愛しきものたちへ (砂岩改(やや復活))
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1話

C.E.71年9月27日 ヤキン・ドゥーエ

 

「敵艦接近!オーブ軍《クサナギ》、エターナル!」

 

 ヤキン・ドューエ防衛ライン。最終防衛ラインにはラクス・クラインを主軸とするオーブ軍たちを先頭に、彼女たちが食いちぎった穴に連合軍艦隊が押し寄せてきた。

 

「絶対に通すな!我が隊は連合旗艦を叩く!」

 

 エリアのゲイツを皮切りに展開されるプラント絶対防衛線。そして彼女の乗艦はヤキン・ドューエの防衛艦隊として迎え撃つ。

 

「敵艦、陽電子砲発射体勢!」

 

「取り舵!」

 

「駄目です、間に合いません!」

 

「くそっ!」

 

 クサナギのローエングリーンがドロイドに直撃。その攻撃に耐えられずに轟沈する。

 

「ドロイドの反応が!」

 

「怯むな!敵MSを叩き、ドロイドの仇を取る!」

 

 母艦が沈もうと進撃は止められない。このジェネシスを潰されればこちらは勝機を失ってしまう。

 部下のゲイツによる射撃を避けたM1アストレイを確実に潰す。

 

「ジュリー!」

 

 僚機がやられたのを見て隙が出来たもう一機も確実にビームライフルで仕留めると赤色のストライクがものすごい速度で迫ってくる。

 

「ストライク、お前だけは!」

 

「くそっ、お前らぁ!」

 

 ストライクダガーを潰しながら迫ってきたストライクのビームサーベルを盾で受けながら盾に仕込まれたビームサーベルを起動。

 盾を反らしながら攻撃するもそれも盾で受け止められる。

 

「くっ!」

 

「……」

 

 ジュリとアサギを殺した灰色のゲイツがカガリの前に立ち塞がる。右肩には黒でペイントされたクローバーのマーキング。

 明らかにエース級のゲイツに追い詰められていった。

 するとゲイツは頭部のバルカンで威嚇。怯んだカガリは思わず退いてしまう。

 その隙にライフルのビームで左肩のアーマーを持っていかれる。

 

「こいつ!」

 

 こちらに負けじと応戦するもビームを軽々と避けられ、再びの接近を許す。

 

「くそっ!」

 

「お前だけは!」

 

 シールドバッシュで殴られ体勢を完全に崩す。そして向けられるゲイツのライフル。

 SEEDに覚醒した彼女でさえも死を覚悟する。

 

「カガリ!」

 

「っ!?」

 

 二人の間に放たれる強力なビーム。アスランのミーティアによる砲撃であった。

 

「ジャスティス…アスランか!」

 

「エリア!」

 

 ミーティアに施された武装でエリアの部下たちは武器やメインカメラを破壊され戦闘不能に陥る。

 

「隊長!」

 

「良い、さがれ!」

 

「カガリは殺らせない!」

 

「この裏切り者がぁ!」

 

 ミーティアから射出されたジャスティスとゲイツがはげしくぶつかり合い、火花を散らす。

 

「あんな物を守って何になる!ただ破壊をもたらすだけのアレが!」

 

「使うという選択肢を選ばせたのはナチュラルだ!お前は私たちにずっと核に怯え続けろと言うのか!」

 

「それは…」

 

「我々を護るための剣。ジェネシスはその為のものだ!」

 

 ジャスティスと対等に渡り合うゲイツは異常な存在だろう。例えこの機体が彼女用にユーリが用意したフルカスタム機だったとしてもだ。

 

「ニコルを見殺しにしたお前が…よくもぬけぬけと!」

 

「ちがっ!」

 

「黙れ!私は許さない…お前もストライクもナチュラルもだ!ニコルを返せぇぇぇ!」

 

 気迫がなせる技ではない。彼女の純粋なMSの操縦技量が卓越していたのだ。

 あのアスランでさえ凌駕する程にだ。

 

「死ねやぁ!」

 

 そんな二人の間に割り込んで来たのはカラミティ。カラミティは圧倒的な火力でジャスティスを狙うがアスランもそれを避けて退避する。

 

「邪魔をするなぁ!」

 

「エリア!」

 

 既存のゲイツとはかけ離れた速度で突っ込むゲイツ。それをオルガはカモが来たと言わんばかりに攻撃を加える。

 

「舐めるな!」

 

 その瞬間、彼女の中で何かが弾ける。カラミティの砲撃を紙一重で避けながら接近するゲイツはシールドのサーベルを起動させる。

 

「バカが!」

 

「くっ!」

 

 シールドの対ビームコーティングが限界を迎え爆発。左腕ごと破壊されるも追加装備されていたサーベルをカラミティの動力部に突き立てる。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

 

 動力部から頭まで切り裂くとそのまま退避。カラミティは爆発の炎に包まれる。

 

「雑魚が!」

 

 カラミティが撃墜されたのを見てストライクダガーが襲いかかってくる。それを腰に備えられたエクステンショナル・アレスターで2機を葬ると持っていたサーベルを投げつけダガーのコックピットを貫く。

 

「アスラン!」

 

「あぁ…くっ!」

 

 エリアがダガーに気を取られている間にアスランはミーティアと再びドッキングしてプラントに向かっていく連合軍に迎え撃つのだった。

 

「逃げるな、アスラン!」

 

 まだ戦いたいが左腕もバッテリー残量もない。

 

「くそっ…」

 

 迫る敵は味方に任せて撤退するのだった。その後、両陣営の指導者の死亡により戦闘は終結。

 後のC.E.72年3月10日、地球連合とプラント間に停戦条約としてユニウス条約が締結され戦争は正式に終結したのだった。

 

ーーーー

 

 そして終戦からしばらく経った後に戦争犠牲者に対する国葬が盛大に執り行われた。

 そこには多くの人間が参列し戦死した者達を悼んだ。

 

「エリア…」

 

「イザーク、ディアッカ…」

 

 アカデミーの同期でありニコルの婚約者であるエリアの元にはイザークとディアッカが姿を表した。

 

「裁判はどうだったんだ?」

 

「あぁ、新議長のデュランダル議長のお陰で無罪放免。ザフトにも復隊したよ」

 

「あぁ、議長のおかげだ」

 

 イザークとディアッカは軍の行動から逸脱してアークエンジェルと行動を共にしていた。

 本来なら極刑すら適用される重罪行為だ。

 だがこうして目の前にいるのは新議長のおかげらしい。

 

「お前はどうするんだ、エリア?」

 

「さぁな、もう軍は嫌かな…。ニコルを弔いながら実家で働くさ」

 

「実家って…マイウス・ミリタリー・インダストリー社なんて大手中の大手じゃねぇかよ。羨ましい」

 

「まったく…その軽薄さはなんとかならんのか?」

 

「悪いな…これは性分なんで」

 

「そうだな、お前の空元気はありがたいよ」

 

 腰まで延びる長く、美しい銀髪を風で揺らしながらエリアは笑う。その笑みに二人は思わず引け目を感じてしまった。

 二人は彼女の最愛のニコルを護れなかった。

 おめおめと生き残ってしまったのをエリアは怒ることも泣くこともなく静かに振る舞っていた。

 その姿は二人にとってとても心苦しかった。

 

「ふん、情けない…アカデミートップのお前が軍を止めるとはな。勿体ない」

 

「戦果は負けるがな」

 

「何をいうか……何かあったら連絡しろよ」

 

「ありがとう、イザーク」

 

 脱け殻のようなったわ仲間の姿を見た二人はこれ以上、耐えられずにその場を後にする。

 ニコルの墓の前で立ち尽くすエリア・ノイエフォードは静かに墓前で体勢を崩す。

 

「……ニコル…」

 

 唇を噛みちぎり、握りしめた拳からは血が溢れる。

 目からは大粒の涙を溢しながら彼女は絶叫した。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 これは婚約者であるニコルを失った一人の女性の復讐の物語である。

 

 



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2話

 アーモリーワン軍事工業区画

 

「軍楽隊最終リハーサルは、一四〇〇より第三ヘリポートにて行う。」 

 

「違う違う!マニバ隊のジンは全て式典用装備だ!」

 

「マッケランのガズウートか!早く移動させろ!」

 

「ライフルの整備、しっかりやっとけよ!明日になってからじゃ遅いんだからな!」

 

「隊第二整備班は第六ハンガーへ集合せよ」

 

 アーモリーワン - テンから成るアーモリー市の一つでプラントにおける軍需工場を担っている重要拠点である。

 その工業区画として建設された基地の敷地内では作業員とMSが慌ただしく動き回り明日の式典の準備をしていた。

 その中をジープで移動していたのは明日の推進式の主役。

 新造艦ミネルバのMS隊、隊長エリア・ノイエフォードとその隊員、ルナマリア・ホークと整備兵のビィーノだった。

 

「羽を伸ばすのもいいが、こう休み気分ではな」

 

「教官!まえ!」

 

「だから、隊長だと…うお!」

 

 車を運転しながら話していたエリアだったがヴィーノの悲鳴に近い叫びに驚きながらハンドルをきる。

 灰色のショートヘアをなびかせながら冷や汗を拭うエリア、MS用の倉庫、その影から出てきた式典仕様のジンがこちらに気づかずに前進してきたのだ。

 

「危なかった…」

 

 エリアは車に急制動をかけてジンの足の間をくぐり抜けさせるとホッと一息つくのだった。

 

「はぁ…なんかもうごっちゃごちゃですね」

 

「仕方ないよ。こんなの久しぶりってか、初めての奴も多いんだし、俺達みたいに…でもこれで、ミネルバもいよいよ就役だ。配備は噂通り月軌道なのですよね、教官?」

 

 肝を差冷やした三人はそれぞれの感想を漏らすが特にルナマリアは堪えたようだ。エリアの隣である助手席でぐったりとしていた。

 

「一応は機密事項なのだがな…月軌道であるのは間違いないな…それと教官と呼ぶな」

 

「すいません」

 

「まったく…」

 

 アカデミーの癖が中々抜けずエリアのことを教官と呼び続けるヴィーノに対してヤレヤレと言った風に肩をすくめると車を止める。

 

「…着いたぞ」

 

 灰色の髪を短く切り揃えたエリアは後部座席にいるルナマリアに到着を告げると掛けていたサングラス越しに遠くに見える母艦、ミネルバを見やる。

 

「では、私はここで…機体はまだ格納庫ですから」

 

「あぁ…明日が推進式だが焦ることはないしっかりとな」

 

「了解です、教官」

 

「私はもう教官じゃない」

 

「すいません」

 

 反省の色が見られないルナマリアに苦笑いしつつエリアはヴィーノを乗せてミネルバに向かう。

 自身も機体調整を行うためだ。

 

「きょ…じゃなくて、エリアさんの機体って主力機評価でザクに負けた機体ですよね?」

 

「あぁ、扱いが難しくてな…性能は良かったのだが操縦性に難ありとな」

 

 エリアの乗機はグフイグナイデットカスタム、性能は折り紙付きだが性能評価で負けた実験機を実践型に改良したタイプで現実的とは言えない。そんな機体を任されているのは理由があった。

 

「でもなんでセイバーのパイロット辞退したんですか?」

 

「まぁ、色々あってな」

 

「そうですか」

 

 前の記憶のせいでどうもガンダムタイプに対し苦手意識がある。

 二度、戦ったことがあったが正直、勘弁してほしい。

 

「どのような機体でも整備されていなければただの鉄の塊だ。頼りにしているぞ」

 

「はい!」

 

 エリアの言葉にヴィーノは若干照れながら答える。彼女はルナマリアやヴィーノたちが訓練兵の時に教官として教鞭を振っていた。

 その頃から彼女はひいき目で決して見ず、実力だけを評価してくれる教官の1人でさらに美人だ、訓練は厳しいがアカデミーの生徒には絶大な人気があった。

 そんな憧れの教官と卒業後もこうして話せるのはヴィーノたちアカデミー生にとって嬉しい限りであった。

 

(ガンダムか…)

 

 一方、エリアは浮かない顔を浮かべる。

 ストライクやフリーダム、ジャスティス、ツインフェイスの機体に対し思うところは多々ある。

 正直に言えば乗りたくないというのが本音であった。

 

(軍属として言える分けないけど…)

 

ーー

 

 MS六番ハンガー内、ザフト軍の新型機MSガンダムが3機格納されている施設は異様な雰囲気に包まれていた。

 血にまみれた作業員が倒れており立っていたのは3人の若い男女だった。

 

「スティング!」

 

「よし!いくぞ!どうだ?」

 

「OK、情報通り」

 

「いいよ」

 

 六番ハンガーの襲撃犯、スティング、ステラ、アウルは格納されていたガンダム3機のコックピットに乗り込みシステムを起動させる。

 

「反応スタート。パワーフロー良好。全兵装アクティブ。オールウェポンズ、フリー。」

 

「システム、戦闘ステータスで起動」

 

「ぅぅ…くっ!」

 

 3機のガンダムが起動し動き始める中、整備兵の一人が息絶え絶えに警報スイッチを押すのだった。

 

ーー

 

ウウゥーーーー!!

 

 ミネルバに戻り、艦長であるタリア・グラディスと話していたエリアが基地内に鳴り響く警報を耳にしたのはその時だった。

 

「なんだ?」

 

「艦長!!」

 

「どうしたの!?」

 

 警報とともに周囲を見渡すミネルバクルーたちの中で一番最初に叫んだのはオペレーターのメイリンだった。

 

「六番ハンガーからの警告音です、それと同時にその周囲から爆発が」

 

「状況はどうなっている!」

 

「無線が混乱していて」

 

 エリアが予備のインカムを耳に装着し耳を傾けると無線は言っていたとおり大混乱だった。

 

「発進急げ!」

 

「六番ハンガーの新型だ!何者かに強奪された!」

 

「モビルスーツを出せ!取り押さえるんだ!」

 

 いくつかの拾える音声を選別して耳を傾ける彼女の背中にミネルバ艦長であるタリアが話しかける。

 

「どう、エリア?」

 

「六番ハンガーの機体が強奪された!?」

 

「えぇ!そこにあるのは新型の機体じゃないですか!?」

 

 エリアの言葉にタリアは顔をしかめ副官のアーサーはすっときょんな声を上げる。

 

「メイリン、シンを呼び戻せ!シルエットはソードを選択、プラントに出来るだけダメージを負わせるなと伝えろ!」

 

「は、はい!」

 

 矢継ぎ早に出されたエリアの言葉を急いで呑み込んだメイリンはコンソールを操作する。

 

「艦長、グフで出ます!」

 

「頼むわ」

 

「了解!」

 

 インカムを耳に装着したままエリアは走ってMSハンガーに向かう。走りながら彼女はハンガーに連絡を取りグフの発進準備をさせるのだった。

 

ーー

 

「教官が!?」

 

「俺もハンガーに向かう!急げよ!」

 

 ミネルバの外にいたシンとヨウランは全力で走りながら現状を確認していた。急いでミネルバに乗り込み、自身の持ち場に向かう。

 

「教官!機体が強奪されたって!」

 

「そうだ、実戦だぞ覚悟しろ!」

 

 ハンガーに隣接したパイロット待機室に向かったシンはお目当ての人物を見つけ出し声を掛けるが彼女はヘルメットとインカムだけ付けて機体に向かおうとする。

 

「駄目ですよ!そんな恰好で!?」

 

「シンはパイロットスーツをちゃんと着ろ!もしもの時は宇宙まで追撃しなければならん…私は強奪機の動きを抑えるからそれまでに来い」

 

「は、はい!」

 

 さっさと去っていったエリアを見送りながらシンは急いで着替えるのだった。

 

ーー

 

「機体は大丈夫です!」

 

「すまない!」

 

 機体の周囲から急いで離れていく整備兵をよそ目に彼女はグフを起動させる。

 

「機体を出すぞ!」

 

「進路オールグリーン!ハンガーブロックは味方の機体が入り乱れています、気をつけてください!」

 

「了解した!エリア・ノイエフォード、グフカスタム…出るぞ!」

 

 メイリンの言葉とともに彼女は機体を発進させる。突然襲いかかるGに懐かしさを覚えつつ機体を空に舞い上がらせた。

 

ーーーー

 

 その時、ハンガーブロックではアーモリーワンに訪れていたオーブの代表、カガリ・ユラ・アスハとその護衛、アスランは倒壊したハンガーから倒れてきた新型の量産型MS、ザクに乗り込みガイアと接触していた。

 

「ステラ!」

 

 苦戦を強いられていたステラに対しフォローするためにスティングはザクに向けてスラスターを吹かす。

 迫るカオス、ガイアに注意を向けていたアスランは反応に遅れてしまった。

 

「マズい!」

 

「はぁ!」

 

 その時、背後にいたカオスをタックルで吹き飛ばしたのは灰色に染まった機体。グフカスタムはシールドガトリングを放ち体勢の崩れたカオスを追撃する。

 

「ザクのパイロット!ガイアは任せるぞ!」

 

「わ、分かった!」

 

 エリアはザフトの共通回線を使い、戦闘していたザクに呼びかける。

 お互いに通信を交わしたエリアとアスランはお互い、その声に反応する。どこかで聞いたことのある声、エリアはあり得ないと考えその思考を中止させる。

 

「あの声…」

 

 一方、アスランはその声の持ち主に心当たりがあった。

 

「アスラン?」

 

「エリアなのか…」

 

 カガリが怪訝そうに話しかける一方、アスランはその表情を曇らせる一方だった。

 

ーー 

 

 グフの振るったテンペストブレードがカオスのシールドに阻まれる。

 

「っ!」

 

 向こうはガンダムタイプに対しこちらは試作量産機、パワー差ではこちらが数歩劣ってしまう。

 なら即時離脱でもう一度斬り込みに持ち込む。

 エリアはすぐさま膝でカオスのコックピットを蹴り飛ばすと飛行ユニットを起動させ距離を置く。

 

「赤服なみの操縦技術か…厄介だな…」

 

「こいつ、中々やるな…」

 

 敵の技量に舌を巻くエリアだがそれは相手であるスティングも同様だった。

 敵は予想以上にやり手だこう言う相手が出てくる前に撤退したかったが仕方がない、追撃されても面倒だ。

 

