故障して、地に伏せてしまう。

 

だがライスシャワーがヌシ・ジンオウガの横首を狙い、短剣を殴るようにねじ込んで壁に押し付けた。 ウマ娘は人間の何倍も力がある不思議な生き物だから、ジンオウガをその腕で壁に殴れることは可能である。 ライスシャワー程とは思えないが私もそれくらいの事は出来ると思う。 だが力加減を間違えてむしろ自分の腕を粉砕してしまう恐れはあるから、ライスシャワーほどの度胸と勇気はわたしには無い。

 

いや、アマグモがそれを望むなら私はそれに『応える』と思う。

 

彼のためなら、なんだって私はやれる。

 

だから私はこのエピタフプレートを持っているのだ。

 

周りにいる里人やウマ娘は私を見る。

 

ハンターが使うような大剣だ。

 

何を仕出かすのか理解してるのだろう。

 

私は逃げ馬であり、差し馬では無い。

 

だからあの乱闘の中で武器を差しに向かうなんて芸当は早々出来ない。 モンスターの気を引く"逃げ"と、戦闘に割り込む"差し"はまた別の技術だ。 アマグモも言っていたがリアルタイムでの物資補給はそう簡単じゃ無い。 念入りな打ち合わせ、戦闘のプレッシャーに突っ込む心の強さ、どんなに場が悪い状態でもそれを見極めて完全かつ効率良く物資を受け渡してそれを託す。

 

水分補給気分で飲み物を渡すわけじゃない。

 

多少なり練習すれば私も出来ると思うが、その練習や作戦で動いたことない私だから、このエピタフプレートを持つ私を見て皆は不思議がり、中には察している者もいる。

 

 

そうとも。

 

私はこの大剣で奴を斬り落とす。

 

そのつもりで上で待っている。

 

 

 

 

「アオオオオオオン!!」

 

 

 

 

「…」

 

 

 

ジンオウガは何度も見たことある。

 

倒すためにアマグモと協力した事がある。

 

 

なんだったら子タル爆弾と共に崖の上から飛び降りたアマグモがジンオウガに斬り込み、そのまま一夜かけて討伐した姿も、私は後ろで見守ってきた。 何よりその日に彼の言った通りか起きた。

 

 

 

__ユクモ村のハンターは四足歩行に強い。

 

 

 

彼はこれまで戦ってきたモンスターの中でジンオウガが多いと言ってきた。

 

正しく撃退数が多く、討伐数はそう多い訳ではない。

 

行商人の経路や、新人ハンターの採取クエストのために追い払ったりする程度だが、渓流を越えてユクモ村から近づきすぎたジンオウガは何度も首を落としてきたという。

 

全てはアマツマガツチの登場がジンオウガの生態系を乱していたと軽く愚痴を言っていたほどに、ジンオウガに関しての知識も深く、武器を引き抜いて対立してからは強かった…

 

いや、四足歩行には本当に強い姿勢だった。

 

同じ四足歩行であるマガイマガドの時も片手剣で戦い、タマミツネから採取した"泡立つ滑液"を瓶使い、最後は私が投げ渡した太刀を握りしめ、マガイマガドの頸を一太刀で落とした。

 

四足歩行のモンスターを理解したような戦いは確かに上位ハンターを名乗るほど。

 

回収ハンターなんて役割に収まるのがおかしい程だった。

 

でも個人的にはスローペースなクエストは私も好みで、むしろそこに同感なアマグモだった。 そんな意味でも彼は確かにユクモ村のハンターだって思えて素敵だった。 紅葉を眺めながらうさ団子を添えて、のんびりと過ごすようなユクモ村の住人。 私好みがそこにいる。

 

 

でも武器を引き抜けば狩人として眼の色を変えて、何倍の背丈もあるモンスターに対して勇猛に立ち向かう。

 

どこぞの不沈船(ゴルシ)では無いが…

 

立てばアマグモ、座ればユクモ、戦う姿は上位ハンター…なんて彼と共にした湯船の中で口ずさんで揶揄ったことがあるくらいに、私の事のように自慢したくなる。

 

でも強いのは本当。

 

ケシキほどじゃないと言うのは謙虚だと思う。

ユタカほどじゃないと言うのも嘘だと感じる。

 

彼のこの余裕ある減り張りは、上位ハンターレベルになったから身に付いた強さだ。

 

 

だからこうしてヌシ・ジンオウガと戦う姿を上から見ていて、不思議と彼が負ける光景が浮かばない。

 

もちろん目の前にいるのは普通のジンオウガじゃない。

 

凶悪の言葉で済ませて良いのかもわからないほどの強さを兼ね備えたヌシであり、ただ強いだけのハンターじゃ太刀打ち出来ない。

 

正直こうやって真正面から見下ろしていることも私も辛い。

プレッシャーに飲まれそうだ。

 

でもそんな私は何故、もっと安全なところに隠れていないのか?

