響ヒビカセ心ニ届ケ(仮題) (高町魁兎)
しおりを挟む

第一篇 Angel Awaken
#01屋上のカナリア


attention
この作品はフィクションです…
当作品に登場する人名、地名、団体名は全て架空のものです。
仮に被っていたとしても一切関係はありませんのでご了承ください。



 今年もまた渡る……鳥たちの歌……また、帰るその日まで……

 

 これはよく母が歌っていた歌、私の母は空のエースたちの一人で、その当時に襲来した脅威を退けた英雄だなんて言われてるけど、実際はちょっと間の抜けた人。

 その部隊は七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)と呼ばれ、そのムードメーカーで仕切り役、私にとっては誇れる母だ。

 でも、その母は私に少し変な形をしたハーモニカのような笛を預けて失踪して、それからもうすぐ6年、私はこの歌が恋しくて度々自分で歌っては母のことを思い出して空を眺める

 今日もまた口ずさみながら空を眺めて……今、どこにいるのかなぁ……生きているのかな……何をしてるのかなぁ……いつか会えるなら、会えるなら、会いたいよ……

 

 

「────────心地よい風が〜その身伝い いつの日か温もりに別れを告げて〜♪ ─────」

 ガチャっとドアの開く音と一緒に聴き慣れた声がした。

「やっぱりここにいた」

「はわわっ!? あっ……」

 ドサっと鈍い音をたてながら私の体がコンクリートに打ち付けられた。

「イタッ……もー、脅かさないでよあお〜」

 4月某日の昼下がり、私は学校の屋上階段の屋根の上に登って、縁の方に腰掛けて、風を受けながら歌っている所を見つけた幼馴染の愛緒(あお)に驚いて屋上に転落した。

 落ちた方向が逆だったら真っ逆さまだったよ……アブナイアブナイ。

「大丈夫? 、またあんなところ登って……」

「だってさぁ〜あそこ風が気持ちいいんだもん」

 さっきまで座っていたあたりを指さしてフグのように頬を膨らますと、愛緒は少々呆れ気味で私を見ている。

 このやりとも流石に慣れっこなご様子だ。

「はいはい、まあバカと煙はなんとやらって言うの根拠あるのかもね、でも確かに高いとこって風が気持ちいいのは認めるよ」

「でしょ!」

 ここ燈ヶ浜(とうがはま)は内陸部と離れ島が橋で繋がっているような形の少し変わった街、それ故に海が近いから普段から潮風が強く吹いて来る、だけどそれが気持ちいい、だからこそ高い所で全身で受けたいほどに心地よい風が吹く、それには愛緒も同情してくれたみたいだ。

 だけど、いつもよりも風が強かった気もする。

 今度は愛緒が呆れた顔をしたままこんな事を言った。

「だけど、そこ登るのはねー、危ないし、あとたまーに下からパンツ見えてるし」

「それ早く言ってよ!」と私は顔を真っ赤にして校庭まで聞こえそうなほどの大声で愛緒に怒鳴ると、愛緒はお腹を押さえて笑っている。

「もちろん地上からはほとんど見えないけどさ……ここからだと丸見えだよ〜w.あーお腹痛い」

「ああ、なんだ……愛緒にしか見られてないならいいや」

 そう言うと愛緒は“そう言う問題じゃないんだけどなぁ”と言いたげな顔で私を見る。

「で、愛緒はなにしに来たの?」

「お弁当、持ってきてないよね?」

 そう言うと鞄から小さな包みを二つ出して片方を私に差し出して……

「ハイ、響花のぶんほんっとこう言うところ抜けてるんだから」

「あはは……毎度ごめんね」

 包みを受け取って広げる、そういえば今昼休みだった。

 ちょうど名前を呼ばれたし、今更だけど自己紹介しておこう。

 私はキョウカ、天音響花(あまねきょうか)。好きな事は歌うことと空を眺めること、座右の姪は、「誠心誠意、有言実行」これは母さんの教えから来てる。

 よく私に「まずやると決めたならやり通しなさい、口に出したら覆さないこと」と言い聞かされて、育った名残なんだけどね。

 さてそんな話はまた後でするとして、愛緒から包みを受け取り結び目を解くと、美味しそうな香りがしてくる、横では愛緒がスマホを操作して動画サイトのアプリを開いて男女二人組のアーティストの映像を映す。

『さてさて今週もこの時間がやってまいりました……」

2×Ysh(ツヴァイワイズ)だ!」

「先週のラジオの公開収録のアーカイブだよ〜」

『こんにちは、最近は一日中家にいる事が多かったせいか、ドラムで使わない筋肉が悲鳴あげてます、メインパーソナリティのYURI(ユウリ)です』

『ユウくんがこんなんなせいで久しぶりにゴミ箱湿布だらけで苦笑い中、同じくメインパーソナリティのYUKI(ユウキ)です』

『この番組では我々新世代のカップルアーティスト……ってこの肩書きいい加減捨てたい』

 この二人は、ギターボーカルのYUKIとドラムボーカルのYURIの二人と言う構成の変わった夫婦バンド、コンビ名は2×ysh(ツヴァイワイズ)

 そんな変な肩書きがある中ビジュアルはアラサーとは思えないほど若々しい、さらに二人は中学2年生の頃からの付き合いらしく、フリートークを回させると適度に仲良く、適度に喧嘩して非常に面白くなるから曲の人気もあるけど、二人で一緒にこういったトークショーのオファーをよく受けるらしい、そのせいかこのラジオはすごく人気で私も愛緒もほぼ毎週聞いているほど大好きな番組だ。

「やっぱり、映像あるとより面白いや」

 動画を見ながら箸をすすめる、そう言えば何故か屋上って私たちしか居ないことが多いんだよなぁ……

「キョウカ、もうすぐだよ」

「あれっ? この回だったっけ?」

『続きまして、ラジオネーム“屋上のカナリア“さん、2×Yshのお二方こんにちは! 『こんにちは〜♪』さて────────』

 私はつい恥ずかしくなって動画を止めた。

 まさか動画公開された回が私のふつおたが読まれた回……流石に学校じゃぁ……

「キョウカ……恥ずかしいの?」

 愛緒はニヤッと笑いながら私の指を退かす。

「いやーあのね……あお……」

「えいっ」

『────────今週のテーマは私の思い出の小物という事で、私の回答は母から貰ったハーモニカのような笛です。

 私が小さい時に時々吹いてくれた曲も込みで思いれがあって、その母とは今は離れて生活してるのですが、首からずっと下げているほど大事にしています』

『なんかすごいハートフルなお話だね』

『この屋上のカナリアさん高校生で別居中となるとかなり辛そうだけど、思い出の笛を御守りに頑張ってると……これから何回でもお母さんが恋しくなりなってもめげずに頑張れ!』

『私たちもそのうちこう言うエピソードに出てくる曲書きたいね』

『だな……とお時間やってまいりました、じゃあこの“屋上のカナリア”さんのリクエストナンバーでCM入りましょうか』

『ではお聴きください、ラジオネーム”屋上の歌姫“さんのリクエストナンバーY×2sh(ツヴァイワイズ)でFUBUKISTART』

 この歌は歌始まりで、その歌い出しの歌詞が終わり、間奏が入った頃、私は呆然としていた。

「そう言えばキョウカ、もしかして今も……?」

 愛緒が聞いてきても私はまだまだ固まったままだ。

「キョウカ……キョウカ? 、聞いてる?」

「……ッ! ……ごめん、あお、聞いてなかった」

 身体を揺さぶられてやっとボーッとした状態から戻ってきた。

「で、キョウカ……もしかして今でも首から下げてるの?」

「ふぇ? 、えーっと……これのこと?」

 私は制服の中からその笛を出す、一応大事なものだからなるべく肌身離さず持ってたいし、校則的な都合で校内ではバレないよう隠してるけど。

「やっぱりあのお便り、嘘は一個も言ってないけど、母さんは……」

 その続きを言おうとすると愛緒が「そう言う解釈違いはよくあるし、ハートフルかどうかだったら結構ハートフルじゃない?」と言いながら私の口に手を当てて、自分の口に人差し指を当てて静かにのジェスチャーをした。

『 ──────もう一度、足並み揃えて、今度はリセットのない道へと……ready to START〜♪』

 曲が終わりCMに入るところで愛緒が私の口に当てた手を離して、携帯を操作し、広告を飛ばす。

「響花は昔っから変なところだけ過剰に気にするんだから」

「でもさぁ、実際母さんは行方不明だし、肌身離さず持ってるけど、母さんの笛よりもあの歌の方が……クドクドクドクド……」

「だから気にしすぎだって」

「だとしてもその辺厳密にしたいし……」

「ラジオのお便りの解釈違いはよくある事だしさぁ……」

 愛緒が私を宥めてると新曲の告知が始まった。

「そう言えば今日だね‥キョウカ、予約表持ってるよね?」「もちろん持ってますとも、帰りに受け取りに行く予定」

 

 この時は気付く由も無かった、その笛が私の日々を狂わせていくことを ────────

 

 

 

 同日16:30ごろ、とあるラジオ局にて

「お疲れ様でした〜」

「じゃ、お先でーす」

 件のY×2shの二人が収録を終えて足早にスタジオを後にした。

「あんなに急がなくても、今日のスケジュールはこの後空きですよ?」

「だからこそ、もうひとつの方に割く時間にしなきゃなんですよぅ」

「……海堂さんからの指令でも?」

「ああ、だからここまでお願い」

 二人は車に乗ると、地図を見せ、マネージャーの運転で指し示された場所の近くへ向かった。

 目的地付近の駐車場までは十数分で到着し、2人は降車して通信を繋いだ。

「……海堂司令? とりあえず指定ポイント付近に到着したが?」

『ああ、こちら司令部、いきなり本題だがその辺りで度々観測される異常波形と別の異常波形がここ一週間、同時に観測されている。 何かの予兆かと思ってな‥今回はその現地調査を頼む』

「この辺って昔七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)の一人が失踪した時に反応が途絶えた場所の近くか」

「ちょっ優くん……それってその人のミイラとかいないよね?」

「どうだろな、でも失踪した機体の波形と違うならそこで……」

『ああ、何かの変化が起きたか……並行世界との扉が近々開く予兆か……」

「……既に開いた後かどうかの観測と警戒って事か、了解、獅童優(しどうゆう)「同じく獅童優希(しどうゆき)、「調査任務を遂行します」」

『毎度すまないな』

 と二人が行動を開始したところを下校中にCDを受け取った帰りに私はバッチリ目撃していた……Y×2shの二人がなんでこんな港街に……そういえば確か去年引っ越したってラジオとか色んなメディアで言ってたし……それがこの辺とか? ……いやいやいや……お忍び旅行かもしれないし……気になる……てかホントに変装しないんだあの二人、プライベートで出歩く時……とりあえず、話しかけてみようかな……

「あっあのー、二人ってY×2sh(ツヴァイワイズ)の……」

 私が話しかけると、二人はほぼ何の抵抗もないような感じで……「おっ、よくわかったな……」と言いながら振り向いて私の制服を見て「君、この辺の子?」と聞かれた。

「はいっ! 、あっ……あの〜お二人はなんでこんな辺境……街に?」

 緊張して喋りがおぼつかない……オドオドしすぎだって私! 

 するとYURIさんはすんなりと「この辺に用事がってね……」と地図を見せながら教えてくれた。

「ってなると、こっちからの方が近いですよ」

「そうなの? じゃあ案内してもらってもいいかな?」

「よ、よろこんで!」

 今度はYUKIさんが私に尋ねてきて私に携帯を差し出す、私は喜んで了承して案内する……だって母さんが居なくなったばしょn近辺だもん……何年か前まで、悩み事があるとあの近辺に行っては母さんがいる気がして、色んな事吐き出してた。

「この辺です」

 その場所に行く道は行き慣れているためすんなりとたどり着けた、まあ……未だにそこは禁止線が張り巡らされた廃墟なんだけども。

「案内ありがとね」

「いえいえ……たまたまこの辺の地理に詳しいだけなので」

 にしても奇妙だ、この辺に用事がると言ってたけれど二人はこの辺りにはこの廃墟と漁師組合の事務所くらいしかなく、なんかの撮影かと思ったけど違うっぽい。だけど黄色いテープの向こうの母さんの反応が無くなったあたりを見て私が立ち去るのを待ってるっぽい。

「……また違うパターン、まさかな」

 YURIさんが何かの端末を見てボソッと言った……なんか怪しい、と思っていると。

「道案内してもらっちゃったし……なにかお礼しないとね」

「いえいえ、私、お二人にたまたま会えただけで……もう、十分嬉しいですから!」

「珍しいね、他の子とかは写真とかサインって言ってくるけど、意外と無欲? 、それとも……」

「でも、お二人って事務所側のあれこれが確か……」

「非営利のファンサだからOKだよ、優くん、優くん、ちょっとこっち来て♪」

 うっそぉ……この人たちプライベートでも営業モードだ……私はお言葉に甘えて、受け取ったばかりのCDジャケットにサインを入れてもらった上に2ショット‥いや3ショット? 写真まで……こんなラッキー中々ないよね? 

 それから私がその場から一旦離れるとおふたりはあのあたりに入っていった、なんで話題沸騰中のアーティストがあんな場所に……あっ、ヤバっ。

 ポケットに手を突っ込むと自分の手元にある携帯と別にもう一個……って事は今片手に持ってるのは……これYUKIさんのだ! 

 次の瞬間にはもう足が出ていた、黄色いテープをかき分けあの廃墟の中へ入って二人を探して、「あの! 携帯、忘れっ……」と声を出した時、私が首から下げていた笛が光って床に吸い込まれるように落ち、その場にはコロンっと携帯だけが落ちた……画面上向きで。

「……あれ? さっきの子の声が……」「俺もきこえた……ってユキ、お前携帯落としてるぞ」「ええっ?!」

 

 その床の下へ全身が吸い込まれると今度は滑り台のような床の上に落ち、下へ下へと滑り落ちていく、少しすると光が見えた、一体どこに通じてるの? 

 その光を突き抜けると、私は放り出されるように宙を舞ってそれから硬いタイルの様な質感の床に落ちた。本日2度目の転落である。

「イタタタタ……ここ、ドッ!? ────────」

 受け身は母から教わっていた為、転落による怪我はほとんどしてないけど、私より遅れて降ってきた鞄がちょうど起き上がったところで私にカウンターアタックを仕掛けて来た、教科書やら色々含めてかなり重たくてそこそこ痛かった。

 そしてもう一度顔を上げてあたりを見渡すと、真っ白な壁にいくつかの大きい機械が置かれている何かのガレージ、いや格納庫って言うべきかな? とりあえずそんな感じだった。

「とりあえず、出口をさがさないとだよね」

 鞄を持って立ちあがると、あわただしい足音がする。

 誰かいるのかと思った時にはもうそれは目の前まで迫ってきて、こっちに飛びついて来て、私の身体に抱きついたまま「待ってたよ、カナ」とはっきりとした声で言った、けれどその直後になにかに気が付いたのか手を離して距離を置き、警戒体制らしき構えをとって私をギロッと睨み付けて来た。

「─────カナじゃ……ない、似てるけど、違う……どうやって入ったの? なんでここにいるの?」

 なんでって言われても……

 

 

 これが私たち二人のファーストコンタクトだった。

 To be contend




次回予告

落ちた穴の先には母さんの事を知る男の子
そして私の知らない場所では、大きな事件と激戦が繰り広げられていて・・・
ってそもそもこの子何者?
次回、第2話「隠された翼」
物語はまだまだこれからだよっ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#02 隠された翼

さてさて、前回のあらすじを復習ってくよ♪
私、天音響花は今年で高校2年生♪な4月の終わり、Y×2shの新曲のCDを受け取りに行ったらその帰りにご本人遭遇!からの床に吸われてって…何がどうなってるの〜!
とりあえず、一旦同刻の違う場所から‥もう一人の語り部の場所から今回は始まるよ。


 地球時間同日17:00とある時空の狭間

「大人しく投降しなさい!」

『そう言って過去に投降した犯罪者でも居るの? 、どっちにしろまだ捕まるわけにはいかないのよ!』

 私は____と自己紹介をする間もないから状況を説明すると今、私はエヴォルスコアというテロリスト集団を追って、ちょうど船で別の世界へ逃亡を図っている所を棚からぼた餅的に発見し、追っている……

 ふぇ? 私が乗っているその大きい鳥がなんだって? それもまたおいおい説明するね。

 そして私はその組織を追って決まり文句を投げかける。

「降参した方が身のためだと思いますよ?」

『なら、私たちよりももっと追うべき組織がいるんじゃないの?』

 耳にタコが出来るほど聞いた返しだ。

「どの人もそれ言いますね、優先順位なんか発見した後じゃ関係ないですし……あと、貴方たちが持ち出した“それ”関連の話は全部私の担当ですから」

 届きそうな位置まで近づけた……私はワイヤーのついた矢をつがえて甲板に突き刺し、私を運んでいたその鳥の背中からワイヤーの巻き取り機を用いて飛び移る、艦橋は目と鼻の先だ。

 数々の砲門から放たれる弾を的確に交わし、視力と反応速度だけは舐めないでもらいたい……そして艦橋の窓を破り……

 ここで油断した私がバカだった。

『今更登ってきてもムダ……もう着いちゃったから』

「なっ? ……」

 背中のほうを見るともう時空の扉が開き、夕暮れ空が顔を覗かせている。

 そのまま船ごとその世界へ入っていく、戦艦内部はそうでもないけど、戦艦の外は突入時に大きく揺れが生じる、これにより私は甲板の上から振り落とされて、一緒に私が取り戻す為に追っていた“それ、の一部が散らばっていくのも見えた。

 そして、穴の先のとある廃墟の敷地内にある芝生へと落ちた。

「もういっかいっ……!?」

 すかさず私はもう一度弓を構えるけれど……火花が散ったのが見えてよからぬことを一瞬で悟った

「そんなぁ……」

 しばらくメンテナンスに割く時間がなかったり連続使用が多かったが故のガタがこの揺れや衝撃をきっかけに一気に現れて、私の装備は一気に機能停止している。オマケにこの世界に“魔法”が日常的に根付いているかわからないから、”奥の手“を使っていいかもわからない。

「ゲームオーバー……か」

 悔しいけど、その戦艦が飛び去っていくのを見ているしかなかった。

 その戦艦が見えなくなった頃、私を乗せていた鳥が戻ってきた。

「ありがとう、休んでて、“ラープリューム”……おつかれさま」

 ラープリュームというのはこの子……いやこの鳥? ……どっちでもいいや、とりあえずラープリュームというのはこの子の名前、和訳すると“幸せを運ぶ羽根”……まあそんな話も今はいいんだった。

 とりあえず、ここがどこかとこれからどうするか……と考えるまもなくここが何処かわかりそうだった。

「……日本語? ……中文ではなさそうだし……いや日本語であって、お願い……」と独り言をぶつぶつと言いながらもハッキリした事実は一つ掴めた、”ここは地球だと“、”私は今、地球に来てしまった”と言う事実だ。

 

 

 

 ここから少し前、響花が落ちていった穴の先

「─────カナじゃ……ない、似てるけど、違う……どうやって入ったの? なんでここにいるの?」

 再び私響花に語り手戻りましてっと……私は彼に警戒されたままだ、でもどうやってって聞かれたって私はただ携帯を返しに行ったら突然だし……

「だんまり?」

「違う、私だってなんでここに来たかなんでわかんないんだって……」

「濁すなら問答無用!」

 私は正直に全ての事情を説明すると彼は……なんと私に飛びかかりボディチェックを始めた。

「ちょっなにするの! 、ヘンタイ! スケベ! いいからやめっ……ってあそぉこはらめぇぇ……ッ! 首が締まっ、ク、クビィィィ!」

「やっぱりあった、なんでこれ持ってるの? 、どこで手に入れたの?」

 どうやら彼の探し物は母さんの笛だったみたいだ。

「カナに変装して僕に近づこうだとか思っても引っかからないぞ、僕の知能はそこまで低くないから、そこまで見くびられてたとはね……ねぇ! その化けの皮剥いであげようか? 正直にした方が楽だと思うけどなぁ……」

 彼は言うだけ言った後、私を馬乗りにしたまま頬を抓ってくる、これが地味に痛い。

ふぉりふぁふぇしゅ(とりあえず)ふぁちゃふぃの(わたしの)ふぃふぃふんをふぃいて(いいぶんをきいて)!」

 やっと彼は手を離してくれた、馬乗りにされて身動きは取れないけど。てかこの子重ッ! 

「これは私の母さんが失踪する前に私に預けたんだ……だから、この笛がなんなのか詳しいことは、知らないんだって……」

 そう言うと彼は少し顔を顰めた、記憶を探ってるのかな? 

「イヤ、チガウヨネ……もしかして君……ひか……」

「そっちじゃなぁぁぁい! 煇瑠(ひかる)は私のお兄ちゃんだよ!」

 でもこれで頭の中で何かが繋がった。

「でもお兄ちゃんの名前知ってるって事は……もしかしてキミがずっと言ってる”カナ“って”天音奏叶(あまねかなえ)“のこと?」

「カナのこと、知ってるんだ……でもカナに娘って居たっけ……」

「失礼な、私は天音響花(キョウカ)、正真正銘、天音奏叶の娘だよ」

 彼は私の名前を聞くとハッとした顔になった直後、頭に? を浮かべてる。

「……カナがキョウって呼んでた子と、今の君とが合致しないんだけど……てかあの子、女の子……だったんだ」

 確かにちっちゃい頃よく男の子と間違われたよ……掘り返されたくないけど。

「母さんが君に私たちの話してた事とかあったの?」

「写真を僕に見せながらね‥でも一回連れて来た気もするんだけど……」

 すると彼は私を馬乗りにするのをやめて解放した。

 てか、大事なこと聞き忘れてた! 

「そう言う君の名前聞いてないんだけど……あと母さんとはどう言う関係だったの?」

 そう聞くと、彼はすんなり答えた、答えたんだけども! 

「僕はカナのバディ(相棒)で、特別航空戦闘団七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)配属、MB(メロディックバーズ)-01の共鳴駆動炉動力核(シンクロニングエンジンコアドライバー)、個体コード、infinit=rising=angel」

 よくわからないけど聞き覚えのある単語の羅列だった。

「……えーっと何処からが名前?」

「個体コードよりあと……だから“rising=angel”が僕の個体名」

 それを言い終わると、身の丈の半分ほど大きさの翼をバサッと背中から広げた、そう言えばここまでずっと馬乗りにされてたから気がつかなかったけれど、彼の背中には翼があり、エンジェルの部分は納得だが、一つ気になった。

「そのライジングってどっちの意味?」

「どっちって?」

「“飛び上がる”なの? それとも”成長する、させる、もしくは成長途中や過程“の意味?」

「後者、だね」

 成長途中の天使(ライジング=エンジェル)……、なんかアレなネーミングな気がしたけれど、それは一旦どうでもいい、この子の名前どっかで聞いた気がするんだよなぁ……

「とりあえず、君がカナの娘かはまだ疑ってるけど」

「えぇ〜……」

「この笛は本物だし、カナから託されたって部分はキミの様子から嘘ではなさそうだから、敵ではないってところは信じる。

 まあ、ここにいてもアレだし、案内するよ」

「あ、ありがと……あっあのね?」

「なに?」

「ライジング=エンジェルだと長いし、ライジングって呼ぶのもエンジェルって呼ぶのも違和感あるし……君のこと、なんて呼べば良いかなって」

「基本的には個体コードで呼ばれてたけど、カナたちからは、“ライ”とか“1号”とかそう言うニックネームだったかなぁ‥」

「ライとか1号とか? ‥じゃあ、ライトって呼んでいい?」

「ライト? ……」

「なんか、”ライ“とかって言った時にライよりライトの方がなんか響きがいいかなぁ‥って」

 彼は少し悩んでから、ニッと笑って「嫌いじゃない、じゃあライトでいいよ」と了承してくれた、てか子供のような顔立と身長も相まって笑顔が似合うなぁ。

 それからさっき居た廊下を抜けると、さっきまで見えていた格納庫のような空間は想像よりも遥かに広かった、でも所々に家具等が配置されていて意外にも殺風景ではない、むしろ秘密基地の様な感じもする、そしてその家具のひとつひとつもよく見た覚えのあるものばかりで、ここの整理整頓は天音奏叶の手によって施されたと言う事を言わずともわかるほどに言葉なく物語っている。

 そして突き当たりの壁際には、母さんが乗ってた機体である、1号機がカタパルトにセットされている。

「うわぁ……」

「カナはあのあとここに“アレ”と、僕を残してどこかに行っちゃったんだ」

 私は母さんの乗っていた機体に初めて自分の指紋をつける、だけどこれ以上触るのはやめとこうかな。

「じゃあ君も、ここから先の足取りは……」

「うん、知らない、“来るべき時の為にライ、貴方が必要なの、その時に迎えにくる“って言ってどこかに行っちゃったんだ、実際に君が入って来るまで僕はここで冷凍保存(コールドスリープ)されてた訳だし」

 となると、母さんはここにはずっと居なくて、感じてた気配はライトだったんだ。

 って冷凍保存!? 

「でも、”来るべき時“に誰が来るとは言ってなかったから、それが君って可能性もあるけど……あぁ、掛けていいよ、立ちっぱなしじゃ疲れるだろうし」

 彼は私を気遣ってソファーに座るよう促し、私は言葉に甘えて腰を下ろす、かなりふかふかとしていて、横になったらすぐにでも眠りに落ちてしまえそうな感じがする。

 そしてソファーに腰掛けて背の低いテーブルの上を見ると、今では滅多に見かけない記録メディアが並べてある。

「───でも今がその時じゃなかったら僕はそれまでここで……って聞いてる?」

「────────懐かし〜♪ 8cmCDにMD(multimedia Disc)……これこんなところにあったんだ」

「そんなにこれ珍しいものかな?」

「いや、珍しいとかって言うより……この字やラインナップは間違いなく母さんのだって思っただけ」

 私の母、天音奏叶にはわざわざMDに音源を焼き直す習慣があった、私が小さい頃の自家用車のカーステレオがMDしか使えなかったり、小さくて持ち運びが便利だからって理由だけで。だから焼き直しした名残でラベルは全て手書きなのだ。

 8cmCDの数々はただの趣味で持ってた品々だった気がする。

「これとか結構聴かせてもらったなぁ……これは知らない……へぇ、って母さんそんな趣味あったの!? ……」

 気がつくと私は夢中でそのMDの入ったケースを宝箱から目当ての品を探すように漁っていた。

……(こう言うところカナにそっくりだなぁ)、でいつまでそれ見てるの?」

「アッ、イヤ……ごめんなさい、懐かしくてつい……」

「でも、どうやったら確かめれるのか……今がその時であるのかと君がホントに……「ッ!?」」

 時計が17:00を刺した頃、強い揺れと共に何かがこの上を轟音をたてて横切った。

 それに呼応する様に室内にブザーが鳴り響き、外の様子がテーブルから投影され、真っ黒なイージス艦のようなものが細かな光を散らしながら空を飛んでいる様子が映っている。

「なにこれ……」

「明らかに“地球(こっちの世界)の船じゃないね」

「こっちの?」

「君はパラレルワールドとか、平行世界って信じる? まあ信じる信じない聞く前に結論言うとあるんだよ、異世界は。

 空飛ぶ戦艦なんてここの技術じゃない、って事はカナが予測していた”来るべき時“ってこれのことかもしれない」

 

 

 時刻同じくして、とある場所では……

『ゲート開いたぞ』

「やはり、やな予感は当たるもんだな」

『俺たちが出た方がいいか?』

「いや、現地で待機しろ……新しい戦力の出番には丁度いいからな」

『って言って3機中まともに飛べるのは1機だけだろ?』

「その3機がダメだった時がお前らの出番だ」

『あいよ了解、頼りにしてるぞ、海堂司令』

「俺じゃなくアイツを頼ってやれ」

 彼が2×Ysh(ツヴァイワイズ)の二人との通信を切ると、司令室から、格納庫に通信で命令を下した。

「────────スクランブルシークエンス発令、シュミレーション通り、04レイジング=ドラグーンと06フレア=フリューゲルはバッテリー駆動+AI操縦で発進させろ、05の準備はどうだ?」

『────────こちら05ミラージュ=エルフ、パイロット、共鳴駆動炉動力核(シンクロニングエンジンコアドライバー)共にスタンバイ完了、接続チェック入ります』

「────────こちら司令室、了解……期待してるぞ」

『言われずとも頑張ります……』

 その戦闘機に乗った少女が通信を切ると、コックピットの奥からも声がする。

『緊張してない? 、大丈夫?』

「全然、何のために訓練してきたと思ってるの……さ、いきましょ」

 そう言って通信を切ると整備班が彼女に声をかける、それに答えたあとに彼女は私が母さんにもらった笛とよく似た笛から鍵を出して差し込んだ。

「セーフティリリース……ユニゾン、ゴー! ……」

 鍵を回すと一気に動力が流れ込み、様々な装置が動き出す。

「……コアとの接続、異常なし……出力安定、コネクトレールにドライブウェポン確認、接続異常なし……ランディングギアの格納……正常に完了。

 カタパルトレールへの接続をお願いします」

 彼女がそう言うと機体が載っている床がそのまま移動して二本のレールの間にさっき何かを取り付けたレールの上側がかみ合わさった。

 そしてそのレールの先端にあるハッチが開き、レールが通電して磁力を帯びた。

『滑走進路、角度ともに問題なし、超電磁射出機構(リニアディスペンスシステム)……現状動作正常、発進、どうぞ!』

「MB-05ミラージュ=エルフ、空音澪(そらねみお)、発進します」

 リニアモーターカーの様な機構で高速で機体が発射され空中に投げ出されてから推進装置が起動しさらに速度を上げる、そしてその後ろに遅れてバッテリー駆動で発進した2機が付いてきて3機編隊で現場へと飛んで行った。

「目標を補足、無線の周波数探れましたか?」

『こちら司令室、現在解析中……』

「了解、警戒を続けます」

 宙を舞う戦艦にピッタリと付いて警戒飛行を行い、領空内への侵入経緯を確認を図ろうとする。当然その戦艦への無線周波数は探れるはずがない、だが、その戦艦側には無線の内容は筒抜けだった。

「※|I heard that there is no such weapon in Japan in this world.《こっちの世界の日本と言う国にはこの様な兵器は持っていないと聞いてたけど》」

「※|But if we don't do it, they won't shoot.《でも彼らはなにもされなければ動けないとも聞いたことがある》」

 その船に乗っていた彼女は不敵な笑みを浮かべた。

「※It looks interesting even if you check it(確かめてみましょう)

「※oh, it doesn't look bad Just (あの方の指定した場所まで暇だしな)entertainment until you get to that place」

 すると面白半分なのか、銀色の卵の様な物がひとつ船の外に投げ出されて、それが割れると羽の付いた巨大な爬虫類のような生物が現れた。

『解析結果……TYPE-Un、金属生命体である事以外は、データベースの情報に合致する例が存在しません』

 その巨獣は3機を襲い、その港の防波堤を抉る。

『デリート許可、今はそれしかない』

「了解、アタックフォーメーションC、いきます!」

 3機が等間隔に並び正三角形の各頂点の位置関係をとり、弱点位置を探りつつ足止めする。

「ミオ、サイズはかなり大きいけど、恐らく“私”と同種ね」

「って事はひたすら削ってコアを露出させるしかないのね……骨が折れるわ」

 そしてその状況は、無線こそ聞こえてないけれど、私の所からも確認できた。

「あのおっきいのなに? 」

「かなり大きいサイズのメタフルだね」

「メタフル?」

「特殊金属生命体、エネルギー源の塊であるコアを包む様に液体金属で体表を構成してる古代生物……でもこの時代にこんなサイズ……まさか」

 ライトは何かに気がついた様な顔をして、その後すぐに机の下にある引き出しから紙の束を出した。

「……流石に違うか」

「どう言うこと?」

「過去の文献でみた気がしたんだけど……なんとかの武器と天秤を探して空からから成らず物と獣が……見たいな話」

「なにそれ?」

 とその話をしている間にあちらでは‥

『フレア=フリューゲルおよびレイジング=ドラグーン、実用行動時間終了、帰投させます』

「了解、単機でやれるだけ……」

『お前も帰投しろ、優たちを向かわせる』

「────なっ……私はまだ飛べます! 飛ばせてください!」

 命令を無視して彼女は果敢に接近し、機銃で攻め込む。

『どっかのバカにそっくりだ……その勇気に免じて単機戦闘を許可する、ただし後15分、もしくは機体損傷率30%を超えるまでの間だけだ』

 司令官である海堂はこのように意外とチョロい。

 って、そんな話もいらないんだった、彼女は許可を得てその獣に立ち向かうも、歯が立ちそうな気配がない。

「大丈夫かな……」

「これじゃ無理だね、カナがいれば、こんな時……」

 私とライトはただその状況をモニター越しで見ることしかできずに立ち尽くす、すぐ後ろに母さんの翼があるのに。

「キミじゃ動かせないの?」

「僕一人じゃ……もう一人いればなんとか……」

「なら、私じゃ、だめ?」

 提案したものの、彼は私を見て「正気か?」と言う目をしている。

 そうしている間に、彼女の機体に怪物の前脚が迫りギリギリで交わす、けれどすでに疲れが目に見える、長くは持たなそうな上に流れ弾で街が少しずつ崩れていく。

 待って! 、崩れていく街の映像の中に愛緒(あお)の姿が見えたけど、かなり現場に近い……お願い、早く逃げて……ああ、もしも私が飛んでいければすぐ助けに行きたい、私に母さんと同じことが出来るならこの人たちみんなを……でも今私ができるのはただ見てるだけなんて……そんなの嫌だ! ……そんなの……そうだ、私の後ろにあるのはなんだ? ……可能性は0じゃないってことだよね、なら! 

「ちょっと!」

 私は階段を駆け上がってキャノピーのハッチを開ける、それをライトは全力で止めにくるけどもう遅い。

「見てるだけなんて嫌だ、どうにか出来る可能性があるなら私はトライしたいんだ……」

「可能性って、操縦もできないってのに?」

「大丈夫……フライトシュミレーターなら何回もやらせてもらったもん!」

 ライトは大きいため息の後「やれやれ」と言いながら私を止めるのをやめた。

「カナと一緒だ、やるって決めたらもう止めれないタイプか……」

「そりゃ後悔するって思うくらいならやれ‥でも「言った以上はやり通せ!」でしょ? カナの口癖……まあ疑ってたけどちょっと信じる気になった、キミがカナの子だって……その話、乗ってあげるよ。……君が戦少女に相応しいかどうか、見極めさせて貰うから」

 

 To be continue

 

※:表記上は英語ですが設定上は異世界語で話しています。(これ以降も「※」の付いた英語は実際には異世界語になります)




次回予告

厄介ごとに首を突っ込むのは悪い癖ってよく言われるけど、大事な人たちがいる街をほっとける訳ないじゃん!
あの怪物をこれで退けれるんだよね?借りるよ、母さん!
次回、第3話「カナリア、飛び立つ」
ちょっと面白くなってきたでしょ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#03 カナリア、飛び立つ

ではでは、語り部キョウカで〜前回のおさらいターイム!
「えっと、まずは僕とキョウカが地下で遭遇して…」
で、一悶着ありまして‥そのあと黒い船と銀色の怪物がやって来て!
「さーてどうなる事やら。」
どうなるんだろ?
じゃ、先週のおさらいはこれでOKかな?
「うん♪、ザックリしすぎだけど良いんじゃない。」
Ok♪
「じゃあ今週もはじめよっか。」


 ……いきなりこんな状況になっちゃ流石にパニックは不可避だよね……

 私は不時着後、本部への連絡も前戦に出ることもできないためさりげなく救助活動を行う事にして早くも30分以上が経っている。

 けたたましく鳴る警報の中目につく範囲の人は少なくなってきた。

「|______《……キョウカも、コウタも大丈夫かな……ちゃんと避難できてるかな?》」「あぶないっ!」「えっ!」

 私服姿の彼女は背中側に落ちてきている瓦礫に気付いていなかった為、ヘッドスライディングする様に突撃して場所をずらしつつ、小さな魔力弾で瓦礫を破壊して、彼女をお姫様抱っこする様に抱えたまま着地、あれくらいなら目立ってないはず……

「あっありがとうございます」

「※Are you injured there(そちらこそ御怪我はないですか)?」

 なんでキョトンとされた!? ……ってあっ、ヤバ……アレが機能停止してるから翻訳も使えないんだった……でも日本語ならギリギリ自力で会話できるはず……

 私は咳払いをして、恐らく発音がちょこちょこ変かもしれない日本語で話してみた。

「| ____________《英語……っぽいけどアメリカ圏の言い回しっぽくないし》| ──────────────《……てか英語かも危ういなぁ……キョウカに聞けばわかるかな? あの子……》」

「あー、んン……驚かしてしまって申し訳ありません、つい母国語が出てしまいました。

 それで、お怪我はないですか?」

「……あ、はい、おかげさまで……」

 よかった、通じた、みたいだ。私の先生がこっち(日本)出身の人だったのがこんな時に吉と出た。

 とりあえず私は彼女を降ろして一番近くのシェルターは満員だから迂回するよう促した。

「……じゃあ、お気をつけて」

「あの! あなたは逃げないんですか?」

 そういえば、これ系聞かれた時の返し考えてなかったや……私の組織ってこっちの世界じゃ一般認知されてないし……誤魔化すにもどうしよ……かっこつけようかな? 、それとも……

「ご想像にお任せします、強いて言うなら……シークレットポリス的な? やつですよ」

 着ているジャケットの胸に縫い付けられたエンブレムを右の親指で挿しながらこれだけ言い残し、彼女にニッと笑いかけ、その場を走って立ち去る、しばらく走った先にはこんな状況でスマホを構えて撮影してる強者も居た、度胸どうなってんの? 

 とりあえず一喝してそこを離れてもらって……

 そしてさっきの彼女はこの後少し離れたシェルターに無事辿り着いた。

「姉ちゃん!」

「コウタ! 無事でよかった……」

 彼女……いや、水原愛緒(みはらあお)は無事に弟の水原航太(みはらこうた)と避難先のシェルターで無事合流し、お互いの安否が分かり安心しているが、彼女にはまだ、懸念している事があった。

「あとはキョウカが無事ならいいんだけど……」

「キョウカぁ? どーせ、また道草食ってたまたま無事だったりするんじゃない? だから心配しなくてもさぁ?」

「コウタ、あんたねぇ?」

 実際に電話もメールも通じず、既読がつかないどころか、圏外にいるのか送信に失敗する状態だったそうだ。

 さてさて、私のフェーズは一旦終わりにして、そのキョウカに語り手を移そうか。

 

 

 

 

 同刻、廃墟地下の格納庫にて

「じゃあまずはその笛から鍵を出して差込んで、右に回す」

「この笛に鍵?」

「口をつける部分の逆っ側に出っ張ってる部分があると思うんだけど、その中の小さいツメの部分押してみて」

 私は母さんの機体のコックピットシートに体を預け、シートベルト状の固定具を嵌めたあと、彼の説明に従い発進準備中だ。

 でさっき言われた通りに出っ張った部分の中に小さなツメががある、コレを内側に入れると内側のツメが外れた音がしてクルンっと鍵が180°回転して現れた……母さんそんな大事なもの私に託してたの!? 

 そして、その鍵を差し込み右に回すとカチッと言う感触が手に伝わる、その直後様々な装置が光を灯し、二つの操縦桿の間にあるディスプレイにはOSの起動画面であろう画面が表示された後に、「welcome to rasing=angel」と表示され、次に「Check if Core driver is connected normally」と表示された。

「コアドライバーとの接続を確認してください?」

「それは無視していいよ」

 無視していいんだ……「continue」をタッチして次の確認画面が表示されると「Confirmed that Core driver is connected normally」と書かれている、どうやら問題ないみたいだ、また「continue」をタッチして確認画面を進める、次は「Scans for devices connected toconnect rail」と書かれている。

「コネクトレールってどれのこと?」

「一応機体下や側面にある拡張レールのことだよ、でも今回は全部ダミーカバーが嵌っってるはず」

「じゃあ飛ばしていいんだ……」

「英語、得意?」

「ふぇっ? 、まあ、勉強は苦手だけど……いろいろ事情があって英語は……得意だよ」

 痛いところつかれたなぁ、とりあえず次の画面で「checked the dummy cover on the connect rail」と表示されたつまり問題なしと、すると確認が終わったのか次の画面では「please Store landing gear and main wing」と表示された、まあ既に格納されてるけど……ってなんでこんなこと確認するんだろ? 

「主翼はわかるとして、着陸脚をしまってってでてるけどなんで?」

「一応超電磁射出機構(リニアディスペンスシステム)を採用してるからね、リニアモーターカー的な方法で発進するんだ」

「へぇ……、continueっと」

 画面を進めると、「All check complete,standby ready?」と表示された。

「よし、キョウカ……初陣だよ」

 私は息を大きく吸って、意気揚々と叫びながら操縦桿を押し込み機体を前に進めた。

「天音響花、ライジング=エンジェル……発進!」

 滑走時に身体にかかるGは想像を遥かに超えていた、でも頑張れば耐えれなくない、けれど気になったのは滑走中に背後の道がどんどんハッチで塞がれていくことだった。

「な、な……なんでハッチがぁぁぁぁぁぁぁ……」

「そりゃぁこのカタパルトの出口は、海中にあるからね」

 最後はハッチが閉じるのではなく、目の前のハッチが開き暗闇に突っ込むと、バシャーンっという潔い音と共に暗闇が消え去って空が見えた。

『……海中より何かが近づいてます!』

「海中? ……熱源反応のデータ送ります」

『データ着し.これって!』『1号機、ライジング=エンジェル……天音奏叶と共に消えた機体そのものだな』

 どうやらこの機体が海面を抜けると同時に司令室は大騒ぎだったらしい、けれどその当時の私も私でパニックだった、機体は空中に投げ出されても角度も速度も安定しないのだ。

「早く主翼開いて! 、推進装置だけじゃ落ちる!」

 主翼……これか! 、パチンっとスイッチを一つ跳ね上げると主翼が開き機体速度が安定してGが緩くなった、ようやくまともに喋れ‥いや、息が上がって全然無理、でもウィンドウから覗く景色は今まで行った場所の中で最も高い場所であると言われずも判るほどに美しかった。

「ふぅ……離陸成功……確かにフライトシュミレーターでやってたって言うだけはあるね。さて、作戦は?」

「はぁ……はぁ‥あ、作戦? ないよ突っ込んでどうにかするだけ! 見よう見まねでどうにかなるはず……多分!!」

「‥やっぱり君じゃなかったかもしれない」

 操縦桿を手前にグッと引き寄せてギュインッっと高度を上げて急降下しながら機銃をお見舞いする、がほぼ当たっていない。

「ありゃりゃ?」「銃火器は見様見真似で使えるもんじゃないって……君はカナの真似事がしたいの? (見よう見まねだけでここまで出来たってのも恐ろしいけどさ)」

「ええ‥」「とりあえずムダ射ちは被害を広げるだけ、ちゃんと今の状況を見て」

「今の……」「さっきの説明思い出してよ、あの怪物に対してなんて言った? 分からないなら隣の機体を見て」

 

「あれ……ホントに例の“消えた機体のひとつ”なの?」

「一応エネルギーの波形パターンも、機体外観も同じ‥でも挙動は別物、違う誰かが乗ってる可能性が高いわ。(ライ‥あの子奏叶以外の子とは波長があったことなかったし、合わせようともしなかったのに、奏叶以外の子と? 6年で何があったって言うの?)」

 声は聞こえないけれど隣の機体のコックピットでは何やら揉めているようだ……とりあえず、思い出せ……確か‥

「エネルギーの塊であるコアの周りに液体金属で体表を構成している生命体……ってところ?」

「そう、だからカナが得意としてたあの動きは弾を散らす為の挙動、でも今必要なのは?」

「ピンポイントな一点突破?」「そのとうり、じゃあ‥ッ! ……ァぁぁ!」

 その会話の最中にもさっきの乱獲射撃で怒ったその怪物にマークされ大量のエネルギー弾を撃ち込まれるとライトが重たそうな声を出した、するとひとりでに操縦桿が切られ、あたかも板野サーカスのような形で華麗に全弾回避し、縦横無尽に縦へ横へと機体が回転するため十二指腸が飛んでいくような感覚に襲われいまにも酔いそうだ、って言うか何か上がって来たのを感じて、なんとか飲み込んだ。

「ヒャッ! ……あぅぅ、うげぇ……」「はぁ……ごめん、咄嗟のことだったから‥でもさっきの固定具が外れてなければ無事なはず……」

 彼の息が上がっているのが声だけでわかる、とりあえず私は無傷ではないけど、自覚症状から察するに打撲や骨折はないっぽい。

「うん、とりあえず私は無傷っぽい……てか君一人じゃ動かせないんじゃなかったの?」

「その気になれば、出来なくないけど……安定した動力供給が難しくなるし、結構こっちから操縦桿動かすのはすっごく体力持ってかれるから‥というか、キミ丈夫だね」

「そうかな?」

「これだけ振り回しても怪我なし吐き気なし、普段何してるのかっておもっただけっ、あ“あ”!」「キャッ!」

 またひとりでに機体が一回転して私の手が何かにぶつかった、めちゃくちゃ痛い……とその瞬間から聞き覚えのあるメロディが機内に流れ出した。

「あの機体のパイロット、どうなってるの?」

「さあ、一つ言えるのは多分あの子、まともな訓練受けてないのかも」

 隣の機体から好きかって言われてる気がする……

「イタタタ‥」「キミがちゃんとしてくれなきゃ僕の負担が増えるだけ……!?」

「このメロディ……母さんの?」

 私の手がさっきぶつかった場所を確かめてみるとキーボードの下に「MD IN」の文字と再生や停止のボタンが付いている、まるでカーステレオのように。

「なんでこんな機体に……」「答えは簡単、僕らのシンクロ率が上がると機体出力が安定し、僕のテンション等でも出力は変動するんだ」

「それとどういう関系があるの? ‥ってどこまで追ってくるのっ!」

 機体を旋回させ今度は自力で回避行動をとった、意外にもこの揺れでも音飛びが起きていない。

「説明するまもなさげだね……」

「ええっ!」

 ここで母がよく私に歌っていたあの歌のメロディがとまり、次のトラックが再生されるが、そのトラックはインスト音源で歌が入っていない……だけど何故かこの曲に乗せる歌が胸の奥から湧いてくる、無性に歌いたい、この歯抜け感を埋めたい……何故かそんな衝動に強く襲われ、気がつくと口ずさみ始めて、そのまま私は無我夢中で歌いながら右へ左へ舵を切り始めていた。

遍く(あまねく)空に響く声♪ この声は、届いていますか♪ 

 遥かなる空の色♪ 、鮮やかな青に……」

「ちょっ!? どうしたの? ……(戦闘中に歌い出すってカナと同じ……なのか? 、でも操縦はさっきと比べ物にならない程にいいから止めないでおこ‥?)」「ライト‥なんかわかんないけど、今すごく歌いたいんだ」

「だとしても今? (疑ってたけどやっぱりこの子、ホントにカナの子なんだ)」

 私はその歌のメロディに乗せたまま答える、とライトがフフッと静かに笑い、機体が桜色の光を放つ。

 後で聞くとライト曰く、歌っている間の私は目が一番生き活きとしていたらしい。

 

「光った?」「最活性化状態(フルテンショニング)に入ってるわね」

「それって共鳴駆動炉動力核(シンクロニングエンジンコア)の最大出力を持続させてる状態?」

「ええ、あの子……ライジング=エンジェルは歌が好きな子なの、だからきっとパイロットの子が今、歌ってるのかしら?」

 そのまま私の機体は速度をどんどん上げながら怪物を撹乱し、胸部付近に弾を集中させては、大きく旋回して注意を背中に引き、振り向き終わる頃には背中を取って攻撃を仕掛ける。

「──────-世間も知らない〜♪ まだまだ未熟な……」

 この辺りで一旦撃つのをやめて、中央のディスプレイから機銃のモードを連射から、収束砲に切り替えて溜めながら旋回し、回避行動を続ける、相手も体表をかなり削られているため動きがずいぶん鈍くなってきた、これなら当たるっ! 

「手を繋いで♪ 隣でずっと、伸ばしていこうよ♪ 、互いに成長中!」

 1コーラスを歌いきった所で収束砲を喰らわす、体表が全て剥がれ落ち、エネルギーの塊であるコアが露出した。

「ドライブウェポンも無しに? あの機体、やるわね」「ミオ! 、感心してないで止めいって!」

 コアを露出させて一旦距離を置くと、もう一つの機体の底面につけられたユニットがパタパタと展開し、先端に電気が走る刃のようなものが現れた。

「ドライブウェポン、エクステンドエッジ! ……アタック、イグニッション!」

 機体ごとコアに突っ込んで刃を突き刺す……どころか貫通して機体もろとも通り抜けて距離がある程度離れた後、行き場を失ったエネルギーが熱となって体表の液体金属を蒸発させ、跡形もなく爆散した。

「「任務完了」」「よしっ! 勝てた……守れたんだよね、この街を」「危なっかしかったけど、まあキミはどうやらセンスはかなりあるっぽいことはわかった、疑ってごめんねキミはやっぱりカナの子だって確信が持てたよ」

「やっと信じてくれた? やったぁ!」「とりあえず、仮の相棒としてだったらなんとかやってけるかも……」「ふえっ?」

「今ここに乗ってるってことは、カナの代わりにキミが僕と戦ってくれるんでしょ? 、ねっ♪」

「ええ〜……でもまあ、悪くないかも、正義の味方っぽいし」

「じゃあ決まり、よろしくニューバディー、キョウカ」

「うん、やれるだけ頑張るよ、よろしく、ライじ……」「ライトでいいよ」「わかった、よろしくライト」

 それから、入射角をライトに調節してもらいながらさっきのカタパルトの方へ逃げるように潜って、格納庫に戻りレールに沿ってカタパルトを下り切ると、転車台の様に最後のレールが反転してむきが向きが直るとキャノピーが開いた。

 そしてコックピットから降りて床を踏みしめると体がふわふわとして上手く立てず、そのままステンと倒れて階段から落ちた……3度目の転落、今日何回落ちるんだろ。

「ハハッ、丘酔いだね」「船なんか乗ってないよ?」

「でも症状はそれそのものだよ」

 さっきまで冷たい顔しかほぼしてなかったのに、私が天音奏叶の娘と確信してくれた後はすごく表情が柔らかくなっていた‥手のひら返しもいいとこだよ。

「お疲れ様」「あはは、情けないよね、これじゃ」

「とりあえず休みなよ」「そうしたいけど、私、帰らなきゃ」

「カナのお婿さんところに?」

 そのワードを聞いた途端に私の頭が凍りかけた、確かに順当に考えればそうだよね……

「ううん、今は幼馴染の家で居候しててさ」「そうなんだ……って待って。キョウカっていくつなの?」

「16才だよ、逆にライトは?」「僕? 僕は……長いこと寝てたし、明確にいつ僕が生まれたかは記憶がないんだ」

「そうなんだ、じゃあ一旦気にしないことにするよ、でここからはどうすれば出れるの?」

「それはキミが持ってるその笛、それがあれば出入りできるよ、そこの扉がエレベーターになってて、翳せば起動する」

「そうなんだ……ねぇライト、緊急時以外もここにきていい?」

「好きにすれば、今のところカナとキョウカしかここに出入りできないし……別に……寂しいわけじゃ、ないから」

 そう言いながらライトはソファーの背もたれに身を隠してしまった、意外とツンデレ? 

