厨二万歳RPGのラスボスに転生した一般人はどうすりゃいいですか? (波打ち際のトッポ)
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プロローグ

あまりにもスランプが続くので息抜きとして書いた何か。



 崩壊していく祭壇で瀕死の男と涙を流す一人の少女がいた。

 方や槍を片手に涙を流す金髪の女、方や体に夥しい量の武器が突き刺さり胸に穴が空いた黒髪の男。

 誰がどう見ても瀕死な男は、もう喋るのも辛いはずなのに茶化すように少女へと言葉を投げる。

 

『聖女様、仲間が待ってるぞ。お前らの敵は倒したって伝えようぜ?』

 

 止めを刺した筈の相手にとても優しく笑いかける男。

 自分の体が冷たくなってく感覚に襲われながらも、最後は笑顔でと……そんな思いで、彼は笑う。

 

『……私も残る』

『ッ――ハハ、お前そうなったら動かないだろ――仕方ないなぁ』

 

 ここに残るという少女に対し懐かしむように何かを思いながらも男は、

 

『吟狼、最後の仕事だ此奴を送ってくれ』

 

 最後に残ってくれた配下を呼んで、無理矢理にでも彼女を送ることにした。

 

『嫌だ絶対嫌だ。君を一人にさせるもんか、死ぬときは一緒って約s――――』

『ごめんなアリア約束は守れない、じゃあな元気でいろよ?』

 

 睡眠の術を不意打ちとして使い、彼女を眠らせその言葉を贈った男は信頼できる家族に彼女を任せて体を引きずりながら玉座まで移動して、

 

『願わくば、彼女のこれからの旅路に幸福を』

 

 その言葉を残し、崩壊する祭壇と共に虚無へと消えていった。

 

 

 

□   □   □

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! 終わっだァァァァ!」

 

 エンディングが流れ始めて、スタッフロールを見ながら最初に出てきたのはそんな汚い咆哮だった。

 一人しか居ない家にそれが響き渡り、その事実に虚しくなるも今はそんな事は気にしてられない。だって今俺の中には、このゲームをクリアしたことによる達成感と感動があるからだ。

 そういう事なので虚無感なんて感じる余裕なんてないのだ!

 

「パソコンに張り付くこと一月、遂にアリアルートクリア!」

 

 八月の夏休みの一人部屋に響くのは野郎の叫び、心のそこからのその言葉は部屋に響き渡る。

 あまりにも硬くなった体をほぐすため、一度伸びをすればギシギシと嫌な音が鳴るも、長らく動かしてなかった体が動いたことで謎の気持ちよさに襲われた。

 

「ァ、アァァ本当に長かった。このルートだけ長すぎるだろ、いや確かに事前情報だとめっちゃ時間かかるって言ってたけどさこの量はヤバかった」

 

 エンディングが終わり、ロード画面を見てみればプレイ時間は脅威の六百四十時間。半月以上のプレイ時間に軽く戦慄してしまったが、正直なところ文句はない。

 だって凄く楽しかったし。

 

 俺がプレイしていたのは『混界のサーガ』という、厨二病万歳なオープンワールドアクションRPGだ。

 このゲームは、世界各地にある神話や物語をこれでもかというぐらいに詰め込んだ混沌闇鍋系ゲームで、常人がやれば胃もたれするぐらいには厨二要素が満載な素晴らしい一品。

 男主人公の名前が一緒だって学校の友達が教えてくれたからやったのだが、そんな軽い気持ちで出来るような代物ではなく、その面白さのせいで俺の夏休みは八割は消えたと言えよう。

