鎮守の森~元祖異世界時代劇~ (仲村大輝)
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出発というか終わりというか

太陽が真上にある12時30分。

日本の地方。

小高い山に囲まれた小さな市を見下ろす1000メートル級の大きな山。

その山は、白いピラミッドを積み上げたようなカクカクとした山肌をして、所々木が密集して生えている。

その中腹が爆発して煙が上がる。

この白い肌は、石灰。現代社会においてビルの原料になるセメントになる。

地方の人間を支える重要な輸出品である。今や自然は人間を支えてくれる重要な物質となっている。

人間が過ごしやすいように、過ごしやすいように現代は進んでいる。

僕もこの流れに乗っかり、午前中だか正午だか分からないような時間に起き出し、午後の四時ごろ帰宅したような顔をして散歩して、夜はゲームをしている。

勤労や勤勉はどうしたのかというと、謎のウイルスのせいで生活の様式がガラッと変わり、就活も授業も家で済んでしまっていている。

なにせいきなりのとこすぎて、学校の授業も曖昧、就活もうまく進んでいない。

この散歩ぐらいが良い気分転換ぐらいなものである。

なにせ、最近の目覚ましは山が爆発する音で、いつの間にか何を言ってるか訳の分からない授業を受けて、自分が行きたいのかもよく分からない企業の面接を受けて、4時ごろ暇になる生活。

誰か僕をこの生活から抜け出させて欲しい。だけど、どうすればいいか分からない。

そう考えながら、ぼーっと警察の近くを歩いていたら、パトカーに轢かれて、僕は死んだ

 

らしい。

 

死んだらどうなるのか?

塀に囲まれた中世ヨーロッパ風の世界に飛ばされ、銀髪のハーフエルフに恋をしたり、巨人と戦ったり、居酒屋で働くような展開ではなかった。

だからといって、事務室にとおされて、島津豊久や織田信長と一緒に戦うことを命じられたり、水の女神と冒険をするようなことにもならなかった。

だからと言って、白い動物に「魔法少女になれ」とも、父親から「人造人間に乗れ」とも、嫌な上司から「赤い彗星を落とせ」とも言われる展開にもならなかった。

ただ、白川郷や大谷宿で公開している民家のような、ススで黒くなった天井が見える。

まぁ、この辺りはまだこのような養蚕農家の造りの家が何軒か残ってたはずだから不思議ではない。

僕は薄っぺらいのに重たいせんべい布団の中で目を覚ました。

「ここは?」

まことに図々しいが、こんなことを考えた。現代社会において、こんなにワタがなくなってしまっている布団に見ず知らずの人間をのせる人がいるのか。

助かっただけでも感謝できない残念な人間だと自身で思いながら、ここはどこだろうと見渡そうと目を開き、ぐるっと左を見る。

畳のヘリが見える。また奥には重厚なこれまた黒いタンスがある。

右を見る。

人がいた。



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ようこそ異世界へ

自分で考えて良いよとはいえ、非常に悩んだ作品です。
ただ、ここまではとても楽しく書いています。


思わず目が大きく見開く。

なにせ、人などいないと思っていたから。

「気がついたか。」

その男はしゃべった。男は灰色の和服を着ている。

「ぼ、わ、私は…」

「オラの畑の前に倒れてたから運んだ。」

僕にはそう聞き取れた。だけど、結構妙だった。

『オラ』と書いたが、ラはAとEの中間音で、全て、方言になっていた。この地域に生まれてからずっと住んでいるから聞き取れたが、ややこしくなるので、標準語で喋ってもらう。

「助けていただいたのですか!?ありがとうございます。」

「起き上がらなくて良い。見えない怪我などしていたら大変だからな。」

「あっ!自己紹介が遅れました。ぼ、私は、ハハソと言います…」

「変わった聴きなれない名前だな、オラは、銀次。秩父神社に奉公に行ってたが、兄貴が死んじまって、呼び戻された。今は母さん、義姉、妹2人、弟と暮らしてる。

ハハソくんは、どうしてあんな場所で寝てたんだい?」

「実は、車に轢かれまして…」

「どこの車だい?」

「パ…」

パトカーなどと言ったらなんかやっかいなことになりそうな気がした。銀次さんは良さそうな人だが、人、なにを信条にしているか分からない。「けしからん!今から抗議に行ってきてやる。」なんて言われても困る。銀次さんに迷惑だし、そもそもぼくは死んでる。??死んでる?…「生きてるのに死んでると分かってる。」…どういうことだろう。

しかし、銀次さんが不思議そうにこちらを見ている。ぼやぼやしていられない。

えっと、轢かれた車か…

「パ…いや、…よく分かりませんでした…」

「そうか。どこの誰だったのかも分からなかったのか。」

「ちょっと…記憶も混乱しているようで…」

左腕で頭を掻いた。ごまかすときに頭に手をやり後頭部をガリガリと掻く癖がある。

死んだことの自覚がある。だけど僕はこうして生きているようだ。これはどういうことなんだろう?

腕を届かせるため、首を垂れているが、銀次さんがなにかジッと見ている視線を感じて、首を上げた。

すると、左腕につけていた時計を凝視していた。まるで、初めて見たような目だ。

いくら、秩父が田舎だからといって、こんな学生でも手が出せる値段の腕時計をそんな目で見られても困る。ロレックスやオメガ、SEIKOが逆輸入した時計でもあるまいし…

すると、銀次さんがこう喋った。

「随分と変わった『数珠』をつけていますな。」

「えっ!?時計ですよ。ほら。」

左腕を銀次さんに差し出す。

ちなみに、今は12時29分だった。

またあの12時30分になると武甲山から石灰を採るダイナマイトの音が聞こえるのかと思った。あれは花火のようなドン!やパン!と違い本当に文字にするとドガーン!という凄まじい音がなるのだ。ちなみに今でも聞こえたら僕は武甲山を見て、ピラミッドの土台から煙が吹き上がるところを見たり、土砂崩れが起こるところを見てしまう。

銀次さんはさも高くない時計をまじまじと眺める。

「1から12までが書いてある。不思議なものだ。仏教を信仰するものはまことに不思議だ。最近裏山に出来た虚空蔵様で配られたのか?」

なんかじゃっかん顔が曇っている。しかし、僕はこう続けた。

「いや、僕は虚空蔵様の祭りには行きますが、仏教徒ではありません。」

「なに?本当か?」

「はい。般若心経すら全て言えません。」

「そうか。」

カチッ!12時30分。

ほら、聞こえる。と思ったが、聞こえない。

「あれ?」

「どうした?」

「いや、武甲山が発破しないので…今日は日曜ですか?」

「武甲山?日曜?なにを言ってるんだ?やっぱ、『大八』車に轢かれたのが影響してるのか?」

「えっ?僕は自動車に…」

僕はここまで言って、なにか恐ろしいことが起きているのではないかと考えてしまった。自分は死んだと思っている。

「自動車?自動車とはなんだ?」

しかし生きている。それは嬉しいことだが、このようなことが起きた以上、弊害でもし記憶がとんだのであれば、いろいろ分からない単語を出すのは相手で、自分が周りより遅れているはずである。

「じ…自動車ですよ。じ…」

「そんなものは聞いたことがないな…」

しかし、銀次さんのほうが時計、自動車、日曜、武甲山を知らない。

「ハハソくん、君は」

銀次さんは秩父弁を喋っていて、虚空蔵様も知っているに武甲山を知らない?

「君はどっから来たんだい?」

バッ!と布団を剥がし、銀次さんの後ろにある明るい庭に出た。

急に歩きだしたもんだから銀次さんが慌てる。しかし、どうしても確かめてみたくなった。時間を逆境する系の話を知っている僕は、そのキャラクターたちがやってきたことを周到するように、ある行動をした。

庭に出て遠くを見た。

武甲山の、ピラミッドのようなギザギザを見ようとした。

この家が警察署の裏に密集する養蚕農家の残っている家なら、警察署のコンクリートの建物を見ようとした。

しかし、目の前に広がっていたのはコンクリートの建物は一切なく、耕された畑と、一変も白い石灰石が露出していない僕の知っている武甲山よりはるかに大きな山であった。

そして、僕は銀次さんに言った。

どうやら、本当の令和に生きている僕は死んだようだ。そして、

 

「銀次さん…僕は、未来から…皆さんのそして僕も分からない未来、しかも異世界から来たようです。」

「はっ?…なぜ?なぜそう言い切れるんだい?」

僕は武甲山より手前にある大きな木を指さした。

 

「だって、僕の世界では、天狗が木の上でお酒を呑んでることなんてありえないんですから…」




この最後、天狗を出すことで、異世界に飛んでしまったというのが表せたんじゃないかと思っています。


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ここは異世界だ

ここもだいぶ楽しく書いています。
ただ、うちわネタすぎるかなとも思います。
(地名がややこしすぎるかな?)



「つまり君は遠い未来から、もっと言えば、この世界がずっと続いていった先とも違う世界からやって来たってことかい?」

「…おそらく。」

「そりゃ、君のお父さんの実家が、『でくち』って言い切ったのに、「見覚えがない」って言われれば、そんなふうに考えるけどな。」

そう。僕のお父さんの実家、おじいさんの家はこの付近の近くであったはずだ。

それは「でぐち」という屋号で呼ばれてた。それなら通じると思い、その屋号を言うと、速攻で連れて行ってくれた。ただ、絶対に違うと言い切れた。

なぜなら、おじいさんの家には高さ1メートルぐらいの塚の上に、『妙見の腰掛石』という石と、それを祀る小さなほこらがあるはずである。

しかし、そこにあったのは、大きな寺のような建物であった。

「これは、見覚えがない。」

「しかし、『でぐち』の一族はあの建物を守り、時を待つとされているぞ。じゃあ、……仮に、この時代には寺がここにあって、ハハソが来た時代には用がなくなって、規模が小さくなったってことはないか?」

「…それもないと思う。

だって、敷地に沿って塀があるなんて聞いたことないし、仮にそんなものがあったっていう事実があるなら、発掘とかされてるはずだから…」

「…また、君の世界に存在してるのは、人間と、『喋らない』動物と、『動かない』植物と、人間のふりをしない『生物』だけなのか…な?」

「…そうです。けして、お寺の中で酒盛りなんかもしない。」

「そうなのか。じゃあ、一旦家に帰ってこれからどうするか決めるか。」

「よろしくお願いします。ただ銀次さん、家を出てから足元をぐるぐる身体をすり寄せてる猫はなんですか?」

「気にするな。踏みつけても噛み付いたり引っ掻いたりしないからな。気になるんなら、肩を二回叩いてみろ。乗ってくるぞ。」

そう言われて、僕は中腰になり、猫を見つめながら肩を二回ポンポンと叩いた。すると、猫は膝、腰、背中を廻って肩に乗った。

「!初めて会った人間に乗るとは思わなかった…噛み付いたり、引っ掻くと思った。」

「銀次さん!?そりゃないですよ。」

そうして、二人は『でぐち』の寺で酒盛りをしている体が人間で、顔が酉、子、卯の妖怪に見送られて、銀次さんの家に帰った。

銀次さんの家は改めて見ると、大きな木造の総二階の建物である。

雨戸が閉まっていると、窓もない箱に見えるが、雨戸を全て外すと、家の向かい側の木が見えるほど風通しの良い家になる。

しかも、だいたい昼間はこんな感じである。しかし安心して欲しいのは、一応しょうじはあるので、丸見えというわけではない。(特に妹の部屋のところは閉まってることもある。)

見取り図で言うと、東西が長い長方形の形をしている。

その長方形を六等分して、一室を正方形にする感じで部屋がある。

そのうち、一番東の南側が玄関(土間)で、その奥が台所。南の真ん中が僕の寝ていた部屋、その奥が銀次さんの部屋(元兄夫婦の部屋)、西側の二つが妹とお母さんの部屋、義理のお姉さんは、気を使ってはなれに住んでいるらしい。

では、二階はどうなっているのか。

「二階は、」

と銀次さんに案内してもらおうと土間の階段に足をかけたら、上から誰か降りて来た。

「あっ!兄さん。帰ってきたんですか?」

赤い銘仙を着た女の子が降りてきた。

「あぁ。ハハソ。紹介しよう。上の妹の、カジカだ。掃除、裁縫などみっちり仕込んだため、近くの娘たちに指南させている。養蚕の技術支援なんてのも出来るんだ。」

「兄さん。お手紙が妙見宮から。」

歳は15歳ぐらいだけど、銀次さんより大人びた印象を受ける。

やはり、技術を持って、人に教えているから、大人びるのだろうか…僕はとても自分がなにもないような気がした。

「そうか。妙見宮から至急の呼び出しか。分かった。カジカ。申し訳ないが、こちらのハハソくんはさっき道で倒れている人がいると言ったがその人だ。……残念なことに、倒れる前の記憶が部分的に欠落して、家が分からなくなってしまっている。だから何日か過ごすことになったから、母さんと、義姉さんと、ヤマメと、銅三に紹介してやってくれ。」

「分かりました。」

じゃあ行ってくる。と銀次さんは出て行った。

「そろそろ銅三が帰ってきますから、出迎えましょう。」

そういうと、二階に向かい出した。

「えっ?一階じゃ…」

「銅三は二階から入ってくるんです。」

「?」

二階に上がる。

柱があるだけで一階分のスペース全てが区切られていない空間があった。

また、ものすごく暑い。

ただ、天井からあるものがぶら下がって、部屋中を覆い隠している。

あるものは、木枠(30+55センチぐらい)を等間隔で10個の一組にする。

木枠の縁の真ん中四箇所を板でつなぎ合わせ、端は板を内側に曲げ、対角線上に棒を挿し、天井から吊るしてある紐に引っ掛ける。そうすると、水車のように木枠が回転するようになる。

木枠は、12×12の長細い枠に区切ってあり、一つの枠に一つ白い楕円形の球が入っている。

それが部屋中を埋め尽くしている。

「…これは?…」

「回転まぶしと言いますぅ。」

「回転まぶし?」

「見てみぃ?蚕がいるだろぅ?」

なんか急におっとりとしたというか、ねっとりとしたというかな話しかたになった。

確かに木枠の上を目指して登っている白い芋虫や、枠の中に入って白い糸を吐いて繭を作っている。

すると、カラカラとまぶしが回転した。

見ると蚕達が下にたまっている。

「蚕はぁ〜、繭になる前はぁ、上に向かう習性があるからぁ〜、それを利用してぇ、気にいった部屋を見つけてあげるんだよ〜。」

「へ、へぇー。」

その時、「にゃーん!」と肩の猫が鳴いた。

鳴いただけならまだしも、頭の上に手を置いてきた。

斜め上を見た。

すると、梁の上に女の人が乗っている。

「わっ!あんなところに人が!」

「?あぁ、あれ?あれは気にしなくて良ぃよぉ〜」

「えっ?」

「あれはぁ〜、居候しているよぅなぁもんだからぁ〜。」

「…だけど、危なくないですか?」

「大丈夫ぅ〜なぜならぁ…」

そう言ったら急にズシン!ズシン!と音が聞こえてきた。救急車や消防車が急に音が聞こえるように、大きな音が急に聞こえてきて、話どころではなくなった。

「な!?…なにごとですか?」

「銅三が帰ってきたんですよ。」

「か、帰ってきたって…」

梁から埃が落ち、回転まぶしが回って、蚕がボタボタ落ちた。

「よっこいしょ。兄さん、姉さん、母さん、ただいま!」

二階の窓から人の身長ほどある目ん玉がこちらを見ている。

「やぁ!銅三。おかえりー。今日はなにをしたのぉ?」

「カジカ姉さん。大昔に偉い人が通ったっていう峠の修理をやっているんです。」

「そぉなん!?じぁあ、夕食の時聞かせてねぇ。」

「そうだ!親方がお土産に鮎をたくさんくれたんです。」

「ヘェ〜。じゃあ、銅三が好きな串焼きにするよう、ヤマメに言っとくねぇ〜そうだぁ〜!こっちの男の子はぁ、ハハソくんって言って〜、銀次兄さんが畑で助けたんだけどぉ〜記憶が飛んじゃって〜、しばらく家に置くことにしたんだってぇ〜」

「おぉ!お客様。いらっしゃい。不安でしょうがあんまり気を使わずお過ごし下さい。この家は変な人はいませんから!」

そういうと、銅三はにゅっと手を二階に突っ込んでくると、僕とカジカさんを掴んで台所の目の前まで運んだ。

布団や寝袋を被ったような感覚だ。全身がしっとりと重く、体温で暖かい。

「ヤマメ姉さん!今日は人が来たで。『ハンゴロシ』にしよう。」

「!!!」

「銅三、おかえりー!兄さんから聞いてる。だから、『手打ち』でって話しだったから…」

「そうか。じゃあ『手打ち』にしよう。御客人。この中へどうぞ。」

「いや、ちょっ…半殺しと、手打ちって…」

暗くなりかけている台所に問答無用と、鷲掴みの状態で押し込まれた。

「えっ!?僕、こんな異世界どころか、昔話でも聞いたことないような展開で、手打ちでもって首をはねられたり、半殺しにされるの?」

「なにをおっしゃっているのですか?」

おぉ、なんということだ。中にいた女性は、カジカさんと瓜二つだが、ついになるような美しい青い着物を着ている。

ただ、それだけなら良かったが、トゲのついた鉄球に鎖がついたモーニングスターいな、長い棒を持っている。

こんな時に余計な知識が頭をよぎる。

「キャー!半殺しどころか、全殺しにされて、もう一回似たような展開にさせられるー!どこで間違えたんだー!」

「…ハハソさん。もしかして、『ハンゴロシ』や『手打ち』のことを、本当に人を殺める行為だと思っています?」

「えっ?」




蚕のくだりは完全に養蚕で使われる技術です。調べました。
また、この『手打ち』『半殺し』『取って投げ』も調べてあります。お楽しみに。


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『手打ち』『半殺し』『取って投げ』

食事シーンと家族の説明です。
ハウルの動く城なみに変わった家族です。



グラグラグラグラと、鍋が沸いている。

「だいぶ煮立った。そろそろいいんじゃないか?カジカ姉さん。」

「そうだね。銅三、じゃあ、みんなに取り分けるよー。」

「ハハソ。恨むなよ。」

「…話が新しくなってから、さも僕を食べてるかのような演出なんですけど…カジカさん…」

「ごめんね〜。『ハンゴロシ』ってのは、ぼた餅やおはぎのことで、『手打ち』はうどんのことだったんだよー。ちなみに、すいとんとかひっつみは、『とってなげ』っていうらしいんだー。大滝からやってきた人に聞いたんだ〜。」

「人の生き死にに関わることを平気で言うもんだから、それは焦りますよね。」

「…銅三さんは、毎日お姉さんをあのように移動させているのですか?」

「早いうちにみんな集まってもらえると早く食べられるから、腹が減ってるとやります。」

「…そういえば、神棚の下が銀次さんとして、空いた膳がありますが…」

昔の家なので、銅三は庭に座っているが、台所に近いところにカジカ、ヤマメ姉妹、銅三と向かい合うように神棚があり、そこには家長である銀次さんが座っている。銀次さんから見ると、向かいに銅三さん。左手にカジカ、ヤマメ姉妹。右にお母様。僕は銀次さんの左側に座っている。

ただ、今日は銀次さんがまだ帰ってこないので、一膳空いているのは分かるが、右手の席も一膳空いている。

「…カジカさん。お母様の隣の席は誰でしょう?」

「あそこはぁ〜お義姉さまの席ですよぉ〜。」

「おねえさまはどこに?」

「もう食べてますよぉ〜。」

「ん?」

「…あぁ!分かりづらいですよねぇ〜じゃあ、お義姉さん。銅三の鮎が焼けましたからどうぞぉ〜。」

と、カジカさんが串に刺した焼き鮎を膳の前に出した。

すると、カジカさんの手を離れた串が空中に浮いた。

「えっ!?」

すると、頭の上の部分からみるみるとなくなっていき、骨だけになった。

「はぁ…」

「ほらねぇ〜いらっしゃるでしょう〜お義姉さんは、透明なの〜。」

膳で死角になっているところから、小さな鈴が、すっと、腰あたりまで浮かんできた。

「あれで意思疎通を取るんです。お義姉さま。お食事場これだけで大丈夫ですか?」

『チリン』と一回鳴った。

「良いそうです。」ヤマメさんが説明してくれた。

鈴は、スッと庭に出て行った。

「…おねえさんはどこへ?」

「お義姉さんはハナレに住んでいるんです。」

「ハナレに?…なぜですか?」

「お義姉さんは可愛そうな方で、金一兄さんが亡くなって、実家にお戻りになったのですが、実家で無視されるというイジメに会い、だんだん見えなくなって、銀次兄さんがお連れになったんです。」

ここで銀次さんたちのお母さんが初めてしゃべった。

ちなみにお母さんの身長は160センチぐらいだが、銅三のお母さんでもある。

「…今、銅三のお母さん?と思ったでしょ?」

「えっ!…まぁ、思いました。」

「ふふふ。本当に私がお母さんですし、銀次やカジカ、ヤマメの父と同じ人ですよ。ちなみに、銅三は見た目で変わっていますが、みんな違うんですよ。」

「そ…」

「それは、後からわかって来ますよ。ただ、みんな…お義姉さんも含めてみんな優しくて、芯のある良い人たちですから、ハハソさんも安心してくださいね。」

「あ…ありがとうございます。」

「そういえば、ハハソさんは、どんなところからおいでになったのですか?」

「えっと…」

 

数刻前の、銀次さんと妙見塚を見に行く道中。

 

「君をしばらく家に置いて、君は自分の世界に戻ることを模索するのに協力を私はするが、君がどこから来たのか分からないというのは、家族に説明が出来ない…」

「…銀次さん、正直に言うというのはどうでしょう?銀次さんは私のことを信じてくれるじゃないですか?」

「…こう言ってはなんだが、母さんや妹たちは交流関係が広くてな。あっという間に広がって、気を使ったり、逆に君の足を引っ張ったり、帰る調査どころではなくなるだろう。」

「では…」

 

夕食時

 

「…少しまだ、記憶が曖昧な部分があるのですが、限りなく、限りなく秩父に似ているのです。ただ、…(武甲山ではなく、『妙見山』と呼ばれているのは教わった。)妙見山がもっと低く、家がたくさんあるんです。」

「ほぅ!それは面白い!是非もっと教えてください!そこの人たちはどんな遊びをするのですか?」

「は、はい。えっと…絵や言いたいことを世の中に広く伝えることが出来る装置があり、名言や素晴らしい絵、面白い出来事を共有しています。」

「ほう!それはどのように?」

「えっと…なんて言えば…あっ!…日記ってつけてますか?」

「日記は…銀次兄さんはつけているが、オラに合う紙がなくて…」

「その日記は、自分が書くだけでなく、他の人が書いた日記や絵などが見ることが出来るのです。」

「それは凄い!」

「その人たちはどんなものを食べてるのですか?」

ヤマメさんが聞く。

「はい。…えっと、それこそ、うどんや牡丹餅、すいとんはあります。ただ、『とってなげ』『はんごろし』『てうち』とは呼ばれてません。」

「へぇ。呼び方が違うの!珍しい食べ物は?」

「うんと…コンニャクではありませんが、それに似たのを甘くしたようなものと、牛の乳をいっぺんに飲むというのがそれこそ、ヤマメさんぐらいの女性に流行っていました。牛の乳も白ではなく、ヤマメさんやカジカさんの服のような鮮やかな色に着色されていましたため、目でも楽しめるし、さっき言った日記でも評判でした。」

「それは一度飲んでみたいわ。」

「どんなお仕事があるのぉ?」

「カジカさん。…えっと、なにか…そうだ!」

スッと立った。

「まず、こういう立った人の絵を描きます。」

次にしゃがむ。

「次にしゃがんだ人を描きます。それと、しゃがむまでの動作の絵を描きます。そして、その紙を重ねて、本をパラパラとめくるように見ると、紙に書いてある人が動いて見えるのですが、もっと複雑に動く描写を人々に見せるという仕事があります。」

「へぇ〜。私もやってみようかなぁ〜。」

と言った具合に、食事から、食後の談話まで和やかに進んだ。




まあ、どんなことが流行っているのを説明しているかわかりますね。
タピオカとアニメとSNSです。


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さあ、夢の中へ

夢の中の話にしないとなんだよなぁ…
最初に「これは夢」と書けば良いんじゃ!?


おっと。急に場面が変わった。

 

多分現代だ…というか秩父だ。

誰かが、警察署の裏でパトカーと救急車に囲まれている。

どっかの馬鹿が轢かれたみたいだ。

どんな馬鹿だか覗き込んでみようと思ったところで、急に両肩を掴まれた。

ただ、肩をポンと叩かれた感じではなく、肩を揉むようにガッツリ掴まれた。

そして天空に飛び上がった。

「嘘だろ!」

空から救急車に運び込まれる馬鹿を見た。

僕だった。

次に上を見た。

大きな翼。

大きな手で肩を掴んでいる。

ただ、顔は仮面武道会で使うような鼻頭まで隠せる鳥をデザインしたような仮面をつけているから分からない。

秩父神社上空まで高く飛んだが、秩父神社の参道めがけて急降下し、足がつくスレスレでまた全速力で武甲山に向かって飛び始めた。

車が走り、観光客がいるなかで、秩父神社の参道をまさに飛びながら、風を切り飛ぶ。

避ける動作などない。周りが反応するより先に飛ぶ。

市役所の庭に出る。秩父夜祭りの際の御旅所になっている社に飛び込む。

「叩きつけられぺしゃんこになって死ぬ!」

そう思ったが、まるで隙間をすり抜けたように視界が一度狭まっただけで、また武甲山に向かって飛ぶ。

国道だろうが市道だろうが関係なしに超特急で飛ぶ。

山道に入る。

考えてみればほぼ秩父神社からまっすぐ飛んできた。

山道…いや獣道もまっすぐ山に向かっている。

草だろうが木だろうがお構いなしに飛ぶ。

「そうか…多分…これは…この世界は現実だろうが、僕はこの世界の人じゃないんだろう。だからこんなことが出来るんだ…そうか…僕はどうなったんだ…僕は…」

いつの間にか、獣道の上というより、木の上、緑の絨毯の上を飛んでいる。

すると、大きな、人が登れそうもない二枚の岩が現れた。

その麓は、少し広場になり男女10人ぐらいが歌を歌ったりダンスをしたり、挙げ句の果てに裸になってくっついている人までいる。

「なんだあれ…」

言った瞬間、パッと肩を掴んでた手が離れて僕は武甲山に引っ張られた。

霧揉みしながら落ちる。緑の壁、山、秩父の街並み、山、緑の壁…グルグル廻る。

上を見る。

太陽を背に鳥人が見ている。

「なんでこんなことをするんですか!銀次さん!

…銀次さん?

…銀次さんって言った?

…顔も見てないのに、銀次さんって言った?

…なんで…どういう…これはどういうこと…」

ドカン!

急に屏風岩が爆発した。

時計を、時間を見る。

12時30分。

「なに!?…これは…どういう…」

下を見る。

男女がこちらを見てる。

その人たちの足元もダイナマイトで爆発した。地面が持ち上がり、火を吹き、煙が立ち込めた。

「僕も死ぬ…やだ!まだ死にたくない!誰か…誰か助けて!死にたくない!銀次さん!」

すると、煙の中から馬に乗った人が飛び上がって僕に手を伸ばした。

銀次さんも昔の格好をしているが、その人物はもっと古い…まるで平安時代や飛鳥時代のような服装をしていた。

しかも、兜をしていない、ドラマで見た源義経がしていたような大鎧の格好だった。

「あなたは…」

「…すぐ分かる。ただ、助けてくれ。後で話す。」

その人の手を掴もうとした瞬間。

 

ハッと、目を覚ました。

見たことある天井。

残念だが自分の家でも病院の天井でもなかった。

木で出来た、銀次さんの家の天井だった。

「ハァ、ハァ…あれが、夢か…」

寝ていた布団に手を置く。

湿っている。凄い汗だったんだろう…

「さっき見たのは…」

「ハハソくん。大丈夫ぅ〜?」

声がした方向を向く。

夕食を食べた部屋からする。

ちょっと光が漏れている。

「カジカさんですか?…大丈夫です。ちょっと、変な悪夢を見ていたようで…」

「お水かなにか飲むぅ〜」

「あ、はい。」

起き上がって、光がさす部屋に入る。

庭に銅三さんが座っている。

「銀次兄さんがぁ〜急にぃ〜旅に出ないといけなくなっちゃって〜、準備してたんよぉ〜」

湯呑みを持ってきてくれつつ、カジカさんが言う。

「ヤマメがぁ〜着替えを手伝ってるんだよぉ〜悪夢は大丈夫ぅ〜?」

「はい。ただ、ちょっと気になることが…」

「ハハソくん。」

銀次さんの声が奥の間から聞こえた。

「急にこんなことになって本当にすまない。」

「いえ。今日泊めていただけたのは銀次さんのおかげじゃないですか。感謝してます。」

「そうか。すまないが、少し旅に出ることになってな。」

そういうと銀次さんが部屋に入ってきた。

「悪いな。」

ガチャン!

思わず湯呑みを落とした。

水がかかる。

冷たい。

「大丈夫か?ハハソ!」

さっき夢で見た銀次さんと同じ格好をしていた。

背中まで冷たいのは、冷や汗が出たからだろう。




夢の中の銀地と、鎧の男は一体?

武甲山では『歌垣』(かがい)が行なわれていたという伝説があり、それを引用しました。
歌垣はまあ、書いた通りのことを山でやることです。


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オーサキ

この宮地のなりたちは完全な空想です。(書いたときより後に調べましたが成り立ちが実際と違います。)



昔々、まず宮地には「関根」一族が住んでいました。

その関根には優秀な弟がいて、広げた土地の半分をその弟にあげて分家しました。

同時期に「斎藤」一族がやってきて、関根と分家がまだ開墾していない、北側を中心に開拓を始めました。

だから宮地には関根と斎藤が多いのですが、この弟は本家と分からなくなるので、「新井組」を名乗った。

新井組当主は、宮地にある7つ井戸のうち、五の井戸の周辺に家を構えた。

この家は秩父特有の養蚕農家で、現代の秩父でも残っていないとても古い家だ。

その家がまだ若々しいある夜に、カジカとハハソがやってきた。

土間に入るとカジカさんは僕を家の中に入れず、玄関の戸とともにトウセンボをした。

「徳栄さん。こんな夜遅くにすみませ〜ん。」

ちなみに、カジカさんのこの伸ばす喋り方は相手が貧富老若男女問わずこの喋り方である。

「鋼太郎んとこから聞いたよ。フクロウの精鋭は薗田についていかねばならず、田畑の銀次は指名されたと聞いたから気になってたんだ。」

なにか難しい話をしている。

カジカさんの後ろからヒョイっと覗く。

新井組現組頭 徳栄

四十代ぐらいのがっしりした男性で、目が大きく、色が日に焼けて濃く、落語家のように丁寧に着物を着こなしている。頭や組長をするために生まれてきたような風格がある。

「ところで、なんだね?銀次さんの出立を見なくていいのか?」

「兄はぁ、もう送り出しました〜。そこでぇ〜夜遅くだけどぉ〜徳栄さんにぃ〜ハハソくんを〜見てもらった方が良いって〜言われましたのでぇ〜…」

「どんな人だい?」

そこで、カジカさんが退いて、僕は中に入ることが出来た。

「そぅしてぇ〜こんな夢を見たんだってぇ〜ー」

「実は…」

夢で武甲山まで飛ばされて、不思議な岩の前で落ちた夢を細かく説明した。

話をしつつ、土間の東側(この家は、銀次さんの家に似た長方形を部屋ごとに区切った造りをしているが、土間は南の西端である。)の部屋に通され、徳栄さんはジッと僕の話を聞いていた。

「そうか。ちょっと待ってみ。」

話の最後もそこそこに、奥の部屋から、木箱を持ってきた。

中を開けると、

「祭費取立帳 新井組」

「御祭禮ノ通 宮地大行事様」

「祭禮諸品買物帳 宮地大行事総代」

などなど、秩父夜祭りの出納帳が出てきた。

それをかき分け、一番下の

「新井覚書」

をめくった。

「ここだ。『宮地に住んだもので[大蛇窪]の夢を見た者、[秩父ヶ嶽]に参詣し、神官より訓示を受けよ。その後、[妙見宮]にて、同じく訓示を受け、[大神]、[妙見]の札をもらい、家の神棚に飾れ。』とある。だから、秩父ヶ嶽、すなわち妙見山に登れば分かるだろう。」

「…では、僕の手をひいた、爆発の中から現れた人は誰でしょう?」

「…それや、フクロウについては記述がない。ただ、」

「ただぁ〜?」

「…ただ、その人物が秩父大神(ちちぶおおがみ)であるかもしれん。その神自らが現れたということは、なにか起こる前触れかもしれないな。」

「徳栄さん。僕は…」

「明日になったら、銅三に頼んで一緒に妙見山に行ってきなさい。そうすれば、なにか分かるだろう。」

左腕の時計を見る。

寝てたのは、深夜に思えるが10時ごろだったから、まだ12時近くである。

提灯一つで家に戻る。

「なんかぁ〜徳栄さんとぉ〜ややこしいことを言ったからぁ〜いろいろ教えるねぇ〜。」

「!…例えば、…薗田とか…田畑とか…フクロウとか…?」

「そうそう〜まずぅ〜田畑だけどぉ〜それ屋号だよ〜。」

「屋号?…お店の名前みたいな?」

「そうそう!お店はぁ〜やってないけどぉ〜おうちの〜名前みたいなやつぅ〜。」

「じゃあ、薗田は?」

「薗田はぁ〜妙見宮の神官かなぁ〜だけど、屋号じゃなくてぇ〜名字だよぉ〜」

「その薗田と銀次さんはなにか関係が?」

「金一兄さんがぁ〜いた頃ぉ〜銀次はぁ〜妙見宮のぉ〜手伝いに行ってたんだよぉ〜死んじゃってっからはぁ〜たまぁ〜に行ってたんだけどぉ〜今度はなんかぁ〜薗田さん直々にぃ〜旅に出ることになったんだってぇ〜」

「…じゃあ、鳥みたいな格好は?」

「お手伝いってのが〜、妙見宮の警護でぇ〜警備する人はああいう鳥みたいな格好をするんだ〜。だから、秩父の人たちはぁ〜警備する人を『フクロウ』って呼ぶんだよ〜。」

「それでフクロウと言ってたんですか。」

じゃあ、秩父神社のフクロウが僕を武甲山に連れて行くというのはどんな意味があるんだろう。と僕は考えたとき、ここを東にまっすぐ歩けば家に着く坂道の下にやってきた。

大きな椿がはえている。

そのとき、誰かが大声で、

「ニャハハハハ!」

と鳴いた。

「なんだ!?」

「あぁ〜あれは…」

「ニャハハハハ!おい、人間!」

「上か!」

椿の枝に猫や猿より大きなものが四つん這いになってこちらを見ている。

月明かりをバックにシルエットが浮かび上がる。猫耳な女性に見える。しかしら光が弱く顔は見えない。

「あれはぁ〜『オーサキ』だよ〜。ハハソくんのぉ〜肩に乗ってた〜。」

「だけど、あれは猫で…あんなに大きくはなかったような…」

「あ「ニャーは、太陽光線がなくなると人間の形になれるニャ。」んだよ〜」

カジカさんが喋るのに合わせてオーサキが喋る。

「僕たちになにか用ですか?」

「ニャハハ。あの家の人間でニャーに興味を持ったってことは、付き纏われるってことににゃる。」

「オーサキはぁ〜人にとりつく憑物の一種だよぉ〜。江戸の方だとぉ〜狐ぇ〜、佐渡の方だとぉ〜狸ぃ〜。四国の方だとぉ〜狸に加えてぇ〜犬とかが〜憑くらしいよぉ〜。」

「にゃーから、おミャーをニャーの子分にしてやるから、ニャーと勝負するにゃ。」

「勝負に負けると死んじゃうよ〜。」

「カジカさんは、勝ったんですか?」

「ニャハハハハ。カジカは、おミャーの秘密を教えてくれたから、カジカの勝ちにして、おみゃーのために働くことにしたニャー。」

「なんでみなさん、教えてくれないんですか?」

「銀次兄さんがぁ〜注意する前に触っちゃったから〜まぁ〜、秘密を言えばぁ〜殺さないって言うしぃ〜、誰かにばらすってこともないからぁ〜そっちに持ち込めばいいかって〜。…言うなればぁ〜私ももっとハハソくんのことを〜知りたいし〜。」

「………。」

異世界から来たと言うのが最大の秘密だが、それを言ってもいいのか?証明出来ないが…

「ないのかニャー?ニャア…」

肩から背中にかけて、そりあがる。

まさに、猫が怒っているように。

「死ぬかにゃ?」

「いや、僕は…僕の秘密は、…僕は、ここじゃない世界から来たんです!」

黒い霧が、僕を包み、心臓を握り潰す。

というとこは起きなかった。

「で…それの証明は出来るんかニャ?」

「…いや、時計も服も家だし…」

「ハハソくん!」

カジカさんが、〜を使わずに喋った。

「このオーサキは、嘘をつかれると、必ず殺すから…」

「ニャら、そういうことだから…

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さようなら」

 

「ギャー!」




これを書いたのは昨年なのでオーサキが『青天を衝け』で出るとは思ってませんでした。
また、しゃべり方は悩んだあげく、猫が擬人化したようなしゃべり方になってしまいました。(ご勘弁ください。)


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秩父の三害

秩父には家に寄生する憑きものが三種類あると言われて、オコジョのような「オーサキ」と小さいヘビの「ネブッチョウ」両方出すことにしました。
ただ、本当のオーサキとネブッチョウかと聞かれたら違うと思います…


「ギャー!」

と、声を上げたのは、カジカさんではない。ただ、僕でもない。

枝から飛び、僕に飛びかかろうとしたオーサキが不自然に地面に落ちた音だった。

僕たちもシルエットは見えた。まるで、空中で急になにか重い石を背負わされたような落ち方をした。

手足を伸ばして、僕たちを泣きそうな目で見ている。

「た…助けて。助けて。」

「カジカさん…」

「ハハソくん〜。襲わないと約束してあげなよ〜。」

耳元でカジカさんが囁く。

「これはね〜。ネブッチョウが上に乗ってるんだよ〜。」

「ネブッチョウって?」

「オーサキの背中にちっちゃい蛇が乗ってるはずなんだよ〜。それがネブッチョウ〜。」

「それは、僕を襲わないのでしょうか?」

「家の二階に、なんも喋らない人がいたでしょ?あれがネブッチョウの昼の姿。あれも〜ハハソくんが〜気になっちゃったから〜取り憑いたみたいだね〜。ネブッチョウは、ご主人の危険や、気持ちを読み取って行動するから〜、先にオーサキと〜契約した方が良いかもね〜。」

「はい。」

「にゃ、ニャーを早く、助け…て…」

「オーサキ。助けてやるから、僕を襲わないので欲しい。」

「お、おミャえ…」

「僕は、君を助けたい。だから、早く契約してくれ。僕を襲わないと。」

「…分かった、にゃ。約束してやるにゃ…」

「良し。ネブッチョウ。退いてやってくれ。」

「は、早くして欲しいにゃ…」

「?…ネブッチョウ。早く退いてくれ。この子が死んじゃう。」

「も、もう…」

「…ネブッチョウ。もしも、僕が君に驚いたことに怒っているんなら謝る。姿を見て、姿だけを見て驚いてごめんなさい。」

「は…ニャア…」

「…ネブッチョウ。さっきは、話ができなかったりけど、朝になったらしようよ。それならしゃべれるでしょ?」

「ニャー!楽になったニャー!」

「………!」

ゾワっ!

なにかが、背中を駆け上がった。

まるで、蛇が駆け上がったような。

「ニャハハハハ!おい、ニャンゲン。しょうがにゃいから、これで勘弁してやるにゃ。その代わり…」

「まだなにかあるの〜?」

「うるさいにゃ。カジカ。変なこと言うとお前の秘密をハハソに喋るにゃ。」

「ふぇぇ〜。」

「おい、ハハソ。俺がオーサキに戻ったら、昼間と同じく俺をかまうのにゃ。分かったにゃ?」

「そ…そんなことなら、良いよ。」

「ニャハハハハ!じゃあ、朝にまたにゃ。ニャハハハハ!」

そう言って、オーサキはどこかにジャンプして行った。

「ハハソくん〜大丈夫?」

「あっ!…はい。大丈夫です。」

「いま〜、背中をなにか這いついたでしょ〜?」

「えっ!…まぁ、はい。」

「懐を〜見てごらん〜。」

右手を恐る恐る懐に入れる。

するとなにかが、腕に這ついた。

「わっ!」

パッと手を振り払おうとしたが、絡みつき離れない。

見ると、蛇が巻きついていた。

「きっと〜話しかけてくれたのが嬉しかったんだね〜。」

蛇が、ペロペロと舌を出し入れした。

「ニャハハハハ!」

「オーサキ、急に動いて大丈夫なのかな〜」

「カジカさん。ネブッチョウってのは…」

「改めて説明すると〜この子も憑物で〜オーサキが太陽がなくなるとぉ〜化けるように、太陽があるとぉ〜この子は化けるの〜ちなみにぃ〜聞いた話だとぉ〜オーサキ、ネブッチョウ、なまだんごっていう〜憑物三つを〜『秩父の三害』って〜言うんだって〜。」

「なまだんごも家に?」

「なまだんごは見たことないかな〜。ただ、もう見たとしても無視した方が良いよ〜」

「はい。気をつけます。」

「ただ〜なまだんごってのは〜石で出来た人の形をしたもので〜草鞋を〜片足は履いて〜片方は手に持ってるらしいよ〜」

「道端にあるお地蔵様みたいなものですかね?」

「うん〜?そう考えていいかもね〜。」

そう話していたが、誰かの家の前に誰か立っていた。しかし暗がりだったので分からずぶつかってしまった。

ドン!

