お気楽ご機嫌ゴッドイーターズ! (袈裟前 害)
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お気楽ご機嫌ゴッドイーターズ!
1-1 クソッタレな職場だが


「シャブ中」

「薄らバカ」

「カスに失礼」

「イキリ全振り」

「陸には不向き」

「キモさは超一流」

「ウジ虫野郎」

 がたんごとん。

 別に憎しみ合ってるわけじゃない。何とは無しに任務からの帰路で始めた罵倒しりとりが、思いの外盛り上がりを見せたもんだから、俺達3人はこうやって不機嫌な顔で舌打ちを飛ばし合ってるわけだ。

 雨の中の任務だったせいで濡れ鼠になったし、今いるトラックの荷台には窓がねえし、道が悪からガタガタ揺れるし、兎に角イライラするから何かしようぜって始めたこのしりとりだが、余計イライラするし多分失敗だったんだろうと思う。

「うんこ以下のゴミ」

 装甲トラックの荷台、コンテナの壁に寄りかかって答えたこいつは、俺と同じ第7討伐班の早川ハヤテ。ツラだけはいいが人格が終わってる。

「見かけ倒しの雑魚」

 コンテナの床に座って、トラックの振動をケツで直に感じる趣味があるのがデカブツのコフィ・アナン。ハヤテ程じゃねぇが人格が終わってて、会話が成立しないことがある。

「腰抜けなのにGE」

そしてコンテナの天井、出っ張りに意味も無くぶら下がってるのが、最強で人格も大変ご機嫌なこの俺、

 ぎりりりりり、急ブレーキのかかったトラックが軋みを上げて、俺達はコンテナの床にひっくり返る。しこたま打ち付けた頭が痛む。

「痛えなクソ」

「ッチ、」

「仕事だな」

『緊急事態、仕事の時間だよカス共』

 着けっぱなしのインカムから声が聞こえて、俺達は痛みもそのままに、身体に染みついた動きで、壁に4つ並んだ棺桶みてえなロッカーを開く。

 ぷしゅう、俺の相棒を厳重にしまい込んだ分厚い棺桶ロッカーがゆっくり開く間に、コフィがマルコ、トラックの天井で見張りをやってる第7討伐班の班長に状況を確認する。

「了解マルコ。何があった?こっちは3人ともすぐに出られる」

『OK、コフィは僕のところに。一緒に周辺警戒だ。イカれた二人は前方に展開してくれ。前方右側に大型の反応がある。距離5,000』

「了解した」

 完全に開いた棺桶ロッカーの、その中で冷やされていた相棒が、真っ白な冷気を突き破って、がしゃんと音を立てて、俺の目の前にその真っ黒な持ち手、グリップを現す。

 右手、赤くてデカい、バカみてえにデカい腕輪が嵌まった右手を伸ばして、相棒を掴む。

「へっへっへ」

 思わず口元が緩んだ、この重くてデカくて硬くて超かっこいい相棒を、これから思う存分振り回すのだ。横を見るとハヤテの野郎も薄ら笑っていやがった。いややっぱ命を懸けた仕事を前にヘラヘラしてるなんてこいつ頭おかしいんだなと思った。コフィは特に感慨もないようで、既に天井に続く通路へ移動していた。やっぱこういうのがプロの態度なんだよな。いやこいつ前に出れないから不機嫌になってるだけか。

「おい、出るぞ」

「へいへい」

 ハヤテが顎で示すコンテナの後方、ハッチが開いて、すっかり暗くなったでこぼこの道が見えた。

 俺達はそれぞれ相棒―――神機を担いで、外に飛び出す。握った右手から、どくん、と相棒の鼓動が伝わってきた。こいつやる気十分かよ。

 まあ俺だってそうだ。

俺の名前は遠藤ゴウ、極東第2支部、第1大隊第7討伐班のゴッドイーターで、趣味と特技はアラガミ殺しだ。

 

 

 GEにとって距離5000は一瞬だ。駆け足で森の中を突っ切って、少し開けたところからアラガミの様子を伺う。距離は300。アラガミの反応のあった地点(だと思う)には、何かの廃墟とデカい駐車場が見えた。

「デカい建物と駐車場があるぜ」

『旧時代の商業施設だね。―――そう、調査は済んでるみたいだ。アラガミは?』

 多分オペレーターのコダマさんに確認したらしいマルコの声に応えて、双眼鏡を覗き込む。GEの視力がいいって言っても夜中は普通に視界が悪い。なんせ暗いからな。

「ん、ん?あれ死んでんのヴァジュラか。ほれ」

 ヴァジュラ。大型のアラガミで、何か電気飛ばしてくるのと爪で攻撃してくるやつだ。やたらとよく発生する上に電気の攻撃がこっちをスタンさせることもあるから結構な数の仲間がこいつらに殺されてる。トラに似てる、らしいがどっちかっていうと猫じゃねえか。

兎に角、それの千切れた上半身が廃墟にへばりついてて、それをアラガミ共が貪ってるように見えた。双眼鏡をハヤテに渡す。

「報告、恐らくヴァジュラの死骸にアラガミが群がってる。クアドリガが1と、オウガテイルが山程いるな。呑気にケツ向けやがって、こっちには気づいてない」

 クアドリガ。装甲船の船首にヒトの上半身、船底に四つの脚をくっつけたような大型アラガミ。バカみてぇに硬くて重くて、身体の中で作ったミサイルをばら撒いたり、体当たりとか踏みつけで攻撃してくるやつだ。動きは鈍いが助走があれば俺らの装甲トラック並みにはスピードが出るし、まあ建物とかトラックとか、そういうものをぶっ壊して被害を出してくるクソみてえなアラガミだ。アラガミは大抵クソだ。

『そのヴァジュラからコアは抜けそう?』

アラガミにはコアとかって細胞の塊があって、それを抜いたり壊したりすると全身の細胞が風に流されて飛んで行って何にも残らない。今回みたいに死骸が残ってるってことは、コアがまだ残ってるってことだ。

双眼鏡を覗きこんだハヤテが慎重に答える。返せよ。

「損壊状態から言って、無傷の可能性は―――、あー、あるだろうな」

 無傷のコアは新しい神機になる、そう、俺達の相棒は制御されたアラガミなのだ。あと無傷じゃないコアもまあ、色々使い道はある。

『―――よし、ヴァジュラの死骸のコアを確認して、クアドリガだけ討伐しよう。他のアラガミが集まってくる前に突破したいから、作戦時間は300秒だね』

 隣のハヤテと目配せをする。こういう場合はまず一人が突っ込んでデカブツを引きはがす。もう一人が雑魚を散らしてコアを確認、その後デカブツ狩りに合流する。雑魚を一気に蹴散らす突破力があるのはこの血走った目の槍使いだ。もうアラガミをぶっ殺したくて興奮してやがる。怖っわ。病気かよ。

「おい」

「ああ」

俺達は目線を合わせ、頷き合う。

第3大隊にいた時からのそこそこ長い付き合いになってきてて、最近はこういう役割分担で揉めることもなくなってきた。

「俺が死骸からあのデカブツを引き離す」

「俺はクソ戦車をやる」

 駄目だった。何て協調性のない野郎だ、こいつと任務とかイカれてんのか?

「雑魚どもを散らすならお前の槍だろ」

「俺なら銃形態でプルできるんだよ」

 ハヤテの神機、槍形態のそれを指差して言うと、ハヤテはがしゃり、と神機を銃形態に変形させた。強襲タイプ(連射系:長距離も可)だ。俺も負けるもんかと銃形態に変形させる。近接タイプ(散弾・放射系:射程が短い)だ。クソが。

『クアドリガはハヤテが担当、ヴァジュラの死骸とオウガテイルはゴウが担当してね』

 こっちを見てにやりと笑って、ハヤテが神機を構える。準備万端かよ。マジでクソが。

「そっちも警戒を頼む。こっから第2支部まで結構あるんだ、歩いて帰るのは御免だぞ」

『分かってるって。コフィから何かあるかい?』

『―――怖くなったら帰ってきていいんだぞ』

「ふざけんなボケ」

「お前は指を咥えて見てろ」

『じゃ、二人とも頼むよ』

「ああ」

「解ってるよ、畜生」

 頼まれちまえば仕方ねえ。俺達はチームで、チームでいるためにはそれぞれの役割を果たさなくちゃならねえ。役割についてはマルコがよく分かってて、あいつがこういう時に間違えたことはあんまりなかった。マルコの言う通りにしてれば、大抵の場合俺達は気持ちよくアラガミをぶっ殺すことができた。

「くくく、雑魚どもを近づけんじゃねえぞ」

「あ?殺すか?」

『よし、じゃあ任務を開始してくれ』

 まあ仕事は仕事だ。デカブツをやれないのは残念だが、切り替えていこう。それに雑魚とはいえ数は多い、斬りまくるのもそれなりに楽しいだろうし、相棒も降って湧いた「おかわり」にご機嫌な様子だ。

「行くか」

「あいよ」

 ハヤテが左に向かったから、俺は自動的に右から回り込むことになった。急がねえとあのバカが戦闘を始めちまう、俺も小走りでいいポジションを確保しに向かった。

『ゴウ』

「あ?」

 ちょっとも進まねえうちにハヤテからの通信があって、俺は疑問符を浮かべる。

『ぎゃは、悪いが我慢の限界だ』

 ずがん!がんがんがん!

 発砲音、クアドリガのケツが光る、着弾した、あの馬鹿何を、

 ―—―あいつ雑魚も纏めて喰うつもりかよ!

「てッめえふざけんなよくそボケカスがァ!」

『ぎゃは、皆殺しにするんだ、変わりゃしないだろう』

「確かになァ!」

 一気に意識が加速する。

 身体も加速する。

 ハヤテに気付いたクアドリガがミサイルポッドを開く、ハヤテは構わず突っ込む、地面を這うような姿勢から勢いに乗せて人体っぽい部分に槍を突っ込む、クアドリガが怯む。

 オウガテイルもハヤテに向けて、尻尾から針?棘?を飛ばす体勢。

 ―――気持ち右回りに膨らみながら走る!走る!

「こっち見ろやァ!」

叫べばオウガテイルの何匹かがこっちを向く。相変わらずの鳥の体にでけえ頭、しゃもじみてえな尻尾の小型アラガミ、右手の神機に遠心力を載せて、まだ遠い、尻尾から飛んでくる針?棘?を半身になって回避、ついでに流れ弾のミサイルも回避、

「があぁぁぁぁぁァ!」

一歩、右足を大きく踏み込んで、

「死に腐れやァ!」

 右手一本で神機を袈裟に振りぬけば、オウガテイルの首が落ちた。2匹分。勢いはそのまま、前に体を流して、オウガテイルの群れに飛び込みながら水平に一回転、

「もう一丁!」

 身体の回転に合わせてもう一発、今度は両手で大きく振って、4匹を斬った、2匹はぶっ殺したから後でコアを抜く、2匹は浅い、仕留めきれなかったが再生するまで動けない、流れ弾のミサイルがぼこぼこ着弾するが、構わん!

 振りぬいた俺の相棒、長剣タイプの神機が、金属質の刀身に緑色の月の光を反射する。

 こっちに気付いたオウガテイル共が威嚇してくるが、今度は無視、足を止めずに走りながら、見えてきたヴァジュラの死骸に切っ先を向ける、ぞわり、ぞわりと刀身から黒いものが染み出してくる、これが俺の神機の本体、捕喰形態≪プレデターフォーム≫!

 刀身より一回りデカくなるまで染み出し終わったら、次は刀身が先端から二つに割れていく、巨大な顎だ、

「喰らい尽くせ!」

 力を込めて、死骸に神機を突き出す、黒くてデカい口が伸びて、死骸に噛みつく!

 神機から俺に感覚がフィードバックする、ヴァジュラの体からコアを探す、こっちか、反応が、こっちか、見つけた、無傷じゃねえか!いやよくわかんねえ!無傷じゃないかもしれねえ!

 俺の神機がずぞぞ、ずぞぞと音を立てて、さっきとは刀身に逆に黒いものが染み込んでいく、刀身が生物的なものから金属質のものになる。

「っし、報告ッ!ヴァジュラのコア回収完了!」

 無防備な背中にオウガテイルの針を刺されながらコアの回収報告をする。

『了解、さすがゴウだね。ところでさっき叫んでたのは何かあったのかい?』

 マルコから通信が返ってくる、一瞬達成感で忘れてたけどそうだった、俺は神機を振り回してオウガテイルを雑に処理しながらマルコに返答する。

「あの馬鹿いきなり正面から突っ込みやがった」

『時間をかけてヴァジュラのコアを失っても仕方ないという判断だ』

『まあそうなるとは思ってたよ。でも逆でもゴウはそうしたんじゃないかな』

「確かに」

 大口開けて噛みついてきたオウガテイルの口の中に神機をぶっ刺す。死んだかな。死んだ。

『さ、あと少しだ。ゴウ、クアドリガをぶっ殺して回収しよう』

『一人でもやれるぜ』

『早いほうがいい、ヴァジュラを殺ったのがクアドリガとは限らないしね』

 減らず口を叩いたハヤテがマルコにたしなめられる。ざまあ見やがれ。

あと戦闘が長引けば我慢できなくなったコフィがこの辺一帯を吹き飛ばす可能性がある。あいつの神機と人格はマジでイカれてる。

「よーしノロマ、手伝ってやるぜ」

「針刺さってんぞ」

 クアドリガの横っ腹にぼこぼこと穴を空けているハヤテの横に並ぶ、通信もいらない距離だ。クアドリガは全身かなりズタボロで、排熱機関とミサイルポッドが結合崩壊を起こしていた。危ね、瀕死じゃんけ。

「あとちょっとなんだから邪魔すんなよ」

 うるせえ俺にも殺させろ。

 あと一押しのために一気に切り込む、クアドリガの後ろ脚に右からの打ち下ろし、左からの打ち下ろし、体表の装甲に阻まれて連撃は殆ど通らないが、若干柔らかくなったところに一気に≪捕喰形態≫をぶち込む!

「オラァ!」

 神機の本体がひび割れた装甲の隙間から侵食し、オラクル細胞を一気に吸収する!

 神機に力が漲る、神機を通して俺にも力が流れ込んで来る!

「ひひひ、神機解放!」

「あ、待てコラ」

 ハヤテが慌てて捕喰攻撃をぶち込むが、時すでに遅すぎた。

 神機とGEは一度に大量のオラクル細胞を吸収すると、吸収したオラクル細胞を燃料に神機解放(バースト)状態になり一時的に能力が上昇する。

「アラガミはこうやって倒すんでちゅよー、オラァ!(ズドン)インパァ!」

「は、殺すが?」

 インパルスエッジ(インパ)は長剣形態では刀身の付け根に収納されている銃身パーツからオラクルエネルギーを噴出させる必殺技、銃形態に変形させなくても銃撃ができる便利な技だが何故か使い手が少ない。反動で銃身パーツがすぐ駄目になるからか?

