遊戯王世界でテスタロッサとアリスとアウトレイジ (不知火勇翔)
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無法秘伝 悪・即・斬

 不動遊星達が世界を救ってから一年。WRGPという大会が再び開催されることになり、ネオ童実野シティは浮き足立っていた。世界中からデユエリストが集まるこの大会に、前ワールドデュエルカーニバルの優勝者も来るとか、あの海馬瀬人が出場するという噂が、それを更に助長していた。

 そんな活気に湧くネオ童実野シティに、二人の子供がいた。

「…ドコだよ、ココ」

「ネットも何もかも使用不可。ナニコレ、どういうことなの?テスタ」

「知らねえよ」

 スーツをしっかり着こなす二人は、通勤ラッシュで人がごった返す駅前にいた。

 一人は真っ黒のスーツを着た少年で、ツンツンした白髪は彼の活発さを表していた。

 彼の名前は『テスタ・ロッサ』。デュエルマスターズの世界でアウトレイジという組織に身を置き、オラクルと戦い続けた勇敢な戦士だ。たまにカードとして切札勝太の手助けもしている。

 もう一人は、スーツにもドレスにも似た青い服を着ていて、被っている帽子も青。全体的に青い印象を与える少女だった。所々にフリルをあしらった高級そうな服が、彼女がどこかの令嬢であるかのように、その魅力を引き立てていた。

 名前は『アリス』。《侵入する電脳者(コードブレイカー)》の異名を持ち、若くしてアウトレイジの頭脳として活躍していた少女だ。テスタロッサと同じく、切札勝太の手助けもしている。

 テスタロッサはガシガシと頭をかくと、アリスの手を引き、歩き始めた。

「とりあえず歩くぞ先輩。情報収集だ」

「あっ、ちょっと、不用意に動いても…」

 立ち止まったテスタロッサはアリスを見て、言った。

「じゃあどうすんだよ」

「それは…その」

「何もかも分からないんだ。返って足を止める方が危険だと俺は思うぞ。とりあえずアッチ行ってみようぜ」

「でも、もし、あ、もう…」

 グイグイ腕を引っ張って歩くテスタロッサに、アリスは諦めてついて行くことにした。

 

 

 それから辺りを歩き回った彼らは、ある程度のことは知ることができた。

 まずこの世界にデュエマがないこと。ここがネオ童実野シティという名前だということ。そしてこの世界ではデュエマに代わって遊戯王というカードゲームがあること。そして、この街でこれから遊戯王の世界大会が行われること。

「なぁ先輩。世界大会に出てみようぜ」

「バカなの?今私達はこの世界に迷い込んでる立場なのよ?カードも無いし、ルールも知らない。100負けるわ」

「カードなら、先輩のポケットにあるだろ」

「え?」

 テスタロッサの目線に釣られてアリスは自分のポケットに手を突っ込む。そこには、40枚ぐらいのカードが入っていた。

「ずっと気になってたんだよ。先輩、カードなんて持ってたのかなってな」

 手元に持ったカードの束に目を落とし、アリスはカード一枚一枚を見て、そして目を見開いた。テスタロッサも遅れて気づく。

 そのカード全てが、同胞達、アウトレイジの仲間達だったのだ。

「どういうことだ?てか、皆も何してんだよ…」

 テスタが呟くが、アリスも首を傾げるだけで何も言わない。

 現時点では、あまりに情報が少なすぎる。

 

 

 

ある所に、1人の男がいた。

 彼は、気弱で平凡な男だった。

 彼は何も考えず就職し、社会の洗礼を受けた。社会という荒波に呑まれてボロボロになった彼は、本気で自殺を考えた。しかし彼には、友達がいた。両親がいた。そして何より、特別な人がいた。

 自殺しようとしていた彼を本気で止めに入った女性がいた。彼女は彼と面識などなく、たまたま近くを通っただけの女性だった。

 自殺に失敗した彼は、彼女に説教された。自分のことを何も知らず、自殺しようとしたという一点のみで説教されたのだから怒る所かもしれないが、彼が怒ることはなかった。それどころか、この瞬間が好ましく思えていた。

 家庭環境もあって、彼が両親に対して本気で話すことなどなかった。友達にも同様にして、本当の自分を見せることはしなかった。だからこそ彼女に怒られて、初めて自分が弱気になっていることに気づいた。

 気づいた所で勤め先に何か変化がある訳でなかったが、不当に評価されれば「何だと!」と怒るくらいの気概はもつようになった。

 それから数年して、彼は自殺を止めてくれた女性にプロポーズし、結婚した。

 子供は2人産まれ、順風満帆な日々を送った。

 妻となった女性は家にストレスを持ち込む性格をしていた。普通は面倒くさがって聞き流すのが一般的だが、彼は妻の愚痴を真剣に聞いた。正直妻の職場の人など1ミリだって興味もなかった彼だが、会ってもいないのに変な上司の名前を数人覚えてしまっていた。

 彼が定年を迎え、あわせて彼の妻も仕事を辞めた。老いて死ぬまで一緒に暮らすと誓い合った。幸せな日々を送る筈だった。だが、先に死んだのは2人の息子達だった。

 愛ばかり与えられた息子達はサテライトの住人に目を付けられていたらしく、サテライトがらみのゴタゴタに巻き込まれてそのまま…。

 失意に暮れる中、後を追うようにして妻も病気となり、少ししてこの世からいなくなった。

 彼は息子達が死んだ悲しみから立ち直れないまま、最愛の妻を失った。彼にとってこの世界は、抜け殻も同然だと考えるようになった。

 やることも目標も何もかもをなくした彼はある日、道端で1枚のカードを拾う。

 そのカードは『地縛神』というらしく、世界すら滅ぼせるカードのようだった。

 ふと手にした瞬間、力がみなぎってきた。感覚では、体だけ30年前に戻ったかのようだった。

 『地縛神』は言った。

 世界を滅ぼすには、シグナーと赤き竜という障害があるのだということ。それさえなんとかすれば、世界は簡単に手に入ること。それから過去が未来がと色々教えられたが、要するに最大の敵がシグナーということは分かった。

 彼は街に繰り出し、シグナーの情報を集めることにした。したのだが、まるで何かに引っ張られるように、2人の男女に意識が向いた。いや、向かされたと言うべき何かが起こり、彼はスーツ姿の男女2人を見た。

 鼻につく美男子と美少女。

 だが、それだけだ。それが何だというのか。

 しかし、理由もなく老人はその2人が気になった。

 デッキケースに入っている『地縛神』も、さっきから落ち着きがない。

 何かが、何かがおかしい。普通じゃない。

 そう思わされた。

 

 

 

「おい、そこのお前達、デュエルじゃ」

 いきなり声をかけられた二人は、ビクッと体を震わせた。

「ふむ。一応デッキは持っているようじゃな。肩慣らしには丁度いい。赤きシグナー達を皆殺しにする前の、前哨戦といこうか」

 二人に話しかけたのは、しわがれた老人だった。だが彼の圧は、歴戦の猛者であるテスタロッサですら驚かされるものだった。

「さぁ、構えなされ。デュエルじゃ」

 デュエルディスクという円盤を腕につけ、構える老人。黙り込む二人。それを自身に対する恐怖によるものだと理解した老人は、挑発した。

「ほれ、早ようせんかい。わしはデュエルをしたくない奴は基本殺すぞ?まさかデュエリストとしての気概すら持ち合わせぬ雑魚なのか?」

 それでも動かない二人。老人はそこで、二人の目が自分と同じくらい鋭いことに気づく。

「そんな目ができて、デュエルができん訳があるまい。……まさか、」

「遊戯王のルールを、教えてくれ」

 テスタロッサが真面目な表情で、問題外なことを言った。

 前代未聞の、これから命を懸け合う敵に遊戯王のルールを聞かれるという謎の状況。これには、何十年と生きた老人にとっても初めてのことだった。

「………」「………」「………」

 老人は気まぐれで話しかけたため、そこに戦う明確な理由など存在しない。老人にとっては、話しにならないと言って2人を殺せば終わる会話だった。

 だがしかし、2人の風格は別格だった。それこそ、戦場で何度も修羅場をくぐり抜けてきたかのような。ルールさえ知れば、化けるとさえ思える何かが、2人にはあった。倒しがいがありそうだとも、思えていた。

 老人もまた、決めるのはデュエルという鉄則を守る『デュエル脳』をしていたのだった。

「ルールやったら、ワイが教えたるでい!」

 アリスの手にあったカードの束から、声が発せられた(?)。とにかくカードの束から聞こえた声に、3人はそれぞれ違った反応を見せた。

 テスタは驚きながら口元に笑みを浮かべ、アリスは嫌そうな顔をし、老人は驚き目を丸くした。

 老人は『地縛神』と接触して今まで関わったことのない世界の知識を得ていた。殆どが赤き竜関係だが、その中にはカードに宿る精霊のこともあった。

 

 

「10分待ってやるわい」

 

 

 

10分後。

 

 

 テスタロッサとアリスはDホイールというバイク型デュエルディスクを持っていなかったため、老人はライディングデュエルができず、立ってデュエルすることになった。また、二人はデュエルディスクすらも持っていなかったため、老人は持っていた予備を貸すことにした。予備を持っていたのは、最近愛用しているデュエルディスクの調子が悪く、シグナーと対峙した時にマシントラブルなど起こしてはみっともないからだ。また、愛用しているデュエルディスクが一番デュエルに集中できるのがデュエリストというもの。予備でシグナーと戦うことはなるべく避ける必要があった。まだ予備を出して同情される方が100倍マシなくらい、デュエリストにとってデュエルディスクは重要なものなのだ。要するに、持っていたのは本当に偶然だった。普通は、あんなかさばる物を2つも持ち歩いたりはしない。

「先行はワシがもらう。ワシのターン…まずはフィールド魔法『死皇帝の陵墓』を発動!」

 

 

《死皇帝の陵墓》フィールド魔法

●お互いのプレイヤーは、

自分メインフェイズに以下の効果から1つを選択して発動できる。

(1):1000LPを払って発動できる。

1体のリリースを必要とする手札のモンスター1体の通常召喚を、

リリースなしで行う。

(2):2000LPを払って発動できる。

2体のリリースを必要とする手札のモンスター1体の通常召喚を、

リリースなしで行う。

 

 

「手札を一枚捨てて『使神官ーアスカル』を守備表示で特殊召喚」

 

 

《使神官-アスカトル》 効果モンスター

星5/地属性/魔法使い族/攻2300/守1500

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカード以外の手札を1枚捨てて発動できる。このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。その後、手札・デッキから「赤蟻アスカトル」1体を特殊召喚できる。この効果を発動するターン、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

 

「『使神官ーアスカル』の効果で、デッキから『赤蟻アスカトル』を特殊召喚」

 

 

《赤蟻アスカトル》

星3/地属性/昆虫族/チューナー/攻700/守1300

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地のレベル5モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このターンのエンドフェイズに墓地へ送られる。

 

 

「フィールドのモンスター2体をリリース。今再び五千年の時を越え、冥府の扉が開く」

 老人の口上と共に、ガガガっと大地が揺れ始める。

「我らが魂を、新たなる世界の糧とするがいい!光臨せよ、『地縛神 Aslla piscu(アスラ ピスク)』!」

 

 

《地縛神 Aslla piscu(アスラ ピスク)》効果モンスター

星10/闇属性/鳥獣族/攻2500/守2500

(1):「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

(2):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(3):相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。

(4):このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(5):また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、このカードの効果以外の方法でフィールド上から離れた時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×800ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 現れたのは、巨大な黒いモンスターだった。ハチドリのような外見だが、その翼は飛行能力などなさそうな、言うなれば針金で翼を表したようなフォルムが印象的なモンスターだった。またその規格外の巨体が、圧倒的な王者の風格を醸し出していた。

「ふっ。お主らにはこれで充分か」

 未だに自分の手札にあるカードのテキストを熟読している二人を気にせず、満足そうに老人は言った。

 普段の老人なら地縛神を無視されることは無視できないことだったが、あの素人二人に地縛神の凄さは口では伝わらないだろうという、ある種の諦観が老人にはあった。

「俺達のターンだな。ドロー」

 デュエルディスクに刺さったデッキから一枚引いたテスタは、すぐにアリスに引いたカードを見せ、情報を共有する。二人は二言三言交わすと頷き合った。

「決まったか」

 老人が聞くと、テスタロッサは頷いた。

「あぁ、待たせたな。俺は手札から魔法カード『ミステリーキューブ』を発動。山札をシャッフルし、一番上のカードを確認する。それがクリーチャーなら場に出し、それ以外ならそのカードを墓地へ送る。シャッフルし、ドロー。俺が引いたのは、『武闘将軍カツキング』。俺はこのクリーチャーを特殊召喚」

 

 

《ミステリーキューブ》通常魔法。

自分の山札をシャッフルする。その後、上から1枚目をすべてのプレイヤーに見せる。それがクリーチャーであれば、モンスターゾーンに出してもよい。クリーチャーでなければ、自分の墓地に置く。

《武闘将軍カツキング》エグザイル・クリーチャー

星8/火属性/ドラゴン属・アウトレイジMAX /攻3000/守2500

(1):∞(インフィニティ)パワーアタッカー(ダメージ計算時、このクリーチャーのパワーは無限大になる。ただし、戦闘ダメージは発生しない)

(2):このクリーチャーがバトルに勝った時、相手に1000ポイントのダメージを与える。

(3):ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に《武闘》とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からモンスターゾーンに出してもよい。

(4):自分の他の、名前に《武闘》とあるエグザイル・クリーチャーをモンスターゾーンに出すことはできない。

 

 

「なっ、なんなのじゃ?そのクリーチャーとやらは…」

 動揺を隠せないでいる老人に、テスタロッサは言った。

「俺だって、モンスターって何なんだよって言いてぇよ。俺は手札から魔法カード『狩人秘伝ハンターファイア』発動。クリーチャーをバトルさせる。カツキング、敵をやっちまえ」

