バカと無情の試召戦争 ~番外編という名の復習ノート~ (Oclock)
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1さつめ 先輩と戦後と入部試験
清く正しい広報部を目指して


 文月学園には、様々な部活が存在する。

 

 運動系の部活を挙げるなら、メジャーなスポーツである野球部やサッカー部、全国大会常連のテニス部にバレーボール部、学園内ではそこそこ有名な卓球部に廃部寸前の相撲部などがある。

 文化系の部活なら、どの学校にもありそうな吹奏楽部はもちろん文月学園にも存在するし、他には最近将棋のプロの孫だという生徒が入ったと噂されているボードゲーム部(部員らは『盤上遊戯部』と呼称)に、これまた廃部寸前の美術部……。

 

 そしてわたし、青葉文(あおばあや)が部長となって、早半年ほど経ってなお、一部の生徒から不信がられている広報部が挙げられる。

 

 二年のFクラスがAクラスに喧嘩を売って、二日が経った今日。この日は8名ほど新入生が入部して初めての広報部活動の日だ。

 

文「…………よし、全員揃ってるな~。……どうも!わたしがこの広報部の部長にして、3-C代表!青葉文です!」

 

 ただでさえ狭い部室に私の大声が響く。

 

文「そして、隣にいるノッポのメガネが副部長の木地標示(きじしるし)君です!」

 

 右耳を押さえながら、180cm超えのヒョロ長の男が軽く会釈をした。

 

文「えー、皆さん、先程も言いましたけど、わたしが!部長です。木地君はAクラス所属に対して、わたしはCクラスと天と地ほどの学力差がありますが、わたしが!部長です。大事なことなので二度言いましたよ!もう一度言いましょうか?わたしが……。」

 

標示「部長、三度目は流石にくどいですよ。後、声量落としてください。新入生の鼓膜を破る気ですか。」

 

 そう言って、手に持ってたノートで頭を叩かれた。ちくせう。

 

標示「えー、副部長の木地標示です。私個人のことなど、話すことなんて無いので代わりに部長についてでも。」

 

 そうかなあ?木地君の特徴はそれなりにあると思うけど。例えば、喋るときは棒読みっぽくて早口になるとか。

 

標示「青葉部長は去年から、優れた洞察力と文章の表現力を以て広報部に貢献しています。ですので、広報部部長として彼女は信用していますし、信頼もしています。」

 

 おや?木地君がわたしをここまで誉めるなんて……。さっきノートでわたしの頭を叩いた人と同一人物とは思えないなぁ。

 

標示「ですが……、尊敬はしてません!」

 

 うおおおおい!なんだその一度上げてから落とす手法!さっきの感動を返せコノヤロー!

 

標示「彼女はネタの予兆を察知すると、その場所に急行しないと気が済まない性格なのです。本来なら美点と称賛すべき探求心なのですが、部長としてはやるべき仕事を放り出して現場に向かうものですから、我々の悩みの種の一つなのです。ですので、私からは一つお願いを。青葉部長が部室を飛び出しそうになったら、全力で取り押さえてください。」

 

 くっ、全て事実だから、ぐうの音も出ない。

 だけど、新聞のネタは部室で生まれてるんじゃない。現場で生まれてるのよ!読者に正確な情報を与えるためには、直接現場に赴き、関係者に徹底取材、必要ならば自分の考察も載せつつ、中立の立場で物事を語る。

 これがわたしのジャーナリズムよ!

 

 その後も、唯一の二年生部員である『新野すみれ』さんに始まり、一年の後輩の自己紹介もスムーズに行なわれた。

 それにしても皆真面目だなー。逆に言えば特徴が少ないとも言えるから、わたし個人としては、一人くらいぶっ飛んだ奴がいてくれると嬉しかったんだけどなー。

 

文「それじゃあ、早速で悪いけど、取材に行ってきてくれないかな?対象は二年のAクラスとFクラスの代表。人数は……二人ずつでいいかな?我こそは、と言う者は挙手をお願いしまーす。」

 

 ………………全員の手が挙がった。皆手を挙げないという最悪の事態だけは無いとは思ってたけど、逆は想定外だったわ。

 仕方がないから、フィーリングで適当に四人を選抜。皆やる気があるから、誰を選んでも問題ないよね?

 

文「ふう…………。なんとか決まったね。それじゃ、残りの人達は、木地君の指示に従ってね。取材班はAクラスとFクラス、どちらの取材に行きたいか選んで頂戴?」

 

 これは流石に予想できる。従来のFクラスなんて、関わりたくない相手だ。皆Aクラスの人から話を聞きたいと思うだろうね……。仮に話し合いで2対2に分けようとしても、十分はかかるんじゃないかな?

 そう思ってたら、一分も経たずに割り振りが決まった。

 

文「…………わーお……。なんと言うか……その……君達優秀だねー……。いや、私の予想があまいだけか……?」

 

 なんとキレイに2対2にちゃんと分かれた。さっきといい、今といい、私の予想を見事に塗り替えている。

 

「ぶ、部長?」

 

文「あー、やや、何でもない、何でもない。それじゃあ、早速活動開始ね。と言っても、どっちもアポとか取ってないから、突撃取材みたいな形になるけど……。」

 

 わたしの場合はそれで強引に押し切ることが多いけど、相手の予定もあるわけだからね。ま、あの二人に予定なんてあるようで無いものだと思うけど。

 

「……分かりました。出来る限り頑張ってみます!」

 

「そうだな。親父も言ってた……。良いことも悪いことも経験して大人になっていけって……。」 

 

 なんてポジティブな後輩たちなんだ。

 

「けども、問題はFクラスの方だな……。話が通じる相手だといいんだが……。」

 

文「あー、それは問題ないわよ?確かに問題行動が多いけど、話が通じない相手ではないから。むしろ………………Aクラスの取材の方が困難を極めるわよ?」

 

「ど、どうしてですか、部長?」

 

文「…………。」

 

 さーて、どう切り出そうか……。2-Aの代表は『死神』という異名を持っていた双眼零次君。2-Fの代表の坂本雄二君も『悪鬼羅刹』なんて恐ろしい異名を持ってるけど、問題は異名(そこ)じゃない。

 双眼君とわたしは去年の『ある出来事』がきっかけで深い溝ができている。それも、わたしがどう謝ろうが埋めることのできないほどに深い溝だ。これを事細かに説明していたら、部活の時間が無くなってしまう。わたしたちが発行している『文学(ふみがく)新聞』の締め切りに間に合わなくなるのは、部長として避けたいところ。

 

文「そうねー……。じゃ、時間がないから簡潔だけども、その理由を説明するわ。まず、私が去年所属していた部活について。……………………。」

 

 結局苦渋の決断……って程ではないけど、零次の取材が難航する理由となる出来事について話すことにした。

 ……補足のほうは、悪いけど零次君に丸投げしようかな……。

 

 

・・・

 

 

零次「断る」

 

すみれ「そこをなんとか!!」

 

 Fクラスとの戦争から二日あけた日の放課後。俺の気まぐれでαクラスをAクラスに召集し、いつも通り勉強会を開いているところに、真倉ねるのと同じCクラス所属で広報部の新野すみれが、一年生であろう男女二名を引き連れて、取材のお願いをしてきたのだ。……なぜか俺に。とりあえず勉強の邪魔にならないように場所を変えたが、正直言うと面倒臭い。

 

 ここには今いないが、霧島に聞きたいことがあるというなら、話は分かる。去年まで、学年首席の座を守り続けた生徒だ。今はその座を俺に奪われた訳だが、成績は現状維持……いや、微量ではあるが、上がり続けている。王座奪還も決して夢物語で片付けていいものじゃない。

 一歩譲り、久保に取材したいというのでも分かる。去年まで霧島・近衛・姫路の三名に続き、男子生徒では最も得点の高い生徒だ。今年に入ってから、俺との付き合いがかなり増えたからそのついでに俺からもコメントを貰いたい、というのなら、渋々ではあるが了承した。

 

 だが、奴らのメインはどこからどう見ようと俺のようだ。…………まさか、青葉先輩は『あの出来事』を話してないのか?

 

零次「その取材に一体何の意味がある?去年みたいにあることないこと適当にでっち上げて書けばいいだろうが。」

 

「そんなことできませんよ!」

 

「そうだ。親父も言ってた……。平気で噓をつく人間にはなるなって……。大体、そんな出鱈目新聞、誰が手に取ると言うんですか!」

 

 そう語ったのは、一年生二人組だ。ご丁寧にネームプレートも提げている。

 

 まず、俺の言葉に真っ先に否定を入れてきたのが、『花沢ちゆり』という女子生徒。栗色の髪に、赤・白・黄色の髪留めをしている。パッと見で入って来た情報はこれくらいだが、きっと一年の間では優等生として有名なんだろうな。

 もう一人は『近藤太一』という男子生徒。運動部にいた方が自然なくらいがっしりした体系と、それに見合う太めの眉に、それらに見合わないつぶらな瞳を持つ生徒だ。発言から察するに、父親を大分尊敬しているようだ。

 

 ……彼女らの紹介はこんなところでいいだろう。

 話を戻そう。でっち上げばかりで嘘八百並べた新聞をとる奴がいるのか、だったな。

 

零次「…………取ってるぞ。この学園の七割の生徒が。」

 

「なん…ですと……。」

 

「…………もしかして、『文月新聞』のことですか?」

 

零次「なんだ、聞いてたのか。」

 

 あの先輩のことだから、てっきり教えてないものだと思ったんだが……。

 

「はい。去年まで発行されていた学校新聞で、現在では廃部になっている新聞部が記事の作成に関わっていた、ということくらいですが……。」

 

すみれ「というか、そんな記事も書いていたのね。私が知っているのは、『彼女にしたくない女子ランキング』とか『モテそうな男子・女子(同性愛編)ランキング』とか、訳の分からないランキングを作っていたことだけど……。」

 

「え……。何なんですか、そのランキング。一体どこに需要があるんですか?」

 

零次「文月新聞の読者の過半数だろうよ。アイツらは、他人の不幸をオカズにご飯をおかわりするような連中だからな。」

 

 文月新聞には、他にもどこかのサイトから文章を丸パクリしてきて書いたような記事や、明らかに盗撮した写真を使ったゴシップ記事などが掲載されていた。

 新野が言ったランキングも、『平気で人を殴る』や『不潔な人』など、人となりの方向性を示すものではなく、実名を出さなければ無効票扱いという質の悪いものだった。

 

 俺にとって、そんな新聞は非常に不快なものだった。当然、新聞部に質の改善を要求する投書を何度も送った。だが、その要望が届くことはなかった。近衛から聞いた情報では、俺の他にも同様の意見を書いた生徒が十数人いたらしいのだが、それでも聞く耳持たずだそうだ。

 そのため彼らの間では、当時の部長が八木先輩、顧問教師が八木沢先生だったことから、『読まずに食ってるのではないか』という噂が広まっていた。

 

零次「とにかく、俺は文月学園の新聞をよく思ってない。だから、お前達の取材を受けたくないんだ。どうしてもというなら、他を当たれ。…………勉強の邪魔だ。」

 

「……そういう訳にもいきません。私達は部長から、必ずあなたに取材をしてこいと、言われているので。」

 

 俺の威圧に対して、それほど間を開けず、花沢が口を開いた。

 正直、そんな言葉無視してさっさと勉強に戻りたいが、残りの二人が震えている中、一人臆せず立ち向かう勇気は称えるべきだろう。……それにしても、彼女と同級の近藤はともかく、先輩であるはずの新野がこれでいいのか?それとも、花沢がおかしいだけか?