「あっ!ごめんなさい。ボーッとしてました。」

「いえいえ、こちらこそボーッとしてました。申し訳ございません。大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思います。ありがとうございます。」

「そうですか。おやすみなさいませ。」

「お、おやすみなさい。」

そう言って別れた。

「今日はなんだか盛りだくさんで疲れました…さっきもぶつかってしまったし…」

「遅くなっちゃったけどぉ〜早く休も〜。明日も色々あるからね〜。」

さっきぶつかった人、片足は素足で、片足の草鞋を手に持っていたとは、カジカもハハソも気がつかなかった。




なんだかんだ「生団子仏」も出しました。
ここまでは楽しく書いています。


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武甲山いや妙見山山頂にて

ここで出てくる伝説は秩父の昔話として伝わっています。
(ほぼ私の趣味ですね。ただ、このネタを出すために書いていたような感じです。)


「おはようございます!」

普通の人間なら全身使ってあける雨戸を銅三は片手の人差し指と中指だけで全て開けた。

太陽光線が眩しい。

「お、おはようございます。」

「ハハソさん。昨日は夜遅くまでカジカ姉さんと歩き回っていたようですが、なにかやらしいことでも…」

「あ、ありません。徳栄さんの家に急遽行っただけです。それと、そんなことを大声で言わないでください。恥ずかしい。」

「恥ずかしいことなどなにもありません。そうだ!もしあれなら、もとまちに連れて行きますよ。」

「本町?本町になにか?」

「?なにかもなにも、もとまちに揃ってるじゃないですか。」

また手を伸ばしてきた。

「あっ!一個お願いがあります。二階に連れてってください。」

「なんかあるんですか?」

「約束を果たすんです。」

「なら。」

また、鷲掴みにされ、二階に放り込まれた。

「ネブッチョウ!どこですか?」

「あちゃー。ネブッチョウとも契約しちゃったんですね。」

外から銅三さんが喋った。

「そういうことになります…ネブッチョウ、約束を守りに来たぞ。」

梁を丁寧に見る。

「ハハソさん。」

「なんですか?銅三さん?」

「後ろに違和感ありませんか?」

「えっ?」

銅三さんの方を振り向く。

すると昨日梁に座っていた女性が目の前にいた。

驚いたけど、声は出さなかった。

「あぁ、昨日はオーサキを助けてくれてありがとうございます。僕はハハソって言います。あなたは?」

「………。」

「?…ネブッチョウ?」

うなずいた。

「喋れないの?」

うん

「えっと…字は書けるの?」

首を横に振る

「僕は…君になにが出来るのかな?」

ジーっとこちらを見る。

昨日を思い出す。

 

布団に入ったところで、カジカさんが入ってきて、枕元でこんなことを言ってた。

「ハハソく〜ん。明日の〜ネブッチョウのことなんだけどぉ〜、多分ひっさしぶりに人と喋れるから〜楽しみだと思うんだよね〜。だけど〜彼女は〜喋れないから〜うまく引き出してあげてね〜。それと〜ネブッチョウは〜人の喜ぶことが好きらしいから〜…あれ〜?寝ちゃってる〜。色々疲れたよね〜。まだ小さいのに〜。じゃあ〜また明日〜。」

そう言って、カジカは出て行った。

 

その状況はどういうことだったのか意味が分からないが、なにを言っていたのかは分かった。

そして今

「じゃあ、僕は人に報告したりするのが好きなので、その話を聞いてもらえますか?」

顔がパッと明るくなり、うんうんとうなずいた。

「今日は、銅三さんとぶ…妙見山に行ってくるから。なにか面白いことがあったらまた明日言うよ。」

うんうん

「じゃあまた明日。」

そういうと、ネブッチョウは、右手をゆっくり伸ばして、僕の頭を撫でた。すごく久しぶりに誰かに頭を撫でられた。

僕が呆気にとられてる間に、ネブッチョウはまた梁に登っていった。

すると下から、青い服、ヤマメさんが上がってきた。

「ハハソ。ここにいたんだ。もうすぐご飯だよ。今日はとってなげだから。」

「ヤマメさん。おはようございます。実はネブッチョウと約束してしまってました。」

「それは大変。だけど、オーサキより簡単だから良いよね。」

「………。」

とてもオーサキとも契約してて、それを助けてもらったとは言えなかった。

「もしかして、オーサキと契約したんですか?」

「契約したっていうか、打ち負かして、契約逆にさせた感じだね。」

「えっ?」

「大昔にオーサキに君はなんなの?って聞いたら夜に人間みたいな格好になってやってきたけど、麺棒でボコボコにしたら泣いて謝ってきたから、家を守ることを条件に許してあげた。なにかオーサキがちょっかい出してきたら、私に言ってね。わたしから注意しておくから。」

なんということだ。ネブッチョウだけでなく、ヤマメさんに相談してもなんとかなったと、今ではなく、夜に一度家を出る前に聞きたかった。

すいとんを食べて、おにぎりを握ってもらい、銅三さんの手に乗せてもらい、武甲山の山頂の神社を目指して出発した。

「銅三さん。一応お願いなんですけど…」

「大丈夫です。カジカ姉さんに『妙見宮から向かえ』って言われたから、その通りにしますよ。」

「ありがとうございます。」

「何度も言いますが、カジカ姉さんはとても良い人です。気周りも早いし、優しいし、頭は良いし、だけど、結婚したがらないんですよ。」

「…なにか、ご自身で考えがあるんじゃないんですか?」

「ですけどね、金一兄さんが生きてる時に、どんな人なら結婚したいか聞いたら、『遠くの人と話せる箱』『動物や人を必要としない車』を持ってる人なら結婚したいと言ったらしいです。そんな人いるんですかね?」

「………。」

遠くの人と話せる箱と、動物を必要としない車…それを僕は知っている。読者も分かるはず…だけど、この時代の人は絶対知らない物。だけど、それをカジカさんは知ってた…これは後で聞いてみる必要がありそうだ…

そんなこと話していると、妙見宮の通り、今では秩父神社の門前町である番場通りに出た。

「ここが妙見宮ですからね。ハハソさん。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫ですよ。…大丈夫というか、銅三さんも大丈夫ですか?」

「なぜです?」

「家や建物が密集してる場所じゃないですか。」

「大丈夫ですよ。なぜなら、体重を自由に変えられますから。例え建物を踏んでも建物は雀が乗ったぐらいにしか感じませんし、人を踏んでも、葉っぱが落ちてきたぐらいにしか感じません。」

「それなら安心です。」

「では急ぎますよ。」

音をつけるなら、ドシドシ歩いているはずですが、ほぼ音がしないで、移動していった。

時たま

「巨人さん!」「珍しく巨人がここを通ってる!」

という声が下から聞こえた。

それに一人一人挨拶しながら銅三さんも進む。これは、秩父の人に巨人が受け入れらる訳だ。

「そういえば、銅三さんはずっと巨人なんですか?」

「気がついた時には銀次兄さん達より大きくなっていたけど、ぐんぐん大きくなった感じです。カジカ姉さんが一時食事を取らなくなったことがあったんですが、体重が重くなるとこが悩みだと言っていましたが、普通の人は体重を操れないってのもそれまで気がつかなかったてすよ。みんな体重が操れると思っていましたから。」

「なるほど。…なにか、他にも巨人はいるのですか?」

「土木工事を一緒にする人たちはいますが、身近なところはいません。しかしみんな仲良くしてくれますよ。

そういえば、ハハソさんは琵琶湖というものを見たことはありますか?」

「…みたことはないですが、知ってます。日本で一番大きな湖だと」

「秩父で一番大きな巨人は、富士の山に座り、琵琶湖の水で顔を洗ったと聞いたことがあります。富士の山は見たことあるのですが琵琶湖はありません。どこにあるのでしょう?」

「…直線に歩いて、秩父から富士山に行くことの、倍以上奥にあるそうですよ。」

「わたしも是非見てみたいんですよ。それと、こんな話があります。

ある巨人が、白い石と土をモッコで運んでいたら、足を窪みに落としてしまい、石と土を落としたらしいんです。慌てて足を窪みから引き抜き、石と土を見ると、土は元々あった山のすぐ隣に落ちて、まるで双子のような山になり、白い石も良い感じに連山の端に落ちたのでそのままにしたらしいんです。それが、足が落ちて窪みになったから『芦ヶ久保』、双子に見えるから『二子山』、白い石が『妙見山』の最初と言われてます。しかし、芦ヶ久保と二子山は分かるのですが、妙見山は本当に白いんですかね?今は木が生えてますから分かりませんけど。」

と言った。

「初めて知りました。…」

五百年ぐらい経った妙見山は、爆破され真っ白なピラミッドが出来てるとはとてもじゃないがこんな優しい人に言えなかった。

「他にもあるんですか?」

「荒川が氾濫した時、護岸工事をした巨人が、菅笠を置いた『笠山』、ミノを置いた『美の山』、お腹が空いてお粥を煮た『粥新田峠』、使った箸を突き刺した『二本木峠』、釜を伏せた『釜伏峠』と言われている他、大昔の両神山は、富士山のように山頂付近に雪が積もっていたのですが、巨人がゲンコツで吹き飛ばしたとも、殴って縮めたとも言われています。

そんなことを言っていたら、もう山頂ですよ。」

「もうですか!」

今まで手の中にいたのですが、ここで外に出させてもらった。たしかに秩父盆地を見渡せる高い山の頂上にいる。

下を見ると、現代の秩父より家が少なく、田んぼや畑、そもそもなにもない平原まである。あとはぐるりと山に囲まれ、進撃の巨人や異世界物語の街を彷彿とされる。ただ、進撃の巨人と違い、この壁(山)は巨人がなっているのではなく、巨人がつくったのである。

「これが、妙見山の山頂御岳神社ですよ。」

銅三さんが山頂の木に囲まれた社殿の目の前に下ろしてくれた。

社殿は、二つの建物が連結したような形で、三方は雨戸が閉まっていた。

「ごめんください。」

「はい。」

すると中から雨戸を開けて神職の格好をした人が出てきた。

「宮地の人ですね?」

「えっ!?なんで?」

「ここから秩父を見てて、秩父神社から真っ直ぐにやってくる人間は、宮地の妙な夢を見た人だけですからね。お入りなさい。すぐに始めましょう。」

「ハハソさん。あまり構えず、行ってきてください。わたしはここで待ってますから。」

銅三さんに急かされ、中にはいる。

神社の中は畳張で、中央に扉がある。

「あなたは、どんな夢を?」

座りながら、宮司が聞く。

「実は…と言った通りです。」

と僕は夢を話した。

「なんと…妙見山の爆発の中から人が?…それは…ちょっとお待ちを」

そういうと、立ち上がり、奥の扉に近づいた。

そして、一礼し、かんぬきを外し、開けてくれた。すると、中に夢で見た鎧を着た人の木像が入っていた。」

「このような姿をしていましたか?」

「…はい。まさに、この人です。」

「そうですか…」

ゆっくり扉を閉じて、目の前に座った。

「あの木像は、『秩父大神』と伝わっています。」

「あれが…僕が秩父大神に?なぜ?」

「…それはなんとも申せません。大体の宮地の方。特に新婦は、屏風岩の前の『歌垣』の夢を見ると言われて、お祓いならびに、報告をするのですが、大神様がお現れになったというのは…はじめての経験です。」

「…大神様にまつわる伝説も?」

「わたしが知っているのは、太古の昔に仏教勢力に押され、秩父ヶ嶽に隠れましたが、秩父ヶ嶽も妙見山と改名させられましたから…もしかしたら、その当時の無念を訴えたのかもしれません。」

「なぜ僕なんですか?」

「…それも、なにも…」

「………。」

しばらく沈黙してしまった。

「宮司はいますかの?」

急に外から声をかけられた。

「どうぞ。」

宮司が答えると、障子を開けて、男が入ってきた。服装からして農民のようだ。

「あぁ、六兵衛さんか。また、競争かい?」

「どうしても見たいと言う人が集まっちまったもんで、また勝手にやらせてもらいますよ。」

「いいよ。どうぞ。」

「では。」

そういうと男は障子を閉めてしまった。

しかしすぐに、ゴーン!ゴーン!と釣鐘を突く音がした。庭の隅にあったあの鐘だろう。

「今の人は?」

「大宮郷と妙見山を挟んで裏側にある荒川上田野の六兵衛という人だ。なにせ足が早いことで有名で、今は、上田野で湯が湧くのが早いか、自分がここの鐘を突いて帰ってくるのが速いか競争してるんだ。」

「ここまで、千メートル…いや、そうとう高いでしょう?」

石灰の採掘で山頂が削られているから正しい高さが分からなかったし、メートル法が通じないだろう…

「しかし、彼は出来るんだ。上田野で結婚した夫婦に鯛の刺身を江戸から運んだという話を聞いて、嘘だろと思ったが、たしかに刺身を食べたという村人を何人も知っている。しかも力が強い。大人が抱き抱えるような巨石を富士の山から運んだと言われ、たしかになかった場所に新たに巨石があった。」

「六兵衛さんか…」

「君と銅三はこれからどうするんだい?」

「これから、ち…妙見宮にも話を聞きにいかないといけません。」

秩父神社って言いそうになった。

「そうか。なら、悪夢除けの札を授けよう。ただ、大神様の謎が解けん。なにか不思議なことがあればまたきて欲しい。」

そう言いながら、新しくお札を書いて渡してくれた。

「ありがとうございます。」

「逆にわたしからも礼を言わせてくれ。新しいことが知れたし、力にもなれた気がせんからな。」

ガラガラと障子を開ける。

すると、指先を濡らした銅三がぼんやりしていた。

「銅三さん!終わりましたよ!」

「あぁ、ハハソさんか。」

「どうしました?ボーッとして。」

「いや、さっきのお爺さんは変わった人だと思いまして。」

「なぜ?」

「山を登ってきた時に、右手にザルを持っていたんですが、中に水が溜まっていたんです。『不思議なことがあるもんだな〜』と見てたら、『ちょっと持っててくれ。』と言われたから、受け取ったら、なんせザルだから一瞬で地面に水が落ちちゃったのですが、出てきた爺さんに謝りながら渡したのに、『大丈夫じゃ。見ろ。』とザルを覗き込むとまた水が溜まってたんです。そしてその人は小走りに去って行きました。」

「………。」

「………。」

「お二人ともどうなさった?まさか、ザルがそんなに気になったのですか?」

「銅三さん。先程社殿に入ってきたのは、黒髪の男性でしたよ。」




六兵衛は剃髪して即道と名乗り、足が速いだけでなく力持ちであったり、仏像をつくるのがはやかったという伝説や、彼の最後は、石室に入り即身仏になろうとしたが、三年後掘り出したら姿がなかったという超能力者のようなことをしていた人と言われています。
ちなみに、銅三のザルは六兵衛がやったのではなく、横瀬町に伝わる昔話で、武甲山の神様が酒をザルで買いに来る酒屋があったという話をベースにしています。


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秩父神社もとい、妙見宮にて

ここも、「こうだったら面白いんじゃないか?」で書いたものです。
ただ、どんどん現実離れが進みます。(もう宗教のところが良く分かりません…)


「不思議なことがあるもんですね。」

そう言いながら、銅三さんはもう番場通りまで戻ってきた。

秩父神社。この世界では妙見宮と呼ばれる施設で、妙見大菩薩の札をもらえば、今日のやることは終わる。

「じゃあここで。」

鳥居の前で銅三さんが言った。

「またここで待つのですか?」

「いや、ちょっと、まぁ、はい。」

なんか急に曖昧な返事になる。

「じゃあ、終わったらどこかに合流って感じで」

「うーん…」

銅三さんが僕を見下げる。

「神社を背にして右手に進み、柿原に行ってください。」

「柿原?」

「そこの辻のところですよ。本町の柿原と言ってわからない事はないでしょう?なにせ、300年はもつはずですよ。ハハハハ!」

そう言って小走りに行ってしまった。

「どうしたんだろう?」

ニャー!

足元から急に猫が鳴いた。

その瞬間ヒョイヒョイと肩に乗ってきた。

よく見たらオーサキであった。

まだ太陽があるため、殺される心配はない。

「さて、」

と、神社の敷地内に入っていった。

ただ、ここで異変に気づくべきだった。

狛犬ではなく、仁王像が祀られていたことに。

江戸時代に秩父神社は再建され、日光東照宮を造る大工達が試作で造ったとされ、左甚五郎作の『子育ての虎』を始め、見ざる言わざる聞かざるの逆である、よく見て、よく聞いて、よく喋る『お元気三猿』、夜な夜な動き、農民を苦しめたため、鎖で繋がれた『つなぎの龍』を筆頭に、さまざまな彫刻で彩られている神社である。

はずだったが、妙見宮は異様な神社だった。

本殿の隅を囲むように四箇所お寺みたいな施設がくっついている。

秩父神社の本殿の裏には末社が30社近く壁伝いに祀られ、上手には神輿が収蔵してある。

しかし、この妙見宮には、末社ではなく、仏像や羅漢像が祀られていた。

神輿はあるが、左右一つずつで、実在する神社より派手で大きくなっている。

「秩父神社って、こんなに仏教色強かったんだ…」

ニャー。

神社は、神職や巫女が働いているはずだが、袴を履いている男女は見当たらない。

みんな、銀次さんやカジカさんのような格好をしている。

その人たちは、掃除をしたり物を運んだり、忙しなくあちらこちらに動いている。

「ずいぶん驚かれてますな。」

急に話しかけられた。

振り向くと、スキンヘッドのおじさんだった。

「もう一つの太陽が光っているのが驚いたかい?」

「………。」

ニャー!

なにか喋ろうとしたが声が出ない。

「…君もオサキ持ちかい?しかも猫に擬態してるとは珍しい。」

ニャー!

「まあ、良い。すぐ話に入ろう。来なさい。ハハソくん。」

スタスタとおじさんは本殿に入る。

「どうして僕の名前を?」

僕は追いかける。

「徳栄に聞いただけさ。ハハソくん。」

ピシャリ!と入り口を閉めた。

「わしは法範。徳栄が新井組組頭だとすると、わしは斎藤組組頭。そうだとすれば、全て分かるかい?」

「徳栄さんがおっしゃってくれたのですか?」

「そういうことだ。」

「薗田がバカやって、宮地の組頭が交代で宮司をやることになった最初の仕事が君の相手というわけだ。」

「実は…というわけです。」

「徳栄に聞いて、だいたい把握はしてたが、本当だったとはな。では教えてやろう。この神社の宮司が、宝物を質屋に出しちまったせいで、君の知ってる田畑の家を始め、フクロウとして奉仕してた連中はひでえ目に会ってる。だけど、思わんか?仮に、質屋に出したんなら、金を返せば良いって。」

「確かに。」

ニャー!

「…質屋に出したってのは、建前だ。確かに質屋に出したんもあるが、逃げ出した宝物もある。」

そう言って、四隅のお寺のうち、一つの扉を開けた。

「仏具だ。」

中に、仏像も鐘や木魚もなかった。

「また、御岳の宮司に聞いただろうが、大昔に秩父大神が山に逃げたと言われただろうが、じゃあ、ここにはなにが残ったと思う?」

「…なんだか分かりませんが、」

「仏教がおそれるもの?」

「!…はい。仏教が見てるもの。」

「なかなかな推理だ。だが、違う。」

ニャー!

「ハハソくん。君は、この妙見宮の仏教どう思う?」

「はい。はい?…えっと…強引というか、必死というか…」

「うん。わしもそう思う。ただの信仰の対象でなく、なにか見張っているように感じる。」

ニャー!

「まるで…神社の中心を見張っているような…」

「薗田が仏具を持ち出したのは?」

「そうだ!じゃあ、両方持ち出したのは意味が分からない。」

「ハハソくん。君は…」

そういうと法藩さんは自分の見事なスキンヘッドを触った。

「まるで、仏と神が別の宗教のように話すな。」

「……………。彼は、薗田さんは全て仏具を持ち出したと…」

「そう。神道も仏教も関係なしに、大神を解放するためにやった。だけどだまってないのもいた。仏教信者達だ。」

「その人達が、薗田さんを…」

「なかなか近づいてきたな。」

「…法藩さんは、なぜそれを教えてくれたんですか?」

「徳栄に聞いてピンときた。薗田が、仏具を出したことと被るように屏風岩の夢を見た人間。ただ、それだけでなく、君を助けようとした大神。」

こちらを法藩がジッと見る。

「疑わないほうがおかしい。君は、なにかこの世の人には出来ないことをやってのけそうだ。」

「……………。」

超小さい声で、「異世界から来たことを見破られたのかと思った…」

と言った。

法藩は出ていこうとしている。

「あの、お札かなにか…」

こちらを振り向く。

「…大神とまた会ってなにか聞いて欲しい。それが分かってからでも良いかい?」

バシャン!と扉を閉めた。

「ちょっと待ってください!」

バラバラ!と開けたが、スキンヘッドを見つけることは出来なかった。

いそいそと出て、少し探したが見つからなかったので、銅三さんと合流しようと、妙見宮を出て、右に進み、交差点に出た。

すると、現代の秩父にもある建物があった。

現代で見たときは、交流館になっていたが、造りはそのままで、男の人の威勢の良い声や、お客を引く女の人の声がする。

「僕。そんなところにボーっとしてどうしたの?」

「えっ!?あっ!ここが、柿崎商店ですか?」

「そうよ。」

「あの、銅三さんは?巨人の。」

「あぁ!銅三さんのお知り合いね。ちょっと待っててください。」

そう言って、建物に入っていった。

すると、屋根が持ち上がった。

「うわぁ!」

僕は思わず後ろにさがり、腕を顔の前まで上げた。

そこから、ヒョイっと銅三さんが顔を出した。

「あぁ。ハハソさん。終わりましたか?」

「あ、…はい。」

「そうですか。では、皆さん。わたしはこれで。」

そういうと、銅三さんは立ち上がり、屋根を慎重に被せると、通りに立った。

そうするとみんな「なんだ、巨人か。」など言いながらみんな作業や仕事に戻っていった。

「あんな曲芸をやってたってのは、カジカ姉さんと、ヤマメ姉さんには内緒にしてください。」

「は…はい…」

「で、妙見宮の宮司とはどんな話をしたんですか?」

「え、あっ…あっ!」

「どうも、驚いて忘れたようですね。」

頭に拳骨を当てて、

「どうもすいません。」と言った。




秩父神社と柿崎商店の建物はまだ残っています。是非遊びに行ってください。

元々は、女の人と遊べる場所にいる予定だったのですが、ややこしそうなので、柿崎商店でお茶を飲んでいることにしました。
(カジカとヤマメが怒ったのはその名残です。)


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落ちた希望

さあ、こっから話が急展開を迎えます。


夜。

銀次さんの家になんとかたどり着き、夕食でなにがあったのか喋ったあと、二階に上がった。

カジカさんが色々説明してくれたらしく、みんな付いてきたり、疑問に思ったりしなかった。

二階はまぶしがカラカラ回っている。

頭の上になにか落ちてきた。

「ネブッチョウか?」

背中をゾゾゾゾ!となにか這って右腕に巻き付いた。

見ると、小さい蛇だった。

「約束を果たしに来たよ。」

「ニャハハハハ!本当に話に来たんか!ニャハハハハ!」

梁を見ると、オーサキがもう人間化していた。

「君も聞きたい?」

「ニャーは、おミャーが約束を守るか見たかっただけにゃ。約束を守ったなら興味はないニャ。」

そう言うと、外に出ていった。

「ネブッチョウ。実はね、今日は…」

僕は右腕に巻き付いたネブッチョウに話し始めた。

手持ち無沙汰になり、二階をぐるぐる歩き、外が見えるところで腰を下ろした。

「…と言うことがあったんだ。急にいろんなことを知ったから、何日も寝ていないみたいだよ。」

月が綺麗で、武甲山もシルエットがボヤーと浮かんでいる。

 

そして、

 

僕は、

 

こう声を出した。

 

「僕はどうしてここに来てしまったんだろう。」

 

その時、夜空が急に、ビュンビュンと流れ星が流れ出した。

まるで雨が降るように。

アイドルを応援するペンライトが一斉に光ったように。

本当に急にたくさんの流れ星が現れた。

二階から身を乗り出し外を見る。

「なんだこれ!?」

覗いている南側から、北側に移動する。

すると、とにかく他の流れ星と比べ物にならないほど大きい。尾を引く彗星のように大きな星が北極星の方向から飛び、グングン近づいてきた。

「落ちるかも…」

そう思ったが、体が蛇に睨まれたカエルのように動かなかった。

これは伏せた方が良いと思っても、体が動かない。

星はどんどん落ちる。

「どうしよう…あんなこと思ったばっかりにこうなったの?」

そうに思った。

星はドンドン落ちて、目と鼻の先にある山の麓に落ちた。

大きな音はしなかった。

まるで、寸前にブレーキがかかったようだった。

「落ちた…人が巻き込まれたかもしれない!」

僕は慌てて一階に降りて、外に飛び出した。

すぐ走ったら、すぐ見つかった。

星は光っていた。しかし、民家がなく、見つかり辛いところに落ちたので僕が一番だった。

「ここなら、誰か巻き込まれた心配もないだろう。」

そう思っていたが、その光っている光源(隕石だと思う。)の近くに人が倒れていた。

「あっ!大丈夫で…す……か?…」

最後は声にならなかった。

だって、夢の中の爆発から飛び出し、僕の手を握ってくれたあのお兄さんだったのだから。

「…あっ!大丈夫?」

うつ伏せの体を、仰向けにしようとひっくり返した時、彼の胸もとからなにか箱が落ちた。

すると、その箱が緩んだのか蓋が開いて、中から虹色の煙が現れて、僕を包んだ。

「わっ!なんだ!?ゲッホゲッホ…」

しばらくして、僕は気絶してしまった。

 

「ばっ!あっ!」

と目を覚ます。

またあの銀次さんの家の天井である。

ただ、それだけでは「あっ!」とは驚かない。僕が驚いたのは、枕元にカジカさんと、銀次さんがいたのだ。

「僕、もしかして死んでどっかに戻ったの?」

「なにを言ってるんだい、ハハソくん。君は昨日夜に人をたすけにでも行ったんじゃなかったんかい?」

「そーだよ〜。急〜にいなくなった〜と思ったら〜銀次兄さんが〜ふた〜りを、背負って〜帰ってきたから〜びっ〜くりしたよ〜。」

僕は、死に戻りをしたわけではなさそうだ。

「二人を背負ってきたと言うことは、もう一人の方は?」

「安心して〜銅三〜とヤマメと〜お義姉さんに〜見てもらってるから〜。」

「体に異常はないか?」

「はい。…おそらく。」

「なら良かった。」

僕たちがいる部屋から庭は丸見えだった。もう一人の人は銀次さんの部屋にでもいるのか、奥の襖が閉まっていた。

「ごめんください。」

その時、庭から声がした。

「は〜ぃ?…」

カジカさんが振り向きながら返事をした。しかし、元気がなくなった。

僕もカジカさんの体の間からお客さんを覗き込んだがギョッとした。

気持ちが悪いというか、冷たい風がヒンヤリと体を突き抜けたような感覚に襲われた。

その男は、ゆっくりねっとりとした不協和音を基本とする音楽を、ホラー漫画家が聴きながら、「立っているだけで身の毛もよだつ男を描いて欲しい」と注文をされたような男であった。

男と言ったが、頭からすっぽりと毛布のようなものを被り、前も隠しているため、顔は見えない。

ただ、立っているだけでその周りが凍るような人物であった。

「なんの御用でしょう?」

銀次さんが近づいて喋る。

「実は、昨日の流れ星のことを調べていまして…ー

「その前に、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「申し訳ございません。上の虚空蔵菩薩の使いで参りました。泥と申します。内容としては、昨日の流れ星の調査と、ある箱を探しています。」

「箱を?」

「はい。ご存知ないですか?」

「箱は見たことないな。」

「そうですか。では、そちらのお嬢さんは?」

「わた〜しもわからないかな〜。」

「ふむ…では、布団で寝ていらっしゃる方は?」

昨日の夜に虹色の煙に巻かれた時、煙が出たのは、

「箱は…見ました。」

「なな、なんと!どこで?」

「昨日、流れ星の落下点に行った時に、人が倒れてて、その人が持ってました。」

「その方はどちらに?まさか…」

「?……」

僕は首を傾げたが、銀次さんが、

「落下点にわたしが行った時、この人ともう一人倒れていたので連れてきました。」

「なんということだ!」

冷静さがなく、肩を震わせ興奮している。

「そうだったんですか。そうでしたか。では、箱はその方が…」

「はい。懐に戻しました。」

「では、その方はこちらの家に…」フゥフゥ…

「はい。」

「そちらの奥の部屋に?」ハァハァ…

「はい。」

「では…」と言って、右手を前に出して、衝撃波を撃った。

空気砲を食らったような圧力の空気が、巨大扇風機の前に立たされたように全身に受けた。

銀次さんは右手を出した瞬間にカジカさんを庇うように倒れた。

僕は布団に叩きつけられた。

ふすまが奥の部屋に向かって、レールを外れて、ボン!と飛んだ。

僕は仰向けの状態で上を見た。すると奥の部屋が逆さまに見える。

そこには、昨日会った男の人がヤマメさんを左手で抱えて、右手に剣を高く振りかざし、こちらを見ていた。奥の庭に銅三さんがいて、ふすまをヒョイと持ち上げていた。

「見つけた!オオカミだな!」

右手を前に出して、不吉な男は不吉な雰囲気のままこちらを睨んでいる。

「待て。ここの人たちを巻き込むことはやめろ。」

「ならば、あの箱を渡せ。」

「箱か?欲しけりゃくれてやる。」

口で刀を咥えて、懐から箱を出した。

手の上に乗るほどな小さな箱。

頭の上に掲げ、男に投げた。

届かず、手前で落ちると思ったが、そこからグンっと持ち直し、男の手に収まった。

男は気持ち悪くニヤリと笑うと、

「いきなりきてこのような粗相を働きすみませんでした。この償いといってはなんですが…」

と言って、金の大粒を縁側に置いて去っていった。

銀次さんが、後ろを追っていって本当に虚空蔵様に帰るのか少し追いかけて行ったが、すぐ戻ってきた。

「あいつ。本当に寺に入って行ったよ。」

「銀次さん…」

「やぁハハソ。君にきちんと説明しなかったことを詫びたい。すまん。カジカから聞いていると思うが、オレは今妙見宮の薗田宮司と宝物を探している。その途中、昨日の流れ星を見て、自分の家の方だったから気になってやってきたら君と見かけない青年を見つけて、ここへ連れてきたというわけさ。」

銀次さんは次に、刀を納めている青年を声をかける。

「お怪我はありませんか?」

「私は大丈夫です。ただ、家が…申し訳ございません。」

「謝らないでください。先制攻撃はあちらですから。この後文句を言ってきますよ。

銅三さんが手を伸ばし、ふすまをレールに乗せている。

「わたしはこの家の銀次と言います。あなたは?」

「…オオカミと呼ばれている。」

「オオカミ…」

銀次さんが続けようとしたが僕は遮ってしまった。

「どうして、夢の中のあなたがここにいるのですか?」

「夢?…それは分からない。」

「ぼく、いや私、一昨日の夢であなたに出会ったのです。爆発の中から助けていただきました。」

「爆発の中から助けた?…爆発で助かったのは私の方なのに…」

「えっ?」

「いや、こちらの話です。ところであなた、身体は大丈夫ですか?」

「…昨日の煙のことですか?とくに、不調はありませんが…。」

「やはりあれを吸い込んだのはあなたですね?」

「どうなんでしょう?」

僕はゆっくり銀次さんを見る。

「俺が駆けつけたときに倒れていたのは二人だけでした。」

「そうですか。中身の煙を確実に吸ったのはあなたなんですね。」

「はい…それがなにか?」

「実は本当に申し訳ないことをしているんです。」

外がガラガラビシャン!と雷が鳴り響きだした。




「異世界モノは俺つえ~状態にするモノだ。」と聞かされた私。
どうしようか考えたあげく、神様から与えられるということにしました。
しかし、ペナルティや弱点なしというのは、自分の性に合わないので、ある弱点を追加してあります。


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神の力 獣の力

戦闘シーンが始まります。このような書き方ですが頑張りました。



「あの男が持って行った箱。その中は、神々の力を封印したものだったんです。」

「どういうことですか?」

ザーっと雨が降る。

「わたしは、太古の昔、秩父を支配していた神です。」

「神様…」

「私のいた世界では、外国からやってきた仏という神々が急に支配を強引に進め、我々を追い出そうとしてきました。」

オオカミ、銀次、カジカ、ヤマメ、庭の銅三、僕、母、義姉さんでぐるりと一周している。

「秩父の神々は、その強引な態度に整然と立ち向かいました。しかし、そこに立ち塞がったのが、あの箱です。」

宮地の柿沢通りで買ってきた、両手に余るほど大きなまんじゅうを一人一個手に持っている。

「あの箱は、神々の力を吸い込み、我々の戦力を削ぎ落とすのです。しかし、私の側室が決死の特攻を仕掛け、あの箱を奪取することに成功しました。しかし、本人は捕まり、いまどうなったか分かりません…」

真ん中には、同じ店で買った串に刺さった味噌まんじゅうもある。

「そしてわたしは、正妻の力を借りて、その時代から逃げ、起死回生を狙おうとしたわけです。銀次から話を聞く限り、わたしは未来にやってきたようだ。ただ、あの箱をとっとと開けて、自分を強化すれば良かったのに、味方に力を返してやろうと取っておいたのですが、すべての力がハハソに移ったようだ。」

「すなわち、銀次さんは、神の力が使えるということですか!?」

「銅三、そうだ。なにも間違えていない。君は、神の力が封印された箱を開けたことで、神の力を手に入れたんだ。」

「……うん…」

「…〜〜〜。」

「フゥー。」

「なんという…」

「僕が…」

「まぁ………」

「………。」

 

お父さん、お母さん。僕は、昔の秩父にそっくりな江戸時代で、神に等しい力を手に入れてしまいました…

 

「ワハハハハハハ!」

急に外から声が聞こえた。

銀次さんは、いろりを飛び越え、外に出る。

それに続き、みんなバタバタと外に出た。

「な!」

「あれは?」

「どうなってるんですか?」

「ワハハハハハハ!」

笑い声は屋根の上からした。

茅葺き屋根に槍が垂直に立ち、刃の上に鎧を着た男があぐらをかいている。

目を細め、グッとこちらを睨んでいる。

すなわち、尻に槍が刺さっているはずである。

「痛くありませんか?」

ヤマメさんが思わず言った。

「!……フッ」

槍の上の男は失笑した。

「カジカ、服を持ってきてくれ。」

「はーい。」

銀次さんは、男から目を離さず、小声でカジカさんに指示した。

「虚空蔵から連絡があって、自分のところにオオカミが出現して、箱を奪った。しかし、中身がなかったから、それを奪取せよと言われて、半分嘘だと思っていたが、本当にオオカミではないか。」

この男、胸当てをして、スカートのようなものを履いている。

「貴様、箱の力を使わずに、とっととお縄を頂戴して、我らの軍門に降れ。」

「んっ?」

「!……っ…」

「(チラッ)…。」

「………。」

あいつ、箱の中身を吸ったのはオオカミの方だと思ってるらしい。

「オオカミ。よく聴け。貴様、箱の中身を吸い取ったとはいえ、見たところ接近戦でなければ歯が立たんようだな。なにか武器はないのか?俺だって、人間を巻き込みたくはない。」

「……チッ…」

オオカミは左手を服のなかに入れて、刀を出した。しかし、三十センチぐらいしかない脇差だった。

「!?……アッハハハハハ!逃げ出すのに必死で武器を全て置いてきたんだな、この慌て者め。」

「慌てたんじゃない。置いてきたんだ。」

「でも仕方がないから、それで相手になるよう手加減してやるぜ。その四天王の一人、多聞天が貴様に引導を渡してやる。」

槍の上に片足で多聞天が立つ。右手を空に向けると、手の少し上に太陽のようなものが実現した。

「あー!なんだあれー!」

「太陽が現れた。」

「オオカミ!さらばだ!『火弾』」

手のひらサイズの火の玉がオオカミ目掛けて落ちてくる。

脇差を逆手に持ち、腰を低くしている。

パッと火の玉に向かって走って、ジャンプ。ただ、無言で火の玉に脇差の刃を当てた。

火の玉は二つに割れて、全然関係ないところに落ちた。

「まぁ、オオカミともあろう奴があのぐらい技も使わず止めるとは思ったよ。では次はどうかな?」

多聞天の後ろから今度は、人の三倍も四倍もある火の玉が現れた。ちょうど家の影で作っていたらしい。

「これは斬っても貴様が死ぬぞ。ではさようなら。」

また火の玉が落ちてくる。

「ちくしょう…」

オオカミが思わず、上段持ちに脇差を持ち替えた時、僕は

「ちくしょう…こんなところで、死ねるか!」と走ってオオカミから脇差を奪うと、火の玉に向かってジャンプ。そして、脇差を突き出しながら、別に技も知らないのにそうやってしまった。

ただ、こう願い、声に出した。

「僕の体に宿った神様!かの人たちを助けてください!」

すると、剣先から大量の水が消防車の放水のように吹き出した。

しかも水の勢いが尋常じゃなく、あの大きな火の玉を一瞬で包み込むと、一瞬で鎮火して消えた。

「なに!?…そうか…箱の中身は、オオカミじゃなく、貴様が吸ったのか」

ハハソは、屋根の上に、多聞天から見て右側に着地した。

「面白え。人間がどこまでやれるか見せてもらおうじゃないかよ。」

ハハソを睨みつけながら、左手で座っていた槍を引き抜き、僕に構えようとした瞬間、多聞天の左半身に鳥の羽が突き刺さった。

「なに!?」

多聞天は自分の左肩を見た。確かに羽に見えるが、金属のように硬い。

「誰が…」 ボン!

左を確認しようと、大きく体を捻った瞬間に、多聞天の首が飛んだ。

「…フクロウか」

多聞天は右手を伸ばし、自分の頭をキャッチした。

「ここは…」

その時、銅三さんが、多聞天に向かってゲンコツを繰り出した。

「逃げた方が良さそうだ…」

当たる瞬間に、パンチのスピードと同じスピードで後ろに逃げて、上空に飛んでいってしまった。

その時の僕は、ただ、ボーッと銀次さんの美しさに見惚れていた。

その時の銀次さんは、フクロウや猛禽類をイメージしたであろう鼻まで隠すゴーグルをつけ、頭はインディアンの羽飾りのようなものをつけて、上着は、鳥の模様を模した陣羽織のような服を着ているが、和装の袖が羽になっている。

多聞天に刺さった羽は、腕を大きく降って、手裏剣のように羽を飛ばしたものであり、首を吹っ飛ばしたのも、袖の羽で斬ったものであった。

「大丈夫か?ハハソ?」

「あっ!はい!大丈…ぶ……」

ブラックアウトしたように、身体が動かなくなり、目の前が真っ暗になってしまった。



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代償

そもそも、このように仏様、四天王の名前を使ってもいいんでしょうか?(少しでも変えたほうがいいでしょうか?)



ハッ!と目が覚める。

カジカさんと銀次さん。そしてオオカミが見ていた。

どうやら時間は戻らず、前に進んでいるらしい。

この作者がこれを書いている時期にはひぐらしのなく頃にの新作や、リゼロの二期などもやっているのだから、時間を巻き戻してもいいんじゃないかと思うが、頑なにそういうことはしない。もっと言えば、この作者はまどマギ、まほいく、ゆゆゆも知っているのに、残念ながらカジカさんもヤマメさんも変身する予定はないらしい。

この作者は読者の期待に応えられていないようだ。

それはさておき、事態は深刻さを増していた。

「君が倒れたのは、君の命が一旦なくなった。」

「えっ?それはどういう?」

「神の力を引き出し、あの大水を出した。その力に身体が耐えられなくて、生きることを辞めた。一時的に死んだわけだ。」

「………。」

「だけど、生き返った。これは、おそらく力を使ったのが一瞬だったからだ。もう君はこの力を使わない方が良い。とにかく、箱を取り返して、力を俺につける。」

「…だけど、僕が力を持ってると多聞天にバレたということは、総力をあげて攻めてくるんじゃ…」

「それは大丈夫ぅ〜。」

久しぶりにカジカさんが喋った。

「ヤマメちゃんから〜良いのを〜借りるから〜。」

「これでしょ?」

奥の部屋からヤマメさんがワラで出来たカッパ、ミノを持ってきた。

「それは…」

「ちゃっちゃちゃーん!透明になるミノ」

パッと身を包むと、ヤマメさんを介さず、背景が目に映る。

「これで移動してもバレないよー!」

「このミノは…」

「木登りして、勝ったからもらったのー。」

「どおりで、昔と違い、天狗が多いと思ったら、隠れられなくなっているのがいたんか…」

「これ貸してあげる。」

「オオカミ様。これを使い、妙見山、すなわち昔は知々夫ヶ嶽と呼ばれていたそうですが、あちらの山の天井に神社があります。そこまでは仏達も寄ってきますまい。道案内に、義理の姉をつけます。」

チリンチリン!

鈴が空で鳴る。

「君たちはどうするんだ?」

「私は薗田宮司の元に戻り、宝の取り戻し方や、箱の取り戻し方、身の振りを指南してもらいます。」

「ハハソ。君は?」

「僕は…どうすれば…」

「ハハソ。悪いが、横瀬に抜けて、山田や三沢の方面に行ってくれないか?」

「えっ?」

「あそこは、神、仏、人、自然が共生していると聞いたことがある。しかも大宮(秩父のこと)から抜け出すにも道がある。君はこれ以上ここにいたら危険しかない。」

「山田と三沢…」

「カジカをつける。行ってくれないか?」

「は…「兄貴!」

「どうした?」

銅三さんがどこかに行ってたのか、大声で帰ってきた。

「言われた通り、新井に行ってきたが、面倒なことにらなってたぞ。

(内容はこんな感じ)

 

戦闘が終わり、銀次さんは僕を家の中へ。銅三さんを新井組長のところへ送った。

しかし、新井には異様な雰囲気が漂っていた。

話を聞くと、関根組長、鋼太郎が謎の生き物を連れていたのだ。

顔が二重にあり、肌が赤く、牛のような角を持ち、上半身が異様に大きく、人ならざる言葉を喋る。

鋼太郎曰く、

「このものは、虹色の霧を見たか?と聞いているらしい。」

誰も見ていないと答えたが、

「虹色を知っているものは『仏教の敵となる存在である』と言っているらしい。」

とのことだと言っていました。

もちろん、銅三は知らないと言った。

ということですが、なぜ、仏教の敵と言ったのでしょうか?」というものだった。

 

「…その連れは、おそらく仏教関係だ。あの不気味な男が、もう仏教界で情報を拡散しているから、多聞天やその連れが行動を開始し始めたんかも知れない。」

「多聞天は自分でなんとかできると動いたのかもしれないが、そのものは、人間の心理を突いて、孤立させようとしているんかもしれん。」

「そ〜なったら〜、私達一族み〜んな〜捕まっちゃうかもね〜」

「………。」

「………。」

一同静かに互いの顔を見渡し会う。

「カジカ姉さんはどうしてそんな危機感が感じられないんですか?」

「だけど〜銀次兄さんなら〜もう〜なにか〜考えてるでしょ〜?」

「……。」

「それは、どういう?」

「ハハソ。ああ、まぁ…さっき言ったことを早々にやるってことなんだけど…ヤマメは妙見宮に行かせて、カジカは…」

「うーん…私は〜母さんと〜義姉さんと〜ここにいようかな〜」

「それはダメだ。例え、母さんは父さんの後家だから手を出されないし、ら義姉さんは透明だし…だけどカジカは…もし全てバレて残っているのが、独身の若い女性なら、囲まれて蹂躙させられるぞ…結婚条件もあんなこと言ってるんなら…」

「うーん…オーサキとネブッチョウの力を借りようかな〜」

「!な!それを!」

「やめろ!」

「カジカ。やめなさい!」

「言うな!」

ニャー!

シャー…

庭に猫、天井に蛇のような女がいた。




やはり、代償なら生死でしょうか?
人の絆を断ち切るのを書くのは難しいです…


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銀次とカジカ、ヤマメの本当の姿

この話はスピード感が大事なのですが、どうすりゃスピード感が出ますかね?



僕は走る。

泥だらけになりながら畦道を走る。

 

カジカさんの声が頭を反響する。

「私は〜大丈夫だから〜」

 

僕は走る!畑、田んぼ、荒地、畑、荒地、畑、荒地

 

カジカさんの声が頭を反響する。

「男の人は〜殺されるかもしれないけど〜私は女だし〜…」

 

僕は走る。

下宮地、上野町、熊木、野坂

 

カジカさんの声が頭を反響する、。

「ネブッチョウと〜、オーサキの〜力なら〜、普通の人と対抗出来そうだし〜」

 

僕は走る。

羊山、現代では羊山と呼ばれた低い山の急な峠のところまで来た。ここを上がれば、現代なら芝桜の花畑があるはずだ。

 

ついさっきの会話が頭を反響する。

「私は〜大丈夫だから〜」

「大丈夫じゃない!カジカ。お前はなにか悟ってる。俺たちが考えれないなにか無謀なことに気がついてる。それはなんだ!話してくれ。」

「うーん…私は〜別にぃ〜、なにか分かっているのかも分かってないよ〜。ただぁ〜もうこの世界で生きるのが〜分かっちゃだだけ〜」

「この世界の…」

「生き方が…」

「分かった…」

「つまり…カジカは、母さんから生まれたけど、ハハソと同じで…未来から…」

僕は走る。

誰かに見られていることもわからず走る。

 

さっきの光景が頭を反響する。

まさに脳裡に張り付いている。

「ニャハハハハ!秘密を破棄したニャー!」

猫が喋った。すると、カジカさんに飛びかかった。

銀次さんはカジカさんを守る。僕はとっさにオーサキの進路を妨害する。

オーサキの爪が僕をえぐる。

なんてことはない。すぐに修復してしまう。

「なるほど。そういうことか…」

急に違う人の声がした。とっさに、声がした敷地の入り口の方を見る。

人間と、牛のような角をした上裸の人型ゴリゴリマッチョが立っていた。

「つまり、この家の方…そちらの猫にひっかかれた方が、虹色の霧をお吸いになられた方ですか。」

「鋼太郎さん…待ってくださいこれは…」

「あっ!お待ちを。銀次さん。オラは、宮地を守る立場です。いま惣宮地は宗教戦争に巻き込まれる瀬戸際です。仏教、神道、どちらかが覇権を取る。これが勃発して、仏教は実力で、神道はまだ動いてない。薗田は宝探し。斎藤の法藩は妙見宮に行っている。新井の徳栄はビビってたし、そうなったら対処出来るのはオラしかいない。これは、どちらかに加担しなければ人間が死に絶えます。ただ、こちらの方に逆らって我々が生き残れる自信がありますか?普通の人間ならこのようなものを目の前にしたら命を乞います。ですから、私は仏教に味方することにしたんだ。」

「…そなた、宮地の責任者だと言ったな。」

オオカミが指を指す。

「それは、仏教の使いでも仏でもない。なにか違う化物だ。」

「!?なにを言う。言葉を慎め!お前は何者だ?」

鋼太郎が狼狽する。

「この世にあるのが神と仏のみだと思うな!それは神でも仏でもないぞ!」

オオカミは脇差をその連れに投げた。

眉間に当たる。身体が反り返る。

その時、その連れの口が開いた。そして、大声を出した。

字で書くと、

「キェー!」

という高い声だった。

困った鋼太郎は数歩後ろに下がり、連れから離れた。

「このままだと、誰かに気づかれる。」

オオカミがミノを着込み、消えようとする。

その時、バタン!と銀次さんが倒れた。

「どうした?」

僕は叫ぶ。

「うわー!聞いたらまずい!」

耳を押さえ、大声を出す。

「銀次さん!」

「兄さん!」

カジカさんも思わず早口で喋る。

僕とカジカさんは駆け寄るが、のたうちまわって話にならない、

相変わらず、連れは「キェー!」と叫んでいる。

「か…カジカ…ハハソ、俺が…正体に戻って、正気を失う前に早く…逃げろ…」

すると、身体から鳥の羽のような毛が背中きら腕にかけて生えてきた。

僕はまた動けずにいた。

「ぎ、銀次さ…」

「ハハソくん!」

銀次さんは寝た状態で膝を抱えていたが、その足を蹴り出してきた。

銀次さんは猛禽類のかぎ爪のような足になっていた。蹴られるスピードで、後ろに引っ張られた。

理性と闘っているのか、銀次さんは起き上がろうとしたり、また倒れたりしている。

首根っこを掴まれているので、後ろを振り向くと、カジカさんだった。しかし様子がおかしい。

白い肌に歌舞伎役者のような隈取りに似た黒い模様が入り、赤い髪から猫の耳が生えている。

「大丈夫かニャ〜。」

カジカさんみたいな猫みたいな蛇みたいな人は言った。

「えっ?…カジカさん?オーサキ?」

「あっ!カジカ姉さん。変身したの。」

押入れの中にヤマメさんが入ってる。

「ニャハハハハ!小娘」自分で頭をひっ叩いた。

「ニャかった。我が妹よ〜。変身じゃニャく、変体にゃ〜。」

「この作者、そうやって約束守ったつもりかよー。じゃあ、私も暴れされてもらおうかな〜。」

そう言ってヤマメさんは、なにか咥えると、「ピー!」と吹いた。

すると、家財道具や家具が一斉に動き出した。

「ニャハハハハ!ニャく年使われた付喪神ニャー!これで…グハっ!?…」

首根っこを掴まれているので、僕も押入れの方にカジカさんと吹っ飛ばされた。

さっきの連れが叫ぶのを辞めてこちらに来て、カジカさんをぶん殴ったのだ。

ヤマメさんは、押入れを一瞬開けて二人が飛び込むと、また締めた。

外では銀次と銀次の正体、連れと付喪神が闘っている。

「オオカミ様はどこに?」

「隠れ蓑を着たのはいいけど、見えないからね。だけど、さっき、脇差はあの牛の首元に刺さったり、足に刺さったりしてたよ。」

「じゃあ、見えないなりに闘ってくれているんだ。じゃあ、助けないと…」

「ニャハハハハ!ハハソ。おミャーはそんなことをーしてる場合じゃニャいにゃ〜。二人は早く隠れないと、また殺されてしまうにゃ〜。」

「だけど、みなさんを置いては…」

「ハハソくん。この家の中で秘密がない人はいないんだよ。銀次兄さんもそうだし。だから、」

押入れが開き、光が差し込む。

銀次さんが立っている。

しかし、人間の要素はほとんどない。ほぼ羽毛でおおわれてしまっている。

「君は自由に、行きたいように生きて。この世界で死んじゃだめだよ。」

カジカさんはそういうと、銀次さんに体当たりしていった。

ネブッチョウの力を受けているためか、銀次さんは後ろに吹っ飛ばされた。

その時、銅三さんが、右腕を伸ばして、僕を掴むと、家の外に出した。

「ハハソさん。ここはもうダメです。鋼太郎さんが助けを呼びに行ってしまったし、虚空蔵様のほうから、お坊さんもたくさん来ています。当初の計画通り、ハハソさんは三沢へ。」

銅三さんの左腕に銀次さんが飛びつく。

「兄さん!?今はやめてくれ!」

そう言いながら、左腕を地面に擦らせ、剥がそうとした。

「…僕のせいじゃないか?」

「えっ?」

「冷静に考えてみたら、僕があの箱を拾ったからこうなっているんじゃないか?」

「…そうですね。」

左腕を裏拳よろしく降り、銀次さんを引き剥がし、左脚で踏みつけた。

「だけど、そうに考えてもどうにもなりません。今は一人でも、一秒でも長く生き残るのが先決です。」

「銅三!」

屋根から声がする。

屋根に、ミノを脱いだオオカミと、近くに鈴が浮いている。

「あの連れは、脇差が効いた。もう動けまい。君の兄は?」

「ここは、俺たちきょうだいでなんとかします。オオカミ様は妙見山へ。」

「俺も……分かった。」

なにか言いかけたが、銅三さんにオオカミは従った。

そして、ミノを着込むと、鈴とものすごい勢いで走り出していった。

「ハハソさんもはやく!」

「…いや、ぼくの力で、銀次さんを…」

「ハハソさん!」

銅三さんが僕を目の前に持ってくる。

「何度も言いますが、この事態を招いたのはあなたというのは紛れもない事実です。しかし、いまのあなたに何ができますか!?鋼太郎さんは仏教に味方する。虚空蔵様からもお坊さんが来る。兄さんは手がつけられない。

この状況であなたが出来るのは、生き残って、事態を丸く収めることでしょう?神道か、仏教かどっちが正しいのかさえ今は分かりません。ただ…」

ここで、銀次さんが銅三さんの足から抜け出し、銅三さんの足を駆け上り顔面に襲い掛かった。

「ギャ!」

と言いつつも、銅三さんは銀次さんを引き剥がす。

「兄貴!少し待ってくれ!」

引っ掻かれたのか、顔から血が出ている。

「ハハソさん。今ここで誰も死ぬ必要はないと思いますよ。」

そういうと、銅三さんは、石切りの要領で僕を南の方向に投げた。

超低空で、まさに風を斬り、飛んでいった。

「銅三さぁぁぁぁぁ…」

「あの状況で俺の名前が呼べるのか…さすが神の力だな。」

「ニャハハハハ!銅三!」

右肩にオーサキ化したカジカ姉さんが乗る。

「どうした?姉さん。」

「虚空蔵様からのお坊さんがそろそろ到着するニャ。銀次兄さんを元に戻してもらえるニャ。」

「そうか。なら…えっ?」

左腕を見る。すると、左手がなくなっていた。

「あれ?俺の手が?…銀次兄さんは?あっあっ?あれ?」

左足の感覚がなくなり、転倒した。

なにが起こってる?