「おう!」

 カツキングの元気のいい返事と共に、カツキングの常人では目で追えない圧倒的な動きで、老人の地縛神が細切れになる。

 流石は、∞パワーアタッカー。

 

 

《狩人秘伝ハンターファイア》速攻魔法

モンスターゾーンにある自分と相手のクリーチャーとをバトルさせる。

 

 

「バトルに勝利したためカツキングの効果発動。1000ポイントのダメージを与える」

「破壊された地縛神アスラピスクの効果発動!相手のフィールドのカード全てを破壊し、破壊した枚数×800ポイントのダメージを受けてもらう。そのクリーチャーとやらも破壊じゃ!」

「カツキングのドロンゴー発動。手札から2枚目のカツキングを特殊召喚。バトルフェイズ。カツキングでダイレクトアタック」

「ぐぁぁぁっ!!!」

老人LP4000→3000→0

 

 

 あまりにアッサリ勝ってしまったテスタロッサとアリス。テスタロッサは熱い戦いができると身構えていただけに、残念そうな表情をした。アリスの方は何も言わず、何だったの?、みたいな表情でカツキングに吹き飛ばされた老人を見た。

 2人の目の前で倒れ伏す老人は、それから1ミリも動かなくなった。二人は知らないまま挑んだデュエルだったが、そういうデュエルだったらしい。

「遊戯王って、負けたら死ぬんだな…」

「ていうか、結局コイツが誰か分からないまま死んだけど、死体とかどうするのよ」

 脈を計り、完全に死んでいるのを確認したアリスが聞いた。それにテスタは興味がなさそうに、

「考えるのは先輩の担当だろ」と言った。

 元々アウトレイジの敵であるオラクル教団の信徒だったテスタロッサは、途中からアウトレイジに鞍替えした。そのため前からアウトレイジだったアリスにとってテスタロッサは後輩で、テスタロッサにとってアリスは先輩だった。また、テスタロッサは考えるのが苦手なこともあって、昔から2人で動く時、考えることは色々と知っているアリスがしていた。それが今もズルズルと続いているのだった。

「むむ……とりあえず、この世界にも治安維持組織ぐらいはありそうだし、その人達の見える所に捨てに行くわよ」

「オッケー、分かった」

 そう言って、テスタロッサは老人の亡骸を抱え上げた。

 

 



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白紙のカード1

バトスピのキャラって出していい?


 謎の老人にデュエルをふっかけられるも圧勝した彼らに襲いかかったのは、空腹だった。

 まさか別の世界からやって来たなんて誰かに言えるはずもなく、怪しまれて厄介なことになる。

 だが幸いなことに、この世界ではデュエルの強さが全てらしい。なんでも、デュエルで世界の命運が左右されたこともあるらしい。

 そんな訳で、賭けデュエルでどこかに泊めてもらうことにした2人だったが、デュエルをふっかける相手は慎重に選んだ。

 条件はまず、変な奴じゃないこと。これの理由は言わずもがな。それから、強そうな人。もしくはプライドが高そうな人。世に言うデュエル脳の人だ。負けたら勝った方に食べ物と寝る所を提供する賭けデュエルなんて、普通じゃない考え方の持ち主でなければ普通やらないだろう。そしてテスタロッサは長年の経験から、なんとなくでも強者かどうかを嗅ぎ分けることができた。

 2人が辿り着いたのは、街の外れにあるガレージだった。

 街中で見かけたカニの頭をした青年にテスタロッサが反応し、2人はこっそり後をつけた。そしてカニ頭の青年が入っていった建物が、この錆びれた建物だったのだ。

「ごめんくださーい」

 そう言ってズカズカと中に入っていくテスタロッサとアリスに、中にいた3人の男達が驚き、固まる。

 一人は、カニのような髪型をし、青い上着と左頬のマークが印象的な青年。テスタロッサが反応した強者だ。名前は不動遊星。幾度となくこのネオ童実野シティをデュエルで救ってきた、英雄だった。

 それから金髪にピアスの、いかにも気が強そうな男が1人。名前はジャック・アトラス。不動遊星のライバルであり、不動遊星が現れる前までキングとしてこの街のデュエル界隈で君臨し続けた男だ。

 そして頭にバンダナを巻く、オレンジ髪の青年が1人いた。名前はクロウ・ホーガン。孤児院に寄付し続ける、心優しい男だ。孤児院の子供からも、クロウ兄ちゃん、と呼ばれ、慕われている。

 固まる3人に、テスタロッサは堂々とした態度で言った。

「賭けデュエルをしてくれないか?俺達が勝ったら、今日の昼と夜と明日の朝飯、それから寝る所をくれ」

 元々切った張ったの世界で生きてきて、まだこの世界に来て数時間しか経っていないテスタロッサには、自分が普通じゃないことを言っている自覚など皆無だった。いくらデュエル脳の奴が多いとはいえ、そんなことを言うのは流石に異常すぎる。なのにテスタは、これが普通だろ?みたいな顔で言ってのけていた。

 アリスの方は、分かっていて成り行きを見守っている風だった。その腹には、どうせ勝つだろう、という根拠のない推察もあった。

 戸惑い固まる3人の中で、カニ頭の青年だけが深刻そうな表情をした。

「どうしてだ?誰かから逃げてきたのか?」

 テスタロッサは首を横に振った。

「違うけど、色々あってな。今は話せない。話すとしても、デュエルで説明する。それで、受けてくれるか?」

 テスタロッサの真剣な表情に、1人の男が感化された。クロウ・ホーガンである。

「いいぜ。そこまで自信があるなら、俺が相手してやるよ餓鬼共。表にでろ」

「クロウ…」

「気をつけろ。奴らは、少なくとも弱くはない」

 チームメイトの心配する言葉に「分かった」と告げたクロウは、2人と向き合った。

「さぁ、どっちがデュエルするんだ?それとも、タッグデュエルか?」

 あの変な老人がくれたデュエルディスクが1つ、そして老人が使っていたデュエルディスクがもう1つ、その2つを2人はケースに入れず裸で持ち歩いていたため、クロウは2人がタッグデュエルをするつもりかと聞いたのだ。

 だがアリスは首を横に振った。

「今回は私がやるわ」

「分かった。それじゃあ、表に出ろ」

 クロウの言葉で、クロウ達3人とテスタロッサとアリスの2人が一旦外に出ると、アリスとクロウは向き合って、構えた。

 アリスがデュエルディスクを腕につけ、デッキを入れた。テスタロッサはアリスから少し距離をとり、遊星とジャックの隣へ移動した。

「「デュエル!!」」

「私が先行をもらうわ!」

 まずアリスが、先行をとった。

「エマージェンシータイフーンを3枚発動」

「3枚!?」

 

《エマージェンシータイフーン》

カードを2枚まで引く。その後、自分の手札を1枚捨てる。

 

「効果で、2枚引いて1枚捨てるのを3回繰り返す」

 いきなり、有り得ないようなことを始めたアリスに、クロウは素で驚き、声を上げた。そして、アリスが仕組んだのではないか、という疑いの目でクロウはアリスを見た。

「…ふんっ。つまらぬことをしたな、貴様のツレは」

 ジャックが隣に立つテスタロッサを軽蔑した目で見るが、テスタロッサは「そう思うか?」と不敵に笑った。

「私は『命水百仙(ウォーターバイト)しずく』を通常召喚。さらに手札から魔法カード『ヒラメキ・プログラム』発動。自分のクリーチャー一体を破壊し、その破壊したクリーチャーよりレベルの1つ高いクリーチャーを、デッキから特殊召喚する」

 

 

《命水百仙しずく》エグザイル・クリーチャー

星3/水属性/魔法使い族/攻1000/守1000

ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に「百仙」とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。

自分の他の、名前に「しずく」とあるエグザイル・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。

《ヒラメキ・プログラム》通常魔法

自分のクリーチャーを1体破壊する。その後、自分の山札の上から、その破壊されたクリーチャーよりレベルが1多いクリーチャーが出るまで、カードをすべてのプレイヤーに見せる。そのクリーチャーをモンスターゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。

 

 

「破壊するのは、しずくちゃん!そしてしずくちゃんのドロンゴー発動!手札から『百仙閣魔(バイトヘル)マジックマ瀧』を守備表示で特殊召喚!ヒラメキ・プログラムの効果で、山札からしずくちゃんよりレベルが1つ高いレベル4クリーチャー『無法の(アウト)レイジ・エッグ』を守備表示で特殊召喚。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

{アリスの手札5→2→8→5→4→2→0

 

 

《百仙閻魔 マジックマ瀧》エグザイル・クリーチャー 

星7/水属性/魔法使い族/攻2200/守2500

このクリーチャーが攻撃する時、相手の手札を2枚見ないで選び、捨てさせる。

ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に「百仙」または「閻魔」とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。

自分の他の、名前に「マジックマ瀧」とあるエグザイル・クリーチャーをモンスターゾーンに出すことはできない。

 

 

《無法の(アウト)レイジ・エッグ》クリーチャー:エッグ

星4/水属性/ドラゴン族/攻500/守500

自分のターンのはじめに、自分の山札の上から1枚目を墓地に置く。そのカードがエグザイルでないクリーチャーであれば、このクリーチャーを破壊してそのアウトレイジをバトルゾーンに出す。

このクリーチャーは攻撃することができない。

 

 

 不正した奴の割には割と普通な展開だったことに、クロウは顔をしかめる。本当にアリスが不正したか、分からなくなっているのだ。また、クリーチャーという初めて聞くカードにも困惑していた。

 アリスとテスタロッサは説明する気はなさそうだし、考えても仕方がないと割り切ったクロウは、デッキからカードを引いた。

「俺のターン、ドローォ!俺は手札の『BF-毒風のシムーン』の効果を発動!手札のBFを1枚除外して、デッキから永続魔法『黒い旋風』を発動する!」

 

 

《BF-毒風のシムーン》効果モンスター

星 6 / 闇属性 / 鳥獣族 / 攻1600 / 守2000

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札からこのカード以外の「BF」モンスター1体を除外して発動できる。デッキから「黒い旋風」1枚を自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。その後、手札のこのカードをリリースなしで召喚するか、墓地へ送る。この効果で置いた「黒い旋風」はエンドフェイズに墓地へ送られ、自分は1000ダメージを受ける。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

《黒い旋風》永続魔法

①:自分フィールドに「BF」モンスターが召喚された時にこの効果を発動できる。そのモンスターより低い攻撃力を持つ「BF」モンスター1体をデッキから手札に加える。

 

 

「さらに、自身の効果で『BF-毒風のシムーン』を特殊召喚!『黒い旋風』の効果発動!召喚されたシムーンより攻撃力の低いBFを1枚手札に!」

 {クロウの手札5→4→3→4

「そしてフィールドにBFがいるとき、このモンスターは特殊召喚できる!現れろ、『BF-疾風のゲイル』!ゲイルの効果発動!テメェのマジックマ瀧の攻撃力と守備力を半減させる!再び『黒い旋風』の効果発動!ゲイルより攻撃力の低いBFを1枚手札に加える!」

{マジックマ瀧 攻2200/守2500→攻1100/守1250

 {クロウの手札4→3→4

 

《BF-疾風のゲイル》チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 400

①:自分フィールドに「BF-疾風のゲイル」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

②:1ターンに1度、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力・守備力を半分にする。

 

 ずっと叫んでいるクロウに、アリスは若干引いていた。テスタロッサとアリスの主人である切札勝太でも、あそこまで絶えず叫ぶように召喚はしていない。

 ネオ童実野シティの住人だからずっとバイクでデュエルしていて声を張り上げる習慣がついているのか、クロウ個人の理由なのか、アリスには分からなかった。

「俺は『BF-突風のオロシ』の効果発動!特殊召喚!」

{クロウの手札4→3

 

《BF-突風のオロシ》チューナーモンスター

星 1 / 闇属性 / 鳥獣族 / 攻400 / 守600

「BF-突風のオロシ」の①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

①:自分フィールドに「BF-突風のオロシ」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

②:このカードがS素材として墓地へ送られた場合フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの表示形式を変更する。

 

「手札の『BF-精鋭のゼピュロス』を通常召喚!再び『黒い旋風』の効果発動!BFを手札に加える!」

{クロウの手札3→2

 

 

《BF-精鋭のゼピュロス》効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1600/守1000

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

①:このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、自分は400ダメージを受ける。

 

「俺はレベル4の『精鋭のゼピュロス』とレベル1の『突風のオロシ』に、レベル3の『疾風のゲイル』をチューニング!黒き疾風よ 秘めたる思いをその翼に 現出せよ!シンクロ召喚!舞い上がれ、ブラックフェザードラゴン!!」

 

『ブラックフェザードラゴン』

星8闇属性ドラゴン族攻2800守1600

召喚条件:チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

①:自分が効果ダメージを受ける場合、代わりにこのカードに黒羽カウンターを1つ置く。

②:このカードの攻撃力は、このカードの黒羽カウンターの数×700ダウンする。

③:1ターンに1度、このカードの黒羽カウンターを全て取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力は取り除いた黒羽カウンターの数×700ダウンし、ダウンした数値分のダメージを相手に与える。

 

 フィールドに、巨大な黒い竜が出現し、ジャックがほくそ笑む。

「ふんっ。存外、早く片がつきそうだな」

 遊星もテスタロッサとアリスから目は離さず警戒はしているが、少し安堵した様子だった。

 テスタロッサも少し驚いた表情をし、「5000GTぐらいの迫力はあるな」、と感心した風に呟いた。

「S素材となった『突風のオロシ』の効果発動!『無法の(アウト)レイジエッグ』を攻撃表示にする!」

 クロウが孵化したばかりのドラゴンのようなクリーチャーを指差し、言った。

「バトル!ブラックフェザードラゴンで、『無法の(アウト)レイジエッグ』を攻撃!」

 ブラックフェザードラゴンがその大きな口を開け、ブレスを吐く寸前、アリスの声が割り込む。

「トラップ発動!『スーパースパーク』!相手モンスターは全て、攻撃したことになる!」

 

