十一番隊書記の日常 (わさび醤油)
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第一話:日常が非日常

一番隊に行ってお茶を学び、

 

二番隊に行って怒られ、

 

三番隊に行って手伝いをし、

 

四番隊に行って謝り、

 

五番隊に行って鬼道を学び、

 

六番隊に行ってなぜか菓子をもらい、

 

七番隊に行って話を聞き流し、

 

八番隊に行ってお茶をし、

 

九番隊に行って被写体になり、

 

十番隊に行って遊び、

 

十二番隊に行って被験体にされかけ、

 

十三番隊に行ってなぜかお菓子をもらい(2回目)、

 

 

そして、十一番隊で書類を片付けやちるを追いかけ一角をからかい弓親にたしなめられ、隊長とご飯を食べる。

これから始まるのは、そんなおれ、高槻葉月(たかつきはづき)の日常だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらあああああ! やちる!!」

 

おれの一日は、少女──草鹿やちるを追いかけるところから始まる。

今日の彼女の罪状は、『おれの朝食のデザートを勝手に食べた』である。今日は特に昨日から楽しみにしていたプリンを、あろうことか目の前で食べやがったのだ。信じられない。鬼! 悪魔! 死神!

 

「まあ死神だけどね」

「うわっ弓親!? いるなら助けてくれよ!」

「あれを捕まえるのは手前の仕事だろうが」

「一角まで! あああ喋ってる間に姿消しやがった!」

「頑張ってねー」

 

全く協力の姿勢を見せてくれない二人だが、構っている場合ではない。おれの今やらなければならないことは、罪人(やちる)裁く(シメる)ことだ。

 

それから15分後。結局やちるを捕まえることはできず、疲労感だけが残ったまま仕事をはじめる。

おれの仕事は書類整理と経理。一言で言うと雑用だ。もちろん隊長と副隊長はそんなことしないためにおれが雇われたとか。もっと努力してくれ、仕事をする努力とかさせる努力とか……。

 

「あ?」

「にゃ、なんでもないです……」

 

じと、と睨んでみると、数百倍の威力になって返ってきた。いや、多分あれで素なんだろうけど、普通に顔が怖い。慣れてるはずなのにうっかり噛んじゃったじゃないか。

ちなみに、今おれは隊首室にいる。本来は隊長の仕事用にある部屋だが、この十一番隊に限っては隊長・副隊長の休憩部屋かつおれの仕事部屋だ。なぜかおれが隊長がしなければならない仕事までやっているため、『隊長(に割り当てられた分)の仕事』用にある部屋であると言って間違いはないのだが。

なんでおれがそんな重要な仕事をしているんだろう。もう20年になるが、どうしてこうなったか全くわからない。

 

真央霊術院を卒業したおれは八番隊か十三番隊を志望していたが、それをまるっきり無視されて十一番隊に配属されてしまったのだ。

斬拳走鬼のどれもが平均より少し下、いや、鬼だけは平均程度だったか、とにかくその程度だったおれがあの戦闘集団と名高い十一番隊に? 嘘だろうと何度も目を擦って配属通知を見直した。

すると、隅の方に小さく何か書いてあるのを発見した。『十一番隊書記』と、どうやらそう書かれているらしい。入隊即肩書き持ち、しかも書記なんて聞いたことのない肩書きである。きっとおれの隠れた優秀さが見つかってしまい、専用の肩書きを作るしかなかったに違いない!

そんなわけあるか。

一瞬で我に帰った。おれがもし隠れた優秀な人材であったとして、普通目に見える優秀な人材のほうを使うだろう。おれだってそう思う。

そしておれは、何か騙されて面倒ごとを押し付けられかけていることに気づいた。分不相応なうまい話には大抵裏があるのだ。だから、ちゃんと総隊長に質問しに行った。

 

アポを取らずに行ったら取り次いでくれた人から『やれやれ暇じゃないんだがな』みたいな顔で対応されて心が折れかけたが、進路の話は重要である。頭を下げて頼むと総隊長に会わせてくれた。

 

「書記ってどんな仕事なんですか……?」

「やってみればわかる。給料も一般隊士より割り増しじゃから、

「やります」

 

全然騙されたわけではなかった。なんだ、ただのうまい話じゃん。こんな良い人を疑うなんてありえないだろ誰がそんなこと言ったんだよ。

 

 

「騙されたー!」

 

現世で流行りの即オチ2コマもびっくりな速度でオチた。

仕事自体はできないことではなかった。

無理やり虚と戦わされるわけでもなく、難解な問題を解けと言われるわけでもなく。書類を他の隊まで届けたり、領収書の計算をしたり、書類にサインして提出したり、おれにもできる程度のものばかりだったのだ。

だがしかし、いかんせん仕事の量が明らかに多すぎた。こんなの、事前に提示された給料に見合ってなさすぎないか!? 一般隊士より割り増しだと聞いたが、収入の差よりも仕事量の差のほうがでかい。

護廷十三隊、そんなに人手足りてない?

おれの仕事が多いのは、隊長も副隊長も、なんと三席すらちゃんと決められた仕事をしない皺寄せがこちらに来たからなのはわかっているが。わかってはいるが……。

まあいいさ。おれは痛いことが嫌いなんだ。今の仕事はほとんど痛いことが起きないし、考えようによっては天職とも言えよう。

 

「ねえねえはずちー、今朝のプリンおいしかったねえ」

 

前言撤回。やっぱりおれは一般隊士になりたい。




コマンドをはちゃめちゃに間違えていたので直しました。手入力でルビや傍点を振っていたのがバレちまったぜ……。


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登場人物紹介の巻+挿絵集

オリジナルキャラクター

 

高槻葉月(たかつきはづき)

この作品の主人公。

身長:168cm

体重50kg

肩書:十一番隊書記

ミルクティー色の柔らかい髪を短め(檜佐木さん程度)に切り、前髪の左側をピンで留めている。強そうに見えるよう、たすきを使って腕を露出している。

よく笑いよく泣く。

戦闘は苦手。喧嘩も弱く、どちらかというとデスクワークが得意。しかし好きではない。

基本的には仕事優先だが、重要で急ぎの仕事がなければ副隊長と一緒になって遊ぶこともあり、その場合被害を被るのは三席である。

目が悪いが眼鏡をかけるとガリ勉に見えるのが嫌でコンタクトを着用している。

十一番隊志望ではなかったが、流石に書類仕事係が必要だとして入隊。

 

 

 

原作からの登場人物

 

更木剣八

十一番隊隊長。

でかくて強い。あと顔が怖い。

葉月を採用した人。元凶。

葉月が来る前は一応討伐以外の仕事もしていたが、今は葉月がやってくれるため、一つもしないし隊長会議もほとんど出ていない。

葉月にちょっと凄んだら飛び上がるくらいびびるのが面白い。葉月のことはやちるとよく遊んでくれるし仕事もやってくれるしそこそこ良いやつだなあとは思っている。

 

草鹿やちる

十一番隊副隊長。

小さくて強い。

入隊したての頃の葉月と力比べしたら圧勝したため、葉月は一週間寝込んだ。

いつも怒られているが、たまに悪ノリに付き合ってくれるので大好き。またつるりんのご飯に唐辛子の種いれようね。

葉月は呆れずに遊んでくれる大事な友達。

「剣ちゃんともいつも遊んでくれてありがとう!」

「遊んでるつもりはないんだけど!?」

 

斑目一角

十一番隊三席。

ハゲで強い。

葉月とはいじりいじられの関係。仲は良い。

最終的にグーで解決する系男子。

葉月のことは弟みたいだと思っている。

ハゲと言われ食事を激辛にされ、挙げ句の果てには頭に落書きをされる。七割がたやちるのせいだが三割は葉月の仕業。

葉月からはいじっても良いポジションにいるが、それを一角もわかっている。別に許すけどそれはそれとしてヘッドロックはきめる。

 

綾瀬川弓親

十一番隊五席。

おかっぱで強い。

『身長も背格好も大してかわらないからおれでも勝てそう!』と葉月に試合を申し込まれ、ハンデありで圧勝して泣かせた。

よく下品ではしたない行動をする葉月を嗜めるので、葉月からはお母さんっぽいと思われている。もちろん心外である。

葉月のことは、よくやるな〜と傍観者的見方をしている。葉月の悪戯の被害にあまり遭わないから言える言葉。

 

 

 

以下本編で使ったり使わなかったりした挿絵

 

【挿絵表示】

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詳細も結構ちゃんと書いてるので、気になる兄貴姉貴たちは作者欄からどうぞ。



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第二話:やったねはづちゃん、体力が増えるよ!

「はー、はー……」

「また逃げられたのか」

「ニヤニヤしてんじゃねえよ……」

 

今日も今日とて、おれは書いた書類をダメにされて犯人のやちるを追いかけ、こちらの体力切れという形で決着がついてしまっていた。

こいつ、おれの不幸を副菜にご飯を食べているんじゃないか? せっかく食べるのならせめて主菜にしろ、中途半端だろうが。そういう問題ではない?

 

おれが苦しんでいる姿を見ると嬉々としてこちらに来るこの男は、斑目一角。おれの所属する十一番隊の三席である。かなり強いらしいが、稽古を見ることも一緒に任務に行くこともないのでおれはよく知らない。隊長よりは弱いと聞いたことがある程度だ。

 

いつものようにちょっと声をかけたらすぐ帰るのかと思ったら、一角はその辺りに腰を落とした。十一番隊の隊士はみんな座布団を使わずに座るけど、痛くはないのか?

 

「……お前、あのチビと毎日毎日鬼ごっこしてちょっと体力ついたんじゃねえか?」

「だ、だよな!? おれもそう思ってたんだよでも追いかけっこはいらねえな!?

 

急に何を言い出すかと思えば、おれも薄々思っていたことか。

そう。この隊に来てからこのかた身体の薄さや身体能力の弱さがコンプレックスだったが、ついに体力だけはそこそこついたのだ。平均体力を5、入隊してすぐの体力を3とすると、今は6といったところ。元の体力の2倍、なんと平均をも超えた。

しかし、喜びのあまり大きくなった声に一角が眉根をひそめて耳を塞ぐ。

 

「うるっせえよ……俺あんま寝れてねえんだ」

「まじか。あ、また酒飲んでたな!?」

「だッからうるせえって。……つかなんでタメ口聞いてんだよ最弱書記がよ」

「誰が最弱だ言っていいことと悪いことがあるって知ってたか?」

「ハッ否定はしないんだなクソもやし」

「もやしじゃねえって一角が言っただろうが忘れたんでちゅか〜??」

「気色悪い声出すな呼び捨てにすんな俺のが位は上なんだぞボケ」

「呼び捨てでいいっつったのは誰だよハゲ

「誰がハゲだって? よしわかった一角様と呼べ

「一角様すみませんでした」

 

あれ? 口が勝手に動いたぞ?

顔面を片手で握るようにされて、一瞬で言う通りにしてしまった。さっきまでいい具合に均衡した言い合いをしていたはずなのに。一角はというと、敬称がつけられて満足したのか、鼻を鳴らして手を離した。

そこに、扉の開く音がして人影が現れる。

見たことのある襟巻きと羽飾りが見えた。いつものスカした目をこちらに向けて一言。

 

「何君たち、そういう趣味?」

「「ちげえよ!!」」

 

「仲良しだね。やっぱりそうなんでしょ? 隠さなくてもいいよ」

「「ちげえっつってんだろうが話聞けこのおかっぱが!!!!」」



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第三話:異物混入

厳格な空気。

抑えていても溢れ出る霊圧。

ピリピリとした雰囲気。

気を抜けば、その全てに簡単に押しつぶされそうだ。

 

ここがどこかというと、一番隊隊舎。そしてこれから行われるのは隊首会と呼ばれる各隊隊長の会議である。

 

「……それで、どうして隊長だけが出席を許される会議に席官ですらない貴様がいるのだ」

 

ごもっともです、砕蜂隊長。

しかし、おれ、高槻葉月が隊首会に参加しているのには深いわけがあるのだ。

 

「うちの隊長、会議の内容を全部報告しちゃうんですよ、『めんどくせえ、手前が把握しときゃいいだろ』って。しかもたまに大事なこと忘れちゃうし。特に提出しなきゃいけない書類とか……。お前は『明日雑巾いるから!』って寝る前に言ってくる小学生かよって感じっすよね〜」

「そ、そうなのか。大変だな……?」

「そうなんすよ! だから結局おれが出たほうが早いっていうことになって……おれ他の仕事もあるのに酷いでしょ!?」

「なんだ、手前ェそんなことを思っていやがったのか」

 

おれの明晰な脳が、一瞬の停止ののち活動をやめた。

頭には大きな手。地を這う低い声が耳に届いて、ヒュッと喉から息が漏れる。振り返るとそこには、十一番隊隊長、更木剣八がいた。

 

「ギャーーー隊長!?!?ななななななんでここに」

「あ?隊長なんだから隊長会議に出るのは当たり前だろうが」

「そうですよね痛い痛い痛い、頭もげるそれやめてえ!!」

「撫でてやってるんだ、喜べ」

「わあい嬉しくて涙が出るでも痛いのでやめてください!!!!!