「アウル!」

 

 スティングは早々に決着を着けるため他で暴れていたアウルを呼び出すのだった。

 

ーー

 

「シン!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

「なに!?」

 

 エリアのグフに気を取られた瞬間にソードインパルスが上空から強襲。

 エクスカリバーをカオスに振るうがすんでのところで気づいたスティングはスラスターを吹かし回避する。

 

「遅くなりました!」

 

「いや、良いタイミングだ」

 

「はい!」

 

 エリアの言葉に笑みを浮かべながら答えるシン。

 こうしてザク、グフカスタムそしてインパルスは強奪機と対峙するのだった。




 グフイグナイデットカスタム

 ザクとのコンペンディションで負けた機体だが機体性能はザクを上回る性能を有していたためそれを惜しんだ上層部がエリアに機体のデータ収集を目的に配備したもの。
 なおエリアのカスタム機は近距離を主としたグフの中・長距離戦闘の脆弱さを補うためにシールドにビームガトリングを装着している。


 


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3話

「はぁぁ!」

 

 シールドに懸架されたビームガトリングでガイアを牽制するエリアに連携してシンはエクスカリバーを振るういシールドに受けたガイアは吹き飛ばされる。

 

「なんだこれは!?」

 

「相変わらずのパワーだな」

 

「あれも新型か。ガンダム…どういうことだ、あんな機体の情報は…アウル何してる、早く来い!」

 

 ステラの援護に行きたいがこのグフのパイロットも手練れのせいで上手く連携できない。

 ステラを牽制しつつカオスを的確に追い詰めるエリアの技量にスティングは歯噛みする。

 

「くっ!」

 

「なにっ!こいつっ!」

 

「命令は捕獲だぞ!解ってるんだろうな!あれは我が軍の」

 

「解ってます!でも出来るかどうか分かりませんよ。大体何でこんなことになったんです!なんだってこんな簡単に!敵にっ!」

 

「副長、作戦変更です。3機は撃墜します」

 

「えぇ、何を言ってるんだ。ノイエフォード隊長!」

 

 ガイアに苦戦するシンを横目にエリアは側面から一斉射してきたアビスの攻撃を避ける。

 

「現状、味方を守りつつ3機を確保することは不可能です。味方の被害を抑えるためには撃破が一番です」

 

「それは…」

 

「グラディス艦長、MSなどいくらでも造れます。ですが人は戻ってきません」

 

「分かりました、許可します」

 

「艦長!?」

 

「彼女の言う通りよ。ここで面子を気にしていたら何もならないわ」

 

 タリアの言葉に思わず叫ぶアーサーだったが彼女の決断に対して息を飲み覚悟を決める。

 

「分かりました…」

 

 それと同時に響き渡る振動。

 それはミネルバだけではなくこのプラントその物が揺れている大きなものだった。

 

「何なの?」

 

「外からの攻撃だ、港か?」

 

「やはり外に母艦が居たか。軍事プラントを襲うなんてどんな神経をしているんだ」

 

 これだけ派手に暴れると言うことは身内である可能性は低い。

 戦火を誘発して広げようとするなら機体を奪って逃げれば良いだけの話。

 コーディネーターはナチュラルへの憎悪はあるが身内に対する思いは深くはない。

 

(まぁ、交戦派と穏健派では対立しているがな)

 

 迫るアビスのビームランスをシールドで受け流すとそのままショルダータックルで倉庫の壁に沈め、援護に回ろうとするカオスの足を払う。

 

「なんなんだこいつ!」

 

「やるな!」

 

 体勢を崩しながらもビームライフルで反撃してくるカオスに舌を巻くエリア。

 

「ザクのパイロット」

 

「あ、あぁ」

 

「お前はミネルバに合流しろ。あそこには議長も居られるだろうもしもの時のために合流しろ」

 

「分かった」

 

(あの声…どこかで)

 

 往生していたザクを離しカオスとアビスの相手をするエリアはザクから聞こえてきた声に違和感を覚えながらも戦闘を続行する。

 

「MS各機はD12ポイントに集結。包囲し三機を撃墜する!」

 

「くっそーこの新型ども!」

 

 新型のガンダムもそうだが厄介なのは目の前に対峙しているグフだ。

 アウトと二人で相手をしていると言うのに落とすどころか損傷すらさせられない。

 

「手加減されている…いや、そんなことはない!」

 

「カオスもガイアもアビスも、何でこんなことになるんだ!」

 

「シン、落ち着け。焦る必要はない、ここは我々の領域だ。時間をかければ有利になるのは我々だ」

 

「は、はい。教官!」

 

「まったく…」

 

 エリアの言葉に気持ちを落ち着かせるシン。

 プラントへのダメージも考えてソーラー装備を選択したがやはり対艦刀《エクスカリバー》では対MS戦ではやや不利であった。

 そんな状況でシンを戦わせた自身の判断ミスを後悔しつつもカオスとアビスを相手に大立回りを見せるエリア。

 そんな二人を援護するようにビームが飛来し強奪機を狙う。

 

「隊長、遅くなりました」

 

「このぉッ!よくも舐めた真似をっ!」

 

「レイ、ルナマリア!」

 

 続々と援軍が襲いかかる、そんな状況を耐えられなかったのか撤退を始める3機。

 

「外の母艦に接触されたら面倒だ。追撃するぞ!」

 

「は、はい!」

 

 3機を引き連れて追撃を開始するエリアだったが突如、ルナマリアのザクのスラスターから火が吹きはじめる。

 

「え!」

 

「ルナマリア!」

 

 脱落するルナマリアと機体の残りエネルギーがレッドラインに到達したグフを見てエリアは撤退を決意する。

 

「シン、レイ。追撃は二人に任せる、頼んだぞ」

 

「分かりました!」

 

「了解です」

 

 エリアとルナマリアを置いて追撃する二人。

 そんな状況を見てルナマリアは叫ぶ。

 

「教官、私は大丈夫ですから追撃に参加してください!」

 

「私の機体は既に限界だ。それにお前に怪我なんてしてほしくない」

 

「教官…」

 

「隊長な…」

 

 ルナマリアのザクを支えながらミネルバに向かうエリアは先に逃がしたザクを思い出す。

 

(あのザクも中々見込みのあるやつだったな)

 

ーー

 

「医療チームD班は第七工区へ!」

 

「A45号ストレージの弾薬庫に注水しろ!」

 

「Eブロックも駄目だ!動ける機体はミネルバのドックへ行ってくれ!そう、負傷者もだよ!」

 

「解りました!」

 

 ミネルバのハンガーを中心に設置された仮設司令部においても事態は混乱しておりそこに退避し降り立ったアスランたちは周囲を見渡す。

 

「ミネルバっていうのはあれか?」

 

「確か、新造戦艦が御披露目されるって話だったからな間違いないだろう」

 

 見慣れない艦を見つけた二人はそこに向かう。

 

(エリア…)

 

 先程の機体のパイロット。

 エリア・ノイエフォードはアカデミー時代の親友であり、自分のせいで死んだニコルの最愛の婚約者であった女性だ。

 先の大戦後は軍を退いたとディアッカから聞いていたが。

 

「まさかまだ戦場にいるなんて…」

 

「どうした、アスラン?」

 

「いや、なんでもない」

 

 ナチュラルへのいや、キラへの憎悪をあの時、感じた。

 アスランは旧友との再会を少し喜びながらも多きな不安を感じていた。

 

ーー

 

 無事にミネルバに辿り着いたエリアは機体をルナマリアのザクを座らせグフをハンガーにする。

 

「グフのエネルギー補給を頼む!」

 

「は、はい!」

 

 長丁場になるなら再びグフに乗るかもしれない。

 幸いなことにグフには損傷はないが状況が切迫していると言うのに撤退するしかないと言うのは歯がゆいものだ。

 

「そこの二人!動くな!」

 

「ん?」

 

 水を飲みながら機体システムの点検を行っていたいるとルナマリアの鋭い声が響き渡る。

 視線を移したエリアが見たのはかつての友であった。

 

「アスラン?」

 

《本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい。繰り返します、本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい。》

 

「動くな!何だお前達は。軍の者ではないな!何故その機体に乗っている!」

 

「銃を下ろせ。こちらはオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ氏だ。俺は随員のア…」

 

 ミネルバの発艦準備の最中、自己紹介をするアスランは聞きなれた声に話を遮られる。

 

「アスラン・ザラ、前大戦の英雄にして裏切り者…オーブにいるとは思っていたがまさかプラントに来ていたとはな…」

 

「エリア…」

 

 ハンガーの奥から姿を表したのは白い制服に身を包むエリア。

 

「なんてな…久しぶりだなアスラン。この艦は戦闘に出る、ひとまず空いている部屋に案内しよう」

 

「教官…」

 

「ルナマリア、案内してあげろ。報告は私が行う」

 

「は、はい」

 

「ありがとう、エリア」

 

 前に会った時とくらべ落ち着いた雰囲気の彼女にたじろぎながらもアスランは礼を告げ、ルナマリアについていくのだった。

 

(アスランか…私の邪魔をするなよ…)

 

 その後ろ姿を見て彼女は静かに笑みをこぼすのだった。

 

 



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4話

 

 

「各ステーション、状況を報告せよ!」

 

 アスランをルナマリアに任せた後、ブリッジに向かう途中、大きな衝撃に襲われるがなんとかブリッジに辿り着く。

 

「バート!敵艦の位置は!?」

 

「待って下さい、まだ…」

 

「CIWS起動、アンチビーム爆雷発射!次は撃って来るわよ。」

 

「見つけました。レッド88、マーク6チャーリー、距離500」

 

「逃げたのか?」

 

「やってくれるわ、こんな手で逃げるなんてね」

 

 状況を見て逃げられたと察したエリアだったが乗艦しているデュランダルの姿を見て驚く。

 避難しているとは思っていたがミネルバ出撃時に退艦しているものだとばかり思っていた。

 

「だいぶ手強い部隊のようだな」

 

「ならばなおの事、このまま逃がすわけにはいきません、そんな連中にあの機体が渡れば…」

 

「ああ…」

 

「今からでは下船いただくこともできませんが、私は本艦はこのままあれを追うべきと思います。議長の御判断は?」

 

 驚くエリアを一目見て微笑みながらデュランダルは判断を下す。

 

「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長。私だってこの火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…それを考えるのは怖い。あれの奪還、もしくは破壊は現時点での最優先責務だよ」

 

 敵艦は該当なしと言うことだったが地球軍である可能性が極めて高い。

 このまま放置するわけにはいかないがまさか議長まで行動を共にするとは。

 

「全艦に通達する。本艦は此より更なるボギーワンの追撃戦を開始する。突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である。各員、日頃の訓練の成果を存分に発揮できるよう努めよ。」

 

 敵艦の追撃に移るミネルバだが一時警戒体勢を解除しひとまずの休息を得る。

 

「エリア、議長を部屋に案内して…」

 

「はっ、艦長。お伝えしたいことが」

 

「なに?」

 

「発艦前にオーブの代表がザクと共に乗艦、保護しました。戦闘中でありましたので私の独断で士官室にお休みになられております」

 

「オーブの…」

 

「彼女が…何故この艦に?」

 

 予想外の出来事に思わず言葉を漏らす二人に少し申し訳なさそうにするエリアであった。

 

ーー

 

「何やってる、ザクのフィールドストリッピングなんざ、プログラムで何度もやったろうが!その通りやればいいんだぞ!」

 

「は、はい!」

 

 ミネルバMSハンガー。

 そこにはヴィーノとヨウランたちが次の戦闘に備えてMSの整備を行っていた。

 

「しっかしまだ信じられない。実戦なんて嘘みてえ、なんでいきなりこんなことになるんだろう、でもまさかこれでこのまま、また戦争になっちゃったりはしないよね?」

 

「教官、いつもいってただろ?」

 

 ヨウランの言葉にヴィーノはアカデミーの授業を思い出す。

 

「前大戦は連合、ザフト間で平和を守るための条約が結ばれたが、実際は双方共に戦争継続が不可であるがゆえの条約締結だった」

 

 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦において地球連合軍はジェネシスにより参加艦艇のほとんどと月面基地の1つを失い。

 プラントもクライン派のアイリン・カナーバを中心としたクーデターにより戦争どころではなくなった。

 

「現状においてナチュラルはブルーコスモスを中心に反コーディネーター運動を活発化させ、コーディネーターは前大戦による核攻撃に対し憎悪を抱いている状況だ。今、この世界は儚い均衡の上で成り立っている。小さな火種でも崩れてしまうほどこの世界は脆い…」

 

 教官であるエリアがいつも口にしていた言葉だ。

 

「敵艦から出てきたのってダガータイプだったんだろ?」

 

「そうだって聞いたけど…」

 

「覚悟しないといけないかもしれないぞ」

 

 ヨウランの言葉にヴィーノは思わず背筋を伸ばす。

 彼女の言葉、その意味をやっと実感できたのだった。

 

ーー

 

「本当にお詫びの言葉もない、姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは、ですがどうか御理解いただきたい」

 

 エリアの報告の後、デュランダルとタリアは急いでカガリの待つ士官室に赴き、会談を開いていた。

 

「あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」

 

「ええまぁ、そうですね。艦などにもはっきりと何かを示すようなものは何も…しかし、だからこそ我々は一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならないのです、取り返しのつかないことになる前に」

 

 案内役として出入り口で立つエリア。

 それが気になるようでアスランはカガリにを見ながらもエリアに時々視線を移していた。

 

「ああ、解ってる…それは当然だ、議長。今は何であれ世界を刺激するようなことはあってはならないんだ、絶対に」

 

「ありがとうございます。姫ならばそう仰って下さると信じておりました」

 

 対してエリアも表情を出さないがアスランに視線を移していた。

 

「よろしければ、まだ時間のあるうちに少し艦内を御覧になって下さい」

 

「議長…」

 

「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」

 

 デュランダルの言葉にタリアは苦言を漏らすが流石に表だっては逆らえずに渋々、了承するのだった。

 

「オーブのアスハ!?」

 

「うん、あたしもびっくりした。こんなところで大戦の英雄に会うとはね。」

 

 インパルスのチェックをしていたシンはルナマリアの世間話に付き合っていると聞き捨てならない言葉を聞き、思わず叫ぶ。

 内容はあのザクのパイロットの話だ、ミネルバ所属ではない機体がいつの間にか転がり込んでいたのだ、そりゃ話題になる。

 

「でも操縦してたのは護衛の人なんだけど、それがあのアスラン・ザラらしいのよ!」

 

「え?」

 

 前大戦後に姿を眩ました英雄、アスラン・ザラ。

 隊長であるエリアの同期で彼の離しは時折、聞かされていた。

 

「ほう…アスラン・ザラ。前大戦の英雄だな、根拠はあるのかルナマリア?」

 

「レイ、珍しいわね。話に入ってくるなんて」

 

「気になったものでな」

 

 ザクファントムの調整を終えたレイもルナマリアの世間話に参加する。

 

「きょ…エリア隊長がそう呼んだのよ、アスランって…でも裏切り者ってなんだろう?」

 

「裏切り者?」

 

「珍しいな、教官がそういう言葉を使うとは」

 

 前大戦の英雄に対して裏切り者とは変な話だ。

 シンの中でのエリアはそのような言葉を口にすることはないので珍しく感じる。

 それはレイも同様であった。

 

「うん、教官がアスラン・ザラのことを裏切り者って呼んだのよ。訳わかんなくてさ」

 

「オーブに亡命したからかな?」

 

「さあ?」

 

 いくら考えても結果は出ず、悩んでいると突然、ハンガーのなかにデュランダルの声が響きわたり、視線を移す。

 そこにはデュランダルと艦長のタリア、そして案内役のエリアとカガリ、アスランが顔を揃えていた。

 

「ZGMF-1000。ザクはもう既に御存知でしょう、現在のザフト軍の主力の機体です」

 

 穏やかに話すデュランダルは一見、楽しげにミネルバのハンガーを眺める。

 

「そしてこのミネルバ最大の特徴とも言える、この発進システムを使うインパルス。工廠で御覧になったそうですが…技術者に言わせると、これは全く新しい効率のいいモビルスーツシステムなんだそうですよ。私にはあまり専門的なことは解りませんがね」

 

「…」

 

「シン…」

 

 明らかに機嫌が悪くなるシンを見て心配するルナマリアをよそに彼はインパルスを離れる。

 

「しかし、やはり姫にはお気に召しませんか?」

 

「議長は嬉しそうだな」

 

 不機嫌なカガリに対し分かっていても話を続けるデュランダル。

 ある意味、これは政治的な話し合いらしいがこういうのに関わらないようにしているエリアは黙って話を聞き流す。

 

「嬉しい…というわけではありませんがね、あの混乱の中からみんなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つことが出来たというのは、やはり…」

 

 デュランダルとカガリの話はいつまで経っても平行線だ。

 まぁ、考え方が違うのだから当たり前だが…。

 血のバレンタイン、それに加え、前大戦におけるボアス攻防戦と第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦における地球軍の核の使用、その過程があるからこそプラントは軍事力の拡大方針を捨てない。

 

(プラントは脆いからな…)

 

 一発の核でなくなってしまうほどプラントと言う故郷は脆い、カガリの唱える平和理論はプラントにはそぐわないのだ。

 

「我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取って歩む道を選ぶと!」

 

「それは…しかし姫…」

 

「さすが綺麗事はアスハの御家芸だな!」

 

「シン!?」

 

 ハンガーに響き渡る声。

 やや話を聞き流していたエリアも思わず叫ぶ。

 シンの気持ちも分からんでないが流石にこの場での発言はまずい。

 

「落ち着け…シン」

 

「でも!」

 

「分かってる…分かってるから…」

 

 エリアは興奮するシンを宥め、カガリたちの目の届かないところまで連れていく。

 

「ボギーワン補足!」

 

 それと同時に艦内の警告音が鳴り響くのだった。

 

 

 

 



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5話

 デブリ帯に逃げ込んだボギーワンを追撃するためエリアのグフ、シンのブラストインパルス、ショーンとデイルのゲイツRが先見隊として出撃する。

 