 主人公を男で選んだ場合のルートは狂気の十八、女で選んだ場合でも十、それに加えてその二十八個のエンディングを迎えた後にプレイできる隠しルート二つの計三十ルート。 

 一度開発陣にどうしてそんなにルートを増やしてしてしまったんだと問いただしたくなってくるが、そんな気力はもう残っていない。

 で、話は変わるがさっき見てたのが男主人公クラマの隠しルート。

 今まではラスボスとなった女主人公を各ルートのヒロインと共に倒すというモノだったのだが、隠しルートはなんと彼女に負けて生き残らせるというシナリオになっているのだ。

 もうさ、まじで難しかったわ。

 だってこのゲームすっごい自由だから。

 能力の割り振りに正解はなく作れる装備は数百以上。正解なんて分からないし、難易度激ムズ。

 ルート一個が一本のゲーム並の量、その上ラスボスの行動がルート事に違うというヤバイ仕様。

 作るのに六年かけたと言われていて、どうした開発陣本気出しすぎだぞ? と、そんな事すら思ってしまうのはしょうがないだろう。

 間違いなく自分がプレイした中で一番楽しかったこのゲーム。

 でも一つだけ文句を言わせて欲しいのだ。

 それは、なんでアリアルートハッピーエンドじゃないんだよという事だ。

 いや満足はしている。

 少なくともあの結末は好きだし、あれはあれで完璧だったから良いのだが、一プレイヤーとしてアリアと主人公であるクラマには幸せになって欲しかったのだ。

 全ルートをプレイした上でのその感想。

 男主人公にも女主人公にもそれぞれ葛藤があり、何より最初は二人とも両思いだったのだ。

 それがたった一つのすれ違いで、変わってしまい戦う運命にあるなんて本当に辛いし凄いストーリーだった。

 

「まあそれでも、この結末は良かったな」

 

 こういうモヤモヤが残ってこその神ゲー。

 どうせこの先、技術を持ったヤバイ方々がいくらでも二次創作でもしてくれるだろうから、俺はそれを楽しめば良い。

 自分でやってもいいが、生憎俺は厄介なオタクなので自分が一番求めるモノはかけない質でいるので無理。

 ふと机を見て見れば、このゲームのために買ったエナドリの残骸が転がっていて、よく寝ずに頑張れたよなという感想を抱いてから俺は、すぐ近くにあるベッドに横になった。

 

「あ、やべパソコンの電源切ってない。でもいいか、面倒だし流石に寝たい」

 

 ずっとぶっ通しでゲームをプレイしていたせいで、もう頭も体も限界。

 正直なところくらくらするし、多分今すぐにでも布団に入れば俺の意識は無くなるだろう。それに自動的にスリープはしているはずなので、電気代は気にしなくても多分大丈夫。

 ……だってもう電気代に関しては誤差だし。

 

「でもやっぱりハッピーエンドみたいよなぁ」

『なら、お前がやってみろ』

 

 布団を掛けて眠る直前、ふと呟いたそんな言葉。

 それは誰もいない部屋に響き亡くなるはずだったのだが、何故か返事が返ってきたのだ。

 聞こえてきたのは、ここ一月で聞き続けた誰かの声。

 声のする方を見てみれば、スリープしたはずの画面が光っていてそれを見ていると吸い込まれるような感覚に……。

 

『任せたぞ』

 

 そんな声を最後に普段眠る時とは違う感覚に襲われて――――。

 

 

 

□   □   □

 

 

 

 日の光が射してきて、その眩しさと鳥の声で目が覚める。

 背中にあるのはベッドの感覚ではなくどちらかというとさらさらとした別の感触。

 ちょっと意味が分からなくて、混乱しながらも微睡む意識で目を開ければそこには一面の草原が広がっていた。

 

「よし、夢だ」

 

 どういう状況なのかは分からないが、とりあえずこれは夢だろう。

 きっとファンタジーゲームをしすぎたせいで、頭がファンタジーして、ファンタジーな夢を見ているだけだろうから?

 だってほら、空を見れば龍が飛んでるよ? こんなの夢以外ないだろ。

 だからなんか声が幼くなっている事とかも説明できるし、何の心配もないし不思議なことなんて一切ない。

 だから視線が低いとかは気にならないし、風の気持ちよさとかも分からない。

 

「あー空が綺麗ダナー」

 

 それにしても不思議な夢を見るものだな。

 だってどっかでこの草原とか見たことあるし、というか二十九回ほどこの光景を見せられた気もするが、きっとそれは気のせい。

 

「クラマー!」

 

 おや、なんかまた聞き覚えのある声が聞こえるぞ?

