ブラック・ブレット―楽園の守護者― (ひかげ探偵)
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第一話 漆黒の英雄

 唐突に世界はその有り様を変えた。

 

 

『ガストレア』

 ガストレアウイルスによって遺伝子を書き換えられ巨大化・凶暴化した生物の総称。

 ウイルスの感染力は強大であり、人間さえも例外ではない。感染すれば誰であろうと人類の敵となる。

 

 

 ―――2021年、人類はガストレアとの戦いに敗北した。

 

 かつて平和で賑わっていた町並みは見る影もない廃墟と化して、人類はモノリスと呼ばれる黒い巨大な壁の内へ閉じ込められた。

 一歩でもモノリスの外へ出ようものなら、異形の化け物が闊歩する地獄のような光景が広がっている。

 しかし人類もいずれ訪れる滅亡を受け入れている訳ではない。

 

 

『民事警備会社』

 ガストレアに対しての『武力』による対抗手段を持った集団。

 プロモーター=イニシエーターのペアで行動し、壁を越えて襲い来る脅威に対して備えている。

 世界規模で20万を超える民警達だが、圧倒的物量を誇るガストレアの来襲に間に合わず一般人への被害も少なくない。

 毎日、世界中のどこかでガストレアによる被害は起き続けているのだ。

 

 

 

 

 東京エリアの一角、かつての名残が残った高層ビルに囲まれた路地。そこでは40歳半ばのスーツ姿の男性が必死に逃げ惑っていた。

 

「た、助けてくれぇ!!」

 

 大声をあげ走り続ける男。

 しかし男の後ろには何もない。傍目にはただ意味もなく奇声を荒げているようにしか見えない。

 

「はぁっはぁっ! ッーー!?」

 

 突如、闇に染まった虚空から『何か』が飛び出す。それにより男性の右足が絡め取られ転倒する。

 盛大に打ちつけた顔の痛みを無視して背後を見ると、右足に白い糸のようなものが絡まっていた。

 

「くそっ! くそっくそぉっ!!」

 

 恐怖に震える手を必死に動かし、何とか取り外そうとするも、粘性を帯びた糸はむしろ複雑になり、解こうとした手を絡めとる。

 はやく、はやくはやく―――!!

 焦燥する男性とは裏腹に、糸が解ける気配はない。

 

「ふざけんなよ、取れろ! 頼むから……取れてくれよぉ!」

 

 それでも必死になって手を動かす男性、ふと自分の頭上から音が漏れていることに気付いた。

 ぐちゃりぐちゃりと寒気を催すような、そんな……伸びた糸の先を辿るように視線を動かすと、暗闇から巨大な蜘蛛の頭部が覗いていた。

 口元の突起が不快な音をたて蠢き恐怖心がよりいっそう掻き立てられる。

 

「ヒ、ヒィィィッ!!」

 

 恐怖に身を任せ這って逃げようとするも、蜘蛛と自分を繋ぐ糸が絡まり、それを許さない。

 

「ああああぁああああ!! やだやだやだ!」

 

 何とか糸を千切ろうとするも粘着力が強くとれる気配がない。

 そんな男を尻目に、蜘蛛のガストレアがはゆっくりと暗闇の中から姿を現しその全貌を晒した。

 

「ぁ―――」

 

 体長は優に5メートルを超え、二対の蜘蛛の脚に加えて大人一人分はあろうかという巨大で鋭利な鎌が二つ。

 

『恐怖』

 

 金縛りにでもあったかのように体が硬直し指一本すら動かせなくなる。目の前にいるこの化け物は人一人など容易に殺せてしまう。当然、自分も……。

 

「ひィ―――なっ……ア―――」

 

 叫び声すらまともにあげられず、口からは掠れ声が漏れる。

 化け物の口が開かれて凄まじい臭気が顔に浴びせられる。そこには蜘蛛とは思えない不揃いに並んだ巨大な歯が見えた。

 食前にナイフを研ぐかの如く二つの鎌を打ち合わせ音を鳴らす。

 

「ぅ――だれ、か――だれか……!?」

 

 必死に絞り出した声は誰にも届くことはなく。

 二つの鎌が男の背後へと突き刺さり、完全にその退路を断った。

 蜘蛛の開かれた口がゆっくりと近づいて男の上半身が完全に覆われた。

 

 

   食われた

 

 

 諦めと共に、そう思った瞬間――――轟音とともに視界が開けた。

 唐突に明るくなった視界の眩しさに耐えきれず目を瞑ると、顔全体に生温いものが付着しているのが感じられた。

 何が起きたのか分からず、それ触れ気付く。腐臭のする青黒い液体———それはガストレアの体液だった。

 理解できない事態に唖然と周りを見回し、怪物の残骸を挟んで二人組の少年少女が立っている事に気付く。

 

「…………」

 

複合因子(ダブルファクター)、推定ステージⅡの目標(ターゲット)の破壊を確認しました」

 

 円状に肉片の散らばる、その爆心地で槍を掴み静かに佇む黒コートを身に付けた黒髪の少年。

 その傍らには寄り添うように真っ白なセーターを着た銀髪の少女が立っている。

 絶望から一転助かった男は呆けたままに、よろよろと立ちあがり二人組に近づいた。

 

「あ、あんたら、助かったよ、ありが――」

 

「口を開くな」

 

 少女が消えた――そう思った瞬間、男の身体は地面に這いつくばり上から少女の足に踏みつけられていた。

 

「なっ、なにをっ!―――」

 

「三度目はない、口を開くな」

 

 突然の少女の暴行に抗議しようとするが、少女の痩身に似合わぬ力で身体を踏みつけられ動けず、冷ややかな声で宣告され口を閉じる。

 

「マスター、この男はガストレアの血を浴びました。ウイルス感染の疑いがあります、今すぐ殺しましょう」

 

「ッ!?」

 

 何でもないことのように自分を殺すという少女に対して「ふざけるな、やめろ」と、そう言うつもりで視線を上に向けた。

 それによって少女の赤く光る双眸が男の視界に入った。

 赤い瞳———それはこの時代においてはあまりに大きな意味を有していた。

 

 

『呪われた子供達』

 ガストレアウイルスとその抑制因子を持ち、それによって並はずれた回復力と高い運動能力を得た者達、その特徴は赤い瞳と全員が少女だということ。

 そんな彼女たちはその特徴と人外じみた身体機能、そして人類の敵ガストレアウイルスを持っている事により赤眼、赤鬼などと呼ばれ迫害・蔑視されている。 

 つまり、この少女もまたガストレアウイルスをその身に宿しているのだ。

 

「あ、赤眼ッ……!?」

 

 その言葉を聞き少女の瞳が細まり、冷徹なものとなる。

 男を踏みつける足にこもる力も強くなり男の骨が軋みをあげる。

 

「ガッ!?」

 

「……今すぐ殺しましょう」

 

 少女の手が振りあげられる。

 普通に見れば何の力も持たない少女の軽い一撃、しかし呪われた子供達の一人である少女の一撃は人を容易に殺しうる力を持つ。

 

「…………待て」

 

 マスターと呼ばれていた黒髪の少年が初めて口を開いた。

 その言葉を聞いた途端、少女の手が下がり男の身体に置かれていた足もどけられた。

槍から手を離した少年はこちらに近づいてくる。

 

 自分を殺そうとした少女と共にいる少年、こちらをみるその表情からは何の感情も感じ取ることが出来ず、彼は自分に何をするのか?と男は言いようもない恐怖感を感じた。

 男の前まで来た少年はこちらにゆっくりと手を伸ばしてくる。

 

「やめっ! 助けてくれぇ!!」

 

 眼を瞑り頭を抱える。

 しかし、いくら待っても何の衝撃も襲ってこずに恐る恐る眼を開いた。

 目の前に差し出された掌、その上に何かがのっている。

 

「……抑制剤」

 

 言葉少ないまま、男に掌にのっていたガンタイプの注射器具を渡す。

 

「こんなゴミにも施しを……マスター、何てお優しい。ギンは感動しました」

 

 少女は先ほどとは打って変わって別人のように瞳を輝かせキラキラした目線を少年に送る。

 

「あ、ありがとう」

 

「泣いて感謝しろ、ゴミ野郎」

 

「あ、ああ……」

 

 本当に人が変わったかの如き少女の豹変具合に思わず素直にそう答えた。

 少年は用はもうないとばかりに槍を引き抜き立ち去ろうとする。

 少女もそれにつき従い少年に「ステージⅡを一撃とは、さすがマスターですっ!」「マスターと一緒にいられるなんて、私は幸せ者です」などと嬉しそうに話しかけている。

 そのまま立ち去っていく二人―――

 

「ま、待ってくれ」

 

 自然と、男は二人を呼びとめていた。

 少年の方は変わらず無表情に少女の方は不機嫌そうな顔をしながらこちらを向いた。

 

「あ、いやその………あ、あんたらは一体何なんだ」

 

 少女の視線に最初は口ごもったが、やがて一大決心でもしたかのような表情でそう問いかけた。

 

「そういえば名乗りをあげるのを忘れていましたね」

 

 男の心情をよそに少女は意外なほど簡単に質問に答える体を示した。

 一度深く深呼吸をした後、少女は真っ平らな胸を張りながら男に言った。

 

「その薄汚れた耳でよく聞くといいでしょう

私の名は銀丹、モデル・ウルフのイニシエーターにして、マスターに使える忠実な戦士。

そして私のマスター。

寡黙にして冷静沈着。

如何なる猛威を受けても微塵も揺るがず。

銃槍を振るえば如何なる脅威も屠る。

故に常勝不敗。

黒い外套に身を包み巨大な銃槍を持つその姿に人はマスターを『漆黒の銃槍(ブラック・ガンス)』と呼ぶ。

最堅にして最強のプロモーター、鉄災斗(くろがねさいと)様です!」

 

「ブラック……ガンス……」

 

 聞いたことがある名前だった。

 集団行動を好まぬ性質から特定の警備会社にも属することなくガストレアを狩り続けるフリーランス。

 正式にイニシエーター監督機構に加入していないが故に本当の序列はないが、非公式な格付けでは序列一桁には確実に入ると言われる実力者。

 

 男は呆けたように少年、鉄災斗を見た。

 聞いた噂から大男を想像していたが実際は驚くほど線が細く背も高くない。

 驚異的な力を持つガストレア、それをこんな少年が一撃で殺した。

常人では到底不可能。

 しかしそんな不可能を可能にする人間の事を人はこう呼ぶ。

 

「―――――英雄」

 

 

 

 

 

 銀狼の少女を連れた漆黒の英雄、しかしこの物語は決して英雄譚などではない。

 もっと酷い、とても残酷なお話…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 銀髪美少女の尊敬のまなざしウマ━(●゚∀゚●)━イ!!!! ギンたんかわええーっ、くんかくんかprprしたいおっ。

 

 

 

 

 




すまぬ……勘違いモノを書きたくなってしまったんだ。

アニメ見て書きたくなっちゃいました、すいません。

この作品はアニメと公式ホムペの用語説明だけで書いてるので悪しからず。
バイト代入って原作買うまではアニメに合わせて進みます。

アリア、キリカの方もゆっくりと書き進めているので待っていてください!!


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第二話 理由

 

 

誰かが言った、人生は終わりの見えないマラソンのようなものだと。

無数に分岐し続ける未来を自分自身で選択し自分の足で一歩ずつ前へ前へと進んでいく。

時には迷うこともあるかもしれない、諦めそうな困難に道を阻まれるかもしれない。

それでも人間はまだ見ぬ未来への希望を持って自分だけの生きる理由(ゴール)へと辿りつくんだ。

 

しかし、辿りついた先に待ち受けているものがどんなものかは誰にも、それこそ本人にさえ分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノリスの外、1つのさびれた教会に俺達はいた。

かつて綺麗な状態であった窓や扉、椅子などは全て砕け、中央にあるステンドグラスと十字架だけが傷だらけになりながらも何とか無事に残っていた。

 

片膝を地面へとつけ両眼を閉じ、一心不乱に祈りをささげる。

 

願うのはこの世界での救い。

今この時でさえ確実に進んでいくガストレアによる滅びへの道。

人類全てがそんな世界に絶望している中、俺は一筋の救いを神に求めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神よ……美少女に会わせたまえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、下らない事願ってんじゃないよ、と思ったそこのあなた――――ぷぢゃけるなっ!!!

ぼくちんは命がけでガストレアとかいう化け物どもと戦ってるんだぞ、いいじゃないか、それくらい望んだって!!!

うん、ていうかマジふざけんなよ、割に合わねぇよ。

命だよ?

い・の・ち、見返り少なすぎない?

もっと救いがあってもいいじゃん、いやあるべきだ、無いなんてあり得なぁいっ!!!

 

 

 

……まあ、今は置いといてやろう。

とりあえずは自己紹介するね。

改めまして鉄災斗と言います、転生者です。

 

転生といっても神様にブラック・ブレットの世界に転生した~い、とか言った訳ではないですので、のでので。

いや神様に会ってない訳じゃなくて一応神様らしきものにはあったんだよね。

うん、多分あれが神様だったんだと思うよ状況的にも、視覚的にも。

 

自分に言い聞かせるように言葉を繰り返してから俺は目を閉じ過去の記憶を思い起こしていた。

 

 

 

~回想~

 

 

気付くと俺は真っ白な空間にいた。

見渡す限り何もなくただただ白が続いている。

 

「ふぁ!?」

 

突然、周りの外観が自室から変な場所に変わった。

先ほどまで部屋でカップ麺を食べていた俺はエア・ラーメン食いという訳分からんことをするはめになってしまった。

 

「お、俺の部屋じゃない、てか、え、なに、俺のカップ麺は?」

 

ふと背後に気配を感じ振り向くと、そこには赤字で神と書かれた白い衣服に紫のローブ、そして何より緑色の体色に二つの触角、そうまさしく某人気マンガのかみさまが眼を閉じて立っていた。

その両手には本来持っている木の杖の代わりにカップ麺の容器がのせられている。

 

「あ、そのカップ麺。え、てか、なんでかみさま!?」

 

そんな俺の疑問をがん無視してカッと眼を開いてかみさまは言った。

 

神「Here we go!!!」

 

 

~回想終了~

 

 

 

異常です、間違えた、以上です、ホントにこれだけでした。

 

「すまぬ、誤って汝を殺してしまった。代わりといっては何だが3つの特典を与え好きな世界に転生させてやろう」みたいな展開一切ありませんでした、もう気がついたら!いきなり!唐突に!この世界にいました。

え、意味が分からない?大丈夫だ、俺も分からん。

てか、かみさま俺のカップ麺持ってたよね、あれ俺まだ口付けてなかったからね?しかもコンビニに売ってた期間限定もののやつでちょっと高かったからね、200円くらいするやつ。

いやまあ、別にいいけどね!!

 

 

 

まずチョイスがどうなのよって話になるよね?

転生するにしてもなんでブラック・ブレット選ぶんだよ!!

アニメ2話しか見てないし、その2話で警察が女の子撃ち殺したりしてんだぞ?

わざわざこんな世界に来る人いるか、アタマオカシイデショ。

行くなら断然TOLOVEるだね、むしろそれ以外認めない。

だって主要キャラ以外も可愛いじゃん、主人公じゃなくてもおこぼれ狙えるかもしれんのよ?ここしかないでしょJK(常識的に考えて)

ならブラック・ブレットはどうか?―――――主人公のハーレム以外全員ロリじゃねぇかっ!!

いや俺ロリコンじゃねぇし、ノーマルだし!!しかも手ぇ出したら犯罪だし、俺にも倫理感ってもんがあるんだよ!!てな風に転生当時は思ってました。

 

 

というのもあったし、しかも転生した時期がやばかったね……。

もうすっごいローテーションだったわ。

だって、周りの奴らみんな死にそうな顔して野草や木に齧りついてんだよ?いや~、もうドン引きですわ、そこら辺のホラー映画より迫力あったね。

しかも時期的にガストレア出た直後だったらしくて頻繁に現れては市街地で暴れたりもしてたし、良いこと一つもなかったもん。

まあ、何か知らんが運動神経とか体力がめちゃくちゃ上がってて怪我したりはしなかったけど、まあ一応ありがと、べ、別にかみさま(アンタ)のこと許してやったわけじゃないんだからね!!

いや実際に「マジ最悪な世界に転生しちまったわ~、ないわ~、これはないわ~」とかなりブチ切れてた。

うん、今思い出してもちょっとイライラしてくる。

 

 

「あのマスター、大丈夫ですか……?」

 

いつの間にかこちらに寄ってきていたギンたんが俺の静かな怒りを察知したのか、心配そうに見つめていた。

 

おっと心配掛けちまったか、ステイクール、ステイクール。

ちょっと気持ちが臨界点突破しちゃったんだZO♪

 

よし、興奮しきった気持ちを落ち着かせるとするか。

ひっひっふー、ひっひっふー。

 

特殊な呼吸法によって落ち着いた俺はギンたんに心配はいらないと一声掛ける。

そうするとギンたんは満面の笑顔でこちらを見て「なら、よかったです!」と元気に言ってくれる。

 

……そっか、考えてみればここに銀髪美少女がいたな、神様さっきの祈り叶ったよ。

 

そしてこちらを見ているギンたんを見つめる。

目が合うとニコニコと笑ってくれる。

 

 

'`ァ,、ァ(*´Д`*)=3'`ァ,、ァ (o^-^o)ニコニコ

 

 

可愛い、可愛いよギンたんっ、俺のことおにいちゃんって呼んでみてぇ。

 

溢れ出すパトスに身を任せたい衝動に襲われる。

しかし、神が俺に課した試練、いやもはや呪いとさえ呼べるものが俺の愛を阻む。

転生してから俺は自分の思い通りに表情を変えることが出来なくなり長文も喋れなくなってしまっていたのだ、そうまさしく「コミュ障」。

 

今も内心「ギンたんprpr」と絶叫したかったのに何も言えなかった。

くそぉっーーーーー!!!!

こんな……こんな呪いのせいで俺はギンたんに冷たく接することを……………強いられているんだぁっーーー!!!!

はぁはぁ、ごめんねギンたん、はぁはぁ。

 

このままの感じでギンたんの話しときましょー!

彼女は「ギンたん」俺のイニシエーターだ。

え、名前が酷いだって?

いや……実は俺もどうせ言えねぇだろ、とか思って言ってみたんだよ。

 

そしたら何故かセーフ判定出ちゃいました(笑)

本人も何故か気に入っちゃったみたいだし、そう言うならならこれでいっかみたいなノリで決定しました。

 

しかもギンたん、呪われた子供たちであるため赤眼の銀髪美少女という2次元限定の奇跡のような女の子だ。

 

 

 

 

 

まだ、話さないとダメなの?

全く知りたがりちゃんだなぁ┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ〜

なら過去話してあげるね。

 

 

俺がギンたんと出会ったのもここみたいな教会だった。転生してから僅か数日後、いきなりのことで特にすることも無かった俺はアニメに必ずいる可愛いモブキャラを探すために町をさまよい歩いていた。

ふと物珍しさから教会が目に留まり、中に入ると一人の少女がいた。

 

 

―――――妖精。

 

 

驚くほど自然にそんな言葉が思い浮かんだ。

地面につくほど長い美しい銀髪に赤い瞳という浮世離れした容姿の少女が小さな毛布を纏いながら体を丸めて地面に座っていた。

眼が離せずじっと少女を見つめているとしばらくして赤い双眸がこちらに向けられた。

 

「なん、ですか?」

 

まだ幼さの残るが綺麗な声。

 

「わたしのこと…こわくないんですか」

 

隠せない不安が声音に籠っているのを感じると俺の足は自然と幼い少女の方に向かっていた。

少女は立っている俺を見上げる形になり恐る恐るといった体で上目づかいに俺の顔を見た。

 

「わたし、ばけもののなかまです」

 

化け物?ふざけんな、誰がそんな事言いやがった。

 

「おとなたちが、いってます

おまえはばけものだから

みんなのちかくにいちゃ、だめって」

 

よく見れば分かるが既にボロ布同然となった真っ白のワンピースの裾を両手で握りしめ俯く。

そんな少女の様子に思わず俺は膝を折りサラサラの髪をした頭を撫でてていた。

 

「わたしのこと、きもちわるく、ないの?」

 

こんな可愛い女の子をそんな風に思うはずねぇだろ!!

 

「そ、ですか

ありが、とう……」

 

少女は俺の背中に手をまわし俺の胸元に顔をうずめた。

細すぎて簡単に壊れてしまいそうな少女の背に優しく手を回し抱きしめ返す。

幼かったこともあるがやせ細りすぎて俺の両腕にすっぽりと入る少女に感じ入り思わず目から溢れそうになったものを気合いで押し留める。

こんなにも無垢な少女が心ない言葉に傷つき救いを求めてる。

 

 

「ありがとう」少女のその言葉と純粋な行動は俺の心を完全に撃ち抜いていた。

胸中を熱い思いが支配する。

この、感覚は―――――そうか……。

 

自分の感じた答えを思わず否定しそうになるが、胸中で考え直した。

もう逃げるのはやめよう、きっとこれが答えだ。

俺がこの世界に来た理由、それは多分あの優しいかみさまが俺自身でさえ分からなかった俺の心の深いところを読みとったからなのかもしれないな……。

はあ……自分の本当の気持ちってのは、案外気付けねぇもんなのか。

 

導き出された答えに納得すると自然と少女の背中にまわした手に力が込められた。

 

俺の心の奥底でずっと燻ぶっていた気持ちが今はっきりと自覚される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、すなわち―――――ロリ(コン)

 

至高の想い。。

呪われた子供達、いや――『無垢なる世代』への純粋な愛。

 

今、思えば俺ってクラスで一番可愛い女子にも全然反応しなかったな……。

俺の心が求めていたのはあんな薄汚れた年増どもじゃなかったということか。

 

過去の日本は外国に比べて大きなお兄さんたちによる純愛に寛容だった、しかし近年彼らの純愛は法律という巨大な壁に道を阻まれてしまっていた。

ふとテレビをつければ映っているのは白黒で赤いのがピカピカ光る車でドライブしているお兄さんたち、そんな彼らの勇姿を見て俺は恐れをなして恥ずかしくも逃避してしまっていたのだ。

 

しかしおれはこの世界にきたことで完全に決心がついた。

この世界で、いやこの世界だからこそ俺は俺の楽園(ロリコニア)を守ってみせる。

 

まずギンたんとマンホールチルドレンは全てペロリシャス。

ぐへ、ぐへへへへ、おっと涎が出てきちまったぜ。

 

 

何度思い出しても感動的な出会いだったぜ。

ギンたんと出会って俺が自分と向き合った日は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■銀丹■

 

モノリスの外にある教会でマスターは祈りを捧げていた。

マスターは毎日必ず一度はこうして祈っている。

私は神を信じないし、神を信じる人もどうかと思う、しかしマスターのこれはとても神聖で崇高なもののように思える。

ふと、マスターの顔が歪んだように見えた。

気になった私は声をかけたがマスターは表情を変えず「……大丈夫だ」と答えた。

マスターは表情に乏しく口数も極端に少ない方だ、しかしとても優しく思いやりのあることを私は知っている。

 

あれは私とマスターが初めて出会った時のこと。

 

呪われた子供達の一人であった私は親に捨てられ、大人達の暴力と罵声を受けて生きてきた。

「化け物と同じ血が流れてる」「生まれてこなければよかったのに」私を否定する言葉が私の中に刷り込まれていった。

 

冬になり寒さに耐えきれなかった私は1つの教会の中に入り込んでいた。

いつ崩れるかも知れぬ建物に人が入るわけもなく中には誰もいなかった。

教会の中央、ステンドグラスの前に行き、唯一持っていた毛布を羽織って寒さに耐える。

ここなら人が来ても分かる、誰か来たら出ていこう、そう思っていた。

 

1時間もしないうちに誰かが教会に入ってきた。

私よりも少し年上くらいの少年だった、こちらに気付いたのか綺麗な青い瞳が私を見つめた。

視線が重なる――それにより眼を見られた私はすぐに立ち去ろうとした、しかし少年の様子に違和感を感じ足を止めた。

呪われた子供達は興奮すると眼が赤くなる、しかし私は瞳がいつも赤く隠すことができない。

つまり私を見た大人達は間違いなく眼があった瞬間に叫ぶか、私に罵声を浴びせるのだ。

しかし目の前の少年はそんな様子がなくただじっとこちらを見ている。

気づけば私は彼に問いかけていた。

 

私は化け物、怖くないのか、と。

 

彼は短く、しかしはっきりと言った。

 

「……微塵も」

 

何度問いかけ方を変えても彼の答えは変わらない―――彼は私を恐れていない。

初めて出会った私を否定しない人、気づけば私は彼に抱きついていた。

初対面の人にいきなりするようなことではないがその時の私には気にならなかった、いや気にする余裕もなかった。

しばらくそうしていたが、彼は私から離れるとこう言った。

 

「……行く」

 

そして教会の扉へと向かっていく。

思わずその背中に手を伸ばしかけたが、私はその手を下ろした。

 

とても優しい人だった、だからこそ私が一緒にいるせいで迷惑を掛けたくない。

 

彼がいなくなり寒くなった私は再び毛布を被り丸まった。

 

―――寒い

 

先程、人の温もりを感じてしまった故に私は耐えきれなくなった。

毛布の隙間を抜けてくる寒風を浴びながら頬を流れる温かいものを手で拭う。

 

大丈夫、元々一人だったんだ。

今までと何も変わらない。

だから大丈夫、大丈夫。

 

何度も何度も繰り返す、そう自分に言い聞かせるように。

しかし何度そうしても、何故か涙が止まらない。

 

知ってしまった人の温かさはあまりにも大きすぎた。

 

 

初めに愛を受ける筈の親には捨てられ―――。

 

自分よりも大きな者たちには負の感情をぶつけられ―――。

 

 

そんな彼女を初めて受け入れてくれた存在をそう簡単に忘れることなど出来る筈もない。

 

止まらない嗚咽を堪えていると毛布を通した向こう側に人の気配を感じて視線を向ける、そこには先程去って行ったはずの彼が立っていた。

思わず歓喜しそうになった私は必死に感情を押し殺し彼にこう言った。

 

「なんの、ようですか」

 

嬉しい、連れて行ってほしい、でも迷惑は掛けたくない。

そんな二律背反が私の中でせめぎ合っていたのだ。

 

「……来ないのか」

 

自分の耳を疑った。

あり得ない言葉を聞いたのだ。

 

「わたしは、ばけものなんです」

 

「…………」

 

「めいわくを、かけます

みんなに、わるぐち、いわれます」

 

「…………」

 

彼は何も答えなかった、無駄な問いに答える気はないと言わんばかりに。

考えなかったわけではない、求めなかったわけではない、しかし許されない、そう思っていた。

 

でも……でも。もし、本当に貴方は私がこう答えるのを待っているなら。

本当に、本当に私なんかが―――。

 

「ほんとうに、ついていっても……いいんですか」

 

彼は先程のように短く、しかしはっきりと答えた。

 

「……当然だ」

 

私は堰を切ったかのように泣いた、泣かずにはいられなかった。

今までに溜まっていたものを全て吐き出さんと言わんばかりに。

 

 

 

 

名前のなかった私はその少年、未来のマスター鉄災斗様に「銀丹」という名前を授けられた。

後から知ったが丹とは不老長生を得るための薬のことらしい、深読みと言ってしまえばそれまでだがウイルスの侵食により短命が多い呪われた子供達、そんな私に生きろ、そう言ってくれているように感じた。

 

一緒にいることで私は幸福を得たが災斗様は他の人達から罵声を受けることになってしまった。

「なんで化け物を連れているんだ」「そいつは化け物だぞ」「化け物を助けるならお前もそいつと同じ化け物だ」災斗様にまで及んだ時は私は思わず彼らに殺意を覚えた。

しかしそんな私を災斗様は手で制した、何も言わなかったがその時の瞳はとても悲しそうに見えた。

 

ある日ガストレアが町を襲った。

災斗様と私を化け物呼ばわりしていた奴らが皆殺されていく。

そんな虐殺を見て、正直私は胸がすっとする思いだった。

しかし蹂躙は終わりを告げた。

災斗様がいつの間にか手にしていた槍でガストレアを粉砕していたのだ。

 

私達を罵った相手も見たことのない相手も、その全てを例外なく救った。

私は自分の先ほど抱いた思いが自分を捨てた両親、罵った大人達と同じだったことを理解した。

自分の事を恥じ、それ以上に災斗様という人間の大きさに感嘆した。

 

人と人との諍いなどこの人は気にも留めていない。

それに深く尊敬し同時に危機感を覚えた、たしかに素晴らしい方だ、尊敬する。

しかしあまりにも優しすぎる、一人ですべての人類を救うなど到底不可能だ、そう()()()()

この人には隣に立つ人間が、相棒(パートナー)が必要だ。

そしてその役目こそ私が担いたい、誰よりも優しく誰よりも危なっかしいこの人を、マスターを、私が支えたい。

 

これが私の誓い、生きる意味、私の守るべき信念。

 

 

 

私は知っている、マスターが誰よりも感情を隠しているが誰よりも優しく誰よりも強い想いをその身に秘めていることを。

 

でもいつか……マスターの笑顔を見てみたいです。

 

 

 

 

ただマスターは優しすぎます。

そんなだからワラワラと羽虫が寄ってくるのです。

……でも大丈夫です、他の雌豚雌猫などには私の愛は負けません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

むっ……何やらギンたんから視線を感じるぞ。

だが……あれ?

なんかギンたんの笑顔が黒い気がするお?

 

 




かみさま:あやつの身に潜むロリ魂はあまりにも強大すぎて私にもどうなるか想像がつかんな……。あれなら複数の能力に目覚めるかもしれん。
だがそれよりもあやつをそのままの口調で送り込んだら少女達を怖がらせてしまうか……やはり制限を付けておくべきか。

やはり、かみさまはとても優しい。




感想評価頂けると作者は寝る時間削って頑張れます!!


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第三話 遭遇

原作全巻買いました(*´ω`*)


俺の名は『里見蓮太郎』、『天童警備会社』に所属するプロモーターだ。

と言っても最近は仕事も何も無く、ガストレアと戦うよりも日々の糧を得るために主婦と戦うことの方が多い程だ。

そんな俺は鏡に映る気だるげな自分の顔を見ていた。

昨日はガストレアウイルスに感染したと思われる被害者『岡島純明』を探していたが一向に見つからず夜遅くまで探索をしていた。

今なおこの市街地のどこかに潜伏していると思われるがその行方は掴めていない。

ボサボサの頭を掻きながら少しでも眼を覚ますためカップに入っているインスタントコーヒーを口に含む。

ホッとする温かさと香ばしい香りが口と鼻を満たす。

そんな落ち着いた雰囲気に浸っていると―――元気な少女の声がそれをぶち壊した。

 

 

「蓮太郎ッ!どっちの服が似合うと思う!?」

 

唐突にパンツ一枚の10歳前後の少女が二着の服を持ち俺の前に現れたので、思わず口に含んだコーヒを噴き出す。

 

「うわっ!!」

 

噴き出たコーヒーは少女に掛かりそうになったがそれを少女が神がかった動きで回避する。

 

「れ、蓮太郎!いきなり何をする!!」

 

「わ、悪い。じゃなくて!まず服を着ろよっ」

 

「話を逸らすな、蓮太郎ッ」

 

眼を吊り上げながら半裸で俺に詰め寄る少女の名は『藍原延珠』、俺と同じく天童警備会社に所属し俺のプロモーターを務めている。

 

「つか、どっちも同じ服じゃねぇか!」

 

「違うぞ。よく見ろ、中のチェックの柄が違う」

 

「んなもん分からんわッ!!」

 

「はぁ、まったく……相変わらずデリカシーが無いな、蓮太郎は。だからモテないんだぞ」

 

「ぐっ」

 

否定しがたい延珠の言葉に思わず言葉に詰まる。

 

「だぁーっ!!んなことより学校行くぞ。さっさと準備しろ」

 

未だ見つからない感染源ガストレアに岡島純明、昨日出会った燕尾服の仮面の怪人『蛭子影胤』。

いくつもの不安要素はあるが俺達はまだ学校に通う年齢、学校には行かなければならない。

 

「分かった!」

 

延珠はそれを聞き嬉しそうな顔をして部屋にランドセルを取りに行った。

 

 

 

 

俺達の拠点であるアパートを出て長年愛用し続けている自転車を出しておく。

一分も経たぬ間に延珠が走ってきて後部座席、などあるわけもないので荷台に座りこんだ。

 

「よしっ、出発進行だ!!」

 

「へいへい」

 

俺の腰にしがみつき元気にそう叫ぶ声に背中を押され俺は自転車を漕ぎだした。

民警をやっているということもあり体力も筋力もある俺が漕ぐ自転車はかなりのスピードを出し道路を進んでいく。

 

「いいぞ、もっと早くだ蓮太郎!!」

 

「いや、これ以上はやばいだろ」

 

既に時速30キロ程出ており顔に受ける風が痛い。

市街地をこれ以上のスピードで走れば警察に厄介になりそうだ。

 

「っ!―――止まるのだ、蓮太郎!」

 

延珠の先ほどまでとは異なった真剣な声音に即座に急ブレーキをかける。

 

「どうした、延珠!?」

 

「あそこだ。見ろ、蓮太郎」

 

延珠の指が真っ直ぐに建物の隙間の路地裏を指さす。

暗くてはっきりとは見えないが二つの赤い光点がぼんやりと闇の中に浮かんでいた。

 

「……あれは?」

 

「おそらくガストレアだろう」

 

それを聞いて延珠の方を向くとその双眸が赤く輝いていた、どうやら能力を発動させたのだろう。

常人には難しいだろうが延珠の眼ならば暗闇に潜むガストレアをも確かにとらえられる。

 

「モデル・スパイダーだな。単因子かそうでないかは分からぬ」

 

早速銃を出してガストレアとの戦闘に備える。

しかしこちらから撃ったとしても俺の銃ではガストレアを傷つける結果にしかならず得策ではない。

だから、延珠の先制の一撃で終わらせる。

 

「いけるか?」

 

「妾をだれだと思っている。任せておけ」

 

能力が発動したことにより瞳が赤く染まる。

身体能力の向上した延珠は隙間にいるガストレアに向かい跳躍、強力なキックを叩き込む。

しかしそれがガストレアの身体に抉りこみ破壊することなく、逆に延珠の身体が弾き飛ばされた。

 

「なっ――に? 妾の蹴りが利かない」

 

ゆっくりと姿を見せたガストレア、その姿を見るにやはりモデル・スパイダー。

しかしその体表は亀の甲羅のようなもので覆われていた。

 

複合因子(ダブル・ファクター)か!」

 

ガストレアは蜘蛛と亀、その両方の性質を有していた。

甲羅はガストレアの眼と口以外を完全に覆っている。

 

ならばと蜘蛛の頭部に狙いを定め発砲するがすぐにこちらの動きに反応しその硬質な体に当たり弾かれる。

狙いを俺に定めたのか突進してくる。

なんとか跳んでかわしたが俺達のいたアスファルトが木端微塵に砕け散った。

 

「なんて速さと力だっ!」

 

「大丈夫か蓮太郎!?」

 

「心配いらねぇ」

 

延珠に無事を伝えながらも思考をやめることはしない。

先程食らわせた延珠の攻撃が今出せるこちらの最大攻撃、つまり今の俺達にはあいつにダメージを与える手段がない。

そして相手は延珠には劣るがかなりの速さで移動する。

 

「くそっ、状況は最悪。このままじゃじり貧だぞ」

 

状況を打開するためには他にあいつを殺しきる力を持った民警が必要だ。

救援を求めるため携帯を取り出す。

 

「蓮太郎ッ、危ない!」

 

再度、こちらへの突進を仕掛けようしたガストレアが勢いよくこちらに突っ込んできていた。

俺を庇おうと延珠がその間に割り込んだ。

 

 

―――やられる!!

 

 

そう思った次の瞬間、ガストレアの体を黒い鎖が絡め取った。

それは凄まじい筋力を持つガストレアを切れる気配もなく完全につなぎとめていた。

 

ひゅう――と一筋の風切音、そしてガストレアの体が爆散した。

 

思わず口を開けて呆然とする。

音からおそらく一撃と思われた、延珠のキックを無傷で耐えたガストレアを一撃で葬ったのだ。

 

見ればガストレアの肉片の散らばる場所、その中心に一人、槍のようなものを持った少年が立っていた。

背は160センチに届かぬ程と小柄で黒い外套がその体をスッポリと覆っている。

他の色の混じらない黒髪に綺麗な青い瞳をしており歳は俺よりも幼いだろう。

 

あんな子供があのガストレアを?

そんな事を考えてる中、隣の延珠が声をあげた。

 

「お主何者だ。名を名乗れ!」

 

不遜な口調、しかし少年は無言でただこちらに視線を向けるだけだ。

一体どうする気だ?

思わず俺達の間に緊張が走る。

 

「どうやら先に交戦していた民警のようですね」

 

ふと声が少年の後ろから聞こえた。

現れたのは延珠と同じ位の銀髪の少女、大きめの白いセーターに短パン、黒のブーツを履いている。

そして何より眼を引いたのはその赤い瞳。

あの少女も延珠と同じ呪われた少女達、少年のイニシエーター?

だということはあいつらも民警なのか。

 

少女の双眸が黙って考えを巡らせていた俺を捉えた、そしてその顔が嫌悪に染まる。

 

「なんですか、お前は? 気持ち悪い、こちらを見ないでください」

 

セーターの裾を引っ張り短パンに包まれた足を隠そうとする。

 

「蓮太郎、お主まさかっ!!」

 

裏切られた、と言わんばかりの表情で延珠が吠える。

 

「なっ、馬鹿っ!違ぇよ!!」

 

「まあ、お前が性犯罪者かどうかはどうでもいいのですが」

 

「よくねぇ!!」

 

さっきのシリアスはどこへ行ったんだよ!?

いつの間にか張りつめていた筈の雰囲気が弛緩していた。

 

ふと少女の視線が俺達の乗っていた自転車で止まる。

視線が俺と自転車、そして延珠をしばらく行き来する。

そして、こちらを見る目に憐憫の色が含まれ一つ溜め息をはいた。

 

「……このガストレアは貴方達に譲るとしましょう」

 

「待て待て待てッ!何だ、今の間は」

 

「そうだぞ。お金がなくとも妾は蓮太郎がいればそれだけで幸せだ」

 

「……女を養えない男……ですか。なるほどゴミですね。マスターと比べる価値もない」

 

「黙ってろ、延珠!!」

 

「旗色が悪くなれば恫喝して口封じ……外道」

 

「違ぇよ!!」

 

「怒鳴れば従うとでも思ってるんですか、最低です」

 

駄目だ、この女に言葉で勝てる気がしねぇ。

反論するのが躊躇われ黙っていると少女が言葉を続けた。

 

「今回は私達がいてよかったですね。今後は自分達の卑小さを自覚して戦場を闊歩する真似は控えるように、邪魔なので」

 

何だと!そう言おうと思ったが口ごもる。

確かに俺達は今回連絡を入れることなくガストレアに挑み勝手にピンチになっていただけだ。

こいつらが来なければどうなっていたか分からない。

 

「私達の任務はガストレアの討伐であって、お守りではありません」

 

「おいっ、お前っ――――」

 

さすがに言い過ぎだ、そう続けてから拳骨でもしてやろうかと一歩踏み出した。

その瞬間、俺の体を恐ろしい程の圧力(プレッシャー)が襲い、それに圧されて思わず膝をつく。

そしてこれの発生源、少女の隣に立つ少年を見た。

 

未だに無表情で一言も発してはいないが、この殺気を受け俺の本能などと呼べるものが俺に告げている。

 

 

―――――あの銀髪の少女を傷つけたら殺される

 

 

膝が震えだし体が硬直する。

 

「お主ッ!蓮太郎を苛めるな!!」

 

しかし延珠がそう叫んだ瞬間、殺気は即座に霧散し俺は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

「大丈夫か、蓮太郎?」

 

延珠が駆け寄ってきて心配そうに荒い息を吐く俺の背に手を添える。

 

「やはり弱いですね。……もう会わないことを祈ってますよ、少女に守られる格好悪い人さん」

 

それだけ言い残し二人は去っていった。

何も出来ずそれを受けしばらくは動けないまま座り込んでいたが呼吸も落ち着いた俺はようやく動き始めた。

 

「……もう、大丈夫だ。悪かったな延珠」

 

「気にするな。蓮太郎を支えるのはフィアンセたる妾の役目だ!」

 

いつもと変わらぬその様子に思わず笑いそうになる。

しかし、と俺は頭を切り替えた。

 

「延珠、あいつらをどう思う」

 

「強いな。妾達などよりも遥かに」

 

「ああ、槍を使うプロモーターと鎖を使うイニシエーターだったな。俺達より上の序列なのは間違いない」

 

とはいえ、今考えても何も分からないので後で木更さんに聞いてみるしかない。

それより今は―――。

 

「やべぇっ!このままじゃ遅刻するぞ延珠!!」

 

「なんだとっ!?」

 

時刻は既に8時半を回りはっきり言ってアウトだ。

倒れている自転車を乱暴に立て、後ろに延珠が飛び乗った。

そして全力でペダルを漕ぎだす。

 

「もっと、もっと速くだ。蓮太郎!!」

 

「ま・か・せ・ろっ!!」

 

民警パワーをフル活用して俺達は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

 

今日は朝赤髪ツインテール美少女に会いました、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

延珠たんがキタ―――――――――――ッ!!!!!!

やべっ、めちゃんこかわええっ!!!

ツインテに萌える。

古臭い口調に萌える。

驚いてポカンと開いた口に萌える。

 

とにかくめちゃ萌えッ!!!!!!!!

 

 

 

延珠たんと言えばあれですよ、俺の会いたかった原作キャラ候補の一人ですよ。

 

延珠たん。

 

 

夏世たん。

 

 

小比奈たん。

 

 

あとはまあ、木更。

 

 

菫。

 

 

蓮太郎…………はいいか、どうでも。

 

 

巨乳が悪いとは言わんよ……だが、オール・ハイル・ロリコーニアッ!!!

 

 

 

などと考えていたらいつの間にかギンたん達で話が進み(ちょっぴり疎外感)何やらギンたんに近づこうと蓮太郎が一歩踏み出していた。

 

 

フゴッ(*`д´*)

 

 

その瞬間、俺の心に宿る炎が激しく燃え上がり体からオーラが発せられた。

それに硬直する蓮太郎。

 

いけねぇ……いけねぇぜ旦那ぁ。

いくらギンたんが可愛くてもウチはそういうサービスやってねぇんだよ。

 

 

 

YESロリータ NOタッチ!!

 

 

 

これだけは守ってもらわんとな……。

しかし、ふっふっふ、どうやら紳士としてお前にはお仕置きが必要みたいだな。

 

自然と槍を持つ手に力が籠る。

 

「お主ッ!蓮太郎を苛めるな!!」

 

 

消火完了!!

 

 

一瞬で燃え盛る炎が鎮火された。

 

や、やばい……延珠たんに嫌われたか……?

いや、まだ……まだセーフだろ。

よしっ……俺が出せる全力の謝罪オーラをぶつける!!