「全員聞け、敵は既にMSを発進させているとしたら我々は圧倒的に不利だ」

 

「っ…」

 

 エリアの言葉に彼女に追随する三人は息を飲む。

 ミネルバ所属のMS隊員は全員、エリアの教え子であり実戦経験はほぼ皆無と言って良い状態だ。

 

「デブリ帯には身を隠す場所が多く、待ち伏せには最適だ。この状況なら必ず先手を取られる。攻撃を受けたら反撃ではなくまず回避に専念しろ、波状攻撃が来るぞ」

 

「「「了解!」」」

 

 このデブリ帯は熱源を持つ物も多くレーダでも敵を捉えられない。

 

(奇妙だな…)

 

 捉えたボギーワンの反応はいまだに変わらない。

 既にレーダ圏内に入っているはずなのに加速も減速もない。

 向こうがこちらに気づいていないなんてそんなバカな話はあるまい。

 

「っ…全機散開!」

 

「「「っ!?」」」

 

 それはエリアの勘でしかなかった。

 彼女の鋭い声は全員を動かした、アカデミーから聞き続けた彼女の声に対して反射的に行動できたのは彼らが訓練を怠らなかったと言うなによりの証明だ。

 

 しかし進行していたエリアたちに対して放たれたビームはエリアたちを分断する。

 

「しまった!」

 

「くっ!?」

 

「各個に応戦しろ!」

 

 シンのブラストインパルスと段幕を張りつつ後退するエリア。

 ショーンとデイルも互いに背中を預け迎撃に移る。

 

「くっそー!」

 

「各機、敵に惑わされるな。死角からのっ!」

 

 高速で接近しサーベルを抜き放つガイアの攻撃をシールドで受け、吹き飛ばされるグフ。

 

「教官!」

 

「デイル、ショーン合流を!」

 

「わかっ…」

 

 シンの言葉に視線を逸らした瞬間、カオスのビームがゲイツRを貫く。

 

「ちっ」

 

 実戦がまだだった新人であるこのメンバーではこの状況は厳しい、しかも強奪されたガンダムのパイロットたちも腕が良く、3機をまとめて相手にするのは難しい。

 

「こうなるなら大人しく、セイバーを貰っておくべきだったかな」 

 

「もらい!」

 

「あ!」

 

「ゲイル!」

 

 カオス、ガイアが遊撃を行いアビスの砲撃で仕留める。

 シンプルだが相手の連携が良く、中々突破口を見いだせない。

 

「あっと言う間に二機も…」

 

「シン、落ち着け」

 

「は、はい…」

 

 ガトリングで牽制しつつシンに優しく呼びかけるエリア、そのおかげでシンも次第に落ち着きを取り戻す。 

 

「落とす」

 

「回り込めアウル!まず新型を孤立させる!」

 

 標的がこちらに向いた事を確認しつつもエリアはミネルバの状況把握にも努める。

 ミネルバの方もかなり苦戦しているようだ。 

 

(ここで私がやっても良いが、今後の事を考えるとやはり…)

 

「全く、昔の方が楽だったなぁ!」

 

 そう言って迫るガイアを蹴り飛ばしスレイヤーウィップをアビスの顔に巻き付け電撃を流す。

 

「あぁ!」

 

「アウル!」

 

「このぉ!」

 

 メインカメラに一時的な障害が発生したアビスの援護に回ろうとするカオスだがシンの放つビームによって進路を阻まれる。

 

「くそ、新型もそうだがなんなんだヤツは!」

 

 新型ばかりに気を取られていたがエリアの操るグフ相手に三人が手玉にとられている。

 よくよく見ればグフに大した損傷は見受けられない。

 

「このままじゃ」

 

 自身の不甲斐なさに悔しがるスティングだったが遠くで戦闘をしていたはずのガーティ・ルーからの撤退信号を見つけ撤退行動に入る。

 

「ミネルバは良くやったようだな…」

 

「はい…」

 

 息を切らし憔悴しているシンに対してエリアは息一つ乱さずにガイアたちを見送る。

 そんな彼女を見てシンは敵わないと心の中で呟くのだった。

 

「ボギーワン、離脱します」

 

「インパルス、パワー危険域です」

 

「艦長、さっきの爆発で更に第二エンジンと左舷熱センサーが!」

 

 無線を聞きながら帰投するエリアとシン。

 

「隊長お疲れ様です」

 

「レイとルナマリアか、艦の防衛助かった」

 

 ミネルバの護衛にあたっていたレイとルナマリアと合流し各自、順にミネルバに収容される。

 

「ショーンとデイルは…」

 

「すまない、私のせいだ」

 

「いえ、二人が無事なだけで」

 

 ミネルバは守れたがショーンとデイルは3機の攻撃によって命を落としたのは変えようのない事実であった。。

 

ーー

 

「……」

 

 戦闘終了後、エリアは一足先にブリーフィングルームで飲み物を飲んでいた。

 

(もうすぐだな…)

 

 懐から出したのはレトロなデザインの懐中時計、文字盤にはニコル・アマルフィと刻印されている。

 この懐中時計はエリアがニコルに用意した誕生日プレゼントだった、彼の誕生日である3月1日にはもう地球に降りてしまったので宇宙に戻ってきてからと持っていた。

 まぁ、彼は宇宙に生きて戻ってくることはなかったが。

 

「エリア…」

 

「………」

 

 そんな彼女に話しかけてきたのはやはりアスランであった。

 

「ストライクのパイロット。フリーダムのパイロットらしいな」

 

「……」

 

「皮肉なもんだ。ユーリさんはニコルの仇を取るためにNジャマーキャンセラーを作り、私にフリーダムを託してくれたと言うのに。その仇がパイロットとはな」

 

「ずいぶん変わったな、昔は綺麗な銀髪だったのに」

 

「あぁ、私はまだ4月15日から抜け出せていない」

 

 彼女の灰色の髪を見て呟くアスラン、それを自嘲ぎみに話すエリア、二人から放たれる重々しい空気を察してシンたちは息を殺しながらブリーフィングルームの前で待機していた。

 

「戦争だ、人が死ぬのは仕方ない。だが私はまだストライクのパイロットへの憎悪が抑えられない」

 

(エリアさん…)

 

 話を聞いていたシンはエリアの気持ちが痛いほど良く分かる。

 自身ではどうしようもないフリーダムへの憎悪、アカデミーで教官をしていた時は優しい姉のような人なのに心の中では自分と同じものを抱え込んでいたなど想像もしていなかった。

 

「すまない。お前はあの時、イージスを引き換えにしてまで仇を討とうとしてくれたのに」

 

「いや、理屈じゃ済まないことってことは分かってる」

 

「悪い。それとすまないな、ルナマリア」

 

「え!?」

 

「スカートが丸見えだぞ」

 

「え、あ…あははは」

 

 申し訳なさそうに出てくるルナマリアたちを見て笑うエリア。

 いつもの様子に戻っている彼女を見たルナマリアはホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

ーー

 

その頃、ユニウスセブン

 

「太陽風、速度変わらず。フレアレベルS3。到達まで予測30秒。急げよ、9号機はどうか?」

 

「はっ!間もなく」

 

「放出粒子到達確認。フレアモーター受動レベルまでカウントダウンスタート。10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…粒子到達。フレアモーター作動。ユニウス7、移動開始しました」

 

「アラン、クリスティン、これでようやく俺も、お前達も…さあ行け!我等の墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!」

 



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6話

 

《そうか、残念だ》

 

《申し訳ありません、ですが協力は惜しみません》

 

《ありがとう、君も君の目的が果たされる事を祈るよ》

 

《はい、もう会うことはないでしょう。サトーさん》

 

ーー

 

「ん?」

 

 持っていたペンを落とした音で目が覚める。

 少し前の事を思い出した。

 もう思い出すことはしないと決めていたのだが、緊張しているのだろうか。

 

「緊張か、笑えるな、そんなこと許されないと言うのに……っ!」

 

 突然、襲いかかる吐き気を必死に堪え机にある薬を無理矢理飲み込む。

 

「あぁ、最悪だ…」

 

 ぐったりと椅子にもたれ掛かるエリアは静かに虚空を見つめる。

 

「もう引き返せんな…」

 

ーーーー

 

 ユニウスセブン落下事件、後の《ブレイクザワールド》と言われるこの事件の事態を知ったミネルバは現場に急行することとなった。

 

「地球への衝突コースだって本当なんですか?」

 

「間違いない」

 

 ミネルバの次の目的地であるユニウスセブンとそこへ向かう理由を告げたエリア。

 それを聞いて一同に思い空気が流れる。

 

「はぁ~、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに今度はこれ?どうなっちゃってんの」

 

 思わず頭を抱えるルナマリア。

 彼女の心情は察してあまりある、ミネルバクルーの約3割は実践未経験者であったアカデミー卒配の者ばかりだった。

 それが実戦の連続に加え今度は世界の危機と来た、頭も抱えたくなる。

 

「で、今度はそのユニウス7をどうすればいいんですか?」

 

「現在、ボルテールとルソーがメテオブレイカーを積んでユニウスセブンに向かっている」

 

「やはり、砕くしかありませんか」

 

 レイは冷静に告げるとエリアも頷く。

 

「砕くって」

 

「あれを?」

 

「最長部は約8キロ、質量もかなりのものだ。その軌道を変更させることは不可能。地球衝突を回避したいのなら、砕くしか方法はない」

 

 エリアはあくまでも冷静に言葉を発するがその口調は重々しい。

 砕けなければ地球は滅びる、砕いたとしても隕石のシャワーが地球全土に降り注ぐ。

 もうすでに手遅れなのだ。

 

「地球、滅亡…」

 

 唖然とするヴィーノに対しヨウランは静かに言葉を紡ぐ。

 

「でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないか、不可抗力だろう。けど変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外楽かも。俺達プラントには…」

 

「くっ!」

 

 ヨウランの言葉をたまたま聞いていたカガリは頭に血を上らせるがそれを制するようにエリアが口を開いた。

 

「確かに、奴等の自業自得だ。地球連合がユニウスセブンを核攻撃しなければこのような事態は起きなかっただろう」

 

 結局、元を辿ればそうなる。

 ユニウスセブンが地球軌道上にあるのもユニウスセブンが落ちた始めたのも全ての原因はそこに辿り着く。

 

「だがやられたことをやり返して、またやり返される。それで起きたのがあの戦争だ」

 

「……」

 

 あくまでもエリアは冷静に話を進める。

 

「故郷を失う痛みを知るからこそ、我々は同じことをしてはならない。相手を許せとは言わない、私はナチュラルをどうしようもないほど憎んでいる」

 

「教官…」

 

「お前たちだけはせめて、そうならないでくれ。人として正しくあろうとしてくれ、後悔のないようにな」

 

 実感のこもった言葉に全員が言葉を失う。

 

「すいません教官、不用意でした」

 

「ヨウラン、お前が本気でそんなことを言っていると思っていない。そう言うのは身内の時だけにしておけ」

 

 そう言うとエリアは休憩室の後方に視線を向けるとそこにはカガリとアスランの姿があった。

 

「あっ…」

 

「ふふっ」

 

ーー

 

「代表は思ったより激情家なのですね」

 

「いや…そうだな。まだ未熟だと思っている」

 

「ありがとう、エリア」

 

「気にするな」

 

 流石にお互い気まずいのでエリアはアスランとカガリを連れて展望ブロックに移っていた。

 休憩室から持ってきたコーヒーを二人に渡したエリアは自分用の紅茶を飲む。

 

「殺しあった相手とこうして話すというのは奇妙な感覚ですな」

 

「殺しあう?」

 

「ヤキンの時の灰色のゲイツ。それが彼女だ、俺のアカデミーの同期でもある」

 

「ジュリを殺した…」

 

「まぁ、お互いに思うところはあるでしょう」

 

 ヤキンで殺気の強い敵を思い出してカガリはゾッとする。

 実際に彼女に殺されかけたのだから仕方ないだろう。

 

「それと遅れましたがシンの失礼な態度、大変失礼しました」

 

「あの、黒髪の」

 

 議長にミネルバを案内されているときに突っかかってきた少年を思い出す。

 そう言えば、休憩室でも凄い形相でこちらを睨み付けて来ていた。

 

「なんで彼はあんなにカガリに突っかかってきたんだ?」

 

「私もよく知らんが、オノゴロの攻防戦で家族を全員失ってプラントに移住してきたらしい」

 

 アカデミーでも上位の成績であったがどこか精神的に不安定な面が見える。

 他の教官は思春期の特有の奴だと捉えているようだがとてもそうとは思えない。

 

「しまった、生徒の事をむやみに口外するのはいかんな」

 

「エリア、もしかしてアカデミーに?」

 

「まぁな」

 

 そう言えば教官であったことは教えてなかったと思い出す。

 知ってるのはイザークとディアッカぐらいか、アカデミーの同期と言ってもほとんど前大戦で戦死してしまっていないし。

 

「我々は過去を忘れる、だなら紡いで行かねばならない。そう議長に言われてな」

 

「議長が…」

 

「議長がいなければ私はここにいない」

 

《ノイエフォード隊長、ブリッジにお越しください》

 

 話していると休に呼び出しがかかり一礼をしてその場から立ち去るエリア。

 それを複雑そうにアスランは見送るのだった。

 

ーー

 

「こうして改めで見ると、デカいな」

 

「当たり前だ、住んでるんだぞ俺達は、同じような場所に」

 

 ナスカ級《ボルテール》そのブリッジでは落ちていくユニウスセブンを見つめるイザークとディアッカの姿があった。

 

「それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大事か改めて解ったって話しだよ」

 

「いいか、たっぷり時間があるわけじゃない、ミネルバも来る」

 

「ミネルバね」

 

「……」

 

 ミネルバにはエリアが乗艦していたはずだ、ディアッカの含みのある言い方にイザークは思わず口を紡ぐ。

 

「アイツ、大丈夫なのかよ」

 

「……」

 

 イザークは暇があればかエリアの所に顔を出していた。

 精神安定剤が切れれば暴れ自傷するといった薬漬けの生活を送っていた彼女を放って置けなかったのだ。

 

(エリア…)

 

 ディアッカを中心とした破砕作業班たちはユニウスセブンに辿り着き、メテオブレイカーを設置した瞬間、黒色のジンがビームライフルを構え、イザーク隊のゲイツRを撃墜する。

 

「なにっ、なんだ!これは!」

 

「ジンだと!?どういうことだ!どこの機体だ!?」

 

「アンノウンです!IFF応答なし」

 

「なに?」

 

 次々と撃墜されるゲイツRに対し攻勢を強めるジン、それを見てイザークは思わず歯噛みするのだった。

 

ーーーー

 

「モビルスーツ発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す、発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ」

 

「出るのか?」

 

「あぁ、破砕作業は戦闘じゃない。使える機体がまだあるなら」

 

「止めておけ…」

 

 ザクに乗り込んだアスランに声を掛けたエリアの表情は真剣であった。

 

「お前はもう戦場に出るべきじゃない」

 

「だが…」

 

「あの戦いでお前は私以上に多くの人を失っている」

 

 母のレノアは血のバレンタインで失い、そのレノアの復讐の取り憑かれたパトリックはその暴走が原因でアスランの恩師であるユウキに殺された。

 そしてエリアの婚約者であったニコルも彼にとっては無二の友であった。

 

「オーブを安住の地としたならなぜ一市民として過ごさなかった」

 

「俺は俺に出来ることをしようとしただけだ」

 

「戦場に囚われたままだと私のようになるぞ」

 

「それは…」

 

 アスランの答えを聞かずにエリアはザクから離れ、愛機であるグフに向かう。

 

「忠告はしたぞ!」

 

 

「発進停止。状況変化。ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!」

 

 さらに問い詰めようとしたアスランの声を遮るようにメイリンの声がハンガー内に響き渡る。

 

「えぇ!?」

 

「アンノウン?」

 

「各機、聞いての通りだ。我々はジュール隊の破砕作業を妨害する敵機を迎撃し破砕作業を支援する」

 

 動揺するシンたちであったがエリアの声で落ち着きを取り戻す。

 

「深入りする必要はない、襲われている味方機のカバーが我々の任務だ。遊撃行動を意識しろ」

 

「「「了解!」」」

 

 新米パイロットばかりの部隊を締めるエリアの技量に感嘆するアスラン。

 仮とは言え隊長を任されていたときを思い出す。

 

 その間に各機、装備を換装し発進準備を終わらせる。

 

「シン・アスカ。コアスプレイダー、行きます!」

 

「レイ・ザ・バレル。ザク、発進する!」

 

「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」

 

「アスラン・ザラ。出る!」

 

「エリア・ノイエフォード。グフ・カスタム出撃する!」

 

 後にブレイクザワールドと言われる事件の幕開けである。

 

 



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7話

 

 

「こんなひよっ子どもに!」

 

「あぁ!」

 

 ジンの斬機刀が胴体を切り裂き、反撃の術を持たないゲイツRを真っ二つに切り裂く。

 

「我等の想い、やらせはせんわ!今更!」

 

「隊長!!」

 

 ビームに貫かれ破壊されるゲイツR。

 

「えぇい!下がれ、ひとまず下がるんだ!」

 

 オルトロスを装備していたディアッカのザクは反撃ビームを放つがジンは手慣れた動きでかわす。

 

「ゲイツのライフルを射出する!ディアッカ、メテオブレーカーを守れ!俺も直ぐに出る!」

 

 ナスカ級からライフルが射出されゲイツRたちも反撃を開始するが破砕作業は一向に進んでいなかった。

 

「ハイマニューバ2型…」

 

 ミネルバから敵機のデータが送られて来る。

 その機体はジンハイマニューバ2型と記載されており全員が息を飲む。

 

「ジン…」

 

 ジンハイマニューバ2型はジンの正統後継機だ。

 ザクウォーリアと比べれば旧型化が進んでいるもののビームカービンを装備するなど武装を近代化、さらにスラスターなどの改良により良好な足回りを手にした機体である。

 現在でもベテランパイロットが好んで使う機体だ。

 

「ジンが妨害してるってことは…」

 

「落ち着けルナマリア、ジンとは言え中身がコーディネーターであるとは言い切れないぞ」

 

