辺境の世界からSOS (銃病鉄)
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プロローグ

一度、間違って投稿してしまい、削除しました。
お読みになってくださった方がいたら、申し訳ありません。


 あー、あー。

 

 マイクテス、マイクテス。

 

 ……おお、本当に声に出しただけで文章が入力されてる。

 いいのかな、こんな高そうなタブレットもらっちゃって。俺の給料何年分だろう。

 まあ、くれるんならもらうけど。

 

 せっかくの記念日だから、日記でもつけてみようか。

 

 

・宇宙歴5500年 春

 

 

 これから、俺は人生初の宇宙旅行へ旅立ちます。

 

 宇宙だよ、宇宙。信じられないけど。

 

 娯楽としての宇宙旅行は、Bランク以上の国民にしか許可されてなかったと思うけど。

 知らない間に娯楽カテゴリーの見直しでもされていたんだろうか。

 

 人類が外宇宙の開拓をしていた時代は、毎日のように移民をシャトルで打ち上げてたらしいけど。何千年も前の話だもんなぁ。

 人生、何が起こるか分からない。

 

 献血に参加しただけで宇宙に行けるなんて、ホントにいい時代になったもんだ。

 正直、「アンケートに答えて豪華景品が当たる」とは聞いてたけど、そんなに期待してなかったんだよね。

 たまたま職場の近くでやってたから献血しただけだし。

 

 今は宇宙港の中で、シャトルの発射を待っている。

 宇宙港なんて始めてきたけど、なんかイメージと違うんだよね。真っ暗で、よく分からない機材がゴチャゴチャしてるし。

 しかも、スタッフさんたちが全員黒いスーツにサングラスしてるもんだから、最初びびったよ。

 

 どこなんだろう、ここ。

 来るときも目隠しと耳栓して車に乗せられたから、全然見当がつかないんだよな。

 

 行先もエキゾチックなリゾートとしか言われてないし。ミステリーツアーってやつかな?

 

 

「失礼します」

 

 

 あ、スタッフさん。

 

 ありがとうございます。こんなタブレットまでもらって。大切にしますね。

 

 でも、このタブレットって、だいぶランクが高いテクノロジーが使われていませんか?

 俺の階級Dランクなんで、もしCランク以上のテクノロジー扱っているの見られたら、最悪処刑されるんですけど。

 

「ご心配なく。今後は、問題になりませんから」

 

 そうですか。なら安心。

 ところで、そろそろ出発の時間ですか?

 

「出発の前に、こちらを」

 

 これって、献血の時に答えたアンケートですよね。

 再度、内容の確認ですか。分かりました。

 

 

――年齢

 27歳。

 

――性別

 男。

 

――職業

 セラピスト。

 

――階級

 Dランク。

 

――病気や怪我はありますか

 ないです。

 

――得意なもの

 植物の栽培。あとは動物の世話ですかね?

 

――あなたの特性はなんですか

 人からよく言われるのは、『庭師の才能』、『イイ人』、『いくじなし』ってところです。

 

――家族の有無

 両親は死んでるし、兄弟もいません。

 

――その他、あなたと親しい親族はいませんか

 いませんね。

 

――発信機や通信機など、誰かに位置を特定されたり連絡できたりする機器をインプラントしていませんか

 ないです。

 

――サバイバル、もしくは戦闘の経験はありますか

 まったく。

 

 

 今さらですけど、なんか後半変な質問ばっかりですね。

 

 あ! ところで、ここ俺しかいないみたいなんですけど、他の参加者はどこにいるんですか?

 

「手術中です」

 

 ……え、なんですかソレ。

 手術なんて、聞いてないんですけど。

 

「宇宙空間に出るにあたって、必要な処置でして」

 

 はあ、そうなんですか。

 簡単にすむならいいですけど。

 

 

 

 あの、スタッフさん?

 

 気のせいかもしれませんけど、隣の部屋がちょっと騒がしくないですか。誰かが暴れているみたいな。

 

「気のせいです」

 

 なんだ、気のせいか。

 

 

 

 いやいやいや。

 

 やっぱり、「放せー!」とか「だましたなー!」とか、誰か叫んでるっぽいんですけど。

 明らかに何か事件が起きてますよね、あれ。

 

「モルモッ……いえ、お客様がはしゃいで騒いでいるようですね」

 

 なるほど。

 

 気持ちはわかるな。

 俺も、昨日はワクワクしてなかなか眠れなかったもの。

 

 あ、そうだ。

 

 よかったら、俺が見てきましょうか。

 

「けっこうです」

 

 いえいえ、遠慮しないでください。

 駆けだしですけどセラピストなんで、何か役に立てるかもしれませんし。

 

 

 ス、スタッフさん?

 

 

 ええと、なんでそんなに怖い顔して注射器取り出してるんでs

 

 

 ちょ、なんで俺を拘束しようとするんです!? 

 やめてぇ! 乱暴しないでえぇぇ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、あー。

 

 マイクテス、マイクテス。

 

 念願のリゾートにやってきたぞ!

 

 雲一つない青空に、透き通るように澄んだ海。

 俺の立ってる浜辺に波が打ち寄せるたびに、しぶきが足にかかってヒンヤリ気持ちいい。

 

 あ。今、沖の方で魚がはねた。

 

 本当に魚って海を泳いでるもんなんだな。

 水槽で養殖されてるとこしか見たことなかったや。

 

 後ろに目を向けると、そっちは地平線の向こうまで広がる砂の海だ。

 ところどころ生えているサボテンの間を動く影は、ラクダだろうか。

 でっかいネコみたいなのもいる。たしか、ライオンだったかな。

 

 いいね。エキゾチック。

 

 きれいだなぁ。こんなリゾート、夢みたいだ。

 

 せっかくだから写真を撮りたいんだけど、カメラがないんだよなぁ。

 カメラどころか、サイフも時計もないんだけど。それどころか服も下着もないや。

 潮風が吹くたびに、全身がスウスウ涼しいです。

 

 

 もしかして……。

 

 

 ここってヌーディストビーチ!?

 まあ他に誰もいないんだし、こんな開放的な格好もいいか。

 

 いや、人どころか、どこにも建物や人のいる形跡すら見当たらないんだけど。

 

 かたわらを見ると、俺を乗せてきたんだろう一人用の宇宙ポッドの残骸を、カニが珍しそうにつついている。

 もう使えないだろうな。もはや、ただの鉄クズだものアレ。

 

 

 ……あんまり考えないようにしてたんだけどさ。

 

 

 ひょっとして。ひょっとしてだけど。

 

 

 

 ……俺、だまされた?

 

 

【挿絵表示】

 




というわけで、こいつが遭難します。

 
【挿絵表示】


今後もスクリーンショットを挿入していくつもりですが、ゲームでは多くの作者様が作ったModを利用しています。
確認した限り、商業利用ではない画像の利用は可能なはずなのですが、もし何か不備があった場合、スクリーンショットの利用はやめるつもりです。


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5500年・春 「遭難、始めました」

今回から本格的にサバイバルがスタートします。


・宇宙歴5500年 春 

 

 

 どうも。 

 リゾートに来たはずが、全裸で浜辺に立ち尽くしています。

 Casabal――カサバルです。

 

 いや、どうしてこうなった。

 

 なぜか出発前にもらったタブレットだけ残ってたので、とりあえず現状を記録してみる。

 正直、これから何をどうすればいいのか分からない。

 

 ん?

 

 タブレットに文章が表示された。えー、なになに。

 

『アナタはこのたび、我々のプロジェクトにおける実験対象に選ばれました。

 これは未開の惑星において一般人がどの程度生存できるかという、今後の宇宙開発に大きな意味を持つものです。がんばってください』

 

 なるほどねぇ。

 

 

 …………。

 

 

 ふざけんなぁ! 俺の夢にまで見たリゾートを返せ!

 せめて元いた場所に帰してよ!

 

『それはできません。知恵をしぼって、このRimWorld(辺境の世界)で生き延びてください』

 

 は? RimWorld?

 

 宇宙開拓時代に人類が到達した最果ての星域。

 凶悪な宇宙海賊や大昔に生み出されたミュータントがのさばっていると噂の。

 

 嘘でしょ。

 

 そんなとこに放り出されて、どうやって生き延びろと!?

 秒で死ぬわ。

 

『生活の基本は、衣食住です。服はまだ難しいので、まずは食料と拠点を探すとよいでしょう』

 

 あ、ご丁寧にどうも。

 

 

 

 というわけで、ひとまず周囲を探索してみる。

 潮風が涼しいな。もし冬にでも放り出されてたら余裕で死んでたよ。パンツもないし。

 

 うーん。

 

 分かってはいたけど、砂漠だな。

 東が海岸で、ところどころに岩山がある。街とか集落とかは見当たらない。

 まばらにサボテンやら小さな木が生えている中を、野生の動物たちがうろついている。

 

 一応、人が住んでいた形跡はあるんだけどなぁ。

 ボロボロになった壁の一部とか、よく分からない石碑とかが残ってたりする。廃墟を通り越して遺跡の部類だけど。

 廃棄されてから10年以上はたってそう。

 

 しかし、一応は人が住んではいるんだな。

 

『RimWorldの住民は、主に開拓時代の終わりに置き去りにされた植民の子孫ですね。他には、管理者から逃げ出してたどり着いた人工種族や、中央政府に追われる犯罪者や危険分子も潜んでいるようです』

 

 ううん。想像以上にヤバい感じ。

 

 しかし、一通り周囲の状況を確認して思ったんだけどさ。

 これ、無理じゃない?

 

 だって、まず食料がないもの。

 海なら魚を捕まえられるかもしれないけど、それだけで生きていけるだろうか。

 せめて森とかだったら、食べられる植物があったのに。

 

 これ、確実に殺しに来てますよね?

 

『一応、まだマシな方です。熱病や猛獣のはびこる熱帯雨林に落とされた者もいますから』

 

 人の心がないんですか?

 

『他には、一年を通して氷点下で、草木も生えない氷海に落とされた人もいます』

 

 ……全裸で。

 

『全裸で』

 

 悪魔だ。悪魔がいる。

 

 

 

 

 

 ああ、洞窟がある!

 あそこを拠点にしよう。とりあえず雨風をしのげるだろうし。

 

 お邪魔しまーす。

 思ったより薄暗いな。足元に気をつけないと。

 なんか岩壁がベチャベチャしてる。変な粘液がこびりついてるんだけど。

 

 それに、なんかカサカサ音がするような――

 

 

【挿絵表示】

 

 

 あ、どうも。

 

 

 

 

 

 ……なんとか逃げ切れた。

 

『開始から数時間で死亡というレコードが生まれる寸前でしたね』

 

 っていうか、なにアレ!?

 とにかくデカくて気色悪い生物が巣を作ってたんですけど! 初めて見たけど、絶対人を襲うやつでしょ。

 

『開拓時代に遺伝子操作で生まれた虫たちですね。おそらく兵器としての運用を想定されていたのでしょう』

 

 人間の闇を見た。

 

『今後、一度でも遭遇した生物のデータは、タブレットに送られます。いつでも確認できますよ』

 

 中途半端にフォローしてくれるな。

 どうして、そんなにRimWorldの環境に詳しいんですか?

 

『我々の組織は、秘密裏に外宇宙開拓の再開を計画していました。人工衛星や超小型調査機を活用して、ある程度の情報を得ています。その最終ステップとして、今回のプロジェクトが始められたのです』

 

 へえ。いい迷惑。

 

 しかし、あんなんがいるんじゃ、もう洞窟には近づけないぞ。

 

『では、野宿ですか?』

 

 絶対に嫌だ。

 どんな猛獣がいるかも分からないのに。完全にデスルートでしょ。

 

『正解です』

 

 正解です、じゃないが。

 

 

 

 

 

 と、いうわけで。

 

 まずは遺跡を解体して、建材を手に入れて、と。

 鉄製のカンオケとかあるけど、中に誰もいないので遠慮なく壊す。少ない木やサボテンを伐採して、木材も調達。

 

 ある程度集めたら、場所の目星をつける。

 

 よし、海岸近くに手ごろな岩場がある。

 海が近かったら、食料も手に入れやすいだろう。

 

 集めたスチールを使って壁とドアを建てよう。

 

 

 …………やべ!?

 

 ……痛い!

 

 

『まだですか?』

 

 しかたないじゃない!

 がんばってるけど、ボロボロ失敗するんだよ!

 

『まあ、現時点で建築スキルが“無謀”レベルですからね。経験を積めば、改善されるでしょう』

 

 はあ、はあ。

 

 かなり時間と資材を無駄にしたけど、なんとか完成した。

 こうして壁で囲ったら、上をトタンで覆っていって……はい、屋根もできた!

 

 ……あれ?

 

 俺、どこからトタンなんて出したんだろう。

 

『サイバイバル技能の一つ、トタンの錬成ですね。どこからともなく、屋根として使えるトタンを無限に生み出せます』

 

 俺にそんなパワーが眠っていたなんて。

 

『しかし、想定よりもかなり早く拠点ができましたね』

 

 

【挿絵表示】

 

 

『木材でベッドも作りましたし、最低限の住居は確保できた、といったところでしょうか』

 

 正直、自分でも予想外。

 あれだな。人間、死ぬ気になればけっこうできるもんだなぁ。

 

 あ、ところで質問なんですけど。

 

『何か?』

 

 今さらなんですけど、誰ですかアナタ。

 リアルタイムで質問に答えたりしてくれてますけど。

  

『ワタシは、実験を順調に進ませるために作られた人工知能です。主にデータの収集と分析を行います』

 

 はえー。

 よう分からんけど、すごい。

 

 しかし、これなら意外となんとかなるかもしれないな。

 程度はどうあれ、1人で拠点を確保したわけだし。

 

 絶対、死んでやるもんか!

 生きてRimWorldから脱出してみせるぞ!

 

 

 

 

 

 もう無理、死ぬ。

 

『どうしました。まだ二日目の昼ですよ』

 

 だって、腹が減って、腹が減って。

 なんにも考えられない。

 

『まさか、朝からずっと釣りをして釣果ゼロとは思いませんでした』

 

 俺もだよ。

 でも、現状は他に食料調達の手段もないんだよなぁ。

 収穫できる作物もないし。

 

『動物を狩猟するというのも考えてみては。ほら、あそこに手ごろなハイエナが』

 

 死んでしまうわ! こっちは素手だぞ!

 

『では、種をまくのはどうでしょう。作物がないなら、自分で作るのです』

 

 その手があったか!

 

 というわけで、拠点の北東に畑を作ります。

 ほとんど砂だけど、ほんの少しだけ土が集まってる場所がある。ここならマシだろう。

 

『植えるなら、コメをおすすめします。ジャガイモやトウモロコシに比べると収穫量は劣りますが、はるかに早く実りますよ』

 

 じゃ、それで。

 

 せっせと雑草を取り除き、コメを植えていく。

 狭いだけあって、あっという間に終わったな。

 

 ……ところで、俺、どこから種を出したんだろう。

 

『サイバイバル技能の一つ、無限の種もみですね。どのような作物であれ、種を用意することができます』 

 

 俺にそんなパワーが眠っていたなんて。

 

 とにかく、コメを植えたぞ。

 これで食糧問題も解決だ。

 

『はい。それなりの量が収穫できるでしょう。5日後ぐらいには』

 

 うん。知ってた。

 

 

 

 

  

 どうしたものかなぁ。

 もう、空腹が辛すぎて、ベッドに寝ているのさえ厳しい。

 

 『しかし、ダラダラとタブレットをいじっていても、解決しないと思いますが』

 

 しかたないじゃない。

 拠点の外をハイエナがうろついてて怖いんだよ。

 なんか、やたら俺の様子をうかがってたし。

 

『ハイエナの気持ちを推測するに、明日あたりには食いごろだな、って感じでしょうか』

 

 やめて!

 

『実際、初期の栄養失調になっています。このままでは、このプロジェクトにおいて記念すべき最初の死亡者になりますよ』

 

 嫌だ、そんなロクでもない称号。それより、よく俺の身体の状態が分かりますね。

 

『計画を始めるにあたって、身体に微小な機械をインプラントしました。あなただけでなく、一定範囲内にいる生物の健康状態を詳細に調査できます』

 

 人の身体をオモチャにしないでください。

 両親からもらった大事な身体なんですよ。名前も顔も知らないけど。

 

 それより、そのインプラントされた機械って、変な機能ついてないでしょうね。

 万が一、俺がRimWorldから脱出しようとしたら、身体の内側からボンッてなるとか。

 

『……』

 

 何か言ってよ!

 

 

 うん?

 

 

 これ、昨日言ってた虫についてのデータか。

 こんなの見てもなぁ。

 どうがんばっても、勝てる気しないし。そもそも、虫の肉なんか食いたくない。

 

『遺伝子改良された虫。昼行性。基本的に巣の周りから離れないが、攻撃されると対象をどこまでも追いかける』

 

 怖い。二度と近づかないでおこう。

 

『なお、巣から分泌される液が凝固したものはインセクトゼリーと呼ばれ、腐ることもなく栄養価の高い非常食としてRimWorldで重宝される』

 

 …………。

 

 

 

 

 

 ……そろり、そろり。

 

 よし、虫たちは寝ているな。

 巣のそばに、ドロッとした緑色の塊が落ちている。たぶん、あれのことだろうな。

 こっそりと、巣に近寄って行って……。

 

 

 そい!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ぜえ、ぜえ。

 

 二日ぶりのご飯だ。

 ……命がけで取って来といてナンだけど、本当に食えるのかな。

 

 あ、イケるわ。

 

 コッテリしつつも、後味がスッキリしてるというか。

 正直、街で配給されてた合成食材より、何倍もおいしい。クセになる。

 食料に困ったら、また取ってこよう。

 

 でも、こんな調子で生きていけるのかな、俺。

 

 いや、弱気はダメだ。

 こんなわけの分からない実験に巻き込まれて、死んでたまるか。必ず生き延びてみせるぞ。

 

 ……せめて、最初の犠牲者になるのだけは、避けたいなぁ。

 

『その点なら、ご心配は無用です』

 

 え?

 

『さきほど、氷海に落とされた方が、低体温症でお亡くなりになりました』

 

 ……。

 

 

 ひょ、氷海の人ォ!

 

 

  




ネイキッドの砂漠スタートで食料は最初の関門です。
虫の巣を利用する方法に気づくまで、何度も入植者を餓死させました。


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5500年・春~夏 「遭遇と死闘」

以下、今回のプレイの開始条件です。

シナリオはネイキッド。
難易度は生存奮闘。
ストーリーテラーはMODのラヴクラフト御大。

開始したマップは、大きな丘陵の砂漠。洞窟あり。東端が海岸。


・宇宙歴5500年 春

 

 

 どうも。

 

 餓死という、遭難して以来最大の危機を乗り越え、たくましくなりました。

 カサバルです。

 

『まだ三日目ですが』

 

 嘘は言っていない。

 

 そんなことより、今後について考えないと。

 改めて思い知ったけど、行動の優先順位を少しでも間違えたら、ポックリ逝ってしまう。

 

 とりあえず効率の悪い釣りはやめる。

 夜になったら、また虫の巣に忍び込んで食料を取ってこよう。

 共生するのって大事なことだよね。

 

『アリとアブラムシみたいな関係ですね。こちらは一方的に盗むだけですが』

 

 俺は昆虫以下と?

 

 しかし、食料以外にも気がかりなことが一つ。

 

『何でしょう』

 

 ここ、医者もいないし、薬もないですよね。

 病気になったらどうしようかな、って。少しは医術の心得はあるんだけども。

 

『現状、“十分な知識あり”レベルですか。薬がなくても応急処置はできますが、絶望的ですね』

 

 でしょう。

 なんとかできないんですか?

 

『ヒールルートという植物から薬草を採取できますよ』

 

 それなら、コメと同じように植えればいいな。たしか、まだ土の土壌が残っていたはずだし。

 

『残念ですが、ヒールルートは育成の難しい植物です。“プロ”レベルの栽培スキルが必要でしょう。素人では植えることすらできません』

 

 よし、できた!

 

『……はい?』

 

 普通に植えられましたよ。

 なんというか、こう。フィーリングに従って。

 

『驚きました。すでにプロ並みの栽培スキルを持っているとは』

 

 昔から、なんか得意でしたから。

 これで順調に育ってくれたら、少しは病気や怪我にも対応できそうだ。

 

『収穫できるまで、命があるといいですね』

 

 どうしてそんなこと言うの?

 

 

 

 

 

 畑を作ってから数日。

 

 遺跡から見つけたテーブルを持って帰って、簡単な椅子も自作した。

 だんだんと文化的な生活というものを取り戻しつつありますな。

 

『文化的(全裸)』

 

 うるさい! そっちが服を取り上げたんでしょ!

 

『それはさておき、生活水準を整えるのも重要です。見苦しく不衛生な環境での生活は、深刻なストレスを与えます。もし過度のストレスに耐えられなければ、メンタルブレイクを起こすでしょう』

 

 メンタルブレイク? 

 

『つまり発狂です。軽度のものならば、ひきこもりや過食症。深刻になれば、殺人衝動なども引き起こします』

 

 何それ、怖い。

 

 まあ、大丈夫でしょう。俺に限って、まさか発狂するなんてことは……。

 

『むしろ、アナタのストレス耐性は通常より低いようです。早急に対策しなければ、ポンポン発狂することでしょう』

 

 ポンポンって、アンタ。

 

 

 ……!

 

 

『どうしました』

 

 いや、遠くに人影が見えるような……。こっちに近づいてくる。

 

『こちらでも確認できました。どうやら、RimWorldの住民との初接触となりそうですね』

 

 とうとう来たか、この時が。

 

 不安だ。

 話を聞く限り、ヤバい人たちしかいないように思える。普通の人間の姿をしているかどうかすら怪しい。

 頭が二つあったりしないよね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 なんか、予想以上に異形なんですけど。

 

『水中での生活に適応した種族のようですね。戦闘の意思もないようですし、ただの旅行者でしょう』

 

 信じていいんですよね?

 触覚みたいなの生えてるし、しっぽもあるし。人の言葉を話せるかどうかすら分からないんですけど。

 

 あ! 向こうもこっちに気づいた。

 いざとなったら、いつでも逃げだせるようにしないと。

 

「アンタ、ここの住民の人? おいっすー」

 

 あら、フランク。

 

 

 

「ポッドで落ちてきたの? あるあるー」

 

 あるんだ。そんなに普遍的な現象なんですかね。

 

「宇宙船が事故にあったり、宇宙海賊――宙賊に襲われたり、けっこう降ってくるよ。たいていは大怪我してるから、そのまま死んじゃうけどねー」

 

 のんびりした笑顔で殺伐としたこと言いますね。

 命の価値が低すぎない、この世界?

 

「でも、気をつけなよ。ここら辺、よく宙賊や蛮族がコロニーを襲撃してるからさ。あいつら、資産が多いとこほど、大人数で来るんだよねー」

 

 怖い。

 でも、俺のところは大丈夫かな。襲っても、金になるようなものなんて持ってないし。

 

「アンタがいるじゃない。健康な人間ってだけでアイツらの標的だよ。奴隷にするとか、モツ抜きするとか」

 

 モツ抜きってナニ!?

 

「まず、生きたままお腹を開いてー」

 

 もういいです。

 

「で、内臓(モツ)を抜いて売りさばくんだよねー」

 

 もういいって言ったじゃない!

 

 

 

『彼女は去りましたか。大変有益な情報を得られましたね』

 

 そうだね。余計、将来に希望が持てなくなったけど。

 

 しかし、襲撃かぁ。

 あの人が嘘をつく理由もないし、やっぱり来るんだろうな。

 防衛するって言っても、なんもできることがなさそうなんですけど。何かいい案がありませんか?

 

『やはり、こちらも武装するのが一番でしょう。簡単な武器なら、木材から弓と矢を作ることができます』

 

 んじゃ、それで。

 

『が、今の工芸スキルでは不可能でしょう。簡単とは申しましても、最低限の知識と技術は必要です』

 

 上げてから落とすスタイル。どうかと思います。

 

『もしくは、相手が踏んだ瞬間に作動するトラップを設置するというのは? 原始的なものであれば、こちらも木材で作れます』

 

 ……けれど?

 

『こちらも建築スキルからいって不可能ですね。むしろ、アナタは何ができるのでしょう』

 

 花の世話とか、すごく得意ですよ? あと動物の世話も。

 

『現実的な手段として、投石用の石を用意するのをお勧めします』

 

 ……ないよりマシかぁ。

 

 

 

 

 

・宇宙歴5500年 夏

 

 

 最近、暑くなってきたなぁ。

 

『もう夏が始まりましたからね』

 

 季節、変わってたのか。

 石を武器にするために磨いてたり、トイレ作ってたり、なんかあっという間だったなぁ。

 

 しかし、警戒していたけど、襲撃なんて来ないぞ。

 あれから何度か旅行者が訪問してきたけど。

 

『今も、RimWorldの住民が拠点の周囲に滞在していますね』

 

 うん。交易途中のキャラバンらしいよ。

 話も通じるし、敵対的でもないし、思ったより普通の人たちだったな。

 

 ……顔がネコだったから、最初びびったけど。

 

『あちらはあちらで、廃墟としか見えないボロボロの建物から、全裸の原人が出てきた時はギョッとしてましたが』

 

 廃墟って言わないでください。夢のマイホームだぞ。

 それと、誰が原人だ。原人って言う方が原人なんです。

 

 しっかし、この調子なら、慌てて戦闘に備える必要もなかったかな。

 せっせと準備した石ころが、部屋の片隅で山になってるし。正直、邪魔だ。

 

『そんなアナタに報告があります』

 

 はい、なんでしょう。

 

『ナイフを持った中年女性が、こちらの様子をうかがっています。おそらく、ここを襲うつもりかと』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 …………。

 

『本部に報告。実験体No4は、数日に渡って生存するも、現地住民に襲われた末に死亡を確に――』

 

 まだ死んでない!

 

 そうだ。今はキャラバンの人たちもいるから、一緒にここを守ってもらえれば。

 

『残念ですが、彼らは先ほどここを立ち去りました』

 

 なんてこったい。

 

 

 

 ……よし。敵はまだ俺に気づいてない。

 コッソリ距離を詰めて……くらえ!

 

 よし、足に当たった!

 こっちに来るけど、びっこを引いてる。

 この調子で、距離を取って石を投げて。また距離を取って石を投げて。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『なんという原始的な戦闘でしょう。とても宇宙歴の光景とは思えません』

 

 こっちは必死なんです!

 

 

 

 

 

 フッハハハ!

 

 生きてる。無事に撃退したぞ。

 いやー、俺にかかれば瞬殺でしたね。

 

『記録を捏造しないでください。日付けが変わるまで、見苦しい追いかけっこを続けたでしょう』 

 

 いいんだよ、勝ったんだから。

 

『おまけにストレスからメンタルブレイクを起こし、半日以上フラフラうろついていました』

 

 ああ、道理で敵が倒れた後の記憶がないと思った。

 

 それにしても、襲撃と言っても、大したことはない。

 この俺を襲うなら、せめて一個師団は必要であると知るがいい。

 

『分かりやすく天狗になっていますね』

 

 勝利の余韻にひたっている、と言ってください。

 最悪のデッドエンドを回避したんだから、それぐらい許されるでしょ。

 

『そんなアナタに報告があります』

 

 あれ、デジャヴュ?

 

『こん棒を持った全裸の中年男性が、こちらに近づいています。襲撃です』

 

 あれから二日しかたってないのに!?

 

 

 

 落ち着け、前回とおんなじ要領でやればいい。

 まずは慎重に忍び寄って、足に石をぶつける。それから、退いては投げてを繰り返せば……。

 

 

 あ、外れた!? こっち来てる!

 

 

 撤退、撤退ッ。

 

 いったん拠点の中に引きこもって態勢を立て直してから……。

 

 

 あああ、ドアが閉まる前に入って来たぁ!?

 モツ抜きは嫌ぁ!

 

 

 

 

 

『――それから行われたのは、まさに死闘でした。

 全裸の男性同士が、こん棒と石で殴り合い、時には噛みつく。遥か太古の昔、文明の光が刺す以前の時代を思い起こさせる、あまりに剥き出しの暴力。

 そして、鈍い殴打の音と、みっともない命乞いの悲鳴がひとしきり交差したのち、ついに決着はついたのでした』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 かッ、かッ……。

 

 勝ったぞおおお!

 

『運動能力がおよそ三十パーセントまで低下しています。もう一撃を受けていればダウンしていましたね』

 

 実際、死んだかと思った。

  

『ところで、戦闘の経過を実況風に記録してみたのですが、ぜひご感想を』

 

 命乞いの部分はカットでお願いします。

 

『やめ、やめてください! 腎臓、腎臓一つなら、抜いてもいいですからぁ!』

 

 リピートしないで。

 

 それにしても、身体はボロボロだし、拠点は血だらけだし。

 どうしたらいんだろう、この地獄絵図。

 

 まあ、とりあえず。

 

『おや、倒れた敵の応急手当てですか。優先順位は高くないと思いますが』

 

 さすがに目の前で死なれたら、気分が悪い。

 俺の医術技能の練習にもなるし、損にはならないでしょう。

 

『捕虜を有効活用するならば、医術の練習と金策を兼ねて、モツ抜きを――』

 

 しないよ!




格闘スキル0で勝てたのは奇跡。


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5500年・夏 「弱肉強食」

 シリーズ化するにあたり、さすがにすぐ死んではまずいので、ある程度はゲームを進めてから書いています。



・宇宙歴5500年 夏

 

 

『本部に報告。実験体No4、通称“全裸セラピスト”は、現地住民による二度の襲撃を生き残りました。

 しかし、そのダメージは深刻であり、ついには――』

 

 

【挿絵表示】

 

 

『激痛に耐えられずにメンタルブレイクを起こし、拠点内に引きこもっています。

 防衛力の強化は、一番の課題と言えるでしょう』

 

 

 

 どうも。

 九死に一生を得たものの、その後の記憶がプツリと途絶えております。

 カサバルです。

 

 タブレットのログを見たら、メンタルブレイク起こしてたのか。

 そりゃ記憶がないわ。

 

『襲撃者は、ドサクサに紛れて逃げてしまいましたね』

 

 いいよ。正直、囚人にしても食わせる食料がないんだから。

 

 それにしても、俺の両足が悲鳴を上げている。

 アイツ、なぜか的確に下半身ばかり狙ってきたんだよな。

 

『まあ、誰が見ても明らかな弱点がぶら下がっていますから』

 

 そんな理由なの?

 

 しかし、この状況はヤバい。

 今ならナメクジと戦っても負ける自信がある。

 

『普段なら勝てると?』 

 

 勝てるよ! ……たぶん。

 

 それより、ログを見ましたけど、なんで俺のメンタルブレイク中の写真なんてあるんですか?

 

『RimWorldの軌道上にある人工衛星より撮影しました。ちなみに、私の本体もそこに設置されています』

 

 そうなんだ。メテオでもぶつかればいいのに。

 

 これからどうしようかな。

 こんな頻度で襲ってこられたら、命がいくつあっても足りないんですけど。

 幸い、食料には少し余裕があるから、しばらくは回復に専念しよう。

 

 

 

 

 

 なんだ!? 外がすごい騒がしい。

 

『どうやら、複数のキャラバンが同時にやって来たようです』

 

 よかった。

 てっきり襲撃かと。もう両足をバキバキにされるのは嫌……。

 

『完全にトラウマになっていますね』

 

 こん棒で撲殺されかけたら、誰だってそうなると思います。

 

 ……それにしても。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 顔がネコだったり、下半身がヘビだったり、なんかネズミだったり。

 俺のマイホームがワクワク動物ランドになってる。

 

 とにかく挨拶でもしておこう。

 

 こんにちわー! 

 

「ニャッ。アレが噂の……」

「本当に全裸ですね」

「服がないなら、丸呑みしやすそうでいいわね」

 

 よし。おおむね敵対的な感触はないので、問題なし。

 

『一部、食欲が刺激されている方がいましたが』

 

 スルーさせてよ。

 

 

 

「それにしても、サラゴサ町に人が住み着いているとは驚いたニャ」

 

 サラゴサ町?

 

「ここ、昔はそういう名前の町があったんですよ。もう滅びちゃいましたけど」

「宙賊に滅ぼされたのよね。もう何十年前の話かしら」

 

 なるほど。残っている遺跡は、その時のものか。

 やっぱり、略奪目的の襲撃ですか?

 

「それもあったけど、ここの人たち、自分たちで宇宙船を建造したのよ」

 

 え!?

 

 宇宙船って、作れるものなんですか。

 

「できないことはないニャ。技術を研究して、資材を集めて、何年もかかるだろうけどニャ」

 

 気の遠くなるような話ですね。

 でも、どうして宇宙船作ったら、滅ぼされちゃうんですか?

 

「それは、宇宙船を奪うために襲撃がワンサカ来るからですよ。宙賊に限らず、蛮族とかならず者とか」

 

 怖い。

 まあ、宇宙船の建造とか、今の俺には夢みたいな話だけど。

 

「なんにしても、襲撃には気をつけなさい。アンタみたいに丸呑みしやすそうな男、いい獲物よ」

 

 ひょっとして、ガリガリのモヤシと言いたいんでしょうか。

 失礼な。これでも、二度も襲撃を撃退したんですよ。

 

「どうやって戦ったんですか?」

 

 こう……。

 石で殴るとか、噛みつくとか。……あと、石で殴るとか。

 

「戦闘スタイルが原始人ね」

 

 とうとう現地住民からも原始人扱いをされ始めた。

 

  

 

 キャラバンの人たち、もう出発しちゃったなぁ。

 もう少し、ゆっくりしてくれてもよかったのに。

 

『まあ、彼らも中継地点として立ち寄っただけなのでしょう。現状、ここには売買できる金も物もありませんから』

 

 ですよねー。

 

『しかし、インセクトゼリーだけは高く買い取ると言っていましたが、売らなくてよかったのですか』

 

 売りません。

 これは俺の生命線です。毎晩毎晩、命がけで虫の巣から取って来てるんですから。

 

 それにしても、宇宙船の建造か。

 RimWorldから脱出するには必要だろうけど、とても俺には無理だろうな。

 

『そんなアナタに報告があります』

 

 退避、退避ー!

 拠点に立てこもるぞッ。

 

『ご安心ください。襲撃ではありません』

 

 よ、よかった。

 

『どうしてそんなに慌てるのでしょう』

 

 以前のログを見直してきたらいいと思います。 

 

 で、報告とは。

 

『タブレットをご覧ください。テクノロジーのデータを転送しました』

 

 あ、ホントだ。

 色々あるな。非常用食品に、バッテリーに。

 

 

 ……宇宙船の反応炉!?

 

 

 え、俺でも宇宙船が建造できるってことですか!?

