英雄伝説リリカルREBORN! 炎の軌跡 (蒼空の魔導書)
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プロローグ 『繋がる三つの世界。 集いし若き英雄達と次元魔王軍襲来!』
新たなる英雄伝説、開幕の前奏


やっと書けたーーーッ!! 今年に入ってから裏でコソコソと企画していたガチクロスオーバーの新作が、遂にゴールデンウィーク明けとなる本日、初★投★稿ッ!

主人公はタグにも書いてある通り、『閃の軌跡シリーズ』と『(はじまり)の軌跡』──ここ最近の『英雄伝説軌跡シリーズ』五作品に長く渡って主人公を務めあげた“リィン・シュバルツァー”と、こういった世界間転移物作品においてはもはや定番の『家庭教師ヒットマンREBORN!』の主人公である“沢田綱吉(ツナ)”なのですが……しかし今作品は二人の主人公を差し置いて第一話はリリカルなのはサイドから開始されます。 従って主人公二人の初登場は次回以降になります。(本当はリィンとツナが登場するところまで書いて第一話を終える計算だった筈なのに、そこまで書くのに思ったよか道が長い……)

尚、自分、これが活動停止から復活してから初の新作ですので、本文にルビや傍点を振ったり等、色々と書き方を変えてみました。 作品の内容だけでなく、やっぱ自分自身も日々進歩しなくっちゃね♪


イメージOP『冥夜花伝廊』(TVアニメ『刀語』OP1より)




果たして、ただ神や精霊といった超常的上位存在に選ばれて、力を手にすれば“勇者”か?

 

格好良い派手なコスチュームを身に纏い、悪党や怪獣などの人類社会の害敵をやっつけさえすれば、それだけで“正義のヒーロー”になれるのか?

 

……否、たとえ神に選ばれて光の力を手にしたとしても、それを己の欲望の為に振るったとしたら、その者は魔王よりも深い闇に堕ちる事だろう。 人々への自己顕示で見栄えの良い衣装を着て、相手の事情を欠片も汲み取ろうともせず自身の正当性を誇示する踏み台とせんが為に問答無用の武力行使で強制排除を行おうものならば、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎない……。

 

輝かしく高潔な英雄(ヒーロー)の肩書も、途轍もない特別な力も、【英雄足り得る心】を持ち得なければただの暴力……そのような独善者など誰からも認められぬだろう。 意志を曲げず決意を貫く覚悟を持ち何者にも屈さぬ不屈の精神を見せたところで、内に秘める魂が汚れているなら、それは結局ただ目的地点へ突っ走るだけしか能の無い向こう見ずの人でなし、どこまでも頭の固く、意見の合わない敵対者を轢殺する暴走列車に他ならないだろう……。

 

……ならば、英雄(ヒーロー)という存在が数多くの人々から信仰と称賛を集め、光輝き足らしめるモノとは、果たして何だろうか?

 

【英雄足り得る心】とはどういったもので、それを手に入れるにはどうすればいい?

 

いったい英雄(ヒーロー)である彼らは何を持って、その勇気や覚悟の炎を灯して輝かせるというのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦75年9月中旬頃。 数多の次元世界の秩序と法の統制管理を行う司法組織──《時空管理局》の転覆とそれによる自らの科学力を中心とした世界支配を目論んだS級広域次元犯罪者《ジェイル・スカリエッティ》とその一味によって、管理局の法の中心である《第一管理世界ミッドチルダ》に未曾有の大空襲事件──《JS(ジェイル・スカリエッティ)事件》が齎された。

 

無限の欲望(アンリミテッドデザイア)》を開発コードに持つ、時空管理局最高評議会によって管理世界の秩序の統制維持の為、必要悪の役割を与えられ生み出された、先史文明時代に存在したとされる天才科学者を模倣した人造人間であるスカリエッティは最高評議会への復讐を企て、機械兵器【ガジェットドローン】や自らが生み出した12体の戦闘機人《ナンバーズ》や古代に起きた次元世界大戦を終結させた大英雄──《聖王》オリヴィエ・セーゲブレヒトが乗ったとされる古代戦艦【聖王のゆりかご】を使い、管理局の中枢である地上部隊が在るミッドチルダの中心──《首都クラナガン》を強襲。 都市の機能を壊滅状態に陥らせ、彼の復讐対象であった管理局最高評議会の三者や地上部隊の統括責任者であった《レジアス・ゲイズ》中将、他クラナガンの防衛にあたっていた数多くの武装隊魔導師らが犠牲になった。

 

……だがしかし、スカリエッティ一味の世界変革の野望はこれまでであった。 時空管理局が誇るトップエース級の魔導師である少女達が集った少数最精鋭部隊《古代遺物管理部機動六課》の決死の奮闘により、事件の首謀者スカリエッティと彼の配下であったナンバーズら全員の無力化に成功し、スカリエッティの切り札であった聖王のゆりかごも機動六課の尽力による時間稼ぎが功を奏して到着が間に合った管理局本局の主力艦隊の総砲撃によって撃沈された事で、JS事件は管理局の勝利に無事収束したのだった。

 

戦いで払った犠牲は決して少なくはなかったが、事件が解決した事で被害にあった街の傷跡や人々の暮らしは徐々に回復に向かい、事件解決の立役者である機動六課の戦乙女達も日常に戻って戦いの傷を癒しつつあり、これでミッドチルダと次元世界の平和は取り戻された……かに思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦75年10月10日 時刻 14:00──第一管理世界ミッドチルダ中央区、首都クラナガン南市街エリア。

 

「だ、駄目だ……手が付けられないぞ!」

 

「クソッタレ! 反管理局軍の卑怯者が! ゆりかごの空襲で地上の防衛戦力が著しく低下したこの時を狙って奇襲を仕掛けて来るなんてよっ!!」

 

砲撃を受けて崩れたビルの残骸を背に地上部隊の武装隊員数名が敵軍の索敵から身を隠し、苦境に立たされた現状に阿鼻叫声を上げている。 陰から顔を少し出して覗いてみれば街中を敵軍が放った謎の自律機械ユニットや小ビル程の巨大甲冑騎士の姿をした有人ロボット等が闊歩して展開し、其処かしこに散って武装抵抗する地上部隊と激しく交戦を繰り広げている。

 

市街の奥に雲より高く聳え立つ塔の偉容を曝す【地上部隊本部】の上を見遣れば、空を埋め尽くす無数の航空艦隊と飛行ブースターを背中に装備した巨大甲冑騎士型有人ロボットが我が物顔で占拠し、次々に迫り来る首都航空隊魔導師を恐るべき火力と物量で威圧して近づけさせない、難攻不落の制空権を敷いているのが眺められた。

 

先のJS事件より一月経たずして、時空管理局の中心である第一管理世界ミッドチルダは再び管理局の法に仇名す者達による襲撃を受ける事態になっていた。 敵の名は約六年前に時空管理局の多次元世界に対する司法体制を「魔法技術の独占による武力支配だ」という言い掛かりを動機に起こされた反管理局軍《ミッドナイト》といい、連中は先のJS事件のゆりかご決戦の打撃の影響で経済インフラの停滞と管理局地上部隊の防衛戦力が消耗した隙に狙いを付けて、どこからか管理局の知り得ない未知の異端技術で製造された機械兵器どもを引っ提げ、昨日未明にミッドチルダに向けて総力を揚げた奇襲を仕掛けて来たのだった。

 

「戦況は芳しくないようね……」

 

この隊を率いる隊長と思われる青紫色の長髪をした少女隊員がミッドナイト軍の投入してくる戦力の物量と未知の異端技術兵器によって劣勢を強いられている状況に、額に手を当てて呻きを漏らした。 共に居る部下の隊員達も上官である彼女の言葉に同意を表すが、しかし誰一人としてその目に絶望の闇は無く、寧ろまだまだ諦めないという希望の光を宿している。

 

「なぁに、きっと大丈夫ですよナカジマ隊長。 我々は苦境を極めたあのゆりかご決戦をも乗り越えたのですからね」

 

「そうですよ。 それにあの決戦を我らの勝利に導いた機動六課が今回の作戦の主役を引き受けてくれているんですから、今度も絶対に勝てますって♪」

 

「そうそう。 確かにゆりかご決戦の直後に疲労が溜まっていたところに連続で襲撃されたのは勘弁でしたけど、あの管理局が誇る“奇跡の部隊”がある限り、ミッドナイト軍の腰抜け共が何を持ち出して来ようが、きっと敵じゃないですよ」

 

「まあナカジマ隊長は機動六課の事をここにいる他誰よりも信頼しているでしょうから心配する必要な無いでしょう? だって貴女はあの決戦の時、洗脳されて敵側に寝返ってたから、実際に機動六課と戦って無様に倒されてた訳だし☆」

 

「ちょっと、リブロ二士!? あの時の事は話さないでって言ったでしょう! アレは私の黒歴史なんだから……くすん」

 

「「「「「あっははははははは!」」」」」

 

苦境の真っ只中だというのに呆れる程に笑顔が絶えない戦場の武装局員達であった。

 

そう、どんな劣勢に立たされようと、彼らに絶望はない。 次元世界の危機を何度も奇跡を起こして救ってきた英雄である戦乙女達が必ず、明日への勝利を齎してくれると信じているからだ。

 

「スバル、フェイトさん、なのはさん……どうか、御武運を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都クラナガン中央、地上部隊本部正面玄関道路。

 

「──ディバインバスタアアアァァーーーーッ!!」

 

「ジェットザンバー! ハァァッ!!」

 

砲撃音と爆発音と銃撃音が鳴り響く戦場の真っ只中を、生身で浮遊し高速で低空を翔けるツインテールの美女二人が、後方から走って付いて来ている武装した六名の部下の先頭を切り、それぞれ機械の杖と光の大剣を振るって立ち塞がる敵ユニットを撃破しつつ突破していく。 片や凜とした大きな碧い瞳を持つ穢れ知らずの白いロングスカートバトルドレスを身に纏った長い栗毛の美女が手に構えた黄金の槍のような形状の機械の杖の穂先から巨大な桜色の閃光を盛大に撃ち出し、片や宝石のように美しい真紅の瞳を持つ白いマントを肩に取り付けた黒い軍服風の戦闘服を身に纏った長い金髪の美女が斬馬刀サイズに巨大化させた光の刀身を天上高くから豪快に振り下ろして、目の前に見えた地上本部エントランス前に防衛線を張っていた自律機械兵器達を纏めて薙ぎ払い、内部へと突入していく。

 

【魔力】という自然エネルギーを用いて科学術式で自然法則や概念事象を書き換える、《魔法》という名の科学技術を使って戦闘を行う《魔導師》……何を隠そう、彼女達こそ次元世界の秩序と法を守護する使命に務める時空管理局の主戦力。 そしてこの二人の美女こそ、先のJS事件を解決に導いた“奇跡の部隊”──《古代遺物管理部機動六課》の前線部隊を率いる分隊長にして、管理局が次元世界に誇る二大エース──

 

 

≪エース・オブ・エース≫高町なのは CV:田村ゆかり

 

 

≪金色の閃光≫フェイト・T・ハラオウン CV:水樹奈々

 

 

「……どうやらミッドナイト軍は本気みたいだね、フェイトちゃん」

 

「うん……」

 

地上本部のエントランス広場に広がる惨状を目の当たりにしたなのはとフェイトは一旦足を止め、厳しい顔付きになって辺りを見回し確認。 二人互いに緊張感を共有したその時、丁度彼女達の背中に続いて追い駆けて来た後続の部下達がエントランス広場の玄関口から突入して来た。

 

「なのはさん、フェイトさん、お待たせしまし──なッ!!?」

 

白い鉢巻を額に巻いた青いショートヘアの少女を先頭にして隊長二人に追い付いた六名の魔導師……彼女達もエントランスに足を踏み入れた瞬間視界に飛び込んできたエントランスホールの惨状を見て全員が忽ち真っ青な顔に変えて絶句した。

 

 

≪機動六課FW≫スバル・ナカジマ CV:斎藤千和

 

 

「こ、これって……!?」

 

「いったい何が……」

 

「酷い……」

 

「人の死体が、こんなに沢山……」

 

「キュルルゥゥ……」

 

大きな瞳を揺らがせて動揺に全身を強張らせるスバルをはじめ、彼女の背後から場の惨状を眺めるオレンジ色のツインテールの少女、赤髪の歳幼い少年、白い帽子を被った桃色の髪の幼女とその腕に抱かれた純白の幼竜らもまた悲痛に表情を歪めつつ戦慄を口から漏らしていた。

 

 

≪機動六課FW≫ティアナ・ランスター CV:中原麻衣

 

 

≪機動六課FW≫エリオ・モンディアル CV:井上満里奈

 

 

≪機動六課FW≫キャロ・ル・ルシエ CV:高橋美佳子

 

 

≪使役竜≫フリードリヒ CV:高橋美佳子

 

 

彼女達機動六課FW(フォアード)陣は隊長二人よりもずっと経験の場数は少ない未熟者ではあるが、先のゆりかご決戦を戦い抜いて半年前の新人の頃よりも心身共に立派に成長した。しかしそれでもこの悲惨を極めた光景にはとてもじゃないが、どうしても血の気を引かずにはいられない……しかしそれは無理もない、彼女達の目の前に広がっているのは大勢の地上本部職員が大量の血を流して事切れ、ホール中に屍の絨毯が敷き詰められた地獄絵図なのだから。

 

「……どうやら、完全に地上本部はミッドナイトの連中の手に堕ちてやがるようだな」

 

「ああ。 少なくとも一階から五階まで気配を探ってみて、生きている人間はいないようだ。 人質すら取らないとは……奴等は本気で管理局を相手に勝てる自信があると見えるな」

 

先行部隊の殿を務めていた歴戦の雰囲気を感じさせる、残りの真っ赤なゴスロリ調騎士服を纏った御下げ髪の幼女と背の高い女騎士然としたピンクブロンドポニーテールの女性の二人がなのはとフェイトの隣へと毅然と歩み出て、自分の見識から分析した地上本部の状況予想を二人に話す。 百戦錬磨のトップエースである隊長二人でさえも気分を害する程惨たらしいホールの惨状を見渡しても、この二人は少しも精神を乱さず冷静を保てる程に戦場慣れした歴戦の猛者のようだ。

 

彼女達はなのはとフェイト──機動六課の若き分隊長の二人の補佐である副隊長。 そして現在は珍しくなった古代ベルカ術式魔法の使い手で、単騎の戦においては天上天下無双とされている古代ベルカの魔導騎士──

 

 

≪鉄槌の騎士≫ヴィータ CV:真田アサミ

 

 

≪烈火の将≫シグナム CV:清水香里

 

 

「クソッ! 連中、ゆりかご決戦で管理局(こっち)の戦力が消耗した隙を突いて主導権(イニシアチブ)を取ったからって、調子に乗りがって! おまけに何所の世界のものかも知れない異端技術……確か連中の司令官(チョビヒゲオヤジ)が昨日管理世界ネットをジャックして自慢気にベラベラと話してやがった情報だと『【我々の崇高な考えに理解のある協力者】が()()()()()()()()()()()()のエネルギー技術を提供してくれた』だなんて言ってやがったか?」

 

「うん……。 そこら中の死体には【質量兵器】によるものだと思う切断痕や弾痕以外にも、殺傷設定の魔法のものとは違う()()()()()()()()()が確認できる。 此処までに交戦してきた敵の機械兵器達も、スカリエッティのガジェットドローンともまるで違う規格のものなのはどう見ても間違いないし。 それに──」

 

ヴィータとフェイトが敵軍の戦力情報を確認し合っていると、突然此処に居る全員の意識に、此処には居ない若い女性の声が届いて来る。

 

『──機動六課、後方支援(ロングアーチ)より最前線攻略部隊各員へ連絡。 どうやら全員無事に第一目標到達地点(ポイント)に到着したようやな』

 

聴こえてきた方言なまりの女性の声は、どうやらなのは達機動六課の総部隊長のもので、後方支援から《念話》を通じての定時連絡だった。

 

《念話》とは通信機器を使わなくても魔導師同士が魔力を精製する体内の幻想臓器──《リンカーコア》を通じ、直接脳の意識領域に魔力中継(パス)を繋げて遠距離思考通話を可能とする一般的な補助魔法だ。 口に出さないで距離の離れた相手と話し合いが出来る為、戦闘中味方との作戦指示・情報共有や近場に居る人間に聞かれたくない話などがしたい場合に重宝する。

 

『うん、大丈夫。 みんな誰一人欠ける事なく、ちゃんと無事に付いて来てるよ』

 

『地上本部前の敵の防衛網が思ったよりも厳しくて、ちょっと突破するのに時間を掛けたけれど、なんとか順調に進めてる。 そっちはどう?』

 

『う~ん。 首都航空武装隊とギンガ達地上部隊の陽動がちょいキビシー感じかなぁ? ミッドナイト軍がクラナガン中に展開し放っちょる妙ちくりんな機械兵器ども、スカリエッティのガジェットドローンと違ってAMF(アンチ・マギリンク・フィールド)はあらへんが、その代わり戦闘性能がめっちゃ高いし、かなり高度な対魔法防御も組み込まれとるし、大型の機体に至っては装甲もかなり堅いときたもんやし、何よりもこっちが高威力の魔法を発動しようとして詠唱しはじめたら、その瞬間にピンポイントに反応して詠唱妨害(マジックキャンセル)ミサイルを撃って来よるもんやし、おまけにアイツらときたら()()()使()()()()()()()()()()()()()()()を使用してきよる……まったく、一体なんやねんアレは? 挙句の果てにガ◯ダムみたいな巨大有人ロボまで量産投入して来とるんやで。 あんなん反則やろ!』

 

『確かあの敵軍の司令官(チョビヒゲオヤジ)は《魔煌機兵》って呼んでたよな、あの騎士甲冑着たガイコツみたいな巨大ロボット……サイズ的に対人である魔導師戦の規格じゃねーし、デカイくせに動きが俊敏で、纏っている装甲も他の機械兵器共よりもずっと堅いうえに数もかなり多いから、アタシのグラーフアイゼンはもちろん、なのはの砲撃でも簡単には破壊できねーときた。 アレをまともに全滅させるなら航空艦隊が何軍個かは投入する必要になると思うぜ、はやて……』

 

『我々の方も敵軍が戦力に導入してきた異世界の異端技術についての情報は、未だに掴みかねています。 昨日の宣戦布告の放送で敵軍の司令官が語っていた情報が真のものなら、奴等に未知の技術を渡した“異世界の協力者”なるものが、今回の奇襲の裏で糸を引いた可能性が……』

 

『あーもー! 言われなくても分かっとる分かっとる! とりあえず一番厄介な敵のガ◯ダム……もとい魔煌機兵への対抗戦力は今クロノ君がゆりかご決戦の時と同様に本局の主力艦隊を連れてミッドに向かって来てくれとる途中やから、それまでなんとか踏ん張って持ち堪えてみるわ。 ミッドナイト軍の協力者については警戒しとるが、今のところは姿を見せへんようやし、敵を引き付けるので手一杯やから、今は作戦に集中するで!』

 

『それじゃあわたし達は手筈通り、そっちの陽動の隙に地上本部の内部から屋上に昇って、上空を占拠している敵軍航空艦体の中央から抜けて、ミッドナイト軍の総司令官──《ラコフ・ドンチェル》を確保しに、彼が乗艦して敵全軍に指令を出していると予測される敵軍の司令母艦《ガラハッド》へ乗り込みに向かうね』

 

『頼んだで、なのはちゃん達。 この電撃作戦の成功は君ら攻略部隊に賭かっとるんや。 ゆりかご決戦の疲労はまだ回復しきっておらへんから当然無理は禁物やけど、折角スカリエッティ達から苦労して守った次元世界の平和を、卑怯モンのミッドナイト軍なんかに壊されるわけにはアカン。 ギンガ達地上部隊の皆が頑張って敵を引き付けてくれとるし、 本局からの援軍もすぐそこまで来とる。 せやから皆、ここが頑張り所や。 気張って行くんやで!』

 

『『『『『『『『了解ッ!!』』』』』』』』

 

作戦確認を終えて全員念話越しに敬礼すると、部隊長との連絡が切れる。 するとなのは達隊長陣が真剣な面持ちでスバル達FW陣へと向き直った。

 

「そういう訳だから皆、屋上まで高いけれど、一息に走って行くよ!」

 

「こんな状況だし、たぶんエレベーターは使えないと思うから、非常階段を上って行く事になるけれど、焦って転んだり、無理はしないように気を付けてね」

 

「はやても言っていたが、先日のゆりかご決戦後にアタシ達は全員疲労と怪我で入院して、まだこの間に退院したばかりの病み上がりだ。 だけどそれを言い訳にして退く訳にはいかねぇ。 スカリエッティ一味との戦いで数多くの戦力を失った今の管理局にはアタシ達以外の主力は下手に動かせねぇ状況だからな」

 

「故にお前達、我ら機動六課の敗北は管理局の敗北と思え。 ここに居る全員と部隊長である主はやて、ツヴァイにシャマル、ザフィーラやヴァイスら機動六課全員の望む希望(ひかり)への未来(あす)を守る為に、皆一丸となって粉骨砕身を尽くせ!」

 

「「「「はいッ!」」」」

 

隊長達に鼓舞されて、部下であるFW陣がそれに元気のよい返事で応える。 だがその直後、スバルが一瞬玄関口に振り向き、そこから覗く戦闘音が飛び交う戦場の街並みの遥か先を気に掛けて誰かを心配するかのように表情を沈める。

 

「大丈夫かなぁギン姉……」

 

「スバル、やっぱりギンガさんが心配なの? ……まあ、先日のゆりかご決戦では()()()()になってたから、気持ちは理解できるけれど……」

 

「ううん、ギン姉はきっと大丈夫だよティア。 作戦前あの決戦以来久しぶりに顔を合わせた時はギン姉、すっかり立ち直って元気にドカ盛りのスタミナ丼をドカ食いしてた程に回復していたし、後方の作戦指揮を任されている八神部隊長だって、ギン姉に下手な無茶はさせないと思う」

 

ティアナに心配されたスバルだったが、自慢の逞しい姉を信じて気丈に笑顔を作り、自分の頬を両掌でパンッと叩いて気持ちを引き締める。

 

「だからあたし達は前を見て進もう。 このくらいの困難は今までだって何度もそうやって乗り越えて来たんだ。 きっと今回だって皆で全力全開の力を合わせれば、この先に何が待ち受けていてもきっと勝てる筈」

 

「うん、その息だよ」

 

スバルの前向きな意気込みを聞いたなのはがそれに感心してそう言ってから、最後に攻略部隊全員に向けて自分の意気込みを語りかける。

 

「大切な人達や夢と未来を守る為に、もう一度全力全開で頑張って行くよ! わたし達の背中を預けて後方で戦ってくれているはやてちゃんやギンガ達、縁の下でわたし達を支えてくてれているクロノ君やユーノ君やリンディさん達管理局の仲間、ミッドチルダに住まう善良な人達、そしてわたし達の帰りを待っててくれている“あの子”の為にも……この作戦を絶対に成功させて、この中の誰一人も欠けることなく全員無事に六課へ帰って来よう、みんな!」

 

「「「「「「「はい(うん)(おう)(うむ)ッ!!」」」」」」」

 

次元世界の平和と未来、それぞれの大切な知人を思う気持ちは皆なのはと同じだ。 機動六課前線メンバー八名全員、返事と共に心を一つにして、ひたむきに未来(さき)へと向かって駆け出して行く。 そこで並走しながらフェイトが非常に心配そうな表情でなのはに言う。

 

「なのは、作戦前にもきつく言ったけれど、今回【リミットブレイク】は絶対に使用禁止だからね」

 

「……うん、大丈夫。 今回は使わないよ」

 

「本当に? 君が自分自身に向けて言う【大丈夫】はイマイチ信用できないからなぁ……。 先日のゆりかご決戦だって、そう言っておいて結局最終形態のブラスター3までも解放しちゃって、それで限界を超えるまで身体とシステムを酷使した挙句に、またリンカーコアに重い負担を……」

 

「にゃはははは。 ごめん。 あの時は“あの子”を絶対に助ける為に負けられない戦いだったから、ああやって約束を破っちゃったけれど、今回は頼れる皆が一緒だからさ」

 

「なのは……」

 

「それに自分の身体が負担でいっぱいで、これ以上の無理をやったら今度こそ危ないって状態なのは、自分が一番よく理解しているから……」

 

「……ふぅ。 わかったよ……でも本当に何があっても絶対に無茶しないでね、なのは。 君の身体が大切なのは君だけじゃないんだからね」

 

地上本部内部の区画通路を疎らに徘徊する敵の機械兵器達と交戦を繰り返しながら、百階を越える高さの中央棟屋上まで駆け昇って行くなのは達……。

 

「屋上の扉が見えたよ!」

 

「よし、全員覚悟はいいな? ……開けるぞッ!」

 

この半年間毎日基礎体力トレーニングを怠らず地道に身体の体力を鍛えてきたおかげで、息は絶え絶えになったがスタミナに余裕を持たせて屋上に出る扉に辿り着く事ができた彼女達は、戦う覚悟を決めて先陣を引き受けたシグナムが扉をバンっ!と勢い良く音を立てて開いた……その瞬間──

 

「──ッ!!? 全員、散れッッ!!」

 

敵が来るのを待ち構えていたのであろう正体不明(アンノウン)の番人が、両脚の推進装置(ブースター)を噴射させて、屋上の出入口からまんまと密集して出て来たなのは達に向かって不意打ちの突貫飛行を仕掛けて来たのだった。 扉を開けたら唐突に、真正面からガスマスクで面を覆った紅葉色ボディースーツを着た大柄の男性のような姿をした鉄機人が、大変硬そうな鉄の頭を向けてこちらに高速で突っ込んで来る光景が視界に飛び込んできた瞬間、先頭のシグナムが逸早く背中の全員に緊急回避をしろと叫ぶ。

 

「「「「「「「きゃああああぁぁぁーーーッ!!」」」」」」」

 

「ぐぬぉぉっ!!」

 

アンノウンの推進力が乗った頭突きを咄嗟にシグナムが愛剣の《レヴァンティン》で受け止める。 だが相手の鉄頭の固さと推進力があまりにも強烈な威力を齎した為、一瞬の拮抗の末にシグナムは踏み留まれず突き飛ばされて出て来た屋上と内部階段を繋ぐ出入口を突き崩し屋上の縁を飛び出して宙へ投げ出され、更にはその余波によって一瞬前に彼女の指示に応じて全員それぞれ緊急回避の態勢を取っていたなのは達も吹き飛ばされ七人バラバラに離された位置に屋上のヘリポートを転がった。

 

「おのれ、姑息な真似をッ!」

 

「ランスターの弾丸をお返しよ。 喰らいなさい!」

 

しかしそこはさすが先のJS事件を解決した英雄部隊と言ったところであった。 全員直ぐに受け身を取るや浮遊魔法を使用して宙に止まるやで相手に追撃の隙を与えず体勢を立て直し、屋上の枠から少しはみ出た空中に滞空したシグナムが敵の不意打ちに対して憤慨し跡形もなく崩れ散った屋上の出入口の残骸山に頭から埋もれた敵アンノウンを見据えて悪態を吐くと、それを合図にティアナが双銃《クロスミラージュ》を両手に隙を晒した敵アンノウンのケツに魔力弾のグミ撃ち連射をしこたま撃ち込み、全弾命中。 出入口の崩壊に巻き込まれた貯水タンクの中身が雨となって魔法の戦乙女達の身に纏う魔法防衣──《バリアジャケット》を打ち濡らし、敵アンノウンが居た場所を包み込んだ粉塵と爆煙を剥がす。 だがそこには既に奴の姿は無かった。

 

「嘘、いない……一体何所に──」

 

「ティア、上だッ!」

 

「──え……っ!!?」

 

周りを見回して撃ち逃した敵アンノウンの行方を捜すティアナはスバルが呼び掛けた警告に反応してはっと空を見上げた刹那、眼前に迫る()()()()が視界を埋め尽くした。

 

──しまった!? 油断した、避けられない!

 

そう思って一秒後に業火球に飲み込まれてこの身を焼き尽くされる想像を思い浮かべ、死の恐怖のあまりキツく目を閉じるティアナだったが、何故か一秒以上経過しても身を焼かれる感覚どころか炎が放つ熱さすら感じなくなった。 寧ろ優しいように暖かいものを感じて恐る恐る閉じた目を開けると、視界に飛び込んできたのは熱波に棚引く艶やかな栗毛といつも自分が遠い目標に追い駆けてきた不屈のエースの背中だった。

 

「なのはさん……!」

 

「ティアナ、油断大敵だよ!」

 

自分を庇い立ってくれた誰よりも頼りになる隊長の背中を見て、ティアナは驚きと安堵を入り交じらせた声音を漏らした。 二重四角の魔法陣の模様をした大円盾の防御結界を展開して眼前に迫っていた業火球を、歯を食いしばって逞しく阻み立ちながら、なのはは背中に庇った大事な部下に注意散漫を叱咤しつつも、優しい微笑みを向けて気遣いを促していた。

 

ティアナが業火球に飲み込まれそうになる直前、15m程離れた位置に居たなのはがそれに気付いて咄嗟に高速移動魔法《フラッシュムーヴ》を使い、コンマの一瞬でギリギリティアナの前に割り込んで庇い、前方防御結界魔法《ラウンドシールド》を瞬時に展開して業火球を防いでいたのだ。

 

だがしかし、敵アンノウンの二段構えの不意打ちもこれで防げたかに思えたが……。

 

──な、何この赤い炎!? わたしのラウンドシールドが徐々に構築術式ごと削られて……いや、()()()()()()……ッ!!

 

「くっ……それだったら──バリアバーストッ!!」

 

ラウンドシールドに阻まれながらも消滅せず、それどころか意志を持つように結界に噛み付いて少しずつ体積を削り砕こうとしてくる業火球に、普通の炎とは違う異質な性質が秘められている事を読み取ったなのはは、このままでは数秒持たずこの炎に結界を破られてしまい、自分も背中に庇ったティアナも危険になると判断を下し、容量限界を超える魔力量を流し込みラウンドシールドを暴発させ、それに喰らい付く業火球を爆風によって吹き飛ばした。

 

「ハァ、ハァ……ゲホッ、ゲホッ!」

 

「な、なのはさん。 ごめんなさい。 油断した私を庇ったばかりに、大変な無理をさせてしまって……」

 

「ううん、ティアナが無事なら、わたしは大丈夫だよ。 ……それよりも、敵は」

 

「……あそこです」

 

ティアナは自分を庇ったが為に病み上がりの身体にムチを打って余計な負担を掛けさせてしまった上司に肩を貸しながら、空に視線を向ける。

 

ミッドチルダ随一の階層を持つ地上本部を駆け上がって来るのにかなり時間を掛けた為、現在時刻は既に16時を過ぎている。 その為、空はもう夕焼けに染まっており、ミッドチルダという世界特有のものである昼時にもクッキリと見れる二つの月が夕陽の光に照らされて色鮮やかな朱色に染まっている……のだがしかし、その風情高い黄昏の空模様は今は無骨極まりなく物々しい無数の空飛ぶ巨大な鉄の箱の夥しい大群が、そこに在る夕陽と二つの月を貪る羽蟲の如く群がり、夕焼け空のキャンパス全体をほぼ隙間なく薄気味悪い黒の斑点で塗り潰していた。 その正体は地上本部上空を不当占拠したミッドナイト軍の主力航空艦隊であり、その中心を陣取った一番星の如く一際巨大な偉容を構える航空母艦が、なのは達の作戦拘束目標である敵軍総司令官ラコフが乗艦していると予想される敵軍航空艦隊の司令母艦《ガラハッド》だろう。 次元世界にとって全くの未知である異世界の異端技術を存分に注ぎ込み量産した手駒達が地上の街中や艦隊の外側から飛び掛かって来て必死の抵抗を見せている管理局の魔導師達を、読んで字の如く高みの見物で嘲嗤っているかのような錯覚すら覚えてなんとも忌々しいが、ティアナが見据えたのは天空に座す鉄の玉座の下を守護するように、両脚と背中に背負った飛行推進装置で滞空(ホバリング)をして自分達をガスマスクの鉄仮面越しに光る無機質な眼光で見下ろしていた、敵アンノウンの鉄機人だった。

 

 

“導力結晶回路機構、畜炎変換機能武装、()()()()()”無人駆動式人型戦闘機動兵器──≪オーバル・モスカ≫

 

 

他の敵機械兵器とは明らかに一線を画した雰囲気、四つの推進噴射口から轟々と噴き出す“赤い炎”、眼元のあたりから『ピピピ』という計測音を小さく鳴らして地上本部屋上ヘリポートの自分達全員の能力を計視しているような様などは、魔法を封じられた無防備状態を晒して周りから一斉に無数の銃を向けられるよりも何十倍もの畏怖を感じ取れる……それ程の威圧を放つ敵アンノウン──オーバル・モスカの姿をなのは達八人全員は険しい目で見上げる。

 

「いったい何なんでしょうか、あの人型の敵機械兵器……今までのとは違う怖さを感じます……」

 

「うん、そうだね……。 二段構えの不意打ちができる高度な戦術AIと見掛けによらない高速機動力もそうだけど、それ以上にあの“赤い炎”が脅威的だ。 機動六課の中でもザフィーラと一二を争う防御力を持つなのはが展開した防御結界魔法を()()()()だなんて、とても普通じゃない」

 

「だな……。 しかし、勿論それもそうなんだけどよ……なんて言うか、アイツは他の敵とは規格が──」

 

『──ピピピッ、敵性戦力ノ解析完了。 時空管理局ノ保有スル暫定最高戦力、【古代遺物管理部機動六課】ノ前線主力部隊ト判定。 総合戦力脅威度認識ヲSランクニ引キ上ゲマス』

 

「──って、なにっ!?」

 

「喋った!」

 

『【畜炎変換機能武装】ノ出力設定ヲ上方修正。 並ビニ【導力結晶回路機構】ノEP(エネルギーポイント)ヲ消費。 《導力魔法(オーバル・アーツ)》、発動シーケンスニ移行……詠唱駆動(ドライブ)開始!』

 

警戒の姿勢を向ける機動六課前線攻略部隊を余所に、唐突とオーバル・モスカが明確な機械音声言語を発して彼女達を驚かせると、計測に出た相手戦力の脅威度に合わせて機体性能を引き上げる。 すると今度は自分の全身を覆うように、次元世界の魔導師にとっては全く未知の魔法術式を球状に展開し出した。 しかし、なのは達にはつい先程その様な術式を使用してくるモノに見覚えがあった。

 

「あの術式って……まさか、ここまでに交戦した敵機械兵器達も使用してきた()()()使()()()()()()()()()()()()()()()……ッ!?」

 

「みんな、気を付けて! 来るよ──ッ!!」

 

詠唱完了(ドライブ・オールグリーン)──《ブルーアセンション》!!』

 

オーバル・モスカが詠唱駆動を完了させて自らを覆っていた青い魔法術式を消滅させた刹那、水属性中級導力魔法《ブルーアセンション》が発動し、防御姿勢を取るなのは達が立つ地上本部屋上ヘリポート全体が超高圧水流の渦によって蹂躙された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、機動六課の部隊長が全体指揮を務めている後方支援(ロングアーチ)では──

 

「八神部隊長、大変です。 たった今、クラナガン上空に【次元震】の予兆と思われる、次元空間位相の“揺らぎ”を観測しました!」

 

「何やて工藤! 予測規模はどの位や!」

 

「私はルキノです。 それと予測規模自体は小規模程度なんですが……そのぉ……」

 

「ん? なんや、歯切れ悪いなぁ。 問題が有るんならハッキリと言ってくれへんか?」

 

「その……“揺らぎ”というのは余震というよりも……まるで()()()()()()()()()って感じなんですよね……」

 

「……はいぃ!?」

 

観測通信士の意味不明な報告に戸惑いを漏らして呆然と可愛らしい大きな目を丸くする部隊長の女性。 彼女の手元にある空間小モニターに転送されてきた映像に映し出されたのは、クラナガン中央に在る地上本部の上空を陣取ったミッドナイト軍主力艦隊の丁度真上に出現した二つの“灰色の炎”が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、通常では絶対に有り得ない異常極まりなき事象が起こっている様子であった……。

 

数多の海を守護する叙情的な魔法少女達、覚悟を炎に灯すアサリ貝の家族達、そして空の女神の祝福を受けた大陸で絆の軌跡を紡ぐ英雄達。

 

三つの英雄伝説が交差する時は──近い!

 

 

 

 

 

 




いやー、軌跡シリーズ×REBORN!×リリカルなのはstsのガチクロスは、実はずっと前から書きたかったんですよー。 「この御時世だと何時どうなるか分からないから、やりたい事があるなら今のうちにやっておきなさい」という、親父殿の言葉が切っ掛けで、今年1月に入ってからプロット作成して、この『英雄伝説リリカルREBORN! 炎の軌跡』の投稿連載に思い切って踏み切る事ができました!!

この調子で未だに更新停止している作品も徐々に復活させていきたいですが、取り敢えず当分の間は『THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡』とこの作品の二枚看板で更新していきます。

次回こそ、主人公であるリィンとツナを出したいです。 てか絶対に出します! リリカル伝説の方みたいにずっと主人公不在になるなんて、もうやってたまるものかッ!!(決意)

尚、主人公の二人以外の軌跡とREBORN!キャラも続々と登場させていきます。 さ~て、最初に来るのは誰かな~?

では読者の皆様、応援よろしくお願いします!


イメージED『super survivor』(PS2専用ゲームソフト『ドラゴンボールZ スパーキング! メテオ』メインテーマより)




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黄昏の空に翔け昇る戦乙女達

ここから主人公二人(リィンとツナ)の初登場シーンまで長々と三万字以上も掛かってしまいましたので、本日三話に分けて連続更新いたします。




ミッドチルダの首都クラナガンの上空を余すことなく埋め尽くした、反管理局軍ミッドナイトの主力航空艦隊……その他のどの艦よりも物々しい物量の兵器が艤装されていて、巨大で豪奢な威容を見せつけている銀色の次元航行母艦が一隻、玉座のようにデカイ顔をして艦隊の中心を陣取っている。

 

 

ミッドナイト軍、主力艦隊司令母艦──SR(シスターレイ)級次元航行魔導空母≪ガラハッド≫

 

 

その眼下で自軍の放った秘密兵器であるオーバル・モスカと機動六課の前線攻略部隊が熾烈な交戦を展開している中、突然艦隊の更に上空に出現し、空間を燃やす二つの“灰色の炎”──

 

「──ふははは。 まったく、相も変わらず早い仕事をするものだ。 さすがは我が片腕にして我が親友、と言ったところだな」

 

その様子をガラハッドの中央に高く聳え立つ艦橋(ブリッジ)の屋根から見上げ、店のショーウィンドゥに飾られた大人気の玩具を眺める子供のようにワクワクと無邪気に、だが純粋故に人が見れば凶悪極まったニヒルな嗤いを浮かべている男の影がそこに在った。

 

その男の存在感は冥府の深淵よりも底が知れず、とてもじゃないが人の枠組みには収まりきらない、超級の怪物と呼んでもまだまだ表現するには足りぬ、埒外の化物であった。 身から発せられる気質は他人が見るからに凶悪な性質だが、しかし其処に孕まれた色はいっその事逆に全くの無邪気な程に清々しく純粋無垢で、それが輪をかけて人に途轍もなく悍ましい印象を抱かせる。 真下では征く手に立ちはだかる強敵を相手に勇敢に立ち向かっている次元(この)世界の英雄である魔法少女達。 遥か真上では一切の音を立てず不気味に粛々と、しかし【異次元にまで突き抜けて孔を空けてしまいかねない勢い】で煌々と燃え盛り、何かの到来を予感させる不可思議な“灰色の炎”。 尊き英雄伝説が魅せる輝き(ヒカリ)に焦がれ切った眼光でそれ等の光景を交互に見つめて、彼は今宵に始まる新たなる英雄伝説が幕を開けるその時を、今か今かと楽しみにする小童のような笑みを浮かべて待っている。

 

「これで三つの英雄伝説が一つに交わる夢の物語に相応しい舞台は整った。 絆の軌跡を空へと紡ぐ若き英雄達よ、死ぬ気の覚悟を炎に灯すアサリ貝の家族達よ、数多の海と星々を守護せし魔法少女達よ、さあ今こそ集うがいい。 おまえ達が倒すべき“魔王”は此処にいるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉおおっ、リボルバーキャノン!」

 

「ラケーテンハンマー、くらぇぇええええッ!!」

 

床面全体に発生した超高圧水流の渦(ブルーアセンション)に巻き込まれてミキサーにされる前に、全員咄嗟に危険を察知して八人それぞれが持つ飛翔方法を使い、地上本部屋上ヘリポートから空中へと逃れる。 オーバル・モスカの面制圧攻撃範囲から緊急回避する事に間一髪成功したなのは達は、そのまま連携を組んで反撃へ出た。

 

まずオーバル・モスカの体勢を崩すべく相手の前後からスバルとヴィータによる同時挟撃が仕掛けられた。

 

空中に青く輝く光の道を敷く特殊移動魔法──《ウィングロード》を相手の正面に向けて伸ばして道を作り、その上を両足に履いたインラインスケート型デバイスの《マッハキャリバー》を転がして高速滑走し、右手に取り付けた武装籠手──《リボルバーナックル》の手首部分に取り付けられている瞬間魔力増幅回転弾倉(リボルバー式カートリッジ)を超速回転させてそれを全力で振り被り、馬鹿正直一直線に敵の正面へ突貫。

 

それと同時に、“鉄の伯爵”の名を表す歴戦の鉄槌の騎士の長年の相棒たる鉄の戦槌──《グラーフアイゼン》の長い柄を小さな両手に強く握り締めたヴィータがその片方のハンマーヘッドを推進剤噴射口に変形させた《ラケーテンフォルム》で、馬力の凄まじいロケット噴射を利用した垂直上昇機動(ヴァーチカルブースト)を敢行。 物凄い速度であっと言う間に敵の背後を取り、向こう側からスバルが突撃して来るタイミングに合わせて、自らの小さな身体を軸にロケット推進で大回転させる事で生み出した強力な遠心力を勢いに乗せたグラーフアイゼンのハンマーヘッドを、敵の背中に背負う飛行推進装置へとド派手に叩き付ける。

 

『……ピピピッ』

 

「「なに──ぐあぁぁっ!?」」

 

しかし、完全に相手の急所へ打ち込んだかに思えた二人の息を合わせた挟撃は打撃が届く前に両方共打ち払われて返り打ちにされてしまう。 スバルとヴィータがそれぞれの得物(デバイス)を振り被って前後より懐に突撃して来た瞬間、オーバル・モスカは胴部分を高速スライド回転させて丸太のように太い鋼鉄の両腕を横に広げながらプロペラのように上半身を回し、向かって来た二人を弾き飛ばしたのだ。

 

まるで暴れ馬から振り落とされるかのように勢いよく横殴りにフッ飛ばされた二人はそれぞれ個別のウィングロード上へと叩き付けられる。 だがしかし、二人が行ったそのアクションは後続の攻撃に繋げる為の囮であった。

 

「「隙ありだ(です)ッッ!!」」

 

上半身プロペラ回転攻撃を行った事でその間に完全な無防備状態を晒したオーバル・モスカの頭上を、高速機動に定評のあるフェイトとエリオが亜音速移動魔法《ソニックムーヴ》で強襲する。 フェイトは己の身よりも巨大な光の鉤鎌(ハーケン)を大根斬りの要領で大上段から振り下ろし、エリオは柄から魔力推進噴射を複数吹かせた槍──《ストラーダ》を突き出して、二人は文字通り稲妻の如く敵の頭上へと轟音を響かせて、さっきの仕返しと言わんばかりの不意打ちを落とした……が──

 

『ピピッ、防御不可能ト計測。 回避行動ヲ選択──畜炎式三次元推進機動装置、緊急放射(ブーストファイア)!』

 

スカッ!

 

──嘘っ!?

 

──この完璧な隙を狙ったタイミングで放った僕とフェイトさんの攻撃が……躱された?

 

不意打ちが決まらずに虚しく空を切った自分達の得物(デバイス)にフェイトとエリオは唖然と目を疑った。 なんとオーバル・モスカは敢えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という高等回避法を使い、高速機動自慢の二人の不意打ちを躱したのだった。

 

そして更には──

 

『──相手ノ性能ニ対シ適切ナ効果ノ導力魔法(アーツ)ヲ選択……詠唱駆動(ドライブ)開始──《クロノブレイク》!』

 

「うっ……これ……は……ッ!?」

 

「身体の動きが……鈍……く……」

 

攻撃を外してもめげずに自慢の高速機動を使って追撃を試みようとしたフェイトとエリオを対象にオーバル・モスカの妨害系導力魔法(アーツ)が掛けられる。 移動速力を大幅に下げられてしまった二人は自慢の機動力を封じられ、その場に立ち往生を曝す事となった。 それによって逆に相手への絶好の隙を見せてしまった二人の頭上に向けて、今度はオーバル・モスカの方から流星落撃を仕掛けに飛んで来る。

 

──まず……い。 このまま……じゃ……。

 

「させるものか──ッ!」

 

動きを鈍くされたフェイトとエリオに向かって四つの推進装置を全開で吹かし、全速馬力の飛翔突進を仕掛けて来るオーバル・モスカ。 だが、その両者の間に割って入って来たシグナムが手に携えたレヴァンティンで、オーバル・モスカの突進を受け止め、身動きを封じられた二人への攻撃を阻止する。 シグナムは背中の二人を同時に穿つ為に突き出されていたオーバル・モスカの両鉄拳に加乗された相手の推進馬力と何t(トン)級もの超重量という、大型旅客飛行機に激突されるに等しい衝撃威力を女性の身一つで受けた事で、その瞬間に全身を粉々に粉砕されそうな破壊力が乗った反動に襲われるものの、全身に施した魔法筋力強化と身に齎される衝撃を空気中へと逃がす達人の防御姿勢、そして《ヴォルケンリッター》と呼ばれる誇り高き守護騎士団の将として仲間を守るという信念を極限まで振り絞り、どうにか弾き飛ばされる直前ギリギリで堪えて踏み止まる事ができた。

 

「高町、ティアナ、キャロ、今が好機だ──ッ!!」

 

オーバル・モスカの突進を止めた状態のままシグナムが、自分から見て左方に飛翔し展開していたなのはと、丁度逆側の右方に敷かれたウィングロード上に構えていたティアナ、そして真上で立派な大人の竜へと《竜召喚魔法》を使用して変身させたフリードリヒの背中に騎乗しているキャロに、自分が敵を抑えている隙に遠距離から一斉攻撃を撃ち込めと叫んで促した。

 

 

≪白銀の飛竜≫──フリードリヒ

 

 

「ギャォォオオオオオッーーー!」

 

「フリード、お願い! ブラストレイーーーッ!!」

 

『ティアナ、合わせるよ!』

 

『了解ッ!』

 

「「クロスファイヤー──シューーーーート!」」

 

真上よりはフリードの口から吐き出された巨大な炎の息吹(ブレス)。 左右よりはなのはとティアナが念話で息を合わせて撃ち放った六発ずつの魔弾。 シグナムと押し合う形でその場に足止められているオーバル・モスカへ、三方から強力な遠距離攻撃魔法が殺到して来る。 シグナムはこのままいけば自分も巻き添えを受けるかもしれない危険な位置に居るにも係わらず、仲間を信頼しているが為にその場で微動だにせず敵の動きを抑え続けている。

 

敵に回避の隙は与えない。 この四人と一匹のコンビネーション攻撃ならば今度こそ──

 

『──ピピッ、三方向カラノ魔法攻撃ニ対応。 導力魔法(アーツ)ヲ選択……詠唱駆動(ドライブ)開始──《クレセントミラー》!』

 

そう誰もが疑わなかったが、魔法戦闘(彼女達の世界の戦い)の定石など異世界の異端技術(チカラ)の前にはまるっきり通用しなかった。 三方向のなのは達が遠距離攻撃を撃ち放った途端にオーバル・モスカが導力魔法(アーツ)を使用。 高速詠唱駆動でほぼ一秒経たせずに詠唱を完了させ、己の周囲に展開した銀色の術式を発動させると同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、その領域へ三方向から同時に衝突したなのは達の遠距離攻撃魔法が、それ等全て瞬く間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

「グギュッ!?」

 

「「「きゃぁぁあああぁあああーーーーッ!!」」」

 

「高町! ティアナ! キャロとフリードまでも、そんな馬鹿なッ!! 三方向から放たれて来たAAランクの魔法を同時に跳ね返す程の強力な魔法反射効果を持つ防御結界を、こんなにいとも容易く──なっ!!?」

 

クレセントミラーで反射された自ら放った魔法攻撃が直撃し、成す術無くダメージを被って苦鳴を響かせた三人と一匹を傍目にしてシグナムが目の当りにしたその結果に信じ難い驚愕を露わにする。 攻撃反射効果を持たせた防御結界魔法を構築するのは高位の魔導師でも容易ではない。 況してやAAランク以上の威力がある強力な魔法を三つ同時に受けて難なく反射できるような強度と性能の高い結界を高速で展開するなど、もはや特殊技能(レアスキル)の域だ。 そう驚く間も無しに、気が付くと愛剣(レヴァンティン)で受け止めて迫り合いしていた、シグナムの身の丈よりも巨大なオーバル・モスカの大岩並大の両拳が何時の間にか開いていて、大砲の筒のような五対十本の指先に空いた砲口が零距離でシグナムに突き付けられていたのだった。

 

「しまっ──」

 

泡を食った声を上げる間も無く、眼前に突き付けられた十門の砲口から『ゴォォォオオオーーーッ!』という凄まじい轟音を鳴らして膨大な熱量を孕んだ赤色の火炎放射が放出される。

 

シグナムはなのはの堅牢なラウンドシールドをも()()してしまう程に強力なオーバル・モスカの“赤い炎”の波動によって問答無用に零距離で飲み込まれ、そのまま炎の奔流と共に真下の地上本部屋上ヘリポートを貫通。 地上本部本棟の階層を幾つもブチ抜破る破砕音が鳴り続けて二秒後、空を揺るがす程の爆発音が響いてきた。

 

『ピピピッ、敵ユニット《烈火ノ将》撃墜ヲ確認。 敵性戦力、残リ七人。 広範囲殲滅ニ移行』

 

シグナムがやられたのを見て気を動転させる暇もなく、マークを剥がして自由になったオーバル・モスカが上半身を回転させて両手の指砲を全方位に散っている機動六課前線攻略部隊残りの七人全員へ無差別に乱射してくる。 何もかもを()()する“赤い炎”の弾丸。 それが無数に矢継ぎ早に雨霰の如く、首都クラナガンの空を縦横無尽に飛び散っては降り注いでいく。

 

「う、うぁぁああああーーーッ」

 

「くっ、容赦がない……」

 

堪らず無差別に降り注ぐ“赤い炎”の雨から逃げ惑うなのは達。 しかし更には敵の殲滅行動はこれだけにとどまらず──

 

『──ピピッ、攻撃導力魔法(アーツ)選択……詠唱駆動(ドライブ)開始!』

 

「ちょっと、嘘でしょうッ!?」

 

詠唱完了(ドライブ・オールグリーン)──《ガリオンフォート》!!』

 

オーバル・モスカはあろう事か“赤い炎”の弾丸全方位乱射を行いながらも同時に広範囲殲滅系の導力魔法(アーツ)まで使用してきた。 詠唱を完了させて銀色の術式を発動させた直後に使用者の頭上に銀色の魔法陣が展開され、そこからどういう訳か巨大な砲台塔が生えて伸びるように顕現する。 それが高々に聳え立った直後、塔の側面全方位に備え付けられた砲筒が一斉に作動して白銀のレーザー光線が無差別にブッ放されてくる。

 

「ふぇぇえええええっ!?」

 

「こんなのって、ありぃぃーーーっ!?」

 

「ふざけんなクソッタレェェエエエーーーッ!!」

 

「逃げろぉぉぉぉおおおおーーーっ!!」

 

数に物を言わせて広範囲を埋め尽くすように殺到して来る“赤い炎”の雨と、規則的に列を引いて疎らの集中箇所を引き裂くように飛んで来る白銀のレーザー光線。 それ等が空中全体を無差別容赦無く蹂躙し尽くし、地上の都市に降り注いでは街並みを破壊していく光景は、先のゆりかご決戦以上の大空襲かと思わせる程に凄惨であった。 空にも地上にも逃げ場など無く、これには百戦錬磨の魔導師であるなのは達も情けない悲鳴や汚い悪態を叫び散らして、容赦なく殺到してくる弾幕の隙間を必死に縫って逃げ惑うしかなかった。

 

「なのはさん! このままじゃヤバイですよ!!」

 

「うん、わかってるよスバル。 いい加減、此処で全員足止めを食っていたら作戦が台無しになっちゃうし、何か打開策を……」

 

しかし、敵の無差別全方位攻撃は止まる事を知らずに継続され、まるで手が付けられない。 時間を掛ければ掛ける程、電撃作戦の成功率は下がっていく。 並列思考(マルチタスク)を使って回避行動を取りながら打開策を練ろうとしても一向に良い名案が浮かばない。 いよいよ全員疲労が蓄積して集中力を使い果たし、根を上げそうになったその時、真下の地上本部屋上ヘリポートに先程の火炎砲撃で撃ち空けられた大孔の奥から轟々と炎の柱が立ち昇って天を突いた。 その中から飛び出してきた全身焼け焦げの女騎士が、空を蹂躙する弾幕を物ともせず被弾を浴びながら勇猛果敢に突っ切り、オーバル・モスカの回転無差別攻撃を炎の剣で止めた。

 

「シグナムさん!?」

 

「高町! テスタロッサ! FW達を連れて先に行け! 此奴の相手は私とヴィータだけで十分だ!!」

 

地獄の底から舞い戻って来てオーバル・モスカと再び至近距離の迫り合いに持ち込みながら、シグナムは全身の酷い火傷を気にも止めない鬼気迫る瞳で腹の底から声を張り上げ、ここは副隊長である自分とヴィータに任せて先に行けと、呆気に取られている隊長二人へ指示を飛ばす。 しかしなのはは「で、でも……」と言い淀んで行動を躊躇する。 確かに電撃作戦の定石として、この難局を切り抜けるには誰か少数に撃破困難な難敵を抑えさせて目標へ急いだ方が妥当だというのは彼女も歴十年のベテラン魔導師として百も理解しているが、敵は未知の異世界の力を使用してくる強敵であるが故にたった二人だけに相手をさせて残して先に行くのは、とても心配でどうにも不安が拭えないのだった。 故に彼女を後押しするようにしてヴィータも飛び出して行き、シグナムと共にオーバル・モスカの動きを抑えだしながら、なのはへ必死の形相で告げる。

 

「いいから、とっとと行けよ! アタシとシグナムなら心配要らねーよ。 単騎無双の古代ベルカの騎士をなめんなよな!」

 

「そういう訳だ。 我らも此奴の事を片付けたら直ぐにお前達を追う。 故にテスタロッサ、高町とFW達の面倒は任せたぞ!」

 

「シグナム……うん、分かった。 任せて!」

 

フェイトはシグナムからの激励に力強く応えると、身に纏っている黒い軍服調のバリアジャケットをパージして防御力を犠牲にし超高速機動に特化した《真ソニックフォーム》になる。 彼女の瑞々しくスラリとした細身でありながらも扇情的に豊満の美極まった肢体の曲線と白い肌を丸々と曝け出した際どいレオタードに近い薄地姿になる為、人目に毒極まりない(けしからん)格好ではあるが、先陣を切り拓くのには最適な戦闘形態(フォーム)である。

 

「なのは、それとみんな! 私が先陣を切って上空に浮かぶ《ガラハッド》への道を切り拓くから、急いで後を着いて来て!!」

 

「あっ、ちょっとフェイトさん!?」

 

フェイトはなのはとFW陣にそう伝えると、ティアナから呼び掛けられた制止を聞かず、オーバル・モスカに先征く仲間達の後を追撃させまいとして奮闘する女騎士二人を背にし、上空真上に待ち構えるミッドナイト軍主力艦隊の司令母艦ガラハッドヘと向けて、自身の持つ二つ名の通り()()()()()と為って飛翔して行く。 先程敵によって彼女の身体に掛けられていたクロノブレイクは少し前に時間経過による効力消滅によって既に自然解除されているので、今なら万全に彼女の全速力が出せる。

 

「そこをどけぇぇええええええええーーーーーッ!!」

 

そう吼え猛りながら司令母艦へと猛スピードで迫り来る美しき金髪紅眼の死神の接近に気付き、母艦の周囲を守り固めて遊弋していた飛行機能を備える機械兵器達が飛んで火にいる夏の虫が来たと言わんばかりに敵空戦魔導師を迎撃せんとして、大群でわらわらと彼女へ向かって殺到して行く。 しかし鈍足で飛行する戦闘ドローンや戦闘機ヘリの形を取った敵機械兵器達なぞ、マッハ1の音速で飛翔できる真ソニックフォームのフェイトにとっては取るに足らない雑兵に過ぎない。 行く手を阻むようにして眼前広くにバラ撒かれて来る導力機関砲やドンキーミサイルなどが入り混じる弾幕の嵐を物ともせずに突っ切り、道往く壁となって立ちはだかる飛行機械兵器の隊列を超高速で擦れ違う度に光の双大剣(ライオットザンバー・スティンガー)を振るう事であっと言う間も無しに切り裂いて次々と墜とし、背中を狙って放たれて来る攻撃導力魔法(アーツ)の群れを容易く離し振り切って、自分の背中に続いて追って来る親友と部下達が通る道を文字通り雷光の奔るが如くに切り拓いていく。

 

そうやって幾らか機械兵器群の波を斬り払って行き、やがて敵防衛線の層が薄くなった箇所の隙間から敵軍主力艦隊の司令母艦であるガラハッドの荘厳な銀色の外観が見えてきた。

 

「もう少しで……っ!!?」

 

最終防衛線も無事に突破し、ガラハッドの船底が視界に近付いたあと一息のところで、フェイトは唐突に身体に凄まじい重荷が掛けられた感覚を感じ取り、急速に速度を低下させた……否、正確には()()()()()()()()()()()()()()のだ、敵の最終防衛線を指揮している隊長戦闘無人機の《ペイルアパッシュ》が防衛線を突破しそうになった彼女を妨害するべくして仕向けた《クロノブレイク》によって……。

 

「しま……った。 また……ッ!!」

 

真ソニックフォームの音速機動を封じられたフェイトは先程のオーバル・モスカに続いてまたしても同じ導力魔法(アーツ)によってしてやられてしまった自分の迂闊さに、遅延された表情をぎこちなく動かして苦虫を噛み潰す。 すると今度は彼女の動きを封じた隙に回り込んで来たペイルアパッシュが導力エネルギー砲(オーバルキャノン)の照準を彼女へと間近で向けてエネルギーを収束(チャージ)し始める。

 

「く……そ……っ!!」

 

真ソニックフォームの装甲は音速の機動力の犠牲にしているが故に、近距離の収束砲なんて受けたら即蒸発は必至だった。 クロノブレイクに掛けられて機動力を極限に低下させられた所為でフェイトは逃げる事が出来ず、抵抗虚しく敵隊長機の収束(チャージ)が完了してしまい、もう駄目かと諦めかけて強く眼を閉じた、その瞬間──

 

「──させない! レイジングハート、A・C・Sドライバー!!」

 

突撃(チャージ)!』

 

間一髪で追い付いて来たなのはが両手に握った自身の愛機(デバイス)である槍杖──《レイジングハート》の黄金の穂に膨大な魔力を溜めて、それを桜色の両翼状に広げた光の突騎槍(ランス)へと変貌させて巨大化した穂先を自らの正面へ翳し、放たれた矢のように大気を真っ直ぐと貫いて、フェイトの真横をすり抜けて、今まさに解き放たれようとしていたペイルアパッシュの下部に垂れ下がる導力砲を深々と刺し穿ち、それによって導力砲から飛び出かけていた膨大なエネルギーが内に押し止められて行き場を失った事で導力砲が暴発して発射が不発に終わり、フェイトの窮地は救われた。

 

「はぁぁあああああッ! エクセリオンバスタァァァアアアアアーーーーッッ!!!」

 

そしてそれだけにとどまらず、なのはは裂帛の気合いで導力砲に突き刺したレイジングハートをペイルアパッシュ本体にまで届かせるように豪快に抉り込んで突き上げると、そのまま続けて零距離の高火力砲撃魔法をブッ放ち、敵の巨大な機体にエグイ大孔を貫通させ、ペイルアパッシュを鉄の藻屑に変えた。 上部の回転翼(ローター)を塵にして突き破った桜色の極太光線がグーンと伸びて、目先に在ったガラハッドの飛行甲板側部へとそのまま直撃して大きな爆発を起こすが、銀色の装甲には僅かな傷しか付いておらず、敵軍司令母艦の堅牢高さが窺えた。 どうやら魔導師個人の魔法で撃墜する事は難しそうだ。

 

「はぁっ! はぁっ! ぜぇ、ぜぇ……ふぅぅ」

 

「なのは……ゴメン、助かったよ」

 

「気にしないで、フェイトちゃんが無事ならそれでよかった……えへへ」

 

「……」

 

最優の魔導師(エース・オブ・エース)の二つ名が伊達ではない事を十分に示す猛威と火力を発揮し瞬く間に大型の敵隊長機を撃破してみせたなのはだったが、先程ティアナを庇った事に引き続き、病み上がりの身体で短時間の内に連続で無茶な仲間への庇護行動を取った負担が重なって、肩の息が尋常ではない様子だった。 撃墜される寸前の所を助けてもらった手前なのでフェイトは正直になのはへ礼を述べるが、自身の油断の所為で健康不全の親友の身体に無理な負担を掛けた事に大変申し訳ない負い目を含み、伝えた礼に対して振り向いた親友の明らかに無理を隠せていない下手な気遣いと笑顔を向けられて、彼女は口を噤んで内心自罰した。

 

そんな時、群に指令を出していた隊長機が撃墜された事で統率力を失った敵機械兵器群最終防衛線をようやく抜けたスバル達FW陣の四人と一匹が、後方から伸延されて来て目先に在るガラハッドの甲板上へと橋架けられたスバルのウィングロードや成長飛竜形態のフリードに乗って追い駆けて来る。

 

「なのはさん!」

 

「フェイトさんも、隊長二人だけで無茶しないで下さい!」

 

「確かにまだまだ僕等は未熟ですけれど、もう隊長達の足を引っ張るだけの頼りにならない新人の立場でいるつもりはありません!」

 

「わたし達だってお役に立ちたいんです。 危ない時はもっとわたし達FWを頼ってください!」

 

「キュォォオン!」

 

追い付いたスバル達はまず、自分達を置いて無茶に先走って行った隊長二人に対してカンカンに怒った表情を向けて全員で叱り飛ばしてきた。 上官に対して無礼千万な部下達の物言いだったが、その文句に含まれる彼女達の真剣な想いが感じられてくる。

 

「……ぁ……」

 

「……うん、そうだったね。 なのはの事は言えず、私も随分と焦ってたみたい。 悪かったよ、みんな……」

 

部下達からの厚い信頼を叱責と共に受け取った隊長二人は自分達の失態を認めて素直に謝罪し、なのはは自分が育ててきた教え子達の頼もしい成長をしみじみと感じながら、気を取り直して目先に浮かんでいる敵軍司令母艦を見据えた。

 

「コホンッ! それじゃあ、いよいよ目標の確保に乗り込むよ! みんな、力を貸してね!」

 

「「「「「「はい(うん)(キュク)ッ!!」」」」」」

 

 

 

 



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(おお)いなる柴焔の武士

本日二話目(第三話)投下じゃあああああーーーッ!!

そしてなのは達の前に立ちはだかるオリ敵(かませ)と死ぬ気の炎を扱う畜炎システムを搭載したオリジナル魔煌機兵がこの回に初登場!




敵艦隊の真下を抜けて司令母艦ガラハッドの周囲を固めていた飛行機械兵器群の航空防衛網を突破した機動六課前線攻略部隊の分隊長二名とFW陣四名と一匹は仲良く横に並んで、彼女達の確保する目標のミッドナイト軍総司令官が乗艦しているであろう、敵主力艦隊の司令母艦ガラハッドの甲板上へと乗り込む。(フリードは成長竜体だと艦内部への突入に連れて行けない為、ここで一旦幼体に戻した)

 

それまでにガラハッドの周辺を固めている他の敵艦や其処らを行き来遊弋する魔煌機兵や、ガラハッド本体からすらも迎撃してくる動きはまるで見られず、すんなりとガラハッドの甲板上に到達できたなのは達はその事を不気味に感じながら、乗り込んだ甲板上を警戒しつつ見回してみる。

 

現在時刻は16:40。 夕陽とミッドナイト艦隊が放つ火砲と硝煙の臭いが大気中に混ざり合い、血潮のように淀々しい真紅色に空が染め上げられている。 それだけでも寒気を感じる不気味さだが、加えてガラハッドの艦上には一切の照明が点いていない為に、無数の鉄機物によって配置構成された殺風景の甲板上は非常に昏くて不気味さ加減が更に益し、気分が凍えるような殺伐とした雰囲気を醸し出している……そして更に輪をかけて不気味なのは。

 

「これは……いったいどうなってるの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて……」

 

その様子に呆気に取られてティアナが呟いた通り、甲板上に艦の乗組員の姿が誰一人も見当たらず、敵が潜入してきたというのに敵襲警報も鳴らさず、彼女達を迎撃にやって来る白兵戦闘員も自律機械兵器も艦上の至る箇所に備え付けられた対白兵戦迎撃用兵器も……ガラハッドに乗っている敵戦力が鼠一匹たりとも一切姿を現す気配が感じられなかった。 言い知れぬ不穏を感じさせる静寂が漂う中、隊長二人は薄暗い甲板上の周囲を警戒しつつFW陣へ行動指示を出す。

 

『とりあえずみんな、このまま艦橋(ブリッジ)へ突入しよう。 定石(セオリー)通りなら作戦の拘束目標であるミッドナイト軍の総司令官ラコフ・ドンチェルは其処に居る筈だよ』

 

『この不可解な状況で敵がどんな罠を仕掛けて来るのか分からないから、周りをよく警戒して進みましょう』

 

敵陣の真っ只中では迂闊に声に出すとどこに盗聴されるかもしれない為、念話を使ってここからの行動指針とそれを実行するにあたる要点を話し、六人全員その内容を共有できた事を恙無く確認し終えると、話した内容の通り周囲の気配に気を付けながらフェイトを先頭にして薄暗く広い航空迎撃機体専用滑走路上を慎重に歩き進み、艦上の中央に聳え立つ中層ミラービルのような外観をしているガラハッドの艦橋(ブリッジ)前までやって来る。

 

『この中に今回のミッドチルダ襲撃の主犯であるミッドナイト軍のトップが……』

 

『この建物の内部も照明が点いてないようだけど……恐らく暗闇の中で暗視の魔法かそういったゴーグル機器・赤外線レーダー等を装備したこの艦の乗組員や機械兵器達が息を潜めて待ち伏せているかもしれない』

 

『じゃあ正面の通用口から突入するのは危険かなぁ? この建物は全面ガラス張りの構造みたいだし、それなら拘束目標の敵司令官が居そうな階の壁ガラスを打ち割ってショートカットをするなんて方法どうかな、ティア』

 

『う~ん、そうね。 視た感じ、たぶん対魔防弾材質の強化ガラスが使われているのだろうけれど、アンタのIS(インヒューレントスキル)の【震動破砕】なら壊せそうだし、バカスバルらしい脳筋作戦だけど案外悪くはないわね……なのはさん、どうしま──』

 

目の前に聳え立つ内部照明の点いてない艦橋(ブリッジ)を見上げながら皆で制圧効率の良さそうな突入方法を念話でやり取りして思案していたその時だった。 『カッ!』『パチッ、パチッ、パチッ!』という連続した点灯音が突然と鳴り響き、それと同時に艦橋(ブリッジ)の天辺側面に横一列に並んで取り付けられた照明器具(スポットライト)が点灯し、それが宝を盗んで陰から脱出しようとしていた怪盗団をサーチライトで追い詰めたかのように、なのは達機動六課前線攻略部隊六人全員の姿を光の下に照らし出したのだった。

 

「──ドンッ、チェルルルルーーーー! 敵陣のド真ん中に堂々と突っ立ってコソコソ話をするなどとは……んあ、ちょ~~~~っと、緊張感が足りてないんじゃな~~~い?」

 

なのは達が暗闇の中からいきなり眩しい光に照らされて一瞬眩まされた目を庇うように腕で光を遮っている間に、艦橋(ブリッジ)の正面通用口から、なのはの故郷の国で全国知名度の海賊漫画に登場する敵キャラクターが口にするようなヘンテコな哄笑と一緒に人を嘲るような特徴的な口調をした男の声が聴こえてくる。 そして直後に其処から出て来たのは、派手に真っ赤な色合いをした軍服衣装と同色の軍帽に身を包み、その上に対流圏に流れる気流の風に棚引く紫色の長マントを纏った、いかにも“悪の総統”を思わせる出で立ちを前面に出した金髪の中年男性──

 

 

反管理局軍ミッドナイト──≪総軍司令官≫ラコフ・ドンチェル イメージCV:千葉繁

 

 

「これはこれは、誰が来たかと思えば。 管理局が誇る《エース・オブ・エース》高町なのは嬢。 それに並び称される《金色の閃光》フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン嬢。 先の管理世界の情勢を大きく揺るがしたJS事件を表立って解決に導いた“奇跡の部隊”と囁かれ、ごく最近になって高名を得た機動六課の皆様ではあ~りませんか~あ。 チェルルルルルーーー!」

 

暗闇の中からなのは達の前に悠々と歩み出て来てその正体を現した、ミッドナイト軍の総司令官のラコフは下卑た笑みと耳障りな御調子の饒舌で彼女達の素性を確認してくる。 こうしている今も艦の下で強敵の人型戦闘兵器との交戦を続けているヴィータが此処までの道中で幾度か敵軍の司令官であるラコフの事を()()()()()()()()と言い表して誹謗していたように、実際彼の顔の面積四分の一を埋めるニキビだらけのデカッ鼻の下には軍帽に隠している薄毛の色と同じ小汚い金色をした海苔髭が生やされている。 目の眩みに慣れてきて非常に横柄臭く偉そうなその面構えを視界に入れた途端、なのは達は奮然と警戒を顔に露わして相手へと食って掛かった。

 

「ラコフ・ドンチェルッ!!」

 

「ノコノコと現れたわね。 探す手間が省けたわ!」

 

「この前のゆりかご決戦の所為で街もみんなも凄く傷付いて、それ等がやっと回復しはじめてきたところだったのに、また傷付けに襲って来るなんて、許せないッ!」

 

「反管理局軍ミッドナイト、総軍司令官ラコフ・ドンチェル。 時空管理法に則り、【管理局への武装反乱行為】【次元空間渡航技術の横領、並びに次元空間航行戦艦の大量密造と違法による無断次元世界間航行】【質量兵器の大量違法所持と魔法・異端技術の犯罪転用】【管理指定世界への武装侵略、及びに公的重要施設へ対する武装占拠】【建築・器物損害多数】【地上本部に勤めていた公務・管理局員の大量虐殺】【公務執行妨害】その他諸々などの次元犯罪行為多数に渡り、《第二次ミッドチルダ大空襲》の主犯である貴方の身柄を拘束し、ミッドナイト軍へ対する全軍武装解除と全面降伏を求めます!」

 

「無駄な抵抗をしないで、大人しく投降してください! 僕達が此処へとやって来れた限りで、貴方達ミッドナイト軍はもう御終いです!」

 

相対する敵軍との戦力差が圧倒的に悪く、管理局側劣勢の戦況を一発逆転させて一気に戦いの収束へ持って行く為に起こした、今回の電撃作戦の最終拘束目標である敵軍の司令官の姿を前に、六人は全員咄嗟と手にそれぞれの得物(デバイス)を構えて臨戦態勢を取る(キャロは再び竜召喚魔法を使用してフリードを成長竜形態へと変身させる)。

 

なのはが瞬間に腹の底から沸き上がった激情を表に顕し。 ティアナが緊迫感を不敵な笑みに被せて粋がる素振りを見せながら戦意を起こし。 スバルが先のゆりかご決戦で深い傷を付けられていたミッドチルダやそこに住まう強かな人々による復興活動を二度目の大空襲という形で踏み躙られた事に対する義憤を向ける。 フェイトが剣の立った目でこれまでに相手の犯した罪状を読み上げて内容を確認してから、それに対する相手への対応と要求を述べ。 エリオがこれ以上の抵抗は自分達には無駄だと相手へ強く告げて、ミッドナイト全軍への降伏を勧告する。 しかし、百戦錬磨のエースとストライカーである彼女達に幾ら敵意を向けられても、ラコフはその余裕と嘲りの笑みを僅かも崩しはしなく、それどころか逆に調子付いてなのは達へ対する挑発を強めていく。

 

「御終いだぁ? ……プププッ。 ドンッ、チェルルルルーーー! 君ら六人だけでこの吾輩を捕らえられると思ってんのかいィィ? それはそれは、流石はかの天才魔導生体科学者にしてS級広域次元犯罪者の《無限の欲望(アンリミテッドデザイア)》Drジェイル・スカリエッティ氏の戦闘機人(ナンバーズ)や彼の天才的技術力をもって現代に甦った【聖王のゆりかご】をも打ち破ったという、管理世界の英雄部隊様ってわけだよねぇ~。 まったくもう、小賢しく我が軍の防衛布陣を突破できたからって、ちょ~~~っと調子ブッ扱き過ぎでしょ~。 吾輩の半分も生きていない生娘共が、もう勝った気でいるなんてねぇ。 チュルルルーーー!」

 

「な、何が可笑しいのよ!?」

 

「可笑しいも何もぉ──こういう事だぜぃ☆」

 

挑発に目くじらを立てたスバルの疑問にお答えして、ラコフは何処からともなく何かのリモコンを取り出した。 そして「ポチッとな!」というお約束のセリフを言ってリモコンの赤いボタンを手に持った親指で押す。 するとその直後に『ガコン! ゴゴゴゴゴッ!』という機械の駆動音とそれに伴う母艦全体の大きな横揺れと共に、丁度ラコフの足下にある自動開閉床板が彼の立つ逆方向にスライドして開き、それによって甲板下層にある格納庫まで一直線に吹き抜ける、凡そ縦5m、横8m程の長方形をした昇降運搬口が出現した。

 

「なっ、何をするつもりなn──きゃあっ!?」

 

更には突然床の奥下から『シュパァァンッ!』という何かを小気味良く射出したような音が木霊したその2秒後、昇降運搬口の奥下から勢いよく突き抜けるようにして巨人のような形をした何かがド派手な轟音を鳴らして現出する。 それの甲板上到達に伴って発生した強い衝撃によって今度は母艦全体が縦に激震し、なのは達が一瞬脚元をよろめかされて体勢のバランスを崩れさせた。

 

「い……たた……ん? ……な──ああッ!!?」

 

「もう、いったいなんだっていうの……よ? ──ッッ!!!」

 

母艦の激震が収まり、床から立ち上がったなのは達は眼前に聳え立っていた謎の巨人を見上げてその姿を確認し、あまりの驚愕に六人全員口から出る言葉と表情を硬直させてしまった。

 

その巨人の正体は現在も尚、ここから後方彼方に見えるミッドナイト軍航空艦隊の防空域で管理局首都航空武装隊の空戦魔導士達を圧倒的な質量数をもって一歩も寄せ付けず、またこのガラハッドの外周に配置されている防衛艦隊の間を哨戒飛行している、ミッドナイト軍が謎の何者かの協力者から譲り受けという異世界の人型有人機動兵器──《魔煌機兵》であった。 それも首都航空武装隊が大苦戦を受けている、人の骸骨に紫色の軽装甲を身に着けさせたような外見をした《ゾルゲ》《メルギア》や、その軽装甲の代わりに分厚くもシャープな甲冑装甲を身に着けさせている外見の《ヘルモード》ともまるで違った。

 

その外観はヘルモードに似ているが、機体全体のカラーリングは想念を孕んで燃える紫焔を思わせる赤紫色で、騎士よりも武士が被る三角兜型をした頭部とその下に覗く顔部分には架空に記される妖怪が持つ不吉の三ツ目を連想させる三角の配置で怪し気に光り放つ赤いレーザーアイレンズが三つ嵌められている。 巨木のように太い両手の手甲部位には何かを放射する為に空いているものだと思われる円形の孔、腰の装甲部分の両脇後ろの二ヶ所に長い四本のバルブを有する噴射推進装置が取り付けられていて、搭乗者を乗せる操縦席空間(コックピット)を覆い隠して守る胸部装甲は異様な熱のような気を感じられる刺々しい装甲版が分厚く三重構造になっている。

 

殿(ラコフ)の御前に跪くその“(おお)いなる紫焔の武士”の名は──

 

 

畜炎体循環出力増幅機関搭載型魔煌機兵──≪スクルド≫

 

 

「ムゥフッフ……シュワッチッ!」

 

ラコフは取り出した機体の胸部装甲(ハッチ)を手元のリモコンの緑ボタンを押して開くとヘンテコな恰好(ポーズ)を付けながらその中の操縦席空間(コックピット)へと跳び乗る。 彼はまるで偉そうな為政者がふんぞり返るようにドンッ!と鳴らして乱暴な尻を操縦席に叩き付け下ろすと、胸部装甲(ハッチ)が自動で閉じる。 すると密閉された操縦席空間内部全体が赤く照らされ出し、悪趣味な金色の王座(そうじゅうせき)に座った殿(ラコフ)の膝上にこの機体を操縦制御する為の空間コンソールが浮かび上がる。 彼はそこに無数と並んだ仮想鍵盤(キーボード)を意外に慣れた手付きで入力すると、跪いた格好で停止していたスクルドを起動し、「いざ、面を上げよ!」と脚を動かして機体を直立させた。

 

無骨な武威を感じられる三角兜を被った頭部の下に赤く光る三ツ目の眼光が、前に首を揃えて立ち並ぶ戦乙女達を射貫いた。

 

『ドンッ、チェルルルルーーーッ!! どぉだ、驚いたか? これこそが、我がミッドナイト軍が異世界の異端技術──【導力器】と【死ぬ気の炎】とやらの力を、数日前に我々の崇高な思想に理解を示してくれた()()()()()()から匿名で譲り受け。 そして我が軍の魔導技術者達の手によってその二つの技術を不断(ふんだん)に取り入れさせて開発した奥の手──()()()()()()()()()()()()()()の特注機体《スクルド》ッ! 昨日クラナガンに攻め込む直前にロールアウトしたばかりの、吾輩の専用機だよ~~~ん♪』

 

分厚い三重装甲に守られていて安全な操縦席空間(コックピット)の中からラコフが『ブエッヘン!』と一息大威張りを鳴らしてスクルドの詳細を相手に自慢するように語ってくる。 だがなのは達は相手の耳障りな声など気にならない程に、眼前に立ちはだかった紫焔の武士の威容とそれが放つ計り知れない重圧を総身で感じ、六人全員が途轍もなく気圧されていた。

 

──なな、何この巨大ロボット……ッッ!? 姿を目に入れただけで、心臓を握り潰されるような凄まじい圧迫感に襲われるなんて……。

 

──JS事件で戦ったスカリエッティのガジェットドローンや聖王のゆりかご。 今もヴィータとシグナムが下で戦っている強力な人型ガジェットを含み、此処へ辿り着くまでに交戦してきた異世界の異端技術で造られた機械兵器。 ……恐らくは、目の前の巨大ロボットは私達機動六課が今までに戦ってきたどの兵器よりも、確実に強さと存在の次元が……違う……ッッ!!

 

酸素を肺に取り込めずに息が詰まるような錯覚を覚え、少女達の白い肌から滴り落ちる大量の冷汗が身に着けているバリアジャケットどころかその下に穿いている仮想下着(インナー)までもびしょびしょに濡らした。 新暦の開闢以来次元世界において最大規模の大災難となった先のJS事件を解決へと導いた百戦錬磨の英雄である彼女達ですら、この“(おお)いなる柴焔の武士”──《スクルド》を前にして、このような醜態と戦慄を曝してしまう程の脅威だった。 そんな彼女達の畏怖されっぷりにラコフは嗜虐的愉悦に浸って益々調子に乗ってくる。

 

『おやおやおやぁ~? どうしたのかなぁ? もしかして……チビッちゃった? プッ! ドンッ、チェルルルルーーーッ! これは愉快♪ あのJS事件を解決した“奇跡の部隊”とあろうものが、戦う前からビビッちゃってまあ、なんとも、なっさけないねー☆ チェルルルルーー!』

 

「フン。 そんな何所かの余所様の力を我が物自慢して見せびらかして、調子に乗ってんじゃないわよ! そのJS事件の決戦を終えたばかりで、ミッドチルダ(こっち)の体制と戦力が消耗しきったところを狙って襲撃して来た卑怯者の癖に!」

 

「そうだそうだ! 機動六課(あたし達)はスカリエッティとナンバーズ(ノーヴェ達)に正々堂々と立ち向かって、頑張って頑張って頑張って、みんな凄く傷付いてボロボロになってギリギリ勝利を掴んで。 それでやっとの思いで平穏な日常を取り戻せたと言うのに……それを、ミッドナイト軍(アンタ達)はこうして汚い土足で踏み躙ってきた!」

 

機動六課(わたし達)は勿論、今もわたし達の後ろで戦ってくれている地上部隊や航空武装隊、クロノ君やカリムさんをはじめとした管理局の重役を担っている人達の裏方での頑張りに、ユーノ君等の頼もしい後方支援(バックアップ)、敵に拉致され操られて、わたし達と無理矢理戦わされても、最後まで心は屈したりはしなかったギンガと“あの子”も……そういったスカリエッティ達に深い傷を付けられた人々や世界は決して少なくなかった。 だからみんなで頑張って、この前にようやく手に入れたばかりの傷を癒せる平穏を、どうして貴方達は平気で壊せるの!!」

 

スクルドと動作をシンクロさせて、相手に人差し指を差して蜻蛉を捕るみたいにグルグルと回しておちょくってみたり、腹を抱えて嘲笑してみたり、両掌を肩の上で上向きに翳して肩を竦めてみたりして、怖気づき畏縮してしまっているなのは達の事を小馬鹿にし、挑発しまくるラコフ。 どこまでも図に乗った彼の態度が癪に障ったティアナとスバルが怒りの反論を返し、なのはが管理局の皆が頑張ってJS事件を解決しやっとの苦労で手に入れた念願の平和を台無しにされた事への義憤と慨嘆を訴える。 だがしかし、ラコフは戯けるように耳部へ片掌を付け翳して【何、よく聴こえないなぁ?】的なジェスチャーをスクルドに取らせ、なのは達が言ってきた事に対していったいどの口が言うのかと異議を唱えてくる。

 

『ふぁい? 正々堂々と立ち向かった? みんなDrジェイル氏の所為で傷付いたって? 管理局(キミタチ)は本気でそう思い込んでいるのかいィィ!? ……ドンッ、チェルルルルーーーッ! コイツァお笑いだなぁ。 そもそも、Drジェイル氏が管理局の転覆を計略したのも、元々は管理局最高評議会(腐れ三脳ミソの老害共)がDrジェイル氏を裏で操って、管理局の正義を次元世界中に示す為なんかに悪役にしようとした因果応報(マッチポンプ)の所為だったでしょう?』

 

「な──っ!?」

 

スクルドに己の腹部をバシバシと叩かせつつ耳障りに嘲笑いながらラコフが実に滑稽だなと言わんばかりに並べてきた事の内容を聞いたフェイトが驚愕を漏らした。 他の皆も「どうしてお前がそれを知っている?」と顔に書いて大小の動揺を呈している。 何故なら、ラコフの口から話されてきた内容が先のJS事件の裏で取り行われていた管理局上層部の不祥事で、なのは達もその情報を知らされたのが事件解決後の事後処理会議中だったという、最近の局中極秘事項(トップシークレット)だったからに他ならず、その情報が外部に漏れる事で管理局組織の信用と尊厳の損失と一般民に暴徒や混乱が起きぬように、今も厳重に規制されていた筈だったからだ。 それを何故、他と比較して規模が巨大であるとはいえ、いち次元犯罪テロ組織の頭目に過ぎないラコフの耳に知られてしまっている?

 

『そうだなぁ。 確か……【プロジェクトF】とそれを土台にした【戦闘機人量産計画】とか、Drジェイル氏にそれ等の人造魔導師を作らせたのって、あの最高評議会(腐れ三脳ミソ老害共)じゃなかったかしらぁ? 聞けばこの前のゆりかご決戦で死んじゃった、元地上部隊本部統括のレジアス・ゲイズ氏も裏で資金援助していたそうじゃあないか。 本局の方に優秀な人材を取られてばかりで、弱っちい地上部隊の戦力を増強する為にってさぁ☆』

 

「貴方は……その情報を何所で聞いたというの……!?」

 

『チェルルルルー! なぁに、この前ちょっとした伝手を手に入れてねぇ。 JS事件の顛末の詳細は勿論。 十年前に第97番管理外世界《地球》に第一級ロストロギアの【ジュエルシード】が落とされたのを契機に其処の管理外世界の一般住人だったなのは嬢が魔導師の力を開花させたという事も、そのジュエルシードを巡ってなのは嬢がフェイト嬢と相争った事も、その事件の主犯であったプレシア・テスタロッサ女史が過去に行った魔導炉の駆動実験の失敗で犠牲にした実の娘のアリシア嬢を蘇生させる目的でDrジェイル氏の提唱した記憶転写型模倣人造魔導師創造計画【プロジェクトF】を自ら完成させて(アリシア嬢)の記憶を転写したフェイト嬢を人工的に生み出したという話の内容も、生み出したフェイト嬢は結局アリシア嬢の偽物でしかないという事に気付いたプレシア女史はフェイト嬢を道具扱いしてジュエルシード集めに使い潰した末にポイッと捨てて実娘の死体と一緒に心中して虚数空間へ落ちて行っちゃったという後に《PT(プレシア・テスタロッサ)事件》と名付けられた次元世界史に残る大事件のかっなしー結末の真実だって、吾輩は色々と詳しく知ってるんだよーーん♪』

 

「そんなっ! 管理局内でもごく一部の高官にしか公表されていないPT事件の機密部分の詳細情報まで……」

 

『勿論、吾輩はその年内に続けて起きた《闇の書事件》の詳細だって秘匿部分の内容まで隅々と知っているんだけどさぁ……それもこれも、大体の不幸な大事が起きてきた数々の原因の大元はぜ~んぶ、これまでに管理局の老害のお偉いさん方が闇でコソコソとやらかしてきた汚職のオンパレードだったのではぁ、ないんですかねぇん? そこん所はどうなのよ、キ★ミ★タ★チィ~?』

 

ラコフの御道化た口からなのは達が過去に関わってきた重大事件の極秘概要がアレよコレよと語られ、そもそもそれらの悲劇が起きるに至った大元の原因というのも今は亡き最高評議会をはじめとする時空管理局上層部の老害共が組織の掲げる正義の正当性を絶対のものとする為に、遥か昔から日の当たらない所で幾つも執り行ってきた後ろ暗い裏工作が連綿と続いて糸を引いてきて成った因果応報(マッチポンプ)が大体だろう、という指摘をなのは達の心に刻まれた傷を小突くように投げつけてくる。 それを受けた彼女達は増々と深まる困惑と拒絶感に表情を歪めていく。

 

「……確かに、管理局は管理世界の法と秩序の守護を掲げて魔法やロストロギア等の異端技術の統制管理を行ってきた、その裏で今は亡き最高評議会を中心に管理局の絶対正義を過信するあまりに正道を外れて裏で非道に手を染めていた汚職局員は決して少なくはない。 だから巨大な組織であるが為のそういった闇の部分が管理局の内に数多く存在していた事実は否定しません」

 

周りの仲間達が過去の深い傷痕に塩を塗られて、憎たらしく「ベロベロバー!」ポーズを大仰に晒してこちらを挑発しまくってきている相手の機体に向かって今にも喰って掛かりそうな剣呑な空気を漂わせている中で、なのはは一人冷静になって相手の指摘してきた内容に対して肯定の返事を返した。 強固な正義感と何が有ってもその想いを絶対に曲げない頑固さでよく知られる不屈のエース・オブ・エースの口から発せられた意外な言葉に、彼女の仲間達が虚を突かれたように驚きの反応を表し、対峙する機体の中に搭乗するラコフもまた予想外そうに若干驚いた表情を一瞬浮かべてから感心した反応を示してきた。

 

『ほおぅ? 意外にも物分かりが良い様じゃないか、なのは嬢。 君の言った通り、管理局の掲げる正義などぉ~、所詮は嘘嘘嘘ォォウ! 不正塗れのインチキな~のさっ♪ だ~か~ら~さぁ、管理局(キミタチ)にこの広大な次元世界の法と秩序を守護する資格なんて、全然! 全くッ!ち~~っとも! これっぽっちだって無いのだよォォォォオオオッ!! そんな司法組織の風上にも置けない偽善まっしぐらの独裁機関に鉄槌を下し次元世界を奴等の支配から解放してやる為に、武力を掲げて革命を起こそうと立ち上がったミッドナイト軍(吾輩達)の何が悪だと言うのだぁぁっ! ドンッ、チェルルルルルーーーーーッ!!!』

 

「なのはさん……」

 

かの管理局の切り札である不屈のエース、高町なのはが遂に己が与する組織の行いに非がある事を認めて屈したのかと思い、溢れるばかりの愉快のあまり嗤いが止まらずにピョンピョンとスクルドを跳びはねさせて、調子の良さを最高に上げて侮辱という侮辱の限りをこちらへと吐き散らしまくるラコフを前にしても、一切の憤りを表さずに無言で俯き前髪の影で眼元を覆い隠して表情を伺わせる様子がないなのはに、スバルが不安を向ける。 他の仲間達も同様に黙するなのはへと注目を集めている。 まさか本当に自分達の最も頼れる不屈のエースは敵の言った事を素直に受け入れて管理局の敷く秩序が過ちであったと認め、屈服してしまったというのだろうか……その真相は次に彼女が毅然となった口を開いて語り出した事によって明らかにされる。

 

「だけど……管理局にあるのは闇の部分ばかりじゃないよ」

 

『あぁん?』

 

「組織の正義を求めるあまりに正しい心を失くしてしまった一部の局員達が犯してきた汚職による因果応報(マッチポンプ)ばかりじゃない。 自然発生した次元災害や凶悪な次元犯罪者から次元世界中の罪と力の無い人々を守ってきたという正当な実績だって確かにある。 【伝説の三提督】をはじめ、クロノ君やリンディさんやギンガ達【陸士108部隊】等といった次元世界の平和と光を確かに想って務めている善良な管理局員だって数多く居る。 管理局にあるのは闇の部分ばかりじゃない、真実正統な光の部分だって確かに存在しているんだ! 管理局(わたし達)が次元世界の守護者を気取るのは分不相応でおこがましい偽善なのかもしれないけれど、少なくても次元犯罪者に深く傷付けられた世界がやっと得られた平穏を、得られた直後に消耗していたところへ奇襲を仕掛ける、なんていう卑怯な方法でやって来るような正真正銘の逆賊からミッドチルダ(この世界)を守る為に、みんなで一丸となって戦う事は絶対に間違いなんかじゃない!!」

 

「な、なのはさぁん!」

 

「そうよ、その通りよ!」

 

「こんなふざけた人の言う事なんかに惑わされたりはしない!」

 

「少なくとも機動六課(わたし達)は正しいのかも判らない体裁の上の正義なんかの為に戦っているんじゃなくて、自分達の信じる光の未来を守る為に戦っているんです! 貴方みたいな自分のやっている悪事を屁理屈で正当化しようとする卑怯な人なんかに、わたし達は屈したりはしないです!」

 

「グキューーッ!」

 

管理局には旧い歪んだ正義の思想に負けず正しき人道の先に在る光を信じて組織に勤めている人間だって大勢いる、そう真っ直ぐ相手の悪意と向き合って堂々と言い断じたなのはを見て心の底から安堵した仲間達も彼女の言葉に便乗して消沈しかけていた士気を捗々しく天上高くまで引き上げた。

 

機動六課のエースはラコフの戯言などに屈してなどいなかった。 旧い歪んだ思想に囚われた昔の人間達が過去に作った闇は今の自分達が光で照らしてやり直せばいい……次元世界の英雄である彼女の不屈の意志と叙情的にどこまでも真っ直ぐな行動や言葉はいつだって皆の心の中の深い暗闇に希望の光を照らしてくれるのだ。

 

『だだだ、黙らっしゃい! 貴様達みたいな小娘共が何をどうほざこうと、管理局が不正をやっていたのは紛れも無い事★実ぅっ! よって我々ミッドナイト軍こそが……否、この吾輩ラコフ・ドンチェル様こそがッ! 数多の次元世界を統べるのに相応しいのだァァァアアーーーッ!!』

 

ラコフは自分の立場が悪くなってきたのを感じ、苦し紛れに論破を試みるが……。

 

「不正と言うのなら……貴方だって過去に相当な事を犯したでしょう? ねぇ──ラコフ・ドンチェル()()()()()()()()()()()()!」

 

『ひょっ!?』

 

現役の執務官(フェイト)が横から口を挟み、彼女が事前に調べて手に握っていたラコフの弱みを盛大に暴露し始めた事で、風向きは決定的に変えられたのだった。 それは反管理局軍ミッドナイトの司令官である彼は、驚く事に組織を創る以前はミッドチルダ政治界の重鎮的立場に就いていて、その時に彼が犯した言い逃れの出来ない不正案件の数々である。

 

「執務官隊の過去の容疑者検挙記録データによると、貴方は元々ミッドチルダの悪徳政治家で、6年前にこの首都クラナガンの代表知事に就任してから直ぐに都市知事選挙結果の不正操作や公金の横領などといった数々の政治犯罪が次々と明るみに出た結果、貴方は執務官隊の強制検挙が執り行われる直前に夜逃げを敢行し、その後に管理局から政治犯罪の逃亡犯として次元犯罪者認定されて広域指名手配され、就任日から一月経たずしてクラナガン知事を追い遣られた……と記載してありました」

 

『あばばばばばば!?』

 

「更には、貴方はその夜逃げをした後に次元犯罪者にされた事を逆恨みして、ミッドチルダ国際銀行から持ち逃げした莫大な横領金を資金源に《反管理局軍ミッドナイト》を組織し、管理局への反乱を起こした……などとも書かれていました」

 

『ぐぬぬぬぬーーーっ!!』

 

「極論、貴方は色々と見苦しい言い訳を並べているだけで、結局はただ自業自得に対する腹いせを自分の地位を追い遣った管理局へ不当な矛先を向ける事で払拭したかっただけの、ただの小悪党にしか過ぎn──ッ!!?」

 

フェイトが人差し指を相手にビシッと差し、お前の醜い本性は見破ったと突き付けようとしたその途端、痺れを切らしたラコフがそれ以上は言わせないと言わんばかりにスクルドの太い左腕を動かして彼女に殴り掛かってきた。 話している最中に相手から不意打ちが飛んできた為にフェイトは目を見開いて咄嗟に真横へと飛び込み転がり(ドッジロール)で緊急回避し、直後大木の幹のような赤紫の武者鎧籠手が直前までフェイトが立っていた床をパイルドライバーのように派手に穿ち貫いた。 その衝撃でまたまた母艦全体が強烈に揺らされ、乗艦している人と物の全てが激しく揺り動かされた。

 

「ちょっとアンタ! 自分の立場を悪くするような事を言われそうだからって、逆上して他人が話をしている最中に不意打ちして来ないでよっ!!」

 

『うるさいうるさいうるさーーーいっ! こうなりゃあ予定通り、実力行使で全員叩きのめしてくれる!!』

 

激震でその場から動かされまいとして甲板上の至る所に固定設置されている運搬用の自動ベルトコンベアーに必死の形相でしがみつきながらスバルが猛抗議してきたのを、ラコフは我儘な子供が癇癪を起こすように言って返し、完全に自分へ向けて怪しくなった雲行きを無理矢理にでも戻してやるとして、相手を力尽くで黙らせてやると吐き捨てる。 すると彼はスクルドの左肩後ろの機体武装収納部を展開して、その中に収納してある機体台サイズの機関砲剣を自動射出し、宙を舞って目の前に落下したそれをスクルドにキャッチさせて戦闘態勢に構えた。

 

更にはガラハッドの防衛装置が作動し、甲板の至る所の床が開いては下の格納庫から運搬昇降機で導力駆動式の自律機械兵器が無数に迫り上げられ、それ等がわらわらと陣形を組んで既に臨戦態勢のなのは達を完全包囲してきた。

 

『ドンッ、チェルルルルーーーッ! 管理局に吾輩の積年の恨みと、反乱軍を組織してからの六年間ず~~~っと【弱小】だの【臆病に隠れ回るのだけは上手いドブネズミ集団】だのと随分舐められてきた屈辱の数々を、管理局の英雄として祀り上げられて調子付いている生意気な貴様達をボッコボコのメッタメタにしてやる事で、今此処でキレイさっぱりと晴らしてくれるわ! あ、覚悟しろぉいっ!』

 

最早完全に化けの皮が剥がれたラコフは清々しいまでの開き直りを見せて、得物(デバイス)を手に身構えるなのは達に八つ当たり同然の私怨をたっぷりと乗せた敵意を向けてきている。 最初から隠せてはいなかった小悪党っぷりを前面に押し出して、徹底抗戦の構えを見せている。

 

「なのは、これ以上は……」

 

「うん……こうなったらもう話し合いで説得するのは無理みたい」

 

「それなら、もう遠慮はいらないですね!」

 

「JS事件をやっとの苦労で解決して、ようやく取り戻せた平穏を一ヶ月経たずに壊された挙句、今もこうして耳障りな小悪党の下らない逆恨みに付き合わされて、将来私が執務官になる為の貴重な勉強と鍛練の時間をよくも悉く潰してくれて……鬱憤溜まってんのはこっちだって同じなのよ!」

 

「次元世界の平和と僕達の未来は誰にも破壊させはしないぞ。 いくよ、キャロ!」

 

「うん、エリオ君! フリードも力を貸してっ!」

 

「ギュオォォーーーン!」

 

立場の優劣は今此処に決した。 義は機動六課に在り。 ならば最早、是非も無し!

 

「古代遺物管理部機動六課、最前線攻略部隊、総員六名。 これより“第二次ミッドチルダ大空襲事件”を引き起こした主犯である反管理局軍ミッドナイトの総軍司令官ラコフ・ドンチェル容疑者の身柄を拘束する為、機動六課・航空武装隊・地上部隊によるミッドナイト軍撃破の為の《合同電撃作戦》、最終段階(ファイナルフェーズ)を開始します。 スターズ・ライトニング分隊各員、迎撃展開。 各自連携して敵機械兵器群の包囲を破り、まずは拘束確保目標が操っている魔煌機兵スクルドを無力化するよ!」

 

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 

隊長(なのは)戦闘開始(オープン・コンバット)の号令に他の五人が気合いを入れた返事をして、敵の包囲を破りに各自散開して攻撃を開始した。

 

 

 

 




……いったいどういう事だってばよ? 事前に作っておいたキャラ設定メモには書いてはいなかったのに、ラコフのセリフ回しが書いてて自然と超絶変に個性的になったんだけどぉぉぉおおーーーっ!!

と、とにかく次でいよいよリィンとツナが登場します。 それもこの後で更新するので、楽しみにしていてください。



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“閃の軌跡の絆で繋がるⅦの輪”と“大空の下に覚悟を炎に灯すアサリ貝の家族”来る!

大変長らくお待たせしました! 本作の物語のWヒーロー、満を持して見参ッ!

いやー、この一ヶ月の間、一日も早くリィンとツナを登場させたいという思いを掛けて、バイトの時間以外は他の趣味にかまけず炎の軌跡の下書きを書いて書いて書きまくり、やっとの思いで目標のシーンを書き切って見れば、何時の間にか三万字以上書いていましたよ~♪ おかげで三話に分ける作業もして、あー、疲れた……。

三話とも殆ど書き殴ったままに上げたから、大変雑な文章構成になってしまいましたが、今回は更新を優先する事にしました。

あと、今回は主人公初登場回という特別な話という事で、リィンの技名にフォント機能を使ってみました。 しかしW主人公なのにこれでは不公平なので、ツナの技には色付けてます。

そして今回から後書きコーナーを不定期にやります。 メインの司会を務めるのはあのファルコムキャラ全員大崩壊四コマ漫画でお馴染の“超ヒロイン(自称)”です。

それと、黎の軌跡の最新PV見ましたが、創の軌跡の追加コンテンツの小説に出ていた新最年少A級遊撃士のエレイン・オークレールさんらしき人物の姿がプレイヤブルキャラとして映されていたのもそうですが、空の軌跡シリーズから実に七作品ぶりに登場が確定したジンさんとヴァルター……それに帽子を被ったフィーらしき銀髪の双剣銃使いと、エレインさんに同じく創の軌跡の小説に登場したリィンの姉弟子を名乗っていた“姫”らしき着物姿の美女剣士が八葉一刀流壱の型の螺旋撃っぽい技を放つ姿も確認できて、今回もマジテンションアガットしてしまいました! 発売日が来るのが超楽しみ過ぎてヤバイ。(笑)

では、本編をどうぞ!




「この拳でブチ抜く! うぉぉおおおおおーーーっ!!」

 

スバルが先陣を切って包囲に突撃し、真正面に突出する一体の小型三輪自走砲ユニット(トライアタッカー)が発射してきたガトリング砲の直線連射をマッハキャリバーによる低姿勢高速滑走で躱して突っ切っていき、その加速を活かした右拳(リボルバーナックル)を豪快に抉り込んで、ガトリング砲を発射してきた敵ユニットをカウンターで殴り潰してスクラップへと変える。

 

「この程度の数、どうって事無いわよ! ランスターの弾丸と幻影に踊り惑いなさい!!」

 

ティアナが幻影魔法《フェイクシルエット》を使用して自身の幻影体を複数人投影し、それ等に取り囲む敵機械兵器群を攪乱させて攻撃と陣形の足並みを乱し、その隙を見て本体の彼女が双銃(クロスミラージュ)で体勢を崩せそうな重火器搭載の中型二足歩行ユニット(ファランクス)の足下に魔力弾を的確に撃ち込んで、ドミノ倒しのようにその周りの敵ユニットを巻き込み倒して、魔力消費量最小限かつ効率的に敵の包囲陣形を切り崩していく。

 

「この半年間今までになのはさんの教導訓練とJS事件での死闘を乗り越えて培ってきた魔法と戦技(クラフト)で、どんな敵も貫いてみせます! でりゃぁあああああーーーっ!!」

 

エリオがストラーダの穂先を前方の縦一列に密集陣形を取っている敵小型ユニット隊に向けて突貫し、柄尻から吹かした推進装置(スラスター)で加速慣性を付けて一直線に敵小型ユニット隊を纏めて団子刺しにして、そのままストラーダを通じて魔力放電を流し込み内部機構から爆破。 汚い連続花火を咲かせる。

 

「一緒にやるよ、フリード!」

 

「ギュオオオオーーーン!!」

 

キャロが鎖状捕縛魔法《チェーンバインド》で敵ユニットの動きを次々と束縛し封じ込めていき、彼女の直射魔力弾攻撃《ウィングシューター》と成長竜形態のフリードが吹き放つ《ブラストレイ》の同時掃射をもって無防備状態にした敵ユニット達を纏めて焼き払い、広範囲を駆逐していく。

 

「一気に道を切り拓く! いくよ《バルディッシュ》ッ!!」

 

『イエス、サー!』

 

そしてFW陣の攪乱攻撃で敵の包囲に綻びが生じた所に真ソニックフォームのフェイトが一筋の閃光となって突貫。 両手に持った光の双大剣(ライオットザンバー・スティンガー)で撫斬りを交錯する刹那に放ち、音速衝撃波(ソニックブーム)と共に敵陣正面を光が貫くかのように吹き飛ばした。 これで敵大将のスクルドを守備する雑兵は居なくなった。

 

「なのは! スバル! 今がチャンスだ──ッ!!」

 

フェイトが切り拓いた敵大将首への道をなのはとスバルが並走(前者は飛翔魔法での低空飛行、後者はマッハキャリバーを床に転がして高速滑走)してスクルドの正面へと突撃。 操縦者が素人だからか攻められて来ているのに相手機体の反応が鈍く迎撃態勢への移行が遅い、というか全くその場から動く気配が見られない。

 

──相手の無反応がなんだか嫌な予感を漂わせるけれど……わたしの体力も限界に近いし、相手が何かを仕掛けて来る前にスバルとの大技コンビネーションで一気に決着を着ける!

