大和特攻始末記 (オットー・カリウス中尉)
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序章

2021年正月

 

「霧島姐さん、あけましておめでとう。今年もよろしくな!」

 

「あけましておめでとう、高槻。野球に向けての体つくりは大丈夫かしら?」

 

「ドッグ入りと試運転は終わった。2月1日から野球できるぜ」

 

「そう・・今年の目標も打率4割かしら」

 

中学生の時、島風(二代目)から分けてもらった力を3年間精進し、底辺校だった龍田学園を3年連続甲子園に導き、北海道ベアーズ入団後は新人王を皮切りに、2年目から4年目の去年まで、首位打者と盗塁王に輝いた高槻長輔は頷いて答えた

 

「ああ、それとチームの優勝だ」

 

「そう・・でも、エースをポスティングで米国に売ってしまったんだよね。残りのメンバーで戦える?」

 

「『大丈夫だ、問題ない!』と答えたら察してくれるかな?」

 

どこぞのゲームの迷台詞で答えられた霧島(二代目)は苦笑して答える

 

「戦時中の帝国海軍と言いたわけか、イーグルス、レオポルズ、ドルフィンズは待ってくれないしね、それに金鳶もかっての大エースをヤンキースから呼び戻すんだってね」

 

「・・うちもかっての大エースをカブスから買い戻してくれたらなんとかなるけど、チームの予算がギリギリでね」

 

「四条グループがバックで予算ギリギリ?」

 

貴音夫妻を新会長に迎えてからは経営は堅実なんでしょ?と聞いた霧島は首を傾げた。

 

「姐さん、貴音さんに私財出していただいてチーム経営してるんだ。ない袖は触れないよ。有名どころを取るのは難しい。若い連中を鍛えて戦力にするさ」

 

「80年前の帝国海軍航空隊ね・・・」

 

「ああ、高槻元中尉の苦労がわかるよ・・日高元曹長みたいな即戦力がドラフトくじにいたらいいね」

 

「そう。奥さんはお元気?」

 

霧島は高槻の嫁になった、かってのトップアイドル、日高愛のことを聞いた。

 

「ああ、元気だぜ。夫婦円満そのものさ」

 

高槻は家族写真を見せる。霧島が口笛をあげる

 

「愛ちゃん、妊娠してるね?」

 

「ステイホームで一緒にいる時間が長くなったからな」

 

「3人目だっけ・・・30FFMのようなペースね」

 

エンジントラブルで進水が遅れてる一番艦も含めて今年中に3隻が進水予定の新型艦に例えて苦笑する霧島に高槻が聞く。

 

「熊野はここにいるのか?」

 

「ええ、いるわ・・羽黒にも会う?」

 

「会わせてくれ。羽黒は3月から佐世保に行くのだろ?ゆっくり話ができるのも今のうちだな?」

 

「そうね・・」

 

霧島に呼び出された羽黒(二代目)と熊野(三代目)がやってきた。お互いの挨拶の後に高槻が尋ねる。

 

「去年、俺がプレゼントしたバットは大切にしてくれてるか?」

 

「はい、野球の練習用に使ってます」

 

稽古の一つに取り入れている野球の道具で使ってると答えた羽黒に高槻は頷く

 

「そうか、練習で使ってるのか?木製バットは扱いにくいぞ」

 

「指物は使ってなんぼだぞと霧島姐さんに言われましたの。いけませんか?」

 

「いや・・・まあいい、折れたら10本ぐらい送ってやるよ?」

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして・・熊野はじめまして、ここは楽しいか?」

 

11月の進水したばかりの子供である熊野に高槻は話しかける。

 

「三笠大姉様のお世話をしながら、鹿島先生と天龍先生について学んでますわ」

 

「先生達は優しいか?」

 

あのゲームのキャラクターなら天龍はガミガミ言う方かなと思った高槻は笑いながら尋ねる。

 

「はい、思ったより、優しく丁寧に教えてくれますわ」

 

「そうか、それは良かったな。今、建造中の一番艦は昔のお姉さんが来て欲しいと思ってるのかい?」

 

「はい、最上か三隈が戻ってきたら嬉しいですわ」

 

「そうか、三笠さんは元気か?」

 

「はい、元気です、でも武道は教えてくださらないですわ」

 

「それは残念だ。だけど、昔の姉妹が3月に来るといいね」

 

「はい。楽しみですわ」

 

熊野と話し終えた高槻は霧島に三笠の近況を訪ねた。

 

「あの一件以来、三笠の心が折れたままか?」

 

「ええ。私達も少しやりすぎたのかもしれないけどさ。でも、あの子が、大姉様を憎悪してたとは思ってなかったわ」

 

「三笠さんに代わって誰が羽黒に太刀を授けるのだ?」

 

「金剛姉様立会いで、加賀が彼女に太刀を授ける予定よ」

 

「そうか、姉さん、長崎で建造中のFFMは誰なんだ?」

 

「一応知ってるけど、まだ教えるわけにはいかないわよ。予想してみなさいな」

 

高槻は少し考えて答えた。

 

「最後の戦闘で、大和と運命を共にした彼女じゃないのか?」

 

「彼女だったら、池山元大尉が喜ぶわね」

 

「笹井氏も半藤先生も亡くなられらた。池山氏が、ご健在のうちに、再会できたらいいな」

 

今から振り返ること75年前より物語は始まる。

 

(続く)



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決意

昭和二十年・正月

 

「今日、私があなたに会う理由はわかってますね?」

 

レイテ海戦で散った艦娘の葬儀へ出席するために、呉を訪れた三笠は、大和に聞いた。

 

「はい、全軍特攻と決まった今、私も覚悟を決めました。陛下よりご命令があれば残存艦隊を率いて敵に一矢を報いる覚悟にございます!」

 

大和の答えを聞いた三笠は頷いた。

 

「良き覚悟にございます。将来のある若者が命をかけなければらない非常時、貴女が良き働きをすることは私は望みますが、陛下が出撃中止を命じられた時はどうなさるおつもりか?」

 

三笠の問いかけに大和は驚く。

 

「陛下がそれを望まれたのなら、それに従うしかありませぬ」

 

「なるほど・・ですが、陛下が貴女の身柄を敵に渡せと命じられたらどうなさるつもりですか?」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「伊藤提督は貴女達の任務を解くことも考えてると耳にしましたので・・」

 

「伊藤長官は死を覚悟して軍令部次長から第二艦隊長官になったと聞きました。ありえませぬ!」

 

戸惑う大和に三笠は答えた。

 

「伊藤提督は生き恥を晒すのを承知で先のある学生士官や少年兵を残したいと思ってるのです!あなたも彼らを殺すことは本意ではございますまい?」

 

三笠に叱りつけられた大和は答える。

 

「伊藤長官がその覚悟であるのなら、私もペンシルバニア通りを裸で引き回される運命を受け入れる所存にございます」

 

「そうですか?だが、レイテで散った武蔵達は、あの世で貴女を情けないやつと軽蔑するでしょうね?それでもいいのですか?」

 

「・・・・・・」

 

三笠に一喝された大和は首を垂れた。三笠の問いかけは続いた。

 

「第二艦隊に乗り込んだ5000名の代わりに、日ノ本の為に働いた我らの忠義と働きは無となり、かってのドイツ大洋艦隊の屈辱を受けるのみならず、私も敵に辱められるでしょう・・・」

 

「それは・・そうなってしまった時は、存分に私を軽蔑してくれなさいませ」

 

「なるほど・・それほどの覚悟があるなら私から何も言いませぬ」

 

「正気ですか?」

 

「私の生涯は40年前の5月27日以後は全て余生と考えております。何がこの身に起ころうと受け入れる覚悟にございます!」

 

「その言葉、心に覚えときます!」

 

頃合い良しと鳳翔が仲裁人になった。

 

「大姉様、大和さん、もう、よろしいではありませぬか?いささかな宴席を用意しました。どうぞ、こちらへ・・・」

 

「鳳翔さん、お気遣いありがとうございます。大和さん、参りましょう」

 

「はい、鳳翔さん、海防艦の子達も一緒かしら」

 

「もちろんにございます。瀬戸内の魚と、水瀬釘宮商会から菓子を用意させました」

 

「鳳翔さん、お気遣いありがとうございます」

 

「いえ、戦場に出ることが叶わない私ができることはこれだけにございますので・・・」

 

瑞鶴達の働きが無駄に終わり、信濃や雲龍は虚しく海の藻屑と成り果てて悔しかった鳳翔の気持ちを言葉のはしに感じた大和は和解の席に立ち会った。

 

三笠が横須賀に戻った翌朝、水瀬が鳳翔を訪ねた。

 

「鳳翔さん、海防艦の子達は土産物を喜んでくれたか?」

 

「ええ・・水瀬、気遣ってくれて感謝します」

 

「・・そうか、喜んでくれたか?が、俺が水兵してた時は、あの程度の土産物は普通だったがねぇ~」

 

辛くても楽しかった水兵時代を思い出して喜んだ水瀬は、表情を改めて鳳翔に聞いた。

 

「・・・上の連中は大和をどうしたいのだ」

 

「と言いますと?」

 

「惚けるなよ・・・大和をドッグに入れたのだろう?呉で放置するならこんなことはしないぞ」

 

「でも航空機がありませんよ?」

 

「だが、大和を無償のまま敵に差し出す度胸も上にないぜ。片道で突っ込まされている若い奴の気持ちが治まらんぞ!」

 

水瀬にカマをかけられた鳳翔が答える。

 

「おっしゃる通りです。私達も納得できませぬ!」

 

「だろうな。大和はどう思ってるんだ?」

 

「水瀬は大和に、死んで欲しいのかしら?」

 

「悪いがそうだ」

 

「そう、彼女もあなた達が愛した金剛さん達と同じ程度に死を覚悟してますよ。」

 

「何の為に死を選ぶのだ?『光栄ある水上部隊の誇り』というやつか?」

 

「そうだと答えたら笑うかしら?」

 

「笑う、俺は、金剛さんから貰った幸運で運命を切り開いてきたからな?主義だの美学というやつは犬の食物だと思ってる」

 

「そう、高槻もそうかしら?」

 

金剛に乗っていた時の新兵で今は少尉まで出世した高槻のことを聞かれた水瀬は答える

 

「アイツは戦うのが好きなのだろう・・軍艦から下りる機会は戦前にあったぜ」

 

高槻は、飛行機乗りでなく相撲取りになって欲しかったと思っていた水瀬は答えた。

 

「そう・・・私達も高槻と同じ気持ちですがね」

 

「好きで戦場で屍を晒したいのか?理解できんね」

 

「・・でしょうね。私達は何も生み出せない。できることは破壊することだけ!」

 

「・・・・」

 

昔、金剛から聞いたことを思い出した水瀬は絶句する

 

「平和な世界に生きらないのなら、最後ぐらいは好きにやりたいということかな?」

 

水瀬の問いかけに鳳翔は頷いて答える。

 

「高槻もいよいよとなれば、爆弾を抱えて突っ込むわよ」

 

「ヤツに死んで欲しいのか?」

 

「いや、高槻には生きて欲しいです。軍を離れて長いあなたや釘宮では、死んだ赤城さん達の思いを伝えることはできませんしね」

 

「そうだろうな・・・金剛さん達は今の俺を見て情けないと思うかな?」

 

苦笑した水瀬に鳳翔は答えた

 

「いえ、私も金剛さんもそうは思いません。申し訳ないと思ってるのなら全てが終わった後、日の本の復興に働いてくださいませ!」

 

「そうだな。約束するよ!」

 

「そうですか、金剛さん達と共に天から貴方方のその後を見させていただきます!」

 

強く頷いた水瀬は鳳翔に酒を勧めた

 

「久しぶりに飲むか?」

 

「良いですよ・・伊勢さん姉妹と榛名さんも呼びますか?」

 

「そう願いたいな。昔馴染みが多いほうが楽しい。釘宮も呼ぶぜ」

 

「お願いします」

 

その日の夜、釘宮も含めた5人は、江田島に据えられた41センチ連装砲塔の中で酒盛りしてお互いの気持ちをぶつけた。

 

決戦の日、数ヶ月前の冬の夜のことだった。

 

(続く)

 



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前夜

2020年3月某月・横須賀

 

「「大姉様、お疲れ様です!」」

 

「お疲れ様です。明日の朝、あなたの剣の腕を拝見させていただきます。今日はお休みなさいませ」

 

「はい!」

 

白無垢の寝巻に着替えた摩耶(二世)・羽黒(二世)姉妹は廊下で別れた。

 

「摩耶姉様、お休みなさい」

 

「おう、大姉様の稽古は中々に厳しいぞ!気を抜くな!」

 

「はい」

 

床についた羽黒だったが、今日も悪夢にうなされた。

 

「神風、行きなさい!ここは私に任せて!」

 

「羽黒、アンタを見捨てないよ!」

 

魚雷の直撃を受けて深傷を負った羽黒は共に戦おうとする神風を一喝した。

 

「ダメ!このままでは貴女が巻き込まれてしまう!5隻程度の駆逐艦ぐらい支えてみます!」

 

「わかった・・・すぐに戻ってくる。自暴自棄にならないでね!」

 

神風が安全圏へ退避したのを確認して反撃した羽黒だった。が、ついに運命が尽きた

 

「もう何も見えない…妙高姉さん、足柄姉さん、ごめんなさい、お先に那智姉さんの元に逝きます!」

 

艦橋に直撃を受けた羽黒は、止めを刺しにきたジャービス達の前に立ち塞がった。

 

「ジャービス、止めを刺すよ!」

 

「待って!ジャップのことだ。下手に近づいたらカミカゼしてくるかもしれないよ!」

 

「随分に買い被ってくれてるわね。私はあなたたちに首をやるだけなのにぃ」

 

 

心の中で臆病者と嗤った羽黒は短剣を首に押し当てて、ジャービス達に叫んだ。

 

「大日本帝国軍艦・羽黒の最期を目に焼けつけるがいい!」

 

言い終わった羽黒は首を掻き切り倒れた。駆逐艦娘は羽黒の死体に群がって羽黒の衣服を引き裂いた。

 

「すげぇ・・シルクの下着だよ!」

 

「あの噂は本当だったのか!全部剥ぎ取るぞ!」

 

死体をハゲタカのように食い荒らした駆逐艦群はお宝と首を手に引き上げていった。翌朝、戦場に戻った神風は叫んだ

 

「羽黒・・・なんてことに・・ああっ!」

 

「ああっぅ、またあの悪夢か・・・これで3日連続よ。どうして!」

 

憔悴した羽黒の前にアヤカシが現れて笑った。

 

「ハグロ、ワタシがミセタのだ!タノシんでくれたカナ?」

 

「誰!」

 

「シリたければ、ツイテくるがよい!」

 

枕元の刀を手にした羽黒はアヤカシを追って庭に出た。そこに姉の摩耶に鉢合わせた

 

「姉様!」

 

「羽黒?お前、どうしてここに!」

 

「三日連続で悪夢を見せたアヤカシを追ってここに来ました!」

 

「なんだと、アタシも三日連続で悪夢を見せたアヤカシを追ってきたんだ!」

 

「マヤにハグロ、オシャベリはソコまでだ!」

 

アヤカシは刀を手にした二人に言う。二人は言い返す

 

「「大姉様を殺めるなら、私たちが相手します!」」

 

「オロカなヤツらめ!ワタシはミカサやキサマ達をアヤメにキタのではない!キサマらをスクイに来た」

 

「バカなことをほざくな!私達に悪夢を見せつけた癖に!」

 

「あの悪夢はキサマらの深層心理を脳に写したものだ。その悪夢の元を断ちに来たのだ」

 

「なんだと!」

 

人より強い意思を持つはずの自分たちの意思に攻撃を仕掛けるアヤカシに対した二人は後ずさりした。アヤカシは二人にトドメをさす

 

「「・・・・・・・」」

 

アヤカシに魂を抜かれた二人は庭に倒れた。

 

「ナニ、シンパイすることはナイ、ワタシはキサマらをアヤめる気はナイ!これはアソビだからな・・」

 

摩耶と羽黒の魂を抜いたアヤカシは何処かに立ち去った。

 

「摩耶、羽黒、いかがなさいましたか!く、魂が抜かれている!一体誰が現世に介入したのか・・・まさか、あの者が!!」

 

あの悪霊を封じ込めた私の力が衰えたのかと三笠は不安に襲われた。

 

昭和二十年三月・日吉

 

「大和、来てたのか?」

 

仮眠室で睡眠を取る神先任参謀は大和が傍にいるのに気づいた。

 

「はい、先任参謀、帝都は焼け野原になりました。我らの力不足、誠に申し訳ありません」

 

「・・いいんだよ。レイテ、硫黄島、そして帝都のこと、全ては俺たちの無能のせい、貴様のせいじゃない!」

 

海軍軍人達の評判は悪いが、艦娘には優しい神は大和を慰めた。

 

「先任参謀、ありがとうございます。今日はお願いがあって参りました!」

 

「願い?申してみよ」

 

「参謀、沖縄に行かせてください!」

 

大和は最後の出撃をさせてくれと神に願い出たのであった。

 

「俺個人としては貴様達の願いをかなえてやりたい。だが上の連中はそれを取り上げてくれまい・・・」

 

「なぜですか?」

 

「軍令部が燃料の都合が立たないから水上部隊の投入は同意できないと言うのだ」

 

「そんな・・・」

 

連合艦隊の力不足に絶望した大和は部屋の片隅で座り込むと上着を脱ぎ始めた

 

「バカな真似はよせ!」

 

驚いた神は大和の手から短刀を取り上げて、言い聞かせた。

 

「貴様の決意の程はわかった。今一度、軍令部に意見してみよう。それでいいな!」

 

「はい」

 

「・・だが、航空部隊の補充と本土防衛が最優先になる。電探の更新はもちろん、燃料の供与も怪しいぞ。それだけは覚悟してくれ」

 

「それは構いませぬ。今一度、私達の出撃をお願いします!」

 

「わかった」

 

連合艦隊と軍令部が沖縄防衛の折衝を続けていた3月19日、機動部隊の艦載機群が呉を襲撃、残存艦隊多数に損害を与えた。

 

「矢矧、被害は?」

 

報告のため大和艦橋に上がって来た矢矧は戦果と被害を報告した

 

「敵機多数に襲撃されましたが、被害はありません!」

 

「そうですか・・私の船体そのものにも被害もありませんが、測距儀にいささかダメージを受けました。しばらくドッグに入ります」

 

「はい。ご養生を!」

 

矢矧が去った後、戦闘指揮所に上がった大和は呉港内を一望した。

 

「ついに、ここまで追い込まれましたか・」

 

損傷を受けた榛名達を眺めながら嘆息する大和であった。

 

その頃、呉市街地では

 

「水瀬、敵は引き上げていったぞ、貴様の要件はどうなった?」

 

地下壕に引き込んだ電話線で運び屋を怒鳴り上げていた水瀬平八郎は釘宮彦之丞に答える

 

「運び屋連中には、前金は払ったんだ。約束通り納品しろと釘をさしといたぜ!」

 

「逃げ出したら、憲兵隊にチクるのか?」

 

「当たり前だろ?」

 

「そうか、鎮守府の連中に話をつけて、地下に電話線を引き込んだ甲斐があったな」

 

「そうだな・・今から瓦礫の撤去作業と行くぞ!」

 

