二人の孫悟飯 (無印DB好き)
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転入生 孫悟飯

 孫悟飯。かつて武術において右に出るもの無しとうたわれたほどの達人。武術の神”武天老師”の薫陶を受け、各地においてその武の技を披露した豪傑。しかし、老境の域に入り始めた頃に、唐突にその消息を絶った謎の男でもある。故に、それ以降の彼に関する電子の記録や書籍等の記述はない。

 

 その謎の達人…孫悟飯に憧れる一人の少年がいた。彼の名前はウットナ。代々武術の家系に生まれ、父、母、妹の四人家族という構成で、家系ゆえに父から妹と共に武術を学ぶ少年だ。

 

 彼が孫悟飯なる人物を知ったのはまだ物心ついたばかりの頃。まだ存命だった祖父から、この天下の達人の話を聞いたのだ。

 

 当時、とあるいざこざに巻き込まれ危うくお家断絶…となりかけたところを、偶然旅の途中に立ち寄っていた孫悟飯に助けて貰ったそうなのだ。その時のあまりに圧倒的な強さを誇る孫悟飯の雄姿を、祖父はその年齢に見合わない子供の様な眩い笑顔で語っていた。

 

 今でも、ネット上で孫悟飯の名前を検索すれば、それなりにはヒットする。それほど有名な御仁でもあったのだろう。とはいえやはり彼の消息に関する事だけは、推測の域を出ない胡乱な文しか出てこないが。

 

 更に、今は武術と言えば、天下一武道会優勝者であり、あのセルをも倒してみせた世界の英雄…ミスター・サタンを筆頭とした彼の娘や弟子を含む今をきらめく武闘家の名前しか挙がらないのが現状だ。まあ、これに関しては数十年も前の人物なので当たり前かもしれないが。

 

 しかし、祖父から何度も武勇伝を聞かされたウットナは、それでも孫悟飯が史上最強の武道家だと信じて疑わなかった。残されている数少ない映像を見るたびに、孫悟飯の凄まじい強さに胸が熱くなる。孫悟飯が存命ならば、セルをも倒せていたと自信を持って言い切れる!

 

 そんな一途な思いを持つウットナの前に一人の少年が現れた。彼が敬愛する人物と全く同じ名前である”孫悟飯”の名前を持つ少年が…。

 

 

 

 

 

「孫悟飯です。よ、宜しくお願いします」

 

「悟飯君は様々な学業で満点を修めた優秀な学生だ。皆も彼を見習って励むように」

 

 少し戸惑い気味にクラスメイト達に自己紹介をする少年…孫悟飯。その隣で、クラスの担任の先生が悟飯について補足の説明を入れる。途端に、おーっ…とどよめきがクラス中に広がる。

 

「くっくっく…。いかにも勉強の虫って感じだな…」

 

「可愛い顔付き…ちょっとタイプかも…」

 

「…ソン、ゴハン…? ソン………」

 

 ウットナの前の席にいるシャプナーは少し見下す感じで、イレーザはちょっとだけ頬を朱に染めて、ビーデルは孫悟飯の名前の孫という部分を怪訝そうに噛みしめて、教壇の前に立つ転校生を見つめている。

 

 しかし、ウットナとしてはそれどころではない。

 

(孫悟飯!? 孫、悟飯…だって!!? そ、そんなバカな…っ! その名前は…そ、その名前は…っ!!)

 

 驚愕に満ち満ちた表情で、視線を一点に定めるウットナ。見る人が見れば、睨みつけていると取られても仕方がない程の形相だ。

 

「悟飯くーん! ここ、ここが開いてるわっ!」

 

 悟飯の席を決めかねている教員に、イレーザが自分の隣の空いている席を指しながらアピールする。そして、教員の指示を受けその席へと移動する悟飯。その様子を、ウットナはただただジーッと黙って見つめ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 学校生活において、転校生とはなかなかの大きなイベントだ。それが、編入テスト全教科満点の秀才ともなれば猶更だ。当然、昼休みの間に悟飯は他の生徒から質問攻めに合う。

 

 それによると、どうやら彼は転校生ではなく転入生だという事。つまり、このオレンジスターハイスクールに入学するまでは、彼は学校への登校経験はない…らしいのだ。

 

 さらに驚きなのが、彼の実家の場所だ。信じられない事に、ここ…サタンシティから千キロ以上は離れている住所を彼は口にしたのだ。流石に冗談かとも思ったウットナだったが、このことを聞き出したイレーザとのやり取りを見る限り、どうも本気で口にしている様だ。

 

 

 とはいえ、この二つこそ驚きだった物の、それ以外の趣味や将来の夢については、趣味は特になく夢についても学者という相応の物だったので、この時点でのクラスメイト達の評価は”ちょっと変わったがり勉君”というものに落ち着く事となる。

 

 が、当然ながらウットナとしてはこんな評価は納得がいかない。そして、どうやらビーデルも経緯こそ不明だが悟飯を怪しんでいる節があり、質問攻め中もその輪には加わらず、ずっと悟飯を睨みつけていた。

 

 事が起こったのは昼休み後の体育の時間だ。今日はベースボールをすることになったのだが、その最中、シャプナーが放った特大ホームランを、悟飯は当然のようにキャッチしてしまったのだ!

 

「なっ!?」「い゛っ!?」「…は?」

 

 その一打を悔しそうに見ていたピッチャーのビーデル、ホームランを確信し一塁を抜けさあ二塁へ行こうとしていたシャプナー、そして悟飯と同じく外野を守っていたウットナが揃って驚愕の…あるいは間の抜けた声を上げるが、それも無理はない。

 

 なぜなら、そのボールを取るために悟飯は十メートル以上も垂直にジャンプしているのだ。これに驚くなという方が不可能だろう。

 

 更に、攻守交代後の悟飯の打席。会心のホームランをあっさりアウトにされたシャプナーが、恐らくは脅しの為に渾身のストレートを悟飯の顔面に向かって投げたのだが、余裕で人を殺せそうなその一球をまともに食らっても、悟飯は平然としていた。どころか、全くダメージを見せずにルンルン気分で一塁へと向かうではないか。

 

「………っ。あ、怪しい…」

 

 その様子を見てビーデルが唸りながら口を開くが、ウットナは………逆に感動していた。

 

 理由は簡単だ。今、悟飯が見せた超人的な動きは、まさにウットナがそれこそ何回も何回も、もう数えるのも馬鹿らしくなるほどに繰り返し見ていた、あの武術の達人”孫悟飯”の動きその物だったからだ。

 

(彼はあの孫悟飯に関係のある人物に違いないっ! そうと決まれば…っ!)

 

 

 

 

 

「おいお前。部活はもう決めてるのか? もしまだならボクシング部とかどうだ? 思ったよりタフそうだから良い線行くかもしれんぞ?」

 

「あ、いや、僕は部活はちょっと…」

 

「そうそう、悟飯君ってば家が凄く遠いんだから、部活なんてやってる暇ないよ。それより悟飯君、一緒に帰ろうよ~。私の家まで飛行機で送ってってよ~」

 

「は、はは…。ご、御免ね、僕の飛行機一人乗りなんだ…」

 

 放課後、帰り支度をしている悟飯にシャプナーとイレーザが話しかけていた。シャプナーは真面目な顔で悟飯を自分の部活に勧誘している。どうやら、先の体育の時間で悟飯の事をただ勉強ができるだけじゃないと感じた様だ。

 

 一方、イレーザの方は一緒に帰ろうとしている。どうやら、悟飯の千キロ以上の距離を行き来する高性能…と思われる飛行機で素早く帰るのが目当ての様だ。尤も、どっちも断られてしまったが。

 

「悟飯君…俺からも一ついいかな? 君、孫悟飯っていう人物を知っているかい?」

 

 そして、ここで今まで見ていたウットナが行動を起こす。

 

「へ? 孫悟飯は僕…」

 

「いや、君じゃなくて、かつて武道において右に出るもの無し…とまで言われた武道家”孫悟飯”の事だ。同じ名前を持つ君なら知っているんじゃないのか?」

 

 自分を指差す悟飯に、一歩詰め寄って詳しく問い詰めるウットナ。すると、悟飯はあからさまに「あー…」といった感じに冷汗を垂らし始める。

 

「孫悟飯? そんな奴聞いた事ねえぞ」

 

「そうだろうね。何せ彼が活躍したのはもう何十年も前だ。でも、さっきも言ったように、武において彼の右に出るもの無し…とうたわれたほどの強さを誇る人物だったそうだよ」

 

「え~? って事はミスターサタンより強いって事ぉ~? 流石にそれはあり得ないと思うんだけど…」

 

「うん、勿論、現世最強はミスターサタンさ。それは議論の余地はない。でも、史上最強という事なら、俺は迷わずこの孫悟飯翁を推すね。えこひいきなのは承知の上で」

 

 訝しむシャプナーとイレーザだったが、ウットナは僅かも怯むことなく自分の意見を言い切る。

 

「だ、そうだが、ミスターサタンの娘としてはこいつの意見、どう思う?」

 

 と、ここでシャプナーはいつの間にか後ろにいたビーデルに意見を求める。

 

「へ!? み、ミスターサタンの、む、娘…っ!?」

 

「あ、そういえば悟飯君知らなかったよね。そうビーデルはあのミスターサタンの娘なんだよ~!」

 

「んでもって、こいつの腕は俺よりも上だ。可愛いからって変な気は起こそうとするなよ、ボコボコに返り討ちにされちまうぜ」

 

 厳しい顔で悟飯を睨むビーデルを見ながら驚く悟飯に、説明をするイレーザとシャプナー。その際、この二人は何処か自慢げでもあった。

 

「…そうね。えっと、ウットナ君…? だったよね。君にも言いたい事はあるけど、それよりも私も悟飯君に聞きたい事があるの。ねえ君、孫悟空って人知ってる?」

 

「いっ!?」

 

 一瞬だけウットナに視線を移しはしたものの、再び視線を悟飯に戻し質問するビーデル。そして、その名前を聞いた途端にあからさまに動揺する悟飯。これでは、知っていますと白状してしまったようなものだ。

 

「孫悟空か…。これまた、格闘技マニアの間では有名な人物が出てきたな」

 

「ウットナ君も知ってるの?」

 

「勿論さ。第二十三回天下一武道会の優勝者だ。つまりミスターサタンより一つ前の優勝者だね。それだけじゃなく二十二回と二十一回もともに準優勝。特に二十一回に関しては若干十二歳という若さだ。当時は少年の部なんてなかったから、大人たちに交じって準優勝したって事になる。有名にもなるさ」

 

 その孫悟空なる人物についてうんちくを語るウットナ。それをビーデル、シャプナー、イレーザの三人は興味深そうに聞いていたのだが、ウットナの語りが終わるや否や、ウットナを含む四人の視線が一斉に悟飯の方へと向かう。

 

「―――………ごめん!! 僕ちょっと急ぐからっ!!!」

 

 四人の視線に耐えきれなくなったのか、脱兎の如く教室の扉へと走り出す悟飯。

 

「あっ、待てっ!!」

 

「逃がさないわっ!!」

 

 即座に追跡しようとするウットナとビーデルだったが、追いかけるように扉の外へと出た瞬間、信じられない事に既に悟飯の姿は何処にもなかった。

 

「へっ!? そ、そんな…! い、今出て行ったばかりなのに…っ!?」

 

 驚愕に目を見開きながら廊下を左右に見回すビーデル。しかし、事ここに至ってもウットナは冷静だった。

 

(これは…あの目に見えない早業か…? 悟飯翁の動きも、常人には到底見切る事が出来ない程の早さだった。あんなスピードで本気で逃げられたら、俺らには手も足も出ないな…)

 

 と、ここまで思考を巡らせた後で、ビーデルへある取引を持ち掛けた。

 

「ビーデルさん、今やみくもに悟飯君を探しても多分見つからない。それより、ここはお互いに知っている情報を交換しませんか?」



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悟飯君調査隊結成

 お詫び:前回投稿時、主人公ウットナの一人称が俺だったり僕だったりしてましたが、彼の一人称は俺です。以降気を付けて執筆していきます。


「情報の…交換?」

 

 ウットナの提案に、今まさに悟飯を探そうと飛び出しかけていたビーデルが、ピタリと動きを止めて少し怪訝そうにウットナに視線を向ける。

 

 実をいうと、ビーデルと会話をするのはこれが初めてだ。無論、ウットナはビーデルの事はよく知っている。あのミスターサタンの娘であり、同時に女性でありながらもミスターサタンに匹敵するかもしれない程の武術の達人。

 

 ミスターサタンが優勝した第二十四回天下一武道会でも、その子供の部の優勝者は当時まだ十歳にも満たないビーデルだった事でもその資質の高さは伺える。少しだけ話してみたいと思った事も一度や二度ではない。

 

 しかし、ビーデルからしたらウットナなど名前すら憶えていなかった、ただの同じクラスメイトだ。そんなよく知りもしない相手から、いきなりこんな提案を持ちかけられたら疑いもするだろう。

 

 だが、そうしながらもビーデルは腕を組んで考え込む。やはり、先ほど彼女が口にした孫悟空という人物の情報は今の彼女にはかなり魅力的に写ったのだろう。それを示すように、やや間を開けてから、

 

「…いいわ。情報の交換といきましょうか」

 

 と、険しい顔ながらもコクリと頷いた。

 

「おい、なんか面白そうだな! 俺も混ぜろよ!」

 

「私も私も~! 謎の転入生の正体を暴けっ! なんて超面白そうじゃん!」

 

 そして、ここで今までずっと話を聞いていたシャプナーとイレーザが割り込んでくる。二人とも、確かに言葉通りに興味深そうに瞳を輝かせていた。

 

 この二人とも、ウットナは話をしたことはない。確か、イレーザはビーデルの幼少の頃からの幼馴染で、シャプナーとビーデルは当初こそ険悪な仲だったが、ホームである筈のボクシングでシャプナーがボコボコにされて以降、溝は取り払われていった…という話を聞いた事はある。先の悟飯に放ったボコボコにされる発言も、この時の経験が無意識に来ていたのかの知れない。

 

「良いかな? ビーデルさん」

 

「…いいけど、シャプナー。貴方部活は?」

 

「部長には言っとくから大丈夫だ。部活以外にもトレーニングはしてるからなまりはしねえよ」

 

「いえーい、決まりだね! じゃあ、悟飯君調査隊しゅっぱーつ!」

 

 こうして、謎の転入生…孫悟飯の身辺を調査する四人の団が結成されたのであった。

 

 

 

 

 

 情報交換という名の、記念すべき調査団一回目の会議場所は、何故かビーデルの家…つまり、豪邸でならすミスターサタンの家で行われる事となった。ビーデル曰く、部屋ならいっぱいあるし警備も手厚いから、誰にも聞かれずに密談するには丁度いい…のだそうだ。

 

 とはいえ、ウットナとシャプナーは気が気ではない。というのも、ミスターサタンが娘を異常なまでに溺愛しているのは周知の事実だ。もしこんな場面を当のサタンに見られよう物なら…。

 

「いいのよ! どうせパパは今日も帰ってこないし。いつものように女の人の家に泊まりに行っているに決まってるわ! パパは良いのに私は男の子と一緒にいたらダメなんて不公平じゃない?」

 

 上記の理由で尻込みしていたウットナとシャプナーに、ふんまんやるかたない様子のビーデルが強引に自宅へと二人を連れ込んだのだが、その時に口にした言葉がこれだ。

 

 どうやら、ビーデルは父の強さや偉業自体は尊敬している様だが、普段の生活においては少し忌避感を抱いている様子。加えて、思春期特有の難しいお年頃に反抗期も加わって、その胸中たるや非常に複雑な思いを抱いている様だ。

 

 まあ、というようなゴタゴタはあったものの、改めて会議が開催される事となる。が、残念ながらウットナの思惑に違い、今回の議題はビーデル主催という事で、孫悟空という人物について…ということになってしまった。

 

 とはいえ、この孫悟空という人物も孫悟飯の関係者である可能性は高い。悟飯翁と同じく謎に包まれた生い立ちもそうだが、何より苗字が一緒だ。そのうえ、”孫”などという珍しい苗字そうそうお目に掛かれるものではない。実際、少年の方の孫悟飯の名前を聞いて、その珍しい苗字にビーデルは反応したのだから。

 

 さて、その孫悟空。天下一武道会第二十一回、第二十二回準優勝者。そして、次の第二十三回にてついに優勝を飾った人物だ。この時点で、素晴らしい武術の技を持った人物であることが伺える。

 

 しかし、それ以外の来歴については正確な情報は全くない…というのが実情だ。真偽の定かではないものならいくつかあるのだが、西の都でストリートファイターを一方的にぶちのめしたとか、複数の村をまたいで暴れる魔獣を倒したとか、そういう武道家らしいエピソードから、軍隊を一つ潰しただの、天下一武道会に出場するために、会場であるパパイヤ島を目指してその裏側にあるヤッホイから泳いで来ただの、人間としての性能的に思わず首をひねりたくなるエピソードも満載だ。

 

 中には、第二十二回が終わった後に、武道寺の中から黄色い雲に乗って空に飛びあがっていった…という非科学的なものもある。その時の彼は、子供とは思えない程恐ろしい表情をしていたらしい。

 

「……………………」

 

「………いや、そりゃ流石にデマだろ? 何だよ軍隊を一つ潰したって。トリックか?」

 

「確かにヤッホイからパパイヤ島までの海路はあるけど、泳いでいけるような距離じゃないわよ…?」

 

 ウットナの語る孫悟空のとんでも人物像に、乾いた笑いと共に、呆れた様子で口を開くシャプナーとイレーザ。まあ、言いたい事は分かる…というか、ウットナもほとんど同じ気持ちだ。

 

 しかし、そんな中において、ビーデルだけは目を閉じ腕を組みながら黙っていた。

 

「ビーデルさん…?」

 

 そんなビーデルにウットナが声をかけ、シャプナー、イレーザも視線をビーデルに移す。そして、少し間を置いてから、ビーデルはゆっくりと目を開いた。

 

「私とパパがダブルで優勝を飾った二十四回の時なんだけどね、審判の人が大会関係者の人と話をしているのを偶然聞いちゃったの。いろいろ言ってたけど、かいつまんで言えば、前回に比べて今回の選手のレベルはだいぶ落ちていた…って」

 

 重々しい口調でそう語るビーデルに、他の三人は口を挟むことができない。更に、彼女の険しい表情を見るに、当時その話を聞いた時はすごく悔しい思いをしたのかもしれない。故に、前回優勝者である孫悟空の事を調べ、少年の孫悟飯…その”孫”という珍しい苗字に過剰な反応を示したのも納得がいく。

 

 少しの間、場に重い沈黙が訪れたが、不意にウットナが両手をパンと叩いて自分に注意を向けた。

 

「やっぱり推察について話し合いをするだけじゃ埒が明かない。ここは一つ、当時の人に話を聞いてみたいと思うんだ」

 

「当時の人って…心当たりがあるの?」

 

「ああ、この三回の武道会のいずれかに出て、今も所在が分かってるのは三人。第二十一回にて本戦の準決勝で彼と当たったナム選手。二十二回にて本戦の初戦で当たったパンプット選手。そして、全ての大会で本戦の初戦で敗退しているヤムチャ選手だ」

 

 ウットナの提案に不思議そうに首を傾げるビーデル。そんなビーデルにウットナは頷くと当時に指を三本立てて説明する。

 

「しかし、残念ながら前二人は今会うのはあまり現実的ではない。ナム選手は今はとある砂漠の村の村長をしており、パンプット選手についても、今は老練のクンフーアクションスターとして北の都で映画を撮影中だ。仮にビーデルさんがミスターサタンのコネを使ったとしても、単純に遠すぎて時間がかかってしまう」

 

 そうして、立てた三本の内二本を折りながら説明を続けるウットナ。

 

「となると、残るのはヤムチャ選手だが…。実は今から十年ほど前にスポーツ界である人物が脚光を浴びていた。ウルフェンって言うんだけど、彼が助っ人として所属したチームは、たとえそれがどんな弱小チームだったとしても必ず勝利を収められる…という事で、いろいろなチームから引っ張りだこだったらしい。加えて、種目もベースボール、サッカー、アメフト、バスケと選ばなかったから猶更だ」

 

「お、そいつなら知ってるぞ! 親父がスポーツ大好きで、そいつの話をよくしてたぜ! なんでも伝説の超スケッターとか言われてたらしいじゃねえか! まあ、やり過ぎたせいで総合スポーツ協会から警告受けて早々に姿を消したらしいが…」

 

「個人種目ならともかく、団体種目でもお構いなしに個人プレーをしていたからね。そもそも、必ず勝てる試合なんてチーム的にはともかく、観客としてこれほど冷める興行もないし…」

 

 なにやら呆れた笑みを浮かべながら口を開くシャプナーに、ウットナもフッと笑みをこぼしながら答える。その横ではイレーザも「確かにね~…」と同意していた。

 

「まあ、それは置いといて…。実はこのウルフェンって人物が、ヤムチャ選手にそっくりなんだ。そのウルフェン本人も、過去に大きな武道大会に出場した事があるって明言してたし。そして、ここからが大事なんだけど…。なんとこのウルフェン、サタンシティお抱えのアメフトチーム…『ブラッドオレンジャーズ』の助っ人として、今このサタンシティに滞在しているらしいんだ!」

 

「…という事は!」

 

「すぐにでも会いに行ける…っていう訳ね!」

 

「そういう事さ! 勿論、本当にこのウルフェンがヤムチャ選手なのかという確証はない。それでも、あってみる価値はあると俺は思う。ビーデルさんは…」

 

 ウットナの説明に沸き立つシャプナーとイレーザ。そして、三人の視線はビーデルへと向かう。この視線を受け、ビーデルはおもむろに口を開いた。

 

「…そうね。『ブラッドオレンジャーズ』ならパパのコネも通用しそうだし、一度そのウルフェンという人に会って、話を聞いてみましょう」




 ベースボールなら、たとえブロリーとてヤムチャ様を越える事は出来ぬぅ!!