 ソファーを除くと疲労からか既に寝息を立てている、彼の体に毛布だけかけてあげてこの部屋を後にした。

 扉が開くと、真っ暗な星空が顔をのぞかせてい!? 、外に出た途端に聞いたこともないほどの回数通知音が鳴った、早く帰らなきゃ。

 移動しながらメールを確認すると、17:00頃に母さんのアドレスからあの場所へ行ってライトに会いに行けと言う内容のメールが届いていた、このメールが来てから出会ってればもっと円滑に事が進んでたんだろうなぁ……でも、何故か返信ができなくなっている、もしかすると送信予約による自動送信メールかもしれないし、なりすましかもしれない、でもアドレスは本物だから、母さんの居場所はわからないけれど、生きている可能性は高そうだと思えた。

 そしてしばらく帰路を辿っている間に私はその幼馴染と無事合流した。

「キョウカ! 、もー、制服のまんまどこ行ってたの?」

「どこって……私も知らない所にいたからさぁ‥」

「ほら、やっぱり寄り道しててたまたま無事じゃん」

「コウタ‥冷めた反応やめな? ……ってキョウカ! 制服こんな汚して……今日金曜日だからいいけど、明日授業あったらどうする気だったの?」

 あ‥全然気にしてなかったけど学校の帰り道であの格納庫にたどり着いて、それからそのままの格好で廃墟に入り込んで迷って、挙句の果てに戦ってたせいで自分が思っていた以上にいざ確認してみると焦げや砂や埃だらけでおまけに汗びっしょりだった。

「早く帰ってさっさと着替えて、お風呂沸いてると思うし」

「こんなに色々あったのによくそのテンションで入れるね……」

「いや、キョウカさ、後で鏡見て……結構ばっちいよ?」

 そしてギリギリ21:00時回らないくらいの時間に水原家に着いた、この辺に侵攻する前に食い止められたおかげでほとんど無傷だ‥

「「ただいま〜♪」……さて、夜も遅いしサクッと軽めにするか」

「ねぇあお、結海(ゆうみ)さんは?」

「お店が被害範囲の近くだったから、片付けで遅くなるってさ‥」

 結海(ゆうみ)さんと言うのは愛緒と航太のお母さんで、魚市場の中に併設されているお食事処に勤めている、けれど翌日の仕込みや、朝早い搬入作業があるので帰りが遅くなる事が多かったり早出のために21:00時頃で既に就寝している事は度々ある、なので家に子供だけになる事が多いから必然的に愛緒が台所に立つ事が多い‥だけど結海さんの料理も愛緒の料理も絶品なのだ。

「じゃあキョウカはさっさとお風呂、GO

 そのあとコウタね」

「はぁい」

 湯船に浸かって今日の事を思い返すと、結構いろんな事が一気に起きた‥でもわからない事もたくさん増えた‥でもとりあえず今言えることは一個だ、疲れたぁ‥だから今日は休んで、また明日にしよう。

 

 

 少し時間戻って19:30、響花が帰路についた頃のとある基地では

「04、ミラージュ=エルフと空音澪、帰投しました」

『澪、わかってるよな? 、今回は結果オーライだったが、所属不明のあの機体が来なければ勝てていなかった』

「ですけど、私が引いたらもっと……」『優たちが居る‥まあ初陣だからな、今回は許可したが、次は滅多にないぞ』

 無線の先の海堂は意地悪そうな笑みを浮かべている、当然彼女は知る由もないが。

 

 同刻、黒い船の飛び去っていった先

「来たか」

 その場所に着くと、船に乗っていた2人が仮面の男に挨拶し、その直後何かを投げ渡した。

「※It would be inconvenient without a translator(翻訳機だ、ないと困るだろ)

 その装置を受け取り装着するのを待ってから仮面の男は話を続けた。

「とりあえず、伝言だ……今後ここを拠点として使えと」

 その場所は怪しい組織のアジトらしからぬ豪邸である‥親玉の別荘か何かだろうか。

「ご報告致しますと、こちらへ渡航中、魔導士一名も付いてきてしまい、クリスタルの一部も喪失しました」

「そうか、だが1人なら大した事はない、それにクリスタルもこの世界には持ってきたんだろ? なら親父たちの財力でどうにかなる」

「ですが、その魔道士は‥」

 仮面の男はその名前を聞くや顔を顰めた。

 

 

 場面戻って、水原家の居間‥

「「「いっただきまーす♪」」」

 サクッと言った割には出された献立は鰆の照り焼きにこだわりの味噌汁、それから青菜のおひたしとお米といった具合である、これを30分程度で全部用意するのだから愛緒ってやっぱり手際が良いなぁ‥

「姉ちゃんおかわり」「コウタ早っ!?」

「だって、非難だなんだで練習潰れてイライラしてんの」「ふーん」

 だとしてもさすがは食べ盛り‥まあそんな康太を横目に鰆を頬張る、漬け込みだれがよく染みていて、だけど愛緒好みの味付けに仕上がってるから甘辛いというより優しい味わいが広がる。

 そういえば、ライトって‥メタフルって食事‥必要なのかな? 

 味覚とかあるのかな? 

 

 To be continue

 




とりあえず私は母さんからライトの相棒に指名された訳で、彼の事をいろいろ知るべくデートに誘ってみることにした。
けど私、男の子と二人っきりってそんなに経験ないんだよね…
次回、第4話「お出かけしてみよう」
セーフティリリース・・・ユニゾン、ゴー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#04 お出かけしよう

さて、前回のおさらいだよ〜♪
「キョウカに押し切られるまま発進して…いろいろあってなんとか勝利。」
なんとか、じゃなくて大勝利!でしょ?「だってとどめ刺してないじゃん」
うう…まあ良いや、とりあえずそのあと私とライトでコンビ結成、どうなることやら…こんな感じで良いかな?
「良いんじゃない。じゃあ、今週も始めようか。」


 翌朝、意識がハッキリしてくると、トントントントンと包丁がまな板に当たる音が聞こえて来る‥台所からだろうか? 

 もしもこの音の主が愛緒ならば、今は7:00くらいだろうか。

 聴きながら眠れてしまいそうなほど聞き慣れた生活音のASMR(安心する音)で目を覚まし、体を起こしてあくびをひとつ、外はまだ暗く肌寒かった、そして辺りをみると私は愛緒の部屋ではなく、居間で寝てたみたい。

 どうりで調理場のパーカッション(包丁の子気味いい音)がいつもよりよく聞こえたわけだ。

「おはよ、キョウカ‥今日は早起きだね〜」「まあ、昨日は寝落ちしてたみたいだし‥ふぁぁぁ……とりあえず、おはようあお」

 布団も敷かず、座布団を枕に畳で寝てたわけだからか何故か寝覚めが悪かった、元からいい方ではないけど。

「今日なにか予定でもあるの? キョウカが早起きする日ってたまたまか何か楽しみな事がある時じゃん」

「別に今日はなにもないよ‥あるとしたら月曜日提出の自習ノートやらなきゃってだけだし」

「じゃあ今日は、たまたまなんだぁ」

「なんでつまんなそうなの?」

 愛緒は絶賛コウタのお弁当作り中、最近プチ反抗期真っ只中? ですけど、きっちりお弁当作って送り出されてるんだから何かといいお姉ちゃんなのである、私愛緒の妹だったら絶対反抗出来ないって‥それに愛緒が不機嫌な日は余裕で嫌がらせ弁当作って来るから(苦笑)

 と、ご飯の話してたらふと昨日浮かんだ疑問を思い出した‥検証してみようかな。

「……ねぇあお〜お弁当、もう1人分作ってもらってもいいかな?」

「いいよ、作り足りないし」

 想像以上に簡単にOKされた、まあ愛緒は一家の炊事当番なだけではなく、時々料理したい衝動に駆られる事が‥てかよほどメンタルズタズタにならない限り毎日そう。ぶっちゃけ料理するのが本人曰くストレスの捌け口らしいし、まあ納得の速さだ。

「代わりにちょっと手伝って」「ええ?」

「他の家事やってよ、コウタ多分ギリギリまで起きないもん」

「さてはあお‥今日予定アリか? その素振りはそうでしょ! ねぇ! あお〜あお〜」

「察しがいいねぇ」「ほらやっぱり〜別にまあやるけどさ‥」

「昨日洗った自分の制服のアイロンがけもお願いね〜」

「はぁい‥」

 時計を見るとまだ5:42だった、そりゃ丁度日の出くらいか‥

 とりあえず洗面台で顔を洗うと少しシャキッとした感じで一気に目が覚めた、そしてカゴいっぱいの洗濯物を抱えてパジャマのまま鼻歌混じりに干していく、それから昨日夜に部屋干しされていた制服にアイロンをかけてから、姿見の前で私服に袖を通す、まあ私は部屋着と他所行きの服は分けないタイプだけどね。

 という訳で今日の装いは白い長袖のポロシャツに薄桃色のフレアスカートを合わせて、4月に入りあったかくなってきたから靴下も膝下クルー丈に変え、それからフードのついた蛍光オレンジのウィンドベストを羽織り、髪型は寝癖を直しシュシュでポニーテールに整えて完成だ、学校じゃストレートだけど。

 因みに今日の愛緒はと言うと、デニムにオーバーシャツと、The部屋着である。

 それから私は去年愛緒が買ってきた青、って言うかネイビーカラーのパーカーなどのあんまり気に入ってないセットアップを1セット鞄に詰めて居間に……いや、航太起こさなきゃだ。

「コータ? 、今日練習じゃないの〜? コータ?」

「────────うるさい‥」

 毎度そうだけどドアノックと声掛けじゃ起きないんだよね‥まあいつもの策に出ますか。

「シツレイシマース……はぁい、もうすぐ7:00だよ〜♪ さあ起きた起きた♪」

 ガチャっとドアを開けてカーテンを開けると布団に潜るのでそれを引き剥が‥せなかったね今日は。

「ギリギリまで寝かせろよ‥」「いいじゃん、いいじゃん、早くしないと朝ごはん冷めちゃうよ」「あんだよ、うっさいな……早く出てけ」

「はいはい、じゃ、早めに降りてきてね」

 階段を降って居間戻ってくると朝食が既に広げられている。

「いいタイミングで戻ってきたね〜♪ どっちもできたてだよ」

「じゃ、お先に‥」「コウタ降りて来るまで待とうよ」

 昨日は色々ありすぎたけど、何も変わらない休日の朝が来てそのまま何事もなくすぎていくのだった。

 

 

 同日7:30、燈ヶ浜市商業区のとあるマンション

「おい、起きろユキ‥」「優くん‥今日は土曜でしょ?」

「何年この仕事やってその台詞言ってるんだ? これからリモート会議、その後取材来るんだぞ?」

「やっば! そうだった!」

 ここは2×Ysh(ツヴァイワイズ)のお二人の自宅……当然アーティストだから自営業、つまりカレンダーどうりに休みは来ない。

 だけど、2人には第3の顔もある、その会議と言うのは‥

「おはよう御座います、獅童隊長方」

「あれれ? なんでミオが‥あっ昨日家に泊めたんだった」

「ったく、ミオ、そう硬っ苦しくなくていいぞ、任務中じゃないからな」

「ですが、規則ですし──」『さて、集まったところで会議と言うよりかは朝礼だな────────』

 獅童家のリビングのソファーに並んで座り、画面の中の司令官との会議が始まる。

『とりあえず昨日はご苦労、成果としては申し分ない、被害範囲の復興状況も来週には全て現状復帰が可能だ。

 だが、俺がこんなニュースのためだけにこんな会議を開く様な男じゃないのは既に知ってるだろ?』

「「まあ、十分以上には」」

 隣に座る彼女を置いてけぼりにする様に2人が息ぴったりで返すと彼は「相変わらずお似合いだな、お前ら」と言った後に本題を切り出した。

『エクステンドエッジに付着した物資の成分や、爆散した死骸の回収分から分析して分かったが、あの怪物は間違いなくメタフルのうちかなり巨大な個体だ、それにその後の現地調査によって卵型のカプセルが発見されたが、このカプセルからは、あの体表の液体金属を圧縮するテクノロジーであろう物が組まれていた』

「って事はあの個体は誰かが携帯していたってことか、しかも難なく持ち運びできるサイズならこれ一個で終わりってことはなさそうだな……」

『ああ、しばらくは頻出する可能性が高そうだ‥そしてこのカプセルを用いているのは恐らくあの黒い船の輩だろう』

「海堂司令、質問いいでしょうか?」

『ああ、なんだ?』「あの船と‥1号機(ライジング=エンジェル)の行方は?」

『どちらも不自然な場所で反応がロストした、あの船の隠し場所が何処かは他の組織にも調査依頼を出してる最中だ‥それとお前を助けた機体だが‥無線の周波数は探れている、次回遭遇時に対話を試みてくれ』

「了解しました」

『ではこちらからの共有事項は以上だ、そっちからの報告事項は?』

「ユキが寝坊した以外何も」「ちょっ──」

『また映ってない部分はパジャマか、そんな気はしてたが』

「海堂司令まで私のこといじるんですか!」

 YUKIさんはジタバタと子供のように反論している、そしてそれを放って置くような形で彼女が……

「では、基地に出頭s──」『しなくていい、たまには休め……今日は出動待機から外してあるからな』

「海堂司令! 、私が外れたら他は‥」『はあ‥ミオ、たまには遊びに行ってこい、俺から見ればまだお前は子供だからな‥若いうちは遊んでおけ‥学校と常時出動待機で休暇を渡さない訳にもいかないしな』

「わかりました、1日‥」『トレーニングも今日は禁止だ、いいな?』

 彼女は少し不機嫌そうな顔で渋々了承して席を立った。

 

 

 

 8:00、例の廃墟近辺

「確かこの辺だったはず‥」

 昨日吸い込まれた足場を探して踏んでみるけど何も起きない‥どう言う動作条件になってるんだろ? 

 ちょっと壁に近づくと昨日と同じように相互に認識がされている様でまた発光とともに吸い込まれ、また滑り台の様な通路を抜け、今日はしっかりと着地する。

 さて、ライトは……まだ寝てるのかな? 

 ソファを除き込むと毛布だけが残っている、ほぼ仕切りがない部屋でこんなにも見つからないことあるだろうか? 

 とりあえず何かしらの音が欲しい、流石に話し声も無く雑音も少ないんじゃ落ち着かないし‥とりあえず卓上のMD(母さんの置き土産)を一枚取り出してプレイヤーに入れる、再生すると2000年前半頃にリリースされた「秘密基地」が聞こえてきた、まあロケーション的には合わないけど、普通に好きだからいいや……

しばらくすると、音に気がついて機体の下からひょこっとライトが現れた。

「ん? ……なんだ、キョウカか、来てたんだ」「う、うん、おはよライト」

 仕方ないけどぎこちない挨拶になってしまった。

 ライトをよく見ると黒ずみだらけで機体をかまっている最中だったようだ、あっ、そっか‥ライトが自分で整備するしか無いのか……

「マメだねぇ……」

「昨日ロクに点検せず使ってガタガタだったからね。

 とりあえず、何かあったら動かせる様にはしたけど‥現状一個問題があってね」

 彼が横の箱に視線を向ける、蓋が開いており中身が見えるが、無機的な銀の袋が見える‥恐らくパサパサとした固形タイプの戦時糧食(コンバットレーション)だろうか? 

「とりあえずあるだけましだけど、味気ないアレしか無いのが唯一のネックなところ……」

「やっぱり、食事はいるんだ」

「まあ、永久機関が作れないのと同じように、何もなしにエネルギーって生まれないからね‥ああ因みにエネルギー源は食物から取れるから」

 聞く前に答えが出た、と言うことなら頼んで正解だった。

「ならさ、これ食べる?」「お弁当……キョウカが作ったの?」

「ううん、これはあおに作ってもらった」

「じゃあ‥なんかもらうのが忍びないなぁ」

「でも、ライトに食べて欲しくて、おなか‥空いてるよね?」

 ライトは少々渋った後に「じゃあ、いただきます」と言ってから蓋を開けると、スクランブルエッグに大きめに切られたレタスのシーザーサラダ、そこにご飯とソーセージ‥今朝と同じ献立である、しかもあんまり常温に置かない方がいいメニューって、食べるの私じゃ無いってバレてた? ‥だとしたら愛緒察し良すぎでしょ。

 それから、ライトが口に卵を運ぶとふっと顔が緩む‥それから‥

「愛緒って、キョウカの幼馴染なんだよね?」

 ここで「秘密基地」が終わった‥

「まあそうだけど‥なんで?」「……直接お礼言いたいなって思っただけだよ」

「あ、ああ‥そっか……でも外歩く時に羽、隠さないと‥だよね?」

「‥そこなんだよね、このまま外、歩けたら楽なんだけど」

 私も何回か忘れそうになってるけど、彼の外観を説明すると、私より背丈は低くてちょこっと童顔‥なのに加えて、背中から背丈の半分ほどの大きさの羽が生えている、そのため女性用衣類で時々見るベアバック、つまり背中の空いた服を着て羽を自由に伸ばせるようにしている……だけど畳めば服の中収まりそうなんだけどなぁ。

「その上に上着羽織れば収まりそうだけど?」

「……窮屈だからやだ」

 さっきまで笑ってたのに、いきなりしかめっつらだ‥

「えぇ……そんなにいや?」

「畳みっぱなしなのが嫌って言うより、圧迫感が嫌、確かに羽が背中から生えてたらそりゃ驚かれるし目立つよ……だけどやっぱり……窮屈でくすぐったいから、このままがいい……」

 ダメだ、私背中から羽生えたことないから共感できない悩みだなぁ……いや世の中で恐らく彼だけが抱える悩みでしょ絶対これ……

「そっか、ならちょっと一緒に外歩いてみたかったけど‥やめにするよ」「えっ待って」

「えっと、なに?」「だから、今なんて?」

「いや、出会って日が浅いし、って言うより昨日初めて会ったばっかじゃん、ライトから教えてもらいたい事もたくさんあるし、だから一緒に出かけたいなぁって思ったけど上着着るの嫌なんだよね?」

「でも、外行けるなら、行きたい!!」「ええ? ‥でもその格好じゃ目立つって!」「我慢する、だから行くっ! いくったら行くっ!」

「駄々っ子か!」

 精神年齢が低いんだか高いんだか、だけど‥まあ行くって言うなら最初の予定通り着てもらうか。

「じゃあこれ、着てみて」

 リックサックに詰めてきたパーカーをとりあえず着てもらうことにしたんだけど……ダメだ、私のサイズじゃブカブカだ。

「どう?」「やっぱり、くすぐったい‥だめ! むりっ!」

 サイズにゆとりがあってもダメか‥あっすぐさま脱いだ。

「とりあえず、残りのお弁当だけ食べてからにする」

「じゃあやっぱり、やめに‥」「いや、行く」

「でも窮屈なの嫌だって……」「だってキョウカかカナがいないと外行けないし、今は自由だけど、カナと一緒だった頃はほぼ軟禁状態だったから」

「やっぱり、これが無いと出入り出来ないの?」

「いや、出れるけど入れないだけ、だってその笛にはいくつか種類があるけど、各種、世界に2本ずつしか無いし」

「って事はもう片割れを母さんが持ってるから──-」

「2本目のAの鍵を持ってるキョウカしか出入り出来ないし、因みに普通はその鍵だけ持っててもあの機体を動かした時“あんなに安定しないんだ”」

 えっそうなの? 

「ライト……詳しく教えてくれない?」

「あの機体、メロディックバーズは僕らみたいなメタフルと、共鳴駆動炉(シンクロニングエンジン)を用いて僕らのエネルギーをそのまま動力にするんだけど、それを安定させるにはその鍵とエンジンとコアの相性がよくなきゃいけない‥だけど僕はその3つの相性だけじゃギリギリ飛べるくらいの出力までしか安定させられない。だけど何故かあの歌を……カナやキョウカの歌を聞くと何故か安定するんだ。……カナ以外であの心地いい声に出会えたのは初めてだよ」

「私の歌?」「うん、それがカナが君を選んだ理由であり、そして君にパイロットとしての基礎を仕込んだ理由‥だと思うんだ」

 私の歌にそんな効果が? 

「つまり、私が昨日歌ってたのって……逆に良かったの?」

「うん、まさか”声“で僕の力を引き出す事を成し得る人間がカナ以外にいたのが驚きだよ」

「‥っていきなり言われても、話が飲み込めないんだけど」

「今は飲み込めなくていい、僕だって少ししか分かってないし……だから新しい相棒としてキミのことをもっと知りたいし、カナが僕に教えてくれた世界を自分の目で見れる機会があるなら、見たい、だから我慢してでも行くっ」

 

 それから数分、エレベーターで地上に出て、船着場へとしばらく歩く……そういえば男の子と2人っきりって経験がほとんどないから……いざ外に出ると人目が気になってしまう……それに隣の彼は、羽を自由に伸ばせないのがストレスなのか、イライラを抑えつけて苦笑いを作っている。

「……やっぱり、やめる?」「……ここまできたもん、がんばりゅ」

 うわ、痩せ我慢すご‥でも本人が行きたいって言うんだ、止めないであげよう。

 それから2つの島を繋ぐ橋を渡って商業区へ、説明しておくと燈ヶ浜は本土と小さな離れ島が大きな橋で繋がっている、そして本州側の周りを埋め立てて広くした土地が、通称商業区だ。

 と言いつつもここまで都市化したのはここ数年の話である。

「こっち側も眠ってる間に随分発展したねぇ……」

「そっか、6年前だから……再開発途中の頃で……」

「いや、僕が知ってる“あの場所”は戦火で焼かれた状態だよ」

 戦火で焼かれた、と言うワードだけであの赤い空と崩れ去った街が脳裏に蘇ってきた。

 そっか、母さんが居なくなったあの戦いで、ここってもろに被害にあったもんなぁ……再開発が始まったのってその後か。

「ごめんねキョウカ、嫌なこと思い出させちゃったよね?」

「いや、気にしなくていいよ……とりあえず、無難にショッピングモールとか行く? ……ってライト、あれれ? ライト?」

 ライトからの返事がなくなった、なにが起きた? ……心配になって振り返ると…………

「あれ……黒いつぶつぶ‥」

 彼は移動式店舗を見て目を輝かせている、童顔なせいか異常に可愛い。

「あー結構前にブームなってたやつか‥飲みたいの?」

「いや、カナがよく飲んでたの思い出しただけ、別に飲みたいとか、思ってないし‥」

 そういや母さんブームになる前からアレ好きだったなぁ、私がちっちゃい頃よく買ってきてたなぁ、懐かしい‥てか多分ライト、飲みたいんだよね‥分かりやすいと言うかなんというか……よし、買うか。

 

「〜♪」

 そのお店でタピオカミルクティーを奢る、って言うか二人分買って片方渡すと、彼はかなりご機嫌なご様子だ、さっきまで羽根がどうって言ってたのが嘘のように。

 私も久々に飲んでみるとストローからモチっとしたものが入ってくる微振動が懐かしく感じる、だけどこの店‥肝心のミルクティーが随分と薄い気がする。

 でもライトのご機嫌な顔が見れただけ値段分の価値アリ、さっきお弁当食べてる時も思ったけど写真に収めたいくらいご飯食べる時とすごくいい顔で食べるんだよこの子、カメラ向けたら機嫌損ねそうだからやめとくけど。

 と、彼の顔を眺めながらぼーっと啜ってると勢いよくストローから飛び出した粒がダイレクトに喉に詰まった、よくある現象だけど結構これビックリするんだって……

「キョウカ、もしかして詰まった?」

「ちょっ、なんで笑うの! ねぇ!」

 私にとってちょっと懐かしく感じたやりとりだった‥お兄ちゃんや母さんと一緒に住んでた頃を思い出す……当時は弟や妹が欲しくてたまらなかった時期だったなぁ。

 そういえば母さんが居なくなる前によく一緒に遊んだあの子‥今なにしてるんだろ。

 そう懐かしんでいると、聞き覚えのある声が近づいて来た……

「やっほ〜キョウカ、なにしてるの?」

「へぇ〜、キョウカにも一緒に遊びに行く男友達居たんだぁ♪」

「あ、あお? ‥にベルも‥偶然だね‥」

 マンガみたいな話だけど、愛緒とバッタリ会ってしまった‥しかも同級生の水琴鈴(みなごとすず)もセットだ……因みに“ベル”というのは彼女の愛称である。

「キョウカってこういう子好みなの?」

「別に‥カレシとかじゃないよ、って言うかベルには関係ないでしょ!」

「ふーん、じゃあ一緒に住んでる愛緒はこの子のこと知ってるの?」

「いや、私もはじめましてだよ、って言うかベル、キョウカが可哀想だからやめな?」

 さすが愛緒……でも、ライトのことなんて誤魔化そう? 

「あー自己紹介がまだだったね、はじめまして、私は水原愛緒、あおでいいよ、でこっちが友達のベル」「ちょっ、愛緒‥んうん、えーとベルこと、水琴鈴‥呼び方は好きにお願い」

「愛緒に、すず……」「君は?」

「僕は……ライト、キョウカとはまあ‥」「たまたま知り合ったんだ、まだ知り合って2日目‥」

「そうなんだ……」そのあと愛緒はライトを見るや‥

「って事は今朝のお弁当ってこの子‥のため?」

「やっぱり察してたの?」

「だって明らかに誰か会いに行くのかなぁって感じでソワソワしてたし、でもキョウカってさ、困ってる人ほっとけないタイプだし、昨日異様に帰り遅かったし、だから多分昨日誰か助けてて、その誰かにあげるんだろうなって気がしてたんだよね……でもその子が心配になるくらい痩せてるの見て確信したよ、予感が大当たりだなんて」

 一緒に住んでる期間が長いせいかお見通しか……だとしてもこれはこわいっいぇ

「うわ、愛緒‥そこまで読めるのは流石に引くわ……」

「にゃははは‥やっぱりあおには敵わないや‥」「お弁当、ご馳走さまでした」

 ライトが両手を合わせてお礼を言うと、「どういたしまして、今度うちおいでよ」と笑顔で誘う……ここで今朝の愛緒に説明に付け足すと……恐らく自分の料理を美味しく食べてくれる人にはとことん振る舞いたくなるクッキングジャンキーなのだ……私も餌付けされかけたし‥ベルもその被害者になりかけた一人である。

「ねぇねぇ、キョウカ、昨日の騒動の間にn」「邪魔しちゃ悪いし……もう行くね」

「うん、そっちも楽しんで‥」

 ベルを引きずるように愛緒がそのテーブルを離れると、愛緒からメールが来る。

 ライトと肩をくっつけて文面を確認すると「デート楽しんでね❤️」とお節介メールだ。

「デートかぁ‥キョウカの恋人のフリ、してもいいよ? 楽しそうだし」

「バカ! 私は、もう好きな人とかいるし‥男に飢えてないし‥」

「ふーん‥」

「何その態度」

「じゃあこうしようよ、黒いつぶつぶのお礼に一個お願い聞くって言ったら?」

「……恋人よりかは、弟のフリしてくれる方が……嬉しいか‥」

「じゃあ、これからどこ行く♪ おねー‥」急いで彼の口を塞いだ

「やっぱやめた……でも、折角だからライトの行きたい場所に行こうか?」

「なら、からおけってのに行ってみたいかなぁ‥」

 カラオケか……悪くない。

「じゃ、私安いとこ知ってるから行こうか……どうしたの?」

「キョウカ‥やっぱりちょっとそう言う目で僕見てた?」

 イタズラが上手くいった時の子供みたいな顔で言われた。

 手元を見て見ると無意識に彼の手を握って立っていた……見た目は人間でも体表が液体金属であるためか、人間とは違う生ぬるさを感じる。

「なんだっていいよ、もう‥」

 そのまま勢い任せに手を振り払った。

 あぁ〜なんでこんなにも今日は調子が狂うんだ! ……からかわれるのは苦手なんだって! 

 

 

 私とライトがこんなやりとりをしている間、愛緒は昨日助けてくれた彼女が駅でため息を吐いてる所を見かけた。

「(日本円(こっちの通貨)に両替してないから前来た時のあまりしか使えないけど、それじゃぁ足りないか‥でも公共交通機関が使えないんじゃ思ってるよりも遠いぞ‥ヒッチハイクも今の時代キツそうだし‥はぁ、連絡手段さえ生きてればなぁetc……)」

「あ、あのー」「あっ、昨日の! よかったぁ‥無事でしたか‥」

 切迫詰まった様子の彼女は愛緒に驚いて少し変な日本語で答えた。

「はい、おかげさまで、ありがとうございました」

「いえいえ、困った時はお互い様って言いますし、私は人助けがお仕事みたいな感じなので‥」

 人助けが? と愛緒は首を傾げた、何故なら彼女の装いは見たことないエンブレムが縫い付けられた水色のマウンテンパーカーに健康的な太腿がはみ出すショートパンツ、靴はカジュアルブーツで髪は漫画で見るような大きな赤いリボンで一本にまとめていて、鞄の類もショルダーバックのみだし、警察だとしても消防の方だとしても外見が若すぎる。

「────────昨日助けていただいた時から思ったんですが、普段は何を?」

 そう聞くと彼女はかなり動揺したが、すぐに答えた。

「こっちの国だと馴染みない職業だと思いますので、言ってもピンと来ないと思いますが……」

 と赤いリボンの彼女が口を開いたところでベルが追いついた。

「愛緒‥いきなり走り出してどうしたの?」

「ごめん、昨日助けてもらった人がさ‥」

 と指を指すと、彼女はもう居なかった。

「あれ?」「愛緒‥大丈夫?」

 見間違いか幻覚だったのかと思ってもう一回ベルの方に向くと、「よっと、はい、手離したらダメだよ〜」と小さな子の飛んでいった風船をキャッチして手渡したあと、「ごめんね」と言っているかのような口の動きと一緒に両手を合わせて謝っている彼女が見えた、けれどそのあとすぐに人混みへと消えていった。

 

 to be continue




次回予告
さあさあやって参りました、カラオケボックス!
でもライトってどんなの歌うんだろ?
懐かしさ爆発して、私も楽しくなってきちゃった♪
次回、第5話「ファーストホリデイ」
ノリノリで歌っちゃうぞっ♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#05 ファーストホリデイ

さてさて、前回のおさらいターイム♪
「って先週はそんなに話動いてないじゃん。」
だけど一応‥ね?やっとかなきゃだし。
「はいはい、でまあ…これからカラオケってとこだっけ?」
ざっくりしすぎってか尺がぁ…
「とりあえず早速始めようよ、キョウカ」


「‥海堂司令、なぜ‥まだ、足りないと‥」

「ミオ、今日はトレーニングも禁止されてるはずよ」

「どーせバレてないんだし、きっと私が力不足だから‥外され‥」

「ミオ!」

 彼女、空音澪は禁止されていたにも関わらず、出動待機から外れてもなお、相も変わらず鍛錬鍛錬また鍛錬の生活をしていた。

「たまには休んでくれないと、心配なの、きっと海堂司令も同じように心配してるのよ。

 たまには年相応に遊んできても……」

「でも、その時間も惜しんで力になれるようにならなきゃいけない‥」

 そのまま澪はまたトレーニングを再会した。

「ミオ、今はあなたしか居ないけれども‥そこまで抱え込む問題ではないじゃない」

 美尾は、先日の出撃時に、ほぼ何もできなかった事をきっかけにやけになって、上官の声も相方の心配も聞く耳を持とうとしていない。

「ミラージュ=エルフ、全部悪いのは私だから‥私がもっとしっかりしないと……」

 ミラージュ=エルフ、彼女の心配は積りに積もるばかりだ。

 ・

 ・

 ・

 ほぼ時同じくして、燈ヶ浜商業区のとあるカラオケボックス‥

「いらっしゃいませ、おや、響花様ではありませんか」

「はぁ、アンタかぁ‥だから良いってそう言うの、ホントにいらない」

 よりにもよって今日カウンターこの人か……最悪……まあカウンターならいいけどさ。

「本日もお一人で?」

 とまあいつもの決まり文句に今日は「いや、連れがいるから普通の部屋で、空いてる?」とライトの方を差しながら伝えると、「でしたらあともう少しで一部屋ご用意できます、お時間は……」といつもここまではこの人の時スムーズなんだけどなぁ……

「また1時間パック勧める気でしょ? 、ワンドリンクオーダー制の」

「何故おわかりに?」

「舐めないでよ、私の通う頻度‥とりあえずフリータイム、できるよね?」

「かしこまりました……おっと、男女お二人様でしたらあちらのフォトスポットで写真撮っていただくとカップル割がござい‥」「いや、彼、別に彼氏じゃないんで‥」「左様ですか」

 彼から会計用の伝票を受け取った後で、ライトが私の服を引っ張って私の注意をひくと、「僕は撮ってもいいよ、写真一枚で‥」と言ってきたけど、「絶対御免、撮った写真店先で掲示されるからやだ」と包み隠さずやな理由を言うとライトも引き下がった。

 それから階段を上がり、伝票に書かれた番号を頼りに部屋へ入ると‥あの野郎、やりやがった。

「‥広いね……」「なんで2人なのにパーティールームなの‥」

 部屋番号見た時に感づいてたけど、通常4〜6人用の中規模なパーティールームだった、机から画面までが広く取られ、画面の横にお立ち台があるタイプの部屋だ。

「ここがからおけボックスって所かぁ‥」「まあ、本当はもうちょっと狭い部屋だけどね」

 はしゃぐ彼を見守りつつ、有り余るソファーに荷物を投げ捨てて、コントローラーとマイクを机に持って来てっと。

「さーてと、何歌おうかな‥」

 普段は1人で好きなだけ居座って歌ってたけど、今日はライトいるしなぁ‥とりあえず母さんが好きだった歌は多分知ってるだろう。

 そう思って曲を一曲入れてっと‥一発目の曲目は森田交一氏作曲「BURNING HEART 」に決めた、これ元々フリー音源だったってのが驚きの一曲である。

「へぇ……こんな感じなんだ」

 ライトが大人しく座って聴いている、すごく楽しげだ‥まあノリは良いけど詩が切ない歌だけどね。

 歌い上げると笑顔で拍手をくれた、なんか拍手もらうのって気持ちいいかも‥

「やっぱり、キョウカの歌い方‥カナのに似てる‥ねぇキョウカ……もっと聞きたい!」

 無邪気な顔で迫ってくる、なんか楽しくなって来たけど、ほんの好奇心で一個意地悪してみたくなってしまった。

「でもさ‥私はライトの歌も聞いてみたいなぁ‥」

「僕の? ……聞きたいの?」「やっぱり、ここ来たら歌わなきゃ勿体ないって♪」

 そう言うと押し切られてライトも歌ってくれるみたい……だけど検索している画面は見せてくれなかった‥

「じゃあ、あんまり上手くないけど‥」

 そう言ってお立ち台に登ってこっちを向くと……イントロのピアノが聞こえてくるんだけど‥ふぇ、マジで!? 

 イントロのピアノが終わると、紛れもなくそれでしかないギターが聞こえて来た‥ 真行寺恵里さんの「IN MY DREAM」である……ウソっ歌えるの? 

 彼はなんの違和感もなく歌っている、当然はじめてだからキーが下げられていると知らずに歌っているけど‥逆に下がった後の高さがちょうどあっているようだった‥がやはり音域は足りてなかった。

「‥疲れるけど、結構楽しいかも」

 歌い切った後は息切れしつつも楽しげに笑っている、まあ私は予想の80°上のものが来て驚いたけど。

 それから、2人で交互に歌っていく……

 ちょくちょく新しい曲を交えつつも大半は母さんのMDにあった曲ばかりだけど‥

 そうして1時間以上が経った頃、ライトが上着を脱いでバサっとソファーに投げた。

「あっつ‥」「そういえば羽‥平気になった?」

「ぜんぜん……」

 ありゃりゃ‥1日じゃ克服は出来ないか……だけど。

「でも、キョウカと居ると忘れちゃいそうなほど楽しいから平気だっただけ、ありがと、キョウカ」

 と、無邪気な笑顔で言われて私の顔が火照っていく……

「キョウカ? どうしたの?」「なんで‥も、ないからっ! ホントに!」

 ライトの顔から目を逸らすと、愛緒からメールだ‥内容はベルと2人で航太の応援に行ってたけどその写真と『そっちは楽しめてる?』と言う一文が添えられてる……って今日航太試合だったの!? 

「ははぁ‥あお、こっちの写真が欲しいってことね‥」

 非常に隣の方が原因で撮りづらいのですが

 と内心思いながら画面を見ているとライトもそれを覗いている。

「ツーショット自撮りってやつ? 仲良しな人が良くやるってカナが言ってたやつだ」

 ‥そんなところまで吹き込まれてるのか……

「楽しそうだね‥キョウカ」「あーもーわかった、撮りたいんでしょ?」

「バレた?」

 彼はニコッと笑って私を観ている‥完全にペース乗せられた‥なんでライトとだと調子狂うんだろ……ほぼ親戚の子を世話するみたいな気分だよ……

 結局、私の携帯の画角に2人で入れるようにくっついてこっちも写真を撮って愛緒に送った‥返信になんと書かれるかは期待しないでおこ‥

 ではでは、写真を撮ってる間にいい感じに休めたし次は‥とリモコンを手に取った時に、久々にある歌が歌いたくなった‥何故思い出したのかわかんなけど。

「キョウカの番だ‥」

 ガイドのカウントを聞きながら大きく息を吸って……

「────────胸で輝く、心の牙♪ 喰らいつけ人狼戦隊♩ウォルフファイブ! ──」

 この歌はみんな一度は通るみ‥あぁ親の意向で見せてもらえない家もあるからこの文言はダメか。まあ5人のカラフルな戦士達が戦うあのシリーズの中でもこれは私の直撃世代の作品”人狼戦隊ウォルフファイブ“の主題歌だ。

 この作品は主人公5人が人狼で、悪い人狼を追い払って人間を守ってくれるんだけど‥最初の方は5人を受け入れてくれる人が少なくて苦しむって言うダークファンタジー的な要素があって、新しい物好きの少年真吾が5人の事を避けずに最初に受け入れてくれて、その子の努力や戦いで助けた人が増えていくようになって次第に受け入れる人が多くなってくれて……って描写に心打たれて、よく覚えている戦隊である。

 なーんかライトと一緒にいたら思い出しちゃったよ、だってウォルフファイブの5人が人狼なのを隠してるのと同じように、ライトは背中の羽を隠し続けなきゃいけないんだから、頭の中で勝手に照らし合わせてしまった。

「闇夜を超える♪ 光の爪♪ 引き裂け人狼戦隊ウォルフファイブ!」

 と2番を歌い終わると私はつい‥「情熱の牙! レッドウルフ! ……大地に響け! 勇気の遠吠え! ────────」と何年ぶりかわからない名乗りをやってしまう……そして難なく歌い上げると、ライトは興味深そうに画面を見つめていた。

「キョウカ……これ‥」「ライト? どうか‥した?」

「キョウカって、こう言うの見て育ったの?」

 あながち否定できない事を言われてしまったのが非常に辛いところだから、苦笑いしながら正直に言った。

「まあ、ちっちゃい頃の思い出だからさ……よく公園でお兄ちゃんと、後もう1人、あっちに居た友達と‥後2人は毎回違ったり居なかったりしたけどのめり込むようにみて、たくさんごっこ遊びしたりしてね……私はレッドかイエローが多かったかなぁ……」

「へぇ‥その友達って、愛緒じゃないんだよね? 名前出さないってことは」

「うん、もう随分長いこと連絡も取ってないんだけどね……でも私がこっちくる前は交換日記もやってたくらいの仲だったはずなのに‥何故か顔も名前も思い出せなくてさ‥」

「‥そんな事ってある?」

「でも実際に、昨日ライトと会って、母さんが居なくなる前の事を一気に思い出したんだけど、それでもあやふやな記憶しか返ってこなくて」

 ライトは不思議そうな顔して首を傾げた。

「キョウカってもしかして重度記憶喪失経験者?」

「いや、一回もないけど‥」

 なんで急に思い出したのか‥そして何故今まで忘れてたのか……

「ごめんね、キョウカ,とりあえず、考えるの別の時にしようよ」

「‥だね、とりあえず折角ここ来たし、次ライトの番だよ」

 

 午後14:00、ショッピングモールのとある一角

「とりあえず、これからどうするか」

 さっきまで目についた困った人の話を聞いては、助けてあげてを繰り返しているうちにすっかり昼過ぎになってしまった。

 だけど私が今抱えている問題はひとつも解決していない。

 その問題を挙げるならまず、結局こっちのお金には両替してないし出来ないし‥連絡手段が無いからこっちの知り合い経由での帰還も難しいし‥ 当然“ラープリューム”たちの力を借りれば移動は容易いけど、目立つし……完全に詰んだ状況に噴水に腰掛けながらため息を吐く‥しかも肝心の奴等の足取りも見失いっぱなしだし……何よりあの弓、アークウィンガーの自動修復はかなりかかりそうな見込みで‥結局しばらくは止まらざるを得ない‥まあ幸い私服捜査中だったから服装で目立つ事は無さそうだからそれだけはラッキーかな‥

「はぁ‥」とまたため息が漏れる。

 とりあえずここに居てもしょうがない、この辺の地理でも覚えr‥!? 

「──────って! ……──────」

 数百メートル先で耳が長くて背の高い女性が慌てて逃げる男を追いかけているのが見えた‥微かに聞こえる声と口の動きから読み取ると、恐らく「待って‥それを返してください!」と言っているようだ。

 ひったくりか? こっち(地球)もあっちもこう言う人は考える事同じか、しかも女性の方の靴はあまり走るのに適してなさそうだ、明らかに追いつけない。……サクッと助けてあげますか。

 さっきあたりを見渡していた時に見つけたたまたま何も下がっていない状態の広告用ポールに助走をつけて掴んでぶら下がりながらタイミングを図る。

 一般男性の100m走は確か平均15秒台として推測すると‥「そろそろかなっ……いち、にーいの……さんっ!」

 1で上腕に力をグッと込め、ポールに体をグッと引き寄せて、2でそのまま懸垂逆上がりして腕を伸ばして調整し、3で足を乗せ、鉄棒技のグライダー、別名飛行機飛びでさっきの男性に飛び掛かり、その男性をガッチリホールドしたまま受け身を取りつつ投げ、床に倒れたところで女性から盗ったであろう鞄を取り上げた。

「お兄さん、前方不注意ですよ〜♪」

 さて、あとはあの人が追いついたら鞄を返せば‥

「いったい何が飛んできやがッ! 空色の瞳‥赤いリボン‥!」「ん?」

 起き上がった彼は私を見るやそう呟いてぶつかった時に懐から落ちたバタフライナイフを拾って私の腹部を狙ってくる、だけど私は“視力も瞬発力も鳥並みだ”、ナイフを交わして腕を掴むくらい朝飯前。

 そのままナイフを落とさせて回収して、「バタフライナイフだなんて小洒落た凶器なんか使っちゃって……」と少々かっこつけながら刃をしまう‥けどここで油断するんじゃなかった、彼の懐にはもう一本鞘のついたナイフがあったのだ。

「キサマぁ!」「ッったっ! ……」

 切っ先が私の太腿あたりを擦る。刺さりはしなかったけど浅く切られた、咄嗟に傷口に手を当てると彼は私の写真だけ撮った後でもう一撃……と言うところで女性が追いついたのに気づき逃げていった‥呟いた内容的にも、もしかして昨日の奴等の仲間? 