トラックに工具を積み込んで現場に向かった水瀬釘宮商会はしぶとかった。

 

数日後、第五航空艦隊の偵察機は四国沖に敵機動部隊を発見した。それを知った宇垣纏長官は軍議を開いた。

 

「敵機動部隊は疲労したと思われる。神雷部隊をこれにぶつけたい!」

 

「少数による夜間奇襲なら成功の可能性もありますが、護衛戦闘機が足りない現状、昼間の強襲の成功の見込みはありません。機会を待つべきです!」

 

「馬鹿な、ブツけるといったらブツけるのだ!」

 

幕僚の意見を聞き入れなかった宇垣は神雷部隊に出撃を命じた。

 

「隊長、長官が見送りに来られました。手を振りますか?」

 

「無視しろ!真っ直ぐ敵に向かう!」

 

桜花を搭載した18機の一式陸攻を率いる野中少佐はそう部下に吐き捨てた。

 

「無視してよかったのですか、隊長?」

 

「どうせ片道の湊川だ。提督様に敬意を表する必要はないだろうさね!嫌な奴は適当な言い訳を考えて戻れ!俺が責任を取る!」

 

「隊長は突っ込むのでござんしょ!ご一緒させてもらいますよ!」

 

「馬鹿野郎め・・・」

 

神雷部隊は迎え撃つ迎撃隊を物ともせず敵に向かって突っ込んだ。

 

「神雷部隊が敵機動部隊に全力攻撃しました」

 

「戦果はありましたか?」

 

数は少ないとはいえ、野中少佐達、貴重な熟練パイロットで編成された神雷部隊ならと戦果を期待した大和だったが、矢矧からの知らせに失望した。

 

「敵戦闘機隊と遭遇した神雷部隊は全滅しました・・・遭遇した時、司令部から退避命令が出たようですが、野中少佐は命令への抗議としてそのまま突っ込んだそうです」

 

「そうですか・・ご苦労様です。矢矧、戻りなさい」

 

「はい」

 

矢矧を戻らせた大和は自室で考えた。

 

「私は野中少佐のように死を受け入れることができるかしら・・・」

 

硫黄島が陥落、沖縄上陸が間近に迫ってると悟った軍令部は作戦計画を練り上げを持って、陛下に上奏した。及川軍令部総長の上奏を受けた陛下は海軍を激励した。

 

「・・・海軍は全力を持って目的達成に努力せよ」

 

「・・・もったいなきお言葉にございます。呉に待機しております第一遊撃部隊も機をみて参加させるつもりにございます」

 

「・・・うむ。期待してるぞ」

 

「・・・はい、ありがとうございます。陛下は水上部隊を投入させたいのか?」

 

忖度した及川は作戦部長の富岡提督を読んで陛下の意向を伝えた。富岡は部下を招集して腹案を打ち合わせした。

 

「燃料事情等及び五航艦の戦力から考えて、囮にした第一遊撃部隊で誘い出された敵機動部隊を叩くことは可能です」

 

「そうか、総長には俺が伝える。然るべき案を立てろ」

 

「わかりました」

 

腹案をたたき台にした富岡は三上連合艦隊作戦参謀と協議した。

 

「第一遊撃部隊を佐世保に移動させる程度の燃料なら用意できます。やりましょう」

 

「そうか、ありがとう」

 

連合艦隊は大和の修理が終わり次第、佐世保に移動せよと第一遊撃部隊に命じた。

 

翌日、鳳翔さんが水瀬釘宮商会を尋ねてきた。

 

「鳳翔さん、怪我はないか?」

 

「ええ、水瀬、あなたは?」

 

「おかげさまで・・よろしくやってるさ。ところで鳳翔さん、大和は。近いうちに出撃するようだな?」

 

「わかりますか?」

 

「ああ・・昨日、井口が会社にやってきたから料亭で一杯やってきた。その時にアイツから聞いた」

 

「井口中尉と何を話したのかしら?」

 

「アイツ、『貴様の言う通り、戦艦は無用の長物だった・・俺は戦争が終わったら生き甲斐がない』と溢して、『何があってもゴキブリの様に生きるのがお似合いなn貴様たちに女房と子供の世話を頼みたい』と面倒事を持ち込んできたよ」

 

「受けるのですか?」

 

「死ににいく奴の望みをうっちゃたら目覚めが悪いぜ。鳳翔さん、何か欲しい物があったら持っていってきなよ!」

 

大和は死ぬ気だなと聞く水瀬に鳳翔は答えた

 

「タダでいいのですか?」

 

「餞別に支払いを要求するヤボはせんよ!」

 

「それでは、お言葉に甘えて・・・」

 

大和と運命を共にする第二水雷戦隊への土産物のお菓子その他を貰った鳳翔は大和の元をやってきてお土産物を渡した。

 

「鳳翔さん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして。貴女達のご武運をここで祈ります」

 

「鳳翔さん、一つやって欲しいことがあります

 

「なんでしょうか?」

 

「私のために手料理を振る舞ってもらえませんか?」

 

「わかりました。喜んで用意します」

 

決戦の日は近い

 

(続く)

 



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待機

75年後の天界

 

アヤカシに魂を抜かれた摩耶と羽黒は、た金剛(二世)達に出会った。

 

「金剛姐ぇに、霧島姐!?やられたののか?」

 

「ミーは、三日連続に悪夢を見せられたアヤカシに突き倒されて、魂を抜かれて~それっきりだヨ。ユーは」

 

「私たちも同じ手でやられました」

 

戸惑う羽黒達の前にアヤカシが現れた。

 

「心配スルコトはナイゾ、実体は無事だ。用がスんだら、地上に戻してヤルさ」

 

「フザケないで!今、戻しなさいよ!」

 

霧島(二代目)が戦闘モードになった。

 

他の娘も戦闘モードになったが、アヤカシは嗤う

 

「ツマラナイことはヨセ・・・攻撃スル前にワタシの話を聞いてクレよな?」

 

「・・・武装を解きなさい!あなたの目的とやらを聞かせなさいな?」

 

三笠より『菊一文字の太刀』を託された加賀(二代目)はアヤカシと相対

した。

 

「カガ、ワタシの顔をオボえてるか?」

 

フードの下の顔を見て誰かを悟った加賀は、アヤカシに聞き質した。

 

「ええ、よく覚えてるわよ」

 

「・・そうか、なら話は早い、ワタシのアソビに付き合ってホシイ、どうだ?」

 

「貴女がやりたい遊びは何かしら?」

 

「・・・姉サン達とアイオワ姉妹達を対決サセて長年の論争に決着をツケる。それだけダヨ?」

 

「アイオワ姉妹の魂も抜いたのかしら?」

 

「ソウダ!カガ達にシタようにナ!」

 

嗤うアヤカシに加賀は聞き返す。

 

「そんな事に、私達を呼び出すのはずいぶんじゃないかしら?」

 

「マア、そうだ・・・しかし、姉サン達の寝込みを襲ウのをミスゴすのはどうかな?」

 

「でも、米国村を奇襲するのは断るわよ!」

 

天界の秩序を壊すのはダメだと答えた加賀にアヤカシは答える。

 

「ソコまでは要求セン!加賀達は姉サン達を守ってクレさえスレばいい・・・」

 

「それならいいわよ。みんなもいいですね!」

 

加賀は周りにいる金剛、村雨、秋月達に命じた。金剛達は手を上げて応と答えた。アヤカシはニコリと笑って頷いた。

 

「アリガタイ。が今のカガ達では、超音速機多数をモツ米国空母機動部隊から姉サンたちを守レン。ワタシがヨイ装備を用意シヨウゾ!」

 

「できるの?」

 

「今時ノ海軍ノ最新鋭装備ハ、コウでアロ?」

 

アヤカシ魔法をかけられた加賀の装備が、今日日の米国で試験中のそれに替わった。

 

昭和二十年三月二十八日、佐世保行きに備えて三田尻沖に移動した第一遊撃部隊

 

「司令、響を無事に呉に届けました」

 

敵の機雷に触れて参加できなくなった響の護衛より戻った朝霜が矢矧に報告する。

 

「朝霜、ご苦労様。作戦までお休みなさいな」

 

「ありがとうございます。栄光の第二水雷戦隊も私を含めて7隻、次で終わりかな?」

 

「そうかもしれないわね。その時は私も阿賀野姉達のところに行く時・・・」

 

「わかりました、私も命をかけて戦います!魚雷を撃てぬまま散った清霜達のために!」

 

姉妹艦を全て失った朝霜は自らの決意を矢矧に告げて下がった。

 

この日の夜、内地の桜を見るのもこれが最後と覚悟した第二水雷戦隊の駆逐艦娘は、夜桜の下で宴を始めた。

 

「雪風、どうしたんだよ~」

 

「少し飲みすぎました。厠に行ってきます!」

 

「そうか・・すぐに戻れよ。戻らないとお菓子がなくなるぞ~」

 

「はい。すぐに戻ります!」

 

千鳥足で海岸に降りた雪風、正気に戻った雪風は周囲を見回して、そこに泊めてあったボートを漕いだ。

 

「中尉、どうしたのかしら?」

 

夜桜の下、矢矧が池山中尉を誘う

 

「矢矧・・ごめん、立たないんだよ」

 

「そんな・・マリアナとサマールで男を見せた中尉らしくないわ。『艤装時から私と一緒なんだ、死ぬ時も一緒だ』と私に約束したじゃない?しっかりなさいよ!」

 

励まされても決意できない池山は矢矧に聞いた。

 

「矢矧、君も初めてだろ?どうして積極的になれるのかな?」

 

「私は女、いざとなれば覚悟ができるわよ。男は違うの?」

 

「うん・・違うらしい」

 

気ばかり焦って事が進まない二人のところに雪風が現れた。

 

「司令、見つけました!心配してた通りですねぇ~」

 

「雪風、どうしてここに?」

 

「司令と中尉がどうなってるのか気になったのですぅ~司令も中尉もこういことは初めてだからわからないのも当然ですよねぇ~。いいですよ。中尉には私が事の次第を教えてあげますよ~」

 

「雪風、何をするんだ!?」

 

池山に馬乗りになった雪風は草叢に押し倒して、彼の下半身を眺めた

 

「うふふ、中尉、これじゃ、司令を愉しませてあげることはできませんよぉ~雪風にお任せてください!」

 

「雪風、君は男女の交わりを知ってるのか」

 

「外見で判断しちゃダメですぉ~飲む・打つ・吸うは、駆逐艦娘の嗜みですよ~中尉も知ってますよね?」

 

一年前の今頃、酔っ払った雪風達が配属されたばかりの矢矧に絡んでいたことを思い出した池山は頷いた。

 

「そうか・・雪風、全部君に任せるよ」

 

「任せてください。中尉を男にしてあげます!」

 

一時間後、雪風の手で男になった池山は打って変わって積極的になった。

 

「矢矧、一気に行くぞ!」

 

「ああ、中尉!私を好きにして!」

 

雪風が見守る中、愛し合う二人はお互いの思いを伝える事ができた・・・

 

「中尉、もういいかしら?」

 

「うん。満足したよ!今度は平和な世界で人として生まれて君と家庭を作りたいな・・・」

 

「ええ・・桜の木の下で家族と一緒にお花見弁当を広げたいわ」

 

中尉と思いを遂げて満足な矢矧だったが、愛し合う中で中尉の本心を聞いた。

 

「俺は死にたくない!生きたいんだ!」

 

中尉と愛し合ったことより本心を知って満足した矢矧は思った。

 

「中尉・・それが本心?いいわ、私の命が尽きる最後まで生き残るのよ。私の最後の力は中尉にあげる!それが中尉にしてあげられること!」

 

矢矧もまた現世への思いを断ち切った。

 

翌日朝、日吉の連合艦隊司令部から第一遊撃部隊に、出撃中止が告げられた。

 

通信を傍受した矢矧が大和にそのことを報告した。

 

「どういうことでしょうか?」

 

「五航艦の増援にやってきた三航艦が敵機動部隊に叩かれて護衛機が足りなくなった。今回は見合わせるとのことです」

 

「そうですか、残念ですね。ですが、矢矧、あなたにも見せたいものがあります」

 

「何でしょうか・・・・これは挑戦状!?」

 

偵察に来たB29から落とされた挑戦状には、沖縄上陸部隊の援護部隊として参加するコロラド達の署名を添えて以下の事が記されていた。

 

「このWarの終わりとともに、バトルシップの時代も終わる。ヤマト、オキナワに来い!キャリアのアシストは借りぬ!心ゆくまで戦おうぞ!」

 

 

(続く)



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挑戦

1945年3月末・沖縄近海

 

来たる上陸に備えて、沖縄沖に集結した第5艦隊の旗艦を務めるニューメキシコは、グアム基地娘と連絡を取った。

 

「あの挑戦状はヤマトに届いたかしら?」

 

「ヤツらをミタジリで発見した。アガノ型の近くに落してヤッタ。オッツケ、返事くるゾ

!」

 

「そう、ありがとうね」

 

計画通り進んでると思った彼女は、返事を待つ仲間に言った。

 

「もう一度聞くわね・・抜けるなら今よ。16インチじゃない大和から逃げるのは恥ずかしいことじゃないわよ。マリーンの上陸支援も立派な仕事だからね」

 

皆の意見を代表するように、コロラドが答えた

 

「馬鹿なことは言わないで!この腕でヤマトのヘッドをネジ切ってやるわよ!この戦いがバトルシップ同士が撃ち合う最後になるわよ!次はない!みんな、行くよね!」

 

「いきます!」

 

目の前の9隻の戦艦たちは拳を上げて決意を示した。覚悟を受け取ったニューメキシコは改めて告げる。

 

「皆の決意はとても嬉しい・・だけど、上陸支援の仕事も大事だから全員を連れて行くわけにはいかないわ」

 

「何隻、連れていくつもりなの?」

 

「私を含めて6隻ね」

 

「そう・・・私達3姉妹は当然、連れていくわよね?」

 

自慢の16inch 砲をアピールして参加を訴えるコロラドにニューメキシコは答えた

 

「ええ、貴女達三姉妹は当然連れて行くわよ」

 

「嬉しい・・・ナガトとムツと戦えなかったのは残念だけどね」

 

「そうね、解散、皆、次の命令に備えなさい」

 

「最終回答はいつになるのかな」

 

「マリーンの上陸作戦は4月1日だからそれ以降になるわ」

 

「ありがとう、エイプリルフールにならないことを祈るわよ」

 

その日に備えて解散したコロラドに、体の半分が機械化さてパールハーバーから復活した妹のウエストバージニアが話しかけた

 

「姉サン、Defeatサレたら、ミー、ヤマト、Killスル!」

 

「ええ、その時は頼むわよ・・断じて空母にはやらせないでね!」

 

「Riglt!ヤマト、ハラワタ抉リ出して、BloodをSuckスル!」

 

コロラドはサイボーグされた右腕のヘルズクローをガチャガチャ言わせて凄む妹に苦笑した。

 

75年後の天界

 

アヤカシの力により電磁カタパルトからのF35が使用可能になった加賀がアヤカシに聞き返す

 

「私たちに協力してくれるのはいいけど、私、出雲、伊勢、日向の4隻では米国機動部隊を凌ぐのは少し骨ね・・・」

 

「でアルな・・・助っ人ヲ用意したヨ!来イ!」

 

加賀達と同じくF35を使えるように改造された瑞鶴達が現れた

 

「瑞鶴、翔鶴、あなたたちも来るのかしら?」

 

「あら、加賀姉さん・・昔みたいに『5航戦なんかと一緒にしないで!』とおっしゃらないのですか?」

 

翔鶴の煽りに苦笑した加賀が答える。

 

「いや、私がいなくなった後の1航戦として戦ったあなた達の働きを知った今、それを言う資格はないわ。協力感謝します!」

 

「ええ・・うんと協力してあげる、ところで私達の仕事はあの時と同じ囮でいいの?」

 

F35を使用できるようになった瑞鶴がアヤカシに聞いた

 

「アア、加賀タチは専守防衛をモットーにシテるからナ」

 

「そう・・76年前と逆をしたかったのですがね・・・」

 

翔鶴と共に参加することにした大鳳が対艦ミサイルを装備したF35妖精を弄びながら呟いた。アヤカシが答える

 

「ソウ言うな・・ソレは愛宕・金剛・足柄達の仕事だ。だが、敵艦隊への接触任務も重要な仕事ダゾ。コレは加賀が望んだ事なのダ・・現世に生きる彼女タチの希望を優先スレばなるまい、大鳳、ワカルな?」

 

「加賀さんがそういう言うなら仕方がないわね・・・で、加賀さん、私達、第三艦隊はどこまで近づけばいいのかな?400海里なんて冗談は嫌ですよ」

 

現代化したとはいえ、装甲甲板は尚も健在な大鳳は冗談交じりに、加賀に聞く

 

加賀は答える

 

「200海里・・150海里まで近づくわよ」

 

「できるかしら?」

 

「そうよ。大鳳、F35に乗る志賀少佐や岩井中尉の腕を信じなきゃダメですよ!」

 

「わかりました。敵機動部隊への攻撃は愛宕達に任せます」

 

納得した瑞鶴達は加賀と護衛と「初月達の無念を晴らしたい」秋月(三代目)と照月(三代目)達を連れて去っていた。

 

彼女達を見送ったアヤカシは愛宕達に向いて聞く。

 

「愛宕達ニモ助っ人ヲ用意シタ!扶桑・山城、出マセい!」

 

扶桑姉妹が現れた。武装を見て愛宕がアヤカシに聞いた

 

「あんな武装じゃ、夏冬のコミケでも通用しないわ・・・何とかならなかったの?」

 

愛宕に訊かれたアヤカシは扶桑姉妹に言う。

 

「愛宕タチに本当の姿を見せてヤってクレ!」

 

「はい・・・私たちの真の姿は・・・」

 

「こうです・・」

 

昭和19年10月時のダミー武装を外した2人は、下に着込んだ真の武装を見せた

 

「155ミリ・レールガン!?」

 

「ええ、米帝の試作品だそうですが、118キロから大和の装甲を抜けるそうで・・」

 

どこぞの宇宙世紀物の主役ロボよろしく、背中に装備した2本を抱え込んだ扶桑が微笑む。

 

「でも、エネルギー源はどうするのかしら、レールガンはエネルギー食うぞ」

 

「私達は戦艦だから大ジェネレーターを内臓できますよ~私だって・・ほら!」

 

同じくダミー武装を外した山城も自分に与えれた武装を見せた

 

「LaWSシステムじゃないないの!?」

 

「これも米帝の試作品だそうですね。これを使ってこういう事ができるのですよ~」

 

昔なら偵察機の置かれていた後部から人口衛星らしきものを発射した山城は、それらを周りに展開した。

 

「とある宇宙世紀物の悪役マシーンを元に作ってみました~。これで敵艦の撃沈は難しいですが、誘導弾の迎撃は可能ですよ~」

 

その悪役マシーンのように全身にレーザー砲を装備した山城も微笑んだ。

 

アヤカシが話を続けた。

 

「扶桑姉妹は、第三部隊とシテ、キミ達ト満潮達・潜水艦娘ニ協力スル!協力者ハまだイルゾ、雪風コイ!」

 