 

 

 

他のウマ娘は『ウマ娘をしている』のに。

 

チラリと周りを見渡す。

 

 

マヤノトップガンと交代した時のアグネスタキオンも高まる好奇心を押し殺しながらリスク管理を考えてほんの数ミリ程度しか顔を出していない。

 

 

ライスシャワーとミホノブルボンは故障したトウカイテイオーを連れて仕掛け路に逃げ込んで安全を確保している。

 

 

物資補給に来たマチカネフクキタルとニシノフラワーもモンスターの目に入らぬところに隠れて次の物資補給に備えているところ。

 

 

ウイニングチケットもバリスタの補給を終えると騒ぎ出しそうになる自分の口を抑えながら5歩後ろに控えてモンスターの刺激にならぬよう身を隠してる。

 

 

いま戦っている第1コーナー、つまり関門前近くで次走のために待機しているウマ娘たち、ビワハヤヒデは観察しながらも険しそうに、ナリタタイシンはいつでも追い込みを掛けれるよう手元に罠を持っている。

 

 

ウマ娘は、ウマ娘として役割を果たすために、持てる適正で応えるために、皆は身を弁えてそこにいる。

 

 

 

けれど、私だけは違う。

 

ヌシ・ジンオウガがその場から崖を見上げれば、私を見つける事は容易いだろう。

 

 

逃げ馬らしからぬ、堂々とした命知らずな姿。

 

 

わたしはわかってるよ。

 

 

ウマ娘の皆が私を見てそれぞを表現に浮かべてるの。

 

 

何故隠れない?

何故潜まない?

何故逃げない?

 

 

セイウンスカイは逃げ馬だと知っての視線だ。

 

 

でも、ごめん。

 

あと心配してくれてありがとう。

 

 

けれど、わたしはアマグモと戦う。

 

アイコンタクトを取って、決めたから。

 

 

「ダメです、割り込めません!」

 

「いえ、これはむしろ、加勢は危険か!」

 

 

手をこまねいてる2人だが、でもそれは正しい。

 

むしろユクモ村のハンターの太刀使いに割り込まない方が良い。

 

その巧妙かつ大胆は太刀筋は仲間(マルチ)を邪魔してしまう。

 

そうアマグモから聞いた。

 

しかし、邪魔もなく一対一で見合う太刀使いはどの武器よりも鋭さに躊躇いが無いと聞いた。

 

何事も、太刀が1番の最適解等だと言っていた。

 

 

アマグモはそれを証明する様に…

 

 

 

「グォォォンッッ!! ガウゥッッ!!」

 

 

「…!」

 

 

 

ヌシ・ジンオウガがその大腕で叩きつけても、振るう太刀の遠心力で回避しなぎら払うように、斬る…

 

 

 

ヌシ・ジンオウガが大きな尻尾で薙ぎ払っても、三度笠を掠めるように姿勢低く太刀で撫でるように、斬る…

 

 

 

ヌシ・ジンオウガが雷光弾を放っても、その隙間を見つけながら密度が甘いとばかりに踏み込んで貫くように、斬る…

 

 

 

ヌシ・ジンオウガが雷の柱を走らせても、軌道を予測したように太刀を低く構えながら後方に退避すると一気に踏み込んで、斬る…

 

 

 

ヌシ・ジンオウガがその巨大で突進しても、納刀したその太刀は居合の如く抜刀すれば三つの血飛沫と共に、斬る…

 

 

 

ヌシ・ジンオウガがその剣技に怯めば、迅竜の素材が使われた太刀は容赦ない斬撃が刃の色を血の色に光らせるために、斬る…

 

 

 

キって、切って、斬って、鬼った。

 

 

 

攻も、守も、動も、目も、腕も、足も

 

 

毛も、首も、肉も、血も、腹も、皮も

 

 

角も、尾も、胴も、背も、喉も、爪も

 

 

雷も、声も、舌も、顎も、甲も、牙も

 

 

骨も、棘も、頸も、涙も、声も、傷も

 

 

馘も、戦も、獣も、血も、名も、光も

 

 

 

そして、まもなく、命を…も…

 

 

 

 

「グルルルルッッ!!!」

 

 

「…」

 

 

 

彼は翔蟲を一つも使わない。

 

地から足を離さず、決して背を見せない。

 

常にその大地を踏みしめ、太刀を血の色に光らす。

 

 

 

 

「こんな日でも、丸いお月様…」

 

 

今日は満月。

 

 

今は地獄の宴だが、ヌシと狩人が終演を飾り。

 

 

渓流から眺めたように綺麗な月が2人を彩る。

 

 

 

 

 

 

そして、再び動き出した。

 

 

 

 

 

「グガァァァア!!!!」

 

 

 

ヌシ・ジンオウガは大口を開ける如く、その背中には雷光が瞬き、後ろに引いた右腕を大きく振りかぶるように前に突き出し、何がなんでもアマグモを捻り潰そうと迫り…

 

雷光を纏う巨体に対して、アマグモは腰を低く、太刀を後ろ脇へ刃を構え、満月の方向に傾く三度笠からは、嵐の中で飲み込んだ迅竜の眼の如く、狩人が眼を紅く見開き…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一 閃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惨烈にヌシ・ジンオウガから血飛沫が舞う。