 

(●^ω^)ゞスマソッ!!

 

 

延珠たんはプイッとして顔を背けた。

俺は灰になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッと我に帰るとギンたんと二人で歩いていた。

延珠たん、延珠たんどこー?

 

キョロキョロしていると前を歩くギンたんの足取りが軽いことに気づいた。

よく見れば口角がいつもより1度程上がっている。

 

え、キモい?

ふふふ、愛ゆえに。

 

おそらくギンたんは同族である延珠たんに会えて嬉しかったんだろう。

そして彼女がしっかりと生活できているのか心配になった。

頻繁に毒とか吐いてしまうけど、本当は優しい娘なんだよ、ギンたんは。

 

などと慈愛の目でギンたんを見つめていると本人がこちらを振り返った。

 

「むぅ……なんですかマスター。その眼は?」

 

きょとんと首を傾げるギンたん。

うほっ、良い美少女!!

 

とりあえず頭を撫でておくと気持ち良さそうに眼を細めた。

 

「しかしマスター、あの二人組どう思いましたか」

 

延珠たん可愛かった。

 

「確かに……イニシエーターの方は見所がありましたね(強さ的な意味で)」

 

あのおみ足をぺろぺろしたいてござる。

 

「あの蹴り……おそらくモデル・ラビットでしょう」

 

中々見所のあるロリだった。

 

「油断ならない、ですか……ならばあの男の方は?」

 

どうでもいい。

 

「脅威にはならない、と?」

 

うん、男だしね、大丈夫っしょ。

 

「ですね、マスターと比べる価値もない。ゴミ野郎でした」

 

ギンたんの毒舌ウマウマ。

ただ――……。

 

「マスター?」

 

何でもないよ、ギンたん。

 

 

 

杞憂だと思い見逃したが俺の感覚は確かに訴えていた。

 

あの男、里見蓮太郎が()()()()()()ことを。

 

 

 

 

 

 

 




重大な事実が発覚!

アニメ第三話で蓮太郎が夏世を押し倒しているシーンを発見、蓮太郎=ロリコン説が有力になってきました。


次回もお楽しみに(*^^*)


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第四話 依頼

気付いたら20000文字超えてた……。

とりあえず分割して削ったら14000文字超えてた……。


……これ以上分割するのも何だからこのまま行きますよ!?


天童民間警備会社――――――知る人ぞ知る隠れた幻の事務所。

 

 

 

 

…………なんてことはなく、経営ギリギリのボロい事務所である。

 

「失礼すぎるわよッ!!」

 

おっと失礼。

 

 

 

 

天童民間警備会社――――――それは己の全てを犠牲にしてでもその場所にたどり着きたい、そう決意した者にしか足を踏み入れることの叶わない聖域。

 

 

第一の聖域、そこで待ち受けるは人を惑わす変幻自在の生物『ジン』。

 

ある時は巨大で恐ろしい怪物、見た者を恐怖のどん底に陥れその夢にまでも現れ安息を奪い去る。

 

ある時は真実の愛の伝道師、何も知らぬ子羊達に愛のあるべき姿、その全てをあまさず伝え導く。

 

しかしてその実態は。

 

 

 

――――筋骨隆々な体躯

 

 

――――綺麗に生え揃った顎鬚

 

 

 

そう、すなわち愛の求道者(ゲイ)

 

自ら真に望む自分を渇望(望み)続けると誓い至高に至らんと願う者達。

 

気の弱い男が近づけば容易にその身を魔窟へと誘われ、女性すらもその身に確かな強い心が宿っていなければ近づく事さえ出来ない。

 

ここで試されるのは、ずばり愛する者への思いの強さ。

その思いに嘘偽りがあれば、真実の愛ではないとみなされこの聖域(ゲイバー)を抜けることは許されない。

 

 

 

 

 

第二の聖域、そこで待ち受けるのは男を惑わす『サキュバス』。

 

その者の持つ全てを――

 

金も――

 

名誉も――

 

名も――

 

最後の一滴まで絞り取る。

 

一歩だけで戻れるならば傷は浅い。

しかし……もし深く踏み込んだのならもう戻ることは許されない。

 

 

 

――――偽りの夢

 

 

――――幻想の楽園

 

 

 

そう、すなわちキャバクラ。

 

もしその楽園の使徒(キャバ嬢)によって魅惑の聖水()を与えられ惑うものなら名も財も家族さえも失うやも知れぬ。

 

ここで試されるのも愛する者への思いの強さ。

愛する者への思いが変わらずその身に宿るというのなら一歩すら踏みこむことはないだろう。

 

第一、第二の聖域共に心の弱き者には抜けることは出来ない。

 

何よりこの聖域に入るまでに決めねばならぬ覚悟……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……知り合いに見られたら絶対に噂されるということを厭わぬこと。

 

学生や会社員がこの聖域に近寄っただけで翌日から――――。

 

「ほら一組のあいつ、昨日ゲイバーにいたよぉ」

「うっそぉ!?じゃあゲイなんだ、やば~い」

「うわっwwwwwゲイに声掛けられたしwwwww」

「あの~、○○君がゲイってホントぉ~?」

「あいつぅキャバクラ通いしてんだってぇ、カモられてるっしょ絶対」

「貢ぐ君誕生wwwww」

 

人の噂は七十五日というが、その七十五日は大概、噂がいじめや無視という第二段階に移るまでの準備期間でしかないのだ。

 

今一度問おう。

 

 

……あなたに耐えきれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、冗談はこのくらいにしといて。

二つの聖域を抜けた先、そこには一人の女性が椅子に座りその前に里見蓮太郎と藍原延珠の両名は立たされていた。

机の上に肘を置き組んだ手で口元を隠す女の名は『天童木更』言わずもがな天童民間警備会社の社長にしてゲイバー、キャバクラの上に事務所を置いた経営才の無いお馬鹿な女だ。

 

「木更さん……なんでそんなに不機嫌なんだよ」

 

俺は目の前に座るしかめっ面の木更さんにそう尋ねた。

 

「逆に聞きたいわね。貴方はどうしてそんなに平然としているのかしら」

 

「別に……平気じゃねぇけど」

 

「……同じ民警に、一方的に、格下と侮られたのよ?」

 

どうやら木更さんは俺が今朝の民警、そのイニシエーターの少女に馬鹿にされて何も言い返せず帰ってきたのが気に食わなかったらしい。

 

「んな事言われてもなぁ」

 

「言い訳しないの!!」

 

「いや、木更よ。実際あやつらは強かったぞ」

 

話の通じない木更さんの一方的な様子を見かねたのか延珠が話に割って入ってきた。

……精神年齢は延珠が一番高そうだな。

 

「大体、そんな民警は国際イニシエーター監督機構(IISO)で照会しても分からなかったわ。槍や鎖を使う民警は少なからずいるけど……彼らではないんでしょう?」

 

事務所に来てすぐ木更さんならばと思い話して調べてもらい上位にいるペアの幾人かをリストアップしてもらった。

しかし、それは別人であり一向にあの二人組に関する情報を得られることは出来なかった。

少年のプロモーターと銀髪のイニシエーター、ただでさえ目立つ要素が満載なのにこうも見つからないとは……。

 

「……民警だと思ったんだけどな」

 

「女の子の方はイニシエーターだったんでしょ?」

 

「ああ、間違いない。瞳が赤かった」

 

「凄く怖かったぞ。視線を向けられた時、背筋が震えた!」

 

破格の強さを誇るイニシエーターである延珠にしてもこう言わせる銀髪のイニシエーター。

しかし、俺は彼女よりもガストレアを一撃で倒した俺と同じプロモーターである少年の方が気になっていた。

 

「男の方はどう思った」

 

この問いかけに延珠は口を閉じた。

 

「……分からない」

 

ようやく発した答えを聞いて思わず木更さんと顔を合わせ首を傾げた。

延珠は動物の因子を持ったモデル・ラビットのイニシエーターである。

そのため、その遺伝子を強く受けつぎ野生の勘、動物的本能とも呼べる危険を察知する能力に優れ相手の強さがどの程度かおおよそ測る事ができるのだ。

 

「延珠でも分からなかったのか」

 

「いや、強いとは思うぞ、でも……」

 

「でも?」

 

「妾の方を見た瞬間、気配がどこか弱々しくさえ感じるものに変わったのだ」

 

どこか腑に落ちぬと言った表情でそう言う延珠に木更さんが「……もしかしたら」と言葉を繋げた。

 

「延珠ちゃん、というよりは呪われた子供達に何かしらの思い入れがあるのかもしれないわね」

 

「思い入れ、呪われた子供達に……」

 

状況から察するに怒りや憎しみといった負の感情によるものでは無いことは間違いない。

同情?

憐憫?

何故、あの少年が呪われた子供達に対してそんな風に思うのか。

考えれば考えるほど、あの少年に対しての疑問か涌き出てくる。

 

唐突に乾いた音が鳴り響き俺はいつの間にか俯いていた顔をあげた。

見ると木更さんが両手を合わせた状態でこちらを見ていた。

 

「その二人組について何も分からない以上、悩んでも無駄よ。私の方で調べておくから今日はもう帰りなさい」

 

確かに素性も、名前さえろくに分からない者のことをどんなに頭で考えても無駄だろう。

 

「そうだな……。帰るか、延珠?」

 

「うむ、帰ろう! 妾達の愛の巣へ」

 

「勘違いされる言い方をするんじゃねぇ!!」

 

漫才を繰り広げながら事務所から出ていく二人。

そんな彼らの背中を見送りながら一人残った天童木更は呟いた。

 

「序列のない民警……いや、まさかね」

 

思い立った可能性を自ら否定して首をふった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は木更さんに呼び出されて共に庁舎の中、その第一会議室と書かれた扉の前に立っていた。

防衛省からの通達によるものであるそれは半ば強制的なものであり理由すら聞かされぬまま俺達はここに来ていた。

まあ天童民間警備会社は弱小であり、仕事は回してくるのはあくまでも上層部、そうあるからには上役に逆らうことなど出来るはずもない。

 

「無理矢理だな……」

 

「そうね、でもウチは里見くんの甲斐が無いせいで弱小だし、仕方ないわ」

 

「全て俺のせいみたいに言ってるけど、事務所の立地のせいだろ、絶対」

 

「あら遂に言い訳かしら、本当に良い事務所は場所を選ばないわ」

 

「出来たての事務所に良いも悪いもねぇだろ」

 

「里見くんが強ければ立地も関係なく依頼者が来るはずよッ!!」

 

「……今、立地が悪いって認めたよな」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……もう、いきましょ」

 

「……だな」

 

深呼吸してから、木更さんの代わりに扉を開けると部屋の全貌が視界に入った。

広い室内には中央に細長い楕円形のテーブル、奥には巨大なELパネルが壁に埋め込まれていた。

そして卓を囲むように何人ものスーツ姿の者達が座っており、その後方には様々な風貌の連中が幼い少女達を連れ添い立っていた。

 

「木更さん、こいつらは……」

 

「どうやら民間警備会社の社長のようね、後ろにいるのは所属するプロモーターとイニシエーター」

 

部屋に入ったことで全員の視線が俺達に集まった。

殆どの視線には物騒な雰囲気が篭っており、俺は木更さんをその視線から庇うように一歩前へ出た。

 

「はっ、ガキの分際で一丁前に騎士(ナイト)気取りかよっ」

 

一人の男がそう言いながら俺の方に近寄ってきた。

タンクトップの上からでもはっきり分かる鍛え上げられた肉体、逆立つ頭髪に口許はドクロのスカーフで覆われている。

何より男が片手に持っている十キロはありそうな巨大な黒い大剣、バラニウム製のバスターソードのようなものが相手の腕力の凄まじさをもの申している。

それを肩に担ぎながらつり上がった三白眼でこちらを睨み付ける。

 

「ここはガキの遊び場じゃねぇんだ。さっさと回れ右して帰れや」

 

目前まで来られると身体の大きさがはっきりと分かり俺よりも頭二つ分は確実に高い。

 

「俺も民警だ。部屋を間違えた訳じゃねぇ、チンピラ野郎」

 

震えそうになる足に渇を入れるように床を踏みしめ男を睨み返してそう言った。

 

「言うじゃねぇか、クソガキ……」

 

目の前の男の握力が強まり剣が軋みをあげる。

俺も咄嗟にベルトに挟んだXD拳銃に手を伸ばした。

 

「駄目ですよ将監さん」

 

いつの間にか将監と言うらしい男の背後に少女が立って上着の裾を掴んでいた。

 

「夏世か」

 

「そこまでにしておきましょう。短慮で良いことなど一つもありませんよ」

 

「ちっ。あ~分かったよ」

 

意外なほどあっさりと少女の言葉を受け入れ俺の方を一度睨み付けてから元いた場所へと戻っていく。

夏世と呼ばれた少女もペコリと頭を下げてからそれを追っていった。

 

「なんなんだよ、あいつは」

 

額に汗が浮かんでいるのに気づき急いでそれを拭う。

 

「おそらく伊熊将監よ。三ヶ島ロイヤルガーダー所属、IP序列は984位」

 

「……千番内、マジかよ」

 

世界中にかなり存在している民警、そのなかでも彼らは上位にいるということだ。

俺などは12万辺りで伊熊将監などとは比べるべくもない。

 

「さっきの通り、彼はプロモーターの中でも短気で気性が荒いと評判よ。うっかり挑発して怒らせないよう注意して」

 

なるほど、確かに()()()が勝つには難しいだろう。

 

「分かった、気を付ける」

 

天童民間警備会社と書かれたプレートのある席に木更が座りその後ろに俺は立った。

丁度、俺達が先ほど入ってきた扉が開き一人の禿頭の男が入ってきた。

その男は部屋に足を踏み入れると同時に卓の周りにある椅子を見回す。

 

「やはり空席は一つのようだな」

 

まるで空席が一つあるのを知っていたかのようなその発言に俺は違和感を覚えたが、男にとってのそれは単なる確認によるものだったらしくそのまま言葉を続けた。

 

「本件の依頼内容を話す前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席して欲しい。依頼内容を聞いた場合、もう辞退することは出来ないことを先に伝えておく」

 

その言葉を聞いても部屋を出ていこうとする者は一人もいなかった。

むしろ一部のプロモーター達からは任務に対する気迫が上がった雰囲気すら感じた。

 

「辞退者はなしということでよろしいか?」

 

男はもう一度周りを見回し確認を求める。

 

「ふむ、では説明を――」

 

話を遮るように突然、扉が開いた。

それに反応した全員の視線が向かう。

開け放たれた扉、そこに立っていたのは黒い外套を羽織った黒髪の少年。

その隣に真っ白なセーターを着た銀髪の少女が連れ立っていた。

その二人組を見た俺は即座に木更さんの耳元に顔を近づける。

 

「木更さん、前に話したのがあの二人だ」

 

そこに立っていた二人組はまさしく昨日、ステージⅡのモデル・スパイダーを瞬殺した二人組。

 

「なるほど、あの二人が……」

 

「ああ、この前の時にガストレアを倒した奴らだ」

 

「そう、あの二人がガストレアを……お金をくれた救世主(メシア)、じゃなくて蓮太郎君を馬鹿にした奴ら……」

 

何やら木更さんの本音と建前が絡み合ったようでブツブツと支離滅裂なことを呟いている。

 

「何なんだお前ら、今は会議中だ、子供が入ってくるな!」

 

扉を開いてから何の行動も起こさない二人に痺れを切らしたのか席に座っていた一人の男が立ち上がってそう怒鳴った。

少年はそちらを見向きもせず立っており、少女のほうは呆れたとでも言わんばかりの表情で言った。

 

「用があるから入ってきたんですが? それぐらい察して欲しいです」

 

「だから何しに来たかと聞いてるんだッ!!」

 

「先ほどの発言にはそのような意図の発言は含まれていなかったと思いますけど……頭が悪いんですね」

 

「なっ!この、ガキッ!」

 

少女の人を小馬鹿にした発言に腹を立てた男は机を強く叩く。

そんな中、俺は伊熊将監がのっそりと動き出したのを見た。

将監はゆっくりとした動きで二人組に近寄っていく。

銀髪少女はその様子に気づくと声を上げた。

 

「……ん、将監。お前もいたのですか」

 

室内の空気が凍りつき、思わずその室内にいた全員は息をすることを忘れた。

伊熊将監は短気で好戦的な男らしい、それは先程の出来事で分かった。

それを訳も分からぬ突然現れたイニシエーターが、少女が馴れ馴れしく呼び捨てにした。

誰もがこの後に起こる惨劇を予想した。

 

(やばいっ!? アイツは小さい娘でも容赦しねぇんじゃねぇのかっ)

 

あの眼を見るにあの少女はイニシエーターだということは確実、だから将監の攻撃を受けても簡単には死なないはずだ。

しかし、わざわざ幼い少女がただ殴られる様を見ていることなど出来るか、答えは否だ。

 

俺はすぐさまあの二人の間に入るため身を屈めて踏みこみ加速するもすでに二人の間には1メートルの距離もなく明らかに間に合わない。

 

(クソッ!!!間に合わ――「ギン姐さんッ!!!!ちわっす!!!!!!!!」――は?」

 

 

 

 

空気が凍った、先ほどとは違う意味で。

 

固まったままの俺達を余所に将監は続けた。

 

「災斗のアニキもっ!!!!ちわっす!!!!!!!!!!!」

 

「ん……」

 

少年は無表情ながら軽く頷き返した。

それを見て少し驚いた顔をした少女が言う。

 

「凄いですよ、マスターが挨拶を返したということは将監に対する好感度レベルがBに達したということの証です」

 

「マジっすか、っしゃああああああああああああっ!!!」

 

よく分からない会話をしつつも将監は心底嬉しそうな顔で叫んでいる。

 

「おい夏世!!お前も来て挨拶しろ!!」

 

「はい将監さん」

 

将監のイニシエーターらしき先程の少女が小走りに3人の方に向かった。

 

「久しぶりですね、夏世」

 

「はい、お久しぶりです。銀丹さん、災斗さん」

 

「おい夏世ッ!もっと喜べや!!」

 

「はい、すごく嬉しいです」

 

将監の言葉を受けた夏世の表情に大きな変化は見られず、それに将監がまた反応しようとするのを銀髪が言葉で制す。

 

「構いません、夏世がこういう娘なのは知ってますから。それより将監、夏世にはしっかりと優しくしてますか?」

 

「もちろんっす!やっぱりプロモーターとイニシエーターに必要なのは確かな信頼関係っすからね!!つっても、お二人の足元には全然及ばないっすけど!!」

 

それを聞いた銀丹と言うらしい銀髪少女は嬉しそうに胸を張り、先ほどまで一文字に結ばれていた口もとも心なしか頬が上がってるように見える。

 

「当たり前です、私とマスターは最強ですから」

 

「……当然」

 

四人が会話を続ける中、この室内にいる者の代表として蓮太郎は口を開いた。

 

「な、なあ、お前はそいつらと知り合いなのか?」

 

ギンッと射殺すような目でこちらを睨み付ける。

 

「こいつら、だぁ……? てめぇ、ガキ、嘗めてんのか。敬語使えやボケ」

 

短気で気性の荒い男、それがこの男を示す言葉だったはずだ。

それが敬語を使って人を敬えだと?

あまりの性格の豹変具合に反応が遅れる。

 

その時、僅かな電子音の後、最前にある巨大なモニターが映った。

全員の視線がモニターに向けられ、座っていた事務所の社長達が例外なく一斉に立ちあがった。

眼を見開きモニターに注視する、かく言う俺も信じられない面持ちでモニターを見つめていた。

そこに映っていたのは純白に身を包む銀髪の美しい少女。

 

 

『聖天子様』

 

ガストレアに負けた跡に東京エリア、そこを現在統治する者。

その未だ幼さの残る外見に似合わないその手腕を惜しげもなく発揮している。

 

 

その背後には聖天子様の影のごとく天童菊之丞がつき従っている。

天童木更の祖父に当たり二人の間には大きな確執がある。

 

モニターの聖天使様が声を発した。

 

『その方たちは私が呼んだのです』

 

その言葉に会議室にいる者たちがざわめきだす。

未だに彼らが誰か分からず伊熊将監には敬われ、聖天子様には直接呼び出されるという謎の二人組、反応に困るのも最もである。

しかし、次に聖天子さまが続けて発した言葉がおそらく聖天子様が現れた時以上のざわめきを呼んだ。

 

『呼んだ理由は単純、彼らは私が知る限り最強のプロモーターとイニシエーターだからです。みなさまも聞いたことはあるのではないでしょうか? 漆黒の銃槍(ブラック・ガンス)序列番外(エクストラナンバー)、その名を』

 

「そんな馬鹿な!!」「あれは都市伝説だろう」「あんな子供が……」

 

室内にいる者たちについていけない蓮太郎は置いてきぼりを食らったような顔をしながら木更に尋ねた。

 

「なあ木更さんそんなに有名なのか。そのブラックなんたらは?」

 

漆黒の銃槍(ブラック・ガンス)よ。有名というよりもはや伝説ね、昨日聞いてもしや、とは思ってたけど……」

 

「……知ってたのかよ? 何で昨日話してくれなかったんだ」

 

「眉唾物だと思ってたから。あまりにも噂が突飛過ぎて」

 

曰く、序列一桁でさえ彼らを冠するには相応しくない故に番号無し

 

曰く、ペアでのガストレア撃破数は世界記録(ワールドレコード)を軽く上回る

 

曰く、ステージⅢまでなら一撃で倒すことができる

 

曰く、彼の前で呪われた子供達を罵倒したら殺される

 

 

「現実味があんのは最後ぐらいだな……」

 

「もし彼らの噂が全て真実だというならあり得なくわないわね。モノリスの外、未踏破領域への単独探索も」

 

「……嘘だろ」

 

人類の最後の砦であるモノリスの外、大量のガストレア達の渦巻く地獄のような世界。

昨日、俺達が相対したステージⅡなんて当たり前、それよりも強力なステージⅢ、Ⅳが闊歩する。

そんな場所をたった二人で。

 

「ありえねぇ」

 

『有り得なくはありません』

 

聖天子様はそう言って俺の言葉を遮った。

 

『プロモーター鉄災斗、そのイニシエーター銀丹に関する噂、みなさまなら必ず一度は聞いたことがあるはず、そしてこの場で私の名において宣言しましょう。彼らに関する噂、その全てが真実であることを』

 

最早ざわめきすらも起きなかった。

皆一様に口を開き件の二人組みを見ている。

銀丹は胸を張り当然だと言わんばかりの顔で鉄災斗は何の反応を見せず変わらず無表情でそれらの視線を受ける。

その横では何故か将監が威張り、夏世もそれに頷いている。

 

「まあ、雑魚共には理解できない領域です。仕方ないですね」

 

「…………」

 

「ケッ、当たり前だ!!なんつってもアニキと姐さんは最強だからな」

 

「そうですね、今さらです」

 

『では、静かになった所でさっそく依頼についての話に移りたいと思います』

 

未だ先ほどの衝撃から立ち直りきらない者もいるが聖天子様は続けた。

 

『今回の依頼ですが、依頼内容は単純明快です。昨日、東京エリアにガストレアが侵入し一人の男性がガストレア化しました。ガストレア化した一人に関しては既に排除が完了しています。しかし感染源ガストレアが現在も逃亡している最中なのです。民警の方々にはこの感染源ガストレアの排除と、もう一つ、このガストレアが保持していると思われるあるケースを無傷で奪還して欲しいのです』

 

ELパネルに別ウインドウが表示されそこにジュラルミンケースと高額な成功報酬が映し出される。

俺達の疑問を予期してか言葉が続けられた。

 

『今回の任務、成功報酬が高額な理由としては一人の男が挙げられます』

 

聖天子様は一度俺の方を向き一瞬視線が交錯した。

 

『蛭子影胤、既に先日接触した者もいるようですが。今朝、大瀬フューチャーコーポレーションの社長が襲撃に会いました』

 

蛭子影胤、昨日の仮面を被ったシルクハット、燕尾服の男。

 

『幸い傍にいた鉄さん達のおかげで大事には至りませんでしたが、蛭子影胤は元民警であり当時の序列は134位、それがこの報酬額の理由です』

 

「134位ッ!?」

 

あまりにも高い、高すぎる序列。

その事実に全員が黙している中、木更さんが挙手をした。

 

「ケースの中身がなんであるか教えてもらってもよろしいでしょうか?」

 

『おや、あなたは』

 

「天童木更と申します」

 

 木更は軽く一礼をするともう一度聖天子を見据える。聖天子も「天童」と言う名に一瞬驚いたような素振りを見せたが、すぐにそれを振り払うと木更の問いに答える。

 

『……貴女の御噂はかねがね聞いております……ですが天童社長それは依頼人のプライバシーを侵害してしまいますのでお答えすることは出来ません』

 

「納得がいきませんね。感染者が感染源と同じ遺伝子を受け継ぐということは、恐らくそれはモデル・スパイダーのガストレアで相違ないでしょう。それぐらいであればうちの民警でも普通に対処できます」

 

 ちらりと蓮太郎を見て「多分ですけど……」付け加える、そんな木更の様子に思わず蓮太郎は頬をヒクつかせた。

 

「私達も任務を受けるにあたって―――」

 

「お話し中失礼」

 

銀丹が声をあげ木更さんの言葉を遮る。

木更さんはそれに少し眉根を寄せた。

 

「どうかしたのかしら? 今は私が聖天子様と話しているのだけど」

 

「いえ、それに関しては正直どうでもいいのですが。ですがわざわざこの会議の場で敵を放置しておくのはどうかと思いましたので」

 

「何の話を?」

 

「……借りる」

 

銀丹の発現に訝しげにその眉をしかめた木更さんの言葉を遮り、先ほどまでしゃべっていなかった少年がそう呟き将監の大剣を掴み投擲した。

あまりにもいきなりすぎる暴挙に全員反応ができず、ただ大剣の行方を目で追った。

剣は誰もおらず空席だった場所めがけて一直線に飛んでいき―――弾かれた。

 

「なっ!?」

 

謎の現象、体験が何もない空間にあたって弾かれた。

そしてどこからともなく聞こえてきた高らかな笑い声が室内を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

俺はただひたすらに願っていた。

それはまるで意中の相手に対する告白を彷彿とさせた。

言いたくとも言えない。

口が自分の思う様に動かない。

胸には確かに熱い思いが駆け巡り心は自分の身体を突き動かさんと叫び続けている。

 

今だけで――。

 

この一時でいい――。

 

だから、頼む――俺を解放してくれ。

 

 

 

 

 

――――コミュ障。

 

 

俺が前世で見たブラック・ブレットのアニメ、それは二話まで……。

何が言いたいのか、そうつまり―――原作知識。

 

ここにいるみなさんはご存じないかと思いますが俺はあの空席に蛭子っちが御着席なさっていることを知っているのですよ。

つまりアレだ。

ん……未だ分からぬと申すか。

 

つまりは……見せ場だよ、俺の。

 

 

 

俺がカッコいいことをするとギンたんは必ず俺を尊敬しキラキラした眼で見る。

それもめっちゃペロペロ――じゃなくて嬉しい。

だが、しかぁーしッ!!!

今回は、今回だけは……別目的だ。

 

みなさんには無いだろうか?『死ぬまでに言っておきたい台詞ランキング』なるものが。

 

俺にはある!!

幼女に告白する時に――

幼女とデートする時に――

幼女を褒める時に――

幼女と――etc

 

そして今回は戦闘時に言いたいランキングッ!!!

よく聞け、貴様ら、流れ的にはこうだ。

 

 

俺が何かしら蛭子っちに攻撃を仕掛ける。

で、小比奈パパが驚く

何故気付いた貴様的な事をお義父さんが言う。

 

それで俺がこう言う。

「むしろ俺が聞きたいぐらいなんだが、どうして生きているのに気配を消せないなどと?そこにいる人はそこにいる人でしかないのに」

 

で、それを聞いたギンたんのキラキラ視線GET☆

それに、多分アイツ強いみたいな感じで小比奈たんからの熱い視線もGET☆

 

まさに楽園へ続く栄光の道(パーフェクトプラン)

しかしそれには一つの欠点があった。

 

 

―――コミュ障

 

 

そうまさしく神が俺に課した足枷。

それが今まさにその真価を発揮し俺にとって最悪の試練となっていた。

 

普通の人間なら神に抗うこともせずに諦めるのかもしれぬな……。

だが、俺も伊達に巷で漆黒の英雄などと呼ばれているわけではない。

 

……神に抗ってこその……英雄じゃねぇのかよ。

俺は今ここで己の道を貫き通す。

 

俺の耳に某少年漫画のかみさまの声が聞こえた気がした。

 

 

――神には願わぬと?

当然

 

 

――神には媚びぬと?

愚問

 

 

――でも前話で神に願ってたよね?

…………

 

 

 

 

俺は立ち向かうさ……それが誰もが諦める巨大な壁だったとしても。

――え、いやあの――

いや壁が巨大だからこそ俺は燃えるんだよ。

――あの――

……ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん……。

――……もういいです……――

 

 

 

「クックック、さすがはかの漆黒の銃槍、いや鉄災斗くんと言ったほうがいいかな。私と君はどうやら対立する運命にあるらしい」

 

――俺の脳裏を今までにあったロリ美少女達が流れていく。

 

白い仮面を被った燕尾服の男、蛭子影胤が足を組んで誰もいなかったはずの席に座っていた。

 

――世界中のロリ美少女、オラに元気を分けてくれッ!!

 

跳ね起きながら卓上に立ち視線を鉄災斗に向ける。

 

――ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!

 

「しかし完全に気配は絶っていたつもりだったんだがねぇ」

 

――キタッ!!

――行くぞォッ!!燃えろッ!!俺の身に宿る全てのロリ魂ッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

「……消せてない」

 

 

 

…………………………………はぁ。

 

俺の最大の見せ場がたった今終了しました。

ハイ、終了で~す、お疲れっした、ウッスウッス、またお願いしま~す。

 

 

――ねぇよ!!もう次の機会なんて無いんだよ!!

どんなに事前に構えといても5文字しか言えなかったんだぞ!?

何も知らないで始まる唐突なバトルシーン―――言えるはずねぇだろがぁ!!!!

 

うっうっう……もうやだぁ、お家帰るぅ……。

 

俺は深い絶望に身を包まれながら静かに瞼を閉じた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュピンッ!!

 

―――ロリ美少女が俺を見てるッ!?

 

第6感的な何かでそれを察知した俺は眼を見開いてその視線を追うと部屋に一つだけある扉、それが半開きになっているのが見えた。

本人は隠れているつもりかもしれないが蛭子小比奈が顔をひょっこりと覗かせてこちらを見ていた。

俺と眼が合い、ぱっと隠れるもすぐにまた顔を出し、また隠れる。

それを何度も何度も続けている。

 

 

―――うむ、かわええ。

ロリ美少女の純粋さに癒された俺はHPゲージをフルチャージして蛭子影胤に相対した。

 

影胤に呼ばれ小比奈たんは小太刀を腰に下げながらトテトテと歩いてきて卓の上に難儀しながら登り

――あ、大丈夫?気をつけてね

スカートをつまみ上げ軽くお辞儀をした。

「蛭子小比奈、十歳」

――偉い偉い、よきゅできまちたねぇ~

 

小比奈たんはそう言うとすぐにみを浮かべながら小太刀に手を添え前傾姿勢になる。

 

「パパ、あいつ凄い、ゾクゾクする。斬っていい?」

 

俺を見て笑いながらそう言った。

 

 

 

 

そう俺を見て笑いながら――。

 

パパ、あのお兄ちゃんカッコいい、抱っこして欲しい(※妄想)

 

ふもっふ!!カモン、プリティーガール、AHAHAHA!!俺の胸はお前でもう予約済みさぁ。

 

 

―――瞬間、室内を濃密な殺気が満たした。

発生源の少女である銀髪の少女、その周りを両方の袖から伸びる漆黒の鎖がとぐろを巻くようにして動いている。

 

「私の前でのその発言、なるほど、確かにいい度胸ですね」

 

ヤベッ、ギンたんが嫉妬しちゃったぜよ!?

ギンたんはモデル・ウルフのイニシエーターでありその速度、パワー共に上位には入るが各分野での最高ではない。

だが、それらの代わりに発達した狼のある種の交感能力。

つまり、ギンたんは人の気持ちなるものを察することが出来るのだ、どうだ?凄いだろッ!!!

 

しかし、しかしだよ……今はやべぇ……どうしよう!?

てか、今のどっち?小比奈たんの発言?それとも俺の心の発露?

 

小太刀を抜き放った小比奈たんとギンたんが睨みあう。

 

 

やめてっ!!俺のために争わないでッ!!!

 

心の叫び虚しく、鎖の先端についた刃が小比奈たんを目標にして一直線に向かう。

それが小比奈たんに当たる寸前、青白い燐光と共に弾かれた。

 

「見えない壁――あなたは確かバリアーを使うのでしたね」

 

「君達には一度見せたのだったね、これは斥力フィールド。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいるがね」

 

ドーム状のバリアーが小比奈たんを包んでいた。

 

ナイスブロック、さすがです、お義父さん。

 

「正直ここで戦うのも一興だとは思う。しかし、敗北が決定している戦いをするほど私は愚かではないのでね」

 

身を翻しモニターの聖天子様を見据えてピッと指を指しながら名乗りをあげた。

 

「お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿。私は改めて君達の敵、蛭子影胤だ」

 

ヒューッ!!かっけぇ!!決まってるねぇお義父さんッ!!!!

 

『あなたが……我々の邪魔をする目的をお聞きしてもよろしいでしょうか?』

 

ギンたんほどはないがそこそこ可愛い聖天子様がそう告げる。

 

「なに、私の欲しいものと君達の欲しいものが重なってしまっただけさ」

 

「欲しいものだと?」

 

主人公特有の唐突なシリアスシーンでの割り込みが発動。

……なんかさぁ、今の俺的には蓮太郎どうなのって感じなんだが。

アニメでも延珠ちゃんチャリから落とすしさぁ……やべ、殺意湧いてきた。

 

「もちろん七星の遺産だよ」

 

「七星の遺産?」

 

その言葉を聞いた時、一瞬聖天子様が眼を伏せた、が知らん、興味ないし。

 

「おやおや、聞いていないのかい。まあいい、当初の目的は果たせた。私達はこれで失礼させもらうとしよう、いくよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

二人は卓から降りて窓へと向かっていく。

しかし、その前に俺とギンたんが立ち塞がる。

 

「ただで逃げられるとでも?」

 

お義父さん、小比奈たん置いてとっとと帰れ。

 

「なるほど、やはりそう来るか。だが君達の存在を知りながら無策でここに来るとでも?」

 

意味深な事を言いながら懐に手を入れた。

ギンたんはすぐさま鎖を展開しお義父さんの行動に備える。

しかし取り出されたのは見た感じただの封筒だった。

 

え、何?それだけすか、なんかショボ~い。

 

などと考えているとそれを俺へと投げ渡した。

 

「ヒヒヒ、見てみるといい」

 

嫌な笑いに思わず俺の背筋を悪寒が駆け巡った。

 

ま、まさか―――これは俺の弱み。

俺のヤバい写真とかがこの中に入ってんのか?

 

「マスター危険です、私が見ます」

 

いや、むしろそれがヤバい。

もしかしたらギンたんの着替えシーンやお風呂シーンを覗いている俺を撮ったものかもしれん。

 

「なんでもない、ただの私からの近況報告さ。君にとっても悪くないものさ」

 

俺にとって悪くない―――いや待て!!

油断するな、しっかりと見て確認しろ、俺。

俺は生唾を飲み込みながら中から何かの写真二、三枚を取り出した。

 

―――こ、これはッ!?

 

俺は何も言わずそれを封筒の中に戻し懐へとしまう。

 

「……下がれギン」

 

「マスター?」

 

それにはさすがに驚いたのかギンたんが声をあげる。

 

「……頼む」

 

「……はい、分かりましたマスター」

 

戸惑いながらも俺を信じて素直に下がる。

 

「優しい、あまりにも優しすぎる男だな、君は……」

 

優しい、優しいだと!?

こんなもん渡されたら……そう言わずにはいられねぇだろ!!!

 

俺の懐の封筒の中、そこには――。

 

 

 

 

――――小比奈たんの寝顔写真が収められていた。

 

こいつぅ……気付いてやがる、俺がロリコンだということにッ!

なんて恐ろしい奴だ、この一手で俺がギンたんへとこの事実を話すことすら封じやがった。

次にあった時には確実に殺さねばこちらが社会的に殺される結果にないかねんな……。

 

「……次はない」

 

「そうかい、私は君とは仲良くなりたいのだがね」

 

この野郎ッ!!人の足元見やがってッ!!

仮面の下で笑っていると考えるとぶん殴りたくなる衝動を必死に抑える。

 

「……不可能」

 

「フフ、そうか、フハハハハハハ、そうだろうな、私は平穏を破壊する者、君は望む者」

 

蛭子が片手を前に差し出すと青白い燐光と共に窓が一斉に壊れた。

 

「ではさようならだ。いくよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

そこから躊躇いなく飛び降りた。

 

 

小比奈たんにパパと言われるその後ろ姿を見て俺は影胤を倒す覚悟を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■蛭子影胤■

 

 

 

「どうしたのパパぁ?」

 

隣でこちらを見ながら首を傾げる娘、小比奈を見ながら先ほど相対していた鉄災斗のことを考える。

 

彼らは私と会ったのは今朝が初めてだと思っているかもしれないが、私は彼らともっと前に会っている。

出会ったのはガストレアに負けるよりも前、いつものように国からの任務でガストレアを狩っていた時だった。

新人類創造計画によって新たな力「イマジナリー・ギミック」を得て戦いに飢えていた私は付近でステージⅢのガストレアが発生したという情報を聞いて喜々としてその討伐に向かった。

しかし、そこにあったのは既に肉片と化したガストレアとそれを見つめる少年と少女。

 

当初はその光景に戸惑ったがステージⅢを倒すほどの実力を持った二人組、その力を試したいと襲いかかった。

しかし、いつの間にか少年が銀色の槍を手に持っておりそれを地面へと叩きつける。

それによって砂煙が周囲に広がりそれが晴れる頃にはもう彼らの姿はなかった。

 

その後も私は彼らを見つけては少年に何度も何度も挑み続けた。

しかし、決着はつかずこちらの攻撃を全て受けられ相手は逃げに徹するばかり。

 

ある時、私は彼に尋ねた。

 

「何故、君は逃げる!?」

 

彼は隣に立つ銀髪の呪われた少女を見て言った。

 

「……守るため」

 

「守る、だと?」

 

今の時代、ガストレアに対し激しい憎悪を持ちそれが呪われた少女達に及ぶことがあってもそれを守るといった者を私は知らなかった。

理解し驚愕して震えた。

この少年は未だ自らも幼いその身で彼女等を守るそう言っているのだ。

 

「君に彼女たちを守る理由などないだろう」

 

「……違う」

 

「なに?」

 

「……自己満足」

 

眼を伏せまるで己の行動を恥じるがごとくそう言った。

ガストレアへの憎悪を彼女達にぶつけるどころか、守ると言った少年。

しかし、それすらも彼は自分の自己満足、そう断じて己の無力さに震えている。

なんと、なんという少年だ……この世界に存在している大多数の無意味な者達とは比べる価値もない。

 

「君も、君もそう思うか!?彼女達こそ新たな時代を生き抜くために生まれてきた新たな人類。この世界に存在している旧世代の者達など何の価値もない」

 

「……同じ人間」

 

「……そうか、君もそのような戯言を言うのか……。私の考えを理解する者が現れた、そう思ったのだがね」

 

彼の生きざまには敬意すら抱ける。

しかし、残念ながら今は時代が悪い。

 

「悪いがここで死んでもらおう」

 

イマジナリー・ギミックを私達を囲むように展開しておき、更に内側から押し広げるように発動させる。

これならばどんなに早くても関係はない、逃げ場がなければただ潰れるしかないのだから。

 

「残念、本当に残念だ……少年」

 

「……今、ギンを狙ったか……」

 

背後からの声に振り返るとそこには銀髪の少女を抱えた少年がいた。

それに思わず笑いがこみあげる。

 

「ハハハ、これは驚いた。確実に殺すつもりだったのだがね」

 

私の答えを聞いた彼の眼が細まり、ゾクゾクするような殺気が発せられた。

 

「アハハハハハ、そうだ、これだよ!!これが欲しか―――グッ!?」

 

いつの間にか私の右腕が宙を舞っていた。

 

「……お前が死ね」

 

再び少年の姿が消えてどこからか不思議と響く声が聞こえた。

悪寒を感じ全方位にイマジナリー・ギミックを展開する。

しかし、すぐにそれが崩れ去り私の胸に一本の赤い槍が突き刺さっていた。

強化された私の身体はそれに耐えきったが、彼はそんな私を一瞥すると槍を槍を引き抜いて去っていった。

その後、私は目的のために身を隠すことになったため彼に会うことはなかった。

 

 

しかし、銀髪の呪われた少女を殺そうとした時に発せられた彼の殺意。

守るためにのみその力を発揮する少年。

 

先ほど渡した封筒の中には呪われた少女である小比奈の日常生活の写真が入れられていた。

それを見た彼は素直に私達を逃がした。

彼は小比奈が呪われた少女だということをそこで再確認してしまい躊躇った。

 

呪われた少女達であれば敵味方とてそこに例外はない、ということか。

 

「だが、それは甘い、甘すぎる」

 

このような時代でなければ素晴らしい崇高な精神だ。

しかし悪意と欲望の渦巻く現代においてそれは大きな弱点にしかならない。

 

「君は守る者で私は壊すもの、ああ、本当に残念だよ、鉄災斗くん」

 

 

 

 

 




昔の影胤はマスクしていなかった設定なので主人公も銀丹も忘れてます。
今朝戦った時に斥力フィールドは見たので知ってました。

とにかく焦って書いたので誤字脱字あったら報告お願いします。
ストーリー的にもおかしいこと書いてるかもです……。

ゴールデンウィークに是非もう一回は投稿したいです!!
では、また次話で(^皿^)b


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第五話 帰還

遅くなってすいません_(^^;)ゞ


諸君 私は美少女が好きだ

 

 

諸君 なかでも私は小学生くらいの美少女が大好きだ

 

 

 

 

 

 

黒髪美少女が好きだ

 

 

銀髪美少女が好きだ

 

 

金髪美少女が好きだ

 

 

赤髪美少女が好きだ

 

 

青髪美少女が好きだ

 

 

緑髪美少女が好きだ

 

 

紫髪美少女が好きだ

 

 

茶髪美少女が好きだ

 

 

白髪美少女が好きだ

 

 

長髪美少女が好きだ

 

 

短髪美少女が好きだ

 

 

 

 

学校で 街中で

 

 

都会で 田舎で

 

 

電車で 公園で

 

 

砂浜で 河川で 

 

 

海中で 山奥で

 

 

雑誌で 画面で

 

 

 

この世界に存在するありとあらゆる美少女が大好きだ

 

 

 

 

 

 

家に帰ったときにお兄さまとか妹系美少女が言ってくれるのが大好きだ

 

 

お風呂に入っている時にお背中お流ししますとか言われると心がおどる

 

 

 

ツンデレ系美少女がデレる時が大好きだ

 

 

恥ずかしそうに好きとか言われたら胸がすくような気持ちになる

 

 

 

高飛車系美少女が自分にだけ隙を見せるのが大好きだ

 

 

貴方になら構いませんわ、とか言われるまでにデレられる状態なった時には感動すら覚える

 

 

 

毒舌系美少女が周りには毒を吐きながらも自分にだけデレデレするのはもうたまらない

 

 

毒を吐かれて傷ついた表情をした時に必死に言い訳をしようとする様を見るのはもう最高だ

 

 

 

クール系美少女が周りには冷たい視線を浴びせながらも自分と話すときには顔を赤らめ口ごもる時など絶頂すら覚える

 

 

 

 

まな板、もしくはふくらみかけのおっぱいが好きだ

 

 

時間がたつほどに青い果実が熟していく様を見るのはとてもとても悲しいものだ

 

 

 

自分よりも小さい背の美少女の頭を撫でるのが好きだ

 

 

自分よりも背の高い奴らの手が私の頭部をべたべたと這い回るのは屈辱の極みだ

 

 

 

 

 

 

 

諸君 私は美少女を小学生くらいの美少女を望んでいる

 

 

諸君 私と望みを共にして楽園を目指さんとする戦友諸君

 

 

君達は一体何を望んでいる?