 どこからその声が聞こえてきているのか気になって、そっちの方を見てみれば気の上に人影が……。

 

「おはようクラマ遊びにいこー!」

 

 そしてその人影を認識した瞬間、跳び上がってくる人影。

 次に感じるのは投げられたような感覚と浮遊感、そして地面に倒れる時自分の体が勝手に受け身を取るという異常事態。

 少なくとも、俺はこんな綺麗に受け身なんか取れなかったはずだ。

 それに投げられるときに感触があったというのがまずおかしい。

 

「ん? どうしたのクラマ、そんな鳩が豆鉄砲くらった顔して? おーい、あれ? 反応しない?」

 

 混乱する頭に立て続けに襲ってくる情報量。

 目の前にいる、将来絶対美女確定の見たことある少女。

 腰まで伸びる白銀の髪、陶器のように白い肌、全てを吸い込むような深紅の瞳、そして人形と見間違うような容姿、その全てが完璧で、幼いながらに謎の魅力を持っている少女。

 

「アリア?」

「うんアリアだよ。それよりどうしたのクラマ、そんな信じられないような顔をして」

「ちょっと待ってね」

 

 よし待ってマジで待ってウェイトウェイト。

 とりあえず一度整理しよう、これは明晰夢という事でおーけー?

 だってそうじゃないと説明が付かない。

 確かアレだろ? 自分が夢を見ているという自覚をしながら見れる夢で、色々内容を自由に変化させることを出来るという。明晰夢には感覚があるという記述もどっかで見たしきっとそう。

 きっとこれはあれだ。

 つまりこれは俺が混界のサーガをやり続けたせいでみた夢だ。

 よしそれだな、答えは出た。

 つまり夢ならなにしてもいいという事でいいのか? つまり、混界のサーガの広すぎる世界を感覚有りで楽しめる事だよな。

 なんか間違っている気もするが、今は多分考えても仕方ないのでこれがきっと最善策。

 

「ねーいつまで待ってればいいの?」

「もういいよアリア、というか何の用なの」

「さっきもいったけど、遊ぶの! 鬼ごっこしよー!」

「鬼ごっこだともうちょっと人集めないと駄目じゃない?」

「あ……村に戻るよクラマ!」

 

 とりあえず違和感ないようにゲームの過去編でのやり取りでこの場をやり過ごした俺は、そのまま彼女に着いていくことにして、とりあえずこの明晰夢を楽しむことにした。

 

 

 雲一つない蒼空。

 そこを泳ぐ龍の背中に黒ずくめの何かが立っていた。

 彼? 彼女? 何者とも分からない三つの誰かは空から地上を見つめていて、暫くしてから一つが口を開いた。

 

「あれが、私達の王か」

「攫ウのかァ?」

「いや今はその時ではない、引き続き監視を続けるぞ」

 

 最初は女の声、その次ぎに発せられたのは声帯を無茶苦茶に混ぜたような気味の悪い声。そして黙したままの黒ずくめは眼下で少女に着いていく少年の姿を見て……。

 

「必ず、迎えに行きます。吾らが王よ」

 

 



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明晰夢万歳(泣)

第二話
出来たら夜頃にも投稿するかも。


 はやくこの夢覚めないかな?

 それが数時間をこの夢の中で過ごした俺の感想だった。

 この世界は『混界のサーガ』そのままのモノだという事は鬼ごっこの最中に色々探索して知る事が出来たのだが、如何せん感覚などがあるせいで凄く疲れるのだ。

 というより、村の子供の体力が半端ない。

 いくら逃げても追ってくるし、途中から疲れすぎて隠れたのに見つけてくる鬼役の子。

 昼頃から始めたはずなのに日が暮れた今もまだ続いているし、もうね馬鹿かと……。

 そういえば、過去編で鬼ごっこするというイベントがあったのだがあれも結構な難易度だったよなぁ、だって範囲がアホ程広かったし。

 それに、これはこの夢を見て少し立ってからのことなのだけど、なんでか知らない記憶があるのだ。

 具体的に言えば、このクラマ君(現六歳)のこれまでの記憶。

 絶対に知らない筈なのに、とても今の俺に馴染んでいて全く違和感ないのが気持ち悪い。

 それに吐き気すら覚える夢というのが怖い。

 あまりにもリアルな夢のせいでもしかして、このまま覚めないのか? とそんな事すら思ってしまう。

 

「ふふっ見つけたよクラマ、今度こそ捕まえるからね!」

「だからなんで隠れてるのに見つけるの!?」

 

 木陰に隠れ皆が飽きるまでやり過ごそうとする俺の元に襲来してくる女主人公。

 何度目か分からない突撃に少し恐怖を覚えながらもこの場から逃げ出す事にした時、ふと周りを見てみれば遠くの方で俺を応援しながら笑う子供達が居てどうにもあの子達は逃げている様子は一切ないのだ。

 なにかがおかしくない?