 クアドリガの後ろ足にまともに直撃したそれは後ろ足を吹き飛ばし、一時的に行動不能にする。巨体のアラガミが傾く、前足だけで藻掻こうとするが、全身の重量を支えきれない。

「ケっ、止めは俺がもらうぞ」

「あいよ」

 バースト状態のハヤテはとん、とひと跳び、クアドリガの正面、殆ど触れ合うような距離に着地、―――した時にはすでに槍パーツを展開形態にしていた。

「くたばれ」

 突然目の前に現れたGEに、クアドリガはチャンスとばかりに前面装甲を展開、体内で生成したミサイルを発射しようとするが、ハヤテのほうが早い。

―――神機ごとハヤテの左腕がクアドリガに埋まっていた。

 一瞬遅れて衝撃が俺のところに届き、それから爆発音。それは、オラクルエネルギーの噴射音と、神機が凄まじい速度でクアドリガを貫通する音。

 ハヤテのチャージグライドが、デカブツの中身を抉り取って止めを刺していた。

 チャージグライドは槍パーツをなんか細胞を抉り取るのに適した形に展開させて後方にオラクルエネルギーを噴射、加速して突っ込む、間合いの外から肉薄して大ダメージを与える槍の必殺技だ。何故かこいつはしょっちゅう密着状態で使う。

「こちらハヤテ、クアドリガ討伐完了。周辺にはアラガミの気配なし」

『了解。トラックをそっちまで動かすからコアは抜いといくれよ』

「了解」

「了解」

 クアドリガからコアを抜き始めたハヤテに背を向けて、俺も、とりあえず転がしといたオウガテイルからコアを抜くために歩き出す。コアを抜かなければアラガミは時間をかけて復活する。まあコアを抜いてもアラガミはどこかで発生する。

『―――第2支部より通信、第2支部より距離12,000、ヴァジュラ2体とラーヴァナが3体、コンゴウが6、その他小型が複数。救援求む、ってさ』

 ほら見ろ。

 何でもこの終わりの見えない戦いに心を病んじまうGEもいるって話だが。

『ようやくおれの出番だな。さっさと行ってぶち殺すぞ』

『よーし、それじゃもう一戦行ってみようか』

『上等だ、おいゴウ、コア抜き急げよ』

 この戦いに終わりは見えないが、それはつまり。

「ひひひ」

『おい聞いてんのか』

 装甲トラックの音が近づいてくる。

「おっしゃ、んじゃ気合い入れてアラガミぶっ殺そうぜ」

 俺はコアを抜くために神機を捕喰形態に変形させる。

 

 クソタッタレな職場だが、無限にアラガミをぶっ殺せるってのは、まあ気に入ってる。

 



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1-2 半人前扱いかよ

 俺は俺のことを模範的なGEだと思う。

鉄火場にも一番乗りで突っ込んでいくし、出撃頻度も高い。たまたまコアを無傷で手に入れられないことは、そりゃたまによくあるが、討伐任務なら達成率もいい感じだ。

オペレーターや補給班が一緒の時は撤退命令だってちゃんと聞く。

何よりアラガミをぶっ殺すのが好きだ。

 

「このようにアナグラは完成されたアーコロジーであることは事実だが、説明した通り完全ではない。完全、つまり真にアナグラのみで全てを循環させることが可能になるには、

―――人類がアナグラから一歩も出ないこと、そしてアナグラに拡張の必要がなく、アラガミ防壁が十分な期間メンテナンスを必要としないこと。

これらの条件が揃った時、初めてアナグラは想定通りの性能を発揮できる、というわけだ。実際には空気や水、有機質やミネラル、オラクル細胞といったあらゆるものを外部から少しずつ補給している。」

 

 でも何でだかウォン先生にとってはそうでもないらしい。

ウォン先生―――マジですげえGEで、第3大隊だった頃に俺の指導教官だった人だ。

先生に鍛えてもらってなけりゃ初任務だけで10回くらいは死んでるだろうな。いやまあ先生に殺されるかと思ったことも10回じゃきかねえけど。

 それで、ウォン先生はよく俺にこういう講義を受けるように言ってくる。他の、第1と第2中隊のGEは任意なのにな。半人前扱いかよ。

 

「サテライト拠点の発展、独立部隊クレイドルの活躍は諸君らもよく知るところだろう、この発展は、それ以前に主流であった『既存のアナグラの拡張・アナグラ内での人類の保護』とは別の可能性を提示した。

アナグラ内の人類の予想以上に、人類はアナグラの外でも生き残っていた。その一刻も早い保護のためには、『既存のサテライト拠点の拡大』、『新たな拠点の設置』が求められるようになったわけだ。より早く、より効率的に」

 

 今俺が受けている講義は初級GE向け、『第2支部の成り立ち(技術編)』だ。

第2支部の立ち上げにずっと関わっていたウォン先生が教えるとあって人気の講座で、初年度のGEはほぼ全員が受講するから50人が入る教室が満席になってる。

普通のGEはそう何度も受けられない―――初年度以外で受講するなら、教室の後ろで立ち見になるしそれも抽選制だ、が、俺は特別にウォン先生から指名されて何度も席について受講してる。特別待遇だ。すげえだろ。

昨日はあのあと真夜中まで戦闘が続いてたから正直かなり眠いんだが、ウォン先生との約束をぶっちぎるわけにはいかねえからな。

 

「では拠点に求められる機能は何か。最低限、居住設備と生産施設だ。そしてそれらを防衛するためのアラガミ防壁。とはいえアラガミ防壁の生産には生産施設が必要だし、生産施設には人員と彼らが暮らす居住設備、―――無論、資源も必要だ。更に防壁を設置する間は、防壁と設置のための人員自体を守らなければならない」

 

 とはいえ集中力も尽きてきた。ちらりとウォン先生から視線を外して、同じ教室で講義を受けてる連中の様子を伺う。

流石にどいつもこいつも真剣だ。先生はマジですげえGEで、教え子にもすげえGEがいっぱいいるからな。

と、左の席に座ってる奴と目が合う。13、4歳くらいか?第3大隊に配属されたてって感じだな。何でこの歳の俺がここに座ってんのかって顔をしてやがる。俺だってわかんねえよこの野郎。

 

「これらの問題に対して。サテライト拠点の拡大を進めたクレイドルは、当初、極東本部などで生産したアラガミ防壁を輸送することにして、設置の間の防衛力を彼ら自身が賄う事とした。彼らは皆、尊敬すべき、一流のGEだったからね。それが可能だった。

この写真を見てほしい。先日極東支部から提供してもらった、出発前の写真だな。

右のトレーラー、アラガミ防壁を運ぶものだ、設置のための重機が確認できる。

左のトレーラーは工事人員の輸送用に使われたものだ。セットにして運用された。人員用のトレーラーの荷台は、工事完了後は切り離してそのままサテライト拠点の居住スペースとして利用された。

左のトレーラーで手を振っているのが誰だか分かるか?かの雨宮リンドウ大尉だ。隣は―――嘘だろ、大森タツミ隊長!これはすごい写真だぞ!―――すまない、取り乱した」

 

 うわびっくりした。隣のやつと一緒に教室の前で解説してるウォン先生の方を見る。

マジだ大森隊長だ。先生大森隊長好きすぎだろ。ことあるごとに褒めてたもんな。大森隊長を模範として、大森隊長のように、大森隊長の何たらかんたら。

正直そこは雨宮大尉じゃねえのって気もしなくはない。だって滅茶苦茶強いらしいぜあの人。ウロヴォロスも素手でぶっ殺したって話だしな。

 

「着実に成果は上がっていた。クレイドル以外の、まあ一般のGEで可能であるかと言われれば、待機人員や補給・整備人員の都合でもう2台ほどトレーラーが必要になると試算されたがね。

では新たな場所に拠点を作るにはどうか。これは現実的ではなかった。既存のサテライト拠点はアラガミ防壁以外の生産施設を備えていたから、これの拡大にはその施設を使うことができた。

だが新たに拠点を作る場合は、防壁を設置する間、本部や別の拠点から生活物資を補給し続けなければならない。防壁を設置し終えたら次は居住設備と生産施設だ。これも別の場所から資材を搬入する必要がある。輸送の護衛には多くのGEが必要とされる。

つまり拠点を同時に複数作ることは不可能だったし、時間を掛ければ生存者も減っていくだろう。先にも言ったように、より早く、より効率的な拠点の設営が必要だった」

 

 やべえいよいよ眠くなってきやがった。いつの間にか半開きだった口から手元の端末によだれが垂れる。やっべ。(べき)よし。

やっぱ眠くなったときは指の骨を折るに限る。隣のやつがびっくりした顔でこっちを見ていた。お前も真似していいぞ。GEだったら回復錠飲めば大体治るからな。

 

「結果的には諸君らもよく知るこのプランが採用された。写真はフライア、独立移動支部フライアだ。居住設備と生産施設を備えた移動するアラガミ防壁、と言い換えることもできる。研究施設も相当部分を占めていたとのことだが。

ここから着想を得て、そう、居住設備と生産施設とアラガミ防壁をひとまとめにして現地に送り込もう、とね。先に説明したサテライト拠点の拡大及び新たな拠点の建設のために、安全な場所で小型のフライアとも言える、移動式の拠点を生産、拠点の拡大や設置に使うことになった。

―――時間だな。ここまでだ。次回は第一号の移動式拠点がいつどこで造られ、運用されたかについての話から始めよう。では本日の講義を終了する。」

 

 マジかよ指まで折ったのに講義終わっちまった。骨折り損の、あれ、―――そう、アレだ。

 

 

 

 教室から第1大隊用のラウンジに移動した俺は、中央の丸いキッチン兼カウンターに腰掛けて、眠気覚ましのコーヒーで回復錠を流し込む。これがキマるんだ。

「ひひひ」

「あー、また回復錠の悪い使い方してる」

 明るい声がして意識を戻すと、空席だった左の席に日焼けした肌の大柄な美人が腰掛けていた。天使かな。右側を刈り上げたツーブロックがばっちり決まってる。

「マイ姐さん、キョウトから帰ってたのか」

 第6討伐班はちょっと前から第2支部とキョウト拠点との間で補給部隊の護衛任務をやってたはずだ。ひと段落着いたんなら任務に誘ってみるかな。ずっと頭のおかしい連中とばっか組んでるとこっちも頭がおかしくなりそうだしな。

「今日の朝ね。昨日の夜は大変だったみたいじゃん」

「ああ、帰り道に防衛班に誘われて合同任務をやったんだ。流石に数が多いから何匹か間引いてくれってさ」

「ふんふん、それで?」

「楽しかった。マルコがうまくコンゴウだけ釣ってさ。皆で6匹くらい狩ったんだ」

 マルコが移動中の群れにバレットを撃ち込んだら、どういう理屈かコンゴウと小型が何匹ずつか群れから離れてこっちに向かってきたから、第7全員で誰が一番多く殺せるかの競争をやった。あれは滅茶苦茶楽しかった。

「へえ。みんなは一緒じゃないんだ」

「マルコは報告書書いて寝るって。コフィはオヴェスト博士から呼び出し食らってる。ハヤテも寝てんのかな。俺はウォン先生の講義。マイ姐さん達は?」

「みんなはあっちにいるよ。あっちで話そう。お願いしたいこともあるんだ」

「わかった」

 指差した方向、壁際のテーブル席を見ると、第6討伐班のGEが4人みんなで座っていた。まあこういう場合は任務の手伝いだ。

ふむ、マイ姐さんは美人だし優しいから大体のお願いなら聞くぞ俺。悪いなコフィ、呼び出しとはツイてなかったな。ハヤテ、早起きは三文の徳って言うらしいぜ。残念だったなざまあみやがれ。

 あれ、第6だけかと思ったが壁際に何かデカいのがいるな。女だらけの第6に入ろうなんて勇気のあるやつがいたもんだ。どんなバカかツラ拝んでやる。と思ったら知り合いだった。

「よーすお疲れ、あれ、久しぶりだなアーロン」

「ああ、お前はとっくにくたばったかと思ってたよ」

「あ?何だ第5をクビになってこっちで面倒見てもらってんのかバーカ」

「ぶっ殺すぞてめえバカ死ねバカ」

 口の減らねえこのデカい(コフィほどじゃねえけど)のは第5討伐班のアーロン・ルイス。俺が第3大隊に入った時からの付き合いで、つまり同期だ。

何でか最近は顔を合わせるたびに因縁つけてきやがる。ムカついたから思いっきりガン飛ばしてやる。オ“ラッ!死ねッ!