「ギャー!」

カジカ姉さんが叫ぶ。右肩を見る。しかし、いなくなっている。

しかも、右肩から血が吹き出している。

「なにが起こってる?お、お坊さん方!?今なにが起こってるのでしょうか?」

「我昔所造諸悪業」

「お、お経…お、お坊様…どうか…」

ドサン!

「なんの音だ?」

目の前に血だらけになったカジカ姉さんが倒れている。

「姉さん!…はっ!」

空を見る。

太陽を背にして、銀次が銅三に急降下する。

「お経じゃなく…助けて…あぁ…そうか、あのお経は『自分の罪を償え!』的なお経だったよな…」

カジカの血をまとった銀次が緋色の弾丸よろしく、銅三の首元に飛び込み、血の大輪の花、桜というよりラフレシアのようなどす黒い赤い花が銅三の首元に咲いた。

 

僕は走る。

「うわー!…僕の…僕のせいだ!…僕が、あの箱を拾って開けたもんだから…!」

ぶん投げられて、しばらく空中を飛んでいたがいつの間にか地面を走っていた。

「僕がそんなことしなければ、カジカさんはあんなことを言わなくて済んだのに!」

現代なら、羊山の芝桜の丘に抜ける急な峠を走る。

本来なら、普通に歩いていても2回ぐらい休憩を挟むであろうこの勾配である。

いくら、体が強化されているとは言え、今、考えれば考えるほど、自分のした行いか今の現状を引き起こしていると考えてしまっている自分にはどうしょうもないという考えが浮かぶ。

そんな彼はついに、峠の真ん中で倒れた。

「いて…」

右腕を見る。

擦りむけて、土と血が混ざっている。

しかし、じっと見ているとみるみるうちに血がかさぶたになった。

パッと左手で払うと、土とかさぶたが取れて、綺麗な腕に戻った。

「…ということは、死のうと思っても死ねないんじゃないか?」

思いっきり、地面を叩く。

地面が凹む。

拳を見る。拳の指が本来曲がってはいけない方向に曲がる。しかし、ほっておけば治る。

拳を見ながら僕は言う。

「誰か…僕を殺してくれ!」

「お望みとあらば。」

はっ!と前を見る。

山肌にびっしりと木が生えているところに、一筋の道があり、昼もうっそうとしているこの場所に、いつの間にか人がいた。

いや、あれは人ではなかった。

多聞天のような格好をしていたからだ。

今度は、目を細めてこちらを見ていた。

「俺は持国天。多聞天から聞いたよ。やはり、願うことは必要なことだ。今の状態なら、神の力を持っていても…」

ここで僕は土を掴んで投げた。

砂埃のようになってしまいどうになったか分からなかったが、

「君をあの世に送ってあげるよ。」

どうにもならないことは察知した。

持国天は僕の前髪の上に着地していた。

「うわ!」

虫を払うように手を頭の上でバタバタと動かす。

「遅い。」

後ろから声!

パッ!と後ろを振り向くが誰もいない。

次に足を掴まれた感覚があった。

下を見る。

すると持国天は、頭と腕を地表に出して砂浜よろしく、全ての体が地面に入っていた。

「さぁ。君のような反逆者は地獄に行きましょう。」

視界の下の方から明かりがなくなり、真っ暗闇になった。




銀次と銅三の戦いはスピードが命なのですがスピード出てましたか?
それと、二人の戦いで不自然な場所があったと思いますが大丈夫です。回収します。


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羊山残滓戦線

上も下も分からず、ただただ真っ暗なところに四方八方から重圧がかかっている。

「これが…地獄…」

「まだ地獄じゃない。喋れるんならまだこの世だ。早く死ねば地獄に行けるぜ。」

「僕は…僕が死ねばみんなまた仲良く暮らせるのでしょうか?」

「いや、お前が生きようが死のうがあれではもうダメだ。だから早く死ね。」

「僕が死ぬとどうなるんでしょう?」

「仏教側が喜ぶ。だから早く死ね。」

「…そんなことさせるか!」

地面の中を引き摺られているため、両腕を万歳していたが、無理やり、肘を曲げて抵抗してみた。

「馬鹿野郎!そんなことしたら、進行方向を見誤るだろうがよ!早く死ね。」

「うるさい!あなたに殺されてたまるか!」

その時、パッと身体中が軽くなった。土から解放された感じだ。

それと同時にまた地面に落っこちた。

「うわっ!」「なんだ!?」

木も5、6本の丸太が落ちてきた。

「貴様!暴れるなと言ったろ?早く死ねって…」

持国天が僕に馬乗りになった。しかし、前を見て動かなくなった。

僕もゆっくり上を見上げた。つまり、持国天と同じ方向を見た。

するとそこには、壁に向かって、ノミと金槌を突き立てる人、くわやすきで石を後ろに下げる人、石を背負い、運んでいる人がびっくり顔でこちらを見ていた。

その人達、紺色の和装に、頭にワラで出来た鍋敷のようなものを乗せている。そして、皆、現代で言うところの赤いスカーフで口や目を守っている。

「妙見が率いてた山犬か…まだいたのか…」

そう言うと、持国天は後ろに下がり、

「今は俺の部が悪い。命拾いしたな。死ね。」

と言って、地面に消えていった。

後ろから声が聞こえる。

「あんた。人間なのに四天王に引き摺られてよく生きてたな。」

後ろを振り向く。

そこには、感心しきった男の人たちが僕を覗き込んでいた。

「あなた達は?」

「俺たちは、ここでオタエ様を待っているのだ。」

「オタエ様とは?」

「?妙見宮の真の神。知らないのか?」

「知らな……」

あっ!また…

「おい!急に死ぬな!おい!あんた!大丈夫か!あんた!?」

「おい!急にどうした?」

「急にマジで死んだみたいに…」

「息もしてないじゃないか!おい!どうしたんだ!?」

鬱陶しい…みんな静かにして…

 

ハッ!と目が覚める。

また銀次さんの家の天井…ではなかった。

薄暗いトンネルのようなところに鉄柵があり、天然の洞窟の牢屋のようなところの壁に貼り付けにされていた。

手首足首は鎖、ではなくお札だった。

ポスターをテープで貼ると、ポスターの端っこをテープで貼り付けるのと同じ要領でぺたりと貼り付けられていた。

「ここは…誰かいませんか!」

叫んでみた。

「おぉ!一番奥のあんたか!大丈夫か?」

鉄格子の奥から声がした。

どうやら洞窟は学校の廊下のように直線になっていて、教室に相当する場所に牢屋があるらしい。

「どなたか存じ上げませんが、先ほどはありがとうございました。」

「先程?まぁ無理もないか…君は3日ぐらい寝てたぞ。」

「えっ!…(今度はそんなに寝てたのか…再生能力の使いすぎか…)ぁ、あっ、助けていただきありがとうございました。」

「きちんと助けられた訳じゃないけどな。」

確かに、助けられたというより捕まった感がする。

「どうしてこうなったのですか?」

「あの後、右往左往してたら、逃げたあの男が仲間を連れてやってきたもんだからみんな捕まってここに入れられた。」

「ここはどこでしょうか?」

「分からない。目隠しされたから。ただ、水が落ちてる音がして、一回水の中に入った。」

「それは?」

「つまり、滝の裏の洞窟だろうな。」

「秩父にそんな場所ありますか?」

「分からん。ただ、大滝や荒川、吉田、小鹿野の方だったら、完全に分からない。なにせ俺たちは行ったことないからな。」

「?あなたたちは?そうだ!あなたたちはどうしてあそこにいたのですか?」

「うーん…君、生まれは?」

名乗るべきだった。生まれは?と聞かれては大変だが、

「…実は記憶喪失で、宮地の田畑の銀次さんに助けられていました。」

「なに?田畑の?」

そこで、答えていた声が小さくなり誰かに話しかけた。

「田畑の銀次って、妙見宮の?」

違う声になった。

「そ、そうです。」

「銀次は宮司と…」

「お願いです。銀次さんが大変なことになっているんです!銀次さんを助けてください!」

「なに?」

「銀次さんが、おかしくなって大暴れしたんです。」

「君。いったん落ち着いて訳を話してくれ。そうだ!息を吸って!…吐いて〜…吸って〜吐いて〜吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて…息を止める!1、2、3。はい吸って〜。……どうだ?落ち着いたろ?」

たしかに、落ち着いた。

「では、話を聞こうか?…というか、銀次はなにか会ったのかい?」

「そ!…そうです!牛の様な…牛の頭を被った人のようなものに会いました。」

「やはりな。君は、大宮郷の生まれかい?」

大宮郷。昔の秩父の言われ方だが、秩父市生まれであって、大宮郷生まれではない。

「…(…には、「ちょっと」と言っている。)違います。」

「そうか…そうなると言いづらいな…」

「なにか言いづらいことでも…うっ!…」

お札に強く触れた瞬間、急激に体が疲れた。スゥッと寝落ちする感覚だ。

「どうした?うっ!って言ったぞ?どうした?」

首を振り、無理やり起きる。

「すみません。お札に触れたようで力がスッと抜けてしまいました。」

「えっ?…君、いまどうなっているんだ?」

「手足がお札で壁に貼り付けられています。」

「それで触れたら力が抜けたのか。ちょっと待っててくれ。」

そういうと、なにか小さい声で相談している。

「おい!君!」

「はい!」

「君は、本当に銀次を助けるのか?」

僕は力強く答える。

「死んでも助けます。あの人を…あの家族をバラバラにしたのは僕なんです。僕がなんとかします。ここはなんなんですか!?それとあなたは何という方ですか!?」

そうに言った時、足の真正面に大穴が空いた。

中からガスマスク、否、動物の皮で顔を覆った人が5、6名出てきた。

「我々は、お妙様に忠誠を誓う番衆『播磨組』だ。」




まあ、実際にはないことがてんこ盛りになってきました。
播磨組はかつて小鹿野の飯田周辺を治めていた播磨一族と聞いています。(鉄砲祭に出る大名行列が播磨と書いてあります。)
とくに知らなくても大丈夫です。名前が格好良いので使いました。


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ハハソの水牢破り

自分はおもしろいと思って書いてます。
どうでしょう?


「おい!看守!」

「どうした?」

「一番奥の奴がこんなところにいるんだったら舌を噛み切って死んでやる!と叫んでから返信がないぞ?」

「なに?」

禿頭のてっぺんに頭を守る器を被り、木の棒に釘を刺しまくった金棒を持った男が長い洞窟の一番奥にいる。神の力を持った男の子が幽閉されている場所に向かう。

「あっ!本当だ!」

男の子はぐったりして、口から血を流している。

「お前に死なれると、妙見様に怒られるんだ!死ぬな!」

金棒をドサンと落とし、鍵を開け、男は中に入る。

手足を謎なお札で止められている男の子は死んでしまったのだろうか?男は顔を軽く叩いたり、口を開けてみるが動かないし、口は血だらけだ。

「早く報告しないと!」

男がその場から離れようとした時!足が動かなかった。

「そんなことする必要はない!」

下を見ると、地中から手が出て、足をつかんでいる。

「なんだ!?わっ!」

一瞬で男は土の中に引き摺り込まれた。

五秒程シーンとなったから、続々と動物の皮を被って、違う動物の格好をした人たちが出てきた。

「なかなか良い演技だったぞ。ハハソ。」

猿の面をした男が面を外しつつ言った。

中から丸刈りの好青年が現れた。

「ハハソ。もういいぞ。」

日本犬の面を上にずらしつつもう一人言った。

顔の長い人だった。

その人が顔を叩く。

「ハハソ!?どうした?なんだ…本当に寝てるだけか。」

シワが多く、肌が黒い男の人が最後に出てきて、鍵をガチャガチャ開け出した。

「しかし、ハハソの男気には頭がさがるな。1日2日の恩義を命を張ってまで返すとはな。こいつは立派だよ。」

そう言いつつ、猿の面をつけていた男の人が手足の札を剥がし始めた。

「たしかに、こういうのが欲しいな。田代さん。」

バリ!

「井上さん。あんまり強く剥がしたから、皮膚とか肉とかまでまとめて剥がしてますよ。」

メリメリ!

「と言っても、こいつならすぐ再生するんだろう?ほら。」

肉ごと剥がした足を井上さんがバシン!と叩いたら、普通の足に治った。

ガチャン!

「あきましたよ。田代さん。」

「ありがとう。加藤さん。おい!ハハソくん!」

「おきい!」

お札を剥がし終えた井上さんが、ハハソを抱き抱えると、そのまま落とした。

「痛!」

「ハハソ。作戦は成功したぞ。」

「あっ!そうですか。」

「足とかむしられたのに、その反応かい。」

「………感覚がないんじゃ仕方なかったか。まぁ良い。田代さん。すぐやろう。」

「そうだな井上さん。

みんな!ついに時が来た!

今の我々には神、いや仏をも凌駕する力を手に入れた。今こそ、ここから抜け出し、大宮郷に帰還し、自由を手に入れるのだ!

『恐れながら、仏僧に敵対するなら加勢いしろ!』」

「「「おー!」」」

加藤さんがみんなの牢屋を開けてみんなが出てきた。

みんな動物のふりをしている。

「さすが、熊木の田代家ですね。」

「そう言わないで欲しいな…石間の加藤さん。」

「あ、あの…」

「ん?どうしたハハソ?」

「井上さんは下吉田ですか?」

「あぁ?そうだよ。なんで分かったんだ?」

「く…熊木の田代、石間の加藤、下吉田の井上ってたら…有名人も有名人…100年…300年も語られますよ…」

「なに?そんなに有名なのか?俺たちは?

ハハハハ!君はおだてるのもうまいな。俺たちの家が100年も300年も持つとはな。ハハハ!」

「………。(熊木の田代、石間の加藤、下吉田の井上って、秩父事件の総理、副総理、会計長の家系じゃないか…)

江戸時代にこの3人が会っていたかは分からない。けど、まぁいいか。なにせ、異世界なんだから。」

「よし。ここから出るぞ!」

結局、田代(猿)、加藤、井上(犬)、あと牢屋から出てきたのは土竜、蟹、兎、猪、山羊、穴熊、ツキノワグマ、馬と、意外と沢山いた。

この土竜、穴熊、猪、兎が穴を掘って、僕の足元までやってきて、現在に至るのだ。

「おい!俺たちもここから出せ!」

ガンガンガンガン!

おっと!

まだ牢屋に入れられた人たちが騒ぐ。

加藤さんが言う。

「お前らは人じゃないだろう?」

「人じゃないけど、一生ここは勘弁だ。大水が出ても逃げられないし。」

「川の妖怪なんだから逃げられるだろう。」

「あの、このひとたちは?」

「人じゃない。妖怪って言ったほうがいいかな?

「妖怪?」

「よく見てご覧?」

加藤さんに言われて牢屋に近づいてみると、目が丸く大きく、口はカラスのようで、頭の素天井が禿げて長髪である。

ただ、牢屋を掴んでいる手はカエルのように指先が大きく、水かきのような膜がついていた。

その隣には、山伏のような格好をしているが背が高く、鼻が長く、翼が生えていた。

「確かに、妖怪ですね…」

「だからって、俺たちも被害者だぞ。」

「うーん…それもそうか。」

「あの。」

「なんだい?」

「まだ聞いてませんでしたが、どうして僕たちはここにいるのでしょうか?」

「聞いてないのか!君は…あの土竜、蟹、兎、猪と一緒に仏教の…えっと…持国天に捕まったんだ。」

「それより前にいた山羊、穴熊、ツキノワグマ、馬は君の言う田畑の銀次と同じフクロウに似ているが、妙見宮に忠誠を誓うのではなく、おたえ様に忠誠を誓っているんだ。」

「オタエサマ?」

「おたえ様っていう謎の人物が黒谷から妙見宮に至る所まで伝説があるのだが…まぁ、それを守っている人たちらしいな。しかし、そのよく分からないものを信仰しているひとたちは仏教にとって邪魔だったんだろうさ。ただ、一人一人は強く基礎値が高いんだが、命令がないと動けないもんだから、ここに捕まっていたらしいんだ。」

「そこに、俺たち田代、加藤、井上が捕まってきたんだ。」

「なぜ三人が?」

「田代さんは、妙見宮に奉仕してたんだが…」

「まぁ、賭博場を寺で開いたらばれて捕まったんだが、妙見宮に行ってたってことで、俺だけここに入れられた。」

「俺は、石間から出てきて、喧嘩を見つけてしばらく見てたら、馬乗りになって殴り出したから、殴っている方を後ろから止めたら、殴られてた奴がいきなり元気になって、形勢逆転されたんだ。そしたら、俺が止めたほうが仏教関係者だったらしく、無実の罪でここに入れられた。」

「俺は下吉田で、最近年貢の取り立てが厳しく、蚕も高値で売りつけてくるから文句を言ったら、頭を冷やせと代官に言われて、付き人みたいなやつに気絶させられて気がついたらここにいたんだ。」

「そちらの、牢屋の方は?」

「俺たちなんかもっと酷いぞ。僕は荒川の淵に住む川人族だ。父ちゃんと母ちゃんと姉ちゃんがいたんだ。僕たちは元々上流から流れてくる野菜なんかしか食べないし、子供たちが淵にハマりそうになれば助けてあげていたのに、あの仏教の聖職者『僧侶』が「荒川に棲む魔物、河童どもを根絶やしにしろ。そうすれば、子供たちもいなくならずにすむ。」などと言って、僕たちの住処を壊し、一家離散しちまったんだ。僕はあの僧侶が…仏教が憎い!」

最後は叫びに近かった。みんな思わず黙ってしまった。

「ワシは元々大滝の落合にいた天狗だか、あの訳わからん僧侶どもに居場所を追われ、子供を拐うとか変な噂を流され、あっちにフラフラこっちにフラフラしていたら捕まってここに入れられたんじゃ…」

「…加藤さん。やっぱりかわいそうですよ。彼らも出してあげましょうよ。」

「…しかし、」

「なら、僕が開けたことにして、もしも襲い掛かれば、僕のせいにしていいです。」

「待て待て!どうしてそこまで言える。」

「じゃあ、見ていてください。」

一歩前に出て牢屋に近づく。

「河童さん。天狗さん。僕は、恩人を助けたい。その力になってくれますか?」

「僕は、ここを出て僧侶どもを倒せるんならなんでも協力してやる!」

「天狗は死ねないらしいからな。だったら、落合の人たちと仲良く暮らしていきたいとは思うよ。ここから出してくれるか?」

「出しましょう。ただ、条件があります。僕が銀次という人を助けるまで僕に協力してください。」

「!わしは構わんが…河童、お前…」

「もちろん協力する。」

「ネブッチョウとオーサキに誓って?」

「「「!……(おぉ!そうきたか…)」」」

「僕は誓う!なにがあっても銀次っていう人を助ける。」

「若いなぁ。」

天狗は顎紐を緩めると、かぶっていた帽子、頭襟を差し出した。

「これは天狗の証だ。それを君に渡す。これでオーサキやネブッチョウだけでなく天狗としても誓うぞ。」

「ありがとう。二人とも。じゃあ。」

そう言って僕は二人の牢屋を開ける。

「みんな!ここから夜明けを観に行くぞ!」




ここに出てくるリーダー達は秩父事件の局長、副局長、会計長がモデルになっています。
田代栄助は最後の侠客とWikipediaに書かれていました。
ぜひ明治政府にだまされず、田代栄助がどのように秩父事件の中心人物になったのか見ても面白いでしょう。


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田代、加藤、井上

この三名の名字は使いたかったので使いました。(矛盾が起きますが…)



「ぎゃー!鰐だー!」

どうしてこうなったのか説明しよう。

五分前

天狗が最も古参であり、新たな囚人がどこから来ていたのか聞いたところ、自分の部屋側に木の戸があり、そこからビショビショの人が入ってくる。という。

「馬、やってくれるか?」

「分かった。」

馬と呼ばれたのに、顔が丸い男性が扉に背を向けて立った。すると、バーン!と戸を蹴り外し、戸板が飛んでいき、ボチャン!と音がした。

「今の音が、濡れている原因だな。」

みんなゾロゾロと牢屋部屋から出ていった。

伸びて寝ている看守をがんじがらめにして。

入った部屋はだいたい奥行き10メートルだが、水があるので、陸地は5メートル四方であった。

「河童。悪いが…」

「泳ぎは任せろ!」

加藤さんが言い終わる前に河童は飛び込むと

すぐに出てきた。

奥の壁を指し、

「見てきたぞ。えっとあの壁の下あたりに鉄格子がある。あれを破らないと…それと、なにか水が大量に落ちる音がした。多分、滝だと思う。

「滝か…」

「秩父に滝があったか?」

「日野沢の方にあるが、大量の水とは言えないな…」

「みんな。とりあえず、その鉄格子を外せば外に出られるんだ。外に出てからここはどこか考えよう。」

「田代さんの言う通りだ。それと河童、なにか他に報告事項はあるか?」

「あっ!鉄格子の近くになにかいた。」

「なにかとは?」

「分かんない。だけど、やたら大きいトカゲみたいなやつだった。全身鱗で、尻尾が長く、顔が長く、トカゲと比べて脚が太っといやつで、あれじゃ水の中にいたほうが楽そうだったな。話しかけたんだけど知らん顔だった。

「?トカゲの大きくなったような生き物?それがこんな長時間潜っていられるのか?」

「亀なら出来るけど、さっきのは甲羅がなかった。」

「うーん…そんな生き物がいるのか?」

「あの…」

いままで黙ってたツキノワグマの毛皮を被った人が話しかけてきた。

「もしかして、その生き物って…」

声が高いから女性だと思う。

毛皮から突き出た鋭い爪を水面に向けた。

「あの水面にいるやつですか?」

「「うん?」」

「あっ!そうだよ!あ…れ…」

その時、なんだか分からないけど、みんな凍りついた。その生き物は水面から目と鼻のみ出してこちらを見ている。

その目がジィーッとこちらを見ている。

その暗がりでも分かるほどキラキラとした目からは、「お前ら、ここへなにしに来た?」というオーラが満々と満ち溢れ、誰一人として声を出せなくさせていた。

その沈黙を破ったのは田代さんだった。

いきなり、河童をつかんだ。

すると、その生き物も動いた。

河童に食いかかった。

なんとも大きな口だった。

河童を文字通り丸呑みにできるほど大きな口を開いた。

この瞬間に声を上げたのは僕だけだった。

「ぎゃー鰐だー!」

「鰐!?これが?」

「みんな、いったん退却だ!牢屋部屋に戻れ!」

田代さんの号令と共に我先にと戻ろうとする。

鰐がノシノシと陸に上がる。

「鰐は…因幡の白兎に出てくる鰐は、手足がないんじゃないのか?」

「それは、フカです。これが鰐なんです。」

「手足があって、陸も移動するなら余計ぼやぼやしている暇はない。みんな早く中に戻るんだ!」

田代さんが最後になるようだ。

「早く、ハハソも戻…」

鰐から田代さんが目を離した瞬間、鰐が田代さんに襲いかかる。

「危ない!」

僕は田代さんを押した。

右肩をバックリと食べられた。

鰐の噛む力は1トンを超えるというが恐ろしいのはここから。

鰐が体を横回転させ始め、水の中に戻ろうとし始めた。

これがデスロール。

噛み付いた部分を引きちぎる。もしくは敵をパニックに追いやり、水死させるまさに必殺技。

「「ハハソ!」」みんなが叫び、田代さんが腕を伸ばしてくれたのが見れたが、僕は水の中に引き摺り込まれた。

土の中を引き摺り回された次は水の中を引き摺り回され…いや、死の回転をかけられている。

急速な再生によって、腕がちぎれないのだ。

しかも、肺に水が入ろうが、大量に水を飲もうが、致死量に達すると身体が自動的に再生してしまい、気絶することも出来ない。

鰐も死んでもらわないとどうにもならないから、デスロールをやめられない。

「なにか、携帯しているものは…あの短刀か…」

左手で、着物の中を探るのは非常に難しいが、時間はたっぷりある。最悪、服を脱げば刀は取れるし。

十五分ぐらいたった。

地上では、真っ暗な水をみんなが覗き込んでいる。

少量の血は上がってくるが、鰐も、ハハソも上がってこない。

「どうなっているんだ?」

水は、水中で暴れている生き物が二ついるので、風呂水をかき回したように大波が静かに出来ている。

「ハハソが死んだ場合、俺は銀次って人を命がけで救わないとだな…」

「まぁ、あいつが死ぬとは俺は思ってないけどな…あの肉の再生を見たろ?」

「だけど、聞いた話なら、土の擦り傷、俺たちがやったあれは外傷だったろ?今度は水が肺に入ったらどうなるかは分からないぞ。」

「………しかし、あれだけ男気のある少年だ。どうであれ、銀次は助けなきゃならないな。」

その時、水面に血が濃くなったら、傷だらけの鰐が水面から顔を出した。

目と鼻だけでなく、顔全部。

「「あっ…。」」

ため息が漏れた。

鰐が勝ったのか…

鰐はヘリに近づくと、頭を乗せて、次に、腕をかけた。

ふた呼吸置いて、ガバッと鰐が立ち上がった。

「なに?鰐は二足歩行もするのか?」

「ち…ちはいますよ…」

鰐の腹にハハソが刀を咥えて立っていた。

右肩は再生している。

「ハハソ!?…生きていたのか!」

「うわ…」

またガクン…とハハソは気を失った。

大太刀は地面に落ちる。

ハハソを鰐ごと田代さんが受け止める。

「河童…この鰐以外に障害は?」

「なかったよ。」

「そうか…」

田代さんは鰐を手で払い、ハハソからはなした。鰐の腹は大太刀で斬られ、突かれた傷が無数にあった。

「男気ある少年よ。しばし眠れ。あとは…」

田代さんは大太刀を拾い上げた。

「この妙見宮、椋神社、城峰山の神人衆に任せてもらう。」

 

秩父事件総理、田代栄助は大地主である傍ら、領民に耳を傾け、貧困を嘆いた農民のために立ち上がり、逮捕され処刑された。

彼のやったことは、弱きを助け、強きを挫く正真正銘日本のヤクザ。最後の侠客呼ばれたこの男の先祖もまた、弱きを助け、強きを挫く。義理と人情に生きた男であった。

 

異世界の架空の人物だけど…



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滝に立つ

この滝に立つシーンはイラストで見たい。
あと、銀次が銅三に襲いかかるシーン。


広目天は焦った。

川俣の大日如来に頼んでおいた監獄の仕事があまりにもずさんだったからだ。

指導しようにも大日如来の権威の前には、その方針に苦言を呈するというのは、自分の進退に関わる。なにせ、この監獄には四天王自分たちでも不当逮捕だと思う人物が何人かいるからだ。

慈愛に満ちた大日如来が自ら看守などして、囚人が不当逮捕を訴えられたらそれこそ自分のクビが飛ぶ。だから、天竺から連れてきた人食い鰐を住まわせることを条件に不干渉することに決めていたが、看守は一人ずつ山伏に頼んでいる。牢屋での過ごし方は自由。

鉄格子の点検もしていないという報告には目を丸くしてしまった。

「これは、虚空蔵様に一報入れた方が良い」と思い、自分も滝に入って囚人を確認すればいいものを、滝の目の前にまで行って、後ろを向いた時、嫌な予感がしてもう一度首だけ振り返った。

すると、滝に14人の生き物が打たれながら立っていた。

みんな、目を見開き、歯を食いしばり、広目天を威嚇している。

真ん中の男は、子どもを背負い、大太刀を肩にかけている。

ほかの人たちも、妙見宮のフクロウのように、動物の格好をしている。

「お前ら…」

「散々いじめてくれたじゃねぇか…」

広目天でこちらにきちんと振り向こうとしたとき、真ん中の男が大太刀をブーメランのように投げた。

大カーブして、広目天の鎖骨付近に刺さる。

鎧の隙間なので、ズブズブと入っていった。

「なにするんだ…」

広目天が膝から崩れる。

子どもを背負った男が近く。

刀を持って、グンっと顔を近づけた。

「よく聞け、四天王。てめぇら仏教は、限りなく平和主義だった連中を敵に回した。そのうち、後悔させてやる。ただな、お前はここで石抱きの刑でも受けてろ。」

そう言いながら、男は刀ごと広目天を持ち上げると、滝の方にブン!と降った。すると、広目天はそのままぶっ飛んで、滝壺に落ちた。

「なに?」

もがきながら、水面に顔を出すと、滝の上から石や木、泥などが一緒くたに落ちてきた。

「た、助け…て…」

さながら、鉄砲水にさらわれたかのように広目天は見えなくなって、水量のあった滝ですら、変なものになった。

「た…………。」

田代さんは滝の上を見上げた。

「ちょっとやりすぎだな…」

「みんな鬱憤が溜まってたからな。」

「滝の上を壊して、滝壺に沈めるとはなかなかえぐいことをしますな。」

「そう言うなよ。お天狗さま。おかげで、一人倒せたんだ。」

「そらならすぐ、銀次って人を助けようぜ。」

「その前に…」

14人は滝から離れて木がなく、遠くまで見通せるところに出た。

しかし、見渡す限り、山と山に挟まれた斜面、そして、一番下を小川が流れている渓谷だった。

「どこだ?ここ?」

はっ!と目が覚める。

銀次さんの家ではない。

なにか、テント見たいなところだ。

「気が付いたか?」

「河童さんか…ここは?」

「ここは室山城。」

「鰐は?」

「鰐ってか、あそこを守ってた大親分みたいなのも倒したよ。」

「…良かった。で、あそこは?あの牢屋のあったところはどこなんですか?」

「あそこは、浦山って言ってたな。川俣より川下だって。」

「浦山…この城があるのは?」

「浦山だよ。」

「ちょっと、見渡せる場所に…」

「いいよ。」

河童に起こしてもらって、秩父盆地が見える開けたところに連れてってもらう。

なんか、大昔見た覚えがある。それは、生きていた時の昔ということだ。

ちょっと記憶を辿る。

父親と見たような景色だ。

だけど、夏休みの自由研究って訳でもない…なぜか、雪景色も想像できる…

「大丈夫かい?」

「あっ?…あっぁ!河童さん。大丈夫だよ。」

「ふーん?どっか行ってたけど…まぁいいか。」

河童は、下の渓谷を流れる川を見てる。

「お父さんとお母さんとお姉さん、見つかるといいな。」

「うん。」

「僕にもいたんだけど…」

「いなくなったの?」

「うん?…あっ!違う、間違えた…えっと…いるんだけど、元気かなぁ?」

「うん。元気だよ。多分。」

「なんか暗くしちゃってごめん。」

「いいよ。おれ、今はこの自由を尊いものだと思ってるよ。なにをしようと自由っての、とっても嬉しい。」

「そっか。」

「この城だって、100年ぐらい前まで使われてたらしいけど、今は人がいなくなって荒れ放題だったけど、人が来て嬉しがってるはずだよ。だけど、かわいそうだよな。城として使われたあと、誰にも使われなかったんだから…また活躍できないかな?」

「時代が変われば誰かから必要とされるかもしれないね。」

「そうだね。…ハハソはさ、どんなところに住んでいたの?」

「僕も…大宮郷だよ。」

「お父さんとお母さんは?」

「お…ちょっと遠いところかな?銀次さんには、泊めてもらったお礼がまだ出来てないから、それを恩返ししたいんだ。」

「そうか〜…恩返しねぇ…」

「どうかしたの?」

「うん…実はね…

行方不明の姉ちゃんと増水した濁った濁流に流される遊びをしていた時のこと。

雨はザアザア降り、川の水はコーヒー牛乳のような飲んだらうまそうな色になっている。そこで河童なのに流されて遊んでいたところ、河岸で泣いている女の人を見つけた。

話しかけたところ、

「自分は寺尾の方に嫁に行ったが、お父さんが危篤だから来てくれと言われたのにこの大雨と増水で船が出ないから、この間にお父さんが死んでしまうんではないかと思って泣いていた。」

かわいそうに思ったが、背丈が半分以上もある人間を抱えて泳げる自信は二人にもなくなにも出来ずオロオロしていたら、薄暗い中、急に対岸側からオレンジ色の光がこちらに向かってきた。

イメージでは、千と千尋の神隠しで、千尋の体が透けて見えるシーンで神様たちが乗っていた船だ。

あのようなぼんぼり、提灯で身を固めた船がやってきた。

「はやく乗りなさい!」

裸にちゃんちゃんこと菅笠を被った男の子が竹竿一本持って乗っていた。

「あなたは?」

「説明はあとだ。はやくしないともっと川が増水するぞ!」

男の子に言われていそいそと女性と二人も乗った。そういえば乗りやすいように船の真正面に階段がついていた。

まだ階段に姉ちゃんがいたのに大急ぎで、船は離岸して市街を目指して船は動き出した。

船は、唐風造りの屋根で、前方に大空間があり、後方が幕で覆われてどうなっているのか分からなかった。

「こんな造りで沈没しないのかな?」

そう思ったが、船は女性を濡らさぬようにうまく川の上を走り、見事に近戸に接岸した。

三人が降りて、振り返ってお礼を言おうとした瞬間、すでに船は離岸して闇に去っていった。

「あれはなんだったんだろう?」

そう思ったが、いまはお父さんが心配だったので手を引いて大急ぎでお嫁さんの家に連れていったところ、お父さんは体調がなんとか回復したところだった。

ちなみに、その船の正体が変わったのはその年の妙見市だった。

人間のふりをして中町という町会の山車とすれ違ったが、車輪がついていただけで、屋型の部分は完全にあの船だったんだ。

で、夏のある日にお嫁さんにまた会って、中町の話をしたら、

「実は、あの子は私が持ってるお守りじゃないかと思うの。あの日、たまたま忘れてて、全部終わって家に帰ったら、なぜか泥だらけのお守りがあったの。だから、あれは私のお守りだったのよ。」

って言ってた。」

「その、お守りって?」

「多分、中町の屋台は妙見市に出るから、妙見宮だと思うよ。」

「………。」

「おーい!二人とも!」

空から声がした。

「重大事項だ!銀次殿の処刑日がわかった。」

 

その日の昼。

報告と昼飯のため一同に揃った。

「処刑決行日は明日、大般若を臨時で行うらしいからその前後。廣見寺五本松にくくりつけて、斧で一刀両断にするつもりらしい。」

「人が人にやることじゃないな。」

「まるで、畜生を殺す時のようだ。」

「時間がない。どうする?」

「五本松にくくりつけられる前か、つけられて首を撥ねられる前のどちらかしかない。」

「しかし、銀次をなぜ処刑するのだろうか?仮に、弟妹殺しとはいえ、判断が早すぎるぞ。」

「…僕を誘っているのかもしれません。」

「なに?」

「銀次さんを処刑するとなれば、目上のコブである僕が必ず助けに来ると踏みます。」

「だけど、なんで俺たちが逃げたって分かる?」

「おっしゃった話だと、四天王を滝壺に沈めたらしいですが、四天王の中には、地面に潜れるものや空が飛べるものがいます。だとしたら…」

「まだあいつは生きているのか…」

「…そうすりゃ、銀次を処刑するか…」

「仏教にとって、銀次さんを処刑すれば、ちち…妙見宮が危険な眷属を使っているとも噂を流しやすいですよ。」

「銀次はますます助け出さなきゃならんな…」

「しかし…」

「方法が…」

「うーん…」

「あの、僕に唯一と言っていいような…奇襲の案が…」

「どれどれ?」

ヒソヒソヒソ

「うーん…みんなどう思う?」

「しかし、時間がないのであれば…」

「それに賭けるしかないでしょう…」

「よし。なら、早速やるしかない。天狗とハハソは早速、新井組へ。我々は準備をして宮地へ行くぞ。」

「よし!行こうハハソくん。」

そう言うと、天狗は僕を抱えてパッと飛び上がった。

そしてその時思い出した。

下を見ると、茅葺、いや秩父だから藁葺屋根だと思う。

わずかな平地をおじいさんがクワを使い土をならし、子供たちも遊んでいるんだか、畑から石を外に出しているようだった。

思い出しちゃった…

ここは、お父さんが休みの時に連れてきてくれたんだ…

で、ここには、ダムが出来るんだ…僕が見た景色はダムだったんだ…

だけど、その景色で考えてみたら…あの室山城は、ダムの右岸側だ。

 

あの山は、また人の役に立つんだな…




これは浦山ダムのつもりです。
ダムに沈んでしまったことにしてもいろいろ書けますよね?


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銀次処刑

書きたいことと、書ける技術、伝わるかどうか?非常に難しいです。どうすれば読みやすくなるのでしょうか?


次の日の朝

「仏説般若波羅蜜多心経」

大般若会が廣見寺で大々的に行われた。

しかし、少し勝手が違う。

外で大太鼓や笛の喧しい音が鳴り響いている。

「うるせえなぁ!なんだ?」

傷だらけの広目天が飛び出してきた。

広目天の目の前に二台の山がある。

山というが、人工で造られたもので、花紙が付けられた細い竹が、傘の骨のように無数に刺さり、まさに傘のようになっている。

その傘が三層になり、山頂には雪洞と、太陽を表す万頭が付いている。

その花紙の色が紅と白のものがある。

「こら!今日は大切な行事があるんだぞ!こんな騒いでるんじゃない!責任者は誰だ!」

太鼓の音をかき消すぐらいの大声で広目天が叫ぶ。

「私です。」

「お前!新井組組頭だな?これはなんだ?」

「はい。ある筋から聞きましたが、私の組である田畑の銀次が五本松のところで処刑されると聞き、その亡骸をこの笠鉾で受け取り、運ぼうと思い運ばせました。」

「では、なぜこのような大きな音を立てるのだ!?」

「せめて、銀次が真っ直ぐあの世に行けるよう、道標にしようと鳴らしているのです。」

「…勝手にしろい。…待てよ?なんで二台もあるんだ?」

「はい。私が、笠鉾で亡骸を運びたいと話を中宮地の関根組に申し込んだら、『柿沢の笠鉾も出して、盛大にやろう!』となったので、二台いるんです。」

「ふーんそうかい。銀次を殺すまで近づくなよ。」

「はい。…」

そうこうしているうちに、お経が止んで、

お寺から流れ出る沢沿いに見事な五本の松のところにぐるぐる巻きにされた銀次が連れ出されて来た。

人間の状態になっていたが、一抱えほどある大きな石を背中に背負わされて、脂汗を垂らしながら出てきた。手足、胴体に縄がくくりつけられ、その端は五本の松につけられた。

まったく、身動きが出来なくなっている。

その後、大勢の僧侶が出てきた。その最後尾に、大まさかりを持ったあの牛男が現れた。

お坊さんたちのお経が大きく響き渡る。

身体が、銀次の羽で穴だらけになった多聞天、体のパーツが途切れ途切れな広目天は、その牛男の真後ろにいる。

五本松に括り付けられた銀次のところに牛男が到着したところで、お経が最大の大きさになり、五本松の松葉をも揺らすような勢いになった。

牛男が布で巻いてあるマサカリをほどき始めた時、多聞天と広目天が近づき、喋り始めた。

「やつら、まだ仕掛けてこないな。」

「広目天、ビビりすぎだよ。地面には、持国天が潜んでいる。絶対に手は出せないよ。」

「増長天はなにをしてる?」

「オオカミを探してる。まぁ、俺たちのほうが、あの箱の力を手に入れてるやつを追い詰めてるんだから、きにするこたないよ。」

「だけど、やつらなら…」

そう言いながら、目線を下げた。

「広目天…」

「だけど、やつら、攻めてくるなら、どこからだ?まさか…笠鉾に潜んでるんじゃ…」

そこで、多聞天を見た。

すると、多聞天は、ゴーイングデス

死んでいる途中だった。

多聞天の頭をガッチリと蟹のハサミが食い込み、圧力に耐えきれなくなった、顔のパーツから血が溢れて、メロンやスイカのように「バズン!」と顔が爆発した。

「た…多聞天…」

「おい!…人の心配してる余裕があるのか?」

聞いたことのない男の声

振り向こうとした時、脇腹に強烈な痛み。体の浮く感覚。ボロボロの胴体が完全に真っ二つになり、上半身が吹っ飛ばされ、牛男に当たり、マサカリごと二人は倒れた。

「なんだ?」

広目天は、自分のいた方向を見る。

顔が潰れた多聞天と、顔を握り潰している蟹の腕を持つ男。

それと、俺の下半身を踏み締めている、脚が馬の男が立っていた。

「…なんで、お前ら、フクロウの技が当たる!?この四天王に!?な、治らないじゃないか!なんで?なんで、お前ら如きに…」

「そう簡単に言うかよバーカ。」

「散々痛めっつけて、結局大人気ないことをいうんかよ…」

「こんなクズに負けていたのかと思うと、反吐が出るぜ。」

多聞天が、ゴミでも落とすように捨てられた。

「きさま…きさまら…なにやってんのか分かってんのか?俺たちは仏教の神なんだぞ!神にこんなことして良いと思って……」

髪の毛をガッツリ掴まれ、目の前に刃物が現れた。

「あのような監禁して、人から希望を奪うのが神とは、笑わせるな。」

「…………。」

「言い返せないとは、笑わせるな。なら、」

首の左側に刃物を突き立てられる。

「神に祈りながら死んでいけ。」

躊躇なく、ツゥーっと右側に切った。

切断でなく、10センチぐらい刀傷をつけたもんだから、喉は切れているのに、首の骨はくっついていることであるから、体重で、皮が切れていく訳だ。

「ハッ?、らなたうなゆしむほ?ねちれ…」

「ちゃんと言葉喋れよ。神なら…よ!」

よ!っで、首が完全にもげた。

涙、よだれ、鼻水、それはそれは仏とは思えない。きったない顔だった。

広目天は、誰が殺したのか?

馬が蹴る寸前。

天狗とハハソは上空にいた。

仲間たちが、四天王を引きつけ、空から、天狗はあの牛男を、ハハソは銀次を奪還するというものだった。

運良く、広目天が牛男ともみくちゃになったので、天狗が後ろから広目天を殺したわけである。

ハハソは、五本松に縛られた銀次に向かう。

「銀次さん!」

「あっ?…あぁ、ハハソか…」

「銀次さん。助けに来ました。逃げますよ。このままだと殺されます。」

縄を切り始める。

「俺は…」

「銅三さんを殺してしまったから、その後悔があるんでしょ?そうだとしたら、銅三さんは悲しみますよ。あなたがすぐ死んだら…」

「いや…あの…」

「とにかく、生きるんです。諦めてはいけません!」

「ハハソ。俺は諦めてなんかいないよ。俺も生きるよ。」

最後の左腕の縄を外しにかかった時、

「ハハソ!後ろ!」

パッ!グザッ!