合図と共に、雪風、矢矧、那智、霞が現れた。矢矧と那智は狙撃銃に改造した155ミリレールガン、雪風と霞は127ミリレールガンを手にしていた。

 

昭和二十年四月一日

 

慶良間諸島を制圧した米軍は沖縄本島に上陸を開始した。

 

「赤羽根、怖いか?」

 

「はい・・・おかしいですか?」

 

学生士官として動員された赤羽根健二郎・少尉は双眼鏡越しに敵上陸部隊を眺めながら、相棒の三浦松太郎・中尉に尋ねる。

 

「ははは・・・俺だって怖いよ。相手は10万の上陸兵、沖合は観艦式でその向こうには空母部隊が控えてござる。ビビらない方が不思議さ!」

 

「でしょうね・・・」

 

「だが、俺たちは士官は、兵隊達の前で根性見せるのが商売だ。辛いだが頑張れ。植物学に詳しい貴様に死んでは後々困る!」

 

田舎にいた頃、不作と不景気のせいで娘達が遊郭に売られていく光景を見て、強い農作物を作る夢を見て東京農業大学に入った赤羽根を三浦は激励した。

 

「ええ、頑張ります!」

 

「ああ頼むぞ。長生きしたいのなら俺から離れるなよ!」

 

「はい、三浦さんの言った通りですね・・」

 

「俺が言いたいことが、わかったか?」

 

三月の陣地偵察の時、三浦に貴様が司令官なら敵をどう迎え撃つと聞かれた赤羽根は、『水際でまごついている敵に全火力を集中して・・』と答えて、『教科書通りだな』と三浦に切り捨てられたことを思い出した赤羽根は答えた。

 

「はい、よく分かりました。この状況で撃ち合いをしたら3日で踏み潰されますね」

 

「だろ?俺は、こうも付け加えた。飛行場も呉れてやって、砲兵で嫌がらせしたらいいとな」

 

「でしたね」

 

「まあ、飛行場に地雷をばら撒くことを東京の馬鹿どもが許可してくれたら良かったが、今は何も言うまい・・赤羽根、俺たちがこの地上で生きられるのは何ヶ月だと思う?」

 

「そうですね・・硫黄島が1ヶ月と少しでしたから、2ヶ月でしょうか?」

 

貧しい百姓を救う強い米を作りたかった赤羽根は、残念がって答えた。

 

三浦は勇気付けるように答えた。

 

「東京のバカどもが幕僚指導なぞせずに現地に任せれば、3ヶ月生きていられるぜ」

 

「本当ですか?」

 

「そうだ・・だから、3ヶ月頑張るんだぞ。俺も頑張るから貴様も生きろ!」

 

「はい・・それはそうと大和は助けに来てくれるのでしょうか?」

 

「やめておけと言いたい・・・が、赤煉瓦どもは大和と二水戦を突っ込ませる腹だろうな」

 

双眼鏡越しに敵艦隊を再度眺めた赤羽根はどうしてと、三浦に聞き返した

 

「5000人以上を無駄死にさせるだけなのにですか?」

 

「ああ、そうだ。が、俺たちが何を言おうと赤煉瓦は突っ込ませるよ。30年近く海軍で飯食ってる俺にはわかる。そういうことだ」

 

「はあ・・・・そういうものですか?」

 

「愚痴っててもしょうがない。今は生きることを考えろ!」

 

沖縄の最前線でそんなやり取りがあるのを知らぬ第一遊撃部隊では、敵部隊上陸を知った大和が先日の挑戦状の返事を書いた。

 

「これを敵第五艦隊に届けなさい」

 

「了解しました。長官が突撃される時は、現地で運命を共にしたいと思います」

 

「お願いします」

 

大和より信書を受け取った伊47と伊58は光を出撃、沖縄西方の第五艦隊に向けて出撃した

 

(続き)

 

 



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決断

昭和二十年四月一日・呉上空

 

「参謀、そろそろ着陸です」

 

「わかった」

 

戦力の見極めと作戦指導のために、西日本出張を命じられた三上参謀は頷いた

 

高槻の操縦する97艦攻は広飛行場に着陸した

 

「少尉、帰りは別の便で戻る」

 

「了解しました。参謀、お気をつけて!」

 

三上参謀を見送った日高は、高槻に尋ねた

 

「酷い様ですね・・水瀬さん、無事なんですかね?」

 

「大丈夫だよ。水瀬さんの生命力はゴキブリ並みだ。社屋が焼けようと商売を続けてるよ」

 

「でしょうね・・・顔を見せなくていいのですか?」

 

「いや、やめておこう。明日、厚木に戻るぞ」

 

「それは残念・・・でも、大和は見当たりませんね」

 

大和や矢矧の姿を見つけられなかった日高は尋ねた

 

「いないということは、上の連中は大和を沖縄に突っ込ませる腹なのさ」

 

「でしょうね・・伊勢さんと日向さんに聞きますか?」

 

「貴様に任せる」

 

「では、伊勢さんに連絡をとります」

 

75年後の天界

 

「編成は、これでいいわね」

 

「第一遊撃部隊は愛宕、第二遊撃部隊は足柄、敵をおびき出す第三部隊は扶桑姉妹に任せるのだな」

 

「そうよ・・うふふふふ」

 

愛宕は意味ありげに笑う。

 

「水上部隊の編成はいいとして私達潜水艦にも働く場所を用意してくれるのでしょうね」

 

潜水艦を代表して、蒼龍(二代目)が尋ねる。

 

「そうね。蒼龍達は個別に狼群を編成して、敵艦の追尾と追い撃ちを任せるわ」

 

「先制奇襲をかけないの?」

 

同じく潜水艦として転生した雲龍(二代目)が尋ねる

 

「ダメよ。加賀は相手に殴らせてから思い切りぶちのめすよう命じてるわ」

 

「そうですか・・・狼群の編成は、満潮教官と親潮教官に任せてます」

 

話を振られた満潮(三代目)は新型の18式魚雷をなでながら、頷く

 

「編成と朝雲達の仇討ちのついでにこれのテストもしたいわ。ねえ黒潮?」

 

「もちろん、野分らの弔い合戦がさせて欲しいな~満潮、編成はこれでエエか?」

 

「問題はないわよ・・蒼龍に伝えるわよ」

 

蒼龍から報告を受けた愛宕に編成案を知らされたアヤカシに、この騒動に協力を申し出た高槻が話しかけた。

 

「愛宕と足柄は何と?」

 

「所定ノ場所ニ待機シテ敵ヲ待ち伏せスルと言ッテル。高槻、イイのか?・・事が公にナレバ、キサマは縛リ首サレテ、修羅道に突き落とサレるぞ?」

 

「貴様に、長輔、愛ちゃん、舞ちゃんの魂を質に脅迫されたらしょうがないぞ。それに・・・」

 

「ソレに?」

 

「いざとなれば水瀬さんに泣きついて腕利きの弁護士を用意してもらうさ。401達に仕掛けさせるか?」

 

新しいドローンをプレゼントする約束で、イ401達を参加させたアヤカシに高槻が尋ねた。

 

「そうダナ・・401にシカけさせよう?高槻、用意シタF35は気にイッタか?」

 

「勿論さ!ゴッドも松っちゃんも虎徹もお気に入りさ!いいオモチャを用意して感謝する!日高行くぞ!」

 

パイロットスーツに身を包んだ高槻が日高と共に加賀の元に向かった。

 

「フフフフフ、万事、順調デアルか・・・」

 

アヤカシは思わせぶりな笑いで見送った

 

四月三日、三田尻沖に待機する第一遊撃部隊

 

部下達の意見を纏めた古村第二水戦司令が作戦会議で発言した。

 

「長官、数も燃料も訓練度も装備も不足な現状で、沖縄に出撃しても全滅です。残念ですが、艦隊を解散させるのが上策と思われます」

 

新型電探を手に入れられなかった上に、春に卒業したばかりの士官候補生を押し付けられたことが納得できない古村提督は、意見具申した。

 

開戦以来、前線で戦ってきた古村と意見を同じくする森下参謀長が伊藤長官に発言を求めた。

 

「そうか、駄目か・・わかった。先任参謀、私の名前で連合艦隊に意見具申してくれ」

 

「わかりました」

 

軍令部次長として戦争を指導した責任を死で持って詫びたかった伊藤だったが、武蔵艦長だった古村、大和艦長だった森下が出撃中止を訴えたらしょうがないと考え、山本先任参謀に意見書の作成をするよう命じた。

 

同じ頃、東京

 

「・・幾ら貴様が訴えても作戦部長の俺は、大和を沖縄に突っ込むことに同意できんぞ」

 

富岡提督が再度反論する。激昂した神は叫んだ

 

「なら、片道でもやらせます。私を第二艦隊の参謀にしてください!」

 

「そんなことはさせないぞ!」

 

「じゃあ、大和を残して手を上げて国民は納得するのですか?いや、明治以来の海軍の誇りはどうなるのですか?」

 

「それは・・・・」

 

戦局が覆らない事を良く知る富岡も大和を残して負けを認める事はできない本音を突かれて押し黙った。神は再度叫ぶ

 

「・・あなたでは話にならない!小沢次長に意見具申します!」

 

「待て、話が違うぞ!」

 

富岡の制止を無視して小沢軍令部次長と及川軍令部総長に意見具申した神、及川はいつもの調子で聞き流していたが、小沢は神に聞き返す。

 

「連合艦隊長官は貴様の意見に同意したのか?」

 

「はい、長官は同意されました」

 

「・・・・そうか、やむを得まい、連合艦隊司令長官が決意したのならそれもよかろう」

 

豊田提督も神に押し付けて責任逃れする腹だと察した小沢であったが、去年まで第一機動部隊指揮官として前線を過ごした経験から大和を有したまま降伏することはできない事もよく分かる彼も突入に同意した。

 

軍令部の同意を取り付けた神は作戦会議の開催を豊田に要求した。九州に出張した三上の代わりとして出席した千早参謀は傍の補給参謀に燃料の事を尋ねた。

 

「補給参謀、燃料は?」

 

「燃料は2000トンしか用意できません」

 

「・・・片道しか用意できないとあれば、作戦参謀として同意することはできません!」

 

草鹿参謀長と三上作戦参謀の頭越しに作戦を実行させようとする神の態度が許せない千早は反論したが、神は反論する

 

「・・参謀、これは陛下が決められたことだ。それでも君は反対するのか!?」

 

「・・わかりました。補給参謀、至急徳山に連絡、超簿外の燃料がどれだけあるか確かめてください」

 

「わかりました」

 

中座した補給参謀が徳山に確認したところ、超簿外の燃料が6000トンあると報告があった。止められなかった千早は神に告げた。

 

「作戦参謀として今回の作戦に同意します」

 

「ご苦労、鹿屋に出張された参謀長達には俺から話すぞ」

 

なし崩しで決定された出撃計画はその日のうちに第2艦隊に伝えられた

 

「長官、いかがいたしましょうか?」

 

作成を命じられた意見書を片手にした山本先任参謀が聞いた。伊藤提督は呻いた

 

「陛下の名前を出されては仕方あるまい・・だが、先任参謀、私も連合艦隊に意見したい」

 

「何でしょうか?」

 

「大和と矢矧に乗ってる士官候補生を全員下ろしたいと思う」

 

「もっともですが、省の同意を得る必要があります」

 

正規士官の異動は海軍省にある事を懸念した山本が心配する。伊藤は腹案があると答えた。

 

「幸い、第一航空艦隊の指揮官を兼ねる私の指揮下に葛城がある。候補生全員を配属するよう手配したまえ」

 

「わかりました。候補生にはいつ伝えますか?」

 

「三日後に伝えよう」

 

これ以上若い人材を失うことに疲れた伊藤は、山本に命じた。

 

同じ頃・沖縄沖

 

「スーパーヘビーシェルの積み込みは終わったかしら」

 

「完了しました!」

 

「よし、訓練に移るわ。一隻とはいえヤマトはただ者じゃない!本気でいくわよ!」

 

ニューメキシコ・テネシー・アイダホ・コロラド・ウェストバージニア・メリーランドの6隻を中核とする巡洋艦7隻・駆逐艦21隻で構成された大艦隊は、数日後の大決戦に向けての訓練を開始した。

 

(続く)

 



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思惑

昭和二十年四月五日・八丈島上空

 

「高槻さん、敵機は見つかりましたか」

 

「いや、見つからない。日高、電探に反応はあるか?」

 

「ありません」

 

「そうか、東に変わるぞ」

 

「了解」

 

空中の早期警戒を命じられた高槻が飛ばす彩雲は東に向きを変えた

 

「高槻さん、赤煉瓦は大和をどうするんですかね?やっぱり沖縄に突っこませるのですかね?」

 

「ああ、赤煉瓦は機を見て突っ込ませるぜ」

 

「いいんですかねぇ?先のある若い連中が大和に乗ってるんでしょ?」

 

水上艦隊の誇りとやらに、もっと大きなことができる若い連中を巻き込むのですかねぇと溢す日高を高槻が嗜めた。

 

「大和も若い連中を巻き込みたくはないだろう!だが、その若い連中も沖縄の連中を見殺しにするのは不本意だろうさ。貴様もいよいよ本土決戦となったら、全てを忘れて敵艦に突っ込むぜ」

 

「そうなりますかね~」

 

「俺がそうさせてやるよ!俺もいよいよとなれば、突っ込む!!」

 

「わかりました。龍鳳ちゃんに言われて付き合ってきましたしね。修羅道までお付き合いしますよ~」

 

「ああ。その時には、貴様が納得する形で突っ込ませてやるよ」

 

理由を付けて逃げ出すだろう司令と飛行長・・それにあのションベン野郎は縄に縛り付けてでも艦爆に乗せないと駄目だと考えながら、大和とのやり取りを思い出す高槻だった。

 

同じ頃・沖縄沖

 

「ゴーヤー、敵艦隊を発見したよ!」

 

「よし~、潜ったまま敵に近づくのでち」

 

「アレは打たなくていいの?」

 

「今回は、大和長官の返事を届けるのが目的なのでち」

 

「そうだね」

 

近づいてくるイ47とイ58を発見した駆逐艦がペアで接近するや、ヘッジホッグを投下した。

 

「シーナ、潜行するでち!」

 

「そうね・・・行くよ」

 

急速潜航して爆雷をやり過ごしたイ47とイ58は偽装用のゴミと排油と一緒に信書を入れたケースを魚雷発射管から放出した。

 

2隻とも撃沈したと思った駆逐艦娘は、浮かんでいるケースを回収した。

 

「信書が入ってるわよ」

 

「見せなさいな。・・・第五艦隊長官宛の信書だって!?長官に伝えるわよ」

 

駆逐艦娘より信書を渡されたニューメキシコは、それを読んだ。

 

「ご苦労様、ユー達は引き続き敵潜水艦に気を付けなさい!」

 

「はい!」

 

「何があったのかしら?」

 

コロラドがニューメキシコに尋ねた。彼女はコロラドに親書を見せた。

 

一読したコロラドも、我が意を得たりと頷く

 

「そう、ヤマトは受けて立つのね・・どうするの?」

 

「ブンゴ・ストレイトにいる潜水艦娘に追跡をするよう命ずるわ」

 

「攻撃はさせないよね」

 

「もちろん・・発見次第、追撃に専念しろと伝えるわ」

 

「そう・・キャリア連中には伝えるの?」

 

連中に任せるとロクなことをならない、と心配するコロラドが尋ねる。

 

ニューメキシコは答える。

 

「第5艦隊長官の権限でアンタ達は後ろに下がって、カミカゼに備えなさいと伝えるわ」

 

「頼むわね。ウェストバージニア達には私が伝える。あの子達も喜ぶわよ」

 

「任せるわ」

 

コロラドからの伝言は皆を喜ばせたが、機動部隊に御注進する者がいた。

 

その内容は空母機動部隊の耳にも入った。

 

「司令、どうするの?ヤマトは年増連中に任せるの?」

 

「姉さん、そんなことさせないわよ。今度こそ私達の手でヤマトをハントするよ!」

 

長姉になるエセックスに聞かれたバンカーヒルが答えた。

 

エセックスが焚きつける。

 

「私達は、ニューメキシコの指揮下に入ってるわよ。勝手に動いたら軍令違反で訴追されるわね?」

 

「でも、『機動部隊司令官は必要と判断すれば独自の判断で動ける』との但し書きがニミッツ長官とスプルアンス提督との間にあるじゃん・・それを利用するわ」

 

「そう・・アンタ、ワルね?」

 

「褒め言葉と取っておくわ。空母は私が説き伏せる。姉さんは巡洋艦と駆逐艦を抱き込んでね」

 

「サウスダコタやニュージャージーには伝えなくていいのかな?」

 

「アイツらに伝える必要にはないわよ・・四の五のゴネたら数で押し通します!」

 

「心得た」

 

戦局は動こうとしていた。

 

75年後の天界

 

「ニム、そろそろやるデチ」

 

「そうだね・・水偵発進」

 

「ニム、このリーパーとかいうドローンは水偵だけでなく爆撃もできるそうね~今のゲタばきは凄いね~」

 

アヤカシから現代版・晴嵐を貰った伊401が笑う。

 

伊58は、伊47に録音機の具合を尋ねた。

 

「シーナ、マシーンの調子はどうかしら」

 

「バッチリ、音声クリアーだよ。あの時にこれぐらい性能のいい音響装置さえあれば・・・」

 

「昔の愚痴は後だよ。今は仕事!」

 

3隻から発進した晴嵐は、米国村本部に接近し録音を始めた。

 

「間違いない、大統領クラスの空母も襲撃に参加するのデチ!」

 

「アヤカシが言った通りね・・・晴嵐を近づけるよ。シオイ、ニム、ゴーヤー、頼んだよ!」

 

接近した晴嵐に気づいてない米国空母部隊は、あの時と同じ様に、闇討ちの計画を立てていた。

 

(続く)



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出撃

昭和二十年四月五日・十八時・徳山沖

 

最後の出撃を前に燃料補給を行う第一遊撃部隊

 

矢矧に配属された士官候補生の世話を任された池山中尉達は、鈴木士官候補生と相対した。

 

「分隊長、戦場では足手まといになる私達を連れていけないと、おっしゃりたいのですか?」

 

「そうだ・・3日の勤務では前線の役には立たん。貴様らには生きて次に備えるのだ!」

 

古村提督や原艦長と同じく、候補生達には納得して降りて欲しい池山中尉は、直属の部下でもある鈴木に言い聞かせた。

 

納得できない鈴木は池山に食い下がる。

 

「我々は何に備えたらいいのですか?」

 

「納得したら艦を降りるのか?」

 

「はい」

 

「そうか・・鈴木、五省を唱えてみろ」

 

鈴木達、74期の候補生には池山達72期は1号生徒である。直立不動で五省を叫んだ、

 

相対して、鈴木の叫びを聴聞き終えた池山は、鈴木に問い質す。

 

「では聞こう。鈴木、貴様らが俺の立場だとして今の貴様らは『努力は十分だ』と言いきれるか?」

 

「言えません」

 

「もう一つ、聞こう。今の貴様らは『最後まで十分に取り組んだ』と言い切れるか?」

 

「分隊長、我々は矢矧のことを何も知りません!」

 

「そうだろう・・わかったか!何も知らない連中を戦場には連れていけない。船を降りろ!貴様らは生きてこそ国に貢献できる・・井上提督はそのようにおっしゃたはずだ」

 

