お姉ちゃんにまかせなさい! (悠々亭ゆゆ)
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第一話 『出会い』

皆さん初めまして!初投稿にして本作品一発目となります。思いつく限り続けていこうと思っていますので、読んでいって下さると大変嬉しいです。


――とある高校の職員室――

 

教師「――では、保登さんは香風さんが経営する喫茶店“ラビットハウス”への住み込みを希望、ということでよろしいですね?」

ココア「ええ。それでお願いします」

教師「わかりました。では保登さんの住み込みについてこちらから香風さんに依頼を致しますので、後日了承を得られましたら――」

ココア「ああ、了承はすでに頂いていますよ。オーナーの香風さんに住み込みの件について先ほどお伺いしてきました」

教師「なんと! 素晴らしい行動力ですね、すでに了解を得ていましたか。まぁ、保登さんならばどこでも快く受け入れて頂けるでしょう」

ココア「そうでしょうか?」

教師「そうですよ。礼儀礼節をしっかりわきまえていますし、人当たりもよく何より優秀ですからね」

ココア「……そこまで褒められると恐縮してしまいますね」

教師「そんなに謙遜しないでください、事実なのですから。……でも、本当に我が校でよかったのですか?」

ココア「どういうことですか?」

教師「保登さんの成績ならばあちらの高校の方がよかったのではないのかなと」

ココア「ああ、あちらのお嬢様学校ですか」

教師「そうです。あちらの学校はうちよりも学業・スポーツ共にレベルが高いですからね、それに特待生制度もあります。保登さんの成績ならば十分に特待生枠の圏内だと思いますよ」

ココア「あー、特待生は魅力的なのですが、どうしても学校の気質が私に合いそうもないので……、堅苦しいのは苦手です」

教師「そうですか。まぁ、うちの学校はかなり自由な校風ですからね。堅苦しいのが苦手なのであればうちの方が学生生活を送るうえでは過ごしやすいでしょう。……たまに羽目を外しすぎる子がいるのが少々問題ですけども」

ココア「あはは、そうならないように気を付けます」

教師「保登さんならば問題ないでしょう。私個人としては、ゆくゆくは生徒会長となり生徒の模範になって頂きたくですねー」

ココア「あー、私目立つの苦手なのでそういうのは勘弁していただきたいのですが……」

教師「えー、そこをなんとか」

ココア「うぅ」

 

――――――――

―――――

――…

 

ココア「……疲れた」

 

 教師とのやり取りを終えて私は一息ついていた。高校入学前に早くも教師に目を付けられてしまったような気がする。高校ではあまり目立ちたくないんだけどなぁ。中学では結構面倒くさかったし高校生活はゆったりと過ごしたい。

 

ココア「……それにしても、今日は色々あったな」

 

 今日は高校入学前に学校についての説明を受けに来ていた。私の実家には周辺に通える高校がない。通学の範囲で通える高校はあるにはあったのだが、幼い頃に姉に連れられて訪れて以来、この木組みの家と石畳の街に憧れていた。私はどうしてもこの街に住んでみたかったのだ。そこで高校入学の際に思い切って家族に相談してみた。私ならば問題ないだろうということで快く了承してくれた。……お姉ちゃんを除いては。

 

ココア「……お姉ちゃんにはいい加減に妹離れをしてもらわないと、ね」

 

 私には年の離れた姉と兄が二人いて、私はというと四人兄弟の末っ子にあたる。姉、兄ともに兄弟全員仲が良いが、私は特に姉に溺愛されていた。高校入学のために家を離れると話を切り出すやいなや、泣きながら止めてくれとせがまれてしまった。しかし、私はそんな姉を押し切って実家を離れることに決めたのだ。

 

ココア「可哀そうなことをしたと思うけどこれを機にお姉ちゃんには頑張ってもらわないと」

 

 そういって私は自分を正当化して姉に対する罪悪感を振り払った。

 

ココア「それにしてもタカヒロさん、ほんとによかったのかな? 考える間もなくOKしてくれたけど」

 

 学校の説明を受けに行く前に、私は住み込みで働かせてもらうため、お店に訪問をして回っていた。この周辺地域の学校の特色として、遠方から家を離れて学校に通う際は、学校の後にお店で働くことを条件に、住み込みで学生生活を送るという風習があるのだ。学生の住み込みを受け入れているお店については事前にある程度調査していたので、その中で個人的に興味を抱いたお店に訪問して回るつもりだった。

 ……のだが、一番初めに訪問した喫茶店ラビットハウスにて、オーナーのタカヒロさんにどうやら気に入られてしまったようで、すぐに住み込み先が決まってしまった。

 

ココア「んー、他にも甘兎庵とかにも訪問してから決めたかったんだけどなぁ。タカヒロさんなんかすごく押してくるし、そのまま勢いに乗せられてしまった感が否めないな」

 

 まぁ、ラビットハウスは一番気になっていたお店だし快く引き入れてくれるのであればこちらとしてもありがたいことこの上ない。これからの生活が楽しみだ。

 

ココア「それにしても、やっぱりいい街だなぁ……」

 

 一息ついた後、思いのほか学校の説明も早く終わってしまい、帰りの電車にもまだ時間があったため私は街の様子を眺めながら散歩をしていた。木組みの家と石畳の街と言われるだけあり、やはりとても趣がある。また、この街の特徴でもあるのだが、至るところに野生の兎が生息しており、兎と直に触れ合うことができるのも魅力の一つだ。近いうちに、この街で暮らすことになるのかと思うと期待に胸が高鳴る。

 

ココア「うん、とりあえずやれるだけやってみようかな、……がんばろ」

 

 時間が許す限りこの街をもっと見て回りたかったが、ふと時計を見ると帰りの予定時刻が迫ってきていた。名残惜しいがそろそろ家に帰らなければならない。帰りの電車の時間に合わせて駅へと向かう。駅へ着くと丁度帰りの電車がやってきたので、私は電車に乗り込むとそのまま木組みの家と石畳の街をあとにした……。

 

 

 

 

 

――喫茶店ラビットハウス――

 

 木組みの家と石畳の街の一角に佇む喫茶店ラビットハウス。現オーナーの一人娘である香風チノは店を支えるべく今日も働いていた。慣れた手つきでコーヒーを煎れると、自ら客の元まで歩きコーヒーを差しだす。

