風の姉妹と過ごした日々 (零之悪夢)
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風のような出会い

二人が会ったのは高校一年生の春。
再会したのは、高校二年生の始業式前。


日本人として、桜を見るのはごく普通の事である。小春日和の今日だったら、お花見をしに来る人や桜を見るために外に出ると言う人もいるだろう。この俺、五河士道はただ単に春の風に当たる為に外に出ていた。

 

 「ん~~……風が気持ちいいな……」

 

俺は捨て子として今の家に拾われた。そこから自分の存在意義を捜す為に色々外に出て、自分には何が出来るのか、何をしたいのかを捜した。結果、家に居て家事をすることに落ち着いたが外に出て風に当たるという行為が趣味になってしまったのである。

 

 「あれから一年か……」

 

そう、あの事件から”一年”。いつも風に当たると思い出してしまう。あの高校一年生の春、衝撃的な出会いをした彼女らにもう一度逢いたい。

 

 「まあ、思ってても会えるわけないよなぁ……」

 

そう思い家に帰ろうとする。家に帰ったら、洗濯と今日の夕飯をどうするか冷蔵庫と相談しなければならない。その他諸々のやることはなかったか考えながら歩きだす。

 

 「誰に会えないって?」

 

 「そんなに寂しかったのですか?」

 

その声を聴いて、振り返る。あの時、去っていった双子。そして……俺の彼女。

 

 「ああ……寂しくて堪らなかったよ。”あの時”からずっと遠距離恋愛って……よくもまあ、耐えられたと思うよ。自分を褒めたいぐらいだ」

 

二人に会うと初めて会ったことを思い出す。そう、あれは一年前の今頃……

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

高校一年生というと、義務教育を終え中学校よりも難しい学業をすることになる。俺が行く理由は、自分のやりたいことを見つける為。自分が何をしたいのか、それをするには何をしなければならないのかを掴む為に高校入学をした。

 

 「来禅高校か……空間震の対策がされた試験的な高校だったか?」

 

この天宮市では突発的な災害、空間震が多発しておりこの市も再開発がされシェルターを常備した建物が多くなっている。

 

 「よう五河。お前も来禅だったとは……そろそろ運命感じるな」

 

こいつは色々と面倒な人間だが偶にいいことをする悪友、殿町である。腐れ縁になりつつあるくらい学校が同じでクラスも同じになるという運命共同体なのだ。

 

 「はぁ……クラス一緒だぞ。また、運命共同体なのかよ……そろそろお前と一緒に居られないかもな」

 

 「何!?まさか、彼女を作るとでも言うのか!?」

 

高校生になったら彼女の一人くらい作ってみたいと思う年頃である。思春期後半の男子高校生の性と言うものだろう。

 

 「頑張って作ってみるか……悪いな殿町。先、大人の階段上っとくな」

 

 「させん!俺はさせんぞぉ!!」

 

そう、それが本当になるとは思わなかった。

 

 「おお……美少女偏差値高っ」

 

 「そうか?……普通だと思うが」

 

自分のクラスに入って誰が居るのか辺りを見渡す。知っている顔や初めましての人がちらほらと居る。これから一年間過ごすメンバーなので名前くらいは覚えておこうと思ったのだった。

 

 「……………」

 

馴染めないわけではないが……本当に此処に居ていいのか、俺みたいな人間がと思ってしまう。過去の記憶が無い俺にそんな資格があるのだろうか?

 

 「五河、何考えてるんだ?気楽にいこうぜ」

 

 「……ああ、分かった」

 

始業式が終わり、帰りのホームルームもスムーズに終わったので思ったよりも早く帰れそうだった。

 

 「帰ったら……夕飯の準備と、洗濯物を取り込むのと、掃除と……」

 

家に帰った後の予定を一つづつ考える。そして予定を組み立て終えた時、その音は鳴った。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――

 

 「空間震警報!?こんな時に……」

 

自分が居るところはシェルターから最も離れている。どちらにせよシェルターに行く手段は無い。ならば家にダッシュで帰る一択である。

 

 「っ……目の前で空間震とか……よく生き残ったな俺」

 

走ろうとした時にはもう遅かった。そして、目の前に空間震が起こりその爆心地には二人の少女が立っていた。

 

 「はぁ?お、女の子が起こしてるって言うのか?」

 

一人、勝気な少女。一人、気怠げな少女。恐らく双子である、そこまでしか分からなかったが……

 

 「ぁ……ぇ……」

 

声を発することが出来ない。彼女らの異質なオーラによって、話そうとしても此処では話してはいけないと本能が言っている。でも、別の感情が流れ込んでくる。彼女らの目は”絶望に満ちていた”。

 

 「君らは……?」

 

意を決して話しかけてみる。

 

 「名前?……そんなの、ないかな」

 

 「同調。私達には、名前はありません」

 

その二人に出会った時、この子たちを助けたいと思ってしまった。”自分の様な人になって欲しくない”という身勝手なエゴが俺を支配した。

 

 「なんで、そんな顔するんだ?」

 

彼女らは悩んで、こう言った。

 

 「何も知らない。其処に変な人たちが来て私達を攻撃するの。貴方も、そうでしょう?」

 

 「貴方は、変な人たちの様に私達を殺そうとするのですか?」

 

変な人達は分からないが、この子らを助けたい。こんな顔をさせたくない。

 

 「いや。俺はお前たちを攻撃しない。お前たちに生きる道を与えてやる」

 

彼女達は驚く。知らない人が急にこんなこと言ったらそうなることは当たり前だけど。

 

 「来た。貴方も巻き込まれたくないなら逃げた方が良いよ」

 

 「貴方、死にますよ」

 

そうして空を見ると飛んでいる人が二人を攻撃し始めた。なんで、こんなことするんだ?会話が出来るのに対話もしようとしないなんて……

 

 「また、俺は何もできないのかよ!!」

 

もう、後悔はしたくない。それぐらいだったら死んでも彼女らを守りたい。力が欲しい、そう願った。

 

 「力を……二人を守る……力を!!」

 

頭の中に浮かんできたそれを放つ。

 

 「来いよ!!<灼爛殲鬼>……!!」

 

それは巨大な戦斧。使い方は何故か”識っていた”。

 

 「<灼爛殲鬼>……『砲』!!」

 

斧は巨大な砲へと変化しそれを俺は放った。

 

 「これで……いいのか?……はぁ……ぜぇ……」

 

その斧は光の様に消えた、まるで一時的に力を出したように。膝を付くと二人がこちらに来た。

 

 「貴方も私達と同じなの?」

 

 「違うと思う……俺はただの人間だよ」

 

さっきから分からないことが多い。彼女らはどういった存在なのか、それを攻撃していた人々、そして俺が使った戦斧。

 

 「そっか、名前聞いてなかったね」

 

 「俺は五河士道。まあ、あいつ等よりはましな人間だから困ったら俺に言ってくれれば力になるぞ」

 

二人は名前を聞くと、消えるように居なくなった。

 

 「帰ったのか?今日は、大変な一日だったなぁ……」

 

壮絶な一日を過ごした俺はいつもの様に家事をして夕食を作りお風呂に入り、寝た。今日一日で一年分の寿命を使った気がする。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

朝、起きて携帯を見ると殿町から「学校休みだってよ」とメールが来ていた。恐らく、昨日の空間震の影響で休校になったのだろう。あの二人はどれだけ壊したのやら。

 

 「今日休みなら買い物行こうっと……」

 

確か昨日で食材を切らしたはず、そして何か必要な物が無いか探そうと着替えて商店街に向かった。

 

 「ん~~……今日は安売りしてなかったな」

 

スーパーと商店街を巡り必要な食材や物を購入したのはいいが、いかんせんあまり安いものは得られなかった。

 

 「ちょっと寄り道するか」

 

何となく、公園のベンチに座り空を見上げる。いつか人間は空を飛び始めるのだろうか?空を飛んだ時、人類はどんな感情を持つのだろうか?そんなことを考えてみる。

 

 「こんな所で何をしているのですか?士道」

 

聞き覚えのある声が聞こえたので目線を下に向けると昨日の二人が左右に座っていた。

 

 「ん!?お前らどうやってこっちに?」

 

話を聞くと知らぬ間にこちら側に来れたらしい。原因は不明だ。

 

 「まあいっか。でも、何するんだ?」

 

 「士道と一緒に居ればなんか楽しいから」

 

楽しいと言う感情を持っているのは良いことだ。昨日の絶望した目から楽しそうにしている目に変わった。俺に出来ることは、この二人と一緒に過ごすことだ。

 

 「う~ん。とりあえずさ、服着替えられるか?目立つし」

 