 偽名の件ですが、実際ヤムチャがベースボールの試合に出ていた時に偽名を使っていたのかは不明ですが、やっぱり謎の人物の調査には、偽名を使っている人の証言が似合っているよなぁ…という作者の気分でだしました。もしかしたらアニメとかでアナウンサーとかに本名を呼ばれてるシーンがあるかもしれませんが、そもそもこのスポーツ云々がアニメオリジナルだったような…。


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ヤムチャの超人技

※このお話は一般人のウットナ視点で進んでいるので、サブタイトルは一般人から見た超人技…という意味です。DBの主要キャラから見たら超人でも何でもない、寧ろできて当たり前の技です。


 第一回の会議を終えた翌日、ウットナ達は早速ウルフェンなる人物に会いに行くために街へと繰り出す。因みに少年孫悟飯だが、やはりというかウットナ、ビーデル、シャプナー、イレーザの四人を意識的に避けるようになってしまった。

 

 まあ、あれだけ詰め寄ってしまえばこうなってしまうのも当たり前だろう。一応昨日の不躾な質問は謝りはしたものの、そう簡単に警戒が解かれるはずもない。

 

 が、実はこれに関してはウットナにはある秘策があった。以前から見てみたいと思っていたある映像があったのだが、これを何とか入手できるめどが立ったのだ。早ければ今日の夜中にでもダウンロードできそうなので、これを入手するまでは少年悟飯には深追いしないで欲しいとビーデル達には伝えてある。

 

 さて、ビーデルの持っている飛行機で飛ぶこと数分。お目当ての『ブラッドオレンジャーズ』の本拠地に到達する四人。すぐさま警備の人達がやってくるが、飛行機から降りてきた四人のうちの一人がビーデルであることを確認すると、大慌てで上の人へと話を通してくれた。

 

「おお…。一緒に通学してると忘れちまいそうになるけど、やっぱビーデルすげぇな…」

 

「あまりよくない事なのは分かってるけど、今回はどうしても…ね」

 

 その時のビーデルの扱いを見て、改めて驚きの表情をするシャプナー。勿論ウットナも、ここまですんなりいけるとは思わなかったので、改めてミスターサタンの影響力を思い知らされた。が、イレーザだけはあまりいい反応をしていない。幼馴染なだけに、こういう形でのゴタゴタを何度か目にした事があるのだろう。

 

 そうこうしている内に、本拠地の建物の中から何故か町長が現れて、ビーデル達一行を建物の中…そのうちの一室へと案内する。どうやら、この中に件のウルフェンがいるらしい。

 

「ウルフェンさん、お連れしました」

 

「ああ、中に入ってくれ」

 

 町長の言葉に、部屋の中から入ってくるように促す声が返って来る。なかなか爽やかな感じの声色だ。そして、部屋の中にいた男性はその声に符合するかのような爽やかな顔立ちの男性だった。身長も高く、爽快な笑みを浮かべていたが、唯一頬に付いている傷跡が渋みも醸し出している。

 

「成程、君達か。悟飯が言ってたのは。………で、君があのミスターサタンの娘か。へぇー、あいつの娘にしちゃなかなか可愛いじゃないか」

 

「ふん、アンタなんかに褒められても嬉しくないわよ」

 

 ジロジロとビーデルを見ながら口を開くウルフェンに、しかしその少し失礼な口調にビーデルはピシャリと強気に言い返す。

 

「単刀直入に聞きますが、貴方の本名はヤムチャさん…ですね? その昔、天下一武道会に出場した」

 

「ん? …ああ、まあいいか。そう、俺の名前はヤムチャ。しかし、天下一武道会とはまた懐かしい響きだ。それと、良く知ってるな君」

 

 続いてウットナが質問したのだが、意外にあっさりとウルフェン…いや、ヤムチャは正体を明かしてしまったので、ウットナは少し拍子抜けしてしまう。

 

「だったら教えなさい! 悟飯君や孫悟空という男の事! 孫悟空と一緒に天下一武道会に出たのなら、少しはこの男の事も知ってるんでしょ!?」

 

 しかし、呆気に取られているウットナと違い、ビーデルは語気を強めてヤムチャに食って掛かる。まあ、先に失礼な口をきいたのはヤムチャの方なので、ビーデルの口調が多少無礼なものになってしまうのも仕方がない所だが。

 

「悟飯だけじゃなくて、悟空の事も知りたいってのか…。以外に我儘な娘だな。でも、一つ聞きたいんだが、そんな事を知ってどうするんだ?」

 

「え? ど、どうって…」

 

 しかし、ここで真顔でヤムチャに問われ、少し怯んでしまうビーデル。

 

「隠してるって事は、知られたくないって事だろ? それを、こんな本人のあずかり知らぬ形で聞き出すなんて、お世辞にも褒められたもんじゃないぜ? もしこれが原因で悟飯が塞ぎ込んだりしてしまったら、お前ら責任取れんのか?」

 

 そんなビーデルに構わず、更に厳しい言葉を続けるヤムチャ。その剣幕を前に、ビーデルはもとより他の三人もうかつに反論する事が出来ない。

 

 そうして、暫くの間ヤムチャとビーデル達の視線が交錯し続けたのだが、ここでフッとヤムチャの表情が和らいだ。

 

「…とはいえ、そんな程度で塞ぎ込むほど悟飯はやわじゃないけどな」

 

「そ、そうなのか…?」

 

「ああ。つーか、こんな程度でへこたれてたら、あいつの幼少期なんてとても乗り越えられないぜ。数えきれないほどの修羅場をくぐって、数多の死線をさまよってきたからなあいつ」

 

「修羅場…? 死線…?」

 

 乾いた笑みを浮かべながら不穏な言葉を口にするヤムチャに、シャプナーとビーデルも怪訝そうな表情を浮かべながら口を開き、ウットナとイレーザも口こそ開かなかったが同じ表情だ。

 

「俺としては、むしろあいつの身の上を知ったうえでフォローしてくれる人が欲しかったんだ。このご時世に、たった一人で身元を隠し続けるなんて不可能に近い。俺も、あいつの母親に頼まれて様子を見る為にここに来てる訳だし」

 

「はあ!? じゃあ、さっきの問答は何だったのよ!?」

 

「悪い悪い。ちょっとお前らを試してみたくてさ。でもまあ、悪い奴らじゃない事は分かった。それだけでも大収穫さ」

 

 ヤムチャの言葉に憤慨するビーデルだったが、対してヤムチャはおどけるように謝るのみだ。とはいえ、先ほどの問答自体は正論なので、ビーデルもあまり強くは出ない。

 

「それに、今以上に悟飯に近づきたいってんなら、覚悟が必要なのはお前らの方だぜ? それも、並の覚悟じゃへし折れる事請け合いって程の…だ」

 

「覚悟…?」

 

 再び真剣な表情に戻るヤムチャに、ウットナが冷汗を垂らしながら呟く。と、その時だった。不意に部屋の入り口の扉が開き、ビーデル達を室内に入れた後に何処かへと消えた町長が無断で入って来たのだ。何故か『ブラッドオレンジャーズ』の選手十数名を引き連れて。

 

「ウルフェンさん、やはり契約はして頂けませんか?」

 

「悪いな。知っての通り協会から警告を受けてる身だし、それ以前に、もうスポーツ界に顔を出すつもりもない」

 

 威圧的に尋ねてくる町長に、しかしヤムチャは余裕の笑みを浮かべて拒否する。

 

「ならば、仕方ありません。多少手荒にでも契約をして頂きましょうか」

 

 そして、ヤムチャに契約の意志はないと確信した町長が言葉と共に合図を出す。すると、その後ろにいた選手たちが、そろってヤムチャとビーデル達を取り囲んだのだ。

 

「おいおい正気か? まさかこの女の子が誰か知らない訳じゃないだろ?」

 

「ええ、勿論ご存じですとも。ミスターサタンの娘であり、本人も武術の達人。まともにやりあっては、例えこの人数でも勝ち目は薄いでしょう。ですが、その他の子供たちはどうですかな…?」

 

 そう言って、町長はシャプナー、ウットナ、イレーザの三人に視線を移す。どうやら、この三人の誰かを強引に人質に取って、ヤムチャに無理やり契約させようという腹積もりらしい。

 

「くっくっく…。ガキだからって甘く見られたもんだぜ…」

 

「卑怯な奴らめ…。絶対に負けはせんぞ…っ!」

 

 対して、不敵に笑いながら両腕を顔の前に構えて応戦の体勢を取るシャプナーと、怒りに燃えながら同じく武道の構えを取るウットナ。

 

「ちょっとアンタ! 天下一武道会に出た事あるって事は、少しは腕に覚えがあるんでしょ!? イレーザだけは戦えないから、アンタ守りなさいよっ!!」

 

「分かった。えーと、イレーザちゃん…か。俺の傍を離れるなよ」

 

「あ、は、はい…」

 

 そして、同じく構えながら唯一の非戦闘員であるイレーザをヤムチャに託すビーデル。と、ほぼ同時に、

 

「よし、狙いはあのウルフェンの傍にいる女の子だっ! 全員、かかれっ!!」

 

 町長の指示と共にアメフトで鍛え上げられた屈強な選手たちが、一斉にビーデル達に襲い掛かって来た!

 

「はあっ! せいっ!! まだまだぁっ!!!」

 

「オラオラァッ!! その図体は飾りかよてめえらっ!?」

 

「やあーーーーっ!!!」

 

 しかし、その屈強な選手たちを、ウットナ、シャプナー、ビーデルの三人は次々になぎ倒していった。ウットナは自前の武術で相手の急所を的確に攻撃し、シャプナーはボクシングで鍛え上げた己の拳を相手の鼻っ面に次々に叩きこみ、ビーデルに至ってはその小柄な体からは想像もできないパワーで、巨漢どもを手当たり次第にのしていく。

 

「ビーデル―! シャプナーにウットナ君も頑張ってーっ!!」

 

「おお、三人ともかなりやるじゃないか。正直想像以上だ」

 

 黄色い声援を送るイレーザを守りながら、ヤムチャも少し驚き感心した様子で三人の戦いを見守る。そうこうしているうちに、三人はあっという間に全員片づけてしまった。

 

「そ、そんなバカな…。な、何だこの子供たちは…っ!?」

 

「さあ、町長さん。どうしてこんな事をしたのか白状しなさい!」

 

 ビーデルはもとより、シャプナーにウットナも想像以上の実力を持っていた事に驚愕し狼狽する町長に、ビーデルが険しい表情で詰問する。

 

「この街が『サタンシティ』に改名した事から、チーム名を『サタンソルジャーズ』に改名したかったそうだ。が、最近は成績が一流のSリーグから二流のAリーグに落ちようかというレベルで低迷しているらしい。このままじゃ、名前負けし過ぎているチームというレッテルを張られてしまう。そこで、今季を優勝で飾って満を持して改名するために、どうしても俺を使いたかったそうだ」

 

「なんだそりゃ、つまんねえ…」

 

「そんなので勝っても、嬉しくないと思うけどなー…」

 

「軟弱な! ただただ貴方達の精進が足らないだけじゃないか!」

 

「ウットナ君の言う通りだわ。ほんと、呆れてものも言えないわね」

 

 しかし、ビーデルの詰問にはヤムチャが答える。途端に、四人から飛んでくる批難の言葉。

 

「う、うるさいうるさいっ! なら、これならどうだっ!?」

 

 その批難に激昂した町長は、懐に隠していた拳銃を取り出し、ヤムチャに突きつけた!

 

「ちょ、おい! そこまでするかっ!?」

 

「くっ! この…っ!」

 

「待てっ!」

 

 町長の行動に、驚愕するシャプナーと、同じく驚きながらもすぐに取り押さえようとしたビーデルだったが、ここでヤムチャから制止の声が入る。

 

「良い機会だ。俺達に関わるのにどれほどの覚悟が必要か、直に見て貰おう」

 

 そういうと、ヤムチャはさりげなくイレーザを自分から離しながら、町長に向かって一歩前に進む。

 

「ち、近づくなっ! それ以上近づけば撃つぞっ!!」

 

 警告する町長だが、構わずヤムチャはもう一歩前へと踏み出した。

 

「うわあああああっ!!」

 

 絶叫と共に響く拳銃の破裂音。イレーザは思わず目を覆い、ビーデル、シャプナー、ウットナも視線をヤムチャから背けてしまう。が、

 

「………あ、な…っ!?」

 

 頓狂な声を上げる町長に、四人は一度は背けていた視線をヤムチャに向ける。ヤムチャは右手をグーの形で腹の辺りに構えながら、撃たれたはずなのに何故か無傷で立っていた。

 

 驚き呆けるビーデル達を尻目に、握っていた右手をゆっくりと開くヤムチャ。その手の中から一発の銃弾が地面に落ち、カンッという無機質な音が室内に響く。

 

「うっ、こ、このっ、このおおおぉぉぉっ!!」

 

 あまりの状況に錯乱した様子の町長が拳銃をヤムチャに向かって乱射する。しかし、発砲音が響くたびに、ヤムチャの右手は目に見えない程のスピードで動く。あまりに速すぎるせいで、腕が何本にも増殖したかのような錯覚にすら陥るほどだ。

 

 そして、弾切れを起こす拳銃。次に、ヤムチャが握っていた右手を開くと、発砲音と同じ数だけの弾丸がパラパラと地面に落ちる。それでも、信じらない…といった様子でトリガーをカチッカチッと引き続ける町長だったが、やがて拳銃を取り落とし、一歩後ずさった。

 

「きえろ。ぶっとばされんうちにな」

 

 そんな町長に、中指を立てながら凄みを利かせるヤムチャ。途端に、町長は情けない悲鳴を上げながら脱兎の如く部屋を飛び出してしまった。

 

「拳銃の…弾を…掴み取った…?」

 

「う、噓でしょ…? 人間技じゃないわ…」

 

 この一部始終を見ていた四人。シャプナーとイレーザは驚愕に震えながら両目を見開き、ビーデルとウットナも口こそ開かなかったが似たようなものだ。

 

「一応言っておくが、当然悟飯も同じことができる。そして、もし悟飯がいざこざに巻き込まれた時の相手も、これくらいのレベルはあると思った方がいい」

 

 そんな四人に振り向きながら、改めて宣言するヤムチャ。

 

「それでも、悟飯に近づく覚悟があるってんなら、俺の知ってるあいつの事は全部教えよう。俺はしばらくこの街に滞在している。住所も教えておくから、覚悟が決まったというんなら来てくれ」

 

 そして、それだけ言うと一枚の紙をビーデルに渡し、ヤムチャはさっさと部屋を後にするのだった。



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気功波マニアな妹

 ヤムチャと出会った日の夜。ウットナは、ビーデル達と別れた後、毎日の自主鍛錬を手早く終え、自宅のパソコンを操作していた。

 

「―――よし、よし! ダウンロードできるぞ!」

 

 上機嫌にそんな事を言いながら、操作を続けるウットナ。と、そこにウットナのスマホに着信が入る。

 

《兄さん!? どう、例の映像手に入った!?》

 

 その着信に応じるウットナだったが、出るなりいきなり大きな女性の声が鳴り響く。

 

「挨拶もなしに直球とは、少し感心せんな…。ああ、今ダウンロードしてるところだ。終わったらちゃんと見れるか確認して…」

 

《分かった!! 今そっちに向かってるから、何とか見れるようにしておいてっ!!》

 

 ウットナの言葉を遮り、一方的にしゃべった後に電話を切る向こうの女性。

 

「………向かってるって、実家からここに…って事か? クオーラ、お前何考えてんだ…?」

 

 女性…クオーラの言葉に、ウットナは呆れた様子でスマホを眺め続けた。

 

 

 

 

 

 そして翌日。ウットナは例の秘策を引っ提げて、改めて悟飯に突撃しようと機会を窺っていた。ヤムチャからは覚悟が決まったら…と言われたが、ウットナとしてはとうに覚悟は決まっている。そう、彼の崇拝する武道家…孫悟飯翁の事を知るためならば…っ! 

 

 そして、昼休みの時間。遂にウットナは悟飯に再び話しかけた!

 

「あ、え、え…と…。君は、う、ウットナ君…だったよね?」

 

「ああ、そうだよ悟飯君。繰り言になるけど、前は不躾に詰め寄ってすまなかった。あれはいくら何でも失礼過ぎたと反省している」

 

 笑顔ではあるものの、少し警戒気味にウットナに接する悟飯。対して、まずは改めて謝罪をするウットナ。

 

「あ、いや、いいですよ。それに、あの時は僕も曖昧に濁してしまったから…」

 

「ところで…悟飯君。君、天下一武道会っていう大会に興味はあるかい?」

 

 一応は許してくれた悟飯に「すまん…」といった様子で一つ頷いた後、ウットナは秘策をぶつける為の言葉を切り出した。

 

「え…? あ、お父さんとお母さんがでた大会だよね」

 

「ん? お父さんと言うのは孫悟空氏の事か?」

 

「あ、うん。孫悟空は僕の父親だよ…」

 

「それを教えても大丈夫なのか?」

 

「ヤムチャさんがそれくらいならいいだろって…」

 

 以前と違い、ウットナの質問に答えてくれる悟飯。どうやら、ヤムチャが手をまわしてくれたようだ。とはいえ、孫悟空はともかく、彼の母親までもが武道会に参加していたというのはウットナには少し驚きだ。

 

「なら話は早い。悟飯君、父親と母親の雄姿を見てみたくはないか?」

 

 その驚きを隠しながら、ウットナはそう言って、懐から一枚のデータチップを取り出した。

 

「このチップの中にはある映像が入っている。そう、君の父親が優勝した、第二十三回天下一武道会…その本戦の様子を撮った映像がね」

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

 重々しく言い放つウットナに、悟飯とその隣の席にいたビーデルが大きく反応する。秘策の内容はビーデル達には伝えていなかったので、悟空と悟飯の関係性が明かされても我慢して黙っていたビーデルでも、流石にこの情報には反応せざるを得なかったのだろう。

 

「本当に当時の映像が見られるの!?」

 

「ああ、とある武道会マニアとずっと交渉してたんだけど、先日やっと許可が下りたんだ」

 

「私にも見せて! その孫悟空って男がどれだけ強いか、この目で確かめたいわっ!!」

 

 ウットナの思った通り、ビーデルは凄い食いついてくる。

 

「お父さんとお母さんの若い頃の映像か…。ちょっと見てみたいな…」

 

 そして、肝心の悟飯も腕を組んで考えているが、呟いている言葉を聞く限りはなかなか手ごたえはあった様だ。

 

「うわー、前々回の大会の映像なんて、本当によく手に入れたねーっ!」

 

「確か、変な選手が紛れて大会そのものがあやふやになっちまったんだよな、前々回の武道会は」

 

 その横では、イレーザも感動の面持ちで、シャプナーは首を傾げながら口を開く。二人とも反応の差こそあれど、この貴重な映像が収まったチップには興味津々の様だ。

 

「全員見てみたいって事でいいかな? じゃあ、学校が終わったら、俺が一人暮らししているマンションに集まって貰っても良いか?」

 

「何でウットナ君の家に? 学校で機材を借りればいいんじゃないの?」

 

 全員の様子を見回した後に提案をするウットナに、しかしビーデルが疑問を呈する。

 

「あー、実は俺の妹もこの映像に興味津々でな。どうしても見たいってあいつ実家からこのサタンシティまで押しかけて来るらしいんだ。多分もう俺の家にいると思うけど…」

 

 その疑問に、ちょっとバツが悪そうに説明するウットナ。それを聞いて、ビーデルは分かった…とばかりに頷き、シャプナーとイレーザはウットナの妹なる人物にも興味を持った顔ぶりをしている。

 

 そんな中、ウットナは悟飯にだけ聞こえるように悟飯に耳打ちをした。

 