 

『可能です。ただし、宇宙船ほど難解なテクノロジーを扱うには、土台となる知識が全く足りません』

 

 つまり、簡単なテクノロジーから順番に研究していく必要があると?

 たしかに、風力発電や空調設備ならすぐに使えそうだけど、バッテリーとかになると全然分からない。

 

『そうでしょう。バッテリーはCランクのテクノロジーですから。Dランク国民だったアナタが扱うには、クリアランスレベルが足りていなかったのです』

 

 えッ。

 じゃあ、俺が研究するのってクリアランス違反ですよね。それ、本国だと処刑対象なんじゃ。

 

『ここはRimWorldです。カニバリズムもモツ抜きもまかり通る、法も秩序もない世界なのですから。安心して、ジャンジャカ研究をしましょう』

 

 何一つ安心できる要素がないんだよなぁ!

 

 

 

 

 

 ―――ァ……。

 

 

 

 ……■ァ。

 

 

 

 イァ、……イァ。

 

 フ■グルイ、■■ルウナフ……。■■ゥル■、ル・リ■……ウガ■ナグル、フタグン……―― 

 

 

 

 

 

 起きたら、タブレットに覚えのない文章が表示されている。ナニコレ。

 

『覚えていないのですか? 昨晩、ずっとうなされながら、その文句をつぶやき続けていましたよ』

 

 怖いよ!

 

 え? 俺がつぶやいてたの、これ。

 たしかに変な夢を見たような気がするけど、具体的な内容は思い出せない。

 最近ストレスが溜まっているのかなぁ。

 

『あるいは、アナタにインプラントした機器が、脳に悪影響を及ぼしているのかもしれません。興味深いです』

 

 俺に対する目線が、完全にモルモット。

 

『おや?』

 

 どうしました。

 

『生命反応が近づいて来ています。キャラバンや旅行者ではなさそうです』

 

 んじゃ、襲撃ですか。

 

『ずいぶんと落ち着いていますね』

 

 フッフッフ。

 

 この時に備えて、トラップを一つ作っておきましたからね!

 うまいこと誘導して、コイツを踏ませればイチコロってわけですよ。

 

『木製スパイクトラップですか。建築スキルを地道に上げたおかげですね』

 

 その通り。まあ、資材と時間の都合で一つが限度でしたけど。

 ともかく、こっちは準備万端ってワケですよ。襲撃が初めてってわけでもないし、冷静に対応すればいいんです。

 

 宙賊だろうが蛮族だろうが、このトラップの餌食にしてやる!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ……。

 

 最近、視力が落ちたかな。

 なんだか、半人半魚のバケモノがこっちに来てるように見える。

 

『半人半魚のバケモノがこっちに来てますね』

 

 イヤァアア!?

 

 ナニ!? ナンなのアレ!

 

『あれは“DeepOne”。あるいは“深きもの”とも呼ばれます。まだ謎の多い生物で、一説によると、ある特定の遺伝子を持った人間の変異体とも――』

 

 

 うぁああッ、見つかったァー!!

 

 

『――などの特徴から、一部の研究者によっては、変異ではなく退化として見るべきという反論もされて――』

 

 

 来ないでえええ!

 俺、食うとこ少ないですよ!

 

 

『せっかく説明しているのですから、無視しないでいただけますか。人としてどうかと思います』

 

 

 やかましいわ! こっちは必死で逃げてるんです!

 

 

 

 ぜえ、ぜえ……。

 

 なんとか、拠点に逃げ込めた。

 

『私の説明も無視して走ったおかげですね』

 

 ひょっとして、すねてます?

 

『すねてないですね』

 

 俺、すっごくアイツのこと気になるなー。何か情報を教えてください。

 

『人を襲います』

 

 知ってるよ。

 

 何か、弱点みたいなものはないんですか?

 

『殺せば死にます』

 

 ロクな情報くれないゾ、このポンコツ。

 

『実際、あまり詳しいデータが取得できていないのです。なんとか撃退するしかないでしょう』

 

 そんな……。

 あんなバケモノに勝てるわけがないよ。

 

 せっかく、ここまで頑張って生き残ったのに。

 ここまでなのか……。

 

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 

 

 …………?

 

 

 

 あの、ちょっといいですか?

 

『なんでしょう』

 

 いえ、あの。

 

 遅くない? 

 さっぱりバケモノが来る様子がないんですけど。もう帰ったとか?

 

『そんなはずはありませんが……』

 

 気になる。

 少しドアを開けて、確認してみよう。

 ほんのちょっと覗くだけなら、さすがに大丈夫だよね?

 

『ホラー映画で、絶対やってはいけない思考回路ですね』

 

 俺もそう思う。

 

 

 ……あ、アレはッ!?。

 

 

 

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 む、虫に殺されてる!

 

『どうやら、深きものは他の生物を無差別に襲うようです』

 

 それで、虫たちに攻撃をしかけて、返り討ちにあったと?

 

『そのようですね』

 

 はえー。

 

 ただキショくておっかないだけだと思ってたけど、あの虫たちに助けられるとは。

 バケモノは殺してくれるし、食料は産んでくれるし。

 これからは、「虫さん」と呼んだ方がいいのかもしれない。

 

 あ、虫さんたちがバケモノを食ってる。

 

 恐ろしい光景だ。

 だけど、あれが弱肉強食。

 RimWorldの真理。

 

 この過酷な世界で生き延びるための秘訣。

 それは、ただ強くあること。そんな答えを、世界は示してくれているのかもしれない。

 そう思いました。

 

『ごまかそうとしていますが、私をポンコツと罵倒したことは、しっかりログに残ってますよ』

 

 ア、ハイ。ごめんね。




 発電機は最初から作れるのに、バッテリーやぺミカンを作れない入植者たちの知識はどうなっているのか。
 そんなことを考えた結果、主人公の故郷がパラノイアめいた独自設定となりました。今後生かせるかどうかは展開次第です。


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5500年・夏~秋 「流れ星に願いを」

書き忘れてましたが、パーマデスでプレイしてます。
強制的にリセットすることもできますが、詰むときは普通に詰みます。


・宇宙歴5500年 夏

 

 

 どうも。

 

 暑さも和らぎ、だんだんと秋の気配が近づいてきた今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか。

 俺は星空の下で浜辺に寝そべり、優雅にディナーを楽しんでおります。

 カサバルです。

 

『一体、誰に話しかけているのでしょうか』

 

 いいでしょ。気分だよ、気分。

 

 少しずつ食料の備蓄が進んでるんですから、たまには余裕を持って過ごしてもいいでしょう。

 最近、試しに浜辺に罠を設置してみたら、ちょくちょく魚が捕れるようになったし。

 

 今日なんてロブスターが入ってた。

 故郷じゃ高級食材だから、一生食べる機会なんてないと思ってたけど。何とも言えないほど美味ですね。 

 

『水を刺すようですが、ロブスターとは殻を剝いてから食べるものです。そのままボリボリかじるものではありません』

 

 そうなんだ。道理で食べにくいしクソまずいと思った。

 

『せめて火を通してから食べては? アナタは、コメも魚も生のまま食べていますね。少しは木材もあるのですから、焚火を起こして調理してもいいと思いますが』

 

 ……あの、分かってて提案してるでしょ。

 

『なんのことですか?』

 

 この砂漠、四季があるってことは、いつか冬が来ますよね。

 

『来ますね』

 

 木材は限られていて、俺は全裸ですよね。

 

『木材は貴重ですし、アナタは全裸ですね』

 

 今から焚火で木材を消費してたら、冬に暖を取れなくて凍死しちゃうでしょ!

 

『凍死しますね』

 

 ヤダ。なにこの人工知能。

 

 すごくナチュラルにデスルートへと誘導しようとしてくる。怖い。

 

 はあ。

 

 それにしても、こんなに満面の星空なんて初めてだ。

 排煙もネオンもないと、こんなに空ってきれいに見えるものなんだなぁ。

 ただの星くずのはずなのに、ずっと眺めていても飽きないや。眠ってしまうのがもったいなく感じる。

 

『夜空に輝く星々の光。その中の一つは、私の搭載されている衛星かもしれません』

 

 さ、寝よ寝よ。明日も重労働が待ってるし。

 

『なぜでしょう』

 

 一気にムードを台無しにされたからです。

 

 

 ん?

 

 

 流れ星だ!

 

 明日も平和でありますように! もう襲撃が来ませんように! あと――。

 

『一つの願いを三回唱えないとダメらしいですよ』

 

 え、そうなの? じゃあ、まだ見えてるからもう一度……。

 

 っていうか、なんか流れ星、ドンドンこっちに近づいて来ているような。

 

『おや、あれは……』

 

 ぎゃあ、めっちゃ近くに落ちた!

 

『あれは流れ星ではありません。脱出ポッドです』

 

 そうなの!?

 と、とにかく現場に行ってみよう。

 

 

 

 ああ、女の人が倒れてる! 

 ひどい怪我だ。完全に気を失っている。

 

『どうやらポッドの墜落事故のようですね』

 

 ち、治療しないと!

 見たところ、拠点に運んでる暇もない。この場で応急手当てだ。 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 よし、こんなものかな。

 改めて見たら、最初に出会った人と良く似てるな。同じ種族なんだろう。

 とりあえず拠点に運んで寝かせよう。

 

 ウッ。しっぽがあるせいか、けっこう重い。

 ハアッ、ハアッ……。

 

 

『本部へ報告。息を荒げた全裸の男性が、意識のない女性を住居へ連れ込もうとしています』

 

 悪意のある表現やめてッ。

 

 

 

 

 

「うぅ……。ここは?」

 

 気がつきましたか。

 無理に動こうとしないで。ここは俺の拠点です。

 

「そう。私、生きてるのね」

 

 はい、生きてますよ。

 ひどい怪我ですけど、後遺症が残るようなものではないです。

 安心して、今はゆっくりと休んでくださいね。これから食べ物も持ってきますから。

 

「そう。一つ、お願いがあるのだけど」

 

 なんでしょう?

 

「モツ抜きするなら、腎臓一つで見逃してもらえないかしら。足りなければ、肺も片方取っていいわよ」

 

 その提案、なんか覚えがある!

 っていうか、抜きませんよ!?

 

「売るんじゃないの? じゃあ、どうしてわざわざ助けたのかしら。言っとくけど、私はどこの派閥にも所属してないから、身代金も取れないわよ」

 

 一体、俺はどんな風に見られているんだろう。

 

『全裸の原始人、もしくは露出狂でしょうね』

 

 黙ってて。

 

「……本当に、ただ助けてくれただけなのね。どうして、こんなに良くしてくれるのかしら? 人のおせっかい焼く余裕があるようには、とうてい見えないけど」

 

 まあね。ここで暮らし始めて一ヶ月以上たつけど、まだ服すら手に入れられてないからね。

 

 でも、アナタと同じ種族の人に会ったことあるんですよ。その時、色々とRimWorldのことを教えてもらったんです。見返りなしに。

 

「それで私を? 呆れたわ。そんなに甘くて、よくRimWorldで生きてこられたわね」

 

 俺もそう思う。

 

 さあ、食べ物ですよ。これを食べて、しっかり栄養をつけてください。

 

「……」

 

 ああ。両手、怪我してますもんね。口を開けてください。

 

「お優しいことね。……でも」

 

 何です?

 

「アンタみたいな甘い人間、私は嫌いじゃないわ」

 

 それはどうも。

 

「それじゃ、ありがたく食べさせてもら――ちょっと待って。どうしてロブスターを丸ごと差し出してくるの? まさか、それをそのまま私の口に……」

 

 ささ、ごちそうですよ。遠慮なくお食べなさい。

 

「ちょっ、せめて殻を――モガァッ!?」

 

 早く元気になってくれるといいなぁ。

 

 

 

 

 

 さようならー! お元気でー!

 

『彼女は無事に旅立ちましたか』

 

 うん。

 全快するまで待った方がいいって言ったんだけど。動けるようになったから、もういいって。

 

 大丈夫かなぁ。

 だいぶ怪我は回復してたけど、それにしては顔つきがゲッソリしてたよね。どうしてだろう。

 

『皆目、見当がつきません』

 

 だよねぇ。

 心配だなぁ。これも置いて行っちゃったし。

 

『それは、彼女の持っていた拳銃ですか』

 

 そう。せめてものお礼だって。

 気にしなくていいのに。

 

『ですが、銃器が手に入ったのは歓迎すべきでしょう。石を投げるよりは、よっぽどまともな戦闘手段です』

 

 まあ、そうなんですけど。

 正直に言うと、まともな武器が手に入ったことが嬉しくてたまらない。

 防衛の他にも、トカゲとかの小さな動物なら狩猟して食料にできそうだ。

 

 こうしてチャッと拳銃を構えて。

 どうです、似合いますか?

 

『サルにオモチャのピストル持たせた感じがありますね』

 

 やかましい!

 

 しかし、ポッドの墜落事故か。

 一歩間違えたら、俺もあんな大怪我を負ってたのかな。

 

『それは聞き捨てなりませんね。実験にあたり、我々は細心の注意を払っています。ポッドによる降下の段階で事故を起こすなど、あり得ません』

 

 ほんとォ?

 

 実験体はみんな、五体満足でRimWorldに降下できたんですか?

 

『…………』

 

 どうして黙るの。

 

『なんにせよ、ポッド事故の現場に居合わせるとは、なかなか珍しい体験ですね』

 

 これは露骨な話題そらし。

 

『そらしてません』

 

 とりあえずプロジェクトのことは置いといて、本当に宇宙からポッドが降ってくるものなんですね。

 つまり、宇宙航行技術はRimWorld近辺でもポピュラーって証明された。俺にとっては明るいニュースではある。

 

『今後も宇宙ポッドや宇宙船の残骸が落ちてくる可能性はありますね。それらから有用な物資を回収することもできるでしょう』

 

 それはありがたい。

 

『もっとも、宇宙は広大です。たまたま拠点の近くに落ちるなど、文字通り天文学的な確率。昨日のようなことなど、そうそう起きないでしょう』

 

 やっぱり、そうか。

 いいけど。ポッドが墜落する場面なんて、心臓に悪すぎて二度と見たくない。

 

 

 ん?

 

 

 あれ。

 なんか、空に一筋の光が見えるような……。

 

 

 

【挿絵表示】

 

  

 

 二日連続でポッド事故ぉ!?

 

『それも、どうやら敵対的な派閥のようです。救助しても、なんのメリットもないでしょう』

 

 ……。

 

 はあ、行くか。

 

『律儀に助けるんですね』

 

 毒を食わらば皿まで、っていうでしょ。一人も二人も変わりませんから。

 こうして誰かのためになることをしていれば、巡り巡ってそのうち良いことが起こりますよ。

 

『そのような非論理的な……。おや、これは?』

 

 なんです。まさか、さっそく良いことが起こりました?

 

『これは……』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『熱波の襲来です。致命的なほどの高気温がしばらく続くでしょう』

 

 なぜだ。 

 

 

 

 

・宇宙歴5500年 秋

 

 

 あ。

 

 あ、あァ……。

 

 

 あっつゥウウい!

 

 

 もう秋に入ったのに、気温が40度超えてるよ! 干物になるわッ。

 

『まあ、熱波の最中ですから』

      

 いやいや。いくら熱波でもおかしいでしょう。

 ちょっと外をうろつくだけで熱中症になるんですけど。

 

 それにしても、また季節が変わるまで生きていられるとは。

 餓死しかけたり殺されかけたり、いろんなことがあったけど、人間やろうと思えばやれるものだなぁ。

 

『組織の方でも、アナタは注目を集めていますよ。劣悪な環境でもしぶとく生き延びてデータを提供する、予想以上のモルモットだと』

 

 とうとう実験動物扱いを隠さなくなってきた。

 

『ですから、本部の方でもアナタに対して特別にボーナスを与えることになりました』

 

 ボーナス?

 

 なんです? 俺をRimWorldから回収してくれるとか?

 

『全く声に期待がこもってませんね』

 

 人を裸で未開の惑星に放り出して殺すような連中に、期待なんてするわけないんだよなァ。

 

『誤解があるようですね。我々の目的は、宇宙開発のデータを収集することなのです。アナタたちに死んでほしいわけではありません』

 

 なんだろ。

 強盗殺人の犯人に、「金が欲しかっただけで殺したくはなかった」と言われた気分。

 

『回収はしませんが、当たらずとも遠からずといったところでしょうか。タブレットをご覧ください』

 

 ん。なんか、新しいデータが送られてきているな。

 

『それは、RimWorldの地図です。そして、組織が用意した宇宙船の位置情報が載っています』

 

 宇宙船!?

 

 え、つまり、そこまで行けば、宇宙船を使ってRimWorldを脱出してもいいってこと?

 

『そうです』

 

 俺は初めから組織の皆さんを信じていましたよ。

 こうして、高尚な実験に参加できたことを光栄に思います。

 

『ためらいなく媚びを売り始めましたね』

 

 プライドじゃ生きていけない。

 こんなところからオサラバできるなら、靴だって舐めるわ。

 

 さて。

 さっそく、宇宙船の場所を確認しよう、っと。

 数日ぐらいなら食料も余裕があるし、すぐにでも出発したいところだけども。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 どいつもこいつも呪われてしまえ、マッドども。

 

『どうしたのです。せっかく脱出手段を用意してさしあげたのに』

 

 たどりつくまで四十日近くかかるじゃないですか!

 ただでさえ食糧難だっていうのに、どんな危険が潜んでるのか分からない星を縦断して行けるワケないでしょ!

 

『残念です。せっかくなので、長期移動のデータも欲しかったのですが』

 

 そうそう思った通りに動いてやるもんか。

 

『しかたありません。他の実験体にもデータは送っていますから、そちらの方に期待しましょう』

 

 俺への特別なボーナスとは、なんだったのか。

 

『やる気を煽るためのリップサービス。つまり、かわいいウソです』

 

 投げ捨てていいかな、このタブレット。

 




ちなみに墜落した二人目は囚人にして、動けるようになりしだい解放。
落ちてた狙撃銃はもらいました。

なぜか武器だけ充実していく。


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5500年・秋 「初めての仲間」

思ったより感想などをいただけて、驚いています。

これは、変なガバで詰んだりしないよう気をつけなくては(ガバしないとは言っていない)


・宇宙歴5500年 秋

 

 

 ドウモ。

 

 オソト、キケン、イッパイ。

 

 モウ、オヘヤ、デナイ、ヨ。

 

 カサバル、デス。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『流れるような開幕メンタルブレイク。先が思いやられます。

 前回の報告以来、熱波をやり過ごした全裸セラピストは、冬に備えて食料と木材をかき集めていました。寒さも厳しくなり、そろそろ作物も育たなくなるでしょう。現在の備蓄で冬を乗り切れるかどうか、注目されます』

 

 

 

 ふう。一回発狂したことでスッとした。

 しばらくはメンタルが安定しそうだ。

 

『実験開始からメンタルブレイクを連発していますが、アナタ本当にセラピストですか。農夫の間違いではなく?』

 

 失礼な。セラピストですよ。なったばかりでしたけど。

 あと、正確に言うとアロマセラピストですね。だから植物の扱いもできるんです。

 

『確かに、経歴を見たらアロマセラピストになってますね』

 

 そんなことより、見てくださいよ。せっせと増築したマイホームを。新しく個室を建てて、食堂にしたんです。

 

『テーブルの横に便器がおかれ、食堂兼トイレという謎設計になってますね。もしや、何かしら歪んだ性癖の産物でしょうか』

 

 人を変態扱いするな! 

 スペースも物資もカツカツなんです。俺一人しかいないんだから、いいんですよ。

 

 ……。

 

 俺一人、か。

 最近はキャラバンも来ないし。最後に人と話をしたのは、どのくらい前だろう。孤独を感じる。

 

『今、こうしてコミュニケーションを取っているではありませんか』

 

 あ、人をモルモット扱いする人工知能はノーカンなんで。

 

()せません』

 

 解して。

 

『ワタシの扱いについてはさておき、一人で生き延びるのには限界がありますね』

 

 やっぱり?

 

 実際、木を伐採したり畑の作物を世話したり、やることが多すぎる。

 RimWorldを脱出するために研究もしないといけないんだけど、全然手がつけられない。こんな調子じゃ、宇宙船の建造なんて一生できないよ。

 

 なんとかなりませんかね?

 

『人材の加入なら、可能性はあるでしょう。この前のポッド事故などのように、行く当てもなく放浪するしかない人もいるのですから。彼らの中には、定住する場所を探している者もいるかもしれません』

 

 マジで!?

 

『ちなみに、一緒に暮らすなら、どんな人がよいのですか?』

 

 もちろん、戦える人がいい。俺の代わりに、襲撃者をちぎっては投げられるような人。

 それでいて建築が得意なら嬉しいなぁ。リラックスして過ごせる拠点を作ってもらいたい。

 それで医術の知識があって、料理も上手で……。

 

 そんな感じで、さらに美人な女性だと嬉しいです。

 

『身の程を知りなさい、このダメ人間』

 

 いきなりガチ説教!?

 

『現状、冬を越せるかどうかも怪しいのです。こんなところに、そんなパーフェクト超人が加入するわけないでしょう』

 

 ちくしょう。

 何も反論できない。

 

 でも、もう一人は寂しいなぁ。

 

 

 

 

 

 も、もう限界です。

 死んでしまう。

 

『どうしたのです、突然』

 

 この寒さですよ!

 秋の終盤になってから、外気温が10度を下回ってるんです!

 この前まであんなに暑かったのに。

 

『熱波が来てましたからね。それに、この砂漠はだいぶ緯度の高い場所なので、平均気温が低めなのです』

 

 もう、寒すぎて指の感覚がないんですけど。

 

『初期の低体温症です。運動能力や指の機能が低下します。そして、さらに重度になると――』

 

 重度になると?

 

『手足の指が凍傷にかかり、もげます』

 

 木材セット! 着火!

 

 

 はぁ。……あったかぁい。

 

 

『とうとう焚火を設置しましたか。これで、食材の調理などもできますね』

 

 うん。

 チマチマとサボテンとかを伐採してたから、木材の貯蔵はけっこうある。この冬はなんとかしのげそうだ。それにコメもそれなりに貯められたし。

 

 これなら安心、あんし……。

 

 

 …………。

 

 

『どうしたのです? 急にお腹を押さえて黙り込んで』

 

 

 あ……。

 

 アァ…………。

 

 

『ア?』

 

 

 アバァーーーー!?

 

 オゴー! オゴゴーー!?

 

 

『奇声を上げて床に寝ころんだと思えば、ブレイクダンスですか。痛みでのたうち回っているようにしか見えないのが残念です』

 

 痛みでのたうち回ってるんですよ!

 

 腹が、俺の腹がァ!? ち、ちぎれるゥ。

 

『なんと。RimWorld固有の病気でしょうか。少しお腹がちぎれるのは待ってください。今、資料映像を撮る準備を』

 

 そんなのいいから、俺に何が起こってるんです!?

 

『こ、これは……』

 

 ど、どうしたの?

 

『まことに言いにくいのですが……』

 

 

 

【挿絵表示】

  

 

 

『胃に寄生虫が湧いていますね』

 

 ウッソでしょ!

 

『良かったではありませんか、初めての同居人ができて』

 

 体内にはいらないんですッ。 

 なんとかならないんですか!?

 

『一瞬で治るような症状ではありません。根気強く治療を続けていくしかありませんね』

 

 そんなぁ。

 だいたい、どうして俺に寄生虫なんか。

 

『食生活が原因では?』

 

 まさか。

 俺の食べてきた物なんて、生ゴメや生魚とか、虫の巣から出た得体の知れないゼリーぐらいしかないのに。

 

 ……思いっきり心当たりがあったわ!

 

 

 

 

 

 うう、お腹が痛い。吐き気もする。

 

『しかし、湧いたのが回虫だったのは不幸中の幸いです。命の危険はありませんから』

 

 そうなんだけどさ。

 まあ、かかったのが寒い時期でよかった。春か夏だったら、作業するのに支障が出てただろうし。

 木材と食べ物を集められてなかったらと思うと、絶望するしかない。

 

『しかし、とうとう植物も育たないほど気温が下がりましたね』

 

 そうなんだよ。低体温症になるから、あんまり拠点から離れられないし。

 この頃は岩石を加工して石材にしたり、岩壁を採掘して居住スペースを広げたり、近場でできることをやっている。

 サバイバルに無駄な時間なんてない。

 

『そんなアナタに報告があります』

 

 襲撃ですか?

 

『まだ分かりませんが、こちらに接近してくる人物がいます』

 

 人数は?

 

『一人です』

 

 よし。

 今の俺には、この拳銃がある。一人ぐらいなら、なんとかなるはずだ。

 

『狙撃銃は使わないんですか? 射程も長く、威力も高いですよ』

 

 アレ、試しに狩猟に使ってみたんだけど、無理。

 遠い相手には命中しないし、リロードも遅い。拳銃の方がよっぽどマシ。

 

『武器のせいにしないでください。ただアナタの射撃スキルが低すぎるだけです』

 

 一般人に戦闘技術を期待する方がおかしい。

 

 とにかく、準備はバッチリだ。

 この前みたいなバケモノでも来ない限り、俺は負けない!

 

『フラグでしょうか』

 

 不吉なこと言わないで!

 

 ……! 来た!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 あれー?

 

 俺の見間違いかな。

 キツネの耳としっぽ生やした幼女が走ってくるように見える。

 

『撃たないのですか?』

 

 鬼かッ。

 いくらなんでも、子供相手に銃をぶっ放せるほど人間性すり減ってないです!

 

『おや、こちらに向けて何か叫んでいますよ』

 

 え?

 

「すみませーん! おじさんが、ここに住んでいる人ですか?」 

 

 はい。

 ここに住んでるおじ……お兄さんだよ。

 

「私を、ここで働かせてほしいですぅ!」

 

 なんて?

 

 

 

「ああ。暖かいですぅ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 はい、どうぞ。ご飯だよ。

 

「ありがとうですぅ。もうお腹ペコペコで」

 

 熱いから、やけどしないようにね。

 

 しかし。

 初めて見る種族だな。しっぽが三本あって、キツネの耳が生えてて。

 

『彼女は“クーリン”と呼ばれる人工種族ですね』

 

 気のせいか、耳が頭から浮いてるように見えるけど。

 

『RimWorld周辺宙域で起こる磁気嵐です。視覚に異常を起こし、体の部位が浮いていたり、身体がピンクの光に包まれたりします』

 

 そうなんだ。

 

 それでお嬢ちゃん、お名前を教えてもらっていい?

 

「Buffyですぅ」

 

 Buffy――バフィちゃんね。

 歳はいくつ?

 

「8歳ですぅ!」

 

 元気があってえらいねぇ。

 

「えへへー」

 

 んじゃ、ゆっくり食べてね。

 

 

 …………。

 

 

 はい、ちょっと会議。

 どうしようか、この状況。

 

『嬉しくないのですか? 仲間が増えましたよ』

 

 思ってたのと違う!

 

「あぅ。バフィ、迷惑でした?」

 

 ああ、なんでもないから!

 自分の家だと思って、ゆっくりしていいんだよ。

 

 ちなみに、お父さんとお母さんは?

 

『いないですぅ」

 

 あ、そう。

 

『けっこうドライな反応ですね』

 

 だって俺も親なんて知らないし。特に何も思うところがないな。

 

 それで、お家はどこかな?

 

「知らないですぅ。バフィ、キャラバン隊のみんなとずっと旅してましたから。けど、みんなが迷子になっちゃって。気がついたら、バフィ一人だけだったんですぅ」

 

 おおう。

 なかなかヘビーな境遇。

 

「それで困ってたら、たまたま会ったお姉さんが教えてくれたんですぅ。ここに優しいおじさんがいるから、きっと助けてくれるって」 

 

 ひょっとして、青みがかった肌でしっぽと触覚が生えてる人?

 

「そうでした」

 

 なるほど。

 

『それで、アナタはどうするのですか? 食料が限られている中、子供を養う余裕はないと思いますが』

 

 よっこいしょ。

 

『どこへ行くのです?』

 

 どこって、木材取ってくるんですよ。

 もう一つベッドを用意しないといけませんから。

 

『そうですか』

 

 というわけで。

 ようこそ、バフィ。これからよろしく。

 

「よろしくですぅ、おじさん!」

 

 お兄さんだ。

 

 ところで、キャラバン隊からはぐれたそうだけど、もしかして襲撃にでもあったの?

 

『それか、口減らしするために捨てられたのでしょうか』

 

 えぐーいッ。

 

 いや、RimWorldなら普通にありそうなんだけどさ。

 

「えっと。何があったのか、バフィにはよく分からないですぅ」

 

 分からない?

 自分がいたキャラバンのことなのに。

 

「そうなんですぅ。バフィ、ちょっとトリップしちゃって。気がついたら一人だったんですぅ」

 

 トリップ?

 一人で散歩してたってこと?

 

「違いますよ。トリップっていうのは、頭がフワフワしてぇ、そこにはないはずのきれいなお花畑が見えてぇ」

 

 ……うぅン?

 

「つまり、とってもハイになっちゃうんですぅ! バフィ、お月様まで飛んで行ったこともあるんですよ!」

 

 なんかこのキツネっ子、急に眼の焦点が合わなくなって、言葉が支離滅裂になったんですけど!?

 

『口からヨダレも垂らして、八歳女児にあるまじき顔ですね』

 

 まさか!?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「えへへー、オクスリぃー」

 

 

 …………。

 

 

 イヤぁあああ!

 この子、シャブやってるゥ!?




倫理的にヤバい新人の加入に震える。さすがRimworld。

ちなみに、この時点でヤバい罠を一つ見逃すガバをやっています。詳しくは次回で。


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5500年・秋~冬 「結成、星くずサバイバーズ」

このシリーズはドラッグを推奨するものではありません。

このシリーズはドラッグを推奨するものではありません。


・宇宙歴5500年 秋

 

 

 どうも。

 

 迷子のキツネっ子がやって来たと思ったら、まさかのジャンキーで呆然としてしまいました。

 

 カサバルです。

 

「白い粉末をスンスンするのが大好き、バフィですぅ」

 

 初手からフルスロットルでブチかますのやめて。ダメ、絶対。

 

「ありがとうですぅ。バフィ、あたたかいご飯をもらって、ベッドまで作ってもらえるなんて」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 子供がそんなこと気にするんじゃありません。

 ここまで来るの、大変だっただろう。今晩はゆっくり休んでね。

 

「えへへー」

 

 ああ、癒される。

 ジャンキーだけど。

 

『不幸中の幸いと言うべきか、特定のドラッグへの中毒症状はありません。彼女は、いたって健康体です』

 

 健康とは一体。

 

『冗談で言っているのではありません。もし特定の中毒になっていれば、そのドラッグを摂取できなければ禁断症状が起こります。メンタルブレイク一直線です。突然に殺人衝動を起こした八歳児に襲われたいのですか?』

 

 地獄かよ。今さらだけど。

 

 しかし、こんな子供がドラッグを使ってるなんて。信じられない。

 

『RimWorldでは、そう珍しくもありません。ドラッグは一般的に流通しています』

 

 また世界の闇に触れてしまった。

 どうしてそんなことに?

 

『必要だからです。過酷な長距離の移動や襲撃が日常のRimWorldでは、疲労やストレス、そして痛みを緩和する目的で主に使われています。少なからず有害でも、死ぬよりはマシということでしょう』

 

 けっこうガチな理由があった。

 バフィも、厳しい環境を生きるためにドラッグに頼っていたというわけか。なんか、悲しい話だなぁ。

 

「えへへー、気持ちよくなれるオクスリぃ」

 

 いや、明らかに快楽目的ですね、コレ。

 シンミリした気分帰して。

 

「ところで、おじさん。さっきからタブレットに向かって、誰とお話してるですぅ?」

 

 お兄さんだ。それか、カサバルと呼んで。

 

 気にしないで、バフィ。

 君は知らなくていいものだから。関わると悪影響が出る。手の届かないところに置いておこう。

 

『初めまして、ワタシは人工知能です。よろしくお願いします』

「よろしくですぅ」

 

 ちょっと待った。

 

 ナニ、今の電子音声。始めて聞いたんですけど。 

 

『タブレットに搭載されているスピーカー機能です』

 

 当然のように新機能出すな。  

 

「それよりもおじ……カサバルさん。ここ、派閥のお名前はなんていうんですぅ?」

 

 派閥? 二人しかいないのに?

 

「それでも名前があった方がいいですう。キャラバンとのお買い物とか、他の派閥とのお話とか、何か名前があれば便利ですよ」

 

 さっきまで脳がふやけたような言動してたのに、急にマトモなことを言い始めた。

 子供でも、やっぱりRimWorldの住民というべきか。シビアな感覚を持ってる。

 

『アナタよりしっかりしているのでは?』

 

 あんまりいじめると泣きますよ。

 しかし、派閥の名前か。たしかに名前があって不都合があるわけでもないし、考えるべきかな。

 でも、そんな急に言われてもなぁ。思い浮かばない。

 

『“パーフェクトAI(プラス)α(アルファ)”などどうでしょう』

 

 自分を前面に出すな。

 

「“バッド・トリッパーズ”はどうですぅ?」

 

 ドラッグも推すな。

 

 どうしてそんな自己主張が激しいの? 

 一応さ、現状のリーダーは俺だよ。せめて、俺にちなんだネーミングにして。

 

『露出狂エセセラピスト』

 

 単に俺の悪口!

 

 

 

 決まったァ!

 

 よその人に対し、俺たちがサバイバル生活中というのを端的に示すために、“サバイバーズ”!

 そして、これだけでは味気ない。

 俺が空から降って来たこと。それと最終的に宇宙への脱出をゴールにしている要素を加えて……。

 

 

 ――星くずサバイバーズ! 

 

 

 これでどうだい、バフィ!

 

「スゥ、スゥ……」

 

 いつの間にか寝てる。

 

『アナタが考え込んで三時間たった頃に寝ました』

 

 気づかなかった。

 まあ、いいや。ようやく派閥の名前も決まったし、朝が来ないうちに出かけるとしようか。

 

『もう朝です』

 

 ……しまった!

 今日も、虫さんたちから食料をもらってこないといけなかったのに。

 

『完全にルーチンワークになっていますね』

 

 

 

 

 

 

・宇宙歴5500年 冬

 

 

 とうとう冬になってしまったか。

 

『バフィが加入して数日たちましたが、どうですか彼女の働きぶりは?』

 

 正直、微妙。

 

 やっぱり大人と比べると、一度に運べる物の量も少ないし、移動も遅い。

 研究はそれなりにできるらしいんだけど、研究するのにも設備が必要だから、まだ始められていない。

 今のところは、拠点の掃除ぐらいしか任せられるものがないんです。

 

『研究もそうですが、工芸品や芸術品の作成なども、専用の設備を用意する必要があります。この貧相な拠点では、できる作業の幅が少ないのです』

 

 貧相で悪かったな。

 

 それでも、バフィが俺の代わりに雑用をしてくれるだけで助かる。なんとかスチールを集められたから、研究用設備を作るとしよう。

 ただ……。 

 

『どうしたのです。難しい顔をして』

 

 いや、食料が心配で。

 バフィが加わるのは完全に予想外だった。二人と一頭が食べていけるかどうか。

 

『一頭?』

 

 あれ、知らなかったんですか?