「いきなり険悪にならないでくださる?というかマイさん、どうしてこの狂人に声を掛けたんですの」

「腕は確かだよ」

「腕以外が確かじゃないから言ってるんですのよ」

 立ち上がって呆れたように言うのは第6討伐班のナディア・レニエ。長い金髪とデコが眩しいお嬢様で、なんかキツそうな見た目をしてるし実際性格がキツい。すぐ前線を下げろとか距離を取って仕切り直せとか言ってくるんだぜ。

 両手を腰に当ててやれやれ感を出しているナディアの横に座ってる、癖の強い髪を後ろで縛ってるのが南条リン。

目が合うとにへ、と笑って手を振ってきたからピースサインを返してやる。アーロンと同じく俺の同期で、というかこいつと俺とハヤテとアーロンは同じ日に同じ部屋でGEになった腐れ縁だ。

「マルコ君は班長の仕事が忙しそうだし、ゴウ君ならコフィ君とハヤテ君よりはお願い聞いてくれるかなって」

「そりゃマイさんのおっしゃる事なら聞くみたいですけれど」

「流石マイ姐さんだ、見る目があるぜ」

「……消去法、で選ばれてるんだけど、それは大丈夫?」

「なんで?」

 今喋ったのは第6討伐班の最後の一人、クロエ・ホシノ。前髪で目が隠れてるからあんまり表情はわかんねえけど、基本こっちを気遣ってくれるからいい奴なんだろう。消去法だとまずい理由があるのか?俺には分かんねえや。

「じゃあ、えーと、どこから話そうかな。うん、実は第5で今、新人の面倒見てるんだって。教育係はローテで回してるけど、アーロンが4日くらい暇になったから、第6の任務を手伝ってくれないかなって。二人に協力してもらえれば3・3で2隊分になるでしょ?」

「ハブられてやんの」

「イカれ揃いの第7には後輩来ねえけどな」

―――これは多分偶然だと思うんだが、後輩がうちに研修に来たことは無かった気がする。戦闘中の指示も「殺せ」「探して殺せ」「スタングレネード」「コフィから逃げろ」の4種類覚えりゃいいだけの簡単な職場で、新人の研修に来るならうってつけだと思うんだけど。

「ああ、マイ姐さんの頼みだし全然構わないぜ。明日?このへんの討伐?」

「うん、明日の朝から支部周辺の討伐。あと実はわたしの神機が調子悪くて。いっそ更新しようかと思って、その素材集め」

「大丈夫だったのか」

「任務が終わってからだから大丈夫。ブースターの調子が良くなくてね。予備で育ててたこの、ラースマッシャにしようかって考えてるところ」

 マイ姐さんは自分のタブレット端末に自分の神機(3Dモデル)を表示させる。今使ってるのはポールタイプの神機、ブーストハンマーで刀身は基本のハンマー系統。

すすっと指が動くと3Dデータが更新されて、刀身が別のハンマー、髑髏のマークが入ってるやつになる。あっ爪綺麗だな。

 あと育ててるってのは予備のパーツを強化してるって意味だ。

俺達は何種類かのパーツを所持することが許可されてて、それを任務ごとに切り替えたり予備として保管したりしてる。

保管もコストがかかるから保有できる数は決まってて、新米なら予備は各パーツ1つのみだが、強くなると枠が増える。あんまり数揃える奴はいないみたいだけど。

「マイさんはずっと前衛をやっていらしたから、神機への負担が大きくなってしまって」

「展開機構がヘタるとオーバーホールしかないですからね。ついでにこのガットは変えないんですか」

 端末をのぞき込んでアーロン、こいつもブーストハンマー使いだ、が言う。

マイ姐さんの神機の銃身パーツは近接系、ガット系統。銃身が分厚くて頑丈な系統だ。強化ランクは、―――あんまり上げてねえな。これは刀身と装甲に素材を回してるせいか。

「ちょっと金剛大筒が気になってはいるんだよね。銃口2つあるのがどんな感じか分からないけど、瞬間攻撃力は高いって話だし」

 金剛大筒。コンゴウの素材を使って作るショットガン系の銃身パーツで、銃口が2つあるのが他にはない特徴。いやマジで何でこれだけ銃口2つなんだ。

「確かに2発いっぺんに撃てるけど反動がきつい。いっぺんに2つ撃たない場合は片方ずつ交互に使わなきゃいけないのがちょっとめんどい(独自設定)」

「へえ、使ったことがあったんだ。でもゴウってずっとマックスじゃなかったっけ」

「銃口2つでインパの威力も2発になると思って作ったんだよ」

「駄目だったんだ」

「駄目だった」

 聞いてきたリンにはそう答える。銃口は2つなのにインパは一発しか出なかった。

ちなみに今俺が使ってるのはマックス系統ってショットガンで、簡単な造りで銃口が大きくて頑丈で整備性も高い。何より要求される素材が少ない。

インパはどうやら神機への負担が大きいらしく銃身パーツをすぐ交換する羽目になるからな(独自設定)。造りやすくて頑丈って意味ではガット系でもいいんだが、ありゃちょっと銃口が小せえんだ。

「とりあえず作ってみましょう、それで気に入らなければ流せばいいし。昨日ゴウがコンゴウ狩ったんなら、素材はありますし」

「いやそれはゴウさんの素材でしてよ」

 使わなくなったり壊れたりしたパーツは大隊に引き取ってもらうことができる。他のGEに回されたり、潰して防壁とかに使われたりする。

―――たまに変なもんが流れてくるんだよな。墓石シリーズ一式って何だったんだ?

「いいよ、使ってくれ。特に使うものは無かったから」

「ありがとう!代わりに何か素材あげるね、何が欲しい?」

「ボルグ・カムラン系統のを。ブレードの強化に使うんだ」

「整備室に連絡しとくね!」

「あ、俺もやんねえと」

素材そのものと、誰がどの素材を保有してるかは整備室が管理してて、こうやって端末から連絡して保有権を移せば、マイ姐さんが俺の素材を使えるようになる。

逆もそうで、こうやって素材を融通し合わないとなかなか強化に必要な分が揃わねえ。ウォン先生もGEは助け合いだって言ってたしな。あとハヤトにもメッセージ送っとくか。俺の保有分だけじゃ足んねえかも知れねえし。

「……第5討伐班では、ヤマトさんも、近接タイプではないですか」

「あ、ああ、先輩は獣砲、シユウのやつを使ってますよ。砲身が短くて取り回しがいいんだって言ってました」

「獣砲?ほんとだ、……はー、こう見ると獣砲ってこんなに短い、へぇあ」

 クロエに袖を引かれたアーロンが面白いくらい狼狽える。お、なんだお前青春か?

長い付き合いのこいつが、こうやって色恋沙汰であたふたしてるのを見ると何だか奇妙な気分になるな。

お前ちゃんとアラガミ殺し以外のこともできるんじゃねえか。

「……弾種は何を使うんですか?アラガミバレットとの相性は?」

「え、ええ、折角ですし先輩に聞いてきましょうか」

「……私と喋るの、嫌ですか?」

「ホァッ!?」

 できるんじゃねえのか?

「ケッ、大人になりやがって」

「あら、あなたも男女の機微が分かるんですの」

 ナディアが何か言ってきたけど一瞥だけしてアーロンとクロエを眺める。アーロンは質問攻めにあって視線を彷徨わせるが、マイ姐さんは端末に夢中だし、リンとナディアはにやにやしているだけだ。

それで俺は、こいつら早くGEなんか辞めればいいのに、と思ったんだよ。

 



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1-3 お友達がみんな死んじまうぞ

「いいか、うちの子たちに何かあったらただじゃ置かねえからな。ナディアの指示をよく聞いて、絶対に余計なことをするんじゃねえぞ」

 一夜明けて。神機も強化して準備万端の俺は、第2支部出撃待機場の、第6討伐班の装甲トラックの前で、第6討伐班オペレーターの戸倉ユウコさんから、滅茶苦茶注意を受けていた。まだ何もやってねえのに。

「うっす了解っす」

「本当にわかってんのかァ!?」

「うっす了解っす」

 戸倉さんは確か元第4討伐班のGEだっけ。引退して支援員、機材準備とか日程調整とか運転とかオペレートとかやる仕事、になったんだよな。めっちゃガン飛ばしてくるじゃんけ。

「大丈夫だよユウコママ。ゴウだってちゃんと回りを見れるんだから」

「アタシをママって言うんじゃねえッ!」

「ご心配はありがたいのですけど、そろそろブリーフィングの時間ですので」

 にこにこ笑ってリンが話しかけてくる。後ろには困ったような顔のナディアもいる。戸倉さんは腕時計を確認して、出発時間が近いことに気付いたのか舌打ちをする。

「クソ、いいか、お前らも気を付けるんだぞ。ヤバくなったらすぐに逃げろ。それで、おい遠藤、お前の悪評はアタシが現役のころから聞こえてるんだ。ちょっとでもふざけた真似をしてみろ、アラガミに食わせてやるからな」

「うっす勘弁してくださいよアレすげえ痛ぇんすよ」

「捕喰されたことがあるんですの……?」

「ちょっと前にウコンバサラに頭から」

 胸のあたりまで喰われたからやべえと思った。コフィがぶった斬ってくれなきゃあのままワニ人間になってたかもな。

後でマルコに映像見せてもらったが、あのバカ野郎、喰われながら立った俺を見て爆笑しながら斬りやがった。

―――何で言った戸倉さんが微妙な顔してるんだ。

戸倉さんはそのまま装甲トラックの方に歩いて行って、代わりにマイ姐さんとアーロンとクロエが来た。作戦会議だ。

 マイ姐さんが、胸の前でぱちんと手を合わせて話し始める。

「みんなおはよう。はい、じゃあ作戦会議ね。まずは今日のチーム分け。わたしチームとナディアちゃんチームね。わたしチーム、マイ分隊はわたし、クロエちゃん、アーロン君。ナディア分隊はナディアちゃん、リンちゃん、ゴウ君」

 緩い笑顔のまま、一人一人を見回して言うので俺も頷く。でも眼はもうマジだ。これは気合い入れねえとな。

「ダブルハンマーで近接武器のバランスが悪いから、飛ぶアラガミはクロエちゃんとアーロン君のブラストにお願いすることになっちゃうけどよろしくね」

「先輩のハンマー捌き、勉強させてもらいます」

「……空中戦は任せてください」

 話を振られたアーロンとクロエが答える。昨日確認したがクロエは刀身がショート、銃身がアサルトの手数重視スタイルだった。

「ユウコママの装甲トラックはナディアちゃんの方に付くから、ちゃんと守ってね」

「わたくしの分隊ではゴウさんが前衛、リンさんが遊撃、わたくしが後衛として全体を見ます。トラックもあるのでアラガミを見つけてもあまりトラックから離れすぎないように」

 ナディアの装備は刀身が俺と同じくロング、銃身がスナイパー、リンのは刀身が鎌、銃身がブラストだったか。

「ああ、まずは銃撃で機動力を奪うんだな。引きつけと牽制はリンとナディアのどっちだ?」

「え、ええ。アラガミを先に発見した場合は可能ならわたくしが狙撃で気を引いて、リンさんが銃撃で機動力を奪うか接近コースを限定、ゴウさんが組み合ってくださいな。

逆に、先にアラガミから発見された場合はゴウさんにできるだけ前に出ていただきます。まずは会敵した場所に釘付けにして、リンさんが遅れて会敵、わたくしはトラックに同行して接近します」

「戦闘中に別のアラガミと接敵した場合は?」

「中型2体以上か大型で即スタングレネード、マイ分隊と合流します。状況次第ではゴウさんに足止めをお願いすることになります」

 状況次第。いい言葉だ。昔コンビでやった時はやかましかったからどうかと思ってたが、指揮下で戦うなら気持ちよさそうだ。

「了解。よろしく頼むぜ」

「えっ」

「よろしくね、ナディアちゃん、ゴウ!」

 リンは昨日から随分機嫌がよさそうだ。キョウト方面の輸送部隊の護衛で結構ストレスが溜まってたってところだろうか。まあ飯も風呂も不自由だからな。

「お前と組むのも久しぶりだよな」

「ね。あたし達ずっとキョウト方面だったもんね」

 キョウト方面といえば、ちょっと前に極東通信(極東支部での出来事をニュース配信する電子新聞)で第6討伐班が取り上げられてたな。アラガミぶっ殺した数じゃ負けねえと思うが、やっぱ極東通信に載ると差をつけられたような気がする。

「そういやこの前極東通信に載ってたな。すげえじゃん」

「ま、あたし達は最高のチームだからね」

 ムカつくドヤ顔だな。大体うちのチームだってなあ、―――待てやっぱ無しだ。うちのチームはクソだわ。

「まあ、そこで『あたし達』って言うあたりお前も成長したってことか」

「お、なんだぁ?やるかぁ?」

 しゅっしゅっと効果音を口に出しつつ拳を突き出してくるリンを適当にいなしながら装甲トラックに向かう。

―――何かナディアは微妙な顔をしてるがきっとアレだ。俺の卓越した戦術理解に感動して「わたくし達のリーダーになって下さい」とか言うつもりだ。おいおいマイ姐さんを差し置いてそんなことできるかよ。

 

 

 

で、現在俺達ナディア分隊は、装甲トラックの荷台で周辺警戒をしている。同乗してたマイ分隊はちょっと前に別行動になった。天気は晴れで、遠くに雷雲だとか竜巻が見えたりもするがまあそこはいつものことだからな。いい天気なんじゃねえかな。

現在地点は第2支部の南東、約40km。このあたりは元はかなり人口規模の大きい都市で、第2支部をこの辺りに作るって計画もあったらしい。

「南東方向、ザイゴートが見えるな。見られたぞ」

 ザイゴートはデカくて羽の生えた黒い風船に、女の上半身が埋まってるような形をした浮遊する小型アラガミで、毒ガスを撒いてくることと目がいいこと以外はクソ雑魚だ。面倒なのは大体他のアラガミと一緒に行動してて、こっちを見つけ次第他のアラガミにもこっちの存在を知らせちまうってことだ。

「確認しました。発見されたようですわね。減速して南東方向に回頭。周辺の反応は?」

『周辺に中型以上のアラガミ反応なし、地中も反応なし』

「北西方向、異常ないよ」

 トラックが速度を落とす。俺はザイゴートがふらふら飛んでくる方をじっと見る。ぶっ壊れた住宅街で、2階建ての家がちらほら残ってて見通しが最悪だ。どうだ?

そりゃザイゴートだけってこともなくはないが、普通は別のアラガミが、

 いた。

「ヤクシャが2、……3体目を確認」

 4mはある直立歩行のアラガミ、ヤクシャ。群れで行動する足の遅いアラガミで、右の腕が砲身になってて、クソ雑魚射程のとろい弾をばら撒いてくる。威力もいまいちだ。

囲まれなきゃ雑魚だし、囲まれた場合はたくさん殺せるってことになる。腕がもう2本追加で生えたヤクシャ・ラージャってのがいて、それが群れのボスをやってることも多い。

 そいつらが3体、のそのそとこっちに向かって走ってきている。遊んでんのか?

「こちらからも確認しましたわ。距離はざっと2000、ラージャは見えますの?」

「見えないが―――相殺する!」

 家の残骸の一つが紫色に光るのを見た俺は、銃形態に変形させて飛ぶ。紫の極太ビームがトラックに向けて放たれた!ヤクシャ・ラージャの砲撃!

 間一髪、射線上に割り込んでトリガーを引く。デカい銃口からデカい音を立てて雑に飛び出るのは放射弾、短射程を面で攻撃するバレットで、銃口からガスバーナーみてえな弾が出る。威力はあるが味方を巻き込みやすい。

 目の前が真っ白に焼けて、腕に発射の衝撃が伝わる。

――――――相殺、完了。トラックへの被害も無し。まあこのトラックも2発くらいなら耐えるんだけどな。

撃たれた方向を見る。ぶっ壊れた家が密集してるあたりだ。アラガミの姿はない、てめえ隠れやがったなクソボケ。今からそっち行ってぶっ殺してやる。

「ゴウさん!」

「応!」

 ナディアの指示を受けて、走る。剣形態に変形した神機を担いで、アラガミをぶっ殺すために最高速で走る。俺はとにかく早くアラガミをぶっ殺したいし、トラックから離れた位置で会敵できればそれだけトラックは安全になるし、兎に角ヤクシャ・ラージャの砲撃は止めねえといけねえ。

『ヤクシャ・ラージャ1、ヤクシャ3を目標に設定、討伐します。ザイゴートは無視してください』

「了解!」

 走る、走る、ヤクシャの射程に入る、横一列に並んで走る3匹の間抜けなヤクシャが弾を打ってくる、脇の下から後方確認、トラックはすでに射線を切ってる、なら俺も、ほとんど掠るような軌道で躱す、弾とすれ違う、最短距離をまだ走る。

『リンさんはトラックが停止するまで待機、安全確認を優先します!ユウコさん、マイ分隊に連絡を!敵がまだいるようなら救援を要請します!』

『了解!』

『了解ィ!』

 走る、ザイゴートまであと少し、俺はその奥のヤクシャを睨む、ヤクシャがクソ雑魚ビームを撃ってくる、避けるから当たら、ない!