「ところで悟飯君…。きみ、『かめはめ波』っていう技知ってるか?」

 

「えっ、ウットナ君って『かめはめ波』まで知ってるの…っ!?」

 

 その内容に驚く悟飯。その反応を見る限りでは知っている様だ。と言っても、ウットナも詳しくどんな技かを知っている訳ではない。数少ない孫悟飯翁の映像の中の一つに、この技を使っている悟飯翁の姿があったから、見た事はある…というくらいだ。

 

「その『かめはめ波』なんだが…。妹がこの技に物凄く執心しててさ…。いや、執心なんて生易しいものじゃない。なんたって、自力で似たような技を習得してしまったほどだからね」

 

「か、か…『かめはめ波』を自力で…っ!?」

 

「ああ。勿論、悟飯翁のそれに比べたら子供だましの様な物…射程は数メートルが限界、威力も普通にパンチを当てるよりは強いって程度だが…」

 

「それでも凄いよっ! だって僕、普通の人が気功波の類を習得している所なんて見た事ないからっ!」

 

 少し謙遜しながら語るウットナに、しかし悟飯は興奮気味にウットナの妹の所業を褒めてくれる。それを聞いて、思わずウットナも笑みを漏らしてしまった。身内の事を褒めてもらえるのは、やはり嬉しい事だ。

 

 しかし、その直後に表情を引き締めるウットナ。

 

「その気功波…? とやらを知るきっかけになったのが悟飯翁なのだが、当然同じ名前を持つ君にも興味を持つと思う。それだけは伝えておきたくてな」

 

「そ、そうなんだ…。うう、女の子って苦手なんだよなぁ…」

 

 ウットナの言葉に、露骨に顔をしかめる悟飯。しかし、その気持ちはウットナにも良く分かる。なにせウットナ自身も女性自体は少し苦手だからだ。妹がいるのになんでだ? 何て言われたこともあるが、物心つく頃から一緒にいる人と、初対面の人を一緒にしないでもらいたいものである。

 

 

 

 

 

 そうして学校が終わり、悟飯、ビーデル、シャプナー、イレーザの四人を連れて今住んでいるマンションへと帰宅するウットナ。しかし、その扉の前に着くや否や、何故か中から勢いよく扉が開き、一人の少女が飛び出してきた。

 

「待ってたわ兄さん! さあ、早く例の映像を見ましょう!!」

 

 その少女は腰に両手を当て、好奇心に瞳をキラキラさせながら大声でウットナに催促してくる。ぱっちり開いた瞳に、整った顔付き。ポニーテールにまとめた綺麗な黒髪は、腰まで届く長さ。少し童顔気味ではあるが、十分に美少女と言って問題ないだろう。

 

「落ち着けクオーラ。まずは皆さんに挨拶をするのが礼儀だろ? みんな、妹のクオーラだ」

 

 いきり立つクオーラに、しかしウットナは冷静にいなしながら、唐突なクオーラの出現に呆気に取られている悟飯達にその少女を紹介するウットナ。

 

「え? あ! 兄さんのご学友の方達ですね! 初めまして、クオーラと言います。学校では兄さんがお世話になっています!」

 

「…あ、え、ええ。私はビーデルよ。宜しくね」

 

「私はイレーザ! 宜しく!」

 

「俺はシャプナーだ。思ったよりかわいい子だな…」

 

 クオーラの自己紹介に、最初に気を取り直したビーデルが紹介を返し、次にイレーザ、シャプナーと続く。ここまでは良かったのだが、

 

「え、えっと…。僕は悟飯って言います。孫悟飯で…」

 

「孫悟飯!? え、あの映像の中のおじいちゃんの孫悟飯とおんなじ名前!? え、え、ホントの本当にっ!!?」

 

 やはりというか、悟飯の名前を聞いた瞬間異様に興奮しだすクオーラ。

 

「もしかして…ですけど…。あの『かめはめ波』って技知ってます!? 更に聞くなら、使えちゃったりする様なしない様なする様なっ!?」

 

「え、あ、ま、まあ、使えるっちゃ使えるけど…」

 

「おおおおーーーーーっ! 凄い凄い!! 今度見せてくださいっ! 約束ですからねっ!!」

 

「やっぱり使えるのか…」

 

 ハイテンションで悟飯に詰め寄り、ついには技の見学の約束まで取り付けてしまったクオーラ。ついでに、悟飯が『かめはめ波』を使える事にウットナも言葉を漏らしてしまう。

 

「ねえ、なんなのよ『かめはめ波』って?」

 

「その答えはこの映像の中にあると思う。じゃあ、皆中へと入ってくれ」

 

 少し蚊帳の外にされてしまったビーデル、シャプナー、イレーザの内、代表としてビーデルが苦言を呈するが、それはウットナが手に持ったチップをかざしながら室内へといざなう事で、美味く流すのだった。

 

 

 

 

 

 ちょっとした会話もそこそこに、早速映像を流すウットナ。画面には天下一武道会の武舞台を観客席から眺めている様子が映っている。

 

 

「それでは! これより第二十三回天下一武道会を開催したいと思います! では、早速いってみましょう!! 第一試合は、天津飯選手対桃白白選手です! どうぞーっ!!」

 

「うわっ、審判の人若いなーっ」

 

 武舞台の上で勢いよく大会開催を宣言する、サングラスをかけた金髪オールバックにひげを生やした男性。その男性を見て、ビーデルは少し感動した面持ちで言葉を漏らす。

 

 しかし、次に出てきた二人の選手…特に桃白白選手を見た瞬間、場が一気に緊張感に包まれた。

 

「な、なんだあいつ…」

 

「き、気持ち悪…」

 

「あ、あれ…? あの人何処かで…?」

 

 口元以外すべてが機械で覆われている桃白白選手に、シャプナーとイレーザが露骨に嫌悪感を示す。ビーデルやウットナ、クオーラも似たようなものだったが、唯一悟飯だけは不思議そうに首を傾げた。

 

 そうして始まる試合だったが、序盤こそ天津飯選手が優位に試合を進めていた。防戦一方ではあったものの、相手の全ての攻撃を楽々いなしているのは素人目にも明らかだったからだ。

 

 しかし、途中でいきなり試合の空気が変わる。なんと、自分の攻撃が悉く通用しない事に業を煮やしたのか、突如桃白白選手は左手の義手を外し、そこからナイフを出現させ天津飯選手に切り掛かったのだ!

 

「あっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「こ、こいつ…っ!?」

 

 あまりに突然の事に、思わず身を乗り出してしまうシャプナー、イレーザ、ビーデルの三人。他の三人も声こそ上げなかったが、表情が険しいものへと変わる。特に悟飯が顕著だ。

 

「は、反則、反則ですっ! 武器の使用は固く禁じられていますっ! この試合、天津飯選手の勝ちーーーっ!!」

 

「うるさいなっ!!」

 

 桃白白選手の行為に審判は反則負けを宣言するが、怒りで暴走しているらしい桃白白は審判を一喝すると、ナイフを構えて天津飯を見据える。

 

「ふ、ふはははっ! 殺してやる…殺してやるぞ天津飯っ!!」

 

「そうじゃ! そうじゃぞ桃白白! 殺せっ! 亀仙流の奴らは、どいつもこいつも殺しちまえーっ!」

 

 臆面もなく殺害宣言をする桃白白に、観客席にいた鶴の被り物を被った変な老人もまざり、会場は一瞬にして危険な殺し合いの場へと様変わりしてしまう。

 

「白白様…っ! 武道家としての誇りもなくしてしまったのですか…!?」

 

「ふ…ん。偉くなったな天津飯。せいぜいほざくがいい。すぐにその口もきけなくなる…」

 

 切られたシャツを破り捨て、怒りに満ちた表情で問う天津飯選手に、桃白白は嘲笑気味に嫌味を言った後、今度は右の義手を取り外す。すると、そこからバズーカ砲の様な砲口が姿を現した。

 

「こいつはスーパーどどん波といってな。今までのどどん波とは比べものにならん威力だ。あーっという間に地獄へと行けるぞ…」

 

「いかん! 天津飯よ、逃げろ、逃げるんじゃ!! 天津飯っ!!!」

 

 その砲口から放たれる物を説明しながら、天津飯選手に向けて突き出す桃白白。また別の観客席から、天津飯選手に逃走を促す老人が現れるが、天津飯選手は一向に動く気配がない。

 

「え? え?? こ、これ、天下一武道会の試合だよね…!? なんで、こんな緊迫した殺し合いみたいな事になってんの…!?」

 

 そのあまりの緊張感に、とうとうイレーザが悲鳴のような声を上げてしまう。しかし、それに他のメンツが気を遣おうとした瞬間、

 

「さあやれ! やってみろーーーっ!!!」

 

 天津飯選手の気迫と怒りに満ち満ちた怒鳴り声が響き渡り、嫌でも全員の視線が画面にくぎ付けにされてしまう。

 

「うははははっ! 命知らずの愚か者めっ!! このサイボーグ化された桃白白様を見くびったのが運のつきだっ!! 死ねっ! スーパーどどん波っ!!!」

 

 桃白白の声と共に、明らかにやばい感じの光球が尾を引いて天津飯めがけて飛び出す。その様子にイレーザとクオーラも思わず目をそらし、他の者達も両手を握り締めながら画面を凝視する。

 

「かあーーーーーーっ!!!!」

 

 そして、その光球が天津飯選手に直撃する直前! 天津飯選手はありったけの気合を込めた一喝を光球に向けて放つ。すると、一瞬の閃光の後、なんと人を何人もまとめて殺せそうなあの光球が、その気合の一喝で消し飛ばされてしまったのだ!

 

「な…っ!? バカなっ!? 気合で…気合だけで…スーパーどどん波を…かき消して…っ!」

 

 驚き狼狽し後ずさる桃白白に、目にも止まらない程の速度で間合いを詰め拳の一撃を叩き込む天津飯選手。その一撃で、桃白白は気絶してしまった。

 

 その後、なんやかんやゴタゴタはあったが、結果的には桃白白の反則負けという事で、天津飯選手が準決勝へと駒を進めることになったが、当の天津飯選手はあまり嬉しそうではなかった。

 

「ちょ、ちょっと待て。初戦からとんでもねえ試合…? なんだが、もしかして第二十三回天下一武道会の本戦って、こんな危ない試合がずっと続くのか…?」

 

 第一試合を終えた後、焦燥気味にそう口にするシャプナーだったが、それに応えてくれる者はその場には誰もいなかった。




 クオーラの使う気功波は、分かる人向けに言えばストリートファイターというゲームに登場するダンというキャラの必殺技、我道拳をイメージして頂ければわかりやすいと思います。


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孫悟空の強さ ~第二試合から準決勝第一試合前半まで~

 サブタイトルの通り、今回のメインは悟空なので、悟空が絡まない試合はダイジェスト形式で飛ばしております。ご容赦ください。


「で、では…気を取り直して次の試合へ参りましょう…! 第二試合は孫悟空選手対匿名希望選手です!」

 

「あ、お父さんとお母さん! あはっ、二人とも若いなー」

 

「あれが孫悟空…」

 

 初戦から大波乱があったものの、それでもつつがなく進行する武道会。そして、第二試合目にして、遂に今回の目的である孫悟空という人物が登場する。その容姿を見て、悟飯は少し嬉しそうに声をはずませる。逆にビーデルの表情は少し険しくなった。

 

「おめえ、いつも怒ってんな…。なんでだ?」

 

「自分の胸さ、聞いてみれ!」

 

 武舞台の上に立った二人だが、困惑気味に尋ねる孫悟空に匿名希望選手の怒りの返答が響く。確かに、匿名希望選手は登場してからずっと不機嫌そうだ。

 

「それでは、試合を始めて…」

 

「いやあああーーーっ!!」

 

 審判の試合開始の合図に対し、ややフライング気味に孫悟空に向かっていく匿名希望選手。その最初の一撃を戸惑いながらも防ぐ孫悟空だったが、間髪入れずに匿名希望選手の連撃が孫悟空に襲い掛かった!

 

「あの頃の約束を何年も何年も…! オラずーっと待ってただぞっ!」

 

「や、約束…?」

 

「約束も忘れちまっただかっ!!?」

 

 口論を続けながら攻める匿名希望選手と、防戦一方の孫悟空。

 

「ねね、ビーデル。この女の人、凄く強くない!?」

 

「…ええ。凄まじい達人だわ。正直、私でも勝てるかどうか…」

 

「ビーデルでも勝てるかわからないとかマジかよ…」

 

 その交戦の様子を見て、少し興奮気味にビーデルに質問するイレーザに、ビーデルは冷汗に交じりに答える。その答えに、シャプナーもかなり狼狽えている。

 

「な、なあ。オラ本当におめえと約束なんてしたのか?」

 

「ああ、オラの事…お嫁にもらってくれるってな!!」

 

 一旦距離を離し、膠着状態になってからの匿名希望選手の宣言。

 

「…うーん。悟飯さんの親を悪く言うのもあれですけど、女の子としてはこういう約束を忘れているのはちょっとマイナスですね…」

 

 しかし、その宣言を聞いてもなお口をポカンと開けている孫悟空を見て、厳しい表情でそう断言するクオーラ。隣ではイレーザとビーデルもうんうんと頷いている。悟飯もそう思うのか特に反論はなく、他の男性二人もどうやらクオーラに賛成の様だ。

 

 が、残念ながら孫悟空という人物はこの少年少女達の予想を残念な方向に遥かに上回っていたのだ。おもむろに武舞台入り口の方へと振り向いた孫悟空は、仲間と思しき人物に向かって大声でこう叫んだのだ。

 

「なあクリリンっ! オヨメってなんだ!?」

 

「バカヤローッ! お嫁に貰うって事はな、結婚するって事だよ!!」

 

「夫婦になってずーっと一緒に暮らすって事だ! 悟空、お前それ分かってて約束したのか!?」

 

「ずーっと一緒に暮らす!? オラそんな約束したか!? おめえホントいったい誰なんだ!?」

 

 仲間二人…片方は恐らく若い頃のヤムチャ…のツッコミを受け、驚きの表情を浮かべながら匿名希望選手の名前を聞き出そうとする孫悟空。

 

「な、何なのよこの人…」

 

 そのお笑い番組みたいな一連の流れに、ビーデルは思わずといった感じで眉間にしわを寄せながら、誰に言うでもなく呟いていた。

 

「ふん、しょうがねえ、教えてやる。ただし、オラに勝ったらだ!」

 

「ほんとか!? 良かったー、オラ名前も分からねえ奴とずっと一緒に暮らさなきゃいけねえのかと思っちゃった!」

 

「もう勝った気でいるだか? あめえぞ、オラがそう簡単にやられると思ったら、大間違いだべ!」

 

 勝ったら名前を教える…という言に、嬉しそうにしながら構える孫悟空に、匿名希望選手も啖呵を切りながら構えなおす。そして、ジリジリと間を詰めようとする匿名希望選手に向かって、突然、孫悟空は思い切りパンチを放ったのだ!

 

 とても腕が届く距離ではないにも関わらず、ドンッ! という突如暴風に晒されたような音と共に匿名希望選手は吹き飛ばされ、そのまま場外の壁に叩きつけられてしまった。

 

「な、なんだ…? 今何が…」

 

「衝撃波だよ。お父さんの拳から出た衝撃波にお母さんは避ける間もなく吹っ飛ばされてしまったんだ」

 

 理解できない現象に首を傾げるウットナに、悟飯が説明をしてくれる。が、拳を突き出しただけで人一人を吹き飛ばせるほどの衝撃波が出せる…というのがまず驚きだ。これも気功波という技の応用なのだろうか?

 

 そして、それ以上の事実として、ビーデルすら勝てるかわからないといった匿名希望選手…今画面で名前を口にしたが、チチという名前らしい…を事実上一蹴して見せたのだ。という事は、例えビーデルが挑んでもまず同じ結果になるという事だ。

 

 孫悟空という人物のまだまだ未知数な実力に、思わず難しい顔で押し黙ってしまう面々。その中において、悟飯だけは何処か嬉しそうにその場で結婚して突然いちゃいちゃし始めた両親を眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 次の試合はクリリン選手対マジュニア選手。圧倒的な強さのマジュニア選手にクリリン選手は善戦むなしく敗退。しかし、この時にクリリン選手の放った自動で相手を追跡する気功波二連と舞空術という空中に浮く技、そして満を持して放たれたかめはめ波にクオーラが大いに反応した。

 

 続く第四試合はヤムチャ選手対シェン選手。あのヤムチャの若かりし頃だが、残念ながら試合内容は股間を強打したり、大技を当てて一矢報いたと思ったら、その直後に隙を突かれて場外に押し出されるなどお世辞にもカッコいいと言えるものではなかった。が、繰気弾という技がこれまたクオーラの感性にヒットしたらしく、彼女はかなり大はしゃぎをしていた。

 

 そして武道会は準決勝へと進む。準決勝第一試合は孫悟空対天津飯。両者とも初戦の相手をほぼ一蹴という形で倒しているため、孫悟空は勿論天津飯も実力は未知数だ。

 

 更に、この組み合わせは前回…第二十二回天下一武道会の決勝の組み合わせであることが審判により明かされた。その所為か、場内の熱気もヒートアップしてきている。

 

「それでは、始めてくださいっ!!」

 

 審判の合図と共に激突する両者。先手を切ったのは天津飯だ。高速のパンチ、キックによる連撃は、あまりの速さに目で追いかける事すら叶わないが、しかし孫悟空は出来て当然とばかりに全て避けている。

 

 一旦距離を離し、再びお互いに向かって飛び掛かる二人だったが、なんとその途中で二人とも姿を消してしまったのだ!

 

「ふ、二人とも消えおったーっ!」

 

 第一試合で天津飯に逃走を促したあの老人が再び叫ぶが、確かにその老人の言うように二人の姿は見えない。にもかかわらず、武舞台の上からは攻撃の空気を切り裂く音と、打撃音が聞こえてくる。

 

「な、なんだよ…。何がどうなってんだ…?」

 

「い、いや、さっぱり…」

 

 その、ある種不気味な光景にシャプナーが狼狽気味に声を絞り出し、その横でウットナも険しい表情で首を傾げている。音がする以上、その場にいるのは確かの筈なのだが…。

 

「今の所はほぼ互角だよ」

 

 そんな中、冷静に言葉を発する悟飯。視線がせわしなく画面を縦横無尽に動いているのを見るに、信じられないがこの二人の動きを追えている様子だ。

 

「悟飯君。アナタこれが見えてるの…!?」

 

「うそっ!? 私全然見えない…」

 

 その様子にビーデルは目を見開き、イレーザも口に手を当てて驚くが、そのイレーザの言葉が言い終わらないうちに、悟飯が「くる」と短く宣言する。その直後、孫悟空と天津飯は姿を現し、先ほどの超高速の攻防から一転、両手を掴んでの力比べへと勝負の矛先を変えた。

 

「ぐ………ぐぐぐ……っ!」

 

 明らかに苦悶の声を上げるほどのフルパワーで押している天津飯。表情も苦しそうだ。対して、孫悟空は表情こそ険しいが特に力んでいる様子はない。

 

 と、ここで孫悟空が一瞬笑みを見せる。と、同時に押していた腕を逆に引っ張り天津飯の体勢を崩す。その直後、体が宙に浮いてしまった天津飯の腹部に両足で蹴りをお見舞いする孫悟空。

 

 空高く飛ばされる天津飯だが、再びその姿を消し、気づいたころには孫悟空の背後から超高速で襲い掛かる。対して、孫悟空は飛び跳ねてこの一撃をかわすが、その動きにピッタリと付いて行った天津飯が再び孫悟空の背後を取り、大ぶりの右の拳を振りぬいた! …のだが、その一撃は何故か孫悟空の体を貫通して空を切ってしまう。

 

「古い手に引っかかるんだからー」

 

 唐突に響く声に天津飯が振り向くと、その方向に孫悟空の姿が。と、同時に天津飯の目の前にいた孫悟空の姿はスッと掻き消えてしまう。

 

「はあっ、はあっ…。ざ、残像拳か…」

 

 明らかに、疲労により息切れをしている天津飯が口を開く。対して、孫悟空は特に疲労を見せずニコッと快活に笑うだけだ。

 

「こ、ここ、これまたとんでもない試合です! まさに、息を吐く暇もありませんっ!!」

 

 そこに入る審判の人の少し震えた声。そして、会場の観客たちも静まり返っているのを見るに、それほどまでに凄まじい試合だというのが実感できる。

 

 事実、この試合を映像としてみている面々も、最早口を利かずに、ただ画面を食い入るように見つめているのみだ。

 

「孫よ…。お前は本当にすごい奴だ。三年前のあの時点でその強さはまさに完璧と言っていいものだった。それをさらに上回るとは恐れ入ったよ。…しかし、ただ一つお前が三年前とあまり変わっていない物がある」

 

 そんな中、淡々としゃべり始める天津飯。前半こそ称賛の言葉だったが、後半に入り少し雲行きが怪しくなる。その様子に、孫悟空も少し警戒し始めた。

 

「それは…………スピードだっ!!!」

 

 そして、その足りないものを大声で宣言した瞬間、再び天津飯の姿が消えてしまった。そして、それを追うように孫悟空も姿を消す。

 

「二人とも上空に飛び上がったよ。でも、この映像を撮ってる人に二人が見えてないから、映像は武舞台の上のままだね」

 

 消えた二人の姿を今度こそとらえようと画面に近づくイレーザと悟飯以外の四人だったが、そこに悟飯から注意が入る。その注意を裏付けるように、少し間を置いてからドゴッ! っと空中から重い打撃音が響き渡った。と、同時に映像が空中へと移る。そこには、撃墜されたがごとく頭から落ちてくる孫悟空と、それを追うように着地体勢に入って降りてくる天津飯の姿が。

 

 即座に体勢を立て直し、何とか無事着地する孫悟空。しかし、その後立て続けに天津飯へと飛び掛かる孫悟空だったが、その攻撃の悉くを紙一重でかわされ、手痛い反撃を貰う。そして、最後の一撃をかわされた後の反撃で、遂に孫悟空は場外へと蹴り飛ばされてしまった。

 

 しかし、体を猛回転させて空中の軌道を変える事で場外負けを免れる孫悟空。何気に結構滅茶苦茶な事をやっているが、最早誰もそんな事には突っ込まない。

 

「はあっ、はあっ…。やはり俺の思った通りだった。孫、お前はスピードだけは三年前とほとんど変わっていなかった…」

 

「流石だな天津飯。これほど速くなっているとは思わなかったよ」

 

 そうして、お互いに言葉を交わす二人だったが、

 

「待って待って。この二人にとっては今までのも遅かったって言うの?」

 

「ヤバすぎるだろ…。どうなってんだこいつら…」

 

 混乱気味に口を開くイレーザと、ただただドン引きしているシャプナー。悟飯以外の他のメンツも似たようなものだ。

 

「よし、こいつでトドメだ!」

 

「ちょっとタンマ」

 

 そんな中、トドメを刺そうとする天津飯だったが、ここで孫悟空からタンマが入る。

 

「天津飯、ちょっと服脱いでも良いか?」

 

「ん? ああ、好きにしろ、暑いからな」

 

 天津飯の許可を取ってから、おもむろに服…というより下着を脱ごうとする孫悟空。しかし、何やら様子がおかしい。ただ服を脱ぐという行為をするだけなのに、やけにてこずっているのだ。彼の身体能力なら、こんな何気ない行動をてこずるなどありえない筈だが…。

 

「そ、孫…。ちょっとこの服見せて貰っても良いか?」

 

「へ? ああ、いいぞ」

 

 天津飯もおかしいと思ったのだろう。孫悟空の許可を取ってから、彼の脱いだ下着を掴んで持ち上げようと…したその瞬間!