 

「スバル、魔力を合わせて!」

 

「わかりました、なのはさん!」

 

無言で佇むスクルドを射程位置に捉え、なのはとスバルは身を寄せ合って一緒に得物(デバイス)を前方に相手機体へと向けて掲げた。 すると二人は互いに練り上げた魔力を共鳴させて重ね合わせた杖槍(レイジングハート)籠手(リボルバーナックル)の前に二人それぞれの持つ魔力光(桜色と水色)を混ぜ合わせた薄紫色の魔法陣と、同色の絶大な魔力球体が迸る唸りを上げて形成されていく。 その周囲を激しく旋回し迸る帯電(スパーク)現象が嵐のように大気と母艦上にある有りとあらゆる物や床板を剥がして巻き上げ、術者二人の背丈を合わせた約三倍までに球体の体積がみるみると肥大化し、圧倒的超濃度を秘めた魔力大砲丸がここに完成した。

 

「いきますよ!」

 

「これがわたしとスバルの全力全開!」

 

なのは&スバルのコンビクラフト──

 

「「──W(ダブル)ディバインバスタァァアアアアーーーーッッ!!!」」

 

猛烈な轟音と共に撃ち出された薄紫色の魔力大砲丸が射線上の物を跡形も無く蹴散らし、高速螺旋(ジャイロ)回転で生み出す竜巻で周辺に暴威的な破壊を撒き散らしながら、仁王立ちの様相を前面に晒している紫焔の武士へと真っ直ぐ突き進んで行く。 機動六課の中でも最も信頼の高い教官と教え子が撃ち放った会心の合体戦技(コンビクラフト)は、通過していく空間を小規模に歪曲させる程の威力を発揮させている。 これ程に規格外な魔力の塊が直撃すれば、幾ら対人の枠に収まらない巨体を誇り強力な対魔法防御システムが組み込まれた魔煌機兵と言えども一溜りもない筈……。

 

『……ニヤァァ』

 

だが、薄紫色の破滅が迫る中でも不動を崩さない柴焔の武士の腹の中で、ラコフはしめしめと笑みを浮かべた。

 

『バ~カ~メェェ! 引っ掛かったなぁぁああああ! 《リアクティビ・アーマーA(イージス)》展開ィィィ───ッ!!』

 

Wディバインバスターが当たる直前になって、仁王立ちしていたスクルドが身を丸め竦めて強力な導力エネルギーの防御結界が巨大な機体全身を丸く包み込むようにして形成される。 そしてその直後に超濃度の薄紫色の魔力大砲丸がその障壁に正面衝突し、間に電撃(プラズマ)を起こして僅かの一瞬鬩ぎ合ったかと思うと、必殺と思われた魔力大砲丸の方がまさかの敗北を喫して無念にも跳ね返された。

 

「「「「「「な────ッッ!!?」」」」」」

 

眼を疑うようなその結果を目の当たりにして思わず大口を開ける程の驚愕を露わにするなのは達……そして、跳ね返されて来たWディバインバスターがそれを撃った二人を無慈悲にも飲み込んだ。

 

「「きゃぁあああああああああっ!!!」」

 

自分達自らが創った魔力大砲丸を受けて為す術もなくその圧倒的に巨大な暴力の塊に全身を嬲られて、なのはとスバルは爆音を突き破る勢いで錐揉みと吹き飛び、艦首へと向かう滑走路とその上に偶々陣取っていた敵機械兵器達をド派手に爆砕した末に、艦首に取り付けられたラコフの黄金巨像の後頭部へと叩き付けられてそれを粉砕した。

 

「ななっ、なのはああぁぁあああぁあああーーーーッッ!!!」

 

「スバル……ッ! よくも、お前ぇぇええええっ!!」

 

二人がやられた事にその親友達が悲痛に友の名前を叫び、大切な友をやった紫焔の武士へ嚇怒を向ける。 だがそれも直ぐに無駄な行為となる。

 

『うるさーーーーい! ピーピー騒ぐな。 お前達はこれでも喰らっとけーーーっ!!』

 

フェイトとティアナの絶叫を耳障りに感じたラコフが逆ギレを呈してスクルドに機関砲剣を構えさせ、忽ち紫色(バイオレット)の炎の弾丸を無造作に乱射してきた。 それは無茶苦茶な狙いの広範囲拡散飽和射撃であった為に機動六課の残存戦力四人と一匹も彼の味方である機械兵器群も無差別に襲い掛かり、艦上にある物全てを掃除(はかい)し尽くす勢いで汚い連続花火が咲いていく。

 

「チィィーーーーッ!」

 

「嘘でしょ!? この紫色の炎の弾、()()()()()()()()()()()()()──っ!!」

 

「持ち堪え……られない……っ!!」

 

「この……ままじゃ……みん……な……っ!!」

 

「ギュクゥゥ……」

 

フェイト達は全員咄嗟に防御障壁(フリードはキャロが自分の身と一緒に守っている)を張って雨嵐の如く飛んで来る紫色の炎の弾幕から被弾しないように防いで攻撃が止むまでやり過ごそうとしたが、スクルドの機関砲剣の乱射は止まる事を知らず、紫色の炎の弾丸は無尽蔵に放たれてくる。 弾切れの無い無差別攻撃を前にフェイト達は絶望の色を見せ始め──

 

「「「「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ァァァァーーーーッッ!!!」」」」

 

四人全員の防御障壁の耐久値がとうとう限界を超え、その瞬間にそれがガラスのように無惨に撃ち砕かれた。 忽ち紫色の炎の雨嵐に飲み込まれた四人と一匹は成す術も無く全身を紫色の炎に燃やし尽くされて地獄のような苦鳴を叫び、もはや何もかも燃やし尽くされて何一つ物が残らない焼け野原と化したガラハッドの甲板上に転がり倒れるのだった。

 

これでこの場に戦闘継続可能な魔導師は誰もいなくなった。 新暦開闢以来、次元世界最大の危機とまで呼ばれたJS事件を解決し“奇跡の部隊”と謳われた古代遺物管理部機動六課は今ここに完全敗北を喫したのだった……。

 

ラコフは機関砲剣の乱射を止めて甲板上を見渡し、機動六課全員が全身潰れた蟻のような満身創痍で野晒し倒れ伏し、誰一人として立ち上がる気配を見せず沈黙している様子を確認すると、スクルドの三重胸部装甲越しに大歓喜を上げた。

 

『グヘヘヘヘ……ドンッ、チェルルルルルーーーーッ!! イィィィヤッターーーーッ! 遂にあの生意気な管理局のエースの小娘共を──管理局最強の部隊、機動六課を吾輩がこの手でやっつけたんーーだっ! イエェーーイ★ ザマーミロォォ♪』

 

ラコフは管理局の英雄である魔法少女達を自分が倒した事に抑えきれない喜悦に酔いしれ、彼の喜びを表すかのようにスクルドが愉快に頭部の真上で両手を叩きながら巨木のような脚でコサックダンスを踊りだした。

 

『どーだ参ったか忌々しい時空管理局めっ! これが次元世界の外に存在する二つの異世界の異端技術──《可能世界》の“導力技術”と《七輪世界》の“死ぬ気の炎”を取り入れた新生ミッドナイト軍の力なのだぁ! 最早今ッ、魔導師やロストロギアなんてものは時代遅れなのだぁぁい! そんなものを最強の力などと勘違いして持ち上げている管理局などに次元世界の秩序と法の統制管理なぞ任せられん。 これからはミッドナイト軍の……否、次元世界の英雄をも下したこの吾輩、ラコフ・ドンチェル様の時代となるのだぁぁ!! ドンッ、チェルルルルルルーーーーッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうは……させない……っ!」

 

ミッドナイト軍の完全勝利……ミッドチルダの全ての空に轟き渡らせる勢いで高々と上げられたラコフの勝鬨を破ったのは……艦首の方に濛々と立ち込める爆煙の中から脚を覚束なくよろよろと、しかしまだ倒れはしないという覇気を纏って一歩一歩確実に焼け焦げた床を踏みしめてゆっくりと歩み出て来た、不退転の意志を凜然と秘め続ける白き不屈の魔導師──高町なのはの声だった。

 

『……おやおやぁ? これはこれは……そんなにゴミみたいにボロボロな姿になっても、まだ懲りず吾輩に抗うつもりのかい、なのは嬢や』

 

「なの……は……」

 

見るも無残な程に満身創痍のダメージを負いながら毅然と退かない意志を奥に燃やし続けている碧い瞳でしっかりと相手の巨体を厳かに見上げ、やれやれと機関砲剣を肩に担いだスクルドの目の前へ堂々と立ちはだかった次元世界の英雄……その雄姿を闇に閉じかけた視界に薄らと映し、其処らに疎らと倒れて戦意喪失しかけていたフェイト達が意識を振るい起こす。 なのはの背中を追うようにしてスバルも怪我を負った利き腕の右腕をもう片手で押さえながら覚束ない脚で後ろから現れ、自身が負っているダメージの大きさに耐え切れずに力尽きてなのはが立っている真後ろの床に倒れる。

 

「なのは……さん……やめて……ください……」

 

スバルが床に腹這いになりながらなのはの背中に届けとばかりに震える手を伸ばし、縋るような声で彼女に何かを収めるように訴え掛けているようだ。 周囲の注目がなのはに集まると、彼女の全身から桜色の燐光が立ち昇り始めた。

 

「急激な魔力量の上昇……ま……まさか!?」

 

「なのはさんは【リミットブレイク】を……《ブラスターモード》を使うつもりですッ!!」

 

周囲に離れて倒れている仲間達が動揺し出すのを余所になのはは杖槍(レイジングハート)を強く握り締め、胸のリンカーコアが猛烈な悲鳴を上げる程に尋常では無い量の魔力を高速で練り上げていく。 すると()()()()()()と同時に彼女が精製した膨大な魔力が全身から一気に溢れ出て、それが天高く昇り黄昏の大空を突く桜光の柱が建つ。

 

『チェルルル、先日のJS事件の決戦時に聖王のゆりかご内部の玉座の間から何十層もの壁を撃ち抜いて最深部に居たDrジェイル氏の戦闘機人を超遠距離砲撃したという、管理局の切り札たる《エース・オブ・エース》高町なのは嬢の最強形態(ブラスターモード)……これは面白い。 この《スクルド》を相手に何所まで通用するのか試してみるとしようかぁ?』

 

ゆりかご決戦中にあったそんな細かい場面の出来事の情報まで、どうして貴方が知っている? などという疑問を聞いている余裕は今のなのはにはない。 極限の集中を貫いて胸の激痛に歯を食い縛って堪えつつ、限界を超える魔力を練り上げる。

 

圧倒的な力の差を見せつけてこれだけ叩きのめしても倒れずに立ち向かう意志を見せる不屈のエースにラコフが呆れ半分に彼女が悪足掻きする様に、足下の小さく無力な蟻を踏み潰して遊びたがる残虐無邪気な子供のような嗜虐的悦楽を擽り、ボロボロな身体で頑固として自分に逆らい続けて目の前に立ち塞がるなのはをこれ以上の絶望を与えて虐め抜いてやろうと思い付く。 彼女の不屈の心をへし折ってやるべくして、ラコフは挑発するように言ってゲラゲラと嗤いながら手元の仮想鍵盤(キーボード)を打ち込むと、甲板中の至る所に何十ヶ所と在る自動開閉床板が鈍い音を鳴らして開いていく。

 

「これって……」

 

「ま、まさか……!?」

 

先程も見た既視感(デジャヴ)の光景を目の当たりにして最悪の予感を感じたフェイト達が表情を真っ青にして焦燥を浮かべた直後、彼女達の思い浮かべた最悪の想像がそのまま現実化して艦上にその姿を現した。 至る所に開かれた床の孔という孔の下から運搬昇降機に乗って新たな機械兵器群が先程の三倍の頭数を揃えて迫り上がって来たのだ。 しかも今度はこのガラハッドの遥か下で副隊長の二人が今も尚相手に悪戦苦闘を続けている人型戦闘兵器の強敵である《オーバル・モスカ》まで三体も伴っているという、戦闘不能ギリギリで立っているのもやっとである満身創痍状態の魔導師一人にぶつけるにはやり過ぎもいいところの過剰戦力だった。

 

「やだ、嘘でしょう!? さっき地上本部の屋上で戦った物凄く強い人型ガジェットまで、しかも三体も出てくるなんて……っ!」

 

「あいつ、本気の本気でなのはさんを叩き潰すつもりだ……!」

 

「そ、そんな……!」

 

「逃げて、なの……は……ッ!?」

 

甲板上に出現して来た敵の増援がわらわらとなのはの周りを取り囲み、絶望的な戦力差がボロボロの身体で無防備な姿を曝している親友に向けて差し向けられていく光景を倒れて見ている事しかできないフェイトとFW達はこれまでに無い焦燥と絶望感に苛まれた。 しかし次には彼女達の目に更なる絶望が映る。 それは敵機械兵器群の増援によって完全包囲されたなのはが己の中の魔力を限界以上に絞り出さんとまでに意識を集中させた事で極限の負荷を受けて拒絶反応を起こし、彼女の全身に巡る血管が次々と沸騰・破裂を起こして大量の血を流し出し、惨く危険極まりない無茶を晒している姿だった。

 

──多分……このボロボロになった身体とリンカーコアで、リミットブレイクを使って戦ったら、良くてリンカーコアを破損……最悪なら命は無いかもしれない……だけど、それでもみんなを……大切な人達を守れるんだったら……!

 

「だ、駄目だなのはッ!」

 

「もう止めてええぇぇっ!!」

 

大切な親友と教え子達が必死に制止を呼び掛けても、彼女達を含める彼女の大切なもの全てを護る為に、高町なのはは止まらない。 己の全てを犠牲にしてでも戦い抜く覚悟を決めて、英雄はどこまでも己の限界を超えていくのだ。 たとえその先で独り果てたとしても……。

 

「このままじゃ……あたし達の英雄(なのはさん)が取り返しのつかない事に……。 誰か……誰かッ!? あたし達が何にも替えがたい程に、大切なこの人を助けてくれ───ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「──任せろ!」」

 

自分が最も憧れ、最も敬愛し、だけど大切な友や仲間達を護る為にならその人は逡巡せずに己の身を傷付ける。 そんな誰よりも優しい不屈の英雄を、誰か破滅の運命から護ってください……頭上空高くに浮かぶ“二つの灰色の炎”に届けと言わんばかりに手を伸ばして叫んだスバルのその願いは、直後に突如としてその“二つの灰色の炎”それぞれの中から勢いよく飛び出して来て、ミッドチルダの黄昏空に只今参上した、二つの異世界の若き英雄の二人によって聞き届けられた!

 

【“無明の闇を斬り裂く一閃”の如き強さ】と【“遍く総てを抱擁する大空”のような優しさ】を思わせる、その何処までも頼もしさを感じる青年と少年の声が頭上高くから聴こえてきた瞬間、ガラハッドの艦上に乗る人間全員がはっと真上を見上げる。 すると彼女達の目に飛び込んできたのは、“立派な業物の太刀を携えた精悍な黒髪の青年”と“【橙色の炎】を額と両手の甲に【Ⅹ】という数字が大きく刻まれている指抜きグローブに灯した凛々しい茶髪の少年”を先頭にして【武装した歳若い男女の集団】計11人が上空から隕石の如く真っ直ぐとガラハッドへ向けて高速落下して来ているという、誰もが一度眼元を手で擦るような常軌を逸した事象の光景であった。

 

「えっ、ええええぇぇーーーっ!?」

 

「空から人が大勢、こっちに墜ちて来る……!!」

 

いきなり上空に現れてはどんどんとこちらへ向けて落下して来る謎の武装集団を見上げて、ガラハッドに乗っている一同は皆一斉に訳が解らなく狼狽えた。 安全なスクルドの三重胸部装甲の内側で、先程まで余裕気分で調子に乗っていたラコフですらも、この乱痴気な事象を前にはビックリ仰天し、凄まじい動揺の声を荒げてしまう。

 

『ななななっ? なんだぁ貴様らh──』

 

ラコフの言葉を待たずして、謎の武装集団の先頭を切ってガラハッドの甲板上へと飛来してきた黒髪の青年と茶髪の少年が、それぞれが手に構えた得物に煌豪とした凄まじい“炎”を纏わせて上から振り下ろし、ラコフが駆るスクルドの頭上へと叩き付けられた。

 

八葉一刀(はちよういっとう)流──(さん)の型、秘技・龍炎撃(りゅうえんげき)

 

「ナッツ、形態変化(カンビオ・フォルマ)──初代武装展開(リベラツィオーネ・ファーストウェポン)攻撃モード(モード・アタッコ)──ビッグバンアクセル!

 

落下の勢いを利用して黒髪の青年が大上段より振り下ろした業炎の龍を纏う太刀が、茶髪の少年が右手の指抜きグローブを甲に【Ⅰ】と刻まれた籠手(ガントレット)に変化させて爆発的なエネルギーを内包した爆炎拳による一撃が、巨いなる柴焔の武士の頭部を爆撃。 その威力は直撃させた兜甲を破砕して頭部半分を大きく凹ませるだけでは済まされず、全高約8mはある機体全身に伝わって床にまで突き抜けた。

 

実のところ、ガラハッドの甲板は先のゆりかご決戦において首都航空隊が破壊できなかった聖王のゆりかごの外部装甲よりも頑丈な作りに出来ていたのだが、二人が叩き付けた技の衝撃が途轍もなく重過ぎた所為で、機体が踏みしめていた足下から半径約10m程の床に蜘蛛の巣状の亀裂が入り、挙句の果てには床下から船底にまで届いた衝撃エネルギーが母艦の真下をド派手に爆破して刳り貫き、底に大孔を空けたのだった。

 

『──って、ぎにゃああぁぁああぁあああっ!!!』

 

結果、スクルドの頭部上半分が陥没して首の付け根が胸の位置まで凹まされ、丁度その真下に在る操縦席に座っていたラコフの脳天を強打した。 機体全身が鉄鐘を打ったかのように高速小刻みに振動して瞬間的に麻痺し、焼け焦げた頭部と胸部装甲の表面から濛々と爆煙を上げながら一歩脚を後退させて大きな怯みを見せた。

 

「バルキリースマァァアアアッシュ!」

 

「ランブルスマッシュ、でりぇああぁっ!」

 

その隙に次々と艦上へ飛来してきた後続集団が着地と同時に甲板上中央でなのはとスバルを包囲している機械兵器群を攻撃し蹴散らしていく。

 

まず最初に黒髪の青年の背中を追って落ちて来たピンクブロンドのショートポニーテールをした明朗快活な雰囲気を放つ美少女が、両手に力強く握った機械仕掛けの旋棍(トンファー)を後ろに引き絞るように空中で構え、燃えるような闘気を全身に纏ってスバルの背中を一斉に狙い撃とうとしていた小型三輪自走砲ユニット(トライアタッカー)数十機に狙いを定めて全身を大砲から撃ち出す勢いで空気を蹴り突撃。 狙った敵達目掛けて着弾すると身に纏う闘気に纏めて巻き込んで圧壊させ、蹴散らしていく。

 

それと同時に、彼女の横に並んで落下して来た金混じりの茶髪をした大胆不敵加減が前面に滲み出ている顔付きの少年が、小型の機械兵器が数多く密集している地点の上へと勢いよく着地すると共に長柄の戦斧を頭上から大きく振り下ろし、ド派手に床へ叩き付けて発生させた凄まじい衝撃波が命中地点付近に居た機械兵器達を薙ぎ払って母艦の場外までブッ飛ばした。

 

「果てろ、ロケットボムッ!」

 

「紺碧の翼よ……オゾワー・アズレ、シュートッ!」

 

「《アルカディス・ギア》展開。 ブリューナク──掃射!」

 

それに続いて、見るからに未成年喫煙禁止法を思いっきりガン無視して銜え煙草をしている銀髪の不良中学生が、推進機能(ロケット)付きのダイナマイトを複数個乱れ投げして、制空権を取っている小型浮遊銃撃機(スニークガンナー)や大型機のペイルアパッシュを爆破・半壊させて次々と撃墜していく。

 

ミント色のゆるふわショートカットをしたあざとそうな雰囲気を醸し出している美少女が、ティアナの側に優雅に降り立つと、膝立にマスケット銃を構えてその正面に隊列を組んでいた敵機械兵器群を狙い撃つ。 紺碧に輝く鳥の形状と取った高エネルギー弾がスラリと細長い銃筒の先の砲口から飛び出し、碧い雷のような尾を引いて機械兵器達を貫いては夕焼けの空の彼方へと飛び立って征き、貫かれた機械兵器達が連鎖的に爆散する。

 

黒い案山子のような機械兵器と合体してアニメとかで視る露出の多い軽鎧を身に纏った武装少女のような恰好に変身した艶やかな銀髪の御人形(ビスクドール)の如く可憐な見た目をしている美少女が、丁度スクルドを怯ませて一旦空中へ身を躍らせた黒髪の青年を援護するように、彼の着地予測地点に集結してきた小型三輪自走砲ユニット(トライアタッカー)中型二足歩行ユニット(ファランクス)の混成部隊を、背中に展開したビーム砲で的確に撃ち抜いて蹴散らす。 直後に敵を全滅させて安全が確保されたその上に黒髪の青年がスタイリッシュに着地を決めた。

 

時雨蒼燕(しぐれそうえん)流──特式・十の型、燕特攻(スコントロ・ディ・ローンディネ)!」

 

「往くぞ──ラグナッ、ストライク!」

 

最後に黒い短髪をした背の高い少年剣士と蒼髪をした中性的な顔付きの美少年双剣士が、それぞれ右翼付近と左翼付近に陣取っているオーバル・モスカに目掛けて、短髪の少年剣士が“青い炎”、蒼髪の美少年双剣士が翠の雷電を、それぞれ突き伸ばした刀剣から全身に向けて展開するように発生させて、隕石の如く高速突撃落下。 強敵の人型戦闘兵器に何もさせる間も与えず、“青い炎”と翠の雷電の突騎槍(ランス)と化した二振りの刀剣が二体の土手っ腹に突き立った直後、内部動力である導力結晶回路機関を断ち切られて暴発を起こし大破して機能停止する。 更には必殺戦技(Sクラフト)の一撃により攻撃命中時に其処から広範囲に渡って炎と雷を伴う強衝撃波が拡散し、右翼付近と左翼付近に広く陣取っていた敵機械兵器群を一息に薙ぎ倒した。

 

こうして突然上空に出現し、落下してきて絶体絶命の窮地に立たされたなのは達へ加勢しに参上した謎の少年少女達によって、ガラハッド艦上をほぼ埋め尽くしていた機械兵器群の内、三分の二という頭数が一気に殲滅させられたのであった。

 

「……え……?」

 

「ななな……何なんだ、この人達は……!?」

 

甲板上の其処ら中に散乱した大量の敵機械兵器の残骸(スクラップ)と、周囲に勇壮と燃え広がる業火の中に壮観と立った、何処の何者なのか不明である謎の九人の助っ人に、機動六課の戦乙女達はあまりに突拍子の無い出来事に状況の整理が上手くいかず面を硬直させて唖然とするばかりだ。 一瞬前まで自分の命を懸けてでも戦い抜く覚悟を胸に決めていたなのはも驚愕のあまり何時の間にかリミットブレイク解放を中止してしまい、目の前に舞い降りた黒髪の青年達の雄姿を眺めて思わず言葉を失ってしまっていた。 彼女の身体を心配して隣に這い寄り添ったスバルも訳が解らず狼狽の声を上げている。

 

動揺が広がる中、謎の集団のリーダー的存在だと思われる黒髪の青年と今も額に橙色の炎を灯している茶髪の少年が歩を合わせて、背後のなのはとスバルに振り向いた。

 

「もう大丈夫だ。 安心してくれ」

 

「オレ達は君達の味方だ。 警戒しなくていい」

 

レイジングハートを床に着いて倒れそうな身の支えにして疲労困憊の様相をしているなのはには黒髪の青年が、全身のダメージが酷い所為で床に伏せたまま自力で立ち上がれない様子のスバルには茶髪の少年が、それぞれの身体と心境を気遣って安心させるように言葉を掛け、頼もし気な笑みを浮かべた。

 

この二人こそ、次元世界の外に存在する二つの異世界からやってきた歴戦の若き英雄──

 

 

≪灰色の騎士≫リィン・シュバルツァー CV:内山昂輝

 

 

≪ボンゴレⅩ世(デーチモ)≫沢田綱吉 CV:國分優香里

 

 

“空の女神”の加護を受けし大陸に数多の絆の軌跡の伝説を紡ぐ若き英雄達。

 

“虹”の導きで遥か過去から連綿と受け継がれてきた大空の想いを継承し死ぬ気の覚悟の炎を灯すアサリ貝の家族達。

 

“数多の海と星々”を守護する叙情的な魔法少女達。

 

 

 

このミッドチルダに今、三つの英雄伝説が交わったのだった……。

 

 

 

 




あとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! 超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』

アリサちゃん「超絶最強ヒロイン、アリサ・ラインフォルトちゃん、リリカルマジカル()(ボーン)! ハァーイ! ハーメルン読者のみんなー! 今日も元気に二次創作ライフをエンジョイみっしぃしてるー?」

シグナム?(ね◯どろいどぷちサイズ)「ショウブ! ショウブ! ショウブ!」

アリサちゃん「そしてこの子は、この“炎の軌跡講座”で私の助手を務める、自律機動型ね◯どろいどぷち【シグナムちゃん人形】の“グナちゃん”よ。 この小説の作者が別に投稿している『蒼空の魔導書 カーニバル・クロノファンタズマ』で使うのに量産された余り物を、私がこのコーナーのマスコット欲しさに一体(勝手に)拝借してきたわ!(エッヘン)」

グナちゃん「マタセタナ!」

アリサちゃん「てな訳で、今回から偶に後書きで、私とグナちゃんと一緒に『英雄伝説リリカルREBORN! 炎の軌跡』の謎に迫っていくわよ! 例えば【軌跡シリーズ原作ではゼムリア大陸の全生命は“女神の枷”という謎の因果律に縛られている所為で誰がどうやっても大陸の外に出られない、という設定が明かされていた筈なのに、何故リィン達はゼムリア大陸の外にある異世界のミッドチルダへ来られたのか?】とか、【今回登場したツナヨシ君は初撃でナッツを“一世のガントレット”に形態変化させてビッグバンアクセルを放っていたけれど、REBORN!サイドの原作時系列って未来編後? それとも原作終了後?】とか、今話だけでもこの作品の設定に色んな疑問点やツッコミ所が出てきたと思うわよね? ぶっちゃけると、このコーナーはそれ等の謎についてを、閃の軌跡シリーズのメインヒロインであるこの私が、知りたがりのせっかちな読者達の為に手取り足取り丁寧に解りやすく補足説明してあげる場所なの!」

グナちゃん「ワタシノコトワスレンナ!」

アリサちゃん(某鉄機隊筆頭の鎧コスに早着替え)「でも、今回は教えて差し上げませんわ!」

グナちゃん「ホワッツ!?」

アリサちゃん(某鉄機隊筆頭の鎧コス)「気になって気になって、夜も眠れなくなるといいですわ! フンッ、ザマーミロですわっ!」

グナちゃん(ミニレバ剣装備)「シデンイッセン!」

アリサちゃん「んぎゃー!?」

グナちゃん「チャントヤレ」

アリサちゃん「いたたた……そんなに目くじら立てなくてもいいわよ。 この二つの疑問については此処で説明しなくても、後数話程度更新を進めれば解るんだから……」

グナちゃん「ソウカ……」

アリサちゃん「てな訳で、今回はここまで! 次回の『英雄伝説リリカルREBORN! 炎の軌跡』の本編も『炎の軌跡講座』もお楽しみに!」

グナちゃん「サラダバー!」




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繋がる世界

いよいよ(クロ)の軌跡発売予定日まで残り二ヶ月を切りましたね。

最近で新たに出てきた公式の情報だと、何やら新主人公のヴァンが《魔装鬼(グレンデル)》という変身ヒーローみたいな形体へ変身できるパワーアップシステムが出てくるらしいとの事で、軌跡シリーズの新章のストーリーへの期待が益々アガットして参りました!

う~んそれにしても神氣合一(髪色変色パワーアップ)騎神(スパロボ)に続いて、魔装鬼(変身ヒーロー)まで出てきたか……シリーズが進む毎にヒーロー要素を盛り込んでくるとは、さすが、英雄伝説(THE LEGEND OF HEROES)のシリーズタイトルは伊達じゃないな。

他にもジンさんやフィー、ヴァルターの参戦決定や、新たな《剣聖》シズナ・レム・ミスルギと新登場の執行者《黄金蝶》ルクレツィア・イスレの詳細情報解禁などなど、最近黎の軌跡のワクワクする新情報が盛り沢山に公開されて、9月30日の発売日が待ち遠しくて仕方がありませんよ~。

てか《黄金蝶》のCVが植田佳奈さんで、しかもなんとエセ関西弁キャラですとぉぉっ!? こいつはやべぇ。 メッチャこの作品の本編に出したい。 そして彼女と同じ佳奈様ヴォイスのエセ関西弁キャラであるタヌキ娘とどっかで絡ませたい!

???「ちょい待ちぃ! 誰がタヌキ娘やねん!? て言うかもう五話目なんやし。 ええ加減に私の名前、早う本編に出してぇな~(泣)」





なのは達の絶体絶命の危機にリィン・シュバルツァーと沢田綱吉が数名の仲間達と共に馳せ参じ、三世界の若き英雄達が運命の邂逅を果たしていた丁度その時。 彼等が乗って居るミッドナイト軍主力艦隊司令母艦《ガラハッド》の浮かぶ遥か真下の地上部隊本部屋上ヘリポート近空では、なのは達六名を先行させてガラハッドに向かわせる為に、強敵の人型戦闘兵器《オーバル・モスカ》の足止めに此処に残った機動六課前線部隊のスターズ・ライトニング両分隊副隊長のヴィータとシグナムが今も奮闘を続けていた。

 

「うおおおおっ! いい加減にブッ壊れちまいやがれええええぇぇーーーッ!!」

 

『ギガントフォルム!』

 

ヴィータは小さな全身を火傷塗れにして、決死の闘志を激しく燃やしていた。 上空に浮かぶ敵軍の司令母艦へ先に向かわせた頼りの戦友(なのはとフェイト)部下達(FW陣)の背中を、この強敵に追わせる訳には絶対にいかない。 両脚の推進装置(ブースター)噴射口から赤い炎をジェット噴射させ、猛スピードで突撃して来るオーバル・モスカに対して彼女は自身の持つ最大破壊規模の必殺戦技(Sクラフト)で、真っ向勝負で迎え撃った。

 

「轟天爆砕ギガントシュラァァァァアアーーークッ!!」

 

瞬間増幅魔力薬莢(カートリッジ)を四発使用して、小さな両手に血が濃く滲む程キツく握り締めた相棒の戦槌(グラーフアイゼン)を自分の身の丈の十倍以上に巨大化させ、相手の巨体を遥かに上回った超重質量のハンマーヘッドを豪快に上から振り下ろすように、射程圏内(クロスレンジ)に突っ込んで来た鉄機人の頭上へと叩き付けた。 それは直撃と同時に台風の如き衝撃波が発生して近空を飛んでいたシグナムが数十メートル程遠くに吹き飛ばされる程の威力を発揮していた。

 

……だがしかし、オーバル・モスカはあろう事かこの威力を全く意に介さず巨木のように太い右腕でヴィータのギガントシュラークを軽々と一薙ぎで打ち払ったのだった。 自身が渾身で繰り出した必殺戦技(Sクラフト)をいとも簡単に敵に無力化された光景を前に、ヴィータは大きな双眸が引き千切れる程に見開かせて戦慄の驚愕を露わにする。

 

──そんな嘘だろ!? コノ鉄人形ヤロー、渾身で振るったアタシの最大破壊技(ギガントシュラーク)をまるで飛ぶ蝿を手で追っ払うみてぇに簡単に払い退けやがった!

 

「危ないヴィータ、避けろ!」

 

──ダメだ。 デカイ質量と威力の大技(ギガントシュラーク)を繰り出した直後にきた身体への反動がキツ過ぎて動けねぇ。

 

「ここまでかよ、チクショォォオオオオーーー!」

 

そのままオーバル・モスカが岩石のように硬く大きい両手の拳を握って旅客機が追突してくるレベルの推進エネルギーを加算させた威力を乗せ、両腕を正面目前に迫ったヴィータに向けて突き出してくる。 シグナムがカバーに入ろうとするが距離が離れていて両者の衝突までに間に合わない。 これで万事休すかと諦めかけたヴィータが悔しさのあまりに目を強く瞑って絶望を叫んだ……その刹那──

 

「大地の盾よ彼の者を傷付けんとする災厄から護れ──《アダマスシールド》!」

 

突然、何処からかヴィータにもシグナムにも全く聞き覚えのない女性の声が聴こえてくる。 その瞬間、今まさに自分の幼い全身よりも巨大な質量を持ったオーバル・モスカの双鉄拳が突当たる寸前だったヴィータの前に()()()()()()()()()()が顕れ、彼女の眼前へ迫った双鉄拳を阻む。 そしてそれに連接する巨木のように太い両腕をもへし折る勢いで弾き返した。 その反動を受けてオーバル・モスカの巨体が大きく仰け反って後退し、ヴィータから若干離されたその瞬間、今度はまた別の彼女達が知らない男性の雄々しい声が空高くより鳴り響いた。

 

「カラミティ……ホーーーークッ!!」

 

直後、正体所属不明の青年が十字穂を持つ槍を手に、狙いをつけた地上の獲物を仕留めに上空から急降下していく鷹さながらに、オーバル・モスカの頭上へと落雷の如く落下した。 オーバル・モスカの脳天に槍の穂先から長い柄の半分以上まで貫き通して深々と突き刺したと同時に青年の長い健脚でその後頭部を凹ませる程の強い衝撃で踏み落とされ、両者そのまま真下に見える半壊した地上部隊本部屋上ヘリポートへと墜落していく。

 

「……アレ?」

 

ド派手な衝撃音が鳴り響いたその直後になって、ヴィータはいつまでもオーバル・モスカの鉄拳に殴られる痛みがやって来ない事に違和感がして目を開き、漸く急変した状況に気が付いた。 突然一体何が起きたのかと恐る恐る衝撃音が鳴って来た地上部隊本部屋上ヘリポートを見下ろしてみると、其処には先程シグナムが敵の火炎放射によって一度墜とされた際に出来た中央の大孔、その側に蜘蛛の巣状のクレーターを造って全身の所々の箇所から放電火花を上げさせながら腹這いに倒れ伏したオーバル・モスカと、その鋼鉄の大きな背中の上に立って足下の頭部に突き刺さった十字槍を引っこ抜く謎の青年の高く幅広い背中が眺められた。

 

「突然いったい何が起こったってんだシグナム?」

 

「私にも分からん。 何者だあの男? 不意打ちだったとは言え、我らヴォルケンリッターが二人掛かりでも苦戦していた人型ガジェットを一撃で突き墜とすなど、到底只者の腕ではないぞ……」

 

ヴィータとシグナムが並んで困惑の表情を浮かべながら、倒れ伏したオーバル・モスカの上から十字槍を持って降りた謎の長身の青年に警戒の目を向ける。 年齢は目測で凡そ二十歳前後だろう。 離れた空中から観ても190は余裕で超えていると判る高い背丈、雄大な大地を連想させる褐色の肌と広い肩幅、茶髪の短い三つ編みを一房背中に下ろし、渓谷に吹く風のように清涼な顔付きと雰囲気に反し、どこか神聖さを感じさせる土色の外套を身に纏って自身の長身をも上回る長さの柄を持つ十字槍を携えて立つ姿は鷹のように鋭い覇気を漂わせていた。

 

 

七耀教会星杯騎士団──守護騎士(ドミニオン)第八位≪絶空鳳翼≫ガイウス・ウォーゼル CV:細谷佳正

 

 

「エマ、取り敢えず暴れていた【人形兵器】は沈黙させた。 襲われていた二人の安全確保を頼む」

 

オーバル・モスカが起き上がる気配を見せない事を目視確認した長身の青年──ガイウスがそう呟いた直後に未だ彼への警戒を解かないヴィータとシグナムの側の宙に敷かれるように、二人の全く見覚えが無い形式の模様が描かれた魔法陣が出現。 そしてその上に薄紫色の魔力光が睡蓮の花弁状に開き、その中からガイウスと同年代ぐらいの若い女性が姿を現した。

 

「そこのお二方、御怪我はありませんでしょうか?」

 

現れた女性はヴィータとシグナムへ恭しい丁寧な口調で話し掛けてきた。 彼女の外見は一応時空管理局所属の魔法使いとして名が通っているヴィータとシグナムよりもずっと“魔法使い”っぽい格好と雰囲気を放っていた。 シグナムのものにも勝るとも劣らない程に豊満な胸元の前で両手に握り締めている、この世界の魔導師の持つデバイスにも似通った機械仕掛けの錫杖とその先端上部分の円輪状金属フレームの中心に取り付けられている球体部分から発せられている、溢れんばかりに膨大な薄紫色の魔力を使って足下に敷かれた魔法陣の足場を維持しているのを認めるに、この女性も相当な使い手だろう。 それも次元世界トップクラスの実力を持つ魔導師として知られるなのはやフェイトにも匹敵出来る程の……。

 

「……気遣い感謝する。 しかし少々(?)の火傷は負ったが命に別状はないから心配は無用だ」

 

「それよりも、お前等はいったい何所の何モンなんだよ? 視たところお前は魔導師のようだが、足下のその魔法術式はこの世界で一般的に使われている【ミッド式】でも【ベルカ式】でもねぇようだし……それにアタシとシグナムが二人掛かりで苦戦していたあの人型ガジェットを一撃で墜としやがったあそこの褐色ノッポの優男に至っては、なんだか()()()()()()()()()()()()()をビリビリと漂わせて来やがる」

 

「お前達……もしやこの世界の人間ではないな?」

 

「あはは……やっぱり、此処って《ゼムリア大陸》ではないのですね……」

 

警戒の色を濃くして問い詰めてくる魔導騎士の二人に対して魔法使い風の女性は苦笑交じりに自らが置かれている状況を確認するかのような事を口から漏らした。 左肩側に垂らした薄紅毛の長太い三つ編みが彼女の今の微妙に困った心境を代弁するかのように一瞬萎れたように見えた。

 

 

魔女の眷属(ヘクセンブリード)≫エマ・ミルスティン CV:早見沙織

 

 

「取り敢えず、まずはお互いに自己紹介を交わしましょうか。 私はエマといいます。 下に居るのは私の仲間のガイウスさんです」

 

「時空管理局、古代遺物管理部機動六課所属、ライトニング分隊副隊長を務めるシグナムという。 それとこっちが──」

 

「同じく、機動六課のスターズ分隊副隊長のヴィータだ」

 

「えっ? ヴィータ……」

 

薄紅毛の魔法使い風の女性──エマがヴィータの名前を聞いて一瞬何故だか驚いたような反応を顔に浮かべる。 その反応を見て若干気を害したヴィータがエマにいちゃもんを付けてくる。

 

「んだよ、人の名前に何か文句でもあんのかテメェ?」

 

「あ、ご、ごめんね。 別に悪気は無いの。 ただちょっと君の名前が私のn──「油断するなガイウスとやら! 彼奴はまだ倒せていないようだぞ!!」」

 

ヴィータに失礼を言ってしまった事を弁解しようとしたエマの声をシグナムが横から遮って倒したと思ったオーバル・モスカがガイウスの背後でゆっくりと上体を起こす挙動をしているのに気付き、緊迫した声でガイウスに警戒を呼び掛けた。 ガイウスが咄嗟に踵を返して背後に振り向くと、頭部天辺に大きく空けられた槍の貫通孔から黒い煙を上げて全身から電光火花(スパーク)を放ちつつ、ぎこちなく立ちながらも顔面のガスマスク越しに冷徹殺伐とした眼光(レンズアイ)で彼を睨み付ける殺戮の鉄機人(キリングマシーン)が其処に居た。

 

『──ピピピッ、敵ノ新タナ増援ヲ確認。 次元世界内ノ高位戦闘能力保有者記録保存領域(データベース)接続(アクセス)……照合解析……記録名簿(リストアップ)ニ該当者無シ。 シカシ増援敵性戦力ノ保有シテイル戦闘能力ハ未知数(UNKNOWN)ト推定。 ヨッテ敵ノ総合戦力脅威度認識ヲSSランク以上ニ引キ上ゲマス』

 

「エマ、すまない。 どうやら打ち損じたようだ。 こっちに来て手を貸してくれないか」

 

「分かりました、すぐに行きます……そういう訳で話は後にしましょう。 視た所御二人共、相当腕の立つ魔導師のようですし。 怪我に支障が無いのなら、後方援護をお願いしますね!」

 

「あっ!? 待て、民間人が勝手に戦うんじゃねぇ!」

 

ヴィータの慌てた制止は届かず、エマが薄紫色の魔力光の中に姿を消し、その瞬間に足下に敷かれた魔法陣の足場も『パシュゥゥン!』という効果音を鳴らして消滅する。 それと同時に真下の地上本部屋上でオーバル・モスカと対峙しているガイウスの隣位置に、たった今ヴィータ達の目の前でエマと共に消えたのと同じ術式の魔法陣が顕れ、その上に光の睡蓮が花開く。 すると其処に勇ましく錫杖を構えた姿のエマが再出現する。 どうやら彼女は瞬間移動か転移系の魔術を使用したようだ。

 

そして、臨戦態勢の二人の間に謎の光の線(ライン)が接続された。 床面を伝って両者の足下を繋ぐようにして顕れたその不可思議な事象を、ヴィータとシグナムは唖然とした眼で見下ろし、珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)と戸惑いを浮かべた。

 

()()()()()()()()()()()()()!? しかも発動速度が恐ろしく早い……ッ」

 

「それに何なんだアイツらの間に繋がれた(ライン)はよ!? 次から次へと訳分かんねぇ。 マジ何モンだ、あの二人はよ!」

 

「とにかく、このまま無関係な部外者に戦いを任せて引き下がっては次元世界の法と秩序の守護を務める時空管理局員、ひいては古今無双の誇り高き古代ベルカの騎士の名折れだ。 呆けていないで我らも直ちに加勢するぞヴィータ!」

 

「当たり前だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミュゼ。 この人達全員の回復を頼めるか?」

 

「もちろんです。 わたしの愛しいリィン教官の頼みならば、お任せを♡」

 

「「「え? “わたしの愛しい”って……」」」

 

「この子の戯れだから、三人共彼女の言葉を真に受けないでくれ……」

 

リィンや綱吉達の来襲によってラコフの操る魔煌機兵スクルドを中破させて一時的に怯ませ、ガラハッドの甲板上に展開されていた機械兵器──リィン達の呼称では《人形兵器》という、自律駆動兵器ユニットの大群の内の半数以上を機能停止させた事によって、なのは達機動六課の絶体絶命の危機が救われた。

 

敵の大将が動けず、リィンと綱吉の仲間達が生き残っている人形兵器達を牽制している隙に、酷くダメージを受けている機動六課最前線攻略部隊の六人を回復させようとして、リィンがこの場に居る自分の仲間の内で最も回復の術に長けているミント髪の美少女に呼び掛ける。

 

彼女はリィンからの頼みを快く聞き入れるが、それと一緒にあざとい笑顔をリィンと彼の側に居る三人(綱吉、なのは、スバル)に向けて、他人を勘違いさせるような発言を(強調して)どさくさに言葉の間に挟みつつ返事をしてきたものだから、リィンの側に居る三人が目を丸くしてリィンとミント髪の美少女を交互に疑惑の視線を行き来させる。 明らかにミント髪の美少女が確信犯でリィンを困らせる発言をしたのが判る為、直ぐにリィンはこちらにジト目を集めている三人の誤解を解くようにフォローの言葉を淡々と慣れた口で言って注意すると、目線確認(アイコンタクト)で早く怪我人を回復するようにとミント髪の美少女へ促した。

 

 

トールズ士官学院第Ⅱ分校≪Ⅶ組特務科≫ミュゼ・イーグレット CV:小清水亜美

 

 

「あらあら、ごめんなさいね。 教官の困った御顔は何時見ても可愛いらしいので、つい♪」

 

「いいから、早くやってくれ」

 

──あ、あざとい……。

 

──にゃはは……なんだかこの子、リンディさんと会ったら意気投合しそう……。

 

「うふふ、それでは戯れはこれぐらいにしておいて、怪我人の皆様を回復します。 ……《ARCUS(アークス)》駆動──」

 

戦闘再開する前にリィンの精神を疲弊させるような事を言ってくる、あざとい性格のミュゼに底知れぬ手強さを覚えて戦慄を禁じ得ないように片眉を小刻みにピクピクとさせるスバルと、性格相性的に彼女と組み会わせて手の付けられない程の化学反応を起こすだろうと思う知り合いを思い浮かべて苦笑を浮かべるなのは。

 

その直後にミュゼが身に着けている動きやすさを追求した作りの青い学院生服のミニスカートの脇ポケットから携帯電話と酷似した形をしている謎の端末機を取り出した。 学院生服と同色の背面カバーには学院章であろう“有角の獅子”が描かれている。 それを彼女が片手に掲げると、彼女の全身を丸ごと覆うようにして黄金色に光る球形の術式方陣が展開され、それを目の当たりにしたなのはとスバルが目を見開いて驚愕を露わにする。

 

「……えっ!?」

 

「この詠唱は……ミッドナイト軍の機械兵器も使ってきたやつだ!」

 

「──聖浄なる熾天使の環よ、悪しき刃によって深く傷付けられし者達の身体を癒せ──《セラフィムリング》!」

 

ミュゼが駆動詠唱を唱えきると彼女を囲っていた術式方陣が弾け、直後に空属性最高位の全体回復導力魔法(アーツ)が発動した。 全長約300m以上の規格を誇っている司令母艦ガラハッドの周囲を取り囲むようにして光の輪のような現象が顕れると、それが艦の中心に聳え立つ艦橋(ブリッジ)のミラービルより上の位置まで高速回転しながら浮かび上がり、煌めくように弾ぜて光輝く天使の羽が無数に甲板上全体に降り注いだ。 するとまるでその天使の羽が徳を持つ善人を選別するかのように、悪しき者である紫焔の武士と人形兵器達を透過して、善なる若き英雄達を癒しの光に包んで全員の負傷と体力を完全回復させたのだった。

 

「綺麗……それに──」

 

「あれだけ敵に酷くやられたあたし達全員のダメージと負傷が全部治ってるし、底を尽きていた体力も全快になってる……凄い!」

 

──これは“死ぬ気の炎”と完全に違う力みたいだな。 この女の人達と周りに倒れていた彼女等の仲間らしい人達だけじゃなく、此処にやって来る前“あの男”に付けられていたオレと獄寺君達の傷痕まで全部完治させている……なるほど、大した力だ……。

 

ミュゼの使った導力魔法(アーツ)が発揮した驚異の回復力になのはとスバル、それに先程から敵ユニットを近寄らせないように周囲を見張っていて会話から外れていた綱吉すらも舌を巻いた。

 

──だけどどうしてミッドナイト軍の機械兵器達が使用して来ていた異世界の魔法を、突然上空から落下してきた人間が使えるのだろうか……いや、そもそもミッドナイト軍の艦隊が陣を敷いているこの空域より上空にはただ何もない夕焼け空が広がっているだけで、人が降って来るなんてどう考えても不自然だね。 もしかして彼等は──

 

「君、立てるか? 良ければ手を貸す」

 

「あ……ありがと」

 

リィン達空から現れた謎の助っ人等の正体を掴みかけて思案に耽っていたなのはは、不意に隣で床に倒れ伏せたままの体勢だったスバルを気遣って助け起こそうと彼女に手を差し伸べていた綱吉の呼び掛け声を耳に入れ、ふと我に返る。 たどたどしく伸ばされたスバルの腕を優しく取りなるべく負担を掛けないようにして彼女を引っ張り立ち上がらせた、茶髪の少年の顔付きは淡々と凛々しいが思春期特有の幼さも入り混じっていて、15歳のスバルと同年代か少し歳下ぐらいの年齢だと思える。 そして何故が髪を燃やさずに彼の額に灯り続ける謎の橙色(オレンジ)の炎からはラコフの駆る魔煌機兵スクルドが得物の機関砲剣で無限に乱射してきた紫色(バイオレット)の炎の弾丸やオーバル・モスカが放つ森羅万象の何もかもを()()してきた赤色(レッド)の炎と紛れも無く同じ系統のエネルギーであると思われるが、スバルにはそれの内から伝わってくるものに()()()()()()()()()()が感じられた。

 

──グローブ越しなのにこの人の手からとても暖かい気持ちが伝わってくる……見た目は冷淡で怖そうな雰囲気だけど、こうしてあたしの事を気遣ってくれるし。 この人、本当は凄く優しいんだ……それに何だかクールイケメンに見えて、実際こうして間近で見てみるとなんだかカワイイ顔しているなぁ……ヤバイッ、なんか母性が目覚めそう。 今直ぐ抱き寄せて頭をナデナデしたい──

 

「……スバル、アンタ大丈夫なの?」

 

「──っは!? ……ティア? それにフェイトさん達も、みんな何時の間にこっちに集まって?」

 

スバルが如何わしい感じにニヤけさせた顔をして口から涎を垂らしただらしない表情で我に返ると、彼女の視界には既に見惚れて(?)いた綱吉の顔は離れていて、入れ替わりに先程ミュゼのセラフィムリングで瀕死の重傷から完全回復したティアナやフェイト達機動六課最前線攻略部隊メンバーが周りからこの場へ集結し勢揃いを果たしていたのだった。 いやらしく指をワキワキさせて伸ばしかけていたスバルの両手の目前には、頭が変な他人を見るかのように冷ややかなジト目で呆れ果てるように彼女の顔を覗き込んでいるティアナ……その発育途中のやや大きめの丸みを主張している胸元の肉まんが二つ……。

 

「……イタダキニャス!」

 

ひゃうん♥ ──って、何すんのよバカッッ!!」

 

「ぶがっ!」

 

丁度伸ばせば掴める位置にそれがあったので、取りあえず某蒼を巡るストーリー格ゲーに登場する食いしん坊キャラの口真似をしながら二つともムニュン♥ と鷲掴んだら、顔が真っ赤になった目の前の親友の少女に右手に持った銃底で思いっ切り殴り飛ばされた。 自業自得にも再び床に倒されて垂れ流れる鼻血を手で押さえつつ悶絶しながらのたうち回るスバルを見下ろして、ティアナは胸元を両腕で隠す格好をしてセクハラを受けた羞恥と頭の惚けた相棒の醜態という二つの恥ずかしさに大変赤面しており、その熱がどうにも冷めやらず怒りを通り越して何だかとても情けなく感じ、忽ち落胆の様相を呈した。

 

「まったく、寝ぼけてんじゃないわよ。 こんなアンポンタンなんかを心配する必要は少しもなかったわ……」

 

「ま、まあまあティアナさん。 スバルさんが大変無事なようでよかったじゃないですか」

 

「あらあら、うふふ。 皆様は随分と仲良しなんですね♡」

 

「ミュゼ、あまり茶化してやるなよ。 ……それよりも、クルト達が威嚇してくれているとはいえ、よく人形兵器達の網を掻い潜って、彼女達を集めてくれたな。 ユウナ、アルティナ」

 

スバル達機動六課FW陣が四人全員集まって互いの身の無事を喜び合うその様子をミュゼが側で他愛無さそうに眺めて口許に手を添えながら悪戯っぽく微笑しているのを、リィンは一言軽く戒めて溜息を漏らす。 その背後へ、明朗快活そうなピンクブロンドのショートポニーテールをした美少女と、精巧な御人形(ビクスドール)のように綺麗に整った鼻目立ちをしている銀髪の美少女がやって来て、リィンは振り向いて二人に労いの言葉を掛けてやる。 何を隠そう、この二人は密かにリィンの指示を受けてまだまだ敵軍ユニットが数多く展開する甲板上全体を駆け回って、バラバラに散っていたティアナ達機動六課最前線攻略部隊メンバー全員を一苦労してこの場に掻き集めたのだ。

 

敬慕する教官に褒められて、成人前の少女の平均以上に大きく実らせて健康的な丸みを持った美乳を張って隠そうとせず素直に得意気な鼻を鳴らすショートポニーテールの美少女。 銀髪の美少女も希薄だが満更では無く嬉しがっている様子が見て取れる。 銀髪の美少女は先程まで黒い案山子のような機械兵器と合体して防御力より機能性に特化したような武装軽鎧を身に纏っていたが、少し前に合体は解除したようであり、ショートポニーテールの美少女共々ミュゼが着ている学院生服と同じものを身に着けている。

 

 

トールズ士官学院第Ⅱ分校≪Ⅶ組特務科≫ユウナ・クロフォード CV:東山奈央

 

 

トールズ士官学院第Ⅱ分校≪Ⅶ組特務科≫アルティナ・オライオン CV:水瀬いのり

 

 

「フフン! この程度あたし達なら朝飯前ですよリィン教官。 伊達にあの《黄昏》と《逆しまのバベル》での死線の数々を乗り越えてきてはいませんよ! ねっ、アル?」

 

「そうですね。 少なくとも【黒の工房】に囚われたリィン教官を取り戻しに行った時のよりはずっと低難易度のミッションでしたしね……」

 

「ハハハ……あの後から何度もしつこく言って、皆いい加減にしろと思っているだろうけれど。 改めて、あの時の事は俺の所為で皆に散々迷惑を掛けてしまって、すまなかった。 深く反省しているよ」

 

「本当にそうですよもう。 あの救出作戦の時は【朱のロスヴァイセ】にされたアンゼリカさんや【鋼のゲオルグ】を演じていたジョルジュさんや暴走して我を失っていた教官、挙句の果てには無茶苦茶強い宰相さんと聖女さんの最強コンビとの休み無しの連戦を強いられて、あたし達新旧Ⅶ組全員が死ぬ程苦労したんですからね!」

 

「……」

 

そんな風に褒めた筈のユウナとアルティナからそれぞれ意地悪いニヤけ面と皮肉を訴えるジト目を向けられてきて、リィンが苦笑して片頬を人差し指で掻きながらタジタジに参った様子を見せ、その近くで綱吉が周囲を見張りながら三人の話を興味深そうに盗み聞きしていると、その四人に向けて不意に外野から女性の訊ねる声が掛けられてくる。

 

「あの~、皆さんちょっとよろしいでしょうか?」

 

話の最中に急に割り込んで来た事を申し訳なさそうにして訊ねてきた女性はフェイトであった。 その隣にはなのはも伴って来ている。 二人とも先程のミュゼの回復導力魔法(アーツ)のお蔭で身体の傷はスッキリ……特にただでさえ元々病み上がりで身体に大きな不調があったなのははリィン達が救援に現れる直前に敵の猛威に抗おうと己の命を燃やして限界突破のパワーアップを行う【リミットブレイク】を使おうとした未遂にその負荷の影響を受けて全身の血管を破裂させる程の瀕死状態だったのだが、それも今は身体に傷一つ無く完全回復されている。

 

「貴女方は……確かあそこの四人(スバル達)と一緒に人形兵器達に襲われていた……」

 

「どうも初めまして。 私は時空管理局、機動六課のフェイト・T・ハラオウンと申します」

 

「同じく、高町なのはといいます」

 

──うっわ~、凄く綺麗な人達……それも下手をしたらクレアさんレベルの美人度まで行くかも♡

 

──しかし、タカマチと名乗った方の女性からは何故だか()()()()()()()()()()()()がしてきますね。 おまけにこの魔性と言える程にいい声質、何所かで聴き覚えのあるような……。

 

「……それで、何か用でもあるのか?」

 

二人の姿を見てリィンが思い出すような言い回しで相手に素性を確認し、それに応えてフェイトとなのはが背筋を伸ばしてビシッと右手を額に上げる敬礼を見せて所属組織と共に毅然と名乗りを上げる。 そんな二人の立派で凛々しく美しい容姿に見惚れるユウナと、なのはの放つ性質の気配と声質に何故か既視感を覚えて拳を己の白い小ぶりな顎に添えて思案顔を作るアルティナ。 そんな彼女達の脇に立っていた綱吉が相変わらず淡々とした口調でフェイトとなのはに用件は何事なのかを聞いてくる。 するとなのはが一歩前に出て感謝の気持ちを表すかのようにリィン達四人に深々と頭を下げた。

 

「あの……さっきは大変危なかったところを助けてくれて、どうもありがとうございます! 貴方方の救援のお蔭でわたし達機動六課最前線攻略部隊は全員九死に一生を得られました!」

 

なのは(私の友人)の重傷と私や部下達の負傷までこうしてわざわざ治して頂いて、何とお礼を言ったらいいのか──」

 

「いや、そんなに畏まって頭を下げなくてもいい。 そこで転げ回っている青い髪の女の人に傷だらけで助けを求められたから咄嗟に助けに入ったってだけで、特に礼を言われるような事はしていないからな……」

 

「ああ、そうだな。 当然の事をしたまで。 困った時はお互い様さ。 ……それに見たところ、君達は俺達と歳が近いみたいだし、硬い言葉も必要ない。 出来れば普通に話してくれないか?」

 

畏まった敬語を使って命を救われた事への御礼の意とその恩を伝えてきた二人の熱心さに、綱吉とリィンはそこまで大袈裟に持ち上げられる程立派な事はしていないから無理に遜った態度で接するのは止して欲しいと頼む。 初対面とはいえ、ほぼ同年代……それもなのはやフェイトのような美人秀麗の女性にずいずいと謙虚にされるのは流石に彼等も少々こそばゆいらしく、平静を装った己の面の前に右の掌を翳して軽く二三度振る素振りをしたり、蟀谷を人差し指で掻きながら苦笑を浮かべたりして、勘弁してくれという意志表示を見せている。 それは確かにとなのは達も同意を示して一度頭を上げ、肩の力を抜いた自然体になって、改めて砕けた口調に直し「どうもありがとう」と一言の御礼をリィン達へ伝えた。

 

「それにしても、いったい何所なんだ此処は? 【時空管理局】や【機動六課】なんて名前のファミリーは聞いた覚えがない。 それと、今オレ達が乗っている空飛ぶ船はRPGとかに出てくる飛空艇か? 此処周辺の空にもこれと同じような空飛ぶ船が浮かんでいるし。 さっき機動六課(彼女達)の救援に入った時に不意打ちし怯ませて動きを止めた其処の巨大ロボットの中に乗っている奴からは微弱だけど“雲属性の炎”の熱気を感じ取れる。 此処から遥か下の方からも強力な“嵐属性の炎”の熱気が漂ってきている。 それに、遠目で今山本と戦っている、今までオレ達が見た事もないモスカは何なんだ?」

 

「それに、何故こんな場所で“結社”が保有している【人形兵器】や【魔煌機兵】が運用されていて、それがどういう訳で機動六課(君ら)と戦っているんだ? 君らの持っている【魔導杖(オーバル・スタッフ)】だってエプスタイン財団やRF(ラインフォルト)グループのものとは全く違う型式(タイプ)のもののようだし。 いったい何故……?」

 

なのはとフェイトと軽く握手を交わしたリィンと綱吉は敵の牽制へ戻って行くユウナを見送ると周囲一帯に広がっている異様な光景を見渡して、現在自分達が置かれている場を不可解に思い、思案に耽り出す。

 

この(ガラハッド)の甲板上全体に戦闘展開している仲間達(たった今スバル達機動六課FW陣も戦線復帰してユウナ達の加勢に加わった)と未だに百を超える数が居る敵の人形兵器群による激しい交戦(ドンパチ)の影響によって濛々と立ち込める硝煙。 その隙間から覗ける物々しいミッドナイト軍の主力航空艦隊。 その遥か先の夕焼け空の中で熾烈な空中格闘戦(ドッグファイト)を繰り広げている空戦魔導師と魔煌機兵の大群。 黄昏で黄金色の光を放ち天上から見下ろしている二つの円月。 甲板上の人形兵器に一体混じり黒髪長身の少年剣士が振るう刀と巨木のような鉄腕で鍔競り合いを演じているオーバル・モスカ……。

 

その何から何まで、リィンと綱吉の中の常識にとっては既知と未知の要素がごちゃごちゃに入り混じった混沌の絵面であった。 理解の範疇を超え過ぎて、頭の中の情報の整理が追い付かない。 これが全て未知のモノばかりなら二人共そういう経験は豊富である為に直ぐに適応してみせるのだろうが、よく知るモノやそれと酷似しているモノが未知のモノと混沌(ダンス)を踊っているとなると、神秘や異能が係わる事件や戦いを幾度となく乗り越えてきた百戦錬磨の若き英雄達も流石に頭を抱えるというものだ。

 

──この次元世界全体の治安維持を執り行っている時空管理局を全然知らない素振りをしているうえ、今回ミッドナイト軍が持ち出してきた異世界の異端技術を知る風なその口振りは……。

 

「もしかして、貴方達は次元漂r──」

 

彼等の話の内容から推測してフェイトは半信半疑リィンや綱吉達の素性に当たりを付け、彼等に確認を取ろうとする。 しかしその刹那、リィンと綱吉が何かの動きを察知して振り向き、鬼気迫る声でその近くの仲間に叫んだ。

 

「アッシュ!」

 

「獄寺君!」

 

「「今すぐその魔煌機兵(ロボット)から離れろ──ッ!!」」

 

「何だとッ!?」

 

「十代目、それはどういう──ッ!!」

 

それぞれのリーダーに注意を呼び掛けられた金混じりの茶髪の少年と銀髪の少年は反射的に注意の意図を理解するのが一瞬遅れる。 それが二人の致命的なミスとなってしまった。

 

丁度その時、彼等は迫り来る人形兵器の部隊に包囲されぬように、先程リィンと綱吉が落下同時攻撃で一時的に沈黙させた魔煌機兵スクルドを背にして迎撃していたところであった。 それが急に動き出して床に着けていた膝を上げ出したのをリィンと綱吉はそれぞれが持つ敏感な空間認識スキルをもって察知したのだったが、危険が迫る仲間に彼等が振り向いた時にはもうスクルドは二人の同時攻撃を受けて深々と陥没していた首部分を自身の巨大な右手で鷲掴み万力クレーンのように引っ張って強引に元の状態に戻して、丁度眼前に無防備な背中を曝していた二人の不良少年を確認し、好機とばかりに大木のような重質量の左腕を大きく振り被っていたのだった。 その光景を目の当たりにしてリィンと綱吉が、危機迫った仲間の金茶髪の少年と銀髪の少年に向かって背後のスクルドから早急に距離を取るように緊急指示を飛ばしたのは良かったが、二人がその指示を拾って内容に一瞬の疑問を抱いた為に意図を把握し行動を実行するまでの工程(アクション)に僅かな遅延が生じてしまい──

 

『ヴァーーカメッ! くらえぇぇいッ!!』

 

「「ぐああああああーーーッ!!」」

 

水平一閃に薙ぎ払ってきたスクルドの左腕を不良少年二人は背中に受け、胸をこれまでもかと大きく張った()()()に仰け反らされた体勢になってリィン達の許まで突風の如く豪快に吹っ飛ばされた。

 

「アッシュ!」

 

「獄寺君ッ!」

 

咄嗟の高速反応でリィンは金茶髪の少年、綱吉は銀髪の少年を全身で受け止める。 その瞬間に大砲から放たれてきた鉛弾のように凄まじく重い衝撃と反動がリィンと綱吉を襲った。 しかし、リィンは受け止めた瞬間に腰のバネと足の位置取りを置き換える事によって、その衝撃を柔軟に左足から床に流して後方に押し飛ばされる勢いをその場で殺しきる。 一方、綱吉は少しばかり押し退かされはしたものの、右手のグローブを背後に向けて翳し、額に灯している橙色(オレンジ)の炎と同じ色をしていながらもそれよりずっと大きな熱量をその手から放出して、生じさせた推進力で勢いを相殺し、靴底を床の摩擦で擦り減らす程度に止まった。

 

「アッシュ、大丈夫か!?」

 

「ゲホッ!……悪ィ。 俺とした事が、少しドジッちまったぜ……」

 

 

トールズ士官学院第Ⅱ分校≪Ⅶ組特務科≫アッシュ・カーバイド CV:前野智沼

 

 

「お手を煩わせてしまって……申し訳ありません……十代目の的確な指示を……オレは……」

 

「あの一瞬じゃあ仕方がなかったさ、自分を責めないでくれ」

 

 

十代目ボンゴレファミリー≪嵐の守護者≫獄寺隼人 CV:市瀬秀和

 

 

「バリアジャケットを纏っていない生身であの質量の攻撃をまともに受けたにも関わらず二人共五体満足だなんて……相当鍛えられているようだね」

 

「でもさすがに受けたダメージが大きい。 回復させないと戦闘継続は危険だと思う」

 

「なら今度は私が回復します。 《クラウ=ソラス》──」

 

それぞれのリーダーに抱き留められたまま朦朧とした意識の獄寺とアッシュの許に颯爽と近づいたアルティナがそう言って右手を天に掲げる。 すると光学迷彩(ステルス)を解くようにして彼女の頭上に、先程まで彼女と合体して《アルカディアス・ギア》という軽鎧になっていた黒い案山子のような形状の自律型人形兵器──《戦術殻》のクラウ=ソラスが顕現される。

 

──ふえぇぇっ、何コレェェーー!?

 

──これって……カカシ?

 

「──《アルティウムヒール》!」

 

不意に顕れたクラウ=ソラスを見てなのはとフェイトが内心で仰天している間に、手を上げたままアルティナが戦技(クラフト)名を言い放つ。 するとクラウ=ソラスが癒しの効力が秘められた光の鱗粉を撒き散らし、それを身に浴びた獄寺とアッシュのダメージがみるみる回復していく。

 

だが此処は高度な戦術性能を持つ人形兵器が展開する戦場のど真ん中だ。 案の定、その無防備な隙を狙って中型二足歩行ユニット(ファランクス)が二体、両端に持つ重機関砲でリィン達の死角から密集している彼等に狙いを定めようとしていた。 だがしかし、百戦錬磨の若き英雄達がそのような素人以下の凡ミスなど果たして犯すというのだろうか? ……否、そんな事など有り得ない。 何故なら彼等はこの戦場に居る仲間を信頼しているからだ。

 

中型二足歩行ユニット(ファランクス)二体の重機関砲のドンキーミサイルが無防備な姿を曝しているリィン達へ向けて全弾一斉に撃ち放たれようとしたその刹那の一瞬、その合計四丁の重機関砲全てに斜め一閃の斬線が同時に走り、発射される寸前だったドンキーミサイルごとズルズルと真っ二つに滑り崩れてそのまま暴発した。

 

「油断大敵ってな♪」

 

「アッシュ、無事か!」

 

自らが持つ重機関砲の暴発に本体も巻き添えになり黒い煙を上げてスクラップと化した中型二足歩行ユニット(ファランクス)二体それぞれの陰からリィン達の目の前に歩み出てきたのは、刀身の根元あたりの腹に燕の彫刻が施されている両刃刀を悠々と肩に担ぐ長身黒髪の少年と双剣を軽やかに振るい下げて両手に携える蒼髪の美少年であった。 前者は白い歯をちらつかせて楽天的に得意顔を浮かべて嫌味気を全く含まない軽口を獄寺に向けて言い、後者は真剣な顔付きでアッシュの負傷を心配してきている。 どうやらドンキーミサイルが発射されようとしていた重機関砲四丁を寸前で斬り落としたのはこの二人のようだ。 仲間達が敵に狙われている様子を察知して冷静に狙撃手の背後へと回り、火を噴く前に鋼鉄の重機関砲二丁ずつを剣二閃で同時に切断してみせた、判断力と技量の高さから視ても、二人共相当な剣の使い手だという事が見て取れる。

 

 

十代目ボンゴレファミリー≪雨の守護者≫山本武 CV:井上優

 

 

トールズ士官学院第Ⅱ分校≪Ⅶ組特務科≫クルト・ヴァンダール CV:江口拓也

 

 

「チッ、野球バカが……だが、オレが不甲斐無く足引っ張った所為で身動き取れなかった十代目を守った事は、取り敢えず褒めておいてやるよ……」

 

「ま、フォローの礼は言っておくぜクルト。 チビ兎も回復サンクスな」

 

獄寺とアッシュがそれぞれのリーダーに支えられていた身体の自由を解放されながら、敵の不意打ちからフォローしてくれたそれぞれの戦友(ライバル)に向かって悪態やぶっきらぼうな態度が混じりながらも感謝の言葉を伝える。 山本はいつも通り自分に対して嫌味たらしい獄寺の様子に「その減らず口なら全然大丈夫そうなのな。 ナハハハ!」と調子よく笑い、クルトとアルティナは無事の様子のアッシュに不敵な笑みで言われた礼に「まったく、助けてもらった礼を言う時ぐらい、少しは謙遜できないのか君は……」「まあ、いつものアッシュさんらしいくて、いいじゃないですか。 身体と精神に全く問題が無い証左ですね」と肩を竦めて安堵を示した。

 

『フフッ。 どうやら彼等は少なくとも悪い人間じゃあ無いみたいだね。 使用している異端の能力やその知識からミッドナイト軍との関与を一瞬疑ったけれど、目の前の助け合う彼等の姿からはラコフのような下衆には決して真似できない高潔さが感じられる』

 

『にゃはは。 それに何でだか、わたし、この人達とはとても心から通じ合える気がするの。 彼等の醸し出す雰囲気が機動六課(わたし達)のに近い気がするからというか、どうも他人の気がしないというか……』

 

リィン達の尊い信頼関係を真後ろから垣間見ていたフェイトとなのはも微笑ましく念話で彼等を信用できそうである事を交信してその旨を確認し合っていた。 仲間で助け合う精神は機動六課(自分達)にも通じるものを感じられると思い、彼等となら共に並んで戦えるという気持ちが無意識に二人の胸の奥から沸々と湧き上がっていた。

 

「なのはさん! フェイトさん!」

 

「リィン教官やみんなも休んでいられる場合じゃないわ! アッシュ達を回復させたのなら早く手を貸して! あたし達だけじゃ、そろそろ持ち堪えられそうにないわ!」

 

そんな時、前衛から下がった山本とクルトをフォローする為に入れ替わり前に出てスクルドと人形兵器達を引き付けて攪乱攻撃を行っていたスバル達機動六課FW陣とユウナから要警戒の声が後衛の全員に呼び掛けられてきた。 前衛に目を向けると、陥没させられていた頭部をすっかり治した巨いなる紫焔の武士が他人の目に憤怒の形相を錯覚させるように脳天を凹まされたままでいた三角兜の頭部下から覗く三つ目のレーザーアイレンズを灼熱のように真っ赤に激光させて、巨大な全身を覆う甲冑装甲の表面全体に“紫色(バイオレット)の炎”の衣を纏い、機関砲剣から紫色の炎の弾丸を当てずっぽうに乱射しまくって周囲の敵味方を無差別に巻き込みながら暴れ狂う様子が映った。

 

射撃の出来るユウナとティアナとキャロが遠距離から、異世界の鉄鉱素材である【強化レディアントスチール】で造られた実弾と魔力弾で暴れるスクルドの足下を狙い撃って進撃を足止めし、スバルとエリオと成長竜体のフリードが機動力を活かしたヒット&アウェイでもって翻弄する事で、後衛で取り込み中の仲間達にスクルドを接近させないようになんとか今のところは踏ん張れている。 だが周辺に展開している人形兵器達による絶妙に計算された妨害射撃や、スクルドの中に乗って操縦しているラコフが怒りのあまりに我を忘れて機体に搭載された【畜炎体循環出力増幅機関】を限界以上に酷使しスクルドの性能出力を天上を越えて上昇し続け暴走させている、等々の要素が重なって、ユウナ達だけでは段々と手が付けられなくなってきている様子だった。

 

 

畜炎体循環出力増幅機関、最大出力強化モード──紫焔大将軍≪スクルド≫

 

 

『このッ、部外者のガキ共風情がァァァアアアアーーーッ!! よくもよくも次元世界の真の支配者であるこの吾輩の顔にィィーー! その薄汚い“炎”で傷を付けてくれやがったなナアアアァァーーーッ! もう謝っても絶対に許してやんないもん! 忌々しい機動六課のエース共諸共、吾輩が持つ“雲属性の炎”の炎鎧を纏った、この無敵の《柴焔大将軍スクルド》で燃やし尽くしてくれるわああぁぁあぁああああああああッ!!!』

 

《紫焔大将軍》と為ったスクルドは機体も怒気(ボルテージ)も盛大に大炎上させながら周りを鬱陶しく動き回りネチネチと針を刺してくる塵蟲ども(ユウナ達)を今すぐ駆除してやると言わんばかりに喚き散らしながら無差別に殺虫剤スプレーを散布するかのように紫色の炎──先程の綱吉が言っていた“雲属性の炎”を撃って撃って撃ちまくって、自軍の司令母艦であるガラハッドの艦上をお構いなしに紫の炎の海に変えていく。 中のラコフ(殿様)は、それはもう、御怒りだった。

 

その様子を見兼ねたリィンは同じくして両手のグローブに覚悟の熱量を秘めた橙色(オレンジ)の炎を纏わせて隣に立った綱吉から、信頼する教官(じぶん)と共にどこまでも戦うという強固な意志を見せているクルトらトールズⅦ組特務科の大事な教え子達へと目を配らせて頷き合い、そしてその阿吽の呼吸で意志を共有するような遣り取りをキョトンとした視線で眺めていたなのはとフェイトへと目を移す。

 

「……そこの二人。 フェイトと……タカマチって言ったか?」

 

「え~っと……わたしの産まれた国では上の名が家名で下の名が名前なんだ。 だから出来たら“なのは”って呼んで欲しいかな~」

 

──“高町なのは”って名前の雰囲気はどことなく東方風の感じがしてくるが、国民が家名が上に来る名前を名乗る国なんて俺の知る限りでは《西ゼムリア大陸》の何所にも存在していない。 じゃあやっぱり此処は()()()()()()()()()()()なのか?

 

「そうか……それなら、なのは、フェイト、君達との話は後だ。 今はこの場を収めるのに、力を貸してくれないか?」

 

「う……うんっ!」

 

「それは勿論だよ。 次元世界の秩序と平和を守るのは管理局の魔導師である私達の使命だからね!」

 

「よし。 じゃあ行くぞ、みんなッ!!」

 

「「「「「「「応ッ!」」」」」」」

 

今此処に、共に肩を並べて戦い、目の前の“壁”を乗り越える意志と覚悟を示し合わせた“Ⅶの輪の絆で繋がりし有角の獅子の子ら”と“アサリ貝の家族達”、そして“数多の海を守護する戦乙女達”……産まれた世界は違えども、大切なものをこの手で護りたいという思いは彼ら皆同じだった。 その為にはこの場に居る全員が力を合わせる必要があるという事も、それぞれが培って来た経験と本能で理解した。

 

そしてリィンと綱吉が先頭に立ち、若き英雄達は怒り狂う紫焔大将軍と相対する。 敵は(おお)きく、夜闇に沈みかけている夕陽よりも轟々と凄まじい熱気を放ってきている。 だがしかし、希望の明日を掴む為なら、彼らの勇気(ヒカリ)は何処までも強い輝きを放つのだ。

 

強大な敵を眼前に、勇壮な面持ちで共に並び立ったリィンと綱吉。

 

「ところで、さっきから君に聞きたいと思ってたんだが、いいかな?」

 

「奇遇だな。 オレもアンタに聞きたい事があった……」

 

そう言って二人は妙な遣り取りを交わすと互いに視線を見合わせて、同時に聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……いったい君(アンタ)達は、何所の誰なんだ……?」」

 

それは自然に、さっきから気掛かりだったと言う風に首を傾げた二人の口から全く同じ内容の問いが飛び出した。……直後、二人の背後でそれを聴いていたなのはとフェイトの時が一瞬の間氷結し、解凍されたと同時にこれまで以上にない程の驚愕を孕んだ絶叫が、夜の帳を下ろし始める首都クラナガンの空全体へと響き渡った。

 

「「ええぇえええぇぇええええええええええ────ッッ!!?」」

 

長年共に戦場を駆け抜けてきた戦友同志のように並んでおいて、君達も初対面同士だったのかいッ! と……。

 

 

 

 

 




あとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! 超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』第2回


※「」はセリフ、[]は内心の呟きになります。


アリサちゃん「イエーイ☆ 前話の第一回に続けて連続掲載、【アリサちゃんの“炎の軌跡”講座】! 今年の夏は暑いけど、気合いを入れてやるわよー、グナちゃん!」

グナちゃん「ナツハヤッパエダマメニカギルナー(もきゅもきゅ)」

リィン[このね◯どろいど、人形なのに枝豆食ってる……確かルーファスさんが連れていたローゼンベルク人形のラピスも食事ができていたし、最近の人形技術は恐ろしいな……]

アリサちゃん「ご飯中を邪魔したりしたらグナちゃんは怒って爆発しちゃうので、勝手に進めるわよ。 今回はこの作品のW主人公の片方であるリィンを紹介するわね」

リィン「爆発するのかコレッ!?」

アリサちゃん「今、深海魚がギョッとしたようなリアクションをした残念黒髪イケメンこそが、我らが《英雄伝説 閃の軌跡シリーズ》の主人公(ムジカクテンネンタラシノフラチモノ)の“リィン・シュバルツァー”よ! 昨年に発売された軌跡シリーズのターニングポイントストーリーだった《(はじまり)の軌跡》の三ルートの内の【英雄】ルートの主人公もやったから、計五作品連続に渡って最近の軌跡シリーズの主人公を務め続けさせて貰った超絶リア充野郎なのッ!!」

リィン「本人の前で堂々と悪意と嫌味まみれの紹介!?」

アリサちゃん「そんなリィンは今や《八葉一刀(はちよういっとう)流》というゼムリア大陸有数の剣術流派の免許奧伝なんてものを持っている剣の達人で、エレボニア帝国随一の由緒ある名門校である《トールズ士官学院第Ⅱ分校》で指導教官の職に就き、《灰色の騎士》という二つ名で帝国に名声を馳せる時の英雄であるという、完璧な勝ち組の地位を得ているわ! チッ、妬ましい……

リィン「しっかりと聞こえているぞ、舌打ちが」

アリサちゃん「だけど、リィンがこれ程までにVIPな立場を得るまでに辿ってきた道筋ときたら、それはもう悲惨で災難だらけだったわね。 『後に帝国宰相となる父が持つ家に生まれるも間もなく猟兵の襲撃を受けて実母を亡くし、赤ちゃんだったリィンも心臓が串刺しにされて死にかける』『それからあれやこれやで実父から心臓移植されたおかげで辛くも命を繋いだはいいが、その後に極寒の雪が降る帝国の辺境に棄てられる』『悪運良くその辺境を治めていたシュバルツァー男爵家に拾われて養子になるが、実父から移植された心臓は呪われていた』『時が経って帝国随一の名門校であるトールズ士官学院に入学し、特科クラスⅦ組の中で大勢の絆を育むが、仲間の一人に裏切られて内戦勃発』『内戦の最中あれやこれやと襲い来る試練や死闘の連続を乗り越えて、一度裏切った仲間と決闘の末にようやく和解できたものの、直後の決戦で和解できた仲間が致命傷を受けて死亡。 しかも直後に出てきた黒幕の宰相の正体が自分の実父であった事が判明する』『再会して変わり果てた実父によって内戦の英雄に祀り上げられて、その重い立場を背負わされた苦悩によって日に日にストレスを蓄積させながら、一年の時が経過』それから──」

リィン「いや、もうそこまでで十分だってば! 閃シリーズの内容を半分もネタバレしてしまっているし、これ以上は原作ゲーム未プレイの読者達に配慮してくれないか」

アリサちゃん「え~、これはまだ序の口なのにィ~。 ぶーぶー!」

リィン「序の口って……はぁ。 今思い返すと俺の人生、産まれてからこれまで本当に波乱万丈の連続だったんだなぁ……まあでも、アリサ達トールズⅦ組の掛け替えのない仲間達をはじめ、ゼムリア大陸の大勢の人達が力を貸してくれたから、俺はそれらの艱難辛苦を乗り越えて来られたんだ。 俺は、これからも皆と共に力を合わせて──」

アリサちゃん(リィンにコブラツイスト)「それはいいけどリィン。 あなたの教え子である新Ⅶ組の子達は仕方がないとしても、閃の軌跡シリーズの超ヒロインであるこの私を差し置いて、何でガイウスとエマが先に本編に出ているのよおおぉぉぉーーーッ!!」

リィン「──って、ぎゃああああーーーっ!? ギブ、ギブウウゥゥーーー!!」

グナちゃん(ミニレバ剣装備)「ウルサイ。 シデンイッセン!」

アリサちゃん&リィン「「うぼぁーー!」」

グナちゃん「コンカイノコーナーハココマデダ。 タベタラネムクナッタ」

アリサちゃん&リィン(ボロ雑巾状態)[[ぼ、暴君だーー!]]

グナちゃん「デハ……サラダバー!」




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共闘する英雄達

読者の皆さんお久しぶりです!

(クロ)の軌跡』クリアーしましたよー! やっば、今までのシリーズより映像も演出もアクションもバトルシステムも、全てにおいてパワーアップしているやんか!
てかシリーズ前半終わって一段落したから一旦インフレが落ち着くだろうかと思っていたら、全然そんな事はなかったZE☆ 何だよあの魔人と化物のバーゲンセールは!? エプスタイン博士の遺産の古代導力器オクト・ゲネシス? 宇宙基地開発計画? 世界全体が伏魔殿(パンデモニウム)化してゼムリア大陸が滅びる? 可能世界は遥か古に()()()()()()()? 五柱の魔王? 新しい情報量が多すぎじゃああーーっっ!!(発狂)

閑話休題(それはさておき)、新主人公である特級スイーツレポーターにしてコーナーの溝落としを芸術的ドリフトで攻める走り屋の変身ダークヒーローの裏解決屋所長ヴァン・アークライド兄貴をはじめ、新シリーズの登場キャラクターは皆面白い個性の塊ばかりで凄かったなぁ……。 特に新メインヒロインのアニエスは今までに性懲りもなくまたまたいい家生まれの巨乳お嬢様キャラ、にも関わらず今までの二人(某RF第四開発部室長のツンデレ詐欺超ヒロイン(笑)さんと某十字鐘交易都市長の孫娘の銀髪爆乳攻略王補佐さん)とは遥かに次元が違う完全無欠のヒロイン力を発揮してたのだから本当に驚きましたね。 これはひょっとしたらシリーズ元祖最強ヒロインのヨシュア(異論無し)越えが成るのかぁ!?

しっかし、今作の宿敵だったマフィアのアルマータは思った以上にヤベー連中でしたね。 まさか“あの大陸最低最悪の邪教団”がシャロンさんの元巣の暗殺組織と合併していまだに生き残っていて、そのヤベー組織と繋がっていたのには背筋が凍りました……。 ボスのジェラールといい、その右腕でサイコホモのメルキオルといい、その他の幹部も本当に良い悪役でしたね。 もし自分がツナ達REBORN!キャラを軌跡シリーズ本編に介入クロスさせるものを書くとしたら、絶対黎の軌跡でやりたいと思いました。(まあ、これ以上連載作品増やすと手が回りそうもないので、書く可能性は限りなく低いですがね……)





突拍子もなく上空から落下して来て助っ人に参上したリィン達《トールズⅦ組》と綱吉達《ボンゴレファミリー》によって絶体絶命の窮地を救われたなのは達時空管理局機動六課前線攻略部隊。

 

時空管理局地上部隊本部上空に陣取った反管理局軍ミッドナイトの主力航空艦隊、その中心に座する艦隊の司令母艦《ガラハッド》甲板上を守っていた無数の機械兵器群……もといリィン達曰く“人形兵器”と呼ばれた自律機械ユニットの大軍を一息に大半殲滅してみせた異世界からの助っ人達が機動六課前線攻略部隊と共に一丸になって、残る敵軍の御大将のラコフ・ドンチェルが駆る《紫焔大将軍スクルド》と対峙するその光景を、六課の部隊長が予め飛ばしておいた遠隔操作探視魔法(サーチャー)から接続投影されてくる空間映像モニター越しに目の当りにしていた機動六課の後方支援(ロングアーチ)の一同が唖然と動揺を露わにしていた。

 

「あ、ありのまま今起こった事を話すで? 敵の大将のラコフが鎧武者みたいな姿をしたデッカイ魔煌機兵を出して乗りよって、ソイツに前線攻略部隊の皆が全員やられてしもうて、そんでなのはちゃんが全身血だらけになってリミットブレイクを解放しようとしたらさっきこっちで余震観測しとった小規模次元震が発生したと思ったら、いきなり震源座標空間に発生して燃えておった二つの灰色の炎の中から私等と歳が近い二組の武装した集団が出現しおって、そんで何故だかなのはちゃん達を絶体絶命の危機から助けてくれて、トントン拍子に彼等と共同戦線を張る事になって、全身紫色の炎を纏って更に巨大化しおった敵大将の魔煌機兵と全員で向き合った途端に、何でかなのはちゃんとフェイトちゃんがいきなりクラナガンの空中に反響する程の大声で素っ頓狂な奇声を上げた! 何を言っとるのか理解できへんかもしれへんが、私も何が何だかサッパリ分からへんのや! 頭がおかしゅうなりそうやった! 闇の書の復活やとか、聖王のゆりかごが百隻出現やとか、そんなチャチな出来事じゃあ断じてあらへん! もっとハチャメチャが押し寄せてくるような事象の片鱗を見たで! 泣いてる場合じゃあらへんな!」

 

「落ち着いてください八神部隊長。 寧ろ今の貴女の方がハチャメチャになっていますよ。 大丈夫ですか、頭?」

 

「IPPAI OPPAI 私は元気や! そんな事よりもあの助っ人の協力者達の事や。 次元震の震源座標空間から出現したという現場状況から推察するに、あの人等は()()()()()()()()()()からやって来た“次元漂流者”である確率が高いやろな」

 

「はい。 しかも、どうやら彼等が使用していた力はこの度の戦いでミッドナイト軍が正体不明の協力者からの提供を受けて投入してきた異世界の異端技術・異能と同じもののように視られます。 恐らくは敵軍を陰で支援している謎の協力者と同じ世界からやって来た可能性が非常に高いと思われますね」

 

「これは凄い……映像データから推定される戦闘力も彼等全員、魔導師のトップエースやストライカーと同等かそれ以上の数値が計測されています。 特に助っ人のリーダー格らしき黒髪の剣士の青年と茶髪の橙色(オレンジ)の炎使いの少年に至っては両者共に推定SSランクニア──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

「そんならどうあれ、頼れる助っ人の彼等は敵軍の裏に潜む影の正体を暴く鍵になりそうやな。 この作戦が無事に終わったら、是非とも彼等から詳しく話を聞かせてもらわんとアカンな……」

 

せわしなく端末ボードを打つ通信士達からリィンやツナ達異世界からの助っ人等の情報が伝えられ、そう呟いて異世界からの助っ人であるリィンやツナ達と共になのは達最前線攻略部隊六名が紫焔大将軍スクルドとの決戦に挑もうとしているガラハッドの甲板上や異世界からの助っ人の別動隊であるガイウスとエマがシグナムとヴィータに合わせて即席ながらも見事な連携を組んで強敵のオーバル・モスカを追い詰めていっている地上部隊本部屋上ヘリポートや地上部隊の武装隊が敵軍の人形兵器群と激しい市街地戦闘を繰り広げている首都クラナガンの各所など、戦域各所の状況が映し出されている空間モニターを流し見した部隊長の女性は、ふと丁度鮮やかな槍捌きを回し鮮烈な竜巻を起こして戦技(クラフト)を敵に放ったガイウスの姿に目を止める。

 

「大地のようにガタイのイイ長身の褐色肌でおって、尚且つ涼風のように優しそうな雰囲気を纏う、包容力高い系イケメン……タイプやな」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガンの時刻は18:00を過ぎる。 地上約5000m以上という管理世界最高層の建築を誇っている地上本部屋上から更に約1000m上空……陽が西へ完全に沈み、ミッドナイト軍主力航空艦隊が未だに陣取るこの空は完全に暗闇に染まりきり、二つの月光と空の中心に君臨せし《紫焔大将軍スクルド》がその巨大な全容に煌々と纏う紫色(バイオレット)──綱吉達曰く“雲属性の死ぬ気の炎”が放つ輝きによって、暗闇の中に浮かぶ無数の黒鉄の箱舟と紫焔大将軍へ挑まんとしている若き英雄達が青白く勇壮に照らされている。

 

「共に戦うのなら名乗っておく。 オレの名前は沢田綱吉。 後ろにいる二人は俺の友達。 皆からは“ツナ”って呼ばれているから、気軽にそう呼んでくれ」

 

「じゃあそう呼ばせてもらうよ。 俺はリィン・シュバルツァー。 “トールズ士官学院”という所の戦術教官を勤めていて、後ろの青い学生服を着ている五人は俺の教え子達だ。 よろしく頼む。 共に力を合わせて戦おう、ツナ、それになのは達も」

 

「うん! よろしくね、リィン君、ツナ君。 奇遇だけどわたしもリィン君と同じ戦闘の教官だから、この戦いが終わった後で時間が出来たらお互いの教え子達にやっている戦技教練についてお話しようね♪」

 

「あ、あのっ! あたし、スバル・ナカジマっていいます! さっきは危ないところを助けていただき、どうもありがとうございました! この御返しはこの自慢の拳で存分に!」

 

実は互いに初対面だったリィン達トールズⅦ組勢と綱吉改めツナ達ボンゴレファミリー。 こちらを赤い三ツ目のレーザーアイレンズで睨み真正面に機体の肥大化に合わせて()()()()()()()()()()()機関砲剣を身構えている敵軍大将の紫焔大将軍と周囲を包囲している未だに残存駆動中の人形兵器群数百機と残る一体となったオーバル・モスカ等からの不意打ちを警戒しつつ、若者特有の初々しい自己紹介を交わした三つの世界の若き英雄達。

 

『お前ら吾輩を無視して、な~にを和気藹々としとるんじゃーーーい! どこまでもコケにしやがって、もう許さんぞぉ! 纏めてギタギタにしてやるから、覚悟しろいッ!!』

 

怒りに燃え盛った紫焔で機体を纏い大幅にパワーアップしたスクルドの威圧を前にしておいて、畏怖するどころか愉しそうに友好を交わしているリィン達の構える態度が凄まじく気に食わなかったのか、紫色の炎に覆われて更に分厚くなった機体の胸部装甲越しにラコフはもう我慢の限界と言わんばかりに怒声を張り上げて、スクルドに構えさせていた機関砲剣を大きく振り上げ、先制攻撃に切り掛かって来た。 ガラハッドの鋼鉄の床を踏み砕き大きく陥没させる程の機体重量と脚力でズッドン! ズッドン! という激震と衝撃波を撒き散らしながら、人形兵器達が包囲する中心に密集しているにっくき英雄等に向かって一直線に突進してくる。

 

『でりゃぁぁあああああああッ!!』

 

「ッ! 総員、分散して回避しろ!!」

 

進行上に陣取っていた味方の人形兵器すらもお構いなく無用に蹴散らし踏み潰して、機関砲剣の砲身の先に取り付けてある高周波ブレードに激しく迸る紫色の炎熱を纏って豪快にリィン達へと振り下ろした。 リィンの咄嗟の指示が功を奏し、全員スクルドの不意打ち先制攻撃を緊急回避する事に成功するが、周囲を取り囲む人形兵器達が彼等の行く手を阻む。

 

「俺が敵大将の魔煌機兵を引き付ける。 トールズⅦ組特務科各員、ARCUSⅡの戦術リンクを駆使して敵の包囲を破れ!」

 

「山本と獄寺君、残った一体のモスカの動きを封じてくれ。 オレはリィンと共に大将を叩く!」

 

「スバル以外のFW陣とフェイトちゃんは周りの援護をお願い! スバルはわたしと一緒にリィン君とツナ君のサポートを!」

 

「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」

 

だが彼等は全員、それぞれ過去に数多く死闘を潜り抜けてきた歴戦の英雄だ。 リィン、ツナ、なのは──団体別にそれぞれのリーダーの三人が指揮下にある仲間達に適格な役割分担と行動指示を即座に伝達し、敵の人形兵器群からの一斉射撃が来る前に全員一目散と回避して、皆それぞれ役割分担された通りの標的へと向かっていく。 この程度の対処などはお手の物だ。

 

「アル、あたしとリンクを繋いで一緒に行くわよ!」

 

「了解です、ユウナさん」

 

「ヘッ、ならオレはクルトとだな。 遅れんじゃねぇぞ!」

 

「言われるまでもない。 そっちこそ下手を打つなよアッシュ!」

 

鉄の粉塵を撒き散らして派手に打ち付けた床から機関砲剣の高周波ブレードを引き抜いてこちらを追撃して来る敵軍大将の足止めに、太刀を手に頼もしく向かっていく、頼れる自分達の教官を背にユウナ達トールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科生徒一同は早速、敵人形兵器群の包囲を破りに取り掛かる。 その際に二人一組(ツーマンセル)を作ったユウナとアルティナ、アッシュとクルトの間に“光の線(ライン)”が顕れ、それぞれのコンビに足下から繋げられた。

 

「あらあら、わたし一人だけ溢れてしまいました♡ なんだかちょっぴり淋しいですねぇ、うふふ」

 

『あの人達、いったい何をしているんでしょうか?』

 

『さあね。 見たところミッドナイトの連中も使っている“導力”という異世界のエネルギーの中継線(パス)で二人一組を繋げているようだけど、それにどういう意味があるのやら……異世界の援軍のお手並み拝見ってところね』

 

トールズⅦ組の五人の中で奇数という人数の事情でリンクを繋ぐパートナーがおらず一人余ったミュゼが何故か愉しそうに微笑む横で、彼等の援護に来ていたティアナ達がユウナ&アルティナとクルト&アッシュの二組を繋いだ不思議な“光の線(ライン)”を目の当たりにして、念話でひそひそとそれが何の意味があるのかという疑問を話し合っている。

 

しかし、魔法の世界しか知らないティアナ達にとって、魔法ではない未知の異端技術である導力器(オーブメント)の事となっては予備知識が全然無い。 故に謎の“光の線(ライン)”を接続したユウナ達がそれで何をするのかを見定める他に確かめる術はなかったが……その“繋がりの力”の真価はユウナ達が敵群包囲網へ突撃を敢行した直後に表れた。

 

「真っ直ぐ一直線に、正面からブチ破る! でやぁぁあああああああッ!!」

 

まずは裂帛の気合いと共に銃機構(ギミック)搭載旋棍(トンファー)の【ガンブレイカー】を両手に構えて最前を疾走するユウナが一番槍。 真正面を分厚く固めている中型二足歩行ユニット(ファランクス)の部隊へと猪突猛進、堂々の正面突破を狙いに行く。

 

「ええーーっ!?」

 

「あのピンクのポニーテールの人、一人で真正面からあれだけ多くの数が集まった敵の包囲網の中央へ突貫していってますよ!」

 

「うそ、冗談でしょう!? あの数のど真ん中にバカ一直線の突攻をかますだなんて、無謀すぎるわ! バカスバルじゃあるまいし」

 

無謀にも敵集団の中央に単独で突撃していくユウナに顔を青ざめさせて驚愕を露わにするティアナ達。 それは当然の事だ。 圧倒的な物量の敵に完全包囲されている状況で単独で飛び出せば容赦なく挟撃されて即蜂の巣にされる事は火を見るよりも明らかだろう。 定石(セオリー)なら人間の死角である背中を狙われるのを防ぐ為に複数の味方と背中合わせになって四方に当たるのが妥当といったもので、ユウナの単身突貫は誰が見ても考えなしの血迷った暴走としか捉えられない。

 

「っ!? 正面左翼と右翼の敵部隊の砲門が一斉にあの人の背中に!」

 

「あ、危ない!!」

 

突破を狙っている中型二足歩行ユニット(ファランクス)部隊からの攪乱射撃を両手のガンブレイカーを高速でバトン回した盾で弾きながら止まらず猛突進していくユウナの背後に狙いを定めて、その左側に陣取る小型三輪自走砲ユニット(トライアタッカー)数十機から成る部隊と逆側に陣取る小型浮遊銃撃機(スニークガンナー)百数機から成る部隊が一斉集中放火してきた。 案の定だ。 ティアナ達の脳裏に一寸先の未来、無惨に背中を蜂の巣にされて血溜まりに倒れるユウナの姿を幻視する。 もうこうなってはその最悪の未来は避けようもない。

 

普通ならそうなるのが必至だろう……しかし、今のユウナには“繋がりの力”で結ばれている相方(パートナー)の黒兎がいた。

 

「させません!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、既にユウナと“接続(リンク)”していたアルティナが素早く相方(パートナー)の背後へと駆けつけていた。 クラウ=ソラスに展開させた光学障壁(バリアー)で飛んで襲い来る豪雨のような弾幕を阻んで、相方の背中へは一切届かせはしない。

 

「敵部隊崩撃圏内(ブレイクスルーレンジ)、捉えたわ! やあっ、えぇい!」

 

接続相手(リンクパートナー)であるアルティナが敵の弾幕を防いでくれている隙にユウナは攻撃目標の敵部隊に無傷で接近する事に成功。 間髪入れず両手のガンブレイカーで最前列中央の中型二足歩行ユニット(ファランクス)に強烈な殴打を連続で叩き入れる。 細く脆い腰関節部位に会心の二撃(クリティカルダブルヒット)を貰った敵人形兵器はスココーン! という小気味いい打撃音と共に体勢を崩した。

 

『崩したわ!』

 

そして()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女の背中を守っていた接続相手(リンクパートナー)のアルティナが即座に振り返って跳躍していた。 クラウ=ソラスの太い腕に座し、ガンブレイカーを振り抜いたユウナの頭上を高速で飛び越えて、彼女に体勢を崩された中型二足歩行ユニット(ファランクス)に透かさず追撃を与えた。 (アルティナ)を乗せていないもう片方の剣山のように鋭い太腕でクラウ=ソラスが敵人形兵器の心臓部(導力エンジン)を横真っ二つに切断し、爆散させた熱風の波濤によって周囲を固めている撃破した敵の部隊を纏めて怯ませる。

 

ユウナとアルティナによる目にも留まらぬ超速の交替連携(スイッチコンボ)が瞬く間に敵の完全包囲に一点の亀裂を入れた。 だが、かの帝国の英雄《灰色の騎士》の教え子達は、これだけでは止まらない。

 

「今だ! タコるぜクルト!!」

 

「ああ!」

 

「「そらァ! / セイッ!」」

 

敵部隊が怯んだまた一瞬の内に跳び掛かってきたアッシュが長柄の戦斧(アックス)で無防備状態の敵人形兵器一体を頭部から瓦割りして床に撃沈させると、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()クルトと共に同時に斬り掛かって周囲近辺に居た敵人形兵器十数体を纏めて薙ぎ払う。

 

「よしッ! 最後は五人で一斉に蹴散らすわよ!」

 

「了解」

 

「承知」

 

「これを待ってたぜ!」

 

「うふふ、ようやくわたしも皆の輪に加わって活躍できますね♡」

 

中型二足歩行ユニット(ファランクス)の部隊を壊滅状態にしたところでユウナ達は仕上げに掛かる。 彼女達は接続相手(リンクパートナー)が居なかったミュゼも戦列に加えると、五人で輪を作るように集合して、先程ミュゼが全体回復導力魔法(アーツ)の《セラフィムリング》を使用する際に使っていた《ARCUS(アークス)Ⅱ》という携帯端末機を全員で取り出す。 彼女達が在学するトールズ士官学院の学院章である“有角の獅子”が描かれた背面カバーをパカッと開くと、五人全員で凄まじい導力の光に包まれながら、今から発動させる“集団連携同時攻撃システム”の名をミッドチルダの夜天高らかに轟き叫ぶ。

 

「「「「「ヴァリアントレイジ!!!」」」」」

 

その名が勇壮に叫び放たれた直後には、既に彼女達トールズ第Ⅱ分校Ⅶ組特務科による一斉攻撃が壊滅状態の中型二足歩行ユニット(ファランクス)の部隊を全滅させていたのだった。 光放つ刹那の間に一斉に連鎖爆散(チェインブラスト)されて逝く敵人形兵器部隊を、五芒星を描くように取り囲む位置取りに、ユウナ達五人がそれぞれの得物を爽快に振りきった体勢(ポーズ)を取っていた。 まさしく電光石火の早業だった。

 

「一瞬で敵の一部隊を……全滅させた……!!」

 

「え……ええええっ!!?」

 

「今……いったい何が起きたんですか……?」

 

「キュルルーーッ!」

 

開いた口が塞がらないとはこの事か。 ざっと数百体は居た中型二足歩行ユニット(ファランクス)の部隊を接敵(エンゲージ)してから瞬きをする数秒の間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()全滅させてしまった異世界からの援軍たるトールズⅦ組の五名。 その閃光の如きチームワークと制圧力を目の当たりにし、ティアナ達三人と一匹は事の直前まで彼女達の援護に入ろうとしていた足を無意識に止めて呆然となってしまっている。

 

──あのバカスバルに近しい突撃一直線の女性(ユウナ)が無闇に突出して背中を攻撃目標外の敵部隊に狙い撃ちされそうになった時に、彼女と“光の線(ライン)”を繋いでいた黒カカシの子(アルティナ)が迅速に防御援護(カバー)に割って入って、放たれてきた狙撃弾幕を未然に防いだ事といい。 “光の線(ライン)”に繋がれた片方が攻撃して敵の体勢を崩した瞬間に、意志疎通(コンタクト)のような予備動作の一切をやらずもう片方が速攻で追撃していた事といい。 それと同じ方法で体勢を崩した敵と一緒に周囲近辺の敵を巻き込んで、“光の線(ライン)”で繋がれた二人一組(ツーマンセル)同時追撃(ラッシュ)を仕掛けた事といい。 あの“光の線(ライン)”で繋がれた二人一組(ツーマンセル)の連携速度が()()()()()()()()()()()()()わ。 まるであの“光の線(ライン)”を通じて思考を共有しているかのように……ッ!!