 

チノ「お待たせしました、コーヒーです」

客「あ、どうもです~」

チノ「では、ごゆっくり」

客「いえいえ~♪」

 

 てきぱきとした動作でお客にコーヒーを出し終えるとカウンターへと戻る。

 

チノ「……今日もお客さん少ないですね、おじいちゃん。……はぁ」

ティッピー「……」

 

 ため息交じりにティッピーに愚痴を零す。ラビットハウスは、今は亡き祖父が創業者であり、この街でも老舗と呼ばれる部類に入る喫茶店である。祖父が経営していた頃はお客の入りはなかなかに良く、そこそこに繁盛していた。だが、祖父が亡くなって以来、次第に客足が遠退いていき、今では閑古鳥が鳴いてしまいそうな状況となっていた。さすがに経営が厳しくなってきたため、現オーナーである父は思い切って夜にバーを開くことにした。これが功を奏してなんとか店の状況を立て直すことに成功した。だが相変わらず昼間は客が少ない。そのため人員をそこまで割く必要がないので、私を含めて数人で昼は営業している。

 

チノ「……そういえば」

 

 父から話は聞いていたが、今日は高校へ通うため、遠くから住み込みで働く方が引っ越してくる日だ。

 

チノ「どんな方なのでしょうか、仲良くできるか不安です……。怖い人だったらどうしょうましょう、おじいちゃん……」

ティッピー「……」

チノ「リゼさんの時のことを思い出してしまいます、うぅ……」

 

 ラビットハウスでは現在バイトのリゼさんと一緒に働いている。初めてリゼさんと会った時、その人となりに驚いてしまい、びくびくしてしまった。一緒にお仕事をしていくうちに優しい人だとわかってからはそんなこともうないですけど。

 

チノ「優しい人だといいな……」

 

――――――――

―――――

――…

 

ココア「到着ー、っと」

 

 家族との別れの挨拶を終え、私は晴れて高校生活の舞台となる木組みの家と石畳の街へと再びやって来た。約一か月ぶりの訪問となる。

 

ココア「んー、やっぱりいいなぁ、この雰囲気」

 

 街の様子を見ながら目的地のラビットハウスへ向けて足を運ぶ。歩くとコツコツと心地よい足音が響く石畳の路、まるでお伽橋に出てきそうな風情あるハーフティンバー方式の建物、にぎやかな声が飛び交う商店街。途中に立ち寄った公園には野生の兎が子供たちと一緒に戯れていた。この街でこれから始まる新生活を想像すると顔がにやける。

 

ココア「それにしても、お姉ちゃんにはほんとに困りものだなぁ……」

 

 家族と別れを告げる際、予想はしていたことだが、お姉ちゃんに泣きながらしがみつかれて行かないでくれとせがまれてしまった。振り払いようにもどうも気が引けてしまい困っていると、両親が助け舟を出してくれて、それでようやくお姉ちゃんは私を放してくれた。お姉ちゃんには本当に悪いことをしたと思う。……ごめんね、お姉ちゃん。

 謝罪の意味を込めて今度帰った時に何かしてあげようかと思案していると、目的地のラビットハウスに到着した。

 

ココア「……着いたね」

 

 店の前に立つと、”open”と書かれた札がドアに掛けられており、メニューが記載された立て看板が置かれていた。どうやら今は営業中のようだ。窓越しに店内を覗くと店員さんらしき人の姿が確認できた。

 

ココア「この前来たばかりだけど、いざってなると緊張するな。すぅー、はー、……よし」

 

 大きく深呼吸をして心を落ち着かせた後、ドアに手をかける。

 

ココア「失礼します」

チノ「いらっしゃいま――」

 

 ドアを開けると、先ほど窓越しに見えた店員さんが出迎えてくれた。

 

ココア「あ、初めまして。私、保登ココアといいます。本日よりこちらのラビットハウスさんにて住み込みで働かせてもらうことになっています。どうぞよろしくお願い致します!」

 

 私が開口一番に自己紹介をすると、店員さんは何やらぽかんとした様子で固まっていた。……今の自己紹介変だった? かなり普通だったと思うのだが。

 

ココア「……どうしました?」

チノ「ぅあ、いえ。な、なんでもありません。私は香風チノといいます……。父はこのラビットハウスのオーナーです、父から話は聞いていました。こ、こちらこそどうぞよろしくです……」

 

 私が尋ねると、はっとした表情をした後、店員さんが自己紹介をしてくれた。この子がチノちゃんかー、タカヒロさんから聞いていた娘さんだね。

 ……それにしても、ちっちゃくってかわいいー。人見知り屋さんなのかな? 恥ずかしそうにしてる姿が一段と、こう、ね。思わず抱き着いてしまいたくなるな、これは。いかんいかん、冷静に冷静に。私は浮ついてしまう心を一旦落ち着かせると話を続けた。

 

ココア「あ! あなたがチノさんですね! 私もタカヒロさんから話は聞いていました。一人娘のチノという子がいて、昼はその子がラビットハウスをきりもりしていると」

チノ「はい、その通りです。昼は私がラビットハウスのオーナー代役としてお店をやっています。父は夜にここでバーテンダーをやっています」

ココア「そうなんですか。昼と夜とで営業しているとは聞いていましたが、昼は喫茶店、夜はバーをなさっているんですね」

チノ「そんな感じです。」

ココア「へー。……そういえば、他に店員さんが見当たりませんけど、チノさんお一人でお店をやっているんですか?」

チノ「いえ、バイトの方が一人いらっしゃいます。ですが、一昨日から私用ということで一週間ほどお休みしていますね」

ココア「なるほど、ということはバイトの人がいない時は一人?」

チノ「そうですね、一人でやっています。でも、一人だと厳しい日は父が手伝ってくれます」

ココア「すごいですね。まだ小さいのに、ご立派です」

チノ「むっ、子供じゃありません。私は中学生です!」

ココア「……え? ほんとに?」

チノ「中学生です!」

 

 ……小学生にしか見えないんだけど。というか、私と歳が二つくらいしか変わらないってこと?えぇ……。

 

ココア「ああ、ごめんなさい。これは失礼しました……」

チノ「別に構いません、慣れていますので……」

 