 

「な、何ぃ…っ!?」

 

 驚愕の声を上げる天津飯。そうしながらも、天津飯は震える腕でゆっくりと下着を持ち上げた。

 

「そ、孫…。お前、今までこんなのを着て戦っていたのか…?」

 

「うん、これもな神様の修行だって。よっと」

 

 震える声で確認を取る天津飯に、あっけらかんと答えながらリストバンドと靴を外す孫悟空。

 

「何だってんだよ。俺が片づけてやるよ」

 

 その様子を見かねた孫悟空の仲間達…クリリンとヤムチャがやってくる。が、悟空が脱いだ靴を持った瞬間、クリリンも「な、何だいこりゃ!?」と頓狂な声を上げた。

 

「お、重い…。なんて重さだ…っ!」

 

「こ、こんなのはいてたらどうやって動くんだよっ!?」

 

 下着とリストバンドを持つヤムチャが震える声で口を開き、クリリンはクリリンで悟空の靴をはいて動きづらそうに歩いていた。

 

「ぜ、全部で百キロ以上はある…」

 

「ひゃひゃ、百キロ以上だって~!?」

 

 ポツリと漏らした天津飯の言葉にクリリンが大声で応え、そのクリリンの大声に今度は会場の観客たちが驚きにざわめき始めた。

 

「…ひゃ、百キロ…? じょ、冗談だろ…?」

 

「俺も、数キロ程度のリストバンドくらいならした事があるが、百キロは流石に体が壊れる…」

 

 勿論、これらを映像で見ている面々とて例外ではない。もう何度目かわからない驚きの表情を浮かべるシャプナーにウットナも目を見開きながら呟いている。

 

「ははっ、軽くなった軽くなった! 待たせたな天津飯!」

 

「…ふ、ふふ、成程、そういう事か。いいだろう、見せてもらいたいもんだな。どれほどの違いがあるかを!」

 

「うん!」

 

 何度か軽くジャンプし後に臨戦態勢に入る孫悟空に、天津飯も一つ頷きながら構えた。

 

「でやああああーっ」

 

 そして、右手を振り上げながら孫悟空に向かっていく天津飯。その右手から繰り出された手刀を、孫悟空は天津飯の懐に潜り、そのまますり抜けるような形でかわし、同時に姿を消した。

 

「そこだ!」

 

 しかし、すぐさま天津飯は別の場所へと飛び掛かり、何もない筈の空間に拳を繰り出す。すると、ガッ! という衝撃音と共に、姿を現す孫悟空。

 

「くっくっく…。残念だったな孫。確かに少しは速くなったが、俺の三つの目からは逃れられんぞ…」

 

 そういう天津飯の気迫に、みな映像に目が離せないでいた。のだが、

 

「天津飯さん、あんまり動くとズボンがずり落ちちゃうよ…」

 

 唐突に悟飯がちょっと申し訳なさそうな顔でそんな事を言う。間髪入れずに、

 

「それはどうかな?」

 

 映像の中の孫悟空もそう言いながら、右手を天津飯の前に晒す。その手には帯が握りしめられている。

 

 少し間を置いてから、視線を自分の下半身に移す天津飯。すると、いつの間にか道着の帯が抜き取られていたズボンが、絶妙なタイミングでずり落ち、下着を露出してしまう。

 

「ば、ばばばバカな…っ! そ、それは、ひょっとして俺の帯か!?」

 

「ああ」

 

 大慌てでズボンを元に戻す天津飯。会場からは驚きと笑いという二種類の歓声が聞こえてくる。

 

「ご、悟飯さん。今の孫悟空さんの動きも見えたんですか…!?」

 

「うん、懐をすり抜ける瞬間に帯をほどいているところを…」

 

 一方、悟飯の予告が当たった事に、他のメンツは驚きの表情で悟飯に視線を向ける。そんな中、最初に声を出したのはクオーラだが、悟飯の答えは見えて当たり前と思わせるほどに実に簡潔なものだ。

 

「ふっふっふ…。参ったぜ、まさかこれほどとはな…。だが、俺は諦めたりはしない。とっておきの出番が少し早くなっただけだ。とっておきの必殺技のな…」

 

 そんな悟飯に全員の視線が集中するが、そうこうしているうちにも映像は進んでいく。どうやら、孫悟空から返してもらった帯を付けなおした天津飯は、状況的には劣勢に見えるがまだ逆転の秘策があるらしい。そうして、全員の視線は再び映像へと戻るのだった。




 次回も準決勝第二試合のシェン対マジュニアはダイジェスト形式にしようと思っています。DBの歴史的には外せない一戦ではありますが、本作に限って言えばあまり話に絡みませんので…。

 そもそも、本来は悟空対ピッコロしか書くつもりはなかったのですが、いざ書くとあれも書きたいこれも書きたいと筆が止まらなくてこんな事になってしまっています。なので、申し訳ありませんが、もう少しお付き合して頂ければ幸いです。


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孫悟空の強さ ~準決勝第一試合後半から決勝戦~

 あくまで観客が撮った映像なので、この映像はピッコロが正体をばらすまでしか記録されていません。それ以降は、会場はピッコロ、悟空とその関係者と審判のおっちゃんしかいませんので…。


「とっておきの必殺技って何だよ? まさかまた、あの気功砲ってやつか?」

 

「ふっふっふ…。気功砲は危険すぎる。お前にも俺にもな。おまけに、その素早さでは避けられてしまう恐れもある」

 

 天津飯のこれみよがしににおわせる秘策の存在に、孫悟空も警戒しながら会話を続ける。

 

「これから見せる技は、気功砲程の威力は無いが…絶対に避けられん!!」

 

 そう高らかに宣言し、両腕を顔面の前に構え力み始める天津飯。明らかに今から何かをしてやろう…という行動に、孫悟空も慌てて構えを取る。

 

「悪いな孫! この試合俺の勝ちだ!」

 

 勝利を予告してから、顔の前で×の形に交差させていた腕を広げる。すると、なんと天津飯が二人に分裂するという奇天烈な現象が発生してしまったではないか!

 

「いっ!?」

 

 これにはさしもの孫悟空も驚いたようだ。が、天津飯の技はまだ終わらない。再び腕を交差させて広げるという動作を二人同時に行う。すると、当然のように二人が分裂をし、今度は四人になってしまった。

 

「…ざ、残像拳…じゃねえ! どうなってんだ!?」

 

「ふっふっふ…。四身の拳!」

 

 驚き狼狽える孫悟空に、自慢げな笑みと共に技名を口にする天津飯達。勿論、驚いているのは孫悟空だけではない。この映像を見ているビーデル達も目を見開いている。

 

「よ、四人に分裂するなんて、そんなのありかよ…」

 

「あ、あれ? これって反則にならないの…?」

 

「こ、これも気功波とやらの応用なのか…?」

 

 シャプナー、イレーザ、ウットナの順に口を開くが、三人とも声が震えている。そして、

 

「あっ!? これ、セルがお父さんと戦っていた時に使った技…!?」

 

 悟飯は悟飯で別の意味で天津飯の技に驚いている様子。

 

「…っ!? 悟飯君、今なんて言ったの!?」

 

 そんな悟飯の呟きを耳聡く聞き逃さなかったビーデルが、凄い形相で悟飯に食って掛かる。

 

「え!? あ、いや、何でもないよ! な、何でも…は、ははは…」

 

 乾いた笑いを浮かべながら何度かごまかそうとする悟飯だが、恨めしそうに悟飯を睨むビーデルを見る限り、こんな程度で追及を諦めてくれそうにはない。

 

 しかし、ビーデルが更に詰め寄ろうとした矢先、映像から爆発音が響く。見ると、武舞台の四隅に散った天津飯達が孫悟空に向かって気功波を放ったところだった。

 

 爆煙が消えるとそこに孫悟空の姿はない。しかし、その爆煙が消える前から天津飯達は上空に視線を向け何かを探していた。

 

「…っ! 見えたっ! 終わったぁ!!」

 

 叫びながら一人の天津飯が額の瞳から怪光線を上空に放つ。それに倣い、他の三人も次々に瞳から怪光線を上空に向かって放った。

 

「ぎゃっ!?」

 

 果たして、その四つの怪光線はどうやら孫悟空にヒットしたらしい。空高くから悲鳴が聞こえてきたかと思ったら、姿を現した孫悟空が腹部を押さえながら落ちてくる。

 

「…っ! う、くくく、い、いって~っ!!」

 

 なんとか体勢を立て直し着地したものの、相変わらず腹部を押さえて痛がっている孫悟空。どうやらかなりのダメージを貰ってしまった様だ。

 

「くっくっく…。今のうちに降参しろ、孫! 次は命に関わるぞ!」

 

「へ、へっへ~。オラもう今のは食らわねえよ。弱点を二つも見つけちゃったぞ!」

 

 少し高圧的に降参を促す天津飯達だったが、大して孫悟空も自慢げに指を二本立ててそんな事を言う。

 

「何だと? 弱点?」

 

「嘘だと思うなら、もう一回やってみろよ」

 

「言われなくても、やってやるさ…。今度はフルパワーでな…!」

 

 孫悟空の挑発じみた台詞に、天津飯は再び四隅に分かれて孫悟空に向かって構える。気功波が放たれ、爆発し、爆煙が収まると、やはり孫悟空の姿はない。

 

「無駄だ! 十二の目からは逃れられんぞ!」

 

 そう言って、上空を探し始める天津飯達。ここまでは先ほどと全く同じ流れだった。が、

 

「悪いな天津飯! おめえの技使わせてもらうぞ! 太陽拳!!」

 

 上空から大声が聞こえてきたかと思うと、突如、天から視線を切り裂くほどに強烈なまばゆい光が降り注いできたのだ!

 

「きゃあっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「ま、眩しいっ…!」

 

 映像から放たれるあまりの眩しさに、悟飯も含むビーデル達全員が眩しさに目をつむってしまう。

 

「これが弱点その一。おめえ目が良すぎるんだ」

 

「ま、まさか太陽拳とはな…。ぐっ…!」

 

 映像から孫悟空と天津飯の声が聞こえてくるが、眩さに目がくらんでいるビーデル達には状況がどうなっているのか良く分からない。ただ、天津飯の掛け声と腕を振る音が聞こえてくるので、どうやら天津飯が攻撃を行っている…という事だけはかろうじてわかる。

 

「目が良すぎるから、目だけで相手の動きを追っちゃうんだ」

 

「な、なるほど…。しかし、それはお前も同じだろう!」

 

「ひひ~、残念でした。後ろの天津飯が右の手刀でオラを狙ってる」

 

「ばかな…っ!? 何故わかるんだっ!?」

 

 そのまま交戦と会話を続けている様だが、次第に目が慣れてきたビーデル達。そこには、後ろを見ずに後ろにいる天津飯の体勢を言い当てる孫悟空に動揺する天津飯の姿があった。

 

「さてと…。どうやら目が元に戻ってきたようだな。じゃあ、オラ遠慮なく勝たせてもらうぞ」

 

「勝たせてもらうだと…? それはどうかな? 同じ手は二度と通用せんぞ!」

 

 今度は孫悟空が勝利宣言をする。対して、冷汗を垂らしながらも不敵に笑い余裕があるかのようにふるまう天津飯。

 

 しかし、ここからの孫悟空の動きは、まさに神業と言えるほどの凄まじい速さだったのだ!

 

「いいか! 四人になったのは失敗だったなっ!!」

 

 そう大声で叫んだかと思った次の瞬間、孫悟空の姿が掻き消える。そして次瞬には姿を現したかと思ったら、何故か天津飯達は四人とも場外に吹っ飛ばされていたのだ。

 

「………い、今、何かしたのか?」

 

「…何も、何も見えなかった…」

 

 あまりの素早さに、ウットナとクオーラは茫然自失といった感じで言葉を絞り出す。他のメンツも似たようなものだったが、不意にビーデルは険しくありながらも比較的冷静に悟飯に視線を移す。

 

「悟飯君。今のも見えたよね? 説明して」

 

 そのビーデルの厳しい口調に、更に場の視線が全部悟飯に集中する。対して、悟飯は何とかごまかそうと思ったのか視線をあっちこっちにさまよわせ始めるが、やがて全員の真剣な眼差しにごまかすのは不可能と判断したのか、観念したかのように口を開いた。

 

「一人目は不意を突かれて吹き飛ばされて、二人目は何とか反撃を繰り出すもあっさりかわされ蹴りで、三人目はその蹴りの反動を利用した一発で、四人目は腹部に一撃で全員吹っ飛ばされたんだよ」

 

 細部を正確に説明する悟飯。これは、今の信じられない素早さの動きもぜんぶしっかり捉えていたという事だ。

 

「い、今のも全部見えたってのか…」

 

「わー、凄いね悟飯君!」

 

「流石、悟飯翁の名を冠する者。そうでなくては」

 

「うんうん、本当にあの悟飯おじいちゃんみたいに凄いんだね悟飯さんって!」

 

 そして、シャプナーこそ驚きに満ちた表情をしているが、イレーザ、ウットナ、クオーラの三人は素直に悟飯を称賛する。対して、悟飯も少し申し訳なさそうにしながらも、まんざらでもない様子だ。

 

 そんな中、ビーデルだけはひと際険しい表情で、悟飯を睨み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 次の試合はマジュニア対シェン。これまた先ほどの試合に勝るとも劣らぬ激しい戦いではあったのだが、同時に謎の言語で両者が言い合いをするという不思議な試合でもあった。

 

 極めつけは、魔封波というこれまた不思議な技だ。シェン選手が放ったと思ったらマジュニア選手に跳ね返され、シェン選手の中からマジュニア選手にそっくりな人物が飛び出し、そのままシェン選手の用意していた小さな瓶に吸い込まれてしまったのだ。

 

 この技については、悟飯も良く分からないと言っている。如何に悟飯とて分からないものもあるんだな…とシャプナー辺りは逆に感心していた。

 

 そして、ついに来た決勝戦。孫悟空対マジュニア。会場からの割れんばかりの歓声が、この決勝戦にかける期待の大きさを物語っている。

 

「覚悟はできたか?」

 

「何の覚悟だ?」

 

「当然…死ぬ覚悟だっ!」

 

 来ていたマントを投げ捨てながら大声を上げるマジュニア。その物騒な物言いに、この大会の初戦…天津飯対桃白白のあの緊張感が蘇って来る。

 

「あ、そうか…。この時はピッコロさん、お父さんを殺す気でいたんだ…」

 

 マジュニアの様子に、悟飯も少し顔色を変えながらボソッと呟く。

 

「悟飯君。この人、ピッコロって言うの?」

 

「あ、うん。この時はピッコロさん、ちょっと大っぴらに名乗れない事情があって…」

 

「まあ、こんな観衆の面前で堂々と殺すなんて言う奴が、まともな訳がないか…」

 

 その呟きをやはり聞き逃さないビーデルの問いに、悟飯はコクリと頷き、ウットナも難しい顔で映像を見据えている。

 

「それでは、第二十三回天下一武道会決勝戦…始めてくださいっ!!」

 

 審判の開始の合図と同時に、雄たけびを上げながら突撃する両者。そこからさらにお互いが攻撃を繰り出すが、数手の攻防の後、マジュニアの頭突きが孫悟空にヒットする。

 

 吹き飛ばされる孫悟空…の背後を即座に取るマジュニアだったが、今度は孫悟空の前を見ながらの後ろ蹴りがマジュニアの顎にヒット。今度はマジュニアが吹き飛ばされ、武舞台の淵にまで追いやられる。

 

 そして、ここでおなじみの両者姿を消しての超高速の攻防。悟飯だけは目で動きを追っているが、他のメンツは必死に目を凝らして見ようとしている…特にビーデルが顕著だ…が見えている様子はない。

 

「上」

 

 そんな中で、悟飯が唐突に短く言う。その直後、いつのまに上空に上がっていた孫悟空とマジュニアが、凄い勢いでまっすぐ武舞台に着地してくる。

 

 不意に、不敵な笑みを浮かべるマジュニア。と、同時に右手を大きく振りかぶる。この構えは、クリリンと戦った時に使った構えだ。

 

「あ、また…!」

 

「伸びる…!?」

 

 クオーラとビーデルが口に出すとほぼ同じタイミングで、マジュニアが振りぬいた右手が大きく伸び、孫悟空に襲い掛かる。

 

 しかし、孫悟空も一度見た技故か、慌てずに横に動いてかわし、更にその腕を捕まえて上空に投げ飛ばしてしまった。

 

 ある程度まで飛ばされた後空中で制止するマジュニア。伸ばした腕も元に戻す。が、ここで孫悟空が匿名希望に使ったあの衝撃波を飛ばし、マジュニアに更なる追撃を行う。

 

 衝撃波をもろに受け、更に上空後方へと弾き飛ばされるマジュニア。そして、孫悟空も更なる追撃を加える為に、マジュニアに向かって飛び立った。

 

「あ、ダメだお父さん! 今のはしっかりヒットしてない!」

 

 そんな孫悟空に、悟飯が慌てて身を乗り出すが、時すでに遅く、マジュニアに追いつく寸前にマジュニアは一気に体勢を立て直し、ほぼゼロ距離から孫悟空に向かって気功波を放つ。

 

 不意を突かれ気功波をまともに食らってしまった孫悟空。しかし、マジュニアは容赦しない。墜落していく孫悟空に向かって、更に気功波を連射したのだ!