ザイゴートが大口を開けて飛び掛かってくる、インカムから発砲音、穴の開いたザイゴートが地面に落ちる。ナディアの狙撃だ。やるじゃんけ!

 神機の刃を上に向けて突っ込む体勢、3匹のうちのど真ん中、前傾姿勢で突っ込む、ヤクシャどもが俺に砲身を向ける、遅かったな!

「死ねやァァァァァァァァッ!!」

 俺の神機は正面のヤクシャの右胸に突き刺さり、身体を構成するオラクル細胞をごっそり吸収した。コアは外したが、そのまま右肩に斬り上げれば砲身になってる右腕が吹っ飛ぶ。これでてめえはただのデカくて柔らかい片腕ゴリラだな!

 正面のヤクシャは右肩、切断面を抑えて(アラガミも痛いらしい)膝を突く。両側のヤクシャは、まだ斬り上げた態勢で空中にいる俺に照準を合わせるが、

「だから遅えんだ、よッ!」

 空中から倒れてるヤクシャに向けて捕喰形態、伸びた神機が噛みついて、そのままヤクシャを引っ張って、無理やり立たせて盾にする!

「仲間になんてことするんだ畜生共がァ!お前ら人間じゃねえ!」

 神機解放、全身に力を漲らせた俺は、狼狽えるばかりのヤクシャの、とりあえず近いほうの右足を切断する。ついでに下腹部にも神機をぶっ刺す。

この感覚だと、コアはまだ抜けない、もっとオラクル細胞を減らさないと抵抗される、どちらにしろこのヤクシャどもにはまだ使い道があった。

「オラぁ出てこいやチンカスゴリラァ!お友達がみんな死んじまうぜ!」

 叫んで、一匹だけ五体満足のヤクシャに神機を向ける。お前もお友達と同じにしてやろうってんだよ。馬鹿の一つ覚えみたいに砲身を向けてきた。

実際こいつらは爪も牙もないし力もあんまり強くないので砲撃以外の攻撃方法がない、ので蹲ってたヤクシャを蹴っ飛ばして盾にする。弾着。

さっきはその身を挺して俺を砲撃から守ってくれたヤクシャが、また味方の砲撃から俺を守ってくれる。感動の嵐。―――やっべこいつもう死ぬぞ。人質にもならねえのかゴミカスが。けっ。

 とりあえず仲間を2回も撃ったヤクシャの悪い右腕は斬り飛ばしておく。左腕もサービスだ喜べよ。ってなところで、ぼちぼち解放状態が終わる。神機がもっと、もっと、と怒鳴ってくる。

「しゃあねえか」

 2番目に右足を切り飛ばしたヤクシャが右足を再生させていたので今度は右肩のあたりに狙いをつけて捕喰する。神機はうめえうめえと喜んでいるが、ヤクシャ・ラージャがどこにいるかわからない状態ではあまり気を抜いてもいられない。

「チンカスゴリラって何!?」

『リンさん!?』

 そこに鎌状態の神機を構えたリンがやべえセリフを叫びながら走ってくる。お前頭大丈夫かよ。そりゃナディアもびっくりするわ。

 リンはそのまま神機を振りかぶり、助走をつけて両腕のないヤクシャの左肩から胸のあたりまでを切り裂いた。そのまま空中で一回転して着地、周囲を見回しながらさくさくとヤクシャに鎌を刺し始めた。なんだこいつ。

「ラージャは?えい(ざく)」

「まだ殺すなよ、こいつらはラージャ野郎を誘き出す餌にするからな」

「じゃあ悲鳴とか上げさせようか。えいっ(ざくっ)」

 俺は神機を銃形態に変形させてリンに向ける。引き金を引く。

「ほれ」

「はーい」

 リンはヤクシャを程よくズタズタにしていた手を止めて、鎌の基部でそれを受ける。神機連結解放、リンクバースト。アラガミのオラクル細胞とGE(と神機)のオラクル細胞を混ぜてリンクバースト弾にして渡すことで普通のバーストよりすげえバーストができるっていう、第2世代神機のキモになる機能。

「ゴウにもあげるね」

「あいよ」

バースト状態でリンクバーストを受けることでなんかバーストレベル2っていうのになってGEと神機の性能が跳ね上がる。その状態で別の奴からリンクバースト弾を受け取るとレベル3になってこれはすげえ気持ちいい。あとレベル4になると身体が爆発して死ぬらしいのでリミッターが付けられてるんだとか。

この状態だと目とか耳も良くなるから、これでラージャが見つかるといいんだけどな。

『動かないで!』

 耳元のインカムからナディアの声と発砲音、それと左手前方、廃墟から着弾の音、野太いうなり声。よろけたヤクシャ・ラージャが、廃墟の陰から身体を半分出していた。

『ゴウさんは前に出て、リンさんはコアを抜いたらゴウさんに合流してください!』

「おいおいよく当てたな」

「すごいでしょ!」

「マジですげえッ!」

 神機を担いで、今度はヤクシャ・ラージャに向けて突進する。ヤクシャ・ラージャは腕が4本の一回り大きいラージャで、爪を使って攻撃してきたり、砲身の性能も上がってるのか結構色んな砲撃をしてくるそこそこ強いアラガミだ。

 息を吸い込む。ぶっ殺す。

「ッ殺ァアアアアアアアアアア!ひひひっ、俺だ!俺を見ろ!ウスノロのゴリラァ!!汚ったねえインポビーム撃ってみろよシコ猿がよお、その小っちぇえ右チンポは飾りかよぉ!?―――当たらねえぞ、目ん玉ついてんのかボケ!こっちだっつってんだろ猿、猿?お前猿なのかのかおいこらアラガミ野郎ッ、こっち来いよビビってんのか腰抜けェ!」

 ヤクシャ・ラージャは俺に砲身を向けて乱射してくるが、そんなもん俺にもリンにも当たらねえ。だったらってってチャージしようとしたってなぁ!

 ヤクシャ・ラージャの肩に着弾、爆発。ナディアの狙撃だ。

『援護しますわ』

「助かるぜ」

『あとその汚い口を閉じないと次はどちらに当たるか分かりませんわよ』

「了解ッ、ぶち殺しますわよオッ」

『は?殺しますわ』

 気持ち上品に叫んで、残りの距離を一気に詰める。ヤクシャ・ラージャは砲撃をやめて爪で迎撃するつもりだ。大振り、右からくる爪の攻撃を避けて懐に飛び込む、砲身を蹴っ飛ばして太腿を切り裂く、浅い。さすがに硬くてヤクシャみたいにはいかねえか、―――つまりたくさん斬れるってことだな。

 今度は振り下ろしの爪が両側から迫ってくる、ので刀身を横にして受け止める。馬鹿力に背骨をやられそうになるが、今の俺はリンクバーストレベル2だ!何とか耐えてこのままインパをぶち込んでやるぜ、とその時。

俺が受け止めてるヤクシャ・ラージャの両腕の内側が紫に光った。馬鹿め今はお前自身の両腕を盾にして砲を使わせない体勢、

―――油断した、こいつ自分の腕ごと射撃するつもりか!

「させないよ!」

 青い光。リンのレーザーか、と思った瞬間、両腕の圧力が消える。ヤクシャ・ラージャは爪のない方の左手で(というか顔を抑えられる腕が一本しかねえのか)顔面を抑えてのけぞってやがる!一足遅れて発射されたヤクシャビームは空の彼方へ!

「ナイスゥ!オラァ!(ズドン)インパァ!」

 隙ありってことでインパをぶち込む、狙いは力の抜けた右の腕だ。

狙い通り、ヤクシャ・ラージャの右腕は爆発に包まれてズタズタになった。ついでに爪も全部吹っ飛ばしてやった。ここが勝負時だ。

「手前の肉を寄越せ!ですわよ!」

 柔らかく焼けたところに再びの捕喰形態、俺のブレードを神機本体の黒いオラクル細胞覆って、ヤクシャ・ラージャの右腕に噛みつく!オラクル細胞が流れ込んでくる!力が漲る!

「リン!」

「貰うよ!」

 俺は噛みついたままの神機を引っ張って、ヤクシャ・ラージャの体勢を崩す。即座に神機を変形させて、リンに向かってリンクバースト弾を発射。

「神機連結解放ッ!―――咬刃……展開ッ!!」

 ずるずると音を立てて、リンクバーストしたリンの神機から神機本体が染み出してくる。

 捕喰形態、ではない。形成された捕喰口の下顎は神機の基部に、上顎は果てしなく伸びていく。

 鎌、ヴァリアントサイズ型の神機の真骨頂がこの咬刃展開形態。通常の神機の捕食形態の変形版で、通常の神機で形成される顎の部分をより広く展開する(限界まで開いたホチキスみたいな感じだ)ことでより多くの範囲のオラクル細胞を一気に削り取ることができる。

まあアラガミが固いと弾かれて使えないので、ある程度弱らせておく必要はある。

ヴァリアントサイズ型はこの展開機構があるから、神機適性の高い奴しか使えない貴重なタイプの刀身パーツってことらしい。

リンの咬刃展開を確認して俺は跳ぶ。神機をもう一度剣形態に戻して、ヤクシャ・ラージャの肩を蹴って、空中から頭頂部に狙いを定める。

こうやって高く跳ぶのにも理由がある。

咬刃展開攻撃の最大の問題点。

 攻撃範囲が滅茶苦茶広いから滅茶苦茶味方を巻き込む。

 「オラァ!(ズドン)インパァ!」

 必殺のインパはヤクシャ・ラージャの頭部を粉砕。よく考えたらこれでとどめになることあんまないし必殺ではないのでは?とにかく俺はその反動で更に高く飛ぶ、ヤクシャ・ラージャは膝と手を付く、そしてそこに、

「食らえぇぇぇぇぇぇ!」

 横殴りにリンの咬刃が叩きつけられる。一気に腕と足からオラクル細胞を吸収されてヤクシャ・ラージャが苦し気に痙攣する。

 まだだ。

「もう、いっぱぁぁぁぁぁぁつッ!」

 ヤクシャ・ラージャを切り裂いて瀕死にした咬刃が、リンを中心に一回転して、もう一度引き裂きに戻ってくる。遠心力を乗せた超威力の一撃!

「死・ねぇえええ”え”え”え”え”え”え”ッ!!」

 一度は斬られた腕と脚も、くっついて再生を始めていたところだったが、再生は間に合わない。2発目のリンの攻撃は、ヤクシャ・ラージャを行動不能にするだけのオラクル細胞を削り取った。

 ヤクシャ・ラージャは力を失って、大きな音を立てて地面に倒れた。

 リンの神機が縮みながら引き戻されて、がちん、と音を立てた。

「完・全・勝・利ッ!」

 リンがピースサインを決める、丁度そのタイミングで俺も着地して一息つく。後はコアを抜けば完了だ。

『アラガミ反応消失を確認、リンさん、終わりましたの?』

「いえぁ!」

「ヤクシャ・ラージャの討伐完了、コアは今抜いた。これでとりあえず敵は全滅だ」

「ナディアちゃんもお疲れ様!」

『ありがとうございます。でも周辺警戒を怠っては駄目ですわ』

 そう言うナディアの声も、ほっとしたような感じだ。さては急なメンツの指揮で緊張してやがったな。マイ姐さんもいねえしな。

けっ舐めやがって。適当にアラガミの勢力圏のど真ん中に放り込まれたって俺は死なねえぞ。

『ではマイ分隊と合流後、次のアラガミを探します。今度はこっちから先制できるのがいいですわね』

 俺とリンは装甲トラックに向かって歩き始める。俺はトラックがどこにあるか知らないからリンが先頭だ。

まずは回収したコアを神機から抜かなけりゃならねえ。いつまでも神機の中に入れてたら神機が消化を始めちまう(独自設定)からだ。

「ねえ、マイちゃん達はどうしてるのかな」

『戦闘があったようですが、全員怪我もないようです』

「お昼ご飯はみんなで食べられるかな?」

『ええ、折角ですし、皆さん揃って食べたいものですわね』

『おいィ、喋ってないでとっとと戻ってこい、家に帰るまでが任務だぞ!』

 インカムから戸倉さんの怒鳴る声がする。おっかねえ。

 俺は前を歩くリンを見る。

 上機嫌で、神機を大きく振って歩いてる。第3大隊にいた頃と変わらない、能天気なやつだ、いや待て昔はもうちょい知性が無かったか?