「レイの言う通りだ。邪魔者は排除するだけだ、やることはジンだろうとダガーだろうと関係ない」

 

「は、はい!」

 

 ユニウスセブンまで加速するグフを追いかけるようにしてシンたちも続く。

 

「くッ…どういうやつらだよ一体!ジンでこうまで…」

 

「工作隊は破砕作業を進めろ!これでは奴等の思うつぼだぞ!」

 

 ジンを撃墜しながら動き回るイザークだが広大なユニウスセブン全域に展開する部隊をカバーしきれない。

 

「冗談じゃないぜ!こんなところでドタバタと」

 

「お前らのせいかよ、こいつが動き出しのは!」

 

「なんだ?カオス、ガイア、アビス?」

 

「アーモリーワンで強奪された機体か!?」

 

 ただでさえジンの襲撃で混乱する部隊にカオス、ガイア、アビスが加わり更に戦場が混乱する。

 

「あいつら!」

 

「あの三機、今日こそ!」

 

「目的は戦闘じゃないぞ!」

 

「解ってます。けど撃ってくるんだもの。あれをやらなきゃ作業もできないでしょ?」

 

 やる気になるシンとルナマリアを諌めるアスラン。

 

「ルナマリアはガイア、レイはカオス、シンはアビスを抑えろ。アスランは私と一緒にイザークと合流する。あくまで敵の目を逸らせればいい!」

 

「「「了解!」」」

 

 対してエリアは各機に対応するように指示しイザークの元へ向かうのだった。

 

ーーーー

 

「ああ?」

 

「やらせん!」

 

 ゲイツRに襲いかかるカオスを牽制するためにビームを撃つ。

 

「何だこいつ」

 

 カオスはビームライフルで牽制しつつレイに接近、脚部のビームクローを展開し蹴りを入れるがシールドで受け止める。

 

「くっ!」

 

「見せてみろよ、力を!」

 

ーー

 

「はあぁぁッ!」

 

「くぅ…!」

 

 ルナマリアの砲撃を縫うように避け、接近するガイア。

 

「これで終わりね、赤いの!」

 

「なにを!」

 

 ガイアのサーベルをシールドで受け止め、頭突きをかます。

 

「このぉ!」

 

「あぁ!」

 

ーー

 

「ええい!」

 

 接近するジンハイマニューバ2型に対しディアッカが攻撃を加えるが避けられ接近を許す。

 

「こんな攻撃…なに!?」

 

 それと同時に横から放たれたビームがジンの一機を撃ち落とす。

 

「腕が落ちたか、ディアッカ?」

 

「エリアか!」

 

「ディアッカか?」

 

「おいおい、アスランかよ!」

 

 いきなりの出来事に思考が追い付かなくなっているディアッカのもとにいつもの怒鳴り声が響き渡る。

 

「急げ、モタモタしてると割れても間に合わんぞ!お前ら二人は邪魔をするな!」

 

「つれないな、イザーク」

 

「やかましい!」

 

 からかうエリアに激昂するイザークだが付近に展開していたジン2機を即座に切り刻むのだった。

 そうしているうちにユニウスセブンは大きく二つに割れる。

 

「グゥレイト!」

 

「だがまだまだだ、もっと細かく砕かないと」

 

「うるさい、貴様。だいたいこんなところで何をやっている!」

 

「そんなことはどうでもいい!今は作業を急ぐんだ!」

 

「流石はザラ隊の皆さん、仲の良いことで」

 

 漂流していたメテオブレイカーをディアッカに手渡したエリアはそのまま掘削地点まで先導する。

 

「今は違う!」

 

「相変わらずだなイザーク」

 

「貴様もだ!」

 

「やれやれ」

 

 一見、罵りあっているだけのようだが4人全員が小さく笑みを浮かべていた。

 すると上方からアビスが襲来しビームを浴びせる。

 

「イザーク、エリア!」

 

「おけ!」

 

「五月蠅い!」

 

 アスランの声と共に一気に加速するイザークとエリア。

 

「今は俺が隊長だ!命令するな!民間人がぁぁッ!」

 

「うぅッ!」

 

 大型ビームアックスであるファルクスを勢い良く振るいアビスのビームランスを真っ二つにするとそのイザークの後ろからエリアがテンペストを構えて突撃する。

 

 だがそれは囮、アビスは背後から接近していたアスランに左足を切り飛ばされる。

 

「アウル!」

 

 危機に陥ったアウルを助けるために兵装ポッドを射出し迎撃するも3機は難なく回避する。

 エリアはウィップで兵装ポッドの1つの動きを封じるが片方のポッドが彼女の背中を狙う。

 

「残念」

 

 エリアは急加速し上昇、それと同時にディアッカの放ったビームがポッドを二枚抜きし撃破する。

 

「くっ!」

 

 ポッドの撃墜に気を取られた一瞬の隙にイザークはカオスに接近しシールドを真っ二つにすると同時にアスランの投擲したビームアックスがカオスのビームライフルを破壊する。

 

(あれが…ヤキン・ドゥーエを生き残ったパイロットの力かよ…)

 

 四人の間に会話は無かったがお互いに思考が繋がったようにカバーしあっていた。

 圧倒的な実力差に見ていたシンは唖然するしかなかった。

 

ーー

 

 メテオブレイカーをユニウスセブンに打ち込むとミネルバとボルテールから発光信号が上がる。

 

「チッ!限界高度か!」

 

「ミネルバが艦首砲を撃ちながら、共に降下する!?」

 

ーー

 

「この!」

 

「っ!?」

 

 ルナマリアはガイアと殴りあっていると横合いから割り込んだエリアがガイアを蹴り飛ばす。

 

「ミネルバまで撤退しろ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「総員に告ぐ…本艦はモビルスーツ収容後、大気圏に突入しつつ艦主砲による破片破砕作業を行う、各員マニュアルを参照。迅速なる行動を期待する」

 

 ルナマリアをミネルバに収容させるとエリアもグフをロックする。

 

「ザクとインパルスはどうした?」

 

「まだ戻ってません!」

 

「なんだと!?」

 

 シンとアスランの姿が見えないと思えばまだ帰還していないと言うのだから流石に焦るエリア。

 

「無事でいてくれよ…」

 

 エリアはグフのコックピット内で心配そうに呟くのだった。

 

 



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8話

 

 ミネルバのタンホイザーによるユニウスセブンは何とか無事に成功したもののその破片は地球全土に降り注ぐこととなった。

 その最中において幸いだったのは大気圏を落下したアスランとシンが無事に帰還したことであった。

 

「教官!」

 

「教官じゃなくて隊長な…でも良くやった偉いぞ」

 

「はい!」

 

 優しく頭を撫でて誉めてあげるとシンは心底嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 それを心配するカガリを相手にしていたアスランは年相応の顔をする彼を見て少しだけ安心していると突然の揺れがミネルバを襲った。

 

「なに?まだ何か!?」

 

「地球を一周してきた最初の落下の衝撃波だ、おそらくな」

 

「……」

 

 レイの解説に思わず意気消沈する一同。

 邪魔が入ったとは言えユニウスセブンの落下を阻止できなかったのは事実だ、自分達は救える立場にいのに救えなかったその実感が湧いてきたのだ。

 

「自惚れるな!」

 

「「「っ!」」」

 

 そんな空気で言葉を発したのはエリアだった。

 

「この破砕作業の失敗で何万何億の人が死んだかは分からない。だがお前たちはそれ以上の人間を救った!」

 

「教官…」

 

「お前たちは出来る限りのことをした、それだけで十分だ!」

 

「ありがとうございます」

 

 少しだけ安心そうにするルナマリアを見て微笑むエリア、その姿を見たアスランは昔の光景をフラッシュバックさせる。

 

《私たち、婚約者になったんだ》

 

《ちょっと恥ずかしいですけどアスランには報告しておこうと思いまして》

 

《そうか、おめでとう。お似合いだと思うよ》

 

「各員、これよりミネルバは太平洋に着水する。規定にしたがい待機されたし」

 

 そんな時、艦内放送が鳴り響き全員が慌ただしく動き出してしまうのだった。

 

「警報、総員着水の衝撃に備えよ」

 

 着水の衝撃を耐えると艦内は静かになる。

 

「着水完了、警報を解除。現在全区画浸水は認められないが今後も警戒を要する、ダメージコントロール要員は下部区画へ」

 

 こうしてミネルバは無事に地球に降り立ったのだった。

 

ーー

 

 ミネルバが着水し束の間の平穏が訪れておりエリアが部屋で作業しているとレイがタブレットを片手に部屋に訪れる。

 

「失礼します、隊長。本日の訓練なのですが」

 

「訓練は規定通りに通ってもらえば良い、任せる」

 

「了解です、いつも通り訓練データはいつものファイルに送っておきます。そしてルナマリアからの提案なのですが」

 

「ん?」

 

 ユニウスセブンにおける戦闘データを纏めながらレイの話を聞いていると一瞬だけ手が止まる。

 

「露天甲板で行いたいと申し出がありました」

 

「露天甲板で?」

 

「はい」

 

「分かった、少し待て…」

 

「ありがとうございます」

 

 レイとの話を続けながら申請書を簡単に作りレイに渡す。

 

「シンはどうだ?」

 

「実はアスハ代表にまた噛みつきまして」

 

「…詳細を」

 

「実は…」

 

 シンの言動はアスランをかばってのことだ、この短期間でアスランも好かれたものだ。

 

「そうか…」

 

「シンの行動は軽率でしたが私怨ではないと感じました」

 

「ふむ、今回は不問にする」

 

「ありがとうございます」

 

 ドライな印象を受けるレイだが仲間思いな面もある。どこかの仮面を連想させる雰囲気を持つレイだったが既に彼女は一人の人間としてレイを認めていた。

 

「では、失礼します」

 

「あぁ、レイ」

 

 レイが部屋を去る前にエリアは引き出しから袋チョコレートを取り出し渡す。

 

「隊長?」

 

「疲かれただろう、お前たちで分けておけ」

 

「ありがとうございます」

 

 袋チョコを携えて部屋を去るレイを見届けるとエリアは一息着く。

 レイと話していると何故か緊張する、意味は分からないが何かしらの親近感を感じるのだ。

 

「まぁ、私の教え子なのは変わらんがな」

 

 そう言うとエリアはチョコを口に放り込みゆっくりと舐めながら考えにふけるのだった。

 

ーー

 

 大海原のど真ん中で停泊するミネルバ、シンたちパイロットは束の間の休息を手にしていたが隊長であるエリアはそうもいかない。

 

「エリア、MSの状況は?」

 

「アスランのザク以外は問題ないですね。インパルスも予備のパーツを使えば問題なく稼働できますが使っていたパーツは大気圏に突っ込みましたからね。カーペンタリアで処理しないと」

 

「そうね」

 

 端末を操作しながら説明するエリアを見て頷くタリア。

 データが送られ目を通すが現状、良いとは言えない。

 万全の態勢で戦えるのは後、一戦といったところか。

 

「もうやってるのか?」

 

 艦橋にいたエリアは銃声を耳にすると呟く。地球に降りてきて間もないと言うのに訓練に勤しむとは感心だ。

 艦橋の窓から見下ろすとシンたちが訓練をしているのが見え、そこにアスランが居るのに気づく。

 

ーー

 

「うわー、同じ銃撃ってるのになんで!?」

 

「銃のせいじゃない。君はトリガーを引く瞬間に手首を捻る癖がある。だから着弾が散ってしまうんだ」

 

 見事に的を射ぬいたアスランを見て感心するルナマリア。

 

「エリアに教えて貰わなかったのか?」

 

「エリア教官は実技の担当じゃなかったので、どちらかと言えば座学教養でした」

 

「そうなのか、アイツはアカデミーでは口より先に手が出る奴だったからな」

 

「え、そうなんですか!?」

 

 ルナマリアの知る落ち着いた感じのエリアからは想像できない姿に大声を出す。

 エリアの昔の姿は気になるようでシンも横目で二人の会話に耳を立てていた。

 

「イザークと殴り合いの喧嘩したときは凄かったな。お互い鼻血垂れ流しながら殴りあってたからな」

 

「へぇ~」 

 

「アスラン?」

 

「まぁ、エリアもそう言う頃があった訳だ」

 

 楽しく話していたアスランの視界にカガリが映り少しだけ冷静になるとルナマリアに拳銃を返す。

 

「ミネルバはオーブに向かうそうですね、貴方もまた戻るんですか?オーブへ」

 

「ああ…」

 

「なんでです?」

 

 シンの侮蔑でもなんでもないただ真っ直ぐな質問にアスランは思わず押し黙る。

 

「教官はまだ戦ってます…でも貴方はそこで何をしてるんです?」

 

「……」

 

 そんなシンの言葉になにも答えられずにいたアスランは自分の情けなさを痛感するのだった。

 

 



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9話

 

 

 無事にオーブへと寄港したミネルバはオーブの首脳陣の出迎えを受けた。

 その際、艦の代表として艦長のタリアとエリアが抜擢された。

 ついでに副長のアーサーは艦内で寄港後のチェックを行っている。

 

「カガリ!」

 

「ユウナ!」

 

「おお、よく無事で、はぁ、ほんとにもう君は心配したよ」

 

 カガリに抱きついた紫髪の優男。

 それを見てエリアは思わず疑問を抱く、カガリとアスランは恋仲であったはずだと認識していた為である。

 

「あぁいや…あの…すまなかった」

 

「これユウナ!気持ちは解るが場をわきまえなさい、ザフトの方々が驚かれておるぞ」

 

 親子揃ってわざとらしいと思いつつもエリアは一切の表情を変えない。

 

「あ、ウナト・エマ」

 

「お帰りなさいませ代表、ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」

 

「大事の時に不在ですまなかった、留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況などどうなっているか?」

 

「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが幸いオーブに直撃はなく、詳しくは後ほど行政府にて」

 

 カガリとウナトの話が良い感じに途切れたところでタリアとエリアは敬礼をウナトたちに行う。

 

「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」

 

「同じく戦術指揮官のエリア・ノイエフォードであります」

 

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ、この度は代表の帰国に尽力いただき感謝する」

 

「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」

 

「お心遣い痛み入る、ともあれ、まずはゆっくりと休まれよ。事情は承知しておる。クルーの方々もさぞお疲れであろう」

 

「ありがとうございます」

 

 ウナトの対応もそうだがエリアはこの首脳たちの反応が微妙なのが気になる。

 敵意ほどはいかないが厄介者が来てしまったと言う非歓迎ムードは察することができる。

 ユニウスセブンの落下はこちらに非があるのでそれだと思うが…。

 そう思うとエリアは精神が痛んだ。

 

「まずは行政府の方へ、ご帰国そうそう申し訳ありませんがご報告せねばならぬ事も多々ございますので」

 

「ああ、解っている」

 

「あ…君も本当にご苦労だったねぇアレックス、よくカガリを守ってくれた、ありがとう。報告書などはあとでいいから、君も休んでくれ。後ほど彼等とのパイプ役など頼むかもしれないし」

 

 あまりにも露骨なユウマの態度にタリアもエリアもアスランのここでの立場を察する。

 

「大変だな」

 

「あぁ…」

 

 すれ違いざまにエリアは言葉を送るとアスランは静かに答えるのだった。

 

ーー

 

「まぁ船体の方はモルゲンレーテに任せて大丈夫でしょう、でも船内は全て貴方達でね」

 

「ええ」

 

「資材や機器を貸してくれるということだから、ちょっと入念に頼むわ」

 

 整備班長であるエイブス、タリア、アーサー、エリアは船体の状況を確認しつつ今後の予定について話す。

 

「念のため警備当直を編成して艦内を巡回させます。MSハンガーとエンジンを中心に」

 

「そうね、そこはエリアに一任するわ」

 

「それと船員について後程協議したいことがありますので時間ができたらお願いします。優先度は低いです」

 

「分かったわ」

 

 エリアは班編成を纏めるために艦内に足を向けるとアーサーが心配そうに話しかける。

 

「いいんですか、艦長?」

 

「ん?」

 

「アーサー補給は兎も角、艦の修理などはカーペンタリアに入ってからの方がはよいのではないかと、自分は思いますが」

 

「言いたいことは解るけど、一応日誌にも残しましょうか?」

 

「いえぇ!」

 

 アーサーのすっとんきょうな声を聴きながら艦内に入るエリア。

 適当に見張りを配置させ段取りが終わり、艦橋に戻るとタリアたちも戻ってきた。

 

「お疲れ様です」

 

「ありがとう、メイリン」

 

 メイリンから渡されたコーヒーを飲むと少し落ち着き、息がこぼれる。

 

「艦内の事は助かったわ。ありがとうね」

 

「いえ、それが私の仕事ですから」

 

 いつの間にか袋を空けていたタリアは中からチョコスティックをエリアに渡すと彼女はすかさず口に放り込みタバコのように咥える。

 

「それで、さっき言ってたことだけど。なんだったかしら?」

 

「はい。機体も船も一応、修理の目処が立ちました、しかし乗員のメンタルも心配です」

 

「そうね、これまで連戦つづきだったものね」

 

 アーモリーワン襲撃事件からハードな任務ばかり、挙げ句の果てに大気圏突入なんて誰が想像しただろうか。

 

「正直なところ、このまま平穏無事にカーペンタリアにたどり着く可能性も危うい」

 

「え?」

 

 アーサーは少し分からないと言った風に首をかしげるがそれはタリアも同意見だった。

 ユニウスセブン落下事件のお陰で地球き住む人達はプラントに対して良い印象を持っていないだろう。

 このような情勢は非常によろしくない。

 ナチュラルとコーディネーターの軋轢が大きな現状においては戦争に発展しかねない。

 

「オーブとて安心できません。平和を謳い、中立と言う面の皮を被ったこの国のせいで我々がどれ程の被害を被ったか」

 

 ストライクを含むGAT-Xシリーズ開発計画がオーブあっての計画だったのは周知の事実。

 そのうちの一機であるブリッツに登場していたニコルはこのオーブの近海で散った。

 

「そうね、まだ現状は大丈夫でしょうけど。今後の情勢は分からないわね」

 

「はい、なので乗員にも休息を与えるべきだと具申します」

 

 そんな会話を聞いていたメイリンは心の中でガッツポーズを取るのだった。

 