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

 

「グルルル! グルルルッッ!!!」

 

 

奴は動く。

 

されど続ける。

 

ヌシ・ジンオウガは死なない。

 

 

深淵の暗殺者(ナルガクルガ亜種)から創られた太刀だとしても、刃は血飛沫の色に染めるだけで、奴はまだ命を絶やさない。

 

 

 

「……!」

 

 

ヌシに対する一閃の代償。

 

ユクモの三度笠を掠めて、極彩色の羽が空に散った。

 

 

ガァーグの羽では無い、半年前に弱った私を元気付けるために取ってきてくれた、とても綺麗な極彩色の羽だ。

 

それが三度笠から弾かれて、空に舞い上がる。

 

 

アマグモ自身に傷はない。

 

しかし…

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

アマグモは一閃したまま、太刀を動かさない。

 

 

残心も取らず、背を向けたまま…

 

 

ゆっくりと太刀を下ろした。

 

 

 

 

「「「「 「 !!!??? 」」」」」」

 

 

 

 

 

 

はぁ………はぁ………」

 

 

 

荒い呼吸に追われる。

 

 

大きく動く肩。

 

 

これ以上の闘争は続かない。

 

 

そんな弱さを見せた。

 

 

呼吸が止まらない。

 

 

むしろ良くここまで一人で戦い続けた。

 

 

けれどアマグモはヌシ・ジンオウガに振り向かない。

 

 

その現実と向き合わない……

 

 

 

 

「「「「「そん、な…………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

戦意喪失……

 

皆はそう捉えた。

 

 

 

 

 

あれだけやっても怪物は倒せない。

 

息と刃を絶やさず、アマグモは斬り続けた。

 

紙一重を乗り越えて、太刀筋を重ねてきた…

 

 

しかしそれなヌシは応えない。

 

 

 

「グルルルッッ」

 

 

 

ヌシはそこに君臨し続けて弱者を見下ろす。

 

首から垂れ落ちる血は毛を汚す。

 

 

だがそれがなんだとばかりに、動き出す

 

トドメを刺すため、大腕に雷光が走る。

 

 

奴に衰えは無く、一歩一歩が迫る。

 

人間程度、容易く粉砕するような死の光が…

 

アマグモに近づく。

 

 

見ている皆の、足も、手も、動かない。

 

これほどのハンターでも、ヌシは倒せない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____ 勝てない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ううん。

 

そんな事を思う セイウンスカイ と アマグモ は居ない。

 

 

 

 

「テイオー、君の伝説はカムラの里を救ったよ」

 

 

 

三度笠の中で、不敵に笑みを描く。

 

太刀の刃を地面に向けて、下に突き刺した。

 

刹那! 眩い閃光が当たり一面に広がる。

 

 

 

 

「グオッッ!!?」

 

 

 

 

足元にあった __ 1つの閃光玉

 

トウカイテイオーが落としたモノだ。

 

 

あと、わたしにはわかったよ。

 

刃に貯めた 錬気 が解き放たれた事を。

 

それはヌシ・ジンオウガから奪った(錬気)だ。

 

同じところを斬らず、あらゆる所を斬った理由。

 

その光を錬気として太刀に溜めるため。

 

その状態で閃光玉に刃を突き刺して放った。

 

 

 

「グォ!? ギャゥゥン!?」

 

 

 

やっと吐き出された、ヌシの情けない声。

 

あまりにも強い閃光は予測不可能。

 

ヌシ・ジンオウガはその眩い光に怯む。

 

 

 

 

 

 

 

「セイウンスカイ」

 

 

 

 

 

 

うん、わかってるよ。

 

 

私は一歩前に出た。

 

 

 

 

「嘘っ!?」

「セイウンスカイ!?」

「スカイさん!?」

「なっ!!」

「セイウンスカイちゃん!?」

「スカイっ!!」

 

 

 

 

 

私は大剣を持って崖から飛び降りる。

 

エピタフプレートは月光を浴びて光る。

 

 

書かれている文字は分からない。

 

 

でもアマグモのことは分かる。

 

アマグモは色んなところを切っていた。

 

 

でもその中で" くび " の部を多く狙っていた。

 

 

ヌシ・ジンオウガのくびを斬って、少しでも斬り落としやすいようにしてくれた。

 

 

わたしがやってくれると信じて…

 

 

そう信じてくれている。

 

 

あの日から変わらずに、彼は私に信じて…

 

頼りにしてくれた…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__おや〜? もしかしてこの私を選ぶのかな?

 

__逃げる事だけに脚が慣れてあまりご期待に添えれないかもよ?

 

 

 

 

 

__だからこそだよ。

 

__今の俺にはお前が必要だと感じてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出会い。

 

ここまで君が私に沢山をくれた。

 

 

 

逃げるだけの私に…

 

怯えていた私に…

 

 

弱くて仕方ない私に…

 

 

酷く見苦しい私に…

 

 

空の晴れない私に…

 

 

 

幾度なく接して、それで優しくしてくれた。

 

面倒な私なのに、貴方の天候は変わらずだ。

 

なのに私は何も返すことは出来ていない。

 

貰うばかりで、潤うばかりで、何も…

 

 

あなたはわたしに沢山をくれる。

 

 

たくさんの好きをくれる。

 

そうして好きにしてくれる。

 

 

だからわたしはあなたに【応える】よ。

 

それで返せるなら【応える】から。

 

 

ウマ娘なんて関係ない。

 

わたしが ただ アマグモ に 応えたい

 

 

やっと私は、あなたに一つくらい返せるかな?