 

「はッ!? ――アリっ、アリア!? ほら逃げてない子いるよ? そっち捕まえた方が良くない!?」

 

 記憶に引っ張られながら、ここ数時間で慣れてしまった口調でそう聞いてみれば……我らが女主人公様は愚問だと言いたいのか満面の笑顔で答えを返してくる。

 

「もう皆疲れたみたいだからね、あとクラマだけなんだよ!」

 

 あれこれ捕まった方が早くないか?

 いやそれだわ、そしたら休める。というかそれしかない。

 そう思い、足を止めようとしたのだが行動に移す前に声をかけられる。

 

「そろそろ本気出すよ、魔法使うね」

 

 その瞬間溢れてくるのはこのクラマ君の記憶。

 頭の中に過るのは、わかりやすく言えば強化魔法を使ってこのクラマ君を追いかける狂戦士と見間違うような後の聖女様の姿だった。

 記憶の中のクラマ君はそれはそれは限界まで逃げていて、いつも家に帰って一歩も動かない屍と化しているようで、思い出した途端にその感覚が襲ってきた。

 

 後の聖女であるこの女主人公様は、ネットでよく『脳筋聖女』や『物理を司る女神』『回復何処に置いてきたんだ狂戦士』と呼ばれる程の物理特化のキャラだ。

 回復魔法を使えるのにもかかわらず、プレイヤーに「あれ? このキャラ殴った方が早くね?」と思わせるような技と魔法を得意とする。一応ステ振りしたいで魔法とか色々出来るキャラになるのだが、どの攻略サイトでも結局物理特化のキャラがおすすめされる。

 しかも初期技は物理能力倍増と槍での全力殴りだ。

 改めて思うが開発陣は世間一般的な聖女キャラを調べてきて欲しい。

 ……と、現実逃避はここまでにして。

 今は本気で逃げないと(使命感)

 

「いっくよー!」

 

 クラマ君の記憶通りならこの時代のアリアは手加減が苦手で、子供ながらに大人でも苦戦するゴブリン相手に無双できる力を持っている。ステータス的に賢いアリアは本来なら同い年相手に使うことはないのだが、今俺がなっているクラマ君はアリアが楽しんで遊べるようにと今のアリアの身体能力を倍増込みで受け止めれるようにと頑張ってしまったようなのだ。

 こういう事実はエモいのだが、そういうのは第三者視点で知りたかったな。

 それからの地獄は想像に難くない。

 夢とは言え感覚がある状態でのある意味のデスマッチ。

 いつも捕まってないクラマが急に簡単に捕まるというのはやってはいけない気がしたので、精一杯逃げること一時間。

 そして終わる頃には全力で遊んだ二人の子供が地面に倒れる光景があり、もう一歩も動けない俺達は大人達に運ばれて家に帰された。

 

「はやく、覚めないかなぁ……」

 

 そんな事を呟いてみたがその一言は空に消えていき、全力で遊んだ俺は疲労感に身を任せるように寝ることにした。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 ありとあらゆる異形を並べた空間に玉座に座る男が一人。

 彼の背には黒い球体いや、巨大な瞳が鎮座しており、ソレからは悪意と呼ばれるモノを感じる事が出来て見ているだけで狂いそうになるのに、何故か落ち着くという感情がやってくる。

 大百足に二つの頭を持つ四本腕の鬼、山犬に白骨化した大蛇、自分の尾を飲み込む龍のような化物に、炎の巨人、醜悪な怪物に、羽を持つ悪魔達、他にもありとあらゆる異形達。

 その全てが彼に跪き、なんの言葉も発しない。

 

「お前はこんな風になるなよ?」

 

 それは誰に向けての言葉だったか、ぽつりと聞こえてきたその一言。

 不意に呟かれたそれを最後に、浮上していく景色。何かに引っ張られるように感じながら光に俺は包まれて……。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

「よし、これは夢じゃねぇ」

 

 翌日見知った知らない部屋で目が覚めた俺の第一声はそれだった。

 だってそうだろう? 未だに残る疲労感に体を限界まで使った事による痛み、そして夢の中で寝て起きれるという現実。長いだけの夢だと思い何度頬を引っ張っても毎回感じる痛み。