 

だが驚く事に、機動六課随一の分析力を有するティアナの思考回路は確信無くも、たったの一見でユウナ達の使う“繋がりの力”の核心部分を見抜きつつあった。 これは《ARCUSⅡ》同士を介して接続した導力の中継線(パス)によって二人一組(ツーマンセル)()()()()()する事で、通常では不可能なまでな高速且つ最適の連携を可能にした《戦術リンク》機能(システム)というものである。

 

“戦闘は数が多い方が勝利する”と言われているが、()()()()()()()()()()()()()()というのは、実は難易度がかなり高かったりする。 味方が複数居る場合、自分以外の味方の状況も気にしながら戦闘せねばならなくなり、また、味方を活用する為には何等かの形で意思疎通(コンタクト)を取る必要が出てくるからだ。

 

そんな集団戦闘において、連携する際に味方と意志疎通(コンタクト)を取る事でどうしても生じてしまう致命的な予備動作(タイムラグ)を、戦術リンクシステムは()()()()()()()のだ。 なのはやティアナ達のような管理世界の魔導師も“念話魔法”という味方との意志疎通(コンタクト)を思考で繋げる手段を持ってはいるものの、自分の意志を相手に伝えるにはそれを自分の意識でやらなければならない故、戦術リンクのようにダイレクトな意識の共有伝達を行えるには程遠いだろう。 実際のところ、管理局の黄金(ゴールデン)エースコンビとして十年間勝利の戦歴を重ねてきたなのはとフェイトでさえ、()()()()()()使()()()()()トールズⅦ組の連携には大きく遅れを取ってしまうのだから。

 

──極めつけに最も驚愕したのは、あの人達が《ヴァリアントレイジ》とか言っていた最後の“全員一斉総攻撃”ね。 アレは正直、私の目じゃああの人達が攻撃した瞬間が全然見えなかったわ……。

 

しかし、極めて有能な分析力を持つティアナも、流石にユウナ達が最後に敵部隊を全滅させた時に行った、電光石火の如き早業の全員一斉総攻撃──《ヴァリアントレイジ》は見破れなかったようだ。 詳しいシステムの詳細については後々の機会に話すが、今のところは《ARCUSⅡ》を持つ五人以上が集まる事で()()()()()()()()()()()()()()()という事だけ語り、割愛させてもらう。

 

「これって、僕達の援護は必要ないのでは……」

 

「あ、ははは……確かにそうかもね」

 

たったの五人、しかも誰一人無傷で数百体もの敵人形兵器部隊を難なく全滅させてしまう程の強さとチームワークを見せたユウナ達に、先のJS事件でスカリエッティ一味とガジェットドローン程度ぐらいしか交戦経験値の無い未熟者の自分達が手助けに割って入るなどと、余計な御世話なのではないかと思った機動六課前線メンバー最年少ペアの少年少女が無理して苦笑を浮かべている……だが、その間に先程ユウナの背中を弾幕で狙い撃っていた、小型三輪自走砲ユニット(トライアタッカー)の部隊と小型浮遊銃撃機(スニークガンナー)の部隊が、全滅した部隊の穴を塞ぎに追い付いてきて、その場一ヶ所に固まっているユウナ達五人を再び包囲しているのが見えたので、ティアナがやれやれと一つ嘆息を吐いた。

 

「どうやら私達の出番が無くなる心配については杞憂のようね。 ……エリオ、キャロ、フリード、助けに入るわよ!」

 

「「は、はい!」」

 

「キュクー!」

 

FW陣年長者のリーダーであるティアナの号令と共に、今度も逆境を破壊すべく三人と一匹のストライカーはユウナ達を挟撃しようとしている敵人形兵器群の背後へと踊り掛かっていった。

 

……その一方で、未だに生き残っているガラハッド上の人形兵器の中でも強敵中の強敵である、残り一機のオーバル・モスカの足止めに回っていたのは、獄寺&山本コンビにフェイトを加えた三人の精鋭チームであった。

 

「フォトンランサー! 射出(ファイア)!!」

 

「くらえっ! 赤炎の矢(フレイムアロー)!!」

 

三人は飛び道具や射撃魔法を多用して、オーバル・モスカを隠れる障害物が無く逃げ場のない空中へと巧みに誘導。 フェイトは飛翔魔法、山本は左手の指に挟む三本の“青色(ブルー)の炎”の小刀の放射を利用した推進飛翔、獄寺は今戦っている鉄機人が両足から噴射させて飛行しているものと同じ“赤色(レッド)の炎”で浮遊する楕円形の浮遊台(ホバー)の上に乗って、この強敵を他の何所にも行かせないよう三次元に取り囲む事でこの場に縫い付ける事に成功していた。

 

時雨蒼燕(しぐれそうえん)流、攻式一の型──車軸(しゃじく)(あめ)!」

 

数多の死線を潜り抜けてきた十代目ボンゴレファミリーの一員である山本と獄寺、時空管理局の執務官のフェイト。 いかにリィン達の世界の技術である“導力結晶回路”を搭載した最新鋭の“モスカ”であろうとも、流石にこの百戦錬磨の精鋭三人に挟み撃ちにされては下手に身動きが取れなかった。 包囲を突破しようと試みて一人に向かって突進してみれば背中を残りの二人に狙い撃ちにされ、ならばと指先から炎弾を連射して満遍なく三人へ弾幕をばら撒いてみれば山本の刀が放つ“青色(ブルー)の炎”が炎弾の勢いを()()し飛来速度を遅行させた上で素早く懐に潜り込まれ急所を容赦無く突いてくるのだ。

 

「オレの“雨属性の炎”は万物の全てを()()する。 そんなスローボールの投球なんかじゃ、オレ達から三振は取れねぇよ」

 

「す、凄い……相手の射撃や動きの速度も威力も減衰させてしまうだなんて、反則的な……(だけど、なんで煽り言葉の例えが野球?)」

 

その右手に誇らしく握られた“燕の彫刻が施された両刃の刀”──《時雨金時(しぐれきんとき)》の刀身に青色の炎──“雨属性の炎”を纏わせて痛烈に突き飛ばしたオーバル・モスカにその青々と静かに燃え盛る切っ先を向け、得意気な顔で自分の操る炎の能力特性を語り相手を挑発している山本。 そんな彼を横目に眺めつつフェイトは何故このシグナムの腕前にも引けを取らないであろう剣を振るう少年剣士は野球の用語を皮肉に混ぜて煽り立てているのか少々気にしながらも、そんな彼が操る自分達管理世界の魔導師にとっては全く未知である青色の炎に秘められた力に瞠目を隠せないでいる。

 

マフィアや大規模犯罪企業団体(シンジケート)など、山本達の“裏世界”に身を投じている強者達は皆“死ぬ気の炎”という文字通り“炎”の形を象る特殊な力を持っている。 ユウナ達の《ヴァリアントレイジ》と同様後々に詳しく説明する機会を設けるので今は詳細を省かせてもらうが、“死ぬ気の炎”には基本的に《大空の七属性》と呼ばれる“七種類の属性”に分類されている。 その内の一つが山本の操る“青色(ブルー)の炎”の【雨属性】で、彼が語ったようにこの炎は森羅万象の猛りを静める“鎮静”の特性を持っている。 この青い炎を浴びさせれば動くモノの速力(スピード)や爆発物の破壊力(パワー)は勿論、魔導師が放つ()()()()()()()()()()()()()()()というのだから、フェイト達魔導師にとってはまさに脅威的な効果だ。 反則的だと思うのも無理はないだろう。

 

『──ピピピッ、敵性戦力ノ解析完了。 時空管理局遺物管理部機動六課所属《フェイト・T・ハラオウン》──固有戦力脅威度判定“S”ランク……並ビニ、データベースニ該当ガ無イ不確定戦力(UNKNOWN)二名──固有戦力脅威度判定、両名共ニ“S”ランクト推定……ヨッテ総合敵性戦力脅威度ヲ“S+”ニ設定シマス』

 

「ドヤ顔してる場合か野球バカが! 油断してんじゃねぇぞ。 あの紅いモスカのヤロー、何か仕掛けて来やがるつもりだぜ!!」

 

山本の時雨金時の刺突を受けた腹部を押さえて巨体を蹲らせながら不気味に機械音声で何やら呟いている敵のオーバル・モスカを対面に挟んだその先から獄寺がそう警戒を呼び掛けてくる。 そうとも、死ぬ気の炎を持ち、その他にも導力魔法(オーバル・アーツ)というリィン達の世界の力までも使ってくる相手はそれ以上に反則的(チート)なのだ。

 

『直チニ敵ノ包囲網ノ突破ヲ敢行シマス。 攻撃導力魔法(アーツ)ヲ選択……詠唱駆動(ドライブ)開始!』

 

機械音声でそう言ってガスマスク越しのアイレンズが気の緩んだ山本に狙い定めたように殺伐と朱く発光した直後にオーバル・モスカの巨体を青く光る魔法術式が球状に覆う。

 

「この術式はさっきの……まずいっ! 発動する前に奴の詠唱を止めて!!」

 

「ちっ!」

 

その術式と同じものを、先程の地上本部屋上ヘリポートで交戦し今現在も足止めに後方に残ったシグナムとヴィータが助太刀に現れた異世界の騎士と魔法使いと共に奮戦継続中である別のオーバル・モスカが使用していたのを、見たのを記憶していたフェイトが【それを撃たせては危険だ】と感じ取り鬼気迫る形相になって敵の詠唱を妨害するように獄寺へと呼びかける。

 

獄寺にとって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を聞くのは大変遺憾ではあったが、彼自身の感も敵が行っている詠唱駆動(ドライブ)に低く獣が唸るような危険信号(サイレン)を鳴らしていた為、フェイトに呼び掛けられたと同時に即座に左手の髑髏を模した火炎放射器──《赤炎の矢(フレイムアロー)》の口内に点火したダイナマイトを装填する。 彼には敵が何をしようとしているのか全然解ってはいないが、しかし【敵の詠唱を完了させては不味い】という事だけは判る。 そうこうしているうちに敵を覆っている青い術式の輝きが増して極限に眩くなってきたが、やらせはしない。 奴の背中に狙い定めて髑髏の口を絞り、その口から赤色(レッド)の炎の閃光(レーザー)を発射した……だがしかし──

 

詠唱(ドライブ)……完了(オールグリーン)!』

 

「ダメだ、間に合わないッ!」

 

『《ブルーアセンション》!!』

 

「ちぃぃっ! 避けろ山本ッ!!」

 

赤炎の矢(フレイムアロー)が届くよりも先に敵の詠唱の方が完了してしまった。 オーバル・モスカの機械音声が使用する導力魔法(アーツ)名を言い放った瞬間に水属性の導力魔法を発現させる為の青い術式が弾けて、水属性中級攻撃導力魔法《ブルーアセンション》が発動! 余波の衝撃波で背中に命中直前まで来ていた赤色(レッド)の炎の閃光(レーザー)がカッ消される。 そしてその直後、山本の足下を中心に発生した超高圧水流の渦が半径数十メートル広範囲の空間を文字通りに巻き込んでは切り刻み、天を水の柱が突くように盛大に大爆発をしたのだった。

 

「嘘……やられちゃ……た……ッ!!?」

 

渦の中心に居た山本は完璧に水流爆発の勢力が最も強いだろう爆心に完璧に取り込まれてしまっていたのは見るからに明らかだった。 余波によって発生した水蒸気の濃霧が辺りに蔓延していく中、フェイトは知り合ったばかりの自分より歳下の少年剣士の尊い命が卑劣な次元犯罪組織の兵器によって奪われてしまった可能性を脳裏に思い浮かべて茫然自失と立ち尽くす。

 

「……」

 

獄寺も浮遊台の上で腕を組み、硬い表情で山本が水流爆発に飲み込まれた方を見据えている。 山本が居た空間は高圧水流の炸裂爆発により発生した真っ白な濃霧に覆いつくされて中の様子を目視では確認できない。 従って敵の《ブルーアセンション》の直撃を受けたと思われる山本の安否は不明。 しかし、もし彼が無防備に超高圧水流の渦に巻き込まれたのなら、仮に悪運良くも生存していたとしても五体満足でいる可能性は絶望的だ。 何しろ超高圧の水流は金剛石(ダイヤモンド)をも容易に切断してしまう程の殺傷力があるのだ。

 

『……ピピピ、導力魔法(アーツ)ノ発動ヲ確認。 ソレニヨリ、Sランク敵性戦力一名ヲ撃h──』

 

術を放った張本人(オーバル・モスカ)も雨属性の炎使いの少年剣士は水流爆発で木っ端微塵になったと推測し、そう判定を下そうとしたその時だった。

 

「おいおいモスカさんよぉ、つれねーな。 人を勝手に()ったと思ってんじゃねーっつーの」

 

『──ピピッ!?』

 

突発として蔓延していた真っ白な濃霧が濛々と()()()()綿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その中に浮かび上がった“剣を右手に逆手持ちした人影”がその場に構えて高速回転すると、内部から一陣の(つむじかぜ)が引き裂くように濃霧が吹き飛ばされる。 其処に姿を現したのは水も滴りながらも()()()()()()()()()()()()、青き炎を携えた四本の刀の刃と首にかけた“【X(イクス)】印を中心にした犬の頭部と飛沫を巻いた刃を象ったネックレス”に灯した雨の守護者であった。

 

「時雨蒼燕流、守式七の型──()()(あめ)……ってな!」

 

「……生き……て……ええええっ!?」

 

「ちっ! 水の攻撃じゃ、やっぱピンピンしてやがったかコノ野球バカ」

 

「そしてこっちの子もさっきのあの黒髪の子に【避けろ】と言ってた割に、まるでそれと矛盾して心底残念そうに悪態を吐いてる!?」

 

あれだけの規模の水流爆発を高速回転剣だけで受け流しきった山本と同じ世界の仲間の身をあんじているのか素っ気ないのか判らない態度の獄寺に、フェイトは思わず白目で素っ頓狂な声をあげてビックリ仰天してしまう。 いったい何なんだ、このどこか調子を狂わされる異世界の助っ人達は?

 

「ったく……遊んでんじゃねぇぞ。 ちょっと変わった機能が追加されてようが、()()()()()()()()()()本気(マジ)になってさっさとスクラップにして、十代目達の援護に行くぜ!」

 

「へへへっ、りょーかい♪」

 

そんなこんなで未だに白目を剥いて泡食ってポンコツ化している執務官の事は横に置いておき、そろそろ本気を出して敵を撃破するとして示し合わせたボンゴレの嵐と雨の守護者両名は、それぞれが身に付けていた【X(イクス)】印付きのバックルとネックレスを手に取って闇夜の大空に掲げる。

 

「出て来やがれッ、《(うり)》!」

 

「ニャアア!」

 

「待たせて悪かったな、出番だぜ《小次郎(こじろう)》!」

 

「ピュイ!」

 

獄寺の赤色(レッド)の炎──“嵐属性の炎”が灯された《嵐のバックルVer(バージョン)X(イクス)》からは、可愛らしい耳の中に嵐属性の炎を灯す豹柄の子猫。 山本の“雨属性の炎”が灯された《雨のネックレスVerX》からは小さな全身の羽毛から雨属性の炎を撒き散らしながら飛翔する(つばめ)。 二人が掲げたそれぞれの“覚悟の炎”を灯した荘厳な雰囲気を放つ装飾品(アクセサリー)の中から、()()()()()()()()()()()()()()()()が待ってましたと言わんばかりの鳴き声をあげて元気良く飛び出てくる。

 

 

嵐猫(ガット・テンペスタ)≫瓜

 

 

雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)≫小次郎

 

 

──今度はカワイイ子猫ちゃんと小さな燕が、あの二人の手に掲げられた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の中から飛び出てきた……たぶん魔導師(私達)の持つデバイスに内蔵されている【収納機能】と同じような仕組みなんだと思えば一応の説明は付くと思う……けれどもあの二人は此処一番で、何で小動物を出した!?

 

何故そこで愛ッ!? ……ではなくて、何故そこで愛くるしい小動物ッ!? フェイトは獄寺と山本が反撃に転じるこの局面で見るからに可弱そうな小動物を出してきた事に、更なる困惑を覚え内心で忙しく疑問の声をあげている。 いかに無数にある次元世界を股にかけて数々の魔法事件や厄災神秘と相対して解決してきた時空管理局員魔導師である彼女達とて、これだけ立て続けと自分の理解の及ばない事象を矢継ぎ早に前にしては、頭から煙が昇るのも無理はないと言うものだろう。 これでどうやって戦えばいいんだ?

 

「そんじゃ、いくぜ瓜ッ!」

 

「こっちもやるぜ、小次郎!」

 

だが災難な事に、まだまだフェイトの脳細胞はボンゴレ守護者二人による非常識劇場によって休みなく焼き殺され続けるのだった。

 

「「形態変化(カンビオ・フォルマ)──初代武装展開(リベラツィオーネ・ファーストウェポン)!!」」

 

意★味★不★明。 二人が同時に叫んだ直後、瓜が「ニャアアア!!」と咆哮して眩く光放った刹那に獄寺の左手の赤炎の矢(フレイムアロー)()()()()()赤色(レッド)の炎の弓矢(アーチェリー)に変化し、小次郎も「ピィィイ!!」と鳴いて空高くから急転直下し山本の右手に握られている時雨金時と()()()()青色(ブルー)の炎翼の長剣へと変貌させた。 もう勘弁してくれ、こんなのトップエース級魔導師の並列思考(マルチタスク)回路をフル回転させても理解が追い付かない。 フェイトの脳内容量(キャパシティー)はもう限界(オーバーヒート)寸前だ。

 

 

荒々しく吹き荒れる疾風──≪Gの弓矢(アーチェリー)

 

 

すべてを洗い流す恵みの村雨──≪朝利(あさり)雨月(うげつ)の変則四刀≫

 

 

『ピピッ!!? 敵性戦力SランクUNKNOWN二名、共ニ()()()()()()()()()()! 脅威度判定“SS”ニ上方修正(ランクアップ)。 コチラトノ戦力差ヲ再計算(アップデート)……計算(アップデート)完了。 算出ノ結果、コノ機体性能(スペック)デハ現在ノ敵性戦力ヲ殲滅スルノハ困難ト推定! 危険、危険、危険……至急退避ヲ──』

 

「おっと、逃がさねーぜ! 同時に決めるぜ獄寺、金髪のねーちゃんも!」

 

「あは、あはははは……あんなにカワイイ小動物が武器と合体しちゃった……融合機(ユニゾンデバイス)みたいなものかなぁ? あはははは……でも、ツヴァイもアギトも武器と合体なんてしてないよね……あはははは! もう何が何だか訳が分からな過ぎて、頭がぐるぐる回るぅ~! あはははは! ……落ち着け。 こんな時は前にはやてから借りた少年漫画の悪役キャラクターがやっていたのと同じように、素数を数えて一旦落ち着こう、うん! 4……6……8──」

 

「テメェがオレに指図すんな! それから其処の“デカパイケツマルダシ女”も何をテンパってんだよ! 数えてんのそれ全部素数じゃない合成数だからな!!」

 

「──9……10……ハッ!? デカパイケツマルダシ女……って、それ私の事ッ!!?」

 

山本と獄寺の武装が変化したと同時に二人の戦闘能力値が格段に強化(パワーアップ)されているのを分析確認してそれが自身の持つ戦闘性能を大幅に上回っていた為にAIが形勢不利を判断したオーバル・モスカが逃亡を図ろうとしたところを、咄嗟に回り込んだ山本が奴の退路を阻む。 その奥側で異世界の助っ人達が巻き起こす未知と非常識のバーゲンセールに付いて行けずに目をぐるぐると両手で抱えた頭から煙を出して故障した言動を独り言ちながら天手古舞(てんてこまい)周章狼狽(しゅうしょうろうばい)しているフェイトへ、獄寺がライバルである山本に作戦命令された事に大変立腹しつつ彼女の正気を戻すように指摘を入れる。 そのおかげでどうにか我に返ったフェイトだったが、その際にどさくさに獄寺が吐き捨てていた、こちらへ対するセクハラめいた蔑称に気が付いて酷くショックを受けた。 それは確かに、彼女が今現在展開中の《真ソニックフォーム》は音速の機動力を実現する制御魔力量確保の為に()()()()()()()()()()()()()、彼女の豊満で腰細く非常に扇情的な肢体を限りなく際立たせたレオタードに近い高露出度の衣装となっており、申し訳程度に正面股下に垂らした短い布で辛うじて隠せている部分は前の秘処ぐらいなもので、彼女の瑞々しい四肢の素肌や肉感たっぷりの胸の双丘とぷりぷりの桃尻などは衆目に野ざらし状態という、下手をしたら(マッパ)よりもよっぽど羞恥的な恰好なのである。 まったく、まことにけしからん。

 

『退避! 退避!』

 

「ほら、あーだこーだ言ってる間に敵さんが逃げちまいそうだぜ? 文句なら後で聞いてやるから、さっさとやろうな♪」

 

「チッ! 後で覚えてろよ野球バカ。 デカパイケツマルダシ“痴女”もいい加減に正気に戻ったか? なら、とっととあのモスカのヤローをスクラップにするぞ!!」

 

「一言増えてるし!? ああーっ、もうこうなったら何も考えずにやってやる!!」

 

フェイトは近いうちに真ソニックフォームの衣装デザインを変更する事を決意して、考えるのを止めた。

 

「貫けぇぇッ! 赤竜巻の矢(トルネード・フレイムアロー)!!」

 

「時雨蒼燕流、総集奥義──時雨之化(じうのか)!」

 

ライオットザンバー・カラミティ! てりゃあああああああッッ!!」

 

夜天の暗闇の中へと逃亡しようとし両手両足の噴射口から炎を全出力で吹かして上空高くへと飛び立とうとするオーバル・モスカに、三人三方向からそれぞれが持てる必殺技で全力全開の挟撃を仕掛ける。

 

獄寺がGの弓矢(アーチェリー)を引き絞って撃ち放ったすべてを分解して突き貫く赤色の螺旋回転火矢が夜の闇を貫き、山本が右手の青色の炎翼の長剣を構えて左手に携えた三本の炎の小刀を最大出力で逆噴射して青炎の花帯を引きながら猛然と突貫し、フェイトが両手の光の双大剣(ライオットザンバー・スティンガー)を一本に重ねて身の丈の三倍以上の巨大さを持つ光の斬馬刀(ライオットザンバー・カラミティ)にして半場ヤケクソ気味に気合いを叫びながら一条の閃光と化して、鷹目から赤青黄三色の花弁を持つ六花(アスタリスク)を描くように紅の鉄機人を刺し貫いた……。

 

 

 

 

 

 




今回の『炎の軌跡講座』はお休みです。

代わりに活動報告では、昨日からこの小説の物語中に登場する味方陣営の合体戦技──《コンビクラフト》のアイデア募集を開催しました。

これからはこの作品の更新が進み次第で、オリキャラやオリジナル戦技(クラフト)やオリジナル匣兵器などといった色々な要望の設定アイデアを読者ユーザーの皆様から募集していきますので、活動報告にどしどし書いてください。 あなたのアイデアがリィンやツナ達の助けになるか、立ちはだかる壁になるかもしれませんよ♪


ではまた次回更新で会いましょう! コンビクラフトのアイデア応募もお待ちしております♪



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更に共闘する英雄達

活動報告の宣言通り、1月内に今年の初更新です。 お待たせしました!

ファルコム公式では『(クロ)の軌跡Ⅱ』の制作が発表されて、軌跡シリーズの盛り上がりは益々アガット! エレイン人気沸騰で次回作はメインパーティー入り+メインヒロイン昇格か!? 発表された絵に写っていたヴァン&エレインと対峙する“紅黎(あかぐろ)魔装鬼(グレンデル)”は何者!? 続報まだかーーーっ!!(テンションアガット)

活動報告のオリジナルコンビクラフトもまだまだ募集中です! (てか、まだ誰の一つも書かれてないな。 やはり企画が地味だったかも……)




第一管理世界ミッドチルダの首都クラナガンの夜空を我が物顔で埋め尽くす反管理局軍ミッドナイトの主力艦隊。 その中心に未だ陣取っている空中司令母艦《ガラハッド》の銀色豪奢だった外観は、その艦上にてミッドナイト軍が擁する人形兵器群を相手に取って大太刀回る、三世界の若き英雄達による八面六臂の大攻勢によって至る所を隅々まで爆砕され、今や元の威厳高い玉座の如き荘厳さは見る影も失くなっていた。

 

『こぉぉぉの異世界のクソガキどもぉぉおおおーーーっ!! 部外者の分際でよくもこの新たな次元世界の支配者たるこの吾輩の邪魔をしたばかりか、吾輩の大事な宝船(ガラハッド)をこんなメチャクチャにブッ壊しやがってぇぇええええ! ゆ★る★さ★んっ! 潰れろぉぉぉぉい!!!』

 

ユウナ達の大暴れで周囲の景色が無数のドーム状の爆発によって次々と吹き飛ばされていく。

 

そのド真ん中で、今まさにミッドナイト軍の総軍司令官(大将)であるラコフ・ドンチェルが打倒時空管理局と次元世界の支配者に成るという野望を、あとちょっとで叶うところで邪魔したリィンやツナ達異世界の英雄等に憤怒を向け、文字通り怒りに燃える鉄槌を足下で動き回るリィンに振り下ろさんとする。

 

ラコフが内部に乗って操る、“紫色(バイオレット)の炎”に機体全身を纏わせた《紫焔大将軍スクルド》が右手に持って大上段からこちらの頭上へと振り下ろしてきた元々も大木サイズだった機関砲剣も“紫色の炎”に包み込まれて肥大化し、全体的の質量(サイズ)が大幅に()()されている。 目測で凡そ横幅8アージュ(m)以上はくだらない圧倒的な(おお)きさだ。 それが凄まじい圧を帯びて迫り来るのを真下から見上げる異世界の黒髪の剣士の眼から見ればまるで炎上した高層ビルが頭上に倒壊してくるような恐怖だろう。

 

「はっ!」

 

しかし、彼は冷静に、あろう事か手に携えていた太刀一本を盾にその何百倍も巨大な質量を持つ紫焔の機関砲剣を受け止めてみせた。

 

『ななな、なっにィィィイイイイイーーーーッ!!?』

 

そんなバカなッ!? スクルドの操縦席空間(コックピット)にラコフの驚愕が反響した。 その反応は至極当然の事だ。 魔煌機兵が振るう近接武装はトリム(t)級もの重量があり、それが上から叩き付けられたならば譬え受け止めたとしても、矮小な人の身など一瞬で圧潰すレベルの衝撃が受けた人間の身に圧し掛かる。 故に幾ら【錬気】や【ARCUSⅡの身体能力向上機能】などの外的要素で常人より強化されているだろうとはいえ、人の身でしかないリィンが魔煌機兵であるスクルドの振るう機関砲剣を太刀一本程度で平然と受け止められる筈がない。

 

しかし、リィンは過去に起きた世界を脅かす数々の事件や災厄に立ち向かう中、幾多の試練と死線と運命を乗り越えて、今や彼の故郷の世界において一流の武人の一人に名を連ねる程に至っている。 攻撃を受けるのに合わせた絶妙な重心移動と全身運動を利用して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような芸当などは朝飯前だ。

 

それに付け加えると、スクルドの攻撃を罅割れ一つ生じさせずに受け止めたリィンの太刀は《神刀【非天】》という銘の業物であり、これは少々()()()なのだが、何度も申し訳が立たないが素材の詳細については今は後程となる。

 

「今だツナ、打ち込め!」

 

『しまっ──』

 

「うぉぉおおおおお!」

 

スクルドの得物をリィンが抑えている隙を突いて、闇夜の大空から“橙色(オレンジ)の炎”が一流の流星となって紫焔大将軍へ飛来。 大上段からの振り下ろしを灰色の騎士に止められて硬直した事で、的の巨大な木偶の坊と化しているスクルドの懐へと、ツナがその両手に着けた甲の中心に燭台を映す水晶が嵌められた上に【X】の文字を重ねたデザインの指貫グローブ──《X(イクス)グローブVer.X》に纏わせた“橙色の炎”を後方へジェット噴射して、それによって生み出している凄まじい推進力(スピード)のままに猛突進してくる。

 

直線の飛翔速度は文字通り爆発的であり、真ソニックフォーム時のフェイトよりも頭一つ速く、何よりも夜の闇や周囲に今も巻き起こっている無数の戦闘爆発をも橙色(オレンジ)に染め上げる()()を両手にして向かって来る彼の姿は向かわれる者に太陽そのものが迫ってくるような錯覚に陥らせる程の猛威を放っている。

 

『のぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーーーッ!!!』

 

そんな速度と猛威を丸ごと乗せて叩き込まれたツナの拳の威力は、紫炎大将軍の分厚く高熱の紫焔に覆われていた顔面を数十t(トン)もの重量を誇る巨大な胴体ごと楽々と宙へ突き浮かし、後方50m先に見えるミラービルのような艦橋(ブリッジ)の正面前の床にポッカリと空いている長方形をした大穴へと頭から突っ込んでいく。 その穴はまさしく先程、ラコフが甲板下層に格納されていたこのスクルドの機体を出した昇降運搬口であった。

 

狙い通り(ナイスショット)、お見事ですツナさん!」

 

『って、穴の中から六課の戦闘機人の小娘がっ!? ちょっ──』

 

「一撃必中、ディバインバスタァァアアアアーーーーッ !!」

 

スクルドが殴り飛ばされて来るのを見計らって昇降運搬口の中に身を潜めていたスバルがカタパルト発進する戦闘機の如き勢いで飛び出し、丁度真正面に迫り来たスクルドの広い脳天に零距離魔砲弾を叩き込んだ。 右手のリボルバーナックルで大振りに殴りつけるようにして撃ち出された水色の魔力の塊が紫炎大将軍を()()()()()()にしてクラナガンの夜天上空へグングンと押し上げる。

 

『──そんなバナナァァァアアアーーー!!』

 

畜炎体循環出力増幅機関をフル稼働させて機内の操縦者(ラコフ)の持つ紫色(バイオレット)の炎──“雲属性の炎”で機体全身と武装を丸ごと纏い《紫焔大将軍》にパワーアップしたスクルドの機体全長は()()1()5()m()()()()()()()。 そんな巨体を持った魔煌機兵が、少し特別な力を持っただけの生身の人間にしかすぎないリィン達の手によって、まるでピンボールのようにポンポンと吹っ飛ばされまくるという非常識を受けて、中に擁したバカ殿(ラコフ)が寒いオヤジギャグをかますように意外と余裕ありそうな悲鳴を夜空に響かせつつ、なんとも間抜けた恰好で上昇していく紫焔大将軍……だがこれで終わりではない。 天に向かうその足下の先では、純白の輝きを放つ二つの月を背中にして、威風堂々と両手に構えた黄金の穂先に膨大な桜色の魔力球体を四つ収束形成(チャージ)した高町なのは(不屈のエース)がその照準をこちらに定めて待ち受けていたのだった。

 

『んゲゲッ!? なのは嬢!!』

 

「うん、丁度いい角度で打ち上げたねスバル。 ピッタリ計算した通りなの!」

 

スクルドが吹っ飛ばされた軌道上に何故なのはが事前に砲撃魔法の発射準備(チャージ)をして既に先回りをしている!? 胸中にそのような疑念を抱いて焦燥の声を荒げるラコフに、計算通りという不敵の笑みをニヤリと浮かべるなのは。 そう、すべてはなのはと、そしてリィンの名戦術教官二人によって組み立てられた()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

──四人でスクルドに攻撃を仕掛ける直前、リィン君がツナ君に耳打ちで多分「俺が敵の攻撃を受け止めるから、その隙になんとかして背後に見える穴へ敵を突き落としてくれ」って感じのお願いを伝えながら、同時に“二つの月の間”を指差しして、わたしに空に飛び上がるように促してきた。 わたしは一瞬それがどういう意味なのか理解できなかったけれど、その直後にリィン君がスクルドの背後に見える穴──艦橋(ブリッジ)前の床に開放したまま放置してあった魔煌機兵専用昇降運搬口を指差してスバルに何かを伝えようとしていて。 それでわたしはリィン君がやろうと考えている四人連携攻撃作戦の概要に気付けたの。 そしてわたしはリィン君がスクルドの目の前へと向かって行って敵機体を中で操縦しているラコフ・ドンチェルの気を引きつけてくれている内に、彼に受けた指示の内容がイマイチ理解できないでいる様子だったスバルに念話を繋げて『今の内に、敵に見つからないようにリィン君が指差した穴の中に隠れて。 たぶんツナ君が何らかの方法であの穴に(スクルド)を突き落としてくると思うから、君はそのタイミングに合わせて穴から飛び出て。 それで背後から敵を“二つの月の間”に向かって思いっきり打ち上げてちょうだい』と具体的な行動指示を伝達──

 

その後はリィンに送られた手信号に従い、飛翔魔法で上昇しスバルが身を潜めた運搬昇降口から見上げて夜空に浮かぶ“二つの月の間”の位置に待機。 そしてスバルから打ち上げられてくる紫焔大将軍に連携攻撃の決定打(フィニッシャー)となる特大の魔砲(エクセリオンバスター)を撃ち込まんと、魔法術式を構築して敵が打ち上げられてくる予測軌道に砲撃照準を合わせ、空気中の【魔力素】を体内へと吸収して必殺の砲撃を放つのに充分な魔力量をリンカーコアから練成して、砲撃目標が打ち上げられる前に構えたレイジングハートの穂先に魔力充填(チャージ)を完了させる……。

 

「そして手筈通り、スクルド(貴方)がこっちへと打ち上げられて来たら、後はわたしが発射準備(チャージ)した決定打(エクセリオンバスター)をそのままスクルド(貴方)に撃ち込めば、それで四人連携攻撃は成功だよ!」

 

『チチ、チキショォォオオオオオオオオオーーーーーッッ!!!』

 

相手にしてやられた悔しさのあまりラコフは軍帽の上から頭を狂うように掻き毟り、盛大に癇癪をあげる。 先程のように攻撃反射防御結界(リアクティビアーマー)を展開させる間など与えたりはしない。 スバルの水色魔砲弾(ディバインバスター)に真下から脳天をグーーーンと押し上げられてなのはが敷いた砲撃射線上の真正面へ迫り来た紫焔大将軍の両足が彼女の必中射程(ミドルレンジ)に入った瞬間、なのはは唇を一舐めして勝利を確信し、レイジングハートの自動装填弾倉(マガジン)を作動させて瞬間魔力増幅薬莢(カートリッジ)を四発排莢(リロード)した。

 

「《エクセリオンバスター》四連砲(フォースバースト)! ブレイク・シューt──」

 

ズキッ!

 

「──グッ!?」

 

カートリッジによって瞬間増幅された炸裂魔力で撃鉄を打ち、黄金の穂先に留められていた四つの魔力球体が目前に迫った紫焔大将軍に向かって巨大な魔力の奔流と化して解き放たれる……まさにその決定的瞬間、急になのはの胸の奥に()()()()()が走り、彼女は思わず苦悶を浮かべて疼いた胸を押さえだしてしまう。

 

──しまった!

 

そう彼女が自分が致命的な失態を犯してしまった事を認識した時にはもう取返しは付かなかった。 砲撃発射は中止され、撃ち放たれようとしていた四つの魔力球体は無数の桜の花弁の如くクラナガンの夜空に舞散って消えていく……。

 

『えっ!? 不発? ひょっとしてなのは嬢、魔法ミスっちゃったの? ……ニヤリ!』

 

エクセリオンバスターは不発……それを垣間見たラコフはこれを絶好の好機と視てほくそ笑んだ。 なのはが自らの失態に狼狽えている隙に武装を持っていないスクルドの左手を操作して機体の頭を押し上げているスバルの水色魔砲弾(ディバインバスター)を鷲掴むと、そのままその腕をグルグルとブン回して明後日の空へと水色魔砲弾(ディバインバスター)を放り投げ捨てる。

 

『ドンッ、チェルルルルルルーーーッッ!! 管理局の最優の魔導師(エース・オブ・エース)ともあろう者が決定的なチャンスにミスるだなんてーーー! とんだO★MA★NU★KEさぁぁん♪』

 

壊滅的打撃必至の窮地から一転して反撃の好機を得たラコフは両目から汚い涙を操縦席空間(コックピット)中に飛び散らかして下卑た爆笑をしながらスクルドの()()()()()()()()()()()()()()()、右手に持つ機関砲剣で間近に迫ったなのはを逆に撃墜してやるとして狙い定めた。

 

「くっ!」

 

『にっくき時空管理局のエース・オブ・エースよ。 吾輩の積年の恨みをしこたまブチ込んでくれるわ! そして奈落へ墜ちろぉぉぉおおおおおおーーーーーいっ!!』

 

八葉一刀(はちよういっとう)流──(ろく)の型、緋空斬(ひくうざん)

 

『ひでぶっ!?』

 

身を隠す障害物が一切無い空中域で無防備な様を迂闊に晒してしまってその凛々と美しく整った顔に焦燥の色を浮かばせて呻く次元世界の英雄たる白き魔導師の少女へと向けて、紫焔の機関砲剣の持つ燃える刺突剣付きの太くて大きな砲身から今まさに不屈の星をも撃ち落とす無限の炎弾が撃ち放たれようとしたその直前に、炎を纏う(はやぶさ)が飛翔するかの如く真下の甲板上から高速で飛ばされてきた一閃の()()()()が紫焔大将軍の股間に突き刺さり、小規模の爆発を起こした。

 

『ぎにゃあ"あ"あ"あ"っ!? 吾輩の黄金の大王おマンモスがぁぁくぁwせdrftgyふじこlpーーーーッッ!!!』

 

不意に死角からの攻撃を受けた事への動揺に加え、機体が受けたダメージ箇所から昇ってきた衝撃によって尻に敷いていた黄金の玉座(そうじゅうせき)の下内部の骨組みパイプがへし折れた事で内側から金のメッキカバーを突き破ってきたそれが股間にダイレクトにブッ刺さり、ラコフは男にしか分からない激痛に悶絶し言葉にできない悲鳴をあげて、爆発した股間を両手で押さえる機体と共にそのまま墜落して甲板の鉄床に頭から突き刺さった。 所謂、犬○家のポーズである。

 

「今の声は……?」

 

撃たれる前に飛来し割り込んできた()()()()がスクルドを撃ち落としてくれたお陰で間一髪助かったなのはは援護攻撃が飛んできた方向を見遣る。 彼女の大きな碧い瞳に映ったのは、左腰に差した立派な鞘から抜刀して太刀を精悍に振りきった姿勢からその緋色に煌く刀身を静謐に鞘へと納める黒髪の青年剣士の立ち姿だった。

 

「リィン……君……う"っ……げほっ、ごほっ!」

 

彼に再び危機を救われたなのはは一瞬だけ申し訳半分嬉しそうに口元を綻ばせるが、痛んだ胸から咳がこみ上げてきて息苦しそうに手で胸を押さえだした。 そう……実はエクセリオンバスターが不発になったのは、病み上がりのその身体でこれまで無理に高ランクの魔法を酷使し続けたツケが回って彼女のリンカーコアに掛かっていた負担が重なりに重なって、もうとっくに限界を迎えていたのだ。 リィン達が援軍に現れる前までに蓄積していた身体の負傷と体力こそはミュゼの回復導力魔法(セラフィムリング)のおかげで全快したが、彼女のような()()()()()()()()()()()()()()()の方は全然回復していなかった。

 

これではもう今のなのはは高出力の砲撃魔法は無論、己の魔力を消費し続ける飛翔魔法を維持し続ける事も苦しいだろう……そうなると当然、彼女は飛翔魔法の制御を失ってそのまま事切れたように真下へと落下していく……しかし、彼女の身は硬い鋼鉄の床の上に叩き付けられる事はなく、それよりも前に咄嗟に縮地を使い目にも留まらない速さで落下地点へと駆け付けたリィンの逞しい両腕によって抱き止められた。

 

「なのは、大丈夫か?」

 

「う……うん。 ごめんね。 また、君に助けてもらっちゃった……」

 

「すまない……君の身体に流れる“霊力(マナ)”の波長は不安定にあった事は把握できていたのに、無理な役割をやらせてしまった。 俺の判断ミスだ……」

 

そう心の底から申し訳なさそうに両腕に横抱きしたなのはの眼を真っ直ぐ見つめて真摯に謝罪の言葉を彼女に伝えるリィン。 彼は自分以外の他人を危険な目に遭わせる事を大いに忌避する(さが)を内面に秘めている。 此処へ来る数ヵ月前に自分の元居た世界で起きた“とある大きな戦い”の顛末に()()()()()()()()事で以前よりは大分緩和したが、彼生来の御人好しな性格故に、今日知り合ったばかりのなのはにすらこうして彼女の不調を随分と気に掛けて()()()()()()()()()()()()()()()()ちゃっかり彼女の身の安全を守っている、徹底した気配り周到振りであった。

 

「にゃはは……気を遣ってくれてありがとう。 君はとても優しいんだね」

 

気遣いが少し大袈裟じゃないかと思うところもあった為に少し苦笑を漏らしたが、相手に負けず劣らず律義であるなのはは助けて貰った御礼はちゃんと言う。 他人に怪我をさせたくない気持ちはなのはにも()()があって大いに共感できるが……。

 

「でも……そろそろこの恰好でいるのはちょっと恥ずかしい……かな? 自分と歳の近い男の人にこうして抱っこされるのって、あんまり慣れてないからさ、わたし……」

 

なのはは若干頬を朱に染めて戸惑う気持ちをリィンの胸に文字通り直接訴えて、乙女の恥じらうようにそっぽを向く。 なのはの身体は今、リィンの剣で鍛え抜かれた逞しい両腕によって横抱きに抱えられている姿勢だ。 それは所謂“お姫様抱っこ”と言われる、女の子に生まれたなら誰もが一度は夢に見るであろう憧れの異性にしてもらいたいシチュエーションというもので、況してや美形に生まれる者が大半居る次元世界中においても稀に見ない好青年(イケメン)であるリィンにそれを現在進行形でされているのだから、幾ら色事には硬派でいるなのはであっても嫌に熱を意識してしまう。

 

「ぁ……ああっ!? ごご、ごめん!! 直ぐに降ろすよ」

 

言われて今の自分達の体勢が男女の関係に大変不健全な恰好である事をようやく認識したリィンは華も恥じらううら若き女性であるなのはに対して大変失礼を働いた事を大慌てで謝りながら、しかし割れ物を扱うように彼女の身体を足から丁寧に床へ降ろした。 いかんな、これではまたアルティナに「不埒です」などと言われてしまう……そう懸念を思い馳せつつリィンは少々気まずく指で蟀谷を掻いて、もう二度と同じ過ちはしないと誓い反省した。 (まっ、彼は前科だらけで女難を受ける運命の星の下に生まれているのだろうし、深く反省しても正直無駄だろうとは思うが……)

 

「そ……それにしてもよくあんな即興でわたし達三人の能力を把握した連携攻撃を考え付くなんて凄いよリィン君! わたしでも映像データを取らないと、会ったばかりの人との連携を考えるなんて難しいのに」

 

「いやいや、さすがにトリム級の重量がある魔煌機兵を上空に吹っ飛ばすだなんて俺にも想定外だったさ……。 まあでも、初めて会ったばかりの人間と組んでも、その“立ち振る舞い”や“纏っている空気”などを()()()その人がどういった戦闘スタイルや能力を持っているのかぐらいは大体予想できるな……援軍に後からやって来てその場に出来た“戦闘の傷跡の付き方”が観られれば、もっと正確に相手の戦術構築思考(バトルタクティクス・ロジック)や有している戦技(クラフト)までも想像できるようになる」

 

そうリィンが一瞬艦首の方を横目で流し見ながら説明してくれた戦闘分析方を聴いてなのはは思わず「す、凄い……」と目を見張った。 彼が横目に見ていたのは、異世界の援軍(リィン達)が此処にやって来るより少し前の時に、なのはとスバルが放った合体戦技(コンビクラフト)の《W(ダブル)ディバインバスター》がスクルドの展開した《リアクティビ・アーマーA(イージス)》に反射されて放った二人を巻き添えに頭部を丸ごと粉砕☆玉砕☆大喝采ッ! していたラコフの黄金艦首像だ。 実のところリィンは()()()()()()()()なのはとスバルが破壊力の高い遠中距離への攻撃手段を有している事を確信したのだ。

 

目先に映した視覚情報を並の人では意識し得ない隅々まで委細把握して十全に使うばかりか、戦場の環境状態を少し観察しただけでその場で交戦していた者達の戦闘能力をまるで前もって見ていたかのような精確さで理解するなどと、とても人並みの観察力では成し得ない御業だろう……そのような普通から大逸れまくった分析方を難の事など無いように言ったリィンに対して、聞いた本人であるなのはは無論の事、鉄床に刺さった頭部をなんとか引っこ抜こうと必死に足掻いているスクルドから反撃が来る可能性を警戒しつつも近くで話をちゃっかり盗み聞きしていたツナもまた驚き混じりに関心を向けている。

 

──驚いたな。 戦う相手の手札を出す前から読めるだなんて、リィンの見切りはスクアーロや幻騎士以上かもしれない……これは()()()()()()()()()だけど、彼は五感(視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚)や第六感(過去の経験から来る直感)をフル活用して得た情報を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう。 反応速度と即応力(レスポンス)ならオレの《超直感》が上だろうけど、予測精度と状況変化対応力(マルチシフト)は完全にリィンの観察眼(あっち)の方が上だ。

 

それに並ぶか上回る予測が出来るとするなら、己が過去に記憶している猛者の中だと()()()()()()()()()()()()()()“最強の敵との決戦”の最中に突然姿を現しては自分達に心強く助太刀してくれた、自分が最も信頼する“家庭教師”の旧友を名乗っていた【謎の黒スーツの男】ぐらいなものだろうか……今思い返すとそういえばあの人も自分の家庭教師のモノと同じボルサリーノを被っていたな……。 ツナがそんな事を思い出していたその時──

 

『ムギュー! ムギュー! ……ぶはぁぁあああッ!! 死ぬかと思ったーーー!』

 

丁度彼らの目の先でさっきまで甲板の鉄床に頭部から突き刺さって犬○家のポーズになっていたスクルドが機体の胴をブリッジに曲げて両足を床面に下ろし着け、鉄床の下にすっぽりと埋まった頭部を昭和ギャグ漫画のようなシュールな絵面になって強引に引っこ抜いていた。 床下に埋まっていた間は内部の操縦席空間(コックピット)に酸素が行き届いてなかったようで、窒息寸前で危うく息を吹き返せたラコフが新鮮な酸素を小汚い金歯だらけの口の中へと必死に吸い込んでは、深海から命辛々生還した潜水士のように『生きてるって素晴らしいッ!』と大袈裟な歓喜を表した後、それに同調して機体にバンザーーーイッ! という風体に両腕を真上へ上げさせている。

 

そしてそれを止めた紫焔大将軍が、敵大将の戦闘復帰によって緊張感を戻したリィン達の方へと向かい、彼らの前に再び聳え立ち相対した。

 

『キキキキ、キサマ等よくもよくもぉぉぉおおおおーーーーーッ!! こぉぉの異世界の青二才とクソガキと魔導師の小娘共風情がっ! 次元世界一……否ッ、全多次元宇宙一、偉大なる支配者にして世に生きる誰よりも尊ばれるべき高人たるこのラコフ・ドンチェル様をっ! キサマらのような恥知らずに“正義の味方”ぶった偽善者の若造共がっ! よくもこんな好き放題にやってくれやがったなーーーーーッッ!!!』

 

ここまでにリィンやツナら異世界の英雄達が現れて機動六課にとどめを刺すのを邪魔に入られてからというもの、結託した三世界の若き英雄達の巻き返しによって散々ボロクソやられてきた事で、ラコフの怒りとストレスはもう限界の天元を突き破ってしまっていた……その狂乱の殺怒を叫び散らかすがままにスクルドが自身の巨体を弓形に大きく海老反らせ、機関砲剣の握り手(グリップ)を持つ右腕の肘が弦に番えた矢のように引き絞られた。

 

『四人全員纏めて串刺しの刑じゃーーい! くらえぇぇぇえいっ!!』

 

「っ!? 総員散開!」

 

憎き英雄達を射殺さんとして、巨大弓矢(バリスタ)が放たれるが如き巨大な張力をもってして突き出された紫焔の機関砲剣が巨大な鎗となり、丁度スクルドの目線(レーザーアイ)から一直線に重なる位置に並んでいたリィン達四人を纏めて串刺しにするように、()()()()()を穂先に付けて飛んでくる。

 

リィンが他の三人に咄嗟の緊急回避を促し、四人はバラバラに散らばってスクルドの強刺突から逃れる。 その直後、一瞬前の時に四人が居た空間を紫焔の機関砲剣が巨竜を貫く撃鎗のように刺し貫いた。 獲物を仕留め損なった為に、空を切って穂先が止められた直後そこに纏わりついた()()()()()が前方に射出され、運悪くその射線上に入っていた隊長戦闘無人機(ペイルアパッシュ)一機を貫通し撃墜して、(ガラハッド)から飛び出した先の空域に哨戒飛行していた隊長魔煌機兵(メルギア)駆動核(コア)に突き刺さり5000m直下の地上へと墜としていった。

 

「げげっ!? 突きを空振りした余波がガラハッド(この艦)の外まで届いて行って、その威力で魔導師(あたし達)が束になって攻撃してもなかなか倒せなかったあの魔煌機兵(巨大ロボ)ですら一撃で撃墜される程だなんて……ッ!!」

 

回避直後に《ウィングロード》を敷いて宙を駆動車輪靴(マッハキャリバー)で滑走するスバルが、(ガラハッド)の甲板端から魔力で視力強化しないと見えない程遠く下にある地上へと煙を上げて真っ逆さまに墜落していく魔煌機兵(メルギア)の姿を顔面蒼白にして見下ろしながら、そのスクルドの圧倒的な攻撃力に対する畏怖を溢した。 そんな彼女のすぐ右側を高速飛翔で並走するツナもまたスクルドからの攻撃に対して警戒の色を濃くする。

 

「気を付けろ。 奴のあの攻撃がまともに当たったらオレ達は一巻の終わりだ」

 

「ていうか、なんだか紫焔大将軍(アイツ)、さっきよりまた一回り程大きくなってませんか!? それにあの機体全身を覆っている“紫色の炎”からなんか頭に鬼の角みたいなのが二本、いつの間にか生えてるし。 アイツが手に持ってる機関砲剣(剣付きマシンガン)を包み込んでいる同じ色の炎も燃える激しさと厚みが増して、全体的に質量(サイズ)がどんどんと大きくなっていってるように見えるんですけどッ!!」

 

そうスバルが敵大将に起きている明らか強大化に理不尽を喚いている間に、その敵大将が両手に携えた()()()()()()()()()()()紫焔の機関砲剣を折れた高層ビルを持つキ○グコングのように荒々しく乱暴に振り回しながら、周囲を逃げ回るリィン達四人に紫炎の弾丸を無造作に乱射して放ってくる。

 

『くらえくらえくらえくらえくらえええええぇぇぇーーーーーい!!』

 

「ちょっ!? アイツまたメチャクチャ撃ってきt──って、あぶなっ!」

 

矢衾の針のような絵面に飛んで来た炎弾の横雨を寸でのところでスバルが魂消たような格好を取って避ける。 その直後に機関砲剣を乱射するスクルドの方から見て丁度その奥側に位置取るように滑空しているツナに外れた流れ弾が降りかかっていくが、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()事によりスバルが退く直前には既に下方に急降下して退避を済ませていた為、炎弾の横雨は数百発程その先に広がる夜闇へと吸い込まれて消える。 だが、ラコフは弾の狙いが外れたのを見るや、すぐさまスクルドに機関砲剣の照準射線を修正させて、続けて放たれる炎弾の横雨が宙に敷かれたウィングロードの上を駆け逃げるスバルの背中を追い回していく。

 

スバルはスクルドの周囲をぐるっと何週も旋回するようにして螺旋街道状にウィングロードを追加展開し、駆動車輪靴(マッハキャリバー)の回転数を一気に上げて高速ターボダッシュ。 光の道の上に二本の火線を引きながら紫焔大将軍の周りを高速旋回する事で後を追ってくる相手の照準を翻弄し、続々と乱射されてくる無数の炎弾を突き放し、振り切っていく。

 

ラコフが逃げる鹿を追う狩人のように周囲の宙に逃げ回るスバルを執拗に狙い撃ちして視線と意識を周囲上方(彼女の方)へ割いていると、それで死角となったスクルドの懐足下へリィンとなのはが潜り込み、それぞれが手に振るう太刀と杖槍で、今も尚機体全身に纏う紫色(バイオレット)の炎──【雲属性の炎】によって肥大化し続ける紫焔大将軍を支えている大樹のような両脚を斬り崩そうとする。 だがしかし、かの帝国の英雄たる《灰色の騎士》が振るう無明の闇をも切り裂く一閃も、数多の次元の海の法と秩序を統べる時空管理局が誇る最優の魔導師《エース・オブ・エース》が繰り出す全てを突き貫く桜光纏う黄金の槍撃も、ラコフの管理局に対する積年の逆恨みと憎き英雄達に向ける憎悪によって、岩山のように堅く(おお)きくなった紫焔大将軍の脚を折る事はできない。 そればかりか、持ち主の元居た世界においては伝説級であった希少鉱石(レアメタル)を幾つも用いて鍛えられた最強の太刀《神刀【緋天】》と、Sランクオーバーという次元世界最高クラスの魔力運用負荷に耐え得る程の強化フレームが組み込まれたエース・オブ・エースの相機(デバイス)《レイジングハート》、いずれも並の代物ではないこの二つの武装の刃を攻撃接触面から焦がして弾き返した程に、奴が纏う“雲属性の炎”の炎圧までもが指数関数の如く飛躍的に上昇していた。

 

それでも掠り傷程度の僅かなダメージは入ったようだが、それが逆に悪く、宙に逃げ回るスバルに意識が向いていたラコフに気付かれてしまった。 リィンとなのはは得物を弾き返された反動を受けて麻痺した利き手の震えにかまけず、スクルドからの反撃が振るわれる前に咄嗟とその場から大きく跳び退いて敵の近接武装攻撃範囲内(クロスレンジ)から緊急退避すると、二人は直後に眼前の左から右へと通過していく、もはや5m超になるまで(おお)きくなった紫焔の刺突剣を見送って少量流れ出た冷や汗を頬に伝わせる。 そのまま二人は左右に別れて、全速力で駆けながらスクルドが追撃に撃ち放ってくる紫炎の弾幕の間を縫うよう華麗に躱しながら距離を取っていく。

 

『ドンッ、チェルルルルーーーッ! どんだけ避けたって無駄無駄無駄無駄ーーーッ!!』

 

「くっ! いったい、どうなっているんだ? 幾ら撃たせても、あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ」

 

「それだけじゃない。 放たれてくる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ!」

 

非常に優秀な陸戦機動力を持つリィンは絶妙な呼吸と脚捌きで急速な加速と減速を連続しながら駆ける事で複数もの“自身の残像”を生じさせ、それ等を疎らの位置間隔に皆バラバラの軌道を疾走させる事で敵からの射撃に的を絞らせない。 その一方、なのはは自分のような空戦魔導師にとって主戦機動能力で命翼とも呼べる飛翔魔法が使用不能となり、あまり得手としていない自らの足を地に着けての二次元機動をせざるを得なかったが、巧妙に不規則反転(フェイント)を織り交ぜたジグザグ軌道で走る事によって矢衾に次々と飛来する炎弾の驟雨を順調に回避し続けている。

 

だがしかし、スクルドが紫焔の機関砲剣で無尽蔵に乱発してくる“雲属性の炎”の弾丸は、それぞれが巧みな回避走行技術を駆使して逃げ回る二人を掠めてガラハッド艦上の彼方此方に被弾から炸裂爆発していき、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 被弾した箇所の鉄床に焦げ目が付く程度だったものが、五秒後には甲板下内部に吹き抜ける大人一人大幅両足台もある大きさの落とし穴を生じさせ、更に五秒後には艦上防衛用に甲板隅に配置してあった中型自走導力砲を丸ごと粉々に爆散させる……そうして、只でさえも一面阿鼻叫喚の火の海地獄と化している中、辛うじて原型を留めて在った中央に聳える艦橋(ブリッジ)のみを残して甲板上の機器や障害物を全部燃やし、破壊し尽くしても尚、怒り狂う紫焔大将軍が撃ちまくる炎弾は尽きる事を知らず、それ一発一発の炸裂爆発の破壊力は天上知らずに増大し続けるばかりだ。

 

奴にこのまま撃たせ続けていたら、たとえ誰かに当たらずともいずれこの司令母艦(ガラハッド)の方が先に朽ち果て、真下に在る地上部隊本部と首都クラナガンへ墜とされる事となるだろう。 そうなったら艦に乗っているリィン達全員は無論、地上部隊本部の屋上ヘリポートにて今も尚オーバル・モスカとの戦闘継続中のシグナム達四人も、護るべきクラナガンの街も、其処に未だ戦闘展開している地上部隊員全員の命も、その全てが危ない!

 

「──って言うか、スクルド(アイツ)自体もさっきより纏っている“紫色(バイオレット)の炎”が増々と分厚くなって更に全身デカくなってるじゃん!? 視るからにもう20m以上はありますよツナさん。 もうっ、どうなっているんですかアレェ!」

 

「恐らく【雲属性の炎】が持つ“増殖”の特性が原因だ。 あのスクルド(ロボット)の中で操縦している人間が自分の持つ【雲属性の炎】を乗っている機体に()()()()()()事で、その炎が持つ“増殖”の特性をスクルド(ロボット)性能(スペック)を無限に上昇(パワーアップ)させるのに利用しているに違いない」

 

「ええーーーっ!? それじゃあ、あの中で操縦している変なチョビヒゲオヤジ(ラコフ)に紫色の炎を機体に流し込むのをどうにかして止めない限り、スクルド(アイツ)は何処までもデッカクなり続けて、機関砲剣から発射されてくる炎弾も永遠に弾切れしないで、その破壊力も無限に上がり続けるって事ぉぉ!!」

 

「そうなるな……」

 

スクルドが下平面を駆け逃げるリィンとなのはに攻撃の意識を向けている間、空中で反撃の隙を伺っていたツナとスバルは奴の全性能(ステータス)が搭乗しているラコフが機体へと流し込んでいる“雲属性の炎”によって永続的に無限強化されていく様子を眺めて難色を浮かべる。 《死ぬ気の炎》という力を自らも使って戦う故に“炎”の事を良く知るツナが言うには“雲属性の炎”が持つ特性である()()の効果で、スクルドの機体を包む紫色(バイオレット)の炎の鎧は時間が経つ毎に厚みが増して肥大化していき、紫焔の機関砲剣から撃ち出される炎弾は弾切れする事がなく無限連射を可能とし、その攻撃力をも天上知らずに上昇させ続ているのだという……。

 

「じゃあどうしようもないじゃないですか!? だって、スクルド(アイツ)の無限パワーアップの紫色の炎(エネルギー)の大元は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ!」

 

無限に強化(パワーアップ)されていく敵なんてどうやって倒せばいいんだ!? スバルがそのように深刻な声音でツナに問う。 確かに彼女の言う通り、紫焔大将軍の無限強化能力は反則(チート)と呼んでもいい程に強力なものだ。

 

先のJS事件で使われた古代戦艦《聖王のゆりかご》も首都航空隊の主力部隊の攻撃でも傷一つ付けられなかった程に堅牢な外部装甲と艦の破損個所を復元する防衛機能、そしてこの第一管理世界ミッドチルダの衛星軌道上に上がる事で二つの月から大量の魔力を取り込む事で艦の持つ性能を強化するといった、非常に強力な性能を誇っていた。 だがしかし、紫焔大将軍の無限強化能力にはそれすらも遠く及ばないだろう。

 

ならばスクルドを操縦し無限強化能力を発揮させている供給源の“雲属性の炎”を機体へと流し込んでいる敵軍総司令官のラコフを直接叩いて無力化すればいいのだが、しかし奴は今も無限に分厚く肥大化し続けている紫焔の鎧に覆われている(おお)いなる紫焔の武士の胸部を厳重に覆う三重層もの炎伝導板装甲内部操縦席空間(コックピット)に居て、『吾輩TUEEEEーーッ! ドンッ、チェルルルルーーー!!』などとそれを聴く他者の耳を普く腐らせるような哄笑を上げまくりながら【ラコフ・ドンチェル大司令官、次元世界一ッ】と書かれた扇を両手に操縦席の上に御立ち台をしつつ、無駄に器用に足の指で機体操縦制御用空間コンソールを操作して甲板上を逃げ回るリィンとなのはを執拗に機関砲剣で狙い撃ちし続けている。 さすがに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 難攻不落、無理難題というものだ……しかし、青き魔法格闘少女が向けてくる絶望のあまり誰かに縋りたいように潤んだ大きな瞳を真っ直ぐ見つめて、(すべ)ての大空を統べる少年は「大丈夫だ」と言い、それを見る者全てを安心させてくれるような優しい笑みを浮かべた。

 

「ナッツ!」

 

「ガウッ」

 

ツナは下で紫焔の機関砲剣を無限乱射し続けながら尚も自らが纏う紫焔の鎧も肥大化させ続ける紫焔大将軍をキッ! と鋭くした目で見据え、同時に《ナッツ》という()()()に呼び掛ける。 すると彼の右手に橙色(オレンジ)の炎──【大空属性の炎】を激しく放出して纏わせながら装着されている《XグローブVerX》の上からその中指と小指に鎖で繋いで嵌めてある“【X】の文字上に【炎の鬣をした小獅子】が乗っている様子”を模した装飾の指輪とシンプルな小指輪が一体化されている、豪奢でいて内より大空のように果てしない()()を感じさせながら何処までも誇り高い雰囲気を放つ装飾品(アクセサリー)──《大空のリングVerX》──その【炎の鬣をした小獅子】の()()()()()()()()、元気に吠えながらツナの右肩の上に跳び乗った。

 

 

天空ライオン(レオネ・デイ・チエーリ)≫ナッツ

 

 

「炎の鬣の子供ライオン!?」

 

「ガオ」

 

「かっ、かわいい……♡」

 

眼は大きくクリクリしてて口は小さい、身体は手乗りサイズで手足もちっちゃく、首回りを覆う“橙色(オレンジ)の炎”の鬣と小さな頭に被る【X】の文字を主張した額兜(ヘルム)がとってもキュート、鳴き声だって愛らしい。 ツナが手の指に嵌めている指輪から飛び出した小さく愛くるしい小獅子に、歳若い女の子であるスバルは一目見ただけでもう夢中であった。 だが侮る事なかれ、この愛くるしい小獅子──大空ライオン(レオネ・デイ・チエーリ)の《ナッツ》はその小さな身体に()()()()()()()を秘めている。

 

「いくぞナッツ!」

 

「ガオォォーーッ!」

 

「ツナさん!?」

 

そして肩に乗ったナッツと共に脇見も振らず、未だ留まる事なく破壊力を上昇させて炎弾を撃ちまくりながら全身に纏う紫焔の鎧を増大させ続けて最早手が付けられない状態の紫焔大将軍へ宙から正面突撃していくツナに、スバルはナッツに見惚れて一時和んでいた表情を一変させて忽ちに慌てふためきだす。 リィンとなのはが折角敵の視線と意識を下へ引き付けてくれているってのに、正面から行っては気付かれる!

 

『ドンッ、チェルルルーーー! どうやらキサマから死にに来たようだなぁ?』

 

当然、スクルドを中から操っているラコフは、よく見える正面の空中を派手に橙色(オレンジ)に輝く炎を逆噴射で飛んで真っ直ぐ突っ込んで来る一人の人間に気付かない訳はなかった。 しめしめとラコフは攻撃の標的(ターゲット)を甲板上の二人から放し、無防備にも射線の邪魔になる障害物の皆無な宙を翔けて正面突撃してくるツナとナッツに狙いを絞って、そちらにスクルドの構える紫焔の機関砲剣の照準を向けさせた。

 

「いけない、あの無限に炎弾を連射できる敵の機関砲(マシンガン)に対して矢面に飛び込んだら──っ!?」

 

「ツナさん、逃げて!!」

 

無謀にも敵の正面に神風突攻を仕掛けに行って、相手射線の決死領域内(キルゾーン)となる中距離範囲(ミドルレンジ)に入った途端に、呆気なく相手の照準に捕捉されてしまったツナ……それを見て、なのはは思わず足を止めて切迫した声をあげ、スバルも彼の背中を止めようと籠手(リボルバーナックル)を装着した右手を目一杯に伸ばして叫んでいる。

 

二人が焦っているのも当然だ。 ()()()()()()()()()()()()()()()。 それに加えて弾数も上昇していく火力も無限に尽きない炎弾を永続的に乱射し続けられるような化物機関砲(モンスターマシンガン)などの中距離射程内に()()()()()()()から入り込んで捕捉されてしまったなら、逃げ場も隠れる場も絶対絶無。 忽ち相手の機関砲が火を吹き出したら最後、瞬く間に無限に吐き出されてくる炎弾が殺到して無惨爆殺四散する事は必至だ。

 

『うっちゃりぃぃ! んあっ、死ねぇぇぇええええーーーーいッッ!!!』

 

「やめてーーーーーーーーッッ!!!」

 

二人の麗しき戦場の戦乙女(ヴァルキュリア)の声も空しく、正面に突っ込んで来たツナとナッツに向かって紫焔の機関砲剣が無限の炎弾を発射する。 もうこうなってしまっては大空の王でも助からない。 一寸先は無限の炎弾に飲み込まれて跡形も残らず木端微塵となった哀れな少年と小獅子がこのミッドチルダの大空の塵と化す。 そんな彼らの悲惨な最後を想像して、恐怖のあまり瞼の内側に閉じた眼球を潰してしまいそうな程に強く目を瞑り、ミッドチルダ全土の大空に響き渡らせる勢いに悲鳴を叫ぶスバル。

 

しかし、可憐な美少女がどんなに叫んだところで、もう止められない。 機関砲剣の砲口から火を吹くように撃ち出された無数の炎弾が無防備を晒して滑空突撃するツナとナッツへと襲い掛かる。 最早万事休すか……ッッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ここだッ! 吼えろ、ナッツ!!

 

GAOOOOーーーーN!!!

 

無限の炎弾が雪崩掛かろうとしたその一寸前、(ツナ)の呼びかけに応えて獅子(ナッツ)が咆哮する。 その金属を叩き震わすかのような甲高い音響と共に橙色(オレンジ)の炎の波濤(ヴェール)が広がり、あとほんの数cmでツナに直撃する寸前まで迫っていた一発目の炎弾から後続の奥まで、火が侵蝕するように次々と()()させていく。

 

『ンナッ、ヌァァニイイィィィーーーッッ!!? 吾輩の《十二月の子持ちししゃも(機関砲剣の名前)》が撃った“愛と(まこと)ちゃん(炎弾の名前)”がセキイラア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ァァァ!!』

 

どう見たってひ弱そうな小獅子から放出された羽虫の鱗粉の如き脆弱な炎なんかに自分の持つ最強(自称)の“雲属性の炎”の()()性質を存分に使用して撃ち放った無限の炎弾が包まれた先から為す術なく()()されていく光景を目の当たりにして、ラコフは自分の眼玉を飛び出させて目の前を分厚く覆っている三重構造の炎伝導胸部操縦席ハッチを外までブチ抜いてしまいそうな程の大袈裟に驚愕を露わにした。 そしてそのような某海賊漫画に登場する某ゴロゴロ神の如き顔芸を披露したまま、自分が搭乗し操縦している紫焔大将軍までも、手に撃ち方を構えた機関砲剣の先から無数に連なる炎弾を次々と()()させながら迫り来た橙色の炎の波濤(ヴェール)を呆気なく浴びてしまい、今や全長40m以上にまで(おお)きくなった紫焔の鎧と機関砲剣とそれに覆われていたスクルドの機体、それら全体ごと()()()()()()()()のだった。

 

八葉一刀流──()の型

 

ツナの“大空属性の炎”でスクルドを石像化してから間髪入れず、ツナがやられない事を()()()()()疾走を続けていたリィンが加速の勢いのままに転じて、固まって動けない敵大将へと追撃を叩き込んでやるべく、緋色に煌く太刀を手に己の分け身を何十人も追従させながら駆け寄って来た。

 

秘技・裏疾風(うらはやて)──ッ!!

 

そしてそのまま、灰色の闘気を全身に纏って閃光と化し、フェイトやツナに勝るとも劣らぬ(はや)さで紫焔大将軍の石像の脚下を斬り抜けて、倒れる間を与えずに振り返ってもう一度太刀で薙ぎ払う。 空気を切り裂く、豪ッッ!! という風鳴と共に強く払われた緋色の刃からその周囲の大気をも唸らせる巨大な三日月形の衝撃波が放たれ、両脚を砕かれて迫り倒れる山のような石像の巨体を逆袈裟一線に斬り砕いたのだった。

 

「仕上げだ! (ハイパー)X(イクス)ストリーム!!

 

秘技を放ち終えたリィンが左腰に差した鞘へ緋色の刀身を収める間も待たず、今度は彼が追撃をしに来る事を()()()判っていたツナが石の鎧を崩落させる敵大将の石像の周りを超音速滑空し、両手の《XグローブVerX》が放出する凄まじい勢力を孕んだ炎を脚下から頭部天辺まで横転旋回(バレルロール)状に昇るように浴びせ、全身を隈なく焼き尽くす事で相手にとどめを刺す。

 

「見たか……八葉が一刀」

 

「これで終わりだ!」

 

かくして、激しく燃える炎に包まれて山のような巨体を崩壊させていく紫焔大将軍を背にして、異世界の歴戦を潜り抜けた《灰色の騎士》と《大空の守護者》両雄は並び立つ。 静かに緋色の太刀を鞘へと収め、炎の拳を掲げて夜空を橙色(オレンジ)の光に照らし、二人は共に勝鬨を上げるのであった……。

 

 

 

 

 




あとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! 超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』第3回


※「」はセリフ、[]は内心の呟きになります。



ツナ「リボーンに言われて来てみたけど、誰も居ないし、真っ暗じゃないか……」

ふみゅ☆

ツナ(足下を見る)「ん? 何か踏んだ──」

グナちゃん(踏まれてぐちゃり)「リバースカードオープン! キンガシンネン!!」

ツナ「──んげげーーっ!!?」

グナちゃん(発光)「サラダバー!」

ドッカーン!

ツナ(爆心地)「ぎゃーーーーっ!!」

アリサちゃん(茄子を頭に乗せ、鷹に運ばれて空から登場)「1フジ、2タカ、3ナスビ! 新年明けましておめでとー!(お正月過ぎちゃったけど) 天空の花嫁も足下に平伏す、RPG界No.1ヒロイン(願望)【アリサちゃんの“炎の軌跡講座”】! 待望の第3回目よッッ!!」

グナちゃん(形状記憶素材の特別製なので爆発しても無事)「イクラナンデモオソレオオイワ。 ビ○ンカニヤキドゲザシロ」

ツナ(黒コゲ)「フ○ーラには!? ていうか、何時の間にか景色が富士山の頂上に変わってるーーーッ!!」

アリサちゃん「前回この小説の二人居る主人公の内の片方であるリィンを紹介したので、今回はこの通り見るからに冴えなくて頭悪そうでダメダメオーラを全身から滲ませているもう片方の主人公で『家庭教師(かてきょー)ヒットマンREBORN!』原作漫画の主人公である“沢田(さわだ)綱吉(つなよし)”君をゲストに寄越させたわ。 彼の家庭教師のボルサリーノを被った赤ちゃんに、リィンの故郷であるユミルの温泉迎賓館【凰翼館】の無料日帰り宿泊利用券をプレゼントしてね♪」

ツナ「いや、ダメダメなのは自分で自覚してるから別にいいんだけどさぁ。 初対面の相手に対してその紹介はちょっと失礼過ぎるんじゃないですか!? そしてリボーンも温泉宿の宿泊利用券なんかでオレを売ってんじゃねーーーッ!!」

アリサちゃん「それじゃあさっそく彼のプロフィールについてOHANASHIするわね♪」

グナちゃん「イヨ、マッテマシター(棒)」

アリサちゃん「“並盛町”に住む宇宙一ダメダメな中学生、ひと呼んで【ダメツナ】こと沢田綱吉のもとに、ある日イタリアから殺し屋の赤ん坊《リボーン》が彼の家庭教師としてやってきたの」

ツナ「いやいやいやっ! 【ダメツナ】は合ってるけれど、さすがに宇宙一は言い過ぎだろ!? オレは某ラッキーなヒーローに変身するツイてない中学生じゃねーから!!」

アリサちゃん「実はツナヨシ君はこんなチワワにビビるようなダメダメ弱虫君だけど、イタリア最大のマフィア《ボンゴレファミリー》を創設した初代ボス──《ボンゴレ一世(プリーモ)》の血筋を色濃く受け継ぐ子孫だったの! それ故ツナヨシ君はボンゴレファミリーの十代目ボス候補に選ばれ、リボーン君はツナヨシ君を立派なマフィアのボスに育て上げるべくして組織より彼の教育係──“家庭教師(かてきょー)”として派遣されてきたって訳よ」

ツナ[チワワにビビるようなダメダメ弱虫君で悪かったなチキショー!]

アリサちゃん「リボーン君が家庭教師に来てからツナヨシ君のダメダメ平凡ライフはハチャメチャデンジャラスに死ぬ気でスパルタに鍛えられるマフィア騒動の毎日へと激変したわ! ツナヨシ君はリボーン君の銃で頭の額に【死ぬ気弾】という特殊な銃弾を撃ち込まれて死ぬと、ダメダメな自分への後悔が火事場の馬鹿力を呼び起こし、撃たれた額に“死ぬ気の炎”を灯して復活(リボーン)しちゃうの。 それによって一定時間、彼の中に眠る“ボンゴレの血筋”の潜在能力が引き出されて、普段のダメダメっぷりからは想像を逸脱する超人的身体能力を発揮できるようになるのよ」

ツナ「“死ぬ気モード”の事だね。 この力のおかげでオレは剣道部首相の持田センパイとの決闘に勝ったり、腕を怪我して自殺しそうだった山本を助けたり、色々と本当にアリサさんの言う通り普段のダメダメなオレからは今でも信じられない程、大活躍できたんだ。 それまで自分のダメダメさの所為で友達一人作れなかったオレも、その甲斐もあって、前から憧れだった笹川京子ちゃんと知り合いになり、獄寺君や山本をはじめとして沢山の友達や知り合いができていったんだ。 リボーンに銃で頭をしょっちゅう撃たれて死ぬのは超嫌だったけど、ホント死ぬ気弾様々だよな」

アリサちゃん「その代わりに“死ぬ気モード”になると、何故だかパンツ一丁の素っ裸になって暴走状態になっちゃってたから、毎度毎度何か騒動が起きる度に“パンツ超人”が現れて暴れ回るという変態的構図になってたのよねーww」

グナちゃん「タイヘンタイヘンタイヘンタイ! ツナヘンターイ!!」

ツナ「放っとけー!(泣)」

アリサちゃん「……さて。 今隅っこにしゃがみ込んで、いじいじと指で富士山の土に“の”の字を書き出したツナヨシ君の“死ぬ気モード”の説明を聞いて、画面の前の読者の皆は疑問に思った事でしょう?」

グナちゃん「コノショウセツノホンペンニデテイルツナハ、ヒタイニシヌキノホノオヲツケテイルガ、パンイチジャナイシ、フンイキモクールナンダガ?」

アリサちゃん「そう! 何を隠そう、その本編で今リィンと肩を並べて戦っている物凄く強くてクールなツナヨシ君の姿こそが、“死ぬ気モード”より更にパワーアップした《(ハイパー)死ぬ気モード》よッ!!」

グナちゃん「オダヤカナココロヲモチナガラ、ハゲシイイカリニヨッテカクセイスル、デンセツノパツキンヤサイジンテキナアレカ?」

アリサちゃん「いい線いってるけど、ちょ~っと違うのよねぇ。 確かに意志によって内に秘めていた潜在能力を覚醒させ飛躍的にパワーアップをするところはド○ゴンボールの超サ○ヤ人と似ているけれど。 ツナヨシ君の“超死ぬ気モード”はリボーン君に【小言弾】という死ぬ気弾の上位特殊弾を額に撃ち込んでもらうか、或いは【死ぬ気丸】という特別な錠剤を飲む事で、()()()()全身のリミッターを完全に外して静なる闘志を引き出した状態なの。 そうする事でツナヨシ君は身に着けている衣服を破壊する事なく冷静な自我で凄まじい戦闘力を発揮できるようになれたのよね!」

ツナ(復活)「そうなんだけど、その代わりに戦い終わった後で超死ぬ気モードが消えた直後は、そりゃあもう地獄のような筋肉痛が身体中ピキピキと走りまくって超痛いのなんのってさぁ。 それをリボーンの奴は情けないだあーだこーだいって【超化戦闘時の負担に耐えれる肉体を作る】とか言ってきて、益々オレに超理不尽なねっちょり特訓をいっぱいさせてきやがったんだぜ? ……あ″あ″ーーーっ! あの時の事思い出すだけで猛烈な恐怖が込み上げてくるぅぅーー!! もうあんなクソ重い亀の甲羅を背負って、並盛町中を牛乳配達に走らされたり、蜂の巣がある木に縛り付けられたり、何故か人食い鮫が居る川の中を泳がされたりされたくないよぉぉーーッッ!!」

グナちゃん「モロクソニ、カ○センリュウノシュギョウナイヨウトカブッテンジャネーカヨ!」

アリサちゃん「ツナヨシ君の強さの秘密は他にも色々とあるのだけれども、これ以上はいい加減あとがきコーナーが長くなるから、今回はここまでよ! この続きの内容は後の本編内に話題が出てきた時詳しい説明があるので、皆安心してね♪」

グナちゃん「テナワケデ、ニドメノ──サラダバー!」

ツナ「ギャー、もう爆発はイヤだーーーっ!!」





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今こそ一つに束ねられし三つの勇気と絆の輝き(ヒカリ)……『ブレイブオーダー』発令!

最新話更新です。

テイルズ・オブ・アライズ、ガルド集めんの超絶面倒くせーーー!!(発狂)




「ぁ……ああ……」

 

燃え盛る橙色(オレンジ)の炎に包まれてその岩山の如き巨体を崩しゆく《紫焔大将軍》スクルドと、それを背にして並び立ち勝鬨を上げた異世界の英雄の二人(リィンとツナ)の雄姿を目の当たりに、次元世界の英雄(高町なのは)は唖然と大きな目を見開き言葉を失う程に圧倒された。

 

──凄い……リィン君とツナ君……二人共、凄すぎる……!

 

操縦者のラコフが持っていた“雲属性の炎”の()()特性によって、無限に強化され続けて最早誰の手にも負えない程に機体質量も力も強大になっていた《紫焔大将軍》スクルドに対し、無謀極まりなくも真正面から突撃していったツナは忽ち相手が放つ無限の炎弾によって為す術なく焼け墜ちるかと思われた……だがしかし、ツナは最悪の結末を見事に裏切り、彼の指輪から出てきた炎の小獅子(ナッツ)と彼自身が持つ“大空属性の炎”の力によってスクルドを返り討ちに“石化”させる事で、驚きの大逆転を成した。

 

更にはそれだけに止まらず、リィンとツナは互いに初対面である事が改めて信じられなくなる程に、お互いの行動を完璧に把握した超神速の交代連携攻撃(スイッチアタック)をもって、全長凡そ40m以上にまで達していた石像化したスクルドを丸ごと斬り刻んで燃やし尽くしてしまった。 しかもそれは文字通り、その光景を近くから目の当たりにしていたなのはの目が()()()にそれは行われたのだから、彼女の言葉が出なくなるのも当然だろう。

 

「ハッ!?……あ、あれっ? どうしてかツナさんが無事だ。 それに、紫色の炎の鎧で超デッカクなってた敵大将の魔煌機兵(巨大ロボ)が何時の間にかツナさんの橙色(オレンジ)の炎で火葬されてるし。 その前で何でか、ツナさんとリィンさんがカッコイイ決めポーズをしているし。 いったい何がどうなったの……!?」

 

ツナが無謀な突撃をしてスクルドに返り討ちにされる結末の想像に恐怖した為にキツく閉じていた両瞼を、恐る恐るながらもようやく開いたスバルもまた、宙に敷かれたウィングロードの上からその様子を見下ろして、自分がしていた最悪の結末予想に反して五体無事な様子のツナに安心半分、夜天高く燃え盛っている橙色の炎の中で石炭のように崩壊していく紫焔大将軍の眼前にてツナとリィンが並び立ちながら勝利のポーズを取っている絵面に大変戸惑った様相を浮かべていた。 仲間の一人がやられたと思ったら、自分が目を離している間の一瞬で形勢逆転して敵大将が倒されていたのだ、無理もない。

 

「リィン教官! 甲板に居た人形兵器達は全滅させましたので、今からそちらの援護に……って、もう敵の大将の新型魔煌機兵を倒しちゃったんですか!?」

 

「さっすが十代目! あんな巨大ロボットをもこうも簡単に撃破してしまわれるなんて、相変わらず見事な腕前ッス!」

 

「なのは! スバルも無事? よかった……」

 

そして経った今、ガラハッド艦上に展開されていた敵人形兵器群を余さず全て鉄屑(スクラップ)に変えた仲間達が激しい戦闘で甲板中に燃え広がった跡火災の間を駆け抜けて続々とリィン達四人のもとに集合して来た。 文字通りに強大だった敵軍大将をこの短時間で撃破したリィン達を目の当たりに、皆それぞれ驚きや四人に対する賞賛や彼らが無事である事に安堵を浮かべたり、十人十色の反応を表している。 仲間達が誰一人欠ける事なく五体満足な姿で集まったのを見てリィン達の方もひとまずホッとして胸を撫で下ろした。

 

「みんな……無事に人形兵器達を片付けてきたみたいだな?」

 

「はい。 予想より敵の頭数が多めだったので少々手こずりましたか、協力者たちの助力のおかげで誰一人として怪我をせずに殲滅できました」

 

「まっ、何処の誰だか知らねー他人の手助けがなかったとして、俺らⅦ組だけでも十分余裕で倒せてたがな。 だがまあ、おかげで余計に疲れず済んだのは確かだな」

 

「それでリィン教官。 敵大将の新型魔煌機兵はその後ろの炎の中でしょうか?」

 

クルト達が自分達の教官であり指揮官であるリィンに戦果の報告を交えつつ、彼の背後に赫灼高々と燃え盛っている橙色(オレンジ)の炎壁に視線を向ける。 獄寺達とフェイト達も同じようにその炎壁に注目を集める。 その中で今もツナの大空属性の炎によって機体全身を焼却され続けて徐々にその石像と化した巨体を焼け落とされていっているスクルドの様子が影になって映っている。

 

「これ……もしかして機体の中に居た操縦者(ラコフ)も無事じゃあ済まないんじゃ……?」

 

「心配は要らない。 オレの“大空属性の炎”は()()()()()()()()()()()()()()できる。 だからこのまま燃やし尽くされたとしても、あの魔煌機兵(ロボット)の機体は跡形も残らず石炭化させるだろうが、その中に乗っている人間は五体無事に気絶だけで済む筈だ」

 

「それじゃあ、これで僕達はミッドナイト軍に勝ったんですか?」

 

橙色の業火に映るスクルドの機体の影はその凄まじい炎圧に嬲られて、先程までその機体全身に纏って巨大怪獣並に(おお)きく肥大化されていた雲属性の炎の鎧が今や石化して外側から炎に燃やされて炭になり剥がれるようにして崩され、元々の魔煌機兵の平均全長(約7m)になるまで削ぎ落されている有様のようだった。 スバルが心配そうに声を漏らしたように、炎のまたその背に高く聳え立っているこの艦(ガラハッド)艦橋(ブリッジ)よりも巨大になった紫焔大将軍を丸ごと飲み込んではその大質量を全て石炭と化し崩壊させる程の熱量を持っているツナの“大空属性の炎”の真っ只中に居るなら、幾ら巨大で頑丈な魔煌機兵の装甲の中でも人間は無事では済まないだろう。

 

だがしかし、この炎を放った張本人(ツナ)が言うには“大空属性の炎”が持つ調()()の特性によって生身の人間は燃やさないようにできるとの事だった。 それを聞いてエリオが非情事無く此度の戦いに勝利できたと思ってその幼げな顔つきをパァッと明るくし、他の仲間達も少なからず緊張を解かれるように気を緩めて歓喜の体を露わにしだす。

 

橙色の炎の中に映されていたスクルドの影も時間が経って段々と薄くなって消失していき、これでようやく一件落着かと思われた……その刹那、ツナの中の“超直感”が緊急警報(サイレン)を鳴らした!

 

「いや、まだだ──ッ!」

 

「ッッ!? 全員、避けろ!!」

 

直後、橙色(オレンジ)の炎壁の中心を成人男性の四倍以上もある銃剣が全員密集したリィン達目掛けて突き破ってきた。 ツナがその不意打ちを察知してから0.2秒遅れにリィンが炎壁の内奥より放たれてくる殺気を感じ取り、一秒事前に張り上げられた彼の緊急回避指示のおかげで、間一髪全員一斉に後方へ大きく跳び退き、それを掠めるようにして彼らが直前に立っていた鉄床に巨大な剣が突き刺さった。

 

t(トン)単位の質量が鉄床を穿ち貫いた事で生じてきた突風の如き衝撃圧が殿に遠ざかるリーダー格二人(リィンとツナ)を少々煽ったが、全員どうにか傷を負う事なく回避を成功。 十分な距離を空けて着地し、鉄床に突き刺した銃剣を引き抜きながら夜天高々と燃え上がる橙色の炎壁を引き裂くようにしてその中より出てきた“(おお)いなる紫焔の武士”を睨む。

 

「うへぇ、あの炎に丸ごと燃やされて装甲の表面が焦げ付いただけなんて、どれだけタフなのよ? あの新型魔煌機兵……」

 

「だけど、全身に纏っていた“雲属性の炎”は消えたのな。 これでもうあのサムライ巨大ロボは無限巨大化も永続パワーアップもできねーだろ?」

 

赤紫色だった甲冑装甲が焦げて少々黒ずんだ程度でピンピンしながらツナの炎の中から出てきたスクルドを目の当たりにして若干嫌になりそうに項垂れるユウナだったが、山本がしめた笑みを浮かべながら言ったようにスクルドの全ステータスを無限増幅させて天上天下無双の《紫焔大将軍》にし得ていた紫色(バイオレット)の炎の鎧はツナの“大空属性の炎”で石化されてリィンとツナの二人によって砕かれた事ですっかり剥がれ落ちている。 もうこれでスクルドの奴はただの“紫焔の武士”に戻った。 形勢逆転だ。

 

『クッソ~! クソクソクソッ! クソォォォオオオオオッ!! さっきはあとちょ~っとのところで、にっくき管理局の英雄部隊、機動六課の小娘共をけちょんけちょんにフクロ叩きにして、管理局をブッ潰せたってところだったのにィ~! こぉの異世界のクソ虫けら共がぁっ! 【魔法技術の独占による武力支配】で非魔導師に不利極まりなき法を敷く悪逆非道の時空管理局をブッ潰して全次元世界を吾輩の手にするという崇高な夢を、悉く邪魔しやがりやがってェェ……』

 

「アンタって奴はどこまでいっても小悪党キャラよね? 逆恨みも甚だしい言い掛かりで管理局をアンタの汚れきった頭の中で都合のいいように捏造解釈して、ただの薄汚い底辺犯罪組織の親玉風情が崇高ぶってんじゃないわよ! このデカッ(パナ)!!」

 

「そうだそうだ~、ティアの言う通りだ~! だいたい【魔法技術の独占による武力支配】って何さ? あたしのお父さんだって非魔導師だけど、立派に三等陸佐の階級持ってて陸士第108部隊の部隊長の地位に就いているんだから。 管理局が非魔導師に不利な法を敷いているだなんて、でっち上げだ! このデカッ(パナ)が!!」

 

『ぬぁぁぁにおおおおーーッ!? 吾輩のスッとした鼻立ちをよくも“デカッ鼻”などと! 二十にも満たないガキの癖してムダに乳だけデッカくしただけの処○共が、偉そうに(たわ)くんじゃあ~りませんわっ!!』

 

「あ……あんですってぇっ!!」

 

──何故ユウナさんが憤慨しているのでしょうか? それもエステルさんの口真似で……。

 

リィンとツナにやられたい放題にやられた事に、全身真っ黒コゲになったラコフが被っていた軍帽が燃え散って消滅した事で露わになった素頭から文字通り煙を出して激昂し癇癪を起こしながら、スクルドに地団太を踏ませる。 t(トン)級の体重機体の脚部で甲板を連続で力いっぱいに踏みつけた所為でガラハッドの艦体が地震のように大きく縦に揺れ、立つバランスを崩して鉄床に尻餅を盛大に叩き付けてしまったティアナとスバルが打ち付けた尻を手でさすりながら立ち上がっては憤慨の口で馬鹿殿(ラコフ)の妄言に物申した。 語尾でコンプレックスにしていたデカイ鼻の事をネタに蔑まれた為に、ラコフは聞き捨てならず悪口を言ってきた陸戦魔導師娘二人に向けてセクハラめいた罵倒をやり返す。 だがその内容に身体的特徴が当て嵌ったユウナが自分に向かって悪口を言われたと勘違いし、元居た世界の知り合いである栗毛ツインテールの遊撃士の口真似で憤りを露わにする。 その傍で耳に入れて痛く反響する程の彼女の大声文句にアルティナが耳を両手で塞いで庇いながら心中疑問を唱えていた。 そしてラコフの素頭は円形脱毛症ハゲであったww。

 

このような子供の口ゲンカ染みたやり取りをして場の空気がシュールに混沌となったところで、ラコフが痺れを切らしたように汚い顔面全体を真っ赤に沸騰させつつスクルドに右手でビシビシと指差させて、リィンやツナら異世界の英雄達へと警告する。

 

『大体キサマ等、《可能世界》の“戦術オーブメント”と《七輪世界》の“死ぬ気の炎”を使ってくるっちゅー事は、大方それ等“次元世界外世界”の部外者(いせかいじん)なんだろーが!? フザッケンナ! この戦いは、この数多の次元の海で最も正当な力を持つミッドナイト軍(吾輩達)がクソッタレな時空管理局が敷く独裁司法や魔導師優遇社会より全次元世界を解放すべくして起こした【聖戦】なんだよ! そして其処の魔導師の小娘共こそが劣悪なる管理局の手先なのだ! 故に吾輩が直々に制裁を与えなければならないのだ! 関係ない異世界の部外者共がこれ以上邪魔スンナ! 後ろにすっこんでろいッ!!』

 

「「ふざけるな──ッッ!!」」

 

『おのふっ!!?』

 

まるで自分が正義で時空管理局(なのは達)こそ裁かれるべき悪党のような物言いでいけしゃあしゃあと飛ばしてきたラコフの主張をリィンとツナが激しい怒りを露わに即答で一刀両断した。

 

「確かにトールズⅦ組(俺達)()()()()()次元(この)世界に強制転移させられてきた部外者だ。 恐らくはツナ達も同じような境遇で俺達とは別の異世界から此処にやって来たんだろう。 なのは達とは先程ミッドチルダ(この世界)に来て知り合ったばかりだから、彼女達の事も、彼女達が所属しているという時空管理局という組織の事も、次元(この)世界の事も、まだ全然よく知らないさ……」

 

「組織は巨大になる程に深い闇ができるという事はオレもよく知っている。 お前の言ったように時空管理局(スバル達の組織)が腐敗しているのかどうかは、さっき別の世界からやって来たばかりのボンゴレ(オレ達)やリィン達には到底判別不可能だろう……」

 

二人は慄く相手の顔面部分の赤い三つ目(レーザーアイレンズ)を強く睨みつけ、しかし自分達が異世界からやって来たばかりの部外者であるが故に次元世界(なのは達の世界)の事情はまるっきり知り得ず、故にもしかしたら相手の機体の搭乗者(ラコフ)が言っている内容が間違いではない可能性も否定はできない、とまずは語る。

 

二人の口から漏れ出た公比不確かな内容を耳に、なのは達機動六課前線攻略部隊の面々は少々不安の色が顔に浮かび出し、反対にラコフは機体越しに手応え有ったという不敵な笑みを浮かし出す。 ……だが次の瞬間、二人は目頭を大きく寄せて更にギッ! と相手を睨む強さを厳しくして迷いなく言った。

 

「「だが少なくとも、今此処で共に肩を並べて戦っている機動六課(なのは(スバル)達)はお前が言うような悪い人間なんかじゃあ絶対にないという事だけは確かだ──ッッ!!!」」

 

二人の若き英雄の口から放たれた淀みない確信の言葉が()()()となって忽ち周囲へと広がり、彼らが立っている(ガラハッド)の甲板上一面に燃え広がっていた戦闘火災が跡形も残らず吹き消された。 奇跡的に倒壊寸前で留まった中央の艦橋(ブリッジ)だけを残して全焼し、まっさらに焦げた鉄床だけの殺風景と化した艦上に、この艦の司令官兼艦長(持ち主)であるラコフの驚愕が反響する。

 

『なななっ、ぬぁんだとーーーッ!!?』

 

「リ、リィン君……!」

 

「ツナさぁん!」

 

『ぬぁぜだぁぁ!? 何故キサマ達は異世界人(よそもの)ミッドチルダ(この世界)に来たばかりで、この世界の事情をちっとも知らぬにも関わらず、会ったばかりの魔導師の小娘共の事をどうしてそんなにも信頼できるってんだよォォーーーッ!!』

 

先程に出会ったばかりでまだ見ず知らずの関係である自分達の事を信じると言ってくれた異世界からやって来た助っ人達のリーダー二人に機動六課の魔法少女達が心嬉しい声をあげる中、その事をとても信じられないとしてラコフは相手の正気を疑うあまりに蕁麻疹を発症し、スクルドの動きとリアクションを同調させて激しく震える頭部を両手で抱えつつ夜空に仰いだ。 彼の管理局に対する弁は、実に見苦しく己の都合の良い改竄を盛沢山して醜悪なイメージを押し付けようとした完全なでっち上げであったものの、リィン達は次元(この)世界の情勢を全然知り得ていない、故に言った事が真実なのかどうなのか彼等には判りようがなく、これで少しでも管理局(なのは達)へ対する疑念を異世界陣(リィン達)に持たせて相手の共闘意識を乱せるものかと期待したが、しかしその思惑に反し異世界陣はリーダー格の二人をはじめ誰一人としてこちらの揺さぶりに惑わされる事はなく、なのは達の事を疑う様子はこれっぽちも見られないどころか寧ろ彼女達へ対する信頼を皆益々と強固にしたようにキリッとした顔付になっていた。

 

それがどうしても納得出来ないラコフは発狂した金切り声で今一度異世界の若き英雄達へ問い質したが、そんなの聞くまでもないという素振りでリィンとツナが甲板の縁下へと視線を促し、逆に問い返す。

 

「この艦の遥か下に燃え広がる都市の彼方此方から聴こえて来る、鉄が鳴り響くような交戦音と、管理局の魔導師達(なのは達の仲間であろう人達)が必死に街を守ろうとしてミッドナイト軍(お前達)の嗾けた人形兵器の大群に抗っている声を聴けば簡単に分かる事だろう? 自律思考(パターン)の共有によって無駄のない群体統制を成し、且つユニットの種類によって高火力の兵装を多種多様に揃え持ちながら、並の装備では傷一つ付けられない程に堅牢な外殻装甲を持っているのに加えて、強力な対魔法装備を幾つも積んでいる……そんな人形兵器や魔煌機兵が俺達の元居た世界にある【共和国】の首都並に広大な大都市全体を丸ごと蹂躙出来る程の途方もない大軍で襲い来るのを前にすれば、普通は誰だって絶望を禁じ得ない筈だろう……だが、この下で戦っている人達はそんな強大な敵を相手にして、此処(上空5000アージュ)から遠目で眺めて観ても明確な壊滅状態にまで追い込まれていながら、今も絶望せず、全く諦めようとせずに決死の抵抗をし続けている。 それも、それで残存戦力に余裕が無くなっているのにも拘らず、力無き一般市民を守って安全な都市の外へと逃がす避難活動をも併行してな……!」

 

「時空管理局とやらがもしお前の言った通り内側がどうしようもなく腐敗した最悪の独裁司法組織だったとしても、絶望的な戦力差で罪の無い人々が住む街と生活を壊そうとする敵から命懸けで戦う事の出来る機動六課(スバル達)とその彼女らの同志達が、悪い組織の手先である訳がないだろうが! 寧ろ悪党はどう見たってミッドナイト軍(お前達)の方だろ? いったい何処で仕入れたのかは知らないが、RPGとかに登場する飛空艇のような巨大飛行戦艦とTVアニメなどに出てくるような巨大ロボット、その上リィン達の世界の技術を組み込んだ新型みたいだがオレ達の世界の人型戦闘兵器(モスカ)までも、一軍が作れる程大量に投入してこの世界を襲い、罪の無い人達が暮らす街を無差別に破壊して下に見えるような火の海へと変えている……これが悪の独裁司法組織の差別と圧政から力無き人々を解放する為の【聖戦】だと? 本気で言っているのならお前の方こそ、ふざけるなよ──ッ!!」

 

元居た世界の危機を幾度も救済してきた英雄(ヒーロー)たる二人は完全に激怒していた。 最低最悪の侵略者(ラコフ・ドンチェル)の何処までもミッドナイト軍の不当な世界侵略行為を御都合的な虚偽で意地汚く正当化しようとする醜悪極まった詭弁の限りは彼等の怒りを買うのには充分過ぎたのだった。 例えどんなに正当な理由があったとて、武力行使をもって一つの世界を襲撃し罪無き人々が暮らす街を無差別に破壊し尽くしてそこに住む無辜の民草を傷つけたならば、そこに()は無し。 まして、卑劣な侵略者から力無き人々を守る為に立派に立ち向かう少女達を悪の手先呼ばわりして自分達の侵略行為を俗に正当化しようとするばかりか、それを言い訳にして突然現れた事情を知らない異世界人を騙くらかそうとするなど、言語道断。 恥知らずにも程がある、()()に間違いなし。

 

「今すぐにこの世界と管理局員(なのは達)への攻撃を止め、軍を街から退いて、おとなしく身柄を投降しろ!」

 

「お前が乗っている機体に組み込まれていた【畜炎強化システム】はオレの“大空属性の炎”の調()()特性で完全に機能停止させた。 もう“雲属性の炎”で機体を強化する事はできないぞ!」

 

自分勝手にでっち上げた言い訳でミッドチルダ(この世界)と真摯に次元世界を守りたいと願って誇り高く戦う魔導師達を深く傷つけた侵略者に対して、迸る怒りが籠った闘気を纏わせた緋色の切っ先と敵を打つ覚悟の炎を燃え上がらせる拳を突き向ける二人の英雄(ヒーロー)……彼等が発する歴戦の戦意を受けて一秒持たずに圧倒された悪の親玉(ラコフ)は竦み足でスクルドに一歩後退させるが、奴とて広大な次元の海の中心に浮かぶ法の船を底へと引きずり沈めてやらんとして反乱軍を立ち上げた、一総大将としての意地(プライド)がある。 顔面積の四分の一を埋めるニキビだらけのデカッ鼻が千切れ飛びそうな勢いでかぶりを振る事で恐怖を振り払い、スクルドの右手でビシッ! と人差し指を憎き英雄達へと突き向け返して往生際悪く言い返す。

 

『だだだだ、黙れぇいっ! 数多の次元の海の広さを知らん異世界の青二才とクソガキ風情が、生意気に知った風な口を聞くんじゃあないわ! この世界を牛耳る管理局が創設された百年も昔から今まで、連中が正義を誇示し続ける為に裏でどれだけの不正行為を行ってきたのか、ちっとも知らん癖に、次元世界に正しい革命を起こそうとしている吾輩の崇高な聖戦を邪魔して否定して悪者扱いして、正義の味方ぶってんじゃねーやい! 顔がカワイイだけで清楚ぶりっ子した、クソ○ッチの集まる機動六課の小娘共なんかに唆されてんじゃねーよ、このヤリ○ン共がッ!!』

 

「誰がクソビッ○よ!? この悪の総統コスプレ趣味のデカッ(パナ)ハゲオヤジ!!」

 

「リィン教官は確かに毎度毎度、何処に行っても不埒なToLoveるを起こしますが、基本女性から向けられる好意に鈍い朴念仁なので、ヤリチ○という表現は大分的外れであると断言します。 訂正してください」

 

──フォローしてくれるのは有難いんだが……アルティナ、毎度毎度他人に誤解を植え付けるような言い方をするのは、いい加減に止めてくれないだろうか……。

 

残念ながら自分達の教官が女性からの好意に何処までも鈍い朴念仁だというのはトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科のクラス生徒五名全員の共有評価なのだから、もう諦めるがいい、リィンよ……www。

 

『ぬぇぇえええーーーいっ!! これ以上罵り合っても埒があかんわ!!』

 

ふざけるのもここまで。 いい加減に決着を付ける為、最後の激突と洒落込もうじゃあないか!

 

『炎なんぞに頼らずとも我が《紫焔の武士》はまだ此処に立っているぅぅーーっ! この機体が纏う“黒ゼムリア鉱”と精製度Aランク以上の炎製石を合成し開発した特殊耐炎合金板に対抗魔法防御素材コーティングを施した鉄壁の武者鎧装甲と、ゼムリア大陸の《エレボニア帝国》が軍事運用しているという“機甲兵”の隊長機《シュピーゲル》のものよりも遥かに高い反射性能を発揮する対攻撃反射防御結界【リアクティビアーマーA(イージス)】──この完璧な防御力を持つ二重の鎧さえあれば吾輩の武士(スクルド)は絶対無敵なのじゃーーーい!! 壊せるものなら、んあっ、壊してみせやがーーーれぇぇええいっ!!!』

 

まるで最高潮(クライマックス)の舞台に上がった歌舞伎役者の如く、スクルドを片足立ちさせて開いた右手を肩の後ろへ引き絞り左掌で正面に向かう憎き英雄共へ張り手を突き出して、粋に顎を回させながら、(かぶ)いた口調で自分の最強の武士を打倒できるものならやってみろと相手へ挑発を仕向けるは、ミッドナイト軍総司令官ラコフ・ドンチェル。

 

物の一切全てが焼却された甲板上の殺風景に夜風が靡き、焼けた鉄の臭いが戦いにおける最後の激突前に感じる特有の緊迫感を演出している。 その真っ只中で三つの世界より集いし若き英雄達と悪しき侵略軍の総大将たる(おお)いなる紫焔の武士が得物を構えて向き合い、激しく火花を散らす。

 

「こうなったら話し合いは無用か……」

 

「そうだね。 お話が出来ない相手にはいつも通り全力全開でぶつかって、叩きのめしてから“お話”するまでなの!」

 

「ハッ! 虫すら殺さなそうな善人面してんのに反して随分と物騒な提案をするじゃねぇか、白魔導師のネーチャンよぉ? ……だが、いいぜ。 そういうのはトールズⅦ組(俺達)の得意分野だからな!」

 

ボンゴレ(オレら)だって総力戦(ガチンコ)なら上等だ! 全員であの巨大鎧武者ロボをタコってスクラップにして、中で操縦してやがる変な笑い方するオッサンを引き摺り出してからシバいてやりましょう、十代目!」

 

「ああ、もちろんだ。 ……しかし、実際に敵が言った通り、あのスクルドとかいう魔煌機兵(巨大ロボ)の外部装甲は途轍もなく堅い事に間違いない。 さっきもオレの“大空属性の炎”による調()()特性で石化させた奴の雲属性の炎鎧を、オレとリィンの全力連携攻撃で粉々に砕いたはいいが、中身の本体は御覧の通り大したダメージも与えられずにピンピンしているからな……」

 

総力戦で最後の決着を付けに行く雰囲気にトールズⅦ組、ボンゴレファミリー、機動六課の三連合一同総員が意気揚々と最高の闘志を燃やす。 だがツナが言った懸念の通り、スクルド本体が纏う武士甲冑装甲の防御性能は鉄壁だ。 なのはとスバルによる合体戦技(コンビクラフト)W(ダブル)ディバインバスターをも反射してしまう絶対無敵の防御結界《リアクティビアーマーA(イージス)》も併せると、まさに難攻不落と言える。 百戦錬磨の戦士が百人や千人集まって攻撃したとしても、あの武者鎧には罅一筋すら入れる事はできないだろう……だが、リィン達トールズⅦ組は魔煌機兵の相手なら元居た世界で幾度となく相対し、その度に撃破してきた()()があった。

 

「そういう事なら、ここはトールズⅦ組(俺達)に任せてくれ」

 

「リィン……?」

 

「何かスクルド(アイツ)の鉄壁の防御を壊せる秘策でもあるんですか?」

 

「ああ。 俺達が今まで、立ち塞がる強大な“壁”を幾度も乗り越えられてきた、“繋がりの力”の()()()()()さ」

 

皆の前に踏み出て自信満々気にリィンはスクルドを倒せる“切り札”を自分らトールズⅦ組は持っていると言う。 そして彼の教え子達がその言葉を待っていましたと言わんばかりに、教官に続いて皆の前へ意気揚々と踏み出ると、トールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科の担任教官とその生徒五名が威風堂々と横一列に整列して、機関砲剣を手に身構える(おお)いなる紫焔の武士の正面へと立った。 その際に六人全員が懐よりARCUSⅡを手に取り出してリィンとユウナ、クルトとアルティナ、アッシュとミュゼがそれぞれ足下同士を光の線(ライン)で繋いで接続(リンク)した。

 

『ほほぉう? この絶対無敵の《紫焔の武士》の前に整然と並び立つなどとは、キミタチは殊勝にも銃殺刑をお望みか──』

 

「ユウナ、号令(オーダー)を頼む!」

 

「了解です、教官!」

 

『──って、無視(シカト)ですかいィィッ!?』

 

相手が煽ろうとしたのを完全スルーされて機体をズッコケさせそうによろめかせた隙に、ユウナがⅦ組の担任教官であり指揮官であるリィンに出された指示に従って、右手に持ったARCUSⅡの内面端末画面を開いて簡単に操作を施すと、『BRAVE ORDER Standby』と表示されたカバーディスプレイを前に翳しだした。 背中から見守るボンゴレファミリーと機動六課の面々から不可思議に思われる視線を集める中、彼女は凛々とした顔付で号令(オーダー)を言い放った。

 

「壊せ──『トールハンマー』ッッ!!

 

その如何なる堅牢なモノをも破壊する雷神の大槌の名を冠する《ブレイブオーダー》が溌剌勇壮とした声で発令された直後、号令(オーダー)を出した本人(ユウナ)を含むトールズⅦ組六名の手に握られているARCUSⅡがまるで共鳴するかのように全て同時に眩い輝きを発しだした。 それは深い奈落の闇をも照らし出すような“勇気の輝き(ヒカリ)”であった。

 

『キキキキ、キサマらぁぁーー! いったい全体何なんだ、その不愉快な感じがする“輝き(ヒカリ)”はあああぁぁーーーッ!!?』

 

「あのユウナっていうリィンの生徒の女の子が、さっきミュゼという生徒さんが重症だったなのはやみんなの傷を回復させる導力魔法(アーツ)を使った時にも取り出していた不思議な携帯端末を開いて掲げて、それで一言何かを叫んだ途端に、リィンと彼の生徒さん達の手に持った携帯端末が急に光りだして? ……もう、勘弁してよ……」

 

Ⅶ組陣の持つARCUSⅡが突然発しだした輝き(ヒカリ)を目に、ラコフは激しく戦慄を露わにしながらスクルドに震える右手の人差し指をリィン達へ指させながら発狂するように喚きだし、フェイトも本日最早何回目か数えるのも煩わしくなった異世界のトンデモ技術を目の当たりに辟易とする呻きを漏らしている。 狼狽えたい気持ちはこの場に立っているトールズⅦ組陣以外の他の面々も同じであった。

 

「い……いったいトールズⅦ組(アイツら)は何をやったんですか、十代目?」

 

「それはオレにも分からない……だけど」

 

「この光……なんだかとっても優しくて暖かい感じ……何故だか心の奥底からどんな強敵相手にも立ち向かえる“勇気”がどんどんと湧いてくるような気分になってくるよ、ティア!」

 

「そうね。 まるで号令を発した人を中心にして、ここに居る全員の夢や想い、勝利を諦めない希望などといった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような感覚……ア……レ……?」

 

ARCUSⅡの《ブレイブオーダー》システム……それは端末にインストールされてある号令(オーダー)を発令する事により()()()()()()()()()()()()()()()()という、戦闘において格下が格上相手に一発逆転を可能にし得る“切り札”だ。 システムを開いて【BP(ブレイブポイント)】を消費し、カバーディスプレイに表示された号令名を高らかに叫ぶと、号令(オーダー)を発令した者自身と一定近くに居るアドレス帳に味方集団(パーティ)登録されてあるARCUSⅡの所有者同士複数が共鳴して一定時間号令(オーダー)に応じた“因果律的ポジティブ強化効果”がその全員に共有付与されるという仕組みだ。

 

この《ブレイブオーダー》システムの強みは味方集団(パーティー)全体に対して一声で様々なポジティブ強化効果を与えられるという概要にあるのだが、これはあくまでもARCUSⅡ同士の共鳴(リンク)を介して共有を成す力である為、ARCUSⅡを所持していない味方には号令(オーダー)の強化効果を共有付与させる事が出来ないのである──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その筈だが……。

 

「ぇ……ええぇぇーーっ!? あたしのリボルバーナックルとマッハキャリバーのデバイス(コア)まで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぁぁ!?」

 

「嘘、レイジングハートまで不思議な光を発しだした……!?」

 

更には……。

 

「おおうっ? オレの《雨のネックレスVer.X》も光りだしたってか? ナハハハハ、なんだか粋な感じじゃねーか」

 

「笑ってる場合じゃねぇよ野球バカ! どういう事だかオレの《嵐のバックルVer.X》までもが、トールズⅦ組(アイツら)が手に持ってるスマホに似た携帯機器のと同じ光を発光させてやがるし、十代目の《大空のリングVer.X》に至っても同じ謎の発光現象が発生してやがるし、どうなってん……ハッ!? これはオレの大好きな神秘(オカルト)の臭いッ……!?」

 

ユウナの《ブレイブオーダー》──【トールハンマー】が発令され、トールズⅦ組(リィン達)六人の持つ携帯端末(ARCUSⅡ)が共鳴の輝き(ヒカリ)を発したと同時に、()()()()機動六課組(なのは達)の持っている得物(デバイス)(コア)ボンゴレ組(ツナ達)が身に付けている装飾品(ボンゴレギア)の宝珠部分も同じ輝き(ヒカリ)を発しだし、その全てがトールズⅦ組(リィン達)携帯端末(ARCUSⅡ)のシステムへ()()()()重複接続(デュアルリンク)されたのだった。

 

突然発生したその常軌を逸する現象はあまりにも埒外だった為、システムの概要を知らないボンゴレ組と機動六課組は無論の事渾沌の様相で大騒ぎになり、約一年前から今までゼムリア大陸で起きてきた大事件の数々での戦いで幾度も《ブレイブオーダー》を使ってきたトールズⅦ組の面々も流石にこのようなシステムの規格を超越し過ぎる異常(エラー)を受けて大変な動揺を禁じ得ない様子を見せている。

 

「ちょっ!!? これどうなってるの!? あたしの号令(オーダー)効果がARCUSⅡを持ってない後ろの人達にまで共有されちゃってるーーーっ!!」

 

「そんな、有り得ない。 《ブレイブオーダー》システムによる集団強化はARCUSⅡを所持していない者には及ばない筈なのに……!?」

 

「システムの故障……とは考え難いですね。 機動六課組(なのはさん達)の所持する魔導杖(オーバル・スタッフ)に類似した機械仕掛けの武装だけならまだ解りますが、ボンゴレ組(ツナさん達)非電子的装備品(アクセサリー)にまでも号令(オーダー)効果が共有されるなんて、どう考えても()()()()()()()ですので……」

 

「異世界転移した事といい、今回もまたまたオカルトの類かよ……まっ、《黄昏》やら《エリュシオン》やらで、もういい加減()()()()()()()()()()()には馴れっこだけどな!」

 

「わたしの“異能”でもこのような常軌を逸した事象が起きる可能性は段々と()()()()なってきました。 これはそろそろ《千の指し手》の異名を返上しなければならない時かもしれませんね……」

 

普通ならば起こり得ない()()を前にして皆それぞれ狼狽や原因追及などといった思考の迷路に惑う。 しかし、何も恐れる必要はない。 これは三世界より集いし若き英雄達の()()が今此処に重なった事により、起こされた()()なのだから!