 

零次「部長(うえ)に言われから、仕方なく俺から話を聞こう、という事か?そうやって、上司の機嫌取りをするための取材なら、協力なんてしない。そこの二人を連れてさっさと帰れ。」

 

「……そうでした。あなたは処暑中学出身でしたね。あの学校のことはよく分かりませんけど、先生のことを敬わない不良校だってことは知っています。」

 

零次「……お前は二つ誤解している。まず一つ、俺ら処暑中学生でも尊敬する人くらいいる。ただ、あそこの教師が俺達の教育を半ば諦めていたが故に、俺達も彼らを尊敬しなかった。要はお互い様だ。」

 

 文月学園(ここ)だって、去年は別の意味で尊敬できない先生が大半だったからな……。

 

零次「もう一つ、俺は別に組織において、上の立場の人間に従うこと自体、悪く言うつもりはない。だが、そうやって上司に盲目的に従い、自分の意見を伝えられない奴が、俺は嫌いだ。部下の意見を聞かない上司はなおさらな。……新聞部こそがいい例だ。」

 

 八木先輩はとにかく人の話に耳を傾けない人だと、近衛から聞いている。正確には、自分に都合のいい話、興味のある話しか聞かない人だ。

 そのため、今から二年前に文月学園が設定した『とある事情』によって部長となった、八木先輩はやりたい放題。逆らう奴はあらゆる手段を用いて部を辞めさせ、気に入らない内容の記事はその場で破り捨てることも多々あった。後でコッソリ記事を改竄することも常習化していたが、八木先輩の圧力を恐れて誰も逆らえなかったのだ。

 結果、溜まりに溜まった不満を爆発させた青葉先輩の手によって潰されたのだ。

 

「そうですか……。ですが、私達は新聞部ではなく広報部です。私達のプライドにかけて、皆に見てもらえる新聞を作って見せます!」

 

すみれ「それ、今日入部した花沢さんが言える台詞じゃないから。……まあでも、彼女の言う通りよ。文月新聞のようなものを、私達は絶対作ったりしないわ。」

 

 ようやく立ち直ったのか。もっとも、今更後輩に賛同したところで、俺の評価は変わらんぞ?

 

「俺も同じです。部長も言ってた……。新聞記者の祖父の威信にかけて、たった一つの真実を皆に伝える、と!」

 

 色々混ざってないか?そのセリフは……。というか、去年のあんな記事を許してる時点で、祖父の威信も何も無いだろ……。

 正直、俺の意見は変わらない。コイツらの取材など受ける気などないんだが…………。同時にコイツらの目を見るとNOと言い難いの事実なんだよな……。だったら、受けてやるか。

 

零次「……分かった。いいだろう、取材を受けよう。」

 

「え?本当ですか?」

 

零次「ああ。ただし、条件がある。」

 

すみれ「なんですか?後輩たちに何をさせる気ですか。」

 

零次「そんな大したことじゃない。既に青葉先輩なら掴んでいると思うが…………。お前達から、ちょっと伝言を頼まれてくれないか?」

 

 

・・・

 

 

文「あややー。本当、君達には驚かされますねー。きっと、うまい具合に取材が進まず、落ち込んで帰ってくると思ったのですが……。」

 

 時刻は17:30。わたしはAクラス取材班から、結果報告を受け取りました。まさか、あの双眼君との取材を成功させるとは……。

 

「いや、本当ですよ。取材はスムーズに進みましたけど、そこに行き着くまでが大変でしたよ。」

 

「それより、青葉部長。まさかとは思いますけど、最初からあの……Aクラスの代表には取材不可能だと思ってませんでした?」

 

文「あ、あややや。そんな訳ないじゃないですかー。」

 

 見透かされてるー!

 

「…………そうですか?あ、それと双眼先輩から、伝言を貰っています。『来週土曜日にαクラスの入部試験を行なう。是非とも取材をお願いしたい。』……だそうです。」

 

 …………さて、これはどう受け取りましょう……。字面通り捉えるなら、単なる取材の招待文。でも、双眼君が文字通りの意味で完結させるとは思えません。となると恐らくは…………挑戦状か……。

 

文「……よーし、分かりました。なら、その入部試験とやらに潜入調査といきましょう。」

 

「つまり、実際にその入部試験を他の入部希望者と一緒に受けるのですね。」

 

文「理解が早くて助かります。おそらく、向こうもそのつもりで伝言を頼んだのでしょう。……詳しい取材交渉は……花沢さん、お願いできます?」

 

 先の取材報告からして、一番双眼君からの評価が高いのは花沢さんのはず。二度目ですし、彼女なら今回の交渉もスムーズに進むでしょう。

 

「わかりました。と、言いますか、私しか出来ないでしょうね……質問もほとんど私がして、太一君はビビってたので。」

 

「こ、このこと親父に言わないでくれよ!?女の子の隣でメソメソしてたなんて知れたら、親父、大泣きしちゃうから!」

 

文「あやややや……。とにかく、二人とも。ここからが本番です。文学新聞を双眼君にも見てもらえるような記事の作成、よろしくお願いしますよ!」

 

「「はい!」」

 

 これがわたし達、広報部の活動。

 そのスローガンは『清く正しい広報部』。







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恋文騒動

 今日はいい天気ね……。鳥の囀りが聞こえる。家の庭には、お母さんの趣味で植えてある花々が綺麗に咲いていた。窓の外に視線を移せば、広がるのは当然青い空。白い雲は流れ、太陽が眩しく照りつけている。

 試召戦争の喧騒から解き放たれて三日。それまでは他のクラスを幾度となく振り回す日々を過ごしてきたけど、そんな日々とももうオサラバ。ようやく私……根民円(ねたみまどか)にも平穏がやってきた。

 さて、今日はどう学園生活を過ごそうか……。まあ、私のような劣等生は勉強を頑張りつつ、平凡な学園生活を…………。

 

西村「坂本。」

 

雄二「………………明久がラブレターを貰ったようだ。」

 

 

「「「殺せぇぇっ!!」」」

 

 

 ……どうやら、平凡な学園生活を送れるのは、まだ先のことらしい……。

 

 

・・・

 

 

 クソ代表の爆弾発言によって、教室は地獄絵図と化していた。というか、クソ代表の声って結構小声だったわよね?……アンタら、どんな聴覚してんのよ。

 

「どういうことだ!?吉井がそんな物を貰うなんて!」

 

「それなら俺たちだって貰っていてもおかしくないはずだ!自分の席の近くを探してみろ!」

 

 いや、吉井君が貰っているから自分も……なんて、あるわけないでしょ。アンタ達と吉井君じゃ、全然違うんだから。

 

「ダメだ!腐りかけのパンと食べかけのパンしかない!」

 

 さっさと捨てろ。不衛生にも程があるわ。

 

「もっとよく探せ!」

 

「……出てきた!未開封のパンだ!……賞味期限切れの。」

 

「お前は何を探してるんだ……。」

 

 本当その通りである。

 

 その後は西村(鉄人)先生の一喝で、出席確認がスムーズに行なわれた。……クソ野郎共の返答が『吉井コロス』であることを除いて。

 

西村「……よし。遅刻欠席者はいないな。今日も一日勉学に励むように。」

 

明久「待って先生!行かないで!可愛い生徒を見殺しにしないで!」

 

 吉井君も流石に、普段は恐怖の対象でしかない鉄人先生に助けを求めるしかないようだ。確かに、あんな堂々と殺害予告を大人数から受けて、平然としていられる人間はいないわね。

 

西村「吉井、間違えるな。」

 

 扉に手をかけたまま、鉄人先生は吉井君にそう告げた。でも、『間違えるな』って、ここまでのやり取りで何か勘違いを起こす要素があったかしら?

 

西村「お前は不細工だ。」

 

 そこ?仮に事実でも、本人を前にして『不細工』なんて言うのは、教師としてどうなのかしら?

 

西村「授業は真面目に受けるように。」

 

明久「先生待って!せんせーい!」

 

 吉井君の叫びも空しく、鉄人先生は教室を去っていった。

 ……もしかして、鉄人先生もクソ野郎サイドについているのかしら?吉井君が観察処分者になる前日、鉄人先生の私物が転売されたって話は聞いたけど、数ヵ月も前の話を未だに根に持ってるのかしら?

 

 その後はクソ女……失礼、島田美波に指の骨を折られそうになったり、姫路瑞希にも暴力を振るわれそうになったり、とても吉井君が手紙を読める状況ではなかった。

 ……まあ、教室が殺気に満ちている時点で、鉄人先生がそれを止めなかった時点で、もう手遅れだけど。

 

秋希「ちょっとちょっと。皆一旦落ち着こうよ。」

 

 そう言ってパンパンと手を叩いたのは、私達のクラス一の優等生の近衛秋希さんだ。この前のAクラスとの戦いでも、吉井君の他で唯一Aクラスに勝利した人だ。

 

雄二「そうだな。今問題なのは、明久の手紙を見ることじゃない。」

 

 そこにクソ代表が割り込んできた。もう、ロクな方向に進まないことが目に見えてるんだけど……。

 

秋希「そうそう。Aクラスとの再戦が可能になるまで三か月『しか』ないんだから、目の前のことより……。」

 

雄二「問題は、明久をどうグロテスクに処刑するかだ。」

 

秋希「……………………。」

 

 …………その言葉、そっくりそのまま返してやるわよ、クソ代表が。

 

秋希「はあ……。もうどうでもいいから、私からも爆弾落とさせてもらうわ。吉井君が持ってる手紙……、下駄箱に入れたのは私よ。」

 

「なんだとぉ!お前達、追撃隊を組織しろ!」

 

「手紙を奪え!吉井をコロセ!」

 

「近衛さんからラブレターを貰えるなど、万死に値するぅぅぅぅぅ!」

 

「サーチ&デス!」

 

 ああ、もう、収拾がつかないじゃないの。『もうすぐ一時限目が始まる』という状況で、吉井君をはじめとする、男子総勢四十四名+クソ女一名が教室を飛び出していった。

 

 

・・・

 

 

 その後も、クソ代表が姫路さんを連れて、悠々と教室を出ていってしまった。これで現在教室に残っているのは、私と木下さん……君?と、それから近衛さんの三人だ。

 この状況、どう先生に説明しようかしら……。

 

円「それにしても、まさかあなたが吉井君にラブレターを書くなんてね……。」

 

秋希「……何言ってるの?私が吉井君に……、というかFクラスの連中に、ラブレターなんて、ウソでも書くわけないじゃん。」

 

 はい?