二人はマゾヒストが好みそうな拘束具や鎖が付いているので非常に目立つ。不思議な力を持っている二人ならどうにか出来ると思ったのだ。

 

 「士道の服で良いかな」

 

そうすると彼女たちは俺の服になった。相変わらず不思議パワーである。

 

 「よし、なら付いて来てくれ。家でご飯を作ってやろう」

 

俺が買い物に出たのは午前中。今は昼過ぎなので昼食を作ってやろうと家に招待した。

 

 「いらっしゃい、何もないけどリビングでくつろいでくれ」

 

二人はソファーに座るとテレビを付けて見始めた。初めて見るものが多いようでそれに興味津々の様だった。

 

 「そうだな……サンドイッチとスープで良いか……」

 

パンを切り、野菜を切り、スープを作る……単純な作業だがこういう作業が俺にとっては好きなのだ。

 

 「二人とも~、出来たぞ~」

 

サンドイッチとスープとテーブルに置き、食べ始める。二人は目を輝かせながら黙々と食べていて、あっという間に食べ終わってしまった。

 

 「美味しかったか?」

 

二人はブンブンと首を縦に振る。どうやら、ご満悦の様だ。

 

 「なら、少し二人の事を聞かせてくれないか?」

 

二人は何も知らなかったが、一つだけ分かっていることがあったらしい。それは自分たちは元の人格から二つに分かれたこと。それをまた一つにしなければならないこと。

 

 「人格を……一つに……片方は消えるって事か?」

 

 「そうだね……でも、消えてもいいんだって思ってるんだ。片割れが幸せに生活できるならいいかなって、例えば士道と一緒に過ごせるとかさ」

 

そんなのは嫌だ。消させてなるものか。この想いは何だ?俺が二人に何を思ってる?これは、好き?そう、思うと顔が真っ赤になる。

 

 「士道?顔真っ赤だよ?」

 

 「熱でもあるのですか?」

 

今、急に意識してしまったので顔を隠したい。この顔を二人に見せたくない。

 

 「だ、だ大丈夫だ。問題ないから」

 

二人は不思議そうに首を傾げているが、これを言うわけにはいかないので話題を変える。

 

 「二人には名前が無かったよな……名前つけてもいいか?」

 

昨日、名前が無いと言われ考えていたのだ。二人は双子。苗字を同じして名前をどうするかを考えた結果……

 

 「八舞耶倶矢と八舞夕弦……ってのはどうだ?双子だし、何かこれがしっくりきたんだよな」

 

その名前を気に入ったようで何度も自分の名前を呟いている。

 

 「「ありがとう!士道!」」

 

その二人のハモった声が俺の脳にダイレクトアタック!!この映像は永久保存されるなぁと思うのだった。

 

 「どういたしまして。そうだな……二人とも時間あるか?」

 

二人は大丈夫そうだった、なので少し二人の買い物をしようと思ったのだ。何も知らないならばせめて服くらいは買ってやろうという俺個人の感情が出てきてしまったのである。

 

 「俺と同じ服だったら不思議がられるだろ?ちょっと服を見に行こうぜ」

 

そうして両手に花と呼ばれる状態で中心街方面に歩いた。二人の女性をエスコートしながら歩く……もしや、デートよりも高度なことをしているのではないかと思い始める。そうすると一番会いたくなかった顔に出くわす。

 

 「五河じゃん、何してる……ナニィ!!女の子!?しかも二人ぃ!!」

 

 「殿町、余計なことを言うと口を縫い合わせて海に落とす」

 

それを言えば大抵の人間は口を閉じ秘密を守る。

 

 「よしいい子だ。購買くらいは奢ってやる」

 

殿町と別れるとどっと疲れが来た。あいつは俺をストーキングでもしているのか?今度から気を付けて行動しようと思うのだった。

 

 「士道?さっきの人は誰?」

 

 「友達?みたいなもん。長い付き合いだけどさ」

 

そんな他愛も無い話をしながら三人で歩く。”何処かでこんなことをした”と感じるのはよく分からないが気にしないことにする。

 

 「着いたな……二人に似合う服を頑張って捜しますかぁ……あ、自分が興味ある服も着てみてくれよ?着るのは二人なんだからさ」

 

少し小さいファッションショーをしてみよう。まずは、耶倶矢から。

 

 「う~ん。可愛い系はあんま似合いそうにないな……どちらかというとボーイッシュ系なんだよな。スカートでもいいけどジーンズかな」

 

とりあえず持ってきた物を耶倶矢に渡し、着替えてもらい見てみる。

 

 「に、似合ってるかな?」

 

ジャケットとジーンズを着たその姿は可愛いしカッコいい。なんかこれが普段着じゃないかって思うくらい似合っていた。

 

 「俺のセンスも捨てたもんじゃないな……購入決定!次は夕弦だな」

 

夕弦は何となくゆるふわな感じがする。偏見だが。なので、ロングスカートとカーディガンなど……似合いそうな物を選んでみる。

 

 「はい夕弦。着てみてくれ」

 

渡した物を着た夕弦を想像してみる……鼻血が出そうになった。これは想像しない方が良さそうだ。

 

 「どう、でしょうか……変ではありませんか?」

 

夕弦の着てる服はいい所のお嬢様みたいな雰囲気が醸し出されている。所謂、清楚系という奴だ。

 

 「これも購入決定だな……何か気になるのあったら持ってきてくれ」

 

痛い出費だが、楽しい買い物だった。二人と居ると俺が此処に居ていいということに気づかされる。もっと二人と居たい。そう思った。

 

 「今日は楽しかった……また、会えるか?」

 

 「会えるよ、きっと。士道ともっと居たいもん」

 

 「同意。もっと士道と遊びたいです」

 

そしてまた消えるように居なくなった。真夏の夜の夢の様に。

 

 「恋、しちゃったなぁ……」

 

初めての恋、しかも二人。これは前代未聞だな……と思うのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

それから、何度か二人と会い遊んだ。三人でいろんな所に行った。楽しかったんだ。この日々が永遠に続けばいいとそう、願った。しかし、それは突然終わりを告げたんだ。

 

 「士道……今日で会えるの終わりかも」

 

その一言が心にぐさっと刺さった。

 

 「は?どうしてだよ……最近までこっちに来れてただろ?」

 

 「夕弦達は、話して……人格を一つにすることに決めました。なので、今日で片方が消えます」

 

そういう意味の類ではなかった。来れないではなく、一人消えるという意味だった。俺の頭にはどうして?の一言がこびり付いていた。

 

 「だからさ……士道が残った人と一緒に居て欲しいんだ。これが私達の最後の願い」

 

残った人と一緒に居て欲しい、というそんな願い。何で、どうして。

 

 「じゃあね。士道……私を助けてくれてありがとう……」

 

 「さようなら。士道……私を助けてくれてありがとうございました……」

 

そして二人は服装が拘束具に変わり空を飛んで何処かに行った。

 

 「何で……どうしてだよっ!!」

 

一人消える、そうすれば彼女たちは満足なのだろうが俺は嫌だ。それに、俺の思っていることすらも二人に言えなくなってしまう。

 

 「せめて、二人に……伝えよう!!」

 

自分の想いを、この二文字を二人に伝えたい。伝えられればそれで良い。自分の命が燃え尽きるまでこの想いを。

 

 「早く……行かないと……!!」

 

二人が恐らく向かったであろう場所に走る。其処は人気のない高台。二人なりの思いやりで被害を出さないようにするためだろうと思った。

 

 「ちっ!もうやり始めてる……」

 

空には台風のような風が巻き起こっていた。其処に光る二人が凄まじい勢いで動いていた。耶倶矢は槍を夕弦はペンデュラムを使い戦っていた。

 

 「どうすれば……二人に気づいてもらえる?」

 

考えろ、何が出来る?俺に存在理由を与えてくれた二人を生かすためには何をすればいい?その時、初めて会った時のことを思い出した。

 

 「なら、力を貸してくれ……<灼爛殲鬼>!!」

 

その戦斧は巨大な砲となって全てを焼き尽くす。これを撃てば気づいてもらえる!!