 

頭に乗せた手をそのまま下に押さえつけながら左右にがしがしと動かした。髪が引っ張られる痛みと首がグラグラする痛みでおれは悲鳴をあげる。

手で押しやっても全くびくともしないため、諦めて痛みを和らげようと頭を手と同期させて動かした。……目からとめどなく出る涙はそのままに。

 

それからしばらく垂直に立てた赤べこのような挙動をして、やっと隊長は手を離してくれた。笑っているみたいだったから、どうやらおれの赤べこ具合が面白かったらしい。

決して無様な泣き顔に笑ったわけではないと信じたい。なぜならおれは泣き顔もイケメンだから。

 

「フン。じゃあな」

 

鼻を鳴らして帰っていった。

結局帰るんかい。わざわざここまで来たら一緒にでも話聞く流れだろうに。

……まあいいけど。失言して痛い目を見るのはこりごりだ。

 

「貴様も大変なんだな……」

「ハイ……」

「でも勝手に参加して大丈夫なの? 山じい結構厳しいよ?」

「あ、大丈夫っす! 許可取ってるんで」

「あやつを半日待つよりも、見た目ほど抜けておらん常識人の高槻が来た方が五千倍よいわ」

「それでいいんだ……」



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第四話:おれと噂と食堂と

十一番隊書記の高槻葉月は、死神御用達の食堂でとある人物に出会った。

 

「あ、朽木隊長こんちは〜」

「ああ」

「食堂で会うの初めてじゃないです?」

 

そう、六番隊隊長の朽木白哉である。葉月は、食堂どころか六番隊隊舎や隊首会以外ではほとんど見たことがなかったために、白哉のことをレアキャラクターと密かに呼んでいた。

 

そしてそのレアキャラクターは、さっきまで食堂のメニューを見てしきりに首を傾げていた。貴族の中でも頂点に君臨するほどの貴族である白哉には、庶民の食事は新鮮なのだろう。横から葉月が笑って指を指す。

 

「おすすめはね〜、これ!」

「豚骨ら〜めん……。貴様、私にこんなものを食べろと言うのか」

「うわわわわ、刀抜くふりしないで!! これ、意外と美味しいんすよ、キャッチーな味で。たまにはこういう身体に悪そうなご飯もいいと思うんすよね〜」

 

葉月は律儀にメニュー名を読み上げた白哉に吹き出しそうになるが、なんとか押しとどめた。ここで笑うと頭と身体が永久バイバイしてしまうからである。

しかし、懲りずに葉月は話し続けた。白哉のほうも諦めた様子で一つため息をつき、話し相手になってやっている。冷たい印象を持たれる白哉だが、なんだかんだで面倒見の良い男なのであった。

 

「良い。私には使用人の用意した食事がある」

「まじか、絶対美味しいじゃん! いいな〜おれも食べたい食べたい!!」

「……今度屋敷に来るがいい」

「やったー! ありがとうございます!!」

 

葉月が万歳をして喜ぶのを、白哉が大人しくしなければやらんとたしなめる。

 

 

そして、そんな一部始終を、昼食を食べながら見ていた者が数人。

 

「現在進行形で朽木隊長に失礼な喋り方してるし、葉月ってなんであんな怖いもの知らずっていうか物怖じしないんすかね〜」

 

阿散井恋次、斑目一角、綾瀬川弓親、吉良イヅルの4名である。

 

「知らねえのか。あいつ貴族の生まれだぞ」

「え、本当に!?」

「マジだ。結構でかいらしいぞ、確か本人曰く上の下だったか? トップってわけでもねえがな」

「まあ普段から身なりは整えてるし、ああ見えて礼儀作法もちゃんとしてるんだよね」

「この前ご飯食べてるところ見たけど、食べ方すごく綺麗だったなあ……。そういうことだったんだね」

「日頃の行いで全てを台無しにしてるけどな」

 

「おいおい男四人が集まってなんの話だ? ぷよぷよなら消えちゃうぜ」

 

好き勝手に言う四人の机に、話題の主が顔を覗かせる。葉月は驚かせようとしていたようだが、弱いながら放っている霊圧で予測していた四人は眉もほとんど動かさずに振り向いた。

 

「吉良はジャンル違うから消えねえよ」

「逆におれが入ることで(元)十一番隊四人になって消えるじゃんか一角どっか行けよ」

「高槻さんまさかその弱さで十一番隊に所属されてますの?」

「まあそちらこそその薄さで十一番隊に所属されてますの?」

「よく急に始まるマウントマダムごっこに順応できるね……」

「いつものことだよ」

 

十一番隊の者なら一度は見たことがあるだろう葉月と一角の息の合った言いあいは、しかし三番隊のイズルにとっては珍しく思えたらしい。感心しているのか呆れているのか判断のつかないため息をついた。

 

「ああ!? これは薄いんじゃなくて剃ってんだって何回言やわかるんだよ力も頭も弱い鳥頭が!」

「あーあーお嬢様言葉崩したー! お前の方こそ鳥頭なんじゃねえの?」

「お前ェも崩れてんじゃねえか!!」

「こらこらやめなよ二人とも、みっともない」

「こちらが十一番隊名物の喧嘩〜仲裁役弓親を添えて〜でございます」

「名物なんだ……」



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第四.五話:ボツネタ供養+α

ボツネタ載せようと思ったら500字しかなかったので書き足しました



俺の名前は阿散井だ

 

「あー! 久しぶりですねララバイ副隊長」

「おー久しぶ違う! 俺はたしかに連日アホの忙しさで少しばかり寝不足ではあるが、名前を子守唄に変更するほど眠りたいわけではない。俺の名前は阿散井だ」

「おっとそうだった、すみませんアリバイ副隊長」

「わかればいいん違う。もし犯罪者だと疑われたとき用に何時何分に何をやったか完璧に記憶している人のような名前で呼ぶな。俺の名前は阿散井だ」

「ついうっかり。何度もごめんなさいアバライタイ副隊長」

「全く、次はない違う。俺がまるで負傷者のような印象を受けてしまうだろうが。俺の名前は阿散井だ。そして長引くようなら病院に行け」

「台本のようにするする喋るね」

「なんだかんだ仲良いからな」

「元十一番隊でノリが近いのかな……?」

 

 

食堂にて

 

恋次、一角の両名が各々好きなメニューを注文し取りに行っている間、葉月とイズルという珍しい組み合わせで話が始まろうとしていた。

 

「こうして落ち着いて喋るの初めてだね」

「たしかに……! そういや吉良副隊長もあんま外じゃ見ないっすよね〜」

「そうだね、僕いつも仕事してるから。隊長がね……」

「あー隊長が……わかります、うちもなんで」

「高槻くんも大変そうだよね……」

「ハイ……副隊長もほんと大変ですよね……」

「いやいや、君は常に走り回っていて……僕なんか他の隊に渡す書類は人任せだし」

「いやいや、その分ずっと書類仕事でしょ……? 流石に気が滅入っちゃいますよ」

 

社畜の二人が急速に目を濁らせる。そのどす黒い負のオーラに周りの人々は二、三歩後ずさった。

そこに、呑気に近づく男がいた。どこからが生え際かわからない男、そう、斑目一角である。

 

「今日も日替わり定食うまそ〜お前らも買ってこいよ暗!!!!!

「やっと帰ってきた、僕もう耐えきれないからよろしくね」

「は、弓親!?」

「じゃあね」

 

弓親は無慈悲にもとっとと席を立った。弓親が去っていったほうに情けなくも手を伸ばした一角に、人影がかかる。

 

「はーやっと買えましたよ〜一角さん速いっすね暗!!!!!

「お、人柱が来た」

「なにこれどういう状況!?」

「阿散井あとは頼んだぞ」

「えっちょっ置いてかないでくださいよ!!」

 

「……あれ、阿散井くん戻ってたんだ」

「ほんとだ!? ていうか弓親は? 消えた?」

「消えてないよ」

「都合のいいときだけ戻ってくる〜〜〜〜!!! まじで困ってたんすから〜〜〜〜!!!!!」

「え!? なんの話!? おれが目を澱ませてたときになんか面白い話してただろクソ〜〜〜〜

「高槻くん怒るのはそこなんだ!?」



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第五話:自業自得

「ウェェェェン弱いものいじめ反対!!」

「自分で弱いものって言うな強くなろうとしろ!」

「無茶なことを言うな!!!」

「無茶だと思うから無茶になっちまうんだよ!!」

 

雲一つない快晴の日の昼。

おれは、今日も今日とて一角の昼飯に悪戯して技を決められていた。

現在弱いのは変わらないんだから、おれに技をかけたらそれは弱いものいじめだということを知らないんだろうか。バカだから知らないか。

 

「なあ」

「なあに?」

 

ふと、技をかけている途中に一角が話しかけてきた。話をするなら技をやめてくれませんかね……。

 

一緒に悪戯してたのにお仕置きされるとなったらどっかに行ってしまったやちるもなぜかいるし。やちるがどこから出てくるのか、十一番隊七不思議の一つだ。

ちなみに、一つ目は隊長の髪型である。あれは十一番隊隊士全員の謎。

 

「なんで弓親にはアレしねえんだよ」

「アレ?」

「俺のメシに変なもん混ぜたり荷物に悪戯したり」

「「あー」」

「んだよその反応」

 

やちると顔を見合わせる。やちるは眉毛をハの字にしていた。おれも全く同じ顔をしているだろう。

ハゲにはできて、弓親にはできない理由、か。

 

「だって……弓親はさあ」

「ねー」

「弓親が激辛料理食って顔真っ赤にして泣くとこは正直見たくないっつーか、可哀想になっちゃうっつーか……あ、あと、」

「つるりんみたいに喜んでくれないから!」

「そう、それ!」

「そう、それ!じゃねえ!! 意味わかんねえっつうの」

 

おれが指した指が、一角によってあらぬ方向に曲げられた。あーあ。

 

「でも次は弓親にやってやるか、寂しがってるだろうし」

「いいねー!」

「良くねえよやめとけ!」

「大丈夫! つるりんにもちゃんとやってあげるね」

「俺にだけやってほしくて言ってんじゃねえよ!」

 

 

後日。

おれは、いつもの面子と共にいつもの食堂にいた。いつもの面子とは、やちる、一角、弓親である。

目の前には大皿。上にはたこ焼きがこれでもかと積まれていた。

 

「大体わかるけど、これは何?」

「ロシアンたこ焼きだ」

「だよなチクショウ!!」

 

ロシアンたこ焼き。それは、数多の人々を虜にし、数多の挑戦者を地に落としてきた悪魔の食べ物。そんなデンジャラスな食べ物を、おれたちは食べようとしていた。

 

「それで、なんで僕まで? こういうのは一角の役割でしょ」

「一角が、『いつも俺ばかりで弓親がかわいそうだぜ……』って言ってたから」

「言ってねえよバカ」

「しかし私の分析したデータでは、一角さんに当たる確率は98.9%……」

「なんでいきなりインテリ系敵幹部になるんだよ、まるっきり正反対じゃねえか」

「『敵』以外は合ってるだろうが」

「は? 『系』以外違うの間違いだろ」

 

お互い挨拶のように言い合ったおれと一角は、同時に手を合わせ、同時に皿から一つたこ焼きをとった。

 

「もう読めてんだよお前が当たるのはかッッッッッら!!!!!!!!!

「残念だったな、やはり私のデータは正し辛ッッッッッッッッ!?!?!?

「うはははウ゛ェッホ!! ……やっぱり自分で仕掛けて自分が当たってんじゃねえか!」

「うる、せえ!! なんで一角に当たったのにおれまで!? おれ一個しか作ってな、げほ、うええ……」

 

息を吸うたびに新鮮な辛みと痛みが襲ってくる。

水を飲むと悪化するとかなんとか言って一角は必死の形相で牛乳をもらいに行ったようだが、そんなわけあるまい。勝ち誇った顔で一角の分の水まで飲んだ。

悪化した。

あいつ、度重なる悪戯で対処法を身につけてやがる……!

 

「あ、あたしがもう一個激辛たこ焼き作ったんだった。サプライズだよ」

「ふざけんなこのチビ今回こそは絶対ェに許さねえぞ!!」

「でもはづちーが食べてたのははづちーが作ったやつだったよ! 自滅だ、おもしろーい!」

「面白くねえ!!」

 

捕まえてやろうとちょこまか逃げるやちるを追うが、全く捕まらない。伊達に副隊長ではないということか。

諦めて席に戻ったら膝に乗ってきた。猫かお前は。

と、そこに弓親が「そういえば」とつぶやいた。

 

「今二つとも当たったから、残りは普通のたこ焼きしかないってこと?」

「あ」

 

その後、おれたちは普通にたこ焼きをたくさん食べることとなった。美味しいたこ焼きは、虚しい心のまま食べても美味しかった。




昔友人とロシアンシュー(プチシューの一つに納豆に入ってるからしを入れる)をやって、当たりを引いたが美味しかったという思い出があります。


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第六話:カジキマグロ

穏やかに晴れた日の朝。気持ちいい陽気に早くも眠くなる。そんな日におれは──

 

 

「なあ一角に弓親、ちょっと死んでみてくれね?」

 

 

──最高の友人であり上司でもある二人に、ちょっとしたお願いをしていた。

 

「おうわかっは???????

「一週間程度でいいからさ」

「一角はともかく僕がいいよって言うとでも思ったの?」

「頼むよ〜〜〜」

 

チッ。

アホがもう少しで言うこと聞いてくれそうだったのに、ギリギリで正気に戻りやがった。密かに手にしていた小型ボイスレコーダーをバレないようにしまう。

 

「嫌だわボケせめて理由を話せ」

「理由は話せない。とにかく死んでくれ」

「お前が死ね」

 

死んじゃった。

 

「ま、そう言うと思って虚討伐の遠征の仕事を持ってきたんだけどね」

「最高じゃねえかとっとと詳細言え」

「それ先に言ってたら殺されずに済んだんじゃないの?」

「よく意味がわかりません」

「急にAIアシスタントになるな」

 

 

 

おれがよくつるむ二人を遠ざけたいのには理由がある。

実はこれから一週間、イヅルさんと始解の練習をする予定なのだ。いい線は行っている、これは確実だ。成功率は50%を上回っているし、対話も順調。

ただ、一つ問題があった。

 

「始解すると視界が塞がる?」

「しかいだけに?」

「帰るよ」

「ごめんなさい」

 

そう、始解すると何も見えなくなってしまうのだった。身動きも取れず、今どんなことになっているのかもわからない。

恥ずかしいから一人で練習していたけど、状況がわからないとなると話は別だ。こうして、おれがどんな格好になっていても笑わなそうなイヅルさんに頼み込んだ、という経緯だった。

 

「というかいつの間に名前で呼んでるの……?」

「ふくたいちょうって長いんですよね。しかも固いし。大丈夫、無礼講ですよ!」

「それは上の立場の人が言う言葉なんだけどね」

「じゃあ、ちょっとやってみますね!」

「うん、頑張って」

 

「姿成せ」

「おお、それっぽい……!」

 

 

究極剣(きゅうきょくけん)!!!」

 

 

「名前負け確定だ!!!!」

「おれもそう思う!!!!」

 

究極剣。おれの斬魄刀の名だ。精神世界で教えてもらったときはおれも頭を抱えた。

ちなみに、教えてくれたのはお姉さんだった。それはもう楽しそうに、ニコニコというよりニヤニヤとした笑みを絶やさずに。

 

「それで、どうなってます? 何も見えないんすけど……」

「……」

「え? あれ、イヅルさん? 帰っちゃったとかじゃないよな????」

 

へんじがない。ただのしかばねのようだ。▼

 

「い、イヅルさーん?」

「あ、ごめん何? ちょっとFXで有り金解かした人の物真似してて聞いてなかった」

「イヅルさんがキャラ崩壊するほど酷いの!?!?」

 

 

始解を早々に解除したおれは、小休止を挟んで詳細に話を聞いた。

 

「あの、どんな感じでした……?」

「あのね、マグロだった

「マグロだった??????」

 

おれはマグロだった……?