 

「ARCUSⅡを介して強化効果が共有される筈の《ブレイブオーダー》が、何故ARCUSⅡを持っていないツナ達やなのは達にまで発揮されたのかは分からない……だが、この誤算は寧ろ()()だな!」

 

「ああ! ()()()()()()()()()()()()()()! リィン達六人にだけ、無茶はさせないさ!!」

 

この“奇跡”を千載一遇の好機(チャンス)と心得た二人の主人公(リィンとツナ)

 

頼もしいリーダー二人の言葉を聞き、仲間達もそれに応えるようにして一人また一人と目の奥に覚悟の炎を灯していく。

 

「各員戦闘配置に着け! オーダー効果を駆使し、敵新型魔煌機兵を撃破するッ!!」

 

「今度こそ、この戦いを終わらせてやる! 覚悟しろ!!」

 

英雄達は立ちはだかる巨大な敵を前に壮観と並び立つ。 その誰もが敗北の恐れなど抱いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、黒鋼(くろがね)の剣を取れ! 炎の拳を握れ! 魔法の杖を構えろ!

 

その勇気とキズナの輝き(ヒカリ)を一つに束ねて、醜悪なる野望を打ち砕き、絶望の闇を切り拓け!!

 

三つの世界の偉大なる英雄伝説に語られし希望(ヒカリ)の英雄達よ。 今こそその希望(ヒカリ)の力を結集し、新たなる壮大な“英雄伝説”の幕を上げるのだ──ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 




ブレイブオーダーの仕組みについては独自解釈です、あしからず。


最後の文章は何者かに思考を乗っ取られて書きましたけど、お気になさらずに……は、ムリか。(汗)


今回の『炎の軌跡講座』はお休みします。


その代わり、活動報告でゲスト参戦作品のアンケート投票を実地しましたので、活動報告に投票をよろしくお願いします。

オリジナルコンビクラフトの方もまだまだ募集しております。

ポトフーポットさん、とても素晴らしいオリジナルコンビクラフトのアイデアを数多く御提供してくださり、どうもありがとうございます!



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侵略者(ラコフ)の野望を打ち砕け。 三世界より集いし英雄達の総攻撃!(前編)

長くなったので前編後編に分けました。




トールズⅦ組(リィン達)の《ARCUSⅡ》、ボンゴレの守護者(ツナ達)の《ボンゴレギア》、機動六課の魔導師(なのは達)のデバイスが、勇気の号令(ブレイブオーダー)の発令によって今、一つに繋がった……!

 

三つの“軌跡”が交わりし今この時こそ、皆が力を合わせて物語の最初の(ボス)越える(倒す)時だ!!

 

「トールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科各員、皆、一気呵成にいくぞっ!」

 

「「「「「了解(応)ッ!」」」」」

 

先陣を切ったのはリィン達トールズⅦ組の六名だった。 Ⅶ組の担任教官兼指揮官であるリィンがミッドナイト軍艦隊が陣を敷いているこの空域全体に響き渡らせるように一斉突撃指令を発すると共に、彼を先頭にして六人それぞれ得物を構えて指揮官の指令に士気を上げて応えると、敵大将(ラコフ)が駆る新型魔煌機兵(スクルド)へと全員一斉に猛然と躍り掛かっていく。

 

それに対して敵大将(ラコフ)は機体の構えを解いて無防備(ノーガード)を晒し、どこまでも相手を侮っているように機関砲剣を携えてない左手で手招きするジェスチャーをさせている。

 

『ドンッ、チェルルルーー! 大勢で掛かって来たって無駄無駄無駄無駄なんだよ。 ヴァァァカめッ! 生身なんぞでそんなちんまい武装なんざ幾らの数持って掛かって来たところで、この吾輩の最強の機体であるスクルドの絶対無敵の装甲を破壊する事なんざ、何処をどう攻撃したって不可能だってーの! グビッ、グビッ……』

 

幾ら相手が三つの世界それぞれで未曾有の危機を幾多と救ってきた百戦錬磨の英雄達だからと言ったところで、生身では流石に自分の操る無敵の(おお)いなる紫焔の武士には、絶対に敵う訳がないだろうと思って大いに慢心しているのだろう。 そんな見え透いた内心を裏付けるように絶対無敵の装甲に守られている機体内部の操縦席空間(コックピット)馬鹿殿(ラコフ)は、リィン達が接敵してこちらの機体の外部装甲に攻撃を加えようとしてきているのにも関係ない風に、(うつ)けにも大仰に余裕をかまして相手の無駄な攻撃を蔑みきった罵倒を吐きつつ、操縦席の横に取り付けられている飲み物置き用の台座に置いてあったコーラのビンを手に取って中身を一気に飲み干した──

 

「──せいっ!」

 

「ていっ! てりゃぁっ!」

 

「はっ、せい!」

 

「えいっ!」

 

「オラッ、砕けろ!」

 

「うふふふ……シュートッ!」

 

それと同時に、リィン達の一斉攻撃がスクルドの外部装甲を叩き、砕いたのであった。 リィンが目にも留まらぬ太刀の振り下ろしで右脚首部分を切り裂き、ユウナが両手のガンブレイカーを銃撃形態(ガンナーモード)にして右脇腹部分に強化レディアントスチール弾をしこたま撃ち込み、クルトが双剣を刀身が一瞬ブレて映る程に高速で振るって左足(かかと)部分に二筋切り付け、アルティナが《クラウ=ソラス》を頭部へと飛ばし鋭利な刃のような右手で三つ目(レーザーアイレンズ)部分を横一文字に切り刻んで割り砕き、アッシュが長柄の戦斧を大上段から力いっぱいに左足の甲部分に叩き落として装甲破片を砕き散らし、ミュゼが背筋が凍るような微笑をしながら導力マスケット銃で股間部分に狙い定めて貫通力の高い魔力弾が其処を貫いた。

 

『ぶぶゥゥーーーッ! ほぁぁあ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″ーーーっ!!?』

 

攻撃された部分の外部装甲がいとも容易く砕けて罅割れ、連鎖爆発(チェーンエクスプロージョン)の如く其処の至る箇所から大量の砕かれた装甲破片が撒き散らされて粉塵爆煙が巻き起こされた。 機体の彼方此方から中央の操縦席空間(コックピット)へと伝わって押し寄せてくる激震のような衝撃が齎された為にラコフは全身を激しく嬲られて(シェイク)されて堪らず口の中に含んでいたコーラを真正面の外部の景色を映す導力映像画面(メインモニター)にブチ撒けつつ絶叫のような悲鳴を操縦席空間内に反響させる。

 

『ひでぶっ!!』

 

これまでにリィンやツナ達から受けた数々の高威力攻撃によって耐久値(ブレイクケージ)を根こそぎ削り取られてきた為に、最早椅子の体を為してない程に破損された黄金のメッキが剥がれた操縦席(ぎょくざ)が座下で壊れたスプリング器具によって勢い強く持ち上げられ、それに座っていたラコフがトランポリンの要領で天井へ投げ出された。 円形脱毛症でハゲた素頭を思いっきり打ち付けて眼からお星様を溢した後、先程椅子のパイプが突き刺さって穴の空いたアーミーパンツから覗く毛むくじゃらな汚い尻を突き上げた腹這いの恰好で床に落下する。

 

『ぐぬぬぬ……いい、いったい何がどうなっとんだぁああ? ナゼナゼナゼェェエエーー! 何故に英雄共(奴ら)の攻撃がこの無敵の機体(スクルド)の外部装甲をこうもアッサリ砕いたというのだぁぁーー!?』

 

今やまるで落ち武者のようにボロボロの姿になった馬鹿殿(ラコフ)。 いそいそと立ち上がって壊れた操縦席を取り外しながら、たかが人の生身であるリィン達の通常攻撃なんかで鉄壁の筈だったスクルドの外部装甲がこうも簡単に砕かれたという現実を受けて不条理を呻き散らす。

 

確かに先程まで、現れ出てきた上空から落下してきて重力落下と高位置エネルギーを上乗せした登場不意打ちをリィンとツナによって頭部に叩き凹まされた時以外は、スクルドの特殊耐炎合金素材の外部装甲に大したダメージを与えられていない。 だが、今のリィン達の攻撃は、ユウナの発令した《ブレイブオーダー》の『トールハンマー』によって【6(カウント)の間、ブレイクダメージ+250】という因果律的ポジティブ強化効果──“号令(オーダー)効果”が戦闘集団(パーティ)(ルール)に書き加えられて適用された為に、通常時よりも相手への攻撃で“ブレイクダメージ”をより多く与えられるようになっている。 故に威力+250が加算されたリィン達のブレイク攻撃を受けてしまい、スクルドの外部装甲の耐久値(ブレイクケージ)が一気に削り取られて【0】にされてしまった為、スクルドは装甲を破壊され“ブレイク状態”にされて怯んでしまったのだった。

 

ブレイク状態にされた(ユニット)は自分の行動順が回って来る(怯みが解ける)までの間、無防備を晒して行動不能になってしまう為……。

 

「崩れたぞ! 今だ!」

 

「追撃します! やあっ! それっ!」

 

「崩した! 今が好機!」

 

「追撃します。 やあっ!」

 

「崩してやったぜ! 追撃しやがれ!」

 

「任せてください! ショット!」

 

このようにどんな攻撃でもその相手の体勢を崩させる事ができ、ARCUSⅡ同士による“戦術リンク”接続を駆使すれば立て続けに追撃を加える事が可能なのだった。

 

『ぐへっ! じょぼっ! わらばっ!』

 

トールズⅦ組による戦術リンクの即時追撃で無防備の機体を袋叩き(フルボッコ)にされ、中のラコフはそれによる怒涛のクリティカルダメージ連発を受けて機体の内に伝播してきた大震災レベルの衝撃振動によって操縦席空間(コックピット)内を四方八方上下左右前後へと荒激しく揺す振られた。 堅い内部甲壁や外部映像モニターに休むことなく叩き付けられ続けて全身を隈なく強打されていく彼は、いっそ愉快な呻き声を上げまくって阿鼻叫喚に。

 

『ハラホレヒレハレー☆ ガーガー! ベケーッ!!?』

 

てんやわんやと散々操縦席空間(コックピット)内を転げ回された挙句に、リィン達からの追撃が止んで振動が止まると、唯でさえ不細工だった顔をタコのように膨らませて更にズタボロの見た目に成り果てたラコフは頭上にヒヨコとお星様を旋回させて脳震盪に朦朧としながら一瞬ガチョウのモノマネをすると、その直後に振動で天井へとへばり付いていたスクラップ操縦席が重力の枷を再び付けてラコフの円形脱毛症ハゲの脳天へと落下してきてズタボロの全身ごとグシャッ! と圧し潰したのだった。

 

『ぐおらぁぁああ! ザッケンナコラー!!』

 

しかし、そんなにこっ酷くやられてまでも、小悪党という人種はどうしてか、どこまでもしぶとく諦めの悪いド根性を持っているものであった。 幸いにもそれのお陰で我を取り戻し、ブレイク状態(怯み)から回復できたラコフは、自分の上に圧し掛かったスクラップ操縦席をヤケクソ火事場の一蹴りで退かして、奮起する。

 

『こんな事で、まだやられてたまるかーーいっ!!』

 

先程にアルティナの《クラウ=ソラス》の攻撃によって機体(スクルド)のメインカメラであった顔面部の三つ目(レーザーアイレンズ)を三つ共割られてしまった為、正面の導力映像画面(メインモニター)が消えて真っ黒になっているものがなんのその、まだメインカメラがやられただけだと言わんばかりにラコフは仮想鍵盤(キーボード)を指で叩き付けるように打って映像の消滅した導力映像画面(メインモニター)をしまい、正面透過(リアル)映像に切り替え肉眼目視でもって外部の状況を確認。

 

「次はオレ達の番だ。 獄寺君! 山本! 一緒に畳み掛けるぞ!!」

 

「合点招致です十代目! 遅れるんじゃねぇぞ山本!!」

 

「お前こそな! トールズⅦ組(アイツら)が作った追加打点攻撃の隙(ヒットエンドランチャンス)、オレ等が潰してやる訳にはいかねーだろ!!」

 

すると丁度、スクルドの近接攻撃可能範囲(クロスレンジ)から一旦距離を取って離れたトールズⅦ組(リィン達)と入れ替わるように。 ツナ、獄寺、山本のボンゴレ三人組が空中から猛スピードで迫って来ていたのだった。 両手の《XグローブVerX》の炎を逆噴射し音破衝(ソニックブーム)で邪魔な空気を割きながら音速滑空するツナを中央先頭に、その左右後方を、楕円形の浮遊台(ホバー)の上に圧倒的バランス感覚で立ちつつ髑髏型火炎放射器《赤炎の矢(フレイムアロー)》の発射口に弾であるダイナマイトを込めながら真っ直ぐ乱れず飛ぶ獄寺と、三本の小太刀の青色炎刃を推進力に飛翔する山本が、若干速度遅れで、しかし決して離されないようにピッタリと追従している。

 

ツナ達三人共が身に装備している【X(イクス)】の文字が大きく主張する荘厳な装飾品(アクセサリー)──《ボンゴレギア》より、それぞれ自らの持つ属性の“死ぬ気の炎”を灯し、ユウナが発令した『トールハンマー』の号令(オーダー)効果が集団(パーティ)共有されている印である光を発している。 トールズⅦ組(リィン達)が所有している《ARCUSⅡ》との因果律的な重複接続(デュアルリンク)を介する事で、彼等の端末よりブレイブオーダーシステム(因果律への書き加え集団強化)の恩恵を受けられるようになった。 故に今は彼等三人にも、ユウナの『トールハンマー』の号令(オーダー)効果である【ブレイクダメージ+250】が適用されている。

 

故に今は彼等の攻撃でもまともに叩き込めれば今のスクルドの罅割れだらけになった外部装甲なぞ容易に破壊してしまえる事は確実だった……だがしかし、まだラコフには()()()が残っていた。

 

『おのれぇい生意気なクソガキ共が! キサマ等が図に乗るのもこれまででぇぇい! 対攻撃反射防御結界《リアクティビアーマーA(イージス)》展開ィィィーーーーーッッ!!!』

 

ラコフは興奮(テンション)MAXになった金切り声を上げ、これで一発逆転だとしてスクルドに自身の周囲を球形に覆う導力エネルギーの防御結界を展開させる。 先刻になのはとスバルが合体戦技(コンビクラフト)として放った《W(ダブル)ディバインバスター》をも簡単に撥ね返した、絶対無敵の対攻撃反射防御結界《リアクティビアーマーA》が空を進撃するツナ達三人の前に立ち塞がった。

 

「隊長機の対戦車砲撃防御結界(リアクティビアーマー)!? 拙い、ツナ達一旦止まってくれ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

スクルドの周囲に展開されたリアクティビアーマーAを目の当たりにして焦燥の色を滲ませたリィンが、飛翔突撃に乗じた威勢のままに突撃して結界を突破しようと試みようとしていたツナ達へと険難を張り上げて一時制止を呼び掛けてくる。

 

現在から約3年前、当時大陸最大の軍事力を誇っていたエレボニア帝国における最名門の軍士官候補生養成校《トールズ士官学院》の第Ⅱ分校Ⅶ組特務科の担任教官であるリィンがまだトールズ特科クラスⅦ組生徒の重心(リーダー)として現役士官学院生だった時代に、彼と彼の仲間(クラスメイト)であった初代トールズⅦ組クラス士官候補生徒達は、()()()()()()()()()()()の発端を切っ掛けにして帝国の中核を担う重鎮達の子等が数多く在籍する自分等の学院に、魔煌機兵の前身となる人型有人兵器《機甲兵(パンツァーゾルダ)》を用い襲撃してきた帝国宰相暗殺犯たるテロリストグループ──《帝国解放戦線》と対峙した。 その時に敵の幹部であった女性──《S(スカーレット)》が駆り出してきた機甲兵の隊長機体《シュピーゲル》が展開する対戦車砲撃防御結界《リアクティビアーマー》を前にして、当時は今現在の機動六課FW陣(スバル達)よりも若干ばかり実力が上で場数を多く踏んだ程度の未熟者に過ぎずに烏合の衆ならぬ“雛鳥の衆”でしかなかったリィン達初代トールズⅦ組にはそれを突破出来る手札が全く無かったが為に、《S》の駆るシュピーゲルの剣によって文字通り手も足も出せず完膚なきに全員次々と地に叩き伏せられたという、苦渋を舐めた経験をした。

 

あの時はその直後にリィンが後に自身の相棒となる、とある“(いにしえ)の伝承の巨人”を呼び起こした事によって形勢逆転できたが、今はもう“彼”は現世より去って征ってしまっている。 故に同じ失敗はもう許されず、異世界で出会った新たな仲間達に同じ苦渋を舐めさせる訳にはいかない。

 

「三人共、ここは一旦下がってくれ! 奴の結界は俺の最大のSクラフト(奥技)で解j──「心配要らないよリィン。 この程度の結界ならボンゴレ組(オレ達三人)だけで突破するのに問題はない!」──してみせる……って、何っ?」

 

しかし今のリィンには相手の機体が展開したリアクティビアーマーAを打ち破れる“奥技”がある。 故にその切り札を今こそ解禁し、《紫焔の武士》の最後の砦を自らの剣をもって破壊すべきが最善。 そう考えた彼はツナ達に前線から下がるように呼び掛けたのだが、他二人のリーダー(ボス)であるツナが代表してリィンにはNOと返答した。 驚くべき事に、機甲兵の対戦車砲撃防御結界(リアクティビアーマー)の概要を全く知らないにも拘らずボンゴレ三人組(ツナ達)は相手の機体を完璧に覆い守っている無敵のリアクティビアーマーAは自分等だけで問題無く突破可能だと疑う事なく言い張ってきた為、リィンは虚を突かれて思わず目を見開いてしまう。 無論、彼の生徒達もそれを聴いて訝し気な色を浮かべて呆気らかんとし、相対するスクルドの内部でそれを聴いていたラコフもこちらの残された最後の切り札をいとも容易く突破できるなどと簡単にほざいたツナ達へ動揺が混じった遺憾を向ける。

 

『ふふ、ふざけた事ほざいてんじゃねー! 吾輩最強の専用機体である《紫焔の武士》の展開する、この絶対無敵の《リアクティビアーマーA》をっ、キサマ等中坊程度のクソガキ三人風情がっ、突破できる訳がねーだろっ!! 手汚い管理局の不当な当てつけを受けて6年前にその席を追われたとはいえ、腐ってもこの元クラナガン都市代表知事たるラコフ・ドンチェル様を相手に、そんなガキの駆引きごっこ遊び程度の見え透いた虚勢(ハッタリ)なんぞ、通用せんわい──ッッ!!!』

 

「なら虚勢(ハッタリ)かどうか試してやる! ……獄寺君!」

 

「御任せ下さい、十代目!」

 

相手の苦し紛れの挑発に敢えて乗ってやるとしたツナはまず獄寺に攻撃するように促した。 敬信するボスから先陣を任された信頼に応えるべくして意気揚々と返事した獄寺が颯爽と前へと突出し、「奴のドテッ腹に風孔空けてやるぜ!」と(ダイナマイト)を装填済の《赤炎の矢(フレイムアロー)》の放射口を絶対無敵の反射防御結界に覆われたスクルドへと差し向けた。

 

「標的射程距離700。 甲板上の温度12度(炎上後温度上昇値込みの数字)。 気圧480hPa(ヘクトパスカル)。 風速は南西へ40m──」

 

瞳に付けたコンタクトレンズ型の照準計算装置を使って相手の急所への最適精確な命中射線を算出する為に環境分析を行いつつ、極薄の“青色(ブルー)の炎”を灯した指輪(リング)を指に嵌めた右手で標的へ狙いを絞った左手の火炎放射器の手元を少々弄り──

 

「──《SISTEMA(スイステーマ) C(シー).A(エー).I(アイ)》──嵐+雨!」

 

発射(ファイヤー)

 

「貫け、《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》────ッ!!」

 

獄寺がそう言い放つと同時に左手の髑髏型火炎放射器の放射口より()()()()()()()()()()赤色(レッド)の炎の閃光(レーザー)が射出される。 発射前に意気込んで予告した宣言通り、結界を貫通したなら確実に敵の機体の腹部ど真ん中を直撃する正確無比の弾道(コース)で真っ直ぐにグーン! と炎の閃光(レーザー)が伸びて、狙い定めた標的へと向かって行く。

 

──見たところ先程から獄寺()が撃っていた《赤炎の矢(フレイムアロー)》と比較して、あまり()の外観に変化は無いように見えるが……。

 

「アルティナ……もしもの場合はあの三人(ツナ達)の退避をフォロー出来るように備えていてくれ」

 

「……了解」

 

外側でリィンとアルティナがそのようなやり取りを交わしたのを他所に、獄寺の放った《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》が敵の機体への干渉を阻む《リアクティビアーマーA》に到達し、ギャリリリリリーーッ!! という鉄削りのような聴く耳の中を激しく劈き回すが如き嫌な音を掻き鳴らしながら()()()()()()

 

『ドンッ、チェルルルーーー!! この見た目通りに頭の足りん、不良(チンピラ)のガキが! ヴァァァカメェェーーッ! どうやら吾輩の言った事が全然理解出来なかったらしいなぁ? こんなチンケな“嵐属性の炎”なんかで、このスクルドの絶対無敵の《リアクティビアーマーA》を()()しようたって無駄無駄ァァッ! たかが一人が使える単発属性の炎なんざぁ、簡単に跳ね返し……てや……アレェ?』

 

だが何かおかしい。 通常ならば《リアクティビアーマーA》への外部からの攻撃は結界に触れた瞬間に例外なく全て一瞬の拮抗もする事なく進行方向(ベクトル)を反転され、瞬く間に攻撃を飛ばしてきた相手へと反射される筈だ。 それなのに、スクルドと外部を隔てている結界に突き刺さった、()()()()()()()()()()赤色(レッド)の炎の閃光(レーザー)は何時まで経っても自分を放った(獄寺)のもとへ反射されては行かない様子だ。 それどころか、炎の閃光はまるで手強く硬い岩盤を少しずつ掘り進めていくドリルのように、《リアクティビアーマーA》の結界形成を構成する導力エネルギーを段々と()()していっているようにも窺える……。

 

『どどどっ、どういう事だァァーーッ!!? いったい何故! 何故()()()()()()()()()()()()“嵐属性の炎”なんぞがァァーーッ! “可能世界”と“七輪世界”の二つの次元世界外世界の技術の粋を結集して開発した、この最強最新鋭の魔煌機兵たる《紫焔の武士》スクルドの。 その絶対無敵である筈の《リアクティビアーマーA》を、たとえちょっとずつだからと言って、ちゃんと()()できてやがるんだァァーーーッ!!!』

 

ラコフは透過映像越し眼前で自分の搭乗している機体(スクルド)と外部を完全に隔てている絶対無敵の筈の()()()()()()()()()()()()()()()()()、鬩ぎ合いの激しい火花を迸らせながら鉄削りのように甲高い乱雑音を鳴り響かせて遅々と迫り来る獄寺の炎をまるで食い入るように覗き込んで、驚愕に血走らせた両眼をビョーーーン! と飛び出させたような超大袈裟な反応(リアクション)と共に不条理を前にしたような発狂を露わにした。 それは確かに、獄寺やオーバル・モスカも使用する“嵐属性の炎”は燃やす全てのモノを()()する特性を持っているが、しかし幾らなんでもエースやストライカー級の魔導師が放つ絶大なエネルギー量の魔力砲撃すらも簡単に防いで反射できる程に強力であった防御結界がたった一人の中学生が生身の出力で撃ってきた“嵐属性の炎”一つのみによって突き破られようとしているなどと、とてもじゃないが、たとえそれが実際目の前で起きていてもその現実を疑ってしまうのも無理はないと言える。

 

そんな機体越しに外から視てもそのような分かりやすい驚愕の形相を晒していると分かる中の操縦者へ、炎の閃光(レーザー)を撃ち込んだ本人(獄寺)が不敵の嘲笑を差し向けた。

 

「ハッ! バーカ、その結膜炎の汚ねぇ二つの眼玉ひん剥いてよーく見てみやがれ。 その《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》はその名が示す通り、()()()()()()()()()()()()()()!」

 

『なん……だとォォッ!?』

 

獄寺に指摘された通り、《リアクティビアーマーA》を少しづつ着々と鉄削りのように()()しながら掘り進んで来ている炎の閃光(レーザー)の様子を、両手の指で両目の瞼をこじ開けながら覗き込むようにしてよく観察して視るラコフ。 すると、なんとその炎の色を構成しているのは嵐属性を示す赤色(レッド)だけではなく──

 

『──なんと吾輩ビックリ仰天! これはッ、“嵐属性の炎”の赤色に薄っすらと“雨属性の炎”の青色(ブルー)が混じっているではないですかーーッ!?』

 

「御明察だぜ。 もっとも、嵐属性単体で放つ《赤炎の矢(フレイムアロー)》の表面に微量の雨属性の炎を塗装(コーティング)した【鎮静分解炎弾】ってのが正解だけどな! この炎弾の表面を覆う雨属性の炎の()()特性がまずテメェのその《リアクティビアーマーA》とかいう反射バリアーの強度と攻撃反射性能を弱体化させ、更に脆くなったその部分を嵐属性の炎で()()し、どんな堅い壁をもブチ貫く。 それがその《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》の正体だぜ!!」

 

そう獄寺が極薄の“青色(ブルー)の波動”を点灯させた右手の中指に嵌めた指輪(リング)がよく相手に見えるように、右手を前に突き出して中指を上に向けながら挑発するようにして技の詳細を説明する。

 

実のところ獄寺が過去にこの嵐属性と雨属性の炎を配合した【鎮静分解炎弾】を初めて使用した時はまだ《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》という技名を付けてはいなかった。 最近になってツナや獄寺達《ボンゴレファミリー》が大いに関わっていた()()()()()()()が無事に終戦した事によって暇を持て余していたところ、獄寺は暇つぶしに自分の使用できる属性の組み合わせ全通りの技に名前を付けてみる事にしたのだった。

 

この技(コイツ)に名前を付ける時、めんどくせーから最初は既に最初から名前を付けていた最強の組み合わせである嵐+雷属性の《赤炎の雷(フレイムサンダー)》と同じようにして【フレイムレイン】って付けようとしたんだけどな。 でも上に撃ち上げて雨状に降らせる技でもねーのに【雨降り(レイン)】って付けるのはどう考えても変だったからな。 そんで“炎で貫く”って意味合いを兼ねて《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》って名付けた訳だぜ」

 

『ぐぬぬぬぬ、うぉのれ~……だがこぉぉんな色変わり損ないのガスバーナーなんぞ、この《十二月の子持ちししゃも(機関砲剣の名前)》で(ハエ)の如く直接叩き墜としてくれるわーいっ!』

 

そう言ってラコフは諦め悪く、スクルドに右手で握った機関砲剣をめいいっぱい高々振り上げさせ、それを今にも眼前の結界を突き破って来そうになっていた《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》へ向けて全力を込めて振り下ろそうとするが。 その刹那の一瞬の間に獄寺の真横を疾風のようにすり抜けて炎の閃光(レーザー)が突き刺さる結界の目の前へ飛んで来た山本が、青色(ブルー)の炎翼の剣と化させた時雨金時のその切っ先を炎の閃光(レーザー)が後引く火尾へ射線が重なるようにして差し向けつつ、手放して自分の足下へと柄を落とす。

 

「おっと! 試合中に焦りと不注意は禁物だぜ。 これで雨属性の炎(ダメ押し打点)の追加得点だ!」

 

『ちょっ!? おまっ、それ()()()()()()()()()()の剣じゃねーの! まさかキサマやめr──』

 

「いくぜっ! 時雨蒼燕流──攻式・三の型」

 

そして足下へ水平の姿勢を保たせたまま真っ直ぐと落下させた時雨金時の柄尻を──

 

「──遣らずの雨!!」

 

右足の爪先で勢いよく()()()()()()()()()()。 無論その切っ先は真っ直ぐとそのまま獄寺の《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》の尾尻に後方から深々と突き刺さった。 するとその瞬間、時雨金時の全身に灯る莫大な量の“雨属性の炎”が丸ごと全部《赤炎の雨(フレイムスレイヤー)》へと受け渡され、微々たるものだった量が強大に為った雨属性塗装(ブルー・コーティング)によって大量のガスを注入したガスバーナーのように青白へと変色した炎の閃光(レーザー)が、《紫焔の武士》を守る最後の砦にして最強無敵の反射防御結界《リアクティビアーマーA》を一気に()()で弱体化させ、罅割れて脆くなった硝子のようにして粉砕したのだった。

 

『そそそ、そんなヴァカナァアアアーーーッ!!? 絶対無敵の反射防御結界がウソダバドンドコドーn──』

 

ボコッ! ゴオオオオオォォォォォーーーーーッ!!

 

『おぎゃああああああああああ!!?』

 

《リアクティビアーマーA》を粉砕してその勢いのまま間髪入れずスクルドの腹部中心上部の三重構造炎伝導板胸部操縦席ハッチを纏めて突き破り、内部操縦席空間(コックピット)に燃えるような轟音を唸らせて突入してきた青白い炎の閃光(レーザー)が操縦者であるラコフの円形脱毛症ハゲの素頭部を掠めて機体の背中から外へと突き抜けて行った。 炎はそのままスクルドの背後に聳える艦橋(ブリッジ)の右側を通り過ぎて(ガラハッド)の艦尾から彼方の夜闇へと吸い込まれて消失したが、ラコフの頭は焚火のように炎上し、持ち主はその頭に猛烈と感じる焼痛と儚く焼け散って死滅していく己の残髪毛根に阿鼻叫喚を催した。

 

「よっしゃあ! 特大三塁打(スリーベースヒット)、決まったぜ!」

 

「これであの鎧武者ロボヤローの防御能力は総崩れにしたッス! 一発決めてください十代目!!」

 

「ああっ!」

 

ユウナの『トールハンマー』による号令(オーダー)効果の恩恵を共有して受けているお陰様で、獄寺と山本の攻撃が特大のブレイク攻撃と為り、鉄壁を誇っていたスクルドの武者装甲は壊滅的に破壊された。 物理、死ぬ気の炎、魔法も無差別に全ての攻撃を跳ね返す絶対無敵の反射防御結界《リアクティビアーマーA》も破れ、最早敵大将の駆る機体たる(おお)いなる紫焔の武士を守るものは何も無い!

 

「うぉぉおおおおおおーーーっ!!」

 

砕け散った結界の細かな導力エネルギーの破片が粉雪のように降り注ぐ中を、ツナは勇ましい雄叫びをあげつつ、胸に大孔を空けて完全な無防備状態に陥ったスクルドへと飛翔して向かい、堂々の突撃を敢行。 ()()()()()()()()()()()()()()()、その甲に【Ⅰ】と刻まれた籠手(ガントレット)に埒外の熱量の“橙色(オレンジ)の炎”を秘め、その拳を力強く握り締めながら、音すらも置き去りにする爆速でもって降り注ぐ導力エネルギーの破片を蹴散らして、“究極の一撃”を敵へ叩き込むべくして猛然と突っ切って行く。

 

 

究極の一撃──≪Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)

 

 

「ツナさんが右手に着けてるあの籠手(ガントレット)は、さっきあの人が空から降ってきてリィンさんと一緒にスクルドの脳天に不意打ちを叩き込んだ時にも着けて殴ってた、チョー強い武装だ……!」

 

「まさかあの籠手(ガントレット)って、さっき獄寺と山本が炎を灯した不思議な装飾品の中から出したカワイイ小動物を自分の武器と合体させて強力な武装に変化させていたのと同じように、さっきまでツナの肩に乗ってたのがチラッと見えた可愛らしい子供ライオンが彼の右手に着けていた燃えるグローブと合体して変化した武装なのぉぉ!?」

 

次の追撃に備えて仲間集団(パーティ)の最後尾に待機しながら前線の戦闘を観て眺めていたスバルが、敵へ突撃して行くツナの右手に装着された《Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)》に見覚えを感じ、それに心強い期待の眼差しを向けている。 そのすぐ真後ろではフェイトが、ツナの装着し出した凄まじい(チカラ)を秘める籠手(ガントレット)が、先程まで自分と共に協力して強敵(オーバル・モスカ)と戦っていた彼の仲間の二人(獄寺と山本)がやっていたのと同じように、自分のと同じ属性の炎を身体に灯す不思議な小動物と融合させて元々の装備を強化したものだと推察し、困惑を頂点に達させて目を回している。 その他の機動六課最前線部隊の魔導師達も一心になって、その炎の籠手(ガントレット)から今解き放たれようとしているボンゴレ十世(ツナ)の“究極の一撃”に注目を集め、固唾を呑んで見守る様子だ。

 

皆からの期待(内約一名は困惑)を一身の背に受け取ったツナは引き絞った右手の《Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)》から覗く、中指に嵌めた《大空のリングVerX》に灯る橙色(オレンジ)の炎と残りカウント1(1分)となったブレイブオーダー(トールハンマー)の光を一切溢さぬようにしっかりと、握り締めて──

 

「いくぞ……覚悟しろ!」

 

拳に勇気と覚悟の炎を纏い──

 

『やっ、ヤメテッ! くくく、来るんじゃねぇぇぇえええええ──ッッ!!!』

 

己の身の安全を守ってくれていた炎も鎧も結界も全て憎き英雄達に破壊されてしまい、恐怖に駆られて情けない悲鳴をあげだした敵大将(ラコフ)を中に乗せた、崩壊寸前の巨いなる紫焔の武士(スクルド)の顔面に目掛けて──

 

バーニングアクセル────ッ!!」

 

大空に煌く太陽の如き橙色(オレンジ)に燃え盛る炎の鉄拳を、一発叩き込んだ!

 

 

 

 




原作ゲームの[ブレイブオーダーの残りカウント数=行動回数]をそのまま使ってやると、オーダー発令してからたったの数行文章書いたらカウント0になってしまう為、本作品では[カウント数=分刻み]の設定にしました。

後編は4月中に更新できる予定です。


ここで活動報告で行っている『ゲスト参戦作品キャラクター投票』の途中経過を発表します。


*2票

『落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)』(黒鉄一輝 ステラ・ヴァーミリオン 《比翼》のエーデルワイス)


*1票

『ハイスクールD×D』(兵藤一誠 木場祐斗 ヴァーリ・ルシファー)

『空戦魔導士候補生の教官』(カナタ・エイジ ユーリ・フロストル クロエ・セヴェニー)

『ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)』(グレン・レーダス イヴ・ディストーレ(イヴ・イグナイト) アルベルト・フレイザー)

『出会って5秒でバトル』(白柳啓 天翔優利 霧崎円)



このような様子になっておりまして、今現在は『落第騎士の英雄譚』が一票リードしています。(仮にこのまま決定したらアニメに出ていないエーデルワイスのCVどうしようか……)

石蓮花さん、聖杯の魔女さん、原罪さん、rock 1192さん、オウガ・Ωさん、ポトフーポットさん。 アンケートにご投票ありがとうございました!

アンケート投票期限は四月末までですので、皆様どしどし投票よろしくお願いします。



ところで、【カップリングフラグ予定のキャラクター組み合わせ】って公表した方がいいかなぁ? 一応大方の組み合わせは決まっているのですが……。



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侵略者(ラコフ)の野望を打ち砕け。 三世界より集いし英雄達の総攻撃!(後編)

予定通り4月中の後編投下です。

今話は大ボリュームとなる文字数十八万以上。 物語最初のボスで小者にも拘らず案外しぶとかったラコフも、遂に今回で撃破です。 皆様長らくお待たせしました!

パロディー技や合体戦技(コンビクラフト)などもド派手に飛び出しますので、どうぞ楽しくお読みください。




『ホゲラア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ァァァーーーーッッ!!?』

 

爆発! 衝撃! 激震! そして夜天に轟く敵大将(ラコフ)の絶叫!!

 

ツナが右手の《Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)》で繰り出した《バーニングアクセル》は、まさに“究極の一撃”の名に違い無き途轍もない破壊力であった。

 

一体何が起きたのか? 一瞬そう思って気が付くと、ツナが炎の拳で殴った箇所から生じて爆発的な勢力をもって解き放たれた台風(サイクロン)の如き衝撃波が、最大最低最悪の次元侵略犯罪組織である反管理局軍ミッドナイトの指令母艦《ガラハッド》を中心に周囲の空域に浮かぶ無数の敵軍主力艦隊を半壊させ、艦隊守備に徘徊する飛行型ユニット人形兵器群や魔煌機兵達その全てを一瞬で圧壊させる程の激震をクラナガン上空全体に齎していた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのような規格外な威力の技の直撃をまともに貰ったスクルドの機体は、内部構造を構成する材質がリィン達やツナ達の世界に伝わる伝説級のレアメタル同士で合成した超合金素材であったお陰で全壊は免れギリギリ人型の形にはまだ保てているものの、既に鎧の体を為せてない程酷い破損状態にあった外部装甲の方は衝撃で無数の破片が剥がれて弾け飛び、全体的に完全崩壊を喫した。

 

『ハラヒレホレハレェェ……』

 

そして当然、その中に居る操縦者(ラコフ)は、それはもうズタボロだった。 ツナがスクルドに叩き込んだ《バーニングアクセル》による埒外の衝撃は機体内部に海底火山の大噴火の如き激振を齎し、それによって既に今までの戦いで酷いダメージを受けていたラコフの全身は大災害レベルの振動による圧迫と振り回し(シェイク)によって操縦席空間(コックピット)の周りにある内部壁面から袋叩きに遭ってしまっていた。 元々は痛々しい程に真っ赤で派手な出で立ちをしていた将軍服も今やダメージの蓄積によって擦り切れまくり最早半裸も同然の有様で、他の皆が認める山字形のデカッ(パナ)によって面積の四分の一を埋める奇形顔面に至っては巨大蜂の巣を突いてその巣主達に襲われた事後の如く無数の瘤が埋め尽くすようにして腫れ爛れさせられて葡萄のような顔形へ整形されてしまっている。 元が酷く不細工だった所為か、寧ろ今の葡萄面の方が美形(イケメン)かもしれないww。

 

無論、味方への被害も尋常ではなかった。 皆が乗っているこの艦(ガラハッド)の甲板上にて《バーニングアクセル》が炸裂した為、この艦そのものが震源地なのだ。 故に此処がこの空全体で一番大きな余波を受けていて、仲間達(パーティ)も皆激しい揺れに襲われた。

 

「きゃあああっ!!?」

 

「なななっ、なんて凄まじい威力なんだ! 衝撃波が最後尾(こっち)にまで……っ!!」

 

ツナ(あの人)スクルド(敵機体)を炎の拳で一発殴り付けて生じさせた凄まじい余波が大気を伝わって、ガラハッド(この艦)どころか()()()()()()()()()()()()()()()()!? とてもじゃないけど立っていられないわよ、こんなの!」

 

攻撃を仕掛けた前線のボンゴレ三人組を除く全員が空間すらも揺すられる尋常ではない大規模激震を受けて堪え難い様子を呈している。 特に戦闘の場数が他の面子よりも少ない機動六課FW陣は身体能力に優れるスバルを除く三人共々まともに立っている事すら儘ならずに完全に足を崩して転倒し、甲板から縁の外へ転げ落とされないように鉄床の砕けた出っ張り部分に手を引っ掻けてへばり付きながら悲鳴や驚嘆や難色などの声をあげて大騒ぎしている。

 

「おおっ! バーニングアクセルの威力、前のよりも遥かに上がってるのな♪」「さっすが十代目! あの《虹の代理戦争》が終わった後にも腐らせず益々腕を御上げになっておられるとは、大変感服したッス!」などというツナの究極の一撃(バーニングアクセル)へ対する絶賛の声も僅かにあがっているようだが、他にとっては堪ったものではないので常時ならばそんな味方まで余波に巻き込むような攻撃をするなと文句を言ってやるところだろう。

 

「だけど、敵の防御機能が今のツナ君の一撃で完全に崩壊した、今がチャンスだよ!」

 

「次は機動六課(私達)(ターン)だッ! ティアナ、エリオ、キャロ。 揺れがキツくて厳しいだろうけれど、なんとか踏ん張って! 私達全員の拘束魔法でスクルド(敵機体)の動きを封じ込めるよ!!」

 

「「「りょりょ、了解っ!!」」」

 

杖槍(レイジングハート)の穂を鉄床に突き刺して柄を身体の支えに激震に堪えていたなのはによって機動六課(自分達)が追撃に出る絶好の機を示され、魔力変換資質“電気”の魔法を応用する事で自らの両足裏を電磁力で鉄床上に固定し耐震を得る事によってなんとか直立の体勢を維持しながら険しい表情で光の双大剣(ライオットザンバー・スティンガー)を両手に構えるフェイトから強く鼓舞されて、ティアナ達三人共がそれに応えて奮起する。 前方より台風の如くこちらの顔面を殴り付けるように吹き荒れて来るバーニングアクセルの衝撃波にもめげずに、皆全身を激しく煽られながらも必死に耐えて自分の相棒(デバイス)を手に握り締め、余波が停止したと同時に機動六課全員が己の身体をロケットランチャーで発射するかのようにして勢いよく一斉に敵大将(スクルド)へ向かって飛び出して行く。 疾風怒濤。 風林火山の如く!

 

『ククッ、クッソゥ……吾輩はまだ……全ての次元世界を……この手中に入れるまで……諦めて……たまるもんk──』

 

「残念だけど貴方の野望は此処までだよ、ラコフ・ドンチェル! 《レストリストロック》!」

 

「「《ライトニングバインド》!」」

 

「なのはさん直伝、《チェーンバインド》!」

 

「我が求めるは戒める物、捕らえる物。 言の葉に答えよ、錬鉄の縛鎖。 錬鉄召喚! 《アルケミックチェーン》!」

 

『──って、のっほぉぉおおぉぉおおおーー♥』

 

ツナの究極の一撃(バーニングアクセル)をまともに顔面に貰ったスクルドは顔正面部全体をまるで隕石の直撃を受けたクレーターのように半球形状に大きく陥没させて、某大乱闘(スーパー)ゲームキャラクター大戦の100%以上ダメージが蓄積したキャラクターの如く大きく吹っ飛ばされ、背後に聳えていた艦橋(ブリッジ)の真横を通過して艦尾の柵壁に背中から追突した。 そしてその柵壁に塞き止められて完全に砕け散った外部装甲の破片が大量に舞う中を山なりに跳ね上がった、その機体全身のありとあらゆる部位関節を、突貫して来たなのは達が放った無数の魔力の帯や鎖が縛り付けたのであった。(そして中の操縦者(ラコフ)は機体越しに縛られて嬌声を出してしまう程の縛苦趣向的快楽主義者(バインド・マゾヒスト)であったww)

 

スクルド(敵機体)の身動きの封じ込めに成功! 今の隙にもう一発強烈なのをコイツに叩き込んでやりなさい、スバルッ!!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

ティアナから大声で敵へ攻撃しろと投げ掛けられ、この艦(ガラハッド)に居る機動六課メンバーでただ一人だけ、最後尾に控えて突撃の身構えを取っていたスバルが助走をつけて、景気付けの雄叫びをあげると共に持てる全速力をもって駆け出して来た。 両足に履いたマッハキャリバーの車輪を超速回転させて鉄床に火線の轍を刻みながら一陣の風と為りて、前線に出た機動六課組(なのは達)入れ替わりに(スイッチして)後退して来たトールズⅦ組(リィン達)ボンゴレ組(ツナ達)を横切るとあっという間に抜き去った。 魔力の帯や鎖で巨大な全身を雁字搦めにされて行動の一切を封じられた敵大将の《紫焔の武士》へと向かって、一気に加速を付ける。

 

──下の街(クラナガン)でミッドナイト軍の主力の大半を引きつけて、必死に防衛線を守ってくれているロングアーチ(はやて部隊長達)地上部隊(ギン姉達)敵軍の総司令官(ラコフ)の身柄の確保を任せて先に行かせたあたし等の背中を守る為に、強敵の番人(オーバル・モスカ)の相手をたったの二人で引き受けてくれた、頼れる副隊長の二人(ヴィータ副隊長とシグナム副隊長)次元(この)世界にやって来たばかりで事情を全然知らなくて、本当ならこの戦いには全く無関係な筈なのに機動六課(あたし達)の事を信じて味方に付いてくれた、凄く心強い異世界の助っ人の皆さん(ツナさん達)。 そしてティア、エリオ、キャロ、フリード、フェイトさん、なのはさん──あたしが最も信頼する機動六課最前線攻略部隊の仲間達が今、あたしのこの一撃に勝利への想いを託し、ボロボロになった身体と尽きかけの魔力を全力全開で振り絞って、敵大将の機体(スクルド)の動きを封じてくれた……。

 

劣悪非道の次元侵略犯罪組織たるミッドナイト軍からこの世界(ミッドチルダ)を守る為、この電撃作戦の要である敵軍総司令官(ラコフ・ドンチェル)の確保役を機動六課最前線攻略部隊(自分達)に託して作戦成功を祈ってくれている全ての人々の為に、スバルは今、黄金の意志を眼に宿し、“青き光の翼”を両脚に生やして空へと舞う!

 

「《ギア・エクセリオン》!!」

 

スバルの相棒(デバイス)たるマッハキャリバーの全出力機能解放形態(フルドライブモード)──《ギア・エクセリオン》……彼女が最も憧憬を向けている時空管理局の最優の魔導師(エース・オブ・エース)にして最も尊敬している上司である高町なのはの《エクセリオンモード》と同等の性能を発揮可能にする、()()()()()()()()()

 

「いくぞおおおおぉぉ──ッ!!」

 

ユウナの『トールハンマー』のカウントは数秒前に【0】を刻んだ事で味方集団(パーティ)全体に及ぼしていたブレイクダメージ増加の号令(オーダー)効果はとっくに切れてしまっているが、鉄壁を誇っていた敵大将の機体(スクルド)の外部装甲を完全崩壊に至らせた今となっては最早それも不要。 その“一撃必当”の破壊の拳を(おお)いなる紫焔の武士に叩き込む為、スバルは右手に装着された籠手(リボルバーナックル)瞬間魔力増幅回転弾倉(リボルバー式カートリッジ)──《ナックルスピナー》を超速回転させ、その握り締めた拳を肩の後ろへと大きく振り上げる。 そして機動六課の仲間達が残り僅かになった魔力の全てを絞り尽くした拘束魔法(バインド)の数々で巨大な全身を厳重に縛り付けられて身動き不能を無様に晒し、装甲を完全に砕かれた完全無防備状態の《紫焔の武士》へと、最短で、最速で、一直線に突貫して征く。

 

空を翔けて、銀色の矢に変わる!

 

『ふざけてんじゃねーよ』

 

「な──っ!?」

 

弾丸のように闇夜を貫き跳躍突撃して来たスバルが拘束されたスクルドを近接突入距離(ミドルレンジ)に捉え、振り上げていたリボルバーナックルを勢い強く引き絞ったその時だった。 突然スクルドの顔面の割れた三つ目(レーザーアイレンズ)の奥に赤黒い光が不気味に点灯しだし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が発せられてくる。

 

「うぅ……ダメ……もう……魔力……が……ッ!!?」

 

更にはその直後に、全身の身動きを完全に封じられている筈のスクルドが右腕を縛る()()()()()()()()()()()()()()()()桜色の魔力枷(なのはのレストリストロック)を強引に引き千切り、それに驚愕して金色に染まった両眼を見開きながら懐へと飛び込んできたスバルを自由を得た大木の如き極太の質量を持つ右腕で叩き墜としてやらんとして、彼女の頭上へ平手角(チョップ)を振り下ろしてきた。 これでなのはは流石にもう完全に魔力を底尽きさせてしまい、これ以上は戦闘継続不可能だった。

 

『キサマのような矮小な戦闘機人の小娘風情が。 全多次元並行宇宙一最も高尚なる価値を生まれ持ち、貴く崇高な選ばれし人間である、このラコフ・ドンチェル大司令官様を打ち倒せるなどと、思い上がってんじゃねー、身の程を弁えろよ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人造培養生体兵器(バイオウェポン)の分際で──っっ!!!

 

「ッッ!!!」

 

容赦なく冷徹酷薄と投げ落とされたラコフの底知れない侮蔑が籠められた言葉の刃に、スバルは心臓を突き刺されたように血の気が抜けて、引き絞った一撃必当の拳を突き放てずに硬直させてしまった。 戸惑いに大きく見開かれた“黄金色の瞳”は彼女が人外たる力を行使する印であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ラコフの言った通り、実際にスバル・ナカジマという少女は普通の人間ではない。 それは人並み以上に高い魔力や才能を持つ魔導師だからとかいう理屈ではなく、真実として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだという事だった。 彼女の正体は“タイプゼロ”と呼称される鋼の骨格とリンカーコアに干渉するプログラムユニットを持った《戦闘機人》──先月の《第一次ミッドチルダ大空襲》たるJS事件の主犯であったDrジェイル・スカリエッティが生み出し主戦力として動かしていた十二人の戦闘機人の娘達(ナンバーズ)()()()()()()()()()()なのである。

 

彼女の元々青色だった瞳が黄金色に変色した時は彼女の内に秘められた戦闘機人としての力である特殊戦闘固有技能《IS(インヒューレントスキル)》を使用した印だ。 つまり今の彼女はその身も力も、言い訳のしようがなく正真正銘の戦闘機人──立ち塞がる敵を破壊し尽くすまで止まらない、人外の人造培養生体兵器(バイオウェポン)そのものなのであった……。

 

『これから吾輩の支配する未来永劫の魔法無き人間の次元世界に、キサマのようなガラクタ人形なぞ要らんわい! これで鉄屑のジャンクになってしまえーーーいっ!!』

 

「ぁ……」

 

ラコフの死刑宣告と共に圧倒的な暴威を纏いつつこちらの頭上へと落ちて迫り来る《紫焔の武士》の巨腕を、戸惑いに勇気の輝き(ヒカリ)が消えて震え慄く黄金の瞳に映し、スバルは完全に怖気づいてしまって防御の構えも取れない。 無慈悲にも鬼の金棒の如き巨大な質量を持つ鋼鉄の平手角(チョップ)が小さな戦闘機人の少女を破壊せんとして勢いよく叩き付けられる……その直前──

 

「──そうは、させません! 煌け、『ノワールクリスタル』!!

 

スクルドのカウンター攻撃がスバルに直撃するよりもコンマ1秒前、狙い澄ましたかのような絶妙なタイミングで後方から新たな号令(オーダー)が届き、半透明の菱形の黒結晶が絶体絶命の危機に瀕したスバルの身を包み込んで守る。 そしてまさにその瞬間直ぐにその黒結晶の外面にスクルドの大木の如き右腕が猛然と叩き付けられた。

 

カンッ!

 

結果、直撃した攻撃の質量の大きさの割には実に味気ない金属を軽く叩いたような鈍い音が鳴った。

 

「え……っ!?」

 

スクルドの右腕に叩き落とされる衝撃に備えて歯を食い縛り両目を強く閉じたスバルだったが、一寸先の闇になっても痛みも衝撃もまるで来なかった為、恐る恐る目を開いて眼前に再び映った相手の機体を見上げてみる。 そしたら彼女の黄金の瞳に驚くべき事象が映る。 なんと、こちらへ振るい落としてた筈のスクルドの右腕の平手角(チョップ)が、何時の間にかどういう事だか、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

『ぐああああーーーっ!? ててて、手がっ! 手が撥ね返されて我が《紫焔の武士》の渋い顔がああああああーーーっ!! ついでにその衝撃に揺らされた所為で吾輩のイカスお顔も内壁に思いっきりぶつけてペシャンコにぃぃいいいいーーーっ!!』

 

「いったい、どうなって……そうか!」

 

中の操縦者(ラコフ)が激痛に苦鳴を叫んでのたうち回るのに同機(シンクロ)して、スクルドが顔面部に右手を突き刺したまま足掻き苦しむ挙動を見せている。 相手のその様に今度は一瞬の困惑を覚えたスバルだったが、そのお陰で心の落ち着きを取り戻す事ができた。 硬直から解放されて自由を取り戻した右手と両足に装着しているデバイスの(コア)が再び勇気の号令(ブレイブオーダー)の光を発しているのが確認出来て、彼女は相手のカウンター攻撃を()()して自身を守ってくれた、この半透明の黒結晶は、この背の後ろで自分を見守ってくれている心強い異世界からの助っ人達の中で不思議な携帯端末(ARCUSⅡ)を持っているトールズⅦ組の誰かが発令した号令(オーダー)効果なのだと把握したからだ。

 

「スバルさんと言いましたね……正直言って、次元(この)世界にやってきたばかりの余所者にしか過ぎない私には、その新型魔煌機兵の中の人が言った【戦闘機人】という存在の委細について、まだ全く知りません。 ……ですが、あなた自身がどういった存在であるとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あなたは紛れもない“人”に間違いありません」

 

その透き通るように綺麗な声が聴こえてきた背中を振り向くと“絶対反射”の号令(オーダー)『ノワールクリスタル』を発令した本人である黒い戦術殻を従える銀髪の少女──アルティナ・オライオンが一見希薄に見えながらも確かな力強さを宿した眼差しでスバル(こっち)を見据えていた。 まるで彼女自身も()()であるかのように、他人から人ではない目で見られて拒絶される事に恐怖する気持ちに共感しながら、しかし人の身ではない誰かに造られた偽物の人間であったとしても確かな“意志と心”を持っている限り“人”なのだから「あなたは大丈夫」だと、そのような激励のメッセージを込めて伝えてくるかのように。

 

「そうよバカスバル! アンタはバカなんでしょう? だったら自分が戦闘機人だからどうとか、柄にもなくウダウダと考えてんじゃないわよ!! アンタの危なっかしい背中はいつだって私達が守って(フォローして)やるんだから、アンタはいつも通り何も考えずバカ正直一直線に敵へ突っ込んで拳を叩き込めばいいのよ!!」

 

「戦闘機人とはちょっと違いますが、僕やフェイトさんも人の手によって造られた人造魔導師ですから、他人から人間じゃない事を軽蔑されて酷い事を言われる辛さは凄く解ります。 ですが、なのはさんやティアナさんをはじめとする機動六課の普通の生まれの人達は皆、人造魔導師(僕ら)の事を自分達と同じ“人”として、対等の仲間として接してくれています。 そんな普通の生まれじゃない人造魔導師(じぶん)を仲間として認めてくれた大切な機動六課(皆さん)の為になら、僕は例え他の誰に軽蔑されたって、どこまでも自分の境遇に負けたりせず戦っていけます! そしてそれはスバルさんだって同じの筈です!!」

 

「スバルさん、あなたを酷く言う人なんかに負けないで! 同じ機動六課FW(フォアード)の仲間として、私はスバルさんを信じています!!」

 

「キュククルルーーー!」

 

周りを見渡せば、これ以上ラコフの好き勝手にはさせまいとして、尽きかけの魔力を限界以上に振り絞って敵機体(スクルド)への拘束を必死になって強固にしている機動六課FW(同僚)らが、スバル(自分)ならやってくれるとどこまでも信じ、「負けるな! 頑張れ!」と応援(エール)を叫んでくれている。

 

「スバル……君は最初、なのはさん(わたし)のように誰かを助けられる強い魔導師になる事が夢だと言っていたけれど……君はもう、誰からの悪意にだって絶対に負けたりしない、立派な“強い人間”になったと、少なくてもわたしは確信しているよ。 だって君は、スカリエッティに洗脳されて敵対する事になった自分のお姉ちゃん(ギンガ)と正面から向き合って、乗り越えて助けてあげられたし。 攫われたヴィヴィオを奪還する為に厳しい連戦をし続けて、やっと戦い終わった時に魔力を使い果たした、わたしとヴィータちゃんが聖王のゆりかごの防衛再生壁によって聖王の玉座の間に閉じ込められてどうしようもなくなっていた時だって、君がその戦闘機人の力(IS)を使って助け出してくれたんだ。 だからスバル、他人を支配して自分の欲望を満たす事だけしか考えない相手なんかに、君は絶対に負けないって、わたしは信じているよ! ()()()()……()()ッッ!!」

 

最早体力も魔力も底を尽き、さすがに立っているのもやっとといった疲弊の様相を見せながらも相変わらず不屈の姿勢を崩さず自分の相棒の槍杖(レイジングハート)を支えに立ち続ける、自分が憧れと尊敬を懐く(なのは)からも、彼女の教え子であるスバル(自分)が一人前に成長したという信頼と、先のJS事件の戦いで得た功績に自信を持てという鼓舞を貰った。

 

「スバル……まだ君達とは知り合ったばかりで君の事をよく知らないオレなんかが、君に言える事はこれだけだ……君にも絶対に守りたい大切な人達が居るんだろう? だったら君も、その()()()()()変える事ができる筈だ。 臆する必要なんて無い。 ただ迷わず、大切な人達を脅かすスクルド(ソイツ)に、死ぬ気で君の拳を叩き込め──ッッ!!!

 

そして先程初めて出逢い、それなのに機動六課(自分達)の事を信用してくれて、ミッドナイト軍を打倒する戦いにこちらの味方をして戦ってくれている異世界からやって来た助っ人達のリーダーの一人である、不思議で心暖かい橙色(オレンジ)の炎を額に灯すクールな雰囲気に幼げな愛嬌がある顔付をしている少年──沢田綱吉が橙色(オレンジ)の閃光となって闇を射抜くようにスバル(こちら)の背中へと追って翔けつけて来ながら、元々は部外者である彼が今スバル(自分)へ向けて掛けてやれる最大限の助言(アドバイス)と“覚悟”の出し方を授けてくれた事で背中が押され、戸惑いは完全に消失した。

 

──ティア、エリオ、キャロ、フリード、なのはさん。 それと助っ人の御人形みたいな銀髪の女の子(アルティナ)とツナさんも、みんな励ましてくれてありがとう! あたしはもう誰に何を言われようと迷わない。 あたしの大切な皆を守る為に、あたしは──

 

「──ありったけの想いと“覚悟”を込めたこの拳を、全力全開の死ぬ気でスクルド(アンタ)へと叩き込むッ! 最速で、最短で、一直線に──ッッ!!」

 

金色の瞳に再び勇気の輝き(ヒカリ)が戻り、その奥に大空の守護者から贈られた“覚悟の炎”が灯された。 機動六課の仲間達が最後の魔力を絞り出し切って強度を限界まで強められた幾重もの拘束魔法によって、今度こそ完全に全身の身動きを封じ込められた《紫焔の武士》の懐へと真っ直ぐ翔けて突貫する。

 

「IS《振動破砕》発動(ドライブ)! 一撃粉砕──」

 

そしてスバルは遂に破壊目標(スクルド)必殺攻撃圏内(クロスレンジ)間近に捉えた。 まさに十万馬力を思わせる力強さで右腕を肩の上後方に大きく振りかぶり、結んだ絆は放さないと言わんばかりに強く握り締めた鋼鉄の拳(リボルバーナックル)に外付けされているナックルスピナーが青い放電(プラズマ)を放つ程の超回転速度で回され、それに纏わり付く周囲の空間を歪曲させる程の超摩擦……否、()()を生じさせる。 “タイプゼロ”たるスバル・ナカジマが《戦闘機人モード》で振るうIS(インヒューレントスキル)《振動破砕》は彼女の突き進む道に立ち塞がるどんな硬い壁をもその異次元の振動数を纏った拳の一撃のもとに粉砕する。

 

「──振動拳(しんどうけん)発展技(バリエーション)を、くらええええーーっ!!」

 

『まっ、待て待って! のわああああっ!!?』

 

「これがスバル・ナカジマ(あたし)の全力全開にして死ぬ気の拳」

 

集いし星が、新たな力を呼び起こす……Sクラフト開眼!

 

「A・C・Sブレイク──スクラップフィストォォォォーーーッッ!!!

 

銀の矢が貫く……そして超速回転の威力と一撃粉砕の振動、更には背中から後方へ魔力放出を行う事でそれを噴射推進(ブースター)に爆発的な加速をも伴って、突き放たれたスバルの必殺拳(Sクラフト)──《スクラップフィスト》が、落雷のような破砕音を轟かせると共に《紫焔の武士》の腹のド真ん中を貫通して背中まで突き抜け、巨大な風穴を空けたのだった。

 

『アギャ……ア……ッ!!?』

 

そのあまりに暴威的な破壊力を受けて、破壊された機体(スクルド)操縦席空間(コックピット)内部の敵大将(ラコフ)は大した悲鳴すらも上げられないレベルの衝撃(ショック)と共に茫然と果てしない絶句に襲われている。

 

《振動破砕》によって機体の内部機構を隅々まで破壊し尽くされ、空けられた腹部の風穴から覗く内側部の配線や骨組の断たれた箇所から漏電(スパーク)が起きているのが確認でき、その奥では背中に空けた穴から外へと()()()()を翔け抜けたスバルがリボルバーナックル(右拳)を前方に突き出した体勢のまま空中で“開眼”できた新必殺技(Sクラフト)を成功させれた実感とそれで敵機体に決定的な致命打を与えられた事に盛大な歓喜を表している。

 

「よっしゃああああっ!! 敵機体(スクルド)主動力(エンジン)を完全に破壊した! これでコイツはもう虫の息も同然ッ!! 最後のとどめは任せましたよ、ツナさんとリィンさん!!」

 

「「応ッ!!」」

 

スバルが半壊して罅割れだらけとなった艦尾の柵壁前に着地して、右拳を高らと夜天へ掲げながらとびっきりの笑顔で、敵大将にとどめを刺す役目を異世界の助っ人のリーダー二人(リィンとツナ)へと託す。 今度こそ最悪の次元侵略組織の反管理局軍ミッドナイトの総司令官を倒してこの戦いに決着を着けてくれ。 三つの世界を越えて集った仲間達全員の想いに頼もしく応えて、二人の歴戦の英雄は鉄の地を焦がす灰色(グレー)と闇夜を照らす橙色(オレンジ)の閃光となって駆けつける。

 

──リィン。 アンタにオレの“炎”を預ける。 決めてくれ!

 

──分かった。 俺の“剣”と君の“炎”を合わせて、闇を切り拓こう、ツナ!

 

疾走と滑空で上下縦一列に並走する二人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 有りとあらゆる先入観を排除し多角の視点から真実を見極める“八葉”の剣士たるリィン・シュバルツァーの《観の眼》。 ボンゴレファミリー代々のボスが継承する“ボンゴレの血筋(ブラッド・オブ・ボンゴレ)”が齎す才覚により直感的に未来に起きる事象を予知する沢田綱吉の《超直感》。 この二つの予見技能を意識下(アナログ)接続(リンク)させる事で、この二人は計らずもA()R()C()U()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という奇跡に等しい神業を為したのだった。

 

「いくぞ……!!」

 

“覚悟”はいいか? そう一言呟いたツナはその場を急上昇すると、前に先行して行くリィンへ向けて()の如く凄まじい炎を放出するグローブを着けた左手を突き出し、同時に左よりも()らかな炎を放出するグローブを着けた右手を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()後方逆方向へと突き出した。

 

「オペレーション……X(イクス)

 

『了解シマシタ、ボス』

 

ツナの口から静かにそう命令が発せられると、彼の両耳に被されている【VONGOLA X】と刻まれたヘッドホンから機械音声が発せられて了解の意を示した。

 

『《X(イクス) BURNER(バーナー)》発射シークエンスヲ開始シマス』

 

ヘッドホンの機械音声がそう言った直後、後方へ突き出されているツナの右手のグローブから放出されている“柔の炎”の出力が急激に高められて、後方に大きなエアバッグを膨らませるような形に勢いよく拡散逆噴射される。 彼のその動作は知らない傍から見たら意味が全く理解できず、それを目の当たりにしてツナの守護者である獄寺と山本以外は珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)という反応(リアクション)を表した。

 

「え……ええっ、ツナさん!?」

 

「あんな空中に留まって、いったいあの人は何をする気なんだ?」

 

「ツナは《X BURNER》を放つ気なのな」

 

「え……?」

 

形態変化(カンビオ・フォルマ)不使用の通常状態で十代目が放てる最大威力のSクラフト(必殺技)だ。 あの御方の耳に装着なされているヘッドホン型の音声装置が両目のコンタクト型ディスプレイと連動していてな。 そのコンタクト型ディスプレイが映し出す、右手の“柔の炎”と左手の“剛の炎”の出力を調整する為の【スロットルバー】と砲撃を放つ敵に狙いを定める為の【ターゲット】を活用する事で、“柔の炎”による支えと“剛の炎”が放つ砲撃の()()()()()()()()()()()()()()事によって、空中で姿勢を安定させながら最大威力の《X BURNER》を放つ事ができるって寸法なんだぜ」

 

「へぇ~、そうなの……って、()()──ッ!!?」

 

「ちょっと待って? それじゃあ何であのツナっていう子はスクルド(敵の新型魔煌機兵)にじゃなくて、リィン教官に砲撃を放つ左手を向けているのよ! まさかとは思うけれど、その《X BURNER》っていう凄そうな砲撃をリィン教官に向けて撃つつもりじゃあないでしょうね!?」

 

「さあ、どうだろーな? だけど全然心配しなくていいぜ。 ツナが何の考えも無く仲間を攻撃する筈ねーからな」

 

ツナが完全停止したスクルドではなくて、何故だか先行してそれに向かって駆けて行っているリィンの背中に“剛の炎”を集中(チャージ)している左手を向けている訳がまるで分からず疑問の声をあげた機動六課組(スバル達)トールズⅦ組(クルト達)に山本と獄寺がツナが今から繰り出そうとしているSクラフト(必殺技)──《X BURNER》について詳細説明をする。 それは簡単に言えば()()()()()との事らしく、それを聞いたボンゴレ組(獄寺と山本)以外は当然そこで今度は何故ツナはそれを味方であるリィンへと向けて照準を狙い澄ましているのかと焦燥気味に疑問を懐く。 しかしツナの人柄についてまだよく知り得ていない異世界の新たな仲間達が浮かべた不安に山本は周りに安心させる微笑を浮かべてツナが何の理由も無く血迷って仲間を撃ったりなどはしないと断言して、仲間達を一旦落ち着かせた。 それでも彼等の不安は完全には拭えないが、今はツナを信じて見守るしかない。

 

右手(ライトバーナー)“柔ノ炎”。 35万FV(フィアンマヴォルテージ)デ固定。 左手(レフトバーナー)“剛ノ炎”ノエネルギーヲ、グローブクリスタル内ニ充填』

 

周囲がそうこう揉めている内にツナは空中に滞空したまま、右手の“柔の炎”を逆噴射して背中へ形成した砲撃反動を抑える為の炎のエアバッグを完成させてその場に固定させると、敵大将(スクルド)に接近するまであと25mに迫ったリィンへ向けた左手グローブの甲の中心にある半球水晶(クリスタル)の中に煌々しくも猛々しい橙色の極光を収束させていく。 もっと光れ、もっと輝け──ッ! そのような叫び声の幻聴が轟いて来そうな程に、どこまでも熱く、激しく、“剛の炎”を滾らせる。

 

砲撃対象照準固定(ターゲットロック)右手(ライトバーナー)炎圧再上昇』

 

両眼のコンタクトディスプレイに表示された中心の照準(ターゲット)が前下方を駆ける《灰色の騎士》の背中へ完全に固定され、右手の炎(ライトバーナー)の出力を表わす上側の緑色のスロットルバーが最大値に向かって伸びていく。 これが表す最大値は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を示している。 彼は元居た世界で幾多の強敵達との激闘を得た事により、以前最初にこのコンタクトディスプレイを“とある敵対ファミリーから味方に寝返ってきた炎工学技術師”から貰い受けて完全な《X BURNER》を完成させた当初の最大値20万FVよりざっと二倍の【40万FV】にまで増大させており、この炎圧出力数値で炎砲撃を放てばこの空域に陣取っているミッドナイト軍艦隊の半数以上を一発でクラナガンの夜空に灰塵と散らせられると予測できる。

 

先程ツナ本人が言っていたように彼の持つ“大空属性の炎”はその調()()特性によって生物の肉体を傷付ける事はないのだが、その戦術兵器をも余裕で凌駕する破壊力の余波を生身の人間がまともに浴びたりすれば間違いなくひと堪りもないし、それにこの焼け落ち寸前である(ガラハッド)だって崩落を免れないだろう。 それこそ彼が今から撃ち放とうとしている最大出力の炎砲撃を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

『38万……39万……40万FV!! 左手(レフトバーナー)炎圧上昇……39万……40万FV!!』

 

画面上側のスロットルバーが最大値まで緑色に染まりきり、同じように左手の炎(レフトバーナー)の出力を表わす下側のスロットルバーも最大値まで赤色に染まりきった。 そうして上下のスロットルバーから中心の照準(ターゲット)に向かって伸びる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その時こそ──

 

『ゲージシンメトリー!! 発射スタンバイ!!』

 

ボンゴレ十世(デーチモ)たる沢田綱吉のSクラフト《X BURNER》の発射準備が完了した合図だ。 コンタクトディスプレイの画面に大きく【X】の文字が表示され、振り向かずに前を駆ける《灰色の騎士》の背中へ狙い定めた左手の内に収束されし圧倒的な熱量の剛炎が今、解き放たれる!

 

「受け取れぇぇえええ! リィィイイイン──ッッ!!!」

 

 

X(イクス) BURNER(バーナー)!!!

 

 

ツナの相手に届けという想いの叫び声がミッドチルダの夜空高くに響くと同時に、聴くに耳まで燃やし尽くされそうな程に凄まじい放射音を鳴らして彼の左掌から橙色(オレンジ)の炎禍が放出された。 この大空の全てを呑み込み尽くすような膨大な炎エネルギーの奔流。 それはまるで大気の全てを焦がすような蒸発音を唸らせながら、天に挑まんとするバベルの塔の如く極太い一条の煌柱となって夜闇を照らし貫いて大穴を空けていくような壮絶な光景であった。

 

「キャアアアアアーーーッ!!?」

 

「ななな、なんっつうデカさの規模と熱量の砲撃だよ!? 発射の余波で生じた熱風が、此処から遥か遠くに離れた空域に広がっていた雲海にまで届いて、跡形も残さず吹き飛ばしやがった!!」

 

「嘘でしょう!? あの砲撃の(おお)きさは、完全になのはがフルパワーで放つディバインバスターを大きく超えている!!」

 

「あ、あんな規格外に膨大なエネルギーが生身の人間にまともに直撃したりしたら、まず確実に細胞の一粒も残らず塵と化して消し飛んでしまうわ! ……というか、あんなに(おお)きな質量を持つ砲撃が着弾時に生じてくる衝撃の規模を考えたら、今私達が立っているこの艦も粉々じゃ済まないじゃないのよ!!」

 

放たれた《X BURNER》より散布されてきた猛烈な熱風を浴びせられながら、周囲に散らばる仲間達の誰しもがその橙色(オレンジ)の砲撃のあまりの規模の巨大さに何処までも果てしない戦慄や驚愕を露わにした。 その規格を度外視した勢力の余波の影響は、この首都クラナガン上空域の遥か果てにまで及ぼされ、砲撃発射地点となった(ガラハッド)の周辺を守り固めるミッドナイト軍主力艦隊やその間を哨戒守備していた魔煌機兵や飛行ユニット人形兵器の守衛部隊が熱風の荒波に圧し煽られて艦隊の守備陣形を大きく崩れさせた。 更には珍しく動揺を露呈させてアッシュが口にしたように此処から眺められる遥か果ての空域の一面に立ち込めていた雲海にまで猛烈な余波が行き届いて、その只中で壮絶な空中格闘戦(ドッグファイト)を繰り広げていたミッドナイト軍の魔煌機兵飛行部隊とクラナガン首都航空隊の航空魔導師等ごと、全て纏めて吹き飛ばして壊滅させている。

 

発射時に生じた余波の影響範囲を見ただけで、ツナの《X BURNER》が底知れ無く絶大な火力を孕んだ砲撃である事が全員に理解できた。

 

「お願いリィン君、避けて──ッ!!!」

 

故に幾らその砲撃(大空属性の炎)が生体へダメージを与えないのだとしても、それ程までに強力なエネルギーが生身の人間一人へ目掛けて飛んで行く光景を目の当たりにしたなら余程の人でなし人間でない限りは大慌てでその人間へ至急退避を呼び掛けるのが普通だろう。 現に撃ち放たれた《X BURNER》がロケット発進の如き凄まじい轟音をあげながら一直線に向かう先を、未だに全然後ろを振り向く素振りもせずに前方の敵大将(スクルド)をひたすらに見据えて全力疾走するリィンへ背後に迫り来る砲撃を回避するよう、一早くなのはが必死の叫び声をあげて呼び掛けていた。

 

「オオオオオオオッ!!」

 

だがしかし、美しくも可憐な白き戦乙女(ヒロイン)の声を聴いてすらも灰色の英雄(ヒーロー)は立ち止まらなかった。 斬るべき敵大将を眼前に捉えて腰に差した《神刀【緋天】》を右手に抜き、獅子の如き雄叫びを夜天高くに鳴り響かせて、背に幾人もの己の幻影を追従させる程の走力をもって、前へと駆け抜ける。 ただひたすらに、ただひたむきに、前へ。

 

──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 これがツナの全力の“炎”なのか……なんていう凄まじいエネルギーなんだ。 単純な質量ならあの最強の《劫炎》には遠く及ばないが、この必殺戦技(Sクラフト)は想像を絶するエネルギーを一点に収束して一気に放出する事によって限りない破壊力を発揮しているようだな。 それに──

 

この“炎”は、なんだか()()()()()()。 内側に込められた相手への優しさと思い遣りがしっかりと感じられる……だから恐れる必要は無い。 ()()は味方だ。

 

八葉一刀流──参の型、業炎撃(ごうえんげき)

 

前方の敵大将(スクルド)と後方の砲撃(X BURNER)が同時に自分のもとの間近に迫った瞬間、リィンは右手に携えた《神刀【緋天】》の刀身に“暁色の業炎”を燃え盛らせる。 そしてこの世界(ミッドチルダ)の遥か夜空に向けて掲げたその業炎纏う刀身が、背中へ飛来した途方もなく巨大な橙色(オレンジ)の炎禍をも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「嘘……だろ? 今の十代目の最大出力である40万FVでブッ放たれたあの《X BURNER》を、炎の刀で全部吸収しやがった……っ!!」

 

「オオオオオオオッ!!」

 

集団(パーティ)の最後尾からその光景を遠視していた獄寺が、下手すれば大山をも消滅させれる最大火力で放たれたツナの《X BURNER》がリィンの太刀に吸収された事に思わず自分の目を疑い、そしてその驚愕は再び鳴り響いたリィンの雄叫びによってカッ消される。 そして彼が右手に掲げた太刀の刀身に、混ざり合った“暁”と“橙”の業火が互いに螺旋状に絡み巻き合うよにして激しく燃え上がり、煌々と輝き(ヒカリ)を放った。

 

戦技(クラフト)同士の()()……これってもしかして、昔の特務支援課(ロイド先輩達)が使用していた合体戦技(コンビクラフト)!?」

 

「す、凄い……!!」

 

「それにとっても綺麗な“炎”。 まるで夜明けから昇ったばかりの朝日が放つ曙光のように……」

 

ユウナやスバル、なのはをはじめとする周囲の仲間達はリィンが掲げる太刀に纏われた曙の如き光輝を激しく放つ煌炎を目に入れて、そのあまりの煌々しさに驚きを雑じらせながら、呆然と立ち尽くし見惚れている。

 

──ツナ……君の(かくご)は、受け取った──!!

 

二つの世界の英雄の“炎”が合わさって、常夜を照らす“太陽”が創造された……今こそ、戦いの決着(夜明け)の時だ!

 

「これで最後だ……征くぞッ!」

 

リィンは満を持して小太陽を纏う太刀を脇に構え、一息に縮地で敵大将(スクルド)との距離を詰めて征く。 敵大将は絶対無敵の装甲を砕かれ、無限の“炎”も尽きて、今や崩壊寸前の動けぬ木偶の坊だ。 あとはミッドチルダの深い闇夜を切り裂くこの一太刀で、中のボロカスと化したクソッタレ(ラコフ)の野望諸共、一刀両断にするのみ。

 

『ま……まだだっ! 吾輩は……こんなところで……終わるような器じゃあ……ない……わ……! 吾輩が使えぬ魔法なんかを中枢に据えた世の中を作って、次元世界を我が物顔で牛耳ってやがる時空管理局なんぞに……お花畑の綺麗事とガキの甘ったれた理想を掲げて、無知蒙昧の民間人(ボンクラ)共にチヤホヤされているような英雄(ガキ)共なんぞに……絶対に……負けるものかよォォォオオオオオーーーッ!!!』

 

だがしかし、機体が崩壊寸前まで大破させられ動かせなくなっても、ラコフは諦め悪く最後の足掻きをしてくる。 自己への崇拝と狂信、己が生まれ持てなかった魔法という力へ対する忌避、それを次元(この)世界の中心に敷いて自分の存在価値を貶めた時空管理局へ対する憎悪と妄執、そして自分の野望をどこまでも邪魔し人々から厚い信奉と憧憬を得ている英雄達へ対する嫉妬や敵愾心。 腹の奥にドス黒く渦巻くそれ等の底無しの邪念の全てを原動力に、奴はズタボロの身体をド根性で動かし、震える指先を伸ばして仮想鍵盤(キーボード)を打ち込んだ。

 

ガコンガコン! 幾つもの機械駆動音が重く鳴り響き、甲板上の至る所の床に続々と中正方形状の昇降運搬口が開かれていく。 それ等全てが開ききったその直後に奥底からゴゴゴゴ! という昇降機(エレベーター)の駆動上昇音が徐々に近づいて来る。

 

「これってまさか、また甲板底の格納庫から予備戦力を出してくるつもり……ッ!!?」

 

『ドンッ、チェルルルーーッ! 大正解だぜぇ! キサマらのような烏合の衆なんぞに吾輩はやられはせんわい! たとえ最強無敵の我が武士(スクルド)がブッ壊されようが、この(ガラハッド)の甲板の下にはまだまだ大量の人形兵器やオーバル・モスカが残ってi──』

 

そして憐れにもこれで形勢逆転したと思い込んだラコフが勝ち誇った莫迦笑いをして言い終える前に各昇降機の全てが甲板上に到着する。 だがしかし、その上に乗っかっていた物はどれもこれも一ケ所の例外も無く、黒い煙と漏電(ショート)を伴う全壊した人形兵器(スクラップ)の山しかなかったのだった……。

 

『──……は?』

 

WHY(ホワイ)? 穴が大きく空けられた操縦席空間の内壁正面越しに格納庫から表に上げた最後の希望(人形兵器達)が全て無惨に機械塵(ガラクタ)の山と化しているのを覗き見て、腫れ跡だらけの葡萄面をどうしようもない程に硬直させた。 いったい全体何故……何時格納庫に残していた予備戦力の自律機動兵器が破壊される場面が存在したというのだ……そしてラコフはその可能性があった時に遡って思い至る。

 

『ま……さか……!? この黒髪の青二才の剣士とコイツに“大空属性の炎”を撃ち渡しやがった茶髪のガキが……いきなり上空から現れて落下してきて、二人同時にスクルド(吾輩)へ不意打ちを食らわせやがった、あの時の衝撃が甲板(この)下の格納庫にまで届いていたと……いうの……か……ッッ!!!』

 

そう……それは先程、なのは達機動六課前線攻略部隊を絶体絶命の窮地に追い詰めたその時に、突如次元世界外の二つの異世界より次元間転移されて上空に出現したリィン達トールズⅦ組とツナ達十代目ボンゴレファミリー、そして彼等がこの艦(ガラハッド)へ落下してきたと同時に、助っ人集団の先頭だったリィンとツナが最初にスクルドの頭部脳天に不意打ち気味の高威力戦技(クラフト)を叩き込んだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()為、其処の格納庫に予備戦力に残して待機させてあった人形兵器やオーバル・モスカがほぼ全部損壊させられていたのだ。 しかもその時は運よく辛うじて損壊を免れていたごく僅かな数のユニットも、リィンが達人の技巧を使って床下へ受け流したスクルドの機関砲剣による大質量打撃の衝撃や、《紫焔大将軍》モードを使用したスクルドが無限強化で暴れまくった影響で継続的に生じてきた振動余波などの巻き添えを受けて、一機残らずバラバラの鉄屑になっていたのであった……。

 

『嘘……だろ……!? 全次元並行宇宙で最も崇高な人間である、このラコフ・ドンチェル大司令官様が……こんなアタマ御花畑の理想を夢見て仲良しこよししているような……青臭い英雄(ガキ)共なんかに……チ……チクショオオオオオオォォォッッ!!!』

 

これでリィンとツナの炎の剣に抗える全ての手段が尽き果て、ラコフはどうしようもない悔しさの余りに何処からか取り出した白いハンカチを歯茎の血で真っ赤に染める程強く噛み締めて猛烈に癇癪を喚き散らすしか、もはや出来る事は無いのだった……。

 

「今が勝機だ。 決めてくれ、リィン!」

 

「ああ! ツナ、君と俺の力と思いを一つに重ね併せた、この炎の太刀で──」

 

ツナから“炎”を渡して敵大将への最後のとどめを託されたリィンは背中へ送られてきた彼の声に任せてくれと頼もしい応答を返すと、遂に太刀の攻撃圏内(クロスレンジ)へ完全に力尽きた敵機体(スクルド)を収め、その瞬間に罅割れた鉄床を踏み砕いて敵機体の真正面へ加速跳躍。 全身をミサイルにして、低空を高速滑空しつつ両手に握り締めた炎の太刀を引く。

 

「──次元(この)世界の闇夜(ヤミ)希望(ヒカリ)の明日へと切り拓く──ッ!!」

 

それは三つの世界より集い、新たなる一筋の()()となった見果てぬ先まで続いていく戦いの(ロード)、この先共に手を取り合ってその道を進んで征く事となる若き英雄達が、未来に掲げし誓い……リィンは皆を代表してその意気込みを言表わし、スクルドの腹部中心に先程スバルの拳によって大きく穿ち空けられた風穴へ突入すると同時に引き絞った炎の太刀を薙ぎ払った。

 

合奥義・天空(テンクウ)太刀(タチ)──ッッ!!!

 

そして背中から外へと通り抜けて、その先の艦尾前で暖かな安堵の微笑みを浮かべたなのはと満身創痍の重体を引き摺る彼女に肩を貸しながら歓喜の笑みを表わして手を大仰に振るスバルに出迎えられる。 二人の手前に閃光の尾を引きながら流麗(スタイリッシュ)に着地を決め、刃に纏わる炎に被せて鎮火するように太刀の刀身を鞘へと納めたその刹那、背中合わせのまま立ち呆ける《紫焔の武士》スクルドの機体の胴部に横一文字の炎線が刻まれて、その直後に巨大な炎の塔が天を衝くようにして大爆発を起こした。

 

ポナペティーーーーッッ!!!

 

結果、その爆風によって機体は粉々に吹き飛び、全身ズタボロの真っ黒クロスケに成り果てた敵軍総司令官(ラコフ)がヘンテコな悲鳴をあげながら夜空の彼方へと盛大に放り出されて行く。

 

「クククッソー! 今日のところはこれぐらいで勘弁してやるが、次は絶対にメッタメタのギッタギタにしてやるからなクソ英雄共が! これで勝ったと思うなよォォォォーーーッッ!!」

 

キランッ☆

 

ラコフは最後に、まさしくヒーローにやっつけられた小悪党の捨て台詞を全開で吐き捨てて、そしてそのお約束に倣うようにミッドチルダの夜空のお星様になったのであった……。

 

 

 

 




てな訳で、ラコフは小悪党キャラのテンプレに従って、最後はお空のお星様になりましたとさ☆ (再登場フラグ乙)

活動報告の『ゲスト参戦作品キャラクター投票』に進展があったので、途中経過を発表します。


*2票

『落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)』(黒鉄一輝 ステラ・ヴァーミリオン 《比翼》のエーデルワイス)

『ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)』(グレン・レーダス イヴ・ディストーレ(イヴ・イグナイト) アルベルト・フレイザー)


*1票

『ハイスクールD×D』(兵藤一誠 木場祐斗 ヴァーリ・ルシファー)

『空戦魔導士候補生の教官』(カナタ・エイジ ユーリ・フロストル クロエ・セヴェニー)

『出会って5秒でバトル』(白柳啓 天翔優利 霧崎円)



こんな感じでロクアカが落第騎士に並びました。 う~ん、締め切りが近くなってトップが二作品になるとはね。 さて、このままトップ同票で終わったらどうするかな?

ダブルマークⅡセカンドさん、アンケート投票にご協力いただき、誠にありがとうございました!

アンケート投票期限が間近に迫りました。 4月末まで投票できるので、皆様投票にご協力の程よろしくお願いします。




あとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! 超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』第4回


※「」はセリフ、[]は内心の呟きになります。



アリサちゃん(まじかる☆アリサRコス)「勇気と愛、希望を導く、熱き灯火──超絶史上最強ヒロイン魔法少女、まじかる☆アリサちゃん! リリカルマジカル只今参上ッ!!」

グナちゃん「イイトシコイテ、ナニヤッテイルンダ? オマエ、ハタチコエテ、ゼンシンピンクノマホウショウジョゴッコトカ、サスガニイタイゾ」

アリサちゃん(まじかる☆コス)「フッ、ピンクの厨二病魔法女騎士の人がモデルの人(形)にそんな事を言われたって、痛くもかゆくもないわ☆ ……それに私が魔法少女コスをしているのは、今回お呼びしたゲストが“魔法少女界の超VIP”と言っても過言じゃあない、この御方だからに他ならないわ!!」

なのは(バリジャケ装着)「身体は穢れ無き白、胸には闇を撥ね返す不屈の魂(レイジングハート)──魔法少女、リリカル☆なのは! リリカルマジカル、君のハートにスターライトブレイカーしちゃうぞ♡ ……って、華も恥じらう成人前の乙女に、トンデモなく恥ずかしいセリフを言わせないでくれるかな!?」

グナちゃん(カンペ持ち)「マホウショウジョデセイジンマエノオトメトハwww」

なのは[シグナムさんのね○どろいどぷちに草生やされた!? というか、いったい何でお人形がカンペ持っておしゃべりできるの!]

アリサちゃん「そう、何を隠そう、この御方こそが、時空管理局の《エース・オブ・エース》にして魔法少女界を代表する御一人にあらせられる“高町(たかまち)なのは”一等空尉様! 実に17年以上の歴史を誇る魔法少女バトルアニメの金字塔、『魔法少女リリカルなのは』シリーズの主人公なのよッ!!」

グナちゃん「ナンダカオマエ、タカマチノコトヲイヨウニモチアゲテイルナ? コウシキノ4コママンガ(『閃の軌跡講座』『みんな集まれ! ファルコム学園』など)ノオマエハ、ニンキガタカイヒロインヲテキシスルダロウガ」

アリサちゃん(大興奮)「ちょっ!? おバカ! 口を慎みなさい! 魔法少女界の代表格であらせられる大御所様(スーパーヒロイン)のなのはさんを敵視するなどとは恐れ多いは無礼者! リリカルなのはシリーズと言えば、エロげふんげふんっ! もといPCテキストゲームタイトルシリーズのスピンオフ作品を原作元に制作されたオリジナルアニメシリーズでありながら、魅力的なキャラクター達が織り成す信念と信念の激突やド派手な魔法戦闘シーンなどにより大ヒット! TVアニメシリーズは、無印、A's(エース)StrikerS(ストライカーズ)Vivid(ヴィヴィッド)と4期に渡り制作と地上波放送され。 その他にも様々なスピンオフコミック連載やコンシュマーゲーム化にTVアニメ版のストーリーを再編した劇場版シリーズの放映等々、実に数多くの人気作品を世に輩出してきた偉大なる魔法少女シリーズであり、その人気はコミケにグッズが出れば一瞬で即完売してしまう程なのよ!」

グナちゃん(アリサちゃんの勢いにドン引き)「オ……オウ……」

アリサちゃん(なのはの頭上に紙吹雪を撒く)「そんな大変立派で素晴らしい魔法少女作品シリーズの顔にして主役であらせられる、この高町なのはさんは、大きくつぶらな垂れ目の可憐な美貌と相俟って白地の魔法少女衣装(バリアジャケット)がよく似合った凛々しさを併せ持ち、困っている他人を見過ごせない御人好しで悲しむ心に手を差し伸べずにはいられない慈悲深き優しさを内に秘める一方、誰かを助ける為ならたとえ自分がどれだけ傷付こうともどんな困難や強敵にも立ち向かい、どんなに理不尽な運命が立ち塞がろうと決して諦めない、不屈の心と星光の魔砲をもって壁と己が信念を貫き通す。 まさに王道を征く本物の超大物(スーパーヒロイン)様なのだぁぁっ!! ヒロイン界の頂点を目指す私にとって彼女は大きな目標であり、同時に敬意すべき偉大な御方なのよ──ッ!!!」

なのは(ちょっと赤面)「にゃはは……。 こんなに褒めてくれると、なんだか照れくさいね。 だけど17年以上根強い人気で続いてきているのは軌跡シリーズ(そっち)もなんだし、そんなに大仰にリリなのシリーズ(こっち)の事を持ち上げなくてもいいと思うんだけど……」

グナちゃん「トイウカ、ナニゲニタカマチノプロフィールショウカイヲスマセテシマッタナ。 モウスルコトネージャン?」

アリサちゃん「う~ん、そうねぇ……それじゃあ折角だし、なのはさんに御得意の【魔砲】を披露してもらいましょうか♪」

なのは[何故だろう、【魔法】の字が違っているような……]

アリサちゃん「的は……これでいいわね」

メガネの怪人「メガネール!」

なのは(突然出現したメガネの怪人にビックリ)「──って、にゃあああーーっ!?」

グナちゃん「ナンダァ、コノダサイメガネノバケモノハ?」

アリサちゃん「昔に公式から売り出されていた『魔法少女まじかる☆アリサ 決定稿』の第一話に登場した、まじかる☆アリサの記念すべき最初の敵キャラよ。 閃の軌跡シリーズ本編では帝国司法監察官やってる生真面目メガネ風紀員のクソダサメガネを宿敵である魔界皇子リィンが闇のパゥワァーを使って眷属化した怪人“メガネール”といって、コイツはリリなの無印に出てきた【ナンタラシード】を某監察官から(無断で)借りてきたメガネに埋め込んで再現してみました(テヘペロ☆)」

グナちゃん「【ジュエルシード】ダロ! オマエナンテモノツカッテンダ、アホー!!」

なのは「と……とにかく魔法を使ってやっつければいいんだよね? レイジングハート!」

レイハ『イエス・マスター!』

なのは(メガネールにレイハの砲身を向けて)「ディバイィィン──バスタアアアァァーーッ!!」

レイジングハートから放たれた膨大な魔力量のピンク色光線がメガネールを飲み込んだ。

メガネール「メ……メガネール!?」

メガネールはピンク色の光の中にカッ消されて消滅した。

アリサちゃん「さすがはエース・オブ・エース、お見事ッ!」

某帝国司法監察官(メガネ無しで遠くからやって来た)「お~い、アリサ君。 僕のメガネを勝手に持ち出して行っただろう? 返してくれないか」

なのは(たった今ジュエルシード再封印した)「えっ? もしかして、そのメガネって……」

アリサちゃん「それじゃあ今回の“炎の軌跡”講座はここまで! 次回、本編は『魔王降臨』の予定みたいだから、みんな楽しみに次回更新を待っていなさい!!」

グナちゃん「サラダバー!」

メガネ無し監察官「いや、だから僕のメガネを返してくれ……」

なのは「あ……ははは……なんかゴメンナサイ」





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魔王降臨

サブタイトル通り魔王(ラスボス)降臨回です。(白い魔王ではない)

『光の魔王系ラスボス』のタグの意味が第十一話目になってようやく明らかになります。 元ネタを知ってる夢界の眷属諸君、勇気の輝き(ヒカリ)を示す覚悟はいいか!?




時刻 20:32──戦火に包まれし第一管理世界ミッドチルダの首都クラナガン。

 

時空管理局の撲滅を掲げる卑劣なる次元侵略組織、反管理局軍ミッドナイトの主力航空艦隊で埋め尽くされていた夜空の隙間に汚い星が煌いた。

 

『ギギギ……』

 

『ピ───』

 

その直後に首都の各エリアを蹂躙していた無数の人形兵器の軍勢が一機残らず一斉に稼働を停止し、都市の中心に高く聳える地上部隊本部に向かう上空で首都航空武装隊の航空魔導師達と激しい空中格闘戦(ドッグファイト)を繰り広げていた魔煌機兵の軍団も急に戦闘停止して憮然と後方の自軍の艦隊へと退却していく……。

 

「ナカジマ隊長、これってもしかして……」

 

「ええ。 どうやら機動六課(スバル達)がやってくれたようね。 危なかったわ……」

 

尽きる底が見えない程の圧倒的な物量をもって敵軍の人形兵器群集団に地上部隊の防衛網が全て突破された事でクラナガン全域が完全制圧される目前だった、この局面で突然の敵軍撤退……絶体絶命の窮地に追い詰められかけていた地上部隊各隊は、絶対優位に立った途端に活動機能を停止していく人形兵器達や撤退して行く魔煌機兵部隊の姿を目の当たりにして、電撃作戦にあたっていた機動六課の最前線攻略部隊が無事作戦を完遂し、敵軍の総軍司令官たるラコフ・ドンチェルの無力化に成功した事を確信する。

 

「作戦完了。 時空管理局(私達)の勝利です!」

 

陽動部隊の指揮を執っていた青紫髪の少女が盛大な声で勝鬨をあげた直後、「ウオオオオーーッ!!」という地にも響くような地上部隊員達の大歓声があがった。 拳やデバイスを手に高く掲げて「やったぞー!」「おおーっ!」という勝利の雄叫びをあげて歓喜を表している者、二人で手厚い抱擁を交わし無事に戦いを生き延びられた喜びを分かち合っている者。 激戦の跡火が残る首都クラナガンの中で、地上を守護する法の勇士達は皆、長く苦しかった戦いを時空管理局(自分達)の勝利で納められたこの瞬間に惜しみない歓喜を盛大に露わにし、まるでお祭り騒ぎのようであった。

 

──スバル、そして機動六課の皆さん。 先日のJS事件も含めて、二度もミッドチルダ(この世界)を救ってくれて、本当に感謝します。 ありがとう。 私達、時空管理局の……次元世界の英雄達……。

 

地上部隊員達の大歓喜の中心に立つ青紫髪の少女は、反管理局軍ミッドナイトという強大な次元犯罪組織を撃退し、再びミッドチルダを危機から守った機動六課の戦乙女達へ心よりの感謝を想い謳う。

 

その次元世界の英雄たる少女達に、二つの異世界からやって来た別世界の若き英雄達が助太刀していて、彼等が後に【()()()()()()】などという名で呼ばれ管理世界中を震撼させる事になるこの戦いの立役者となる事など、今はまだ知らぬがままに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、地上本部屋上の戦いも佳境に入っていた。

 

(はや)き風よ──唸れ!」

 

経ったの先程までは、旅客機ジェットをも上回る超馬力と内蔵された【畜炎炉】と導力結晶回路機構を使った分解火炎放射砲と導力魔法(アーツ)による波状火力を存分に利用し、歴戦の手練れである四人をも手が付けられなくする程に大暴れしていた鉄の守人(オーバル・モスカ)だったが、今や奴は()()()()()()()()()()()()()()()にスッポリと囚われてしまい、身動きを完全に封じ込められている。

 

炎噴射推進装置を最大出力にした爆速で空中を縦横無尽に飛び回りつつ空間制圧的に息も吐かせぬ猛攻をするオーバル・モスカに、シグナムとヴィータが全身滅多打ちにされながらも遥か長年戦場の空を翔け抜けてきた飛行機動(マニューバ)戦術を駆使する事で、エマが隠蔽魔術と共にひっそりと構築した魔法捕縛空間結界の接触起動展開術式陣が仕掛けられた地上本部屋上ヘリポートの北側縁前への誘導に辛くも成功。 忽ち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()霊力(マナ)の根がオーバル・モスカを球形の牢状に囲い込み、その百万馬力以上の猛威(パワー)と全てのモノを分解する嵐属性の炎や多種多様の導力魔法(アーツ)で暴れ回っていた紅の鉄機人の力を完全に封じて、閉じ込めたのである。

 

「はああああっ……! 《イクスペル・ランサー》!!」

 

そうして、魔女の空間結界に全ての力を封じられて捕縛されその場から出られず逃げる事も出来なくなった鉄の守人に、ガイウスが必殺戦技(Sクラフト)を放って最後のとどめを刺す。 彼は何所に隠し持っていたのか、装備している最強の黄金十字槍──《覇槍マクベス》と同じ長物をもう一槍、空いている片手に取り、その二槍を豪快に振るって特大の竜巻を巻き起こし、囲い込む空間結界諸共に風のミキサーで木っ端微塵に粉砕したのであった。

 

「ふぅ……どうにか倒す事ができたか。 この戦技は三年前のあの内戦以来しばらく使っていなかったから上手く放てるか少々不安があったが。 これも法国で守護騎士の先達方から御教授して頂いている修練法の賜物だな……感謝します」

 

「ほう、お前も“守護騎士”の肩書を持っているのか」

 

雪崩のような音を立てて崩れ落ちる鉄機人を背にし、強敵に無事勝利した余韻に浸りながら長い間使用していなかった必殺戦技(Sクラフト)を昔と同等以上の冴えと威力で放てた事に安堵の息を吐くと共に、騎士になった頃から修練を付けて貰っている星杯守護騎士の先輩方に心からの感謝を祈るガイウス……そこへ、いつの間にか彼の傍へとやって来ていたシグナムが彼の漏らした“守護騎士”という単語(ワード)を耳に拾い、己のと共通する肩書を持っていると分かった彼に親近感を懐いた声で話し掛けてきた。

 

「時空管理局、機動六課所属、前線戦闘分隊のライトニング隊副隊長。 並びに《夜天の魔導書》の主が守護騎士──“ヴォルケンリッター”の《烈火の将》シグナムだ。 異世界の守護騎士よ、エマ殿共々に助太刀感謝する」

 

「エレボニア帝国、元トールズ士官学院特科クラスⅦ組。 それから、アルテリア法国、七耀教会《星杯騎士団(グラールリッター)》の守護騎士(ドミニオン)第八位──《絶空鳳翼》ガイウス・ウォーゼルと申します。 御初に御目にかかります、シグナム(きょう)

 

「……【シグナム】で構わない。 仕える主は違えど同じ守護騎士の肩書を持つ者同士のよしみ。 硬い言葉遣いは不要だ」

 

シグナムは同じ騎士として、強敵相手に助太刀してくれたガイウスへ感謝と敬意を示して己の名と所属部隊と共に騎士としての肩書を明かしたら、相手から丁寧に畏まった礼と自己紹介を返されたばかりか【シグナム卿】などと今までに自分が誰からも呼ばれた事がない敬称でこちらの名を呼んできた為、少々こそばゆく感じる。 それが当たり前であるかのように偽りなき畏敬の目を真っ直ぐこちらに向けているガイウスに照れ隠しするように目を伏せながら自分への呼称と会話は気楽にするように願い申し、そうしたら相手がこれまた素直に「了解した。 改めて宜しく頼む、シグナム」と言い直したところで、オーバル・モスカとの戦闘で散っていた残りの仲間二人がそれぞれ飛翔と転移で集まって来た。

 

「シグナム!」

 

「ガイウスさん。 作戦、上手くいきましたね」

 

「ああ。 シグナム達二人の陽動とエマが張った捕縛結界のお陰だろう。 俺は拘束した敵にとどめを刺しただけで大した事はしていないしな」

 

「ふふ、そんなに謙遜せずともよいではないか。 ガイウスがあの敵を仕留めた時に放った《イクスペル・ランサー》という必殺戦技は魔導師(私達)が使う魔法の威力(ランク)で表したなら、確実に“Sオーバー”に届くものだろうしな」

 

「あ……あの程度の竜巻なんて大した事ねーし! あの“ゆりかご”の動力炉だってブッ壊したアタシのツェアシュテールングスやなのはのスターライトの方が上だっての!」

 

「因みに、さっきのイクスペル・ランサーはガイウスさんの最強の必殺戦技(Sクラフト)じゃないんだよ、“ヴィータちゃん”」

 

「おいコラ、エマ。 ガキをあやすみてーに人の頭撫でてんじゃねー。 ……っていうか、初めて会ったばかりで気安く“ちゃん”付けで呼んでんじゃねーよ!? アタシはこれでもテメー等よりもずっと歳上なんだよ。 呼ぶなら“ヴィータ姉さん”と呼びやがれ!」

 

ガイウスとエマ、シグナムとヴィータはお互いにオーバル・モスカの撃破成功を喜び合う。 一度肩を並べて戦ったお陰様か、両組は互いに初めて知り合って間もない関係にも拘らず和気藹々として会話を交わせるようになったようだ。

 

やがてエマに子供扱いされて拗ねたヴィータを宥めている内に今まで下の街から聴こえて来ていた戦闘の銃爆音がピタリと止み、真上に無数と浮かぶミッドナイト軍の主力航空艦隊へと遠くの空で戦闘展開していた魔煌機兵部隊が尻尾を巻くようにして引き揚げてくる様子が見て取れてきた。 すると丁度この屋上ヘリポートの真上に浮かぶ銀色の艦体司令母艦(ガラハッド)の甲板上から上空へ金色の光球が撃ち上げられ、それを見上げてシグナムとヴィータは互いの顔を見合わせて何の事態が起きているのかの確信を得たように悦ばしく口端を吊り上げた笑みを浮かべた。

 

「あれはテスタロッサの魔力光信号弾……フッ、作戦完了の合図か」

 

「って事は、なのは達、無事にあのラコフっつう敵軍の総司令官のチョビヒゲオヤジのヤローをブッ倒せたんだな。 よっしゃー! 管理局(アタシ達)のギガ大勝利だぜ!!」

 

「あの母艦の上で謎の魔煌機兵と人形兵器の大群と戦っていた少女達の事か。 危機に陥っていた様子を視たリィン達が俺達と分散し、あの者達の救援に向かってあそこへと落下していたが、どうやら上手く助けられたようだな」

 

「そうですね……確か、先程私達がミッドチルダ(この世界)に次元間転移してきた時に、直ぐ傍の空間に何処からか同時転移されて来ていた()()()()()()を感じた三人の男の子達も、リィンさん達と一緒にあそこの上に墜ちて行ったようでしたが、あの三人の霊力もしっかりと感じ取れますし、余計な心配は要らなかったようですね」

 

互いの得物(デバイス)を高く掲げて打ち合わせる事で長く苦しい戦いに勝利した喜びを分かち合う魔法騎士の二人を横に、異世界の槍騎士と魔女も先程自分らと手分けて敵司令母艦へと乗り込んで行っていた頼れるⅦ組の重心(リーダー)とその教え子達が上手くやってくれたのだろうと思い至り安堵の表情を浮かべている。 敵軍大将(ラコフ・ドンチェル)を撃破した仲間達によって勝鬨は二つの月が輝くミッドチルダの夜天高くに挙げられた。 次元の海を守護せし叙情的(リリカル)なる戦乙女達は未知の異世界からやって来た英雄達の協力を得て、今宵の次元世界の危機を見事に救う事ができたのであった。

 

「それではガイウスさん、そろそろリィンさん達と合流しに向かいましょうか。 あの程度の距離なら転移魔術で十分行けるでしょうし。 折角ですから、シグナムさんとヴィータちゃんも御一緒に──」

 

ゴオオオオオオオオンッ! ドドドドドドドドドドーーーッッ!!!