 

 

 

 

 

更なる楽園を望むか?

 

 

一切の容赦なくこちらの心臓を爆発させるような物凄い理想郷を望むか?

 

 

自分の妄想を具現化したかのような三千世界に唯一の桃源郷を望むか?

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロリ! ロリ! ロリ!』

 

 

 

 

よろしい ならばペロリシャス!

 

 

 

 

 

 

 

 

我々は1歩間違えたら臭い飯を食うことになる挑戦者だ

 

 

だがこの厳しい現実の中で永劫かと紛うほどの間堪え続けてきた我々にただの楽園ではもはや足りない!!

 

 

 

 

 

唯一無二の理想郷を!!

 

 

空前絶後の桃源郷を!!

 

 

 

 

 

我らは姿を晒せない 法に勝てぬただの敗残兵に過ぎない

 

 

だが諸君は真は無限の力をその身に宿す猛者達だと私は信仰している

 

 

ならば我らは諸君と私で最強の犯罪者予備軍となるだろう

 

 

我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中はそのまま放置しておこう

 

 

しかしかつては同じ夢を持った同士ならその眼を開けさせ思い出させよう

 

 

今も滾る我々の真の願いを 我々の熱き想いを!!

 

 

目前には既に夢の地へと向かう架け橋が待ち構えている

 

 

さあ いざ行かん

 

 

目指すは聖地 誰一人として遅れることは許さぬぞ!!!

 

 

 

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

 

 

 

 

 

俺の眼前にただ前を向き佇む志を共にする戦士達。

 

一人ではただの有象無象――

 

しかしそれが十いれば団結が生まれ――

 

百いれば戦友となり――

 

千いれば夢さえも掴める――

 

 

されどここに立つは万の男達……。

……もう恐いもんなんて何もねぇだろ。

 

 

さーてと、心の準備はいいか、てめぇら?

 

 

犯罪者予備軍将軍「何言ってんすか……俺達はもう待った、待ち続けた。それを焦らすなんて真似酷ですぜ」

 

犯罪者予備軍参謀「そうです、もういいでしょう。我らに安息を、夢を掴ませてください……」

 

 

へっ!……そうだな……お前らには愚問だったか。

 

俺は眼前の漢達全員に届くように声を張り上げた。

 

全軍ッ!!!進―――――ッ!!??

 

唐突に俺達の恐怖を呼び起こすあの音が鳴り響いた。

 

 

犯罪者予備軍下っ端「てぇへんだ、てぇへんだぁッ!!ボス、奴らが……奴らが来ちまいやしたッ!!!」

 

 

告げる男の声を聞きながら視界を埋め尽くす純白と漆黒を纏う俺達にとっての悪魔の使い、まさしくパトカー。

今まさに俺達の万を超える大群となってこちらに押し寄せようとしていた。

 

クソッ!!

どこから情報が漏れたんだ!?

いや、落ち着け、まずは対処が先だ……全軍―――お前ら?

 

スッ――俺の前に参謀の手が差し出される。

 

 

犯罪者予備軍参謀「何をしているのですか……貴方の役目は先に進むことでしょう」

 

犯罪者予備軍将軍「ですよっ。ここは俺達に任せて大将は先に下見しといてくださいな」

 

 

お……お前ら……!?

 

 

犯罪者予備軍戦闘員一同「そうっすよ!!俺達も後から向かいますんで」「一番乗りは任せましたぜ!!」「こんな犬っころ共俺らで余裕っす!」「別に、あれを全滅させても構わんのだろう」

 

 

くっ……すまねぇ、聖地でまた会おう!!

 

俺は酷く歪んだ顔を隠すようにあいつらに背を向け架け橋を駆けた。

 

 

犯罪者予備軍参謀・将軍「「では、いきますよ(いきやしょうか)友のためにッ!!!」」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ』

 

 

 

 

 

 

 

架け橋を渡り終えた俺は荒い息を吐き出しながら膝をつき両腕を地面へと叩きつけた。

 

ッ――――!!!

 

思い浮かぶのは架け橋に俺を押し進め自分達は今なお戦い続ける最高の友。

 

こんなの―――ッ!!こんなのってッ!!

 

眼元から滴が流れ落ち床へと落ちる。

 

なんて、なんて―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なんて馬鹿な野郎どもだぁッ!!!!!!

 

腹の痛さを誤魔化すように地面を叩いていたがそれを止めて懐から携帯電話を出しその履歴を確認する。

そこには『110』と表示されていた。

 

 

つまり、何て言うんでしょうか……。

 

俺、大勝利……みたいな?

 

ワハハハハハハハハ!!やっべ笑いが止まらねぇ!!

 

面白すぎて眼から流れてきた涙を拭って立ちあがり、前を見据える。

そこにあるのは真っ白で豪奢な大きい扉。

 

なるほど、ここが聖地への扉……ヘヘッ、ようやくご対面か。

これでロリハーレムは俺のモンだぜ――そう思い舌舐めずりしながら門に手を添えた。

 

が、不意に足が引っ張られ顔を床にぶつける。

 

――ってぇ!? 何だよ!

 

顔を押さえながら後ろを振り向くとそこには血塗れの参謀と将軍が。

 

 

ゾンビ将軍「き゛いたぜぇ? ぜんぶよぉ~……」

ゾンビ参謀「ガ、にガ、しませン……」

 

 

お、お前ら、ポリスメンとバトってたんじゃ――!?

 

 

ゾンビ将軍「とっく゛に負けやした゛ぁ~……」

ゾンビ参謀「コっちでス、みンな、イますヨヲ……」

 

 

橋の両側、傾斜がほぼ直角の崖のような場所から次々と手が現れる。

それが将軍と参謀の足を掴み崖へと引き寄せると必然的に将軍と参謀が脚を掴まれている俺の身体もズルズルと引き摺られていく。

必死に崖の淵にしがみついたが、その時一瞬、崖下の光景を見てしまった。

 

 

 

―――地獄

 

 

そう評するのが最も相応しいだろう。

 

「うほっ、イイ男」「ヤらないか?」「良かったのか?ホイホイついてきて……俺は、ノンケだって構わないで食っちまう人間なんだぜ……?」

綺麗に並びながらいさじボイスでマッスルポーズをしながらムーンウォークを決める男たち。

 

ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!た、助けてくれぇ!!!

 

恐怖のあまり手の力が強まるが、同時に俺の脚を掴む力も強まった。

 

や、やめ――許してッ!!謝る、謝るからぁ!!

 

 

ゾンビ将軍・参謀「地獄で悔いろ……」

 

 

や、やめ―――――あっ、あっ、アッ――――――――――――――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒い息を吐きながら勢いよく身を起こす。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

目の前ではギンたんが心配そうな顔をしてこちらを見つめている。

俺は思わずそれを抱きしめた。

 

「ま、ますたーッ!?」

 

何やら驚いた声をギンたんがあげているが、どうか、どうか今だけはこの暴挙を許してほしい。

今なお眼を閉じれば俺の耳元で囁き続けるいさじボイス……背筋を悪寒が走り身体が震える。

 

「マスター……大丈夫です、私はどこにも行きません、傍にいます」

 

ギンたんはどこか母性すら感じさせる声音で俺にそう囁き俺の身体を抱きしめ返してきた。

ガチムチではない、やぁらかいおにゃのこの身体に感動すら覚える。

 

スーハースーハー……いいにおい。

 

おかげで俺は落ち着きを取り戻すことができた。

もう一度大きく息を吸うとギンたんから離れた。

 

「……ありがとう」

 

あ、これは抱きしめてくれた事に対してのお礼ね、においに関してでは無いので、そこ重要。

そう言った瞬間、ギンたんはボンッという擬音でもつきそうな風に真っ赤になりしどろもどろになりながらも答えた。

 

「いえ、あの、むしろ嬉しかった、じゃなくてっ!あの、その、私の胸でよければいつでも、というか……!」

 

 

……うむ、かわええ。

何ていうか、心を清流が流れ清めていくかのような清廉さがあるな。

いつの間にか俺の耳元で囁き続けていたいさじボイスは消えていた。

未だに顔を赤らめて焦っているギンたん、その様子が俺の琴線を鷲掴みにしたのでとりあえず頭を撫でておく。

それにビクリとするも逃げることはせず撫でやすいよう頭を差し出してくれる。

 

そうやって心を癒している間に俺は昨日の経緯を思い出していた。

 

 

 

 

 

昨夜、小比奈たん達を見逃した俺達を最初に待ち受けていたのは社長陣達からの怒声だった。

「捕まえられたのではないか!!」「なぜ逃がした!!」「まさか貴様らはあいつの協力者か!?」

 

俺はそれを協力者ならそもそもここに来ねぇよ、などと考えながら聞き流していたがアイツにとっては耐えられなかったようで。

 

「んな訳ねぇだろがぁッ!!!!黙れや、ぶっ殺すぞ!!!!!!」

 

将監の怒声が室内に響き渡り、騒いでいた者たちは顔を青くして黙った。

静かになった室内に凛とした声が響く。

 

「鉄災斗さん、あなたは私達の敵ですか? 味方ですか?」

 

モニターの聖天子様が俺を見据えていた。

うん、少なくともあんたの味方では無いな……そう、何故なら俺は幼き美少女達の味方ですから!!

言ったら指名手配されそうな事を考えていると隣のギンたんが口を開いた。

 

「成程……さっきの男が礼儀を知らないのも道理です。上役でにある聖天子サマがこの有様なのですから」

 

聖天子様への暴言に室内にいる者達から殺意を込められた視線を向けられるがそれを何でもないかのようにギンたんは受け流す。

そしてモニターを睨みつけるように眼を細める。

 

「東京エリアに出現するガストレアは、そのほとんどがマスターと私達によって排除されている。あなたはこの地を守るために最も身を粉にしている者を前にして労いではなく裏切りを疑うのですか」

 

ギンたんが……ギンたんが俺のために怒ってくれてる!?

う――――れ――――し――――っ!!!!

 

「それについては……感謝しています。しかし私もこの東京エリアの代表として、聞かないわけにはいきません」

 

ギンたんの眼を見ながらそう訴える。

しばらく見つめあったあとギンたんは眼を伏せ、ため息を吐く。

 

「マスターは常に私と行動を共にしています。あのような男と会ったことは一度もありません」

 

「……分かりました」

 

聖天子様の対応にまた室内がざわめきだす。

「聖天子様!?」「証拠が、証拠がありませんッ!!」

 

「いいのです。彼らは確かにこの東京エリアの守りの要。それを信じるという彼女の主張は確かに正しいのです」

 

そして俺の方を向いたのでお互いに向き合う形になる。

 

うむ……惜しい、実に惜しい……あと3年、いや5年前に会っていたならば!!

 

「鉄災斗さん……東京エリアの守護者であるあなたを私たちは信じてもいいのでしょうか?」

 

うーん、俺は別に東京エリアを守ってるわけじゃないんですが(笑)

それに向こうには小比奈たんがいるしなぁ……。

 

「……無理」

 

室内の奴らがまた騒ぎだしそうな雰囲気を発する。

待て待て、早まるな貴様ら!

 

「……守る……違う」

 

隣に立つギンたんに視線を向ける。

 

「……俺が守るのは」

 

「マスター……」

 

ギンたんが頬を赤らめて俺に視線を向ける。

 

ふっ……きまったぜ。

これでギンたんの中での俺の株はうなぎ登りだな。

言いたいことはもう言いきった俺は影胤の出ていった窓へと向かう。

ギンたんも我にかえって俺の隣につく。

 

「あの!!」

 

聖天子様が俺を呼び止めた。

おいっ、今のはフェードアウトして終わりだろッ!!

 

「……なに」

 

「あなたは…………いえ、あなたと私の守りたいものが重なることを願っています」

 

「…………」

 

 

 

 

……無理じゃね?

聖天子様がロリコンになるのは些か問題がありすぎるし……。

俺がロリコンをやめるのは未来永劫あり得ないし……。

 

無理だろ、それと思った俺は特に何も言えず一瞥して窓から飛び降りた。

その後、未踏破領域探索からいきなり呼び出され徹夜していた俺は遂に限界を迎え近くの公園で眠りについた。

ギンたんの膝枕でなぁっ!!

……まあ、それで先程の悪夢を経て今に至るっと。

 

「……帰る」

 

撫でていた手をギンたんの頭からどけ呟く。

 

ふにゃ~となっていたギンたんの顔が真剣な、それこそまるで決戦を控えた戦士のような顔に変わる。

 

「帰るのですか……ホームに」

 

「……ああ」

 

ギンたんのいうホーム、それはその名の通り俺達の帰るべき場所であり拠点。

しかし、そこにいるのは俺とギンたんだけではない。

……勘のいい方なら既にお気づきかもしれない。

ヒントはそう……マンホール。

 

 

 

そうだよぉっ!!

アニメ2話ででてきたあの場所だよ!!!

 

ガストレア大戦と呼ばれる人類敗北の後、俺はとにかく東京エリア中のマンホールをノックし続けた。

 

100を越えた辺りで視線が気にならなくなった――

 

300を越えた辺りで数えることをやめた――

 

そして、遂に聞こえた舌足らずな声……。

 

「どなたでしょーか。わたしたちになにかよーですので。のでので」

 

そこから何ヵ月にも渡る俺の必死の交渉が始まった――

 

 

 

 

 

 

 

――何てことはなく驚くほどすぐ一緒に暮らすことを認められた。

 

 

そして分かるだろうか……マンホールにて暮らしているのは呪われた少女達、そう()()()、しかも美少女……。

 

 

……戦士達よ、楽園はここにあったぞ(泣)

 

 

しかし何故かギンたんは楽園(ホーム)へ帰る時、ちょっと様子がおかしくなるんだよなぁ。

まぁ、考えても分からんものは分からんね、そう割りきった俺はウキウキした気持ちで此処からそう遠くないマンホールへと向かった。

 

「マスター……嬉しそうですね」

 

ギンたん特有の交感能力で俺の気持ちを察知したのかそう俺に話しかけてくる。

 

「……嬉しくない?」

 

「いえ、私にとっても得難い場所です。……ですけど、その」

 

「…………?」

 

珍しく口ごもるギンたんの様子に違和感を感じながらも歩き続けると目的地についた。

そこにあったもの、すなわち円形の赤銅色の扉。

前世では気にすらしなかったそれがいまの俺にとってはとてもかけがえのない大切なものに見える。

 

蓋を開いたその先に広がる俺の理想郷(アヴァロン)、守るべき桃源郷《ロリコニア》、そして俺は4度のノックの後、その扉を開けた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白髪のおっさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うほっ、いいオヤジ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………絶望

 

 

今、俺の胸中を占めているたった一つの感情。

 

想像してごらんよ。

仕事、あるいはバイト、それでめちゃくちゃ疲れた後、長い帰り道を残った気力を振り絞りようやく家についた。

扉を開けて待ち構えている可愛い可愛いロリ美少女を想像しワクワクしながら扉をあける。

 

そこにいるのは―――白髪のおっさん。

 

 

いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!

 

無理無理無理無理、許容不能。

今日も街の平和を守る俺に対してあまりに残酷すぎる仕打ち。

 

これは……これはないだろ……。

 

 

 

深い絶望、それに立ち向かえる強い精神を持つ者を人は英雄と呼ぶ。

でも、でもさ……今だけは休んで、いいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■銀丹■

 

疲れで公園のベンチに座るとすぐに眠ってしまったマスター、私の膝の上であどけない寝顔を見せるこの少年が漆黒に英雄などと呼ばれるなどと誰が思うだろうか。

線が細い体つきにサラサラの黒髪、もう少し髪が長ければ女性にすら見えるだろう。

 

誰よりも優しく頑張ってくれる人―――それをあの国家元首ッ!!

 

今、思い出しても殺意が滲み出る。

あの女……マスターに何て失礼なことを。

 

「……んっ」

 

マスターの声に慌てて我にかえる私。

しかし、マスターの表情の表情は次第に歪んでいく。

額には大粒の汗を浮かべ眼からは涙が流れる。

 

「許し――謝――から」

 

その声と様子からして尋常ではないと思った私はマスターに顔を近づ声をかける。

 

「マスター!?」

 

勢いよく顔をあげ、私と眼を合わせる。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

そう声をあげた瞬間に私は強い力で引っ張られた。

マスターに抱き寄せられた、そう理解すると顔が熱を持ち焦りだす。

 

しかし、マスターの身体が小刻みに震えているのが分かり私は冷静さを取り戻した。

先程の断片的に聞こえた声と私の交感能力『シンクロ』によりマスターの心情が伝わってくる。

 

 

――後悔

 

――恐怖

 

 

その2つが大きくマスターの心を占領していた。

そして理解する、この人は救えなかった過去の命を思い涙しているのだと。

マスターは呪われた少女達が理由なく虐げられている、そう思って彼女たちを救うことに特に力を入れている。

そのおかげで本来死ぬはずだった彼女達がどれだけ命を繋いだか……しかし、それでも救えない命もある。

それは決して少ない数ではなく、マスターはそのことを忘れない。

 

……あまりに優しく、だからこそひどく傷つきやすい。

 

「マスター……大丈夫です、私はどこにも行きません、傍にいます」

 

だからこそ、私はあの日誓ったんだ。

貴方を支える、離れない、多くを守る貴方は私が守るのだと。

 

 

 

しばらくすると、マスターは離れていきじっと私を見つめる、それで必然的に互いの顔を真正面から見つめる形になる。

優しげで綺麗な青い瞳、見ていれば吸い込まれそう。

 

「……ありがとう」

 

その一言で私は自分がしていたことを自覚させられた。

 

な、なんて恥ずかしいことを!?

 

慌てて答えようとするも焦って自分でも何を言っているのか分からなくなる。

突如、マスターの手が頭に添えられた。

 

思考が乱れ上手く能力が発動できず何を思ってマスターがこのような行動に出たのか分からない。

だがマスターの為ならと、されるがままにナデナデされる。

 

……幸せすぎます。

 

私が落ち着いたのを確認して手がひかれるのを名残惜しい気持ちで見送る。

しかし、そんな幸せな余韻は次のマスターの一言で吹き飛ばされた。

 

「……そろそろ帰る」

 

そろそろ()()、行くではなく()()

 

それが意味するのはすなわちホームへの帰還。

嫌な訳ではない、むしろ同類ばかりのあの場所は私にとっても居心地がよく存在自体が奇跡のような場所だ。

 

 

 

 

 

――――あの二人がいなければ、だが

 

ホームに住んでいる少女達は基本、マスターを実の兄のように慕っている。

しかしそこには例外が存在する。

 

 

――マリアと青葉

 

あの雌猫二匹は明らかにマスターを異性として認識している。

……つまりだ、マスターがホームへと帰った瞬間、アイツらの過剰スキンシップが始まるのだ。

お仕事を終えてお疲れだというのに……アイツらはッ!!!

しかも、お優しいマスターはそれにもしっかりと対応してしまうし。

 

私が無理をされないようにしっかりと見ていないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■聖天子■

 

鉄災斗、国際イニシエーター監督機構(IISO)に所属せず独自に活動を続けるプロモーターとイニシエーター。

私の補佐である天童菊之丞から聞いた話によればその実力は世界でも最上位、序列1位すら上回る、耳にする噂はとても現実とは思えないことばかり。

それを私に言ったのが天童菊之丞でなければ冗談として一蹴するような絵空事。

 

そして私の前に件の鉄さんが現れた時、信じられないという気持ちが更に増した。

現在の序列上位者、そのほとんどがイニシエーターという事実からも目の前の私とさして身長の変わらない呪われた少女達でもないこのただの少年がとても噂のようなとてつもない事を成し遂げられる人物とは思えなかった。

鼓舞の意味もあって彼らの所業は肯定したが実際には私も未だ室内の人たちと同じ心境だった。

 

しかし誰も気づけなかった蛭子影胤の存在、そして彼にすら勝てないと言わせたその事実。

それらは確実にあのお二人の実力を示していた。

 

しかし、蛭子影胤とそのイニシエーターを逃がしたことで疑惑の目が向けられた。

東京エリアの代表である私に全く動じる様子を見せず、それどころかイニシエーターの少女は私に批判すらしてきた。

それも私を驚かせたが、何より私の心に響いたのは鉄さんの言葉。

 

「……守るのは大切なもの」

 

そして彼が見るのはイニシエーターの少女。

 

呪われた少女が鉄さんにとっての大切なもの……?

それは一体どういう――。

 

話は終わったとばかりにさっさと出ていこうとする彼の背中に声をかけていた。

彼は振り返り私を見つめる。

しかし、呼びとめたからと言ってどうするというのか、呪われた少女達をどう思っているのか、東京エリアを守ってくれるのか。

聞きたいことはたくさんあった。

 

でも、そんなことを聞いて私はどうするというのだろうか。

私が、私が本当に聞きたいのはどうすれば日本は……この世界は――。

 

「あなたは…………いえ、あなたと私の守りたいものが重なることを願っています」

 

いや、違う。

 

彼は私の方を一度振り返り何も言わず去っていった。

 

彼と話をしてみたい。

何を考えているか知りたい。

 

その気持ちは確かにある。

でも、今は―――。

 

「みなさん、聞いてください。今、この東京エリアには重大な危機が迫っています」

 

私はこの東京エリアの代表としてその役目を果たさないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お色気シーンはまた今度!!

早く将監のストーリーを乗せたいな(*^^*)



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第六話 守るべき場所

遅れてすいません!

キャラの会話書くのムズい……
正直まだ納得出来てなおので今後、加筆修正入ります!


 

名というのはこの世において最も大切なものと言っても過言ではないと俺は思う。

 

生まれてすぐに最初につけられる己の名からそれこそ誰も知らないような路傍にひっそりと生える草木にさえも。

 

名はそれだけでこの世に存在する意味、役割を与える。

 

某ザビエルさん主人公のゲームに出てくるアリスちゃん達、彼女達の使った「名無しの森」では名を失いかけた主人公が消えそうになった。

 

つまり、名とはそのモノにとって最も重要と言っていい程の要因(ファクター)なのだ。

 

 

 

 

突然だが、俺はよく楽園という言葉を使っている。

 

『楽園』

 

苦しみのない至福な生活を送ることができる場所。

 

なるほど、確かにその意味を理解すればどの時代においてもこれほど素晴らしく魅力的な言葉はないだろう。

 

ならば、全ての人にとって楽園は楽園でしかないのか。

 

俺は違う、断固として答えたい。

 

俺の、俺達の求めたあの場所はそんな誰が定めたか知らない言葉で形容されていい物なんかじゃ決してない、と。

 

あの場所は、俺達の求めた聖地は他でもない俺達だけの物なのだと。

 

心の底から満足できる、安心できる幸せな場所、あそこに名をつけるなら俺はきっとこう言うと思うな―――楽園(ロリコニア)と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちも食べてほしいですので」

 

「ちょっと! アタシの方が早く出してたんだから、割り込まないでよ!!」

 

「あそぼーっ、サイトおにーちゃんっ!」

 

「あそぼあそぼ~っ!」

 

ソファーに座る俺の両サイドからこちらの口目掛けてスプーンを差し出してくるロリ美少女×2、マリアたんと青葉(あおば)たん。

そして後ろからもロリ双子美少女、シロたんとクロたんが首元に抱きついている。

 

……感無量(なり)

 

「ちょっとぉッ!聞いてんの災斗!?」

 

「おにーさんはわたしの料理をたべるんですので」

 

俺の右隣で彼女に作ってほしい手料理ランキング最上位の肉じゃがを器用に箸でこちらに差し出すロリ美少女、アニメでも見たマリアたん。

特徴的な口調で話す彼女、アニメでは蓮太郎に性犯罪者なんだと悪態をもって接していたが……もう、あれだ……可愛い。

全然いい娘、多分あれは蓮太郎が悪かったね、目つきと態度が。

 

 

そして左隣でスプーンに乗せたカレーライスを俺に差し出すもう一人、青葉たん。

彼女は金髪の長い髪をツインテールで纏め少し吊りあがった眼が特徴のツンデレロリである。

正直、ツンデレはあんま好きじゃなかったんだがな……俺の価値観は青葉たんに変えられたぜ……。

いや、今でもツンデレは好きじゃない……だが言わせてもらおう。

 

『ツンデレロリは有りだとッ!!』

 

 

更に後ろから抱きついてくる元気なシロたんとクロたん、この二人は双子で茶髪のサイドテールをそれぞれ左右逆にしている。

よく似ているので他のみんなはよく間違えるのだが俺は一度も間違えたことがない……クロたんのほうが身長が3ミリ高くて、シロたんは声がちょっと高いのだ!!!

キモい?

何を馬鹿な……紳士の嗜みだよ。

 

そして、そんな絶景から意識をずらし前を見れば大量の食事の置いてあるテーブルを挟んでさらに数名の天使達がいた。

 

 

「のどに詰まらせないようにゆっくり食べるんだぞ」

 

エプロン姿でみんなにご飯の入ったお椀を配る俺達のおかんこと、椿(つばき)たん。

紫髪ポニーテール、武士みたいな感じの凛々しい女の子、だが実際は恥ずかしがり屋さん………正直ドストライクです……。

 

 

「んん! これおいしーっ! さっすが椿だねぇ」

 

凄い勢いでテーブル上の料理を減らしていく少女、杏(あんず)たん。

赤紙短髪の元気なボーイッシュなボクっ娘、もちろん可愛い!!

 

 

「…………もぐもぐ」

 

ただ黙々とテービル上の料理を食べ続けるマイペース天使、いろはたん。

水色の髪を纏めており基本的に眠そうな顔、ただ怒らせると……ご想像にお任せします。

 

 

「……こ、こんなに食べれないぞ」

 

涙目で引き攣った顔をしているのはウチで一番の頑張りやさんの花音(かのん)たん。

桃色のツーサイドアップの髪形をしており、小さいのに先生を目指して日々勉強に励んでいるめちゃええ娘。

 

 

「…………」

 

俺達がここに来て一度挨拶をしてから一度も声を発さず、というか料理にすら眼もくれず本を読み続けるメガネっ娘、伽耶たん。

緑髪ロングで見た目はTHE委員長、しかし実のところは一番だらしなくて読んでるのもマンガばっかり……正直言ってオタクです(笑)

だが許そう……なぜならロリ美少女だから!!!

 

 

 

…………まあ、とりあえず一言いいだろうか?

 

 

 

 

幸せすぐるっ(*T∀T*)

 

俺が帰ってくるとみんな俺に甘えっちゃたりして、もう可愛くて可愛くて!!!

 

「も・ち・ろ・ん! アタシのを先に食べるのよね」

 

「おにーさん……」

 

青葉たんは可愛く睨みつけるように、マリアたんは悲しそうな表情で。

 

 

ピィンッ!

 

どちらを先に食べる?

 

 

A.マリアの手料理

 

B.青葉の手料理

 

 

 

 

ふっ……鈍感系主人公ならここで悩むんだろうな。

だが敢えて言おう、カスであるとッ!!

 

俺はロリを絶対に悲しませない(ダンディーボイス

 

 

俺の魂が光って燃えるッ!

 

ロリスマイルを見せろと輝き吠えるッ!!

 

ロリへの思いに応えるため、震えろッ俺のロリ魂ッ!!!

 

我が108の奥義の1つ!!

 

双頭の蛇(ついのくちなわ)!!!

 

 

一瞬、俺の頭が残像を残すほどのスピードで動くことによりまるで俺の頭部が二つに分裂したかのごとく同時にスプーンをくわえた。

ぱくり……むぐむぐ……。

 

ウマッ――――――!!!ロリ美少女の手料理ウマカッ――――――!!!

 

「……美味い」

 

「な! ちょ、ちょっと! 今のどっちを先に食べたのよ!?」

 

「……同時?」

 

「嘘つかないで! そんなこと出来るはずないでしょ!!」

 

ヤバい……青葉たんを誤魔化せなかったお。

どうしよ、どうしよ?

 

などとオロオロ戸惑っているとマリアたんが俺の腕に抱きついて上目遣いにこちらを見る。

 

「わたしは美味しいといってくれればいいですので」

 

おふっ…………萌える。

あざとくすら見えるこの仕草もロリ美少女なマリアたんがつかえば純粋なものに見えるっスね。

 

「な!? ま、マリア……あんたさっきは先に食べさせた方が勝ちって……!」

 

「んんー? 何のことかわからないですので♪」

 

「ア、アンタ! だ、騙したのねッ!!」

 

「おにーさんっ♪ もっとたべて欲しいですので。あーんっ」

 

黒い! マリアたん黒いおっ! でも悔しいっ……口を開けちゃう、ビクンビクン!

 

 

「ねぇねぇー! ごはんはもういいからー。あそぼーよ!」

 

「あそぼあそぼ~、サイトおにーちゃんっ♪」

 

クロたんとシロたんのラブリーな声に反応しテーブルの向こう側の杏たんと花音たんも反応しだした。

「なにするの? ボクもボクも!!」「な、ならわたしも」

 

元気なロリ二人がにこちらに向かってくることにより俺の周りはロリロリロリロリロリロリ――。

なんと、いう……絶景なるか……。

 

「あそぼあそぼーっ!!」

 

もちとんおk、うん分かったから……だから首掴まないで、絞まってる絞まってる――――あ、ちょ、やばっ……。

 

「あなた達、やめなさい!!!」

 

凛とした声が響き渡り少女達の動きが止ま――――――らない。

わいわいがやがや、むしろ心なしか声量が上がり騒ぎ続ける。

 

「ッ~~~」

 

握りしめた手をぷるぷると震わせて顔を俯かせる少女、ギンたん。

 

「おまえたち、そこまでにしておけ。災斗さんが苦しそうだぞ」

 

椿たんの一言でみんな不満そうな顔をしながらも静かになる。

 

「な、なんで、私の言うことは聞かないのに……!?」

 

みんなのおかんだからね、さすがの人徳です、椿たんGJ。

 

「マスターは帰ってきたばかりでお疲れなんです、もう解放しなさい!」

 

「はぁ? 何様よ、アンタ。別にいいでしょ、それにギンはいっつも一緒だからいいけど。アタシ達は久しぶりなの」

 

「あおばに賛成ですので」

 

「ボクも災にいと遊びたいな~」

 

「ギ、ギンはちょっとズルいと思うんだぞ」

 

「ギンってば、うるさーいっ」

 

「あはは、うるさい、うるさ~いっ」

 

「あなた達っ……いい度胸ですね」

 

「まあ、落ち着くといい、銀。……それに実際私も青葉達の気持ちが分かる……わ、私も…一緒にいたいし」

 

顔を赤らめこちらをチラチラ見る椿たん、やっべ……こうかはばつぐんだ。

 

「なっ、椿まで!」

 

ギンたんがまるで裏切られたとでもいうかのような表情になった時、それを仲裁する声が会話に割って入ってきた。

 

「こらこら、そうやって騒ぐのが一番災斗君にとって迷惑だよ」

 

いいオヤジ、またの名をマンホールの聖者――こと松崎が現れた!!

 

「長老……」

 

さて説明しようか……。

この人は俺がいない間、彼女達を世話したり色々なことを教えてくれるとっても良い人なんだよね……。

え、なんかテンションが低いだって?

それはしょうがないだろうなぁ……なんたってコイツは俺のライバルだから。

このマンホール下の部屋(俺によって魔改造済み)に住んでいる子供達、あのオヤジへの懐き度がパない。

くっ……やっぱ優しいおじいちゃんはポイント高いのか……えっ、いや、まぁっ俺の方がなつかれてるけどねっ!?(汗)

 

「でもー、長老ー」

 

「二人は私達のために頑張ってきてくれたんだよ、困らせちゃいけない。ほら、後片付けくらい私達でしてしまおう」

 

テーブル上の食器を手にとってそう声をかける。

 

て、てめぇ――松崎ッ!!まさか俺からロリ美少女を奪う気か!?

俺が疲れているとさり気なく気遣うことで天使達の自分に対する紳士ポイントを上げながらも俺から離れさせる……なんて頭脳犯なんだ……ッ!!

 

俺の周りの天使達も松崎の言葉に「……分かったわよ」「仕方ないですので」「残念だな~」「長老が言うなら」と言いながらも離れていく。

 

あぁーっ!皆さまお待ちになって!!

 

俺の切実な思いが通じたのかクロたんとシロたんが去っていく集団の中から抜け出し俺の方に駆け寄ってくる。

 

「えへへ、おにいちゃんっ、あとで遊ぼうねっ!」

 

「遊ぼうねっ!!」

 

満面の笑みを浮かべながら二人でぎゅっと俺に抱きついてくる。

 

ブルハァッ(吐血)

 

それだけ言うとやることはやったと言わんばかりに二人は立ち去っていく。

 

……な……なんて小悪魔チックなロリっ娘なんだ!?

 

口元を拭った俺はロリ美少女が去っていったことに対する寂寥感と松崎への怒りも忘れただ茫然と二人の行動に驚き立ち竦んでいた。

暫くして復活した俺は未だスキンシップを取れずにいるロリに接触を試みた。

 

「あの……」

 

「うっさいわね、今忙しいんだけど、何か用?」

 

「……マジック」

 

「へぇ……やってみなさいよ」

 

ヘイ、姐さん合点でぇ。

さて、と……ここでエンターテイナーとしての俺の実力を見せつけて伽耶たんの心をゲッチュするとしますかな。

 

まず片手を広げて指が5本あるということを伽耶たんに見せつける。

そして高速で手を動かし親指を伽耶たんから見えなくするように人差し指で隠す。

すると、あ~ら不思議? 親指がどこかにいっちゃたおww

 

「……どう?」

 

子供にはほぼ100%受けるこのマジック、どやっ!

 

「ちっ、頭悪いんじゃないの、それくらいの手品で話しかけんじゃないわよ、クズ」

 

冷めた目線で俺を見てそう言い捨てると再び漫画に集中する。

 

やばい……そこらへんの女に言われたらフルボッコなのに伽耶たんに言われると気持ちよくすら感じちまうぜ……はぁはぁ。

というか、伽耶たんとのスキンシップはやはり難易度ルナティック、下手に手を出したら魔道(SMの道)に身を落としかねんな。

ここは標的を替えておこう。

 

 

ターゲット検索中……。

ピピッ……発見。

個体識別名はいろはと判明。

身長、133cm。

体重、26kg。

バスト、ウエスト、ヒップは調べたらいろはたんからゴミを見る視線を貰いそうなので不明。

ただ……すごくぺったんこです……。

 

 

「いろは」

 

「なに」

 

「……調子悪い?」

 

先ほど唯一(伽耶たんは除外)俺の下に来ることのなかったいろはたん、いつもは俺に甘えてくる(※妄想)のに何があったというんだ。

ま、まさか……松崎にッ!?

 

「サイト、疲れてるんじゃないの」

 

訳:『あのねぇー♪いろはねぇ、サイトおにいちゃんがすっごく疲れてると思ったのぉ☆★☆ だからぁ今遊んでもらったら大変だと思ったんだぁ~♪え?よく見てる……えへへ。だってぇ、いろはぁサイトおにいちゃんのこと大好きだもんっ★☆★』

 

な、なんて……なんていい娘っ子なんじゃッ―――――――!!!!

絶対に嫁には出さんぞぉ!!!!!

松崎、てめぇにも当然渡さんッ!!!!!

 

「やっぱり疲れてる……大丈夫」

 

俺がそんな妄想をしていると俺の様子を疲れたと判断したいろはたんが小首を傾げながらそう問いかける。

ちょっ、その仕草マジやめてくださいよ。

反則っす、まじテラ萌えショックで萌え死にますからww

 

などといろはたんのラブリーさに圧倒され心中でくねっていた俺の前に再びヤツが現れた。

 

 

 

――――そう、松崎だ。

片づけを人海戦術で早々に終えたのかニコニコした笑顔を俺に向けて相対し合う形で立っている。

密閉空間であるはずのこの場所にどこからか乾いた風が吹きつけて俺の頬を撫でた。

 

俺の陣にはいろはたん、対して奴の陣は先程片付けを手伝わせた6人のロリ、そして他はまだどちらに動くかも分からぬ無所属状態。

状況的には俺が不利か…………だが萌えてきたぜ……戦争といこうじゃねぇか、松崎ェ―――俺とお前でよ。

俺の普段と違う鋭い視線と松崎の閉じられた瞼が僅かに開かれることで覗いた視線が重なる。

キッチンから一滴の水音が聞こえ戦いの賽は投げられた。

 

 

決闘!!!(デュエルッ)

 

 

「……み「あ、そうだった。みんな、アイスがあるから食べようか」

 

「アイス――ッ!!」

 

「アイスアイス―――ッ!!」

 

「……アイス」

 

松崎の言葉に俺の隣にいたいろはたんまでもが引き寄せられ、もはや俺の周囲にはロリっ娘一人いなくなる。

 

 

敗因:やはり子供、甘いものには眼がないよね。

 

 

……俺の、負けか……そうだよな、所詮ブラックブレット原作キャラにぱっと出のオリ主風のコミュ障ロリコン野郎が勝てるわけなかったんだ……ぐすっ。

 

 

―――圧倒的な敗北

 

 

開始1秒で、しかも台詞を被せられて……。

原作内でも最強モテロードを歩むことを約束されているはずの主人公・蓮太郎すら寄せ付けなかったマリアたんにも長老と慕われていた松崎さんに俺が勝つなんて元々不可能だったんだ……。

勝手にライバルとか決めつけて自分にまだ可能性があるように思いこんで夢見たかっただけだったんだよな、俺は……ははっ……なんて滑稽な野郎なんだ!?

 

気付けば頬を熱いものが流れ落ち膝は床をついていた。

 

気付きたくなかった、しかしもう眼前へと差し出されて否定することもできないその事実。

深層心理、その更に深いところで俺は松崎さんへの敗北を認めてしまっていた。

 

――認めたくない、認めたいはずがない。

 

しかし、こんな俺にはもう松崎さんに対抗する力など残されているはずもなかった。

ごめん、俺はもう――。

 

 

そんな諦めかけた俺に一筋の光明が差し込んできた。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

ギンたんが松崎が提案したアイスなどには目もくれず俺の下に寄って心配そうにしている。

 

ギ、ギンたん……ッ!?

 

「おにーさん、だいじょうぶですので」

 

「さ、災斗、休んでた方がいいんじゃないのッ」

 

「災斗さん、やはり体調が優れないのか?」

 

「大丈夫、災にい?」

 

「ゆっくり休んだ方がいいんだぞ」

 

気づけば俺の周りにはロリがいた……。

自分の事ばかり考えていた俺のことなんかを心配してくれている。

な、なんていい娘達なんやぁ……(いろはたん、クロたん、シロたんアイス食べ中、伽耶たん読書中)

 

そう、だった、んだよな……。

今まで忘れていた何かが俺の心の中でコトリと音をたて嵌まった気がした。

 

 

気付き理解し、そして先ほどの自分に思わず苛立った。

俺は何を恐れていたんだ――ロリっ娘達が他の奴に懐くことが嫌だ、ふざけんな。

違ぇ……そりゃ違ぇだろ、鉄災斗。

彼女達が俺から離れるのが何だって言うんだ……そりゃそうなったら苦しい、辛い、認めたくない。

でも、そうじゃなかっただろッ!!

 

 

俺は思い出していた。

自分がこの世界に来て何を決意したのかと。

最初にギンたんにあった時、俺はギンたんを、不遇な立場にある少女達を一人でも救うと決めたのだ。

 

 

―――yesロリータnoタッチ

 

 

すなわち、どんなに触れることは叶わなくとも、その視線が自身に向くことが叶わなくとも―――ただ彼女たちを、彼女達の笑顔を守り続ける。

全てを擲ってでもそれでも掴みたいものが、目指したいものがあると誓った者にのみ許される真言。

それを口にしたのだろう、なら守れ、守り抜け!!

たとえどれほどの者たちがこの身を罪深きと断じ罰しようとも今は未だ、それを受けることは許されない。

 

――犯した罪は重いのかもしれない。

 

――救えず死んでいった少女達も数知れない。

 

――いつか俺が地獄の業火へと身を落とされるのかもしれない。

 

だがここで立ち止まったら今までの誓いに、命に、その全てを無駄にしてしまう。

今を今あるこの時を俺は至上の物とし、ただ俺のこの僅かな手の届く場所にいる彼女達を――この命に代えても守り抜くんだ。

 

 

いつしか俺の頬を流れていたものは消え、ただ目の前には心配そうな少女達がいた。

ふっ……さっそく心配させてんじゃねぇか、何してんだよ、俺は。

まあとりあえず今は。

 

「……遊ぶ?」

 

ハっちゃけていいですかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■松崎■

 

災斗君に対して私が最初に持った印象―それはよく分からない、だ。

 

私は彼女達をガストレアによる被害者――無垢なる世代として認識し保護しようとしているが、それが現代で受け入れられることがないことを知っている。

ガストレアの被害にあった奪われた世代は子供は守られるべき存在、そんな当たり前の倫理観も彼女達に当て嵌めることをしなくなっていたからだ。

しかし私にはそれを黙って受け入れることなど到底出来なかった、そんな私が周囲からは異端扱いされるのはそう遅くなかった。

私は一般人の多く住む居住エリアを離れ外周区の一つのエリアにマリアを連れ移り住むことにした。

今はまだマリア一人だが慣れていったら少しずつでもその人数を増やしていく予定だった。

これが不条理に日常的に人々の悪意に晒されてきた彼女達に対してできる私の唯一の償い。

 

そう思っていた日々を過ごしていたある日、突然手助けをしたいと言って現れた幼い、しかも無垢なる世代の少女を連れた少年に私は本当に驚いた。

 

――何故、この少年はこんなところに?

 

――何が目的でこんなことを?

 

――その少女は一体?