「・・・・うぅうぅ」

 

無念と不甲斐なさがつまった嗚咽が候補生達から起こった。

 

池山は彼らを励ました。

 

「死ぬのは俺たちの仕事だ。貴様らは生きて帝国海軍を再建してくれ!約束してくれるな?」

 

「は・・・はい、お約束します!」

 

矢矧に乗っていた候補生達も大和の連中と同じように、花月から寄越された内火艇に乗り込んで豊後水道まで護衛する花月に乗り込んだ。

 

「あれで良かったのかしら?」

 

「いいんだよ・・アイツらには先がある」

 

「でも私達、艦娘は敗れたら先がない・・酒匂は連れて行くべきだったかしら?」

 

「それは何とも言えないな・・でもキリがない。戦えない連中を決死行に連れて行くわけにはいかん」

 

「それも・・そうね」

 

「とにかく今夜が内地の最後の夜になるぞ。俺も仲間と楽しむから、君も雪風達を集めて楽しめよ!」

 

「わかった・・出港は明日の昼でしょうから、夜中にもう一度会いましょう」

 

お互いの宴が終わった二人はいい気持ちになって防空指揮所から夜桜を眺めた

 

「美しいな・・・君と去年の始めから一緒に戦い続けたが、日本の桜が世界で一番美しいよ」

 

「そうね・・あなたと一緒にあの桜の下でお弁当を広げたいわ」

 

「二人の子供達がブランコやシーソーで遊んでるところを眺めて、一杯ってか?」

 

リンガでもタウイタウイでもブルネイでも暇さえあれば、書き散らした風景画を見せながら、戦争がなかったら自然を大切にした遊園地を作りたい夢を矢矧に語った池山は笑った。

 

「それも夢物語・・おそらく数日後は・・」

 

「それを嘆いてもしょうがない。君が死ぬときは俺が側にいてやるよ」

 

「そう言ってくれたら、ありがたいわ」

 

池山中尉の激励に微笑む矢矧であった。

 

同日・横須賀

 

米内海軍大臣が三笠の隠宅を訪れた

 

「お待ちしておりました。提督」

 

「うむ、ありがとう、三笠さん、またヤツれたな・・・」

 

「提督ほどではありませぬ。今日はどういうお話で?」

 

「それは茶室で話したい」

 

「はい・・・長門、提督をご案内しなさい」

 

茶室に入った3人、三笠が点てた茶を味わった米内が話し始めた

 

「結構なお点前だ。戦も結構な形で終わると良いのだが・・」

 

「何か動きがあったのですか?」

 

「辞表を提出した小磯さんに代わって鬼貫さんに大命降下があったよ」

 

「そうですか・・・鈴木提督は私より年上にございます。最前線もさることながら、上も人がいませんね」

 

「・・そんなことを言ってくれるな。俺も情けない体を晒して大臣をしているんだぞ」

 

海軍大将にした井上成美に任せたい米内は溢す。三笠は慰めた

 

「しかし、井上提督では納得できない者が多いと聞きます。貴方と鈴木提督に最後のご奉公をしていただかないといけませぬ。海軍元帥として今の人事を承認します」

 

「ありがとう、鬼貫さんに、三笠さんが承認したと伝えるよ。長門、貴様達もつらかろうが、大和には最後の奉公をしてもらうぞ!」

 

「はい、大和も死を決していると思われます。閣下には我らの思いを陛下にお伝えください」

 

「わかった」

 

長門の思いを受け取った米内は、長門の手を握って約束した

 

75年後の天界

 

「やばい、連中は晴嵐ちゃんの存在に気づいたよ」

 

ジャミングされたと気づいた伊47が、伊58達に叫んだ。

 

「潮時なのデチ!シーナ、収録は終わりましたデチか?」

 

「もちろん、めもりーすてぃくに収録したよ。勿論しーりんぐ済よ」

 

「ご苦労様なのデチ、急速潜航して日本村に逃げ込むデチよ」

 

逃支度を始めた2人を見た伊401が愚痴る

 

「晴嵐ちゃんは惜しかったなぁ・・・」

 

「やめなよ・・あのアヤカシにまたおねだりしなさいな。それともアンタはアスロックを食らうのが好みなのかしら?」

 

「ニム、わかったよ」

 

4人は、アスロックを装備した警備艦娘と対潜哨戒機の連携攻撃に警戒して急速潜行を開始した。

 

「タービン最速で逃げるよ!」

 

魚雷の代わりに、2スロットにタービンと釜を装備した高速化した4人は、20ノットに加速して日本村の領海に逃げだした。

 

四月六日午後二時・徳山沖

 

編成から外されていたが、増援として加わるように命じられた初霜と霞が矢矧に挨拶にやってきた。

 

「ようこそ、地獄の渡し舟に、貴女達も生きるのは嫌になったの?」

 

矢矧の冗談に初霜がやり返す

 

「そういうのは心外です!私の方が司令より修羅場を経験してるんですよ!」

 

「経験の浅い私じゃ、雪風達を仕切れないと言いたいの?」

 

「そうじゃありませんよ!私達は赤煉瓦の命令で・・・」

 

向きになって言い返そうとする初霜に代わって霞が答えた。

 

「司令、今度の出撃の相手は水上艦隊になるのね?」

 

「ええ、ニューメキシコ達は、機動部隊は後方に下げると私達に約束したわ」

 

「そう、長年の宿敵の戦艦群に魚雷をブチ込めるのね。先に果てた朝潮や満潮に自慢話ができるわね。初霜、あんたもそうだよね?」

 

「ええ、初春姉や若葉のために敵戦艦に一発叩き込んでやりたいです!」

 

「そう・・ありがとう。私からは何も言わないわ」

 

多勢は変わらないだろうが、戦慣れした2隻が加わってくれて感謝する矢矧だった。

 

同じ頃、大和の長官室では、最後通告をする羽目になった草鹿連合艦隊参謀長と三上作戦参謀が、伊藤長官に相対していた。

 

「そうか・・・一億総特攻の先駆けをやれと言うのか、それは君達の考えか?」

 

「・・・・はい」

 

沈黙の後の頷きに2人とも作戦に納得できないと理解した伊藤は話し続けた

 

「そうか・・では途中で大損害を受けて作戦続行が不可能な場合はどうしたらいいのか?」

 

「その時は長官のご意志を重視して、連合艦隊司令部は動きます。ご安心ください!」

 

鹿屋出張でお茶を濁そうとする豊田連合艦隊長官と無責任な及川軍令部総長の一方的な命令では納得できなかった伊藤は、草鹿の答えに納得した。

 

「ありがとう。これでせいせいした。皆を集めよう」

 

1時間後、各駆逐艦長も参加した作戦会議が士官室で行われた

 

「豊田長官が指揮を取らないとはどういうことですか!」

 

という駆逐艦長達からの突き上げから始まった会議は

 

「我々は死に場所を与えらえた」

 

の伊藤長官の一言で終わった。

 

大和達も士官室の隅に集まって最後の軍議を見守っていた。

 

「見なさいな。日吉のモグラどもの間抜けヅラを・・あのバカ連中が私たちを無駄死にさせたのよ!でも、決まったものは仕方ないわね!」

 

悪態をついていた霞達にも、伊藤長官の言葉は伝わった。

 

会議が終わった後、第二水雷戦隊の9隻は大和に向かって敬礼した。

 

「我ら9隻、長官とともに運命を共にすると誓います」

 

「ありがとうございます。ですが、あなた達に一言伝えたいことがあります」

 

「何なりと・・・」

 

「私がやられた時は帝国海軍が終わる時、残存艦は血路を開いて、三笠大姉様に全てを伝えてください」

 

「それは・・・」

 

「これは、第二艦隊司令長官の命令です!」

 

「了解しました。雪風、この期に及んでも、生き永らえたいと思ってる貴女なら、任せてもいいわよね!」

 

「はい、もちろんにございます!」

 

雪風が皆を代表して矢矧に誓った。大和も矢矧も笑った。

 

「みんな、頼みますよ」

 

大和は皆の拳を両手で握って感謝した

 

18時、第一遊撃部隊は、豊後水道まで護衛する花月達と共に決戦の海に向かった。

 

「ここからは私達だけでやります。あなた達は呉にお戻りなさい」

 

「はい、ご武運を」

 

花月達を送ると同時に各箇所に送った電文は、沖縄沖にいる米国艦隊に傍受された。

 

「ヤマトはオキナワに来るわ。出撃!」

 

「オー!」

 

ニューメキシコ率いる第54任務部隊は、大和を迎え撃つために、北東に向かった。

 

(続く)

 



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迎撃

1945年4月6日夜8時・沖縄沖

 

ヤマトがブンゴストレイトを南下中との情報を得た第58機動部隊では軍議が始まった。

 

「通信情報から判断により、カゴシマに集結したエアフリートから大規模なカミカゼがオキナワに来るわ。私達は今から北上、カゴシマ上空のエアスイープを開始する」

 

真の目的を隠して軍議を仕切るバンカーヒルとエセックスは命令を出した。

 

「艦隊北上、航空隊はアタックに備えなさい!」

 

「待ってください。ニューメキシコ長官は、我々の休養と再編成が終わるまで今の海域に待機せよと命令されてます!」

 

「イントレピッド姉さん、何言ってるの?作戦遂行上必要とあれば独自に行動しても可とニミッツ長官はミッチャー司令に認められたわ。我々はミッチャー司令の意思に従うだけですよ~」

 

「でも・・ニューメキシコ長官に話を通さないといけないわ・・」

 

「ダメだよ。姉さん、そんなことして、マリーンのカーゴにカミカゼが来たらどうするんですか?今は行動あるのみだよ!」

 

「そうだけどさ。司令・・・戦艦部隊がここにいないのは何故かしら?」

 

「彼女達まで、ここに呼んでは、JAPのサブマリンがあった時に混乱するからよ。あの子達には明日の朝伝えます!」

 

「ならいいけど・・・」

 

機動部隊は北上すると決まった。

 

軍議は終わった、エセックスはバンカーヒルに尋ねた。

 

「明日の朝、出せる機体は何機かしら?」

 

「万が一のカミカゼに備えて半数は予備にします。残りの367機をヤマトにぶつける!」

 

「まずは、ヘルキャット・コルセア・ヘルダイバーを出すのね」

 

「そう、索敵機より正確な報告があり次第、アベンジャーを投入してヤマトをKILLする!」

 

「全てが決まった後の軍議で戦艦連中に話すのか・・司令も悪ね」

 

「これぐらいのことをしないと、プライドだけは高いバトルシップを出し抜けません。念には念を入れて、我々のアベンジャーの半数に撮影妖精を載せます」

 

「タスクフォース単独でKILLしたことを残すのか・・・何から何まで予定通りって訳ね!」

 

長姉のエセックスとともにほくそ笑むバンカーヒルであった。

 

同じ時、豊後水道で哨戒任務についた潜水艦部隊は、ヤマトを中心とする10隻の艦隊が南下しているのを探知した。

 

「ハックルバック、ヤマトを発見したわ。アタックする?」

 

「スレッドフィン、ニューメキシコ長官の命令よ。アタックは禁止」

 

「了解!こういう時に限って絶好の位置をJAPが通り過ぎるのがムカつくよね!」

 

水上にシュノケールを上げた2隻は、上空を飛ぶゲタ履きに警戒しながら、第一遊撃部隊への接触を始めた。

 

「敵潜水艦、発見!」

 

矢矧を先頭、大和を殿にして単縦陣で南下する第一遊撃部隊、大和の前を進む雪風の水探が敵潜水艦を探知した。

 

「雪風、速やかに排除しなさい!」

 

「了解しました。やってやります!」

 

雪風は不意打ちに警戒しつつ潜水艦に接近した。

 

「JAPのデストロイヤーが来たわ。ヤるか?」

 

「ダメ!一時避退するよ!」

 

「ち、絶好のターゲットなのによぉ!」

 

スレッドフィンはぶつくさ言いながら、ハックルバックとともに一時退避した。

 

2隻の潜水艦が退避してるのを知った雪風は大和に聞いた。

 

「敵潜水艦まで1万2000メートル、攻撃を開始しますか?」

 

「その必要はありません。艦隊に戻りなさい」

 

「了解しました」

 

雪風は先に進む大和達に加わるため進路を変えた。

 

「JAPは行ったわ。どうする?」

 

「追跡を再開する!増速!」

 

ゲタばきが、上空にいないことを確認した2隻は浮上して、追跡を再開した。

 

「艦長、敵潜水艦を発見しました」

 

「高角砲を向けて対処する」

 

電探・夜間見張り・照準を任された池山中尉は、電気関係の整備をしてくれた四条大尉の仕事に感謝しながら。矢矧に告げた。

 

「後は君の仕事だぜ」

 

「わかったわ・・本当は電探や水探と連動できる高角砲が欲しかったけどね」

 

「それは言っても仕方がないな・・・今ある物で頑張るしかないよ!」

 

「そうだったわね。照準合わせは、頼んだわよ」

 

池山は、高射砲を潜水艦に向けるよう命じた。

 

「アガノ型が高角砲を向けてきたよ」

 

「やばい、潜行用意!」

 

矢矧は大和に攻撃するかの確認を取った。

 

「敵の潜水艦を左後方に発見、どうしますか?」

 

「進路右250度に変針しつつ22ノットに増速、潜水艦を振り切りなさい」

 

「了解、いい電探があれば、撃沈してやるのに・・・」

 

奇しくも敵潜水艦と同じ気持ちになった矢矧は、命令に従って250度に変針して増速した。

 

「ああ、敵艦隊に巻かれたよ~」

 

「仕方ないわ・・西南方向に向かったとニューメキシコ長官に伝えるよ」

 

「了解!」

 

潜水艦の報告を受けたニューメキシコ率いる第46任務部隊は、マリアナ基地娘に連絡してオオスミペニンシュラからタネガシマにかけての海域をよく偵察してくれと依頼した。

 

75年後の天界

 

追跡してきた駆逐艦と対潜哨戒機を振り切った伊401達は、日本村の領海へ逃げ込んだ

 

「あ、扶桑さんと山城さんだ、助かったよ~」

 

「シオイ。ご苦労様。ここからは私達に任せてください」

 

伊401達を引き取った扶桑姉妹は、追ってきた米国・駆逐艦娘と相対した。

 

「我が国の領海に侵入してコイツを使った連中を引き渡してもらおうか?」

 

駆逐艦娘は、晴嵐に改造したリーパーを、証拠物件と言わんばかりに、投げつけた。

 

リーパーを受け取った山城は聞き返した。

 

「我が村はリーパーを使ってませんよ。失礼ですが。あなた達のお仲間の悪ふざけじゃないでしょうか?」

 

「何だと・・・惚けるのか!?」

 

「貴方達が、あくまでも引き渡しを要求するなら、容疑者を取り調べた上で引き渡したいと思います。今日は引き下がっていただけませんか?」

 

「何だと!話にならん・・・内部の立ち入りを要求する」

 

「そうなさる前に、長門に話を通してもらえませんかねぇ~。我々の一存では許可は出せませんよぉ~。今日は出直してもらえませんかぁ~」

 

のらりくらりの対応に苛立った駆逐艦娘の一人が、扶桑姉妹に銃を向けて捜査をさせろと強要した。

 

「ダメなものはダメです・・・・て、何をなさるのですか?」

 

「どけよ・・年増女!」

 

突き飛ばしたショックで主砲弾が暴発した。口論は熱戦に変わった。

 

「聞き入れてくれないなら、仕方ありません。我が空母機動部隊を呼びます」

 

「何、空母機動部隊だと・・戦争行為じゃないか?JAPは米国村に言いがかかりをつけて資源を強奪するのだな?こちらも空母機動部隊の出撃を要請する」

 

些細な領海侵犯問題は、両村の海洋資源問題が絡んで大事になろうとした。

 

「高槻さん、面白くなりましたよ!」

 

「らしいな・・これで空母部隊が大和姉妹とアイオワ姉妹の決戦を邪魔するのは難しくなった。だが、もっと熱くならないと俺たちのショータイムが始まらないな」

 

「自分たちのF35は偵察機仕様ですが・・・仕掛けますか?」

 

「熱くなった連中は俺たちが武装があるかは分かるまいさ!」

 

「ですよね・・少し派手目に行きますか?」

 

「ああ、不幸姉妹が大怪我しないように仕掛けるぞ。あの二人にも役割を振ってやるぞ!」

 

上空から押し問答を繰り返すのを見下ろしていた2機のF35は、駆逐艦娘達を挑発するため急降下した。

 

(続く)

 



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空襲

昭和二十年四月七日未明・横須賀技研本部

 

四条貴明大尉は連日、徹夜で対艦誘導弾の研究をする如月正宗大尉の部屋を訪ねた。

 

「如月、差し入れだぞ」

 

「四条、すまんな。大和は今、どこかな?」

 

四条貴明は、壁にかかってる日本地図の種子島辺りを指差した。

 

「そうか、種子島か・・・・沖縄に行けるかな?」

 

「今日の沖縄方面の天気は曇天と聞く。上手くやれば、空母機動部隊の裏をかくことができる」

 

「上手くやれば?」

 

四条は地図をなぞりながら、如月に説明した。

 

「種子島から沖縄本島へ直進すれば、向かってくるだろう水上部隊を相手にするだけでいい」

 

「水上部隊?」

 

「おそらくは、米海軍の戦艦娘も大和を討ち取りたいと思ってるからさ・・」

 

「なるほど。四条、貴様はここに来る前、呉で大和達の電探の整備をしたそうだな。その成果を知りたいのか?」

 

「それもあるぞ。最前線の修羅場を見た俺としては、大和たちに死に花を咲かせて欲しいんだ!」

 

四条の思いは理解できた如月は、無理だぜと言わんばかりに首を振った。

 

「しかし、沖縄にいる戦艦は10隻だぜ。半分が立ちふさがるとしても5隻だ。全滅は間違いなしだぜ!」

 

四条も尤もだと頷くが、答えた。

 

「戦艦2隻やれば御の字だろう。しかし、航空機に嬲られるよりはマシだぜ。願わくは、日吉のモグラどもが余計な口出しをしないことを祈るよ」

 

「余計な口出し?」

 

如月の疑問に、四条は、地図をなぞりながら答えた。

 

「鹿児島沖を横切り、佐世保に退避するように見せかけて、大回りで沖縄へ突撃なぞという小細工はしないことだ」

 

「もっともだな・・小細工して勝った試しがない!」

 

再招集されて戻った海軍でも、段取りの悪い上層部に振り回されている二人は、大和の活躍を願いながらも、学ばない上層部を嘆いた。

 

四月七日朝・鹿児島沖

 

「開聞岳は、これが見納めになるかしら?」

 

「そうだろうな。今まで特攻機を見送ってきたあの山は、艦隊の見送りをするわけさ。直掩機は来るかな?」

 

「伊藤中尉にも、地獄行きに付き合って欲しいの?」

 

大和を無援護で出すことに納得できなかった宇垣提督の計らいで、伊藤中尉(伊藤提督の息子)率いる戦闘機隊を艦隊の直掩に出したと聞いた矢矧は、池山に聞く。

 

「ああ、付き合って欲しいね。水上艦隊の最後の出撃に直掩なしはあんまりじゃないかな?伊藤のやつ、特攻隊に回るらしいな。可哀想に・・・」

 