 

「「「「────ッッッ!!!?」」」」

 

戦勝ムードで四人が今宵の戦いの最功労者である仲間達のもとへと向かおうとしたその瞬間の事であった。 突然にして全員の視界に映る全体の景色の色が瞬時にしてドス黒く塗り潰されたかと思うと、今立っている(ミッドチルダ)そのものをも圧し潰しペシャンコにして崩壊させられていくと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()重圧(プレッシャー)が襲ってきたのだ。

 

「なん……だよ……コレ……空が急に……!?」

 

「この身体と精神に現実味を覚える錯覚は……“威圧”か? だが何だ、まるで星よりも巨体を持つ巨人の足で魂諸共に圧し潰されるような、この尋常ではない規模は……! とても人間が発せれる気当たりではないぞ……!!」

 

得体の知れない重圧が天高くから叩き付けられ、頭から床面に圧し倒されそうになるのを丹田に力を入れ脚下を踏みしめてなんとか堪えた四人。 だが圧し掛かる重量に実体はなく、それは何者かの生物が発してきた気当たりによって起こされる幻覚作用に過ぎないものであるが、それは肉体、精神、魂魄という()()()()()()()()()()()()()()()()()、加えてここに居る四人のみならず真下にある首都クラナガンの街並どころか()()()()()()()()()()()()()()()目に見えぬ圧力を掛けて嬲り尽くさんとしている。

 

ヴィータやシグナムなど一定レベル高い実力を有している猛者なら“威圧”を放つ事で対峙する人間複数に対して己の手によって殺傷を受けるなどといった幻覚を見せる事は可能だ。 しかし、そんな猛者達すらをも床に膝を着かせ、生命どころか物質や空間、更には霊的な概念存在にも干渉し、果てには()()()()()()の規模にまで影響範囲が及ぶ気当たりを放つなどと、たとえどのような一騎当千の強者だろうと只人の身で出来る所業ではない。 もっと超常的な……あらゆる世界の“(ことわり)”を超越する神か、或いは魔王の御業に違いない。

 

「内側の精神(アストラル)体にまで干渉してくる、この感覚は……まさか、“霊力(マナ)”!? ガイウスさん!」

 

「ああ、わかっている……。 この奈落よりも底知れない“霊圧”は、下手をすればあの半年前の【幻想機動要塞】で対峙した結社最強の《火焔魔人》が“堕ちたる外の魔神”の姿を顕現させた時に感じたものをも上回っているやもしれん」

 

歴戦の古代魔導騎士二人が揃って立つこともままならない状態の中、エマとガイウスは世界一つをも圧壊させかねない尋常ならざる霊力威圧に魔女の眷属や教会騎士として鍛えられた霊的抗体と精神胆力で抗い、どうにか耐え忍びつつ真上に佇む銀色の母艦(ガラハッド)へと酷く険しい目で見遣った。

 

「どうやら()()()()()()()()()()()()()、霊圧が発せられてきているのは……」

 

「な……ッ!!? ガイウス、それは確かなのか!」

 

「じょじょ、冗談じゃねー! あそこにはなのは達が居るんだぞ? 守護騎士(アタシ等)すらまいっちまうバカ強い威圧を放つようなレベルのバケモンと、電撃作戦やり終えて体力も魔力も限界ブッチ切ってるだろうアイツらがもし連戦する事になったら……こうしちゃいられねぇ! エマッ! さっきテメェが言いかけたように、アタシ等二人も一緒に連れてあの趣味悪りぃ銀ギラ母艦の上に向けて、急ぎ転移しやがれ! 早く──っっ!!」

 

「わ、わかりました! 今から私の魔術で四人一緒に転移しますので、皆さん、戦闘に備えてどうか身構えていてください……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王道の英雄物語(ヒロイックサーガ)が長き時代に渡り何時までも数多くの人々を魅了してやまないのは何故だ……それは、何と言ってもその高潔で輝かしい主人公(ヒーロー)の生き様に皆が目を焦がれるからだろう。

 

平凡な日常を送っていた主人公の若者が苦難の運命に立ち向かう為の力や仲間達と出会い、共に平和な世に降りかかる災厄や悪の徒へと挑み、次々と立ち塞がる試練や難敵などの分厚い壁によって阻まれ幾度も打ちのめされようとも、幾度も立ち上がり脅威へ挑む勇気、苦楽を共にしてきた仲間との絆、大切なものを守りたいという愛の力等々、そういった実に尊い人の輝き(ヒカリ)をもって壁を乗り越え、悪意の闇を祓って相手や世界を救済し、勝利の栄光を手にして未来永劫人々に語り継がれていく英雄となる……まさに完全無欠なる光の英雄伝説。 友情・努力・勝利の軌跡を描く勇者達の物語に皆誰もが心を奪われ無我夢中になるのだ。

 

そんな輝かしい王道の英雄(ヒーロー)とその仲間達が物語の垣根を越えて一堂に会し、共に手を取り合い更なる強大な敵に挑むという夢の共演(クロスオーバー)が実現したともなれば、それは勇者や英雄(ヒーロー)を愛する人々にとって最高の興味を惹かれる愉しみ(エンターテイメント)となる事に違いない。

 

そして今此処で、“この男”が狂おしい程に心に想い焦がれて愛した三つの英雄伝説の主人公(ヒーロー)達が遂に一堂に会し、共に新たな絆を紡ぎ力を合わせて、彼等の世界三つ全ての異端技術(チカラ)を得た完全悪たる侵略者を見事打倒してみせた。

 

それぞれの物語(せかい)の中で幾度となく降りかかった危機を高潔なる勇気や絆の輝き(ヒカリ)をもって跳ね除けてきた二人の主人公が、共に手を取り合い苦難の中で培ってきた力を重ね合わせる事で夢の合体戦技(コンビクラフト)を実現させて、悪の組織の首領(ラコフ・ドンチェル)を夜空高くへと吹っ飛ばし汚く煌いた星の下、盛大に諸手を挙げて勝利の歓喜を交わし合う三世界の若き英雄達……その光景を()()()()()()()()()()()で見下ろして──

 

「──ああ、だめだ。 もう、辛抱たまらん……ッッ!!!」

 

その男……勇者や英雄の持つ高潔な光を愛し過ぎて狂った“魔王”はもう我慢の限界だと三日月状になるよう両端を吊り上げた口から言い漏らしたと同時に、今まで心の内に必死に抑えていた底無しの“うずうず”を外界へと解き放った。

 

「「「「「「「な────ッッッ!!!?」」」」」」」

 

瞬間、第一管理世界ミッドチルダとその星が存在している()()()()()()()()()、現世に生きとし生ける全ての生命が世界の崩壊を幻視する程の絶大なる“霊圧”に晒され、先の勝利に舞い上がっていた三世界の若き英雄(リィン達)も忽ちにその想像を絶する圧力に屈服して全員床に頭から押さえつけられたのだった。

 

「なん……だ……このデタラメな規模(レベル)重圧(プレッシャー)……は……?」

 

「う……わあ″あ″あ″あ″──っ!!!」

 

「心と身体が……それに世界も……嫌ああァァーーッ!!」

 

肉体も精神も魂までも、今居る次元世界丸ごと圧殺されてしまいそうな程の埒外の重圧に上から圧し掛かられ、ツナやスバル、なのはまでも発狂を催せざるを得ない。 他の皆も同様に床に伏せて、気分は嘗てないほど最悪の様相であった。 生存本能が絶えず全神経を絶叫させ、肌が粟立ち、呼吸も異常に乱れさせられる。 それは国や世界規模を害する力を持ったレベルの難敵達を幾度も打ち破ってきた百戦錬磨の英雄達ですら覆しようもない“格差”を骨の髄まで感じている証左に他ならなかった。

 

──この(ことわり)の内には到底納まりきらない霊力の質量と密度は……まさか《魔神》(クラス)だというのか!!

 

リィンは文字通り“次元違い”なまでに規格外の霊圧をその心身両方に受けて、その性質(ステータス)が嘗て半年前に彼等トールズⅦ組が《七の相克》の最終決戦目前に相対して死闘の末に辛うじて届かせられた某結社最強の執行者の真の姿たる“外の魔神”のものに近しい威力を感じ取り、底知れぬ程の戦慄を内心で口走った。

 

だがしかし、引き合いに出した彼の知る中で最も強大な力を持っていた“堕ちたる外の魔神”のと“これ”のとは、趣を異にするものだ。 荒れ狂う天災のようである様は同じなれど、己の乾きの癒しを求めて闘争を欲するよりも、これの中には徹底した整然さも同時に感じるのだ。

 

一言で具体的に表わすなら“裁定者”とでも言うべきだろうか? 何であろうと公平でいて容赦がないという二面性を孕んでいて、故に一瞬でも気を抜いたならその者は即座に魂ごと磨り潰し(ミンチ)にされてしまう事は確実だった。

 

例えここに居る全員が万全を期して束になって掛かっても、この霊圧を放っている者には恐らくは敵わないだろうと予感できる……。

 

「そんなのが、どうしてこんな異世界(ところ)に……いったい何者だ──ッ!!!」

 

今相手と対峙すれば、ほぼ100%の確率で自分達は命を落とすだろう……だがそのような尋常ならざる危険な存在を二度に渡った大空襲事件で防衛戦力が著しく消耗したミッドチルダにおいて見過ごす訳にはいかない。 リィンは今まで共に元居た世界(ゼムリア大陸)において数々の難敵と戦い抜いて運命を共に乗り越えてきたトールズⅦ組の仲間(ユウナ達)とは無論、この世界にやって来て出会ったボンゴレファミリー(ツナ達)機動六課(なのは達)も一緒に死地へと踏み入れる覚悟を決める。 これだけ強大な霊力(マナ)なのだ、過去に幾度も元居た世界(ゼムリア大陸)の諸国各地が災厄によって異界化されて霊的空間の戦場を経験して精練された彼の霊感に出処を捉えられない訳はない……()()

 

「ああ、いい、実に素晴らしいぞ。 そのような満身創痍の身体で、この俺との絶対的な力の差を感じて決して勝てない事を理解して、尚も世界を護り抜く為に不撓不屈の意志を振り絞って立ち向かおうというのか……!」

 

その男は憲兵のものと思われる群青色の外套付き軍服を錬鉄のように鍛え上げられた長身の肉体に纏い、リィン達と(おお)いなる紫焔の武士の激闘による飛び火によって焼け落ちかけたミラービル艦橋(ブリッジ)の頂上から英雄達の雄姿を銀河の星々よりもギラギラさせた眼光でもって睥睨していた。 己が()()()()()()超魔級密度の霊圧に必死に抗い立ち上がってみせたリィン達へ、心からの尊敬と期待に満ち溢れさせた笑顔を向けつつワクワクとしている。 その様はまるで日曜朝のテレビを視聴してずっと憧れを懐いていた一推しの特撮ヒーローに遊園地のイベントに行って出会えた事に歓喜を露わにし、はしゃぎ出しそうになっている無垢な児童のようであったが、しかし彼の身の内から漏れ出させている魔神の霊力と其処に佇んでいるだけで大空が崩れ墜ちて来てしまいかねない破壊の化身の如き存在感が伴い、奈落よりも底知れぬ不気味さを感じさせてくる。

 

「西ゼムリア大陸【エレボニア帝国】の英雄《灰色の騎士》リィン・シュバルツァーとトールズ士官学院Ⅶ組。 表向きは【並盛町】という日本の小さな町に住む中学生で、真の顔は世界最強のマフィアである【ボンゴレファミリー】の十代目ボス《ボンゴレⅩ世(デーチモ)》沢田綱吉とその守護者達。 そして数多の次元世界の秩序と法を魔法技術をもって統制する【時空管理局】が誇る最優の魔導師《エース・オブ・エース》高町なのはと古代遺物管理部機動六課の麗しい面々も含め、実に見事な戦いだったぞ。 流石は、俺の憧れた伝説の若き英雄達だ」

 

まずは先程、初対面同士でありながらもお互いの百戦錬磨の戦闘経験を活かした即席の集団(パーティ)連携と目覚めさせた新たなる“繋がりの力”をもって、無限強化の力を駆使する《紫焔の武士》を見事撃破してみせた三世界の若き英雄達へ敬意を払った。 全霊全神経で警戒の意識を向けてきている彼等へ送ったその賞賛の言葉は偽りなき本心であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ギラめく目元を際立たせる闇を目元に被せている軍帽の後ろから長く伸びた極太の三つ編みが夜風に煽られて鞭のように撓って闇夜を鋭く打ち鳴らし、その姿を見た者ら全ての魂にどんな絶望よりも(おお)きな畏怖を刻み付ける、その絶対的な存在感はまさに──

 

「俺はイノケント──三世界を統一し、永劫不滅の“楽炎(ぱらだいす)”を創造せんとする者」

 

 

≪次元魔王≫イノケント・リヒターオディン イメージCV:伊藤健太郎

 

 

「三世界の希望(ヒカリ)である英雄(しゅじんこう)のお前達が今宵の物語(たたかい)において打倒すべき“魔王(ラスボス)”だ──ッ!!」

 

物語最初のボスに勝利した喜びも束の間。 此処に早くも魔王降臨。 果たしてリィン達の運命や如何に……っ!?

 

 

 

 

 




今回の『炎の軌跡講座』はお休みです。

《次元魔王》イノケント初登場! この明らかに「趣味でラスボスはじめました」というバカ憲兵大尉っぽいオリキャラこそが今作のラスボスとなります。
ん? ラスボスがプロローグの章でメイン主人公パーティに相対してくるのは早すぎるだろって? あの光の魔王(バカ)がキャラモデルの大バカ野郎がリィンやツナ達の活躍を目の前にして我慢できる訳がねーよww


九月末に発売予定日が決まった黎の軌跡Ⅱの新情報も続々出てきていますね。
遂にプレイヤブル参戦のJKレン、また色々とスッゴイファッションセンスが光る新衣装お披露目のシズナ姐さん、黎シリーズ最強キャラ候補の一角であるカシム警備主任らが本格パーティ参入決定。(たぶん全員ではなく、誰が仲間になるかは前作同様LGCの上がり方次第だろうと予想される)
他にも【メルヒェンガルテン】という創の軌跡の真・夢幻回廊にも似た異界ダンジョン探索やメアのアバターを使ったトランスミッション系ハッキングミニゲームなど、ワクワクする要素が今回もてんこ盛りですね♪ ホント10月がやって来るのが楽しみ過ぎてまたまたテンションアガットが止まらーん!(興)


黎Ⅱの発売日が待ちきれない間に電子本サイトで買い置きしていた『魔法戦記リリカルなのはforce』の出ている六巻分を一気読みしました。 今までに無いバイオレンスな展開運びや流血描写の多い殺伐とした雰囲気にも驚かされましたが、シリーズ初の男性主人公であるトーマをはじめ、なのは達特務六課のライバルであるフッケバイン一家や底知れぬ実力と凄みを秘めた事件の黒幕のハーディス社長など、相変わらず個性の強い魅力的な登場キャラクター達に自然と惹かれましたね。 自分的には五巻に登場したグレンデル一家の四馬鹿が意外といい味を出していたと思いました。(しかし彼等のような小悪党の監獄脱走を待ち伏せするのになのは(最強の駒)を防衛配置するとか、アラサーはやての策略えげつねぇww)
しかしフッケバイン一家ってStrikerSの系列時にはもう組織が創られて暗躍をはじめていたんですってね。 う~ん、この小説のどこかで暗躍中のフッケバイン一家を登場させるのもいいかも?
あと最後に、アラサーなのはさんのフォートレス形態、重装甲なのに胸元を主張しすぎでしょ? ていうかデガ盛り過g「エクサランスカノン フルバースト!!」




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初めて相対する三世界の英雄達と次元魔王……そして発令される、新たなるオーダーシステム

ふふふふ……遂にこれまで貯め込んでいたオリジナル設定の一部を解き放つ時が来たぜ!




遠隔操作探視魔法(サーチャー)を通してリアルタイムで前線の様子を映す、作戦指令室中央に浮かぶ大型のメイン空間映像モニターに映された軍服姿の男を目の当たりにして機動六課後方支援(ロングアーチ)が皆、総員一人も余らず息を呑んだ。

 

「な……なんやねん、あのごっつう素敵な笑顔の男は──ッ!!?」

 

真空中のように息苦しい沈黙を破った六課の部隊長である茶髪ショートボブの女性局員が未だ嘗てない戦慄の震え声で此処に居る全員の今の気持ちを代弁するように全身全霊吐き叫ぶ。

 

なのは達最前線攻略部隊が謎に包まれた異世界からの助っ人達と即席の共同戦線でもって、敵侵略軍──ミッドナイト軍総司令官のラコフ・ドンチェルが駆る強力無比な性能無限強化能力を持っていた“畜炎体循環出力増幅機関搭載型”魔煌機兵スクルドを辛くも撃退し、見事逆転勝利を収めた……作戦の最大目標は敵軍の総司令官(首謀者)であるラコフの身柄を拘束・確保する事だったので、その目標(ホシ)を本当の夜空の星にしてしまった為、結果論からしてみれば作戦失敗と呼ばざるを得ないだろうが、そのお陰で司令塔からの制御が途絶えた事によりクラナガンの都市全域に展開されていたミッドナイト軍の人形兵器部隊全ユニットが一斉に稼働停止して沈黙し、上空で首都航空武装隊を相手に質量(サイズ)と火力差をもって蹂躙していた魔煌機兵部隊も後方の敵艦体への撤退を余儀なくさせる事ができた。

 

先日にあったJS事件の【ゆりかご決戦】を受けて第一管理世界ミッドチルダの防衛戦力が著しく疲弊していた為にまともに戦える人員も装備も相当限られていて、故に今回の戦いは極限と言える程に過酷だった。 正直、勝てる可能性は1%以下だったと言って過言ではないレベルの難局(ムリゲー)だった。

 

それ故に敵軍の頭を押さえる事は出来なかったが、味方の犠牲を少なく隔絶された戦力差の相手を撃退できた事は、まさに奇跡と言えよう。 ほんの数分前、二つの異世界からやって来た英雄達のリーダー二人(リィンとツナ)が互いの“炎”を混ぜ合わせて放った合体戦技(コンビクラフト)で敵軍総司令官のラコフを彼が乗り込んで操っていた無敵の《紫焔の武士》スクルド諸共に夜空の果てまでブッ飛ばして星にした瞬間は、此処(ロングアーチ)も勝利の大歓喜に包まれていたものだった。 彼女達はここ数日連続で次元世界一つを余裕で陥落させねないような規格外な管理局の敵対戦力がミッドチルダを空襲して来たのを大賭けや死力の限りを尽くして乗り切ってきたのだから、“勝って兜の緒を締めよ”という言葉など忘れて長く苦しかった戦いに勝利した解放感を実感してつい浮かれ上がってしまったのも無理はないと言えよう……だがしかし、その喜びも束の間の夢であった。

 

「わ……解りません。 余震もなく突然計測不可能な規模(レベル)の大次元震がミッドチルダ全域に発生したかと思ったら、()()()()()()、気が付くとあの男が最前線攻略部隊の前に姿を現していたのですから、もうとても頭が追い付かないですよ。 勘弁してください」

 

一難去ってまた一難。 勝利の余韻に浸る間もなく謎に包まれた正体不明の男が出現し、機動六課と異世界からの助っ人達の敵だと、威風堂々、爛々として名乗りをあげたのである。

 

魔王(ラスボス)と名乗ったその男──《イノケント・リヒターオディン》が放った“威圧”はこの星(ミッドチルダ)に生きとし生ける全ての生命体にこの星が一瞬にして滅亡する錯覚を見せる程に絶大であり、その裁定者の如き風体から放たれる存在感はまるで天変地異や次元災害ですらも優しい霧雨のように感じる程の魔災だ。 それでいて大好物のおやつを前にナプキンを首に巻き付ける子供のように無邪気な笑顔をして、最前線攻略部隊と異世界からの助っ人達を大蛇が雨蛙を睨むような眼光でもって睥睨しているものなのだから、そこに孕まれた正邪混沌(ギャップ)に、皆が底無しの悍ましさを魂の奥底にまで刻み込まれてしまう。

 

「保有魔力総量……測定不可(アンノウン) それに、助っ人達が使用していた“導力”と“死ぬ気の炎”、その他未知数の力を多数あの軍服の男から検知されました!!」

 

「うわああっ!? ののっ、能力計測機が暴発を起こしました!!」

 

「推定脅威度……EX(エクストラ)ランクオーバー──未確認のUNLIMITED(アンリミテッド)(ランク)です──ッッ!!!」

 

「なん……やて……ッ!!?」

 

新たに現れた敵の持つ力は最強(SSSランク)どころか、最強を超えた最強(EX)をも更に超越した、次元世界の歴史において未だ嘗て前例の無い高みの次元にあるらしいと、前代未聞の測定結果が算出された。 作戦指令室の片隅に設置されていた測定機の画面に表示された計測メーターは“SSS(レッドゾーン)”を大きく振り切って計算処理の限界容量を大幅に突き破り、電力が熱をあげて測定機が爆発した。 それは敵の戦闘力は予想だけで次元世界の魔導師の力では束になったとしても恐らくは敵わないだろうと示唆されている訳であり、機動六課後方支援(ロングアーチ)は未だ嘗て遭遇した事がない未知数の次元に立つ魔王(ラスボス)を前にして全員が表情を紫一色に染めていく。

 

彼女達が今までに相対してきた全ての敵が最小微生物(ゾウリムシ)に見えてくる異次元格差の超絶難敵……しかも直前にラコフ・ドンチェル等、反管理局軍ミッドナイトとの抗争で半日以上もぶっ通しで連戦続きだった最前線攻略部隊は全員もう既に魔力も体力も完全に底を尽いてこれ以上戦闘継続する事は非常に危険で。 まして六課最大戦力である高町なのはに至っては先日にあったゆりかご決戦で自分の命を削って限界を超える【リミットブレイク】形態──《ブラスターモード》を酷使し続けた代償を受けて爆弾を抱え込んだ身体を引き摺って今宵の戦いに参加した為に、今日此処までの連戦の無茶も重なって、もう身体の中に抱えた爆弾は爆発寸前にまでなっているであろう事が予想される。

 

「こうなると、頼みの綱は異世界の助っ人の皆さんになるでしょうね……ですがしかし、もしあの男の戦闘力が本当にUNLIMITEDランクだとすると、先程のラコフ・ドンチェルとの集団(パーティ)戦闘であの助っ人の人達が見せてくれた《ブレイブオーダー》という力を使っても、勝てる保証は……」

 

「たぶんアカンやろな……ふうぅぅ……しゃーないな」

 

正面に座ってメインモニターの端末を打っている通信士の女性部隊員が漏らした不安に神妙な面持ちをして答えた部隊長の女性は重い溜息を吐くと踵を返して作戦指令室の出入り口へと足を向ける。 それを見ただけで後方支援(ロングアーチ)の全員が例外なく彼女が何処に向かうつもりなのかを察していた。

 

「出撃するつもりなのですね。 部隊長(あなた)自ら直接、あの戦場(ガラハッド)へと……」

 

「正直“総合SSランク”を持っとる私でも、あないなアホみたいな次元の敵相手に何が出来るんか分からへんけどな……部隊長として、部隊のみんなのピンチに助けに行かへんでどないすんねんって」

 

子狸のようにあどけない幼さが残る童顔を引き締めて、部隊の仲間達を助けるべく命を賭ける覚悟を決めた部隊長の女性のもとに明らかに人間ではない妖精サイズの銀髪の女の子が飛んで来る。

 

「はやてちゃん、(ツヴァイ)準備(メンテナンス)はもう万全ですぅ。 直ぐにでも出れますよ!」

 

「おっと、グッドタイミングやツヴァイ♪ ……ほな、こっちは任せたで、ひよ里。 ちょっくら行ってくるわ」

 

「はい、御武運をお祈りしています……ですが八神部隊長、以前から何度も言ってますが私の名前はルキノです」

 

部隊長の女性は他愛ないやり取りで部下にこの場を任せて緊張をほぐすと、妖精サイズの女の子を連れて作戦指令室を出て行ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄(俺達)が打倒すべき魔王(ラスボス)……だと!?」

 

リィンは焼け落ちかけた艦橋(ミラービル)の屋上より多大な期待が込められた眼差しでこちらを見下ろしてきている謎に満ちた軍服姿の男──イノケントが名乗ってきた彼の素性の概要を聞いて困惑を覚えた為、擦れさせた声音でその内容を一度反芻し、より一層に強い警戒心を持って相手へ懐疑の目線を向け返した。

 

「“魔王”って、御伽噺(おとぎばなし)RPG(ロールプレイングゲーム)とかに出てくるような、あの悪役の魔王の事を言っているのか……?」

 

「ちょっとアンタ、何を寝ぼけた事言ってるのよ? 自分で勇者に打倒される魔王(ラスボス)を名乗り出てくるだなんて、頭がおかしいんじゃないの!」

 

魔王という架空の……しかも悪役の通り名を恥じる事なく堂々と自ら名乗った新たなる敵に、ツナやティアナをはじめとして此処に居る全員が荒唐無稽の心を露わにして疑念や苦情などの文句をギャーギャー挙げている。 確かにこのイノケントという男が今もその身から放っている、人の身には度が過ぎる程に絶大な“霊圧”や世の(ことわり)から外れた魔神(クラス)の気配とそれを裏打ちする畏怖と神聖さを同時に感じさせる混沌が人の形を成したような圧倒的存在感などを考慮すれば、自ら魔王を名乗れるだけの強大無比なる力を秘めているのだろうと予想はつく。 だが、まるで相手(リィン達)を物語の勇者(ヒーロー)に見据えて彼等に倒される役回りである魔王(ラスボス)を喜んで名乗り出てくるだなんて、理解できない趣味にも程があるし、大馬鹿としか呼びようがない。

 

「だいたい貴方、いったい何時からこんな所に──「テスタロッサ! 皆も全員無事かッ!?」──って、シグナム!?」

 

皆で文句を投げつけても爛々とした笑顔のままで微動だにせずにいるイノケントに、外部の次元世界からこの世界(ミッドチルダ)に侵攻してきたミッドナイト軍の航空母艦であるこの場(ガラハッド)に部外者である筈の彼が居る事への疑惑を感じたフェイトが問い詰めようとした丁度その時、背後から聴き知った女騎士の声が響いてくる。 全員が声の方へ振り向くと、其処にはミッド式でもベルカ式でもない独特の雰囲気を持つ術式で描かれた魔法陣が顕れていて、その上には聴こえてきた声の主である女騎士シグナムを先頭に、ヴィータ、ガイウス、エマ──この遥か下で強敵の鉄の守人(オーバル・モスカ)の足止めに務めていた四名が魔女の転移魔術を用いて此処前線へ無事に合流を果たしたのであった。

 

「ヴィータちゃん! よかった、あの凄く強い人型ガジェットを無事に倒せたんだね……」

 

「おうよ! あんな鉄屑ロボットなんざ、この《鉄槌の騎士》ヴィータ様とグラーフアイゼンにかかれば……ってか、なのはテメェ、ヤバイ程身体がズタボロになってんじゃねーかよ!? 口酸っぱくしてあんだけ止めろと言ったのに、また無茶しやがったんだなコラッ!」

 

「あ……アハハ……ごめんn──「その声は……まさか“ヴィータ姉さん”!?」──ふえっ!? 誰なの?」

 

「おっ? へへっ、なんだよエマ。 やっとアタシの事を素直に歳上と認めてヴィータ姉さんと呼ぶ気になったのかよ♪」

 

「いや、ヴィータちゃんの事じゃなくて……えっ、どなたですか? “ヴィータ姉さん”の声にそっくりだったけど、私、もしかしなくても人違いして……」

 

「エマ! ガイウスも無事でよかった」

 

「あ……リィンさん!」

 

「後輩の皆も、全員大した怪我は無いようだな」

 

「はい! 御二人にも大きな怪我は見当たらないようで、安心しました♪」

 

「えっと……リィン君、そちらの御二人は……」

 

トールズⅦ組(俺達)の頼れる仲間さ。 さっきミッドチルダ(この世界)()()()()()()()()()時に、このガイウスが【下の方から誰かが危険な目に遭っているような“風”が流れてきている】と言ったから、一旦二人と手分けをしていたんだ」

 

──風……?

 

「そ、そうだったんだ……御二人共、ヴィータちゃんとシグナムさんを助けてくれて、どうもありがとうございました。 わたし、機動六課の教導官と前線分隊指揮を務めている、高町なのは一等空尉です。 そちらはガイウスさんと、えっと……」

 

「あ……はい。 はじめまして、タカマチさん。 私はエマ・ミルスティンと申します。 こちらのリィンさんとガイウスさんとは元トールズ士官学院特科クラスⅦ組の卒業生同士です。 詳しくは後程お話ししますが、私はこの世界の魔導師(タカマチさん達)のとはちょっと違う“魔法”を使えるので、どうかお役に立たせてください」

 

「そ、それはご丁寧にどうも……にゃはは。 でも、出来ればわたしの事は“なのは”って気軽に名前で呼んでください。 お互い歳も近いみたいだし、あまり硬くならないで、普通に接してくれると嬉しいかな」

 

「は、はい……それでは改めて。 よろしくお願いします、なのはさん……どう聴いてもやっぱり似ているなぁ、姉さんの声に」

 

「確かに、先程より何処か聴き馴染みのある良い声をしているとは思っていましたが、()()()()()()でしたか……」

 

「?」

 

なのはは自分の方を眺めてきながら口元に手を添えた思案顔をして何やらブツブツと呟き合っているエマとアルティナに訳が分からず首をコテンと傾げて頭の上に?マークを浮かべている。 しかしそこで全員がハッと気付く。 和気藹々と自己紹介し合っている場合ではない、今彼等は魔王(ラスボス)を名乗る未知数の力を持つ敵を前にしていたのだったと。

 

「うむうむ。 実に良い♪ 英雄(しゅじんこう)達と新たな仲間が邂逅を果たす場面(シーン)は何時見ても尊い輝きを放っている。 光の未来(さき)に明日への希望を見据える若者同士が手を取り合うその姿、この先の展開(みらい)に期待が膨らみ心が躍るというものだ」

 

「──って、うぉっちょぉおお!? ちょっとあの人、何だかあたし達とエマさん達の再開を律義に見守ってるみたいなんですけど!」

 

リィン達は自分等全員よりも遥かに格上だろう相手の前で迂闊に隙を見せてしまったかと思い、全員慌てて再び気を引き締めつつ自称魔王(イノケント)が見下ろしている艦橋(ミラービル)の屋上に意識を向け返してみたところ、奴はこちらの隙に付け入ろうとする素振りもせずにその場から一歩も動いていなかった。 そればかりか、こちらが合流を果たした仲間達と労いや新たな交友を交わす光景を、まるで映画の名場面(シーン)を観て感極まったファンの観客さながらに、腕を組んで何度も首で頷きながら感想(コメント)を呟きつつ、大きく感動したあまりに只でさえギラギラした目をして濃過ぎる顔面が笑窪で歪まされる程の破顔一笑をしていたので、気を抜かされたユウナが思わずスッ転びそうになったのを踏ん張ってから盛大にツッコミを叫んでいた。 何時の間にか先程までミッドチルダ全域に向けて放出されていた絶大な霊圧も綺麗サッパリと消している事から、相手が相当気を遣って邪魔をしないようにしていた事が伺える。

 

「ふははは! なに、当然だろうユウナ・クロフォードよ。 英雄(しゅじんこう)が仲間との初邂逅や再開を果たすという貴重な名場面(シーン)を生で目にできるというのに、どうしてそれに水を差せというのだ?」

 

「へ……っ!? どうしてあたしの名前を」

 

「そういや、このクソデカ三つ編み野郎。 ボンゴレファミリー(オレ等)とは見ず知らずの筈なのに、さっきは十代目の御名前ばかりか十代目が世界最強のマフィア【ボンゴレファミリー】の十代目ボスだっつうファミリーの最重要機密まで知っていやがったよな?」

 

「貴方、確かイノケントって言ってましたね……。住む世界が異なっていた私達全員の素性の情報(プロフィール)を詳細深く知り得ているだなんて……それに、さっき私達がラコフ・ドンチェルと戦っていた時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ガラハッド(この艦)の何処かに貴方は隠れていたとすると……!? まさか……貴方はッ!!」

 

イノケントが童子の如く純朴過剰に満ちた素敵な笑顔で嬉しい哄笑をあげながら、まだ名乗りもしていないユウナのフルネームを呼んでみせた事に対して、名前を呼ばれた本人は呆気にとられて固まってしまう。 それに獄寺が、先程イノケントが現れた時にボンゴレファミリー(こちら)が表に漏洩させないよう厳重な情報規制を行っていたファミリー内部の機密事情についてを彼がペラペラと詳しく口に出していた事を思い起こし、相手への不審感を懐く。 そうしたらフェイトが執務官という役職柄ならではの推理を使い、イノケントの正体について得た相手の情報と今の状況を照らし合わせて洗い出しを試みる。 すると彼女はイノケントがガラハッド(この艦)に隠れ乗っていた理由に気付き、途端に激しい敵意の目を相手へ飛ばし出した。 何故なら──

 

「ふはははは! ()()()()()()()()()フェイト・T・ハラオウン執務官よ。 今現在我々が乗っているこの銀色の次元間航行母艦と周囲に浮かぶ艦隊を率いて、今宵この第一管理世界ミッドチルダに襲来し、先程までお前達や時空管理局地上部隊と半日以上に渡り激しい交戦を繰り広げていた《反管理局軍ミッドナイト》。 彼等が新戦力として戦線へ投入してきていた【人形兵器】【魔煌機兵】【オーバル・モスカ】。 それ等の兵器製造に必要だった【導力器】と【死ぬ気の炎】の技術知識や製造材料を連中に提供していたのは他でもない──この俺だ」

 

「「「「「「「────ッッ!!!」」」」」」」

 

イノケントは誤魔化す事など微塵もせず、両腕を高らかに大きく広げて今回の戦いに己が関与していた事の全容を盛大に暴露した。 そう、何を隠そう、ミッドナイト軍に取り入ってリィン達やツナ達の世界の力を与えていた匿名の協力者の正体はこの男、《イノケント・リヒターオディン》だったのだ。 今明かされた衝撃の真実を受けて三世界より集結した歴戦の若き英雄達は皆目をはち切れんばかりに大きく見開いて驚愕の様相を露わにし、全員相手への警戒レベルを最大値まで一気に上昇させた。 もう疑う余地はない、奴は紛れもなく自分達の敵だ。

 

「はは、俺が黒幕だと判って直ぐに全員が戦う目付きに変わったな……ふは、良いぞ。 ようやく俺を倒すべき敵だと認めたか」

 

「ああ……だが、どうしてだ? そこまでの事をしてまでオレ達の敵になりたい訳が分からない。 イノケント、いったいお前は何が目的なんだ!」

 

英雄達に己を敵だと認定されて、まるで昔から憧憬を抱き続けていた人から承認を受けたかのように悦びを顔に表わす此度の戦いの黒幕である自称魔王に、ツナは剣呑な雰囲気に理解に苦しむような思いを混ぜた表面を浮かべつつ橙色の煌炎を灯した右手の人差し指をさし向けて、何を企んでいるのか教えろと問い詰めた。 リィン達もツナの質問に同感を示す頷きを呈している様子だ。

 

確かに疑問を感じるのはもっともだ。 魔王(ラスボス)を名乗り、異なる二つの別世界からそれぞれ次元世界には存在していない異端技術を提供する事で反管理局軍へと取り入って、JS事件後の復興中だったミッドチルダを滅茶苦茶に破壊して、それで黙っていればいいのにそれ等の所業を隠す事なくミッドチルダに集結した三世界の英雄達に堂々と暴露する事で彼等の敵意を喜んで貰うという。 口にしてみると悪役の基本に則ったような悪行三昧だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? しかも当人からは人が発せれるものとは思えない程に凄まじい圧力(プレッシャー)は感じれど、()()()()()()()()()()()()()()()ものだから、困惑に輪が架かる。

 

「そう急かすな。 今宵の物語はまだ始まったばかりなのだ。 このようなプロローグで主人公たる英雄達がラスボスの目的を知ってしまったら、物語の面白味が薄くなるだろう?」

 

しかし、お楽しみは後まで取っておくものだと期間限定販売の極上スイーツを買えて上機嫌で家の冷蔵庫にしまっている女子高生のような調子で勿体ぶり、回答を拒否したイノケント。 リィン達は眩暈を覚えた。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 双方とも確かな緊張感を持って相手と対峙している構図だが、その緊張感の種類が致命的に違えてしまっているから徹底的に嚙み合わない。

 

「俺は今、胸が高鳴り張り裂けてしまいそうな程に感動している。 トールズ士官学院Ⅶ組、ボンゴレファミリー、古代遺物管理部機動六課……ずっと以前より長年この目を焦がれて狂おしいほどの尊敬をこの胸に懐いてきた英雄(ヒーロー)達が、今まで世界同士を隔ていた断絶の壁を超えて、今日この場へと集結を果たした。 そして今、俺は魔王(ラスボス)として焦がれ続けてきた英雄(おまえ)達の前に立ち塞がっている……ふは、ふははは! 心より嬉しいぞ。 長年追い求めてきた夢をようやく叶えられた!!」

 

夜天を見上げてバッと両腕を大きく開き、宝くじの一等を当てたかのように盛大に歓喜して大はしゃぎをする自称魔王(ラスボス)

 

「な……なんなのよ、あの男は!?」

 

「ハッ! どうやら相当に頭がイカレた野郎のようだぜ、ありゃあ……」

 

「つーか、如何にもバカの類だろアレは? 言っている事の意味不明さ加減がランボ(アホ牛)並だし……」

 

英雄(じぶん)達の敵になれた事を無邪気に喜ぶ、相手の持つその異常な感性に皆がヤバ過ぎる歪さを感じ取って身が硬直する程の動揺を露わにしている。 此処に居る誰も唯一人としてイノケントと会った事がある者など居る筈ないのに何故奴は英雄(じぶん)達へ気持ち悪い程に過剰な憧憬を向けているのかはこの際今は置いておいて、“物語”だのなんだのと相手の発言の内容が理解不能過ぎて凄まじく気が滅入ってしまう。 もしかしてアイツはただの馬鹿なのではないのかと疑い出したところだったが……。

 

「……さてと。 本当ならプロローグに登場してくるラスボスの御約束(てんぷれ)というものに従って、今回は主人公パーティ(お前達)との“因縁ふらぐ”を構築するだけの顔見せ程度に留めて、この場は一度身を引いておく……()()()()()()()()がな」

 

「「「「「「「──ッッ!!?」」」」」」」

 

イノケントが気持ちよく一通り哄笑を終えた途端、再び奴は絶大なる霊圧を放ち出して眼下のリィン達へ先程よりも猛烈にギラギラを増させた眼光で見据えてきた。 今度のは鷹が地上の獲物に狙いを定めるように、明らかに攻撃を仕掛けてくる意思が向いてきている。 未だ嘗てない程に重厚な空気に殴りつけられて、リィン達は意識を戦闘モードに切り替えた。

 

「折角だ。 お前達の素晴らしい輝き(ヒカリ)を一度この身で直接味わっておくとしよう!」

 

完全に一戦やる気になったイノケントはニヤリと口角を吊り上げると、夜風にはためく軍服外套の内側から意気揚々として長方形状の携帯端末機の形をした謎の小物(アイテム)を手に取り出した。 しかしボタンは一切存在せず、表側一面全体に電子画面(ディスプレイ)が貼り付けてある。 厚みの薄い側面をよく目を凝らして視ると中心に断面線が走っており、二重層スライド構造をしているようだった。

 

「アレは……まさか“戦術オーブメント”か?」

 

「ですが、私が記憶している限りでは、あのような形式の物が造られているというのは帝国政府情報局の導力技術開発記録にはありません」

 

「以前エリカ博士の話にも聞いていたカルバード共和国のヴェルヌ社が単独一社で新開発を推し進めているという、噂の“第六世代型”とはまた違うみたいですね……」

 

「どちらかと言えば古代遺物(アーティファクト)に近しい雰囲気(かぜ)が感じられる。 どのような事象を起こせる機能を持っていてもおかしくはないだろう。 皆、気を付けろ!」

 

イノケントが左手に持った得体の知れない未知なる戦術オーブメントを目の当たりにしてトールズⅦ組勢が一早くに臨戦態勢を取り、それに引きつられボンゴレ勢と機動六課勢も最大の警戒と共に身構える。 目の前の敵がどのような力を持っているか判らなかろうが、毅然として立ち向かう覚悟を決めれる歴戦の若き英雄達の雄姿に、光に焦がれた魔王は尊大なまでの敬意を表する。

 

「くくく、いいだろう。 ならば、まずは魔王と英雄達が戦うのに相応しい舞台を“創る”とするかな」

 

「何を言って──」

 

実に嬉しそうに不敵なる微笑を浮かべてまた理解し難い事を言い、左手の未知なる戦術オーブメントの表画面を持った指で何故か素早く器用になぞり出したイノケント。 それはどういう意味なんだとリィンが問う前に、イノケントは艦橋(ミラービル)の真下に居る彼等に表画面を見せつけるようにして未知なる戦術オーブメントを突き掲げた。 画面内には『TERRITORY ORDER Standby』と大きく表示されているのが見えた。

 

「《次元魔王》の名において《TTO(テリトリーオーダー)》を発令する! (すべ)て滅びよ──天地崩界・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)ウウウゥゥゥゥーーーーッッ!!!

 

そうこの宇宙の法則そのものへと命ずるように魔王が号令(オーダー)を発した瞬間、第一管理世界ミッドチルダは崩壊した……。

 

 

 

 

 

 




あとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! 超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』第5回



蒼い空、碧い海。 水面に揺蕩う(おお)きな船……。

アリサちゃん(アロハ水着姿でデッキプールサイドに寛ぎバカンス満喫中)「夏休みということで、豪華客船の旅の中よりお届けするわね♪ 真夏のセクシィー超ヒロイン【アリサちゃんの“炎の軌跡講座”】第5回──」

ポチャン!

グナちゃん(甲板端で足を滑らせて海に落ちて、ピカー!)「サラダバー!」

アリサちゃん「──始まるよ……ってちょっとおおおっ!? 待って! 此処海のド真ん中d──」

ちゅっどーん!!

アリサちゃん(大パニックで逃げ惑う)「きゃあああ! グナちゃんの爆発で空いた船底の穴から海水が大量に入ってきたわ! 沈没する前に急いで逃げなきゃ──!!?」

船内へと駆け込んだアリサちゃんの前から、入り込んだ海水が濁流となって押し寄せてきた。

アリサちゃん(“しぇー!”のポーズ)「ウッソー!? 浸水してくるのハヤスギ! 美人薄命なんてイヤァァァーッ!!」

???「うおおおおおっ!!」

濁流が迫り、アリサちゃん絶体絶命かと思われたその時、某赤毛の冒険家の永遠の相棒の如く隣りの壁を拳一発でブチ破ってきた白鉢巻のボーイッシュ青髪少女が間に割り込み、間一髪魔法障壁(プロテクション)を張って濁流を塞き止めた。

ボーイッシュ青髪少女「お待たせしました! あたしが来たからにはもう大丈夫ですよ!」

アリサちゃん「た、助かったわ……という訳で、本日のゲストはこの其処らの男よりも男前な魔法格闘少女で、前回紹介した【リリカルなのはシリーズ】のTVアニメ第3期『魔法少女リリカルなのはStrikerS(ストライカーズ)』の準主役、レスキュー隊志望の“スバル・ナカジマ”よ!」

スバル(魔法障壁で必死に濁流を塞き止めながら)「“救助隊”志望です! ていうか、何この非常時の中でゲスト(あたし)の紹介をし始めているんですか!?」

アリサちゃん「彼女は時空管理局の陸戦魔導師で《古代遺物管理部機動六課》の前線実動員“FW(フォアード)”の一人。 そして実は前回紹介した【リリカルなのはシリーズ】の主人公である高町なのはさんの一番弟子と言える教え子なのよね」

スバル(障壁片手にデレて、そして濁流に押され出して慌て出す)「ふぇ!? い……いやぁ、そんななのはさんの一番弟子だなんて、それほどでも──って、のあああっ? 一瞬気が散った所為で魔法障壁の構成強度が脆くなっちゃってる!」

アリサちゃん「11歳の頃に遭った空港火災から当時15歳だったなのはさんによって救い出されたスバルは、なのはさんのように“誰かのピンチを救う事の出来る立派な魔導師になる”という夢を志して、陸士訓練校を首席で卒業し、時空管理局の陸上警備隊に入って、それからなのはさんと再会を果たして、彼女が隊長として率いている【スターズ分隊】の一員として機動六課に入隊していったのよ。 自分と同じ新入隊員でFWのティアナ、エリオ、キャロの三人とともに部隊入隊から日々、部隊の戦技教導官でもあったなのはさんからビシバシと魔法戦闘の訓練指導を受けてメキメキと強くなっていき、僅か半年の期間で高位の魔導師にも引けを取らないレベルまで成長して、遂にスバルは敵に攫われて洗脳された格上の魔導師であった姉を打ち負かして救い出すまでに至ったわ。 それはまさに彼女自身が夢に志してきた“誰かのピンチを救う事の出来る立派な魔導師”の姿そのものだったわね♪」

スバル(あたわた)「うわあああ、通路の水嵩が増しすぎて、水圧で魔法障壁に罅が入った!」

アリサちゃん(目の前のスバルが張っている魔法障壁が破られそうになっているのに気付いていない)「自身と姉の“特殊な出生”の事など色々と難題事を抱えているけれど、持ち前のガッツと負けん気と憧れたなのはさんから貰った薫陶を逆境を壊す力に変えて、スバル・ナカジマは夢を目指して走り続けるのよっ!」

スバル(限界)「もう……ダメ……だ……。 アリサさん……逃げ……て……」

アリサちゃん(未だ目の前の危険に気付く事なくマイク片手にデッドヒートマッハしているアンポンタン)「イケイケゴーゴー! 未来のレスキューレンジャー、スバル! 君こそが真のストライカーだッ!!!」

バッリーーン!

アリサちゃん「……え?」

ザッバアアアーー!!

アリサちゃん(逃げ遅れて濁流に飲み込まれる)「うにゃあああ!? 押し流されるーーー!!」

スバル(強烈な水圧を零距離で受けて気絶&水没)「ぶくぶくぶく……」

グナちゃん(空のボトルに入って水源から流されて来た)「ダイサンジデコウザドコロジャネーシ、コンカイノコーナーハココマデノヨウダナ……ソンジャ──サラダバー!」




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終末の世界

黎の軌跡Ⅱ、本編&EXステージクリアーしました。

プレイの感想を一言でいうと、主役はピクニック隊(レン含む)。

創の軌跡の時もそうだったけど、すーなーカップルがとにかく尊いですね。 閃Ⅱの戦闘後ピンチ→助っ人登場のテンプレを最後まで連発しまくった展開も「主人公達以外も皆が戦っているというのが分かるのが軌跡シリーズらしいな」と言って許容できていた自分も流石に【死に戻り】というクソ地雷要素を間章の時のように事前行動で回避もさせてくれずに乱発してきた今作の第3章は進めるのがとても苦痛になってました。 しかし章最後のラストバトルでナーディアのピンチを敵に操られていたスウィンが呪縛を破って救い出した場面がもう激熱過ぎて、これまで貯め込んだ不満が一気に吹き飛びましたよー♪ ホント終わり良ければ総て良し!

それに【死に戻り】がクソ地雷だった半面、絶賛できたのは戦闘システムが過去最高の出来ッ! 新システムの《EXチェインアタック》は連発できると凄く爽快で、今まで出そうで出ていなかった二属性複合導力魔法の《デュアルアーツ》はド派手でカッコイイ! 何よりも今作はボス級ネームドキャラ限定だったけど、なんと敵も遂に《Sブレイク》を使ってきて割り込み必殺を仕掛けて来るんですよ! 最初のガーデンマスター戦で相手がSブレイク使ってきた時はマジで思わず「何イイィィーー!?」ってなりました。 おかげでボス級ネームド戦の度に「何時Sブレイクしてくるのか」とドキドキしながら戦えたので非常にバトルが楽しかったです♪

そしてなんと言ってもレンですよレン! 空の軌跡SCから長らく謎だった結社入り前のレンの過去の闇が今作で遂に明らかになり、彼女自身の手でその過去に決着をつける間章のストーリーはマジで素晴らしかったですね♪(クソ地雷要素の死に戻りイベントも完全な初見殺しのもの以外は事前行動の対処で回避できたのもマジでGOOD! どうして第3章もそうしなかった?)
更にレン関係で超感動したのは苦難だった第3章を乗り越えた最終章の最終コネクトイベに限りますね、やっぱ。 これの内容について詳しくはここでは控えておきますが、とにかく空の軌跡シリーズから碧の軌跡までプレイ済であるレンファンは超必見ですよ! もう感動し過ぎて涙が止まらなくなるので要注意ですね。

それにしても、黎シリーズの最強格キャラである某姉弟子さんがバトルキャラ性能とムービー戦闘描写共々バケモノ過ぎてワロタww。 前作に引き続いてフィールドバトル最速最強だったし、クラフト全部チート性能な上にザイファセッティングできてCP回復スキルを付けまくれば戦闘全部一人でやって手が付けられなくなるし、同じ最強格キャラである某警備主任がブッ放した極太バスターキャノンを一刀両断するわ、くの字体勢砲弾一直線で壁にブッ飛ばされても無傷で出てくるわ、異能やアーティファクト無しで次元空間を切り裂くわ……いったい何なのあの人は、ド○ゴンボールのZ戦士か何かか?(汗)


さて、長文のゲームプレイ感想失礼しました。 では本編をどうぞ!




魔王(イノケント)が高らかと号令(オーダー)を発令したと同時に世界(ミッドチルダ)全体の重力が一瞬にして崩壊し、大空とそこに煌く星々が煉獄の(ほむら)によって蹂躙された。

 

神の裁きの如き無数の雷が世界中に降り注ぎ、地や街を穿つ。 撃ち剥がされた大小の地表・岩盤・街や道路のコンクリートの破片やら、木・動物・車両・住宅から高層ビルといった建造物が宙へと浮かび上がっていき、それ等が丸ごと渦を巻いて退却途中だったミッドナイト軍の艦隊を嬲り砕く様子は意思を持った大蛇のようだ。

 

亡者の悲鳴を連想する割れるような響音が煉獄に染められた大空に轟くと天上が罅割れて、割けた孔の中から異様な漢字で描かれた巨大方陣──“天”を中心にして“(コウ)”“(オツ)”“(ヘイ)”“(テイ)”“()”“()”“(コウ)”“(シン)”“(ジン)”“()”の計十文字がその周囲を囲い並びつつ右回転し、そしてそれの更に外側周囲に“()”“(うし)”“(とら)”“()”“(たつ)”“()”“(うま)”“(ひつじ)”“(さる)”“(とり)”“(いぬ)”“()”の計十二文字が陳列して左回転している──が現出して天に座し、其処から滅びゆく世界を睥睨した。

 

「そ……そんな、(クラナガン)が……世界(ミッドチルダ)が……っ!?」

 

「嘘……だろ……何がどうなってやがるんだ? あの自称魔王の軍服ヤロウが何処の物か得体の知れねぇ戦術オーブメントを使って何か号令(オーダー)みてぇなのを叫びやがった瞬間に、景色が何もかもメチャクチャにブッ壊れた風景に一瞬で塗り替わりやがった……!!」

 

一瞬にして崩壊した世界を目の当たりにし、この場に集った歴戦の若き英雄ら皆が顔面蒼白となって果てしない当惑と戦慄を露わにした。 煉獄の焔のような紅黎(あかぐろ)に染められた大空、収まらぬ神の怒りの如く地を穿ち続けて降り止まぬ無数の轟雷、破壊され尽くして反転した重力に引き剥がされていく地表、 雷火に包まれて建物が倒壊し荒廃されてゆく眼下の街並み、惑星の成層圏外に散らばる宇宙塵(スペースデブリ)のように疎らと散りばめられて宙空を浮遊している破壊された地上から舞い上がってきた大小様々な動物や障害物、天空に顕現された謎の巨大方陣……“世界の破滅”を思わせるその光景はまさしく神々が起こした災厄の天地崩壊による【終末の世界】そのものであったのだから。

 

「お前……いったい何をしたんだ!!」

 

重力崩壊時に発生した時空間衝撃波を受けて大きく罅割れた甲板の鉄床にダンッ! と足を踏み、ツナが怒りの形相をしてこの地獄の惨状を造った魔王へと問い詰めた。 訊かれた魔王イノケントは実に愉快そうな笑顔で答えてくれる。

 

「なに、事前に言ったであろう、沢田綱吉よ。 魔王と英雄達が戦うのに相応しい舞台を()()とな」

 

「舞台を()()だって? ……まさか、お前がその手に持っている戦術オーブメントの因果律事象改変機能(オーダーシステム)を使って、ミッドチルダ(この世界)を丸ごと創り変えたとでも言うつもりなのか!」

 

イノケントが言った断片的な説明を聞いてリィンが自分の知り得る戦術オーブメントの機能知識と掛け合わせて解釈し、眉根を寄せてその解答はとてもじゃないが有り得ないという感情を含んだ声を張り上げる。 リィン達トールズⅦ組勢が所有している《ARCUSⅡ》の“オーダーシステム”は導力技術的に因果律へ干渉する事ができ、そこにルールを書き加える事で一定時間味方集団(パーティ)を強化したり、高位次元から幻獣種が顕現される程に霊脈(レイ・ライン)が異常なまでに活性化している地域でなら特殊な改造を施した導力端末機を使用する事で因果律の書き換えを行い敵集団が発令した号令(オーダー)効果を無効化し行動を阻害する事も可能にしている。 だがしかし──

 

「帝国最先端の戦術オーブメントである《ARCUSⅡ》をもってしても、世界一つ程の大領域規模を創り変えれる程の容量(キャパシティー)はさすがに無いだろう。 カルバード共和国のヴェルヌ社が新開発を推し進めているという【第六世代型】でも恐らくは無理だろうと思う。 素人目で悪いが、もしそれを可能にするならば少なくとも国一つの使用分全部の導力器から余さず演算領域(リソース)を持ってくるか、または古代遺物(アーティファクト)や教会騎士が使う【法術】のような神秘(オカルト)的な力に頼るかしかないのだが……」

 

リィン達は元の世界で約三ヵ月前に【エリュシオン】という現在のゼムリア大陸各国における導力技術では到底実現不可能である“機械知性”と邂逅し、“世界最後の兵器”【逆しまのバベル】においてゼムリア大陸の全人類の命運を懸けた最終決戦を行った。 詳細は今は省くが、エリュシオンは霊脈(レイ・ライン)の活性化と導力ネットワークの連動により偶然誕生し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大陸規模の巨大データベースを構築していた。 その膨大なる容量(キャパシティー)を利用する事でエリュシオンは現世事象の情報を多元並行世界規模に至る所までを観測・演算する事を可能にした【限定式収束未来演算】を実現していたのだった。

 

そのような事もあった為、リィンは自分がしてきた経験則から神秘(オカルト)に頼らない機械技術の力で世界を好きに改変する事も絶対に不可能ではないだろうと思っているのだが。 しかしそれでも戦術オーブメント一つでそれ程に大きな規模の改変を実現する事は流石に難しいだろうと考えていた。

 

「くくく、流石なかなかに良い解釈をするなリィン・シュバルツァー。 もっとも次元世界そのものを創り変えるのではなく、高位相次元空間に創造した俺の領域(テリトリー)号令発令者()を含む此処に居る全員を強制位相転位させたというのが正解だがな」

 

「高位相次元空間に創造した領域(テリトリー)……だと?」

 

「そうだ。 これは『TERRITORY(テリトリー) ORDER(オーダー)』──通称《TTO》と呼んでいる“多重因果律干渉改変創造システム”でな。 この“MULTIUNIVERSE(マルチユニバース)式”近未来戦術オーブメント《PARAISO(パライゾ)》の特色機能なのだよ。 この戦術端末所有者が号令(オーダー)を発令する事によって多重時空へ接続・干渉改変し、端末に保存された各固有の【心象世界】を()()()()()()()()()()()()()()()()。 そして号令発令者とその近場に居た者を敵味方全員区別なく強制的に創造構築した【心象世界】の中へと放り込む──つまり、俺が作成した風情のある戦闘領域(バトルフィールド)におまえ達全員をご招待したという訳だ!」

 

「なん……だと……!」

 

瞳を揺らしてそう口から洩らしたリィンと同様にツナやなのは達も皆一様に驚愕を露す。 イノケントの持つ《PARAISO》なる未知の技術が使われた近未来の戦術オーブメントに、高位相次元に端末所有者の【心象世界】──つまり奴が心に思うが儘に創った戦闘領域(バトルフィールド)空間に戦闘の参加者全員を隔離してしまえるという今までにない大規模な新オーダーシステム《TTO》。

 

次元や時空に関係した事象や事件にはトールズⅦ組勢もボンゴレ勢も機動六課勢も全員何度か巻き込まれて経験してきているが、戦術オーブメントのような人の片手に納まる程の携帯機器一つで多重時空の改変を成し此処にいる大人数を高位相次元空間に創造構築した自分の領域(テリトリー)へと強制転位まで可能と聞けば色様々な場数を踏み越えてきた三世界の英雄達であっても流石に耳を疑わざるを得ないでいる。

 

──高位相次元空間……何故だろう、トールズⅦ組(俺達)は最近そのような場所に行っていた気がするけど、思い出そうとすると何故か其処の記憶にだけ奇妙な靄がかかるんだよな……思い過ごしか?

 

──多重時空への接続と改変か……それを聞くと【10年バズーカ】での未来渡航や白蘭の並行世界移動能力を思い出すな……。

 

──どうやら魔導師(わたし達)が使う《封時結界》とは似ているようで大分違っているようだね。 ミッドチルダが本当に崩壊したんじゃないという事が分かっただけもちょっと安心したけど、これは外からの援軍は期待できないかな……。

 

「くくく。 さあ、舞台は整ったぞ! 三世界より集いし歴戦の英雄達よ。 おまえ達のキズナの力と勇気の輝き(ヒカリ)を存分に魅せてくれ! この《次元魔王》イノケントに対して──ッ!!」

 

《TTO》の概要に三世界の英雄達がそれぞれ自分の世界で見てきたそれと関連がありそうな要素を思い浮かべて半分思考に耽っていたところに、イノケントが嬉々として戦闘準備万端を告げる。 (ミッドチルダ)を丸ごと圧壊させてしまいそうな程に絶大なる霊圧と闘気を解放し、彼が立っている崩れかけ艦橋(ミラービル)を中心に爆発の如き波濤が周辺へと拡散していき、ミッドチルダの崩壊景色に更なる破壊の爪痕を刻み付けた。 今までずっと尊敬して已まなかった三つの英雄伝説と今魔王(ラスボス)として交えれる歓喜に胸を躍らせ、余波の突風に激しくはためく外套の内側に佩いていた身の丈程に(しゃく)が異様に長い鞘に納められた軍刀の柄に手をかけて、グッと腰を下ろし戦闘姿勢を取ろうとする。

 

「──っ! 来るぞッ!!」

 

「全員身構えろ! 決して一瞬たりとも奴の動きから目を逸らすn──」

 

相手が戦意を持って動いたのを見て一早くに槍と剣を取り仲間達を守護するように前へと踏み出したガイウスとシグナムが得物を構えつつも鬼気迫るような大声で背中の仲間達へと最大の警戒を呼び掛ける……それよりも一瞬速く、群青色の光の軌跡を空に描く魔王の太刀筋が仲間達の盾となった守護騎士の二人の目前に()()()()()

 

──な……にっ!?

 

──(はや)い……ッ!!

 

敵が十階以上も有る中層艦橋ビルの屋上からまるで瞬間移動して来たかのように目が錯覚を覚え、守護騎士二人の顔が驚愕と戦慄の二色に染められる。 二人の懐に飛び込んできて、着地の姿勢から風圧で捲れ上がった外套の内側より黒漆の光沢が塗られた鞘ごと引き抜かれた長軍刀は計り知れない暴威の慣性を持って孤月を描き、異次元の速度と威力を纏う。 鞘に納められし魔王の刃が逆袈裟に群青色の破壊光線を引いて振り上げられてくるその凶撃を開ききらせた瞳孔に映して、二人の守護騎士は極限すら生温いと思える程の絶対零度の悪寒に襲われる。 不可避の絶死の予感が知覚遅延(オーバーレブ)を齎して時が遅延し二人の世界から色が失われた。

 

「「──クッッッ!!!」」

 

停止した世界の中を破滅の残光を追従させながらゆっくりと迫り来る絶死の風を纏った魔王の剣……自分達二人がそれによって断たれたら、そのまま背中に守る仲間達をも纏めて引き裂かれてしまう事だろう……守護騎士の肩書きに懸けてそうはさせるものか! 二人はその意志を極めて強く握り締めた槍と剣へと注ぎ込み、絶対零度によって凍り付いた全身に活を入れて無理矢理動かした。

 

「「ぬおおおおおおおおおッッ!!!!」」

 

「ふうん──ッ!!」

 

停止した世界が再び動き出して色を取り戻した。 それと同時にガイウスとシグナムが互いに持つ槍の長柄と騎士剣の刀身を前に交えさせて十字盾を作り翳し、イノケントが魔速の抜剣をもって振るってきた鞘付きの絶刀と正面衝突した。

 

(ゴウ)ッ──ズッッガアアアアアアアアアアンッッ!!!

 

「「ぐわ──あ″あ″あ″あ″あ″あ″────ッッ!!」」

 

「「「「「「「うわああああああああーーッ!! / きゃああああああああーーッ!!」」」」」」」

 

守護騎士二人の十字盾と魔王の剣による衝突の結果は途方もない凄惨なる大災害を齎したのだった。 壮絶に繰り出された両者の得物が触れ合った刹那、僅かな鍔競り合いも許されず守護騎士の十字盾が一瞬で槍と剣に分離させられて得物の持ち主二人諸共に斜め45°の鋭角で上空へと弾丸ホームランの如く打ち飛ばされた。 それと同時にその場に撒き散らされた暴嵐の如き埒外な程に猛烈な衝撃波がドーム状の圧層となって広がり、守護騎士二人に守られたリィン達も全員為す術なく散り散りにされて母艦の外へと吹き飛ばされていく。 その直後、一瞬前に彼等が立っていたミッドナイト軍の司令母艦ガラハッドは内側から膨張破壊されるようにして球形の衝撃圧によってバラバラに分解され、直下に見える荒廃した首都クラナガンへと崩落していったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ゲホッ! ……ハァ、ハァ……」

 

地上の荒廃都市へと崩れ墜ちていく銀色の母艦の残骸。 其処から約300アージュ(m)離れた空中に漂っていた都市ビルの内部ロビーで、自らの背中で抜き砕いた外壁の瓦礫に埋もれる状態で倒れていたリィンが肺に溜まった息を吐き出して数秒失っていた意識を取り戻した。

 

「うぅ…う……ここ……は……?」

 

幸い身体の上に被さっていた瓦礫は彼よりも小さく軽量の欠片だけだったので、上体を起こせば自動的に全部上から零れ落とせた。 まだ朦朧とする頭を抱えて立ち上がったリィンはまず周囲の状況を確認しようとしてロビー内を見回してみる。 地上から折れて浮き上がったビルであるので当然だが電気は通っていなくて照明も全滅している為、辺りは不気味に薄暗い。 重力崩壊を受けて壁も天上も崩落個所だらけにされていて、ビル内に設置されていた大小さまざまな機械や物が其処らに積み上げられて酷く散乱された有様はまるで大地震が起きた直後のようである。

 

そして何よりも異常だったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 彼の左手側に消灯された天井照明器具が奥行きまでズラリと並んでいて、右手側に砕けたタイル面がまた奥の暗がりの先まで続いて行っている。 そのタイル面の疎らに散乱された物々が其処に貼り付くように吸着されているように見える景観も非常極まり過ぎて大変に目を混乱させてくる。

 

「いったい何が……っ! そうだ、俺達は魔王を名乗るイノケントという男と戦闘になったんだ。 それで相手からの初撃が速度も威力も凄まじく規格外過ぎて、その一撃を受けて仲間全員乗っていた飛行母艦から吹き飛ばされて、分散させられてしまったんだった。 みんな──ッ!!?」

 

リィンはふと気を失う直前の記憶を明瞭に思い出し、直ぐにイノケントの初撃をくらって散り散りに吹き飛ばされた仲間達の行方と安否が気に掛かった。 忽ち彼の蟀谷に焦燥の汗が浮かんでくる。 記憶が確かなら地上から約5000アージュ上空に停泊していた飛行母艦(ガラハッド)の甲板上から艦の外へと全員生身のまま吹き飛ばされて行った筈だ。

 

常人ならば落下傘(パラシュート)も背負わずに生身で上空に投げ出されたら余程の命運を持っていない限り無事では済まないだろうが、今のⅦ組なら上空に停泊する飛行戦艦から擦れ違う高速飛行巡洋艦へと跳び移る事や高山の崖から落とされてからほぼ無傷でその崖をよじ登り戻って来る事も難しくはないし、飛行手段を持つアルティナやボンゴレの三人組(ツナ達)機動六課隊長陣(なのは達)、自力では飛べない機動六課FW陣(スバル達)も空中での活動を可能とするスキルは全員身に付けている……だがしかし、あの埒外の魔王が振るった剣は数多の歴戦の中で己の武を高く洗練に鍛え上げてきた騎士の中の猛者であるガイウスの槍とシグナムの剣に共々容易く打ち勝ち、その攻撃の余波でその場に居た百戦錬磨の英雄(リィン達)全員を纏めて司令母艦(ガラハッド)の外へと吹き飛ばしたばかりか、そのまま乗っかっていた母艦をも爆散させてしまったのだ。 直前にあったラコフ・ドンチェルとの激戦でほぼ半壊状態になっていたとはいえ、母艦一隻を生身の人間が振るった剣で木っ端微塵にしてしまうなどとは幾らなんでも攻撃力の規模が常軌を逸し過ぎている。

 

「落ち着け……兎に角、まずは一旦外を確認してみよう」

 

仲間達の安否は気になるが、現状を把握しない事にはどうしようもない。

 

リィンは壁の上を歩いて近くのテナントルームの出入り口らしき扉を足下に見下ろした。 扉を開けて中を覗き込もうと思ったが、そこにはドアノブが付いておらず、代わりにカードリーダーらしき小箱型の読み取り機が扉の傍に備え付けてあった。

 

──カードキーセキュリティー式の扉か……参ったな。 建物内の導力(リィン達の世界(ゼムリア大陸)の各国で使用されている需要エネルギー)はどう見たって完全に切れているし、たとえ手元にカードキーがあっても肝心のカードリーダーが停止しているから扉は開けられないだろう……仕方がないな。

 

リィンは正方で扉を開けるのは諦めて、裏技を使う事にした。

 

八葉一刀流──(よん)の型、紅葉(もみじ)切り!

 

居合いに構え、静の呼吸で抜刀。 同時にシャラン! という金高い切断音が響き渡り、緋色の太刀が鮮やかに振り抜かれた直後、齎された一瞬の静謐が過ぎると同時に足下の扉に暁の横一文字が刻み込まれる。 そして扉は音も立てず刻まれた暁の一文字に沿ってバターのように滑らかに両断された。

 

──昔、Ⅶ組入学後の最初の特別課外活動でルナリア自然公園入口の南京錠を切った時にも思ったが。 緊急事態とはいえ、人の手が入った施設を八葉の技で破壊するというのは、なかなかに心が痛むな……。

 

「さてと、中のテナントから窓の外を……うおっと!?」

 

リィンはズキズキと痛む内心で技を自分に授けてくれた老師へ謝罪をしてから罪悪感を持って切断した扉の奥へと()()()()()……その直後の事であった。 テナントの中へと落ちた途端に彼の目に映る視界がクルッと右へ回り、右手に見えたカーペットが剥がれて散乱している壁面……もといテナントルーム内の床へと引き寄せられるように右手から落下した。

 

剣の達人にして帝国一の名門士官学院の戦術教官であるリィンに掛かれば急に重力の向きが変わって不測の方向に墜落したところで、即応的に受け身を取るので大事に至る事はまずない。 先に落ちた右手の掌を床へ着けて、その腕を追突と同時にしなやかなに曲げる事でバネのように衝撃を殺し、そのまま上から圧し掛かった身体を横へと投げて転がす事で怪我無く対処してみせた。

 

「ふぅ……。 油断大敵だったな。 俺が壁の上に立っていたのは横に倒れているビルの中に居るからだと思っていたが、建物内に置いてある物や機械が壁になった床面に貼り付いているのはどう考えても不自然だった……」

 

そう自身の油断を反省しながら、身体を床に転がした際に巻き付いたカーペットを剥がして立ち上がる。

 

「確か先程にイノケントが《PARAISO》と言っていた未知の戦術オーブメントを使って《TTO》と呼んでいた未知のオーダーシステムを発令した際に大規模な重力崩壊が起きていたな……『天地崩壊・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)』と言っていたか?」

 

【黄昏】……凄く、嫌な出来事を思い出させてくれるオーダー名だな……と、リィンはそう思いながら眉根を寄せた視線をテナントルームの窓側へと向ける。 案の定、その壁一面に貼られていたらしき窓ガラスは一枚残らず無惨に割れ砕けて、窓際の床に砕け落ちたガラスの破片が大小無数に散らばっている。 それ故に吹き抜けと化した窓側から外に広がる崩壊世界の景色を一望できた。

 

「自分の目を疑いたくなるような絶景だな、悪い意味で……今までに帝国やクロスベルで対峙してきた異変の中で幾度となく現実改変された魑魅魍魎の世界や神秘の異界は目の当たりにしてきたが、これ程までに滅亡的な光景は流石に見た事はないかもしれない……」

 

想像を絶する破滅と渾沌に染められた終末の世界(ディストピア)を眼に焼き付けてリィンは唾を呑んだ。 物々しい高層ビルが立ち並んでいた大都市は倒壊した建物の瓦礫と罅割れた道路でごった煮返し凄惨に荒れ果て、宙空には重力崩壊によって地上から剝がされたビルや瓦礫や車両や木々などが無数に渦巻き川に流れる流木のように浮き漂わせて、自然の摂理に冒涜を唱えている。 煉獄の焔に侵食された夜天から地上を見下ろす巨大方陣が“天”の一文字を中心に十干十二支(じっかんじゅうにし)を一時も休まず回し続ける様は怒りに荒ぶる裁きの神の眼と錯覚するようだ。

 

過去に自分がトールズⅦ組の仲間達や大勢の同志と共に立ち向かい乗り越えてきた《煌魔城》《黒キ星杯》《七の相克》《逆しまのバベル》──ゼムリア大陸を幾度となく渾沌に塗り替えようとしてきた世界改変級の災厄の数々ですら、これ程までに希望も光も見当たらない世界ではなかっただろうとリィンは悲愴に物思った。 これが今度の宿敵《次元魔王》イノケント・リヒターオディンと奴が持つ未知なる技術で作られた近未来戦術オーブメント《PARAISO》の力なのか……終末の世界を創造して現実の上から塗り替えてしまう程の因果律改変の力を有する規格外に強大な魔王(ラスボス)と対峙しているという現状の難関さを自覚し、身を引き締めつつそろそろ仲間達と敵の捜索に出ようとしてテナントの出入り口へ踵を返そうとすると──

 

バキィィ! ガァァンッ!

 

──っ!! 聴こえた……骨を砕くような打撃音と、岩か何か硬質な物に何かが激突したような衝撃音が……此処から見える空の何処からか、微かに……。

 

道半ばながらにして“(ことわり)”に触れし達人の耳は目の前に見える宙空に僅かに響いたその小さな戦闘音を聞き逃さなかった。 それはこの遠くない煉獄の空の中の何処かで戦闘が行われているという証左であった……。

 

──今、俺達の敵はこの終末の世界にイノケントただ一人だけだ。 見るまでもなく交戦している相手は彼に間違いは無いだろう。 なら打ち合っているのは誰だ? 何処で、何人で戦っている……。

 

瞼を閉じて戦闘音が響いて来た方角へ気配を飛ばし、戦闘地点を探る。 音や人の気配だけでなく、空気の流れや宙に漂う浮遊物の配置と動き、そして今までの戦いを得て培ってきた経験からの予測──全身の五感と第六感で感じ取れるその全てが手掛かりになる……見つけた。

 

「其処か──ッ!!」

 

閉じていたリィンの双眸がカッと強く見開かれ、確信を宿した剣先の如き鋭い視線を探り当てた場所へと差し向けた。

 

まず彼が今居るのは崩壊都市のゴーストタウンと化した首都クラナガンを下にして真横に倒された格好で地上約5000アージュ上空に浮遊しているオフィスビルの16階だ。 重力崩壊に巻き込まれて地からビルが引っこ抜かれた際に衝撃圧で色んな箇所が崩落し、吹き飛ばされて来た彼が先程の16階ロビーへ着弾する際に直前に突き破った箇所が見分けられないくらいに穴だらけの廃塔と化している。

 

また、この高位相疑似世界の全体は重力崩壊の真っ只中に在るようだが、宇宙空間のように無重力化したのではないようだ。 リィンは今崩落した窓の吹き抜けから()()()()()()()()()()()()()()。 そこから推測するに恐らく人や椅子などといった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というルールが成り立っているような様子だ。 そうなると逆に建物や車両などの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だろうか……まあいい。

 

まだ曖昧だろうが、この終末の世界のルールを理解した上でリィンが見据えた先に注目してみよう。 戦場は彼の居る浮遊ビルから上空へ向かって250、奥行きへ1500程の空域に漂っている直径150平方アージュ程の岩石浮遊島の上。 その中央で針山のように隆起した無数の岩に取り囲まれて、周囲の時空を歪ませる魔障を放つ長軍刀を遊園地のアトラクションを愉しんでいる真っ最中の子供の如く嬉々として嗤いながら手に構えるは、この終末の世界を創造した張本人たる《次元魔王》イノケント。 それと相対しているのは回転式六弾倉(ナックルスピナー)付属の武装籠手《リボルバーナックル》を右手に嵌める鋼鉄のストライカー──スバル・ナカジマであった。

 

「ゼェ、ゼェ……ま……だだ……ゴハァッ!」

 

「スバ……ル……」

 

全身に手酷い負傷を受け、息も絶え絶えになって血反吐を吐く程の満身創痍を負いながらも、異次元の強さを持つ魔王の前に一人スバルは歯を食いしばって立ち塞がり続けている。 彼女の背中には彼女以上の重傷を負って岩柱に背を預けてぐったりとしている次元世界の英雄たる白き魔導師──高町なのはが朦朧と消えそうな意識を必死に保ちつつ、大切な教え子が傷付けられていくのをただ見ているしかできないでいた。

 

病み上がりで身体に重い負担を抱えていた挙句、先の戦いで魔力を全て使い果たしてしまったなのははこれ以上まともに戦闘を行う事ができない状態だった。 それでいて先程イノケントの初撃によって全員散り散りに吹き飛ばされた際に、彼女は運悪く其処から一番近場を漂っていた妙に頑丈な造りをしていた公衆トイレの屋根に激突して其処に停まった所為で最悪にも敵に一番最初に見つかり、頼れる仲間が離れ離れになっている中たった一人で最強の魔王と対峙する事を余儀なくされた。

 

無論、魔力という魔導師最大の戦闘手段を全て失っていて無謀な玉砕突攻を選ぶ程、時空管理局きっての最優の魔導師(エース・オブ・エース)と称されている高町なのはは愚か者ではない。 防御魔法の代わりにレイジングハート()を盾に使った防御姿勢を取り、周囲を漂う浮遊物へと飛び移って全力全開で逃げた。 遠くから見ても目立つように空中を大きく動き回る事で遠くへ吹き飛ばされた仲間達が自分が戦っているのを見つけて集まって来てくれるのを信じていたからだ。

 

だがしかし、相手はSランク魔導師をも圧倒的に凌駕する人知を超えたUNLIMTED(アンリミテッド)(ランク)の規格外。 イノケントが鞘に納めたままの長軍刀をその場で一太刀振るっただけで、逃げ回って距離を大きく離していたなのはが音破衝(ソニックブーム)に切り裂かれ、彼女はそのまま錐揉みに吹き飛んで千数アージュ離れたこの岩石浮遊島に墜落したのだった。

 

彼女の残存魔力は0ではあったがその前から身に纏っていた魔導防護服(バリアジャケット)がギリギリ無事であった事が幸いし、岩の地面に音速で激突して踏み潰されたトマトと化してしまう事態はなんとか免れた。 だがしかし、生身だったならば完璧に身体が弾け飛んでしまうような激突速度で叩き付けられたダメージはいかになのはの魔導防護服が難攻不落の空中要塞級と称される鉄壁の防御性能を誇っているとはいえども流石に無効化する事は出来なかった。 墜落で全身に齎された衝撃は多少軽減できてもダンプトラックにはねられたような威力があったのだ。 それ故に彼女の全身の骨は砕け散り、その骨が五臓六腑に突き刺さって口から大量の血を吐きだした。 吹き飛ばされる直前に敵から受けた音破衝(ソニックブーム)によって全身に切り刻まれた非常に痛々しい無数の斬痕も合わせて、文字通りズタズタのボロ雑巾のような無惨な姿にされてしまった。

 

こうなってはいかに不屈のエースといえども最早まともに動く事すら叶わなかった。 それでもなのははその不屈の意思によって意識は酷く朦朧としながらも皮一枚で保ち続け、計り知れない深刻なダメージによる地獄のような激痛に喘ぎながら耐えて、尚も硬い岩の地面を這い擦って逃げようとした。 しかし、魔王からは逃げられない。 この終末の世界の創造主にして支配者たるイノケントはなんと別の浮遊島に乗ってそれを念力で自在に操るように飛ばして来るという予想だにできないような移動方法を使ってあっという間に追い付いてきたのだ。

 

なのはは魔力も体力も底を尽き、敵に完全に追い詰められて絶体絶命のところだった。 全身血塗れで地を這う彼女の目の前に再び立ちはだかったイノケントが()()()()()()()()()()()()()()を浮かべて、いざ放とうとしてきた鞘付き長軍刀の一突きで彼女がとどめを刺されようとしたその刹那、ウィングロードに乗って一番乗りで駆け付けたスバルが二人の真上から飛び降りて間に割り込み、イノケントの突きが放たれる前に不意打ちで奴の鳩尾にカウンターブロー(リボルバーキャノン)を叩き込んだ。

 

結果から言って急所に入ったスバルの一撃はイノケントに大したダメージを与えるまでには至らなかった。 果たして相手が所持している戦術オーブメント《PARAISO》の身体強化機能によるものか、奴の全身に漲る絶大な霊力を意識的に操作して打点防御に回したのか、その両方かはスバルには全く判別できない。 ……しかしそれでも、今年春先にあった機動六課の部隊発足からこれまでの約半年間、管理局の最優の魔導師(エース・オブ・エース)たるなのはの厳しい指導の下で土台の基礎鍛錬から来る日も来る日も鍛え続けて練磨し抜かれた、逆境を打ち砕くストライカーの鉄拳は少しながらも魔王の鋼鉄の肉体を殴り飛ばした。 スバルの右拳(リボルバーナックル)が懐に打ち込まれた直後、イノケントは鳩尾から背中へと衝撃が通り抜けて背後に立っていた針岩十数本が砕け折れる程に痛烈な反動を受けて軍靴の踵を削り、2アージュ程度の短距離だが完璧に後方へ突き飛ばされたのだ。

 

その僅かに距離が開いた隙を決して逃さずにスバルは背後に庇っていた己の敬愛する恩師(なのは)を腕に搔っ攫って、素早く後方に聳えていた針岩の壁際に深く傷付いた恩師の背を預ける。 そして重傷の恩師に代わり、一人最強の魔王に一対一の戦い(タイマン)を挑んだのだったが──

 

「──ハハハッ、成程よなぁ。 流石はあの『叙情的(リリカル)なる魔法少女と戦記』の準主役たるスバル・ナカジマだ。 知ってはいたが、師匠譲りの気強さと不撓不屈の闘志を確かに受け継いでいる。 何よりもこれ程までに完膚無きまでに叩きのめされて、俺との絶対的な力の差を骨の髄まで刻まれて尚も、決して諦めたりせず絶望など微塵もする気など見せない、すこぶる強き希望(ヒカリ)を宿したお前の大きな眼差しが、魔王たる俺の戦意を魂魄ごと気圧してくるなどとは……フハハハハ、まったくもって素晴らし過ぎるッ!!」

 

「はぁ、はぁ! ……そ、そんなに余裕ぶっこいて、よく言うな! アンタなんかに褒められても……ぜぇ、ぜぇ! ぜ……全然嬉しくなんか……ない……よ……ッ!!」

 

結果は御覧の通り、全く歯が立たずにギッタンギッタンに叩きのめされ、惨たらしい程の満身創痍で肩で息をしている有様であった。 この背を見守る恩師のように力無き人々を護るべくして錬磨してきた自慢の拳は、目の前でこちらが健気に頑張る姿を見て一人勝手に感動している次元魔王(バカ)の鋼鉄の肉体に幾度となく打ち込もうと砕く事が出来ぬばかりビクともさせられず、逆に亡き母の形見であるリボルバーナックルの外装と共に砕け散った。 「深い傷を受けて倒れた恩師には絶対に手出しはさせぬとして魔王へと捨て身で挑み掛かってくる勇者に対し、格下だからと舐めて掛かって反撃一つしないのは敬意に反するだろうな」と言った相手が反撃として振るってきた鞘付き長軍刀に左腕をへし折られて、中に埋め込まれていた戦闘機人の機械の骨組みが露出しバチバチと漏電の音を鳴らしている。 そしてこちらの勇気に敬意を称するようにして容赦なしに振るい落としてきた追撃のメガトン級威力の唐竹割によって脳天をかち割られ、額に巻いたトレードマークの白い鉢巻が大量の血で真っ赤に染まり、そこから滴り落ちる流血で右目が潰されている。 もし彼女が戦闘機人ではなく普通の人間の魔導師だったら今頃は間違いなく無情に猟奇的(スプラッタ)な死に体を曝していた事だろう。

 

相手との実力の差は文字通り次元違いであった。 残念ながらスバル一人だけではこの《次元魔王》を打倒できる可能性は万が一にも存在していない。

 

「スバル……もういいから……わたしを置いて君は……逃げて……!」

 

「はぁ、はぁ……断じて……ぜぇ、ぜぇ、御断り……しますッ! ゲホッ、ゲホッ! 幾らなのはさんの……言う事でも……はぁ、はぁ……あ、貴女を見捨てて逃げるだなんて、死んでも……嫌です……ッ!!」

 

「ああ、それも美しいよなぁ……。 傷付いた互いを労り、大切な相手を護る為に自ら進んで己の命を差しだそうとする慈愛と自己犠牲に溢れた戦乙女(ヒロイン)の尊き精神、実に見事なものだよ」

 

「うる……さいッ!! 魔王を名乗っている癖に人をよく褒めるな。 気持ち悪いんだよ──ッ!!」

 

スバルは背中に庇った恩師の言う事に逆らい、自分達の庇い合う姿をまるで恋愛舞台ドラマの告白シーンでも見ているかのような恍惚とした微笑みを浮かべながら賞賛を述べてきたイノケントへと向かって残る力を振り絞って岩地を蹴り、渾身の跳び回し蹴りを奴の側頭部へと薙ぎ放つ……が、遠心力を乗せて叩き付けた黄金の右脚すらも次元魔王を微動だにさせる事すらできず。 超合金でできた柱を生足で蹴りつけたかのように首元で勢いを止められると同時に痛烈な反動が返ってきて打面部分より痙攣の波が全身に駆け巡る。

 

「痛────っつあああッ!!?」

 

「ふははは! 非常に真っ直ぐで良い蹴りだ。 だが魔王(おれ)には効かんよ。 そぅらお返しだッ!」

 

「ぐほああッ!!」

 

イノケントの首元に蹴り入れて痙攣した恰好のまま、クレーンで大きく振られた巨大鉄球のような破壊力が乗った相手の踏みつけ蹴り(ヤクザキック)で元々バリアジャケットで露出していた生腹が突き刺され、守るべき恩師が力無く凭れ掛けている真横の岩壁に蹴飛ばされて、大の字貼り付けで背中から激突した。

 

「スバル──ッ!!」

 

「が……あが……ガホッ、ゴホッ! ……まだ……だ!」

 

「クハッ、そうだ。 まだまだこんなものでは終わらないだろう? 俺がずっと思い焦がれてきた不屈の魔法少女(ヒロイン)らよ。 ……立て! そしておまえ達のその不屈の輝き(ヒカリ)を全て余さず俺にぶつけて来るといい!!」

 

「言われ……なくても……!」

 

壁に叩き付けられた衝撃で持っていかれそうになった意識を気合いで持ち堪え、スバルは壁から剥がれ落ちさせた満身創痍の身体に限界を超えろと鞭を打ってよろよろと立ち上がる。 彼女が魅せる不屈の輝き(ヒカリ)に惹かれるようにして喜悦を顔に浮かべながらゆっくりと歩み寄って来る人知を超えし最強の魔王イノケント。 英雄達の輝き(ヒカリ)を欲するが為に抗いようのない理不尽を携えてやって来る光の魔王の手から自分の大切な人を守る為なら、誰かを助けれる立派な魔導師に成る事を夢見る機人の少女は何度だって立ち塞がる!

 

「駄目だよスバル……これ以上やったら……戦闘機人の君でも只じゃ済まないよ。 ……そうなったら君の目指してきた夢だって……叶わなくなるんだ。 だからわたしの事は──」

 

「絶対に嫌です! だってあたしには貴女が必要なんだ、なのはさん! それに、今大切な人一人も守れないで逃げ出したりしたら、あたしは一生貴女のような助けを求める誰かを救う事のできる立派な魔導師にはなれやしない──ッ!!」

 

「ッ!?」

 

先日に起きたゆりかご決戦の前に【五番目】の名が付けられていたスカリエッティの戦闘機人(ナンバーズ)の一人と彼女が力を暴走させて激突し相打ちになった時よりも凄惨な損傷状態を抱えてまで次元レベルで戦闘ランクが隔絶している敵を相手に無謀な戦いを挑み続けるスバルの事を見ていられず、なのはは彼女の背中に向かってもうこれ以上自分を守らなくていいから逃げろと必死に枯れかけた声で訴えたが、彼女はどこまでも強情になのはの願いを突っ撥ねた。

 

大事な教え子の未来が敵の手によって無情にも打ち砕かれる光景を見る事は教導官としてもなのは個人としても非常に耐えがたいのだろうが、スバルだって自分の敬愛する恩師にこれ以上傷付いて欲しくないと思う気持ちは負けていない。 仮にもし立場が逆だったならば、なのははスバルが自分を置いて逃げろと訴えても今の彼女と同じように相手の要求を拒否して最後まで諦めず傷付いた相手の事を守って敵に立ち向かい続けるのだろう。 相手を大切に思う気持ちは二人共同じなのだから。

 

「四年前に遭った空港火災であたしが一人逃げ遅れて火の中に取り残された時も、機動六課に入隊してからその後も、なのはさんは何時だって未熟なあたしの事を助けてきてくれたんだ! 今度はあたしがなのはさんの事を守ってみせるんだ!! だから、絶対に逃げたりなんかするもんか──ッ!!!

 

「スバル……」

 

「くは、ふははははは! いいぞ、それでこそ我が崇拝と賛美を掲げし光の英雄だ。 己が愛する人や世界を害せんとする魔の手から護る為に抗いようのない絶大な力を持つ敵へ愛と勇気を持って立ち向かい、たとえ己の持つ全ての力が相手に全く通用せずどれだけ打ちのめされようとも決して諦めずに幾度も立ち上がって限界を超えていく。 その輝き(ヒカリ)こそ光の魔王(おれ)が求めてやまないものなのだ」

 

血が滴る歯を噛み締めて不退転の意思を叫ぶ愛弟子の頼もしくも痛ましい背中を見てなのはは見開いた大きな瞳を当惑と悲痛に揺らがせる。 既に半壊状態(スクラップ寸前)に陥っている半機械の身体を引き摺って尚も魔王(じぶん)の前に立ち塞がり続けて諦めない希望の目を向けてくる青き格闘魔法少女の高潔で勇ましい姿を前にしてイノケントは誠に天晴と言わんばかりの哄笑を発し、惜しみない賞賛を目の前の真の勇者へと送りつつ彼女が示したその“輝き(ヒカリ)”が見たかったのだと告白して嬉しい悲鳴をあげる。 「英雄(ヒーロー)とはやはり最高だ!」と。

 

「だが、まだまだ俺は物足りないぞ。 故に、()()()だ。 もっともっともっと、英雄(お前達)輝き(ヒカリ)を俺に見せてくれ! 肌で感じさせてくれ! この目に! 身体に! 心に! 魂に! 熱く焼き付けさせてくれ──ッ!!」

 

イノケントは最高潮に感極まって両腕を盛大に広げ、英雄(スバル達)に更なる多くの光を求めて熱烈な想いを語り告げる。 そして未だに鞘から刃を抜かぬ長軍刀の切っ先を彼女達へ差し向けて、先程以上に極大なる闘気と霊圧を全身に激しく漲らせた。 終末の世界が割れんばかりに激震する。

 

「んぐ──!!?」

 

「きゃ……あ″あ″あ″あ″──ッッ!!!」

 

さあ、どこからでも掛かって来るがいい勇敢なる三世界の英雄達よ。 その輝き(ヒカリ)をもって、この《次元魔王》へと立ち向かって来い! 位相と次元をも突き破って現実の世界(ミッドチルダ)をも崩壊させかねない程の魔王の重圧(プレッシャー)を受けて最早限界ギリギリだったなのはとスバルの精神が耐えきれずに敢え無く圧壊させられる──

 

「「──させるかッ!!!」」

 

そのあわや万事休すとなりかけた、まさにその寸前であった。 イノケントが発した闘気によって彼等が立っている岩石浮遊島の外周を囲んでいた無数の針岩がへし折れてそれが浮上し、直後に確固たる意志と覚悟を乗せた青年と少年の声が聴こえてくると共に島の下二方向からそれぞれ灰色橙色の閃光が一直線に襲来。 島の周囲上に浮遊した針岩の残骸を空中の反射足場に利用する形で二色の閃光が対峙していたスバルとイノケントの間へと割り込んでその地面に突き刺さり、その場に爆発したような多量の粉塵が舞った。

 

「なのは、待たせてすまなかった。 もう大丈夫だ」

 

「スバルもよく頑張ったな。 あとはオレ達に任せてくれ!」

 

間も無く粉塵が晴れて姿を現したのは勿論主人公(ヒーロー)の二人──《灰色の騎士》リィン・シュバルツァーと《ボンゴレⅩ世(デーチモ)》沢田綱吉であった。 二人は無想の霊力(マナ)を纏わせた一太刀と全ての調()()を為す大空属性の炎を振るい、なのはとスバルを圧し潰そうとしていたイノケントの霊圧を一時的に断ち切って静め、重圧から解放された戦乙女二人(ヒロインら)を背に守護する形で最強の魔王(イノケント)へとスバルに代わって相対する。

 

「リィン……君!?」

 

「ツツッ、ツナさん!!」

 

「くはははは! 此処で真打登場か。 そうであろうそうであろう♪ やはりヒロイン達が絶体絶命となったこの土壇場のタイミングに満を持して参上するよなあ、主人公(ヒーロー)ならばッッ!!」

 

非常に頼もしく、安心感がある背中を見せて只今馳せ参じたリィンとツナに思わず驚きの声をあげるなのはとスバル。 そして彼等二人がこのタイミングで現れる事を確信していたように愉快に嗤い声をあげたイノケントが諸手をあげて主人公二人の登場を歓迎した。 だが二人は静かなる嚇怒を灯した目でイノケントを睨む。

 

「御託はいい。 たとえお前の目的が何であろうと、お前はなのは達をこんなにも酷く傷付けたんだからな……」

 

「絶対に許さないぞ、イノケント! 力尽くでの手段は嫌だったけど、お前だけは別だ。 オレ達の全力でお前を叩きのめして、お前が傷付けたスバル達とミッドチルダ(彼女達の世界)に住む人達に土下座させてやる……ッ!!」

 

二人はイノケントがなのはとスバルの事を理不尽に傷付けた事へ対して激怒していたのだった。 普段は基本的に誰にでも優しく接する温厚な性格である二人だが、今は修羅の如き剣呑とした視線を対峙する魔王が向けてきている好奇な視線と衝突させて火花を散らさせ、噴火直前の火山のような赫々とした雰囲気を放っている。 全身には相手が発しているものに勝るとも劣らない凄みが掛かった気迫と闘気が包んでおり、魔王が創った支配領域であるこの終末の世界全体を相手の重圧と共振し諤々と震撼させている。 その影響を受けて地上から剥がれた木々や建造物ばかりか細かく砕かれた岩や瓦礫までもが上空に浮き上がってくる。

 

二人の怒りはそれ程までに(おお)きいのだ。 傷付けられたのはたかが今日出会ったばかりの他人だろう、だから別の世界から来た人間がそんなに激怒する事ではないって? ふざけるな。 人が理不尽に傷付けられて怒らない奴などただの薄情者だ。 ましてや女性が嬲り殺されそうになっているのを見て見ぬふりをするなど英雄どころか男が廃るというものだろう。 相手の事情を聞こうともせず問答無用の武力行使で強制排除をしようとするなど英雄(ヒーロー)気取りの俗物だとは言ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものは確かに存在しているのだから。

 

「ククク、いいだろう。 俺も最初(ハナッ)から英雄(お前達)の力をこの身で体感する為に《TTO》を使って英雄達と魔王が戦うのに相応しい終末の舞台を用意したのだからな。 本気で戦ってくれるのならば寧ろ望むところ、男失格覚悟の上で女達を殴った甲斐があったというものだ」

 

「くっ! お前──」

 

「ツナ、相手の言葉に冷静さを失うんじゃない。 心頭滅却すべし、されど内なる意思と魂には覚悟の炎を燃やして……やるぞ、ツナ!」

 

「ああ! お前も頼む、ナッツ!!」

 

「ガオ!」

 

乱れた心や半端な力ではこの埒外の魔王を倒す事など絶対に不可能だろう。 ツナが相手の挑発に冷静を欠いて思わず食って掛かりそうになったのをリィンが今にも爆発しそうな自身の内なる激情も共に諫めると、二人は我を制して静かなる闘志を燃やして“全力”を解放する。

 

灰色の騎士は明鏡止水の心に精神を統一し、空の女神の加護に祝福されし大陸に伝わる黒鋼で鍛えられた天地を切り裂く緋色の神刀を正眼に構えて、胸の内に秘めた“神の氣”を己が(うち)のままの呼吸をもって呼び起こさんとする。

 

大空の守護者は“大切な皆を守る”という自身の抱く覚悟を額と拳に灯した炎へと籠め、肩に乗せた己の分身たる炎の鬣を持つ小獅子に自身の全力を引き出せる最強の武装となって一体となるように命じる。

 

すぅー……こぉぉぉ────(しん) () (ごう) (いつ) ッッ!!!

 

形態変化(カンビオ・フォルマ)──全力解放(リベラツィオーネ・ポテンザ・ボンゴレギア)ッッ!!!

 

「GOOOOON!!」

 

そして両雄絶唱ッ! 爆放ッ! 大気をも激震させる無限の力が爆発するように解き放たれ、二人の若き英雄から天上を衝く程に巨大な灰色と橙色の光柱が高々と立ち昇るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の“炎の軌跡講座”はお休みです。


本日は『THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡』の最新話もこの後に続けて更新します。 そちらの方もお楽しみに♪


アリサちゃん「次回はリィンとツナヨシ君が全力(全開までではない)を出して大暴れするわ! サブタイ予告は『神氣絶唱(しんきぜっしょう)ボンゴレギア』よッ!!」

グナちゃん「オイコラ。 サイコウチョウニモリアゲルバトルカイデ、サブタイヨコクガネタスギルダロ!」

某元《殲滅天使》兼未来の生徒会長「この身はオーバルギア……じゃなくて普通のクールな美人女子学生よ。 馬鹿一直線に叫ぶのは義姉のキャラだしね」

フェイト「サキモリ? バイクの乗り捨ては危ないし、壊すと勿体ないからやらないよ(それに私、車派だし)」

某B級遊撃士《零駆動》「ハハハ、まさしく愛だな」

某映画女優兼痴女怪盗「何故そこで愛ッ!?」

某大空のアルコバレーノ「カップラーメンはこの前に初めて食べましたけど美味しいですね。 ヨーヨーとスケートはまだやった事がないので、是非一度やってみたいです」

アルティナ「世界を壊す、歌があるッ! ……そんな歌があったら最悪ですね。 もしそんなのを歌うような凄く迷惑な人には問答無用でソラリス・ブリンガーします」

某ラニキ「ちょっと待て!? 俺は錬金術師なんかじゃねぇし、局長でも全裸でも神様モドキでも大佐でもねーっての! だからオラオラは止めてくれーーー!!(泣)」

某庭園《棘の管理者》のキチホモ「女の身体が完璧だってぇ? アハハハ、笑える冗談じゃないかww。 だって完璧なボスは大陸一イイ男だからねぇ♪」


う~ん、カオスになったな……とにかく、次回更新の執筆も頑張りますね。(もう今年年内には無理っぽいけど……)



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神氣絶唱ボンゴレギア

*とある急に歌い出す戦姫の異世界にて──

ゴールデンアーマー終焉BBA「心は確かに折り砕いたはずだ……なのに、何だそれは。 私が作ったものか? お前が纏っているそれは、いったい何なのだ!!」

(あおぐろ)の魔装鬼「GAAAAAA!!?(略:此処はどこなんだぁぁぁぁ!!?)」

EXビッキー「シ・ン・フォ・g……って、誰ですかッ!!?」

悪夢を纏ってます。(笑)


2023年初更新初っ端から、くだらないボツネタをごめんなさい。(土下座)




「「きゃあああっ!?」」

 

リィンとツナが高らかと終末の世界に絶唱を響かせたと同時に二人を(おお)って煉獄の空を突くように天高く立ち昇った灰色(グレー)橙色(オレンジ)の光柱。 その真後ろに控えていたなのはとスバルは二色の極光に視界を眩まされて堪らず目を伏せて瞑り悲鳴をあげてしまう。

 

「素晴らしい……!」

 

地上から見上げたなら煉獄の大空に浮かんだ岩石島に灰色と橙色の光の巨塔が並んで聳え立ったように映っている事だろう。 まるで絶望の闇に覆われた世界に天から希望の光が二つ射したかのような非常に神々しい光景を眼前にして魔王(イノケント)が感動的に大きく見開いた目の瞳をその二色の光で焦がしながら見惚れている。

 

このまま無限に湧き出し続けるかと思われた二色の光塔はやがて収束をしはじめ、細くなって消失する。 するとそこに姿を現したのは【迸り輝く灰色の神氣を纏いし剣聖】と【橙色の神炎を灯す籠手(ガントレット)を両手に装着した大空の守護者】であった。

 

 

リィン、黄昏の鬼の力──≪神氣合一覚醒状態≫

 

 

ツナ、《ナッツVer.X(イクス)》全力解放形態変化──≪大空のVG(ボンゴレギア)

 

 

「ううっ……いったい何が──ふ、ええっ!?」

 

「どど、どうなってるの!? ツナさんとリィンさんが叫んだら二人から物凄い光が出て、変身しちゃった……!!」

 

リィンとツナから立ち昇った光の柱が消失して目の眩みから回復したなのはとスバルは恐る恐る瞼を開き、灰色と橙色に塗り潰されていた視界が景色を取り戻すと同時にリィンとツナの非常に様変わりした姿を眼に映し、二人は思わず背筋をピンと反らして豊満な胸元を弾ませてしまう程に物凄い驚愕を発していた。

 

燃え盛る炎のように激しく漲らせて灰色に迸り輝く神秘的な霊圧闘気(オーラ)を脚下から放出し、それを全身に纏せて何処か神々しい雰囲気を放っているリィン。 X(イクス)の文字を両手の甲に刻み、その上の手首に炎の噴射口が取り付けられた籠手(ガントレット)を装着して、その両手に太陽の如き眩い光輝を放っている濃厚な橙色(オレンジ)の煌炎を力強く握り締めているツナ。 打倒すべき次元魔王を睨みつける両者の双眸は怒れる獅子の如く烈々としていて、二人が発する霊圧と炎圧は大気を層ごと震動させて音よりも(はや)く墜ちてくる落雷をも地に到達する前に弾けて消滅させる程に膨大であった。

 

「スバル、なのはの事を頼む」

 

「は……はい」

 

リィンは一瞬チラリと肩の後ろに目を向け、全身に見るも悲惨な程の重傷を負ってぐったりとしているなのはを自身も片腕を欠損するレベルの負傷を負いながらも必死に背に庇っていたスバルに此処でなのはの身を守っていているようにと頼む。 咄嗟に言われて一瞬戸惑いながらその頼みを了承するスバルの返事を聞いたリィンはツナと共に威風堂々と並び立って魔王(イノケント)と対峙する。

 

「よし……いくぞ、ツナッ!!」

 

(おう)ッ! 覚悟しろイノケント。 オレ達の死ぬ気でお前を倒すッ!!」

 

「ふははははー! さあさあ来るがいい、リィン・シュバルツァー! 沢田綱吉! “可能世界”と“七輪世界”を代表する偉大なる主人公(ヒーロー)らよ!! お前達の持てる勇気と力の(すべ)てをもって、この《次元魔王》イノケント・リヒターオディンを(たお)してみせろ──ッッ!!!」

 

リィンが周囲の空気を陽炎のように揺らがせる程に濃色な灰色の霊気(マナ)を刃に纏わせた《神刀【緋天】》の切っ先を、ツナが煉獄色の空に橙色(オレンジ)の陰りが混ざりだす程に濃厚な大空属性の炎を輝かせる右拳の《X(イクス)ガントレット》を、毅然とそれぞれ正面に敵対するイノケントへ突き向ける。 対するイノケントは己が信奉する主人公の二人から本気の戦意を向けられて感極まる哄笑を大声であげるとそのまま笑顔全開で霊圧を絶頂にまで高めつつ鞘に納めた長軍刀──《天魔刀【信長(のぶなが)】》を高く構えて魔王(じぶん)へ挑む勇者達を迎え撃つ。

 

……(シッ)ッ! ──(ゴウ)ッッ!! ────(バゴォォォン)ッッッ!!!

 

そして緊張感が頂点に達するよりも早く、繰り出しの初動だけで周辺の大気を彼方まで吹き飛ばす威力を乗せた太刀と拳が魔王の長軍刀と激突した。

 

今宵の物語の主役たる三世界より集いし若き英雄達とその宿敵(ラスボス)となる次元魔王。 その両者の因縁が始まりを告げる初戦は直径150㎡の岩石浮遊島の三分の一が爆ぜた轟音と共に開始された。

 

終末の世界の煉獄の大空に巻き起こされた入道雲の如き巨大な爆煙の中から三つの孔を空けて突き破り、それぞれ灰色(グレー)橙色(オレンジ)群青色(ウルトラマリン)の閃光が三色横並びで飛び出てくる。 群青色の閃光を中心に左右を他二色の閃光が挟み込んだ瞬間、挟み撃ちした二色の閃光が群青色の閃光に弾き返される。 同時に鋼を叩き鳴らすような甲高い衝撃音が反響し、明滅する波濤が大気を伝播して音速で周囲へと拡散され煉獄の大空に悲鳴をあげさせた。

 

左右に弾き飛ばされた灰色と橙色の閃光は重力崩壊された終末の世界の宙空に浮遊する障害物(地上デブリ)にぶつかって再反射され、暴嵐の如き衝撃波を竜巻状に纏い大気と征く手を塞ぐ浮遊障害物を光の(はや)さで蹴散らしつつ煉獄の大空を翔け抜ける群青色の閃光を再度挟撃。 だが三閃が交錯した刹那、再び猛烈な波濤が撒き散らされて灰色と橙色の閃光は甲高い衝撃音が反響するのと一緒にまた群青色の閃光に易々と弾き返されてしまう。

 

すると今度は灰色と橙色の閃光が弾き飛ばされた矢先で疎らに散らばり漂っていた浮遊障害物群を利用してプリズムのように乱反射しながら加速し、群青色の閃光の前に先回りして仕掛けた。 だがしかし結果は変わらず灰色と橙色の閃光が明滅する波濤と甲高い衝撃音と共に群青色の閃光に蹴散らされる。

 

それでも諦めず灰色と橙色の閃光は行く先に散らばる浮遊障害物で縦横無尽の乱反射加速を繰り返しながら群青色の閃光へ絶え間なく全方位突撃(オールレンジチャージ)を浴びせていく。 ギャリリリリリィィィ──! という天が割れそうな断続衝突音を鳴り響かせながら煉獄の大空に三色の軌跡で乱雑な幾何学模様を描き、その後を異次元の勢力を伴った衝撃風が追って来て引かれた線を粉々に割り砕くようにして搔き消していく。

 

熾烈な光速空中戦(ライトニング・ドッグファイト)を繰り広げる三色の閃光はやがて螺旋渦状に巻き重なり合う形になり、常人の耳の鼓膜なら十分離れた距離から聞いてもその瞬間に即破けて聴覚が即死してしまうだろう程の壮絶な音量の剣戟や打撃や空を切る音を矢継ぎ早に打ち鳴らしながら三者錐揉みして、全長約200mで引き千切られた浮遊首都高速道路(ハイウェイ)の上へと墜落したのだった。

 

空中橋状を取る浮遊首都高の中心に大きな蜘蛛の巣状の墜落跡(クレーター)を造って三色の閃光は勢いのまま弾かれるようにして片端側に灰色と橙色、もう片端側に群青色と別れて放物線を描き亀裂だらけのコンクリート路面を削ってブレーキを掛けるようにして着地した。

 

「くは、ふははははは! 実に良い。 まさか二人共に初見にも拘らずにこの『天地崩壊・神々の黄昏(俺のTTO)』の“領域効果”を曖昧ながらに理解して、こうも俺の動きに追い縋って来ようなどとは……ククク、いやはや恐れ入ったぞ。 流石は幾度となく世界の危機を救ってきた英雄(ヒーロー)達だな!」

 

群青色の閃光の正体は山並みに巨大な霊圧闘気(オーラ)を纏ったイノケントだった。 彼は最高に愉快そうに哄笑を響かせつつ、自分が立った浮遊首都高橋の切れ端から中央に出来た墜落跡(クレーター)の向こう側を見据える。 その反対端の手前に着地して強大な霊気と炎を纏わせた得物を構えながら迷いなき戦意を宿した目で射抜くようにこちらを見据えてきている二人の英雄(ヒーロー)に向かって自分の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を実に愛おしそうに指で撫ぜながら偽り無き賞賛を送った。

 

「う……ぐっ。 二人掛かりの波状挟撃をほぼ無傷(ノーダメージ)で捌ききっておきながら……よくもそんなに褒めてくれる……な……ッ!」

 

「ゴホッ、ゲホッ! おまけに鞘に入れたままの刀なんかでこっちの攻撃を全部的確に受け返し(カウンター)してきて……オレ達の方は今の空中戦だけで二人共大きなダメージをくらわされたってのに……ッ!」

 

無論、灰色の閃光は《神氣合一》の強化戦技(クラフト)を使用して神氣を纏う“覚醒状態”となったリィンで、橙色の閃光は遠くから見ると全身に纏っているように見える程に巨大に輝く“大空属性の炎”を額と両手の籠手に灯す《大空のVG(全力解放状態)》のツナであった。 だがしかし、橋の逆側でダメージが無いに等しい軽傷で余裕綽々と嗤っている相手に対して、彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、息も肩でしているという程まではギリギリいっていなさそうな様子だがもうかなり余裕がない息遣いになっていた。 戦闘続行はまだ大分可能であるダメージ量なので、二人はなんとか踏ん張って太刀と籠手をそれぞれ構え直し、橋の中央にできた墜落跡(クレーター)を挟んだ逆側から「もっと本気を見せろ」という熱視線を向けてきているイノケントへと油断なく何時でも突撃できるように、同時に何処から不意打ちが来ても回避できるように半前傾姿勢になって睨みつける(ロックオン)

 

「ははは。 まあ確かにそうだな。 先程のスバル・ナカジマは割り込みの不意打ちだったとはいえ、この俺に確かな一撃を入れたのだからな。 ……だが、彼女よりもずっと数多くの強者と戦って打ち倒してきた主人公(お前達)ならば、まだまだ()れるだろう?」

 

イノケントはそう少し失敬だったなと肩を竦めて言いながら先程のスバルとの戦いで彼女の鉄拳を受けた腹部を摩り、そのままその手を外套の懐に入れるとその中から長方形状の二重層構造携帯端末機の型をした戦術オーブメント──《PARAISO(パライゾ)》を取り出す。

 

「さて、次は魔法攻撃も交えてゆくぞ……《PARAISO》駆動(ドライブ)開始だ!」

 

「っ! そうはさせるか!!」

 

イノケントが《PARAISO》を片手に持ち掲げて、導力魔法(アーツ)発動の為の駆動詠唱をしようとしたその刹那、詠唱陣が出る前にリィンが先に動いた。

 

八葉一刀流──()の型、疾風(はやて)

 

太刀を肩の上に振り掲げて突撃の構えを取ったと同時に一陣の疾風と化して、“火”を想わせる赤色の詠唱法陣を足下に展開し駆動開始した魔王へと駆け出す灰色の騎士。 常人の動体視力では疾走する姿すらも映すことは適わない、縮地の歩法をもって一息に相手へと距離を詰めて斬り抜けるという、八葉一刀流の“七つの基本の型”の中で最速の太刀が第()の型《疾風(はやて)》である。

 

──導力魔法(アーツ)など撃たせてたまるか! 相手の駆動(ドライブ)が完了する前に最速の一太刀で──

 

「──(はや)いな……だが──遅いッ!