 

 「ふぅ……まだだ……もっと力を溜めて……」

 

精神を集中し、研ぎ澄ませる。この力を一気に放てば……

 

 「<灼爛殲鬼>!!『砲』!!」

 

この射程でこの威力ならいける。思った通り空を裂いた。

 

 「何!?今の……」

 

 「驚愕。すごい威力でした……」

 

二人がこちらを見てくる。今しかない。

 

 「二人とも!!もう、戦わないでくれ!!俺は二人が戦いあって傷つくのなんて見たくない!!俺は、二人が、大好きだっ!!」

 

その言葉に二人は驚く。まだ言い足りない。

 

 「俺に!!此処に居ていいって証明してくれた二人を!!俺が初めて好きになった二人を!!一つにするなんて駄目なんだよ!!俺は二人と一緒に居たい!!頼む……俺とずっと一緒に居よう!!」

 

その愛のコトバは二人に届いた。二人は俺の前に降りてきて言う。

 

 「馬鹿じゃないの?一緒に居たいって……私達人間じゃないのよ?」

 

それは知っている。だからどうした。

 

 「士道に嫌な思いをさせるかもしれませんよ?」

 

その思いも恋心だ。だからどうした。

 

 「別にいいんだ。俺は、二人と一緒に居たいんだ。俺が初めて、好きになった人にこんなことをして欲しくないんだ……傷つくのを見ると、頭がぐしゃぐしゃになって、何も考えられなくなる……それぐらい二人が大好きなんだ」

 

 「ふふ……はははは!!」

 

 「ふふ……ぷぷ……」

 

二人が笑い始める。おかしいな……人生最大の告白をしたのに笑われてしまった。

 

 「士道にそんなこと言われちゃったら、やめるに決まってんじゃん。私も士道が好き」

 

 「失笑。私も士道の事が好きです。三人で一緒に過ごすというのも悪くないですね」

 

告白は成功した。緊張が解けて、膝を付いてしまう。

 

 「はぁぁ……良かったぁ……」

 

知らず知らずのうちに体が限界に達していた様で身体全身が痛む。

 

 「三人で一緒に過ごすかぁ……いっぱいやりたいことが出来たなぁ」

 

 「耶倶矢は欲張りさんですね。士道が付いていけませんよ」

 

二人が楽しそうに会話する姿に安堵する。これで良いのだ。これで……

 

 「あ、時間みたい……会えるのは暫く後になりそう」

 

 「士道、さよならです」

 

その言葉は言うべきではない。それとは違う別の言葉を言ってほしかった。

 

 「さよならじゃなくて、また会いましょうだろ?それじゃあ永遠に会えないみたいじゃないか」

 

 「そうだね、じゃあ……

 

 「「またね、士道!!」」

 

二人は居なくなった。それと同時に俺の意識は途絶えた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 「……………」

 

 「士道?どうしたの?」

 

二人に会ったことで昔を思い出していたようだった。

 

 「ああ、ゴメン。二人に会った時ことを思い出してた」

 

あの後、病院で寝ていて妹にこってりと怒られた。そして、2週間も入院生活をすることになってしまうとは思いもしなかった。

 

 「微笑。二人の魅力によって昔を思い出すとは……オオカミさんですね」

 

 「そんな意味じゃない!!俺にそんな趣味が無いってことくらい分かってるだろ?」

 

二人で桜並木を歩きながら会話する。この懐かしい雰囲気にずっと居たかった。

 

 「そうだった、士道に言ってないことあったなぁーって」

 

 「そうですね、忘れていました」

 

そうして二人は、ある言葉を言った。

 

 「「ただいま、士道!」」

 

その言葉に俺は……

 

 「お帰り。耶倶矢、夕弦」

 

春、その日から幸せが戻ってきた。




次回、デットエンドは風の様に吹いてくる


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デットエンドは風の様に吹いてくる

原作第一話とは違った展開になっていきます。


二人と再会して、数日。来禅では始業式が始まる。今日も同じように起きて朝食の準備をする。

 

 「~~~♪~~~♪」

 

鼻歌を歌いながら朝食を作る様を見ればただの変人だが、仕方ないのだ。何故なら愛しい彼女に再会したからである。その感情を抑えることはできなかった。

 

 「おにーちゃんおはよー!」

 

妹の琴里がリビングに入ってくる。

 

 「今日は気分いいのか~?」

 

少し爆弾発言して驚かせてみるか。

 

 「琴里……俺、言わなきゃいけない事があるんだ……」

 

 「え、え?どうしたの?」

 

さあ、驚く顔が見れるぞぉ!!

 

 「祝!彼女が出来ましたぁ!!」

 

琴里は口を開けたまま意識を飛ばしていたようだ。器用だなぁ……

 

 「はっ!!失神してた……おにーちゃん?冗談にも程があるぞ~」

 

やっぱり冗談だと思うよな……別に信じなくてもいいけどさ。

 

 「で、琴里も始業式で午前中に終わるんだよな?何食べたい?」

 

 「デラックスキッズプレート!!」

 

そこで、ファミレスの商品を出してくるあたり子供だなぁと思う。

 

 「当店ではご用意出来かねます……ファミレスな、分かったよ」

 

そうして、二人で学校へ向かうが途中で別れる。

 

 「絶対だぞ!火事とかテロリストが来ても空間震が起きても絶対だぞ!!」

 

 「無理だろ……流石に」

 

不吉なことを言っている琴里と別れ、学校に向かい教室に入る。

 

 「五河士道……」

 

後ろを振り向くと白い髪をした知らない人が居た。

 

 「覚えてないの?」

 

首を縦に振ると彼女は残念そうに自分の机に戻り分厚い本を読み始めた。

 

 「お~五河。彼女が居るのに浮気とは……最低な男だな……ぐふっ!!」

 

後ろから話しかけてきたゴミを沈めながら自分の席に戻る。本当にこいつと居ると面倒な事に巻き込まれる……

 

 「なんでこいつと一緒のクラスかなぁ……」

 

そして、その後のホームルームや始業式を終え、今後の予定を振り返る。

 

 「少しよろしいでしょうか?五河さん?今日ご予定はありまして?」

 

 「気持ち悪い、いつもの感じで良いから。今日は、ファミレスに行く予定がある」

 

妹の琴里とファミレスだが、可能性として二人と放課後デートと呼ばれることをするかもしれない。

 

 「誰と行くんだ?まさか……彼女?」

 

 「違げぇよ、妹だよ。もしかしたらお誘いがあったらそっち行くかもだけど」

 

そうするとあの時と同じサイレンが鳴った。

 

 「おっと、空間震警報か。避難だな」

 

殿町とシェルターに向かうが、そういえば妹は避難してるだろうかと電話を掛けてみるが出ない。GPSを確認するとファミレス前で止まっていた。

 

 「馬鹿すぎる、本当に……」

 

 「五河!?何処行くんだよ!?」

 

 「忘れ物だ!!」

 

そうして学校を出ると校門に耶倶矢と夕弦が待っていた。

 

 「お前ら……警報鳴ってるのに出てきたのかよ。でも、丁度いい。妹を連れ戻すの手伝ってくれ」

 

 「士道に妹居たの?初耳なんだけど」

 

 「士道に似て、優しいのでしょうか?」

 

俺の妹談義をする彼女たちもいいが誤解は解いておく。

 

 「俺は今の家に拾われたから、義理の妹になる。だから血は繋がってないぞ」

 

聞いてはいけないことを聞いてしまったことに二人は反省しているがあまり気にしている余裕はない。

 

 「二人とも、走るぞ!!」

 

三人で誰も居ない道を走り続ける……そしてファミレス前に着くと其処に琴里は居なかった。

 

 「いない……GPSは此処を示してるんだが……」

 

そうして辺りを見渡しながら探していると……目の前で空間震が起こった。人生で空間震を目の前で二回見ることになるとは……

 

 「きゃ……普通に強すぎ……」

 

 「困惑。私達もこんな風に登場していたのでしょうか?」

 

二人が話すが、その爆心には一人の女の子が居た。鎧のようなドレス、その後ろには巨大な玉座が出来ていた。しかし、”何処かで会った気がする”のは気のせいなのだろうか?

 

 「っ……ぁ……」

 

その女の子は”暴力的な美しさ”を持っていた。近づくことすら躊躇うくらいの雰囲気を出しながら。しかし、あの時と同じように目が絶望に満ちていた。

 

 「ん?……貴様は……」

 

彼女が気づいたようでこちらに向かってくるが、敵意は無いようだ。どちらかというと”彼女も俺の事を知っている”様な感じがした。

 

 「貴様……何処かで会ったことがあるか?」

 

 「君もか、俺も会ったことある気がするんだ」

 

二人で考えるが答えは出ない。そうすると後ろにいた二人が話に介入してきた。

 

 「何良い雰囲気出してるのさ……私達が一番じゃないの?」

 

 「憤慨。私達の事を忘れってもらっては困ります」

 

こういう時はどうすればいいんだ?不思議パワーを持った女の子が三人。敵に回ったら俺は塵も残らないで死ぬだろう。

 

 「当たり前だろ?二人は俺の中で一番だよ。でも、この子に会ったことがある気がするんだ……”すごい昔に一緒に過ごした感じ”がする……」

 

話していると一年前と同じように飛んでくる人影が向かってきているようだった。

 

 「はぁ……こんなものが無駄だと、何故学習しない!!」

 

彼女が玉座に刺さっていた大剣を抜き振るうと銃弾やミサイルが粉砕された。これが彼女の不思議な力なのだろう……今の所見たことがあるのは、俺の灼爛殲鬼と二人に教えてもらった、颶風騎士の穿つ者と縛める者だがこれは何という名前なのだろうか?