 子ども扱いされるのは嫌いなようだ、次からは気を付けよう。

 

ココア「それにしても一人というのは大変ですよね、私も手伝いますよ」

チノ「いえ、さすがに今日初めて来られた方に手伝ってもらうわけには……」

ココア「会計と接客程度ならできますよ、私実家がパン屋さんで家の手伝いをよくしていたんですよね」

チノ「そうなんですか。とてもうれしいですけど、今日はお客さんが少ないので私一人でも大丈夫です」

ココア「んー、そうですか。では明日からということで」

チノ「え?明日からもう働くつもりなんですか? 父からは学校が始まってからって聞いてますけど」

ココア「あー、確かにタカヒロさんからはそう言われてましたけど、お仕事は早いうちに覚えてしまいたいですしね。何よりチノさんとはやく一緒に働きたいので!」

チノ「うぅ、わ、わかりました。では明日からよろしくお願いします……」

ココア「こちらこそ、これからよろしくお願いしますね!」

チノ「……はい」

 

――――――――

―――――

――…

 

 チノちゃんと挨拶を交わした後、私のために用意された空き部屋へと案内してもらった。持参してきた荷物を広げ自室の整理を行う。

 

ココア「……ふぅ。とりあえず、こんなものかな?」

 

 ある程度整理し終えたところで、一息つこうと思いベッドに横になる。生活に必要なものは実家から大体持ってきたが、消耗品などは持ってきてはいない。時間ができたら学校で必要になるものも合わせて買い物に行きたいところだ。

 

ココア「それにしても、チノちゃんかぁ。ちっちゃくって可愛いー、思わずハグしたくなっちゃうよ。さっきは結構危なかった……」

 

 先ほど初めて会った時、思わず抱き付きそうになったことをふと思い出す。冷静を装って普段通りに接したが、内心ハグしたい衝動を抑えるのが大変だった。流石にあそこで抱き付いていたら不審者扱いされても文句は言えまい、初対面なんだし。

 

ココア「ここに来るまでチノちゃんがどんな子なのかちょっと不安だったけど、心配は無用、だったかな。」

 

 タカヒロさんからチノちゃんについてはある程度教えてもらっていた。感情表現が苦手であまり笑わないけど、無愛想、というわけではないから仲良くしてやってくれ、と言われている。確かにその通り、チノちゃんは見た感じ引っ込み思案な子の印象を受けた。だが、お店を任されているあたり、人付き合いが苦手というわけではないように思える、接客業なんだし。仲良くなるのにさほど苦労はしないだろう。

 

ココア「早く仲良くなりたいなぁ。……うん、がんばろう!」

 

 そう言って私は自らを鼓舞すると、さっそく親睦を深めるべくチノちゃんのもとへと向かうのだった……。

 

 

 

 

 




というわけで、第一話です。いかがだったでしょうか?
本作品のコンセプトは、カッコいいココアお姉ちゃんが見てみたい!ということが事の発端となっております。
まだまだ序盤ですので魅力を出せていませんが、これからどんどんイケメンムーブをさせていこうと考えていますので、気に入っていただけましたら次回作も見ていただけると幸いです。あ、感想とか書いていただけるととても嬉しいです!特にダメな部分や表現がおかしいところなど指摘して頂けると感激です!
ではでは~


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第二話 『初仕事』

書き溜めていましたので、連投となります。


――喫茶店ラビットハウス――

 

ココア「ではチノさん、今日からよろしくお願いしますね!」

チノ「こちらこそ、です」

 

 今日は、朝から喫茶店でのお仕事について、チノちゃんに教えてもらうことになっていた。

 

チノ「ですがその前に、なんですけど」

ココア「どうしました?」

チノ「……その、敬語はやめてほしいな、って思うのですが」

ココア「……そう?」

チノ「私が言えたことではないのですが、ココアさんまで敬語だとなんだかやりづらくてですね……」

ココア「んー、わかった、じゃあ敬語はやめにするね。あと“チノちゃん”って呼んでもいい?」

チノ「あ、はい。大丈夫です」

ココア「それでは、気を取り直して。チノちゃん先生、よろしくお願いします!」

チノ「なんですか、先生って」

ココア「えへへー、なんとなく」

チノ「まぁいいです。ではまず初めに仕事の内容についてですが、大まかに分けると、フロアとキッチンに分かれます。フロアはお客さんに注文を聞いて、注文されたメニューができたらそれを届けるのがメインです。一方のキッチンは注文されたメニューをつくるのがメインです」

ココア「ふむふむ、形態的には一般的なカフェといった感じかな?」

チノ「そうですね、うちは普通のカフェで別段変わったサービスなんかはしていません。でも季節毎にイベントなどを催すことはありますよ」

ココア「へー、ハロウィンとかクリスマスとか?」

チノ「はい、そんな感じです」

ココア「イベントではどんなことしてるの?」

チノ「イベント限定のメニューを出して、内装をイベント用に飾ったりしています」

ココア「それは面白そうだね! でも準備とか結構大変じゃない? バイトの人も一人しかいないんだよね?」

チノ「確かに大変といえば大変ですけど、うちはお客さんが少ないのでそこまででもないですよ。……はぁ」

ココア「……うん、なんかごめん」

チノ「ココアさんは悪くないですよ! 謝らないでください、……本当のことですから」

ココア「……あはは」

チノ「おほん。では話を戻しますが、大体の仕事の内容については今説明した通りです。ココアさんには、今日はフロアをお願いしたいと思います」

ココア「りょうかいっ」

チノ「先ほどはざっくりと言いましたが、フロアについてもっと詳しく説明すると――」

 

――――――――

―――――

――…

 

チノ「――といった感じです」

ココア「ふむふむ」

チノ「どうです? できそうですか?」

ココア「んー、たぶん大丈夫だと思う。実家の手伝いでよくお客さんの相手をしていたからね、ある程度接客についての心得はあるよ」

チノ「それは頼もしいですね、期待しています」

ココア「まかせてね!」

チノ「ではお客さんがきたらよろしくお願いします」

ココア「りょうかい!」

 

――――――――

―――――

――…

 

ココア「……お客さん、こないね」

チノ「……そうですね。……はぁ」

 