《スーパースパーク』トラップカード

相手モンスターは全て、攻撃したことになる。

 

 ブラックフェザードラゴンがブレスを吐くのを止め、固まる。

クロウはチッっと舌打ちをすると、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」と言った。

「そして『黒い旋風』は墓地へ送られ、クロウは1000Pのダメージを受ける」

 不動遊星の声が響く。無傷で佇むアウトレイジエッグが、ピョコンっと跳ねるのだった。

 {クロウの手札2→1

 



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白紙のカード2

 引き運、という言葉がある。

 読んで字の如く、引きたいカードを引く運勢のことだ。そして引き運が悪くてどんずまりになることを、手札事故と言うらしい。

 そして手札事故は、デッキのカードがバラバラなとき、起こり易いらしい。ボク達のデッキはアウトレイジのみんなだけでできているが、皆が皆入っているため、相当バラつきがあると思う。手札事故だって、起こらない方がおかしいレベルだ。だが、この2回の戦いで手札事故は起きていない。むしろ、勝てるカードしか引いていない。先輩のエマージェンシータイフーン三連打が分かり易い例だろう。

 ボク達の主人である切札勝太みたいに、「ドロドロドロドロドロー!」とか言って、気合いで切り札を引いている訳でもない。

 恐らく、そういうことなのだろう。

 

 

「私のターン。まずフィールドにいる『無法の(アウト)レイジ・エッグ』の効果発動。デッキトップを確認し、それがエグザイルでないクリーチャーであれば、エッグを破壊し引いたクリーチャーを特殊召喚する。ドンっ。デッキトップのカードは……」

 アリスがドローしたカードを見るが、大して驚きもせず、そのままクロウに見せた。

 デュエルしていないテスタロッサでもアリスが引いたカードが『アクアサーファー』だろうと、予想できてしまった。最早2人のデュエルに、運勢は関わってこないのだから。

「デッキトップのカードは、『アクアサーファー』。よって『無法の(アウト)レイジ・エッグ』を破壊し、アクアサーファーを特殊召喚」

 

《アクアサーファー》クリーチャー

星6/水属性/水族/攻2000/守2000

召喚したとき、フィールドのカード1枚を手札に戻す。

 

「『アクアサーファー』の効果発動。クロウさんの伏せカードを手札に戻す」

 クロウの伏せカードが、クロウの手元に戻ってくる。

「ブラックフェザードラゴンを戻さないということは、」

「除去できる算段があるということか。だがブラックフェザードラゴンは攻撃力2800のモンスター。そう簡単ではないぞ」

 不動遊星とジャック・アトラスが、重々しく言った。テスタロッサはこのターンでキルできるカードのコンボがあったなそういえば、と人事のように考えていた。人事であって欲しかったからだ。

「私はアクアサーファーとマジックマ瀧をリリースし、このモンスターをアドバンス召喚」

 そう言ったアリスは、手札にあった白紙のカードをクロウに見せた。

 そのカードに、テスタロッサ以外の3人が首を傾げ、テスタロッサは嫌そうな表情をした

「テスタ。出番よ」

 アリスがテスタロッサを見たが、テスタロッサは明後日の方向を見て目を合わせようとしなかった。

「テスタ。アナタいい度胸ね。覚悟は、」

「分かったから!やればいいんだろ!?分かったから!その代わり、俺も先輩を召喚するときは、ちゃんと召喚されてくれよ!」

「え?嫌よ面倒だし…」

「はぁ!?」

 テスタロッサはアリスとガミガミ喧嘩しながらモンスターのいる中を突っ切り、アクアサーファーの横を素通りし、アリスの隣まで来ると、アリスの握っていた白紙のカードに手で触れた。すると白紙のカードがみるみる赤く染まり、テスタロッサが描かれたカードになった。

「私はこのバカを召喚」

「うっせぇよ。それほどバカじゃねぇだろ、俺」

「自覚ないのね、テスタは。知ってたけど」

 

 

《灼熱の斬撃 テスタ・ロッサ》クリーチャー

星7/アウトレイジMAX / 戦士族 / 攻2000/守2500

このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を墓地に置く。それが魔法カードであれば、このクリーチャーは攻撃力を1000ポイントプラスし、もう1度攻撃できる。

 

 

 「仕方ねぇなぁ…」と言って、モンスターゾーンに入っていくテスタロッサに、遊星達3人は絶句する。「は?」「なに?」「…?」と、同じような表情をしていた。

「私のターン、ドロー。バトル。テスタで『BF-毒風のシムーン』を攻撃」

 テスタロッサが静かに、BF-毒風のシムーンに歩み寄る。ぱっと見いつものテスタロッサと同じだが、その雰囲気だけで、シムーンは後ずさりを始めた。

 相手が悪すぎた。

 シムーンに触れられるぐらい近くまで歩み寄ったテスタロッサは、シムーンをパンチ一発で消し飛ばした。

「テスタの効果発動。デッキトップを見てそれが魔法カードなら、テスタは攻撃力が1000上がりもう一度攻撃できる。どんっ。魔法カード。テスタでブラックフェザードラゴンを攻撃」

「へいへい。おりゃっ」

 またもパンチ一発で、ブラックフェザードラゴンが消滅する。

 焦りも相まってか、またクロウは吐き捨てた。

「クッソ!次引いたのが魔法カードなら、俺の負けか」

 クロウが吐き捨てるが、アリスは天使のような笑顔でクロウに言った。

「まさか、次魔法カードが出ないかもしれないとか思ってる?それなら諦めて。このデッキのカードは全て、私とテスタの仲間だから。その皆が、全力でデッキトップを魔法カードにしてくれるわ」

 クロウにとって、アリスの笑顔は逆に恐ろしく見えた。

「……」

「どんっ。はい、魔法カード。テスタの攻撃力は4000に。テスタ、次はダイレクトアタック」

 相棒が破壊されてもまだ固まっていたクロウだが、結局できることなんてなかった。手札は2枚。どちらも手札誘爆の効果はない。そして、もうフィールドにモンスターは残っていなかった。

{クロウのライフ3000→2600→2400→0

 



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クオリア

 クロウに勝ったテスタロッサとアリスは、不動遊星達からジュースと栄養バーをせしめ、外で一息ついていた。

 というか、さっと出せるのがジュースと栄養バーとは、あの3人の食生活が伺い知れる。

 ガレージの外で隣り合うように座り込んだ2人は、ようやく今の状況整理を始めた。

「まず、此処にいる理由すら不明なのよね」

「そうだな。犯人は神様っていうのより、俺達が知らないクリーチャーって線の方があり得るけど、それも含めて全っ然何も分からないよな」

「もしくは、私達が知らないあの世界の法則の1つ、とか」

「あり得なくはないだろうな。ま、そんなこといいじゃねぇか。こうして五体満足でいるんだしよ」

「…そうね」

「……」「……」

 自然と、2人が黙る。

 昔のように話すのは楽だったが、そうもいかない。

「…アリスが死んだ時、俺は本当に悲しかった」

「………」

「言っちゃ悪いが、パルサーが死んだ時より…」

 途中で、テスタロッサの言葉が切れる。

 さっきまでは知らない世界に怯え、動き続けてないと不安でいっぱいだった。だから動き続けて、情報を集めた。だが少しずつだがこの世界のことが分かってきて、ちゃんと座って落ち着く余裕が生まれると、彼の心に湧き上がるものがあった。

 隣に座るアリスの顔を近くでちゃんと見て、今自分がアリスといる、という現実をテスタロッサがようやく受け止めた瞬間だった。

 アリスはテスタロッサの呆けた表情に、首を傾げる。

「どうしたのよ、テスタ」

 テスタロッサの目から、涙が溢れる。

「ちょっ、テスタ!?」

 クールビューティーで人気だったアリスが、珍しく狼狽する。

「ちょっ、テスタ、どうしたのよ」

 分かりきっている質問。これが彼女の精一杯だった。

「………、、」

 アリスの目からも、涙が溢れる。

 好きな人を守ろうとして死んだのだから、アリスにとっては本望だった。だが、好きな人ともっといたいという願いは、デュエマ世界では終ぞ叶わなかった。

 駅前でテスタロッサを見た時から、こうして2人でいられることが、嬉しくてたまらなかった。ただあの時は気が動転していたし恐怖心もあったしで、マトモにテスタロッサのことを考えてはいなかった。

 こうして2人で座って、安心し、ようやく心に溜め込んでいた感情が、溢れてきたのだ。

 

 

 

 

 

 喜びを噛み締めるように泣く2人を影から見ている人達がいた。

 不動遊星とジャック・アトラス、そしてクロス・ホーガンの3人だった。

 いきなり現れ、賭けデュエルを挑んできた2人を怪しまない人などいない。その2人の内1人が、カードとなったりもしたのだ。

 だが2人の様子を見て、不動遊星達3人は安心した。少なくとも2人が悪人でないことは、見ていたら分かったからだ。

 自分達より年下の少年と少女が泣く光景は、3人の心をうった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ先輩、これからはアリスって呼んでいいか?」

 存分に泣き、少し落ち着いたテスタロッサは、アリスに聞いた。アリスは少し考え、言った。

「…いいわよ。歳も同じくらいだし。でも、どうして?」

「…もっと仲良くなれる気がしたんだ」

 ストレートな物言いに、アリスがたじろぐ。

「…、ふーん」

 



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地縛神 リターンズ

 不動遊星は、嫌な予感がしていた。

 カードとなれるテスタロッサとアリスの登場や、朝早くに出現し忽然と姿を消した『地縛神』。どれも普通ではなかった。

 

 

 

 

 朝、不動遊星は早くに起きていて、ランニングがてら住処の近くを走っていた。するとシティの上空に突然『地縛神』が現れるのが見えた。そして出現してから1分もしない内に『地縛神』がバラバラになって消えるのも、少し遠くから見ていた。その時不動遊星は驚いたが、慌てず自分のDホイールに乗り込み、『地縛神』が出現した場所へ向かった。

 十数分で着いた不動遊星だが、『地縛神』のじ、の文字すらない駅前に驚愕した。何もなかったかのように駅前で人を待っていた男性に『地縛神』について聞いてみると、「最初は驚いたが、デュエルで召喚されたみたいだったし、ただ大きいモンスターだな、ぐらいにしか思わなかったね。すぐに消えたし、無視したよ」と答えられた。デュエルしていた人について聞いてみると、老人とスーツ姿の二人組だと教えられた。そしてデュエルが決着すると老人が倒れ、スーツ姿の男が老人を抱え、どこかへ運んでいったらしい。

 不動遊星はよく状況が飲み込めなかったが、とりあえず納得して家に戻った。そして、家にテスタロッサとアリスが現れた。スーツ姿の二人組とは彼らだと思った遊星だったが、状況を何も分かっていなかったため、黙ってクロウのデュエルを見守ることにした。

 デュエルでスーツ姿の二人組は、最後まで『地縛神』を使うことはなかった。しかも勝利したが痣を持つクロウを傷つけたりはしなかった。つまり、この二人組が『地縛神』を倒したのだと遊星は考えた。そして次に、初めて見るクリーチャーというモンスターが『地縛神』みたいに危険なものかもしれないと警戒した。

 だが、それも杞憂だった。涙を流す彼らは、純粋に再会を喜んでいた。あんな顔ができる人間が悪人だとは、遊星自身が思いたくなかった。

 結局2人のことはよく分からなかったが、不動遊星は2人を信頼した。

 

 

 

 

 5人ともが、同時に反応した。遊星、ジャック、クロウの3人は体にある痣が輝いたことで、テスタロッサとアリスは戦場で培った耳で気づいた。

 ピュロロロロロロ!!

 紛れもなく、『磁縛神』の声だった。

 ここからは少し遠いが、『地縛神』の巨体は遊星達がいる場所からも見えた。

「なっ、アイツはカーリーの!!」

 ジャックが隠れていたことも忘れ、声を荒げた。クロウも驚いているが、遊星は重い表情をしてシティの空に居座る『地縛神』を見ていた。テスタロッサとアリスは素直に面倒そうな表情をしたが、『地縛神』が人から何かを吸い上げ始めた辺りで、深刻な表情に変わる。

「人の魂を、吸ってるのか?」

 テスタロッサが独り言のように呟く。遊星は物陰から出てくると、頷いた。

「あぁ。『地縛神』は人の魂を糧とする。君達は朝、奴と戦っていたのだろう?その時は魂を吸っていなかったのか?」

 遊星の言葉に、テスタロッサは首を横に振る。

「ちょっと待て!貴様ら、『地縛神』と朝戦っていただと!?」

 ジャックが会話に割り込んでくるが、テスタロッサは魂を吸い続ける『地縛神』から目を離さず、ジャックの問いを無視した。それに憤慨したジャックはテスタロッサに詰め寄ろうとするが、アリスが徐に立ち上がったことで、ジャックの足が止まる。

「テスタ、アイツは止めるべきよ」

 短いが、とても力のこもった言葉だった。テスタロッサは、アリスの言葉に頷く。

「そうだな」

 テスタロッサも立ち上がると、トンっ、とジャンプし、遊星達が住む建物の外壁を蹴り、そのまま別の建物の屋上まで飛び移った。アリスもそれ続く。

 テスタロッサがさっきのデュエルでカードになったのを見ていた3人は、非現実的な2人の身のこなしに反応することもなくそのまま受け入れ、自分達のDホイールに乗り込んだ。

 

 

 

 

 『龍可』と『龍亜』という名前の兄妹は、デュエル・アカデミアからの帰り道でいきなり『地縛神』と出くわした。

 頭上に出現した巨大な黒い心臓が空を覆い、ただでさえビルと高速道路によって日射量が少ない道を歩いていた2人は、いきなり現れたモンスターの圧迫感に、まともな反応すらできずにその場で固まっていた。