「ちっ…銀次まで届かなかった…」

土の中に半身埋まった持国天がこちらを見ている。

ハハソがパッ!と振り向いたわけだが、土を固めて出来た槍が地面から伸びてハハソを貫いた。

しかし、瞬間的にその槍を掴んだから、銀次まで刃先は届かなかったのだ。

しかし、事態は参ったことになった。

播磨組や天狗、全員が土から半身埋まった多聞天と闘っている。

味方が近くにいない訳だ。

「ハハソ。さっきの二人と違って、これは格段に強そうだ。」

「えぇ。ですが、負けるわけにはいきませんよ。」

「お前が負ける気がしないように、俺もしないんだよ。ハハソくん。君を羊山で引きずった時に感じたが、君は、あの人に会ってみる価値があると思うよ。」

「?文脈が無茶苦茶だが、その人とは?…」

全然文面が違うが、この時、もう一度槍が飛んできた。

見切った訳ではない。

見切ったわけでないが、銀次さんが繋がれている縄を槍に突き出した。

見事に、縄を切ることに成功した。

「!………。」

「…おっと…で、その人って?」

「………妙見様。」

「なんだと?」

銀次さんが言ったとき、間が出来た。

集中が途切れたと言った方が良いかもしれない。

これを持国天は見逃さなかった。

銀次の足元に無数の土製槍を突き刺した。

しかし、突き刺したのは、銀次ではなく、銀次を押し倒したハハソだった。

「邪魔ばっかりしやがって、一人ぐらい殺させろ!こっちは二人逝ってんだぞ…」

「なら、俺を殺してみるか?」

空から声がする。

空中に人が羽もないのに浮いている。

「…オオカミか!会いたかったぜ。」

持国天が全身を地中から出して、武器を土で練り上げた。

「そうだな。持国天よ。ようやく、君たちの前に姿を表しても大丈夫なほど休ませてもらったよ。」

「おやおや。ただ…」

持国天は、槍の穂先を地面に向ける。

「神具のないオオカミが、どう俺に勝てるんだ!」

穂先で地面をえぐり、地面を投げた。

地面が飛んでいき、オオカミの目の前で花火のように散り散りになった。

首から鰐口をぶら下げていた。

「神具か…」

「三峰神社から借りてきた。」

「三峰神社が?…まじか…裏切ったのか、あいつら…」

持国天は落ち着いて周りを見渡した。

目の前の五本松には神の力を持つ少年。妙見宮の北鎮部隊の鷲の力、自身も鳥人の力を持つ青年。

頭上には、かつて秩父を支配し、三峰神社から神具を拝借している神。

左右は、自分が作り出した土人形と播磨組、フクロウの連中が闘っている。

それを遠巻きに驚きながら見ている僧侶と、宮地の人々。

真後ろには、下宮地と滝ノ上を通る道である柿沢通りで持つ柿沢笠鉾、中宮地で持つ中宮地笠鉾。これが出たことで宮地の人々が集まった。…おそらく、あの少年が考えたんだな…

「死者を笠鉾で運ぶか…そのために太鼓で人を集め、仏教がなにをしているのかを見せて、仏教=悪とする…なかなかやるじゃないか……妙見大菩薩に動いてもらうしか無さそうだな…ここは…」

そう言うと、持国天は地面に潜った。

同時に、対立していた土人形も地面に潜った。

あたりが急にシーンと静かになった。

「…終わったのか?…我々人間が、仏教に勝てたのか…」

田代さんが一番最初に喋った。

「勝った…のか?俺たちが…」

「人間の俺たちが?」

「…やった。やったぞ!」

この、勝ったという感覚が広がっていく中で、田代、加藤、井上さんは驚いた。見ていた人々から、抑えられた感情が爆発して、雄叫びがあちらこちらで始まった。

笠鉾の太鼓も大きな音になった。

三人がが驚いたのはもう一つある。

いつものように、神の力を使って気絶したハハソに、僧侶たちが集まって、

「ありがとう!ありがとう!」

銀次に向かって、

「すまなかった。申し訳ない。」

と謝っていたのだ。




このシーンで山車が出てきますが、秩父の山車が死体を運ぶという史実はありません。
佐渡で死者を御輿で運んだという史実を聞き、それを基に思いつきました。
出来れば、読者の地元にある珍しいことをお聞きしたいです。


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オオカミとおたえ様

いよいよ物語のキーキャラの登場です。
キーキャラ感が出てますか?


はっ!と目が覚めた。

銀次さんの家の天井だった。

周りを見ると、銀次さん、田代さん、加藤さん、それとお坊さん、オオカミがいた。

「銀次さん。」

「ハハソ。気がついたか?」

「はい。今は?」

「……あれから5日たった。」

「5日?」

「…君は、神の力を使うと、気絶する頻度が明らかに伸びている。もうこれ以上は…」

「……(そうかもしれないけど、使わないとみんなが…)…あっ!田代さん。みなさんは?」

「あぁ、みんな元気だ。ただ…」

「銀次さんを助けたのだから、もう良いでしょ?って思ってる人がたくさんいるって感じですか?」

「…そうだ。」

「けれど、田代さん。僕がお願いしたのは、銀次さんの奪還ですから、もう大丈夫です。みなさんにお礼を言わないと…」

立ち上がるのを加藤さんが止めた。

「それよりも…」

「加藤さん!」

「銀次くん。これで良いんだ。…ハハソくん。悪いが、君にはもっと活躍してもらわにゃならんことになった。」

「?どういうことですか?」

「…銅三くんだが、君が、銅三くんを助けたらしいんだ。」

「は?」

 

僕は銅三さんにぶん投げられて、羊山まで飛んで行ったのだから、会うことなど不可能だ。

しかし、銀次さんと、虚空蔵様の僧たちが見たのはこうだったらしい。

なんと、銅三さんの肩にいたカジカさんをかっさらったのは、僕で、銅三さんが倒れて、太陽の中から銀次さんが突撃してきた時、身を適して助けたのはなんでも僕らしい。

その直後、銀次さんがもう一度攻撃を仕掛けようとしたら、銅三さんと、カジカさん、そして僕が虹色に光り、跡形もなくいなくなったらしい。

そして、僧侶たちに取り囲まれた銀次さんは、広見寺に捕まったらしいのだ。

 

「どういうことだ?」

「そう。まさに、どういうことだい?ハハソくん?」

「そう言われましても…だって、僕はいままでみなさんと一緒にいたじゃないですか?」

「そうだ。だから、我々で話し合った結果、『これから、』君があの時間に行くのではないかと考えた。」

「……(つまり、タイムスリップをこれからするってことか。)…どうやって?」

「そう。だから、我々は君を過去に飛ばすまでは協力しようってなったんだ。」

「えっ!?」

「君は、銀次を助けることが目的だと言ったな?銀次の弟妹の銅三とカジカが行方不明ってんじゃ、銀次は救われてないだろ?」

「そうだ!銀次さん。お母さんとお義姉さん、ヤマメさんは?」

「…母さんは無事だ。義姉さんもオオカミ様の話だと妙見山にいるらしい。ヤマメは…」

「ここだよ。」

隣の部屋から声がした。

銀次さんが声を潜める。

「…俺のせいで、付喪神たちをボコボコにしてしまったから、付喪神と縛り合っているカジカもボロボロになってしまったから、奥の部屋にいるんだ。」

「…僕は………」

バシン!と加藤さんに肩を叩かれた。

「だからなおさらだ。ハハソ。銅三とカジカを助けに行ってくれ。」

「でも、どうしたら?」

「オオカミがどうしてこの世界にやってきたのかが分かれば、それを逆に使えば、昔に行けるんじゃないか?」

「………(たしかに、未来にタイムスリップしたのなら、過去にも出来ないとおかしい…)。」

「なら…」

「あっ!それともう一つ。」

「一つよろしいですか?」

お坊さんが喋った。

「?…?この方は?」

「自己紹介が遅れました。廣見寺僧侶の、湛山種的(たんざんしゅてき)と言います。ハハソ様には皆、大変世話になったと申し、厚く御礼申し上げます。」

「?田代さん。これは?」

「まぁ、聞け。出発は、朝の方が良いだろう?」

庭を見る。

たしかに庭は真っ暗で、星が輝いていた。

 

「我々永平寺を軸とする曹洞宗の僧侶は、永平寺より派遣されるのですが、秩父は違います。

秩父には、秩父の決まりのようなものがあって、それに乗っ取らなければいけないのです。

それを破ったものがいます。

西行と言う僧です。

彼は、秩父に仏教を広めようと、ある坂の下にやってきたそうです。

すると、坂の上から、鎌を持った男の子がやってきて、西行は、「あの子どもに道案内をさせよう。」と考えて声をかけたそうです。

「やあ、こんにちは。いまからどこにいくんだい?」

男の子は、すぐこう答えた。

「冬起きて、夏枯れる草を刈りに行く」

そう言って、立ち止まらずスタスタ歩いていったそうです。

しかし、西行はそれがなんだか分からず、立ち止まって考えたそうですが、全然分からないため、その子どもをつけたら、麦を刈っていたそうです。

たしかに麦は稲と栽培期間が被らないので、あの子どもは嘘をついていた訳ではなかったのです。

しかも、「冬起きて云々」は、5 7 5になっており、西行は、

「秩父の人たちは子どもまでこんなに頭が良いのでは、私の教えなどなんの役にも立たないし、教えを説いてやろうなんてそんな大それた考えを持っていることがダメだ。もう一度修行をやり直そう!」

と言って帰ったそうなんです。

ですから、秩父は、きちんとした仏教ではないのです。

なにか違う宗教に支配されています。」

「では、広見寺は、なぜ寺を名乗れるのですか?」

「その異宗教が、仏教を名乗り、秩父の神々をいじめるのを見張るべく、頭を丸めた宮地、フクロウの人々、そして、民衆を欺くために、永平寺から高僧を呼び入れているのです。」

「…ということは、お坊さんたちも、あの四天王をはじめとする仏教を名乗り暴れ回っているのとは、まったく関係ないと?」

「逆に、フクロウの方々が蜂起するのを待っていたのです。」

「………。」

「しかし、そこで矛盾が生じるのです。」

急にお坊さんが大声を出した。

「妙見宮に祀られている妙見大菩薩、あれはどうなるのでしょう?」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「…………。…!あっ!」

よりによって気づいたのは僕だった。

「妙見大菩薩は担ぎ上げられているだけ。…妙見大菩薩が異宗教に囚われる前に助け出せないか?と…」

湛山は頭を深々と下げた。

「お願いいたします!妙見大菩薩も元の姿に戻してやってください!」

「……ハハソくん。」

オオカミ様が口を開く。

「無理なら無理って言ってもいいよ。僕がなんとかしないといけないことだし…」

「だけど、オオカミ様…妙見大菩薩も被害者なら助けないと…」

「良いよ。そこまでしなくても…」

なんか寂しそう。

「そんなことより、銅三くんとカジカさんを助けないと。」

「…………。」

一同、庭に出る。

もうすぐ太陽が上がる直前であった。

「ハハソくん。これを使ってくれ。」

銀次さんが、銀次さんが使っている鳥の衣装一式を渡してきた。

「これは、オラが単体で空を飛ぶことの補助、羽による攻撃、顔を画面で守るという効果がある。なにか君を助けてくれる筈だ。」

風呂敷で包んで渡してくれた。

「良いかい?この時間旅行は神力は使わないはずだから、倒れないはずだよ。それと、もし記憶がなくなったり、倒れたりしたら、あっちの僕に相談してすぐ帰れる策を見つけて欲しい。」

「オオカミさま…」

「妙見のことはどうでもいいから。さあ、はじ…危ない!」

太陽が顔を出し、太陽光線が地上に届いた時、太陽光線に混じって、レーザービームのようなものがオオカミの足元に炸裂した。

オオカミはとっさにヘッドスライディングよろしくよけたので大丈夫だったが、庭に30センチほどの穴が空いた。

「なんだ?」

「ハハハハハハ!」

「上か?」

また屋根の上に誰かいた。

今度は女性だ。しかも亀に乗って、刀を持っている。

「なんだあれは?」

「なんで、あんなことが?」

みんなが思った。

ただ、見て速攻で土下座した人物がいた。

「妙見大菩薩様…」

湛山氏であった。

「妙見大菩薩…」

「おい!フクロウ共。頭が高いぞ。分かっているのか?」

「………そうか…」

銀次さんが呟き、立て膝で頭を垂れた。

フクロウが集合した時はすぐ動けるようにこんな座り方をすることになっているらしい。

「おい!人間!我は妙見大菩薩であるぞ。」

「は、…ははぁ」

時代劇でお殿様に頭を下げるように正座で田代さんと加藤さんが頭を下げた。

「?…おい?お前はどうした?私は、妙見宮本尊、妙見大菩薩であるぞ?」

水戸黄門や暴れん坊将軍を見ておいた方が良かったかもしれない…

「も、申し訳ございません。」

田代さんの真似をして、正座をした。

頭を出来るだけ低くするように足を開いて田代さんや加藤さんより頭を低くした。

風呂敷を抱えて。

「ふふふふ。結局こうなるのね。愉快。愉快。」

「…おたえ、いい加減にしろよ。」

頭だけ動かして、オオカミを見る。

左手に持ってる脇差が震えている。

「?おたえ?…ふふ!まだそんな名前で私を呼ぶの?そんなの今はもういないよ。もしかしたら、あの時は不安定だったからおたえの状態もあったかもしれないけど、今は、この大宮郷を支配している妙見大菩薩。」

「嘘だ!君は僕たちを、僕たちの家族を助けるために一緒に戦ってくれたおたえだろ!?」

「だから、おたえはもういないんだよ。」

「…やめてくれ。」

「ふふふふ…じゃあ、私が見た地獄も話そうか?あの後どうなったのか?」

「えっ?」

「だから…なんで、ここまで大宮郷の人たちがお諏訪様のことを話さないの?」

「…………。」

左手の震えが止まって、脇差が落っこちた。

「…。」

僕はオオカミ様がすぐ拾って戦えるように脇差を右手で拾った。

隙があれば、返せるように。

「オスワは…」

「オスワは、私が殺した。」

「!」

「いや、正しくは私が手にかけたわけじゃない。ただ、オスワは、妙見宮に立てこもって、私に殺されることを拒んで、妙見宮に火をつけて自害した。」

「…そんなこと信じられるか!」

「普通ならそうだよね。だけど、証拠はある。」

「なに?」

「秩父札所って聞いたことない?」

「…仏教を調べる中で話は聞いた。大宮郷に金を落とす観光のために制定されたと…」

「ふふふふ…あっハハハハハ!そんなことで制定するわけないじゃない。」

「んっ…」

「オスワが火をつけた後、火だるまになって飛び出したんだよ。それが、覆いかぶさったところに寺を造って縛ったんだよ。」

「…ただ、死んだだけならまだしも…お前らに縛られているのか…」

オオカミは膝から崩れ落ちた。

「オオカミ様…」

僕は呟いた。

目からツッーっと涙が溢れる。

「しかも、私たちによって存在までうやむやにされてんだから…ふふふふ。」

「ち、く、しょう…」

オオカミは目線をガクン、ガクン、ガクンと下に下げた。

「オオカミ様…」

「ハハソ、これは余計に君を昔に送らなければならなく…」

「ねぇ、オオカミ。君がいまなにを考えてるか分からないけど、その男の子、神様の力みんな持ってるんでしょ?だったら、その子がいなくなれば、あなたはなにも出来なくなるんでしょ?だったら…」

手を置いていた刀を抜いて、片腕で上段に構えた。

刃が紫に光る。

そして振り下ろすと共に、紫色の雷のようなものがハハソに飛ぶ。

「まずい!ハハソ!」

オオカミは、雷が当たる前の僕を突き飛ばした。

ただ、雷をさせることは出来ず、僕は雷の直撃を受けてしまった。

 

身体に強烈な痛みが走る。

それ以前に、目を閉じているのに、目を開けて辺りを見渡しているような映像が流れる。

広見寺

室山城

牢屋

地中

持国天

飛ばされている景色

銅三さんの顔

家具を動かすヤマメさん

獣化したカジカさん

本来の姿になった銀次さん

いままでの体験を遡った。

そして目を閉じている通り、視界が真っ暗になった。

どこからか声が聞こえる。オオカミ様の声だ。

「ここは、僕たちが出会って、あの牛が現れた直後だ。この世界での活動時間は、90秒。」

『この世界での活動時間は…』からは、女性の声だった。

どうも、さっきの妙見様の声に似ていた。




今まで仏教と言ってたのは仏教じゃないです。(だったら、仏教と言うのは止めた方がいいでしょうか?)


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銀次対ハハソ

ここから過去編です。
ただ、これで過去に行ったことが伝わるでしょうか?



「キェー!」

と、牛男が大声を上げた。脇差が額に刺さっている。

この前と同じ光景だ。

鋼太郎さんが数歩下がった。下がったところで、僕はぐいっともっと牛男から引き離した。

オオカミが牛男と対峙している。

「なんだ?…君は?」

「…鋼太郎さん。あなたが宮地を一番に考えているのは分かります。ただ、あれに味方することは、宮地だけでなく、大宮郷の人が不幸になります。」

「なに?」

「もっと、落ち着いて考えてください。大宮郷の人たちはあんな化け物に負けるわけないじゃないですか!」

「しかし、あんな化け物に…」

「あれは、牛の顔をして筋骨優流ですが、宮地の人たちはそんな見掛け倒しに負けるんですか?」

「んっ…」

「宮地の大行事がこんなことでは、徳栄さんにもなんて言うんですか!もっとしっかりしてください!あなたが宮地を引っ張るんでしょ!」

「そうだったな、若いの…オラは負けるところだった。」

そういうと、鋼太郎さんは徳栄さんの家の方に向かって行った。

「よし!」

田畑の家を見る。

牛の男は、透明なオオカミにズタズタにされて満身創痍でふらふらと立っている。

銅三さんが、右手を大きく引いて、南の方向を向いた。

「僕を投げるんだ。」

僕は素早く風呂敷を広げて翼を着て、頭にクチバシを乗せて顎紐で縛り、クチバシを引き下げて、顔を隠そうとしたとき、後ろから何者かの太い腕で刃がいじめにされた。

「ぐっ!息が…」

僕はなんとか外そうとしたがどうにもならない。それどころか体が宙に浮いた。

「…この、フクロウめ。生きて帰さんぞ!貴様がいるから、我々『イラム』がこの大宮郷で栄えられんのだ。」

「なんだ?と…」イラム?イラムってなんだ?それが、仏教のフリをしている連中なのか?…しかし、畜生…息が出来ないから考えがまとまらない…

「あと、10秒」

オオカミの声だ。

10秒…

カジカさんも、銅三さんもまだ助けてないのに、もうあと10秒しかないの?

「離せ!」

すると、背中の羽が鋭利になり、牛男に刺さる。

見えないが、僕の背中に羽が生えていて、それが逆立ったような感覚があった。

「うわっ!」

腕のロックが緩んだ。

地面に足がつく。

「いまだ!」

腰に差してある脇差を右手で逆持ちで握る。

「邪魔するな!」

身体を反転させながら、目の前の肉体を脇差で斬りつける。

「うがぁぁぁ…」

牛男が倒れる。

「よし!」

牛男が倒れるより前に銅三さんを見る。

銅三さんの右肩にカジカさんが乗っている。

左手首を見る。

なんと、銀次さんが僕のやったようなやり方、すなわち、手の甲から鳥の羽がゲゲゲの鬼太郎の髪の毛バリのように鋭く、何万本も突き破って、手をズタズタにしている。

そしてそのまま、全力で急降下。

手は爪をきらめかせ、銅三さんの足を引っ掻き、どす黒い血を吹き出させていく。

「このままだと、飛び上がって、カジカさんも狙われる!」

「あと8秒。」

「分かってる!」

僕はやったことないけど、夢中で、銅三さんの右肩を目指す。

「あと少し。」

銅三さんの肩甲骨ぐらいまで来た。

しかし、風の風圧を後ろから感じた。

「銀次さんがカジカさんを狙ってる!?間に合ってくれ!」

カジカさんにそのまま突っ込み、両腕で包み込む。

しかし、右肩に強烈な痛み。

まるで、初日の夢でフクロウ変身した銀次さんに掴まれたかのように。

「?ぎゃー!ってあれ?ハハソくん?なんで!?」

「カジカさん…生きてる?…死んだんじゃないかと思った…」

そのまま自由落下。

「えっ?それより、さっき投げたのは?」

「説明は後。わかりやすく言えば、ここで死ぬはずだったカジカさんを未来から助けに来た。僕にこのまましっかり捕まって!これから、銅三さんと未来に逃げるよ!」

「う、うん。」

カジカさんって、こんな流暢に日本語喋ったっけ?

「あと、5秒。」

「そうだ!うわっ!」

「きゃ!」

銅三さんが倒れる。

あたりがまるで地震でも起きたかのように揺れる。

家からも、ガラガラと家財道具が外に飛び出す。

「銀次さんは?」

空を見る。

太陽が眩しい以外なにも分からない。

庭には、銅三さんがうつ伏せで倒れている。

どこか近くでお経みたいな低い男性の声が響く。

「…痛い。急に…痛い!」

急にカジカさんが痛みを訴えた。

「カジカさん!」

「私の腕が…腕が…!」

「あと3秒。」

二人で抱きついてる状態なのでカジカさんが見ているのは僕の真後ろになる。

しかし、なにか取ろうと、前屈みになったのは分かった。

後ろを向く。

カジカさんの腕が銅三さんの顔の近くに落ちている。

「2秒。」

「くそ!こんなのってあるか!」

右腕が一気に生えて元どおりにする。まるでピッコロ大魔王みたい。

走る!銀次さんの衣装の力も最大にして。

カジカさんの腕を掴む。

その時、耳にキーン!となにか高速で突っ込んでくる音が聞こえた。

パッと上を見る。

太陽の中からグングンなにか近づいてくる。

銀次さんだ。

右腕を爪をきらめかせて突っ込んでくる。

「1秒。」

「うわぁぁぁ!銅三さんを殺すな!銀次さぁん!」

銅三さんの首元にジャンプ。

銀次さんが右腕を振り下ろす。

 

僕が勝った。

銅三さんの首元に、僕がうつ伏せの状態でしがみ付くと、羽を最大に広げた。

すると外傷だけでなく、ウィルス性の病気になったときのような内臓の痛みまでが襲ってきた。

銀次さんは、体操競技の後方伸身宙返り4回ひねり通常、「シライ」で地面に降りた。

しかし、その瞬間。

また、僕をいや、カジカさんと銅三さんも含めた三人が紫に光ったかと思うと、消えた。

 

「なんだ?」

銀次は自分の右手を見た。

自分の衣装の羽が何本も刺さっている。

銀次はだんだん頭がはっきり、冷静になってきた。

「オラは、なにを…カジカ?銅三?…ゔぁ!…」

その時、頭に衝撃を食らって倒れ込んだ。

牛男が庭の巨石を担いでいた。

それでぶん殴ったらしい。

「…あれは…ハハソくんが…やったのか…フフ……二人を助けてくれて…」

巨石が落とされ、意識が飛んだ。

「これは…処刑されるかもと思いながら。」



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カジカ落ちる・銅三山にかえる[過去編]

ここより、もっと過去に戻ります。
「異世界は自分で時代設定出来るから気にしなくて良いよ。」とか言われましたがとても苦しかったときです。


どこか速い勢いで飛んでいるようだった。

カジカさんと一緒に。

ただ、どこかで滑り落ちたようだった。

僕はしっかり持っていたはずだったが、フッと持っていた風船の空気が抜けたかのように圧がなくなったのだ。

「カジカさん!…どうしてそんなに何回も生きることをやめようと…どうして僕からいなくなろうとするんですか!なんでですか!」

そう言いながら、上半身を起こす。

そこは沢が流れる小さな渓谷だった。

銅三さんの身体が渓谷にすっぽりハマっている。

銅三さんはまだ寝ている。

銅三さんの頭に沢が流れて、身体中を改めて流れる沢になっている。

「カジカさんは?」

左手を見る。

カジカさんの腕を握っていた。

クチバシを頭の上に引き上げて周りを見た。

しかし。どこにもいない。

「どこ行っちゃったんだろう?」

僕はとりあえず銅三さんから降りた。降りて振り返った瞬間、銅三さんから木が生えてきた。

「なに!?」

みるみるうちに木は成長した。となりのトトロのメイとさつきの夢の中でトトロが一晩で森を造ったときのように。しかし、僕の目にはもののけ姫のオコトヌシが祟り神になるシーンにしか思えなかった。

「銅三さん!起きて!身体から木が!」

「カジカさん!銅三さんから木が!返事してください!カジカさん!銅三さんから木が生えているんです!カジカさん!返事してください!」

脳内に響くように、イヤホンから声が流れてくるようにと言った方が近いかな?こんな声が聞こえた。

「この世界での活動時間は、30日。」

『30日』だけ、オオカミの声がした。

身体が森になった銅三さん。

行方が不明なカジカさん。

そしてここはどこか分からない。

だけど、カジカさんや銅三さんに改めて会えたこと。

銀次さんの爪を食らったとき、死ぬほど怖かったこと。

また、腕がもげたこと。

感情がグチャグチャになったので、

なので、少し泣くことにした。

「おい!そんなところで、なんで泣いてるんだい?」

だれかに後ろから話しかけられた。

振り向くと、見たことある顔があった。

「…新井!?…新井か?」

「なんだい?君は?」

そこに、見たことある同級生がいた。

いや、僕の知っている同級生ではないが、非常に似ていた。

多分ご先祖だろう…

しかし、異様な格好をしている。

獣の毛皮を着込み、ミノを着ているが、すげ笠を手に持ち、マスクのような布を顎の下まで引っ張っている。

そして雨傘のような持ち手がグルンとした剣をさしているらしい。ミノから見え隠れしている。

「アライ?そんな名前じゃないが、オレはジュゲムと言う。君は?」

「…そうか、苗字はないのか。僕は、ハハソと言います。」

「なんで泣いていたんだ?」

「こ…ジュゲムさん。実は、この森は巨人でして…」

「ああ、分かるよ。ここに温かいお湯の出る沢があったんだ。だけど、急に水量が減ったんで見にきたんだ。」

「申し訳ないです…」

「いいやいいよ。温かい水だと作物も育たないんだ。」

「…人の傷は?」

「傷?やった試しないな…やってみるよ。」

「あの…巨人は大丈夫なんでしょうか?」

「巨人が森になるってのは、結構ある話で、ある程度傷が回復したらまた巨人に戻るらしいぞ。ただ、森の木が切られたりすると遅くなるらしい。」

「…わかりました。」

なんと、森になるのは巨人の治療らしい。

ただ、言葉が気になる。

巨人が森になるのは結構ある話?

ということは…

「…今って、オオカミ様はなにをしておいでですか?」

「オオカミ?秩父神社のか?」

「はっ、はい。」

「オオカミは、外から来た謎の集団から宝登山を助けるため、美の山に布陣してるじゃないか。」

「外の敵と戦うために?」

「たしか…仏教とか言ったが…」




進撃の巨人の壁の秘密で思いついたのですが、
「実は、秩父は巨人が手を繋いで壁でなく盆地をつくっていて、始祖の巨人を待っているのでは?」と思い書きました。(そうだったら面白いなあと思いまして…)


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宝登山

ここからは完全に地理感がないと分からないことになってしまいました。
(このような場合どうすればいいんでしょうか?)


宝登山神社は、長瀞にある秩父三社の一角をなす神社である。

長瀞は、一枚の岩で出来た河原である石畳を迎え、北は熊谷に伸び、南には秩父に荒川と沿って道が伸びている。

宝登山自体は、川と道の西側に鎮座している。

もっと西に向かうと天空の集落と呼ばれる日野沢村を抜けて吉田へ。

川向こうの東側は三つの峠が連なり、読者には懐かしい三沢、高篠、横瀬へと通じる。

詳しくはGoogleアースで検索してもらいたい。

さて、この宝登山神社の門前町にあたる石畳周辺に謎の集団が侵入して、10日が経った。

宝登山神社はすぐに応援を秩父神社に送ったすると、宝登山の真東にある荒川は南北に伸びている。しかし少し上流だと蛇行し、東西に流れているところがあるが、その東西に流れている宝登山に対し南側にある「美の山」にオオカミは秩父の神々と共に布陣していた。

オオカミは協調作戦を取り、一日に一度使者を送り、宝登山神社の開放を条件に、侵入者がなにを求めているのか探った。

しかし、

「あの侵入者は、自らを『異神・邪神』と名乗り、秩父から出ていくのであれば宝登山神社を開放すると言っています。」

「そんなこと認められるはずないだろう!」

神々の意見はもっともであった。

秩父を治めてきたのは自分たちである。それを自ら邪神であり、後から来たなんだか分からない連中に渡せるわけもなかった。

またある時は、

 「秩父に霊場を開き、我らの説法を義務付けるなら。」

 「神々は象徴となり、政治や文化に関与しないこと。」

 「昔話やいままでの政の内容を提出すること。」

「「明らかに、自分たちを悪者にする石敷ではないか!」」

神々の意見はもっともであった。

それとこんなのもあった。

「美の山の南側に、鉱山があるがそれをこちらに渡すなら考えてやる。と申しています。」

「…それがなくなれば、中央に献上もできなくなるぞ!」

「あの仏教と名乗るものたちめ!…どこまで我々を馬鹿にするんだ!」

幕で覆われた本陣の中にはオオカミが上座に座り、日御碕、禍津日(まがつひ)、稲荷そして、新人の天神が座っている。

日御碕は、好戦的であり、机に左足を引っ掛け、右腕を椅子の背もたれにおいて話を聞いている。

日「三峰神社からの応援は?」

天「要請して出立したと連絡はありました。」

最近現れた天神が両手を膝に置き、礼儀正しく対応した。

禍「ウッ…ゲッホ、ゲッホ…チュゥ…ハァ、全面戦争になったとしても、それなら大丈夫か?…」

ほっかむりをして、マスクで顔を隠している神様がむせて、竹で出来た水差しで水を飲むと象言った。

日:「一泡吹かせれば、逃げ帰るでしょう。そもそも我々は舐められているんです。」

稲:「断固として、やつらの言っていることはのめません。先制攻撃になったとしてもやるしかないでしょう。」

銀次さんの面のように口上まである狐の面を付けて、自分の尻尾を前に持ってきて撫でているのが、稲荷である。

天:「…先制攻撃するとしても三峰神社が来るのを待ったほうが。」

日:「三峰神社の動きが遅い以上、もっと面倒なことを言ってくるかもしれないぞ。」

禍:「しかし、それなら時間稼ぎになる。…」

日:「時間稼ぎとも取れるが、秩父の民に不安を煽ることになる。」

稲:「しかし、それでは…」

日 禍 稲 天「「「「ワーワー!ギャーギャー!」」」」

オ:「スクっ!」

日 禍 稲 天「「「「オオカミさま!」」」」

オ:「みんな落ち着いて。ここで仲間割れするのが一番危険だ。」

「「「「…はい。」」」」

オ:「もちろん、彼らの言っていることを飲めるわけはない。ただ、この事態を収束させなければならない。そうなれば戦闘もいたしかたない。」

日:「!…」ニヤリと笑った。

オ:「しかし、彼らと協調出来るのであればそれを尊重したい。」

天:「!!」パァっと顔が明るくなった。

オ:「今一度、彼らと話し合い、飲めない内容であれば、先制攻撃を仕掛ける。」

「「「「それしかないでしょう。」」」」

というわけで、全員立ち上がり、もう一度交渉に向かおうとしたところ、伝令が倒れながら、陣幕にもたれかかった。

「申し…上げ…ます…」

「どうした?」

「ほ…宝登山から…火の手が…」

「「「「「なに!?」」」」」

一同、反対側の宝登山が見渡せる天幕の反対側に出ると、どうだ!

宝登山から煙が上がっている。

「大変だ!戦闘になるならないに関わらず、人足を出して、宝登山の人を助けないと!」

「…禍津日、天神。即刻宝登山に向かってくれ。稲荷。君は、三峰神社がどこまで来ているか確認してくれ。そして、日御碕。陽動のために岩畳方面に向かって…」

まだ言い終わっていないのに、全員居なくなってしまった。

宝登山を見る。

「…いったい仏教とはなにがしたいものなんだ?」

「オオカミさま!」

別の伝令がやってきた。

「どうした?」

「御諏訪様が、秩父神社を出たと…」

「御諏訪が?…兵士はどうした?」

「人間を率いています。」

「人間を!?そんなんで戦えるわけがない!すぐに戻るよう伝えろ!」

「…それが、…私が出立したのは、諏訪城でして…」

「…逃げる訳がないってか。…よし、分かった。諏訪に伝令だ。『荒川を越えて長瀞に侵入するとどんな目にあうかは分からない。来たのを迎え撃て』と頼む。」

「御意!」

そう言って出て行った。

宝登山を見る。

ここからでは人や神、仏教がどうなっているか確認できない。

「…仏は、なにがしたいんだ?あれでは人の心がそれこそ神から離れるぞ。…うん?」

煙の周りを生えのような黒い鳥?いや人?が飛んでいるぞ?」

1000年の時を超えて、オオカミとハハソの物語が始まる。

ハハソのタイムアップまであと29日と半日




すっ飛ばしたのですが、妙見宮は仏教が入ってから秩父神社が改名したので、この過去編では秩父神社と書きます。
日御碕、禍津日、稲荷、天神は秩父神社の末社に祀られている神様ですので出陣してもらいました。


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狂信者

「しつけえ!…」

銀次さんの服の力で空を自由に飛び回って逃げ回るが、後から追ってくるのは、禿頭の若い男だ。しかし、目がおかしい。内側の寄り目はわかるが、逆に外側を向いている。

こちらはみえていないんじゃないかと思うが、ぴったりと、ついてくる。

「キィ…ギャァあ!」

言い忘れたが、禿頭は上裸だ。素手で追ってくるが、叫びながら、口からなにか吐き出した。

それは歯。20発限定の機関銃がハハソに迫る。

「やめろ!」

持ってきた脇差を抜き、歯を叩き落とす。

「良い加減に…」

脇差を右後ろにひく。

「ヒィアァが…あぁ!…あん?」

だんだんと刃が伸びて、あまりの出来事に禿頭は呆気にとられ動けなくなる。

「しろ!」

そのまま振り下ろし、禿頭を袈裟斬りにした。

すると、そのまま頭から地面に落っこち、動かなくなった。

「ふぅ〜…」

ゆっくり羽ばたきながら降りて、宝登山に奉仕に来ていた女性や子供、老人(妙見宮の神人と同じタイプの人たち)を宝登山より西の山間にある日野沢に人を誘導しているジュゲムの前に降りた。

「なんだったんだいあれは?」

「はぁ、ハア…ハァ…おそらく、あれが彼らの力です…」

「…ふーん。だけど倒したんだろう?」

「…まだまだあれくらいの強さの人はわんさかいる気がしますので。気が抜けません…」

「うん。それより、この人たちは、どうにかなりそうか?」

「おそらく、火を放つことが重要で、人を殺すことには考えてないでしょう。」

「君は襲われたが?」

「それは…(ぼくも神の力を持ってると言ったら、ジュゲムさんを混乱させてしまう。ここは、)…ぼくが、空を飛んだ力が秩父神社のフクロウだと分かったからでしょう。フクロウは人間なのに、人間離れした技が使えますから。しかも、自分たちが狙ってる秩父神社の関係者なら、例外的に殺そうとしたんだと…思います。」

「?フクロウがなんだか分からないが…まぁ、一般人が襲われないのなら大丈夫か。」

逃げている人たちを見たら、不安で怯えている様子だが、我先にと前へ前へ進んでいるからまだ追手が来ても自分たちの力で逃げるだけの力はあると思った。

「おーい!大丈夫かー!」

逃げ道と反対側から誰か来る。

小さな馬に乗った青年の一団が突っ込んで来る。

ジュゲムさんが、顔を隠し直して、矢を一本弓につがえた。

馬の一団は、なにか旗を掲げた。

イチョウの葉が左右に広がった旗。

秩父神社のマークである。

「おっと!?怪しいものではない。私は秩父神社の天神というものです。あなた方が宝登山の神人たちを誘導してくれたのですか?」

ジュゲムさんが弓を下に向け、マスクをグイッと下げた。

「はい。我々が誘導しました。日野沢に避難させています。」

「…仏からなにか攻撃があったか?」

「………。」「………。」

顔を見合わせたが、隠すことではないと思って、続けた。

「禿頭の空飛ぶ人に襲われましたが、ぼくが倒しました。」

「「なに!?あの仏を倒した!?」」

馬の一団の中央に、馬車が一台あった。

シンデレラ のかぼちゃの馬車のようではなく、人力車を、馬が引いているような形を想像して欲しい。

その馬車に乗っている、顔をほっかむりで隠した人物が声を上げた。

「…あなたは!?…禍津日様?」

「!…ゴホン!いかにも、私は、禍津日だ。そして、こちらが最近現れた天神である。」

「ご無礼をいたしました。」

ジュゲムさんは、正座をし、頭巾を取り、マスクを外して、低く頭を下げた。

「私は、宝登山の神人をしていました日野沢のジュゲムと言います。お目にかけていただきありがとうございます。」

「顔を上げてくれ。会話にならん。」

「はい。では…」

「もっと高く。…立ち上がって私の目を見なさい。…そして君は?君があの空飛ぶ人を倒したのか?」

「…はい。ぼくは、ハハソと言います。」

はい。と言ってから禍津日が天神を馬車の近くに呼び寄せ、耳を寄せ合い、

「…ヒソヒソ」

と相談をしている。

「あの、オオカミさまは…どこにいらっしゃいますか?」

「なに?」

ぼくは短刀を目の前に出す。

「「えっ?どうしてそれを」」

「ぼくは、オオカミさまに会いに来たんです。」

「「えっ?」」

太陽が沈んだ。

あと29日と深夜分。




オオカミとハハソを仲良くさせるのが難しいです…


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謁見

人同士が仲良くなるのは、どんなスピードにすれば良いんでしょう?


「君が、この短刀を…」

「はい。」

陣屋の中には、松明が焚かれ、奥永の机があり、中央奥に見覚えのあるオオカミ。

しかも、初めて見た夢の中に出てきたような甲冑を着込んでいる。

「チュー…フゥ。そして、宝登山から神人たちを逃し、仏教関係者も倒したと言うのです。」

マスクの間から器用にストローを差し込み、何か飲んでいるのは禍津日様。

「…君の目的はなんだ?」

甲冑が重いのか、椅子の背もたれを横にして、半身を預けているのが、日御碕様。

「ぼくは…自分は、オオカミさまと闘いたいんです。あんなことを許せません。」

「君のいうことはもっともだが、君は人間だろう?」

「ゴホゴホ…それが、…「それが、彼はあの宝登山を焼いた人物を倒したんです。」

禍津日様の肩に手を置き、遮って天神様が喋った。

「宝登山から出た坊主頭も空を飛び、神人たちを圧倒してました。しかし、彼も空を飛び、坊主頭を倒したのです。」

「「「「「……………」」」」」

みんな黙ってしまった。

「…ハハソ君と言ったね。」

「はい。」

「ここで全員が黙ったのは、あのような敵を前にして、どう対処したらいいか分からないからだ。気安く君を信用してしまうと、危険なのだ。もし、僕らに協力してくれるなら、なにか情報が欲しい。」

「情報ですか…」

「君と一緒にいたジュゲムは身元の確認が取れた。しかし、君は出身、父の名前を拒否している。それでは…」

「わかりました…では、…信じてもらえるような情報を持ってきたら、また来ます…」

そういうと、僕はこの凍りついた空間から下がった。

オオカミに信じてもらうより、この空間から逃げ出したかった。

美の山から、宝登山を観る。

目と鼻の先に宝登山が見える。

なんと、ドンドン木が切り倒され、焼け野原があるのか、真っ黒な山肌に赤い糸くずのようなものが張っている。

戦意を削ぐようにわざと燃えた箇所を目立たせているんだろう…

「…あそこまでして戦意を削ぐんじゃ、簡単には信じてもらえないぞ。だけど…どうしたら…」

ジュゲムさんには…いやまだ早い。

彼には頼めない…

銅三さんは起きないし…

カジカさんは!…そうだ!彼女はどこへ?

問題は山積みだ…本当にこんなんであの時代に帰れるのか?

ただ、僕には神の力がある。立ちくらみがする程度に五感を集中させて彼女の消息が掴めないのか?

やってみるしかない。

「なんか一言言ってからやってみるか…全集中…」

「助けてくれ!」

宝登山の逆から声が微かに聞こえた。



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狐とネブッチョウ

ここらへんは楽しく書いてますが、楽しんでますか?


僕はもうダッシュで山を降る。

「これは、立ちくらみじゃなく、気絶ルートだな〜」っと思いながら…

視力をカラーでなく、白黒にしてるのでどこに石が、段差が、木が邪魔をするのか分かる。

耳は常に悲鳴を捉えている。

だんだん近づいてくる。

そちら側からも近づいてくる。

ただ、一つ気になったのは、なにから逃げているのか分からない。

あの禿頭の分類なら捉えられるはずだが、まったく聞こえてこない。

目は近く、耳は遠くを聞いているもんだからか…近づいたら見るしかない…

目の前に何か動物!

慌てて回避。

しかし、首元に何か飛んできて噛みつかれた。

「痛!なんだお前!」

幸いなことに、噛み付いてきたのは人のような形をしていた。

頭を掴むと、無理やり首元から引き離す。

太い血管をやられたのか、血が噴水のように出る。

「はっ!」

僕の首の皮を噛んでいたそれは、皮を吐き捨ててこう言った。

「にゃ!?ハハソ君!?どうしたの〜?」

「カジカさん…なんで…?」

僕の血がカジカさんにドバドバと降り注ぐ。

「君こそどうしたの?こんなところにいると…」

ドン!と急に押し倒された。

「おい!ネブッチョウ!大丈夫か?」

山の下から声がする。

「だ…大丈夫ニャ〜。」

「これ以上上はオオカミ達に気づかれる。撤退するぞ。」

「分かったニャ〜…諦めるニャ〜。」

カジカさんが振り向く。

「カジカさん。」

「ハハソくん。よく聞いて。私は気がついたら、宝登山の近くに倒れてて、仏教に助けられたの。今日は強行偵察でここまで来てたけど、戻らないと…ハハソくんはどうする?」

「カジカさん!なんで…」

「…もし、あの時この力を持ってて仏教の誘いを断ったら敵だとみなされただろうし、神様のやり方に我慢できなくなった妖怪だって嘘ついたの。だけど、私は誰も殺してない。まだね。まだ…ハハソくんが止めてくれたから。」

「僕が止めた?」

「ネブッチョウ!?どうした?早くしないと夜が明けて追い回されるぞ!」

「ニャ〜…ニャアは、足が早いから先に戻っててニャ。実はまだ近くにいる臭いがするのニャ。」

「もういい。諦めろ。早く来い!」

「ニャ〜…」

「カジカさん。行ってください。僕はオオカミと仏教を追っ払う方法を考えますから、また会いましょう。それまで仏教の言うことを聞いててください。」

「…ハハソくん。そもそもここは、」

「1000年前。仏教が入ってきたその日の前。」

「だいたい分かったよ。じゃあ。」

カジカさんが起き上がる。

「首、ごめんね。」

「大丈夫です。これくらい…」

カジカさんはジャンプすると、風が葉に当たる音と一緒に去っていったと思う。

しばらく血が止まるのを待ちつつ考える。

良かった。とにかく生きていた。

ますはそれを喜ぼう。

それと、仏教と一緒ってことなら、死んでしまう心配もなさそうだ。

ところで、さっき避けたのは?

「大丈夫ですか?」

視界の上から頭が覗き込む。

人だ。だけど、さっきは動物とすれ違ったはず…ということは、仏教?