 

様々な疑問が私の頭のなかを覆いつくした。

彼と同じくらいの子供達は親や周囲の影響を受けて彼女達を迫害する側にまわることはあっても擁護する側になるなど皆無、というより不可能である。

 

だから初めは彼の真意を理解できずつい疑う気持ちで接していた。

だか気付けばそういう感情はいつの間にか消えていた。

 

彼は何者か考えていた時間が馬鹿らしい、単純明快、彼も私と同じだったんだ。

 

子供が好き。

 

ただそれだけの、なんでもないこと。

 

――周囲の言葉を無視し自分のなかで倫理観を形成していく。

 

――周りの者達の思想に染まることなく自分の眼で見て自分の頭で考える。

 

そんな言葉で言えば簡単なことを現代において実践するのがどれほど難しいことか。

 

 

 

それからの日々は劇的といってもいい程に変化していった。

どこからか連れてきた少女達――傷ついたはずの彼女達がここでは心からの笑顔を浮かべていられる。

 

そして彼女達と暮らす上で情報は必須、彼が銀丹を連れてどんなことをしているのかも自然と耳に入ってきた。

何故そうするかなど考えるまでもない、今も虐げられている無垢なる世代のため、ここで暮らす少女達のため。

君がそうやって頑張っている間、彼女達は僕が守ろう。

でも災斗君……彼女達にとって君は既に心の支えのようなものだ、傷ついてもいい、だから必ずここに帰ってきてくれ。

 

 

 

おや、お客さんかな――いやこのノックは、きっと二人が帰ってきたのかな。

 

マリア、そんなにはしゃいで怪我するんじゃないよ。

青葉も二人が来たら優しく労ってあげなさい。

白、黒、二人は疲れているかもしれないからあまり迷惑をかけちゃいけないよ。

椿も二人のために料理の腕を奮ってあげてくれ。

杏、元気なのはいいが二人の前では少し静かにしてあげるんだよ。

いろはも早く起きるんだ、二人が帰ってきたよ。

伽耶も少し本から眼を放して出迎えてあげてくれないかな。

 

さて折角だから私が出迎えをしようかな。

ん、なんだい、マリア……梯子を登れるのかって?

ふふ、大丈夫さ、二人のためならこんな事なんでもないさ。

 

おや、災斗君、君のそんな驚いた顔は珍しい。

何かあったのかい……え?

これはない、だって……なんの話かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で第六話でした。

誰が得すんだよコレ?という松崎視点のみ……。
ロリキャラ視点入れようと思ったが人数多すぎたorz

今後、外伝やストーリーの中でキャラの話を入れてくので……待っててください_(^^;)ゞ


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第七話 後悔

まず遅くなって申し訳なかった……。

そしてちょっと急ぎ足で詰め込み過ぎた感あります(汗)

でも、二万文字くらい書いたんで許して!!


 

 

 

 

 

 

時間とは何かに縛られることなくただ流れるもの。

 

人がどれだけ足搔いたとしても決して止まることも戻るということはなく、過ぎ去った時間を変えることなど誰にも叶わない。

 

故に人は今を、この一分一秒を何をも上回る宝として考え生きていくのだろう。

 

 

後悔したくないなら迷うな、という言葉を耳にしたことがあるだろうか。

 

聞いたことがある者にも無い者にも聞きたい、この言葉をどう思った。

 

――成程確かに、そう納得する?

――いやそれは違う、そう否定する?

 

俺は答えは分からない、というよりも答えを出せない、そう答える。

 

何故なら迷うという概念はそれこそ全ての生物は皆持っていて至極当然のものだから。

 

更に状況によっては決断した一つの行動が今後の自分という存在に大きく影響し人生を左右することもありえるだろう。

 

それならば迷うのは必然、むしろ迷わない者の方が少数だ。

 

よってこの問いに確かな答えを出すことは出来ない。

 

ならばどうすればいいか。

 

簡単だ、間違えればいい。

 

間違えて、何度も間違えて、そして学んでいけばいい。

 

ありふれた言葉だが、大切なのは間違えても再び立ち上がることなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に庁舎での出来事から数日が経とうとしていた今日、俺こと里見蓮太郎は蛭子影胤と感染源ガストレアを探すために日夜必死に情報収集に勤しむ―――――ほど頭もよくないので当然出来ることなどなく難しいことは木更さんともう一人、四賢人である室戸菫に完全に任せていた。

 

 

『四賢人』

ガストレア大戦中、対抗策を得るべく世界中から選び抜かれた4人の天才科学者達。

 

 

これだけ聞けば人類がガストレアに対抗するべく選び抜かれた英雄のようにすら聞こえるが、その実彼らの正体はただのマッドサイエンティストである。

先日も会ってきた菫さんのことを思い出し知らず口からため息が漏れた。

 

「ふんふんふ~ん」

 

隣を見れば延珠が鼻歌を口ずさみながら満面の笑みで歩いている。

現在の時刻はまだ午前半ばであり昼食の買い物に行くにもまだ早いのでとりあえず行き先を延珠に任せ町中をぶらついていた。

 

「あっ!蓮太郎、あそこだっ!!」

 

唐突に手を引かれ体がつんのめりそうになりながら何とかバランスを保ち延珠についていく。

着いた場所はおもちゃ屋だった、しかも小さいものではなく大手の家電量販店のワンフロアを丸々貸し切った大規模なものだ。

顔を忙しく動かし店内を見回す延珠を横目に見ながら俺は店内を眺めて昔のことを思い出していた。

 

こういう所には長いこと来る機会もなかったな……。

 

知らず知らずの内に手近にあるブロックの積み木パズルのサンプルを片手で弄る。

 

「……懐かしいな」

 

こういうおもちゃで木更さんと遊んだりしたこともあったけか。

 

「なあ、延珠。これとか―――」

 

「妾が用があるのはこっちだ」

 

「……へいへい」

 

にべもなく斬り捨てられ少し不満げな気持ちを抱きながらも延珠の指さす方を見ると、周囲から一際目立つ所に天誅ガールズコーナーとポップな字で書かれておりその周りに様々なグッズが置かれていた。

 

「へぇ、天誅ガールズね」

 

内容まで詳しくは知らないがその名前には少し聞き覚えがあった。

まず延珠が最近ハマっており家で欠かさずに見ているアニメであり、結構人気があるらしい。

そんな事を考えている間に延珠は商品の置かれている特設コーナーを物色し始める。

手持無沙汰だった俺もとりあえず、と特設コーナーに目をやる。

そして一番目立つ場所にあって最初に目についたステッキブレード?やキャラに着ている衣装の値段をみて思わず愕然とした。

 

「……なんでこんなに高ぇんだ」

 

その隣に置いてある小さな人形などは47人セットでお買い得などといいつつもゼロが…………冗談だろ。

 

「そうか? このくらい普通ではないか、それにこれは妾の給料で買うから蓮太郎は気にしなくてよいぞ」

 

あれ、ちょっと待てよ?

よく考えたら小学生に自分で自分のおもちゃ買わせるってどうなのだろう、もしかしたら俺って結構あれなのではないだろうか?

 

先日の銀髪のイニシエーターが俺に言い放った言葉を思い出し、いや違うと首を振り己の考えを否定する。

 

こんな高ぇの誰だって躊躇するだろ、俺は普通だ。

 

自分で自分を必死に擁護していると、どうやらいい物を見つけたらしい延珠がこちらに向かってきた。

 

「こんなのはどうだ、蓮太郎!?」

 

俺に差し出されたのはブレスレット、彫刻模様の上からクロームシルバーのメッキがかかっている。

というか、見た目に反して軽いな……アルミか?

 

「何だこれ」

 

「アニメで天誅ガールズがつけている物だ、四十七士の仲間の証でもあり、仲間を欺いたりすると罅が入って割れ仲間に嘘をついたことが分かってしまうんだ」

 

「……魔法少女って割には結構ガチめな縛りのある効果だな」

 

「そこがよいのではないか」

 

「……そ、そうか?」

 

共感できない延珠の言葉を聞きながらブレスレットを弄んでいると紐で繋いである値札に目がいった。

 

お値段―――6980円也。

 

「……な、なあ延珠? も、もっと別のに――「では買ってくるな」――あ」

 

俺の引きとめる声を無視して延珠は会計へと走っていき即座に購入を済ませてしまう。

 

……いやまあ、延珠の金だしいいんだけどな。

 

そのまま外へと出て満足げな延珠の顔をを横目で眺めながら商店街の通りを歩いていく。

 

「……随分嬉しそうだな」

 

「うむ、いい買い物をしたぞ!あ、そうだった。ほら!蓮太郎も腕につけろ」

  

「俺もつけんのかよ」

 

「これはペアリングだ。妾のフィアンセたる蓮太郎が着けず誰がつけるんだ」

 

受け取ったブレスレットを延珠がしているように腕につける。

その様子をじっと見ていた延珠がなにやらニヤニヤした表情をし始める。

 

「な、なんだよ」

 

「ふふふ、そのブレスレットの効果話したであろう。これで蓮太郎は妾以外の女に浮気してもすぐ分かるぞ。もちろん木更のおっぱいに見とれたり、この前みたいに他のイニシエーターをえっちな眼で見るのもダメだからな」

 

「だからぁ、この前のは誤解だって……いやもういい、誤解解くのも面倒くせぇ」

 

どうせ延珠は俺の言葉聞いても納得しないだろうしな、などと諦念を抱いていると突然、延珠が声をあげた。

 

「ん、あれは聖天子様ではないか?」

 

そう言って延珠の向く方向、街頭テレビのパネル、大型のディスプレイを見る。

そこには東京エリアの代表である聖天子がでかでかと映し出されていた。

以前見た無表情とは打って変わる厳しい表情で『呪われた少女達』の基本的人権の尊重について再度、法案を出すということを話している。

これこそ今、東京エリアで話題になっている『ガストレア新法』と呼ばれるものだ。

 

この法案は通過して欲しい、俺はそう切実に思う。

 

現在この東京エリアで起こっている呪われた少女達に対する迫害、それは一昔前までよりは収まった方だと思う。

戦後すぐは赤い目を見るとガストレアを思いだしショック症状を起こすという理由で赤ん坊は川で生んでその眼が開かれる前に殺すことが一般的だったし、再生力が高い、その体質故に虐待の対象になることも多かった。

もちろん、収まってきたとはいえ今もなお呪われた少女達に対して肯定的な考えを持つ者は少ない。

だからこそ、東京エリアの代表が彼女達の境遇に理解があることは俺自身にとっても嬉しいことだった。

叶うことなら彼女に全てを任せてしまいたい、そう思うほどに―――。

 

「蓮太郎……どうかしたのか?」

 

隣を見れば延珠が心配そうな表情でこちらを覗き込んでいた。

 

「いや……」

 

っ何考えてたんだ、俺は、延珠を他人に任せるとか、アホか。

 

「なんでもねぇよ、心配すんな」

 

そう言って延珠の頭をワシワシと強めに撫でる。

 

「そうか?……あっ、蓮太郎見ろ、今度は天誅仮面だぞ!!」

 

再び視線をスクリーンに戻せば聖天子の会見は既に終わり別のニュースが流れていた。

内容は謎の人物が東京エリアで人助けをして回っているというもの。

現れてから既に数カ月が経っているが未だにその正体が分からず、現場にいた人達によると『天誅仮面』という名を名乗っていることからその名だけが知れ渡っている。

 

「凄いなぁ、カッコいいな天誅仮面……正義のヒーローだっ!!」

 

 

正義のヒーロー、その名に似合うように天誅仮面はこの動機エリアで人を助けて回っている。

しかしそれを擁護する、ないし肯定的な眼で見る者は驚くほど少ない。

理由は尋常ではない身体能力と小柄な体躯から呪われた少女達ではないのか、という事が疑われていることが挙げられる。

そして最たるものが一般人と呪われた少女達を区別することなく助けていることだ。

故に助けられた人が排他的な考えを緩めたとしても、それはあくまで少数、大多数の否定派に押しつぶされる。

 

 

「……おい、あんまり大声出すなよ」

 

「なぜだ!カッコいいであろう天誅仮面」

 

「いや、そうだけど。周りはそうは思わないっていうかな……」

 

「むう!妾は間違ったこと言っておらんぞ!!」

 

「……はぁー。ああ、そうだな、カッコイイナテンチュウカメンハー」

 

「真面目に聞けぇ!」

 

ふとどこからか「その対応……お前に紳士の資格はない」という言葉が聞こえた気がした。

 

「ふん、蓮太郎はレディーの扱いがなってないな、また一つ蓮太郎のモテない原因が分かったぞ」

 

「な、くっ――そ、それよりソレ、なんだよ?」

 

特に言い返せなかった俺は話を逸らすのと陰鬱とした気分を切り替えるため延珠が脇に下げている袋を話題に上げた。

 

「ん、これか?」

 

袋の中、そこからは俺達が腕につけているブレスレットがもう一組出てきた。

 

「あの鉄災斗という男とそのイニシエーターにも買っておこうと思ったのだ」

 

「あの二人に……何でだよ?」

 

「はぁ~全く蓮太郎は馬鹿な奴だなぁ、この前助けてもらったからに決まっているだろう」

 

「へぇ」

 

延珠がまさかそんな事を言い出すなんてな……というか俺の方が年上なのに全く考えてなかったじゃねぇか……。

 

「菫が言ってたからな!”やられたらやり返せ”と!!」

 

「……いや、それ激しく使い方間違ってるからな」

 

「む、そうなのか?」

 

にしても、そうだな。

確かにあの二人にはお礼をしとかないとな。

 

「延珠、そっちの方の代金は俺が払う」

 

「ッ――!?」

 

延珠が何やら驚いたように口をぽかんと開けたままで立ち止まった。

 

「ん、どうかしたか?」

 

素早く俺の肩をつかみ引き下ろすと俺の額と自分の額を合わせる。

 

「……ホントにどうしたんだよ?」

 

「蓮太郎っ……正直に言うのだ。どこか調子が悪いのだろう、今すぐ病院に行くぞ!」

 

「はぁ? 別にどこも悪くねぇよ」

 

「嘘をつくな! 日々の夕食でも1円の節約のためなら何地区も離れたスーパーに食品を買いに行くというドケチで貧乏な蓮太郎が人に者を買う訳ないであろう」

 

「失礼すぎるだろ!!!」

 

……こいつ、俺の事をそんな風に思ってたのかよ。

 

「なあ延珠、いくら俺でもそれぐらいの常識は持ってんだよ」

 

「でもこの前、妾に家賃借りたではないか?それは蓮太郎の常識では普通なのか?」

 

「口答えしてすいませんでした!」

 

あまりにも痛すぎる場所を突かれた……小学生に養われる高校生―――ヤバい、ヤバすぎる。

そんなのが世間に知られたら社会的に死ねるぞ、俺。

 

「まあ蓮太郎は妾のフィアンセ、これで許してやろう」

 

「……マジで頼むぞ」

 

延珠の気が変わらないことを祈っていると前方の人垣何やらざわついていることに気付いた。

そんなことを思っておると体に直接響くような激しい怒声が遠くから微かに聞こえた。

それに触発され人垣にも何やら不穏な雰囲気が流れ始める。

 

 

 

―――今すぐここから離れろ!!

 

 

 

虫の知らせ、第六感などとは言わないが蓮太郎の直感がそう告げる。

このままここにいたら大変なことになる、そう予感を感じた蓮太郎は延珠の手を掴み急いで踵を返そうとした、その瞬間―――。

 

 

「誰かッ!!!そいつを捕まえろォォォォッ!!!!!」

 

その荒々しい声が俺達の耳に届くのと人垣が割れて一人の少女が飛び出してくるのはほぼ同じタイミングだった。

食料品の大量に入ったかごを持ち、中身を落としながらも走り続ける。

そして少女の進行方向を塞ぐようにして立っていた蓮太郎と延珠を見て足の動きが止まった。

服装はどこにでも売っているようなありふれたもの、しかし長い間洗ってないようでかなり汚れており所々修繕した箇所が目立っている。

 

 

外周区に住む孤児(呪われた少女達)―――赤い瞳とその容貌からその事実はすぐに判明した。

 

 

いつまでも続くかと思われるほどの長く無言の睨みあいが続いたが、それは少女の背後から伸びてきた大きな手によって終わりを迎えた。

力任せにその小さな体躯をアスファルトへと叩きつけ押さえこむ、こちらにまで骨の軋む陰惨な音が聞こえてきた。

 

「ッ―――放せぇ!!!!」

 

端正な表情を激しく歪め力任せに拘束を払おうとするも更に幾人かの大きな手が少女の身体を押さえつけた。

一見すれば大の男数人がかりで少女を押さえつけるという異常な光景、しかし誰も少女に同情の視線を向けることはない、それどころか大衆は口ぐちに罵声の言葉を吐き出す。

 

「この化け物め、東京エリアのゴミがッ!」「喚くんじゃねぇ、ガストレアが!」「この害虫が!」「くたばれ赤鬼!!」「化け物のくせに人間の居る所に出てくるんじゃねぇっ!!」

 

 

暴れる少女の視線が延珠の姿を捉えた。

必死になりながら延珠に向かい片手を伸ばす。

 

こいつ、延珠の事を知ってんのか!?

 

その手に反応し延珠も顔を青褪めながらも片手をゆっくりと前へと伸ばす。

それが重なる寸前――。

 

「やめろっ!」

 

俺は反射的に少女の伸ばしていた手をはたき落していた。

少女の表情が蓮太郎への恐怖一色に染めあげられる。

 

「あ……」

 

「貴様らッそこで何をやっている!!」

 

少女を囲むように立っていた観衆を割って痩せた眼鏡をかけた警官とガタイのいい警官が向かってきた。

こちらの様子を見た眼鏡の警官は「ああ、なるほど」と冷めた声で呟き少女の襟元を乱暴に掴み立たせる。

 

「おらッさっさと立て!」

 

そのまま少女の両手を背中にまわし手錠を嵌める。

 

「放せよッ!あんたらあたしが何をしたかも知らないくせに!!」

 

「お前ら、赤眼のことだ。どうせ傷害やら盗みやらくだらんことをやらかしたんだろ。呪われた少女達(おまえら)がやりそうなことくらい分かってんだよッ!」

 

俺達を置いてどんどんと進んでいく状況に唖然としていると警官たちは先ほど少女を追いかけていた代表らしい男に一言謝意を述べパトカーで去って行った。

周りの人垣も騒動が終わったとみると呪われた少女達の悪口を言いながらも離散していった。

これ以上ここにいても意味がないと思った蓮太郎は家へ帰ろうと延珠の方を向く。

 

「……なぜだ」

 

延珠は拳を力いっぱい握りしめ俺を睨みつけていた。

 

「なぜ、あの手をふりはらった蓮太郎!!」

 

延珠の瞳がその内に燻ぶる怒りに呼応して薄赤く光りはじめる。

 

「っ――とりあえずこっち来い……」

 

そんな様子に気押されながらもここにいてはマズいと延珠の手を引いてビルの隙間の路地裏に入ろうとする―――がその手を振り払われる。

 

「ふざけるなっ!あの者は……あの者は助けを求めていたんだぞッ!!」

 

「い、いやでも、あの時手を振り払ったのは必死で――」

 

必死で?

必死で何をした、最後の希望を求めて手を伸ばした少女の手をはたきおとしたんだろう。

 

延珠は肩を震わせて顔を俯かせている。

顔の真下の地面にぽつぽつと跡が出来ている。

 

「もしかして、知り合い、なのかよ?」

 

「昔何度か見かけた……一度も話したことはなかったが、はっきり覚えている」

 

延珠のその言葉をきいてどうするか決断するまでにそう時間は掛からなかった。

 

「延珠、先に一人で帰ってろ」

 

それだけ言い残すと返事を待たずに背を向けてパトカーの向かった方向に駆けだしていた。

 

 

 

途中持ち主から強奪したバイクで車間の隙間をぬいながら俺は猛烈に嫌な予感を感じていた。

 

――――何故、先ほどあの警官たちは状況もろくに確認せず少女を連れて行った?

 

あれは何を意味しているのか。

自分の頭のなかで導き出された最悪の答え。

それが間違いであることを願ってとにかくフルスロットルで道路を進み続ける。

 

早く、早く、どこだ、どこだっ!!

 

どんどんと外周区へと近づいていき人の姿が全く見えなくなった頃、ようやく路肩に一台のパトカーが止まっているのを見つけた。

バイクをしっかりと停めることなく半ば放り捨てるとパトカーに駆け寄り中を確認する。

しかしそこには誰の姿もなかった。

 

くそっ、どこ行きやがった!?

 

辺りを見回すが人の気配はない。

なおも探そうとしていると何やら怒鳴り声が俺の耳に届いた。

発生源の建物に入る寸前、一発の発砲音が屋内に乾いた音を響かせた。

 

なっ!?

まさか、アイツら!!

 

『銃声』

『呪われた少女達』

『人のいない外周区の建物』

 

それらから想像される最悪の光景を幻視して俺は中へ駆け込んだ。

そこにあった光景は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――背後の鉄柵にまで追い詰められた少女に眼鏡の警官が拳銃を向けておりその前にマントを羽織り仮面をつけた人影が佇むというもの。

 

謎の、理解できない状況下でとりあえずその推移を見ようと柱の陰に姿を隠した。

 

「お、お前誰だっ!?」

 

謎の仮面の登場は奴らにも予想外だったのか焦る警官のその言葉に唯一見える口許を弧に歪ませる。

 

「誰……? くっくっく、我のこの姿を眼にして未だに分からぬと、そう申すのな貴様らは」

 

よく見れば延珠とそう変わらない小さな背丈をしている。

そんな仮面の少女はそれに似合わない尊大な口調でそう答えた。

 

「姿、だと……まさか!お前があの天誅仮面とかいう、ふざけた奴か!?」

 

「如何にも!他ならぬ我こそがこの地の闇を支配する者、天誅仮面なるぞ!」

 

「闇ィ? 何を意味の分からんことを!?」

 

「どうせお前も赤鬼なんだろうが、死んじまえ!」

 

再び、しかし今度は二人から同時に発砲される――しかし、その銃弾が少女達を捉えることはなかった。

またも見当違いの場所で着弾音が鳴り響く。

 

「な、何をしやがったお前!?」

 

蓮太郎の眼はぼんやりとだが今の光景を視認していた。

少女が手を素早く振るい鞭のようなもので銃弾を弾いたのだ。

 

「ば、化け物がぁっ!」

 

今度は乱射するように発砲するがそれも少女達に当たることはなく別の場所に着弾する。

 

「くっ――この化け物ぉ!赤鬼の、ガストレアの分際でぇッ!」

 

その言葉を受けて仮面の少女は小さく笑い始め、やがて大きな声で高笑いするように声を張り上げる。

 

「ふふっ……赤鬼――呪われた少女か……我をあのような下位種族と同一に称すか、くくっ―――ふははははっ!!」

 

「な、何がおかしい!」

 

ゆっくりと顔の上半部を覆っていた仮面に手を添少し下げる、すると瞳の部分だけが露わになった。

少女の口元が三日月形に歪められる。

そしてマントがたなびく。

 

 

 

――黄金と深紅の瞳

 

――口から覗く鋭くとがった犬歯

 

――背中から左右に伸びる黒い羽

 

 

 

「――あ、あああ……ああああ゛ああああっ!!!」

 

それに本能的な恐怖を感じたのか警官は叫び声をあげる。

 

「理解したか、劣等種。我は鬼などという下位種族ではない、我こそは永劫の時を生きる真なる呪われし血族――すなわちヴァンパイア。……これがその証だ」

 

「きゅ、吸血鬼!?」

 

「うそだろ!!」

 

「ふはははははっ、さあ逃げまどえ劣等種共っ!!食い殺すぞ!!」

 

「ひィィっ!!」「た、たすけてくれぇ!」大声をあげて屋外へと逃げだす。

その後すぐにエンジン音が聞こえ次第に音は小さくなっていった。

 

「さて……幼子よ、怪我はないか」

 

「え、う、うん。だいじょうぶ」

 

「そうか、ならばよい」

 

少女の身体を確認し怪我がないことを確認した少女は突然大声を発した。

 

「それで!……そこの鼠はいつまでそこで隠れているつもりだ」

 

ッ――俺の事に気付いていたのか!

 

急いで身を隠したが少女の視線は間違いなく俺の潜む柱を見ていた、隠しとおすことが出来ないと判断した俺は身がまえた状態で姿を晒す。

 

「……貴様、幼子が暴虐に晒される様をそのような陰で傍観とは……くくっ、いい趣味をしておるな」

 

「なっ、ち、違う俺は!!」

 

「違う?何を言う、貴様のした行為は事実その通りだったではないか」

 

「そ、それは……」

 

思わず口ごもる。

先程少女が大人達に捕まっていたとき蓮太郎はなにもせず、それどころか助けをはねのけ警察に彼女が連れていかれるのを見過ごし、今回も彼女達が襲われているのをただ傍観していただけなのだから。

そんな葛藤をしている俺に既に興味も無いのか天誅仮面は少女へと手を差しのべる。

 

「では、参ろうか。幼子よ」

 

「ど、どこいくんだよ?」

 

「ふふっ……何も心配はいらん。行き先は我らにとっての楽園さ」

 

「待て!その子をどこへ連れてく気だ」

 

「はあ、貴様の耳は節穴か? 既に言っただろう……楽園だ」

 

「楽園だと?」

 

「ああ、この幼子の同族もいる。素晴らしき場所だ」

 

「同族? 外周区のことか」

 

こいつは確かにあの少女を助けた。

しかし俺ははっきりと何者かすら分からないこいつにあの少女を任せる気にはなれなかった。

 

「その子は俺が!」

 

少女と天誅仮面、合計4つの瞳が俺に向けられる。

 

「俺が―――なんだ、助けるか? この幼子を一度見捨てた貴様が、守れるのか?」

 

「そ、それは……」

 

少女と眼があう、その瞳に宿るのは決して友好的なものではなくむしろ敵意すら込められいるように思えた。

 

「くっ」

 

「ふんっ……出来ないことをほざくな、劣等種、所詮貴様も先ほどの奴らと変わらぬのだからな」

 

「なっ、それは!それ、は……」

 

違う、そう言い放ちたい。

だが否定の言葉が俺の口から出ることはなかった。

 

「もう会わないことを祈っているぞ、傍観者よ」

 

座っていた少女の手をつかみ蓮太郎の横を抜けて天誅仮面は立ち去る。

先程の言葉を受けた俺にそれを止めることなどできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が立ち去ってから俺は床に膝をついて顔を伏せていた。

 

何も言い返せなかった。

俺があの警官達と同じ、子供を殺そうとするような奴等と?

 

背中を寒気がはしる。

それが間を置かず形容しがたい怒りへと変わり、それを吐き出すように床へ拳を叩きつけた。

長年放置されたアスファルトの床には小石なども転がり皮膚を破り血が滲むが気にならない。

 

チクショウがッ!

俺は何のために民警になったんだよ!?

 

かつて木更さんと語り合った民警―――夢見ていたのは助けを求める市民を颯爽と助ける正義のヒーロー。

 

それが何だ、守る?

ただ目の前で子供が虐殺されそうになるのをただ見ていただけじゃねぇかッ!!

どう、どうすりゃよかったんだよ?

ガストレアを倒すだけじゃ駄目なのか。

俺が、俺程度が足掻いても何も変わらないのかよッ!

 

 

 

 

――呪われた少女達は虐げられる。

 

 

――東京エリアで人が死ぬ。

 

 

 

 

 

今もそしてこれからも何年、何十年、どれだけ経っても変わらない世界の残酷さ。

かつて夢見たことは所詮ガキの理想(えそらごと)、叶うことはない。

 

「なら俺は一体何を、何のために……」

 

突然、入り口付近から足音が聞こえすぐに振り向く。

そこにいたのは延珠だった。

 

「延珠っ、お前何しに来たんだよ。帰れって言っただろうが」

 

「妾も言い過ぎたと思ってな……それより大丈夫か蓮太郎? 顔色が悪いではないか」

 

「大丈夫だ。……さっきの子供も生きてるぞ、どっか行っちまったけどな」

 

「それは良かった」

 

でも、と言いながら延珠は俺の傍らに寄ってきた。

 

「今はそれよりも蓮太郎のことだ。何があったのだ」

 

「なんでもねぇって、何時もと同じ不景気な面してんだろ」

 

「いいや、今日はいつもの数倍不景気そうだ」

 

「ひでぇなおい」

 

「事実だからな」

 

先ほどの起こっていることを忘れ俺を元気にさせようと軽口をたたく延珠。

しかしその瞳の奥には確かに俺の事を心配する色が見え隠れしていた。

その顔はとても優しげな様をしていた、つい本心を吐露してしまいたくなるほどに。

 

「……なあ延珠、俺達は何のために戦ってるのかな」

 

「むう、急にどうしたのだ?」

 

「いや分かんなくなっちまったんだよな、俺達がガストレアを倒して何か変わるのか、何を目指してガストレアを倒しているのか」

 

とても延珠のような小さい子に話すようなことではない。

先ほどの天誅仮面との会話で変になったのかもしれないな。

 

「悪ぃ延珠、やっぱり何でも――「なんだ、蓮太郎はそんなことで悩んでいたのか」――え?」

 

延珠は何を言っているんだと言わんばかりの表情でこちらを見ていた。

 

「な、何って……延珠、お前は分かんのかよ」

 

「分からんっ」

 

何を言っているんだコイツは、とこめかみを押さえる。

 

「お前なあ……こっちは真面目に考、え…て……」

 

顔をあげるとそこには真剣な表情をした延珠がいた。

 

「分からなくてよいではないか」

 

「……どういうことだよ」

 

「蓮太郎は難しいことばかり考え過ぎだ」

 

「難しいこと?」

 

「妾達がガストレアを倒すことで死んでしまうかもしれなかった人達を助けられる。そこに理由なんてない、前に蓮太郎が自分で言っていたのではないか」

 

……俺が自分で?

 

「自分で語ったことを忘れるとは蓮太郎はお馬鹿さんだな!まだ妾達が会って間もない頃、妾が蓮太郎に何故民警をやっているのか尋ねた時だ」

 

かつて延珠に聞かれたその問い、次第にあの時交わした言葉を思い出す。

 

 

 

 

――なあ、蓮太郎はなんで民警をやっておるのだ?

 

――何で、か……色々あるけど。やっぱ人助けのためだと思う。民警ってのは俺の中じゃ正義の味方だからな。

 

――正義……人助け。で、でもガストレアを倒しても誰も感謝などしてくれないではないか。

 

――こほん、延珠くん。一つ教えておいてやろう。これは正義の味方の必須条件だぞ。一つ、決して諦めない。二つ、人に優しくする。そして三つ、対価を求めない、だ。

 

――必須、条件……正義のヒーローの………ッ! カッコいい、カッコいいぞ蓮太郎!! 蓮太郎は街の平和を守るヒーローだったのだな!!

 

――ま、まぁな、任せとけって。

 

 

 

 

「そう、か……俺は」

 

「納得したか、蓮太郎?」

 

「……ああ」

 

両足でしっかりとアスファルトの床を踏みしめて立ち上がり両手で頬を思いっきり叩く。

 

「っ~~!」

 

手を怪我したことを完全に忘れていたので頬と手でダブルの痛みを受け思わず呻く。

だがそれで完全に眼が覚めた。

 

「うしっ、復活」

 

「おかえり蓮太郎」

 

「ああ。ていうか延珠、俺ってそんなに分かりやすかったか?」

 

「いいや、妾だからすぐ分かったのだぞ、妾は蓮太郎のフィアンセだからな」

 

「……うっせぇよ」

 

「ふふん、少し元気になったか」

 

「延珠」

 

「ん、なんだ?」

 

「……ありがとよ」

 

「何を言っておる。元々蓮太郎が言ったのだぞ、妾達は相棒だと、相棒は支え合う者だと。それに――」

 

延珠が突然、言葉を切ったので不思議に思いそちらを見ると、延珠はこちらに満面の笑みを浮かべていた。

 

「何度も言っておるだろう。蓮太郎は妾のフィアンセ、夫を支えるのは妻の役目だからな」

 

その笑顔は不思議と俺の胸に染みわたり、いつの間にか俺の目尻には涙が、口元は弧を描いていた。

 

「……ありがとよ延珠。ったく、ほんとにお前は俺のイニシエーター(最高の家族)だよ」

 

「なっ!」

 

キランッ―――延珠の瞳が赤く輝き一瞬で蓮太郎を押し倒す。

 

「今のはプロポーズか!プロポーズに決まっておるよな!!」

 

「はっ、馬鹿、ちげぇよ」

 

「いいや妾は確かに聞いたぞ、蓮太郎は妾の事を花嫁(最高の家族)と言ったであろう」

 

「いやいや意味合いが違うだろ!!」

 

「いーや駄目だ。もう決定だ!!」

 

「ふざけんな!」

 

その後も軽口を叩きあいながらもゆっくりと家路へとついた。

既に蓮太郎達の間にわだかまりはなくその後ろ姿は本当に楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮太郎と延珠の歩くその背後のそう遠くない廃墟と化したビルの屋上、そこの外周部分の塀に足を掛け二人の姿を見下ろす人影がいた。

燕尾服を着てマスクをつけたその長身の男の後ろには小さな少女が両の手を背後に吊るす小太刀に掛けながら立っていた。

 

「パパァ、どうして行かないの? あいつら行っちゃうよ」

 

我慢できない、そういう思いが前面に滲み出た声で小比奈と呼ばれる少女はそう言った。

 

「いや……今回はやめておこう、小比奈」

 

蛭子影胤はそんな娘の言葉を無視し動きを止めさせる。

 

「うぅ、なんでェ? あのちっちゃいの斬りたい」

 

「その機会ならいずれ訪れるさ、必ずね。今は一時でも彼らに偽りの平穏を楽しませてあげようではないか、ふふふ」

 

あの二人にこれから訪れるだろう未来を考え思わず口からは笑い声が漏れる。

 

「さてさて里見くん、その時、君はその甘ったれた考えを残していられるかな」

 

それはあたかも旧知の友に掛けるかのような気安さすら込められていた。

しかし仮面の下の口元はこれから二人を待つ困難を面白がるように嫌らしく歪められていた。

 

「よく、分かんない」

 

「気にすることはないさ、私と小比奈には既に関係のないことだよ」

 

さて、と……、片足を一歩前に踏み出し両足で外周に異様なバランス感覚をもって立つ。

小比奈もそれを見て影胤の隣に移動する。

 

「次はもう一組のほうに行くことにしようか、小比奈もあちらの方が楽しみだろう」

 

「赤マフラーと銀髪っ!!」

 

口元は大きく三日月形に歪み眼には狂喜の色が浮かんでいる。

 

「くくく、では行こうか」

 

「はァい、パパ」

 

二人はビルから飛び降り外周区の廃墟の群れの中に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~外周部某所~

 

周囲に人影はなく辺りは既に暗く、月と星ぼしの明かりを頼りにしなくては何も見えぬ暗闇の中、一人佇むのは黒い外套を羽織り赤マフラーを首に巻きつけた男、鉄災斗。

唐突に一人の姿が何もなかったはずの陰から照らし出された。

 

「くっくっく、待たせたな、我が闇の眷族よ」

 

マントをなびかせながら災斗の方に歩いてくるのは、まさしく先ほど蓮太郎と遭遇していた天誅仮面。

後ろをその陰に隠れるようにして少女がつき従っていた。

 

「……風祢(かざね)?」

 

驚いた様子もなく災斗は一人の少女の名前を口にした。

 

「ああ、如何にも、我が風祢だ。今宵も我と汝の盟約を果たしてきたぞ」

 

「助かる」

 

「なぁに、構わんさ。血の盟約は何よりも重視されなければならんからな」

 

災斗の視線は風祢と呼ばれた天誅仮面の背後にいる少女に向けられていた。

 

「……その娘?」

 

「ん、ああ……その通りだ。ほら前へ来るがいい」

 

しかし少女は何かを恐れるように前へ出てこようとはしない。

 

「どうした幼子、はやく前へと進むのだ」

 

しかし少女の足が踏み出されることはない。

 

このような事態に陥るのは珍しいことではない、むしろ毎度の事である。

今まで今回のように少女達と会ったことは決して少ない数ではなくそれこそ3桁には確実に及んでいる。

しかしそれでも彼と共に暮らす少女達の数は到底それには及ばない。

 

何故か?

 

理由は単純明快、少女達が災斗のことを受け入れないからだ。

いくら説明しても、説得しても受け入れることが出来ない少女達はどんなことをしてもそのままだ。

幼い頃の子供は周囲を見て、起こった出来事を覚え自分の中で善悪など含めた全ての価値観を形成していくのだ。

裏切られ、虐げられ、ぞんざいに扱われてきた彼女達がどうなるかなど考えるまでもない。

結果として災斗を今まで自分達を迫害してきた者達と同じと思いこみ、断定し彼に忌避感を覚える少女達は少なくない。

むしろ災斗を受け入れることのできる稀有な少女達が彼と共に暮らしているのだ。

 

だからこそ、この雰囲気を和らげるため一工夫挟む必要がある。

 

「……風祢」

 

「何だ」

 

「……仮面取って」

 

「ん? ああ、そうだったな。すっかり忘れていたよ、しかしこの仮面は既に我の血肉の一つ、仕方ないことだと知れ」

 

そう言うと仮面を取り外し彼女の素顔が晒される。

上空から降り注ぐ星光と月光を浴びて淡い青色の髪が煌めき、瞳は先ほどの口調に似合う吊り眼。

どこか気の強そうな、しかし気品を感じさせる表情をしている。

 

 

しかし一変―――少女の顔はそのままに口元に笑みは浮かぶ、そうすると気の強そうな印象だけが完全に消え去り今度はどこか飄々としような雰囲気に変わった。

 

「いやー、ごめんにごめんに。素で忘れてたよぉ、風祢ちゃん、大失敗」

 

先ほどまでの高圧的な口調が消えて先ほどとは到底似つかぬ言葉遣い。

これには背後の少女も驚いたのか、口をあけて瞠目する。

 

「……風祢、二重人格」

 

「ぶっぶー!違うもんねぇ。これは演技、え・ん・ぎだからね。天才的な私が役柄を演じきってるだけなんだからね~♪」

 

「えっと、あの、その……」

 

いつの間にか近寄っていた災斗は少女の前で膝を折り声をかける。

 

「……名前、聞いていい?」

 

「えっ、う、うん。ミコト……です」

 

「……ミコト」

 

災斗はポンとミコトの頭の上に手を置く。

 

「え、あの……?」

 

「……大丈夫」

 

「ふぇ?」

 

「……もう大丈夫」

 

「な、なにを?」

 

本来ならまだ親に甘えていても不思議ではない幼い少女が一人で味方もない世界を生き抜いてきた。

その辛さは当人達以外の者の理解が及ばないほどのものどあっただろう。

 

「もう心配ない」

 

故にまずそれを癒す切っ掛けをつくる。

 

「もう一人じゃない」

 

傷ついた少女達の大きな傷を癒す第一歩を。

 

「俺に……任せろ」

 

ミコトは口許を一文字にして何かを恐れるように、何かを望むように口を開く。

 

「……あ、あたしは……本当に」

 

ミコトの頭に置かれた手が壊れ物に触れるように優しく左右に動かされる。

頭を撫でられるミコトは小さく嗚咽し始め、すぐに堰を切ったように大声で泣き叫ぶ。

災斗の胸元に寄ってしがみつき、過去の辛いこと、苦しいこと、その全てを洗い流すようにミコトは泣き叫び続けた。

 

 

 

 

四半刻ほど経ちミコトは少し落ち着いた様子で災斗に謝罪をした。

 

「ぐすっ……あ、あのごめん……なさい。服汚して」

 

「……気にするな」

 

ミコトの涙を受け止めた災斗の外套は確かに広く濡れていた。

しかし元々の色が黒ということ、時間が夜ということでそれほどまでに目立つものではなかった。

 

「さっすが災斗さんっ!幼女を慰めることに関して他の追随を許しませんねぇ、イェイ!」

 

「……ん」

 

ハイタッチをした後、再びミコトへと向き直る。

 

「さって~とっ、私的にミコにゃんはOKな感じたと思うんですけどねぇ、どうでしょ?」

 

「み、ミコにゃん?」

 

「イエスっ!ミコにゃん的には私たちと暮らすの大丈夫な感じぃ? 災斗さんは全然大丈夫っぽいし♪」

 

「さ、災斗さんって言うんですか……?」

 

少し頬を赤らめながら上目遣いに災斗へと視線を向けるミコト。

 

「……鉄災斗、よろしく」

 

「よ、よろしく……ですっ!」

 

「あ~りゃりゃ、な~んかラブいオーラが漏れてるんじゃないのぉ?」

 

「え、ち、違う! あたしは別に…そんな、こと……」

 

ゴニョゴニョと口ごもるミコト、どう考えてもアレである。

 

「ま、私は別にいーけどねぇ。それよりさぁ、一つ聞きたいんだけど……」

 

先程までのふざけた様子を完璧に隠し真剣にミコトとむきあう。

ミコトもそれを見て真面目な顔をする。

 

「貴方は私たちと一緒に来たい?」

 

「うん」

 

即断、一瞬の間もなくそれに答える。

それを受け風祢は破顔してミコトに抱きつく。

 

「おー!ミコにゃん信じてたぞぉ!!」

 

「わわわ!?」

 

「……家族」

 

「家族………ほんとに……?」

 

「ホントもホントぉ、大マジですよぉ。それともミコにゃんは家族とか……嫌かな?」

 

少し不安そうな表情でそう尋ねる。

ミコトは慌ててそれを否定した。

 

「ち、ちがうっ!あたしの、あたしの方こそよろ――よろしく……ですっ!」

 

「やたーっ!なら早速他の家族にも挨拶しにいっちゃおう!」

 

「う、うん」

 

「大丈夫大丈夫っ、みんな好い人だからさぁ。ね、災斗さん♪……ん、災斗さん?」

 

ミコトに抱きついた風祢がホームへと歩き出そうとし、しかし動こうとしない俺を振り返る。

 

「……先行ってて」

 

「むー、なんか用事ですか。せっかく久し振りに一緒だと思ったのに!」

 

「……すぐ行くから」

 

「しょーがないなぁ、よし、では行くぞ、リトルデーモンよ」

 

「りとる……でーもん? 何それ?」

 

「小悪魔ってこと。抱きついて泣いて上目遣いとか、狙ってるでしょ!」

 

「狙、う?」

 

「わお♪ミコにゃんも天然ちゃんかぁ、うちには天然小悪魔ガール多いなあ。災斗さんも大変だに」

 

「ね、小悪魔ってどうゆうこと?」

 

「のんのん、知らなくていいっす。その方が強力だしね♪」

 

楽しそうに話しながら二人は災斗から離れていった。

災斗はその様子を見えなくなるまでしっかりと見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

誰もいなくなった廃墟、俺はそこに一人立っていた。

 

 

とりあえずミコたん救出は完了(コンプリート)、か。

 

アニメの二話で見た警官に撃たれる少女――ミコたん、じゃなくてミコト――そう言うらしい彼女のことを知った俺はそれを防ぐべく行動していた。

具体的にはさっき会った風祢たん、ウチのホームの中でも能力的に合った彼女に街中での見回りを頼んでいた。

風祢たんはモデル・バットのイニシエーター。

超音波を出しその反響を把握することで例え暗闇の中でも周囲の状況を完璧に把握できるし、コウモリを手懐けて使役することすら可能だ。

しかも色濃くコウモリの遺伝子を受け継いだ風祢たんは……ゴクリ、な、なんと―――。

 

 

羽生えてるんだよぉッ!!