 視線に気づいたのか、リンは神機を持った手を後ろで組んで、こっちを振り返って、上目遣いでにへらと笑った。

「ねえ、ゴウ」

「あ?」

 リンは後ろ向きに歩きながら、小首を傾げて言った。

「それでチンカスゴリラってどういう意味?」

 

「―――知らね。アーロンが言ってた」

 



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1-4 さてはキメてんな

「みんな、いいニュースと悪いニュースがあるよ」

 第6討伐班との共同任務から2日後、食堂で朝食をとっていた我らが第7討伐班の3人の前で、席に着いたマルコが言った。

食堂は朝の6時から9時まで開いてて、メニューは日替わりが3種類、メシ代は給料から天引きだ。

 勤務時間が決まってる第2中隊、防衛班と違って、第1中隊は討伐班の集まりだから隊員が任務で出払ってることも多く、食堂の込み具合は日によってまちまちだ。

 今日は割と混んでる方だな。ちら、と見ると席を探している防衛班の男と目が合った。俺は親指で俺の隣の空席を示す。首を横に振られた。なんだよ空いてんのに。

「どっちから聞きたい、コフィ?」

「悪い方だな」

「その心は?」

「最後に希望が残るのなら、心にある灯は消えない」

「わーお」

 何かコフィが死ぬほどめんどくさそうにいいこと言ってやがる。朝飯、今日はジャイアントトウモロコシのフレークで、こいつの好物だから集中したいんだろう。

ばりばり音を立てて嚙み砕いた後ごきゅごきゅ合成牛乳を一気するのが一番うまい食い方だって言ってるけどもっと静かに食えねえのか。

「じゃあいい方から言おうか。なんと今日は急遽討伐任務が入った。飯を食ったらアラガミの巣に殴り込みだ」

「おっマジか」

 思わず声が出る。哨戒任務はアラガミ発見まで時間がかかるし、見つけてもまずは装甲トラックの安全を確保しなきゃならねえから、戦闘開始までやること多くて面倒だ。

その点、討伐任務なら装甲トラックは後方で待機するから、何も考えずに突っ込むだけでいいしつまり最高だ。

「何をヤんだ?」

「ああ、ボルグ・カムランが2体、周辺に大型種の反応が1つ、中型種も4つ、最低でもこれらと戦闘になるってさ。」

「すげえ。ツイてるな」

 雑にフォークでぶっ刺した合成ウィンナーを齧りながらハヤテが聞く。まるで知性を感じさせねえ食い方をしやがる。

大体、物を口に入れたまま喋っちゃいけないって学校で習わなかったのか?まあガキの頃は俺達に学校なんかなかったけど。

「じゃあ悪いニュースを、待てマルコ、何でいいニュースから言った?」

「悪いニュースだ。なんと今回のはオヴェスト博士からの指名依頼だ」

「なんてこった」

 コフィのスプーンからコーンフレークが零れる。

オヴェスト博士といえばフェンリル極東第2支部技術部所属の天才で、アラガミをぶっ殺すことが三度の飯より好きだっていうやる気に溢れた技術者だ。

しかも斬新な神機やら気持ちいい薬を開発してはGEに実地試験をさせてくれる重度の発明マニアだ。天才ってああいう人のことを言うんだろうな。いやまあ俺もアラガミ殺しの天才だけど。

「あの天才かよ」

「キ・チ・ガ・イ!?今私のことを何とおっしゃった?この熱血最強絶対無敵元気爆発の大天才ドットーレ・オヴェストを!?やさしさと切なさと心強さを兼ね備えた最終形態彼氏である私を!?木漏れ日のような父性で君達GEを見守る私、ドットーレ・オヴェストを!?皆様に愛されて31年、神様にも愛されて31年。お褒めに預かり恐悦至極、どうも。人類の宝、オヴェスト博士です」

 飯を食ってたテーブルに仰向けに背中で滑りながら一気にまくしたてる博士から、とりあえず朝飯のプレートをスライドさせて守る。

「君達は変わってしまった」

 ガリガリに痩せた白衣の男、オヴェスト博士は急にテンションを落としたかと思うと、天井の照明に両腕を伸ばして泣いた。

俺は合成茶をすすってそれを眺める。ハヤテもマルコもコフィも慰める気はないみてえだ。薄情な奴ら。

「ねえどうして変わってしまったの?あの日ベッドの中で囁いてくれた言葉は嘘だったの?私は涙でシーツを濡らしながら去っていく君達の背中を眺めていることしかできなかった物語、あれから5年、すれ違う人ごみの中、無意識に君達の面影を探してしまう日々」

 所々しゃくりあげながら、時には痙攣しながら博士は言う。とうとう博士は両腕で顔を覆って嗚咽を漏らし始めた。

やめてくれよ朝からこんな湿っぽいもの見せられてもさあ。

「あっ見つけた」

「目の前にいたぜ」

 ぐりん、と首だけを動かした博士と目が合う。

 とりあえず博士の涙が止まってくれてよかった。

「へぇーい、まったりしてにこにこしてどうしたって言うんだい、ぐちゃぐちゃになっても真夏の危険な太陽みたいに笑う君はどこに行ってしまったの」

「目の前にいるぜ」

 涙が止まるどころか、今度はいやに陽気になって立ち上がり肩を組んでくる。ははーん、さてはキメてんな。

「もっと苦しんで悲しんで傷ついて大人になりなさいよ!傷つくことを恐れてはいけない、傷つくことは怖くない、傷ついたその先に僕らの未来があるのだから。僕は確かに見たんだ、父さんは噓つきなんかじゃなかった!」

 博士は頭が良すぎるからあんまり言ってることが分かんねえんだよな。

「つまり君達には君達らしい、やりがいの溢れた職場があるってことなんだ。危険?難易度?全くナンセンスだ。やってみなくちゃすべては解らないんだ。人類はいつだってそうやって進んできたじゃないか。これは人類にとって小さな一歩だが、だが?あなたが落としたのはこの大きな一歩ですか?」

 でも博士はこうやって俺達に仕事を持ってきてくれる。博士の持ってくる仕事は大体酷い目に遭うけどやりごたえがあるし、終わった後に成果品を見せてくれるからやる気が出るんだよな。あとたまに神機もアップグレードしてくれる。

「まあ最近ヒロシマ拠点用の移動式要塞【フノス】にリソースが割かれていてこちらの研究もなかなか進まないのが現状。残念ながら今日は新たな発明品は無しだ!

とはいえ大っぴらに文句を言うわけにもいかんのだ。研究室を取り上げられてしまうだろうからな。愚かなりこの天才の頭脳を認めないつもりか許すまじ!私は我慢のできる男だがこの天才的頭脳が許すかな!?」

 ないのか。マジかそれはちょっと残念だ。この前のパイルバンカー型の刀身なんかすげえ威力だった。一発使ったらぶっ壊れたが、あれが量産されたらすげえことになるぞ。

装甲が展開できなかったが攻撃を食らう前にぶっ殺せば些細な問題だ。

「というわけで君達には難度の高い素材を集めてきてもらう。ついでにいっぱい苦しい思いをして貴重なデータを私に提供しやがれ。GEとアラガミの限界を超えた戦いの果てに新たな可能性が切り開かれるのだ。サクッと限界を超えてきたまえよ」

「限界?」

「ウロヴォロス!そもそもアラガミはあのサイズまで巨大化できるのだ!それが何故ほとんどのアラガミは中型や大型のサイズにとどまっている?身体を構成する物質なんてどこにでもあるじゃないか!何がアラガミの大きさを決める?

ハンニバル!全ての大型アラガミはあの火力を出すことができるんじゃないのか?ボルグ・カムランだって同じ火力を出せるはずなのに何故そうならない?何が制限している?コアの性能なのか?ではコアの性能は何によって決定される?」

「――――――ッ!?俺達のオラクル細胞は限界性能を発揮していない・・・・・・ッ」

 コフィが何かに気付いたらしい。こいつ下手すりゃマルコより頭いいんじゃねえかって時があるからな、後で何の話なのか教えてもらおう。

ハヤテも何かを考えこんでるがお前はそんなに頭よくねえだろ。

マルコは博士の話に興味なさそうだ。何食ってんだそれ。ゼリー?おいおいデザートがあるとか聞いてねえぞ。

「私は知りたい……!オラクル細胞の全てを……!そしてそのためには君達頭のおかしい第7討伐班の力が必要だ。君達だけが頼りだという事実。それが現実。というか君たち以外に実験に付き合ってくれる連中がおらんのだ。……何で君達はいつも私からの任務を受けてくれるのかね。ひょっとして、愛?惚れた弱み?私の身体が目当てなの?」

「それはあなたが危険性を度外視するからです、博士!」

 うわびっくりした、俺の斜め向かい、マルコの後ろで鋭い声が上がった。そっちを見ると、金髪を後ろで結い上げた、可愛いめの美人が立ってた。キレてるけど。

 ケイティ・イングラム中尉。第1討伐班に所属する超すげえ槍使いのGEで、第2支部ランクは10位。称号は『守護者』。凛とした美人で、強くて真面目で使命に燃えてるからGEにもGE以外にもファンがいっぱいいるんだとか。

―――第2支部ランクは、第2支部のGEで上位を表彰しようってことで始まった制度で、12人が選ばれて、半年に1回更新される。大体のGEはこれに選ばれたいって願望がある。格好いい称号も貰えるしな。

GEになりたてのガキは大抵自分の称号を妄想する。

ちなみにマイ姐さんは『銀の腕』で、第12位。やっぱすげえんだよな。

「我々GEは人類の守護者、決してあなたの実験動物ではありません!」

 で、そのケイティ・イングラム中尉はどうも博士のことが気に入らないらしい。いつの間にか俺達の傍まで来ていて、突然興奮し始めた。病気かな。

「断りなさい、マルコ・サントス。班長には任務に対する拒否権が存在します。班員を危険に巻き込まないのも班長の義務です!」

「班員の安全には配慮してくれるのが博士ですよ、中尉。GE以外の班員ですが」

「あなたはこれ以上このキチガイの馬鹿げた実験に付き合う気ですか!」

 マルコが何とかなだめようとしてるけど、分が悪いみてえだ。

「博士、GEじゃんけんしよう。これが剣形態、こっちが銃形態、これが装甲展開」

「むむむ、興味深い変型機構だ、君が考えたのか」

「いやガキどもがやってるのを見てさ。これが捕喰で全形態に勝てる」

「むーん、ゲームバランスはともかくこの変型機構は面白いぞ。この変型、うーぬ何かのヒントになるやもしれぬ」

 何か暇になったので最近ナゴヤ拠点で会ったガキどもがやってたGEじゃんけんを博士に教える。両手の指で神機の3形態を再現するやつで、ガキなりに変型機構を再現してるのが面白かった。あいつら意外とよく見てる。あと両手の指が全部離れると負けらしい。

「じゃーんけーん捕喰ゥ!」

「馬鹿め我が装甲展開を見るがいい!」

「捕喰だから無敵ですゥ」

「この新型の装甲を見てもそんなことが言えるかなッ」

「ば、馬鹿な・・・・・・!」

「見なさい!博士に付き合わされて、班員の脳に重篤なダメージが!」

「ゴウなら昔からあんなもんですよ」

 うーん、捕食で勝てると思ったがまさか新型の装甲を開発されるとは。やっぱり博士は天才か。こう、うまいことこっちも指いじってクソ強捕喰形態にできねえかな。

「昔は違いました!遠藤ゴウと早坂ハヤテは、中等科ではあんなに素直で真面目な、」

 名前が出たので見てみると、ハヤテはケイティ中尉を熱っぽい視線で見ながら口を開けてぼんやりしていた。「女神だ・・・・・・」じゃねえだろ。馬鹿かお前もっと、いや、こう、クソ汚ねえ笑い方しながら涎垂らしてアラガミに突っ込んでいくような馬鹿だろお前は。

「まさか、そんな、第7討伐班そのものが博士の実験台に・・・・・・!?」

「あいつらはおかしくなったから第7に配属されたんですよ」

 コフィは下を向いて、あっ、こいつ笑いを堪えてやがる。

「中尉、お心遣いは痛み入りますが、アラガミの討伐は我々の本懐。また物資も慢性的に不足している状況ですので、博士の実験という目的はともかく、この任務もまた人類の発展に寄与するものです」

「むむむ・・・・・・!」

 いつの間にか俺達のいるテーブルの周りには誰もいなくなっていた。遠巻きにこっちの成り行きをじろじろ見てやがる。とりあえずガン飛ばしてやる。食らえッ!オラッ!

「いいでしょう。しかし班員の命を守るのが班長の役目!決して無理をせず、誰一人欠けることなく帰ってくるのですよ!」

 お、なんかいつの間にか話し合いが終わったらしい。さっすがマルコだぜ。

 ケイティ中尉は肩を怒らせながら歩いて行った。忙しい人だしこのあと出撃なんだろうな。それでも後輩GEを心配して様子を見に来てくれるとか人間ができてるぜ。妙に博士を敵視してんのはよくねえと思うけどな。

「では頼んだぞ第7討伐班の諸君!任務成功の暁には私自ら神機の強化をしてやるぞ!」

「あ、博士、あとアレくれよ。あの気持ちいいクスリ」

「よかろう。後で取りに来るがいい。次にまみえる時を楽しみにしているぞフハハ」

 博士も自分の研究室に戻っていく。任務開始前にクスリ貰わねえと。

「はー疲れた」

「ご苦労だったな」

「ホントだよ」

マルコもようやく落ち着いて飯が食えるみてえだ。ため息を吐くマルコをコフィが労う。

いや別に薄情な訳じゃなくて、まあ何でか知らねえが、俺達のうちマルコ以外がこういう時に口を挟むとうまくいかねえからな。これもチームプレイだ。

「ゴウ」

「あー?」

「しかし何で中尉はお前の名前を先に呼んだ・・・・・・?俺はお前を殺せばいいのか・・・・・・?」

 あとハヤテはもう駄目だ。

 

 

 

「はい、という事で今日トラックの防衛をやってくれる防衛班の方々だよ」

 0930、装甲トラックの発着場で、俺達は向かい合う。

 トラックで俺達第7討伐班を目的地付近に輸送した後、俺たちが帰ってくるまでトラックを守ってくれるGEと顔合わせだ。

こういう時はよその班にGEの助っ人を頼むのが一般的で、大体第1大隊のGEに頼むことが多いんだけど、今日は博士のが依頼したのか第2大隊から来てくれた。一人若いのがいるのは、ついでに新人研修でもあんのかな。

「オオサカ防衛班の藤川ヒロだ。ドリル(短剣の一系統)と重砲を使う。何だこの華のない空間は。今からでも第6と変わらんかね」

「そもそも第6ならこんな任務は受注してないよ」

 軽口で答えたマルコより年上だと思う、藤川先輩は頭にはバンダナを巻いてる。さてはクレイドルの藤木コウタ元隊長のフォロワーだな。

ドリルは短剣に分類される刀身で、回転の力でこう、アラガミの体表からもりもりオラクル細胞を削り取るような武器だ。使ってるとすげえ音がするから近くのアラガミが寄ってくるが、防衛班なら問題ないってことか。

「オオサカ防衛班の難波トシヒコ。装備は大剣と狙撃銃。よろしくお願いします。ハヤトとゴウは久しぶりだな」

「よう」

「おーす」

 第3中隊では同期だったトシヒコ。少し背が伸びて大人びたな。昔は週1くらいで任務に同行したもんだが、俺達が振り分けられてからは全然だ。昔から慎重に戦うGEだったが、今はバーデル式って戦い方を習って手堅く戦えてるらしい。強くなったみたいじゃねえか。まあ俺の方が強いぜ。

「第3中隊のテッド・ミラーです。僕は長剣とアサルトを使います。若輩の身ですが、力を尽くします」

 アフリカ系のガキだ。新人かな?身体も作ってきてるし、結構やるんじゃねえか。ラインパターンの入った坊主頭で、気合いが入ってるがちょいと堅いな。まあそう緊張すんなよ楽しい職場なんだから。

 というかトシヒコももう新人の研修やるようになったのか。この前アーロンもやったって言ってたが、俺達もそういう歳か。

「振り分けは今年か?」

「はい」

コフィが聞いた振り分けってのは、極東第2支部でGEになると、まず第3中隊に配属されて、それから半年に1回、15歳になった奴から討伐班の第1中隊か防衛班の第2中隊に配属が変わるってことだ。そういえばそろそろ今期の振り分けの時期だったか。