 

 武舞台に叩きつけられた孫悟空に、容赦なく降り注ぐ気功波の雨。その威力は、武舞台の表面の石の瓦を剥いで、土台を抉り出すほどのものだ。

 

 その出来てしまった穴の中心で倒れる孫悟空に、カウントを開始する審判の人だったが、

 

「カウントなど数えても無駄だ…黙れ」

 

 降りてきたマジュニアからそう一喝されてしまう。

 

「孫悟空、白々しい真似はよせ。貴様があの程度でくたばる訳がなかろう…」

 

「―――………へへ、やっぱしばれた?」

 

 不敵に笑いながら言うマジュニアに、少し間を置いてから孫悟空もなにやら楽しそうな笑みを浮かべながらおもむろに起き上がる。どうやら大したダメージは入っていない様だ。

 

「武舞台が破壊されるほどの攻撃を受けても目立ったダメージは与えられないのか…」

 

 その様子を見て、ウットナが難しい顔で唸る。常人なら即死してもおかしくない威力の攻撃を受けてこれでは、ウットナの反応も当然の事だろう。

 

「おめえ、すげえ悪い奴だけどよ、腕はすげえからオラわくわくすんだ!」

 

「くっくっく、今にそんなたわごとは言っておれんようになるぞ…」

 

「かもな…」

 

 ボロボロになった道着の上半身部分を破り捨て、帯をしっかり締めなおしながら言葉通りに昂った様子で口を開く孫悟空。マジュニアもニヤリと嫌らしい笑みを浮かべながら応じる。

 

「さてと、それじゃそろそろ本気で行くかな」

 

「一瞬のすきも見逃さんぞ」

 

 そうして、再び構え直す二人。

 

「…今まで本気じゃなかったの?」

 

「…らしいな。今までと何が違うのかさっぱり分からんが」

 

 そんな二人の言葉に、イレーザが呆れた様子で言い、シャプナーも乾いた笑みを浮かべながら答える。この二人に限らず、最早だいぶ前から悟飯以外は大会のレベルについていけてないので、これ以上レベルを上げられても、もう違いが分からないのだ。

 

 そして始まる乱打戦。お互いの腕と足が三本も四本もあるように見えるほどの素早い攻防を繰り広げたかと思うと、一転して孫悟空対天津飯戦でもみた、腕と腕を掴んでの力比べへ移行する。今度は孫悟空も歯を食いしばって力んでおり、二人の力は均衡している様子。

 

 と、ここでマジュニアの両目から、あの天津飯の怪光線に似た光線が孫悟空の顔面めがけて射出された。しかし、これを咄嗟に頭を下げてかわす孫悟空。とんでもない反射神経だ。

 

 そのまま掴んでいるマジュニアの両腕を支えにして、軽く飛び上がりながら両足でマジュニアの顎を思い切り蹴り上げる孫悟空。この一撃で一瞬前後不覚になったマジュニアの隙を突き、孫悟空は姿を消す。

 

 すぐさま体勢を取り直し、周囲を注意深く探るマジュニア。そして、

 

「はあっ!!」

 

 気合の掛け声と共に、肘打ちを繰り出すマジュニア。その一撃は、完璧に姿を消していた筈の孫悟空の顔面を正確にとらえた!

 

 吹き飛ばされ武舞台入り口の両脇にある壁に激突する孫悟空。壁が完全に崩壊する程のその威力に、近くにいた孫悟空の仲間が慌てて駆け寄る。が、

 

「ご、悟空っ!? ………い、いない!?」

 

「な、なにぃっ!?」

 

 クリリンの驚きの声に、マジュニアも目を見開きながらその破壊された壁の方を見遣る。

 

「後ろだ…!」

 

 そのマジュニアの背後をいつの間にかとっていた孫悟空が、振り向くマジュニアの顔に思い切り蹴りをお見舞いした。

 

 今度はマジュニアが蹴り飛ばされるが、少し飛んだ後で武舞台に両手を叩き付け、その勢いで上空へと飛び上がるマジュニア。

 

「おのれ…! 会場もろとも、吹き飛ばしてくれるわーっ!!」

 

 蹴られた顔を拭いながら、怒りに震える声で叫んだあと、両手を武舞台に向けて突き出すマジュニア。

 

「やべえ! みんな逃げろーっ!」

 

 瞬間、会場にいる全員に逃走を促す孫悟空だが、そんな咄嗟に動ける常人などまずいない。みな、不思議そうに上空のマジュニアを見上げるだけだ。

 

 誰も動くことができないと判断した孫悟空は、ならばと自分が飛び上がり、

 

「オラはこっちだーっ!!」

 

 と、マジュニアの注意を自分に引き付けた。

 

「馬鹿め、人間などを庇いおって! 死ねっ!!」

 

 そんな孫悟空に、マジュニアは容赦なく気功波をぶっ放した。あのスーパーどどん波が児戯に見えるほどの巨大で極太の気功波だ!

 

「今度はオラがよけねえと…っ!」

 

 そう言って、中空に向かって例の衝撃波を放つ孫悟空。その反動で体を逆方向へ逃し、かすりこそしたものの、気功波の直撃は免れた。

 

 そして、その気功波だが、その先にあった山に着弾した瞬間、眩い閃光と極大の爆発音、更に地響きが会場中を襲う。その揺れは、映像の中でも鮮明に感じるほどが出来るほどに酷いものだ。

 

 その揺れが収まった後、直撃した山の方へと映像が向く。すると、信じられない事に、結構大きかった筈の山が、跡形もなく消し飛ばされていたのだ!

 

「や、山が………きえ、た……」

 

 茫然とした様子の男の声が映像から聞こえてくる。恐らくは、撮影者かその近隣にいる人物の声だろう。

 

「や、山が消えた…? なんなんだよこれは一体…」

 

 その目を疑う光景に、シャプナーがもう色々と限界、とでも言いたげに呟く。

 

 一方、かすった衝撃で跳ね飛ばされていた孫悟空だが、更に小さなかめはめ波を進行方向へと撃つ事で、どうにか場外は逃れる。

 

「あ、あのやろー…っ! 相変わらず無茶苦茶しやがるな…っ! お返ししてやるぞ! 超かめはめ波だっ!!!」

 

「ちょ、超かめはめ波っ!!?」

 

 怒りに燃える孫悟空が大声と共にかめはめ波の構えを取る。その素敵な名前に、クオーラが瞳を輝かせながら食いついた。

 

「ま、待て悟空! あ奴を殺してしまえば、神様も死ぬことになるぞっ!!」

 

「…っ! そ、そうだった、ちくしょう…っ!」

 

 しかし、武舞台入り口付近にいるあの老人が孫悟空を止める。すると、孫悟空も口惜しそうにしながらもかめはめ波の構えを解いてしまった。

 

「ふはははははっ! どうした、何かするんじゃなかったのか!?」

 

 動作を中断してしまった孫悟空を見て、勝ち誇った様子で見下すマジュニア。孫悟空は歯噛みしながらマジュニアを見上げるのみだ。

 

「神が気になって思い切った攻撃が出来ないのか!? だが俺は違う! 悪は完全に自由だ! 何でもできる!! 例えば………この会場にいる奴らを全員吹き飛ばす事だってな!! はあああああ…っ!」

 

 対して、マジュニアは自慢げに力をため始めた。すると、マジュニアの体を目視が可能なほどの濃い気の力が覆いだす。

 

「よせ、卑怯だぞーーっ!! 戦ってるのはオラだっ! 他の皆は関係ねえーーっ!!」

 

「知った事か…っ!」

 

 そんなマジュニアを何とか言葉で止めようとする孫悟空だが、マジュニアは聞く耳を持たない。

 

「は…? こいつまさか、さっきの一撃を会場に撃ち込むつもりか…っ!?」

 

「駄目だよ、止めてっ!!」

 

「おのれ、卑怯な奴め…っ!」

 

「ピッコロさん、流石にそれは…っ!」

 

 その光景に、シャプナーは驚愕にこぶしを握り締め、イレーザは否定の言葉を吐き、ウットナは怒りに燃え、悟飯も困惑気にマジュニアの行動を非難する。

 

「悟空! ドラゴンボールがあるじゃないか! 神様も生き返れる! 俺達がそうだったように!」

 

 と、ここでクリリンが孫悟空に呼び掛ける。

 

「あ、そうか、その手があったか! サンキュークリリン! お見舞いしてやるぞ、超かめはめ波だっ!!」

 

 その言葉を受け、引っ掛かりが解けたかのような会心の笑みを浮かべた後、再びかめはめ波の構えを取る孫悟空。

 

「か、め、は、め…っ!」

 

「残念だったな、神龍は三年前に死んだぞ! 消えてなくなれーっ!」

 

 大急ぎで気を練る孫悟空に、遂にマジュニアは先ほどの物をも上回る超特大の気功波を、会場めがけて放出してしまう!

 

「神龍は蘇ったんだっ! 波ーーーーっ!!!」

 

 その特大気功波を、さらに上回る馬鹿でかいかめはめ波を放つ孫悟空。それは、まさに”超”という言葉がふさわしい圧倒的なパワーで、マジュニアの特大気功波を跳ね返してしまった!

 

「ぐわーーーーっ!!」

 

 悲鳴を上げながら、超かめはめ波の超絶パワーに飲み込まれたマジュニア。それだけにとどまらず、エネルギーの余波のみで武道館が軋み始め、あまりの暴風に観客席からも悲鳴が上がるほどだ。

 

「ほわーっ!! 凄い凄いすごーいっ!! こんなかめはめ波見た事ないよーっ!!」

 

「超かめはめ波か…っ! 名前に恥じない超絶威力だな…っ!!」

 

 大惨事になっている映像の光景に、しかしクオーラは瞳をキラキラさせて大はしゃぎし、ウットナも冷や汗を垂らしながらも、どこか満足そうにもしていた。

 

「けっ、ざまあ見やがれ! 良く分かんねえが、こんな攻撃食らった流石にあの緑野郎も…」

 

 更に、シャプナーも溜飲が下がったかのように言葉を放つが、その台詞を言い終わらないうちに、

 

「………なんて野郎だ。堪えやがった」

 

 超かめはめ波を撃ち終わった孫悟空が、少し呆れた様子でそう口にする。果たして、エネルギーの余波が冷めると、上空には両腕で防御をしてたマジュニアが姿を現した。

 

「お、おのれ~…! この俺様に、一瞬とはいえ…恐怖を与えおったな…っ!!」

 

 怒り心頭…といった様子で孫悟空を睨むマジュニア。そのまま、まっすぐ武舞台に降りてくる。

 

「許さんぞ…っ! バラバラにしてやるっ…っ!!」

 

 瞳は血走り、かぶっていたターバンが取れたため露になった頭部は、怒りに血管が浮き出ている。怒気をふんだんにまき散らす非常に恐ろしい姿だ。

 

「ひ…っ!」

 

「ほ、本当に全く効いてないのか?」

 

「信じられん…」

 

 そのあまりの形相に怯えるイレーザ。一方、シャプナーとウットナはあれだけの攻撃をまともに食らって平然としているマジュニアに心底驚愕している様だ。

 

「そ、孫悟空選手の物凄い攻撃でしたが、信じられない事にマジュニア選手、これを堪えました…。服がボロボロになっただけで………ん、んん?」

 

 その様子を、震える声で実況する審判の人だったが、ここで少し言葉を濁す。と、同時に観客席も、何やらざわざわとざわつき始めた。

 

「な、なんだ…?」

 

 場の様子が変わったのを感じ取ったシャプナーが訝し気に映像を見つめる。

 

「似てるぜ…! ピッコロ大魔王に…っ!!」

 

 と、その時、観客席の一角からこのような大声が。途端、観客席のざわつきはさらに大きくなる。

 

「ピッコロ大魔王…? そ、それって一体…」

 

 その謎の単語にクオーラが首を傾げた、その直後、

 

「似てて当たり前だ! この俺はピッコロ大魔王の生まれ変わりだっ!!」

 

 マジュニアは両手を広げて大々的に宣告した。

 

「世界中に知らせておけ! 孫悟空を殺した後、再び貴様らの王になってやるとな! ピッコロ様の天下が蘇るのだっ!!!」

 

 高笑いをしながら宣言するマジュニア。すると、

 

「………う、ひ、う、うわーーっ!!」

 

 我先にと観客たちが武道会場から逃げ出したのだ! と、同時に、撮影者も逃げ出したのだろう。武舞台が遠のいていったと思ったら、唐突に映像が切れてしまったのだ。

 

「あ、え、映像が消えちゃった!」

 

「な、なんだよ! どうみてもこれからが佳境じゃねえかっ!」

 

 あまりに突然すぎる映像の終了に、イレーザとシャプナーが名残惜しそうに映像機器をいじる。しかし、どう設定しなおしても続きが映りそうな気配はない。

 

「…ピッコロ大魔王か。少し調べてみよう」

 

「ちょっと尻切れトンボだけど、いろんなかめはめ波の類似技を見れたのは大満足だよっ!」

 

 ウットナは、ピッコロ大魔王という単語に興味が出たらしい。クオーラも、様々な気功波が見られたという事には満足している様だ。

 

「なんかピッコロさん、やさぐれた子供みたいだったな…」

 

 そして悟飯は、何とも言えなさそうな微妙な表情をしていた。

 

「ねえ、悟飯君」

 

 そんな悟飯に、ビーデルが話しかけてくる。怒っているともとられかねない程にいかつい表情をしながら、意を決した様子でビーデルは口を開いた。

 

「ちょっと組手をしてみない? できれば、いますぐ」




 ぶっちゃけ言うと、このお話は原作準拠とアニメオリジナルが滅茶苦茶に混ざり合ってます。悟飯が桃白白を知っていたりセルが四身の拳を使ったりは、アニメオリジナルです。原作では悟飯は桃白白なんか知りませんし、セルは悟空が本気になった後いきなりかめはめ波をぶっ放してます。

 逆に、悟空がおもりを脱いだ後軽いジャンプだけで済ませたり、天津飯が四身の拳のあとすぐさま四隅に散ったりするのは原作基準です。アニメではおもりを脱いで軽くジャンプした後に少し暴れまわりますし、四身の拳のあともすぐに四隅に散らばらず少し交戦してます。

 あまりよくない事かもしれませんが、この後のお話を書きやすくするための都合と言う事で、見逃していただければ…。


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ビーデル達と悟飯の組手

「ビーデル、本気で言ってるの…?」

 

 ビーデルの申し出を聞いて、最初に口を開いたのはイレーザだ。その口調は、明らかに「止めておいた方がいい…」と言外に主張している。

 

 が、それも当然だろう。なにせ、ビーデルですら勝てるかわからない言わしめたあの匿名希望選手ですら、今大会の全選手を順位付けするなら下から数えた方が早いと思われるのだ。決勝のあの超人試合すら完璧に見切る事が出来ていた悟飯に勝てる道理はまずない。

 

 しかし、ビーデルの決意の表情は揺らぐことがない。うけてもらえるまで、絶対に引き下がるものか! という堅い意思がその瞳からは見て取れる。

 

「い、いや、僕はその…」

 

 とはいえ、肝心の悟飯がまるで乗り気ではないみたいで、せわしなく視線を左右に振り逃げ場を探している。いざとなればこの前みたいに姿を消せばいいし、そうさせないために一応ビーデルが悟飯の服の裾を掴んではいるのだが、悟飯がその気になればこの程度すぐに振りほどけるだろう。

 

「悟飯君、どうしてそんなに組み手を嫌がるんだ?」

 

 と、ここにウットナが助け舟を出す。ただし、ビーデルに、だ。

 

「ど、どうしてって、それは強さなんて見せびらかすもんじゃないし、それに…」

 

「それに、弱い人を相手にしても気まずいだけだから?」

 

 しどろもどろになりながらも答える悟飯だったが、途中で言葉を詰まらせてしまう。しかし、そのつまった言葉をビーデルが悟飯を睨みつけながら代弁する。どうやら図星だったようで、悟飯はあからさまに「うっ…」と息を詰まらせている感じだ。

 

「なら、俺もビーデルさん側に付こう。それで少しはマシになるだろう」

 

「俺も混ざっていいか? 流石に、ビーデルにそこまで言われちゃ黙ってられねえぜ」

 

「あっ! 私も私も! 悟飯さんの実力が見てみたいから混ざってもいいですか!?」

 

 そのビーデルの代弁に、ウットナが提案をし、それにシャプナーは指を鳴らしながら、クオーラは見るからにワクワクした様子で参戦を表明する。

 

「で、でも、組み手をするにしても、開けた場所なんてすぐに確保は…」

 

「その点なら大丈夫だ。この近くに親戚の務める道場がある。獅獅牙流という流派のサタンシティ支部の道場で、その師範を任されている方だ。この時間なら稽古に来ている人も少ないだろうし、稽古場の一角くらいなら貸してもらえるはずだ」

 

 挙動不審になりながらもなんとか逃げる為の理由を口にする悟飯だが、ウットナがその逃げ道をふさぐ。

 

「悟飯君、武道家とは強き者と拳を交えずにはいられないものなのだ。己を磨くために。どうか、ビーデルさんの挑戦を受けてやってはくれないか?」

 

 更に、悟飯に頼み込むウットナ。その情熱に燃える瞳の前に、遂に悟飯は根負けをするのだった。

 

 

 

 

 

 そして、例の獅獅牙流の道場に移動した面々。ウットナの言う通り、ウットナとクオーラの二人で頼み込めば道場の主は快く道場を貸してくれた。ただ、勿論親戚云々の関係もあるだろうが、どちらかと言えばこの主はビーデルに、そして、そのビーデルが興味を持っている孫悟飯という人物に興味を示して、それを見学するために貸してくれた…という感じがする。

 

「………よしっ!」

 

「いつもはパンツにグローブだからな…。こういう道着と拳サポスタイルは初めてだ…」

 

「孫悟飯の名前を持つ者との組み手か…。気分が高揚してくるぞ…!」

 

「私もなんかワクワクしてる! 悟飯さんなんか凄い気功波つかってくれないかな~っ!」

 

 獅獅牙流の道着を着て、気合の声と共に帯を締めるビーデル。シャプナーは少し不慣れな様子。ウットナとクオーラは共に興奮で少し浮かれている様子だ。

 

 対して、悟飯はまだ少し困惑気味。が、ここまで来たのなら…という様子で、同じく獅獅牙流の道着に身を包み、ビーデル達四人に向かって礼儀正しく一礼をする。

 

 その礼を受け、ビーデル達も一例を返す。と、ほぼ同時に、

 

「行くわよ悟飯君! はあああっ!!」

 

 ビーデルが悟飯に向かって猛然と向かっていった! そして、初撃となる右の正拳突きを放つが、これは悟飯に紙一重で避けられてしまう。

 

「まだまだっ!!」

 

 大声で己を奮い立たせながら、続けざまに左フック、右回し蹴り、更に連続で下段左、上段右、と回し蹴りを放つが、これも全て紙一重で避けられる。

 

「けっ、舐めやがって! 俺も行くぜ悟飯っ!!」

 

「行くぞ悟飯君っ! 我が全てを君にぶつけるっ!!」

 

「よーし、私も全力で行くよ悟飯さんっ!!」

 

「皆がんばってー! 悟飯君にギャフンといわしちゃえーっ!!」

 

 そのビーデルに続き、シャプナー、ウットナ、クオーラも悟飯に立ち向かっていく。その後ろでは、唯一見学のイレーザがビーデル達に声援を送っていた。

 

 だが、やはりその実力差はいかんともしがたいレベルで差があるようだ。四人のコンビネーション攻撃は即席にしてはかなり巧みなのだが、数分間攻撃を続けても悟飯にはかすりもしない。全て紙一重で避けられてしまうのだ。

 

「はあっ、はあっ、くそっ! こいつ動きが速いだけじゃねえ! 体の動かし方、ステップの取り方、どれを見ても、実戦慣れしてる動きだぜっ!」

 

「はあっ、はあっ、ふ、ふははははっ! よもやここまで差があるとはな! 最早笑うしかない!!」

 

 四人がかりですら一撃も浴びせられないという事実に、絶え間ない連撃で息切れしながらもシャプナーは苛立たし気にし、ウットナは言葉通りに笑い始める。

 

「はっ、はっ…ダメ! このままじゃ埒が明かない!」

 

「私に任せてください! はあっ、はあっ、さ、三人は、悟飯さんの気を何とか引いてもらえれば…っ!」

 

 息切れしつつ焦りも見え始めたビーデル。そこに、同じく息切れしながらもクオーラが名乗りを挙げるとともに、一旦悟飯と距離を取って右手に力を集中し始めた。

 

 その構えは、あの映像で散々見てきた、いろいろな人物が気功波を繰り出す直前の構えに似ていた。それを察したビーデル、シャプナー、ウットナの三人は、当てる為ではなく、悟飯の意識を自分に引かせるための攻撃に切り替える。

 

「…………っ!」

 

 力の集中自体は短時間で終えるクオーラ。しかし、闇雲に放ったところでかわされるだけだ。絶対に命中させられる…という瞬間を、悟飯の動きを見つめながらじっと待つ。

 

 そして、その機はすぐに来た。クオーラと悟飯の合間にウットナが立ち、悟飯の顔面に向けて拳の突きを放ったのだ。更に都合よく、ビーデルとシャプナーも別角度から同時攻撃を仕掛けている。

 

「やあああああっ!」

 

 掛け声と共に、悟飯に立ち向かいながら右手を振りぬくクオーラ。その右手からは、やはりあの映像で散々見せつけられた光線が飛び出し、悟飯に襲い掛かる! ほぼ同時にウットナは素早い動作で体を地に伏させたので、悟飯から見たらウットナの背後から突然光線が襲ってくるように見えたはずだ。この辺りは、やはり兄妹の息の合ったコンビネーション…といったところだろう。

