桐生一馬の不運な一日 (ぱんそうこう)
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桐生一馬の不運な一日

龍が如くって英語で「Yakuza」らしいですね。
ところで関係ないんですけど極道兵器って「Yakuza Weapon」って言うらしいですよ?


「それでは、これより緊急幹部会を始める」

 

神室町外れの東城会本部。そこでは会長代行、二井原隆の召集により直系組長を集めた緊急幹部会が行われていた。

そこには若頭の世良勝に加え嶋野太、堂島宗兵、そして出所したばかりの風間新太郎を始めとするそうそうたる面子が顔を並べていた。

 

「まず、今日風間がムショから帰ってきた。急なことだが、これで『カラの一坪』絡みの混乱も完全に収められるだろう」

 

「カラの一坪」。それは神室町再開発により発見されたほんの一坪の土地。しかしそれが再開発を断念させうる位置に立地しており――その所有権を巡って多くの血が流れたことは彼らの記憶に新しい。

 

しかし本題はこれではない。

 

「それで代行。今召集したってことは、例の倉脇襲撃の件で間違いありませんね?」

 

世良が二井原に召集の意図を問う。ここ最近で召集をかけるような出来事なぞここにいる人間なら全員がそれ以外に無いと考えていた。

 

――倉脇重介。数日前まで日本で一番天下に近かった男。東城会とも盃を交わしていた岩鬼組を潰し、謎の組織をバックに天下の一歩手前にまでのし上がった極道。しかし彼の組織や地位はその象徴である巨大要塞ビルもろとも崩れ去った。これはわずか半日ほどで電撃的に発生したというとてつもない事件であり、彼らは直前に起こったと思われる倉脇系島田組の壊滅と合わせて情報収集をしていたところであった。

 

「ああ。それで間違いねえよ。幸い、東城会(ウチ)の内部に一部始終を目撃した奴がいてな、そいつを証人に連れてきた。……入れ!」

 

二井原の一声でドアの外で待機していた男が「失礼します」の声と共に入室する。

証人になった人物を見て堂島は苦い顔をした。嶋野は観察するような目を、風間と世良は無表情だったが、内心では「気の毒に」と思っていた。

 

召喚された証人――桐生一馬の胸中は一言で言い表せる。

――何故こうなった、と。

 

 

―――――――――――――――

 

事の発端は桐生が岩鬼組の残党とおぼしき三人組を見つけた事にあった。岩鬼組の壊滅を知らない彼らの様子に少し違和感を覚えた桐生だったが、東城会堂島組の人間を間に置くことで倉脇系の組から彼らを守る意図の元、旧岩鬼組本部へ向かう彼らに同行したのだった。

――それがとてつもない貧乏クジを引かされる結果を生むとも知らずに。

 

 

彼らは島田組の事務所であれこれと何かを話した後、突如事務所に向けて事前に送っていたらしいロケットランチャーを始めとする重火器をぶっ放した。

島田組の事務所はローン会社「あけぼのローン」と併設されている。桐生は堅気も使う会社に事務所を併設する島田組が気に食わなかったが、それでも堅気が巻き込まれる可能性を考慮して三人組を止めようとした。

しかしその首魁――岩鬼将造――は止まらない。終いには島田を球にしてゴルフを楽しみ、その足で岩鬼組の生き残り共々倉脇のビルへ殴り込みに行った。岩鬼組の若衆は「相変わらずムチャクチャだ」と半泣きで叫んでいた。桐生も無理矢理連れていかれた。何故、と抗議したら「何を言ってるのか分からない」という顔をされた。もはや拉致されたと言っても過言では無いだろう。

 

結局彼は彼らの大暴れのすぐ近くで戦っていた。倉脇のビルに将造の許嫁が人質に捕らわれていたことを聞いた桐生は、彼らのケンカは彼らのケンカというスタンスを取り、自衛に努めていた。気狂いの仲間扱いされたくなかったことと島田組を潰した時に将造が大勢の堅気を巻き込んだことへの抵抗感がそうさせていた。