 

「何──ッ!!?」

 

その刹那、誰の目にも映らぬ疾風の速度で駆け出したリィンは加速する世界の先にとても信じられない衝撃の現象を視る。

 

浮遊首都高橋の端からその反対側の端に立つ相手まで約200mもあるが、彼は1秒と掛からずに橋の中央にある墜落跡(クレーター)を踏み越えて来ている。 だがしかし、驚く事にイノケントはそれよりも早くほぼ無詠唱(ノータイム)で詠唱駆動を完了させて攻撃導力魔法(アーツ)を発動させていたのだ。 しかも──

 

「《ファイアボルト》──三重発動(トライバースト)ッ!!

 

──そんな馬鹿な、()()()だと────ッッ!!?

 

中距離(ミドルレンジ)に迫ったイノケントの正面に三重の術式法陣が展開され、そこから火属性の下級攻撃導力魔法(アーツ)──《ファイアボルト》が三発矢継ぎ早に撃っ放たれて来るのを見てリィンは常識外れだという驚愕を露わにした。 真正面一直線のコースとはいえ文字通り風よりも(はや)い速度で駆け抜けているリィンへと精確に直撃する計算された弾道、しかも三発共通常のファイアボルトより三倍以上もの大きさがあるうえに耳を劈くような発砲音が遅れて響いてきた事から音速(マッハ)など優に超える弾速だ。

 

「クッ──!!」

 

リィンは音よりも速く迫り来る三発の巨大火球を目前にして苦難を示すように表情を歪めると脚捌きを駆使する事で高速を維持したままジグザグの曲がり(カット)を連続で切ってみせ、流麗な雷軌道走法(サンダードリフト)で巨大火球を三発全て擦れ擦れに絶妙回避。 左・右・左と身体を掠った三発の巨大火球がすぐ後方の路面に着弾して橋を爆砕する。 天地が激震する程の猛烈な爆風を背中に置き去りにしてブッチ切り、文字通り疾風迅雷の如き加速度で橋の先に待ち受けるイノケントの懐へと踏み込んだ。

 

──導力魔法(アーツ)三連発動(トライバースト)には驚かされたが、魔法使用後の硬直で相手に隙が生まれるだろう。 この速度の踏み込みの一太刀なら、まともに入れば幾ら魔人級だろうと一溜りもない筈──

 

リィンは雷速の疾風と全身から溢れ出る灰色の神氣を伴った一太刀をイノケントの肩口から袈裟に振り下ろす。 さすがにこれで仕留められるとは甘く考えていないが、少なくともこの一刀で大ダメージを与えられる自信があった……だがしかし、振り下ろした緋色の刃はガキィィン! という鈍い金属同士の衝突音を鳴らして虚しい火花を散らせた。

 

「な……に──ッ!!?」

 

あまりにも衝撃的な攻撃結果を瞳に映したリィンの双眸が唖然と大きく見開かれていた。 相手の急所(クリティカル)に確実に入ると思われた疾風(はやて)の一太刀は即座にイノケントが振り翳した()()()()()によっていとも容易く受け止められたのだ。 しかも驚愕すべき事にリィンが己の内から練り上げた“異能の力”を用いて最強の太刀である《神刀【緋天】》に雷速の威力を上乗せして振り下ろした、その一刀は並み居る実力者でもまとも受ければ数字化して少なからず数十万以上もの超過ダメージを確実に与えられる超過必殺(オーバーキル)級の攻撃であったが、しかしそれ程に規格外な斬撃を有ろう事かこの埒外級の魔王(バカ)は防具の一つも付けていない生身の手首を盾にして切り落とされるどころか全くの無傷で受け止めてみせたのだった。

 

「くはは! 初見で《PARAISO》の導力魔法三重発動(オーバルアーツ・トライバースト)を躱したのは見事だった。 流石は帝国の英雄《灰色の騎士》にしてかの八葉の《剣聖》たるリィン・シュバルツァーだ。 ……だが、しかし惜しかったな。 生憎この程度の生半可な戦技(クラフト)じゃあ、この《次元魔王()》の鋼鉄の肉体には掠り傷一つ刻む事は適わなんぞ」

 

「嘘……だろう……」と未だに到底信じられないという呻き声を漏らすリィン。 彼の【滅・疾風】を受け止めた衝撃が心底愉しそうに嗤うイノケントの背を通り抜けて橋の切れ端から数百メートル先に漂っていた崩壊ビルの側面に巨大な蜘蛛の巣状のクレーターを造ると同時にそのビルがビリヤードの球の如く遥か後方の彼方へと弾き飛ばされて行っている光景がその戦技の威力を物語っている。 これを難なく素腕で受け止めてみせたイノケントの肉体は鋼鉄(メタル)どころか金剛石(ダイヤモンド)をも凌駕する硬さだろう。

 

──この男が持っている未知の戦術オーブメント《PARAISO》による身体能力強化機能によるものか、それとも何らかの“現世の(ことわり)から外れた異能”による恩恵か……いずれにしても、やはりこのイノケントという男は()()()()()()()()()()()()()

 

『──リィン! 一旦ソイツから離れてくれ!!』

 

「っ!?」

 

イノケントの左腕に《神刀【緋天】》の刃を圧し付けて鍔競り合いをしつつ相手が人の(ことわり)から外れた存在である事を疑っていたリィンの脳裏に念話のような声が響いてくる。 その声の指示に従って、咄嗟に脚の力を緩めてわざとイノケントの左腕に薙ぎ払われる事でリィンは相手の間合いから後方へと大きく飛び退いて行く。 先程の巨大ファイアボルト三連射によってイノケントが立っている端から10m前方までは既にもう崩落していた為、薙ぎ飛ばされて行ったリィンは『天地崩壊・神々の黄昏(この世界)』のルールに従い()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そのまま真っ直ぐと鼻先の浮遊流木へと向かってスッ飛んで行き、ほぼ一瞬でイノケントから十分な距離を確保した。

 

そして上空を見上げてみると、リィンが《疾風》で駆け出した時から既に移動していたツナが浮遊ファミレスの屋根の上に構えていて、《Xガントレット》を装着した右掌をイノケントの頭上へと向けて突き出すように狙いを定め、発射体勢を取っている姿が確認できた。

 

「ふはははは! 成程よなぁ。 先程の戦いの中でお前達二人が開眼させた、意識下(アナログ)の意志共有での接続による“疑似戦術リンク”か?」

 

「今頃気付いたところでもう遅い! これでも、くらえっ! X(イクス)カノン──ッッ!!!

 

天から轟かす威勢で叫んだツナの突き出された右掌からギャギャ!! という発砲音が鳴ると共に凄まじい速度を伴った炎の砲弾が二発撃ち出された。 それに込められた熱量はイノケントが放っていた巨大ファイアボルトの三倍以上はあるであろう(おお)きさで、大気圏から落下して来る隕石にも見紛いそうな迫力だ。

 

「いっけええええええーーっ!!」

 

ツナが大声をあげて《Xカノン》の勢いを増させる。 二発の火炎流星弾が熱量を上げて激しく燃焼し、煉獄の大空を丸ごと橙色(オレンジ)の輝きで染め上げながら超加速。 不意を突かれて崩落寸前の浮遊首都高橋の上から逃げ遅れ、その場に足を縫い止められて一瞬回避不能状態を曝したイノケントへと頭上から直撃した。

 

「ぬおおおおおおッ!!」

 

イノケントは負けじと両腕を大きく広げて己の鋼鉄の肉体全てを使ってXカノンを二発共受け止め、雄叫びをあげて気合い一発押し返そうとするが、勢いは止められず忽ち足場にしている浮遊首都高橋ごと炎の中に飲み込まれて、そのまま大爆発を起こした。

 

「やった? ……いや、全然駄目か」

 

「どうやら、そのようだな……」

 

爆心地点から直接的な被害を受けずに爆風が届く程度に離れた浮遊ファミレスの屋根の上からキノコのような形をした爆煙に覆われた爆心地点を見下ろすツナはXカノンがイノケントを直撃した手応えを確かに感じたのだが、その直ぐに爆煙の中に浮かんだ人影を見つけて眉を顰めた。 爆風に煽られてツナが足場にしている浮遊ファミレスの側に流されて来た浮遊流木の上に居るリィンも見据えた爆心地点から流れてくる益々と(おお)きく膨れ上がった魔王の圧の気配を感じ取って険しい呟きを漏らしている。

 

すると爆煙の中の人影が手にしている棒状の何かを一振りしたと同時にその人影を中心の目にして爆煙の中から天に突き破る一陣の大竜巻が発生し、直前の爆発の余波に巻き込まれて大小無数の残骸と化して散らばった周辺の浮遊障害物諸共に爆煙が全体纏めて吹き消されていく。 その中から人影の正体であるイノケントが轟々と吹き荒れる極光の威風を全身に纏いて現出。 その鋼鉄の肉体には少しの傷も付いておらず、焼け煤が被った顔は更に色濃い喜悦に染まっていた。

 

「ふはははは! なかなか上々だな♪ 二人共、今の連携は大変素晴らしかったぞ。 数刻前に出会ったばかりである相手同士なのにも係わらず、百戦錬磨の経験と培われた能力を最大限に発揮し、もう既に阿吽の呼吸に近しい相互伝達を獲得している程とは、予想以上だったよ。 流石は歴戦の若き英雄達だ。 まったく何度惚れても、益々惚れ惚れしてしまうよなぁ♡」

 

「好色に染めたような目をこっちへと向けて、気持ち悪い事を言うんじゃない」

 

「それに、最大炎圧(X BURNER)じゃなかったとは言え、まともにオレの全力の炎を受けておいて、ノーダメージでそんなにケロっとしていて、オレ達を高く評価するな。 お前本当は馬鹿にしているだろ?」

 

「ククク、それは失礼した。 だが断じてお前達(英雄)を馬鹿にできる筈があるものか。 お前達が過去に乗り越えてきた苦難の戦いや試練、理不尽なる悲劇や運命の数々を想えばな……」

 

「どうにも()せないな……お前はどうしてそこまで俺達の事情に詳しいんだ? 俺達の事を執拗なまでに“英雄”と褒め称えて心酔するのは何故なんだ?」

 

「前者の質問については、流石に()()明かしてやる訳にはいかんよ。 後者の質問についてなら、英雄を愛しているからだッ!」

 

「「何故、そこで愛ッ!!?」」

 

一瞬素っ頓狂になった主人公二人分(リィンとツナ)のツッコミ声が(ハモ)って重り終末の世界全体に響き渡った。 真剣に受け答えしているつもりなのにどうにも話がズレる所為で、上下で向かい合っている二人とイノケントの間に緊張感を欠けさせるビミョーな空気が流れている……だがしかし、他愛ない日常の中でならグダグダになって済む事だが、此処は未だに戦場である。

 

「さて、我が愛しの英雄達と他愛ない対話を続けるのも素晴らしく有意義な体験になるとは思うが、光の魔王()英雄(お前達)が苦難の最中で発する輝き(ヒカリ)()でたいのでな。 故に戦闘を続けるとしようか……」

 

イノケントがビミョーな空気を断ち切って、またまた《PARAISO》を手にした左腕を天高く掲げてみせる。 すると《PARAISO》の表面の電子画面(ディスプレイ)一瞬発光(フラッシュ)して、その直後に巨大な地震音が鳴り響き出した。

 

「なな、何だ……!?」

 

「お前、いったい今度は何をしたんだ!!」

 

リィンとツナは地上から湧き上がるようにして聴こえてきた大量の岩雪崩が起きたような地震音に耳の鼓膜を激しく叩かれて、痛烈な耳鳴りを両側から両掌で強く押さえつけながら、この事象を意図的に起こしたのであろう相手へと非難する視線を刺し、その詳細について問い詰める。 上空に居る為にどれだけの震度で揺れているのかは判らないが、約5000m上空まで耳に堪らないような地響きが届いて来ているのだから、大震災規模の大地震が地上を襲っている事は想像に難くはない……しかしその想像は大きな間違いであった。

 

「ククク、先程言った筈だよなぁ。 天地崩壊・神々の黄昏(この世界)』は俺の創造した支配領域(テリトリー)だ。 故に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだよ……例えば、このような風にな──ッ!!

 

イノケントがまだまだ英雄達と戦える悦びに興奮し過ぎて網膜が色濃く血走る程大きく見開いた両目の眉間に刀印を結んだ右手を添えてみせる。 すると終末の世界の天の中心に座して下々を睥睨していた巨大方陣に刻まれた十干十二支を示す漢字が紅白(あかじろ)い輝きを放ち出し、その文字が肉眼では読めなくなる程にまで回転が急加速されて光の車と化し、方陣全体が紅白の極光で塗り潰される。 その姿はまるで終末の世界の最期に破滅の光を差す灼光の太陽のようであった。

 

そして右手の刀印を一度解いて眉間から離し、握り携えていた鞘付き長軍刀《信長》を外套の内に一度佩き戻した左手と共に胸の前で組合わせ、九字護身の印を結ぶ次元魔王──(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──・(ぜん)!!

 

 

天覇星群(てんはせいぐん)──顕象(けんしょう)ッッ!!!!

 

ズドドドドドドドド──ッ!!

 

イノケントは九字全ての護印を結び終えると、これまでのものとは全く響きが異なった号令(オーダー)を高らかに発令した。 その直後、地上から聴こえてきていた地響きが唐突と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に取って代わり、そして遮る浮遊障害物を貫破して真下から高速上昇して来た“巨大な直方体の大群”の姿を目の当たりにしたリィンとツナはそのあまりにも非常識的な光景に思わず言葉を失ってしまった。

 

「な……に……いぃィィッ!!!」

 

「真下に見える都市に建っていた……沢山の高層ビルを……!!」

 

常軌を逸脱した景色に大きな戦慄を露わにする二人の視界に映るのは、見渡す限りの【浮遊超高層ミラービル】の群団──その総数はざっと1000棟を超え、その全てが20階層以上もある巨大ビルディングであり、それがイノケントの後方に葬列して煉獄の大空を天上から奥まで埋め尽くしていたのだった。

 

己の意のままに動く超巨大な下僕を大軍で従えた魔王の姿は言葉にできない程に圧巻であった。

 

「ふはははははー! さあ、三世界の若き英雄達よ。 此処からが魔王との戦いの本番だぞ。 これまで以上の不撓不屈の勇気をもって、見事乗り越えてみせるがいいッ!!」

 

その宣言と共に再度全身に莫大な霊圧を纏ったイノケントが激しくはためかせた外套の内側から再び《信長》を鞘ごと抜き放つ。 ブレーキが破壊された暴走列車の如く止まる事を知らない愉悦に全身全霊を浸り尽くして高嗤い続ける彼は人為的に超創生爆発(ビッグバーン)を起こして全宇宙を破壊し新たなる宇宙を再誕させる程の規模(レベル)で滅茶苦茶に身勝手な期待をこれでもかと込めて、左手に高く掲げた《信長》の切っ先(鞘尻)を上から戦慄が解けないままの揺らいだ目で見下ろしているリィンとツナへと向けて盛大に振り下ろした。 それに合わせて同時に彼の後方いっぱいに従えられていた浮遊超高層ビルの葬列が皆一斉に屋上(矛先)の照準を二人の主人公(ヒーロー)へと差し向けて、ミサイルのような猛烈な勢いをつけて発射されるのだった……。

 

 

 

 

 




う~ん、このペースで行けばあと2・3話あたりでプロローグ編を書き切れる……かな?(イノケント(バカ)がどれだけはっちゃけてくるかにもよるし(汗))


“炎の軌跡講座”は今回もお休みです。


代わりに活動報告の方でアイデア募集第二弾を開始しました。 興味のある方は活動報告の募集内容をご確認の上、よければ是非コメント覧にアイデアの応募をお願いします♪


では読者の皆様、今年も『英雄伝説リリカルREBORN! (えん)の軌跡』をどうか応援よろしくお願いします!



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天地無用の超熱戦! Wヒーロー(リィン&ツナ) VS 次元魔王(イノケント)

今回は一話全体通してバトル描写です。

活動報告の募集で御応募頂いたリィンとツナのコンビクラフトが登場します。(貴重な時間を使ってアイデアを考えてくれた【ポトフーポット】さん、今一度御礼申し上げます。 御協力ありがとうございました!)




ドドドドドドドドーーーッッ!!!

 

煉獄の大気と瘴気を無数の20階以上の高層ビル群が突き貫き、怒涛の如き勢力音を轟かせながら突撃して来る様は塔並の巨大釘が豪雨となって降り注いでくるかのような圧倒的畏怖を感じさせてくる。

 

「幾らなんでも無茶苦茶だろう!」

 

凡そ60アージュ(m)以上もの特大の体積を持った四角柱の鉄物が千を超える大規模の量で迫り来るという非常識極まりない光景を真正面から受けて衝撃的な動揺を覚えたリィンが大きく開かせた双眸の瞳を戦慄に揺らがせて不条理を叫ぶ。 彼に並び立つツナも声を失って全身から大量の汗を流し出しているという有様だ。 この攻撃はあまりにも超常災厄的で迎え撃つにはとても人の身に余り過ぎている。

 

──だけど、退く訳にはいかない!

 

──ああ、死ぬ気で突破するッ!

 

「「うおおおおおおおおっ!!」」

 

高層ビルの流星群が殺到すると同時に死ぬ気の腹を括り、二人の英雄は勇猛な雄叫びをあげると再び灰色(グレー)橙色(オレンジ)の閃光と化して果敢に飛び出して行く。 神氣合一の霊力で練り上げた“勁”と死ぬ気の身体強化で人並み外れた脚力を発揮した両雄が蹴った浮遊流木と浮遊ファミレスが同時に爆散し、強烈な爆風に背中を押されて加速をつけた二人は高層ビル流星群の隙間を縫うようにして雷鳴の如く突っ切る。 『天地崩界・神々の黄昏(この世界)』の(ルール)を利用して避けたビルの側壁面を駆け抜け、散弾のように次から次へと飛来するビルからビルへと飛び移り、絶妙に回避不可能な弾道(コース)に突っ込んで来るビルや浮遊障害物は邪魔な部分を一刀両断・炎拳粉砕して貫いた風穴を突き抜ける。 それを閃光の(はや)さと“疑似戦術リンク”を駆使して繰り返しつつ高層ビルの流星群の中を見事無傷で突破し、その先で待ち構える《次元魔王》イノケントへと音よりも速く向かって逆に二色の流星突撃(メテオストライク)をお見舞いしてやる。

 

「「イノケントォォーーーーーッ!!」」

 

「ふはははははーー! やはりこの程度は突破してみせるか。 そう来なくてはなっ!!」

 

物理的に破壊不可能の結界をも斬り砕く神氣の膂力で振り下ろされる《灰色の騎士》の閃光の一太刀、“究極の一撃”以上の炎圧を放つ神炎の籠手(ガントレット)を死ぬ気で相手を倒す覚悟と共に握り突き打つ《ボンゴレⅩ世(デーチモ)》の火を吐く鉄拳。 対して自身の大技(強クラフト)の一端である『天覇星群』を勇気と覚悟をもって見事突破してきた二人の英雄に呵々大笑で賞賛し、その英雄の輝き(ヒカリ)を喉が潰れそうな程に称えて過剰な敬意を払いながら魔の威力を存分に込めた鞘付き長軍刀で迎え撃つは《次元魔王》。 異次元の攻撃同士が煉獄の大空の中心で正面衝突し、彼ら三人を中心に超新星爆発(スーパーノヴァ)にも見紛う球体大爆発が巻き起こされた。 終末の世界が半壊する程の大規模な衝撃爆風だったが、リィンとツナはこの程度でどうにかなるような柔い死線を伊達に越えてきてはいないし、後方に残してきたなのはとスバルやこの世界の何処かしこに散らばっている仲間達への心配もあったが今は無事であると信じて戦闘に集中する他ない。

 

煉獄の大空を包んだ爆煙の中から絶え間なく剣戟や連打による壮大な乱撃騒音(ラッシュサウンド)が鳴り響き、凄まじい威力と速度で得物同士が打ち合わされる度に生じる衝撃風が爆煙を吹き飛ばして消失させる。 その中心に現れた浮遊小島の上でリィンとツナがイノケントと壮絶な超高速打ち合い(ハイスピードラッシュ)を繰り広げていた。 “武の(ことわり)”に触れた達人の手で振るわれる絶技によって灰色を纏う刃が綺羅綺羅しく閃き舞い、裏社会に流される血の争いで齎されてきた数多の悲しみを止めてきた調和の橙炎を灯す絶拳の乱打によって百花繚乱の橙色花火が咲き乱れ、そして百戦錬磨の猛者たるその二人が緋色の絵画(おおぞら)に描き出す輝き(ヒカリ)の軌跡をも魔王は鞘付き長軍刀の大筆を手に魔速の暴威をもって縦横無尽と乱雑に引き書いた群青色の斜線でその上から塗り潰した。

 

「むむっ。 歴戦を乗り越えて磨き抜かれた電光石火の如き剣閃と疾風怒濤の如き連撃による攻め入る隙間を見せぬ攻勢は大変素晴らしい。 だがその程度の輝き(原稿)じゃあ()()()──ッ!!

 

「「ぐ──ああああああっ!?」」

 

群青色の斜線によって灰色の剣閃と橙色の花火が全て塗り潰されると同時にリィンとツナが全身に無数の打撲痕を刻み付けられながら、浮遊小島から吹っ飛ばされた。 お前は漫画やラノベの編集者か!? と、鞘付き長軍刀を豪快に振り切った体勢で「ワーハッハッハッハ!」と愉快そうに高笑いをあげているイノケントにはツッコミ入れたいが、奴は正真正銘“魔人(クラス)”や“UNLMITED(アンリミテッド)(ランク)”と呼ぶに相応しい、とびっきりの強さだ。

 

──くっ……ツナ!!

 

──分かっているさ!

 

故に幾ら歴戦の勇者や英雄(ヒーロー)が複数人で束になっても、正直に正面から向かって行ってはとてもじゃないが敵わない……ならば思いも寄らない奇策で魔王の度肝を抜いてやる!

 

イノケントが立つ浮遊小島から数百メートル程飛ばされて来た所の宙空には先程彼が『天覇星群』で飛ばした高層ビル群の一部が漂っていた。 その内の屋上面(ほこさき)が丁度イノケントの方へと指し向いていた一棟のビルの上側壁面にリィンが片膝着き(ヒーロー)着地して飛び乗ると、そのビルの背後地下面へ回ったツナが死ぬ気の気合いを込めて額と《大空のVG(ボンゴレギア)》に灯す死ぬ気の炎の純度を瞬間的に上昇させる事で炎圧打撃力を爆上げした右拳(Xガントレット)を全力全開で振り被った。

 

「行っけええええええええ!!」

 

そしてツナの爆炎拳がリィンを乗せた浮遊高層ビルを文字通り大爆発の勢いで()()()()()。 超大型ミサイルが発射されるが如き威容と速度をもって煉獄の大空を爆進し、愉快が止まらず高笑いし続けている次元魔王へと60mの鉄柱を真っ直ぐ突っ込ませる。

 

「フハハハハハハ──」

 

それでも哄笑を止めず、一歩も逃げ出さず、それでいて自身へと凄まじい速度と質量と上側壁面に屈み乗る灰色の騎士(リィン)を伴って飛来した高層ビルの屋上面(ほこさき)を堂々と真正面から見据えるイノケント。

 

(グオォォォオン)──激突(ズッッガアアアアン)!!

 

直後、彼の鋼鉄の肉体は足下の浮遊小島ごと20階建築の巨大鉄柱に圧し潰される事となった。 見事魔王へ直撃した高層ビルはその瞬間に衝突の反動を受けて中部分からへし折れるようにして崩壊。 その刹那に轟いた天をも激震させる破壊音と共に大中小無数の破片となって地上に崩れ落ちていく高層ビル、その一部の成人男性約百人分は有ろう巨きさの鉄塊が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、其処へ合わせてビルが目標に命中する直前に上に跳躍していたリィンが閃光の如き速度をもって五月雨(さみだれ)太刀を刻み込んだ。

 

(れん)ノ太刀──箒星(ほうきぼし)!!

 

斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬────ッッ!! 刹那の剣閃が幾筋走り、鉄塊は人四人分程のサイズの鉄岩に複数分割される。 そしてそのまま流星群(メテオレイン)となって経った今完全に崩れ去った高層ビルの着弾地点に降り注いだ。 鉄の質量と多大な数による一瞬の暴力の豪雨はビルの崩落とともに濛々と蔓延した鉄塵の煙壁を巨大な蜂の巣に変えながらその中に潜む魔王の影を飲み込み、そのまま崩壊都市(クラナガン)の中心に雲を突き抜けて高々と聳え立つ巨大な塔──時空管理局地上部隊本部の上層を直撃した。

 

死者達は踊り、中つ大地の塔は虚しく砕け落ちる……先のJS事件の最中にとある教会の予言者が著書に書き残していた予言の一節が遅ばせながらも現実となった刹那、塔に直撃した流星群が群青色の衝撃波によって爆砕される。

 

「くは、ふはははははは!!」

 

未だ黒漆の鞘に刃を納めたままの《天魔刀【信長】》を右腕一つで豪快に一閃して己を隠す煙を自ら払い除け、上層が折れ砕けた塔の上に無傷の姿を現した次元魔王イノケント。 60mの高層ビルや鉄岩の流星群(メテオレイン)といった人の身の丈に(おお)きく収まらない規模(レベル)の質量の暴力を立て続けに受けておきながら全然ピンピンとして依然変わりなく素敵な笑顔を絶やさないでいるこの男の規格外過ぎる硬さに、数多の巨大異変を戦い越えてきた英雄が二人と言えども畏怖せざるを得ない。

 

「ハァアアアアッ!」

 

それでも世界の未来(あす)を守る為、英雄(ヒーロー)は退く訳にはいかない。 イノケントが反撃に出る前に、リィンの《連ノ太刀・箒星》から間髪入れずに相手の背後に回り込んでいたツナが折れて浮かんだ地上本部上層棟の屋上ヘリポートを蹴り、《大空のボンゴレギア》の両手炎背後放出推進(バーニア)を使った弾丸スピードをもってその背中へと突撃かました。

 

背後からの不意打ちで、煉獄の空を橙色(オレンジ)に焼き焦がし音を貫く弾丸突撃の威勢を乗せた神炎の右ブローを叩き込む──そう思って相手の背中を狙い右拳を繰り出そうとした瞬間、忽ち天辺から凍死させられそうな程の猛烈な悪寒がツナの背筋に走り、彼は咄嗟に上体を後ろに大きく仰け反らす。 その“超直感”が警報した通り、最初からツナの不意打ちを察知していたイノケントが振り返り様に払った群青色の一閃がブリッジ状に反らされたツナの腹上擦れ擦れの空間を引き裂く。 その太刀筋には異次元レベルに殺人的な鋭さがあり、鞘付き軍刀が描いた半月の先数百メートルの空域に巨大な裂け目が刻み付けられた。 その光景を上体反らした体勢で目に入れたツナは一瞬ゾッとさせた目元を浮かべたが、人知を超える事象を生じさせる難敵には慣れていた為に直ぐ様冷静を取り返すと、長軍刀を振り切るイノケントの足下をスライディングで滑り、折れた塔の断層に剥き出していた鉄骨を反射板にして蹴る。 跳弾の如く身を跳ね返えらさせて更なる加速をつけ、得物を振り切った体勢となったイノケントの背後に再び襲い掛かる。

 

しかし身躱しで後ろを突いたツナの跳弾加速パンチをもイノケントは長軍刀の柄尻を脇の下から滑り下げる事で曲技的に受け止めてみせた。 その反動に乗って片足軸に背後へクルっと迅速華麗に振り返ったイノケントと怯むことなく神炎の拳を握り相手の懐へと踏み込むツナが拳と拳を衝突させて、鋼で鉄を打つような鈍く甲高い打撃音が鳴り響き盛大な火花が散った。

 

「くぅ──っ!」

 

死ぬ気の炎のお陰で純粋な攻撃力こそ若干上回らせられたが相手とは体格と筋力の差が開き過ぎていた事により、ツナの拳が打ち負けた。 結果相手の拳に押し込まれ、後ろに仰け反って体勢を崩されて苦悶が浮かんだツナの顔に、イノケントの裏拳が追撃で叩き込まれた。

 

「ぐああああっ!!」

 

イノケントの鋼の拳の甲が減り込んだツナの左頬はドグシャアア! という小気味イイ音と共に圧し潰れ、彼はそのまま痛烈な当たりで地上本部から打っ飛ばされてしまった。

 

「ARCUSⅡ“零駆動(ゼロドライブ)”──《クロノバースト》ッ!」

 

撃退されたツナと入れ替わる(スイッチする)ようにして、後方からリィンが浮遊障害物の間を閃光の速度で飛び交いながら地上本部の折れた塔の上に向けて飛来してきた。 彼は吹っ飛ばされて行ったツナを見てイノケントのもとに突撃する直前の浮遊鉄板の上で一旦踏み止まり、このまま普通に突っ込んでも返り討ちにされるだけだろうなと思って、自身が持つ《ARCUSⅡ》に組み込んで(セッティングして)ある導力魔法(アーツ)を使用し自身に強化(バフ)をかける。 時属性の上位支援導力魔法《クロノバースト》はたとえ使用者の駆動時間がどれだけ遅かろうと既存の導力魔法の中で唯一零駆動(無詠唱)で発動させる事を可能にしていて、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という超御得な恩恵が得られるのだ。 それ故に──

 

(かさね)ノ太刀──龍炎撃・双牙(そうが)!!

 

連続行動を用いる事で戦技(クラフト)の重ね撃ちが出来る。 リィンは灰色の光線(レーザー)と化して一足飛びの一直線に浮遊鉄板から地上本部の上で待ち受けているイノケントの許へと突撃し、八葉一刀流の(さん)ノ型・秘技《龍炎撃》を()()()()()()()という即興応用技を放った。 宙を翔けながら天高々と振り上げた《神刀【緋天】》の刀身に“双頭を持つ炎龍”がとぐろを巻き天を焼き焦がす。

 

(ゴウッ)─────爆々(ババアアァァン)ッッ!!!

 

そして魔王に接敵すると同時に《灰色の騎士》は双頭の炎龍を巻き付けた刃を豪快に振り落とし、同時に炎龍が双頭同時に牙を剥いて魔王へ襲い掛かった。 左右から大口を開けて挟み込む形でイノケントの鋼鉄の肉体に喰らい付いた刹那、双頭の炎龍が二重の大爆発を引き起こし、彼の規格外に頑強な肉体を特大の業炎で飲み込む。 そのまま足下の地上本部を半壊させる規模(レベル)の爆風で吹き飛ばし、真上に浮遊していた地上本部上層棟をド派手な貫通音を轟かせて突き破り、その内部へと押し遣った。

 

「おおおおおおォォォッ!!」

 

直後、あと一つ吹けば崩壊寸前の有様となった地上本部上に着地したリィンも吹っ飛ばしたイノケントの後を追って真上を漂う上層棟に向いて咆哮し、罅だらけの足下を《ARCUSⅡ》と霊圧闘気(オーラ)と“勁”で三重強化された脚力をもって蹴飛ばした。

 

(ドッ)────崩落(ガラガラガラアアア)ッ!!

 

灰色の霊圧闘気を纏いて《灰色の騎士》が舞い上がったと同時にその超越的強化を施された脚力で踏み砕かれたのがトドメとなり、地上本部は折れた塔の頭から砕け散っていった。 この終末世界の建物はイノケントの近未来戦術オーブメント《PARAISO》のTTO(テリトリーオーダー)システムを用いて位相空間に創造された虚像(ニセモノ)であるので本物の地上本部は当然無事なのだが、先のゆりかご決戦の最中に殉職された先代の地上本部統括にこの光景を見せたら瞬間心肺停止か又は発狂(ショック)死するだろうな……。

 

閑話休題(それはさておき)重力崩壊(このせかいのルール)を利用して一直線に上昇滑空し浮遊上層棟へ到達したリィンはそのままイノケントが突き破った穴から内部へと突入。

 

「フハハハハハハ!」

 

「──ッ!!」

 

斜めに傾いた廊下の床・壁・天井を蹴り高速乱反射で奥へと進むと、エレベーターホールに出た瞬間広場の中央で待ち構えていたイノケントに奇襲を受けた。 新戦技(クラフト)《龍炎撃・双牙》をまともに受けて派手に吹っ飛ばされておいて当たり前の事のようにダメージは軽微の様相を見せながら、ヘッチャラ笑顔ウルトラZで今日もアイアイアイアイヤーと言わんばかりのハイテンションを上げつつ真正面へ弾丸突攻をかまして来る。 相手は陰から不意打ちして来ると踏んでいて予想外の正面奇襲を受けた為、面食らったように喉を詰まらせた顔になったリィンは咄嗟の反応で閃光の太刀を振るい群青色の砲弾(イノケント)を迎え撃った。

 

「《閃光斬(せんこうざん)》ッ!!」

 

「ぬぅぅぅんっ!!」

 

無型の神速二連太刀と戦技の名すら無い渾身の孤月落ろしで振り下ろされた鞘付き軍刀が正面衝突し、特大の火花がエレベーターホールに散りばめられる。 その直後に英雄と魔王両者の姿がピシュン! という空気を切り裂くような効果音が鳴り響くと共に一瞬残像を残してその場から消失。

 

「オオオオオオォォーーーッ!!」

 

「クハハハハハハハーーーッ!!」

 

同時にその階の西側端に在ったパソコン事務室の出入り口扉が木端微塵に破壊され、室内を灰色群青色の閃光が駆け回った。 英雄の雄々しい裂帛と魔王の戯れる哄笑が反響する中で室内中を縦横無尽に乱反射しながら二つの閃光は超速連鎖的に衝突と火花を撒き散らし、室内に置かれていた大量のパソコン事務机を根こそぎと轢き散らかしていく。

 

「そぅらっ!」

 

「ぐあああっ!?」

 

そうして経ったの四秒間で事務室内の物品が一切合切鉄屑と塵山化した直後に散々室内中を暴れ回った二つの閃光は消滅し、それと同時に建物の外が覗ける窓際側に出現したリィンとイノケントが再び互いの得物を衝突させる。 体力も無尽蔵に有り余るイノケントに対し、この激しい高速戦闘で蓄積したダメージにより消耗していたリィンは先程より若干勢い衰えていた。 結果、リィンの太刀はイノケントの鞘付き長軍刀に打ち負けてしまい、彼は背後の窓へ払い飛ばされ背中から硝子を突き破って外へと吹っ飛び、苦鳴を煉獄の大空に虚しく響かせて浮遊地上本部上層棟の近辺を漂っていた浮遊障害物複数を音速の弾丸ライナーで打ち抜いてから約80アージュ飛ばされた先に立ち塞がった浮遊岩盤に巨大な激突陥没跡(クレーター)を形成しながら、その中心に大の字貼り付けにされたのだった。

 

「ハハハハハーーッッ!! これではまだまだ足りんぞ? もっとだ。 もっと強い英雄の輝き(ヒカリ)を俺にぶつけて来いよなぁ」

 

「──なら、望み通りオレの死ぬ気の炎(ヒカリ)をぶつけてやるよ!」

 

砕け割れて地上へと降り注いだ硝子破片粉末(ダイヤモンドダスト)の後を追うようにして窓に空けた孔から外へ飛び出そうとするイノケント……だがしかし、気分最高に嗤いながら英雄達に魔王(じぶん)への更に強い抵抗を求めようとする彼の前方には橙色(オレンジ)の炎を剛に燃え盛らせる左掌(大砲)を構える大空の守護者が待ち構え、獲物を狙う鷹の眼で魔王を射抜きつつ照準を定めていたのであった。

 

右手(ライトバーナー)炎圧。 43万……44万……更ニ上昇! 限界数値領域(レッドゾーン)突入!!』

 

浮遊上層棟内部でリィンとイノケントが大暴れしていた間にバラバラになって舞い上がっていた無数の地上本部の残骸、その中心部は浮遊上層棟全体を狙い撃てる絶好の狙撃位置(ポイント)となっていた。 故にツナは二人が建物内でカチ合っている隙に其処に移動して待ち伏せながら砲撃発射の反動を抑制する右掌の“柔の炎”を後方に()()()()()()()()()でもって逆噴射させていた。 その柔炎のエアバッグは先刻リィンとの合体戦技(コンビクラフト)を決める際に撃ち放った時のそれよりも二倍以上にまで(おお)きく膨張させていて背後の煉獄を丸ごと橙色(オレンジ)に飲み込み、その限界量を越える炎圧の制御には想像を隔絶する程の根気と繊細さを要する様に砲撃手(ツナ)の顔は途轍もない苦悶と大量の汗に塗れている。

 

左手(レフトバーナー)炎圧再上昇。 43万……44万……限界数値領域(レッドゾーン)突入!!』

 

後方に真っ直ぐ突き出された右掌と対角線になるように位置調整しつつ棟壁面の割れて吹き抜けた窓際に顔を出したイノケントに両眼のコンタクト型ディスプレイの照準を合わせて前方に左掌を突き向ける。 全身を支える右手の“柔の炎”と同等に砲門である左手にも“剛の炎”を()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 指の間が千切れそうな程力強く開き翳した《Xガントレット》の甲に施された【X(イクス)】文字の下に嵌め込まれている半球水晶(クリスタル)の中に橙色の極光が極限まで収束され、文字通り“爆発的”な破壊エネルギーを生んでいく。 それは正しく火を見るよりも明らかに砲撃手(ツナ)がまともに制御可能である威力を超えていた。

 

「沢田綱吉……待ち伏せによる不意撃ちの超火力狙撃砲(X BURNER)か。 クハ、面白い──っ!!」

 

『ゲージシンメトリー!! 発射スタンバイ!!』

 

「これがオレの全力全開だ!! くらえイノケント──ッッ!!!」

 

 

X(イクス) BURNER(バーナー) 超爆発(ハイパーイクスプロージョン)!!!

 

 

見せつけてやる、オレの覚悟の全力を! そうはち切れんばかりの咆哮をツナが叫ぶと同時に彼の左掌に極限収束された“剛の炎”が天地をも割る程の爆発音と共に発射された。 神ですらも燃やし尽くしそうな程の超密度となった神炎が極大の光禍と為って終末の世界の総てを飲み込みながら大空の王と彼の仲間に仇名す《次元魔王》を焼滅させんとして爆進する。

 

「ぬおおおおおおおおお──ッッ!!!」

 

対して自身へ向かって放たれて来る砲撃がSランクオーバー級魔導師の集束魔法(ブレイカー)をも凌駕するような果てしない威力であると理解しながらもイノケントはその場から一歩も動かずに直立不動のまま不敵な笑みを浮かべて真正面から堂々受けるという構えを取っていた。 破壊の時告げる暗黒(デストロイブラック)に塗り尽くされし長鞘に納刀させた次元を統べる魔王の剣《天魔刀【信長】》を肩上高々と掲げ、総てを飲み込みながら襲い来る神炎の砲撃に泰然自若と切っ先(鞘尻)を差し向け、雄々しく吼え猛る。 勇者達が魔王からは逃げられないのであれば、魔王は勇者達から逃げない。 退かぬ、媚びぬ、顧みぬ。 尊き英雄の輝き(ヒカリ)を前にして《次元魔王》イノケント・リヒターオディンに後退は無いのだ。

 

(ドウッ)(ギャオオオオ)────爆々(ドガアアアア)ッッ!!!

 

しかして現在のツナが制御可能にしている炎圧数量は脅威の40万FV(フィアンマボルテージ)。 その限界炎圧上限を無理矢理上回らせる超火力砲撃──《X BURNER 超爆発》は今や折れた塔程度など余裕で丸ごと飲み込めてしまう極大閃光に成った。 故にそれは崩壊した地上本部の生き残りであった浮遊上層棟ごと次元魔王イノケントを呆気なく一飲みにして、天から見下ろしている巨大方陣を突き貫く程の巨大爆発を起こしたのだった。

 

終末の世界全体を激震させる天災規模の爆風により浮遊上層棟とその周辺に漂っていた浮遊障害物と地上の街の中心部が粉微塵に吹き飛ばされ、やがて巨大なキノコの形をとっていた爆煙が晴れるとその空間には木端微塵に破壊された地上本部上層棟の残骸破片が宇宙を漂う隕石群の如く無数に密集して、殺風ながらも幻想的な()()()が形成されていた。

 

「──くは、ふははは! さすがに今のは少し効いたなぁ……」

 

その巣の隙間にイノケントは健在していた。 核兵器にも見劣りしない絶大な破壊力を発揮したツナの《X BURNER 超爆発》には《次元魔王》の鋼鉄の肉体もさすがに無傷とはいかなかったようで、彼の身に纏う憲兵軍服の様な群青色の外套衣装は火事場に入ったように黒澄み焦げてボロボロになっていた。

 

──ククク……いやはや、まったくもって我が信奉する三世界の英雄達は素晴らしい事この上ないな。 1200年の時を得た悪意の呪いをもって世界を絶望に染め上げ、数多と枝分かれる並列時空を渡り滅ぼす事をも出来るような難敵を幾度となく打ち倒してきた彼らの力を侮る事など微塵もしてなかったが、まさか“黄昏の七属性”に未覚醒で【(ゼロ)】を得た俺にまともなダメージを与えてくるとはなぁ。 くははっ! 想像以上だ。

 

しかし、そのような手酷い見た目にされて尚もイノケントは愉しそうな嗤いを絶やさない。 光の勇者や英雄達の軌跡で描かれる伝説や御伽噺をこの上なく愛しているこの男にとって、強大な力を持つ敵へと勇敢に立ち向かい、愛や絆でどこまでも限界を超えてくる彼らの輝き(ヒカリ)を自ら身に受けられる事は掛け替えのない悦びなのだから。

 

「ツナ! 《ブレイブオーダー》で畳み掛けるぞ!」

 

(おう)っ!!」

 

「燃やせ──烈攻陣(れつこうじん)焔群(ほむら)》』ッッ!!

 

ほら見ろ。 世界を脅かす魔王になど絶対に負ける訳にはいかないという英雄(ヒーロー)達はまだ立派に立ち向かって来ているじゃないか。

 

岩盤へ吹っ飛ばされながらも瀕死級の大ダメージを根性で耐え切り即座に回復導力魔法(ティアラル)で受けたダメージを帳消しにして速攻反撃に戻ったリィンがツナと合流し、二人で見上げた先の空の巣の隙間から今も大好きなヒーローショーを観ている子供のような無邪気な笑顔を浮かべて英雄(彼ら)がどう勇敢に魔王(じぶん)へ立ち向かって来るのかワクワクしながら眺め下ろしているイノケントを発見する。 遠目で視た様子から相手に確かなダメージは与えられていると確信し、リィンは先刻の《紫焔の武士》との戦闘の最中に三つの世界の壁を越えて集った英雄達の()()が一つに重なった事で()()が起こり手に入れた、彼らの新しい力──《ARCUSⅡ》のシステムへ《ボンゴレギア》と《魔導師のデバイス(コア)》を重複接続(デュアルリンク)させる事で《ブレイブオーダー》の号令(オーダー)効果を別世界の仲間(ツナ達)にも共有可能になった新規集団(ニューパーティ)強化システムを使用して、一気に決着を着けに行く作戦をツナに提案する。 ツナも同じ考えだった為リィンの提案に威勢良く応じ。 リィンが《ARCUSⅡ》を手に取り意気軒昂と号令(オーダー)を発令。

 

リィンの《ARCUSⅡ》のシステムにツナの身に纏っているボンゴレギアが重複接続(デュアルリンク)されて互いに共鳴するような輝き(ヒカリ)を発し出す。 号令発令時の効果により二人(パーティ)気力(CP)が少々回復し、この瞬間から4カウント(分)の間『烈攻陣《焔群》』の号令(オーダー)効果によって二人が繰り出す全ての攻撃に【与ダメージ+25%】が加算されるようになった。

 

「「オオオオオオオオオ──ッッ!!」」

 

そして二人の主人公(ヒーロー)は大気を震わす程の戦意を発すると雄々しく吼え猛り、それぞれ灰色(グレー)の霊圧闘気(オーラ)橙色(オレンジ)の炎圧死気を全身に纏い激しく漲らせると二人同時に閃光の矢と化した。 魔王が待ち受ける空の巣へ目掛け()くと飛び上がって一直線に空を翔ける。

 

「さあ、主人公(ヒーロー)達よ、来るがいい。 ラスボス(おれ)は此処だ──っ!!」

 

光の魔王(イノケント)は勇気の輝き(ヒカリ)をもって強大な“壁”に挑まんとする英雄達を愛している。 故に魔王(ラスボス)として英雄達の前に立ちはだかる。 身体いっぱいに両腕を大きく広げ、大声をあげて自ら主人公(ヒーロー)らに居場所を示す。 世界の中心で愛を叫ぶかの如く、イノケントの挑発が盛大高々と終末の世界中に轟かされた直後、灰色と橙色の光の矢が空の巣の中心を射し貫いた。

 

360度視界周囲を無数の空中足場(地上デブリ)が埋め尽くす鈍色煌びやかな幻想的空間の中で英雄二人と次元魔王の全身全霊が激突。 天地を割く規模(レベル)の衝撃が打ち鳴らされ、彼らの居る位相空間に僅かな亀裂が走る。 ブレイブオーダー『烈攻陣《焔群》』の号令(オーダー)効果の恩恵を受けて因果律的に攻撃力強化されたリィンの刺突太刀とツナの爆炎突拳に、戦艦空母をも一撃粉砕するイノケントの渾身の長軍刀鞘打ちが正面衝突し、壮絶な火花を散らして圧し競り合う。

 

今度は完全に両雄の攻撃力は拮抗した。 それは文字通り爆発的な威力が出ていた為、三人の得物が打ち重ねられた部分に大爆発の如き反発衝撃波が生じる。 その結果、三者の得物は反発衝撃波によって勢い良く吹き飛ばされるようにして弾き返され、それに腕を引かれた三者はバラバラの方向に弾き飛ばされた。 そして再び灰色橙色の閃光と化した英雄二人と群青色(ウルトラマリン)の閃光と成った魔王は周囲に浮き散らばる空中足場に乱反射して空の巣全体を超高速で駆け巡る。

 

プリズムのような乱軌道で空中足場の間を跳び回るイノケントの隣をツナがピッタリと追従し、連続跳躍移動を行いながら両者は互いの手足が多重にブレて映る程の神速肉弾戦を繰り広げる。 ズダダダダーーッ!! という打ち合いの音を途切れなく超速連鎖で響かせながら嵐が過ぎるような猛烈な余波を撒き散らして通り越した軌道の周囲に浮かんでいた小中サイズの障害物を次々と吹き飛ばしていく。

 

並走しつつ神速連打(スーパーラッシュ)を交わし続けながら一軒家程度の巨大鉄岩の上に着地した二人はその瞬間に同時に放った一撃同士をぶつけ、それを反発に利用して両者は互いに距離間を数メートル開けて離れる。 そのまま向き合った二人は再び打ち合おうとしてダッシュで駆け寄ろうとしたが、助走をつけて両者が互いに駆けだそうとした瞬間に二人が足を着けている巨大鉄岩の裏側に回り込んでいたリィンが自らが装備している最強の一太刀である《神刀【緋天】》の唐竹割をもってその一軒家大の質量を持つ足場を一刀両断。 彼のその動きを“超直感”で察していたツナは足下が二つに割れる瞬間咄嗟に跳躍してその足場から離れたが、若干反応が遅れてしまったイノケントは割れた足下の切断面間に脚を取られて嵌り落ちてしまう。

 

真っ二つに両断された巨大鉄岩の切断面間に落下したイノケントに反対側から突入してきたリィンが一閃をもって斬り掛かった。 しかし若干斜め予想外の処から来た為コンマ数秒対処が遅れたものの彼が相方(ツナ)と入れ替わりに不意打ちを仕掛けて来る事はイノケントも予想していた為、左右を切断面に塞がれて避け道が無い所に真正面から振るわれてきた横一文字斬りを鞘付き長軍刀で受け止める。 不意打ちに失敗して歯噛みしたリィンをイノケントは太腕の万力で相手の太刀ごと横片側の切断面に叩き付け、直ぐさまに自身も逆側の切断面に足を着ける。 リィンも背中を猛打されて受けたダメージと衝撃による反動痙攣を呼吸法で緩和しながら叩き付けられた切断面に足を着ける。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と両者は手を上に伸ばせば届きそうな相手と視線を交差させ、その瞬間お互いの剣を同時に頭上の相手へ向けて振り上げる。 上下から鮮鋭なる半月の軌跡を描いた緋色に煌く太刀と黒漆の鞘に納められた長軍刀が互いを振るい上げた剣士の頭上同士の丁度間で打ち合わされ、鉄が交わって鳴らされる甲高い炸裂音が上下の切断面に反響する。 それで二人はお互いに耳の鼓膜へ強烈な刺激を受けるものの、両者怯まずに頭上の相手へと次々に高速孤影斬撃を放ち上げていく。 巨大鉄岩の割れた裂け目の中心で、鮮烈で綺羅綺羅しい半月の軌跡が夥しく踊り狂い、鉄打火花が百花繚乱も赫奕(かくやく)と咲き乱れた。

 

永遠に続くかと思われたリィンとイノケントの熾烈な上下殺陣はイノケントが足着けていた側の鉄岩半分、それに丁度その外側に回り込んだツナが爆裂炎拳(ビッグバンアクセル)を打ち込んで一撃爆砕した事で決着が着いた。 唐突に足を着けていた足場が消滅して斬り合いに踏み留まる場を失ったイノケントはその瞬間にリィンが打ち込んで来た会心の孤影斬撃を鞘付き長軍刀で受けたものの、その直後に齎された反動を押し留める事は足下が宙に離れてしまったが故に不可能になった為、呆気なく痛烈な当たりで群青色の光尾を引きながら派手に打っ飛ばされた。

 

軌道上の空中足場を複数反射して幾何学模様的(メチャクチャに複雑な)軌道を雷鳴の速度で描きつつ巣の上部付近に爆砕音を鳴らしてダイナミック着地を決めるイノケント。 それに続いて彼がニヤリと口角を吊り上げて睥睨した下方より灰色光線(リィン)橙色光線(ツナ)が追撃して来る。 無数に散らばる空中足場を乱反射して(跳び移り渡って)超加速しつつ二色の毛糸がド下手な人の失敗で混絡(こんがら)まってしまった編み物のように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しつつ、主人公(ヒーロー)達は左右二手の死角からイノケントへ強襲した。

 

「セイィィッ!!」

 

「ハアァァッ!!」

 

「──フハハッ」

 

ドッ! ガァァンッ! 拳が硬いものを打った音と鉄同士がぶつかる音がほぼ同時に打鳴らされる。 特大の炎を《Xガントレット》に灯し渾身の威力で突き放たれたツナの超鉄拳(右ストレート)は盾にした鋼鉄筋骨の左太腕で止められ、荒海の如く胎動させた灰色の神氣を《神刀【緋天】》の刀身に纏わせながら全身全霊で練り上げた“勁”で限界ギリギリまで筋力を強化し袈裟下ろしたリィンの剛太刀は右手に振り翳した《天魔刀【信長】》の鍔で受けられた。 『天地崩界・神々の黄昏(この世界)』のルールを最大限に利用して空中足場の乱反射超加速を威力に過剰させた二人同時の全力突撃は叩き付けた相手の足下の足場を炸裂と同時に大きく陥没させたが、それ程の重撃でもイノケントはビクともせず黄ばみ一つ無い白歯を見せて嗤いながら容易に受け止めてしまう。 二人でその勢いのまま押し込もうとしても魔人(クラス)の膂力には人の身であるリィンとツナではまるで敵わずにグググと相手に押し返されそうになる。

 

「「負ける──もの(ん)かあああああああああああっ!!!」」

 

護りたい人達や世界がある限り、俺達は絶対に勝つ! そう揺ぎ無き誓いと覚悟を乗せた気迫を主人公(ヒーロー)達が叫んだ刹那、二人の持つ《ARCUSⅡ》と《大空のボンゴレギア》が眩い輝き(ヒカリ)を放った。 残り時間(カウント)1(分)を刻んだ『烈攻陣《焔群》』の号令(オーダー)効果【与ダメージ+25%】がリィンとツナのSTR(攻撃力)に加算されてイノケントのDEF(防御力)を上回り、二人の太刀と炎拳が一気に魔王の鋼鉄腕を押し込んだ。

 

「ぬううううう────ッッ!!?」

 

(ズバゴォォォン)────ッ!!

 

迸る真紅の電光(プラズマ)を生じさせて鬩ぎ合う三人の気迫が周辺の空中足場の表面を剥がして荒れ浮かばせる程に壮絶極まる競り合いだったが、遂に英雄達は次元魔王の力を超えた。 リィンの太刀とツナの炎拳がイノケントの両腕を肩まで押し切った直後に赫灼のような凄まじい赤熱を発し、炸裂。 外側から離れて眺めると空の巣の上部が雷鳴の如き轟音を鳴らして特大の発光(フラッシュ)を一瞬放った様に映される程に途轍もない衝撃(インパクト)でイノケントをド派手にブッ飛ばし、巣の上空まで突き抜けて行った。

 

『ツナ! 今こそ俺達がイノケント(あの魔人)を倒せる唯一の()だと()た。 合体戦技(コンビクラフト)で決める。 やれるか?』

 

『問題無い! 息を合わせていくぞ、リィン!』

 

遥か天空から終末の世界を見下ろしている十干十二支の真下まで吹き飛んで群青色の放物線を描き出したイノケントが背中をこちらに向けて無防備を晒している様子を見上げた二人はこの瞬間こそ魔王(ラスボス)を撃破できる好機(チャンス)だと思い、“疑似戦術リンク”の意識下会話(アナログ通話)で意思共有確認。 この状況に相応しい新たな合体戦技(コンビクラフト)を即興で創り出し、直ちに二人横並びの発射体形を取った。

 

「光の未来(あす)を目指して裂空へと羽ばたけ、(ほのお)を纏いし(つばくろ)の群れよ!」

 

右に、緋色に煌く刃を静寂と鞘に納めて居合い抜きの構えを取る《灰色の騎士》。 (はや)く飛ぶ(はやぶさ)を墜とさんとするように狙い澄ました鋭利な眼で巣の上空の《次元魔王》を射抜き、【神氣合一覚醒状態】により全身から発せられている灰色の霊圧闘気(オーラ)に“暁色をした焔”のような闘気を重ね纏う。

 

「その焔に闇を切り裂く一閃の生き様と大空を守護せし覚悟を宿して、天の星々を穢す魔を貫け!!」

 

左に、左拳に装着している神炎を灯す籠手(ガントレット)の甲を眼前に掲げて、その中心に施された【(イクス)】の数字を見せ示す《ボンゴレⅩ世(デーチモ)》。 煉獄の天に群青色の軌跡を描く《次元魔王》の背中を撃ち抜かんとする狙撃手(スナイパー)の如く極限に集中された双眸をもって見据えながら両脚を開いて足下をどっしりと踏みしめ、額に灯る死ぬ気の炎が両翼を大きく広げ飛翔する燕を形造る。

 

並び立つ主人公(ヒーロー)二人が纏う灰色の霊圧闘気と橙色の炎圧闘気が同調(シンクロ)するように激しく胎動して漲りながら増大と共に一つに合わさり、絢爛なる焔の翼を広げる緋燕(ひえん)と成った。

 

「「(ソラ)()()(ホノオ)(マト)飛燕(ヒエン)斬空(ザンクウ)──緋炎奥義(ひえんおうぎ)緋炎裂空天翔(ひえんれっくうてんしょう)ッッ!!!」」

 

そして二人で合体戦技(コンビクラフト)の名を言い放った刹那、満を持してリィンが抜刀し、ツナが掲げた左拳を振るい薙ぐ。 すると左右一閃に“(えん)の軌跡”を描き出した緋色に煌く神刀と神炎を灯す籠手(ガントレット)から焔を纏う無数の燕が飛び出し、群れを成して裂空へと飛翔したのだった……。

 

 

 

 




あとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! 超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』第6回



アリサちゃん「ヘイ、お待ちどう! 【超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡講座”】第6回目のお届けよ♪」

グナちゃん「サテサテ。 ゼンカイマデデ、コノショウセツノシュジンコウトメインヒロインコウホヲダシタコトダシ。 ソロソロキャラクターショウカイイガイノヤレヨナ」

アリサちゃん「ん、待てーいッ!! まだメインヒロイン候補にはこの超ヒロイン、アリサ・ラインフォルトちゃんが居る事を忘れてもらっちゃ困r──」

グナちゃん(ミニレバ剣でシバく)「シデンイッセン!」

アリサちゃん(シバかれた)「ンギャー!?」

グナちゃん(威圧)「ムダナモジスウヲツカウナ。 サッサトコウザハジメロ」

アリサちゃん(泣きそうに項垂れて)「うー。 分かったわよぉ。 チキショー」

アリサちゃんがグチグチ言いながら頭上に垂れ下がった紐を引っ張ると、天井から導力スクリーンが降りてきて【西ゼムリア大陸】の世界地図が投影される。

アリサちゃん(気を取り直し)「てな訳で、今回はこの小説の舞台であるクロス元三原作の世界観をざっくり簡単に教えちゃうわね♪ まずは私やリィン達トールズⅦ組や歴代シリーズの若き英雄(ヒーロー)達が数々の人間関係ドラマや強大な陰謀・強敵との激闘を繰り広げてきた『英雄伝説 軌跡シリーズ』の世界からよ!」

アリサちゃん(知的女史っぽく見える伊達眼鏡を掛け、指し棒で世界地図を差しながら講義開始)「《ゼムリア大陸》──空の女神《エイドス》への信仰により人々の秩序が成り立つ祝福の大地。 しかし、大昔に空の女神より授けられた《七つの至宝(セプト=テリオン)》を元手に古代人達が様々な理想を追求しようとしたのだけれども、人間が持つ底無しの“業”の所為で人の手に余る程に文明を発展させ過ぎてしまった結果、《大崩壊》が起き、繁栄を極めていた古代文明は消失されたの。 それで大陸各地で戦乱の勃発や魔獣の出現などにより人々の生存環境は過酷極まるものへと一変し、長い間“暗黒時代”の荒波に苛まれる事となった……けれど、空の女神を奉じる《七耀教会》によってゼムリア大陸新人類に新たな秩序が創られたり、次々と歴史に名を残す大英雄らが誕生して世界各国の戦乱を平定したり、“技術の父”と称された世紀の大天才発明家《C(クロード)・エプスタイン》博士の手によって《導力器(オーブメント)》が生み出された事で人々の生活基盤を一変させる技術革命が起こされたりして、実に1200年以上もの長く苦しい時を乗り越えたゼムリア人達は再び豊かな生活を取り戻す事ができたのよね」

グナちゃん「オオッ!? オマエニシテハイガイトテイネイナセツメイダナ──」

アリサちゃん「そんなこんなで、導力技術で自分の能力を自由にカスタマイズできる《戦術オーブメント》やRPGお馴染みの飛行艇が造られたり、《身喰らう蛇(ウロボロス)》や《D∴G教団》や《黒の工房》等といった怪しい化物人外集団が大陸各地で暗躍して世界をメチャクチャにするような超常事件を起こしたり、大昔の人の業から生まれた悪意の怨念がヤバ過ぎる呪いを振り撒いて現代の人々を強制的に破滅確定争いの道へと向かわせたり、チート過ぎる古代遺物(アーティファクト)で一国中の導力を停止したり夢の世界に大勢を取り込んだり因果律を捻じ曲げたり、スーパーロボット大戦が行われたり、スーパーバケモン大戦が行われたり、スーパーOTONA大戦が行われたり、etc.etc──要するに何でも有りなカオスな世界なのよ☆ 以上ッ!!」

グナちゃん「──ッテ、ケッキョクテキトージャネーカヨ。 チャントマジメニヤレ!!」

アリサちゃん(自棄っぱち)「だってだって! 私の世界ってば、科学と魔術が交差するだけじゃ飽き足らずにマジカル武術やらSF系やら超常ミステリーやら異世界やら大怪獣やらOTONAやらOYAZIやらと、矢鱈滅多に混ぜ過ぎて本当に闇鍋(カオス)なんだから仕方がないじゃないのよ!? 遊○王カードのカード効果処理のように、一見複雑そうな内容に見えるけど複雑なの! 原作ゲームの方でもまだまだ明らかにされていない設定も多いんだし、一から十まで説明したら確実に本文の文字数を超えちゃうわよ!!」

グナちゃん(あんぐり)「マジカヨ……ソノナイヨウデイテ、ヨク18ネンイジョウモゲームシリーズガツヅクモノダナ……」

アリサちゃん(どーしょーもないなと言いたい表情)「どうせその辺については本業の歴史教師(オタク)であるリィンや古代ゼムリアの神秘や遺物の知識に詳しい七耀教会騎士であるガイウスとかが本編でちょくちょく説明するのでしょうし、今はこれで納得しておきなさい」

アリサちゃんが手元のリモコンを操作し、導力スクリーンに映る西ゼムリア大陸の世界地図が【並盛町】の風景写真に切り替わる。

アリサちゃん「んじゃ、次は『家庭教師(かてきょー)ヒットマンREBORN!』の世界ね。 と言っても原作漫画は現代活劇物だから、表面上は画面の前の読者(貴方)達の現実世界とあまり変わらない地球よ。 間違ってもチートな陰陽師や魔法使いが居る日本が第二次世界大戦の戦勝国になってなんかいないし、急に日本列島爆散したなんて事も無く、至って普通に日本やイタリアが存在しているわ」

グナちゃん「フムフム、ソレデ?」

アリサちゃん「表社会は平和そのものなんだけどね。 REBORNの世界は無法が蔓延る裏社会に生きるマフィアや殺し屋といった反社会的勢力(シンジケート)が強大な力を持っているのよ。 彼らは水面下で世界の行く末を取り仕切り、年がら年中血生臭い抗争を繰り広げているわ。 このコーナーの第3回の時に原作主人公の《沢田綱吉》君をゲストに呼んで彼らマフィアの力である【死ぬ気の炎】について概要の一部を解説したでしょう? あの力はマフィア達が世界の裏で幅を利かす事が出来ている要因の一つなのだけれど、これも含め裏社会の超技術や異能力を表に明かす事はマフィア界の掟(オメルタ)で厳しく禁止されているわ。 もし掟を破れば裏社会の番人《復讐者(ヴェンディチェ)》によって粛清されてしまうのよ」

グナちゃん「ブッソウダナ……」

アリサちゃん「そうよねぇ……まあ、そんなおっかない掟があるのに、並盛町のマフィア関係者は意外と気にしない様子で日常的に人前で派手に暴れているのよね。 リボーン君は1歳の赤ん坊の姿なのに普通に一般人と喋ってるし、ツナヨシ君は人前でも死ぬ気モード化してパンイチになって暴れているし、ゴクデラ君は何所でもダイナマイト投げるし、ヤマモト君は常識人に見えてもバットに刀を仕込んでるし……そもそも、不良風紀委員の中学生達が町を取り締まっていたり、爆弾魔が大手を振って建物を爆破しまくっていたり、明らかに不審者な黒服スーツの人達が白昼堂々と出没しているのに、一般人や警察は普段事のようにスルーしちゃってるのよねぇ。 つまり一言で言い表すとカオスな世界だわ☆」

グナちゃん(ガクッ)「オイオイ、マタカオスカヨ」

アリサちゃん(フッ……のポーズ)「赤ん坊が殺し屋で家庭教師やってる時点で常識外(カオス)でしょうが。 わかったら最後のに進むわよ」

アリサちゃんが再び手元のリモコンを操作して、導力スクリーンに映る並盛町の風景写真が【首都クラナガン(『天地崩界・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)』領域化)】の生中継映像に切り替わった。

アリサちゃん「ラストは本編のメイン舞台となる『魔法少女リリカルなのはStrikerS』の《次元世界》を解説するわ!」

グナちゃん(白目)「オイマテ。 コノエイゾウッテ、ホンペンノナマホウソウジャネエカ?」

アリサちゃん((トラップ)カード【スルースキル】発動)「《次元世界》というのは“次元空間”を通じて行き来可能である多元宇宙や惑星世界群の総称よ。 次元世界はなのはさんやスバル達が所属している《時空管理局》が法を定めて厳重監視と災害対応を執り行っているの。 何故なら次元世界には【魔法】や【ロストロギア】などといった人の身に余る異能・異端技術が存在している為、それらの力が凶悪や身勝手な人間の手に渡ったり不慮の事故で文化や世界が滅んでしまったりなどを防ぎ、広大な次元世界の平和を守っているのよね」

グナちゃん「イワユル“シホウキカン”トイウヤツダナ。 シカシ、ホウテキソシキトイウノハウチガワガクサリヤスイモノダガ……」

アリサちゃん「ま、そうよね。 一つの世界の国一つだけでも政府法制にロクな人間は少ないから、組織が星の数程の世界を管理できる程に巨大な規模なら尚更よ。 実際に上層部には汚職やマッチポンプでより高い実権を手に入れようとする将官や官僚も少なくないらしいし、マッチポンプの結果ジェイル・スカリエッティやラコフ・ドンチェルのような時空管理局を叩き潰そうとする広域次元犯罪者が出てきて全次元世界を巻き込む極大規模の戦いが勃発する場合もあったからね。 これも“人の業故に”というやつよ……」

グナちゃん「オーイ。 ハナシガダッセンシテルゾ。 ジゲンセカイノセツメイシロヨ」

アリサちゃん「それもそうね。 時空管理局についての説明はまた別の機会にしときましょう。 話を戻すと、次元世界は大まかに5種類に分けられているわ。 魔法技術が表に認知されていて日常文化にも取り入れられ、時空管理局の法管理下に入っている惑星世界群は【管理世界】。 魔法技術が認知されていない又は魔法の存在は有っても都市伝説化や人里隠れる一小規模部族の秘蔵魔術として扱われ表沙汰にされていない、非魔法文化で人間社会が成り立つ有人世界である為、時空管理局が表社会への干渉を控えて次元災害対応の為の監視のみに留めている惑星群の事を【管理外世界】。 そもそも人間や知的生命体が全く存在していない宇宙の星々を【無人世界】。 禁忌指定級魔法生物の生息支配圏だったり生き物が生活できない超絶過酷な自然環境だったりして、時空管理局の力を持ってしても管理不可能だと見なされた惑星領域を【進入禁止指定世界】。 次元空間内に存在している事は確認されてはいるものの現在有る次元航行手段では到達不能であるとされている完全未知の宇宙領域を【未到達世界】。 それで時空管理局はそれぞれの種類別に分けた世界に番号を付けて監視し易くしているらしいのよね。 《ミッドチルダ》は時空管理局が発祥された世界だから管理世界の中心にするとう意味で“第一管理世界”だという風にね」

グナちゃん「チツジョヲチャントマモッテイルンダナ」

アリサちゃん「ところがどっこい! 次元世界は尋常じゃなく監視範囲がバカッ広くて、時空管理局の実働員である魔導師の数は万年不足しているのよ。 だから全部の次元世界をカバーしきれずにロストロギアの暴走が頻発して幾つもの世界が消滅したり、狡猾な野心家が監視の目を離した隙に禁止されている兵器を持ち出して紛争を起こしたり、何処からか世界を殺してしまう未知のウィルスが発生したり、魔法少女(19歳)が極大魔砲をブッパなして飛行巨大戦艦に風穴を空けたりしている風景が日常茶飯で見られる、カオスな世界なのッ!!」

グナちゃん(頭を抱えて青天井発狂)「ケッキョク、ミッツトモゼンブカオスナセカイジャネーカアアアアアッッ!!!」

ボルサリーノ帽の喋る赤ん坊、来る!「CHAOS(ちゃおす)

グナちゃん(ビックリ)「──ッテ、ウワァァッ!? ダレダコイツハ!」

アリサちゃん(事前に来る事を知らされてた)「あら、《リボーン》君もう来てたの? 出演は次回からなんだから、ゆっくりしていればよかったのに」

リボーン「なぁに、紳士の嗜みとしてレディー達に早めの挨拶をしておこうと思ってな。 それに、本編ではオレの出番はしばらく先になるらしいから、暇してたんだよ」

グナちゃん「ム? マスコットノチイハワタサヌ!」

リボーン「いらねーから安心しろよ。 そんな訳で、次回の【炎の軌跡講座】第7回からは、オレがレギュラーに加わってツナ達の事をねっちょり解説してやるからな。 死ぬ気で楽しみにしていろよ!」

グナちゃん「サラダバー!」





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英雄足り得る心

目標の6月までにプロローグ編完結は達成できませんでしたが、代わりに調べていて驚く事が判明しました。


英雄伝説軌跡シリーズ初作『英雄伝説 空の軌跡FC(PC版)』2004/06/24発売

『家庭教師ヒットマンREBORN!』週刊少年ジャンプ2004年26号連載開始

『魔法少女リリカルなのは(無印)』2004/10/01TV放送開始


そして来年2024年、三作とも同年シリーズ開始20周年…………マジかよ?(今まで気にしてなかった)




──嗚呼(ああ)、なんて美しい……。 伝説の若き英雄達の勇壮なる輝き(ヒカリ)の炎纏う(つばくろ)の群れが、世界を絶望に染め上げる煉獄の紅黎(あかぐろ)絵画(そら)を強き希望への願いに満ち溢れる緋色で塗り替えながらこちらへと迫り来る様は、なんと壮麗で煌びやかな光景なのだろうか……。

 

己の眼に焦がれし三つの世界の真なる英雄達が紡ぐ勇気と絆の軌跡が放つ輝き(ヒカリ)を自らの身で受け止めたいが為に、全世界に厄災を齎す魔王(ラスボス)となって英雄達の前に立ちはだかった空前絶後の大馬鹿者、イノケント・リヒターオディンは大きく見開いた双眼に荘厳な輝きを放つ緋炎の燕が無数の群れで裂空を舞う幻想的で壮麗なる光景を焼き映して感動を覚えていた。

 

その緋炎の燕の群れは裂空の頂点から急速落下しているイノケントを目掛けて対空砲火による弾幕のように矢衾となって猛スピードで向かって来ている。 普通ならば決して交わる事など有り得なかった二つの世界の歴戦の英雄(ヒーロー)が出会い、未知なる力を用いて三世界に仇なそうと立ちはだかった魔王(ラスボス)を打ち倒すべくして互いの持つ(かくご)を合わせ、創り放たれた夢の共演(クロスオーバー)合体戦技(コンビクラフト)。 その豪華壮観な緋炎奥義を常闇の宇宙のような漆黒の大きな瞳にギラギラと映し、英雄を狂信する者(彼らの熱狂的大ファン)としてイノケントは只々涙を流し感無量に浸るばかりだった。 嗚呼(ああ)、まったくもって──

 

「──勇気と絆を武器にして強大なる敵に立ち向かう王道の英雄(ヒーロー)とは、かくも偉大で、尊く美しいものだ……ッ!!」

 

千鳴(ピキイィィィ)ッ! 突貫(ビュォォオオオオ)────爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆(ババババババババババーーーン)ッッッ!!!!

 

満面の悦びを浮かべたイノケントが三日月に吊り上げられた口の奥底に在る魂からの大感激を溢れ出させたその刹那、矢衾の列で飛翔して来た緋炎の燕の群れが一直線に雪崩れ込むように彼へと殺到した。 矢頭の緋燕が《次元魔王》の鋼鉄の肉体を直撃し被爆を起こすと、それから途切れなく後続の群れが次々と突撃して機関砲の乱射さながらの連続爆音を煉獄の天に響かせていく。 裂空に乱れ咲く緋色の爆花が真上に座して回る十干十二支の巨大方陣と共に終末の世界の空全体を大きく揺るがした。

 

「「く──っ!?」」

 

生じた爆風は合体戦技を出し終えたリィンとツナがいる空の巣を蹴散らし抜けて地上の崩壊都市(クラナガン)まで届いて来る程の勢力があって、二人が創り放ったその合体戦技──《緋炎奥義・緋炎裂空天翔》の威力の凄まじさを物語っていた。 返って来たその途轍もない衝撃波によって自分達の身を猛烈に嬲られる上に足下の空中足場をも激しく吹き揺すられて、百戦錬磨の実力者たる二人もこれには堪らず足場に身を伏せて揺すり飛ばされないようにしっかりとしがみ付きながら驚嘆苦心を呻いていた。

 

自分達の放った合体戦技の余波が思いの他に強烈で二人が身に襲い掛かった災難に堪えている合間に緋燕の群れが全て先行から生じていた被弾爆玉の層を貫いてその中のイノケントへと突撃し切り、彼を包み込む爆玉の層がまるで泡立つかの如く一気に膨張して盛大に弾けたのだった。 見事に全弾命中である。

 

「う″っ……どう……なった……?」

 

しばらくして余波は止まり、暴風と大気震動によって滅茶苦茶に搔き回された空の巣……彼方此方にすっ飛ばされて他の浮遊障害物と滅茶苦茶に衝突を繰り返したお陰でジャガイモのような凸凹球形に変形した空中足場の上、どうにか振り落とされずにしがみ付き堪え切ったリィンとツナは安全を確認し、伏せていた身を上げて立ち上がる。 激しくすっ飛んで色々とぶつかった空中足場が齎した連続的な反動によって、表面に腹這いに密着していた全身を強く打ちのめされた所為で手酷い筋肉痛を受けたリィンは肩の呻きを漏らしながら爆煙の入道雲を見上げて、その中のイノケントはいったいどうなったのかと溢した。 彼の隣で腹に受けた強打痛を庇いつつ立ち上がったツナも同様に見上げて呟く。

 

「や、やった……の……か?」

 

流石にここまでやれば倒せただろうと淡い期待を口にするツナだが、その疲労で擦れ切った声に込められた確証は薄い様子であった。 彼の中の“超直感”は警告音を一向に止めてはいないし、血も冷え切って全身がブルブルと震え、どうしても足下を落ち着かせられないのだ。

 

「……」

 

リィンも剣呑な双眸で天を濛々と覆った爆煙の入道雲を無言で睨みつけて「ゴクリッ!」と息を呑んでいる。 彼もまたあの黒雲の中に一宇宙よりも遥かに(おお)きな存在感を感じ取り、より張り詰めた警戒心を剥き出して左腰に差す鞘に納めた太刀の柄を利き()手に強く握っていた。

 

《次元魔王》イノケントは人の世界の理外に在る“魔人”と同等か、或はそれ以上の位階に在る未知数の超越者だと思われる。 本来なら只人の身で相手にできるような存在ではなく、初見で打倒するなど例えどんな英雄や実力者を大勢集めてもほぼ不可能というもので、ましてやたった二人だけで戦うなど自殺行為と言っていいだろう。

 

二人がそれぞれの元居た世界で過去に幾度も苦難の末に勝ち抜いてきた強敵達との戦いから得てきた豊富な経験値に加え、《神氣合一》《大空のボンゴレギア》という異能と特殊装備を用いた超強化形態(スーパーパワーアップモード)、もう一つおまけにリィンのブレイブオーダー『烈攻陣《焔群》』の号令(オーダー)効果で因果律的な攻撃強化も重ね掛けるまでの事をやって、それでようやっとこうしてイノケント・リヒターオディンという“魔人”へまともな一撃を御見舞いしてやれた。 ……だがしかし、それまでであった。

 

「──くは、ははははははははーーッ!!!」

 

「「────ッッ!!!!」」

 

散々強化を重ね死力の限りを尽くして相手に食らい付いていった末に作れたたった一度きりの絶好の好機(チャンス)につけて創り放った会心の合体戦技すらも、次元魔王には届かせられなかったようだ。 天から墜ちるような魔王の哄笑が終末の世界全体に響き渡った直後に爆煙の入道雲が晴れ、その中から砲金色(ガンメタルカラー)(濃い紫がかかった灰色の事)の光沢を放つ無機質な球形結界の中で愉快爆笑を曝しながら《次元魔王》イノケントが五体無事の姿を現した。 渾身の合体戦技がまるで効いていない魔王(ラスボス)の姿を目に納めた瞬間にリィンとツナの顔色が戦慄一色に染まり、声の一つもあげられない程の絶望が二人の英雄を苛んだ。

 

「本当に、三世界の英雄(おまえたち)は最高だな。 “ボンゴレの血脈”であり純度は極上であるとしても()()()()()()()で【黄昏の零】を持つ俺に僅かながら手傷を負わせたばかりか、()()()()()()()()()()の影響により可能となった可能世界産戦術導力器からゼムリア外部端末物資への重複接続(デュアルリンク)を存分に活用する事で俺との戦闘力差を埋め、守るための負けぬ気迫をもって勝利への機を引き寄せてみせた。 その機を掴む為に“疑似戦術リンク”を利用し即興で創り放った新たな合体戦技(コンビクラフト)も実に見事な出来栄えだったぞ。 大空属性の炎の調()()特性に【必殺(クリティカル)・詠唱駆動解除率100%】とステータス低下に加えて【ポジティブ状態変化解除】とその他も様々な効果を発揮させるという、まさしく“すぺしゃる”と呼ぶに相応しい必殺技であった。 これにはさすがに魔王(ラスボス)の俺でも、この《絶対障壁》を展開しなければ只では済まなかったであろうなぁ」

 

自身の周囲を覆っていた砲金色(ガンメタルカラー)の球形結界を解除して、途方もない疲労と憔悴に押し潰れそうになって尚も諦観は一切無い視線で睨み上げてきている主人公達(リィンとツナ)へ多大なる尊敬と賞賛の笑みで返す魔王(イノケント)。 彼は清々しく気分の良さそうな顔でリィン達がここまでの戦闘において特に良かったポイントを挙げて褒め称え、二人が自分を打ち倒す決定打にする為に創り放った合体戦技《緋炎奥義・緋天裂空天翔》の効果内容を見破りながらもその出来栄えを見事だと伝えてくる。

 

説明の中に聞き慣れない用語(ワード)が幾つか有り気掛かりになりたいところだが、今はそれよりも──

 

──極限まで無理に近づけて幾つもの強化(バフ)を重複掛けしつつ、尋常でない三次元の死闘を繰り広げた果てに、折角作り出す事ができた一度きりの勝利の好機(チャンス)だったのに。 それをモノにできなかったか……くっ!!

 

──《絶対障壁》……だって!? そんなバカなっ! 炎の純度を最高に高めた大空属性の調()()もまるで効果を受けない障壁(バリアー)だなんて、あんなのどうやったら破れるんだよ……!!

 

千載一遇の決定打をいとも容易く防がれてしまい、軋む音を鈍く響かせる程に歯を強く噛み締めて厳しい表情を浮かべて愕然と深い落胆を露わにする二人の英雄(ヒーロー)。 今日初めて知り合ったばかりの二人で即興で考えたものだったとはいえ、《緋炎奥義・緋炎裂空天翔》は先程の好機の最中に今現在のリィンとツナが御互いに持つ力(炎)を最大限に発揮させた遠距離必殺合体戦技だった。 命中させれば100%確実に相手の戦技(クラフト)導力魔法(アーツ)の詠唱駆動を止める事が可能であるリィンの《滅・緋空斬》を他の炎と上手く混ざり合わせて放てるように最適化(アレンジ)し、受け継がれし“ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)”で最高の純度に高められ万象をも調()()するツナの大空属性の炎と融合させて、どんな強化(バフ)や防御だろうが絶対に撃ち貫く緋炎の燕を裂空へと飛翔させる……しかし、そんな正に当たれば絶対必殺と言える合体戦技ですらも、この呆れる程に規格外の魔王(ラスボス)には通用しなかったのだ。

 

極限の激闘を超えて作り出した僅かな勝機をも掴ませてくれない……そんな理不尽を目の前に突き付けられて、絶望しない人間はいない筈だ。

 

「それでも尚、己の意志で世界や大切な者達を守ろうと必死覚悟で奮起し、絶対に勝利を諦めないのが真の英雄(おまえたち)だ。 違うか?」

 

「無論だ。 少し前に()()()()()()()()()()()()()()、俺はもう二度と自分一人で無茶な戦い方をするつもりはないが。 お前がどんな目的だろうと、次元(この)世界や仲間(なのは達)を傷つけようとする限りは絶対に、この太刀を納めたりはしないッ!」

 

「オレは自分自身を英雄だと思った事は一度もないけれど。 それでもこの手で大切な友達と新しい仲間(スバル達)を死ぬ気で守りたいんだ。 その想いと覚悟は1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この炎と共にある! 今までも、そしてこれからも、ずっと──!!」

 

高潔な英雄達への信頼と期待を込めた圧を孕ませた眼光を軍帽の下にギラリと光らせて問いかけてくるイノケント。 だが相手の言う通り、目の前の魔王(ラスボス)に自分達の力がまるで通じない事実を示され絶望的な戦闘力(レベル)の差を突き付けられようとも、リィンとツナはまだまだ諦めたりはしない。 罪無き人々の平穏と大切なものを絶対に護ってみせるという不退転の想いで絶望を跳ね除け、七の絆を誓いし灰色の闘気を纏う刃と友を守る決意を秘めた覚悟の炎を燃やす拳を睥睨する魔王へと突き向けながら、不滅の輝き(ヒカリ)を宿した眼で(したた)く睨み返し、此処から一歩も退かない意思を叫ぶ。

 

そう、【英雄足り得る心】とは、決して己の栄誉や利益を得る為に格好をつけるものでも、常に正しい立場でいたいが為に自身の力と正当性を周りに見せつけるものでもない。

 

聖人か偽善者か血筋か立場などで決めるものでもない。

 

弱く罪無き誰かが卑劣なる悪者や災厄が齎す理不尽などによって脅かされる事を決して許さない。 心より大事に思う場所や愛する者を奪おうとする魔の手から守りたいと願い、身を挺して立ち向かう。 たとえ己の立場が危うくなったとしても無辜の民の居場所と尊厳を守るために悪政を振るう権力者を討つ。 ──即ち愛をもって人道を尊び、義をもって外道を許さぬ、その行為と意志そのものなのである!

 

「ククク、そうだ。 本物の勇者や英雄(ヒーロー)とはそうであらねばならん。 例えその想いに根差した真実が我欲や利己的願望(エゴ)であったとしても、無力や凡小故の無謀な行いであるとしても、己が正しいと信じるモノの為に愛と勇気でどれ程に分厚い“壁”にも立ち向かう者達にこそ【光の英雄】の称号が相応しい」

 

「「……」」

 

「果たして神に選ばれて力を手にすれば“勇者”か? 格好良い派手なコスチュームを身に纏って悪党や怪獣をやっつければ、それだけで“正義のヒーロー”になれるのか? ……くは、はははは! そんな訳があるまいよ。 何故なら、俗物は英雄(ヒーロー)の在り方に憧れるのではなく、その者が持っている“光”を狂おしい程に妬ましく思っているからだ。 特別な力を振るって正義を名乗り悪党を排除して得られる栄光が、人々から浴びせられる喝采が、主役を照らす脚光が、己こそ絶対の正義だという事を世界に認められているという圧倒的な優越感が、全て欲しくて欲しくて堪らない。 故に、英雄の持つその“光”を全部己に寄越せとして、奴らは恥も知らず図々しくも英雄の皮を被るのだよ。 最初から最強? ちーと無双? 神から譲って貰った摩訶不思議な神通力を使って、楽をして世界を手玉に取り、他の誰一人として力と強さで追随をされずに僅かな苦戦すらも拒絶したく、眉目麗しい女(ひろいん)を囲って酒池肉林(はーれむ)を築きたい? ハハッ、そのような堕落者の凡庸な願望なぞ、実に卑賎(ひせん)矮小(わいしょう)だろうよ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に勇者や英雄を名乗る資格など皆目(かいもく)として無いのだ」

 

「お前は……」

 

期待の圧を乗せた眼光で睥睨してきながらリィン達が持つ身を挺して他者を護る高潔な英雄の精神を尊び、その裏で低俗な願望で英雄の皮を被る俗物を否定する言葉を吐き捨てるイノケント。 英雄の輝き(ヒカリ)を矮小な欲望で穢す凡俗共を断じて認めないと語る間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを観たリィンは相手の心奥に根差す絶対的価値観(アイデンティティー)の一端を垣間見たような気がした。

 

「さて、お前達の英雄の資質は期待した通りに極上だった。 ……次はその高潔な輝き(ヒカリ)の真価を試してやろう。 我が《次元魔王軍》が数多の多元並行世界より収集した異端技術の粋を結集し完成した、このMULTIUNIVERSE(マルチユニバース)式近未来戦術オーブメント《PARAISO(パライゾ)》だからこそ実現した最上位導力魔法(アーツ)の更に上位──【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】でな──ッ!!」

 

「な──ッ!!?」

 

イノケントが語った主張に対してリィンが何らか意見しようとしたが、言葉を投げるよりも先に相手が話を切ってリィン達の持つ英雄としての器を試してやると投げつけてくる。 そして外套の懐から二重層スライド構造のスマホに似た近未来の戦術オーブメント《PARAISO》を手に取りながら、なんと既存世代の戦術オーブメントで発動する事のできる最上位の導力魔法(アーツ)を更に上回る究極の導力魔法を使用すると宣言し、リィンを驚愕させた。 両目を大きく見開き明らかな動揺を露わにし出したリィンの横顔を見てツナが心配を投げかける。

 

「そんなに驚いて、どうしたんだリィン?」

 

「有り得ない……最上位導力魔法は“ロストアーツ”を除く現代の戦術オーブメント端末の規格で使用可能な導力魔法の中で文字通り最大威力・効力を発揮できる駆動術式なんだぞ? それを上回る【究極上位導力魔法】は四年前の《リベールの異変》時期に使用されていた第四世代型から今現在の第五世代型まで実用不可能だったと導力技術を専門としている仲間達(アリサやティータたち)からも聞いている。 それに、最上位の攻撃導力魔法の破壊力は街中や人里近くでは無暗に使用する事を躊躇われる程のものなんだ。 それ以上の術式ともなればクラナガン(この下の都市)のように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ!」

 

リィンが信じられないと言いたい焦燥の声でゼムリア大陸(元居た世界)の近年で実用化された戦術オーブメント開発事情を導力技術に詳しい仲間達から聞いていた一部の内容を踏まえ、イノケントが発動しようとしている【究極上位導力魔法】の予測規模がどれだけヤバイか想像し、正気を疑う厳しい視線を頭上高くに浮かび上がった次元魔王へと送る。 この終末の世界の地上に在る造り物の崩壊都市(クラナガン)と同じように街一つを丸々破壊可能な規模(レベル)の攻撃導力魔法(アーツ)を発動させるともなれば必然的に相当莫大な導力エネルギー量が必要になるだろうし、戦術オーブメントのような小型導力端末機でそれ程のエネルギー消費量を賄って運用可能なのか、俄かに信じがたい。

 

リィンとツナはまだ知らない事だが、なのはやフェイトをはじめとする次元世界のトップランクの魔導師が使用可にしている【集束魔法(ブレイカー)】はそれこそ街一つを軽々と消滅させられる規格外の魔力エネルギー量を発揮するのだが、その莫大な運用魔力は事前に多数使用された魔法によって大気中に散らばった魔力素(魔法で消費した魔力の滓の事)を自らに集束し再利用する事で確保している。 しかし導力魔法に使用させる導力エネルギーとは《七耀石(セプチウム)》と呼ばれる特殊な鉱物結晶から抽出されるものであり、消費した導力エネルギーは魔力素のように大気中へ散らばる事は無く消失してしまうのだ。 ならばイノケントはどうやって……。

 

「ふはははは! さあ、我が宿敵にして敬愛せし三世界の若き英雄達よ。 その尊き勇気と絆の輝き(ヒカリ)と、平和と勝利への不屈の意志と、愛するものの総てを守護せんとする高潔な精神をもって。 並行未来の英知と魔導が外宇宙の果てより呼び起こす“竜王”の爆炎を、見事乗り越えてみせるがいい──《PARAISO》導力結晶回路エネルギー伝導率臨界点突破! “超越回転駆動(オーバードライブ)”開始だ!!

 

「「────ッッ!!!?」」

 

そして遂には煉獄の天の中心に座す十干十二支巨大方陣の上へと昇り立ったイノケントは更に天高々と《PARAISO》を掲げると、本日最高潮のはしゃぎ様を露わにして導力魔法(アーツ)発動前の詠唱駆動(ドライブ)をし始めた。 ところが、その詠唱駆動は通常の規格のものとは明らかに一線を画す次元の演出を顕した。 まず、駆動開始した瞬間にイノケントが左手に高々と掲げた《PARAISO》が“火”が燃焼するように強烈な赤色を発光しながらレースカー専用エンジン駆動回転音よりも数千倍は(おお)きく騒々しい爆動音を轟かし、それに続いて術者が立つ十干十二支巨大方陣が《PARAISO》が発し出したのと同色の光を強烈に放ちつつ、十干漢字を刻む内盤の右回転と十二支漢字を刻む外盤の左回転が超加速をし始めたのだった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──!!

 

その直後、炎のように赤く輝いて超速回転を開始した巨大方陣から尋常ではない“圧”が発せられ、高位相次元の壁ごと終末の世界を激しく震撼させる。 同時に術者が立つ巨大方陣の上部が同じ赤色に光る半円(ドーム)形の導力駆動術式に覆われ、その一連の事象工程を下から見上げたリィンがそれに非常に慣れ親しみがある見覚えを感じ取って雷に撃たれたと錯覚する程の衝撃をその身に走らせた。

 

「まさか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていうのか──ッ!!」

 

「ふははははー! 概ねその通りだ、リィン・シュバルツァー! お前も沢田綱吉もこれ程に巨大な駆動術式を見せられたならば、俺の言った事が実現可能であると理解できたであろう? エレボニア帝国の第五世代型戦術オーブメント《ARCUSⅡ》で適応されている火属性最上位攻撃導力魔法《ゼルエル・カノン》──その更に上位に位置付けされる“火属性究極上位攻撃導力魔法”を、今から御見せしようぞ!!」

 

「っ!! 来るぞ。 何をしている、早く構えろリィン──ッ!!!」

 

火属性究極上位攻撃導力魔法の駆動術式と化した巨大方陣の回転速度が《ARCUSⅡ》で強化を施された達人の動体視力をもってしても最早其処に刻まれた術式を読み取る事は不可能になった程に加速され、太陽の如き目が焼け焦げるような極光の輝きに染められた。 それに伴って何故か巨大駆動術式方陣から放たれていた“圧”は急消滅し、終末の世界全体の激震も水のように鎮められた。 だがしかし、ツナの中の“超直感”はそれが相手の詠唱駆動が完了した合図だと伝えてきて、それがとんでもなく危険な攻撃が来ると非常警報を甲高く鳴らした為、彼は一早く防御の身構えを取りつつ、まだ現実感を持てずに精神的衝撃からの回復を遅れさせていたリィンへ咄嗟と怒鳴り飛ばして正気を取り戻そうとさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だが、もう遅かった。

 

「外宇宙のその果てより来たれ。 その爆炎の息吹で惑星をも焼き尽くす、竜の王者(キング・オブ・ドラゴン)よ───《バハムートフレアボマー》ッッッ!!!!!」

 

天に立った次元魔王の盛大なる呼び声が那由他の次元時空を超えて轟き渡る。 直後に彼の足下の巨大駆動術式方陣が急に超速回転を止め、同時に心臓の鼓動の如き脈を一度打つ。 その静謐な脈動音が森羅万象をも畏怖させる霊的な“威”を伴って終末の世界全体のモノへと伝わり、その一瞬の間『天地崩界・神々の黄昏(次元魔王の支配領域)』内に在る何者から何物をの魂魄までも活動を絶対零度で凍結させた。

 

──ぁ……ああ……っ!!

 

──な……んだ……()()は……!?

 

見上げた事象への不信のあまり刹那の一瞬見せてしまった心の綻びに付け込んで来た霊的威圧を受け、その精悍な顔付きを今にも凍死しそうな酷い青紫色に染めたリィンの瞳に映し出されたのは、この世のものとは思えない程に想像を絶した戦慄の光景だった。

 

詠唱駆動を完了して特大の脈を打ったイノケントの巨大駆動術式方陣……朱炎に燃ゆるその下面の内側より産出されるかのようにして顕れ()でるは“捻じれ双角を生やした悪魔のような頭部を持つ、大山よりも巨大な黒竜の首”であった……!

 

刹那に齎された静謐を破り、魔王の呼びかけに応え出現した埒外級の幻獣を目の当たりにし、ツナまでもがそれから放たれてくる超越的な威圧感に圧倒的な畏れを懐いて身を石のように硬直させた。 遂にここまでずっと彼の額に灯され続けていた死ぬ気の炎も鎮火され、ミッドチルダにやって来る直前に飲んでいた特殊な丸薬により内面から外されていた全身の精神抑制(リミッター)が戻り、この局面で()()()()()()()()()()が強制的に元に戻されてしまった……。

 

『ギャオオオオオオオオオオンッッ!!』

 

「ひっ……ひいいいいいいぃぃ!! なんか凄くデッカイ、ドラゴンが出たーーーーッ!!!」

 

身に纏っていたボンゴレギアも強制解除され、死ぬ気の炎を灯していた時の冷静な威風とクールな雰囲気を完全崩壊させて、ダメダメな感じで気弱な風の少年に一変したツナが白目を剥いて情けない悲鳴をあげる。 イノケントが最高に愉快な気分で召喚した悪魔の頭を持つ巨大黒竜が巨大駆動術式方陣から飛び出してその圧倒的に絶大な全身を煉獄の大空へと現したのだ。

 

「火属性究極上位攻撃導力魔法《バハムートフレアボマー》。 それは三世界から遥かに離れし外宇宙の狭間に君臨している【竜王バハムート】が吐く爆炎の息吹(ブレス)をそのまま再現し、この星の全てを焼き尽くす! そしてその熱量は太陽をも遥かに上回る()()()だあああああぁぁーーーっ!!!」

 

業火を纏う三対六の大翼を羽ばたかせ、終末の世界に召喚された外宇宙の竜王の化身。 凡その目測で地上の崩壊都市(クラナガン)全体と同じぐらいという途轍もない(おお)きさの図体を誇り、体内に秘められている熱量は外に拡散したならば忽ち一つの太陽系列が蒸発し消えてしまう脅威の摂氏温度。 イノケントはそれを近未来の戦術オーブメント《PARAISO》を使って再現し、火属性の【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】として発動したのだと諸手を挙げてどうだ凄いだろうと言わんばかりに大声で自慢し叫んだ。

 

しかし、それが事実ならば幾らなんでも冗談では済まされないだろう、これは……。 幸いこの終末の世界『天地崩界・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)』はイノケントの《PARAISO》の《TTO》システムで現実世界から離れた高位相次元空間に創られている為、この場で発動しても少なくとも現実世界のミッドチルダが蒸発してしまう事態にはたぶんならないだろうが──

 

「ふざけるな……そんなものを放たれたら俺達もこの領域(フィールド)内の何処かに散り散りになった仲間達も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ッ!!」

 

「そんなの絶対イヤだーーーー!! でも酷い怪我していたスバルとなのはを後ろに待たせて、このままだと離れ離れの山本や獄寺君達だって危ないから、逃げる訳にはいかないし……うわああー! いったいどうしたらいいんだああああああっ!!?」

 

パワーインフレにも程がある究極上位導力魔法の発動を目の当たりにして極限の緊迫を強く噛み締めながら絶体絶命の危機感を叫ぶリィンと、隣でそれを聴いてノイローゼのように自分の頭を両手で挟み込んで大混乱に陥るツナ。 だがしかし、二人の攻撃ダメージを上昇させていたリィンのブレイブオーダー『烈攻陣《焔群》』は既に制限時間(カウント)切れによって終わっていて、死ぬ気の炎が消えてしまったツナは御覧の通りもう戦力にはならない。 何か打開策を考えている暇は無く、無情にも煉獄の大空に君臨した竜王の化身の持つ圧倒的な破壊の殺意を秘めたドス黒い眼光が二人の主人公(リィンとツナ)とその下の地上へと差し向けられ、悪魔のような頭部の口が裂ける程に大きく開かれ、その喉の奥から星を焼き尽くす一兆度の爆炎が激しく渦巻きながら上がって来て、それを勢いよく吐き出す為に喉元に溜めら(チャージされ)ていく。

 

「ふははははー! さあ、リィン・シュバルツァー! 沢田綱吉! そして我が信奉せし三世界の若き英雄達よ! お前達の素晴らしい勇気とキズナの力と輝き(ヒカリ)で起こす奇跡を、今一度魔王(おれ)に見せてくれ!! 光の勇者やヒーローは絶対不滅なのだと信じさせてくれ!! 俺に英雄(お前達)を、愛させてくれええええええええええええええええッッ!!!」

 

──くそっ! ……こうなったらやむを得ない。 異世界で使うとリスクは高いが“無想の極致”を解放する以外に方法は無いか──

 

──もうしょうがない。 この“新しい死ぬ気(がん)”は二つしかないから、リボーンの居ないところで極力使いたくなかったけど。 これを飲んで“あの状態”になるしか──

 

竜王の化身が終末の世界ごと英雄達を爆炎の息吹(ブレス)で焼き滅ぼそうと長い首を上げて大きく息を吸い込んだ。 馬鹿みたいに輝き過ぎてもはや無駄に神々しい小日輪と化している巨大駆動術式方陣の上で最高潮の大歓喜をあげ、大変嬉々となったあまりに面白く歪みまくらせた破顔を全面に露わして、到底無茶振りの限度という限度を超え過ぎた英雄達への期待と信頼を狂い叫ぶ次元魔王(超大バカ)。 一方このまま黙って息吹を放出させたら間違いなく一巻の終わりだと確信し、大きな代償(リスク)を支払う覚悟を決めてここまで取っておいた“切り札”を使用する決断をする二人の主人公(リィンとツナ)

 

リィンが全身から放出していた灰色の霊圧闘気(オーラ)を一度収め、《神刀【緋天】》を正眼に構え直しながら改めて自身の更に奥深い(うち)へと意識を沈める。 ツナが眼前の竜王の化身が放つ途方もない圧力(プレッシャー)に怯える自身の手を覚悟でどうにか動かし、着ているパーカーのポケットから“不思議な虹色の丸薬”が二つだけ中に入れてある透明ビンを取り出して、蓋を開けようとする。

 

……だがしかし、リィンの切り札は()()()()()()()()()()()()()()()()必要があり、ツナは恐怖で手が震えて直ぐにビンの蓋を開ける事が出来ない。 従って竜王の化身の方が先に爆炎の息吹(ブレス)を吹き放つ体勢に入り、天に反り伸ばしきった長首の口から喉元に溜め(チャージし)終えた一兆度の爆炎を溢れ出させる。 あとは勢いをつけてその首を振り下ろし、口を大きく開いてその中の爆炎を一気に吹き出せば、全てが終わる──

 

──くそっ、焦りで集中が……駄目だ間に合わない──ッ!!

 

瞬間増幅魔力薬莢全弾装填(カートリッジ・フルバーストリロード)────!!」

 

イノケントの火属性究極上位導力魔法《バハムートフレアボマー》がいよいよ撃ち放たれようとして、三世界の英雄達が万事休すとなるその直前だった。 相手の対界戦略級殲滅爆撃が繰り出される寸前を見て“切り札”の使用を急ぐに焦ってしまって集中を途切れさせてしまい、“無想の極致”の領域にまで届かせられず遂ぞ諦めかけるリィン。 だがその刹那、遥か真下から凛然と美しい女性の声が届いてくると同時に一筋の“金色の閃光”が疾風迅雷の如き(はや)さをもって彼らの背後を翔け上がって来た。 そしてその閃光は二人の頭上で停止し、全身に纏われていた金色の魔力闘気を弾けるようにして消した中から美しい金髪(ブロンド)ツインテールを夜風に棚引かせる黒魔導師──機動六課前線ライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウンが大気を迸る雷光(プラズマ)を纏わせた特大の光の斬馬刀(バルディッシュ・アサルト)を威風堂々と肩に振り上げて構えた立ち姿で現れたのであった。

 

「フェイト……!?」

 

「リィン、ツナ。 待たせてゴメンね。 その魔法は()()が止めてみせる!」

 

 

 

 




遂に次元魔王(馬鹿)の奴がはっちゃけ始めやがりましたー☆

リボーン「一兆度とかイカにも頭の悪い数字が出やがったしな」

グナちゃん「テイウカ、【アルティメット・アーツ】ッテ、ソノママノネーミングジャネーカヨ。 コンナブットンダインフレオリジナルアーツヲプロローグヘンショッパナカラダシヤガッテ、ドクシャタチハワケガワカラネーダロ?」

アリサちゃん「心配御無用ッ、その為のこのあとがきコーナー『超絶最強ヒロイン、アリサちゃんの“炎の軌跡”講座』じゃないの! 【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】の事だって、この超絶最強究極女優(アルティメット・ヒロイン)アリサ・ラインフォルトちゃんがちょちょいのちょいと詳しく全部説明してa──」

※【究極上位導力魔法】の詳細は次話の本編で説明されます。 ついでに『炎の軌跡講座』の次回はプロローグ編後の序章に書く予定なので、プロローグ編が完結するまでお休みです。

アリサちゃん(ハンカチ噛み締め)「チックショーーーーーッ!!!」




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三世界の若き英雄集結。 究極の導力魔法を打ち破れ!(前編)

ようやくフェイト達が戦列復帰だ。 さあ、ド派手に行くぜ!




所持していた全弾の瞬間増幅魔力薬莢(カートリッジ)を使用して膨大な魔力の稲光を全身から発しながらこの土壇場で颯爽と翔けつけてきたフェイトは、不意にド派手な登場と共に傷一つ無く無事な姿で現れた彼女の背中を見て一瞬驚きと安堵が入り混じる放心を浮かべたリィンとツナに今までたった二人だけで強大な敵と戦わせた事を一言謝り、高速儀式魔法で山程に魔力の刀身を巨大化させた光の斬馬刀(ライオットザンバー・カラミティ)を強く両手に握り締めて今にも星を焼滅させる爆炎の息吹(ブレス)を吹き放とうとしている竜王の化身の前に立ち塞がる。

 

「雷光一閃……プラズマザンバァァァ──ブレイカアアアアアアーーーッッ!!!