 そのどれもが俺に対して夢じゃないよーと伝えてくるし、何よりさっき寝てたとき変な夢を見た。

 夢の中で夢みるとか、それどこのレクイエム? とかツッコみたくなるのは仕方ないだろう。

 五感がちゃんと働くうえに、しかも夢まで見るとか普通は有り得ない……そういう事でこれは夢じゃないと結論づけたのだが……納得は出来なかった。

 

「というかマジか、これ夢じゃないの? という事は憑依、いや転生か? いやそんな事よりこれが夢じゃないのなら、ここは混界のサーガの世界? あのヤバイ敵しかいない広すぎる世界? ……オーケー分かった理解出来ないけど、飲み込もう」

 

 とりあえず子供のクラマに憑依or転生のどっちかをしたという事は分かった。

 原理とか全然分からないが、そこはファンタジーということで割り切って……いや無理だ。

 考えれば考えるほどにこの世界の理不尽さを思い出してしまう。

 

 俺の今いるであろうと仮定している『混界のサーガ』その世界のすっごいざっくりとしたあらすじというのはこんな感じだ。

 様々な種族が溢れる世界で、人間に襲われ異形に味方したクラマ、そして異形に襲われそれらを滅すると誓ったアリアの対立を描いた超弩級ファンタジー。

 最初に選択した主人公とルートによって同じ世界で違うストーリーを見ることが出来るという大ボリュームのRPG。しかもどのルートにもBADエンドが存在していて、プレイヤーの行動によって理不尽な目にあるある意味クソゲー。しかもクラマルートはBAD数が多い。一ルートにBADエンド約十一個とか馬鹿だろ本当に――。

 

「しかもよりによってクラマかよ、まだアリアの方が救い合ったぞこれ」

  

 この世界では主人公を選んだ時点である事が決まってしまうのだ。

 決まってしまうそれは明確な敵。

 アリア側を選べばとて世界の均衡を保とうとする人間側を味方につけ、悪さをし世界を滅ぼそうとする異形達と戦う事になるのだが、男主人公を選べば人間側が異形を滅ぼそうとしていて、それに抗う異形側と共に共存を目指すという話になる。

 

「これどっちになるんだ? というかどっちが主人公だとしても」

 

 そこまで言った事で頭に過ったのは……監禁、拷問、洗脳、奴隷の四つの言葉。

 今思い出したのが、これからのクラマそして俺を待つ運命の一つだ。人間側に害があると判断されたクラマを利用しようという事になり、さっき上げた四つの事を大体五年ぐらい体験することになる。

 まじでこの時点で地獄なんだよな。

 隠れて何もせずに過ごすという選択もあるかもしれないが、人間側にはアリアの攻略対象であるイケメンの預言者がいるので遅かれ速かれバレるので意味が無い。

 仮に俺が主人公の世界だとしても、アリアに待っている運命的は、今のクラマの記憶を持った時点では許すことが出来ないし……あぁもうどうすれば良いんだよ。

 一応救いがあるとすれば、俺がいま憑依? いやもう憑依転生でいいや。とにかく今俺がなっていうクラマの成長率は高いので、今から鍛えれば少しはマシになるだろう。あとはこの先の未来の事……きっとそれはこの世界を生き抜く上で大きなアドバンテージになるはずだ。

 

「一先ず、やることとすれば情報をまとめた方がいいよな」

 

 今残っている記憶がいつ消えるか分からない以上、少しでも書き残しておきたい。

 それがこの世界で生きるかもしれない俺が今できる事だろう。

 

「そうと決まれば、あれだな紙でも買って貰わないと」

 

 この世界での育て親には絶対に不審がられるだろうな。

 そんな事を思いながら、朝食の時間だったので俺は交渉頑張ろうと思いながら居間に足を運ぶことにした。

 

 

〇月〇日 お空に龍 天気は晴れ

 

 吾輩は憑依転生者(?)である名前は前世も今世もクラマ。

 なんかあっさり紙を手に入れることが出来た上に育て親であるアリアの両親に日記帳を貰った俺は、今日から記録がてらに日記も書いていくことにした。

 ひとまず今日分かった事をまとめるが、今の状況はこんな感じ。

 

・ここは物理法則ガン無視のごちゃ混ぜファンタジー『混界のサーガ』の世界。命は軽いよ

・今の自分はめっちゃ弱い←重要

・今自分は六歳で原作開始まで約11年、このままだと監禁からの奴隷ルートが待ってるよ☆

 