 

 「二人とも?あの子助けたいんだけど……いいか?」

 

二人はため息を付きながらも同意してくれた。

 

 「士道のお人よしは性分だもんね……」

 

 「本当に仕方がないですね……士道の為ですから」

 

二人は颶風騎士を出し、俺は灼爛殲鬼を出して彼女の援護に回る。

 

 「助けに来たぜ、お姫様」

 

 「何故、来た?」

 

そういう質問には答えずらいと言うか、何というか……

 

 「俺が勝手にしたいから、じゃダメか?」

 

 「ふっ。面白い、気に入った。なら私に付いて来い!」

 

そうして、殲滅戦を繰り広げた。今思うと派手にやったなぁと後悔してしまう。人相手にバカみたいな力を使って気絶させるとか、力の差が大きすぎるにも程がある。

 

 「終わったな……お前たちも中々やるではないか」

 

 「何もしてないよ……どっちかっていうとサポートに回ってただけだしな」

 

一人で突っ切って行って切り伏せる、それを繰り返す彼女は修羅の様だった。

 

 「そういえば、名前を聞いていなかったな……」

 

 「俺は五河士道、こっちの二人は八舞耶倶矢と八舞夕弦だ。関係はあまり聞かないで欲しい。頼む」

 

彼女は不思議な顔をしているがこれを他の人に言うのは恥ずかしすぎる。

 

 「そ、そうか……私は夜刀神十香だ」

 

困惑しながらも自分の名前を言う彼女は何処か懐かしく感じる。

 

 「む、時間か……また会おうシドーよ」

 

そう言った後二人の様に消えていった。やっぱり不思議パワーの代償なのだろうか?

 

 「はぁ……疲れたー!!これ使うとめっちゃ疲れないか?」

 

疲労とは違う体の中にあるありったけのエネルギーを使った感じだ。立つことすらつらい。

 

 「それは士道が慣れてないからでしょ?うちらはそんなの感じないけど……士道は人間だからじゃない?」

 

 「後は、士道の技量不足ではないでしょうか?人間でも扱えなくはないと思いますが」

 

そうなのかなぁ……と色々考えてみる。確かに、耶倶矢や夕弦よりもこの力を扱いきれてはいないが威力としては一番だろう。あとは本人の努力次第、といった所だろうか。

 

 「結局、琴里には会えなかったなぁ……家に戻るか……」

 

そうして家に戻ろうとすると案の定二人もついて来た。心の中では嬉しくてしょうがないが妹にどのような言い訳をしたらいいかを考えなければならなくなる。

 

 「どうするかな……ん!?」

 

よく分からない浮遊感に驚いた瞬間には何処か違う場所に立っていた。同じく近くに居た二人も一緒に飛ばされたようだった。

 

 「なにこれ!!SFってやつ!?すごーい!!」

 

 「耶倶矢。落ち着いてください……敵が襲い掛かってくるかもしれませんよ」

 

二人が談義している間に俺は周囲を見渡す。機械的に並べられた何か、配線、大きな機械etc……そうして見ていると扉から知った顔が出てきた。

 

 「こんの……阿保兄ぃ!!」

 

いきなり殴りかかってきた事に驚き咄嗟に防御姿勢を取るがそれよりも早く動いた影があった。

 

 「何うちの士道に殴りかかろうとしてるの?動いたら首切るよ?」

 

 「要請。今直ぐに敵意を無くしてください。痛い目を見ますよ?」

 

流石俺の彼女たちだ、一瞬にして無力化するとは……最速と言っているだけあるなぁと思う。

 

 「二人とも、もういいぞ。それが俺の妹だからな」

 

そうして武器を仕舞い、俺の所に戻ってくる。

 

 「士道……どういう事か説明してくれるんでしょうね?」

 

 「あー、えっとな……今朝話したって言えば分かるか?」

 

今朝話したことを思い出しているようだ……そして、気づいたらしい。

 

 「し、士道にか、彼女……しかも、二人……」

 

その事実を受け入れることが出来ないでいるようで、固まっていた。

 

 「二人ともさ……うちの妹ってこういう奴だから虐めないでくれな?}

 

暫く経ってから戻ってきた琴里に案内され、重要そうな場所に来た。周りには数名の人が機械の前に座っていた。

 

 「ようこそラタトスクへ……歓迎するわ」

 

そして、琴里は話した。さっきの少女が精霊と呼ばれる存在であること、それを殲滅しようとしている組織があること、そして俺に精霊を封印する能力があること。

 

 「で、そこの二人も精霊よ。封印はしてないみたいだけど」

 

へ?この二人も精霊?頭の片隅では分かっていたことだが聞かされると驚いてしまう。

 

 「まあ、封印するには好感度を上げてキス出来る位まで好きになってもらわないといけないんだけど……士道も二人も前代未聞のカンスト状態だから問題なさそうね」

 

話を聞いていると封印方法がキスとかいうギャルゲー設定なのは些か問題ではないかと思う。俺は彼女が居るのにそんなことを余りしたくはないんだが。

 

 「とりあえず分かった。要するに俺が精霊をデートしてデレさせろ、ってことで良いんだな?それだったら俺はやる。俺の信念を貫くさ」

 

 「それでこそ士道よ。で、何で<天使>を顕現できたのかしら?」

 

そして天使と呼ばれる形を持った奇跡について説明を受けた。封印した力を俺は使うことが出来るらしい、なら最初に封印したのは……

 

 「それについてはとても恥ずかしい事なのでノーコメントで……でも、俺が使ってる天使<灼爛殲鬼>を持ってるのは琴里じゃないか?」

 

 「そうね、私は精霊であり<灼爛殲鬼>を使える……でも、どうして分かったのかしら?」

 

説明はしずらいが……今の所キスをしたことがあるのは琴里だけという記憶と、天使を持っていると琴里を感じることが出来るから……と言った。

 

 「へぇ……士道も色々考えてるのね。何か感心したわ」

 

 「まあ、彼女のために何処行こうとか何食べるとか色々調べてると考える力も付くさ」

 

そうして話を終え、帰ろうとしたが二人に封印を施した方が良いと思ったのだ。二人の住む場所については暫くは家で、少ししたらマンションが出来るのでそちらに移るとの事だった。

 

 「耶倶矢?夕弦?ちょっといいか?」

 

休憩所でジュースを飲んでいる二人に話しかける。今着ている服は俺が買ってあげた服だ。気に入ってるようで、何かとそれを着ているのだ。

 

 「琴里から聞いたと思うけど、一応二人に封印しといた方が良いと思うんだ。力はあった方が良いかもしれないけど……無くなったら俺が、二人を守ってやる。約束だ」

 

 「ふふ、やっぱり士道らしいね」

 

 「微笑。士道は私達が大好きですから」

 

二人を抱き寄せる。この時間だけはゆっくりと過ぎている気がする……そして、二人同時にキスをした。キスと言っても頬にだが。

 

 「力が抜けていく感じ……これが封印?」

 

 「そうじゃないか?俺に流れてくる感覚があったし。後、ストレスが溜まると普通に天使とか霊装を出せるみたいなんだ」

 

でも、ファーストキスじゃなかった事に後悔する。何で精霊の封印方法がキスなんだと異議を申し立てたい。

 

 「えへへ、キス……しちゃった……」

 

 「ふふ……キス、しちゃいましたね……」

 

二人は俺とキスしたことに嬉しすぎて意識がどっかに行っているようだ。恐らく空想上の俺と戯れているのだろうと仮説を立てる。

 

 「おーい、戻ってこーい……仕方ない」

 

またこちらに体を寄せてキスをすると、こちらに戻ってきた。

 

 「ひゃ!!し、士道!?何してるの!!」

 

 「っ……士道?こういうのをする場合は同意を得てからですよ」

 

いや、貴方達が気づかないのが悪いですよ、とツッコミを入れたい。まあ、したかったのは嘘じゃないけど。

 

 「帰ってこないのが悪い……俺を一人にして帰らせる気か?一緒に居るって約束したのに……」

 