「じゃあ次は俺だな。今日のオペレーターを担当するナッシュ・ガルシア。見ての通り元GEだ。ヒロ、お前さんたちが来てくれて安心した」

「今日は世話になります」

「頼むぜ。・・・・・・おいおい、テッド、そう緊張するな。今年の新人はよくやってるって聞いてるぜ。お前は訓練通りの力を発揮してくれれば問題ないさ」

「はい!」

 ナッシュさんは30過ぎの大男で、右手の腕輪が示すように元GEだ。第7討伐班のオペレーターをコダマさんと二人で交代してやってる。あの感じだと藤川先輩とはひょっとして一緒に戦ったことがあんのか。

「一応、第7討伐班のカス共も紹介しとくね。僕は班長のマルコ・サントス。短剣と狙撃銃を使う。ポジションは前衛だけど、後衛もまあいける」

 こちらも自己紹介をする。ひょっとしたらまた任務で一緒になるかもしれねえからな。こういう時に顔を繋いでおくといいんだってウォン先生も言ってた。

実際、第5、第6あたりとは気軽に呼んだり呼び出されたりする仲だ。いや違うな、気軽に呼びだされたりする仲だ。取り分というか、殺せるアラガミが減るから俺達は人数が足りなくても追加の人員を呼んだりしない。

「オレはコフィ・アナン。大剣と重砲で、まとめてぶち殺すのが仕事の、前衛だ」

「とんでもねえパワーだって聞いてるよ、今日は近くで見れないのが残念だ」

 藤川先輩がコフィと握手をする。もしこいつを任務に呼ぶ時は気を付けた方がいいと思うぜ。撃ち始めると敵と味方の区別がつかねえからな。

「早川ハヤテ。装備は槍とアサルト。前衛でアラガミをぶっ殺してる」

「おう、よろしく。久しぶりだな」

「そうだな。徒歩で帰らなくていいようによろしく頼むぜ」

「言ってろ。俺だってお前の腕輪探しに行くなんて御免だからな」

 今トシヒコが言った腕輪ってのは、俺達の右腕のこれで、行方不明になったGEを探しに行くことを『腕輪を探す』って言うことがある。何しろ腕輪だけで発見されることが多いからな。腕輪以外はって?そういう事だよ。

「俺は遠藤ゴウ。長剣と近接銃だ。前衛でアラガミぶっ殺すのが好きだ」

「ゴウ、いつもお前の噂は色々よく聞いてるよ。変わりないみたいで安心した」

「馬鹿言えよ俺超強くなってんだぜ。ひひ、ようテッド、同じ長剣使い同士仲良くしようぜ」

「あー、そりゃ駄目だ。実は上から、新人は第7に、特にお前には必要以上に接触させるなと言われてる」

「すみません、先輩」

 テッドは律儀に頭を下げて謝った。

「ああ、いいんだ。実は俺もウォン先生に新人に接触すんなって言われてる」

 まあ俺だって積極的にウォン先生の言いつけを破ったりはしない。新人の悪影響って言われたって、俺にはよく分かんねえけど、ウォン先生が言うならそうなんだろう。

「さ、行こうか。アラガミが待ってる」

 マルコが仕切って、俺達は装甲トラックに向かう。神機はもう積んである。

 こうして俺達は、博士の任務を果たしに向かうことになった。

 こういう時は大体、目標以外のアラガミが寄ってきて帰りが深夜になる。

 

 つまり一日中アラガミをぶっ殺せるってことだ。

 



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1-5 俺ァ空飛べんだよ

 装甲トラックからは適当なところで降りて、俺達は目標の廃港付近にやってきた。

あまり海に近づきすぎると落ちた時大変だから、海からはそれなりの距離があるけど、それなりに海の匂いがしていた。

『こちらナッシュ、こっちは問題なし。そっちは付近にアラガミ反応がある。気を付けろ』

 インカムからナッシュさんの通信。

 装甲トラックは安全地帯から索敵を開始。それを聞いて俺は周りを見回す。

「おいゴウ何か見えるか?」

「倉庫、とコンテナだな。間抜けな顔したアラガミも見えるぞ、って何だハヤテか。紛らわしいツラしやがって。ついうっかりぶった斬るところだったぜ」

「死に腐れ」

元港ってことで地面は平ら、気候変動の影響で建物はまばらに残っている程度だが、それでも視界は今一つ。事前情報じゃあこの辺りを縄張りにしてる大型アラガミがいるって話だったが、これじゃあ探すのは手間がかかりそうだ。

「で、この辺だろ。分かれて探すのか?」

「いや、折角だから向こうから来てもらおうと思ってる」

 ハヤテに聞かれて、マルコはへらへら笑いながら答える。こいつ今日はトラックのこと考えなくていいからすっかり気が抜けてやがる。いつもはトラックの安全のために色々と気を回してるが、今回のトラックは護衛付きだからな。

「よーし、大きな声で呼んでみよう」

「来てもらうってそういうことか」

 ハヤテがうんざりした調子で言う。

 多分マルコが言ってるのは、とにかくデカい音を出して周りのアラガミを呼び集めちまおう、ってことだ。確かにこの死角の多い場所でちまちまアラガミを探すよりは楽なんだろう。流石はマルコ、考えることがスマートだ。

 マルコがこっちを見る。

やれってことか。仕方ねえ。俺は息を大きく吸い込んだ。

「さあ出て来いアラガミども、お前らをぶっ殺しに来てやったぞ!」

―――やったぞ!が大きく反響して、俺の耳に戻ってくる。

 1秒、2秒、3秒、・・・・・・反応なし。アラガミの気配はない。

「来ねえな」

「そりゃ、ぶっ殺されたくはねえんだろ」

 何でもないようにコフィが言った。

 確かに。アラガミからすれば最強GEの俺に近づいてぶっ殺されたいとは思わないもんな。ちょっとばかり知恵は回るってわけか。根性のねえアラガミ野郎め、そんなんで俺と殺し合うつもりか。

 だがコフィの言葉にはヒントがあった。つまりこういうことだ。

「俺はアラガミだぁッ!安心しろォッ!」

 さっきと同じように、安心しろォッ!が反響して俺の耳に入る。

―――反応なし。アラガミの気配はない。

「声が小さいんじゃないか?」

 マルコが言う。多少無責任だと思わなくもないが、こいつのことだからそれなりに成功率はあるんだろう。俺は大きく息を吸い込む。

 見せてやるぜ俺の全力ボイス。

「お”れ”は”ア”ラ”カ”ミ”だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺の頼もしいアラガミボイスがぐわんぐわんと廃倉庫の間を反響する。

―――クソが。反応がねえ。

ちら、とマルコに目を向けると、あいつはへらへら笑ってコフィに目を遣った。

コフィは目を閉じて頷くと、ひゅごご、と音を立てて息を吸い込んだ。と思えば上半身が大きく膨れて、いやお前本当に生物学的に人間なのか?

「う”お”ぁれ”ぇは”ぁ、ア”ラ”カ”ミ”だぁぁぁぁぁぁあぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 爆発、と勘違いしたくらい、コフィの声はとんでもなかった。びりびりと、空気も倉庫も地面も、俺達の身体も奥の方から振動する。

すげえなGEってこんな声も出せんのか、こっちも負けてらんねえな。

俺は神機を地面にぶっ刺して、脚を大きく広げて、腰を落とす。

大きくを吸う。喉の奥で潮臭さを感じる。海のエナジー。

「――――――お”ま”え”はア”ラ”カ”ミ”な”の”か”ぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!???」

 頭の血管が切れるくらいに声を出す。

「――――――お”れ”は”ア”ラ”カ”ミ”じゃな”あ”あ”あ”ああああああ”あ”あ”あ”い”!!!」

 これはハヤテ。顔を真っ赤にして声を張り上げている。

「――――――お”れ”は”ア”ラ”カ”ミ”な”の”か”ぁぁあああああああああぁぁぁ!!!???」

 これはマルコ。お前そんなデカい声出たんだな。

「お”ま”え”は”ア”ラ”カ”ミ”じゃなああああああああああああい!!!」

 これはコフィ。叫ぶたびに鼓膜が破れそうになる。

「―――、――――――ッ!!」

「――――――!、――――――ッ!?」

「―――――――――っ!?――――――ッ!!?」

「―――――――――っ!?―――――――――ッ!!?」

 突然始まった大声大会は、当初の目的も忘れて、もう何が何やら、終いにはアラガミの声真似なんかもやりだして、何もかも分からなくなって、俺達は大声で叫ぶ。笑いながら叫ぶ。

 笑いながら叫んでるとなんか段々マジで楽しくなってきた。

 俺達は今世界で一番楽しいGEだ。

『おいトシ何だこいつら狂ってるのか』

『そりゃもう狂ってますね』

『この人たち何でこれで生きてこれたんですかッ!?』

 インカムから何か聞こえるがそれどころじゃない。何でだか分かんねえけど久々に腹抱えて笑ってるぞ。ああくそこんなに楽しいなら毎回やってもいいくらいだ。

 めきめきめき、がしゃん。

 げらげらと笑い転げていたのがどのくらいだったか、何か鉄骨がひん曲がるような音がしたから笑いながらそっちに目を遣ると、廃倉庫を踏み潰したデカいアラガミがいた。

「ハハハ、マジで出てきたよ、ハハッハハ!!」

 マルコが神機を手に取って、笑いを堪えながら言う。そりゃこんだけ騒げば出てくるだろ、いや待て作戦立てたのお前だろうが。

「ぎゃはは、―――、っあいつがアラガミかぁ?」

「やめろバカ、くく、あいつがボルグ・カムランだ」

「あいつはアラガミじゃなぁい!」

「やめ、ハハッ、馬鹿っハハハ、ゴウ、この馬鹿ハハハハハッ」

 ボルグ・カムラン。大型種で、銀色のサソリに似たアラガミって言われているがどっちかっていうとカマキリに似てると思う。カマキリの鎌を盾に変えて、頭をデカくして脚を太くしてサソリみてえな尻尾をつけて全身ガンメタにすれば完成だ。全然カマキリじゃねえ。

 尻尾を振り回して攻撃してくるのと頭から小せえトゲを飛ばしてくる、攻撃力よりも防御力で嫌がられるアラガミだ。とにかく刃が通らねえ。

「―――おいまさか、マジでアラガミじゃねえのか?」

「どう見てもアラガミだぞ」

「何でマジで分かんなくなってんだよお前」

 こっちに向かってくるボルグ・カムランを見て、ハヤテが急に怪訝な表情になってそんなことを言った。

俺達はそれぞれに神機を構える。殺し合いの時間だ。

 がしゃんがしゃんと、どこから出てるのか分かんねえ金属音を響かせる、ボルグ・カムランとの距離はもうあと50。

 俺とハヤテとコフィは同時に一歩を踏み出す、アラガミ野郎をぶっ殺す。

 一歩。

 爆発的な音がして、コフィが身体1個分前に出る。身体能力が桁違いだ。

 二歩。

 防御を捨てて大剣を大きく振り被ったコフィの横をマルコのレーザーが通過する。

 三歩。

 レーザーを口の中にぶち込まれたボルグ・カムランが仰け反る。コフィは一瞬大きく屈んで、大きく跳んだ。俺は右に、ハヤテは左に分かれて側面を狙う。

 馬鹿みてえに高く跳んだコフィが、大剣を思いっきり振り下ろす。俺とハヤテは捕食形態を準備、左右の前足に噛みついて、思いっきり引っ張って動きを封じる。

 衝撃音!コフィの力任せの振り下ろしは、体勢を崩されつつも一瞬で両腕の盾を構えたボルグ・カムランの盾ごと顔面を凹ませた!相変わらず訳の分かんねえ威力だ。

「ハヤテとゴウはあっちを頼む!」

 俺はえぐり取ったオラクル細胞でバースト状態になってるのを感じながら、強化された視力でマルコが指す方向を見る。

 もう1匹、別のボルグ・カムランがこっちに向かってきている。

「あいつもアラガミかァ!見たことのないタイプだぜ!」

「見るからに堅そうだな、ふん、こいつは骨が折れるぜ」

 神機を銃形態に、まずはマルコとコフィにリンクバースト弾を発射して、届いたかどうかは確認せずに走り出す。手元でがちゃがちゃ動かすと神機がまた剣形態になる。

 ハヤテが銃形態で牽制しているのを横目に、全速力で突っ込む。

 大型アラガミ2体に挟まれながら戦うってのはあんまり効率のいい戦い方じゃねえ。いつもはその辺で好き勝手殺し合ってるくせに、GEがいるとお互いには目もくれずにGEを殺しにくるのがこいつらだ。できるだけ各個撃破をしねえと、アラガミの攻撃が激しすぎてこっちの攻撃どころじゃねえからな。

 ばごん、ばごん。

 ハヤテの爆発弾が連続してアラガミの表面装甲に着弾、爆発を起こすが全然効いてねえ。

「おい豆鉄砲全然効いてねえ(パァン)ックソてめえやりやがったな!」

「ケッ」

 あの馬鹿こっちに向かって撃ちやがった。とうとうアラガミと仲間の区別もつかなくなったのかクソ馬鹿野郎が。

「――――――ッ!」

 後ろに向かって中指を付きたてながら走っていると、背中側から割とヤバ目の圧力。ボルグ・カムラン野郎の盾の振り下ろし。

 当然最強のGEである俺が、そんな攻撃を食らうわけがねえ。右肩で神機を担いだまま前転で回避、そのままボルグ・カムランの足元に入り込む。

 前転の勢いで立ち上がって、神機を構える。右手で持って、左手はブレード部分を支える。

 バンザイの形だ。

 ボルグ・カムランは全身を甲冑みてえな殻で覆ってるが、腹の部分はどうだろうな。

「―――殺ァッ!(ずどん)インパァ!」

 ぐっ、と身体に重圧がかかる。そういえば上に向かってインパをかましたことは無かったけど、これこんなにキツいのかよ。背骨折れるかと思ったぞクソが。

 だがアラガミ野郎にもそれなりに効果はあったらしい、デカい銀色の身体が空に向かって打ち上がっていく。―――打ち上がっていく?