 かつて倒した筈のモンスターの一体が、突然平和な日常に入ってきたのだ。切り替えられる人の方が少ない。

 突然現れた黒い心臓は、近くの人間の魂を吸い始めた。2人の体にある痣が反応し、兄妹だけは難を逃れたが、周囲にいた人達は皆魂が抜かれ、倒れ伏した。

 黒い心臓はある程度の人間を喰らうと光り始め、大きな鳥型のモンスターに姿を変えた。姿を変化させた『地縛神』は、まだ喰い足りないのか、遠くにいて無事だった人達の魂も嘴から吸い込み始めた。

「ふっ、フハハハハハ!」

 動いている人が殆どいなくなり静まり返ったネオ童実野シティに、老人の笑い声が響く。

「シグナーでもない奴に油断して負けるとは!我ながら失態、大失態じゃわい!」

 老人は大笑いをしていたが、龍亜と龍可を見つけると、彼等に対して言った。

「ほう。貴様ら、シグナーか。ならば、まずは貴様らから殺してやるわい。言っておくが、朝のように油断はせぬぞ」

「み、皆を解放しろ!」

 龍亜が勇気を振り絞り、言い放つ。老人は鼻で笑うと、近くにいた、デュエルの途中で魂を抜かれたのかデュエルディスクをつけたまま動かない男からデュエルディスクを奪い取ると、腕につけた。

「そういうことは、強くなってから言うべきじゃな。少なくとも、ワシは貴様らより強いぞ」

「なんだと!!」

「龍亜!」

 安い挑発にのった龍亜を、妹である龍可が制すが、すでに双子にはデュエルしない選択肢などなかった。

 誰かが割り込みさえしなければ。

「やっぱり朝の奴だな。テメェ死んだんじゃなかったのかよ」

「私達も迂闊だったわ。変な奴だとは思ってたけど、心臓が止まっても生きているなんて、考えもしなかった」

 空から落ちてきた少年と少女が、双子と老人の間に着地した。

 テスタロッサと、アリスである。

 そもそもクリーチャー世界の住人は、この世界の人間とは比べ物にならないくらい高い身体能力を持つ。2人はその中でも、小さくはあるが歴史に名前が残る活躍ができる強者なのだ。高速道路を車より速く走ることも、沢山あるデュエルレーンから高速道路に飛び移ってショートカットすることだって、2人にとっては造作もなかった。

「あなた達は…」

 龍可が聞くと、アリスは振り返って双子に言った。

「邪魔だから、少し離れて」

 邪魔、と言われた龍可は言葉を失って黙り込んだ。龍亜は「俺だって今はシグナーだ!」と男の子らしく言い張るが、アリスの一睨みで黙る。

 テスタロッサは朝よりシワが増えた老人を睨みつけた。

「魂を吸われた人達は、テメェが死ねば解放されるのか?」

 くっくっく、と笑った老人は、「そうかもしれないな」と言った。「そうか」と短く言い放ったテスタロッサは持っていたデュエルディスクを腕につけた。

「だったら…、」

「そのデュエル、俺がもらう!」

 テスタロッサが言い終わる前に、不動遊星の声が遮った。

 不動遊星は自身のDホイールをテスタロッサと老人の間に滑り込ませた。

「お前がダークシグナーか?」

「「遊星!!」」

 不動遊星の登場に、龍亞と龍可は息を吹き返し、年相応の元気な顔をした。

「ふんっ。カーリーに何かあったと思って来たが、誰だ貴様は」

「へっ。前に会ったダークシグナーよりは、全然弱そうじゃねぇか」

「「ジャック!!クロウ!!」」

 ジャックとクロウも遅れて登場した。彼らもまた、老人からテスタロッサとアリス、それから龍亜と龍可を守るように、間に滑り込んだ。

 守られる形になったテスタロッサとアリスは、回り込んで遊星達の前に立って戦おうとしたが、テスタロッサの肩をクロウが、アリスの肩を遊星がつかんだ。

「『地縛神』は、俺達の世界の問題だ。お前達は、戦わなくていい」

 遊星の言葉に、テスタロッサとアリスは驚く。

 デュエマ世界では、強い2人に「戦うな」と言うクリーチャーなどいなかった。守られることは何度か経験があるが、2人にとって「戦うな」は新鮮だった。

「ダークシグナー!俺とデュエルだ!」

 遊星が指を指して言い放ち、老人は笑う。

「仕方がないか。まずはシグナーを1人2人殺して、それから貴様らを殺そうぞ」

 テスタロッサとアリスを見て言う老人に、クロウが言った。

「コイツらは、まだガキだ。やるっていうなら、俺達3人を負かしてからだよ!」

 3人の、テスタロッサのアリスを庇う姿勢に、龍可は首を傾げた。龍亜も、只ならぬ雰囲気の2人に、興味を持ち始めていた。

 テスタロッサとアリスはこの状況に理解が追いつかず、ただ黙って成り行きを見守ることしかできなかった。

 

 




次回は、テスタロッサとアリスが遊星に1枚のカードを貸す予定です。
 それと調べてて知ったのですが、アウトレイジは絆の力で強くなるんですね。知りませんでした。遊星達シグナーと一緒ですね。


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地縛神 リターンズ2

 ネオ童実野シティに敷設されたデュエルレーンを、赤と黒のバイクが走り抜ける。

 片やその両腕とバイクでネオ童実野シティを救い続けた不動遊星。もう一方は、盗んだデュエルディスクを腕につけ、これまた盗んだバイクで走る、白髪の老人だった。

 Dホイールというバイクに乗りながら行うデュエルを『ライディングデュエル』といい、これからある世界大会WRGPもこの形式で行われる。

 スピードワールド2という特殊ルールがあり、ターンごとに増えていくスピードカウンターを使って色々な魔法カード(スピードスペル)を発動できる。初見には入っていきずらいように見えるが、スピードスペルも、要は魔法カード。分からない人でも結果だけ注意して見たら、ちゃんと面白くはなっている。

 そのライディングデュエルだが、バイクで行うため移動範囲がやたらと広い。なのでテスタロッサ達6人は、クロウのバイクに映る映像から遊星のデュエルを見守ることとなった。

「貴様ら、あのダークシグナーと戦ったのだろう?どんな戦い方をする奴だったのだ?」

 ジャックがテスタロッサとアリスに聞くと、テスタロッサは肩をすくめた。

「あの時は後攻ワンキルしたから、そんなに知っていることなんてないぞ。…そうだな、1ターン目で『地縛神』とかいうのが出てくるぐらいしか…」

 

 

 

 

 

 

 フィールド魔法『死皇帝の陵墓』を発動し、朝の時と同じ流れで『使神官ーアスカル』と『赤蟻アスカトル』を特殊召喚した老人は、そのまま『地縛神』を召喚した。

「2体をリリース!」

「くるか、『地縛神』」

「今再び五千年の時を越え、冥府の扉が開く 我らが魂を、新たなる世界の糧とするがいい!光臨せよ、『地縛神 Aslla piscu(アスラ ピスク)』!」

 

《地縛神 Aslla piscu(アスラ ピスク)》効果モンスター

星10/闇属性/鳥獣族/攻2500/守2500

(1):「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

(2):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(3):相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。

(4):このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(5):また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、このカードの効果以外の方法でフィールド上から離れた時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×800ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 

「先攻は攻撃できない。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン!」

   遊星スピードカウンター→2

    老人スピードカウンター→2

   遊星手札→6

「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しないとき、手札の『アンノウン・シンクロン』は特殊召喚できる。来い、『アンノウン・シンクロン』!」

 遊星が乗る赤いバイクの横に、カメラのレンズがついた鉄くずの固まりのようなモンスターが現れた。

 

 

 

《アンノウン・シンクロン》チューナーモンスター

星1/闇属性/機械族/攻0/守0

「アンノウン・シンクロン」の①の方法による特殊召喚はデュエル中に1度しかできない。

①:相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

「更に俺は、手札の『救世竜セイヴァードラゴン』を墓地へ送り、手札から『クイック・シンクロン』を特殊召喚!そして『ドッペル・ウォーリアー』を通常召喚!」

 

 

 

《クイック・シンクロン》チューナーモンスター

星5/風属性/機械族/攻700/守1400

このカードは「シンクロン」チューナーの代わりとしてS素材にできる。

このカードをS素材とする場合、「シンクロン」チューナーを素材とするSモンスターのS召喚にしか使用できない。

①:このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。

《ドッペル・ウォーリアー》モンスター/効果

星2/闇属性/戦士族/攻800/守800

①:自分の墓地のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

②:このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドに「ドッペル・トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

「俺はレベル2の『ドッペル・ウォーリアー』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし怒りが、忘我の戦士に鬼神を宿す! 光射す道となれ!シンクロ召喚!吼えろ! 『ジャンク・バーサーカー』!」

 

 

《ジャンク・バーサーカー》シンクロモンスター

星7風属性戦士族 攻2700守1800

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

自分の墓地に存在する「ジャンク」と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。選択した相手モンスターの攻撃力は、除外したモンスターの攻撃力分ダウンする。また、このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 

 

「シンクロ素材となった『ドッペル・ウォーリアー』の効果発動!フィールドに2体の『ドッペル・トークン』を特殊召喚!」

 

 

 

《ドッペル・トークン》トークン

星1/闇属性/戦士族/攻400/守400

 

 

 

そして俺はレベル7の『ジャンク・バーサーカー』に、レベル1の『アンノウン・シンクロン』をチューニング!集いし願いが、新たに輝く星となる! 光射す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ!『スターダスト・ドラゴン』!俺はこれでターンエンド」

 

 

《スターダストドラゴン》シンクロモンスター

星8/風属性/ドラゴン族/ 攻2500守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

①:フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

②:このカードの①の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 

 

「やったぜ!スターダストドラゴンだ!!」

 龍亜が喜び声を上げるが、他の面々は龍亜ほど喜びはしなかった。

 ジャックが龍亜に言った。

「龍亜、確かにスターダストドラゴンは奴の地縛神と同じ、攻撃力2500。だが地縛神は、直接攻撃と攻撃対象とならない効果を持つ」

「でも、遊星なら!」

 明るい性格の龍亜が言った。それを聞いたクロウはニヤリと笑い、祈るように手を組んでいた龍可も暗い顔はしていなかった。

 どんな苦境に陥っても逆転してきた不動遊星に対する、チーム5d'sの面々からの信頼度が高いのが分かる光景だった。

 それを見たテスタロッサとアリスは、自然と笑顔になった。

 

 

 

「ワシのターン!」

     遊星スピードカウンター→3

    老人スピードカウンター→3

「バトル!地縛神で、ダイレクトアタック!」

 巨大な地縛神が、その巨体を不動遊星に向ける。遊星は慌てることなく、手札のカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「俺は手札の『バトルフェーダー』を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

 

 

《バトルフェーダー》効果モンスター

星1闇属性悪魔族攻0守0

①:相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

 

「チッ、ワシはこれでターンエンド」

「俺のターン!」

    遊星スピードカウンター→4

     老人スピードカウンター→4

    遊星手札→2

「俺は手札から『ターボシンクロン』を通常召喚!そしてレベル1の『バトルフェーダー』に、レベル1の『ターボシンクロン』をチューニング!集いし願いが、新たな速度の地平へいざなう!光射す道となれ!シンクロ召喚!希望の力・シンクロチューナー!『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

 

 

《ターボシンクロン》効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻100/守500

①:このカードが攻撃表示モンスターに攻撃宣言した時に発動できる。攻撃対象モンスターを守備表示にする。

②:このカードの攻撃で自分が戦闘ダメージを受けた時に発動できる。受けた戦闘ダメージの数値以下の攻撃力のモンスター1体を手札から特殊召喚する。

《フォーミュラーシンクロン》シンクロモンスター

星2光属性機械族攻200守1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体

①:このカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

②:相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

 

 

 

「『フォーミュラーシンクロン』のシンクロ召喚時の効果発動!デッキから1枚ドローする。俺はレベル8のスターダストドラゴンに、レベル2のフォーミュラーシンクロンをチューニング、アァクセルシンクロォォォォ!」

 遊星の乗るDホイールが、謎の赤い煙を切り裂き始める。

 すると、老人の後ろを走っていたはずの遊星が消え、老人の前に出現する。まさに瞬間移動だった。

「なにっ!?」

「集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く! 光射す道となれ!生来せよ!『シューティングスタードラゴン』!」

 

 

 

《シューティングスタードラゴン》シンクロモンスター

星10風属性ドラゴン族攻3300守2500

Sモンスターのチューナー1体+「スターダスト・ドラゴン」

①:1ターンに1度、発動できる。自分のデッキの上から5枚めくってデッキに戻す。このターンこのカードはめくった中のチューナーの数まで攻撃できる。

②:1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。

③:1ターンに1度、相手の攻撃宣言時に攻撃モンスターを対象として発動できる。フィールドのこのカードを除外し、その攻撃を無効にする。

④:この③の効果で除外されたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを特殊召喚する。

 

 

 

 

 『地縛神』には流石に大きさでは劣るが、前のスターダストドラゴンよりはガッシリしたドラゴンが現れる。『地縛神』が全て倒された後に、不動遊星が未来の敵と戦う最中手に入れたアクセルシンクロは、『地縛神』の記憶にはなく、当然老人も初めて目にしたものだ。

 だが直ぐに老人は平静を取り戻した。

「だが、貴様のドラゴンは『地縛神』に攻撃できんぞ!…ふむ、何か企んでおるな?」

「……」

「そうはさせんよ!トラップ発動!『強制脱出装置』!貴様の『シューティングスタードラゴン』は手札へ戻る。じゃがシンクロモンスターは手札に戻らない。さぁ、エクストラデッキへ帰るのじゃ!」

「何っ!?シューティングスタードラゴン!!」

 

 

《強制脱出装置》通常罠

(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを持ち主の手札に戻す。

 

 