少し泣いてみると案の定俺を気遣ってくれる。そんな耶倶矢と夕弦が大好きだ。

 

 「ゴメンって……一人にしないから」

 

 「謝罪。士道を一人にはさせません」

 

そうして三人で家に帰る。これからの日常がこうなると想像するだけで幸せだと感じることが出来た。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 「ん?んーーーー?」

 

今,目の前にある光景が幻覚ではないかと目を擦っている所である。何故なら、この来禅高校に転校生として耶倶矢と夕弦が俺のクラスに転校してきたのだ。恐らくラタトスクが裏から回しているのだろうが何か信じられない。

 

 「じゃあ皆さん仲良くしてくださいね~」

 

担任のタマちゃんがそう言ってホームルームが終わる。そうすると二人に大勢集まるがそれを難なく避けながら俺の元に避難してくる。

 

 「皆二人の話を聞きたいみたいだぞ?いいのか?」

 

 「何か怖いし、それだったら士道と一緒に居た方が楽しいし」

 

 「一緒に居て欲しいと言って、泣いて来たのは誰ですか?」

 

そういえばそんなこともあったなと笑う。そうすると、この雰囲気が理解できた者から退場し始める。

 

 「へぇ~、五河君にも彼女居たんだ~。でさ、どっちが本命?」

 

このクラスの三人組、亜依麻衣美衣が言ってくるが……

 

 「何ふざけた事言ってるんだ?本命は二人だろ?」

 

 「こいつ……出来る!?」

 

他の人たちの質問を避けながら、授業を受け放課後になった。人というのは慣れが来ると受け流せるものらしく、朝から続いた質問攻めも全て受け流せるようになった。

 

 「はぁ……終わった。二人は初めて学校どうだった?」

 

 「ちょっと疲れたかな。まあ、最初だから質問は多いだろうけどさ」

 

 「耶倶矢に同じくですが、勝負が出来る場所が多そうです」

 

相変わらず勝負好きな二人だが、前よりかは争わなくなったと思う。俺の影響を受けて勝負というよりかは協力に変わったと思う。二人は俺の嫌いな事を分かっているのでそうなったのだろう。

 

 「じゃ、買い物して帰ろうか。今日は何がいい?」

 

 「要請。夕弦は鱈が食べたいです」

 

 「私も同じく魚が食べたいな~」

 

と、二人のお嬢様が仰っているので今日の晩御飯は焼き鱈になるのであった。

 

 「シドー、会いに来たぞ」

 

と校門を出ると制服を身に纏った十香が居た。恐らく、前の二人と同じように空間震を起こさないで来たのであろう。

 

 「耶倶矢、夕弦?仕事だからさ、先帰ってもいいぞ?」

 

 「一緒に居た方が良いと思うよ。顔なじみだしさ」

 

 「警戒されないようにするのであれば私達もいた方が良いかと」

 

それも一理ある。知っている顔が居れば警戒も薄くなるし、大勢で楽しめるだろう。

 

 「分かった、じゃあ行こうぜ……俺達の戦争を始めよう!」

 

そこにもう一人付いて来ている人影に気づかずに……

 

 「……金が圧倒的に足りない……」

 

四人で商店街に来たのは良いものの十香が食べるのが好きなようで、片っ端から色々食べ始めているので俺の財布が空になりつつあった。

 

 「都合よく無料になったりしないかなぁ……」

 

そう考えながら道を歩いていると、話し声が聞こえた。

 

 「この先の場所、食べ放題なんですって……しかも、無料!!」

 

ん?都合よく無料って聞こえた気がしたので耳を澄ませる。

 

 「今なら、入場者特典もあるらしくて……ここら一帯の食べ物屋さんが無料で食べられるらしいですよ」

 

その噂を聞きながら先へ進むと見たことがある顔が居た。確か、ラタトスクの人だった気がする……要するに何処かでこちらの動向に気づいて何かしたのだろう。

 

 「十香?ここ全部食べていいぞ。どうせ無料だからな」

 

そうして食べ始める十香の姿は大食いの人という印象を持った。胃袋はブラックホール並みなのだろう、料理を沢山作っておかなければならないと頭の片隅に入れておく。

 

 「士道……ここからどうするの?」

 

 「んーー、いい時間だしあそこ行くか」

 

十香が食べ終わり、満足するとデートスポットとして有名な高台に向かった。時間も丁度良く日が沈みかけた時に来ることが出来た。

 

 「おお!!いい景色だな……」

 

相変わらずの景色、この場所に居るといい風が吹いて気持ちが良い。昔はよく此処に来て空を眺めて考え事をしていた。

 

 「お気に入りスポットの一つだからな……よく来てたんだ」

 

風が吹いてくる。いつまでも浸っていたいが、俺の使命を果たそう。

 

 「十香?此処には敵が居るけど全員が敵ではなかっただろう?」

 

 「そうだな……しかし、この世界を私は知らぬ間に壊していたのだな」

 

そう、彼女たちが出てくるときに町を破壊してしまっている。それが心残りとなっているのが分かった。

 

 「大丈夫だ。この二人だって最初はそんな感じだったけど今は前を向いて生きることを選んだ……十香もそうするんだったら俺は助けてやる……」

 

そうして手を差し出そうとしたが……何か強烈な殺気を感じた。これは、十香と耶倶矢、夕弦に対しての殺気だ……せめて、三人には生きて欲しい。

 

 「ゴメン!!」

 

そうして三人を吹き飛ばすと俺の体に何かが通り過ぎた。嗚呼、撃たれたんだと本能的に錯覚する。

 

 「あ……がぁ……」

 

血がどくどくと流れ、地面を汚す。これ、死んだな……

 

 「シドー!!大丈夫か!?」

 

 「はは……これは……もう、無理そうだな……ごほっ……」

 

血を吐き出しながら話すが意識が薄れていく……

 

 「士道!!……死なないで……行かないで!!」

 

 「士道!!……まだ、生きていて……置いていかないで……」

 

嗚呼……もっと、二人と過ごしたかった。もっと色んな所に行ってみたかった。精霊という可哀想な少女達を救いたかった。もっと……生きたかった。そうして意識は闇に落ちた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

死後の世界はよく、川とか天国が見えると言うが俺はそれに当てはまらず建物が破壊され燃え盛っている天宮市に立っていた。

 

 「俺……死んだんだよな……此処が地獄だったら、随分近代的だよな」

 

自分が知っている場所を地獄にするなど仕切っている人は近代的な物を取り入れたいのだろうか?

 

 「よう、五河士道。まだ居たみたいで良かった」

 

その声をする方を見ると、自分とそっくりな男が近づいて来た。

 

 「は?……俺?」

 

 「あー、何ていうのかな。取り合えずお前のドッペルゲンガーじゃない。一応、真士とでも名乗っとこうか」

 

真士と言った俺のそっくりさんは、燃え盛る炎をものともせず歩いて来た。

 

 「お前は、まだ心残りがあるだろう?精霊を救いたい、そして大事な彼女を護りたい。そのためには力が必要じゃないか?」

 

 「そう、だな。でも、強大な力は人を飲み込む。力が大きすぎると人間は戻ってこられなくなる」

 

力に溺れて失敗するなんて話はよくあることだ。

 

 「そう、だからお前に教える。お前は天使を扱える、それを自分が使いたいものにすればもっと強くなれる」

 

そうして真士は手を差し出した。其処には見たことのある小さな武器が有った。

 

 「お前は力を欲した。暴走することもあるだろうが、二人が止めてくれるだろう……お前と天使は表裏一体だから正しい心で使え。それが、俺から出来る最大限のアドバイスだ」

 

それを手に取り、願う。二人を守る力を。

 

 「そうだな……その天使に名前を付けるなら……<龍風騎士>『バハムート』か?その力で、お前が望む世界を見せてくれ」

 

そうして、世界は暗転した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 「ん……何でベット?」

 

あの時死んだはずの俺は高台で放置されていると思ったが、ベットに運ばれてるし体は傷一つなかった。

 

 「シン。起きたかい?」

 

よく分からないあだ名を付けてきたラタトスクの解析官でもあり、物理の教師でもある村雨令音さんがこちらに来ていた。

 

 「はい……俺死にましたよね?」

 

 「死んだことには変わりないが<灼爛殲鬼>の治癒能力で復活したんだ」

 

まさか、ゾンビもビックリの蘇生をしたようだ。

 

 「何か死んだ後に暴れてませんでしたか?特に、耶倶矢と夕弦が……」

 

 「二人は暴れるどころか君の死体の傍でずっと泣いていたよ。十香はシンが死んだことに絶望して反転してしまったが元に戻ったよ」

 