 

 

たくさんを返させてよ、アマグモ…ッッ!!

 

 

 

 

「ォォォォッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君がくれた 極彩色の羽 が目の前に舞う。

 

 

これも、あなたがくれた物だ。

 

 

それが目に映る。

 

 

これまでいっぱい色々あったもんね。

 

互いに色々を知り合ったよね。

 

ありがとうで済まされない、そんな彩り。

 

 

その沢山を思い出しながら、力に溢れる。

 

 

応えたいを、前に!!

 

貴方のためを、力に!!

 

 

 

「うぉぉぉぉオオオオ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロリロリーン!!

 

セイちゃんの好感度が上限突破してました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、あなたの愛バになれて、嬉しい。

 

 

ありがとう、アマグモ。

 

 

 

 

 

 

スカイさんはね。

 

 

あなたのことがね、とっッッても大好きなんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人のウマ娘は『応える生き物』として翔んだ。

 

 

もし三女神がここにあるとしたら、そう見えただろう。

 

 

 

しかし大剣を握った先は、ウマ娘では無かった。

 

まるで馬人族の如く、戦いに身を投じて、奮う。

 

 

 

 

 

けれど、そのウマ娘は、種族に関係なかった。

 

 

何の者にも囚われず…

 

 

ただ、1人の【セイウンスカイ】として。

 

ただ、1人の【アマグモ】のために。

 

 

 

 

彼女と言うこの存在だけが…

 

 

エピタフプレートを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザ ン ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァァゥゥ? ……ァ、ァァ_____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴトッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、一頭のヌシが命を絶やす。

 

地面にこぼれ落ちたその頸は、横たわる。

 

その眼は最後に、大剣を持った者を見た。

 

 

 

 

__ 人と変わらぬ、女子(おなご)がそこにいた。

 

 

 

 

驚きも、戦慄もなく、その眼は光を失う。

 

 

代わりに峠から光が訪れ始める。

 

 

 

 

 

__ォォォォォォオオオオ…ン!!

 

 

 

元凶である風神は傷を負ったまま空へ飛ぶ。

 

一つの厄災が退けられ、不穏な風は過ぎ去った。

 

 

 

 

 

 

「セイウンスカイ」

 

 

 

青年は少女に駆け寄り…

 

 

 

「ぁ」

 

 

そして抱きしめる。

 

 

 

 

「よくやった」

 

「…………っ、っ……うん…ッ」

 

 

 

 

 

 

大剣を手放し、青年に抱きしめられる。

 

 

 

 

 

「わたし、あなたに、返せたかな、一つは…」

 

 

「?」

 

 

「私は、何もかもが、貴方からだから」

 

 

「…」

 

 

 

 

震えるように、縋るように、涙を落とす。

 

慣れない戦闘の興奮が、少女を惑わすから。

 

でも、この気持ちは不安で、本当だ。

 

 

 

「何も返さなくていい」

 

 

 

 

青年は応える。

 

愛しいそうに、その頭を撫でながら…

 

 

 

 

「ただ、そのかわり…」

 

 

 

頭を撫でながら、少女の顔を見た。

 

 

青年は、もともと見返りなど求めてない。

 

共に駆けていただけで、特別は無い。

 

 

でも…

 

今ここでひとつだけ、青年は少女に応える

 

 

 

 

 

「隣に居てくれ。 それだけで良いから…」

 

 

「ぁ…っ……………うん!」

 

 

 

 

 

 

 

あーあ、またですよ。

 

セイちゃん今日も彼の雨雲に泣かされましたとさ。

 

しっとりながらも、めでたし、めでたし…ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

カムラの里に朝日が出る。

 

 

 

 

半分に裂かれた 極彩色の羽。

 

血溜まりの中でもソレは色鮮やかに彩った。

 

 

 

強いて言うなら 青雲 の色を染めて。

 

 

 

つづく

 

 

 




大胆な告白は主人公の特権って、それよく言われてるから。

あと主人公の好きを力にヌシ・ジンオウガ倒しちまうとか…
さてはお前ヒロインだな?