マグロ漁船に乗せられた人ではなく?

 

「うん。まごうことなき見事なカジキマグロだった」

「まじか……」

 

おれは、お姉さんに斬魄刀の名前を聞いたときよりも頭を抱えた。抱えすぎてもはやデュラハンだ。

 

「ごめん、でも究極剣って名前でカジキマグロが出るのは確実におかしいからもう一度始解してくれる?」

「イヅルさんも面をどんどん下げていく斬魄刀のくせに『面を上げろ』とかいう解号なのに???」

「帰るよ」

「ごめんなさい」

 

「じゃあ、もう一度始解してくれる?」

「あの、申し上げづらいのですが……わたくし霊圧が一般ピープルのそれであるため始解は6時間おきに一回、一日三回が限度でして……」

「鎮痛剤かなにかなの?」

「クソ〜〜〜〜みんながみんなイヅルさんたち隊長格みたいに始解できると思うなよ!!」

 

 

結局おれは、6時間後にもう一度集まり始解した。

 

「今度は大きな木刀……?」

「そこはマグロじゃねえのかよ!!!!!!」




元ネタは星のカービィWiiのウルトラソードです。
基本大きなソードや竹刀、包丁などランダムに変化した剣を振るうのですが、たまにマグロも出るってやつです。マグロは武器。


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第七話:ハゲに棍棒

おれとイヅルさんの一連の(くだり)を、陰から見ていた者がいた。

こんなことをするやつは一人しかいない。いや、二人しかいない。……いや、三人? 四人かもしれない。

結構多いな。おれの交友関係どうなってんだ。

 

とにかく、おれたちを見ていた愚か者が二人。

 

「おいおい、俺たち抜きで随分面白いことしてんじゃねえか」

「急にどっか行けとか言うから何事かと思ったら……酷いね葉月」

 

髪をかきあげるおかっぱと、かきあげる髪がないハゲ。

虚討伐に行ったはずの一角と弓親である。どうせ雑魚ばかりで一日もかからず帰ってきたのだろう。

しかし、それでそのままおれの霊圧を探ってこっちに来るとか、こいつらには恥ずかしい、見られたくないという感情はないのか? ないから来ちゃったんだろうな……。

 

「それで? お前の斬魄刀、名前なんだっけか?」

「えーと、解号は覚えてるんだけど……きゅう、きゅう……?」

「笑いてえなら直接笑えや!!! 究極剣じゃボケ!!!!!!」

 

「「究極剣!!!!!!」」

 

ひーっと目に涙を溜めながら笑い続ける。これだから十一番隊は……。弓親、十一番隊の暑苦しい雰囲気は自分にはないとか言ってるけど、そういうところだよ?

 

「何しに来たんだよ! 笑いたいだけなら帰れよな!!」

「まさか! 僕たちがそんなことをするようなやつに見えるのかい?」

「うん」

「ようしわかった、そんなに言うなら今日から君は僕らの的にしてあげよう」

 

次の瞬間、なぜかおれは額を地面に擦り付けていた。なんでだろう。おれにはよくわからない。

土下座が趣味だからかな。

 

「俺たちはお前の斬魄刀の使い方を教えてやろうと思って来たんだよ」

「おれの斬魄刀を……? てことは、お前の斬魄刀も究極剣に似た能力なのか!?」

「んなわけねえだろクソ雑魚ダサ野郎」

「そこまで言う!?!?!?!?」

 

「高槻くんいつもこんな会話をしてるの……?」

 

イヅルさんにガチめな困惑の目で見られた。

言っておくけど、このノリは外ではただの暴言だからな。内輪でも暴言だわハゲ。

 

「どういうことだよ一角、使い方を教えてやるって」

「実戦で教えてやっから始解してみろ」

「おう、わかった! 姿成せ──」

 

「究極剣!」

 

再び俯いて肩を小刻みに震わせる二人を無視して、少しコンパクトめなサイズの斬魄刀を鞘から抜く。すると、一度強い光がおれを包み、パッと視界が暗くなる。

 

「イヅルさん、今回は何ですかー?」

「これは……棍棒かな? トゲトゲのついた棍棒だ」

 

新種だ……。今までそんなにたくさん見てもらったわけじゃないけど、竹刀やポップな大剣、ブーメラン、レイピア、マグロという多様な武器に変身していたというのに、まさかのここに来て新種。

もしおれがこの姿でも動けたら、ギャハハと声をあげて笑っているバカどもに突撃してやるのに。そして記憶を消してやるのに。

 

「っくく、じゃあ俺が教えてやるぜ、お前の使い方ってのをよ!」

「クッソご指導ムカつくお願い死ねします!!!」

「高槻くん、殺意が隠しきれてないよ」

 

未だ笑いが止まっていない一角が、そう言ってこちらに近づいた。見えないので下手な霊圧探知と音だけが頼りなのだが。

 

おらよ! という掛け声とともにもたらされたのは、浮遊感。

 

「おお、結構持てるもんだな。次は……!」

 

「ギャーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

おれ今、振り回されてる!?!?

この身に感じる遠心力は、幾度となく一角にやられたジャイアントスイングのそれだ。こいつ、クソでかい棍棒を振り回してるのか!?

 

「こんなんハゲに棍棒じゃねえか! クッソ見たかった〜!!!」

「なんだよハゲに棍棒っていやハゲじゃねえよ!!!!!!」

 

ハゲに棍棒:ある特徴を持つ者が、それを強調する道具を持つこと。また、その様子。

ガラの悪いハゲが棍棒を持っているとさらにガラが悪く見えることから。

 

「うし、じゃその辺の木でも切ってみっか」

「エッバカバカバカバカ!! んなのしたらおれの頭が脳震盪では済まないんじゃ!?!?」

「それで死んだら本望だろうが」

「おれは木こりの鑑かなにか!?」

 

「いや、あそこに虚がいるね。そっちで試したら?」

「やだーーーー!!!!!! 虚を斬る感覚を頭で感じたくない!!!」

「相手もただの棍棒で浄化されたくはないだろうね」

「だったらやつを止めろ羽まつ毛!!」

 

 

結果。

意外と虚の胴体は柔らかく、仮面もすぐ割れたので小さめのたんこぶで済みました。

その日はご飯が喉を通りませんでした。



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第八話:このあとめちゃくちゃ息抜きした

「おいやちるー! 一緒行くか?」

「行く! 待ってて!」

 

書類を持ってバタバタ忙しなく走りながらすぐそこにいたやちるに呼びかけると、元気のいい返事が返ってきた。見た目も相まって子供だとしか思えない。

……本当に年端もいかない子供じゃ、ないよね?

 

「何しに行くんだ? 遊びか?」

「ちげーよ、仕事……のついでにちょっと、な」

「ウインクすんなキモいんだよ」

 

どこからともなく一角が現れた。お前は遊びの匂いを嗅ぎつけすぎなんだよいやだから遊びじゃねえんだよ。

 

「おれの完璧なウインクにキモいなどと言う愚か者は初めてですよ……」

「うろ覚えならわざわざフリーザ様の物真似するな、失礼だろうが」

「んだと? このフリーザ様の生まれ変わりのおれになんて口を」

「お待たせはづちー!」

「おっしゃ行くか!」

「切り替えが光の速度なの、お前の良いところだけど速すぎて不安になるな」

 

なんかハゲが言ってるぜ。

 

 

「浮竹隊長ー! こんにちはー!」

「こんにちわー!」

「おお! 草鹿に高槻じゃないか。よく来たね」

 

来たのは十三番隊舎隊首室。部屋の主へ、やちるに合わせて元気よく挨拶だ。決して素でこれではない。

実は先に雨乾堂を訪れていたのだが、こっちにいるということは今日は体調が良いらしい。たまに散歩とか言って別の隊舎に遊びに行くこともあるから、雨乾堂にいなかったら浮竹隊長捜しの難易度は跳ね上がる。

 

書類(お菓子)渡し(食べ)に来ましたー」

「わーい、お菓子ー!」

「はっはっは、二人とも元気がいいなあ。今日はちょうどわらび餅があるから、それを食べようか」

「「やったー!!」」

 

二人で両手を上げて喜ぶのを隊長がニコニコ眺める。まるで孫とおじい……じゃなかった、親子だ。あ、いや、おれは書類を届けようとしただけなんだけどね?

 

と、そこに控えめなノックが聞こえた。

現れたのは、綺麗な黒髪を後ろで束ねている眼鏡が知的な印象の──。

 

「失礼します。京楽隊長がこちらに来ていませんか?」

「あれ、伊勢さん?」

「貴方は十一番隊書記の……」

「高槻葉月っす!」

 

八番隊副隊長、伊勢七緒さん。別名どうしようもない隊長の尻を蹴り飛ばす係である。今日も今日とて、お勤めご苦労様です!

 

「いつもうちの子がお世話になってます!」

「まあ最初の頃は伊勢さんにお世話になってたけど、改めてそう言われると気恥ずか誰が誰の子だって?

「はづちーがペットで、あたしが飼い主でしょ?」

「でしょじゃねえわ悪化させんな! 幼女をご主人様と呼んでペットにしてもらってるやばいやつみたいだろうが!!」

 

なぜかやちるはよくおれのお姉ちゃん面をする。年齢はきっとやちるのほうが上なのだろうが、正直めちゃくちゃ複雑だ。

……というより、その都度一角がバカにしてくるのがムカつく。暇なのか?

 

「あ、あの……」

「すみません! ほら、引いてんじゃねえか伊勢さん」

「ごめんね、ふくかいちょー」

「いえ、私はいいんですが」

「副会長……? 副隊長じゃなくて?」

「私、女性死神協会の副会長なんです」

「あたしが会長なんだよー! 一番えらいの!」

「うそ……だろ……?」

 

まーたこのガキが嘘をついておられるぞ……。

しかし呆れた目で見るとやちるは怒ってぴょこぴょこ跳んだ。

 

「あたし嘘なんかついたことないもん」

「早速嘘をつくんじゃないよお前。この前隊長におれがサボってたって報告したの忘れてねえぞ」

「サボってたじゃん、ぐーって」

「バッッッあれはサボりじゃなくて休憩だよ! 休憩、な!?」

「それはサボりと言うのでは……?」

「ち、違うんすよほらあの、いや違くて」

「はづちー語彙も貧弱なんだからごまかしても無駄だよ」

「見た目に比べてあまりに口が辛辣すぎる!!!」

 

身振り手振りで否定するおれにニコニコかわいらしく笑ったまま暴言を吐く幼女。需要はありそうだがおれにはないので早急にやめていただきたい。

しかも『も』と言ったということは、身体も心も貧弱だという前提ってこと? 姉貴面するならせめて弟に優しくしなさいっていつも言ってるでしょ!

 

「こらこら、その辺でやめておきなさい。おやつ食べるんだろう?」

「「食べる!!」」

「手懐けられている……!」

「伊勢も食べるか? わらび餅」

「いえ、私は京楽隊長を探しに来ただけですので」

 

伊勢さんはそう言うと、最後にもう一度周りを見回して回れ右、ドアに手をかけた。

わらび餅があるのに帰っちゃうなんてもったいない。わらび餅の前では人は皆無力、ひれ伏さざるを得ないはずでは……!?

驚きを禁じえないと手で表現しながら様子を伺うと、顔は見えないが少し立ち止まってかぶりを振って扉を開いた。

これはもしや、伊勢さんもわらび餅を食したい迷える仔羊?

 

「な、なんなんですか仔羊って……」

「一緒に食べようよ、美味しいよ?」

「そうですよ、たまにはいいじゃないですか! 息抜きも立派な仕事っすよ」

「高槻さん……」

 

こほんと一つ咳払いをして『そうですね』と恥ずかしそうに言った伊勢さんは、扉から手を離してこちらに戻った。

 

「ねえねえはづちー、サボりも立派な仕事?」

「ンア〜〜! こら、いいこと言ったとこなんだからやめろよな」

「いいこと言ったつもりだったの!? びっくり」

「少なくとも、世話になったと思っている先輩に言うことではないですね」

「エーン女性死神協会のツートップがいじめてくる!!」



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第九話:ヨッ! 失礼が服着て歩いてる!

「おや、高槻くん」

「藍染隊長! こんちは」

 

曲がり角を曲がったら、知った顔。

柔らかそうな焦げ茶の髪の毛に、知的というよりもっさりしたような黒縁眼鏡。奥の垂れ目は穏やかな本人の性質が表れている。

五番隊隊長、藍染惣右介さんだ。

 

「君は見るたびに働いているね。ちゃんと休んでいるかい?」

「いやそれが、休みの日も大騒ぎで全然休めないんすよ〜……」

「それは大変だ!あ、そうだ。僕の隊もちょうどデスクワークが少し手薄でね。給与も休日も保証するよ」

 

ぱちくり。

僕の隊もちょうどデスクワークが少し手薄でね?

給与も休日も保証するよ?

なんだこいつ、自分の隊の自慢か? 休暇もまともに取れない十一番隊と違ってうちはデスクワークの手薄さも少しで留まってるし、給与も休日もちゃんとあるってか。喧嘩なら買うぞ、一角が。

 

「それはつまり、五番隊と十一番隊とでやりあいたいってことですか?」

「どういう思考回路かな?」

「違うんですか!?」

違うよ。君を五番隊へ勧誘しているのさ」

「勧誘!?」

「いやかい?」

「やじゃないんですけど、藍染隊長ってなんか優しすぎて怖いっていうか……裏がありそうな感じしません?ゲームならラスボスそうな感じですよね

「ほう……どのあたりがかな?」

 

えっと、まずその目が━━と言いかけて気づく。

あれ? 目の前の人、藍染隊長じゃね?

やっべ!! 完全にイヅルさんとかに言ってるつもりになってた!

 

「ア゜ッッッいや違くて!!!! 本人に言うつもりじゃなくて、あっちげえ、その、本心じゃなくて!!」

「何してんだ、葉月」

 

背中から聞こえる渋い声。振り返るとめちゃめちゃになった白い羽織の袖が見えた。我らが更木隊長である。

おれは素早く隊長の後ろに回り、その巨躯を盾にするように隠れた。その速さは今までで間違いなく一番で、これをお世話になった学術院の先生が見たらあのときは手を抜いていたのかと怒られそうだ。いや見てんなら怒る前に助けろや。

 

「た、たたた隊長! 助けてください〜!!!」

「あ?」

「おれ、藍染隊長に腹黒そうとか言っちゃって! ど、どうしよう殺される」

「腹黒は初耳だけどね」

「ギャーーーーまたやっちゃった!!!!」

 

墓穴を掘り進めすぎて地球を貫く勢いのおれに、更木隊長がめんどくさそうにばりばり頭を搔いた。あ、そのヘアスタイルでも掻けるんすね……。

それからため息をついた。え? これもしかして面倒なおれを売り飛ばそうとしてる?

