新越谷高校VS総武高校 (ブルーガソウ)
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序章【新越谷高校】
埼玉県にある女子高である校新越谷高等学校。ここの野球部は一昔前まで埼玉四強常連の強豪校として君臨していたが、ここ数年は目立った成果がなく、あろう事か去年に暴力沙汰を始めとした不祥事が発覚して昨年末まで部活動停止を言い渡されていた。
居場所や活動場所を無くした部員のほとんどが転校し、今年度は一年生を中心としたメンバーで再スタートをきる。そんな逆境をはね除けて夏の大会では二回戦で全国大会常連校を破り、埼玉県ベスト8の成績を修めたのだった。
「次の練習試合の相手は千葉の総武高校だよー」
練習前のミーティングでマネージャーの
「八年前に全国出場を果たしたことがあるんだけど、去年まで女子野球部自体無くなってたらしいよ。公式戦出場は今年からで一年生が多いチームだけど、この前の大会ではうちと同じくベスト8に食い込んでるから油断は出来ないよ」
「へぇ。なんかうちと似てるね~」
総武高校の事情を聞いてそんな感想を抱いたのはエースピッチャーの
活動を再開した時期は違えど、両校とも再開後初の公式戦で、しかも一年生中心のメンバーでベスト8まで勝ち上がったという共通点があった。
「そうだな。公式戦が今年からって事は、去年はメンバーが揃わなかったのかな?試合が出来ない理由は違ってもそういう所はシンパシーを感じるよ」
詠深の感想に同意したのは短い黒髪の少女、新越谷高校野球部のキャプテンを務める
閑話休題。芳乃が総武高校の解説を再開した。
「試合は全てロースコアで決着がついてるね。全員野球で奪った点をエースの館山さんを中心に守り抜く野球を得意としているよ。1点を争う緊張感のある試合になると思う。大会前最後の練習試合になるからね!みんな気を引き締めてこう!」
練習試合という事もあり、あまり細かい打ち合わせはせずにミーティングが終了し、一同は練習へと移っていった。
さて、総武高校の方はというと······。
「真弥っ、大変よ!!」
何やら良からぬ事が起こっている様子。
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序章【総武高校】
総武高校奉仕部。その名だけではドのような部活動かを憶測する事は困難である奉仕部は、学内生徒の悩みの相談を受け、その手助けをする事を活動内容としている。
その奉仕部は普段であれば特別棟の一室で活動しているのだが、本日は太陽の照り付けるグラウンドで女子硬式野球部に参加していた。
奉仕部の部員の一人である
(テニスで運動神経が良いのは知ってたけど、野球まで器用にこなすのか······)
八幡は思う。雪乃の今の守備を見て、彼女が昨日野球を始めた初心者とは誰も思わないだろう。それ程に雪乃の動きは様になっていた。
次にノックを受けるのは金髪縦ロールのギャル風女子、|三浦 優美子(みうら ゆみこ)である。雪乃への対抗心から吊り目がいつもより二割増しで上がっていた。
優美子も打球が落ちてくる前に落下点へと入ると、余裕をもって捕球する。
(あんたらハイスペック過ぎやしませんかね?)
テニス経験者である優美子が同じ球技とは言え、こんなに早く野球に適応できるのは彼女の運動センス故だろう。
最後にノックを受けるのは桃色がかった茶髪を右側でお団子に纏めた
八幡は前の二人より近い所にフライを上げた。
「えっと······わわっ!?」
桃色の瞳が白球を捉えるも、ギリギリまで落下点の予測が出来ずに結衣はバタつく。体制を崩しながらも何とか手を万歳して捕球した結衣は誤魔化すように笑いながら二人の後ろに回った。
(それが普通だよ。むしろ捕れただけでも凄いよ)
結衣も二人と同様に野球経験がない。未経験でフライの落下点を読み、いきなり捕れる二人が凄いのだ。
この三人のうち雪乃と結衣が奉仕部の部員である。この二人と八幡を加えた三人で奉仕部は構成されていた。
優美子は奉仕部でも女子硬式野球部でも無いが、結衣に誘われる形でこの場に来ているのだ。
さて、何故いつもは特別棟の一室を活動場所としている奉仕部御一行が女子硬式野球に参加しているかというと、時は昨日の放課後に遡る。
一人ノックで鍛えた八幡の腕はだてじゃない。
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1【総武高校】
総武高校特別棟には無表示のプレートに可愛らしいシールが貼られた空き教室がある。この空き教室で活動しているのが雪ノ下雪乃、由比ヶ浜 結衣、比企谷 八幡の三人が所属する奉仕部である。