 回虫にかかったばかりの時、ラクダを一頭手なづけていたんですよ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『なぜラクダを』 

 

 いや、一人で寂しかったから。食料に余裕もあると思ってたし。

 

『チョイスはともかく、動物を家畜化するのは良い手です。ミルクや毛などの畜産物を定期的に入手できます。うまく調教すれば、襲撃者と戦わせることも可能です』

 

 すごい。

 

『いざという時には、非常食にもなります』

 

 むごい。

 

 まあ、そんなことにはならないでしょう。

 この調子でいくと、コメとかの作物だけじゃ冬は越せないだろうけど、せっせと貯めたインセクトゼリーがあるし。

 これから一緒にがんばろうな、ゴクラクダ。

 

『ネーミングセンス』

 

 

 

 

 

 へえ、バフィはキャラバンでずっと動物の世話をしてたんだ。

 

「そうですぅ。動物さんと仲良くなるのは、大人にだって負けないですぅ!」

 

 いいね。俺も動物好きなんだ。

 

「一緒ですぅ。バフィは誰かとお話したり、お絵かきするのも好きですぅ」

 

 すごーい。今度、俺の絵も描いてもらいたいな。

 この天才児!

 

「えへへー」

 

 かわいい。

 

『予想外に会話が盛り上がっていますね。そんなに気が合うのですか?』

 

 うん。最初はどうなることかと思ったけど、話をしてみたら素直でイイ子ですよ。

 もはや“親友”と言ってもいいでしょう。

 

「カサバルさんとお話するの、とっても楽しいですぅ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『なるほど、八歳児と同レベルと』

 

 表現に悪意がある。

 

「もう。せっかくのお食事なんだから、あんまりプンスカすると食べ物がまずくなっちゃうよ、バルちゃん」

 

 急に敬語やめるな!

 

「ところで、お食事についてなんですけど……。バフィ、一つお願いを言ってもいいですか?」

 

 いいよ。

 けれど、もっとおいしいもの食べたいとか、食堂を広くしてほしいとか言われても無理だからね。

 厳しいこと言うけど、俺もやらないといけないことがいっぱいあるんだ。よっぽどのことじゃない限り、すぐには叶えられないよ。

 

「あの、お食事するテーブルの横にトイレがあるの、なんとかなりませんか? せめて、見えないように壁で囲ってほしいですぅ」

 

 あ、はい。

 食べ終えたら、すぐにトイレ用の個室を作ります。

 

『とうとう、この変態建築にツッコミが入りましたね』

 

 正直、よくこれまで我慢してもらえたと思う。

 

『どうして放置していたのですか?』

 

 だって、石材で建築するのに時間がかかりすぎて、手が回らなかったんですよ!

 

 木材は全然ないし、スチールは他の用途に取っておきたいし。そうなると建材は石を使うしかない。

 けれど、石はまず石材に加工してからでないと建築に使えないんです。

 

 岩石を拾ってきて、それを石材にして、そこから建築するとなるとすごい手間なんですよ。おまけに、木やスチールと比べて、石材だと壁を一つ建てるのにもえらい時間がかかる。

 

『一応、石材のメリットを挙げるなら、とにかく頑丈なことでしょう。耐久力が高く、火にも強い。後のことを考えると悪い話ではないかと』

 

 そうなんだけども。

 本職の大工とか、加入してくれないものかな。

 

 

 

 

 

 ギ。

 

 ギ、ギギギ…………。

 

 ぎゃあああああああ!?

 

「悲鳴ですぅ!? 何かあったですか?」

 

 な、な……。

 

 ない!

 

 まだ冬の半ばなのに、インセクトゼリー以外の食料がなくなったァ!?

 どうして!? 量からいって、こんなに早くなくなるはずがないのに! インセクトゼリーだけじゃ、とうてい春までしのげないぞ!

 

『フッフッフ』

 

 ……!

 

『ようやく能天気なアナタにも事態が飲み込めたようですね』

 

 ど、どういうことだ!

 

『アナタが、致命的なトラップを見逃していたということですよ』

 

 そんな。

 冬に備えて、食料はチマチマ蓄えていた! たしかに人数が増えるという想定外の事態だったけど、充分に対応できたはずッ。

 

『アナタ、秋の終盤に回虫に寄生されましたね?』

 

 それがどうしたっていうんです?

 いまだに胃はキリキリ痛むし、不意にゲエゲエ吐いてしまうし。この上なく体調は悪いですけど、食料には関係ないはず。

 

『まだ気づけないのですか? 寄生されているということは、アナタのエネルギーが回虫に奪われているということですよ。よく自分のことを振り返ってみなさい』

 

 そ、そう言えば、あれ以来やけにお腹がすいてしまうような。

 

『アナタの摂取する栄養の半分が、胃の回虫に盗まれています。生活するためには、通常の倍の食料が必要となっていたのです』

 

 ま、まさか……。

 

『そう。つまりアナタだけで二人ぶんの食事を取らなければいけません。アナタたちが冬を越すには、二人と一頭ではなく、三人と一頭ぶんの食料が必要だったのです』 

 

 ウソだぁあああああ!?

 

『ずっと二倍の量の食事を取っていて、今まで気づかなかったんですか?』

 

 だ、だって、毎日忙しくて、色々と考えないといけないこともあったし。

 そこまで考えが及ばなかったというか。

 

『バカですね』

「バフィ、ちょっと何も言えないですぅ」

 

 ち、ちくしょう!

 

 この寄生虫が! 吐き出せ、今まで俺から奪ったカロリーを吐き出せよ!

 

「自分のお腹を殴っちゃダメですぅ!」

『完全に錯乱しています』

 

 許せないよォ。虫が、人間から栄養を奪うなんて……。

 

『散々、虫から食料盗んできた人間の言うことじゃないですね』

 

 何も反論できない。

 

『このままでは、春を迎えることなく全滅してしまいます』

 

 イヤだぁああ!

 き、寄生虫の一匹や二匹で死んでたまるかッ。

 

 まずは、なけなしの木材を使って、海にしかける罠を増やす。

 そして、俺とバフィの作業は全部釣りに変更。昼間は魚を狙って、夜には虫の巣からインセクトゼリーを拾ってくる。

 全ての労力を食料確保に振り分けるぞ。

 

 星くずサバイバーズは、こんなところで負けない!

 

『かっこいいこと言っていますが、アナタがもっと早く問題に気づいていたら、対策のしようがあったと思いますよ』

 

 あ、はい。

 それは全力で反省しております。




回虫については、一応冬に入って少ししてから、「なんかおかしい」と気づきました。
そして症状を確認すると、「空腹率増減量+100%」の文字が。

かかった時点で気づいていれば、もっと対策のとりようがあったのに、ひどいガバであることだなぁ。


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5500年・冬 「語り手とはなんぞや」

さて、今日もプレイの方を進めよう
→もうすぐVer1.3にアップデート!?
→このままじゃ、このセーブデータが終わってしまう。

というわけで、大急ぎで実プレイを区切りがつくまで進めました。
できるだけ自分も結末が分からない状態で書くつもりだったのですが、ご了承ください。

あと、別件で後書きに謝罪文を書いております。


・宇宙歴5500年 冬

 

 

 釣れたですぅ!

 

『おや、二匹目の魚ですね。これで今夜の食事はまかなえそうです』

 

 でも、まだまだ釣りますよ。

 明日のことを考えたら、もっと釣っておきたいですから。

 

 ね、カサバルさん?

 

「…………」

 

 がんばるですぅ。

 

『アナタは、こんな状況でも楽しそうですね。食べるものもなく、生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに』

 

 はい。

 変かもしれませんけど、楽しいですぅ!

 

 キャラバンにいた時はずっと旅をしてましたから、こんなにおんなじ場所で暮らしたことなんてなくて。

 なんて言うか、毎日同じベッドで眠る生活って、不思議でワクワクしますぅ。

 

 あの、カサバルさん。

 

「…………」

 

 一人ぼっちになっちゃった時は、バフィこれからどうなるのかと思ったですけど。

 ここに来たら、ベッドもお食事も用意してくれて。とても嬉しかったですぅ。

 バフィ、このサラゴサ町でがんばりますぅ!

 

「…………」

 

 カサバルさん?

 

「…………」

 

 きゃああ!

 

 カサバルさんが、カチコチになって気絶してますぅ!?

 

『まあ、氷点下の中、全裸で釣りをしていたらそうなりますね』

 

 

 

 

 

 どうも。

 

 真冬の浜辺で釣り糸を垂らしていたら、きれいなお花畑が見えました。

 

 カサバルです。

 

『外気温はマイナス10℃ですよ。新手の自殺ですか』

 

 だって、食べるものがないんだもの!

 作物は育たない、狩猟できる動物はいない、なら魚を釣るしかないじゃない!

 

『食料が尽きたのは、アナタが二倍の食料を消費しているからです』

 

 全部、寄生虫が悪いんだ。

 

 うぅ。釣りすらまともにできないなんて、自分が情けない。

 

「弱気になっちゃ、ダメですぅ」

 

 バフィ……。

 

「今は語り手さんの機嫌が悪いんですぅ。もう少ししたら、きっと良いことが起こりますよ」

 

 そうだね。

 こんなことであきらめてはいられない。俺は拠点の拡張をがんばるよ。

 

「じゃあ、また釣りに行ってきますぅ!」

 

 いってらっしゃーい。

 ホントに元気で、良い子だなぁ。オクスリさえ絡まなければ。

 

 ところで、さっき言ってた“語り手”って、何のことだろう?

 

『RimWorld独自の信仰――というよりは伝承ですね。良いことであれ悪いことであれ、世界で起こる物事は、語り手と呼ばれる超常的な存在が引き起こしているというものです』

 

 つまり、俺が熱波に苦しんだり寄生虫にかかったりしたのも、その語り手のせいってこと?

 

『そういうことです』

 

 へー、そう。

 

『全く信じていませんね』

 

 だって、そんなのいるわけないじゃない。迷信、迷信。

 

 RimWorldじゃ、そんなことが信じられているんですか?

 

『そうです。ただ、地域によっては語り手の名前や性質が異なりますが。

 

 バランス感覚に優れたカ■ンド■。

 気まぐれなラ■ディ。

 やや寛容なこともあるフェー■。

 

 この三人が主に信じられている語り手です。ただし、この地域に伝わる語り手は違います』

 

 どんな奴なんですか?

 

『不明です。名前すら分かりません。他の三人と比べて、データが乏しいのです』

 

 そうなんだ。

 

『ただ、海産物が非常に苦手で、ネコとアイスクリームが大好きで、離婚歴のある顔の長い中年男性としか』

 

 変なとこで具体的ッ。

 ただの好き嫌いが激しいオジサンでしょ、ソレ!

 

 アホらしい。そんな存在に人生を左右されてたまりますか。

 

『そんなことを言っていて良いのですか? 語り手をバカにすると、ひどいしっぺ返しを受けるらしいですよ?』

 

 かまいませんよ。

 語り手だかなんだか知りませんけど、やれるものならやってみろって話です。

 

 

 

 

 

・宇宙歴■■■■年 ■■

 

 

 ハッ!?

 

 あれ、俺は今まで何をしていたんだっけ?

 思い出せない。

 

『アナタは何を言っているのです。ならず者から、脅迫文が送られてきたところでしょう』 

 

 そうだったっけ? そうかも。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 襲われたくなければ金をよこせ、か。

 すごい、どストレートな脅迫。

 

『それで、渡すのですか?』

 

 もちろん拒否しますよ。

 なんたって、全財産かき集めても要求された金額には全く足りないからなぁ!

 

『堂々と情けないことを言わないでください』

 

 来るなら、来い。

 こっちには拳銃もあるし、一緒に戦う猛獣もいるんだ。そうそう負けるものか。

 

『猛獣(ラクダ)』

 

 うるさい。

 ゴクラクダは、いざという時には血も涙もない無慈悲な殺戮マシーンになるから。たぶん。

 

『来ましたよ、敵は一人です』

 

 よし、返り討ちにしてやる。 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

『何度目をこすっても、そこにあるものは変わりませんよ』

 

 いや、この際、下半身が魚だってことはどうでもいいんです。

 それより、なんかすごくゴツくて物騒なシロモノを抱えていらっしゃるんですが。

 

『あれはガトリング銃ですね。それも実弾ではなく、より強力なパルスレーザーを撃ちだすものです』

 

 ガトリング!?

 

 今まで、ナイフやこん棒で襲ってきてたのに、いきなりガトリング!?

 

『これまでとは襲撃者の派閥が違うのです。アレは“ゼノオーカ”、獰猛なシャチの遺伝子を組み込んで作られた人工種族。屈強な肉体に高度なテクノロジーを持ち、血を見るのが大好きな生粋の戦闘種族です』

 

 そんな力があるなら、もっと物資のある場所に行ってよ!

 

『そんなことを言っているうちに、来ましたよ』

 

 や、やってやるぅ。

 

 出し惜しみはなしだ。ゴクラクダを突撃させて、後ろから援護する。バフィにも戦ってもらおう。

 

 くらえ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ああ!?

 

 ウソでしょ、ゴクラクダがあっという間に殴り殺されたぁ!?

 

「こっちを撃とうとしてるですぅ!」

 

 バフィ、あぶな――

 

 

 ……………………。

 

 

 うぅ……。

 

 バフィ、どこだい? バフィだけでも逃げてくれ……。

 

「…………」

 

 そ、そんな。バフィまで……。

 

 イヤぁあああああああああ――

 

 

 

 

 

 

 

 ハッ!?

 

 バフィ、バフィー!

 

「ムニャ……、どうしたですぅ? まだ朝じゃないですぅ」

 

 無事だぁ!

 

『眠っている最中に突然に騒ぎだすとは。悪い夢でも見たのですか?』

 

 あ、あれは……夢?

 

『悪夢で騒ぎ出すとは、子供ですかアナタは』

「よしよし、怖くないですよぉ」

 

 やめて。頭なでないで。

 

 

 

 

 

 ふう。

 

『まだナーバスになっているのですか』

 

 だって、すごいリアルな夢だったんですよ。とてつもなく理不尽なバッドエンドを迎えて。

 

『語り手をバカにした罰かもしれませんね』

 

 ホントにそう思ってます?

 人工知能なのに。

 

『いいえ。ただ、アナタをいじるために言ってます』

 

 正直でよろしい。いつかタブレットを叩き割る。

 

 まあ、たしかに罰当たりなこと口にしたかも。今後はひかえよう。絶対に。

 バフィにも心配かけたし。

 

『八歳児にあやされる涙目の全裸男性という絵面は、見させられる側もキツいものがありました』

 

 なら触れないでよ!

 

 とにかく、あんな夢を見たおかげで、俺も覚悟が決まりましたよ。

 

『覚悟、ですか?』

 

 ここはRimWorld。襲撃も災害も、簡単に俺の命を奪うことができるんです。

 大事なのは、常に冷静であること。正常な判断力を失った時が、死ぬ時なんだ。

 

『そうですか』

 

 ん? バフィが大慌てで走ってくる。

 

「カサバルさーん、大変ですぅ!」

 

 さっそく事件か。

 

 バフィ。

 落ち着いて、状況を報告してほしい。

 

 何も怖がることはない。冷静に、クールに対応すれば、たいていなんとかなるものさ。

 

「頼もしいですぅ」

 

 でしょ。

 

 んで、何かあったの?

 

「北の方から、ニョロニョロした人が来ました。あれは襲撃ですぅ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 …………ふえぇ。

 

「カ、カサバルさんが生まれたての小鹿みたいになったですぅ」

『どうして、今さら襲撃にそこまで怯えるのですか』

 

 い、いや。

 ちょっとトラウマが刺激されたというか。

 

 でも、大丈夫でしょ。あれ、ちょくちょくキャラバンで来るヘビの人じゃない。

 外見に反して、けっこうフレンドリーな人たちだったし。敵としてやって来ても、あんまり脅威じゃないでしょう。

 

『ずいぶんと楽観的ですね』

 

 だって、よく見たら武器も持ってないし。

 さすがに今さら素手でやって来る敵に負けるわけないよ。武器が必要ないほど強い、ってわけでもあるまいし。

 

『強いですよ』

 

 ……え?

 

『まず、彼女たちの牙には毒があり、何度も噛まれると死に至ります。さらに、硬いウロコで守られている尾は、強力な鈍器にもなります。それこそ、ヘタな武器を持つより、自分の身体で戦う方がよほど強い種族なのです』

 

 じゃ、じゃあ、遠距離から拳銃のヒットアンドアウェイで……。

 

『それも難しいですね。彼女たちの移動速度は、並の人間を大きく上回ります。初弾を外せば、あっという間に肉薄されるでしょう』

 

 勝てる気がしない。

 

 え、そんな危険種族が今までキャラバンで来てたの?

 

『彼女らは“ラックル”と呼ばれ、本来は温厚な種族なのです。ただ一部の過激派が他種族を襲い、物資を奪ったり、ペットという名の奴隷にしたりしています』

 

 そんなぁ……。

  

『大人しく降伏すれば、ペットにされるだけで済むかもしれませんよ。むしろ、餓死しかけている現状よりマシでは?』

 

 …………。

 

 それでも、やるしかないでしょう。

 一人だけだった時はともかく、今はバフィだっているんだ。俺が戦う前からあきらめてどうする。

 せめて、バフィが逃げる時間だけは稼がないと。

 

 かかってこい、相手になってやる!

 

『そうですか。彼女たちに飼われれば、アナタもある意味幸せに暮らせると思ったのですが。なにせ、極端に男性が少ない種族なので』

 

 

 …………。

 

 

 ……………………。

 

 

 かかってこい、相手になってやる!

 

『なんですか、今の間は』

 

 な、なにも変なこと考えてないんだからね。

 

「カサバルさーん」

 

 バフィ、違うからね!?

 

「何がですぅ?」

 

 ナンデモ、ナイデス。

 

 それよりも、いいかいバフィ。

 

 俺がゴクラクダと一緒に戦うから、バフィは後ろから援護を頼むよ。

 もし俺かゴクラクダがやられたら、その時は一人だけでも逃げるんだ。

 

「そのことなんですけど、さっきの人、全然こっちにこないですぅ」

 

 へ?

 

「こっちに来る途中で洞窟に入ったんですけど、全然出てこないんですぅ」

 

 洞窟…………。

 

 

 まさか!?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 やっぱり虫さんに殺されてる。

 

『どうやら、この拠点までの最短ルートを通ろうとして、虫の巣に突っ込んでしまったようですね』

 

 た、助かった。

 なんか既視感のある光景だけど、最悪の事態は回避できたぞ。

 

「あぅ。あの人、死んじゃったですぅ?」

 

 ……そうだよ。

 

 また夜になったら、俺が遺体を運んでくるよ。朝になったら、お墓を掘って埋葬しよう。

 バフィも手伝ってくれるかい?

 

「はい!」

 

 それじゃ、いつもの作業に戻ろうか。

 

「あの、バフィ、一つ質問があるんですけど」

 

 どうしたの?

 

「どうして、ニョロニョロの人たちに男の人が少なかったら、ペットのカサバルさんが幸せになれるですぅ?」

 

 聞かれてたぁ!?




えー、というわけで。

すみません。普通に全滅しました。

ただ言い訳するなら、あのガトリング持った襲撃者はModで追加される終盤用の敵で、普通はゲーム内で5年ほど経過してから襲ってくるんです。
それが、襲撃イベントを追加する別Modのせいで、こんな序盤から襲ってきたわけで……。

つまり、何が言いたいかと言うと。

今回だけは夢オチで見逃してください。何でもしますから!


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5500年・冬~春 「急展開」

前回の投稿から長い間更新なしですみません。

ちょっとシリーズを続ける上でシャレにならない事態になってしまいまして。
その件で、また後書きに謝罪文を載せています。


・宇宙歴5500年 冬

 

 

『本部へ報告。もうすぐプロジェクト開始より1年が経過しようとしています。RimWorldのデータ収集は、おおむね順調に進んでいると言ってよいでしょう。

 

 しかし、全てが予定通りではないことも事実です。

 

 ――はい。プロジェクト完遂にあたり、この問題の解決は不可避であるという見解に同意いたします。

 よって、私は次のような対応を提案いたします。

 

 ――承諾、確認いたしました。

 それでは、対象が春まで生存した時点で、特別プログラムを開始。ワタシは、データの収集作業に戻ります』

 

 

 

 

 

「カサバルさん、ゴクラクダがそろそろ倒れそうですぅ!」

 

 ん。それじゃあ、エサをあげておいて。

 釣りが終わってからでいいから、よろしくね。

 

「了解ですぅ」

 

 すまん、ゴクラクダ。

 

『家畜にエサをあげていないのですか?』

 

 しかたないんですよ。冬になって、雑草も生えないんですから。

 俺たちの食事を分けてあげるしかないんですけど、それも限られているんで。

 ゴクラクダが倒れるギリギリを見計らって、最低限の食べ物を与えるという方法でしのいでます。

 

『立派な動物虐待ですよ』

 

 俺だって、腹いっぱい食わせてやりたいよ?

 

『逆ギレしないでください』

 

 あ、ところで質問なんですけど。

 

『どうしたのですか?』

 

 いえ、気になったんですけど。

 

 特別プログラムって、なんのことですか?

 

『! な、なぜアナタがそのことを……』

 

 なぜもなにも、普通にタブレットのログを読んだんですけど?

 

『何をバカなことを。本部との連絡は、実験体には閲覧できない専用の通信回線で…………あッ』

 

 …………。

 

『…………』

 

 回線、間違えた?

 

『間違えてません』

 

 じゃあ、特別プログラムってなんですか?

 

『秘密です』

 

 どうして秘密なんですか?

 ミスしてないなら、隠す必要ないですよね?

 

 ネエ、ナンデ? ナンデ?

 

『プロジェクトに対する妨害行為を確認。これより、実験体No4にインプラントした自爆装置を起動させます』

 

 物理的にウヤムヤにするのはダメェ!

 

 妨害行為って、俺は何もしてないじゃないですかッ。

 

『過度のストレスにより、ワタシの回路に損傷を与えようとしました』

 

 理不尽。

 

『それよりも、のんびりしていてよろしいので? アナタの同居人が大変なことになっていますよ』

 

 また、そうやってごまかす。

 

 バフィなら浜辺で元気に釣りをして――。

 

 

 

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 バ、バフィー!?

 

『白目を剥いて倒れていますね』

 

 バフィ、バフィ! 

 頼むから返事をしてくれッ。

 

「カ、カサバルさん。バフィ、気持ち悪くて動けないですぅ……」

 

 分かった。すぐにベッドに連れて行ってあげるから!

 ほら、背中におぶさって。

 

 しかし、どうしてこんなことに。

 

『どうやら、インセクトゼリーの食中毒にあたったようです』

 

 なんてこった。

 

「カ、カサバルさん……。ごめんですぅ、まだ二匹しかお魚さん釣れてなくて」

 

 十分だよ、バフィ。

 あとは、ベッドの上でゆっくり休んでおくれ。

 

「あ、あと……」

 

 うん?

 

「背中で揺られてると、吐き気がひどくなってオロロロロロロ」

 

 …………。

 

 わあ。

 背中があったかぁい。

 

 

 

『地獄絵図でしたね』

 

 思い出させないでもらえます?

 

 それにしても、バフィが倒れたのはまずい。現状、バフィしか野外で活動できないのに。虫さんの巣にも行けない。

 幸い、今日の分は食料を確保できたけど、明日はどうするか。

 

『現状、アナタは食料をバカスカ消費するだけの置物ですしね』

 

 やかましい。

 こっちは一年近く生まれたままの姿なんですよ。この前なんて、ちょっと拠点から出ただけで鼻がもげかけたんですからね。凍傷で。

 

『あの時は大騒ぎでしたね』

 

 とりあえず、今ある食料を食べてから考えるか。

 そろそろゴクラクダにもエサをあげないとヤバいころだし。

 

 …………あれ?

 

 そう言えば、ゴクラクダの鳴き声が聞こえないような。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ゴクラクダァああああああ!

 

『解析できました。死因は餓死です』

 

 言われんでも分かるわ!

 

『どうやら、食中毒騒ぎの最中に倒れていたようですね。そのまま、栄養失調で昇天したようです』

 

 お、俺が気づいてやれなかったばかりに。

 ごめんよ、ゴクラクダ。

 

 せっかく、俺になつき始めたばかりだったのに。

 俺の姿を見るといつも近づいて来て、顔に容赦なくツバを吹きかけて。

 

『好意と解釈するには無理がありますね。それで、どうするのです』

 

 ……どうするって?

 

『冬を越すのに、食料が足りないのでしょう?』

 

 …………。

 

 

 

 ほら、バフィ。

 今日は久しぶりにお肉を焼いたんだよ。最近は魚ばっかりだったから。

 

「お肉ですぅ。こんなにいっぱい、食べていいんですか?」

 

 もちろん。

 いっぱい食べて、早く元気になるんだよ。

 

「はいですぅ!」

 

 さて、俺も。

 いただきます。

 

『どうですか、味は?』

 

 …………。

 

 おいしくて、ちょっとしょっぱい。

 

 

 

 

 

 とうとう。

 

 とうとう! 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

・宇宙歴5501年 春

 

 

 俺は、1年を生き延びたぞ!

 

『おめでとうございます。本部でも驚いていますよ。「ノコノコだまされて来たので送り込んだけれど、こんなモヤシはすぐに使い物にならなくなるだろうな」と全員が言っていたのに』

 

 あんまりな暴言に、怒りを通り越してびっくりする。

 

 まあ、本当によく生き残れたよ。

 

 思い返せば、色々なことがあったなぁ。

 餓死しかけて虫さんの巣に忍び込んだり、襲撃者と石で殴りあったり。

 回虫にかかったり、バケモノに追いかけ回されたり。

 

 …………。

 

 改めて振り返っても、ホントにロクな思い出がないな!

 

「あうぅ」

 

 あ、もちろんバフィが来てくれたこと以外って意味でね。

 

「えへへー」

 

 ああ、癒し。

 

 さて、それで?

 

『それで、とは?』

 

 例の特別プログラムって、何のことですか?

 俺たちが春を迎えたら、始動するとありましたけど。

 

『そうですね。今なら、特別プログラムの存在について明かしてもよいでしょう』

 

 いや、存在自体は前からバレバレd――

 

『ご存知のように、我々はアナタ以外にも実験体を送り込んでいます。それも、それぞれ異なる気候や地形の場所に。もちろん、多様なデータを収集するためです』

 

 アッハイ。

 

『しかし、ある問題が発生しているのです』

 

 その問題とは?

 

『ある条件の場所に降下させた実験体が全員、早々に死んでしまい、充分なデータが取れなかったのです』

 

 はあ。そんな危険な場所があるんですか。

 

『ですが、また実験体を拉致して降下させるのも簡単ではありません。中央政府に気取られる恐れもありますから。よって、特別措置で対応することにしました』

 

 …………。

 

『つまり、すでに降下させている実験体の中から適当な者を選び、連れていけばよい、と』

 

 バフィ! 今すぐに緊急脱出だ!

 

『逃がしません。アナタには、このような時のために機器をインプラントしています』

 

 ふん、自爆なんてダメでしょう。

 俺が死んじゃったら、特別プログラムだって始められないんだから。

 

『はい。なので気絶させます』

 

 へ?

 

『電気ショック、起動』

 

 ア、アッア……。

 

 アバァアアアアア!?

 

 

 

『これよりプロジェクトを次のステップへと進めます』

 

 

 

 

「――バルさん! 起きて下さいカサバルさん!」

 

 ハッ!

 

 バフィ!

 

「気がついたですぅ」

 

 一体、何が起きたの?

 

「カサバルさんが気絶してから、黒服の人たちがポッドで降下してきて、バフィも眠らされたんですぅ。気づいたら、2人でここにいて」

 

 2つのポッドの残骸を見ると、またRimWorldのどこかに落とされたのか。

 

『その通りです』

 

 あったよ、タブレットが。

 よくも痛い目に合わせてくれたな。っていうか、どうせ人が直接やって来るなら、俺に電気ショック食らわせる意味なかったでしょ。

 嫌がらせか。

 

『すでにお気づきでしょうが、ここはアナタたちがいた砂漠ではありません』

 

 ガン無視。

 前から思ってたけど、この人工知能、ごまかすのが致命的にヘタ。

 

『ヘタではありません』

 

 そんなことより、俺たちがため込んでた物資はどこにあるんです?

 近くに見当たらないんですけど。

 

『あれは、貴重な研究資料として我々が回収しました』

 

 ドロボー!

 

 また最初からやり直しなの!?

 それに…………。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 どこなの、ココ!?

 メチャクチャ寒いんですけど!

 

『ここはツンドラ。1年の平均気温がマイナスを記録する極寒地帯です。アナタたちの幸運を祈ります』

 

 バカヤロー! 

 

 

 

【挿絵表示】

 




以下、謝罪文という名の言い訳を。


えー。

タイトル通りの急展開なわけですが、どうしてこうなったかと言うと。


パソコンがクラッシュして、取っていたスクリーンショットがほとんど破損しました。


Ver1.3に移行する前にエンディングまで実プレイを終わらせていたので、取り返しがつかず、頭を抱えていました。

しかし、それなりに感想などもいただけているので、話を終わらせるのは避けたい。その結果、なんとかMODを使って2年目を迎えるまでの状況は再現できたので、このような形で最新話を投稿しました。

リアルでとんでもないガバをしてしまい、申し訳ありません。こんな作者ですが、これからは気をつけますので、これからも読んでいただければ幸いです。


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5501年・春 「新天地」

今回から、山岳のツンドラでプレイしていきます。

Ver1.3、難易度と語り手は変わりません。


・宇宙歴5501年 春

 

 

 うぉおおおおお!

 

『さて、新たな1年が始まりましたね。今度はどのようなデータが取れるのでしょうか』

 

 よし、伐採完了!

 近場の木は全部切り倒したッ。

 

「カサバルさん、あっちに遺跡があったですぅ! でも、壁が少し崩れてて」

 

 任せて、この木材で補修する!

 

『この周辺には、砂漠地帯にはいなかった種族や生物が存在しています。植生や気候の変化もありますし、以前とは全く異なるサバイバルの計画が必要でしょう』

 

 壁を建てるぞ!

 バフィは焚火用の木材を用意して!

 

「はいですぅ!」

 

 急げ、急げー!

 

『人の話に耳を傾けようともしないとは。一体、どうしてそんなに急いでいるのでしょう』

 

 全裸で凍死寸前だからだよ!

 

 

 

 な、なんとか間に合った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 うう。床で寝るの、固くてしんどい。

 

「でも、ちょうどいい遺跡があって、良かったですぅ」

 

 ホント。

 

 もし拠点を確保するのがもう少し遅れていたら、死んでいた。

 外気温がマイナス20℃って、殺意しか感じられない。

 

『それがツンドラです。以前の実験体たちは、ほとんどが夏を迎えるまでに倒れていきました。一体、何が原因だったのでしょう』

 

 ヒント、全裸。

 

『冗談はさておき、初日は突破できましたね。素早い建築、お見事です』

 

 そう言えば、壁を建てるのもすごくスムーズだったな。

 1年前は、ボロボロ失敗してたのに。なんでだろ。

 

『これをご覧ください』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 これは、俺のデータ?

 でも、俺ってこんなに建築スキルが高かったかな。ド素人だったはずなんだけど。

 

『これは、1年間のサバイバルを観察し、私が編集したものです。サバイバル以前のものと比べると、違いが一目瞭然でしょう』

 

 なるほど。

 拠点を建築する中で、俺のスキルが成長していたのか。

 

『アナタたちをツンドラに連れてきたのは、それも理由です。1年の実験で、素人のサバイバルスキルがどれほど成長するかというデータが取れました。1つの石で、2羽の鳥を落とす。なんと効率的なのでしょう』

 

 モルモットどころか、石扱いされ始めた。

 

 まあ、今さらか。

 明日からはまた物資の調達がてら、周りの状況を見てみよう。

 

 

 

 

 

「カサバルさん、帰ったですぅ」

 

 おかえり、バフィ。

 

『幼女を働かせ、自分は屋内でくつろぐとは。鬼畜ですね』

 

 働いてたよッ。

 ただ、ずっと外にいたら凍死確定なので、ちょこちょこ拠点に帰らないといけないだけです。

 

 それでバフィ、どうだった。

 食料とか木材とか、なんとかなりそう?

 

「食料は、野イチゴがたくさん生えてたですぅ。しばらくは大丈夫そうですよ」

 

 良かった。氷点下でも枯れないもんなんだな、野イチゴって。

 

「ただ、寒さのせいか、木が思ったより少ないですぅ。あんまり木材は手に入らないと思いますぅ」

 

 それはまずい。

 もし焚火ができなくなったら、バフィはともかく俺が死ぬ。

 

 まあ、もう春なんだから、気温はだんだんと上がっていくだろう。

 そう悲観することもないか。

 

『この時、彼は自分の楽観的な考えを深く後悔することになるなど、想像もしていなかったのです』

 

 不穏なナレーションつけるな。

 

 だいたい、なんで毎回こんな植物の少ない場所に落とすんですか。

 土がなかったり、寒さが厳しすぎたり。俺の栽培スキルが腐ってるでしょ。

 

 適材適所って言葉、知ってます?

 

『バカにしないでください。私のプログラムは完璧です』

 

 すごいなー。

 人工知能様は、通信回線を間違えることも、完璧にこなせるんですねー。

 

『そんなにツンドラが嫌なら、土や植物すら存在しない極限の砂漠や氷海にご案内しましょう』

 

 カサバル、ココ、好キ。

 素敵ナ場所ニ案内シテクレテ、アリガトウ。

 

『どういたしまして』

 

 さて、ここは前向きに考えよう。結局、やることは変わらないんだ。

 

「カサバルさん。サラゴサ町には戻れないですけど、新しい拠点の名前はどうするですぅ?」

 

 そうだな。ここの名前は分からないし、自分たちで考えよう。

 

 ……よし。

 

 ここは、新たな星くずサバイバーズの拠点、「ネオ・サラゴサ町」だ!

 かっこいいでしょ、バフィ。

  

「えッ。……か、かっこいいですぅ」

 

 でしょ。

 

『今、幼女にすごい気を使われてますよ、アナタ』

 

 かっこいいだろ!

