モサモサの~「木遁・真数千手」 (クルみ)
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第一話

モサモサの実ってもったいなくねって事で見る専やめて小説書いてみようかなって思いました。


「え……」

 

 

 

 急に頭が晴れるような感覚がした。まるで寝起きの体に冷水を浴びさせられたような不快感と寒気。そして同時に沸き起こる疑問の数々

 

「俺は誰だ?」

 

「何言ってるの? ビンズ」

 

 自身の頭が混乱していて気が付かなかったが、目の前には自分と同じくらいの身長の、可愛らしい少女が立っていた。手にボールを持っているのを見ると、どうやらこの少女と俺は一緒にボール遊びをしていたようだ。

 

 ん?ここで違和感を覚えた。この少女の身長は高すぎではないだろか? 自慢ではないが俺は身長が190cm近くあり、自身よりも背が高い女性は見たことがない。嫌な予感がした俺はとっさに自分の手のひらを見て驚愕した。あまりに小さすぎる。なんだこの状況は? なにも理解できない状況に焦りばかりが募る。

 

 そんな思考にふけっていると、様子がおかしい事を悟ったのか、目の前の少女が心配そんな目を向けてきている。何か返答しなくてはと思い咄嗟に答えた。

 

「ごめん、アイン」

 

 ――今何と言った? 知らないはずの少女のことを名前で呼んだのか?

 

 だが今はそんな事を気にしている場合ではない。一刻も早く現状を打破しなくてはという焦りだけが自分の心を支配していた

 

「ちょ、ちょっと急にお腹痛くなっちゃったから、今日は帰るね……」

 

「え!?大丈夫?」

 

 俺は知らない道を走り出した。ここはどこなのか、自分の家がどこなのか、何もわからない。ただ体は覚えているのか、迷いなく自身の家と思わしき場所へ向かっていく。

 

「もさもさって言わないビンズ初めて見た」

 

 

 

 

 

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 10分ほど走った後、道場らしき建物と併設されている一軒家についた。この時点で俺は薄々気が付いていた。赤い帽子を被り新聞を首からぶら下げて運んでくる鳥、海賊による被害の増加を嘆く声、海軍は何をやっているのかと憤る民衆の不満……

 

「――俺はワンピースの世界に転生したのか」

 

 転生、現実世界では割と有名なジャンルだった。大学生だった俺もこのジャンルに一時期ドはまりし、自分が転生したらなんて妄想を寝る前にしていた口だった。だが妄想と現実は違う。実際自分が転生して思う事は現実世界の俺がどうなったのかという疑問、漫画の世界に独りぼっちという不安感、正直なところ心細すぎて泣きそうだった。

 

「そんなところで何やってんだ?  ビンズ」

 

 道路で呆然としている俺に気が付いたのか、先ほどの一軒家から、顔の厳つい50代くらいの男性が声をかけてきた。俺の父親だろうか……

 

「何でもないよ。父さん」

 

 俺はいつも通りを装いながら自宅と思わしき建物に入り、肉体の記憶を頼りに、2階の自分の部屋に入った。

 

「これからどうすれば良いのだろうか」

 

 やっと一人きりになった俺はこのあまりにも絶望的な状況に思わずため息をつく。ワンピース……そこまで詳しくない作品だ。俺はNARUTO派だったのだ。俺が知っている事とすれば、主人公やその一味、海軍の大将や四皇など、一般人が知っている事よりも少し詳しいくらい。新聞を運ぶ鳥は印象的だったから覚えていたが、時代の年数も覚えていない俺には原作知識を使って俺TUEEEのような展開は難しい。

 

 だがこれだけは言える、ワンピースの世界は命の軽い世界だと。

 

 町を海賊に襲われる、ロビンのように海軍に故郷を丸ごと破壊されるなど、俺が知っているだけでも人は割と死ぬ。そもそもジャンプの作品において弱いやつは大体酷い目にあっている。ワンピースも一緒だと考えたほうがいい。

 

「――決めた」

 

 俺は強くなる。バトル漫画に転生した人物が戦わずに一生を終えられるとは考えられない。絶対に何かしらのトラブルに巻き込まれる。そのためにも俺は武装色、見聞色の覇気を鍛え、生き残るために努力しようと決めた。別にいきなりポジティブになったわけではない。今でも不安に押しつぶされそうなままだ。ただ目標が欲しかった。自分がこの世界で生きていく理由のようなものが……

 

 それに、この体はなかなかにスペックが高い気がしている。見た感じ8歳くらいであろう俺の肉体は、先ほど10分間走りっぱなしだったが息も切れずに肉体の疲労もない。その場で垂直飛びやステップを踏んだ感じ運動神経もよく、大学生の頃よりも肉体をうまく操れる自信がある。漫画の世界だからこの肉体スペックが通常の子供くらいの可能性もあるが、俺はこれを転生チートと思うことにした。何か一つくらいプラスの要素が欲しかっただけかもしれないが……

 

「ビンズ! そろそろ鍛錬の時間だ。早く降りてこい」

 

先ほどの父親と思わしき人の声が道場からする。鍛錬か……願ったりかなったりだ。やはり恵まれている環境に転生したのだろうか。まだまだ分からないことばかりだが、いったん思考を止め一階に下り、併設されている道場に正座している父の元へ向った。

 

 

 

 

 

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「来たか、では今日の鍛錬を始めよう」

 

改めて父と思わしき人物を観察してみるが、デカい。ワンピースクオリティーなのか少なくとも身長が250㎝以上ありそうだ。髪は白髪で後ろ方をゴムで縛っている。顔は厳つく、全身の筋肉もムキムキである。

 

「よろしくお願いします」

 

俺がそう挨拶をすると、日頃どのような子供だったのか知らないが、父は鳥が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 

その後一度大きく咳払いをした後に話を続ける。

 

「お前を拾って今日でちょうど3年目、よくつらい鍛錬に耐えてきた。今日からはより実践的な形式で行こうと考えている」

 

――いきなり実践形式ッ!?

 

「かつて栄華を誇った蒸仙流じょうせんりゅうも今となっては2人のみ。わかっているとは思うが、ここで教える事は常に善なる行いの中で使う事。いいね? ビンズ」

 

 はい! と俺が元気よく返答したところで、父はよっこいしょと言わんばかりに立ちあがった。

 

「今までも何回か実戦形式をやったが、まずは軽めにいこう」

 

 そう言うと同時に、体を重そうにながら立ち上がったはずの父が視界から消え、一瞬で目の前に迫り、掌底を繰り出してきた。

 

 何も対処できなかった俺は攻撃を受け、吹き飛び、道場の壁に激突した。

 

「――ッ!!」

 

 息ができない。肺が急に停止したかのような息苦しさを覚える。

 

「どうした!?いつもなら避けれていた攻撃だぞ?」

 

 そう言いながらこちらに向かってくる父を見て俺は恐怖した。前世で何回か喧嘩のような事はしたことがあったが、純粋に練り上げられた達人の闘気は全くの別物だった。

 

 どうすればいい? 俺はもう強くなるという目標を忘れ、ただただ逃げることを考えた。取り込めない酸素、迫る父。何もかもわからなくなった俺は目をつぶり、肉体に宿る記憶を頼りに腕を前に突き出した。

 

「悪魔の実は練習にならないから使わないというお約束だっただろう?」

 

 ぎゅっと瞑ったままの目を開けると、そこにはやれやれといった顔つきの父と、自身の腕から延びる一本の木のような何かがあった。

 

「え? 木遁……?」



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