「────────はぁ‥はぁ‥」「あっお姉さん‥この鞄ですか?」

「えっと……あっはい‥取り返してくれたんですか?」「ええ‥」

 足に傷さえ負ってなきゃなぁ‥私ってホントこう言う時にかっこつかない。

「ありがとうございます……あの‥お怪我は……」

「大丈夫です、私の鞄にガーゼと包帯は入ってるので、自分で‥」

「私の為の行動でお怪我なされたんですから‥お手当しましょうか?」

 ここはお言葉に甘えよう……

 

「傷口、結構深いですけど‥」

「このくらいはなれっこです、これより深くいった事もありましたし‥」

「だとしても傷口が閉じるまではここでじっとしてください‥そろそろガーゼ固定しますね」

「いたたっ‥あっもうちょっとキツくて大丈夫です」

「これくらいでしょうか?」

「アたたたたっ!」「ごめんなさい、やっぱり少し緩めますね」

 噴水の近くのベンチで切り傷の手当をしてもらった、けど心配する必要0だったなぁ‥ちゃんと正しい応急処置の知識を持っている方だったし、手つきから見て実践経験も多そうだ、この人保育士さんとかベビーシッダーなのかな? もしくは看護婦さん? 、だけど明確にするのは止そう、アバウトに、アバウトに聞こう。

「手慣れてますね……お仕事で手当てすること多いんですか?」

「お仕事でもやりますけど、私が面倒みている子が居まして‥その子がよく怪我をして戻ってくるもので」

 やっぱり、そう言う類のお仕事の方っぽいね‥

「へぇ〜、いくつくらいの子なんです?」

「今年で高校2年です」

 って事は家政婦説が濃厚だね‥と考えていると、こんなことを聞かれた。

「──あなたも見かけはそれくらいに見えますが‥」

 まあ聞かれますよね……

「歳はそれくらいですけど‥私、学校には行ってなくて、この歳でもう就職してます」

「あら、そんなにお若いのに‥」「別に家計が苦しいとかでは無いんですよ、それに高等教育機関修了相当の卒業資格はもう取っちゃってるので、実質飛び級したみたいな感じですし、今のお仕事もかれこれもう4年くら‥」

 うっかりしてた、私の世界と日本とじゃ常識が違う、日本の義務教育は9年だけど、私の世界は8年だ、話の流れ的に私が16〜18って事になるから日本の常識で測ったら仕事のキャリアが4年だと義務教育期間既に働いてるって計算になってしまう‥やっばどーしよ、誤魔化せてればいいけど‥

「でも、早くから働いていてやっぱり、もうちょっと学生で居たかったなぁとか思った事はないんですか?」

 あっよかった‥私が何歳か厳密に言わなかったから違和感を抱かれてない。

「‥まあ、学校、行けばよかったなぁって思う事は結構ありますけど、それでも、自分の決めた道ですので」

 厳密に言うと私はとある火災で天涯孤独になった災害孤児であり、その後もある事情があって修学経験は無いし、高等教育機関卒業資格を既に取ってるのも、就職済みなのも事実だけど‥まあ学校に行こうと思えばちゃんと奨学金を出そうって名乗り出てくれた方も居たよ、居たけど結局この仕事してる状態だし‥まあ後悔はしてないけどね。

「我が道を信じて逸れず歩く‥ですか、ミオにも見習わせたいですね」

「ミオ?」「さっきの、私が面倒みてる子です……あの子、自分の意思とは関係なく敷かれたレールから逸れずに、ずっと自分を縛ってて‥」

 親から勉強勉強って言われてるタイプの優等生なのかなぁ、まあそう言う子に私を見習わせようとしても見習おうとしない気がするけど。

「人の人生にとやかく言えるほど私は生きてないですけど‥人生いろいろですし、だけど、私を育ててくれた人はこう言っていました、人は自分のやりたい事を見つけたら、どこまでもそこへ一直線に飛んでっちゃうって、だから勝手に巣立ってくまでは心配でも見守り続けろって」

 私はニコッと笑って育ての親の名言を締めくくった。

「勝手に、ですか‥」

 お姉さんは感心しているのか目が大きく開ける。

「ところで、いったい何をしてたらあんなひったくりに?」

「ただ、夕飯の買い物に来ただけです‥本当はミオと一緒に来たかったんですけどね」

「お姉さん、その気持ち、よくわかります。

 振る舞う相手と一緒に献立を考えながら買い物するのって楽しいですし」

「ええ、昔はよく付いてきたんですけど、最近はあんまり‥」

「恥ずかしいお年頃なだけでは?」

「たしかに、そうかもしれませんね」

 2人で顔を合わせて笑いあった。

 まあ、この時の私は‥このお姉さんとは、この後にすぐ、すごく特殊な形で再会するとは、思いもしなかったけど。

 

 午後18:00ごろ、とあるマンションの一室、空音澪の部屋……

「ただいま戻りました」

 お姉さんは自宅に着くと彼女、ミオを呼ぶ‥けれど返事はない。

 そのまま靴を脱いで上着をかけて居間に入ると、彼女はノートを広げたまま眠ってしまっている。

「そんなところで寝ると、風邪引くわよ」

 そう言いながら彼女を抱き抱えてソファーに寝かしつけてから台所に立って下拵えを始める。

 まな板を叩く音が響き、その音に気がついたミオが起き上がった。

「ミラージュ=エルフ、遅かったね、なにかあった?」

「ええ、買い出しに行ったらひったくりに会いまして」

「ふーん、相変わらずドジなんだから」

 彼女はそう無愛想に言うと、ソファーの背もたれに隠れてため息をひとつついた後で狸寝入りだ。

「ミオ、今日はあなたの好きなケーキもあるわよ‥この甘党さん」

 寝たふりをしたミオは、「いつまでも子供扱いしないでよ」と思いつつも、つい口角が上がってしまう。

 実は彼女、空音澪は食の好みはすごく子供っぽいのだ。

 

 同刻、語り手響花に戻って‥地下格納庫

「夜ごはん、本当によかったの?」「うん、だって何から何までキョウカに出してもらうのは流石に申し訳ないし……僕がヒモ男みたいだし」

「そこ気にしなくていいのに‥」

 カラオケボックスから出て、何個か寄り道した後でここに戻って来たんだけど、彼は愛緒のお誘いも受けず、帰りで何か食べて帰るのも遠慮してそのまま帰って来た。

「それに、愛緒を脅かしちゃうかもしれないし‥だからもうちょっとは……」

「別に、あお意外と歓迎してくれそうだけど」「でも、まだ‥心の準備が」

 昨日の一件で私が母さん──天音奏叶の娘だと確信してから私とは打ち解けた? けど、やっぱり‥外見で驚かれないかは心配するようだ。

「それに、ここにはキョウカが居ないと出入り出来ないから、キョウカが僕とここまでもう一回来なきゃいけなくなるけど‥この事情を説明してないからあっちから見たら不自然でしょ?」

 言われてみればこの空間はある意味「本鍵も合鍵も失くして、本鍵は出て来ず、私が合鍵を持っている」と言う状態だ、めっちゃ不便じゃん。

「でも、さっきの買い物で調達した食料品でもそこそこバリエーションはできそうだし、だから多分大丈夫」

「ホントに?」「ホンt‥がんばってみる」

 ちょっと不安げになってる。

「私、泊まってこうか?」

「そこまでしてくれなくていいよ、気持ちだけで十分。

 だってキョウカは帰る家があるんでしょ‥カナはこう言ってた、”七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)も、自分の夫や子供もどっちも同じくらい大事な家族だから、仕事で会わない家族との時間を作るためになるべく帰れる時は帰りたい、だって毎晩待っててくれるのに帰れなきゃ可哀想でしょ? “って。

 キョウカは帰る場所で待ってる人が居るんだし、ちゃんと愛緒のところに帰ってあげなよ」

「ライト……じゃあ何かあったら連絡してよ」

「うん、りょーかいっ。

 今日はありがと、すっっっっっっっっっごく楽しかったよ」

 両手で円を書くように大きさを表現していて、幼さが滲み出るような仕草だった。

「じゃあ」「バイバイ、キョウカ」

「うん、またね、ライト」

 エレベーターに乗って地上へ出る、とりあえず出てくる所を見られてはないっぽい。

 そのまま水原家へとまっすぐ帰宅? でいいのかな……とりあえず、愛緒の家へ向かった。

「おかえり、キョウカ」「た‥だいま、あお‥おっ? 今日鍋?」

 玄関で靴を脱ぎ、暖簾を潜って居間に入ると、居間の真ん中にある円卓にはカセットコンロと土鍋が用意されていた。

「ううん、すき焼きだよ〜……ってなぁんだ、ライトだっけ? あの子連れてこればよかったのに」

「いや、本人が遠慮したからさ‥てかそもそもすき焼きちょっと奮発してない? 私逆に呼ばなかったの申し訳なくなるんだけど」「いやいや忘れた? 今日はお父さん帰ってくるんだって」「あ〜そう言うことー」

 水原家は基本両親揃って家にいることが少なく、子供だけで食卓を囲むため、滅多に鍋料理はしないのだけど……漁師である愛緒の父、水原日出海(みなはらひでみ)さんが漁を終えて帰ってくる日は食卓を囲んで一つの鍋を突くのだ、これは日出海さんのおじいちゃんくらいの代から水原家の跡継ぎの家庭で「食卓はなるべく家族揃って囲むべし」と言うルールに則って日出海さんが毎度、長い漁から帰った後は子供2人と結海さんと揃って鍋にしようと……船が出る前に言うのだ、私がこっちに居候するようになったあとは私も居ないとダメって言われてしまう始末だけど。

「今日日出海さん戻ってくる日だったんだ‥って結海さん居なくない?」

「お母さんの運転で一緒に帰ってくるってさ……って言うわけでキョウカ、ちょっと手伝ってよ」「はぁいはい、何すればいい?」

「具材切って、他はやるから……コウタも一緒にね」

「はぁ? 、なんで俺も‥めんどくさ‥」「じゃあテキトーにやっちゃっていい?」「いいよーある程度雑でも怒らないから」

 ああ、居候してる身でありながらこんなこと言うのも変かもしれないけど‥なぜか、自分の家じゃないのにすごくこの場所に帰ってくると、安心感があって、なんか心があったかいんだ……なんでだろ。

 

 

 

 

 

 

 20:10ごろ、漁船岩動丸

「どうしたんです? ヒデさん、灯台はいつもどうりじゃないですか?」

「いや、俺の見間違いか? ‥砂浜になんか青い光が見えんだが……」

「青い‥? 確かに焚き火にしては色が変ですし、花火にしては光が大きいですね」

「まさか幽霊だったりしてな」「水死体の幽霊の人魂ですかね?」

「ただの海が好きなだけの魂かもな」

 日出海さんと、仲間の漁師とで2人で冗談を言いながら笑った。

 

 

 

 だがこの青い光、いや青い大きな炎は他の船からも見えていて、目撃者は皆、人魂のようだったと語っている。

 だが、その青い炎の正体は誰も知らない、知っているはずがない、なぜなら……

「中々の太刀筋だな、慣れていないにしてはな」

「‥はぁ‥はぁ‥確かに慣れてませんよ‥故に、私にこの手を使わせた時点で‥峰打ちで終わる保証はもうできません」

 砂浜に怪しく光るその火は‥空色の瞳をした赤いリボンの少女が操る蒼い炎なのだから。

 

 To be continue




次回予告
さてさて、今回でご紹介ありました赤いリボンの少女です、響花と別の2人目の語り部やってまーす。
と、次回はなななんと!
「って流暢に次回予告しないでよ、まだ名前も名乗ってないのに」
いーじゃんキョウカ、もうちょっと焦らしたって…ってほら尺がもうないからタイトルコールしなきゃじゃん!
「ちょっと!」
次回、第6話「砂浜の妖火」
刮目して待てっ!「コラ!逃げるな!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#06 砂浜の妖火(あやかしび)

この日、4月26日
私は捜査中に地球へ迷い込み、一晩が経とうとする今…いや二日目の夜。
事はまだまだ終わる事を知らず、私を試すよに難題を強いる…
「って、前回の予告に続き、こっちまで侵略しないでくれます?」
侵略なんか断じてしてないってキョウカ…
「いやいやいや、ここ私のコーナだし、っていうかあなたそろそろ名乗ったらどうですか?ねぇ!ねぇ!]
ってもう…茶々入れるから尺足りなくなっちゃったじゃん。


 さて、前回の終わりから時間は少し巻き戻りまして……

「さてと‥火が通るの結構時間かかるしなぁ……」

 私は焚き火に近くで調達した幼虫数匹を串刺しにした物を焼べて、簡易的な構造ではあるけど、漂着物やポイ捨てされた容器で作ったろ過装置も十分に温まる状態にして一息つく。意外にも、焚き火や花火が許可されている場所を探すのは大変だった、まあ故に私は砂浜にいる訳で、なんとか食はどうにかなりそうな状態だ、これでどこか安めの銭湯もどこか見つかれば最高だったのに。

 ゆらゆらと揺れる火がパチパチと音を出しながらいい感じの焼き色を着けていく、ホントにこういう時くらいだ、色々な本からの入れ知恵はこう言う時に、いや普通はこう言う時こそ役に立たないのか。

 てか、現地調達の幼虫なんか食べるのいつぶりだろう‥普通はこんな時こそ食べないだろと言われそうだけど。

 

 ‥焼けるまでまだかかりそうだし、今日の日記はもう書いてしまおうか。

 日頃から携帯しているペンと分厚いノートを出して見開に1ページ前後、書けるだけ起きたことあった事を書き留める、10才からずっとやってる日課だから、今日もすらすらとペンが進んだ。毎度ついつい熱中してしまうのだけど。

 

「────────あっ、ちょっと焼きすぎた」

 日記を書いている間に一番いい焼き具合を逃した、ノートを閉じて火から串を遠ざけ両手を合わせて、ちゃんと「いただきます」をして少し焼きすぎた幼虫を口に運ぶ、プリっとした食感が少し懐かしい、別に昆虫食って匂いも見た目も苦手な人は多いだろうけど、正しく調理すればめちゃめちゃにいい味してるんだよね‥それにサゴワームこと確かこっちではゾウムシって言うんだっけ? まあこれが見つかったのはラッキーだ、甲殻類みたいですごく美味しいし、しかも栄養満点で見た目よりもお腹に溜まり、腹持ちもいいのだ‥普通に明日までこれで持ち堪えれそうなくらいにね、何かに襲撃されたりしなければ。

 それにしても、あの灯台異常に大きいなぁ‥話を聞くにこの辺の名所の一つらしい、だけどその影響かこの砂浜、街灯はないのに十分明るいせいで、あまりムード感はよろしくないかも。

 さて、1匹目を食べ終えたところで容器を見てみると、まだペットボトル一本も溜まってない‥

「やっぱ蒸留でのろ過は時間かかるか‥」

 それから2匹目に手をつけた頃には奥の方にいくつか光が見えた、見た感じ漁船っぽいね、やっぱりこの地域は養殖漁場も2カ所くらいあったし、普通に港街なのかなぁ? 

 ────────さて、2匹目ももうあと一口だ、口を大きく開けてその中に放り込んだら‥なんかきた。

「お前か、例の‥空色の瞳の少女」

 私はびっくりして口に放り込んだものが喉に詰まりかけた、昼間のアイツと同じことを言っている、しかも仮面はしてるし、下げているショルダーバッグからは剣の柄のようなものがはみ出していて腰から鞘を下げているかのように抑えている、一体何者? 

ってか待てよ‥私の目が青く見えてるって事は認識阻害が働いてないって事?‥もしくは…

「碧眼の人なんか他にも居るじゃないですか、外人さんとか‥」

「だが、空色の瞳にその赤いリボン、そして真っ黒な髪‥聞いていた特徴そものだ‥」

「でもその三つなんか該当する方なんて私以外にもいますし、たまたまなんじゃ‥」「お前が髪を解くと何が起こるかも既に知っている‥」

 すると昼間のアイツが撮った写真ではなく、私の証明写真を投影して見せてきた‥組織単位で私を追ってる輩って事か‥本来私が追う側のはずなのに。

 って言うか、このリボンの事まで知っているってなると一体全体なんで私をさがしてるんだ

「はぁ、そこまで私のこと調べてるんだ、只者じゃなさそうだね」

 私がそう言うと彼はショルダーバッグからはみ出たものを引き抜いて振る、するとその風だけでかなりの砂が巻き上がった。

 目には入らなかったけれども、最後の3匹目が台無しだ。

「あーあ、もったいない、あなたは、ゆっくりご飯も食べ出せてくれない野蛮人ですか?」

 砂ぼこりが止むと、目の前に彼は居ない。

「雑草の目は早めに紡げと言うだろう?」「ひぃっ!」

 答えは私の背後だったか‥彼は私の背後から刃を灯台の光でキラリと輝かせて私の頬の横あたりに出した、迂闊に動くとまた斬られる。っていうかあのはみ出してたやつホントに剣だったよ‥

「個体管理コード“daughter”、お前を切る」「そっちの名前まで‥それ、どこで知った?!」

 その名で私を呼ぶってことは‥いや、逆にどうやって知ったんだコイツ‥だけどそれを答える気はないのか、彼は剣を両手で構えると、「すまないが冥土の土産に聞かせるほどオレは気前がよくないぞ」と私をギロッと睨んで剣を振るう、私は身体を砂に転がして一打目を交わして、すぐに峰が低い位置で迫ってきたがバッチリ軌道は見えたからバージャンプの様に飛んで交わしたけれどまだ終わらない、右か? 左か? 、兎にも角にもひたすら見切って交わし‥を続けて‥

 こんな時に‥あの弓、アークウィンガーが使えたら、“あの子ら”を呼んでも目立たない場所なら‥と思ったけれど嘆いたって仕方ない、どう足掻いても辿り着けないIFはこの状況には不要、打開策を編むことを考えろ私! 

「どうした、何故武装しない?」

 ──息をつく間もないほど続く攻撃を生まれ持った反射神経と視力、それから鍛え上げられたフットワークで無駄なく交わすけど止まる気配がない、僅か数分で既に息が上がって来た。

 そして彼は私にまた切っ先を、今度は目と鼻の間あたりに向けて来た。

「やはりあの弓はお釈迦か」

「‥さ、さあ‥どうかなぁ?」

 図星だからしゃーないけど、思ってることすぐに顔に出るところだけは自分で自分を恨みたい‥

「……一個こっちからも聞くけどさ、あなた私の首が欲しいの? もしくは実験材料として身体でも欲しいって事?」「どちらでもないな‥単にお前を消せと命令が下っただけだ」

 彼はそう答えると剣を離して両手で構えた。

 はぁ、2回目だぞこんなの……だけど相手がそうならしゃーない、あっちが消しにきてるならまんまと殺されるわけにゃいかないし、“こっち”は使いたくなかったけど‥仕方ない。

「ふっ‥あぁぁ‥ハッ!」

 決断した時に彼の剣が再び竜巻を起こして巻き込まれる、だけど私はその中で首から下げた勾玉とは別の色をしたものを一緒に巻き込まれた私の鞄から取り出して蓋をし、それを空に向けて……

「セイヤッ!」「‥なっ」

 その勾玉を剣に変化させて、居合をする様に竜巻を打ち消した。

「確かにあの弓は今は使えないですよ‥でも‥こんな手もあるんです、流石にこれは予習してない様ですね」

 そう言いながら私はもう一つまた色の違う、今度は赤黒い勾玉を取り出し、変化させて、それにさっきの剣を収めると同時に赤い魔法陣が足元に現れ、火柱が立ち、それを断ち切って身に纏うと、その火がレオタード状のインナーにサイバーなブーツやグローブなどを付け足した二次元の現代忍者風なデザインの防護服へと変化する。

「お待たせしました‥御所望はこちらで?」

 赤と黒を基調とした装いで私はニヤリと笑ってみせると彼の気迫が少し強まったのか、心が沸るとか言いそうな目をしている。

「やっとか‥なかなか斬りがいがありそうだなぁ……」「でしたら私も、今日は射貫かず斬り返させていただきます!」

 そのまま私は慣れない剣で彼との剣載戦に持ち込み刃を交える。

 何度も刃がぶつかっては離れ、時に交わし、砂の上を駆け回って、砂に鞘を突き刺し、それを忍刀の鍔で壁を登るように踏み台にして飛び蹴りを仕掛けるけど交わされた、それから彼は交わした動作から続けて体を転がして私の背中を取ったがそれは想定内だ。肩から背中側に刃を担ぐようにして刃を刃で受ける。

「‥暦戦の勘、舐めないでよね‥っと!」

「‥その程度で調子に乗るか──-」

 そのまま互いの刃が離れて、私は振り返理ながら両手で一振り、だけど受け止められて今度は鍔迫り合いを仕掛けられた。

「中々の太刀筋だな、慣れていないにしてはな」

「‥はぁ‥はぁ‥確かに慣れてませんよ‥故に、私にこの手を使わせた時点で‥峰打ちで終わる保証はもうできませんよ!」

 そのまま競り負けて飛ばされたけど、受け身のまま一回転して起き上がり、すぐに鞘を拾い、剣を鞘に戻し____「我流炎斬技(がりゅうえんざんぎ)弧状ノ壱(こじょうのいち)────────」

 ____と鞘に入った魔力を込めた弾丸のようなものを用いて刀身に青い火を纏わせた状態で鞘から射出させて……「────────鬼火!」発射した勢いをそのまま利用して大きな半円を描くと、その火が弾けて彼を襲った。

 流石にやりすぎたかもしれないけど。

「その髪を解かずしてここまでとは、少々舐めていたが、余計に燃えるなぁ‥」

 耐えた!? ‥想像よりタフすぎる‥

「なかなか熱かったぞ、だが、その心意気に敬意を称してこちらの大技も見せてあげよう‥」「気前良くないって自分で言っといて気前のいい事するんだ‥」

 とは言ったものの既に肩で息をしている私の疲労は相当だ、残された手はいくつかあるけど、最短かつ、体力浪費が少ないのだと2個くらいしか有効打にはならなそうだし‥しゃーないか、しゃーないけど……

 私は髪を結っているリボンの端っこを掴んで唾を飲んだ、来るなら‥来いっ! 

「そこまででやめておけ、相手に手の内を初めから明かしすぎるな」

 さっきの彼の仲間らしき仮面の男がそこに居た。

「あなた方、一体‥いきなり襲ってきて何が狙いなんです?」

「質問には答えよう、さっきの彼みたいな野蛮人だと思われては心外だからな。

 俺はお前の追っているエヴォルスコアの幹部の一人、暗号名(コードネーム)は、Anker」

「って事は貴方達はやっぱりあの集団の‥で、アンカー、でしたっけ? なんで私を?」

「キミのデータを我々のボスは求めている、それだけじゃなくキミの通信網が復活すると我々にとっては不都合が多い、勿論君の首は求めてないさ、あくまで邪魔者を先に消そうとしたまでだが、データだけは取っておきたいほどにサンプルとしてキミは優秀って事だ、だけども‥だけども交渉したところでこっちに来ないのはし既に知っている、故にデータだけでもうちのドンは求めててな」

「ええ、全くその通り、私は貴方達に付く気はありませんから、仮に組織の思想は正しくてもやり方を間違えた人を取りしまるのが今の私の仕事です」

「やはりそうか、こっち側に来る気はないか」

「あるわけがないじゃないですか‥そんな危険物を無断で持ち出すような組織に、何がしたくてあんな物‥」

 私は彼を睨みつけながら尋問を続ける、けれどこれ以上の質問には答えようとせずに「それが気になるなら自分で探れ」の一点張りだった。

「うちの野生児が迷惑をかけたな、だが、これ以上の親切心は向ける気はない、お前も切られる相手のことはある制度知っておきたいだろう? 

 帰るぞ、フォイ」

「あ? 途中できて邪魔しやがって‥こいつを遣るのが‥アタタッタ‥

 お前、次は……その目を2度と開けれなくしてやるからな! 覚えてろ! ────────」

 そう言うと駄々っ子を連れ帰えるようにアンカーは彼を引きずりながら転送ゲートらしき光の上に立って消えた。

 とりあえず、助かった‥‥

 二人が去っていった直後、安心して力が一気に抜けてガクンっと体が崩れ落ちかけた‥なんとか剣を砂に刺して倒れるのはとりあえず阻止できた。

 はぁ……やっぱり、慣れない物使うのは余計体力いるや‥付け焼き刃でどうにかなっただけ今回はまだ良いのかもしれないけど‥

 するとさっきまで使っていた武装の支援AIが目を覚ました。

sorry Saki, (申し訳ありません)I just woke up(今目が覚めました)」「Saki,are you ok(支援がなくとも大丈夫でしたか)? 」

「二人とも、大丈夫だよ……でもかなり‥疲れた‥かな──」

 ここから先の記憶は曖昧にしか残ってない、どうやら砂浜にバタリと倒れてしまったらしい、この後に二機が何かを言ってた様だけど、その声は私の耳に届かず、そのまま夢すら見ていない状態で私は死んだ様に砂浜に倒れ込んでしまった。

 •

 •

 •

「さっきの青い火ってこの辺でしたよね?」

「ああ……ッ!? 、お前、大丈夫か?」

 私を見つけた誰かが身体を揺さぶる、けれども私はそれに一切気が付いていない。

「脈はある‥体温も呼吸も正常……単に寝てるだけっぽいな」

「ヒデさん、どうします?」

「まあ、野ざらしにする訳にもいかないしな、事務所に連れ帰って一晩寝かしといてやろう、こっから近いしな‥それに、コイツ怪我してやがる‥おい、とりあえず足っ側持て」

「へ? ‥あっは、はい!」

 

 とまあ、私がどうなったか気になるかと思うけど、ここでとりあえず、またキョウカに語り部をパスしようか。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 そこから30分前後した頃……

「あお〜ちょっと煮込み始めるの早かったんじゃない?」

「だってさぁ‥お父さんが遅くなるって分かるわけないじゃん‥」

 水原家のすき焼きの準備が整った頃、愛緒の両親は少し急用で遅くなると電話が入ってきた、一体港で何が起きたのか? 

 でも、電話てきたって事は船は昨日の影響を受ける事なく戻ってこれてるんだよなぁ‥日出海さんがまた何か見つけたか? 

 と‥そんな事を考えている間に二人は帰ってきた。

「おっ? バックする音‥」「帰ってきたね」

「……」

 毎度の事ながら航太は乗り気じゃなさそう。

 ではでは、お出迎えしなきゃね。 3人で玄関で靴に履き替えて車庫へと歩くと、二人揃って降車するところだった。

「おかえりなさい、お父さん」「ああ、ちゃんと帰ってきたぞ」

 そんな会話をしながら日出海さんと愛緒がハイタッチする様に掌を合わせてお互いにに笑った。

「また背伸びたなぁ‥」「まだまだ勝てないけどね」

 一年の間に家にいることが少ない職業のせいか、日出海さんは静かに笑い、久々の我が子の姿を堪能している。

「響花、お前もだいぶ伸びたなぁ‥カナさんと見違えたぞ」「お世辞はいいって日出海さん……それに海に出る前からあんまり伸びてないよっ‥tちょっと‥髪の毛くしゃくしゃしないでよ〜」

「でも、前みたいな気の抜けた顔じゃ、なくなったな」

「そうかなぁ‥ってだからっ‥もうっ! 私も子供じゃないんですよ!」

「悪かった、悪かった。でも流石に6年も居候してんだ、俺にとっちゃお前も娘みたいなもんだよ」「‥実の息子そっちのけでそれいいます?」

 航太はこっちを見たままちょっと不機嫌なようだ、前回もそうだったけど。

「なんだ航太、おかえりもなしかぁ?」ニコニコしながら日出海さんが近づくと、航太はわかりやすく嫌がった。

「‥ったく、俺も子供じゃないんだよ‥ベタベタすんなって」

 そうとだけ言って先に居間へ戻っていった。

 わかりやすい反抗期かな? まあ航太って昔から照れ屋だしね……あっそれだけじゃなくて、今日の試合2点差からのブザービートでのスリーポイント外して悔しがってるって愛緒が言ってたっけ……てかそんな一か八かのシュートを咄嗟に(うて)るだけでも十分かっこいいと思うんだけど。

「航太ももう年頃か、早いもんだなぁ〜」「ちょっとお父さん、声大きいって」

「コータ、余計にへそ曲げますよ?」「確かにな」

「とりあえずっ、さっさとごはんにしましょうか」

「だな」「賛ッ成」「ですね」

 そのままゾロゾロと家に入っていく、途中でふと気になった。

「そう言えば日出海さん、今日なんで遅くなったんですか?」

 躊躇いもなく口に出すと割とあっさり答えてくれた。

「それがなぁ、砂浜に青い炎が見えてな、それで舟着けてから見に行ったら砂浜で大きいリボン付けた子が倒れてたんだよ……ちょうどお前らくらいだと思うが、こんな時代でも殴り合いの喧嘩ってのはする奴はするんだなぁ‥あ、どうした、愛緒?」

「その子、もしかして‥昨日、私助けてもらった子かも! 写真ある?」

「昨日? あの羽の生えたバケモンが出た時にか? ‥」「うん‥」

「流石に写真はねぇけど‥」

 愛緒を助けた子? ‥そう言えば、愛緒に瓦礫が降った時に、その瓦礫は不自然に空中で割れてたけど、その直後の人影かな? 

「まあ仮に愛緒の恩人だったなら、しっかり礼を言っとかなきゃな」

 ……てか、待てよ……灯台のあたりに青い炎って……ライトが何か知ってたりするかな? 

「キョウカ?」「ううん、なんでもない……沸すぎちゃう前に戻らなきゃだ‥あ?」「なーんかヘンだね、昨日から」

「そうかな?」

 誤魔化して笑うけれど、愛緒に隠し事って今までしたことなかったなぁ、これが初めてだ‥でも言ったら愛緒に迷惑かけちゃうよね‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日‥

「はっ! ‥あっ‥ありゃりゃ?」

 意識を取り戻してガバッと体を起こすと‥ってガバッと? ……確かあの二人と戦ってそのまま砂浜に‥うつ伏せで倒れたはず。

 じゃあなんで今仰向けなんだ? それにあたりを見ると見慣れない天井や家具に囲まれているし‥って事はあの二人と戦ったのは夢‥じゃないよね‥てかここ‥どこ!? ‥って鞄は!? ……

 そうパニックを起こしている私の耳に「おや、お目覚めかい?」と、お婆さまが私に話しかけた。この人に連れ帰られたって事? 

「ええ‥はい」「そうかい、あんた傷だらけで砂浜に倒れてたんだよ、結構鋭利なもんで斬られた傷ばっかやったけど、そんな物騒なもんで喧嘩でもしたのかい?」

「まあ、はい‥喧嘩して負けた‥みたいな感じです」

 私はそのお婆さまから顔を背けながら答える。

 とりあえず喧嘩かどうかは置いといて、確かに私は負けた、完敗ではないけれど、確かに負けた‥アークが、相棒がいなきゃ私はここまで力不足だったなんて……

 そう声に出さず嘆いていると、お婆さまはまた私に話し始めた

「若いねぇ、だけんど手当大変やったよ、ヒデさんが連れて来てな、“オイ! すぐ救急箱持ってこい! ”って大声出して来て、見たら傷だらけ、あれだけ怪我しとったからかなり衰弱してよ〜く寝とったよ」

「お見苦しいものをお見せしました」「気にせんでええよ‥過ぎた事は」

 改めて自分の身体をよく見てみると、少々古臭い寝巻きに身が包まれ、スカート状になっている裾からは太腿から下がはみ出していて、脚には幾つかガーゼで傷が塞がれた箇所があり、腕もまた、絆創膏とガーゼで手当てされた箇所が見られた。

 それから頭と‥!? 

「あの‥私の髪留めと、首から下げてた‥」「髪留めは砂だらけやったから服と一緒に洗ったよ、まずかったかい?」「いえ、ただ結んでる方が‥落ち着くので」「そうかい、ならちょっと我慢してな‥それから首から下げてたもんってこの勾玉かい?」「はい! それです、よかったぁ‥」

「これ、大事な物なんだろうと思っとったけど‥」「はい、髪留めも、この勾玉も大事な人との思い出の品で、なんか、身につけてないと、落ち着かなくて‥」

「なら、はよ乾かさんとあかんなぁ‥」「なにからなにまでありがとうございます、こんな見ず知らずの私の為に‥」

「礼なら、ヒデさんに言いな」「ヒデさん?」

「この辺の漁師さ、日出海さんって言ってな、丁度市場におると思うよ」

「漁師‥って事はやっぱりこの辺って‥」

「おや、あんたこの辺の子じゃなかったのかい」「ええ、まあ‥この地域に来るのは初めてで‥」

「そうかいそうかい、やったらちと、おしえよか?」「是非! ‥あっ」

 私のお腹が鳴った‥そういえば今、何時だ? ‥

「昼まで寝とったもんな、ほら、これお食べ」

 そう言いながらお婆さまは机の上に置かれていたお盆をラップをしたまま私に差し出した。

「‥いや‥泊めていただいて、ご飯まで頂くのは‥一宿一飯の恩をお返しできるほど、私‥何もできませんので‥」「ええよええよ、困った時は他人を頼りなさい、それに、これ売れ残りやから‥食べてくれると、捨てんで済むんや」

 もう一度私のお腹が鳴った‥これは逆に遠慮する方が失礼か? ‥だったらありがたく、ご好意をいただくのが正解かなぁ……

 私はお盆を受け取り、ラップを剥がして両手をあわせてっ……

「なら‥いただきます」「泣かんでもええよ‥」

 だって、タダ飯だよ? こんなにありがたいものはないじゃないかぁ! 

そして、私がご飯に手を付けるとお婆さまが話し始めた。

「じゃあ、早速始めるよ。

 この辺は燈ヶ浜(とうがはま)って言う地域でな、すぐそこにある大灯台が漁師たちの希望の光やってことでこんな名前が付いたそうだ、ちょっとおバカな由来だろ?」

「おバカではないと思いますけど‥」

「まあどう思うかは自由やけどな、それで元々は本州にすごく近い漁師島やったが、今は合併して本州の一部もここの土地になってからは大きな橋で結ばれた二つで一つの街って言われとる港町さぁ」

「二つで一つの街……では、こちら側は?」

「ここは昔っからの離れ島のほうだねぇ‥あっちは戦いで焼かれたあとに都市開発されてからは商業区って呼ばれとるよ」

「って事はだいぶ昔にはもう橋で繋がってたんですね」

「橋が繋がれたのはそれくらいの頃さ、でも商業区なんて呼ばれ方はここがまた焼かれた後のことさ」

「ふぇっ? ‥じゃあいつから……」

「覚えてないのかい? 6年間の戦いを」

 そんなに最近にも!? ‥日本ってそんな最近に何かあったっけ? ‥

「なーんだい都会の子は知らないのかい。

 6年前、辺な船が攻めて来て、ここが焼かれたんよ‥その時に七音遊撃隊(オクターヴウィングス)の手で守られて、それから一条寺グループのお偉いさん方の投資で1年で復興したのさ」

 私の知らない日本の記録‥勉強不足か? ‥でも地理は分かったし‥って魔法もなしにそんなこと‥できたのか? 

 そう思っていると、ガラッと引き戸を開けて大柄な方が入ってきた。

「おお、お前さん‥目が覚めたか?」

「あなたが‥」「ヒデさんだよ、お礼言うならさっさといいな」

 お婆さまに背中を押された。

「あの‥昨夜は、ありがとうございました、お陰で野ざらしで朝を迎えずに済みました」

「いいんだよ‥今後は気をつけな」

 

 To be continue




結局君名乗ってないじゃん
「まあまあもうちょっと待ってって」
まあいいや、悪夢で目を覚ました私は航太の練習相手にされて‥
ってまた尺足りないんですけど!
次回、第7話「鳩のち発進[side-A]」
セーフティリリース、ユニゾン…ゴー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#07 鳩のち発進[side-A]

さてさて、前回のおさらいターイム!
「前回はもう一人の語り部である彼女がメインで進んじゃったね…」
うん、あの組織や…それに愛緒助けた子…気になる事だらけだね。
「とりあえず今週も…」
ちょっと早くない?
「でもあと何かあったかなぁ…」
ないね。


「母さん……母さん!」

 なんで……なんで振り向いてくれないの? ……私の声が届いてないの? ……

 果てのない道でただただ追いかけても、追いかけても離されて、声に気づく様子もない。

 どれくらい走っただろうか、息も上がってきた、追いつけない、並べない、顔を見ることも、出来ない。

 そして、もう止まったら走れないほど体力を浪費したころ、私の足を謎の手が掴んだ。

 それをねじ切るように無視して引きちぎりながら走っても、その手は何本も生えてきた。

「止めて、なんで! なんで邪魔するの!」

 この声には気が付いてくれたのか、振り返って私の方を向いて手を伸ばしてくれた、だけど振り返った母の顔はぼんやりと靄がかかって見えた……でも、伸ばしてもらった手を握り返せず、そのままズブズブと闇の中へ誘われ、目の前が真っ暗になっていく……

 ああ、もうだめだと目を閉じて、再び開けると……

「母さん……やっと……のにゅい……」

「キョウカ? 、キョウカ? ……大丈夫?」

 目の前に広がった光景はさっきまでの果てのない道ではなく、愛緒の部屋だった。ってことは全部夢? だったの? 

 意識がはっきりしてくると、目の下がジンジンする、触ってみると見事な泣きっ腫れができていた。

「キョウカ? 、ねぇ、キョウカ……」

「……」「キョウカ!」

「わわっ! 、お、おはよ、あお……」

「おはようじゃないよもう……何時だと思ってるの?」

 すぐ横の時計を見るととっくに短針は左を向いている。もうそんな時間か……

「久しぶりにキョウカの泣き顔見たかも」

「そりゃあ私ももう16だよ、人前で泣きますか」

「って言ってウチ来た頃からキョウカってめったに泣かない子だったけどね」

「そうだっけ?」「うん、私の中では結構強い子のイメージなんだけど。ま、とりあえず冷めちゃったけどご飯あるから、さっさと着替えて食べちゃって」

 愛緒がさっと立ち上がってすぐに部屋を後にした後でパジャマから着替える、姿見、見たくないなぁ……泣きっ腫れた自分の顔なんか見たくない、見るもんか。

 とりあえず、時間もう遅いし、テキトーに引っ張り出したサテン生地のテカテカしたクォーターパンツと、たまたま引っ張り出したら出てきた"I miss you(恋しいよ……)"と筆記体で胸元に書かれたTシャツに首を通してこれから運動でもするんですか? という装いが出来上がった。

 にしても、愛緒、文字Tコレクションは相変わらずクセ強いなぁ、毎度毎度どこで買ってくるんだろ。

「ふっW……わかりやすっw……」

 下に降りてくると私のTシャツをみて吹き出した。ミスったなぁ……愛緒も英語強いんだった。

「いいじゃん、筆記体だし多分バレないし、っていうかどこで見つけてくるの?」

「それはね……」「ちょっと待った、それ長くなる?」

「1時間くらい?」「じゃあいい」

 日曜日のこの時間は確か……ああ、30分前と30分後だから今週はいいや。

「いただきます」

 ご飯がよそわれた茶碗を前に両手を合わせていただきます、やっぱ愛緒の料理をこの頻度で食べられる私は……いや、安直なパクリに近いギャグはかまさないでおこう、絶対滑るから。

 テレビもつけずに、とぼとぼとご飯をほおばりながら愛緒と談笑する、それは、昨日まで非日常な目に遭ってたのが噓みたいに今までと変わらない何気ない時間だった……

 でも、ご飯食べたら「毎日来なくてもいいよ、キョウカにもプライベートがあるんだし」って言われたけれど、ライトのところ行こうかなぁ……って航太居るにしては何か静かだなぁ、かといって日出海さんは朝から市場で結海さんも出勤してて…………あれ? 今日も練習だっけ? 

「ねぇ、あお」「なぁに?」「コータは?」「航太? 航太なら……ひゃっ!」「あいたっ!」

 ご飯を食べた後で愛緒に尋ねると庭から円卓にワンバウンドしてからのヘッドポンプで私の額に見事ヒット、さらに円卓の上をワンバウンドしてもう一回航太の手に戻っていった。

「おっ、うまくいった」

「航太! 食器割れたらどうするの!」

「い~じゃん別に、それより」

「それより。じゃ、なぁぁぁい!」「まあまあ……」

「キョウカ、付き合え」「ちょっ、もうちょっと頼み方あるでしょうが!」

「なんでキョウカ相手でそんなこと意識しなきゃいけねーんだよ……」

「あ? 、これでも一応私のほうが年上だぞ!」

「それがなんだよ、じゃあ分かった、ストリートノアイテヤッテクレマスカ、キョウカサン?」

「ああ……どーせ断ったら面倒なのわかってるから、だけど私は君に都合のいい女じゃないんだぞ」

「ヘイへいわかってるよ」

 ほんっと可愛げない、あの頃の航太はどこに消えちゃったの? ……

 

 

 

 という訳でしばらく経ちまして……

「よっと‥やーりぃ!」

 バッと一発‥とはいかずリングに当たっての2ポイント、これで3-4っとまあ一点しかリードしてないけど。

 てかしっかり接戦? 

「で、私とやって練習なるの?」「いや、ただの憂さ晴らし、のはずだったんだけどな」

 航太はボールを受け取って私に渡しながら……「やっぱ強いや」と言って返球を待った。

「別に‥私は全然強くないって」

 ボールを返し航太の足音とボールの音に耳を澄まして……タン、ダン、ダン‥今っ! 

 予想通り飛んだ、そのままフリースローラインから打たれたシュートをカットして攻撃権を奪い取った。

「……」「‥ごめんね‥航太のリズムは大体覚えちゃったからさ」

「リズム?」「うん、航太とやってる間にさ、ドリブルのリズムが崩れたら多分打つな、とか、早くなったら多分曲がるなぁ‥とか大体読めるからさ、はい、次行くよ次^_^」

 そうやってボールを渡し、返ってきてすぐに航太の左側から抜けるべく真横を‥って珍しくアイドリング!? 

「隙ありっ‥いぃ?」

 真横に並んだ途端に航太がドリブルを妨害して捕ろうとした時、間違えて私の手を弾いて、勢い余って無いボールを突いて転んだ

「ボディタッチ、ファールだからまたパスから‥ってどうした? 疲れた?」

「いや、全然‥」

 手を伸ばすとそっぽむいてちょっと恥ずかしそうにしながら私の手を掴んだ。

「私の真似事? ‥って言えるほど上手くないけど、とりあえずインターバル入れる?」「勝手にしなよ」

 ほんとに素っ気なくなっちゃったなぁ……

「じゃあ、一旦きゅうけ〜い」と言いながらゴールにテキトーに投げると‥「……マッチポイント」「えっ?」バックボードに当たることなく綺麗に決まってしまった。

「あーあ、調子悪っ‥」「もー、相手しろって言っといてさぁ‥」

「やっぱダメなのかなぁ……」

 航太はペタンとコートに座っていじけている‥昨日の事よっぽど悔しいんだ。

「航太、愛緒から聞いたけどさ‥ブザービート決めれなかったんだって?」

「知ってるのかよ、どーせこう言いたいんだろ“だっさい”って」

 あーはいはい。

 とりあえず私は隣に体育座りして耳元で囁いた。

「でもさ、外れたとしても、投げただけかっこいいよ、だってなにも出来ずに終わったんじゃなくて、ちゃんとトライしてダメだったんでしょ?」

「まあ、そうだけどさ‥でも外しちゃ意味ないだろ」

「って言ってチームメイトから責められた?」「いや……」

「なら運が悪かっただけ、相手が強かったって思って昇華しなよ」

 航太はまだ不機嫌そうだ。

「まあ、そうしたいならいいよ……」

 私はTシャツの中から母さんの笛を取り出してとある曲を吹いた。

 “伝書鳩の唄”、この地域の郵便局で昔使われていた唄なんだけど、その野生化した伝書鳩の子供にも“この唄の方に人がいる”と言う目標として伝わっていったと言う経緯でこの唄を吹くと餌を求めて鳥が集まる‥まあこの地域限定だけど。

「……ふう‥好きでしょ? この曲」「これも好きだけど……」

「他のが良かった?」「別に‥(相変わらずこの唄すごいな……)」

 ちっちゃい頃の航太は私がこの唄で鳩集めすると喜んでくれたけど、今もそれは同じっぽいや‥

 とりあえず航太的には邪魔そうだから何かしら餌だけあげて帰すか。

「じゃ、またね」

 再び笛を口に当てて曲の後半を吹くと一斉に飛び立って各々の巣へ戻っていくこの光景はなかなか神秘的で自分がこの鳩全てを従えているかのような気分になる。この光景を見るために餌を用意してはこの唄を吹いたっけ‥愛緒と航太と一緒に‥ん? もう一人誰かいたような気もするけど、誰だっけ? ‥。

「ほんとに何回見てもこれすごい技だね‥キョウカ、キョウカ?」

「────────まだ見ぬ〜先へと♪ ただその場所へ〜その〜場所へ……」

 思い出そうとしている間に無意識に母さんの子守唄を口ずさんでいた。

「心地よい風が────────あっごめん、コウタ……」

「ほんとにキョウカって無意識によく歌うね」

「だね、自分でもびっくりするくらいね‥あ‥ふぇ?」

 質問に答えながら航太の方を見ると目を疑う光景が広がっていた……

 目の前には四足歩行の巨大な何かがいた、普通にSANチェック級の出来事が‥また起きてるんですが。

 

「___バカ、何してるの! ……だけどこっちもお目当ては見つけたわ、後で合流しましょ___」

 

「とりあえず逃げよう……ッ! ‥オイ!」

「コウタ!」

 コートから離れようとすると、茂みから出てきた誰かがコウタを羽交い締めにし、もう一人が私の前に立ってお辞儀して話しかけてきた。

「手荒でごめんなさいね^_^、ところでお嬢ちゃん‥あなたのその鍵、譲ってくれないかしら?」

「なんでですか? 嫌ですよ」

 そう言うと彼女は私の顎に手をかけてクイっと上に上げながら話を続けた

「あの怪物はあなたが目覚めさせたのよ‥そんな危険なもの‥」「だとしても、見ず知らずのあなた方に預ける通りはないです、だから‥」

「なら、それを渡さなかったらこの子を仕末するって言ったら?」

 もう人の男が羽交い締めにした航太に拳銃のようなものを突き当てた。

「なんのハッタリだ!…ッハナセッテ!」「‥あなた方‥初対面の相手になんて汚い交渉を!」

 航太は助けたい、でもこの人たちに渡しちゃいけないのは肌感覚で判った、漫画やドラマじゃよく見る展開だけど、いざ自分が置かれると冷や汗が止まらない。

 どうにかできる第三の方法はなんだ? ……そう考えて居るとその怪物が真上を通る、すると私に問い詰めていた彼女が私の首根っこを掴んだまま近くのビルの上に飛びその屋上に私を投げ捨てた。

「キョウカ! ……こんのぉ‥」「oh!?」

 それを見ていた航太は自分を羽交い締めにしていた男の腕に噛み付いて、ボールを拾って顔面に当てたあと、怪物の進行方向がその方向だったと気づかないままボールを持って私が連れ去られた方向へ駆け出した。

 さてさて、状況戻って、投げ捨てれた私は……

「イタタタ‥」「さて、その鍵を‥」「だから渡しませんって! なんでそんなに欲しがるんです?」

「その理由はあなたは知らなくていいの‥兎も角、その鍵を探し回収しろとだけ命令が下っているとだけ教えてあげる」

「なら、ダメです」

 鍵を渡せ鍵を渡せ‥そればっかだ、私は投げ捨てれた場所から破片を退かしながら立ち上がって睨み続ける。

「なら、そちらが納得する交換条件を提示してくれるかしら?」

 ‥その発言を聞いた時、ちょっとした言葉遊びが思いついた‥上手くいくかな? 

「でしたら、あなた方がこの鍵を手にするのを諦めた頃に差し上げます‥」

「あなた、”受け取った時点でまだ諦めてませんね、では不成立で“って言うきでしょう‥」

 ちぇ、読まれたか‥でもあとなにが‥!? 

「ふざけないでちょうだい!」

 ついに武力行使に出られた。

 初手の蹴りを身体を横に転がして避けれたけど、こうなられたら流石に‥

 勝てない。

 母さん仕込みの受け身と回避術をフル活用し‥いやできないくてあっという間に柵に背中が付き背水の陣になってしまった。

「随分とちょこまかしてくれたわね‥」

 距離を徐々に詰められて首から下げていた鍵を庇った。

 ああ、今度こそダメか‥ごめんね‥愛緒、航太…………ライト……

 諦めたその瞬間、目の前にストンっと白い影が落ちてきた。

「へぇ‥こんなの集めて何したいの? ロクでもなさそうなことな気がするけどっ!」

 その誰がが回し蹴りで距離を離させると、彼女が驚いて少し怯んだ。

「……天使!? ‥いや見間違い‥よね」

 そして彼が私を庇うようにこちらを向いて、私の頭の裏に手を回そうとしてみたけど背丈が足りない。

「可哀想に‥迎えに来たよ‥キョウカ」

 そう、そこに立っていたのは、昨日私が置いていった衣服に身を包んだライトだった。

「この子、どこから‥」

「ライト、出れないんじゃ‥」「昨日も言ったでしょ? 出れるけど入れないから実質出れないだけって‥」

 呆れた顔をしたライトは無愛想に右手を差し出した。

「とりあえず、あの怪物はキョウカがいなきゃどうにもできないから迎えに来ただけ、勘違いしないで……行くよ?」「‥うん」

 右手を握って立たせてもらうといきなりライトが走り出して反対側の柵を蹴破って私もろとも身を投げた。

「ちょっ‥なにして‥ってコラ! どこ掴んで‥」

 空中で手を離して私を抱くと、地面スレスレからVの字でグイーンっと空へ舞った。

「僕の背中の羽は見せかけじゃないんだよ♪」「先に言ってよ‥心臓に悪い‥」「ごめんね」

 そのまま一旦怪物を振り切りあの場所へ降りて‥格納庫へと滑り降りて……

「あーキョウカ‥流石に着替えたら? 探したら何着かカナの置いてったの見つけたし」

 格納庫で改めて自分の姿を見ると思ったよりボロボロだ‥

「うーん‥じゃあテキトーに‥あっあっち向いててよ!」

 Tシャツを脱ぎ捨て、テキトーに掴んだサーフシャツに袖を通して、ってこれノースリーブだから袖ないや‥で一緒にハンガーにかかっていた黒いタイトスカートと、隣に下がったシュノーケルコートを羽織ってチャックを閉めた‥いや待て‥なんだこの戦隊的格好は。

「OK、これで良い?」「うん♪ カッコいいね」

「とりあえず‥航太が無事かも確かめたいし‥さっさと行こうか!」

「行程は覚えてるよね?」

「多分バッチリ」

 様々な確認画面をスキップするように目を通して鍵を笛から出して……

「セーフティリリース、ユニゾン……ゴー!」

 勢いよく刺して回すとキャノピーが閉じ射出機構が起動した。

「天音響花、「ライジング=エンジェル……発進!」」

 迸る電磁波が磁力を生み、高速で空へ私たちを投げた。

 そして翼を開き来た道を辿ると、隣にこの前のもう一機が隣に着いた。

「あれってこの前の‥」「5号機、ミラージュ=エルフ、かつての僕らの仲間だ」

「って事はあの機体もライトと同じように‥」「うん、5号機の駆動炉核士(コアドライバー)も僕みたいな感じで‥でも背はあっちのが高かったかなぁ」

「へぇ……」「だけど、パイロットは多分別人……近いけど少し違う立ち回りだったね‥まあ6年もあれば世代交代してても違和感がないね」

「ライトが知ってるのって母さんの‥」「もちろん、七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)時代のパイロットだよ‥だから年齢的に現役降りてるかもね……」

 ・

 ・

 ・

「あの機体‥本当にそうなのかしら?」

「ええ、でも乗ってるのは意外と知り合いかもしれないわね」

 ・

 ・

 ・

「見えた! ……?」

 現場まで戻ると怪物の姿は見えたけど航太の姿は見当たらない……ちゃんと逃げれただろうか? 

「とりあえず、闇雲に撃つのはよして‥海の方へ誘導できれば良いんだけど‥」

 誘導かぁ‥まずどうやってこっちに注意をひけばいいんだろ…。

 

 

 Continue to side-B‥

 see you next time




次回予告
突如現れた怪物、その目的は?
それから響花が飛び立った後航太は?
そして響花と航太を襲った誰かの正体とは?
次はその答えを同時刻の別の場所の話から次は始めようか
次回、第8話「鳩のち発進[side-B]」
さて、やれるだけ頑張ってみますか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#08 鳩のち発進[side-B]

戦いの波に飲まれ…苦き思い出の宿る形見の刃で乗り切ったものの、これだけでは終わらず、少女はまた…戦いの波に巻き込まれる事となる。
理不尽な魔の手が来なくなる、その日はまだまだ先。
争う不屈の魂は、今日も燃る…
「って…またこのコーナーハイジャックしないでくれるかなぁ?」
良いじゃん、今回の語り部は、8割私なんだもん。


 時は戻って同日10:00頃‥

「ふぅ‥よし」

 乾いた服を服に袖を通し、髪留めにしているリボンをキュッと閉めてポニーテールにすると気が一気に引き締まる、これだ、やっぱりこのリボンがなきゃしっくりこない。

「……気をつけてな」

「はい、いろいろと、お世話になりました」

 先程紹介があったヒデさんと、いろいろお世話になったお婆さまにきっちり深々と頭を下げて靴を履いてガラガラと引き戸を開け外に出た。

 だけど、昨日と違って風があまり強くない様に感じた。

「街まで送った方がいいかい?」「いえ、着の身着のまま風の吹くまま行ってみようと思います」

 私の事情は少しだけお二人には話していたから気づかってそう言ってくれたけど、巻き込めない。今の旅は私の自由な旅じゃないのだから。

 ‥にしても参ったなぁ、知り合いの居る場所まで随分と遠いであろう事がハッキリした、どうりで路線図に書いてなかったし新幹線も隣の市まで無かったし! まあ愚痴ってもしゃーない、相棒が直るまで彼処でお世話になるわけにもいかないし‥心細いけど、あの組織を追うべく都会の方へ聞き込みに行こうか‥

 しばらくすると沢山の鳥たちが一箇所へ向かって飛んでいるのが見え、追いかけてみると偶然か必然か都市部、さっき聞いた話によると、ここ「出島」と日本本土側を繋いでる橋に着いた。

 改めて見てみると本当に日本かと疑う景色だ、それに昨日と違い今日は昼間に来たからか、マリンスポーツの選手であろう人たちでこちら側が賑わい、高い波の音が耳をくすぐり、選手達の声がそれをかき混ぜる。

「お嬢ちゃん、海好きなのかい?」

 この景色に夢中になっていると、渡し船のおじさんが声をかけてきた。

 てか、橋もあるけど船もあるんだ。

「はい♪ 景色見るの好きで……ここ地平線がハッキリ見えるんですね」

「目が良いなぁ……あんな遠くまで見えるってか? 」

「まあ、よく言われます‥鳥並みの目がいいなって」

「へぇ、ところで嬢ちゃん、乗ってくかい? 景色見んの好きならいいとこ案内するぞ」

 お言葉に甘えたいけれど、今は節約節約……

「気持ちだけもらっときます、自分の足で行ってみたいんです」

「風の向くままってか……そういう事ならお節介しちゃまずいなぁ‥じゃ、いい旅しろよ」

「はい────ひゃっ! 冷たっ!」

 手を振って走り出すと頭頂部に水がかかりそれが頬を滴る、その様子を見ていたおじさんも愉快な笑い声を上げた。

「沖から離れてるのになんで‥」

 と真横を見るとハッキリと[高波注意]の看板が立っているじゃないか、うう……単なる注意不足……とりあえず大好きな海と空を眺めてたら日が暮れてしまうきがさっさと橋を渡り切ろう。

 

 橋を渡りきりしばらく歩くと、さっきまでいた島と違い日曜日らしい賑わいを見せている。

 でもこっち側の開発具合は商業区と呼ばれてる割にはベッドタウンと呼ばれている地域と同等のどっちつかずな具合に思えた。

 

 ……とりあえずここに来てすべきことはもう一つある、私が追っている組織、エヴォルスコアが盗んでいった”アレ“をひとつでも多く回収すること。

 こっちの世界に被害を出す可能性は低いけれど、0じゃない時点で海に散らばった分を回収しつつ彼らの尻尾を掴む必要がある‥

 帰還が難しい以上は一人でやるしかない……

「がんばれるだけ、がんばってみるか」

 両手を握り肘を90度近く曲げて‥いわゆる「がんばるぞいっ」のポーズで気合入れて……と……ん? 