アマグモが 一閃 する前の文章は【MHP3】のパッケージの一枚絵を連想させました。
身につけているのはユクモ装備だけど武器は【ユクモの太刀】ではなくナルガクルガ亜種から作られた【疾風刀・裏月影】で異なります。
これはアマグモはMHP3の主人公ではないメッセージ。
使ってる武器も『亜種』だからね、その意味で彼は違う。
アマグモはモンハン世界のセイウンスカイのためだけにいる主人公だから、MHP3の主人公じゃなくて良いんです。


ちなみにモンスターの名前に使われた色文字。
意味がわかる読者はユクモ村のハンターですね。
これは間違いない。



ではまた


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第26話(凍結しました、ここで終わりです)

争い と 争い の間のことを『平和』と呼ぶ。
それでも噛み締めるべきだろう。


《2/1》
あとがきに大事な報告があります。



 

 

翡葉の砦ではイブシマキヒコを撃退。

 

関門前ではヌシ・ジンオウガを討伐。

 

 

それぞれ激闘を超えたカムラの里には平穏が訪れた。

 

しかしあらゆる損傷や損失、また怪我人や死人もゼロではない。

 

失ったものもある。

 

取り返せないモノもある。

 

 

けれど乗り越えてきた。

 

だから今あるこの時間を大切にする。

 

カムラの里は活気を取り戻そうと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

のちに現れる【雷神】が天から地を見下ろすまで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの百竜夜行から2週間が経過した。

 

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

「むにゃ……んんぅ……すぅ…」

 

 

 

一人分の敷布団に二人分…

 

普段夜寝るときは二人分だが、お昼寝のときは大体一枚だけしか敷くことは無い…と、言うより彼女が一枚しか敷こうとしない。

 

そもそもお昼寝の際は大体彼女が率先してその時間を作り上げて、俺がそこを一緒にする流れなのだが、これも独占欲と言うべきなのかとても密だ。

 

拒む気は無い。

 

まあ、最初の頃からこんな感か。

 

 

当時は敷布団じゃなくて座布団を2枚並べて俺は寝ていた。

 

実のところ俺も昼寝とか好きで、日差しが鬱陶しく無い時間帯に良く昼寝をしていた。 暇なときは体を休める目的も持ち合わせて眠ることは多い。 そこにセイウンスカイが『お供(オトモ)』として住むようになってから、いつだったか座布団を一枚引っ張ってきてそれで昼寝していた。 俺も少し離れたところで座布団を枕代わりに昼寝していた。 しかしいつのまにかだ。 気づいた時には2枚並べて一緒に並んで昼寝しているようになった。

 

俺からなのか、セイウンスカイからなのか、もう覚えてないがごく自然と彼女との時間がグッと増えて、お昼寝こそが彼女との大事なコミニュケーションになっていた。

 

いつしか百竜夜行が予測された日なんかには、夜に向けて一眠りすることによって心を澄ませ、程よく緊張感を保たせるためにそうしてたが、いつのまにかセイウンスカイが俺と密着する様に眠りつく流れが出来ていた。

 

 

ちなみに何故、大事な一戦の前に悠々と一眠りするのか?

 

これは昂めるためだ。

 

原理?

 

これは俺がユクモ村のハンターだからそうしてる。

 

ユクモ村で育ち、出来上がった体質の関係上そうすることで狩に向けて集中力が高まる。

 

なんというか精神統一に似たようなモノだ。

 

この後に握る太刀はまるで"心眼"のように洗礼された太刀筋を作り上げれるようになる。

 

なんというか、ユクモ村のハンターはユクモ温泉に入ってから狩に向かうことを普通としている。 湯に浸かることで、紅葉のごとく心を落ち着かせ、体の代謝を高めて、呼吸が深くできる体を作り上げる。 これがユクモ村のハンターの特徴だろう。

 

とある地方ではアイルーキッチンで爆食いする事で体内のエネルギーを満タン以上にしてから狩に向かうハンターもいる。 あのあたりはかなり過酷だからな。 特に雪山や砂漠。 あんな激戦区で戦うためにそれだけのエネルギーを欲するのだろう。

 

あとベルナ村ではチーズフォンデュを食べることで体内を活性化させて、あらゆる出来事に対して臨機応変(スタイル)に戦えるように状態を整える。 どのような場所でも調査に向かう龍暦院ハンターのためのレシピだ。 たかがチーズフォンデュとは言えない。

 

 

そしてユクモ村も、ユクモ村のやり方がある。

それは自然の中でエネルギーを得る事。

 

昼寝でも良い。

入浴でも良い。

食事でも良い。

 

そうやって狩に向けてコンディションを整える。

 

俺はユクモ村のハンターだから昼寝でコンディションを整えて、狩に向けて己の戦力を昂めるのだ。

 

 

そして、それはセイウンスカイも似たようなもので、彼女も一眠り挟むことで昂める…と、言うのは少しだけちがう。

 

ただ単に緊張し過ぎないようリラックスするため彼女は一眠り挟む。

 

これは自分がどうしたら最高の状態にできるかを、自分を理解してるから出来ることだ。

 

これはセイウンスカイならではだろう。

 

大したものだと思う。

 

 

 

まあ、そんなわけで俺もセイウンスカイも『一眠り』する事で力を蓄えれるので共に眠る現状が出来上がった…のだが、いつのまにか引っ付いて寝ているようになった。

 

でもそうなった理由は俺もわかる。

 

 

__共にする。

 

 

これだけ言葉で色んな意味が含まれている。

 

とても安心するのだ。 俺も彼女も。

 

互いに預け合える者がいると言うのはありがたい話。

 

この戦いは一人じゃ無い。

 

どんなに不安でも互いがそこ居る。

 

許し合える程に、心強くて落ち着く。

 

 

これを想いながら、俺はセイウンスカイを後ろから抱きしめて、彼女は俺の腕を両腕で抱きしめて、百竜夜行の時が訪れるまで一眠りの中でそうしている。

 

 

距離感が近すぎる?