 

「やめて! 売り飛ばさないで!!」

「何言ってんだテメェ。ハア……勘弁してやってくれ、こいつはいつもこんななんだ。失礼が服を着て歩いてるって言われててよォ

「なんだそれ! 初耳すけど!?」

「ふ、ふふ……あははは!」

「ヒィッ!?」

 

誰に言われてんの!? と大騒ぎするおれに、藍染隊長が声をあげて笑う。この人こんな風に笑うんだ。てっきりおれは髪をかきあげて『フ……』って静かに笑うタイプだと思ってた。

……ダメだ、一度ラスボスっぽいと思い始めたらどうしてもイメージが抜けない。だってしょうがないじゃん! なんでもそつなくこなせるやつが中身ろくでもないのは同期に昔見せられた小説で実証済みなんだもんよ!

借りた本の全部いいやつそうなキャラが悪役だったのは多分あいつの趣味だろうけど。

 

「……っと、すまない。やっぱり高槻くんは面白いな。あの話、冗談じゃなくて真剣に考えてもらっていいかい?」

「え、え?」

「では、また会おう」

「消えちゃった……。許された、のか? おれ……」

 

あれが瞬歩というやつか。恐らく、おれにはまだ満足にできない技術を使ってどこかに行ったのだろう。

おれはというと、一気に力が抜けてしまって意識しないと座り込むくらいになっていた。失言したからというだけではないだろう。未だに隊長という肩書きを持つ人と話すのはかなり緊張するらしかった。

 

「おい」

ビャッ!? なななななななんですか」

 

忘れていた。後ろにも隊長がいた!

というか、もしかしなくともおれのこの脱力感は更木隊長の霊圧に当てられてるのでは? そろそろ抑えることを学んだほうがいいなこのチカラisパワータイプ。

 

「あの話ってなんだ」

「ああ、五番隊に来ない? みたいな話です」

「どうすんだ」

「え? そりゃ断りますよ〜」

「そうか」

「だっておれが抜けたら一角あたりが寂しがるでしょ?」

「ハッ、それもそうだな」



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第十話:仕事ができる男に見えない男

それはとある日のこと。今日も今日とて昼ご飯を食べ終え、さあこれから仕事するかとたすきをかけ直したそのときだった。

 

「なあお前本当に仕事やってんのか?」

 

同じように食事を終えて食器を下げるため近くを通った斑目一角が、なんとはなしに話しかけてきた。

これ以上ないくらいにウルトラクソ失礼である。

 

「ハ〜〜〜!?!? 現在進行形で全ての書類仕事をおれに押し付けてるやつがそれを言うか!?!?」

「耳元でうるせえなミニマムもやし」

「誰が税込19円だゆで卵」

ゆで卵は一個でも100円超える、つまり俺のほうが偉い! ……じゃなくて、俺のメシにちょっかいかけたり他の隊にお菓子もらいに行ったりしてるお前しか見たことねェんだけど、いつ働いてんだよ」

「は? そんなんちょちょいと終わらせてるわ、見てみるか?」

「おうよ、サボってねえか見ねえとな」

「だっからサボってねえっつの」

 

 

目の前には大量の紙のタワー。高さもさることながら、その個数も片手で数えられないほどある。

もちろん全ておれが捌かなければならない書類だ。

 

隣を見ると、一角がドン引きの目でこちらを見ていた。

 

「……お前、どんだけ溜めてたんだ」

「ちっっっげーよ!! これは! お前らが先月瀞霊廷のありとあらゆる建物壊しまくったやつの書類!!」

「……へえちゃんとやってんじゃねえか偉いぜじゃあな」

 

ニコニコと似合わない笑顔を貼りつけてそう言い放ち、そのままUターンして出て行こうとする一角を、両手で肩を掴むことで止める。

止められない!

結構全力で掴んだのにただまっすぐに進むことで振り切りやがった。

 

そこからは単純な徒競走になり、どんどん差は開いていく。

 

「おいこら待て!」

「おせーんだよ十一番隊記録的最弱もやし!

「そこまで言う!?!?!?」

「ちょっと、なんの騒ぎ?」

「「弓親!」」

 

必死の形相で追いつ追われつしている二人に誰も声をかけられない中、空気を読まず声をかけてきたのは羽飾りおかっぱナルシストこと綾瀬川弓親であった。

空気を読めないのではなく読まないお前が大好きだぜ!

 

「弓親! 三人で仕事済ませ」

「あ、面倒そうな話? 僕忙しいからパス」

 

大っ嫌いだぜ!!!

 

「忙しいってどうせまたスキンケアとかだろうが!」

「真にスキンケアが必要なのは一角なんだから今日くらい譲ってやれよ」

「誰が肌面積世界一だボケ」

「世界一とは言ってねーよただのハゲ」

「ただのハゲじゃねえ十一番隊三席のハだからハゲじゃねえ!!!

「ほら面倒な話じゃん、帰るね」

「「待て待て待て待て」」

 

 

その後、およそ一時間半程度経っただろうか。

机に男が二人突っ伏していた。もちろん片方はおれであり、もう片方は一角である。

 

「……あんなすぐ終わるもんなんだな」

「そりゃそうだよ、おれがどんだけああいう書類を片してると思ってんだ……」

「お茶入ったよ、ってもう終わったの?」

 

一ミリも仕事を手伝ってないこの男、いつもの気どった喋り方を全く崩さずにお盆と登場。絶対ェ許さねえ……!

 

「おっせえ! 何してたんだ」

「俺らでもう片付けちまったぞ!?」

「何が『俺たち』だやったのはほとんどおれだろうが!!」

「長丁場になると思ってお菓子も取ってきてたんだけど……終わったならいらないね

 

まさに鶴の一声。一角と同時に上半身をがばっと起こして叫ぶ。

 

「「いるよ!!!!」」



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第十一話:もしも葉月の卍解がチート(笑)だったら

広い空間に二人きり。これが可愛い年下の女の子ならいざ知らず、相手はおばさまに人気そうな背の高いハンサムの男、藍染惣右介だ。

しかも周りは瓦礫ばかりで、お互い殺し合うために向かい合っているなんて。憂鬱以外の何者でもない。

 

「まさか君と闘うことになるとはね。すぐに死ぬ役回りだとばかり思っていたのだが」

 

切り出したのは藍染さん。揺さぶりでもなんでもなく、本心なのが見てとれた。

 

「ナチュラルに失礼っすね、前の仕返しですか?」

「ふふ、あれは面白かった。こんなにしぶといなんて、やはりあのとき『こちら側』に勧誘すべきだったかな」

「じゃ、存分に後悔しててください。──卍解

「……ッ!?」

「『審判ノ天秤(しんばんのてんびん)』」

「ぐ、身体が重い……何かに押さえつけられているのか?」

()()()()()()()()、藍染さん」

「互角だと? この程度で互角とは、舐められたものだな。破道の一『衝』」

「破道の四『白雷』」

 

藍染さんの放った鬼道は、おれの放ったそれに完全に打ち消される。それどころか、消えきらない白雷が藍染さんに当たり軽くよろけさせた。

 

「なん……だと……?」

「おれの卍解『審判ノ天秤』の能力は、二人のうち弱い方に合わせるってものなんです。藍染さんならこの意味、わかりますよね?」

「……つまり、私の霊圧や身体能力は今、高槻葉月のものになっている、と」

「はい。効果は半径1キロ、おれと一番近い人だけに効くって制限もありますけどね」

 

だから、隊長の中でも強い藍染さんの鬼道が、おれの鬼道で相殺できた。

あっちがおれに油断せずおれの使えるギリギリのものを放ってきたらやばかったが、破道でも一番弱い衝を使ってくれてよかった。

 

「これは厄介だな、弱者の闘い方を私は知らない

「悪かったな弱者で」

「では、本気で挑もうじゃないか。砕けろ『鏡花水月』」

「これが話に聞く……!」

 

始解に合わせて目の前が光る。鏡花水月の完全催眠、聞いたことはあり散々注意しろと言われたが、こうして見るのは初めてだ。どんな姿になるのやら。

……催眠だから見ようと思っても意味がないのでは?

 

光に包まれていた藍染さんが見えてきた。既に催眠にかかっているのかすらわからないが、どうやら姿は変わっているらしい。しかしおれ程度の実力ならほぼ互角! さあ来い、叩きのめしてやる!

 

ビチビチビチ

 

「「……え?」」

 

目の前にいたのは、マグロだった。一本で軽く100万円を超えそうな、立派なマグロである。

これが完全催眠……? いやでも藍染さん(仮)も混乱してるっぽい。催眠で己をマグロに見せようとしているわけではないようだ。そんなことしてたらびっくりだしそんな藍染さんは嫌だからよかった。

 

しかしどうして? どう見てもおれの斬魄刀『究極剣』のそれではあるのだが、藍染さんが持っているのはおれの斬魄刀ではないはず……?

 

「なん……だと……????」

「あ、力をおれに合わせるって斬魄刀も含まれるのか。知らなかった」

「私は今どうなっているんだ」

「マグロになってますね……」

「マグロ」

「はい。珍しいですよ、一番出やすいのは竹刀とかですから」

「竹刀の方がまだマシだったんだが?」

 

ビチビチと音を立てて若干動く陸上にいるマグロいや藍染さんがそう言い切った。それはそれでなんかそれでいいのか? と思わざるを得ない。

というか藍染さん、IQ落ちてる気がする。まさかそれもおれに合わせられているっていうのか。誰がIQ低いじゃボケ。

 

「……ん? もしかしてこれはラスボスを倒すチャンスでは??」

「不覚……!」

 

しばらくマグロを眺めていたら、天才の発想が降ってきた。

藍染さんのIQはきっと元からのやつだな。間違いない。バカと天才は紙一重って言うし、藍染さんは天才ではあるがバカの面も持ち合わせてるってことだ。

……うん? おれは天才の面しかないよ?

 

「フハハハ、お命頂戴致す!! 姿成せ『究極剣』!」

 

ビチビチビチ

 

「は?」

 

現れたのは、多分マグロ。

この湿った音と伝わるひたひたの感覚はこれしかない。

始解が成功してからおれは音や感覚だけで何に変身したかわかるようになっていたのだ。

 

「おれの斬魄刀は元から一人じゃ闘えないんでした」

「馬鹿なのか?」

「そうなりますね」

 

 

「よくやった葉月! これで勝ったも同然だぜ!!」

 

膠着状態になってはや数十分。今は、どこからともなく現れた声のでかいハゲがおれではないほうのマグロに話しかけている。

 

「葉月はこっち。そっちは僕たちの敵だよ」

「おおそうか、よくやった葉月!」

「嬉しかねえよ!!!」

「…………」



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第十二話:いめちぇん!

今日、おれは死神の多く通う銭湯に通っていた。

無論まったく意味のない誰得なサービスシーンなどなく、普通に風呂を出てコーヒー牛乳を飲んでいたのだが。

 

「「ふぃ〜」」

「……お?」

「……あ?」

 

柄の悪い喋り方のやつと被ってしまった。チッなんだよおれの落ち着く一人時間を邪魔したやつは。

苛立ちを隠しもせずに振り向くと、頭のてっぺんから顎まで綺麗に肌色の怪奇卵人間がいた。

 

「誰だお前」

「その失礼な口調に、つるりんは……一角か!?」

「言い直すんなら最後まで突き通せ」

「初志貫徹だよ」

「そんな志なら捨てちまえボケ」

 

何か物足りないと思ったら、よく見たらこいつ目のあたりに朱を入れてたな……。ハゲという全ての特徴を打ち消す特徴の王者があるせいで全然気づかなかった。

 

「うんうん、やっぱりこの輝きは一角だな! トレードマークになりきれてない朱がなくてもわかりやすいぜ」

「そりゃトレードマークになってないんならこれなくてもわかるだろうよ。つかお前こそいつものアホ面はどうした」

「IQが違いすぎると物の見方まで共有できないんだな……。かわいそうに」

「悪かった、その眼鏡と前髪で隠れてるだけでアホ面は健在だったな」

 

眼鏡と前髪? と思ったら、そういや今はヘアピンとコンタクトしてないんだった。舐められたくなくて入隊デビューをかましてやったのに、こいつおれのことずっとアホ面だと思ってたのかよ。おれの努力、何の意味もなしてない。

 

「あれ、君たち何してるの?」

「ゆみち──誰だお前!?!?

 

ナルシストの頂点のような声が聞こえて脊髄反射で返事しようとしたら、振り返った先にパッとしないおかっぱがいた。誰だこいつ。

いやでも声は合ってるはずで……しかし顔のぼやけ方が半端ない。

 

「失礼だね。合ってるよ弓親で」

「なんかパンチないな……」

「弓親って飾りないとパンチないんだよな」

「お前もなハゲ」

「あ?」

 

ノータイムでアイアンクローされた。そんなに怒んなくてもよくない?

 

「弓親、もっとパンチ効かせたほうがいいぜ? 腕にシルバー巻くとか」

「美の化身たる僕になんてことを言うんだ。無駄にパンチあってもダメなの、美しさは引き算なの」

「じゃなんで普段あんなゴテゴテしてんだよお前、パンチの化身じゃねえか」

「パンチ」

「物理ッ!!」

「俺でもなかなかしねえ綺麗な右ストレート!」

 

なんの誇張もなくまじでまったく見えなかった。え? 五席ってこんなに強いっけ?

……銭湯の前の廊下、長すぎるからもっと短くしてほしい。比較的正気のまま壁にぶつかる衝撃に怯えなければならないじゃないか。

は? これ悪いのは弓親では? 

 

「やべーな……。さすが十一番隊、優雅さのカケラもねえぜ!」

「パンチ」

「エッ俺も!?!?」

 

アホはアホでひたすらアホなことをしていた。お前は二度とおれをアホ面と呼ぶなアホらめ。……なんかエッチな漫画みたいになってしまった。アホ角と呼ぼう。

 

 

「あ? お前らこんなとこで何やってんだ」

「ヴァッたたた隊長!! 失礼しました今場所を誰!?!?!?

「は? お前失礼だぞ誰!?!?!?

「あのね二人とも……誰って隊長に決まっ誰!?!?!?