 

しっかりとした浮遊鉄骨の上に足場を固めてフェイトは大きく肩の後ろに振り被った光の斬馬刀を一息に打ち振い、自身の出せる最大火力の必殺戦技(Sクラフト)を放った。 雷光を纏う光の斬馬刀が繰り出されると共にその特大の魔力刀身が一気に伸長されるような格好で射出された金色の極太砲撃《プラズマザンバーブレイカー》は雷鳴の速度で煉獄の大空を穿ち、その長首が振り下ろされて悪魔竜の大顎口(あぎと)から爆炎の息吹が吐き出されるよりも一瞬先に到達する。

 

『グギャアアアアッ!!?』

 

竜王の化身が矮小な英雄達と終末の世界を灰も残らず焼き尽してやるとして一兆度の爆炎を吹き放とうとした寸前に勢いをつけて振り下げた首下にある肺部位に金色の極太砲撃が命中。 フェイトが撃ち込んだ膨大な魔力量に比例した特大級の被爆が生じて8000m下の崩壊都市(クラナガン)に衝撃波が届く程の爆風反動を爆炎を吹き出す為の器官部分に受けた事で喉を詰まらせた竜王の化身が天から振り下ろしかけた長首を再び天に向くように押し戻されてそのまま後ろに仰け反り、喉元の詰まりに塞き止められた爆炎が圧迫されて暴発を起こし口内で爆散された。 この竜王の化身自体は実際イノケントの《PARAISO(パライゾ)》と終末の世界の天空に敷かれた巨大駆動術式方陣を介して創り出された膨大な量の火属性導力エネルギーの塊なので、それは意思など持っていない筈なのだが、詰まり爆発で後方に大きく仰け反らされた長首が内部破裂して煙を上げている様子があまりにも凄絶で痛々し過ぎ、奴が激痛に悶絶して苦鳴をあげているように見える。

 

「す、凄い……ッ!」

 

「や……やった! フェイトの物凄い雷砲撃がイノケントの【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】の攻撃が放たれるのを阻止しt──」

 

全身の肌が()()を受けて痺れるようなビリビリとした衝撃風に身を嬲られつつ、フェイトが撃ち放った《プラズマザンバーブレイカー》の出鱈目な威力を目の当たりにしてリィンは思わず呆けて感嘆を漏らしていた。 《バハムートフレアボマー》の圧力が齎してくる途轍もない恐怖とその大馬鹿過ぎる超越火力が放たれて来そうだった事への焦燥に駆られていたまま必死になって虹色の丸薬を入れてあるビンの蓋を開けようとして、ずっと震えが止まらない手に倦ねて一言も発さず悪戦苦闘していたツナもその超越火力の爆炎を放ってきそうだった竜王の化身がフェイトの必殺戦技(Sクラフト)をくらい、一兆度もの熱量が放出されるのを阻止された光景を見た事で身を苛んでいた恐怖から解放され、一転して喜びの声をあげようとする。

 

『グルルル……ギャオオオオオオオオオンッッ!!!

 

「──てない!? 嘘おおおおおおおっ!!」

 

ところが、驚くことに究極上位導力魔法は一度止めても導力魔法解除(アーツ・キャンセル)にはならないようであった。 一兆度の詰まり暴発による内部破裂を受けてズタズタになりもう使い物にならなくなったと思われた竜王の化身の長首がDVDの早戻し画像のようにして直ぐに元通りになり、悪魔竜の貌が怒り心頭を露わにしてリィン達三人へ激怒の咆哮を浴びせてきた。 恐らくは「貴様たちはこの竜王(バハムート)の逆鱗に触れた。 故に許さぬ。 その細胞一片も残さず焼き尽くしてくれようぞ!」と言った感じの怨嗟を向けてきているのだろう。 助かったと思って安心しそうになったツナが頭上から吹きかけられてきた耳を劈く竜王の怒声(シャウト)と台風と見紛う強勢力を伴った吐息を受けて、絶望のあまり頭を抱えて白目を剥きながら狂い喚いた。

 

「ひいぃぃっ! もう駄目だー! おしまいだあああああっ!!」

 

死ぬ気の炎が額から消えてすっかり“元のダメダメな普通の少年に戻ってしまったツナ”、ひと呼んで【ダメツナ】。 しかしこのギリギリの窮地においては急に雰囲気を様変わりさせてクールな歴戦の炎拳士から情けない悲鳴をあげている臆病な普通の少年に変貌した彼を気にする余裕はリィン達には無い。 三人が見上げた先で竜王の化身が再生した喉の奥に再び星を焼滅させる爆炎の息吹を溜め込み始める。

 

「くっ! だが、何が何でも絶対に放たせる訳にはいかない! 今度こそ俺が──」

 

「リィン教官ッ!」

 

「──っ!? この声は……!」

 

フェイトは必殺戦技(Sクラフト)を使用した反動で大きな硬直(ラグ)を起こしており、ダメダメになったツナは聞くまでも無く絶体絶命の状況下で冷静を保てず大騒ぎ混乱しているばかりだ。 リィンは二人が動けないのならば自分が《バハムートフレアボマー》を止めてやるしかないと思い、今度こそ切り札の“無想の極致”を使用しようと太刀を正眼に構える。 そしてもう一度己の(うち)の深層まで潜ろうと目を閉じようとしたその時、彼の耳に聴き慣れて親しい活力に満ち溢れる真っ直ぐな女子生徒の声が届き、それによって切り札の使用に待ったをかけられる。 自分を呼んだ声が誰のものなのか直ぐに察せたリィンが正眼に構えたまま声が聴こえてきた南東を振り向いて、その方角から黒い戦術殻に運搬される形でこちらに接近して来ている女子三名の姿を確認しようとしたところに──

 

「──うふふ。 ユウナさん、アルティナさん。 ごめんなさいね。 今回はわたしの方が速かったみたいです♪」

 

「ミュゼ!?」

 

「ええ、そうですリィン教官。 教官が一番に愛する生徒のミュゼ(わたし)が、貴方の危機に唯今(ただいま)馳せ参じました♡」

 

不意に何時の間にかリィン達の直ぐ側を漂っていた浮遊バスの屋根の上へ跳び乗って来ていた、リィンの担任クラス生徒の一人にしてトールズⅦ組の仲間であるミュゼ・イーグレットがいつものあざとい微笑と蠱惑的な声音で自身のクラス担任であるリィンに経った今合流した事を報告する。 彼女はその手に携えた豪華な装飾のマスケット銃のような外見をしている魔導騎銃──《玲銃マルグレーテ》をパレードバトンのように華麗に回して真上へと放り投げる。

 

「さあ、舞台の幕を上げましょう!」

 

綺麗に真っ直ぐミュゼの眼前に落下した魔導騎銃は彼女がとある秘密結社の魔女に教わった魔術によって()()()()()、それ等の銃身が竜王の化身に向けられて横一列に整列する。 彼女は続いてトールズ第Ⅱ分校の青い学生服のミニスカートから自身の木目細かな(てのひら)にもスッポリと納まる程に小さな導力拳銃を取り出した。

 

「レッツ──スタート!」

 

まるで徒競走のスタート合図を出すように頭上へ真っ直ぐと上げた右手で小導力拳銃の引き金(トリガー)を引いて、指揮官(ミュゼ)が号令の弾を撃ち上げる。 パン! と一つ小さく鳴らされた号令と共に彼女の眼前に整列した()()()()()()()()()()()()()()()()、竜王の化身に向けて長く伸びた銃身の先から導力エネルギー光線(レーザー)を一斉射出。 目標へ到達するまでの弾道の計算に1リジュ(cm)も狂い無く一直線に飛び伸びて、巨大な的に全弾命中した。 しかし、その程度では星を焼き尽くす程の途方もない導力エネルギー量を持つ究極上位導力魔法を打ち消すどころか、攻撃を放つ竜王の化身の動きを止める事すらも出来ない。

 

「まだまだ、此処からが佳境です!」

 

勿論の事、エレボニア帝国内随一の名門で超難関士官学院であるというトールズの筆記試験の採点数を自分の好きに出来てしまう程に明晰な頭脳を持つ彼女は、たかが十数条のエネルギー光線程度だけでどうにかできるなどとは微塵も思っていない。 間髪入れずに眼前に整列する魔導騎銃達を魔術で短距離転移(ショートジャンプ)させ、経った今爆炎の息吹(ブレス)溜め込み(チャージ)を完了させた竜王の化身を完全包囲。 指揮官(ミュゼ)が毅然と腕を揮って号令を出し、360°全方位(オールレンジ)より特大の災厄へと照準固定(ロックオン)した《玲銃マルグレーテ》の銃口が一斉に火を吹く。

 

「ロード……ガラクシア──ッッ!!!」

 

締め括り(フィニッシュ)にそのまま全方位から最大出力の導力エネルギー光線(レーザー)を突き刺し、作戦完了(ミッションコンプリート)! 碧銀に彩られた無数の光条が連鎖爆発して壮麗なる協奏曲(コンチェルト)を奏でた。

 

「や……やった?」

 

「いいえ、まだです。 ですが城を崩す為の(くさび)は打ち込みました」

 

ミュゼの必殺戦技(Sクラフト)《ロード・ガラクシアⅡ》による流麗苛烈なる波状連射が浴びせられ、もはや芸術的と呼べる爆光の煙幕(カーテン)に包み込まれた竜王の化身を観て今度こそ消滅させたのかと思い呆けた口から漏らしたツナに、ミュゼは撃ち方を終えた《玲銃マルグレーテ》を()()()()()()()手元へと戻しつつ、真面目な口調で(いな)と答える。 彼女の言う通り、その直後に地上の廃墟を吹き崩し瓦礫を巻き上げる咆哮波(ハウリングウェーブ)で爆光の煙幕が一瞬にして掻き消されてしまった。 再び姿を出した竜王の化身は全く無傷であり、先程と同様に煉獄の天へと長い首を伸ばして爆炎の息吹を放つ準備の溜め込み(チャージ)動作を続けていた……が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それがミュゼの必殺戦技がまるで効いて無い訳ではないという証左であった。 そして、相手が爆炎の熱源を発射機能となる喉元へと蓄える体内エネルギー運搬速度を落とした隙の合間を縫って、南東より飛んで来た黒い戦術殻──《クラウ=ソラス》に乗る三名の美少女戦士が漸くリィン達のもとに到着。

 

「わたしに出来るのは、これまでです。 あとはお願いします、ユウナさん達」

 

「フフン、任せなさい! あたしに合わせてアル! ティアナさんもお願い!」

 

「了解です」

 

「仕方がないわね。 急ごしらえの三人連携(トライアタック)になるけれど、なんとか合わせてみせるわ!」

 

合流した美少女三名はユウナとアルティナのトールズⅦ組特務科女子ペアと、機動六課FW陣司令塔(リーダー)のティアナだった。

 

ガラハッドが爆散して仲間達全員が終末の世界に散り散りに飛ばされた後、アルティナの《クラウ=ソラス》が自動防衛機能で守ってくれた事で三人は近い場所に落ちていた。 それで三人は一緒になってリィン達の戦いに加勢しようとして、ずっと前から《クラウ=ソラス》で戦場に向かっていたのだが、終末の世界の重力崩壊(ルール)を広く使って超高速空中戦を繰り広げていたリィン達の移動速度が閃光の如く速過ぎていた所為で、今まで彼らを散々追いかけ続けていたという訳だった。 しかも、一番遠方に吹っ飛ばされていながら真ソニックフォームの音速機動(マッハスピード)を持ってして誰よりも早く戦場へと辿り着いたフェイトと、盤面を俯瞰するかのような巧みな予測を使いリィン達の移動パターンを読む事で先回りしたミュゼに先を越され、三人共ちょっと悔しそうな色を顔に滲ませている。

 

SET(セット)──GUNNER(ガンナー)! 強烈なのをお見舞いしてあげるわ──ッ!!」

 

「《クラウ=ソラス》──分身(リヴィジョン)変形装着・形態変化(トランスフォーム)同調(シンクロ)完了……“ブレイブモード”ッ!!」

 

「前は未完成で使えなかったけれど、今なら撃てる! くらえ──ッ!!」

 

《クラウ=ソラス》がリィン達の前へと躍り出て、其処らを漂う横広の浮遊足場の上に意気軒高と飛び降りたユウナ達三人。 竜王の化身が破滅の爆炎を吹き放つのを阻止すべく、または遅れて来た事を挽回すべくして、三人一斉に大技を繰り出す為の構えを取る。 両手に一つずつ握り締めた銃機構(ギミック)搭載旋棍(トンファー)【ガンブレイカー】を逆手持ちに返し、棍突部位にポッカリと空けられた射出口二門で竜王の化身のドテッ腹へ狙いを付けるユウナ。 とある秘密地下工房が制作した超高度の謎機能を使い《クラウ=ソラス》を()()()()()()()、その内の一機を空戦機動殲滅用軽鎧《アルカディアス・ギア》に変えて身に装着し、もう一機を漆黒の大剣《ラグナ・ブリンガー》へと形態変化させ装備したアルティナ。 双銃のインテリジェントデバイス《クロスミラージュ》を持った両腕を交差(クロス)させて二つの銃口を真っ直ぐに突き出し、足下を固めるよう大きく開いて構え、何物も見通し見逃さない瞳に巨大な目標(ターゲット)を映して照準固定(ロックオン)するティアナ。

 

「エクセル──ブレイカアアアアアアアア!!!」

 

「ソラリス……ブリンガー!!!」

 

「行っけえええっ!! ファントムブレイザーーーーーーーッッ!!!」

 

三人は上手く息を合わせてほぼ同時に戦技を撃っ放った。 射出口に迸る導力エネルギーを充填し、ユウナが凛然と雄々しく必殺戦技(Sクラフト)名を叫ぶよりも速く彼女の構える二丁のガンブレイカーが電撃を伴う程に凄まじい導力光線(レーザー)を目にも留まらぬ勢いで吐き出す。 身に纏った飛行ユニット(アルカディス・ギア)で攻撃目標の頭上へと飛翔したアルティナがその小さな手で持ってきた自身の丈よりも(おお)きい漆黒の大剣(ラグナ・ブリンガー)の剣山を、天を見上げて星を焼き尽くす爆炎があと少しで十分の熱量を口内に満たしかけようとしている竜王の化身の熱源精製箇所(肺部)へと差し向けて、その柄尻をミサイル発射と見紛う爆速で蹴り出す。 “今度こそは撃ち抜く”という確固たる意思を声に轟かせたティアナが白艶やかな両腕を交差させて伸ばした双銃(クロスミラージュ)の銃身に、彼女自身が持つ魔力光と同じ橙色(オレンジ)に光る回転する正方形を内包する魔法陣(ミッドチルダ魔法術式)を展開し、それを砲門にして特大の魔力砲弾を撃ち出す。

 

『ギャオオォオオォォーーッッ!!?』

 

未来に夢見る三人の美少女戦士が夢へと向かう希望の未来を守るべくして全力で放った必殺戦技(Sクラフト)は太陽をも遥かに上回るエネルギーを内包する(おお)いなる暗黒竜王へと、激烈なる風穿音を轟かせて大気を突き貫き猛然と殺到していく。 ユウナの《エクセルブレイカーⅡ》が右下側、アルティナの《ソラリス・ブリンガーⅡ》が上中央側、ティアナの《ファントムブレイザー》が左下側──文字通りの三角点攻撃(トライアタック)となって竜王の化身を見事に撃ち抜いた。 命中した下腹部左右と胸部分中心にトラック車両が通れそうな程の大孔が穿たれ、その三点を中心に天の逆鱗の如く炸裂した大爆発が竜王の大山のような巨体を蔽い尽くした。

 

「よし、どんなもんよっ! やったわねアル、ティアナさん♪」

 

「むぎゅ……ユウナさん、嬉しいのは分かりますが、いつもいつも急に抱き着かないでください」

 

──何で昨日まで見ず知らずの他人同士だった私まで一緒に……このユウナって人、お調子者で他人に馴れ馴れしいところもスバル(あのバカ)に似ているわね……。

 

「それと、別に私の事は呼び捨てで構わないわ。 見たところ歳は近いようだし……」

 

「ほんと! じゃあ“ティア”って呼ぶわね♪ よろしく、ティア!」

 

──(ガクッ)少し親しくなっただけであだ名呼びしてくるところまで……しかもあだ名付けのネーミングセンスもバカスバルと全く同じって……。

 

三人同時の必殺戦技(Sクラフト)による一斉大火力追撃が会心に決まり、ユウナが炸裂爆発の猛烈な余波を受けて髪やスカートが大いに乱れている事にも気付かずに、アルティナとティアナを二人共纏めて両腕いっぱいに抱き寄せて大喜びに舞い上がる。 逆風で危なげな姿を曝しだした美少女三人から無言で視線を逸らし明後日へ向ける男子共(リィンとツナ)。 そしてハイテンションに浮かれているのはユウナただ一人だけであり、アルティナは慣れたように呆れながら言っても無駄と解りつつ淡々と鬱陶しいから止めてくれアピールを促していて、ティアナに至ってはユウナが見せてくる調子良く人当たりのイイ性格から親しくなった自分に同じあだ名を付けてくるところに至るまで自分の親友兼相方(パートナー)であるあの何時如何なる時もヘラヘラして人にベタベタしてくる青髪格闘魔法少女にそっくりだと思い愕然と項垂れている始末だ。 しかも二人が放つ鬱陶しいなオーラは浮かれモードになったユウナには全然届いていない。 フッ、手に負えんなww。

 

「は……はは。 何はともあれフェイト、ミュゼ達も危ないところに駆けつけてくれて助かった。 みんな無事だって信じていたよ」

 

「うふふ、それは当然のことですリィン教官。 愛する殿方の危機に馳せ参じてこそ、真の乙女なのですから♡」

 

「それにリィンとツナこそ、此処まであんな途轍もなく人に過ぎた魔法を使うような規格外の強敵相手にたったの二人で戦って、よく頑張って持ち堪えたね。 イノケントに危うくやられそうになっていた私の親友(なのは)部下(スバル)の事も助けてくれたんだってね? どうもありがとう」

 

「もしかして、二人には会って来たの?」

 

「(ツナさん、先程と雰囲気が変わっているような……?)はい。 御二人共ほぼ瀕死の重傷を受けていましたので、とりあえず手持ちに有った【アセラスの薬】で戦闘不能状態を回復させてから《クラウ=ソラス》の回復治癒機能(アルティウムヒール)で放置しておくと致命的になりそうな外傷を治しておきました」

 

「だけど、スバル(あのバカ)もなのはさんも魔力と体力は回復しきれていなかったので、戦線復帰は難しいかと思います。 さすがにいつも無茶しがちなあの二人でも今回ばかりは大事を取って後方で待機しているのだろうかと……というかユウナ、いい加減にしてそろそろ離してくれない?」

 

「ぐっへへ~。 アルのスベスベな触り心地も相変わらず最高だけど、ティアのお肌も艶々でなかなかイイわね~♥」

 

此処に来るまでの道中でやった事をリィン達に話している間にユウナが百合百合スキンシップからエロオヤジモード化した為、身の危険を感じたティアナとアルティナはセクハラ女(ユウナ)の頭と鳩尾を無言でどついて彼女の拘束を無理矢理に引き剝がした。 二人からくらわされた密着零距離の張り手は魔力と《ARCUSⅡ》で若干威力強化されていてなかなかに強烈だった故、ユウナは「あう″っ!?」となって一瞬目が星になり、(とりあえず)正気を取り戻した……その直後、ユウナ達三人の必殺戦技(Sクラフト)三角点攻撃(トライアタック)の炸裂で巻き起こされた大爆発後の爆煙が突然内側より発せられた竜の怒号(ドラゴンハウリング)によって引き裂かれた。

 

『ギャオオオオオオオオオン──ッッ!!!』

 

「な──にィィッ!!?」

 

「う″……あ″あ″あ″あ″っ!!」

 

「耳が……壊れ……る……!!」

 

大気を伝播してこの終末の世界全体の大空に悲鳴をあげさせ、創造の地上本部があった地の中心から東西南北の果てまで伸びる十字型の大地割れが発生する規模(レベル)の超大音量で鳴り轟いた竜王の咆哮にリィン達は全員耳を劈かれる。 忽ち頭が真っ二つに割れそうな程に激しく脳内を反響し、咄嗟に耳を両手で塞いで耐え難い激痛に苦悶を曝した。 怒号はすぐに止み、耳に残った耳鳴りに蟀谷を歪めつつ頭を上げて空を見遣る。 依然変わりなく天の中心には朱炎の輪郭線を纏いて太陽の如き極光を下々に放ち続けている火属性の究極上位導力魔法の駆動術式方陣が展開され続けていて、その真下で業火を纏う三対六の大翼を羽ばたかせて地上の星を焼き尽くさんとする竜王の化身は未だ健在であった。

 

「ククク……なるほどな。 主人公が絶体絶命の局面においては必ず頼れる仲間達が駆けつけ、皆で力を合わせる事で危機的状況を打破するか。 過去には立場の違いや性格的に反りが合わず、仲違いや衝突をしてきた事もあっただろうが、時に行く道に立ち塞がる壁を乗り越えるべくして手を取り合ったり、時に止むを得ぬ事情の前に敵対し本音でぶつかり合ってきた事で、繋がりの環を広げ強固に育まれてきた英雄達の絆の力よ。 嗚呼(ああ)なんと美しきかな……」

 

竜王の化身が業炎の火の粉を煉獄の空に撒き散らしながら羽ばたく頭上に輝きまくる巨大方陣の上面に立つ次元魔王(イノケント)は《バハムートフレアボマー》という究極の導力魔法を打ち破ろうと、次々と主人公達(リィンとツナ)のもとに集結し持てる必殺戦技(Sクラフト)を束ねて星をも焼滅させてしまう絶対的なエネルギー量の塊である竜王の化身が一撃必滅の攻撃を放つのを阻止してみせようとする光の絆で結ばれし仲間達の雄姿を、宇宙一つを丸々飲み込んだかのようにギラギラと輝かせる暗黒の瞳に映しながら、此処に感極まれりといった心酔の表情で彼らの絆をどこまでも褒め称える言の葉を詠み耽っている。 正道を征く光の英雄達が放つ輝き(ヒカリ)はどこまでも至高で美しいと、高見から見物して自分の身勝手な夢想に酔い痴れている。 英雄達はそんな風に世界の平和を壊そうとしている黒幕(ラスボス)が観客気分でいる事がどうしても許せない。

 

「イノケント──ッ!!」

 

「ふはははは! そんな大声で叫ばずとも、ちゃんと聴こえているぞリィン・シュバルツァー。 ……しかし、なるほどよなぁ。 単騎や二人の力だけで食い止められぬものには三人以上で協力して掛かってゆくか。 確かにとてもシンプルで合理的であり、単純な戦力と制圧力を大幅に上昇させる事で、より強大な相手を制せる可能性を上げるという実に強力な戦法だ。 実際にこうして俺が発動した《バハムートフレアボマー》の攻撃が放たれるのを加勢による戦力数増加を活かした波状連携攻撃をもって絶妙に妨害し、一度ならず二度までも攻撃阻止(チャージキャンセル)してみせている。 まったくもって素晴らしいよ。 英雄(おまえたち)の持つ信頼と絆の力、とても良いぞ……()()()()()()()()()()()。 この究極の火属性導力エネルギーで形作られた竜王(バハムート)を滅するまでにはな」

 

「そ、そんなぁ。 フェイト達の攻撃だけじゃ、足りないって言うのか……」

 

一兵卒の軍人や並大抵の魔導師が受ければ即泡吹いて気絶する程の“威圧”が込められた激昂をリィンから向けられても平然と嗤うイノケント。 奴からフェイト達の加勢と連携で竜王の化身の爆炎放射を阻止し続け大変健闘している事に対し相変わらず嘘偽りの無い賞賛が送られ、しかしそれだけでは《バハムートフレアボマー》を解除(キャンセル)する事は出来ないとキッパリ断言されて、ツナは瞳を弱々揺らがせて意気阻喪とする。 リィンやフェイト達も歯を食い縛ったり目尻を吊り上げたりして打つ手の厳しさを感じながら辛々(つらづら)とした冷水を全身から流し出している有様だった。

 

究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】は全てに共通してその絶大な威力や効果に引き換えて通常の戦術オーブメント端末ではとても賄えきれない莫大なる導力エネルギーと普通の上位導力魔法よりも遥かに巨大規模となる駆動術式を構築する事が必須になってくる。 それ故に多元並行宇宙(マルチバース)のあらゆる世界から異端技術の粋を集めた近未来戦術オーブメント《PARAISO》の絶大な因果律改変規模と規格外の導力エネルギー運用をもってして高位相次元空間へ接続(アクセス)し自由自在に戦闘領域(バトルフィールド)の創造構築を行える『TERRITORY(テリトリー) ORDER(オーダー)』を利用することで究極上位導力魔法を使用する為に必要である巨大規模の駆動術式方陣を構築展開する事を実現した。

 

究極上位導力魔法の詠唱駆動(ドライブ)中、詠唱術者は巨大駆動術式方陣が展開する完全防御の因果律結界の内側で守られている為、如何なる手段を用いても駆動解除(キャンセル)する事は不可能だ。 だがしかし、その発動に掛かる莫大なEP(エネルギーポイント)故にその術が持つ馬鹿と呼べる程絶大規模の攻撃や効果を最大限且つ円滑に発揮できるように、発動直後に必ず導力エネルギーを充填(チャージ)して術を放つ装置的な役割を持つ魔導巨像(エネミーオブジェクト)が召喚される。

 

そして召喚された魔導巨像にはHP(ヒットポイント)が存在し、導力エネルギーが充填されて攻撃が放たれる前にどうにかして一定量ダメージを与えて魔導巨像のHPを削り切る事が出来れば、魔導巨像は消滅し究極上位導力魔法を解除(キャンセル)する事が出来る……のだが、驚くべき事に究極上位導力魔法の()()()()()()()()()()H()P()()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()H()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()H()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 つまり、これまでにフェイトの《プラズマザンバーブレイカー》で一回、ミュゼからユウナ・アルティナ・ティアナによる必殺戦技(Sクラフト)四連鎖で竜王の化身のHPを二回0にしたが、あと“五回”もやらなければ《バハムートフレアボマー》を止める事など出来ぬううぅぅ! という事なのである。

 

「──ハッ! だったらアタシ等の手で、足りねぇ分をそのギガ暑苦しいクソデカ竜に食らわせてやりゃあイイってだけのハナシだ!!」

 

一度0になったHPを全回復し、竜王の化身──改め《バハムートフレアボマー》の魔導巨像が長首を天へと伸ばして三たび星を焼滅させる爆炎を放つ為の火属性導力エネルギーを充填(チャージ)し始め、今現在此処に集まった戦闘員(パーティ)全員のCP(クラフトポイント)を底尽きさせたリィン達が最後まで決死の覚悟で足掻いて止めてやるとして身構えたその時、突然として生意気そうながら歴戦の覇気を感じれる幼女の声(ロリータヴォイス)が煉獄の大空に甲高く響き渡った。 その直後に魔導巨像の背後に真っ赤な騎士甲冑(ゴスロリ衣装)を身に纏う赤毛三つ編みの幼女が、大きなハンマーヘッドのそれぞれ片方ずつを超速回転掘削機構(ドリル)とロケット噴射推進機構(ブースター)に変形させた戦槌(ハンマー)型アームドデバイスをその小さな全身を使って豪快に振り回しながら猛然と突進して来た。 現れたその赤毛三つ編みの幼女の正体をよく知っているフェイトとティアナがとても頼もしそうな笑みをパァっと浮かべ、声を揃えて彼女の名を呼んだ。

 

「「ヴィータ(副隊長)!!」」

 

「おう! お前ら、待たせたな! 古今単騎無双の夜天の主の守護騎士(ヴォルケンリッター)が最強の矛、この《鉄槌の騎士》ヴィータ様と絶対破壊の魔戦槌《グラーフアイゼン》が来たからには、どんな敵も壁もクソデカ竜も、何もかもブッ壊してやるぜッ!!」

 

 

 

 

 




リボーン「ツナの大馬鹿ヤローが、プロローグの戦いのクライマックスなんかで日和ってダメツナに戻りやがった。 異世界の連中の前であんな情けねー悲鳴出しやがって。 裏社会天下最強のボンゴレファミリーの次期ボスがナメられたら終わりだろーがよ? オレが本編でミッドチルダ(あっち)に行ったら、あのダメツナいつもの十倍ねっちょりシメてやるぞ」

ダメツナ(超直感で次元超越電波受信)「ひぃっ!?(今何か背中に感じ慣れたような恐ろしい殺気が──ッ!!)」



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三世界の若き英雄集結。 究極の導力魔法を打ち破れ!(中編)

ヴィータ(推定500年以上昔に制作された古代の魔導書の守護騎士)「()()英雄っつうけどよ、それアタシらも含まれてんのか?」

シグナム(同上)「なに、気にする事はない。 我らヴォルケンリッター、姿と心は永久(とこしえ)若人(わこうど)だ」

湖の癒し手(本編の出番まだの人)「でも“永久(とこしえ)”とか“若人(わこうど)”とか言っているあたり、かなり年寄り臭いわよシグナム」

盾の守護獣(同上)「なに、気にする事はない」

ヴィータ達の主のタヌキ娘(本編にはセリフだけ出ていて、名前の紹介はまだの部隊長)「てか、んな事はどうでもええやろ! それよか本編の私の出番はまだなんか!? 何話か前にツヴァイと一緒に出撃していた筈やろ、どないなっとんねん!!」

某運命の物語の空気王(自然に混ざり込んでいる)「なに、気にする事はない」





獰猛不敵に覗かせた犬歯を光らせて戦友達に立ち塞がる全ての障害は己が壊してやるから安心しろと豪語し放った騎士ヴィータがその小さな両手に握り締めるドリルロケットハンマー(グラーフアイゼン)大独楽高速回転(ジャイアントスイング)で巧みに操りつつ、己が身を赤い榴弾と化して竜王魔導巨像の背中のど真ん中へと突っ込む。

 

「【聖王のゆりかご】の駆動炉をもブッ貫いた、この鉄の伯爵(グラーフアイゼン)最強の限界突破(リミットブレイク)を、とくと食らいな! ツェアシュテールングス──ハンマアアアアアアアアッ!!!

 

煉獄の天にその名を轟かせて、火花を散らし唸りを上げる超速回転掘削頭魔戦槌(ツェアシュテールングスハンマー)を大上段から豪快に振り下ろして叩き付ける。 ロケット噴射推進(ブースト)の爆発的な加速エネルギーも合わさって、突き刺さった一点から無限に自動修復する古代戦艦をも砕く途轍もない衝撃が竜王魔導巨像の内側奥底まで突き抜け、更には全身へと拡散して行き渡り破壊の限りを尽くした。

 

『グオォォォッ!!?』

 

不意を突かれて背中に叩き付けられた絶対破壊の鉄槌によりその巨体全身のあちこちが凄惨な暴発音を鳴らして崩され亀裂を刻み、まるで激痛に喘ぐような悲鳴を鳴らす竜王の化身。 特大のダメージが入った。

 

アアッ、アッヂヂヂィィーーーッ!? ふー! ふー! ……んだよこのデカ竜、ギガクソ熱ぃ! ブッ叩いた瞬間にアイゼンがコイツの中の熱にやられて、ハンマーヘッドから柄まで真っ赤っ赤になりやがったし! お陰でアタシの手が焼けちまっただろうが、ボケーーッ!!」

 

現在放てる最強の必殺戦技(Sクラフト)で竜王魔導巨象のHPを一気に半分以下まで削り取る事に成功したヴィータだったが、変形できる四形態(フォルム・フィーア)の内【リミットブレイク】の最大攻撃形態《ツェアシュテールングスフォルム》で打ち貫いた鉄の戦槌(グラーフアイゼン)が巨像内部に流れていた灼熱の流炎に浸かってしまい、一秒経たず(アイゼン)は熱されたフライパンのような色に変えられて、溶岩の如く凄い熱さになった鉄柄を握り締めていた両手を火傷してしまったようだ。 焼けて真っ赤になった皮膚が剥けて凡そ1.3倍にまで膨張した自分の手に必死こいて息を吹き付けて冷ましつつ、頭からプンスカ湯気を出しながら足下の竜王魔導巨像をダダンッ! と踏みつけて罵詈雑言を吐くという、見た目通り子供の様相を全面に曝している歴戦の騎士が此処にいるww。

 

こんなとんでもなく熱いものに突き刺したままにしたら古代より共に数多の戦場を越えてきた己の相機がドロドロに溶かされて蒸発してしまうと思ったヴィータは持ち前の気合いとド根性で鉄焼ける両手の痛みを堪えながら、どうにか竜王魔導巨像からグラーフアイゼンを引き抜いて、巨像の上から離れる。 彼女は巨像が放出する熱気がマシに和らぐ距離まで一足跳びして、その辺りを漂っていた浮遊馬の背中に跨る。 そうしてグラーフアイゼンを一旦ミニチュアハンマー(待機形態)へと戻して(モードリリース)、それを側に浮かんでいた洗面台の上にひとまず置いて熱を冷ます。 ……何はさておき、火属性の魔導巨像に直接触れる物理攻撃を仕掛けるのは非常に危ないという事は解った。

 

「ふむ……ならば私は、十分な距離から“大弓”で射るとしようか」

 

空飛ぶ馬に跨って火傷した両手を何故か給水管が千切れているのに水が出る浮遊洗面台の蛇口で洗うヴィータのなんともシュールな姿を上から見下ろして、思案顔で自分の首筋を触りながら次に到着したのはシグナムだった。

 

「という訳だ、レヴァンティン。 《ボーゲンフォルム》を頼む」

 

了解(ヤヴォール)

 

「ああっ!? テメェ、後から来てそれは汚ねぇぞシグナム!!」

 

「ブヒヒww」

 

「ウルセェ嗤うな! それとテメェは豚じゃなくて馬だろうがぁぁ!!」

 

竜王魔導巨像に近接攻撃して手痛いしっぺ返しを受けたヴィータの失敗を見て接近するのはリスクが高いと理解したシグナムは(レヴァンティン)を遠距離狙撃用の大弓形態(ボーゲンフォルム)に変形させる。 自分達(ヴォルケンリッター)の将の到着にようやく気付いたおマヌケな鉄槌の騎士が下でなにやらギャーギャー文句を言っているが、豚のように鳴き嗤って彼女の事を小馬鹿にしてきた浮遊馬とそれに跨る彼女が口喧嘩をし出したようなので、気にせず鞘と剣を連結して大弓に変形させたレヴァンティンの弦に魔力の矢を番える。 ヴィータの《ツェアシュテールングスハンマー》で大きなダメージを受け、六枚の灼熱大翼を振り回して周囲に火の粉を撒き散らしながら暴れ苦しんでいる様子を見せている竜王の化身。 烈火の将は奴の心臓(導力体である為、心臓など無いが……)に狙いを定めて弦を引き絞り、音速の矢を放った。

 

「あれだけ的が巨大ならば外す事はあるまい……()けよ(はやぶさ)

 

『《シュツルムファルケン》ッ!!』

 

シグナムの凛然と透き通る掛け声が空高々とあげられてレヴァンティンのAI音声が戦技名を発したと同時に射出された魔力の矢は音の層を破って真空波を引き連れ、軌道上を遮る無数の浮遊障害物を塵へと変えながら山程巨大な的目掛けて直進する。 新手の存在に気付いた竜王の化身が背中を振り返り、文字通り一羽の光の隼と化した魔力の矢がその胸の中心に真っ直ぐ吸い込まれるように突き刺さった。

 

『グッ!? ギャアアアアアアアアアッ!!』

 

《烈火の将》が撃ち出した矢は巨大な的に命中すると突き刺さった鏃から発火して射抜いた敵を地獄の業火で燃やし尽くす鎮魂の聖杭。 衝撃波と共に竜王魔導巨像の胸元から首下にかけて鮮やかな紫炎が盛大に弾けて迸り、烈々とした熱波が煉獄の天壌を撫でる。 あまりにも刹那的で洗練を極めた一矢は鈍重な巨像では回避する事は適わない。 もっとも太陽よりも遥かに熱い爆炎を内包している竜王の化身に対してたかだが一人の魔導騎士の魔力変換で生み出される()()など腹の足しにすらならないのだが、音を貫く矢そのものの貫通力は鉄槌の騎士の絶対破壊の一撃によって半分以下まで減らされた奴のHPを削り切るには十分であった。

 

これで三回目だ。 しかし、それでも星を焼き尽くす竜王の化身を消滅させる為には、あと四回も撃破しなければならない。

 

「十代目、長々と御傍から離れてしまって申し訳ありませんでした! 後は右腕であるこのオレにお任せ下さい!!」

 

「獄寺君!?」

 

「真打の御到着だぜ! やられた分、利子付けてキッチリと返してやらぁ!!」

 

「アッシュもか!」

 

故に、更なる援軍(なかま)の力が必要だった。 竜王魔導巨像が四回目のHPを回復したと同時に北西より浮遊デブリ群を経由して、獄寺とアッシュの不良コンビが参上。 それぞれのリーダーへとスカした笑みを向けて合流を報告すると、二人は早々に魔導巨像への攻撃に加勢して戦技(クラフト)を繰り出す構えを取りだした。

 

「覚悟しやがれよ、どんなに図体がデカかろうが十代目とボンゴレファミリーの敵は右腕の名に懸けて必ずブッ倒す! SISTEMA(スイステーマ) C(シー).A(エー).I(アイ)の中でも一番強力なのを、そのドテッ(ぱら)にお見舞いしてやるぜ!!」

 

「仕込みはバッチリだ。 そんなに熱いものが好きだってんならイイもんをくれてやるよ、このデカブツ火トカゲ野郎!!」

 

獄寺は右手の指に四つ嵌めている髑髏ヘッドを模った指輪の一つに緑色(グリーン)の炎を仄かに灯し、それを腰に巻いてあるベルトに複数ぶら下げている髑髏マーク入りの(ボックス)の内一個の上面に空けられている孔へと挿し込む。 すると指輪を挿した匣が()()されて、中から帯電する爪のような武器改造用外付け部品(ウェポンカスタムパーツ)が取り出され、彼はそれを左手に装着した髑髏型火炎放射器《赤炎の矢(フレイムアロー)》に手際よく取り付けて、雷マークが浮かびあがった射出頭を攻撃目標の腹部ド真ん中へ狙い向ける。 弾薬(ダイナマイト)を装填し、緑色の電光(スパーク)が迸る髑髏の口から雷纏う赤色の豪炎弾が吐き出された。

 

「嵐+雷! 爆ぜ果てろ──《赤炎の雷(フレイムサンダー)》ッ!!!」

 

「剛撃省略版《ギルティーカーニバル》だ! たらふく食らいやがれぇぇっ!!!」

 

雷轟音と共に強大な破壊力を持つ遠距離攻撃戦技を放つ嵐の守護者の真後ろからアッシュが浮遊足場を蹴って高く跳び上がり、竜王魔導巨像へと向かって一直線に爆進して飛んで行っている《赤炎の雷(フレイムサンダー)》の後に続かせる形で、両手の指に挟んだ七本のダーツ(弾頭に特製の爆薬仕込み)を翔ける流星の如く投げ放った。

 

まずは軽量のダーツが《赤炎の雷(フレイムサンダー)》を追い越して先に攻撃目標(ターゲット)に着弾。竜王魔導巨像の四肢と尻尾と背中の三対六の大翼の内左右一枚ずつに七筋の流星が突き刺さり、それぞれの部位がリズム良く爆破される。 そしてその直後に濛々と広げられた爆発の壁膜の中心に大きな風穴が穿たれ、其処を突き抜けて来た雷纏う赤色の豪炎弾が狙撃手の狙い通りに竜王魔導巨像の腹部ド真ん中を直撃した。

 

「おっと? ハハッ、獄寺達に先を越されたか。 アイツら随分と派手に暴れ(カッ飛ばし)てるじゃねーか♪」

 

「だが、あの火力でも動きを止めるには少し足りてないようだ。 ここは僕達が追撃して畳み掛けるのが最善だろう」

 

「オーケーオーケー。 それじゃあ、いっちょ代打(ピンチヒッター)かましてやるか! いくぜ小次郎、そして《次郎(じろう)》!!」

 

「ピュイ!」

 

「ワンッ!」

 

肌が痺れる爆風の波濤を正面に受けつつも怯む事なく、続く援軍が到着する。 獄寺の《赤炎の雷(フレイムサンダー)》が竜王魔導巨像に命中して天地へと響き渡る爆裂が鳴ると同時に、南西の地上から瓦礫の山が塞ぐ道を文字通り()()()()()駆けつけたのは、山本とクルトの若手剣士コンビ。

 

山程に(おお)きい魔導巨像を蔽い隠しながら濛々と上がった特大の爆煙を下から見上げて、獄寺(ライバル)が自分に先駆けて援軍に到着し早々と華々しい活躍をしているのを少し悔しがるような苦笑を漏らしながらも、彼等の爽快派手な戦技に愉快な気分を呟く山本。 しかし上空に蔓延した爆煙の隙間からは少ししか堪えた様子がない竜王の化身が覗けた為、押し切るには自分達の加勢も必要だと口にするクルト。 彼の提案に二つ返事で乗っかった山本は首に架けた《雨のネックレスVer.X》から雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)の小次郎と一緒に、“三本の炎の小刀を背負った秋田犬”を出した。

 

 

雨犬(カーネ・ディ・ピオッジャ)≫次郎

 

 

「本気を出してやろうぜ、二人とも! 形態変化(カンビオ・フォルマ)──全力解放(リベラツィオーネ・ポテンザ・ボンゴレギア)ッッ!!!

 

山本が不敵な笑みで全力を解放して形態変化しろと二匹の炎の相棒(アニマル)に命じると、小次郎と次郎が即座にビュッと動いた。 《雨のネックレスVer.X》に青色(ブルー)の炎が灯された直後、小次郎と次郎が同色の炎を纏いながら自分達の主人へと背中からドウッ! と体当たり。 すると二匹それぞれが一本ずつの立派な太刀へと形態変化した業物が山本の左右の腰に納められ、山本自身が纏う衣装も剣道の袴着のような風流を感じる格好へと変わっていた。

 

 

山本武、《小次郎Ver.X(イクス)》《次郎Ver.X》全力解放形態変化──≪雨のVG(ボンゴレギア)

 

 

「っ!? 僕と同じ双剣……いや、双太刀か」

 

「さぁて、まずはオレが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とするかな」

 

刀で爆煙の中に隠れた敵の急所を見つけるって、そんなのどうやってやるんだ? クルトがそう訊き返してくるよりも素早く、山本は静かに右腰に差してある【次郎の太刀】の柄に左手を添える。 彼はそのまま重力崩壊のルールを利用して高々と上空へ跳躍し、左手に掴み取った太刀を抜く。

 

「な……山本っ!?」

 

「時雨蒼燕流──特式・十二の型“左太刀(さだち)”、霧雨(きりさめ)!!」

 

目立つ宙空に姿を現した雨の守護者(じぶん)の存在にようやく気付いて驚きの声をあげたボス(ツナ)の顔を一瞬横目に流見して親友の無事を確認し、それにより山本は心置きなく洗練された奥技を放つ事ができた。 抜刀した【次郎の太刀】から無数の真空刃が飛翔して、眼前に立ち込める爆煙の入道雲を切り裂いて中へと突入。 そして()()()()()()()()()『ズババババッ!』という何かが斬り刻まれる音が()()()()()()()()()()()()。 耳に返ってきたその斬音の出所を記憶しつつ跳び上がった先に浮いていた岩石の下側を蹴って地上へと撥ね返り(ターンし)ながら「見つけたぜ」と確信を得て口端を不敵に吊り上げてみせる雨の守護者。 空中で右腰に【次郎の太刀】を納刀しつつ片膝立ち(ヒーロー)着地を決めて地上のクルトのもとに舞い戻る。

 

「よっと! へへっ、お待ちどうな♪ 斬撃音が聴こえてきたと思うが、急所はアソコのようだぜ」

 

──煙の中に斬撃を飛ばしただけで何故判ったんだ? ……などと訊いている場合ではないか。

 

「そんじゃあ、アソコへ向かって一点集中攻撃(固め打ち)だな。 一緒にデカイのをかましてやろうぜ!」

 

「承知!」

 

二人の双剣士は頷き合い、山本が放った《霧雨》の真空刃が探し当てた爆煙の中に隠れている竜王の化身の弱点予測箇所へ獲物を狙う鷹のような鋭い眼光を差す。 山本が左腰に刃を納めた【小次郎の太刀】の柄を右手で掴み、壮烈な青色(ブルー)の炎が足下に燃え広がる。 クルトが光のアーチを二つ頭上に描いて両手に取った二振りの剣が極光を纏いて銀河の如く輝き放った。

 

「時雨蒼燕流──特式・十二の型“右太刀(うだち)”──」

 

「我が全霊を以って、光牙の一撃を為す!」

 

山本が放つ濃厚な殺気が右手で抜き放とうとしている太刀の内に宿る小次郎の意思と同調(シンクロ)し、居合いに構える彼の周囲を足下から舞い上がった無数の燕の炎閃が夥しく高速旋回する。 クルトが極光の双剣を眼前へと十文字状に翳し、邪を祓う浄滅の聖十字架を顕現した。

 

「──斬雨(きりさめ)ッ!!」

 

「光よ、滅せよッ!」

 

そして二人の双剣士は奥義を解き放った。 山本が抜刀した超高速の太刀筋が彼に纏わる無数の燕の炎閃を刹那の斬雨(きりさめ)へと変え、散弾となって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を目掛け爆煙の壁へと殺到。 その斬雨の中心にクルトが放った浄滅の聖光も並び、爆煙の壁を蹴散らして中の目標に命中して青白色の光撃を炸裂させた。 二人の攻撃が当たった箇所は、直前に獄寺が《赤炎の雷(フレイムサンダー)》を命中させた竜王魔導巨像の腹部中心だった。

 

「こぉぉぉ……奥義──」

 

どんなに相手が巨大でも間を置かさせず一ヶ所に集中して立て続けに強力な戦技を重ね当てたなら、塵も積もれば山となるように、その分だけ肉厚が削り取られて薄くなり脆くなるものだ。 故に竜王の化身が持つ星をも焼き尽くす熱量もその箇所だけは多少軽減されるのは当然の帰結となる。 クルトは休まずに双剣を極光の双刃剣(ダブルセイバー)へと変えた四刀流を構え、この刹那に出来た孔を突いて自ら弾丸突撃する。 聖光十字の四大刃を纏う事で熱から身を守りながら脆くなった竜王魔導巨像の腹部中心を貫いた。

 

「──天眼無双(てんげんむそう)ッッ!!!」

 

『グギャアアアアアアアアアッ!!?』

 

結果、身体に火傷一つ無く無事に灼熱地獄を斬り抜けて竜王の化身の背後を破ったクルトは、丁度その先に漂っていた大型自動車(バン)の屋根に片膝立ち(ヒーロー)着地を決めつつ毅然と必殺戦技(Sクラフト)名を言い放つ。 その瞬間に彼が背中にした竜王魔導巨像が暗黒銀河に包まれて巨大な光十字によって裁かれるような錯覚を覚える程に凄まじい大爆発を起こした。 HP消滅を告げる竜王の悲鳴が煉獄の大空に響き渡り、奥義を炸裂させた二人の双剣士が天へと昇る爆発を挟んで決めポーズ。

 

「見たか、ヴァンダールの剣!」

 

「完全無欠最強無敵の時雨蒼燕流は伊達じゃねーぜ!」

 

四回目の撃破。 残すは後三回。

 

「雷鳴よ貫け! 《サンダーレイジ》──ッ!!」

 

「フリードも一緒にお願い! 《ブラストレイ》──ッ!!」

 

「キュオオオオオオーーッ!!」

 

山本とクルトが奥義を出し終えた直後、南東の空より一筋の雷撃と特大の火炎弾が飛来する。 爆発が晴れ、未だ消滅するまでには至っていないが度重なり英雄達の大威力の必殺戦技(Sクラフト)を受けて全体の綻びが目に見えて目立つようになってきた竜王魔導巨像が五回目のHPを全回復させた瞬間、飛んで来た雷撃と火炎弾が背中に命中。

 

『グギョ!?』

 

なんだぁ、今のはぁ? 不意を突かれて背中に感じた二発分の衝撃に対し、変な声が出てしまった竜王の化身。 振り向いて見ると、立派な白銀の飛竜──キャロの使役竜フリードリヒが《竜魂召喚》によって変身した成長竜体が美しい白翼を羽ばたかせて煉獄の空を翔けてやって来ていた。 その背中には竜の召喚士であるキャロが跨り、彼女を守護する小さき竜槍騎士のエリオもまたその背後でバランス感覚抜群に飛竜の背中の上に立ち乗りながらバチバチと迸る雷光(プラズマ)を放つ(ストラーダ)の穂先を討つべき竜王の化身へと差し向けて勇壮に構えている様子を見せている。

 

「エリオ! キャロ! よかった無事で……」

 

「まさか、あれは(ボックス)兵器じゃねぇ本物のドラゴンか!? うっひょおおお、やべぇ! 異世界にはマジで伝説上の生き物が存在していやがるのか!!」

 

「うぜぇ。 幻獣見て興奮なんかしてんじゃねぇよ! ……しかし、あのガキ共、何かするつもりみてぇだが。 あんな俺達が立て続けに高威力戦技(クラフト)をブチかましまくってやってるのに、まだ解除(キャンセル)できる気配がしねぇ、クソタフなデカブツ竜モドキを相手にいったい何を……」

 

ずっと離れ離れになっていて心配していた養子の子供達が無事に見つかって、フェイトが心からの喜びと安堵の声を漏らした。 神秘(オカルト)や幻想生物が大好物である獄寺も初めて見る本物の竜(因みに、(うり)のような炎アニマルの“龍”なら嘗て彼等(ボンゴレ)が敵対していたとあるファミリーのボスが使っているのを見ているが、それに関しては獄寺はインチキ扱いしている)であるフリードに興奮の声をあげ、それをすぐ傍に居たアッシュが鬱陶しがりながらも幼い子供であるエリオとキャロが竜王魔導巨像へ向けて妙な動きを見せている事に訝しく眉根に皺を寄せている。

 

「キャロ。 僕がちゃんと見守っているから、思いっきりやって!」

 

「うん。 エリオ君が傍に居てくれれば、わたしは何だってできるよ!」

 

頼もしい声で元気付けてくれたエリオに振り向いて満面の笑顔でやってみせると返事するキャロ。 大好きな男の子が傍で応援してくれれば女の子は無敵なのだという。 なんて、メルヘンチックな話だが侮る事なかれ。

 

「天地貫く業火の咆哮。 (はる)けき大地の永遠(とわ)の護り手──」

 

エリオから勇気100倍を貰ったキャロは小さな右手を天高らかに上げて、微塵の恐れ無く自身の使役できる中で最も強大な“真竜”を呼び出す(うた)を詠い出した。

 

キャロ・ル・ルシエは嘗て【アルザス】という守護竜を奉る里の少数民族、その守護竜に選ばれた“巫女”であった。 しかし、彼女は生まれながら“白銀の飛竜(フリードリヒ)”とアルザスの里で崇め奉られていた【大地の守護者】と呼ばれし“真竜”という強大な力を持つ竜を二体も使役可能な程強大な資質を秘めていた《竜召喚士》であったが為、彼女のその力が里に災厄を呼ぶ可能性を恐れたアルザスの部族によって里から追放されたという不幸な過去を持っていた。 その所為で心に深い傷を負ったキャロは管理局の保護を受けフェイトの養子になってから機動六課に入隊するまでの間、自分の力で他人を傷付けてしまう事を心の底から恐怖して竜召喚の魔法を発動する事ができなくなっていた。

 

「──我がもとに来よ、黒き炎の大地の守護者──」

 

己が力を恐怖し他者が傷付く事を憂う。 そんな優しくも力を使う勇気が足りなかった竜召喚士の幼き少女の傍らには自分と同じ歳でフェイトの養子となった騎士志望の赤髪の少年が在るようになっていた。 彼もとある不幸な事情により愛する両親のもとから引き離されていたが、それでも大切な人達を守りたいと強く願い、いつも一生懸命に守ろうとしてくれる……キャロはそんな彼の姿に心惹かれ、彼の事を誰よりも大切に想うようになっていた。 故に彼が敵にやられて谷底へと落下した時、キャロは彼を救うべく勇気を出して、再び“白銀の飛竜”を召喚する事ができたのだ。 自分の居場所である機動六課の拠点が敵襲によって破壊され襲撃者によって大切な彼が深く傷付けられた時も、暴走を恐れて呼び出す事をずっと恐れていた“真竜”を召喚して襲撃者を撃退した。

 

「──竜騎招来、天地轟鳴!」

 

キャロが辛い過去から恐れていた竜召喚の力を使えるようになったのは、いつだって傍らで自分を護ってくれる大好きな男の子(エリオ)が見守ってくれているからなのだ。

 

「来よ──《アルザスの真竜》ヴォルテェェエエエエル──ッッ!!!

 

そして、幼き召喚士が召喚するその竜の真名を呼んだ。 その直後、選ばれし竜の巫女の呼びかけに応えるかのように彼女が跨る白銀の飛竜が羽ばたき滞空している宙空直下の地面に獰猛な眼光が『ピキィン!』と光ると、その周囲を半径約10m四方大に広げられた桃色の召喚魔法陣が囲い敷く形で展開される。 リィンやユウナ達トールズⅦ組はキャロが高らかに叫んだ直後『(おう)っ!』という幻聴が聴こえてきて一瞬戸惑った様子を見せたが、その間に召喚魔法陣で囲った地面が盛り上がり出し地響きを鳴らしつつ高々と隆起し始めた。

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

しかしその隆起の正体は地上の岩や土ではなかった。 岩だと思っていたのは如何なるものも砕き割る爪と牙、土と見間違えたのは剣も大砲も傷付ける事適わぬ漆黒の竜鱗。 地上から約15m程せり上がって全貌を現したものは終末の世界全体を激震させる天災の如き咆吼を放つ、(おお)いなる黒竜であった。

 

 

≪アルザスの真竜≫──ヴォルテール

 

 

「な……っ! 黒い……竜……!?」

 

「さすがに目の前の《バハムートフレアボマー》と見比べると小さめに見えるが、それでもなんという(おお)きさなんだ……。 放たれて来る途轍もない霊圧の密度も共に、昨年の帝都ヘイムダル地下墓所に顕れた暗黒竜(ゾロ=アグルーガ)とほぼ同格と視ていいか……!!」

 

「真竜ヴォルテール……実際に見るのは初めてだが、聞いていた以上に凄まじい威圧感だな。 吼えた音を浴びただけで身体の芯まで震えさせられるようだ……!!」

 

キャロが召喚した真竜ヴォルテールの威容を前にツナ・リィン・シグナムといった歴戦の戦士達ですらも圧倒されている。 そしてそんな伝説の真竜(じぶん)よりも遥かに強大な竜王の化身に相対し、ヴォルテールは主たる竜の巫女の少女に仇名す敵だと認識した。 破壊を伴う眼光をもって殲滅対象を睨みつけ、大地を震わす唸りをあげて牙を剥く。 大地の守護竜の怒りに呼応するように崩壊した街(クラナガン)中の地から魔力の光が浮かび上がり、それ等が大きく開けられたヴォルテールの口もとに向かって集束される。

 

「目の前の敵を殲滅しなさい、ヴォルテール! 《大地の咆吼(ギオ・エルガ)》──ッ!!!」

 

そして白銀の飛竜に跨る召喚士の少女が精一杯の勇ましい声を張り上げてそう命じると、巫女の仰せのままにとヴォルテールが大地より分けて貰った高密度で莫大な量の魔力を強大なる敵を殲滅する火焔に変換し、大気を震わす咆吼と共に口から放出した。

 

「ピッギャオオオオオオオオオッ!!」

 

放たれた真竜の叫びは破壊の音津波となって周囲に漂う目障りな浮遊障害物を大小構わず粉塵に変え、邪魔するものを全て消し飛ばした。 真っさらになった敵との間を赫灼(かくしゃく)の大舌が舐め尽くし、高層ビルより高い山すらも丸ごと飲み込んで忽ち炭山化させてしまいそうな程に極大なる熱波の奔流が竜王魔導巨像に雪崩掛かる。 あっという間に標的を飲み込んだ火焔砲撃(ブレス)半球形(ドーム)状に膨張し、数秒の間灼光の大渦を巻いて竜の唸り声を連想させるような鈍い流音を鳴り響かせると、それが一息に収縮して爆裂した。 吹き荒れる螺旋の爆風が地上の瓦礫も廃墟も全て蹴散らして粉々にしていく光景はまさに《大地の咆吼》と呼ぶに偽り無き破壊力であった。

 

「くっ……とんでもない威力だな……!」

 

「さ……さすがにこれならあのデッカイ炎のドラゴンでも消滅したんじゃn──」

 

『ギャオオオオオオオオオンッ!!』

 

「──ひいいいぃぃっ! やっぱりダメだったーーー!!」

 

天地構わず一切合切を蹴散らす真竜の息吹(ブレス)の猛烈な波濤の余波を正面から受けて堪らず顔面を両腕で守りながら呻くリィンを横目に、同じ格好(ポーズ)でここまでやればいい加減に竜王魔導巨像を消滅させられたのではないかと一瞬期待しかけたツナだったが。 ところがしかし、現実とは厳しいものだ。 次の瞬間に崩壊都市を飲み尽くす勢いで増大していた爆裂の竜巻が竜王の怒号によって中から弾け飛ぶようにして消滅され、《大地の咆吼》は一瞬にして収められてしまった。 全身に受けていた亀裂や綻びはより大きく広げられたものの、依然にして健在な姿を現した竜王の化身を目の当たりにしてダメツナの残念な悲鳴が煉獄の大空に響き渡った。

 

「グルルルル!」

 

「嘘……だろう……?」

 

「そんな……ヴォルテールでも倒せないなんて……」

 

「キュルルル……」

 

主の巫女の敵を殲滅できなかった悔しさに唸る真竜(ヴォルテール)の黒い壁のように大きな背中の後ろで、巫女の側を守護する竜騎士の少年(エリオ)も真竜を召喚した竜の巫女の少女(キャロ)も二人を背に跨がせて宙空に羽ばたいている白銀の飛竜(フリード)も、皆一様に愕然とした表情を露わにしている。 やはり【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】の名は伊達ではない。

 

「──いいえ、そんなに気を落とさなくても大丈夫ですよ。 君たちの攻撃のおかげで、あの魔導像に大きな痛手を与えられましたので」

 

詰めを誤り攻め手を失った機動六課最年少魔導師二人は失敗した責任に押し潰されるように弱気になりかけたが、その時、子供達の頑張りを褒めて勇気づけるお姉ちゃんの質を纏った優しい声が後ろから掛けられてきた。 白銀の飛竜(フリード)に跨りながら二人が肩から背中に首を振り返ると、異世界からやってきた眼鏡が似合いそうな三つ編みの美しい魔女が優しい微笑みを二人に向けていた。

 

「貴女は……」

 

「確か……エマさん……でしたっけ?」

 

「はい。 よく覚えてくれましたね」

 

経った今、白銀の飛竜(フリード)の長太く揺れる尻尾の先に魔術で転移して来たエマは次元世界の魔導師が使用するミッド式やベルカ式のものとは全く異なる術式形体で構成される薄紫色の魔法陣を空中に展開し、それを足場に凛然とした佇まいで幼き魔導師の少年少女に慈しみの笑みで頷いてみせた。 母親代わりの保護者(フェイト)にも劣らぬ母性を放つ慈愛の魔女に、まだまだ母の愛情を欲している幼き少年少女は一瞬心奪われそうになったが、今は甘えている暇ではない。

 

『ギャオオオオオオオオッ!!』

 

「わわッ!?」

 

「あの()、あれだけのダメージを受けていて、まだ息吹(ブレス)を放つつもりでいるの……!」

 

「あの魔導像はあくまで術を繰り出す為の導力エネルギー媒体に過ぎません。 そこに意思など無く、一定量のダメージを与えて消滅させるか、攻撃が繰り出される前に術者を倒さない限りは、止められないでしょう」

 

だが、天上に座す巨大方陣の上で完全防御の因果律結界に護られている術者(イノケント)を倒すのは現実的ではないだろう。 ならば方法は一つだけだ。

 

「君達の頑張りは私が絶対に無駄にしません。 ですので、私も三年ぶりに、この秘術(Sクラフト)を解禁するとしましょう!」

 

エマは子供達の意志を引継ぎ、彼らが力を尽くして削ってくれた竜王魔導巨像のHPを何としても削り切ってみせると約束して、手に携えた魔導杖(オーバル・スタッフ)を固く握り締める。 リィンの持つ《神刀【緋天】》や彼の生徒達が装備している武器と同様に故郷の世界(ゼムリア大陸)で最硬級の希少鉱物(レアメタル)を素材にして作られた最強の魔導杖──《命杖ユグドラシル》を毅然と構えた。

 

「天道を司りし、大いなる星々よ……! その神秘なる輝きを以って、我が声に応えよ──」

 

秘術を発動する為の呪文を唱えながら機敏な手回しで《命杖ユグドラシル》を右腰の横下へ持っていき、斜めに下げた魔導杖の先端上部分の円輪杖金属フレームの中心に取り付けられている球体の核にエマが練り上げた膨大な量の魔力が収束(チャージ)され、呪文を唱え終えると共に眩い魔力光を天上高くへと放った。 光は雲を突き抜けて紅黎(あかぐろ)く塗られた絵画(おおぞら)に一筋の閃の軌跡を描いて天を突く。 まるで満天の星々が煌く宇宙の下にルーン文字で黄道十二星座宮(ゾディアックサイン)を書き示した星図(ホロスコープ)のような術式で極光の大魔法陣が描かれ、それに銀河の星々が次々と引き寄せられる。

 

「──《ゾディアックレイン》ッ!!」

 

星図(ホロスコープ)の大魔法陣を導きの門として、宇宙より降りて来た無数の星々が次々と潜り抜けて七色の輝きを纏う流星へと変わる。 それ等は煉獄の大空を燦然と翔け下り、雨霰(あめあられ)の如く竜王魔導巨像の頭上へと降り注いだ。

 

『グギャ!? ギャギャギャアアアアアアアアアッ!!!』

 

一番先に落下して来た赤い流星が脳天に直撃してオヤジの拳骨を頭に落とされた悪ガキのように片目を星にした竜王の化身へ畳み掛けるかのようにして無数の流星の雨が襲い掛かった。 忽ち七色の光の連鎖爆撃に巨大な全身を袋叩きにされた竜王魔導巨像は幼き魔導師達の攻撃によって大きく削られていたHPを一瞬で全て削り尽くされ、阿鼻叫喚をあげたのだった。

 

これで五回目の撃破だ。 残すはあと二回。

 

「ほっ……どうやら十分な手応えを与えられたようですね。 これで恐らくは後一息でしょう」

 

「す……凄い」

 

「な、なんていう魔法なんだ、隕石を落とすだなんて……!」

 

「キュクー!」

 

トールズ士官学院を短期卒業してから三年間封印していた秘術《ゾディアックレイン》を無事に出し終えたエマは空高く掲げた魔導杖を下ろし、隕石の爆撃を受けて外部の罅や剥がれなどといった破損個所が全体に濃く広げられ形を保つのもそろそろ限界に近い有様となった竜王魔導巨像を眺めて、自身の豊満な胸を撫で下ろしながら緊張で肺に留めていた息を吐く。 伝承の真竜の一騎たるヴォルテールの《大地の咆吼》にも全く引けを取らない破壊規模を叩き出した異世界の魔法使いの大魔法を目の当たりにして開いた口が塞がらない程に大きな瞠目を露わにした未成熟の幼き魔導師二人と彼等を乗せる白銀の飛竜が感嘆の鳴き声をあげている様を前に見ながら、彼女はまだ終わっていないと気を引き締め直す。

 

「ですが、私にできるのはこれまでのようですね。 後はお願いします──ガイウスさん」

 

「ハァァ……オオオオオオオッ!!

 

焔の魔女が後を託した風の聖騎士は彼女の遥か後方に浮かぶ土岩の小島に長い脚を踏みしめて黄金の咆吼をあげた。 紅黎(あかぐろ)く塗り尽くされた空の中、空の女神(エイドス)の教えを守りし七耀の守護騎士が八席《絶空鳳翼》ガイウス・ウォーゼルは黄金の風衣に身を包み、大いなる理想を抱く者に力を与える黄金の十字槍《覇槍マクベス》を携えて約400アージュ(m)前方に舞い上がる竜王の化身を静かなる闘志を宿した視線をもって射抜く。

 

「《絶空鳳翼》の力……思い()るがいい!」

 

ガイウスは成人男性の平均値から視てもかなり高めである自身の丈よりも長い十字槍を片腕で軽々と頭上に持ち上げて振り回し、清涼なる緑の陣風を起こす。 それを身に包む内なる憤怒の黄金衣の上に纏う事によって猛る意志を自身の内の深淵へと沈め、其処に刻まれし七耀の守護騎士の証にして力たる《聖痕(スティグマ)》を呼び覚ますのだ。

 

「我が深淵にて煌く、“金色の刻印”よ──」

 

一旦頭上から十字槍の穂を前へ下ろし、静寂に双眸を閉ざして自身の(うち)へと語り掛け、其処から偉大なる獅子の師より受け継いだ“黄金の聖痕”を引き出す。 黄金に輝く極楽鳥か又は聖十字にも見える、神々しくも猛々しい《聖痕》が背中に背負うような形で顕れると、彼が構える《覇槍マクベス》の穂が突然眩い光を放ち変化した。 それは背中に顕現した黄金の聖痕に瓜二つの形を持った大型の聖十字槍であった。

 

「──その猛き咆吼を以って、我が槍に、無双の力を与えよ──!!」

 

そして再び聖十字槍を頭上へと振り回し上げ、勇ましい槍投げの構えを取る。 だがしかし、その巨大な穂先は400アージュ前方で一兆度の爆炎息吹(ブレス)を放つ為の導力エネルギーを溜め込み(チャージ)しはじめた竜王魔導巨像へではなく、その真上から見下ろしている究極上位導力魔法の巨大駆動術式方陣の完全防御因果律結界に護られた安全空間内から次々と集結して来る英雄(ヒーロー)達の必死に抵抗する姿を観て児童が大好きなマンガやアニメを愉しむかのように笑ってやがるバカ魔王(イノケント)へでもなく、その更に真上の遥か先の天壌へと差し向けられた。 これに終末の世界も動揺したかのように領域全体を鳴動させる。 それでも震え出した世界に全く動じる事無く、ガイウスは閉じていた双眸をカッと見開くと、本気で天を突くと言わんばかりの勢いで大空高々へ聖十字槍を遠投したのだった。

 

「あれは、ガイウスか?」

 

「な、なんだぁ? アイツあんなところから何かを空へと放り投げやがった……!」

 

少し離れた空域に浮かぶ小島の上からガイウスが遠目からでも分かる輝きを放つ長物を空高くへと放った様子はシグナムとヴィータが目撃していた。 先程に最強の必殺戦技(Sクラフト)を繰り出した二人の魔力は飛翔魔法を維持する分を残して底尽きさせていた為もう視力強化も満足に使えず、彼が空へ放った長物が《聖痕》という次元世界の魔導師にとっては全く未知なる強大な力で創られた巨大な光の聖十字槍だとは判別できなかったようだ。 だがしかし、下手をすれば宇宙ロケットよりも凄まじい勢いで雲も空もあっという間に突き抜けた聖十字槍はその先の天壌をも貫いて、そのまま彼方へと消えて行ったかと思ったその直後、天壌に穿たれた槍の孔から降りて来るように姿を覗かせた()()を見上げた瞬間、百年以上古来より星の数程の戦場を経験してきた手練れの中の手練れである古代ベルカの騎士二人は過去に例の無い程の衝撃(ショック)を受けて身体も思考も石膏を塗ったかのように真っ白く固まってしまった。

 

「「……は?」」

 

百戦錬磨の《烈火の将》と《鉄槌の騎士》が二人雁首揃えて天を仰ぎながら目を点にする。 彼女らの視界には今、山よりも(おお)きな翼を持つ天使か、それとも聖なる光輝を放つ巨大な鳳凰か、どちらにも見間違えそうな程に神々しい一本の超巨大聖十字槍が煉獄の天空を刺し貫いて現れるという超絶神秘的極まりなき光景が映されていた。 私達は夢でも見ているのか? 二人して開けたままカチコチに固まった口から変な声が漏れ出た。 《バハムートフレアボマー》の巨大駆動術式方陣と、それが展開する完全防御結界によって護られている術者(イノケント)と、その真下で術を繰り出す為の導力エネルギーを溜めて(チャージして)いる真っ最中である竜王魔導巨像を頭上から纏めて串刺しに出来る位置から断罪の切っ先を向ける巨大な鳥のような形をした十字穂には裁きの雷がバチバチと迸っている。 しかもその十字穂の大きさだけでヴィータのグラーフアイゼンのギガントフォルムの約5倍以上はあるだろう。 こんな寝言でしか語れないような超的規模のものを見せられたら誰だって絶句する他にはない。(現にガイウスの身内であるトールズⅦ組以外のメンツは超巨大聖十字槍が天から覗いた瞬間に見上げたまま全員時が止められたように硬直している有様)

 

吼天(こうてん)鳳翼衝(ほうよくしょう)──ッッ!!!」

 

黄金の聖痕の主が雄々しく高らかに必殺戦技(Sクラフト)名を叫ぶと同時に天から裁きの超巨大聖十字槍が雲を切り裂いて、神々が創りし星々を焼き払おうとしている不届き者の頭上へと落下した。 殲滅対象に光の穂が接触しようとする直前に《聖痕》の力が発揮され、『グーン!』というトーンを限りなく低くしたような鈍い風切り音を後に引きながら()()()()()()()()()()()()

 

『グ……ギャ……アアアアアアアアアアッ!!』

 

巨大駆動術式方陣を術者を護る完全防御結界ごと貫通して真下の竜王魔導巨像を悪魔のような頭から串刺しにした直後、後から引いていた鈍い風切り音が追い付いたと同時に聖十字槍の穂先から極大の十字衝波が発生し、魔王の火術を聖なる光で徹底的に焼き尽くした。 事前に全回復して上限満タンになっていた筈のHPがたった一撃の必殺戦技(Sクラフト)で全損させられた竜王の化身が発狂したように甲高い奇声を鳴らして喚き散らす哭き音が光の中から響いてくる。 烈風の如き衝撃波が吹き荒び、大地を穢す終末の世界に満ちていた瘴気を残さず祓った。

 

「とんでも……ないな。 ()()()()()()()()穿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……これがガイウスの最強の必殺戦技(Sクラフト)だというのか……!」

 

「バ……ババ、バカじゃねーのか……!? 隕石落としたエマも大概だけどよ。 あんなのもう反則だろ……っ!!」

 

ガイウスが星杯守護騎士の力を解放して繰り出した最強の必殺戦技(Sクラフト)──《極・吼天鳳翼衝》の規格外過ぎる規模と威力を目の当たりにし、驚愕のあまり歪に固められた表情を呈したまま堪らずにガチガチになった腕で目元を塞いで、眼前に発生した十字衝波が撒き散らしてくる凄絶な烈風と紅黎(あかぐろ)く染められていた終末の天地を清浄な白で眩く照らすその極光から視界を守らざるを得ない格好となった古強者共(シグナムとヴィータ)。 古来歴戦の騎士たるこの二人ですらも奥歯が詰まったようなぎこちない口になって心身に受けた衝撃の度合いを吐露している始末である。

 

ガイウスが自身の内に秘める静かなる憤怒を黄金の咆吼をもって引き出し生命力(HP)を対価に身体性能(ステータス)を大幅に強化する《真・黄金吼》から、広域範囲の攻撃対象に絶大ダメージと共に()()()()効果を与える秘奥義《極・吼天鳳翼衝》の繋ぎ合わせ(コンボ)戦技によって、遂に竜王魔導巨像の六回目のHPが消滅した。 これで残すはあと一回……そう、あと一回撃破できれば次元魔王イノケントの究極上位導力魔法《バハムートフレアボマー》は解除(キャンセル)されて不発に終わらせられる──

 

「──くは、ふはははははははーーっ! (ヒカリ)がっ! 輝き(ヒカリ)がっ! 煌き(ヒカリ)がっ! 我がもとへと次から次へ集まってくる!! こちらがどれ程に圧倒的で強大な力を揮おうとも、たとえ一人や二人の力が及ばずとも、決して最後まで諦めたりはしない。 仲間達と繋がる金剛石(ダイアモンド)よりも強固な糸で絆を結集し、惑星をも焼き払う外宇宙の竜の王にも食らい付き、何処までも魔王(おれ)を追い詰めてくる。 不撓不屈なるその気概と執念こそ俺がずっと求めていた真の英雄の輝き(ヒカリ)だ! まったく、我が愛しの英雄(しゅくてき)達は何所まで素晴らしいのだろうか?」

 

「イノケント、やっぱり無傷だったか……」

 

『ギャオオオオーーーン!!』

 

「ひっ! そそそ、そんなぁ!? あの竜王魔導巨像(デッカイドラゴン)も見た目はボロボロになったけど、みんなが集まって立て続けにあれだけ沢山Sクラフト(大技)をくらわせたのにも関わらず、まだ消滅させられないのかよ……っ!!」

 

《極・吼天鳳翼衝》の炸裂で生じた十字衝波が徐々に収縮されて消え去ると、清浄な白に照らされていた終末の世界に煉獄を思わせる紅黎(あかぐろ)の色が戻ってきた。 その途端、天にも轟く程の歓喜に満ち満ちた魔王(イノケント)の呵々大笑と御大層な賞賛を乗せた狂喜乱舞の声が英雄達全員の耳に打ち付けられてくる。 リィンは予想していたようだが、究極上位導力魔法の術者を護る完全防御の因果律結界は結局破壊できていなく、当然その内側に居る奴は全くの無傷(ノーダメージ)でピンピンしている様子を見せていた。 先程は確かに《極・吼天鳳翼衝》の超巨大聖十字槍によって結界ごと貫かれたように見えていたが、因果律の効果は絶対の結果で帰結されるものである。 実はあの時、イノケントの頭上へ落下して串刺されたと思われた超巨大聖十字槍は彼を護る因果律結界によって()()()()()()()()()素通りし、そのまま真下の竜王魔導巨像に直撃したのであった。

 

その結果、六回目のHPを0にされた竜王魔導巨像はツナが奴の健在を見て顔を青褪めさせながら言った通り見るも無残な程ボロボロになっていた。 大山よりも(おお)きな全体には遠目でも視認出来る程に濃い亀裂が刻み込まれ、其処から体内に流れる灼熱の流炎が漏れて其処ら中から噴出されている。 悪魔の頭に生えていた捻じれ双角は右片方が折れ砕けて、右眼も大岩で打ち付けたように潰れ、業火を纏う三対六の大翼もズタズタに裂かれて蝙蝠が持つような汚い切羽と化してしまっている。 百戦錬磨の猛者達をも絶望を懐かせる竜王の化身の威容は今ではまるで割れ欠けた硝子細工のようになって、一度突けば崩れて壊せそうな脆い姿だった。

 

だがしかし、この竜王の化身はイノケントの持つ数多の並行宇宙より異端技術を集めたMULTIUNIVERSE(マルチユニバース)式近未来戦術オーブメント《PARAISO》の力によって発動された【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】で召喚された魔導巨像(エネミーオブジェクト)、対界規模の魔法攻撃を放つ為に必要な膨大な導力エネルギーを充填(チャージ)して発射するだけの媒体装置なのである。 故に姿が崩壊しかけていても最後となる七回目のHPは回復されて、『天地崩界・神々の黄昏(この世界中)』から導力エネルギーを吸収し星々を焼き払う爆炎を充填(チャージ)しようとする。 最後のHPを0にできない限り、決して止められないのだ。

 

「……これは計算外だったかもしれませんね。 わたしに視えていた未来の盤面ではガイウス先輩の必殺戦技(Sクラフト)をもって《バハムートフレアボマー》を消滅(キャンセル)できていたのですが、恥ずかしながら事前までの一手を読み間違えていたようです。 ごめんなさいリィン教官。 元《指し手》として申し開きもできない、大失態でした……」

 

「謝らないでくれ、ミュゼの所為じゃない。 ……しかし、非常に拙い状況になったな。 みんなが無事に集合できたのは良かったんだが、全員一通りに必殺戦技(Sクラフト)を使用して、もう迎撃の為の戦技を放つCP(余力)はみんな無くなってしまった事だろうし……」

 

「だ……だめだ。 こ、このままじゃ、みんなみんな竜王(アイツ)の炎で燃やし尽くされてしまう。 この前にみんなが散々傷付いて苦しんで戦ったあの《虹の代理戦争》をやっとの思いで終わらせて、アルコバレーノ(リボーン達)の呪いを無事に解放して、ようやく平穏(とは言えない相変わらずマフィア絡みのゴタゴタでメチャクチャな生活だけど)な日常に戻れたと思ったのに……嫌だ。 こんなところで諦めてやられるだなんて、オレは嫌だ──ッ!!

 

「それは……俺も同感だ。 『己を捨てて他を活かすのではなく、己も他も活かすのを最後まで諦めるな』。 あの“黒”の呪いを討ち果たし《七つの相克》に決着をつけた時、“あの人”は女神のもとへと逝く間際に俺へそう言い遺してくれた。 『資格がどうこうの話じゃない。 俺は幸せにならなくちゃいけないんだ』。 三ヵ月前の《逆しまのバベル》での決戦の最中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから、俺自身も含め、みんなで生きて勝つ事を最後まで諦めたりはしない──ッ!!

 

仲間達が持てる力を全て出し切り、それでも倒しきれない絶大な敵や力に絶体絶命に追い詰められて尚、英雄達は決して絶望しない。 彼等がこれまでに自分達の世界や掛け替えのない大切なものを護る為に幾度となく高い苦難や試練の壁を乗り越え、強大な力を持つ相手や組織と世界の命運を賭けて熾烈な死闘を戦い抜き、時には力及ばず敗北を喫して、その度に幾度となく立ち上がり身も心も強くなれたのだ。 故に今回も同じ事だ。 沢田綱吉は死ぬ気の炎で精神のリミッターを外していなければ脆弱な自尊心故に何をやっても自信の無さが足を引っ張り失敗ばかりして逃げ出してしまう事もあるダメダメ中学生だが、大切な友達の危機を前にしたなら迷わず守る覚悟が炎に灯る、その優しさと度胸を持っていたからこそボンゴレの血の運命に翻弄されながらも裏世界の死闘を何度も戦い抜いて日常を取り戻せた。 リィン・シュバルツァーは幼少期に義妹を魔獣に襲われて以来(いびつ)な程の自己犠牲精神を心に患い、三年前のトールズ士官学院生時代に勃発した内戦の末“とある悲劇”に見舞われてからは自己犠牲精神を更に酷く歪ませて脅迫的な義務感とするようになっていたが、三年間ずっと苦難や死闘を共にしてきた掛け替えのない仲間達や世界と愛する息子の未来を守る為に世界を滅ぼす呪いを背負い続けてきた“とある一人の父親”が遺した言葉などを切っ掛けに、自己犠牲よりも大切な仲間達と生きる道を諦めない選択をした。 活路でも奇跡でも覚醒でも、主人公(ヒーロー)の不撓不屈の精神こそが窮地を打ち破るものを呼び寄せるのだ。

 

「そうだね。 わたし達も同じ気持ちだよ。 たとえ敵がどんなに強くて理不尽な力を持っていて、わたし達の力の全てが通じなくても。 それでどれだけ傷付けられて断崖ギリギリに追い込まれたとしても。 心を折らずに諦めなければ、必ず勝機は掴めるんだ

 

だけど、それでも力が足りなくて相手に届かせられないというのなら、頼れる仲間が足りない分の力になります。 ()()()()()()()()()という事を忘れてもらっては困りますよ?」

 

外側をボロボロと剥がれ落としながら再び長首を天上に伸ばした竜王の化身の悪魔の口が大きく開かれ、その中へと向かって終末の世界中から導力エネルギーが幻想的な光帯状の形を取って次々と吸い込まれ充填(チャージ)されていく……星々を焼き尽くす一兆度の爆炎の息吹(ブレス)──《バハムートフレアボマー》を発射する準備動作に入った竜王魔導巨像を諦めない覚悟を宿したその目に映し、二人の主人公(リィンとツナ)は今度こそ“切り札”を使用する気で重い足を一歩前へ踏み出した。 その時、二人の背中に彼等と同じ不撓不屈の意志を持つ凛然とした二人の少女の声が届いた。 太刀を正眼に持ちながら意識を自身の裡の深層へ潜らせようとしたリィンと“不思議な虹色の丸薬”が入れてある透明ビンの蓋を開けようとしたツナが耳に聞き覚えのある二人の少女の声が入ってきた瞬間ハッとなって踏み止まり、二人同時に背後を振り向く。 すると二人が立っている浮遊足場の端で、青髪ショートヘアに白鉢巻を額に巻いたボーイッシュな魔法格闘少女が白歯を見せて生意気そうな笑みを浮かべていて、彼女に肩を貸してもらって治しきれていない片脚を引き擦っている長い栗毛ツインテールに白いロングスカートバトルドレスを身に纏った可憐な美女魔導師も共に戦うと言いたげに碧い目元を吊り上げていた。 そう、最後のトリは満を持して魔法の世界の主人公(ヒロイン)達の御到着だった。

 

 

 

 




キャロ「来よ──《アルザスの真竜》ヴォルテェェエエエエル──ッッ!!!」

ヴォルテール(全身騎士鎧姿)『(おう)ッ!』

リィン「あれは、まさか九機体目の騎神か!?」

フェイト「キャロの召喚竜だよ、たぶん……」

アルティナ「“ヴァリマール”や“オルディーネ”とかと名前のニュアンスが似ていますからね」

思いついたからやった。 反省も後悔もしていないww。



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三世界の若き英雄集結。 究極の導力魔法を打ち破れ!(後編)

プロローグの激闘も遂にクライマックス! 三世界の英雄達が集結し、《次元魔王》イノケントの【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】を攻略だ!

しかし、果たしてその先にはどんな結末がリィン達を待ち受けているのか? 衝撃の展開に御注目あれ!




「え……なのは!?」

 

「スバルも、どうして此処へ!?」

 

「決まってるじゃないですか。 あんな超デッカクてものすっごい力を使ってくるような強敵を相手にツナさんとリィンさんが二人でずっと頑張って、フェイト隊長達も加勢してみんな力を出し尽くして戦っているのに、あたしとなのはさんの二人だけ後ろでじっとなんてしていられませんよ。 あたし達にも手伝わせてください!」

 

「「……」」

 

「心配しないで。 此処へ来るまでに魔力を大分回復できたから、スバルと一緒ならあと一回強力な攻撃を撃てると思うの。 それと、まだこんな情けない見た目で来たけれど身体の怪我はもう大丈夫。 たぶんアルティナちゃんからもう聞いているとは思うけれど、イノケントにやられた負傷はアルティナちゃんの空飛ぶ黒いカカシ──「なのはさん、《クラウ=ソラス》です」──あっ、ゴメンねアルティナちゃん。 クラウ=ソラス君がマシに動ける程度にまで回復してくれたからね。 直接戦闘じゃない遠距離狙撃砲なら十分イケるよ!」

 

リィンとツナは経った先程にティアナからなのはとスバルは体力的に戦線復帰は厳しい状態であり後方待機していると報告を受けていた為、その二人がこの場に現れた事に驚く。 二人共重い身体を引き摺っていて何故戦場に来たのかと言うツナにスバルがなのはの肩を支えていない方の腕を上げて勇猛不敵に力瘤を作りながら自分達も攻撃に加勢すると申し出る。 しかし、なのはもスバルもさっきイノケントに手も足も出せずにこっ酷く叩きのめされて二人共これ以上の戦闘続行は到底不可能な程に手酷い重傷を負っていた事はその時その場で二人を助けに割って入ったリィンとツナは自分の目で実際に確認していた為、非常に彼女達の身体の具合を心配してしまってどうしたものかと訝しい目をする。 だが断りそうな空気を作りはじめたリィン達に対し、なのはが安心させるような微笑みを見せて自分達の魔力と負傷は遠くから攻撃を放つぐらいなら可能な程度に回復している事を説明して心配無用だからやらせてくれと訴え掛ける。

 

確かになのはとスバルが負わされていた重傷はアルティナと《クラウ=ソラス》の回復戦技(アルティウムヒール)によって大方回復させたとはティアナの報告と一緒にアルティナ本人から聞いていた(因みに、なのはは回復してもらった時に自身の十八番である「アナタのお名前聞かせて」を使用し、アルティナから名前を聞き出していたようである)ので、実際に一見して二人の外傷がほぼ軽症まで治されている事も鑑みて参戦させても大丈夫じゃないのかと思いそうになったが、そこへフェイトが身体に爆弾を抱えている親友(なのは)が無理をして戦場へやって来た事に気付き、大慌てしながらすっ飛んできて彼女に必死の説得を試みようとする。

 

「だだっ、駄目だよなのは! 君の身体にこれ以上の負担は──」

 

『グォオオォォオオオオンッ!!』

 

なのは達の前に立ち塞がるように腕を大に広げて、これ以上危険な身で無茶をするのは止めてくれと語気を強くして十年に渡りずっと隣で付き添ってきた大切な親友へ厳しく警告するフェイトだが、悠長に話し合っている時間など無かった。 終末の世界全体を位相次元ごと激震させ煉獄の大空いっぱいに無数の罅が刻み込まれる規模(レベル)の大絶叫。 現世の生物が到底出せるものではない異次元の咆吼が天も地も何もかもを戦慄させて猛烈と震え狂わし、歴戦の英雄らの魂をもあわや肉体から乖離させかねない威力で揺るがした。

 

三つの世界でそれぞれ幾多の試練や死線を潜り抜けてきた若き英雄達がこれまでに培ってきた強固な精神力をもって極寒の宇宙すらも丸ごと沸騰させそうな霊的熱エネルギーを孕む衝撃に耐えきり身体から剥がされそうになった魂を肉体に押し留めて、絶叫を放った竜王の化身へと戦々恐々の視線を集める。 そして、彼等全員の瞳に今宵最大の絶望が映し出された。

 

「な……ななななあっ、何しようとしているんだ!!? あのデッカイドラゴン炎を大量に吸い込み過ぎて、まるで破裂しそうな風船みたいに身体を膨らませてるーーーーーっ!!!」

 

「あれは……まさか自爆するつもりか!!」

 

「うう、嘘でしょう!? 追い詰められて自爆するって、ド○ゴンボールのセ○じゃあるまいし!!」

 

「ドラゴ○ボールとか○ルとか、フェイトさんが言っている異世界用語は分からないけれど。 アレが自爆なんてしたら、もしかして超ヤバイんじゃないのミュゼ!?」

 

「ええ、もしかしなくても超超超ヤバイですよユウナさん。 あの魔導像が内包している一兆度などという桁外れの導力エネルギー量はゼムリア大陸全土に眠る七耀石(セプチウム)を根こそぎ搔き集めたとしても恐らくはまるで足り得ない事でしょうし、入れ物である魔導像がもし自爆してそんな果てしない熱量が中から外へ解放されてしまった場合……少なく見積もっても今わたし達が立っている惑星(せかい)は一瞬で蒸発してしまうでしょうね」

 

ゴクリ! ミュゼが口にした竜王魔導巨像の自爆による被害規模予想を耳に入れ、皆が息を呑んでそのまま喉が張り裂けてしまいそうなレベルの緊張を表した。 《バハムートフレアボマー》を解除(キャンセル)できる目前だったのに、それが突然自爆を敢行しようとするだなんて、悪夢以外の何物でもない。 これで逆にリィン達の方が崖っぷちに追い詰められたのであった。

 

「どうやら迷っている場合じゃなくなったようだね……こうなったら出し惜しみ無しの全力全開でやるよ、スバル!」

 

「了解です、なのはさん!」

 

もう後に退く事はできない。 なのはは気を引き締めて、機動六課スターズ分隊長として自分の肩を支えてくれている部下(スバル)に自分と協力して竜王魔導巨像へ最終攻撃(ファイナルアタック)を仕掛けるぞと指令を下す。 今も追う憧れの背中であり絶対に護ると誓った恩師(なのは)の命に一切の躊躇も無く溌剌と応じてみせるスバル。 大切な人が壊れそうな身体を引き摺って無茶をするならば、自分がその負担を半分背負ってあげればいい。 四年前の空港火災での邂逅を得てから同じ部隊の魔導師として再会を果たし幾星霜もの戦いを共に助け合って勝ち残り、師弟の絆で強く結ばれた二人はお互いを支え合いながら今度も絶対に勝つという意志を胸に、皆の前へと歩み出た。 もはや誰にも止められない。 三世界の若き英雄達の命運は彼女達二人の肩に懸けられたのだった。

 

「「ハアアアアアアアアッ!!」」

 

なのはとスバルは互いに寄り添って身体を支え合い、二人一緒に得物(デバイス)を前方に果てしなく(おお)きく映る竜王魔導巨像へと突き向けると同時に全力全開の裂帛を発しながら燦然と輝く魔力光を纏い出した。 二人の足下に桜色と水色を混ぜ合わせた薄紫色の魔法陣が展開され、決然烈々と力強く突き出して重ね合わされた杖槍(レイジングハート)籠手(リボルバーナックル)に彼女らの持てる全ての魔力を注ぎ込んでいく。 忽ち両者の得物(デバイス)の先端に薄紫色の魔力球体が形成され始め、その周囲を激しく旋回する小さな台風が纏い出した。

 

彼女らが最後の攻撃に望み託したこの魔法は先刻撃退した侵略者(ラコフ・ドンチェル)の《紫焔の武士(スクルド)》に撃った二人の合体戦技(コンビクラフト)W(ダブル)ディバインバスター》だ。 その内容は時空管理局の最優の魔導師(エース・オブ・エース)にして次元世界随一を誇る魔導砲撃士である高町なのはの象徴たる高威力遠距離砲撃魔法《ディバインバスター》を、本場の戦技(クラフト)を持つその本人と彼女の意志と技を受け継いだ愛弟子のスバルが互いの魔力を合わせて圧倒的超濃度の魔力大砲丸を作り放ち、それが高速螺旋(ジャイロ)回転で生み出す竜巻の吸引力をもって周囲の景色を巻き込みながら標的を轢き潰すという絶大な破壊力を秘めた必殺砲撃魔法である。 先刻は《紫焔の武士》が展開した対攻撃反射防御結界《リアクティビアーマーA(イージス)》によって敢え無く返り討ちにされてしまったが、この強力な合体戦技が決まれば崩壊寸前の魔導巨像など必殺に等しい事だろうが──

 

「く……う″ぅっ──ッ!!」

 

当然、強力な戦技の対価に術者達の身体に掛かる負荷と疲労は相当なものであった。 《Wディバインバスター》が形成され始めた直後になのはが身体に抱える大きな負担が急激に増して非常に苦しそうな呻き声を漏らし出した。

 

「なのはさん、大丈夫ですか!!?」

 

「平……気……だよ! わたしの大切な人達とそのみんなが暮らす平和な世界を守る為にも……この程度の苦しみなんかで、わたしが引き下がる訳には……いかない……の……!!」

 

必死に魔力を練り上げながらレイジングハートを握り締める手に大汗を滴らせて凄く辛そうに顔を歪めているなのはを気遣うスバル。 優しい教え子を持って自分は果報者だと思うなのはだが、彼女は次元の海の守護者として甘える訳にはいかないと使命感に駆られ、もはや限界間近に迫っていた自分の身体に更なる鞭を入れて奮起する。

 

高町なのはは若干9歳の頃に魔法の力を手にしてから、数々の世界の理不尽やどうしようもない運命によって傷付き苦しんでいる人をより多く救う為、不幸や寂しい思いに泣いている子達の涙を止める為、やむを得ない事情や立場の違いで分かり合えない連中とぶつかって分かり合おうとする為、今日まで十年間管理局の魔導師として日夜年月魔法の戦技を磨き続け、次元世界の数多くの事件や戦いに身を投じてきた。 しかし、未熟な幼少から十年という長き歳月の中で負担が大きい高威力の砲撃魔法を酷使し続けた彼女の胸の内に秘めるリンカーコアには徐々に見えない傷が増えていき、それが原因で八年前に起きたとある雪の世界での戦いで不覚を取り撃墜された不幸な出来事を得て彼女のリンカーコアに目に見える大きな傷が刻みつけられてからは身体の内側に大きな爆弾を抱えるようになってしまった。

 

それから撃墜で受けた重傷を治して魔導師業に復帰してから彼女は魔法の出力を制御し持続性を重視した《アグレッサーモード》を標準使用して魔法戦闘の負担を軽減する事により長い間どうにかやれてこれたのだったが、先日のJS事件解決における“ゆりかご決戦”の際に事件の黒幕であったスカリエッティと戦闘機人達(ナンバーズ)の手により誘拐されていたとある女の子を救出する為、彼女は魔導師の生命力を莫大な魔力に変換して限界を超える強化(パワーアップ)を行う【リミットブレイク】を極限まで使用して限界ギリギリの死闘を演じた事により、それまで抑え込めていた内側の爆弾の導火線にとうとう火が点けられてしまった。 それでも暫く安静に休めば爆弾の火は一旦消せたのかもしれないが、その後直ぐに管理局の戦力疲弊を狙い自身が組織した反抗勢力を率いてミッドチルダに侵攻して来た卑怯者の馬鹿殿(ラコフ・ドンチェル)と英雄達の輝き(ヒカリ)が見たいが為に自ら魔王(ラスボス)と為って異次元より立ち塞がって来た手の付けられない大馬鹿者(イノケント・リヒターオディン)の所為で、御覧の通り彼女の身体の中の爆弾はもう爆発寸前だった。

 

「くっ! ……わたしは絶対に……負けない。 わたしが……みんなを……守らないと……」

 

身体の負担過剰により魔導師生命を狩る死神が大鎌を携えながらじりじりと背中へ迫って来ている中、失敗すれば敗北確定(ゲームオーバー)という名の重圧(プレッシャー)も加えて圧し掛かり、胸の激痛と極限に張り詰めた緊張を持ち前の不屈の精神で何処までも耐えつつ、限界を突破した集中力をもって魔力大砲丸を作りあげていく。 杖槍(レイジングハート)籠手(リボルバーナックル)が狙い定めた照準の鼻先には煉獄の大空を蔽い尽くしてしまった程にまで膨張した竜王魔導巨像が大噴火直前の火山火口の如くゴゴゴゴゴーッ! という地響きに等しい沸騰音を鳴らし点滅する赤熱を表面に浮かびあがらせた全身の罅の内から太陽光のように凄まじく熱く眩い熱線が漏れ出している様子が目一杯に映されている。 もう一刻の猶予も無い。 早く撃たないと両方の爆弾が爆発してしまう。

 

「うあっ、ああああああっ!!?」

 

そう究極の焦燥に駆られた想いは破滅の糸となってエースの手元を狂わせる。 重ね合わせた二人の得物(デバイス)の前で術者達の全身の三倍の質量まで肥大化した薄紫色の魔力大砲丸が固定化される直前になって突然レイジングハートから放出されていた桜色の魔力光が鈍り出し、ここまで順調だったリボルバーナックルから放出される水色の魔力光との配合が乱れはじめ、忽ち制御不安定に陥って魔力大砲丸の形成に編み物の毛糸が解れるような歪みが生じた。 しまった、マズイ! なのはが心臓を鷲掴みにされてキリキリ握り締められるような耐え難い胸の苦痛と急ぎ焦る気持ちの板挟みに冷静を保てず一瞬魔力の制御(コントロール)を乱してしまった為、ここまできて魔力大砲丸の固定化作業が難航をきたしだしてしまった。

 

──魔導像が自爆するまでもう時間が無いのに、ここで《Wディバインバスター》が不発になったら、みんな仲良く一兆度の爆炎で蒸発して御陀仏になっちゃう! 今直ぐに魔法結合を修正して早く固定化しないと。 お願い、上手くいって──!!

 

ここまで繋いできた仲間達の奮闘を自分の失敗の所為で水の泡にする訳にはいかない。 なのはは上から更に背中へ圧し掛かってきた重大なる責任感に神経を磨り潰されて極限の焦燥に苛まれながら、即行で制御を取り戻してどうにか魔力大砲丸を形成し直そうと躍起になった。

 

集中、集中、集中、集中、集中、集中……。 常人の精神ならば即発狂を起こすレベルの極限集中領域(ゾーン)に突入する。 自分以外の世界が色を失い、なのはの視界全体に映る全てのモノの動作が停滞した。 減速した時間を利用して彼女は魔力の制御(コントロール)を取り返し、魔力大砲丸の歪んだ部分を修正する。 集中、集中、集中、集中、集中、集中……。 脳が焼き切れてしまいそうな程の頭の激痛を耐えながら解れた糸を編み直すように修正箇所を滑らかにしていく。 集中の負荷が想像を絶するものにまで上昇し、眼球に走る血管が破けて彼女の水晶のような大きな碧い瞳から熱い血涙が流れ出す。

 

──あともう少し……もうちょっとだけ……っ!!

 

そうして遂になのはは超絶の負荷に耐えきり、魔力大砲丸の修正を完了させた。 そして時は動き出す──

 

「──スバル、今だよッ!!」

 

「はいっ!!」

 

「「Wディバイィィィン──バスタアアアアアアアアアアァァァァーーッッ!!!」」

 

世界に色が戻った瞬間、完成した薄紫色の魔力大砲丸が二人の戦乙女(ヒロイン)の勇壮なる号砲と共に、文字通り嵐が吹き荒れる轟音を鳴らして発射された。

 

砲撃手二人分の全体より約三倍以上もの質量を持つ大きな光の砲弾が高速螺旋(ジャイロ)回転してギャリリリリィィーッ!! という物凄い雑音を響かせつつ、触れる大気を削り巻き取って激しい旋風を纏い、迸る電光(プラズマ)を伴いながら煉獄の紅黎(あかぐろ)の中を猛突驀進。 纏った竜巻で弾道上とその周辺空域に漂う山程の数の浮遊障害物と天空いっぱいに(おお)きく膨らんだ竜王の化身の全身に走った罅割れから溢れ出て来る鋼すらも一瞬の内に溶かしてしまいそうな赫灼の熱気を全部纏めて吸引し取り込んで、まるで小さな太陽を思わせる(あけぼの)の輝きを放つ煌星へと成りながら、風も音も置き去りにして、そのまま一直線に竜王の化身へ向かい、カッ飛ぶ。

 

「「いっけえええええええええええええええええっっ!!!!」」

 

煌星の魔砲弾は超速回転数で撃ち出された巨大弾頭(マグナム)の如くに終末の世界が見上げる大空を爆走し、高速螺旋回転で標的の前に立ち塞がる大気圧の層と天を蔽い尽くした奴の全身から放たれる星々を焼き尽くすエネルギーの圧壁を纏めて突き破る。 そしてそのまま電光の尾を引いてグーンと伸び、極限まで膨張した全体から猛烈な光を放ち出してもう間もなく爆発寸前という様相を表わし始めた竜王魔導巨像の中腹ド真ん中を貫いた。

 

『グギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

天を蔽い尽くす程に膨張化された体面積とその内部一杯に溜められた太陽を遥かに超える熱量に達した火の導力エネルギーの中を突破するのは難かと思われたが、超速回転により竜巻のドリルを装着する事で熱を撥ね退けて究極の爆炎をアッと言う間に掘り進み、煌星の魔砲弾は無事に竜王の化身の背中を突き破る事に成功したのであった。

 

『ガ……グ……オォォーーーーン……──

 

竜王魔導巨像を撃ち抜いた《Wディバインバスター》が煉獄の彼方へと消えて行き、体内に溜めて(チャージして)いた星々を焼き尽くす爆炎を根こそぎ削滅し尽くされた竜王の化身が自身の腹に空けられた巨大な風孔を見下ろして、とても悔しそうに遠吠えする。 そして、とうとう七回目(さいご)のHPが0になった竜王魔導巨像は幻想的に巻き上がる火の粉のように赤い燐光を切なく発して、静かに天へと召されて逝くように消滅した。

 

(ビキッ)……亀裂(バキバキバキィ) ────割砕(パッリイィーーン)!!