 

セイウンスカイはあまり気にしなかったし、俺も気にしなかった。

 

いや、流石にそうして良い相手になるまでの間はもちろんあったけど、遠回しに…まぁ、好き合っていたのかもしれない。 それが百竜夜行に向けて一眠りすることで誤魔化すように触れ合っていただけかもしれない。 互いにそれを言葉に出さないで、良かれと考えて、でも居心地の良さが優ったからその感情は第二になってた。 そうだったかのかもしれない。

 

その後、ユクモ村の温泉で彼女が独白してからは一気に距離感が縮まって、ユクモ村の宿で過ごす時も並べた敷布団は近くて、カムラの里に帰ってから2回部屋で寝ていた俺の敷布団を、彼女が夜寝る時に使っている茶の間へ勝手に運んで、流されるままにそれから俺はセイウンスカイと夜を過ごすようになった。

 

あと………うまぴょいもした。

 

一回以上は。

 

 

 

「むにゃ…むにゃ……ふへへ」

 

「……」

 

 

 

目が覚めた。

 

まだ……少し気怠いか。

 

あ、別に寝過ぎた訳じゃ無い。

 

あの百竜夜行からしばらくこんな感じだ。

 

もちろんオン、オフで切り替えれる。 狩に出るときは真剣である。 大自然と言う死にやすい世界だから狩人として慢心は無い。

 

…とは言うもの、最近の狩猟環境は本当に落ち着いている。

 

それを証拠に俺よりも狩に出ていたはずのケシキとサイレンススズカの姿をカムラの里でよく見るからだ。 それでこの二人は実のところあまりカムラの里でゆっくりしてこなかったので、最近は里の隅々まで歩いてはゆっくりしてる。

 

それを見たセイウンスカイはまるで新婚夫婦のような二人だと揶揄う。 新婚夫婦の意味に首をかしげたケシキと、その意味を理解したサイレンススズカは赤面しながら左回りで落ち着かない様子。 どうやら掛かっているようです。 一息つけると良いですが。

 

 

そんな平和の一時なのだが、俺のこの気怠さはどうしようもない。

 

だがこうなった原因は理解している。

 

それは百竜夜行の時に飲んだ"鬼人薬"と"硬化薬"だ。

 

そもそもアレは普通(ノーマル)の薬じゃなくて『増強(グレート)』されたモノだったらしく、過去に薬物依存症で中毒化してた俺の体は久しく摂取した鬼人薬グレートと硬化薬グレートに反応して、脳が通常よりも倍近く働いていた。 お陰で反射神経や反応速度が尋常じゃ無いほどに上昇してたのでヌシ・ジンオウガとあそこまで殺り合えた。

 

今考えると翔蟲も使わず、閃光玉も引き出さない、己の腕と太刀一本で戦っていた姿は相当狂っていたと思う。 だがその代償または反動なのか百竜夜行が終えてからはこのだらしない状態。 あの状態から克服したので嘔吐するようなことはもう無いが、体に力が出ない。 必要な時はしっかり働くのだが何も無い日は本当にこの状態が続いている。 それも2週間経った今もまだ続く。

 

ちなみに最後に狩に出たのは5日前で、それもカムラの里に近づき過ぎたオサイズチの討伐。 下位クラスがやるようなクエストだった。 それでもその時はしっかり体が動いてたが、ギルドに報告してから家に帰ると玄関前で力が一気に抜け落ちてしまう。 気怠さと同時に襲いかかる眠気と立ち向かいながら風呂場に入り、無気力状態な俺のあたまゴシゴシしてくれるセイウンスカイ。 気持ちよくてそのまま寝てしまいそうになる。

 

湯船の中では彼女専用の背もたれにされていて、俺は白目剥くようになすがまま。 もうこの時点で半分ほど寝てる。 ただ湯船で寝てしまうのは自殺行為なのでセイウンスカイが耳でテシテシと頬を叩いて眠ってしまわないようにしてくれる。 こちらの指にしゃぶりついたり、ペロペロと舐めて起こそうとしたりする。

 

普通に起こしてくれ…

 

 

頑張って目を覚ましながら湯から上がるとそのまま彼女は率先して夜ご飯を作ってくれる。 すごく助かってる。 出される料理は普通に美味しい。 ただし淹れるお茶はかなり渋い。 卒なくこなす彼女もこれだけは不器用だ。 そんなところはかわいいと思う。

 

 

それから軽く一眠り。

 

一枚だけの敷布団に転ばされると真正面から抱きしめられ、あたまを撫で撫でされながら彼女の胸の中で泥のように眠る。

 

当時はこのくらいひどかった。

 