「首から血が出てますが、ドンドン小さくなっていますね。あなたも神ですか?」

「僕は…(仏教だとまずい。)

「あぁ!急にこうではあなたも驚きますよね。」

そういうと、頭はみるみるうちに小さくなり、耳が頭の上にきて狐になった。

「先程は助けていただき、ありがとうございます。私、稲荷と言います。先程はネブッチョウから助けていただきありがとうございます。」

「…ご、ごめんなさい。僕は、ハハソと言います。人間です。」

「ハハソさん。この再生力は人ではないでしょう?どうしてこんなことが出来るのですか?」

「実は…(稲荷と言えば、全国に名の知れた神様だ。なんとか仲間にしてもらわないと…)ある日突然、僕の前にオオカミ様が現れまして…そのオオカミ様が私にこの力を与えてくださったのです。」

「なに⁉︎オオカミ様はそんなことまで出来るのか!」

「いえ。少し違います。」

「んっ?」

「オオカミ様の力というより、持っていた道具のおかげです。」

「道具?」

両手で丸を作る。

「このぐらいの箱なんですが…そこから煙が出て、それを吸い込んだら、この力が使える様になったのです。」

「?…そうか。…」(小声で、「おかしいな」と言った。)

「おーい!」

山の上から声が聞こえてきた。

「稲荷かー?」

「そうだ!ここだ!」

素早く狐から人間の姿に戻る。

すぐに日御碕様と、天神様が兵士5、6人を率いてやってきた。兵士たちは、甲冑のほか、マスクのように顔を布でかくしている。

「先程、結界を大きくしたら、外に向かってなにか走り去ったから何事かと思ってきてみたのだが、稲荷が追っ払ったのか。」

「いや、彼に助けられたのだ。私は逃げてただけだ。」

「へぇ。小僧がか。だけど血だらけだな。」

傷口はほとんど塞がったが、溢れ出た血があたり一面に広がって水溜りになっている。」

「ネブッチョウと取っ組み合いになり、血だらけになりながらも助けてくれたんだ。」

「ふーん…少年!」

日御碕様が声をかけてきた。

「はい。」

「立ち上がろうとしなくていい。そのまま聞け。オオカミ様から伝言だ。「もし、情報じゃなく、我々の役に立つことをしてくれたでも良い。」とのことだ。今回のは良いことだ。」

「では…」

「と、言っても…少し…もう少し待ってもらえないか?」

「そ…わ、分かりました。」

「すまんな…我々もこの事態をどうすれば良いか分からないのだ。」

「…日御碕様。」

「うん?」

「いっそのこと、私を前線に出してください。」

「「「えっ!?」」」

神様も、兵士も声を上げた。

「前線なら、例え裏切っても寝首をかきません。しかも、内通していれば仏教達は「約束が違う。」というようなことを言うはずです。そうでしょう?」

「…と、言っても…次の作戦は極秘作戦だからな…」

「じゃあ、私につけてくださいよ。」

「しかし、稲荷よ…今度の作戦は単身移動じゃないか。」

「その辺は考えてますよ。」

そういうと、懐から手のひらサイズの赤い鳥居を持ち出した。

そして、僕の首にかけた。

「これならいいでしょう?」

「まぁ、そうだなぁ…」

「なんですか?これは?」

「わかりやすく言うと、私の意に反する行動をすると、首を締め上げる装置だ。君は復活するとは言え、呼吸困難で苦しみぐらいはあるだろう?」

「…あります。」

「ふふふ。なら良かった。さて、日御碕。そして、作戦決行日は?」

「それが…」

ポリポリ…

「なんだ?頭なんか掻いてないで早く言え。」

「明日の朝の予定なんだ…」

あと、29日。



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巨人の山

この巨人が現れるのは、秩父の昔話がモデルでありますが、進撃の巨人からもインスピレーションを受けています。
この辺も楽しく書いています。


山の黒さと、空の黒に違いが現れ、山のシルエットがなんとか判断できる様になる時刻。

時間にして朝4時

銅三のような巨人、50名が美の山の後方にある峠で粥を食べて腹越しらえを済ませた。

全員その粥を煮た釜を頭に被り兜の代わりにして、使った箸を器用に伸ばし、一本は杖に、もう一本は腰に刺して、北上を開始した。

美の山の東にある山脈を巨人達が列をなして進む。

次の峠に差し掛かった時、一斉に巨人達が使っていた杖を山頂に刺した。

まるで、箸でも刺したかのようになった。

すると、巨人達の目の前に凧が上がってきた。

巨人たちが一斉に下を向く。

人が二人見える。

一人の巨人が二人を手の上に乗せた。

「巨人族の皆さん。私は稲荷です。今回はオオカミ様に賛同してくださりありがとうございます。」

「なぁに。訳のわからん連中をオオカミ様が追い出そうというのだ。宝登山も焼き討ちにするなど、酷いありようと聞いたしな。それに参加しない巨人はおらんよ。」

手に乗せている髭を蓄えた、さらに大きな巨人が喋る。

「もう一人は?」

「この者は、私の部下です。初陣ですので、連れて参りました。」

「随分と目が鋭い様だが?」

巨人の質問に稲荷がハッとして、ハハソを見た。

巨人をグッと見つめている。

「ハハソ!どうした?緊張しすぎて目と眉が隈取のようになってるぞ?」

稲荷が肩や腕を揺らす。

「巨人様。一つ質問があります。」

手をメガホンにして叫ぶ。

「なんだ?」

「僕の友達の巨人が山になってしまったのですが、どうすれば巨人に戻りますか?」

巨人は、参ったなぁ…という感じに顔を歪めるとこう続けてしまった。

「実は巨人同士でも分からん。あれはさなぎが蝶に、卵から雛がかえるように、自らが出てくるまでどうにもならない代物でな。自らの傷が癒えたと思わないと出てこないんだ。」

「そうですか…」

「しかも、1000年も2000年も寝る場合がある。秩父の山々がそうであろう?本当に土や岩で出来た山など一つ二つ。あとは全部巨人だ。」

「えっ!?」

もし本当なら、進撃の巨人の壁どころじゃない…

しかし、ここは異世界。天狗も河童もいるのだ。なにがいても不思議じゃない。

「で、彼はずいぶん焦っていることはわかった。安心しろといっても安心出来ないが、この騒ぎが終わったら、巨人族として手助けしてやろう。」

「ありがとうございます。」

「で、稲荷。作戦というのは?」

「極秘事項ですので…」

「そうか。」

そういうと巨人はもう片方の手に稲荷を乗せると、耳元に連れて行った。

しばらく喋ると、

「良し。分かった。」

と言って僕と稲荷様をおろした。

「こちら側は任せろ。派手に暴れてやるぜ。」

と言うと、全員抜刀して、また北にある峠に向かって行った。

「よし。我々も行くぞ。」

そう言うと、巨人達と逆の方向に稲荷は山を降り出した。

「どうして追いかけないのですか?」

「……彼らは囮だ。もう一つ動いている部隊があるが、それもこちらが囮だと思っている。ただ、巨人には、日御碕が囮になっていると言ってある。」

「互いに騙してるんですか?」

「そうでもしなければ、囮役なんかやるか?」

箸を刺した峠を南に降り、沢づたいに美の山方面を降りる予定だったが、ここで問題が起きた。

沢に丸太を三本横にした橋がかかっているのだが、河霧が出ていた。

橋の向こう側が見えないくらい。

ただ、「足元を見ていれば落ちることはない。」

と、下を見ながら稲荷が橋を渡り出したが、僕はなにか嫌な予感がした。

なにか橋の上がボヤァ〜と黒くなっている。木だと思ったが、影が広がったりしぼんだりする。木はそうにならない。

「めまいがする程度だろう…」

そう思って、視力を少し上げた。

その瞬間、僕は前を渡る稲荷の尻尾を掴んだ。

人間の姿だが、尻尾や耳を隠すのは面倒らしく、僕といるときはそのままにしているのだ。

しかし、尻尾を掴んだのはいけなかった?

「ヒィ!な!なに?」「うわっ!」

高く、大きな声を出してしまった。

「しまった!」と思ったが、構うことなく、ひっぱって橋の上からこちら側の岸まで下げた。

「なにするホガホガ…」

大きな声を出すので手で口を押さえた。

「シィ!なにか向こう側にいます。あの影は旗みたいなやつです。」

「…なに?」

声が小さくなったので手を外す。

橋の上を見る。確かに、黒い影が無くなった。

急に目の前がグワングワンする。

頭を少し前に出しただけなのに、90度の礼をしたような視界になる…

「ハハソ。大丈夫か?」

「はい…旗を見た後遺症ですが…」

目を瞑る。稲荷の声がする。

「橋の向こうにいるのは…」

「仏教か?」

ウンウン…

喋るのも面倒なので頷いたら、吐きそう…

「ちくしょう…先回りされたのか……ハハソくん。君はあとどのくらい戦える?」

「はい?」

「巨人を呼んでくる。ここで騒いでも宝登山の近くまで進んで騒いでもかわらん。」

「…これは、力を使った後遺症なので、すぐ治りますし…力を使って押さえ込むことも出来ます…」「後で気絶してしまうが…」とは言えなかった…

すると、太陽が刺した。

霧が蒸発してゆく…

橋の上がだんだん晴れ、虹の様な旗を持った禿頭の集団が現れた。

「ハハソ。頼むぞ。」

そういうと、稲荷様は狐の姿になって、元来た峠を走り去った。

「やや?あんなところに人がいるぞ?」

禿頭達が僕を見つけたようだ。

どうやら、稲荷様の姿は見えなかったようだ。

「…あなた達は?」

「我々か?我々は仏教の考えに賛同したもの達だ。」

「人っことですか?」

「そうだ。君は?」

「ぼ、私は…ちょっと急ぎの用で長瀞に行こうと思い、ここを通りかかって、誰か前方にいたので、驚いたのです。」

「そうかそうか。それは悪いことをした。さぁ、お通りください。」

禿頭達は橋を戻って道をあけた。

「あなた方は?」

「我々は、仏教の教えに従って、この三つの峠にこの旗をあげに行くんです。」

「そうですか。では…」

そう言って僕は、丸太橋をこちら側に引っ張り上げてしまった。

「「「あっ!なにするんだ!?」」」

「僕は、オオカミ様の味方です。」

「「おま…え…」」

「それと、あなた方も私も人間です。これでなにも出来ないでしょう?」

「お前が人間?一人で橋を引っ張ったのにか?お前こそ化物だろう?」

「…ぼくは。」

丸太を見る。

一人の力、まして力を使わない僕にこんな丸太をひっぱれるわけが無い。

確かにそうだ。

あの信者からすれば僕は化け物かもしれない。

「僕は…それでも人間です。僕はこの力を神様に返上したい。神様に認められるために僕は外敵、秩父の民をいじめるものと戦います。」

「我々も秩父のことを思って仏教に賛同したのだ。」

「えっ?」

「あの仏という勢力は、秩父の神など目ではない。たちまち武力で制圧されてしまうよ。」

「………。」

確かに。

元の時代(銀次さんがいた時代)、どうやって仏教と秩父神社がくっついたのかは謎だ。…ここまで仲が悪くては、本地垂迹で統一された訳ではなさそうだ。

「それは違う!」

仏教徒も、僕も上流を見る。

先程見送った巨人だ。

先頭の巨人がなにか持っている。

稲荷だ。

稲荷が地上に降ろされながらまた叫ぶ。

「旗を持った人々よ。私は稲荷。オオカミの部下だ。」

「「「ハハァ。」」」

仏教徒達が頭を下げた。

稲荷が僕の隣に降りる。

「あのような暴力と武力で制圧しようとするものが栄えた試しはない。必ず民衆の怒りを買い、滅亡する。あのようなものに臆する必要はない。今すぐその旗を捨てて、日常生活に戻るんだ。」

「「「は…「その必要はない!」

上から声がした。

巨人達より上。

空から声がした。

また禿頭が空に浮かんでいる。

しかし、宝登山と見た禿頭とは違う。

「諸君。そんな異神のことを信じてはならん。あのような間違った教えを広めるから、我々仏教が正しい方向へ導いているのだ。」

「なにを勝手な。」

「導けないから、宝登山は丸焼けとなって、今でも燻っている。かわいそうな宝登山。ただ、この異神共はなにもせず、それどころかこんなところで遊んでいる。これが諸君の信仰してきた神なのだ!分かりますか?」

「「「…確かに」」」

「しょ、諸君。」

「ハハハ!そうと決まれば、諸君。このなにも出来ない異神を自分たちの領地から追い出すよう頑張ってくれ!」

「そうはさせるか!」

巨人が、箸を振り回して、禿頭を攻撃しようとした。

「馬鹿共が!」

箸が禿頭に到達したと思ったら、巨人が前につんのめって、そのまま倒れた。

周囲に大きな音が広がり、木がメリメリと倒れる。

そして、巨人が銅三のように木に埋もれていく。

「「「なんだ!?」」」

禿頭は、両手でカメハメ波のような構えをしている。

手の真ん中にはあの箱がある。

「あの箱で、巨人の力を吸ったのか…」

「ハハソ。それはどういう?「伏せてください!」

稲荷の後頭部を無理やり掴み、二人で川に落ちた。

仏教徒達は、二人が川に落ちたもんだから、「「あっ!」」

と声を上げた。しかし、もっと驚くことが起きた。

あたり一面が紫の光に包まれたかと思うと、その光が禿頭の手に集中した。

その手の中の箱に光が吸い込まれると、残りの巨人達がバタバタ、ドカドカと崩れ倒れ、みるみるうちに身体を木々に覆われていった。

「さあ、仏教の諸君。これで異神はいなくなった。すぐに、この旗を峠の先の集落まで持っていき、仏教を広めるのだぞ。」

禿頭は妖力を使い、丸太を一気に元に戻すと、そう行って、美の山方面に飛んで行ってしまった。

「一体…巨人になにがあったんだ?」

「そもそも仏教は信用して大丈夫なのか?」

そんなことを言いながら、仏教徒たちは渡っていった。

川の下で、ハハソと稲荷がひっそり聞いているとも知らずに…



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長瀞岩畳

みなさま、地名や山の位置が分かるでしょうか?
これはなんとかしないとだと思います。
ただ、これで聖地巡礼などしてもらいたいので地名変更は勘弁ください。


日御碕は、荒川を越えて、宝登山日野沢方面に逃げた人々の救出並びに、仏教撃退の軍を進めていた。

巨人が、宝登山から見て、真東の方角で暴れ出す予定だったからだ。

しかし、荒川を越えて国神に布陣してもまだ巨人が所定の場所に到着したという連絡はない。

「遅いな…どうしたんだ?」

宝登山の方向がまだ黒い煙を出して、燻っているのが分かる。

しかし、宝登山から仏が飛び出してくる様子もないし、予定の山から巨人が現れる様子もなかった。

「おーい!」

川の方向から声がする。

狐がなにか背負って走ってくる。

「遅いと思ったが…うん?」

「おーい!おーい!」

狐がだんだん二足歩行に、人間になっていく。

「…なんであいつが来るんだ?」

「おーい!」

「?」

「危ない!」

そういうと、背中の何かが空に舞い上がり、日御碕率いる軍に覆い被さるように大の字に広がった。

「おっ!?」

すると、その人は急に爆発した。

「「あっ!」」

爆弾でも爆発したようにその人は煙に包まれてしまった。

「あの少年だった…」

「あぁ…あぁ、ああああ…」

バラバラと落ちてくる彼の肉片を見ながら日御碕の兵士たちは狼狽した。

しかし、日御碕だけは違った。

彼だけ空を見ていた。

爆発したその奥を見ていた。

「…ちくしょう。

なんだよあいつ…さっきはいなくなるし、いなくなったかと思ったら邪魔しに現れやがって…」

先程の禿頭が浮かんでいた。

「お前。この少年になにをした!!」

日御碕の怒鳴り声。

すごい怒鳴り声だ。

声なのに風を起こし、空の禿頭に向かって風が轟々と吹いた。

「今の少年が邪魔をしなければ、先程吸い取った巨人共の力…すなわち気を貴様らに与えて、全滅させようとしたのに…あの少年に助けられたな。」

「貴様!」

「おっと…怒らないで怒らないで。すぐ楽にして差し上げますから…」

そういうと、禿頭はあの箱を右手で持ち、左手で開ける動作をした。

「やめろ!」

するとみるみるうちに、肉片が一箇所に集まった。

集まっただけでなく、パズルのように元々の人間に戻っていく。

最後に頭が元に戻ると、身体をかがめて、禿頭から見えないように隠しながら懐から脇差を抜き、そしてたっぷりと力を込めて禿頭に大ジャンプした。

「な…」

禿頭が構わず箱を開けようとしたとき、目の前から両腕と箱が消えた。

代わりに自分の血が腕からポンプ車の水のように出てくる。

「…に…」

目の前にさっき肉片にした少年がいる。

泣いている。

彼の左手は箱が開かないようがっちり抑え、それに抗い開けようとしている自分の手がブラン…と垂れ下がっている。

そして右手は、脇差を持ち、その脇差を胸に思いっきり突いた。

ただ、それだけじゃ終わらない。

握ってる拳でそのまま殴られ、タックルされたように後ろに飛ばされていく。

全身が粉々になり、目も見えなくなって、痛みもそのまま直で伝わる。

「この箱がなければ、みんな平和に暮らせたんだぞ!」

目の前で木になった巨人、己を隠してるカジカさん。

負けるわけにいかなかった。

必死の思いで、身体を元に戻して、禿頭にパンチ、体当たりした。

箱も奪った。

僕は泣いた。

そして、僕はどこにもぶつけることの出来ない苛立ち、痛みの怒りを脇差に込めて、禿頭に突き刺していた。

銅三さんに投げられた時のようなスピードで空を飛び、荒川を掠め、宝登山を飛び越し、川幅が広くなっているところに、禿頭を叩きつけ、そのまま岩を砕きながら、力走した。

岩がガリガリと削れ、川の水が次々と削った窪地に集まり、川幅いっぱいに広がっていた川が、窪地のところでまた違う流れに変わっていった。

二キロほど進んだ頃だろうか。

岩がなくなり、川岸に馬乗り状態でたどり着いた。

「よくも、巨人族と、銀次さんたち、オオカミさまたちを…」

脇差を引き抜き、頭にでも突き立てようとした時、右手首を掴まれた。

「はっ!」

と思い、後ろを振り向いた。

イタチの耳。

そのイタチの耳が後ろからハグしてきた。

「ハハソくん。落ち着いて。それ以上やったら、その人死んじゃって、ハハソくんがハハソくんじゃなくなっちゃう。」

カジカさんだった。

禿頭を見る。

神の力を使ったとは言え、二キロも叩きつけられたものだから、全身がボロボロになって、擦り傷切り傷だらけになって、目が虚になっている。

このまま刺していたら…考えたとたん怖くなった。誰かに守ってもらいたくなった。

後ろからじゃなく、前からハグしてほしかった。

その恐怖のなか、また眠くなってきた。

今回は無茶苦茶なことをやりすぎた。

「そうだ…聞かないと…稲荷様に、どうしてあの時僕を信じて橋の守りを任せたのか?……起きてからでいいか…どうせ起きれるんだし…」

残り、28日。

新たにできた溝に水が流れ込み新たな水の流れになっている。

ちなみに、この一枚岩があるところを岩畳と言われている。




この岩畳は、ブラタモリで岩畳の出来方を見て思いつきました。
出来方はまったく違います。(笑)
ただ、異世界なんだからいいでしょう?


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真実とは残酷だ

異世界を独自に解釈して、作品の根幹に迫る回です。
ぜひ熟読ください。(難しいのでw)


「諸君!我々は日野沢に逃げた人々を救出し、安全を保障することが出来た!

しかし、残念なことに、巨人族は憎き仏教にやり込められ、自然に帰ってしまった。

我々は巨人族のためにも、仏教を長瀞から追い出さねばならない!

それに賛同してくれた三峰神社が巨人族壊滅地付近まで来てくれているようだ!我々は今から、三峰神社と連携し、宝登山と巨人族最大進撃地である峠を奪還する。

ちなみに、我々はこれから巨人族に敬意を表し、三つの峠に命名する。

最大進撃地であり、我らの同属、稲荷を助ける判断をした結果、兜がわりにしていた釜を置いた峠を「釜伏峠」、決起するため、箸を刺した峠を「二本木峠」、粥を炊いて備えた峠を「粥仁田峠」と呼ぶように!」

「「「おー!」」」

ハハソが飛んで行った隙に、日野沢方面に進撃した日御碕と稲荷は、日野沢周辺に逃れた人々を日野沢の反対にある吉田、秩父市街方面へ逃す算段を実行に移し、日が暮れた頃、日野沢大神社に陣を張り、改めて上記の演説を部下たちに行った。

「これで、部下たちの士気も上がりますね。」

後から合流し、退却を指示していた、天神が、日御碕に話しかけた。

「嫌味か?部下たちも本当はあのハハソが一番の功労者だと思ってるだろうが、ハハソは行方不明になっちまったから、代わりの士気を上げる生贄が必要だったのさ。」

「それで、巨人と峠を?」

「頭の良い天神様なら分かってくれるかな?」

「…はい。」

「ところで、本当にハハソさんは?」

「下手したら、あのまま仏教と、どっか遠いところまで飛んでいって、過去や未来にいっちまってたりして…」

「…笑えませんよ。…実際、彼がいないと我々、壊滅したじゃないですか。」

「……こうなったら、ますます負けられなくなったな。一刻も早く宝登山を奪還しなくては…」

日御碕と天神は、次の作戦に向けて、社殿に入った。

稲荷は宝登山の方向を見る。

夜であるが、山全体がボヤ〜と明るく光っていた。

まるで燃えているように。

「ハハソさん…申し訳ありません…」

宝登山が笑っているように見えた。

 

「ハッ!」

宝登山神社は、仏教の攻撃を受けて焼失してしまった。

そこに急遽、仏教が施設をつくった。

その寺で、ハハソは目覚めた。

その寺は急遽作られたとはいえ、天井が高い。

天井の梁にお経のように漢字がたくさん書いてある。

左手を動かす。

なにか違和感がある。

布団をはいで、左手を見る。

がんじがらめに縛られている。

ものすごく怠い。

何んか…グローブを長時間はめているから、鬱陶しくてしょうがない感じだ。

「ハハソくん。」

足元から声がした。

「…カジカさん?」

「起きたの?」

やってきて、顔の近くで座ってくれた。

「いまは?」

「ハハソくんが飛んできてから、3日経った…」

「3日!?」

「慌てないで。まだ宝登山と釜伏峠しか仏教…威羅夢は進行してないから。」

「…威羅夢?」

「…ハハソくん。会ってもらいたい人がいるの。この世界や私そして、ハハソくんの秘密や謎を知ってる人に会わせてあげる。」

「僕らの秘密?…異世界からきたっていう…」

「ここだと他の人も寝てるから、ついてきて。」

確かに、ここにはまだ傷ついたのか布団が何枚もあり寝ている人がいる。

それと、起き上がってみたから気づいたが、岩畳まで飛んできた時、一緒に飛んできた禿頭はなにかぶつぶつ言いながら、布団を掻きむしるような動きをしている。

「彼は?」

「…ハハソくんに殺され続けてるの。夢の中で。」

「…悪夢を見てるんですか。」

「夢だか、思い出して気が狂いそうになってるんだか…しかも、彼は神の力を使ってたから、死ぬことも出来ないって。」

「…そうですか。」

僕は本当に悪いことをしたと思った。

しかし、同時に自業自得という言葉と、先に仕掛けたのはそっちじゃないかとも思った。

この寺は本堂のようなところはなかった。僕たちが寝ている部屋と、奥の仏教を率いる仏様が控える部屋だけという変わった部屋だった。

奥の部屋は、昼間だというのに暗くなっていて、とくにジメジメした奥の方に誰かあぐらをかいていた。

「あの人が、宝登山攻撃を…」

「そう。そして、この世界も分かってる人。」

「!この世界が分かってる人?」

「その通り。」

奥の人が喋る。

「カジカさん。ありがとう。二人とも、中に入って、そこを閉めて。神の力を操る…ハハソくん。君と私は境遇が似ているようだ。君に知って欲しいことと教えてほしいことがあるんだ。」

カジカさんは外に出されるんじゃないかと思ったが一緒に入れると言うことで、右足から中に入った。

続いてカジカさんが中に入って、扉を閉めた。

真っ暗になると思ったが、隙間が多く、真っ暗になるということはなかった。

「さて、ハハソくん。君は、この世界の人ではないね?」

「…はい。しかし…」

「大丈夫。私もこの世界の人ではない。だけど、おそらく、君のいた世界の人でもないんだよ。」

「はぁ?」

喧嘩を売る感じではなく、ため息をついたら、音が出たような「はぁ?」と言った。

「頭を使うんだが、この世界が未来まで続いても君は生まれない。もっといえば、君も、私も、カジカさんも習った歴史の教科書に沿った世界を歩んでるんじゃなく、違う世界の違う国の歴史の教科書を歩いている状態だ。」

「…それは、ここが異世界…すなわち、違う時間軸で動いている世界ということが言いたのですか?」

「ほう!…異世界がなにか理解しているのか。ありがたい世界から来てくれた。…君の世界がどんな世界なのか分からないけど、どんな『死に方』をしたんだい?」

「死に方…死に方は、ある日突然、く…車に轢かれました。」

「…それは大八車じゃなく、自動車でいいのかな?」

「は!はい。」

「…自動車のある世界からか…いやこっちの話だ。」

「あの、」

「うん?」

「あなたは?」

「私か?…『何回目のがいい?』」

「えっ!?」

「何回目に死んだ時がいいかい?」

「何回目とは?」

「私は7回経験してる。」

「7回…死んだと…」

「そう。7回死んで、今8回目。」

「…なんで、そんなに生き返れたのですか?」

「うーん…生き返ったと言うより、移った…すなわち、違う世界を7回移動してる。」

「あぁ、そういうことか…」

納得した「あぁ」が出た。

「全部共通してるのは、志半ばってことかな?」

「志半ば…」

「うーん…嬉しかった直後とか、なにか決心した直後とか、とにかく、「このまま死にたくない!」と思ったら、どこかに寝てて、違う世界に移ってた。」

「………。」

僕はとくに「死にたくない」とそこまで強くは願わなかったし、そもそも死ぬとも思ってなかったぞ…

「それで、4回目あたりかな?その時に、他の世界から来た人と出会った。それで、私一人が転生してるんじゃないとわかった。それから、私は仲間を集めることにした。」

「はい。」

話に引き込まれて、頷いている。

「また、志半ばで挫折した人も引っ張るようになった。そして完成させたのがとある願い方だ。」

「ね、願い方?」

「希望。信念。すがり方。宗教という言葉が通じるかな?」

「宗教…」

「私は『威羅夢』と名付けたのだが、この世界では『仏教』と呼ばれるようになった。未来での幸福を約束するという内容としてな。」

「…では、あの箱は?」

「うん。…どうもな、これはまだ仮説なんだが、君は、元々いた世界から自分の身に変わったことは起こってないか?」

「えっ?」

「…例えば、たぶん…傷がめちゃくちゃ早く治るとか。」

「うん!?…」

「空が飛べるとか…」

「えっ!…はい。あの…」

「どうしたい?」

「あなたの普通と僕の普通に違いがあると思いますが、元の世界では、人間は、自力で空は飛べなくて、傷も小さな傷をめちゃくちゃゆっくり治って、簡単に死んでしまって、刀が伸びたり、水が出たりしないんです。」

「………。」

小さく、細かく頷いている。

「私のいた世界に似てるな…私の世界では意思疎通を手でやっていたのだが…まあそれは良い。この世界の人間も神でなければ空を飛んだり、傷が速攻で治ったりはしない。ただ、異世界から来た人には、なにか力が与えられているのは間違いない。それが、君にとって、箱だったわけだな。」

「は?」

「うーん…なんて言えばいいのだろうか………

私たちはこの世界の人ではない。よって、周りからしたら、我々こそ神のようなのだろうな。

しかし、神や奇跡を与える者は別にいる。その別の者や神が、私たちがこの世界で生きていくのに都合良くなる道具や力を授けてくれているのではないか?という仮説だ。」

「すなわち…この異世界転生は、能力付き?」

「そうのようだが、違う気もする。なぜなら、自分が本当にほしい能力は手に入らない。」

「はぁ?」

今度はため息のような「はぁ」

「私は、この世界でこの威羅夢を広めたかっただけなのに、この、神の能力を吸い取る箱が手に入った。

しかも、ただ吸い取るだけじゃなく、誰かに能力を押し付ける代物だ。お陰で、信者は増えたが狂信的な信者が、他の元々あった宗教を攻撃し始めたわけだ。」

「…それが、今回の宝登山焼き討ち。」

「本当に申し訳ないことをしたと思っている。必ず、社殿を直して、亡くなった方の菩提を弔い、遺族にも謝罪したい。」

僕に頭を下げてきた。だいぶこの人も参っているのだろう。

僕は急に哀れに思った。

最初は、この騒動を巻き起こしている加害者だと思っていた。

しかし、どうも彼も被害者のようだ。

鬼滅の刃の鬼のように。

「どうして、異世界から来た人はみんながみんな能力が使えるのでしょうか?ひょっとすると、異世界の人が僕らの普通が彼らにとってスーパーマンな場所もあるかもしれないじゃないですか。」

「たしかに君の言うとうりだ。…うーん、これも私のもう一つの仮説なんだが、我々空間旅行者は、なにか一つ願いが叶えてもらえるというより、自分で世界を構築して、自分に都合の良いように世界を動かしているんじゃないかというものだ。」

「はぁ?」

どういうこと?

「つまり、数多くの世界が、物語のあらすじや登場人物紹介、世界設定などが決まっていて、我々空間旅行者が自分で都合の良いように動かしている。

しかし、こういう風に空間旅行者同士が語り合っている。

すなわち、世界の初期設定は同じで、各自いろんな物語を並行して書いている二次創作のような世界なんだ。だから、物語の主人公である我々、空間旅行者はスーパーマンのような力が備わっているんだ。」

「そうか、元々ある初期設定だけの世界に飛び込んで、主人公が活躍するにはなにか他の人より優ってないといけないから、ほぼ自動的に能力が…そうか。」

「私もいろんなところに行った。

大戦争の後若者が残らずその国、その地域らしさが徐々に失われていく世界。

大人は魔法が使えるが、子供は使えなくなってゆく世界。

銀河鉄道や宇宙戦艦、宇宙海賊が跋扈する世界。

天人、地人、人間が殺し合いをする修羅の世界云々…」

「で、これから僕はどうしたらいいのですか?あの箱は?」

「あの箱はここだ。」

そういうと、彼は後ろから箱を出した。

しかしそれはカジカさんが目を背けるような物だった。

なんと、僕が切り取った両腕がそのままくっついているだけしゃなく、僕の左手ががっちり箱を鷲掴みにしていたのだ。

「申し訳ないが、君の左手をこの封印の一部に使わせてもらったよ。こうでもしないと、禿たちに開けられてしまう…」

開ける動作をするが、どうにもならない様だ。

「びくともしない。ただ、君の左手が再生しない…」

「…少し開いてて、左手に力を加え続けている。」

「そうだ。しかし、力がもうすぐなくなる。そしたら、この箱もひらける。そしたら、この箱を開けて君の能力を封印して、この世界の神々に能力を返上するんだ。そして、君は未来に帰れ。」

「そうすると?」

「神が力を盛り返し、箱はないから夷羅夢、仏教は力を失って秩父から去る。」

「そうすれば、僕はもとき…タイムスリップする前の世界がもう少し過ごしやすくなって、君も大人になって、歳をとって死ねるだろう。」

「…この組織に属してる人たちは、」

「それは…(プス)がだ!…」

急に後ろ向きに倒れた。

喉元を見ると矢が刺さっている。

「そういうことだったのか。」

後ろの扉があいて禿頭が二人現れた。

一人は弓を持っている。

「貴様!よくも我ら四天王のうち、二人をあそこまで廃人にしてくれたな!」

先に入ってきた男が腰の刀を抜いた。

カジカさんは倒れた彼に駆け寄ったので自分より後ろにいる。

「お!…ニヤリ…どうやら尊師…いやあの男は違う世界に行ってしまったらしいぞ。」

一瞬後ろを見る。

カジカさんが抱きかかえたはずだが、そこには誰もいなくなっていた。

「お前らも、違う世界に行っちまえよ!」

「そんなことさせるか!」

この言葉を使ったのは僕じゃない。カジカさんだ。

僕の首根っこと箱を掴むと、ジャンプして、天井を突き破って外に出る。

「逃すか!」

弓を持っていた男が、目一杯引っ張ると、矢を飛ばす。

「ぎゃ!」

カジカさんの右肩に刺さる。

思わず箱を落とす。下の池にボチャン!と音を立てて沈んだ。

「カジカさん!」

僕は体勢を立て直すと、カジカさんを抱えて、口に脇差を持って、宝登山を後にした。

宝登山はまだまだ焼け野原で、だいぶ灰だらけになったが、まだ煙は上がっていた。

「…消えてしまえ!」

噛んでいるのでうまく言えないが、僕が言うと、脇差の刃から天空に向かって光が伸びて、雲をつくった。すると雨になった。

これで早く煙もなくなると思った。

僕らは雨にうたれる。

「僕たちは、帰れないのか。」

雨なのか涙なのか、頬を水がつたった。

残り、25日



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裏切り者

また少々ややこしくなります。
秩父周辺の地図を見ながらご覧ください。


「諸君!宝登山焼き討ちはここにいるハハソくんのおかげで、鎮火した。なんでも雲を動かして、雨を呼んでくれたようだ。これに乗じて、一気に宝登山を奪還しよう!」

「「「うおー!」」」

日野沢に潜んでいる部隊は、自分たちが特に何かした訳でないが、士気を上げたままであった。

それはありがたい。脱走したり裏切ったりする者はいないのだから。

改めて神社内で日御碕、天神、そして、僕ハハソと、カジカさんは地図を広げた。

美の山を中央として、左下から美の山と同緯度で東に折れて、美の山の北側でまた、北に向かって流れる荒川があり、川を挟んだ北部に宝登山。東の山脈に釜伏せ、二本木、粥仁田、その南の裾。美の山の南東にある 三沢 と書かれている。

我々がいるのは西の端っこ。宝登山の南西の山の中である。

宝登山と、釜伏せに「仏」と書かれ、日野沢に「日」、美の山に「大」、美の山の南の小山に「妙」、美の山の南西にある川の合流点に「諏」、二本木に「三」と書かれた地図を見ている。

ちなみに、稲荷様がいないのは、二本木に向かっているとのことだった。

「まったく、今度は泣きながら飛んできたと思ったら、傷だらけの猫耳のお嬢さんを担いで来て、なんも言わず倒れて3日。起きたと思ったら、いろいろ聞いて、聞かれて…信じ難いが、確かにそうなんだろう?」

日御碕様はハハソを見た。

だいぶ始めて会った時より顔が柔らかい。

「はい。あれらは仏教ではないです。仏教は人を正しい、優しい心を他人に与えて、自分も豊かになろうという考えです。あれらは全く違う宗教です。しかも、指導者を失ったテロリスト…、武装過激集団です。」

「…テロリストがなんだか分からなかったが、奴らはもう戦えないのだろう?」

「あの、…僕をバラバラにしたあの箱は、…盗もうとしたのですが、失敗して…」

「それも聞いた。ネブッチョウのお嬢さんに頑張ってもらったらしいな。まぁ、良い。池に沈んで、拾い上げたとしても、君の左手が抑えているのだろう?」

「はい。それは確認してあります。…ただ、力は有限だそうです。」

「その前に、宝登山と釜伏せ峠から追い出してやるよ。さて、次の宝登山攻めだが…」

日御碕が机の地図に向かうと、

「日御碕!」

と、外から声がかけられた。

「稲荷か!」

日御碕は待ってましたとばかりに、社殿を出ようとすると、障子を倒して、稲荷様が入ってきた。

「どうした?そんなに慌てて…」

「…はぁ、ハァ、大変だ…」

稲荷はだんだん身体を狐から人間に治してくると、顔色悪く、悪い情報を教えてくれた。

「三峰神社が撤退して、禍津日様が敗走しました。」

「「なに!」」

いままでの三峰神社はこうだ。

 

巨人が進撃した後を辿って、二本木峠山頂付近に布陣したのは、僕が岩畳まで飛んだ日。

その日のうちに、峠の山頂の木を切り落とし、箸に三峰神社の旗をたくさん掲げた。

癪に触った釜伏せ峠に布陣した部隊が攻撃を仕掛けると、切った木を全て釜伏せの部隊に落とし、撤退させたり、山頂の手前にぐるりと囲む堀を掘り、その中に敵を入れ、一気に土砂崩れを起こし、生き埋めにするなど、釜伏せの部隊を着実に弱らせていたはずだった。

日御碕は宝登山攻めより釜伏せの方が早く落ちると思っていたため、撤退されたのはショックだった。

「なぜ撤退した!?」

「…どうも裏取引があったそうです。

オオカミ様は、『義をもって出陣してほしい』と要請してましたから、三峰領の安全と、金でも約束されたら…」

「……チッ。」

日御碕は稲荷を押し除け、外に出ようとした。

えらい猫背だ。

「見てきたんだが、三峰神社は仏教徒ととに三沢に侵入して、陣を敷いたぞ。」

「なに!」

急に猫背が直った。

なおって、社殿に入ると、「三」と、場外の「仏」を三沢に置いた。

「仏」は二本木と粥仁田にも置かれた。

「陣に仏教の旗が上がってた。」

「…俺たちが今、最前線じゃないか!」

「禍津日様も行方不明だ。美の山にいるのは、本隊のみ。これはオオカミ様を下げて、陣を引き直すのが作戦かと…」

「…大将がいないのにどう戦う?」

「撤退するとしたら、オオカミ様を説得する必要もあるな…」

僕はそのやりとりを見てたが、どうもしっくりこない。

「ハハソくん。」

袖を引っ張られる。

「カジカさん。」

「あの二人、会話になってない。互いに独り言を言ってるだけ。」

「えっ?」

「だって、会話が成立してないでしょ?」

「は、…はい。」

「あれで話がまとまるのかしら?」

「さぁ?」

「ハハソ!」

「はい!」

急に日御碕様に呼ばれた。

「君に頼みがある。」

「はい。」

「君は早々に美の山へ行って、現状を報告し、オオカミ様を大宮郷へ戻せ。」

「御三方は?」

「…俺はこのまま宝登山を攻める。残党なら、移動して、攻撃をはぐらかすはずだから、宝登山はからっぽなはずだ。そこを取り返して、我々の旗を上げることで、やつらに圧をかける。二人、稲荷は君と同行する。信用がいるからな。天神は、足止めのため、三沢から出てくる敵を叩いてもらう。」

「よし。やろう。」

「はやくオオカミ様に伝えなければ。」

「もし、はやく攻めることが出来れば、三峰神社にもう一度出撃を命じられるかもしれないな。」

「みんな。また会おう!」

日が暮れる。

タイムアップまで22日。



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探り合い

戦い出すまでのビリビリした感じ。(伝わってるかな?)


宝登山に向けて、一隊が出発する。

夜の行軍にもかかわらず、やたら松明が多い。

見えるわけないが、三沢に脅しをかける。

そして、数を多く見せて宝登山から仏教徒を逃がそうとするため。

そして、ハハソ、カジカ、稲荷、天神がバレないようにするため。

日御碕は松明を多く持たせて宝登山に向けて出発した。

もう一隊は松明もなく、川を渡り、三沢に侵入するルートを進む。

巨人達が攻撃のため出撃した時と同じぐらい明るくなったところで、僕とカジカさんと天神様が別れ、美の山に向かった。

美の山では、兵士たちがソワソワしていた。

当たり前だ。

なにせ退路を絶たれるんじゃないか?

戻ったら家がないんじゃないか?

そう考えたらじっと座ってられる人などいないだろう。

しかし、その中で座っている人物がいた。

「ハハソくん。」

笠を被り、ミノを着たその人物が話しかけた。

「ジュゲムさんか!」

「ハハソさんも元気そうで。」

「なぜここに?」

「日野沢に戻ったんだが、傷が治ったんでまた来た。しかし、ちっとも出撃しないから帰ろうかと思ってたんだ。」

「傷は?宝登山から逃した時ですか?」

「そうだ。しかし、驚いたことに、あの巨人の付近で沸いた温泉に使ったら治った。」

「それは良かった。」

「で、これからどうするんだい?撤退?」

「…それも込みで今からオオカミ様に報告するんです。」

「そうか。近くで聞いてもいいのか?」

「…おそらく大丈夫かと。」

「じゃあ、天幕の近くに行っとくよ。」

そういうことで、ジュゲムさんも含めたメンバーで本陣の前まで来た。

中に入ろうとしたら、

「じゃあ、俺は」

と言って、座り込んでしまった。

驚いたが、まぁ、当たり前かと思い僕らは中に入った。

「おぉ!稲荷!そしてネブッチョウのお嬢さんまでいる。みなご苦労だった。」

「オオカミ様。無念であります。」

「緊急出動であったもんだから、利益が見えなかったのは仕方ない。で、日御碕と禍津日、天神がどうなったのほうが気になる。」

「…残念ながら粥仁田峠に布陣していた禍津日はいまだ行方不明。日御碕はこれを機に宝登山奪還に向かいまして、天神は、禍津日を探し、三沢から敵を追い出すため、三沢方面に向かいました。そして我々は天神と共にここまで参りました。」

「うん。現状は把握した。」

「しかし、三沢を抑えに行ったとはいえ、ここでは…どこか陣変えを行った方が良いかと…」

「……うーん。ただ、ここを捨てると…」

「なにか心配でも?」

「…私情を挟んでな。」

「あぁ。そういう…」

「申し訳ない。」

「……。」

黙って頭を振っているようだ。

「ハハソ。」

「うん?」

なにとても小さな声が聞こえた。

「もし聞こえたら少し来てくれ。」

なんかしゃべっている。

「オオカミ様。」

「どうした?ハハソくん。」

「少し所用で…」

「良い。下がれ。」

「はい。」

僕は陣から出る。

ジュゲムさんが立っていた。

「どうしました?」

「目のいいところで、宝登山方面を見てもらいたい。」

「なに?」

宝登山方面を見る。

驚いた。

虹色に光っている。

その虹色はなにか空の中途半端なところで空間に吸い込まれている。

もっとその吸い込んでいる空間を見る。

「あれは…」

僕は走って陣に戻る。

「稲荷さん!オオカミ様!大変です。敵に裏をかかれました!」

「なに?」

「どういう?」

「宝登山方面。日御碕軍がどうやら箱にやられてます。」

「「なに!」」

全員が宝登山方面に向けて陣から出る。

宝登山方面の空間が虹色に光り輝き、色が吸い込まれている。

「…どういうことだ?」

「…もしかして、三沢に向かったのは別働隊で、本隊はまだ宝登山にいたのでは?!」

「うーん…」

「日野沢も危ないかな?」

「…日野沢にはまだ兵士が必要最低限は残したからなんとか持ち堪えることは出来るかもしれないが。」

「…チッ。そうか。」

ジュゲムさんはなにか焦ったような口調だ。

「じゃあ、三沢は?」

「…旗が動いたくらいで、三沢は特に制圧されたわけじゃないかも。」

「なら良いが…」

その時、なにか爆発した音がした。

みんな身体を丸めるほどの轟音である。

草木が震え、動物が宝登山方面に走っていく。

「なんだ?」

みんなが、反対側を見る。

「おお!なんだあれは!?」

「すげえ…」

「はぁ……。」

「にゃ〜…」

山に囲まれた土地だが、黒煙があがり、なにか不穏な感を誰も感じていた。

「どういうことだ?」

「…天神がやったのか?」

「……。」

 

止められる者のいない負けが始まる。

地獄が強制終了するまであと21日。



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新たな指示

ここも楽しいです。
ただ、ついてきてこれているかな?


宝登山の南、国神付近のひらけたところに、日御碕の軍は壊滅していた。

みんな気だるそうにひっくり返っている。

その中で、とくにだるそうにして、大の字でひっくり返っているのがいた。

「日御碕様!」

「…ぁ!…ハハソか。俺は。」

「あまり喋らずに!体力を使います。」

「うん…」鳥の格好ではないな。」

「友に貸してます。彼が兵士を日野沢に誘導してくれています。」

「そうか…おれは…」

「オオカミ様からの命令で、『諏訪城に入れ』と。」

「…(嬉しそう。)フフ!まだ俺に戦えと言ってくださるのか。」

「自決など考えないでください。」

「オオカミ様の命令とあれば、黄泉の国に蓋をして帰ってきてやる。」

「ただ、兵士たちは…」

「日野沢で英気を養ったら、吉田に抜けて、地元に帰れと伝えろ…で、ハハソ。」

「はい。」

「少し寝たい。」

「だと、思いました。」

 

稲荷と、カジカは美の山を降りて天神が陣を張ると言った笠山に向かった。

(この笠山、美の山に蓑を置いた巨人が、同時に笠を置いたため、笠山、美の山と呼ばれるようになったという)

しかし、笠山に登るでもなくすぐに、天神の部隊を見つけた。

見つけたが、悲惨な状況であった。

まるで爆弾で吹き飛ばされたように、木々や兵士は、めくれあがり、地や兵士に穴が空いていた。

「天神様!」

残念ながら、天神は半身吹き飛んで、上半身だけにも関わらず、生きていた。

「へへ、やられちまった。」

「死にそうではないのか?」

「私は神だ。死ぬわけはない。ただ、これだとしばしの間不便だ。」

「よし…」

「危ない!後ろ!」

天神様が急に叫んだ。

稲荷とカジカが後ろを見る。

「上!」

上を見る。

禿頭が浮かんでいる。

弓矢を持っている。

「お前ら…」

「貴様!この人間まで吹き飛ばしたのは貴様か!」

「…我々は良いことをしているのだ。お前らが歯向かうからこんなことになったのだ。」

「…それは傲慢だ。」

「…この土地から」

矢を番えた。やばい!

「出て行け!」

撃った。

稲荷がカジカを掴む。

カジカが天神を掴もうとした瞬間、なにかふわふわしたものを掴んだ。

カジカはつかみ直そうとしたが、稲荷がジャンプしたから、身体が硬直してつかみ変えることが出来なかった。

ひどい爆発にはならなかったが、ジャンプでなんとかなる距離だった。

その後も爆発が何回かしていた。

残念だが、兵士の生き残りを跡形もなくけしているのだろう。

 

美の山本陣

「と、言う事です。オオカミ様。」

「天神は?どうなった?稲荷。」

「私はここです。」

机の上にモルモットのような動物がいる。

「君、天神か?」

「はい。寸でのところで身体を小さくすることが出来ました。しかし、ネズミから元に戻るには時間がかかるようです。稲荷様のように人間になったりは出来ません。」

「うーん…ネズミではあるが、一応身体は戻るんだな?」

「その予定です。」

「それならまだ安心だ。」

「で、これからどちらへ?」

「…一つ思ったのだが、結局敵の本拠地はまだ宝登山で良いのか?」

ネズミの天神が答える。

「おそらく。我々は本陣を動かしたと思いましたが、どうやら動かしてないようです。

実力者のみと地元の協力者だけで三沢を占領したようですので…」

「だいぶ、信者が離れているようだが、力を持った狂信者のみなだから、強い者ばかりだろう。しかし、領民は恐怖政治に震えている可能性が高いな…」

稲荷が前に出る。

「…こうなったら、一人でも多くの者を鼓舞しながら、大宮郷に入ったほうが得策でしょう。」

「では?どうすると?」

天神が聞く。

オオカミが喋る。

「…実は、お諏訪からまた使者が届いた。それによると、大野原に関を設けて、天狗党にとにかく隊列を組んだ者を見かけたら問答無用で吹き飛ばせ。と伝えてあるらしい。」

「なんとも、お諏訪様らしい。」

「ただ、なぜこのようなことをしたのか考えたのだが、大野原を通り、我々は撤退出来なくなってしまったことも意味する。」

「…そうすると?」

「なにがなんでも三沢を通って撤退しろと言う意味だ。」

「なぜそのような?」

「稲荷。簡単だ。三沢の者たちを鼓舞して撤退しろと言う意味だ。もちろん。お諏訪には敵も味方も見えているはずだ。」

「分かってて、旦那に敵中を突破しろと?」

「お諏訪はそれぐらい出来なきゃ人を導くことなど出来ないと考えているんだろう。」

「フッ…すごい人だな。」

「ハハソくん。君は黒谷の聖神社にいる女性。『お妙』に会い、宮地に撤退するよう伝えてくれ。」

お妙…

「!!…お、お妙とは、オオカミ様の。」

「…まぁ、私の大切な人だ。しかし、美の山のほぼ真下にいる。彼女を無くす訳にいかない。力を貸してほしい。お妙を宮地に撤退させて欲しい。

そのための手紙も書いた。」

「うー…」

僕は思わず悩んだ。

オオカミ様を見下した、あの冷血な女性が大切な人だと…

いや、違うな。

おそらく、「あの時は」あの禿頭に唆されて、あのような冷血だったが、本当は違うかも…

うまくいけば、冷血化を止めて、優位に禿頭と戦えるかも…!