 いやもう馬鹿だろ。

 あとよく考えてみたら、俺が監禁されないと原作キャラの一人が死ぬんだよな。

 しかもそのキャラは俺がアリアの次に気に入っていて、何より最初に攻略したキャラだから救いたいし、何より彼女の過去を知ってる手前、何も出来ないのは嫌なのだ。

 

 でも選択ミスるとヤンデレるキャラなので、出来れば病ませないようにしないと彼女に監禁されるエンド待ってるので、正直今から胃が痛い。

 

 そして何より、クラマに憑依したという事はこれから先待ってるのは過酷すぎる運命だらけだろう。それでも彼が進めたのはまたアリアと一緒に笑いたいという思いがあったから……そんな綺麗な思いを俺は持てる気はしないが、まず最初は原作キャラに笑って欲しいっていう思いで頑張ろう。

 

 

 

 



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二年って結構あっという間に過ぎる

 『混界のサーガ』の女主人公兼ラスボスであるアリアは完全な脳筋である。

 それが俺がこの世界で2年間過ごした事での結論であり、これはきっと彼女が聖女になっても変わらないものだろう。例をあげるとすれば……岩が邪魔だといって槍で砕いたり、冒険者である彼女の父親に連れられていった訓練ではトロールの顔面を吹き飛ばしたり、遠くにいる怪鳥を弓で入れと言われたのに、自分で投げた方が早いと結論づけて弓を使わず撃墜したりと――。

 なんだそのチートスペックという風にツッコみたくなってくるが、彼女の成長しやすいステータスは攻撃と素早さだったことを思い出し、乾いた笑いが漏れてしまう。

 

 それと思うのだが、アリアは聖女に本当になるのだろうか?

 一応俺はクラマを操作しているときに聖女状態を見ているからなるっていうのは分かっているのだが……。

 いやでもこのアリアが聖女になるって嘘だろ。絶対バーサーカーだって、そっちの方が彼女らしいし。

 あぁ、きっとこの先彼女の攻略対象であるイケメンキャラ達は振り回されるんだろうなー……と、そんな事を思いながら俺は地面に背中を預けていた。

 

「ねークラマ、速く立ってよ続き続き!」

 

 ぶんぶんと槍を振り回しながら近づいてくる狂戦士。

 彼女は俺が立ち上がるのを今か今かと待ちながら、不満そうな顔をしていてすぐにも爆発しそうだ。

 もしも彼女が爆発してしまったら、それを鎮めるのは爆発させた俺になるので、すぐにでも立たないといけない。

 

「すぐ立つから待ってよ、でも待ってねまた力を借りるから」

  

 そして少し話が変わるのだが、この脳筋チートスペックのアリアと僕が戦い続けられているのには少し秘密がある……いや、そんな大層なものじゃないか。

 その内容というのが、男主人公を選んだ場合のみ使える固有魔法。

 異形と呼ばれる種族の者や、世界に溢れるモンスターの力を絆を結ぶことで使えるというもの。

 

「という事で頼むよキキョウ」

 

 そして今力を借りるのは、俺が今の世界での家族である狼のモンスターの力。

 キキョウと名付けたこのモンスターは自分の身体能力を上げるという力を持っており、転生したと理解した後の初めての仲間だ。

 とても便利な能力なのだが、一つ欠点がある。

 それはモンスターの特徴が分かりようなモノが力を借りている間に出てくるというモノで、今回の場合は狼の耳と尻尾が生えてくるのだ。

 ……この力を借りなければアリアと鍛錬できないというのは分かっているのだが、一つだけ文句を言わせて欲しいのだ開発陣よ。

 なぜ男主人公であるクラマの衣装や獣姿が数百個以上あるのだと。

 そのせいで俺は彼女と戦う時毎回獣耳状態なんだぞ? 流石にここ二年間で多少慣れたが、羞恥心って帰依なんだぞ。

 

「耳が出たね、という事は準備は良い? いっくよー!」

 

 こちらの答えを待たず、突撃してくる聖女様。

 待ってって言おうとしたけど、もう遅く目の前には彼女がいて練習用の槍を既に振りかぶっていた。

 何もないままだったら、僕はこのまま叩き潰されていただろうが、キキョウの力を借りた今は違う。

 

「おっ受け止めたねクラマ、次ぐ行くよ」

「アリアいつも言ってるけど、声に出すのは悪い癖だよ」

 