 

 

お、おい、お前ら分かるか、この感動が(震え声)

ちょっと長い犬歯に羽根、そして俺の用意したゴスロリ服……もう完璧にロリ吸血鬼やん。

マジでこれ、なんて奇跡なん?

……こういう時に実感するんだよね……俺この世界きてよかったわ、って。

……あ、やべ。

なんかちょっと涙出てきてん……最近嬉しすぎて涙もろいねん。

 

ぐずっ……ゴシゴシ。

いやっ、今はそれより早く目的を果たさねばな!

 

風祢たんとミコたん、あの二人を先に行かせた、その目的。

何を隠そう、それこそが俺の今日の第二目標。

 

懐に手を入れソレを出す。

 

そう、それは―――

 

 

 

 

 

 

――――同人誌(男のバイブル)

 

 

 

 

『天誅ガールズ~怪人たちの復讐劇~』

 

内容としてはタイトル通り敵方に天誅ガールズが報復されるというものでこんなご時世でも変わらず愛を忘れずにいた大人気ライター・マンホール少女サンの渾身の作品。

これを買いに行くために何とかギンたん達を誤魔化し深夜、キャスケット帽を眼深に被りグラサン、マスク装備でどらのあなに買いに行ったのだ。

 

 

ん?

何のためにこれを買いに行ったのか、だって?

 

ゴホンっ……ま、まあ、紳士諸君なら分かってくれるだろウッ。

それに俺って何気にさ……ロリ系の同人誌は初体験なんだよね、ちょっとドキドキするぅっ♪

 

肩を回して関節を和らげ準備運動をして、軽く息を吐き呼吸を整える。

 

 

ふぅ……さ~ってとぉ行くよ~?

 

周囲をもう一度見回す。

 

ほんっとぉに行っちゃうぜよ?

 

念のためにもう一度辺りを確認。

 

ほんとのほんとに行くんだからねッ!?

 

 

……周囲に気配はない、と思う。

いや一応、ね……もしロリ美少女達に見られたら自殺もんだからね。

 

 

さて……んじゃ行っきまぁすッ(頂きまぁすッ!)!!!

 

遂に俺の指が表紙へと触れた。

 

 

 

 

ペラッ。

 

――ドキドキ

 

 

ペラペラッ。

 

――ドキドキ

 

 

ペラペラペラッ。

 

……?

 

 

ペラペラペラペラペラペラペラッ!!!

 

……

 

 

 

ちょオマッ…これ……。

 

 

 

 

 

――――――全年齢対象版じゃねぇかっ!!!!!!

 

 

 

……な、なんて失態だァ。

 

マンホール少女サンの作品はもちろんのこと絵も素晴らしいが、なによりも読み手を惹きつけるその描写に需要がある。

つまり結構一般人にも読み手がいるのだ――それ故に作られた全年齢対象版。

 

え、どうすんの!?

どうすんのよ、これ!?

 

悶々としたどこに放てばいいのか知れぬ俺のリビドーだけが体内を駆け巡り続ける。

 

全年齢対象版と分かった今、もうここでこの本を読む意味は無くなってしまった……つまりだ、俺は家に帰らなければいけないのだよ―――この状態で。

やばい、やばいお……過去最高級にヤバス!!

 

ぐるぐると歩き続けていると一周回って最早イライラすらしてきてしまった。

 

ぐぬぬぬっ。

や、やばいっ、このまま帰ったらギンたん達に心配かけちまう可能性大!!

クソっ、どうしたらいいのだ!?

 

人のストレスの解消法、それこそ無数にある、その中で今ここでできる選択肢は……。

 

 

 

A.叫ぶ

 

B.叫ぶ

 

C.叫ぶ

 

 

 

選択肢が実質一つじゃねぇか!?

いや、確かにこの辺りは外周区、付近に少女達の住むマンホールもないよ……でもさ、さすがにそれはねぇ。

なに、今さら俺に羞恥心なんてあるのかって?

もちのロンロン、あるもある、むしろ俺はベスト・オブ・シャイボーイに選ばれるほどの羞恥心を持っていると言っても過言ではない。

もう少しマシなのplease!!

 

 

 

A.奇声をあげる

 

B.とりあえず警察署に吶喊する

 

C.切除

 

 

 

うん、とりあえず3つ目のナニを切除するのかは置いといて。

選択肢の難易度さらに上がってんじゃねぇか!!

おま、2つ目とか実際やったら即逮捕だからね!?

頼む、もっと俺に優しい素晴らしいヤツを……。

 

 

A.叫べ

 

 

なるほど、命令ですか。

ノロノロしてないで、さっさとしろと?

……はいはい、分かりましたよ……叫べばいいんだろ。

ったく、これならさっき二人についていきゃよかったわ。

あーあー、ミコたんテラカワユスだったし………あ。

 

……そういや、さっきミコたんが俺に抱きついて泣いたから外套が濡れてるなぁ……。

 

 

 

……………………………………………………… 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

………………えっ、あ、いや別にね、だから何ってわけじゃないのよっ(汗)

ホントにただ濡れちゃったからどうしようかなぁと思って!

………で、でもさぁコレ俺のだしぃ、べつにどうしようとお、俺の勝手だよねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴクリッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――自重しろ

 

瞬間、恐ろしい程の、嵐かと紛うほどの暴風が俺の身体を襲った。

 

なっ―――いきなり何が!?

 

近場にあった風化し脆くなっていた建物が幾つか風の猛威に耐えきれず吹き飛ぶ。

俺の身体が吹き飛ばされないように懐から小さなストラップ、”かみさまの槍”を取り出す。

それに力を込めるとストラップが巨大化し一つの槍になった。

それを地面へと突き立て態勢を維持する―――必要もなく俺を中心としてつむじ風のように回っている。

幸いな事に中心の俺に風の勢いなどほとんど影響はなく、風事態もどんどん弱まり間を置かず完全に収まった。

 

……な、なんだったんだよ、いきなり?

あれほどの暴風が、しかも俺を中心に突発的に吹くなんて明らかにおかしい。

てかあの声って、かみさまだよな。

なにを――ッゥ――――!!!

 

恐ろしい見解に達した俺は急いで外套に触れる。

 

 

 

 

――――か、乾いてる……だとっ!!

 

ちょ待てやあ゛!

テメェ、ゴラぁっ、かみさまコラァ!!

どうゆうこったぁ、俺の夢ぶち壊しやがってよぉッ!!

この責任は一体どうつけてくれるんですかねェ、ァァんッ?

 

空に向かってメンチきってるとピラピラと上空から一枚の紙が降ってくる。

 

あ?

んだ、これ?

 

 

『死ね』

 

 

アイツゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

ケンカ売ってやがる、あの野郎ッ!!!

 

俺は空を射殺す勢いで見上げるが空では変わらず星ぼしが輝いている。

どれだけ空を眺めていても何も起きないままだ。

 

ごらあ゛出てこいや、てめェっ!!

ケツから手突っ込んで奥歯ひっこ抜いたらァッ!!

 

怒りのままに手に持ったランスを地面へと叩きつける。

それでも怒りは収まらずもう叫んだろか、そう考えた瞬間。

ジャリッ、砂を踏む音が俺の耳に届き急いでそちらを向く。

そこに立つのはフリル上の黒いワンピースを来た美ロリ・小比奈たん+仮面おじさん。

 

こ、小比奈たんッ!?

 

「……そんなものもあるのか……驚いたよ」

 

マスクがそう呟くのを俺の聴覚は聞き逃さなかった。

そして奴の視線が向く先は俺の、足元?

ッ―――!?

 

そこにあるのはバラバラになって散っている同人誌。

しかも丁度最初の方にあるちょっと際どいカラー立ち絵だ。

 

み、見られたぁあああああああああああっ!!!!

 

そしてマスクの背後に立つ小比奈たん、その目は純真無垢に輝いていた。

この後の展開が俺には……分かる。

 

 

『んー? なにアレぇ? ねえパパァ、あれはどうして女の子の服破れてるのォ?』

 

『なになに……ああ、アレはね、ちょっとエッチなお兄さん達が買う御本だからなんだよ』

 

『へぇ~、じゃああの赤マフラーのお兄さんもえっちなんだね♪』

 

『ああ、変態って呼んであげてごらん、きっと喜ぶよ』

 

『へん…たい……って呼べばいいの? 分かった、ヘンターイ!お兄さんのヘンターイッ!!』

 

 

ありがとうございます、むしろご褒美です、hshs!!

 

 

―――じゃなくて!!

ロ、ロリに見られた……ううっ、うえっ。

 

もう小比奈たんの好感度など恐ろしくて確認できない……絶対嫌われたやん。

いやでも、ロリは他にもいるから気に、気になんて……するに決まってるやろがぁあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!

 

俺は目の前で起きた現実から逃避するように暗い空へと跳びたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄災斗が去った後の外周区、そこには蛭子影胤とその娘、小比奈が立っていた。

影胤は顔をすっぽりと覆う仮面で表情を伺うことが出来ない、しかし隣の小比奈は嬉しそうにニコニコしている。

 

「パパぁ!すごいッすごいよアイツ!」

 

影胤の立つ場所、その周囲には広範囲にわたり建物の倒壊する様子が広がっていた。

作り出したのは鉄災斗。

 

 

 

最初に私達を襲ったのは暴風。

イマジナリー・ギミックを発動させた私達にそれが届くことはなかったが周囲の建物など容易に吹き飛んでいく。

そしてそれが終わった時、唯一痕のない中心部、その場所に立っている彼、手にはいつの間に手にしたのか一つの槍を持っている。

 

「……出てこい」

 

気付かれていたのか!?

 

私達が行動を起こす前に彼はおもむろに地面へと槍を突き立てた。

それほど力を込めた様子のないその一突きで地面には全方位に向かって亀裂が走っていく。

明らかに人間レベルではない異常なほどの腕力。

 

「彼も、まさか……私と同じ新人類創造計画の……」

 

天童菊之丞に探ってもらった彼の過去にそのような情報はなかった筈だ。

しかしだ、可能性の一つとしては有り得なくはない。

 

鉄災斗、彼の過去は謎に包まれている。

それこそ初めて私と出会った時、それまでの事が一切分からないのだ。

出身、家族、年齢、それこそ名前すら真実なのか分からない。

 

そう考えているとふと背後に立つ小比奈が声を出した。

 

「パパぁ、赤マフラーこっち見てるよ?」

 

実際に鉄災斗に視線を向けるとそこにはこちらを凝視している彼の姿があった。

 

ッ――いつの間に場所にまで気付れたんだ!?

いや、まさか……。

 

足元へと目を向けるとそこにはこちらにまで地面に亀裂の跡が伸びていた。

 

まさか、振動の伝わり方の僅かな違和感を把握したとでも言うのか!?

そうだとすれば意味の分からなかった彼の槍を地面へ突き立てる行動にも納得がいく。

 

……場所がバレているならこのままここにいても仕方ないか。

 

私達は彼の方へと足を進めた。

 

「……そんな技術(もの)もあるのか……驚いたよ」

 

彼はこちらを表情を変えることなくただ見ている。

しばらく睨みあう状態が続いたが、彼は視線を切ると凄まじい跳躍で姿を消した。

 

今回の目的は簡単にいえば勧誘、そしてそれが叶わないならば戦うことになるだろう今の彼の実力を試すつもりで来ていた。

 

「強いっ!あんな奴見たことないよ、パパ!」

 

今までにない程に小比奈の表情が輝いている。

かつて出会ったことのない強敵にその闘争本能が刺激されているのだろう。

 

「ふふふ、そうだなァやはり彼は強い、他者と比べることすら失礼な程の別格だ」

 

人間なのかすら疑がってしまう恐ろしい戦闘力。

そしておそらく未だ隠し持っている能力。

 

……彼を計画の生き残りと言ったのはあながち外れていないのかもしれないな。

彼は強い、敵にまわしたらこちらが不利なのは明白、だがそれと同時に戦いたいという思いも強く胸に残っていた。

 

私らしくもなく体の奥底から燃えるような感情が湧きでてくる。

いや、これが本来の私なのか。

久しく出会うことのなかった強敵、自分の命を賭けた本当の戦い。

 

「……くくく、ふぅあははハハははっ。イィっ!やはり君は素晴らしいよ!」

 

今すぐ追いかけて死力を尽くして戦いたい。

そして勝って彼を殺したい。

 

だが、と自分の感情を理性によって抑えつける。

 

今、すべきことはそうではない。

私がいま求めているのはこの安寧な世界の崩壊、それが叶えば迎えるであろう混沌と暴虐の世界で必然的に彼とは相対することになるだろう。

ならば無理にリスクを負う必要などないだろう。

 

「なるほど、君の意思は理解したよ、鉄くん。あくまで私の手を取る気はないと……」

 

彼の話し合いの姿勢を見せない、あたかも示威的な攻撃の数々。

それが言葉よりも雄弁に彼の気持ちを代弁していた。

 

影胤と小比奈を覆う様に発動されるイマジナリー・ギミック、それが一気に広範囲に広がっていく。

何もかも、建物も地面も範囲内にある物全てを押し出し弾きだす。

その広さは既に災斗の壊した建物すらも含まれ、それでもなお更に広がり続け留まる事を知らない。

 

「ひひ、ひひひ。とても、とても楽しみだよ……キミとの殺し合い(ゲーム)はね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




出てきた奴の詳しい説明。


1.ミコトに近付いたときの動き。

無音高速移動(ジェントル・クリープ)

108の奥義の一つ。

相手に気付かれないうちにその周囲に移動することができる。
※なお、ロリ限定であり、通常技として使用することはできない。


2.かみさまの災斗に与えた特典

”かみさまの槍”
黒い槍のストラップ状態がデフォ。
災斗のあるモノ(皆さんお分かりのアレです!)に比例してその姿を変える。



しっかり確認してないので誤字脱字あると思います。
もし見つけたら報告してもらえるとすっごく助かります( T人T )


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第八話 葛藤

本当に遅れて申し訳ない。

今回もノリで駆け抜けた感が否めないっす!

でも楽しんで読んでもらえるとうれしいです。



 

 

 

 

 

 

犯罪者の子は犯罪者か?

 

 

この問いに俺は否と答えたい。

 

 

 

犯罪者を作るのは周囲の環境だ。

無論、それだけが全てと言う訳ではない。

最初からある種の異常性を兼ね備え周囲に馴染むことが出来ない変異種とも言うべき者も確かに存在する。

 

 

しかしどうだろう。

小さいころから「犯罪者の血を受け継いでいる」などと言われまともに育つことなどできるのか?

 

 

周囲から陰口を言われた時、貴方はどう思う?

いい気分はしないだろう、しかし耐えられない程ではない。

――割り切れる、無視できる、許容できる。

 

 

なら子供だったらどうか。

精神的にまだ不安定で見える世界が狭い彼ら、彼女らはどう感じる?

――追いつめられる、逃げ道を探す。

 

 

家族、友達などに頼る、それを選べたならばいい。

だがその中から選べず死、あるいは狂うことを選んでしまったら――。

 

 

もし選択肢を間違えていれば貴方はこの世界に存在していなかったのかもしれない。

もし選択肢を間違えていれば貴方は今の貴方ではなかったかもしれない。

 

 

 

 

貴方の前にもし傷ついている人がいるのなら手を差し伸べてほしい。

それは別の選択肢を選んだ貴方だったかもしれないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、藍原延珠は賑わう街を一人、黙々と歩いていた。

俯く彼女の表情にいつも見せている眩しい位の笑みは微塵もなかった。

ふと歩みを止め一つの店に顔を向ける。

そこは昨日、蓮太郎と訪れたおもちゃ屋。

 

……昨日、妾に助けを求めた少女に手を差し伸べられなかった場所。

 

その事を考えるだけで暗い気持ちが胸の奥からわき出てくる。

だが今はそれ以上に一つの出来事が彼女を傷つけていた。

それは学校で自分が呪われた少女達だという事が発覚したということだ。

どこからその話が漏れたのかは分からない。

ただ事実として延珠の秘密にしていた事がクラスのみんなに知られていた。

おそらく明日には学校の全員にその事が知れ渡っているだろう。

 

行く宛もなく彷徨うように歩き続けていても何も考えないでいれば思いだされるのは今朝の学校でのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝いつものように自転車で学校へ向かい途中で蓮太郎と分かれ、妾は学校へと向かった。

唯一違ったのは毎日校門で妾を待っていてくれているはずの舞ちゃんがそこにいなかったことだろうか。

今思えば理由など簡単に分かるがその時の妾は用事でもあったのだろうと思い一人で中へと入っていった。

靴を脱ぎ下駄箱に仕舞い、上靴に履き替える。

何百回と繰り返した何時もと同じ慣れた動作。

そこからは二階にある妾たちの教室へ向かうだけ。

しかしそこでは感じる違和感。

 

 

 

 

――教室が驚くほど静かだ

 

 

 

 

いつもであれば元気に遊ぶ男子たちの声やおしゃべりする女子たちの声が少なからず聞こえてきていたはずだ。

しかしそんな和気藹々とし雰囲気は欠片もなく、どこか張りつめた雰囲気すらもその扉から感じる。

何か釈然としない違和感を抱きながら妾は教室のドアを開けた。

 

「みんなおはようっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無言。

 

 

 

 

一言の声もなくただ妾を三十人を超える男女の冷たい視線のみが妾を射抜いていた。

思わず気圧され、しかし笑顔で問いかけた。

 

「み、みんなどうしたのだ? 様子がおかしいぞ」

 

しかし誰も何の反応も返さない。

ただ見ているだけ。

 

「っ!みんな一体どうしたというのだっ!?」

 

そう叫ぶと一人の男子がこちらに近寄ってきた。

 

「な、なあ藍原、お前って……」

 

何かを躊躇う様に言葉を切る。

そして決心したような表情をしてこちらに問いかけた。

 

 

 

 

「……お前って呪われた少女なのかよ」

 

 

 

 

頭を鈍器で殴られたような衝撃が妾を襲った。

男子は頭を掻いてから引き攣った笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「な、な~んて……ははっ冗談だよな」

 

「わ、妾は……」

 

答えられない。

そんなの嘘だ、そう答えるだけでいいはずなのに言葉が口から出てこない。

 

 

 

だってそうであろう?

 

もし嘘だと言ってしまえば妾は自分で自分の存在を否定しているようではないか。

 

 

 

「お、おいっ、嘘だろ? 嘘って言えよ」

 

何も答えない妾に戸惑いが伝播して広がっていく。

 

「お、おいマジかよ」「ウソだろ!?」「でも否定してねぇぞ!」「ば……化け物っ」「あいつガストレアだったのか!?」

 

「違うっ!妾はガストレアなんかじゃない!!」

 

「じゃ、じゃあ俺達と同じ人間なのかよ!赤眼じゃねぇのかよっ!?」

 

妾は、人間だ。

でも確かに赤眼――呪われた少女でもある。

その事実が妾に答えさせることを渋らせた。

 

その間にもクラスメイトのざわめきがどんどん大きくなっていく。

それに焦った妾は急いで何かを喋ろうとした。

 

「で、でもっ!妾は、妾はみんなのことを――」

 

その途中、一番遠い、教室の奥に舞ちゃんの姿を見つけた。

 

「ま、舞ちゃ―――」

 

最後まで喋ることは出来なかった。

舞ちゃんは妾が声をかける前、目があった瞬間クラスメイト達の背後に隠れたのだ。

 

「な、なんで……ま、いちゃ、ん……」

 

後に残るのは妾を非難するクラスメイト達。

敵意の目を向ける者、怯える目を向ける者、中には泣き叫ぶ者すらもいる。

かつて笑いかけてくれたクラスメイト、その姿は既に欠片もない。

その様子はまるで人間がガストレアと相対した時の様だった。

 

耐えきれず妾はクラスの外へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出せば涙が目の端からこぼれ落ちる。

拳を力の限り握りしめ歯を食い縛る。

 

「わら、妾は……何故っ、こんなっ……っ!」

 

溢れそうになる涙を拭い再び、しかし今度は急ぎ足で歩き始める。

何処かへ行くという確固たる目的はなかった。

ただ足は学校とは反対方向へと向かっていく。

 

 

 

歩く。

 

――クラスメイト達に化け物と呼ばれた――

 

 

 

あるくあるく。

 

――クラスメイト達に向けられた視線に籠っていた殺意――

 

 

 

アルクアルクアルク。

 

――妾から身を隠す寸前、舞ちゃんの目に宿っていたあの感情は――

 

 

 

噛み締めた唇からは血が流れ落ち、強すぎる握力で握りしめた手のひらからも血が溢れた、しかし今はそれすら気にならず脇目もふらず駆け出す。

 

 

 

蓮太郎は民警だ、ヒーローだ、人間だ。

 

 

なら妾は?

 

妾も民警だ、みんなを守るヒーローのつもりだった……でも人間か?

 

 

プロモーターは言う、(イニシエーター)は道具だと。

大人は言う、(呪われた少女達)は化け物だと。

クラスメイトは言う、(藍原延珠)はガストレアだと。

 

 

 

 

道具?

化け物?

ガストレア?

 

 

 

妾は何なのだ?

 

人間ではないのか?

 

人間ではない別の何かなのか?

 

なら、なら何のために妾は――

 

 

 

下を向いていたせいですれ違う人と方がぶつかった。

見るとそこにいたのは蓮太郎より大分年上らしき男だった。

スーツを着ていて髪には白髪が混じっている。

 

「っ!危ないだろ、気をなさいっ!」

 

「……ごめん、なさい」

 

俯いた顔で途切れ途切れにそう答えた。

 

「ふん、まったく最近の子供は――」

 

長々と説教のような話を続ける。

しかし妾の耳には何も入ってこない。

 

「おいっ!聞いているのか!?」

 

「…………」

 

更に怒鳴ろうとして男は周囲の視線に気付いた。

まだ幼い少女を怒鳴ってその少女が顔を俯かせている。

その事実に周囲の人が向ける感情など明白だ。

 

「っ――次からはしっかりと前を見て歩きなさい!」

 

そう言い残し男は去って行った。

周囲の人達が何人か妾に近付いてきた。

 

「大丈夫?」「怪我はしていないかい」「まったくなんて奴だっ」

 

こちらを心配して優しい言葉を掛けてくれる。

お礼を一言述べる、そのために口を開こうとした妾の脳裏に昨日の光景がフラッシュバックした。

 

「この化け物がぁっ!」「いなくなれガストレアめっ!」「もっとやれっ!!」

 

背中に寒気がはしり指が震える。

今、この人たちに妾が呪われた少女たちだと暴露したら、妾が呪われた少女達だという事実を知ったらどのような視線を向けるのだろう。

 

何もしゃべらない延珠の様子を心配した一人が声を掛ける。

 

「? 本当に大丈夫かい?」

 

優しい。

どこまでも善意に満ちたその言葉。

 

「――うむ!大丈夫だ、助けてくれてありがとうっ」

 

妾はそれに笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りに集まっていた人の集団から抜け出した妾の足は自然と一般人の住む居住エリアを避けて外周区の方へと向かっていた。

 

人は無意識に自分の居やすい安心できる場所に帰る、という言葉を聞いたことがある。

 

……あのアパートに帰れない今、自分にとっての安心できる場所とはここのことなのだな。

 

そんな事を考えつつも人の声もせず何も気にしなくていいこの場所をどこか懐かしく思っている自分を確かに感じる。

 

ポツンと頬に冷たいものが触れた。

空を見れば自分の気持ちと同じように空がどんよりと曇っていた。

 

……もうすぐ雨が降るのかもしれぬな。

 

そんなことを頭の片隅で考えて、どうでもいいな、とすぐに無視した。

いまはとにかく一人になりたい。

 

しかしそんな延珠の思いを裏切るように目の前に人の気配を感じた。

先ほどのような事を避けるため身を逸らす―――が腕を強い力で掴まれた。

見るとそこにいたのは蓮太郎と同じくらいの男だった。

破けたジーンズにサングラス、ピアスや指輪、如何にも柄の悪そうな男だ。

 

「ちょっと待ちなよ」

 

「……なにかようか」

 

延珠の姿をじっくりとみた男は嫌な笑いをを浮かべた。

 

「結構可愛いじゃん」

 

「…………」

 

「君、こんなとこで一人で何やってんのさ?」

 

「妾は……」

 

答える事も出来ず口ごもる。

 

「ふーん。まあいいや、今暇でしょ? 一緒に遊ばない」

 

「……いやだ」

 

「えー、いいじゃん、遊ぼうよっ」

 

「放、してっ」

 

「まあまあ、いいから来なって」

 

ただの一般人、普段なら余裕で振り払える。

しかし何故か今は体に力が入らなかった。

 

「大丈夫だって、きっと楽しいからさ」

 

嫌……イヤっ!!

誰か、誰か助けてっ!

 

 

 

 

―――――――――――蓮太郎っ!!!!

 

 

 

 

「放――せっ!!」

 

「んッ――んだテメェ!痛っ」

 

男の手が妾から離れる。

そこに立つ蓮太郎の姿を思い描いて急いで顔を上げるとそこに立っていたのは――。

 

「……嫌がってる」

 

先日何度も出会ったプロモーター、鉄災斗だった。

男の腕をしっかりと掴んでいる。

 

「何だよ、テメェ!放せや」

 

男は腕を強く振るがそれにびくともせずがっちりつかんで離さない。

 

「つっ――放せ、や!」

 

離れない鉄災斗に痺れを切らした男が殴るが平然としており特に怪我を負った様子はない。

逆に腕を掴まれた男が声をあげた。

 

「いて、いてぇっ!おい、やめろ!折れる!折れるって!」

 

こちらにも骨の軋む嫌な音が聞こえてきた。

 

「わ、分かった!分かったから!もう近寄らねぇっ、だから!」

 

鉄災斗は手を離すと男を睨みつけ言った。

 

「……二度目はない」

 

何も言い返さず男はよろけながら逃げていった。

それを見届けると鉄災斗はこちらを振り返った。 

中腰になり妾に視線を合わせる。

 

「大丈夫?」

 

思わずその視線から逃れるように俯いた。

こやつもプロモーターとはいえ妾とは違ってただの人間。

そう考えると目を合わせることすらも躊躇われた。

 

「助けてもらってその態度とは、実に礼儀知らずですね」

 

「おぬしは……」

 

鉄災斗とは別の声の主、その方向に顔を向けるとそこにはイニシエーター、銀丹といわれていた少女がいた。

 

「……別に、いい」

 

「さすがマスター!なんてお優しい」

 

目をキラキラと輝かせながら鉄災斗を見据える。

が、こちらを向いた途端無表情に変わった。

 

「で、貴方はこんな所で何してるんですか」

 

あまりの豹変ぶりに驚き呆然としていたがその言葉で今朝の事を思い出して表情を曇らせる。

 

「それは……」

 

と、その時首筋に冷たいものが当たった。

空を見上げるとポツポツと雨が降ってきておりそれが次第に強まっている。

 

「とりあえず場所を変えましょうか?」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

マンホールの中へ梯子をつたって下りた時、妾は本当に驚いた。

そこにあったのがとても下水道とは思えない場所だったからだ。

壁は確かに剥き出しのコンクリートだが汚れはなく不潔には見えず床にはカーペットが敷いてある。

下手をすれば妾の住んでいるアパートよりも綺麗に見えた。

 

「……凄い」

 

「私達の暮らす生活拠点です」

 

「な、なんでこんなに綺麗なのだ」

 

「ああ、それは――」

 

銀丹から聞いた話を簡単にまとめるとここは最初単なる下水道だったそうだ。

そこを鉄災斗がこんな所で子供を暮らさせる訳にはいかないと改築増築魔改造。

外周区なんて既に廃棄されたようなものだろうと部屋を増やしたり家具を持ち込んだりなどなどetc……で今に至る、と。

 

「正直、こんな所まだまだ序の口。奥はもっとすごいですよ」

 

誉められたことを嬉しく思ったのか表情が和らぎ少し誇るようなどや顔を浮かべながらそう言う。

 

「序の、口……」

 

すまん蓮太郎、明らかに妾たちのアパートより格上だ。

 

「こっちですよ」

 

「ああ、ありがとう――えと」

 

「ん、名乗るのを忘れていましたね。既に何度か顔を合わせましたが、銀丹といいます。ギンと呼んでください」

 

「鉄災斗……災斗でいい」

 

「分かったぞ、ギン、災斗。妾は延珠、藍原延珠だ」

 

「それで先ほどの――」

 

ギンが言葉を発しようとした時、トテトテと可愛い足音が通路の奥から聞こえてきた。

ひょこひょこと二つの似た顔がこちらを覗く。

そしてこちらの姿を確認すると目を輝かせダッと駆けだして災斗に抱きつく。

 

「今帰りました、シロ、クロ」

 

「おかえりーおにーちゃん、ギンねーちゃん!」

 

「おかえりー!」

 

「……ただいま」

 

災斗が二人の少女の頭を撫でると二人が気持ちよさそうに目を細めた。

そしてパッと突然こちらを向いた。

 

「おねえちゃんだれー?」

 

「だれー?」

 

「わ、妾は延珠だ」

 

「延珠、おねーちゃん?」

 

「おねーちゃん、あたらしい家族?」

 

「い、いや妾は家族ではなく」

 

「……ちがうの?」

 

「家族じゃ、ない?」

 

ウルウルと目を潤ませ延珠を見つめる。

それに焦ったように手をわせわせと動かして述べる。

 

「い、いや!家族!そう妾も家族だ!」

 

それを聞いた二人はパッと泣き顔を消し笑顔で延珠に抱きつく。

 

「やったーおねーちゃん!」

 

「おねーちゃん!」

 

おねーちゃんなどと呼ばれるのは初めてで照れくさくて少し頬が赤くなっているのを自覚しながらも優しく抱き返す。

 

「さすがですね……天然の年上キラー」

 

「……純粋なだけ」

 

かなり騒いでいたのでその音に気付いたらしい紫色の髪の少女がこちらに来た。

 

「どうしたんだ、何を騒いで……って、おい濡れてるじゃないか。すぐタオルを持ってくる」

 

こちらの様子を見るとすぐに踵を返していった。

 

「このままでは風邪をひいてしまいますしね、行きましょう」

 

その言葉に従い5人で奥へと進む。

角を曲がり見た光景に再び唖然とした。

中央にひかれた白いカーペット、大きいテーブルにソファ、薄型の液晶テレビ、奥にはキッチンまでもがあるように見受けられる。

軽く見ただけで扉が4つはあり、奥にまだ部屋があるのだろう。

 

スマン、蓮太郎。

比べることすらおこがましかったようだ。

 

「スゴい、な……」

 

「当然です。マスターに出来ないことはないのですから」

 

マスターに……そういえば。

 

「おぬしがやったのか……一人で?」

 

「ん」

 

災斗の方を見ればやや誇らしげにこちらにVサイン。

正直かなり凄い。

 

「タオル持ってきたぞ」

 

一つの扉が開きそこから出てきた先程の少女にタオルを手渡される。

 

「あ、ありがとう、妾は延珠だ」

 

「ん、延珠だな、わかった。私は椿だ、よろしく頼む」

 

笑みを浮かべながらこちらに片手を差し出す。

それを握り返す。

 

……蓮太郎や木更よりもずっとしっかりしてそうだな。

 

「それより椿、他のみんなはどこですか? 姿が見えないようですが」

 

まだ他にも人がいるらしい。

かなりの大人数で生活していることに少し驚いた。

 

「いろははそこのソファで寝ている」

 

テレビの前のソファを指さしてそう言う。

位置的に丁度背もたれ部分が壁になっておりそこにいるのかは分からない。

 

「花音は別室で勉強をしていたぞ。杏、伽耶、風祢、ミコトは別室でゲームをしていたな」

 

「長老、それにマリアと青葉はどうしましたか?」

 

「マリア、青葉は松崎さんと共に外出している。もうすぐ戻るはずだ」

 

「そうですか、なら紹介は後回しでいいですね」

 

「ああ、みんな集まってからでいいだろう。それよりお前らは風呂に行ってこい。思ったよりも濡れているしそのままでは風邪をひく」

 

「確かにそうかもしれませんね……そうしましょう、マスターはどうしますか」

 

顎に手を添えて少し悩んだあと、災斗の方を振り向いた。

 

「……いい、の」

 

「な、だ、だめだぞ!妾は蓮太郎のフィアンセ!夫以外に体を見せるわけにはいかん!!」

 

顔を赤くしてそう叫ぶと回りの者達が皆、動きを止め驚いたように妾を見た。

そしてすぐに笑いだす。

 

「冗談です。マスターはそんなデリカシーの無いことはしません。ね、マスター」

 

「……も、ちろん」

 

「……そうか、ならばよいのだ」

 

「おにーちゃんはくろとはいろーね♪」

 

「しろも!しろもはいるの!」

 

「な…なら私が背中を流そう」

 

「それはダメです」

 

「なぜだ!?」

 

「倫理的な観点から見て椿とマスターが共にお風呂に入ることは認めかねます」

 

「む~!いつもギンおねーちゃんばっかりいっしょ、ズルい!」

 

「ズルいー!」

 

「シロとクロはギリギリセーフです」

 

「つばきおねーちゃんもいっしょがいい!」

 

「かわいそう!」

 

頬を膨らませ椿の両サイドからギンを責めたてる。

大して恐くない小動物が精一杯威嚇しているような厳格すら見えるそれはより一層二人の可愛らしさに拍車を掛けている。

 

「で、ですが、それはさすがに―――「くしゅんっ」」

 

ギンが反論のために言葉をつなごうとした時、小さなくしゃみの音がそれを遮った。

 

みんなの視線がくしゃみをした妾に向けられる。

それを意識して恥ずかしくなって顔を赤らめた。

 

「……この件については後ほど」

 

「……悪いが今回は譲れないぞ」

 

ギンと椿が目線を合わせ二人の間、丁度その中間で火花が散ったような気がした。

だがすぐ視線を切るとギンは妾の手を掴み先ほど椿が出てきた部屋へと連れて行く。

中に入ってみると、どうやら脱衣所のようだった。

 

「服はそちらに入れてください」

 

部屋の隅にあるかごをさしそう言い放った後、自分の服に手を掛けて脱ぎ始める。

 

「うむ、分かったぞ」

 

それに続き妾も自分の服を脱ぎかごへと入れた。

ギンの後に続き更に奥にある扉をくぐる。

 

「風呂は普通なのだな」

 

「マスターがお風呂はこれがいいと言ったので。背中お流ししますよ」

 

椅子に座らされ身体を洗われる。

その間、無言。

お互いに一言も発することはない。

 

「お湯、かけますよ」

 

「うむ」

 

温かいものが背中を通り床へと流れ落ちる。

 

「先に入っていてください」

 

ギンが背中を流すのを横目に風呂へと入り口元までお湯の中へと身を沈めた。

湯気の中、薄眼で未だ身体を洗っているギンを見る。

シミ一つない真っ白な肌にサラサラの綺麗な銀髪。

 

……ギンは綺麗だなぁ。

 

妾の知っている女の中でも一、二を争うほどに綺麗だと思う。

きっと将来はもっと綺麗になるのだろうな。

 

そして、とジッと視線をある一点に集中させる。

 

ッ!や、やはり妾より大きい!?

何故だ、妾も毎日牛乳飲んでるのに―――!?

 

「……」

 

くっ、やはり遺伝という奴なのだろうか。

妾はもうダメなのか!?

 

「……ゅ」

 

っ……やはり恥を忍んで聞くしかないのか……。

 

「延珠?」

 

「むっぁ!!な、なんだどうしたのだ!?」

 

突然の呼びかけに驚き浴槽の中でバタついてしまう。

いつの間にかギンも中へと入ってきていて隣で座っていた。

 

「いえ、何度か呼びかけはしたのですが。反応が無かったので」

 

「そ、そうだったのか、それはすまなかった」

 

大丈夫、まだ未来は分からない。

”果報は寝て待て”と言うし可能性を信じよう。

 

「それで、そろそろ聞いてもいいですか」

 

「聞く?」

 

「先ほどのことです」

 

先ほどのこと、その言葉を聞いた途端延珠の表情が曇った。

急に変わっていく状況の変換に忘れていたかった今朝の出来ごとを思い出す。

 

「それ、は……」

 

「……何か言い辛いことですか」

 

無言で頷く延珠、その隠しきれない悲痛さを見たギンは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言いたくないなら別にいいです。興味もないですし」

 

変わらぬ表情で斬り捨てた。

 

「なっ!? き、気にならぬのか」

 

「正直どうでもいいです。延珠とも1,2度あっただけですし」

 

まさかの切り返しにおもわずポカンとする延珠。

しかしその心中には微かな安心感があった。

確かに冷たい物言いだと思う。

でもだからこそ同情もなく、嘘もなく心から話を聞いてくれるのではないか、と。

 

「……聞いてもいいか?」

 

「答えられる事なら」

 

ギンは妾と同じイニシエーター、呪われた少女達。

 

「……ギンは自分が何なのか考えたことはないか?」

 

「呪われた少女達の一人です」

 

「なら!なら呪われた少女達とは何だ!」

 

「ガストレア因子を――「違う!そうではない……そうでは、ないんだ」」

 

「…………」

 

「妾達は今までたくさんの人達に生きていることを、この世界にいることを否定されてきた」

 

昔、理不尽な現実に世界の全てを憎んでいた。

でも蓮太郎と出会って世界が色を変えた。

妾が一人の女の子として、普通に生きていられないのは分かっている。

でも、もしかしたら民警として、イニシエーターとしてみんなを守っていれば妾はいいのかもしれないと思ったんだ。

 

 

 

 

学校に(友達と)いていいと!

 

 

一人じゃなくて(みんなと笑っていて)いいと!

 

 

―――でも違った!!!

 

 

 

 

「妾はどうすればいい!?」

 

あのときのクラスメイトの言葉、今まで今までしてきたことの全てが否定された気がした。

お前が認められることはないと。

 

「妾は何なんだ」

 

 

 

 

妾は人間。

 

 

妾はガストレア。

 

 

どちらが正しいのだ。

 

 

 

 

「妾は何のために!?」

 

助けていたと思っていた人々から向けられる視線に……あの時舞ちゃんの瞳に宿っていた感情に揺らぐ。

妾の抱いていた希望(ねがい)が簡単に崩れていく。

 

「――っ妾はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知りません」

 

しかし妾のそんな葛藤をギンは再び一言で斬って捨てた。

 

「っ!?」

 

「まず私達は呪われた少女達の一人であり、ガストレアでも人間でもありません」

 

「でも!それは周りの者たちが!」

 

「どうでもいいです」

 

「な?」

 

「他の奴らなんてどうでもいいから気になりません」

 

冷たい視線が妾を射抜く。

 

「そもそも、何故あなたは周りを気にするんですか?」

 

「それは……」

 

問われて咄嗟には答えられなかった。

 

「私にはそもそもそれが分からない。どうでもよくはないですか周りの奴らなんて、それこそ生きていようが、死んでいようが」

 

「そんな、そんなのはダメだ!」

 

「何故?」

 

「だって生きているのだぞ? 死んでいいなんておかしいに決まっているだろう!」

 

「……あなたはとても優しいですね、理解できない程に」

 

何を思ったのか目を伏せてそう呟く。

掌を上げ指の隙間から流れるお湯を眺めた後、もう一度こちらに視線を向けた。

 

「ですが受け入れてください現実を。全ての人間達が私達を受け入れてくれるわけではないことを」

 

「っ――でも……・それでも妾はクラスのみんなのことを、舞ちゃんのことをっ!わ、わらわは!」

 

「人間は誰もが優しい訳ではありません、あなたはそれを知っているでしょう? 藍原延珠」

 

 

 

 

そうして思い出されるのは蓮太郎と出会う前、殺意と悪意の渦巻いた世界。

 

 

存在を否定されて罵声と暴力を浴びせられた日々。

 

 

 

 

なら妾は……間違っていたのか?

無理だったのか、所詮無駄なことだったのか?

 

 

 

知らず目尻には涙が溜まっていた。

唇を一文字に結び悲しみに耐える延珠、しかしそこに光明差し込めたのもまたギンだった。

ですが、と言葉を繋げる。

 

「諦めるかどうかはあなた次第です」

 

「え?」

 

「私は確かに周りに興味はありません。ですがあなたがどうしたいかは私の関与する所ではありません」

 

呆けた顔で延珠は顔を上げた。

ギンの妾を見る視線は相変わらず冷ややかな色を宿し、しかしそれに温かさのようなものが見えた気がした。

 

「何があったのかはハッキリとは分かりませんが大体の察しはつきます。それを踏まえた上で言うならおすすめはしません。私達と人間は確かに交わることが出来ないわけではない。ですが何度も言うようにそれは全ての人とではない、むしろ限られた、ごく僅かな人々です」

 

「……知っている」

 

妾にとっての里見蓮太郎。

ギンにとっての鉄災斗。

 

「私は人間でもない私を、私達を受け入れてくれた優しいマスター、災斗様を……ここに住む私の大切な家族を守りたい。だから家族を傷つける者は許さないし許せない」

 

「……家族、だけ」

 

「はい、家族だけ。それ以上望む気もないし必要もない」

 

「…………」

 

「それ以上望めばそれすらも壊れるかもしれません。それでもあなたは諦めませんか」

 

「妾は――」

 

蓮太郎、家族、失いたくない者。

それが壊れる。

考えるだけで身体が震える。

恐い、怖い、でも――。

 

「諦めたくない……信じたい、友達を、妾は信じたい!」

 

「そう、ですか。なら止めることはしませんよ」

 

「……うむ。妾も覚悟が決まったぞ!」

 

立ちあがり拳を握りしめて大声を出す。

 

「妾は絶対、また舞ちゃんと友達になってみせるぞ!!」

 

そういって笑う延珠、その手をギンが引っ張り再び浴槽へと沈めた。

 

「わっ、ぷっ!な、何をするのだギン!?」

 

ギンは黙って妾の背中に手を回して妾の身体を抱きしめた。

 

「あの、ギン?」

 

何もしゃべらないギンに少し恥ずかしく感じながら恐る恐る声を掛ける。

 

「そんな痛々しい笑みされたらあなたの大事な人が辛いですよ」

 

「……バレバレか?」

 

「バレバレすぎです。微塵も隠れてないし、むしろ隠す気あるんですか? やる気あります?」

 

「そ、そんなにか」

 

「はい、だから……今は泣いていいです」

 

「でも、妾はさっき頑張ると――」

 

「だから今、今だけです。ここを出たらまた笑ってください」

 

「……泣いても、いいのか」

 

「はい」

 

心のうちに何処に行くでもなく溜まったこの想い。

心を傷つける鋭い棘。

 

この痛みに耐える、とそう決意させたのはギンなのに。

その矢先にこれか。

 

「ひどいな」

 

「そうですね」

 

先程興味ないといったばかりなのに妾の事をこんなにも気にかけてくれる。

妾が悲しみに押し潰されないように。

 

「やさしいぞ……ギンは」

 

「そう……ですか」

 

「……うむっ」

 

 

――絶えず妾を傷つけようとする『世界』の残酷さ

 

 

癒すために、覚悟を決めるために思い出したくない過去を噛みしめながら妾は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

男、鉄災斗ただいま人生の岐路に立っておりまする。

 

 

「マスターはどうしますか」

 

泣いてた延珠たんをキャプチャーして家に連れ込み――ゲフゲフ、家に保護してきた俺達。

会話の流れを見守っていた俺にまさかのギンたんからの一緒にお風呂入りませんか宣言。

 

 

YESorNO!?