「オオカミ様。全力を尽くします。」

「すまん。ありがとう。」

「稲荷。いきなりすまんが、ハハソを導いてやってくれ。もはや私にとって一番信用出来るのは君だ。」

「心得ました。」

「天神。悪いが、どうすれば三沢を抜けられるか考えてくれ。」

「はい。」

「ネブッチョウ。君は、ここに旗を出来るだけ立てた後、横瀬川を下り、荒川との合流点を目指せ。そこに日御碕がいる。訳を話して、そこにいさせてもらえ。」

「ニャ。」

「私は軍を諏訪城か大野原に戻すために諏訪と天狗党に交渉する。」

「「はは!」」

各自行動を開始した。

「稲荷、ネブッチョウ。手紙を渡す。こっちへ。」

「はい。」

僕は陣の外に出た。

蓑と笠を着た人がいた。

「ジュゲムさん。」

「ハハソ。悪いが俺は日野沢に帰る。」

「そん…それは、どうして?」

「あの禿頭たち。宗教施設を造れば、日野沢の大神社は残すと言って、負傷者も逃走者も見逃すと言ったらしい。」

「あの禿頭たちが?」

「そうだ。どうも協調路線の者もいるらしいぞ。ただ、その仏教徒は少し違った。」

「なにがですか?」

「その宗教施設には仏という神を祀り、それにすがれば、これから先や、死後の幸福が約束されるとか、いままでの思想とはだいぶ違うんだ。」

「!ジュゲムさん。それが仏教なんです。元々、宝登山を焼いた連中とは別のきちんとした仏教なんです。」

「なに?本物の仏教?…信用出来るんか?」

「そうでしたら、武装したままでも良いので話をしに行ったらどうですか?本当の僧…仏教の師であれば、皆さんが納得する方法を教えてくれるはずです。」

「…うーん。そうか…話し合いか…まぁ、やってみるか。おっと!そろそろ、逃げ出さないと、偉い人たちに見つかって、どこかに連れていかれちまうぜ。あばよ。ハハソ。またどこかで会えたら会おうぜ。」

「なにかこれからするんですか?」

「巨人のところで温泉でもやろうかな?」

まさかとは思った。

だって、あの辺には現代でも温泉はある。.

「ハハソくん。」

「カジカさん。」

「三人ががまだ難しい話をしてたから。」

「少しでもプライベートな話ができて嬉しいです。」

「ハハソくん。君の力はだんだん弱まってるらしくて、気絶する時間がどんどん伸びてる。たがら、あまり無茶し過ぎないで。」

「はい。カジカさんも大丈夫ですか?ずっとネブッチョウの真似は疲れるでしょう?」

「うーん…威羅夢の教祖じゃないけど、他の世界や風習に慣れ過ぎて、とくに他の猫をかぶるのは辛いとは思わないよ。この猫耳に誓って。」

思わず、頬が緩む。声にはならなかった。

「ハハソくん。」

「はい。」

「お妙さんって方。多分優しい方だから、安心して。」

「どうしてそう言えるんですか?」

「オオカミ様ってお妙さんの話をすると,少し恥ずかしがるし、あの人が冷血な人をここまでわざわざ守ろうとするかしら?オオカミ様は神様だけど人間っぽいから。」

「たしかに。あの人は人間なんじゃないかと思うこともある…分かりました。全力を尽くして秩父に撤退させます。カジカさんも気をつけて。」

「うん。」

「ハハソ、行くぞ!」

陣から稲荷様が出てくる。

「はい!では、カジカさん。」

「また会いましょう。」

 

世界が凶変するまであと20日。




これからのお妙さまに会うのも楽しく書いてました。
横浜で書いてます。


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和銅精錬場

和銅精錬場はありません。
ただ、今は宝くじが当たると評判の「聖神社」と露天掘り跡が残るのみです。
宝くじに当たるので是非お越しください。


露天掘りでもって、技術者が地表をひっぺがしているところを初めて見た。

遺跡跡は見たことある。ただ、そこを作業しているのは見たことある人はほぼいないだろうが、この露天掘りは生きている。

ただ、驚いたのは、みんな銀次さんのような動物の格好をしている。

そして、その動物がするであろうな動きをしている。例えば、モグラや、犬の格好をした人が崖を砕き、馬や牛の格好の人が壊した岩や石を運び出している。

動物の格好をした人たちに話しかけると、あっさり聖神社に通された。

ちなみに、この切り出した岩石を粉々に砕き、精錬する施設もなんと神社にあった。

採掘場から伸びる川を降った先に神社と精錬所がある。

神社は、山肌にへばりつくように、ひっそりあるが、精錬所は川向こうの川沿いにあった。

精錬所は巨大な建物で、金槌で石を砂にする工程。

石臼のお化けのようなものをみんなでまわし、砂をもっと細かくする工程。

長い布に水を流し、上記の砂をその流れの上流から流す工程。

その布に、石より重い鉱物が残るから、それを集めて、一つの塊にする。すなわち、フイゴたたらを用いた精錬の工程など。大きな建物で全て精錬していた。

そして、その石臼を動物たちと混ざってやっていた女性がなんとお妙様だと言う。

 

「で、どんなよう?」

まさかあの冷血な女性とは思えない優しい口調で話しかけてきたのが、この黒谷銅山を取り仕切るお妙様だという。

火避けのため頭巾を被っているがそれより長い髪が頭巾より下から見えている。

そしてこの女性。目が紅い。

精錬所で会った人(狼を被っていた人)に聞いたのだが、「目の色が違うのは、炉の様子を見るため、火を見続けたら目が変色してしまった。頭の姐御も目が悪いのはそのせいだ。そしてそのことを気にしているからあまり目線を動かすな。」

と言われていた。

「本当なら、俺たちがやるところなんだが、『あなた方が片目をやられたら、タタラという仕事が怖い存在になってしまう。違う土地では、フイゴを踏み抜き、一本足になり、片目になったものを[イッポンタタラ]という化け物呼ばわりしている所もあるという。そのような厄害は私が引き受けて当然。』と言ってくれるんだ。そりゃみんなついていくよ。」

とも言っていた。

稲荷が喋る。

「お妙様。申し訳ございません。異宗教が三峠を超えて三沢まで侵略したようです。残念ですが、撤退が得策かと言うことで、オオカミ様の命を受け参上仕りました。」

「うんうん。でオオカミは?」

「はっ!オオカミ様は三沢を通り、三沢の者たちを激励しながら秩父神社まで撤退するとのこと。」

「だから、私たちは取り残されると?」

「はい。その異宗教は、数は少ないですが、巨人、日御碕、天神の能力を吸い取り、自分で使いこなし、攻撃してきます。これではいくらお妙様とはいえ、巨人、日御碕、天神が前線に復帰するまで堪え切るのは…」

「うん。そうだね。」

「では!」

「ちょっと待って。」

「(ドキドキ)」

「秩父神社まで戻って策はあるの?」

「!(しまった…)…領民を、退避させることぐらいしか…」

「そんなことだろうと思った。」

「………。」

「ところで、その子は?」

「この者ですか?この者は…」

稲荷が頭を下げた。

「お、お妙様。お初にお目にかかります。は、ハハソと言います。」

「ハハソくんか。変わった名前だね。君はオオカミになんか言われたの?」

「えっ!?あっ…はい。…お妙様を説得して欲しい。と」

「オオカミが?私が反対すると思ったのかな?」

「…お妙様は。」

「うん?」

「オオカミ様を裏切らないでください。」

「うん?」

「うん?」

キョトーン…

「このたびの敗北は、オオカミ様や大切な人を誰か…これは言えないんですけど、ある特定の人がその人の期待を裏切ったからこうなったんです。」

「ほうほう。」

「だから、お妙様はオオカミ様を信じてください。たとえどんなことがあっても、オオカミ様を攻撃しないでください。」

あなたが千年後、オオカミ様を襲いませんように。

「…………。」

「…………。」

「…………。」

オッドアイがこちらを見る。

「分かった。そんなことならますます私たちがなんとかしないとじゃない。」

そういうと、お妙様は立ち上がり、神社の扉を開けた。

「みんな!銅を持って宮地まで撤退するよ!」

「「「「「おー!」」」」

凄い。

外には、釈迦の涅槃図のようなほどの動物、いや、動物の皮を被ったお妙様に忠誠を誓った人たちが集まっていた。

雄叫びの後、われ先にと石階段を下り、自分の道具や、銅、鉄などまとめて、秩父市内の方向に走り出している。

「彼らは、家に居場所がなくって、飛び出した人たちなんだけど、本当は愛に飢えていただけなの。だから家でも孤立して喧嘩、騒動を起こすの。だから、私が面倒見てあげたらみんな良い人だったよ。」

「…なぜ動物の皮を?」

「それが不思議なんけど、みんな動物みたいな力を持ってるの。人間なのに空を飛べたり、千里の道を往来したり、体重の何倍もある石を動かしたり。それが家族から気味悪がられてここに来た人も大勢いるよ。」

「なるほど。」

「で、私も撤退するけど。あなたたちは?」

「この後、諏訪城へ。」

「お諏訪様のところ?」

「はい。」

「気をつけてね。どっから敵が来るか分からないから。」

「お妙様もお気をつけて。」

「そうそう。ハハソくん。」

「はい。」

「変な名前なんて言ってごめんね。お詫びと言っちゃなんだけど、オオカミのことは任せといて。」

「…!ありがとうございます。」

それじゃあ!と言って、お妙様も撤退して行った。

ちなみにだが、人力車で撤退したのだが、亀の甲羅を背負い、蛇の頭が尻尾のように何匹も生えているまるで玄武のようであった。

「さて、我々は諏訪城なち向かうとするか。」

「はい。」

「行かせねえよ。」

「なに?」

ドン!

稲荷が振り返ろうとした瞬間、僕は「禿頭だ!」と思い、稲荷様を押した。

後ろ向きにぺたん!と尻餅をついた。

しかしそれで良かった。

二人がいたところには鉄で出来た矢が僕の右腕ごと、地面に突き刺さっていた。

地面も若干割れていた。

まあ、気を張ってれば、ピッコロ大魔王のように一瞬で生えるんだけど…

「ちっ…まぁたお前らかよ!お前ら三沢を取られたってのにまだのこのこ美の山に残ってるもんだから、攻めてみたらよ…旗ばっかりで兵士なんか人っ子一人、『猫の子一匹いなかったぞ!』」

とりあえず、オオカミ様とカジカさんは脱出に成功したようだ。

「それで美の山の下をみたら、ドサドサ逃げてるじゃないか!お前らだけでも…」

矢をつがえた。

「死ねぇ!」

しかし、当たらない。

神に、発射してからまっすぐにしか飛ばない矢など当たるわけがない。

しかも力を使っているのだから、発射してからで十分に対応できる。

「ちくしょう!なんで当たらないんだ!俺だって、箱の力を使ってんだぞ!」

…それはない。ただ、力の使い方が違うのだ。

あの鉄弓を引くのにフルパワーを使ってるから、僕たちがどんな動きをするか予想する力が残ってないんだ。

「………。(あるいは、予想するということが出来ない馬鹿か…)」

「なにか言ったか!?」

「なんも…いや、鬼さんこちら。手のなる方へって言ったんだ。」

「(ブチッ!)小馬鹿にしやがって!」

三本もいっぺんに引く。

「稲荷様。」

「わかってる。諏訪城と逆方向に引っ張っていくぞ!」

 

「死ねぇ!」

雄叫びを上げながら、禿頭は鉄矢を撃つ。しかし、向かってくるならまだしも、逃げてる相手に当たるわけがない。

カーブやフォークならまだしも、ストレートじゃ、矢の軌道が読めるのだから、当たるわけがない。

「…それなら、手加減していたが、あの若造を吹き飛ばしたあの技でいくぞ!」

「なに!?」

「それは辞めろ!」

「稲荷様!聞くな!」

「仏教繁栄のために!」

雷のような光が矢に集まる。

「まずい!」

「この辺一帯全て吹き飛ばされる!うん?」

「威羅夢の神よ!」

「稲荷様!伏せて!」

「えっ!?逃げないと…」

「いいから!」

「グワっ!」

二人はその場に伏せる。

「!?我に!なに!?」

ビュアァン!という雷が鳴ったような音がした。

パッと顔を開けると、あの鉄矢が彗星や流星のように尾を振って飛んでいった。

しかしそれより驚いたのは、無数。それこそ数え切れないほどの矢が反対方向。禿頭に向かって飛んでいっている。

「あれは?」

ビィン!

「わっ!」

「危な…」

ビャィン!

木の矢だが、威力は先程の鉄矢のようだ。地面に突き刺さる。

「なんだ!伏兵がいたのか…ぐわ!」

一本当たったら、一瞬でタワシやハリネズミ、やまあらしのように矢だらけになった。

真っ逆さまに落ちてきた。

「ヴゥおのれ…」

しかし死ななかった。

寸前のところで意識を取り戻し、体制を立て直すと、超低空でどこかに飛んでいった。

「あれは?と、いうか、どうして分かった?」

「敵が矢を撃つ瞬間、なにか声が聞こえたんです。」

「声?」

「たしか…オオカミ様の使者よ。助けるからその場に倒れなさい。

栗のイガのようになりますよ。と言われました。」

「どういうことだ?この上流にはもう人家はないぞ…」

 

世界が凶変するまであと20日



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諏訪城の決戦

前回とこの回は、もののけ姫みたいで書いてて楽しいです。
究極のことを言うと、異世界モノだから自由があるとはいえ、郷土史に興味がある身としては、歴史をひん曲げているようでとても書きにくいものです。



諏訪城は、荒川と横瀬川の合流点にあり、河岸は崖となっておる天然の要害であり、土塁や空堀で囲まれた城であった。

そんな城を馬鹿正直に、荒川と、横瀬川を渡り、崖をよじ登る作戦で、仏教軍(実は、威羅夢教祖没後、禿頭二人が布教というか嘘の広報を行い、狂信者、半グレ、注意人物を合わせた、仏教や威羅夢の教えなど守ってる人のいないただのテロリスト集団となってしまっていたのである。)が攻めたのは次の日であった。

仏教軍大半が川に入り、頭の上に竹の束をヘルメットのようにしているから、矢が貫通しない。

しかし、謎なのが矢だけじゃなく、竹竿のような物まで落ちてきている。

竹槍でも投げているのだろうか?

城側が大ピンチになったと思われた時、横瀬川側から雄叫びと轟音が響いた。

急に横瀬川の水が増水し、鉄砲水となって押し寄せたのだ。

あっと言う間に全員流されていった。

城の崖を半分以上登った者が何人か助かったが、横瀬川側が大半流された。

普通なら撤退だが、禿頭はそれを命じなかった。

それどころか、そのまま攻めろ!と言っている。

残された人々がまた登る。

すると、さっきまで矢が降っていたが今度は水が降ってきた。

黒い水だ。

ヌルヌルしている。

兵士たちはハッ!とした。急いで逃げようとしたが、なんと荒川も水が黒く濁っている。

「射よ!」

女性の声が響いた。

すると天空に火矢が上がった。

それが黒い水に次々着弾。

竹にも着弾する。

するとどうだ。火が黒い水を走り、竹が次々に爆発し、荒川側は火炎地獄と化した。

人々が救いを求める叫び声をあげる。ただ、誰も助けない。助けようがない。

黒い水は油で、竹の中には火薬が満載されているのだ。

横瀬川の濁流と、荒川の炎でまさに諏訪城は地獄絵図のようになった。

この時間。まさに30分ほどの出来事であった。

「ふふふふ。稲荷さんと、ハハソくん。冗談で言ったつもりだったのに本当にやるなんて…」

本丸にある諏訪神社で甲冑を着込み笑う女性。

オオカミ正妻 お諏訪様であった。

この10時間ほど前。人家がないとされていた場所で謎の矢雨攻撃を受けた稲荷とハハソはどうしたのかというとこうだ。

「この鉄砲堰は、みなさんが?」

「そうです。」

「では、矢は?」

「それもお諏訪様の作戦です。」

「………。」

「………。」

思わずハハソと稲荷は顔を見合わせた。

目の前に見せられたのは、川全部を堰き止めるダム。そして、備え付けられた弓。

ただの弓でない。弦に綱が引いてあり、滑車で巻き上げ、十何本の矢を何倍もの飛距離を稼げるように改良された弓が十機取り付けられていた。

「…お妙様のほうが恐ろしい方だと思っていましたが。」

「お諏訪様の方が恐ろしい方のようですね。」

「あの方は、追い詰めることに関してはとことんです。どんな相手も逃げ切れません。」

「そ、そうですね。」

「それと、人を読む力もあるようだ。」

「はぁ?」

「実はですね。お諏訪様から手紙を預かってまして…」

現場監督が懐から手紙を出す。

「それには、今日の午後、お妙のフクロウが一斉に宮地に飛ぶはずだから、飛んだら、敵が来た合図だから、矢を川下に向かって撃ちまくれ。それと、それに追われている味方がいるはずだから、頭をさげろと言いながら撃つようにと。言われていました。」

「……。」

「……。」

二人とも考えるのを辞めた。

この人はもうどうなるか全て分かってる。そして、言っても言わなくても、なにか手を打っていると嫌と言うほど感じていた。

「そして、その追われている方に渡してほしいと言われた手紙です。どうぞ。」

といって、手紙を差し出したので、稲荷が受け取った。

「…わかりやすく言うと、どちらかが、諏訪城の近くに潜んで、敵が川を渡り出したら、知らせるために走って、知らせが来たら堰を決壊させるそうだ。」

「なんで敵が川から諏訪城を攻めることが分かるんですか?」

「それは分からん。ただ、これが出来なければお諏訪様が…」

「いや、その心配もないそうです。」

「なに?」

「ひょっとすると、その2名、途中で殺される可能性が十分あるので、はなから重要度はそんなに高くないそうです。」

「じゃ…じゃあ堰なんかつくるのは重労働じゃないですか!」

「本隊やフクロウが撤退しやすいようにするためです。」

「………完敗だ。お諏訪様の言う通りにします。」

神様が人間に敬語を使った。

「では。我々はこれで。」

「うん?諏訪城に戻るのか?」

「いえ。我々は三沢の人間なので、どうなったのか確認しに…こちらの方が得意だし、お二人が早くくれば早く帰って良いと言われたので志願したのです。」

「…みなさんはなんでも知っているんですね。」

「我々は知りません。お諏訪様が全て知っているんです。知らないことまで知っています。」

羽川翼というより、臥煙伊豆子だった…

早々に、三沢の人々は引き上げ、じゃんけんで稲荷様が偵察。僕が堰を決壊させる役になった。

そして、25分ほど前。

僕は堰の上で稲荷様を待っていた。

後ろを向くと、水が満杯になっていた。

すると稲荷様が狐の姿で全速力で帰ってきた。

「せぇーの!」

僕は堰を止めてある棒を引き倒す。すると、一部が壊れて水が我先と出て行く。

しかしここで問題が起きた。

あまりにも勢いよく出るもんだから、壊れる予定じゃない部分まで軋んで、一瞬で木っ端微塵になり、僕も流された。

水水泥水水石水水水岩水水木魚水水水泥木石水水泥水石石岩石水水泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥木木木木木石木石木泥泥泥泥木石水水泥水水石水水水岩水水木魚水水水泥木石水水泥水石石岩石水水泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥木木木木木石木石木泥泥泥泥木石水水泥水水石水水水岩水水木魚水水水泥木石水水泥水石石岩石水水泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥木木木木木石木石木泥泥泥泥木石水水泥水水石水水水岩水水木魚水水水泥木石水水泥水石石岩石水水泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥木木木木木石木石木泥泥泥泥木石水水泥水水石水水水岩水水木魚水水水泥木石水水泥水石石岩石水水泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥木木木木木石木石木泥泥泥泥木石水水泥水水石水水水岩水水木魚水水水泥木石水水泥水石石岩石水水泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥泥木木木木木石木石木泥という感じで流された。

「なにやってんだよ!」

なんとか稲荷様に引っ張り上げてもらったが、また色々神力を使ってしまった。

「あのつっかえ棒はもっと綱を伸ばしてやらないと、危ないだろ!」

稲荷様におぶられて諏訪城に行ったそうだが、怒られながら僕は眠ってしまった。地味に力を使いすぎたようだ…

 

タイムリミットまであと19日



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秩父夜祭の御神幸行列の真実(仮)

これは、この作品をつくろうと思った秩父の謎の一つを独自の解釈を与えたものです。
完全な空想なので楽しんでいってください。

秩父夜祭は、秩父神社の神様が武甲山の神様に逢いに行くのだが、なぜか秩父市内から離れた三沢が提灯群の先頭になっている。(列の先頭は元々妙見宮があった宮地。最後は秩父神社のある本町。なのは分かるが…)

これを解決してみました。


実は同じ日にもう一つ書いておきたいことがあった。

三沢方面に向かったオオカミであるが、三沢の民は禿頭に降伏し、兵士として武装する者がオオカミの部下を捉えようとうようにして、南にある栃谷、横瀬方面に通じる道を関所のように封鎖してしまっていた。

兵士の大半と、ネズミになった天神を諏訪城方面に移動させ、自らは輿に乗り、三沢に入り、山の神大神社に入った。

あの爆発を耐えて、生き残った天神の部下たちに命じて、三沢にはどれほどの味方がいるのか探らせていた。

案外山の中というのは見つからないもので、十分に情報を仕入れることが出来た。

それによると、禿頭は天神の部下を追うために三沢の人たちを利用しているだけで、実際匿っている人が多いため、治ったら帰す予定なこと、逆に天神が来るのを待っていさせているとのこと。

三沢では次々と仏教の施設を造っているが、それは来世や未来での幸福を祈るもので、殺生を禁じ、迫害する気はないと言っていること。

ただ、栃谷を守っているのは本当に禿頭に同意したメンバーだということが分かった。

早速メンバー全員で会議となった。

どのように戦うのか、他に回避できる道はあるかなど話し合われたが、三沢の人たちの案で関を突破するこれに決まった。

しかし、オオカミとしては、仏教のフリというのもしたくはなかったが、三沢の人々にはそれを打破する方法がなくもなかった。神と言ってもなんとかなる方法が…

次の日。

三沢の人たちは匿っている天神の兵士をカゴのようなものに入れ、二人で担ぎ、布を被せ、布に、「御供物」と書いた。

そして、隊列を先導大麻、大榊、山に住む天狗、日月万燈、楽人、錦旗、御手箱、太刀箱、そして御供物、御神饌、大幣、そして布で覆ったオオカミの輿、馬が2頭その上に武装した人物が二人。という隊列を組み、関所に向かった。

「おい、待て!お前たち、どこへ行く?」

もちろん関を守る兵士たちに止められた。

オオカミは輿の幕の中から外を伺った。

「果たして大丈夫だろうか…」

この状況ではバリバリ怪しまれてしまう。

「いざとなれば、僕が人質になって、みんなは逃そう…」

大幣を持つ三沢の名主が答える。

「こちらは、三峰神社です。」

「なに?」

一番前の御供物を剥がした。

中には傷だらけの兵士がいる。

「たしかに…どうして今頃?」

「実は、三峰神社が撤退したときに我々は残って、ゲリラ攻撃を行なっていたのです。三沢が仏教の手に落ちたと聞き、もう大丈夫だろうということで撤退して行くのです。」

「そうですか…うーん…」

「なにか?」

「いや…うーん…」

なにか言いたそうだ。

はぐらかしながら、兵士は隊を隅から隅まで見ている。

「この輿に乗っているのは?」

「こちらは司令官です。」

「そうか…」

ドキドキ!

「お目にかかりたいな。」

「!(来た!)」

兵士が輿の幕に手をかけようとした時、

「今、こちらには乗っておりません。後ろの馬です。」

「馬!?」

「おい!なにを騒いでる。」

馬に乗った身代わり武者が話しかけた。

そういえばご丁寧に顔を半分布で隠していたな…

「余が三峰神社撤退に際して、殿を務めた将である。武器、兵糧もなく、命からがら逃げてきた我々に対し、これが仏教の態度なのか!せめても神道の心意気は忘れぬようにと御神幸行列を組んだにも関わらず…」

ウッウ…と泣く演技までする。

「は…ははぁ!申し訳ございません!」

兵士は思わず土に膝をつけ詫びを申した。

「…本当に素人なのだろうか?まるで本当に戦った人のようだ。」

オオカミは思わずつぶやいてしまった。

「では、通らせてもらうぞ。」

「ははぁ!…三峰神社様にもよろしくお伝えください。」

「心得た。」

輿が動き出し、馬の蹄の音が聞こえてきた。

「よし…うまくいったようです。」

外から名主の声が聞こえる。

すると、太鼓、笛が鳴り出した。

まるで祭りの行列のようになった。

御神幸行列は、その日のうちに、高篠の恒持神社に入った。

オオカミがゆっくり輿から出てくる。

「三沢の人たちよ。」

「「「ははぁ!」」」

「よくあの関所を突破してくれた。名主の機転と、馬上の武者の口上見事であった。」

「「もったいなきお言葉。ありがとうございます。」」

「それと、栃谷に抜けてからの演奏。我々の緊張した心を和ごましてくれた。おかげで後ろに怯えることなくまた、一人も被害者を出さず高篠まで撤退することが出来たこと。これは一騎当千を越す快挙である。」

「「「ははぁ!」」」

「そこで、一つ決めたことがある。」

「「「!?………」」」

「それは、我々が御神幸行列を行う際には、御供物と提灯を出仕させるのだ、三沢の提灯を先頭にすることとする。そのように秩父のものに伝える。いつまでも私を助けて欲しい。」

「は、はい!ありがとうございます!」

 

こんなことがあったのかなかったのか、秩父夜祭りの御神幸行列に、三沢の提灯は先頭の方にある。

 

オオカミが秩父神社に着くのはこの次の日の午後である。



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撤退準備

諏訪城、おそらく本物より数段強いです。
異世界だから良いでしょうか?


「おい!ハハソ!起きろ!お諏訪様の館で何日寝てるんだ!」

バシ!バシ!と布団のように叩かれて起こされた。

「つわうん?ここは?」

「ハハソくん。川に流されたぐらいで5日も寝ているようでは困ります。」

ネズミが胸に乗っている。

どうやら天神様が僕の上で暴れたようだ。

「い!。5日ですか!?」

「はい。諏訪城に運び込まれた時は息もしていなかったんですよ。」

「なに!?本当ですか?」

「はい。この5日あ間、稲荷様とカジカ様の手当てでなんとか呼吸は取り戻していたは、いましたが…叩いたら起きるんじゃないか?と思っていたので、やってみたら起きた次第です。」

考えてみると、立派な布団に、畳が敷いてある。

「…ここは諏訪城の?」

「障子を…」

言われるまま、障子を開けると…

「諏訪城本丸で、」

燃え盛る川、そしてその奥に、何十、何百もある仏教の旗。旗。旗。

「敵、3万に取り囲まれてます。」

「……い、5日で。」

「えぇ、おそらく援軍を呼んだのでしょう。油を使った攻撃を仕掛けてますから壁を上がられる心配はないですが、二の丸、三の丸が…」

諏訪城は三方向を川に囲まれ一方は土を盛った土塁と空堀に守られている。正三角形の土地である。

もっと言うと、正三角形の中心付近から、土塁に接する線と水平に堀が切ってあり、土塁が接する面も真っ二つに切れている。

そして、土塁と面している広場を二の丸、三の丸、接していなくて、崖に守られているところが諏訪神社のある本丸である。

 

「みんなは?」

「そちらの防衛です。」

「良し!」

「お待ちを。お諏訪様から伝令です。」

「うん?」

「起きたら太鼓を鳴らせ。早くしないとみんな死ぬ。だそうです。」

周りを見る。

大太鼓が置いてあり、バチもある。

「どうしてそう大事なことを早く言わないんですか!?」

走る。

「危機感持つでしょう?」

「着くや否や、太鼓をドンドン!叩いた。

「ハハソさん。見てください。旗が去っていきますよ。」

それどころじゃない。一人でも多く助けなければ。

僕は思いっきりひたすら叩いた。

「ハッハハ!ハハソくん!助かったぞ!」

杖をつきながら、日御碕様が入ってきた。

「日御碕様!」

「おっと、近づかない方がいいか。」

日御碕様が距離を取った瞬間、傍から誰か走ってきて、飛びついた。

「なんだ!?」

耳が生えている。

カジカさんか。

「よかった。死んじゃったかと思った。」

「…す、すみません。看病してくれてありがとうございます。」

「感動の再会のところごめんなさいね。」

お諏訪様がいらした。

「お諏訪様。」

「ハロー!ハハソくん。元気そうだねぇ。起きて早々だけど、お願いがあるのだけど、聞きたい?」

「お願い?」

「そう。みんなが生きるか死ぬかに関わる大事なお願い。」

「…僕がやらないとみんな死んでしまうんですか?」

「カジカさんが何度も反対したけど、この作戦はハハソくんじゃないとうまくいかないところまで来てしまっているの。納得できなくてももう遅いの。」

「…作戦だけ先に聞いても良いですか?」

「OK!特に死ぬことは起きないと思うけど…作戦としては、私たちの脱出作戦。」

「脱出?オオカミ様の兵士たちは?」

「さっきまでの戦いは人間たちを脱出させる作戦。二の丸三の丸に地下道をつくっておいたからそこから脱出させたの。まだ人がたくさんいるように感じるのは私の影。それがうようよしてるから、敵はまだ中に人がたくさんいると思ってるはず。」

「敵は…禿頭はどのようにこの数の兵士を?」

「うん。おそらく他の仏教徒を呼んで、再教育し直してるね。普通ならあの弓矢を食らったら怖くて突進出来ないのに、突っ込んできたから…」

「禿頭たちは自ら攻撃を仕掛けることはないんですか?」

「…おそらく、箱に力を溜めに行っていると思う。指揮を取っているのは禿頭一つしかない。だから、土塁をなんとか越えてやろうという策しか取れないんじゃないかと思う。」

「…そもそもなぜ撤退なのですか?」

「オオカミ、お妙ちゃんが大宮郷に撤退して、兵士も大宮郷に戻したら、もう耐える必要はないでしょう?それとここ、もう食料も矢も火薬もないの。」

「なら、やむなしですね。で、どのように僕の力を借りて撤退にすると?」

「グットクエスチョン!こっちに来て。」

「はい。」

その二人のやりとりをカジカさんは全て聞いていたが、どう声をかけたら良いから分からなかった。

お諏訪様の考えを聞けば聞くほど、自分にはそれ以上のハハソを助ける良い考えは浮かびそうになく、ハハソもやる気になっている…

それと出て来はしないが、オーサキが身体で暴れる。

なぜかオーサキが身体中を駆け回っているようだった。

「そうだ…オーサキは嫉妬を具現化させた存在でもあったニャ…」

 

カジカが戻るまであと14日



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敗走

こんなあっさり退却しちゃって良いのか?と思いながら書きましたが、タイムスリップ出来るのが30日しかない関係でもう撤退です。
(ぶっちゃけ、全然被害が出てないです。)


朝靄がかかり、太陽が上がる直前。諏訪城に太鼓が響き渡った。

それを待っていましたとばかりに、禿頭が率いる、仏教徒とも呼べない、独自宗教を信仰することになった仏教徒たちが二の丸、三の丸を超えて、本丸に押し寄せた。

昨日の回想

「実は、ハハソくんの名義で敵に手紙を出していたんだ。『実はお諏訪はめちゃくちゃ厳しく、このままだと大宮郷の人々も困っているから仏教に参加したい。ただ、お諏訪はとても強いので、寝込みを襲います。そして太鼓を打ちますから、攻め込んでください。』って手紙を書いた。ごめん!だから、君は太鼓を叩く必要があるの…もっと言うと、さっきの退却も『もし信じてくれないようなら、二の丸、三の丸を捨てる撤退をだして見せましょう。』とも言ってあったから、信じてるはずだよ。」

「………。一応やる気ですけど、僕がやらないって言ったらどうしたんですか?」

「君の性格ならやらないって言わない。だから、この作戦を立てた。」

この女性…どうして後世に名前が残らなかったのだろうか…

 

「ハハソ!どこだ!我々の良き理解者よ!どこだ!」

諏訪神社を壊しながら僕を探す司令官らしい人々がいる。

「ここです!」

「おぉ!はっきり我々もあまり信用してはいなかったがここまでやってくれるとは…感謝する。」

禿…である…しかし、武装して、まるであの四天王のような格好をしている。顔に傷があるのか、木の面をしている。

「で、どこに諏訪姫はいる?」

「諏訪城の納屋に隠してあります。なにせ太鼓まで引っ張ってくると暴れられて大変ですから…」

「よし!行くぞ!」

家来たちを連れて裏に走っていった。

僕は、諏訪神社に入り、床を剥がし、伸びている導火線に火をつけた。

昨日の回想

「それで、敵を引き込んだら、床下の導火線に火をつける。」

「だけど、納屋に行ってれば、爆発は届かないんじゃ?」

「大丈夫。諏訪神社の下には巨大な空間があって、火薬が満タンの竹だけじゃなく、酸素、水素、天然ガス、油を詰めた竹があって、地下道にもありったけの爆発物を詰めてあるから。導火線に点火したら15秒で爆発する。」

「僕は、どうなるのでしょう?」

「君のその服、フクロウのだよね?それ使える?」

ジャラ…たしかに、銀次さんから逃げるのにあんだけのスピードは出た。

だけどもう一度出せるかは…

 

御神体の代わりに銀次さんの服が入っている。

点火させてすぐその服を羽織り、天井裏に上がる。

ここで10秒

昨日の回想

「大丈夫。そんなこともあろうかと天井裏に人が飛ばせるほど大きい弓矢を置いといたから。それに乗って脱出しなよ。」

 

弓矢というより、ゴムパッチンだが、僕はそれに乗ると、ストッパーになっている綱を切った。

「おい!ハハソ!どこだ?」

下から声が聞こえた刹那、僕は天井を突き破り、天空に打ち上がった。

そして後ろから巨大な爆発音と地鳴り音。仏教徒たちの叫び声も聞こえる。

昨日の回想

「そもそもら、なんで僕なんですか?」

「私と、日御碕だとその場で殺される。カジカさんはもう裏切ってるからダメ、天神はネズミのままなら15秒じゃ足りない。稲荷は脱出方法がない。」

「…たしかに。」

 

ビューっと飛んで行くが、自分の力というより、銀次さんの服の力で飛んでいる感じだ。

後ろを向く。

向かなきゃ良かった。

さっきまでいた諏訪城がキノコ雲をあげて炎上し、兵士たちが逃げ惑っている。

しかし、そこを逃げたところでそこも爆発した。

地下道は、諏訪城の外まで続いてて、そこまで目一杯竹が詰めてあるから。

禿頭たちも燃えているのが分かった。

「ハハソ!…貴様……許さんぞ!」

言ってるだろうけど、聞く気になれなかった。

 

合流地と言われているのはあの処刑を止めた場所、広見寺であった。



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大野原 天狗党

ここから難しいです。
ただ、宮地の七つ井戸をモデルに大きな城にするのは、我ながら趣味が爆発しています。
みなさんも、自分の住んでる近くを城に見立てる変な散歩をしたらどうでしょう?


愛宕神社に天狗党が詰めている情報はあったが、お諏訪様が撤退させたようで、もっと奥にある広見寺にすんなり着陸した。

広見寺について驚いたのが、なんと、総囲い。

異世界のように、都市一個を城郭で囲うように、宮地一帯が塀で囲まれていた。

しかし、塀といっても、コンクリートのようなものでなく、柵であった。急遽作ったような感じだ。

「やあ!ハハソくん!」

快活な女性、お妙さまだ。

「稲荷様から聞いたよ。私たちが撤退しやすいように川の水を減らして、敵には洪水を起こして、おぼらせたんだってね。ついでに自分も溺れたって!」

「それは言わないでください!」

「冗談だよ。オオカミには最後を言わないであげる。それより、敵、めちゃくちゃ増えたんだって?」

「…はい。だ」

「だけど、お諏訪様の作戦で大半倒したんでしょ?」

「まぁ、乗り込んできたのは大半倒したと思いますが…」

「いいねいいね!だけど、ここもどこまでやれるか分からないから、ハハソくんも下がった方がいいよ!」

「いえ、僕も…」

「ダメだよ。カジカちゃんがかわいそうだよ。」

「カジカさん?」

「いろいろ察しなよ。男でしょ?」

「えっ?うん…むぅ…」

「赤くなってる。」

「えっ!?…」

「本当にそう思うなら休む!いいね?アーユースタン?」

「お妙様…オーケーやアーユーなんてなんでわかるんですか?」

「えっ!…まじ、ハハソくん、英語わかるの?」

「…少しですが、だからなに言ってるかだいたい分かります。」

「オーマイガー!ということは、ハハソくんも?この世界の人じゃないの?」

「はい。」

「オー!エキサイティング!空間旅行者!握手握手!シェイクハンドシェイクハンド!」

「しかし、お妙様。このような装備で戦えるんですか?」

「うーん…私一人じゃ無理かな。だけど、みんながいるから、みんなを全力でサポートするよ。」

「じゃあ、作戦はあると?」

「敵も相当ビビってるからねぇ。普通そこまでやられたら撤退するのが普通なんだけど…あの箱を使ってくるかもね。だけど、あの箱の吸い取るのは神様の力だけだから、フクロウたちには効かないよ。彼らは人間だから。」

「だけど、気をつけてください。神の力は僕みたいに人間でも持てます。」

「分かってる。だけど、神の力を手に入れたらそれこそ敵は対応できないんじゃない?」

「そうかもしれませんが、ぼ、私みたいに

気絶するようになります。気絶するということは力を正しく使いこなせていないのでは?…」

「うーん…そうにも解釈できるね…いっそのこと、箱をこっちが持っちゃえば仏の力を吸い取れるんじゃない?」

「そんな都合のいいことが起こるでしょうか?」

「それもそうか!?ハハハ!」

「けど…(箱を奪ってしまうというのは得策かも…)お妙様!」

「だめ。特に君はダメ。箱を奪おうとか考えたでしょ?」

「ど、どうして…」

「当たり前でしょ。そんなことしたら、カジカちゃんに怒られちゃう。ここを守るにしても、箱を奪うにしても私たちがなんとかするから。ハハソくんはカジカちゃんの近くにいてあげること!いいね?」

「…けど、」

「まだ分からないかな?じゃあどうすれば諦めるの?」

「………分かりました。静かにしています。」

「おぉ!いい子ね。よしよししてあげます。」

「いいですよ…」

ワシャワシャ

「…で、ぼ、私はどこにいたら?」

「この塀の中には七箇所の井戸と、司令所があるんだけど、司令所はさん3の井戸と4の井戸の間にあるから…」

「えっ!?……それってもしかして『出口』」

「よく知ってるね。そこだよ。そこまでは撤退するかもしれないけど、必ず勝つから安心して。」

「勝つ?勝つ見込みがあるんですか?」

「だから、箱を奪うか、敵の親玉を倒せる策があるの。君に頼らず。」

「…なら、僕は出口に行きますよ。」

「素直でよろしい。ではお願いね。」

「はい。」

僕は広見寺を後にして、出口に向かった。

道中、数多くのフクロウとすれ違ったが、みんな緊張している様子はなかった。それどころか、どうやれば敵を倒せるのかなど話し合ったり、稽古したり、敵を迎え撃つ準備をしていた。

出口は、とても司令所とは言えないボロ屋が一軒あり、周りを田んぼと畑、石垣で囲われた簡素なものだった。

ボロ屋の中は病院のようになっていて、ゴザの上に何人も横になっている。

しかし、大怪我をしている人は見受けられなかった。

「よう。ハハソ。」

「日御碕様。」

「どうも逃げ帰ることに成功したみたいだな。大変な役を引き受けてもらって悪かった。」

「いえ。日御碕様も脱出に成功したようで…」

「無残なもんだ。俺なんかただ、オオカミ様の兵士に混ざって撤退だからな…僧兵と目があったが、あまりにも傷が目立ったのか同情したような目で見やがった。このお礼はいつかたっぷりさせてもらうつもりだ。フフフフ…

「ハハハ…ほかのみなさんは?」

「天神はその辺にいる。はず…稲荷は、秩父神社に謁見に行ってる。カジカは…」

僕を指さした。

「お…君の後ろ。」

パッと振り向く。

カジカさんが立っている。

泣きそうな顔をしていた。

申し訳ない。

「カジカさん…真っ先に挨拶すれば良かったのですが…」

「…眠くなったりは?」

「しません。銀次さんの服が助けてくれました。」

「良かった…。」

「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」

ここから耳打ち

「あと二週間で強制的に銀次さんのところに戻されるようですが、このまま静かにして、なんとか帰りますか?」

「それがいいかもしれないけど、銅三は?」

「銅三さんは、日野沢で巨人特有の繭になってるのでもしかしたら、このまま1000年寝てるかもしれないけど…もしかして……満願の湯って分かります?」

「えぇ。日野沢の温泉ですよね。」

「えっ!?満願の湯ってあるんですか?」

「ありますよ。」

「満願の湯って山の中ですよね。」

「はい。」

「…なら、銅三さんはまだ寝てますよ!ぼくたち二人が戻れば大丈夫です。みんな助かってます。」

「なんだ?急に?…」

日御碕様が聞いてきた。

興奮して声を荒げたようだ。

「すみません…ただ、…」

「なにか良いことがあったんだろう?別に怒ってる訳じゃないよ。」

「はい…」

「…こんなボロ屋だと二人でいることも無理だが、二人の腕なら、屋根に登るぐらいなら出来るだろう。屋根にでも登っとれ。」

「ありがとうございます。」

二人で出ていこうと思ったとき、

「ハハソ!」

「はい?」

「調子に乗って押し倒したらボロ屋が壊れるかもしれないから、変なことするなよ。」

「し、しませんよ。」

「フッ、冗談だ。」

恥ずかしくて早く外に出た。

「ハハソくん。大丈夫?顔が赤いよ?」

「い、いえ。なんでもないです。日御碕様におちょくられたんです。」

「そう。で、これからなんだけど…どうするの?」

屋根に登りながら、カジカさんが聞く。

「あと、14日で強制的に戻されますからそこまで耐えるのが重要です。しかし…どうしてあのお妙様が冷血な女になったのかは分かりません。この二週間で何かが起こるのかも…」

銀次さんの服の力で飛んで、カジカさんの隣に着地した。

「そうだとしたら、お諏訪様もあれだけ影響力とリーダーシップに優れているのに、現代に伝わってないのはおかしい…」

「注意したほうがいいのかも。」

「だけど、お妙様はみんなをサポートするだけで、自分は前に出るとは言ってないんでしょ?」

「はい。」

「だとしたら、絶対に死ぬ気はないだろうから、また会えるでしょう?」

「たしかに、そうかもしれないです。」

「お諏訪様ももう一度戦うとなっても、また協力を求められるかもしれないですし。」

二人はほっとしたような顔をやっとすると、たわいもない話を始めた。

自分はどんな世界から来たのか、ここに来て驚いたことなど喋った。

天井を日御碕が見上げている。

「なんだよ…あの二人、そういうとこまで行ってないのか。」

「どういうことだ?」

ネズミの天神が日御碕の胸の上で聞く。

「あぁ?ガキに教える必要はないだろ?」

日御碕は、天神を鷲掴むと、隣の布団に置いた。

そこには猫がいた。

「ちくしょう!日御碕様!あとで身体が直ったら覚悟しておいてください!」

猫に追われながら、天神は叫んだ。

「そのころには俺も治ってるよ。」

タイムリミットまであと13日



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地獄のはじまりまたは愛宕神社の攻防

この回はやることと、おこることが多すぎてぐちゃぐちゃしてすみません…
(分ければ良いんですが、どこで分けたら…)


静かな、まことに平穏な時が過ぎた。

あと一週間であちらの世界に帰れる。

だけど、お諏訪様が死ぬのを止めて、お妙様が凶変するのをとめて、オオカミがタイムスリップした理由を突き止めることは出来るのか?