「そういう、あなたのお父様は山本元帥の同期だけど、特攻艦隊でしょ?」

 

「3人兄弟の末の俺は、覚悟して軍人になったんだ。でも、アイツは、伊藤長官の一人息子だよ。平和な時なら、いい医者になって大勢の人を救うことが出来るだろうに・・・」

 

池山の嘆きを聞いた矢矧は、傘下の雪風達に対空陣形をとるよう命じた。

 

「朝霜どうしたの?」

 

「司令、悪い肉離れを起こしたよ」

 

タービンに不具合が生じて18ノットしか出せなくなった朝霜は、指揮下の初霜と霞に、本隊に付いていくよう命じた後、落伍した。

 

「修理には、どれぐらいかかるかしら?」

 

「5時間はかかる・・・終わったら全速出して追いつくよ」

 

「頼んだわよ」

 

「ああ悪い、アタシの分も残しといてくれよ」

 

これが朝霜の姿を見る最後だったが、大和達は朝霜が戻る事を信じて20ノットで先を急いだ。

 

「ユウグモ型が落伍した。ヤマトはそのままウェストにヘッドしてるよ。司令に報告」

 

「了解!」

 

偵察のヘル猫達の報告を受けたバンカーヒルは、軍議を開くと戦艦娘達にも告げた。

 

彼女は、軍議に先立って根回しはできたか姉に聞いた。

 

「姉さん、巡洋艦と駆逐艦は私達の味方になってくれるかしら?」

 

「しっかり根回し済みよ。戦艦連中が反対したら数で押し切るよ!」

 

「そうね。年増どもが動く前にヤマトをKillするよ!」

 

軍議は始まった。バンカーヒルが、戦艦達に現状の説明を始めた。

 

「偵察隊からの報告によると、ヤマトは西に向かって航行、サセボに向かって退避しようとしてるそうよ。我々はカミカゼに警戒をしつつ全力をもってヤマトをKillする。わかったわね!」

 

「待ってよ!ニューメキシコ長官に、話さないと・・・・抜け駆けはダメ!」

 

最後になるだろう戦艦同士の正面決戦を叶えさせたいサウスダコタが反対した。バンカーヒルはその思いを嘲笑った。

 

「あのさぁ~私達、第58機動部隊は、戦略上、適当と判断すれば独自で動いてもよいとニミッツ太平洋長官から許されてるの!この但し書きに基づいて、我々はヤマトをKillする!これで納得してくれるかしら?」

 

「納得しないよ。ヤマトは来る。彼女もニューメキシコ姉様達と同じく、この戦いがバトルシップの時代が終わると知ってる。必ず姉様達に正面から挑むわよ!」

 

「必ず・・その証拠はどこにあるの?」

 

「そんなものはない!強いて言うなら、私達戦艦が持つ誇りよ!」

 

戦艦の誇りと聞いて鼻白んだバンカーヒルは答えた

 

「話にならないわね・・まあいいわ。軍議は出撃と決まったわ!攻撃隊、発進準備!」

 

「待て、待つんだ!」

 

作戦室のドアに立ち塞がったサウスダコタやミズーリは叫ぶ

 

「正気かしら・・上官反逆罪と敵前逃亡の容疑で訴追するよ?」

 

「正気よ!」

 

サウスダコタ達6隻は、16in砲を空母達に向けた。

 

「バンカーヒル、私達を力で排除するなら、これが直撃するわよ!」

 

「・・・・直撃したらタダで済まないことは知ってるよね!」

 

脅迫されたバンカーヒルは馬鹿にした表情で笑った。

 

「バカへの説得は無駄か・・バーミングハム、サウスダコタ達6隻はカミカゼの攻撃を受けてPTSDになった。司令官の権限に基づき、6隻の身柄を拘束、ドクターに見せてやりなさい!」

 

「仰せのままに!サウスダコタさん、ミズーリさん、身柄を拘束します!」

 

バックアタックした巡洋艦娘や駆逐艦娘は、戦艦達の身柄を拘束した。

 

「攻撃隊は10時に出撃」

 

「了解!」

 

エセックス達は、嬉々として本体に戻ったが、Task4を率いるイントレピッドは本体に戻るのを躊躇った。

 

「姉さん、早く行きなさいよ」

 

「司令、本当にいいの?何か良くないことが起こるんじゃないかしら?」

 

「姉さん、バカなことを言わないでよ!働きが悪い姉さんを第一線から下げようと話が出てるんですよ。姉さんにも手柄を立ててもらわないと・・私達が困ります!」

 

「でも・・・」

 

「嫌なら、姉さんの脳をハックして無理矢理でも攻撃隊を出させるわよ!」

 

「わかったわよ・・出すわよ!」

 

「わかりました・・熟練整備妖精を回しますわ!」

 

本体に戻った姉を見送りながら、バンカーヒルは呟いた

 

「これは正義のステイツが悪のJAPを裁く正義の戦よ!」

 

75年後の天界

 

どこぞの映画のように、駆逐艦部隊の鼻先を通過して、挑発する2機のF35にイラついた彼女達は戦闘行為とみなして扶桑姉妹達に攻撃を開始した。

 

「・・どうしましょう、全弾直撃ですよ」

 

「バカ、これからが本番だぜ!」

 

どこぞの宇宙世紀物OVAのように、ダミーの外装をパージした姉妹は真の姿になった

 

「どうせ虚仮威しだ・・対艦ミサイル再装填!目標、JAPのデカブツ2隻」

 

「山城、お任せします」

 

「私の本当の力を見てくださいね!」

 

上空にいる高槻達に微笑んだ山城は、後部格納庫からRビットを展開させて、レーザー砲を反射させた

 

「すげぇ、MAですね」

 

「そうだな・・次は扶桑さんの番だぜ!」

 

扶桑は、両脇の155ミリ・リニアーガンをVSBRのように構えて駆逐艦群に発砲した。直撃を受けた2隻の駆逐艦が吹き飛ばされた。

 

「ビビるな反撃だ!」

 

体勢を立て直した駆逐艦娘は出力を最大にしての接近戦を2隻に挑んだ。

 

「接近戦ですか?甘いですね!」

 

「質量を持った残像だと!」

 

推力を機動力に切り替えた扶桑は。宇宙世紀物の映画のような高機動で近接攻撃をやり過ごすと、76年前に嬲り物にされた恨みを晴らすように、迫る駆逐艦娘に反撃を開始した。

 

「ウワァ~逃げろ」

 

「逃がしませんよ!」

 

半分近くの兵力を失って遁走する駆逐艦連中をニコニコしながら狙撃する扶桑を上から見守っていた高槻は、扶桑姉妹に言う。

 

「扶桑さん、前座はその辺で切り上げて、後は第三艦隊に任せろ。艦載機が相手では分が悪いぜ!」

 

「そうでした・・山城、私たちの遊びはここまでですよ!」

 

「わかりました。姉様・・敵艦載機多数が接近中と電探が探知しました」

 

扶桑姉妹が第3艦隊の方向に逃げ出すのを見届けた高槻は、接近する敵の大群を見て、呟く

 

「F4・F111B・F14・F18・A6、ステルス機はないようだぜ」

 

「でも、あの360機が第1波なのでしょう。あの数ではゴッドさん達もキツイですよ。」

 

「連中の腕を信じよう。俺たちの仕事は他にあるぞ」

 

「そうでした・・・高槻さん、どっちに行きますか?」

 

「俺は第一遊撃部隊の支援に向かう。貴様は第二遊撃部隊の支援に迎え!」

 

「了解しました!」

 

現在の彩雲を操る二人は、愛宕と足柄を支援するべく別れた。

 

(続く)



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血戦

1945年4月7日午前10時過

 

「ホーネット、発進準備完了、司令、発信許可を願います」

 

「姉さん、発艦を開始してください!」

 

「了解。ベニントン、ベローウッド、サンジャシント行くよ!」

 

バンカーヒル直率のTask3攻撃隊に続いて、ホーネット(2世)率いるTask1攻撃隊も発艦、両部隊は並行して敵に飛んでいった。

 

「私とエセックス姉様のヘル猫がヤマトに接触を続けてる。接触機の指示に従いなさい!」

 

「了解しました」

 

拘束した戦艦本体のコントロールをハックしたエセックスが、発艦作業の指揮をするバンカーヒルに聞いた。

 

「イントレピッドの発艦はまだ?」

 

「カタパルトが不調だから発艦できないとゴネているのです!」

 

「あの子は、何が不満でゴネてるのかしら!?まあいいわ、これ以上ゴネたらアンタのコントロールを奪って私が攻撃隊を発進させると伝えなさい!」

 

「わかりました」

 

コントロールを奪うと脅されて観念した、イントレピッドは、熟練整備妖精に発艦を急げと命じた。

 

「イントレピッドより報告、10時45分に発艦するってさ」

 

「姉様、ご苦労様です。期せずして波状攻撃ができますね。いいことを思いついた。イントレ姉にトドメを刺させてあげましょう!」

 

「そりゃ、いい・・コンスティチューション大姉様からイントレピッドに名誉勲章と感状をいただけるようアンタが手配しなさいな?」

 

「いい案ですね~」

 

「予定通り、みんなをアンタの格納庫に集めて、上映会するの?」

 

「当たり前じゃないですかぁ~。私から発進したアベンジャーの半分に撮影妖精を乗せました。ヤマトをKillした事実を永久に残します!」

 

「アンタも悪ねぇ!」

 

「姉さん程じゃありません!」

 

この抜け駆けが何を起こすか、考えてない二人は笑った。

 

同時刻・第一遊撃部隊上空

 

「援護機、去って行きます。貴艦の健闘を祈るとのことです」

 

「うむ。ご苦労。ここからは俺たちの力で進むことになる。辛いが頑張れよ!」

 

電探を任された井上兵曹長を激励した池山は、持ち場の防空指揮所に戻り、援護機を見送る矢矧も激励した。

 

「ここからは、俺たちだけで頑張るぞ!」

 

「ええ・・四条大尉が直した電探はどうなってるの?」

 

「ああ、13号・21号・22号全部正常に作動してる。さすが帝大の優秀生だね」

 

「それは良かったわ。後は中尉がそれを生かしきれるかどうかよ」

 

「ああ、レイテみたいに一方的に奇襲されるヘマはさせない。君と一緒に死ぬまでが、俺の仕事だよ!」

 

「そう、その時はお願いね・・一ついいこと教えてあげる。11時方向から敵の偵察機が接近してくるわよ」

 

西に進路を取る艦隊から見て、敵機を左斜めから探知した矢矧が言った。

 

頷いた池山は、9時から12時方向の警戒を重視せよ、と命じた。

 

「敵大型機が艦隊に接近してきます」

 

「よし、艦長に報告」

 

矢矧からの報告で大和も決断した。

 

「主砲で追い払います!」

 

轟音と共に前部の6門から三式弾が発射、驚いたカタリナ飛行艇は沖縄方面に逃げ出した。

 

「アレが大和の三式弾よ。心強いでしょ?」

 

大和の真横を進む霞が、後ろの冬月に言った。

 

冬月は頷いて、聞き返した。

 

「霞さんは怖くないですか?私は怖いです」

 

「そうね・・対潜護衛はしてきたアンタにとって今回が初めての艦隊防空ね。ビビるのもしょうがないかな?」

 

「霞さんは、どうなんですか?」

 

「私も最初は怖かった。初めての戦でヤラかしてしまったわ!」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、初霜も雪風もみんなそう・・初めての時はみんなヤラかすのよ。生き残れた証拠を恥じることではないわ」

 

「そうですか・・じゃあ生き延びれるコツは何ですか?」

 

開戦からずっと最前線で頑張ってきた霞は答えた。

 

「敵の急降下爆撃機を早く発見することね!連中から目を背けなければ、死神は来ないわよ!」

 

「はい、わかりました。で、雷撃機はどうなんです?」

 

「あんなものは論外、雷撃機の魚雷は艦底をすり抜けるわ!無視しなさいな!」

 

「とにかく急降下爆撃機に気をつければいいのですね。ありがとうございます!」

 

冬月は霞に礼を言って本体に戻った。霞は後方を見ながら呟く

 

「朝霜はどうなったの。早く戻って来てほしいわ!」

 

落伍して、早3時間の朝霜が気にかかる霞だった。

 

75年後の天界

 

「長官、敵機の編隊を発見!随分な数だぜ」

 

上空哨戒するF35を操縦する、岩井勉中尉が報告した。加賀が答える

 

「了解しました。進藤少佐と志賀少佐の戦闘機を発進させます。中尉は接触を続けてください」

 

「了解だ」

 

「加賀提督、万事うまくやってるが、俺の出番は無しかな?」

 

第一機動艦隊兼・第三艦隊長官として総指揮を執る加賀に声をかける男がいた。山本五十六提督である。

 

「そんな・・山本長官がおられるから、翔鶴も大鳳も私に従っているのです。私だけではとても・・・」

 

「五航戦と一緒にしないでと言った君も丸くなったな。俺はここで加賀達の戦を見守らせてもらうだけさ・・それはそうと加賀、さっきデッキに降りて、高槻が呼んできた助っ人と世間話をしてきたぞ」

 

「ゲイリー・マックバーン大尉、ミッキー・サイモン中尉、フーバー・キッペンベルグ少佐ですか?」

 

そうだと頷いた山本は言う。

 

「俺が『フーバーはともかく、マックやミッキーはなぜ、こっちに来た?』と聞いたら、マックは、『自分が乗ってたレディーレックスは地上なのでね』と答えたよ」

 

「・・・サイモン中尉は何と?」

 

「ミッキーは、『タカツキにF35を操縦させてやると聞いて飛んできた』と答えたよ」

 

「志賀少佐や岩井中尉と同じ動機ですね・・長官、マック大尉達が出撃します」

 

「そうか・・・見送りに出るぞ」

 

艦橋で敬礼する加賀と山本に気づいた3人はそれぞれの流儀で挨拶して発艦した。

 

「マック、フィフティシックスはセイラー相手にでもしっかりと敬礼をすると聞いた噂は本当だったようだな」

 

「おい、ヤマモトはフィフィティシックスと呼ばれるのは嫌だとタカツキが言ったことを忘れたのか?」

 

「ヘイヘイ、わかったよ。戦闘機隊の指揮は誰が取るんだ?」

 

舌を出して反省したミッキーがマックに尋ねた。マックに代わってフーバーが答えた。

 

「マック、俺は貴様が仕切るべきだと思うがどうか?」

 

俺が乗っていたメッサーに比べたら、最近の戦闘機はテレビゲームだなと苦笑しているフーバーが答える。

 

「俺も異存はない。マック、第二波はあんたがやれ」

 

「了解、全機俺に続け!ミッキー、昔の仲間でも容赦するな!」

 

「俺たちの時にジェットは飛んでないぜ・・まあ、いいや、派手にやらせてもらいますよ」

 

大部隊を追跡する岩井機は、相棒の岩本機に近づいて話しかけた。

 

「虎徹、随分な数だぜ。やれるか?」

 

「やるさ、ゴッド、でも、俺たちがやるのは早期警戒機か・・マッチャン達に手柄とられるのは正直癪だけどな」

 

「敵の目を潰すことは、5機落とすより重要だぜ。戦争中の記憶を忘れたわけではあるまい?」

 

戦争中、早期警戒を怠って奇襲を食らい続けたことを思い出せと注意する岩井に、岩本も反省した。

 

「違いねぇな、ゴッド。じゃあ俺達は目潰しと参りますか」

 

敵のレーダーに映らないように注意しながら、F35を飛ばす二人だった。

 

同じ頃、第一遊撃部隊は、秘密裏に散開して、空母群近くに潜んだ。

 

「島風、敵の数はわかるぅ?」

 

匍匐で近づいた愛宕が、斥候に出た島風に『お肌の触れ合い通信』で尋ねる。

 

「空母が6隻・巡洋艦10隻・駆逐艦20隻といったとこかな?」

 

「わかったよ・・別命あるまでそこに待機しなさいね~ふふ」

 

愛宕は、違う場所に潜む矢矧達のところに行き『お肌の触れ合い通信』をした。敵の数を知らされた矢矧が答える

 

「随分な数ね・・・・撃って出ないの?」

 

「私達が撃って出るのは、加賀からの命令があってからよ~ふふ」

 

矢矧は、アヤカシから宛てがわれた、118キロでポストユトランド型の舷側装甲をぶち抜ける155㍉レールガンを扱て遊びながら尋ねた。

 

「艦載機が、甲板に並んでる今がチャンスだと思うけど・・ダメなのかしら?」

 

「ダメよ!今、飛び出したら、艦載機に迎撃されてサマールの再現、第一次攻撃隊は加賀達がなんとかするから、泡吹いて、第二次攻撃隊が出してきた後に飛びかかるの!」

 

127㍉レールガンを抱えた雪風が、二人の会話に加わって矢矧をたしなめる。

 

「そうですよ。高槻中尉達と加賀にいる山本提督に任せれば、絶対大丈夫!」

 

「歴戦の勇士である雪風が、それだけ太鼓判を押すなら、間違いないか・・・いいわ、私も高槻の命令を待つわ」

 

このやり取りは、第二遊撃隊を指揮する足柄と狙撃兵として参加した霞と那智との間でもあったようだ。

 

昭和二十年四月七日十一時過ぎ

 

大和の13号電探が、敵機の大編隊が近づいたと探知した。

 

「敵は約束を破りましたか・・是非も無し!雪風は居ますか?」

 

「はい、ここに!」

 

「皆を集めなさい。敵は約束を違えました・・」

 

「・・・わかりました。朝霜には何と」

 

「我々は、ここから南に向かいます。貴女がどうするは、お任せしますと伝えなさい」

 

「わかりました」

 

矢矧達、第二水雷戦隊の8隻が、大和の防空指揮所に集まった。大和は、機動部隊は約束を破ったと伝えた。

 

「こうなっては是非もありません。天佑を信じて突ききるのみ!」

 

「はい、我ら、全員命をかけて、長官をお守りします」

 

朝霜を除いた第二水雷戦隊は大和に向かって敬礼した。

 

大和は、皆の思いに感謝した

 

「私は、ここから皆の働きを見させていただきます!」

 

「そんな・・・長官は司令塔にお入りください!」

 

「いえ、私だけが、安全圏で震えているわけには行きません。私も皆と共に戦います」

 

「わかりました。私達の存分な働きを、そこでご覧ください!雪風、長官を頼むわよ!」

 

「はい、お任せください」

 

雪風を大和の側に残した矢矧達は、それぞれの本体に戻り敵が来るのを待った。

 

「中尉、頼むわよ」

 

曇天が空を覆ってるのが気になった矢矧だったが、池山に声をかけた。

 

「わかってる。いきなり奇襲を食らうようなヘマはしないぜ!」

 

「期待してるわ・・・阿賀野姉、能代姉、私に力と勇気を!」

 

池山を激励した矢矧は、先に逝った姉のことを思いながらも、防空指揮所で、池山と共に戦うことを決意した。

 

12時過ぎ、機銃員を一時的に中に退避させた大和が、敵編隊に対して三式弾が放たれた。

 

「ククク・・・随分なフィアショーね。だが私たちは下がらないわよ。散開して襲いかかれ!」

 

三色弾は不発だった。

 