 チノちゃんにお仕事について説明を受けてから一時間ほど経過したが、お客さんが一人も来ない……。心なしかチノちゃんの溜息が先ほどより大きくなっている気がする。これはお客さんが来るように何か対策を練る必要がありそう、今後の課題だね。

 などとラビットハウスの今後の運営について色々と思案をしていると、

 

 からんからん。

 

 不意にドアの呼び鈴が部屋中に鳴り響いた。どうやらようやくお客さんが来たようだ。私は思考を切り替えると、すぐさまお客さんの対応に入った。

 

ココア「いらっしゃいませ、こちらの方へどうぞ!」

チノ「……!」

 

 私は実家でお客さんの接客をしていた時のことを思い出す。笑顔で相手の顔をしっかり見て、できるだけ声のトーンを重すぎず軽すぎない程度で元気に……と。なるべくそれらしく振舞えるように務める。

 

ココア「おしぼりをどうぞ。ご注文は何に致しますか?」

客「あ、ありがとうございます~。では、コーヒーをおひとつ~」

ココア「他に何かございませんか?」

客「いえ、特には~」

ココア「……畏まりました、では出来上がるまで少々お待ち下さい」

客「わかりました~♪」

 

 お客さんから注文を聞くと、私は踵を返しチノちゃんの元へと伝えに行く。

 

ココア「チノちゃん、コーヒーをひとつお願いします」

チノ「……」

ココア「……チノちゃん?」

チノ「ぅあ、す、すいません! コーヒーですね、わかりました……」

 

 少し間をおくと、チノちゃんは慌てた様子でコーヒーを淹れ始めた。……あれ? 私なんか変だったかな? んー、実家でやっていた方法だと少しまずかったかなー、後でチノちゃんに聞いてみよう。接客方法について少しばかり思案していると、チノちゃんがコーヒーを淹れ終わったのでお客さんの元へと持っていく。

 

ココア「大変お待たせしました、こちらご注文のコーヒーになります」

客「あ、ありがとうございます~♪」

ココア「いえいえ。では、ゆっくりとしていってくださいね!」

客「は~い、わかりました~♪」

 

 お客さんに注文の品を届けた後、チノちゃんの元へと戻る。

 

ココア「……どうだった? 私の対応。変……だったかな?」

チノ「いえ、変だなんてとんでもありません、その逆です! 完璧すぎてびっくりしてしまいました……」

ココア「そっかー、よかった。チノちゃんずっと険しい顔で見ていたから……」

チノ「え? 私そんな顔してました?」

ココア「そうだよー、こんな感じで眉をひそめてずっと見てたよ?」

 

 私は眉間にしわを寄せて鋭い眼光でチノちゃんを見つめた。

 

チノ「うっ、すいません……。自分では全然わからなかったです」

ココア「さながら熟練の現場監督みたいな佇まいだったよー」

チノ「なんですかそれ、からかわないでくださいよ、もぅ!」

ココア「あはは! ごめんごめん」

 少しばかりチノちゃんをからかってみる。すると、チノちゃんは頬を膨らませてポカポカと私の胸を叩いてきた。……なんだこの可愛い生き物は。

 

チノ「……はぁ、どうせ私は仏頂面の根暗娘ですよ」

ココア「うっ……、そんなに落ち込まないでチノちゃん!」

チノ「いえ、事実ですから。仕方ありません」

 

 ひとしきり私をポカポカ叩いた後、我に返るとチノちゃんはいじけてしまった。……コンプレックスなのかな? この話題でからかうのは今後控えよう。

 チノちゃんの機嫌を取りながら会話を楽しんでいると、次のお客さんがやってきた。私は仕事モードに頭を切り替えるとすぐさまお客さんの対応に移る。

 

ココア「いらっしゃいませ、こちらの方へどうぞ!」

 

――――――――

―――――

――…

 

ココア「ふぅー、今日はこれでおしまい?」

チノ「はい、お疲れさまでした」

 

 気が付くと夕暮れ時で、お昼の営業終了の時刻となっていた。

 

ココア「んー、初めてだから結構緊張したけど、どうだった? 私の仕事ぶりは」

チノ「え? ココアさん緊張してたんですか?」

ココア「いやいや、結構緊張してたよ? 私。久しぶりにお客さんの相手をしたから、変にならないかが不安だった」

チノ「全くそうは見えませんでしたよ……。仕事の内容も特にこれといって駄目な所はありませんでしたし」

ココア「そう? チノちゃんの目から見てそうだったなら、ひとまず安心かな♪」

チノ「頼もしい限りです。本当に今日はありがとうございました」

 

 そういってチノちゃんは感謝の言葉とともにお辞儀をした。うーん、お礼を言ってもらえるのは嬉しいけど、他人行儀な感じで距離を感じちゃうなー。まぁ、これから距離を縮めていけばいいか。

 お店の扉に閉店を知らせる札を掛けると、二人して片づけを開始する。

 

チノ「……それにしても、どうやったら私もココアさんみたいに明るく振舞えるでしょうか」

ココア「え? どうしたの急に」

 

 キッチンでお皿洗いをしていたら、横からふとチノちゃんに尋ねられた。

 

チノ「さっきも言いましたが、私は仏頂面で周囲の人から見ると不機嫌なのかと思われてしまいがちなんですよね……」

 

 あー、やっぱり気にしてるのか。ここはひとつアドバイスをしなくては。

 

ココア「んー、笑えばいいと思うよ」

チノ「笑うのは、苦手です……」

 

 まぁ、そんな気はしていた。ならば、ここは私の腕の見せ所かな?