「え、本当?」

 

「修理で数日って事になるんならって艦長の反応も良くて…案外出るんじゃないかな、上陸許可」

 

「ちょっとここまできつかったからなぁ実際」

 

「なんか夢中で来ちゃったけどむっちゃくちゃだったもんなほんと」

 

 メイリンを中心に上陸許可の噂が瞬く間に流されると全員が嬉しそうに上陸したら何をするか話し合う。

 それをシンは黙って見つめるのだった。

 

ーー

 

「な、どこ行きたい?」

 

「うーんそうだなぁ」

 

「俺、腹減った!」

 

「シン?居ないの?」

 

 噂が流れたすぐ後に上陸許可を告げる旨の館内放送が流れ乗員たちは歓声を挙げ、早速街に繰り出していくのだったがそこにはシンの姿はなかった。

 

ーー

 

「すまないな、つきあってもらって」

 

「いえ…」

 

 シンはエリアに連れ出され彼女の運転する車の助手席で静かに座っていた。

 彼女の上陸目的は主に買い出しだ、タリアやアーサーの二人は立場上、上陸が難しいためその買い物をするためだ。

 

「き…隊長も大変なんですね」

 

「今回は自分から申し出たから別に良いんだがな、お前だって上陸したかっただろ?」

 

「…はい」

 

 上陸しようかしまいか悩んでいたところを見つかり、連れ出されたシンは素直に頷く。

 

「まぁ、上陸目的は大方察しがつく。私も同じだからな」

 

「……」

 

 アスランと話しているときに聞いてしまったあの話。

 

「オーブでお亡くなりになられたのですか?」

 

「あぁ、正確にはオーブの近海らしいがな。そこでアスランを守るために死んだらしい。遺体はなかった」

 

 いつも凛々しいエリアの顔はその時だけ泣き出しそうな顔に変わる。

 今にも崩れ落ちそうなほどの表情を浮かべる彼女を見てシンも思わず黙る。

 

「まぁ、お前も複雑だろうが嫌いになりきれないんだろ?」

 

「…たぶん」

 

「私もアスランを何度殺そうと思ったか…それが逆恨みで意味の無いことだって分かっててもだ」

 

《嘘だ、ニコル…ニコルぅ!》

 

 彼の死を知ったのは地上で唯一生き残ったと思っていたイザークからの通信からだった。

 その後、アスランとディアッカが生きていることが分かった。

 その後も受領予定のフリーダムが盗まれ、そのパイロットがニコルの仇とは思わなかったが。

 

「ふっ…」

 

「?」

 

「いや、本当に踏んだり蹴ったりだと思ってな」

 

 突然笑い出すエリアを不思議に見つめるシンに笑みを浮かべながら答えると車を止め、買い出しを始めるのだった。

 

ーー

 

「ほら、着いたぞ」

 

「ありがとうございます。隊長は行かないのですか?」

 

「あの慰霊碑はオーブ攻防戦の死者に向けたものだ。残念ながらニコルは対象じゃない」

 

 オーブ沿岸部にある慰霊碑のある公園に着いた二人だったがエリアは降りずにシンだけ行かせ、見送る。

 

「私みたいにならなければ良いが…」

 

 憎悪だけが自身を突き動かす原動力。

 それでしか前に進めなくなった自分とはシンは違うと思いたい。

 

(ごめんねニコル…私もう…血塗れになっちゃった)

 

 でもまだ足りない、もっと血を流さなければもっと殺さなければ目的は達せられない。

 

「……」

 

 深呼吸をしながら顔を上に向ける。

 するとエリアの左目からとめどなく涙が溢れた。

 それはシンが車に帰ってくるまで止まらなかった。

 



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10話

 

 心地よいピアノの音が聞こえる。

 机にある紅茶を飲みながらその音に耳を傾ければ奏者がこちらに向けて微笑みかける。

 

「ニコル!」

 

 エリアは叫ぶと同時にベットから飛び起き、乱れた息を整えるために大きく深呼吸をすると備え付けられた小テーブルに置かれた薬を口に放り込み水を流し込む。

 

「またか…」

 

 左目から溢れる涙を服で拭い、時計を見るとまだ深夜であった。

 ここ最近、ユニウスセブンの光景を見てからニコルの顔が見えなくなった。

 

「…顔向けできないってか」

 

ビーッビーッ

 

「はい」

 

「こんな時間に悪いわね、至急ブリッジに来てくれる?」

 

「分かりました」

 

ーー

 

「何事ですか?」

 

 寝巻きのジャージの上に制服を羽織っただけという簡素な格好だが当直の者以外は全員が似たような格好をしていた。

 

「地球連合が宣戦布告、プラントは核攻撃に曝されたらしいわ」

 

「結果は?」

 

「プラントは無事よ。被害はないわ」

 

「この艦の対応はどうしましょうか?」

 

 警戒レベルを上げて直ちに発進する手もあるがメリットばかりではない。

 積み込み作業も終わっていないし修理も万全じゃない。

 

「オーブは中立を唱っていますがもう獅子は没し、前大戦中の力はない、この国が中立でいられる保証はありません」

 

「しかし今、カーペンタリアとジブラルタルには連合軍が展開し包囲しているようですが動きはありません」

 

「プラントを落としてから地上の基地を殲滅する予定だったんだろうな。だから今は面を食らって動けずにいる」

 

「難しいわね」

 

「現状は不安定です、ノイエフォード隊長の言うとおりオーブも信用はできません、できるだけ早く出港を!」

 

 アーサーの意見は最もで、こんなドックで包囲されればいくら最新鋭艦といえど絶望的だ。

 

「ですが最速でカーペンタリアに向かったとしても包囲部隊を突破しなければなりません。そのせいで包囲舞台とカーペンタリアの我が軍の戦端を開きかねません」

 

「う、うーん」

 

「オーブがまだ中立の体裁を守っているうちはご厚意に甘えましょう。申し訳ないけど、作業は急ピッチでやって貰うわ」

 

「分かりました」

 

 エイブスは頷くと作業を開始するためにブリッジを後にする。

 

「エリアたちはゆっくり休んで頂戴、連戦になる可能性があるわ」

 

「分かりました、シン達に伝えておきます」

 

「頼むわ」

 

 ひとまず結論が出ると各自が各部屋に戻る。

 休むのも立派な仕事なのだ。

 

ーー

 

「積極的自衛権の行使…やはりザフトも動くのか」

 

「仕方なかろう、核まで撃たれてそれで何もしないというわけにはいかん」

 

 プラント首都、アプリリウス。

 そこの墓地でプラントに来ていたアスラン、その付き添いのイザークとディアッカがいた。

 

「第一派攻撃の時も迎撃に出たけどな、俺達は。奴等間違いなくあれでプラントを壊滅させる気だったと思うぜ」

 

 プラント内の交戦感情は頂点に達している。

 議長であるデュランダルの非交戦姿勢は逆に反感を呼んでいる始末だ。

 

「事情はいろいろあるだろうが俺がなんとかしてやる。だからプラントへ戻ってこい、お前は」

 

「いやしかし」

 

 アスランは公式的には英雄と言われているが実のところは裏切り者の反逆者だ。

 

「俺だって、こいつだって、本当ならとっくに死んだはずの身だ。だが、デュランダル議長はこう言った」

 

《大人達の都合で始めた戦争に若者を送って死なせ、そこで誤ったのを罪と言って今また彼等を処分してしまったら、一体誰がプラントの明日を担うと言うのです。辛い経験をした彼等達にこそ私は平和な未来を築いてもらいたい。》

 

「だから俺は今も軍服を着ている。それしか出来ることがないが、それでも何か出来るだろう。プラントや死んでいった仲間達の為に」

 

「それにエリアを見てたらウジウジ言ってられないしな」

 

「そうだ…」

 

 ディアッカの言葉に思い出したかのようにアスランは言葉を発する。

 

「キラのこと。ストライクとフリーダムのパイロットが同じなんてこと言ったのはお前達か?」

 

「そんなこと言えるわけないだろ!」

 

「知ってたのか?」

 

「あぁ…」

 

「誰がそんな…」

 

 アスランの言葉にイザークとディアッカが驚く。

 廃人と化していた彼女にそんなことを言えるわけもなくそれに関しては沈黙を守っていた。

 だがそれを彼女に伝えた人物がいるなんて。

 

「アスラン、お前は議長とコネがあるか?」

 

「コネという程でもないが…ある程度話しはして貰える」

 

「復帰しろ、そしてミネルバに行け!」

 

「いきなり…」

 

 なんとか復帰したエリアはアカデミーでの教官を通して復隊したのだと思っていた。

 だがそれは完全に外れていた、まだ仇が生きているなんて知れば復讐に走るのは目に見えている。

 

「俺はアイツがどう動くか全く分からなくなった…アイツは何かに巻き込まれている、間違いなく!」

 

 最愛の人物を失い、心身ともにボロボロであったエリアを目的のために使い潰そうとしている人間がいる。

 そのことにイザークは激しい憤りを感じた、それはディアッカも同じだった。

 

「お前がしなくても俺たちが行く!なら議長に直談判だ!」

 

「落ち着けイザーク!」

 

 終始暴れるイザークを見かねたアスランとディアッカは必死に彼を止めるのだった。

 

ーー

 

 時が代わりミネルバ、再びブリッジに呼び出されたエリアが聞いたのは聞き覚えのある声だった。

 

「ミネルバ聞こえるか。もう猶予はない。ザフトは間もなくジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう」

 

「秘匿回線なんですがさっきからずっと」

 

「そうなればもうオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた駒はひっくり返って黒になる。脱出しろ。そうなる前に。聞こえるかミネルバ」

 

 無線から流れてくる声にエリアは静かに耳を傾けるとタリアが応答する。

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ。貴方は?どういうことなのこの通信は」

 

「おーこれはこれは、声が聞けて嬉しいねえ。初めまして。どうもこうも言ったとおりだ。のんびりしてると面倒なことになるぞ。

 

「匿名の情報など正規軍が信じるはずないでしょ?貴方誰?その目的は?」

 

「んー…アンドリュー・バルトフェルドって奴を知ってるか?これはそいつからの伝言だ」

 

「砂漠の虎」

 

「ともかく警告はした。降下作戦が始まれば大西洋連邦との同盟の締結は押し切られるだろう。アスハ代表も頑張ってはいるがな。留まることを選ぶならそれもいい。あとは君の判断だ、艦長…幸運を祈る」

 

 無線が切れタリアとエリアは顔を合わせる。

 お互いに覚悟が決まったようだ。

 

「いいわ、命令なきままだけど、ミネルバ明朝出港します全艦に通達。出れば遠からず戦闘になるわ。気を引き締めるようにね!」

 

「メイリン、シン達をブリーフィングルームに集めろ」

 

「はい!」

 

ーー

 

「各員、聞いた通りだ。ザフト軍が地球降下作戦を開始する前に出港する。オーブとて地球の国家、地球軍にくだる可能性は十分にあり得る」

 

「戦争…」

 

 本格的な戦争の始まりを感じ息を飲むルナマリア。

 

「よって我々は明朝に出立しカーペンタリアを目指す。当然ながら我々ミネルバは最新鋭艦と言うこともあって注目を集めるだろう」

 

 最新鋭艦というブランドと本隊からかけはなれ戦力的に乏しいという点から見てもミネルバは美味しい敵のはずだ。

 

「だがそれは明朝の話、こんなことを言っておいてなんだがゆっくり休め。我々パイロットはそれが資本だ」

 

「「「了解!」」」

 

 ブリーフィングを終え部屋に戻るレイとシン。

 そんな中、ルナマリアだけはその場に残っていた。

 

「教官…」

 

「隊長だ、まぁいい…なんだ?」

 

「本当に戦争が始まるんですね」

 

「そうだな」

 

 ルナマリア自身も感情を整理しきれていないのか言いたい言葉は出てこない。

 

「ナチュラルの劣等意識、コーディネーターの選民思想、民衆間で広がる怨み辛み。そんなものがまだ抜けきれてないこの状況で始まる戦争はどれだけ泥沼になるか分からない。その点ではデュランダル議長は冷静な判断を下したと言えるだろうな」

 

「なんでデュランダル議長のような人ばかりではないんでしょうね」

 

「そう考えられるならお前はまだ冷静だ。その考えを忘れるなよ」

 

 そう言うとエリアはルナマリアの肩を軽く叩くとブリーフィングルームを後にするのだった。

 

 



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11話

 

「間もなくオーブ領海を抜けます」

 

「降下作戦はどうなってるのかしらね。カーペンタリアとの連絡は、まだ取れない?」

 

「はい。呼び出しはずっと続けているんですが」

 

 ミネルバはザフトの降下作戦にあわせて出港、もし連合にこちらの動きを察知されても来られないタイミングはこれしかなかった。

 味方を囮にしているようで気が引けるが単艦のこちらは仕方がない。

 

「こちらの勢力圏に入るまでは援護はないと考えた方が良いですね」

 

「そうね」

 

 エリアはパイロットスーツを着込み、ブリッジで待機していた。

 もしもの際に備えるために、その心配は的中することになる。

 

「本艦前方20に多数の熱紋反応」

 

「!?」

 

「これは地球軍艦隊です。ステングラー級4、ダニロフ級8、他にも10隻ほどの中小艦艇を確認。本艦前方左右に展開しています」

 

「ええぇッ!」

 

「どういうことですか、オーブの領海を出た途端に…こんな」

 

「本艦を待ち受けていたということか、地球軍は皆カーペンタリアじゃなかったのかよ」

 

 動揺するブリッジクルー。

 そんな中、タリアもエリアだけは冷静に考えていた。

 

「後方オーブ領海線にオーブ艦隊展開中です」

 

「砲塔旋回、本艦に向けられています!」

 

「そんな!何故!?」

 

「領海内に戻ることは許さないと。つまりはそういうことよ」

 

「まさに前門の虎後門の狼か」

 

「どうやら土産か何かにされたようね。正式な条約締結はまだでしょうに。やってくれるわね、オーブも」

 

「艦長…」

 

「私はグフに」

 

「たのむわ、コンディションレッド発令。ブリッジ遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意。大気圏内戦闘よアーサー分ってるわね」

 

「は、はい!」

 

「コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ」

 

 エリアがブリッジから出ていくと同時にブリッジが戦闘艦橋に移動しメイリンの声が艦内中に鳴り響く。

 

「レッドって何で!」

 

「知らないわよ、何であたしに聞くの?」

 

 念のためブリーフィングルームで待機していたシンたちも訳が分からずハンガーに向かう。

 

「艦長、タリア・グラディスよりミネルバ全クルーへ」

 

「最終チェック急げ!」

 

 続いて艦長のタリアから現状を伝える声が響く。

 

「現在本艦の前面には空母4隻を含む地球軍艦隊が、そして後方には自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である」

 

「空母4隻!」

 

「後ろにオーブが!?」

 

「地球軍は本艦の出港を知り、網を張っていたと思われ。またオーブは後方のドアを閉めている。我々には前方の地球軍艦隊突破の他に活路はない。これより開始される戦闘はかつてないほどに厳しいものになると思われるが、本艦はなんとしてもこれを突破しなければならない。このミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待する」

 

それぞれMSに機乗した三人は絶望的な状況に息を飲む。

 

「聞いての通りだ。短期間ながら多くの経験を積んできた我々だがそれ以上の試練がこれから待ち受けている。ルナマリア、レイは甲板上で接近するMSを叩け。私とシンは空中で遊撃戦闘、ミネルバから離れないようにしろ」

 

「「「了解!」」」

 

「互いが互いを援護できる位置取りを意識しろ。敵が多かろうがやることは変わらん。シン、今回は敵が多い足を止めるな」

 

「了解です!」

 

「ランチャー2、ランチャー7、全門パルシファル装填。CIWS、トリスタン、イゾルデ起動!」

 

「イゾルデとトリスタンは左舷の巡洋艦に火力を集中。左を突破する!」

 

「はい!」

 

「カタパルト推力正常。針路クリアー。コアスプレイダー発進どうぞ!」

 

「シン・アスカ、コアスプレイダー、行きます!」

 

「続いてグフカスタム発進どうぞ!」

 

「エリア・ノイエフォード、出る!」

 

「ザク、レイ・ザ・バレル機発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。ルナマリア機発進スタンバイ。ウィザードはガナーを装備します」

 

「海に落ちるなよ、ルナマリア。落ちても拾ってはやれない」

 

「意地悪ね」

 

 エリアの指示通り、レイとルナマリアは甲板上で支援。エリアとシンは空中で遊撃戦闘を開始する。

 

「ミネルバは艦隊の向かって左側から突破するつもりだ。右舷からMSが来るぞ」

 

「はい!」

 

 足の早いインパルスか敵のMS郡に突っ込み、ウィンダムやダガーが散開する。

 インパルスに注意が向いたダガーをビームガトリングで蜂の巣にするとすれ違いざまにウィンダムを真っ二つにする。

 インパルスもライフルで次々とダガーらを撃破し序盤は順調だった。

 

「っ!」

 

 だがこちらが敵機を次々と撃破しているが数が減らない。

 空母から増援が投入されどんどん追い込まれていく。

 

「ちょっとあの数…冗談じゃないわよ!」

 

「余計な口きいてる暇があるのか!」

 

 あまりの物量に愕然とするルナマリアの声に内心同意しながらも声を出す。

 

「慌てるな!一機ずつ確実に減らしていくんだ!」

 

「教官!」

 

「シン、一旦下がる。ミネルバの護衛が優先だ!」

 

「はい!」

 

 すると敵の空母から巨大なMAが離陸しこちらに迫ってくる。

 

「あれは?」

 

 スレイヤーウィップでダガーの飛行ユニットを両断しながら緑のMAを見るとミネルバからタンホイザーの発射警告がメイリンから通達される。

 すぐに射線から退避するエリアとシン、タンホイザーが放たれMAに直撃、周囲の艦艇やMSもその余波に巻き込まれ撃破されるがMAとその後ろの艦艇は無傷で残っていた。

 

「タンホイザーを防いだ?」

 

「シン、迎撃に出る。あのMAをミネルバに近づけるな!」

 

「はい!」

 

 砲をミネルバに向け、接近してくるMAにサーベルで斬りかかるインパルスだが避けられ逃げられる。エリアはその上からガトリングを放つがリフレフターに阻まれる。

 

「上にリフレフターか」

 

 すると攻撃がこちらに集中し一旦距離をおく。

 その隙にインパルスが近づくとMAはクローを展開、インパルスに襲いかかる。

 下に回り込見たいが海面スレスレを飛んでいるため潜り込めない。

 それに援護に来たMSたちの対応もしなければならない。

 

「押される!」

 

「なんて火力とパワーだよ!」

 

 MAの対策を思案しながらエリアはスレイヤーウィップでウィンダム二機を同時に仕留める。

 そうしていると後方に展開していたオーブ軍艦隊がミネルバに向けて砲撃を開始。

 

「オーブが…本気で…」

 

 その事実に唖然とするシンにMAがクローを構えて近づいているの察知したエリアはグフで突っ込む。

 

「止まるな、シン!」

 

「っ!」

 

 インパルスを逃がすことには成功したがグフの左足にクローがめり込む。

 

「く!」

 

「教官!」

 

「私に構うな!」

 

 グフの左足が引きちぎられ、MAからタックルを受ける。

 その衝撃で一瞬、意識を失ったエリアはそのまま海面に墜ちていく。

 

「ふざけるなぁ!」

 

 エリアがやられたのを見た瞬間、シンの溜めていた怒りが頂点に達しぶちギレる。

 その瞬間、シンは自身の頭がクリアになるのを実感していた。

 グフにとどめを刺そうとしていたMAに牽制しつつミネルバに向かう。

 

「エリア!」

 

「っはぁ!」

 

 息を大きく吸いながら意識を取り戻すエリアは機体のパワーを無理矢理上げ、シールドのガトリングを投棄、海面に激突する前に体勢を立て直す。

 

「ミネルバ、メイリン、デュートリオンビームを!