 

 三人の同時攻撃を紙一重でかわして体勢が固定されてしまっていた悟飯の顔面目掛けて飛んでいく光線。しかしその一撃も、固まった体勢のまま体全体を真横にずらすという、物理法則を無視したような奇妙な動作でかわされてしまう。

 

「そ、そんな…っ!」

 

 そのあまりにけったいな回避の仕方に、流石に非難めいた悲鳴を上げるクオーラ。が、

 

「そうか、クオーラさんは気功波が使えるんだったね。ちょっと油断し過ぎた…」

 

 感心した様子でそう口にする悟飯。その頬に、微かにではあるが…赤い一筋の線が走っている。どうやら、完全には回避しきれなかった様だ。

 

「うおおっ! やったぜクオーラちゃんっ!」

 

「ふふっ、クオーラちゃん、やるじゃない!」

 

「見事だぞクオーラっ!」

 

「おおーっ! 凄いすごーいっ!!」

 

「いえ、兄さんやビーデルさん、シャプナーさんのアシストのおかげです! ナイスアシストでした!!」

 

 そして、兄と兄の学友達からも褒められ、嬉しそうに照れくさそうに…しかし、自分も彼らを称賛し返すクオーラ。

 

「ビーデルさん…。その、今日の所はこれで終わりにしてほしいんだけど…」

 

 と、ここで悟飯が少し遠慮がちにビーデルに提案をする。

 

「はぁ!? 冗談でしょ!!? クオーラちゃん以外は一撃も入れられてないし、悟飯君も私達に全く攻撃してきてないじゃない!!」

 

 当然ながら、烈火のごとく怒りだすビーデル。

 

「それなんだけど…。最近は勉強ばかりで鍛錬を怠っててさ…。さっきのクオーラさんの一撃の反応の遅さに、体がなまってるって改めて痛感したんだ…。流石にこれはまずい、こんな体たらくじゃ、お父さんやピッコロさんになんて言われるか…。だから、勘を取り戻すための鍛錬の期間が欲しいんだ…」

 

 対して、申し訳なさそうにそう告白する悟飯。ビーデル達からしたら、あの軽やかな動きで体がなまりきっているとは到底信じがたいが、しかし悟飯は嘘をついている様には見えない。本当に、体はなまり、勘も鈍っているのだろう。

 

「―――………。仕方ないわね。ちょっと準備期間をあげるから、さっさと本調子に戻しなさいよ」

 

 そんな悟飯を暫く睨みつけていたビーデルだったが、やや間を置いてから、ふう…と一息ついて悟飯の意向を受け止める。一応は納得した様子のビーデルにホッと胸をなでおろす悟飯。だったのだが、

 

「悟飯さんの鍛錬!? すっごく見てみたい! 私もご一緒していいですか!?」

 

 すぐさまクオーラが食いついてきたのだ。それも、なんかめっちゃ目をキラキラさせながら。更に、

 

「あ、ずるいぞクオーラ! 悟飯君、俺も同行していいか!? 鍛錬もそうだが、俺は何より、差し支えなければ君の親族の方から孫悟飯翁の事が聞きたいのだっ!!」

 

「そうよずるいわクオーラちゃん! 悟飯君! 私もまぜなさいよ! あの気功波とかいう技を教えて欲しいわ!! それに、私も君に聞きたい事がいろいろあるのっ!!」

 

「悟飯君の家かー…。ちょっと興味あるかも…。ねね、私もご一緒していい…?」

 

 クオーラに続き、ウットナ、ビーデル、イレーザまでもが悟飯に詰め寄る。どさくさにまぎれて、悟飯の家に行く事にすらなってしまったのだ。

 

「モテモテだな、悟飯…」

 

「は、はは…」

 

 そこに、茶化したようなシャプナーの声が入るが、悟飯はもう笑うしかない…とばかりに、乾いた笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 

 一方そのころ、ミスターサタンの家にて。

 

「ビーデルはまだ帰らんのか?」

 

「はい、まだお戻りにならないようで…」

 

 家の主であるミスターサタンが、執事らしき男に尋ねるが、返ってきた答えは芳しいものではない。

 

「イレーザちゃんはともかく、男を二人も家に連れ込んだとは…。いかん、いかんぞビーデル。私より強い男でなければ、付き合うことは許さんと口を酸っぱくしていったはずだ…」

 

 苛立たし気に呟きながら、所在なさげに部屋をうろうろし続けるミスターサタンであった。




 獅獅牙流のおっさんとかドマイナー過ぎるんだよなぁ…。あと、クオーラさんがなんか少年時代の孫悟空みたいになって来とる…。


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ミスターサタンと孫悟飯

 本作のミスターサタンは殆どギャグ要素がないかもしれません。それは果たしてミスターサタンと言えるのだろうか…?


 翌日、早めに学校へと着いたウットナは、カバンを自分の席へ置くや否や、いの一番に既に登校していた悟飯に駆け寄った。

 

「おはよう悟飯君! どうだった!?」

 

「あ、ウットナ君。おはよう。うん、お母さんは良いって言ってくれたよ」

 

「ほ、本当かい!? うおーっ! やったー! 次の週末が楽しみだっ!!」

 

 悟飯の言葉を聞いて、大喜びするウットナ。力のこもったガッツポーズをする様子を見ても、心底喜びに打ち震えている事が伺える。

 

 そう、前日の組手の後にかわされた孫家への訪問の許可。それがいま約束されたのだ。

 

「…でも、ウットナ君っておじいちゃんの孫悟飯の事が知りたいんだよね?」

 

 しかし、ここで悟飯が少し真面目な顔で聞いてくる。

 

「あ、ああそうだけど…」

 

「だったら、お母さんやおじいちゃんより、武天老師様に聞いた方が詳しく聞けると思うっておじいちゃんが言ってたよ。なんでも、武天老師様の一番弟子だったって…」

 

「な、なんだとっ!!?」

 

 そして、続く悟飯の台詞に、ウットナは驚愕の大声を上げる。いかにまだ生徒も殆ど来ていない早朝とはいえ、流石に数少ない周りの生徒たちの目を引き始めているが、そんな事にすら気づかない程にウットナは驚いている様子だ。

 

「む、むむ、武天老師様はまだご存命なのか!? もう数百年も前の人物の筈だが…」

 

「うん、今も元気だよ。でも、そういえば武天老師様って今何歳なんだろ? 僕が4歳の時に初めて会った時からずっとおじいちゃんで元気だったから、年齢なんて気にした事なかったな…」

 

 食らいつかんばかりに悟飯に詰め寄り、引き攣った表情で確認を取るウットナ。すると、悟飯は頷きはしたものの、悟飯自身も何やら不思議そうに首をひねり始めた。

 

「ご、悟飯君…。そ、その…」

 

「分かった。お話が聞けるようににちょっと掛け合ってみるよ」

 

 そんな悟飯に少し歯切れが悪そうに口を開くウットナ。が、ウットナがすべてを言う前に、悟飯は内容を察してくれたようで、笑みを浮かべて快諾してくれた。

 

「ご、悟飯君! いや、もう悟飯様だ!! 本当に本当に恩に着るよ!!! あ、でも武天老師様が渋るようならすぐ引いてくれて構わないから! 失礼をしているのは俺の方だし!!」

 

「大丈夫だよウットナ君。武天老師様も同居しているクリリンさんも気さくな人だから、礼儀さえわきまえていたら邪険にはされないよ。ただ、18号さんがなんて言うかだけど…」

 

「クリリン!? それは、例の映像で映っていたあのクリリン選手の事かい!? 悟飯君、君は本当に顔が広いなあ!! 尊敬するよっ!!」

 

 ひっきりなしに興奮した様子で悟飯を称えるウットナだったが、当の悟飯はこそばゆいのか「まあまあ…」と言わんばかりに両手を前に出してウットナを落ち着かせようとする。

 

「おはよー、朝から元気だねウットナ君!」

 

「子供みたいに目をキラキラさせてんなお前」

 

 と、そこに二人に掛かる声。見ると、今登校してきたばかりらしいイレーザとシャプナーが二人に近づきながら挨拶をしていた。いや、この二人だけじゃない。周囲を見回すと、既に大多数の生徒たちが登校してきていた。どうやら、そこそこの時間話し込んでいた様だ。

 

「そりゃ元気にもなるさ! 憧れていた孫悟飯翁に一歩も二歩も近づけるんだから! さて、週末は忙しい…いや! やることは今から満載だ! まず武天老師様の現住所の確認、移動手段の確保、そして失礼のないように、知れる範囲で武天老師様やクリリン選手の事を調べておいた方がいいな。それと………」

 

 元気よく挨拶してくれたイレーザと、ちょっと茶化してくるシャプナーにウットナも勢いよく答え、そして何やらブツブツ呟きながら自分の席へと戻る。

 

 が、ここでちょっとした異変が起こる。さらに時間が過ぎホームルームの時間を迎えたのだが、ビーデルが未だに登校してきていないのだ。

 

「ちょっとした事件でもあって、警察に協力している最中なのかな…?」

 

「いや、だったら連絡くらい入れるだろ。何かあったのかもしれねぇな…」

 

 ホームルームを終え、一時限目を終えても登校しないビーデルに、流石に不安そうにするイレーザとシャプナー。そして、二時限目の最中に事は起こった。

 

 突然廊下を荒々しい足音がしたかと思うと、唐突に扉が開き、なんとそこからミスターサタンその人が姿を現したのだ!

 

「孫悟飯君。孫悟飯君という少年はここにいるか?」

 

 険しい表情で教室内を見回すミスターサタン。その口から発せられた言葉に、教師を含む教室中の視線が悟飯へと向かう。

 

「あ、はい…。孫悟飯は僕です…」

 

「む…君が…。―――成程、あの時の少年の面影があるな…」

 

 素直に立ち上がり名乗る悟飯に、ジロジロと値踏みするミスターサタンだったが、不意に一つ頷いてから改めて顔を上げる。

 

「少し君と話がしたい。付いて来てくれないかね?」

 

「分かりました…」

 

 ミスターサタンの要請に、悟飯は首を縦に振って席を立つ。

 

「皆、授業の邪魔をしてすまなかった。それでは」

 

 そして、悟飯を連れてミスターサタンは何処かへと立ち去ってしまった。

 

 無論、こんな状況でつつがなく授業が続く筈もなく、生徒たちは勿論教師に至ってまで上の空で二時限目は過ぎていく事となった。

 

 この時点でもなかなかの急転直下だが、事態は更に混迷していく。悟飯がミスターサタンに連れられた後、学内にこのような放送が入ったのだ。

 

『〇年〇組ウットナ君。〇年〇組ウットナ君。至急職員室まできてください』

 

 二時限目と三時限目の合間の休憩時間に鳴り響く放送。唐突な事にウットナが訝し気に首を傾げたのは言うまでもない。

 

「ウットナ君…? やっぱりさっきのミスターサタンと関係が…?」

 

「おいウットナ。お前なんかやらかしたのか?」

 

「分からない…。もしかしたら、この前の俺とシャプナー君の来宅が気に入らなかったのかもな…」

 

「いや、あんな程度でここまではしないだろ…。しないよな…?」

 

「いくらミスターサタンがビーデルを可愛がってるって言っても、流石にそこまではしないよ! それに、もしその件なら最初に悟飯君が呼び出されたのはおかしいでしょ? あの時は悟飯君いなかったよ」

 

「そ、そうだな…。し、しかし、それでは一体何の用で…?」

 

 イレーザ、シャプナー、ウットナの三人で話し合うが、ウットナが呼ばれた理由は皆目見当がつかない。しかし、呼ばれたのは事実なのでウットナは二人との会話もほどほどに、足早に職員室へと向かった。

 

 そこで校長先生と少し会話し、通された客間には先客のミスターサタンと悟飯がソファに座っている。ミスターサタンは険しい表情で、悟飯は少しおどおどしており、お世辞にもあまりいい空気とは言えない。

 

「おお、君がウットナ君か。まあ、座りなさい」

 

 そう言って、悟飯の対面にウットナを座らせようとするミスターサタン。その言葉通りに、指された場所に座るウットナ。これで、上座にミスターサタン、その両翼に悟飯とウットナという配置になる。それ以外の人物は校長を含め全て人払いされていた。

 

「さて、早速だが…。ウットナ君、君が前々回の天下一武道会の映像をビーデルに見せた…これは間違いないね?」

 

「…はい」

 

 厳しい口調で尋ねてくるミスターサタンに、ウットナも緊張の面持ちで肯定する。

 

「もう一つ聞きたい。君は、あのセルとの闘いの映像も持っているのか?」

 

「いえ、あの映像は持っていません。理由は分かりませんが、あの映像は規制が厳しくて、一介の物好き程度では近づく事さえできないんです」

 

 次なる質問に、ウットナは首を横に振る。そう、あのセルゲームの映像は公的な規制もあいまって入手難度がけた違いに高いのだ。

 

 更に、映っているのはセルとミスターサタンと謎の連中が数人、そのうえ、ハッキリと撮れている映像は、よりによってミスターサタンがあっさり場外負けしてしまったシーンしかないのだ。

 

 謎の連中とセルの交戦シーンも映っていると言えば映ってはいるのだが、何か喋っているシーン(うまく聞き取れない)、何も見えないシーン(文字通り速すぎて)、爆発の煙で何も映ってないシーンの三拍子が揃っているので、マニアの間でも価値はあまり高いものではない…つまり、所持している個人も極端に少ない、というのも入手の難度に拍車をかけている。

 

「だろうな。その規制をかけるように頼んだのはこの私だからだ」

 

 正直に答えるウットナに、ミスターサタンも白状する。まるで、観念したかのように。

 

「何故、そんな事を…?」

 

 と、一応は問うてみるウットナだったが、実をいうと察しは大体ついていた。

 

 あの前々回の出場者達は明らかに、ミスターサタンより数段上…いや、別次元と言っていい程の実力の持ち主だ。それは審判の人がぼやいていたという事を見ても、明らかだろう。

 

 そして、恐らくはセルもあの出場者達側の大悪党だ。そんな化け物を、ミスターサタンが倒せたとは到底思えない。つまり、

 

「そこの悟飯君がセルを倒したという、決定的な証拠になりかねないからだ」

 

「―――………は?」

 

 ミスターサタンの告白に思わず頓狂な声を上げてしまうウットナ。が、ミスターサタン以外の人物がセルを倒した事に驚いたのではない。それは前述のとおり察しはついていた。

 

 驚いたのは、その人物が目の前にいる孫悟飯である事だ。

 

「…ほ、本当なのか!? 悟飯君!」

 

「………うん」

 

 目を見開きながらのウットナの問いに、遠慮がちに頷く悟飯。が、それでもウットナは信じられない。なにせ、ウットナと同学年である以上悟飯もウットナと同じ年齢だ。つまり、セルゲーム当時は、彼はまだ十にも満たない子供だった筈なのだ。

 

 しかし、悟飯だけならともかくミスターサタンまでもがそう言っているのだ。それに、彼の超人的な実力は昨日確かに確認している。如何に昨日の組手が無謀だったのか、そしてクオーラの一撃が奇跡だったのかを改めて実感するウットナ。

 

「正直に言えば、あの時は見栄だった。しかし、その所為で娘のビーデルまでもが世界を救った大英雄の娘…ということで正義感の強い…いや、強すぎる子に育ってしまった。日夜警察に協力し、正体不明の犯罪者共と戦っているのだ。そんな事をしていれば、命がいくつあっても足りんというのに…」

 

 そんなウットナを他所に、ミスターサタンはミスターサタンで懺悔の様に言葉を絞り出す。どうやら、ミスターサタンにもいろいろと苦労がある事が見て取れる。

 

 と、ここで唐突に高らかと鳴り響く電子音。直後、少し弱気な表情をしていたミスターサタンが顔を引き締め、懐からスマホを取り出す。

 

「私だ。どうした?」

 

「サタン様! サタン様! 至急お戻りを!! ビーデル様が…………あ、いけませんビーデル様!! そんな乱暴にジェット機を使われては…っ!!」

 

 冷静な声色のミスターサタン。が、受話器の向こう側からは慌ただしい言葉が…。更に、少し遠くからエンジンの大きな音も聞こえてきた。

 

「なに!? おい、ビーデルがどうしたのだ!!?」

 

 大声で聞き返すミスターサタンだったが、聞こえてくるのは大きくなるエンジン音だけだ。

 

「くっ! すまないが急用ができた! 失礼する!」

 

 慌ててスマホを懐にしまい、脱兎の如く部屋を出て行ったミスターサタン。

 

「悟飯君! 俺達も行ってみよう!」

 

 そんなミスターサタンの姿を見て、悟飯に追行を促すウットナ。悟飯も頷き、二人でミスターサタンの後を追うのだった。



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孫家に向けて出発!

 急いで学校を飛び出すウットナと悟飯だったが、残念ながらミスターサタンは彼専用の飛行機ですでに飛び立った後だった。

 

「ここからミスターサタン邸となると少し遠い…。バスは時間が合わないしタクシーは高すぎて手持ちが…。走るしかないか!」

 

 そう言って、今にも走り出しそうだったウットナを悟飯が手で制する。

 

「ウットナ君。サタンさんの家ってどの辺りなの?」

 

「え、あ、ああ…。それなら…」

 

 ミスターサタンの家を尋ねる悟飯に、ウットナはスマホの地図アプリを開いて悟飯に見せる。その画面に表示された道順を読みこんだ悟飯が、一つ頷いてから唐突にウットナの肩を掴んだのだ。

 

「ウットナ君。それなりの速度で走るから、振り落とされないで!」

 

 言うや否や一気に駆け始める悟飯だったが、そのあまりに傍若無人なスピードにウットナは目を白黒…させる暇すらない。

 

「ぐが…っ!? ぎが、ぐぎぎぎぎ…っ!!!」

 

 スポーツカーと同等…いや、もしかしたらそれ以上かもしれない速度。加えて、右折や左折時の遠心力も加わって、ウットナにかかる負荷は尋常なものではない。歯を食いしばって悟飯にしがみついているその必死の表情を見ても、想像を絶する苦行なのはヒシヒシと伝わってくる。

 

 が、その苦行の甲斐もあり数分足らずでミスターサタン邸へと辿り着いた二人。まあ、苦行と言ってもばてているのはウットナだけで、走っていた悟飯は当然のようにケロッとしてるが…。

 

 そして、ミスターサタン邸なのだが、複数人が携帯を持ちながら駆け回っており、見るからに慌ただしい様子だ。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「ん? ああ、実は…」

 

「バカ! 余計な事を言うな!」

 

 疲れ切っているウットナを休憩させながら、その慌ただしそうな人達の一人に尋ねる悟飯。が、何か喋りそうだったのを、更に別の人が黙らせてしまった。

 

「そ、そうか。そうだな。…すまない少年。気にしないでくれ」

 

 そう言って、悟飯が尋ねた人物はそそくさと離れてしまう。が、口を開きかけてしまった事と言い、彼らは彼らでかなり気が動転している感じもする。

 

「あ、その、サタンさんは…」

 

「ミスターサタンは先ほどご帰宅された。が、今は取り込み中だ! さあ、邪魔だから帰った帰った!」

 

 めげずに声をかける悟飯だったが、先ほどのうっかり発言を邪魔した人によって邪険に追い払われてしまった。

 

「はあ…はあ………ふう。どうやら、取り込み中の様だな。さて、どうするか……………ん?」

 

 なんとか息を整え、次の手を考えるウットナだったが、不意にウットナのスマホが鳴り響く。そして、

 

「誰だ? ………ビーデルさん!?」

 

 発信者の名前を見て、声を上げるウットナ。必然悟飯も反応し、ウットナに近づいてい来る。

 

「―――もしもし? ビーデルさん?」

 

「あ、ウットナ君!? ねえ、今君の近くに悟飯君いる!?」

 

 恐る恐る…といった感じで着信に応じるウットナ。対して、受話器の向こうからはジェット機のエンジン音と共にビーデルの声が聞こえてきた。

 

「あ、ああ…。悟飯君ならすぐ近くに…」

 

「良かった! ちょっと代わって欲しいんだけど!」

 

 ビーデルの頼みを受け、少し戸惑いがちながらスマホを悟飯に貸すウットナ。受け取った悟飯も同様に少し戸惑っていたが、とりあえず…といった感じでビーデルと会話をし始めた。

 

「はい、悟飯です…。―――え、うん、お母さんから許可は貰ったけど…。―――へ!? 今から!? 待って待って、それは流石に…っ! ―――そ、それはそうだけど…」

 

 が、会話が始まってすぐに悟飯が狼狽し始める。何か無茶を言われている様子だが…。

 

「―――分かりました。すぐ行くよ…」

 

 という言葉を最後に、耳からスマホを離し、溜め息と共にウットナに返す悟飯。

 

「ビーデルさん、なんて?」

 