 

ココア「では私が笑わせてあげましょう!」

チノ「私の笑いのツボは人とかなりずれていますよ? そうそう笑いません」

ココア「ほう、私の笑いのセンスを侮ってもらっては困るなー。ではここで一発ギャグを……」

チノ「いいですね、受けて立ちます」

 

 一発ギャクといえば、”アレ”しかないよね。しっかりイメージして……と、よし、

 

ココア「”お姉ちゃんにまかせなさーい!”」

 

 お姉ちゃんがいつも私の前で事あるごとにやっていたことをその場で披露する。

 

チノ「……は?」

 

 あ、駄目だったみたい。

 

ココア「あれ? 駄目だった?」

チノ「色々と突っ込みたいところですが、まず、それは何ですか?」

ココア「私年の離れたお姉ちゃんがいてね、そのお姉ちゃんのものまねだよ」

チノ「え? それはそもそもギャグなんですか?」

ココア「ん? 私としてはそのつもりなんだけど」

チノ「ココアさんも大分人とずれた感性の持ち主ですね……。私が言えたことではありませんが」

ココア「そう? 照れるなー」

チノ「いや、別に褒めているわけではありませんよ、はぁ……」

ココア「にひひ」

 

 そうして私は渾身の一発ギャグを披露したけれど、チノちゃんには不評だったみたいだ。その後も、チノちゃんと戯れながら片づけを進めていった。

 

ココア「ふぅ、大体こんなものかな」

 

 一しきり片付け終えたところで、チノちゃんに声を掛ける。

 

チノ「そうですね、後は父がやってくれると思います」

ココア「あ、そうか、夜はバーになるんだっけ?」

 

 そういえばラビットハウスは昼と夜で営業形態が分かれてて、昼は喫茶店、夜はバーをやっているんだったけか。

 

チノ「はい、なので私たちは今日のところはあがりましょうか」

ココア「そうだね。……チノちゃん、今日はどうだった?」

チノ「どう……とは?」

ココア「私は今日が初めてだったけど、チノちゃんと一緒にお仕事をしてて、とっても楽しかったよ! チノちゃんはどうだった?」

チノ「うーん、まぁ、悪くは……ないですね」

ココア「そう、ならよかった。これから色々あると思うけど、一緒に頑張ろうね、チノちゃん!」

 

 私がそう言うと、はにかみながらチノちゃんは、はいはいといった様子で手を振って相槌を打つ。でも、ぶっきらぼう、というわけではない。相変わらず表情は硬く仏頂面だ。しかしながら、口元が少し緩んでいるように思う。

 そんなチノちゃんが、私にはどこか楽しそうに見えたのだった……。

 

 

 

 

 




というわけで第二話です!今回はラビットハウスにて初仕事の回となっております。
本作品のココアさんは、幼い頃から努力を積み、勉学・運動共に才能を磨いてきた有能ココアさん、という設定です。なので大抵のことは今まで培ってきた経験の応用で、割となんでもこなせる優等生さんでございます。その才能の一端を表現したかったのですが、いかがだったでしょうか?感想ビシバシお願いします!
ではでは~


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第三話 『姉と妹』

第三話になります。


――喫茶店ラビットハウス――

 

ココア「じゃあチノちゃん、行ってくるね」

チノ「はい、いってらっしゃいです」

ココア「昼過ぎには戻ってくるから。それまでは一人になっちゃうけど、お仕事頑張ってね!」

チノ「ええ、まかせてださい。では」

 

――――――――

―――――

――…

 

 

チノ「……はぁ。とはいったものの、少々困りましたね……。ごほっ、ごほっ」

 

 ココアを見送った後、チノは溜息交じりに店の準備をしていた。今日は朝起きた時からなんだか体が重い。先ほどまでは少し体が怠い程度だったが、徐々に体の火照りと咳が出始めてきた。

 

チノ「今日はココアさんが来週から始まる学校の準備で朝から買い物でいません。お父さんも買い出しに行っているので、二人が帰ってくるまでなんとか頑張らないといけませんね……。頑張りましょう、おじいちゃん」

ティッピー「……」

 

 そう言ってチノは一人で自分を鼓舞すると、店の開店に向けて準備を始める。

 ふと時計を見ると十三時を過ぎており、そろそろココアが帰ってくる時間帯となっていた。そうこうしていると店のドアが開き、聞きなれてきた声が飛んできた。

 

ココア「ただいま、チノちゃん」

チノ「お、お帰りなさい……ココアさん。ごほっ、ごほっ」

ココア「ちょっとチノちゃん大丈夫!? 顔が赤いよ!?」

チノ「大丈夫です、問題ありません……」

ココア「んー、そこそこ熱があるね。とりあえず私と交代しようか、チノちゃんはベッドで安静にしててね」

チノ「いえ、ココアさんに迷惑をかけるわけにはいきません。これは私の仕事ですから……」

ココア「いやいや、そんな状態で仕事してたら危ないから。手元がくるってカップ落としちゃったり注文を間違えたりしてお客さんに迷惑かけちゃうかもしれないよ? 大人しくしていなさい」

チノ「うっ。わ、わかりました……」

 

 ……まったくこの子は。どうしてこう一人で抱え込んじゃうかな。……私も人のこと言えないけど。

 とりあえず、チノちゃんを部屋まで送ってベッドに寝かせる。

 

ココア「さて、どうしたものかな……」

 

 チノちゃんを休ませることで頭がいっぱいだったせいで、私一人ではどうにもならない状況だったことを失念していた。今の私では、接客は出来ても店のメニューを作ることができないのである。今はまだお客さんがいないので何とかなっているが、この状況で来られると対応ができない……。

 どうしたものかと困り果てていると、

 

タカヒロ「どうしたんだい? ココア君。何か困りごとかな?」

 

 丁度良いところにタカヒロさんが帰ってきた。ナイスタイミングです、タカヒロさん!

 

ココア「あ、お帰りなさいタカヒロさん! 実は――」

 

 タカヒロさんに、チノちゃんの体調が悪いので休ませたことを伝える。すると、タカヒロさんは感謝の言葉を口にした後、お客さんがいつ来てもいいように颯爽と店の準備に取り掛かかる、流石だなぁ……。

 

――――――――

―――――

――…

 

 

タカヒロ「ココア君、今日はもうあがってくれて構わないよ」

 

 タカヒロさんが帰ってきてからは、二人でお店の営業をしていた。時刻は夕方に差し掛かろうとしたとき、不意にタカヒロさんに声を掛けられる。

 

ココア「そうですか? まだお客さんいますけど」

タカヒロ「これくらいの人数ならば私一人で十分だよ。ココア君にはチノの様子を見ていて欲しいんだ」

ココア「そうですか……、それは私としてもありがたいところです。チノちゃんのことが心配だったので」

タカヒロ「チノを気にかけてくれるのは、親としてとてもありがたく思うよ」

ココア「いえいえ、お気になさらず。ああ、厨房少し借りてもいいですか? もう夕飯も近いですしチノちゃんにおかゆを作ってあげたいのですが」

タカヒロ「もちろん構わないよ、好きに使ってくれ」

ココア「ありがとうございます。ではさっそく――」

 