 

今はなんとかマシになったが、この気怠さはしばらく取り除かれないだろう。

 

出来ればグレートは飲みたく無い。

 

ヌシ・ジンオウガと一騎打ちのような現状下に落とされるまではそれ以外でなんとかする。

 

そう決めた2週間目。

 

カムラの里はとても平和です。

 

 

 

「……? ………まだ夕方前か…」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

 

俺の愛バは気持ちよく眠っている。

 

そろそろお茶の時間にしようと思い、ウサ団子を買いに向かおうと軽く支度する。

 

セイウンスカイに「少し行ってくる」と一声だけ残す。 すると彼女は眠ったまま片耳をピン伸ばしてフニャフニャと横に動いて、また沈む。

 

彼女なりの「いってらっしゃい」である。

 

掛け布団をかけ直してあげてから外に出て、活気の良い道に出る。

 

 

周りを見渡す。

 

元気な里人達、そしてウマ娘で沢山だ。

 

 

たらら場前の長椅子に腰を落としたヒノエとスペシャルウィーク、セイハクくんとコツミちゃんの四人がお団子を食べている。 特に前者二人の食べる量はおかしいがアレでデフォルトなのでなんとも言えない。 あと食べているのはにんじんのウサ団子。 ウマ娘達の要望で真っ先にヨモギが開発したのを思い出した。 もちろんセイウンスカイも好物であり、いまからそれを買ってくるところ。

 

 

道に出ればアイルーと共に米俵を運ぶお手伝いをしているニシノフラワーとサクラバクシンオーの姿が横切る。 2週間前の百竜夜行であれだけ走ったサクラバクシンオーなのだが元気すぎる。 いまも「安全に気を遣ってバクシン!」と言っていたが、驀進したら安全じゃ無いと思うのだが? それとは正反対にお淑やかなニシノフラワーなのだが、あの小柄で軽々と米俵を持ち上げるからやはりウマ娘パワーには勝てないと再確認する。 彼女達が温厚な種族で良かった。

 

 

広場では子供達と一緒に遊ぶウマ娘は気合い充分良い顔してますウイニングチケットと、計算の元で誰よりも長くコマを回すビワハヤヒデと、やれやれ気味に遊んであげるナリタタイシンの三人。 関門前の内周コースで長距離の適正あるこの三人には大変助けられた。

 

あと鬼ごっこで遊んであげるマチカネタンホイザーとナイスネイチャにライスシャワーは手加減していると思うが元気溢れる子供の足に結構苦戦している。 ただしトウカイテイオーとエルコンドルパサーは本気で大人気ない。 見守っているグラスワンダーだが、その二人に対する視線がほんの少し怖いデース。

 

 

さらにその近くでは今日も演劇をお披露目するテイエムオペラオーとスマートファルコンの二人、ハルウララは子供達と一緒に座って楽しそうに眺めている。 木の役割でボーとしているミホノブルボンと、心を無にして木笛で演奏を挟むアドマイヤベガに「救いは無いんですか?」とか弱い村人の役割をするメイショウドトウ。 ここは他とは違う不思議な空間が広がっていた。 楽しそうでなにより。

 

 

定食屋では遠目にその演劇を眺めながらケシキとサイレンススズカがお茶をしていた。 こっそりとケシキの腰に尻尾が絡みついてる辺りスズカはもう間違いないだろう。 お似合いだと思う。 あとどこからか「おひょ!尊いッ!」と喉と胸を押さえて苦しんでいる。 どのウマ娘とは言わないが一人百竜夜行状態していた。 知らない人が見たら恐怖だよアレは。

 

あと他にもラフな格好をしたハンター達と、そこに随従するウマ娘が多く、それぞれ会話を弾ませていた。 やはり俺と同じで他のハンター達もクエストが無いみたいだ。 今は花札で賭け事をしながら遊んでおり、ウマ娘もそこに混じっている。 今のところナカヤマフェスタとマヤノトップガンが優勢らしい。 やはり運や勘を絡ませると強いなこの二人。 なのにマチカネフクキタルは弱い。 再び負けた辺りで「7枠7番7人目に座らせてください!」と必死になってる。 それ変わるのか現状?

 

 

ちなみにクエストはゼロという訳でもない。

 

例えば納品クエストが存在する。

 

砂漠では三つ星サボテン、寒冷群島ではセンテイカキなど、素材や資材を集めれる探索ツアーと言う形でクエストは受けることができる。

 

もちろんあの辺りは普通にモンスターが彷徨いてるので素材を売るために狩に出たりもできる。

 

モルモットとアグネスタキオンがイソネミクニの討伐ついでに「ウミウシの光を再確認する」とか言ってまた寒冷群島に向かっていたのを思い出した。

 

クエストじゃないけれど、武器を握って狩に出ている者はもちろんいると言う事だ。

 

 

まあ、それでも比較的平和である。

 

それらが、そこら中に訪れている話。

 

そろそろ抜け落ちてもいいだろうこの気怠さを引きずりながらも、この時間を噛み締めるのも良いが、そろそろセイウンスカイが小腹すかせて起きてくるだろう。

 