 

円「そっちこそ、何言ってるのよ。さっき言ったじゃない、『吉井君の下駄箱にラブレターを入れた』って。」

 

秋希「他人の台詞を引用するなら、勝手な自己解釈はやめてちょうだい。私が認めたのは『吉井君の下駄箱に手紙を入れた』ことだけ。『手紙を送り主が私だ』とは、一言も言ってないし、ましてやラブレターに関しては、『ラ』の字も出てきてないわよ。」

 

 実際は手紙を拾って入れただけ。坂本君の話を真に受けて、勝手にバカ共がそういう解釈をしただけだと、近衛さんは続けた。……結果バカでない人間が一匹釣れてる訳だけど。

 

秀吉「なるほどのぅ……。お主がなんとなく噓をついているとは思っておったが、そういうことだったのじゃな。」

 

秋希「そもそも、あの手紙がラブレターかどうかも怪しいのよね。」

 

円「どうして?」

 

秋希「封筒に宛名が書いてなかったのよ。差出人不明の手紙なんて、普通は開けたいとは思わないわよ。」

 

 怪しいというには、それだけでは証拠として弱い気もする。私なんかは、気になって開けちゃいそうだし……。

 

秀吉「ううむ……。となると、お主が明久の下駄箱に手紙を入れたのは偶然なのかのう?」

 

秋希「あー…………。それは…………偶然じゃあ…………ない……の……よね…………。」

 

秀吉「な、なんじゃと……。」

 

 ……なんか、ものすごく歯切れ悪くなってるんですけど。

 

円「拾った手紙に何か特徴でもあったんですか?もしくは、宛先の吉井君の名前だけは書いてあったとか……。」

 

秋希「……どっちでもないわ。ただ、手紙の内容は……書きかけだけど、見せて貰ったことがあってね……。そこに吉井君の名前があったわ。」

 

秀吉「それで、手紙が明久宛だと思ったんじゃな。」

 

秋希「そういうこと。もしかしたら、偶然同じ封筒が使われただけの全く関係ない手紙かもしれないけど……。」

 

 近衛さんの話では、封筒は柄物ではなく、真っ白なものだそうだ。確かに、そんなシンプルなものなら、誰かが同じ封筒を使っててもおかしくはない…………はず。

 

秋希「それ以前に、『観察処分者』で有名な吉井君に、この学園の人間がラブレターを送るわけないでしょうけど。仮にラブレターだとしても、送り主は『自分の思い通りに事が運ばないと気がすまない人間』か、『恋人という名目で吉井君を自分に都合のいい傀儡にしたい人間』の、どちらかに違いないわ。」

 

円「要は、まともな人間が吉井君に手紙を送るわけがない、と?」

 

秋希「Yes!その通り。」

 

 さすがに言い過ぎだと思うけど、そこそこ当たってる気もする。

 

秋希「さてと、そろそろ先生も来る時間かしら?誰も戻ってこないとなると、いい加減連れ戻した方がいいわね……。」

 

ガッ ガッ ガガゴゴゴゴ……。

 

?「全員着席。…………おや、三人だけですか?残りの生徒はどこに行ったのでしょうか。」

 

 そう言って近衛さんが教室を出ようすると同時に、今日の授業を担当する先生がやってきた。

 ……でも、おかしい。一時限目の科目は化学だったはず。今教室に入ってきた先生は、普段化学を教えている布施先生ではない。

 

 パッと見た感じの印象を挙げるならこの先生……。

 私が知っている先生の中で、一番年齢が高く。

 私が知っている先生の中では、鉄人先生に次いで、筋肉のつきかたがしっかりしている。

 そして、私が知っている先生の中で、一番声が低い。

 

秋希「……ラ、『ラスボス』。」

 

?「近衛秋希さん。教師を渾名で呼ぶ姿勢は感心しません。そういう態度は後々社会に出たとき、苦労します。子供の戯れで済んでいる今のうちに、矯正することをおすすめします。」

 

秀吉「こ、近衛よ。ワシはあの先生のことは知らぬのじゃが……。何者なのじゃ?」

 

?「木下秀吉君。たった三人しかいないとはいえ、今は授業中です。私語は慎みなさい。そして、皆さん。そろそろ着席しなさい。……Fクラスには、立ったまま授業を受ける規則があるというのであれば、黙認しますが。」

 

 ……とりあえず、今この場で先生に逆らうのは得策ではない。吉井君は心配だけど、仕方なく着席する。

 

小林「着席しましたね。では、木下秀吉君と根民円さんは、どうやら(わたくし)のことは知らないご様子なので、自己紹介から始めましょう。私、第三学年主任の小林隼丸(こばやしはやぶさまる)と申します。」

 

 その後の先生の話を纏めるとこうだ。

 

・担当科目は化学。まあ、布施先生の代理で来ているので推測は出来た。

 

・野球部の顧問を勤めている。そもそも私も含めて、Fクラスは部活とほとんど無縁のクラスだから、この情報自体どうでもいい。

 

・趣味はカラオケ。得意ジャンルは演歌で、腕前はプロ並み。近衛さんが言ってた『ラスボス』の渾名の由来はここから。ちなみにJポップやアニソンも熱唱するらしい。

 

 そして、最後に一番驚いたことだけど……。

 

 3年生のEクラスがBクラスに宣戦布告したらしい。

 その影響で、布施先生が来れなくなったため、急遽手の空いている小林先生がやって来たのだそうだ。

 

小林「私からの話は以上です。では、早速授業を始めます…………と言いたいところですが、もう一度聞きます。貴方達以外のFクラス生徒はどこに行ったのですか?」

 

 うっ……、何なの?この威圧感は。顔を上げることはおろか、指一本動かすことも出来ない。例えるなら、まるでこの校舎が全壊するほどの地震が起きているかのような感じ。または、体に重りを着けられて、海の底へと叩きつけられるような感じだ。

 でも、すぐさま近衛さんが状況を、今朝のHRから、詳細に説明してくれたお陰で、重圧から逃れることができた。

 

小林「なるほど。………………わかりました。」

 

 小林先生はそれだけ言うと、私達にプリントを渡して教室から出ていった。

 ……え……あれ?

 

円「あの、授業は……。」

 

小林「担当の先生が来られない以上、授業の続行は不可能と判断しました。『各自にプリントを配って次回の授業の時に提出させること。』と、布施先生からの指示も遂行致しましたので、私は失礼させていただきますよ。」

 

秀吉「か、代わりに授業を行なうことは、本当に不可能なのかのう?」

 

小林「目上の相手には、敬語を使うことを覚えましょう、木下秀吉君。それはさておき、質問にお答えしましょう。私の授業は、Aクラスでも最後まで根気よく受け続けられるのは、ほんの一握りしかいないほどの難しさ、厳しさがあることで有名なのです。仮に授業をしたところで、ほとんどの生徒が一分も経たずにダウンするようなクラスに、私の教えを乞う資格などありませんよ。」

 

 また、この重圧……!

 でも、言ってることは正しい。私も苦手は数学は半分上の空になってるし、得意な古典は周りを見たら、早弁してたり、熟睡してたり、音を消してゲームをしている人まで……。先生の立場からしたら、教えるのも嫌になるわね。…………反省しなくては。

 

小林「それに、これから野暮用がありますので。それでは改めて失礼させていただきます。」

 

 そう言って、次こそ本当に小林先生は教室を出ていった。

 

秋希「……それじゃ、今のことを代表に伝えに行って来ますか。」

 

秀吉「ワシも行くぞ。微力ながら何かしら力になれるかもしれぬし……。何より、このまま明久を見過ごすわけにもいかぬしのう。」

 

円「……でも、教室を空にしておくのも悪い気がする。」

 

秋希「………………。なら、円ちゃんは教室に残ってて。行くよ、秀吉君!」

 

 

・・・

 

 

 結論を簡潔に言おう。

 

 吉井君の恋路は踏みにじられた。四十六人の悪魔によって。

 その主犯格の名は『姫路瑞希』と『坂本雄二』。前者がラブレターをビリビリに破き、後者が何故か持っていたライターでその破片を灰にしたそうだ。

 その後に暴徒と化したその他Fクラスの襲撃にあうところを、間一髪近衛さんが間に合い鎮圧。あの場にいた全員補習室送りとなった。

 そう、全員。まあ、近衛さんと木下さん……間違えた、君はともかくとして、他の人達は皆授業をサボってた訳だから当然だ。被害者の吉井君も同罪なのは半分納得がいかないけど。

 

 そういう訳で、私は今静かに怒りを燃やしている。かの邪智暴虐のクソ代表には、それに踊らされたクソ野郎共とクソ女には、必ずや制裁を下さんとケツイを抱いた。

 

 

 サア…………。行動カイシダ。

 

 

 『写真』が壁の半分を埋め尽くした部屋には、奇怪な音が響き渡り、窓から差した月明かりが照らし出した人影が浮かび上がっていた。

 

 

・・・

 

 

 次の日。『私』にしては珍しく、HRギリギリに教室に着いた。

 

秋希「おっはよ~。」

 

円「……おはよう。」

 

明久「あ、近衛さん、おはよう。」

 

秀吉「おはようなのじゃ。珍しいのう、お主がこんな時間に登校してくるとは。」

 

秋希「まあね。………………ん?」

 

 そこには異様な光景が広がっていた。念のため、スマホを確認したけど、時間は8:40。ちょうどHRの合図となる鐘が鳴り、西村先生も来たので、こっちが正常なのは確定だ。

 

西村「ハア…………近衛、早く席に着け。」

 

秋希「はい。あの……西村先生、大丈夫ですか?それに、Fクラスの大半がまだ学園に来てないんですけど……。」

 

西村「……問題ない。ちょっと頭痛が……酷いだけだ。授業に支障は……ない……。」

 

 そう言いながら教卓に向かってるけど……。すごいフラフラだ。今にも倒れるんじゃないかって心配になる。

 

西村「よく聞け……。今日、お前達以外のFクラスの生徒は……欠席だ。なんでも……、昨夜から……今朝にかけて、腹痛や高熱、吐き気を訴え始めたと、……保護者から連絡があった。」

 

 ええ!?どういうこと!?昨日までは皆ピンピンしてたのに!?