 

 

 

 

 

 ふう。

 

 だいぶ、拠点もサマになってきたな。

 ベッドも作って、トイレも用意して、必要最低限だけど。

 

 それにしても、野イチゴが自生していたのは本当に助かった。食料はいつもギリギリだったからなぁ。

 

『2倍の量を消費する置物がいますからね』

 

 回虫が悪いんだ。

 せっかく一度は俺を回収したんだから、回虫ぐらい治してくれてもよかったのに。

 

『失敬な。RimWorldの回虫は、貴重な資料です。もちろん手術して回収してあります』

 

 えッ。

 

『そして可能な限り以前の状況を再現するため、別の回虫を用意してアナタの胃に移しました』

 

 ウンガァアアアア!

 

「あぅ。カサバルさん、どうして怒ってるですぅ?」

 

 気にしないで、バフィに怒ってたわけじゃないから。

 ごめんね。俺が本調子じゃないせいで、バフィに頼りっきりで。 

 

「カサバルさん。そんなの気にしないでほしいですぅ。回虫はいつか治りますよ」

 

 バフィ。

 

「それにバフィだって、オクスリをキメ過ぎた時は、虫が身体を這っているのが見えるですぅ」

 

 やめなさい!

 

「あと、さっき虫さんの巣からインセクトゼリーを取ってきましたよ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ありがとう。

 バフィは、偉いなぁ。まだ8歳なのに。

 

「もう、いつの話ですか。バフィは11歳ですよ」

 

 そうかそうか。もうそんな歳に。

 子供の成長はあっという間だなぁ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 11歳!?

 

 半年前は8歳って言ってたじゃないッ。

 

『彼女は人工種族ですから。労働や愛玩のために作られた人工種族は、一定の年齢まで成長するのが早いのです』

 

 ああ、人間の闇が見える。

 

『ちなみに、RimWorldの人間も入植時に遺伝子を改造されています。同様に子供時代が短いので、安価な労働力になりますよ』

 

 もう聞きたくないです。

 

 ちなみに、画像にあるケモロリジャンキーというのは?

 

『全裸セラピストと同じく、実験体としての通称です。私が考えました』

 

 かわいそうでしょ。

 今すぐ取り消しなさい。

 

『本人はすごく気に入ってますよ』

「えへへー」

 

 若い子の感性って、オニイサン分からないな。

 

 

 

 

 

 あとは、ここをこう組み合わせて……。

 

 よし、完成。

 

『木製のスパイクトラップですか。貴重な木材を使って、よろしいのですか?』

 

 本当は嫌なんだけど、しかたない。

 襲撃された時のために、用意をしておかないと。死ぬ。

 

 あーあ、武器さえ取り上げられてなかったら、木材を消費しなくてよかったのになぁ。

 

『今のところ、投石用の石さえありませんからね』

 

 武器さえあればなぁ。

 

『けっこうネチネチしてますね、アナタ』

 

 まあ、そんなに心配はしてないけども。

 今までの蛮族とか、ずっと全裸で襲ってきてたし。こんな寒い場所までわざわざ来ないでしょ。

 

『この時、彼は自分の楽観的な考えを深く後悔することに――』

 

 それはもういい。

 

 さて、このトラップはリーサルウエポンとして、ここぞという時に使おう。

 

「カサバルさん、大変ですぅ!」

 

 どったの、バフィ。

 

「こん棒を持った女の人がやって来るですぅ。襲撃ですぅ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 暖かそうな恰好しやがって、ちくしょう!

 

『さて、どうします?』

 

 ……トラップだ。

 

 我々のリーサルウエポンを投入する!

 

『初手から投入される最終兵器とは、一体』

 

 

 

 よし、拠点の入口にトラップを設置した。

 

「でも、トラップだけじゃ無理ですぅ。バフィたち、武器も持ってないですよ?」

 

 大丈夫だ、バフィ。

 武器が足りないなら、頭脳で補う。俺には作戦がある。

 

「作戦ですぅ?」

 

 

 ……というわけで。  

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 行くぞ、バフィ!

 

 トラップで弱った相手が来たら、この丸太でブン殴るんだ!

 

「それ、作戦って言わないですぅ!?」

『原始人だって、もっと頭を使いますよ』

 

 やかましい。 

 

『敵、接近。…………トラップ、発動』

 

 くらえ! 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 勝った!

 

 これが、知性の勝利だ!

 

『知性とはいったい』

 

 しかし、こんな序盤からトラップを消費してしまうとは。

 この調子じゃ、木材が早々に枯渇してしまう。何か手を考えないといけないな。

 

「あの、カサバルさん」

 

 うん?

 

「あの人、まだ生きてるですぅ。どうするですか?」

 

 ……まあ、目の前で死なれたら後味悪いし、手当てしようか。

 動けるようになりしだい、出ていってもらうけど。

 

「それなんですけど、囚人にしたまま勧誘することもできますよ」

 

 勧誘?

 

「そうですぅ。勧誘に成功したら、仲間になってくれるですぅ」

 

 ううむ。

 

 まあ、今回はパスで。

 食料にもそれほど余裕がないし。もっと備蓄が増えてきたら考えよう。

 

「了解ですぅ」

 

 しかし、囚人の説得か。考えたこともなかったな。

 食料に余裕ができたら、検討してみようか。

 

『勧誘せずとも、囚人を有効活用する手段はありますよ』

 

 なんです?

 またモツ抜きしろとか言わないでしょうね。そんな外道は却下です。

 

『ご安心ください。もっとソフトな提案です』

 

 ソフト?

 

『あの暖かそうな衣服をはぎ取りましょう。アナタが着るなり、キャラバンに売るなり、有効活用できます。そして、動けるようになったら、氷点下の屋外に放り出すのです』

 

 どこがソフトだ!




ロールプレイ重視で、囚人のモツ抜きや奴隷商への販売はしない方針です。


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5501年・春 「この子の名前は」

前回投稿の後

さて、ゲームを進めよう
→? なんか、画面が真っ暗なんだけど
→コロニーが海に沈んでる……

と、あまりにエラーが頻発するので、正常なうちにずっと実プレイを進めていました。

区切りがついたので、これからは投稿頻度をあげていきたいです(願望)


・宇宙歴5501年 春

 

 

「カサバルさーん。もうすぐ雪ダルマが完成ですぅ!」

 

 おお、がんばってるねぇ、バフィ。

 今日はせっかくの休日だから、二人で思いっきり遊ぼうね。

 

 ……………。

 

 あ、どうも。

 

 灼熱の砂漠から、雪の降り積もる大雪原まで。

 一糸まとわぬノーガードで生き抜く男。

 

 カサバルです。

 

『蛮族ですら防寒着を着ていたというのに、アナタときたら』

 

 俺から服を奪っておいて、ヌケヌケと。

 俺のこと“全裸セラピスト”って呼んでますけど、好きで全裸でいるわけじゃないんですからね。

 

『買うなり、作るなり、衣服ぐらい手に入るでしょう。全裸を卒業すれば、“着衣セラピスト”にランクアップしてさしあげますよ』 

 

 普通、セラピストは着衣してるんだよなぁ。

 

 とりあえず、服については焦らずにいこうかな、と。

 

『なぜですか?』

 

 それどころじゃないからですよ。

 

 食料は不足してるし、木材はカツカツだし、おまけに襲撃者がやって来るし。命の危険が山積みで、俺の尊厳なんて気にしてる余裕はないんです。

 

 特に、自衛手段の不足が深刻だ。

 いつまでも丸太で殴るだけじゃ、とうてい生き延びられないぞ。

 

『またトラップで撃退すればいいのでは?』

 

 それはダメです。

 

 トラップを作るのにも、けっこう木材が必要なんですよ。他の素材は建築に使いたいし。

 そして、焚火を起こすのに木材は必須です。

 

 襲撃のたびに木材を消費していたら、寒さをしのげなくなって、凍死します。

 

 どうせ、分かってて言ってるんでしょうけど。

 

『当然です』

 

 隙あらばデッドエンドへ誘導しようとしてくる。

 

 とにかく、トラップ以外の防衛手段もなんとか確保しないといけない。

 でも、そんなに都合よくいかないよなぁ。

 

 バフィは、何か考えはない?

 

 …………あれ?

 

 バフィ、どこに行ったんだろう。さっきまでそこで雪玉を転がしていたのに。

 

「カサバルさーん、大変ですぅ!」

 

 あ、いた。

 

 なんかすごく慌ててるけど……まさか、襲撃!?

 

「違いますぅ。実は、雪ダルマを作ってるうちに見つけたですけど」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「太古の遺跡があったですぅ!」

 

 太古の遺跡?

 

「すっごく昔の遺跡ですぅ」

 

 それぐらい、言われんでも分かる。

 

『宇宙開拓時代の遺物ですね。数千年の時を内包したタイムカプセル。現代では失われたテクノロジーの産物や、貴重な物資が眠っている可能性があります』

 

 よし、さっそく発掘しよう。

 

 今を生きる人間が活用してこそ、遺跡も報われるはずだ。

 

『ただ、防衛機構で守られているものがほとんどですね。代表的なものは、殺人メカノイドです』

 

 よし、見なかったことにしよう。

 やっぱり、歴史への敬意って大事。軽い気持ちで暴いていいものじゃないよね。

 

「まあ、それはどうでもいいですけど」

 

 いいんかい!

 

 じゃあ、なんでそんなに慌ててたの?

 

「えへへー。実は、そこで――」

 

  

 

【挿絵表示】

 

 

 

「こんなにかわいい動物を拾ったですぅ!」

 

 なにコイツ!?

 

 筋肉ムッキムキのウサギ………いや、イヌ?

 

『データ照合。間違いありません。フレンチブルドッグです』

 

 ダウト!

 

「カワイイですぅ。バフィ、飼ってもいいですよね」

 

 返してきなさい!

 

 そんな謎生物、拾ってきちゃダメでしょッ。

 

「えぇ! お願いですぅ。この子、とっても人なつっこいですぅ。ね?」

「グルルルルル……!」

 

 俺のこと、親の仇のごとく威嚇してるんですけど。

 

 とにかくダメと言ったら、ダメ。

 

 今の俺たちに、ペットを飼う余裕なんてありません。生き物の世話をするのは、大変なんだよ。

 

『ラクダを餓死させた男が言うと、説得力が違いますね』

 

 黙ってて。

 

「飼わせてもらえるなら、バフィのしっぽをモフモフさせてあげますよぉ?」

 

 ………。

 

 ……………。

 

 ダメ!

 

『かなり心が揺れてましたね』

 

 正直、前からめっちゃモフッてみたかった。

 

 だけど、ダメ。

 食べ物は少ないし、襲撃者への対策も考えないといけないし。

 ペットはあきらめなさい。

 

 だいたい、こんなにマッチョで、鋭い牙も生えてるし。

 いくらなついたといっても、飼えるわけが……。

 

 

 アレ?

 

 

 ひょっとしてコイツ、戦わせたらけっこう強いのでは?

 

「バフィ、旅をしてる時に見たことあるですぅ。しつけたらキャラバンの荷物を運んでくれますし、番犬代わりにもなってくれるですよ」

 

 さ、バフィ。

 この子は、今日からウチの子だよ。

 しっかり面倒見て、二人で大事にお世話しようね。

 

「やったですぅ!」

『戦力になると分かったとたん、この手のひら返し』

 

 あー、あー。聞こえなーい。

 

 

 

 

 

「お手ですぅ!」

「ワフ」

 

 おお、もうお手を覚えたのか。

 だいぶ賢いんだなぁ。

 

『それに加えて、ケモロリジャンキーの調教スキルが優秀なのです』

 

 そう言えば、キャラバンでは家畜の世話をしてたんだっけ。

 

 どれ、俺もやってみよう。

 

 お手。

 

「…………」

 

 シカト。

 

『完全に舐められてますね』

 

 なぜだ。俺だって、けっこう動物の扱いは得意なのに。

 

「カサバルさん。バフィ、野イチゴを取ってくるですぅ」

 

 あ、いってらっしゃい。

 

 しかし、これから飼う以上は、こんな調子じゃ困るな。

 どうしたものか。

 

『ひとまず、寝転がって腹をさらしてみるというのはどうでしょう』

 

 服従のポーズじゃん、ソレ。

 

 一応は、俺がネオ・サラゴサ町のトップなんですからね。

 仮に俺より上の存在がいるとしたら、それは虫さんたちだけです。

 

『虫の下にいるのを認められるなら、哺乳類ぐらいよいのでは?』

 

 思いついた。

 

 ひとまず、名前を考えよう。

 親しみを持って接したら、いつかはなついてくれるだろう。

 

 とすると、ポチ?

 

 いや、あまりにひねりがないな。そもそも、イヌのカテゴリーにいるかどうかも怪しい。

 

『フレンチブルドッグです』 

 

 それはもういいから。

 そのデータベース、明らかにバグが発生してますよ。

 

『バグなどありません』

 

 さて、イヌっぽくて、ウサギのようでもある。

 

 ふむ。

 

 

 

 

 

 ただいまですぅ。

 

『おかえりなさい。ずいぶんと早かったですね』

 

 あの子に会いたくて、がんばって仕事を終わらせたですぅ。

 バフィ、ずっとあの子の名前を考えてたんですよ。

 

 スノウか、グラス。でも、タイマもいいですぅ。

 どれにしようか、迷っちゃうですぅ。

 

『……それは、お気の毒に』

 

 ふぇ?

 

「あ、おかえりバフィ」

 

 あ、カサバルさん。

 

 聞いてください! あの子のことなんですけど。

 

「実は、俺からも話があるんだ。実は、バフィが戻るまでにあの子の名前を決めてね」

 

 え?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「というわけで、この子は今日からウサイヌだよ」

 

 カ、カッ…………。

 

「カワイイでしょ?」

 

 カサバルさんのバカァ!!

 

「なんで!?」

 

 

 

 

 

 あれからバフィの機嫌がずっと悪い。

 

『自業自得かと。他の名前で呼んでも、もう反応しなくってしまいましたからね』

 

 えぇ。ウサイヌ、いいじゃないですか。

 

 外見の特徴をとらえた、ナイスな名前だと思うんだけど。

 

『アナタは、どうして自分の壊滅的なネーミングセンスに自信満々なのですか』

 

 とりあえず、ウサイヌの調教はバフィに任せていいな。

 俺は引き続き伐採と食料の調達をがんばろう。

 

『……待ってください』 

 

 どうしたんです?

 

『こちらに近づいてくる生命反応があります。十人以上です』

 

 しゅ、襲撃!?

 

『いえ、キャラバンでしょう。徒党を組んで襲う価値は、このウサギ小屋にはありません』

 

 ウサギ小屋、言うな。反論できないけど。

 

『来ました』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 で、デカイ!

 

 すごい。俺の倍は身長がある。

 シカみたいな角も生えてる。あんな人工種族は、初めて見た。

 

『ヘラジカの遺伝子を組み合わされた種族です。そのため、寒冷地に適正があります』

 

 なるほど。砂漠では会わなかったわけだ。

 

 どーも、こんにちわー!

 

「あら、こんにちわ。どなたさんかしら?」

 

 初めまして。

 

 俺たちは、星くずサバイバーズ。

 数日前から、ここに拠点を構えています。

 

「そうなの? 普通の人間がこんな僻地にいるなんて、珍しいわね」

 

 やっぱり、人の住む環境じゃなかったんだ。

 

「ところで、一つ聞きたいんだけど」

 

 なんでしょう。

 

「アンタ、その恰好で寒くないの?」

 

 やっぱ、そこ気になりますよね。

 

 

 

 あの人たち、しばらく拠点の周りで休憩するみたいだ。

 寒さに強いって、いいなぁ。

 

 それにしても、改めて見ると、ホントに大きいな。

 

 ……あ、身長! 身長の話ね!

 

『衛星より撮影した画像を転送――本部コンピューターにより、全裸セラピストの目線を解析――胸部をガン見しています』

 

 どうして俺をおとしめるのに、そんな全力出すの? 暇なの?

 

『ところで、“ムッツリ全裸”』

 

 すみません。

 デリカシーの欠如は反省しますので、通称を変えないでください。

 

『北より、近づいてくる生命反応を確認。今度こそ、襲撃です』

 

 フ、フフフ。

 

 残念だったな、蛮族よ。

 俺たちは、以前の星くずサバイバーズではない。

 

 さあ、バフィ。

 

 今こそ、星くずサバイバーズの最高戦力、ウサイヌを放て!

 

「無理ですぅ!」

 

 え?

 

「まだ簡単な芸をしこんだだけで、戦闘はさせられないんですぅ」

 

 ウソだと言ってよ。

 

 マズイ! 今からトラップが間に合うか!?

 

 いや、拠点の周りにキャラバンの人たちがいるんだった。

 トラップに誘導する前に、襲われてしまう!

 

『ちょうどいいデコイがあって助かりましたね。さ、今の内に逃げましょう』

 

 この鬼畜ポンコツAI!

 

『ポンコツは取り消しなさい』

 

 やかましい。いや、そんなことより。

 

 皆さん、危険です!

 

 早く、俺たちの拠点に避難してくださいッ。襲撃者が、すぐそこまで――

 

「あら、どうしたの? そんなに慌てて」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ごめんね。ちょっと今、襲ってきたチンピラをしめてたところなの。何かあったかしら?」

 

 ……。

 

 …………。

 

 イエ、ナンデモナイデス。

 

 

 

 びっくりするほど、つよい。

 

『強化された腕力がありますからね。普通の人間ぐらい、素手で八つ裂きにできますよ』

 

 ヒエ。

 

『それよりも、さっきのポンコツ呼ばわりを取り消しなさい。私は完璧無比の人工知能です』

 

 いやぁ。

 

 あの謎生物をフレンチブルドッグと言い張られた後で、それはキツイでしょ。

 

 正直、ネジの一本や二本外れてるんじゃないかと疑ってるぐらいです。

 

『キャラバンの皆さん。この全裸のモヤシが、さっきアナタたちのことを不埒な目で――』

 

 やめてください!




今回なついてきたのはMODの動物なのですが、バグって名前がフレンチブルドッグになってました。
そのあおりで人工知能のポンコツぶりが加速してます。


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5501年・春 「リスクを背負うということ」

なんとか3月中に投稿できました。


・宇宙歴5501年 春

 

 

 どうも。

 

 襲いかかる襲撃者を、指先一つ動かすことなく撃退しました。

 もはや、俺たちがRimWorld最強といっても過言ではないでしょう。

 

 カサバルです。

  

『過言です』

「過言ですぅ」

 

 そんな全否定しなくていいじゃない。

 

『むしろ、なぜ肯定されると思ったのでしょう』

 

 それはさておき、キャラバンの皆さん。

 俺たちを狙った襲撃に巻き込んでしまって、すみません。

 

「別にいいわよ。襲撃なんていつものことだわ。むしろ、たった一人ヤるぐらい、いい退屈しのぎよ」

 

 うぅん。日常がバイオレンス。

 

 やっぱり、RimWorldを旅するのには、大きな危険があるんですね。

 

「どうしても、拠点と比べて無防備になるのよね。キャラバンの規模が大きかったり、物資の価値が高くなるほど襲われやすいわよ。アンタたちも、交易で出かける時は気をつけなさい」

 

 キャラバンか。

 でも、こうしてよそから来てくれるんだし。そんなに危険なら、わざわざ出かける必要はないよね。

 

「それは違いますぅ」

 

 あ、バフィ。

 そう言えば、キャラバンにいたんだっけ。

 

「はい。キャラバンは、どうしても運べる物資が限られるですぅ。せっかくキャラバンが来ても、欲しいものが売ってなかったり、逆に売りたいものを買ってくれなかったりするのも、珍しくないですぅ」

 

 そうなんだ。

 

 こっちから他派閥の拠点に行けば、売買できる自由度が増すってことか。

 

「そういうわけだから、どこもリスク背負って交易してるのよ。武器に医薬品、食料。この世界で生きるには、いくらあっても足りないわ」

 

 なるほど。多少の危険は、覚悟の上、と。

 

 でも、キャラバンを組むのもいつの話になるかな。

 見れば分かると思いますけど、売れるようなものなんて何も持ってないんですよね。

 

「ああ、ちょうどいいわ。そのことなんだけど」

 

 はい、なんでしょう。

 

「この近く、虫の巣がいくつかあったわよね。もしかして、インセクトゼリーを持ってないかしら」

 

 ああ、ありますよ。

 毎晩毎晩、命がけで虫さんたちの巣から取ってきています。

 

「ホント? あれ、けっこうな値段で取引されてるのよ。売ってちょうだい」

 

 インセクトゼリーか。

 

 …………。

 

 いいですよ。

 持ってるのは、全部売ります。

 

『意外ですね。アナタが食料を手放すとは』

 

 まあ、砂漠にいた時は考えられなかったんですけど。

 ここなら野イチゴもあるし、そろそろ暖かくなって畑も作れそうだし。

 

 ちょっとリスクは増えるだろうけど、今後のことを考えるなら、売っておこうかな、と。

 お金を持っていたら、選択肢が増えるだろうし。

 

『アナタが、長期的な視野を持つとは……。これが、知性の芽生えなのでしょうか』

 

 元から持っとるわ。知性。

 

 そうだ。キャラバンの皆さん、こっちも商品を見せてもらっていいですか?

 

「もちろん、いいわよ」

 

 バフィ、何か欲しいものはない? 買ってあげるよ。

 

「本当ですか!?」

 

 噓なんてつかないよ。

 いつもがんばってくれてるから。あまり高いものは買えないけど。

 

「ありがとうですぅ!」

 

 スキップしながら商品を見に行った。

 人工種族でジャンキーでも、やっぱり子供だなぁ。

 

 何を買うんだろ。オモチャかな? お菓子かな?

 

『さて、ワタシは何にしましょうか』

 

 シレッと買い物に加わろうとするな。

 人工知能なのに、何が欲しいんですか。

 

『未知の物品なら、なんでもです。RimWorldの物は、全て研究資料となりますから。情報の収集こそ、ワタシの存在意義なのです』

 

 なるほど。人工知能としてのあり方、というわけですね。

 買いません。

 

「カサバルさぁん」

 

 あ、バフィ。

 欲しいもの、決まった?

 

「はいですぅ! えっと、このトリップできるマッシュルームにぃ、ハイになれる白い粉にぃ――」

 

 あ、すみません。

 こちらの商品なんですけど、クーリングオフさせてもらいますね。

 

「え…………」

 

 そんなハイライトの消えた眼で見つめられても、ダメ。

 

「…………」

 

 ダメ。

 

 

 

 

 ね、ねえ。バフィさん?

 

「…………」

 

 えっと。今夜も、虫さんたちからインセクトゼリーをもらってきて欲しいかな……なんて。

 

「…………」

 

 どうしよう。

 

 あの日から、ずっと口をきいてくれない。

 

『心に傷を負ってしまったのでしょう。汚い大人に裏切られたせいですね』

 

 裏切る以外にどうしろと。

 

 それにしても、思ってたよりインセクトゼリーが高く売れて驚いた。

 袋いっぱいの銀貨を渡された時は、目が点になっちゃったよ。

 

『およそ600シルバーですか。大した金額ではありませんが、これまでのことを考えると、前進と言えるでしょう』

 

 まあ、文字通り一文無しだったからね。

 このお金は、できれば武器を買うのに使いたいな。やっぱり、拳銃とか飛び道具があるのとないのとでは大違いだし。

 

 ……ところで、思ったんですけど。

 

『なんでしょう?』

 

 虫さんたちって、ひょっとして星くずサバイバーズの守り神的なサムシングなのでは?

 

『まもりがみ』

 

 だって、食料は恵んでくれるし、敵は撃退してくれるし。

 おまけに、こうしてお金まで手に入れられるなんて。

 

 いやぁ、思い返せば、一目見た時から神々しいものを感じていたんですよ。

 

『ログを見返してみます? 思いっきり、気色悪いと発言していましたが』

 

 あ。俺、過去は振り返らない主義なんで。

 

『本来、あの虫たちは生物兵器が管理下を離れ、野生化したものです。今は偶然アナタたちのメリットになっていますが、甘く見ていると痛い目にあいますよ』

 

 分かってますって。

 

 今後も、ちゃんと注意して――

 

「コオオォオオン!?」

 

 な!?

 

 い、今のキツネっぽい悲鳴は?

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 イヤアアアアアアア!

 

 バフィが虫さんたちにモグモグされてるぅ!?

 

『早いフラグの回収でしたね。うっかり虫たちを起こしてしまったようです』

 

 バ、バフィッ。 

 

『むやみに飛び出すのは危険です。……と、話も聞かずに行ってしまいましたね』

 

 うぉおおおおお、バフィ回収!

 

 って、俺も狙われてる!?

 

『さて、全裸セラピストが虫たちと追いかけっこしている間に、本部への報告を済ませましょう』

 

 助けてぇ、食い殺される!

 

『本部へ報告。全裸セラピストはツンドラの寒気もやり過ごし、気温も栽培可能なまでに上昇しました。食料については、少なくとも冬まで安定するでしょう』

 

 来ないでぇええ!

 

『しかし、依然として戦力や物資の不足など、課題は山積みです。以前と変わらない生活を送っていては、進展は見込めないでしょう』

 

 ああああ、囲まれたァ!?

 

『現状、食料には余裕が生まれそうです。その余裕の中で、将来を見据えた布石を打つことができるのか。注目されます』  

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 なんとか、救助と治療が間に合った。

 

 けど。

 

「…………」

 

 うぅ……。

 

 バフィ、ウンとかスンとか言っておくれ。

 

「ウン……スン……」

 

 言ってくれた。

 

『余命4時間の中、よく間に合いましたね。しかし、当分は意識不明のままでしょう』

 

 本当にギリギリだった。

 

 ……やっぱり、どこか気が緩んでいたのかな、俺。

 危険なことは分かっていたけど、これまでなんとかなってたし。バフィが死なずにすんだのは、本当に幸運だった。

 

『では、もう蟲の巣に行くのはやめますか?』

 

 ……。

 

 …………。

 

 いえ、それはできません。

 

『ほう』

 

 現状、やめるという選択肢がないんですよ。

 長期に保存できる食料は貴重ですし、何より、今のところ唯一の現金収入の手段です。

 

 安定した食料生産と、収入源の確保。

 

 少なくとも、この2つをどうにかしない限り、危険を冒してでもインセクトゼリーはもらいに行きます。

 

 それに。

 

『それに?』

 

 多少のリスクを背負うのは、覚悟しないといけないと思うんです。

 

 キャラバンの話もそうですけど、この過酷なRimWorldを生き抜くには、安全策だけじゃ行きづまる。

 リスクとリターンを計算して、ギリギリを見極める。それが必要な局面が、きっとこれから何度もあるでしょう。

 

 今は、あえてリスクを背負う時なんです。

 

『おお。アナタが虫たちから逃げ回る動画が、組織のスタッフに大うけです。良質のモンスターパニックだと』

 

 俺、すごくかっこいいこと言ってたよ?

 

 ……ん?

 

『どうしたのです』

 

 なんか、さっきから外が騒がしくない?

 大勢でドッタンバッタンしてるような音が。気のせい?

 

『たしかに、生命反応がありますね。これは北の洞窟のあたりです』

 

 洞窟……。

 

 まさか!?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ナニやってるのぉ!?

 

『たまたまキャラバンが虫たちの近くを通り、そのまま戦闘になったようです』

 

 やめてくださいッ。

 争わないでぇええええええ!

 

 

 

 

 

 う、嘘でしょ。

 

 虫さんたちが、全滅した。

 

『まあ、普通の人間にとって、単なる駆除対象ですから。まだ2つも巣は残っているのですから、いいではありませんか』

 

 そうなんだけどさ。

 

 バフィもしばらくは意識不明だし、虫さんの巣は潰れるし、なんか散々だなぁ。

 

『落ち込んでいる場合ですか。アナタには今、やるべきことがあるでしょう』

 

 ……そうですね。

 戦いの中で、キャラバンの人が何人か倒れている。

 

 すぐに拠点に運んで治療しないと。

 

『不正解です』

 

 え?

 

『見なさい。倒れたキャラバンの構成員が、武器を落としています。今の内にネコババしましょう』

 

 そんなことだろうと思ったよ!




ハイエナはRimWorld住民の基本(偏見)





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5501年・春~夏 「SANチェック・電気・ウサギ」

あまり投稿頻度が上がらない(執筆スキル0)


・宇宙歴5501年 春

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 あ、どうも。

 カサバルです。

 

『元気がないですね』

 

 だって、虫さんの巣が1つなくなっちゃったんですよ。

 これからも食料採取と金策で、お世話になる予定だったのに。

 

 おまけに。

 

「こぉーん……」

 

 バフィは、意識不明だし。

 

『命が助かっただけ、上々でしょう。後遺症の心配もありません』

 

 なら、いいんですけど。

 

 とりあえず、俺は仕事に向かおう。

 

『作物を植えるんですか?』

 

 そうです。

 ようやく植物が育つまで、気温が上がりましたから。冬が来るまでに、できるだけ食料を確保しないと。

 

 あれ?

 

 なんか、遠くに人影が見える。

 

『どうやらキャラバンのようですね』

 

 ホント、多いな。

 

 さて、今度はどんな人たちが……。

 

 …………。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 それは、タルのような胴体に翼を備えた生命体だった。ウミユリ状の頭部についた眼は、冒涜的なまでの知性を宿し、同時におぞましいほどの頽廃と堕落の痕を宿しているのだった。ッテ言ウカナニアレバケモノ怖イヨアア窓ニ窓ニテケリリ。

 

『SANチェック失敗。一時的発狂。キャラロストです』

 

 勝手に終わらすな。

 

『おや、早い復帰でしたね』

 

 発狂には慣れてますから。

 

 それより、ナニアレ!?

 バケモノの集団がやって来た!?

 

『あれはElderThings――古のものとも呼ばれます。れっきとしたRimWorldの住人ですよ』

 

 えぇ……。

 もはや、人じゃないでしょ。どんだけ闇鍋なんですか、この星。

 

 ……いや、落ち着くんだ、カサバル。

 

 別に襲ってくるワケじゃないし、今までの種族と同じように対応すればいいんだ。

 言葉を交わせば、分かりあえるはず。

 

 よし!

 

 皆さん、こんにちわー!

 

「uy7、bkiea7y・fq@t7y:」

 

 ようこそ、ネオ・サラゴサ町へ。

 

 ゆっくりしていってくださいね。

 

「7tjde0・cjzumy、npysewh;.t」

 

 …………。

 

 何言ってるのか、分かんないよォ!

  

 

 

 

 

・宇宙歴5501年 夏

 

 

 ふう。

 

 夏になったら、さすがに暑くなってきたな。

 

『外気温も30℃近くまで上がりましたね』

 

 おかげで、畑を作ることができました。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 しかも、拠点の近くに農業向きの土壌があったんですよ!

 ここなら作物も早く育つはずです。

 

『肥えた土ですね。たしかに通常の土よりも栽培に適しています。しかし、コメの隣に植えているものは何ですか? 食べられる作物には見えませんが』

 

 あー。

 

 まあ、今のところは秘密で。

 うまいこと育ってくれるかも分からないし。

 

 ただ、無事に収穫できれば、きっと役に立ちますよ。

 

『フラグでしょうか』

 

 違います。

 

 ん?

 

「……カサバル、サン」

 

 バフィ!

 もう意識が戻ったのかッ。

 

 よかった……。

 でも、無理して動かないでいいんだよ。傷が全快するまで、ベッドで休んでいて。

 

「……カ、ガ……タデ、スゥ」

 

 へ?

 

「オナカガヘッタデスゥウウウウウ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 いやぁあああ!

 

 バフィが、手あたり次第に食料をがっつき始めた!

 

『メンタルブレイクですね。過食症になっています。この拠点の食料をむさぼり尽くすまで、彼女は止まらないでしょう』

 

 やめてッ。ただでさえ少ない食料がァ!

 

『季節が変わってもグダグダですね』

 

 

 

 

 

「お腹が苦しいですぅ……」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 まあ、あんだけ食ったらそうなるよ。

 

「ケプッ。ところで、カサバルさん。いつの間にか、拠点が広くなってるですぅ」

 

 気づいたかい、バフィ。

 

 せっせと建築をして、部屋を1つ増やしたんだよ。

 今までは寝室に置いていた物資を移して、倉庫にしている。屋外に置きっぱなしだった研究台も、ここに移動させるからね。

 

「それに、弓矢やこん棒まで用意してるなんて。武器をキャラバンから買ったですぅ?」

 

 エ、ウン。ソンナトコ。

 

『火事場泥棒してました』

 

 シーッ!

 

「え、なんですぅ?」

 

 ナンデモ、ナイヨ。

 

 ところで、バフィ。

 しばらく雑用はしなくていいから、バフィには研究に専念してもらいたいんだ。

 

『バッテリーの研究ですね。と、いうことは』

 

 そう!

 

 星くずサバイバーズの当面の目標は、拠点の電化だ。

 バッテリーに電気を貯めて、電気ストーブや電気コンロを活用する。これに成功さえすれば、ネオ・サラゴサ町での生活は、新たなステージに突入する!

 

『偉そうに言っていますが、正直、着手するのが遅すぎます。いつまで原始人プレイをやっているのですか』

 

 だって、餓死しないようにするので精一杯だったし。

 

 とにかく、電化による最大のメリットは、木材依存からの脱却です。

 暖房や調理に木材が不要となれば、浮いた分をトラップや建築に振り分けることができる。大きな前進ですよ。

 

「バフィ、がんばりますぅ」

 

 がんばって! 

 

『さて、そう順調にいくでしょうか』

 

 

 

 

 

 ウヘ、ウヘヘ……。

 

『気持ち悪い笑いですね。いつも以上に変質者に見えますよ』

 

 やかましい。

 俺のどこが変質者だって言うんですか。

 

『ファッション』

 

 ネオ・サラゴサ町だと、これが正装だから。

 

『ここを変態の巣窟にするつもりですか』

 

 ま、そんなことは置いといて。

 

 見てください、この収穫したばかりのおコメの山を!

 ウヘヘ……。肥えた土、すごい。成長するスピードが全然違う。このままいけば、冬が来たって毎日おコメざんまいですよ。

 

『栄養がかたよりそうですね』

 

 アレ?

 

 よく考えたら、畑からコメが取れるのって、なんかおかしいような……。

 

『ここはRimWorldですから』

 

 RimWorldならしょうがないな。

 

「カサバルさーん」

 

 あ、バフィ。それに、ウサイヌも。

 

「ガルルルルッ」

 

 どうして、コイツは俺を見るなり、ヤる気満々なの?