 一箇所に向かって飛んでいった鳥たちが今度は一斉に飛び去っていく。

「なーんぁ縁起悪いなぁ……」「“Awaken(目覚め)‥いやCall (集い)の旋律か?」

 気がつかなかった、橋の柱の裏の人影に‥フードを目深に被り、ハーモニカの様な物を眺めている。

 私に見られている事を悟ったのか目があった、いや、合わせてきた。

「……物珍しい‥ですよねこんな変な笛」

「ええ、素敵な笛ですね‥初めて見たので」

 彼の声は弱々しく力がない、だけど何故かハッキリ聞こえる、矛盾している様な表現だけど、弱々しいのに聞き取りやすい、そんな不思議で少し疑問の残る声で私に話しかけた。

「────────よく見るとあなた、どこかで‥」

 あんな口元の知り合いも、こんな声の知り合いも記憶にないぞ? 

「ああ、”空色の瞳の少女“‥あなたでしたか──」

 そう言う事か。私は警戒してそいつを睨みつけたが‥

「────────焼かれてしまう前に始末しなければ」

 いきなり声に力が籠った、まるで人が入れ替わった様に……だけどその力の籠った声に、何故か本能的にな恐怖で背筋が凍る、コイツはヤバいかもしれない……

「認識阻害が効いてない‥ってことは私と同じ別世界(あっち)の人って事か……待ち伏せしてたってこと?」

 震える声をなんとか振り絞り、最後はその威圧感を吹き飛ばして、いつもの調子になんとか戻せた。

「察しがいいですね……」

 彼は口にその笛を咥えて何かの曲を吹くと、私は立っていられないほどの頭痛に見舞われ、同時に悶える私に向かってさっきの鳥の群れが急に起動を変えて迫ってくるのが見えたが、間に合わないっ! 

 なんとか歯を食いしばって頭痛に耐えなんとか振り払っていってもキリがないほどの数が飛んでくる。

「.〜♪」

「あグッ‥ぁぁぁぁぁぁぁ……」

 曲の強弱が強くなると、連動して群れのくる速度も、この頭痛も強くなった、これ、なんなの……

「うる‥さざー‥あっっ!」

「──中々の精神力ですね‥これは恐れ入りました」

 演奏を止めると鳥の群れは戸惑い、締め付けられるような痛みからも解放された‥まさか、従奏獣術(じゅうそうじゅうじゅつ)、いや……単なる音波攻撃? ……いや、どっちも違うか? ……

「話に聞いていた通り、やはりあなたも獣、さらに強めれば……」「誰が……けだ……誰が獣だ! ──うっ‥ウゲァ……」

 反発してみたものの、さっきの頭痛のせいで吐き気が襲ってきた……中々にグロッキーだけどなんとか身体を動かさなきゃ……

ctrl(操り)のメロディであなたを連れ帰れればよかったのですが‥厄介な者を起こしてしまいました」

 急に奴は奏でるのをやめた‥大地に亀裂が入り、地面の下から逞しい足を持つ地龍が道路を突き破り現れたからだ。

「うっそぉ……地球で竜が蘇るってこと‥あるんだ」

 その竜は自分を起こした男である彼の笛を見るや突進し頭突きしようとするが、軽々しく交わされ、闘牛のように私の真横の橋に身をすべらせた

「これは地球の竜ではありませんよ……ですが、この龍が居ては私の身が危ない……」

 すると彼は小さなインカムを装着して誰かに情報を共有しているようだ……

 そうしてる間にも竜は体を起こし彼へ怒りを示して突っ込んで追いかけていく。

 とりあえず、あの竜を止めなきゃ‥

 私は首から下げた勾玉を握りしめて瞳の前へ突き出し、高らかに叫んだが……。

「アークウィンガー‥boot‥あっ‥そうだった‥」

 咄嗟にやったけど忘れてた、相棒は今使えないんだった‥

 竜の方を確認すると追いかけていく道中で建物を薙ぎ倒しながら、進んで行って‥その先であの時の船に乗っていた二人が誰かを羽交い締めにし、人質を使った交渉をしているであろう光景が見えたけど、そのすぐ横を彼と竜が通り過ぎようとし、その二人は片方はビルの上へ片方はストレートに交わした。

「‥ああ‥いろいろ同時に起きすぎだって! ‥今年は厄年か何かか!!」

 髪の毛をくしゃくしゃしながら悩みイライラしてきた.世界ってホント優しくない。

 すると、羽交い締めにされていた男の子が後ろの男に噛みつき、バスケットボール片手に竜へ立ち向かおうと追いかけ始めた‥

「excuse me ? Did you forget us(私たちを忘れてませんか)?」

「‥そっか、君たちが居たんだった」「 It's not good enough(アークの代わりになるには) to replace the ark(技量不足かもしれませんが)

 but it should be a burning blade .(付け焼き刃にはなれるかもしれません)……No, I'll do it(いや、なってみせます)!」

「ありがとう‥だけど2人同時に扱うのは疲れるから……今日はシャイニー、君だけでもいい?」「all right (了解)

「あと、君たちが技量不足な訳じゃないから、私が使いこなせてないだけだから、気にしないで」

 そう話し合ってる間に例の男の子は‥「こっちだ!」

 バスケットボールを投げ、注意を引きつけたが、その迫力に圧倒されてしまった。

 さらに畳み掛けるようだけど、「邪魔をするな」と言わんばかりに竜はその子へ突進する準備に入った、もう迷ってる時間ないや……優先順位一番は決まった! 

「虚空を割く鋼の刃‥我が手に現れ阻むものを討ち取る力となれ‥陽射しの翼シャイニーウィンガー‥boot on!」

 その子の後ろで踏み切って飛び私は勾玉を一本の刃に変え、天馬の幻影に包まれるように防護服を纏いながら突っ込んで魔力壁で盾を張りその竜の行手を阻んだ。

「(助かった? ……のか)」

 振り返ると彼はただ私を見つめていた、まあ無理もないよね……死にかけた直後なんだし‥さてどうするか? このままぼーっとされててもなぁ‥

「(か、かっこいい……)」

「大丈夫かい? 少年」

 とカッコつけて手を差し出すと、何も言わずに握り返された、とりあえず立ち上がらせてあげて────────

「あの怪物はボールで倒せるような作り物じゃない、危ないからさっさと逃げな? ……まあでもその勇気だけは買うよ」

 そう忠告してもその子は私をずっと見つめていた。

 はぁ、庇いながら戦うのって結構キツイんだけどなぁ……

 すると、盾に激突し怯んだ竜がまた立ち、こちらに突進してきた。

「しゃーないか」

 咄嗟に見切り、防護服のブーツで強化された跳躍力を用いて彼の方向へ跳び、刀を持った手と逆の手で彼を通りがかりに脇に抱えてから斜め上へ地面を蹴って、近くの屋根の上に着地した。

「ふう……ッ!? …………ありゃりゃ」

 とりあえず一安心、と息を吐くと背中で大きな音がした、どうやらあの竜が何かの建物に突っ込んだみたいだ。

 そして、その音で助けた彼は気がついたみたいだ。

「──-あ、あの、助けてくれて……ありがとう、ございます……」

「お礼が言いたくてぼーっとしてたの?」「いや、そうじゃないんですけど‥あの‥」

「なに?」「あの‥名前だけでも‥(やっぱり‥言えない‥今会っただけの人だし……)」

 はあ‥私は時代劇の武士ですか? でもまあいいや、さりげなく名乗ってあげるか。

「じゃあ先に聞くけど君の名前は?」

「‥コウタ、水原航太(みはらこうた)……」「どんな字?」

「船とかに乗ってって意味の(わたる)に、太は普通」「……航る、でコウタ、か……いい名前だね」

「俺はこの名前あんまり好きじゃないけど」

 私は静かに笑いながら‥「そっか‥」と相槌を打つと‥「教えてくれますよね?」と返してきた、まあからかうのもこれくらいにしとこう。

「残念ながら私に名乗る名なんてないよ、災害孤児だから真名(まな)はないんだ、厳密にはわからないだけであるのかもしれないけど」

「……」

「でも親しい人からこう呼ばれてる、(サキ)ってね。私の恩人がさ、どれだけ辛くとも折れず強く立ち上がって笑顔の花を“咲”かせなさいって願いを込めて名付けてくれたんだ。

 だからそれが私の名前……はい! 聞きたいこと済んだならさっさと逃げる! 本当に危ないんだからね!」

 私は刀を一旦勾玉に戻して屋根から飛び降りながら答え、地面に下ろしてから橋の方なら安全だと告げて彼を行かせたが、竜はまた突進してきた。

「ちょーっとだけ痛いよ‥」私は峰に左手を添えて、刃全体を火で覆って‥

「我流炎斬技、弧状ノニ────────」

 ────────足元に燃える剣で弧を描き────────

「────────狐火!」

 その後大地を強く踏むとその範囲から火柱が立ち、竜を怯ませて、竜の額に手を当てて静かに瞳を閉じて語りかけた

「ごめんね……熱かったよね」

 “あの程度造作もない“と額に当てた手から念が帰ってきた‥よし、落ち着かせるのはできそうだ。

「教えて‥なんで暴れてるの? ‥うん、それで……」

 要約すると、あの笛の音、目覚めの音は聞こえたのに、その音の主は何処に行ったかを探していると‥そう訴えてきた。

「だったらごめんね‥その音の主は君を目覚めさせたかった訳じゃないんだ‥それに、あの少年も、あなたを退治しようとしましたが……え?」

 ”少年の方はもういい、誤って我を起こした者がいるのであれば喝を入れてやる“と、怒りを逆撫でしたか? と思ったけど、そのあと、”逆に一つ聞いて良いか? “と訴えて来た。

「なんでしょうか」

 ”お主は何故そのような女子(おなご)の姿を取って姿を偽っている? “と聞いて来た。

「バレバレでしたか‥私は”人の子に人の子として育てられ、今も人の社会で生きている“、ただ、理由はそれだけです‥とりあえず、おとなしくしていただいてよろしいでしょうか?」

 “うむ‥あの笛の男に喝を入れてからであれば応じよう、人間の居住区を荒らし、退治されるのは勘弁だからな”

 そう告げて、鼻の上に私を乗せたまま再度前進したが、その男の姿はそっちじゃなかった。

「竜さん‥そっちじゃありません、あの男は……北に居ます!」

「────────あの竜‥いい感じに暴れてくれていたのに‥」

 呑気に高みの見物をしていたその男の元に3人とも集まっているのを見つけて、角の上を走ってそこへ跳んだ……すると私の後ろを一昨日の戦闘機のうち2機がすれ違っていった……

「おや、そちらから来てくれましたか、物分かりがいい子ですね‥」

「あ“? 、まさかあなた達を逆に捕まえに来ただけですよ?」

 私は切っ先を3人に向けてから刃を太陽の日に輝かせて構えた。

「参ります」

 地を蹴り、風を切って目の前の1人の背後を取り、刃を向けると他の2人が私に跳んで来るがそれを宙返りしながら交わして3人を衝突させ、私は着地後すぐに地面に手をつき、魔力の鎖で動きを奪うが、即席にしてはしっかりとした強度で作れたが……すぐ横から銃火器の音が聞こえた。

 その先を見ると攻撃許可が下されたのかりゅうに対しての一斉射撃が始まっていた。

「竜さん!」

 動揺してさっきの鎖が砕けてしまった。

「あら、どうしたのかしら!」

 容赦なく反撃を喰らいかけたけど、なんとか刃で受け止めて弾き返し、ギリギリ見えていたもう1人を交わすがその先のもう一人は避けきれず、二の腕を斬られたが、防護服のおかげか傷はかなり浅く済んだ。

「……なっ」「あら、あんな口叩いておいて……」

「私が行こう!」

 あの笛の男が彼女を押さえて迫って来た。

 しゃーなし、さっさと済ませるが勝ちだ……

「我流炎斬技……突キノ参──────」

 ──────静かに目を閉じて刃に火では無く、熱を帯びさせていき刃を橙色に染め上げて目を開けながら真上に飛び上がる────────

「────────荒ぶり鷹!」

 一気に刃をひっくり返し目の前の地面目掛け急降下すると綺麗に床を溶かして刃が突き刺さる。

「外した……?」「まさか!」

 刀を回転軸にしそのまま蹴り飛ばす、大胆なフェイントだけど上手くいった……

「さてと……まずは一人、器物損害及び巨獣保護法違反及びその他諸々で現行犯逮捕させていただきます」

 蹴り飛ばされ怯んだソイツに手錠をかけたが……さっきまで活動していたにしてはその肌は冷たすぎた。

 まさかと思ってフードを剥ぐとそこに目も鼻もなく、さらにその途端に衣服ごと砂となり砕けた。

「泥人形!?」「you did it(これはやられましたね)……」

「あぁ……残り2人に逃げられたし、取り押さえた1人は人形って‥さっきまでの苦労はなんだったのぉ……」

 私は膝をガックリと下ろしてそのまま手錠と……さっきの笛を拾い上げ、証拠品としてチャックのついたポリ袋に入れ、懐へ仕舞った。

 とりあえずクヨクヨしてる場合なんかじゃないや、地龍さんを助けなきゃ。

 •

 •

 •

「!? ……撃ち始めた?」「攻撃許可が降りたんだ……キョウカも続いて!」

 でもあの中に航太がもし居たら……そう考えると、引き金を引くことが出来なかった。

 でもその間にも隣の機体‥5号機は既に攻撃を開始している……

「でもあっちの許可が降りたってことは避難は終わってるはず……大丈夫、きっと勝てる」

 ライトはそう言うけど……IFを考えるほど怖くなってしまった……

「1号機は何故撃たないの……」「ミオ、よそ見しないで!」

 突然、何かの光が怪物への攻撃を遮るように現れ、それに驚いたのか機銃掃射の音が一旦止んだ……そして眩しさに目が慣れるとその眩しさの正体がわかった、それは真っ青な……まるで青空に溶け込めそうなほど綺麗な色をした金色の瞳の青い火の鳥だったのだ。

「……ライト……これって、母さんが度々話してた……」「青い不死鳥の話? あれっておとぎ話じゃ……」

 まさか本当に不死鳥伝説があったのか? ……いや、だとしたらなんで今だ? 

『あれは……撃つな澪! あれには敵わない』「司令……何か知ってるんですか?」

『いや詳しくは知らないが……アレには危害を加えない方がいい……(何故こんな土地に現れたんだ……)

 あの鳥が訴えかけていること……ってなんだ? と考えている間にさっき言われた事を思い出した。

 “あの怪物はあなたが目覚めさせたのよ……”

 まさかと思って確認すると四足歩行歩行の怪物は機体を取りに戻ってる間にかなりの距離を移動している様だが、前回とは違い出てきた穴以外には少し歪だけれども、一直線に、ただ移動しているだけに見えた。

もしかしたら、どこかへ目的地へ向かってるだけなのかも。

「どうしたの? キョウカ……敵はあっちじゃないって!」「‥避けてる?」

「えっ?」「避けてる……無駄に色々壊さないように……もしかして、敵じゃ……ない?」

 私は高度を上げて鍵を引き抜き口元に持っていった。

「ちょっキョウカ! 何考えて……」「ライト‥外に音出せる? ……それは無理だって‥でも考えはわかったから!」

 止められて、ライトに言われるまま機体の羽を畳み、広い4車線の道路に着陸させてから、出せるだけ全速力で開けたハッチから外へ飛び出して……

「ドライブウェポン……エクステンドエッジ……」

 あの機体の側面の刃が展開し始めたが……

「ダメ! ……この怪物はきっと、敵じゃない!」

 とそのまま怪物の前へ飛び出し、両手を広げて庇った。

「っ!? ────────────(キョウ……ちゃん? いや)──────(似てるだけ‥よね……)」「ミオ?」

 動揺して目の前の機体が進路を急変更したのを確認したのち、私はそのまま鳩集めのあの曲を吹いてその怪物の注意を引くと‥怪物は私を見つめて来て‥それと同時に“私を目覚めさせたのはお前ではないが‥寝かしてはくれるのだな。”……と言うテレパシーが頭の中に囁かれる様に聞こえて来た……この怪物の声なのだろうか? ‥

 すると徐々に足の力が抜け、瞼が落ち……目が閉じ切るとその身体は置物の様に動かなくなった。

「……痛かったよね……ごめんね……」

 私は怪物の近くに近付いてそっと鼻先を撫でて謝った。

 青い火の鳥もまた、近くでそっと黙祷を捧げている。

「これでよかったんですよね?」

 青い火の鳥は深く頷いて飛び去った。だけどその瞬間に“ありがとう、気がついてくれて”と聞こえた気がした……気のせいかな。

 

「あの機体に乗ってた子‥何処かで……」「今回の出撃はその子との対話も目的だったでしょ?」

 

 私は機体を着陸させた場所へスタスタと歩いてふたたび乗り込んだ。

「……帰ろう、ライト」「だね、キョウカ……」

「折角だしさ、お昼一緒行く?」

 ライトとそんな会話をしていると、無線の接続リクエストをキャッチしたと言う意味のアラート音が鳴った……

「無線?」「あの機体からじゃない?」

 リクエストを承認すると……聞き覚えがあるような‥ないような声が聞こえた。

『こちらミラージュ=エルフ……ライジング=エンジェルのパイロット応答を願います』

「‥はい、こちらライジング=エンジェル……一体なんの御用件で?」

『単刀直入に申しますが、司令官があなたとの面会を希望しています、要求に応じて頂けるのであれば……我々の基地まで御同行願えますか?』

 

 

 To be continue




次回予告
一時はどうなる事やらと思ったこの一件も無事終わった‥
けど学校で絡まれ、通学路に野生児!?
一体ぜんたい訳わかんない事てんこ盛りだよぉ〜!
次回、第9話 「contactA to E」
次回もセーフィリリース、ユニゾン…ゴー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#09 contact AtoE

さてさて、前回のおさらいターイム!
「謎の少女の活躍で航太が無事に救出されて」
遅れて到着した私たちの活躍で怪物が眠りについてくれました。
「あれはなかなかの起点だったけど‥着陸させた道さ、幅ギリギリだったからホントに危なかったんだよ。」
ごめんなさい…とりあえず今週もはじめよっか。「だね。」


『角度よし、そのまま推進装置を止めないでください……』

 レールに機体側のレールを噛ませて滑り降りていくように少し広めなカタパルトを下っていくと、隠された広い空間が広がっている……そこは銀色の壁に囲まれた無機質な格納庫だった。

 同じ様にレールに機体を沿わせて定位置まで下ると、機首の真横には高台はなく、地面からかなり浮いていた。

「……浮いてる、梯子届くかな?」

 そう呟きながら真横を見るともう一つの機体から降りた彼女が天井から吊るされた足場で地面に降っている。

「初めてですか? 安心してください、じっとしてれば落ちませんよ」

 言われるままに恐る恐る右足を乗せるとそのまま体重で落ちていくため左足を下ろす前に体が落ちていった。

「はわわっ! ……」「大丈夫? まあなれてないもんね」

 そうしてまたまた転落? ‥いや、今日は怪我してないけど。

 そしてライトはすんなり使えるみたいだ……

「パイロットの方、司令官の元へ案内します……着いてきてください」

 彼女の振る舞いは何処となく冷たくて……ただただ眼差しは痛かった。

「6年ぶりね……ライ」「うん‥相変わらずだね、ミラ」

 二人は再開を噛み締め、私は長い廊下に出され、ただただひたすら歩かされる、何処に続いてるんだ……? 

 どれだけ歩いたかわからない頃、ようやく「こちらです」と第一会議室と書かれた隣の部屋を示された。

「私のお仕事はここまでですので、一人で入室してください」

「えっ‥一人ですか?」「ええ‥では失礼します」

 そのまま足早に離れていった‥まあ、入るしか‥なさそうだね。

 その部屋のオートロックは既に外されており、前に立つだけで扉が開いたが‥その先に居たのは私もよく知る人物だった。

「失礼します‥!? YURIさんに‥YUKIさん!?」

「君、一昨日の夕方……」その部屋にはY×2sh(ツヴァイワイズ)のお二人が居た……

「さっきこの部屋で司令官がいるって聞いたんですけど‥」

「だったらまだ来てないぞ、一応来るまでの監視人として居るだけだ」

「‥はぁ‥」「かけていいぞ……安心しな、これは面接の類じゃない」

 お言葉に甘えて着席して、言葉も発さずにただじっとすることにした。

 しばらくしてドアが開き、特徴のない体型の男性が入室した。

「待たせて申し訳なかったな‥俺はチームkeyの司令官兼責任者の海堂真也(かいどうしんや)だ」

 彼が着席したところで私からも挨拶を交わそうとすると……

「……はじめまして、あま……」「──-天音響花だな?」

「なんで知ってるんですか!?」

 初対面の相手から名前を言われ、机に手を付いてガバッと立った。

「優たちが撮ってきた写真を元に情報を洗わせてもらった……一応権利上認められてるからな」

 あの時のか!? ……世の中って意外とおっかない? 

「で、今回は一体どう言う趣旨の対談なんですか?」

「単刀直入に言うが我々に力を貸してくれないか?」

「力……ですか?」

「言い方を変えればスカウトだな。訓練もなしにあれだけ機体を操り、最活性化状態(フルテンショニング)まで引き出せる人材は中々いない……それに、君の身の安全もある程度保証できる。強制はしないがウチのメンバーに入らないか? と言う話なんだが……」

 私の安全の‥ため? 

「それってどう言う‥」

「君が首から下げている白鍵(ヴァイス・キー)を狙っている組織はうちだけじゃないからな、いつ何時君に魔の手が伸びるかはわからないぞ?」

「あの、質問‥いいですか?」「ああ、構わない」

「ゔぁいず‥きぃ? ってなんですか?」「それも知らずに持っていたのか……その鍵は君が乗っていた機体‥メロディックバーズシェルと共鳴駆動炉(シンクロニングエンジン)の連動を行う鍵であると同時に、謎の多い笛だ」

「はあ……でしたらもう一ついいですか?」「いくらでも聞いてくれ」

「メロディックバーズと最活性化状態(フルテンショニング)ってなんですか?」

「‥一応我々の部隊で解析した分の情報だが、太古の遺産から発掘されたテクノロジーを解析して復元、改良し作られた特殊戦闘機……それがメロディックバーズ。特徴としては動力は明確に何とはまだわからないが、ある生物の放出するエネルギーを用いて動くことが挙げられる‥当然メンタル的な影響で出力に差が出ることから“機体側が乗り手を選ぶ機体”と言われていたそうだ。

 そして、その動力を担う生命体‥今回の場合は金属生命体メタフルだが……その生命体のメンタルバランスを整えて最大のコンディションと出力になった状態‥それが最活性化状態(フルテンショニング)だ」

「‥じゃあなんで私があの子のコンディションをそこまで高めれたって言うんです?」

「それは君自身で考えてくれ、話を戻していいか?」

「はい」

「さっき言った白鍵(ヴァイスキー)は全てで7種そして君のそれがト音を司る鍵……鍵盤をイメージしてくれ、あの中のラだ。

 そして、全て揃うと、何かが起こるらしいが、揃った時何が起こるかは使い手次第としか聞いたことがない」

「ええ……」

「実際に研究途中の代物だからな」

 そこ結構重要な所でしょぉ……って待て、揃ってた時ってあるんだよね‥しかもなんで今散り散りになってるんだ? 

七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)の元メンバーに聞けばわかるんじゃないんですか? あの時って7種揃ってたんじゃないんですか?」

「……天音奏叶が疾走した後、何が起きたか知らないのか?」

「疾走後、それをきっかけに解散したんじゃないんですか?」

「いや、その後にもう一つ事件がある……そうか、メディアでは報じられてないのか」

 私は唾を飲んで聞く心構えを作った。

「君の天音奏叶が疾走した後……一度だけ、一機足らないまま出撃した時があった、しかしその戦いの途中突然敵軍機も自軍機も光と共に消え、トランスポード•ウォーは終わった。そして、その後の捜索で方々に散ったパイロット、機体、駆動炉核(コアドライバー)が別々の場所に見つかっているが……全員は発見されていない上に、ここまで見つかった当事者も突然光に包まれて、それからの何も覚えがないと全員が証言している」

「えっ……」

 私はその事実を突きつけられ硬直した。

「だから、君の母だけじゃない……消えたのはな」

「……原因も‥分からないんですか?」「ああ未だ発覚していない、だが‥各地にあのオーバーテクノロジーの塊が散った事が公になったら欲しがる奴も多いだろうからな……だからこそ、誰かが回収して正しく扱う必要がある、そこで……君みたいな人材が欲しいんだ」

「なんで私なんですか?」「それは感だ。感がそうだと言っている」

 ────────はぁ? 

「感、ですか?」「ああ、一応給与と機体整備、それから一式の装備品等は支給する上に、必要以上に君の時間を拘束しないと言う条件付きでのスカウトだが?」

「防衛組織としてそれどうなんですか?」

「一応他人の為に命を張らせる仕事だからな……プライベートに関与しないのがうちの方針だ、だからこそあの2人も……表向きアーティスト活動をしつつ、アイツらの意思でここに居る」

 私はY×2sh(ツヴァイワイズ)の二人の顔を伺うと、よそ見するなとジェスチャーした。

「──-断るのなら君の口からそう言って欲しい、では改めて聞く。その鍵と機体を我々に譲渡する、もしくは我々の一員になってくれないだろうか?」

「‥少し、考える時間をもらって良いですか? 

 私はあくまで、母さんから託されて、街を、大事な人を失いたくなくて飛んだだけなんです、だから‥まだ、命を張る覚悟は‥」

「そうか、なら君に選択肢だけ渡しておこう、

 1、覚悟を決めてここに来る。

 2、彼と機体と決別し、元の生活を送る。

 3、このまま帰ってバックれる

 4、第四の選択肢を見つける。

 とりあえず、どの道を選ぶか決めるまでは我々の元で彼も、鍵も機体も預からせて貰う」

「‥鍵だけは、嫌です‥母さんの肩身だから‥手元に置いときたいので‥」

 少し間があってから、彼は少し息を吐いて……

「‥そうか……なら答えが決まったらそれを持ってもう一度来てくれ‥猶予は一月だ」

 と私に告げた。

「解りました……‥あの、今更ですがお兄さん、母さんとはどういう関係なんですか?」

「この組織の立ち上げには君の親父さんがかなり噛んでてな……その絡みで数回顔合わせしてる程度だ」

 あ“? ‥マジで? 

「────────なんであんな人が、こんな組織立ち上げる道理がわかんないんですが。ええ……」

 そう言うと、彼は微笑した。

「‥なんでちょっと微笑ましそうな顔してるんですか?」「すまない、思春期真っ只中なんだなと思ってしまってな。それと────」

 さっきまでの口角の上がった表情から一転し、またキリッとした顔つきで話し始めた。

「──一応一般メディアなまだ公表されてない組織だからな……発表されるまで口止めしなきゃならない、理不尽だが署名して帰ってくれ」

「えっ……」

 差し出された書類に名前を書かされた後で私は外に出された、意外にも出入り口は完璧なカムフラージュがされて殺風景であり、空を見るともう西日が傾いている。

 あーあ、お昼過ぎだったのにもうすっかり夕方だよ……そう言えばライトはどうなったんだろ。────────いや、ライトより先に航太どうなった!? 無事なのかな? ……

 私は急いで帰路に着く。以外にも水原家までの道のりはそこまで長くなく、走って10分弱の距離だった。

 少し通り過ぎて、ちょっと戻って勢いよく戸を開けて、そのまま敷居に躓いた。

「‥誰? 慌ただしく入ってきたけど……あ〜なんだぁ、おかえり、キョウカ♪ 遅かったね.どこ行ってたの?」

「それより先に航太ってもう帰って来た?!」「航太ならお昼には帰って来てたけど」「怪我とかは?」「ちょっと擦りむいてたくらいだけど……本人呼ぼうか?」

「よかったぁ……あっ航太は、呼ばなくて大丈夫」

 私の様子を見る愛緒の表情がなんとなく不思議そうだった。

「あお?」「……やっぱり、ここ数日でなんか変わったね」

「ねぇあお、私、どこかヘン?」「ううん、ぜ〜んぜん、さて、おなかすいてるでしょ? さっさと手洗っておいで」

 愛緒は私の様子に違和感を感じつつも普段通りに私に接してくれた……まあ私の身に何があったかは知らないし‥悟られちゃったっぽいけど‥気のせいなのかな‥

 だけど、口止めされてる以上、あの場所でなにがあったか、どこに行ってたかはぼんやりとしか言えないし、なにせ、今日までで3つも嘘を重ねちゃったし……

 はぁ……やっぱり隠し事って、苦手だ。

 

 

 

 それから少しして……

「────-」「」

「はぁ……航太、キョウカ、何かあった?」

 今日の食卓は会話が少なかった、航太がなにを言っても聞いてくれない‥シカトされてるというよりかは、ずーっとボーっとしてる感じだった。

「帰って来てからずっとあんな感じなのか?」

「まあ‥ね」

 覇気の無い目が苦手な日出海さんは航太の様子には少し腹が立ってるようだ。

 そして、食卓にはバラエティ番組の音だけが響いている水原家には珍しい静かな夕食が続く中、番組の途中でニュースが入ると、昼間のことが報じられた。

 [────────巨大な怪生物の進行を抑えた2機の戦闘機の行方は未だ調査中です……また、現場で、撮影されたであろうSNSの投稿では忍者のように屋根から屋根へ渡り、その怪生物を追う少女の姿も話題を呼んでいますが、この少女との関係性も詳しく調査しています。────────]

「あっ!」「「ッ!?」」

「ど、どうしたのみんな?」

 3人同時にその姿に少々過剰な反応を見せた。

「この子! この子! 一昨日助けてもらったの!」「俺が昨夜見つけたのもこいつだ」……「……(あの人……かっこよかったなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 同刻、燈ヶ浜商業区のある公園にて……

「ふぅ……流石にこの手を取るしかないけどしゃーなし‥こんな時だし」

 旅の証的な感じで残しておいた僅かな日本円で買ったチョコレートを口に放り込む、安物とはいえ、そこそこ美味しくて……凄く懐かしい味にも感じる。

 知ってる? チョコレートって結構万能なんだよ! 

 ちょっと動物性脂肪分が多いけどさ、タンパク質も炭水化物もしっかり取れて、腹持ちもいいし、まあニキビだらけにはなりたくないですが。

 [続いてのニュースです。]この公園は都市部の大きめな交差点の近くにあるため、電気屋のショウウィンドウに並んだテレビに映るニュースがよく見えた。

 [今日昼頃、燈ヶ浜商業区にて────────]

 昼間のか……とりあえずメディア上からは私の存在は消えれただろうか……

 [────────あろうSNSの投稿では忍者のように屋根から屋根へ────────]

 最悪、バッチリ撮られた‥あーあ。

 まあ、でもこれくらいボヤけ‥いや改めて見るとリボン目立ち過ぎか? ……

 唖然としながら報道を見ていると、雫が頬を伝ってきた。雨だ。

 雨宿りできそうな場所を探しても、都合の良い屋根がなくちょっと離れた公園内の逞しい枝の木くらいしかない。その木の下に入り、慎重に登ると、見た目通り、私の体重じゃびくともしない、今日はここで休もうか……木に体を預けて日記を広げてスラスラと綴っていき……書き終わる頃にはもう夢の中へと誘われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に同刻、ある洋館では……

「散々だな……この結果は、それにフレイル……人形を使わせ、現地に白鍵(ヴァイスキー)を置いてったのはどう言う意図だ?」

「時間は掛かりますが、効率は良さそうな方法にかけてみただけです……」

 その男、アンカーが取り仕切る会議室にそう言いながら入ってきたのは、昼間のフードの男、いや泥人形の主だ。

「いつまでかかる?」「彼方の暦で言うなら蒼月(ブルムーン)までには間に合うでしょう……」

「……白月(ワイトムーン)には間に合わせろ」「それはキツいですね……」

「‥なら不可能では無いんだな」「ええ」

 彼、アンカーは席を立つと……「しばらく指揮はお前に任せる」と告げ部屋を後にする。

「エージェントAnker、あなたは?」「Aの奏者に直接接触する……」

「ほう……私の作戦を飲む訳ですね」「面白そう……だからな。 それとブレッザ、ヴァッサ、今は黄金月(ゴルドムーン)じゃない……この世界で四色月暦(ししきげつれき)は用いられてないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に更に同刻、チーム「key」基地内

──────────(流石に似てるだけよね……)、失礼します……」

「どうした、澪」「あの子の情報……見せてもらっても良いですか?」

「ああ……好きにしろ」

 澪はその資料を舐め回すように眺めて、少しだけ微笑んだ。

 何故なら、名前も……字も彼女と同じだったからだ。

「この子……やっぱり♪!」「……知り合いか?」

「ええ……確証はないですが、小さい頃同じ名前の友達が居たんです……だからもしかしたらその人かもしれないって‥」

 海堂はそのまま澪から資料を取り上げた。

「だったらこんな資料じゃなくて‥本人に聞いてみろ‥お前の隣のクラスだぞ」

 

 

 翌朝……

 コツンっと音を立てて私の頭に空き缶がぶつかった。

「……? ‥」さほど痛くはなかったけど、無意識にあたった部分を手で触ろうとしてうっかりバランスを崩して枝から落ちた。

「……忘れてた‥あっ、君昨日の……航太、で合ってる?」

 私が落ちた木の根本から缶が飛んで来た方を見ると、昨日の勇敢な少年がいた。

 とりあえず、日記と缶を拾って、缶をゴミ箱に投げ入れると小さな穴に見事に収まった。

「──-びっくりしたぁ……」「こっちの台詞、で、何かようかい?」

「いや‥こっちの台詞で合ってますよね……なんでこんな所で寝てるんですか?」

「いや〜宿なくってね……雨も降ってきたし参ったよ〜」

「宿ないから木の上でって‥あなた普段何してる人なんですか?」

 彼の姿を見てみるとこの近くの学校のジャージらしきものを着ている‥時間的に部活中だろうか……でも、ちょっと……遊んでみるにもいいかな。

「知りたい?」と聞きながら私は鞄を枝から取って、日記をしまい、肩紐をかけながら……

「じゃあ、私を捕まえれたら教えてあげるっ!」

「ちょ……っと待ってくださいって!」「よーい、ドン♪」

 私は朝のランニングがてら、公園を縦横無尽に駆け巡り……

「よっと」塀に飛び乗って公園の外に出ると、彼は誰かにぶつかってしまった。

「あっ……」

「イタタ……って航太!」「キョウカ!?」「ここで何してんの?」「いや‥何って……あっ!」

 どさくさ紛れに逃げようとしたのがバレて追いかけてきた。

「ちょ、航太!」そして追跡者も一名追加だ。

 そうして街の中へと駆け巡り、時に撒いて、時に伏せて……

「「はぁ‥はぁ‥はぁ……」何処行った? ……」「ねぇ航太、誰追いかけてんの?」「いや、誰って────────」

 2人が私を見失った頃、私は木の枝に膝裏を引っ掛け、二人の間から「ばぁ!」っと飛び出る。

「わっ!」「上ッ!?」

「お疲れ様でした〜♪ ところで君ら見かけ学生っぽいけど、1限目大丈夫?」

「「えっ‥」」

 ここは中学校の目と鼻の先、時計は既に始業時間を指している。

「8:00!」「あの……ペン落としてたの気付いてないんですか?」

 えっ……改めて日記帳を確認するといつものペンは刺さっていない、そして彼の手には同じペンが握られていた。

「ありゃりゃ? ……ごめんなさい」私はクルっと一回転して木から降りてペンを受け取った……我ながらなさけない。

「航太も‥落とし物」「あっ……」

 彼女が航太に手渡したのはどさくさ紛れに落ちたハンカチだ……どうりで追ってきたのか。

「とりあえず、時間ないから‥気をつけてよ!」

 そのまま彼女は走っていった。

「俺の負け‥ですか?」

「いいや、勝ちだよ‥だけど残念、時間切れだよ」

 チャイムが鳴り、彼は焦って駆けていった。

「あっヤバっ!」

 

 

 

 

 間に合え……間に合え‥間に合えっ! 

「────────天音さん‥は欠席……」「ちょっと待ったぁぁぁ! ‥あっ」

 クラス全員の出欠を取り終わった所でようやく教室に着いて戸を勢いよく開けて飛び込み、見事に転んだ。

「滑り込みセーフ‥ですよね?」「はい、おはようございます……滑り込みアウトです、遅刻証明書書くので職員室来なさい」「そんなぁ……」

 あーあ、最悪。

 結局職員室に寄って遅刻証明書を書いてもらい、1限目の教室へ……向かう途中の階段に見覚えのある人が待ち伏せていて、私を見つけると────────

「天音響花!」「はいっ!」

 ────-フルネームで私を呼び、腕組みしたまま私をみている。

「あなた‥確か昨日の?」「少し話したい事があります、昼休み、第一音楽室に来てくれますか?」「‥別に、いいですけど……」「以上です‥では昼休み、お待ちしております」

 誘い方もっとあるでしょうか。

 しかもそれだけ言い残したのち、彼女は何事もなかったかの如くまた階段を登って行ってしまった。

 

 それから午前中の授業は何事もなく終わり、4限目のチャイムと共に音楽室へ足を運んだ。

 この学校の旧校舎には音楽室が複数あり、彼女が指定した第一音楽室は主に軽音部が使っている音楽室だ。

 近づくほどにギターの音が聞こえる……しかもエレアコか? 

 引き戸を開けて、靴を脱いで入ると、昨日の彼女が音の主であることがわかった。

 私が来たことには気付いてない様だし……じっくり聞かせてもらおう……

 しばらく聴いていると、弾いているのが「ZEROからはじめるストーリー」であることに気がついて、ついつい口ずさむと……1コーラスの区切れで彼女は弾くのをやめた。

「あなたなら歌うと思ったわ……天音響花」

 彼女は振り向いて入りなさいとジェスチャーした。

「失礼します……で話したいことってなんでしょうか?」「ええ、あなたに確認したいの、あなた、ずっと離れてる幼馴染っている?」

 なぜ彼女の口からそんなワードが出てきたか分からなかった。

「いますよ……つい最近まで忘れてたんですけど……」

「その子の名前とか分かる?」「それが全く思い出せないんです……」

 彼女は深めのため息を吐いてギターをスタンドにかけた。

「聞けば思い出してくれるとお……」「何か言いました?」

「いえ、なんでも」

「ところで、なんでそんなこと気になったんです? 私を探してる人でも居たんですか?」

 そう言うと彼女は背筋に電撃が走ったかの様にわかりやすく動揺した。

「あなた‥随分と鈍いんですね……」「えっなにか気に障りました?」

「いえ……私が話したかった事は以上です‥」「じゃあ、私からも何個か質問‥いいですか?」「……(私?)ええ、構いませんよ」

 またわかりやすく動揺してる、やっぱ私……何かしたか? 

「──-やっぱり、やめときま‥」「いえ、聞きなさい」

「じゃあ……今更ですけど、お名前は?」「……ミオ、空音澪」

「‥あ〜やっぱり!」「……(まさか)」「──-隣のクラスの転入生! 。 あおから聞いてますよ〜東京から来たって言う超エリート!」

 彼女は何故かがっかりした様な顔をしたが、私は気が付かず喋りたいだけ喋っている。

「これだけさおもの弾けるんですね〜もっと聞きたいです! てか入っちゃえば良いじゃないですか! 軽音部!」「……その言葉、そっくりお返ししましょうか?」「あっ……」

 しばらく沈黙が続いた‥はい、私帰宅部です。

「別でやる事もありますし、私の腕じゃ……」「通用すると思いますけど」

 彼女はまたスタンドにからギターを外して構えて、私に背を向けたまま。

「とりあえず、話は以上です‥」と言って私を追い出した。

 しばらくおとなしく座っていると、またギターフレーズだけが聴こえてくる、でもこれは分かり易かった「RED or BLACK」だ……

 私は目を閉じてそのギターに合わせて歌っていた……軽快な曲調が気持ちいい……

 

 曲が終わると、扉がガラッと開いた。

「やっぱり、付き合いなさい……マイク線繋いどいたから」「いいんですか! 空音さん!」「ええ、天音響花、あなたの歌、もっと聞きたくなったの」

「‥喜んで。でもフルネームだと長くないですか? 、呼び捨てで良いですよ?」

 彼女は少し悩んでから結論を出して私を呼んだ。

「わかったわ、じゃあ、天音、あなたの歌もっと聞かせてちょうだい‥」

 そっちか……何故苗字かなのか意図を読めなかったけど。

「じゃあ私も苗字で呼んで良いですか? ……もちろん歌の件でしたら喜んでお付き合いしますよ、歌うの大好きですから♪」

 

 同刻、ある場所では。

「……落とし物? .ッ!?」

 小さな宝石を拾い上げた女性がその宝石を見つめた途端に意識を失い、それに気がついて救急車を呼んだ人物こう証言を残している……119番通報してる途中に、その手の宝石はまるで意思を持っているかの様にぴょんぴょんと跳ねて海へ飛び込んだと‥

 

 to be continue……

 




次回予告
明日だけ休みでそのあと土曜日から連休…だったら金曜からにして欲しいものだよ…とそんな事思ってた放課後…海上に異常発生?!
行こう、ライト…ってあーそうだったぁ!
次回、第10話「絡み合う歯車」
来週もセーフティリリース‥ユニゾン、ゴー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#10 噛み合う歯車

前回のおさらいターイムってなんで君が相方なの?
「どうも、赤いリボンの少女です。
さて前回は、キョウカがチームKeyの真也さんに呼び出されお誘いを受けまして。」
はいはい‥で、その翌日もう一つの機体のパイロットとコンタクト。
「あっちの組織も何か動いてたね。」
さてどうなることやら‥今週もはじめようか。って意外に悪くないね。「でしょ♪」


 4月28日の夕暮れ時、

 地下格納庫にて。

「……ライト、居る? ‥ライト!」

 ただただ広い空間に私の声だけが響く、ライトが戻ってきてるのか確かめるべく、放課後来てみたけど‥ライトも居なければ、1号機もない。完全なる蛻の体だ。

 どこ行っちゃったんだろ……とりあえず、もう一つの目的を果たすべく、まだ中身を見ていない引き出しを開けてみる……ほとんど空だったけど、机の一番下にあった引き出しには、沢山の書類が入っている‥そしてその下には、風化し色褪せた‥いや色褪せすぎている書物が入ったガラスケースが隠されていた。

「……」恐る恐るそれに触れようとしたけど、踏み止まり、一旦手を離した。

 その書物の見た事もない字たちは、異様なオーラを放って、本能的な恐怖を感じたからだ。

「これ以上ガサ入れするのはよそう」

 掃けた資料にも目を通す気だったが、そんな気も失せてしまうほどに、あの書物は、触らない方がいい気がした。

「はぁ‥母さん、私‥ホントに戦わなくちゃいけないの?」

 ソファーに寝転がって呟く、当然答えは返ってくるはずもない。

 襟の中から笛を出して目の前に掲げて……ぼーっとしてみる‥今は吹く気分にもなれなかった。「ライト‥」

 何故か笛を見つめるとライトのことで頭がいっぱいになってきた‥ってなんだなんだ! 恋人でもないってのに! 

 こう言う時は外の空気吸うのが一番かな。と今日は帰ることにするかと、外へ出ると‥携帯が着信音を相馬しく鳴らす‥ってはぁ!? 

 画面を見ると、地震も来てないって言うのに津波注意報が発令されている‥何があったんだ? 、気になってニュースサイトを遡ると、今度は海に何かが現れたっぽいけど、これまでとは違い、蛇の様な姿をし、額に発光体が着いている……ホント最近何が起きてるんだ? 

 って待てよ……今確か海って日出海さんが今起き網漁に出たばっかだったよなぁ……無事であってくれと願いながら地図を見るとその網の位置では無かったが、もし津波が起きたらなら被害圏内だろう……

 とりあえず、急いで避難所‥行かなきゃかな。

 

 同刻、商業区

 背筋に電気が走る様な感覚に襲われた……日本(こっち)でこの感覚に襲われるなんて……いや、待て……普通にレアケースが起きたか、覚醒済みの“アレ”が動いたのか? ……とりあえず、そこまで遠くはなさそうだし、現地へ向かってみるか。

 ……ん? なんでそんな感覚が走るか? ……魔法が使える人は近くに強い魔力を感じると防衛本能で背筋に電気が走る様な感覚に襲われるんだ‥。

 そして、現地に着くと‥海は昨日と打って変わって高波がうねりを上げている‥まるで内側から人為的に動かされているかの様に……だが、この波の動きには見覚えがあった。

「海竜……なのかな」姿は水の中でまだ見えない……だが微かに見える影は大きなヒレを持った蛇の様だった……蛇というよりかは30m級のリュウグウノツカイが居ると例えた方が伝わるかな。

 とりあえず、早いところ対処しないと津波が起きる……

「あら……こんな所で……」「今度こそお前の首を!」「……」

 フォイと呼ばれていた仮面のアイツと、船の二人が現れ、フォイと呼ばれていた彼は私を見るやすぐに飛びかかってきた。

「覚悟!」「‥aぶなっ‥」

 それを魔力壁で防ぐが……その音で周りでパニックを起こしている人達の一部がこちらに気がついた。

「‥全くあなた方何考えてるんですか……日本沈める気ですか?」

「ニホン? ‥そう言えばここ、そんな地名だったわね。‥まあでも、私たちにとっても、この土地が沈むのは困るわね」

「じゃあなんですかアレは‥」「だれかさんが艦橋を破らなければアレは現れなかったっていうのに‥」

 最悪‥あの時散らばったうちの一個か。

「はぁ‥」「でもあれが居たら面倒だから今回ばかりは協力……」「んな虫のいい話ありますか? ……私の手で勝手に対処させてもらいますから」

 私はそう言ったまま海の方を向いて‥勾玉を掲げ‥「 虚空を割く鋼の刃‥」と詠唱を始めると、フォイが来た‥

「この野郎っ」「……パスワード省略!」

 ため息を吐き、工程をスキップして刀だけを装備し峰で受ける、この戦闘狂め。

「‥中々‥」「もう‥殺生はなるべくしたくないので、やめてもらえますか?」

「……聞いてた通りホントに頑固ね‥じゃあこっちはこっちでやらせてもらうわね」

 そう言って後の二人が柵の外へ飛んだ。

 私もすぐさま後を追って飛び、防護服を纏った。

「刺激を与えたら何が起きるか分かんないでしょうが!」

 そう言いながら刀を振るい、見晴らし台の下で互いに睨み合う……

「殺生はしたくないんじゃなかったの?」

「‥それもありますけど、今の最優先事項はあなた達の逮捕と‥あの海竜の調査……だから下手に刺激する様であれば……」

「‥じゃあ結果的にあの海竜は放ってる事になるけどいいの? ‥」

「ッ‥」

 歯を食いしばったが、図星をつかれた事の動揺は隠せない。

 しばらくの沈黙が続く‥だが、その沈黙を破ったのはどちらでもなく、その海竜が水面から顔を出した音だった。

「あっ……」「こっちの世界でもこんなに育つのね‥ヴァッサ、捕獲しましょ」

「will do」

「──-させないっ!」

 黒い船の二人のムキムキな方に立ち塞がり行手を阻む。

「平和的に済ませたいんですけどっ!? ……」

 地震が起きて体制を崩し、お互いに怯む‥そして先に立ったのは‥アイツらだ。

「まちなさっ……」「個体コードdaughter!」「フォイアル、そっちは任せたわ」

 またフォイが私に飛びかかり、私の首を狙う……こんなとこで死ねるか! 

「もう! ……あなた、なんで私に執着して‥」「何故かな‥この身体が欲してるんだよ‥お前を!」

 そのまま抜刀して居合をかまされるが、バック宙で交わし、そのまま側転して着地する‥けど構え直す前に奴はそこに居た。

「なっ……あぁ“!」

 そのまま腹部を蹴られて体制を崩し、水面に打ち付けられる。

「この前はまぐれか? ……」「‥な訳……」

 強がっては見たものの、ここじゃ得意な戦術は使えない、それにこの武器の扱いも不慣れなままだ‥

 けど、仕掛けなきゃ……やられる。

 踏むたび削れていく浅瀬の砂の上を鈍く走る‥でも思う様に走れない……でも目の前には狂った表情の仮面の男が私を煽る……今に、見てろ! 

「我流炎斬技、回転ノ壱────────」

 ──-海中の岩をなんとか踏んで泥濘を脱し全身を宙に浮かべると‥フォイは関心している様な表情を見せた。

「────-飛竜斬!」

 刃で遠心力を生み、浮かべた身体ごと刃を縦に回すが、刃同士がぶつかり、そこで勢いを殺され彼の背中を前転していく様に慣性で彼の背後に不時着した。

「……これはまだまだ楽しめそうだな‥ッ? ……チッ!」

 彼が舌打ちし、見つめる方向を見ると、昨日も見た‥あの機体が空を裂いた。

 ・

 ・

「こちらMB-05、目標を確認……と付け加え奇抜な服装の団体が交戦中‥」

『司令室、了解‥攻撃許可、奇抜な団体の方は優たちを向かわせる。なるべく陸から離せ』

「了解」

 あの機体は海竜の上を旋回飛行するのを止め、私達にお構いなしで発砲した。

「また来たわね‥でも、これはチャンスかも」彼女は銀色の卵方の塊を懐から出したのが見えた。

……(あれって‥)、ちょっと退いてって!」

 反射的に振った足がフォイに当たり‥その隙を見て彼女の方へ飛んで、それを投げるのを阻止するが‥彼女の手にはその塊はなかった。

「あれ?」「‥あら‥間違えたみたい、‥でもちょうどいいわ」

 卵は水面で割れ、十数体の人形が現れた。

「‥やっぱりメタフルエッグ‥しかも面倒なのを‥」

 アンラッキー続きだよ‥ホントに‥でも頑張りますか! 

「シャイニー、ちょっと無茶していい?」「of course(止めても無駄ですよね?)