 

西村「原因は不明だ……。全員自宅にいるときに……各々の症状が見られたとも推測されているが……、大事をとって、Fクラスには一週間ほどの……学級閉鎖の措置が取られることになった。」

 

 はあ……せっかく遅刻しないように猛ダッシュで教室に駆け込んだのに……。こんなことになるんだったら、堂々と遅刻すりゃよかった。全然よくないけど。

 

西村「連絡は……以上だ。各自、プリントを……持って帰って、この一週間、より一層勉学に……勤しむこと。それでは……解散……。」

 

 そう言って、まるで酔っぱらいか怪我人みたいな足取りで、西村先生は教室を後にした。見ているこっちはハラハラしっ放しよ。途中で倒れなきゃいいんだけど……。

 

 その後は、特筆すべきこともなく、プリントを各自に配って即下校という形になった。とは言っても吉井君はどうせサボるだろうから、監視という名目で、ついでに秀吉君と一緒に勉強会を開くことになった。円ちゃんは、なんか適当に理由をつけて、そそくさと帰っていってしまったけど。

 

 ただ、彼女に関して言うことがあるとするなら。

 帰り際、一番最後に教室を出た彼女が恍惚な笑みを浮かべていたことは、私しか知らない、ということだ。



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αクラス入部試験 ~導入~

-------------

集え! 勉強バカ!

           

  努力するもの大歓迎! 

             

  所 属 者 一 覧  

             

 2-F 近衛秋希 2-A 久保利光

             

 2-A 佐藤美穂 2-A 工藤愛子

        etc.

入部届は上記一覧の生徒に

    直接手渡しで   

            

-------------

 

 

 AクラスとFクラスの戦争が終わった次の日に、こんなクソみたいなポスターを貼り出した。それから三日が経った今日、αクラス全員が俺の家に集まった。

 目の前には入部届の山。その数は実に百を超えている。

 

零次「……お前ら、集めすぎじゃないか?」

 

 学園公認の部活になったとは言え、『入部試験』までは、俺や明久がこの部活に所属している事がバレるのは避けたい。他にも色々と情報を極力規制するために、入部届の受付は、直接手渡し以外認めない方式をとり、今日まで部活を行なって来なかったのだ。

 それなのにコレだ。しかも、所属クラスを確認したら、二年のAクラスやFクラスの名前もちらほら入っている。今さらやる気を出しましたアピールをしたところで、少なくとも俺には響かない。

 

零次「近衛、何かFクラスの連中を煽ったか?やけに奴らの名前が多いんだが。」

 

 Aクラスはともかく、Fクラスは入部届(こんなモン)出してる暇があったら、分からないところを直接近衛や姫路にでも聞けばいいだろうに。

 

明久「あ……その……零…。」

 

秋希「いやいや、それだけFクラスが勉強に必死になろうとしてるってことでしょう。それでいいんじゃない?」

 

 明らかに明久の話を遮るように近衛が割って入ってきた。……これはアレか?明久がなんかヘマやらかしたのか?

 

零次「……まあいい。どうせ『入部試験』があるわけだからな。どうせ奴らはそこで落ちる。」

 

 いや…………落とす。『手紙(ラブレター)を貰ったから』なんて下らない理由で明久に暴行を加えるような奴らに、αクラスの敷居は跨がせない。

 

零次「というわけで、だ。各々入部試験で使用する問題を考えてもらってた訳だが……。進捗を聞こうか。」

 

 そう言って、工藤・佐藤・影山・真倉と、順番に聞いていった訳だが……。まあ良くも悪くも優等生の作るような問題だ。ちゃんと勉強していれば解ける、良識の範囲に納まったものだ。

 

零次「……なるほどな。近衛はともかくとして……。久保、お前が『こんな問題』を作ってくるとは、思わなかったんだが……。」

 

 だが、久保と近衛が提示した問題は、出題者の思想や悪意が、見える奴には見える、そんな感じのものだった。今いるメンバーで最も付き合いの長い、近衛が作ることは想定していたが、久保まで同じようなことをするとは……な。

 

利光「これでも友達だからね。君が何を考えてこの入部試験を企画したのか……。去年、君が受けた扱いを考えたら、まず普通に相手を試すような問題なんて、望んでない。今まで見下された仕返しに、意地悪な問題を出して受験者を叩き落とすつもりなんだろう?」

 

零次「…………流石だな。その通り、久保が言ったことは概ね当たってる。あの時『入部試験』なんて言ったわけだが、その実態は『退部試験』だ。文月学園の生徒連中が、いつまで『過去の概念』を引き摺っているか、再度確認するための、な。」

 

 わざわざ『概ね』なんて言ったのは、俺は『見下した奴らへの仕返し』なんてことを少しも考えちゃいないからだ。そんなことをしたところで、そういう奴らは『知恵』よりも『悪知恵』を働かせるだけ。

 

秋希「そもそも零次はあんまり他人と関わりたがらないからね。実際50人もいるAクラスで、君らとしかほとんど交友してない時点で、察しがつくと思うけど。」

 

零次「友達100人作ったところで、そいつら全員と平等に接することなど、不可能に近いだろ。それに、組織は大きくなったら、自然と内部で小さなグループが出来上がる。そこに悪意を持った集団が出来たら、そいつらが余程の馬鹿でもない限り、一気に組織は瓦解する。」

 

 俺は今まで何度もそういう経験をしてきた。俺の友達だった奴らが、次の日には敵になってることが当たり前だった日常が、確かに俺の人生にあった。

 

零次「ま、工藤も佐藤も影山も真倉も、それぞれ頑張って考えたんだ。お前達の問題も何かの形で利用させて貰うさ。」

 

愛子「……もしかして、私達も試されてた、のかな?」

 

零次「それはお前達の解釈次第だ。それにどういう印象を抱くのかも、な。」

 

 拡大解釈と被害妄想は、文月学園の得意技だからな。ここにいる奴は、そうでないと半分ほど思ってるが。

 

零次「さてと、残るは明久だけだが……。一応聞くが、何か考えられたか?」

 

明久「…………。」

 

幽也「……まあ…………、考え……て…………ないよね……。」

 

ねるの「仕方ないっしゅよ。わたしゅたちだって、零次の考えなんて分かって無かったんしゅから……。ふあぁ……。」

 

 真倉、それはフォローなんだろうか?

 

零次「まあ、安心しろ。今日集まってもらったのは、試験問題の中間報告だからな。ここで問題を考えて貰って構わないぞ。」

 

明久「そ、そうなの?」

 

零次「ああ。今までの会話で、どんな問題が『αクラス入部試験』にふさわしいか分かったろう?ズバリ、『自分以外が解けない、かつ正解に辿り着く過程までに地雷が存在する問題』だ。後半は出来れば入れて欲しい、ってだけだが。」

 

 実際、俺が考えた問題には両方の要素があるし、久保や近衛も問題の意図を聞いたところ同様の要素が含まれていた。

 他の奴らのはAクラス相当の学力故に問題の難易度は高いものの、そういった『引っかけ』が存在しない、素直な問題だった。これでは奴らの心の底、本性を測ることができない。

 理不尽な問題を突きつけることで、俺の見たいものが得られる。そう思って、この条件を入部試験に求めたのだ。

 

秋希「それじゃあ、改めて皆で問題を見直すとしますか。」

 

零次「そうだな。選択肢は多い方がいい。なるべく沢山問題を量産するぞ。」

 

「「「了解!!」」」

 

 さて。この入部試験を突破する奴は果たして何人いるのだろうな。期待せずに楽しむとしよう。



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αクラス入部試験 ~試験開始~

 四月もあと二週間弱で終わりを迎える今日この頃。

 このわたし、広報部部長にして、3-C代表も務める青葉文は、原稿の確認作業を行なっていた。

 

文「あやー……、今月は随分と良質な新聞が作れそうですねー。」

 

標示「……そうですね。こうして大量の原稿を見ると、例年よりイベントが多く感じますね、部長。」

 

 副部長の木地君も、抑揚のない口調で話ながら、手伝ってくれている。

 

標示「先週の水曜にDクラス、金曜にはBクラスに勝利。それから今週火曜にはAクラスに宣戦布告……。2年Fクラスは異例のスピード、異例の回数で試召戦争を繰り返していたことが先日の取材で判明。それに影響を受けたのか、偶然なのか、3年Eクラスが同学年Bクラスに宣戦布告、からの勝利。」

 

文「それから、君のクラスメイトで美術部部長の羽黒光(はぐろひかる)君と、後輩の山下伝貴(やましたでんき)君、それから演劇部副部長の宝風月(たからふづき)さんが『羽黒(スプリング)(アート)(コンテスト)~高校生の部~』に作品を応募したのよねー。結果が出るのは、確か来週の土曜日……。」

 

標示「ちょうどαクラスの入部試験だとかで、我々が潜入調査を行なう日ですね。」

 

 そう。まさかまさかのダブルブッキング。と言っても、想定していなかったわけではない。広報部メンバーでαクラスの調査を行なうメンバーは既に決めているのだ。

 まず、先日の取材敢行のMVPである花沢ちゆりさんは確定。当然、わたしも参加する。後は、一年の残り七人から、学力の高い生徒三名を選出。

 αクラスは勉強のための部活だから、ある程度の実力がなければ振り落とされる。そう思っての構成だ。

 

文「まあ、入部届は我らが同志、近衛さんに預けたから、後は入部試験に向けて勉強しましょう。木地君、今日もご指導お願いしますよ。」

 

標示「……そうですね。ですが、まずは目の前の原稿を片付けましょうか。今はまだ、部活の時間ですし。」

 

 

・・・

 

 