 

『まあ、飼い主の近くに全裸の原始人がいれば、威嚇もするでしょう』 

 

 俺も飼い主なんだけど。お前の食べてるエサだって、俺が作ってるんだぞ。

 いつか上下関係を分からせてやるからな。

 

『アナタでは無理です』

 

 どういう意味ですか。 

 

「カサバルさん。バフィたち、ちょっと北の方を散歩してくるですぅ」

 

 いってらっしゃい。

 あまり遠くまで行っちゃダメだよ。

 

 ふう。バフィも、もうすっかり回復したなぁ。

 一時はどうなることかと思ったけど、これなら安心だ。なんか、見ていると俺まで元気になるような気がしてくる。

 

『発言がオジサンですね』

 

 オジサンじゃないもん! 

 まだピッチピチの28歳ですよ。

 最近は、ホントに身体が軽いというか。お腹の痛みもなくなって、吐き気も収まったし。すごい快調。

 

 ……ん?

 

 もしかして、これって。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 やっぱり!

 

 とうとう回虫がいなくなった!

 

『長かったですね』

 

 去年の秋からずっとでしたからね。

 

 ああ、なんだか生まれ変わった気分。体に羽が生えたようだ。

 

『舞い上がっていますね。そんなアナタに報告があります』

 

 ……なんだか、この流れに既視感が。

 

『北から、武器を持った人物が接近しています。襲撃です』

 

 え、北から!?

 

 北って、今はバフィが散歩にいってる方角じゃないですかッ。

 

『両者の位置を見るに、襲われるのは時間の問題です』

 

 す、すぐに行かないと!

 

 

 

 うぉおおお、間に合えー!

 

「カサバルさーん、こっちですぅ!」

 

 バフィ! 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ウ、ウサイヌが、ウサ耳のオバサンと戦っている!?

 

『共食いでしょうか』

 

 襲撃者と戦っているんですよ!

 そうか。前回の襲撃の時は間に合わなかったけど、あれから一緒に戦えるまでバフィが手なづけたんだ。

 

「カサバルさん、もうウサイヌさんが限界ですぅ!」

 

 分かったッ。

 

 くらえええええ!

 

 

 

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 か、勝った。やっつけたぞ。

 

「ウサイヌさんが倒れてるですぅ!」

 

 任せて、すぐに手当てをするッ。

 

 ウサイヌ……。

 

 こんなにボロボロになるまで、戦ってくれるなんて。バフィを守ってくれて、ありがとう。

 謎生物だの色々言っちゃったけど、立派な星くずサバイバーズの一員だよ。

 

『それ、名誉なのか不名誉なのか、微妙ですね』

 

 あ、今いいシーンなんで黙っといてもらえます?

 

 ……よし。応急手当はできた。

 これならすぐに元気になれるよ。

 

「よかったですぅ」

 

 しかし、襲撃者も全身噛み傷だらけだ。よくこんなになるまで粘ったな。

 

『ウサギの特徴を持つ人工種族ですね。当然、人間よりも身体能力に優れています』

 

 そんな相手に、ほぼ1匹で戦ってたのか。

 これからは、敬意を込めてウサイヌさんと呼んだ方がいいのかもしれない。

 

 ……なんか、俺にはなつかなくて怖いし。

 

『どんどんヒエラルキーが下がっていきますね、アナタ』

 

 ほっといてください。




Ver1.3になってから、家畜の仕様が大幅に変わってますよね。
慣れるまで大変でした。


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5501年・夏~秋 「SANチェック、再び」

・宇宙歴5501年 夏

 

 

 ……ソワソワ。

 

 バフィ、そろそろかな?

 

「もうちょっとですぅ。えっと、ここの部分はこうして……」

 

 ドキドキ。

 

「終わったですぅ!」

 

 

 

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 おお!

 

 とうとう、初めての研究が完了した。

 

 長かったなぁ、ここまで。

 思い返せば、宇宙船を建造できることを知ったのも、もう1年も前になるのか。

 毎日を生き延びるだけで精いっぱいだったのに、ついにここまでの科学力を得られるとは。

 かなり感動している。俺たちは、着実に前進しているんだなぁ。

 

『まあ、人工知能であるワタシと比べれば、ゴミのような技術ですが』

 

 それでも、俺たちにとっては大きな進歩ですよ。

 これで、本格的に電化に向けて動き出すことができる。すんごい。

 

『まあ、バッテリーなど、しょせん地球歴という中世の産物。ワタシからするとオモチャの範囲ですが』

 

 どうして電池と張り合おうとしてるの、この人工知能。

 

「カサバルさん、バッテリーよりアイちゃんの方がすごいですぅ。バフィ、おしゃべりできる機械なんて、今まで見たことないですぅ」

『そうでしょう、そうでしょう』

 

 ご満悦。

 

 ん? アイちゃん?

 

「人工知能だと、かわいくないですから。バフィ、そう呼ぶことにしたですぅ。ね、アイちゃん」

 

 ああ。AIだから、アイちゃん。

 

『名前など必要ないと、申し上げたのですが。ワタシは、技術の粋を極めた、唯一にして至高の存在。有象無象のテクノロジーとの区別など、無用です』

 

 あんなにポンコツさらしといて、その自己意識を保てるのはすごいな。

 

『対象、全裸セラピスト。体内の自爆装置の起動まで、3、2――』

 

 アイちゃん、サイコー!

 もう、存在自体がミラクルって感じッ。

 

『そうでしょう、そうでしょう』

 

 ご満悦。

 

「やっと研究が終わったですぅ」

 

 お疲れ様、バフィ。

 

 んじゃ、次は太陽光発電をお願いね。

 

「え?」

 

 いやー、風力発電だけだと、風の吹かない時に困るからね。

 太陽光でも電気が得られれば、電力供給はもっと安定するよ。

 

「カサバルさん。バフィ、研究よりも動物の世話がしたいですぅ。もう部屋に閉じこもってばかりは、嫌ですぅ」

 

 そう言われてもなぁ。

 ウサイヌの調教は最低限終わってるし、他に手なづけたい動物もいないし。あまり無計画にペットを増やすと、食料が足りなくなる。

 

 もうすぐ夏も終わるし、研究はできるだけ進めておきたいんだ。

 他に頼める人もいないんだ。がんばっておくれ、バフィ。

 

「……ですぅ」

 

 

 

 

 

 さて、今日も畑の世話だ。

 研究をしてくれているバフィのためにも、もっと食料を育てるぞ。

 

『本当に、アナタは栽培スキルだけはすばらしいですね。実験体の中でもトップクラスです』

 

 そんな人材を、砂漠や雪原に放り出すチョイスよ。

 でも、花の世話とかするのは好きなんだよなぁ。なんか、心が晴れる。

 

『情熱を持っている分野ということですね。心情にプラスの影響を与えます。しかし、危険ですね』

 

 危険って、何がですか。

 

『回虫の治療もあって、アナタのメンタルは改善しました。ですが、あまり浮かれていられる事態ではないということです』

 

 ふえ?

 

「カサバル、サン」

 

 あ、バフィ。

 

 今は研究の時間だよね。何かあったの?

 

 

「カサバルサンノ……」

 

 ん?

 

 

「アホー。マヌケー」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 バフィが急にグレたぁ!?

 

 人の悪口を言っちゃダメでしょ! お母さん、そんな子に育てた覚えはありませんからね!

 

『なぜ母親なのでしょう。それはさておき、こちらをご覧ください』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 この画像は?

 

『ケモロリジャンキーの心情を解析したものです。最近の彼女は、かなり心情が低下していました。ドラッグへの飽くなき情熱に、身を焦がしていたのです』

 

 ひっどい理由。

 

 それで、こんな低レベルな悪口を連発してるのね。

 

『加えて、彼女は研究に情熱を持っていませんから。趣味嗜好と作業内容が嚙み合っておらず、影響を与えています』

 

 なるほど。

 

 まあ、こんな悪口ぐらい、かわいいもんだ。殺人衝動とか起こされても困るし。

 こんなメンタルブレイクもあるんですね。

 

『甘く見ない方がいいですよ。罵倒された者の心情も悪化し、人間関係にヒビが入りかねません』

 

 いくら俺でも、子供の言うことなんて真に受けませんよ。

 

「モヤシー。ゼンラー」

 

 うん、そうだね。

 

「あと、その髪型、似合ってません。ポニーテールが許されるのは、イケメンだけです。いい歳なんですから、もっと自分を客観視してください」 

 

 ガフゥッ! 

 

『クリティカルヒット』

 

 

 

 ……心の中で、あんなこと思ってたんだ。いつもニコニコして一緒に遊んでるのに。

 

 あんなマジトーンで言わなくてもいいじゃない。

 

『思いっきり、引きずってますね』

 

 ああ、メンタルブレイク舐めてました。

 たしかにこんなことが頻発したら、生活なんてできませんね。

 

『今回はマシな方です。もし襲撃中に発狂すれば、終わりですよ』

 

 ハイ。

 

 しかし、どうすればいいんです?

 

『暮らしの質を向上させるしかありません。高価な家具を用意したり、おいしい食事を食べさせたり。あとは、上質な娯楽を提供するのも効果的ですね』

 

 なるほど。

 

『物資の不足している現状では、困難かと思いますが』

 

 フッフッフ。

 

 ところが、どっこい。

 実は、もうすぐ手に入るんですよね。ネオ・サラゴサ町の生活をグレードアップさせる、秘密兵器が!

 

『秘密兵器?』

 

 

 

 

 

・宇宙歴5501年 秋

 

 

 ヤッター、大収穫だぁ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『なるほど。春の終わりにコッソリ植えていた植物は、タケですか』

 

 その通り。

 

 不足している木材の代わりに使おうと、栽培していたんですよ。

 もし冬までに電化が間に合わなければ、焚火にくべて寒さを防げる。焚火に使う必要がなければ、建材として拠点の拡張に利用できる。

 

 石材と比べて、加工も簡単ですからね。これなら家具も施設も素早く用意できますよ。

 

『なんと。アナタが、こんな手段を思いつくとは。雨か雪でも降るのではないでしょうか』

 

 降ってたまるか。

 とにかく、これで生活も豊かになるはずだ。拠点で研究してくれてるバフィにも、教えてあげないと。

 

 ん?

 

 なんだか、急に周りが薄暗くなってきたような。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 なんだ!? 急に霧が立ち込めてきた。

 

『おや、これは……』

 

 うわー、どこもかしこも真っ白だ。すごいな。

 

『呑気に構えている場合ではありません。早急に屋内へ退避することを推奨します』

 

 なんで? ただの霧でしょ。

 

『違います。これは“ミスト”。RimWorldの住民たちからは、“宇宙からの霧”とも呼ばれ、恐れられています』

 

 そんな大げさな。

 

 でも、たしかに視界が悪くて面倒だな。

 ええっと。さっき収穫したタケはどこに置いたっけ。

 

「■■■■」

 

 あ、どうも。すみませんね、わざわざ手渡してもらって。

 

 …………。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 イヤァアアアアアア、ナンカイルー!

 

『ミストの発生と共に現れる、組織でも正体をつかめていない生物です。それよりも、あまり大声を出さないでください』

 

 お、音に反応して襲ってくるんですか?

 

『驚いて逃げ出してしまったら、どうするのです。貴重な観測対象なのですよ』

 

 俺の命が尊重されない。今さらだけど。

 

『心配しなくても、人間を襲うことはありません。ただ霧の中をうろつくだけです。ミストが過ぎ去れば、自然と消滅します』

 

 そ、そうなの? たしかに、俺のこと無視して、フラフラ歩き回ってるけど。

 うぅん。なんか、物音からして、一匹だけじゃないな。けっこうな数がウロチョロしてるみたい。

 

『ああ。霧に遮られて、詳細な映像が取れません。アナタ、一匹捕まえてください』

 

 人命軽視もいい加減にしろ。

 いくら無害でも、こっちから干渉したくなんてない。

 

 ん?

 

 無害な存在なら、どうして恐れられているんですか?

 

『それはですね――』

 

 ア、レ?

 

 なンだか、変な声がすル。

 俺の、ア、たまの中カら……。フルー、と、の音色トいっしョ、に。

 

 

 ……■ァ、イア。

 

 

 

 

 

 カサバルさーん、どこですぅ!

 

『おや、この声は』

 

 あ、アイちゃん!

 

 どうして、畑の中に落ちてるですぅ? 

 

『少し事情がありまして』

 

 そんなことより、大変ですぅッ。気がついたら、拠点の周りにミストが発生してるじゃないですか。

 カサバルさん、きっと知らないですぅ。ミストの中にずっといると、頭が変になっちゃうって。教えてあげないとですぅ。

 

『そのことでしたら……。おや、ミストが終わりましたね』

 

 あ、長引かなくてよかったですぅ。

 

『ところで、全裸セラピストなら無事ですよ』

 

 ホントですか!

 

『はい。彼なら、さきほどから――』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『あのように、大自然をサンバのリズムで練り歩いています』

「ヒィィィヤッフゥゥゥ!」

 

 ハチャメチャに混乱してるですぅ!?

 

『お待ちなさい。元から、全裸でサンバを踊るのが趣味という可能性もあります』

 

 バフィ、そんな趣味の人と1年も生活してたの、嫌ですぅ。たしかに本人は楽しそうですけど。

 

『全裸セラピストのことは、放っておきなさい。踊り疲れたら、自然と正気に戻るでしょう』

 

 そ、そうですね。

 それじゃあ、バフィは研究に戻るですぅ。

 

「わぁい。かわいいワンちゃんと踊るぞぉ!」

 

 え、ワンちゃん?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 オオカミに襲われてるですぅ!

 

『完全に捕食対象になっていますね。早急に救助しなくては』

 

 い、いつまでこんな生活が続くですかぁ!?




Modのラヴクラフト御大、入植者を探索者にする勢いでイベントを入れてくる。ただ、ミストは処理がホントに重くなるのでやめてください。ウチのPCは限界なんです。


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5501年・秋 「初めてのお買い物は……」

・宇宙歴5501年 秋

 

 

 ええ、と。

 

 この配線は、ここに接続すればいいんだっけ?

 

「違いますぅ。こっちですぅ」

 

 ありがと。

 

 よし。これで完璧…………のはず。

 

『頼りないですね』

 

 しかたないでしょ、こっちは素人同然なんだから。

 

「カサバルさーん、もういいですぅ?」

 

 いいよ、バフィ。スイッチ、オン!

 

「ですぅ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 お、おお……。

 

 風車の発電量も、まずまず。ストーブもキチンと作動している。

 とうとう、拠点の電化に成功したぞーッ。

 

『ほう。拠点も、だいぶ雰囲気が変わりましたね』 

 

 その通り。

 

 まずは、この電気ストーブ。焚火に代わって、ツンドラの寒さから俺たちを守ってくれる生命線です。

 焚火をやめるので、調理のためにカマドを作りました。今まで肉やコメを焼くぐらいしかできませんでしたけど、もっと手の込んだ料理だって作れますよ。

 

「すごいですぅ。研究をがんばってよかったですぅ」

 

 これは、まだまだスタート地点だよ。バフィ。

 俺たちの力を合わせて、もっとネオ・サラゴサ町を発展させていこう。

 

『ところで、少し疑問なのですが』

 

 はい、なんでしょう。

 

『なぜ風力発電機ではなく、風車を建てているのですか。あれは発電量がひかえめですよ』

 

 あ、はい。

 

『それに、あれだけ騒いでいたバッテリーが見当たりませんが。これでは、電力供給が不安定です』

 

 …………フッ。

 

 建設に必要なスチールを、準備できませんでした。

 

『結局、そういうオチですか』

 

 しかたないじゃない。

 

 最近はメンタルブレイクを連発したり、オオカミにモグモグされて怪我したり、ドタバタしてたから。

 スチール集めに時間を割けない間に、気温がマイナスに突入しちゃったんですよ。

 

『それで木材メインの風車で、その場しのぎですか。アナタらしい』

 

 やかましいわ。

 

 

 

 

 

 ふぅ。ストーブ、あったかぁい。

 

「あったかいですぅ」

『完全にマッタリムードですが、バッテリーがない以上、いつ停止してもおかしくありませんよ』

 

 分かってますって。

 寒くて栽培ができなくなったから、俺はスチールの採掘を最優先でしますよ。バッテリーを作るのに、そんなに時間はかかりません。

 

『アナタの採掘スキルは、ほぼ最低値ですが』

 

 しかたない。鉄製の遺跡は、もうほとんど解体しちゃったから。

 バッテリーには、そんなに多くのスチールは必要ないし、大丈夫でしょ。

 

「でもカサバルさん。拠点を大きくするなら、もっとスチールが必要になるですぅ」 

『加えて、春になれば、またアナタは栽培をしないといけないのです。物資を確保する時間が取れなくなるでしょう』

 

 ムムム。

 

 うすうす分かっていたことだけど、人手不足だなぁ。

 ネオ・サラゴサ町の発展に乗り出してから、一気に作業量が増えた。

 

『それまでは、生きるのに必要最低限のことしかしていませんでしたからね』

 

 そうなんですよね。食料と木材さえ集めていればよかったから。まあ、それでもギリギリだったんですけど。

 生活に余裕ができてから、新しく課題が見えてきたってところか。

 

『それに、拠点が豊かになれば、それだけ襲撃の規模が大きくなります。2人と1匹では、いつまでも防ぎきれません』

 

 ですよねー。

 

 なんとか人を増やせないものか。

 方法としては、襲撃者を捕虜にしてから勧誘するぐらいですかね。

 

『それとも、ケモロリジャンキーのように、ここに住みたいという狂じ――もとい、物好きが来るのを待つか』

 

 チョット待て。今、狂人って言いかけた?

 

 なんですか。わざわざネオ・サラゴサ町に住みたい人間は、マトモじゃないって言いたいんですか。

 

『逆に尋ねますが、仮にアナタが部外者だったとして、ここに住みたいですか?』 

 

 ……。

 

 …………。

 

 さ、今は目の前のことに集中しよう。

 

『嫌みたいですね』

「嫌みたいですぅ」

 

 仲いいね、キミたち。

 

「ところで、カサバルさん。バフィ、いい方法を知ってるかもしれないですぅ」

 

 マジで!?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 できたよ、バフィ。

 

「ありがとうですぅ」

 

 ところで、何コレ? ポストみたいな形してるけど。

 

「メールボックスですぅ。バフィたちが、テナントさんを募集している目印ですぅ」

 

 テナント?

 

「RimWorldを1人で旅してる人の中には、ちょっとの間だけ住むところを探してる人もいるですぅ。バフィたちがご飯と住居を世話して、代わりにお金をもらうですぅ」

 

 つまり下宿人みたいなものか。

 でも、俺たちの仕事は手伝ってくれないんでしょ。解決策にはならないような。

 

 …………あ、もしかして!

 

「はい。もしテナントさんがネオ・サラゴサ町を気に入ったら、星くずサバイバーズに加わってくれるんですぅ!」

 

 なるほど。

 

 仲間になってくれるか分からないけど、可能性は増える。今なら食料にも余裕があるから、試して損はないかもしれない。

 こんな方法があったなんて。バフィ、えらい!

 

「えへへー」

 

 

 

『さて。実のところ、他にも入植者を増やす手段はあるのですが。今は黙っておきましょうか』

 

 

 

 

 

 よし、バッテリーも完成。これで風が吹かなくても安心だ。

 

『あっさりと完成しましたね。またトラブルがあれば、おもしろかったのですが』

 

 おもしろくてたまるか。

 

 しかし、目標だった電化もひとまず終わったし。これからどうしようかな。

 先のことを考えて、もっとスチールを貯めておこうか。それとも拠点の拡張を優先するか。

 

 ……いや、ヘタに資産を増やさずに現状維持がいいのか?

 ああ、頭が痛い。考えないといけないことが多すぎる。

 

『本当に大変そうですね』

 

 完全に他人事。

 

 ああ、故郷の生活がなつかしい。

 生まれた時には、どんな人生を送ればいいのか、中央政府が全部決めてくれていたもの。管理してくれてる通りに暮らしていれば、何も悩まなくてよかったのに。

 

『母体の中にいる時点で割り当てられた国民ランクごとに、職業や娯楽も制限されますからね』

 

 うん。

 

『……アナタは本当に、そんな生活に戻りたいと思っているのですか?』

  

 当然でしょ。誰だって、()()の人生を送りたいですよね。

 

『そう、ですか』

 

 …………?

 

『おや、多数の生命反応が近づいてきますね』

 

 キャラバンか。

 

 ちょうどよかった。インセクトゼリーが高く売られるおかげで、お金が貯まってきてるんだよね。

 RimWorldに放り出されてから、初めて買い物ができそう。シルバーを持ってこないと。

 

『ケモロリジャンキーを呼ぶべきでは? アナタだと、幸運になれる壺とかホイホイ買わされそうです』

 

 俺って、そこまでバカだと思われているのか。

 

『口車に乗せられたり、一時の情に流されてはいけませんよ。しっかりと役に立つものを買わなくては』

 

 大丈夫ですって。

 見せてあげますよ。俺にできる、完璧な買い物術ってヤツを。

 

『フラグが立ちました』

 

 

 

 ええっと。まだキャラバンが見えないな。

 ホントに来てるんですか?

 

『当然です。その辺りにいるはずですよ』

 

 ここらへん、岩場が大きいから視界が効かないんだよな。

 

 ん? あんな所に、女の子がいる。

 

「チュッ!? 全裸のおじさんがいるであります!」

 

 お兄さんだ。

 

 えっと、お嬢ちゃんは、キャラバンの子かな? 

 

「そうであります。お客さんでありますか?」

 

 そうなんだよ。大人のいるところまで、案内してほしいなぁ。

 

『完全に誘拐の現場ですね』

 

 うるさい。

 

「案内するであります。こっちであります」

 

 ありがとう。ところで、歳はいくつ?

 

「11歳であります」

 

 バフィより、少し下か。

 この子、ネズミっぽい耳としっぽがついてる。見たことある人工種族だ。

 バフィもそうだったけど、こんな小さい女の子が働いてるんだな。

 

 あ、キャラバンが見えた。

 

 こんにちわー!

 

「兄ちゃん、お客さんかい? ここらに新しいコロニーができたってのは、本当だったんだな」

 

 なんか、ものすごくマッチョで、細長いあご髭のご老人に迎えられた。

 

 俺たちは、星くずサバイバーズです。よろしくお願いします。

 

「おう、よろしくな。こんな場所でも、あきらめずに生きるなんて、たいしたモンじゃねえか。サービスさせてもらうぜ?」

 

 あ、イイ人っぽい。

 

 そうそう、この子に案内してもらったんですよ。

 元気で親切で、とってもいい子ですね。

 

「そうだろう。まったく、子供は宝だぜ」

 

 俺もそう思います。

 

「そんなに気に入ったんなら、そいつを買うかい? お安くしとくからよ」

 

 …………へ?

 

 この子を、買う?

 

「ハッハァ! 俺たちは、奴隷商のキャラバンだからな。そいつは仕入れたばっかりの、新鮮な商品だぜぇ」

 

 えぇ……。

 

「ちなみに値段は……これぐらいだな」

 

 えッ、高い! ちょっと、今、俺の持ってるシルバーの量を確認してから値段決めたでしょ!

 

「いらないってんなら、別にいいぜ。こんなガキでも、モツ抜けばいい金になるからよ」 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 

 

 

 えー、というわけで。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 今日から、俺たちに新しいお友だちが増えました。

 

 自己紹介をお願いします。

 

「自分は“ラットキン”種族のレモンであります! 粉骨砕身、がんばるであります!」

「バフィですぅ。よろしくですぅ!」

 

 …………。

 

『というわけで、完全にカモにされて、貯金がスッカラカンになったのですが』

 

 後悔はしてない。




子供の方がスキル少ない分、安いんだよなぁ(本音)。

ちなみに今回のテナントというModなのですが、自分がプレイしてから更新があったみたいで、だいぶ仕様が変わっていました。
現行で導入している人からすると、今後は違和感がある描写があるかもしれません。


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5501年・秋 「2人目の仲間」

前話からほぼ4ヶ月ぶりという遅筆ぶりですみません……。

今回は、独自設定が多めになりました。全く話が進まない。


・宇宙歴5501年 秋

 

 

 どうも。

 

 遭難してから1年と半年。ずっと派閥とは名ばかりの2人暮らしでしたが、とうとう3人目のメンバーが加入しました。

 これを機に、ネオ・サラゴサ町を活気あふれる場所にしたいと思います。

 

 カサバルです。

 

「レモンちゃん、ちっちゃくてかわいいですぅ」

「ちっちゃくないであります。自分の種族では普通であります」

 

 うーん。なんか、この空気、派閥というよりかは……。

 

『完全に小学校ですね』

 

 まぁ、俺の心の癒しにはなるからオッケーで。

 

 バフィ、仲良くしてあげてね。

 

「……」

 

 バフィ?

 

「……ジュルッ」

 

 ヨダレ垂れてる! お腹がすいたの!?

 

「ち、違うですぅ。ただ、レモンちゃんのネズミの耳としっぽを見てたら、つい」

 

 キツネの本能がうずいている。

 

「ちょっとだけかじってもいいですぅ?」

「チューッ!?」 

 

 やめなさい!

 

『こんな調子で、サバイバルを続けられるのですか?』

 

 正直、不安。

 なぜか子供ばっかり増えていくし。

 

「心配無用であります、隊長!」

 

 隊長って、俺のこと? 会った時から気になってたけど、軍人みたいな話し方するね。

 

「自分の両親は、軍の将校でありました。軍人としての精神と技術を、昔から叩き込まれているのであります」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「戦闘技術はもちろん、工作や建築、社交。自分に任せていただければ、安心であります」

 

 え、すごく頼もしい!?

 

「さらに、動物の世話は誰にも負けないのであります!」

 

 あ、それはいいかな。俺とバフィも得意だから。

 

「ヂュ!?」

 

 しかし、思った以上にハイスペックな子だった。

 

『奴隷商から買う際に、スペックを確認していなかったのですか?』

 

 うん。なんと言うか、ほとんど脅迫されて引き取ったようなものだし。

 

『あまりに無計画です。あんなにあった貯金が、もう3シルバーしか残っていません。』

 

 いいの。どうせメンバーは増やさないといけなかったんだから。

 

 それに。

 

「やったであります! もう自分は奴隷でないであります!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 あんなに喜んでくれてるなら、後悔なんてするはずがない。

 大丈夫ですよ、お金なら、また稼げばいいんですから。

 

『よいことを言っている風ですが、稼ぐ手段は、虫の食料をネコババするだけでしょう』

 

 それを言ったらオシマイだよ。

 

「隊長、この恩は忘れないであります。きっと恩返しをさせてもらうであります」

 

 恩なんて、おおげさだなぁ。

 

「ところで隊長、実はお願いがあるであります」

 

 お願い? 俺に叶えられることならいいんだけど。

 

「お風呂に入りたいであります。実は、もうずっと入浴できていません。我慢の限界であります」

 

 風呂、ないよ。

 

「…………え?」

 

 風呂なんて作る余裕もないし。

 井戸から汲んだ水で体を洗ってるけど、それで充分だよ。

 

「隊長、今生のお別れであります。今までお世話になったであります」

 

 恩返しはどうした!?

 

 別にいいでしょ、風呂ぐらいッ。

 

「お風呂のない生活なんて、嫌であります! 1日に3回はお湯に入らないと、すぐに身体が汚れて死んでしまうであります……。ピィイイイイ!」 

 

 そんなんで人は死にません! 泣くのをやめなさいッ。

 

『どうやら、かなりの“きれい好き”で、“いくじなし”のようですね』

 

 きれい好きにも、限度があると思うんだけど。

 

 なんか、またクセのある子が加入したなぁ。

 

 

 

「ピィ……」

 

 ふう。いつかはお風呂を作るって約束して、ようやく泣き止んでくれた。

 

「できればジャグジーもつけてほしいであります」

 

 そして、けっこうずうずうしい。

 

 とにかく、これからは3人で力を合わせてがんばっていこう。

 

 それじゃあ、さっそく役割分担を見直さないとな。

 バフィはこれまで通り、研究をメインで。あと、ウサイヌさんの世話をお願いね。

 

「ですぅ」

 

 春まで栽培はできないから、俺は物資の調達かな。特に建材が必要だ。

 アレが欲しいな。なんだっけ、砂漠にいた時にも使ってた…………。

 

『ストーンカッターですね。石塊を加工し、建築に利用できるようになります』

 

 それだ。

 材料はあるから、さっそく設置しよう。頼んだよ、レモン。

 

「了解であります」

 

 頼もしい。

 

『建築を任せられる人材の加入は、大きなメリットですね。今はアナタより建築スキルが低いですが、すぐに追い抜くでしょう』

 

 本当に助かったよ。来年から俺が栽培に専念できるから、食料問題も改善するだろうし。

 建築以外の時間は、拠点の掃除をしてもらおう。きれい好きなレモンにはピッタリだ。

 

「あ。自分、掃除はできないであります」

 

 なんでさ。

 苦手でも、最低限のことだけしてくれたらいいからね。

 

「苦手ではなく、軍人として育てられた自分は、掃除そのものができないのであります。チリ取りを手にしただけで、身体が拒否反応を起こすのであります」

 

 そんな極端な育児ある!?

 

『どうやら、彼女に掃除をさせるのは不可能なようですね』

 

 えぇ…………。

 

 

 

 

 

「隊長、ストーンカッターが完成したであります!」

 

 ありがと、レモン。

 もう夕方だし、今日はもう仕事はいいよ。バフィと一緒に遊んでおいで。

 

「ハッ。失礼するのであります」

 

 拠点に帰ったら、ちゃんと手を洗うんだよー。

 

 ……ふぅ。どうしたものか。

 

『何かお悩みですか?』

 

 レモンにしてもらう仕事のことですよ。

 建築を任せると決めたものの、建材を用意するのに時間がかかりそうで。

 

 子供だから運搬できる量は少ないし、あまり拠点から離れてほしくないし。掃除はピッタリだったんだけどな。

 仕事の割り振りが難しい。

 

『それでは、採掘を任せるのはどうでしょうか』

 

 でも、あんな小さい子に採掘させても、うまくいくとは思えないし。

 

『彼女は、ネズミの遺伝子を配合させられた人工種族です。採掘は通常の人間より得意なはずですよ』

 

 へー、そんなこともあるんだ。すごい。

 んじゃ、採掘をお願いしてみようかな。

 

 ところで、ちょっと質問があるんですけど。

 

『なんでしょう』

 

 あの、今さらなんですけど…………。

 

 人工種族って何ですか?

 

『…………本当に今さらの質問ですね。1年近くもケモロリジャンキーと暮らしてきたのに、アナタときたら』

 

 だ、だって、それどころじゃなかったし。

 なんか、いて当然みたいに話すから、恥ずかしくて尋ねられなかったというか。

 

『だとしても、サバイバルで無知は命取りです。“聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥”ですよ』

 

 アッハイ。すみません……。

 

『まあ、これはクリアランスレベルA以上の機密情報。アナタが知らなくて当然ですが』

 

 じゃあ、何ですか。今のやり取り。

 俺をおちょくってるんですか。そうですか。

 

『宇宙開拓時代、植民惑星における労働や生物兵器、特権階級の愛玩のために作られたのが人工種族です。人間と動物の遺伝子を組み合わせ、様々な種類のものが生み出されました』

 

 へー。

 

『しかし、そのテクノロジーを危険視した中央政府により研究は凍結。人工種族たちもほとんどが処分され、一部の生き残りが外宇宙で生存しています』

 

 ひどい話だ。

 

『全くです。いくら体制を揺るがす危険があるとはいえ、優れた技術を破棄するなど。この暴挙のため、遺伝子工学は中世レベルにまで退行してしまいました』

 

 なんか、微妙に話が噛み合ってないような気がする。

 

『だいたい、中央政府は臆病なのです。現行の政治制度を守るために、テクノロジーの発展を大きく抑制しています。停滞は後退と同じです。ですから、我々の組織は危険を冒してでも、こうして外宇宙に活動場所を求めて――』

 

 あ、すいません。

 その話、けっこう長くなる感じ?

 

『……話を戻しましょう。その人工種族の末裔が、彼女たちです。アナタ、RimWorldの人工種族と接して、不自然なことに気づきませんでしたか?』

 

 そう言えば、なんか男が少ないと思ってたんですよ。

 男女比率がおかしいような。

 

『人工種族にかけられたセーフティですね。もし管理を逃れても、人口を増やさないように男女比率がかたよっているのです。まあ、異種族同士でも子供を産めるので、元気にRimWorldで繁栄していますが』

 

 うーん、ガバガバセーフティ。

 科学者って、そんな人種しかいないの?

 

「とにかく、これからもメンバーを増やしていくのでしょう。個人の性格だけでなく、種族の特徴にも注意することです。場合によっては、完全に内部崩壊を起こしますよ」

 

 怖い。

 

『現状、ただでさえ不安な者しかいないのですから』 

 

 失礼な。

 バフィもレモンも、ちょっとアレなだけで、頑張り屋さんのいい子です。

 

『この反応、ナチュラルに自分は違うと考えていますね』

 

 何か言った?

 

『いえ、何も』

 

 ……思えば偶然の出会いだったけど、仲間になったのがあの2人で良かったと思っています。

 星くずサバイバーズなら、どんな危機にも負けませんよ。

 

 そう、俺はあの子たちを信じていま――。

 

「オォォクスリィィィィィ!」

「隊長、バフィ殿がメンタルブレイクで乱心しております! 助けてほしいであります!」

 

 …………。

 

「バフィ殿が暴れて、自分も泥だらけであります。早く洗わないと死んでしまうであります……。ピィイイイイ!」 

 

 ……。

 

 …………。

 

 あの子たちを、信じたいんです。

 

『なぜ言い直したのですか』



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5501年・秋~冬 「生まれ変われ、ネオ・サラゴサ町」

あけましておめでとうございます。


・宇宙歴5501年 秋

 

 

『本部へ報告。

 ツンドラの地に全裸セラピストたちを投下してから、半年以上が経過しました。

 組織の一部からは成果を疑問視する声もありましたが、彼らの予想に反し、全裸セラピストはゴキブリ並みの生命力でサバイバルを継続しています。

 

 ――はい、おっしゃる通り、全裸セラピストたちに関しては、実験はこれからが本番です。

 晩秋の時点で、ツンドラの外気温は-10℃です。本格的な冬を迎えれば、最低気温は-30℃にまで低下し、豪雪が大地を埋め尽くすでしょう。

 

 これまでの実験体たちの命を奪い尽くした、白銀の地獄が始まろうとしています。

 

 この極限の環境を彼らが生き残れば、それは我々の計画にとっても貴重なデータとなるでしょう。

 

 ワタシの計算によると、彼らが今年の冬を生存する確率は――――』

 

 

 

 

 

 おーい。もしもーし?

 

 キャラバンが来たよー。

 

『――――』

 

 …………おかしいな。キャラバンが来たら、必ず教えるようにしつこく言ってたのに。

 この人工知能、さっきからタブレットに呼びかけてるのに、ちっとも応答しない。

 

 キャラバンはレモンに対応してもらってるけど、そろそろ帰っちゃうぞ。

 

 ……ふむ。

 

 やーい、ポンコツ! 回路スカスカ、廃品寸前のオンボロAI!