 私は厨房に行くと、そそくさとチノちゃんのためにおかゆを作り始める。

 

ココア「……おかゆなんて作るの久しぶりだな。お母さんが風邪で寝込んだ時とかよく作ってたっけ。懐かしいなぁ。まぁ、家を出てからまだまだ日は浅いんだけど」

 

 一人でぶつぶつ言いながらおかゆを作り終えると、足早にチノちゃんの部屋へと持っていく。

 

ココア「チノちゃーん、起きてる? お部屋入ってもいいかな?」

チノ「あ、はい起きてますよ。どうぞ」

ココア「はい、チノちゃんおかゆ作ったから食べてね。あと風邪薬も持ってきたから、おかゆ食べ終わったら飲んでね」

チノ「どうもありがとうございます。……いただきます」

 

 チノちゃんは手を合わせていただきますと呟くと、私の作ったおかゆをゆっくりと食べ始めた。よほどお腹がすいていたのか、お皿が綺麗に見えてしまうほど残さずに食べていた。

 

チノ「ごちそうさまでした」

ココア「お粗末さまでした。体調はどう?」

チノ「はい、おかげさまでだいぶ良くなりました。明日はお仕事普通にできそうです」

ココア「そう、ならよかった。それにしても体調悪いなら朝なんで言ってくれなかったの? そしたらタカヒロさんに相談して、私がチノちゃんの代わりに働いていたのに」

チノ「いえ、それだとココアさん学校に行く準備ができないじゃないですか」

ココア「そんなの別に明日にでもできるよ、私はチノちゃんの方が大事だから」

チノ「うっ、そ、そんなことを真顔で言わないで下さい! 恥ずかしいです……」

ココア「え? 何が?」

チノ「……もぅ」

 

 少しばかりチノちゃんをからかってみる。反応が可愛いなぁ。

 

ココア「それにしても、あまり無茶しちゃダメだよ? 周りに頼れる人がいるときはしっかり頼らないと。チノちゃんはまだまだ子供なんだから」

チノ「むっ。子供じゃないです、大人です。まぁ、今日は体調が良くなかったので力不足なのは認めますが、普段の私なら十分にこなせているはずです。なので心配はいりません」

 

 ……意地っ張りだなぁ、もう。あの頃の私もこんな感じでよくお姉ちゃんに叱られてたっけ、一人で無理すんなーって。その度にお姉ちゃんは決まって……

 

 

 『――お姉ちゃんに』

 

 

チノ「どうしたんですか? ココアさん。」

ココア「いや、少し昔のことを思い出してね。それもよりもいい? 次また無茶なことしようとしたら私怒るからね?」

チノ「うぅ、わ、わかりました。次は、気を付けます……。でもどうしてココアさんはそんなに私に気を使ってくれるんですか? 会ってそう間もないのに」

ココア「んー、なんていうかなー、チノちゃんって昔の私にそっくりなんだよね」

チノ「え、どこがですか?」

ココア「意地っ張りでなんでも自分で解決しようとしたりするところ」

チノ「……それは、はい、そうですね……。確かに私は少々意地っ張りなところがあると思います」

 

 少々? だいぶ意地っ張りだと思うけど。

 

ココア「ね? そういうのもあってかチノちゃんには何かと親近感が沸くんだー。あと、すごくかまってあげちゃいたくなるの」

チノ「……それは、私に母親がいないからですか?」

 

 ふと私の顔を見上げると、チノちゃんはそんなことを口走った。

 

チノ「父から話は聞いていると思いますが、私には母親がいません。加えて、数年前にラビットハウスの当時オーナーだったおじいちゃんも亡くなってしまいました。周りから見れば私はさぞかし可哀そうな子、なのでしょう」

 

 ……やっぱりそういう風に思っちゃうんだね、この子は。ひねくれているというかなんというか、そういうところも私そっくりなのがなんともしがたい。

 

ココア「……別にそういうわけじゃないよ、完全には否定しないけど。でも、これだけは覚えておいて欲しいな。私は別にチノちゃんが可哀そうだから構ってあげたくなるわけじゃないの。私はただ単純にチノちゃんのことが好きだからね、好きな人を構いたくなるのは普通でしょ?」

 

 私は、チノちゃんの目をしっかりと見つめて、自分の気持ちを正直にぶつける。

 

チノ「あーもうっ、なんなんですかっ! さっきからほんとに!! ココアさんは天然にもほどがありますよ!! 少しは自覚してください!!」

ココア「いや、だから何が? なんだけど。私はただ単に自分の気持ちに正直なだけだよ。それ以上でも、それ以下でもない」

チノ「……はぁ、もういいです。何を言っても無駄ですね、ココアさんには」

 

 そう言ってチノちゃんはそっぽを向いてしまった。……少しからかいすぎたかな? まぁ、チノちゃんのことが好きってのには変わりないんだし、本当のことだから。

 それに、この感じはなんだろうな、不思議だ。昔はこんなこと思ったことなんてなかったのに……。

 

 

 『――まかせなさい!』

 

 

 ……お姉ちゃんも、こんな風に思っていたのかな?

 

ココア「ふふっ、そんなにヘソ曲げないでよーチノちゃん。そんなだから構いたくなるんだよー」

 

 私は、チノちゃんを抱き寄せるようにしてハグをする。

 

チノ「な!? やめてくださいココアさん! 息ができませんっ!」

ココア「ふっふっふー、お姉ちゃんの言うことを聞いてくれない悪い子はこうです!」

チノ「次は無理せず頼るって言ったじゃないですか! やーめーてーくーだーさーいー!」

ココア「信用できませーん!」

 

――――――――

―――――

――…

 

チノ「……苦しかった」

ココア「ごめんごめん。ちょっと調子に乗っちゃった♪」

チノ「……それにしてもお姉ちゃんって、……なんでですか?」

ココア「あー、前にも言ったけど、私年が離れたお姉ちゃんがいるんだよね。いつも私が不機嫌になっていじけていると、よくこうやって抱き付かれててね、つい……」

チノ「そうですか」

ココア「……いやだった?」

チノ「いえ、そんなことは……」

ココア「そう。だったらこれからもお姉ちゃんって名乗ってもいいかな?」

チノ「……別に構いませんよ、ココアさんが良ければ。少し気恥ずかしいですが……」

ココア「えへへ、ありがとうね」

チノ「……うぅ」

 