反転。一応説明の時に聞いたが深く絶望すると別人格の精霊となって降臨するという話だ。

 

 「その十香を生き返った”シンが”止めたんだ。何か話して、もとに戻ったよ。その時シンは鎧の様な物を付けていたね」

 

あの場所で真士が言っていた力がそうなのだろう。意識が無い中で本能的に行ったのだろう。

 

 「分かりました……まあ、心配かけた三人に顔を見せてきますよ」

 

 「ああ、それならもう来ているよ」

 

そうすると三人が扉から物凄い勢いで飛びついて来た。主に頭と腕と鳩尾に三人が抱きついて来た。苦しい。

 

 「シドー!!生きているのだな!?本物だな!?」

 

 「士道が……戻ってきたぁ……」

 

 「士道……ちゃんと戻ってきましたね……」

 

気にしないようにしているが、身体には女性の象徴が強く当てられているためどうにかしたい。恥ずかしいし、色々と問題なのだ。

 

 「あの……苦しいです。退いてほしいなぁって」

 

その言葉で三人は離れる。ようやくちゃんと息を吸える。

 

 「とりあえず……ただいま、皆」

 

 「「「お帰り、士道(シドー)!!」」」

 

その後念入りに検査をされて退院したのは良いが、仕事が残っていたなと思い出す。

 

 「十香~?今、いいか?」

 

今は家に二人っきりなので丁度いい。

 

 「目を瞑ってくれ」

 

そして、キスをした。力が流れ込んでくる感覚と共に、何かの記憶が流れ込んできた。

 

 「へ?何だ……これ?」

 

 「シドーもか?すごい昔に……私達は生きていたみたいだな」

 

昔の天宮市であることは間違いない。ある時、調べてみたことがあったので確定だろう。そして……

 

 「み、お……?」

 

 「私は……てんかという名を思い出したな。確かに、みおとも一緒に居た気がする」

 

感じは分からないが、てんかとみおと十香、俺で楽しく過ごしていたという記憶が流れてきた。

 

 「誰なんだ?一体?」

 

よく分からない記憶……これからどうなるのだろうか。




まあ、そういう事です。次から士道の天使が本格的に出てきます。


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冷たい風は止まることを知らない

風タイトルを作るのに時間かかりますね……


今日は修羅場だ。どのように修羅場であるかと言うと十香が転校してきてそれに対抗しようとしている鳶一折紙とそれに対抗しようとしている耶俱矢と夕弦の四人で争いを始めたのである。俺的には争わないで欲しい。切実に。

 

 「シドー!くっきぃとやらを作ったから食べてくれ!」

 

 「夜刀神十香よりもこっちを食べた方が良い」

 

 「士道?勿論、私の作った奴を食べるよね?」

 

 「士道?三人よりも私の方が美味しいですよ」

 

困った。男はハーレムに憧れると言うが、なってしまった本人は苦労話しかない。どうやってこの雰囲気を打開しようか考えを巡らせる。そうして、考え付いたことを実行してみる。

 

 「とりあえず沈まれ。ちゃんとお前らの作ったクッキーは食べてやるから……十香は……すげぇ甘いな。……折紙は均等に味は纏まっているけど遊びがあってもいいかもな。耶倶矢は……俺の作った奴参考にしたのか?あれは、クッキー用じゃないんだよ……だけど美味しいな。夕弦は……辛っ!!……でも、甘くなった……味変は良いけど個性的すぎるからもうちょっと考えような?皆、俺に何食べさせようとしてるんだよ……俺は普通で良いのに」

 

そう、一人一人に感想と改善点を上げ自分が食べたいものをさりげなく言う。これこそ必勝法である。

 

 「むう……それならばもっと特訓しなければな!!」

 

修羅場をくぐりぬけ放課後。俺は久しぶりに、図書室に入っていた……というのもあの時、真士が言っていた<龍風騎士>について調べることにしたのだ。スマホで調べても良いのだが……文献の方が詳しく乗っていたりするのである。

 

 「へぇ……魚なんだ。それを原典としてドラゴンの姿になった幻獣ね……」

 

思ったよりも興味深い話を見ることが出来た。恐らく、昔に夢見た龍をモチーフとして耶倶矢、夕弦の<颶風騎士>と融合させたものが俺の<龍風騎士>なのだろう……あの鎧は確か、ゲームに出てきた竜騎士が身に付けていた鎧だと思うのだが。確かにそういう事を考えていた時期もあったし黒歴史ではあるけど……実現すると心が躍る。

 

 「空を飛ぶために龍を想像する……あの頃は純粋だったな……」

 

子供の頃は空を飛ぶ生き物と言えば鳥を思い浮かべると思うが、あの時の俺は鳥を思い浮かべず龍を思い浮かべたのだ。人が空を飛ぶとき、鳥に乗ることは現実的ではない、ならば空想上に存在する龍という存在は人を乗せあらゆる場所を飛び回る……あの自由な翼が羨ましかった。

 

 「家に帰って、飯の準備っと……」

 

本を元に戻し、学校を出る。帰り道に商店街で買い物をし帰り道の途中から雨が降り始めた。今日は、雨は降らないと言っていたはずだが。最近よく外れている。

 

 「結構降るな……ずぶ濡れ確定かよ」

 

走って家に帰ろうと走り出したがその横にある神社に女の子が居た。不思議な感覚が言っている。あの子は精霊だと……ずるべったぁぁ!!と俺もどうやったらそんな風に転べるのか分からないが、とりあえず助けに行く。

 

 「大丈夫か!?怪我してないか?」

 

 「ひ……痛く……しないでください……」

 

すごく怯えている。人が怖いものだと教えられているようで近づくことすら恐怖の対象の様だ。

 

 「これ、君のだろう?ほら……」

 

彼女が持っていたコミカルなパペットを手に着けてあげると急にうねうねと動き始めた。

 

 「っぷはー!!助かったよー、おにーさん」

 

彼女が話しているとは思えない位はきはきとしゃべり始めたが、何か違和感があった。彼女が本当に話しているとは思えず、このパペットに人格があるような……?

 

 「いや、人として困った人を助けるのは当たり前だからな……寒っ!!……へくしゅん!!」

 

くしゃみをしたら其処ら一帯に暴風が巻き起こる。気を付けていないと精霊の力は勝手に出てしまうらしい。

 

 「おんーや?おにーさんもよしのん達と一緒なのかなぁ?」

 

 「同じではないけど……考えてることはあっていると思う。気を抜きすぎて出ちゃっただけだからさ」

 

まさか、くしゃみで風を巻き起こすとは……颶風騎士の力、恐るべし。

 

 「ああ、でも時間だから……じゃあねーおにーさん」

 

そして走り去っていった。とりあえず……帰ろう……

 

 「ただいま……皆帰ってきてるのか。とりあえず、風呂入るか……」

 

雨で濡れた体を温める為に着替えを持ってきて風呂に入る。少し風邪を引いたかもしれないと思いつつも、今日あった子の事を考える……臆病と陽気、性格が正反対なのは何か理由があるのだろうか?

 

 「……考えても仕方ないか。……ん?」

 

何か扉の前でもぞもぞ動いている影。二つ。嫌な予感を察知した俺はとりあえず声を掛けてみる。

 

 「あのー?入ってますけどー?}

 

 「士道?入ってたの?」

 

声の感じ的に耶倶矢なので、もう一人は夕弦だろう。しかし、何故入っていることに気づかない?服は置いてあるので分かるはずだが。

 

 「入ってたんだけど……着替えあるから分からなかったか?」

 

 「応答。着替えはありませんでした。そして、琴里からお風呂が空いていると言っていたので入ろうと思ったのですが」

 

極悪非道な妹だ。俺の困る顔を楽しむためにこういうトラップを仕掛けているのだろう。本当に困る。

 

 「分かった……今上がるから、二人が入ったらどうだ?俺は、少し妹を締め上げる」

 

この、事故を起こそうとした犯人に制裁を与えるとしよう。風呂から上がり、リビングに居る犯人に話しかける。

 

 「よう……よくもやってくれたなぁ……」

 

俺が本気で怒っていることに琴里が驚く。謝っても許さんが。

 

 「俺は誠実なお付き合いをしているんだが……壊そうとしたよな?……制裁を与えてやる!!」

 

とりあえず縛り付けて、こちょこちょの刑に処しておけば暫くはこんなことはしないだろう。

 

 「ふぅ……満足、満足。もうこんなことするなよ?」

 

 「はぁ……自分の身を持って理解したからもうやらないわよ」

 