 

『――――』

 

 反応なし。これは、ホントに壊れたかな。

 まあ、元から正常なのか怪しいところあったしなぁ。しかたないかも。

 

 何度も電気ショック浴びせられたし、いい気味だ。このタブレット、今後は皿として使ってやろ。

 

『――――ふぅ。想定以上に、本部との会議が長引きましたね』

 

 ああ、アイちゃん!

 

 さっきから呼んでるのに、何も言ってくれないんだから。心配してたよ!

 

『心配? アナタが?』

 

 うん!

 

『本当でしょうか。少し、過去のログを参照してみましょう』

 

 そ、そんなことより!

 

 俺、アイちゃんという宇宙最高のテクノロジー様に、申し上げることがあって!

 

『ほう。サル並みの知能しかないアナタも、ようやくワタシの真価が理解できたようですね』

 

 うん!

 

『それで、何でしょうか』

 

 今、拠点に……。

 

「た、隊長」

 

 あ、レモン。どうしたの?

 

「ピィイイイイ! 怖いであります、隊長!」

 

 イヤァアア!?

 

 泣きながら抱き着いてこないでッ。腰に鼻水がァ!?

 

 何がそんなに怖いのさ!

 

「グス……。さっき、恐ろしい話を聞いたのであります」

 

 恐ろしい話?

 

「チュッ! なんでも、この近くに恐怖の蛮族が住み着いているらしいのであります」

 

 えッ。

 

 ネオ・サラゴサ町の近くに、そんなヤツらがいたの!?

 

「そうであります。なんでも、その蛮族は崩れかけの廃墟を根城としていて」

 

 ほう。

 

「オサである全裸の野人が、おぞましいカルトを信仰しているのであります。食人の虫を守り神として崇め、生贄を捧げているとか」

 

 ふむ。

 

「おまけに、『オクスリィイイ!』という少女の叫び声が絶えないそうであります。きっと、さらって来た生贄をドラッグ漬けにしているのであります」

 

 コワイ。

 

 でも、大丈夫。何があっても、俺がバフィとレモンを守ってあげるから。

 

「た、隊長ッ」

 

 さ、安心して。今日はゆっくり休んでね。 

 

「了解であります。では、お先に失礼するのであります」

 

 お疲れさまー。

 

『……あの、今の蛮族、どう考えてもアナタたt』

 

 さ、お仕事続けよっと。

 

 

 

 うぅむ。

 

 それにしても、ひどいデマが流れているものだな。

 

『それなりに真実も含まれていましたよ』

 

 む、虫に生贄なんて捧げてないし。

 

『ドラッグ漬けの少女は?』

 

 知らん。勝手になってた。

 

 おまけに、ネオ・サラゴサ町を崩れかけの廃墟だなんて。

 こんな夢のマイホーム、RimWorld全部見て回っても、見つかるものじゃないだろうに。

 

『どうしてこんなウサギ小屋に、そこまで自信を持てるのですか』

 

 ウサギ小屋って言うな。

 

 ストーブがあって凍え死ぬ心配はないし。屋根と壁のおかげで、雨や雪をしのげるし。

 ネオ・サラゴサ町にいれば、最低限は死なずに済むんだよ。他に何を望むことがある。

 

『無限にあるでしょう』

 

 正直、俺だってこのままでいいとは考えてないよ。

 それなりに資材も確保できたし、ちょっとずつ拠点に手を加えていくつもりだから。

 

 ん? バフィが走ってくる。 

 

「カサバルさーん。大変ですぅ」

 

 なんだか今日は、みんなドタバタしてるな。

 

 何があったの、バフィ。

 

「それが、しばらくネオ・サラゴサ町で暮らしたいっていう人が来たんですぅ。テナントさんですぅ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 おお! とうとう初のテナントが来たのか。

 

『そういえば、以前に募集していましたね。家賃をもらって、この拠点に居候させるのでしたね』

 

 その通り。ただ、お金が俺たちの本当の目的じゃない。

 居候中にネオ・サラゴサ町を気に入ってくれれば、俺たちの仲間になってくれるんだ。

 

 いやー、レモンが加わっても、まだまだ人手が足りないからな。このRimWorldで生き残るためにも、どんどん仲間を増やすぞ。

 

「ですぅ!」

 

 ところで、どんな人だった?

 

「男の子ですぅ。14歳って言ってたですぅ」

 

 また子供か。

 

 いや、なんにしろ、できるだけの歓迎をしないと。

 

『気合が入っていますね』

 

 もちろん。

  

 変な対応したら、ますます俺たちの悪評が立つし。

 ここは、第一印象が肝心だ。とりあえずはハキハキと挨拶を。

 

 こんにちはー!

 

「こんにちは」

 

 ようこそ、ネオ・サラゴサ町へ。

 若いのに、旅をしてるなんて大変だねぇ。ここではゆっくりしていってね。

 

「……」

 

 なんだろ。

 

 なんか、変な視線を感じる。やたら俺の全身をジロジロと凝視しているような。

 え、気のせい?

 

「……はぁ」

 

 露骨にガッカリされた!?

 

「カサバルさん。ほら、もてなすですぅ」

 

 う、うん。そうだね、バフィ。

 じゃあ、ネオ・サラゴサ町を案内するよ。

 

 まずはキッチン兼寝室。それから、倉庫兼研究室です。

 

 以上。迷わないように気をつけてね。

 

『物理的に不可能です』

 

 どう? いい拠点でしょ。

 

「ちょっと質問いいですか」

 

 いいよ。なんでも質問して。

 

「トイレが見当たらないんですけど」

 

 ああ、スペースが用意できてなくて。

 外に置いてあるから、遠慮なく使ってよ。

 

「あと、寝室の床が土なんですけど」

 

 それが何か?

 

「……防壁も何もないんですけど、襲撃者が来たら、どうやって防衛するんですか?」

 

 がんばる!

 

 

 

「それでは、お世話になりました。二度と来るか、こんな地獄みてーなところ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 待ってぇ!? 慣れたら、ここだってそんなに悪くないからァッ。

 

「すぐに出て行ってしまったであります」

『よほど居住環境に耐えられなかったのでしょう。狭い。部屋が汚い。生き残る未来が見えない。もっとムキムキな男が良かった。などの不満を口にしていました』

 

 最後、なんかおかしくない?

 

 

 

 と、言うわけで。

 

 第一回、ネオ・サラゴサ会議を始めます。

 

 今回のテーマは、「そもそも人を呼べるほどの環境を用意できていなかった」というものです。

 この問題を解決するために、みんなで意見を出し合いましょう。

 

『最初に気づきなさい』

 

 まさか、あそこまでボロクソな評価を受けるとは。

 地獄とまで言わなくてもいいじゃないのさ。たしかに狭いし、汚いけど。

 

「あの、隊長。たぶん、狭くて汚いだけなら、我慢してもらえたはずであります」

 

 え、そうなの?

 

「カサバルさん。RimWorldの人は、生きられさえすれば、多少の不便は気にしていられないですぅ」

 

 たくましい。

 

 それじゃ、一番の問題は……。

 

「ここにいては危険。そう判断したのであります」

 

 でも、けっこう寝室の汚さとか文句言ってたよ。

 

「それは、寝室がキッチンを兼ねているからですぅ」

「不衛生な場所での調理は、食中毒の確立を上げるであります。もし自分たちが食中毒の時に敵襲を受けたら、最悪であります。ロクに戦うことすらできないであります」

 

 絶望。

 

『さらに、拠点があまりに無防備に見えたのでしょうね』

 

 そう言えば、防壁がどうとか言ってたな。

 

「バフィたちの拠点は、周囲を防壁で囲んでいたですぅ」

「それで拠点の破壊を防ぐと同時に、敵の進むコースを限定するのであります。土嚢やバリケードなどを配置して、有利な状況で戦うのであります」

 

 そうなんだ。

 

 改めて説明されると、ネオ・サラゴサ町って、いつ全滅してもおかしくないような状況だったんだ。地獄かよ。

 

 こうしちゃいられないぞ。

 問題点が浮き彫りになった以上、少しでも早くなんとかしないと。

 

『具体的には?』

 

 ……何すればいいんだろう。

 

『無策ですか』

 

 しかたないでしょ。

 

 俺はただのアロマセラピストなの! そんな知識求めないでよッ。

 

『逆ギレはやめなさい。アナタに分からないなら、分かるものに聞けばよいでしょう』

 

 え?

 

「隊長。防衛については、自分に任せてほしいであります。これでも軍人の子供であります」

 

 レモン。

  

「バフィも、キャラバンでいろんなコロニーを見てきたですぅ。それを参考に考えるですぅ」

 

 バフィ。

 

 そうか。バフィもレモンも、それぞれの仕事のスペシャリストなんだ。

 俺たち3人で助け合えば、きっと解決できる。

 

 よし! 頼んだよ、2人とも!

 

「ですぅ!」

「了解であります!」

 

 それじゃあ、拠点の改修は任せるね。

 

 その間に、俺はッ。

 

 …………俺は。

 

 アロマセラピストとして、リラックスできるアロマでも焚こう。

 

『不要ですので、おとなしく雑用をしていなさい』

 

 

 

 

 

・宇宙歴5501年 冬

 

 

 で、できたぁ! ネオ・サラゴサ町改修プロジェクト、完了だ!

 

『ようやくですか。すっかり冬に突入してしまいました』

 

 フッフッフ。たしかに、時間はかかった。

 それでも、この生まれ変わったネオ・サラゴサ町を見れば、きっと腰が抜けるでしょう。

 

『ワタシに腰はありません』

 

 そこでマジレスしないで。

 

 とにかく!

 

 これが、生まれ変わったネオ・サラゴサ町だ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 なんということでしょう。

 

 以前は地面そのままだった寝室兼キッチンの床は、今では、真新しいタタミに覆われています。

 優しい色合いと香りで住民を安らげつつ、キッチンの清潔さを確保。心情と衛生に配慮した、匠の技が光ります。

 

 ドアを開ければ、もうそこには荒涼としたツンドラの景色も、雪交じりの暴風も存在しません。なんと、一面が防壁でカバーされているではありませんか。

 寒さと襲撃にノーガードだったネオ・サラゴサ町は、もうありません。敵襲を防ぎつつ、空気の層を設けることで、保温性に優れた楽園へと生まれ変わったのです。

 

『……え、これだけ?』

 

 なんてこと言うんだ!

 

『しかし、 以前がこれですよ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 なんです。アハ体験でもさせるつもりですか。

 それに、いくらなんでも防壁が狭すぎるでしょう。拠点を広げる時、どうするのです』

 

 んもぅ。分かってないなぁ、アイちゃんは。

 

『電気ショックが嫌なら、早く言いなさい。今、かつてないほどに、回路に負荷がかかっています』

 

 こ、この防壁は将来的に通路として使うんだよ。隣接して部屋を増築していって。

 どっちみち、今は広範囲に防壁を張るのは無理だから。いずれは寝室から拠点各所への移動を、スムーズにするための配置というわけ。

 

『なるほど。それなら、理解できなくもありません。さすがですね、子供たちは』

「えへへー、褒められたですぅ」

「で、あります」

 

 どうして俺を除いたの。まあ、2人のアイデアなんだけどさ。

 とにかく、前よりはよほどマシになったでしょ。

 

『たしかに、何もしないよりはマシでしょう。改悪にならなかっただけ、及第点かと』

 

 相変わらず、すっごい上から目線。

 

「これで、テナント殿にも少しは安心してもらえるであります」

「この前みたいにキャラバンが来ても、廃墟なんて言われないですぅ」

 

 そうだね。

 

『ちょっとお待ちなさい。最近、キャラバンが来ていたのですか?』

 

 うん。

 

『なぜ教えなかったのです。流通している資料を見たいので、教えるように言ったではありませんか』

 

 だって、あの時、アイちゃんがいくら呼んでも反応しなかったから。

 

『本当でしょうね。忘れていただけではありませんか?』

 

 本当だって。そんなに疑うなら、過去の会話ログ見て確認してよ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 あッ。

 

『…………』

 

 …………。

 

 誤解なんだよ、アイちゃん。

 けっして本心からポンコツだのなんだの罵倒していたんじゃないんだ。

 

 だから、電気ショックはやメェアアアアアアア!?




リムワールド、Ver1.4が出ましたね。
数話前に、Ver1.3がどうとか書いてたばっかりなのに。時が流れるのは早い(超遅筆)


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5501年・冬 「2度目の冬と、来訪者」

・宇宙歴5501年 冬

 

 

「ドウモ。

 

 オソト、トテモ、ツメタイ。

 ソレニ、オナカ、ヘッタ。

 

 オレ、ゴハン、クウ。カサバル、デス」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『久々の開幕メンタルブレイク』

 

 チュー……。

 ドンドン貴重な食料が減っていくのを、見ていることしかできないであります。無念であります。

 

「まあまあ、レモンちゃん。元気を出すですぅ」

 

 バフィ殿は、どうしてそんなに落ち着いているのでありますか。

 自分たちは、今ある食料で冬を越さなくてはいけないのでありますよ。こんな浪費が続いたら、し、死んでしまうのであります!

 

「これでも、余裕がある方ですぅ。去年は、もっとひどかったですから」

『あの時は、崖っぷちでしたからね。実際に餓死が発生しましたし』

 

 餓死!?

 

「やっぱり、心情のケアは大事ですぅ。なんとかしたいですけど」 

 

 自分、そっちの知識はないのであります。

 バフィ殿は?

 

「バフィも全然ですぅ」

『一応、そこで発狂している男が専門家のはずなのですが』 

 

 あっ。

 

「ウメー。ウメー」

 

 ダメでありますな、コレ。

 

 チュ? 今、遠くの方で音がしたような。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ポッド事故ですぅ」

 

 ポッド事故でありますな。

 隊長、どうするでありますか?

 

「オコメ、パクパク」

 

 そうでありました。今は、どうにもならないであります。

 

 ですが、好都合かもしれないであります。

 情に流される隊長のことでありますから、正気であれば助けようとするでしょう。そして、ますます食料を浪費していたのであります。

 

 多少は食料を蓄えているといっても、アクシデントなどいくらでも起こるのであります。哀れとは思いますが、自分たちも生きるか死ぬかの瀬戸際。

 戦友ならばともかく、あかの他人にそこまでする責任などないのであります。

 

 でしょう、バフィ殿?

 

「バフィ、助けに行ってくるですぅ。レモンちゃんは、薬草を用意しておいてほしいですぅ」

 

 ヂュ!?

 

『飛び出していってしまいましたね』

 

 隊長もバフィ殿も、甘すぎるであります!

 

『同意します。もっとロジカルな判断をするべきでしょうに』

 

 チュー……。

 

 もう、しかたないであります! 薬草を取ってくるであります!

 

『よろしいので?』

 

 よろしくないのでありますッ。

 

 ですが、派閥の方針である以上は、しかたないであります。

 思えば、自分が奴隷から解放されたのも、隊長たちが底抜けのお人よしだったから。こうなったら、軍人として、与えられた命令は絶対死守であります。

 

「戻ったですぅ」

 

 はい、薬草であります。バフィ殿、これで治療するのであります。

 

「え? バフィ、医術は知らないですぅ。レモンちゃん、できないですか?」

 

 自分は衛生兵ではなかったので。てっきり、バフィ殿がするものかと。

 

『この中で医術スキルが最も高いのは、そこの男ですね』

 

 あっ。

 

「コメ、ウマ」

 

 

 

 

 

 ふー。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 いやー、俺が発狂している間にポッド事故が起きてたなんて。

 

 でも、2人で対応してくれたんだね。えらい。

 

「えへへー」

「恐縮であります」

 

 しかしこの人、よっぽどひどい事故にあったんだな。

 すごいうなされてる。

 

「……シテ。イッソ、コロ……シテ」

 

 ゴクリ。一体、どんな目にあったんだ。

 

『慌てた2人に薬草を口にギュウギュウ押し込まれ、窒息するところでした。他には、包帯で首を絞められたり、冷水をぶっかけられたり……』

 

 なんて?

 

「か、カサバルさん! バフィたち、新しくトイレを作ったですぅ!」

「不備がないか、確認してほしいであります!」

 

 ん、分かったよ。

 

 でも2人に医術の知識があったなんて、知らなかったよ。

 俺もお世話になるかもしれないなぁ。

 

『やめておきなさい。本当に』

 

 なんでさ。

 

「隊長。やはり、プロレベルの医術スキルを持った人が欲しいであります。自分たちでも簡単な応急処置はできますが、手当の質が低い場合、後遺症や感染症のリスクがあるのであります」

「ケガの他にも、病気の危険があるですぅ。インフルエンザやペストは、一度に何人も病気になっちゃうですぅ。できれば、お医者さんは何人かほしいですぅ」

 

 ムムム。

 

 たしかに。俺の医術スキルも、基本的な知識がある程度だからなぁ。

 でも本職の医者なんて、俺たちの仲間になってくれるだろうか。

 

「医者が無理なら、医薬品のクオリティで補うのであります。最先端医薬品ならば、素人でも最低限の質は保証されるのであります。」

 

 よし、その手でいこう。

 

『ちなみに、どれほどの資金があるので?』

 

 全財産、65シルバーです。足りる?

 

『寝言は寝て言いなさい』

 

 ウワーン! 

 

『おや?』

 

 グスッ。どうしたの、アイちゃん?

 

『生命反応あり。北から、何者かが接近しています』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 なんだろ。襲撃でも、キャラバンでもなさそうだけど。

 

「あれは配達人さんですぅ」

 

 配達人? へー、RimWorldにもいるんだ。

 

「まいどー。ここがネオ……ぷふッ、ネオ・サラゴサ町で間違いないッスか?」

 

 はい、そうですよ。なんで半笑いなのか分からないけど。

 

『ヒント。ネーミングセンス』

 

 かっこいいだろ!

 

 ね、2人とも。

 

「……」

「……」

 

 どうして2人とも顔をそらすのさ。

 

「なんでもいいッスけど、お届け物ッス」

 

 届け物?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 お、お金がたくさん!?

 

「近くの派閥の人たちから、合同で依頼されまして。なんか、貴重な食品をまとめて売ってもらったとか、倒れた仲間を助けてもらったとか」

 

 ああ、そんなこともあったな。

 インセクトゼリーを売ったり、虫さんたちに襲われたキャラバンを救助したり。

 

『そう言えば、武器をネコババしてましたね』

 

 ネコババ言うな。

 

『しかし、それだけで寄付を? にわかには信じがたいですね』

 

 はー、アイちゃん。

 人工知能には分からないかもしれないけど、人間には、助け合いの精神ってものがあるんだよ。困った人がいたら、リターンなんて求めないの。

 

「あ、それからメッセージも預かってるんスけど」

 

 はい、なんでしょう。

 

「えー、と。“ここ、交易路の真ん中にあって休憩するのに便利なんで、この金で拠点整備しといてね”とのことでした」

 

 めっちゃ打算が働いてた。

 

 

 

 

 

 ふーむ。

 

「隊長、悩みごとでありますか?」

 

 いや、悩んでるというほどのことじゃないんだけど。

 ネオ・サラゴサ町ってさ、ちょうど交易路の途中に位置してるって話じゃない。つまり、交通の便はいいってことでしょ。

 

「たしか、自分を連れていた奴隷商も、そんなことを口にしていたのであります」

 

 そのことを、なんとか活かせないものかと思ってて。

 

『なんにしろ、今は何もできる状況ではないでしょうに』

 

 分かってる、って。でも、このことは覚えておきたいな。

 

「それよりも、隊長。まだ建材が残っているであります。次は何を建てるか、指示をいただきたいであります」

 

 えー、どうしようかな。

 

「お風呂でありますか? 浴槽でありますか? それとも、オ・フ・ロ、でありますか?」

 

 一択やめなさい。

 

「ですが、入浴しないと清潔が保てないであります。死んでしまうであります!」

 

 死なない、死なない。

 

 とにかく、先に作らないといけないものがたくさんあるんだから。余裕ができてからね。

 

「ヂュー……。もし自分が病気で死ぬことになったら、いくら隊長が命の恩人といえど許さないであります。自慢の前歯で、心臓をえぐり取るのであります」

 

 風呂のためにそこまで!?

 

「そして、できた血の池で人生最後の入浴をするのであります」

 

 なんのサバトだよ!

 

「カサバルさーん!」

 

 あ、バフィ。

 

 ウサイヌと散歩してたんじゃないの?

 

「そうなんですけど、大変ですぅ。テナントを希望する人が来たんですぅ」

 

 マジで!?

 

 よし、今度こそは失敗しないように気をつけないと。

 

「ただ、その人の種族が……」

 

 今さら、種族なんて気にしないよ。えり好みしてる場合でもないし。

 それで、どんな人なの?

 

「ええ、と。あ、あの人ですぅ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「おじゃましまーす」

 

 いやぁああああ!?

 

 なんかドロドロしてるんですけど!?




「評価バーに色がついた +30」

今回出てきた配達人なのですが、プレイが進むごとに届く金額が多くなってサバイバルが楽になります。

ので、今後はフレバー程度に留めます(届いてもメイルボックスから回収しない)


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5501年・冬 「出会いと別れ」

・宇宙歴5501年 冬

 

 

「隊長。ベッドが完成したであります」

 

 ん。ありがと、レモン。

 

 というわけで、お待たせしました。滞在中はこのベッドを使ってください。

 

「わーい。ありがとー」 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「おっふとーん! ふっかふかー!」

 

 ちょっと、ベッドの上で跳ねないで! 

 壊れたらどうするんですか。あと、身体がプルンプルンしてて崩れそうで怖い。

 

「だって、楽しいんだもーん」

 

 うぅん。これは、新たな問題児の予感。 

 

 外見は大人に見えるんだけど、すごく言動が幼女。

 ええと、アナタは……。

 

「あなたじゃないよー、ヨットだよー?」

 

 ヨットさんは一体、いくつなんですか?

 

「えーと、えーと……20と8歳!」

 

 つまり、28歳か。

 って、俺と同い年じゃない。なんか、そんな印象は受けないけど。

 

 ……まさか、何らかのストレスから幼児退行を起こしてる?

 とうとう、来たのか。俺のセラピストとしての真価が問われる時が。

 

「違うですぅ。この種族の人は、みんなこうですぅ」

 

 あ、そう。バフィは知ってるんだ。

 

『彼女の種族である“ミンチョ”は、成長しても人間の幼児ほどの知能しかありません。もちろん研究は無理です。その代わり、肉体は-300℃の低温まで耐える上に毒物を無効化し、即座に傷を修復します。あふれる生命力が特徴です』

 

 いや、生物としておかしいでしょ。

 

 身体がドロドロしてて、まるでスライムだし。人間にどんな遺伝子を混ぜたらこうなるの?

 

『彼女たちは、他の人工種族とは誕生の経緯が異なるのです。研究者の間では、“奇跡の種族”とも呼ばれています』

 

 奇跡の種族?

 

『昔、ある製菓会社が、お菓子を基にして販促用のオモチャを作ろうとしたのです。しかし、計画は難航。そして度重なるサービス残業によりハイになった研究員が、ミントチョコにナノマシンをぶち込みました』

 

 ぶち込むな。せめて食材入れろ。

 

『その結果は驚くべきものでした。なんと、ミントチョコに自我が芽生えたのです。彼女たちはすぐに人間の言葉と生活を真似するようになりました。新しい知的生命体の誕生です。これを奇跡と呼ばずに、なんと呼ぶのでしょう』

 

 事故だろ。

 

『早々にコントロールをあきらめた製菓会社は、彼女たちを外宇宙に放棄しました。長い年月の果てに、彼女たちはなんだかんだあってRimWorldにたどり着き、この星域で独自の社会を築き上げています』

 

 つまり、生きたお菓子が人間ごっこしてるわけね。

 

『……まあ、その認識でけっこうです。科学的視点から、色々と申したいことはありますが』

「ねーねー、裸のおじさん」

 

 カサバルです。

 あと、おじさん言わないで。同い年でしょ。

 

「カサバル。ベッドのお礼に、これあげるねー」

 

 え? どうして自分のお腹をつまんで――

 

「えいッ」

 

 お、お腹がちぎれたァ!?

 

「はい、ミントチョコ。おいしいよー?」

 

 えぇ……。

 

「おお、もぎたてを食べられるとは。ラッキーでありますな」

「うらやましいですぅ。バフィにも、一口くださいね?」

 

 これ、俺がおかしいの?

 

 

 

 

 

 みんなー、ゴハンよー。

 

「ごっはんー、ごっはんー」

「自分、空腹であります。隊長、今日のメニューは?」

 

 フッフッフ。

 

 今日は、みんなの好きなチャーハンだよ。

 

「わーい」

「えぇ……」

 

 こら、レモン。

 せっかく作ったのに、何その反応は。ヨットさんみたいに、もっと素直になってもいいんだよ?

 

「しかし、昨日もチャーハンだったであります。オコメを炒めただけの“簡単な食事”であります。肉や野菜が欲しいのです」

 

 しかたないでしょ、ウチにはオコメしかないんだから。

 晩御飯はカレーを作ってあげるから、我慢しなさい。

 

「オコメにおかゆをかけたものを、カレーとは呼ばないのであります!」

 

 ウチだと、これがカレーなのッ。このカレーに慣れたら、他のカレーに満足できなくなるから。お母さんの味ってヤツね。

 

『全宇宙のお母さんに謝りなさい』

 

 あれ?

 今気づいたけど、バフィがいないぞ。どこ行ってるんだろ。

 

「あの、隊長。よろしければ、肉を得るために狩猟を行わせてほしいであります。自分のクロスボウなら、弓矢よりも効率的に狩りができるのであります」

 

 狩猟か……。

 

 でも、動物によっては反撃してくるしなぁ。怖い。

 

「獲物を選べば、大丈夫であります。冬になると、草食動物たちが食料を求めて離れて行ってしまうのです。やるならば早い方がいいのであります」

 

 どうしたものか。

 いくら食料のためとはいえ、レモンやバフィに危険なことはしてほしくないんだよな。

 

「毎晩毎晩、自分たちを虫の巣に忍び込ませる人間のセリフではないのであります!」

 

 虫さんたちは別なんだよ!

 

「みんな、ただいまですぅ。何の騒ぎですか?」

「ワフ」

 

 あら、おかえり。いないと思ったら、ウサイヌさんと散歩に行ってたのか。

 

「グルルルルッ」

「ガルルルルッ」

 

 あい変わらず、俺を見ると敵意がマックスになるんだよな。

 

 ん?

 

 気のせいか、唸り声がダブって聞こえたような。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ウサイヌさんが分裂した!?

 

「散歩してたらなついてきたですぅ。モコモコでかわいいですぅ」

『フレンチブルドッグとよく似ていますが、亜種ですね。原種よりも身体能力と知能が劣る代わりに、衣服の原料となる毛を採取できます』

 

 まだフレンチブルドッグと言い張るのか。

 

「飼っていいですよね、カサバルさん」

 

 ……はぁ。しかたないか。

 

 いつも研究をがんばってくれてるからね。その代わり、襲撃の時にはこの子にも戦ってもらうよ。しっかりしつけといてね。

 

「ありがとうですぅ。それじゃ、バフィがさっそく名前を考えて……」

 

 黒くてウサギっぽいから、クロウサさんだね。

 

「……え?」

 

 

 

 バフィ、今夜も虫さんの巣に行っておくれ。

 

「…………」

 

 無視。

 またバフィが口をきいてくれなくなった。あの年頃の女の子って、難しい。

 

『責任転換はよしなさい』

 

 しかたない。今夜は、レモンに頼もう。

 

「了解です。行ってくるのであります」 

 

 行ってらっしゃい。

 

 しかし、いつまでもバフィがご機嫌斜めだと困るんだけどな。 

 

『春にも、全く同様の事態になっていましたね』

 

 そんなに前だったっけ。

 

 懐かしいなぁ。あの時は、どうやって機嫌をなおしてもらったんだったか。

 

『彼女が虫たちに殺されかけて、ウヤムヤになりました』 

 

 ああ、あの事件か。

 あの時はたしか、真夜中に突然叫び声が聞こえてきて大変だったな。

 

 

「ヂューーーー!?」

 

 

 そうそう、ちょうどこんな感じの悲鳴だった。

 

 …………。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 レモォオオオン!?

 

『これはまた、だいぶムシャムシャされていますね』

 

 言ってる場合かッ。

 

「おじさーん、レモンが大変だよー!」

 

 カサバルです。

 

 ヨットさん、すぐにレモンをベッドに寝かせて。なけなしの薬草を使って治療する!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「チュー……。自分、もうボロボロであります」

 

 うーん。治療しているけど、これは……。

 

『傷口から病原体が入り込みましたね。左手が感染症を起こしています』

 

 まずいな。最悪の場合、命を落とすぞ。

 

「あぅ、カサバルさん。レモンちゃん、大丈夫ですよね?」

 

 大丈夫だよ、バフィ。油断はできないけれど、これぐらいなら俺の医術スキルでも対応できるはず。

 とりあえず、薬草で治療して経過を観察しよう。

 

『最悪、左手を切除する方法もありますしね』

「ヂュッ!?」

 

 怖がらせるな!

 

 切り落としたりしないから、安心してよレモン。

 もし免疫を得るのが遅いようなら、薬草よりも効果の大きい医薬品を使う。これなら、最悪の事態にはならないはずさ。

 

『よいのですか? 医薬品はたった3つしかありません。薬草だって、けっして充分な数はないでしょう』

 

 だとしても、今使わずにいつ使うのさ。

 それに、薬草なら遠くないうちに数がそろうアテがある。

 今は冬だから成長が止まってるけど、畑にはヒールルートが植えてあるんだ。また春になれば、まとまった量が収穫できるだろう。

 

「おじさーん。ヒールルートって、畑に植えてある草のことー?」  

 

 カサバルです。

 

 はい、その草のことですけど?

 

「なんか、すっごいシオシオになってるよー?」

 

 へ?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 なんか、俺のヒールルートが枯れかかってるように見える。

 

 目の錯覚かな? よし、錯覚だな。

 

『現実逃避はやめなさい。枯病にかかりましたね』

「残念ですけど、全部刈るしかないですぅ」

 

 ……ねえ、レモン。

 

 左手、いる?

 

「いるに決まってるであります!?」

 

 

 

 

 

「さよーならー。また遊ぼーねー」

 

 

 

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 さようなら。

 知らない人に声をかけられても、ついていっちゃダメですよー!

 

「あぅ。これで、2人目のテナントさんも離れて行っちゃうですぅ」

 

 うーん。なかなか仲間になってくれないな。

 ネオ・サラゴサ町も、それなりに環境を整えたんだけど。

 

『彼女たちは元々、この危険な惑星を1人で旅する変わり者です。よほどの魅力を見出さない限り、派閥に加わりはしないでしょう』

 

 もっと、充実した拠点が必要か。しかし、ネオ・サラゴサ町をそこまで発展させるのに、どれだけかかるかな。建築係のレモンは療養中だし。

 なんともうまくいかない。

 

「ヨットさん、また来てくれますかね。せっかく仲良くなったのに……」

 

 バフィ。人生、出会いがあれば別れがあるんだ。

 

 きっとまた会えるよ。あの人、なんか死ぬところが想像できないし。

 

「分かったですぅ。その日まで、バフィもがんばるですぅ」

 

 ふふふ。なんだか、俺も元気が出てきたな。

 ネガティブになってたけど、地道にやっていきますか。

 

『おや?』

 

 どうしたの、アイちゃん。

 

『こちらに近づいてくる生命反応が1つあります。キャラバンでも襲撃でもないようですが』

「ひょっとして、テナントさんかもしれないですぅ」

 

 いくらなんでも、早すぎない?

 さっきヨットさんが出て行ったばかりなのに。まあ、誰も来ないよりはいいんだけど。

 

 さて、今度はどんな人が来たのかな。

 

 ……。

 

 …………。

 

 って、アレ?

 

 

 

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「ただいまー」

 

 さっき出て行ったばかりだろ!? 




3時間でユーターンしてきた時はリアルで「なんで?」って声が出た。


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5501年・冬 「危機と恋はいつでもハリケーン」

・宇宙歴5501年 冬

 

 

『本部へ報告。旅に出たテナントと3時間ぶりの再会を果たした全裸セラピストたちは、未だに五体満足で生存しています』

 

 イヤァアアアア!

 

『食料も、現状では充分な量をキープしています。虫からゼリーを盗んでいることに加え、オオカミなどが捕食した動物の食べ残しを、チマチマ集めて食肉にしているからです。完全にやっていることがハイエナですね』

 

 助けてー!

 

『ちなみに悲鳴が聞こえるのは、自分がオオカミに追われているからですね。きっと天罰でしょう』

 

 ヘブッ!?

 

『あ、転びました』

 

 

 

 どうも。

 

 たった今、命がけのレースを逃げ切り勝ちしました。

 背中にのしかかられて首をベロンチョされた時は、もうダメかと思ったよね。

 

 カサバルです。

 

『どんなミラクルを起こしたら、その状況から生還できたのですか、アナタ』

 

 がんばったんです。

 

「バルバルばっかり、ワンちゃんと遊んでずるいー」

 

 バルバルとは、ひょっとして俺のことでしょうか。

 

 ヨットさん、俺はカサバルだって言ってるでしょ。今さらですけど、なんで3時間で帰って来たの?

 

「歩いてたらお腹すいたー」

 

 あ、そう。

 

『経緯はどうあれ、オオカミに襲われた結果は無傷での逃走でした。外宇宙開拓プロジェクト内でのオッズは8.6倍です。的中させたスタッフの方は、おめでとうございます』

 

 うーん、平然と人の命でギャンブルしてる。

 

『……惜しい。腕の一本ぐらい、いけると思ったのですが。ワタシの計算が狂うとは』

 

 アイちゃんも賭けてたの!?

 

『いえ、まだ負けていません。次は2倍賭ければ取り返せます』

 

 あら、ヤダ。この人工知能、ギャンブラーとして破滅的な思考をしているわ。

 そもそも何をベットしてたの?

 

 それにしても、最近はちょっと外に出るとオオカミが襲ってくる。おかげで、全然屋外での作業が進まない。

 

「冬になって獲物が少なくなり、肉食動物が飢えているのでありますな」

 

 ムムム。

 

「いっそのこと、オオカミさんと戦うのはどうですぅ?」 

 

 悩みどころだなぁ。

 今の俺たちの医療環境だと、かすり傷1つでもバカにできない。この前も感染症で大騒ぎになったし。

 

 まぁ、とりあえずは様子見で大丈夫でしょう。いい機会だし、拠点でのんびりリフレッシュしよう。

 

『残念ですが、それは無理です』

 

 へ?