 それにしても、つい昔のことで口走っちゃったけど、私がお姉ちゃん、か。

 ……ああ、そうか、そうなんだ。やっとわかった。

 

ココア「じゃあ、そういうわけで、一人で無理はしないこと! 私をどんどん頼ってね!」

チノ「……わかりました。頼りにしていますよ、ココアさん」

 

 

 私は、この子の――

 

 

          ココア「お姉ちゃんにまかせなさい!」

 

 

                         ――“お姉ちゃん”に、なりたいんだ。

 

 

 

 

 




はい、というわけでいかがだったでしょうか?
今回は百合成分マシマシな感じで、王道展開を心掛けてみました!いやー、今回はなかなかに主人公ムーブをしていますねー、ココアさん。どんどん魅力的なココアさんが書けるように頑張っていきたいと思いますので是非ともよろしくお願いいたします!
ではでは~


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第四話 『決意』

第四話になります。


――喫茶店ラビットハウス――

 

 ラビットハウスに来て早数日、生活にも大分慣れてきた。仕事の方は、大体の流れを把握して接客だけならば私一人で十分にこなせるようになったと思う。今日はというと、朝からチノちゃんにコーヒーの淹れ方を教えてもらいながら二人で働いていた。お客さんが来ないので、コーヒーを淹れる練習が捗り、チノちゃんから及第点をもらえる出来のコーヒーを淹れることができるようになっていた。……いいんだか悪いんだか。

 などど、客入りの少なさについて憂いていると、

 

タカヒロ「お疲れ様。チノ、ココア君」

チノ「あ、お父さん」

ココア「お疲れ様です、タカヒロさん」

 

 奥の方からタカヒロさんが顔を出してきた。

 

タカヒロ「二人とも今日はもうあがってくれて構わないよ、バーの準備もあるし後は私がやっておこう」

 

 ふと時計を見ると夕方頃となっていた。

 

チノ「そうですか? わかりました。では私達はお先にあがりましょうか、ココアさん」

ココア「そう? では、お言葉に甘えてお先に失礼いたします」

 

 私がそう言うと、タカヒロさんは軽く手を振って微笑んだ後、バーの準備へと取り掛かった。……いやー、それにしても初めて会った時から思ってはいたけど、物凄くダンディーなおじ様だなぁ。これはタカヒロさん目当ての女性客が結構多いのではないだろうか? バータイムは昼と違ってお客さんが多いってチノちゃんが言っていたけど、なるほどねー。

 などとタカヒロさんを見つめながら物思いに考えていると、

 

タカヒロ「ああ、そうだ。ココア君」

ココア「ふぁい!? な、なんでしょうか?」

 

 不意に声を掛けられたので思わず変な声が出てしまった、恥ずかしい……。

 

タカヒロ「今日の夜に少し時間をくれないかな? 説明しておきたいことが色々あってね。本来ならば引っ越してきた日に話すべきだったのだが、忙しくて時間がなかなか取れずにいたんだ、申し訳ない」

ココア「いえいえ、そんなお気になさらずとも大丈夫ですよ! お時間ができましたら呼んでください、お待ちしています」

タカヒロ「ありがとう。ではまた後程」

 

 そう言い残すと、タカヒロさんは本格的にバータイムに向けての準備に取り掛かった。ラビットハウスに引っ越してきて以来、私はまだオーナーのタカヒロさんから詳しく話を聞いてはいない。タカヒロさんの言う通り、ここ数日間は夜のお客さんが多く、面と向かってお話をする時間がなかなか取れなかったのだ。

 私は軽くお辞儀をしてその場を後にした。

 

――――――――

―――――

――…

 

ココア「……遅いなー」

 

 あれから五時間ほど時間が経過した。数時間前に少し気になったので様子を見に行ったが、昨日ほどではないにしろ、そこそこの数のお客さんがいた。就寝時刻も近くなってきたので今日のところはもう寝てしまおうかと思っていた矢先、

 

 コンコン

 

 部屋のドアを軽くノックされた。すると、

 

タカヒロ「ココア君、まだ起きているかな?」

ココア「はい、起きていますよ」

タカヒロ「遅くなってしまい申し訳ない。まだ大丈夫かな?」

ココア「ええ、問題ありません。大丈夫ですよ」

タカヒロ「そうか、ありがとう。では、リビングの方で少し話そうか」

ココア「はい」

 

 場所を移しリビングへと移動する。

 

タカヒロ「いやはや本当に申し訳ない、こんなに遅くなってしまって」

ココア「いえいえ、別に構いませんよ。それにしても大丈夫だったんですか? 先ほどチラっと覗きに行きましたが、その時はお客さんまだ結構いましたけど」

タカヒロ「もともと今日は早めに店を閉めるつもりでいたのでね。そこは事前に客に説明していたので問題はないよ。」

ココア「あ、そうだったんですね」

タカヒロ「ああ。……さて、では本題に入ろうか」

 

 そう言うと、タカヒロさんは本題に入り話し始めた。内容はというと、学校に関することや勤務時間、業務内容についてが主な所だった。

 

タカヒロ「……と、まぁこんなところかな」

ココア「んー、大体分かりました」

タカヒロ「ありがとう、理解が早くて助かるよ。流石だな」

ココア「いえいえ、タカヒロさんの説明が旨いだけですよ」

タカヒロ「お世辞はやめてくれたまえ、私が口下手なのは自分で十分に理解しているさ」

ココア「あー、そですか」

タカヒロ「うむ、やはり君を雇って正解だったな」

ココア「あ、あれやっぱそういうつもりで私の住み込みOKしたんですね……」

タカヒロ「まぁ、そんな所だ」

 

 不敵な笑みを浮かべてふっと笑うタカヒロさん、……抜け目がない人だ。

 

タカヒロ「それはそうと、チノのことについてなんだが……」

ココア「あ、はい」

 

 タカヒロさんの声のトーンが少し重くなった気がする。これはどうやらこちらの方が本題な気がするな……。

 