 

三人天丼クソつまらんとおっしゃる方もいるだろうが、これを見ればしかたないとわかってくれるはず。

更木隊長の髪が、降りているのだ。

普段はツンッツンの髪の毛が顔に一房、残りは後ろに流れている。まるで毛皮のようだ。

よく見れば毛皮の中にやちるもいる。窒息とかしないのかな?

 

「なんだァ? なんか変なことでもあんのか」

「や、変っつーか」

「濡れたなまはげの2Pカラーっつーか……」

「なまはげェ?」

ア゜ごめんなさ」

 

凄みながら近くの鏡を確認する隊長(仮)。

いやほら、強そうなところとかね!? ほんと、まじで! だからあの、命だけは勘弁してください。可能なら暴力も勘弁してください。

そう心の中で叫び続けていたが、未だに暴力は0。どういうことだ……? いや嬉しいけど。

 

「たしかになァ。面白えこと言うな葉月」

「オッ……ありがとうございます」

「あはは、声ちっちゃーい! 剣ちゃんこんなことで怒るわけないじゃん、へんなのー」

「ああ、なまはげ強そうだしな。一回闘ってみてえもんだぜ」

「エッアッそ、そうですね……」




今回の葉月のイメージ↓
【挿絵表示】



実生活を頑張ったのでご褒美に評価とかください。お願いします何でもしますから(何でもするとは言ってない)!


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第十三話:嵐の前の静けさ(当社比)

既にハムやネギ、キャベツ、卵が入ったフライパンにアツアツの白米を入れようとしたとき、給湯室の後ろの扉が開いた。

 

「あ? 葉月かあ?」

 

現れたのは十一番隊屈指のハゲ、斑目一角。眠そうに腹を掻くとかいう知性のかけらもない動きをしている。

何がしたいんだと思い観察していると、うーんだの不明瞭な独り言を言いながらその辺の棚をがちゃがちゃやり始めた。

 

「なに、お前も夜食?」

「おー。つかお前メシ作れんの? 美味そうじゃねえか」

 

結局なんの成果も得られなかったのだろう一角は、匂いにつられてかこちらのフライパンを覗き込んできた。やめろやめろ、火のついたコンロの周りに来るんじゃない猿! 怒らせて技かけられるときとかに危ねえじゃねえか!!

しかし特製チャーハン『ふんだんに卵を使ったピリ辛チャーハン〜冷蔵庫にあった適当な野菜を添えて〜』が褒められるのはやぶさかではない。ヘッもっと褒めな!

 

「まーな。姉ちゃんと母さんが『お前ごときの嫁になる女はいないんだからせめて一人になる努力でもしとけ』って」

「まじか……うま」

「おいこらこれはおれの飯だっつの」

 

おれの処遇に顔を渋くさせたままサッとフライパンからおたま一掬い分チャーハンをくすねた。くっ器用なやつめ。

しかし、基本的に姑もびっくりのペースでいがみ合っているのにこういうときは素直に褒めるなんて。これからさらに一人分追加では作らないよ? いやまあ? ちょっとつまみ食いしながら作ってたし、思ったよりキャベツとか多くて一人じゃ食い切れないからちょっとなら食べてもいいけど?

……誰がチョロ槻だって?

 

「あ? そういやお前んち貴族だったよな。いいのかよ今のうちからそんなんで」

「おれんちは女系なんだよ。代々女が継ぐっていう」

「そうだったのか」

「だからおれは自由にさせてもらってるってワケ。どうだ、羨ましいだろ」

「でもカースト最下位なんだろ」

「な、なんでそれを!?!?」

 

そう、高槻家は由緒正しき家ではあるが、女性の血を重んじるタイプの貴族なのである。高槻という名字も母親のものだし、おれが誰と結婚しようと特に何も気にしない。

そのぶん当主である姉ちゃんにこき使われるが、放任主義なのはおれの性格にも合っているのであまり気にしていない。嘘。こき使われるのは普通にやめてほしい。

 

「自分が嫁になれば? そっちのがはえーぞ」

「婿入り自体はやぶさかじゃないけど好きなタイプの女の子は婿なんてとらない」

「面倒くせえな……」

「うるせえよ」

 

話している間にもうまうまとおれのチャーハンを食べ進めている一角に真顔で答える。おれのタイプは雛森さんみたいに優しくて小動物のような年下の子なのだ。どう考えても姉ちゃんに影響されている。

……いや、雛森さんは年上だけど。物の例えってやつだ。

 

「と、とんでもないことを聞いてしまった……!」

 

このときおれたちは、こんななんでもない雑談が誰かに聞かれているなんて思いもしなかった。



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第十四話:自分産でない嵐ってムカつくよね(書記談)

第十三話の続き。次回まで続きます。


翌日。いつもと変わらない昼下がり、おれは弓親に無茶振りをして遊んでいた。

 

「ゆみちゃん、あそこのケーキ屋さんもう行ったぁ?」

キモ……。急に何?」

「聞こえてんぞコラ!! あーあーノリ悪いなー弓親は」

「突然振ってきてその態度、いっそ尊敬するよ」

「いいか、ちゃんと見とけよ。おい一角!」

「あ?」

 

冷めた目の弓親をよそに、一般通過斑目一角に声をかける。一角のアドリブ力をあなどるなかれ。

 

「ねえねえカクさん、この前できたパフェ専門店行ったぁ?」

「行った行った! ちょー美味しかったよ、今度行こうねスケさん」

「ほらな光圀公」

「よくわかったよ、君たちがノリでしか喋っていないことだけは」

「わかりゃいいんだわかりゃ」

「それでいいの……?」

 

なぜ弓親くんは全力で困惑しているんだい?

僕たちにはわからない。一角のほうを見ても首を傾げている。つまりおかしいのは弓親。

 

「あ、綾瀬川五席! あの、少しお話が……」

「へ? 僕?」

 

十一番隊の一般隊士が弓親を呼ぶ。役職もないし稽古つけてほしいとかか?

しかし弓親のほうもよくわからない顔をしている。どうやら思い当たる節はないようだ。

 

「行ってこい行ってこい、で怒られてこい」

「いや君たちと違って心当たりないから大丈夫」

「「んだとコラ!!」」

 

 

「君たちって付き合ってたの?」

 

戻った弓親が開口一番そう言った。

 

「急にどうした」

「どっかに頭ぶつけたのか?」

「さっきの子が言ってたんだよ、『お付き合いされている斑目三席と高槻書記のお邪魔になるかもしれないので、あまり間に入られるのは避けた方が……』って」

「おれたち付き合ってたの?」

「初耳だな」

「「………………ハア!?!?」」

「なにそれなにそれ、どこ情報だよ!?」

「なんでそんなことになってんの!?」

「瀞霊廷通信の号外に載ってるよ、ほら」

 

『「嫁に来ないか」「やぶさかでない」驚きの組み合わせが婚姻関係に!?』という見出し。

プライバシーに配慮したのか個人名は書かれていないが、十一番隊三席は一角だけだし書記に至っては何番隊と明記されてなくてもおれ1人なんだよふざけんな。

 

「なんとかして誤解を解かねえと……」

「ああ。キッモい噂流されちゃたまったもんじゃねえぜ」

「なんだぁ? テメェ……」

「いやこれは共通の意見だろうが」

「あれ、あそこにいるの檜佐木副隊長じゃない?」

 

いつものように胸ぐらを掴まれそうになったとき、弓親がふと声を上げる。その目線を辿るとそこには本当におもしろ刺青の副隊長がいた。あ、おもしろ刺青副隊長ってだけだとおもしろ刺青眉毛副隊長と被ってしまうから、これからはシックスティナイン先生とお呼びすることにしよう。

いやなんでおもしろ刺青副隊長って特別な個性で二人該当することになるんだよ。唯一無二のハゲゴリラ斑目一角とおかっぱ謎羽飾りゴリラ綾瀬川弓親を見習え。

 

「それにしてもちょうどいいところに。やっちゃってください一角さん!

「よしきた」

「え、ちょ!? なんだ急に!」

「この二人が付き合ってるっていう話、デマなんです。だから誤解を解いてほしいんですって」

「そうなのか……。悪かったな、裏も取らずに勝手に載せちまって。じゃあこれから二人に詳しく話を聞いて、それをまた瀞霊廷通信に掲載するってのでどうだ?」

「え、いいんすか?」

「男に二言はねえ! 早速話を聞かせてくれ」

「「あざっす!!」」

 

このおかっぱ謎羽飾りゴリラ、腕っ節が強い上にこの要素過多、さらに言いたいことを全部理解して代わりに言ってくれるなんて非の打ち所がないな。これからは万能ゴリラと呼ぼう。

 

しかし、檜佐木副隊長がこんなにすぐ言うことを聞いてくれるとは思わなかった。ネタになるものがあればなんでも使うイメージだったけど……。あれ、もしかして誤解を解く話もネタになると思ってる?

まあどっちだっていい、キモいデマが消せるならおれはネタ扱いも耐えられる。こんな根も葉もないデマ、普通に説明したら一瞬で終わるはず。たかがそれまでの辛抱なのだから。




出すタイミングを見失った瓶が開けられない葉月と開けられる万能ゴリラ男の落書きです。
【挿絵表示】

【挿絵表示】

弓親って実際腕力ははちゃめちゃじゃなさそう。十一番隊基準で、ですが。


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第十五話:嵐、終わらない。

第十四話の続き。嵐シリーズ最終回。


「つまり、別に斑目は『俺の嫁になれ』と言ったわけじゃないし、高槻も『斑目の嫁もやぶさかではない』と言ったわけじゃないと」

「そうなんですよ! 人の話適当に聞きやがって……!」

「こいつなんかにそんなこと言うわけないのにな」

「それは戦争がしたいという意味に捉えて問題ないかな?」

「問題ねえが、困るのはお前だろ?」

「ハッそれはどうかな。第一試合は髪の毛の本数で勝負と聞いて慌てて降参しても知らねえぞ」

「本当の戦争を知らないみてえだな。本当の戦争ってのは暴力って読むんだよ!」

戦争(ぼうりょく)!?」

「そろそろ進めていいか?」

「「はい」」

 

刺青や傷があっても普段は凄みを感じない檜佐木副隊長からとんでもない殺気を感じる。これはたまにガチで弓親を怒らせたときと同等──いや、さらに上だと!?

一角も流石三席といったところか、その殺気に上げかけた腰を下ろしたようだ。

 

「次に──」

「副隊長。そろそろお時間です」

「おっと、そんな時間か。悪い、これから別の取材が入っててな……。俺の代わりにこの緒卓(おたく)がこれから話を聞くってことでいいか?」

「九番隊八席、緒卓(おたく)鎖子(くさりこ)です。よろしくお願いします」

 

檜佐木副隊長が殺気をしまい話し始めようと口を開いたところで、いかにも秘書然とした女性が現れた。

眼鏡に肩のあたりで切りそろえられた髪、そしてきちんと着用された死覇装。その全てが『私は真面目です』と主張している。それだけだと八番隊の伊勢さんを彷彿とさせるが、この人は厳しそうというより大人しそうな顔立ちをしており、もし八番隊副隊長になったらストレスですぐ死んでしまいそうな印象だ。

 

「ほんとありがとうございました。いやー檜佐木さんのおかげでなんとか誤解も解けそうっすよ! 流石はシックスティナイン先生!

「助かりました、シックスティナイン先生!

「鼻のところの刺青もかっこいいっす! おれも入れてみようかな、一角に」

「やってみろよ。逆にお前の顔面クロスワードにしてやらあ!」

「お前の頭がスイカ模様になるのとどっちが早いかな!」

「なあこいつらいつもこんな感じなのか?」

「そうですね、大抵は」

 

一角の発言の野蛮さにだろう、檜佐木副隊長が呆れた様子で弓親にぼやいていた。全く、一角には困ったもんだぜ。

 

「んじゃ悪いけど行ってくる!」

「行ってらっしゃいませ。私にお任せを」

 

 

「で、あとは何したらいいんすか?」

「お二人のお話を細かく聞いていきたいと思っております」

「どこから話せばいいんだ?」

「そうですね……。ではお互いの最初の印象、馴れ初めなどお教えください」

 

馴れ初め?

 

「えーと、初めて会ったときはムカつくハゲがいるなと思ってたかな? あれは入隊の挨拶のときだったっけ」

「俺は今までで一番弱そうなやつが来たもんだと思ってたぜ。どうせ1ヶ月もしないで辞めるんじゃねえかって弓親と賭けてた。ま、賭けになんなかったけどな」

「は!? そんなことしてたのかよ」

「お前が勝ったんだからいいだろ」

 

初耳すぎる新事実を知ってしまった。そんなファンタジーにある民度の低いカジノにいるならず者みたいなことする人、本当にいるんだ……。

緒卓八席はというと、うんうん頷いてメモに書き留めている。こんな話使うことあるのか?

 

「では次。お互いの好ましいところをお話しいただけますか?」

「好ましいところ……?」

「そんなんあるか?」

「ない……」

 

にわかに瞳をキラキラさせる緒卓八席をよそに、おれたちは困った顔で見合わせる。マジでガチに1ミリも思いつかないのだが、他の人なら思いつくのだろうか。

ハゲ、暴力、謎メイク、ならず者の発想、アホ……。いろいろ思い浮かべてみても、やはり全て余すところなく悪口だ。

 

「どんなことでも良いのです。この仕草がかわいいとか、守ってもらったときかっこよかったとか!」

「じゃあ、いたずらの全てに美しく引っかかってくれるところとか……?」

「どんだけ痛い目見ても懲りないいたずらにかける情熱、とか」

「なるほどなるほど! ありがとうございます。次に、相手か世界か選ばなくてはならない状況に置かれたとき、どちらを優先するかお聞かせください」

「「自分」」

「お互いを信頼なさってるんですね!」

 

なんか、話噛み合ってなくないか?

緒卓八席は謎に鼻息荒く前のめりになって話を聞いてくれているようだけど、どこにそんな興奮する要素があったというのか。わからないおれはまだまだ視野が狭いということだろう。

 

「最後に、今後二人はどうなっていきたいですか?」

「強くなりたい以外ねえ」

「おれもちょっとは強くなっときたいけど……仕事で手一杯なんで無理っすね〜。今はせめて威厳を出したいです、舐められないように」

「関係を強くしていきたい……っと。それでは最後に、写真撮影よろしいですか?」

「はーい」

「まずは二人で並んでピースなどしてください」

 

言われた通りに胸の横でピースを構える。一角はというと、ピースをひっくり返しカメラに向かって突き出していた。小学生か貴様は。……いや知らんけど。

 

「最後に二人で一つのハートマークを作ってみてください! はい笑顔でー」

「「ハイ、チーズ!」」

「最高です! 本日はありがとうございました」

 

 

 

次の日。

 

「誤解を解くんじゃなかったの?」

「いや、ほんとにそのつもりだったんだよ」

「俺たち嵌められただけなんだ」

 

前回と同じように号外として出された瀞霊廷通信は、前回と同じように、いや前回よりもおれと一角の関係を疑う内容だった。

なんで??