 

この件について桐生は無理矢理巻き込まれただけの被害者だった。そしてその場にいたという理由だけで今度は東城会の直系組長が一堂に会する幹部会に連れてこられている。

桐生は内心で遠い目をしながら一部始終を証言した。

 

 

桐生の証言に対し、幹部の反応はおおむね「将造生きてやがったのか」で一致した。当然である。親に勘当され何処へ行ったかも分からない人間がずっと生きていたとは思えない。特に将造は「狂犬」と呼ばれて恐れられた極道、それだけ恨みも買っていれば襲撃の機会も多い。少なくとも、いずこかで野垂れ死んでいるのでは――というのが風間、世良、嶋野を除く殆どの幹部の見解だった。尤も、この三人とてまさか中米で傭兵をやっていたとまでは思いつきもしなかったが。

 

結局今日の会議は情報共有のみに留まり、防備を固めながら後に再び幹部会を行うことで決定するに留まった。

倉脇の組は文字通り一人残らず全滅したため考慮に及ばず、倉脇のバックの組織については気になるが、まだ情報が少なく判断がつかないというのが東城会としての見解となり、幹部会は一度幕を閉じたのだった。

 

―――――――――――――――

 

「それにしても災難だったな、兄弟」

 

風間組の事務所にて。いつものごとく若頭の柏木修が冷麺をすする音をBGMに桐生の兄弟分、錦山彰が話しかけた。

 

「全くだ。正直、あいつらとは二度と関わりたくねえ」

 

「チャカどころかロケラン背負って、しかも堅気巻き込んでぶっ放すなんてよ。正気じゃねえぜ。いやまあ、確かに堅気盾にするような島田組の連中のやり方だって気に食わなかったけどよ、それ聞いちゃいっそ可哀想に思えてくるぜ」

 

「奴にとっちゃそれが当たり前だ」

 

柏木が冷麺の丼に箸を置いて話に入ってくる。

 

「お前も岩鬼組の狂犬の名前くらいは聞いたことあるんじゃないか?最近じゃ嶋野の狂犬のが名が通ってきちゃいるが、前までは狂犬と言えば岩鬼将造だった」

 

「誰にでも噛みつき、敵対した組の組員は髪の毛一本残さず殺す。ケンカが大好きで破壊と殺戮が趣味のイカれた男だ。正直、あの男と関わった桐生が無事に生きて帰ってきただけでも儲けものだとすら思っている」

 

「うわぁ……柏木さんがそこまで言うくらいなんすか。とんでもねえ野郎っすね」

 

「おいそりゃどういう意味だ錦山」

 

「げっ。藪蛇」

 

ドン引きする錦山。最近話題の嶋野の狂犬――真島吾朗――とは別ベクトルの人間像に驚愕を隠せない。

そうしてゆるゆると三人で将造の話をしている最中、事務所のドアが開かれた。――風間新太郎の帰還だ。

 

「「「お疲れ様です、親っさん」」」

 

「ああ。随分待たせちまったな。俺がムショにいる間、ご苦労だった」

 

「俺達一同、親っさんが出てくるのをずっと待ってました」

 

「ところで、親っさんは何でそんな早く出られたんですか?そりゃあ早く出られるに越したことは無いでしょうけど、仮釈放にしては早すぎませんか?」

 

桐生に続けて錦山が風間に問う。

それもそのはず、投獄された風間は出所までまだもう少しかかる筈だった。それが突然釈放と決まったことは風間組の関係者にとって嬉しいことではあるものの、何か裏があるのでは、と思わざるを得ない出来事であったのだ。

 

「それについてもこれから話す。取り敢えず全員座ってくれ」

 

風間に従い向かい合って席に座る三人。

 