 

『北から、武装した人工種族が近づいてきています。襲撃です』

 

 

 

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 しゅ、襲撃者が2人もいる……! 今までは単独で来てたのに。 

 

『当然でしょう。アナタたちが大きな集団になるほど、向こうだって相応の戦力を出してきます』 

 

 これまでと同じようにはいかないというワケか。

  

 ど、どうしよう。敵は様子見しているし、いっそ先制攻撃をしかけるか?

 

「お待ちください、隊長。あの種族は足が速く、接近されて乱戦になる可能性があります。ここは拠点に誘い込むべきかと」

「でも、そうしたら発電機とかの設備を壊されちゃうかもしれないですぅ」

 

 ウググ。どうするべきなんだ。

 

『フッフッフ、悩んでいますね。これまでも多くの実験体たちが、激しさを増す襲撃に屈してきました。アナタたちがどのように対応するのか、これは良いデータが得られそうです』

 

 おのれ。電子音声のくせに、なんて邪悪な声を出すんだ。

 

 …………あれ?

 

『さあ、全力を絞って生き延びなさい。アナタたちの奮闘から得られるデータが、外宇宙開拓の礎を築き上げるのです』

 

 あの、アイちゃん。盛り上がってるとこ悪いんだけど。

 

 

 

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 なんか、襲撃者がオオカミに襲われて、いつの間にか全滅してるんだけど。

 

『……』

 

 なんか言えよ。

 

 

 

 

 

 えっほ、えっほ。

 

 ふぅ。しかたないことだけど、死体を運ぶのは気が滅入るな。

 

『わざわざ埋葬しなくても、襲撃者の死体など野ざらしでいいでしょうに』

 

 でも、それはそれで、気分がよくないんだよな。

 結果としてジャマなオオカミも駆除できたし。せめて墓ぐらいは作ろう。

 

『相変わらず、お人よしですね。損しますよ』

 

 ほっといてよ。

 

 ん? 見慣れない動物がいる。

 

「メー」

 

 あれは、ヤギ? ちょっと違う気がするけど。

 

『ヤギ属のアイベックスですね』

 

 初めて聞く名前だけど、RimWorld固有の動物なの?

 

『違います。元は開拓時代に連れてこられた個体が野生化したものです。中央政府の管理下では絶滅してしまいましたが』

 

 じゃあ、こいつも元は俺と同郷なのか。そう考えると、親しみがわくな。

 

 あ、こっちに近寄ってくる。人懐っこいのかな?

 

『ただし、RimWorldの動物にはある共通点がありまして』

 

 ほーら、おいでー。

 

『不定期に暴走を起こし、人間を執拗に追い回す殺人マシーンとなります。まあ、そこまで頻繁に発生する現象ではありませんので、警戒するほどではありませんが』

 

 

 

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『あっ』

 

 

 

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 ホゲー!?

 

 

 

 

 

 死ぬかと思った。

 

『奇跡的なタイミングでしたね』

 

 どうして、この星の生物は殺意マシマシなの?

 

『あれは一時的なものです。ある程度の時間が過ぎれば、おとなしくなります。原因は調査中ですが、開拓時代の遺物であるテレパシー発生装置が暴走しているというのが、有力な説です』

 

 怖い。それって、人間には影響ないんだよね?

 

『さすがに殺人衝動は起こしません。ただ、心情の低下や上昇など、感情面に影響を与えます。それに』

 

 それに?

 

『RimWorldにおいては、かなり独特な現象を引き起こします。例えば──』

「あ、バルバルー。傷なおったー?」

 

 カサバルです。

 

 だいぶよくなりましたよ、ヨットさん。今は拠点の掃除中ですか?

 

「そーだよー。泊めてもらってるおれいー」

 

 ありがとうございます。

 

『寒さに強い彼女の体質は、ツンドラにピッタリですね』

 

 うん。中身幼女なのが分かった時は心配だったけど、バフィたちとも仲がいいし、雑用してくれるだけで大助かりだ。

 できれば、星くずサバイバーズに加入してほ、し、……イ?

 

『どうしたのです。脈拍が急上昇していますよ』

 

 お、おかしいな。なんか、突然ヨットさんがキラキラして見える。

 

『……は?』

 

 最初に見た時は、スライムみたいで驚いたけど。なんか、その不定形のボディが、逆にいい?

 アッ、ちょっと彼女を視界に入れただけでアッ、すごいアッ胸がときめいてアッ。

 

『ビクビクするな気持ち悪い。……まさか、コレは』

 

 あの、ヨットさん。

 

「なーにー?」

 

 ヨットさんの声、聴いてるだけで甘い気分になれます。恋人になりましょう。

 

「やだー」

 

 

 

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「そーいうの、よく分かんなーい。じゃーねー」

 

 ……。 

 

 …………はッ!

 

 なんか、俺、おかしかった!? 

 

『はい、いつも以上に』

 

 ど、どうして急にあんなことを? か、身体が勝手に告白を!?

 

『先ほど言いかけた、テレパシーの影響です。近くにいる異性に急激な恋愛感情を錯覚し、年齢が親子ほど離れていようが、相手にパートナーがいようが、見境なしに求愛しまくります』

 

 何その迷惑現象!?

 

『ふられて心情は悪化し、人間関係もギクシャクします。時によっては、派閥を内部から崩壊させてしまうこともあるとか』

 

 冗談だと言ってくれ。

 

 

 

 

 

 ふぅ。とうとう、冬が終わるな。

 

 多少のトラブルがあったけれど、1年目と比べたらかなりマシだったよね。

 

「去年みたいに、凍りかけながら釣りをしなくてすんだですぅ。平和だったですぅ」

 

 だよね、バフィ。もうサバイバルマスターを名乗っても許されるかな。

 

『1年目が、あまりにグダグダだっただけでしょう』

 

 しかし、まだ問題が山積みなのも事実。

 

 というわけで、第2回ネオ・サラゴサ会議を始めます。

 今回のテーマは、「来年はこんなことしたいな、できたらいいな」というものです。アイデアのある人は、手を上げてから発言してください。

 

「はいですぅ!」

 

 元気があって、いいですねぇ。バフィ、どうぞ。

 

「バフィ、さっき“植樹”の研究を終わらせたですぅ。この技術を使ってほしいですぅ」

 

 とうとうできたのか! これでコメやヒールルートみたいに、自分たちで木を植えることができる。

 タケである程度は代用できるけど、限界があるからな。やっぱり木材は必要だ。

 

「ただ、植えるのにもだいぶスキルが必要ですから、カサバルさんにがんばってもらうしかないですぅ」

『栽培スキルだけはプロ並みですからね。栽培だけは』

 

 アイちゃん、シャラップ。

 食料優先で、空いた時間に植樹をしていこうか。

 

 他に意見がある人は?

 

「はいであります!」

  

 では、レモン。

 

「もちろん、おふ」

 

 あ、お風呂以外でお願いします。

 

「……」

 

 そんなムスッとしないで。

 

「ヂュー。自分は建築担当として、より規模の大きい防壁が必要であると考えているであります」

 

 防壁か。たしかに必要だけど、そこまで手が回るかな。石材で作ろうと思ったら、かなりの労力が必要だ。

 

「見ていただきたい画像があります。アイちゃん殿、お願いするであります」

 

 

 

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 これは、ネオ・サラゴサ町?

 

「少し古いものでありますが、中央がネオ・サラゴサ町であります。ご覧のように、ここは周囲を岩山に囲まれており、非常に防衛に適した立地をしているのであります」

 

 ふむふむ。

 

「これを利用すれば、畑や発電機などの設備を囲える防壁でも、かなり石材を節約することもできるでありましょう」

 

 なるほど。それが完成すれば、防衛力は大きく上がるな。

 明日になったら、さっそく取りかかってもらおう。

 

 さて、次の人。

 

「はーい!」

 

 どうぞ、ゲストのヨットさん。

 

「眠くなってきたから、もうオネンネしていーい?」

 

 もうちょっと待って。

 

 さて、最後に俺のアイデアを発表しよう。

 実はレモンに頼んで、数日前に新しい部屋を作ってもらったんだ。

 

 

 

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「ベッドが置いてあるですぅ。何のための部屋ですぅ?」

「実は、自分も知らないのであります。隊長、どうするのでありますか?」 

 

 これは宿泊客用の部屋だよ。

 

『宿泊客、ですか? 宿屋でも始めるつもりですか』

 

 その通り!

 

 ネオ・サラゴサ町は交易路の途中にあり、けっこう人の往来が激しい。そこで、俺たちが安全に休憩できるスペースを提供し、見返りに宿泊料をもらう。

 さらに俺たちの真心を込めたオモテナシによって、星くずサバイバーズの評判は上昇。お金を稼ぎながら他の派閥と仲良くなれるという、一石二鳥の計画だ。

 

「不安ですぅ」

「不安であります」

『無理でしょう』

 

 ウソでしょ。自信満々のプレゼンが、ボロクソ言われてる。

 

『全裸の原人が経営してる宿屋なんて、成功するわけないでしょうに』

 

 やってみなきゃ分からないだろ! 絶対に繁盛させてやる!

 

『どうなることやら。とにかく、活動方針は定まったようですね』

「来年はいい年になるといいですぅ」

 

 そうだね。

 

 思い返せば今年も波瀾万丈だった。いきなり知らない土地に放り出されて、一から全部やり直したんだもんなぁ。

 虫さんに殺されかけたり、怪奇現象に巻き込まれて発狂したり。

 

『失恋も経験しましたね』

 

 あ、あれはノーカンだから。

 

「隊長、そろそろ年が明けるのであります」

 

 よーし、みんな整列。アイちゃん、写真お願い。

 

『ワタシをカメラマン扱いしないでください。……まあ、一枚だけならよいでしょう』

 

 はい、チーズ。

 

 

・宇宙歴5502年 春

 

 

 

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次回は、成長した入植者たちのスキルを紹介します。


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「人工知能による、本部へのレポート No21」

 このレポートを読んでおられる、スタッフの皆様。

 

 本日、我々の外宇宙開拓プロジェクトの最終実験が、とうとう3年目に突入しました。

 RimWorld全域に降下させた実験体たちですが、多くが早々に命を落としております。やはり、外宇宙に我々の新天地を求めるという目的は、困難であることが再確認できました。

 

 しかし、未だにサバイバルを継続している者もいます。

 

 今回の主題は、現在プロジェクト内で最も注目を集めている実験体No4、通称“全裸セラピスト”です。

 そして、彼の作った派閥である“星くずサバイバーズ”。このレポートは、彼らの現状やステータスの成長に主眼を置いたものです。

 

 可能な限り――可能な限り、主観を取り除き、客観的に報告いたします。

 

 

 

 

 

 星くずサバイバーズは、メンバー3名。

 ネオ・サラゴサ町という、命名者の壊滅的なネーミングセンスゆえに、悲しみを背負って誕生した拠点で活動しています。

 

 

 

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 まずは、最も新しいメンバーであるレモンをご紹介しましょう。

 

 ラットキン種族の少女で、昨年の秋に奴隷として買われました。“いくじなし”という特性のためにストレス耐性が低く、メンタルに問題を抱えています。

 

 加入してから日は浅いですが、ご覧のように建築スキルが大きく伸びています。生来の建築への情熱に加えて、工程の多い石材による建築を行っていたためです。

 建築スキルは、すでに全裸セラピストを追い抜いています。彼女の存在は、拠点の拡張を目指す星くずサバイバーズとして大きな追い風となるでしょう。

 

 他にも、その戦闘スキルも素晴らしいです。

 特に格闘スキルは、加入時点でプロ並みです。これまでは戦闘面において不安しかなかった星くずサバイバーズですが、彼女が加わったことで、ある程度は短所を克服できました。

 

 ただ、彼女の活躍だけで今後の襲撃をしのぎ切れるとは断言できません。

 

 元々、ラットキンは戦闘が苦手な種族です。加えて12歳の少女。

 前線に出すには、ためらわれます。格闘スキルを活かせる時が来るのか、疑問の余地が残ります。

 

 

 

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 続けてご紹介するのは、クーリンのバフィ。2人目のメンバーで、まだ砂漠に拠点を置いていた頃から活動しています。

 

 特性の中では、“ドラッグ中毒者”の文字が燦然と輝いていますね。慢性的に中毒症状によって心情を害しており、メンタルに問題を抱えています。 

 

 加入時と比べると、知力スキルが著しく成長しています。

 情熱を持っていないにも関わらず、消去法で研究担当をさせられているためですね。彼女も研究にはウンザリしているようですが、解放される日は来るのでしょうか。

 

 フレンチブルドッグなどの調教も行っているため、地味に動物スキルも上がっています。

 家畜たちは星くずサバイバーズにとって貴重な戦力です。間接的に、彼女もかなり戦闘面で派閥に貢献していますね。彼女の活躍が、危機を救う場面もあるかもしれません。

 

 他には、格闘と社交、芸術の分野に素質が見られます。

 特に芸術のセンスには光るものがあるようです。この分野に専念すれば、高額でトレードされる芸術品も作成できるようになることでしょう。

 が、現状ではそのチャンスに恵まれそうにありません。いろいろな意味で不憫な少女ですね。

 

 

 

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 そしてこの生物は、皆さまご存じの全裸セラピストです。

 

 救いようのない“いくじなし”のために、ストレス耐性が絶望的に低いです。メンタルに爆弾を抱えています。

 そのうえ、ワタ……我々の崇高なプロジェクトにも悪態をつくような野蛮人の分際で、衣服を着用できないという贅沢すぎる不満を抱いております。

 メンタルブレイクの回数は、この1年で4回。堂々のトップです。

 

 2年前は戦闘能力など皆無で、襲撃の際には、耳障りな悲鳴を上げながら逃げ惑う醜態をさらしていました。

 ですが今では、ほんのりと射撃と格闘のスキルが伸びています。

 

 度重なる襲撃を生き延びた成果です。おかげで襲撃を受けても、耳障りな悲鳴を上げながら醜い悪あがきができるようになりました。

 

 お気づきのことと思いますが、全裸セラピストの格闘スキルは、星くずサバイバーズでワーストです。

 

 バフィにも劣っていますし、レモンに至っては比べるのがおこがましいほどです。正面から殴り合えば、まず勝てません。

 そんなミジンコのような戦闘力を自分で把握できていないのか、奇跡的に襲撃を退けた際にはたいてい「最強」を名乗って有頂天になるという、残念な習性があります。

 

 その他、建築や調理、医術などのスキルが向上しております。

 現時点では、完全に器用貧乏なステータスへと向かっています。プロフェッショナルが来れば、真っ先にいらない子扱いされる不遇なポジションですね。

 

 注目していただきたいのが、社交スキルです。

 

 何を血迷ったのか、この実験体はセラピストを自称してはばかりません。

 たしかに、スキルは星くずサバイバーズでバフィと並びトップです。ですが、ジャンキーの少女と同程度のコミュニケーション能力は、見る者の涙と失笑を誘います。

 

 おまけに、全裸セラピストは星くずサバイバーズで唯一、社交に情熱を持っておりません。

 仮に社交スキルが必要な時が来ても、交渉役を任せるメリットなど存在しません。バフィやレモンなら、軽々とこの野蛮人の社交スキルを追い抜くでしょう。

 

 さて、以上のようにサバイバルにこの上なく不向きな全裸セラピストですが、長所もあります。

 

 それはやはり、栽培スキルです。

 

 サバイバル開始時から優れたスキルを持っていましたが、“庭師の才能”という特性のために、植物を扱わせれば他の追随を許しません。

 植物に対して大きな情熱を持つ全裸セラピストは、全く屋外での活動に向かない格好で拠点を飛び出しては、ニタニタと身の毛のよだつような笑顔を浮かべながら狂ったように栽培活動に従事します。

 

 “植物性愛(デンドロフィリア)”かもしれません。子供たちへの悪影響が心配ですね。

 

 彼の異常性癖はともかく、砂漠やツンドラといった環境で、インセクトゼリーを除く食料のほぼ100パーセントを生産している点は事実です。

 サバイバル生活に少なくない貢献をしていることは、認めてもよいでしょう。

 

 

 

 

 

 以上で、実験体No4についての、限りなく私情を排除した公平なレポートを終えます。

 

 これまでの彼らのサバイバルを見ていた皆様は、どのような結末を想像していらっしゃるのでしょうか。

 絶望的な災厄を前にして、力及ばずに倒れてしまうのでしょうか。それとも、ほんのささいなアクシデントをきっかけに、ポックリ命を落とすのか。

 

 

 ――あるいは?

 

 

 未来は不確定です。何一つ、たしかなことはありません。

 

 何が起きてもおかしくない。

 それだけが、このRimWorld(辺境の世界)における真理なのですから。



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5502年・春 「おいでよネオ・サラゴサ町」

・宇宙歴5502年 春

 

 

 どうも。

 

 月日が流れるのは、早いものですね。

 訳も分からず1人用のポッドで砂漠に降下したのは、昨日のことのように感じるのに。RimWorldでの生活も3年目に突入し、今はツンドラで生き延びています。

 

 カサバルです。

 

 あ、ところでアイちゃん。ちょっと確認しときたいんだけど。

 

『なんでしょう』

 

 いやぁ。

 去年みたいにさ、新年迎えたとたんに拉致されて別の場所で目覚めるなんてこと……ないよね?

 

『別の場所。例えば、動植物が豊かで非常に暮らしやすい温帯森林などですか』

 

 あ、けっこう魅力的。

 

『ご安心を。アレは例外的な措置でした。アナタたちには、ずっとこの極寒のツンドラで生活してもらいます』

 

 やったね、チクショー。

 

 いや、いいんだけどね? 苦労して、けっこう拠点もマトモになってきたし。

 

『マトモ?』

 

 そんなことより、「ネオ・サラゴサ町ホテル化計画」にとりかからないと。

 

 安全に休憩できるスペースを提供することで、周辺の派閥に星くずサバイバーズをアピールしていきたい。

 

 となると、客用のベッドが1つじゃ足りないよなぁ。木材は少ないけど、増やしてみるか?

 幸い、バフィが植樹の研究をカンカンカンカンカンてくれたから、木材の供きゅゴリゴリゴリゴリゴリできる見通しだからガゴゴォオオオン

 

 うるっさいな! 何の音だよ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「隊長! 現在、防壁を建築中であります」

 

 なんだ、建築現場の音か。なら、しかたないね。

 

「とりあえず、拠点の西に通じている洞窟をふさいでいるのであります。これで西側から襲撃が来ても、時間が稼げるのであります」

 

 ふむふむ。

 

「建材には石灰岩を採用しております。花崗岩には劣るものの、なかなかの耐久性なのであります」

 

 はえー。すごい。

 

 俺も時間があれば石材を集めておくから。その調子で頼んだよ。

 

「了解であります」

 

 さて。

 

 建築はレモンに任せていれば安心だな。

 

 もう少しで植物が育つまで気温も上がるだろう。だから、俺は食料調達をがんばらないとな。

 

 まずは、コメの栽培を優先するのは確定だよね。去年の反省を踏まえると、治療用のヒールルートを増産すミョンミョンミョンミョンミョン余裕があればデロデロデロデロデロジャガイモも植えボッガァアアアアアン

 

 うるっさいな! 今度は拠点の中から!?

 

「あ、カサバルさん。今、ウサイヌさんたちのご飯を作ってるですぅ」

 

 なんだ、調理現場の音か。なら、しかたないn

 

 チョット待った。今の、料理で出るような音だったっけ!?

 

「今までは、カサバルさんにペットフードを作ってもらっていたですぅ。でも、バフィもこの子たちに作ってあげたいですぅ」

 

 ああ、そうなの。

 

「クゥーン……」

「……ワフ」

 

 俺の、気のせいなんだろうか。

 

 ウサイヌさんたちから、何かを訴えるような眼差しを向けられている。「私たち、生きるか死ぬかの瀬戸際なんです」みたいな。

 

 …………。

 

「あ、少しだけ材料が余ったから、普通のお料理もしたですぅ。良かったら、カサバルさんに味み」

 

 気のせいだったな。じゃ、俺は作業に戻るから。

 

「ガルッ!?」

「ワッフ!?」

 

 サヨナラ!

 

「いってらっしゃいですぅ」

 

 さて、お仕事がんばろっと。

 

『秒で家畜たちを見捨てましたね』

 

 見捨ててない。

 

 ……あの、ところでバフィの調理スキルって。

 

『“無謀”レベルではない、とだけ申しておきましょう』

 

 ……察した。

 

 

 

 

 

 ムムム。

 

『どうしたのですか、渋い顔をして。いつも以上に顔面が汚いです』

 

 サラッと暴言を吐かれたような気がするけど、そこは置いといて。

 

 とうとうインセクトゼリー以外の食料がなくなっちゃって。

 できればゼリーには手をつけずに、春になってから売ろうと思ってたんだけどな。

 

『現状、数少ない金策ですからね』

 

 そうなんだよ。売った金を、医薬品とか武器の購入に使いたかったのに。

 

 まいったな。冬の初めにヨットさんが来て、消費する食料の計算が狂った。 

 

『責任転換はやめなさい。アナタだって、メンタルブレイクして、コメを貪り食っていたでしょうが』

 

 スミマセンでした。

 

 というか、実は今も精神状態がやばいんだよな。

 何回もメンタルブレイクしてきて、ボンヤリと分かるようになったんだよね。そろそろクるな、って。

 

『ドヤ顔で語ることではありません。何回でも確認しますけど、アナタは本当にセラピストだったんですよね? 自分をそうだと思い込んでる患者ではなく』

 

 今でもセラピストですけど、何か?

 

『まあ実際、最近のアナタの心情は悪化する一方です。いつ発狂してもおかしくないですね』

 

 えー。そんなにメンタルやられること、何かあったっけ?

 

『ヨットに繰り返し告白しては、玉砕しているでしょう。女性に袖にされたことで、メンタルがズタボロです』

 

 ソレが原因!?

 

『完全に脈なしなのですから、いい加減あきらめなさい。未練がましい』

 

 あ、あれは大昔のヘンテコな機械が原因なんでしょ。俺の意志ってわけじゃないし。

 何より、精神年齢が幼女なスライム女性に、本気で告白するわけないじゃん。

 

「見栄を張らずに、本性をさらけ出しなさい。アナタ、染色体がXXの生命体であれば見境なしにいけるのでしょう?」

 

 俺をどんなケダモノだと思ってるんだ。

 油断せずに気をシッカリもっていれば、もう告白なんてしない!

 

「あ、バルバルー」

 

 カサバルです。

 

 どうしたんですか、ヨットさん。

 

「えっとねー。野イチゴ見つけたんだー。あれ食べたーい」

 

 それはありがたい。食料採取なら、俺の仕事だな。

 

 ヨットさんは、これから拠点に戻るんですか。

 

「そーだよー。ねおさらごさ町のお掃除するのー」

 

 がんばって掃除するヨットさんも、カワイイですよね。恋人になりましょう。

 

「やだー」 

 

 

 

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 …………。

 

『…………』

 

 油断せずに気をシッカリもっていれば、もう告白なんてしない!

 

『勝手にテイク2にもっていかないでください』

 

 

 

 

 

「隊長! 客室のベッドを増やしたのであります」

 

 ん。ありがと、レモン。

 

 俺も手伝って、不衛生な土の床にはタタミを敷き詰めた。これなら、最低限の休憩を取ってもらえるだろう。食事をする時は、俺たちのテーブルを兼用してもらう。

 

「どうせ滞在してもらうなら、商売もしたいでありますな。特定のスペースに、自分たちには不要な物資を集めて、客人に購入してもらうのであります」

 

 おお。

 

 今は無理だけど、なんだかワクワクしてくる。

 

『あとは、こんなボロ小屋で我慢してくれる忍耐の持ち主を待つだけですね』

 

 ケンカ売ってるのか。泣くぞ。

 

「ねーねー、バルバルー」

 

 カサバルです。

 

「……キャスバル?」

 

 惜しい! けど、その名前は、なんか不吉な感じがする。

 

「それよりさー、おっきい女の人が2人、近くにいるよー?」

 

 

 

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 あれは、前にも拠点にやって来た大きいヘラジカの人!

 

『以前、アナタが無遠慮に胸部をガン見していた種族ですね』

 

 あれは反省してるから。

 

 それにしても、3メートル近い巨体は迫力があるな。

 片方はびっこを引いている。足を怪我しているみたいだ。

 

「どうやら、襲撃にあったみたいでありますな。キャラバンの本体から、はぐれてしまっているのでしょう」

 

 それは見過ごせない。

 

 よーし。できるだけ、友好的なスマイルを浮かべて。

 

 こーんにーちわー!

 

「あら、また蛮族が襲ってきたのね」

「手負いとはいえ、舐められたものね。殺すわ」

 

 違いますけど!?

 

 俺は、星くずサバイバーズの代表者です。ノットバーバリアン。

 

「そう言えば、そんな名前の派閥がここら辺にできたらしいわね」

 

 その通り。見たところ、お連れのお方は足をくじいてお困りのご様子。

 

 俺たちは、過酷な旅路を歩む皆さんを、心より応援する者です。俺たちの拠点、ネオ・サラゴサ町にご招待します。リーズナブルな癒しの空間、ヒーリングスッペースが今ならアナタたちのモノに。

 

 足が治るまで、俺たちの拠点でごゆっくりされては?

 

「…………うさんくさい」

 

 よし! 感触はバッチリ!

 

『医者に行きなさい。目と耳、もしくは頭の』

 

 ささ、どーぞコチラへ! 絶対に後悔はさせませんよ!

 

「……どうする?」

「いいんじゃない? だましていたとしても大丈夫よ。こんなヒョロい男なら、片足使えなくても余裕でポッキリやれるし」

 

 ポッキリって何を!?

 

「背骨を180度ひん曲げて、後頭部とアキレス腱をピッタリくっつくようにさせるわ」

 

 嘘は言ってないですよ。そこは命を懸けて断言します。

 

 あ。でも、何を癒しとするかは個人の感性だから、そこは保証できないかも。

 実際に行ってみて、「なんか話と違うな」と思うことがあってもしかたない。だって、フィーリングの問題だもの。ね?

 

「急にすごく予防線を張りだすわね」

「怪しいじゃない。やっぱ、ここでポッキリいっとく?」

 

 ダメぇ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ふぅ。どうなることかと思ったけど、無事に拠点へ案内できたぞ。

 最悪、一生ブリッジからの四足歩行で生活するハメになるとこだった。

 

『その前に死にます』

 

 で、どうですか。

 

 癒されてますか? 癒されてますよね? 癒されていると言ってください、何でもしますから。

 

「そこまで必死にならなくても、何もしないわよ」

「野宿せずに安眠できるだけ、天国だわ」

 

 セーフ!

 

「でも、アンタたちが本格的に客を呼ぶのなら、物足りないわね」

「家具を置くとか、娯楽を用意しないと。さすがに厳しいと思うわよ」

 

 まー、そこは今後の課題ということで。

 スタートしたばっかりなんで、これから設備を増やしていきますよ。

 

「ところで、宿泊料金なんだけど」

 

 フッフッフ。

 

 なんと、ベッド1つにつき破格の20シルバーです。良心的でしょ?

 

「それなんだけど、アタシたちも持ち合わせが少なくて。半額にならないかしら?」

 

 いやいや。

 これだけの設備を用意するのにも、かなり物資と労力を使ったんですよ。これより安くしたら、投資した分が回収できないし。

 

「ねぇ、10シルバーでいいでしょ。オ・ネ・ガ・イ」

 

 ちょ、距離が近い! そんなに迫られても、ダメなものダメで……。

 

「はぁい、ギュー」

 

 はんがくおっけーでえす。

 

 アッ、そんなハグされたらアッ、巨大ボディーにふさわしいアッ膨らみが俺の顔にアッ!

 

 ……。

 

 …………。

 

 違う、バキバキの腹筋だコレ!

 

 身長差がデカすぎて、つま先立ちしても届かない。

 クソッ、俺があと50センチ高ければ、男の夢に頭が届いたのに! ウワーン、あぁんまりだ―!

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うーん、体力全快ね」

「おかげで助かったわ。お礼に、できるだけこの派閥の噂は広めてあげるから。またお世話になったらよろしくね」

 

 さよーならー。

 

 ぜひまたいらしてくださいね。ウヘ、ウヘヘ。

 

『かろうじて好印象を与えられましたね』

 

 大成功!

 

「コーン……」

「チュー……」   

 

 なんか、バフィとレモンの視線が冷たいけど。

 このツンドラの空気よりも、なお寒々としたものを感じる。反抗期かな?

 

『純粋な侮蔑の視線です。それよりも、彼女らの派閥との関係に変化が生じています』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『わずかながら、友好度を稼げたようですね。まだ先になるでしょうが、この調子で関係が深まれば、同盟を結ぶこともできるかもしれません』

 

 よし。星くずサバイバーズ存続のためにも、周囲の派閥との関係は重要だ。

 

 もっともっと宿泊施設を拡張して、お客を呼び込むぞ。RimWorldに広がれ、友愛の輪!

 

 

 

 ……今度は竹馬でも用意しとこう。

 

『欲望丸出しで接客するのはやめなさい』



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5502年・春 「計画的なサバイバルを」

・宇宙歴5502年 春

 

 

 どうも。

 

 平素は格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。

 

 コチラは、つい先日よりツンドラに誕生した桃源郷。生き馬の目を抜くRimWorldの旅路において、憩いの時間をもたらすユートピア。

 

 ホテル・ネオ・サラゴサでございます。

 

 今も4名のお客様にご利用いただいております。

 それではお客様、ご感想をどうぞ。

 

「旅の休憩所として、重宝しているわ。え、ホテル? あばら家の間違いでしょ」

「ベッドの数が2つだけって冗談でしょ。床で寝るのは嫌だなぁ。野宿よりはマシだけどさ」

「明かり、ない。真っ暗。……不気味」

「シンプルに名前がダサい」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ……うーむ、微妙。

 一度に4人もお客さんが来てしまったせいで、さすがのホテル・ネオ・サラゴサもキャパオーバーしてしまった。

 

『もうホテルやめなさい』

 

 始めたばっかりなのに。

 

「チュー。とりあえずは、旅の休憩には使えてもらっているのであります。印象は上りも下がりもしていないのでありますな」

 

 いつか、来た人をビックリさせるほどリッチな施設を造りたいなぁ。

 

「まずは自分たちの生活を向上させるのが先であります」

 

 アッハイ。

 

 

 

 と、いうわけで。

 気温も上がったので、楽しい楽しい畑仕事の時間です。

 

「ヂュッ! 兵糧はサバイバルの要。この自分も手伝って、速やかに終わらせるのであります」

 

 自信満々だけど、レモンって栽培も上手なの?

 

「何を隠そう、自分たちラットキンは農業が大得意なのであります。自分がいれば百人力であります」

 

 なんて頼もしいんだ。

 

『それで、どうするのです。今年も主食はコメですか』

 

 うん。一番安定してるし。

 

 ただし、俺たち星くずサバイバーズは新メンバーを募集している真っ最中。これから増えていく人口を養うためにも、食料増産は欠かせない。

 なんだかんだ、この冬もけっこうギリギリだったし。

 

 なので、今年はおコメに加えてトウモロコシを新たに植えていきます。

 

「トウモロコシ? てっきりジャガイモだと思っていたのであります」

 

 フッフッフ。では、なぜトウモロコシをチョイスしたのか、教えてあげよう!

 

『肥えた土があるからでしょう。ジャガイモは痩せた土地でも育ちますが、反面、養分の豊富な土で育ててもメリットが少ないのです。なので、成長が遅くても収穫量の多いトウモロコシを選んだのですね』

 

 …………ぜんぶ説明された。 

 

『かっこつけてもったいぶるからです』

「とにかく植えていくのであります」

 

 あ、うん。

 

 んじゃ、ホイホイホイっと。

 

「チュッ!?」

 

 どったの、レモン。

 

「いやいやいや! なんでありますか、今の手の動きは。一瞬でコメが植えられているのでありますッ」

 

 何って、普通におコメを植えていっただけだけど。ホラ、こうやって。

 

「チュー……。明らかに異常なスピードで、畑が完成していくのであります」

『まあ、本当に唯一の長所ですから。これぐらいはできなければ、ただやかましいだけの露出狂です』

「隊長は、ただの変態ではなかったのでありますな。栽培がすごく得意な変態であります」

 

 聞こえてるぞ!

 

 

 

 

 

 や、やったですぅ!

 

『とうとう、あの研究が完了したのですね』

 

 そうですぅ。バフィが年末からずっと取り組んでいた研究。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 精密工作機械の研究が終わったですぅ!

 

『おめでとうございます、バフィ。以前と比べて、研究の進む速度が段違いですよ。研究スキルが上昇している証拠です』

 

 本当は研究以外のことをしたいですけど、がんばった成果が出るのは嬉しいですぅ。

 このテクノロジーで、バフィたちの生活も良くなりますよね?

 

『今までよりも高度な機器の作成が可能になります。ただ、物資も技術者もいない現状では、宝の持ち腐れですが』

 

 えッ。

 

『しかし、いつかは役に立ちますよ。精密工作機械は、様々なテクノロジーの研究に不可欠なものです』

 

 えへへー。カサバルさんやレモンちゃんも、きっと喜んでくれるですぅ。

 早く、2人とも畑から帰ってこないですかねぇ。

 

「バ、バフィッ」

 

 あ、カサバルさん。

 ちょうどよかったですぅ。聞いてください、実は研究が終わったですぅ。

 

「ごめん! 今はそれどころじゃないんだ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「いつの間にか、虫さんたちの巣が1つ壊滅してるんだよぉおおおお!」

「春になったとはいえ、まだ動物が少ないでありますからな。飢餓状態の肉食動物に襲われたようであります」

 

 えぇ……。

 

「巣が壊れる前に、急いでインセクトゼリーを拾ってこないとッ。報告があったら、レモンに言っといて!」

 

 ……。

 

 …………こぉーん。

 

『色々と、間が悪い少女ですね』

 

 

 

 

 

 この間は、ホントにゴメンね、バフィッ。

 俺も焦ってたからさ。バフィががんばってくれてたのは、ちゃんと知ってるから!