純粋な疑問を弓親にぶつけて昨日何があったかを詳細に話すと、今まで見たことがないレベルの冷たい目を向けられた。そしてなんと、『そんな質問されたら普通わかるよね。どうしてわからないかな。バカなの?』と普通に説教された。『こら!』と言われるより余程心にくるので、弓親は本当におれたちをわかっている。一角なんか『ハイ……』しか言えない機械に成り果てていた。

おれ?

おれは『ごめんなさい……』しか言えない機械に成り果てていたけどなにか?

 

このあと、おれたちを可哀想に思った弓親が一晩で噂を全てなんとかしてくれた。いつもありがとうな、弓親。



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第十六話:市丸(を)ジャイアントスイング

「あ、(10)2隊長!」

「誰が10進数でいう2やねん。カッコに囲まれた数字の右下に小さい2をつけるっていう二進数表記とか理系選択者以外わかる人おらんやろ」

「隊長は説明までできてるじゃないですか」

「ボクは天才やからね」

「へーそうなんですか」

今のツッコむ場所やろ引かんといてよ。ボクが自称天才の痛いやつになってまうやんか」

 

暇そうにしていたから声をかけてあげたってのに今度は面倒臭そうに解説を入れてくるこの人は、三番隊隊長の市丸ギンさん。

胡散臭い糸目と食えない笑みが特徴のおサボりさんだ。

 

「じゃあ、電源マーク隊長?」

「誰が90°回転させたC一やねん。表現も難しいし由来は二進数の10やから実は最初のとネタ被ってるんよ」

「そうなんだ!」

自分で振っとって知らんの!? あれはON=1、OFF=0からとってるらしいで」

「すごい、なんでも知ってるんですねオイオイ隊長」

「誰がオイオイや……ってもしかしてそれマルイのことか?

「まる、え?」

「OIOIって書いてマルイって読むんよ」

「は!? なんだその初見殺し!」

「せやな……」

 

どこからともなく引っ張り出してきたホワイトボードに図や文字を描いて説明してくれる。さすがおれの(多分)何倍も年上で大先輩、ちゃんとわかりやすい言葉を使っている。霊術院のクソ先生とは大違いだ。

 

しかし、説明し終わったと判断したのかその場でまたごろ寝し始めた。

七つの大罪に市丸隊長を当てはめるなら確実に『怠惰』だろう。イヅルさんがよくおれ用にって出してくれる団子を残さず食べるから『暴食』かもしれないが。

 

「あ、でもそれだと丸市丸市隊長になっちゃいますね、ほかにいいあだ名あります? 丸市丸市隊長」

「一つのネタなのに長いんよ。ボクが関西弁やからってなんでもかんでもツッコむんとちゃうからね?」

「たしかに、市丸隊長はボケって感じしますもんね。イヅルさんが胃痛系ツッコミで」

「別にボケでもないで」

「誰が胃痛系ツッコミですか」

「あ、胃痛系ツッコミや」

 

そうこうしているうちに真打、吉良イヅル副隊長のお出ましである。今日も今日とて少し疲れた顔で緩やかに陰のオーラを放っている。

本人の名誉のために明記しておくと、これは本人特有のものではなく、隊長のおサボりによって回ってきた仕事をこなすことで発せられるというものだ。その仕事量に応じてオーラの濃さは変わっていき、最終的には本人の姿すら見えないほどになるという噂もある。

誰が流してるんだそんな噂。

 

「雑談ばかりじゃなくてちゃんと仕事してくださいよ」

「ほら言われてますよ隊長」

「誰のせいや。いやボクに責任が全くないかと言われればないな、全部キミのせいやったわ」

「隊長が仕事をしていなかったことへの全責任が高槻くんにあるからといって隊長が仕事をしていなかった事実がなくなることはないんですから仕事してください」

「もしかして二人ともおれのこと嫌いですか?」

「大好きやで♡」

「キッショ急になんなんですか」

「ハートつけないでください鳥肌立ちました」

「キミらのほうこそボクのこと嫌いなん?」

「はっはっは、冗談ですよ」

「僕のは本音です」

「やっぱイヅル口悪なったよな」

「誰かさんが仕事してくれないので」

「ソウデスネ……」

 

 

場所は変わって隊首室。

仕事を片付けつつ、脳と口が暇なのか隊長が口を開く。この人ナチュラルに計算しながら喋るとかいうマルチタスクしてるし、普通に天才なんだよな……。

 

「そういやなんで葉月くんおるん?」

「イヅルさんとおれと恋次さんで遊びに行く予定があるんすよ!」

「えっ何で遊ぶんそのメンツで」

「卓球ですよ。鬼道なし霊圧操作なしの」

「霊圧で球の軌道変えるのムカつきません? 前やったらめちゃめちゃに軌道が曲がった球返されて……。卓球すら正々堂々とできねーのかあのハゲ」

「そのハゲさんは力技で曲がる球を打ったんちゃうかな」

「おれに真似できないものは全て反則ですよ」

「ええ……」

「だから早く仕事を終わらせてくださいね」

「あ、はい……」




私はKBTITや射場さんと同郷ゆえ関西弁が苦手なので、市丸さんのセリフは薄目で見てください。
これここで言うことじゃねえな、前書きで言わなきゃダメなやつだ。


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第十七話:ミスターイントゥミスコン

※今回から次回まで主人公の女装描写があります。


「ミスコン?」

「おう。各隊推薦って形で参加してかわいさを競うんだとよ」

「へー、そんなのあったんだ」

 

この隊に入隊して10年以上経つが、そんな夢の祭典があるなんて知らなかった。

 

聞くに、隊長に推薦をもらうのが必要な参加資格で、それさえ満たしていれば一つの隊から何人でも参加可能らしい。所属しているのとは別の隊の隊長に推薦をもらっても参加できるが、推薦した隊長の隊からの参加となる。

なぜそんなに厳格に決められているかというと、なんと推薦した女性が上位入賞した場合その隊に賞金が入るという特典があるからだ。

この特典があるせいで(おかげで?)、他隊の美人さん、果ては見目の良い一般人をスカウトする隊もあるとかなんとか。絶対それ八番隊だろ。

 

賞金のくだりは置いといて、これはさぞとりどりの美人さんが参加するのだろう。まだまだミスコンまでは時間があるというのに今からワクワクである。

そんな気持ちで変な笑いをしていたのが気に食わなかったのか、一角がこちらを睨みつけてきた。

 

「なに他人事みたいな面してんだ、ウチからはお前が出るんだぞ」

 

おれの顔がムカついたのではなく、ただ頭がおかしくなっただけだった。

 

「ハ!?!? いやいやいやいや、おかしいだろ! やちるいんじゃん、かわいいじゃん!」

「審査員はそういうかわいさを求めてはいないんだよ」

「じゃ、じゃあ弓親出ろよ!顔キレーじゃんか」

「ありがとうでも出ないよ」

「なんでだよ〜〜〜〜!」

「だって女装やだし」

「おれだってやなんだけど!?」

 

弓親までおれをミスコンに出そうとしてくる。もしかして一角だけじゃなくて弓親も頭おかしくなった? それともおれがおかしいの??

というか、やっぱり弓親こそ出るべきだと思う。

美への探究心もさることながら、ボスゴリラみたいなやつしかいない十一番隊で希少な華奢キャラなのだ。いや脱ぐと筋肉とか見えるんだけど、ミスコンで脱ぐことはないだろうし。脱衣ミスコンなんかあってたまるか。

 

「でもほら、十一番隊で一番素敵な美少年っていったら君でしょ?」

「弓親……」

「儚げで線が細いっていうのかな。来々世でなってみたいくらいには憧れてるんだよ」

「そうだったのか……!」

「うんうん。仕事もできるし、顔もこの隊では二、三を争うほどの良さだし、身体も引き締まってる」

「つまり? つまりぃ〜?」

「恥ずかしいから一角言ってよ」

 

「ヒョロガリで衣装入るやつお前だけなんだよ素直にやれクソもやし」

「しかたねえなやってやるよボケおれが可愛すぎて吠え面かくなよ」

 

学生時代「イケメンなんだから何も考えず喋らなかったらいいのにねぇ」とクラスのギャル的存在からちょっと憐れみながら言われ思考と言論の自由を奪われた事件以来の『イケメン』を言ってもらおうとしたのに、イケメンの対義語が邪魔してきやがった。

嫉妬かな? そんなんじゃモテませんよ一角くん(笑)。




(このネタのためだけに女装タグをつけるか悩んだけど多分これ以降女装せんしいいか……と判断してタグはつけて)ないです。でもどうなんだろ、つけた方がいいんですかね?


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第十八話:大暴落インザミスコン

※主人公の女装描写がありますがそれを超えるレベルでキャラ崩壊があります。
女装回は今回で終わりです。

前回のあらすじ
我が隊のためにミスコンに、イクゾーデッデッデデデデッカーン!


「か……」

「かわいいよな!? 今おれのことかわいいって言おうとしたよな!?!?」

「うるせーーーーーー」

「化粧や髪が崩れないようにヘッドロックではなくボディーブローをする気遣いいらねえんだよハゲ!!!!!!」

 

一角がおれの可愛さのせいで自我を失った殺人マシーンと化している。美とは罪。暴力はそれ以上の罪なので捕まえるならこいつですけどね。

 

「その顔でチクチク言葉を使うな頭がバグるだろうが!!」

「動揺を全部拳で表現すんなこちとら美少女だぞ!?!?」

「ダメだ、一角は目を瞑ってる! 葉月の見た目に騙されず攻撃するにはこの手しかなかったのか」

「攻撃をやめるって手もあると思うんだけどなあ!!」

 

 

 

「審査員はわたくし、檜佐木修平と」

「僕、藍染惣右介と」

「ボク、京楽春水だよ〜」

 

こんらん状態になった一角を振り切ってなんとかステージ袖まで行くと、それはもうアホみたいに客が入っていた。さながらおじゃまぷよだ。

ちなみに、おれの出番は最後である。周りにバレないよう隅っこで縮こまっていたら、見知った隊長格から全然知らない一般隊士までさまざまな女の子が次々と登壇していく。

松本副隊長はその豊満なバストを惜しみなく活かした大胆な服装で主に檜佐木さんを狙い撃ちしていた。実は厳しめの評価をする藍染隊長には効かなかったみたいだが、あの人はどんなのが好みなんだろうか。

他にも雛森さんや虎徹副隊長、なんとあの伊勢さんまで出ていた。衣装もそれぞれ自分の魅力を引き出すもので、みんな優勝候補に見えるから困る。

 

そうこうしている内に、次はおれの番になってしまった。適当に受け答えして目立たないまま終わりたいが、ここまで辱めを受けた挙句予算ももらえないのもムカつくので上位に食い込みたいとも思う。

なんて、いくらかわいくても女装男が上位になるなんてあり得ないので、これはただのこうなりゃヤケ精神である。

 

「12番、高崎皐月です」

「おお、美人さんが来たねえ。黒髪ロングクール系ってところかな?」

「料理はしますか?」

「は、はい。親にそう育てられたので」

「へえ、ご令嬢そうなのにえらいねえ」

「クールな見た目に反して家庭的な一面も……ギャップ萌えってやつですね」

 

わかる。料理ができるというだけで好感度が3000倍くらいになっちゃうよね。

……それが女装した男だという点を除けば。

 

「藍染さんはどう思いますか?」

「そうだね、まあ綺麗なんじゃないかな」

「辛口ですね〜! これから藍染隊長のお眼鏡にかなう人は出てくるのでしょうか!」

「この場にはいないんじゃないかな」

 

穏やかな顔でなんでもないように言うから一瞬反応が遅れるけど、この人びっくりするくらい厳しいな。さっき泣いてる五番隊の子いたぞ。

 

その後も、京楽隊長と檜佐木さんには好感触な受け答えをし続けた。

この人たちも優しそうに見えて興味ない人はさっさとお帰りになってもらってるっぽいので、この段階で前の人の2倍くらいかかっているということはかなりの高得点を期待できよう。

 

「では、推薦してくれた隊長に一言! ええと……じゅ、十一番隊!?