 

 

どっちにするんだ、俺!?

 

 

 

 

選択肢『YES』

 

 

「行きます!!!」

 

「え? ま、まさか妾達と一緒にお風呂入りたいんですか? ロリコンだなっ!!」

 

「……私もさすがに災斗さんの人格を疑わずにはいれないな」

 

「そんな、マスター……信じていたのに」

 

 

 

BAD END

 

 

 

 

 

選択肢『NO』

 

 

「いや……悪いが淑女の裸を見るわけにはいかぬ」

 

「……鉄災斗……かっこいいぞ、ぽっ」

 

「災斗さん……やはり素敵だ、ぽっ」

 

「マスター大好きです!」

 

 

 

HAPPY END

 

 

 

 

ここまでの思考時間コンマ一秒。

 

……うむ、やはりここは紳士として断っておくか。

そして最後に訪れるのは美少女との結婚END……ぐふ、ぐふふふ。

 

あーコホンっ、悪いが、今回は―――「いい、の」

 

 

く、口が自立稼働した……だと!?

理性が欲望に負けたかっ!

 

い、いや言っちゃったもんは仕方ねぇ。

このまま突っ走るぜ!!

 

 

……うん、でもちょっと待って。

実際「いい、の」ってどうよ。

ちょい今のきょどってなかったすかね?

キモいとか思われてへん?

 

 

「な、だ、だめだぞ!妾は蓮太郎のフィアンセ!夫以外に体を見せるわけにはいかん!!」

 

 

里見蓮太郎コロス。

アイツマサカ延珠タントオフロイッショニハイッタリトカシテンジャ……。

 

ハッ!

 

イヤ待て!!

ダークサイドに堕ちるな、俺!

俺も今から延珠たんとお風呂をトゥギャザーできるんだから……デュフフフ。

うん、そうだそうだ、よく考えてみれば最高じゃないのよ~。

これなんてご褒美ww

マジでかみさまあざーすww

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談です。マスターはそんなデリカシーの無いことはしません。ね、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カ  ミ  ハ  シ  ン  ダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……も、ちろん(震え声)」

 

あまりの仕打ちに俺が肩を落としているとシロたんとクロたんが俺の両サイドに組み付いた。

 

「おにーちゃんはくろとはいろーね♪」

 

「しろも!しろもはいるの!」

 

「な…なら私は背中を流さそう」

 

無邪気なクロたんとシロたん、それに顔を赤らめ恥ずかしがってる椿たんの発言。

 

おふ――ろ?

美少女三人と?

一緒にキャッキャウフフ?

おふ、ろ……。

 

 

 

 

 

〓〓〓 Imagine time 〓〓〓

 

 

 

 

純白の泡が浴槽から飛び出し辺りを白く染め上げる、正にそれは無垢なるキャンパス。

 

そしてそのキャンパスを彩る二人の少女。

華奢で小柄なその体躯は触れば壊れそうなほど繊細で保護欲を掻きたてる。

 

「おにーちゃん……くろが洗ってあげるねっ」

 

「しろはぁ~、こっちっ」

 

こちらに近づいてきたことで二人の姿がさらにはっきりと目に映った。

何やら何時もとは様子が違い二人の細められた瞳からは驚くほどの色香が漂っていた。

思わず後退した俺を逃がさんと俺の両腕に跳びついた。

両の手にそれぞれの指が絡まり滑るように移動していく。

それが二の腕に達した辺りで俺はくすぐったい感覚を感じ思わず声を漏らした。

 

「ふふ……おにーちゃんかわいい♪」

 

「もっと洗ってあげるね」

 

何故か上手い二人の洗い方(テクニック)に翻弄されていると背後の戸口が開く音がした。

背後を振り返ろうとして、しかしそれよりもはやく背中に衝撃を感じた。

災斗は反射的に身を強張らせるが背中に触れるのは決して俺を傷つけるものでなくむしろ温かく柔らかいものだった。

 

「……災斗さん、お背中お流しします」

 

声の主、それは椿だった。

それを確認し身体の硬直が解れ―――ずにむしろどんどん緊張していく。

 

俺の背中、それを包み込むように触れるソレは……ま、まさか!?

 

そう認識してしまえばこの極上シチュで俺の妄想力が留まる筈もない。

 

高まる体温。

 

早まる心音。

 

そして無慈悲にも最後の一撃が降り下ろされた。

 

 

 

「災斗さんの……大きい(背中的な意味で)」

 

 

 

 

 

 

臨・界・点・突・破!!!!!

 

 

 

 

 

 

ブボォッ!!

や、やばい!!

オ、おフロオフロお風呂オフロおふろお風呂お風呂オフロお風呂オフロお風呂オフロおふろオフロオフロお風呂オフロおふろオフロおふろお風呂ぉっっっっ!!!!!

 

バーサーク状態に成りかけた己を鋼の理性で押し止め何とか意識を取り戻す。

 

フシュッー……!フシュッー……!

ん……あ、あれ?

いつの間にやら俺の両手の花が消えている。

 

見れば椿の両サイドにシロたんとクロたんが抱きついていた。

 

……あ(察し)

やっぱ……あれなのかな……。

オカン(椿たん)>オトン(俺)みたいなのがあるのかな。

いつかは「災斗くさ~い」とか「キモッ、死ね」とか言われたり……。

 

思わずそんな未来を幻視して血の気が失せる。

 

 

もしそうなったら……うん、死のうか……。

 

などと考えていると何やら向こうは話が終わったらしい。

 

「……もういいの」

 

「ああ、もう大丈夫だ。決戦は持ち越しだ」

 

……決戦?

なんぞそれ?

 

「……そう」

 

「ああ、私は今のうちに食事の準備をしてしまうことにするよ」

 

「しろもてつだうー!」

 

「くろも!くろもてつだうのー!」

 

とりあえず相づちをうった俺はそうして離れていく三人の姿を眺めていた。

そしてその姿が扉の向こうへと消えたのを確認し和やかだった自分を完全にシャットアウトして意識を切り替えた。

 

 

こっからは油断なんてもんは許されねぇ。

全力全開……本気の本気だ。

甘い冗談などもはや許されぬ。

 

 

 

 

―――――それは一世一代の大勝負(ギャンブル)

 

 

 

 

降りるなんて選択肢は最初(はな)からない。

 

 

賭け金は俺自身。

 

ん?

自分を賭けるのにそんな簡単に決めていいのかって?

 

確かに何もしなければ身を焦がすことはねぇ。

でもよ……自分から動き――「災斗ぉ~」

 

ビクンッ!!

 

突然の声にキョドり思わず跳びはねる。

そして振り返りソファーの上で半身を起こすいろはたんを視界内におさめた。

 

瞬間移動――そう見紛う程の高速でいろはたんの前に移動する。

 

 

目は――半開き。

口元に――涎あり。

結論――かわええ――じゃなくて!半寝状態です。

 

だが、今はまずい。

寝ていてくれ!!

 

身体を優しく出来る限り自然に横倒しにする。

そして完全に横になった瞬間、いろはが再び声を発した。

 

「災斗ぉ」

 

 

ビクンッ!!

 

 

「……汗、臭い」

 

 

 

 

 

 

……………動きっ―グスっ、ださなきゃっ――ッ――なんも手にはいらねぇんだぁっ!

〈ゴシゴシ〉……財宝も、栄誉も、愛も、手に入れる奴は自分から動く奴なんだよ。

俺は後悔したくねぇ、後悔しても遅ぇんだよ!!!

……スン…だから、さ……俺は行くよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覗きにィナァっっっっ(やけくそ気味)!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジッ―――こちらス●ーク、ミッションを遂行中。

現在は脱衣所前にて待機しています。

 

木製のドアに耳を押し付け中の音を探る。

 

「風呂は普通なのだな」

 

「マスターはお風呂はこれがいいと言ったので」

 

Ah? 

なぜ風呂場を大きくしなかったかって?

AHAHA!!そんなの決まってるじゃないか……一緒に入った時、温泉スケールじゃ密着できないからに決まってるだろ(真顔)

 

 

俺はギンたん達が風呂場に入っていった音を聞き、万機を期すため数分経ったのを確認した後、中に侵入した。

まず、目についたのは脱衣した衣服達。

 

 

――いや!!待て、さすがにこれはダメだろ!?

 

悪魔『ケケケッ、なぁ~に言ってやがる。今さらだろ、ちょっと進むだけじゃねぇか』

 

――いや、でも……これはさすがに……。

 

悪魔『おいおいおいおいっ!ここまで来てまさかブルっちゃったんですかぁ? いいからやれって、ほらぁ、ホラホラぁ』

 

 

くっ!俺の中の悪魔が俺に悪事をしろとっ!

助けてぇっ、天使さぁーん、俺の心の中の天使さぁーん!!!

 

 

天使(893)『…………』

 

――え?

 

悪魔『え?』

 

 

現れたのは右のこめかみから右目を経由し頬までに裂傷痕を持った黒髪オールバックのスーツおじさんだった。

厳ついその顔は明らかに一般人ではなくヤーの人だ。

ただ頭についた黄色い輪っかがめちゃシュール。

 

 

――あ、あの……。

 

天使(893)『ヤレ』

 

――はい?

 

天使(893)『ガキ共のパンツ持って部屋行け』

 

――いや、あの……それは。

 

悪魔『あの……俺もさすがにそれはやりすぎ、ってゆーか……ハハッ』

 

天使(893)『ア ァ゛?』

 

悪魔『すいませんっした!!!おいヤレ!早く持っていけや!!』

 

――テメェッ……。

 

天使(893)『おい、早くヤレ』

 

 

そう命じられる俺。

半端ない威圧感に思わず首を縦に振りそうになるのを耐える。

 

 

裏切る?

ギンたんを?

延珠たんを?

 

 

見たくないのか?

見たい見たい。

でも――

 

 

――それでも……それでも俺は裏切りたくない!!

 

天使(893)『……はっ、青臭ぇな……でも少し昔を思い出したぜ』

 

――っ

 

天使(893)『いけ、お前はお前の道を』

 

――………ハイッ!!!……ぺっ

 

 

ファーザーと情熱的なやり取りをした俺は悪魔に唾を吐きかけてから風呂への扉の前に仁王立ちした。

一枚の扉越しに聞こえる水音……この中にギンたんと延珠たんが……ハァハァっ……!

 

などとハっちゃけているとなかから真面目な声音が聞こえてきた。

 

「……ギンは自分が何なのか考えたことはないか?」

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

 

……。

 

 

その言葉を皮切りに聞こえてきたのはこの世界で残酷に生きることを強いられた少女の慟哭。

 

 

 

生きていていいのか、と。

 

何のために生きればいいのか、と。

 

本来なら子供が考えることも、必要もないことを泣きながら語りだす。

 

 

 

…………。

 

……うん、まあ……とりあえず延珠ちゃん優しすぎるね。

俺だったらむしろブチギレて暴走してますわ。

てゆ~かぁ、ギンたんの説教がナイスすぎるぅ!

イケメンすぎだゼ!!

そ・れ・にっ、裸で抱き合う幼女見てぇ―――――――――――っ!!!!

 

 

 

「あれ? おにーさん」

 

はいごにマリアがあらわれた。

 

「なにしてるんですので?」

 

こちらのようすをうかがっている。

 

「……た、タオルを取りに」

 

くっ、これでイケるか?

頼む頼む―――頼むっ!!

 

「おお、そういえば頭がビッショリですので!」

 

とぅるるっとぅんとぅーん!!

NICE SAFEッ!!!!!!

 

あれ?

というかマリアたんは何しにここへ?

 

「マリアは?」

 

「えっとー、わたしは延珠? という娘にせーはんざいしゃが来たと伝えようと思ったんですので」

 

ん、ああ。

蓮太郎、来たのか。

そっかそっか、来たか来たか。

 

「おにーさん?」

 

何やらマリアが不思議そうな表情でこちらを見ていた。

その頭にポンと手を置いて優しく撫でる。

 

「延珠には言わなくていい」

 

そう言うと返答を待たず俺は扉を開け蓮太郎がいるであろう通路へと向かった。

次第に声が聞こえはじめたどり着くとそこにいたのは松崎、椿、青葉、それにシロとクロの五人。

丁度、松崎の挑発染みた発言に蓮太郎がキレて怒声が通路に響いたところだった。

 

 

「俺達の事何も分かってないお前がっ!!偉そうに語んじゃねぇっっ!!」

 

さてさてさてと、ギンには延珠を任せたし……俺の担当はこっちかね、っと。

 

五人の前に立って蓮太郎を睨み据える。

 

「……吠えんな」

 

「あぁ? っお前は……」

 

里見蓮太郎よぉ……おまえさっきから何様のつもりだよ?

さっきから自分の願望垂れ流しやがってきゃんきゃん吠えやがって。

 

「カス野郎が」

 

「っんだと?」

 

こちらを睨みつける蓮太郎に一足で近づき蹴り飛ばす。

 

「ッ――!?」

 

それを受けた蓮太郎の身体は簡単に宙を舞い梯子の辺りまで一気に吹き飛ばされる。

 

「つぅ―――お、おまえ!一体何の――」

 

「表、出ろよ」

 

 

 

 

 

 

梯子を上った地上、そこでは激しく雨が降っていた。

身体が濡れるのすら気にせずに俺達は睨みあう。

少し離れた位置にいる松崎達は動くことなく、事態を静観するようだった。

睨みあいを続ける俺達、最初にその口火を切ったのは蓮太郎だった。

 

「で……てめぇはいきなり何のつもりだよ」

 

こちらを睨みつけそう言い放つ。

声には隠す気のない憤怒が見てとれた。

しかし全く気にならない。

むしろ俺にも気にする余裕がない。

 

 

「……お前は――」

 

俺だって脳が沸騰するんじゃないか、と思うほどの怒りを感じているんだから。

 

 

 

 

「男じゃない」

 

 

 

 

里見蓮太郎を睨み据えそう告げる。

 

「はっ、なんだよそれ、なにが言いてぇっ!」

 

「延珠は泣いてた」

 

「っ!」

 

それを聞いた蓮太郎の顔に動揺の色が浮かぶ。

 

藍原延珠の心の支柱は里見蓮太郎だ。

今さらそれを変えることは出来ない、だから俺が代わりにはなれない。

何かあればどんなことを口では言いつつも心では必ずお前を求めている。

 

「お前の役目だろ」

 

お前しかやれない、お前が自分で引き受けた責任。

 

「つぅ―――るせぇっ!うるせぇんだよ!!お前に何が、何が分かんだよ!!」

 

そう叫びつつ蓮太郎がこちらに向かって駆ける。

 

素早い動き、常人を凌駕するソレ。

しかし俺の目にはあまりにもノロい。

 

突きだした拳が―――

振り抜いた足が―――

 

どんな攻撃がどこからきても全てが空を切る。

一撃も、掠ることさえもない。

 

「うぉあああああああああああああっ!!!」

 

見えてんだよ雑魚野郎。

テメェ、揺らぎまくってんじゃねぇかよ。

内心でビビってんだろぉが、アァア゛?

 

「てめぇに、てめぇに俺達の何がッ!!」

 

見え見えだ、ボケ。

何も知らず正義だ何だとほざいておいて、実際の現実を知ったらビビって萎えてんだろ?

それで延珠のことほっぽり出して自分のことで一杯一杯てか?

手ぇ差し伸べたのはテメェじゃねぇのかよ。

 

「俺は、俺達は――!!」

 

おいおい舐めてんのか、こら。

 

「お前」

 

そんな安っぽい気持ちでテメェは『俺達の何が分かる』なんて言葉を吐いたのか。

分かってねぇのはどっちだよ。

弱いし言葉に重みもねぇし、なによりも男の矜持もねぇ。

そんなんで生きてて意味あんのか?

いや……あるわけねぇよな。

だから――。

 

 

「死ねよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■里見蓮太郎■

 

 

突きだされた拳、それを俺は咄嗟に腕をクロスさせることでブロックした。

拳は完全に阻まれ俺の身体に届かない。

 

しかし――その上から衝撃が蓮太郎の身体を貫いた。

 

「が、ハッ!」

 

たった一撃、それだけで俺の身体は限界を迎えそうになる。

地に片膝をつけ荒い息を吐く、そんな俺を待つことなく追撃が迫る。

凄まじい速度で振るわれた蹴り。

 

避けるには遅すぎる、受けるのも難しい。

 

だから蓮太郎は自分から前に踏み出し災斗の足に組みついた。

これで蹴りは当たらない。

しかし、不意に蓮太郎の身体が宙に浮いた。

 

「な!?」

 

災斗は何でもないように蓮太郎が組みついたままの状態で片足を上げた。

 

ありえねぇっ!?

俺の体重幾つあると思ってんだ!

 

そのまま足を振り抜いて蓮太郎の身体を飛ばす。

落ちた場所にあった瓦礫に身を打ちつけて悲鳴を上げる。

 

「ぐはぁっ!」

 

「…………」

 

倒れた俺を冷ややかな目で睨みつけ、そう言う目の前の男。

身長も俺より低く明らかに年下、しかしその身体能力は俺など到底及ばない。

 

「く、そが……っ!」

 

あばらが折れたのか痛む胸を押さえながら悪態をつく。

そんな俺を見る鉄の目。

その眼に宿るのは――憤怒、憐憫、そして失望。

 

 

――なんでそんな目をおまえに向けられなくちゃならねぇ!!

 

 

そう叫びたい――が歯を食いしばりそれを飲み込む。

 

「分かってるよ!!俺にだって!!」

 

知ってる、ああ知ってるさ!

 

「ああ俺が悪い。延珠のことだって俺が気にかけてやらなくちゃいけなかった!」

 

油断していた。

このまま何の問題もなく生活していられると。

延珠はこのままで大丈夫なんだと。

でも、でもよぉっ――。

 

「仕方ねぇだろ!!延珠ばかり見てられる訳じゃねぇんだっ!!」

 

 

 

 

『呪われた幼女達の現実』

 

――俺の甘さを容赦なく捻り潰された。

 

 

 

『蛭子影胤』

 

――俺が足掻いたとして、勝てるかどうかも分からない敵。

 

 

 

『七星の遺産』

 

――意味の分からない、ただこの東京エリアに災禍を巻き起こすと言われたソレ

 

 

 

こんなもんに直面して、その一つですら対処に困ってんだぞ!!

俺が、俺なんかが延珠に何ができたってんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

「……言い訳は終わった?」

 

それを聞いた鉄はこちらを馬鹿にしたように一言、そう言い放った。

明らかな挑発、何よりも事実を突かれた俺は一気に頭に血が上った。

意味不明な叫び声を上げながら目の前の男を殴ることだけ考える。

しかし俺は立つことさえ許されなかった。

 

「ッ――ぐぅ」

 

首から上が消えたんじゃないかと思うほどの衝撃を感じた後、俺はアスファルトの上にうつ伏せで横たわっていた。

 

「……惨めだな」

 

上から掛けられた声に宿るのはまたしても失望――そして憐れみ。

 

 

――もういいだろう?

 

――それ以上惨めを晒すな、終わらせてやる。

 

 

そのような幕引きでも薦めるかのようなニュアンスがそれには含まれていた。

それは合っていたのだろう、俺の頭上に厳つい黒のブーツに包まれた足が翳される。

 

死んだか?

パンチであの威力だ、踏みつぶされれば頭など簡単に潰れんだろ。

 

傷ついた身体には力が入らず、しかし冷静にそんなことを考える。

今の蓮太郎はまさしく断頭台に固定された何も出来ず死刑を待つだけの男。

 

ここで終わり、そんな最後の時に蓮太郎が考えたことは――何もしてやれなかった相棒への謝罪だった。

 

 

 

 

――悪ぃな……延珠。

 

 

 

 

そして鉄災斗の足(ギロチン)が俺へと落とされた。

しかしそれが俺へと振り下ろされる前に激しい金属音が響いた。

 

視線を上げるとそこには何時の間にやら手にした幅広の槍をかかげそれで延珠の跳び蹴りを防ぐ鉄の姿があった。

 

「え、延珠――っ!」

 

地面に足をつけた延珠は即座に俺の近くに来ると俺の身体を掴み鉄から距離を取った。

手を放されると俺の身体は崩れ落ちた。

 

「何をぼさっとしておる蓮太郎!早く立つのだ!」

 

「お前っ、なにを」

 

「妾は蓮太郎の相棒(パートナー)、蓮太郎の傍にいて何が悪い!」

 

「でも、お前……今朝の」

 

「吹っきれた」

 

「は?」

 

「もう心配はいらん。乗りきった!妾は守るだけだ、蓮太郎を、友達を!!」

 

乗りきった――自分でか?

はは……何だよそれ、俺がグダグダ悩んでたのにこいつは一人で覚悟決めたってのかよ。

 

「……ふざけんなよ」

 

それじゃ俺はホントにこいつに頼りっぱなしじゃねぇか!

コイツの方が全然、正義の味方してんじゃねぇか!!

 

 

 

 

情けなさすぎんぞ――俺っっ!!!!!

 

 

 

 

両手で頬を思い切り叩く。

延珠が驚いたようにこちらを向いてきた。

それを見つめ返し問いかける。

 

「……なあ、延珠? 俺は今回みたいにまたお前のこと見てやれねぇかもしれない……それでも俺と一緒にいてくれるか?」

 

「当たり前だ!妾は蓮太郎のフィアンセ、絶対に離れないぞ!!」

 

すぐさま、考える事もなく延珠はそう言ってこちらに満面の笑みを向けた後、胸を張って視線を鉄に向けた。

 

「災斗、お主は強い!だが蓮太郎の愛の力を得た妾はその100倍強いぞ!!」

 

自信満々にそう言い放つ。

それに思わず目が点になった。

 

っコイツ……いきなり何を言うかと思ったら――くくっ。

 

思わず笑いがこみあげてくる。

しかしそれを堪え深呼吸をする。

 

「すぅ――――ったく、しょうがねぇ、なぁっ!」

 

んな事言われて俺だけ寝てらんねぇだろうが!!

 

まだ痛みを訴える身体に鞭を打ち立ちあがる。

しかしやはりダメージの残っていた俺の身体はよろめく、が隣に立つ延珠が俺を支え何とかバランスを保った。

俺が寄りそった状態のまま二人で鉄に視線を向ける。

 

相手は明らかに強敵――でも俺たちならやれる!

 

「こっちは二人だけどよ――第二ラウンドといこうぜ!お前は俺らがぶっ飛ばす!!」

 

溢れる自信に後押しされるように笑みを作りながら俺達は鉄と向かい合った。

 

 

「…………」

 

しかし鉄は一言も発することなく俯き立っているだけ。

その静けさを断ち切るように俺達と鉄の間、そこに三人の少女が降り立った。

 

 

 

 

 

――あ、これはヤバい。

 

先ほどまで湧きでてきていた自信は掻き消えて恐怖が俺達の闘争心を塗りつぶす。

 

 

 

 

――銀髪の少女――銀丹は冷静な口調の裏に隠しきれない今にもこちらを噛み殺さんとする激しい殺意を抱きながら目の前の敵を見据えた。

 

「延珠、言いませんでしたか? 家族を傷つけるなら許さない、と」

 

 

 

 

――紫髪の少女――椿は無手ながらも抜き身の日本刀のような研ぎ澄まされた威圧感をもって目の前の敵を黙らせる。

 

「……調子に乗るなよ、おまえら。それ以上このような茶番で災斗さんを愚弄する行為を繰り返すなら叩き斬る」

 

 

 

 

――金髪の少女――青葉は今にも跳びかかりそうな荒々しいむき出しのままの怒気を目の前の敵に叩きつける。

 

「むかつく、あんたらマジむかつく。災斗のこと馬鹿にしすぎなんだけどッ!!」

 

 

 

 

駄目だ、勝てる気がしない。

かつて本気の木更さんと相対した時のような無力感。

何をしても負ける、勝てる未来(ビジョン)が浮かばない。

 

 

 

しかし、それは他ならぬ彼らの庇う鉄によって止められた。

 

「……みんなもういい」

 

「マスター、ですが」

 

「大丈夫だから……ありがとう」

 

「……分かりました」

 

「私も災斗さんがそれよいと言うのなら」

 

銀丹と椿は渋々といった体だったがそれでも言葉を聞き入れ退いた。

しかし青葉は違い、未だ腹の虫がおさまらぬと怒鳴った。

 

「絶対に無理!あいつらの為にわざわざ災斗が悪役やってあげたのは分かる。でもむかつくものはむかつくのッ!!」

 

犬歯をむき出しにして俺達を睨みつける。

三分の一になりかなり薄れた威圧感に俺達はすこし安心する。

とはいえそれでも少女は明らかに強者としての雰囲気を発していた。

 

 

戦いは避けられない――そう思った俺達の予想をまたも鉄が覆す。

 

 

膝をつき青葉に目線を合わせた災斗はその肩に手を置く。

 

「青葉……お願い」

 

「で、でも!アタシはあんたのためにッ」

 

それに少したじろいだが、しかしと言い返す。

 

「うん……だから代わり―――」

 

 

 

 

 

『一つなんでも言う事聞く』

 

 

 

 

 

瞬間、空気が凍った。

その硬直から最も早く復活したのはその提案を受けた青葉だった。

災斗の肩をがっしりと掴む返す。

 

「今のホントよね。言質取ったわよ、嘘ついたら許さないから」

 

青葉の発する先ほどとは違った別種の恐怖にコクコクと災斗は頷いた。

 

「ならいいわ、許したげる♪」

 

またしても一変―――上機嫌になった青葉は笑顔でそう言った。

しかし、それに異を唱える少女が二人。

 

「ちょ、ま、待ってください!それはおかしいです」

 

「なぜ駄々をこねた青葉の方がそんなっ!」

 

「あー!あー!うっさい、二人とも。災斗の迷惑でしょ。黙ってなさい」

 

「青葉ァ……あなた急に手の平を返してっ!」

 

「そうだ!卑怯だぞ青葉!!」

 

「はん……負け犬ほどよく吠えるわね」

 

「「つぅ――青葉ぁ!!!!」」

 

 

 

先ほどの緊張感は何処へやら、別の案件でもめ始めた三人を無視して鉄はこちらに近づいてきた。

それに身構える。

しかしその目にはもはや戦う気など欠片もなくむしろこちらを労わっているようにすら見えた。

 

「……もう手を離すな」

 

「っ!………ああ……必ずな」

 

……さっきの金髪が言ったようにやはりこいつ俺達のために。

 

「もう間違えたりしねぇよ……少なくとも延珠がいる限りな」

 

「……ならいい」

 

スッと俺の前に手が差し出される。

俺はそれに驚き、しかし思わず浮かんでしまった笑みに顔をにやけさせながらその手を掴む―――寸前。

 

「待ちなさい!!落ち着くんだ、二人とも!」

 

大声が響き、それに続き何やらシュルシュルと摩擦音が俺の背後から聞こえてきた。

 

 

「……あ」

 

目の前の鉄から聞こえた呆けた声に視線を向けると何やらその表情が青ざめているように見える。

その目線は明らかに俺の背後を見据えている。

何やらとてつもなく嫌な予感を感じながらも俺はゆっくりと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――森

 

 

 

 

 

頭が可笑しくなったわけではない。

そうとしか言い表せない光景が目の前に広がっていた。

先ほどまでアスファルトが広がり、木の一本もなかった場所にたくさんの木々が茂っている。

 

 

「んなっ―――!?」

 

その中でも一際巨大な樹木の下、その場所には複数の人影が立っていた。

 

「これはケンカでは無いですので、泣きやむんですので!」

 

「災斗くんも今は落ち着いてるから、ほら!怖くないないよ!」

 

上からマリア、松崎だ。

そしてその二人の間には同じく二人の少女が立っていた。

 

「ぐすっ、けんか、しちゃ、だめなのー!」

 

「なかよくしなきゃだめっ!」

 

涙声でそう言っているのは茶髪の小柄な少女、二人。

似たような言葉を繰り返すだけで全く周囲の言葉が耳に入っていないように見える。

そして段々と大きくなる二人の嗚咽に連動するように伸びた蔓が荒ぶりうねっている。

 

「もうダメですので!!」

 

マリアはそう言って松崎の身体を掴むと二人から離れた。

 

 

そしてその一連の流れを眺めた鉄は心なしか震えた顔でギン達を、蓮太郎は真っ青な顔で延珠を見た。

 

「……ギン、椿、青葉」

 

「……延珠、俺達はパートナーだ、信じてるぞ」

 

切実に助けを求める二人に対してそのパートナーが出した結論は――。

 

「すいませんマスター……これは自業自得だと、受け入れてください」

 

「責任は取るべきだと、思う。申し訳ない」

 

「というかさっき勝手にケンカしたあんたが悪いッ!!一遍死になさいッ!!」

 

「蓮太郎、ソレはソレ、コレはコレだ。大丈夫、妾は蓮太郎を信じている」

 

 

 

 

 

判決:有罪(ギルティ)

 

 

 

 

 

その並はずれた身体能力をフルに活用し跳びのく四人を眺めながら蓮太郎は隣にいる男に声を掛けた。

 

「……お前なら避けれんだろ? 逃げねぇのかよ」

 

俺と違い怪我もないし、何よりもコイツの身体能力なら余裕で安全圏まで逃げれるはずだ、にもかかわらず動こうとしないこの男。

 

「……避けちゃいけないだろ」

 

呟かれた言葉を聞き、そして理解して思わず笑いが漏れた。

 

「ぷっ、はは……そうだな、俺達、男だもんな」

 

「……ああ」

 

視線が重なりあい互いにココロとココロで語り合う。

 

 

 

――さっき殴り合ったばっかだけどさ……お前とは仲良くなれそうだよ

 

――奇遇だな……俺もそう思ったとこだ

 

 

 

視線を切り、二人は黒と白の方に目線を向ける。

そこには先ほどよりはるかに荒ぶる蔓のムチ。

 

 

 

――あれは痛いな

 

――確実にな

 

 

 

だがそんな心境とは裏腹に二人は手を広げあたかもそれを受け入れるように構え直す。

心なしかその顔には晴れ晴れとした笑みが浮かんでいる様に見える。

 

 

 

「「ケンカしちゃ―――っ!!」」

 

 

 

里見蓮太郎は覚悟を決めた自分自身を、受け入れてくれた相棒を裏切らないために。

 

――俺は男になったんだよ、来いっ!!!

 

 

鉄災斗はブレない。

 

――むしろご褒美ですっ!!!

 

 

 

 

「「ダメェェェ――――っ!!!!!!!」」

 

 

 

三桁に及ぶほどの蔓が二人の漢達を襲った……が、決して二人が悲鳴をあげることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後の里見蓮太郎はこう語る。

 

「鉄のパンチの百倍痛かった」

 

 

 

 

後の鉄災斗はこう語る。

 

「俺って…………M、なのかな……不思議と、嫌じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物紹介


白・黒

植物系のイニシエーター

まだ能力を上手く制御できていない。
しかし感情の高ぶりに伴い植物の異常成長や簡単な命令も可能になる。


椿、青葉については今後明かしていきます!

あと延珠の仲直りは一巻終了後に間話として書く予定ですので。


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第九話 過去

三( ゚∀゚)フッカツダー!!




ごめん調子のった。

まず最初に遅くなって申し訳なかった。
待っていてくれた方々、本当にありがとうございます。

どうぞ、お楽しください!!


 

 

 

 

 

――――人間は生まれながらに自由な生き物であり、それ故に自らを縛るものがあるなら、それは自分なのだろう

 

 

 

 

 

どういう人生を生きるのか、それを選ぶのは自分自身――そんな言葉を聞いたことがある。

 

聞いて″なるほど″と納得した。

人生において、最も優先されるのは本人の選択だろう。

ならばその選択が尊重されるかというと、実のところそうでもない。

何故なら現実はそう単純に出来ていないからだ。

現実は一つの主体で構成されている訳ではなく、人の意思、思想や社会の秩序など様々な要素が複雑に絡み合って成り立っている。

選択する事を不可能だと言っている訳ではない。

しかし、少なくとも伊熊将監という個人の選択を現実は長々と待ってはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

生まれた時、俺の身体は他の奴らと大差無かった。

しかし時が経つにつれてどんどん大きくなっていった俺は周囲から浮き始める。

極めつけには相手を睨みつけるような三白眼。

そんなヤツが世間からどういう認識を受けるかなんて考えるまでもねぇだろ?

 

 

街を歩けば不良に絡まれた。

広まる噂、級友が俺に近づいてくることはなかった。

学校で問題が起きたら一番に疑われるのは俺であり教師に謂われもない罵声を浴びせられた。

 

 

 

 

″理不尽″

 

俺の人生を表すのにこれほど相応しい言葉はないだろう。

 

 

しかし俺は殴られても抵抗はしなかったし、悪事には手を染めたことはない。

 

――今まで俺は耐えてこれたんだ、ならこれからも大丈夫だ、きっと耐え抜ける

 

そう自分に言い聞かせてきた。

道を踏み外さない、悪人にならない……しかしそれは所詮建前だったのかもしれない。

全部、結局は自分という存在を肯定するための、自分を守るための境界線(ライン)だったのかもしれない。

 

だが誇りだ何だと言って守り続けていたそれも、ぶっ壊れるのは一瞬だった。

 

 

理不尽な日常は変わることなく繰り返される。

何度も何度も繰り返され、耐えて耐えて、自分に言い聞かせて――そして限界を迎えた。

自分で定めたはずの境界線、俺はそれを踏み越えた。

 

 

 

 

 

 

学校で何か問題が起きた。

俺はその犯人候補として最有力に挙がっているらしい

 

――お前がやったんだろ!? そうなんだろ!

 

いつもと同じ、聞きあきた教師のその言葉。

違うと言えばいい。

俺じゃないと言えばいい。

そうすればこれも終わる。

 

………………終わって、どうなるんだ?

 

また繰り返すのか、これを。

これからも、この問答を、日常を、理不尽を、何度も何度も何度も何度もっ。

そんなのは……嫌だ。

 

心の中で希望を持っていたのかもしれない。

ここで否定すれば何かが変わるんじゃないかと、こんな不条理から抜け出せるんじゃないかと

所詮、幻想にすぎないそれを希望と勘違いして。

そして俺は心にした蓋をほんの少し開けてしまったんだ。

 

――俺じゃない。俺は……やってない。信じてくれ。特別なんていらない、ただ周りの奴らと同じように、なりたいんだ……

 

漏れたのは、俺の本音。

俺の―――平凡(ちっぽけ)な願い。

しかしそれに返されたのは無情な言葉だった。

 

 

――嘘つくんじゃねぇ!お前みたいなグズが真っ当に生きられる訳ねぇだろぉが!

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、よ……それは。

俺は、ただ……ただ普通に生きたいだけなんだぞ。

そんな事もっ……そんな単純な事もっ、俺には許されねぇってのかよっ!?

 

 

 

 

 

やめろ

 

 

視界が赤く染まった。

 

 

 

 

 

やめろ

 

 

握りしめた拳から血が流れた。

 

 

 

 

 

やめろ

 

 

理性が俺を押しとどめる。

 

 

 

 

 

やめ――

 

 

 

 

 

俺の中でプツンと何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば俺の拳は突き出され、目の前で倒れる教師の顔は赤く染まっていた。

集ってくる教師、響く甲高い悲鳴。

 

――ちがう……ちがう、俺はっ!俺はこんなことしたかった訳じゃ……!

 

教師に肩を強く掴まれた。

振り払えば簡単に相手の身体を吹き飛ばした。

 

――っ!今のはわざとじゃ!

 

それに思わず身体の動きがとまる。

その瞬間、右腕を、左腕を、腰を、右足を、左足を掴まれた。

引き倒されて頭を床に叩きつけられる。

脳が揺れ薄れゆく意識のなか、思う。

 

――何やってんだろうな、俺は……

 

事実として残ったのは俺が教師に暴行を振るったということだけ。

そんなレッテルの貼られた俺の言葉に耳を貸されることはなく即退学との判決が下された。

 

……なんだよこれは。なんでこんな事になってんだよっ!

 

胸中に渦巻くのは激しい怒り――そしてそれを上回る悲哀。

こんな風にしかなれなかったのか。

僅かな希望を、日常を願った結果がこれなのかよ。

 

くそっ、くそくそくそくそォォォォオオオオオ!!!!!!!

 

そんな事が起きても日常は変わることはなく、ただ俺の中の苛立ちが溜まっていった。

 

街中を歩けば絡んでくる不良。

俺を見て嘲笑を浮かべる同級生。

 

周囲で騒いでいる他人、その全てが目障りだった。

全てが、俺の周りにある全てが。

視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触角―――そこから認識される全てが腹立たしい。

 

俺を、俺をそんな目でみんじゃねぇッ!

 

今まで、耐え続けた過去の日々。

あれは何だったのだろうか。

……俺は一体、何をしていたんだろうか。

 

 

意味などなかった、俺のしてきた事は無駄だったのだ。

思い出されたのは最後に教師の言い放ったあの言葉。

 

 

 

――お前みたいなグズが真っ当に生きられる訳ねぇだろぉが!

 

 

 

ああ、なんだ。

ははははっ……そうかよ…………簡単なことじゃねぇか。

決まってたのか、そういう風に。

世界は、この世界は俺に真っ当な生き方させてやる気がなかったのか。

 

俺の中で何かの歯車がかみ合い、そして狂いだした。

 

次に絡んできた不良。

俺はそいつらの顔を何を感じることなく驚くほど自然に殴れた。

 

 

 

 

 

まず理解した。

俺の周りに現れる奴らは、俺の世界にいる人間は二種類だということを。

俺に絡んでくるクソ野郎、俺を見てビビるゴミ野郎。

 

 

そして行動した。

ムカつく奴がいるなら殴り飛ばして、欲しいものがあったなら無理矢理手に入れた。

 

理性など無視して、ただ本能のままに生きる。

そうやって生きる、それだけで俺の人生は驚くほど上手くいった。

周りには俺の強さにビビる奴らがどんどん集まっていき気づけば不良共の間じゃ名が知れわたる。

 

ははっ、なんだこれ、楽過ぎんだろ。

ただ殴ってりゃいい、耐える必要なんてない。

こっちの方が断然気持ちいだろ。

 

人を支配する優越感に浸り、人に命令される腹立たしさを感じない。

ムカつく野郎をぶん殴る快感に浸り、何かに縛られる不快感を感じない。

 

 

最後にまた理解した。

権力でも、暴力でも、知力でも、魅力でも、どんな力でもそれが上な奴だけが勝利の味を知れるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の都合など構うことなく唐突に、世界はその在り様を変えた。

 

 

″ガストレア″

 

人間を簡単に殺す化け物。

化け物は数を増やし、人を食い、世界を絶望させた。

 

周りの奴らはどんどん死んでいく。

 

それは俺が殴った教師だった。

それは俺の周りで騒いでいた奴らだった。

それは俺の事を嘲笑っていた同級生だった。

それは俺が顔も知らぬ他人だった。

 

こいつらは敗者だ――新しい世界に適応できなかった負け犬どもだ。

今まで作り上げられた全てのルールが消えたこの世界。

過去の全てが否定され、消えたこの世界。

 

法律もない。

 

規則もない。

 

制限もない。

 

強ぇ奴が生き残り弱者から死んでいくたった一つのルールが支配した世界。

弱肉強食―――それがこの世界のルールだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を経たずに腕を買われた俺はある警備会社に雇われた。

そしてそこで出会った一人のガキ、千寿夏世。

 

″呪われた子供達″

ガストレアの血がその身体に流れた社会から、世界から差別される事を生まれる前から決められたガキ共。

 

同情はねぇ。

そういう風に生まれたお前が悪い。

 

だが共感はする。

お前も俺と同じなのだと。

社会に認められずに弾き出された異物。

今は俺達、力がある奴らの時代だ。

吠える雑魚は無視しろ。

日常なんてもんは求めんな、そんなもんは俺達には必要ねぇ。

ガストレアと戦って、闘って、殺し尽くせ。

 

 

ただひたすらに戦い続ける日々が続いた。

ガストレアも、俺達の邪魔をする人間も殺した。

とにかく殺して殺して、殺し続けた。

そうすればするほど周囲の評価は上がった。

序列もどんどん上がっていく。

 

まだだ、まだ全然足りねぇ。

もっと殺す。

もっともっと殺す。

俺達が強者だと言う事の証明を、俺達の存在している理由の証明を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日、外周区を出た未踏破領域、空は曇り眼下の大地を暗色に染め上げる。周囲には廃墟と化した建物があるだけで草木のようなものは一切存在していない。

俺達はそこで推定ステージⅡのガストレアと相対していた。目の前にいるガストレアは土色混じりの灰色をした爬虫類型だが体は地面から突き出て植物型のように体から触手を伸ばしていた。

 

 

いつもと変わらねぇ、こいつも殺してやる。

 

相変わらず一体何と何の生き物を掛け合わされたのかすら分からぬその姿を眺める。そして観察しながら背中に背負った大剣を構えた。体から生える無数の触手が蠢きその内の一本がこちらに高速で飛来する。

 

「―――つぅッ!!」

 

それほど硬度の高くない触手、しかし異常な速度で振るわれたそれは異常な威力を内包する。結果、ステージⅡとは思えない、まともに入れば一撃で意識を持っていかれそうな破壊力が将監を襲った。何とか大剣を水平に構え盾にすることでそれに耐えたが、硬直した隙を狙うように反対側から触手がもう一本こちらに迫っていた。

 

「夏世ォッ!」

 

「分かっています」

 

冷静な声が耳に届き、ショットガンの発砲音が響く。銃弾は触手を貫き、受けた触手は痛みに仰け反りもだえるように暴れた。

その隙を逃さずに手に持つ大剣を一閃、ガストレアを根本から断ち切る。

 

「将監さんっ!」

 

夏世の声に俺が反応するよりもはやく背後からの衝撃に吹き飛ばされた。

 

「クッ、ソ……なんだ……?」

 

痛みに耐えながらも素早く振り向く。そこにはいたのは先ほど夏世のショットガンで吹き飛ばされたはずの爬虫類型ガストレア。

一匹だけじゃなかったのかよ、そう思いガストレアに向き合った。

――しかし、その考えは誤りだった。

 

―――――ズズズズズッ!!!!!!!