それかソードシルエットを射出!」

 

「早く!やれるな?」

 

「は、はい!」

 

 インパルスのエネルギーはほぼ無い状態だったためミネルバに補給を要請。

 普段のシンとは違う冷静な言葉に困惑するメイリンだがすぐに従う。

 

「指示に従って!」

 

「はい、デュートリオンチェンバースタンバイ。捉的追尾システム、インパルスを捕捉しました。デュートリオンビーム照射」

 

「死ね!」

 

 デュートリオンビームで補給するインパルスを狙うMAだが真下からテンペストソードを構えて突っ込んでくるグフに対応できずに剣が下腹に突き刺さる。

 そのまま剣を振り傷口を広げると左右の連装ビームガンの斉射を行いとどめを刺す。

 

「シン?」

 

 MAの撃墜を確認するとそのままインパルスはソードシルエットと共に艦隊に向かいシルエットを換装対艦攻撃に出る。

 

「やるな」

 

 エクスカリバーで次々と艦艇を撃破していくインパルスを見て笑みを浮かべるエリアも残った武装でシンが撃ち漏らした艦艇を破壊していく。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 最後の空母を破壊した所でエリアはインパルスの元に降り、肩に手を乗せる。

 

「良くやった、敵は撤退していく」

 

「教官…」

 

 帰ってきた返事はいつものシンで少し安心するとエリアはグフでインパルスを持ち上げミネルバに帰投するのだった。

 

ーー

 

「レイ機、ルナマリア機、収容完了。インパルス、グフ、帰投しました」

 

「もうこれ以上の追撃はないと考えたいところだけど、判らないわね。パイロットは兎に角、休ませて、アーサー、艦の被害状況の把握急いでね」

 

「はい!」

 

「ふぅ」

 

「ダメージコントロール、各セクションは速やかに状況を報告せよ」

 

 戦闘終了後、ブリッジではやっと一息着けた者たちが席に深々と座る。

 

「でもこうして切り抜けられたのは間違いなくシンのおかげね」

 

「ええ、おお、信じられませんよ!空母2隻を含む敵艦6隻ですからねえ、6隻!そんな数、僕は聞いたこともありません」

 

 興奮気味に話すアーサーの言葉に同意しつつシステムが自動で計上していた数値を見る。

 

シンはMS12機、空母2隻、その他艦艇4隻

 

エリアはMS29機、MA1機、その他艦艇2隻

 

 と計上されていた。

 

 シンの戦績が目覚ましいがエリアもエリアで損壊した機体で2隻も沈めたものだ。

 

ーー

 

「シーン!」

 

「あはは、おーい!」

 

「よくやったな」

 

「お疲れさん」

 

「すげーなおい」

 

「聞いたぜ、このー。すっげー活躍だったんだって?」

 

「いや、ほんとよくやってくれた」

 

 無事に帰投したシンをハンガーで待っていた者たちが盛大に迎え人だかりができる。

 当の本人はポカンとしており自身のしたことに対して驚いている様子だった。

 

「ふっ…」

 

 それを見たエリアも少し笑みをこぼす。

 

ーー

 

「もう間違いなく勲章ものですよ」

 

「でもあれがインパルス…というかあの子の力なのね。何故レイではなく、シンにあの機体が預けられたのかずっと、ちょっと不思議だったけど。まさかここまで解ってったってことなのかしら。デュランダル議長は」

 

「かもしれませんね。議長はDNA解析の専門家でもいらっしゃいますから。いやぁそれにしても凄かったです。あの状況を突破できるとは、正直自分も…噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダムだってここまでじゃないでしょう」

 

「ふふ、カーペンタリアに入ったら報告と共に叙勲の申請をしなくちゃらならいわね。軍本部もさぞ驚くことでしょうけど」

 

 興奮冷めないといったばかりのアーサーを見て笑うタリア。それは同じ思いで先程とはうって変わってブリッジはお祝いムードに包まれていた。

 

ーー

 

「さあ、ほらもうお前ら…いい加減仕事に戻れ!カーペンタリアまではまだあるんだぞ」

 

「けどほんとどうしちゃったわけ?なんか急にスーパーエース級じゃない。火事場の馬鹿力ってやつ?」

 

 整備士たちが散っていく中、変わりにルナマリアが駆け寄る。

 

「さあよく解らないよ、自分でも…教官がやられたのを見て頭来て、ふざけるなって思ったら、急に頭の中クリアになって」

 

「ブチ切れてったこと?」

 

「いやそういうことじゃあ…ないと思うけど」

 

「なんにせよお前が艦を守った。生きているということはそれだけで価値がある。明日があるということだからだ」

 

 ふわふわした言葉に対しレイは褒め、そのままいつものように立ち去るそれを嬉しそうにするシンとルナマリアの肩を掴んだのはエリアだった。

 

「お前のおかげで命拾いしたよ、シン」

 

「そんな!エリアさんがあの時、庇ってくれなかったら自分がどうなっていたか!」

 

「仲間の至らないところを補い合うのが仲間だ。気にするな。ルナマリアもよく踏ん張ってくれた、ミネルバの損傷が低かったのもレイとお前のおかげだ」

 

「いえいえ!」

 

 エリアに褒められさらに嬉しそうにする二人を見てエリアも優しい笑みを浮かべる。

 

「カーペンタリアに着いたらご飯行こうか。良い店を知ってるんだ」

 

「え、本当ですか!」

 

 わいわいと賑やかに話ながら歩く3人は心の底から楽しそうにしていた。

 

 



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12話

 

 無事にカーペンタリアに辿り着いたミネルバ一行はエリア指揮のもとカーペンタリア基地に隣接する街のレストランを貸し切り宴会を開いていた。

 

「このローストビーフ美味しい!」

 

「このマルゲリータ食べてみろよ」

 

 どんちゃん騒ぎとは行かないが全員がやっと味方の基地に入港できたという安心感からか楽しそうにしていた。

 ミネルバクルーの一部はエリアの教え子ということもありそのメンバーを中心に多くのクルーが参加していた。

 

「エリアさん」

 

「シン、美味しいか?」

 

「はい、本当にありがとうございます。でも良いんですか?」

 

「何が?」

 

「全員分、エリアさん持ちなんて」

 

「気にするな」

 

 心配するシンを優しく撫でてやると彼は少し照れ臭そうにする。

 

「シン、こう言うのを聞くのはヤボと言うものだ」

 

「レイ」

 

 レイも楽しんでいるようで皿の上には山盛りのラザニアが乗っていた。

 彼自身、あまりこういった大衆店と言うものに行ったことがなく中々に新鮮な気持ちでいたのだ。

 

「楽しんでくれているようで何よりだ。レイにもいつも世話になっているからな」

 

「いえ、自分も助けられてばかりです」

 

「じゃあ、お互い様と言うことにしておこう」

 

 そうしてミネルバ若グループの宴会は無事に終わったのだった。(お金はギリギリ足りた)

 

ーー

 

「いやぁ、満腹満腹」

 

「食べずだよ、お姉ちゃん」

 

 満面の笑みを浮かべるルナマリアとたしなめるメイリンを眺めながら帰路に着いていると街の電気やから緊急のニュースが目に入る。

 

「緊急速報です。オーブ連合首長のカガリ・ユラ・アスハ氏が結婚式場から拉致されたとの情報が入りました。関係者の話によりますと前大戦の英雄《フリーダム》が関与しているとの…」

 

「エリアさ…」

 

 突然、歩を止めたエリアに近づいたシンは声を掛けようとしたが思わず言葉を止めてしまう。

 彼の目の前にいたのは先程とは考えられないほど無表情な顔をしてニュースを見つめるエリアの姿があったからだ。

 

「ん、どうしたシン?」

 

「い、いえ。ルナたちに置いていかれますよ」

 

「そうだな、行こうか」

 

 だがそれも一瞬、いつも通りの顔になり微笑みながら見つめてくる彼女に戸惑いながらも歩を進める。

 

「そう言えば、お前。オーブの時、私のこと呼び捨てにしてただろ?」

 

「え、聞こえてたんですか!」

 

「ふふっ」

 

ーー

 

「エリア・ノイエフォード、戻りました」

 

「お疲れ、悪かったわね。任せて」

 

「いえ」

 

 前大戦を知らない若者たちの鬱憤晴らしに行ってくれていたエリアを労ったタリアはコーヒーを差し出すと彼女はそれを受け取り静かに啜る。

 

「オーブ、大変なことになりましたね」

 

「えぇ、でもそれ以上にこれよ」

 

 タリアに渡された資料を読むと静かに呟く。

 

「これは…それに」

 

 渡されたのは新型機のマニュアル。

 それと1つの辞令書。

 

「まぁ、彼がどういうつもりなのかは来てから問いただすとしてまわってくるのが速いわね」

 

「まぁ、もともとそう言う約束だったので。こんなに速いとは思いませんでしたが」

 

 宣戦布告により、グフイグナイデットの正式量産が決定。エリアの戦闘データを得てさらに改良された量産型が各地に配備されるとの事だ。

 それに伴いグフカスタムのテストは終了としその改良型である試作機をさらに送るとの事。

 

「まだ着いてないんですか?」

 

「もうすぐの予定だけど。そろそろくるんじゃない?」

 

 そう言っているとミネルバの近くに輸送機が着地し中から見たことない機体が姿を表す。

 

「噂をすればね」

 

「見たことない機体ですね。確かにグフ系列っぽいですが」

 

 ブリッジから眺める新たな機体をエリアは静かに見つめるのだった。

 

ーー

 

 そして翌日、昨日の喧騒は鳴りを潜めミネルバは通常通りの運用になっていた。

 

「でも、今度こそ戻れんだよな。プラントってか、宇宙へさ」

 

「ミネルバは宇宙用戦闘艦だしな。月軌道に乗んなきゃ意味ねえもん…」

 

 と言いながらヨウランとヴィーノは新しく来た新型を見つめる。

 機体の背中についているグフに酷似した飛行ユニットを装備している新型機は明らかに大気圏内用だ。

 

「どうなってんのかあプラント」

 

「どうって?」

 

「だって核なんて撃たれちゃってさあ。お袋達のこと心配だし」

 

「彼女のこととか?」

 

「アホ、居ないよそんなの、何でお前の話は直ぐそっち行くの?」

 

 そんな話をしながら整備していると見慣れない赤い機体がミネルバに降り立つ。

 

「何なのこの新型。一体誰?」

 

 見慣れない機体がミネルバに来たので次々と集まる一同。

 

「あぁ!」

 

「アスランさん!」

 

 驚くルナマリアとメイリンの声にさらに注目を集める。

 そんな中、いつの間にか居たエリアの前に降り立つアスラン。

 

「認識番号285002、特務隊フェイス所属アスラン・ザラ。乗艦許可を」

 

「了承した。改めて、ようこそミネルバへ」

 

「ねえさっきの…あんた!なんだよこれは?一体どういう事だ!」

 

「もう!口の利き方に気を付けないさい!彼はフェイスよ」

 

「えぇ?」

 

 突然のアスランの登場にけんか腰なシンを宥めるルナマリア。

 

「詳細は追って話す。今は着任の挨拶が先だ」

 

「は、はい」

 

 流石に仕事モードのエリアに逆らえないシンは借りてきた猫並みに大人しくなるとエリアはアスランを連れてタリアの元へと向かうのだった。

 

「……」

 

「……」

 

「色々と言いたいことがあるが…ひとまず何故だ?」

 

「それは…」

 

 気まずそうなアスランを見かねてエリアが質問するとアスランはプラントでの議長との話をした。

 そしてエリアはミネルバがオーブを出てからここまでの経緯とカガリの強奪事件を伝える。

 

「頭が痛くなってきた」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 アスランは少し迷ったがイザークたちとの会話は伏せることにした。エリアの目的とその黒幕と思われる人間を突き止める。それも目的の1つのだった。

 

「エリア」

 

「なんだ?」

 

「…いや、これはからよろしく頼む」

 

「あぁ」

 

 なにか言いたそうにするアスランをスルーしエリアは静かに返事をするのだった。

 

ーー

 

「はぁ…貴方をフェイスに戻し、最新鋭の機体を与えてこの艦に寄こし、私までフェイスに?一体何を考えてるのかしらねえ。議長は…それに貴方も」

 

「申し訳ありません」

 

 ミネルバ艦長室にはタリアと副官のアーサー、そしてエリアとアスランが顔を会わせなんともいえない表情を浮かべる。

 

「別に謝る事じゃないけど…それで?この命令内容は、貴方知ってる?」

 

「いえ、自分は聞かされておりません」

 

「そう、なかなか面白い内容よ。ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かえ。現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」

 

「スエズの駐留軍支援ですか、我々が!」

 

 アーサーお馴染みのオーバーリアクションに感心しながらもエリアは嫌な顔をする。

 

「ユーラシア西側の紛争もあって今一番ゴタゴタしてる所よ。確かに、スエズの地球軍拠点はジブラルタルにとっては問題だけど。何も私達がここから行かされるようなものでもないと思うわね」

 

「ですよね、ミネルバは地上艦じゃないですし。一体また何で?」

 

「戦果を挙げすぎましたかね」

 

 エリアの皮肉口調にタリアは内心同意する。

 戦果を挙げた艦は味方を鼓舞するため、敵への牽制のため。と言う名目で厄介な戦場に呼ばれるのは良くあることだ。

 

「ユーラシア西側の紛争というのは?」

 

「常に大西洋連邦に言いなりにされている感のあるユーラシアの一部の地域が分離独立を叫んで揉めだした事件だ。徴兵されたり制限されたり。そんなことはもうごめんだと言うのが、抵抗してる地域の住民の言い分だ。それを地球軍側は力で制圧しようとしている一方、こちら側はその独立運動を裏から支援している。間に地元民を挟んでいる分、余計にややこしくなって泥沼化している場所だ」

 

 開戦からの情報を持ってないアスランの為に分かりやすく解説するエリア。

 

「我々の戦いは、あくまでも積極的自衛権の行使である。プラントに領土的野心はない。そう言ってる以上、下手に介入は出来ないでしょうけど…行かなくてはならないのはそういう場所よ。しかも、フェイスである私達二人が…覚えておいてね」

 

 タリアの言葉に返事をしたアスランはエリアに連れられて外に出る。

 部屋の案内やら色々としなければならないからだ。

 その後、他のクルーに対する説明やらなんやらで1日忙殺されたエリアはクタクタになりながら部屋に戻る。

 

「本気で疲れた…」

 

 制服の上着だけ脱ぎベットに転がると大きく深呼吸する。アスランの世話もそうだが新型機の慣らしやらなんやらで本当に忙しいのだ。

 

「誰だ?」

 

「シンです」

 

「いいぞ」

 

 そうしていると部屋にノック音が鳴り、反応すると部屋に入れる。

 

「お疲れさまです」

 

「気が利くな」

 

 シンから渡された暖かいココアを受けとるとゆっくりと飲む。

 

「今日、1日。忙しそうにされてたので」

 

「流石に疲れたよ」

 

 ブーツと靴下を脱いで完全にオフモードになるエリアは少し戸惑うシンに対し人差し指をたててシーっと言うポーズを取る。

 

「みんなには内緒だぞ」

 

「は、はい」

 

 そんな仕草にドキッとしてしまうシンだが密かに深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

「アスランのことか?」

 

「はい」

 

「アイツなりに考えた結果だろう。一度、銃を握ればその感触が忘れなくなる。力を持つ者なら尚更だ。自分はなにか出来る筈だ、なにかしなければならない。そんな事を考えてしまう真面目な奴だからこうしてここに来たんだろう」

 

「……」

 

「気持ちは分からなくはないだろ?」

 

「はい」

 

 わがままを言う子供を優しく諭すように話すエリア。

 

「アスランは死ぬほど頭固いくせにすぐに意地になるし、口下手で言葉足らずだからすぐに誤解招くし。あぁ見えて大変だったんだぞ。アカデミーの時は」

 

「そうなんですか」

 

「そうそう、それに対抗してイザークなんてすぐに怒って物に当たるからニコルとディアッカの三人で止めたり…」

 

「エリアさん?」

 

 突然、黙るエリアに戸惑うシン。

 すると彼女は突然震えだし、息が荒くなる。

 

「エリアさん!」

 

「うっ…うぅ!」

 

 うずくまる彼女を見てどうしたら良いかと混乱する。

 