気ばかり焦るが、とくになにも起きない。

ただ言えば、日御碕様が体力作りを開始し、天人様がネズミから人型に姿を移したこと。

そして、ぼくとカジカさんが仲良くなったぐらいであった。

仲良くなったというのは、仲良くなったのであって、仲良くなったのである。

とにかく、自然の摂理に沿った穏やかな数日が過ぎた。

しかし、それは我々の力をつけるだけでなく、敵の力も蓄えられる貴重な時間であった。

また巨大な閃光が落ちた。

と、僕は思った。

ボロ屋だが、日御碕、ネズミになった天神、カジカ、僕が屋根に登っている。

その登ったメンバーのうち、真っ白な光の束が上がったように見えたのは、日御碕、カジカさんで、光が落ちたように感じたのはぼくと、天神様であった。

「川の近くみたいでしたが…」

「あの辺は、宮崎城があるあたりですね…」

「宮崎城?」

「知らないのかハハソ?大畑周辺はお妙様の姉が隠居なさっている城があるんだ。元々フクロウはその姉が率いていたらしいぞ。」

「お妙様の姉?…ということは、目が…」

「そぅよ。察しがいいな。お姉様は目が見えなくなったから隠居したんだ。お妙様は三姉妹でな、元々このボロ屋に住んでいたらしい。ただ、製鉄や製錬の技術を買われてオオカミに出仕して、三姉妹には、独自の部隊『フクロウ』と、自由に採掘を行なえる許可、宮地30石を拝領して、お妙様は側室という地位を手に入れた。」

「…お諏訪様はそれでいいんですか?」

「そりゃ、正妻としては大宮郷発展のために自分のできないことが出来る人材は確保すべきだし、まぁ、自分が『正』っていう心の余裕もあるらしいしな。」

「それじゃ、二人が戦うことは?」

「足の引っ張り合いすらしないだろうな。」

「そうですか…」

「意外!みたいな対応だな。」

「…好きな人が違う人といちゃついてたらヤキモチを妬くと思うんですよね。」

「そんなことはない。婚姻は、家の強化だ。恋愛感情は残念だが二の次だ。」

「…… そうですよね。」

「で、あの光、なんだと思う?」

「…箱を使ったのでしょう。」

「しかし、うん?」

「うん?」「あれ?」

今度はもっと右手で同じような光の束が現れた。

「うん?………またやったな…」

「…おかしくないですか?」

「なにが?」

「あのすぴ…早さで光を発動するには、莫大な力がいりますから、一つでは出来ない…」

「…宮崎城で吸い取って、その力を天神の部隊にやったように攻撃したのでは?」

「…吸い取ったなら、虹色に光るはずですが…しかも、天神様の部隊に落ちた光はただの色のない光でした。」

「じゃあ、2回攻撃されたとしたら…」

「箱をもう一つ作った。」

「…最悪だ。」

「…お妙様方危ない。」

日御碕様が降りる。

「みんな来るな。俺一人で十分だ。」

そう言って、広見寺に向かっていった。

「…稲荷はなにしてるんだ?」

「どうしたんですかいきなり?」

「いや、秩父神社に行ったきり、どうしたんだ?と思ってな。そんなに重要なことでもあったのか?と思いまして。」

「俺ならここにいるぞ。」

急に足元に狐が現れて、ジャンプと共に人間になった。

「今までどうしてたんですか?」

「まぁ、オオカミ様と一緒にいたんだ。秩父神社にはいなかったけどな。」

「どういうことですか?」

「三峰神社まで行ってたんだ。」

「三峰…」

「撤退理由を聞こうと思って。そしたらどうも仏教側から金銭と保身の約束があったらしい。ただ、それがバレない程度、強さの秘訣も聞いてきた。これがあればその戦い方を真似すれば大丈夫だ。被害が少なく済む。」

「だとすれば、急いだほうが良い。おそらく、仏教と広見寺で戦闘になりますよ!」

「それはまずい。戦い方も分からず正面から行くと全滅するぞ!」

稲荷はもう走り出した。

「ぼく…いや…行っちゃだめだ…」

カジカさんも後ろから肩を掴んでくる感覚があった。

なにか嫌な空気感が、広見寺方面から漂っていた。

 

広見寺

目と鼻の先に、古墳の上に造られていた愛宕神社があったのだが、謎の光を浴びてなくなった。

光で真っ白になったと思うと、古墳だけになって、建物がなくなった。

「………。」

「………。」

「………。」

山がカーブになっているため、直接広見寺は見えない。

裏山に柵をつくり、柵の間、柵より外にあるタコツボに入ったフクロウたちが思わず声を呑んだ。

「やった!」

「破壊されるのは建物だと人工物だけだ。」

「まだ光はあるぞ!」

「「「うぉー!」」」

「弓!放て!」

仏教側も対策は取っていた。

竹を束にした盾を持ってきていた。

丸みがあるため、矢が曲がるだけで刺さらない。

刺さったとしても、束になってるから貫通しないもんだから傷つけられない。

「ちくしょう…」

「…火。火を矢先につけて撃って!」

「はい!」

山の中に一緒に潜むお妙様が叫ぶ。

それに呼応するように、矢先に草をつけて火をつけた。

「放て!」

グサグサ竹束にささる。

刺さったものは火がつく。

「アチあち!」

竹束を持ってる人が竹束を捨てる。

「今だ!もう一度撃って!」

「「はい!」」

これで、大半が逃げ出す…

いや、逃げ出さない。

「小賢しい真似を!」

飛んだ矢がはやく落ちた。

「なに!?」

「風向きが…」

急に風向きがこちら向きになった。

すると燃えてる竹束を山に放り投げてきた。

するとだんだん火が大きくなった。

「あの風だ!なんだ?なんで急に風が吹いた?」

「………箱!?箱の敵?」

しかし、禿頭は見えない。

ちなみに、ほっかむりと、薙刀を持った人はいるが、大半は普通の服を来た髪の毛もある人である。

「箱を持ってる禿頭はいないぞ!」

「しかし、ここまで強い風は、自然には吹かないぞ…」

「………。」

「お妙様!どうしましょう!?」

「しっ!…あのほっかむり…」

木の影から指を指す方向を何人か見る。

輿に乗り、経を唱えているように見える。

「あいつが!」

「待って!確信は持てない。ただ、…仮にこの風が自然風だとしても彼を倒すことは敵味方にとって転機になる。」

たしかに。

押し寄せる仏教側の一般人たちも大声を張り上げ、「いいぞ!勝てるぞ!」

と叫んでいる。

「では。そのように。」

そう言うと、近くにいたアナグマとオコジョがぱーっと山を降り、タコツボに落ちていった。

どんどん火は迫る。

しかし、人々は上がってこない。

「多分、落石攻撃を警戒してるんだ!」

木の上で待機の鳥型フクロウたちが言う。

「火を止めるために落として、木を消すか?」

「そんなことしたら、俺たちが丸裸にされるぞ!」

「………。」

「あっ!まずい!」

輿の一団が、こちらではなく、山を迂回し始めた。どうも、広見寺自体を攻撃するようだ。

「モグラ部隊は何をしてるんだ!」

弓矢部隊が急いで移動し、弓矢を撃ちかけるが、ほっかむりをした別の僧兵に阻まれ、輿が止まらない。

完全に回り込まれ、五本松の付近まで来た時。

輿の一団が急に落ちた。

落とし穴に落ちた感じだ。

全身が見えなくなるほどの落差だ。

「見ろ!モグラ部隊が到着したようだぞ!」

拝んでいたほっかむり、護衛の僧兵も埋まっている。

「ほら!総攻撃だ!」

穴掘り部隊の交代要員たちが落ちている僧兵たちに一斉に襲いかかる。

木の上で待機のフクロウ型部隊と、地上待機のオオカミ部隊もこれを見守った。

「埋まっているのだからあっという間に……あれ?結構手こずるな…」

「………。」

「………!フクロウ部隊!爆竹を持って出撃!目標、あの穴の僧侶ら!」

「はぁ?お妙様、なにを?…」

その時、数名のモグラ部隊員が外に放り出された。

そして中から、身体が切り傷だらけの男が出てきた。

筋骨隆々、まるで仁王様のような男だ。

なぜ男だと分かったのか?

ほぼ、衣服が切られ乱れていたからである。

「あっ!なんだあの男は!?」

「あの三人はおそらく、ハハソくんと同じ。神の力がある。だけど、ハハソくんぐらい馴染んでいる訳じゃない。多分無理やりくっつけられている…」

その男が雄叫びをあげる。

風がまた一段と強く吹く。

木の上で待機しているフクロウ部隊も爆竹を持ちすぐ飛ばないと吹き飛ばされそうである。

爆竹とは、あの諏訪城で爆発させたものに導火線をつけたもので、現代のとは違う。

火をつけ、次々と落とす。

男の上や傍で爆発するが、よろける程度。

全く効いていない。

「…………。(オオカミに聞いたハハソくんの弱点は寝てしまうことだけど、寝るには全ての危険がなくなってからだから、危険が及べばいつまでも起きている。彼らにとっても同じだとすれば、寝させないといけないんだけど…)。」

「ああっ!男がこちらでなく、広見寺のほうに!」

弓矢が刺さろうが、爆竹が当たろうが関係なしに、広見寺に向かう。

「お妙様!」

「アナグマか!どうしてああなったぁ!?」

身体がブスブスと燃えている。

山の周りはほとんど火がまわっている。

「実はあの男、拝んでいた男です。護衛の僧兵はあっという間…もう死んでました。拝んでいた奴が一番弱いと思っていたのに、一番強いんです。」

「………穴は埋めたな?」

「ほぼやられましたが、埋めました。」

「愛宕神社への道は?」

「それはあります。」

「良し。」

「お妙様!」

「うん?…稲荷様か!」

「お妙様。これは!?なんですかあいつは?襲われて殺されるかと思いましたぞ。」

広見寺の方向から登ったので、燃えてないが、彼から見れば、お妙様が炎の中に立っている。

「ごめん。だけど、ちょっと良い子で待っててね。」

「お妙様。なにを?」

「箱を奪いに。」

「えっ!?」

「稲荷様も来る?」

「えっ!?どうやって?」

「それじゃ、お願い。あの男を止めて。」

肩をガシっと掴まれた。

「………。」

なにか言おうとしたが言う間も無く、炎に向かって走っていった。

「お妙様!」

稲荷は追うことも出来ず、手を伸ばすだけだった。

しかし、彼も神だった。

立ち上がると、号令をかけた。

「あの男を止めるぞ!作戦を変える。

フクロウ部隊は、爆竹を他の人々に使い足を止めろ!

地上部隊は男を弓で止めるぞ!

地下部隊は、迷路を掘って、男と仏教徒を落とせ!」

「「「おぉー!」」」

フクロウは飛び、オオカミは走り、モグラはまた地下に潜った。

 

お妙は炎を飛び越え、山の下に造ったタコツボに転がり込んだ。

実はこのタコツボ、トンネルになっていて、愛宕神社まで繋がっていた。

ちなみに、このトンネルの出口近くに潜んでいたフクロウがいたため、人工物であったこのトンネルの出口は壊れたが、他はなんともなかったため、冒頭で安堵の雄叫びをあげたのだ。

お妙はこのトンネルをガムシャラに走る。

そして一気に埋まった出口にたどり着いた。

「くっ!」

そのまま体当たり。爪でガリガリかくと、土を押し除け、外に出た。

「いた!禿頭!」

刀を持った禿頭と弓を持った禿頭が驚いた顔をしながら、古墳の手前で陣を張っていた。

お妙は古墳から飛び出した。

「なんだ!?どこに潜んでた!?」

弓持ちは、矢を探しながら呟いた。

「続けぇ!」

5、6人のフクロウ達も飛び出す。

「小癪な!」

刀持ちは、素早く箱を掴むと、お妙達に向かって箱を開けた。

紫の光が吸い込まれていく。

「「ぎゃー!」」

お妙、フクロウともに、悲鳴をあげ、バタバタ倒れた。

「なんだよ…驚かせやがって…」

弓から矢を外しながら禿頭は言う。

「もう無理だってので特攻か…」

箱をまた自分の近くの台に置きながら刀を持つ禿頭が言う。

「しかし、特攻と言えば、あの男に神の力をつけて特攻させたのも中々だな。」

お互いに顔を見ながら会話を始める。

「神の力を信じさせて、絶対に死なないし、死んだとしても極楽浄土が約束されてるって信じてるからな…まさか肉体まで変わるとは思っても……

あれ?あの女は?」

「うん!?」

二人でお妙の方を見た。

しかし、そこに倒れていない。

「取った!」

無意識に、刀の禿頭は箱がある辺りを掴んだ。

しかし、掴むのは空ばかり。

見ると、箱を置く台の奥に女が立っている。

腰をかがめ、体制を低くし、箱を持む右手を隠している。

その箱を右後ろに投げる。

そこにフクロウがいて、受け取ると、また違うフクロウに投げる。

ホイホイ、パスを続けるうちに、トンネルで控えるフクロウが持っていってしまった。

「はなから、箱狙いか…」

「箱の重要性に気付いてるのか…あのガキか…」

「………。」

「女!勝った気になるのはまだ早いぞ!」

「もう一つの箱でしょ?姉さんを吹き飛ばした箱を言いなさい!」

「…男勝りだと思ったがこんなに大きな声を出すとはな。箱の位置さえばれてなきゃこっちのもんよ…それと質問だ。なんで動ける?あの燃える男は一歩も動けなかったんだぞ!」

「そうね。私たちが特別だからかしら?」

「…ふざけるのも良い加減にしろよ。」

「お前の部下の命もないぞ!」

会話の途中ならいけると思ったのか、全員斬り込んだ。

しかし、見事な身の捌き!左に体をひねりながら、全員斬った。

「うっ…」

お妙が思わず一歩前へ出る。

「動揺してるな。」

「安心しろよ。考える間も無く、そっちの世界にあんたも送ってやるよ。」

「…それはどうも。だけど、私。まだやりたいことがあるんで。」

ビュ!

矢が飛ぶ。

「人が喋ってるのに…」

「倒せる時に倒さないと…」

「怒った…怒ったから…」

「なにするんだ?」

「あっ!あれはなんだ!」

「うん?」「なに?」

ビュ!

「あっ!」

とくになにか見つけたわけでない。

なんもないところを指さしたので、そっちを見させている間にジャンプして、古墳に向かって飛んだ。

「オオカミとの約束があるんで…」

「そんな、」

「ことを、」

「させる、」

「訳がない!」

急に、網が降ってきて、お妙を捕まえた。

お妙は勢い余って古墳に飛び込んだが、それが仇となり、余計に絡まった。

「「「「せーの!」」」」

網を四人の男?が引っ張って外に引き摺り出された。

しかも網が絡まって動けば動くほど動けなくなってしまう。

「良く合わせられたな。四天王。」

刀持ちの禿頭は話しかけた。

「なんのなんの。」あの箱のおかげです。」

「身体を直してくれただけでなく。」

「身体的能力も向上したおかげで、この女が飛び込むのが分かりました。

「また、お互い何を考えているのか、分かるので、一切遅れることもなく。」

四人で一つの文章になるちょっと変わった話し方をした。

「お二人。」

「この箱を。」

「お返しします。」

「宮崎城は見事潰せました。」

「あなたたちが…」

網の中からお妙が聞く。

「そうです。」

「お嬢さん。」

「宮崎城は。」

「我々が綺麗にしました。」

「…姉さん。」

「しかし。」

「なぜ。」

「この女性に。」

「箱が効かないんでしょう?」

「…それもこれから分かる。」

「四人とも。あの少年にやられた傷は大丈夫か?」

「ありがとうございます。」

「おかげでどこも。」

「痛くありません。」

「1秒でも早く悪ガキを殺したいです。」

「まぁ、そう慌てるな。今はまた戦力を増強させる時だ。」

「この女を。」

「どういう風に。」

「改造。」

「するのですか?」

「それはこの先にある寺で考える。」

「寺は攻略出来たか?」

「出来ましたが…」

「箱によって…」

「男は。」

「負けてしまいました…」

「まぁ仕方ない。『人間に神の力をつければあぁなる…仮に生き残っても、意思はなく、阿修羅のように、血や戦いを求める人ならざるモノになってしまう』。」

「では、」

「我々を倒した。」

「少年は」

「なぜ?」

「それも含めて、この女で実験するのだ。さぁ、寺まで運んでくれ。」

「「「「はい!」」」」

 

悪夢の1日目が終わった。

これが後6日間




つじつまが合わなくなって、無駄に1週間使いました…すみません。


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センノウ

このシーンだいぶくろうしました。
(書いてて通じるのか、はたまた帰るまでの時間が間に合うのか、カジカの言いつけをどう守るのかすごく悩んでいます。)


お妙様が捕まった。

また、広見寺も取られたことは、フクロウ達にとってショックだった。

しかし、箱と、稲荷、日御碕、天神が前線に復帰した。

そして彼らは、寺の目と鼻の先にある大山祇神社と、広見寺の参道を塞ぐ形で、お妙様が柵を造り準備してあった関のようなところに布陣した。

近くに井戸がある良い立地だ。

しかし、仏教も仏教で新たな建物を広見寺の前に造った。

その建物を大山祇神社から、日御碕、関から天神が出撃し、叩いているが、武装した四天王の見事な連携プレーでなかなか攻略が出来ず、1日が経過してしまった。

大山祇神社

「このままでは、お妙様の命が危険です。坑道を掘っていますが、掘り進めるのをやめて、そこから地上に出て、広見寺まで一気に走りましょう!」

フクロウ達はそう進言している。

「このまま防戦一方なら、柵の外に出して、特攻させてくれ!」

と言う者もいる。

「たしかにあなたたちの焦りは分かる。ただ、みなさんが死んでお妙様が生き残った方が彼女は悲しみます。」

天神が収める。

「では、どうすれば…坑道の完成を待てと?あの四天王…武装した男たちは空から攻撃できます。坑道を掘ってどうにかなるもんでもないかもしれません。」

「うん…それはもっともだが…」

「箱もあるのですから!」

「…あの箱は、神の力を入れて、それを放出することで力を出すが、………まぁ、はっきり言うしかないな。『普通の人間』が神の力を使おうとすると、初日のあの男のように自分が自分でなくなってしまうんだ。」

「えっ!…」

「そして、君たちは普通の人間だ。その動物の力は神の力でなくて、君たちの才能だ。」

「………。」

「そうなったら我々が力を使って君たちと奇襲しかあるまい…」

「………。」

「しかし、その奇襲には君たちの協力が必要だ。分かって欲しい。」

「………。」

「………。」

「………。」

「…しょうがない。みんな!派手にやってやろうじゃないか!」

「「「おー!」」」

「手伝える者は坑道に向かえ!」

「武器の支度もしないと!」

「兵糧や水も集めないと…」

こうなるとフクロウは早い。

あっと言う間に散って、準備を始めた。

「…やれやれ。頭も良いが聞き分けもいい。これらをまとめ上げるお妙様はすごい技術の持ち主だ。」

「天神がいなかったら危ないところだった。」

「ところで、お妙様がどこにいるのか、検討はついているのですか?」

「いや…はっきりとは…」

「稲荷様!」

一人のフクロウが戻ってきた。

「どうした!?」

「坑道で戦闘です。」

「なに?」

坑道

「なんでお前らがここにいるんだ!」

「それはこっちのセリフだ!」

狭い坑道で刀を振れる広場もないので殴り合いになっている。

稲荷が坑道の後ろを大急ぎで進むが、たくさんのフクロウ達に邪魔されうまく進めない。

「なんで戦いに?」

「いきなり現れたらしいのです。」

「いきなり…(その男も神の力が使えてその力を使ったのか。)」

「今戦ってるのは…グワっ!」

坑道がぐらぐら揺れる。

「なんだ!」

「落ち着け!地震だ!」

「…落ちたぞ!落盤だ!」

「落盤!?…どこだ?」

「前の方です。数名取り残されました!」

「急いで掘れ!それと、補強だ!」

「はい!」

「えらいことになったぞ!」

「フクロウは早く掘れ!」

しだいにガリガリガリガリという音が聞こえてきた。

すると、ボコッと穴が空いた。

「あっ!取り残されたのがいた。」

「俺たちは大丈夫だ!」

「やった!みんな無事です。」

「「よっしゃー!」」

「しかし、あの仏教を逃してしまいました…」

「まぁ、仕方ない。殺されなかっただけよかった。すぐ撤退しよう。」

「進めないのですか?」

「…仏教にバレてしまった。少し作戦を変えなければならない。」

「…承知しました。撤退しましょう。」

「しかし、仏教も焦ったはずだ。早急にお妙様を救出しよう!」

「「「「「おー!」」」」

 

ちょうどその真上

「なにか遠くで誰か「おー!」って叫んだような…」

「気にするな。そのうち、持国天が戻ってくるだろう。」

広見寺の参道にある急拵えのお堂に二人の武装した男が立っている。

なんと、多聞天と広目天であった。

もっと言う。

銀次さんの処刑の時殺された二人は完璧に木製であったが、口の周りは人間。手や足は人間。すなわち、木製の甲冑を着ているような風貌である。

すると、もう一人土から出てきた。

先程の持国天である。

「どうでした?」

「チッ…あの畜生ども、地下に坑道を掘ってやがった。」

「なに?ということは、奇襲をかけようとしてたのか?」

「坑道を壊すには壊したが、完全には破壊してない。下手に暴れるとここを壊す可能性があったからな。」

「そ、そうだな。」

「で、どうだい?お姫様の様子は?」

「…まだ確認はしてないが、大騒ぎだせ。」

後ろを多聞天と広目天が指さす。

「見るかい?」

「…見て大丈夫かい?」

「大丈夫だと思うよ。」

恐る恐る、格子から覗いた。

「…おぉ……。」

「なんと……。」

「……ゴクン………。」

中には刀の禿、弓の禿が向こうに背中を向けている。

こちらを見ているのは、観音様ではない。

十字いや、T字架に縛り付けられているお妙様だった。

座らされ、二人を睨みつけている。

それが、それがとても神々しく、三人は思わずため息を吐いてしまった。

「美しい…」

「あぁ…」

「二人はなにも出来てないのか?」

「いや、いや、拷問をやろうとしたがものすごい緊張感を出して近づけさせないらしい。」

「あっ!」

弓の禿が外に出てきた。

「三人とも見てたのか。」

「申し。」

「訳。」

「ございません。」

「無茶しなくていい。」

「で、」

「なにか、」

「分かりましたか?」

「あぁ。あれは人間ではない。しかし、神でもない。」

「それは?」

「どういう?」

「ことですか?」

「…彼女は、おそらく半神。神の力を持ちつつ、人間臭さがある。あまり大きな声で言えないが、色々直診採血を行ったからほぼ確定だと思う。」

「では、」

「彼女を、」

「どうするのですか?」

「おーい!」

空から、武装した増長天が箱を持って降りてきた。

「おー。助かったぞ。」

弓の禿げはその箱を受け取った。

「その、」

「箱、」

「は?」

「ついてこい。」

そう言いながら、弓の禿げは扉を開けて四人に見えるようにした。

「箱を使い…」

刀の禿げが受け取った箱を開ける。

すると、紫の霧がお妙を包み込む。

「ウッ…」

「無駄だ。女。貴様がいくら神の力を使っても、強化されたこの霧はどこかに吸収され弱くはならないし、」

刀の禿げがもう一つ箱を開ける。

「これが君から、人間の良心を奪う。」

虹色がお妙を取り巻く。

「グゥ…」

なにか吐き出しそうだ。

「ズズゥ…」

鼻からなにか出そうなのか鼻もすすっている。

「早く人の心を吐き出し、神の力を体に取り込め!」

「ふぅ……(ハハソくん…)」

「なかなかしぶといぞ。」

「大丈夫だ。これはこの力が三日三晩は持つんだ。」

「四天王!」

「「「「はい。」」」」

「君たち二人交代で見張れ。我々も見張る。」

「はい。」

「承知。」

「いたし。」

「ました。」

「グゥ…」

痛さも、辛さも、酸っぱさも、苦さもない。ただただ辛、つらいお妙の戦いが始まった。

始まってしまった。

日が暮れる。

あと、5日。



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カジカ

ここはどうしたらカジカさんに怒られないか自分でも必死でした。


「…僕はこんなところでこんなことをしてて良いのか?僕は、お妙様が妙見大菩薩になって、オオカミ様を…」

日がくれて、カジカさんに頼まれた鍋を回しながらそれこそぐるぐる考えていた。

カジカさんは少し出かけると言ってどっか行ってしまった。

ガサガサ…ドンドンドン!「ごめん!…ここに…ハハソさんはいるか?…」

「はい!?…どうしたんですか?」

表に出ると、蛙と狸の格好をしたフクロウがうつ伏せになっていた。

「み…水、水を」

「水!」

急いで小屋に入り、茶碗二つに水を汲み、二人に渡した。

二人は半分くらいこぼしながら、飲み干した。

「…ハァ、ハァ。カジカさんが。」

「カジカさんがどうしたんだ!?」

「ぶ、仏教徒に…」

「どこに!?どこにいた?」

「…下宮地、広見寺参道。」

「!」

バッ!と走り出した。

銀次さんの服で超低空飛行を行い、一瞬で五本松のところに飛んでった。

ぐったりと、小脇に抱えられたカジカさんがいた。

小脇に抱えているのは、武装した男。その男をハハソは知っている。

「何やってんだ!多聞天!」

「なに?…なんで俺を?知ってる?」

ボン!

「えっ!?」

首が宙を飛ぶ。

血が宙を舞う。

前戦った時はなかった血が吹き出した。

カジカさんを抱えている腕を斬って、抱き抱えようとした。

ようとした。

あるものを見た。

目の前の造りかけ?の建物。

その中に、見たことある人がいる。

「…お妙様?」

「誰だお前!」

転がってる首が喋った。

「……!(知ってて…いや、知らないか。今は昔なんだから。)知り合いの女性だったもんで。」

「いきなり現れた猫を始末しようとしただけだ。しかも口を聞く。」

「頭のいい猫はなにを見たんですか?お堂の中ですか?」

「小僧…」

「このお堂の中の人もとても苦しそうだ。出して連れて行きます。」

「そんなこと、」

「させる、」

「訳が、」

「ない!」

急に上からネットをかけられた。

「ハハソくん。逃げて…そいつらは、強い…」

お堂の中のお妙様が喋る。

「お妙様…」

「いいから…逃げて!これは、わたしのまいた種だから…ハハソくんとの約束を守れないかもしれないけど…ズズゥ……私は…大丈…夫」

「少年!」

「大人しく、」

「捕まり、」

「我々に協力しなさい!」

「…断る!」

短刀を逆手で引き抜き、網を斬る。腕を振り、羽を四天王に刺す。

四天王達はわずかに残った人間の皮膚に次々と刺さる羽によって段々血で染まる。

「逃げなさい!…ウッ…」

「…お妙様!すみません!」

僕はカジカさんを抱え直すと、空に飛び上がる。

「待て!」

「逃、」

「すか!」

武装した三人が飛ぼうとするが、目をやられたらしく、動けず、ジッとしたままだった…

 

僕は大急ぎで、ボロ屋に戻った。

布団を敷き、カジカさんを入れた。

大丈夫か心配なのか、蛙と狸のフクロウが僕の後ろから覗いている。

「そう言えばどうして、二人はそこに?」

カジカさんは、失神しているだけで、傷つけられたわけでないようだった。

帰ってきた頃には、カエルも狸も喋れるぐらいにはなっていた。

「はい。実は、カジカさんは下宮地の2の井戸付近を、広見寺方面に歩いていたんです。」

「えっ?」

「我々は2の井戸当番フクロウなのですが、一般人、彼女の場合、憑物なので、一般人ではないですが、とにかく、軍人でないものが、1の井戸、広見寺方面に行くのは危険だったため追いかけたのですが、本当に最前線、敵の仏教の新造施設までいったら、武装した男達に襲われてしまったんです。」

「男『たち』?」

「はい。正しくは2名ですが、あっという間に捕まり、一人は広見寺方面に行って、このままだと殺されると思い、ここまで一気にやってきたんです。」

「…どうしてカジカさんが?」

「…ハハソくん?」

「カジカさん!動かないで。」

「大丈夫。なにもされてないはずだから、」

「けど、」

「じゃあ、動かないから、このまましばらくいさせて。」

「はい。…あの、なんで広見寺へ?」

「…ハハソくん。もしかしたら、前線に出たいんじゃないかと思って、大丈夫かな?って見に行ったんだけど…」

「どうしてそんなに危険なことをしたんですか?」

「…ごめんなさい。ただ、…あのお妙様と、なにか約束してるんでしょ?それだったら、それを達成するための努力をハハソくんはするはずじゃない。だとしたら、ここに大人しくいるのは、ハハソくんじゃない。ハハソくんにこうなってほしいっていうわたしのエゴがここにいるんだ。だとしたら、私がなんとかしないと…」

「カジカさん!」

「はい。」

「ありがとうございます。僕のために。」

「…?……いや、これはわたしのエゴで…」

「カジカさんが命がけで調査してくれたのは、事実です。ならば、僕はその頑張りに答えます。」

「いいんだよ。ハハソくん。…私が、私が悪いんだから…私がやりたくてやったんだから、わたしのわがままあなたを止めたんだから。「絶対にオオカミを裏切らないでほしい。」そして彼女は戦ってた。わたしもあの建物の中を見た。あの箱の能力を食らってて正常でいられる訳がない。」

「……(そんな状況で彼女は喋ったのか!)」

「だから、お妙様を助けて。わたしも協力するから。」

「…カジカさん。」

「…まさか…こんなこのになるなんて、思っても見なかったの。あの時は、あの時一番追い詰められてるのは、ハハソくんだと思ってたの。」

たしかにあの時ほど余裕があれば、僕が神の力を使うと気絶するということが一番やばい現象だったろう。

「もう、遅いかもしれない。けど、カジカさん…ベストは尽くしましょう。」

「ごめんなさい。」

「いえ、やり直しましょう。そして、みんなでここを平和にして、未来に戻りましょう。」

夜が更ける。あと4日…



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救出作戦 妙見堂編

日が明けても、お堂には雲がかかり続けていた。

中に取り残されているのは磔にされたお妙様。

「…………。(ハハソくん…もうダメかも)」

「なかなかしぶといなぁ。」

禿二人が見ている。

「そろそろ交代か。」

松がざわざわっと鳴る。

「こいつ!何度言ったら分かるんだ!」

「なんだ?」

松林から、農民のような一般の人が手足を縛った猫風の女を大八車に乗せてやってきた。

「こんな朝っぱらにどうした?」

「はい。私は、下宮地に住む者ですが、この泥棒猫が昨日に続き今日も盗みを働いたので、広見寺の坊様たちに懲らしめてもらおうと思い連れてきたのです。」

大八車を引くおとこに剣の禿げが話しかけ、弓の禿げが荷台にまわる。

「ほう。昨日見た女だ。」

「是非、この中の人と同じような目に合わせてください。」

「いや、そういうわけにもいきません。」

「だいたい…ここは……うん?…どうして、どうしてここで人が捕まっていることを知ってるんだ!?」

「案外あっさりばれたな。」

「なに!?」

剣の禿げが抜こうと手を伸ばした瞬間、ハハソは隠していた短刀を左手で逆手に持ち、腕を振り上げることで禿げの右腕を斬った。

「うぉ!」

次に車を振って、弓の禿げをタイヤに巻き込んだ。

「ゔぁ!なにをする!」

「こちらも命かかってんだから手荒にやらせてもらいますよ!」

短刀で、カジカさんの両腕の綱を斬る。(足は自分で外してもらう。)

その隙に、お妙様救出に向かう手筈だった。

「そんなことさせるか!」

剣の禿げが笛を吹いた。

甲高く、どこまでも届くような笛だ。

目覚ましでもかかった。いや、パチンコが当たった時のように参道を見ると人や僧兵、四天王がこちらに向かって走り出す。

「余計なことを!」

「こちらとて、命かけてるんだ!」

「ハハソくん!?」

「お妙様!意識がある!迎えに来ました!」

「…ハハソくん。」

「近づくな!」

地面がせり上がり、槍のようになった。

「また。」

「おま。」

「え。」

「か!」

四天王の登場である。

お堂まであと少しだったが、地面からの槍に阻まれ、近づけなかった。

「ここは、」

「我々が、」

「お相手、」

「しよう!」

「邪魔だ!どいてくれ!」

「そんな、」

「こと、」

「出来るわけ!」

「ないだろう!」

四天王が地中、陸上、空中から迫る。

「ハハソくん!」

「なに!」

大八車を飛び越え、空飛ぶ多聞天に一撃を加えた。

見事に決まり、地上に落下して、派手な音を立てた。

「ここは、私も。」

「カジカさん!大半任せてしまいますが…」

「こうなったのは、私の責任なの。早く行って!」

後ろから、銀次さんの服をかけてもらう。

「はい!」

力を溜めて、短刀を振り下ろす。

「ぎゃぁ!」

地面に潜る持国天を目を使い探し、見事に突き刺した。

「お妙様!」

空はガラ空き。

銀次さんの力で飛ぶ。

一回目を使ったとはいえ、あまり神の力を使うのはまずい。眠くなる。

「オオカミ様のところに行きましょう!」

「……ごめんね。もぅ…ダメみたい…逃げて!危ないから。」

「えっ!?なぜ?」

その時、お妙様を巻き込んだ白い光が御堂から伸びて、ハハソに光が襲いかかった。

「危ない!」

寸前のところで避けることに成功した。

しかし、残した左の翼部分がもっていかれてしまった。

なんとか体勢を立て直そうとするが、右腕だけではうまく飛べない。

「禿げ、その弓と矢を貸せ。」

大八車に轢かれている弓の禿げに近づく。

すると、左足で、大八車をひょいっとどかした。

「助かった。ところで何に使う?」

起き上がりながら禿頭は聞く。

「あのふざけた鳥を殺す。」

「…(ニヤリ)よく言った!」

ほくそ笑んで、弓と矢を渡す。

受け取るとすぐに矢をつがえて、

「もう少し早く来てよ…そうしたら、安心して吸い込むとかなかったのに…」

「マジで…それじゃ僕の…」

撃った。

自分は空中。神の力は使えない。

空が飛べず、きりもみで落ちるのみ。

「ハハソくん!」

当たる寸前。カジカさんがジャンプ!

咥えられながら、上昇し、出口に向かって撤退した。

短刀は左手が持っていた。

「ははは!これで、四天王だけでなく、神の力を持つ者が手に入った訳だ!」

「おい!お前ら。剣と箱を私に渡せ!」

「えっ!?」

「聞こえなかったのか?」

四天王と、坊主、民衆までもが周りに集まる。

「剣と弓と箱を渡せと言ったんだ!」

「それは分かります。ただ、なんで!?」

「それは、私が偉いからだ!」

「うん?」

「お前らではその剣と弓は使い物になるまい。私が持つ。それと、縛り付けられてよくわかった。その箱は強力だ。私が管理する。」

「と言われて、納得するとでも?」

「嫌なら…」

バシっ!ゴキっ!

「「「おおっ!」」」

弓の端を持ち、剣の禿の顔ギリギリを横に薙ぎ払った。

すると、首が一方向にクルクルクルっと回った。

「…こんなものなど……」

腰にささっている剣を拾い、抜きながらお妙はつぶやく。

ふと見ると、大八車の奥に弓の禿頭が立っている。

「フフフフ。いいこと思いついた。おい!弓の禿頭。どうしてそんなところにいるんだ!?」

「どうしてって…」

「もっとこっちに来いよ。」

「いや、お…「早く来い。」」

「喋ってんだろうが…」

「なに!?」

「なんだ!?お前急に、えらくなったつもりか!?我々が力を与えてやったのに、そんなに偉くなったつもりか!?いいか!?よく聞け!俺たちはお前を…」

「うるさい!」

「い」で、大八車を斬った。大八車だけでなく、奥にいた弓の禿頭まで斬撃は飛んだ。

ビシン!と衝撃があったのだろう。

喋ってる途中で喋ることをやめ、衝撃があったあたりを撫でた。

「なわだこりゃ!」

まるで松田優作殉職シーンを彷彿とさせる言葉と行動である。

胸ぐらを掴まれ、口の中に剣を入れられた。

「どうする?箱は大人しく渡す?」

グサっ!

「んーん!んんんん!んー!」

ためらいもなく上顎を貫通させ、左目を内側から突き潰した。

「ねぇ!」

「んー!んんんんんんんんんゆー!」

刺してる剣を手前に引く。

骨の内側を通っているからめちゃくちゃ痛い。

左手が忙しなく動き始める。

「そう。初めから大人しくしてればこんなことにはならなかったのよ!?」

「あー!ぁぁぁぁぁああ!」

「よ!?」と言いながら、鼻と唇を削ぎ落とした。

「あらごめん。あまりに遅いから、命令が聞こえてないのかと思っちゃった。ウフフ。」

「ふぅフぅ…」

一つ出した。

すかさず剣を人差し指と親指で支えて、中指と薬指で箱を掴む。

「あら!?もう一つは?」

「剣の…ぐわぅぁぁぁぁぁ!」

喋ってる最中に剣を腹に突き刺し、グリグリ回転させた。

「なに!?聞こえない。」

グリグリして、手前に引くとなにか長い綱のようなものが出てきた。

「剣の禿頭が持ってるから、俺は知らない!」

「朝からキンキン高い声を出さないで!不愉快。」

「ぎやぁーーーぁぁぁぁぁ…ーん…んぁー!」

その紐を口に突っ込ませた。

「少し静かに!」

ポイっと弓の禿頭を捨てると、剣の禿頭を足で蹴りながら、箱を探す。

ポロッと懐から箱が落ちる。

「あっ!あっ…」

足を大きく振り上げ、

「た!」

こちらを見ている剣の禿頭を踏みつけた。

バガングチャン!

まるでスイカを割ったように頭が粉々になった。

お妙様は箱に歩み寄り、拾い上げた。

箱を二つ手に入れた。

「さて。」

弓の禿頭に歩み寄り、また胸ぐらを掴んだ。

「で、ここにいる全員に私に従うよう言いなさい。」

グサ

「いででてぇえ!」

左足の太ももを刺した。

「痛いではなく。私に従うよう言うの!」

「ぬぐぁあぁ!」

そのまま、下に剣を下ろした。

骨と剣が触れ合う。

「はやぁくぅ」

「あああぁぁああ!」

「はやぁくう!」

「いっぐぁあー…ぎぃゃあぁ!」

左足が二本になった。

「どうする?」

「…分かった…分かったからぁぁああ…全軍、妙見大菩薩のいうことを聞けぇぇええええ!」

「はい。よく言えました。で、」

剣を持つ手で、左足を掴み、撫でるとなんと傷が消えていった。

「フフフフ…実はこんなこと出来るんだ。すごいでしょう?」

「……はぁハァはい。」

「けどね。」

グサっ!

「えっ!?…なんで?」

もう一度太ももに刺した。

「なんどでも、繰り返せる。で、みんな。私に従うの?それともこの禿頭?まぁ、従わなかったら…」

「げぐぅぁぉぁあ!」

剣を太ももから抜いて、けつの穴に突き刺した。

「絶対殺さない。で、みんなどうするの?」

「ぎぇぁああああ!みんな!妙見のいうことを聞けええええええ!」

「……妙見」

「大菩薩様」

「我々一同」

「従います。」

「フフフフ。それでいい。ではみなさん。動かず、静聴。」

けつから剣を抜き出す。

シュバシュバシュバシュバ

っと、弓の禿頭の手足を斬った。

「えっ!」

四肢から血が噴水のように噴き出す。

「ぎゃあぁ!絶対死ぬ!」

「あなたは死なない。」

ブン!

お堂の中に吹っ飛ぶ。

中にある磔に頭をぶつける。

剣の禿頭の潰れた頭を掴む。すると、みるみるうちに頭だけ復活する。

「えっ!?俺どうなった?」

喋る禿頭を無視して、磔のT字の上に乗せた。

「おい!お前。お前は殺さない。お前はこのまま仲間の叫び声を聞け!」

「なに!?」

「こういうことだよ。」

手足を斬られた上に、腹を割られ、内臓が飛び出している仲間。

「お前…」

「叫べ!」

内臓を引っ張る。

「ぐわぁあああぁぁあああ!」

「やめろ!」

「…あんたたちは私がやめて欲しかったのにやめなかったじゃない。だから、やめない。」

腹の底から叫ぶ悲鳴は、あたり一面に反響した。

 

あと3日…

悪夢は仏教側も同じなようだ。

 

いや、まだ続きがある。

 

「妙見」

「大菩薩様」

「一つ」

「質問があります。」

「なんだ?」

「その、」

「二人、」

「死んだら、」

「どうすればいいですか?」

「…このままだとしばらくは死なないけど、もし、死んだら、1の井戸の近くにある『音窪』に捨てなさい。」

「「「「はい。」」」」

数日後、しばらくの間、音窪からは謎のうめき声とも、叫び声とも分からぬ声が聞こえたという。




ついに耐えきれず、お妙様が妙見大菩薩になってしまいました。
これは決めてました。
次があれば、お妙さまとオオカミがどのように仲良くなったのか書いてみたいです。


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稲荷社

ここも、実在する神社をモデルにしています。
神社の発生ってこんなもんじゃないかと思って書きました。
みなさんはどう思いますか?


一の井戸は、現在、旧秩父東高校の裏にあるが、埋められてしまっている。

二の井戸は、18番「神門寺」の参道沿いの石垣にある。残念ながら、水は沸いていない。

そして今、参道で、柵はあるが、なんも兵士を守る場所がない。

しかも、フクロウだけでなく、日御碕の部下もほとんど逃亡してしまった。

これでは、身を隠すこともできないということで、あっという間に出口まで後退してしまった。

ボロ屋に、日御碕、稲荷、天神、ハハソ、カジカ、数名のフクロウ(それも、もう一度お妙様を説得するためで、基本戦う気がない。)のみとなった。フクロウには、狸と蛙もいる。

 

「で、なんで天神はここにいる?逃げたんじゃなかったのか?」

「逃げたんじゃない。一の井戸に私の調合した神毒を投げ入れたんです。」

「神毒とは?」

「神の力を弱める毒です。ただ、人が飲むと神ような力が手に入ります。ただし、水に1日ふれるだけで毒は消えてしまいますが…」

「…最後っ屁みたいなものか。」

「で、どうしてお妙様はああなってしまったのですか?」

「実は、僕たちは見たんです。」

「なに?」

「広見寺の参道にできたお堂。そこに幽閉されて、あの箱を食らっていたんです。」

「では、力を与えられるだけでは?」

「…実はもう一つあって、それは、お妙様からなにか吸い取っていたんです。ですから、その吸い取られていたのは人間としての『心』や『優しさ』だったんじゃないかと思っています。」

「…となると、お妙様は神の力を持つ殺人鬼ということか?」

「おそらく、その考えで正しいのかと…」

「そうなると…我々の力で総力戦…もしくは、箱を二つ取り返すしか…」

「その必要はないわ。」

「「「「!!!」」」」

「お妙様の声だ…」

一同外に飛び出す。

家の上の空に妙見大菩薩が浮かんでいた。

「まだやる?それとも私に殺される?」

「………。」

「それとも、そこを明け渡す?」

「えっ?」「なに?」

「そこは,私たち姉妹の思い出の場所だからね。壊したくないんだ。」

「………。」

「もっと言えば、あんたたちがいることで汚されたくないんだよね!」

「……諸君…」

チラ。チラチラ。

めくばせをする。

みんな軽く頷く。

「分かった。すぐに明け渡そう。」

「………。」

「…。」

「?どうした、狸、蛙」

「ハハソさん。やはり、あの方がお妙様なんですね。」

「はい。」

「そうですか…」

「………。」

「おーい!ハハソ!狸、蛙。行くぞ!」

準備ができたのか、日御碕、天神、カジカさんが呼んでいた。

「はーい!」

「ハハソさん。」

「うん?」

「僕たちはここに残ります。」

「えっ!?」

「ハハソさんには悪いと思ってますが、やはり私たちもフクロウなんです。」

「戦うわけにいきませんし、なによりお妙様と同じ方なら、近くにいたいです。」

「…そうですか。、…でも…」

「大丈夫です。仮に、ハハソさんと戦えと言われても、前に積極的に出ませんから…」

「そうですか…悲しいです…日御碕様には僕から伝えておきます。」

「私も残ろうと思う。」

急に稲荷様が言った。

「えっ!?」

「日御碕にも相談済みだ…大丈夫。交渉の余地があるか探るだけだ。」

「稲荷様…」

「安心しろ。狸と蛙は私の控えだ。ハハソそんなにしょんぼりするな。」

「すみません。では、」

三人に背を向けた。

「狸さん、蛙さん。…稲荷様。」

そのままクルッと回り、向き直った。

「「「はい?」」」

「…死ぬようなことはしないでくださいね。」

「………どうしてそんなことを?」

「…なんでか分からないですけど、なんか言わないとと思ったんです。」

お妙様になんか言ったことあるな。っと思った。

「では、もう一度」

「さようなら。」

「またお会いしましょう。」

「ハハソさん。例え、失敗しても死にませんよ。」

そう言われて、三人を残して、待っている人たちのところに行った。

日御碕様はあっさり分かった感じだった。

まぁ、稲荷様が残ることが分かってたからそんなに重要ではないんだろう。

「それより、これからどうするんですか?」

「…四の井戸、いや、あっという間に追いつかれる。四の井戸を守ってる連中を引き連れ、五の井戸まで撤退しよう。あそこは「でんでい場」だからな。」

「うん!?」

「なんだ、ハハソ?」

「いや、なんでもないです…唾の飲み込みに失敗したんです。」

「そこまで弱ってるのか…なら余計急がねばだな。」

良い方向に勘違いしてくれた。

ネブッチョウと出会ったのはでいでい場だ。それがもうあるとは驚きだ。

日御碕様が良い方向に勘違いしてくれたお陰で、四の井戸を経由して、兵をまとめて五の井戸、「デンディ場」を目指した。

でんでい場の要塞化は進んでいた。

オオカミが応援をよこし、三重の柵だけでなく、堀を流し、土塁を築いていた。

しかも、二の井戸と違い、河岸段丘全てに柵が設けられ、回り込まれる心配も無くなっていた。

兵士や弓も揃えられ、オオカミも出陣するとの知らせが入っていた。

「これなら、食い止め…いや、押し戻すことも可能かもしれないな。」

「はい。あれ?まだ逃げてくるのがいるぞ!?」

「本当だ。…あれは!?」

「倒れたぞ!」

僕は日御碕様と見に行った。

すると、狸と蛙が傷だらけ…いや、手足が欠損するほどの大怪我をしていた。

「狸!蛙!どうなさったんですか?」

「へへへ…これを…」

狸を抱き抱えると、懐から箱を一つ出した。

「…稲荷様が……捕りました。」

「稲荷様が!?」

「交渉は嘘。…懐に飛び込むと、箱を掴み、我々に投げたんです。そして命からがら…武装した変な連中に追われましたが…なんとかここまで…」

「稲荷は?」

「…分かりませんけど、後ろから断絶魔が聞こえました……」

「稲荷様…」

「…ハハソさま。この箱を………へへへ。なんか急に眠く………」

箱がボテっと落ちた。

「…蛙も動かなくなっちまった。」

「………日御碕様。ここには神様がいません。どうでしょう。ここに稲荷神社を建てて御霊を鎮めては?」

「…実は、稲荷このあたりが気に入っててな。それがいいだろう。」

と、いうことで、狸、蛙。そして、油揚げをその場所に祀った。

 

そういえば、でんでい場には椿があって、近くにガソリンスタンドと、忌まわしき警察署そして、赤い社…稲荷神社があった気がするなぁなんて、僕は思った。

 

僕らは静かに手を合わせながら、遠くから聞こえるお経と、足音を聞いていた。

 

あと24時間ほどで、帰らねばならない。

最後の戦いが始まる。



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最後の希望 帰還 絶望 火の鳥

じつはこのサブタイトル、思いついたのだけでこれだけあって選べないので全部にしました。
みなさんならどのサブタイトルにしますか?