え?あ、こんな飛ぶのか。マジか。

俺は神機を下ろして一瞬だけ呆ける。いやだってあんなに打ちあがるとか思わねえからさぁ。まあ気を取り直して、上空に打ち上げられたボルグ・カムランをぶっ殺さねえと。こっちも全力でやらねえと、コフィとマルコがもう一匹を片付けてこっちに来ちまう。そいつはつまり、取り分が減るってことだ。

 あれっ、両脚が、あれ。

駄目だ埋まってやがる。

「ぎゃはッ、馬ッ鹿かてめえ!」

「知らねえよなんだこれ!」

 ハヤテがげらげらと笑って、空中で勢いを失ったボルグ・カムランに向かってチャージグライドをかます。

 大推力がボルグ・カムランをもう一度打ち上げるが、神機はいまいち通ってねえなこれ。

 だがそれよりも大事なことがある。

「おいゴウ、こいつら」

「ああ、空中戦には慣れてねえみてえだな」

 ハヤトと一瞬目線を交わして、笑い合う。

 空中のボルグ・カムランは銀色の脚をわさわさと動かして、着地の体勢を取りたいらしい。

 つまり落ちながらは戦えないってことだ。雑魚が。

「オラァ!(ずどん)インパブーストァ!」

 俺は足をかがめて、ジャンプと同時に足元に向けてインパを噴射した。

「俺ァ空飛べんだよクソ雑魚アラガミ野郎が!」

『マジかよあいつとうとう人間辞めやがった』

『おいテッド、絶対試すなよ』

『ええ……、いや試しませんよ』

 俺はインパの反動で焼いた脚をもりもり回復させつつ空中を走る。

「インパ(小)ァ!インパ(小)ァ!」

「叫ばなきゃ!出せねえのかそれ!」

 細かくインパを発動して軌道修正する俺に、細かくチャージグライドでジグザグに飛ぶハヤテが何か言ってくる。お前それ何出して飛んでんだ?

 そんなことを考えてるうちに慣性飛行で空中のボルグ・カムランに追いついた。

俺は足を大きく開いて、大きく体を捻って振り被る。

「オラァ!」

アラガミの下から振り抜く。鈍い金属音。

「まあ別に空中だからって柔らかくはねえな」

「そりゃそうだよな」

 神機を握る右手に痺れを感じた俺と、まだ脚をわさわささせてるだけのボルグ・カムランと、それからハヤテが落ち始める。どうにかして空中で殺したいんだよ俺は、だってそっちの方がかっこいいからな。

 姿勢制御のためにインパを一発。身体が流れて、肩がハヤテにぶつかる。

 ぶつかって、そのまま俺達は少し左に流れて、

「あ、おい」

「おう」

 ハヤテと目が合う。

付き合いの長い同期は他にもいるが、こういう時に考えてることが分かるのは大体こいつだけなのは、やっぱ俺とこいつがアラガミを殺すことしか考えてねえからなのか。

 よしそれじゃあ試してみるか。あいつが地面に着く前にだ。

 極小のインパを2回入れて、槍を構えて降下するハヤテに背中を合わせる。これかなり収まりが悪いけど大丈夫なのか。

両腕と神機は体の前に。インパの準備だ。

よし。

「いいぞハヤテ」

「こっちもだ」

 神機に力を込める。

 身体の中のオラクル細胞に火をつけて神機に流し込む。

 正面を向いたインパ発射口が熱を帯びる。オラクルの火花が散る。

「一発で決めようぜ。3」

「お前がミスらなきゃな。2」

「「1」」

「インパァ!(ずどん)」「オラァ!」

 残りの燃料が全部、発射口から出ていく。すげえ反動が俺達を下に加速させて、空に向けた発射口から、炎を長く引いて俺達は落ちる。

 背中を使ってハヤテを押さえる。押し付ける。

 ハヤテは、背中越しだから全体は見えねえけど、多分投槍みたいな構えだ。原始人かよ。

 ハヤテの神機が展開して、穂先の手元側から火花が噴き出す。火花が俺の目に入ってくるのどうにかしてくんねえかな。正直さっさと終わらせてほしい。

「ぶち抜けェ!!」

「くたばれッ!!」

 激突。

 俺のインパの推力をプラスしたハヤテのチャージグライドは、一瞬でボルグ・カムランの装甲ごとど真ん中を貫通!

 俺とハヤテはそのまま、アラガミの真ん中に空いた穴を抜けて地面に激突!痛えなクソが最低の作戦だった!

 

「おいマルコ、空から馬鹿が降ってきたぞ」

「幻覚だよきっと。いくら馬鹿だからって空から降ってきたりはしないでしょ」

「いや分からんぞ。空から降ってくるくらい馬鹿だ、あいつらは」

「いいかいコフィ、もしそうだとしたら、この馬鹿みたいなやり方でアラガミと戦った挙句馬鹿みたいな勢いで降ってきて、馬鹿みたいに半分地面に埋まってるこの馬鹿どもが、よりにもよって僕らの仲間だってことになっちゃうんだよ」

「埋めとくか」

「そうだね」

 多分一瞬意識が飛んでたらしい俺は、身動きが取れないまま目を覚ます。なんだこれ、全身クソ痛えうえに上半身が何かに挟まってうまく動かねえ。

 近くにマルコとコフィがいるみたいだが何言ってるかはいまいち分らん。とりあえず動く脚を適当に振り回すことにした。俺はここだぞ。

「見てよこれ。GEっていうよりアラガミだよ」

「おいゴウ、あんまり動くなよ」

 突然脚を掴まれた、と思ったら次の瞬間には上に引っ張られていた。俺の脚を掴んで逆さにぶら下げたコフィが俺のことを見下ろしていた。

「へっへへ、久しぶりだな。見たかさっきの?空中でぶち抜いてやったぜ」

「ああ色々初めて見たよ。きっと博士も喜ぶんじゃないかな」

「っていうか何でコフィは俺をぶら下げてんだ?俺は洗濯物じゃねえぞ」

「何でだろうなクソ馬鹿野郎」

 さかさまになった視界の端の方に何かがある。地面に突き刺さってる人間の脚だ。人間って言うかこれハヤテの脚か。

「あっははは、何だよあいつ勢い付きすぎて埋まってんのか、間抜けだな」

「まあお前と同じくらい間抜けだぞ」

「ぐえ」

 コフィが急に手を離すもんだから俺は頭から地面に落ちた。もうちょっと優しいやり方があろうもんだが、気が利かねえ野郎だ。

 コフィは俺を掴んでた手でハヤテを引っ張り出す。引っ張り出されてすぐ手を離されたハヤテは頭を振って周りを見渡した。

「んあ?お、何だ?うぇ」

「お目覚めかい、ハヤテ」

「アラガミは?」

「ああ、」

 ばん、ばん、ばん。

 マルコは目をつぶって集中した後、無造作に銃形態の神機から3回、別の方向に発砲した。目をつぶったまま撃たれたそれは、瓦礫の奥の方に消えていった。

「もうすぐ来るよ」

 

 マルコが適宜アラガミを釣ってくれるから、俺達は何も考えずにアラガミを殺すことに集中できた。気づけば俺達は港を離れて馬鹿デカい駐車場でアラガミと殺し合っていた。多分マルコがコントロールしてるんだろう。今戦ってるのは数だけは多いオウガテイルと、その変異種のヴァジュラテイル(電気を飛ばしてくるオウガテイル)、中型種のグボロ・グボロ(太った魚みたいなアラガミで頭に大砲がついてる)だ。

「お”お”お”お”お”お”お”お”ぉぉぉォォッ!」

「うえっ、こっちに飛ばすな、よっ」

 さっきからコフィが叫ぶたびにすっげえ勢いでアラガミの肉片が飛び散ってて職場環境が最悪なんだよな。

 ここぞとばかりにコフィが神機をぶん回してオラクル細胞を回収しているのは、こいつのイカれた趣味のせいだ。限界まで威力を上げた砲撃を『砲撃の女神』に捧げる、とか言ってて正直気持ち悪いんだけどまあ俺達は聞かなかったことにしてる。でも『砲撃の女神』の信奉者って結構いるらしいから世も末だぜ。

『おいテッド、一旦銃で援護してくれ』

『了解です!』

『ナイスだ!よし、そいつ捕喰してバーストを維持しろ』

『分かりました!』

 俺達が離れた戦場では藤川先輩達が交代で回収作業をしてる。今はトシとテッドが死骸に惹かれてやってきた小型アラガミをぶっ殺してることろだ。アラガミはくたばるとその死骸が霧散、というかオラクル細胞を空中に撒き散らして消えるんだが、ボルグ・カムランの場合は針とか両腕の盾とか尻尾の筋肉とか、分化が進んでる部分が残ることがある(独自設定)。

『うっし回収完了ォ、ナッシュさん、そっちに戻ります』

『オウガテイルの素材はいいんですか』

『ああ、オウガテイルなんかどこにでもいるからな』

『こちらナッシュ、戻っていいぞ。ハヤテ、あいつらが戻り次第交代だ。ヒロ、最後まで気を抜くなよ』

 そういう分化した部分も放っとくと霧散したり他のアラガミに食われたりするからそれまでに回収班が回収することになってる。

 今回は防衛班の3人の内2人が回収、その間に俺達が交代でトラックに戻って神機からコアの抜き出し作業をする。神機の中がアラガミコアで満杯になると神機が古いコアから順番で消化しちまう(独自設定)からだ。

『マルコ、こちらナッシュ。そろそろ誰か神機が満杯になるんじゃないか』

「次はコフィかな、」

「了解、だが一発撃ってからだ」

 ボルグ・カムランをぶっ殺した後、マルコがどこからか呼び出したザイゴートと中型種シユウ(デカい人間の肩に鳥の翼をつけたようなアラガミで飛ぶ)の群れをぶっ殺してコアを抜いたところでハヤテの神機が満杯になったから、今ハヤテはトラックに戻っている。

「あ、ちょうどいいのが来てるね」

 マルコが何かに気付いたらしい。俺には何も見えねえけど、マルコが言うならそうなんだろう。言われて少し周りに気を配れば、なるほど少し気温が下がってるな。じゃあプリティヴィ・マータか。

「これはデミウルゴスかな。そのあたりの地面から出てくる。コフィ、一発で決めてくれよ」

「任せろ。跡形もなく消し飛ばしてやる」

「コアだけは回収するからね」

 俺は神機を銃形態にして、コフィにリンクバースト弾を渡す。マルコも渡して、これでコフィのバーストレベルが3だ。

「じゃあ今のうちに小型共を集めようか」

「了解、おりゃっ、よしそこから動くんじゃねえぞアラガミ共、」

 めりめりと地面が盛り上がってくる、その周辺に小型アラガミを集める。俺は捕食形態でヴァジュラテイルを一匹、引っ張って投げ飛ばす。投げ飛ばしたヴァジュラテイルの上に、同じようにマルコがオウガテイルを投げ飛ばすと、馬鹿なアラガミ共は目の前にあるものに噛みつく習性があるので共食いを始めた。

「グボロも追加だ、ぶっ潰れろ!」

「出てくるよ、コフィ!」

地面の盛り上がりはさらに大きくなって、バキバキと、アスファルトを突き破って真っ黒な大型のアラガミが生えてくる。

 ずんぐりむっくりな黒い巨体はデミウルゴス、カバみてえな身体にキリンの首、そこにヤギの頭をつけた大型種で、体表が異様に硬い。異様に硬いから移動するときは前足に切れ目が入って、そこから柔らかい筋肉っぽいものを伸ばしてリーチを稼いで這いずるみたいに動く。そこが弱点。あと冷気を出して攻撃してくる。

「射線上に入ったな」(詠唱開始)

 まあ今回はカモだ。さっきから少し離れた位置で『砲撃の女神』に祈りを捧げてたコフィ(祈りの姿勢は仁王立ちで横に構えた神機を両腕で突き出すポーズだ)は、デミウルゴスの咆哮を聞いて、その金色の眼と視線を合わせて。そして。

 コフィがゆっくりと神機を構える。圧縮しすぎたオラクルエネルギーが、砲口から太陽みたいに強い光を放つ。

 俺とマルコは急いでアラガミから距離を取る。

 ひっくり返ったグボロ・グボロとそれに潰された小型アラガミ共は身動きが取れない。

「射線上に入るなと女神も仰っている」

 デミウルゴスは一歩を踏み出す。前脚の、手首位の位置から弱点の筋肉が露出する。

 でももう弱点も何も関係ない。

「この一撃を女神に捧げるゥ!オ・ラ・ク・ル・バスタァァァァァァァアアアアア!!!」

 爆音。

閃光が眼を焼く。

砲口よりも明らかに太いビームが、コフィの神機から迸る。

「薙ぁぎ払えぇえい!!!」

 がりがりと、発射の勢いで地面を砕いて後退するコフィが、デミウルゴスを完全に消し飛ばさないように、神機ごと身体をゆっくり旋回させる。

 言葉の通りに、薙ぎ払う。

 何とか慣れてきた視界の中で、デミウルゴスは首と前脚が吹き飛んで何か黒い塊になってるしグボロ・グボロは腹鰭と尾鰭しか残ってねえし、ヴァジュラテイルとオウガテイルはどこに行ったんだ、と思ってたら薙ぎ払うビームに当たった別のオウガテイルが消滅した。

 俺は地面に這いつくばる。しゃがむんじゃなくて臥せるんでも無くて、マジで顔を地面に押し付ける。だってあんなもん当たったら死ぬからな。コフィはいつも、一応味方を巻き込まないように少し上に向けて撃ってるとか言うけど正直アテにならねえと思ってる。

「熱っつ、熱、熱い、死ぬ死ぬ死ぬ!」

 ビームが俺の身体の上を通過してる、と思う!多分余波で背中が熱い!めっちゃ熱い!毎回思うんだけどこれ一般GEなら死んでるからな!

 とか考えてたら目の前にオウガテイルの脚、というか足だけになったオウガテイルが転がってくる、対応を間違えれば俺もこうなる、間違いなくこいつが一番の脅威だ!

「死にたくねえ!」

 滅茶苦茶長かった一瞬が終わって、背中の熱が引いていく。命の危機は去った!生きてる、俺、生きてるよ!

「わあ生きてるてめえコフィ!危うく背中が溶けるところだった!」

「ああ、死ぬほど気持ちよかったぞ」

「マジで?じゃいいか」

 俺は一息ついて、辺りを見回す。

 コフィを中心にして、扇状に、というかコフィより前にあったものがほとんど何もなくなっていた。その地獄に向かって、やり切った顔をしたコフィがゆっくり歩きだす。デミウルゴスとグボロ・グボロのコアを抜くつもりだろう。高熱で歪む大気の中を、馬鹿でけえ神機を担いで悠然と歩く姿を見て、俺はまるでこの世の終わりみてえなGEだなと思った。

「残りは小型ばかりだね、よし、追加するよ」

 マルコがまた明後日の方向に射撃した。かなり遠いが、あれはザイゴートか。

 じきに新しいアラガミがやってくる。

「今度は俺の取り分もあると良いんだけどな」

「ハヤテが戻ってきたらコフィが交代かな。あと幾つくらい食べられる?」

「大型なら2つは入らんぞ。中型なら3つはいけるか」

「こっちはまだ大型3つはいけるな」

「了解、じゃあもうちょっと追加しようか」

 立て続けに3発、遠くの草むら、ぼんやり見える廃屋、何もない空間に射撃。

 射撃音が空に抜けて、俺達は誰も喋らない。

 少し離れた海からは、風が吹いて海の匂いがしていた。

 俺は神機を担いで、脇腹とアキレス腱を伸ばす。

 

 さっさと来やがれ、アラガミ共。今度こそ、山ほどぶっ殺してやるぜ。

 

 



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1-6 明日何する?