ウサ団子を持ち帰らないとならない。

 

 

もちろん向かった先のウサ団子屋さんには…

 

 

 

「オグリ、相変わらずだな」

 

 

「アマグモか。 ウサ団子が美味しいのが悪い」

 

「むっふふ! 当然美味しく作ってるからね!」

 

 

満足そうなオグリキャップとお盆を持ちながらドヤ顔のヨモギちゃん。 この二人が一緒にいるところはもう見慣れたレベルだ。 別にオグリキャップはヨモギちゃんのお供でいる訳でもなく、トレーナーとして慕うわけでも無く、ただ単にウサ団子が好きでオグリキャップは毎日のようにここにいる。

 

ちなみにオグリキャップのトレーナーはいない。 彼女は基本的に一人だけであり、百竜夜行の際はバサルモス装備の狩猟笛ハンターに同行している。 そんな狩猟笛ハンターはオトモを雇わない気分屋であり、他のグループに一時的に加入したり転々としている。 ならオグリキャップはどうなのかと言うと、彼女自身あまりクエストに出ない。 里の中でいろんな手伝いをしている珍しいウマ娘だ。

 

まあそもそも、ウマ娘全員が自分のトレーナーとなる者を見つけてる訳でもなく、単独で動くウマ娘も少数ながら存在する。 オグリキャップがその一人だ。 しかし彼女程の力があるならベテランハンターのお供として助けにはなれるだろうにそうしないのは不思議だった。 特に誰とも上手くいかないとかそんなことなく、彼女自身とても素直なウマ娘だ。 腹ペコ属性とやや世間知らずな部分が愛嬌だとしたら特に問題なく一緒に行動しやすいウマ娘だと思うのだが、頑なにそうしないのは恐らく…

 

 

 

「アマグモさん! お茶です! あとごめんね! いまおもち叩いてるところだから完成まで少しだけ待っててね!」

 

「大丈夫だよ、ありがとう。 出来立てとして頂きます」

 

 

 

ヨモギちゃんは持ち場に戻るとお餅を作り始める。 多分お団子が足りなくなる原因はオグリキャップだと思うけど、ヨモギちゃんは特に気にすることなくウサ団子を作っている。 むしろ色んなお団子を食べてもらい、感想を貰えるのでありがたいとか。 上手くやっているのだろう。

 

 

まあ、露骨に距離が近い気がする。

 

それは…俺の中で浮かぶ答えが、もしかしたらかもしれない。

 

 

 

「アマグモ」

 

「んん?」

 

 

 

珍しい。

 

オグリキャップから話しかけてきた。

 

彼女はあまり自分から喋らないタイプなのだが…

 

 

 

「君は、秘境に来たことがあるのか?」

 

「!」

 

「そうか。 やはり、その感じだと"どの秘境"なのかわかってるのだな」

 

「…誰から聞いた?」

 

「長やタマからだ。 百竜夜行が終えてから一度帰ったのだ。 その時にな」

 

「なかなかにお喋りで」

 

 

恐らくイビルジョーの件とかで話たのだろう。

 

あちらも現状報告とか交えた上で俺のことを知ったのかもしれない。

 

ただし秘境の存在を知られてしまったオグリキャップからしたら不安要素だろう。

 

 

 

「それで秘境に戻ったのは何かの報告か?」

 

「まぁあ、そうだな。 現場報告と言うか、個人的に色々とだ。 それで…君は__」

 

「別にどうもしないよ。 俺は長と同じでウマ娘の幸せを望む。 でも俺はハンターだからやる事は狩を行う事だが百竜夜行の収束に全霊は注ぐつもり」

 

「そうか。 いや、なら安心した。 それに確信もした。 君なら大丈夫だろう」

 

 

 

そう言って、チラリと、遠くを眺める。

 

その視線は__行商人のカゲロウに向けられた。

 

何をする気で、何を告げる気だ?

 

 

 

「アマグモ…」

 

 

 

 

 

 

 

__お願いが、ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウサ団子を持ち帰るのと同時に…

 

オグリキャップからクエストの内容を持ち帰った。

 

 

まだ詳しい話は聞いてないが、心なしか緊張感が走る。

 

足取りはいつも通りだが、ほんの少しだけ落ち着かない。

 

それは、もしかしたら、が、脳裏を駆け巡るから。

 

 

 

 

「ウサ団子屋さんの、ヨモギちゃん…か」

 

 

 

 

持ち帰ったウサ団子を揺らしながら家に帰る。

 

気怠さはいつしか抜け落ちていた。

 

 

 

 

つづく

 

 






《 大事なご報告》
2/1 この作品の投稿はやめました。

理由としましては、見切り発進故に始まった物語の展開の酷さ、ウマ娘やキャラクターに対する知識不足、またウマ娘公式におけるガイドラインの関係との照らし合わせなど色々と事情がありまして、投稿が大変苦しくなったからです。

焼き直しを行っての、再投稿は考えております。
その際はこの作品を消去する予定です。

ここまでのお付き合い、ありがとうございました。


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