 すぐに受け止めた槍を流した俺は、蹴りに移ろうとする彼女の足を払い転ばせることにした。

 蹴ろうとしていた足を払っても意味ないので軸としている足を狙った攻撃は見事に成功して、彼女を転ばせることが出来たのだが……脳筋聖女はそれだけでやられるような人間ではなかったのだ。

 

「投げるから受け身取ってね!」 

「ちょっま」

 

 転ぶ直前受け身を取ると思ったのだが、彼女が取った行動は僕の服を掴むというもの。転ぶ勢いを利用した彼女は、そのまま僕を遠くの方へと投げ飛ばしたのだ。

 

「まだまだー!」

 

 そして勢いよく飛ばされた俺にすぐに立ち上がった彼女が一瞬でまた迫ってきて――――。

 

「よしトドメ!」

 

 そんな元気な声を最後に俺の意識は暗転した。

 決まり手は鳩尾、あぁ星が見えるよ。

 

 

 

〇   〇   〇

 

 

「はいここに第二百九十六回、アリアを打倒する&BADエンド回避会議を始めます」

 

 司会は勿論俺で、参加メンバーはキキョウのみ。

 やることと言えば、原作知識をまとめて今後の対策のためにその日を振り返るような感じだ。

 

「まず最初にキキョウ、あと二年以内に俺は人間に襲われます」

 

 最初にそうぶっちゃけると、帰ってきたのは家族の驚きの反応だった。 

 ヴァフ!? 文字にするとそんな感じだろうが、いつも冷静なこいつの驚いた反応とか見れるの稀だから今まで黙ってて良かったな。

 まあふざけるのはここまでにして、今キキョウに伝えたことは絶対に起こる未来だ。理由としては一つ、時期が早いがアリアが主人公になった時しか覚えることの出来ない縮地を使ってきたからだ。

 

「これをアリアが使えるという事は、この世界はアリアが主人公の世界だ。そこから考えると、この先俺は鬱シナリオも真っ青な未来に襲われるだろう」

 

 例をあげるなら、まずは監禁、拷問、洗脳、奴隷。

 あとは実験動物にされたりとか、人間に襲われた中で初めて心を許した人間の女性を殺されたりとか、苗床にされたりとか、吸血鬼と数世紀を過ごすとか。

 あと印象的なのは、ネクロマンサーの玩具にされるとか……あとはなんだ? そうそう、狼の少女に依存しきるとかだな。

 他にも上げればキリがないが、今上げたのはアリア視点で見れる俺のBADエンドだ。特に最後の狼に関しては本当に酷い、色々あって壊れたクラマ君が狼の少女に依存しきりその子とだけ暮らせるように生物を絶滅させようとするのだ。

 

「まあ同じ狼でもキキョウは違うよなー、ただのモンスターだし」

 

 そんな狼許せないと言いたいのか、起こった感情をこっちに送っている家族に癒やされながらも、ある程度のBADエンドを回避するための案を出した俺は、一息ついてから今日の本題に入る事にした。

 

「そしてキキョウよ、俺は決めたよ。新しい仲間を増やそうと!」

 

 これは前々から決めていたことなのだが、最近目処が立ったので今日満を持してキキョウに提案したのだ。

 それに対して、一瞬首を傾げた俺の家族は数秒後内容を理解したのか、元気よく遠吠えを上げた。

 

「あ、ちょっとキキョウアリア達起きるから吠えないで」

 

 設定的にクラマ君は捨て子なので今の俺には親がおらず、アリアの家で過ごしているのであまりよりは大きな声を出せないのだ……だって起こしちゃうし。

 あと眠りを邪魔したときのアリアの機嫌はヤバいほど悪いので、臆病な僕は起こす可能性を少しでも避けたいのだ。

 え、なんだいキキョウ? それなら夜会議するなって?

 ふふ、馬鹿だな朝だとバレるじゃん?