 

地鳴りの音と共に俺達の足元が盛り上がり、そこから先ほどの爬虫類の五倍はありそうな球状の物体が飛び出てきた。さらに球状の物体からは先ほどの爬虫類型のガストレアが数本伸びている。

 

「これが本体だってのかっ!」

 

「ステージⅢ!……将監さんッ!一度退いて態勢を立て直しましょう!」

 

「ざっけんじゃねぇ!化け物相手に逃げられっかよ。それに――」

 

俺達の周囲を囲むようにおそらく三桁は超えるであろう大量の触手が地中から飛び出た。それらが檻のように俺達を包囲する。

 

「コイツも逃がす気はねぇってよ」

 

「そんな……」

 

それからはリンチも同然だった。素早い触手が絶え間なく俺達に襲いかかる。

攻撃する隙などなく、ましてや逃げることなど出来る筈もなかった。

最初は大剣で弾いていたが、これでは保たないと感じ夏世を下に庇う様にして姿勢を下げ大剣を上に構えた。

 

「将監さん!私は大丈夫です、自分の身体をッ!」

 

「うっせぇ、黙ってろォ!銃持ってんのはテメェだけなんだ。そいつをしっかり抱えて作戦でも考えてろッ!!」

 

「っ――はい」

 

触手の猛攻、巨大な大剣でそれらから身を守ることも至難なその状況で俺に出来ることなど耐える以外にはなかった。

ここからの逃亡を成功させる鍵を握るのは夏世の持つケースの中身――そこに入っているショットガンの弾と手榴弾、そしてモデル・ドルフィンである夏世の頭だけだろう。しかしケースの中身は有限であるため無暗に使う訳にはいかずタイミングは重要だった。

 

そんな俺の考える隙をつくように、触手の一本が大剣の下を通り俺の下の夏世に迫った。身を屈ませ夏世を庇う。肩に強い衝撃を感じた。しかも打たれた箇所は痺れたように上手く動かすことが出来なくなっていた。

 

「ちっ、クソが!」

 

長い間耐えられる気はしねぇぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ経ったのだろう。

幾度となく大剣越しに衝撃が襲っていた。時折、その下を抜けてくる攻撃もギリギリで回避していた。しかし避け漏らした攻撃はあり、俺の身体は血だらけだった。

 

「チッ、くそ……夏世、もう耐えるのは無理そうだ。で、分かったか?」

 

「……はい、一点突破を提案します。今までの攻撃のパターンからしてあそこが一番確率が高いです」

 

夏世の指さす方向、そこは確かに触手の攻撃の手が緩いように感じられた。

 

「なら、いくぞッ!」

 

「ですが――」

 

「あ゛あっ!なんだ!?」

 

「……罠の可能性が高いです」

 

「……罠か」

 

今ここで罠にかかったら死ぬ可能性は跳ね上がるだろう。

だが――。

 

「どっちみちこのままなら死ぬ。賭けるぞ……タイミングは任せた」

 

「……分かりました。1,2,3のタイミングで行きます」

 

夏世はショットガンをケースの中に仕舞う。

代わりに全ての手榴弾を取り出した。

 

「1」

 

やや前傾の姿勢をとり駆けだす準備をする。

俺もそれを見て同じように体をやや前傾姿勢に変えた。

 

「2」

 

駆けだすため、足に力をためる。

 

「3ッ!!」

 

手榴弾をガストレア本体の球体に投げると同時に駆けだす。

次の瞬間、背後で爆発音が響き、生じた爆風に背中を押されながら勢いをつけて駆ける。

正面に向け大剣を横一閃。進行方向にある障害物を触手を含め両断した。

 

「ッ―――走れぇええええええええええええっ!!!」

 

そのまま止まることなく駆け抜ける。触手の檻を抜け――それでも走るのをやめない。

走る走る走る、止まることなく振り返ることなく、そして二人は足を止めた。

止めてしまったのだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――目の前の触手の壁を見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達の身体は触手にが作った壁にぶつかり弾き倒される。立ち上がりすぐさま体勢を立て直した俺達を先ほどよりも遥かに強い揺れが襲った。俺達の正面で先ほどの比ではない範囲の地面が隆起する。

 

 

そして現れたのは全長は30メートルはありそうなほど巨大なガストレア。八本の触手の先には球体があり、そこから無数の爬虫類型の触手が生えている。

……モデル・オクトパスのガストレア、そして――。

 

「……ステージⅣ」

 

夏世の呟きが俺の耳に届いた。

 

 

 

 

ガストレア―――人類の勝つことのできない異形の化け物。

 

 

 

 

唾棄すべき考えが頭に浮かび、それをかき消すように吠える。

 

「ざけんなぁッ!」

 

俺はこんな所じゃ死なねぇ、俺は―――強者なんだ。

大剣を力の限り握りしめ、その手が震えていることに気付く。

 

「……どらあああぁーっ!!!夏世ォッ、構えろ!!」

 

しかし夏世は何の反応も返事すら返ってこない。

 

「おい!夏世、聞いてんのかっ!」

 

振り返って見れば夏世は手に持ったケースを落とし、呆然とした様子でガストレアの姿を見ながら震えていた。

 

「あ……む、むりです、勝てません……」

 

ゆっくりと首を振りながらそう言った。

目の端から涙が零れ落ちて声は震えている。

 

「に、逃げましょう……むり、です、絶対に」

 

無理、絶対に――。

 

……ちげぇ。

絶対なんて、ありえねぇ。

俺は、俺達は―――。

 

「無理じゃねぇんだぁよぉおおおおおおおおぉぉぉっっ!!!」

 

自分を鼓舞するように、現実を否定するようにそう叫びながら俺は目の前の化け物に吶喊する。

がむしゃらに大剣で斬りつける。何度も何度も、繰り返す――がガストレアはダメージを受けた様子を示さない。

そして俺の攻撃を無視して、ゆったりとした動きで俺の両腕両足を触手で絡め取った。

 

「っ――しょ、将監さんっ!」

 

力を振り絞り、逃げ出そうとするが相当強い力で絞めつけられほどける様子はない。捕まったまま俺はガストレアの頭上に運ばれた。

 

「ちぃ、クソが!放せェッ!!」

 

俺の真下でガストラの頭部に八本の亀裂が走った。

そして開かれたのはおぞましい捕食口。

外周部に沿って何本もの牙があり、中心部からは鋭い突起物の生えた触手が何本もこちらに迫る。

 

 

死ぬのか?

そんな事を自然に考えていた。

こんな所で、こんなクソダコに食われて?

 

「ざけ゛んあぬぁあああああああああああああっ!!!」

 

萎えそうになった闘志を奮い立たせ動く部位を総動員で身体に巻きつく触手から逃げようともがく。

握りつぶし、あるいは噛み千切る。少し触手が緩んだ。

 

いけるッ!

 

更に力を入れようとした俺――その身体を鋭いものが貫いていた。見れば爬虫類型の触手が俺の足に、胴に、腕に噛みついている。噛みつかれた箇所から血が流れ、同時に体中から力と熱が抜けていく。

 

「将監さんをっ――放せェッ!!!」

 

夏世が涙を流しながら震える体でガストレアに向かってショットガンを乱射していた。

さすがのガストレアもバラニウム製の弾丸にダメージを受け―――しかし傷ついた部分がすぐに再生していく。

嘘……だろ。

 

一本の触手が夏世を周囲の瓦礫ごと薙ぎ払った。夏世の小さな身体は容易に吹き飛ばされ地面を跳ねた。

そんな姿を薄れゆく視界の中におさめる。

 

くそ、意識も朦朧としてきたし指先の感覚がねぇ。

……俺は……死ぬのか。

戦って戦って、最後はタコの餌かよ……ゴミみてぇな人生だな、笑えねぇ……。

…………しょうがねぇ、よな。俺にはこれしか、この道しか無かったんだから。

 

目を閉じ終わりのときを待つ。

 

 

 

 

 

 

しかし一向にその時は訪れなかった。

違和感を感じ、ぼやけた視界でその光景を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――足を引きずり、体中から血を流しながらも廃墟のビルに背中を預けショットガンの銃口をガストレアに向ける夏世の姿を。

 

「……将監、さんを……放せっ!」

 

おい夏世、テメェは戦闘向きのイニシエーターじゃねぇだろ。

さっさと逃げろよ、ボケ。

 

一本の触手が夏世の持つショットガンが弾き飛ばした。そして描いた軌跡を戻るように触手が払われ、夏世のいた廃墟ごと吹き飛ぶ。廃墟は倒壊し粉塵が舞った。

 

 

 

…。

 

 

……。

 

 

………クソ。

 

 

クソクソクソッッ!!

 

 

「クソクソクソクソクソクソクソダコがぁああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

掴み、握りつぶし、噛みつく。

俺の命を燃料にして限界を超えた力を捻りだす。

俺に噛みつく力が強まった。

だが気にしない、気にならない。

興奮が痛みを忘れさせる。

 

今は、今だけはただコイツをッ!!

 

「死ねェェェェエエエエエエエッッ!!」

 

全ての力を注ぎこんだそれは巨大なガストレアに対して何の意味もなさなかった。限界を超えていた力も尽きて、糸が切れた人形のように俺の身体から力が抜ける。そして俺の身体は落ちた。

 

ああ……食われんのか。

 

このままではタコの口の中に落ちるというのに意外なほどに頭は冷静だった。死ぬのも恐くない、今までも死と隣合わせだった。タコの餌というのは腹立たしいが仕方ないだろう。

ただ、ただ一つの後悔があるなら。

 

「……情けねぇな、俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体に何かが巻きついた。

 

そう思った時には俺の身体は凄まじい勢いで引っ張られていた。身体に巻きついた堅い″何か″が俺の身体を締め付け中身が口から出そうになる。

 

「ぅぐっ!………な、んだよ?」

 

巻きついていた何かが外れ解放された俺の身体は地面へと適当に投げ出された。状況が掴めない俺は呆然としながらそう呟く。

 

「将監さん!無事ですか!?」

 

「……お前、何で?」

 

俺に声を掛けてきたのは先ほど建物と一緒に潰されたはずの夏世だった。血まみれの身体ながらその身体は既に再生を始め傷も治り始め五体満足だった。

 

「助けてもらったんです、あの二人に!」

 

夏世の指さす方向、そこには二人のガキがいた。

一人は銀髪の女、目が赤く光っているからおそらく呪われた子供達なのだろう。

両腕の袖からは俺に巻きついていたと思われる黒い鎖が伸びている。

 

そしてもう一人は黒髪に同じく黒い外套を纏った男。

片手に持つのは異形の槍。

一般にガストレア討伐に使われるバラニウム製の黒い槍でなく、先端が三つに分岐している白銀の槍だった。

 

「テメェらは……」

 

俺の声が聞こえたのか、男のガキが俺に視線を向けたがすぐに戻した。

 

「……いくぞ」

 

 

 

 

 

 

それは蹂躙だった。

 

 

俺達はただ呆然と見ていることしか出来なかった。

自分達が手も足も出ず弄ばれたステージⅣのガストレアが今度はこのガキ共に手も足も出ずにやられていく。

 

 

鎖はガストレアを縛り、黒い嵐のように迫る触手を薙ぎ払った。

槍はガストレアを貫き、白銀の閃光が奔る度にガストレアに血華が咲き乱れる。

 

 

まさしく″暴力″

この世界を生きる上で最も必要な力、それをこの二人は誇示していた。

 

 

 

 

最後に槍の一突きはガストレアはその身を爆発、炎上させた。悲鳴をあげ、そして遂には動かなくなったガストレアの骸の前に静かに立っている二人の姿を呆然と見詰める。

それから覚醒した俺はボロボロの体に鞭打って移動しながら目の前のガキに問いかけた。

 

「つぅ――な、んだよ、テメェはぁッ!」

 

「将監さん!動いては――」

 

「うっせぇッ!!……さっきの、あの強さだ……」

 

俺の動きを止めようとした夏世を怒鳴り声で制止させる。そして先ほどのこいつらの動きを、力を思い出す。

今まで見た誰よりも強い、いや比較することすらおこがましい格の違う力。

 

「どうしたら、どうしたらあんな風に、お前みたいになれんだ!」

 

俺の声にガキの視線がこちらを向いた。

俺を品定めでもするかのように視線が走った。

 

「……何のために、求める」

 

な、んの……何のためだと?

そんなもんっ―――

 

「決まってんだろがぁ!!!」

 

過去に受けた苦渋、俺が劣っていたから受けた苦痛。

それを乗り越えるために必要なものこそが強さ。

相手を蹂躙し、屈服させる―――俺は、俺がッ!!

 

「生きるために、生き抜くために!!必要なんだよッ!!」

 

無表情だったガキの顔に初めて感情の色が広がった。

それは――驚愕。

 

そしてなにかを考えるように目を閉じ、そして問いかける。

 

「……一番、大切なものは何?」

 

一番、大切なもの。

考えるまでも無かった。

俺は即答する。

 

「――力、圧倒的な力だ。全てを屈服させる暴力だ!」

 

誰にも負けない、何にも縛られない。

文句も何も言わせねぇほど圧倒的な暴力。

 

「そうすりゃ誰に何も言われることはねぇ!!それだけで、それだけの力があれば!!」

 

この世界で自由に生きるために、生き抜くために必要な力があればっ……。

望むものに手を伸ばすかのように。懇願するように吠えた。

 

 

 

「……間違っている」

 

それは一言の下に切り捨てられた。

 

「なん、だと……」

 

「今のお前はダメだ」

 

「ち、力が……俺の実力が足りてないだけなんだろっ……!なあ、そうなんだろ!?」

 

「違う」

 

力じゃない、のか?

 

「……な、んで……なんでだッ!?」

 

何が違う?

何が間違ってる?

どうすりゃいいってんだァ!?

 

「一つだけ」

 

「一つ? 一つだけ、何だッてんだ!」

 

「お前には足りない」

 

俺に足りないものがある。

力じゃないのか?

力じゃなく、俺に足りないものがあるのか。

 

「そ、それが……それがあれば俺はなれるのかよ。お前みたいに」

 

「お前は似てる……昔の俺に」

 

驚愕だった。

昔のコイツに似てる、それならなれるのか!

その何かを得れば今の、今のお前みたいにっ……!

 

「教えろっ!教えろよぉっ!!何が足りない、どうすればいいっ!!!」

 

目を閉じ、一つ息を吐いてから言い放った。

 

「覚悟」

 

「かく、ご?」

 

なんだそれは?

俺が本気じゃねぇって、本気で力を求めてないってそう言いてぇのかよ!

 

「それが、俺とお前の差だ」

 

「差、だとッ!ざっけんなっ、んなもん当の昔にでき……て……っ!?」

 

最後まで口を開く事が出来なかった。

あまりの存在感に呑まれていた。

俺は今、目の前のたた″そこにいる″、それだけのこいつから視線を外すことができなくなっていた。

殺意や敵意がその身体から放たれている訳ではない。

ただ、その場所に立っているだけなのだ……なのに――俺には今、こいつが大きく見えた気がした。

 

「……見えたか」

 

「な、なんだよ……なんなんだよ、今のはッ!」

 

それは未知だった。

腕力、暴力、敵意、殺意、直接的なもの、間接的なものでも……そればかりを考えていた俺にとって理解できないものだった。

何もしていないはずなのに、何もされていないはずなのに―――何が起きた。

 

「俺の……覚悟だ」

 

「なんだそりゃっ!意味わかんねぇんだよ!!」

 

「だが感じただろう」

 

言葉に詰まる。

確かに俺は今、感じたのだ。

こいつの″何か″を。

 

「……で、それでっ!その程度で何が出来るッてんだ!!」

 

確かにすげぇ、初めて見た。

だがそれでどうなる。

お前の強さに、俺の足りないものにどんな関係があるってんだ。

 

ガキは俺の言葉に何も答えない。

ただ目を閉じ俺の言葉を聞いていた。

 

「覚悟だとっ? はっ、そんなもんじゃ何も変わらねぇ!変えられねぇんだよ!!」

 

考えるだけじゃ、望むだけじゃ、俺は何も変えられなかった!

知らず涙が頬を伝っていた。

それを拭い悔しさに歯を噛みしめる。

 

くそっ、くそぉっ!!

 

 

ガキは静かに目を開くと後ろにいた銀髪のガキに視線を巡らせた。

そして不思議と響く声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

「想い」

 

 

―――空気が変わった。

 

 

「意思」

 

 

音が、この空間から消え去った。

 

 

「覚悟」

 

 

今、目の前にいるコイツがこの空間を支配していた。

空気が質量をもったように重く体に圧し掛かっているように感じる。ただ、呼吸をする事さえも辛い。

 

 

「お前に――」

 

 

コイツの視線が、全ての重圧が俺にだけ集中する。そうなれば最早呼吸する事が出来なかった。

 

 

「真に理解できているか?」

 

 

「――っ、かはっ―――ぁぁ」

 

 

空気を取りこめない。呼吸する事が出来ない、しようと思えない。

このガキ、いやこの少年から意識を逸らす事が出来ない、してはいけないとそう思わされる。

俺は、この少年に――″畏怖″していた。

 

 

「やめてくださいっ!」

 

 

悲鳴染みた―――夏世の声で響くと、途端に俺に掛かる重圧は霧散した。

空気を、酸素を求め荒く息を求める。俺の下に夏世が近づき、その手が俺の背に置かれた。

そんな俺達を置いて目の前の少年達は俺達に背中を向けた。

 

「ぜぇっ、ごほっ……待て、待ってくれ!」

 

行かせてはいけない。

まだ聞いていないのだ。

 

「想いだけで、覚悟だけでそこまでなれるってのか――俺は!」

 

「なれる」

 

振り向き、そして断言した。

迷いも無く、何の逡巡もなく。

それに呆然とした俺に言葉は続けられた。

 

「守る覚悟」

 

「まもる、覚悟?」

 

「お前に一番合う」

 

「なんで、なんでだよ」

 

無表情な少年が俺の事を馬鹿にするかのようにくすり笑った気がした。

 

「守る者、もういるだろう」

 

視線の先にいるのは俺の背に手を添える少女。

再び顔を上げれば目の前のそいつはもう俺に背を向けていた。

 

「待って、待ってくれ!」

 

しかし立ち止まらない。

 

「名前を、あんたらの、名前を教えてくれ!!」

 

振り返ることなく、しかし二人の声は俺に届いた。

 

「……銀丹」

 

一人はすこし不服そうに。

 

「鉄災斗」

 

一人は淡々と。

 

「ぎん、たん……くろがね、さいと……」

 

忘れぬよう、刻みつけるように名を反芻した。

 

「……待ってる」

 

最後にそんな声が届いた気がして視線をあげると二人の姿は消えていた。

しばらく、ただ二人の先ほどまでいた場所を見つめていた。そして隣の夏世が俺へと声をかけた。

 

「……将監さん、気持ちは分かります。でも、身体の傷を治療しないと……」

 

「……なあ、夏世」

 

俺の言葉に反応し身体の傷から視線をあげ俺を見た。視線が重なる。

思えば長くこいつとコンビを組んできたが、こいつのことをじっくり見るのは初めてかもしれない。

 

「俺は……俺は強くなれるか?」

 

「……それは、分かりません」

 

「あー、だよな。わりぃ、何言ってんだ俺は」

 

そう言ったら夏世が目を大きく開き口もポカーンと開ける変な表情をしていた。

 

「な、なんだよ」

 

「将監さんが、謝った? これは……現実ですか」

 

「ああ゛!どういう意味だ、こ゛らぁ!?」

 

「あ、いえ、その……初めて、見たので。将監さんが人に謝るの」

 

「いや、そんな事……」

 

過去を思い返す。

遅刻した時、建物をぶっ壊した時、三ヶ島さんに怒られた時。

 

「ねぇな」

 

俺がそう言うと夏世は何が面白いのかクスクスと笑いだした。

何故か、俺にはそれが異様に気恥かしく感じた。

 

「なに笑ってんだよ!」

 

「ふふ、い、いえでも…っ…将監さんがっ――あはは!」

 

「てめぇっ、夏世……」

 

俺の苛立ちの混じった声を、しかし夏世は気にせず笑う。

馬鹿らしくなり息を吐き、頭を掻く。そして視線を今も笑う夏世に向けた。

 

――災斗、さん…だったか。あいつの言った事少し分かった気がすんぜ

 

「っ――おいコラ!夏世、俺は怪我人なんだよ。笑ってねぇで治療しろや!」

 

すこし頭に浮かんだその考えを誤魔化すように俺は夏世にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――これは英雄に憧れた一人の男の昔話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

 

 

ロリセンサーに強力な反応を感じた俺はギンたんと共に散策に出ていた。

デュフフ……デートみたいだろ? 羨ましいか? あん、羨ましいか、おいww

 

そんなこんなで二人で歩いてたら戦闘音が聞こえてきた。

気になって来てみたらアニメ二話に出てた夏世――改めなっちゃんを発見したお。

しかも、なにやら美味しくなさそうなタコにやられてたっぽいので速攻で救出しました!!

そしたらめっちゃ驚いた目で見られたのでちょっとKA☆I☆KA☆N♪……とかは感じる暇なかったわ。

何故ならッ!

くっ!……俺は……いまッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なっちゃんをお姫様だっこしてるからだYOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!

 

フゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

ヒィィィィィィィィハァアァァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!

 

ひざ裏と背中に手をまわしてガッチリ優しくホーゥルドゥ!!!!!

 

 

 

し、しかし……じ、実にや、やわっこいです。

これがおにゃのこのからだなのか!?

嬉すぃ……なっちゃんの心もガッシリホールドしたいぜよ!!!

 

などと考えていたらガッと急に襟元を引かれた。

見ればなっちゃんが俺の外套を掴みひっぱていた。

 

いや嘘です、ごめんなさい。

すいませんホント調子乗りました、お姫様だっこで十分、というよりお金払います、ごめんなさい許してください。

 

心の中で全力で謝罪する俺、しかし夏世さんが俺にお金の請求をすることはなかった。

そして俺の襟元を引く力が心なしか弱弱しくなり、か細い声で言った。

 

「し、将監さんを……将監さんを助けてっ――ください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶふぉおっ(瀉血)

 

 

う、上目遣い + 涙目 + ロリ美少女 = 無限大のロリ魂

 

 

キュピーンッ!!

俺は、この萌えだけで……あと千年は戦える――闘ってみせるっ……!

 

「……任せろ、ギン」

 

「はい……(お姫様だっこ……羨ましい)」

 

敵はタコ……ならばっ!!

ふぅぅんぬぅっ!!!

イメージするのは伝説の海神の槍……そうすなわち――――――銛!!!

 

 

……うっそー、本当はポセイドーンが持っていたと言われるトリアイナでっす!

 

そして俺の身の丈を超える大きな銀色の三叉槍を創造した。

 

んーあれ? トリアイナって赤色だっけ……ま、まあいっか。

 

将監さんというらしい男性はタコに誰得?って感じに触手プレイされていた。

ギンたんの素晴らしい鎖術により、ひとまずなっちゃんご要望の将監さんを救出する。

ズサァッ!という擬音のつきそうな程激しく地面に打ち捨てられるその身体……もうちょい優しくしてあげてねっ。

昔、アニメで見たホエーモンのような泣き声がガストレアから発せられる。

デカいな……このタコ。

とりあえず振り返りなっちゃんに熱視線を送る。

 

……俺の事、見ていてください

この戦いを誰でもない、貴方にぃ!捧げますっ!!!

 

巨大ダコを睨みつけて、あふれ出る気合いを元に槍を持つ手に力を込めた。

これより鉄災斗……目標を駆逐するっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぃ~っ、一仕事終えたぜぃ。

素早い触手の動きがすこし厄介になりそうだと思っていたんだがギンたんの鎖ぱねぇっ。

タコさんの足を一本残らずブツ切りにしていたでござる。

 

ちらりと隣に立つギンたんを見る。

 

ふ、ふつくしい……。

 

色白で幼さの残る端正な顔立ち、倒れ伏したガストレアをその赤眼でゴミのように見据える視線には背筋がゾクリとする。風にたなびく銀髪を掻きあげるする仕草には年齢を超えた妖艶な様を見せつけられる。ギンたんの周囲を守護するようにとぐろを巻く黒銀の鎖を従える――その姿はまさに戦乙女。

 

はぁはぁ、ど、どうしよう……お願いしたら裸Yシャツとかやってくれないかな、絶対似合うと思うんだが。

朝起きてギンたんがそんな姿でベットに乗っていたら俺は絶対に至れると思いまする。

そんな事を考えていたら先ほどヘルプした将監さんがこちらに歩いてきた。

 

「な、んだよ、テメェはぁッ!」

 

ふっ、紳士……ロリコン……ペロリスト……好きな名で呼べ。

 

「将監さん!動いては――」

 

「うっせぇッ!!」

 

おい、コラ美少女怒鳴んなや。

しばくぞハゲ、コラ!

 

「どうしたら、どうしたらあんな風に、おまえみたいになれんだ!」

 

んっと……え、俺みたいに?

俺みたいに……って、んー?

ちょっとよく分からんから鉄災斗といって思いつくものをあげてみよう。

 

 

紳士

 

犯罪者予備軍

 

ロリコニア

 

コミュ障

 

ペロリスト

 

 

 

ここから導き出される答えは……。

 

ハッ!!ま、まさかこいつ!!

ロリコン志望なのかよ!?

なるほど……そういうことか。

 

もう一度、目の前の将監を見る。

血まみれの身体、鬼気迫る表情、血走った眼。

……気迫はなかなかだな……だがロリに関して俺は妥協しないぞ?

これより第27回ロリコン希望者の素質検査を開始します。

 

question①:えー、まず将監君は何でロリコンになりたいのかな?

 

「決まってんだろがぁ!!!」

 

ほうほう……言ってみろ。

 

「生きるために、生き抜くために!!必要なんだよッ!!」

 

―――ッ!

こ、こいつぅ―――!!

既にそこまで至っているというのかぁ!?

こんな如何にも戦闘大好きムキムキ野郎みたいな格好しといて、その内にこんな本性を眠らせ――もとい燻ぶらせていたなんて。

い、いや待て……今のは差別発言だな、謝罪する。

悪かった……この世界(ブラックブレット)では、ロリコンは人種、信条、性別、社会的身分などなどによって差別されません。

いよっしゃぁーっ!俄然テンションが上がってきたぜ!!

 

question②:ロリコンにとって守らなければならない鉄則はなに?

 

「力、圧倒的な強さだ。全てを屈服させる暴力だ!」

 

ノォォォォォォオォォォォォォオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!

 

YESロリータNOタッチ!!

 

おま、そこ間違えてたらそりゃ無理にきまっとるやんけ!!

基本だよ、それ基本だからねっ!!

こいつ、紳士の鉄則を分かっていなかったのか……ったく、力力力って……その程度でロリコンを語んじゃねぇっ!!!

ふぅー……いいか?

お前に足りないものは一つ――覚悟、ロリコンになる覚悟だ。

俗世(年上)を捨てただロリを見守り、愛する事を誓う……それがどんなに難しいか。

俺ですら未だにその最上には至れずにいる。

闇雲に突っ走る……その気持ちは分かる、俺もそうだった(※勘違いです)。

だから見せよう、お前の求めるものを。

 

活目せよっ!!その目に、焼きつけろ……これがロリコンになる覚悟を持った者のみに扱える――――ロリ魂だ。

 

 

 

――ぶわぁっ!

 

 

 

俺の覚悟に圧された将監が瞠目する様を眺める。

 

「な、なんだよ……なんなんだよ、今のはッ!」

 

分かる……怖いよな。

お前は恐れているんだよな。

俺達の前に立ち塞がっていた法を、社会を、人の目を。

だから力に逃げようとするんだ、俺には分かる……お前の気持ちがな。

うん、分かる、分かるんだよォっ、手に取るよぉぉぅにぃっ!!!!!(※ひどい勘違いです)

 

「……で、それでっ!その程度で何が出来るッてんだ!!」

 

むぅ……?

こいつ、今の俺の覚悟では足りぬと、そう言うのか。

 

「覚悟だとっ? はっ、そんなもんじゃ何も変わらねぇ!変えられねぇんだよ!!」

 

……仕方ないか。

お前にはまだ早い、そう思っていたんだがな。

そこまでの意思があるというならお前に教えよう。

 

いいか? 

ロリコンには――――段階がある。

 

 

第一位階 ″見守る″

 

これは先ほど見せたな?

これはロリコンを理解した者のいる位階だ。

紳士の鉄則『YESロリータNOタッチ』を守る意思があれば誰にでも至ることが可能だ。

そして二つ目。

 

第二位階 ″守る″

 

これは俺のいる位階だな。

分かるか、これがなんなのか。

第一位階、見守る……見て、守る。

その行為の一つ先の段階、それすなわち守る。

見守るのではなくロリを守護する、そう心に誓った者だけが至れる位階。

二段階目に入ることによりロリ魂を用いた覚悟の発露、その威圧は一段階目の約三倍。

シャアザク並みの進化を発揮する。

それを受ける覚悟があるといったのだな、お前は。

 

俺は将監の目を見た。

そこにあったのは恐れ。

しかし、それ以上に負けるわけにはいかない、退くわけにはいかないという覚悟を見た。

 

ふふっ、いいだろう。

ならばゆくぞ!!これが第二位階の―――――ロリ魂だッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

幼女への―――

 

「想い」

 

 

 

ロリコンになるという―――

 

「意思」

 

 

 

YESロリータNOタッチを厳守する―――

 

「覚悟」

 

 

 

ロリコンは力で屈服させるんじゃない……必要なのは紳士の技だ。

力ではなくロリ魂で、体では無く心で。

 

「お前に――」

 

 

 

 

見たか、将監よ……これが覚悟を持った者のロリ魂の使い方だ。

 

「真に理解でているか?」

 

俺の放てる全開のロリ魂、ただそこにあるだけだったそれを将監のみに集中させる。

息は苦しく辛いだろう、しかしこれはロリ道を甘くみた将監への……罰なんだ。

心を鬼にして徹しなければならない。

 

 

 

 

「やめてくださいっ!」

 

うん、すぐやめるね。

罰とか、酷過ぎたよね?

俺もそう思うもん!!

 

なっちゃんは俺をがん無視して将監を心配する。

べ、別に泣きそうじゃないしっ!全然平気だしっ(涙声)

……もう帰ろう、辛いし。

 

「ぜぇっ、ごほっ……待て、待ってくれ!」

 

まだ何か用か。

先ほどなっちゃんが止めなければ貴様……死んでいたぞ?

 

「想いだけで、覚悟だけでそこまでなれるってのか――俺は!」

 

「なれる」

 

なれるさ、俺はそうだった。

お前もきっと、な。

 

振り返り将監の目を見ながらそう言った。

見ればなっちゃんが少し恨めし気に俺を見てた。

っ!?

やばい、好感度あげないと!

アドバイスっ、アドバイスだっ!!

 

「守る覚悟」

 

「まもる、覚悟?」

 

「お前に一番合う」

 

「なんで、なんでだよ」

 

ハァァァ―――っ!?

お前、後ろに献身的美少女なっちゃんを控えさせといて、それ言うの?

はぁ……。

 

「守る者、もういるだろう」

 

そしてなっちゃんを見る。なっちゃんを見つめる将監の目は……ったく、俺のもう心配いらねぇな。

二人に背を向けて歩き出す。

 

「待って、待ってくれ!……名前を、あんたらの、名前を教えてくれ!!」

 

俺達は後ろにいるであろう二人に名を名乗る。

そして最後に将監に呟いた。

 

「……待ってる」

 

お前が俺と同じ場所まで来るのを……。

大丈夫、そう遠くねぇ……お前にもいるからな、守るべきものが。

待ってるぜ、同士(ロリコン)よ。

 

 

 

 

 

 




はい!と言うわけで九話は将監と災斗の馴れ初め、もとい過去話でしたぁー(^q^)


はい……ごめんなさい、ギンさんが空気でしたね。
もう本当に許してください。
また、また今度日常回的なときに書くので、本当に(泣)



……気づけばお気に入り数もかなり増え2000を越えることができました。これもハーメルンに住む紳士の方々のお陰であり、感謝の念を深く深く感じております。3000目指すとか身の丈に合わない願いは抱きません。今この作品のお気に入り登録者の方々にこれからもお付き合いいただければ幸いです。


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第十話 現在

この世界において、人と人との協力、信用、信頼など――――絆というものを声高く主張する者がごまんといる。なるほど、実に聞こえのよい言葉だろう。だが、そんな中で実際に手を取り合い信頼し合う者が何人いるのだろうか。1%、いや0.01%ほどもいればいい方だろう。

 

事実、人間という生き物はよく争うのだ。それは女のためだったり、金のためだったり、権力のためだったり、宗教のためだったり、夢のためだったり、理由などなんでもいい。ただそれにもある一つの共通点が存在する。

 

 

 

それはすなわち――欲望を満たすため。

 

 

 

しかし欲望を満たすこと、それは全ての人間が持つ権利ではない。

 

 

 

ある者が言った。

 

万人は生まれながらに平等だと、人に上も下はない、と。

 

 

 

事実か? 真実か? 現実はそうなのか?

 

否。

 

 

 

生まれた時、赤子は既に育つ環境が決定している。

 

所属するコミュニティで、人間のもつ格差が浮き彫りになる。

 

社会で、人には上と下の関係が存在している。

 

 

 

頭脳、身体能力、美醜、愛、社会、貧富、権利、全てのものには上と下がありそこには埋めることのできない差がある。

 

 

 

下の者は上の者によってその行動を制限される。

 

下の者は上の者によってその思想を制限される。

 

 

 

それはある種の摂理であり、人間の産み出した法則である。

 

しかし下の者はそれを享受してきたわけではない。

 

不満を持ち、目的を持ち、思想を持ち行われるものがある。一揆、下克上、言い方は数多あるが、自分はこう言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――革命と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある部屋の一室、そこには二組みの男女の姿があった。

 

「エラそうなこと言ってやがったのに。結局あいつもただのガキってことですね」

 

伊熊将監は昨夜の出来事を思い出しながら悪態をつく。

それがいつも鋭い目つきを更に攻撃的な様相へと変え異様な威圧感を醸し出させている。

 

現在、彼のいる場所は外周区の一角、かつてビルだった建物だ。人が住まなくなって何の手入れも加えられることなくコンクリートがむき出しの、しかしその中でもマシな一室――おそらく社長室だった場所――である。

 

そして将監の隣に立つのはどこか冷めたような雰囲気を纏うイニシエーター、夏世。

 

「彼らは序列十二万程度……仕方がないと思いますよ、将監さん」

 

その発言にジロリと鋭い視線を浴びせる将監。

夏世はそれに対して特に反応を示さずに目の前にいる男女に問いかけた。

 

「お二人はどう思いますか」

 

「分相応、身の丈に合わない夢を抱いて潰れた。それだけです」

 

そう冷たく言い放ったのは銀髪の少女――銀丹。

その顔には何の感情も見られず先ほどの言葉に嘘はなく淡々と事実だけを述べたように見えた。

そしてその視線を唯一この部屋で座っている自分の主へと向けた。

 

「………」

 

何も語ることなく視線の先の鉄災斗はただ顔を俯かせていた。

 

 

 

 

『里見蓮太郎・藍原延珠ペアが昨夜、テロリストの蛭子影胤・蛭子小比奈と交戦、重傷を負った』

 

 

 

 

将監はそれに憤り、夏世は当然の事と受け止め、ギンは斬り捨てた。

そして災斗は声を出すことなく俯き、しかしその雰囲気が醸し出すのは落胆。

 

「どんな怪我?」

 

「二発の弾丸を受け、あとは腹部に刺し傷、それと肋骨など複数個所を骨折あるいは罅が入っていたようです」

 

「……回復の見込みは」

 

「完治はそう遠くないと言っていました。人間とは思えない異常な回復力だそうです」

 

その様子を見た将監は小さな声でギンへと声をかけた。

 

「……ギン姐さん。災斗さんとあのガキって面識あったんですか? 何かへこんでるみたいなんすけど」

 

昨夜、蛭子影胤と蛭子小比奈の襲撃に遭い重傷を負っていた蓮太郎をそのイニシエーター藍原延珠に導かれ、それを助けたのは他でもなく伊熊将監・千寿夏世ペアだった。

雨によって消えかけていた血の痕を追い川の下流にてその姿を発見したのだった。

しかしそれを踏まえても自分達はこの話をどちらかと言えば蛭子影胤達の方を焦点にあて話したつもりであった。

しかし災斗は予想外にも里見・藍原ペアの方に大きな反応を示している。

プロモーターとしての蓮太郎の序列は下位、将監にはとても災斗と接点があるようには思えなかった。

返ってきたのは予想外な答えだった。

 

「先日から幾度か話す機会があったので、それなりに面識はありますね」

 

「マジですか!?」

 

災斗、ギンの二人が東京エリアを本拠にしている事は知っていた。

しかしその動向は全くと言っていい程分からないのである。

比較的、他人に比べて会う機会の多い自分ですら出会えるのはよくて月に一、二度。

なのに里見蓮太郎は出会って間もないのに何度も会っているという。

その心情は推して知るべし、言うまでもないだろう。

 

すっと将監の手が背負う大剣の柄に添えられる。

 

「ちょっとイってきますわ」

 

「すぐに向かいますか」

 

「ああ」

 

夏世もその言葉を聞いてすぐに移動できるよう足元の鞄を両手で掴んだ――ところで頭を叩かれた。

将監と共に軽く悲鳴を上げる。

 

「でッ!?」

 

「っ!」

 

「少し落ち着きなさい。少なくとも今回の一件が片付くまでは私達はこの外周区の付近にいますからいつでも来てください」

 

「ッ――うっす!」

 

「なら……分かりました」

 

それぞれ嬉しそうな反応をする二人を眺めたギンはため息をついた後、ふたたび話を進めた。

 

「それで……ここに来た目的は何ですか? まさかそんな話をしに来たわけではないでしょう」

 

そう言われ流石だ姐さんだ、と感嘆する。

この二人に会いに来た理由、それはテロリストについての情報を届けるという事もある。

しかし本当の目的は違う。

本当の目的、それは東京エリアのトップ――聖天子からの伝言を届けるという事だ。

本来なら高序列である将監にこのような使い走りのような真似をする義務などはないのだが相手側の人物が災斗達と聞いた時、それに自推した。

 

「災斗さん、いいすか」

 

将監が災斗に向き直り声をかけると、それに反応し顔が上げられる。

 

「これがもう一つの要件っす」

 

将監の手から災斗の手に何かが手渡される。

 

「……携帯電話?」

 

渡された物体は携帯電話というには随分大きく災斗の手に収まりきっていなかった。

 

「軍用のトランシーバーみたいなもんらしいっす」

 

「政府で開発された最新式の物ですね。かなり広範囲、具体的には各エリア間でも通信が可能なようです」

 

「それで聖天子からの指令があるらしくて連絡は向こうからする、って言ってました」

 

「それは……随分と自分勝手ですね」

 

正式な民警ではない、どちらかといえば傭兵という形容が正しい災斗達に対してこの態度。

本来なら自分から赴いて一言でも断りを入れるのが最低限の礼儀である。まあ、それに自分達が協力するかは別として。

それに自分のマスターを軽んじられたと感じたギンから不機嫌な雰囲気が漂う。

 

「今回は仕方ない」

 

トランシーバーを懐へとしまった災斗はそう言って立ちあがる。

そして胸元まで上げた拳を軽く開けながら呟く。

 

 

 

 

「……でも、今回限りだ」

 

 

 

 

「「――っ!」」

 

明らかに周りを威圧する意思をもって放たれた強者のプレッシャー、それは二人の身を竦ませ、底冷えするかのような冷たさを宿した声音はそれは聞いた二人に自分の背が凍ったように感じさせた。

 

災斗は開いた拳を握りしめこれから先の未来を幻視するように虚空に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

ギンはわきあがるその感情に表情が綻ぶことを止めることができなかった。

 

 

マスターが他人に従うというのは私にとって耐えがたい苦痛だった。

家族のなかで私が恒常的なマスターの相棒として選ばれているから、だからマスターを支えるのは私の役目だとそう考えている気持ちもある。

 

だが違う。

実際、全てにおいてマスターは聖天子(あの女)を勝っているのだ。

マスターの方が強い。

マスターの方が賢い。

マスターの方が優しい。

マスターの方が人を助けている。

 

今までは仕方なかった。

理由があった。

それはマスターから課された制限であり約束であった。

だからこそ受け入れていた、我慢していた。

 

でもマスターは今回限りといった。

これで最後。

もうマスターは自由に動ける。

 

自分の主が誰かに従わなくていい、その事実がギンを歓喜させていたのだ。

 

(まずはテロリスト、ですね)

 

自由への為の第一歩としてこの事件を終わらせるためギンは思考の海へとその身を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

 

 

俺、こと鉄災斗は真剣に考えていた。

 

これは俺の今後の人生を決めかねない思考の命題。

 

ここで全てをさらけ出すという選択をしても、真実を隠すと言う選択をしてもおそらく俺の家族達はそれを受け入れてくれるだろう。

 

だが違うのだ。

 

これは俺自身が俺だけの為に選び抜かなければならないもの。

 

 

 

どっちだ。

 

 

 

どっちなんだ。

 

 

 

俺は。

 

 

 

俺はっ。

 

 

 

――――俺はっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパッツ派なのか、ブルマ派なのか!?

 

 

 

 

 

 

――――スパッツとブルマ。

 

 

それは古来より学び屋の子女が身にまとう聖衣として互いに覇権を争い続けてきた神代の遺物。

今では邪道(俺の中では)の第三勢力・TAN☆PANによってその王位を簒奪され消えかけていた。

 

だが―――だがしかし、今ここにその片割れ、すなわち″スパッツ″を身にまとう夏世さまがご降臨されておるのだ。

 

まあ、夏世は今回ファッションとして″スパッツ″を着ており、本来ならこの場合には体操服という枠組みに囚われることなくホットパンツ、ジーンズ、スカートスタイルなどといったものからガーターベルト装備あるいはニーソといったものにまで無限に派生していくものではあるのだ。だが今ここでそれら下半身装備をすべて語る事をしてしまったら作者は確実にあとがきなども含めた80000文字では収まりきらぬ、と断言できるので泣く泣く!残念ながら!……妥協しよう。

 

 

 

 

『スパッツ』

 

それはとどのつまり下着の一種である。

多くの者からは女性の肌の面積が減る、もっとエロいのがいい、てか何それなどと言った下らない戯言をほざかれている。

 

ごほんっ!

だが敢えて言おう――カスであると。

 

肌面積? 

エロいのがいい? 

そもそも、それ何?

 

HA? 

ヴァカな奴らだ。

無知蒙昧、とそう断じさせてもらおうか。

 

 

確かに昨今、多くの男性は女性の肌面積の多さ、つまり露出の多さに多大な関心を寄せている。

では聞こう。

 

 

露出=エロなのか?と。

 

 

確かにぃ、露出もええよぉ!

スパッツにしたらパンチラの可能性も消えるしぃ、生ふとももも見れなぃ、ニーハイの三角による絶対領域が形成される可能性すらも消えるぅ!

 

だが……だが、しかしだ!スパッツを装着すれば衣服と肌との密着度が他の衣服よりも劇的に上がるのだよ、つまり、そのエキセントリックな試みにより生み出されたものは、奇跡と呼んでもおかしくはないものであり、事実その行為によって本来は隠されていなければならない真の魅力を衆目に晒け出すという相乗効果。それを経て顕現したソレはまさに至高の芸術品であり―――まあ……この作品を読む紳士なら理解しただろう。

 

もちろん、分かったよな。

は?