 それから一週間が過ぎました。正直に言いましょう。……眠いです。

 ここ最近、αクラスの試験を突破するために、朝から晩まで、寝る間も惜しんで木地君と二人三脚で猛勉強しました。彼からも『次からは一人でやってください』とまで言われましたからね……。まあ、わたしも二度とやりたくはないですよ、こんな勉強法。

 

 試験会場となっている、二年のAクラス教室へと足を運ぶと、もう既に他の入部希望者や広報部の潜入取材班が何人も……、二十人とちょっとくらい居ますね。

 その中には、霧島さんに坂本君、土屋君など有名な人物の姿もちらほら見えている。

 

 それから、数十分後。残りの入部希望者と思われる生徒がやって来た。やって来たけど……、花沢さんから聞いていた人数より少ない気がする。入部希望者の数は百と両の手でギリギリ数えられるくらい。もう少しで試験時間になるのに、まだ六十人くらいしか来ていない。

 

秋希「はーい、皆さん着席してくださーい。机に名前が書かれてるプラカードがあると思うので、自分の所にお願いしますねー。」

 

美穂「あ、もし自分の名前が見当たらない場合は言ってください。」

 

 さらに数分後。時計は10:00を示した頃、現状αクラスとしてポスターに書かれたメンバー4人と思われる人達(近衛さんは知っているけど、他の人は曖昧なんです)が、教室にやって来て、着席を促してました。

 

秋希「はーい、どうも皆さんはじめまして。そうでない人の方が多い気がしますがはじめまして。私はこのαクラスの副部長……一応『クラス』と銘打ってるから、副代表かな……を努めさせて頂いております、近衛秋希と言います。よろしくー。」

 

「ん?今、副代表って言ったか?」

 

「じゃあ、代表って誰だ?」

 

「普通に考えて久保だろ?」

 

「でも、それなら後ろの方に構えてないよね……。」

 

秋希「さて、と。それじゃ、聞きますか。このαクラスの代表の姿……。見たい人は挙手をお願いします!」

 

 あやや、希望者ほぼ全員が手を挙げますか。代表のことを知っているこっちからしたら、この後の展開がなんとなーく読めるんですけど。

 

秋希「……もう一度聞きます。本当に代表に会いたい?」

 

 手が下げるものはいなかった。

 

秋希「きっと後悔するよ?」

 

 その言葉で二人ほど手を下げた。

 

秋希「誰が代表でも、本当に文句言わない?」

 

 さらに三人ほど手を下げる。

 

秋希「……本当に?」

 

 一人の手が下がる。

 

秋希「……ここまで念を押す時点で、大体察しがつくと思うけど……、本当に文句言わないのよね?」

 

 その言葉に一気に手が下がる。

 

秋希「一、二、三……………………、三十一。ギリ過半数か。分かりました。それじゃあ代表、入ってきて。」

 

 やや呆れ気味にそう言うと、代表が姿を表した。

 

一部男子生徒「「「……………………は?」」」

一部女子生徒「「「……………………え?」」」

 

 あー……。やっぱり予想通りの反応ですね。驚いてないのは、既に事情を知っている私達広報部のメンバー…………と、霧島さんと坂本君だけですか。

 

零次「おはよう。俺のことを知らない奴は、この文月学園にいないだろうが、自己紹介といこうか。俺が、2年Aクラス代表にして、このαクラスの代表、そして今回のαクラス入部試験の総監督を任された、双眼零次だ。」

 

 重く張り詰めた空気の中、αクラス入部試験が、始まりを告げようとしていた。



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αクラス入部試験 ~一次試験~

 どうも、新しく出来た勉強のための部活、『αクラス』の入部試験に潜入中の青葉文です。現在、そんな部活の代表が中学時代『死神』の異名を持っていた双眼零次だということが、本人の口から堂々と発表されたところです。周りの様子を見てみましょう。

 

「アイツが代表!?」

 

「どう考えたって近衛さんがふさわしいだろ。」

 

「どうせ、脅して無理矢理代表の椅子に座ってるに決まってるわ!そうでなきゃ、あんなクズが代表になんて、なれるわけないんだから。」

 

 あやややや、荒れてますね~。まあ、それはそれとして、折角なんで隣にいる落ち着いた様子の生徒に話を聞いてみましょうか。もちろん、小声で。

 

文「ちょーっと。すみません。もしかして、知ってました?この事。」

 

雄二「……んあ?そりゃあ、初めて知りましたよ。ただ、何となく……、そういう予感はしてました。」

 

 あやや、意外にも丁寧な受け答えが返ってきましたね。もうちょっと粗暴なリアクションを期待していたのですが。

 

文「ほうほう……。その心は?」

 

雄二「このαクラスの話を聞いたのが、近衛から……だからですかね。近衛が双眼と同じ中学出身で、その頃から友人関係だったことは、本人から直接聞いています。文月学園に来てからも、度々一緒にいる所を見ましたし……。」

 

零次「………………おい。いつまで喋っているつもりだ。」

 

 ……ヤバい。完っ全にお怒りじゃないですかー。しかも、目がこっちを見ているし……。やっぱり去年の『あの事件』のこと、根に持ってるんでしょうかね。

 

零次「既に入部試験は始まっているというのに、随分と騒がしいな。それとも、自分が入部出来るというのを確信してるのか?」

 

「はあ?当たり前だろうが。」

 

「アンタみたいなクズがいるような部活、アタシ達が入れないわけないじゃない。」

 

「むしろ、お前が邪魔なんだよ!どうせ、代表やってんのだって、近衛達を脅してるだけだろ!そうに決まってる!」

 

 あちこちから、双眼君を罵倒するような発言が飛び交っている。加えて嘲笑うような声もちらほら聞こえてきている。

 ところで、彼ら本当に受かる気あるんでしょうかねー?これ、一応『試験』ですよ?そんな態度取る人を受け入れる企業や大学があるんですかねー?

 

零次「ほう……、仮にも部の代表に随分言いたい放題言ってくれるな……。まあいい。では早速、一次試験を始めよう…………と言いたいが。」

 

 再びこちらに視線が向いた。いや、私というよりは、坂本君かな?

 

零次「坂本、他のFクラスの奴らはどうした?アイツらの姿が一人として見当たらないんだが。」

 

雄二「アイツら?さあなぁ…………。今頃、試験のこと忘れて、どっかで遊んでんじゃねぇか?」

 

零次「そうかそうか……、分かった。奴らには然るべき処置をとろう。では、改めて一次試験といこうか。近衛、工藤、久保、佐藤。『例のもの』を配れ。……相手を間違えるなよ。」

 

 そう言うと、近衛さん達が、持っていた何か紙らしいものを皆に配り始めた。それから少しして、私のところまで来て…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私をスルーして、後ろの人にその紙を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 …………え?もしかして、私無視された?

 

零次「まだ、紙は裏返すな。貰ってない奴は、そのまま待機してもらおうか。」

 

 どうやら、今の対応が正常みたいですね。よく見たら、私以外にも貰ってない人がちらほらいますね。坂本君に少し離れた場所に座っている霧島さんも貰ってない。広報部の皆も貰っていないようですね。

 

「あの、すみません、先輩。私、紙を貰っていないのですが。」

 

秋希「え?………………要るの?」

 

「…………?ええ。これから一次試験でしょう?一部の人に意図的に渡してないように見えたのですが、流石に不公平では、ありませんか?」

 

 そんな中、花沢さんは指示を無視して紙を貰おうとしてますね……。近衛さん、明らかに困ってる表情になってます。

 でも……………………。私はどこか罠臭い気がしてならないんですよね。わざわざ、意図的に渡す人とそうでない人を決めているような配布の仕方をしている時点で、ねえ?

 

 数分後、一応準備が整ったと思っていいでしょう。その間にも何名か自分がスルーされた瞬間、配布物を要求する生徒がいましたが……。もしかして、試験を受けさせないために、わざと配らないという嫌がらせが行なわれてんじゃ……?ちょっと前までは罠っぽいと思いましたけど、やっぱり不安にもなっちゃいますね……。

 

零次「……準備が出来たな。それでは、一次試験の内容を発表する。いたって簡単だ。渡された紙を裏返して、自分の名前を書く。それだけだ。」

 

 …………本当に簡単なことですね。周りも、あまりに簡単すぎる内容に目を丸くしてますよ。

 

零次「…………ところで話は変わるが、入部届を締め切ってから一週間、君達の行動を『観察』させて貰った。普段どれだけ勉強しているか、人間関係はどんなものか…………その他色々な。」

 

ざわ……ざわ……。 

 

零次「俺達はこれから、共に支えあい知識を高めあう仲間を、現状に満足することなくひたすら上を目指す志を持った生徒を求めている。逆を言えば、過剰に自分の知識をひけらかす者、他人を平気で貶す者はαクラスに不要だ。」

 

「は、はあ!?」

 

「何よこれ!?」

 

零次「何が言いたいか、簡潔に言わせてもらうぞ。αクラスに不適切だと思った者には…………。書いて貰うぞ…………。その『退部届』をなぁ!」

 

 あややややややーー!そんなトラップは酷すぎませんか!?花沢さんはアングリ顔のまま、固まって動かないんですけど……!

 

「ふざけんなよ、テメー!」

 

「そうよ!なんで私達が不合格なのよ!私はAクラスなのよ!」

 

「そうだそうだ!大体、そこにいる赤髮の奴なんて、Fクラスじゃないか!ソイツが合格で、僕が落ちるなんてことが、あって良いと思ってるんですか!?」

 

 ……そういう態度を取るから、不合格なんじゃないですかねえ?