拮抗するとはまさにこうであった。

同じ同郷であるため本気を出さないということまあるが、死人が出ない程度に戦いは続いた。

しかし、今回は妙見大菩薩も四天王も出てこないものだった。

「ハハソ。少し下がって休んだらどうだ?」

「日御碕様。では、お言葉に甘えて…」

僕は下り、七の井戸で休憩した。

そして、「あの箱を使えば、押し切れるのではないか?」と思い、箱を少しあけてみた。

すると、右目に何か飛び込んだ。

ゴミだと思ったが、なにか違う。

両目を閉じても、なにか映像が残る。

よく見ると、影だけだが、稲荷様だ。

「稲荷様!」

「ハハソさん。聞いてください。これは、私の残り香です。早く話します。静かに。」

「………。」

「ありがとう。まず、この箱についてだが、私は妙見大菩薩の前に立ち、なんとか箱を奪い、毛を何本か入れた。それがいま喋ってる。だからそこまでしか話せない。ただ、君に見られているということは作戦として、箱を奪うことには成功したようだ。

そして、この箱についてもう一つ分かった。なんと、この箱には神の力が莫大に詰まっている。

悪霊も混ざっているが、こんなもの私一人でなんとか出来そうなぐらいだ。

しかし、幸か不幸か、悪霊の力の大半はお妙様に取り憑いているようだ。

このままでは、悪霊の力が暴走して、秩父を壊滅させるだけでなく、お妙様の心も体もボロボロになってしまう。

そこでもう一つの箱だ。

そっちの箱には、お妙様本人。

分かりやすく言えば、お妙様の人の温かい心が入っている。これをお妙様に返せば、心は人間に戻る。

そして、こちらの箱に悪霊を吸い取らねば、妙見大菩薩は止まらないことも分かった。

ハハソくん。会ってからずっと君の世話になりっぱなしだが、なんとか箱を奪い、妙見大菩薩を元に戻すことは出来ないだろうか?

それと、最後に君が焦りそうなことを一つ。

四天王たちが、

「あの日御碕と天神を相手にすると面倒だから、それらは人間と戦わせ、自分たちは直接秩父神社を叩く。」と言っていたぞ。」

「えっ!?これで終わり?…めちゃくちゃやばいじゃん!」

目をパチパチさせても稲荷様はもういなかった。

「秩父神社が危ない!」

パッと、日御碕のところに向かうが、第七波と戦っていてそれどころじゃない。

「早くしないと…」

「どうしたの?」

「カジカさん。天神様。実はこれらは囮で、秩父神社を直接攻撃するって考えられませんか?」

「…私もそう思ってた。だから、ハハソくん。カジカさん。秩父神社まで行ってみてくれないか?」

「もちろんです。行きましょうカジカさん。」

自然に手を取って走り出した。

「急務であれば呼べよ!」

「はい!」

「ハハソくん。」

「はい?うっ!」

カジカさんを引っ張っていたが、カジカさんに抱えられて、ピョーンとジャンプしながら一直線に秩父神社を目指した。

秩父神社周辺は、江戸時代後期には養蚕で爆発的に栄えていたが、今は川があり、畑とも荒野ともとれる平地が広がってるだけで、ポツンと鎮守の森があるだけだった。

オオカミはそこにいる。

「オオカミさま!」

森に着くなり、陣を探した。

すると、幕が張ってあった。

そこに数名の武装した男たちがいたが、その人たちに阻まれた。

「…もしかして、ハハソ様ですか?」

「そうです。」

「失礼しました。ハハソ様なら通せと言われています。どうぞ!」

慌ただしく幕を開けてもらい、中に入る。

中は美の山とさほど変わらなかった。

「ハハソさんか!」

「オオカミ様。」

「…ハハソ。どうやら、僕は君を誤解していた。早く会わないとと思っていたが、遅くなり申し訳ない。」

「それよりこれを…」

箱を見せる。

「これは?」

「稲荷様が奪ってきてくれました。」

「おぉ!」

「しかし…稲荷様自身は…やられてしまったようで…」

「そうか…稲荷には迷惑をかけてばっかりだった…僕の力が至らないせいで…ハハソは信用できる人物だとも言っていた。」

「えっ?」

「稲荷は逐一、私にハハソくんの動向を送っていたのだ。そして後悔していた。なぜ、あの時優しく接することが出来なかったのか?なぜ、あのとき信用できなかったのか…後悔先に立たずとはよく言ったものだ。案の定後悔している…」

箱を見る。

「大切な仲間も失ってしまった。…大切な家族もおかしくなった…」

「この箱に、神の力が入っています。ただ、元々は悪霊の力も混ぜ込んであったらしく、お妙様はいま、その悪霊の力で暴れているそうです。ただ、もう一つの箱には、お妙様の人の優しい、温かい心も入っています。それを妙見大菩薩にぶつけたら…」

「人の心を取り戻すのか!?」

「ですが、今の彼女は、悪霊にも侵されています。だから、」

「だから、もう一つの箱を手に入れればいいんでしょう?」

「だれ?」

僕は振り向く。

「お諏訪…って、どうしたんだ?その格好は?」

オオカミ様の甲冑を着込んでいた。

「ふっ…ハハソくん元気そうですね。」

「お諏訪様…私の爆発ショーは楽しんでくれた?」

慣れた手つきで僕の肩に手を置いた。

「………。」

僕はかける言葉も見つからず、ボケっと立っていた。

「おっ!?これが、神の力が入ってる箱だね。」

おもむろに箱を奪われてしまった。

「お諏訪!その格好はなんだ!?」

「これから、お妙ちゃんの箱を取ってくればいいんでしょ?」

「しかし、危険すぎる。ここは僕が…」

「その必要はないわ。」

箱をオオカミに投げる。

「からの…」

オオカミの後ろに虹色の円盤のようなものが現れる。

「お諏訪!なにをした!?」

ジリジリと引きずり込まれていく。

「お妙ちゃんは私がとめるわ。」

「止めるって…」

徐々に体が虹色に消えていく。

「あなたは絶対に死なせない。死なせないから、私に全て任せてちょっと我慢してなさい。」

「お諏訪!なに!?を…」

全身が虹色に包まれ、消えた。

「お諏訪様!」

「ハハソくん。」

僕を指さす。

「…いや、あなたは必要なさそうね。もうすぐ、来たところに戻る気配がある。」

「……僕もこの世界での時間がありません。」

「私が妙見大菩薩からお妙ちゃんの心を取り戻すから、あとは頼むわ。」

「頼むとは?」

「秩父谷は、私とお妙ちゃんが護って、オオカミは全体の総括をしていたから、それに戻すだけ。だって、オオカミに直接会ったことや、会っても分かる人なんてそうそういないんだから。だったら、元の状態に戻す。それが一番でしょう?」

「…では、なんで箱を?」

「あの箱は神の力を出したり入れたり自由であれば、箱は一つで十分。

その箱にあるお妙ちゃんの心を取り戻して、悪霊を閉じ込める。

まぁ、オオカミのことだから誰かに能力を奪われることとかはないでしょう。フフフフ。」

「…………。」

その力を奪ったのは、僕なんだけどなぁ…

「でも、お妙様自体はどのように止めるんですか?」

「信用していない訳じゃないけど、稲荷くんが出してもらったものを奪うって技を使ったから、見せられないけど、天神くんから貰った調合薬をぶち込む。そうすれば、相当な年数動けなくなるから。」

「なるほど…」

「…焦げくさい。」

今まで黙ってたカジカさんが急に喋った。

「オオカミさま!森に火の手が…いない。」

「鎮守の森に火をつけたな。オオカミは人々を逃すため、奮闘している。戦闘員は火を消せ。残りのものは山へ避難!カジカ!君はこのことを日御碕に知らせて。ハハソくん。君は私と来い。」

鎮守の森は若葉が茂り、火を放ってもなかなか燃え広がらない。

「足元が」

「湿地に」

「なって」

「るんだ。」

「まぁ、良い。オオカミが出てくればそれで…」

「お前らなど私で十分だ。」

「なに!?」

「ぎゃぁあ!」

森の中から何者かが広目天を斬った。

袈裟斬りにされたらしく、肩から真っ二つにされていた。

近くからというより、遠くから風が飛んできて、その風に斬られたような感じだ。

「危ないかな?」

持国天が地面に潜り、増長天が妙見大菩薩の前に立ち、多聞天が広目天を助けようと近づく。

「動くな!」

「うわ!」

多聞天が足元を掬われた。

両足の脛から下がなくなった。

「ちくしょう。」

「どうした?持国天?」

「地下まで水でヌメヌメしてるし、根っこもすごくて近寄れない…」

「そうだ!この森を侵そうとするものよ!早々に立ち退け!」

「なん」

「なん」

「だ?」

「…そなたはここの森の神か?」

「…いかにも。この鎮守の森に住む神だ。」

「すまん。神よ。我々は邪神を退治しに来たのだ。我々に協力してほしい。」

「馬鹿を言うな。お前らこそ早々に立ち退け!」

「…ご協力いただけなくまことに遺憾です。…ねぇ?ハハソくん?」

「…どうしてその名前を?」

「別に適当。」

「らえっ?」

「だけど、そうに聞いて、そう答えたらハハソくんだって分かるよ。」

「………。」

「ハハソさん。よくやった!」

「うん?」

「だあゔかぁ!」

増長天の顔が右に左にずれた。

「…ハハソくんの後ろに誰かいる?」

増長天を妙見大菩薩が支える。

「退きなさい!」

支えていたの増長天をそのまま逸らし、地面に叩きつけ、踏みつけて、前に出た。

ヒュン!ヒュン!

なにか光のようなものが目の前を飛んでいる。

ブーン!

「当たる!」

剣を素早く抜く。

バキン!

剣になにか当たり、変な音が止んだ。

チラッ!

剣の刃を見る。

剣に藤蔓が巻きついていた。

「…藤蔓を使えるのは、お諏訪様だな?」

「勘が良いわね。お妙ちゃん。」

「私は妙見大菩薩。その名前で呼ぶな!」

絡まった剣を地面に突き刺す。

「…呆れた。剣を捨てるなんて。」

「捨ててない!」

藤蔓を掴むと、手から炎を出して、蔓を焼きにかかる。

「こういうこと?」

「後悔先に立たずだ!」

増長天の剣を抜くと、炎に沿って走る。

「これだと蔓が燃えてどこから伸びているかが丸見えな訳ね。」

サッと、宙にあった蔓が地面についた。

手を離したようだ。

「だからと言って…」

蔓が伸びていた方向に剣を振る。

どうだ。

振るった方向にある樹木が次々と倒れる。

「この森もまるハゲにしてやろうか!?」

「…この愚か者が!」

お諏訪様が突進。

剣を鎧で弾き、妙見大菩薩を吹っ飛ばす。

「チッ…」

「やっと出てきた!持国天!」

「はっ!」

地面が競り上がり、お諏訪様を包む。

「で?」

空手のような動きで、土をものともせず出てくる。

ビュン!

「危な!」

お諏訪の右後ろから矢が飛んでくる。

どっちかの四天王が弓を使っている。

「おのれ…」

「避けるばっかりで攻撃が出来てないぞ。」

「それはどうかな?」

飛んでくる方向を素早く目定め、お妙の一直線に並ぶ。

弓もまずいと思ったのか移動しているが、それに合わせてお諏訪も動いているため、弓矢の攻撃が出来ないようだ。

「あんたら5人なんて私一人で十分だろ?」

「…そんなことはないわ!」

ブーン!

といきなり、巨木が自分を叩き潰そうと倒れてきた。

「…もう一人だな?」

「早くやられないと森がなくなっちゃうよ〜。」

「…そうね。

早く…」

倒れてきた巨木を受け止め、次に倒れてきそうな方向に投げた。

「ぐわっ!なんで!?…」

ズシン!と木が落ち、周りの木の葉がバラバラと落ちてきた。

「あなたたちを倒さないと…」

「………本当に使えない。なら…」

懐からなにか取り出す動作をした。

「箱か!?」

「させるか!」

持国天が土と、自分の体を盾に地面から競り上がった。

それで一瞬動作が遅れた。

「ぬぅうわっ!?」

「させるか!」

「どうだか…ぎゃ!」

「邪魔するな!」

お諏訪が渾身の力で土の壁を殴ると、そのまま反対側に飛び出した。

殴って土の壁を突破した。

お諏訪様は自分の手を見る。

「…持国天はこんなには弱かったか?」

「そんな訳ないでしょ?」

今度は上から声がする。

見上げると、お妙ちゃんが空に浮かんでいる。

「…まさか、力を増強させたの?」

「さすが正妻だけあって、他の女が何したか見てるのね。」

「…別にオオカミの趣味だもの。どう思ったって勝手でしょ?」

「さすが正妻。憎くて憎くて仕方がないわ。四天王の本当の力。味わうと良いわ!」

手を大きく広げる。

すると風が強く吹く。

枝が折れ、お諏訪を襲う。

地面に伏せてないと吹き飛ばされそうだ。

「ハハハ!どうよお諏訪!?手も足も出ないでしょ?ハハハハハハ!」

「……。」

「お…お諏訪様!」

「!あぁ、ハハソくんか…」

「もう一つの箱を使ったんですね…」

「そうみたいだね。…だけど、そのおかげで箱の中身は空っぽでしょう。」

「だけど、もう誰にも止められないんじゃ…」

「………そうか。それなら、私も…最終奥義を使わせてもらうわ。ハハソくん。私は絶対箱を奪うから、あなたは絶対箱を掴んでね。」

「はい。」

「それと、カジカちゃんを大事にしてね。」

「はい!…えっ?」

ばん!と肩を叩かれた。

そして、後ろにぐいっと下がらされた。

「ハハソくん!延焼して火が残ったら火消しお願い!」

お諏訪様の周りに炎が立ち上がる。

そして炎をまとい、燃えながら妙見大菩薩に突っ込む。

「お諏訪様!」

幸い、火は草木につかなかった。

空を見る。

炎をまとった姿がまるで鳥のように見える。

「火の鳥…」

「ハハハ!そんなことも出来たんだ。それじゃ、私も本気の本気。最大必殺の……(やめて…)なに?いまの?(やめて!お諏訪様を傷つけないで…それはあなた自身も傷つけることになるんだから!)…ええぅ…黙れ!」

紅蓮の鳥が獲物目掛けて突っ込む。

「ええぃ!邪魔するな!私に話しかけるな!」

右腕に力を込めて、光を集める。

天も暗くなる。

夜のように。

「「やめて!やめて私!そんなことをして、お諏訪様が死んじゃったら私も悲しむ!オオカミも悲しむ!)うるさい!話しかけるな!」

頭に響く声を振り払うように拳を振り下ろしながら降下開始。

光る拳が流星、隕石のように地上に迫る。

火の鳥がそれに挑む。

あまりの光の強さに直視できなかった。

目を閉じてもまだ光から逃げるように、僕は地面に突っ伏した。

 

土から顔を離す。

まだ明るいが先ほどではない。

慌てて空を見る。

よくよく考えれば神の力を使えば見れたんじゃないか?とも思った。

「ハハソくん!」

「あっ!?カジカさんか!お諏訪様は?…見てました?」

「あれ!」

空には火の鳥が飛んでいた。

しかし、その大きく羽ばたいた状態の火の鳥が落ちてきた。

「まずい!秩父が火の海になる!」

「どうしよう?」

「どうしようにも…」

すると、火の鳥の火がだんだん弱くなってきた。

すると、鳥の外郭を残した37の火の玉になった。

「…お諏訪様。」

36個は鳥の形を残したまま落ちていった。

まるで秩父全部を覆うように広く落ちた。

心臓付近で燃えていた火は近くに落ちてきた。

「…お諏訪様!お諏訪様だ!」

僕は走り出す。カジカさんも走る。

鎮守の森から800メートルほど南に落ちた。

「お諏訪…さ…ま…。」

右手がなく、黒焦げになったお諏訪様がいた。

ただ、左手には箱が握りしめられていた。

「お諏訪様…」

左手から丁寧に箱を取り出す。

顔に手を当てる。しかし呼吸も、脈もなくなっていた。

生きていたとしても、今の技術じゃとても助からないと思った。

「お諏訪様…ありがとうございました。」

「ハハソくん。お妙様も…」

「えっ!?」

「鎮守の森に落ちたの。まるで流星みたいに…」

「…お妙様を早く助けないと!…うん…」

なんだ?頭に急に入ってくる…

「ハハソくん!大丈夫?」

「カジカさん…残念ですが時間です…」

「どうして!?妙見大菩薩にお妙様を戻さないと…」

「見てください。」

箱を開ける。

中は空っぽ。

「さっきのパワーアップで神の力もお妙様も妙見大菩薩の中に入ったんです。」

「じゃあ、なんで止まらなかったの?」

「…悪霊が中にいるからです。」

「じゃあ出してあげないと…」

「…ただ、それには時間がないんです。」

「どうして?」

カジカさんの腕を掴む。

「…僕たちがもう戻る時間なんです。」

「えっ!?」

カジカさんが動く方の腕を見る。

たしかに。

変な光源が体の中からしているようだ。

よく見るとハハソくんもなんか明るくなっている。

「…お妙様、かわいそうなことになっちゃった。」

「間が悪すぎたんです…いま思い返せばいろいろミスしまくりました。アドバイスも、行動も…。」

「もう一度来れないの?」

「分かりません…オオカミ様に相談してみますか?だけど、今回はカジカさんを助けるのが目的だったんで…それと、あっちの世界のお妙様はお妙様がいるんだから、この箱とオオカミ様が持っている箱の力を合わせて、お妙様の悪霊を追い出せば全て解決しますよ。」

「そうかな…そうだといいね。」

「そうしますよ。僕が…」

二人は互いの空いている手を握った。箱を二人でしっかり持って。

光が二人を包むとその場から天空に打ち上がり…消えた。

 

黒焦げのお諏訪様だけ残されてしまった。

 

「あっ!また光った!」

「日御碕様。そんなに興奮なさらず!仏教の罠かもしれませんよ…」

「おーい!そこに誰か倒れてるぞ!」

「あっ!黒焦げだがお諏訪様だ!」

「かわいそうに…」

「あっ!おーい!鎮守の森には妙見大菩薩が倒れているぞ!」

いきなり現れた隕石と火の鳥、強烈な光。そして、火の鳥の落下を目撃した日御碕達と仏教徒たちは火を消すため、すぐ休戦し、大慌てでやってきたのだ。

「みんな!」

ムクムクと、妙見大菩薩が意識を取り戻した。

「あっ!お妙様!お気づきになられましたか!」

急に妙見大菩薩から、お妙に戻っている。

「みんなありがとう。日御碕。」

「はい。」

「お諏訪様は、身体を燃やして私を助けてくれました…手厚く葬ってやってください…それと、…36ヶ所に…お諏訪様の身体がバラバラになった36ヶ所にも供養塔や寺を造ってやって…」

「お妙様。大丈夫ですか?」

「…それと、私は少し疲れた…休むから…休むところを……ここにつくって…そして、オオカミがみんなの目の前に現れるまでは…もしくは、私が目を覚ますまで…は、…仏教も神様も仲良くして…」

完全に横になった。

「「お妙様!」」「「お妙様!」」

フクロウ達が集まる。

「みんな…ごめんね。少し休ませてね…ちょっと疲れちゃった…良い子で待っててね…そうだ!…もしかしたら、大宮郷にも鉱山があるかもしれないから掘ってて、私が起きたら…見せてね…」

「「「「はい!、お妙様もはやく起きてください!」」」」

「ありがとう…日御碕…」

「はい。」

「…私の寝所には、四天王を祀って。」

「なぜ!あの仏は、お妙様を襲ったのですよ!」

「…逆。今、あいつらに力はない。私が吸い取った。だけど、あれだと可愛そう…せめて、私を護らせてあげようと思って…だから、適当に集めて…ここに祀って…」

「…心得ました。」

「ありがとう。それじゃ…私、少し寝るね…」

「お妙様!オオカミ様は!?オオカミ様は何処へ?」

「すー…すー…」

「寝てしまわれたか…まぁすぐ起きるだろう。」

「諸君!聞いての通りだ。やはり宗教戦争ほどくだらないことはない仏教も神も力を合わせて秩父のために尽くそうではないか!」

「「「おー!」」」

 

そして、お諏訪様のために、お諏訪様が亡くなった番場に「諏訪社」そして、火の玉が落ちた場所に「秩父札所36ヶ所」、お妙様の寝所として、「妙見宮」が造られた。

実に1234年から、1235年ごろあったと伝わる。



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帰還 そして最終決戦へ

いよいよ帰ってきました。
ただ、オオカミが…


「ハハソ!カジカ!起きろ!」

懐かしい声にハッと起きる。

低い天井。

…銀次さんの家っぽい。

横を見る。

銀次さんがいる。

しかし、もうフクロウの服を着ていた。

「銀次さん!」

「ハハソ!…帰って来てそうそう申し訳ない。大変なことになった。」

「どうしたんですか?」

「オオカミ様が…」

「どうしたんですか!」

「…三峰神社、妙見山の宝物で武装した集団を率いて、影森を抜けて、上郷に攻め込んだ。」

「なんで?」

「お諏訪様が亡くなったこと、秩父中に仏教が広がっていたことがやはり信じられなかったらしい。それに加えて、お妙様のあの姿を見たら狂うのも分かる…」

「止めないと!」

「しかしどうやって!?」

「止めるのは、お妙様のほうです。

今の彼女は少し悪霊に取り憑かれているんです。ですから取り除けばオオカミ様が知っているお妙様に戻るんです。それをこの箱で、手助けするんです。」

そう言って、箱を見せる。

「よし!急ごう!そろそろお花畑で激突する可能性がある。」

「…カジカさんは?」

「無事だ。ヤマメと母が見てる。」

「静かに行きましょう。起きてたら、行くなと言われそうなので…」

「もう起きてるよ。」

「「えっ!?」」

襖が開く。

ヤマメさん、お母さん。そして、カジカさんがいた。

まだ、ネブッチョウとオーサキに憑かれている。

「カジカさん。僕はオオカミを止めてきます。そう言って帰ってきたじゃないですか!僕はカジカさんが止めても行きます!」

意思を持った、大きな声が出せた。

「……もう止める気はないよ。」

「はぁ……。」

「…ただ、ハハソくん。」

「はい。」

「絶対死なないで、ここに帰ってきて。約束して。」

「はい。死にません。絶対帰ってきます。」

「約束ね。」

「はい。」

カジカさんは泣きそうだった。

僕は元気に答えた。

すると少し顔が明るくなった。

「行こう。」

「はい!」

二人でそのまま縁側から飛び出して、お花畑に言う地名の場所に向かう。

「…ところで、今は僕がタイムスリップしてから、どのくらい経ったんですか?」

「あまり経ってない。君がオオカミ様の力で消えたら、オオカミ様がお妙様を引きつけながら、どこか行ってしまって、気がついたら二人で帰ってきたんだ。寝ながらな。」

「…きっと……見てきたから薄々思うんですけど、秩父…自分の守ってきた大宮郷が仏教だらけになって、愛する家族や信じる仲間もバラバラになり、お諏訪様まで亡くなられたと知ったら、どんなことするか,わからない……。なにがなんでも止めないと…。」

「そうだな。ところで、ハハソ。カジカとなんかあったか?」

「なんでですか?」

「あんだけがっちり腕を掴んでたもんだから、なにかあったと思ったんだが、本当になんもなかったのか?」

「…ないですよ。」

「ふーん…この小説で語られなかった『仲良くなった。』ときにもか?」

「…………。」

 

ハハソはもしかするとこの戦いで肉体が死ぬと思っていたが、銀次さんのせいで、精神が死にそうだった…



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御花畑

こんなしれっと最終決戦ですが、これでも良いでしょうか?
もしあれでしたら、前書きは読まないでください…



お花畑は、とくに花が咲いてるわけでない。

坂の上にある広場である。

秩父夜祭りの御旅所、秩父市役所がある付近である。

そこの一段低くなった場所に一本木が生えている。

天狗が止まる木と伝わる。

その木に、復活した妙見大菩薩と四天王が留まっている。

しかし、2人欠けている。

広見寺でやられた広目天と多聞天はいない。

妙見山より進撃するのは、三峰神社より借りた神具で武装したオオカミ。

それと、浦山で捕まっていた播磨組。

地理的には、オオカミが段の上にいるため強いはず。

しかし睨み合って、動かない。

互いに肉体が強すぎるし、メンタルが弱すぎる。

妙見大菩薩は笑いながら頭を抱えている。

オオカミは泣きながら前を向いて、妙見大菩薩がいる方向を睨んでいる。

右手にはあの箱を持っている。

まさかお諏訪の形見になるとは思っても見なかった。

妙見大菩薩は頭を抱えている。

あの時、お諏訪を倒すために振り下ろした流星拳は確かに当たった。

しかし、カウンターを喰らった上、お妙の心も表に出てきたもんだから、そのまま気絶してしまった。

そして、起きてみたら1000年…お妙に眠らされた。

…しかもどんどんお妙が起きてきて、「戦うな!仲良くしろ!」と囁いている。

「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」

「妙見大菩薩。」

「えっ?」

「大丈夫ですか?急に。」

「…ぇっと…ええ。大丈夫。」

大丈夫と言いながらも、片手で頭を抱えている。

片手で剣を抜くと、杖のようにしている。

「オオカミ…早く来い。お妙の愛で殺してやる。」

オオカミは鼻を啜ると、前を向き、腰の刀を抜いた。

「お諏訪、今行く。…お妙、もうこれ以上人を悲しませるのはやめてくれ…」

刀を天に掲げる。

「みんな!四天王は任せるぞ。」

「「「御意。」」」

「…突撃だ!」

「「「おー!」」」

ついに走り出してしまった。

 

「待ってくれー!」

「オオカミ様!早まるな!」

天気が急に変わり、雲の隙間から雷が光る。

「うぉ!なんだ!?」

全体が止まる。

フクロウの服を着ている銀次と、ハハソが駆けつける。

「うん!?ハハソと銀次か!?」

「オオカミ様!止まってください!これじゃお諏訪様が悲しみます。」

「……ハハソ。君には迷惑をかけすぎた。申し訳ない。」

「じゃあ。」

「しかし、もう止められないんだ。」

「えっ!?」

「考えて見てくれ!自分たちが必死に守ってきた土地が誰だか分からない者に制圧され、自分が大事にしてきた…誰だか分からない人が改造しててみろ?どうだ!こんなに気持ちの悪いことはないだろう!」

「確かに…」

「しかも…私の愛するお諏訪が…自分の愛する人が殺されて、冷静になってる場合か!…私にはそれはが出来ないんだ!」

「だからって…」

「それと、ハハソ。君には迷惑をかけすぎた。良かれと思って過去に送ったが、お妙に追い回されながら、なにが起きたか聞いたぞ。君が力を持ちすぎているから……持ちすぎているから、命がほぼないと言うじゃないか!」

右手で、器用に箱に手をかける。

「オオカミ様!」

僕からはオオカミ様が武器でももう一つ出すんじゃないか?と思っていた。

だから僕はオオカミ様目掛けてジャンプした。

「そんな身勝手なことをさせてすまない!」

武器じゃなかった。

箱を開けて虹色が僕を包む。

「なに!」

「ごめん。ハハソ。君は普通の少年に戻ってくれ。」

 

「そん…な…」

ハハソは、そのまま地面に伏せた。



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ハハソ墜つ そしてお妙よ

ここら辺はもうオチが思いついているので猛進するのみでした。
戦闘シーンかっこいいですか?
それと、ハハソの変身シーンは書いていて思いついたものですが、もっとかっこよく活躍させたかったです。


「ハハソくん!」

カジカさんの声がする。

「ハハソくん!」

うつ伏せの状態の僕を抱き起こし、ネブッチョウの耳をしたカジカさんが起こす。

「…大丈夫です。……死んでませんよ。」

カジカさんは鼻を啜っている。

「どうして?」

「嫌な予感がして追いかけてきたの。」

「オオカミ様は!?」

「ハハソ!その少女と仲良くな。君の神の力は吸い取ったぞ。君は普通に戻ったからな。」

「待って!…」

カジカさんに押さえつけられた。

「…カジカさん。」

「ハハソくん……」

「…行かせて。」

「…怖い。」

「カジカさん…」

僕はカジカさんに抱きつく。

「ハハソくん…」

「…ごめんなさい。」

抱きついた時には、お諏訪様にもらった箱をちゃっかり隠しておいた。

ぱかっと開ける。

虹色の光がカジカさんを吸い取る。

「なに!?ぎぁー!」

少しのけぞったが、そのまま僕に覆い被さった。

「ハハソか!」

「…えっ?…田代さん加藤さん!」

「大丈夫だったか?」

「田代さん、加藤さん。この戦いは僕が止めます。カジカさんをお願いします。」

カジカさんから抜け出し、抱き抱えて、2人に渡す。

「なんとか止められるのか?」

「策がないことはないです。」

「おお!そうか。」

「ただ…この女の子に謝らないとかもしれないことになるかもしれません。」

「…謝りに戻ってこい。例え魂だけでもな。」

「……はい!」

箱を開ける。紫の光が僕を包む。

巻かれると、僕はオオカミ様に向かって走る。

「オオカミ!」

煙がなくなると、僕には

オーサキの耳。

ネブッチョウの鱗。

オーサキの脚。

左腕がネブッチョウの尻尾になっていた。

 

「オオカミ!オオカミ様!止まって!」

「ハハソか!?もうやめろ!死ぬぞ!」

「僕の命であなたが止まるなら、それでいい!」

「なにをバカなことを…」

右手を懐にいれて箱を出そうとする。

「させるか!」

左腕をオオカミに投げる。

いい感じに巻きつき、オオカミを止める。

「ニャハハハハ!大成功にゃ!」

「………。」

ネブッチョウとオーサキも頭の中で喋る。

「ニャハハハハ!ハハソ。やっと戻ってきたにゃ。」

「………。」

「しっかし、おミャーも罪作りな男にゃ。カジカをあんにゃに傷つけるにゃんて。」

「…ここでオオカミ様を止めないと、神も仏も民衆もみんな不幸になる。オーサキ。ネブッチョウ。僕に力を貸せ!」

「ニャハハハハ!強制発動にゃんだから、おミャーのやりたいようにするにゃ。

たにゃし!

カジカは…おミャーのことが…いやおミャーのことが好きなんよ。」

「………」

「絶対に帰る。だから君たちが必要だ!」

「…そういうところに惚れたんかにゃ?」

「ハハソ!離せ!このままだと大宮郷が…」

「オオカミ様!過去に戻ろうとするな!これはお諏訪様と、お妙様が最後の最後に力を振り絞って命令した結果だ!」

「なに!?」

オオカミの動きが止まる。

こもっていた力も減る。

「オオカミ!君がこの世界に来た後だがな、僕たちはそのあとどうなったのか見た。結論から言うと、お諏訪様は火の鳥になって妙見大菩薩に突っ込み、箱を奪取した。

その箱を見たら、お妙様の優しい心はもうなかった。

戦う前に妙見大菩薩も箱で強化していたからな。だから、お妙様の心は妙見大菩薩の中にある。

そしてここに戻ってくるときに見ていたのだが、激突した後、最後の力を振り絞り、お諏訪様と妙見大菩薩の名の下に、オオカミを祀り、仏教も受け入れる方針に決めたことで大宮郷の平和と繁栄を守ったんだ。お前はそれを壊そうとしているんだぞ!」

「…ではどうすればいい!?あの復活した妙見大菩薩をそのままにしておいていいのか?」

「箱で悪霊を追い出するですよ。」

「なに?」

「箱に悪霊を詰めて、妙見大菩薩をお妙様に戻すんです。」

「…そんなこと出来るのか?」

「オオカミ様。僕も手伝います。」

「なに?」

「神様なら、人を信じてください。神様はそこにいて、見ていてくれればそれでいいんです。」

「……。」

「ベスト…自分のできる力を最大まで引き出すのが人間の勤めです。だとしたら、神様はそれを見ていてください。」

「…分かった。ハハソ。一緒に妙見大菩薩を救ってやろう。」

「はい。…それと、それは、大宮郷に住む人たちも同じですから。先程、自分の大宮郷と言いましたが、もうここは人間たちが自分たちの力だけで反映させています。

お諏訪様や妙見大菩薩に縋ることもありますが、本当に助けてくれるだなんて思っている人はいません。

自分で決意を固めるために神に縋るんです。だとしたら、オオカミ様はそれを受け止めてください。」

「…分かった。人の心も、決意も受け止めよう。」

僕はだんだん締まりを緩める。

しかしオオカミは箱を取り出そうとはしなかった。

オオカミと僕は先頭集団に追いつこうと走る。

僕らの周りにいた人々はもう走ってない。

「みんな!引け!ここで死んではならん!ここからは私に任せろ!」

播磨組の連絡部隊があっちこっちにいるが、その人たちが連絡してくれる。

「しかし、もう先頭集団はもう四天王に襲いかかってますよ!」

「四天王は攻撃するな!おす…妙見大菩薩も危ない。なにをされるか分からない。近づくな!」

「オオカミ様のために道を開けろ!」

「先頭集団は手を出すな!」

人々が叫ぶ。

その声は、四天王たちにも聞こえた。

「我々には攻撃しないらしいな。」

木の下を見ると人々が集まっている。

木を登ってはこないが、砂糖を見つけたアリのように集まってきている。

「…やれやれ。そういえば持国天。ところで仏教徒はなにしてるんだ?」

「ああっ?あぁ…実は、三十四ヶ所に呼びかけたんだが…広見寺での騒ぎを思いの外、知られ渡ってて、仏教の味方する人間はいないし、妙見大菩薩の言うことならまだしも、四天王の言うことなど聞くものか!……と言うことです。」

「…なら、ここでオオカミを倒すしかないな。」

「…持国天と増長天。」

「「はい。」」

「この…人々は任せました。オオカミは私が倒します。」

「「はい。」」

「妙見大菩薩!」

「おっと!…もうオオカミやってきましたよ。」

「……うっ。」

「また頭の中を何か喋ってるんですか?」

「えっ…えぇ。だけどもう大丈夫。」

「ほんじゃ、まぁ」

「後で会いましょ。」

2人はそのまま下に落ちた。

「わぁ!急に落ちてきやがった!」

「やっちまえ!」

「いや、手を出すな!」

ワー!ワー!ワー!と声がする。

2人、手を繋いで空に飛んでいる。

「妙見大菩薩!」

「オオカミ…と、前の世界に送った少年か…帰ってきたのか。」

「お妙!私の声が聞こえるか!」

「「聞こえる!早く助けて!」喋るな!喋るな!喋るな!」

「!?頭にいるんだな。すぐ助ける。待ってろ!」

「させるか!」

剣を投げる。

「わっ!」

オオカミが手を離す。

「あっ!ちょっ!」

ハハソが落ちる。

「しまった!」

すぐ手を掴みなんとか助ける。

「!?…これは驚いた。神の力が残ってないな。」

「…まずい、バレた。」

「なら、これでどう?」

妙見大菩薩は高度を取り、妙見宮に向かって飛び始めた。

「逃すか!」

オオカミは追いかける。

「うん?」

妙見大菩薩は踵を返すと、こちらに向かっている。

「チャンス!うぅ?」

いや、弓を構えている。

「まずい!」

耳の近くを空気を突き破り、矢が飛ぶ。

一本だけでない。

5本ほどいっぺんに飛んでくる。

「危ない…なぁ!」

ハハソを空に飛ばしたり、落ちているところを拾ったりしながら、なんとかオオカミは追いかける。

「空を見ろ!」

下には一般人が見ている。

「あれはオオカミだ!」

「広見寺が言ってたが、四天王をはじめ仏教を名乗っている神々は仏教じゃないらしい。」

「がんばれ!オオカミ!邪教を倒せ!」

「負けるな!俺たちがついてるぞ!」

「オオカミ様!」

「オオカミ様!」

「諸君ありがとう!しかし残念ながら、妙見大菩薩も大切な仲間になれそうなんだ!私は正しく諸君らを導ける妙見大菩薩を取り戻すぞ!」

「おー!」

「いいぞ!」

「妙見大菩薩を救え!」

妙見宮の上空。

妙見大菩薩は頭の中の自分と戦っていた。

「妙見大菩薩。やめて!あなたは大宮郷をどうしたいの?あなたについてきてた部下たちも徐々に潰すし…」うるさい!うるさい!うるさい!」

「妙見大菩薩!」

「来たな…オオカミ!」

「妙見大菩薩。私の元に来ないか?」

「なに?」

「妙見大菩薩。三峰神社から聞いたのだが、あなたは大宮郷の民から、目の神、養蚕の神として祀られているらしいな。それだったら、私と共に、大宮…」

「黙れ!ふざけたことを言うな!これは私の本心だ!大宮郷を私のものにする。その邪魔をする貴様ら邪神に…」

「……さっきみたろ?大宮郷の人々は私を応援してくれている。君はもういることが出来ないぞ。」

「…黙れ!なら……」

天に右腕をかかげる。

光が右手に集まる。

「お諏訪を葬った拳をもう一度大宮郷に…」

「オオカミ。本気で撃つぞ。あれが撃たれたら、大宮郷は滅ぶぞ。」

「わかってる。見たことないけど、分かってる。」

「箱を…」

光がお諏訪を倒した時より集まる。

「大宮郷よ。光と消えろ!」

流星拳発射。

「させるか!」

僕は、オオカミを蹴り、妙見大菩薩に向かって飛ぶ。

「こいつ!お諏訪と同じことが通じると思ってるのか!」

「思ってる訳…」

箱を開ける。

「ないだろうぉぉぉぉお!」

拳が箱にめり込む。

箱から虹色の光が妙見大菩薩を吸い込む。

「なに?」

「逃すか!」

右手で、箱を持ち、左腕を妙見大菩薩の首に巻きつける。

2人で落ちてゆく。

しかしこれでも大損害が出てしまう。

しかしその2人を背後から狙う男が1人。

「…妙見大菩薩を名乗り、人心を惑わす悪霊よ!」

箱を開ける。

お諏訪様からもらった箱を。

「箱の中に帰れ!」

ハハソの箱より強い虹色の光が2人を包む。

「にゃ!?」

耳がなくなる。

左腕が人間に戻る。

「ぐぅ…」

全力で左腕に力を込める。

ものすごく眠くなる。

すると、妙見大菩薩からなにやら黒い玉が飛び出た。

その玉は争いながらも、箱に吸い込まれた。

「ぐわっ……カジカさん…」「うっ…オオカミ…」

お妙様とハハソは力なく落ちる。

ハハソから閉じた箱が手から落ちる。

「ハハソ!お妙!」

オオカミは急降下。

お妙とハハソを小脇に抱える。

箱は落ちてゆく。

「……。」

オオカミは自分の箱を少し開ける。

「ネブッチョウ。オーサキ出ろ。」

オコジョみたいなのと、小さな蛇が出て、オオカミの頭に乗った。

そして箱を下に投げた。

「…妙見大菩薩を名乗った悪霊よ。」

項垂れてるハハソから短刀を引き抜く。

二つの箱を狙う。

「大宮郷から…」

短刀を振りかぶる。

神の力で刃がぐんぐん伸びる。

「消え去れ。」

振り下ろす。

轟音と共に箱二つが真っ二つに斬られる。

中にどす黒く、煙のような玉が入っていた。

その玉が、斬られて、割れて、消えた。

オオカミはゆっくり妙見宮に降りる。

ワー!ワー!ワー!と歓声が上がっている。

境内に播磨組。フクロウ。そして、大宮郷の民が集まっていた。

みんな、播磨組とフクロウがオオカミについて触れて回ったらしい。

みんな歓声でオオカミを迎えた。

「みんなありがとう。この2人を頼む。」

その声すら聞き取れないようであったが、すぐさま、社殿に担ぎ込まれた。

オオカミも近くに行きたかったが、どうにもならない。

人々が集まりすぎて近づけない。

しかも、みんな自分を祝福してくれるものだから、対応しないわけにいかない。

「オオカミ様。この2人はいかがしましょう?」

「うん?」

人々にしょっ引かれる感じで縄に繋がれた、持国天と増長天が連れてこられた。

「この2人か…」

「是非あの短刀でお斬りください。」

「そうだそうだ!」

「待て!もう悪霊は退治したのだ。

オオカミは持国天と増長天に近づく。

「君たちはどうしたい?」

「「なにを!?」」

ザワザワ。

「我々は、妙見大菩薩の命令にしか従わない。妙見大菩薩が死ねば、妙見大菩薩を枕に撃ち死するだけだ。」

「それはだめだよ。」

「なに?…妙見大菩薩!」

いつのまにかお妙が起きていた。

「持国天、増長天。いままでご苦労様でした。残念ですが、私は1000年前のあなたたちが洗脳しようとした前の私に戻りました。」

「………。」

「………。」

「では、あなたたちはどうしたい?」

「…我々は誰かに命令されないと動けない。ただ.」

「ただ?」

「…ここにいても大宮郷の人々とは仲良く出来る気がしないから、暇が欲しい。そうすれば、もう少し過ごしやすいところが見つかりそうだ。」

「そう。なら、増長天と持国天。」

「「はい。」」

「…私の力で、多聞天と広目天を治してあげるから、そうしたら、国に帰りなさい。」

「「はい!ありがとうございます!」」

「おぉ!…なんと見事な結末…」

「さすがお妙様。過去の恨みを水に流して、誰も傷つかない答えを導き出すとは!」

オオカミがお妙様に近づく。

「どこもおかしくないか?」

「ええ。…助けてくれてありがとう。」

「…当たり前だろう?家族なんだから。」

「へへへ…」

とても嬉しそうに笑った。

「ところでハハソは?」

「………。」

「お妙?」

「ハハソくん…少しおかしい…」

「なに?」

ぐったりしたまま、ハハソは動かない。



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最終回 ハハソの森

さあ、いよいよ最終回です。
良く分からない文章につきあってくださりありがとうございました。
今度はもっと地名に振り回されず、自分の書きたい妄想で異世界物は書いてみたいです。
これももっと使える昔話や伝説はあるので、今度はもっとアクションが増やせると思います。
以上、私が書く異世界転生物語でした。


「妙見大菩薩!」

「さようなら!」

「今まですみませんでした!

「お元気で!」

次の日、四天王は全員身体を直されて、元来た西の国を目指して歩いて行った。

 

そこから十ヶ月ほど。

播磨組とフクロウも出来るだけ家に帰れるよう算段をとった。

(オオカミやフクロウは家族の仲を治したり、分家先を探したのだ。)

また、三峰神社との同盟、宝登山神社の神社としての復興も進めた。

そしてなにより、正しい仏教の布教のため、京の都に遣いを出した。

すると、34ヶ所をめぐるため、蔵王、善光寺、熊野、閻魔、具生、花山、白河、徳道、性空、医王、良忠、通観という人がやってきて、34ヶ所を見学したとされる。

その案内はなんとお妙さまが務めた。

そんなことをやってたが、一向にハハソは起きなかった。

四天王を治した技をお妙はやってみたが、効果がなかった。

 

ある日。

カジカさんがやってきた。

綺麗な黒髪に戻ってて、ネブッチョウもオーサキも憑いてない。

「ハハソくんは〜、ま〜だ起きないのぉ〜?」

額に手を当てて、なんとか治そうとしているお妙様に話しかける。

「はい。…カジカさん。言いにくいのですが、帰ってこないことも覚悟なさったほうが…」

「そうだね〜…この世界ではもう会えないかもね〜。」

「うん?この世界では?」

「あんま気にしないで〜。こっちの話だから〜。」

「………。」

そう言ってカジカさんは毎日様子を見に来るのだった。

 

「今日も寝てる。」

 

「今日も起きない。」

 

「まだ変化はないです。」

 

「普通、こんなに見に来てくれればなにかコンタクトがあってもいいのに…」

なにかお妙様のほうがイライラし始めた。

「お妙。そんなに気を立てないで。」

オオカミ様がとめる。

カジカさんは冷たいハハソの額を優しく撫でる。

「…きっと、この世界ではない世界に行ってしまったのかもね。」

「…もし、そうだとしたら、ハハソくんは…いや、私たちは彼に何もする事が出来なかった。なにかみんなに残ることを…して、名前だけでもこの世に残せないのか。」

「…たしか、鎮守の森って、鎮守の森って言うだけで、名前はなかったよね。」

「うん。…あうん?…そういうことか?」

「そう。鎮守の森に庵を造って、そこでハハソくんを休養させてあげれば?」

「急いで生きすぎた彼には休息が必要かもな…」

「どうする?カジカちゃん。ハハソくんは、妙見宮の近くで面倒見ても良い?」

「……もしそうなったら、ハハソくんは、幸せなんですかね?」

「鎮守の森の中だ。静かで、結界もあり、人も入らない。いざとなればフクロウもいるしな。」

「…なら、私も入れる場所に庵を造ってください。近くにすぐ駆けつけたいんです。」

「よし。決まった。」

「で、鎮守の森の名前は?」

「決まってるだろう。『ハハソの森』だ。」

 

そして、鎮守の森の中に秘密の庵が造られた。ただ、その森に誰も近づいたことはないし、入ったこともない。だから、そこに庵があるなんて誰も知らない。

オオカミと、お妙さまと、カジカさんだけの秘密。

その後。

オオカミは、妙見山から大宮郷を見守り、お妙様は、妙見大菩薩として、大宮郷の妙見宮を拠点に、秩父の人々と秩父の発展に寄与していった。

 

そして、いつしか、霜月の最初の7日会う以外は会えないほど忙しくなってきてしまったのだ。

なんとか、この日だけはお諏訪の前を通るが、2人が激突した御旅所で、デートさせて欲しい。

そんなわがままだった。

もちろん。オオカミはお諏訪も愛していた。

事あるごとに、諏訪神社や、34ヶ所を人のふりをして巡礼していたのだ。

 

 

 

それから、300年後

ある夫婦に男の子が生まれた。

 

その子のお父さんは、秩父神社の鎮守の森から名前を取り、「ハハソ」と名付けた。

 

 

 

おしまい。



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