「ニコル、ニコル!嘘だ、イザーク…嘘だと言ってくれニコル!」

 

「…えぇい!」

 

 暴れだす彼女を必死に抱き締めるシンはエリアの真似をして穏やかに話す。正直、自分でもなに言ってるか分からなかったがしばらくすると落ち着き動かなくなる。

 ゆっくりと顔を見ると気絶するように寝ていた。

 慎重にエリアをベットに寝かせると布団を被せ、溢れたココアをタオルで拭いて静かに部屋を出る。

 

(エリアさん…)

 

 胸が締め付けられるような感覚を感じ拳を握る。

 あのアスランと話していた時から、何かしら彼女も持っているものがあると思っていたが…。

 こんなに苦しんでいるのは自分だけだと思っていた。でもエリアさんみたいに心の置くで必死に殺して生きている人もいるのだと今やっと実感した気がする。

 

(俺は貴方を助けれますか)

 

 強く脆い、そんな彼女に対し不思議な感情がシンの心にふと現れたのだった。

 

 



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13話


 ※新機体の解説は最後に



 

 

 ミネルバはスエズ駐留軍支援のためにボズゴロフ級潜水艦《ニーラゴンゴ》と共にカーペンタリアを出向した。

 

「シン」

 

「は、はい」

 

 ブリーフィングルームで待機していたエリアたち。

 そんな中、彼女はシンの隣に座ると小声で話す。

 

「昨日はすまなかった」

 

「い、いえ」

 

「前の戦争の時に色々あってな。たまにフラッシュバックするんだ」

 

「そうだったんですね」

 

「まぁ、少し恥ずかしいから忘れてくれると助かる」

 

「コンディションレッド発令。コンディションレッド発令」

 

 そんな会話をしていた時にメイリンの声が艦内に鳴り響く。

 インド洋を抜けてジブラルタル基地方向に進路を取ろうとしていた時にレーダー手であるバートの声と共にレーダーは複数の敵機を捉えていた。

 

「パイロットは搭乗機にて待機せよ」

 

 メイリンのアナウンスに艦内で待機していた全員が虚を突かれる。完全にこちらの勢力圏内で奇襲されるなんて思ってもいなかったからである。

 

「熱紋照合…ウィンダムです。数30」

 

「30?」

 

「うち一機はカオスです」

 

「は!あの部隊だって言うの?一体どこから?付近に母艦は?」

 

「確認できません」

 

「またミラージュコロイドか?」

 

「海で、有り得ないでしょ?あれこれ言ってる暇はないわ。ブリッジ遮蔽。対モビルスーツ戦闘用意。ニーラゴンゴとの回線固定」

 

「艦長、状況は?」

 

「どうやらまた待ち伏せされたようだわ。毎度毎度人気者は辛いわね。既に回避は不可能よ。本艦は戦闘に入ります」

 

 すぐに新型に乗り込んだエリアは回線を開き、タリアに状況を聞く。

 

「了解です」

 

「アスランの事も含めて指揮をお願い」

 

「分かりました」

 

 システムチェックを終えて起動すると全員の顔がモニターに移る。

 

「どうやらまた連合の待ち伏せにあったようだ」

 

「ちっ、証拠にもなく!」

 

「アスラン。お前はどうする?」

 

 彼女の言葉に全員が黙る。

 アスランは独自権限を持つフェイスだ。戦闘の参加の有無自身で決められる。

 

「確かに指揮下にはない、だが今は俺もこの艦の搭乗員だ。残念ながらこの戦闘は不可避だろう」

 

「分かった。指揮権はお前の方が上だ、MS隊の指揮は?」

 

「エリアに任せる。その方がいい」

 

「分かった。大気圏内戦闘が可能なシン、アスラン、私で出る。ルナマリアとレイは待機だ。状況次第では出てもらうから機乗して待機」

 

「「了解!!」」

 

「シルエットハンガー1号を開放します。フォースシルエットスタンバイ。シルエットフライヤーを中央カタパルトにセットします。気密シャッター閉鎖。非常要員は待機してください。中央カタパルトオンライン。発進位置にリフトアップします。コアスプレンダー全システムオンライン。発進待機願います」

 

「X23Sセイバー、アスラン機、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルトスタンバイ確認」

 

「ZGMF-2500イフリート改、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルトスタンバイ確認」

 

 中央カタパルトにはコアスプレンダー、右舷カタパルトにはセイバー、左舷カタパルトにはイフリート改がそれぞれスタンバイしハッチが解放される。

 

「射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。コアスプレンダー発進、どうぞ」

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!」

 

「チェストフライヤー射出、どうぞ。レッグフライヤー射出、どうぞ。シルエットフライヤー射出、どうぞ」

 

「右舷ハッチ開放。セイバー発進、どうぞ」

 

「アスラン・ザラ、セイバー発進する!」

 

「左舷ハッチ解放。イフリート改、どうぞ!」

 

「エリア・ノイエフォード、出るぞ!」

 

「今回はカオスもいる。雑魚ばかり気取られるなよ」

 

「了解!」

 

 そう言うとエリアはウィンダムを撃ち落としながら加速、セイバーは変形しカオスとの戦闘に入った。

 

「カオスはアスランに任せて私たちで数を減らす」

 

「了解!」

 

 シンも大気圏内戦闘に大分慣れ、エリアと連携しつつウィンダムを落としていくと紫色の機体が二人の間に割り込み、連携を乱される。

 

「くそ、なんだこいつ…速い!」

 

「シン、的を絞るな!視野を広く持て!」

 

 イフリート改のデトネーションビームソードがウィンダムの盾ごと機体を両断すると迫ってきていたウィンダムのライフルをスレイヤーウィップで破壊する。

 ウィンダムたちは数の利を生かしてこちらに包囲陣形を取り始める。

 

「囲まれる、着いてこい!」

 

「はい!」

 

 エリアはイフリート改の突破力を生かして陣形を突破、インパルスもそれに続く。

 

「あの新型が指揮官か。よくやる」

 

 紫色のウィンダムに搭乗していたネオはエリアの判断を見て嫌な顔をする。

 以前からいた指揮官だろうが状況判断が的確で視野も広い、相手にしたくないタイプの現場指揮官だ。

 

「エリア、レイとルナマリアを出すわ」

 

「どうしたんです」

 

「海中からアビスが接近中よ。現在ニーラゴンゴのグーンが交戦してるけど」

 

 タリアの通信を遮るように海面が大きく膨れ爆発が海上にも現れる。おそらくグーンがやられたのだろう。

 

「分かりました、二人には深追い厳禁と」

 

「分かったわ」

 

「くそっ!」

 

「おい、シン!」

 

 紫のウィンダムに寄せ付けられシンが単独行動し始め、止めようとするが残存のウィンダムがイフリート改の進路を阻む。

 

「そんなに死にたいのか!」

 

ーー

 

「ガイア!」

 

 紫のウィンダムに夢中でガイアの奇襲に対応できず浅瀬に押し倒される。

 

「うわぁ!」

 

「シン!」

 

 最後のウィンダムのコックピットにデトネーションビームソードを突き立てると一気に加速。

 インパルスに迫っていた紫のウィンダムとの距離を一気に詰めデトネーションビームソードを振るうとウィンダムはシールドを構えるがそのシールドごと左腕を両断した。

 

「無事か!」

 

「はい…」

 

 そのままガイアにタックルをかましデトネーションビームソードを振るうが盾に阻まれると同時に脚部六連装ミサイルランチャーを接射、VPS装甲は実弾兵装には効果がないが怯ませるのには充分だった。

 

「そい!」

 

 そのままガイアを突飛ばし激しい接近戦を行っていると何かしらの基地に侵入してしまう。

 

「なんだ?」

 

 見覚えのない基地に見かけた兵士を見ると白い制服、連合の制服を確認する。

 

「連合軍の基地か!ミネルバ!」

 

「エリアさん!」

 

「シン、民間人を傷つけないようにやれ」

 

「はい」

 

 シンはイーゲルシュテルンで基地を破壊し、対空砲等の砲台を破壊していく。

 エリアも適度に破壊していくとカオスが退いたらしくセイバーが割って入って来た。

 

「エリア、何してる!」

 

「敵基地の殲滅だ。こんなカーペンタリアの鼻先に基地が建設されていたんだぞ?」

 

「やりすぎだ!」

 

 シンは民間人を捉えていたフェンスを破壊しているとエリアの居た方向を見ると息を飲んだ。

 

「戦争にやりすぎもないだろう?」

 

「これじゃ、虐殺だ!」

 

 肉塊になった連合軍兵士がイフリート改の周りに転がり、足元は血塗れだった。

 

「とにかく、ここは俺に任せて一旦ミネルバに戻れ」

 

「…分かった」

 

 こうしてインド洋海戦は幕を閉じたのだった。

 

 

 





イフリート改

 マイウス・ミリタリー・インダストリー社で開発されたグフの改良型MSで対エース用に開発された近接戦闘特化型。
 頭部が大型化しているのは新型のドラグーンシステムを搭載しているため。
 しかしこの機体にはドラグーン兵器は搭載しておらず機体の追従性を上げるための補助的な扱いをされている。
 性能的にはインパルスとひけをとらない。

武装
 MMI-M633 ビーム突撃銃
  ザクウォーリアと同じもの
 MMI-611 デトネーションビームソード×2
  形状はイフリート改と同じもの。実体剣にビームを纏わしているため単独でビームサーベルと鍔迫り合いが可能。
 MA-M757 スレイヤーウィップ×2
  グフイグナイデットと同じもの。グフと同様両腕部に装備されている。
 M181SE ドラウプニル 4連装ビームガン×2
  グフイグナイデットと同じもの。グフと同様両腕部に装備されている
 M92パルデス 脚部6連装ミサイルポッド×2
  イフリート改と同じ形状の6連装ミサイルポッド
 


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14話

 

「銃を持つ者には容赦しない。現に発砲していた」

 

「それをMSで蹂躙するのは虐殺だ!」

 

「アスラン、軍人として敵を殺すのに相手など関係ない。私は無抵抗な人間や民間人を殺した訳じゃない」

 

 インド洋沖の戦いの後、アスランとエリアは個室で話し合っていた。

 

「戦争にも有り様がある」

 

「戦争はスポーツじゃない。卑怯も平等も必要ない、相手が来るなら殺さなければならない。ナチュラルなんて…」

 

「エリア…」

 

 外から人の気配を察した二人は言い合いをやめて一旦、息を整える。

 

「お前の言い分も分からんでもない。だが私は容赦などするつもりはない」

 

「エリア、あの時の君は復讐の感情に囚われていると感じた。そんな姿はシンたちに見せるべきじゃない。」

 

「…そうだな。それは反省する」

 

「エリアさん!っと…」

 

 案の定、シンの声が聞こえてくると二人は目を合わせて頷く。

 駆け寄ってきたシンはアスランを見ると少しだけ不満そうな顔をするがすぐにエリアに向き直る。

 

「あの、さっきの…は」

 

「民間人の救助はご苦労だったな。私は少しやり過ぎてしまったが…」

 

「い、いえ!民間人の扱いを考えれば当然のことです!エリアさんはなにも間違ってません!」

 

「…」

 

 アスランへの当て付けのように言葉を発するシン、それを察したアスランは内心、ため息をつきながらその場を後にする。

 シンの肯定の言葉を聞いたエリアは喜びではなく、後ろめたさを感じ、少しだけ目を伏せる。

 

「あれ程の空戦だ。疲れただろう?食事にしよう」

 

「はい!俺もそのお誘いに来たんで!」

 

「それは奇遇だったな。では行こうか」

 

「はい!」

 

ーーーー

 

「でもいいよなぁ軍本部の奴等。ラクス・クラインのライヴなんてほんと久しぶりだもん。俺も生で見たかったぁ」

 

「けど、だいぶ歌の感じ変わったよな、彼女」

 

 インド洋を越え、マハムール基地に辿り着いたミネルバ。そのMSドッグでは戦闘を終えた機体たちのチェックに追われていた。

 

「それに今度、衣装もな~んかバリバリ?」

 

「そうそう!そしたらさぁ胸、けっこうあんのなあ。今度のあの衣装のポスター、俺絶対欲しい!」

 

「セイバーの整備ログは?」

 

「ああ、これです!」

 

「ありがとう」

 

 会話を聞かれたのではないかと慌てたヴィーノとヨウランは整備ログを眺めながら立ち去るアスランを見送りながら愚痴を漏らす。

 

「婚約者だもんなぁ。いいよなぁ。」

 

「ちぇ、ケーブルの2,3本も引っこ抜いといてやろうか?セイバー」

 

「聞こえてるぞ二人とも」

 

「あッ!」

 

「…胸は私の方が大きいぞ」

 

「っ!?げほっ!げほげほ!」

 

「シン!ちょっと汚ないわよ!」

 

 3人のコントを眺めながらエリアの呟きを聞いてしまったシンは飲んでいた飲み物を吹き出してしまう。

 

「入港完了。各員速やかに点検、チェック作業を開始のこと。以降、別命あるまで艦内待機。ノイエフォード隊長、アスラン・ザラはブリッジへ」

 

「私はアスランと基地司令に挨拶に向かう。後は頼んだぞ」

 

「はい!」

 

ーー

 

「…」

 

「そんなに深刻な顔しなくてもエリア隊長は大丈夫よ」

 

「そんなことを気にしてるんじゃないよ」

 

 エリアたちが基地司令と作戦会議をしている間、休息に入っていたシン、レイ、ルナマリアは休憩室で雑談をしていた。

 

「まぁ、いきなりオーブに居た人が仲間だ、フェイスだって言われてもビックリするのは分かるけど。そんな視線じゃないもの」

 

「まぁ、気にくわないのは確かだけど」

 

 エリアにとっておそらく何にも変えられない存在をシン知っている。それはアスランも同様だろう。

 エリアをよく見ているから分かる。アスランもなにかエリアに対してなにか考えがあって動いていると言うことは。

 最初はオーブにでも連れていくつもりなのかと思ったが違う。

 

「…ヒントを探してるだけだよ」

 

「ん?」

 

 そんな彼の意図を知ることが出来たらエリアにも近づけるのではないかとそう思ったのだ。

 教官として、軍人として、人間として理想とも言える存在の彼女は自分と同じ前大戦で大切な人を失い、それを今も引きずっている。

 そんな理想と親近感の狭間で揺れるシンの心情は本人とて理解し、説明できるものではなかった。

 

ーー

 

「はい、報告は資料の通りです。レイの精神も安定しており乱れはありません。シンは相変わらずですがアスランが刺激となるでしょう」

 

「そうか、しかしシン・アスカ。彼のオーブ沖海戦のデータは実に興味深い」

 

 ミネルバに戻ってきていたエリアはとある人物と通信を行っていた。

 

「戦闘能力が著しく向上しています。状況判断も的確で、まるで別人のように冷静な判断を下しています。正直、あれは驚きました」

 

「Superior Evolutionary Element Destined-factor、優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子と呼ばれているものだよ。彼にはその素養があった、それを開花に導いたのは君だ」

 

「お役に立てたのなら何よりです」

 

 シンたちの前では決して見せないなんの感情も映さない無表情な彼女は黙ってモニターを見つめる。

 

「それと未確定情報だが連合の要請によりオーブ軍は大規模な遠征を予定しているとのことだ」

 

「なるほど、釣れれば良いですが」

 

「君の望む結果が得られる事を祈っているよ」

 

 そう言って通信が切られ、真っ黒になったモニターに自分の顔が写る。

 

「…」

 

 その歪んだ笑顔を見たエリアは乱暴にモニターを閉じるのだった。

 

ーー

 

「どうしたんだ?一人でこんなところで」

 

「別にどうも。貴方こそいいんですか?いろいろ忙しいんでしょ?フェイスは、こんなところでサボっていてよろしいんでありますか?」

 

 エリアが通信していた同時刻、ミネルバの甲板で夕日を眺めていたアスランの元にシンが訪れていた。

 

「相変わらずだな。なにか用でも?」

 

「なんでここに居るんですか?」

 

「それは気になるよな」

 

「そりゃそうでしょう。この間までオーブでアスハの護衛なんてやってた人が、いきなり戻ってきてフェイスだ、仲間だってって言われたって。それで、はいそうですかってなるもんか。やってること滅茶苦茶じゃないですか。貴方は」

 

 当然の疑問だとアスラン自身も思う。

 

「それは、そうだろうなぁ。認めるよ。確かに君から見れば俺のやっていることなんかは滅茶苦茶だろう」

 

 素直に肯定され少しだけ肩透かしを食らうシン。

 

「俺にもやれることがないかと模索した結果だ。議長が手助けをしてくれたと言うのもあるが」

 

「ミネルバに来たのも?」

 

「議長の計らいだ」

 

 個人的には納得はしないがここに来た理由は理解はした。

 その腕が確かなのはユニウス7での活躍で知っている。議長も優遇してまでザフトに入れるのも理解できる。

 

「お前がここに来たのはそれだけか?」

 

「それは…」

 

「エリアのことだろう?」

 

「…」

 

 図星を付かれ黙るシン。

 

「お前たちがエリアに抱く印象は知っている」

 

 ルナマリアから教官時代のエリアのことはかなり聞かされているため、理解はしているつもりだ。

 アカデミー時代の彼女は簡単に言えば女版イザークと言った印象だった。今と違ってお互いに銀髪だったし双子の兄妹じゃないかと思えるぐらい気が短かった。

 

 昔、同期に告白されて理由を聞いたら体と答えられたエリアはソイツを軍病院送りにするほどの狂犬だった。まぁ、あれは相手が悪いが。

 

 それに対してシンたちが知っている彼女は教官という立場だった為か冷静沈着で頼りがいのある理性的な人物であったらしい。

 

「だからこそインド洋での事が引っ掛かってるんじゃないか?」

 

「…はい」

 

 インド洋における基地襲撃に関してはエリアらしからぬ行動にシンも引っ掛かりを感じていたからだ。

 端から見ても感情的な行動はシンからみてもかなり変にに見えたはずだ。

 

「エリアの過去のことはどこまで?」

 

「いえ、全く。恐らく大切な人のニコルさんと言う方が亡くなったと言うぐらいしか」

 