「正直、俺としても訳が分からねえ。妙な男が面会に来たと思えば、突然俺に今日から出所だと言ってきた。まさかとも思ったが、あれよあれよという間に出所することになった。曰く超法規的措置、ということらしい」

 

「てことは、親っさんでも原因は分からねえってことですか?」

 

「ああ。だが、俺に出所を告げた奴が関係していることは確かだ。そいつの名前は確か――」

 

 

 

コン、コン、コン

 

 

 

 

風間が話を続けようとしたとき、それを遮るように何者かが事務所のドアを叩いた。

 

「おい柏木、今日の来客は……」

 

「へい。一切無いことになってます」

 

「てことは招かれざる客、って奴ですか。ちょっと追っ払ってきます」

 

錦山が表に向かう。ここにいる全員が錦山ならば問題ないだろう、と思って誰も異を唱えなかったのだが……何やら様子がおかしい。戸の向こうからは錦山の慌てた声が聞こえてくる。そして重低音と錦山のうめき声がすると、直ぐに錦山の声は聞こえなくなった。

 

「邪魔するぞ」

 

そして入ってきたのは錦山ではない、スーツを着た謎の男。そしてその男に桐生は見覚えがあった。倉脇のビルに現れ、警察を撤退させた男。それは確か――

 

「てめえは……」

 

「数日ぶりだな、風間新太郎」

 

「親っさん。まさかこいつが……」

 

「ああ。こいつが俺に出所を告げた張本人だ」

 

「ふ……私からのプレゼントは気に入ってもらえたかな?」

 

「プレゼントだと……?舐めた真似しやがって。恩でも売ったつもりか?」

 

「そんなことをして何になる。私は必要だったからお前を出所させた。ただそれだけのことだ」

 

それに、と一拍おいて続ける。

 

「今日はお前に用があって来たわけではない」

 

「何だと?」

 

「私が用があるのは……お前だ。桐生一馬」

 

「俺……?確かにあんたはあの場所にもいた。だがあんたが用があったのは岩鬼であって俺じゃねえ筈だろう」

 

「いいや。事情が変わったのさ……」

 

不敵な笑みを浮かべる男。風間と桐生が警戒している様子を見て柏木も気を引き締めて男に問いかける。相手が何かすればすぐにでもぶちのめせるよう密かに戦闘態勢を作りながら。

 

「てめえ……錦山に何しやがった」

 

「少しうるさかったのでな、眠ってもらった」

 

「ほお……そいつは俺達風間組に喧嘩売ったって受け取ってもいいんだな?」

 

柏木が敵意を隠さなくなった。拳を構え、男の目を真っ直ぐに見つめる。少しの逃げも、少しの嘘も許さぬとばかりに。

しかしそれでも男は余裕を崩さなかった。

 

「そうする余裕がお前たちにあるのか?今にも奴等はこの事務所を狙っているというのに」

 

「それもてめえの差し金じゃねえのか。……何モンだ」

 

「私は内閣特務捜査官、赤尾虎彦。人は私をレッド・タイガーと呼ぶ」

 

 

「これから先、きさまらに地獄を見せる男だ!!!」

 

 

地獄を見せる男――そのフレーズに三人が厳戒態勢に移る。

 

桐生たち四人はまだ知らない――これから風間組は世界を牛耳らんとする巨大マフィアとの抗争に加わることを。

 

風間はまだ知らない――これから戦う敵がかつて潰したジングォン派なぞ歯牙にもかけないほど凄惨なやり口で東城会を、この日本を狙っていることを。

 

柏木はまだ知らない――これからしばらく胃薬が手放せない体になってしまうことを。

 

錦山はまだ知らない――これから極道として一線を超える覚悟を問われる時が待っていることを。

 

桐生はまだ知らない――実は将造に骨のある男だと気に入られており、これから彼の殴り込みに嫌と言うほど付き合わされることを。

 

 

 

 

全ては今日、この瞬間から始まる。

そして!




続きはドワォしました


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