 

「そんな阿呆を見るような目で見ても俺には効かないぞ? ……あれ、何の話だっけ、そうだ新しい仲間の話だ」

 

 最近出来た知り合いの猟師に頑張って交渉したところ、その猟師が狩場としている牙の森に明日一緒に緒に行けることになったのだ。

 その森はアリア主人公時に行ける場所で、結構強いモンスターが沢山いることで有名だ。しかもあの森にはこの先絶対に使うことが出来るであろう飛行能力を持ったモンスターが沢山いる。

 

「目指すは、出来るだけでっかい鳥モンスター。頑張るぞ、キキョウ」

 

 それを彼女に伝えたところで、丁度俺は眠くなり巨大な狼であるキキョウを抱えながら、明日に備えて眠ることにした。

 

 

 

〇   〇   〇

 

 

「よし我が愛弟子よ、準備は良いな!」

 

 そして翌日、目的地である朱の森の入り口で暑苦しい声を聞いた後、僕はそれに返事を返した。

 

「バッチリですコジロウさん、早速行きましょう!」

「元気な我が愛弟子よ。しかしまだ整っていないだろう準備体操からだ!」

「押忍!」

 

 この無駄……というか、そんな言葉すら吹き飛ばす程に元気なこの人は今回引率してくれることになった村一番の猟師だ。

 実力はこの時点で物語の中盤の敵を倒せるぐらいにあり、最初の方のアリアのお助けキャラ。

 彼がいるのなら今回の森の中での探索はとても楽なモノになるだろうし、きっとスムーズに目標である怪鳥を仲間にする事が出来るだろう。

 まあ、この世界にテイム用のスキルとはないせいで、やるなら何回もこの森に来ないといけないから、結構時間はかかると思うけど、まあそこはあと2年はあるし気長にやろう。

 

「よし終わったな? なら早速森を探索だ!」

「了解です!」

 

 ……そして、始まった朱の森探索だったのだが、俺は一つ重要な事を忘れていたのだ。

 それは……。

 

「俺がすっごい方向音痴だということ」

 

 クエスチョン、俺は今どこにいるでしょうか?

 ヒントは、昼にもかかわらず日が届かない場所、見渡す限りの木の枝には赤い目の鴉たちが沢山いる事、そしてあまりにも同じ景色過ぎてどこか分からない……あ、これは答えだわ。

 という事でこの問題に対する答えは、全く場所が分かりませんでしたー!

 わーぱちぱち…………はぁどうしてこうなった?

 

「ヘンゼルとグレーテルの物語みたいに、パン屑でも置いとけば良かったがまさか大人がいて迷うとわな、流石に俺の迷い才には驚いたな」

 

 キキョウの嗅覚を借りてコジロウさんの元に帰ろうかと思ったけど、この広い森でそれは出来ない。だってそうだろう? この森には様々な血の匂いが溢れている上に、キキョウはコジロウさんに会った事がない。

 そんな状況で彼を見つけろというのは酷な話だ。

 

「これ、ヤバいよな……一応何があってもいいように道具とか持ってきたが――3日分の食料と包帯だけで何が出来るんだよ、剣はあるが刃こぼれした場合とかのメンテとか出来ないし、俺の魔法も多くは使えない……と」

 

 一応誰にも見せられない攻略ノートは持ってるが、マップ自体を覚えてないせいで、帰れる気はしないし。

 こんな時にスマホがあれば、遭難した時の対処法でも調べるのになぁ。

 現実逃避がてらにそんな事を考えるのは、解決策が見つからないからだ。

 

「あまりにも滅茶苦茶に動いたせいで、帰り道とか分からないし……何より、この森の隠しボスこの時期だと残っているよな」

 

 やることがないので、一先ず俺は持ち歩いている攻略ノートでこの朱の森というダンジョンの事を調べる事にした。

 

「えっと、牙の森……牙の森……あ、あった。『牙の森』そして別名が日の森。太陽が出ている間日の光に溢れる聖なる森。そしてこのダンジョンには、回復系のアイテムと満腹ゲージを回復するための果物が多数存在し、主に鳥や獣系のモンスターが多く生息している……隠しボスである聖獣フェンリルは、対話することが可能で何かを対価に願いを叶えてくれ……る? あ、これ助かるんじゃない?」

 

 このノートを見る限り、俺が今やることは一つだろう。

 それは、フェンリルに助けて貰う事だ。対価は毎回ランダムだから祈るしかないが、そこは頑張って交渉でもしてというか、アリア視点でみたがあの獣はかなり寛大だった気がするし、何より子供に優しかったはずなのでわんちゃん助けてくれる筈。

 

「そうと決まればすぐ出発、この森なら食料に困らないし気楽に頑張るぞー!」

 

 だけどこの時俺は見落としていたのだ。

 攻略ノートにあった一文、この森は日が出ている間は基本光に溢れているということを。



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