タカヒロ「初めて会った時に少し話したが、チノの母親……つまり私の妻なのだが、チノが幼い時に他界してしまっていてね、加えて数年前に私の父も他界してしまった」

 

 チノちゃんのお母さんとお祖父さんのことについては、チノちゃんのことを教えてもらった時に一緒に教えてもらっていた。私は聞き入るようにしてタカヒロさんの話に耳を傾ける。

 

タカヒロ「私は何かと忙しくてあまりチノに構ってやれなかった。代わりに父がチノの面倒を見てくれていたんだ」

ココア「……」

タカヒロ「チノにとって私の父は、父親であり母親でもあるような存在でね。それはそれはとても懐いていた。父も大層チノのことを可愛がっていたよ、懐かしい……」

 

 そう言って懐かしむタカヒロさんの顔はどこか寂しげで、悲しさを感じる。……胸が痛い。

 

タカヒロ「おっとすまない、空気が重くなってしまったね。これは失敬した」

ココア「……いえ、構いません。続けてください」

タカヒロ「……ありがとう。チノにとって父の存在はとても大きかった。父が亡くなった当時、チノは塞ぎ込んでしまい、しばらく部屋から出てきてくれなかったよ。私なりに頑張って励ましてみたものの、元気づけてあげることはできなかった。時が経つにつれて徐々に明るさを取り戻してくれたが、以前のように笑ってはくれずにいる」

ココア「チノちゃんは、昔はよく笑う子だったのですか?」

タカヒロ「ああ。父と一緒にいるときのチノは本当に楽しそうで、よく笑っていたよ。……仏頂面なのは昔からだが」

 

 あ、アレは昔からなんだ。それにしても満面の笑みで笑うチノちゃんかー、是非とも見てみたいな。

 

タカヒロ「そういうわけで、だ。あの子には今まで本当に辛い思いをさせてしまっている……。父親として不甲斐なく思うよ」

ココア「……」

タカヒロ「そこでなのだが、ココア君にお願いしたいことがある」

ココア「……と言いますと?」

タカヒロ「チノのことを気にかけてやってはくれないだろうか。そして願わくば、あの子が笑顔で笑っていられるように励ましてやってはくれないだろうか。私にはあの子を笑顔にすることはできなかった……」

 

 真剣な眼差しでまっすぐに私を見つめるタカヒロさん。私は一呼吸置くと、背筋を伸ばし、真っすぐにタカヒロさんの目を見て答える。

 

ココア「心得ました、任せてください」

タカヒロ「……ありがとう」

 

 深々と頭を下げるタカヒロさん、ふと気づくと目にはうっすらと涙が浮かんでいた。私は思わず声を掛ける。

 

ココア「そ、そんな! 頭を上げてください!」

タカヒロ「すまない、少し感極まってしまった……。いい大人が女の子の前で泣くものではないな」

ココア「そうですか? 自分の娘のために見せる涙、私はすごく素敵だと思いますよ。とても格好良いです」

タカヒロ「……君は少々そういう所があるな、気を付けた方がいいぞ」

ココア「?」

タカヒロ「まぁいいさ、それも君の魅力の一つなのだろう。チノのこと、よろしく頼む……」

ココア「はい!!」

 

 そんなこんなでタカヒロさんと話し込んでいると、気づけば時刻は零時を過ぎていた。

 

タカヒロ「おっと、もうこんな時間か。今日のところはここまでにしておこう」

ココア「あ、ほんとだ、気づきませんでした……。今日は忙しい中お時間を割いて頂きありがとうございました」

タカヒロ「いやいや、私の方こそこんな夜中に呼び出す形になってしまい申し訳ない」

ココア「では、本日はこれにて解散ということで」

タカヒロ「ああ、そうだね。おやすみ」

ココア「おやすみなさい」

 

 私は自分の部屋に戻ると、ベッドに横になった。

 

ココア「色々と、考えさせられる話だったな……」

 

 先ほどの話の内容を頭の中で反芻する。チノちゃんのお母さんが、チノちゃんが幼い頃に亡くなっていること、数年前にお祖父さんも亡くなってしまったこと。……どれほどの悲しみをチノちゃんは背負っているのだろうか。自分自身のこととして置き換えて想像してみる。私の場合だと、お母さんとお姉ちゃん……だろうか。

 

ココア「お母さん、お姉ちゃん。……駄目だな、全然想像できないや」

 

 大切な家族が亡くなってしまうという状況を想像してみるが、全くもってイメージができない。それもそうか、今まで身近な人の死というものを経験したことがないのだから。

 

ココア「私には、チノちゃんの悲しみを分かってあげることはできないんだな……」

 

 そう思うと、胸が苦しくなる。今の私では、チノちゃんの悲しみや心の痛みを理解してあげることはできないし、共有することもできないだろう。だからといって、チノちゃんをこのままにしておくのか? 笑顔にしてみせるといった先ほどの約束を、早々に反故にするのか?

 ……そんなのは、

 

 私らしくない。

 

 自分の頬を引っぱたき、自らに喝を入れる。

 

ココア「絶対に笑顔にして見せるからね! チノちゃん!」

 

 私は自分自身に誓いを立てる。

 

 ……そう、だって私はあの子の――

 

 

          ココア「お姉ちゃんにまかせなさい、ってね」

 

 

                            ――“お姉ちゃん”なのだから。

 

 

 

 

 




 ということで第四話です。いかがだったでしょうか?
 今回は少しシリアス気味なお話になっていますが、ココアさんがチノちゃんのために頑張る!という決意表明をする回、となっています。
 ごちうさ本編ではチノちゃんは割と平然としている感じですが、本来だったらかなり精神が参っているのではないでしょうか?本編だとティッピーの存在がかなり大きいのだと思います。本作品のティッピーの扱いついてですが、結構ぼかしていますけど、お祖父ちゃんが憑依してはいません。チノちゃんのティッピーへ語り掛ける行動は、お祖父ちゃんが亡くなっているという現実を受け入れたくない、という心の現れから出ているという設定です。
 今回でココアさんが意思を強固にしたことで、次回よりココアさんの圧倒的な攻めが始まる!……予定ですのでこうご期待くださいませ!百合百合させちゃいますぞい~
 ではでは~♪


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