 召喚されてすぐ強制送還をくらったシューティングスタードラゴンは、悔しそうにグルルルル、と鳴きながら消滅した。

 『シューティングスタードラゴン』は『スターダストドラゴン』と同じく破壊耐性があるが、強制脱出装置は破壊効果ではないため、簡単に通ってしまった。不動遊星にとっては、無駄にシンクロ素材を消費しただけの結果となった。

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 遊星手札→1

「ワシのターン!」

     遊星スピードカウンター→5

    老人スピードカウンター→5

「地縛神で、ダイレクトアタック!」

 地縛神が遊星に迫るが、遊星は伏せカードを発動せず、そのまま受けた。

「ぐぁぁぁぁ!」

遊星LP4000→1500

「ワシはこれで、ターンエンドじゃ」

 

 

 

 

 

「「遊星!!」」

 龍亜と龍可が叫ぶ。

 不動遊星のフィールドには、ドッペルトークン2体と伏せカード1枚のみ。対して老人も伏せカードは1枚のみだが、地縛神がいる。地縛神は、単独で強い。このターンで地縛神を除去しなければ、遊星は後々もっと苦しくなってくる。ハッキリ言って、結構なピンチだった。

 地縛神との戦いを経験したチーム5d'sの面々だからこそ、スタートダッシュで躓いた遊星がどれだけピンチかを理解していた。

 テスタロッサとアリスは、それ程心配していなかった。なぜなら…。

「そう言えば貴様ら、遊星にカードを渡していたな。何のカードなのだ?」

 ジャックがテスタロッサとアリスに聞いた。

 代わりにデュエルする遊星が負けないように、デュエルが始まる前テスタロッサは1枚のカードを遊星に渡していた。

「別にいいだろ。必要なら、アイツは勝手に出てくるだろうし」

 

 

 

 

 

「俺のターン!!」

     遊星スピードカウンター→6

    老人スピードカウンター→6

 遊星は、ドローしたカードを見て、驚いた。そして、クロウがデュエルしていた時にアリスが言ったことを思い出して苦笑し、ズルいな、と思った。

「俺は2体のドッペルトークンをリリース!これが、俺と彼らの絆の力!アドバンス召喚!現れろ、『不死帝ブルース』!」

 

 

 

《不死帝ブルース》 クリーチャー

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守2000

このクリーチャーをモンスターゾーンに出した時、自分の山札の上から3枚を墓地に置く。

1ターンに1度、自分の墓地と除外されたカードから召喚してもよい。

このクリーチャーを墓地から召喚してもよい。

 

 

「トラップ発動!『強制脱出装置』!」

 老人が、最後の伏せカードを発動するが、遊星に阻まれた。

「カウンタートラップ、『神の宣告』!これでLPを半分にし、『強制脱出装置』の効果を無効化する!」

 

 

 

『神の宣告』カウンタートラップ

①:LPを半分払って以下の効果を発動できる。●魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 

遊星LP1500→750

「『不死帝ブルース』の効果発動!俺は墓地のレベル8モンスター『スターダストドラゴン』と自身の効果で除外されたレベル1の『バトルフェーダー』に、墓地のレベル1モンスター『救世竜セイヴァードラゴン』をチューニング!」

「ぼ、墓地と除外されたモンスターでシンクロ召喚だと!?」

「集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す!光射す道となれ!シンクロ召喚!光来せよ!『セイヴァー・スター・ドラゴン』!」

 

 

《セイヴァー・スター・ドラゴン》シンクロモンスター

星10/風属性/ドラゴン族/攻3800/守3000

「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」+「スターダスト・ドラゴン」+チューナー以外のモンスター1体

(1):相手が魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし、相手フィールド上のカードを全て破壊する。

(2):1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、その効果をエンドフェイズ時まで無効にできる。また、この効果で無効にしたモンスターに記された効果を、このターンこのカードの効果として1度だけ発動できる。

(3):エンドフェイズ時、このカードをエクストラデッキに戻し、自分の墓地の「スターダスト・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。

 

 

 遊星の叫びと共に、白銀の妖精のようなドラゴンが現れた。

 悪魔のような外見をした『不死帝ブルース』と隣り合わせに並ぶと、お互いのベクトルが逆方向に強調されるかのように、2体の威圧感が倍増した。

 ちなみに『不死帝ブルース』は闇のアウトレイジとして恐れられていて、テスタロッサの師匠でもあったりする。

「『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果発動!1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、その効果をエンドフェイズ時まで無効にする!行け、『セイヴァー・スター・ドラゴン』!地縛神アスラピスクの効果を無効化しろ!」

 セイヴァー・スター・ドラゴンが鳴き、その迫力で地縛神が固まった。

「バトル!『不死帝ブルース』で、地縛神アスラ ピスクを攻撃!」

 不死帝ブルースは、持っていた巨大な何かを振りかぶると、地縛神の巨体に叩きつけた。その一発で、地縛神は爆散した。

「『セイヴァー・スター・ドラゴン』で、ダイレクトアタック!」

 最後の悪足掻きのように、老人から黒い影が現れ『セイヴァー・スター・ドラゴン』に襲いかかるが、『セイヴァー・スター・ドラゴン』はその身に纏う光る粒子で影をはねのけ、輝きだけで老人を吹き飛ばした。

「グァァァァァァァァ!!!」

ダークシグナーLP4000→3500→0

 

 

 

 

 バイクを派手にクラッシュさせた老人だが、何の偶然か生きていた。

 老人は目を開けると、不動遊星が自分を見下ろしているのが分かった。

「……シグナー」

 遊星はデュエルレーンに倒れ込んでいる老人の隣に座ると、言った。

「あなたがどうして地縛神に縋ったか、俺は知らない。だから何かを言える立場じゃないが、それでも言う。『地縛神』を頼ることは諦めてくれ」

 老人は目を見開き、遊星を見た。

 敵の心情を、老人は考えたことはなかった。まして、理解できるなんて思ってもいなかった。だがこの男は、相手を理解しようとすることを諦めていなかった。

「……ワシの自己満足じゃ。大した理由でもない。息子達だって、殺さたがそれで救われた命も…」

 自然と、老人の口から言葉が出てきた。

「悪かったのぅ、シグナーの少年よ」

 



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「黒幕」

「ふふふ。上手くいくものだね」

「…ワタシは天才だからな」

「いいよいいよ。それぐらい覇気がないとね」

「……」

「ダークシグナーをどうこうするのは、案外難しいことだ。元々ダークシグナーは精神状態が普通じゃないからね。君は確かに天才だよ、Dr.フェイカーさん。いやぁ、僕もテスタロッサとアリスの置き場所には悩んでいたんだ。その点、シグナー達とひっつければ行動も読み易くなる」

「…………」

「地縛神をテスタロッサとアリスに噛みつかせれば、まず間違いなくシグナーも寄ってくる、確かに君の言う通りになった。君には感心したよ」

「関わらせるのがシグナーなのは何故だ?人質をとるなら、デュエルを知らない一般人でもよいのではないか?」

「君はアウトレイジの異常さを知らないから、そう思うことも仕方がないね。アウトレイジという人種はね、『男』を大事にするんだ」

「『男』、だと?」

「そう、『男』。『男』として恥じないように生きるし、『男』として見過ごせないものを見たら、迷わず止めようとする。脳筋の集まりだから、男気とかを大事にするんだ。だから人質なんてとったら、力を倍増させてくるだけだ」

「なんだソレは…」

「僕も意味が分からないよ。でも、オラクルの敗因はソレだなんだ。悔しいがね。奴らは押さえつける程、強くなる」

「…九十九遊馬のようだな」

「ソイツは誰だい?」

「………九十九遊馬のことか?」

「そう。その九十九遊馬君だ」

「九十九遊馬は……、主人公のような男だ」

「ふむ」

「苦境に陥っても、必ず勝つカードを引いてきた。そんな奴だ」

「……興味深いね。九十九遊馬君は、今どこにいるんだい?」

「………WRGPに出場する予定らしい。すぐに、この街に来るはずだ」

「そうかい。それなら、手駒が必要だね。バカはアウトレイジと九十九遊馬だけじゃないだろう。世界は、常識を知らずに挑むバカばかりだ」

「………」

「僕達の秘宝、このオラクルジュエルで死者を蘇生させよう。めぼしい人はいるかい?」

「Z-ONEなら、シグナーの各個撃破に役立つだろう」

「それは僕も考えたよ。他には?」

「…いや。特には思いつかないな」

「そうかい。ふむ…まぁ、追々考えることにしよう」

「………シグナー達は、地縛神が何故今出てきたか、疑問に思うだろうな」

「ん?まぁ、そうだね」

「アウトレイジの者なら、アナタ様の存在も考えるのではないか?それはよいのか?」

「いいよ。どうせ遅いか早いかの違いだ。だったら早めに仕掛けてアウトレイジとシグナーの戦力を把握することはそう悪いことじゃないだろう?それに、アリスの件もある」

「アリスの力とは、それ程のものなのか?一体どんな…」

「それは秘密だよ、こればっかりはね」

「……アナタ様の思考は、ワタシにはよく分からない時がある。本当に計画を成功させる気があるのか?」

「あるよ。でも、僕の道楽が優先だ」

「……分かった。そのつもりでいる」

「アリスの力は多分君の度肝を抜くだろう。その時の顔が、今から楽しみだ。昔の僕のような顔を頼むよ」

ピピピッッッ

「ん?また計器に反応だな。近くのカメラは、これか。お、いたぞいたぞ。男が一人、子供が一人か。あれは、和服か?久し振りに見たな。彼女はアナタ様の仲間か?」

「……あの方は……………」

「…?」

「あの方は、ヤバい。本当にヤバい」

「………どういう人間なのだ?」

「、あぁ。デュエマ世界で彼女を知らない奴なんていない、大英雄だ。僕達が生まれるよりずっと前、1万年前の戦争でのね」



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「信じらんなーい!」

「信じらんなーい!」

 ネオ童実野シティに、姫の怒声が響きわたる。

 彼女の名前は『プリン』。テスタロッサやアリス達アウトレイジのご先祖様だ。また、テスタロッサと同じく切札勝太に力を貸す、デュエマ世界のお姫様でもある。

 テスタロッサが朝いた駅前で喚くプリンに、通り過ぎる人の多くが冷たい目で彼女を見ていた。

 それを見咎めた青年が、通行者を睨み返す。彼のプリンに対する忠誠あっての行動だが、それが事態を悪化させていた。

 その青年の名前は、『ドラゴン龍』。デュエマ世界では姫の従者としてプリンを助け続け、また切札勝太の星では勝太のライバルでありパン屋さんもやって姫の相手までやっていた、地味に凄い人物だ。

「姫!とにかくこの場所は人目につきます!移動しましょうムービング!」「うるさいうるさいうるさい!姫に指図するな!」「姫!」「大体何なのよ、どこなのよココ!」「姫、分からないからこそ、姫に危険が及ぶかもしれないんですデンジャラス!」

 姫と家来が段々ヒートアップし、更に周囲の目が冷ややかになる。カップルは水をさされたと不満そうな顔をし、子供も泣き出し始めた。

 結構な大騒ぎをしている2人を遠目に見る通行人の中に、2人が誰か分かる人物がいた。

 水文明のデータベースで数回彼らの写真を見ていたアリスは、驚き過ぎて頭が真っ白になっていた。

「アリス?どうしたんだよ…」

 隣にいたテスタロッサはアリスの肩を叩くが、アリスは現実を受け止めることで精一杯だった。

「アリス!」、と叫んだテスタロッサが強引にアリスの肩を引き寄せ、ようやくアリスは自分が呆けていたことに気づいた。

「あ、あぁゴメンなさい」

「ホントどうしたんだよ」

 テスタロッサが聞くと、アリスは駅前で騒ぐプリンとドラゴン龍を指差し、言った。

「古の時代、ハンターとエイリアンが殺し合ってたことは知ってる?」

 歴史は自信がないテスタロッサは、少し言葉に詰まる。戦いがあったことは知っているが、それ以上は知らなかった。

「え、そりゃぁ、一応、知ってるぞ?それが?」

 はぁ、とため息をついたアリスだが、再度真剣な顔をすると、言った。

「あの方、特に女の子の方。あの方は、その戦乱を終結させた英雄の1人よ。父親の部下に殺されかけても生き残り、エイリアンの姫でありながらハンターとエイリアンの架け橋として活躍なされ、時には最前線でもご活躍された、大英雄なのよ!」

 いつもよりテンション高めのアリスがテスタロッサに力説し、テスタロッサは「そ、そうなのか…」しか言えなかった。

「ちなみに、私達アウトレイジのご先祖様よ。アウトレイジ特有の体を武器にする能力も、あの方々の能力が由来なのよ?」

「マジか…」

「とりあえず挨拶しに行くわよ!」

「あ、あぁ」

 アリスに引っ張られるまま、テスタロッサはプリンとドラゴン龍の前まで移動した。近寄ってくるスーツ姿の2人に、プリンが反応した。

「アンタ達、確か切札勝太のカードね」

「は、はい!テスタロッサといいます!」「アリスといいます!」

「そ。それで、アンタ達も私達と同じなの?」

 ドラゴン龍以外の部下には気品をもって接する所が、彼女が王族であることを物語っていた。「た、多分そうだと思います!」

 切札勝太の世界で言う所の織田信長レベルで凄い人の前で恐縮しきってしまっているアリスは、プリンの一挙手一投足に注目していた。

 言動から子供っぽく見えるが、彼女は道半ばで表舞台から消えたテスタロッサやアリスなどとは比べ物にならないくらいの、マジの大物なのだ。

 

 

 

 テスタロッサとアリスが産まれるより遥か前、エイリアンの王に1人の娘が産まれた。名前は『プリン』。父親の名前は『エイリアン・ファーザー』、母は『エイリアン・マザー』。『鬼丸』と『修羅丸』という弟も産まれ、順風満帆な生活を送るはずだったが、裏切り者に殺されかけ、プリンの父はプリンがハンターに殺されたと勘違いしてクリーチャーのいる世界に進行を開始。血みどろの戦いが始まるが、そこからプリンはクリーチャー達とエイリアンとの融和を成し遂げ、本当の敵に対抗する連合軍を立ち上げ組織し、幾度となく本当の敵と前線で戦い続けた。