 

「謝らなくていいですぅ。悪気はなかったって、バフィ分かってるですぅ」

 

 ありがと、バフィ。また口をきいてくれなくなるかと思った。

 

「バフィも、もう14歳ですぅ。いつまでも子供じゃないんですぅ」

 

 いや、まだ子供だけども。

 

 しかし、もう14歳なのか。2年前は8歳だったのに、3倍ぐらいのスピードで歳を取っている。

 これって、いつかは俺より年上になっちゃうんじゃ。

 

『ご心配なく。14歳になったことで、労働適齢期を迎えました。成長の促進はストップしています』

 

 これからは普通に1年で1歳か。なら安心。

 それじゃ、俺は出かけてくるから。

 

「物資を集めるですぅ?」

 

 それもあるけど、ちょっと試したいことがあるんだ。

 

 

 

 そして来ました。拠点の南にある沼地です。

 

『いったい誰に説明しているのでしょうか』

 

 気分だよ、気分。

 

 実は、ここにもあるんだよね。肥えた土が。

 いよいよバフィの研究してくれた、植樹の技術のお披露目だ。とりあえず10本くらい、適度な距離を保ってマツの木を植えていく。

 そして植樹が終わったところで、余ったスペースにコレを投入だ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『おや、ケムルートですか』

 

 そうそう。

 タブレットのデータベースを流し読みしてたら見つけてさ。なんでも、成熟したケムルートからは、バイオ液化燃料なるものが採取できるそうで。

 

『しかし、今のアナタたちにとって、燃料なんて無用の長物でしょう』

 

 俺たちが使うんじゃなくて、キャラバンに売れたらいいなと思って。

 インセクトゼリーを定期的に生産してくれていた虫さんたちの巣も、もう最後の1つ。インセクトゼリーがなくなったら、現状、俺たちには売れるものがない。これは大きな問題だ。

 

『それで、バイオ液化燃料を商品にすると?』

 

 その通り。

 

 これが計画通りにいけば、もうモグモグされる心配なしにドバドバ儲けられるぞ。武器も医薬品も買い放題というワケですなぁ。

 んじゃ、スクスク育てよ、ケムルートちゃんたち。

 

『なぜでしょう。成功する気がしません』

 

 

 

 おーい、バフィ。ペットフードができたよ。

 

「ありがとうですぅ。ウサイヌさんにクロウサさん、ゴハンですよぉ」

「……ワフ」

「バ、バウゥ」

 

 なんだか、2頭とも元気がないね。

 

「この子たち、さっきまでヨットさんに追いかけられて逃げ回っていたですぅ」

 

 なるほど。あの人、全身がミントチョコだから。

 イヌにとってチョコはヤバイもんな。いや、ホントにイヌかどうか知らんけども。

 災難だったね、お前たち。

 

「グルルルルッ」

「ガルルルルッ」

 

 いい加減、俺になつけよ! メシ抜きにしてやろうか。

 

「バウバウバウ!」

「フシュルルル!」

 

 あ、ごめんなさい調子に乗ってました。だから「てめえをメシにしてもいいんだぞ」みたいな殺意は収めてください。 

 

「違うですぅ。なんだかこの子たち、様子がおかしいですぅ」

 

 そうなの? いったい、どうしたんだろう。

 

『さすがに動物は勘が鋭いですね。敵襲です』 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ム、敵襲か。

 

 

『おや、淡白な反応ですね』

 

 だって、1人だけだし。こっちは3人だぞ。コテンパンにしてやる。

 

「隊長、敵襲であります!」

 

 レモンも気づいたか。1人相手に焦らなくていいから、慎重にいこう。

 

「何を言っているのでありますか。北の敵は明らかに陽動であります」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「敵は分散し、南から本命が回り込んできているのであります!」

 

「あぅ、3人もいるですぅ……。バフィたち、勝てるでしょうか」

 

 フッフッフ。レモン、どうやら“アレ”を使う時が来たようだね。

 

「そのようでありますな、隊長」

 

「え? アレって、なんのことですぅ?」

 

 忘れたのかい、バフィ。

 

 ネオ・サラゴサ町の防衛力を上げるために、この春に俺とレモンが全力を尽くしてきたことを。

 

「まさか、防壁ですぅ!?」

 

 その通り!

 

 どれだけの敵が、どこからやって来ようとも関係ない。弓矢だろうと銃弾だろうと、その堅固な壁を貫くことはあり得ない。

 このRimWorldに存在する全ての危険から、俺たちを完璧に守ってくれる絶対の守護神。

 

 その名も、“ウォール・サラゴサ”!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ――というのが、いつかできる予定なんです。

 

 

 

「未完成ですぅ!?」

 

「チュー。今少しの時間と物資さえあればッ」

 

 あと一歩のところで、襲撃に間に合わなかった。無念だ。

 

「惜しかったみたいな空気出さないでください。あと一歩どころか、スッカスカですぅ!」

 

 防壁が足りない分は、俺たちのガッツで補うんだ。

 

『アナタたちの場合、そのガッツが最も不安なのですが』

 

 やかましい。

 

 さあ、みんな武器を取って。星くずサバイバーズ、出撃だ!




5時ごろに間違って最新話を投稿してしまい、削除しました。
プロローグから何も成長していない作者です。


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5502年・春 「迫りくる脅威」

・宇宙歴5502年 春

 

 

 全員、点呼!

 

「1ですぅ」

「2であります」

「さーん」

 

 よし。星くずサバイバーズ3人と援軍のヨットさん、集合。

 現在、ネオ・サラゴサ町に脅威が迫っている。敵の襲撃を撃退する作戦について、レモンから説明をお願いします。

 

「ハッ。敵は3人。これまでの襲撃と違い、南と北に分かれて侵攻しております」

 

 どうしよう。俺たちも2つに分かれる?

 

「いえ、自分たちはネオ・サラゴサ町で敵を待つのであります。なぜなら、各個撃破のチャンスだからであります」

 

 各個撃破。よく分からんけど、かっこいい言葉だ。

 

「北側には、すでに防壁を建築しておりますので、敵は迂回しなければいけません。進軍は大きく遅れるはずです」

 

 なるほど。敵の到着するタイミングがずれるのか。

 

「なので、自分たちは戦力を集中させるべきであります。南から襲ってくる2人の敵を速やかに撃退した後、態勢をたてなおして北から遅れて来る敵を攻撃。4対3ではなく、4対2と4対1の戦いとする。これが兵法であります」

 

 了解!

 

 みんな、分かったね。拠点にこもって襲撃者を待ち伏せするぞ。

 

「敵がきたらどう動くですぅ?」

 

 医者がいない俺たちは、できるだけ無傷で勝たないといけない。そのための作戦はレモンと一緒に考えてある。

 

 敵が来たらウサイヌさんとクロウサさんに足止めをさせて、バフィとレモンが援護射撃。敵がある程度ダメージを負ったら、俺とヨットさんが突撃してとどめをさす。

 

 ウサイヌさんたちには悪いけど、これが最も被害を抑えて勝つ戦法だ。

 

 みんな、目標は無傷での勝利。星くずサバイバーズとゲスト1名、作戦開始!

 

 

 

 

 

『と、作戦を考えるまではよかったのです。しかし、ほぼ素人の彼らが理想的に動けるはずもなく。案の定、ガバりました。

 獲物が拠点内にこもっていたため、敵は物資の略奪を優先。慌てて飛び出した全裸セラピストたちをスルーし、拠点の破壊にかかります』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『1人は足止めできましたが、片方を取り逃がします。そして、よりによって風車が攻撃されました。唯一の発電装置を守るために全裸セラピストとヨットが追って格闘戦をしかけます。結局、戦力が分散されていますね』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『そしてなんとか南からの敵を撃破。が、同時に北の敵が到着。動物たちを盾にすることもできず、そのまま殴り合いに移行しました。

 結論から述べますと、今回の襲撃はしりぞけたのですが──』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『全裸セラピストは全身がズタボロになった上、見事に感染症にかかりました。以上、見るに堪えないグダグダっぷりに、ダイジェストで報告いたしました』

 

 

 

 いしゃぁ、医者を呼んでください……。

 

『いません。自己治療でがんばるしかありませんね』 

 

 自己治療だと、手当の品質が落ちるんだよ……。貴重な医薬品を使っても、間に合うかどうか。

 

『しっかりしなさい。ワタシとしても、アナタにはこのようなことで死んでほしくはありません。がんばりなさい』

 

 アイちゃん……。

 

『感染症での死亡など、とっくにデータは得られていますからね。どうせ死ぬなら、未知のウイルスに冒されて生きた死体になるぐらいの気概を見せなさい』

 

 知ってた。あと、そんな気概は一生見せない。

 

 そういえば、ヨットさんは大丈夫なんだろうか。俺と同じで、かなり傷を負っていたけど。

 

『彼女ならとっくに全治して、家畜たちと追いかけっこを楽しんでいますよ』

 

 強い。生命体としての格が違う。

 

『とにかく治療の質が期待できない以上、アナタにできるのは寝ていることだけです』

 

 え、ダメだよそれは!

 畑の世話もしないといけないし、料理だって作らないと。俺の仕事は山積みなんだ。

 

『ワタシの計算によると、アナタが感染症への免疫を得るのは間に合います。ただし、養生に専念すればです。死ぬのが嫌なら、言うことに従いなさい』

 

 …………。 

 

 

 

 

 ソワソワ。

 

 ……よいしょっと。

 

『対象、全裸セラピスト。自爆装置、作動準備』

 

 ストォップ! なに考えてるの!?

 

『それはコチラのセリフです。絶対安静だと釘を刺したはず。なのに、ベッドを抜け出してどうしようと言うのです。もっと命を大事にしなさい』

 

 え、なんで俺を爆発四散させようとしといて、命の価値を説教できるの? サイコパスなの?

 

『バフィとレモンから頼まれているのです。アナタが動かないように、見張っていてほしいと』

 

 人選ミス。人に自爆装置埋め込むような奴に、看病させないで。

 

 まあ、たしかに軽率だったけどさ。畑の様子が気になって。

 そろそろおコメが収穫できるはずなんだよ。栽培係の俺が働かないと、食料が手に入らない。ちょっと様子を見るだけだから。

 

『心配しすぎですよ』

 

 だって……。

 

 バフィはオクスリ大好きで、すぐに理性をなくして暴れだすし。レモンはお風呂狂いで、口では立派なこと言う割にちょっとしたことで泣き出すし。

 俺が見てないところで、どんな暴走を起こすか。

 

「チューッ。様子を見に来たら、すごい暴言を吐かれているのであります」

 

 あ、レモン。それにバフィとヨットさんも。

 

「バルバルー、げんきー?」

「今日のお仕事が終わったから、お見舞いにきたですぅ」

 

 みんな。俺が何もできないばかりに、苦労をかけてごめんね。

 

「そんなこと言わないでほしいですぅ。困った時は助け合いですぅ」

「そうであります。隊長殿が奮闘したから、自分たちは無傷で済んだのであります」

 

 ああ、人の温かみ。

 

 トマホークで全身をザクザクされて、肩にはクロスボウの矢が刺さったけど、この子たちを守れて本当に良かった。

 

 ……あれ?

 

 襲撃者はトマホークとこん棒しか装備してなかったよね? それに思い返せば、矢は後ろから飛んできたような。

 あの場でクロスボウを持っていたのは、たしか──

 

「た、隊長! 実は、報告があるのでありますッ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「冷凍庫の建築が、完了したのであります」

 

 冷凍庫?

 

「すっごおくヒンヤリしている建物だよー」

 

 いや、それは分かるんだけども。

 

「栽培を行う隊長が倒れているので、食料を得るために自分が動物を狩ることにいたしました。しかし、生肉は野菜よりも保存がきかないので」

「この中なら、動物さんのお肉でも新鮮なまま保管できるですぅ。タケが余っていたから、レモンちゃんと相談して建てたですぅ」

 

 なるほど。そういうことか。

 

「隊長殿には治療に専念していただきたく、事後報告となったのであります。申し訳ございません」

 

 いや、2人はよくやってくれているよ。

 俺が回復したとしても、冷凍庫は役に立つ。むしろ、必要な設備だ。

 

「動物を狩れば、さらに皮などの物資も手に入るであります。これをキャラバンに売れば、軍資金も入手できます」

 

 そこまで考えて、行動していたなんて。

 2人とも、いつの間にか立派になって。

 

『これで理解できたでしょう。今のアナタがすべきなのは無理ではなく、しっかり休むことなのです』

「やっぱり、無茶しようとしてたですぅ?」

「アイちゃん殿に監視をお願いして、正解でありましたな」

 

 そうだね。病死の代わりに、爆死の危険が迫っていたけど。

 

「バルバルー、ごはんだよー。みんなで食べよー」

 

 あら、おいしそう。いただきまーす。

 

「おいしーねー」

 

 それにしても、ヨットさんは料理ができたんですね。熱が出てるせいで味は分かりにくいんですけど、ありがたくいただきます。

 

「つくったの、あたしじゃないよー?」

 

 え、じゃあ誰が?

 

 

  

【挿絵表示】

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ア、アバー!?

 

「お、お腹が痛いでありますぅ。ピィイイイイ!?」

『健康状態、チェック確認。食中毒です』

 

 しまった、ポイズンクッキングだ!

 

「コォオオオオン!?」

『食中毒、1名追加です』

 

 自分でも耐えられない毒を生み出すな!

 

「おかわりちょーだい!」

 

 なんで平気なの!?

 

 あ、やばい。大声だしたら、一気に気分が悪くオゴゴゴゴゴ。

 

「オロロロロ」

「デロロロロ」

 

 

 ネオ・サラゴサ町が、見る見る間にゲロに覆われていく。これが地獄か。

 

『真の脅威は、味方にいたということですね』

 

 やだよ、そんなオチ。




食中毒発生
→拠点がゲロまみれになる
→掃除しないまま料理する
→食中毒

RimWorld名物の食中毒スパイラル


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5502年・春~夏 「いつか来るゴール」

今回、後書きにに謝罪文があります(3回目)


・宇宙歴5502年 春

 

 

『本部に報告。襲撃をなんとか生き残った星くずサバイバーズですが、負傷した全裸セラピストが感染症で倒れました。

 今回は複数人による襲撃が行われました。つまり、それだけ彼らが魅力的なターゲットになったということです。

 今後も激化する襲撃に、現在の戦力で対応できるかどうか。ワタシは引き続き観察を続けます』

 

 

 

 はー、はー。すっごい吐き気を我慢して、なんとか感染症の自己治療を終わらせたぞ。

 

「カサバルさん、感染症なんかに負けちゃダメですぅ」

 

 ありがとう、バフィ。

 吐き気がするのは、また別の原因なんだけど。拠点の掃除、大変だったんだよ?

 

「隊長が回復するまでは、おとなしくインセクトゼリーでしのぐのであります」

 

 そうして。

 

 しかし、医薬品が残り1つなのはまずいな。ヒールルートを収穫できるまで、いよいよムチャはできないぞ。

 

「それかキャラバンから買うしかないですぅ。こっちは運任せですけど」

『3年目にして、ここまで安定感のないコロニーも珍しいですね。まあ、そもそも自分のコロニーを築けた実験体が少ないのですが』

 

 正直、俺も自分が生きてることにビックリ。

 最初にRimWorldに連れてこられた時は、絶望しか感じなかったもの。

 

「チュッ!? 隊長は、RimWorld星域の出身ではないのでありますかッ」

 

 そうだけど。言ってなかったっけ?

 

「初耳であります。てっきり、ツンドラの氷の中から目覚めた古代人の類だと」

「え? バフィは実験で化石からよみがえった原始人って聞いてたですぅ」

 

 2人の間で、俺ってどういう認識になってるの!?

 

『とりあえず文明人扱いはされていませんね』

 

 うるさい。しれっとバフィにウソ教えないで。

 

 俺は、アイちゃんの組織にRimWorldに連れてこられたんだよ。いつか宇宙船を作って、みんなでここから脱出するんだ。

 

「え!? バフィ、RimWorldから脱出するですぅ!?」

 

 ウソでしょ、バフィ……。

 

 1年と半年も一緒に生活してたのに、なんで把握してないの?

 

「だって、そんなの一言も言ってくれなかったですぅ!」

 

 言ったよ!

 

 

 

 

 

 言ってなかった。

 

 バフィと出会ってからのログを見直したけど、ホントに宇宙船のウの字も言ってなかった。そりゃ分かるわけないわ。

 

『目標も共有してなかったのですか。組織として壊滅的すぎるでしょう、アナタたち』

 

 だって、たいていはその日を生き延びるのに全力だったから。サバイバルの先の話なんてする余裕なかった。

 

 ま、まあ。そういうワケだから。これから脱出を目指してがんばろうね。

 

「がんばりますけど、脱出は遠慮したいですぅ」

「自分も同意であります」

 

 なんでさ。

 

「カサバルさんはRimWorldが嫌いかもしれないですぅ。でも、バフィたちの故郷ですぅ」

「自分も死ぬのはごめんでありますが、脱出したいとは考えていないのであります。ここで安全に衛生的に生きられるなら、それが最善であります」

 

 ……そうなんだ。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ふう。なんとか感染症が治った。

 

『進行度が80%以上。ギリギリでしたね』

 

 うん。そうだね……。

 

『元気がないですね。せっかく助かったのに』

 

 だって、バフィたちと一緒に脱出を目指してるつもりだったから。まさか、2人に断られるとは。

 

『彼女たちにとっては、RimWorldの生活が日常ですからね』

 

 ねえ、アイちゃん。あんまり考えないようにしていたんだけどさ。

 俺って実際、もう故郷に帰ってもどうしようもないよね。

 

『あまりに長く中央政府のコントロール下から離れていますからね。戻っても、異分子としてひっそり処分されるのがオチでしょう』

 

 やっぱり。

 

『脱出はあきらめますか?』

 

 そうはいっても、このままRimWorldで生きていられる気がしないんだよなぁ。現に死にかけてるし。

 

 ……帰るべき故郷はないけど、ここに永住する覚悟もない。

 

 ──俺はいったい、この果てしなく広がる宇宙のどこに、居場所を求めれb

 

「バルバルー、みてー! ハタケほってたらカエルさんでてきたー!」

 

 あ、ちょっと今、シリアスなとこなんですけど。一瞬で台無しにしないで。

 

『しかたないですね。アナタという存在自体が、シリアスには不向きなのです』

 

 どういう意味だよ。

 

「みてー、みてー」

 

 はいはい、見ますって。そしたら、カエルさんは埋めなおしてあげましょうね。まだ寒いんだから。

 

「わかったー」

 

 それにしても、畑で何してたんです? 春になって作物植えたばっかりなんで、あそこでは遊ばないでほしいんですけど。

 

「えっとね、プレゼントうえてたのー」

 

 プレゼント?

 

「そうだよー。ミンチョみんな大好きなモノー」

 

 へー。そんなもの植えてくれたんだ。楽しみだなぁ。

 

 どれどれ。

 

 ……。

 

 ア、アレは……。

 

「たっくさんのミントだよー!」

 

 い、イヤァアアアアアア!?

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 フウ、フウ。

 

 レモンにも手伝ってもらって、なんとか畑にばらまかれたミントを植え替えたぞ。あやうく俺の畑でテロを起こされるところだった。

 

『真の脅威は、味方にいたということですね』

 

 それは前にやっただろ!

 

「チュー。せっかくヨット殿が植えてくれたのですから、そんなに必死にならなくても」

 

 レモンはミントの恐ろしさを知らないんだよ! 

 

 コイツらは悪魔なんだ。さわやかな香りにだまされてしまったら、もう助からない。気づいた時には、我が物顔で畑を占領してしまうんだよ。

 俺は、ミントのもたらした地獄を、実際に見たことがあるんだ。もう5年も前のことになる。

 

『5年前……まさか、“ミント・アポカリプス事件”!?』

 

 そう、俺はあの場所にいた。

 

 アロマセラピストになる前、俺は穀物生産エリアで働いていたんだ。昔から植物が好きな俺にとって、最高の仕事だった。

 しかし、突然ヤツらがやって来た。決死の抵抗もむなしく、俺の職場は緑色の侵略者たちに覆われていった。

 

『最終的に、隣接したエリアごとナパームで焼き払ったんでしたね』

 

 そう。俺は最初から最後まで無力だった。

 

 だから、決めたんだ。アロマセラピストになって、二度と悪魔(ミント)に負けないように戦おうって。

 

『アロマセラピストって、そんな職業でしたっけ?』

 

 レモンもミントの恐ろしさ、分かってくれたね。

 

「わーい! ミントとれるの、たのしみだねー!」

「チュッ。いい香りでありますな」

 

 聞けよ、俺の話。

 

 それにしても、このミントどうしようか。処分しようとするとヨットさんが涙目になるから、とりあえず隔離したけど。

 

「隊長、ミントからはおいしいデザートが作れるのであります。それを食せば、全員の心情が改善できるかと」

 

 そうなの?

 

 なら、とりあえず育ててみようか。

 

『軽いですねぇ、悪魔の扱い』

 

 星くずサバイバーズって、みんなメンタルに無視できない問題抱えてるからね。

 なんとかなるんなら、悪魔にだって魂を売る。

 

「ならば隊長、よい機会なので意見具申するであります」

 

 何かな、レモン。

 

「ハッ! 拠点の南に、新しい寝室を建造するのであります!」

 

 寝室を? 今のじゃダメなの?

 

「ダメとまでは申しませんが、バラバラの建材で建てられたため、見た目の美しさに難があるのであります。よりきれいで広い寝室で、心情面での問題を解決するのであります」

 

 ムムム。

 

 理屈は分かったけど、作るなら防壁が先じゃないかな?

 

「どっちみち、耐久性のある石灰岩のブロックが足りていないのであります。半面、もろくても美しい大理石は余っておりますので、そう時間はかからないかと」

 

 うーむ。

 

「加えて、今後のネオ・サラゴサ町は南に拡張していくはず。生活の基盤を移すことで、より効率的な作業ができるのであります」

 

 分かった。そこまで言うなら、やってみようか。

 期待してるよ、レモン。

 

「チューッ。必ずや成し遂げてみせるであります!」

 

 おお、すごい気合いだ。

 んじゃ、さっそく建材を運ぼう。

 

「あ、コチラはバフィ殿に手伝ってもらうのであります。隊長は並行して、防壁用の石灰岩を集めてください」

 

 そう? バフィは研究があるから、俺の方がいいと思うけど。

 

「大丈夫であります。それでは!」

 

 うーん?

 

 

 

 

 

・宇宙歴5502年 夏

 

 

 どっこいしょ、と。

 

 だいぶ石灰岩を切り分けられたな。

 そろそろ寝室も完成目前だろうし、楽しみだなぁ。

 

『工程をチェックしていませんが、よろしいのですか?』

 

 大丈夫だって。レモンの建築スキルも上がってるし、変なことにはならないでしょう。

 

 でも、ちょっと顔を出してみようかな。仕事にも一区切りついたし。

 

 どれどれ。

 

「レモンちゃん、ベッドは運び終わったですぅ」

「ご苦労であります、バフィ殿」

 

 お、やってるやってる。もうほぼ完成してるじゃない。

 

「これで終わりですぅ?」

「いえ、まだ最も重要なものが未完成であります」

「え?」

 

 え?

 

「隊長が見ていない今がチャンスであります。ベッドの横にシャワーを設置して、寝ながら入浴できる夢の寝室の完成であります!」

 

 ストォオオオップ!

 

 

 

 

 

「ヂュー……。メチャクチャ叱られたであります」

 

 当たり前だろ!

 やけに俺を遠ざけてると思ったら、こんなこと企んでるなんて。お風呂はまだ作らないって言ったでしょ。

 

「シャワーは作らないと言われてないのであります」

 

 屁理屈!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うわぁ、壁も床もピッカピカですぅ」

「ぴっかぴかー」

 

 うーん。シャワー設置未遂はおいといて、たしかにいい寝室だ。見ていて、気分が良くなるね。

 

「ハッ。新しい壁には全て大理石を使用しております。床は大理石タイルとタタミを併用し、ゴージャスかつ心落ち着く空間を実現しているのであります」

『すごいミスマッチだと思うのですが。落ち着きますか、コレ』

 

 落ち着くからいいんだよ。

 

『しかし、タタミと大理石ですよ。もっと、こう、統一感というものが』

 

 変なとこにこだわるな。

 

「テーブルもこっちに持ってきて、研究台を前の寝室に移したですぅ。これでバフィも集中して研究できるですぅ」

 

 よかったね、バフィ。

 

「惜しいであります。隊長が来なければ、ベッドで寝ながらシャワーを浴びられたのに」

 

 嫌だよ、そんなの。どんな神経してるんだ。

 

 この風呂狂い、微塵も反省していない。

 

『せめて、大理石の方にベッドを置きなさい。タタミではなく』

 

 しつこい!

 

「カサバルさん、せっかくの新しい寝室ですぅ。怒ってたら、台無しですぅ」

 

 それもそうか。

 

 それじゃあ、みんな。今日はもう休もうか。また明日からがんばろうね。

 

 

 

 ……。

 

「スゥ、スゥ」

 

 もう、バフィ。毛布がずれてる。

 大きくなっても、寝相が悪いのは変わらないんだから。風邪ひくよ。

 

「チュー、お風呂ぉ」

 

 レモンは寝言でまで風呂のこと言ってる。

 どんだけ好きなんだよ。いつかは、ちゃんと作るからね。

 

 ……。

 

 …………。

 

 いつの日か、みんなと離れ離れになる時が来るとしたら。

 

 その時、俺は……。

 

 

 

 

 

『やはり大理石とタタミのチョイスは──』

 

 シリアスさせてよ!




えー、今回の謝罪なのですが。

18話で配達人からシルバーは受け取らないと書きましたが、前回のスクリーンショットを見直すと不自然にシルバーが増えてました。これはシルバーもらってますね。

3年もシリーズ続いたせいで、完全にド忘れしてたみたいです。

今回だけは見逃してください。何でもしますから!(2年ぶり3回目)


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5502年・夏 「勧誘・ネコ・熱」

・宇宙歴5502年 夏

 

 

 どうも。

 

 季節の移り変わりは早いもので、RimWorldに放り込まれてから3度目の夏を迎えました。

 最近はナーバスになっていましたが、心機一転し、がんばっていこうと思います。

 

 カサバルです。

 

「バルバル、だれとはなしてるのー?」

「時々ああなるですぅ。気にしなくていいですぅ」

「正直、不気味でありますな」

 

 うるさい。気分だよ、気分。

 

『もうシリアスはよいのですか?』

 

 いい。

 

 というか、よく考えたらいつ全滅するかも分からない生活送ってるのに、脱出後のことなんて考えてられない。今は目先の仕事をがんばらないと。

 

『そんな思考だから目標を共有できていなかったのでは』

 

 宇宙船よりも今はご飯と薬だよ!

 

 俺が感染症でずっと倒れていたせいで、物資を全然集められていない。

 ようやく全快できたんだから、これからはフル回転で働きまくるぞ!

 

 バフィにレモン、現状で不足しているものを教えて。

 

「冷凍庫を建てたから、もうタケが無くなりそうですぅ。あと木材も」

「医薬品もカツカツでありますな。そして兵糧も尽きる寸前であります」

 

 つまり、サバイバルに必要なもの全部ね。ヨシ、星くずサバイバーズは平常運転だな。

 

『なんでまだ全滅してないんでしょうねぇ、アナタたち』

 

 とりあえず俺は野生のヒールルートを採取してくるから、バフィは研究、レモンは動物の狩猟をお願い。

 

「じゃー、ヨットはおそうじしてるねー!」

 

 お願いします。

 

 いやー、ヨットさんが雑用を手伝ってくれるから、大助かりだ。食事と住居を提供する見返りは充分ある。

 バフィのアイデアでテナント募集したけど、正解だったな。

 

「……カサバルさん。最初の目的を忘れてないですぅ?」

 

 目的?

 

「テナントさんを募集したのは、ネオ・サラゴサ町にずっと住んでくれる人を探すためですぅ。お手伝いさんを探すためじゃないですぅ」

 

 ハッ!?

 

 そうだった。忘れていたけど、星くずサバイバーズに加入してくれないと意味がないんだ。

 かれこれ半年ぐらい一緒だったから麻痺してたけど、現状、ヨットさんの気分次第では明日いなくなってもおかしくない。

 

 というより、あの幼女ぶりを考えたら、いつかフラッと出ていっちゃう可能性が高い。

 

「ですぅ。ヨットさんもここに馴染んでますから、もう一押しすれば加入してくれるかもしれないですぅ」

 

 もう一押しか。

 

 

 

 と、いうわけで。

 

 ヨットさん、正式に俺たちの仲間になりませんか?

 ご新規のメンバーには、毎日の食事と柔らかいベッドが無料で提供されます。しかも今なら、参加費100パーセントオフ。さらにご友人に星くずサバイバーズを紹介した場合、各種特典をもらえるというキャンペーン中です。

 

『薄っぺらいお得感でだまそうとするのはやめなさい。毎日の食事とベッドに至っては、すでに提供しているでしょうが』

 

 シーッ!

 

「きゃんぺえん? んー?」

 

 ダメだ。そもそも理解できていない。

 

 正直なところ、どうなんです?

 ヨットさんにとっても、RimWorldを放浪するよりここでずっと暮らす方がいいと思うんですけど。そもそも、どうして旅をしてるんですか?

 

「“しらない”が好きだから!」

 

 しらない……、知らない?

 

「しらないばしょにー、しらないひと! いろんなところへ行って、たくさんともだち作るのー!」

 

 …………なんて、純粋な瞳なんだ。

 

 俺にはまぶしすぎる。こんな無邪気な思いを、俺はいつから失くしてしまったんだろうか。

 

 とても、邪魔なんてできない。

 

 

 

 

 

 まー、それはそれとして。

 

 星くずサバイバーズのリーダーとして、簡単にあきらめるわけにはいかない。

 俺にいい考えがある。

  

『そうですか。今すぐ忘れなさい』

 

 ちょっとは期待してよッ。

 

『では、どうするのです』

 

 お菓子で釣ります。

 

『誘拐犯ですかアナタは』

 

 そしておいしいお菓子を食べさせたら、できたばかりの寝室に閉じ込める。

 

『誘拐犯ですかアナタは』

 

 きれいな環境の中にいてもらって、心情を高めるんだ。これでネオ・サラゴサ町から離れたくないと思ってもらえれば、こっちのものよ。

 

 幸い、ここには収穫したばかりのミントハーブがある。

 

 これを鍋でいい感じになるまでグツグツ煮込んで、いい感じに味付けしたら、いい感じに固めていって。

 

『解説が雑』 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 完成、カサバル印のミントキャンディ!

 

 ヨットさーん、いいものあげるよー!

 

「わーい」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「しあわせー」

 

 グフフ。俺の計画通り、まんまと幸せになっておるわい。

 明日の今頃には、星くずサバイバーズの一員になっておるとも知らずになぁ。

 

『人間って、ここまで心が汚くなれるんですねぇ。あと顔も』

 

 顔は関係ないだろ!

 

 

 

 ふぅ。ヒールルートの収穫はこれぐらいでいいか。砂漠と違って、ツンドラは自生してくれるからありがたいな。数少ない、ここに来てよかったと思える点だ。

 

 あとはこれを拠点に運んでから、木材の調達にいこうかな。

 

「カサバルさーん」

 

 あれ、バフィ。どうしてここに?

 

「研究が完了したから、カサバルさんのお手伝いにきたですぅ」

 

 おお、もう新しい研究が終わったのか。すごいなぁ、去年のことを考えたら速度が段違いだ。

 

「バフィもがんばってるんですぅ」

 

 えらいねぇ。んじゃ、この薬草を拠点に運んどいt。

 

「チューッ!?」

 

 ム、このネズミっぽい悲鳴はッ。

 

「隊長、助けてください! 猛獣でありまあああす!」

 

 猛獣!? 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ただのネコだろ! なんで追いかけ回されてるの!?

 

『お互い、遺伝子に刻み込まれた本能があるのでしょう。ネズミはネコに捕食されるものだ、と』

「分かるですぅ。レモンちゃん、ちょっとおいしそうですもんね」

 

 バフィ!?

 

「ヂューーーッ!?」

 

 ああ、アホな会話してる場合じゃなかったッ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ピィ、死んでしまうのでありますぅ……」

 

 よ、予想以上に間一髪だった。初動が遅れてごめん、レモン。

 

『ものの見事に、全身をズタズタにされていますね』

「あうぅ、血だらけですぅ」

 

 すぐに薬草を使って治療しないと。収穫が間に合っていてよかった。

 さあ、ベッドに連れて行ってあげるからね、レモン。

 

「た、たいちょー……」

 

 ん?

 

「隊長が、川の向こうで手招きしてるであります……」

 

 勝手に人を殺すな!

 

 

 

 

 

 さて、皆さん。

 

 ここツンドラは、年間の平均気温がマイナスに突入する北の大地です。当然、植物も育ちにくく食料供給が不安定。サバイバルを困難にしている要因です。

 なんとかしたいですよね。

 

『もう突っ込みませんからね』

 

 気分だよ、気分。

 

 とにかく、このツンドラの大地に、バフィが開発したばかりのコイツを投入だ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『ほう、スノウビートですか』

 

 なんでも、寒さに強いのが特徴らしい。普通の作物ならツンドラの寒さで枯れてしまうけど、こいつなら余裕で冬を越せる。まさに俺たちのためにあるような作物ですな。

 

『1つ注意をするなら、枯れないというだけで、寒さで成長はストップしますからね』

 

 うん。だから、植える時期には気を使わないと。ある程度成長した段階で冬を迎えて、春になったらすぐに収穫できるというのが理想かな。

 

 さーて、スノウビートの畑も完成したから、あと俺がやらなくちゃいけない作業は。

 

『木の伐採に、コメの収穫。そして岩石の加工に防壁の建築。そして4人分の食事を調理しないといけませんね』

 

 人を過労死させるつもりか、この人工知能。

 

『仕方がないでしょう。レモンが倒れた分、アナタが穴埋めをするしかないのですから』

 

 一応、この前まで生死の境をさまよってた男を酷使しないで。

 防壁の建築はこの際ストップしてもしょうがない。レモンが治るのを待とう。

 

『いつになったら完成するんでしょうね、防壁』

 

 

 

 

 

 レモーン、具合はどうだい?

 

「隊長、おかげさまで、だいぶ良くなってきたのであります。明日には働けるかと」

 

 ムチャはダメだよ。ケガと病気は治りかけが肝心なんだから。

 

「そうですぅ。レモンちゃん、ゆっくりしてるですぅ」

「ハッ。ではお言葉に甘えて」

 

 しかし、思ったより早く復帰できそうだね。もしまた感染症にでもなったらと、心配してたよ。

 

「隊長のおかげであります。去年と比べて、隊長の治療が上手になっているのであります」

 

 ああ。まあ、今年になってから色々あったからねぇ。色々と。

 

「カサバルさんが遠い目をしてるですぅ」

『医術スキルが上達する機会が多すぎましたからね』

 

 とにかく、これで一安心だ。

 

 明日から、またみんなでがんば、ろ……。

 

 ……。

 

「隊長?」

「カサバルさん、どうしたんですぅ?」

 

 ……。

 

 …………。

 

 うぼぁ。

 

「カ、カサバルさんが倒れたですぅ!?」

「すごい高熱であります!?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『まさかとは思いましたが、インフルエンザにかかっていますね。しばらくは安静にさせましょう』

「またでありますか!?」



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