上空の雲から切れ切れに見える第一次攻撃隊は、格納庫でスクリーンを設けて戦況を見守るバンカーヒルの指揮に従い、二方向に分かれて、襲いかかってきた。

 

その時、朝霜から通信が届いた。

 

「朝霜より第一遊撃部隊、我、敵30機と交戦中、貴艦らの健在を信じつつ、後に続く」

 

「朝霜、もういいわよ!あなたは退却して!」

 

矢矧は朝霜に伝えた。数分後、朝霜より返事があった

 

「機銃も砲も破壊された・・重油の流出が止まらない。雷撃機も来やがった・・ここまでだ。夕雲姉さん達のところに逝く・・・天皇陛下万z・・・」

 

「・・・朝霜から反応ありません」

 

「彼女のためにも力を尽くして戦います!」

 

矢矧から朝霜の最後を教えられた大和たが、決意を新たにして迎撃した。

 

75年後の天界

 

「進藤より各機、全員無事か?」

 

「赤松より指揮官、全員無事です!完勝です!」

 

進藤と志賀が率いる戦闘機隊は、損害なしで第一次攻撃部隊を退けたようだ。

 

「貴様ら、さすがだな」

 

「はい、高槻さんから貰ったオモチャは最高です!このオモチャが30機あれば・・」

 

「その続きは言うなよ。あの時の俺たちは宛てがわれたモノで、頑張るしかなかったのだ!」

 

進藤は敵を撃退したと加賀に報告した。

 

戦果を知って喜んでいる加賀に、山本が、話しかけた。

 

「その表情だと、進藤達は上手くやったようだな?」

 

「長官、攻撃隊を撃退しました・・・さすがですね」

 

「そうか、第二次迎撃隊は今どこだ?」

 

「はい、5分後に戦闘空域に到達します。第二次攻撃隊と敵の第二波が交戦を開始した時に、第一遊撃部隊と第二遊撃部隊に総攻撃するよう、高槻中尉と日高曹長に送信します!」

 

加賀の措置に満足した山本は、うんとうなづきながら、答えた

 

「上々だ。高槻と日高なら上手くやってくるだろうさ・・勝ちが見えたな。久しぶりに一局するか?」

 

あの大敗北と同じことをしようとする山本に苦笑した加賀は、答えた。

 

「78年前、長官が私に乗ってればあのような惨敗はなかったので、戦が終わった後にお相手します!」

 

「そうだったな・・・」

 

1時間後、加賀は、両遊撃部隊の上空に待機する高槻達に、通信を送った。

 

「高槻、マックバーン大尉達が、第二次攻撃隊を撃退したわ」

 

「加賀さん、総攻撃か?」

 

「ええ、76年前と同じミスをしたくないから、愛宕と足柄にも、通信を送ったわ。」

 

「上出来だ。今度は徹底的にやるんだな?」

 

「ええ、弾着はお願いします」

 

「任してくれ!」

 

高槻は、敵位置等の射撃諸元を第一遊撃部隊に送った

 

「高槻が指定する座標に撃ったら当たるのね?」

 

「そうです!でも、敵も電探を侮ってはいけません。一発毎に、陣地変換しないと反撃されます!」

 

「何事も一長一短っていうことね…いいわ、雪風、やるわよ!」

 

「はい、頑張ります!」

 

矢矧と雪風は絶好の射点位置に向かった。

 

斥候に出た島風と旗風から愛宕に報告が届いた

 

「司令、敵は航空機妖精どもの着艦を開始したよ。そろそろ仕掛けるべきじゃない?」

 

副司令官の金剛が、愛宕に近づいて、『お肌の触れ合い通信』した。

 

「愛宕、そろそろ攻撃開始だYo~」

 

愛宕は頷いて、命令を下した。

 

「ミサイルベイ展開・・・・目標、敵機動部隊、ミサイルを撃ち尽くしたら各艦、個別に目標を定めて突撃!」

 

摩耶も、成長体になった羽黒に 『お肌の触れ合い通信』をした

 

「羽黒、日頃の鍛錬の成果をアイツらに見せてやるぞ!」

 

「はい・・大丈夫です。これを限りで悪夢を忘れると決めてます!」

 

「いい度胸だ。今度こそ空母をぶちのめす!」

 

「全対艦ミサイル、投射!いくよ~パンパカパーン!喰らいなさ~い!!!」

 

第一遊撃部隊からの対艦ミサイルの飽和射撃が、始まった。

 

「熱源、無数に発生!!」

 

「なんだと!なぜ気づかなかったんだ!チャフ散開しつつ、回避行動だ!」

 

慌てて回避行動を取る機動部隊だが、対艦ミサイルの直撃を食らった不運な連中が、悲鳴を上げて倒れた。

 

「愛宕さん達が火蓋を切りました。私達も行きますよ!」

 

「そうね、私達もやるわよ。目標は何にするの?」

 

「空母・・・といいたいですが、76年前のことを考えて、護衛艦をやりましょう!」

 

「わかったわ。高槻にコンタクトを取るわ!」

 

矢矧は、高槻から知らされた諸元に従って、レールガンをかまえた。

 

「よく狙って・・撃てぇ!」

 

弾が飛んできた方向に爆炎が上がるのを確認した雪風は、矢矧に言う。

 

「司令、初弾命中!さすがですね!」

 

敵の突撃に対抗しようとした機動部隊だが、ありえない距離の側面から狙撃されて、またも混乱した。

 

「馬鹿な!JAPがレールガンを持ってるだと!」

 

「でも、あの距離から撃てるのはレールガンしかありませんよ」

 

「・・レールガンなら連射はできまい。護衛艦は発砲地点周辺に攻撃を集中」

 

矢矧達、狙撃兵を黙らせようとしたその時、愛宕達が突撃してきた。

 

「高波、漣、駆逐艦連中はお前らに任せる。アタシらは空母をヤルよ!」

 

「はい、朝霜・藤波・野分の弔い合戦をさせてもらうかもです!」

 

高波達を駆逐艦に向かわせた摩耶は、空母バンカーヒルにタックルで押し倒して馬乗りになった。

 

「うひゃぁぁ~カーニバルだぜぇ!」

 

バンカーヒルの顔面をビンタして興奮した摩耶は、そう絶叫した。

 

「やだ~やめて~」

 

「姉さん、やめてくれと言ってきたよ、どうするよ~」

 

摩耶に煽られたと取った愛宕は、空母エセックスにキャメルクラッチをかけながら答える

 

「ダメですよ~私のお仕置きは始まったばかりよ~そうだよねぇ、鳥海!」

 

「そうですね。私の計算ではゲージ割は始まったばかり、まだまだ痛めつけないといけません!」

 

「そうだよね~パンパカパーン!」

 

空母ワスプにクローバーホールドをかける鳥海に煽られた摩耶は、バンカーヒルの顔面に一撃をぶち込んでやろうと拳を振り上げた。

 

「これでもくらぇぇぇぇ!!!!」

 

「ギャァぁぁぁぁぁぁ!」

 

摩耶の鉄拳を受けて砕けた数本の歯と血飛沫が、摩耶にかかった。

 

「汚ねぇなぁ~旗風先生、拭いてくれませんか~」

 

「はいはい、今吹いてあげますよ~」

 

「ありがとうよ~先生、カーニバルはまだまだ続くよぉ~」

 

そう、復讐の狂宴は始まったばかりなのだ。

 

(続く)



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残華

1945年4月7日12時半

 

バンカーヒルは、敵艦隊の上空に到達した航空隊の指揮を、格納庫より指揮を執った。

 

「ホーネット隊・ベニントン隊、攻撃開始」

 

「「了解」」

 

「エセックス隊・バターン隊・カバト隊は第二波として上空待機」

 

「エセックス隊、了解した。司令はどうするの?」

 

「私の航空隊は姉様の部隊に合流させます。敵艦隊と接触できなかったハンコック隊はすぐに戻りなさい」

 

「了解」

 

「撮影妖精は確固散開、JAP全滅の一部始終を撮影しなさい!」

 

「了解しました」

 

航空隊の段取りを終えたバンカーヒルは、格納庫に集合した艦娘・・アイオワ達は身柄を拘束されてた・・に向かって叫んだ。映写機のスイッチを押した。前にあるスクリーンで戦闘の実況が始まった。

 

「みんな、待たせたわね、最高のショーの始まりよ!」

 

サディスティックに、笑ったバンカーヒルは、映写機のスイッチを押した。撮影妖精が撮影した映像がスクリーンに映しだされた。

 

同時刻、坊ノ岬沖・西南162キロ沖合

 

「ち、敵機が見えない。電探室、敵機は近づいているんだろうな?」

 

「分隊長、敵機多数接近中、間違いありません!」

 

「了解!」

 

電探室との報告とやり取りを終えた池山中尉は、曇天を眺めながら、毒づく。

 

矢矧が近づいて、おにぎりを出した。

 

「中尉、これをあげるわ」

 

「いいのか?」

 

「いいわよ。私たちは食べなくても頑張れるわよ。でも中尉は食べないと力出ないよ」

 

「そうか・・じゃあ、もらおうかな?」

 

おにぎりを腹に入れた池山は矢矧に言った。

 

「敵編隊は・高度4千・左20度から本艦に向けて接近中だ」

 

「距離幾つで発砲する予定なの?」

 

「1万メートルまで引きつけて発砲する!」

 

電探と方位盤を任されている池山は答えた。矢矧はうなずいた。

 

「了解したわ。私も最後まで頑張るわ、中尉も最後まで頑張ってね!」

 

「了解だ!」

 

「頼んだわよ!」

 

池山を励ました矢矧は、武装を展開しつつ、2番砲塔の真上に飛び移った。それと同時に敵急降下爆撃機の先行隊が第一遊撃部隊に逆落としをかけてきた。

 

「各艦、敵機を薙ぎ払え!」

 

大和以下9隻は、敵に対空砲火で反撃を開始した。

 

「へぇ~JAPもやるじゃないのさ!面白いわね!戦闘爆撃隊、急降下爆撃隊、攻撃開始!雷撃隊も小隊ごとに散開!各小隊、機をみてヤマトとアガノ型に突撃なさい!」

 

バンカーヒルが、スクリーン越しに命令した。

 

急降下爆撃から落とされた爆弾と戦闘爆撃隊から発射された噴進弾が、各艦の周囲に無数の水柱を上げた。

 

「そう簡単に、当たりません!」

 

雪風は、慣れた動きで回避しながら、対空砲火で反撃した。

 

「雪風姉さん、やりますね」

 

「姉さんは戦が楽しいのよ。あなたも楽しみなさいな」

 

「は・・はい!」

 

浜風と冬月の動きが止まってるのをスクリーン越しに見ていたバンカーヒルが、エセックス隊に命じた。

 

「あそこの2隻の動きが止まった!チャンスよ!」

 

コルセアを露払いにした急降下爆撃機隊が、彼女達に突っ込んできた。

 

敵機の接近に気付いた浜風は、冬月に叫んだ!

 

「左舷から15機が来る。頼むよ!」

 

「は・・はい!」

 

冬月がは10センチ高角砲を振り回して、攻撃を阻止することに成功した。その活躍を見た浜風は、彼女を褒めた

 

「やるなわね、冬月、その調子でお願いね!」

 

「はい、ありがとうございます・・あっ!」

 

「どうしたの冬月・・えっ」

 

巧みに雲に隠れて、接近を試みたヘルダイバーが、浜風の艦尾に一撃を食わらせた

 

浜風の足から鮮血が噴き出した。

 

「は・・浜風さん!」

 

「私は大丈夫よ!冬月は長官と司令を守って!」

 

「はい!」

 

その時、浜風の左舷から雷撃隊が接近してきた。理想的な同時攻撃だった。

 

「・・・・!!」

 

浜風の腹に直撃した魚雷は、彼女の体を真っ二つに引き裂いた。

 

「浜風さん、いやああああ!!!!!!」

 

断末魔の浜風が撒き散らした物を浴びて動転した冬月は、その場に座り込んで泣きわめいた。

 

気付いた矢矧が、彼女を一喝した。

 

「早く、持ち場に戻りなさいよ!」

 

「ウワァぁぁぁぁ、浜風さんがぁぁぁぁぁ!」

 

「・・・初霜、冬月に喝を入れなさい!」

 

「は、はい!」

 

矢矧に命じられた初霜が、往復ビンタして冬月に喝を入れた。

 

「・・何をするのでしゅか・・はつしもしゃん・・・・」

 

「冬月、しっかりなさい!浜風も覚悟の上で、三途の川に逝ったのよ!持ち場に戻りなさい!」

 

「で・・・でも・・・」

 

「もういい、立て!私が、アンタを地獄に連れていく!雪風」

 

「は、はい、何でしょうか!?」

 

「私は、コイツと一緒に長官の左翼を回ります。あなたは、ここを守ってください!」

 

「了解しました!」

 

三人の動きが止まってる事に気付いたエセックスは、バンカーヒルに意見した。

 

「あの2隻もKILLするか?」

 

「いや、見逃してやりましょう・・ヤマトとアガノを全力で叩く!」

 

「了解だ!」

 

バンカーヒルは、後部副砲を破壊された大和と矢矧に、攻撃隊の全力を向けた、

 

「敵雷撃機が真横より接近!!」

 

「何だと、回避!」

 

アベンジャーが、ヘルダイバーをやりすごした矢矧の真横から、緩降下で魚雷を発射した。

 

一本の魚雷が、矢矧の体を砕いた

 

「やられた!電探は・・・どうなった!」

 

「駄目です。今の攻撃で、真空管をやられました!」

 

「修理できるのか?」

 

「空襲が終わらないと、無理です!」

 

「・・各員電探室を離れて、機銃の支援に行け!・・・うっ!」

 

艦橋近くから降りてきたヘルダイバーが落とした至近弾が艦橋横で炸裂し、衝撃が艦橋を襲った。

 

池山は手摺にしがみ付いて、下に叩きつけられるのを耐えたが、アベンジャーが左舷からやってきた

 

「敵雷撃機、緩降下!」

 

「取舵でやり過ごせ!」

 

原艦長は力の限り叫んだ。が。回避は間に合わなかった。

 

艦尾を直撃した魚雷は、矢矧の舵と推進機を破壊した

 

「機械室!・・・応答なしか?池山中尉、機械室のを見てくれ!」

 

「・・・・」

 

先の攻撃で耳をやられた池山は、手摺を捕まって呆然と海を眺めていた。

 

それに気付いた航海長が、池山を一喝した。

 

「中尉!聞いているのか!」

 

「・・・・・は、はい!今すぐ調べます!」

 

甲板に降りて、そのまま後部に向かおうとした池山は、負傷した矢矧が、気になって前に向かった。

 

彼女が2番砲塔横に倒れているのに気付いた池山は、彼女に駆け寄った

 

「矢矧、しっかりするんだ!」

 

「中尉・・・ごめん、やられちゃったわ」

 

「・・・・・」

 

耳をやられた池山は、無言のまま、上着を引き裂いて、矢矧を止血しようとした。

 

「中尉!聞いてるの・・・」

 

「・・・すまん、矢矧、俺も耳をやられたんだ」

 

「そう・・ごめんなさい」

 

「いいんだ、耳はやられたが、俺は、まだやれる!その魚雷も要らなくなったから、外してやる」

 

「そうね・・・お願いするわ」

 

不要になった矢矧の魚雷発射管とカタパルトを足から外して、傷の手当をした池山は、彼女に言った。

 

「俺は君の後部にいってくるよ!じゃあな!」

 

「中尉、死なないでね!」

 

池山は、右舷に傾いた甲板と流れる血潮に足を取られながら、後部に向かった、

 

「魚雷は捨てたか?」

 

「捨てました。短艇とデリックは無事です!」

 

「・・・そうか?機械室はどうなってるのか?」

 

「中尉、機械室からの応答、ありません・・・」

 

「そうか・・・」

 

艦橋に戻った池山は現状を原艦長に報告した。

 

「司令、いかがなさいますか?」

 

「・・・旗艦を変更する。磯風に信号を送ってくれ」

 

「はい」

 

もはやここまでかと思った古村提督は、矢矧を放棄する事を決意した。

 

75年後の天界

 

「霧島、やるYo」

 

「そうですね・・最後はアレで決めてやりましょうね」

 

肩車で、FDRを担ぎ上げた霧島がキン肉ドライバーをかけると同時に、フォレスタルをキン肉バスターした金剛が、バックドロップする形で飛び上がった

 

「「マッスルドッキング!!!」」

 

二人は、コロシアムのマッチングで活躍したときのコンビネーション技を、相手に食らわせた。

 

失神したバンカーヒルの襟首を掴んだ摩耶は、鳥海に聞く。

 

「鳥海姉さん、金剛姉と霧島姉はキめたか?」

 

「私の計算では、ゲージ割り成功しましたね。愛宕司令、私たちもお開きですか?」

 

エセックスをキャメルクラッチで気絶させた愛宕は、四つ葉ホールドで、フランクリンを気絶させた、鳥海に答えた。

 

「そうね・・この辺で許してあげましょうね・・うふふふふ」

 

泡を吹いているエセックスの尻を蹴飛ばした愛宕は、戦意を失って怯えている駆逐艦娘達に尋ねた。

 

「ここで引き下がるのなら、命だけは助けてあげる!・・今すぐ決めなさ~い」

 

「・・・負けを認めます。もう・・許してください!」

 

「わかったわぁ~!摩耶ぁ~空母達を許してやりなさ~い」

 

「わかったよ・・許してやるかぁ~」

 

摩耶は、失禁したバンカーヒルを駆逐艦娘達に蹴飛ばした後、愛宕に尋ねた。

 

「姉さん、本当に連中を許すのか?」

 

愛宕は笑いながら、不満な摩耶に答えた。

 

「それは蒼龍や雲龍が決めることね~うふふふふ」

 

「成る程ね・・・姉さんも悪いな!」

 

「うふふふふ~祭りは、みんなが楽しまないといけないわよ~ふふ」

 

愛宕の気持ちを察した高槻と日高が飛ばすF35は、退却する敵部隊を追跡した。

 

「高槻さん、そろそろ蒼龍さん達を呼びますか?」

 

「そうだな・・彼女達にも、招待メールを送るかぁ!」

 

頃合いよしと思った高槻は、敵艦隊を追い込みつつあると、蒼龍達に伝えた。

 

「墓場鳥より狼軍。羊の群れを追い込んだ」

 

「狼群、了解!雲龍、76年前の借りに利子つけて返す時が来たよ。」

 

「了解、姉さん!満潮教官、やりますか?」

 

「言わなくてもいいわよ!76年前、私と共に嬲り殺しにされた朝雲と山雲の無念を、今、教えてあげるわよ。くくくくく・・・」

 

蒼龍・雲龍姉妹と同じ潜水艦として転生した満潮は、18式魚雷の弾頭を撫でながら答えた。

 

昭和二十年四月七日午後一時半

 

足が止まった矢矧を放棄する決意を下した第二水雷戦隊司令部は、なんとか磯風を接近させることに成功した。

 

防空指揮所で指揮を執る原は、手持ちぶたさになった池山に、司令部移動の指揮を執るよう命じた。

 

「御真影は確保した。中尉、後部に行け!」

 

「はい」

 

池山は御真影を背負った松田中尉と協力して、至近弾に悩まされながらも、なんとかして短艇を下ろして、舷側に縄梯子を下ろした。

 