 地縛神との戦いでテスタロッサが使った『狩人秘伝 ハンターファイア』を作ったのも彼女。

 エイリアンの産まれながらハンターとエイリアンの両方の力を持ち、敵であるゼニスの力すら利用し、英雄達を導いた。

 何度も言うが、とてつもなく凄い人なのだ。

 

 

 

「それから、後ろの人はアナタ達の知り合い?」

 覚えのないことを言われ、テスタロッサとアリスは後ろを振り向く。

「すまない。急に君達が走りだしたから、追いかけてしまった」

 人混みをかき分けて、不動遊星が現れた。

「アナタ、この世界の住人ね?この世界どうなってるのよ。グチャグチャじゃない。このままじゃ、じきに破裂するわよ?」

 プリンが何の気なしに言った言葉に、不動遊星は真剣な顔をする。

「どういうことだ?」

「その顔は、知らないのね。いいわ。説明してあげる。まず、私達別の世界の人間が入るのを許容できる程世界は頑丈じゃないの。私達の世界で暴れまわったゼニスとかが一匹でも入ってきたら、アナタ達は皆殺しにされるわ」

「ゼニス……」

「どこかのお馬鹿さんが、世界を混ぜてるのね。このままじゃ、別の世界の人間が自覚なく入ってきて帰れなくなるわ」

 不動遊星は真剣な顔で考え込むが、何か思いつく訳でもなかった。それを見かねたプリンは、言った。

「取り敢えず、私達まだ来たばかりなの。色々とこの世界について教えなさい」

 

 

 

 

 

 

 説明が上手で、ある程度デュエマ世界も知っているアリスがプリン達に説明し終える頃には、日も沈み、辺りは暗くなっていた。

「つまり、この女の子はお姫様ってこと?凄いじゃん!初めて見た!」

 龍亜が無邪気にはしゃぐが、ジャックやクロウなどは、事態がよく飲み込めていなかった。

 いきなり異世界のお姫様が現れ、他の世界と融合がどうとか言われても、実感もない大人には理解しずらいことだった。テスタロッサも、いまいちピンときていなかった。

「あの…アリスさん…つまりどういうことでしょうか…」

 申し訳なさそうに聞くテスタロッサに、アリスが鼻で笑う。

「テスタには難しかったわね。お馬鹿さんには後で教えてあげるから、今は黙ってなさい」

「ちょテメっ、人が下手に出れば…!アリスもプリン様が気づくまで世界の融合とか分かってなかったじゃねぇか!」

「テスタは説明されても分かってないじゃない」

「そうだけど!ちょっとぐらい易しく説明してくれてもいいだろ!」

「そのまんまよ。これ以上噛み砕いたら、こっちがバカになるじゃない」

「ならねえよ!?それに、バカバカ言うな!俺はそこまでバカじゃないだろ!」

「確かにクロスみたいに何の生産性もないことはしてないけど、テスタもしっかりバカよ」

「どの辺りが…!」

「ウッサイわよ!喧嘩ならよそでやりなさい!」

 プリンの一喝がテスタロッサとアリスの喧嘩を止めさせ、一度場の空気が静まり返る。

 ここは不動遊星達が住む家で、普段から不動遊星などがバイクをいじったりしていて周囲の住民も騒音には寛容だ。テスタロッサとアリスがいくら騒いでも近所の人がすっ飛んでくることはないが、それでも聞いてる人からすればうるさいものはうるさい。それにプリンが止めなかったら、テスタロッサとアリスの口喧嘩は更にヒートアップしていた。なんだかんだ、予測できる姫なのであった。

「とにかく、状況は分かったわ。なら、龍!」

 プリンに名前を呼ばれ、ドラゴン龍はさっきとはうってかわって真剣な表情に切り替えた。

「はい!姫!」

「私達もWRGPに出るわよ。アンタは明日の夜までにバイクを3台用意しなさい」

 ぶっ飛んだ命令だった。不動遊星達も顔をしかめ、テスタロッサとアリスも若干引いていた。

 何もない状況からバイクを3台も調達してこいとは、敵から矢を調達した諸葛亮でも考え込むだろう。

「姫の命令なら、不可能を可能にしなさいよ」

 そんなムチャな…、とこの場にいる誰もが思った。だがドラゴン龍という男の場合、姫の言葉は全て使命となる。

「わ、分かりました、姫!ここにいる中で、この世界のバイクに詳しい人はいるかフーアンドウェアー!」

「お、俺なら…」

 気迫に押され、不動遊星がおずおず手を挙げる。

「分かったオーケー!俺に力を貸してくれヘルプ!」

 不動遊星を抱え上げたドラゴン龍は、そのまま走ってこの家から出ていった。

 呆然とする、プリン以外の一同。

 今の光景を見慣れているのか、プリンは表情一つ変えず、次にテスタロッサとアリスを見た。

「アウトレイジ組は、街を巡って私達と同じように迷い込んできた人がいないか探してきなさい」

「「は、はい!」」

 2人が逆らえる空気ではなかった。

 もう日が暮れているが、プリンにとってそれは些事だった。

 

 

 

テスタロッサとアリスが慌てながら出て行き、ジャックやクロウもどこかへ行った後のこと。暇な龍亜と龍可が、スナック菓子を食べるプリンに話しかけた。

「なぁ、世界が混ざり合うって、そんなに大変なことなのか?」

 龍亜が聞いた。それにプリンは頷いた。

「そうよ。例えば、最高神といえば誰が頭に思い浮かぶ?」

「…ゼウスかな」

「日本人なら天照大神を言いなさいよね…。じゃあ、ゼウスと同じ最高神オーディンとゼウスが鉢合わせしたらどうなると思う?」

「???」

「戦争よ。世界に2柱の最高神は必要ない、とか言ってね。最高神と言っても、ゼウスもオーディンも簒奪者よ。同格がいたら、目障りに思う筈だわ。子孫達では太刀打ちできないから、直々にやっつけようってね」

「神様なんている訳ないじゃん」

「なら、地縛神がゴミカード扱いされるカードバランスが崩壊してインフレ状態の世界から敵が来たらどうするのよ。魔法カード1枚で地縛神を連続召喚する相手に、アナタは勝てるの?」

「うげぇ……」

「世界と世界を切り離す方法はないの?」

 今度は龍可が聞いた。

「あるわ。世界を繋げてるお馬鹿さんから、世界を繋げてる何かを奪って止めさせればいいのよ。簡単だわ」

「どうやって探すの?」

「そうね。別の世界から来た強い人でも使おうかしら」



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With The Wind

「どうして俺が…」

 学業を優勢したとはいえ、ハノイの騎士から距離を置くというのは精神的な何かが磨り減っているような気がした。これは焦りなのだろうか。

 俺の名前は『藤木遊作』。リンクブレインズという電脳空間ではプレイメイカーという名前で通っている。

 今俺はデュエルアカデミーという所で、そこの生徒が準備したパーティーに参加している。

 元々俺が通う高校とデュエルアカデミーという学校とは昔から付き合いがあったらしく、色々なイベントを毎年催しているらしい。そしてその一環として、交換留学という話が俺に回ってきた。

 俺は教師うけがそこそこいいらしく、担任が俺に勧めてきたのだ。俺はその時断ったが、俺のデュエルディスクに入っているAI、名前はアイン(仮)というのだが、ソイツが勝手に申し込んでいた。俺が事態を把握した時には既に手遅れだった。

「いいじゃん。新たな発見があるかもよ?」

 アインが何か言っている。

 確かにそうだろう。明日にはこのデュエルアカデミーの近くで遊戯王の世界大会が行われる。実際に目で見て他人のデュエルから学ぶことは、バカにできない重要な経験だ。ハノイの騎士との戦いの助けになるかもしれない。

 そう考え、来る意味はあって遠回りなだけだと割り切り、俺はこの時間を有意義に使うことにした。まず手始めに、並べられたホットドッグに手を伸ばす。

「ここでもホットドッグ食べるのね」

 俺はホットドッグを口に入れたまま、声のした方向を見た。

「ふぉいふぇん」

「飲み込んでから話しなさい…」

 呆れた表情で、『財前葵』が俺に話しかけてきた。

 彼女は俺と同じ学校に通っていて、同じく交換留学生としてこのデュエルアカデミーに来ていた。リンクブレインズではブルーエンジェルとして活躍する人気者ではあるが、それを抜きにすれば兄を慕う普通の女子高生だ。

「君は食わないのか?」

 俺はパーティーというものが苦手だった。だからこのパーティーが始まるとすぐに端へ移動し、特にすることもなかったため、他の人を観察していた。その中で、財前葵がまだ1つも食べ物に手をつけていないことに気づいていた。

「……?」

 俺の言いたいことがイマイチ伝わらなかったらしい。彼女は首を傾げた。

「パーティーが始まってから、何も口にしていなかっただろう?」

「あぁ、見てたんだ。人と立って話すことが苦手なの。後で1人の時に食べるわ」

「そうか」

 俺もこのホットドッグを持ち帰れるのなら、迷わず持って帰ってから食べていただろう。

 ここの空気は、何というか、ギラギラしているとでも言えばいいだろうか。

 ウチの高校から交換留学でこのデュエルアカデミーに来たのは俺と財前の2人だけだが、交換留学生は他にも4人ほどいた。彼らはデュエルアカデミアという所から来たらしく、赤や黄色の制服に身を包んでいて、パーティーが始まる前から目立っていた。そして、彼らがこのパーティーをギラつかせていた。今も「デュエルしようぜ!」などと歓迎パーティーの最中にも関わらずそんなことを言っている人もいる。

 彼らのように初対面でグイグイいかない俺はその場の空気に呑まれていた。

 正直、今からでも帰りたい。恐らく財前も、俺と同じ状態なのだろう。財前の目が、彼女の疲れを表していた。

「オ~イ、そんなトコにいないで、こっちで食えよ!ウマいぞ!」

 赤い学生服に身を包んだ青年がこっちに手招きしてきた。

「いや、俺は…」

「いいじゃねぇか!こっち来いよ!」

 やんわり断ろうとした俺だが、グイグイくるデュエルアカデミアの生徒の前では無力だった。肩を組まれ、そのままズルズルとパーティーの真ん中へ引き出された。

 本当に、勘弁して欲しかった。

 

 

「ここにデュエリストはいるか!!!!」

 

 

 扉を蹴破る音と共に、少年を小脇に抱えた男が1人乱入してきた。彼の後ろには、レンズに星がペイントされたゴーグルを頭につけていた。

「ふむ…………。そこのお前、そこの女、それから赤い奴、俺について来い」

 乱入した男はパーティーの会場を見回し、俺と財前葵と、それからさっき俺を引っ張った赤い制服の人を指差した。

 声が特徴的なその男は、芸能人なんて全く知らない俺でも分かった。彼は『海馬瀬人』。デュエルキングである武藤遊戯のライバルにして、あの究極モンスター《ブルーアイズホワイトドラゴン》を操るトップデュエリストだ。またデュエルアカデミーを運営するKCP(海馬コーポレーション)の社長でもある。

 そして小脇に抱えられている少年は、確か前回のWDCの優勝者『九十九遊馬』だ。

 海馬さんの後ろにいるゴーグルの少年は、よく知らない。年齢的に海馬さんのSPとかでもないだろうし、この面子と一緒にいるのだからかなりの実力者なのだろう。

 そんなメンツからの呼び出し。しかも財前葵、ブルーエンジェルと一緒にだ。

 俺は今更ながら、来なければよかった、と後悔するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「海馬さん、これで全部か?」

「あぁ、プリンとかいうモンスターが言うにはな」

「てか、早く下ろせってぇ!」

「貴様は大人しくしていろ。もうじき着く」

「お前名前は何ていうんだ?俺は遊戯十代。後でデュエルしようぜ!」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたね。俺の名前は榊遊矢。いいよ、俺のエンタメデュエルを見せてやる!」

「オッケー、」

「貴様ら、少し黙っていろ」

 海馬さんがオカンしてる謎状況が繰り広げられていた。この中にいると、俺と後ろでドン引きしている財前葵の方がおかしいんじゃないかとさえ思えてくる。

 色々と濃いメンツの珍道中は、俺の予想より早く終わった。

 どうやら目的地についたらしく、大きな扉の前

で足を止めた海馬さんは、九十九遊馬を抱えたまま扉を開けて中に入った。続いてゴーグルの人、赤い人、俺と財前葵の順に入った。

「姫をどれだけ待たせる気?もう帰っちゃおうかと思ったわよ!」

「あぁぁ姫少し落ち着いて下さいクールダウン!海馬さんだって本気で、」

「知らないわよ!姫は沢山待たされたの!」

 これから落ち着いた会話が始まると俺は勝手に思っていたが、どうやら更に濃いメンツが加わっただけだった。

 もう渋滞していた。

「貴様、俺がノロマだと言いたいのか?」

「そうよ!姫はね、」「姫!!ウェイトウェイトォ!!」

「お、また面白そうな奴がきたな」

「お姫様かぁ」

「早く下ろせぇって、力強くね!?うっせえなアストラル!分かってるって!」

 財前葵はというと、もう達観した目でこの惨状を眺めていた。会話に入る気力も起きず、最早観客のようなポジションをとっているようだ。

「揃ったわね。九十九遊馬に榊遊矢、それからプレイメイカーにブルーエンジェル。うん、これで全員ね!」

 …………………………。

 お姫様(?)の一言に、財前葵が「えっ!?」と想像通りの反応を見せる。身バレもそうだが、多分プレイメイカーがこんなに近くにいたことにも驚いているのだろう。

 このメンツに連れられる時点で想像はしていた。だがしかし、それでも俺の心中は大慌てだった。とりあえず、しらを切ってみる。

「プレイメイカーっていうのは、最近リンクブレインズで暴れているとかいう…」

「あなたのことでしょ?」

 効果はなかった。これは、完全にバレている。

「藤木くんが、プレイメイカー?」

 財前葵の反応次第で今後の俺の行動が決まる。本当に、厄介な人に絡まれた。それにまだ呼び出された理由を聞いていない。まさか、まだ何かあるのだろうか。



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六天連鎖!