 

零次「さっきも言ったはずですが?直近一週間のあなた達の行動を見て、誰を次のコマに進めるか決めた、と。もちろん、αクラス全員で幾度となく議論を交わしあったうえで、ね。」

 

「デタラメ言ってんじゃねーよ!」

 

「だったら、尚更Aクラスの私が落とされて、そこのバカが受かるわけ無いでしょうが!」

 

 双眼君は変わらず、(表面上は)落ち着いた様子で対応してますが、向こうはヒートアップし続けるばかり。……段々同じ学年でいることが恥ずかしくなってきますね……。

 

零次「…………3年Aクラス、守屋香奈。」

 

「……はあ?」

 

零次「同じく3年Aクラス、金田一真之介。それからまたも同じく3年Aクラス近藤良文。レッドカードだ。今すぐ荷物をまとめて教室を出てけ…………いや、自宅に帰れ。」

 

 あー……もうこれは完璧にキレちゃってますね。最初からなんか不機嫌な感じは出てましたけど、今の双眼君からは堪忍袋の緒が切れたような感じがダイレクトに伝わってきますよ。

 

「テメェ、先輩に向かってなんて口利いてやがる!」

 

「そうですよ!貴方の匙加減で勝手に僕達を不合格にしておいて、文句が出ないとでも思ってるんですか!?」

 

 しかし、そんな感情を一ミリも把握していない優等生(笑)達はさらに罵声を浴びせる。

 

零次「先輩方、今の状況分かってます?自分の学力を過信して、軽々しい気持ちでαクラスの試験に挑んだ。あなた方が一次試験(ここ)で落とされる理由は、それが一番の理由だ。Aクラスだから合格確実など、思い違いも甚だしい。そんな現実を認めずそうやって喚き散らす。正直、醜いったらありゃしませんよ。」

 

「な、んだとぉ……。」

 

零次「そして、そんな醜い先輩の姿を、後輩達が見ている。我々2年はともかく、まだこの学園に来て日の浅い1年は、そんな先輩に敬意を払えますかねぇ……。」

 

 そう言われて、ちょっと記憶を整理してみました。…………よくよく思い出したら、今回紙を渡された生徒のほとんど……いや全員が2年と3年でしたね。

 

「そんなの、知ったこっちゃ無いわよ!後輩は後輩らしく、おとなしく先輩を敬って、言うことを聞いてりゃいいのよ!」

 

 あー、もう、これは救いようがないですねぇ……。どんどん3年の、特に学年トップであるAクラスの印象が悪くなっていっちゃいますよ。

 

零次「…………やはり、何を言っても無駄か。西村先生、フィールドを展開してください。自分の立場が分かっていない先輩方を強制退去させます。」

 

西村「……仕方がないな。私が見ても、αクラスの顧問としても、一人の教育者としても、目に余る光景だったからな……。」

 

 その言葉とともに、試召戦争のフィールドが形成される。科目は…………展開しているのが全科目の形成権限を持っている西村先生なので、判断がつきませんね。

 

零次「試獣召喚≪サモン≫だ。予定変更だ。一次試験はいきなりだが、試召戦争を行う。生き残った者に、二次試験に進む権利を与える。もし俺を倒せたら、特別に全員を二次試験に進ませてやるよ。自信のある奴はかかってこい。」

 

「「「試獣召喚≪サモン≫」」」

 

 その言葉に、退部届けを渡された全員が反応しました。私?召喚獣が生存すれば勝ちなんだから、召喚しなくてもよくない?

 

[フィールド:日本史]

 

2-A 双眼零次・・・444点

 

VS

 

3-A 金田一真之介・・・358点

 

3-A 守屋香奈・・・256点

 

3-A 近藤良文・・・291点

 

他3-A生徒14名・・・平均287点

 

他3-B生徒10名・・・平均157点

 

他2-B生徒4名・・・平均196点

 

他2-C生徒12名・・・平均142点

 

他2-D生徒2名・・・平均88点

 

2-F 坂本雄二・・・146点

 

 普通の試召戦争ではまず見られない数の召喚獣が教室中に一気に現れる。にしても、これだけの人に退部届を渡してたの……?いや、一部ソレを渡されてない人も参加してますね。一年生は……、まだ召喚獣の操作実習を受けてないからなのか、私と同じ考えからなのか、一人も参加しないみたいですね。一方で2年の方のAクラスは、自分の代表の恐ろしさを知っているからなのか、大人しく退部届に鉛筆を走らせてました。

 

「はあ!?なんだよその点数!?」

 

「明らかにカンニングじゃないの!!」

 

「そもそも、この人数に勝てると思ってるんですか?ここに貴方の味方はいない。大人しく、さっきまでの失言を取り下げて、僕達を入部させなさい!!」

 

 うわあ……。ここまで分かりやすい敗北フラグと言うのは、見たことがありませんね。坂本君以外の生徒も『まさか、この人数相手に勝てるわけない。』『これだけ人がいるなら楽勝だ。』と高を括っているのか、余裕そうな表情を見せています。

 

零次「…………先輩方、後で腕のいい耳鼻科の先生を紹介しましょうか?言ったでしょう……ここから強制退去させると。」

 

 

 

スカカカカカーーーーーン!!

 

 

 

 あやあ!?い、一体何の音ですか!?そ、そして…………。

 

[フィールド:日本史]

 

2-A 双眼零次・・・444点

 

2-F 近衛秋希・・・408点→208点

 

VS

 

3-A 金田一真之介・・・358点→戦死

 

3-A 守屋香奈・・・256点→戦死

 

3-A 近藤良文・・・291点→戦死

 

他3-A生徒14名・・・平均287点→戦死

 

他3-B生徒10名・・・平均157点→8名戦死

 

他2-B生徒4名・・・平均196点→1名戦死

 

他2-C生徒12名・・・平均142点→戦死

 

他2-D生徒2名・・・平均88点→戦死

 

2-F 坂本雄二・・・146点

 

 こ、この状況は何ですか……。さっきまで召喚獣を出していなかった、近衛さんが何かしたんでしょうが……。仮にそうだとすれば、どうやってこれだけ大量の戦死者を一瞬で作り出せるのか…。しかも戦死したのは退部届を渡された人のみ。これを偶然と取るべきか、それとも全て計算されていたのか……。う~む……分からないことが多すぎる!

 

秋希「は~い、試験終了で~す。戦死した人はおとなしくお帰りくださ~い。」

 

「ふ、ふざけるな!!」

 

「こんなインチキで勝って嬉しいの!!」

 

秋希「インチキって……私はただ腕輪能力(公認チート)を使用して、『友達』を助けただけなのだけど?零次一人で戦うとも言ってないのに、それの何が悪いことなのか、納得のいく説明をどうぞ、先輩?」

 

 あ、やっぱり腕輪でまとめて倒したんですか。まあ、肝心の能力が全く分かりませんが。

 

「くっ……。ですがあんな回避不可能な攻撃なんて、理不尽なことに変わりないじゃあないですか!」

 

零次「理不尽?何を言ってるんですか。世の中なんてのは理不尽の連続、自分の思い通りにならないのが普通なんですよ。先輩方は、俺より一年多く生きてるのだから、この程度のこと知ってて当然だと思ったのですが……。それとも、今までの人生思い通りにいっていたから、そんな『当たり前』のことも理解出来ずにいるのですかね……。」

 

 あの後、戦死者は西村先生によって補習室へと強制連行させられました。最後の最後まで、例の3-Aの3人は喚き散らし、他の3年も恨めしそうに双眼君を睨んでました。対照的に2年の方がよっぽど大人しかったですねぇ……。後輩の方が余程しっかりしてません?

 そして、現在教室に残っているのは、ざっと数えて30名……。

 

零次「さあ……。二次試験といこうか……。」

 

 こうして…………、恐怖の入部試験……もとい『退部試験』が幕を開けました。



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αクラス入部試験 ~二次試験~

 なんとも双眼君らしい、理不尽な一次試験に合格した私。今は先程まで試験会場だった教室で、取材しつつ二次試験の時を待っています。

 

 二次試験の内容は面接……正確には口頭試問、かな。αクラスのメンバーから出される問題に答える。それだけという実にシンプルなもの。この試験の合否で、αクラスに入れるか否かが決定する。

 

 ちなみに合否の結果は各生徒の下駄箱に突っ込まれる。誰かに盗られないか心配ですが、近衛さんがいますからね。その人が来る直前に下駄箱に滑り込ませる、なんて芸当も息するようにやってのけるでしょう。多分。

 

 

ガラガラガラ……

 

 

美穂「すみません、次は青葉文先輩、2年のC教室に向かってください。」

 

 ……と、もう私の番ですか。そして次の試験会場はお隣の教室。さて、次はどう私達の想定を裏切ってくれるのでしょうね……。

 

 

・・・

 

 

コンコン……。

 

秋希「どうぞー。お入りくださーい。」

 

 なんとも軽い感じで迎えられましたね。連られて普段通りフランクな受け答えをしてしまいそうですが、今は『先輩と後輩』ではなく『受験者と試験官』の関係。いつものフワフワした雰囲気は一度胸の奥に閉まって、緊張感を持って望みましょう。

 

零次「……そんな固くならないでくださいよ。二次試験の採点基準は、こちらの質問に対して『正解』を答えられるか否か、それだけです。姿勢の悪さとか、返答の態度の悪さなどは一切見ませんので、『遠慮なく、ごゆっくり』寛いでください。」

 

文「は、はあい……。」

 

 なんて、胡散臭い。最後の部分をスローペースで、かつ強調して言ったってことは、本当はちゃんと見てるってことでしょうよ。

 

明久「そ、そそ、それでは、じじじ、自己紹介をををを、おおお願いします。」

 

 そっちはそっちで緊張しすぎじゃないですか!私までに十人近く相手にしてるのに、なんで未だに体が震えまくってるんですか!

 

文「3年Cクラス代表……広報部部長の……青葉文です。本日は……よ、よろしく……お願いします……。」

 

 ……そう、『十人近く』。私がAクラス教室で待機していた二十分ちょっとの間に、それだけの人が二次試験を受けている。…………少し妙な感じがしますが……、その理由もこの二次試験中に分かるでしょう。

 

零次「青葉先輩、あらかじめ言っておきますが、広報部の部長を務めるあなたをαクラスに入れるつもりはない。しかし、この試験で貴方達の、俺の個人的評価が変わるので、適当に答えることだけはしないよう、お願いしますよ。」

 

文「はい、分かりました。」

 

 今回私達がこの試験を受けることになったのは、挑戦状的な意味合いが強いと、私は思っています。

 私達、広報部の前身となった新聞部はとにかく酷い部で、発行していた『文月新聞』は、『新聞』の名を騙った下世話なネタと偏向報道と自己満足で完結された文章の寄せ集めでした。だから、私達はそんな部活とは違う、生まれ変わったんだ、ってところをこの試験を突破することで見せる必要があるのです。

 

零次「それじゃ、早速第一問だ。」

 

 さあ、どんな問題が来るのやら………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零次「…………『1+1はいくつだ?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………………………え?