作業を終えた池山は艦橋への電話に手をかけながら、松田に言った。

 

「司令部を呼ぶ。そこで待ってろ」

 

「はい」

 

池山が、移動を待つ司令部に報告しようとしたその時、急降下爆撃機が、艦尾に降下してきた。

 

「危ない!」

 

避けられないと感じた池山は、反射的に手で顔を覆った。探偵に直撃した爆弾からの爆風が彼の顔に、当たった。

 

「熱ぅ!矢矧に見られない面になったぜ。短艇は・・そんな!」

 

御真影と共に砕け散った短艇の残骸と御真影を守る乗員達のの血潮が、矢矧から吹き出した重油と共に漂っていた。

 

池山から移動はできなくなったと知らされた、古村提督は呆然とした表情で原艦長に話しかけた。

 

「艦長、もはやこれまでだな・・・」

 

「残念です。司令・・・・」

 

開戦以来、最前線で働いてきた彼らが、観念したその時、発令所より弾薬庫の温度が上がってるとの報告が上がった。

 

「火薬庫の温度が急上昇、注水許可を願います!」

 

「許可する!」

 

気を取り直した原は、伝声管を通して叫んだ。

 

「発令所、脱出はできるか?」

 

「もはやこれまでです・・・」

 

「・・・・・」

 

池山の持ち場のはずだった発令所員は、全滅した・損傷と傾斜でラッタルが吹き飛んで、艦橋に戻れなくなった彼は、第二砲塔横の倒れている矢矧の元に向かった。

 

「発令所も全滅したわ・・・・」

 

「そうか・・・俺は幸運だったのかな?」

 

出撃直前、発令所から電探に回された幸運に、苦笑する池山に、ヤケぶくれした彼の顔を見つめる、矢矧が答えた。

 

「そうかもしれないわ。中尉・・ひどい顔になったわね」

 

「君と同様さ・・・」

 

何とか頑張ってきた矢矧の運も尽きた。池山は、矢矧に言う。

 

「後部に行こう。あそこなら、まだ生きられるぞ」

 

「中尉、司令と艦長は、もう飛び込んだわ。逃げないの?」

 

「君と一緒に死ぬ約束をしたじゃないか!」

 

「覚えててくれたの。嬉しい・・・後部に行きましょう」

 

矢矧の手を引いて、辛うじて浮いている後部に向かう池山は、力尽きて持ち場で、へたり込んだ連中を一喝して、脱出させた。

 

「どうやら、生きているやつらは全員降りたそうだな」

 

「ええ・・・・」

 

私の中には取り残された負傷兵がいるのにと言いたかった矢矧は、後部マストの前で、池山と向かい合った。

 

お互いの胸に刃を当てた彼は、矢矧に言った。

 

「矢矧、いくぞ・・・」

 

「・・・いいわよ、中尉」

 

目を閉じて生き絶える時を待ってたはずの池山の鳩尾に、矢矧の拳が打ち込まれた。

 

「矢矧、どうして・・・・」

 

「ごめんなさい・・・中尉、あなたはここで死んじゃ駄目だわ、生きて、本当にやりた買った夢を実現しなさい!」

 

あの夜、池山の本音を知った矢矧は、気絶した池山を木箱に縛り付けて、海に浮かべた。

 

14時5分

 

まだ、海上に浮いている後部マストによじ登った矢矧は、大和に叫んだ。

 

「帝国海軍軍艦、矢矧、死の道案内をいたいします。御免!」

 

体に縛り付けた砲弾の信管を抜いた矢矧は、真っ逆さまに海に飛び込んだ。

 

彼女が砕け散ると同時に、矢矧も沈んでいった。

 

「う・・矢矧、どうして俺を連れていってくれなかったんだ!」

 

気がついた池田は、矢矧に向かって、声を震わせて叫んだ。

 

スクリーン越しに勝負はついたと感じたバンカーヒルは、イントレピッド航空隊に命じた。

 

「往生際の悪いアガノをようやく始末したわ。JAPの駆逐艦も3隻、ヤマトをFinishさせなさい!」

 

「了解!」

 

イントレピッドの12機とヨークタウンの13隻が、沈みつつある右舷からアプローチした。

 

「来るな!」

 

初霜に喝を入れられて戦意を取り戻した冬月が、傷ついた大和を守ろる対空砲火を突破した雷撃隊と、上空から降りてきた急降下爆撃機の、同時攻撃が大和を襲った。

 

雷撃機から放たれた魚雷のうち4本が命中した。

 

右舷の機械室と釜室に注水した大和に凌げない量の海水が艦内に入ってきた。

 

傾斜復元ができなくなった大和の傾斜は、20度以上に達した。

 

「副長、下部防御指揮所からの連絡が途絶えた」

 

「そうか・・・御真影はどうなっている?」

 

「下部防御指揮官が、身体に括り付けて、守っているとの報告です・・・」

 

「そうか・・ここは任せる。俺は艦長に報告する」

 

「は・・・はい」

 

もはやこれまでと思った能村副長は、第二艦橋に上がり、防空指揮所で指揮を執る有賀艦長に、状況を伝えた。

 

「・・・・貴様が言うのなら仕方ない。副長、貴様の意見に同意する」

 

「長官には、誰が伝えます?」

 

「俺が伝える。副長、貴様は生き残れ!」

 

能村に後を任せた有賀艦長は、大和の前艦長であった森下参謀長に、もう無理だと告げた。

 

有賀の意見を受け入れた森下は、伊藤提督に作戦中止するように、意見した

 

「長官、このあたりで、よろしいかと思われます」

 

「そうか・・・ここまでだね。作戦中止、君たちは脱出して艦隊を収容せよ」

 

伊藤提督は、参謀達の手を握って感謝した後、「これで良かったのだ」と言いたげな表情を浮かべて、長官待機室に向かった。

 

石田副官が叫びながら、長官の後を追いかけようとした。

 

「長官、駄目です!一緒に降りてください!」

 

「駄目だ!貴様も降りろ!これは命令だ!」

 

伊藤は、追いすがる石田を一喝して船から降りさせた。

 

それを見た森下参謀長も、右往左往している学生士官達を一喝して、降りさせた。

 

潮時と悟った大和も雪風を呼び出した。

 

「雪風、来ましたね」

 

「はい、こちらに!」

 

「伊藤長官は、作戦中止と決断されました。雪風、残存艦隊を収容して、内地に戻りなさい」

 

「うぅぅぅ・・・無念にございます!」

 

「いえ、雪風、あなたは私のためによく働いてくれました。感謝します!ですが、私の最後のわがままを聞いてもらえませんか?」

 

大和は、涙を流して悔しがる雪風の肩を撫でながら、言った。

 

「私を、二番砲塔に連れて行きなさい!米国の馬鹿者どもに、帝国海軍の死に方を見せてやります!」

 

「・・・・はい!」

 

大和は雪風と共に、バンカーヒル格納庫に垂れ下がったスクリーンにその姿を見せた。

 

「ヤマトが姿を見せたよ・・どうするの?」

 

「撮影妖精を近づけて、ズームさせましょう」

 

上空から、海戦の一部始終を撮影していたバンカーヒル雷撃機隊が、大和と雪風を取り囲んだ。

 

「ち、ふざけやがって!」

 

見世物にされてる事を知った雪風は、そう吐き捨てて、大和に聞いた。

 

「どうします。アイツらを撃ち落ちしますか?」

 

「おやめなさいな!私が死ぬところを見たいのなら、なるだけ派手に死ぬだけの事。雪風、私の装備を外しなさい!」

 

「はい」

 

雪風に装備を外させた大和は、短刀を抜いて自慢の総髪を切り落とした。

 

「これを、三笠大姉様に渡しなさい」

 

「はい」

 

遺髪を渡した大和は、短刀を口に咥えて、上着を脱ぎ捨てた。

 

「ヤマトのやつ、何をするするのかしら?」

 

「まさか・・・ハラキリ?」

 

「ハラキリ!?JAPのクレージースーサイドを、生で見せてくれるってか!撮影妖精、もっと近づけ!」

 

撮影機を接近させようとする愚かなバンカーヒルは、後で見てた連中に、押し倒された。

 

「その特等席は、私のものだ!」

 

「そこは姉の私に譲るもんでしょ?」

 

姉妹が、押し合い圧し合いを初めて、てんやわんやになった格納庫を後にするものもいた。イントレピッドである

 

「イントレピッド、どこに行くの?」

 

「姉さん、私、気分が悪くなったよ・・帰らせてもらうよ」

 

「そう・・私も帰るわよ」

 

姉妹の情けなさに愛想が尽きた二人の魂は、本体に戻った。

 

機銃弾を入れた箱があるのに気づいた大和は、雪風に頼んだ。

 

「雪風、私の首と短刀を、この箱に詰めて持ち帰りなさい・・お願いしますね」

 

「はい、長官、他に頼み事はありますか?」

 

木箱に片足を乗せて、左脇腹に刃を押し当てた大和は、少し考えた後、雪風に頼んだ。

 

「三笠大姉様に、『お恨み申し上げる』とお伝えください!」

 

「はい。頃合いのいい時に、お声をかけてくださいませ!」

 

介錯を引き受けた雪風は、太刀を抜き、大和の背後に回った。

 

「馬鹿者どもめ、私が最後をよく見ろ!うぐぅっつつ!」

 

大和が、腹に刃を立てた時、浸水に耐えられなくなった大和の本体が左から沈んでいった。

 

腹に突き立てた刃の切っ尖が、腸に達した。

 

「グヌぅぅ・・・・うぅぅぅぅ!!!!」

 

痛みを堪える程度の気力は、残っていた大和は、腸ごと刃を右の脇腹まで引き回した。

 

一文字に切り裂かれた腹から、鮮血と内臓が飛び出した。

 

「はぁはぁぁ・・・・まだまだぁ・・グヌぅぅぅぅ!!!」

 

引き抜いた短刀を再び、鳩尾に突き立てた大和は、己の内臓ごと臍まで縦に腹を引き裂いた。

 

サムライの作法に従った見事な十文字腹であった。

 

「これがハラキリスーサイド、すげぇぇぇぇ!!!!」

 

「JAP、マジでCrazyだぜぇぇぇl!!!」

 

「しかし、このスーサイドはすげぇぇ・・早速コピーして、ライミーどもにもバラ撒くぞ!」

 

バンカーヒル達は、ストリップ小屋に屯ってる小汚い連中のような叫び声を上げて、興奮した

 

「は・・・・・ははははは、馬鹿者め、これで終わりじゃないぞ!」

 

全身が血まみれになった大和は、飛び出した腸を掴み、一気に引きずりだした。

 

「よく見ろ!貴様らがJAPと見下す私たちのスピリットだ。受け取れ!」

 

胃まで引きずり出した大和は、そう叫んだ後、内臓の塊を上空に投げつけた。

 

飛び散った内臓に見とれていた大和に、雪風が叫んだ!

 

「長官、もう宜しいのでは!?」

 

「はは、少し遊びがすぎましたね!!雪風、介錯なさい!!!」

 

「はい!お許しくださいませ、えい!!」

 

俯いた大和の首筋を雪風の太刀が一閃した。

 

切り落とされた彼女の首が、血の海に落ちると同時に、胴体が前のめりに倒れた。

 

「貴様達に、長官の首は渡さないよ!」

 

首と短刀を入れた木箱を抱えた雪風は、機銃弾を避けつつ、海に飛び込み、自らの本体に戻った。

 

雪風の魂が本体に戻ったのと同時に、後部から沈んでいった大和の主砲弾が炸裂して、その船体を真っ二つに引き裂いた。

 

「やったぜぇ!バトルシップの時代Finish !!」

 

1945年4月7日・14時23分、大和の沈没と共に、歴史における戦艦の役目は終わった。

 

(続く)

 



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復讐(最終話)

昭和二十年四月十六日・佐世保

 

「雪風、私に、大和の最後を、語っていただけませんでしょうか?」

 

「はい、大姉様」

 

大和より託された遺髪と短刀を渡した雪風は、最後の戦闘を、悔し涙を流しながら、三笠に語った。

 

「米国機動部隊は、抜け駆けをして我等に襲いかかってきました・・・」

 

「なんと、愚かなことを・・・」

 

「大和長官は、無念に思ったのでしょう。その刀で割腹された後、恨みを投げつけて、果てました」

 

「情けない事をする。私は『恨みを残して死ぬな』と、あの子達に伝えたのに!」

 

「・・・・・」

 

この期に至っても、戦艦の誇りに拘る三笠に失望した雪風の話は続く。

 

「大姉様、大和長官より、言付けがございます」

 

「なんでしょうか?お聞かせください」

 

「・・『大姉様をお恨み申し上げる・・ただただキツくお恨みする』と申しておりました」

 

「・・・そうですか、下がりなさい」

 

「はい・・・」

 

自分の教えが、大和達を苦悩させたのかと思った三笠は、雪風を追い払うように、下がらせた。

 

75年後の天界

 

「姉さん、78年前の恨みは晴らせて、満足?」

 

ククリでベニントンの喉元を切り裂いた雲龍(2代目)が、現世では実の姉になる蒼龍(2代目)に話しかける。

 

「私は満足よ・・・でも、満潮教官達はまだやりたりないみたい」

 

「そう」

 

雲龍は、転がっているボノム・リシャールの首根っこを掴んで、聞いた。

 

「新兵器の実験台になってくれるのなら、助けてあげる」

 

「わかった・・なんでもするよ!」

 

「そう・・・教官、この子、実験に協力するっていってますよ」

 

「じゃあ・・こいつを股に打ち込んでやるわね」

 

18式魚雷を抱えた満潮(三代目)が、ニヤニヤ笑いながらやってきた。

 

「な・・・・何するんだよ~」

 

後ろか羽交い締めする蒼龍に、大股を開かされたボノムリシャールが喚く。

 

「76年前の10月になぶり殺しにされた私たちの恨みよ…」

 

「ちょっと~私はまだ生まれてないよ~」

 

「そう…じゃあ、痛くないようにしてあげるわ!」

 

「や、やめて~」

 

ボノムリシャールは足をバタつかせて抵抗するが、黒くて太くて長い魚雷は深々と股に突き立てられた。

 

「さすがに一発では無理か~じゃあ、もう一度行くわね~」

 

76年前の恨み晴らしと、データ取りでできて満足な満潮は、嬉々として2本目をそこに突き立てた。

 

潜水艦に転生した連中が、敗残部隊を虐め倒す様子を、上空から眺めていた日高が、高槻に聞いた。

 

「完勝ですね」

 

「そのようだな。加賀さんに、アレの用意はできたか、確かめるぞ!」

 

山本提督が加賀に言う

 

「高槻から『狼どもは満足した』との報せがあった。アレの準備はできたか?」

 

「大和と武蔵は、無事にコロシアム入りしたと天龍より報告がありました。やりますか?」

 

「やってくれ」

 

「わかりました。利根、筑摩、映像をコロシアムに流しなさい」

 

「・・筑摩、やっと我輩達の出番だぞ!」

 

「そうですねぇ~観客の皆様に最高のショーを見せてあげましょうね~」

 

大和姉妹とアイオワ四姉妹が無事入場したコロシアム

 

試合開始に先だって、長門・コロラド立会いの下で、宣誓が行われた

 

「大和、武蔵、この戦いで最強の戦艦の座が決まる。結果を受け入れるな」

 

「はい。誓います!」

 

「無論だ!」

 

「そうか・・陸奥、比叡と榛名を人質として、米国側に引き渡せ」

 

陸奥に連れられた2隻が、米国サイドに向かった。

 

人質が渡された事を確認した長門は、アイオワ四姉妹にも聞いた。

 

「アイオワ、ニュージャージー、ウィスコンシン、ミズーリよ、この戦いの結果で私達の間の強弱が決まる。米国は結果を受け入れるか?」

 

「もちろんだヨ~。ミー達は、ヤマト姉妹と正面対決して勝利する事が夢だったんだヨ~」

 

「そうか・・アイオワとミズーリの2隻で、勝負を挑むのだな?」

 

「オフコース!イコールの条件で勝利するのが、ミー達の夢でステイツの誇り!!」

 

75年前の東京湾での調印式で、菊一文字の太刀を渡した長門が、ミズーリに聞いた。

 

あの時と同じ姿に戻ったミズーリとアイオワは、異存はないと言わんばかりに答えた

 

「わかった・・・ニューメキシコ、ニュージャージーとウィスコンシンを連れて、日本側に引き渡せ」

 

ニューメキシコも、二人を連れて日本サイドに向かった。

 

観客席で対決を見守る水瀬と釘宮は、隣にきた天龍に聞いた。

 

「おい、ビックリショーはまだか?」

 

「そろそろだぜ!」

 

フィールドを横切ってきた大淀が、審判席の長門達に抗議した。

 

「この対決に不正あり!中止を要求します!!」

 

「大淀、貴様は現世に転生したはずだ。どうして、ここにいるんだ?」

 

「現世云々でしたら、あの四人も同じでしょうに・・・却下される理由になってません!」

 

「大淀、そこからは、私に任せてもらおうかな」

 

簀巻きにした連中を抱えたアヤカシとレールガンを構えた矢矧、雪風、那智、霞が、大淀の後に現れた。

 

「論より証拠だ!大淀、第一機動艦隊に連絡!」

 

「はい、第一機動艦隊、映像をお願いします!」

 

アヤカシが、簀巻きにされたバンカーヒルやエセックスを、審判席に放り込むと同時に、コロシアムに映像が流れた。

 

「何、今回の決闘をダシにして、米国村は我が村との資源問題を武力解決しようとしたのか?」

 

「本当です!その証拠の音声も流します」

 

大淀は、先ほど行われた海戦のキッカケになった証拠音声を送るよう、利根達に伝えた。

 

音声がスタジアムに流れた。

 

条約違反に激怒した亡者達が、米国サイドに石を投げつけるカオスとなった。

 

「どういう事なの!?」

 

「待ってくれ!ミー達は、何も知らないよ!」

 

大和に問い詰められたアイオワは、驚いて否定した。

 

同じく何も知らされてないニューメキシコは、簀巻きにされバンカーヒルの襟首を掴んで往復ビンタして、問い質した。

 

「私達執行部は、資源問題を武力で解決しろと命じてないぞ。バンカーヒル、75年前と同じように、機動部隊を扇動したんじゃないでしょうね?」

 

「・・・ニューメキシコ姉様、ごめんなさいですぅ~でも、JAPが問題を武力行使すると聞いて、やむなくなんですぅ~」

 

「それはどういうことだ!」

 

「あそこにいるアヤカシが、この決闘にことづけて、JAPが現世に復帰した連中を呼び寄せて、アイオワ姉様たちを闇討ちするついでに、資源問題を武力解決すると教唆されましたので、エセックス達を誘って・・」

 

「どういうことだ!説明してもらおうか、長門!」

 

「私は武力行使を命じてないし、現世に介入した覚えもないぞ!」

 

試合そっちのけで、審判席で泥試合が始まった。

 

長門とニューメキシコが掴み合いになろうとしたその時、コロシアムに砲声が響いた。

 

「猿芝居は、そこまでにしてもらおうか!全ては私が仕組んだ事さ!」

 

矢矧たちに威嚇発砲させたアヤカシが、正体を見せた。

 

その正体を見て、驚愕した長門が、叫んだ。

 