結衣は雪乃のすぐ横に座って楽しそうに話し掛け、雪乃も澄まし顔でしばしば結衣に相槌を打っていた。八幡はというと、二人とは離れたお誕生日席で本を開いている。三人が囲む長テーブルには雪乃が淹れた紅茶が各々の前に置かれていた。
特に相談にやってくる生徒が表れなければ下校時刻までこのまま時間が過ぎるのだが、今日はそんな訳にはいかないようだ。
扉を叩く音につられて三人の視線は教室の入口に集められる。
三人を代表して雪乃が扉の向こうに居るであろう者に入室を促すと、一人の女子生徒が引き戸を開けて姿を表した。
「失礼します。平塚先生の紹介で来ました2Cの
切れ長の目とショートヘアーにすらっとした鼻がクールな印象を与える館山と名乗った女子生徒は、背筋を伸ばしたまま教室に入る。言葉一つ一つハキハキと話す彼女は某歌劇団の舞台に立っても、その存在は栄えること間違いない。
「2Jの雪ノ下よ。相談がある、という事で良いかしら?」
「ええ。貴方達が奉仕部で間違いなさそうね」
「いま椅子を用意するわね」
「あ、私が用意するよ!」
立ち上がろうとする雪乃を制した結衣は教室の後ろに置いてある椅子を取りに行った。
後ろには椅子の他に使われていない机が積み上がっていたり、備品の入っているであろう段ボール箱が置かれていたりと、奉仕部の活動場所とはなっているものの、ここが本当に普段は使われていない教室が空き教室なんだという事が伺える。
館山は結衣に礼を言うと、彼女の持ってきた椅子に座った。
「相談と言うのは野球部の事なんだ」
結論から言ってしまうと、館山の相談事は練習試合の助っ人である。
曰く、野球部の打ち上げで食中毒が出てしまい、一年生と監督が野球を出来る状態でなくなってしまったのだ。その日、二年生は用事があり後から合流したのだが、合流した頃には食中毒を起こした料理は既に一年と監督の腹の中。二年生は難を逃れたのだ。
野球部に二年生は五人しか居ないので、最低でも四人助っ人が必要なのだ。
しかし、誰でも良い訳ではない。硬式ボールを使うので、怪我のリスクを減らす為にも、最低限の球技のセンスはなければならない。だが、他の運動部の子達は自分の部活が忙しくて助っ人に参加する余裕がなく、未だ十分な助っ人が見付かっていない。
助っ人集めに悩んでいた館山が奉仕部顧問の平塚教諭の目に留まり、相談にのってもらった所、ここ奉仕部に白羽の矢が立ったのだ。
「話は分かったわ。今どのくらい助っ人が集まっているのかしら?」
「恥ずかしながら、まだ一人しか見付かってないんだ」
「という事は野球部の二年生と合わせて六人。あと三人必要ね」
雪乃は顎に母子示指を当てて思慮を巡らせる。
「どうだろう、何とかなりそうかな?」
「ええ。あなたの依頼承るわ」
雪乃が依頼を受ける旨を伝えると、館山は胸を撫で下ろした。
「ありがとう。早速だが雪ノ下さんは助っ人が出来そうんな人に心当たりはあるかい?」
「一人は私が入るから、あと二人ね」
雪乃はまず自身が助っ人に名乗りを上げる。
「それじゃあ私は優美子に声掛けてみるよ」
結衣はスマートホンを取り出し、メッセージアプリを起動した。
結衣の言う優美子とは、結衣が休み時間などに話をしているクラスの友人グループの中心人物である。中学時代にテニスで県選抜に選ばれていることもあり、運動神経が良いのは勿論、同じ球技なので野球の飲み込みも早いだろう。
「俺も一人当たってみるわ。公式戦じゃないし、別にうちの生徒じゃなくても良いだろ?」
「そうだな······今の状況を考えればやむを得ないか」
館山は少し悩んだ後、八幡の案を受け入れた。
「優美子手伝ってくれるって!」
早速返事が届いたようで、結衣は優美子の参加を知らせる。
「それじゃあ助っ人のみんなにはできれば今日にでも練習に参加して欲しいのだが、良いだろうか?」
「承知したわ。由比ヶ浜さんも一応準備しておいて。九人揃ったとしても控えがいるに越したことはないから」
「うん、分かった!」
話がトントン拍子に片付いた所で八幡は立ち上がった。
「それじゃあお前ら頑張ってくれ」
「ヒッキーは?」
他人事のように話す八幡に結衣は疑問符を浮かべる。
「女子野球部の助っ人なんだから俺の出る幕は無いだろ」
八幡は今回の依頼中は部活をサボるつもりでいた。結衣は釈然としながらも返す言葉が見付からない様だったが、八幡の幻想を打ち砕く言葉は意外にも立山から発せられる。
「そうそう。平塚先生が“男子が一人いるが、そいつには雑用でもなんでもさせてくれ。あと、サボったらどうなるか分かってるな?と伝えてくれ”と言っていたよ」
「えぇ······」
肉体労働と休日出勤が決まった八幡は肩を落とすのだった。
時期的におかしな点がありますが気にしない気にしない。
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