 

 

 

 

 

 ………………え?待って?それが本当に第一問目?パッと聞いた感じだと小学一年生レベルの問題何ですけど……。

 

零次「どうした?この程度の問題が答えられない訳があるまい。」

 

 ……くう……、とにかく答えるしか無さそうですね……。

 

文「………………2、です。」

 

零次「…………何故だ?…………何故その答えになった?」

 

 …………あやや、もしかして、こっちが本題ですか!でも、そんなこと考えたことがありませんよ!『何故1+1=2なのか』なんて。と、とにかくそれらしい理由をでっち上げましょう。

 

文「え、えーと……。か、漢数字の『一』にもう一つ『一』を加えると、『二』になるから……です…………。」

 

 ………………うん、絶対違う。双眼君達の顔を見なくても分かります。だって、『算数』の質問をされて、その理由が『国語』なわけないじゃないですか。

 

秋希「フフフ…………。思ったより、面白い答えがきた…………。」

 

 ああああああ……。すっごく恥ずかしい…………。

 とはいえ、間も置かず次の問題へと移ろうとしていますね。次は一体どう来るか……。

 

零次「さて、第二問だ。この問題は、そこにいる吉井明久が作ったものなのだが……、自信のほどを聞かせて貰おうか。」

 

 自信?さっきの問題で、もうボロボロなんですが。

 

文「……いやあ、無いですね、解ける気が。全くと言っていいほどに。」

 

零次「なに……?」

 

文「吉井君が作った問題だからって、簡単な問題が出るとは限らないじゃないですか。本人以外答えを知らないような問題でも出されたら、こっちは答えようがありませんよ。」

 

零次「それもそうだな……。」

 

 その言葉の後に、ククッと笑う声が微かに聞こえてきた。……どうやら、嫌な予感は的中したようです。

 

零次「では、第二問。今年で発売25周年を向かえ、外伝含め46タイトルも出ている『ファイナルクエスト』シリーズ。明久はこれまで13個もの『ファイナルクエスト』と名前にあるゲームをプレイしたらしいが……、この13のうち最もつまらない、つまり一番『クソゲー』だと思ったゲームのタイトルを答えろ。」

 

 ああやや、これは確かに難しいですね。だって、宣言通り答えが全然分かりませんもん。

 

 そもそも私は『ファイナルクエスト』シリーズがそんなにあったこと自体知らないんです。せいぜい一作目が『国王最後の聖戦』、ゲームの歴史を変えたとまで称賛されている七作目が『近未来のマリオネット』、シリーズ屈指のバカゲーと言われる……確か外伝の三作目が『天下一の葡萄狩り』、それから昨日発売された最新作が『頭に浮かんだ46の言葉』……。最近のサブタイトルがふざけ倒していることに、……。知っていることを並べても、多分『ファイクエ』ガチ勢からしたら、義務教育レベル、基礎中の基礎。知ったかぶりのニワカの烙印を押されること間違いないでしょう。

 

 それに、吉井君がどのゲームをやったことがあるかなんて、こっちには全く情報がない。それにどのゲームの出来がよくって、どのゲームが酷かったかなんて、結局は本人の匙加減です。

 双眼君のことを考えると……、いくら強引に退部されるためとはいえ、そんな問題を持ってくるとは思えないんですよねぇ……。

 

 となると、誰もが『これは間違いなくクソゲーだ。』と、酷評するレベルのクオリティの作品が答えになるはずです。しかし、そのレベルまで行ったら、別の意味で有名になるはず。なので、おそらく答えは私が知る『ファイナルクエスト』シリーズの中にきっとあるはず……。

 …………いや、待てよ?

 

文「……双眼君。」

 

零次「なんですか?分からないなら、素直に言った方が良いですよ?」

 

文「いえ……、もう一度、問題を聞いてもいいですか?」

 

零次「…………明久がこれまでにプレイした『ファイナルクエスト』とタイトルにある13個のゲームの中で、最もクソゲーだと思ったものを答えろ、だ。これ以上、聞き直しはナシだらな。」

 

文「いえ、十分です。答えが決まりました。」

 

 やっぱり、私が感じた違和感は間違いじゃありませんでした!

 この問題の答えは一つに絞られた。後は吉井君がこのゲームをやったことがあるか。それだけですが、たとえクリアしてなくても、プレイ自体はしているはず。それに賭けるだけです。

 

文「答えは…………『オーシャンズマロン・ザ・()()()()() ()()()()リアスの伝説』です!」

 

 私が感じた違和感、それは双眼君が『ファイナルクエストシリーズの中で』と言わずに、『『ファイナルクエスト』と名前にある』と言ったことです。最初にファイナルクエストの話をして、答えがその中にあるかのように思わせたのです。

 

 しかし、他にも『ファイナルクエスト』と名前にあるゲームは存在するのです。それが私の挙げたタイトル、『オーシャンズマロン・ザ・ファイナル クエストリアスの伝説』。

 このゲームは、七作目が発売された頃の『ファイクエ』ブームの最中に、それに便乗する形で某大手のゲームメーカーで作られたものです。

 しかし、そのクオリティはあまりにも酷かった。支離滅裂なシナリオ。壊滅的としか言い様がない、テンポの悪い戦闘システム。発売時期が数年前ならまだ良かったと言われるほど、出来の悪いグラフィック。それらに加えて、ちゃんとテストプレイをしたのか疑われるほど、とんでもないゲームバランスと大量のバグ……。

 さらに悪質なのが、パッケージのデザイン。『ファイナルクエスト』の部分をやや強調するデザインになっていることで、ゲームに疎い親が間違えて買ってしまい、子供に泣かれるという事件が多発したのです。

 

 そういうわけで当時のメディアでは、めちゃくちゃに叩かれたのですが……。『ファイクエ』ブームに乗っかって『ファイクエ』の偽物作った結果、ブームがさらに加熱して本作品が埋もれることになるとは……皮肉なものですね。

 

零次「なるほど、な…………。」

 

 しばらくの沈黙。これはおそらく、正解でしょう。

 

零次「……よし、明久。お前は一旦外に出てくれ。」

 

 …………?どうしてここで吉井君を追い出すのでしょう?

 吉井君が教室を出ていくと同時に双眼君が口を開いた。

 

零次「青葉先輩、この教室に入った瞬間に、なんとなく察しているとは思うが、吉井明久もαクラスの一員だ。ここで最後の問題だ。……吉井明久はαクラスにいるべきか否か、正直な意見を述べよ。」

 

 ……なるほど。本人に面と向かって、『αクラスにいるべきじゃない』なんて、普通は言えませんし、聞く側も辛いですからねぇ。まあ、一次試験を落とされた連中は、そういう相手の気持ちなんて微塵も考えてないし、なんなら、吉井君よりも双眼君に噛みついてましたからね。

 そしてこれが最後の問題というなら、もう答えは一つでしょう。

 

文「はい……、吉井君はαクラスに必要だと思います。」

 

零次「必要…………か。いるのか、いらないのかの二択なら、前者だろうが、わざわざ必要とまで言う意図はなんなんだ?」

 

文「……理由は、あなたが一次試験に言ったことにあります。双眼君、あなたは『共に支えあい知識を高めあう仲間』と『ひたすら上を目指す志を持った生徒』を求めていると言いました。」

 

秋希「それに……吉井君が当てはまっている……と?」

 

文「いえ…………。吉井君は正直……私から見ても『知識を高めあえる仲間』だとは思えません。…………でも『上を目指す意志』は、今いるαクラスの中では一番あると思うんです。」

 

秋希「そのこころは?」

 

文「今のαクラスで一番、学力が低いから…いえ、それはちょっと曖昧な表現ですね。正確には、彼だけがAクラスに匹敵する実力を持ちあわせてないからです。」

 

秋希「持ちあわせてないから、って…………。それはαクラスに不要だという理由にならない?」

 

 いつの間にか、話の相手が近衛さんにシフトチェンジしてるけど関係ない。私の話す言葉は決まっている!

 

文「いいえ、違いますよ。Aクラスの実力からかけ離れているからこそ、もし吉井君が本気でαクラス(ここ)に居たいと考えているなら、必死で勉強するしか選択肢はありませんよね。そうなったら、あなた達は彼をAクラス(同じ立場)に引っ張り上げるために、勉強を教える必要がある。」

 

「「…………。」」

 

文「勉強を教える立場の人間は……いえ、『勉強に限らず何かしらを教える立場にある人間は、その物事について深く知っている必要がある』。副部長の木地君はそう言っていました。吉井君が相手なら、大抵のことなら他のメンバーは教えられる筈です。」

 

 逆に教えられなければ、その問題への理解が充分ではなかったと気付くことができる。吉井君のような、学力が低い人がαクラスにいることで、教える側と教わる側、両方にメリットを生んでいると、考えられますね。

 

文「そもそも、偶然か否かAクラスレベルの人材が集まっている部活にさらに同レベルの人を集めたのでは、わざわざ部活にする意味なんて無いんじゃないですか?なのでαクラスが求めているのは上位のクラスにいる人ではなく、むしろ下位クラスの生徒ではないのか、というのが……私の感想ですが、いかがでしょう?」

 

 これで私の言いたいことは言い終わった。出来ればこれ以上の追及は避けたい。一問目で薄々気付きましたが、私はアドリブでの対応が苦手みたいですし……。

 

零次「……そうか。……分かった。以上で青葉文、あなたのαクラス二次試験を終了する。」

 

秋希「おつかれさまでしたー、先輩。あとは荷物をまとめて、まっすぐお帰りくださーい。」

 

文「…………失礼しました。」

 

 こうして、私の入部試験は終わりを告げました。まあ、まだ仕事はありますけど、結果は天命を待つのみですね。

 

 

 

 無事、双眼君に認められますように…………。



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αクラス入部試験 ~後日談~

~前書きRADIO~
零次「どうも、双眼零次だ。今回でようやく、復習ノートの1さつめが終了だ。次回から再度本編に復帰するから……。まあ……そこそこに期待して待っていてくれ。」



----文学(ふみがく)新聞 号外----

新設、αクラス!入部試験の実態にせまる!