「あ、いや! 私は助っ人というか、親戚に頼まれてここに来ただけで」

「助っ人……。どおりで見たことない顔だと思った。君みたいな可愛い子、一度見たら二度と忘れないのに」

ウワッ鳥肌たったありがとうございます」

「クール系に見えてその実家庭的で健気とは……。これはかなりの評価が期待できそうですね」

「ボクは君を一位に推薦するよ」

「おっと一位宣言だ! もう優勝者は決まったようなものでしょう」

 

京楽隊長がはちゃめちゃの色目を使っておれを口説こうとしているのが手にとるようにわかる。だってウインクしてるし、胸元チラつかせてるし。

おれが口説こうとしたクラスメイトたちも、こんな感じでうわキッモと思っていたのだろうか。ああ……(絶望)。

 

「あ、そうだ。藍染さんのご意見も伺ってみなければ」

「え? ごめん、聞いていなかったよ」

 

それは聞いとけよ。何しにそこ座ってんだよ前髪の枝毛探すためじゃないんだぞ。

 

「最後に、好きな男性のタイプとか聞いてもいいかな?」

 

えっ。

 

「男性のタイプですか。それはお客さんも聞きたいでしょうね!」

「い、いえ特に……どっちかというと女の子のが好きだし……

「女の子のが好きだって!?!?!? 詳しく!!!」

おっと急に藍染さんの食いつきが良くなりました! 俺には全く聞こえなかったのですが、もしかして藍染さんの妄言ですか?」

「いいや。彼女ははっきり言ったよ、『女の子のが好きだ』と」

「へえ、キミ女の子好きなの? ボクも聞いてみたいな」

 

さっきの京楽隊長への罵倒は聞こえなかったのに、あれは聞こえたのかよ、勘弁してくれよ。

会場ではなぜか興奮した客がウェーブを作って発狂してるし、もう帰ったほうがいい気がしてきた。

 

「え、と……普通に、かわいくて小動物みたいな子ですかね」

「具体的に誰、というのはあるかな? あるいは、誰みたいな女性、でもいいんだが」

「なんだこいつ……そうですね、強いて言えば雛森副隊長のような方ですが……」

「全て理解した」

「うわ声デッカ!」

「藍染隊長が、あの京楽隊長もびっくりするレベルで声を張っています! 元々低くて渋い声であるため、声を張ると鼓膜にダイレクトアタックしますね。今ので鼓膜をぶち破られた方もいらっしゃるのではないでしょうか」

「ハア……ハア……」

「息が荒くてシンプルに気持ち悪いですね! 藍染さん、女性同士の恋愛が好きなんですか」

愚問だね。逆に聞くが百合が嫌いな人間なんているのかい? 女性同士の美しく儚い恋模様、じれったい関係性。ああなんて素敵なんだ!」

「泣きながら力説しスタンディングオベーションまでしています! マルチタスクをこなす有能さが仇となって、今はただ拍手と声と鼻を啜る音がうるさい厄介オタクと化してしまっています。どうでしょうか京楽さん」

「この人より気持ち悪いと思われた日には趣味のセクハラを一生やめるよ」

有力な隊長二人の株が暴落し続けて止まるところを知りませんね。明日には隊首室が退職させてくれと泣いて頼み込む隊士で溢れそうです」

「ちなみに私はハッピープリンさとこ先生が好きだ」

「誰も聞いていません」

「ありがとう、藍染隊長! 実は俺がハッピープリンさとこなんだ」

「浮竹!?」

「貴方様がハッピープリンさとこ先生!?!?!? こんなところで会えるなんて……ハッピープリンさとこ先生の書かれるほのぼの百合が大好きです! 応援してます、先生は私の憧れです!!」

「いやあ嬉しいな。まさか趣味で書いていた小説にファンがいたとは」

「ボク、浮竹とは結構仲がいいつもりでいたけど何も知らなかったんだね……」

 

もう帰っていいだろうか。うん、とてもいいと思う。このままいてもいろんな人がいろんな傷を負うのを見るだけだ。帰ろう。そして寝よう。

 

そしておれはそのまま藍染隊長が急遽作った『大変素敵な百合で賞』をとった。賞金は優勝者より多かった。

 

「ハッ夢か。やー変な夢だったなー」

「夢オチにしようと思っても無駄だよ。ほら」

 

「見知った天井だ、よかった夢か」と言うのを妨げるように弓親が差し出したのは瀞霊廷通信。一位の子について大きく特集されているページの隅で、特別賞として『高崎皐月』の文字が小さく書かれている。きっと運営にとって大きい声では言えない出来事だったのだろう。

そんなに嫌なら書かなければいいのに。ここまで頑張ったんだからせめて夢オチにさせてほしかった。




百合豚にふさわしい方を探したら藍染様しかいなかった。今は後悔している。


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第十九話:お見舞いに来るヒロインの鑑ってだ〜れだ?

風邪を引いた。

一角あたりはそれはもう喜んで「お前でも風邪引くんだな!」「葉月は風邪引かないってことわざにもあんのにな!」と言いそうだなあ、と思いながら天井を見上げる。普段しているコンタクトもしておらず、さらに風邪ゆえの涙目なのであまり見えはしないが、他に見るところもないのでしょうがない。

 

……何もすることがない。

いつもならやちるを追いかけたり仕事したり仕事したり気晴らしにちょっと散歩したり一角にちょっかいかけたりと多忙を極めていたものだが、すみません風邪でお休みしますと十一番隊の比較的まともそうな席官の人に連絡しているので、今日一日は安心して寝ていられる予定なのだ。

すぐやらなければならない仕事もなし、熱が出ている状況でやりたくなることもなし。冷蔵庫にはご飯もなし。吉幾三も土下座して謝るほどのなしなしづくしである。

薬を飲む気にもなれずしばらくぼうっとしていると、万が一のために手元に置いていた電話が鳴った。無論スマートフォンなる現世っ子の必需品ではなく、瀞霊廷らしく古き良き固定電話の子機だ。

 

「はいもしもし、こちら38.6度です」

「元気、ではなさそうだね。受け答えのポンタンさはいつも通りだけど」

「……ゆみちかじゃん」

「一角もいるよ」

 

電話口から聞き慣れた声が聞こえる。相手がいつもの2人ということは、誰が出ても対応が雑になることをお知らせするためのさっきの名乗りは無駄になったわけだ。

それにしても、それだけお互い気を遣わない相手がどうして電話を? まさかお見舞いの言葉などでもあるまいに。

 

「風邪のときはなんもできなくて辛いだろ? 助っ人派遣しといたぜ」

「ま、まじで!? 神じゃん、あごめん髪ない人に言うのは失礼だったな」

「今すぐ出勤して仕事しろ」

 

 

 

「やっほーはづちー!」

「あまりにも人選ミス!!」

 

電話があってすぐ、誰かなあ恋次さんかなイヅルさんかなできれば常識的でかわいい女の子がいいけどそんな人脈が十一番隊隊士にあってたまるか、と考えていたところへもってのこの登場。

やはりあのハゲとおかっぱは神などではなかった。もはや死神と言っても過言ではないだろう。

 

「はづちーだいじょうぶ? 元気?」

「うん大丈夫、元気だよ。だから袋から見え隠れしているスッポンを持って帰ってくれ

「えー! スッポンの生き血は風邪にもよく効くんだよー!?」

 

そう言ってこちらを非難の目で見てくるやちる。

見た目はかわいらしい幼女なだけに、急に生き血とかいうオドロオドロワードが出てくると聞き間違いかと思ってしまう。

もう治ったから、な! ほら元気だろ? とぐるぐるする視界で頑張ってアピールしてやっとわかってくれたのか、なんとかスッポンは片付けてくれた。ねえ今動かなかった? 動いたよね?

 

それからしばらく、かなり辛いが気合いでやちるの相手をしていると、コンコン、と控えめにドアが音を立てた。

 

「すみませーん……高槻書記のお宅はここで合ってますかー……?」

「花太郎くん!」

 

扉を開けると、四番隊の山田花太郎七席がいた。手に持った袋の中は見えるだけでも風邪薬に卵、ほうれん草、レンジでチンするだけで食べられる白米など、おれが本当に求めていたものばかりが入っている。

 

四番隊と仲が良いことに疑問を持つ人もいるが、おれはいつも十一番隊の隊士がお世話になる関係でよく喋るのだ。

中でも花太郎くんはお茶を淹れてくれたりお菓子を持ってきたりの持ちつ持たれつな関係で、お互い気兼ねなしに話せる貴重な友人なのである。

 

「葉月くん! 風邪を引いたって聞いて来てみたんですけど、具合はどうですか?」

「今治ったぁ……」

「だ、ダメですよ玄関で大の字に寝ちゃったら! 風邪が悪化します!」

 

ああ、常識人だ。

その喜びだけで、さっきまでの疲労やしんどさが全て吹っ飛んでしまった。その代わりに起き上がる気力も失ったようで、どれだけ花太郎くんが引っ張っても起きられない。

え? うそ、もしかして花太郎くんおれより貧弱?

……いやおれは貧弱じゃないんだけども。周りがおかしいから平均的な、平均よりちょっと馬力がない程度のおれが弱い弱い言われてるだけだけども。

 

「任せてー! よいしょ」

 

そう言ってやちるがおれのことを片手で抱える。

え? うそ、もしかしてこの幼女おれより屈強?

 

「今日、何か食べましたか?」

「いや……冷蔵庫にすぐ食べられそうなの何もなくて」

「じゃあ、ちゃんと食べないと薬も飲めないので、ちょっとキッチンお借りして卵粥作ってきますね!」

「あたしも作る!」

「ごめん……ありがと、ございます……」

 

ここぞとばかりに生き生きしている花太郎くんといつも生き生きしているやちるを見送る。

安心したら急に眠気が襲ってきたようだ。おれは賑やかな音を子守唄に、すぐに眠りに落ちた。

 

 

 

「一角、弓親! 昨日はほんとありがとうな」

 

翌日。シェフ花太郎with見習いのやちるが作ってくれた卵粥を食べてすっかり治ったおれは、助っ人を寄越してくれた二人へあいさつもそこそこにお礼を言った。

花太郎くんと仲良しなのはこの二人も知るところである。わざわざ四番隊まで行って「お見舞い行ってやってくれないか」と頼んだのだと思うと普段のアレはツンデレだったのだろう。おいおいおれのこと好きすぎか〜?

と、ニヤニヤして二人を見ていたのだが。

 

「副隊長はお気に召したみたいだね。よかったよかった」

「お前、具合悪いときは女の子に看病されたいって言ってたもんな」

「は、じゃあ助っ人って」

「副隊長だよ?」「副隊長だぞ」

「なんでおれが喜ぶと思ったの!?」




ワク×2チン×2のおかげで数年ぶりに8度出て死ぬかと思ったので。
今更タウンですが、この世界線の瀞霊廷には電話もケーキ屋もメイド喫茶もあります。改めてご了承ください。


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第二十話:総隊長は食べさせたい

「総隊長こんにちはー」

「おお来たな」

「ヒーなんか問題でs……おれなんかやっちゃいました?」

「わざわざなろう小説のテンプレートに言い換えずともよい」

 

一番隊隊舎。なぜかおれにとっては結構お世話になる場所である。もちろんおれが頻繁に悪いことをしているというわけではなく、隊首会や書類提出、他の隊士の書類不備などのせいである。

そして、今日は総隊長にしては珍しく「昼食後でいいから一番隊隊舎に来い」という緩めの呼び出しだった。普段なら「早く来いとにかく来い今すぐ来い」なのに。なので少しならふざけてもいいと思っての発言だったのだが……まさか総隊長が素人の書いたネット小説を読み込んでいたなんて。

 

それから総隊長は咳払いをして、おれに向き直した。ふざけた空気から真面目な空気に切り替わる瞬間である。

 

「実はの……とその前に、儂のことをおじいちゃんと呼んでみてくれんかの?

 

未だふざけた空気だった。

 

「エッ……やまじい?」

「誰がそんな色ボケ弟子のような呼び方をしろと言った」

「沸点が海抜じゃねえか!!!」

 

こちらもふざけねば不作法かと思ってふざけ返したのに刀を向けられた。総隊長ともあろう人がこんなことで刀を人に向けないでほしい。

それにしても京楽隊長、なんでこんな嫌がられてるんだろう……。

 

「よいか? 『おじいちゃん』じゃ」

「いやいやなんでですか」

「『おじいちゃん』」

「お、おじいちゃん……」

 

向けられた刀と総隊長の表情、そして霊圧に負けておじいちゃんと呼んでしまった。我が家は先祖代々女系なので祖父のことはおじいちゃん、祖母のことは当主様あるいは御隠居様と呼んでいたのを思い出す。

おれが祖母のことをおばあちゃんと呼ぶたびに姉さんや母さんからしばかれまくったおかげで、祖父母の住んでいるエリアにはほとんど遊びに行かなくなったものだ。

 

「儂の弟子はマセガキと人生5周目しかおらんかったからの……。お主はずっと孫々しくあってくれ。はいお茶とお菓子、好きなだけ食べるんじゃぞ」

 

痛し懐かしの記憶に想いを馳せていたのだが、気づいたら目の前にありとあらゆるお菓子と総隊長が淹れたであろうお茶が出されていた。何?

わけもわからずとりあえずお菓子を食べてお茶を飲むと、満足そうに頷いてまたお茶を出した。

 

お菓子を食べお茶を飲んでは新しいのを出され、を繰り返すこと5回。浮竹隊長でもこんなには出さないくらいのお菓子を食べて普通に満腹になってしまったころ、やっと総隊長が口を開いた。

 

「さて本題に移ろう」

「エーン怖い怖い怖い! なんだったのこれ!? 儀式!? 儀式なの!?!?」

 

 

 

「実は、お主が始解できるとの噂が出回っとるんじゃ」

「どこでそれおれがぁ〜〜???んなわけないじゃないですかぁ〜〜〜〜

「それでよく誤魔化せると思ったもんじゃな。そこだけは評価してやる」

「できればはちゃめちゃの激務をこなしていることについて評価をしてほしいんですけど……。で、もし万が一いや絶対あり得ないけどどこかの世界線でおれがまさか始解を使えるかもしれないことで何かあるんですか?」

「誤魔化すのを諦めなさすぎじゃろ」

 

思いもよらない方向から攻撃を受けて動揺してしまった。あんなわけのわからん始解を見せたら厄介なことになるに違いないから隠せと弓親に言われているのだ。

そうでなくても他人には知られたくない。絶対涅隊長に目つけられる未来が8Kの高画質で見える。

 

「始解ができるということでな、席官になってはどうかと思っての」

「席官?」

「ひとまずは二十席から挑戦してみんか?」

「ホ〜〜〜?? やってやろうじゃないですか!」

 

席官になれるなら話は別だ。給料が上がるし、何より『十一番隊最弱』の汚名を払拭できる。高槻葉月は雑魚ではないと瀞霊廷に知らしめるのだ。

 

「よしよし。ならば二十席のモブヶ崎を呼んでくるとしよう」

「へ? なんで?」

「決闘してもらうからじゃが?」

「知らない間にデスゲームに巻き込まれそうになっているんですが?」

「席官になるには元いた席官を倒さねばならんことを知らんかったとは言わんじゃろうな」

「知らんかっ総隊長直々のグーパン!!!