「・・・貴様が、全てを仕組んだのか!」

 

「そうだ・・・現世に介入した私が、アイオワや加賀達を召喚して、この騒動を起こしたのだ・・・楽しんでもらえたか?」

 

「貴様という奴は、どこまでも私達に恥をかかせて!身柄を拘束しろ!!」

 

恥をかかされた長門は、警羅隊に出動を命じた。

 

「今、捕まる訳には、いかないね!」

 

矢矧達に弾幕を張るよう命じたアヤカシは、武装を展開させて、警羅隊を制圧した。

 

「こんなことして、タダで済むと思うな!」

 

「タダで済まないでしょうねぇ~だけど、勝負を続けるかを決めてくれよ~?」

 

アヤカシに煽られた長門は、大和姉妹に聞いた。

 

「貴様らは試合を望むか?」

 

「もちろんです!」

 

「今更、引き下がらんぞ!」

 

大和達の回答を受け入れた長門は。コロラドにマイクを渡した。

 

彼女もアイオワ姉妹に尋ねた。

 

「もちろんダヨ!バカなキャリアどもはバニッシュされたヨ!思う存分戦うヨ!」

 

「そうよ。ステイツの誇りにかけて、You達に正面勝負よ!」

 

米国側の返答を受けた長門は、払い戻しを告知した。

 

「払い戻しに応じるのですか?」

 

「いいから、アナウンスを出せ!30分後に、新たな賭けを始める」

 

コロシアムの観客とネット回線で勝負を見てた視聴者に、払い戻しと賭けの再開が告知された。

 

興奮した観客が、窓口に殺到した。ビジョンに、賭け率が再表示された。

 

「妥当な線だな?」

 

大和姉妹1.6倍、アイオワ姉妹2.3倍の表示を見た水瀬が呟く。隣にいた天龍が尋ねる

 

「水瀬達は、払い戻しに、いかないのか?」

 

「前の倍率で、マッチメーカーどもに、払わせるよ。龍田さん、その時の用心棒を頼むよ」

 

「いうまでもないわよ~マッチメーカーには剣闘試合で、ギャラを随分ピンハネされましたぁ~その分の利子をつけて叩き返してやりたいわ~」

 

対決が始まった。

 

「16インチ・一斉射」

 

轟音と共に、水柱と煙が上がった

 

「どうした!貴様ら自慢の16インチ砲の直撃は、この程度か!」

 

76年前の10月と同じく、大和と盾になった武蔵が、指を突きつけて、アイオワ達に叫ぶ。

 

「ち、遠距離からの攻撃で、You達の装甲甲板をぶち抜くのは無理だったか・・」

 

「・・・なら、近接戦に切り替える!」

 

遠距離の撃ち合いでは、大和・武蔵に、力負けすると思ったアイオワ姉妹は、優速を利した一撃離脱戦術に、切り替えた。

 

どこぞの宇宙世紀物と同じく、勝負は、長時間に渡って続いた。

 

激戦の末に、武蔵とミズーリが倒れた

 

「Youは、このバトルをエンジョイしてるKA?」

 

血まみれのアイオワが、同じく鼻と口から、血を流している大和に尋ねた。

 

大和は、満面の笑みを浮かべながら、答える。

 

「エエ、とても楽しいわ・・あなた達の一撃を身体に受ける度に、75年前の恨みが晴れていくわ!」

 

「そうKA・・それを聞いてサティスファクションした。フィニッシュさせるKA?」

 

無用だと言わんばかりに、装備を捨てたアイオワが聞いた。

 

大和も、装備を捨てて、応じた。

 

「そうね・・ここで、全てを終わらせましょう!」

 

武器を捨てた大和とアイオワは、あの宇宙世紀物のラストバトルのように、格闘戦を繰り返した。

 

数十分後、あの映画の結末と同じく、大和が、アイオワを床に叩き付けようとしたその時に、ゴングがなり判定に持ち込まれた。

 

「大和・・後は、私に任せろ!」

 

大和をコーナーに下がらせた長門とコロラドはアイオワに聞いた

 

「アイオワ、勝負の続行を望むか?」

 

「・・・・・」

 

「アイオワ、もういい・・You達の戦いを見て、サティスファイした。リザルトをアクセプトして!」

 

「・・・ALL Right、リザルトをアクセプトする!」

 

コロラドに説得されたアイオワは、敗北を受け入れると宣言した。

 

映像回線とコロシアムで、勝負を見守っていた観客達から歓声が上がった。

 

勝者となった大和はアイオワを抱きしめた

 

「いい勝負でした・・・私も武蔵も満足しました!」

 

「ミーも満足した。シスター達もこの結果をアクセプトする!サンクス!」

 

アイオワが差し出した手を大和は握りしめた。長門は審判長と評議会の代表として宣言した。

 

「これにて評議会は、大和型を最強の戦艦と宣言する」

 

「異議なしだ・・・」

 

コロラドは引きつった顔で結果を受け入れたが、他国の評議員・・フッド、ビスマルク、ローマ、リシュリューは全会一致で評議を受けれた。

 

「・・さて、龍田さん、蛆虫どもの一掃だぞ」

 

「はいはい、行きましょうね。釘宮、どうしたのですか~」

 

「いや・・アイツの姿がないから探してるんだよ」

 

「そうですね・・あの子、どこに行ったのかしら・・天龍ちゃん、知らない?」

 

「いや、わからんな」

 

「まあいい、仕置だ!」

 

長年に渡り、喰い物にされたマッチメーカーどもへの仕置が大切な3人は、アヤカシ達の事を忘れて、席を立った。

 

アイオワ達、生きる者は地上に戻った

 

ロングビーチの隠宅で目覚めた、老アイオワは体に、痛みを感じた

 

「・・スッキリしたよ。でも、年は取りたくないわね。体の節々が痛い・・・」

 

「大姉様、サンディエゴで、大変なことが起こってます!」

 

「ズムウォルト、何が起こったのかしらぁ」

 

「バンカーヒル姉様やエセックス姉様が瘧にかかってベットで震えてるんですよ」

 

「何ですって?」

 

ズムウォルトに連れてこられた彼女が見たものは、ジャパン怖い怖いと怯えて、ベッドで震えているバンカーヒルとエセックスであった。

 

「大姉様、ノーフォークでも似たような騒ぎが起こってます!」

 

「空母達はどうしたの?」

 

「それが・・・空母連中は同じようにベッドで震えて、指揮を取ることができません」

 

「情けない子達!私が指揮を代行する!」

 

妹のウィスコンシンより急を知らされたアイオワは、私達四姉妹が臨時艦娘長官になると、宣言した

 

同日・横須賀

 

三笠の隠宅の道場で、摩耶と羽黒の稽古を見届けた三笠は、その太刀筋に満足した。

 

「見事な出来にございました。摩耶、今日の気持ちを忘れずに、日ノ本の護りに務めなさいませ。羽黒は今日の太刀筋を忘れぬように!」

 

「はい、ご教授ありがとうございました!」

 

米国鑑娘の魂が多数破壊されたと知った三笠は、60年前に封じた悪霊が、摩耶と羽黒も、心の迷いから解き放したのではないか?と疑った。

 

その夜、道場に正座して待つ三笠の前にアヤカシは現れた。

 

彼女はアヤカシの顔を見て、一喝した。

 

「信濃、此度の騒ぎは、全て貴女がやったのですね!」

 

「大姉様、貴女の目は、ごまかせなかったかぁ~」

 

「長門は、あなたの成敗をためらったのですか?」

 

「まさか・・でも長門や陸奥では、私を裁くのは無理だよねぇ~」

 

「ここに現れたのは、犯した罪を悔いて、私の裁きを受けるためですか!」

 

「違うなぁ~。私は大人しく、あなたの太刀の錆になる気はないよ!」

 

「なら、是非もない!」

 

傍の太刀を抜いた三笠は、それを光剣化させた。

 

「菊一文字は使わないのですかぁ~」

 

「亡者を成敗するに菊一文字は不要!この髭切で十分」

 

髭切を手にして凄む三笠に、信濃は怒った。

 

「私は、大和姉達に、東郷元帥のような態度で接した貴女が、憎いのだ!」

 

稽古着と太刀のみ構えた三笠は、どこぞの宇宙世紀物のボスロボを思わせる信濃に尋ねた。

 

「F35C戦・爆・攻の三揃え、超音速対艦ミサイルの飽和攻撃、レールガンの三段構えですね?その装備の貴女が相手では、長門達には荷が重いですね・・・・」

 

「大姉様は武装なさらないのですかぁ~」

 

「あなた程度のモノを成敗するは、これで十分!・・・信濃、そこにいる者達を下がらせなさい!」

 

「そうでしたねぇ~高槻、日高、貴様らは下がれ!」

 

子孫達を人質に取られて身動きが取れない高槻達は、引き下がった。

 

二人が非武装地帯へ下がったのを確認した三笠は、道場に結界を張った。

 

「信濃、かかってきなさいませ!」

 

「大姉様、お手向いする!」

 

オールレンジ攻撃を仕掛ける信濃に対した三笠は、老婆の外見では考えられない飛ぶような機動で、攻撃をやり過ごした。

 

「野鳥の囀り?」

 

「ホトトギスが鳴いてるようですね・・・」

 

高槻と日高が死に誘う三笠の衣摺れの音に聞き惚れる中、三笠が信濃に迫る

 

「あなたの動きは見切りましたよ。それまで!」

 

信濃の内懐に入った三笠は、太刀を袈裟斬りに振り落ろした。

 

が・・・・

 

「む、ダミー・・・小癪な真似を!」

 

爆発に巻き込まれる寸前に気付いた三笠は、受け身を取ってやり過ごす。

 

「避けたかぁ、大姉様ぁ!だが!!」

 

信濃は、懐から取り出した両刃の斧に闘気を込めて、大剣状の刃を形成した。

 

「私達以外で、光剣を作れるものがいるなんて!?」

 

「貴女たちだけと思ったかぁ~馬鹿めぇ~」

 

「だが、技がなければ、大道芸に過ぎませんよ!」

 

「それは、戦えば分かることだ!」

 

得物を取った戦いは、数十分に渡った。

 

「三笠さんが、押されてますが・・・・」

 

「違う、寸前で見切っている。これなら、俺たちの出番はないかもしれないな」

 

「そうでしょうか?」

 

信濃の剣技を未熟とみた三笠は、隙を見て、一気に仕掛けた。

 

『掠ダメージを蓄積させて体力で押し切る腹か?未熟者め・・・・これ以上の遊びには付き合いきれぬ!」

 

ダミーで視界を撹乱して内懐に入った三笠は、逆袈裟で信濃を切り捨てた・・・・・

 

「終わりましたか?」

 

「いや、違うな・・・」

 

逆袈裟されたはずの信濃が、そこに立っていた。

 

「そこまでですかぁ~大姉様ぁ」

 

「馬鹿な!私は、貴女の剣筋を見切ってたはず!?」

 

「剣筋?笑わせる!私は貴女の脳に干渉して幻を見せたのだよ」

 

「私の思考が読まれていた?」

 

「そうだ!!私を戦わせたいがために、脳に鳳翔さんの思考を複写したことが、裏目に出たのだぁ~馬鹿めぇ!」

 

呆然とする三笠に当身を食らわせた信濃は、三笠の頭を砕いてくれようと斧を振り上げたが、二つの強烈な殺気が迫ってくるのを感じた。

 

「む、殺気!」

 

信濃は新手の脅威に相対した。

 

その二人を見た日高は、高槻に尋ねた

 

「ヴィクトリーとコンスティテューションが出てきました。現世の三女神揃い踏みですね」

 

「ああ、面白くなったな。アソビはこうでないとな!」

 

ヴィクトリーは三笠を抱き起こして、まだ戦えるかと尋ねた。

 

三笠は頷いて答えた。

 

「そうか・・是非もない!このデーモンソウルを完全にDeleteする」

 

「・・大姉様、私の力不足をお詫びいたします」

 

「今は何も言うな。我ら3人の力を持って、消去する」

 

3人の闘気の集合体が、光の鳥になって、信濃の体を直撃した

 

「終わりましたか?」

 

「いや、違うな」

 

高槻が日高に言った通り、信濃は健在だった。闘気で、光の鳥を凌いだ信濃は、斧で三人を切り裂いた。

 

「ははは、楽しいなぁ~」

 

「信濃、止めるんだ!遊びは終わりだぞ!」

 

隔離されていた高槻が叫んだ。

 

その場に倒れた三人を蹴飛ばした信濃は、高槻に聞き返した。

 

「どうして、この遊びをやめないといけないのだぁ~返答したら貴様達の子孫も切り捨てるぞぉ~」

 

「そうか・・好きにしろよ。だが、俺の話を聞いてからにしてくれないかな?」

 

「よかろう・・・」

 

覚悟を決めた高槻は、結界より出て、魔神と化した信濃に相対した

 

「信濃、貴様、俺に何と言った?楽しい遊びがしたいと言ったな」

 

「言ったよ~それでどんな遊びがいいか貴様達に、聞いたんだ~」

 

「そうだ。で、俺は提案した。大和姉妹とアイオワ姉妹の対決させるついでに、天界・地上・地獄をかき回したらどうなんだ?とな」

 

「そうだったな・・・」

 

高槻の説得は続く

 

「天界と地上は十分にかき回したぞ・・次は地獄だぞ」

 

「私に死ねということかな?」

 

「そうだ・・いやなら、俺と日高を斬ってくれや」

 

自分も巻き込まれて驚く日高を『偵察は操縦と運命を共にするのが掟だぜ』と目で制した高槻の話は続く

 

「でも俺たちを斬ったら、面白くなくなるぞ・・違うか?」

 

「確かにそうだったな・・分かったよ。遊びはここまでにするよ!」

 

「そうか・・潮時を悟ったか?偉いぞ!」

 

「ありがとう。いつかは、私の魂を救ってくれる者が出ることを信じて、地獄で待つよ」

 

惨めに地上に転がってる三神を見下した信濃は宣言した。

 

「遊びはここまでだぁ~なかなかに面白かったぞぉ~後は何が起ころうと、私の知ったことではないぞぉ~さらばだ!」

 

首に斧の刃に押し付けた信濃は、高笑いしながら自刎した。

 

「高槻さん、気づきましたか」

 

「何がだ?」

 

「信濃の奴、生き絶える前に『みんなが、私の本心を受け入れてくれたら・・』と泣いてましたよ」

 

「そうか・・愛に迷った信濃を救う者が、現れるといいな」

 

信濃を救うものが出ることを願った高槻は、信濃の胴体を背負った後、日高に命じた。

 

「貴様は、信濃の首を持って帰れ!」

 

「え~屍体を持って帰るのですか?」

 

「愛ちゃん達が、祟られてもいいのか?」

 

「わかりましたよぉ~戦時中から人使いが荒いんだから~」

 

高槻と日高が屍体を抱えて立ち去ろうとしたその時、傷ついた三笠が、高槻に尋ねた。

 

「中尉、何をする気ですか?」

 

「信濃と約束した通り、貴女達の体たらくを天界にバラ捲く!三笠さん、貴女には失望したぞ!信濃と心で接すれば、アイツも納得しただろう・・貴女は、東郷元帥と同じ過ちを犯したのだ」

 

「・・・・・・!!」

 

75年前に、雪風と同じ目をされた三笠は、恥ずかしそうに、項垂れた。

 

神を情けないと思った高槻は、日高に摩耶たちを、呼びに来いと命じた。

 

「摩耶と羽黒が直にくる。後はアイツらが何とかするさ。じゃあな!」

 

「高槻中尉、日高曹長、待ちなさい」

 

追いすがる三笠を無視した二人は信濃の屍体を抱えて天界に去った。

 

摩耶たちに変を知らされた霧島達と米国7Fの連中は、すぐに駆けつけて三人を助けた。

 

神が踏みにじられた映像を、天界に撒き散らした二人は、長門達に自首し、騒乱罪と反逆罪の容疑で、身柄を拘束された。

 

「高槻、日高、しばらくの辛抱だ。後は、俺がなんとかする」

 

「水瀬さん、釘宮さん、お世話になります」

 

水瀬達が、減刑に努力すると約束して数週間近くが経った。

 

「高槻、日高、元気そうでよかった・・」

 

「大和、武蔵か・・・・和平交渉はどうなっている?」

 

「信濃を紛争の全責任者とみなすと双方合意した上で。我々有利の下で、和平案は進んでいるよ・・」

 

それは良かったな、と答えた高槻は、地上での件を二人に伝えた。

 

「信濃のやつ、泣いてたぞ!貴様ら2人が寄り添っていたら・・・」

 

「おい、高槻、私達とて信濃を無下にした事は悔いている!一方的に決めつけるな!」

 

武蔵が抗議したが、大和が間に入って話を続けた。

 

「私達は、信濃に、全てを押し付ける決定に、異議を唱えましたが、執行部に却下されたのです!」

 

「そうか・・貴様達が妹に同情してるのはわかった。そのことはアイツに伝えよう」

 

収監されて一ヶ月後、二人に裁定が下った。

 

「高槻、日高、貴様ら二人を日本村から所払いする。傭兵に志願した時は刑事犯として訴追する」

 

「そうか・・刑を受け入れるよ」

 

「古鷹、加古、二人を退廷させろ」

 

追放された二人のところに水瀬と釘宮が訪れた。

 

「・・・高槻、日高、気を落とすなよ。数年ぐらい、南の小島で、大人しくしてたら、赦免してくれるよう取り計らってやるよ」

 

「水瀬さん、よろしくお願いします。釘宮さん、ウジ虫どもの駆除は終わりましたか?」

 

「滞りなく終わったぞ!お蔭で、剣闘試合は無期限延期となった。コロシアムは、野外劇場に作り替えるぞ」

 

「水瀬さん、劇団を立ち上げるのですか?」

 

獄中の噂を耳にした高槻が尋ねる。

 

水瀬は頷く

 

「ああ、この前に来たアイツをスカウトしたついでに、あの二人の引き抜きに成功したよ」

 

その二人の名を聞いてニンマリとした高槻は、水瀬に聞き返した。

 

「共演者はどうするのですか?森光子を連れてくるのですか?」

 

「共演者は、素人でやりたいというから、山城姉妹達を、その3人に、推薦した」

 

「上手くいくといいですね。それでは・・・」

 

「高槻、日高、刑期が終わって行くところがなかったら、俺のとこに来いよ」

 

「その時は、お願いします」

 

釈放された高槻と日高は、信濃の墓参りをした。

 

雪風達がそこにいた

 

「貴様達、坊主頭になってどうした」

 

「私達も追放になったので、鳳翔さんと一緒に、地獄巡りをしようと思いまして」

 

「そうか、信濃によろしくな」

 

「はい」

 

尼さんになった雪風達は、地獄に向かい、高槻達は、流刑地の小島に向かった。

 

数週間後のコロッセウムでは・・・

 

「ババンババンバンバンバン~ああビバドンドン~」

 

かって、日本中を笑わせたあの三人と、ゲスト出演した山城姉妹達が、数万の観客とともにメロディーに合わせて踊っていた。

 

「次も一生懸命頑張ります!ごきげんよう!」

 

天界での遊びと信濃の地獄遊びは、続く。

 

だが地上では・・・ホトトギス・サヨナキドリ・オオガラスの鳴き声は、聞こえてこなかった。

 

(完)



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