 私はリボンの端を引っ張って髪を解いて、静かに瞳を閉じて────────

 

 

 

 

 澪が現着した頃‥響花は、崩れた商店街の前で足を止めた。さらに初めて空へ上がった日に、崩れたあの場でも。

 立ち入り禁止の線の前に、花が供えられているのが目に止まったからだ。

 やっぱり、被害者は‥死者は出てたんだ。

 私はその花の前に座り込み、黙祷を捧げた。母さんの仕事のせいで人の死に対して余り感傷的になれなくなっていた気がしてたけど、そんなことはないみたいだ‥胸が苦しい

「ごめんなさい‥私が‥」

 やっぱり、私でいいのだろうか‥私じゃ力不足だよね‥

「こんなところで会うなんて‥」

 避難警報が忙しく鳴り響く中、黙祷を捧げる私に誰かが声をかけた。

「碇‥先輩?」

 その人物は、碇礼司(いかりれいじ)‥一個上の先輩で‥中学の頃から私が想いを寄せてる相手だ。

「キミも逃げ遅れたのかい?」「い、いえ‥別に‥」

「そうか……あの戦いが終わっても、こんな悲しみは続くなんて、悲しいよね」

 碇先輩も、花を見つけると、短く黙祷を捧げた。

「でも、昨日、あの2機が来なかったらこれより沢山の花がそえられたのかな‥」

 私はもう、考えること放棄して、こんな事を聞いてしまった。

「もし、先輩があの機体に乗って戦って‥結果がこれだったら、どう思いますか?」

 すると、碇先輩は考えるなもなく答えた。

「奇遇だね‥もしかしてキミも同じこと考えてたのかな? ‥」

 彼は海の方を見つめて話を続ける。

「確かにあの片方を操って戦かえるなら答えはYESだ。

 もしも‥自分が英雄になれるなら、自分の手で救える力があったら‥ってこんな状況の時、思ってしまうんだ‥でも僕らはそんな力はないから、トライする可能性もないのが悔しくなるんだ……幼い頃に見たヒーロー番組のせいかな、こんなこと思うのは」

 クールな立ち振る舞いで語り口は優しく‥やはり惚れてしまう。

 英雄か……私はその器なのだろうか? 救える力は持ってるって言っていいのだろうか? 

「そんなことないと思いますよ、誰かを大切に思うのは不自然じゃないですし‥てか碇先輩もちっちゃい頃見てたんですか?」「ああ、縋り付くようにテレビの中の彼らに憧れたよ‥さて、足止めしてごめん、とりあえず────────」

 憧れ……力‥可能性……

 “一度決めたらやり通しなさい”……そうだ、母さんの言いつけ‥やってみるか? ────────

 その時、背後から大きな物音が聞こえた、後ろを見ると、空音の乗った機体とその海竜が交戦し‥そこにまた、あの銀の翼を持った怪物が現れたみたいだ。

「────-どうした?」「碇先輩、ありがとうございました‥私、やること思い出したんで!」

 そう言い残して私は走り出した。背後で彼がニヤリと笑ったことには気がつかずに。

 

 少しして‥チームkeyの基地内オペレーションルーム。

「ちょっと離してくださいって‥」

「どうした? ‥なんだ、お前か」「司令、お知り合いでしたか?」

 入って早々に侵入者扱いを受け、司令室へと連行され、鶴の一声の様に彼の声で私は解放された。

「何しに来た?」「‥決めたんです、私、戦います!」

「なら質問だ‥お前は何故戦う?」

 そんなの即答できる。

「私は母さんに選ばれた‥私はあの機体で空を駆って、みんなを守れって事だと思うから‥だから私がやらなきゃいけない、私がみんなの為に──-」「帰れ!」

 海堂は私にそう言った‥スカウトしといてそのリアクションって一体‥

「なんでですか? ‥昨日あんなこと言っといて‥」「確かに、質問が悪かったな‥ではこうしよう。

 お前は見ず知らずの他他人であっても、その命を救うために自分が死んでも悔いはないか?」私は目を見開き‥唾を飲んだ、でも答えは一つだ。

「悔やみません‥むしろ私が生贄になります」「ならもう一つ聞こう……お前はここで何がしたい?」「私は‥自分の身を捨ててでも、身近なみんなや‥罪のない人を守りたいんです! 母さんに選ばれたからとか関係なしに‥だから‥だから──-」

 最後の一言を言う前に彼は私の頭に手をポンっと置いて「合格だ」と告げた。

「えっ‥」「俺は純粋に人を守り、そしてそこに利害を求めない人材以外は部下にしたくないからな、”英雄になりたい“だなんてのは言語両断お断りだ」

 やっば‥言わなくてよかったぁ‥

「ようこそ、チームkey へ‥ぶっつけ本番で行けるか?」

「もちろんです♪」

 そのまま格納庫へ行こうとすると、司令席後方の誰かが私に話しかけて何かを投げ込んだ。

「ちょっと待った、これ着てって!」「わわっ! ……なにこれ、服?」

 キャッチしたその塊を広げると、ちょっとダサいタイツ状の服だった。

「ハイパークッションスーツだよ、あの中での揺れや衝撃を80%以上カットする優れもの、生身じゃ危ないですし」

 前回まで生身で乗ってたから意外といけるものかと思ってた……

「一応シューターに入ったら勝手に装着できるけど、今回は初めてだからね……」

「──-なんかよくわかんないですけど、わかりました! ところであなたは?」

「おっと、ごめんね。君たちフライトチームのオペレーターを務めさせていただきます、鈴原颯(すずはらはやて)って言います」

 彼女は挨拶を済ますとビシッと敬礼した。

「よろしくお願いしますm(──)m」

 私はそのまま部屋を出て、さっき言われたシューターのある場所に着くと、そこで、天使のような姿の少年が待っていた。

「来てくれるって‥信じてたよ」「‥えーっと、どちら様?」

「‥僕だよ、僕────こうならわかる?」

 彼はヘアバンドでかき上げた髪を下ろす‥すると見覚えのある顔に見覚えのない服装の彼になった。

「‥ライト! 髪どうしたの?」「別に、前髪邪魔だっただけ‥あっそうだ、キョウカ、これ使い方わかる?」

「初めて見たけど‥」「一応上のスイッチで番号選んで、あとは滑って降りるだけ‥今回は2番に入ってるから」

 言われるがままにスイッチをパチパチと弾き、02番に設定した。

「あとは降りるだけ、こんな感じで!」「ちょっと待ってって!」

 ライトが勢いよく飛び込んでいくので、私も隣へ飛び込んだ‥すると私の身体には、勝手にさっきのクッションスーツが装着されていた。

「おおー‥」「で、あとは今まで通り」

「ok♪ ‥セーフティリリース、「ユニゾン、ゴー!」」

 鍵を刺して回し機体を起動させると警告画面が現れた。

「ん? …… Unknown unit is (コネクトレールに)connected to connect rail(不明な装置が接続されてます)?」

『それは君へのプレゼント……ピンチになったら使って』

 インカムからさっきのあの人の声がした。

「こんなの載せて飛べるんですか?」『そこは問題なし、安心して使って──-じゃ、早速お願いしまーす』

 彼女の声と呼応して転車台によって機体の向きが変わり、底面のレールと2本のレールが噛み合い、磁力を帯びる、私は深呼吸して、それから喉の調子を整えて‥息を大きく吸った。

MB(メロディックバーズ)ー01「ライジング=エンジェル」天音響花‥出ます!」

 音速を超えた速度で空へ投げ出され、すぐさま羽を開き、大きく宙返り旋回して戦場へ、さっきの少しダサい服のおかげか、慣れなのか、今回は酔わずに済んだ。

「パイロットスーツ、なかなか似合ってるじゃん」「そりゃどうも」

 こんな雑談を交わしてもなお、出力は安定している‥他の人だとどうなるのか知らないけど。

「目標‥補足! 、あれ?」

 海上二体のうち、宙を舞う一体を狙い撃つが‥昨日この前の様には行かない。

「ごめん、僕の出力不足だ……」『──────(キョウ‥ちゃ‥)────(じゃない、きっと違うんだ‥)今更何しに来たの?』

「手を貸しにきたんです、空音さん」『ky‥じゃなくて天音、いいわ‥そっちは任せる──-』

「いや、共同でいきましょう! 昼間みたいに♪」『バカなの? あなた‥』「バカでも結構ですよ〜」

 彼女、空音澪とそんな言葉を交わしたあと、司令室から情報が入った。

 どうやら銀の怪物は前回とコアの位置が違うようだ。

「この位置で照準固定してっと……まただ!」「‥ごめん、僕が‥」『もう、素人は見てなさい!』

 ‥この前のはまぐれだったのかな……そんなはず、ないよね。

「折角来といて黙って見てられるかぁぁぁ!」『邪魔しないで!』

 彼女の機体を追い抜き、やけ撃ちする、当たってるのに‥痒くもないみたい。

 なんで‥なんで効かないんだ‥なんで、どうして────-あの時との違いはなんだ‥あの時との────────

『01出力レベルが50%を下回ってます‥』『見込み外れだったか? ‥何が足りないって言うんだ──-』

 そんな無線が聞こえて来る‥足りないもの‥足りない……

 “ メンタルバランスを整えて最大のコンディションと出力になった状態‥それが最活性化状態(フルテンショニング)だ”“ カナやキョウカの歌を聞くと何故か安定するんだ”

 そんなことが頭を過った。

 まさか、ね。

「今年もまた渡る‥鳥たちの歌〜────────」

 私は目を瞑り、あの歌を口ずさむ‥すると、怪物たちが悲鳴を上げた‥効いたみたいだ。

「やっぱり!」「どう言うこと?」

「私が歌うとより安定するとかじゃないんだ‥私が歌うことで、3拍子揃うんだ!」

『────-確かにあの数秒だけ、出力レベルが許容量の70%以上に達成してました』『……鍵、楽器に当たる二人の乗り手‥そしてそれに対応した歌と……なるほどな‥やってみろ!』

「Roger、真也さん」『任務中だ、海堂司令と呼べ』

 私はそのままカーステレオについてるような再生機器を操作し、MDを再生し、深呼吸して、身体の奥底からその声を吐き出した。

「────-遍く空♪ 響く声 その声は聞こえてますか? ‥遥かなる──-」「すごい‥久々だぁ────-この満ちて来る感じ!」

 私が歌い出すと機体は桜色の光を放って速度、威力、反応速度が上がっていきあの時の出力に達していく。『ホントに、歌ってる──────(やっぱり‥ホントにキョウちゃん‥なの?)

「世間も知らない♪ まだまだ未熟な〜♪ ────────」

 ここでその体表の金属を剥がしきり、コアが露出した。

「──-伸ばしてこうよ〜っよし、今だっ!」『ああ、ドライブウェポン、発動承認!」

 私は歌うのをやめてコントロールパネルから、さっきのユニットを選択する

「えーっと名前は‥はいはいOK……「ドライブウェポン、アクセルカノン‥」

 そのユニットの半分が回転し、長い光線銃を形成した。

「フィニーッシュ──-「イグニッション!」」

 引き金を弾き、太い光線を放ち、銀の怪物を跡形もなく蒸発‥いや文字通り爆散させた‥ように見えたが……

「よしっ‥ビクトリー!」『じゃないわよ! ‥』

 コアの一部と残った金属で形成された小さなその怪物の悪あがきに、私は気がつけなかった。

『エクステンドエッジ、フィニッシュイグニッション!』

 私と衝突するかしないかのギリギリで、空音がその残りを突き刺して息の根を止めた。

「────────」『甘いわね、……まああとはあっちの海竜だけよ』────-

 ・

 ・

 ・

 十数体の人型を処理し切ってもう一度髪を結ぶと空中では、大きな爆発音がした‥あいつらがこの人型の後に出した鋼の飛竜が爆散した音だった。

「あれが落とされちゃもうお手上げね、今日は引きましょ」「まった! ‥あぁ」

 結局取り逃がした、ホンッとついてない……って言ってる場合じゃないや。

 あの海竜を落ち着かせなきゃ‥と、空を見ると‥マズいあの2機が狙ってる。

Oh my got. It's time out(悔しいですが‥時間切れですね)」「いや、シャイニー‥多分まだ間に合う」

do you have plan? (どうする気です?)」「“エール”の力を借りる‥いいよね?」シャイニーは乗り気じゃないみたいだけど、反対を押し切って私は小さな宝石を天に掲げた。

「鏡を破りし長き刃……我が波となりて海をかけ、水晶よりその姿表せ……その名を持って命ず、来よ、我が竜シェルクエール……盾龍招来!」

 その水晶を海へ投げ、自分の魔力で作られた体に閉じ込められた魂を移して、巨大な海竜が姿を表した。

「おいでっ♪ シェルクエール……っちょっと‥くすぐったいてば」

 私をみるや近づいてスキンシップを始めたこの竜は、私の召喚獣の一体、シェルクエール、通称はエール。ったく‥初めて会った時の威厳はどこへやら‥

「久しぶり、早速だけど、お仕事いいかな?」

 彼はすぐに私に背を向ける、そこにしがみつくくとすぐに沖の‥かなり遠い方に行ってしまったもう一体の海竜の方へ泳ぎ出した。

『ー海中より熱源反応‥もう一体何かいます!』『嘘っ!』

 出せるだけの最速を出して浮上した彼の背中で助走をつけて飛んだ私をエールは尾鰭をラケットのように使い私をあの発光物がある額へと飛ばし、刀をその発行物に向けながら私を詠唱する────

火炎ヲ(ファントム)纏フ幻影(ブレイズ)ノ翼よ(フリューゲル)……悲しき怪物をあるべき姿へ。

 コール、クルリア、クラシカル……戻す力をこの手に宿せ……」

 着地して、その発行物へと刀を突き刺した。

遺伝子結晶(マギア・クリスタル)記録種(カインド)海ノ怪物(リヴァイアサン)……封! 印ッ!」

 全て唱え終わると、その海竜は全身が結晶の様になり、ひび割れて消えた。

『アイツは……、優、ユキ‥すまないがそっちが済んだら向かって欲しい場所がある……』

 あちらの司令室でそんな会話がされる中、私は砕けた海竜の欠片に紛れた本体を左手で掴んで海に落ちると、エールが私を見つけて水面に引っ張り出した。

「……おつかれさま‥とりあえず目立つとあれだし、ここから離れよっか‥ってもう!♪」

 彼を撫でながらそう言うとエールは鼻先で私の体をひょいっと宙に投げて自分の背中に乗せて近くの港へ向かった。

『……海堂司令‥』『お前らはよくやった。帰投しろ』『『『『了解』』』』』

 ふと後ろを振り返ると、あの機体たちも帰っていったのが見えたので、静かに敬礼してっと。

 それから十分ほどで陸に上がれそうな場所に着いた。

 背中から低い堤防に登ると、私はふらっと体制を崩して倒れそうになって、エールが受け止めた。

「君のせいじゃないよ‥心配症だなぁ‥」

 彼は不安げな目で私を見つめてる‥確かに召喚は沢山の魔力や体力を使うけど‥

「‥じゃあ、またね」召喚魔法を解除すると、彼は笑って小さな宝石の姿になった。

 それから、コンクリートの堤防に寝っ転がって、月の光にエールの石をかざしてみるけど‥しばらくは動けそうにないや‥手を下ろし、大の字になると、聞き覚えのある声と、バイクのエンジン音が聞こえて‥つい目に涙を浮かべてしまった。

「‥ホントにいた‥久しぶりだな、咲」「こっち来てたんなら連絡してよ〜♪ サキちゃん」いつぶりだろうか‥ちゃんと名前で‥咲って呼ばれたのは……

「優さん‥ユキさんっ! ‥」私は溢れる思いのままに二人の胸に飛びこんだ。

「どうした、どうした‥」「だって‥だって、あの黒い船を追ってきたら地球に来ちゃうし、アークが壊れちゃって連絡もできないし‥知り合いにも会えなくて‥心細かったんだもん」

 優さんに泣きつく私をユキさんが私の頭を撫でながら優しく語る‥

「それは大変だったね‥よくがんばりました」

「とりあえず、俺たちの基地に案内する‥そっからなら連絡取れるだろ」

「基地って‥設立できたんですか、チームkey!」「ああ‥あっ」

「どうしたの? 優くん……」「しまった‥バイク一台じゃ3人は無理か」

 いつも通り仲良く二人乗りしてた弊害か‥でもなんかそれも優さんたちらしいや。

 疲れはどこかへ吹き飛び、私の顔から勝手に笑みが溢れた。

 

 To be continue……




次回予告
こうして始まった私の二重生活‥?いや待て、なんでライトと一つ屋根の下で?
そして、あの船とやってきた組織の正体を赤いリボンの少女が明かす。
次回、第11話「姉弟みたいだね」
次回もセーフティリリース、ユニゾン‥ゴー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#11 姉弟みたいだね

さてさて、前回のおさらいターイム!
「海で暴れる海竜により、津波が起きかけて、澪とミラが出撃するけど、あの組織たちのせいで苦戦する、そこに決意を固めたキョウカが後から合流してなんとか事態は収束‥」
そしてあの赤いリボンの女の子が優さんたちと合流したよ。
「さてさて‥ここからどうなるかな?」
早速観てみよっか。


 4月28日、午後7:00ごろ。

『あら、優さん? 突然どうしたんですか?』「申し訳ないんですけど‥ちょっと話していただきたい方がいまして、変わりますね」

「────-もしもし? 、声‥わかりますか? 私です、咲です」『サキちゃん!? ‥なんで連絡してくれなかったの?』「それが‥捜査中にアイツらを追ってたら地球に来ちゃって‥でも着いたと同時にアークがダメになっちゃってさ‥だから今まで連絡できなかったんです‥」『よかったぁ‥居場所がわかって。とりあえず状況は分かったから、本局に伝言しとくね。他に何かあれば一緒に報告しといてあげる』

「後で始末書レベルの話なんですけど、盗難された遺伝子結晶(マギア・クリスタル)の一部が散らばっちゃいました、なのでそのことも報告しておいてください」『りょ〜か〜い。じゃ、あっちからの指示があり次第折り返すよ、優さんたちが一緒なら野宿して変な生活してないか心配しばくていいね。じゃあ、指示があるまで現地行動でお願いします』「了解です」『それじゃまた〜』

「ふぅ‥」

 はっと息を吐き安心した。

 ようやく地球(こっち)に住んでる知り合いと連絡が取れた。し、別の知り合いとも鉢合わせれた。

 ひとまず安心だ……バイクを押している優さんに携帯を返して、後に着いていく、とりあえず今日の宿は見つかった。

 ・

 ・

 ・

 同刻、チームkeyの基地内部

「────-これで全部だ」

 机の上に並べられた支給品一式はそこまで多くは無い‥かと言ってこれを隠し持つ事になるのか。

「法的に特別許可なしには携帯できない物まであるんですね」

 私は拳銃程度の大きさの銃火器を手に取る、護身用ではあるんだけど、確実にハッタリの重さではない、本物って結構重量あるんだなぁ。

「一応3段階トリガーロックがかけてある、鞄に入れても誤発しない」「だとしても後ろめたいような‥なんというか‥」

 銃を見つめてからホルスターに収めて鞄にしまい、腕時計型のデバイスと手帳をポケットにしまった。

 改めて物騒な品々を貸し出されると、思わず肩に力が入ってしまう。

「‥戸惑うのも無理ないか、そのうち慣れる」

「所で質問なんですけが、私未成年ですけど、保護者許可は?」「お前の親父さんが二つ返事で返した、たまには顔出してやれ」「余計なお世話です」

 実家なんか帰るもんか、あんなとこなんかに‥

 私は広げた品々を自分の鞄の空いてる場所に収まるだけ納めた。

「じゃあそろそろ解散にしますか、事後処理もたくさんありますし‥」

 鈴原さんが、今日はおしまいっって雰囲気を出し始めると、扉が開き、YURIさんとYUKIさんが入ってき‥もう一人? 

「ただいま戻りました」「へぇ‥ここがペガシスフォートレスですかぁ♪」

 彼女の頭には印象深いあの赤いリボンがあり‥見覚えしかない人物だった。

「────-君、今朝の?」「この前助けていただいた‥」

「──-覚えててくれてたんですね。こんな形で再開出来るとは」

「キョウカ、知ってるの?」‥「ミラージュ=エルフ、どう言うこと?」

「各々方に説明して頂くより私が名乗った方が早そうですね、初めまして、私は時空管理局異質物回収班の深海咲(ふかみさき)と言います」

 そう言いながら見たことのない文字で書かれた警察手帳のようなものを掲示しながら彼女は自己紹介した。

「今回は、あの組織‥エヴォルスコアを追っていたところ、地球にきてしまいまして‥」「やっぱりお前の世界の奴らか?」「いえ、厳密には違いますが‥あっお久しぶりです、真也さん」

「ああ、こうして再開する事になるとは。とりあえずつづきを聞かせてくれ」

「はい、彼らは昔は有名な風の都だったウィードルダから来た魔導師達なのですが、紛争が絶えない地域の出自で、ある目的のために手段を問わない奴らです」

「となると侵略目的ではないのか」

「ええ、彼らは地球のある神話に目を付けたらしくて‥真也さん、均衡の天秤神話って知ってますか?」

「天音奏叶のいた頃に研究されてたアレか‥」「ええ、その内容に書かれた神器を手にするのが目的っぽいですけど‥」「わかった、こっちでも洗ってみる、情報提供ご苦労‥で、帰る目処はあるのか?」「それがまだなくって‥しかも、彼らの盗んだ異質物の一部はこっちの世界に散らばってしまってて‥現地組織に回収を頼んで封印方法を教授するまでは現地待機って命令が出ちゃってるんです‥なので、真也さん‥手を貸してくれますか?」

「あっあのー……話に付いてけないんですけど、第一この子‥何者なんですか? 、見かけ中学生くらいに見えるんですけど」

 恥を忍んで聞いてみたら、彼女は腕組みしながら近づいてきた。

「人を見かけで判断するとは失礼な! 君、名前は? 歳は?」

「私!? ‥私は、天音響花、歳は16、高校2年生」「ふーん、歳下か」

「じゃあそう言うあなたは‥」「今年で18、背はちっちゃいけど私のが年上だよ」

 私を見上げる様に上目遣いで迫ってくるが威圧感がない、むしろちょっと可愛げがあった。

「まあ、わかりやすく言い換えると、私は君たちの言う異世界人って奴だよ、そんでもって魔法使いさ。で、私はその異世界から悪い人達と一緒にこっちに迷い込んじゃったって感じ。

 それからさっき言った遺伝子水晶(マギアクリスタル)はある世界で古代に作られた異質物で……こっちではオーパーツって言うんでしたっけ? 

 でまぁ、これの用途は遺伝子を保存するための記憶媒体なんだけど、時々絶滅済みの生物や遺伝子同士を掛け合わせて作られた空想生物に近いものまであって……で厄介なのが、魔力を持った人、つまりこっちの世界では魔法使いの素質がある人が触れると、その人の魔力を食べて単独で生命体化しちゃう事があるんだ、必ずじゃないけど。

 だから私みたいな人が回収する必要があるの、でも手が足りないから、この組織の手を貸してもらいに来たって感じ‥こう言えばわかるかな?」

「情報量多すぎ……」「にゃはは、まあ全部覚えてなくていいよ」

 彼女は私をからかうだけからかって真也さんの方に向き直ると、「強要はしませんが、ご協力願えますか?」と尋ねた。

「ああ、お前は嘘が苦手だからな‥信じよう、臨時隊員としての受け入れを許可する」

 彼女はキレイな敬礼をして了解の意を表すと、澪が反論した。

「待ってください、海堂司令!」

「不満か? 澪」「ええ、正直胡散臭いのですが、見かけはどうみても中学生ほどですし、服装も制服ではないですし、異世界人だとか言う割には名前は日本人じみてますし‥って言うか偽名ですか? それ。

 第一司令のお知り合いだとしても、あっさり了承しすぎな気がするのですが」

「一応本名なんだけどなぁ……」「まあそう思うのも無理はないか、だが、現場での彼女を見れば後悔するぞ、腕は本物だ」

 空音は不服そうに立ち下がった。

「とりあえず今日は解散だ夜勤の隊員以外はしっかり療養を取れ」

「「「「「「了解」」」」」」

「‥了解、帰りましょ、ミラージュ=エルフ」

 去っていく空音の背中からは少しの苛立ちと、哀愁が伺えた……するとミラージュ=エルフ、もといミラが「澪はこう言う子なの、ずっと怒ってるわけじゃないのよ」と私に言って後を追いかけた。

「じゃあ、咲‥うち泊まってくか?」「いいんですか?」「一応子供達も楽しみにしてるってさ……」「じゃあ、お言葉に甘えて‥」

 YURIさん達も部屋を後にすると、ライトが、私の袖を引っ張って私の注意を惹いた。

「ねぇ、キョウカ‥お願いがあるんだけど」「なに? ライト」

「水原家に着いていっていいかな?」

「……あおに聞いてみるよ‥」

 メールアプリを開いて「晩御飯一人分追加になってもいい? 、なんか行きたいって子が居るんだけど?」と送ると、既読が付いてから二つ返事で「OK♪ 買い出し中だから全然いいよ〜♪ つれておいで」と二つ返事で返ってきた‥流石愛緒。

「いいってさ‥じゃあ、上着着て」「はぁい」

 素直な時は可愛いんだよなぁ、ライトって。

「因みになんでいきなりそんなこと言い出したの?」とロッカールームで尋ねると、「ミラが言ってたんだ、“背中を預ける相手同士、同じ屋根の下で暮らし、同じ釜の飯を食べて信頼を気づくべきだってね」「へぇ‥」

 上着をバサッと羽織ってチャックを閉じようとしてるけど、なぜか長さが足らない‥理由は簡単だった。

「‥伸ばしてたら意味ないよね?」「だってくすぐったいし」

 上着の中で羽を伸ばしてリュックと言い張るには無理があるほど背中がボコッと膨らんでいる。

「‥」「我慢しなよ、ライト」

 

 ・

 ・

 ・

 語り部咲に移りまして、燈ヶ浜商業区マーレジデンス609号室

「結構おっきいとこに引こっしたんですね」

「‥基地から通いやすい場所で探したらここぐらいしかなかったしな」「って言って優くん、東京にいた頃からさ、やっぱあの家は二人でも狭いなぁ‥って言ってたくせに」「気にするな」

 優さんとユキさんの仲も相変わらずで安心した‥まあ流石に自家用車買ってたのはびっくりしたけど‥いや不自然なことではないや。

 さて、優さんの鍵でエントランスを潜らせてもらい、エレベーターで6階へ、高すぎず低すぎず、ちょうど真ん中の階で、エレベーターから玄関は一番遠い端っこの部屋だ。

「たっだいま〜♪」とユキさんが子供っぽい仕草で玄関を開けると、奥から何かが走って来る音がする。

「「おかえり〜♪」」

 出迎えてくれたのは優さん達の双子のお子さんだ、相変わらず元気が有り余ってる。

「お邪魔しま〜す」「あっサキお姉ちゃん♪」「いらしゃ〜い」

「──-久しぶり、また大きくなったね〜♪ 、今いくつ?」「6つ♪」「今年から小学生です♪」

 おっと、紹介し忘れてた、この双子ちゃん達の私の目の前で沢山喋ってくれてる方が、お姉ちゃんの向葵(アオイ)そしてちょっと後ろから顔を出してるはずがしがり屋さんは弟の日向(ヒュウガ)

 二人の名前に同じ「(むかう)」と言う時が字が使われているのは優さんのこだわりと「真っ直ぐな子であれ」と言う願いが籠っている。

 まあ優さんとユキさんも偶然ながら二人とも「(ユウ)」の字が入ってるしね。

 さて、話を戻そう。

「もうそんなになるの? ‥お勉強楽しい?」「うんっ♪」「……」

 どうやらヒュウガはお勉強苦手か、後でみてあげよう。

 そして玄関からリビングに入ると、役12畳ほどの空間+カウンターキッチンになっておりすごく広々としている。

 流石は料理好きのユキさん、キッチンへのこだわりは譲らないか‥流石にお子さんがいる都合で向きはかわってますが……っとこれは。

「──-あ‥つ……」「あ〜、二人に頼んどいたの。好きでしょ? 狐揚げ」

 大好物を前に、つい唾液が口の中を満たす‥こう言うことしてくれるんだからこの人は。

「ヒュウガたちが作ってくれたの?」「うん」「つまみ食い用もあるよ?」

「じゃあ‥いただこうかな」

 踏み台に乗ったアオイがあーんして食べさせてくれた。

 ユキさんのメモどうり測って作ったのかな? 、甘い漬けだれがよく染み込んで、歯応えも程よく柔らかく、パサパサしていない‥さらにちゃんと優さん好みに控えめな味付けだ。

 余談だけど、優さんは薄味好きと今言ったけど、厳密には甘みを感じやすい舌なだけなんだよね、ユキさん曰く。なんで知ってるんだろうね? 

「はにゃぁぁ‥おいし〜」自然と私は顔がとろけてしまいそうになっている‥すると、ヒュウガが「お風呂も沸いてるから‥」と耳打ちした。

「一番風呂どうぞ、お風呂も好きでしょ?」

「ユキさん〜用意周到すぎません?」「だって、サキちゃんうちにあげるならこの二つは大事でしょ?」「も〜大好きっ、ユキさ〜ん」

「褒めたってなにも出ないよ〜ほらっお風呂入ってる間にご飯作っちゃうから」

 こうして獅童家のおもてなしを素直に受けて体を休めることにした。

「あちゃ〜、思ったより髪キシキシになっちゃってる」

 髪を洗い、身体を洗い‥使い慣れたシャンプーじゃないけどではないけど、ないよりマシだ。

 それから湯船に浸かると、自然と力が抜け、疲れが溶け出し、三日ぶりのお風呂が身体に染み渡る‥湯船以上の癒し空間があるだろうか‥と、いつも思ってしまう。

 結局長湯してしまった、髪を乾かしながら畳まれたパジャマを見ると、ユキさんの書き置きと一緒に一枚余分にパジャマが用意されていた。

 書き置きに従って、一番上のパジャマに袖を通すけど、ユキさん身長170近いから私じゃブカブカだ。

 ‥いやこれパジャマって言うよりバスローブって言うべきか? 。

 ・

 ・

 ・

 語り部響花に戻って、燈ヶ浜、水原家

「あお〜?」「おっ、おかえり〜、ってこの子かぁ‥連れてきたの」

 玄関の引き戸を開けると、愛緒がいつもと同じように出迎えてくれて、今日は奥から結海さんも出てきたけど──

「あら、お客さんは‥「ッ!」」

 ──ライトと目を合わせると、お互いに目を見開いて驚いたあと、「少しお話しましょうか」と結海さんはライトを縁側へつれていった。

「お母さんなにか勘違いしたのかな?」「さ、さぁ?」

 確かにライトは母さんの関係者だ……って事は結海さんと接点があっても違和感は無いけど。 

 だとしたって、あの反応は変じゃないかな? 

 

 

「────-なるほど、って事はあの二人はヒデの子たちだったんだ」

「ええ、それとライ‥奏叶は?」「カナの行方は僕も知らなくて‥」

「一緒にどこかに居るのかと思ってたけど」

「それが、“来るべき時のために”って僕をあの場所に残して行っちゃって‥」

「奏叶らしいわね、あの子の感は変に当たるし‥」「勝手に色々やっちゃって‥でもいい結果にちゃんと結びつく」

 結海さんとライトは同時に少し笑い、話を続けた。

「とりあえず、ここは安全ですし‥キョウカがこっちに居ることに対する疑問も晴れました」「本人には内緒でね‥あと」「はい?」

「ライは、泊まるところ、あるんですか?」「ない、ですけど」

「じゃあ、あなたも居候する?」「‥いいんです? ヒデの許可なしで」

「いいわよ、じゃなきゃキョウカをウチに置いといて貴方がダメな理由はないでしょう」「言われてみれば確かに」

 結海さんとライトが戻ってくるとご飯の支度は終わっていた。

「結海さん、ライトとなに話してたんですか?」「‥」「あ〜この前ウチのお店来てくれたわよね〜ってお話」

 結海さんもライトも言い訳を考えてから言ったかのような間があってから答える、だけど愛緒も航太もあえて突っ込まない、私もそれ以上は口を慎んで、もう一個の話を切り出した。

「それで結海さん‥ライトをしばらくここに泊めてあげてもいいですか?」「ええ、屋根裏は片付ければ場所あるでしょ」「屋根裏?」「ええ、この子とキョウカ二人で使いなさい」

 こんな感じですんなり許可が降りて‥夕飯の間は愛緒からライトへの質問の嵐で‥とりあえず屋根裏の片付けはお風呂を済ませてからに決めた‥

 そして、やっぱりライトと結海さんは面識があるのか、お風呂の順番を私→ライト→それから結海さんと言う順で組み‥上手くライトの背中の事がバレないように組んでくれた。

「ふぅ……一仕事するとお風呂っていつもより気持ちいいや」

 湯船に肩まで浸かりながら、色々考えるけど‥気がついたら考えるのを忘れてまた歌ってた、今日はこっちの歌を。

「──-遍く空〜響く声〜この声は聞こえてますか♪ ──-」

 この声は居間まで届いていて、ライトも愛緒も聞きっていた。

「君も、キョウカの歌‥好き?」「うん、大好き」「私も」

「……いつもこんな感じ?」「だいたいはね、だけど今日は結構ご機嫌だね」

「愛緒も歌声でわかるんだ」「‥だって、聞こえないと寂しいくらいたくさん聞いてるもん」……

 それから10分弱した頃だろうか? お風呂から上がって、ライトを呼び、私は先に片付けに行った。

 いざ登ってみると、想像よりは物が少なく、知らぬ間にここにあった品々は違う場所に移されてたようだ‥だけど、まあ側から観ればほぼ倉庫である。

 とりあえず布団を敷けるスペースはすでにあ‥ライトの分のスペースを確保しなきゃなのか。

 2×Yshの新しいシングルを再生しながら物を色々動かして、立体パズルの様に組み込んで壁へ押し込み、以前使われていた家具の幾つかをテキトーに配置した。

 因みに押し込んだ箱の中身は私や愛緒のサイズの合わなくなった服などが中心だ‥ランドセルまで残ってたし。

 さてさて、そこそこ部屋っぽくなったところでライトが入ってきた。

「おっ‥意外と広いんだね」「確かにここ屋根裏だけど普通に立てるもんね」

 6年住んでるせいで普通だと思ってたけど、屋根裏部屋にしては確かに上が高い、3階として成立はし‥いやギリギリしない高さだ、2mちょっとしかないもん‥日出海さん曰く先代が子沢山だった影響だと言ってるけど‥ホントかは知らない‥そして、ライトがお風呂に入ってる間にその屋根裏は寝室と言うよりかは、ちょっとしたくつろぎ空間になった。

 因みにおかしな事に屋根裏にコンセントあるからね‥テレビとかも持ち込めるんだよね‥な事ないやアンテナ線ないし。

「中々秘密基地的な感じだね‥」「ライトがいた格納庫の方がもっとぽいけどね」

「でも子供の秘密基地ってこう言う感じなんだよね‥さてと」

 ライトは階段をしまうと上を脱いで羽根を自由にした。

「やっと楽にできる〜♪」「やっぱりここで暮らすのってストレス溜まんない?」

「溜まるけど‥やっぱりキョウカと一緒に居たいって思っちゃったから」

「ふーん、で気になってたんだけど、結海さんとは元から知り合いだったの?」「一応ね」

「やっぱりか」

 この時、結海さんはライトの羽根の処理をしてくれたんだけど‥脱衣所に落ちていた一枚は放置されていて‥たまたまそれを愛緒が拾ってたんだけど‥その事に気がつくのはもう少し後のおはなし……。

「それとさ‥お風呂入ってたけど、錆びたりしないの?」

 忘れそうになるけどライトの体表は金属である‥やはり気にはなってしまう。

「一応長時間だと錆びちゃうけど‥ステンレスくらいは錆びにくいらしいし‥それに錆びても人間の怪我みたいに、代謝によって自然治癒されるから‥速度は遅いけどね」

「そうなんだ、なら気にしなくていいんだ‥」「キョウカ〜♪」

「やばっ!」

 ノックのしようないけどノックのなしに愛緒が登ってくる‥ライトは急いで上を着て、そこを全力で隠そうとしたせいで‥

「なにしてるの?」「あっ‥なんだろね? ‥」

 笑って誤魔化すも無理あるよなぁ‥コレだと。

「まあ二人でお楽しみ中だったらごめんだけど」「あっ安心して、それはないから‥」「そうですか」

 なーんでがっかりしてるのさ‥別にそう言う関係じゃないんだって。

「にしても、私の部屋よりいい感じじゃん」「アンテナ線とかないから負けてるし、クローゼットないし‥あおのがいい部屋だって」

「そーかなぁ……とりあえず、邪魔しちゃ悪そうだし、私出てくね。

 おやすみ、キョウカ」

「うん‥おやすみ‥「はぁ……」」

 愛緒が出てったあと、二人揃って肩の力が抜けて布団の上にぺたんっと座った。

「とりあえず、布団入ろうか」「だね」

 ライトはまた上着を脱いで羽根を楽にするけど、気になることは当然ある。

「上脱いで寝るとさ‥お腹冷えちゃうよ」「‥でも羽がさ‥」

 私はさっき押し込んだ箱を引っ張り出して中身を漁った。

「体型的に着れると思うけど、私のお下がりあげよっか?」

 背中の空いたトップスを探し出して差し出した。

「‥キョウカは‥いやじゃないの?」「いいよ別に‥多分もう着れないし、洗えば良いだけだし、‥流石にもうこれ着るの恥ずかしいし」

「じゃあ、ちょっと着てみるよ‥」

 そうして出来上がった外観を見ると……やばっ‥これは‥って私ショタコンと勘違いされそうな発言だけど、‥このルックスは‥

「────-かわいい〜♪」「キョ、キョウカ!?」

 無意識にライトに飛び付いて頬ずりまでしていた‥これは良い化学反応‥って理性! さっさと戻ってこーい! 

「‥ごめん‥ライト」「大丈夫、気にしなくても‥カナにはこう言う事たくさんされたから‥慣れてるし‥」って言う割にはテレてません? 顔赤いですよ? 

「でも‥たまには‥ありかも‥」

 や‥開けちゃまずい戸を半開きにした説浮上‥でも、かわいいからいっか。

 さて二人並んで、布団に入って電気を消す‥窓から入る月明かりが、私を懐かしい気分にさせる。

「‥一気に、静かになった感じがするね」「‥かなぁ? ‥私はそうでもないけど」

「────────なんか逆に夜更かししたくならない?」「それわかる! こっそりお話ししたりさ、手遊びしたり♪」「で、気がついたら朝だったり、見つかっちゃったり‥憧れてたんだ‥こう言う暮らしが」「‥言われてみれば、私もここに来る前は憧れてたかも‥」「そうなの?」「うん、父さんはずっとお仕事してるし、母さんが帰ってくる頃ってもうおねむだったりさ‥失踪してからはとなりに居るのはお兄ちゃんだけになったけど、お兄ちゃんもお兄ちゃんでだんだん私の相手してくれる時間が割きにくくなって来ちゃって‥寂しくて‥退屈で‥」「キョウカ」

「今は、水原家でお厄介になってるおかげで寂しくないけど」「そう言えばなんでカナのお婿さんのとこには行かないの?」

「それは……単純にさ、こっち来た理由が原因なんだ‥うちの家庭事情知ってるなら察しが付くと思うけど」

「‥やっぱり、想像してたとうりの理由なんだ」

 深くは語りたくない‥今は、とりあえず‥

「じゃあ、キョウカとって愛緒ってどんな人?」「どーだろなぁ‥感謝してもしきれない人かなぁ。やっぱり」

「そうなんだ‥」「”家族“じゃない人が6年居座っても、嫌がらず、ずっと一緒に居てくれたし‥そういえば、あおとは一回も喧嘩した事ないや」

「仲良しなんだね」「うん、すっごく‥出会った頃はそうでもないけど、今は親友だよって胸を張って言える‥気がする。

 あおには内緒ね、恥ずかしいから」

「わかったよ」「────-なんかさ、こうやって布団並べて喋ってるとさ‥姉弟みたいだね」「そうかな? やっぱり下の兄弟って欲しかったの?」

「な訳ないじゃん‥だってさ‥下の子って漫画とかじゃ甘えん坊の懐き屋さんだけど実際航太みたいな生意気なのだもん‥」

「それは家によるって‥でも、キョウカと姉弟か……楽しそうだね」

「楽しそうって‥私結構うるさいしワガママだし‥苦労するよ、多分」「‥そこがいいんだよ、実際この数時間は、すっごく楽しかったもん‥だからやっぱり、なってもいいよ? おねーちゃん♪」「やめれ……「フフッ」」

 二人で顔を合わせて吹き出した。

「あー笑った笑った……」「明日からもお話しようよ」

「賛成。……ねぇ、ライト」

 お互いに仰向けになってからボソッと呟いた。

「ありがとね。‥私一人じゃ寝れなくてさ‥そう言う精神病らしいんだけど……だからさ、嫌じゃなかったら、毎日隣に居てくれると‥うれしい、にゃァ……」「.キョウカ? ‥」

 言うだけ言ったら私は珍しくすんなり眠りに落ちた‥じゃないとどうなるかと言いそびれたまま。

「────-疲れたよね‥おやすみ」ライトは私の寝顔を見つめて、優しく身体を摩って、頭を撫でた。

 この日見た夢の内容は何故か覚えていた、明晰夢ではあったけど。

 母さんと、お兄ちゃんと、私と、ライトと……みんなで一つ屋根の下で暮らす夢‥そして、愛緒やベルとは別のみっちゃんと言う幼馴染が居て、みんなで遊んで‥夕暮れ時に芝生で寝ちゃって‥そこからふわっと現実に戻ってきた。違う天井、少し重たい梅雨入りの空気と……既に身支度を終えてあぐらをかいて待っている相棒と‥何故かいる愛緒‥うん、あお‥あお? ‥愛緒!? 

「おはよう、キョウカ」「ところでさ‥ライトについて聞きたいんだけど‥」

「ふぇ?」「ごめん‥バレちゃった」

 言うまでもないけど‥チームkeyのことと母さんの機体の事を伏せて説明するのには約1時間近くの時間がかかった‥結海さんいななかったら積んでた。

「────────という感じでして」「結海さん‥フォローありがとうございます……」

「‥なんかオカルトチックで疑わしいけど、まあ信じるし、協力するよ……実際かわいい服色々着せれそうだし♪ ‥」

 私より重症患者だこりゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁあー、明日だけ授業あるのダルいなぁ‥、なにこれ? ……綺麗‥」

 燈ヶ浜のとある場所で、また、誰かが拾った遺伝子水晶(マギアクリスタル)‥さてさて‥これが何を引き起こすことやら‥と、この話は、また次の時にしようか

 

 To be continue




次回予告
チームkeyに入って、空音は私のことよりもどうもあの子‥深海咲の事がお気に召さないご様子。
そんな中、翌日から連休の授業日に‥いきなり緊急避難警報!?
「見せてあげる♪本物の魔法!」
次回「Angel Awaken」
天音響花、頑張りますっ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12 Angel Awaken

さーてライト、前回のおさらい行ってみよ〜♪
「キョウカがチームkeyに入隊し、さらに赤いリボンの少女サキが加入。」
そしてライトは私と同じ部屋で暮らすことになって‥初夜で羽のことがバレちゃって。
「さてさてどうなるのかな?」
さっそく見てみよ〜!


 4月29日 燈ヶ浜の外れで‥

「必要以上に拘束しないんじゃ無かったんですか?」

「訓練は必要な時間だ」私は休日の午前中に呼び出されて基礎訓練からスタート‥役職的に体力作りはいらない気もするんだけど……一通りやって今はと言うと‥

「にしたって‥優さん、もうちょっと容赦してくれたって‥」

「って言って相手が聞いてくれる保証ないからな‥これでも手加減してるんだぞ」

 YURIさん‥もとい優さんとの模擬戦であるが‥全く勝てない。

「天音、さっさと退きなさい」

 今度は空音の番だが……結果は敗北である。

「結局空音もダメなんじゃん」「うるさいですよ……」

 近づいて何かしらを当てさえすれば勝ちなのに‥なんでこんなにうまく行かないんだ‥

「次は誰だ?」「私が行きますっ!」

 深海咲か……昨日司令が言ってたことが気になるけど‥

「お前は手加減なしでいいんだな」「はい! ‥ですけど──今回はこっちで」

「木刀? ‥珍しいな」「アークに頼れない今、やっぱりこっちに慣れなきゃって‥」

「なるほどな‥じゃあ、初めっ!」

 優さんは薙刀を構えて迎え撃つ、深海さんは刀を構えず、なぜか部屋の外周を走り出した。

「何が狙いなの?」「さあ?」

 動き回る彼女と動かない優さん‥一切読めない‥先に仕掛けたのは。

「はぁぁ!」「だと思った!」

 彼女の方だ‥頭上を取り、宙返りと共に振り下ろすが初めて優さんの刃が舞い、柄と刃が交わり、快い打撃音が部屋に響く。彼女が足をつくと優さんはまた構えて待ち受け、射程に入ったところで禁じ手、突きを仕掛けるが、その上に乗り彼女の背後へ飛び、優さんが振り向きざまに切ると彼女も刃で受けて払い、構え直して、もう一度……まるで全て打ち合わせされた演舞の様な一戦だったが‥制したのは優さんだ。

「慣れてない割には動けてないか?」「でも、実際シャイニーの事、活かしてあげれなくて」「お前のそう言う所は評価するが、落ち着けば別にマシに動けるだろ」

 優さんが悔しがる深海さんの手を取り、立ち上がらせると、今度は……

「じゃあ審判は俺がやる、マーシャルはいけるな? ‥澪、咲、お前らで一本やれ」

 

 それからも、この日は午前中みっちり射撃、追跡、スニーキングにチェイスタグなどの訓練を受けたんだけど、優さんは愚か、深海さんにも勝てない……

 けど澪は喰らい付いてほぼ互角のスコアを出している。

「なかなかやりますね」「当然です」

「じゃ、この辺で解散するか‥澪は待機、あとは各々で考えろ」

「「了解」」「ーあっ了解」

 このレスポンスは早めなきゃなぁ‥

 そしてこの日は日中に深海さんと会ったんだけど、この話は長いから、別でお話しするね

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 翌朝

「ふぁぁあー、今日だけ行って、明日が休み‥だったらどっかの振り休ズラしてくれればいいのにぃ……」

「もー、一日だけなんだから、シャキッとしなさいな」

 昨日の祝日は終わり、重い身体を引きずられるように登校し、下駄箱でちょっと弱音を吐く‥ホントに休みだったらなぁ‥おまけに今日英語ないし。

「あーダルい‥」「思っても言わないの」

 昇降口で上履きに履きかえて、少し前に進むと、誰かにぶつかった。

「でも言わずに止めるのもっ? ‥アタタタ‥危ないなぁ‥誰!? って空音‥」「ちょっと時間いいかしら?」

 呼び出しか‥多分何かの共有事項なんだろうけど。

 

 そこから少しだけして、屋上にて。

────────(変わってないのね、高いとこ好きなのは)あいか……天音‥こういう場所、好きなの?」「ええ、イチオシですよ〜海は見えるし、風は気持ちいいし……それに、ここって学校で一番空に近いし」

「だとしてもそこは危ないわよ?」「え〜、ここが一番いいのに〜」

 私はふて腐れながら階段の屋根から降りた。

「よっと……で、空音? なんで二人きりになりたかったの?」

「ええ、本題だけど天音、あの子の事どう思う?」

「あの子って‥どの子さぁ?」

「どのって……深海咲よ」

「深海さん? ……昨日見た感じは‥すごいなぁ‥強いなぁ‥ってくらいかな」

「そう言う事じゃない」「じゃあどう言うこと?」

「あの子、魔法使いだなんだ言ってたけど、まるでただの武道家じゃない……」

 言われてみれば、そんな事を言ってた気がする。

「確かにそこは疑わしいけど、でも‥確かに空音より戦えてたのは事実だよね」

「だとしても司令や、獅童さんは何を考えてるの……あんな子‥」

 空音は少々、いや随分と機嫌が悪い様だ‥あの子のことそこまで気に入らない? 

「でも、きっと深海さん‥悪い人ではないことだけはハッキリしてるから‥魔法使いってのが嘘だとしても、私はあの人のこと信用するよ‥昨日ご飯たべながら話した感じではね」

「ああ、そう……」

 空音は若干呆れ気味なのか、ため息を吐いて手すりに身体を預ける‥そう言えば、空音ってずっと────

「あのさぁ‥人と話す時くらいイヤホン取ったら?」「別にいいじゃない‥」「いや、ずっとイヤホンしてさ、ホントに聞いてる? って言いたくなるけど‥てか何聞いてるの?」「なんだっていいでしょ」「よくないって! ねぇ!」「なんでもいいでしょ」「気になるじゃん〜♪」「いいから気にしないで!」

 この時、彼女のイヤホンは一切の振動なくなんの音も流していない事に私は気がついていない、故に彼女が外では耳に栓をしている理由に気が付けなかった。

 そして、私の発言が気に障ったせいか、空音は屋上からどこかへ行ってしまった。

 そこから2コマ授業を受けたあとだっただろうか? 