 何だこの世界は。

 悪党は打点1900のバニラによるごり押ししかせず、セキュリティーは『モンタージュドラゴン』によるパワーを使って、これまたごり押しをしている。

 確かにパワーデッキと戦うなら、それ以上のパワーを用意できると楽だろう。だが、出して攻撃するだけのデュエルに何の意味があるのか。こんなにカードを持つ者持たざる者が分かたれた世界など、あっていいのだろうか。

 いや、そんなことは断じてない。

 これならまだ、アッチのぬるま湯の方がまだマシだ。

「き、貴様、何もだ……」

 さっき倒したゴミが足元でうめいているが、我は無視して歩きだした。

 こんな所でゴミと時間を浪費する余裕など我にはない。今すぐにでも天下統一をし、この世界を変革させなければいけないのだ。

「いったぁぁぁぁ!やぁぁっと見つけたぜ!」

「テスタ、うるさいわよ。近所迷惑でしょ」

「だってよ、ちゃんと見つけたんだぜ!これで姫様に胸張って会えるだろ!」

「それもそうだけど、今は夜なのよ」

「あぁ、わりぃ。それで、そこの仮面の人!ちょっと俺達についてきてもらおうか!」

 黒いスーツを着込んだ男女が、我に話しかけてきた。

(またゴミ………………、か?)

 いや、違う。この2人は、今までの奴とは段違いに強い。

「貴様ら、何者だ」

 我の問いに、女の方が答えた。

「私達もあなた達と同じ、この世界に迷い込んできた部類の人間なんだけど、今私達と同じように迷い込んできた人を探してて、それで偶然あなたを見つけたの」

「何故探しているのだ?」

「長居したら世界がおかしくなるらしいのよ。だから早々に帰ってもらうためにもね」

 つまり、彼らは我の敵というわけか。

「ならば、我に勝つがよい」

 我はデッキケースを2人に見せ、言った。

「我はこの世界でやることがある。何もせず返されるのは、なんとしてでも防がせてもらう」

 

 

 

「この世界は今、色々な世界と融合してグチャグチャになっているわ」

 お姫様(?)が話を切り出したが、ハッキリ言って俺はよく飲み込めなかった。

「世界を混ぜている奴がいるってことよ。そして混ざった世界に紛れ込んできたのが、あなた達」

 俺はまだよく理解できていなかった。

「プレイメイカーがデュエルしてる所、リンクブレインズだったわよね」

 いきなり話が飛んできて、俺は一拍遅れて答えた。

「あ、ああ」

「電脳世界、つまり仮想世界らしいわ。ブルーエンジェル以外で電脳世界に行ったことある人、手を挙げなさい」

「仮想現実なら、我が海馬コーポレーションでも開発が続けられて」

「意思を持ったAIが誕生しているらしいわ。プレイメイカー、Aiを出して見せなさい」

 本当に、彼女はどこまで知っているのだろうか。

 俺は肩に下げていたカバンからデュエルディスクを取り出した。するとAiが勝手に出てきて、何か喋り始めた。

「い」

「ほらね、つまり他のメンバーより少し未来から来たのよ」

「喋らせてくれないの!?」

 うん。まぁ喋らないでもらえると助かるが。

「遊作もなんか酷いこと考えてるでしょ!!もう、ゆ」

「その世界を融合させている奴は誰だ」

「…………」

 アインが何も喋らせてもらえないまま、話は次に進んだ。どうやらほぼ全員(九十九遊馬以外)が、アインがお喋りだと気づいているようだ。

「さぁ?それは私も知らないわ」

「貴様…」

「というか、もう話すの疲れたわ。龍、代わって」

「は?え、はぁ、分かりました」

 プリンの相手に慣れたドラゴン龍は、この重要なメンツでの集まりでこれ以上姫からの親切な説明がされないと悟り、説明を代わることにした。甘やかしているかな、とも思ったドラゴン龍だった。

「オホンッ。つまり、その悪い奴が危険なことをしているから、皆で止めようと姫は言っているのだデンジャラス」

 駄目だコレ…。

 遊作は思った。

「つまり…………」

 今まで黙っていた九十九遊馬が、口を開いた。

「つまり、どういうことだ?」

 聞いてたか?」、と思わずツッコミそうな、ずっこけが必要なセリフ。遊作は周りがずっこけるだろうと準備していたが、結局動けなかった。ゴーグルの人はずっこけたが、財前葵と海馬さんはそいういキャラじゃないらしく動かない。お姫様(?)はやり取り自体に興味がないらしい。お姫様と一緒にいる長身の男も動かなかった。赤い人は、そもそも話についてこれていないらしく難しい顔で首を捻っていた。

 つまり、お笑いの形式通りにこけたのはゴーグルの人1人だけだった。

 海馬さんに至っては、何をしている、みたいな侮蔑の眼差しでゴーグルの人を見ていた。

 何というか、かわいそうだ………。

 そして、ここにはツッコミがいない。うわ…。

「言いたいことはそれだけか」

 ゴーグルの人によって作り出された謎の空気の中、俺がどうしようかと考えている間に海馬さんが口を開いた。

「ならば、本題に入るとしよう」

 まだ本題じゃなかったのか…。

 サポート無しでこのメンツという謎状況。いい加減俺の精神力が限界に近かった。

「貴様ら全員、WRGPに出場しろ。エントリーはモクバが全てやる。寝泊まりの場所と食費は我が海馬コーポレーションが払う。棄権、もしくはそれに該当することは認めん。これは決定事項だ」

 

 

 

 テスタロッサと謎の仮面を付けた大男のデュエルは、からくもテスタロッサの勝利で終わった。

 あまりにギリギリのバトルだった。アウトレイジの総力を上げた戦略と引き運、どちらかが欠けていれば完全敗北もあり得ただろう。

 それだけ、この仮面の男は強かった。

 正直アリスは舐めていた。

 2回のデュエルは余裕で終わり、アウトレイジに敵などいないと慢心していた。

 引き運というのは、遊戯王にとっては勝つ可能性すら左右する。それが完璧なのだから、多種多様な戦略や戦術を扱うことも現状可能になっている。それすら上回りかけた、仮面の男の力。

 言うべきだった。

「あなた、私達とチーム組まない?」



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1回戦

「ホントごめん!」

「よい。万に一つとも、我が負ける可能性などありはしない」

「本当か?よろしく頼むぜ!」

「…本当に行くのか?行く価値はないと思うぞ?」

「そうかもな。けどさ、逃げたくねぇんだ」

「……そうか。ならば行ってくるがいい。後は我に任せよ」

 

 

[[さぁぁぁっ!!ついに始まったWRGP1回戦第1試合!あの時の奇跡に感動した者もいるのではないかぁぁぁ!まずは前大会で優勝チームとのデュエル中に『眠れる巨人ズシン』を召喚するという奇跡を成し遂げた、チーム『太陽』だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 高速道路のサービスエリアとでもいうべきか、万が一Dホイールが故障した時のために直せる人が待機するスペースがこの大会ではデュエルレーンの横に設置されていて、そこからチーム『太陽』の3人が姿を現した。

 地鳴りのような歓声。会場が嵐のような熱気に包まれる。

[[対するは、WRGP初参加という無名の新人、チーム『アリス』だあぁぁぁぁぁぁぁ!!]]

 無名の新人というか、そもそも数日前にはこの世界に存在すらしていなかった3人なので、実況の人も話すことがなくて困っただろう。結局名前を紹介するだけで入場アナウンスは終わった。

[[おおっと、これはどういうことだぁぁぁ!!?1人しかいないぞぉおお!!!]]

「テメェ、後の2人はどうした!」

 この会場を代表して、チーム『太陽』の先鋒『林吉蔵』が聞いた。そして帰ってきた返答は、想像の斜め上だった。

「騒ぐな羽虫が。後の2人は用事だ。だが安心しろ。貴様ら羽虫程度、我1人で十分だ」

「はぁぁぁぁ!!??て、テメェ」

「ヨシ!!ちょっと落ち着け!」

 今にも殴りかかろうとした林吉蔵を、ラストホイーラーでチーム『太陽』のリーダー『山下太郎』が止めた。

 その間に、カチンときていたチーム『太陽』の次鋒『谷川甚兵衛』が問いただす。

「お前、名前は」

 仮面の男はフンっと鼻で笑うと、羽織っていたマントを翻し、言った。

「我は第六天魔王。この世界でも天下を統一し、この腐りきった世界を変革する者だ。覚えておけ、羽虫」

「テメェ!!」

「ジン!!!…決着は、デュエルでつけるぞ」

 またもや山下太郎が止めに入り、乱闘騒ぎは起きなかったが、チーム『太陽』にとっては最悪のスタートとなった。

 彼らは前回のWRGPで偉業を成し遂げた。優勝こそしなかったが、彼らを見る周囲の目は変わった。彼らの父親も息子を認めるようになり、人生がガラリと変わり始めていた。その最中に、いい記憶しかないWRGPのスタートで冷水をぶちまけてくるような奴とあたったのだ。3人とも、少なからず気持ちがダウンした。

 バイクを押してデュエルレーンに入った林吉蔵は、第六天魔王とかいう仮面の男がまだバイクを持ってきていないまま佇んでいるのを目にした。

「テメェ、どういうつもりだ」

「慌てるな、羽虫が」

 第六天魔王は自分のデッキケースを取り出すと、呼んだ。

「光臨せよ、テンリンオウ!」

 呼びかけとほぼ同時に、空から小型の飛行機が飛んできて、空中でホバリングして変形し、テーブル付きの空飛ぶ足場となった。そしてそれに、第六天魔王は飛び乗った。

 いきなりのカルチャーショックに、林吉蔵は言葉を失った。観客も「え?バイクは?」とか「いいのソレ…」とか、「ヘルメットしてないし、むしろバイクより危険じゃないの?」と口々に呟き始める。実況の人も上からの回答を待つため、一時的に無言となった。

「い、いいのかよソレ」

「ふん。何か問題があるのなら言ってみるがいい」

 勿論、林吉蔵が何も言えないと分かっていての言葉だった。そもそもWRGPのルールに、Dホイールじゃないといけないルールなど、当たり前すぎて書かれていない。中にはバイクかも怪しい乗り物と合体する人までいたぐらいだ。今更ホバークラフトに動じるWRGPではない。

[[そ、それでは、デュエルスタートだぁぁぁぁ!!]]

「「スピードワールド2、セット、ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 信号が点滅し、そして青一色となる。

 スタートダッシュで勝ったのは、林吉蔵の方だった。彼はホバーを抜き去ると、そのまま第1コーナーをとった。

「俺の先行だ!俺のターン、俺は手札の『嵐征竜ーテンペスト』の効果発動!手札の『巌征竜-レドックス』2枚を除外し、攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

《嵐征竜-テンペスト》

風属性レベル7種族ドラゴン族ATK2400DEF2200

このカード名の(1)~(4)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):手札からこのカードと風属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加える。

(2):ドラゴン族か風属性のモンスターを自分の手札・墓地から2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。

(3):このカードが特殊召喚されている場合、相手エンドフェイズに発動する。このカードを手札に戻す。

(4):このカードが除外された場合に発動できる。デッキからドラゴン族・風属性モンスター1体を手札に加える。

 

 

《巌征竜-レドックス》

地属性レベル7ドラゴン族効果 ATK1600DEF3000

「巌征竜-レドックス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または地属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。

(2):また、このカードと地属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

(3):このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・地属性モンスター1体を手札に加える事ができる。

 

 

[[おおっとお!!今回はレベル1ではなく、レベル7のドラゴン族を特殊召喚したぞぉぉ。一体どんな戦略なんだぁぁぁぁ!]]

「戦略なんてねぇよ、俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド」

 このターンだけで、第六天魔王は見抜いていた。相対するこの男が本当のデュエルを知らないということに。

「我のターン、ドロー」

   第六天魔王SP1→2

     林吉蔵SP1→2

地獄の始まりだった。

「カードを2枚伏せる。スピードカウンターを1つ使い、手札から『イチバンスピアー』を召喚」

 

 

《イチバンスピアー 》スピリット

星4/白属性/戦士族

カウンター(1つ)→Lv1 攻守1500 (2つ)→Lv2 攻守2000

(1): Lv1・Lv2  このスピリットの色とシンボルは赤としても扱う。

(2): Lv1・Lv2  自分の手札にあるカード名「天魔王ゴッド・ゼクス」すべてのレベルを6にする。

(3): Lv2【超装甲:赤/白/青】このスピリットは、相手の赤/白/青のスピリット/アルティメット/ネクサス/マジックの効果を受けない。

 

 

「す、スピリット?」

[[こ、これはどういうことなんだぁぁぁ!!モンスターではない、スピリットが召喚されたぞぉぉぉぉ!!???]]