「今から僕の家に行くから、何とかお母さんにとりなしてくれ…だって」

 

「えぇ…。何を言ってるんだビーデルさん…」

 

 スマホを懐にしまいながら問うウットナだったが、悟飯から返って来た言葉は予想以上の無理難題だ。思わずウットナが顔をしかめてしまったのも仕方がないだろう。

 

「そういう訳だから、今日は僕早退するよ。今すぐ帰るから、ウットナ君。僕の学校においてある荷物、一日だけ預かっててもらってもいいかな?」

 

「…むう、仕方ないな。先生やシャプナー君達にはうまく言っておくから、ビーデルさんの事は頼んだよ」

 

 まだ戸惑いの表情ではあるものの、それでも早退をする事にしたらしい悟飯。ついでに荷物を頼まれたので、ウットナはここで悟飯と別れ、学校へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 学校に戻った後、このことをシャプナーとイレーザに話すウットナ。そして、学校が終わった後、悟飯の家に行くための準備をする為にウットナのマンションに泊まっているクオーラにも話す。シャプナーとイレーザはビーデルの身を案じ、クオーラもビーデルの事を心配していた。

 

 そして翌日。週末までにはあと一日あるが、ビーデルの事が心配…という事で、今日は全員で学校を休み、一日早く四人で悟飯の家に行く事となった。かなり遠いので、四人の手持ちを合わせて四人乗りのジェットフライヤーをチャーターしたのだ。

 

「………おい、完全に民家がなくなったぞ。本当に場所あってんのか?」

 

「あ、ああ…。以前悟飯君が言っていた住所はこのもうちょっと先の筈だ…」

 

「田舎なんてレベルじゃないです。本当に森と山しかありません…」

 

「ビーデル…大丈夫かな…」

 

 そうしてフライヤーを飛ばすこと数時間。人の気配が全くしない無人の地を往く四人だったが、あまりに辺境すぎる場所にシャプナー、ウットナ、クオーラの三人は驚きを隠せない様だ。イレーザだけはビーデルの事を思っている様だが…。

 

 更に一時間程飛んだあと、ようやく一つの民家らしきものが見えてきた。

 

「お、あれか!?」

 

「付近に人の家はない。恐らくそうだ!」

 

「うん、あの民家の隣に止まってる飛行機、いつもビーデルが乗ってるやつだ!」

 

「と、いう事は間違いないですね! 早速行ってみましょう!」

 

 ようやくみつけた人の気配を感じる場所に、四人は意気揚々と向かう。民家の付近にフライヤーを着陸させ、民家の入り口の扉を叩いてみると、中から一人の妙齢の女性が顔を出した。

 

「お! おめえらが悟飯ちゃんの友人達だな!? オラが悟飯ちゃんの母親のチチだ! いつも悟飯ちゃんがお世話になってるだ! 遠い所からやってきて疲れただろ!? 話は悟飯ちゃんとビーデルさんから聞いてるから、ちょっと中でゆっくりしていくといいべさ!!」

 

「あ、ビーデル! やっぱりビーデルはここに来てたんですか!? 今どこにいるんですか!!?」

 

 快活に挨拶をしてくれる女性…チチに、最初に口を開いたのはイレーザだ。その必死の表情を見ても、やはり親友の事が心配なのだろう。

 

「ん? ビーデルさんなら悟飯ちゃんと悟天ちゃんと一緒に今”気”の修行をしてるだ。この家を出てまっすぐ歩いたところだと思うだよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「あ、ビーデルさんずるい! 私もすぐに行かなきゃ!!」

 

 チチの言葉を聞き終わるや否や、彼女が指差した方向へ一目散にかけていくイレーザ。おまけに、気の修行…という言葉に反応して、クオーラまでイレーザの後を追って駆けて行ってしまった。

 

「…ったく。ビーデルが心配なのはわかるけど、挨拶くらいしっかりしろよな…」

 

「チチさん、連れと妹の失礼、申し訳ありません…」

 

「ふふ、いいべいいべ。友達を心配するのは当然だし、あの年頃の娘っ子はやっぱり元気が一番だべ!」

 

 女子二人の少し礼を失している行動にシャプナーは苦言を、ウットナは二人の代わりに頭を下げるが、ありがたい事にチチは特に気にしている様子はない。

 

「で、おめーらはどうするだ? やっぱり悟飯ちゃん達の所へ行くけ?」

 

 続くチチの質問に、男子二人も「はい!」と元気よく答えた。

 

 

 

 

 

 そうして、移動する事十数分。そこには、専用の武道着に着替えた悟飯と、座禅を組み集中しているビーデル。そして、そのビーデルを興味深そうにじっと見ている少年の姿が。

 

「ビーデル!!」

 

「…ん? あ、イレーザ! シャプナーにウットナ君、クオーラちゃんも!!」

 

 ビーデルの姿を見つけて、まず駆け寄ったのはイレーザだ。そして、その後ろからクオーラ、シャプナー、ウットナの順に顔を出す。

 

「もう、心配したんだよビーデル!」

 

「ごめんねイレーザ。ちょっとムキになり過ぎちゃったかも…」

 

「ちょっと…じゃねえよ。全く、無茶な家出を敢行しやがって…」

 

「まあ、とにかく何事も無くて何よりだ!」

 

「ていうか、抜け駆けずるいですビーデルさん! 私もまじります!」

 

 座禅を解き、イレーザ達を迎えるビーデル。そして、シャプナーが少し苦言を発しはしたものの、全員安堵の表情を浮かべている。

 

「お、お兄ちゃん…。この人達誰?」

 

 そんな中、ビーデルを見つめていたあの少年が、悟飯の陰に隠れながら悟飯に聞いていた。

 

「ああ、お兄ちゃんの学校の友達だよ。皆良い人たちだから、怖がることはないよ」

 

「………ふーん」

 

 己の帯を掴みながら説明する悟飯だったが、残念ながら少年の警戒は解けそうにない。

 

「あの子は?」

 

「悟飯君の弟で、悟天君って言うんだって」

 

 その少年…悟天の事をイレーザに説明するビーデル。

 

「この子…あの映像の孫悟空って奴に似てるな…」

 

「おお、確かに…! 悟飯君、この子もやっぱり君みたいに強いのか!?」

 

「いや、どうだろう…? 何も教えてないから今は全然だと思うけど…」

 

「ええ!? 何も教えてないんですか!? それはそれですごーくもったいない気がします…っ!」

 

 首を傾げながらのシャプナーの一言にウットナが反応し、興味全開の様子で悟飯に聞くウットナだが悟飯の答えはあまり芳しいものではない。その答えにクオーラがもの惜しそうに大声を上げる。その一部始終を、悟天は悟飯の後ろで警戒を続けながらも見つめていた。

 

「まあ、その話はとりあえず置いといて、まずはビーデルさんに聞きたい事がある。何故こんな家出まがいの事をしたんだ?」

 

「あ、それ私も気になる! どうしてこんなことしたのビーデル!?」

 

 そんなクオーラを制止し、改めてビーデルに向き直るウットナ。途端、イレーザもビーデルを問い詰める。一瞬話を逸らそうとしたらしいビーデルが周囲を見回すが、既にその場の全員の視線が自分に集まっている事に気づくと、観念して近くの岩に腰を下ろし喋る体勢に入った。




 ※ 悟飯君はまだ悟天君が超サイヤ人になれる事を知りません。(フラグ)


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超サイヤ人…?

 話はビーデル達と悟飯の組手が行われた時間までさかのぼる。あの後、会話もそこそこに各自解散となったのだが、ビーデルが帰宅するや否やミスターサタンから強めの詰問を受けたらしい。

 

 最初は夜遅くまで外出してたことと、家に男を二人も連れ込んだことに対してだったので、ビーデルも強めに振り切ろうとしたのだが、振り切り切れずについ悟飯の名を口にしてしまったのだ。

 

 その名を聞いた瞬間、ミスターサタンの顔色が変わったというのはビーデルの談だ。直後、夜遅くだというのにミスターサタンは何処かへと出かけてしまった。ビーデルが執事に聞いたところ、この時はテレビ局に向かったそうだ。

 

 そして翌日。ビーデルが起床し登校の準備をしていると、いつの間にか帰ってきていたミスターサタンがビーデルの登校を制止し、そのままミスターサタン自身が学校へと向かっていったそうだ。

 

 恐らくは悟飯に関する事だろうと察し、ビーデルも同行したいと訴えたのだが、厳しい表情で却下された。しかし、ビーデルも諦めるつもりは毛頭なく、かと言ってどれだけ強く訴えても昨日と同じ結果になる…という事で、ここで咄嗟の奇策に出る。

 

 なんと、今まさに出立しようとしているミスターサタンの衣服に盗聴器を仕掛ける…というものだ。一応擁護しておくと、これはビーデルの私物ではなく、以前に警察に協力して捕まえた悪人から押収したものだ。故に碌に整備もしていなかったので動作するか不安だったそうだが、この時はちゃんと動いたと言う。

 

 そして、少し間を置いてから始まるミスターサタンと悟飯の会話。当然、この会話は盗聴器を通じてビーデルにも筒抜けであり、故に知ってしまう。セルを倒したのがミスターサタンではなく、誰あろう同級生である孫悟飯その人であったことを。

 

 実をいうと、悟飯に会う以前からミスターサタンがセルを倒したというのには違和感はあった…と、ビーデルは語る。とはいえ、それは小さな小さな感覚。心から振り払うのも簡単なものだった。

 

 しかし、悟飯に出会い近づくにつれ、その違和感は無視できない程に大きく膨れ上がれあがっていく。そこに、この真実を聞かされたショックはかなり大きかったようだ。

 

 ショック…つまり、悟飯たちから栄光をかすめ取り、世界中の人たちを欺いていた事。ビーデル自身の正義感の強さもショックを増強させる仇となったのは言うまでもない。

 

 加えて、これまでのミスターサタンのあまりよろしくない”お遊び”という事実も加わり、遂に感情が爆発して家出してしまった。

 

 

 

 

 

 …というのが、事の経緯の様だ。

 

「―――考えれば考えるほど頭がぐるぐるしちゃって…。しまいには、正義面して警察に協力なんてしてるのも滑稽だなぁ…なんて考えちゃって…」

 

 落ち込んだ様子でポツポツと語るビーデル。その、今にも泣きだしそうなその雰囲気は、容易に口を開くことを許さない。

 

「ビーデルさん、一つだけいいかな?」

 

 しかし、その雰囲気を悟飯が破って見せた。

 

「確かに、セルを倒したのはサタンさんじゃなかった。でも、サタンさんの”勇気”がなければ、多分僕達もセルに殺されていたと思うんだ」

 

 諭すような悟飯の口調に、ビーデルのみならずその場の全員の視線が悟飯に集中する。

 

「あの戦いの最中に、僕に助言をくれた人がいたんだ。でも、その人は重傷を負っていて、本来なら動けない筈だった。それを僕の傍にまで連れてきてくれた人がサタンさんなんだ。近くにセルがいて、殺されてもおかしくない…という恐怖を押し切って。…まあ、これを知ったのは、昨日のサタンさんと話をしていた時に、サタンさん自身から聞いたんだけど…」

 

 悟飯の語りに、ビーデルは驚いた様子で目を丸くしている。その様子を見るに、どうやらこの辺りの会話は知らない様だ。

 

「え? ビーデル、悟飯君とミスターサタンの話聞いてたんじゃないの?」

 

「き、聞いてたけど…。悟飯君がセルを倒したって聞いた時点で頭が混乱して、とにかく何処かへ行きたいっていう気持ちでいっぱいだったから、それ以降の会話はあまり聞いてなくて…」

 

 そのビーデルの様子に困惑するイレーザに、ビーデルは釈明をする。どうやら、昨日のミスターサタンと悟飯の会話の流れは、セルは悟飯が倒した→前述の助言の人を移動させたのはミスターサタン…という順序であり、ビーデルがしっかりと聞いていたのは前半の〈セルは悟飯が倒した〉というところまでの様だ。

 

「………そっか。パパも活躍してたんだ…」

 

「うん、それは間違いないよ。それに、僕達としてはあまり人目に付きたくなかったから、その矢面に立ってくれたサタンさんに感謝こそすれども、批難なんてする気は一切ないよ」

 

 少し安堵した様子のビーデルに、悟飯が更に笑顔でフォローを重ねる。

 

 これにて一件落着! …とまではいかないだろうが、ビーデルの表情は語りを始める前よりかはだいぶ安定を取り戻していた。

 

「…にしてもよ、一つ疑問なんだが、悟飯がセルを倒したってのは本当なのか? 確かに俺達よりかは数段強いのは明らかだし、ミスターサタンも認めてるっていうけど、それでもいまいち信用できないぜ…」

 

 と、ここでシャプナーが口を開く。安定し始めたビーデルを見て雰囲気に余裕が出てきたのを感じたのだろうが、その言葉通りに疑惑の瞳で悟飯を凝視している。

 

「いや、俺の記憶が正しければ、あのセルとミスターサタンの映像に移っていた謎の集団の中に、一人だけまだ子供がいたはずだ。恐らくはあれが悟飯君…なのだろうが…」

 

 しかし、このシャプナーの疑問はウットナの言葉によって遮られる。セルとミスターサタンの映像自体は生放送だったので、見た事ある人はかなり多い…いや、当時はほぼすべての人が見ていただろう。当然ウットナも例外ではなく、その時の映像を思い出そうと己の頭を指でトントンと叩きながら言葉を紡いでいく。

 

「確か、あの少年は金髪だった…と、記憶している。悟飯君、どうして黒髪に戻したんだい? あんな緊急事態時に若気の至りで金髪にしていた…なんてセンチメンタルな理由でもないだろうし…」

 

「へ!? そ、それは…。ま、まあ、一応正体を隠すため…かな? は、はは、ははは…」

 

 何気ないウットナの問いに、しかし悟飯は明らかに動揺気味に答える。どうやら、セルを倒した…以外にも彼にはまだ秘密が隠されている様だ。

 

 が、残念ながらこの秘密は、予想外の存在によってあっさりと白日の下に晒されてしまった。

 

「お兄ちゃん、金髪って何?」

 

 これまでの一部始終を見聞きしていた悟天が唐突に悟飯に尋ねる。

 

「ん? あ、ああ…。金色の髪の事だよ…」

 

「あはっ、じゃあこれの事だね!」

 

「え?」

 

 間抜けな声を出す悟飯を他所に、悟天は気合を入れて構えを取る。すると、ドウッ! っという破裂音と風圧と共に、なんと黒髪に黒い瞳から、金髪に碧色の瞳…そして黄金のオーラを纏う別人へと変身してしまったのだ!

 

「……………………あがっ、ご、ごて、お、おま、お前それいつから!?」

 

「え? うーん………。忘れちゃった!」

 

 顎が外れているのでは? という程に間抜けに大口を開けながら問う悟飯に、悟天は無邪気に答える。

 

「信じられない。僕も死んだお父さんも、超サイヤ人になるにはすごく苦労したんだけどな…」

 

「ふーん…」

 

 なんとか表情を元に戻しながら続けて喋る悟飯だったが、まだ頬がピクピクと痙攣しているところを見るに、悟天の変身にはかなり衝撃が大きかったようだ。対して、悟天は悟飯の話を聞いても不思議そうに悟飯を見上げるのみだ。

 

「―――悟飯君? 超サイヤ人…? というのは、なんだい?」

 

 と、ここにウットナから声がかかる。途端、ギクッ!! という効果音でも付いているかのように、分かりやすく体を跳ね上げる悟飯。ついで、そーっとウットナ達の方へと視線を見遣る。明らかに脳内で(しまったーーーーっ!!)と言っているのが分かるほどに、その表情は冷汗と動揺が入り混じっている。

 

「つまり、当時の悟飯さんはその超サイヤ人? というものになっていたと?」

 

 次に、いつもの如く瞳をキラキラさせているクオーラから言及が入る。クオーラ的にはこれも気功波の応用みたいに見えているのかもしれない。

 

「…子供の頃は出来ていたのに、今は出来ない…なんてことはないわよね、悟飯君?」

 

 トドメとばかりにビーデルからも言及が入るが、しかし悟飯は答えない。何とかこの場を切り抜けようと考えているのか、視線を右往左往させるのみだ。

 

「ねぇねぇ、悟天君ってやっぱり強いの?」

 

 と、ここでクオーラが悟天に話しかける。どうやら、悟飯に聞くより悟天に聞いた方が良いと判断したようだ。可愛げのある顔に似合わず、なかなかの策士のようだ。

 

「…わかんない。トランクス君とは対決ごっこしてるけど、負ける事の方が多いから…。トランクス君は空も飛べるし…」

 

「そっか。それは悔しいよね…。じゃあさ、お兄ちゃんに組手で稽古をつけてもらうってのはどうかな?」

 

 少し落ち込み気味に話す悟天に、これまたとんでもない提案をするクオーラ。空を飛ぶ…という不可解な単語が混ざっていたが、それはスルーしながら悟天の心情に同情する様子もまた狡猾だ。

 

「…っ!? したいっ! 兄ちゃん、僕もっと強くなりたいから稽古つけてっ!」

 

「ですって悟飯さん! 可愛い弟のお願い、叶えない訳にはいきませんねっ!!」

 

 必死の形相で悟飯の足に組み付き懇願する悟天に、クオーラもニコニコと笑顔…俗にいう<殴りたい、この笑顔>という類の物だが…で、悟飯に迫る。ここまでの話の流れから察するに、どうやらクオーラはこの兄弟の組手が見てみたいようだ。

 

「判断が早いね、クオーラちゃん…」

 

「クオーラちゃん、えぐすぎないか…?」

 

「本当に、あいつは目的の為なら手段を選ばないな…」

 

 睨むビーデルと、ニコニコ顔のクオーラ、そして懇願する悟天に挟まれ、観念したように脱力する悟飯を見て、かなり引いている様子のイレーザとシャプナー。ウットナも、妹の意外な押しの強さは知っている様で引きはしていないが、ヤレヤレ…とばかりにため息を吐いている。

 

 こうして、ウットナ達は悟飯と悟天の兄弟組手を見学する事となるのだった。




 超サイヤ人の瞳の色ってなんて表現すればいいんだろうと、ちょっと迷いました。アニメの当初はエメラルドグリーン(本作では碧色と表記)だった筈ですが、なんか普通の水色のやつもあったような…? 調べてもうまく出てこない…。


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宇宙人 サイヤ人

「むっ、ふっ…」

 

 悟天と組み手をする前に、入念に準備運動をする悟飯。この前のビーデル達との組手前には碌に準備運動もしていなかったので、それだけこの超サイヤ人という状態の強化度合は大きいのだろう。そして、

 

「ふっ!」

 

 悟天と同じく悟飯も気合と共に身体に力を入れる。すると、悟天と同じく悟飯も金髪に碧色の瞳、そして黄金のオーラを纏う別人へと変身する。

 

「やっぱりできるのね…」

 

「どういう原理なんだあれ…?」

 

 その様子を見て、深刻な表情で呟くビーデルと、不可解そうに眉をひそめるシャプナー。イレーザとウットナも似たような表情だが、唯一クオーラだけは純粋に興味深そうに瞳を輝かせている。

 

「よし! さあ悟天、何処からでも来い!」

 

「うん、じゃあ行くよ! 思いっきり行くからね!!」

 

 お互いに一礼をした後に、構えを取り合う兄弟。そして、

 

「たあーーっ!!」

 

 最初に動いたのは悟天だ。が、驚くべきはそのスピードだ。なんと、掛け声をあげてから悟飯までの間合いを詰めるその動きが、ビーデル達には誰にも見えなかったのだ!

 

「くっ!?」

 

 そして、そのスピードに驚いたのは悟飯も同様らしい。動きと共に繰り出された蹴りを何とか両腕でガードするが、その表情は驚愕に満ちている。

 

 更に、その攻撃によって悟飯の体勢が少し揺らぐという事態も起こる。つまり、悟天の攻撃はスピードだけでなくパワーも十二分に発揮されているという事だ。もし下手なガードでもしようものなら、体勢を崩されて大きな隙を作ってしまうだろう。

 

「えいっ! やあっ!!」

 

 しかし悟天は容赦しない。続けざまにパンチ、キックと二連撃を繰り出す。

 

「ぐっ! ぐぐっ!!?」

 

 それを膝と腕で何とかガードして凌ぐ悟飯だが、明らかにその顔色には焦りの色が浮かんでいる。まさか、弟がこれほどまでの強さだとは微塵も思っていなかったのだろう。

 

 なんとか距離を放そうとバックステップから木の裏に回る悟飯だったが、悟天はお構いなしに回し蹴りを繰り出す。信じられない事に、横幅だけでもビーデルの体くらいはありそうなかなり大きな木を、その一撃はやすやすとへし折ってしまったのだ!