『次の時間は、予定を変更して全校集会になります……』

「不審者ぁ? ‥こんな日に」「とことん最近色々起こるね」と愛緒と談笑しながら整列しに行くと‥校舎東側から破裂音‥いや鈍器で壁を壊す音に近いけど、それにしては音量がデカすぎる。そんなおとはしてから火災警報が鳴った。

「早くない? ‥てか出火?」「‥今職員室から連絡がありましたが、火災のケースですが、一応体育館へ避難になりました」

 廊下に出て、移動する最中に、隣の列の誰かが私を気づかれないように上手く引き抜いた。

「‥誰? 、って空音?」

 私を引き抜いたのは空音だ‥そのまま私の口に人差し指を当てて、「小声で話せ」とジェスチャーしている。

「天音‥変だと思わない? 不審者と火災が同時だなんて‥」「いや、建造物破壊目的ならあり得るんじゃないの?」「授業中の学校にそう言う人が堂々と入ると思う? だいたい夜よ」

「じゃあ‥」「あの黒い船の連中じゃない? ‥」

「まっさかぁ〜そんなわけないじゃん、早く逃げよ?」「その必要はないわよ、教員はグルだから‥ッ! 虫!?」「空音‥ビビってどうするの? ‥ってデカくない? って!」

 空音はすぐさま巨大な蜘蛛を撃ち殺した。

「……」「非常時だし、問題はないわ‥あなたも早く装備しなさい、出動よ」

「いや、教室に置いてきたんだけど?」「‥あなた‥自覚ないの‥」

 空音が説教を始めようとすると、髪を常に擦り合わせるような音と共に蜘蛛の大群が校舎内の制圧を開始していた。

「どうする、空音?」「一旦あなたの教室に避難よ!」

 私は猛ダッシュで教室に入り、ドアで蜘蛛の大群を足止めして、鞄の中から銃を探した。

 ・

 ・

 ・

 同刻、体育館

「あの‥先生! キョウカが‥聞いてますか?」

「2年B組全員の点呼、取れました」

 空音が言った通り、先生たちはグルらしく、私たちが居ないまま点呼を済ませた。

 ・

 ・

 ・

「よし、わかった‥調査を続けろ‥応援は送る」

「さてと‥場所が場所だからなぁ‥」「やな予感はしてたんですよね‥大当たりだ」

 通信を受けたkeyの基地内に現れたのは、別行動中の咲ちゃんだった。

「お前の方の仕事はいいのか?」

「ええ、むしろ今は捜査よりこっち優先ですから‥と言ったものの学校かぁ……召喚獣じゃ目立つし‥校門の正面突破もなんかなぁ……」

「いつもみたいにワイヤーじゃダメなのか?」

 咲ちゃんは少し渋い顔をした‥

「アークはまだ、使えなくて……」「なに? ‥」海堂司令が彼女の首に下がった勾玉を睨むように観て言った。

「何故それを早く言わない」「すみません、真也さんの手を煩わせたくなくて‥」

「お前なりの気遣いか、だが、その必要はない、俺も腕を鈍らせたくないからな」

「‥相棒をお願いします」「ああ」

 海堂司令の手に、彼女の紫の勾玉が渡った‥そして────────

「二輪免許は持ってたよな?」「そんなの13の時から持ってますよ……」

「なら、あの二人を助けに行ってやれ」「了解」

 ────-咲ちゃんはビシッと敬礼して、からこちらに向かった」

 ・

 ・

 ・

「‥全く、外しすぎよ」「これでも‥精一杯なの!」

 私と空音は、中の蜘蛛を駆除しつつ、誰か怪しい人物が居ないか探すけど‥数が多すぎてキリがない。

「てか侵入したにしては数多いし、デカイしコイツら‥なんなの」「この量を一気に、一晩で‥ッ来る!」

 空音は抜群の反射神経で振り向き打ちし、また1匹命を奪うが……キリがなくすぐに囲まれる。

「ひいいっ!」「グズグズしないの!」

 空音はすぐに道を開けて一直線に突っ切る。

「待って、空音!」

「悪いわね‥戦場ではいちいち仲間に構ってられないものなのよ‥置いてかれて死んでも、どうか恨まないことね」

 空音がどんどん先に行く……あれが、戦士の感覚なのか? ‥置いてかれて、包囲されて、行く手はない……一か八か、当たれぇっ! 

 物騒な音が響くけど、1匹として怯まない。

「そんなっ! この! このっ! ……」

 全ての弾は明後日の方向に飛び、ほとんど当たらない。

「お願いっ‥当たって、当たってぇ! ‥」

 その時、空から窓を突き破り、バイクで誰かが突っ込んで来て、すぐに銃を抜くとあっという間に倒してしまった。

「ビビって手がブレてる、実弾銃じゃないんだから反動もないはずなのになんでそんなにブレブレなの? ‥とりあえず‥深呼吸しな?」

 ヘルメットを外した途端、それが誰だか分かった……見覚えしかないリボンで髪を一本に結び、チームkeyのエンブレムが入ったライダージャケットに身を包んだ、私より少し背が低いあの子‥咲ちゃんだ。

「深呼吸って‥今?」「全く‥ひよっこの様子見に来たら随分とパニックみたいだね? ‥でも生きてる間に駆けつけれたみたいだ」

「パニックになんか‥なってないですから」「タメでいいって言ったのに‥まあ良いや、とりあえずこの校舎を新略してるこの蜘蛛たちは“フォールスパイダー”って言う種類で、洞窟内に蟻みたいな勢力関係を築いて住んでる大蜘蛛だよ‥で、今多分この建物を巣にしようとしてる‥だから女王をどうにかすれば万事解決っ。……と危ないねぇ」

 咲ちゃんが話してる間にも、蜘蛛の大群は迫ってくる‥すると咲ちゃんは、紅色の勾玉のようなものをポケットから出して構えた‥あれ? 首から下げてた紫の方は? 

「しゃーないか‥でも響花しか見てないからいっか……」「何か策があるんですか?」「ないよ」

 期待して聞くと即答だったが空音の疑問の答えが後に続いた。

「でも、大丈夫‥可能性はゼロじゃないからさ……刮目しなぁ、キョウカ……見せてあげるよ、“本物”の魔法をね♪」

 そう告げると、間を開けることなく目を閉じて長々と呪文のような文章を唱え始めた、私の知らない言語のはずなのに‥何故か私は意味がわかった。

「※| 不可思議を起こす導師の杖‥その手の内で、悪しき影を惑わせ‥月明かりの翼、ブラッティウィンガー! ……boot、ON!」

 途中でその勾玉は刀の鞘のような杖となり、唱え終わったと思われるタイミングでは、一瞬衣服が弾け飛ぶように消えてから、炎でできた鳥の頭と翼を持つ獅子(グリフィン)の幻影を纏うようにして、ボディウェアと健康的な脚が露出するショートパンツにエンジニアブーツ‥そしてその上からローブを羽織り、さらに頭には真っ赤なキャスケットを被って、神秘性がありながらも、動きやすそうで現代的なカジュアルさを併せ持つ、装いへと変化した。

「‥なにこれ? すごっ!」「防護服纏っただけだって、まだまだこれからだよ? ……我乞うは光の刃……」咲ちゃんがまた呪文を唱え始めると、足元に大きな紋章‥いや魔法陣が現れて、その外周から赤い光でできた刃が無数に現れた。

「ブレイドメイク‥アーンドシュート!」一斉にその刃が散り散りに飛び、一気に蜘蛛達を刺していく。

「とりあえず、女王の場所に心当たりは?」「心当たり‥あっ! さっきすごい音がしたんです! 家庭科室あたりで」「じゃあ案内して?」「でもバイクじゃ行けないって!」

「大丈夫、こう言う時に役に立つ仲間が居るから」そう言うと、今度は大なカンラン石のような形の宝石を出して、何かを唱え始めると────-

「風音を越す音速の銀狼……我が前に現れ地を制せ‥

 その名をもって命ず、来よ、翼狼ウィンドルガ! 従獣召来!」

 ────-その宝石が羽を持った大きな狼に変わると、真っ先に咲ちゃんへ飛びついた。

「まったくもう‥甘えん坊だなぁ、とりあえず力を貸して?」

 頭を撫でながら言われると頷いて咲ちゃんを背中に乗せた。

「やっぱりエールよりは諦めがいいねキミは‥キョウカ、後ろ乗りな?」

 ヒョイって軽々右手を掴んで私を引き上げると、この狼は全速力で駆け出した。てか、蜘蛛多すぎじゃない? 

「とりあえず‥そこで止まってて‥」「咲ちゃん? ‥って何コレ!?」

 いきなり、咲ちゃんが分身して蜘蛛の足止めをしている‥魔法ってすごい? 

「分身も出来るんだ……」「違うよ、幻影を遠隔操作してるだけ、めちゃくちゃ集中しないとできない芸だからあんまり使いたかないけど」

 そのすごい芸当の数々で蜘蛛を翻弄しながら家庭科室へ辿り着くと‥想像の7倍くらいエグいことになっていた‥壁という壁に糸が張り巡らされ、逃げ遅れた何人かが囚われている‥そして蜘蛛の足元には、空音が一人で応戦していた。

「空音っ!」「しっ‥気づかれるから……じっと見てて」

 咲ちゃんは狼の背から降りると杖とは逆の手に火の玉を作り、そこに息を吹くと‥シャボン玉のように飛んでいき、器用に蜘蛛へと当たった。

「全く、素人さんが勝てる相手じゃないよ」「あなた‥深海咲?」

「かたっくるしいなぁ‥せめてラフに呼んでよ、澪さん」

「あなたこそ気安く呼ばないでください‥第一なんですか? その格好」「そういう君こそ制服じゃないか‥危ないよ?」「それは承知です!」

 空音が飛び出していく‥すると咲ちゃんは光の拘束具と鎖で足止めした。

「はいっイエローカード、無鉄砲なのは見過ごせないなぁ」

「いったいこれ何ですか? ‥抜けれないっ」「言ったよね? 私魔法使いだって‥」

 そう言いながら刃を飛ばして糸を切り、囚われた人たちを解放すると咲ちゃんは空音を解放した‥

「この人たちを部屋の外にみんな出して‥キョウカも手伝って!」「天音? ‥居たなら早く言いなさい!」「いやそれは理不尽じゃない?」「じゃあ搬送は任せた! ‥おいで♪ ウィンドルガ!」

 あの翼狼と連携して咲ちゃんが蜘蛛を翻弄してる間に私たちは解放した人を一旦部屋の外に出していき‥最後の一人と言うところで邪魔が入った‥

「‥この人が依代になっちゃったんだ……もう少し寝てて。 ッ?!」

 咲ちゃんの目の前を横切った影が両手で抱えた少女をひったくって立ちはだかった。

「Anker、なんでここに‥」「様子を見に来ただけだ‥だが、このクリスタルはハズレみたいだ」「ハズレっ? 、生命にあたりもハズレもあるかっ!」

 女王蜘蛛を無視して杖で殴るが容易く交わされてしまう‥

「‥別に、コイツを悪くは言ってないが‥“儀式の神獣”の欠片には使えそうにないと判断しただけだ」

「儀式の、神獣?」「気になるならその手で探れ‥良いのか? あの蜘蛛は放って置いて」「ッ……自分勝手な‥」

 咲ちゃんは鎖でAnkerの手の中から彼女を奪い取り、戻ってきた私たちにパスした。

「咲ちゃん!?」「いいからその人も外に! ……」「っと‥わっわかりました!」

「ふう‥一気に蹴りつけようか」

 仮面の男を拘束したまま、さらに16本の鎖を作り出して蜘蛛の自由を奪った上で人間離れした高さへと跳躍して飛び乗り、頭部の発光体に手を当てた‥

火炎ヲ(ファントム)纏フ幻影(ブレイズ)ノ翼よ(フリューゲル)……悲しき獣をあるべき姿へ。

 コール・クルリア・クラシカル‥戻す力をこの手に宿せ……

 遺伝子結晶(マギア・クリスタル)記録種(カインド)洞窟大蜘蛛(フォールスパイドル)、封ッッ印!」

 抵抗できないまま、蜘蛛の表面が宝石のようになり、ひび割れて砕けるように消えた。

 そして、他の蜘蛛や糸、割れた女王の欠片が粒子状になり消えていく中で、核になっていた宝石を掴んで着地した。

「上出来だな……」「あなたに言われる筋合いなんてないですけど? 大人しく着いてきなさい」「断る‥それに、今興味があるのはお前よりも“Aの鍵”の方だ」

 拘束から逃れ自由となった仮面の男は、私に近づき、アゴをくいっと上にあげて耳打ちした。「次はお前で楽しませてくれ‥」と‥

「犯罪者を易々と逃すわけには行きませんので」「と言いつつ役所の人間は乱暴な手は使えないだろ? ……っとあのバカども」

 外から鈍い音がした‥外を見ると、2足歩行型の怪獣が校舎に向かっている。

「なんのつもりですか?」「俺に聞くな、少なくとも‥あの船でこっちに来た部下が勘違いで呼んだんだろ」「止めさせることは?」「無理だな」

 どうする? と考えるまもなく、空音は通信機に向かって叫んだ。

「司令‥機体をこっちに送ってください」『構わんが、アレはまだ未完成だぞ?』「それは今までだって同じです、問題ありません」『了解、一発勝負だ、堕とすなよ?』

「了解、来なさい、天音」「ふぇっ?」

 通信を切ると、空音は屋上へ駆け出した。

「空音! 、今から基地行ったって間に合わないでしょ?」「ええ、だからここなのよ」「待て待てなんで今靴下脱いでるの? 言ってることとが噛み合ってないですよ?」

「噛み合ってるわよ、理由はすぐわかるから……」

 そう言った途端に何か音がした‥その方向を見ると‥私たちの機体がこっちに飛んできている……

「まさかっ!」「そのまさかよ。危ないからちゃんと私の言ったタイミングで飛び降りて」

 墜とすなってそう言うこと?! 冗談じゃないってぇ……

「そろそろね‥3、2っ!」「ちょっとぉ!」

 先に空音が飛び降りた‥がすぐに微かな音量で‥「今っ!」と聞こえた。

「ばかぁあぁぁ!」私は覚悟して飛び降りると、校舎の両側を横切る機体の片方に見事に飛び乗れた‥安心して一息つくと、足元には、例のスーツが消防士の服の様にして置かれている‥そう言うことか。

「お待たせ、キョウカ‥とりあえず鍵刺して自動操縦をオフにして」

「‥わかった、セーフティリリース、ユニゾン‥ゴー!」

 鍵を回して展開して差し込み回す‥そしてスイッチをオフにして急旋回するが‥校舎まではもう時間がなかった。

「それに手を出すなぁぁぁぁ!」機銃の弾は全て弾かれこちらに気が付いていない‥そして────────轟音とともに壁にはヒビ、ガラスは砕け‥家庭科室の一つ上の階に風穴が空いた。

「ぐっ……」

 私は唇を噛んで声を殺す……この機体にもし‥手足があれば受け止めることもできたのだろうか? 。

「ライト‥腕、的なものってない?」「そんな気が利いたのは‥救助作業用アームくらいだけど‥これは今回積んでないし……って言うか、航空機にそんなの基本ないでしょ!」「‥それはわかって言ってる」

『腕……ね、確かに殴れたら早そう』『ミオ? ……』『エクステンドエッジは?』

『ダメよ‥中は電化製品や可燃性物質もあるのよ? 、電流なんて流したら建物が丸ごと吹っ飛ぶわ』

 あの怪獣を校舎から離す方法‥離す方法‥考えて‥考えて‥考えて‥周りが見えなくなって、一人の世界に隔離される寸前‥空音の声で引き戻された

「天音ッ!」「──-ッ!? あばばばば‥ぎゃっ!」

 校舎に衝突する寸前、角度を90°変えようと舵を切るが‥間に合わない‥だけど何故か‥私は無事だった。

「……あれ? ‥なんで……」「これはっ‥」

 私たちを乗せた機体‥ライジング=エンジェルは戦闘機から手足だけ生えているような外見へと変わっていった。

「おー、欲しいと思ったらでてくるもんだねぇ」「いやいやそんな事ある?」

『これがこの古代超技術の結晶(オーパーツ)が秘めた可能性か‥面白い、好きに暴れろ!』

「「Roger!」‥ライト、今日の気分は?」「アップ系が聴きたいかな?」

「OK♪」

 両脚で蹴りを入れて挑発するとこちらに気がつき追いかけてくる‥そこで操作系を操り音源を再生する‥選んだ曲は、2×Yshのとある曲だ。

「守る力が欲しいと♪ 願ったわけでもないのに……

 何度も宙返りするように怪物を翻弄していき‥時折、両手の機銃や物理攻撃を与えていく……私が歌っているおかげか、かなり高威力で扱えたため、しばらくするとヒビが入った。

「迷いはない、今駆け出す‥力なき者の為に!♪ ──-今だよっ空音!」

 そのままそのヒビを蹴破るとコアが露出した。

「あとは任せて頂戴‥ドライブウェポン、エクステンドエッジ!」

 背中の方で待っている空音が私に話しかけながらあの刃を展開する‥交わさなきゃ。

「don't be long待っていろ〜真っ直ぐそこへ行くから♪」

 視界の隅から迫る空音を、また宙返りでかわすと、勝手にその手足は格納された。

「その信念♪ 貫いて♪」「ドライブ‥イグニッション!」「切り裂け! Blake to the desire! ♪」

 空音の機体が赤い光を刺し殺して爆ぜた‥そして‥被害はなんとかさっき砕かれた階と‥校庭の砂が巻き上がっただけで終わった。……

『任務完了‥帰投します』

「やっぱり勘違いじゃないや‥キョウカたちの機体から強い魔力を感じる」

 咲ちゃんが私たちの機体を見送りながらボソッと呟いた。

『ご苦労だったな‥お前も後始末は国に任せて帰還しろ』「了解です、海堂司令‥あの子らの荷物持って向かいますね」

 

 それから少しして‥

「バカ! 本気で心配したんだからぁ!」「ごめんなさいっ!」

 私は基地で色々話してから帰宅したら、案の定愛緒に叱られた‥だけど機密事項を明かさなきゃならなくなるせいで真実は言えない、こそばゆいよ。

「でも無事だったんだしいーじゃねぇかよ」「そこにはぼくも賛成‥キョウカも反省してるみたいだし」

「じゃあ、二人に免じでこれくらいにしとく‥」「うぅ‥」「次心配かけたら1週間買い出し全部任せるから」

 ああ‥この際もうそれは確定事項なんだよ‥だって、愛緒に隠れて、みんなを守らなきゃいけないんだから。

 ・

 ・

 ・

 ・

「‥確かに、これは‥」「そこで何をしてる?」

 真夜中の格納庫、真也さんが私を見つけて怒鳴った。

「気になった事があって‥この機体について」

 

 

 to be continue……

 & See you next Chapter




第一篇あとがき
はじめまして、深海魁兎(ふかみかいと)と言います。
さて、響キヒビカセ心ニ届ケ、ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
 さて、執筆秘話をさせていただくと、この作品は僕が元々書いていた作品2本を練習として、今回僕の世界観でそこで生んだ面々を集め、さらに“天音響花”と言う新たな主役をエッセンスとして取り入れた作品となっております。
実質ラブコメと歌とアツめなメカ戦を掛け合わせて、さらに逆異世界モノと言う贅沢欲張りセットになっていますが、初めて書いて上げなかった作品をブラッシュアップしてお送りしてる感じになります。
って言ってもさらに元を辿ると、作詞のための副産物ですけどね。
故に響花が口ずさむ歌などの歌詞は僕の考えた物です、これに全て歌を乗せるのもまた一つの野望なのですが‥読んでくださるみなさんがメロディを想像してくれると嬉しいです。
 おっと話が脱線しましたね、とりあえず第一篇は序章“響花編”という事で、天音響花が如何にして戦いに身を投じるかというお話を丁寧に描写すべく、たった3日間のお話に12回も使ってしまいました(苦笑)
さてさて‥響花と咲ちゃんが繰り広げるこのお話は、次回より意外と日を跨ぐ話が多くなって参ります‥そして僕の出したくてたまらない構想がまだまだ余っておりますので楽しみに読んでくれると嬉しいです。
次回からは第二篇「Excellent Ear」‥おっと気がついた人は気がついたかな?
このネーミング、法則がないようであるんです‥がその解説はまた次回に持ち越しましょうかね。
ではでは‥今回はこの辺りで。
またお会いしましょう♪
次回もセーフティリリース、ユニゾン♪ゴー!

writen by 2021 Jun 26


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12.5 タメでいいよ

attention
こちらは尺の都合で#12よりカットした部分を読み飛ばしても問題ないようにアレンジを加えて掌編にしたものになります。


 4月29日、訓練が終わった昼下がり‥

 私は棒になった足を引きずって愛緒の家に帰ってきた。

「ただいまぁ……あれ? あおは?」

「僕が留守番引き受けて遊びに行ったよ〜、航太は練習そろそろ帰ってくる頃だと思うけど」

 #12をよんでくれた人は疑問が浮かんだだろうから説明すると‥ライトは本日非番である、そして私が朝だけ‥って言って救急、消防の類と違って自宅から緊急招集されるケースの方が大半なのだけども。

 てなへんなシフトがあるためか、今日は家でくつろいでるご様子‥

 にしても愛緒に着せ替え人気にされた影響か、背中から生えた羽が自由に伸びるように背中の空いたトップスでさらに袖周りにフリルがあしらわれた‥エンジェルスリーブっていうんだっけ? まあそんな感じでめちゃめちゃ可愛いお洋服でゴロゴロ中なのだ‥中々似合ってるなぁ‥

「で、今日はこのあとどうするの?」「お昼食べて‥後は別にすることないかなぁ‥そうだ♪ お出かけ‥する?」「賛成♪」

 犬の尻尾かの様に背中の羽が揺れている‥これもこれで可愛い……って何考えてるんだ私は! 

 ・

 ・

 ・

 同刻‥灯台付近の砂浜‥

 頬を擽る風、潮の匂いと細波の音‥そして紺碧の海と群青の空……昼間の方がより良い景色ではないか‥気に入っちゃったなぁ、この土地の景色も。

 砂浜に座り、景色に見惚れる……あぁ‥あ? 

「サキお姉ちゃんだぁ♪」「サキお姉ちゃん〜♪」

「よく見つけたね。アオイ、ヒュウガ‥それとお友達も一緒かな?」「うん♪」

 誰かと思ったら優さんとこの双子ちゃん達か‥

「この人だぁれ?」「サキお姉ちゃんだよ、いろんな所でお仕事してる人なの」

「はじめまして、深海咲って言います‥みんなはアオイのお友達かな?」

 返事が一斉に聞こえて来る、中々元気いっぱいだ。

「サキお姉ちゃん‥みんなにもいろんな世界のお話聞かせてあげてよ」「‥いいよ、じゃあどこのお話にしようか? ‥」

「海のところとか?」「あ〜海洋国家スプラシアかな? ‥この国はね‥」

 私は双子ちゃん達ご一行に、お仕事や‥おやすみをいただいて旅した色んな土地の話を語った。‥思い返すと私って結構いろんな所行ったんだなぁ‥でもまだまだ未開の地があるってのがまだまだワクワクする‥

 そしてお話しながら、私は市場へ案内された‥そう言えばお昼まだだったなぁ‥

「そういえば、私お昼まだだったなぁ、アオイ達は?」「もう済んでるよ♪ ‥だけどお店案内しよっか?」

 そうして初めて来た市場のとあるお店の前で、見覚えのある顔に出会った。

「おや、君確か‥」「深海‥さんでしたっけ?」

 彼女はいきなり私に頭を下げた。

「遅くなりましたが愛緒と航太を助けてくれてありがとうございました」

「ホントに今更だね……てか、君は航太とどう言う関係? ‥あっいや‥立ち話も悪いんで、お昼一緒にどうですか? あなたとは一回お話ししてみたかったんです」

 それから子供達と別れて、お店の中で注文を待ちながら談笑することにした‥

「──-で、つまり君は実兄弟じゃなくて居候なんだ‥複雑だねぇ」

「まあ、そんな感じです‥あっ私の話したんで、逆に‥深海さんのことを聞いていいですか?」

「深海さんだなんて、硬いなぁ‥」「いや‥一応年上ですし‥目上の人だし‥」

「年齢なんか関係ないよ、それに立場は同じだから、フランクに来てよ。

 ほらっさっちゃんでもふーちゃんでも、サーくんでも、呼び捨てでもいいから好きに呼んで」

「流石にサーくんは‥そうだなぁ‥でも呼び捨てだとなんか語呂悪いし……じゃあ、咲ちゃん、でいいですか? ‥なぁんか見た目的にくんよりちゃんかなって」

「いいよ、一番ベーシックなの選んだね‥なんか落ち着くや」

「落ち着く?」「私さ‥自分の名前‥結構好きなんだよね。だから下の名前で呼んでくれるとすごく嬉しいんです」

「そうなんですね」「この名前、真名(まな)ではないんですけど、私の大事な人が付けてくれた名前なんです。折角なんで、キョウカ‥私の話、お望み通り聞かせてあげましょう。────────私は元々、名前のない災害孤児で‥あるホテルの火災の際に救助されてからは──────」

 私は響花に自分のことや私を育んでくれた方々の話、兄妹のように扱ってくれた人たちの話や、魔法の先生の事など、自分のあれこれを言える範囲で教えて‥気がついたら、私を育ててくれた人たちの話ばかりしていた。

「──-あとはさっき行った服とか作ってくれるお姉ちゃんのお友達で……」

「失礼します、こちら日替わり定食になります」

「あっ‥ごめんね‥話しすぎちゃった」「いいですよ、咲ちゃんって、その人たちのこと、大好きなんですね」

「‥はい、血は繋がってないですけど、私にとってはみんなみんな、大事な家族ですから」

「血が繋がってなくても家族‥ですか‥」

「ええ、私の先生は前こう言いました‥“血が繋がってなくても、お互いのことを大事に思って、同じ帰る場所があるなら、もうそれは家族‥で良いんじゃないかな”って、実際にその先生ある事件の捜査で懐かれた子、一人養女として引き取っちゃった様な人ですけど」

「お互いのこと、大事に‥か」

 先日のヒデさんの言葉が頭に蘇る‥その理論なら、とっくに愛緒や航太だって家族だし‥なんなら‥そのうちライトも‥いやいや‥

 この事を考えるのは後にしようか。

 私は話題を少しずらそうとこう切り出した。

「それにしても咲ちゃん‥英語圏の人みたいに身振り手振り沢山しながら話してるの‥なぁんか好きです」

「それはキョウカもじゃない?」「私そう言う節あるかなぁ?」「時々だけど、ある」「ホントに?」「ホント、でもボディランゲージって日本じゃ馴染み薄いけどいい文化だと思うから、むしろ良いことにも思えるけど」「-だねぇ〜口だけよりもずっと気持ちも伝わるし」

「にゃはは♪ 仲良しですね、二人とも」

 そう言うと、二人揃って赤くなっちゃった。

「……さて、冷めちゃう前にいただきましょ?」「‥ですね」「頂きます」

 この日の献立は鯛の塩焼きに、おひたしと漬物に、この店ではお馴染みらしい味噌汁とお米という、一汁三菜のいかにも日本的なものであった‥素朴ながらとても美味しい。

 そう言えば日本育ちだった私の先生もこう言う食事作ってくれたなぁ‥今もどこかで、生きて帰って、誰かを助ける術を教え続けてるのかなぁ……

 余談だけど私はこの先生と同じ部隊にいた時に、ほんの好奇心で日本語を教わった。

「やけに日本語達者だなぁって思ったら‥やっぱり、教わったんですね」

「ええ、ほんの好奇心で‥新しい世界をどんどん観に行くのは大好きですから」

 3人でお昼を食べながら話して、私は響花とはすごく気が合いそうだと思えた。

 もしかしたら、来るもの拒まずのいい子なだけかもしれないけど。

 それから楽しく話して、お店を後にしたところで、一旦別れることにした。

「じゃあ‥また、どこかで」「いや、そんな遠く行くわけじゃないんですから」

「でも、間違ってはないじゃん♪ 楽しかったよ。 またね────-あっあと、タメでいいよ、私気にしないから」

 私はちょこっとカッコつけてその場を後にした……今日は日記に書くことが沢山出来ちゃったなぁ……




次回予告
さてさて、今日からは授業再開‥そんな放課後。
空音はアンティークショップを物色中‥勉強勉強、鍛錬ばかりの彼女らしくない店で何見てるのかな?
次回、第13話、「mission:母の日」に?
セーフティリリース、ユニゾン♪ゴー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第ニ篇 Excellent Ear
#13 mission:母の日


 5月7日の放課後‥ああ前回派手に校舎壊れたけどって? 

 それがねぇ‥ある頭おかしい建築会社がいてね、GWの間にすんなり直しちゃったんだ。

 さて話を戻して、休みも明けた今日の放課後、久しぶりに愛緒と寄り道して帰る事になって、商店街、ほぼ市場だけど‥そこでウィンドウショッピングする事にした。

「真っ赤だねぇ‥」「来週母の日だからね」「そっかぁ、第二日曜か」

 毎年日付違うから忘れちゃうんだよなぁ‥っとぶらぶら歩いていると、アンティークショップで見覚えのある顔と出会った。

「空音」呼びかけると過剰に驚いてから振り向いた‥

「何しに来たの」「見かけたから声かけただけなんだけど」

「あらそう……天音、今一人?」

 なんで人数を聞いたんだ? 「いや、あおと‥」「キョウカ? ‥あっ」

 いいタイミングじゃないって今は‥

「へぇ〜空音さん♪ こういうの興味あるんですね〜いつも勉強勉強のイメージでしたけど」

「ええ、少しだけ……母の日も近いので」ったく、私以外がいるとこじゃ愛想振りまきやがって、GW中に気がついたけど、空音が冷たいのは誰に対してでもだけど、特に私に一番冷たい気がする。

「ねぇ、キョウカ、いつから交流あったの?」「勘違いしないでよ、友達じゃ、ないから‥」

「天音‥お借りしてもいいですか?」「どうぞどうぞ〜♪」

「ちょっ待ってって」

 空音は私を人目の少なそうな場所に連れて行くと、少し顔を赤くして案外大した事ない質問を投げてくる。

「天音……あなた、プレゼントで貰うならなにが嬉しい?」

「プレゼント? ‥そーだねぇ‥ってわかったぞ、母の日の贈り物選んでた?」

 そういうと、空音は目つきを悪くした。

「そんなわけないでしょうが‥」「ちょ、ストップストップストップ! ごめんっ! 何か気に触った?」

「いえ、別に」

 そうしていきなり機嫌を悪くした空音は、逃げるように店を出て行ってしまった。

「……なんだったんだろ?」

 

 

 

 

 

 

「────-ってことがあってさ」

「ふーん‥もしかしたら、キョウカと同じ境遇なのかもね」

 私はライトに空音のことを話した、因みにこの休みを通して毎日同じ屋根裏で寝起きするようになって、ライトとはかなり仲良くなれた気がしてる。

「でもキョウカ、プライベートな事情だから、付け込みすぎない方がいいんじゃない?」「だよね‥」

「だけどさ‥僕は澪のことよりもさ、贈り物に込められた意味って話の方が気になるかな?」「ライトってロマンチストじゃないんだね‥」

 やっぱりこの子の頭の中身は母さんが教えたあれこれくらいしかないようだ、だけど、無知な分色んなことに興味を示しちゃうところは可愛くてしゃーない。

「まあでも‥靴と香水は避けた方がいいって事だけは覚えといたほうがいいかな? あと、ライトは男の子だから櫛も気をつけなきゃだね?」

「なんで?」「靴は踏みつけるものだから、見下す。香水は遠回しにあなた臭いよと受け取られるし、櫛は「苦」や「死」を連想させるから、生涯あなたと苦難を共にしますという意味じゃないなら避けた方がいいね」「じゃあ、咲ちゃんってそういう相手がいるってこと?」

「なんで?」「櫛って髪留めのことだよね?」

「違うよ‥髪留めまた別、しかも装飾で意味が変わるんだ、咲ちゃんだとリボンだから‥絆や約束って感じかな。本人も言ってたけど、あのリボンは自分の名付け親が寂しくないようにってつけてあげたって言ってたじゃん」

「思ってたより難しいかも‥‥」「でも、相手側が気にしてなかった場合は、普通に空回るだけだからね‥」

 ‥弟といるお姉ちゃんってこういう気分なんだろうか? ‥航太? ‥あの子はずっと生意気だったから‥ノーカンだノーカン。

「結局空音‥あれ、誰宛の見てたのかな?」「さぁね‥ミオの家庭環境ってあんまり知らないし‥、「あっ!」」

 二人一緒にひらめいてお互いに顔を合わせてから携帯の連絡帳を漁る、この人なら知ってそうだし聞きやすいや。

 

『────────澪が? ‥そっかぁ、それはあの子の気に触っちゃうよ』

 私たちが電話をかけた相手はオペレーターの颯さんへだ、この人だったら空音と交流多いし、平時はかなり暇そうだったから、かけてみたら出てくれた。

「やっぱり、今機嫌悪いです?」『まぁね‥だけど仕方ないって、響花ちゃんはまだ知らないもんね‥』

「えっと‥なにをですか?」『澪の家庭環境についてだよ、あの子、複雑でね。

 澪は、ある事情があって、ミラと二人暮らしなんだ』

 両親とは一緒に住んでないんだ‥意外だなぁ。

『まあその事情はね‥響花ちゃんも知ってた方が良いことない気がするけど、本人が人に話してほしくないっていうから、ごめんね‥教えられないの』

「ですよね‥」確かに私も実際実家じゃないとこ住んでるもん‥探られたくないのはわかる。

『だけど、そのお店覗いてた理由に心当たりならあるよ』「‥こっそり教えてくれません?」

『いいよ‥次の日曜日、5月11日はミラの誕生日なの』

 ほーん、全部繋がった‥気がしたけど‥じゃあなんで母に日ってワードで過剰な反応を見せたんだろう。

 ・

 ・

「じゃあ、おやすみなさい」

「‥誰と話してたんですか?」「響花ちゃんだよ」

 基地では電話を切った颯さんの元にちょうど澪がいた‥またシャワー浴びて仮眠室行く気だろうか? 

「キョウちゃんですか‥」「うん、澪を商店街で見かけた時に逃げちゃったってね」

 澪は目を擦りながら「まあ、はい‥そうです」と答えあくびした。

「やっぱり、響花ちゃんのも‥“聞こえちゃうの”?」「ええ、でもあの子‥本当に私のこと忘れてるのが、わかっちゃって‥辛いんです」

「そっか‥」「やめてください、私は子供じゃないんですよ」

 鈴原さんは澪を宥めるように視線を合わせて手を出してみたけど、未然に阻止された。

「だけど、あの子の声は、“外のも中のも綺麗なんです”、だからこそ‥やっぱり昔のあの子に戻って欲しい‥ただのワガママですけど」

 鈴原さんは静かに微笑してから優しく語った。

「真也さんが言ってたんですけどね‥元も子もない話だが、その部分の脳細胞が死なない限りはアウトプットは可能なんだ、呼び出すトリガーさえ見つければな。って優さんの記憶が吹き飛んだ時言ってたし‥だからそのうち戻るんじゃない」

「トリガー‥ですか?」「一回キョウちゃんって呼んでみるとか?」

「それは絶対嫌です‥あの子が思い出すまでは絶対そう呼びたくない‥今のあの子は天音であってキョウちゃんじゃないもの」

「そっか‥じゃあとりあえず時間も遅いから早く寝た寝た。何時だと思ってるの?」

「うっ‥わかりました、おやすみなさい」「はい、おやすみ」

 澪が廊下に出ると、そこに居るのは腕組みした私である。

「ごめん、澪‥盗み聞しちゃった」「いいですよ深海さん‥聞かれて困ることなんて、私にはないですから‥」「みーおっ♪」

 そのまま去ろうとする澪を抱きつくように引き留めた。

「離してください、何のつもりですか?」「硬いなぁ‥そろそろ名前で呼んでくれてもいいのに」

「いいじゃないですか、支障ないですし」

「まーそこは本題じゃないからどーでもいいとして澪‥中の声ってなに?」

────────(邪なのはほとんど感じない‥)あなた、聞いてた通り、ホントに好奇心の塊なんですね‥やむを得ない場合以外は今から言うこと、漏らさないって約束できますか?」

 ・

 ・

 ・

 翌日、昼‥

 私はいつものように歌いながら屋上への階段を駆け上っていく‥まあどーせ誰も居ないだろうしね、とドアを開けると。

「近くにも冒険がまって♪ いるかなぁ〜‥あ?」

「ご機嫌ね、天音」「ここ気に入ったの? 空音」

「いいでしょ、どこにいても」

 珍しく先客がいた‥だけどまあ、捕まえる必要無くなったしいっか。

「とりあえず、昨日はごめんなさいっ!」「‥何故あなたが謝るの? 、謝るべきは私なのに、だからここに伏せてたのに」

「伏せてたって‥言い方よ‥」

 彼女は風に吹かれながら、平常を保っている‥そして雰囲気を崩したせいで、私の謝り損である。

「でも、プレゼント選びしてたんだよね‥付き合おうか?」

「余計なお世話よ‥」

「────-ふーん、素直になりなよ。澪」「わっ!」「あっ貴方どこから!?」

 なんの前触れもなく、何故か屋上に咲ちゃんがいる‥なんで? 

「いや、どこから出てきてもいいでしょ、こう見えて魔導士だよ?」

「だとしてもだよ!」

「まあ、この前来た時にここ風通し良さそうだったからさぁ‥だから来ちゃっただけ。邪魔したね」

 そう言うとすぐに駆けて行って、階段の方へ行ってしまう‥追いかけてみたけど、何故かドアを開けても中にはいない──────実際には壁に張り付いて死角に居たんだけど。

「いない‥」「神出鬼没ね」

 ・

 ・

「────-ふぅ‥あぶないあぶない‥だけど、確かめたいことは確かめれた」

 天井から踊りおどり場へ着地してあたりを少し警戒し‥誰も通って来なそうなので脱出は容易っぽい。

 とりあえず、イヤホンしてる時はあまり効果がないことと、響花の歌から感じた魔力は‥どちらも気のせいじゃないことは裏付けれた、これだけでも収穫だな。

 でも‥響花が歌ってない間もちょっとだけするこのざわざわなんなんだろう。

 まっ見つからないように敷地の外出ますか。

 ・

 ・

「──っ、いつになく風強いなぁ‥」「それもそうでしょうね」

 空を見上げると、鳥が騒がしく飛んでいくのが見えた。

「なんか最近変なことばっかだね」「そうかしら?」

 結局一緒にお昼にすることにした私たちは特に話すことなく寂しくお弁当を食べ終える。共通の話題すら見つけれなかったや‥

 そして去り際「放課後、下駄箱で待っててくれる?」と彼女は私に言った。

「OK♪ 付き合ってあげる」「じゃあ、また」

 やっぱりこの子ってば無愛想だ‥絶対笑顔引き出してやるっ。

 

 だけど‥そんな平和な放課後は来なかった、6限目が終わったくらいだろうか? ‥

「よーし……」「ご機嫌だね、キョウカ」「何かあったのかぁ?」

「まあね、今日は待ち合わせあるから、じゃ、またねベル、あおはまた後で」

 私はHRのあと一番に教室を飛び出しして下駄箱へ行くと、そこに空音の姿は見当たらない‥鞄を見ると通信機が騒がしく揺れている……要件を聞きながら私は屋上へ階段を駆け上がると、そこには空音がいた。

「ごめん、遅くなっちゃった」「いいわよ‥さっさと済ませましょう」

 真後ろから来る機体をバッチリ視認して通り様に乗り込み、鍵を回した。

「「セーフティリリース、ユニゾンッ、ゴー!」」

「‥ミオ、ごめんなさい‥」「なんであなたが謝るの?」

「だって、今日は寄り道するって‥」「こうなってしまった以上は仕方ないでしょう」

 二人の会話は通信越しに聴こえた‥空音、やっぱり楽しみにしてたんだ。

『C-61地区に水晶獣(レプリカビースト)出現、お前たちの今回のミッションは地図で示した位置まで誘導すること、封印はアイツがやる」

 表示されたレーダーウィンドウを見ると、解体途中のビルへ誘導しろと言う内容だ‥だけど、ちょっと遠くないか? 

『了解‥作戦を開始します』

「チャチャっと終わらせます」

 私はMDを交換して‥ライトに問いかける。「ライト、今日の気分は?」

「明るくポップな感じで」「OK♪」

 番号を指定し“stand up”を再生しながら私はそれに接近する。

「始まった‥」

 イントロが終わると目の前まで下降し一気に上へ‥そして注意を引きつけて‥

 閃光弾を用いて傷付けないように道を示す‥すると地を這う巨大なトカゲ、いや竜というべきか? ‥それがこちらへ近づいて来る。

「やっぱりやるわね‥あの子」「ミオも続いて」

 私の動きが良すぎたのか、空音はほぼ手を出さずに居るだけだった。

「──-〜♪ 、よしっ、いいよ〜こっちおいで〜♪」

 1コーラスを歌い上げたところではまだまだついてきている、目標ポイントまではあと少しだ……

 他の建物への被害を出さないように少し回りくどい道を経由して‥残り弾数が一桁になった所で目と鼻の先まで接近する‥

 器用に、ギリギリで閃光弾を放って機体を90°跳ね上げる‥するとそのトカゲは壁に突っ込んだ。

『‥お疲れさん、あとは任せてっ!』「お願いっ!」

 誘導に成功したところで咲ちゃんにバトンタッチすると、起き上がったそのトカゲに真正面に飛び込む────────

火炎ヲ(ファントム)纏フ幻影(ブレイズ)ノ翼よ(フリューゲル)……悲しき獣をあるべき姿へ。

 コール・クルリア・クラシカル‥戻す力をこの手に宿せ……

 遺伝子結晶(マギア・クリスタル)記録種(カインド)電撃大蜥蜴(エレクトリザード)、封ッッ印!」

 ──-刀を差し込み‥そのトカゲにヒビが入って割れる。

 丁度1曲分‥4分半でこの件は解決した。

『ミッション、コンプリートです』『了解‥作戦行動終了、帰投しろ』

『りょうかいっ?』

 咲ちゃんが相槌を打つ特に何か違和感を感じたみたいだ。

「誰っ!?」「‥流石は獣‥気づいたか」

「私は獣じゃない……人間だっ!」

 咲ちゃんの元にフォイエルが現れ、そのトカゲのクリスタルを狙う。

「──-あぶねぇな、だが‥ソイツは狙っていたクリスタルだからな」

 咲ちゃんに敵の手が迫り‥1対1の攻防を繰り広げる‥降りて助けに行かなきゃ‥足手纏いかもしれないけど。

 そう思った矢先、何かの弾で被弾した。

「ッ! ……誰だっ!」旋回してその方向を見ると‥そこには‥

「黒い‥機体?」

 同型と思わしき機体がそこに居た。

「なにあれ‥」『司令、攻撃許可を!』『落ち着け! 澪』

 海堂司令が止めたけど‥時すでに遅く、その機体は私達の2機に対し、器用に間をすり抜ける様に発砲する‥そして‥例の機体から手足だけが生えたフォルムの状態になり、私に遅いかかってくる。

「ちょっ、どういう事!」「兎に角‥逃げるよっ!」

 一体全体どうすれば・本格的な交戦は経験がないため、交わすのが精一杯で全く反撃できない。

『海堂司令、撃墜してもいいですか!』『だから落ち着け! ‥って言って聞く気はない様だな‥自分で考えろ』

『────-わかりました』

 澪はエクステンドエッジを開き、こちらへ突進してくる……

『──ドライブ‥イグニッション!』

 その攻撃は見事に交わされ、2機がスレスレをすり抜けた所を踏みつける様に蹴った。

 上側だった空音たちは、通り過ぎたが、私たちはそのままビルへと突き刺さる様に墜落した。

「っと‥アンタのお仲間が降ってきたか‥」

 咲ちゃんとフォイエルはビルから退避して下敷きを免れたが‥乗っていた私の意識はここで途絶えた。

 ・

 ・

 ・

「キョウカ‥ライト‥」「おっと隙だらけだ?」

 ビルの方を見つめて‥呆然としているとクリスタルをフォイエルにくすねられた。

「しまったっ!」「じゃ、またな」

 また美味しいとこは持ってかれた‥悔しいけど、あっちの安否確認のが大事だ。

「二人とも! 大丈夫?」

 武装を解除してその機体の突っ込んだ場所を確認する‥幸い燃料が燃料なだけあって爆発の恐れはない‥

 重たいキャノピーを持ち上げて見ると、中には気絶したキョウカと、奥には、荒く息をしているライトがいた。

「片方は脈拍正常……呼吸あり‥もう片方は息切らしてます‥ですけど、骨折、捻挫等はしてないみたいです‥」

『‥ひとまず基地まで二人を運んでくれ、機体は回収班を送る』

 真也さんのハイパークッションスーツがあるとはいえ、この子‥どこまで丈夫なんだ? 

 響花は、あの高さから落ちてもなお、眠っているように気を失っただけで済んでいる。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 目を覚ますと、無機質な天井が目に入る‥すぐ横では空音とライト‥それからミラの3人に囲まれていた。

「大丈夫? 記憶ある? 痛いとこない?」

 ライトが心配そうに聞いてくる‥少し泣き出してしまっている彼も彼で、手当てされた跡がある。

 そっか、私‥乱入してきた通り魔に墜されたんだ。

「とりあえず、キョウカさん‥立てますか?」「まあ‥一応‥」

 ちょっと痛いけどなんとか立てる、歩ける、とりあえず自力で愛緒のとこまでは行けそうだ‥その様子を見て、ライトとミラはほっと息を吐く。

 だけど空音は‥

「──-この程度で済んでるなんて、あなたどんな体してるの?」

 と冷たく言い放った。

「──-そこまで言わなくても、助かったことを喜ぶべきでしょ?」

「でも、やっぱりこの子……何か怪しいっ‥やっぱりあなた‥作りm‥」「ミオ!」

 手が出そうになったところでミラが止めた‥そして私に謝りながら空音を連れ出そうとしたところで、咲ちゃんがやってきた。

「おや、お取り込み中かい? 邪魔し‥キミらなにしてんの?」

「丁度いいところに来ましたね‥やっぱり天音‥何か変じゃないですか?」

「まー確かに丈夫過ぎかもねー、だけどタフなのに越した事ないじゃん、私なんか紙装甲だもん、そんな事よりお二人さん──-」

「話はまだっ!」「落ち着きなさいミオ!」

「黙ってなさいっ! ミラージュ=エルフ!」

 咲ちゃんは二人をスルーして話を始めた。

「堕ちた機体のことだけどさ‥真也さん修理ついでに解析始めちゃって‥1週間じゃおわんないかも?」

「ええ‥」「てな訳でしばらくは地上班に回ってほしいから‥治り次第訓練ね♪」

「容赦な‥‥てか海堂司令が?」「知らないの? あの人技術者だし、渡米して飛び級して16で博士号取ってるし‥何故か医師免許まで持ってるような人だよ‥オーパーツとか変なもの渡すとすぐ解析して改造しちゃうから」

「‥マジで?」「うん、大マジで」

 この組織‥やっぱり変人だらけだ。

 ・

 ・

 ・

 それから少しして、午後19:00ごろ

 一応この後基地での夜間、深夜待機から私が外れ、咲ちゃんが付いた……そして、ライトとミラが書類処理に回って、私たちが帰された。

「────-ねぇ、空音……今からでも、行かない?」「……」

「いくって‥どこによ?」「プレゼント選び‥してたんじゃないの? ミラの」

「ッ‥誰から、聞いたの?」

 しまった‥颯さんから聞いたのを自分でバラしてしまった。

 正直に謝ろう。

「ごめん、空音‥あの時なんですぐ行っちゃったのか気になってさ‥それで、颯さんに聞いちゃったんだ‥」

「──-親切ね、あなたって人は‥お言葉に甘えない方が恥ずかしくなってきたわ」

 返ってきた答えは意外にも程があった・

 コイツの口からこんな言葉が出るなんて‥

「いい機会だし、付き合って頂戴‥電車の時間までだけど」

 素直じゃないなぁ‥だけどそれがこの子らしさなのだろうか? 

 

 

 少しして、昨日のアンティークショップに訪れる。

 閉店間際だからちょっと申し訳ない気持ちになるけど、一緒に売り場を物色する‥だけど────-

「……」「……」

 驚くほどにお互いが交わす言葉は少なかった。

「天音」「なに?」

 恐る恐る空音が聞いてきた。

「天音は‥何貰うと嬉しいの?」「それ? 」

「ええ」「参考にならないと思うよ、こういう時はプレゼントに意味込めたやつあげた方がいいんじゃない? 、キミはミラにどんな気を抱いてるの?」

 空音は小難しそうに考えた後、小さな声で自信なさげに答えた。

 なぁんだ、可愛いとこあるじゃん。

「──-なるほどね、だったらさぁ……」

 結局この日のうちに、彼女は結論を出さなかった。

「──-つ、付き合ってくれて、ありが‥と」「いいよ、これくらい」

 改札の前で、馴れ初めカップルの様な会話を交わししまう、だけど、このまま帰ろうかと思ったら、彼女は私を止めた。

「──-ところで、悔しくないの?」「なにが?」

「あの黒い機体に墜とされたこと」

 そんなタイミングで聞く奴がいるか? 

「────-悔しくないわけないじゃん、でも、過ぎたことはすぎたことなんだし‥次、こんな事なければッたっ!」

 空音は私の足を踏み付け、「このお人好し、あなたには、戦士の自覚がまだないようね」と耳打ちして改札を抜けて行った‥どういう意味なんだ? ‥なんで今なんだ? 