 ざわつく観客、チーム『太陽』のメンバー、誰も彼もがこの先を予想できていなかった。

「スピリットとは、フィールドのカウンターを消費して召喚される。我は手札から永続魔法(ネクサス)『オワリノセカイ』を配置」

 

 

《オワリノセカイ》永続魔法(ネクサス)

カウンター(1つ)→Lv1

(1):Lv1『自分のバトルフェイズ』

カード名に「ゴッド・ゼクス」と入っている自分のスピリットすべてを、そのスピリットが持つ最高Lvとして扱う。

シンボル:緑青

 

 

 

「低級スピリットは、召喚権を使わない。ただし上級スピリットにはリリースが必要。『イチバンスピアー』をリリース。レベル6となったこのスピリットを召喚」

 第六天魔王が力強く、手札にあったカードを机に叩きつけた。

 

 

「天意に光臨せよ、万能なる魔界の使者、『天魔王ゴッドゼクス』!」

 

 

 上空に黄金の滝が現れ、その中から黄金の騎士が現れた。背部には光輪のような黄金の輪があり、その一つ目が怪しく光る。それはあまりに巨大で、圧倒的な王者の風格を持っていた。

 

 

《天魔王ゴッドゼクス》スピリット

星8/赤・紫・緑・白・黄・青属性/戦士族

カウンター(1つ)→Lv1 2500 (2つ)→Lv2 3000 (10個)→Lv3 10000

(1):このスピリットは、相手のカードの対象とならない。

(2):【六天連鎖:条件《シンボル3色》】

自分のシンボルが3色以上ある間、相手のモンスター/スピリット/アルティメットすべては攻撃できない。

(3):Lv2・Lv3『自分のアタックステップ』

このスピリットに[ソウルカウンター]が置かれている間、自分の2色以上のスピリットがアタックしたとき、相手のモンスター /スピリット/アルティメットのコア2個をトラッシュに置くか攻撃力を1000下げる。

シンボル:白

 

 

     第六天魔王SP1→0

「六天連鎖、発揮!我がフィールドに三色以上のシンボルがある間、お前のスピリットは攻撃できない。そしてネクサス『オワリノセカイ』の効果により、『天魔王ゴッドゼクス』は最大レベルとなっている」

「攻撃力10000!!??」

「『天魔王ゴッドゼクス』でアタックだ」

 

 

 

 

 

 第六天魔王が忙しくしていた時、チームメイトのテスタロッサとアリスはというと、「黒幕」と名乗る男に呼び出されていた。

 試合と時間を被せてきた「黒幕」の狙いは見え見えだったが、2人はアウトレイジ。呼び出しに対して尻尾を巻いて逃げたとあってはアウトレイジの名折れだ。

 そういう訳で2人は試合を第六天魔王に任せて指定場所の自然公園に来た訳だが、時間になっても「黒幕」が現れることはなかった。

「ったく、ただのイタズラかよ」「戻るわよ。今から走れば間に合うだろうし」

[いや、その必要はないよ]

「「!!」」

 テスタロッサの足元、捨てられていた古いラジオから声がした。そしてその声は、2人にとって忘れられない相手のものだった。

[ここまで遥々ご苦労様。どうやら君達も死んでこっちに来たみたいだね」

「……………イズモ………」

 テスタロッサはアウトレイジとなる前までは、オラクル教徒の1人として最高司祭と次期後継者であるイズモの背中を見てきた。そしてクロスファイアというアホと出会い、アウトレイジとなってからはイズモの悔しさや嘆きや悲しみで歪んだ顔を見てきた。

 だからこそ分かる。今のイズモがいきいきしているのを。

「また何か企んでいるのか?だったら止めとけ。俺達がまた沈めるぞ」

 今までになく冷たい表情で、テスタロッサが言った。しかし音声だけのイズモは、動じていなかった。

「やってみるといいよ。アリス、君の力も含めてね。僕の計画は、もう君達では止められない。だからこうして昔馴染みとお喋りする余裕すらあるんだ」

「ほー、随分とアウトレイジを見くびってくれたもんだぜ」

「事実だよ」

「……………」

 イズモの声は、何かの確信を獲ているようだった。もしくは、何か切り札でもあるのか。

「それで?俺達を呼びつけた理由は何だ?」

 テスタロッサが聞くと、ラジオの奥からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

「そんな大層なことじゃないよ。ただ足止めして、チーム『太陽』に負けてくれないかな、程度の嫌がらせだよ」

 そこでアリスが割って入った。

「私たちの残り1人が三タテするかもしれないわよ?」

「だから強いカードをあげたんだ。素人でも勝てるような」

 アリスはクスッと笑った。

「第六天魔王のデュエル、見たことないのね」

[なに?]

 イズモから満足のいく反応が返ってきたので、アリスはたたみかけた。

「そうよね、テスタ。第六天魔王はただ強いのではない」「、あぁ、なんというか、強いんだ」「強いとは何かを理解しているのよ。ちょっとひん曲がっているけどね」

 言語化できなかったテスタロッサに代わり、結局アリスが最後まで言った。

[友情とか、そういうのかい?それなら飽きる程知って…]

「違う。どう強いか分かっている。だから強いのよ」

 煽る。

[なに?]

「ただ強いカードを集めれば強くなるなら、大会が盛り上がることはないわ。必ず、強さには理由があるの。もしかして、本当に強いカードをあげただけなの?」

 煽る煽る。

[……]

「戻るわよ、テスタ」「あ、アリスさん?どうなされたん…」「いいから」「…はい」

[行かせはしないよ]

 

 

 

「くっそ!!!」

「いくら嘆いた所で、何も変わらないぞ?」

「分かってる!俺のターン、ドロー!」

    谷川甚兵衛SP2→3

     第六天魔王SP0→1

 すでに林吉蔵は『天魔王ゴッドゼクス』の一撃を受け敗北。続く次鋒『谷川甚兵衛』は苦悶の表情でフィールドを眺めた。

 手札は6枚。伏せカード無し。対する相手は、フィールドに『天魔王ゴッドゼクス』とかいう化け物の一体のみ。最初に伏せた2枚のカードが気になるが、まずこのターンで『天魔王ゴッドゼクス』をどうにかしなければ、攻撃力10000のパンチが飛んでくる。

 『天魔王ゴッドゼクス』は対象をとられないカード。しかし知らない人からもらった谷川のデッキに対象をとらない除去カードは入っていない。つまり、詰みだった。

「確かに征竜は強力なカードだ。だが弱者が使えば、ただ打点の高い量産型バニラとなるだけだ」

 言動はいちいち腹が立つが、事実だった。谷川甚兵衛は今まで使ってきたカードを横に置き、もらった強いカードだけで考えずにデッキを組んでいた。そして前使っていたデッキには、対象をとらない除去カードがあった。

 そこで谷川は、昨日リーダーの太郎と話したことを思い出した。

 確か弱いカードでデュエルするのではなく、強いカードでデュエルがしたいと、谷川は太郎に言った。あの時の谷川の表情を、谷川は再び思い出した。

「ちくしょう、チクショォォォォォォ」

 ズシンなら、『ゴッドゼクス』にすら勝てたかもしれない。相手は1人。『ゴッドゼクス』も恐らく出てくるのは1枚。ターンを稼ぐことは容易だっただろう。

 谷川甚兵衛はこの瞬間、後悔した。

「ターンエンドしろ」

 第六天魔王の言葉に、ハッとする。

「ターンエンドしろ、虫けら」

 まだ谷川はドローしただけ。だが、ここから勝つビジョンなど一切見えなかった。どう足掻いても、勝つ自信はなかった。

 ならば、このままサレンダーして何が悪いのだろうか。むしろお互いに面倒がなくて、いいのではないのか。

「ジンンンンンンン!!!!!!!」

 仲間の声が聞こえた。顔を上げると、チーム『太陽』の仲間達が見えた。

 ………………、そうだ。俺はチーム『太陽』。何度だって太陽のように昇る、それが俺達。そしてチーム『太陽』のデュエルは、繋ぐデュエル。

「俺はカードを1枚伏せ、『キーメイス』を守備表示で召喚!!!!!」

 

 

《キーメイス》通常モンスター

星1/光属性/天使族/攻 400/守 300

とても小さな天使。

かわいらしさに負け、誰でも心を開いてしまう。

 

 

 キーメイス、俺達の絆。

 最初はコイツもデッキから抜こうとした。しかし、それはできなかった。何となくだが、デュエリストとしての芯をなくしたくなかったのかもしれない。

「俺はこれで、ターンエンド!!」

 今伏せたのは『アストラルバリア』。これはモンスターへの攻撃を自分に向けさせ、モンスターを守るトラップ。これで谷川は太郎に繋ぐつもりだった。

「確かにお前は俺より強い。だが、これはチーム戦だ!例え俺がやられても、太郎がいる!太郎なら、あと19ターンぐらいなんとかする!チーム『太陽』は、諦めねぇ!!!」

 谷川が気持ちよく言い切るが、それに水を指すのが第六天魔王だ。

「まだ分からんようだな」

「何!?」

「貴様ら羽虫が何匹群れた所で、我にかすり傷1つ与えられないということだ。我のターン」

   第六天魔王SP1→2

    谷川甚兵衛SP3→4

「バースト(カードを)セット。そして手札からマジック(魔法カード)『ハンマーインパクト』を発動」

 

 

《ハンマーインパクト 》速攻魔法(マジック)

 自分のモンスター一体を選択する。そのカード以外の属性の相手のスピリット/モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を破壊する。この効果で破壊したスピリット/ネクサス/モンスターすべての効果すべては発揮されない。

 

 

「『天魔王ゴッドゼクス』を選択。よって羽虫の『キーメイス』と伏せカードを破壊だ」

「何!?」

「残念だったな。どうやら貴様は次に繋げることもできない低能のようだぞ」

「…………クソッ」

「『天魔王ゴッドゼクス』でアタック。ネクサス『オワリノセカイ』の効果で、ゴッドゼクスは攻撃力10000だ」

 ゴッドゼクスがその巨体に見合わぬ動きで谷川甚兵衛に近づくと、手に持っていた曲刀を振り下ろした。

 谷川のDホイールから煙が上がる。

[決まったぁぁぁぁぁぁ!!!なんとなんと、チーム『アリス』は1人で2人も倒し、未だにダメージを負っていないぞぉぉ!?これはどういうことだぁぁぁぁ!!]

 チームの所に戻った谷川は、Dホイールに乗ったままリーダーの太郎に頭を下げた。

「すまねぇ太郎!あんなバケモノ、ズシンでしか勝てないのに、俺は!」

「俺も、本当にすまねぇ!」

 先鋒の林吉蔵も頭を下げた。今まで全く顔色を変えなかった太郎は笑顔を作ると、言い放った。

「大丈夫だ。俺1人でズシンを召喚する」

 その笑顔に悲しみが含まれていることに気づいた谷川と林吉蔵は悔しそうな顔をしたが、何も言えず、無言で太郎を見送った。

 少し走って第六天魔王に追いついた太郎は、第六天魔王を指差し、言った。

「確かにアンタは強いかもしれない。だがな、俺達にだって負けられない理由があるんだ!!!絶対にズシンを召喚し、お前を倒す!」

 勇気と元気だけで言い放った言葉。この大会に参加する多くの人が言う言葉。

 それに対しても、第六天魔王は鼻で笑った。

「ズシンしか頼る仲間のいない羽虫が、我から20ターン逃げきる、か。まともな状況判断もできないとは。残念を通り越して憐れみすら覚えるぞ」

「うるせぇ!」

「ふん。貴様も起こしてみるのか?奇跡とやらを」

「はっ。テメェこそ、ずっと立ちっぱでしんどいんじゃないか?疲れてるように見えるぞ。俺のターン!」

 第六天魔王の煽りが終わりそうにないため、太郎は勝手にデュエルを始めた。どこか焦っているように、第六天魔王は感じるのだった。

「再び現れろ、『キーメイス』!」

 キーメイスが出るには出たが、誰一人喜ぶ人などいなかった。

 前のWRGPのことは、チーム『太陽』がズシンを狙っているとチーム『5d's』が知らなかったからこそ起きた奇跡でもある。今は誰もが、太郎がズシンを狙っていると知っている。そしてチーム『アリス』も1人だが、その1人が無傷で征竜2人を倒した第六天魔王。

 観客の目には、ほぼ望みがないように見えていた。むしろ、早く負けて次を見たいと思うような不届き者までいた。

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

「我のターン」

    第六天魔王SP3→4

     山下太郎SP5→6

「バトルだ。行け、ゴッドゼクス」

 ゴッドゼクスがゆっくりと動く。それに太郎は不敵な顔をすると、手を自身の横に伸ばした。

「トラップ発動、『安全地帯』!俺はキーメイスを選択。よって『安全地帯』のカードがある限り、キーメイスは無敵だ!」

 

 

 

《安全地帯》永続罠

フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、その表側表示モンスターは、相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されず、相手に直接攻撃できない。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。

 

 

「ならば我は手札から、2枚目の『ハンマーインパクト』を発動。キーメイスと『安全地帯』を破壊。やれ、ゴッドゼクス、ダイレクトアタック」

「………………」

  山下太郎LP4000→0

[決まったぁぁぁぁぁぁ!!!なんと、なんと、チーム『アリス』の第六天魔王選手がチーム『太陽』の3人を1人で倒したぞぉぉぉ!?なんという力、なんという圧倒的なプレイ、そしてゴッドゼクス。全てでチーム『太陽』を圧倒、2回戦に進出だぁぁぁぁぁぁ!]

 完全なる、チーム『太陽』の敗北だった。

 

 

 

 

「太郎………」

 うなだれ、動かない太郎に谷川が話しかけた。

「俺達が悪かった。太郎は悪くねぇよ。俺が、レアカードに浮かれて、何も考えなかったから…」

「俺も、レアカードを使えば勝てるとか思ってた。ホント、ゴメン!!」

 林吉蔵が頭を下げる。

 ゆっくりと頭を上げた太郎。その目には、涙があった。

「俺さ、今度はいけると思ったんだ。今度こそ、ズシンで優勝できるって………」

「太郎!」

 谷川が太郎の両肩をつかみ、目を合わせた。

「俺とヨシに、償いのチャンスをくれ」

 その目は真剣だった。だが、既に裏切られた太郎は何も反応しない。

「俺を殴ってくれたって構わない。それぐらいのことを、俺達はお前にしたんだ。だけど、それでも、また俺達とデュエルしてくれ!一緒にチーム『太陽』として、また一緒に考えよう。一緒にズシンを召喚しよう!!俺は、まだお前とデュエルがしたいんだ!」



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