数十分間に渡るこちょこちょを食らった琴里は、やらない事を心に決めたらしい。そうすると耶倶矢と夕弦がリビングに入ってきた。

 

 「はぁ……さっぱりしたー。制裁は終わったの?」

 

 「終わったー。お前らもやるなよ?そういうのはもう少し後だな」

 

気になっているのはそうだが、やりたくない。不純な動機を作りたくないと言うのが理由だ。

 

 「さ、飯だ飯。さっさと作るから待っててな?」

 

そして調理をしている最中にそういえばと思い出した。

 

 「琴里?何か精霊みたいな子に会ったんだが……そっちで確認してないか?」

 

 「ん?特に確認してないわ……どんな子だったの?」

 

合羽を着ていてパペットを付けている小さな女の子だと言った。

 

 「……<ハーミット>ね。静粛現界して、現れたけど直ぐに隣界に戻ったって感じね」

 

 「とりあえず精霊ってことは確定なんだな。問題はすごい怯えるんだよな……」

 

それをどうにかすれば普通の女の子なんだけどなぁ……と思う。あの陽気なパペットの様に話せれば怯えなくても大丈夫になると思うのだが。

 

 「考えても仕方ないか……さ、出来たぞ。食べた食べた」

 

次会った時にでも、どうにかすればいいか。そう思い、食事を済ませて寝た。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

次の日、学校へ向かうと思ったより早く着いてしまった。

 

 「八時前って……俺、どうかしたか?」

 

なんとなく朝食を作り、食べ、学校へ向かった時間はいつも通りだったはずだが……

 

 「早く着いたなぁ……何しよう」

 

そう考えていると後ろから何かを感じた。

 

 「おはよう、士道」

 

 「おおう、おはよう折紙……」

 

あの修羅場事件から彼女の事を折紙と呼ばなければならなくなったのだが、何か違和感がある。前まで鳶一と呼んでいたのですごい言いやすい事が不思議だ。

 

 「聞きたいことがあったんだが……いいか?」

 

頷いた彼女を見て、話す。

 

 「前、精霊に親を殺されたって言ってたよな?だからって……精霊を殺すのはおかしくないか?あいつ等だって話すことも出来る。そうしようとは思わないのか?」

 

 「精霊は殺すべき存在。私の行動理念。それは変えられない……でも、上からの指示が無かったら私も他の方法を探す」

 

別の方法、まあデートしてデレさせるとまではいかないが対話を試みようとしていることは分かった。折紙にもちゃんと区別を付けているらしい。

 

 「そうか……それを聞けて良かった。後、無暗に抱きつこうとするな。彼女居るの分かってるだろ?」

 

 「彼女が居ようと関係ない。愛人の方に愛を注ぐいうのはよくあること」

 

何故ドラマの方に行くのか……俺はそんなことしないけど。

 

 「満足するまで良いけど……人前ではしないで欲しいんだが。俺こんなこと二人にやったことないぞ」

 

 「頼めばいい。二人なら快くやってくれる」

 

そうして二人が抱きついて来て甘えてくる姿を想像する……

 

 「……やば、鼻血でた。破壊力有りすぎる」

 

 「士道はまだまだ純粋だから」

 

そうなのだろうか?俺、結構汚れてると思うけどなぁと思いつつもその後の授業を受けた。

 

 「……朝から疲れたな、時間の速さがおかしいというか何というか」

 

自分でも意識せずに颶風騎士を使っているのだろうか?扱えるようにするためにはもっと集中しなければならないのだろうか?例えば折紙の様に感情を無にして過ごしてみるとか……いや、耶倶矢と夕弦が心配するから無し。どうすればいいだろうか。

 

 「今日はシドーがすごい速さで動いていた気がするぞ。何だろうか……風みたいにびゅーと行ったという方が正しいだろうか?」

 

 「無意識に颶風騎士を使ってるみたいだな……十香はどうやって鏖殺公を扱ってるんだ?」

 

精霊は天使の扱いに長けている。師匠が近くに居るなら聞くべきだろう。

 

 「鏖殺公をどうやって扱っているか……私の場合は思いをぶつけるだろうか?例えば、シドーを守りたいとか……敵を倒すという事を考えているな」

 

他の人から学ぶことは多いと実感する。純粋な意思を持っている十香はそういう事を考えて行動しているのだろう。純粋すぎて逆にそれが戦う時以外に足を引っ張っているのだと思う。

 

 「思いをぶつける……か。分かりやすくすれば正しい心で使えばいいって事か」

 

自分が思っている事、正しい心を持ち使う。俺の一番は耶倶矢と夕弦だからそれを守る、または一緒に居る為に生き抜くと考えればいいのだろうか?

 

 「まあ、本番で合わせるしかないか……アドバイスありがとな」

 

 「シドーは困っている人が居たら手を差し伸べるだろう?それを真似しただけだ」

 

十香も少しづつ成長している。精霊だった時の彼女ではなく人として生きようとしている。他の精霊たちもこうやって生きて欲しい……ならば、俺が頑張って精霊を封印する。その信念が強くなった気がした。

 

 「俺は……もっと手を差し伸べることが出来るのか?」

 

自分の正義と信念を貫こうとしても、それは一部にしか通用しない。別にそれでいいのかもしれない。俺が手を差し伸べることが出来る範囲で手助けをする。それを決めた。

 

 「何難しい事考えてるんだが……十香?晩飯は何が良い?」

 

 「むう……ハンバーグが良いぞ!!」

 

うちのお嬢様二人と健啖家の十香が五河家の食卓の決定権を持っているため俺はそれに従うまでである。まあ、食べてくれる彼女たちの笑顔を見たいと言うのが本音だが。

 

 「さて、帰りながら買い物だな」

 

帰りながら食材を買う。十香が居る為商店街のお店の人はおまけをしてくれる……俺の時はしてくれないのに……

 

 「シドー、今日はいっぱいもらえたな!」

 

 「そうだな……俺には魅力不足なのか……ん?」

 

帰り道、昨日会った顔を見た。相変わらず合羽を着てパペットを持っている彼女を見間違えるわけがない。

 

 「十香、あの子が昨日言ってた子だ。ちょっと話してみるか?」

 

 「そうだな!新しい精霊が来るのは嬉しいぞ!」

 

そして彼女に近づくと案の定怯えて後ずさる。

 

 「ひっ!!……痛く……しないで、ください……」

 

 「大丈夫だ、俺達は痛くしない。怯えなくても良い」

 

頭を撫でながら話すと思ったより大人しくなった。どれだけ他の人に痛くされたのやら。

 

 「ん?あの時のおにーさんじゃない。四糸乃を大人しくさせるなんて、流石だね」

 

 「君が四糸乃で、こっちがよしのん……でいいのか?」

 

あの時自分でよしのんと名乗っていた気がする。

 

 「そうそうー。何処かで言ってたかな?」

 

 「自分で言っていただろ?宜しくな」

 

そうして精霊、四糸乃を家に連れて行き食事を食べさせることにした。

 

 「ただいま~。……皆居るみたいだな、四糸乃?人がいっぱい居るけど大丈夫だからな?皆優しくしてくれるから」

 

頷く四糸乃を見てからリビングに入る。そうすると、ソファーに座っている耶倶矢と夕弦、椅子に座っている琴里がこちらを向いて来た。

 

 「士道?まさか連れてくるぐらいまで出来たの?ちょっと引くわ……」

 

 「うるせぇ、またされたくなかったらちゃんと見ててくれ。二人とも?優しく接してくれな?怖がりだから」

 

決して幼女に趣味があるわけではない、彼女持ちなのにそんなことするか。

 

 「自己紹介してなかったな……俺が五河士道で赤い髪の人が五河琴里、俺と一緒に居た人が夜刀神十香、ソファーに座っているのが八舞耶倶矢と八舞夕弦だ。後言うとみんな精霊だから安心してくれ」

 

それを言うと安心したようだ。それを他の四人に任せ、夕食の準備に取り掛かる……他の四人は話しながら俺の作っている風景を見ている……そんなに面白みもないと思っているが。

 

 「お前らそんなに作ってるの面白いか?あんまり見ないで欲しいんだが……」

 

見られているとすごく作りずらい。手が思う様にテキパキと動かなくなるのだ。

 

 「いやさ、なんていうの……士道が完璧な主夫だな~って思って何となく見ちゃうんだよね……私達も覚えれば作れるかもだし」

 

 「士道の技を模倣するのは難しいですし味の再現も出来ません。どうやって作っているかを研究できるので」

 

二人ほど研究者が居るようだが……意味がないと思う。自分でやって覚えた技術なのでオリジナルが入っているので他の人にはやりずらいと思う。

 