 

魔導巨像が消え去った直後、終末の世界の天上の中心で展開されていた究極上位導力魔法の巨大駆動術式方陣が罅割れだし、術者(イノケント)の身の安全を護っていた完全防御の因果律結界ごと呆気なく木端微塵に割れて甲高い音を煉獄の天空中に響かせながら盛大に砕け散った。 つまりこれは、遂にリィン達はイノケントの究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)《バハムートフレアボマー》を解除(キャンセル)する事に成功したのだという事だった。

 

「や……やったああああっ!!」

 

「「「「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」」」」

 

《バハムートフレアボマー》の竜王魔導巨像と巨大駆動術式方陣の消滅を見てようやっとのように我慢して溜めていた苦しい息を吐き捨てて歓喜の声を張り上げたツナの後に続き、英雄達の大歓声が終末の世界に響き渡った。 もし魔導巨像に攻撃を放たせていたら恐らくは抵抗も許されずに全滅していたであろう究極の攻撃導力魔法を何度も危うく詰みそうになりながらも諦めずに全員一丸となって死力を出し尽くして立ち向かった末に、やっとの思いでようやく阻止する事が出来た。 その喜びは、まだ戦いに勝利できた訳ではないにも拘らず皆が諸手を上げてしまうのも仕方がない程に大きなものであった。

 

「やった……なのはさん、やりましたよ! あのイノケントとかいうトンデモないオジサンのトンデモないドラゴンの魔法を、あたし達二人の合体魔法(Wディバインバスター)が撃ち消しましたよ! あははは。 やったやったー!」

 

「は……はは。 うん、やったねスバル。 でも流石にわたしは、もうダメかな……」

 

「え? ……ななっ、なのはさん!?」

 

UNLIMITED(アンリミテッド)(ランク)の《次元魔王》が発動した対界殲滅規模の魔法攻撃を、自分が最も敬愛している(なのは)と力を合わせて撃ち込んだ合体戦技(コンビクラフト)が決定打になって解除(キャンセル)できた事に感極まったスバルもまた、支えていたなのはの身体を抱きしめてその喜びの大きさを敬愛する師に直接肌で伝え、はしゃぎに騒いでいる有様である。 なのはも約半年間面倒を視てきて今や一人前に成長した自慢の愛弟子(スバル)と共に支え合って掴み取った大成功をとても嬉しく思った……が、やはり限界に近かった重い身体で限界を超えた集中力を使った所為で彼女の体力は今度こそ底を尽きた。 自分の腕の中でいきなりぐったりしだした師を見てスバルは驚いてはしゃぐのを止め、慌てふためく。 そこへ一早くフェイトが駆け寄って来て力尽きた親友に心配を掛けてきた。

 

「なのはっ! 大丈夫? 君はまたこんな酷い無茶をして……!」

 

「にゃはは……いつも凄い心配させちゃってゴメンね、フェイトちゃん……でも、わたしは本当に大丈夫だよ。 ちょっと……いや、正直凄く疲れちゃったけどね。 身体の方は問題無いよ」

 

「嘘だね。 君の身体の負担はもう危険値(ドクターストップ)の域まで達しているって事は、見れば判り切っているんだよ。 なのはが自分自身に向けて言う【大丈夫】は信用できないって、言った筈でしょう?」

 

「う″っ……ごめんなさい」

 

「まったくもう……。 じゃあ君は今日はもうこれ以上絶対に戦わないで。 帰ったら大人しく部隊医師(シャマル)に身体を診てもらって、ちゃんと休む事。 わかった?」

 

「はい……」

 

「……」

 

無茶を重ね続けて体力の限界に至った身体に意識を朦朧としているなのはが、オロオロしているスバルの腕に抱かれたまま、腰を低くしてガミガミ説教をたれるフェイトに全く反論ができず面目無しに萎縮させた声で弱々と返事をしている。 しかし、一見微笑ましく思えるその様子を彼女達の後方から眺めるリィンが両腕を組みつつ口元をへの字に紡ぎ、やや訝しそうな表情を作っている。

 

──なのは……もしかして君は──

 

「──ククク、実に見事であった。 さすがは我が敬信する三つの英雄伝説の英雄(ヒーロー)らよなぁ」

 

「「「「「「「──ッッ!!!」」」」」」」

 

どうあれ、埒外級の魔王(ラスボス)が所有する近未来戦術オーブメント《PARAISO(パライゾ)》をもって発動された火属性究極上位攻撃導力魔法《バハムートフレアボマー》を辛くも打ち破れた事を戦勝気分になって喜び合う三つの世界の若き英雄達。 しかし皆忘れてはいけない。 大技の術を破ったところで肝心の()()()()()()()()()()のだから、まだまだ気を緩めてはいられない。 粉々に割れ砕けた巨大方陣が無数の光粒と化して粉雪のように降り注ぐ煉獄の大空の中で、奴は心底嬉しそうに笑顔を浮かべていた。 『天地崩界・神々の黄昏(この世界)』の領域内に創られた物体を自由自在に操作できるTTO領域下限定戦技『天覇星群』を用いて生き残っていた浮遊鉄骨を引き寄せ、それを足場に仁王立ちしつつ、紅黎(あかぐろ)の天上から星々が輝く宇宙のようにギラギラさせた瞳でリィン達を睥睨しながらも、盛大な拍手と共に最大級の賛辞を送ってきていた。 《次元魔王》イノケント・リヒターオディン、いまだ健在である。

 

「イノケント……!」

 

「ふはははは! しかし、星の数程の強敵を打ち破ってきたお前たちの絆の力を信じてはいたが、まさか俺が発動した究極上位導力魔法(バハムートフレアボマー)解除(キャンセル)してしまうとは、さすがに少し驚いたぞ? 実のところ、この導力魔法(アーツ)()()()()()()()()()()()()で、俺以外が発動するとその程度の威力で対界殲滅魔法攻撃が放たれるのだが、それが俺が使うとどういう訳だか火力が一兆度まで強化(ぱわーあっぷ)された爆炎が繰り出されてな。 それ故に()()()T()T()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()T()T()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、現実世界の惑星系列をも巻き添えにして何もかも焼き尽くしてしまうのだ

 

「今更になってトンデモない捕捉説明してるんですけど、この人ーーーーっ!!?」

 

足下の浮遊鉄骨を念力操作して、全員一ヶ所に集合したリィン達と同じ高さまで降りてきたイノケントはちょっとしたお茶目をしちゃったと言うかのように軽快な笑いをしながら、今さっきリィン達が全員総力をあげてようやっと解除(キャンセル)できた《バハムートフレアボマー》の概要捕捉を彼等に説明する。 いや~、まいったな~、とでも言うような感じで、さらっとその導力魔法(アーツ)の本来の火力は彼が発動した場合の埒外級火力よりもず~っと低く抑えられるものなのだと、揚々な口で超絶馬鹿(トンデモ)な内容を語ってきた馬鹿野郎(イノケント)に、ツナがあまりに訳解らなさ過ぎて白目を剥きながら素っ頓狂にツッコミ絶叫を入れてしまった。 リィン達も驚愕の事実を教えられて全員唖然となり、ぽか~んと口を開ける。

 

魔法攻撃力(ATS)による()()()()()()()()()()のか! ……道理で常識的に有り得ないような超火力になる訳だ」

 

「ええ。 数字的に視て通常の威力でも十分全滅必至の火力になるでしょうけれど。 さすがは魔王(ラスボス)を自称するだけあって、あの方は人の想像よりも遥かに底知れなく規格外な能力値(ステータス)を持っているようですね……」

 

「ていうか、もしあたし達が解除(キャンセル)に失敗してあの魔導像の竜に息吹(ブレス)を撃たせていたら、あたし達が全滅するだけに止まらず現実世界まで全部丸々焼き滅ぼされてたって言うの!!?」

 

「マジかよ……さすがに今回のは神秘(オカルト)や超技術の度を超えてやがるんじゃねぇのか……?」

 

「正しく【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】の名に偽り無し、という事ですか……高位相次元空間に所有者の思い描いた戦闘領域(バトルフィールド)を創造構築する『TERRITORY(テリトリー) ORDER(オーダー)』といい、凄まじく恐るべき性能ですね、近未来戦術オーブメント《PARAISO》とは……」

 

導力技術の出所であるゼムリア大陸において現在時点最新世代型の戦術オーブメントである《ARCUS(アークス)(ツー)》を長く所持し、その高い性能を使い熟してこれまで戦ってきたトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科のクラス生徒らも、敵の持つ未知の戦術オーブメントが秘める次元超越(レベル)の性能にはさすがに舌を巻かざるを得ないようであった。 そもそも所有者(イノケント)自身の性能(ポテンシャル)が常識を超越し過ぎているだろう。 闘気を発すれば惑星丸ごと一つに生きとし生ける全ての生命を戦慄に震わせ、剣を一太刀振るえば鞘に刃を納めたままでも巨大戦艦を粉砕し、攻撃をその身に受ければ鋼鉄よりも頑強な防御力で弾き返す。 極めつけには内に秘める霊力(マナ)も魔力も人を超越せし“魔人”の域であり、行使する戦技(クラフト)や魔術の威力と規模は通常の数万、場合によっては数億倍にも爆上げされる。 内容を並べてみて、改めて次元が違い過ぎると判る。 トールズⅦ組(リィン達)ボンゴレファミリー(ツナ達)機動六課(なのは達)も、皆が今度の敵の戦闘力(レベル)の異次元さを実感し、トンデモねぇ奴が敵になってしまったと心身を底知れぬ戦慄に打ち震えさせて強烈な電撃を浴びたみたいに口を固まらせた。

 

「ククク。 そんなに瞠目する程のものではないだろうよ。 寧ろ英雄(おまえたち)の光の未来への強い想いと仲間を信じる絆の力の方が魔王(おれ)の暴力などよりも那由他・不可思議・無量大数倍は凄いと思っているのだがなぁ?」

 

「テ……テメェ、いい加減にふざけた事言ってんじゃねぇっ!」

 

「かはっ! いいや、俺は一言たりとも戯言なぞ言っておらんぞ、《鉄槌の騎士》ヴィータよ。 現に、経った今、位相の壁をも破壊して現実世界(ミッドチルダ)をも焼き滅ぼさんとしていた魔王(おれ)究極上位導力魔法(バハムートフレアボマー)を、お前達は繋がる仲間の絆を信じ全員の力を結集して見事に打ち破ってみせてくれただろう! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ!!」

 

「──っ!!」

 

「フハ、フハハハハハー! これだ、俺が求める尊き英雄の輝き(ヒカリ)とはこれなのだ!! 愛する故郷や世界の為、掛け替えのない隣人や家族の為、叶えたい大きな夢に向かう輝く未来の為。 それらを何者からも守り抜く為に力を手に入れ、努力と修羅場を得て錬磨し、果てなき旅路の試練を超えて聖なる心と魂を胸に宿し、光の勇者へと至る。 光の道を同じくする同志達との出会い、彼等と苦楽を共にして仲間という名の輪を築き、道に立ち塞がる幾多の困難や死線の壁を一緒に手を取り合いながら乗り越えて絆の繋がりを強固のものとしてゆく。 その絆の力は星の数程の戦いの時を駆け抜けて、どのような深い闇や理不尽に相対しても絶対に負けたりせぬ英雄の輝き(ヒカリ)を生み出す! ん素晴らしい──ッ!! お前達は紛い無く極上にして最高の英雄(ヒーロー)だッ!! ふははは、ははははははは、はーっはははははーーー!!!」

 

それはまるで己が最推すアイドルを称えるかのように諸手を上げて英雄達をこれでもかとまで褒めちぎり、位相を越えて現実の宇宙遥か彼方にまで届けと叫ばんばかりの哄笑を轟かす光の魔王。 上下に引き千切れそうな程に大きく見開いた双眸を血走らせながら恍惚と陶酔しきった面を上げて三日月状に両端を吊り上げた大口でひたすら狂うように嗤い続ける眼前の宿敵に、リィン達は途轍もない寒恐ろしさを覚えて全身に鳥肌を立たせる。 いったい何なんだ、この男は? 百戦錬磨の戦士とて得体の知れない挙動を行う不気味な者を目の当たりにすれば顔面を引き攣らせて身を硬直させる。 加えてその者の全身から煉獄の大空に無数の罅が入る程に極大の霊圧闘気(オーラ)が放たれてくるならば警戒レベルは最大まで上げられるだろう。 脳裏に響く悲鳴を歴戦の気で殺し、全員武装を手に構える。

 

「切り札を破られて、まだ戦闘を続けるつもりなの!?」

 

「はははは! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 次元世界中の誰もが認めると称されている最優の魔導師(エース・オブ・エース)にしては随分と激甘な読み違いではないか、高町なのはよ」

 

「な────ッ!!?」

 

惑星系列を焼き滅ぼしてしまえる究極の導力魔法が切り札ではない? 空を持ち上げるように両腕を大きく広げてこちらに惚けたのかと言うように少々嘲笑いを浮かべつつ悪夢すら優しく感じるような衝撃的告白を何て事の無いようにブチ撒けてきたイノケントに対し、彼に問いかけたなのはは言葉を失った。 まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うのか!? リィン達は最悪の事態を予感してしまい、全員が武装を握り締める手に這い登ってきた絶氷の戦慄に凍えて焦点の揺らぐ視線をキツく強め、極寒にまで冷やされた空気感に耐えながら相手の挙動に注視を向ける。

 

「ククク。 究極上位導力魔法を打ち破ってみせた、真の英雄であるお前達にならば、いいだろう……」

 

まだまだ御楽しみはこれからだ。 イノケントがそう含み笑いを浮かべながら左手に着けていた群青色の手袋をリィン達によく見えるように前に掲げてゆっくりと外した。 露わにされた彼の左素手は実に男らしい岩のように大きくて硬質な太骨の甲であったが、反してその肌はうら若い子女すらも羨む程に真白く艶潤っていて、その反目的(アンバランス)な形成にいっそ奇妙な神々しささえ覚える。 しかし、それよりも三つの世界より集いし若き英雄らが注目したのは、その中指と薬指に嵌められている神妙不可思議な指輪(リング)の存在であった。

 

「な……何だ、あの凄い妙な装飾の“リング”は──!!?」

 

ツナは此処に来てボンゴレファミリー(自分達)が今までに見た事も無い未知のリングが目の前に出現して、瞳孔を小細く丸めつつ上擦らせた声をあげる。 イノケントがニヤニヤさせた顔の前に掲げて見せている左手中指のリングの装飾は恐らく二枚開きの門だろうと思われる物々しくて荘厳な模りの金縁が施され、その中心には底腹となく神秘的な()を感じさせる“白亜色”の宝石が嵌め込まれている。 それに並んで清廉な空色(スカイブルー)の金属で造られた薬指のリングも中心に嵌め込まれている“赤い石”が不思議な全知感を漂わせてきているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。 自分等のボス(ツナ)の動揺に触発されてファミリーの守護者である獄寺と山本も警戒の色を更に厳しく強め、リングの事をまだ詳しく知らないトールズⅦ組勢と機動六課勢も緊張の糸を肌が痺れる程まで張り詰めさせる。 あのリングに秘められる力は完璧に今までのものとは次元(レベル)が格段に違うと、そう誰もが確信させられたその直後、時は来たれりと言わんばかりに《次元魔王》が天上の果てまで響き渡らせる大声量で叫んだ。

 

「さあ見せてやろう。 “黄昏の七属性”を統合せし、究極の()()を司る《(ゼロ)の炎》を──ッ!!!」

 

…………点灯(ボゥッ)

 

「「「「「「「────ッッッ!!!!?」」」」」」」

 

その炎はほぼ無音と言ってもいいぐらいに小さな点火音を響かせ、圧倒的な虚無感を覚える程の静寂と共に発芽された。 イノケントの左手中指に嵌められた荘厳な門の装飾の指輪の中心に神々しく光る宝石と同じ色──“白亜色の炎”が其処に着火され、燦爛と美しい輝きを放ちながら荘厳と静寂を混ぜ合わせたような混沌(カオス)を感じさせる程に厳粛と揺らめく。 その炎から放たれる霊圧はまるで果ての無い無限の宇宙を連想させる程に途轍もない濃縮密度を感じられ、百戦錬磨の英雄(ヒーロー)達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「が──は────ごほっ! はぁ……はぁ……いっ、今のは?」

 

「大丈夫ですか十代目!? どうやらあの三つ編み野郎が中指の趣味悪ぃ変テコなリングに灯しやがった謎の炎の所為のようですね。 畜生、いったい何なんだ、あのイタリアの実家に居た頃によく見た大理石のようにスゲェ気に入らねぇ小奇麗な色をした炎はよ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から解放され、その間に止められていた息を全員の最後に取り戻したツナが新鮮な空気を肺に取り込んで今見た錯覚の原因を何時の間にか自分の右傍に居た獄寺に尋ねると、一瞬前まで呼吸困難に陥っていたボスを心配する様子を見せる彼の右腕は状況的に考えて間違いなく眼前の敵が持つ荘厳な門の装飾のリングに灯された未知の“白亜色の炎”が原因だという推測を返答する。 自分がこの世で最も一番大事なボスに酷い目を遭わせた敵の左手中指に揺らめく謎だらけの炎へ直ぐにでも爆発させそうな猛烈な殺気を籠めた視線を向けて困惑を孕む怒りを叫ぶ嵐の守護者。 そして「其処は俺の場所だ!」と言ってきた彼によってツナの左側に退けさせられていたリィンはイノケントがリングに灯した炎の色と彼が発言した自分に因縁のある単語(ワード)に加えて、【(ぜろ)】という最近になって聞いた名を冠する炎の名を聞いて、険しく驚愕していた。

 

「白亜色に()()()()()()()()()……《(ゼロ)の炎》……だと──ッ!!?」

 

彼はこれから先に何があろうと絶対に忘れる訳がない、今から約三ヵ月前にあの西ゼムリア大陸の英雄達が集結し皆の総力をあげて挑んだ《クロスベル再占領事件》の決戦の時、敵の決戦兵器であった《逆しまのバベル》の中枢にて対決した事件の真の黒幕が駆り出してきた【黄昏】の最終到達点──(オオ)イナル(イチ)”の再現たる()()()()()()()()()()()()()()()()最強無敵の騎神──

 

『降臨せよ──原初にして究極の存在』

 

『《(ゼロ)の騎神》──ゾア=ギルスティン!!』

 

──まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──!!?

 

「くは、ふはははははー! さあ、我が宿敵たる光の英雄らよ。 その勇気を示す覚悟はいいか?」

 

「だめだ! みんな、奴にその炎の力を使わせるな──ッッ!!!」

 

「リィン君!?」

 

「もう遅い! 星の外側より落ちよ、神の杖──ロッズ・フロム・ゴッ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()、イノケント」

 

「──dうぬ?」

 

「なに──ッ!?」

 

英雄達の覚悟の炎と勇気の輝き(ヒカリ)に多大な敬意を表し魔王(ラスボス)として持てる最強の力で応えようと、遂に本気を出したイノケントが《零の炎》の力を使って大気圏外から何やらまた大馬鹿な規模のとんでもなさそうな物体を落下させてこようとした、その寸前の事であった。 “その青年”はまるで空間転移や瞬間移動(ワープ)をしてやって来たかのように何の足跡も予兆も無く、絶頂まで愉しみ過ぎて顔芸的なまでに歪ませた笑面で《零の炎》を灯したリングを天高く掲げようとしたイノケントの左傍に()()()()()()、彼が上げかけていた左腕を強引に掴み取って止めさせた。 しかも驚くべき事にこの青年は、《零の炎》を大いに危険視しイノケントがその炎の力を揮うのを何が何でも阻止しようとして、全力全速の《裏疾風》を使い猛突進してきたリィンの放った神速の一太刀をも、イノケントの左腕を右手で掴んだと同時に左手に携える“黄金の剣”で軽々と受け止めたのだった。 もはや自分の意志では止められない程にはしゃぎ過ぎてひっちゃかめっちゃかやりかけていたのを急に現れた第三者に止められたイノケントは思わず間の抜けた声が出て興奮を冷まし、“黄金の剣”に突撃の勢いごと攻撃を止められたリィンも乾坤一擲で繰り出した渾身の秘技を片腕の剣でいとも容易く防いでみせた青年に瞳孔を収縮し双眸をはち切らんばかりに大見開いて最大の驚愕を露わしていた。

 

突然この場に出現し、三つの世界の英雄(ヒーロー)達が希望への未来(あす)を目指して諦めず戦い続ける限りこのまま何処までも止まりそうになかったUNLIMITED(アンリミテッド)(ランク)の魔人と、数多の猛者と英傑が犇めく群雄割拠の西ゼムリア大陸で達人の名に連ねる一流の剣士を、両者共々に止めてみせたこの青年。 敵か? 味方か?

 

 

 

 

 




衝撃の今作オリジナル新属性の炎+強者の予感を漂わせる新キャラクター登場!

リボーン「白亜色の宝石が嵌められた謎のリングに《(ゼロ)の炎》か……まさかあの《虹の代理戦争》に勝利した今のツナ達に自分達が為す術なく敗北する内容の幻覚を見せてくるとは、またなかなかトンデモねぇ力が秘められてやがるようだな」

アリサちゃん(真面目な顔)「それに魔王が口にしていた“黄昏の七属性”……その名前は何かと凄く既知感(デジャヴ)を感じてくるわね。 最後に登場した“黄金の剣”を持つ謎の青年の素性も気になるし……」

グナちゃん「アリサガシンケンニカンガエルナンテ、ソウトウナコトノヨウダナ。 コレハジカイノテンカイニヨウチュウモクダ」

さ~て、プロローグ編のクライマックスとなるだろう次回、第二十話。 今作の物語の鍵を握る重要な内容が明かされる? そして三世界の英雄達が相対する《次元魔王》イノケントが率いる【次元魔王軍】も登場! 乞うご期待下さい!




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次元魔王軍

さあ、長かったプロローグ編も遂にクライマックス。 怒涛の衝撃展開と無茶苦茶オリジナル設定暴露の大バーゲンセールじゃあああっ!

本当はこの第20話で章の終わりまで書き切りたかったのですが、また文字数が長くなってしまいまして、申し訳ございませんが少し区切らせていただきました。 次回が今章のラストとなります。




リィンは己が最速の縮地と最高の鋭さで振るい放った会心の一刀をその片腕に携えた“黄金の剣”で軽々と受け止めた謎の青年の顔を極寒の氷中に閉ざされたかのような戦慄に震えさせた瞳で見上げる。

 

その青年はまるで森の草木を根こそぎ燃やし尽くした跡のような灰茶色(アッシュブラウン)上着(コート)を前開きに着こなした長身端麗の美丈夫であった。 だがしかし、彼は一見優男のような風貌でいて相手を鋭い氷の針で刺すような怜悧な目付きをし、その左目の周りに刻み描かれている班目(まだらめ)か幾何学模様の痣のような不可思議な模様の刺青(タトゥー)と相俟って途轍もなく威圧感があり、睥睨する相手を蛇に睨まれた蛙の如く畏縮させる。 細かく癖毛が立つ頭髪は灰が混じる空色をしていて、英雄と魔王の双方を制したその身から放たれる“剣気”は近づく何者をも凍てつかせる絶対零度と共に遥か遠くの何者をも喰らい砕かんとして唸り猛る炎獅子の如き猛烈さという相反する温度の性質を秘め、纏う冷静沈着な雰囲気が歴戦の英雄達に何処までも深い“修羅の道”を征き阻む無限の宇宙を斬り裂く【剣の帝王】の姿を想像させた。

 

「お前は……ぐっ!?」

 

鍔競り合った謎の青年の素顔を見上げた瞳に映したリィンは何故だかその貌に見覚えがある含みの驚愕を漏らし、その直後に相手の剣に払われて仲間達の許へと打ち返される。 その剣圧は刃同士を重ね合わせて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()押し放っただけなのにも拘らず一流の剣士であるリィンの太刀を持ち主ごと弾き飛ばし、同時に弾いた剣の刃が大気を斬り裂いて猛烈な衝撃波を生じさせてくる程の威力を持っていた。 その為かツナの眼前に背中を向けた片膝立ち(ヒーロー)着地で戻って来たリィンは謎の青年の“黄金の剣”に弾かれた《神刀【緋天】》を握り締めていた両腕を毒蟲に刺されたかのように痙攣させていて、彼はその場から立ち上がれずに堪らず太刀を足下に刺し、それを杖代わりにどうにか倒れかける身体を支えた。

 

「リィン!?」

 

「大丈夫ですか、リィン教官!?」

 

「どうにか……な。 ……だが、あの男は確実に俺達を助けてくれたわけじゃない。 何故なら、トールズⅦ組(俺達)はあの男の顔と彼が携えている“黄金の剣”を知っている……!

 

「ぇ……っ!!?」

 

動けない程に大きなダメージを受けた自分を心配して周りに駆け寄ってきた仲間達にリィンは痙攣する腕を庇いつつ、イノケントの腕を掴み抑えた謎の青年を厳しい視線で差して彼の事をトールズⅦ組(じぶんたち)が顔見知った人物だという確信を伝えた。 リィンが言った意外過ぎる通達に彼以外のトールズⅦ組勢一同が一斉に彼の視線が差した謎の青年を見遣ると彼の素顔を目の当たりにしてユウナが驚愕の声を叫んだ。

 

「あっ、ああーっ!! あの変な半面刺青(タトゥー)のイケメン剣士はさっきの!!」

 

「なにィ? あの男を知ってやがんのか、エマ達!」

 

「うん……たぶんあの凄絶な修羅のような鬼気と氷の獅子の如き玲猛な雰囲気、そして彼がその手に持っている“黄金の剣”から視て、恐らく人違いなどではないかと思います。 あの人は──」

 

「──あの灰青毛のスカシヤローはボンゴレ組(オレら)次元(この)世界へ強制次元間転位(ワープ)させやがった、得体が知れねー“灰色の炎”使いの剣士じゃねーか! あのヤロー、さっきはよくもふざけたマネしてくれやがって、絶対ただじゃおかねぇっ!!」

 

イノケントの腕をまだ掴んだまま無言の圧を放っている謎の青年を指差して最近とても嫌な目に遭わされて根に持っていた顔見知りを見つけたように大声を張り上げたユウナに続き他のトールズⅦ組のメンツも次々と謎の青年に視線を向けて剣呑な表情へと変えていく。 事情を全く知らない機動六課組を代表してヴィータがあの謎の青年と知り合いなのかとその相手へ大きな警戒を表わしはじめたトールズⅦ組全員に訊ねると、彼女に名前をあげられたエマが鋭い視線を謎の青年の方へと縫い留めながら答えようとする。 だがその前に、機動六課組と同じくトールズⅦ組の事情とは出身世界が異なっているが故に全く無関係の筈であるボンゴレ組の獄寺が何故だか彼女達と同じように謎の青年を見て顔見知りの敵手を発見したかのような怒声を発してアイツが自分ら三人を元の世界から次元世界に強制転位させたのだと張り上げだした為、彼の側でその憤慨の内容をハッキリと聴いたアッシュが信じられないと言わんばかりに驚愕を露わにした。

 

「なん……だと? おいゴクデラ、まさかテメェらもあの粋好かねぇ顔した氷野郎に次元世界(ここ)へ飛ばされて来やがったっつうタチなのかよ!」

 

「その口ぶりからすると、トールズⅦ組(クルトら)もオレ達と同じように、あの超強えー剣士にボコされて異世界転移させられたってハナシかよ」

 

「ああ。 どうやらトールズⅦ組(僕達)ボンゴレ組(タケシ達)は全く同じ経緯(いきさつ)を得て、次元(この)世界にやって来たようだな」

 

「偶然……ではないでしょうね。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という不可解な事象については一旦脇に置いておくとして、危害を受けた双方の目の前に事を行った張本人がわざわざ姿を現したのですから……」

 

矢継ぎ早にトールズⅦ組とボンゴレ組の間で御互いのグループと謎の青年との接点と次元世界に次元間転位されてきた経緯が交換された。 それにより双方のグループが同時刻に元の世界であの謎の青年剣士と戦って敗北し、彼の手によって次元世界へ次元間転位させられたのだという驚愕の事実が判明する。 ミュゼが口にした不可解な矛盾点や、過去に渡り世界を滅ぼせるレベルの強敵達と幾多と死闘を繰り広げて勝利を掴んできた歴戦の英雄たるリィン達トールズⅦ組とツナ達十代目ボンゴレファミリーがたった一人の剣士によって敗戦を喫した等、とても信じ難い話ではある。 しかし確かなのは、あの“黄金の剣”を振るう謎の青年はリィン達の味方などでは決してないという事であった。

 

全員が情報を共有し“黄金の剣”を携える謎の青年剣士を新たな敵存在と認めて三世界の英雄達が針のような視線を向けた先では、彼等の今宵の宿敵《次元魔王》イノケントが“白亜色(ゼロ)の炎”を中指の指輪(リング)に灯し天に掲げた自分の左腕を掴み尋常ではない膂力で抑え付けてきた謎の青年に怒るでもなく寧ろ友好を向けるような微笑をもって迎えていた。

 

「おやおや。 クハハ、誰かと思えば我が【次元魔王軍】が誇る七名の最高幹部《七星勇士(グランシャリオ)》の筆頭(リーダー)にして我が親友の“剣帝ジークレオン”──ジークではないか」

 

「悪い癖はその辺にしておけ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()。 お前はこんな最初で調子に乗って、《楽炎計画》を破綻させる気なのか、イノケント?」

 

 

次元魔王軍最高幹部《七星勇士(グランシャリオ)》──灰の勇士≪灰氷(かいひょう)の剣帝≫ジークレオン イメージCV:緑川光

 

 

「大体、お前は今何を()()しようとしていた。 俺の耳には未開発の宇宙衛星戦略兵器の名が聴こえたような気がしたのだが、聴き間違えか?」

 

「ハハッ、何を言うか。 人の身では絶対不可とされていた武道の“(ことわり)”と“修羅(しゅら)”の両立を成しながらも双方共に“極み”へと至らせた《灰氷の剣帝》ともあろう男が聴き間違いなどする筈があるまいよ」

 

「確かに大馬鹿正直者(おまえ)には愚問か……無論忘れてはいないだろうが《楽炎計画》の完遂には三世界の英雄達(彼ら)は必要不可欠となる。 なのにお前は《PARAISO(パライゾ)》の【究極上位導力魔法(アルティメット・アーツ)】や《零の炎》を用いて()()する近未来戦略破壊兵器などという果てしなく馬鹿げたものを叩き付けて、未だ《黄昏の七属性》の炎の一つも覚醒させてはいない彼らが無事で済むとでも本気で思っていたのか?」

 

「100億%無理であろうなぁ。 だがしかし、俺が憧れを抱く伝説の英雄達ならば、その勇気と絆の力で当たり前のように奇跡を起こしてくれる事だろう()()()()()()()

 

「……フッ」

 

駄目だコイツ、もう英雄達へ対する狂信の度が過ぎて自分の中の量りとブレーキを粉々に破壊してやがる……“黄金の剣”を振るう謎の青年剣士改め、《灰氷の剣帝》ジークレオン(以後“ジーク”と呼称する)は自軍の総大将である魔王様(イノケント)がほざいた超絶大馬鹿過ぎる妄言を聴き、失笑を浮かべながら取り押さえていた総大将の腕を解放する。 馬鹿に何を言っても無駄だと判断して諦めたようだ……。

 

「だが、さすがに今回はもう十分だろう、魔王様よ? 《TTO》の発令から展開される高位相次元空間領域(テリトリー)内の“領域効果”下での特殊ルール戦闘に【究極上位導力魔法】の発動により発生する複数集団(パーティ)参加の魔導巨像解除戦闘(エネミーオブジェクトキャンセルバトル)……寧ろ初戦の小手調べとしては、随分と振る舞い過ぎだったな」

 

「ハハハハ! 言われてみれば確かに。 実際に生で間近に見る伝説の英雄達の輝き(ヒカリ)があまりにも尊く煌びやかで素晴らし過ぎたから、俺もツイ童心に帰ってうっかりはしゃぎ過ぎてしまったな……名残惜しいが、今日のところはここまでのようだ」

 

やれやれと澄ました顔になって腕を組んだジークに初戦で手札を出し過ぎだと諫言(かんげん)されながら、そこまでやったのならいい加減満足しただろうと言われたイノケントはぐうの音も出ずにまいったと一笑。 そして魔王(かれ)はまだまだ大好きな英雄(ヒーロー)達との戦いを愉しみたい気持ちを仕方がないと得物の《天魔刀【信長】》と共に懐に収め、興を冷ます。 単一次元宇宙にまで影響を及ぼしていたUNLIMITED(アンリミテッド)(ランク)の魔人が放っていた戦意と霊圧(プレッシャー)が此処で治まり、星程の大きさの巨人の足に上から踏み付けられると例える程に途轍もなかった重圧感からようやく解放されたリィン達が急に身軽になった身体に吃驚(びっくり)し、いったい何故急に戦意を解いたのかと誰かが問う前にイノケントは《PARAISO》を手に取る。

 

「『天地崩界・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)』──領域閉鎖(クローズ・アッド・テリトリー)

 

『“Disaster Ragnarok” Close Add Territory』と《PARAISO》の表面電子画面(ディスプレイ)に持ち主が淡々と発令解除したその言文を復唱するように表示される。 すると突然この終末の世界『天地崩界・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)』の領域空間にテレビの放送受信が不安定化した際に起きる映像の乱れに似た歪みが生じ出し、次の瞬間に『ブツッ!』と映像が切れたような効果音が鳴ったと同時に大空全体を染め上げていた煉獄の紅黎(あかぐろ)が良く()られた墨のように透き通る清涼な夜天の藍色に()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……いきなり空の色が変わった……!?」

 

「空の色だけじゃない。 第一管理世界(ミッドチルダ)特有の二つの月も、管理世界の周囲宙域近辺に在る複数の天体も、いつの間にかキレイに元に戻っている……!」

 

「っ!? みんな足下を見てくれ」

 

リィン達は大空の色が藍色に移り変わり、その天蓋に姿を現した闇に輝く星々と朧気な白の光を纏った二つの月を見上げて目を大きく見開く。 この惑星(せかい)から程近い宙域を周っている為に常人の肉眼で全体の形から地表まで観測できる天体が疎らに複数浮かぶ異想的な景観は紛れもなく本物のミッドチルダの夜空であり、まさかと思って咄嗟に足下のコンクリート床に回転翼機(ヘリコプター)一機程度の大きさで書かれていた“H”の文字を見下ろしてみたツナが反射的に声を発して仲間達にも確認を求める。 英雄一同全員で足下のそれを見て驚きのあまり思わず眉根を固く寄せて上げた、彼らは現状身に起きている事象の確認を確信に至らせる為に続けて周囲の景色を見回す。

 

「嘘……この場所って、まさか“地上本部の屋上ヘリポート”じゃないの……!?」

 

大きな瞳に自分の見知った景色を映したスバルが動揺を表した。 ミッドチルダへ空襲した反管理局軍ミッドナイトを撃退する電撃作戦の為に夕刻時に雲の上まで伸びる超高層ビルの一階から百階を越える階段を駆け登って来た機動六課最前線攻略部隊が階段出入口の扉を開いた際に待ち受けていた敵軍の人型戦闘機動兵器(オーバル・モスカ)の奇襲を受けた事で破壊された階段出入口扉の屋根とその巻き添えでその上に設置されていた貯水タンクも破壊されて其処に山積みになったそれ等の残骸、人型戦闘機動兵器との激しい戦闘の余波で刻み付けられたヘリポートの傷痕、敵軍が蹂躙する為に放った人形兵器と魔煌機兵の大軍と電撃作戦の陽動役であった管理局の地上部隊や首都航空武装隊による市街地戦でほぼ半壊状態となっていた眼下の街並み……終末の世界では主人公二人(リィンとツナ)次元魔王(イノケント)が繰り広げた超速三次元戦闘によって完全崩壊していた地上の法の塔の屋上の外観が次元魔王の創造領域展開(イノケントのTTO)が発令する寸前までの姿そのままの光景が其処には広がっていた。

 

「間違いない……俺達はあの『天地崩界・神々の黄昏(煉獄のような破滅の世界)』から本物のミッドチルダ(元の現実世界)へと引き戻されたんだ。 イノケントが《PARAISO》を使って発令していた『TERRITORY(テリトリー) ORDER(オーダー)』を()()()()()()()()()()()()()が為にな」

 

「その通りだ、リィン・シュバルツァー」

 

まるであの終末の世界など最初から存在しなかったかのようなミッドナイト軍撃退直後の第一管理世界ミッドチルダ首都クラナガンの惨状をそのままにした夜景が突然終末の世界を塗り替えるようにしてガラリと一変させ顕れたのを目の当たりにし、言葉を失って当惑に暮れる仲間達の中心でリィンがこの状況を頭で整理して得た確信についてを口にする。 そしてその直後、お前の言った事は当たっていると、終末の世界を消去した魔王の隣に立つ“黄金の剣”を携えた灰青毛の青年剣士ジークが三世界の英雄達の前へと一歩あゆみ出て答えてきた。

 

「我が《次元魔王軍》の“MULTIUNIVERSE(マルチユニバース)式”近未来戦術オーブメント《PARAISO》の特色機能である()()()()()()()()()()()()()()()()()()『TERRITORY ORDER』──通称《TTO》システムにはお前達のブレイブオーダーやアンチオーダーが持つ号令(オーダー)効果の持続制限時間(カウント)は設定されてはいない。 号令(オーダー)により創造構築された戦闘領域(バトルフィールド)は一度発令展開されたなら発令解除する方法は【号令発令者を戦闘不能にする】か【号令発令者が自主的に号令を解除する】の二つ以外には存在しない」

 

「お前は……やっぱり今朝ゼムリア大陸(元の世界)で俺達を襲撃してきた“灰色の炎”の剣士なんだな!」

 

「“可能世界”の英雄《灰色の騎士》リィン・シュバルツァーとトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科、“七輪世界”の英雄《ボンゴレⅩ世(デーチモ)》沢田綱吉と十代目ボンゴレファミリー守護者……いや、それとも【ネオ・ボンゴレファミリー】だったか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()? もはや現在時刻的に昨日の出来事になるが、お前達の元の世界では名乗りもせずに襲い掛かってしまい、無作法ですまなかった。 “次元世界”の英雄《エース・オブ・エース》高町なのはに戦闘機人《タイプゼロ》スバル・ナカジマと時空管理局古代遺物管理部機動六課の面々とはこれが本当の初対面だったか」

 

はぐらかしは一切許さないという凄みを込めた剣呑の双眸で睨みつけるリィンからの詰問に対しジークはほんの僅かすら動じずに自分とこの場に居る三世界の英雄達全員との関連を一つも偽る口調もなく受け答える。 彼が淡々と口にした内容と英雄達三組それぞれが記憶している過去遡る数時間前の相手との面識・出来事の概要が全て一致し、英雄達はこの灰青髪の青年剣士に対する認識を完全に敵と定めた。 再び得物を構えて新たに現れた敵のジークレオンへ警戒の視線を集めるリィン達……魔人級の魔王(イノケント)との激戦で全員満身創痍になっていながらも過去幾度となく危機を乗り越えてきた歴戦の戦気を全く弱らせる事なく放ってくる英雄達に、ジークは流石だという微笑を「フ……」と漏らしつつもその空気をひりつかせる程の気当たり(プレッシャー)をまるで涼しいそよ風を受けるかのように余裕綽々とした態度で彼らに向き合った。

 

「たった今我らの魔王様(このバカモノ)が勝手に人の素性を漏らしたのを聞いていたと思うが、一応自分の口から自己紹介しておくとしようか。 次元魔王軍最高幹部《七星勇士(グランシャリオ)》筆頭、《灰氷の剣帝》ジークレオン。 以後、そう呼ぶといいだろう」

 

左手の“黄金の剣”を全員によく見えるよう腰の前に下げて少し気取らせた立ち姿(ポーズ)を見せながら己の素性を明かしたジークにリィン達は油断せず何時如何なる時でも迎撃出来るように身構えている。 先程は《零の炎》を使って何かトンデモない攻撃を繰り出そうとしたイノケントをジークが止めていた為に一時彼ら二人は敵対する者同士かと思われたが、直後にイノケントの口からジークが自分の軍の最高幹部だという彼の素性が漏れ出した事で二人が仲間同士の関係であるとリィン達は強く疑っていた。 そして経った今嫌疑をかけられていた青年剣士本人の口から自身の素性が魔王(ラスボス)の言ったそのままの通りであると明確に告げた事で、彼の嫌疑は真実だと確定された。

 

「【次元魔王軍】……やっぱり貴方、魔王(イノケント)の仲間だったのねッ!」

 

「《灰氷の剣帝》……“剣帝”だと?」

 

「なるほど……【勝利の獅子(ジーク=レオン)】か。 すると“ジーク”というのは貴殿の愛称なのか?」

 

「……些か不本意だが組織内でそう呼ぶ者は多いな。 まあ、お前達の好きに呼ぶがいい」

 

ジークが次元魔王(イノケント)の仲間である事が明確にされ、ユウナなどの直情的(ストレートな)性格を持つグループが彼に対して激しい剣幕を向けたり、クルトなどの剣士衆が《灰氷の剣帝》という彼の者の渾名を聴いて眉根を寄せる反応(リアクション)を浮かべたり、その他の英雄達も彼に対する警戒の構えを益々厳しくしていく。 温度差が対極に離れた両雄の視線が間で衝突し夜の涼しい空気をピリつかせる緊張感の中、天然の正直者であるガイウスが先程からジークの背後で彼と英雄達の対立をまさに映画の盛り上がる場面(シーン)の撮影を間近で見学している俳優ファンのようなウキウキとしたニヤケ面を曝している魔王(イノケント)が部下であり親友と呼ぶ眼前の背中の彼(ジークレオン)の事を“ジーク”という愛称で呼んでいた事へ何気なく突っ込みを入れ、それに相手が若干不服そうに顔を顰めて肯定するという間の外したやり取りがあって微妙に緊張感が崩れたが、直ぐに気を取り直しツナが真意に迫る表情でジークへ問い詰めた。

 

ボンゴレファミリー(オレ達三人)を誘き寄せて並盛町から次元(この)世界に無理矢理飛ばしたばかりか、トールズⅦ組(リィン達)まで同じ方法でこの場所に次元間転位(ワープ)させて集め、その上に機動六課(スバル達)まで巻き込むだなんて、いったい何を企んでいる!? 次元魔王軍(おまえたち)は何者なんだッ!!」

 

「それと、とっととその剣返しやがれ、この墓荒らし野郎! それはレーヴェ兄ちゃn──……ハーメル村の剣士レオンハルトの墓標に祀ってあった、大切なものなんだからよ!!」

 

「オレらを誘い出す為に復讐者(ヴェンディチェ)達を全滅させて奪い取りやがった“アレ”も当然持ってるよな? アレもオレらの世界に必要な大切なもんなんだ、返してくれねーか」

 

ツナに便乗してアッシュと山本が何やら盗った物を返せとジークに強く要求している。 どうやらトールズⅦ組とボンゴレ組は両者共に先刻元の世界で何か彼らにとって非常に大切だった物品をジークの手に奪い取られていたようだ。 性格上による温度差はあるものの二人が張り上げた声には共に灼熱と煮え滾った溶岩の如き憤りが込められていて、両組にとってその物品がそれ程までに大切なんだという事がよく伝わってくるが、ジークは微塵も悪びれようとする口も無く「フッ……」という嘲笑を一つ吐いてから何も握っていない右手を身に纏う灰茶色(アッシュブラウン)のコートの懐へと挿し入れる。 そして其処から取り出した“ドッジボール程の大きさがある球形硝子ランプのような物品”を左手に携えていた“黄金の剣”と共に高く掲げてやる事でリィン達全員の目によく見えるようにしてみせると、リィン等トールズⅦ組が“黄金の剣”を、ツナ等ボンゴレ組が“謎の大きな球形硝子ランプ”を目に入れて大きな反応を露わにした。

 

「──っ!! やっぱ見間違いなんかじゃなかったぜ……テメェ、よくもレーヴェ兄ちゃんの墓を荒らしやがったばかりか、アイツの遺品の《魔剣ケルンバイター》を盗み取って、まるで自分の物みてぇに振り回しやがって……!!!」

 

「予想的中だったな。 アイツ、オレらを負かして次元(この)世界へ飛ばしたあの後にそのまま復讐者(ウェンディチェ)の連中へ返さねーで持って行ってやがったか。 アルコバレーノ(リボーンの小僧ども)を“おしゃぶりの呪い”から解放する代わりに十代目ボンゴレファミリー守護者(オレら全員)の炎で作った、新しい“7³(トゥリニセッテ)”の器──《夜炎加速式7³半永久機関》をよ……!!」

 

「リィン君、ツナ君。 《魔剣ケルンバイター》とか《夜炎加速式7³半永久機関》とか言ってるけれど、いったいアレは何なの?」

 

「西ゼムリア大陸の武芸者が志す“武の(ことわり)”の道とは対極の道に在る“修羅の武”を極めた剣士の頂点──《剣帝》の渾名を持っていた、今は亡きアッシュの生まれ故郷の村である【ハーメル】出身の青年剣士《レオンハルト》が振るっていたという、森羅万物を切り裂く異能を秘めし“黄金の魔剣”──《魔剣ケルンバイター》……それがあの剣さ。 でも、あの魔剣の異能は《剣帝》の死期と共に折れて失われていた筈だった。 一度は去年の【黄昏】の影響を受けて一時的に異能の力を復元させていたものの、俺達が“黒”を討ち倒して【黄昏】を終わらせた後には再び消失していた筈なんだ。 なのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 これは、いったい何が起きているというのだろうか……」

 

「あのジークという男が右手に掲げている大きな硝子ランプみたいな物が《夜炎加速式7³半永久機関》──“ペルマネンテ・トゥリニセッテ・ディ・アチェレラツィオーネ・フィアンマノッテ”っていう、かなり長ったらしくて覚え難い読み方をするから、みんな【7³(トゥリニセッテ)半永久機関】と略して呼んでるんだけどね──なんだけど、オレ達には“超ヤバイ掟”があるから詳しい事は説明できないんだ。 だから簡単に言うけれど、もしアレの硝子の中に見える“虹色の灯”が消えたりしたら、オレ達の世界が滅びてしまうんだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

奪われた物品の返却を要求した二人が口端を切る程に強く歯を噛み締めながらジークの両手に掲げられた異様な存在感を放つ二つの代物──《魔剣ケルンバイター》と《夜炎加速式7³半永久機関(以後【7³半永久機関】と呼称する)》を怒りを孕む視線で睨みつけ、他のトールズⅦ組勢とボンゴレ勢も皆同様の怒りをジークへと向ける。 その両物に全く縁が無かった機動六課勢はジークが二つの代物を掲げてみせた途端に二つの異世界から来た頼もしい助っ人達が全員尋常ではない怒気を放ちだした事に一瞬驚き、困惑する六課前線部隊員達を代表してなのはが異世界転位陣のリーダー二人にジークが手に掲げた物は何なのかと訊ねてみる。 リィンとツナがジークへ嚇怒の炎を纏う刀剣の如き視線を伸ばすままに要点を絞って簡潔に事情を説明すると、敵の手にある二物が異世界から来た新しい仲間達にとってどれだけ大切な物なのかを理解したなのは達機動六課勢もまたジークへ対する敵意の目を厳しく強めた。

 

「フッ……皆、誰一人例外無く煉獄の炎よりも熱く重厚な怒気を放ってくるときたか……成程、流石は歴戦の英雄達と言いたいところだが──(ぬる)いッ!!!

 

(ゴオォォォオン)ッッッ!!

 

「「「「「「「な────ッッ!!!?」」」」」」」

 

カッ! と双眸を大きく見開いたジークの全身から猛烈な威力を伴う“圧”が放出され、一瞬にしてリィン達全員の怒気を押し返した。 獅子の咆哮の如く大気を震わせる荒々とした威力を持ちながら、絶氷の吹雪にも見紛わせる何処までも冷徹な空気の圧が半球膜(ドーム)状の形を持って勢いよく拡散し、百戦錬磨の英雄達を地上本部屋上丸ごとと飲み込んだ。

 

「「「「「「「ぐああああああっ!!! / きゃあああああっ!!!」」」」」」」

 

空気圧の半球膜(ドーム)に飲み込まれたリィン達は全身を氷の刃で切り刻まれたと錯覚する程の圧力を受けさせられ、その氷獄の如き精神的苦痛に耐えきれずに悲鳴をあげてしまう。 数秒後直ぐに空気圧の半球膜(ドーム)は霧散したが、刹那の氷獄の苦痛から解放された三つの世界の若き英雄達は一人残らず皆が屋上ヘリポートの床に膝を着いて酸素ボンベも背負わずに限界ギリギリまで素潜りをして水面に浮上した直後のように激しく荒れ果てた呼吸になっていた。

 

「ハァッ、ハァッ! ゼェッ、ゼェッ! チ……チキショウ!!」

 

「な……なんという……“剣氣”なん……だ……」

 

「と、とんでも……ねぇ……。 アタシ達全員の“威圧”が……たった一人の威圧で……ゲホォッ!」

 

歴戦の英雄達の誰しもが敵の前に屈し、乱れた呼吸で胸を大きく上下させながら今にも失神してしまいかねない程に枯れそうな喉で途方もない屈辱や戦慄に侵された声で呻いている。 《灰氷の剣帝》の二つ名に違わずジークの放った“威圧”は百戦錬磨の猛者の大勢を無力化する程にとんでもなかった。 魔王(イノケント)のものような物理的な破壊力は無かった為に足下の地上部隊本部や眼下の街(クラナガン)に影響は及んでいないが、精神への攻撃力は計り知れないものだという事はリィン達全員が一瞬で無力化されたこの惨状を見れば誰でも理解できるだろう……。

 

「こんなものか……悪いが、この程度の気当たりで屈するような実力では、まだコレらを返してやる気はさらさら無いな……」

 

「クッ……!」

 

「そ、そんなぁ……」

 

無様に跪かされて惨めな醜態を曝す三世界の英雄達にゼムリア大陸の《剣帝》の墓標から奪い取ったという《魔剣ケルンバイター》の牙のような形状の切っ先で差しながら睥睨した新たなる剣帝が期待外れだと言って切り捨て、奪い盗った物品の返却を断った。 魔人級の魔王(イノケント)との激戦で限界まで力を使っていたとはいえど、言い訳にならない相手との実力(レベル)の差を痛感させられたリィンとツナは心底悔しそうに呻く。

 

ケルンバイターはトールズⅦ組……特にアッシュにとっては生まれ故郷の村の亡き隣人の忘れ形見である為どうしても取り戻したかっただろうし、7³半永久機関に至ってはツナの話が事実ならば硝子ランプの中に灯されている虹色の炎が消されたりしたらツナ達の故郷の世界が滅亡してしまうなどという非常に重大な物であるので絶対に奪還しなければならないものだ。 どちらも取り返すのを早々と諦める訳にはいかないだろう。 床に膝を着かされ、圧倒的な力の差を見せつけられても尚食って掛かろうとする目で見上げてくる英雄(ヒーロー)達にジークは少しは見どころがあるようだなという澄まし笑いを浮かべて口を開く。

 

「フッ……そんなに返して欲しければ、精々この場に巡り合った別世界の力と技術を取り込み合いながら互いに鍛え上げ、より一層強くなって奪い返しに来い──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──“黄昏の七属性”とその炎を灯せし【ラダマンテュスリング】を持つ、俺達《七星勇士(グランシャリオ)》に挑む勇気があるのならなッ!!

 

リィン達へ向けていたケルンバイターの切っ先を下ろし、声に大きな期待の圧を込めて出来るものならやってみせろと彼らを焚付ける《灰氷の剣帝》ジークレオン。 ミッドチルダの夜風に乗って次元世界の果てまで響いていきそうな烈然とした気迫がこれまでに三つの世界で幾度となく起こされてきた異変や危機に立ち向かい解決してきた歴戦の英雄達の精神へと直接叩き付けられ、全員の魂が(いかずち)の如き衝撃に打ち震えさせられた。 そのあまりにも凄まじい気当たりを跳ね返せる程の気力はとうに尽き果てていた彼らは誰一人として相手の煽りに受けて立ち上がれはせず、一瞬視界がぐらついて目に映る景色が眩みかける。

 

「クッ……!!!?」

 

それでもリィン達は此処で負ける訳にはいかないと気をしっかり持って途切れかけていた意識を現世に繋ぎ留め、眩みそうになった視界をどうにか取り戻した……その時、彼らは目の前に映った連中を見て目を疑った。 森羅万物を断ち斬る黄金の剣を携えて泰然と立ちながら冷然として余裕と澄ました微笑をリィン達へと向けている剣帝ジークとその右斜め後ろに少し下がった位置から相変わらず素敵な笑顔で絶対不利となったこの状況下で必ず逆転できると信じて不屈と諦めず足掻こうとする英雄達の様子を実に尊く想っているような熱を込めた目で見つめてきている魔王イノケント──彼ら二人の背後に何時の間にか()()()()()が姿を現していたからだ。

 

「なっ! あの六人、いったい何処から現れたんだ……!?」

 

やってくる気配も無く唐突として其処に出現していた異様な雰囲気を纏う六人にリィンと仲間達は瞳孔を開いて大きな戸惑いを露呈する。 現れた立ち位置や目の前の二人の背中に襲い掛からず付き従うように立っているという状況から()て恐らくその新手の六人全員が魔王(イノケント)の軍門に付いている者達であろう。 六人全員がフード付き黒マントで全身を覆い正体を隠していて、彼らの素顔を隠すフードの陰から漏れ出してきている霊気(マナ)はそれぞれも皆濃質でいて底が窺い知れず、何れも只者ではない事が誰にも理解できる。 だが、それよりも際立って異様な要素は──

 

「──十代目! あの変な黒マント共の手の指に嵌めている指輪(リング)、其処のイノケント(魔王バカのオッサン)が嵌めているブツと全く同じ形絵(デザイン)の彫刻が彫られてやがります!!」

 

「それと、アイツらのリングにそれぞれに灯されてる“六色の炎”、どれも全部ボンゴレ(オレら)が全然知らねー色と炎気が感じられるぜ。 たぶんアレらの炎が持つ属性と性質も未知のモンだろうよ」

 

黒マントの六人が唯一肌を曝している手の薬指にそれぞれ嵌められている“荘厳な二枚開きの門”の模りの金縁の装飾が施された指輪(リング)は、全体と金縁の門の中心に嵌めてある宝石の色こそ異なるがイノケントが先程《零の炎》を灯していた桁違いに神秘的な白亜色のリングと()()()()()()()()()()事が、獄寺ら視力自慢の射撃手の目には見て取れた。 更に、その六つそれぞれの門のリングには、またまたボンゴレファミリー(ツナ達)も今までに見た事がない“六色の死ぬ気の炎”が灯されていた。

 

“深淵”の底に妖しく揺蕩う湖水を連想させる【蒼色】の炎。

 

“煉獄”に燃え盛り永遠と罪人を焼き苦しめ続ける灼熱地獄を連想させる【緋色】の炎。

 

“闘争”の戦場に漂う無念と死の怨嗟を身に浴びながら殺戮に狂い敵兵を狩り続ける死神兵士を連想させる【紫紺色】の炎。

 

“鋼鉄”の鎧兜で全身を包み込みながら幾多の戦場を駆け抜けて剣傷の一筋も作らず返り血の一滴をも浴びずに無傷の完全勝利を持ち帰る至高にして無敵の英雄騎士を連想させる【白銀色】の炎。

 

“不滅”にして永久に消える事の無い理想郷の輝きを連想させる【黄金色】の炎。

 

“呪怨”と人の業に塗れた悪意を以て全ての世界を絶望に染め上げる無限の暗闇を連想させる【暗黒色】の炎。

 

そのどれもこれもツナ達の世界では未だ存在を確認できていない未知の属性であり、山本ら感の鋭い武芸者にはそれ等の炎にそれぞれとても計り知れない未知数の力が秘められている事が感じ取れた。 無論ツナの“超直感”にも。

 

──ヤバイヤバイヤバイ! あの人達がしている指輪(リング)の炎、どれももの凄くヤバイ感じがするものばかりじゃないか! 特にあの真っ黒な炎はバミューダ達の“夜の炎”がとても可愛く想える程に、絶望的なまでに悍まし過ぎる! 絶対に超ヤバいし、みんなイノケントとの戦いとジークの威圧でもう身体に限界がきている。 完璧に敵いっこないよ……!!

 

「もうダメだリィン……に……逃げなきゃ……! どうにかして隙を作って、みんな一緒に──」

 

「【(あお)】【(あか)】【(むらさき)】【(ぎん)】【(きん)】……そして【(くろ)】──“黄昏の七属性”──成程、炎の属性とやらについてトールズⅦ組(俺達)にはまださっぱり理解できてはいない上、この巡り合わせにどういう繋がりがあるのかは今は判らない……だが、やはり《七つの騎神(デウス=エクセリオン)》七騎と同じ(カラー)の炎が出てきたな!

 

「──回れ右して退却しよう……へっ?」

 

また新たにやって来た敵が出してきた未知の六色の炎から直感的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を感じ取れてしまい、途方もない恐怖で全身を震えさせて眼前の魔王達に敗北する未来を悟り逃げ腰になって隣のリィンへ逃走を提言しようとするツナ。 しかし隣の彼は敵軍の筆頭幹部の青年剣士が口にした“黄昏の七属性”という重要単語(キーワード)と彼の背後に控える黒マントの六人が指に嵌めている荘厳な門のリングに灯した死ぬ気の炎の六色の色分けに個人的な既視感があったようで、一人その場に呟いてこれ等の要素を統合し、その因果関係の一部について確信を得ていた。 それを聴いたツナは驚き呆けて思わず逃げの提案を止める。 考えを纏め上げたリィンがジークの威圧による金縛りを残った意志力を振り絞る事で解き、立ち上がると改めてジークへと向き合い、相手に確信した事を言う。

 

「すると、その“黄昏の七属性”の炎とやら……最後の一つはお前が今朝トールズⅦ組(俺達)との戦闘や、話の流れからして恐らくボンゴレ組(ツナ達)との戦闘にも使っていた【灰色の炎】なんだろ? ジーク!」

 

リィンは相手に緋色の刃を向け返して強気に問い詰めた。 その直後、彼の推理が正解である事を示すように一瞬口端を吊り上げて「フッ、御明察だ」と一言口にしたジークが右腕に抱えていた7³半永久機関をコートの懐にしまい(サイズ的に衣服のポッケに収納は無理じゃないかとツッコムでしょうが、RPG仕様の四次元アイテム袋補正となっておりますので、あしからず)、空いた右手の甲を顔の前に翳して、その中指に嵌めている“灰色をした門の装飾の指輪(リング)”をリィン達に見せつけた。 やはりそのリングはイノケントや黒マントの六人が“黄昏の七属性”系統の炎を灯したものと同じ代物であり、門の金縁の中心には一際艶やかな灰色に煌く宝石が嵌め込まれている。

 

…………点灯(ボゥッ)

 

そしてそのリングに灯されたのは彼の背後に控える黒マント達の門のリングが灯している炎の六色に加える“七色目の炎”だった。

 

聖善なる光の世界と暗陰なる闇の狭間の“境界”の景色を連想させる【灰色】の炎が、《灰氷の剣帝》が掲げた指に儚く小さく、しかし煌く鋼の刀剣の煌きの如く燦然と燃えている。 リィンはその炎の聖にも闇にも染まらぬ色とそれに宿る(おお)いなる誇りに切ない懐かしさを感じ取り、三ヵ月前の逆しまの塔での決戦後から疼く事が無くなった胸の(きず)に哀愁深く左手を当てる。

 

「やっぱりそうか……“黄昏の七属性”の名は、ゼムリア大陸(俺達の世界)において約1200年過去から連綿と続いてきた“黒”の因果により昨年エレボニア帝国で引き起こされた大陸全土を滅びに向かわせる(くら)き終末の呪い──《(オオ)イナル黄昏》から取って付け。 その炎の七色は【黄昏】の中で“黒”の因果に決着を着けるべくして執り行われた《七の相克》の参加者である“七人の起動者(ライザー)”──その彼らを選び共に戦った“七色の(おお)いなる騎士人形”──《蒼の騎神》オルディーネ、《緋の騎神》テスタ=ロッサ、《紫の騎神》ゼクトール、《銀の騎神》アルグレオン、《金の騎神》エル=プラドー、《黒の騎神》イシュメルガ……そして《灰の騎神》ヴァリマール──彼ら《七騎神(デウス=エクセリオン)》の()()()()()()()で、更にはイノケントが先程俺達に使おうと灯していた《零の炎》の【白亜色】も三ヵ月前に俺達が《逆しまのバベル》で戦った七騎神全てが統合された究極の《零の騎神》ゾア=ギルスティンと同じ色だ

 

「「「な──っ!!?」」」

 

「い……言われてみると、確かにリィン教官の言う通りだわ!」

 

「あの《相克》を競い合い、“黒”の討滅と共に消えていった騎神の七体それぞれの装甲の特徴(カラー)を示す【灰】【蒼】【緋】【紫】【銀】【金】【黒】の七色に、その七騎の統合機体である《(オオ)イナル(イチ)》を再現していた【(ゼロ)】のものと同色をした炎……【黄昏】の名を冠している以上、偶然という事は無いでしょうね」

 

「ええ、間違いなくあの騎神達と何か関連があると視ていいでしょう。 ジークさんと後ろの六人が指のリングに灯している七色の炎や先程イノケントさんが同じ装飾のリングに灯していた《零の炎》からは、それぞれと同じ色の騎神が放っていた霊力(マナ)の性質とほぼ同じものを感じられましたので」

 

「それ等の炎を灯している門の彫刻が施されたリングもヴァリマール達に繋がる古代遺物(アーティファクト)ではないかと見受けられる。 貴殿は先程【ラダマンテュスリング】という名で呼称していたが……説明してはもらえるだろうか、《灰氷の剣帝》殿?」

 

敵が灯した“黄昏の七属性”の炎の所縁に当たり目をつける憶測を述べたリィンに、彼以外のトールズⅦ組の面々がまさかと驚愕を露わにした。 リィンのクラス生徒の中で最も聡明な頭脳を持つミュゼは教官の憶測を簡潔に纏めてみて彼の考察は凡そ正解だろうとし、話にあった《七騎神》にとても深い関わりを持っていた《魔女の眷属(ヘクセンブリード)》の末裔であるエマは魔女の一族特有の感覚で“黄昏の七属性”の炎がそれぞれ同じ色を持つ騎神と同質の力を秘めている事を暴き、ゼムリア大陸の神秘や遺物について専門知識を持っている七耀教会関係者のガイウスは眼前の敵集団が指に嵌めて“黄昏の七属性”の炎を灯している門の装飾の指輪──【ラダマンテュスリング】が《七騎神》に関係を持った神秘の道具(アイテム)ではないかと思い至ってジークに駄目元で詳細の説明を要求する。

 

「まあ、俺個人としてはこの場で全て暴露してやっても構わないと思うのだが、“英雄の物語には謎と試練を与えよ”というのが我らが魔王大将の方針なんだ、悪いな。 王道漫画の主人公とその愉快な御仲間らしく、自分達で真実を探し当てるがいいさ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「またしてもアタシ達が過去に経験してきた出来事の詳細を知っているような口ぶりを……ダァアアアアーッ!! いい加減にしやがれ!【次元魔王軍】だかフ○ーザ軍だか知らねーけど。 マジでいったい、テメェらは何者なんだよッ!!?」

 

ジークが灰色の炎──《灰の炎》を灯した右手の掌を肩の上にヒラヒラとやりながら、仕方がないだろうというスカシ笑いを浮かべて、ガイウスから投げられた要求を断る。 その際に、今宵の戦いの中で何度も何度も対峙した敵達が三世界の英雄達(こっち)の過去の大きな出来事の顛末を実際に観てきたような口調で言ってきた為、煩わしさに我慢の限界がきたヴィータが感情の爆発の勢い任せで金縛りを解除し、立ち上がり様に目の前に立ちはだかる【次元魔王軍】へ向けてビシッと指差して、お前達の詳しい素性を明かせと怒鳴り要求する。 それを聴いて、さっきから配下の出番を邪魔しないように笑顔でやり取りを見守る事に徹していた魔王様(イノケント)がその言葉を待っていたという風に愉しく張り切ってリィン達の前に一歩踏み出てくる。 ジークも自軍の大将に出番を替わると空気を読んで英雄らの身体の自由を縛っていた威圧を収めて背後に立つ黒マント達の右端へと退がり、解放された彼らが全員立ち上がったのを確認するとイノケントが大仰不敵に哄笑を上げた。

 

「フハハハハハー! よくぞ聞いてくれたな。 ならば答えてやるのが世の情けだろうが、今はまだ全てを明かす時ではないのだ。 故に今はこう名乗らせてもらうとしよう──」

 

今はまだ物語のプロローグ、主人公達が対峙する宿敵の掘り下げをするにはまだ早い段階だろう。 イノケントは両手両足を大に広げて肩に羽織った憲兵衣装の外套を盛大にはためかせ、三世界の若き英雄達に向けて大声を張り上げた。

 

「我らは【次元魔王軍】! “空の女神の加護”を受けしゼムリア大陸の若き英雄達による絆の軌跡が伝説となり受け継がれてゆく《可能世界》。 “7³”という21個の至宝に灯る覚悟の炎が大空を照らす《七輪世界》。 “次元を隔てる海”を越えて無数に在る世界に科学と魔法が織り成す《次元世界》。 三つの世界に語り継がれる英雄伝説の輝き(ヒカリ)が失われる事を阻止せんが為、《楽園(パラダイス)計画》を完遂すべくして、この《次元魔王》イノケント・リヒターオディンの名の下に多元並行宇宙中より集められた“勇士の軍団”なりッ!!」

 

「そして《黄昏の7³(トワイライト・トゥリニセッテ)》の一輪である【ラダマンテュスリング】を所有する、この俺達七名が【次元魔王軍】最高幹部《七星勇士(グランシャリオ)》──【蒼のラダマンテュスリング】を有する“蒼の勇士”、【緋のラダマンテュスリング】を有する“緋の勇士”、【紫のラダマンテュスリング】を有する“紫の勇士”、【銀のラダマンテュスリング】を有する“銀の勇士”、【金のラダマンテュスリング】を有する“金の勇士”、【黒のラダマンテュスリング】を有する“黒の勇士”。 そしてこの《灰氷の剣帝》ジークレオンが七星勇士筆頭にして【灰のラダマンテュスリング】を有する“灰の勇士”だ!」

 

「三つの世界に“勇気とキズナの光の伝説”を語り継ぐ若き英雄達の最強の敵として、我々【次元魔王軍】は立ち塞がろうッッ!!!」

 

 

 

 

 




今更ですが、『英雄伝説 閃の軌跡』発売十周年おめでとうございます!

あのリィンとトールズⅦ組の青春と感動の物語が始まってから、もう十年の月日が経ってしまったのかと、私《蒼空の魔導書》は大変感慨深く──


グナちゃん「──ッテ、コラァ! アトガキノハジメカラゲンサクゲームノワダイヲムリヤリブッコンデ、メチャクチャヤリヤガッタホンペンカラハナシヲソラソウトスルナ!!」

アリサちゃん「アンタこれ、どういう事なのよ!? 新登場のオリキャラが魔王軍幹部筆頭で《灰氷の剣帝》で? コイツがハーメル廃村の《剣帝》の墓を荒らして《魔剣ケルンバイター》を盗み出して? んで、リィン達がコイツに負けて次元世界に強制次元間転位されて来て……んァァアアアアッ!! もうッ、情報量多過ぎ! 頭パンクするわっ!!」

リボーン「てか、オレらの世界から盗みやがったブツなんか超ヤベーモン過ぎて、アリサの世界の方と比べて被害のデカさが割りに合ってねぇんだよ。 つーかあのダメツナめ、オレが留守にしている時に何とんでもねーヘマやらかしてやがる(怒)」

因みに新オリキャラの“ジークレオン”は自分が応援しているとあるユーザー様の活動報告でオリキャラ募集していたところに応募したキャラクターでしたが、彼の設定は今作の方が大きく活かせるかなと思ったので、事前に先方から許可を頂いて、設定を見直して今作のライバルキャラクターに登用させていただきました。 ラスボスのイノケントに次ぐ強敵ですね。

今回、このジークとの戦いにリィン達とツナ達が敗れて次元世界に飛ばされて来たという経緯がザックリと話されましたが、プロローグ編完結後の序章ではリィン達とツナ達に過去語りさせて、その時の背景を書いていく予定です。

次回こそプロローグ編を完結させます! 11月の頭あたりに上げるつもりでいるので、楽しみにしていてください。



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新たなる英雄伝説の始まり

プロローグ編最終話です。




魔王(イノケント)その配下幹部筆頭(ジーク)が多元並行宇宙中に轟かせる勢いで高らかに名乗りを上げ、三世界の英雄達に向けて威風堂々と拳を突き出した魔王が彼らへの宣戦布告を大胆不敵に言い放った。 夜の冷たい風が屋上ヘリポートに流れて来て、三世界の英雄達と次元魔王軍の間に神妙な空気が出来る。 数秒間の沈黙の後、魔王軍連中が有無を言わさぬ勢力(すごみ)を以て叫ばれた若干長ったらしい口上に圧倒されて口元を唖然とさせていたリィン達はハッと我に返って冷凍したようにカチコチに固まっていた口を体温熱で解凍して動かした。

 

「楽炎……計画?」

 

「トワイライト……トゥリニセッテだってぇ!?」

 

「多元並行宇宙中より集められた“勇士の軍団”ンン──ッ!!?」

 

一時訳が分からなく混乱し身を硬直させていた間に次元魔王軍(ラスボスたち)が語った内容を頭の中でどうにか整理し終えたトールズⅦ組・ボンゴレファミリー・機動六課はそれぞれの陣営がその中の気になった重要単語(キーワード)反応(リアクション)を起こした。

 

敵陣営が最終目標として完遂を目指すと言った企ての名称に、自分達が過去にゼムリア大陸における大きな戦いの中で時に敵対し時に共闘もしてきた“とある秘密結社”が昔から今も段階を分けて推し進めてきている長期の企み事の名称とどうにも類似している気がして、曖昧に両者の関係性を疑うような声を漏らしながら首を傾げるリィン。

 

七星勇士(ジークら)》が指に嵌めて“黄昏の七属性”と呼んでいた新たなる未知の七属性の死ぬ気の炎を灯している【ラダマンテュスリング】という、いかにもランクが激高そうな宝石が嵌め込まれた荘厳な門の装飾の指輪(リング)の事を《黄昏の7³(トワイライト・トゥリニセッテ)》と分類する名称で呼んでいたのを確かに聴き取り、その中に“トゥリニセッテ”という自分達に凄く関係深い単語が含まれていた事にとても信じ難い驚愕を露わにするツナ。

 

次元魔王(イノケント)》が自慢気な口で教えてきた彼の軍団の構成が多元並行宇宙中という埒外過ぎる範囲規模で集められていると耳に入れ、次元世界という広大な多世界群に携わる仕事をする公職に勤めているが故に相手の世界の巨大さがどれだけ馬鹿馬鹿しい程に規格外なものかを想像できて、素っ頓狂な声をあげてしまうスバル。

 

文字通り三者三様の動揺を表した三世界の英雄達が騒然とざわめきたてている。 イノケント達が語った事はどれも荒唐無稽な話にも程がある、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 どうやら今回の戦いはトールズⅦ組・ボンゴレファミリー・機動六課らそれぞれが守護する三つの世界全てを巻き込む大変な事態となっていきそうだ。

 

「リィン・シュバルツァー。 言っておくが、我々の《楽炎計画》はかの“蛇”が【可能世界】で推し進める《オルフェウス最終計画》とは全くの別物だ。 ……いや寧ろ、我々の目指す【楽炎】は“蛇”の計画を頓挫させる可能性が高いだろう。 そうなれば“蛇”もいずれ近い内に我々の計画を潰しに、この次元世界へと参入して来る事だろうな……」

 

「なん……だと? それはどういう……ッッ!!?」

 

一応念の為にとジークが自分達の計画に件の秘密結社は関与してはいないという捕捉を伝えてきたが、しかしその後に彼は腕を組んで五秒間考える素振りをしてから、自分達の計画を叩き潰す為にかの結社も異世界の壁を越えて今宵の戦いに参戦して来るかもしれないと付け足してきた。 途方も無く頭痛がしてくるような話を連続で耳に聴かされて、一介の武芸者として日頃から精神鍛錬を欠かさずやっていても隠せない程の酷い動揺を表情に浮かべたリィンはジークに詳しい説明を求めようとする。 だがしかし、ジークの方は残念ながらもう時間切れだと言いたい顔をして両肩をやれやれと竦めていた。 何故なら、何時の間にか彼等の大将たる魔王様が右手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取り出していたからに他ならなかった。

 

「な……っ!?」

 

「おいツナ、アレは……」

 

「まさか……《(ボックス)兵器》ッ!!」

 

経った今イノケントが右手の親指・人差し指・中指で摘み、挿し込み孔の空いた面を上側にしてリィン達全員の目に入るよう前に掲げて見せた謎の正四角形の小物……その正体が何なのか獄寺・山本・ツナのボンゴレ三人組はよく存知ていたが為、三人はそれを目に入れた瞬間に目付きを鋭くして過敏な反応を示した。

 

ツナは確信を持って口にしたそれの名を《(ボックス)兵器》と言った。 詳細は後回しになるが、“(ボックス)”とはツナ達の元居た世界の()()()()()()()()()()()()()を質量問わず出し入れができる収納携帯道具(アイテム)であり、《匣兵器》とはその“匣”から出し入れする死ぬ気の炎の力を持つ武具の総称の事だ。 “匣”はそれに対応した属性を持つ死ぬ気の炎を灯した指輪(リング)を孔に挿し込む事で開匣(かいこう)する事ができ、その手順(プロセス)を踏む事で匣の中に収納された《匣兵器》を出して使用する事ができるのだ。

 

イノケントが右手に摘まみ上げた“匣”には孔が空いていない五面に、先程まで展開されていた『天地崩界・神々の黄昏(ディザスター・ラグナロク)』の戦闘領域(バトルフィールド)空間の天上に大々と敷かれていた十干十二支漢字が並ぶ巨大方陣と全く同じ絵柄(デザイン)が描かれており、全体的に【白亜色】で塗られてある……そして、彼がとても素敵な笑顔で天へと掲げた左手中指に嵌めてある【零のラダマンテュスリング】には右手の匣の色と同じ【白亜色】の死ぬ気の炎──《零の炎》が再び灯しだされていた。

 

「ククク……さあ、我が次元魔王軍の力を刮目して見るがいい──いざ、開匣だッッ!!

 

挿入(カチッ)────開匣(ババァーーン)ッ!!

 

《次元魔王》が早く見せびらかしたくて辛抱堪らんとウキウキさせながら翳した左手の白亜色の“(ボックス)”の挿し込み孔に真上から右手の【零のラダマンテュスリング】に灯された《零の炎》をダイレクトに挿入した。 その直後にリングが挿し込まれた孔の面が開かれると、匣の中から質量保存の法則を無視しまくった超巨大空中要塞戦艦が奇妙な効果音を鳴らしながら飛び出してきて、瞬く間にその埒外な規模を持つ(ボックス)兵器の威容がクラナガンの夜空へと君臨したのであった。

 

「「「「「「「な──ッッ!!!?」」」」」」」

 

「あのような小さな(ハコ)の中から、巨大飛行艦を出現させただと……!!」

 

「しかも、なんてとんでもない(おお)きさをしているの! 先月に墜とした【聖王のゆりかご】が川の小舟に見える程だなんて……っ!!」

 

リィン達はイノケントが《零の炎》で開匣させた(ボックス)から現出させた超巨大空中要塞戦艦を見上げ、流石にこれには百戦錬磨の英雄達と言えど度肝を抜かれた様相を曝さずにはいられなかった。

 

まず艦体の全長(サイズ)が兎に角デカイ! 地上の大都市(クラナガン)の半分の面積を越える超越弩級の(おお)きさだ。 なのはがその艦体が持つ超越弩級のサイズを目の当たりにして驚愕のあまり自身の大きな両目を更に大きく見開きながら口から漏らしたように、先月にミッドチルダを空襲した古代ベルカ時代に勃発した次元世界戦争の覇者たる《聖王》オリヴィエが駆っていたと伝えられる巨大空中戦艦【聖王のゆりかご】よりも《次元魔王》の空中戦艦は何十倍と巨大な威容を放っていた。(因みに《聖王》オリヴィエは某帝国の《漂白の詩人にして演奏家》を自称しながら嘗て外国で放蕩していたスチャラカ第一皇子と名前が似ているが、全くの無関係である)

 

甲板の外装甲はこの戦艦が収納されていた“(ボックス)”と同じ白亜色で厳かに神々しい輝きが放たれ、気圧される小さな英雄達の前に向き合っている艦首からは“白翼を持つ牛鬼”という邪の者に聖なる翼を与えた冒涜的な混沌(カオス)を象徴する像が睥睨している。 艦体装甲の左右側面にはそれぞれ六門計十二の荷電粒子砲が充電されたエネルギーをSF兵器的な幾何学模様の口からバチバチと漏らしながら顔を覗かせていて、船底前と後部分に一門ずつ“魔導砲”だと思われる巨大砲筒が構えられている。 極めつけには艦首正面下方部分に広く空いている部分に途轍もなく巨大な砲門が隠されていそうな四角い接合線が見られ、果てしなく長い甲板(デッキ)上にはその名の通り難攻不落の要塞を思わせる黒鉄の砦が無数に立ち並んで、接敵して来ようとする敵の航空部隊や飛行魔獣を逃げ場なく徹底的に撃滅せんと威嚇している。 地上の大都市(クラナガン)全体の光をその巨大で厳かな艦体の影で覆い尽くす姿はまるで外宇宙から飛来した大怪獣のようであった。

 

 

次元間相転移式核融合炉搭載超越弩級型──次元間潜航幻想機動要塞母艦《甘粕(あまかす)

 

 

ミッドチルダの夜空を出現しただけで一瞬の内に席巻した超越弩級の空中要塞戦艦──《甘粕》を見上げて戦慄と畏怖を表す三世界の英雄達……彼らは過去に世界を滅ぼしたり大きな因果を捻じ曲げたりといった規格外規模の難敵と幾度となく対峙してきたが、今度の敵はいったいどれだけ桁外れの力を持っているのかと、皆息を吞んだ。

 

しかし、彼等が上に釘付けられてる隙にイノケントがまた《PARAISO(パライゾ)》を手に取り出して表画の電子画面(ディスプレイ)をタッチ操作した。 すると今度は操作者当人を含むこの場に居る【次元魔王軍】八人の足下に導力術式方陣が展開され、リィン達がそれに気付いた時にはもう遅く『パシュゥゥン!』という夜の静けさの中に下手に高い笛音を吹き鳴らしたような効果音を響かせると共に彼等の姿を消滅させた。

 

「転位陣!?」

 

「あの《PARAISO》という戦術オーブメント、“結社”や“黒の工房”のもののような空間転位機能まで備えているのですか!」

 

転位の術に精通しているエマと過去にそれを機械的な技術に転用させていた暗躍地下組織と深い繋がりがあったアルティナが驚愕の声を発したその直後、夜天の上にデカデカと座した《甘粕》より魔王の奴の馬鹿笑いが響き渡った。

 

「くは、ふはははははっ! どうだ我が信奉する三世界の英雄諸君、驚いただろう? これが我が【次元魔王軍】の旗艦、その名も《甘粕》だ。 この艦には俺の趣味(ロマン)が満載に艤装されていて──」

 

「イノケント、自慢がしたいのなら次の機会に取っておけ。 今回はこれまでにして引き揚げるぞ」

 

リィン達が時空管理局地上部隊本部の真上に浮かぶ《甘粕》を非常に厳しい面持ちで睨み上げると、白翼の牛鬼の艦首像の横合いから愉悦満開(デカイドヤ)顔を覗かせてとっても愉快そうに哄笑を浮かべる《次元魔王(イノケント)》と相変わらず余裕綽々とした澄まし微笑で少し気取った腕を組ませた立ち姿を見せている《灰氷の剣帝(ジークレオン)》が、その逆側から正体を隠した黒マントを夜風に靡かせるジーク以外の《七星勇士》六人が、彼等の事を挑発的に見下ろしていた。 そのまま高揚して(ハイテンションで)イノケントは乗艦した自分の超越弩級要塞空中戦艦を敬愛する英雄紳士淑女(ヒーロー・ヒロイン)一同へ見せつけて自慢(アピール)しようとしたが、冷静な幹部筆頭であるジークに釘を刺されたので、仕方なく口を閉じて回り出した機関銃のように出かけていた長ったらしい自慢台詞を止める。

 

そして高揚の熱を冷ました【次元魔王軍】の大将が凄く名残惜しそうに目を閉じて配下達へ「撤退だ」と指示を出すと、彼等を乗せた《甘粕》の甲板縁から地上の街へと長く降ろされていた大樹のように極太い錨の鎖が引き上げられ、抜錨(ばつびょう)された。 どうやらイノケント達は空中戦艦でミッドチルダから撤退する構えを取りはじめたようであり、その動きを視たティアナが咄嗟に声をあげる。

 

「もしかしてアイツら、逃げる気!?」

 

何処をどう見ても【次元魔王軍】が圧倒的に優位に立っていたこの状況で奴等は何故逃げ出す選択をするのかと疑問に思える一方で、イノケントやジークのような超次元(レベル)の敵を相手に連戦可能な程の体力はもう既に誰一人として残されていなかったリィン達にとっては寧ろありがたいとすら言えるだろう。 だがしかし、リィン達とツナ達がそれぞれの故郷の世界でジークに奪われたかの《剣帝》の黄金の剣と七石三輪の世界の秩序を保つ一角である虹の炎の器はまだ両方盗んだ本人の手の中にあるままにされていて、このままでは奴等に二つ共黙って他の次元世界か最悪こちらの手の届かない未知の異世界へ持って行かれてしまう……。

 

「テメェら、待てや! レーヴェ兄ちゃんの剣(ケルンバイター)返しやがれ!!」

 

「頼む、その7³半永久機関を持って行かないでくれ! その中の炎が消えちゃったら、俺達の世界が崩壊してしまうんだ──!!」

 

《剣帝》と同じ故郷の村の出身で彼の者と深い縁を持つアッシュは金茶色の短髪を逆立たせて凄まじく憤り、散々大嫌いな戦いを繰り返しやっとの思いで小さな家庭教師達を虹の呪いから解放する事ができたのにその呪いの立替えにした器を持って行かれるなんてとても冗談じゃないと思ったツナは必死の形相で相手へ懇願するように、それぞれの奪った大切な物を今すぐ返せという要求を撤退準備の為に艦内へ引っ込もうと背中を向けたジークへと投げつけた。 それで彼をもう一度こちらに振り向かせる事はできたものの、しかし相手は何処吹く風の様子で取るに足らない連中を見下すような冷徹な視線で英雄達を射抜き、残酷な返答を投げ返してくる。

 

「先程も言った筈だ、断るとな。 お前達の大事なコレらは俺が預かっておく。 返してもらいたいのなら、次に剣を交える時までに【炎の絆】を結び、精々更なる腕を磨いておけ……特にトールズⅦ組と機動六課の面々は、ボンゴレに習って早いところ【覚悟の炎】を灯す術を身に付ける事だな」

 

「くっ……!」

 

「そんな……」

 

「リィン君達とツナ君達の大切な物を人質にするなんて……許せない!」

 

「みんなの力を合わせて、絶対にアンタらをブッ倒して捕まえてやる──ッ!!」

 

「フッ……面白い。 次に会った時は、俺達《七星勇士》が相手だ。 我らが大将たる《次元魔王》イノケント・リヒターオディンの慧眼によって数多の異世界より選出されし七名の【勇士】を相手に、三世界の英雄(おまえたち)が掲げる“繋がりの絆の力”とやらで何処まで食い下がれるか、精々楽しみにしている」

 

《魔剣ケルンバイター》と《夜炎加速式7³半永久機関》を人質に取った上に挑発的な忠告を叩き付けてきた次元魔王軍幹部《七星勇士》筆頭のジークレオンに猛烈な怒りを覚えた三つの世界の英雄(ヒーロー)達は誰一人迷い無く奴等の挑戦を受ける気を見せ、全員何処までも抗い続けてやるという輝き(ヒカリ)を宿した眼差しで次元魔王達と奴等の宇宙大怪獣級に巨大な旗艦を強く見据える。

 

そっちがそのつもりなら上等だ、お前達がどれだけ理不尽に強かろうと絶対に負けてなるものか! リィンが、ツナが、なのはが、スバルが、三つの英雄伝説に炎の名を刻みし光の勇者達が天上異次元・多元並行宇宙規模の戦力を有する【次元魔王軍】へ対して臆する事なく一斉に絶対の反抗の意志を示す紅蓮の弓矢を向けた!!

 

是非も無し、それでこそ最強の魔王(ラスボス)へ勇敢に挑まんとする真の英雄だ! 本物の英雄(ヒーロー)達が魅せる勇気や絆の輝き(ヒカリ)を護る為、狂う程に敬愛し信奉した三つの世界の若き英雄達の前に立ち塞がる魔王として君臨したいと望んだ光の魔王(イノケント)は最大の歓喜に打ち震えそうになった身を抑え、大胆不敵に嗤うと共にリィン達と全多元並行宇宙へ向けて威風堂々と宣言した。

 

「さあ、敬愛する伝説の英雄諸君よ。 今より始めようではないか。 『全ての星空を【楽炎】で燃やし尽くす、三つの英雄伝説と次元魔王が交差せし、新たなる“炎の軌跡”の御伽噺(おとぎばなし)』を……ッッ!!!」

 

今此処に、三つの“炎の軌跡”は交わった……次元の海に集いし物語に語られる光の英雄達が【炎の絆】を結び、数多の世界の命運を懸けて超次元の魔王達と壮絶な激闘を繰り広げる、新たなる王道の英雄伝説が今、始まる──ッ!!

 

 

 

 

 




やっっっっと書き終わったーーーーーッ!! いやー、プロローグ編は今年六月までに書き終わらせる予定のつもりだったけど、まさか十一月まで掛かるなどとは思わなかったぜ。(疲)

アリサちゃん(怒)「当たり前でしょうが! プロローグで合計21話30万文字以上も費やした長編を書く奴か何処に居るってのよ!!」

リボーン(やれやれ)「まったく、別作品の感想でも『文章が非常に長く、テンポも遅い』と指摘されただろうが。 濃厚で細かい描写を書こうとして要点を纏められないからこうなるんだぞ」

グナちゃん(ジト目)「“セッテイノツメコミスギ”モゲンインダロウナ。 ジョウホウリョウハオオスギルトイケナイシ、ドクシャノリカイモオイツカナイカラ、チャントチョウセツシロヨ」

ぐ……ぐうの音も出ねぇ。 反省して次章からどうにかしよう……。(危機感)



さて、プロローグ編『繋がる三つの世界。 集いし若き英雄達と次元魔王軍襲来!』はこれにて完結ですが、いかがでしたでしょうか?

次回からは“序章『《三世界英雄連合》発足』”を開始しますが、その前にプロローグ編完結を記念して、今作の『オリジナル敵キャラクター募集』を活動報告の方で開催しました。

オリ敵募集は内容を変えて三回する予定で、今回の募集第一弾は『【次元魔王軍】の中堅幹部』です。(詳しい内容と応募は活動報告で)

イノケント「フハハハハ! 画面の前の勇者(ユーザー)達よ、我が軍で英雄達が存分に光り輝ける《楽炎(ぱらだいす)》の創造を共に目指そうではないかッ!!」

ジークレオン「優秀な人材なら出身世界年齢性別罪科を問わず歓迎しよう。(イノケント(この大馬鹿)のような非常に手のかかる問題児が増えるのは、できるだけ勘弁願いたいがな……無理か)」



次の章のストーリープロットチャートの作成や『THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡』の方もそろそろ続きを進めていきたいので、恐らく“炎の軌跡”の更新はこれで今年最後になるだろうかと思います。

来年2024年は『英雄伝説軌跡シリーズ』『家庭教師ヒットマンREBORN!』『リリカルなのはシリーズ』三原作が揃って開始20周年記念迎える、楽しみな年ですね♪

以前のアンケートの結果で今作にゲスト参戦する事が決定した『落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)』『ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)』も二作共に原作小説最終刊の発売が決定された訳ですし、自分も“炎の軌跡”をこれから益々盛り上げて執筆していかなければと燃えていきたいです!(願望)

では読者の皆様。 また次回、序章で御会いしましょう!

グナちゃん「サラダバー!」



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序章『《三世界英雄連合》発足』
【三世界対談会】開会


読者の皆様、大変長らくお待たせしました。 炎の軌跡の序章『《三世界英雄連合》発足』編の開幕です!

六課の部隊長の女性「今話で私もようやっとパーティ参戦や♪ よっしゃあ、今日をもって不遇な名無しキャラの立場からはオサラバやでぇ!」

フッ、果たしてそうかな? 某共和国の準S級遊撃士不動産のように最初のシリーズから主人公パーティINしている強プレイヤブルキャラなのに公式にまともな活躍をさせてもらえていない人もいるからね。

部隊長の女性「そんなまっさか~! 私は長いことリリカルなのはシリーズのメインキャラで張っとる、スーパーヒロインなんやで? そないな人気者の私が、ゲームのメイン舞台が活動本拠地(ホーム)に移って約13年ぶりに再登場させてもらってもゲーム本編でのプレイヤブル参戦がたったのイベント戦一回のみで次回作も梯子降ろすぐらいしか大して活躍できなかった不動産みたいな、不遇の扱いなんてされてたまるかいな♪ ……せやろ?」

不動産「それを俺に聞かないでくれよ……orz」




王道だろうと邪道だろうと、何事も主役の登場人物達が運命の流れの中で出会い、彼らの間に関係が結ばれる事で物語は大きく動き出すものだ……。

 

例えば……そうだな。

 

桜舞い散る始まりの季節に光輝く夢と無限の可能性を胸に秘めながら希望への未来を目指して学園の門を潜った新入学生の主人公が、これから同じ教室の中で長く共に手を取りっ合って助け合いながら色様々な学問や経験を学んでゆく事となる同年代のクラスメイト達と出会い、青春の学生生活がスタートする。

 

運動も勉強も最底辺で纏う雰囲気も冴えない所為で恋人も友達も一人もできず、周りの人間から馬鹿にされて鬱暗い日々を過ごしていた主人公の落ちこぼれ劣等生の少年のもとへある日何処からか忽然と現れた、一度教えればどんなにダメダメな子でも必ず優等生にしてしまう高名な家庭教師や現代工学では絶対に造れない未来の超高性能ロボットなどの()()()()()()()()()()()()()()()が、主人公の少年の手助けをする代価として彼の家に居候する事になる。

 

平凡で退屈な日常に飽き飽きして自分の将来の夢も描けないでいた主人公の幼い少女が邪悪な侵略者に襲われた魔法の世界から助けを求めに地球へとやって来た妖精や魔法使いと運命の邂逅を果たし、魔法の契約や変身アイテムを貰うなどをして魔法少女へと変身し、邪悪な侵略者との戦いの日々が始まる。

 

その他にも、特に優れた能力の一つも持っていない平凡な一般人の主人公が車に轢かれそうになった幼子を助ける為に身代わりになって轢き殺され、その勇気ある善行を気に入った神様が死んだ主人公を特別に全知全能級の魔法が使える特典付きで中世ファンタジーの異世界へ転生させたり。 第三次世界大戦が勃発して世界は核の炎に包まれ、全ての国と文明が滅亡し荒廃され尽くされた灰と絶望の世界に生き残った主人公が、同じ生き残りの人々を見つけ彼等と共に世界に文明を立て直そうと立ち上がっていく。 等々、切っ掛けとなる事件や展開は無数に考えられるものだが、確かに主人公が主人公の人生を大きく変える力や影響を持つ重要人物との邂逅を果たす事で物語の流れに激的な変化が確実に生まれてくる。

 

そう、物語の主人公(ヒーロー・ヒロイン)とは確かに脚光を浴びて光り輝く中心人物だがその一人だけでは決して物語に魅力は宿らない。 友人、恋人、知人、隣人、学園の同級生、職場の同僚、遭遇した非日常的な事件や境遇の中で出会った他人などでも、偶然でも必然でも、英雄(ヒーロー)となる主人公と仲間達が邂逅を果たして“絆”という関係を結び始める場面は物語の序章に必要不可欠な要素(ファクター)になるのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──新暦75年10月11日 時刻03:08。 ……武装所持した不審な次元漂流者計11名、【管理世界司法外の違法武装介入】と【質量兵器無断所持】の罪により、今回の事件の重要参考人として全員身柄を拘束させてもらう」

 

ガチャリ! という手錠機器が掛けられる鈍い音が、戦闘跡が刻まれた時空管理局地上部隊本部屋上ヘリポートに虚しく響いた。

 

今宵の【第二次ミッドチルダ大空襲】の戦犯であった反管理局軍ミッドナイトに出所不明の管理局の極秘情報やリィン達とツナ達の世界の技術を売り渡す等といった多大なる支援提供を執り行い、支援先のミッドナイト軍が時空管理局の最精鋭部隊たる古代遺物管理部機動六課に加わり二つの異世界より次元間転移されて来て現れたトールズ士官学院Ⅶ組と十代目ボンゴレファミリーによって撃退された直後に彼ら三世界の英雄達へ戦いを仕掛けてきた、《次元魔王》イノケント・リヒターオディン……この星(ミッドチルダ)全体を震撼させる異次元規模(レベル)の戦闘力、高位相次元空間に自分の思い通りの法則(ルール)が支配する領域(テリトリー)を創造構築し既存の導力魔法(アーツ)の最上位のものより更に上位となる【究極上位導力魔法(アルティメットアーツ)】をも使用可能にした近未来の戦術オーブメント《PARAISO(パライゾ)》を用いて、リィンやツナ達歴戦の若き英雄らを大いに苦戦させて追い詰めた後、突如として出現した彼の率いる【次元魔王軍】の最高幹部《七星勇士(グランシャリオ)》と共に、次元魔王軍の旗艦《甘粕》に乗って嵐が過ぎ去るかのようにミッドチルダより飛び去って行った。

 

ところが、敵の強大さを思い知らされた《次元魔王》との激戦が終わってから数十分後にやっとミッドチルダに到着した時空管理局本局主力の次元航行艦隊に何故か完全包囲されてしまい、今回の戦いの立役者である筈のリィン達トールズⅦ組とツナ達ボンゴレ組は11人全員、近未来SF映画などで見た事あるようなカラフルな電光(レーザー)ライトのラインを走らせたハイテク手錠を両手に嵌められて、逮捕されてしまったのだった……。

 

「嘘だろおおおおおおおおっ!!?」

 

ハイテク手錠に引き繋げられた自分の両手を前に眺めて、白目を剥きながら素っ頓狂に嘆き叫ぶツナ。 一体何なんだこの状況? 突拍子も無くこんな理不尽な仕打ちを受けるだなんて、何がどうして訳が分からない。

 

右を見れば獄寺が自分の大事なボスに手錠を掛けた次元航行艦隊の武装局員達に激怒してダイナマイトを投げつけようとしたら、その瞬間にトールズⅦ組とボンゴレ組の身柄確保を武装局員達に命令を出した黒髪長身の男性魔導師が空の上から放った光鎖状の拘束魔法(チェーンバインド)によって縛り付けられて忽ち無力化されていて。 それを目隠しにして冷静に刀を抜こうとした山本も隣に立っていたシグナムに気付かれ、彼女に刀を抜こうとした腕を取られて制止される。 左を見れば、トールズⅦ組の生徒の一部(ユウナ、クルト、アッシュ)が抵抗しようとして武装を構え出そうとしたのをリィンが「ここは下手に抵抗しない方がいい」と言って生徒らに武装を下げさせ、大人しく全員手錠を掛けられていた。 最後の頼みの綱で管理局の一員であるなのは達機動六課に情けない泣きっ面の視線を向けて助けを求めて縋ろうとしてみたものの、彼女らからは申し訳なさそうな顔か合わせた両手を前に一回コクリと謝る素振りをされるだけで、誰も庇おうとはしてくれなかった。 ツナは呆気なく万策尽きた……。

 

「そそ、そんなぁー! こんな知らない世界に飛ばされて来て、警察に逮捕されるなんて、嫌だよおおおおおおおっ!!!」

 

やむを得ずリィン達異世界勢は武装局員達の御縄に頂戴されて、艦隊の司令艦であると思われる大型の黒い次元航行艦に乗せられて時空管理局の本局へと護送されて行ってしまう。 海の波のように歪む紫色をした次元空間にボンゴレファミリー十代目ボスの慟哭が響き渡り、なんとも言えない哀愁が次元世界に木霊するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦75年10月12日 時刻 9:31──第一管理世界ミッドチルダ北部ベルカ自治領、聖王教会本部応接室。

 

「異世界の助っ人の皆さん。 昨日は大いに私の部隊を助けて頂いた御恩をあのような仇で返す事になってしまい、どうも申し訳ありまへんでしたアアァァァァァ!!!」

 

「ゴメンナサイですぅぅぅ!」

 

あれから本局へ連行されたリィン達は保護観察の名目で客室に押し詰め込まれ、其処に丸一日拘留された後に彼らの許へやって来たのは、なのはやフェイトと同じ歳の茶髪の女性局員と同じ茶色の局員制服を着た蒼銀髪の妖精(?)であった。 彼女達の計らいによってようやく釈放されたトールズⅦ組とボンゴレ組はこの二人に連れられて銀色の次元航行艦に乗り、再びミッドチルダへと戻って来られた。

 

そして此処《聖王教会》でなのは達機動六課と再会し、隊長陣と六課の後見人三名を交えて異世界勢への事情聴取を表向きにした対談会が開かれる事になったが、その前に先日管理世界の司法組織の一員である立場上に則らざるを得ずに【第二次ミッドチルダ大空襲】【魔王降臨事件】という管理世界の危機から救ってくれた英雄達に対して身柄の拘束を行ってしまった事に対し、機動六課の総部隊長(せきにんしゃ)だという茶髪の女性局員と蒼銀髪の妖精(?)が経った今こうしてリィン達の眼前で床に丁寧に折曲げた両膝を着けて座りつつ額を膝前の床に煙が立つ程強く擦り付けて深々と謝罪したのであった。

 

 

≪夜天の主≫八神はやて CV:植田佳奈

 

 

≪蒼天の融合機≫リインフォース(ツヴァイ) CV:ゆかな

 

 

「ほんまにすまへんかった。 機動六課総部隊長並びに昨日の戦いの作戦現場の全指揮兼責任者として皆様に大変失礼な対応を執り行ってしまった事を深~く謝罪します!」

 

「謝罪しますぅ!」

 

高町なのはやフェイト・T・ハラオウンら時空管理局のトップエースや未来のストライカーが集う最精鋭部隊、機動六課の部隊長──八神はやて二等陸佐は背中を縮こめて丸めつつ両手と頭を冷たい床に付けて平伏す姿勢を保ち続け、無礼を行ってしまった目の前の異世界から来た英雄達に許してもらうまで謝罪の言葉を吐き続けるその誠意的な姿は、それはもう見事な“JAPANESE・DOGEZA”であった。

 

「い、いえ! そんな大袈裟に謝らなくても許しますってば!」

 

「ツナの言う通りですよ。 管理局(そちら)の法と立場上の問題で違反をした次元漂流者(俺達)を仕方なく逮捕したのだと聞いていますし。 それに拘留中も広く快適な客室で、侍女や管理人の方々がこちらが不自由しないようにと無料のルームサービスを色々としてくれて、寧ろ至れり尽くせりでしたのでこちらが申し訳なくなるくらいでしたから」

 

「ケッ! 十代目がお許しになるなら仕方ねーな。 さっさと頭上げて立てよ」

 

誠意を籠めて深々と下げられたはやてのショートボブカットの後頭部の上に鏡餅の蜜柑のように乗りながら同じく平謝りをする小さな六課部隊長補佐官──リインフォース(ツヴァイ)空曹長の存在に加え、応接室の奥の壁いっぱいに広げて貼られている網目状硝子貼りの窓から射し込んで来ている神聖っぽい陽光が平伏する彼女達に突き刺さって照らし出され、野晒された夜天の主の“光煌く鏡餅DOGEZA”はそのシュールな格好を見下ろすツナやリィン達異世界からの助っ人達の片足を擦り退がらせて凄くドン引きさせた。

 

リィン達もツナ達も今回の事件の黒幕であった次元魔王軍の最高幹部《七星勇士(グランシャリオ)》筆頭にして灰の勇士《灰氷の剣帝》ジークレオンの襲撃によって元居た世界から次元世界へ強制次元間転位させられて、挙句に助太刀して機動六課の窮地を救い、共に侵略者(ラコフ)次元魔王(イノケント)と戦って、結果的にだが彼らを撃退してみせてこの世界(ミッドチルダ)の危機を救ってやったというのに、その恩をふいにされ理不尽にも身柄を拘束された事に対しては流石に大変不快な思いをしていたが、拘留中は外に出られない以外は大して不自由していなかったので、これ以上自分達と同年代のうら若い女性と可愛らしい妖精(?)に床に正座させたまま頭を下げさせ続けるのは流石に忍びないと思ったようだ。 まだ納得いかなそうにムスッとしている獄寺がそっぽを向きながらも許してやるからとっととDOGEZAを止めろと促すと、その途端にはやてはケロッとして頭を上げた。

 

「え、ほんまに許してくれるん? よっしゃ! これで仲直りやな♪ いや~、よかったよかった☆

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

誠意が籠ったDOGEZAによる謝罪から早変わりし、にへら~っとして緩んだ笑顔を見せて右手で後頭部を掻きながら一瞬前の悪気が無かったかのような調子の良い態度を取り出したはやてに、異世界の英雄達が全員言葉を喪失させて細い目になってしまう。 このやり取りだけで皆がこの子狸のように小柄で小顔の可愛らしい機動六課の部隊長の性格を理解したのだった。

 

「もう、はやて! 許してもらったからって、その態度はリィン達に失礼でしょ!」

 

「あははは、せやな……。 戦いが終わってから現場にやって来ようたから事情を全然知らへんかった本局次元航行艦隊(クロノ君達)がやった事とはいえ、私の大切な家族や友達や部下達が危ないところを助けてもろた上に一緒に協力して戦って侵略者のミッドナイト軍(デカッ鼻チョビヒゲオヤジども)や未知の強大な力を持っておった《次元魔王》を撃退してもろといて、身内の管理局員が異世界から来た英雄である彼らに対して大変な失礼を行ってしもうたもんやから、丸一日かけて上を説得して彼らの釈放許可を貰うまでの間どの面下げて会えばええのかと思っとって、そのぅ……めっちゃ気まずかったんや。 せやから一所懸命に謝って許してもろたら気が抜けてもうて……堪忍してーな、フェイトちゃん」

 

「まったくもう。 疲れてるのは解るけど、機動六課(私達)の部隊長なんだからちゃんとしっかりしてよね……だいたい、あの時あの場に作戦現場責任者(はやて)がちゃんと駆けつけて何も知らなかった本局次元航行艦隊(クロノ達)に事情を説明してくれていれば、リィン達の誤認逮捕を防げたっていうのに。 それをはやてとツヴァイったら、リィン達がクロノの艦(クラウディア)で本局へ連行されて行った後になってからノコノコとやってきて──」

 

いや~みんな~、助けに来んの遅れてどうもすまへん。 今日はツヴァイと二人でちょっと人生という道に迷ってしもうてな?

 

「──じゃないよ! 君は任務の待ち合わせに遅刻して来たカ○シ先生か? 全てが終わってから救援に来たって、既にもう後の祭りだよ!!」

 

「せやかて工藤。 今回の敵の《次元魔王》とか言うておったごっつぅ素敵な笑顔のおっちゃんが所持しておったっつぅスマホっぽい導力の携帯端末器……え~っと、確か《PARAISO(パライゾ)》やったか? それのTTO(テリトリーオーダー)とかいう滅茶苦茶にごっつぅハイテクな機能を使って次元魔王のおっちゃんが自分とフェイトちゃん達全員纏めて高位相次元空間に閉じ込めてしもうたからなぁ。 おかげで最初、私とツヴァイが救援に向かって地上本部の屋上に到着した時には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んやで? せやからみんな他の場所に移動したやないかと思うたさかい。 そんでクラナガンの外まで飛んで行って捜索しに離れとる間に戦いが終わってしもうたんやから、しょうがあらへんかったんやもん♪

 

「な~にがもん♪ だよ? そして工藤って誰なんだよ!? 言い訳は理屈が通っているからいいとしても、人に悪いと思っているのならヘラヘラしないで真面目な態度をしなさいッ!!」

 

「フェイトちゃん! はやてちゃんの悪ふざけがウザ過ぎてムカっ腹が立つのは分かるけれど、少し落ち着いて! リィン君やツナ君達、君のお兄ちゃんやお母さん(クロノ君とリンディさん)だって見ているんだよ!!」

 

短くてカワイイ舌を出して【てへぺろっ♪】というお茶目でしたと装う顔をしながら友人を揶揄う時に使う軽々しい口調で言い訳し続けるはやてが凄まじく小憎らしいあまり、公共の場なのにも拘らず蟀谷に大きな青筋を作って彼女に掴みかかろうとするフェイトを必死に羽交い絞めにして制止しようとするなのは……機動六課が誇る麗しき美女の三隊長が年頃の中学生のように稚拙な揉め合いをしている光景を眺め、リィン達異世界の助っ人勢も、取っ組み合う三隊長の背後に設置してある会議用の大きな円卓テーブルの奥の席に座っている偉い地位を持つ者独特の雰囲気を放ってきている三名の要人も、皆疲れたように呆れ果ててしまっていた。

 

「あのー……もしもし?」

 

「なのは、フェイトと……ヤガミ総部隊長といいましたか? 三人共、喧嘩する程仲が良いのは()き事だと思うけれど、そろそろ話を進めてはくれないだろうか?」

 

「「「……ハッ!?」」」

 

どうにか沈黙の線を切ったツナとリィンの口によって諫められた三隊長が淑女らしからぬはしたない姿をこの場の皆の視線に晒していた事にようやく気付いて、正気を取り戻したような呆け面をしてから慌てて喧嘩を停止した。

 

「皆さん大変見苦しい姿を見せて申し訳ございません、調子に乗り過ぎました……じゃあ気を取り直して、早速【三世界対談会】を始めよか」

 

「ハ、ハハハ……みんな、とりあえず奥の円卓テーブルの席に適当に着いてくれるかな。 機動六課の後見人を務めてくれている御三方も出席するけれど、あまり硬くならなくても大丈夫な人達だから気軽にしてね」

 

畏まって今度は普通に頭を下げて本日二度目の謝罪をしたはやての音頭と恥を誤魔化したような苦笑を浮かべるなのはの案内で、リィン達異世界からの助っ人総勢11名はぞろぞろと円卓テーブルに着いていく。

 

談話室の扉側から正面手前の椅子に、中央の左側からトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科担任教官でトールズⅦ組勢の重心(リーダー)であるリィン、彼と同期の卒業生であるエマとガイウス、現Ⅶ組特務科クラス代表生徒のユウナが順に座り、他のⅦ組生徒四人は座る席が無かったので仕方なくそのすぐ背後に立つ。 中央の右側からボンゴレファミリーの十代目ボスであるツナ、その嵐の守護者にしてツナの右腕を自称する獄寺、同じく雨の守護者の山本の順に着席。 奥の窓側の席には、中央正面の会議長席に機動六課総部隊長のはやてを据えて、左内側からライトニング分隊隊長のフェイトと同じくスターズ分隊隊長のなのは、彼女達三隊長の背後にはライトニングとスターズの副隊長であるシグナムとヴィータ、更には部隊の医務官である事を示す白衣を纏った金髪ショートボブの()()()()()()美女と通常の大型犬よりも一回り以上大きな体躯を持った青い体毛の狼らしき四足歩行の動物(?)が控え、会議長席に座るはやての右耳辺りの位置に部隊長補佐役のリインフォースⅡ(以後“ツヴァイ”と呼称する)が滞空している。 そして窓側の右内側から順に、昨日リィン達を誤認逮捕し大型の黒い次元航行艦で連行した黒髪長身の男性魔導師(今の彼の衣装はバリアジャケットではない黒一色の制服姿)、長い緑の髪で柔和な雰囲気を醸しながらも抜け目が無い感覚を放つベテランキャリアウーマンの風格の美女、微妙にウェーブが掛かった長い金髪(ブロンド)で青いカチューシャを頭に着けている温厚な雰囲気の美女だがどう見ても官職の人間には見えない修道女の装束を身に着けている歳若い要人が既に着席していた。

 

「異世界から助っ人に来て頂いた英雄の皆様方、重ね重ねになりますが昨日は大変な失礼を致しまして本当に申し訳ございませんでした。 そして本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。 ……まあ、校長先生のような長い前話は退屈になるから抜きにして、【三世界対談会】開会や!」

 

異次元の戦力と数多くの異端技術を保有する次元魔王軍の打倒を目指す為、三つの世界の若き英雄達が“炎の絆”を結び始める。 その大事な第一歩となる【三世界対談会】が今、開会した……。

 

 

 

 




もう既に2月後半になってしまいましたが、2024年明けましておめでとうございます♪

前話のあとがきにも書きましたけれど、今年は本作のクロス先である『英雄伝説軌跡シリーズ』『家庭教師ヒットマンREBORN!』『リリカルなのはシリーズ』、三つの原作が揃ってコンテンツ開始20周年を迎える記念すべき年度。

軌跡シリーズ公式では、早速ゲームシリーズの物語の佳境を迎えてくるといい、大作の予感をビンビンに感じる最新作『英雄伝説 (カイ)の軌跡 -Farewll(フェアウェル), O() Zemuria(ゼムリア)-』の制作発表と今年発売が決定されました!
ゲームの内容がどうなってくるかはまだ出てきている情報が少な過ぎて予想不可能ですが、新作サブタイトルの頭に書かれている“Farewll”とは英語で「別れ」を意味し、特に再会の見込みが薄い場合に使われる単語……この言葉からしても凄く不吉なヤバイ予感をせざるを得ないですね。 ゼムリア大陸は本当に滅びてしまうのだろうか……。(自分の考えでは、結社の『永劫回帰計画』が重要な鍵になってきそうな気がしてならないです)

なにはともあれ20周年記念の今年、軌跡シリーズは『界の軌跡』。 REBORN!とリリなのシリーズからは何を出してくるのか、果たして?


閑話休題(それはさておき)


昨年から活動報告で開催している【“炎の軌跡”オリジナル敵キャラクター募集その1『【次元魔王軍】中堅幹部』】に四名のユーザー様方から大変魅力的な個性溢れるオリ敵キャラの応募を頂きました!

貴重な時間を使って大変素晴らしいオリキャラのアイデアを考えて応募してくださった《聖杯の魔女》さん、《SOUR》さん、《ursus》さん、《D》さん(メールでの匿名希望の応募の為、当ユーザー様の頭文字アルファベットのみ公表)、御応募ありがとうございます!

そして大変残念な話ですが、今回のオリキャラ募集は今月末の2月29日23:59の時刻をもって締め切りとさせていただきます。(詳しくは活動報告の募集の追記にて)
【次元魔王軍】中堅幹部として是非参戦させたいオリキャラがいるというユーザー様は月末までに活動報告の募集へ応募をお願いします。


さーて、ここまで長くなってしまったので、予定していたあとがきコーナー『リリカルマジカル復活(リボーン)! アリサちゃんの“炎の軌跡”講座!』の第7回は……次回へ回させていただきますね☆

アリサちゃん(散々出番遅らされてストレス怒マッハ)「おいッッ!!」

グナちゃん(マイペースなのでノーストレス)「ヤレヤレダナ」

リボーン(退屈で昼寝中)「zzz~」

次回もお楽しみに!




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