 この日は、そんな疑問符だらけの1日だったと記憶してる。

 ・

 ・

 ・

「‥やっぱり、いける」

「‥お前の仮説は合ってたみたいだな」

 to be continue




次回予告
 空音が言った言葉の意味‥それがわからないまま休日を迎える。
 心に刺さったモヤモヤは、晴れそうにないまま、また街に魔の手は迫る、まだ修理は終わってないのにっ! 
 次回、第14話「蜃気楼の歪曲(ミラージュ・ディストーション)
「相談乗ろっか? キョウカ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#14 蜃気楼の歪曲(ミラージュディストーション)

じゃあ、前回のおさらいいってみよー!
「プレゼント選び中の澪に遭遇したキョウカ、だけど何故か避けられちゃって。」
そのあと、なんとかその原因は分かったけれど・・・
「あの言葉、どう言う意味で言ったんだろ?」
とりあえず、今回も始めようか


 5月10日、teem Key基地内、談笑室

「___って言われちゃって、ここ最近ずっと……モヤモヤしてるんです」

「戦士の自覚ね……そんなの私はないや」

 お八つ時の頃、私は、咲ちゃんに相談を持ちかけてみた。

 だけど、咲ちゃんは答えを教えようとしない。

「戦士の自覚なんて後からついてくるものだし、キョウカがお人好しだとはあまり思わないかなぁ‥っていうか、そんなの気にしたら負け」

「気にしたら負け‥ですか?」「うん」

 相槌を打つと同時に、彼女は林檎をかじる、この話を聞いてる間に皮を剥いて切ってはご機嫌に食べている。

「うーん‥」「それに、多分この問題は‥キョウカ自身で答えを出すべきだよ、きっと」「私自身でか‥」

 私はため息を吐き、林檎に手を伸ばす。

「‥皮ごといかない方がいいよ、それ、輸入品だから」

「これワックス塗ってあるやつか」

 差し出されたナイフで皮を剥いでいく、やらないうちにこれ下手になっちゃったなぁ。

「まあ、とりあえず‥そんなことを考える前に、まずはキミ自身が強くなることの方が先だよ、とりあえず、バディの天使くんには追いついてもらわなきゃ」

「頑張りまぁす‥」

 不味いとまではいかないけれど、この林檎、ちょっと苦く感じた。

『続いては、最近徐々に話題になりつつあるオーシャンジュエルに関する情報です』

「……これって」「ん‥咲ちゃん? どうかした?」

 咲ちゃんが垂れ流していたニュース番組をじっと見つめる。報道の内容は、海底や、砂浜などから見つかった宝石を売り捌くビジネスについてだ。

『────-最近では、一番地域で漁獲された魚の中からも見つかり、突然現れた財宝だと言う声と、それを危険視する声がSNSで飛び交っています──-」

「どっかの金持ちがばら撒いたのかな……」「いや、違う‥きっとこれ、エヴォルスコアの船から落ちた遺伝子結晶(マギア・クリスタル)だよ。

 仮に大航海時代の難破船の宝箱が腐敗したって言っても浮いては来ないはず……」

「ちょっと待ってよ! そのなんとかクリスタルだったら、この前の蜘蛛やトカゲみたいなのが‥」「流通すればするほど出現頻度は上がるだろうね‥仮にこっちの世界の他の国に魔導師が一人ずつ居たってカバーするのは難しい量になるよ」

「‥ほ、他の国にもいるの!?」「うん、なんで私がここに居るかって言ったら臨時でこの異質物を対処できる人を置いとく必要がるから、私がそのまま日本を担当してるわけで、だからアメリカにはアメリカ担当の方とかが居たりとかするわけで‥いないとこには別の場所の人が時間かけて飛んでくんだけど」

「咲ちゃんがいる組織ってそんなにおっきいんだ……」

「まぁね……とりあえず、今すべきことはわっ────────」

 咲ちゃんは立ち上がって指を鳴らす。

「────────情報は足で稼げ、かな? ‥着いてくる?」

 

 

 

 その頃、街では影が暗躍していたわけで‥‥

「‥該当しそうな気配がより探し辛くなったわね‥」

「……」

「ただ、他の世界と違ってここではあまり派手な事はするなって言われてるけど、やっぱり、大暴れさせる方が性に合うっていうか‥」

「‥‥」「ちょっとはしゃべったらどう?」

「‥翻訳機が少し気持ち悪くてなぁ‥」

 屋上より、地上を見つめ、何かを探す二人‥お目当ては、遺伝子結晶(マギア・クリスタル)だ、それも特定の種が記録されたもの‥

「‥あのトラック、あぶなげな香りがする‥ビンゴかしら?」「襲ってみるか?」

「ええ、目立たなそうなあの角でクラッシュさせましょう」

 観察を止め、トラックの前に彼女が立ち塞がり、急ブレーキを掛けたあと運転手がドアから怒鳴るが、怪力自慢の相方が荷台をこじ開け、中身を漁る……そして、箱を一つ奪い取ると、そのトラックを蹴って横転させて、その場を去った。

 

 

『────と言う車上荒らしが発生したらしい‥遭遇しないように警戒してくれ』

 さっきのことは、警察から情報が入ってすぐ、私たちに共有された。

「了解です。‥とりあえずライト、何か見つかった?」「全く‥」「でも興味深い資料は沢山あるね」

 私たち3人は、私とライトが出会ったこの場所に訪れていた‥てか携帯は通じないのに、真也さんの通信機は電波が通るなんて‥なんか不思議だ。

「あと怪しいのは……この最下段か」「うっ……」

 あの忌々しきあれが掘り出されるのか……

 咲ちゃんが一枚一枚紙束を退けると、躊躇なく取り出して、床の上に無造作においた

「……もしかして、あれかな? ‥竜骨文字(リザリグリフ)かな? 、竜国家リジェロガルテとか古代ウィードルダの文字っぽいね‥」「すごい、なんでわかるの?」

「私の育ての親がさ、考古学者兼、図書館司書長だからね‥古代文字の種類までは見れば当てが付くけど‥流石に読めないや」

「じゃあ、意味なくない?」「あるある、これだけで解析、解読、意訳までの行程を少しでも減らせるんだから‥」

 咲ちゃんは鞄から手袋を出し、丁寧にガラスの蓋を退ける……

「とりあえず、ちょっとだけ中見てから、運搬しようかな……」

 ちょっと吐き気がするような感覚はまだ感じる、だけど‥蓋がなくなった途端‥無意識に表紙を見つめてると指先が触れていた。

「コラっ! 異質物かも知れないから、下手に触ったら‥ってキョウ‥カ?」「!? ……どうしたの? ‥目が‥」

 私がその紙の束を触れると、目の前が真っ白になった……そして、微かに誰かの姿と声がする……

「私、やっぱり踊りたい‥あなたの歌で舞って、風を切らせてよ!」

 誰……? 

「戦いじゃ足手纏いかも知れないですけど‥僕を受け入れてくれる人たちの、役に立ちたいんです!」

 また、知らない誰かの、姿と声が聞こえる……

「I want to protect everything(キョウカが私に教えてくれた世界を) that Kyoka taught me(一緒に守りたいの)So . shouldn't you come? (だから……着いてっちゃ、ダメ?)

 ‥英語? 

「僕がみんなの、盾になる‥だから、逝かせない」

「確かにアンタのことは嫌いだ‥でも、この世界は、消えてほしくねぇんだよ!」

「お姉ちゃんだって、私のだいじなひとなのっ‥だから……」

 この人達‥一体‥

 一人ずつ出ては消えてを繰り返した後‥

「響花」「キョウカ」「キョウカさん」「キョウちゃん」「キョウカ」「キョウカお姉ちゃん……」

 一人一人の私を呼ぶ声が聞こえる……そして、徐々に私の意識が薄れていって‥

「────────予言に記されしこの時間‥この時に、天秤のある地へと、向うものたち‥その一つに、大地引き裂く力求む、断罪せし邪悪あり。

 鍵に選ばれし守人たちよ、巫女の元へ集い、七,八の骸と、対応せし核‥を集わせ、一つとなりて──────」

「ちょっキョウカ、どうしたの? ねぇ!?」「キョウカ!?」

「……」

 視界がはっきりすると、二人はあたふたしている‥‥

「‥なんだったんだろう、今の?」「こっちが聞きたいって‥」

 さっき見えていた何かがなんだったかは、1秒、また1秒と絶えず薄れていって、数分後には何一つ思い出せなくなった……

「とりあえず、真也さんにも、一回みてもらおうか‥キョウカも、これも」

「いや、私は大丈夫だって、咲ちゃんの注意を聞かずに触っちゃったのが悪いんだし‥」

 そう言うと、咲ちゃんは手袋を取ってその本を触れる‥だけど……

「何も起きない、やっぱり、キョウカにだけ何か異常が……とりあえず、戻ろう」

 エレベーターへ連れて行かれて、中で沈黙が続き、地上に出て、サイドカーにその本を積むと目の前で火花が散った。

「────-この前の銀色くんたちか‥やな潜伏兵だね」

 咲ちゃんは、発進するのを辞めて、武力策に出た。

「ちょっと!」

「流石に避けつつ運転できる自信がないから」

「確かに、仕掛けたのはあっちだし、銃火器までなら正当防衛だよね!」

 ライトも加勢し、防弾チョッキも無しで応戦し出し‥ものの数分で、その金属人形を処理した。

「もしかして、キョウカが居ないと出入りできないあの空間にあったこれがお目当てなのかな?」「8割正解だ‥正しくは、Aの奏者もだが」

 私は背中から仮面の男にに捕らえられて‥人質に取られた。

「エヴォルスコアのAnker‥」「覚えられていたとはな‥」

 二人の視線が交わり、沈黙が続く……そして、仮面の男が私を突き飛ばしたのを皮切りに、咲ちゃんが武装し、目視できない速度で刃を交えた。

 だけど、すぐに、相手の刃は止まった。

「‥あのバカども、騒ぎを起こしたか‥勝負は預ける」

「‥逃すかっ! ‥?」

 Ankerが退散したと同時に、通信機が震え出す……

 ・

 ・

 ・

 その頃‥商業区では。

「────────ありがとうございました♪」

────────-(やっぱり‥これで‥)────────(でも、もうあるものを)────────────(あげても喜んでくれるかな?)

 結構あの店を訪れた空音は、その私が提案した物を買い、ラッピングしてもらって店を後にしたけど、少し悶々としていた。

──────────-(キョウちゃんにはちゃんと、お礼言わなきゃ)

 赤く染まった頬を隠しながら、ミラの元へ歩み進める……だけど、平和な休日は、この日はやって来なかったみたいだ。

 袖の中で通信機が揺れる……

「こちら05、要件は?」『非番のところ済まないが、出動だ』

「了解、場所は?」『ポイントk-81、だが一旦そっちから一番近い広場はあるか?』

「まさか、完成したんですか?」『ああ、ミラと颯もそこで合流だ』

「了解」

 澪は私達と同じ場所へ向かい、合流すると、空を見上げた。

「空音!」「ちょうどいい頃合いね……」

 合流した広い広場に、巨大なカーゴジェット? が舞い降りる……

『お待たせしました〜、さ、早くおいで』

 着陸したその機体の中に入ると、声の主である颯さんが待っていた。

「これ‥一体?」

「海堂司令が密かに用意してくれた大型輸送機、その名もキャリアペリカン‥MBみたいな巨大な機体は運搬が大変だったし、これまでみたいに高いとこから飛び乗るのも危険だからね‥」

 そう言ってる間に、空音とミラが一段下の層へと入っていく。

『ハッチ開けてください!』「了解、ハッチ展開‥空母形態へ移行‥滑走距離よし、周辺確認問題なし‥いつでもどうぞ!」

 外の外壁が折り畳まれて、変形し‥澪の機体が斜め上を向いていく‥こんな嘘の塊みたいな乗り物まで設計できるのか!? 

『MB-05ミラージュ=エルフ、空音澪‥行きます!』

 空音の機体が飛んでいき、指定ポイントへ向かい、こちらの機体もまた再浮上して後を追う……

「ホントにこんなの作っちゃうなんて‥で颯さん‥僕のは?」

「まだ出せないってさ‥急ピッチで作業は進んでるけど」「今回は見学か‥」

 

『目標補足、攻撃開始』

 示された地点では、ゴ○ラ体型な怪物が、一台のトラックを追っている‥

「咲ちゃん‥あれはどう?」「人造メタフルですね‥可哀そうですけど、殺傷するしか‥」

『了解、避難完了し次第爆砕しッ!?』

 空音の機体に何かが被弾する、怪物が挙げた咆哮はただの音波では無く、熱線と共に飛んでくる‥

 一撃被弾、まだ飛べそうだけど、勝てそうにはない、むしろ押されてる。

「空音‥大丈夫かな?」

「まあ、1機じゃ無理そうだね。颯さん、あれ、積んでます?」「一応あるけど」

「(やってみるか‥)ライト、キョウカ借りるね」「ちょっどう言うことっ!?」

 私は格納部へのシューターに投げ込まれ、いつもと違う機体のコックピットへ突っ込み、その数秒後に鍵が降ってきた。

「咲ちゃん? 、どう言うつもり‥」「いいから、同じ要領で‥」

「動くの?」「いいから……」

 何考えてんだろ……と思ったけれど、外からの声をほっとけなかった。

『っ‥私だけでもッ!』『ミオ、焦らないで』

「────-わかったよ! 、でも地上はいいの?」「そこは優さんたちがどうにかしてくれる、“あの人たちは、一度この世界を救った鍵の騎士たちだから”‥」

「────────よくわかんないけど、優さんたちがどうにかしてるんだね? 

 とりあえず、セーフティリリース、ユニゾンっ、ゴー!」

 私のと似て非なる鍵を突き刺して回す‥と、何故か起動し各操作パネルが光を灯した。

「ええっ?」「あれから実験を重ねてね‥私の魔力でもこのエンジン動かせるってわかったんだ‥さぁいくよ?」『じゃ、オペレートは僕がやるよ、ハッチオープン、カタパルトスタンバイ』

 目の前扉が開き、基地よりは短い滑走路が現れる。

「「MB(メロディックバーズ)-06フレア=フリューゲル、天音響花!」深海咲「発進!」」

 白いボディに赤いラインが入った機体を中に投げて、空に浮かべる‥その速度は私の機体より幾分か速かった。

『あなたたち‥なんで来たの?』『いいじゃないの澪‥』

「一緒にやろ? 4人なら早く片付く」「それに、力押しじゃなくインテリジェンスに戦おうよ」『‥‥』

 無線を介して二人で話しながら、怪物の周りをぐるぐる回るが、すぐに片腕が飛んできた‥流暢に話す間もなしか。

「とりあえず‥熱いけどごめんね!」咲ちゃんがグッと力を込めると、機体の周りの赤い光が火に変わっていき、さながら火の鳥の様に突っ込んでいき、ギリギリを交わしては炙っていく‥でも赤くはなるが溶けている気配はない。

「ありゃりゃ?」「頭のいい発想でいくんじゃなかったの?」

『そりゃそうでしょ、メタフルの体表は金属だけど、水銀と一緒で融点は低く、沸点が鬼の様に高い、気化させるなら陽が暮れる、しかも、ちょっと環境にも悪いね』「既に液体なの!? 、興味深い‥あれがどう言う分子構造で……」「ちょっ咲ちゃん、ストップ‥って来てるよ!」

 機体を一回転させて弱点を探るべく、近づいてひたすら撃ってみる、いや、とにかく装甲を削ろうとするけど、熱されたせいかさっきより速い、近づけない。

「錯乱させれたらなぁ‥ってキョウカ? 何歌ってるのさ?」「いや‥さ、集中してるとつい‥ね」「もう‥」

 いつも気がつくとそうなんだよね‥私ってばすぐ歌ってる‥すると、空音がこんなことを言った。

『天音‥あなたは、なんでこんな時でも歌えるの?』「なんでって‥なんでだろ?」

「とりあえず、集中してるんならいいや」

 空音の機体に近づき、2機並んで、スレスレで散開して間合いに入ろうとするが、うまくいかない‥もっといい方法がある気がするけど‥

 すると、空音は、陣形を崩した。

──────────────(集中‥無意識‥)自然体? ……』『ミオ?』

『二人とも、海に誘導して! 』

「「海?」」 『考えがあるの、付き合って』

 その声からは、確信を持った様な、意志が伝わってくる‥乗ってあげようじゃないか。

 怪物の頭部あたりを回って注意を引き、閃光団で威嚇すると、こっちについてくる‥そして、その裏で‥

 ‥『ねぇ、ミラージュ=エルフ、操作系統を全部委ねていい? ……』

 空音がそうミラに聞くと、見えない場所で、彼女は微笑んだ。

『わかったわ‥チャレンジしてみて』空音は頷き、シールドを操作系に設けられたプラグへ差し込み、思うがままに弾き出した────────

「空音? ────-」

 ────────すると、機体が光を放ち、海が凍てついて行く……あの光は確か‥最活性化状態(フルテンショニング)の時の光だと、真也さんが言ってたものだった。

 そして、無線越しに聞こえるギターサウンドと共に機体がこちらに来る‥

「考え読めたかもしれない……着火!」

 こちらの機体は対局の火を纏う、すると、実際の場所とズレた位置に私達が写り、その虚像を怪物はひたすらに殴っていた。

「あれれ? なんで検討外れなとこばっか‥」「蜃気楼ってやつだよ‥分かんなかったら後で一緒に辞書引こうか?」

 そして、空音たちの機体は、真っ直ぐに怪物を打ち抜き、赤いエネルギーの塊を露出させた。

「ふぇっ!」「金属はゆっくり冷やすと硬くなるけど、すぐ冷やすと脆くなる‥」

『協力ありがとうございます、だけど、止めまでやらせて‥』

 空音は弾くのをやめて、高らかに叫んだ。

「ドライブウェポン、エクステンドエッジ!」

 いつもの様に、パタパタと刃が展開していく‥そしていつもと違い、電気ではなく、冷気を纏っていた。

『じゃあキョウカちゃんたちは帰投して』「りょ、「了解」

『フィニッシュ……『イグニッション!!』

 刃を突き刺し貫通すると、怪物は凍てつき、ひび割れ、粉々に砕けた。

『任務完了……後、いつもありがとね、ミラージュ=エルフ』

『いきなりどうしたの? ミオ』『あのね‥あなた、今日誕生日でしょ』

『ええ、正確な日付じゃない、後付けの誕生日だけど‥』『そんなのは些細なことでしょう‥基地に戻ったら渡したいものがあるの』

『今でもいいわよ』『そうしたいけど、キャリアペリカン内部に置いてきたから、今はなくて……』

 二人はこちらへ戻りながら、そんな会話をしていた、無線切り忘れてるのか、なんなのか、初めて空音の素直な面を見た気がする‥最も、こんな顔が赤くなりそうな会話を盗み聞く形なのがなんか申し訳なくなってくるけど。

『中身だけでも教えて‥』『天音と選んだんだけど、お財布‥なんかいい意味らしいから』

 ちぇっ結局あれ買ってるんだ……

『実物を見るのが楽しみ……、それと……』ミラはここで、全て筒抜けだった事を悟り無線を切ってしまった。……

 

 

「いい音だったわよ……心地よかった」

「あらそう、思いつきだったけど」「でも、私の最活性化状態を引き出す鍵は、そこにあったなんて‥」「なら次も‥」「ええ、お願い‥あなたの奏でたい音を、私に聴かせて‥そうすれば、もっと、飛べる気がした」

「なら、いくらでも‥聞かせてあげる……」

 

 

 6年に渡り紡がれ、Eの鍵が結んだ絆は、この日、より強固なものとなった‥そして、この絆で結ばれた二人は、この後、何度も何度も私たちを救ってくれることとなる……

 それはまだまだ、近い様で遠い、先のおはなし。

 

 空音の機体が格納され、上に上がってくる‥あとは帰るだけ。

 なんやかんや一件落着……後ろに腰掛けて、上がってきた彼女に、「お疲れ、空音‥」と優しく声をかけてみたけど、帰ってきたのは長い沈黙と……

「やっぱり、あなたはまだ何も知らない、いや、忘れてる‥だけど、そうだからこそ、奏でながら、舞えるのね」

 

 そんな意味深かそうな言葉だった。

 

 to be continue

 

 

 




 次回予告
 さてさて今回のミッションは? 
「大型商業施設にて反応検知、今回は発動前に安全に回収するよ」
 って言う訳にもいかないみたいで、あっちはあっちで黙っちゃない! 
 大型商業施設内で、起こる相互追跡の決着はいかに?

 次回「モール・チェイス」
 走る走る私たち♪流れる汗は?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#15 モール・チェイス

さてさて、今週もおさらい行ってみよ〜!
「僕らはあの格納庫を漁って謎の文書を見つけた後、キョウカがちょっとおかしくなっちゃって。」
いや、違うんだって‥でもまあその後現れた巨大生物を前に、空音たちが覚醒?最活性化状態を引き出すことに成功!
「かなり心強いね。」だね。


 少し前……前回の出動時

「囮は上手く動いているようね……」

 あの怪物と戦った裏で蠢めくのはあの2人……その目的は、クリスタルの回収だったが‥その手はすぐに阻まれた。

「これでひと……っ?」「間に合ったな……」「いやぁ、わかりやすいところに……」

 バイクで駆り、その場を抑えたのは、銀と白の鎧を纏った‥さながら騎士の風格をした二人組だった。

「まさか‥あんたが噂の……」「ああ、この世界の都市伝説で語られる、仮面を被った戦士ってとこかな?」

 二人は構える、騎士たちも構える……

「流石に互いの名を名乗らずに遣り合う気じゃないだろうな?」

「何故そんな事……無駄な……」

 刃同士がぶつかり、音が響く……だが、彼らは余裕な素振りで抑えた刃を返した。

「人ってさ‥死んで残るのは名だけってのに……勿体無いね」

 抜群のコンビネーションで制圧したのち、二人の騎士は宝石を拾い上げる……

「……この強さ‥一体?」「‥さあな?」

 あっという間に決着を着けて去ろうとする彼らに、なす術ないまま、去っていかれてしまった……

 

 

 

 

「‥あの騎士と言い、魔導師といい……」

「あなた方がが力量不足なだけではないか? だが、ヴォッサ、お前の怪力でどうにかできる相手じゃないのか?」

 船の二人の、ガチムチな方は何も言わずに己を指差した。

「邪魔なら再起不能にしてやれ」

「フレイル、それは我々の思想には反するのでは?」

「武力を振るう相手だ、遅かれ早かれ消すべき相手だからなぁ……」

 指揮権を渡されたフレイルはそう軽口を叩くが、アンカーは違った。

「確かにあいつは今、本来の武具を扱えない‥一見チャンスに見えるが、彼女‥いや、“あの獣の片方”だけだが、十分にしぶとい」

「どう言う意味だ? アンカー」「まあ、息の根を止めてみろ、そうすればわかる、ただ、派手にやるな、あいつは地味に殺せ」

 こう忠告した後、すぐに彼は部屋を後にした。

「地味に?」「どういう事だ?」

「アンカーのヒントは間に受けるな、アバウトなことしか言わないやつだからな。

 兎も角、エサ見つけてある、行ってこい」

 

 

 

 5月中旬ごろ……

「起きてる〜? ‥相変わらず器用だね」

 あれからそろそろ1ヶ月近くが経ち、私は────────────-

「はい、わかりました、メディカルチェックとかも受けないとですからね……いえいえ、ちょっと寂しいですけど、永遠に来れないわけじゃないですし、分かりました、手続き等々ありがとうございましたm(--)m、はい、失礼します♪ ……あっ! おはようございます♪ ユキさん」

 ────────獅童家の皆様のお厄介になる形で数週間をすごし、そろそろこの土地とも、しばしの別れかと言うところまで仕事の引き継ぎが終わっていた……

 という訳で、机の下で淹れていた紅茶のマグカップを右足で取り、手に持ち替えて少し啜る、まだまだ熱いや。

「お仕事も随分とできる様になったんだね‥」「もう、ただの景色が好きで旅好きなだけの女の子じゃないですから」

「頼もしくなっちゃって、“背丈も見た目も変わらないのに”中身はすっかり大人だね」

 そう言われると少し顔が赤くなってしまった。

「そういえば、“私が15の時”ですもんね、ユキさんたちと知り合ったの」

「うん、あれからもう2年ちょっと‥気が早いけど、また遊びにおいでよ?」

「もちろんきますよ、日本には、大事な人の家族だって住んでるんですから」

 やっぱりいろんなところ行ったけど、やっぱり日本はのどかで大好きだ。

「じゃっ、朝食べて、今日のお仕事行こうか?」「はいっ!」

 ・

 ・

 ・

 同時刻、燈ヶ浜商業区……

「────────情けない欠伸して……どうした? 寝不足?」

「いやさぁ……なんかまた変な夢見てさ‥寝付けなくって」

 日曜日の早朝、青空の下で今日もお仕事……てな感じできたはいいけどさ……

「──────-‥ねぇライト‥」「なぁに?」

「暇」「仕方ないって、警備と巡回も僕らの大事な活動なんだから‥」

 てな感じでほぼ立って見張ってるだけの状態。

 私たちが何故こんなところに繰り出されているかというと‥私たちチームkeyはああいう武装組織であるんだけど、当然自衛隊と別に存在できる訳がちゃんとある。

 ……この話のどこが繋がるのって? 最後まで聞いて。

 一応私たちは名義上、対テロリスト及び特別災害対策組織として存在が許可されてる都合上、こう言う大型施設の警備、巡回をしなければならない‥

「まだ優さんたちに扱かれる方がましだぁ‥」「嘆かないの、僕らが暇してるってことはすごくいいことなんだよ」「わかってるけど‥」「‥ご苦労様です」

 私服警備員の方に声をかけられて、すぐに「そちらこそ、ご、ご苦労様ですっ!」

 とオドオドしながら返した。

「私たちって一般公表されてないのに、意外と‥」「うん、警察と自衛隊には僕らの存在が漏洩厳禁の情報として共有されてるからね」

 そう言えば七音遊撃隊(オクターヴ・ウィングス)のことはよく母さんに口止めされたなぁ‥

「とりあえずキョウカ、ミオから連絡があるまでは、我慢して」「はぁ‥了解」

 嘆く私は、空音たちの作業完了を待ちながら、空を仰ぐのであった。

 ・

 ・

 ・

「あれか‥」「あの奥ね……」

「お前ら、あの女に囚われすぎじゃ無いのか?」

「不服そうね、フォイ」「知るか」‥

 少し遠くから出てくるタイミングを見張る影三つ、もはやお馴染みになっている彼らだが、一人、何やら様子が違った。

「あの女、殺して金になるのか? 、目的に近づくのか? ‥」

「うるさいわね、あなたは黙って従いなさい」

「‥なんか変な気分だ、今日ばかりは報酬がどうでも良くなってきた・」

「どこに行くの? 、フォイ‥あなたも止めなさい!」「oh.」

 フォイエルは二人から離れ、やーめたっ、とでも言いたげに飛び降りて、自由に散策し始めた。仮面は被ったままのため、かなり怪しまれてるけど、そして‥しばらく歩いた先の噴水広場にて──────────-「.識別コードdaughter……いや、シャーキィーとか言ったか?」

「ッ!? フォイエルっ? ‥こんなところでッ……後私はサキ! っちゃんと覚えて!」

 ────────キョウカたちと合流する為に訪れた私と鉢合わせた。

 

「おいおい、警戒するなって。命令もねぇのに丸腰のお前は狙わねぇよ」

「なんだ、ちょっとは常識あるじゃん」

 私は構えるのを辞め、両手を下ろす、だが、お互い蛇と蛙の様に睨み合い、互いに冷たい視線を向けた。

「まあな、だが、あんまり情報は吐かねぇぜ」

「だと思いました。‥」

 ため息を吐き、少し瞬きすると、彼の姿は、私のすぐ隣に居た。

「何か御用ですか? 、ないなら行きますけど?」

 すると、耳元でやつは囁いた。

「よく聞け、お前を狙う影が二ついる‥警戒しな、俺と遊びたいならな」

「それ、どう言うこっ……」

 真横に手を回し捕まえようとするが、今度は背中に彼がいた。

「一度しか言わねぇよ、それにな、あんまり怒られることはしたくねぇんだ、俺は飯で雇われてっからな、食ってくためにゃ、楽しくねぇことしなきゃいけねぇ……だからこそ、いい玩具は残しておきたくてな」

「ッ! 人をおもちゃ呼ばわりっ? 、ちょっと大人しくしてもらおうか!」

 逃げて行こうとする彼の手を掴み、反対の手を握れるだけ握りしめて一発やろうとしたとき、目の前が真っ白になった後青いもやっとした人型のようなビジョンが見えた。

「────────なんだぁ‥今のは」「っあ! チャンスッ……」

 視界が戻ると、彼も同じ場所に居たが、手を振り払われそのまま逃してしまった。

 ────-にしても、今見えたものに見覚えがあった‥だけど、そんなはず‥ないよね、絶対‥あの子はもう……いないはず‥‥なのに。

 脳裏に蘇る苦い思い出、あの10月がまた、私の中で蘇っていく‥鮮明に、はっきりと‥だけど、その回想を引き裂く様に‥通信が入った。

『咲ちゃん? 今どこ? ‥もしかして緊急事態?』

「ちょっと前までそうだったけど、治ったから、そっち向かうね」

 フォイエルの忠告も気になるけどとりあえず、戻らなきゃ。

 

「とりあえず、回収したクリスタルがこれです‥」

「OK、ちょっと確認するね……」

 右手で静かに目を閉じて鑑定してみると……多少だけ魔力を感じる‥他人の意思なしに発動する可能性は十分に有り得る程度の力を……。

「ここだとたまたま発動しちゃう事もあるからね‥何事もなしに回収できたのはラッキーだったね。じゃあ、始めるよ」

 息を静かに吸い、大きく吐いてから、呪文を唱え始めるが……澪は何かの違和感を感じたのか、耳を澄まして警戒し、それに気がついた響花の声で、私も気がつき、詠唱をやめてしまった。

「空音?」「……」「澪、何か聞こえた?」

「何かが、来る」と告げようと口を開く……だけど、もう遅かったようだ。

 私のてのなかにある緑色の小さな宝石を、頭上から近づいてきた影が奪い去る。

「‥これはあたりね」

 そう‥その頭上を横切ったカゲは‥よく知った人物だった。

「ブレッサ‥あなた……」「これは戴くわね」

 立膝の体制から消える様に彼女が姿を消す‥いや、東へ走る‥追いかけないと! 

「みんな追って! 、逃したらまずいっ!」

「OK‥いくよっキョウカ」「私いない方が速度出るんじゃないの?」

 緊急事態につき、ライトは上着を脱ぎ捨ててキョウカの手をとって空へ舞った……でも、騒ぎを大きくしてくれた方がこっちも追いやすい! 「風音を越す音速の銀狼……来よ、翼狼ウィンドルガ! 従獣召来!」

 残る二人を置き去りにし、私はウィンドルガに跨がって、先回りした。

「いい加減にしてください、窃盗の現行犯で捕まりたいんですか?」

「そんな気はないわよ」

 彼女は余裕そうな表情を見せると、宝石を私の後ろに投げた。

「っ‥ヴォッサ!?」

 ラガーマン体型のアイツが受け取り、逃ていく‥もう‥そう言う連携プレイは厄介だぞ? 

「……見つけたっ! ‥パラライザーON……ありゃりゃ?」

 ライトの手から離れて行手を阻んだキョウカ、だけどトリガーロックを解除し忘れる凡ミスだ……

「そりゃハッタリか?」「甘いっ!」

 ライトが急降下して、後頭部付近に蹴りを入れて着地した、それで怯んだアイツの手から宝石も転がり落ちてナイスフォローだ。

「もう、バカキョウカ」「ごめんっ‥ドジやった!」

「掴めた‥あとは‥」「ミラ、こっちにパスして、足は私の方が速い」

 ミラが宝石を拾い澪へと投げるが、その軌道を遮ってブレッサがそれを掴み2階へ跳んだ。

「ウィンドルガ、交代……おいでっラープリューム!」

 ウィンドルガを小さな宝石に戻して、今度は赤い宝石を掲げて、あの鳥を呼び、背中に飛び乗る。

 流石はラープ、私が雛から訓練させてた甲斐あってか、看板や入り組んだ道を器用に避けて追尾する……アイツが見えてきた……

 銃を構え、行手に一発、さらにあえて外した位置へ数発威嚇射撃した後、階段を用いて彼女が逃げて行った3階へ、策を飛び越して飛び乗るが、服の裾を掴み損ねてまた逃した。

 ・

 ・

 ・

「全然いない‥やっぱり凄いや‥咲ちゃん‥」

「ええ、あんなに走り回って、まだ体力が残ってるなんて、子供みたいね‥」

 ・

 ・

 ・

「しつこいわね‥」「私はしつこいのが売りなんでねっ」

 4階のとある吹き抜けに出たところで彼女は1階へ飛び降りた、すかさず私も続いて飛び、指笛を吹く。彼女の方向に視線を向けながら、ラープの背中に彼女もろとも乗せて羽交い締めにするが、地面に向かって彼女は宝石を落とした。

「往生際が悪いっ‥」「あなたには言われたくないわね」

「って言うより、あなたたが何したかわかってるんですか?」「ただ落としただけよ?」

「あのクリスタル、封印が曖昧な状態なんです、もし、反応する人が居たらっ!」

「その時はその時よ」「ちぇっ……」

 ・

 ・

 ・

 ・

「見つけたっ! ‥キャッ!」

「まずいことになったぞ‥」

 私は空音に言われた方角を辿って、見事に咲ちゃんが落としたであろう宝石を見つけたはいいけど、真向かいにはさっきのムキムキな人が居た。

「‥※Be quiet……」「ッ……」

 逃げるが勝ちだ。そう判断した私は店舗からの脱出を試みるために、一番近い出口とは反対に走って、逃げ回る事にした。

「wait!」「待たないよ……」

 ひたすら真っ直ぐに道を突っ切る様に走る……だけど、目的の出口に近づくほど、人混みが険しくなる……満員電車並みにごった返す人の群れで足の速度が落ちる‥そのせいか、人混みを問答無用でかき分けて来たあの男がどさくさ紛れに私を少し高級な被服店へ突き飛ばし、私の体がマネキンをなぎ倒し、商品に蹲ると、聞き覚えしかない声がした。

「随分滑稽な姿ね、骨折れてない?」「空音?」「静かに」

 空音は棚の横あたりにから、右手を出して左手の平を指指す、ジェスチャーに込められた意味は、「私が持って脱出する、あなたは囮になりなさい」だろうか? 

 そうだと信じ私は宝石を託すと、空音は真っ先に出口へ走っていく‥そして、やってきたガチムチ男は私の胸ぐらを掴んで持ち上げるが、当然、降ってもポケットを漁っても目的の物はない‥さあ‥どうでるか? 

「残念でした〜」「……? ……」

 これで解放してくれれば良いんだけど……と期待したが、そんな事はなく、彼は私を高く掲げた。追ってきた咲ちゃんに私を提示した様だ。

「? ……つまり? ……」「私を解放しなければ、あの娘がどうなっても知らないってことよ」

「……人質の交換って訳ね‥」

 すると咲ちゃんは自らの身ごと彼女を抱えて舞い降りて────────「ただで返すと思いますか?」────────仮面の位置を狙って蹴りを入れる、見事なクリーンヒットして私は真下に落ちた。

「ごめんねキョウカ、両手塞がってたからさ〜」「‥‥もー、めちゃくちゃ怖かったよぉ……」肩の力が抜けてその場にぐたっ、と倒れ込む‥とりあえず、空音が無事だといいんだけど……

「エヴォルスコアのヴォッサとブレッサ……特別指定異質物の不当な持ち出し、及び、テロ行為、及び……」

 咲ちゃんが罪状を読み上げながら頭を強打したであろう2人に手錠を掛けようとするが……2つ‥不都合が起きた。

「……ッ!? 、まさかっ?」

 一つ……さっきのクリスタルが発動し……空に大きな、怪鳥が現れた……

「咲ちゃん、アレって……」「発動しちゃったか……誘導して、強制封印するか……」

 二つ……さっき蹴ったあの仮面の亀裂が、妖光を放った……

「……グルルァァ……」「なっ……嘘でしょ……」

 

 To be continue

 

 




次回予告
 まさか、戦いになるなんて。
 結局発動してしまったクリスタルをかけて乱戦が勃発。
 必死で戦う中地と空の争いが、悲劇を産んだ。
 次回「兆しと悲劇」
 天音と空音で、張り切りますっ! 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#16兆しと悲劇

追いかけ迷い込んだこの土地で…新たな出会いと懐かしい顔に包まれて過ごしてきたこの1ヶ月。
事件を引き継いで帰る算段が経った頃だというのに、この日私には‥ここから1年を棒に振る決断をするキッカケができてしまうのだから。



 同日……

「……イカれた耳の持ち主でも、待ち伏せには弱いようですね」

「ッ……!」

 澪が逃げ出した先で待ち構えていたのは……あの組織の一員であると同時に、指揮者であるフレイルだ。

 遭遇した途端に彼女は銃を抜き、発砲するが、その姿は突然と消え、駐車場のアスファルトに跳ねた弾が、快い音を立てる……

「消えた……いや、居る」

 虚空に弾を放ち、音の帰りを聞く……前後方向には居ないようだ……でも左右を確認する間はないが……右側から微かな異音を感じて、反射的に屈むと、頭上をフレイルが通り過ぎていく……

「ギリギリ‥ッ」「流石に近接戦ではこうなりますか……」

 振り返ってその方向を見ると、彼は懐から私が持っている鍵の様な外観の真っ黒な物をだして、奏でる‥

白鍵(ヴァイス・キー)? ……ッ何? ……この音……」

 その音に呼応する様にさっき回収した小さな宝石が光を帯びて、浮かび上がり……生物の形を象ると、彼は演奏をやめた。

「さて、質問に答えましょう‥これは白鍵(ヴァイス・キー)と対を成す五つの鍵、黒鍵(シュヴァルツ・キー)の一つ……そしてあの曲は“awake”のメロディ……つまり、目覚めです」

 光が大きくなり、駐車場の上空へと巨大な怪鳥が現れた。

「……巨大戦力がない時に‥」「さて、どう遊んであげましょうか?」

 ・

 ・

 ・

「あれって……」「発動しちゃったか……誘導して、強制封印するしか……」

 ……さっき蹴ったあの仮面の亀裂が、妖光を放った……

「……グルルァァ……」「なっ……嘘でしょ……」

 野獣のような声を上げて、野獣のようにこちらを睨む‥並の人間なら容易く背筋を固めるであろう……

「‥仕方ないけど、キョウカ‥ライトと二人で行って」「でも‥それじゃぁ‥」

「分かってる、だから‥」私はポケットからパック型電池のようなものを二つ投げ渡した。

「‥カードリッジ?」

「持ってって、不完全だけど一時的に封印かけられる‥だけど、使い切りだから‥外さないでよ?」

「……わかったよ、じゃあ、地上はお願いっ!」キョウカが走り出したのを見届けて視線を戻すと、あの体は少し変体していた。

「こうなったら、私の手には負えないわね……」「どう言う事です?」

「……そいつと遊んどけば解るわ‥じゃあ、また」「待った! ッ……」

 お付きのもう1人、ブレッサは転移ゲートで逃げ、私は残ったコイツと対峙するが、全く正気ではなさそうだ。

「ガッ……aaa!」

 体を掴んで固めるつもりか? いや、本能的に動いてるだけなのか? 私に飛び掛かってくる……

「……シャイニーウィンガー、ブートオン!」

 武装展開して、刃の腹で受ける……両手を伝い地面へ逃げる衝撃はかなり強い……まともにやってたら、危ないということを、肌で感じさせられる……

 両足で下腹部を蹴飛ばして、脱出して少し様子を伺って見るが──-

「こりゃ、バケモノだ‥」

 ──-この一言に尽きる。

 しかも、奴は、まだ怯まない。まだまだ有り余る体力でこちらにもう一度向かってきた……ワンパターンすぎるっ……

come over here! (来ます!)」「闘牛みたいだね」

 起き上がり、2速歩行すらやめた彼奴が私を威嚇する……さあ‥どっちから来る? 

 ……僅かに動いた先は右……フェイントは仕掛けてなさそうだ。

 刃の向けて、すれ違いに切る算段で踏み切るけど、珍しく読みを外してしまった。

 私の身体は宙に投げ出され、立体駐車場へ放り込まれ、柱に身体が収まった……

「……とんだ、パワーおバカだね‥」

 •

 •

 •

 •

「おまたせっ‥って!」「邪魔が入りましたか』

 走って追いかけてきた先で、空音たちと合流しようとした矢先、空音は、黒い衣装の笛吹き男に襲われていた。

「空音に、手を出すなぁぁぁ!」

 ブラスターを乱射しながら、立体駐車場に飛び込むと逃げるように、彼は飛び降りていった。

「大丈夫?』「なんともない‥それより、一緒じゃないの?」

「一緒って‥あっ咲ちゃん? ‥取り込み中でさ」

 そう言うと、空音は睨むような目付きでこちらを見る‥また口論になるぞ……

「深海さんがいなきゃ、あれは封印出来ないんでしょう?」「そこは、大丈夫‥これ、預かってきたから」

 私は受け取ったカードリッジの片方を渡してこれがあればどうにかなると説明するたところ

「……とりあえず信じてよ、咲ちゃんのこと」「‥わかったわよ」

 言い合いも済んだところで、キャリアペリカンが現着し、颯さんの声が聞こえる。

『お二人さん‥早く登ってきな〜♪』

「でも‥まだミラとライトが‥』『大丈夫、もうこっちに居るよ』『行きましょう、ミオ』

「じゃあ、空にはライジング=エンジェルを上げて、私は、こっちから止めを」

「‥修理、終わってるの?」『バッチリだよ〜♪ キョウカちゃん、ライトくん』

「よっしゃっ、ならライト」『うん、サクッと終わらせよう!』

 ワイヤーで吊るされたリングに片脚を掛けて登り、内部シューターから移動コックピットへ行き……「セーフティリリース、ユニゾンっ! ゴー!」

 ────────『2番カタパルト展開‥発進、どうぞ!』

「MB-01、ライジング=エンジェル、天音響花「行きますっ!」」

 空中へ機体を投げ出して、翼を広げる……速度を上げ、目前の怪物‥いや、怪鳥を追って‥入り組んだビルの間を潜りながら頭部の発光体を狙うけど‥

「ダメだ‥定まらない」

 ビル街に現れてしまったため、下手に撃てない、それに……

「キョウカ‥どうかした?」

「あの子って、ただ自由に飛んでるだけなのに、‥悪いことしてないけど、撃たないといけないのかなって……」

 ────────私だって、避けられるなら殺生はしたくない。

「流石に、あのサイズじゃ日本の研究施設においとけばいだろうからね」

 サクッと終わらせようと言ったものの、引き金を引けない自分だって居る。

「……確かに、あの時の地龍とかと同じで目的はないかもしれないけど‥守りたいんだよね、大事な人を……」「うん‥」「なら、割り切るしかないよ……』

『天音……そこから左手側に誘導できる?』

「左? ……」『‥地図送るわね‥』

「この位置に?」『ええ‥』

 上昇して上から閃光弾を放つと、ついて来ずに離れていった‥なら、行く手を阻む形のの誘導か……

 着いてきてくれれば簡単だけど、あの怪鳥は少々臆病だったようみたいで‥これは時間も弾数も要りそうだ……

 ・

 ・

 ・

 ・

「お前に指揮権を渡したのは間違いだったみたいだな」

「Ankerですか‥ちょうど良かった‥少し手を‥」

「派手に暴れた挙句、尻尾を巻いたやつの意見はいらない」

 立体駐車場から離脱したフレイルはアンカーに止められ、睨み合った‥

「部下は仮面を破られて暴れ‥お前は放置して逃げた上に、例の回収対象で……」

「……正直言って‥あの神話の伝承を検証するより、壊して探した方が早いじゃないですか?』「確かにビジネスライクに考えるならそうだろうが‥必要以上の被害出すのは“憎き者たち”と同じだ」

「何を今更‥理想の達成には、犠牲は……」「もういい、お前は戻れ──────」

 ────────その頭上、数階上では

「交代だ、ブラッティ」「all right」「Get ready?」

 私と、野獣化したあのガチムチとの交戦が続いていた。

「現れよ‥強靭なる鎖……」

 周りの瓦礫から実体を持った鎖を作り、体を締め上げるが、奴が全身に力を込めて、さらに筋肉を隆起させると‥鎖が砕け散り、砂となった。

 あの筋肉からなる一撃、本格的に喰らいたくない。

「我乞うは光の刃……」

 ブレイドメイクで全身にソードビットを舞わせて、距離を離しては飛ばしてを繰り返す、でも‥速すぎる‥そのうえシャイニーとブラッティでは早さがトレードオフ若干装甲は厚くなるが、心許ない‥追いつかれたら終わる。

 妨害もいつまで通用するか……と思っていた矢先、身代わりにしていた柱のうち、一本が折れ、上の階の床が抜けた。

「しゃーなしかっ!」

 私はあの砂浜以来に二機を‥ブラッティウィンガーと、シャイニーウィンガーを重ね、音速を凌ぐ速さを手にし、その範囲を脱出した。

「are you ok?」「ダメ‥だけどやるしかないじゃん」

 魔力を込めた弾丸を浪費し、その魔力と体内の魔力を掛け合わせて起こした突風を用いて極限の移動速度を手にするブラストシステムを扱うと、やっぱり全身がバキバキになるから使いたくはなかった、だけど、もうこれしか思いつかなかった。

「ブラストシステム……イグニッション!」

 刀を鞘に収め、抜刀すると同時に竜巻のような風に乗って、奴と同等の速度で追い付き、背後から一閃‥することは叶わず、確かに私を視認し、刀が突き刺さると同時に、私を捕まえて投げた。

「がっ……ぁぁ‥みえっ、てたっ‥ぅぁ‥」

 直撃を喰らい、店舗側の壁に打ち付けられ、食道の中に上がってきた血を豪快に吐いた‥

 やっぱり‥アークがいなきゃ‥私は‥“あの子”が居なきゃ‥私は……

 意識が少しだけはっきりとした時には、もう‥目の前で刺さった刀を抜いて捨てた後、両手を組んで大地を蹴った後の奴が居た……

 次の瞬間には目の前で紅色の桜が舞い‥手足は萎えて力を失った。

 

 ──-あぁ、私“また死んだんだ”……こんなところで。

 ・

 ・

 ・

「‥空音‥そっちに真っ直ぐ飛んでくる‥討てる?」

『言われなくても‥やるしかないんでしょう』

 地上の空音は指定ポイントで、ブラスターにロングバレルとスコープストックを取り付けて伏せている。

『カードリッジ照合‥問題なし……風向きは‥』

 来るまであと数秒‥だけど、空音は目を閉じて、インカムを外した。

「来るよっ‥って聞いてる? 、ねぇ‥ねぇってば!」

 ちょうど頭上を通り越す手間で、目をバッと開き……迷いなく射った。

 確かに当たりはした‥でも、いつものようなヒビは入ってない……

「外し‥た?」 左右は完璧だった、だけど、上にブレてしまったようだ。

『空音‥空音‥っ!』「ごめんなさい‥さっさと交代して」

『‥わかった』

 私は少し弱った、怪鳥を横目にキャリアペリカン内部へ戻ろうとした矢先‥声が聞こえた……撃たれた鳥のような声が。

「まさかっ!」「この前、僕らを落としたあの!」

 黒い、1号機……それが、あの怪鳥を問答無用に撃ち落とした。

「折角傷付けないようにしてたのに……」胸の奥から湧いてくる何かに急かされるように、私は無意識のうちに、引き金へ手を掛けていた。「この子は‥あの鳥さんは‥傷つけなくてもいいでしょ!」

 私は黒い1号機へ舵を切り、機銃を向ける‥だが相手も上手い、巧みに交わしては、反撃してくる。

『颯さん、私も上がります!』『OK、コンテナ開けるよっ!』

 

 ──────────────────-

 

『天音! 落ち着きなさい!』インカム越しの声と共に、空音たちが後ろから来て、あの機体を攻撃する……

『冷静になりなさい‥もう一回落ちられたら困るから』「空音……ごめん‥確かにさっきのいい判断じゃなかったかもしれない‥だけど、許せないんだ、人であれ、怪物であれ、必要以上傷付いてほしくないんだ……だから、だから……」

 怪鳥の声は少しずつ小さくなり、あの機体は待たず迫る‥

「……やっぱり、やらせて、……ライト」「いいよ、付き合ってあげる」

『あらあら……』『まあ止められないとは思ってたわ』

 操作パネルに手を滑らす様にMDを再生して、一直線に風を裂き、正面から攻めて、スレスレを交わす‥そして、相手が先に旋回し、こちらが前となった。

「はしれ‥はしれ‥心に届く‥聞こえる、呼んでる……あの日の声〜♪ ──-」

 私が歌い出すと、機体が桜色の光を帯びていく。

 響く声が力に変わり、円を描いて真上から射つ‥当然相手も上手く交わしていく……

 そして、あたかもブルーインパルスの様な攻防を繰り広げていく最中、……機体が徐々に人型へ近づき‥前以上に近づいていく。

「燦然照る太陽の様に♪ 

 思いは燃えてるよ〜♪」

『あれは一体?』『来たか……』

「語りかける勇気が♪ 明日を連れてくるから〜♪」

 ワンコーラスを歌い上げる頃には、あの機体を追うことに集中しすぎて、自分の身体の動きと、機体の動きがリンクしている事に気が付かなかった。

 ‥『面白かったぞ、Aの奏者、唇の巫女よ。‥我が名はAnker、お前は?』

 相手は通信を繋ぎ、こちらに話しかける、それに驚いて集中を欠いた途端、機体は大きく揺れながら元の形に戻った。

「私? ‥私はキョウカ、天音響花と、相棒のライト」『キョウカ、か‥ではまた会おう、邪魔が‥っともうそんなところに』

 その声と共に、全員のレーダーが同じ熱源をキャッチする‥まるで火の塊が飛んでくるかのような、高温の反応だった。

『天音‥あれ!』

 示された方向から飛んできたのは、あの時の火の鳥、それを見て、アンカーは退散と言う選択肢を選んだようだった。

「‥待って、アンカー、何個か教えて、なんであの鳥を撃ったの? 、火の鳥さんは何者なの? 、あなたたちエヴォルスコアは何者なの?」

 追尾しながらマイク越しに言った、だが、全てのアンサーは、当然くれるはずなかった。

『あの鳥は、俺たちの目的の為に必要だったから撃った、そしてその火の鳥はお前らに危害を出さないだろう‥あと一つは‥自分で探れ』

 流石にそうですよね‥

 逃げながらも、機体は高度を下げて行く……

「……ドライブウェポン、使用許可を‥」『どうする気?』

「あの鳥さんを守りたいんです!」『なら、ブラスター用のカードリッジを4番コネクタに刺して射って……そうすれば、宝石に戻せるかも』

「やってみます‥ライトも付き合ってくれるよね?」「そろそろキツいけど、OK、ちょっと無理するよ」「ありがと」

 二人で大きく息を吸って‥

「「ドライブウェポン、アクセルカノン! ‥フィニッシュ‥イグニッション」」

 側面のレールガンを展開し放つ、‥0距離発射したお陰か、見事に中央を貫き、その鳥がひび割れて小さくなる‥

「‥しまった、どうキャッチしよう?」「‥あっ……どうしよっか?」

 結局封印はしたものの、落ちていくクリスタルは、アンカーの機体で回収されてしまった。

『……丁寧にご苦労‥まあ、これと引き換えに教えてやろう‥最後の質問の答えをな』

 再び通信が入り、彼はそう告げながら、火の鳥から逃げていく。

『我々、エヴォルスコアは、争いを終わらす者‥その為に、破壊と創造の神器を探す者だ』「創造と‥破壊? ‥」『それ以上はまた、探るがいいさ‥また落ち合おう‥天音響花』

 火の鳥は彼を逃してしまい‥この任務は、閉幕を迎えた

『……海堂司令‥任務失敗です』『そうか……こちら司令室、了解……各機帰投せよ』

「────-あの‥海堂司令‥」『なんだ? ‥』「地上の咲ちゃんは……」

『気になるか? 、ならキャリアペリカンに機体を格納して見て来い、自分の目で確かめてくるんだな』

「了解‥」

 言われた通り颯さんに機体を預けてあの立体駐車場へ戻るが‥見えた光景は、想像と遥かに違った……

「冷却完了、担架に乗せろ!」「それにしても、これは少しやりすぎでは?」

「仕方ない‥コイツはちょっと特殊なんだ……っ? 響花か」

「あの‥優さん、ユキさん‥これって‥どう言う事ですか!?」

 優さん達の指揮で、衣服が燃えたように数カ所がなくなり、あのリボンを右手でしっかりと握った咲ちゃんが、消火剤をかけられた上で搬送される様子だった。

「‥アイツは、どうやらここまでの犠牲を払うほどの相手とやり合ったみたいだな‥気にするな、あの状態でも命に別状はない‥と言うか“生き返ったようになってるはずだからな”」

 

 

 to be continue

 