 「まあ、お母さんよりも料理うまくなったしね……ほぼ帰ってきたら士道が料理作ってるシーンしか見たことないわね」

 

 「そうなんだよな……俺も他の人の料理食べてみたいよ。死なない程度で」

 

主に夕弦と折紙が何か入れそうで怖い。耶倶矢はどちらかというと材料を間違えるタイプだ。十香は……分量を間違えるだけでまだまともだ。

 

 「あら、何か忘れてないかしら?」

 

 「お前は普通に作れるけど、あんまりさせたくない。何か作り方間違えそうで……まずは調理器具とか調理方法を学びなさい」

 

不安要素しかない。例えば、チョコレートを湯煎する時そのままチョコレートをお湯の中に入れるとか……容易に想像できる。

 

 「お前らにキッチンを渡すなら、俺を唸らせてからだな。火事起こしそうだ」

 

 「信用無いわね……まあ料理を作ってる本人が言ってるから反論できないけど」

 

四人に見られながらもなんとか作ることが出来た。精神的にすごい疲れた。

 

 「はい……ハンバーグ。おかわりもあるから大丈夫だぞ……少し休む……」

 

ソファーに横になって休憩する。四糸乃はよしのんと話しながら食べているのが見えたので大丈夫だろう。そして少しの間寝ることにした。

 

 「ん……何時だ?」

 

 「士道が寝てから30分しか経ってないわ。お早いお目覚めね」

 

少し寝るだけでも疲れは取れたようだ。しかしまあ、30分で回復するとは……本当に人間じゃなくなってきた感が否めない。

 

 「皆食べたのか?」

 

 「大体食べ終わってるわ。士道の分以外全て無くなったけど」

 

ブラックホールの胃袋を持つ十香が残さず食べたという事だろう。それでもまだ食べられると言ったりしているのはおかしいと思う。

 

 「俺も食べるかぁ……」

 

遅いが俺も食べ始め、皆はテレビを見始める。今日は忙しい一日だったなと思い返す。

 

 「洗い物……っと」

 

洗い物をして、何となく四人の方を見ると四糸乃を撫でまわしているようだ。人形のように可愛がるのは些かどうなのだろうか?

 

 「よし終わり……何やってんだ?お前ら……」

 

 「話を聞くはずが撫でまわし大会になっちゃってこの状況よ」

 

なんでそうなるかなぁ?子供に意地悪は良くないと思う。

 

 「はぁ……四糸乃?こいつ等に意地悪されなかったか?」

 

 「大丈夫……です……」

 

本当に優しい心を持っているなぁと実感する。女神に見えてきた。

 

 「よいしょっと……四糸乃もこれでゆっくりできるだろ?少し話を聞かせて欲しい」

 

四糸乃を膝の上に乗せて話す。こうしていると昔に琴里をなだめていた時を思い出しつつも話を聞いた。彼女は襲ってくるASTの人も痛いのは嫌であるからという理由で攻撃しないという優しい心を持っていたのだ。優しすぎるばかりに自分が痛みばかり貰う。可哀想な四糸乃を俺は救う事を決めた。

 

 「四糸乃にとってよしのんはどんな存在なんだ?」

 

彼女はヒーローを求めていたのだ。よしのんは自分に変わってやってくれるが居なくなるのが怖いとの事だ。

 

 「大丈夫だ、四糸乃から怖いのとか痛いのとかは全部俺が無くしてやる。まあ、よしのんとまではいかないと思うけど」

 

 「あ……ありがとう……ございます……!」

 

彼女の心を占めているのはよしのんなので、無くなった時に何か支えになるものを作っておくべきだと思ったのだ。

 

 「はぁ……こいつ等に四糸乃は任せられん。可愛いからって、撫でまわすのもどうかと思うからやめておけ」

 

 「ふ~ん。士道君は結構大胆なことするんだねぇ。見直したよ~。でも、時間みたい」

 

時間と言うと四糸乃は消えていった……が。

 

 「よしのん置いていったのか?……次出たときにでも渡さないと大変なことになるんじゃないか?」

 

 「<ハーミット>は氷を操る精霊よ……町中が氷漬けになるわね」

 

今後の対策会議をしつつその日は終わった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

次の日の昼休みに警報が鳴った。学校から遠く離れていたのでフラクシナスに拾ってもらった。もちろん十香たちも同じくだ。

 

 「よしのんは……あった。バッグに入れておいて正解だったな」

 

一応、洗濯と乾燥を施しておいたので新品同様の輝きを放っている。四糸乃が見たら驚くだろうなと思う。

 

 「今、彼女は外の中心街でドームを形成して引きこもっているわ。あの氷のドームをどうにかしないと……」

 

あのドームを見て、俺はあることを思いついた。

 

 「令音さん?あのドームって真ん中風吹いてます?」

 

 「台風と同じさ。周りに風が吹いていて中心は静かな空間になっている」

 

それなら、簡単だ。俺には風の精霊の力がある。死にそうになってもゾンビも顔負けする回復力もある。

 

 「じゃあ、ちゃっちゃと救いに行ってくる。転送してくれ」

 

 「ちゃんと帰ってくるのよ……三人が泣くから」

 

 「はは、頑張って帰ってくるさ」

 

そうして外に転送され、ドームの前まで歩く。その手前では寒さを感じられるくらい風が吹き荒れていた。

 

 「……それだけ苦しいって事か。今助けてやる……<颶風騎士>……」

 

その名を呟けば俺の周りに風が纏う。そのままドームに進んで行き、途中で風に干渉する。これで直ぐにドームを破壊できる。

 

 「……ひっぐ……ぐす……」

 

すすり泣く声。もう少しだ。

 

 「居た……迎えに来たぞ、四糸乃。そして……忘れ物だ」

 

そうして手に持っていたよしのんを手に着けてやると、うねうねと動き始めた。

 

 「っぷはー!!四糸乃ってばよしのんを置いてっちゃうんだもん~。本当に焦ったよね~」

 

 「ぁ……え……」

 

自分が置いて行ってしまった事が信じられないのだろう。何故なら、彼女にとって大切な友達を見捨てて行って挙句の果てには自分の元にないから泣いていたという始末に困惑しているのだろう。

 

 「別に四糸乃のせいじゃないだろう?ただ、取れただけだしな。ついでに綺麗にしておいた」

 

 「よしのんがぐるぐる回って、乾燥されて……新品みたいにピカピカになったんだよ~。士道君には感謝だね~」

 

その会話に付いていけない四糸乃。自分の心の整理が追い付いていない事がよく分かる。

 

 「ふぅ……四糸乃?もし……精霊の力が使えなくなって人間と同じように生きれるようになれたらどうする?」

 

その言葉には、封印というニュアンスは含まれていない。少し難しいと思ったからだ。

 

 「出来るだったら……やってみたいです……」

 

 「本当に、良いんだな?最大限俺は四糸乃を守る努力をする。それだけは覚えておいてくれ」

 

そうして唇を合わせた。何かいけない事をしている気分だ。ん?

 

 「士道さん……これって……」

 

まずい!!精霊の力が封印されると霊装まで解けるとは思いもしなかった。三人は普通に服を着ていたから裸にならなかったのか……と考察している暇はない!!

 

 「と、とりあえずこれ着てくれ……ついでに<颶風騎士>……これで壊れただろ」

 

四糸乃に服を着せて、ドームを破壊すると転送され彼女らが待っていた。その後疲れがどっと来て膝を付いたのはおかしくないと思う。四糸乃はその後、検査を受けた。俺達は普通に学校生活を謳歌しつつも楽しく過ごしていた。

 

 「琴里?家の隣にこんなの作ったのか?確かにマンションが出来るとは聞いてたけど……」

 

前に言っていたマンションが完成したと聞き外に出て見てみると思ったよりも大きく豪華だった。

 

 「一応、十香と四糸乃は入ってもらうけど……耶倶矢と夕弦は士道と一緒に居たいからってうるさいのよね……」

 

 「別に居させてもいいんじゃないか?あいつ等俺の部屋で寝てくるし、夕飯だって十香と四糸乃も来るだろうし全然問題ないだろう?」

 

今、問題的な発言があったと思うが気にしないで欲しい。よく分からないがあの双子は添い寝と称して俺と一緒に寝ようとしてくる……それも毎日。人間なれると何も感じなくなることが怖い。

 

 「まあ士道がそう言うならいいわ……これで、四人。まだまだ精霊は居るから気を張っていきなさい」

 

精霊を救う……ぼやけた信念を破壊してくる奴が来ない事を祈りつつ日常に戻った。



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