「そうか。ニコルは俺たちと同期でな、エリアの婚約者だった」

 

 あまり話したくなかったがシンの辛い過去を知ってしまった身としては話さなくてはならないと感じたアスランはた少しずつ話し始める。

 

「婚約者…」

 

「あの二人は本当に仲が良くてな。心の底から愛し合ってたと思う。本当はエリアもクルーゼ隊に入隊する予定だったんだが婚約者同士が同じ部隊に入隊されることはなくてな。エリアは成績も良かったし、月軌道艦隊に編入されたんだ」

 

 ニコルとアスランが休暇でプラントに帰った時にエリアも急いで休みをもぎ取ってニコルと会っていたのを思い出す。

 

「だがオーブの近海で…ニコルは俺を庇って死んでしまった。俺のせいでニコルは死んだ」

 

「…」

 

「それから俺はエリアとミネルバで再会するまで会ったことはなかった。会えなかった…俺のせいで婚約者を亡くしてしまったエリアに会わせる顔なんてなかった」

 

 改めて考えれば昔と性格も姿もかなり変わっていて誰か分からないぐらいだった。長く美しい銀髪だった彼女は髪がくすみ、灰色の髪を短く切り揃えた姿になっていた。

 

「それで連合に恨みを…」

 

「あぁ、俺自身も恨まれて仕方ない。だからこそシン」

 

「は、はい」

 

「エリアを支えているのはお前たちだと思ってる。エリアを助けてやって欲しい…俺が言える義理じゃないが」

 

 たくさんの情報が一気に押し寄せてきたために混乱するシン。

 

「でもどうやって」

 

「すまないがそれは俺も分からない」

 

「って丸投げじゃないですか!」

 

 頼んでおいてそれかよと思うがシンとしてもエリアの助けになるなら喜んでする。

 

「でも俺はエリアさんを見捨てる気なんて無いですよ」

 

「あぁ、分かってる。だがな、彼女の言葉を盲目的に受け取りすぎるなよ」

 

 アスランのそんな言葉にシンは黙って息を飲むのだった。

 

 



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15話

 

 

 ローエングリーン砲台攻略作戦のために合流した現地協力員を出迎えたエリアは手を差しのべる。

 

「お待ちしておりました、ミス・コニール。私はこの作戦の現場責任者であるエリア・ノイエフォードと申します」

 

「歓迎に感謝する、ミス・ノイエフォード。こちらこそよろしく」

 

 コニールはエリアの手を強く握ると案内されるままにブリーフィングルームへと向かう。

 

ーー

 

「起立!」

 

 席の前列最右翼に居たレイの言葉と共にブリーフィングルームに集まっていた者全員が椅子から立ち上がり入ってきたエリア、アスラン、コニールに注目する。

 

「着席!これよりラドル隊と合同で行う、ガルナハン・ローエングリンゲート突破作戦の詳細を説明する」

 

 エリアの指示で椅子に座る隊員たちは部屋の前面に映し出された地図に注目する。

 

「ガルナハン・ローエングリンゲートと呼ばれる渓谷の状況だ。この断崖の向こうに街があり、その更に奥に火力プラントがある。こちら側からこの街にアプローチ可能なラインは、ここのみ」

 

 地図に示された地点は一本の渓谷になっており、逃げ道はない絶望的な地形であった。

 

「敵の陽電子砲台はこの高台に設置されており、渓谷全体をカバーしていて何処へ行こうが敵射程内に入り隠れられる場所はない。超長距離射撃で敵の砲台、もしくはその下の壁面を狙おうとしても、ここにはモビルスーツの他にも陽電子リフレクターを装備したモビルアーマーが配備されており、有効打撃は望めない。我々ミネルバ隊がオーブ沖で同様の装備のモビルアーマーと同系列の機体と言うことだ」

 

「タンホイザーを防いだ…」

 

「そうだ、つまり我々が持ちうる最大火力であるタンホイザーを防ぐモビルアーマーが存在する以上。我々は圧倒的に不利というわけだ」

 

 ルナマリアの呟きに答えるようにエリアは作戦を説明する。ローエングリーンとタンホイザー互いに攻撃手段は持っているものの敵にはリフレクター装備のモビルアーマーがいる。向こうには盾があるがこちらにはない。

 

「作戦領域に侵入次第、ミネルバのタンホイザーにて敵モビルアーマーを最前線に誘引。これを速やかに排除し敵のローエングリーンを破壊すると言うのが我々の作戦だが質問は?」

 

 エリアの言葉に対して挙手をしたのはレイ。

 

「作戦概要は把握しましたが敵もそれは予測済みだと判断します。誘引後、モビルアーマーに即時撤退されれば我々の作戦は失敗です。サブプラン等はあるのでしょうか?」

 

「ある。そしてこれはシン、お前が肝だ」

 

「え、自分でありますか!?」

 

 モビルアーマーとの戦闘を想定していたシンは驚きながらエリアを見つめる。

 

「そうだ」

 

「ミス・コニール。説明をお願いします」

 

「うん、ここに本当に地元の人もあまり知らない坑道があるんだ。中はそんなに広くないから、もちろんモビルスーツなんか通れない。でも、これはちょうど砲台の下、すぐそばに抜けてて、今、出口は塞がっちゃっているけどちょっと爆破すれば抜けられる」

 

「モビルスーツでは無理でもインパルスなら抜けられる。データ通りに飛べばいい。だが想定される坑道内の広さを考えるとシルエットは連れていけない。シルエット無しでの戦闘になる」

 

 つまり使えるのは20mmCIWS、ナイフ、ビームライフルのみ。その装備で直衛のMSと砲台を破壊し、本命であるローエングリーンを破壊しなければならない。

 

「軽装のインパルスではモビルアーマーの相手はキツいだろう。俺とエリアの二人がモビルアーマーを撃破、厳しいのであれば引き付ける」

 

「だが空戦できるMSはイフリートとセイバーのみに対して敵MSは全機、飛行能力を保有している。あまり期待するな」

 

 かなり賭けな作戦にシンは少しだけ緊張したように頷く。

 

「この作戦は本来ならば、かなり分の悪い賭けだ。だが諸君らならばこの作戦を完遂できると私は確信している。諸君らの健闘を祈る!」

 

「「はい!」」

 

 

「エリアさん、待っていてください。俺は必ずやって見せますから」

 

「シン、期待しているぞ」

 

 そんな二人の元にコニールが駆け寄り、データをシンに渡す。

 

「地球軍に逆らった人達は滅茶苦茶酷い目に遭わされた。殺された人だって沢山いる。今度だって失敗すればどんなことになるか判らない。だから、絶対やっつけて欲しいんだ!あの砲台!今度こそ!だから…頼んだぞ!」

 

 泣きそうな顔をしながらデータを渡すコニールを見てシンはインド洋で連合に働かされていた人たちを思い出す。

 

「分かった」

 

 そんなシンの様子を見てエリアも満足そうな顔で頷くのだった。

 

ーー

 

「進路クリアー。イフリート発進、どうぞ!」

 

「エリア・ノイエフォード出るぞ!」

 

 先にインパルスを発進させ、次々とエリアたちがローエングリーンに向けて出撃していく。

 

「上昇。タンホイザー起動。照準の際には射線軸後方に留意。街を吹き飛ばさないでよ。モビルアーマーを前面に誘い出す!」

 

「タンホイザー照準、敵モビルスーツ群!」

 

「フライマニー兵装バンク、コンタクト。出力確定、セーフティー解除」

 

「総員、タンホイザー着弾の衝撃に備えろ!」

 

 ミネルバのタンホイザーが敵MS群に迫るがモビルアーマーのリフレクターにより防がれ、着弾の衝撃波がMS隊に襲いかかる。

 予測通り、敵MSは健在。

 

「行くぞ!敵モビルスーツ隊も出来るだけ引き離すんだ!」

 

「ローエングリーン、来るぞ!」

 

 放たれたローエングリーンは照準していたミネルバに当たらずに難を逃れるが二回目は難しいだろう。

 

「アスラン!」

 

「分かっている!」

 

 アスランとエリアは飛び上がり逃げていくモビルアーマーを追撃するがダガーが立ち塞がる。

 

「レイ、ルナマリア援護頼む!」

 

「「了解!」」

 

 エリアが突っ込み、アスランが援護すると言う形で敵陣深くに突っ込む二人を援護するように他のMS部隊も突撃する。

 

「追い付いた!」

 

「しつこい奴め!」

 

 敵モビルアーマーことゲルズゲーに接近したエリアはデトネーションビームソードを振るうが強固なクローに阻まれる。

 するとゲルズゲーのダガー部分がビームライフルをエリアに向けて構える。

 

「エリア!」

 

「貰った!」

 

 その瞬間、エリアたちのすぐ横が爆発しインパルスが飛び出してくる。

 

「なんだ!?」

 

「シン!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

 インパルスはそのまま合体しMS形態になるとローエングリーンに向けて突撃する。

 

「アスラン!シンを援護!」

 

「分かった!」

 

 ローエングリーンに向けて進撃するインパルスを上空から支援するアスラン。

 

「奴を止めろ!」

 

「よそ見するな!」

 

 エリアはビームソードでゲルズゲーのダガー部分を切り裂くが前腕のクローが襲いかかる。

 

「下半身が本体か!?」

 

 一度、飛び上がるとミサイルをゲルズゲーに浴びせて目眩ましをするとビームソードを深々と下半身に突き刺す。

 その傷口にビームを何発も撃ち込むとゲルズゲーは爆炎に包まれる。

 

「シン!」

 

「分かってる!」

 

 その頃、アスランはローエングリーン直援のダガーを真っ二つに切り裂くとシンは切り裂かれたダガーの上半身を格納されていくローエングリーンに投げ込む。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 投げ込む際にダガーはインパルスのCIWSで蜂の巣にされ格納されていったローエングリーンの真横で爆発。

 基地内に次々と誘爆し、山全体が震えるのだった。

 

ーー

 

 戦闘終了後、エリアは各部隊の損傷状況を確認した後。

 シンとインパルスを回収するためにガルナハンの街へと向かう。

 

「援護、ありがとうございました。でもあれはないですよ。知ってたんですか?」

 

「あの坑道の事か?エリアが言ってただろうデータだけが頼りだって」

 

「そうですけど想像以上、過ぎましたよ」

 

「楽しんでいるところ悪いが帰投命令だぞ二人とも」

 

 いつの間にか二人が仲良くなっているのを見て笑うエリアはシンの乗り込んだインパルスを持ってアスランと共にミネルバに帰投するのだった。

 

 



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16話

 

 黒海、ディオキアのザフト軍基地。

 

「ありがとう!わたくしもこうして皆様とお会いできて本当に嬉しいですわぁ!」

 

「うおぉぉ!」

 

「勇敢なるザフト軍兵士の皆さん!平和のために本当にありがとう!そして、ディオキアの街の皆さん!」

 

「うおぉぉ!」

 

「一日も早く戦争が終わるよう、わたくしも切に願って止みません!その日のためにみんなでこれからも頑張っていきましょう!」

 

 ミネルバの到着と時を同じくして開催されていたラクス・クラインのゲリラライブに基地は大盛り上がりであり、一緒に降りてきていたエリアとシンは人混みに揉まれながら進んでいた。

 

「凄い人だな」

 

「そ、そうですね」

 

『…胸は私の方が大きいぞ』

 

 遠くで歌うラクスを見たシンはふと前の出来事がフラッシュバックしてしまい頭を振る。

 

「見たいのか?」

 

「え!?」

 

 突然の言葉にパニックになりながらエリアを見るシンだったがそれがライブに対する言葉だと理解し顔を赤くする。 

 

「いえ!そんな!それより飯に行きましょう!基地の飯、楽しみだなぁ!」

 

 一瞬だけ想像してしまった彼女の裸の姿をこの日、シンは頭から離せなかった。

 

ーー

 

「エリア・ノイエフォードです」

 

「やあ、待っていたよ」

 

 ディオキアの高級ホテルで休養を取っていたデュランダルの元にエリアが呼ばれていた。

 

「レイやタリア達も呼んでいるがまずは君と話したくてね」

 

 デュランダルに用意されたスイートルームの椅子に座ったエリアは反対に座っていたデュランダルを真っ直ぐと見つめる。

 

「知っての通り、これで君への義理は果たしたと思っているが」

 

「はい、もとより議長の計画に意を唱えるつもりはありません。フリーダムの件、心より感謝しております」

 

「フレアモーターの件もそうだが君の憎悪は私の想像を越えてくる事が多々ある。期待しているよ」

 

「はい」

 

 お互いの目的のために利用しあっているとは言え、二人の間には独特の緊張感が走っていた。

 

「レイはもとより、シン・アスカも議長の力となりましょう。ですが」

 

「…」

 

「シン・アスカに関しては私に任せていただけないでしょうか?」

 

「ほう」

 

 エリアの様子にデュランダルは興味深そうに微笑む。

 

「分かった。君に任せよう」

 

「ありがとうございます」

 

「そろそろ皆が来る頃だ。行こうか」

 

「はい」

 

ーー

 

 そしてシンたちと合流したエリアは改めて議長と面会し戦争について、ロゴスについて話している中。エリアは静かにシンを見つめていたのだった。

 

 その後、議長のご厚意により、ホテルに泊まったエリアたちは朝のアスランとミーアのハプニングを得て朝食のために一回のレストランに全員で足を運ぶと呼び止められた。

 

「エリア?」

 

「ん?」

 

「エリアじゃないか!久しぶりだな!」

 

「ハイネ!」

 

 声の主がハイネだと分かるとエリアも嬉しそうに駆け寄り、話し始める。

 

「久しぶりだな、元気にしてるか」

 

「もちろん。やはりあのグフ、ハイネだっんだな」

 

「…」

 

 仲睦まじく、話し始めた二人を見てシンはほんの少しだけ不機嫌になり、ルナマリアもヤレヤレと言った風に肩をすくめる。

 

「え、ミネルバに?」

 

「あぁ、だからちゃんと挨拶したくてな。ちょうど会えてよかったぜ」

 

「ハイネが来てくれるのはこちらもありがたい」

 

 二人が話していると腕を組んだアスランとミーアが現れる。四人で話す流れになったがミーアはマネージャーに連れていかれついにミネルバ隊とハイネの五人が集まった。

 

「アスラン、シン、ルナマリア。彼はハイネ・ヴェステンフルス。前の大戦で私がお世話になった人だ。彼もミネルバ所属になるらしい」

 

「ミネルバに乗られるんですか!?」

 

「ま、そういうことだ。休暇明けから配属さ」

 

「艦の方には後で着任の挨拶に行くが、なんか面倒くさそうだよな、フェイスが三人っては」

 

「いえあの…」

 

「ま、いいさ。現場はとにかく走るだけだ。立場の違う人間には見えてるものも違うってね。とにかくよろしくな。議長期待のミネルバだ。なんとか応えてみせようぜ」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

 こうしてハイネがミネルバ隊に加わることになったのだ。

 

ーー

 

「どういう関係なんですか?」

 

「俺にも分からん。俺と彼女の配属は違ったし、その間に知り合ったのならな」

 

 エリアにとってハイネは頼れる先輩と言った感じであり、アスランやシンに見せる顔とはまた違った顔を見せる彼女の姿にシンはちょっと不満であった。

 

「なんとなく聞かなかったが」

 

「なんです?」

 

「お前はなんでエリアのことが好きなんだ?」

 

「ぶっ!」

 

 アスランの言葉にシンは飲んでいたコーヒーを少しだけ吹いてしまう。

 

「なんで!?」

 

「知らないのはエリアぐらいだと思うぞ」

 

「ちゃんと向き合ってくれたんですよ。アカデミーの時に…それだけです」

 

「…」

 

「なんです?」

 

「いや、なんでもない」

 

 普通に答えてくれるとは思わず呆気にとられるアスランは慌てて取り繕うと持っていたコーヒーを飲み始める。

 そんなアスランをジト目で見ていたシンはふとアカデミー時代を思い出した。

 

ーー

 

 当時、やること成すこと全部、空回りして、イライラして、結果は全然ダメで、自暴自棄になっていたシンをちゃんと見ていてくれた唯一の人間がエリアだった。

 

「なんで同期を殴ったんだ?」

 

「…」

 

 ナイフ術訓練で必死にやっていた自分を小馬鹿にしてきた同期を殴り飛ばし大喧嘩になった事について事情聴取を受けており、それを担当したのがその日の当直教官であるエリアであった。

 

「元々、仲が悪かったのか?」

 

「べつに…」

 

「じゃあ、授業中に何かあったんだろ?」

 

「アイツが馬鹿にしてきたから」

 

「だから殴ったのか?」

 

「…」

 

 不貞腐れていくシンを見てエリアは困ったように自身の頭を撫でた。一瞬、どうすればと逡巡したが色々と話してみることにした。

 

「君の成績は下の中と言ったところか。だが訓練をサボったことはないし、自主練もしっかりしている。素行に対して意欲はあるようだな」

 

 シン・アスカという少年のデータを読みながらエリアは独り言のように話を続ける。

 

「強くなりたいか?」

 

「その為にここに来たんだ」

 

 燃えるような赤い瞳に込められた強い意思を感じ、エリアは静かに頷く。

 

「何を教えて欲しい?」

 

「全部」

 

「迷いがないな。気に入った、道場に行くぞ」

 

 エリアは上着を脱ぎ捨て、シンを連れて道場に向かう。

 先程まで不貞腐れていたシンもしっかり着いてきており、改めて対峙する。

 

「色々と鬱憤が溜まってるだろう?相手してやる」

 

「おらぁ!」

 

 昔のイザークを思い出して少し笑うエリアと凄まじい気迫で迫ってくるシンはぶつかり合うのだった。

 

ー2時間後ー

 

「意外と粘るな」

 

「はぁはぁ…」

 

 文字通りボコボコにされたシンを見下ろしているエリアは息一つ乱さずに笑っていた。

 

「まぁ、お前が頼むならいくらでも教えてやる。やる気のあるやつは歓迎だからな」

 

「覚えてろよ…」

 

 疲れ果て、眠るシンを背負ってエリアは部屋まで運んでやったのだった。

 

 



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