 

 4月xx日(土)に文月学園新校舎3階にて、『αクラス』の入部試験が行われた。

 『αクラス』とは、今年新しく設立された部活動であり、主な活動内容は『個々人の学力向上を目的とした自主学習』としている。

 今回の入部試験の監督を務めた、αクラスの副代表の近衛秋希さんは、「文月学園では、学力で生徒のクラス分けを行っています。それにより授業のレベルを教室ごとに変えることが出来て、授業についていけない生徒を減らし、つまるところ教室内での学力差を縮めているのです。」と語った。

 それに続けて、この試験の総監督であり、αクラス代表の双眼零次さんは「しかし、教室内の学力格差を無くしたところで、学年全体の学力差が埋まる訳ではない。それどころか、学力の差を所属するクラスやその設備などの形で明確に可視化した結果、上位に位置した一部の奴らが傲慢不遜な態度をとる始末だ。そこでαクラスは、そうした学級の差に捉われず、己の実力向上のために切磋琢磨し合える学習環境を目指している。」語っている。

(中略)

 αクラスの入部試験では、どのようなことが行われたのか、説明していく。

 

・一次試験

 

 入部試験の一次試験では、当初「生活態度を基準とした選考」が予定されていた。αクラスでは、入部希望者の試験直近一週間の行動を調べ上げており(手段は不明。情報収集を担当した近衛秋希さんからは『企業秘密です』とはぐらかされた。)、要件に満たない生徒には退部届が渡された。

 しかし、当然ながら一部生徒が反発する事態となり、試験内容が試召戦争に変更された。総勢50名以上が束になって双眼零次さんに挑むも、近衛秋希さんの横からの援護により、すぐに鎮圧された。

 この騒動について、双眼零次さんは、「この騒動が起こることなど、想定の範囲内だ。それよりも、素直に退部届に記入している奴らがいた方が驚きだった。」と語っていた。

 

・二次試験

 

 二次試験では「口頭による質疑応答」が行われた。この質疑応答では、一人あたり1~3問程度の問題に答える形式がとられ、規定以上の点数を取れば合格という内容であった。

 双眼零次さんはこの試験に関して、「この二次試験の質問は我々αクラス現8名全員がそれぞれ一問ずつ考えた。その全てに、不合格となり得る要素が含まれている。どれも学校の勉強だけに注力しているようでは解けない問題であり、普段からあらゆる物事に疑問を持つことが重要となる。」とコメントしている。

 以下に実際に使用された問題を示す。

 

『1+1はいくつか?また、その理由を答えよ。』

(作問:双眼零次)

 

 第一問目に共通して設定された問題である。

 この問題のポイントは、前半ではなく、後半部分である。『1+1=2』を解答することは簡単だが、『どうして1+1=2となるか。』その理由を正確に答えることが出来た生徒は、一人だけだそうだ。

 

 なお、この問題に限らず二次試験全ての問題において、その問題を軽視するような発言をした者は問答無用で不合格とされた。

 詳しい配点としては、次の通り。

 

 ・適当に答える…0点

 ・素直に「わからない」と答える…1点

 ・数学的観点から、説明しようと試みる…2点

 

『今年で25周年を迎える「ファイナルクエストシリーズ」。作問者はこれまで13タイトルもの、タイトルに「ファイナルクエスト」と付くゲームプレイしてきた。その中で、最もクソゲーだと評価したゲームのタイトルを答えよ』

(作問:吉井明久)

 

 第二問目に出される問題のうちの一つである。

 この問題が出される際、出題前に作問者が明かされ感想を求められた。この時点で「楽勝だ」と感じた者は、その時点で不合格とされた。

 この問題の肝は、答えるのは名前に「ファイナルクエスト」を含むゲームであり、それが「ファイナルクエスト」シリーズのものとは限らないところにある。もっとも、正答自体そこそこマイナーなゲームのため、それを答えた人は一人しかいなかったとのことである。

 なお、この問題の詳細として、問題の製作者である吉井明久さんから、各ゲームの評価を別紙にて紹介する。

 詳しい配点としては、以下の通り。

 

 ・別紙にて『良作』または『神ゲー』と評されたタイトルを答える…0点

 ・素直に『わからない』と答える…1点

 ・別紙にて上記以外の評価がされたタイトルを答える…2点

 ・正答を出す…2点

 

(中略)

 

・試験結果

 

 今回のαクラスの入部試験では総勢103名が受験に挑んだ。その結果は以下の通りである。

 

 ・遅刻による強制退部…42名

 ・一次試験(戦死)…15名

 ・一次試験(自主退部)…4名

 ・二次試験(一問目)…9名

 ・二次試験(二問目)…22名

 ・二次試験(三問目)…9名

 

 これらの結果より、最終的にαクラスに正式に入部となったのは、2名のみとなった。

 この結果について、二人はそれぞれ次のようにコメントを残している。

 「正直、合格者が出るとは思っていなかった。だが、逆に考えれば、この試験がはじめから全員退部させるための出来レースではない証拠にもなるだろう。」(双眼零次)

 「零次に同じく。全滅すると思っていた入部試験を、突破した生徒がいるのは予想外でした。あんな理不尽だらけの試験に、文句を何一つ言わず、自分の持ちうる力の全てを使って挑んだ姿は、他の入部試験を受けた人全員が見習って欲しいものですね。」(近衛秋希)

 

 最後に、双眼零次さんから、「これからも定期的に、αクラス主催でこのような催しを行うことも視野に入れている。実現するかどうかはまだ不明だが、もし形になった時は、今回の入部試験のことを反省し、それを行動で示す姿が見れることを期待している。」とコメントを頂いた。

 私達は、これからもαクラスの活動を追っていく。今後のαクラスに期待である。

 

(執筆者:青葉文、花沢ちゆり)

(編集:木地標示)

 

---------------

 

 

・・・

 

 

秋希「……で?どうだった?青葉先輩と仲直りできた?」

 

零次「仲直りも何も、元々喧嘩してた訳でもないし、あのでっち上げ新聞もヘイトは青葉先輩より新聞部に向いていたしな。大して変わらんよ。」

 

秋希「喫茶店の評価は?」

 

零次「青葉先輩の様子から、スイーツは悪くはなかったな。だが、コーヒーをおかわりした時に、2杯目以降はラー油をトッピングしてくるサービスは、さっさと廃止して欲しいな。どこに向けた需要なのか、さっぱり分からん。」

 

 あの理不尽な入部試験……否、『退部試験』を終え、その次の日には青葉先輩と共に、話題の喫茶店で退部試験の追加の取材(近衛も同日に花沢から取材を受けていたらしい)。そして迎えた週明けの月曜日、αクラス全員が補習室に集まっていた。ここは俺が文月学園で数少ない安全地帯とする場所であり、αクラスが校内活動をする部室として設定した場所だ。

 

零次「……さて、先日はαクラスの退部試験、ご苦労だった。後から思っても、まあ随分と捻くれた試験だったろう?」

 

 少々自嘲気味な口調で語りかける。

 

零次「……正直なことを言うと、だ。こうして俺達αクラスに新しいメンバーが加入するとは思ってなかった。俺の文月学園の生徒の印象は最悪だった。少し点数が良いだけで、他人にマウントを取る者。自分に都合のいい情報だけを仕入れて、都合の悪い情報には蓋をする者。自分の常識を他人に押し付け、気に食わないことがあると、怒り狂い周りに当たり散らす者……。そして自分が正しいことをしていると陶酔し、制裁と称し暴力を振るう者もいた。全部俺がこの目で見てきた文月学園の惨状だ。」

 

 去年起きた出来事一つ一つを想起するように目を閉じて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。顧問の西村先生からしたら、少々後ろめたい話だろう。

 

零次「そして、その印象は約一年経った今でも、変わることはなかった。去年ほど酷くはなくなったが、去年を100としたら、97とか98……百歩譲っても91とか、そんなレベルでしかない。……そんなイメージしか抱いてなかった所を、君達二人は見事、その先入観を裏切ってくれた。喜ばしいことだ。」

 

 そう言いながら教壇へと上り、一息入れて、次の話題に移る。

 

零次「それでは、改めてαクラスの生徒番号を振り直す。まず1番、近衛秋希。2番、真倉ねるの。そして0番の俺だ。」

 

 このαクラスが部活としての形を成す前。はじまりのメンバー3人に元々の番号を付け直す。

 

秋希「はーい。」

 

ねるの「……ふぁい。」

 

零次「次、10番、久保利光。11番、工藤愛子。12番、佐藤美穂。13番、影山幽也。そして14番、吉井明久。」

 

 今年に入って新たに集め、そしてαクラスを部活動にするに至ったメンバー5人に、新しい番号を与える。

 

利光「……なるほど、これからもよろしく頼むよ、零次。」

 

愛子「はいはーい。」

 

美穂「はい。」

 

幽也「………………。(コクッ)」

 

明久「……せ、精一杯…………頑張るよ、零次。」

 

 明久だけ声が震えてたな。まあ、周りのメンツがアレだから、萎縮してしまうのも当然だがなぁ……。

 

零次「ま、今ので大体理解したと思うが、各世代……というか入部時期……のリーダーにあたる奴に、下一桁『0』の番号を与えている。αクラスは最初、三人だけの勉強会だったものが、今年になって5人が賛同してくれて……。そして、君達二人が正式に入部となったわけだ。」

 

 新しくαクラスに加入となった二人は、深く頷く。

 

零次「というわけで、発表するぞ。栄えある20番はお前だ。1年Bクラス、木戸藍蘭(きどあいら)。」

 

藍蘭「……至極、光栄。」

 

 金髪碧眼の女子生徒が言葉少なく感謝の意を示して、頭を下げる。演劇部との兼部している生徒なのだが、彼女は二次試験で近衛の作った意地の悪い『ビジュアル問題』で唯一正解を叩き出しているのだ。

 

零次「そして21番は3年Eクラス、潮村渚(しおむらなぎさ)先輩だ。」

 

渚「は、はいぃ……。」

 

 肩の辺りまで伸びた黒髪をサイドに纏めた、頼りない雰囲気の生徒がオドオドしながらも頷く。こちらも、二次試験で俺が用意した『計算問題』を唯一完全正答した人だ。なのにEクラスということは……、いや、αクラスに入った以上、考えるのは無意味だな。

 

 ……にしても、だ。奇しくも、また個性的な奴らがαクラスのメンバーになったものだ。

 片や外国人にしか見えない、日本生まれの日本育ちである女子生徒。もう一方は秀吉以上に女子っぽい見た目の男子生徒。

 もっとも、それ以外のメンバーも双眼零次(『死神』)近衛秋希(偽善者)真倉ねるの(寝坊助)久保利光(隠れ同性愛者)工藤愛子(性知識のヤベー奴)佐藤美穂(……多分唯一の常識人)影山幽也(実体持ちの幽霊もどき)吉井明久(純度100%のバカ)だからなぁ……。

 

零次「……さて、それでは早速、新生αクラスの活動を始めるとしようか……。あと一、二週間すれば、文月学園の文化祭『清涼祭』が始まる訳だが、そこからすぐに中間試験もある。既に試験期間に入ったと思って、気を引き締めるぞ。」

 

「「「はい!!!」」」

 

 こうして、俺達の新学年始まりの一ヶ月が終わりを告げるのだった。

 

 これが俺達αクラスの真に本格的な、新たな一歩。

 スローガンは……『常に頭のアップデートを』とするか。



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