次回予告
 青い火の魔導師は敗れ、一時古巣へ帰ることとなった。
 そして、真也さんが解き明かし、私たちに告げる‥新たな真実とは?
 次回、「破れた斑鳩」
 咲ちゃん‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#16.5 戦後(いくさご)の病床

attention
こちらは#16と#17を繋ぐカットシーンになります。
ディレクターズカット版にのみあるシーンみたいな感覚でお楽しみください


 ────────ここは‥もう現実に帰ってこれたと言うことか? ‥

 身体は少しずつ機能を取り戻し始めているようで、閉じたままの目が、微かな光を感じている。 

 腕に少し違和感を感じ出した、と言う事はちゃんと回収してもらえたのか……呼吸を整えて、目を開く‥と、目の前を埋めたものは‥天井なんかじゃなかった。

「……あっ‥良かった‥目が覚めたんだ」「────────キョウカ、近い」

 私は点滴のない方の手でキョウカの顔を鷲掴みにして退かす。

 大袈裟だなぁ‥こう言う場合じゃ死んでたっておかしくないんだからさ‥

「はぁ‥これも宿命か」

 身体を起こして、自らの手足をみてみると、やはり‥多少縮んでいる。

「‥心配かけさせちゃってごめんね、キョウカもライトも‥澪もミラも」

 私を囲うように座っている4人に苦笑いしながら立ち上がると、キョウカは目を丸く見開いた。

「もう立てるの?」「まあね‥でも‥まさか‥自分で明かす前にバレちゃうとは思ってなかったなぁ……」

「なんのこと?」

 キョウカは、頭に? を浮かべるように、表情で訴えてくる

「実はさ‥私、人間じゃないんだ」

「ええっ!」「じゃあ、あんな非科学的なことができるのは……」

 キョウカが驚いて立ち上がったのを見て、‥単純なカミングアウトしてしまったか‥と思った矢先、澪は鋭い質問を飛ばしてくる‥あの子らしい。

「ちがうよ、魔法使いがみんな人じゃないわけではないからさ‥」

 私は部屋の中を点滴台を押して歩き回りながら、答えを返す。

「魔法は体内に魔力を持つ者、もしくは大気中に存在する魔素を操り、化学的には不可能とされるような現象を起こす事‥と言う概念だと思ってて‥」

「それなら、私でも使える物なの?」

「後者なら勉強すれば‥まあこの地球では、操るための魔素が薄いけどね」

 淡々と語ったのちにこう告げながら戸を開ける。

「でも私の火は魔法じゃなくて、この身体から湧き出るもの‥そして今、致命傷を受けても生きている理由もね」

「それってどういう‥」「私の正体を見破る為のヒントさ‥」

 カッコつけて退室した後、検査着を捲ってみる……やっぱり、腹部に新たな痣が増えていた。

 ああ……私は一体、あと何度これを繰り返すのだろうか……

 とりあえず、検査日程を早めてもらおう……色々連絡入れて‥しばらくの間あの4人に‥

 思考が止まった‥ちょっと怖くなった。

 あの子らだけでも、対処は可能かもしれないけど。私が帰ってもどうにかなるけれど、何故か彼女らが心配になる自分が居た。まだ1ヶ月の付き合いだってのに……

「私も、心配症だなぁ……」

 そう言って‥私は決意を固めてしまったんだ‥この事件を追って、キョウカたちをサポートしてあげようと‥その為に‥この一年を棒に振ろうと。




おっ‥またお会いできましたね、深海魁兎です
と言う話かで途中から僕が忙しくなり月一本投稿になってしまいましたが、今年の間に16話までお届けすることができました‥因みに今ある構想を使い切れた場合70話近くお届けできる予定ですが‥1、2、3月を使いなるべく書いて出せるように頑張りたいなと思っています‥今のペースじゃ5年かかってしまいますからね。
さて、今回何故こんなエピソードを更新したかと言うと‥「深海咲」が生死不明のまま16話が終わり、年内に17を出したかったのですが‥叶わず、カットシーンを先出ししてみました‥ではここから動く物語が‥どうなるか見届けてもらえると嬉しいです、それでは良いお年を…

writen by 2021.December 30
see you next time…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#17敗れた斑鳩

これは、私が18になる年の悲劇だっただろうか?
あの日、獣と化したヴォッサに敗れた私は、操り人形のよに立たされ‥本来の姿となった‥だけど、それが意味することというのは‥残念にも…
響キヒビカセ心二届ケ‥‥はじまります


 ……咲ちゃんが戦線離脱し、早くも1週間が経った。

 あの子は、自分の本来所属している組織の施設へ戻り‥私たちは、次の魔導師が派遣されるまでの間、咲ちゃんのくれたカードリッジだけで遺伝子結晶(マギア・クリスタル)関連の事件を解決しなきゃいけない……

 だけど、この週は、気持ち悪いほど何も起きなかったが‥‥そのせいか私は‥

「……zzz‥」「天音生徒、起きなさい!」

「はいっぃぃ!」

 それは見事な寝不足に陥ったと言うのだ……

「水琴生徒に続き天音生徒も‥最近バイトでも始めたか?」

「いえ、特には‥ちょっと心配事があって寝れなくて」「そうか、なら早く解決するようにな」

 水琴生徒‥つまりベルは家業の稽古が夜遅くまで続くので居眠り常習犯なのだが‥まあ彼女と同じ扱いを受けてるってことはよっぽど────────「──-水琴生徒!」「‥ふぁい」

 ────-大爆睡だったんだろう。

 一度窓側に視線をやってから、ちょっとため息を吐く‥すると、視界の端では愛緒がクスリと笑っていた。

 

 

「──-私もベルと同扱いか‥」「いやいや、心配されてたじゃん、私なんか怒鳴られるし」「それは‥ベルが悪いよ」

 授業後‥さっきの話をしながら、いつもの3人で廊下をとぼとぼ歩いていると、知ってる視線にぶつかった。

「天音‥少し時間いい?」「‥わかった」

 空音だ……多分‥共有事項について何かあるんだろう。

「なんかキョウカさ‥最近澪とよく連んでるね」「そうかな?」

「‥でもあくまで、バイトでの付き合いだし‥ね」「ええ‥」

「たまには澪も一緒にご飯どう?」

 最ッ悪だ‥機密事項かもしれないっていうのに‥でも空音はアイコンタクトを取り続けていた、おそらく意味は‥「面倒だから着いて行かせて」‥結局4人で屋上に向かい、ヒソヒソと本題について語るのだった。

「──-って言う事なんだけど‥どう思う?」「まあ‥新しい人とも仲良くやれるように頑張りゃいいじゃん‥別に苦手じゃないでしょ? コミュニケーション」

「そう見える?」「まあ見えないけど」

 よく考えたら、空音とはかなり打ち解けれた気は自分でしてる‥さて‥どんな人が来るんだろ‥新しい担当魔道士さん……とりあえず一回語り部を交代しようか

 ・

 ・

 ・

 ・

「これで一通り終わり、データは後で送っとくよ」

「ありがとうございます」

 私は検査代から降りて、検査着にもう一度袖を通す‥メディカルチェックの為にこちらへ顔を出していたからだ。

「にしても珍しいね‥君が検査日程を早めるなんて」

「前、私の緊急超再生(フルスリカバリー)が発動してしまった時、一ヵ月くらい気絶したこともあったじゃないですか」

「あったね‥そんなこと。まあ、その時と一緒で君の体は‥15才と2週間の状態まで戻ってる」

「やっぱり、また縮んじゃったか……いつになったら、外観も老けてくれるんだか」

「戦いの場から退くまでは、無理かな」

「ですよね……」

「でも、実際はそれが理由じゃないんでしょ? 日程早めたの」

 やっぱり、見透かされてますか。

「まあ‥こっちに来る口実を作りたかったってのもあったりしますが」

「そうかい、まあ深くは追わないよ、だけど、たまにはお母さんだけじゃなくて、司書長にも顔出しな?」

 私は出口にカードキーをかざして解錠すると、去り際に少しお小言を言われてしまった。

「余計なお世話ですよ‥司書長には、定期的にメールしてますし、別に……」「あれでもお前の育ての親だぞ? 部屋だってずっと残してくれてるのに」

 確かに私は生まれてこの方、何処にも定住していない‥そのためここの寄宿舎が実家みたいなものであり、あの部屋しか私物を置いとく場所がないのは事実だが‥あの人に‥育ての親に顔出すのは単に恥ずかしいんだよね……

「とりあえず! 花だけ添えに行かせてください‥マードックさんもわかるでしょ‥私ももう17なの……恥ずかしいんだよ‥」

 

 この施設というより、この組織の本部があるここには、内部に街が形成されている‥そこの中の墓地に‥母が眠っているのだが‥そこへの道中‥よく聞いた声が私を呼び止める。

「また顔出さないで行く気だった?」「‥なんでわかるんですか」

「6年も面倒見てたんだよ……考えくらい読めるさ」

 私を育ててくれた、あの人‥司書長だ。

 この組織には様々な世界の情報をまとめた超巨大データベースがあり、記録媒体が本であることからそこに勤める人たちは司書と呼ばれている。

 私は里親となる人物が名乗り出なかったため、一時的にその司書達に預けられて、そのまま6年も面倒を見てもらった相手なのである。

 だから私にとっては親代わりなのだけど、だからこそ‥顔を合わせるのが恥ずかしい。

「────-絶対に自分からは来ないだろうから顔見に来たけど‥元気そうだね」

「‥私が正月しかこっち顔出したくないの知ってて来ましたよね」

「まあ‥そうだけど‥嫌だった?」「別に‥どっちにしろ、部屋に寄ってく気はあったからいいですけど」

「そっか‥あっ何か言い忘れてない?」「──-ただいま」

 全く‥この人は意地悪だ

「おかえり、サキ」

 私の頭をくしゃくしゃと撫でられた‥子供じゃないんだよ、私は

 ・

 ・

 ・

 ・

 ほぼ同刻‥格納庫にて‥

「……なるほどな‥これをこうすれば‥」「真也さん‥これで何日目ですか?」

「さぁな? ‥だが、これだけは自分の手で仕上げたいって欲が出ただけだ」

「そうですか‥久しぶりに聞きましたよ、そんな言葉」

 格納庫では真也さんが他の整備員の手を借りずに一号機に何かを施していた‥謎が解けたと叫んだ日からずっと‥こんな時に有事になったらどうする気だ。

「‥だが、アイツ‥キョウカがこれに気がつくかどうかだな」「あの子はここまでかんだけで色々をどうにか出来ちゃう上に‥不思議なほどタフですからね‥」

「ああ‥だが、これは‥下手なことをすれば使い捨てるようにパイロットを殺す危険性のある代物だ、なぜ、前線で活躍し続けれたんだ‥」

「そう言うあなたも‥今、最前線に置いてるじゃないですか」

 ・

 ・

 ・

 場所戻って、屋上‥

「ふぁぁぁ‥」「情けない‥」

 屋上のポカポカ陽気がまた眠気を誘う‥夏も近づき、そろそろ海開きという時期だけどここはやっぱり風通りがよく、快適だ。

「ちょっとくらいいいじゃん‥」

 空音の視線が、少し凍った。

「(私はなんで、こんなキョウちゃんより、戦場では劣ってしまうんだろう‥)」

「空音もどう? 、気持ちいいよ」「制服が砂だらけになるからやめっ……! 天音!」

 私は身体を起こして座っている空音に飛びついてはっ倒した。

「聞くは易し行うは難し、って言うでしょ?」「使い方間違ってるわよ」

 空音はまだ少し付け加えようとしたが、止めて大の字になった。‥意外に満更でもない様子である。

「ね、風が気持ちいいでしょ?」「確かにそうね‥」

 休み時間が終わるまで、このままで居たかったけれど、そうにもいかないみたいで‥嵐の前の静けさと言うのは、油断させきったところで終わるのだった。

「「ッ!?」」

 通信機の振動で一緒に身体を起こし、応答する、有事になったようだ。

「司令‥どっちですか?」『消防庁から巨大空想生物らしきものが出現したとの緊急要請だ‥恐らく、遺伝子結晶の自然発動だろう』

「了解」「合流地点(ランデブーポイント)は?」『屋上からキャリアペリカンに搭乗し現場へ向かってくれ』

「って事は結構遠くになりそうね、授業潰しといてください」「‥潰すって何?」

「‥緊急出動で出れなかったコマを無くしといてくれるって事よ」「そんな都合いいことできるの?」「一応‥出席で居なくても勝手に進んでくれるだけよ‥一応この学校の職員、ほぼグルらしいし」

 ・

 ・

「よし、全員居るな?」「あの‥キョウカがまだ……」

「じゃあ前回の復習行くぞ──-」「(また‥元からいないかの様に扱われてる?)」

 キャリアペリカンを待つ間に、チャイムは鳴ってしまい、窓から教室の様子を伺うと、私がいないまま出欠が取られ、授業が進行されていた。

 ・

 ・

 ・

「‥ここね‥新たな遺伝子水晶(マギア・クリスタル)の場所は‥って言っても‥なんで”これ“連れてきたのよ」

 現場近くでは‥いつもの2人組と‥指揮権を奪われたフレイルが発動したクリスタルによって誕生したベルゼブを見つめていた‥

「此奴を放てば、まともにやり合えるだろうとな」「って言って、割れた仮面が治ってないんじゃ、コイツ、時限爆弾じゃないの?』「だが、それがいいのではないかとな、あの魔導師を破ったバケモノだ‥なぁに、この笛で操れるはずだ」

 フレイルはFの黒鍵(シュヴァルツ・キー)を口に当てて、司令のメロディを奏でゆく‥そう、獣奏従術(じゅうそうじゅうじゅつ)で、咲ちゃんを破った怪物、仮面の割れたヴォッサを操り、あの虫を堕とす気である‥

 音色により操られた彼は再び身体が変態し、高く跳躍して、身の丈の数倍の虫へ飛び掛かっていく。

 鈍い音をたてながら飛びつき、ひたすらに殴っていく‥あたかもそれは‥キングコングの様であった……

 しばらくするとその虫の両側の羽を掴み、共に地面へ落ちていく……それを見たフレイルは、操りのメロディを止め、seal(封印)の音色を奏で出すが……邪魔というのはいつも、最高なタイミングで来るものである。

「フレイル‥あれ、来ちゃったわよ」「何っ?」

 ・

 ・

「見つけたっ!」「って言ってもほぼ終わってるね」『二人共、集中力の欠如は誤射のもとよ』『慎重に‥行きますよ』

 私たちの機体が現着し、既に地面に堕ちたあの生物を目がけて‥底面コンテナの武装を展開する。

「ドライブウェポン、スタンバイ……スタンカードリッジセット‥」「サーチok‥ロックオンッ! 「……アクセルカノン、ドライブッイグニッション!」」

 2機出す必要も無かったみたいだね‥私の機体から打ち出された収束砲は、その怪物を射抜き‥動きを止める‥因みに前回と違って何故動きを止めるだけなのかというと‥封印には、魔力と呪文が必要らしく‥専門の人にしか出来ず‥前回はカードリッジに刻んでいたらしい。それ故今回は封印までは出来ない‥

『‥活動停止を確認‥運搬します』

 空音はいつものエクステンドエッジではなく、ユニバーサルマニピュレーターと言うドライブウェポンを用いて、その怪物‥いや巨大昆虫? の運搬を開始した。

「よしっ、じゃあ帰投しますか……」「とりあえず、新しい人の到着前にどうにか出来たね‥」

 基地の方向へ舵を切り、帰投しようとすると、また‥この前の様に、レーダーが乱入者の襲来を知らせた。

『また会ったな、天音響花』「‥アンカー‥私は、貴方とやり合う気は‥ないよ‥」

『だろうな‥まあ、そう思って一つゲームを用意した』

 通信越しに、指を鳴らす音が聞こえた‥すると……共に動きを封じた筈の、ヴォッサが何故か活動を再開した。

『タイムアタックだ‥アイツを放っておけば、街はどうなると思う? ‥』

「あなた‥戦いを無くすために戦うんじゃなかったの?」『‥俺はお前を試したい‥それだけさ‥どこまでやれる奴なのか? ……』「こうでもしないと‥私がやる気にならないからって事?」『守りたいんだろ? その感情は、覚悟は、本物か知りたくなってな‥』

 そう話している間にも、眼下であの野獣は暴れ続けている。

『挑発に乗らないで、あの機体とは‥』「ごめん空音‥やらせて‥どうやったらあの野獣を回収してくれるの?」

『‥簡単な話だ‥お前のお仲間があの怪物を討伐するか、俺を降参させるか‥ただし、天音響花‥お前が地上に降りた場合は‥』

『しょうがないか‥優を呼ぶ‥それまで持ち堪えろ!』

 理不尽にも程があるでしょうが‥なんて言ったってあっちは聞いてくれやしない‥

 でもやるって‥決めたんだもん‥

 •

 •

 •

 

 ところ戻って‥とある共同墓地……

「じゃあ、行ってきます……」

 私は両手を合わせて‥花を供え‥少し話したあと、母に別れを告げる。

 決心もできたんだ‥

 新品の赤い靴が新たな旅先へと‥快い音を立てた。

「待っててね‥“みんな”」

 

 

 To be continue……

 




次回予告
 アンカーが仕掛ける都市防衛ゲームが勃発、私を試すためって言っても‥やりすぎだよ。
 理不尽な状況の最中、蒼き魔導師が、新たな羽を携え帰って来る! 
 次回第18話、「revenger!」
 隠されし力よ、目覚めろ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#18 revenger

さてさて、ライト‥久々のおさらいだよっ! 
「えーと前回はサキが帰っちゃって‥それから‥色々あって僕らとアンカーのデスマッチがっ!」
 ってちょっとネタバレしてるって
「ごめん‥うっかりして‥」
「はいはいとりあえず‥今日は私のパートから始まるよ♪」
 あっ美味しいとこ取られた



 |数日前 寄宿舎、咲の部屋‥

「……久しぶり‥ごめんね‥この部屋の管理ずっと任せてて」

 私が話しかけたこの乳白色の勾玉‥彼はクラッシュウィンガー‥私の持つアークの反対側を担う‥意志を持った武具であり‥今は部屋に置き去りにしてここの物の管理をさせていた‥そして、今日ここを訪れた理由と言うのは‥彼に会うためなのである

Separately, it's better than being sent (別に、博物館に送られたり)to a museum or (ずっと倉庫に仕舞われるよりマシです)kept in a warehouse all the time」

「そっか‥なんと君らしい答えというか‥相変わらずだね・

 因みに荷物とかは?」

I have received several pieces of luggage.(数件ありますよ)

 私はマットレスが潰れきった自分のベッドへ身体を預けると‥

 よく嗅いだ匂いが鼻を擽る‥実家に帰るってこう言う感覚なのだろうかと思うが‥私実家ないしなぁ‥

「へぇ‥誰から?」

Vivi and the rest(あなたが失踪してる間にヴィヴィと‥) Charo(あなたの名付け親) came while you weren't there (が訪れましたよ)

「ウソぉ‥来てたの!? ‥会いたかったなぁ……」

You love gay’s ? (よほど好きですね)

「だって‥私の恩人と親友だよ、大好きに決まってるじゃん♪」

 ヴィヴィという愛称で呼ばれる彼女と私の名付け親‥この二人は‥ってそんな事より大事な本題があったんだった‥一旦あとっ後! 

「──-ところでさ、クラッシュ‥君にお願いがあるんだけどいいかな?」

「what's up?」「────────一緒に来て欲しいんだ‥アークがいない今、君の力を借りたい」

 アイツの力は紙装甲のあの子らじゃダメだって悟ったが、アークは使えない‥なら、この子に頼るしか‥と思って交渉に来た‥でも‥まあ現役退いて長いからね‥

I thought it was quiet(やけに静かだと思ったら)my brother hasn't come(一緒じゃなかったのですね)

「うん‥あっちの知り合いに預けてる、ガタがきちゃっててさ」

what do you want to do back there? (因縁でも置いてきました?)

「それもあるけど、……あっちで会った子を放って置けなくてさ。

 それに、アイツら‥エヴォルスコアをこの手で検挙するのは、私の夢の実現にだって繋がるから」

「|Hmm . Idon't mind, but are you okay? 《私は構いませんけど、あなたはいいのですか?》 」

 意外に了承は早かった。でも、そんな気遣いは要らない‥むしろされたくない。

 だって、今は彼が頼みの綱だから。

「確かに君は“あの子”の形見だ‥だけど、シャイニーとブラッティじゃダメなら、君の盾しかないって思ってさ……」

「ok,master's sisterPlease use it to your heart's content(存分にお使いください)

「ありがとう‥クラッシュ────-あとさ‥この荷物‥今開封していい?」

NO progress (どうぞ)

 本題が済んだため、心置きなくこの箱に手をつけれる。

 膝の上に乗せて‥リボンを解き‥蓋を退かすと‥薄型に包まれた‥真っ赤なスニーカーが現れた。

「もぉ……やっぱり私にゃ赤が似合うって言いたいの?」

 ため息混じりにそう呟いて、新しい靴を卸すと‥一枚の手紙が同梱されている。

 [手続きでこっちに来てたから、置き土産だよ。‥前の靴、多分ボロボロでしょ? 今度はどこを旅して来たの? 

 〜中略〜

 今度会ったらお話聞かせて、日記‥楽しみにしてるから。

 ‥またすぐに行っちゃうんでしょ? だから、この靴で旅しておいで。]

「また‥もらっちゃったなぁ」

 「You are loved(愛されてますね)

 私は少し苦笑いして、今の靴を箱にしまった。

 そういえば私には定住地も無いけど、自分の靴も‥買ったことってなかったっけ‥

 なぁんか私ってある意味乞食なのかも。

 ベッドに仰向けで倒れ込み、声を漏らす‥

「まあ‥この先の仕事がいつ決まるかもわかんないし‥お母さんに会うのは別の日でいっか‥」

Shall I be quiet? (しばらく黙ってましょうか?)」「いや、別に……」

 この日は珍しく部屋に留まって‥司書長と外食し、翌日は書庫にも顔を出して‥

 そして現在の所属先への連絡を入れ‥私の今後についての話し合いがあった。

「────────なので‥地球へ‥日本へ私を正式に派遣してもらえますか?」

『フカミ陸士……辺境環境保護隊への復帰がいつになるか分かりませんよ?』

「構いません、彼らをこの手で検挙し、私の‥“実現したい夢”に近づけると思うんです」

『わかりました、あのY・F事件やその他の経歴もありますし‥あなたの覚悟も見れました、認めましょう』

「ありがとうございます」

 通信を切り、「やったよ、クラッシュ」とアイコンタクトを送った。

 出発は早速明日‥既に荷造りを終わらせているため‥もうやらなきゃいけないことは後一個だ。

 席を立って‥街へ降り、道中でカーネーションの花束を買って、共同墓地を訪れる。

 ……流石に平日の昼だ、人気はほとんど無い。

「久しぶり、お母さん」

 イヴァ・フカミ、私を産んで亡くなってしまったと聴かされている、私の血縁上の母。

 厳密には、少し違ったのだけれど。

 作法を一通り守った上で、一通りのことを話す‥どんな人だったのかはあまり知らないけれど‥ここの存在はある意味で私の心の支えの一つになっている。

 所在がわかる中で、唯一会える肉親なのだから。まあ実際は墓跡に話してるだけだけだし、仮にお空に行った後で会えるのだとしたら、後何年待たすかわからないけど。

「……じゃあ‥いってきます」

 一通り決心をした後ここを後にする‥新しい赤い靴は、中々に快い足音を立てた。

Was that all right(あれだけでよかったんですか)?」

「‥長居しても、あんまり変わらないでしょ、それに急がないと、これ以上‥失いたくないから」

You are stubborn after all(いつまでも変わりませんね)

「アークと違って、君は世話やきだね」

 

 そして翌日‥その目的地では‥運悪くも、事件は起きていた訳で。

「──-どうやったらあの野獣を回収してくれるの?」

『‥簡単な話だ‥お前のお仲間であの怪物を討伐するか、俺を降参させるか‥ただし、天音響花‥お前が地上に降りた場合は、そちらはこのゲームよりリタイアしたとさせてもらおう』

「じゃあ、私はあなたと対決しろって事ですか?」

『違うな‥』

 空中に柵が張られ、私と、投げ込まれた何かが隔離される‥そして、投げ込まれたそれからは白銀の液が溢れ‥怪物‥いや、人型に近しく、武器の腕に獣の様な兜と長い尾を持った約30m級の生物の姿を象った

『コイツを先に倒してみろ‥それまでは出れない』

「乗り気じゃないけど‥やるっきゃないよね!」「ちょっと、キョウカ!!」

 私はその怪物の周りへ飛び、コアの位置を探る‥その最中‥すぐ横では‥

『おっとただで地上に降りれると思うなよ?』

「あなた‥天音に何をする気? ……」

 アンカーが空音の行手を阻んでいた。

『お前ならわかるだろう? ……巫女の覚醒にはこの試練が必要なのさ……』

「巫女? .天音が?」『‥人違いだったか? ‥あの女、つまりAの奏者であるということは────』

 気になることを言ってはいるが、今の私には何も聞こえてこなかった。

 •

 •

 •

「ここ、みたいだけど……深い‥」

 もう少し近づけないか? とやってみるけれど、相手はいつものよりは速く、その上、下の様子を気にかけていたため、集中を欠く瞬間が多かった。

「もう少し‥もう少しだけ‥ッ!?」

 展開しっぱなしのアクセルカノンに被弾した、機体は慣性で回転しながら柵に近づいていくが、ライトがユニットを切り離し衝突ギリギリで柵を回避できたが、中の体は振り回された影響で視界に靄がかかり始めた。

「キョウカ! ‥ねぇ、キョウカ!」「ライト‥?」

「やっと聞いてくれたね‥」

 ライトの声で意識を保ったが眼下では街が崩れ‥目の前には相変わらず鋼の獣がこちらに来ている。

「急がな‥きゃ」「──-待ってよ‥キョウカ、また目の前しか見えなくなってるんじゃない?」

 なんとしてでもと必死になっていた私を、その言葉が止める。

「君の目的はなんだ? この機体で何がしたい?」「なんで今更‥」

「答えて!」

 珍しくライトが大声を挙げた‥あの時以来に、ライトは声を張り上げて私に怒りをぶつけてきた。

 その間にも両方の怪物は街を崩し‥私を襲う‥

「みんなを守りたい‥関係ない人も、大事な人も‥ぜんぶ‥母さんと同じように、守り抜きたい」「ならさ‥もっと僕を頼ってよ‥カナもそうだった‥一人でやろうとしないで、僕を頼ってよ、僕らは一心同体なんだよ?」

 頼れ‥私の苦手だったことの一つだ‥だけど、それをそのままにして、ワガママを通すのは違うと‥彼は私に気づかせたかったのかもしれない。

「なら、さ──-」

 ──-怪物が咆哮をあげ、光線を放つ、それを旋回して交わしながら尋ねる。────-

「ライトはどうしてほしい?」「僕に力を‥歌を聞かせてよ! ‥そうすれば、もっと‥もっと!」

 こんな時も‥でも‥一緒なら。

「わかった、早くアレをどうにかして、地上に!」「うん!」

『そう言うことなら‥一緒にやりましょう、天音』

 空音からの通信越しに声とシールドケーブルを差し込む音がした‥そして、更にもう一人から通信が入った‥

『もっと言うなら‥そっちがやってる間に片付けとくよ』「ッ! ‥もしかして‥」

『おまたせ、キョウカ‥』

 そう‥声の主は、咲ちゃんだ! 

 ・

 ・

 ・

「あの子には一個黒星をつけられたからね‥たっぷりお返ししなきゃなんだ────-やぁヴォッサ•アルケイン‥まあ自我はほとんどないみたいだね」

 空では二人が歌と弦を奏で、それぞれの標的へ向かい‥こちらに気がついた例の怪物はバイクに乗った私を視界に入れると、迷わずこっちに向かう。

「新たな未来を掴み取りし龍鎧、その身纏て、災いを打ち壊せ! ────────」

 ────────私は白い、いや乳白色の勾玉を突き出して起動パスワードを唱える‥あの子の力ならきっとできるはずだ‥借りるよ‥弟よ────-

「────陽極の翼、クラッシュウィンガーアポロス! boot‥ON!」

 飛龍の幻影を纏うようにその装具を装着し、即座に両手を横一線に広げて魔力壁を創り出し、その攻撃を防ぎ‥少し待って盾を消しながら体制を屈ませると、怪物余った運動エネルギーで体の真上を飛んでいく……

「前編不注意だよっ……ってあれ? これ‥どういうこと? ねぇ? クラッシュ?」

it'sMasters hobby(あの子の趣味です) That hairstyle suits you(お似合いですよ)

 クラッシュの悪戯なのか、武装展開時に髪は2本に結われていた‥ちょっと……違和感。

「はぁ‥そんな何年も前の話……」

 さて、そんな事を言い合ってる間にも、敵は待ってくれないわけで‥集中しなきゃ。

 再び盾を張り、攻撃を防ぎ‥盾を解除して、反撃するが‥やはり慣れない武具のため、外してしまった。

「‥やっぱり、ちょっとは慣らしてくるんだった」

 再び同じ攻防を繰り返し、チャンスを伺うが‥数順したところで、読みを外し、同じように掴まれ、力の限り投げられる。

 クラッシュは手足による近接戦闘専門に作られてるから骨折はなかったものの……再び、あの構図が出来上がった。

 近づく足音‥迫る巨体‥早く立たないと……

 ギリギリ間に合うかどうかだったが‥奴は跳び、もう一度あの拳を振り下ろす‥でもその時私の前にある影が立ち塞がり、休止に一生を得る。

「ったく‥この体は‥」「……フォイエル?」

 何故か彼は私を庇い深い傷を負った。

「あなた‥なんで?」「勘違いするな‥何故か身体が動いただけだ……」

「ありがと」「馴れ馴れしくするな、アァッ……」

 傷を庇いながら、彼は後退していく。

「仮面を狙え……そうすれば奴は‥」「なんでそんなこと‥」「知らん‥だがひとつ、貸しだ」

 そう言いながら彼は座り込み、息を荒くする‥一体‥何をしに来たんだ‥でも……‥

「……ねぇクラッシュ? ホッパーソールでアイツの脳天を攻めれる?」

 私は彼の言葉を信じてクラッシュに提案する。

It's computationally possible, (計算上可能ですが)the chances are short.(シビアなタイミングになります)It's a Blue rose(机上の空論ですね)

「ふーん、だったらやる価値あるね?」「Are you stupid(話聞いてました)?」

「もちろん、それなら、無茶したらいけるじゃん」

 クラッシュは少し呆れた声を溢す。

「無茶は私の専売特許だから……」

 まずは片手で攻撃を流し、また掴みにくるところで‥

「いまっ!」

 今度は両手で盾を張りその場に残したまま後退して、盾をもう一枚作り、それを足場とする‥そうすると両手で作った方は握りつぶされて砕け、怪物がこちらに来る‥が私の体は既に遥か高く、宙に投げ出されていた。

 あとは空気抵抗的に考えると‥そろそろか

「我流‥落火蹴(フレアドロップ)!」

 膝を抱えて1回転半‥炎を纏う右足で踵落としをお見舞いする。

 脳天直下に降り落ちた一撃は仮面にヒビを入れて四散させる‥すると、彼は素顔を晒したまま‥剥製のように動かなくなった。

「‥見事だったぜ‥シャーキィ‥」「違う、私は咲! サーキ!」

 彼は割れた仮面の破片を集めると、私を褒めるようにこちらを見る。

「まあ些細なさだ‥」「全然違う!」「また遊ぼうぜ?」

 そう言って彼は傷を庇いながら去ろうとするが、私は地面を蹴って追いつこうとする。

「タダでは逃がさないよ!」しかし彼はもう転移してしまい、逃してしまった。

「……こんな関係じゃなかったら、フォイエルとは仲良くなれそうなのになぁ‥‥」

「why?」「だってさ‥あの子から、君のマスターと同じ匂いがするからさ‥」

Certainly . I feel like that.(確かに‥そんな気はしますね)

 さてさて‥あとは空が収まれば今日は一時収束かと‥目を向けると‥空には‥見慣れない巨体が事態を収束させていた。

「なに‥アレ‥」

 空に浮かび、怪物にとどめを刺していた

 そしてそれは‥あたかも、動く天使像の様であった。

 

 to be continue

 

 




 次回予告
 リベンジマッチをする裏で何があったのか? それを語りつつ‥
 これにて咲ちゃんが正式にKeyメンバーに加入! 最前線メンバーも5人、心強いっ!
 とそんなある朝、咲ちゃんが早朝にする、ある習慣に気がついた。
「キョウカもやってみる?」
 ひいぃっ! 
 次回「天音強化計画」
「ビシバシいくよ!」
 お手柔らかに……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#19天音強化計画

ハイハーイ、深海咲でーす♪さてさて‥前回のおさらい行くよ?
「今日はキョウカじゃないんだ。」
まあまぁ‥
「とりあえず、前回は君は帰還して‥挑発に乗るキョウカを静止‥そして」
そこから始めようよ?、みんなは大天使の誕生をまだ見てないんだし‥私もまだだからさ‥
「じゃっ、そこからにしようか‥」


 通信越しに‥インカムから‥空音の‥音が聞こえる‥その音で、ある衝動に襲われる‥でもその感覚には覚えがある……母さんの残したMDから聞こえる音を聞いた時と、同じ衝動に襲われる‥、歌いたい‥この音に乗せて‥歌いたいっ! 

「はしれ‥はしれ‥心に届く‥聞こえる、呼んでる……あの日の声〜♪ ──」

 2つの機体は、異なる場所で、桜と瑠璃の色の光を纏っていき‥街が凍てつきゆく……

 空音はアンカーの行動を全て先回りする様に阻み善戦するが、私とライトは‥現状最大出力であるフルテンショニングの状態で、ようやくまともに相手できる程度だ。

 変形した片腕が私を突き刺しにくる‥それに対して真っ向から向かっていくと、また‥機体後部が脚の様になり、その上を走り無効化し‥気がつくとまた‥あの時の様に‥腕の様な部分が展開されていき‥また徐々に人型へ近づいていく。

「燦然照る太陽の様に♪ 思いは燃えてるよ〜♪」

 それに気がつかないまま私は歌って舞う‥だが、急に体に違和感を感じ始めた。

「語りかける勇気が♪ 明日を連れて‥」

『天音? ‥どうしたの? 、天音!』

 私の身体が急に熱を帯びる‥それは、私だけで出なく‥ライトにも同じ症状が出ている様だ‥

「わかんない、なぜか、身体が熱くて」「体内の何かのエネルギーが行き場を失って、どうにかなりそうだ……爆ぜる様な、固まっていく様な……なんなのっ……これ……」

『どう言うこと?』『もしかして‥過剰活性化(テンショニングオーバー)?』

『そんなこと‥ありえるの?』

 怪物は私たちに迫るが、二人揃って動けない‥

 そんな中、咲ちゃんが下での一戦に決着をつけた‥

『ゲームは終わりだ。お前とのお遊びもここまでの様だな‥』『逃しは‥しなっ!』

 アンカーが集中の切れた空音を振り切り遥か上空へ逃げていく……でも、次の言葉を聞いた空音は‥追うのをやめた。

『アイツが巫女の器なら‥きっと良いものを見れるだろう‥』

 そうして彼が去っていき‥放置された怪物は推進力を失い落ちていく私たちの機体に近づくが‥その瞬間、椅子が急に下がりきって、下に沈んで消えると、隣にライトが居る……そして、徐々に意識が曖昧になり‥ハッキリすると、さっきまで窓越しに見ていた景色が、自分の目で見えた‥そして、背中には、経験したことのない違和感を感じ‥全身がV字に浮上した。

『成功だな‥何故あの時プログラム上不可能な動きが出来たか、何故共鳴駆動炉に二人分のスペースがあったか‥そして何故、以上な数のシリンダーやフレームがあったか‥その答えがこれだ』

 司令から急に通信が入った‥宙に浮いたまま自分の手を動かすと‥目に映ったのは‥機械の腕だ‥でも、VR映像の様な非、現実感を感じた。

「すごい‥どうなってるの?」『お前は今、その機体の駆動炉に身体を置いて‥神経で機体とシンクロしている‥そして、駆動炉核士(コアドライバー)とも……つまり‥今その機体はお前たちの生み出した余剰エネルギーを最大限に使えるように、最適な姿に変形した訳だ‥名付けるなら‥真姿化(オリジンライズ)‥だな』

「って事は‥」「今この機体は‥僕やキョウカの手足として‥」「って事は‥この背中の違和感って‥羽根!?」

 そう会話をしてる間に、怪物の攻撃を一発喰らってしまう‥でもなんの因果なのか機体の耐久性が上がっていたため、これだけでは堕ちない‥でも‥私たちの体に鈍痛が走る。

「‥キョウカ、僕に合わせて」「‥合わせるってどうやって?」

「‥じゃあ分かった‥キョウカは好きに動いて‥僕が合わせる」「わかんないけど‥わかった‥やってみるっ!」

 神経でコネクトされ、自分の体の様に操作できるため‥大体の動きは考えた様に出来る……

 コアがあると推定した位置に飛び‥ひたすら蹴って殴って体表を抉っていく‥が、そこはハズレだった‥しかし、逆に行こうとすると、両手が阻むが‥手足がある今なら‥

「あっぶないなぁ……」

 ガシッと掴んで防ぎ‥片方を投げ、鋭い刃の方の腕を一気に下降してへし折ってやる、これはかなり効いたようだ。

「これじゃ効率悪いかな?」「そうだっ! アクセルカノンなら!」

 底に落ちた切り離した後のユニットを腕のレールに嵌める‥再充電すれば行けるっぽい。

「よし‥ライト‥充電に集中してて‥」「待って‥でも飛び方は‥」「感覚で掴めたっ!」

 大地を蹴り羽をはためかせ‥空を舞いながら逆手で次の予想部分を攻撃すると‥確かな熱を感じる‥間違いない‥ここだ。

「‥はぁ‥1/4くらいだけどなんとか‥一発なら‥イケるかも」「よしっ!」

 私はそこに狙いを定め‥ないで近づき、その位置に銃口を突きつける。

「威力不足でもこれなら……「アクセルカノン‥ドライブ、イグニッション!」」

 2人で声を重ねて‥収束砲を放つと、その位置はバッチリコアを捉えており‥体表の液体金属が、檻の中で蒸発し‥檻が消えた。

「‥間一髪‥だったね」ライトのその声で、私がほっとして気を抜くと、機体は勝手に元の形へ戻っていく‥「ほんっと‥疲れた‥」

 もう、ライトが機体を動かす力も、私の体力も、ほとんど底を付き‥帰投するので精一杯だった。

 

 

「格納完了‥MB-01、自力で降りれますか?」

 基地に戻った頃には、もう2人揃ってぐったりで‥「お疲れ様、そしてただいま、キョウカ、ライト」咲ちゃんに手伝ってもらってなんとか外に出た。

「‥大丈夫? 立てないレベルか‥誰か車椅子持ってきて!」

 降ろしてもらった後で地面に立とうにも‥体が痺れていて‥上手く立てず、司令室まで車椅子で行くこととなった。

 

「──-という訳で、本日付で正式に貸し出されることとなりました、時空管理局の深海咲です‥これから前戦メンバーとしてお世話になります!」

 今回の反省会の後、咲ちゃんの着任式が簡易的に行われる‥全員から拍手で迎えられ鼻高いようだ。

「それに伴い、空音澪、ミラージュ=エルフ、ライジング=エンジェル、それから天音響花を獅童隊から解任し、深海咲を加え、新たな小隊、“younger”編成する、そのリーダーに天音響花を推薦する。異論はないか?」

 私が? ‥

「私は誰であっても付いてくよ、澪はどう?」「ええ‥賛成よ」

「ちょっと‥待って‥なんで私なの? ‥」「じゃあ、推薦権を渡そう‥4人から好きに選べ」「じゃあ‥私は空音を‥推薦します」

「私でいいの?」私は即答した、選ばれた空音は困惑した‥でも後の3人は納得の表示を浮かべた。

「うん‥だって、空音は私のブレーキだから‥空音が私を導いて」

「──-わかった、仕方ないわね‥異論ありません、役職を全うさせていただきます」

 こうして、新たな5人小隊が生まれた‥親友を助けた心強い恩人を加えて。

「それと‥真姿化(オリジンライズ)の後遺症はないか?」「身体が‥痺れてます」

「やっぱりか‥」

 司令は私への問診を急に始める‥順番どーなってんのこの人‥

「身体の神経系の電気信号を増幅させることによる、神経リンクは見直したほうがいいか……とりあえず、今日は以上だ、本緊急作戦に参加したものに帰宅を命じる、しっかりと休息を取れ。それと‥咲‥いや深海隊員‥天音響花を送り届けろ」「了解」

 

 とまぁそんな事があって‥身体の痺れが取れるまで待った後、私はかなり嫌ではあったが‥

「そろそろ、大丈夫だって‥自分で歩けるから」「だーめ、無茶した人のことは聞かないよ、念のため。だって、痩せ我慢で酷くしたら大変だよ?」「‥それ、どの口が言うんですか、この前消火剤かけられて運ばれた人が‥」

「無茶と痩せ我慢は私の専売特許だからね」

 こうして咲ちゃんの背中に背負われて、水原家へ向かうのであった。

「まぁ、まぁ‥愛緒に説明する人も要るしね」「‥ライトまで咲ちゃんの味方なの?」

 そう言い合ってる間に、咲ちゃんはインターホンを鳴らしていた‥はぁ‥これ大変なことなるぞ。

『はい』「キョウカ届けに来ました」

 ‥なんで誤解されそうな言い回しするのさ! なんか慌ただしい音するぞ? 

「おかえり! どうしたの? なにかあった!?」

 勢い良すぎだって‥戸を開けて出てきた愛緒はすぐに、こちらを見て‥ちょっと怒った顔を見せた。

「別に‥ちょっと、ね?」「ちょっとってなに?」「まあ‥急に電話きてさ‥来れないかって?」「授業放り出して? 靴まで置いてって?」

 ‥忘れてた、だから咲ちゃん頑なに私下さなかったのか。

「まあなにがあったかは私と‥この子から説明しますから」「なら、上がってってください‥ちょうど皆揃ってるので」

 あっ‥待て? 今日日出海さんいる日だったか。

 そして、結局私は主導権を握れず、そのまま咲ちゃんが入っていかれてしまい、片方は呆然とし、片方は驚いた顔をした。

「おっ、元気そうだね、航太」

 咲ちゃんは私を座布団に下ろすや、航太に対して微笑む‥そしてその隣では、ライトと日出海さんがお互いに視線を交わし合った後、縁側へと行ってしまった‥そう言えば知り合いなんだっけ。

「じゃあ、やることも済んだので、帰ります」

 ……今日宿なしなのに? 

「あっ、折角ですし、一日泊まって来ませんか? 、旅の人なんですよね?」

「まあ、そうですけど.ご迷惑じゃないですか?」「いえいえ、ちょっと夕食、作り過ぎちゃいましたし、折角なので‥」「──-じゃあ」

 ホントなんだなぁ‥咲ちゃんタダ飯に弱いって‥そして、愛緒の偶然と察しの良さは最早予知能力者かと疑いたいレベルだと思えてくるよ、もはや怖い。

 •

 •

 •

「ひさびさだね、ヒデ‥」「ホントに帰ってくるとはな‥奏叶と一緒じゃないのは残念だがな」

「ごめん、僕が行方を知らなくて」「いいんだ、ライ‥あいつは巫女の血筋だからな‥」

 ライトと日出海さんは2人で、話している、でもその内容は、私たちのは聞こえてない。

「‥ところで海の様子は?」「ここ数年なにもなかったが、あの船が来てから、遺跡あたりの波がおかしい‥」「やっぱり、なにかよくない事が起こる兆しなの?」「いや、まだ何も言えないな‥ただ一つだけお前に言わなきゃならない事がある」

「なんだい?」「“天秤の守人”としての頼みだ奏叶の子を‥響花のそばに、居てやってくれ‥そして守ってくれ」

「‥わかった、くる時が来るまで近づけない、そして」「ああ、決して殺すんじゃない、いいな?」

「2人とも、準備できたよ?」「ああ、今行く……どうした? ライ」「‥別に」

 今日は賑やかに7人で食卓を囲い‥鍋をつつく、1人多いが水原家流の大黒柱の迎え方をし、楽しく食事を終え‥お風呂も済まして‥

「5月とは言え寒くない?」「大丈夫、私これで寝起きしてたんで」

 咲ちゃんは、庭に1人用のコンパクトなテントベットを淡々と組み始めた。

 一応咲ちゃんの事はヒッチハイカーと言うことで通っているので怪しまれはしなかったんだけど‥「折角ですから‥中で」「いえいえ、夕食とお風呂までいただいておきながら‥」「でも、湯冷めもしますし‥」「──-わかりました、お言葉に甘えましょう」

 すったもんだあってから、客間に布団が敷かれた。

「やっぱり、ちょっとズレてるよね‥咲ちゃんって」「だよね‥でも「なんかあの子らしい」」

 声が重なる‥ライトとは1ヶ月一緒に過ごしただけなのに気がつけば、口に出ることは同じになる瞬間が増えていた。考えが似て来たのだろうか? 

「そういえばキョウカ」「なぁに?」

「もしもだよ‥僕がキョウカのクラスメイトだったら、どう思う?」

「どうって‥急にどうしたの?」「いや、もしもの話だから」

「そう? ‥まぁ、居たら‥か、なんか女子人気高そうかな? ライトって可愛い顔してるし」「もう‥」「でも、羽はどうするの? 今だって‥制服から出す訳にいかないでしょ」

「まあ‥そうだね‥それは、我慢するしか?」「できる?」「ムリかも」

 ライトは微笑する、この質問の意図に気が付いたにはもうちょっと後だったけれど、今はちょっと可愛い質問だと思える自分がいた‥

 って‥また勘違いされそうな発言しちゃったや、違うからね? 

「とりあえず、上行こっか」「うん、自分で行ける?」「全然OK、流石に吊り階段は背負われたままだと危ないし」

 ‥改めて思うとここ1ヶ月、6年ほどしていた生活が一変したのに、気が付いたらライトはこの家に馴染んで、私とライトも、愛緒と私のような距離感‥いや、まだちょっと遠いけど、それくらい近づけた気がする。

 やっぱり血縁上の関係はなくとも、同じ屋根の下で過ごせば兄弟みたいに慣れてしまうのだろうか。

 ‥いや、前言撤回、航太って例外がいたな‥お年頃なだけだと思うけど。

「そういえばさ‥日出海さんとなに話してたの? 

「それは‥ナイショ、一応古い仲なんだ‥ヒデとは」「そうなんだ‥」

「って言うか、この話はキョウカにはいつかしなきゃいけないけど、今話したら、ヒデのこれまでを‥全部無駄にしちゃうから」

 ‥それ以上の事は、珍しくなにも言わなかった‥意外と口、硬いんだな。いや、もしくはライトの内面は私が思ってるより、大人なのかな? 

「ごめんね、バディなのに‥隠し事なんて」「良いよ、私だって、ライトに言えないことあるし‥それに、その時が来たら教えてくれるなら待つよ、キミは、誰かのためにしか嘘付かない正直な子だって‥信じてるし」

「キョウカ‥」「秘密があっても、信頼があったら十分でしょ」

 私はニカッと笑って、ライトとジッと目を合わせると、彼もまた、微笑んだ。

「僕も‥キョウカは‥」「うん」「僕に最後まで付き合ってくれるって……信じて良いよね」「もちろんだよ‥一緒にこの街を守ろう」

 

 

 このあとは疲れていたのか、かなり深く眠りについて、ある夢を見た、最近よく見るあの夢を‥だけど、今日は‥ハッキリとそれを見た。

「思ったよりも早く覚醒したね‥やあ、ボクの体の居心地はどうだい?」

 目つきや口調はまるで別人だが、その顔立ち、背丈、そして声も、紛れもない私だ‥私がもう1人、真っ白な空間に寝そべった私を覗き込んでいる? 

「あなた‥一体?」明晰夢ってやつなのかな? ハッキリと発音できた、そしてそれは聞こえてるみたいで、返答も返ってくる。

「ボクはキミであってキミじゃない、だけどキミは今ボクである‥そんな関係かな?」

「どう言うこと?」「もしかして、この6年で忘れたのかい? キミがなにであるか?」

「私は‥天音響花だ‥天音奏叶の娘で‥」「それはボクだ‥キミじゃない」

「なにを言ってるの?」「そのうちわかるよ‥それまでは、ボクの名前で生きてて‥じゃあ、またね」

 もう1人の私は、そっと私の目に手を翳す‥すると急に視界が奪われ、次に気がついた時は、見慣れた屋根裏‥時刻はAM5:00を指している。

 一体‥なんだったのだろうか? 

「‥珍しいね、キョウカが早起きなんて」

 ライトは情けない欠伸をしながら床から出る。起こしてしまったようだ。

「なんか‥変な夢見ちゃって‥」「そっか‥それより、なんか‥知らない音がするんだけど‥」

 ライトに言われて耳を澄ますと、庭の方から音がする‥こんな時間に誰が? 

 気になって2人で外を見に行った‥そこで繰り広げられていた光景は……庭で舞う、咲ちゃんの姿だった。

「おやおや、起こしちゃったかな? ……」

 型を確認しながらそう話しかけてくる‥その姿は、夢で見たことがどうでも良くなる程‥美しかった。

「私は腕っぷし弱いからさ、だけど代わりに人よりもよく見える目がある。

 だからスピードと見切りで隙を突く、そして確実に射抜く……それができるように相棒を改造してもらって、私自身も鍛えてもらった」

 ビシッと決めて、サッと止まる‥その動作だけで彼女が本職の戦士であると気付かされる。そして彼女が努力家であることも。

「だからそれを無駄にしないように、むしろもっと使えるようになるために、教えてもらった事を忘れずにちゃんと毎朝鍛えてるんだ」

 こちらを向き、こう告げてくる。

「初めはすごいキツいだろうけど、2人もやってみる? もちろん回数や距離はキョウカに合わせて調整するからさ」

 確かに真姿化(オリジンライズ)を乗りこなすためにも、必要だと思ったし、彼女について行くことが得だと感じたんだ‥だからこう返した。

「「お手柔らかにお願いしますっ!」」

 

 to be continue……

 




次回予告
 私たちの新たな朝の日課が始まり‥しばらくした後
 空に光の柱が立つ‥
 そして、覆面オークションに白鍵が? 
 なんとか2つ、調査しなきゃ! 
 次回「excellent era 」
 頼んだよ、空音


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。