 結局あの後交代でアラガミをぶっ殺しまくって、任務開始から11時間でトラックに積める場所がなくなったんで俺達は帰還した。

 途中でテッドがぶっ倒れたが、まあ新人にはよくあることで、そのうち勝手にうまくやれるようになるって俺達は解ってる。第3大隊じゃあんまり長時間の任務はやんねえからな。それにぶっ倒れたとはいえほとんど一人でシユウをぶっ殺せるくらいの腕はあるんだから大したもんだ。

 時刻は21時。

 行きより大分狭くなったトラックで、俺達は思い思いに過ごしていた。

 コフィがトラックの上で見張り、マルコは報告書を作りながらテッドと話して、藤川先輩とナッシュさんは運転席にいる。

 俺はハヤテとトシとカードに興じていた。大貧民だ。負けた奴が運転席と屋根に合成コーヒーを差し入れに行くルールだ。

「つーかさあ、ブラッドアーツ?感応波?」

 トシが場の6の上に7を重ねて出す。

「全然目覚めねえんだよ」

「あー、あれな」

 ハヤテの番、9が2枚出てくる。俺はその上にJを重ねる。

 感応波。GEとかアラガミから発生する何か特殊なエネルギー。オラクル細胞に命令を送る機能があって、強い感応波はアラガミの細胞に上書き命令を出せる、とか何とか(独自設定)。俺達も体内の細胞に感応波で命令してるから、逆に感応波の強いアラガミ、感応種とか相手だとGE側が金縛りにされちまったりする。

 だから基本的にGEは感応種と戦えないんだけど、なんかGEは突然感応波の出力が上がって、体外に感応波を出したり感応種の金縛りのレジストができるようになったりする。これを感応波が目覚める、とか言うってウォン先生が言ってた。

「死にかけりゃ使えるようになるんだっけか」

「死にかけずに使えるようになりてえんだよ」

 再びトシの番、今度はパス。

 あとGE同士がテレパシーみたいなことをしたり、感応波を纏わせた神機はアラガミによく効くってのがあって、感応波を攻撃に使うのがブラッドアーツだったりブラッドバレットって呼ばれてる。実際かなり効く。

「お前らもやっぱ死にかけたんだろ」

「まあな」

「逆にぶっ殺してやったけどな」

 ハヤテのターン、Qが場に出る。できればAまで出させておきたいんだが、こいつ持ってんのかな。

 第一大隊、討伐班は拠点から離れて戦うことが多いから、GEは全員が感応波に目覚めてる。まあ感応波に目覚めてから配属されるってことだ。

「楽に使えるようになんねえかなー」

 俺は虎の子のKを切る。これであと1枚のK以外はクソ雑魚だ。

感応波に目覚めるかは個人差があって、全体の3割ってところだし、15歳の振り分けの時に感応波が出せるGEはあんまりいないって話だ。俺達の世代は俺とハヤテとリンとアーロンとナディアが配属時には感応波に目覚めてたから、何か黄金世代、とか呼ばれてるらしい。すげえなさすがウォン先生だぜ。

「そういや藤川先輩は感応波、目覚めてんだろ」

「ああ、ブラッドバレットが使えるってさ。キョウトで死にかけた時に使えるようになったって。はー、俺も金が欲しい」

 トシはまたパス。

 感応波に目覚めると第2大隊では昇格して給料も上がらしい。あと運がいいと討伐班に配属されて、討伐班は防衛班より給料が良い。死亡率も高い。

「そういやテッド、お前は?」

「僕もまだです。というか、僕らの世代はまだ誰も」

 ハヤテがマルコと話をしていたテッドに話を向ける。お前良いから早く切れよ。切るのかよ。クソが。俺がパスして、ハヤテが今度は4を出す。

「お前もやるか?負けたらコーヒー係な」

「いや、負けなくてもやりますよ後輩なんですから」

 俺は重ねて5。

 テッドは立ち上がって、コーヒーポットのほうに歩きだす。足震えてるけど大丈夫か。

「じゃあ悪いけど僕にも貰えるかな。まあ感応波なんて、これから討伐班やら防衛班やらの任務に同行するんだから、目覚めるチャンスはきっとあるさ」

「あー、じゃあ俺も、たまにはアーロンに同行すっかな」

 トシは8切り。

「あ?俺達でいいだろ」

「死にかけるなら丁度いいぞ」

「だから嫌なんだよ」

 トシはうんざりした顔をして、2を2枚出して、最後に残った3を切った。

 

 

 

 オオサカ本部に帰還した俺達第7討伐班はまず神機をメンテに出して、風呂に入って食堂に集まった。同じような任務帰りやこれから任務に行く連中で賑やかな食堂で、たらふく飯を食おうってハラだ。散々アラガミを食い散らかしたが、バランスのいい食生活ってのは大事だ。

「そういやマルコ、博士のとこには行かなくていいのか」

「報告書はもう出してるからね、戦闘記録やら神機のログなんかも確認して、となると、あの博士でもまあ、明日かな」

 俺がそうやって聞くと、マルコが嫌そうに答えた。つまり明日は呼び出しか。というかお前帰還中に報告書全部まとめたのか。すげえな。

 俺達は連れ立って歩く、食券の販売所に行くと周りのGEが自発的に順番を譲ってくれる。なんだよみんないい奴だな。

 

「第7だ、戻ってきたのか。全員揃ってるぞ」

「朝から一日中戦ってたんだろ、何でピンピンしてんだよ」

「さっき搬入所で見たぞ、ボルグ・カムランの死骸が運ばれてた。ありゃざっと4体分はあったぜ」

「俺、シユウの腕とラーヴァナの頭が入ってくのも見たぞ。いくつもだ」

「マジで一日中戦ってたのかよ、狂ってやがる」

「オヴェスト博士からの任務だって話だぜ。博士が壊したGEって両手の指じゃきかないってマジなのか」

「ああ。遠藤と早川も実験失敗であの性格になったらしい」

「でもあの中で一番ヤベえのがマルコさんだ」

「アナンじゃねえのか、あいつこの前ヴァジュラと戦ってたが、完全にバケモンだったぞ」

「よく考えろよ、他の二人だって十分バケモンなのに、全員マルコさんに従ってるんだぜ」

「確かに。ああ見えてまともじゃねえんだな」

 

 俺達は模範的なGEで、滅茶苦茶最強なうえに出撃頻度もいい感じだから他のGEから一目置かれてる。こうやって普通に飯食ってるだけで噂されるのも有名人の辛いところだな。何言ってるかは全然聞こえねえけど。

「明日何する?」

「僕は、ハァ、博士のところに顔を出そうかな。誰か代わってくんない?」

「嫌だ。オレはそうだな、メンテが終わるまでアーカイブで映画でも漁るか」

「俺だって嫌だ。・・・・・・朝、メンテの具合見てから考える」

 明日の予定について聞くと三者三様の答えが返ってくる。今回は長丁場の戦闘だったから、明日の午前中は少なくとも神機のメンテだってのは間違いない。長引けば夕方までかかるし、そうなったら明日は出撃できない。

 適合する別の神機を引っ張り出してきて予備のパーツ付けて出撃するってのもなくはないけど、あれ申請とか調整とかで時間取られる(独自設定)んだよな。

「俺さあ、ウォン先生にヒロシマ用のフノスを見に行けって言われてんだよ。感想文も書かなきゃいけねえんだけど誰か一緒に行かね?」

「何だそのつまんなさそうな課題」

「知らねえ。けど期限がそろそろなんだよ」

 実際どうすっかな。そりゃ俺だってそんなめんどくせえ社会見学をやるくらいなら外で元気にアラガミと殺し合ってる方がマジで楽しいんだけどな。ウォン先生の言う事だしな。

 考えつつも手は動く。合成タケノコの入った合成肉の炒め物を口に放り込んで、合成スジ肉は相変わらず酷え味と食感だ、噛み砕いて合成牛乳で流し込む。合成じゃないコメとこれまた合成じゃない豆腐に合成醤油をぶっかけて、野菜とも野草とも知れねえ緑色の何かもついでに口に押し込む。飲み込む。

「ドックは入るのに時間がかかるだろ?社会見学ですって間抜けな説明だってしないといけないし、こんなに気乗りしないのはなー、流石にウォン先生の言う事でもなー」

「現場で誰か知り合いが働いてるってことはないかな」

「あ?あー」

 言われてみれば確かに。第3に入る前につるんでた連中には、何人か工員になってたのがいたはずだ。まあ、あの時はGEになるか工員になるか死体になるかしかなかったけど。流石に工員になった連中はまだ死んではねえだろうしな。

「ちょっと聞いてみるか」

「おう、そうしろ」

「誰に聞けばいいんだ?」

「知らねえよ」

 コフィの野郎、さっきから酒ばっかり飲んでまるで役に立たねえ。こういう時はマルコに限る。俺は酸っぱい匂いの得体の知れないスープを飲んでるマルコに視線を向けて助けを求める。

「朝、見学の申し込みをするときに言ってみたらいいんじゃないかな。もしゴウやハヤテと一緒に育った子たちがいれば、ってね。そしたら昼休みとかにでも会わせてくれるんじゃないかな」

「サンキューマルコ」

「そういうことなら、俺も行くぜ。久々にあいつらの顔が見たくなった」

 やっぱりマルコは頼りになる、そう思っていたら生の葉っぱを食ってたハヤテが乗り気になってきた。

「おい、明日はちゃんと俺を起こせよ。んで、空振りだったら許さねえからな」

「何でお前そんな偉そうなんだバカ」

 クソ馬鹿野郎は自分で起きる気がないらしい。マジかよこいつ。

 

「!」「ふん」「へえ」「おっと」

 酒を飲んでたって分かる。

 気づいたのは同時だった。

 俺達が和やかにお食事をしながらお話してる食堂の、空気が変わった。

 戦いの気配だ。

 違うな。誰かヤバいGEが感応波を飛ばしてやがる。なかなかの圧力だ。おいおい、俺達のお楽しみ空間で何てことをしてくれやがるんだ。一気に酔いが醒めちまった。折角の楽しい食事が台無しだぜ。

「ゴウ」

「ああ」

 言われなくても、こういう時は俺の出番だ。理屈はよく分かんねえが、俺の感応波は遠くまで飛ぶらしいからな。

「ふうう”ぅん」

 俺は立ち上がると感応波の出力を上げる。何となく圧力の来る方向に向かって飛ばしたら関係ないGEが巻き添え食らって死にそうな顔をしていたが許せ。

 感応波はますます強くなって、俺も負けないように出力を上げる。オラッ!死ねッ!

 関係ないGEが顔を青くして机に突っ伏すが、すまねえ男と男の戦いなんだ。

 

「ふぅん、なかなか活きのいいのがいるじゃないかァ」

 

 入口の方から、ビンビンに感応波を出して近付いてきたのは女のGEだった。

 高めの身長、日に焼けた肌に、所々赤くエクステを入れたブラウンの髪。露出の多い服装は、パンパンになった筋肉やら柔らかい肉やらではちきれそうだ。

その女GEが、口を大きく横に開いて、笑ってんのか威嚇してんのかよく分からねえ顔でこっちを睨んでる。

「ハルコさん、急にびっくりしましたよ。どうしてキョウトからオオサカに?」

「ふうう”ぅん」

「へっ、あたしの班もそろそろ欠員が出そうでね。こうやってイキの良さそうなのを探してんのさァ」

「ふうう”ぅん」

「だからって、何も感応波を飛ばしてくることは無いでしょう」

「ふん、あいつの欠員を埋めようってんだ。こんくらいで動けないんじゃ話にならないのさ」

「ふうう”ぅん」

「おい感応波止めろ」

「ゴウ」

「あい」

 よく分からんがマルコの知り合いらしい。つまり敵じゃないってことだ。マルコがわざわざ敵を生かしておくわけがねえからな。

 でも敵じゃねえなら何でこっちに感応波飛ばしてきたんだ?敵じゃないのか?そうだとしたら、敵って何だ?俺達は何と戦っている?

「へぇ、アンタがコフィ・アナン?噂通りなかなかやるようだね」

「早川ハヤテです(裏声)」

 ハルコさんらしいGEがコフィに話しかけるがコフィはコフィじゃなかったらしい。俺はずっとコフィのことをコフィだと思ってたけど、コフィはハヤテだった?

「へぇ、すまないね、早川。アフリカ系の名前だったから、勘違いしてしまったよ。許してくれ。じゃあこっちの、アンタがコフィ・アナン?」

「遠藤ゴウです(裏声)」

「おい俺は誰だ?」

 ハルコさんは今度はハヤテ・・・・・・コフィ?に話しかけるけどその元ハヤテで今はコフィの奴は俺らしい。じゃあ俺はアラガミ・・・・・・俺はアラガミじゃない、はずだ。

「おいマルコ、あたしはこんなに訳の分からねえのは初めてだぞ」

 遠のく意識の中で、何かを掴んだ感覚がする。わかったぞ。そうか、つまり、この何かめっちゃ強い感じのGEが、さっきこっちに感応波を飛ばしてきたのは、

「つまりそういうことか・・・・・・どういうことだ?いやどっちにしろ上等だぜ、俺は、・・・・・・さっぱり分からねえ」

「早川ハヤテです(裏声)」

 俺は訳が分からなくなって、博士からもらったラムネをキメる。

 すぐに極彩色の歪んだ視界がやってきて楽しくなる。ふへへへへ。

「おいマルコ、マルコ!こいつ薬やってる!」

「それでうちの班員が欲しいんでしたっけ?」

「いらねえよこんな連中!」

「腕だけは立ちますよ」

「腕だけあっても仕方ねェんだよ!」

 大げさな身振り手振りで、表情をころころ変えるハルコさんがなんだか可愛いかった。

「俺の名前は遠藤ゴウ、極東第2支部、第1大隊第7討伐班のゴッドイーターで、趣味と特技はアラガミ殺しだ」

「おい!おいマルコ!こいつ自己紹介始めてる!怖え!」

 クソタッタレな職場だが、楽しい仲間がいるってのは、結構気に入ってる。

 



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