分からないだと。

 

ふん……つまりだっ!

簡単に言うと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――透ける。

 

 

 

 

 

おぉ……。″透ける″……その一言がなんと奥深いことか。

その事実だけでそこから広がっていくのは未知の可能性への探求心。

 

 

 

 

赤。

 

青。

 

黄。

 

緑。

 

紫。

 

ピンク。

 

黒。

 

白。

 

ストライプ。

 

マーブル。

 

柄物。

 

クマパン。

 

レース。

 

シルク。

 

T。

 

 

 

HA☆I☆TE☆NA☆I

 

 

 

 

 

ヒィィィィィィィィィ――――――――――――――ハァァァァァァァァァアアアアアアアアア――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあハイテンションが続くと思われた俺にショッキングなニュースが飛び込んできたのであった。

 

 

 

 

 

【悲報】原作主人公がかませだと思ってたキャラに半殺し

 

 

 

 

1:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

未だに現実を受け止めきれてない俺がいる

 

 

2:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

誰情報よ?

 

 

3:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

マッチョ舎弟

 

 

4:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

アイツさとみんの事嫌ってるやん、ガセネタ疑惑ふじょー

 

 

5:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

それとスパッツたん

 

 

6:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

事実だな

 

 

7:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

(笑)

 

 

8:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

つーか、さとみんってパピーに負けたのかよww

 

 

9:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

俺、パピーって序盤にしか登場しない雑魚キャラだと思ってたわ(^q^)

 

 

10:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

え、ちょ、待てよ。主人公半殺しって……え、もしかしてだけど、あの人って超えるべき壁兼ライバル的立ち位置?

 

あの燕尾服のヘンタイ仮面が? うそーん。

 

 

11:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

というか、さ……これって俺がいるから、原作が変わってる的なやつですかい?

 

 

12:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

アリエール

 

 

13:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

つまんな

 

 

14:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

実際、ギャグじゃなくて普通にヤバ気な件について

 

 

15:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

なんで?

 

 

16:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

ピンチ到来→原作主人公が死んでおりご都合主義発動なし→人類滅亡

 

 

17:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

・・・・・・・・・

 

 

18:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

・・・・・・・・・

 

 

18:以下、幼女を素手で愛でる会の会長でお送りします

\(^o^)/

 

 

 

 

 

 

 

 

……おら達の物語はこれからも続きます――そう貴方の心のなかで。

 

 

 

ブラックブレット―楽園の守護者―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

い、いやステイステイ!

もしかしたら重症とかいいつつ、実際そうでもないかもしれないじゃないですかー(汗)

そこんとこどーすか、スパッツさん!

 

「二発の弾丸を受け、あとは腹部に刺し傷、それと肋骨など複数個所を骨折あるいは罅が入っていたようです」

 

結構真面目にやばい怪我だったお。

普通に即死してもおかしくないレベルですね、はい。

 

半分諦めた心持で質問を続ける。

 

「……回復の見込みは?」

 

「完治はそう遠くないと言っていました。人間とは思えない異常な回復力だそうです」

 

信じてたぜ!

さっすが原作主人公、みんなのさとみん♪

……え、ていうか本当にすごくね……いやすごいっていうか、やばい。

人外だろ、もはや。

 

里見蓮太郎=人間じゃない説が今ここに浮上しました。

原作から判断するにガストレアの因子を埋め込んだ人間…かな?

いやでもそれにしては弱すぎるような……。

 

『……ター●ネーター……強化人間……ま、まさか…Gエクス●リエンs――』などと考え込んでいたら将監に名前を呼ばれた。

驚いて顔を上げたらケータイ渡された。

 

 

ケ、ケータイだぁ―――――っ!!!!!

え、マジで?

これもらっていいの!?

 

驚きのあまり動揺しちゃうが仕方ない。

何を隠そう、僕ちんケータイ持っていないのです。

というか……うん、そもそも戸籍がないのです。

下水道に住んでるのも実はそれが理由のひとつだったりする。

松崎の名前で家を購入するという手もあったのだが、まだウチの幾人かは一般人に対して強い嫌悪、あるいは恐怖感を持つものもいる。

彼女たちのためなら僕は下水道でも大丈夫です(キリッ

 

などとふざけていたらギンたんからめちゃくちゃ不穏な気配が漏れ出していた。

ちょい待ってーな、ギンさん!

と、止めてみたはいいもののギンたんの機嫌は回復する気配なし。

 

ふぅ……でもそろそろ限界かな。

もともとギンたんは聖天子が嫌いっぽかったし。

俺が聖天子に従おうとするとイライラオーラ出してたからなぁ。

いい人だと思うけどなぁ、ロリじゃないこと以外。

 

あ、とりあえずこれは貰っとくね。

懐にケータイをしまう。

 

でも我慢は美容に悪い。

ギンたんの肌が荒れたら大変だ……仕方ないか。

  

 

 

 

 

この事件が終わったら()()を実行に移そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■千寿夏世■

 

 

 

 

私のなかでは恐怖と高揚感が混じり合っていた。

目の前の災斗さんが放つ周囲の気温が下がったのではないかと思うほどの冷徹な威圧感に対し隠しきれぬ恐怖感があり、それを隠すことなど私には到底できなかった。

 

 

鉄災斗――単騎では確実に東京エリアで最強、イニシエーターの銀丹とではー正式な民警ペアではないがーおそらく、いや確実に世界でも上位に入るであろう実力者。

そして私達をある一件で精神的な意味でも身体的な意味でも救ってくれた人達でもある。

その時に私はこの二人のあり方に憧れの感情を抱いていのだ。

 

 

その内の一人が普段は見せない自分の強さを露にしてくれている。

それが与えるのは純粋な驚き、未知への恐怖感はそれに負けないくらいの好奇心という高揚を私に与えていた。

 

そんな私とは違い自分のプロモーター伊熊将監はおそらく喜び、そして悔しがっているのだろう。

 

将監さんはずっと強さを求めている。

求める強さ(カタチ)は変わっても強さを求めるもの(ホンシツ)は変わらない。

今も昔も変わらず未だに届かないそれに手を伸ばし続けているのだ。

そしてこれからもそれは変わらない、変えられないのだろう。

 

だから私も、将監さんのプロモーターである″千寿夏世″も変わらない。

今も昔もただずっと―――。

 

 

 

 

 

 

私、千寿夏世は他人より優れた知能を持っていた。

モデル・ドルフィンのイニシエーターである私はイルカの因子を持ち、他と違い前衛で活躍する攻撃的な能力を持たない代わりに知能指数、記憶能力が優れていたのだ。

だからという訳ではないが物事を冷静に見て、なおかつ人の感情を察することが出来た。

とはいっても私達に向く感情にプラスのものはなかったが。

 

 

 

当時、国際イニシエーター監督機構に加入していた私はそこから派遣される形で三ヶ島ロイヤルガーダーに来ていた。

前と後ろにいる二人の屈強な男性二人――イニシエータ監督機構に所属し私をここまで届けるまでの監視役――に連れられ通路を歩くと一つの扉の前に辿りつく。

前に立つ男性がノックしすぐに男性の声が聞こえた。

 

「入りたまえ」

 

扉を開き中にいたのは先ほどの声の主である一人の男性、三ヶ島ロイヤルガーダー代表取締役。

 

「ご苦労だった」

 

監視役の二人にそう言って部屋から退出させる。

 

「ようやく来たか、うちもイニシエーターが不足していてね。助かった」

 

「はい」

 

私は一言相づちをうつが目の前に立ち話しかけるこの人は私を見ながらも″千寿夏世″を認識してはいなかった。

挨拶も自己紹介もなしに進むそれはただの確認、独り言のようなものである。

礼儀を欠くその行為を、しかし私の心を掻き立てる事はなかった。

 

″まだどれ程役に立つのかすら分からない化け物″

 

それが、この人の私に対する認識なのだろう。

その事をひどいとは思わない。

むしろ世間一般からすれば、それなりにましな認識だろう。

 

「チッ、時間を過ぎているぞ。将監め、何をしている」

 

焦れたその声が私の耳に届いた。

壁にかかる時計を見れば時刻は9時01分。

おそらく召集していた時間は9時なのだろうが、それよりも一分過ぎていた。

私にはまだ誤差の範囲に思えるがこの人は時間に厳しい性格の様だ。

もう一つ、情報が手に入った。

しょうかん、それが私のプロモーターの名前か。

 

耐えきれなくなったのか、机の上に置かれた電話を手に取るとどこかに電話をかけた。

 

「おい!まだか将監―――ん、何―――だから今何を―――」

 

そんな時、廊下側からドタドタと荒い人の歩く音が聞こえてきた。

それは次第に強くなり、ドンッとこの部屋の扉が開けられた。

 

「だから、すぐ行くっつっただろう!」

 

携帯を片手に入ってきたのは一人の男性。

筋肉質な体にはタンクスーツ、口元をドクロのモチーフの刺繍の入れられたスカーフで隠しているのが印象に残る。

 

「すぐ、だと? 既に予定時間に遅れているではないか」

 

「数分くらい変わんないすよ」

 

もめそうな雰囲気が漂い始める中、部屋に入ってきた男性の目が私を捉えた。

 

「三ヶ島さん、こいつが?」

 

「ああ、君のイニシエーターだ」

 

「お前、名前は?」

 

「……千寿夏世です」

 

「俺の名前は伊熊将監。夏世、てめぇみたいな道具を使うのは三ヶ島さんが言うからだ。邪魔だけはすんじゃねぇぞ」

 

将監さんと正面から会話してみて初めに抱いた印象は″よく分からない人″だ。

目つきは悪く、話し方も粗暴、体格も大きく、そこから与えられるのはとても攻撃な印象だ。

少なくともいい印象を与えないそれらの雰囲気、しかし私を見るその眼は他の人達とは違っていた。

 

嫌悪、憎悪、侮蔑、怒り、憐憫―――どれも違う。

これは……同情、ですか?

 

私達とは違う一般人、なのに私に対して同情している、何故?

今まで見てきたどんな人達とも違う。

この人は何なんだろう?

 

よく分からない、でも―――――

 

 

 

 

 

 

戦闘時は私の能力と将監さんのスタイルから将監さんが主に戦闘をし私がそのサポートになる事が多かった。

日々の戦闘を通し将監さんはガストレアとの戦いを自分から望んでいる、そう感じてはいた。

しかし私にはそれについて尋ねることは出来なかった。

将監さんは私を道具だと言っていたし、答えてくれる気がしなかったから。

そんな私達に訪れた転機は″鉄災斗、銀丹との出会い″だろう。

 

私達はその日、外周区に現れたガストレアの討伐に向かっていた。

対象はすぐに討伐したが私達はそこでさらに別のガストレアを見つけた。

推定ステージⅡのガストレア、問題なく倒せる相手だったが、ガストレアのいた場所が問題だった。

 

 

――未踏破領域

 

人類を守るバラニウムの巨壁″モノリス″の外、ガストレアの跋扈する死の大地。

 

 

私は躊躇った、自分達にはそこまでの力が無いと考えたからだ。

しかし将監さんは倒すと言って、私もその言葉に従った。

 

私はイニシエーター。

 

私は消耗品。

 

私は道具。

 

流されるままに私は未踏破領域への一歩を踏み出したのだ。

 

 

結果、私が得たのは絶望だ。

人類を蹂躙する化け物″ガストレア″、その最高位(ハイエンド)の存在、すなわちステージⅣ。

巨大な体躯に凶悪な再生力、そして人類など到底及ばない膂力。

私のハリボテの戦意など一瞬で掻き消えた。

 

身体がガストレアに吹き飛ばされた。

目障りな羽虫を払うが如く、簡単にだ。

 

将監さんはガストレアに捕まった。

もがいて抵抗して、しかし駄目だった。

助けなければいけないとそう思った。

銃を手に取り発砲した。

しかし、それもガストレアにとっては何でもないものだった。

ガストレアの一撃が私を襲った。

 

 

 

 

 

痛みが消えて、私の意識は薄れていく。

 

 

――もういいよ。休んでも大丈夫だよ――

 

 

眠りたい、だってこんなに眠いのだ。

きっと私は死にはしないだろう、化け物の血を宿したこの身体は今も再生を続けているから。

 

 

――目を閉じて休もう――

 

 

うん、休もう。

ゆっくりと休もう。

 

 

――目を閉じて、そしたら全てが終わってるから――

 

 

うん、目を閉じて、そしたら全てが―――終わってしまうのだ。

 

 

 

掴んで放さなかった銃を片手に持って立ち上がり、しかし身体は限界を迎えてよろめく。

近くの建造物を支えに銃を構え狙うのはガストレア。

トリガーを引いて銃弾が放たれる。

しかし与えた傷は何でもなかったかのように再生していく。

既に私に戦意などない、それでもトリガーを引き続ける。

 

 

 

――無駄なことだ――

 

 

分かってる。

 

 

――ただの自己満足だ――

 

 

分かってる。

 

 

――意味はない――

 

 

それはっ――ちがうっ!!

意味ならある。

将監さんを一秒でも、すこしでも長く死なせたくないんだ。

 

 

私はイニシエーターとしては実に無能な存在だった。

ガストレアという化け物を殺すために存在を許されたのが私達。

なのに私が持っていたのはイルカの因子だ。

 

知能が高くなる?

 

記憶力が優れている。

 

「なんだそれは、なんの役に立つ?」

「存在価値のないイニシエーターだな、お前は」

「私達を不快にさせるだけ、むしろ有害だな」

「お前はなんで生きてるんだ」

「この世界に必要ない存在だな」

 

存在を否定され、価値が無いとされ、いっそ有害だと言われた。

 

しかし将監さんは私を″道具″と言った。

将監さんは私の事を何かに使える、価値のある存在だと言ったのだ。

本人にその気は無かったのかもしれない。

でも言われたのだ、私はそう思った。

だからそれで、それだけで――私は将監さんを救いたいのだ。

 

しかし無情。

現実は残酷で私は死ぬだろう。

ガストレアの一撃が私に振り下ろされる。

終わる―――終わった。

 

 

 

 

 

だが救いの手は突然、私達に差し伸べられた。

圧倒的な力でガストレアを蹂躙し、私達は救われた。

将監さんは心までも救われてしまった。

 

否定された。

見失いそうになった。

 

見せつけられた。

目標を与えられた。

 

将監さんは自分の知らなかったその力に憧れた。

そして変わったのだ。

暴力ではなく英雄としての力を求めたのだ。

 

それは簡単な道ではない。

今までの将監さんの生き方と、求めたものとはある意味正反対なものだからだ。

挫折するかもしれない、また戻ってしまうかもしれない。

それでも私は変わらない。

 

 

ただ支えて、守るんだ、不器用で強がりなこの人を。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで第十話でしたー、わぁー!

夜寝ぼけながら書いたからおかしいところあったかもしれません……ここおかしくね?などといった部分があったらご報告頂けると助かります。



それと最近アカメが斬る!に激ハマりしております。
どれくらい好きかというと一日でアカメが斬る!のss20万文字書いちゃうくらいハマっております。
そのうち投稿すると思うので、そちらも見てくれると嬉しいです♪ヽ(´▽`)/

ちなみに作者はエスデス将軍とボルス家族が大好きです。
ワイルドハント許せねぇです、美人未亡人とロリ娘は必ず俺が救います( ☆∀☆)キュピーン

あ、あと……実は活動報告で言ったようにストパンにもハマってまして(汗)
ストパンはまだ5万文字程度で鋭意執筆中であります(^q^)

マルセイユかっけぇ。
シャーリー女神。
坂本さんかっけぇ。
サーニャかわええ。
エイラまじでおかん。

そしてなにより!

EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!
イエ───(σ≧∀≦)σ───ィ


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第十一話 岐路

今回、主人公視点ないです。
またちょっと駆け足気味で、後々編集いれるかもです。

まあ、とりあえず。

おくれて、すいまっせん、でしたぁああああぁぁぁァァァ!!!!!!(。・ω・。)三!!



未踏破領域。

 

 

かつては都市だったその場所は、しかし今となっては見る影もない。

舗装されたアスファルトは粉々になり、建物は崩れ風化して自然に覆われて、その外観は完全に自然に呑みこまれている。

最早数キロ先まで人の影はなく、それどころか獣の声すらも聞こえない。

それも当然のことだろう。

 

理由など考えるまでもなく、此処がガストレアの勢力圏内だからに他ならない。

ガストレア避けの役割をモノリスが持っていて、それがそれなりの範囲を誇っていても。

無限にどこまでもその効果が発揮される訳でないのだ。

強い耐性をもったガストレアが侵入してくるように、この場所はモノリスの恩恵を受けることのできなかった場所なのだ。

それを知り、わざわざ好き好んでこんな場所へ来る者などいるはずもなかった。

 

 

――――しかし、そんな場所に。

 

老若男女を問わず、ずらりと立ち並ぶ者達がいた。

よく見ればその半数以上が女性、しかもほとんどが年端もいかぬ少女達だ。

しかし彼女達はただの人間ではない、その共通点は皆一様に赤い瞳をしており、その正体はガストレアの力を得た人間――イニシエーター。

赤い瞳は彼女達の戦闘態勢である証。

そして、それは彼女達が今まさに戦いに赴こうとしていることを示していた。

それを裏付けるように全員が全員緊張感を漂わせており、赤く光るその瞳は真剣そのものである。

 

 

そして、その傍に立つのは彼女達の相棒――プロモーター。

彼女達より一回りも二回りも、あるいはもっと年上の男女。

彼ら彼女らの目も光っていた。

ただしそれはイニシエーターだからでも、戦意によるものではない。

 

「一匹……一匹殺せば!」

「あんだけありゃァ、一生遊んで暮らせるぜ」

「雑魚は黙ってろ! あの金は俺んだ!!」

「とっとと終わらせてやる」

 

怒声と罵声を浴びせあう彼らの眼にあるのは、欲望。

汚泥のように溜まったそれを瞳の奥でぎらつかせ、自分の手に入れるであろう富を夢想する。

 

 

 

―――聖天子による民警の召集。

 

そこから連鎖するように起きていった蛭子影胤の襲撃。

 

そして、知らされる危機『七星の遺産』。

 

東京エリアそのものを滅ぼすとまで言われて、民警達は改めて今回の任務の重要性を思い知ることとなった。

 

しかし、それとは別のことに注目した者達もいた。

 

それは、聖天子の提示した望外の賞金。

今回のターゲットである七星の遺産を保持したガストレア。それを一番に討伐した者に賞金が与えるというのだ。

それに魅かれて集まったのが彼ら。

 

彼らの行動は、奇しくも他の誰よりも早くターゲットのいる場所に当たりをつけた。

その場所こそが未踏破領域。

そう、未踏破領域。

直接立ち入ったことがなくとも民警ならば知識として確かに知っている。

高ステージのガストレアが多数目撃されており、偵察に出た民警が少なくない数犠牲に出ている。

あまりにも危険すぎる場所だった。

 

賞金は欲しいが、彼らとて自分の命は惜しい。

そう考える彼らが思いついたのは一様にして同じ、つまり徒党を組むことだった。

一人では無理なら、複数で。

そんな安易な考えの下に集まり、この大規模アジュバントが結成されることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

「……こ、ここが」

 

未踏破領域を前にして、覚悟を決めた、あるいは高まった気持ちのままに此処まで来た彼らもその様相を見て思わず足を止めた。

一見、ただの森。

しかし外見はどうあれ、一歩踏み込めばそこからは別世界。ガストレア達の支配する世界だ。

 

「…………」

 

誰かの生唾を呑む音が沈黙した空間に大きく響いた。

あと一歩、ほんのすこし進むだけで辿りつける。

しかし、彼らにその一歩を踏み出させない異様な雰囲気がそこにはあった。

根拠はないが、確信していた。あそこにはガストレアがいるのだ、と。

無理なのではないか、やはり無謀だったのではないか。

そんな考えが彼らの脳裏を掠めていた。

しかし、その沈黙を破るように声が張り上げられた。

 

 

「おいおいおいッ! てめぇら? まっさかビビってんじゃねぇだろうな!」

 

 

そう叫んだのは一人の男だった。

全員の前に出ると嘲るように笑う。

 

「たかがバケモン一匹殺すだけであんだけの金が手に入るんだぞ? それを。なんだよ、ハハ。今さらビビりましたってか?」

 

「で、でもよぉ。やっぱり未踏破領域はヤバいって」

 

震えながらそう返す男に続くように、更に幾人かのプロモーターが同意の声を繋げる。

しかし―――

 

「アホが」

 

そんな声を男は一蹴した。

 

「思い出してみろって。この前、影胤と戦ってたガキをよ」

 

蛭子影胤と戦っていたガキ、そう言われ思いだされるのは年若いひとりの少年。

まだ幼く大人と言えない容姿も相まって、印象的だった。

しかも、相当強いプロモーターらしく、二人のペアだけで未踏破領域に踏み込んだ事もあるらしいと聞く。

 

「あんなちんちくりんでも未踏破領域に入れたって言うじゃねぇか。――つまりだ。未踏破領域なんてのは所詮名前だけ! 大したことねぇに決まってんだよ。一万番台もチラホラいるってのに怖がる必要なんてどこにもねぇのさ!」

 

そう、彼らがみた少年の戦いは蛭子影胤への最初の奇襲だけ。

彼らさえ気づきもしなかった敵に気付いたのは確かに驚くべきことだが、それだけだ。

少年自身にそれ程の力があるとは到底思えなかった。

 

「……そう、かもな」

「え、ええ。大丈夫よ。多いって言っても所詮数匹でしょう」

「これだけいれば、なあ?」

 

その扇動に動かされるようにして、自分達の行動を肯定する言葉が伝播していく。

そして、次第に小さかった声は大きくなり、熱をこもったものへと変わる。

 

「そうだ! 俺たちはいける! さっさと殺って、さっさと帰る。そうすりゃ金は俺達のもんだ! だろ!?」

 

その声に答え、大きな声があがる。

剣、銃、槍。各々が握りしめた武器を天高く掲げ吠えた。

 

「―――よし、行くぞ!」

 

そして、扇動によって上がった士気のまま彼らは未踏破領域へと足を踏み入れた。

 

 

 

そう、踏み込んでしまった。

本来の彼らならしないであろう判断。

 

しかし聖天子が発破をかけるつもりで掛けられた賞金は、彼らを煽り正常な判断力を鈍らせていた。

本来、アジュバントとは信頼しあえる民警がグループを組む、力を合わせることでこそ真価を発揮するもの。

決して数集まれば強い、という考えのものではない。

それが分かっていない彼らなど、所詮烏合の衆でしかない。

 

そして、なによりも未踏破領域というものを甘く見ているという一点。

その何より重大な失敗。

彼らはそれにすら気付くことなく、未踏破領域(死地)へと向かって行った。

それを知るにはもう手遅れであったのだ。

 

 

 

 

 

大規模感染爆発(パンデミック)の発生。その報を聖天子が耳にするのは、その数時間後のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■今はまだ名もなきパイロット■

 

 

眼下に広がる緑の大地。所々に見える灰色はかつての東京の名残だ。

廃墟なった都市と太陽を遮る暗雲と挟まれつつ、豪雨に晒されながらのフライト。

視界が悪く、いつガストレアからの襲撃があるかも分からない。長年、ヘリを運転してきたベテランのパイロットであろうと好んで飛びたくない悪条件だ。

そして望まずそのフライトを担当することになったパイロットは今、額には大粒の汗を浮かべ、震える手はハンドルを必死に握りしめていた。

そんな彼の顔色は、悪いを通り越し青白い。

 

「…………」

 

ただ口を一文字に結び、弱音はおろか一言も発することなく眼前の暗い空を涙でぼやける視界で見ていた。

顔色が最悪でなければ、その精悍で真面目な顔つきは大層見れたものだっただろう。

 

(無心で、無心で、無心で、無心で、無心で、無心で―――――)

 

心の中で、そんな言葉を繰り返し。

無心でとか考えている時点で、無心でないという事実にすら気付かずに。

自分はこの場にいない、今の自分はただの機械、無機物、人間ではない……そう刷り込み、己の存在をただただ希薄にする。

それだけに全てを掛けていた。

 

それは決して悪天候でのフライトがどうとか。

今日は調子が悪いからとか。

嫁の誕生日が今日だとか。

そんなちゃちな理由では、断じてない。

ならば、何故か。

それは―――

 

チャラッ。

 

「――っ!」

 

無心で、無心でといた筈の彼はいつの間にか頭の中で考えごとをしていたらしい。

そんな彼の心情を察したらしい彼の動かすヘリの背後にいる存在、自分が目的地へと送り届ける人物。

その片割れこそ、強烈なプレッシャーを振りまき続け、今まさに自分の身体を縛りつける凶器の操り手だった。

 

体に巻きつく鎖は体の動きを阻害しない範囲で、きつく締めつけられ、その冷たさと確かな質量はこれが紛れもなく、自分を害するどころか殺すことの出来る凶器だということを訴える。

このヘリを運転しているのは自分だ。

だからこそ、自分に何かしたらこのヘリはほぼ確実に墜落する。

つまり、自分をこの鎖で締め付け、まさかコロコロするなんて、そんな訳ないだろ……と思う自分もいる。

しかし、何もないはずだと分かっていても、もしかしたらを考えると不安感が消えることはない。

背後の少女の気まぐれで自分は死ぬ、その事実がとても怖いと思うのは仕方がない、だって人間だもの。

 

聖天子の補佐官である天童菊之丞。彼は天童何某の直属の下部組織の一員であり、今こうしてヘリを運転しているのは元をたどれば彼の命令によるもので。

つまり自分がこんな状態に陥っている原因を間接的に担っているともいえる。

いくらその立場が、自分なんかよりと遥かに格上だとしても、今はあの髭面を思い浮かべぶちのめしたいと思うのは仕方のないことだった。

 

(ぐ、ぐぞー! なんで、なんだってこんなことに!)

 

 

人を運送する。

単純に言ってしまえばそれだけのことが、今はどれほど厳しいものか。

ガストレアによって破壊されたこの時代で、観光や趣味としてヘリが利用されることなんかほとんどない。

つまり、この時代でヘリを使うということは危険地に物資や、あるいはガストレアに対抗出来る人物を運ぶということに他ならなかった。

もちろん、それに見合うだけの金銭は支払われるものの、それが人一人の命と釣り合うかと言われると、否だ。

特殊性癖の持ち主とかだったら、また意見は変わってくるのだろうが。

生憎と自分はノーマル、死に際に興奮するド変態ではなかった。

 

だがしかし。そんなことを思っていても現実は非情なもので生きていくには金が必要。

ガストレア大戦前にヘリなんて運転していたせいで、今もこんな仕事をしなければならない。

すこしでも高い払いの仕事をしろと嫁にケツを蹴られるままに、かねてより声のかかっていた所へ行った。

それが今の仕事場ですね、はい。

そこでこつこつと頑張ってたんですけどねえ。

ガストレアには遠距離からも攻撃してくるヤツもいる、そんな中をひょろひょろヘリでとばねばならん、自殺志願者のように、は、はは、ははは。

……しかも最近は未踏破領域の方まで飛ばされて……殺す気か!

もう我慢ならんとそう思った俺は、上司のとこに行ったよ。

 

『ふざけんな、馬鹿。人の命をなんだと思ってやがる!』

 

そう言って顔面に辞表たたきつけてやろうと思ってな。

でも―――

 

 

「ン?」

 

 

そこにいたのは上司じゃなかった。

GORIRAだった。

あ、いや、やっぱ上司だ。

上司なGORIRAがいたんだ。

 

「なにウホ。なんか用かウホ?」

 

――――GORIRAAAAAAAAAAAAA!!!!!!

そう叫びたかった俺だが、俺の良心がそれを許さなかった。

決してヤツの二の腕が丸太みたいだったからではないんだからね(震)

 

『な、なんでもないです……突然入ってきちゃってすいません……あ、あはは……』

 

「マナーは守るウホ。社会人として、人としての常識ウホ」

 

――――GORIRAに諭された。

 

その事実が俺の心に突き刺さる。

両手を地面につけ、どよーんとする俺。

そんな俺を無視してGORIRAは続ける。

 

「にしても丁度よかったウホ。お前にあたらしい仕事ウホ」

 

人外に諭されるという現実によって、失意のどん底にいた俺は、GORIRAの言葉すら耳に届かぬまま適当にうなづいて詳細の書かれた書類を受け取って退室した。

 

 

 

主に人の利用する活発なエリアとはモノリスの内の内。

モノリスへと近づくにつれ、街の様子は寂れ、人口もそれに伴い激減していく。

今回の俺の待機場所は、そんなところだった。

 

廃墟と言っても過言ではないその場所には、とても人間が住んでいるようには見えないが、今回俺が運送する人物の住む場所はここらへんにあるらしい。

正直、こんな所にまともな人間が住むとは到底思えない。

そしてなにより、此処はモノリスに近い。

もしかしたらガストレアなんかが侵入してくる可能性がゼロではない。

つまり、すごく怖い。

 

(はやくこい、はやくこい~)

 

そう念じながら、待つほど数分。

廃墟の一画から二人の人影がやって来た。

 

「あ、あのー!こっちでーす!」

 

大きい声でそう呼びかけると、それに反応した二人はゆっくりとこちらに近づいてくる。

その姿が鮮明になると、疑問の念が浮き上がった。

ひとりはイニシエーターだと思われる少女。

日本人離れした容姿の彼女はまだ幼い容姿をしているが、その力は普通の人間とは隔絶したものである。

昔はまだ幼い少女達が戦端にたつことに違和感があったものの、正直今となっては皆無。

むしろ大の大人である自分達が足手まといにすらなるだろう、というかなる。

 

しかし、その傍らに立つ少年。

イニシエーターは女の子だけ、男である彼はつまりイニシエーターではないということになる。

彼は普通の……まさかプロモーターの、筈はないだろうし。

 

「…………」

 

などと考えていると、少年と視線が合った。

自分が無言で考えていたことに気付き、手を差し伸べる。

 

「あ、ごめんね。今日君を目的地まで運ぶことになった者だ。よろしく」

 

「…………」

 

しかし差し出された手は中空を掴むばかりで、目の前の少年はただ自分を見つめるばかりだった。

 

(て、何やってんだ、俺ぇ!?運送対象をいきなり子供扱い、そして握手を求めるだー!?やっちまったァ――――!!!!)

 

え、これヤバイ?ヤバイヤツなの?

と不安になりつつも、どうすればいいか分からない俺。

そんな俺の手を、次の瞬間、少年の手が掴み返していた。

 

「……よろしく」

 

顔を伏せ眼元を髪で隠しながらも、そうか細い声で告げてくる。

 

(うおお!なんて優しい子なんだ。恥ずかしがりつつも、しっかりと手を握り返してくれるなんて)

 

それを恥ずかしい故にと受け取り心で感涙を流した。

そして、その流れで隣の女の子へも手を差し出す。

 

「君も、よろしくね!」

 

思わずほころぶ頬をそのままに、笑顔で差し出した手に返ってきたのは――かつて見たことのないほどの冷徹な視線だった。

 

「――――」

 

「あ、あのー……て、手を」

 

「その薄汚い手を下げなさい」

 

「へ?」

 

予想外の言葉に変な声が漏れた。

 

「その手を下げろと言っているんです、人間。お前の役目は私達を運ぶことでしょう。早々に黙って働きなさい」

 

「あ、はい」

 

嫁と同じ匂いがする嬢ちゃんだ……。嫁の調教(済)を受けていた俺は、そんな言葉にも腹がたつことなく、少女に従うようにヘリへと乗った。

そして、俺の悪夢のようなフライトが始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

■銀丹■

 

 

重圧を放つ張本人、銀丹は無表情で椅子に座っていた。

しかし、その身体からは明らかに常とは違った不機嫌なオーラが醸し出されている。

先ほどからピーチクパーチクと心を騒がせ、その一端を担っていたパイロットの男は鎖で締めあげ、黙らせている。

 

彼女の能力である、ずばり読心……のようなもの。

完全に心を見透かすわけではなく、あくまでその表層を読み取るだけのそれ。

しかし、それだけの能力でもあの男がさっきからずっとやかましく騒いでいたということは分かっていた。

どうやらその対処も効果を出しておらず、今も鎖を恐れながらもまだやかましいままのようだった。

 

それでも所詮それは些事。

そのパイロットに向かう重圧はただの余波であり、それが真に向けられる先にいるのは同乗している少年こと鉄災斗。

彼は今も鉄面皮のまま、彼女の不機嫌さも気にも留めない様子でヘリの窓から見える外の様子を見据えていた。

何故普段から災斗のことをマスターと敬愛する銀丹が、今日はこんなにも災斗に不機嫌オーラをぶつけているのか。

その理由は一時間ほど前にさかのぼる。

 

 

 

〈災斗達の家(マンホール)にて〉

 

「約束果たしてもらうわよ、災斗!」

 

金髪の少女、青葉は仁王立ちしながらない胸を張ってそう言い放った。

その声が向けられるのは、明言されたように鉄災斗。

ソファーに腰かけ、じゃれるクロとシロを相手にしていた彼はその言葉に動きをとめる。

そしてしばし思案するように動きを止め、首をかしげた。

 

「……?」

 

心当たりがないようだ。

そんな対応をされて黙っていられる様な性格を青葉はしていない。

 

「ちょ、あんた忘れたの!?ふざけんじゃないわよッ!」

 

沸点が臨界点を突破し、突撃しそうになる青葉。

そんな彼女をいち早くみんなの世話役、椿が引き止める。

 

「待った。いったん落ち着くといい。すぐ怒るのは青葉の悪い癖だぞ」

 

青葉の肩へと手をおき、素早く沈静化を図る。

その姿まさしく、暴れ牛を乗りこなすカウボーイの如く。

 

「災斗さんも忙しい人だし。もちろん、約束を忘れたなら、その責は災斗さんにあるだろう。でも、ひとまず君の約束とやらを聞かせてあげたらどうだろうか」

 

「……わかったわよ」

 

椿の言に従い、話しだす彼女の言葉を纏めると、こういうことだ。

以前、不審者(蓮太郎)が来た時、怒った青葉を沈めるべく災斗が言った。

――ひとつ、何でも言うことを聞く、と。

彼女はその約束を今、果たせというのだ。

 

それに対してまず災斗を慕う一団がアクションを取ろうとする。

 

「……わかった」

 

しかし、そんなその他大勢の行動に先んじて、それを聞くや否や災斗が声を出していた。

 

「……なにすればいい」

 

単純に忘れていただけだった彼は思い出すと、約束を果たすべく青葉に問いかける。

その反応に喜色満面な青葉は興奮したように返す。

 

「じゃ、じゃあ―――「待ってください!」」

 

紡ぎだされた青葉の言葉を遮り、声を出したのは―――銀丹。

いつの間にそこにいたのか、災斗の背後からぬっそりと現れ、青葉へと指を突きつける。

 

「……なによ」

 

唐突に邪魔に入った存在に、先ほどまでと一転、不機嫌さ全開の青葉が問いかける。

 

「そもそも!あれは確約したものではなかった筈です。そもそも青葉との約束が有効なら、その場にいた私も聞いてもらえるのが道理というもの!」

 

一息に告げられた言葉には微塵の迷いもなかった。

それを聞いて黙っていられる青葉ちゃんではない。

「はあ?」と、嘲りを隠す気もなく、小ばかにした表情で銀丹へと詰め寄る。

 

「あんた馬鹿なの?その場で言い出さなかったあんたにそんな権利あるはずないでしょ。あー、ほんっと厚かましい女」

 

「あ、厚かましい!?そ、それはこっちの台詞です!マスターのご負担も考えずに、っ!この脳筋!」

 

「な、のうきっ!ふ、ふん。戦闘で使えない雑魚のあんたよりましよ!」

 

「私はサポートタイプなんです! 思考能力を捨てた猪突猛進ばかに言われたくありません」

 

「ちょ――だれがイノシシよ!このペチャパイ!」

 

災斗のもとに集う子供たちの中でも随一の身体能力を誇る青葉の手が動いた。

それに咄嗟に反応できる者はおらず、青葉の小さな手は掻き消えたと同時に、銀丹のつつましい胸板に触れていた。

 

「っっっ!?ちょ、な、はあ!?」

 

数瞬遅れて反応した銀丹は声にならない奇声をあげる。

それを見た青葉は追い打ちをかける。

 

「あらーごめんなさい。こんなまな板じゃペチャパイとも言えないわね。ところで、あんたって男だったかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

「ぽんぽんっと。あー、平面はいい音なるわね。ふくらみがあるとこうはいかないわよ」

 

「…………ふ、ふふ、ふふふふふ」

 

煽られ赤くなっていた顔が急速に常と同じように戻っていき、不気味な笑い声を発する銀丹。

 

「こんな気持ちはじめてです……。今なら楽しい気持ちで同族を殺せると思います」

 

「ハッ? 戦る気、いいわよ。相手してあげる」

 

どこに隠してあったのか、明らかにおかしい量の鎖が銀丹の袖口から出てくる。音をたてながら地面を這って先端は鎌首をもたげて青葉を狙う。

それを受け、青葉は半身を下げる。拳を構え、その眼光も戦闘に備え鋭くなっていく。

あわあわと慌てたり、静観したり、お昼寝したりするギャラリーを無視して空気は緊迫したものへと変わる。

 

「さよなら、青葉。初めて会った時からあなたのこと大嫌いでした」

 

「同じくね。バイバイ、粘着ストーカー女」

 

ボルテージが最高潮へと達し、怒気は殺気へと変貌を遂げる。

はじかれたように動いた両者、銀丹の鎖と青葉の拳がぶつかり合う——寸前。

 

「待て」

 

黒鎖は大地へと叩き落され、青葉の身体は宙を一回転してから仰向けに転がっていた。

 

「二人ともやり過ぎだ。流石に見過ごせないぞ」

 

青葉の襟首をつかみ、力みのないいつものような自然体をした椿は静かにそう言い放った。

状況を理解できず呆然としていた青葉は、自分が何をされたのか遅れて理解し、憤慨するように顔を真っ赤にする。

 

「椿ぃ!あ、あんた」

 

「黙れ。もとはと言えば、青葉の短気が原因だろう。……やりすぎだ」

 

憤る青葉を、椿の切れ長の視線が貫く。

猛禽の如く細められたその眼に普段の椿の姿は想起できず、青葉は思わず押し黙る。

次いで、ギロリと立ち尽くしていた銀丹にその目を向ける。

立ち尽くしながらぼうっと二人を見ていた彼女に、椿の鋭い視線がぶつかる。

 

「銀丹も同じだ。普段の冷静なお前ならば災斗さんを確りと補佐できる。私たちはそう信じてお前にその役目を任せているんだ。しかし、先ほどの様子を見てしまえば、お前が適正か疑問を感じずにはいられない」

 

うつむき、黙る銀丹を見ながら、言葉を繋げる。

 

「感情を発することが悪いとは思わない。だがやり過ぎは駄目だ。……確かに過去に色々あったかもしれない。だが私たちはもう家族だろう?」

 

「あ……」とつぶやき顔を青くする銀丹。

 

「だから、殺すなんて。……簡単に言わないでくれ」

 

「長くしゃべってしまったな。ひとまず解散しよう」という椿の声に、銀丹に一言謝りばつの悪そうな顔でそそくさと移動する青葉。ほかの全員もそれに続くようにホームへと戻っていく。

 

 

 しかし、銀丹だけは長い前髪に隠れ表情も窺えず、そのままその場所に立ち尽くしていたのだった。

 

 

【回想END】

 

 

彼女に起きた出来事は、つまりこういうことだった。

その後は「……言っとくけど。今回だけだからね!」「災斗さんのことよろしく頼む」「いってらっしゃーい」×3などと言われ、結局今回の事に関しては自分がマスターのサポートをすることになった。

 

青葉の思い、椿の怒り、再認した事実。

当然、自分もそれらに思うところがあって、最初にマスターと一緒にいたのは自分だとか、忘れられない出来事だとか、マスターの補佐は当然の仕事だと思っていただとか――本当にいろいろある。

しかし、それでも彼女たちの思いは最もだと思ってしまう自分がいる。

 

最初に救われた?

だから、なんだ。順番がなんだと言うんだ。

 

過去の問題?

もう既に終わった話だ。青葉の先の言葉のとおり、自分が粘着質なだけだろう。

 

マスターの補佐が当然の仕事?

……それは違う。最初に私がしていたから、そのまま続けているだけであって、決まっているわけじゃない。

少なくとも、私が彼女たちの立場なら、簡単に受け入れることは出来ないだろう。

絶対に嫉妬して、その立場を手に入れるために行動を起こすはずだ。

 

しかし、彼女たちはそれをしない。

何故か。――その答えはさっき言っていた。

マスター(鉄 災斗)のためだ。彼を最大限にサポートできるのが私だと、私が適任だと思っていてくれたから。

 

ああっ、もうっ!

 

どうしようもない憤りが心の中で生まれる。マスターが僅かにこちらを向いたのを認識しながら、申し訳なくそれを無視して思考を再開する。

 

……昔はこうではなかったはずだ。

マスターこそが至上の存在で、その他の人間もガストレアも自分の同族でさえも有象無象でしかなかった。

だからこそ、縋りついてきても切り捨てられたし、なんでもないもののように排除できた。

 

しかし。

 

気づいたときには、彼女たちのような……椿の言葉を借りるなら家族が出来ていた。

望まずともこちらの感情を沸き立たせ、あるいは煽る……そんな存在が。

 

「…………」

 

それを踏まえるなら、自分は弱くなってしまったのだろうか。

私は冷静だからマスターのサポートに最適。

なら冷静じゃなくなった私は、マスターのサポートには最適ではない。

 

――それは家族が出来たから。

 

――それは青葉たちに出会ったから。

 

――それは、マスター以外にも大切な存在が―――……

 

「うるさいっ!!」

 

鎖を操作して、運転席の男を締め上げる。

殺しはしないが、手加減もしない。それくらいの強さで。

もしかしたら運転を失敗して墜落するかもしれないが、私とマスターは死にはしないだろう。

先ほどから小うるさい思念が此方に飛んできていたのだ、私は悪くない。

突然の大声にマスターが驚いた様子を見せているので、一言謝る。

 

考えても答えが出ないように感じて、もう一度始めようとしていた思考を遮り、窓の外へと意識を傾ける。

雨音を聞きながら、それだけに集中すれば。

 

濁りすぎた灰色の空は、真っ暗な闇色に見えた。

 

 

 

 




ほんとごめんなさいでした。

色々区切りがついて、一時間で仕上げたスピード作品です。
故に全然チェックいれてないので誤字とかあったら是非教えてください!

今回はキャラの心理描写結構いれてます。
延珠たんの話に力いれすぎて、ほかのキャラ薄くね?と思ったので、これからはキャラ立つようにがんばります(適当)

あと椿も銀丹の言葉が本気じゃない…よね?え、冗談だよね?…え、ちょ、どっちなの?ちょっ、え、待って!ねえ、待ってよ!え、え?え?え?くらいの気持ちでした。
まあ、とにかく、それでも椿はあの言葉を許せなかったのです。
詳しくは今度(いつか)やる予定の過去話でくわしく!

三( ゚∀゚)アデュー!!


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