 

「す、凄い…!」

 

「最早人間技ではないな…」

 

 そのあまりに非常識な一撃に、クオーラは感嘆の声を上げ、ウットナも冷や汗交じりに悟天を見つめる。

 

 とはいえ、今一番たまったものではないのは間違いなく悟飯だろう。回し蹴りこそ跳んで回避したものの、悟天の追跡は一向に緩まない。縦に高い岩山を器用に跳び上っていく悟飯に、同じく器用に跳び上りながら執拗に悟飯に攻撃を加える悟天。

 

 しかし、その岩山の頂点に着き、尚も続く悟天の攻撃から逃げるように空中へと飛び上がった悟飯に対して、悟天は何故か攻撃を中断してしまったのだ。

 

「あー、兄ちゃん空を飛ぶなんてずるいよー!」

 

「………へ? あ、そうかお前確か…」

 

 頬を膨らませて不満を口にする悟天に、悟飯も少し首を傾げた後ハッと気づく。そう、悟天は先ほどトランクス君は空も飛べる…つまり、自分は飛べないと言っているのだ。

 

「兄ちゃん、空飛ぶなら僕にも教えてくれないと無しだからねーっ!!」

 

「分かった分かった! 教えてやるよ空の飛び方!! ………順序がまるっきり逆だな…」

 

 ぷりぷりと怒る悟天に、空の飛び方を教える約束をする悟飯。途端、悟天は嬉しそうに笑いながら、その場で跳び上がったりバク転したりし始める。その時に悟飯も何とも言えない笑みを浮かべていたが、この時悟飯が何を思っていたのかを知るのは彼自身のみだ。

 

「ね、ねえ…。生身で空を飛ぶって、そんな簡単な事なの…?」

 

「さ、さあ…。俺にはトリックにしか見えないが…」

 

 その一部始終を見ていたビーデル達。イレーザとシャプナーがお互い不可解そうに首を傾げるが、

 

「だったら悟飯さんに聞いてみればいいんですよ! おーい悟飯さーんっ!!」

 

 相変わらず、ただ一人目がキラキラしているクオーラが、大いに興奮した様子で右手を振りながら悟飯に向かって駆けだす。その後を、慌ててビーデル達も追いかける。

 

「悟飯さんっ! 私達でも空って飛べるんですかっ!?」

 

 空から降りてきた悟飯と、岩山から跳び下りてきた悟天の傍に駆け寄ったクオーラの、前置きも何もない直球の質問。

 

「え? そ、そうだなぁ…。クオーラさんなら気功波も撃てるし、頑張れば十分出来ると思うよ」

 

「と、いう事は、やはりこの空を飛ぶ技術も気に関係しているという事ですね!?」

 

 腕を組む悟飯の口から出た答えに、クオーラは満足そうにしている。

 

「お姉ちゃんも、空を飛びたいの?」

 

「うん、飛びたい! この技も気功波の類の物なら習得したい!」

 

 続く悟天の問いに、両手を握り締めて力説するクオーラ。そして、良く分からないが何か波長が合ったのだろう。悟天とクオーラは共に笑みを浮かべながらハイタッチを交わす。

 

「ところで悟飯さん! やはり、超サイヤ人というのも気功波の応用なのでしょうか!?」

 

 そして、更なるクオーラの質問に、しかし悟飯はあからさまに顔をしかめ俯いてしまう。

 

 どうにも答えに窮している様だが、クオーラに続き駆けつけてきたビーデル達の視線もあり、少しの間を置いてから観念した様子で顔を上げた。

 

「その、この事はあまり言いふらさないで欲しいんだけど…」

 

 と、前置きをする悟飯。どんな重大な事実を告げられるのかとその場にいる全員が生唾を飲み込む。

 

「僕のお父さん…つまり、孫悟空は宇宙人なんだ」

 

 しかし、悟飯から告げられた言葉は、その場にいる全員の予想を斜め上に上回る珍妙なものだった。当然ながら全員呆けた顔をするが、いきなり宇宙人なんて単語を出されたらこうなるのも仕方ないだろう。

 

「―――宇宙人…ってのは、地球外生命体の事か…?」

 

 たっぷりと間を置いてから、シャプナーがかすれた声で尋ねる。対して、悟飯は頷くのみだ。

 

「…って事は、悟飯君は宇宙人と地球人のハーフって事?」

 

「うん、そうなるね」

 

 次にイレーザが確認を取るが、これにも悟飯は素直に頷く。

 

「…因みに、その宇宙人って言うのはどんな種族なの…?」

 

 更に、ビーデルが質問をする。その険しい表情を見るに、種族の特徴を聞く事で、本当か嘘かを見極めようとしているのだろう。嘘なら、なにかしら綻びがある筈だ…というところだろう。

 

「サイヤ人っていう戦闘民族だよ。基本は地球人と一緒だけど、尻尾が生えてるのが特徴だね。そして、戦闘民族っていう名の通り、戦うのが大好きな種族。僕のお父さんは優しかったけど、伝え聞いた話によると、かなり危険な種族…だったみたい。僕も小さい頃に酷い目にあわされたし…」

 

 しかし、その種族…サイヤ人についてスラスラと語る悟飯には、嘘をついている様子は何処にもない。挙句に、何かを思い出しているような姿を見せられては、ますます真実味が出てきてしまう。

 

「せ、戦闘民族か…。信じがたい話だが、確かにそれなら君や悟天君の戦闘能力も説明はつくな…」

 

「もしかして…。名前的に、超サイヤ人になれるのは、サイヤ人の血を受け継いでいる者だけ…?」

 

 そんな悟飯の様子に、ウットナも受け入れ難そうにしながらも、納得はしている様子だ。一方、クオーラはある思考にたどり着き、悲壮感漂う雰囲気で呟く。

 

「うん、そうだね。だから、クオーラさんは超サイヤ人には…」

 

「そ、そんな~………」

 

 その思考を悟飯に肯定され、ガックリと膝をつくクオーラ。悟天が脱力するクオーラを気に掛けるが、だいぶ落ち込んでいる様ですぐには立ち直れそうにない。

 

「…ん? ちょっと待ってくれ悟飯君」

 

 と、ここでウットナから待ったが入る。

 

「君の父親が宇宙人なのは…まあ分かった。でもそうなると、孫悟空氏と孫悟飯翁の関係はどうなるんだ? まさか孫悟飯翁も宇宙人…の訳ないよな?」

 

 不可解そうに首を傾げるウットナ。ウットナからしたら、名字が同じ以上血縁関係があると思っていたのだ。しかし、そうなると孫悟飯翁まで宇宙人という事になってしまう。

 

 だが、ウットナがこれまで見てきた孫悟飯翁の映像では、彼はそのサイヤ人とやらの特性とはまるで一致しない。特に、戦いそのものを楽しそうにしている孫悟飯翁が映っている映像など一つもないのだ。

 

「悟飯おじいちゃんは、この星に送り込まれていた当時まだ赤ん坊だったお父さんを拾ったんだって。送り込まれた理由は…その、あ、あまりよろしくない理由なんだけど、それを悟飯おじいちゃんが更生した…んだと思う」

 

 対して、悟飯もその事情を説明するが、どうもあやふやな感じがするのは否めない。とはいえ、彼の父親が赤ん坊のころの話らしいので、そんなもの正確に説明などできる筈もない。この事情をしっかりと説明できるのは、当事者の孫悟飯翁くらいだろう。

 

「おお、そうか! そんな危険な種族を更生させられるとは、流石孫悟飯翁だ!」

 

 しかし、そんなあやふやな言説にウットナは先ほどのクオーラと似た興奮を見せる。その様子の似通いぶりは、流石兄妹といったところか。

 

「兄ちゃん、お話終わった? 早く空の飛び方教えてよー」

 

「…そうです! 超サイヤ人はまあ仕方ありません…諦めますが、ならせめて空の飛び方は教えて下さい!!」

 

 と、ここで悟天が物欲しそうに悟飯に空の飛び方の伝授を催促する。その言葉に反応し、ガックリと膝をついていたクオーラまでもが悟飯に縋りつくように伝授をせがんできた。

 

「ちょっと悟飯君! さっきまで気の修行をしていたのは私なんだから、まず私に教えるべきでしょ!?」

 

 更に、この騒動にビーデルまでもが乱入してくる。先ほどまで悟飯の宇宙人発言に顔をしかめていたのだが、悟飯に空の飛び方を教わろうとする悟天とクオーラを見て、最初に修行を受けたのは自分なのに、この二人に先を越されるのは悔しい…と感じたのだろう。

 

「…ま、宇宙人でも何でもいいか」

 

「だね~…。悟飯君は悟飯君だし…」

 

 ビーデル、クオーラ、悟天の三人に激しく催促されて狼狽えながらも落ち着かせようとしている悟飯を見て、シャプナーとイレーザもなにやら毒気を抜かれた様子で笑みを浮かべていた。

 

 が、そんな中において、ウットナだけはなにやら難しい様子で考え込んでいるのだった。




 実際、転校生が宇宙人と地球人のハーフだったとか、一昔前のラノベにありそう…というか読んだ事があります。別作品ですが、ハルヒさんとか大喜びしそうだな(ネタが古いのは許して…)


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天下一武道会の賞金

 孫兄弟の組手を見学したその日の夜。ビーデル達は孫家で夕食を頂いていた。

 

「チチさん、夕食までごちそうになってありがとうございます」

 

「そったら事、気にするでねえ! 悟飯ちゃん達みたいにドンドン食え!!」

 

 お礼を言うウットナに、チチも気前よく返事をしてくれる。

 

「い、いや、この二人みたいには…」

 

 しかし、そのチチの言葉にシャプナーが少し引き気味に引き攣らせた声を上げる。が、それも無理はないだろう。まだ食事が始まって五分も経っていないというのに、既に悟飯と悟天の両名は数十人分はあろうかという量の料理を平らげてしまっていたのだ。

 

「昨日も見たけど、本当に何回見ても凄い食べっぷり…」

 

「体のどこにこれだけの量が入ってるんだろう…? 太ってる訳でもないし…」

 

「ほえ~…。これがサイヤ人の血なんですねぇ…」

 

 その両名の様子を、ビーデル、イレーザはやはり少し引き気味に、クオーラは興味津々といった感じで見つめている。

 

「そうか…。悟空さがサイヤ人だって事、話しちまったんだな」

 

 が、クオーラの言葉を聞いたチチが少しうつ向きがちに呟く。確かに、あまり他言していい様な話ではないし、もし悪い奴に聞かれでもしたらそれこそ面倒ごとが起こるだろう。

 

「う、うん…。ごめんお母さん」

 

「うんにゃ、大丈夫だ。大勢の人と関わる以上、いつまでも秘密になんて出来ねぇべ。これくらい、悟飯ちゃんが学校に行く時から覚悟してただよ。それに、ヤムチャさんも言ってたけど、皆いい子達だしな」

 

 謝る悟飯に、チチはきにするな! とばかりに直ぐに笑顔で応える。と、同時にチチのビーデル達に対する評価も上々である事も明らかになった。

 

「し、しかし、これは本当に食費が凄い事になってそうですね…」

 

 と、ここでシャプナーが話の矛先を変えるべく、再び孫兄弟の食べっぷりに話を戻す。とはいえ、未だに孫兄弟の食べっぷりに対するショックも抜け切れていないみたいなので、これはこれで本心を語っている様子だが…。

 

「んだなぁ~…。お父の財産も尽きてきてるし、このままじゃ少し不味いかもしれねぇだ…」

 

「そ、そうなんですか? あれ、じゃあ俺達が夕飯を頂いているのも少し不味いのでは…?」

 

 そのシャプナーの言葉に応じるチチだが、あまり芳しい返事ではない。そんなチチを見て、ウットナも少し慌てた様子で聞き返すが、

 

「大丈夫だべ! 近いうちに大きな収入が入ってくる予定があるだ! な、悟飯ちゃん、ビーデルさん!」

 

「はい、任せてくださいおば様!」

 

 何故か自信満々に返答するチチ…とビーデル。しかし、ビーデルと同じく同意を求められた悟飯は気まずそうに茶碗で顔を隠している。

 

 大きな収入…? それも、悟飯とビーデルで得られる…? と首を傾げるウットナ、クオーラ、シャプナー、イレーザの四人であったが、少し間を置いてから、クオーラがあっと声を上げる。

 

「もしかして…天下一武道会の事ですか?」

 

 そして、クオーラが口にしたイベント名に他の三人もハッと顔を上げた。

 

「んだんだ! 近々天下一武道会が開催されるっていうでねえか! しかも優勝賞金は一千万ゼニー!! 二位でも五百万ゼニー貰えるってんだから、悟飯ちゃんとビーデルさんで、計一千五百万ゼニー貰える計算だべ!! いやー、あの大会も太っ腹になったもんだべなぁーっ!」

 

 どうやらクオーラの答えは当たっていたようで、途端にほくほく顔で興奮気味に喋りだすチチ。彼女の中では既に悟飯とビーデルが優勝と準優勝をする事が決まっている様だ。確かにこの二人…特に悟飯は無類の強さではあるが、この時点ではまだ捕らぬ狸の皮算用なのは言うまでもない。

 

「ビーデルは良いの? ミスターサタンがチャンピオンじゃなくなっちゃうけど…」

 

「良いのよ! イケない遊びもそうだけど、最近はパパ、トレーニングもさぼるようになってきたから、ちょっとこの辺りでお灸をすえた方が良いわ!」

 

 チチの期待を受けて意気込むビーデルに、イレーザが少し眉根を寄せながら尋ねる。だが、ビーデルの返答は手厳しいものだ。セルとの闘いでの誤解こそ解けたものの、完全な雪解けにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 と、ここまで意気揚々としていたビーデルだったが、ここで突然申し訳なさそうにイレーザとシャプナーに向き直る。

 

「…という訳だから、私暫くここで悟飯君とトレーニングするつもりなの。一応、学校の長期休暇の申請書は用意したから、学校の皆には上手く言って欲しいの。お願い!」

 

「待て待てビーデル。学校はそれでいいとしても、ミスターサタンはどうするんだ? あの人、今もお前の事を心配して探し回ってるんじゃないのか?」

 

 そのビーデルのお願いに、しかしシャプナーが口を挟む。

 

「大丈夫だ! サタンさんにはもううちでビーデルさんを預かってると連絡してあるだよ! まあ、あの時は弱ってるビーデルさんを見てつい小言を言っちまったけど、余計なお世話だったべかなぁ…」

 

「良いんですよおば様! 言って貰えるうちが花ですから!」

 

 そこに、更にチチからフォローが入る。と、同時にチチはミスターサタンに何やらを言った様子だが、ここは同じ親として言わずにはいられなかったのだろう。

 

「ビーデルさんが残るなら、私も残ろっと! どうせなら私も天下一武道会に出てみようかなぁ…。でも、私の年齢じゃ、ギリギリで少年の部になっちゃうんだよなぁ…。できれば悟飯さんやビーデルさんと一緒に戦いたいんだけど…」

 

 一方、クオーラはクオーラで何かを呟いている。どうやら、現在の天下一武道会の部門分けに少し不満を抱いている様子だ。

 

「待てクオーラ。お前も学校があるだろうが」

 

「そんなの、サタンシティへ向かう時点で長期休暇の申請を終えてるよ。折角長めにとってるんだから、その分満喫しないとね!」

 

 ウットナ的には聞き逃せない呟きに苦言を呈するが、残念ながらクオーラはどこ吹く風だ。こうなったらこの妹は梃子でも動かない事を熟知しているウットナは、思わずため息を吐く。

 

「悟飯ちゃん、この娘っ子も強いだべか?」

 

「う、うん…。独力で気功波を使えるくらいだから、しっかり学べば強くなると思う…」

 

「へえー! そりゃ凄いなぁ!! という事は、三位の三百万も頂きだべな!!」

 

「あ、いえ、私は年齢的に大人の部には出れないから、少年の部になるんです。そっちでも賞金って出るのかな?」

 

 新たな収入の有力候補の出現に、チチが大いに喜び沸き立つが、大してクオーラは少し申し訳なさそうに大人の部には出れない(=賞金は取れない)ことを白状した。のだが、

 

「大丈夫よクオーラちゃん。確か少年の部でも優勝と準優勝の賞金は大人の部と同額の筈だから」

 

 ここにビーデルから助け舟が入る。そして、この言葉を聞いた途端、チチの顔色が変わった。

 

「ど、どどど、同額!? と、いう事はプラス一千万…っ!? おめえ、クオーラちゃんって言うのか!? 頑張るだぞ! おめえの働きに我が家の家計がかかってるだよ!!」

 

「あ、は、はい! 何だか良く分かんないけど頑張りますっ!!」

 

「悟飯ちゃんもしっかりこの娘っ子を指導してやってくれな!」

 

「―――う、うん…」

 

 先ほど以上に興奮気味にまくし立てるチチに、クオーラはわずかに戸惑いながらも元気よく返事をするが、悟飯の返事は何とも歯切れが悪い。何やら良心が疼いている感じだ。

 

「お母さん、僕も出ていい?」

 

 と、ここでずっと黙って会話を聞いていた悟天が口を開く。

 

「ん? うーん、悟天ちゃんには流石にまだ早いかもしれねぇなぁ…」

 

 しかし、見るからに子供という感じの幼い悟天に対してはチチも渋る。

 

「大丈夫だよ! 僕こう見えても強いし、いざとなったらあの金色の髪にもなれるし! 僕も兄ちゃんやお姉ちゃん達と一緒にかけーを助けるんだ!」

 

「悟天ちゃん…っ! 分かった、悟天ちゃんも出場していいだよ! でも、危ないと思ったらすぐに降参するだよ!? いざとなったら不良になっちまっても構わねえべ!」

 

「いや、ダメだよお母さん! 超サイヤ人になったら勘のいい人が見たら僕達の正体がばれちゃう!! って言うか、お母さん悟天が超サイヤ人になれるって知ってたの!!?」

 

 健気な悟天の意気込みに、感動の面持ちで出場の許可をするチチだったが、その後の言葉の無節操ぶりに慌てて止めに入る悟飯。と、同時にチチが悟天が超サイヤ人になれるのを知っていたらしいことにも、かなり驚いている様子だ。

 

「―――ね、ねえ、シャプナー…。これって流石に八百長っぽくない…?」

 

「―――ま、まあ、いいんじゃねえか…? 強い奴が勝つってのが天下一武道会の根底のルールだし…」

 

 天下一武道会…の、主に賞金の事でチチを筆頭に大はしゃぎするビーデル、クオーラ、悟天を見て、少し訝し気にシャプナーに聞くイレーザ。対して、シャプナーも一応は頷きながらもどこか釈然としない様子だ。悟飯も何か申し訳なさそうに頭を垂れているが、恐らくはこの二人と同じ理由だろう。

 

「で、兄さんはどうするの!? 一緒に大会に出る!?」

 

 そんな中、興が乗ったらしいクオーラがハイテンションでウットナに尋ねるが、当のウットナは静かに首を横に振り、おもむろに口を開いた。

 

「いや、俺は孫悟飯翁の軌跡を追いたい。昼間の悟飯君の話を聞き終わった時から考えていたんだが、恐らく今が孫悟飯翁をもっと詳しく知る最大のチャンスだ! 多分、今を逃したら二度と翁に近づくことはできない…という予感がするんだ…」

 

 力強く宣言してからしみじみと語るウットナに、天下一武道会の事で盛り上がっていた場も静まり返ってしまった。

 

「チチさん。もし差し支えなければ、孫悟飯翁の墓石の場所などを教えて頂いてもいいですか? お参りだけでもさせて頂ければ、凄くありがたいのですが…」

 

「ご、悟飯さんの墓か? えー、そういやぁ、悟空さからそのあたりの事は聞いた事ねぇなぁ…。お墓参りも一度も行った事ねぇし…」

 

 そうして、改めてチチに向き直り尋ねるウットナだったが、返ってきた答えにウットナは驚愕の表情を浮かべる。

 

「一度もお参りしたことがない!? さ、流石にそれは親不孝過ぎるのでは…?」

 

「でも、あの人ならあり得るかも…。ちょっと非常識っぽそうだったし…」

 

 苦言を漏らすウットナに、ビーデルも同調する。恐らくは、あの映像の嫁や結婚という事すら知らなかったっぽい孫悟空を思い出しているのだろうが、そもそも男親に不信感を抱いている感じもする。

 

 そんな感じで、孫悟空という人物のイメージが悪くなりそうになっている事に、チチが少し焦ったのだろう。とんでもない事を口走ったのだ!

 

「まあまあ、悟空さも悟飯さんの事は大事に思ってたよ。それに、悟飯さんはもう故人だから難しいけど、会おうと思えば会えない事もなかったし…」




 執筆してて思ったのですが、そういえばミスターサタンの交友関係って悟空たち以外には全く明らかになってないんですよね。作中でも、ハイスクール編ではミスターサタンのわがまま放題の行動を諫める人は一人もいませんでしたし、やはり英雄は孤独になる定めなのか…と、ちょっと暗い気持ちになってしまいました…。


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