 

老いを感じさせない俊敏さで放たれるグーをなんとか避ける。

おれが避けられるレベルなのだから当てるつもりはない手加減されたものだとは思うが、元々おれがいた場所を見るとミシとかパラとか言っていて逃げなければ軽い怪我ではすまなかったことが伺える。

 

「まあ一回くらい経験しておくがよい。負けても命までは取られんじゃろう」

「ほんとですか……?」

「ああそうかそういえば十一番隊じゃったな。……大丈夫じゃ、50%ならばSRを引くよりもたやすい

「五分五分ってことじゃねえか!!」

 

 

 

後日、更木隊長立ち合いのもと、モブヶ崎二十席と俺こと高槻葉月書記の試合が行われた。

もちろん負けた。




連載する前の構想段階では、主人公は十二席くらいになる予定でした。そりゃ無理だよお前……。


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第二十一話:書記探すの面倒だからできるだけ死なないでほしい

「よお」

「ホギャラパ!?!?」

 

場所は十一番隊隊舎の隊首室。おれはいつも通り仕事をしており、そして隊長もいつも通り部屋で何やらしているときだった。

いつも通りでなかったのは隊長がおれに話しかけてきたことだ。普段おれの存在なんかお構いなしに昼寝をしたりなんだりしているのに急に声をかけるもんだから、驚きすぎて人生で使うどころか聞く機会もない言葉が口から出た。

 

「葉月、飯食いに行くぞ」

「へ? え、おれも一緒にってことですか……?」

「ああ、俺の奢りだ

「行きます」

 

そんなに食事を共にしたことがないので何かやらかしたのかとビビるが、全てのビビリは奢りの前では意味を成さなくなるので全力で奢られることにした。後輩の仕事は気持ちよく奢らせることなんだ。これは仕事なんだ。

 

 

「あの、あの、多くないですか?」

「食わねェから細ェんだよ、もっとデカくなれ」

「いや食えない食えない! 一般男子には食えない量ですよそれ!?」

「そして強くなれ、俺と手合わせできるくらいに」

「無茶だ!」

 

連れて行かれた先は、どうやら行きつけらしい焼肉屋だった。

そしてめちゃくちゃ目の前に肉を置かれる。それはもうめっちゃ置かれる。焼き方とか全然気にしていないらしく半分生そうなやつもカリッカリのやつも置かれる。既にいつも食べる量の1.5倍は食べているかもしれない。

 

「あのね、剣ちゃんはね、はづちーに死んでほしくないんだよ」

「やち、え、どこから!?」

「ずっとここにいたよ?」

「まじかよ……。それで、おれに死んでほしくないって……何? おれ、そろそろ死ぬの?」

「あ? 死ぬのか」

「いや隊長が……じゃなくてやちるがそんなことを」

「ちがうの! はづちーは弱っちいから、ケンカに巻き込まれたりわんわんに吠えられたりしたらすぐ死んじゃうの!

「たしかにな」

「犬に吠えられただけでは流石に死なねえよ!!」

「そうなの?」

「そうなのか?」

「おれが間違ってるのかなあ!?」

 

二人してきょとんとした顔をするな。

どこからともなく現れた幼女と強面(というか怖い)お兄さんが同じ種類の顔をしても似ないもんなんだなあ。

 

「……まあ、そりゃ隊長から見れば弱っちいかもしんないですけど、こう見えても結構図太くて運いい方なんで! なんだかんだ生き抜いてみせますよ」

「おう。十一番隊隊士が簡単にくたばんじゃねェぞ」

「はい。ご心配ありがとうございます」

 

どうしようもない戦闘狂だけど、隊長なだけあって器は大きいんだよな。ただただ怖いという認識を改めなきゃ『一生隊長について行きます!』って人たちに怒られそうだ。

 

 

 

「強くなったか?」

「なってません」

「試しに斬り合ってみようぜ」

しませんよ! 瞬きの余地もなく一方的に斬られて死んじゃうでしょ!?」

「わかんねえだろやってみねェと。トライアンドエラーってやつだ

「エラーしても繰り返せないことをトライしないで!! やっぱこの人ただの戦闘狂だよ!」




メモに「更木剣八常識人説を唱えてるわけじゃないんです。ただ自ら望んで戦闘に参加する人以外が死ぬのは本意じゃないと思うかもしれないだけなんです。いやそれも違う、全ての自分の解釈が解釈違いだ!!」って書いてありました。多分眠いときに書いたんだと思います。


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第二十二・二十三話:得手不得手+α

字数制限の敗北者たち。


第二十二話:美しくないからねしかたないね。

 

「ドビャラボハーーッッ」

「オ゛アギョババババ」

「万国奇声博覧会?」

「「ちッッげーーーーよ!!」」

 

某日。おれと一角は同時に奇声をあげ、ちょうど現れた弓親に冷たい目を向けられていた。

違う違う違う。誤解だ。奇声をあげるのが趣味なわけでも、弓親に冷たい目で見られるのが趣味なわけでもない。おれたちがこんなことになっているのには理由がある。

 

「ワッうごいうごうごううごい動いたたた」

「……ああ、『アレ』?」

 

弓親がそう言いながら指差したのは部屋の隅。そこには、『アレ』としか言いようのない……黒い、あの……あいつ。もう描写したくない、見たくもない『アレ』がいるのだ。

 

「そうなんだよ、さっきからずっと部屋を占拠してて」

「このハゲが役に立たなくて困ってたんだ」

「こんなの俺が出るまでもねえ。雑用の仕事だって言ってんのにこの雑魚が働かねえんだよ」

うわー、どうでもいいよ(ふーん、大変だったね)

「せめてルビと元の文章逆にして!?」

 

弓親の目がますます冷たいものになる。ねえそれ『アレ』を見たときの目じゃない? 違う? 同じ扱いは流石に嫌なんだけど。

 

「はあ……。えい

「「……え?」」

「これでいいでしょ、うわー気持ち悪い」

 

クソデカため息を吐いた瞬間、この野郎おれたちの大変さを1ミリも理解しないなんてと一角にどついてもらおうと思っていたのだが。

弓親はそこら辺にあった雑誌を丸めて『アレ』めがけ振りかぶり、見事に振り抜いた。しかもその雑誌に上手に包んでぽいっとゴミ箱に捨てたのだ。

 

「ゆ、弓親……結婚してくれ

「愛してる、一生一緒にいよう」

「うわー気持ち悪い、『アレ』と同じところに送りつけるよ

「なんて酷い!」

「地獄とかそんなレベルじゃねえだろそれ!!」

 

 

 

 

 

第二十三話:そりゃ鍛えてるからよ

 

「ねえ」

「ヒュッ」

「え?」

 

ねえ、の言葉と同時に脇腹に衝撃。痛いとかではなく、ただくすぐったい。しかし、加害者の弓親的にはピンと来てないようだ。人の苦しみを理解できない子に育てた覚えはないのだが。

 

「や……めろよびっくりするだろうが!!!!」

「そんなに強くつついてないんだけど……?」

「くすぐったいんだよ!!」

「ええ……もしかして葉月くすぐったがりなの? 肌まで弱いんだ、可哀想……

「えい」

「ヒュッ」

 

生意気なことしか言わない弓親にハンムラビると、さっきのおれのように息を呑んだ。もちろん力加減は緩め、ほとんど当たるだけなので痛いはずはない。

 

「いやお前も弱いんじゃん!?!? くすぐったがりの分際でよく可哀想とか言えたな」

「違うんだよ。僕はくすぐったがりだけど強くて美しい。対して葉月は弱くてフツメンな上にくすぐったがり。ね?

「ね? じゃねえわ!! ケンカ売ってんのか!」

「たまには一角ポジションを僕が受け持つのも一興かと思って」

「何そのマンネリ防止みたいな言い方! ……え、もしかしてマンネリなの? やちると今度また面白いやつ考えないとな」

「なんの話してんだお前ら」

 

早速やちるを呼んで、一角の寝床に木刀を一本ずつジェンガスタイルで忍ばせて何本で気づくかの遊びを提案しよう。そう意気込んで席を立ったとき、後ろからまたしても何も知らない一角が現れた。

 

「一角! 今弓親がさ──」

「えい」

「あ?」

「ワッッッ」

 

弓親が一角の脇腹に容赦なくつんってした。見るだけでもくすぐったくて身体が二つ折りになってしまう。

しかし、当の本人はよくわからんと言ったふうに首を捻った。こいつ、全然効いてねえ! 加害者側であるはずの弓親までちょっとうっとなってるのに!?

いやなんでお前がダメージ受けてるんだよ。

 

「今なんかしたか? 鬼道とかか?」

「……つまらないの」

「急に脇腹攻撃されてため息吐かれるってどういう状況だよ……」

「もしかしてお前脇腹くすぐったくねえの……?」

「いや別に……。何? お前らダメなのかよダッセ

「「絶対に殺す」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く関係ない第閑話:身構えているときには、死神は来ないものだ

 

「虚は危険な存在だ。瀞霊廷の秩序を乱すものだ」

「そうだね、葉月。(一角)は変わるよ。変えてみせるよ」

「(虚退治)やってみせろよ、一角!」

「(一角ほどの強さなら一人でも)何とでもなるはずだ!」

「(瀞霊廷内に)虚だと!?」

 

鳴 ら な い 言 葉 を も う 一 度 描 い て

 

「逃がすかァ!」

「やっちゃいなよ、そんな(大虚の)偽物なんか!」

「一角・斑目エリン……」

(ホロウ)を抱え込んでいるんだ、色々とな!」

「厄介なものだな、虚というのは」

「(虚になる前から悪行を重ねていると)ここからが地獄(行き)だぞ!」

 

──ツルピカの一角──




Q. 評価のバーが赤くなって初めて投稿する話がGと暴言とパクリって恥ずかしくないんですか?
A. いつから今まで恥ずかしくなかったと錯覚していた?


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第二十四話:VS変態仮面泥棒野郎(前編)

多分次話まで続きます。


おれがいつものように隊首会に参加したある日。大抵の場合ちょっとした注意(「建物を壊すな」「無闇に施設を破壊するな」「掃除だけで喧嘩になって壁などにヒビを入れるな」など)しかないのに、この日は珍しい類の注意喚起をされた。

 

「最近、瀞霊廷内で盗難事件が多発しておる。各隊でも犯人逮捕に尽力するように」

 

曰く、下着だけを盗む泥棒がいるらしい。それも下着を頭に被ってである。

目撃された下着は女性用のパンツからなんと男性用のトランクスまで。犯人は幅広いご趣味をお持ちのようだ。

……しかもそれが死覇装を着ての犯行。

これでは死神みんなが男女問わない下着を被って悪事をはたらく集団というとんでもない風評被害が広がってしまう。全く迷惑極まりない話だ。

 

しかし、おれに言われても……というのが本音だ。

なぜならおれはそういう純粋な犯罪に一度も巻き込まれたことがないからである。もうびっくりするくらい縁がない。学生時代の全員危険ドラッグや万引きの勧誘に遭っているのに、おれだけかすりもしなかった。

宗教勧誘と美人局は両手で数えられないくらいあるが、何が違うのだろう。バカですぐバレるからでは断じてない。

 

「……え」

 

十一番隊隊舎に戻るまでの探検と称していつも違う道を通って帰っているのだが、その道中細い路地で──例の下着をつけた男が三人集まって何か話していたのだ。

いやいやいやいや、こんなすぐフラグ回収する!? 考えててちょっとフラグっぽいなとは思ってたけど!

というか変態仮面犯罪者野郎、複数いんのかよ! いやそりゃそうか。被害はかなりの数出てるらしいし、逆に一人だと忙しすぎるもんな。

 

「でよ、新しく入りたいやついるんだってさ」

「またか、すごい人気だな。ちゃんと手紙のことは説明しろよ?」

「したした。『闇鍋にはシュークリーム』って書いてハートのシールで封をして、それから○○○のポストに入れるんだよな?」

「バッカ聞こえたらどうすんだよ。合ってるけどさ」

「いやーちょっと不安になって。ま、こんなとこ誰も通らねえから大丈夫だろ」

「それもそうだな。じゃあ俺はこれから仕事あるから」

「おー、じゃあな」

 

男二人はそう言ってそれぞれ用事のある方向に歩き去っていった。……下着を頭に被ったまま。

………………ツッコミどころが多すぎて、危うく大声でツッコんでしまいそうだった。口を押さえててよかった……。

 

 

 

「ってことがあったんだ」

「急に部屋に入ってきてそう言われても微塵もわかんねえからな?」

 

伝わらなかった。

仕方がないから一部始終を説明すると、流石の一角と弓親も真剣な表情になった。

やはり、犯罪をするような心の弱いやつに対しては食指は動かないらしい。これが『表でたくさん筋骨隆々な男どもがめちゃくちゃの喧嘩してる』ならウキウキで駆けつけたんだろうけど。

 

そしておれたちは、十一番隊隊士としては珍しく作戦会議を開き、結局おれが手紙を出して潜入、一角と弓親が壊滅に追い込むということになったのだった。

 

 

 

おまけ

「結構な人数いるみたいだからなんか作戦立てるぞ」

「そうだね。僕たちがいかに強いといっても、複数人を蹴散らすのは面倒だし」

「じゃあわかった。まず、葉月が手紙を出すだろ?」

「……聞くだけ聞こう」

「それで葉月が潜入して」

「ほうほう」

「葉月がなんとかする」

「バカは今すぐ口を閉じろ作戦会議に口出すな!!!」




私から読者の皆様へのクリスマスプレゼントは変態仮面泥棒野郎です。
次話もしかしたら来年になるかもしれないので、そのときはクリスマスと新年を変態仮面泥棒野郎でオセロして良い年にしましょう。


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第二十五話:VS変態仮面泥棒野郎(後編)

前回の続きです。今回で終わり。


「ここでいいんだよな?」

 

おれたちがこそこそ隠れて見ているのは、変態窃盗集団が言っていたポスト。そこに『闇鍋にはシュークリーム』と書きハートのシールで封をした手紙を出せば、あの組織に入団できるという話だ。

無論おれもくっだらねえなと思いながらも懐に手紙を用意してあるが、どうやら先客がいるらしい。

4……いや、6人くらいいるだろうか。全員が全員パンツを頭に着用した前衛的な服装である。そんな人たちが門番のようにポストの周囲を巡回しているのだが、逆に目立つからやめたほうがいい気がするのはおれだけなのか。

 

「よし、じゃあ手紙出してこい」

「無理だわ状況見ろ」

「姿を隠して渡せる方法があればいいんだけど」

「そんなまどろっこしいことせず正面突破しようぜ」

「うん、やっぱり正面突破だよね」

 

脳筋たちは頭を回転させることなく適当なことを言い合っている。

君たち、おれの背中を尋常じゃない力でぐいぐい押してくるけどね。君たちならまだしも常識的なおれに正面突破ができると思うのかい?

……そして、この策士・高槻葉月に策がないと思うのかい?

 

「いいや、ある! 姿を隠して手紙を渡す方法が……!」

「「なに!?」」

「はーっはっはっは! 頭が残念な君たちと違って、おれは曲光を使えるのだよ!」

「なん……だと……!? お前でも鬼道使えたんだな……

鬼道すら使えない系雑魚なのかと思ってた、ごめんね」

「謝る気ねーだろ!!」

 

なんだったらおれが一番鬼道が使えると言っても過言ではない。なぜなら十一番隊隊士はほとんどみんな、鬼道を使うやつはダサいと鬼道を全く使わないからである。

使わなければ忘れていく。鬼道は特にイメージが重要となるものだから、学生時代が一番近いという点から見ても鬼道に関してはおれが実質一番優秀だということだ。……戦闘の現場に出たことはないので例外はいるかもしれないが、そんなのは無視だ無視。

 

「そんで、詠唱覚えてんのか?」

「んなわけないだろ」

「じゃあどうすんのさ」

「ハ〜〜〜〜これだから老害どもは! 時代は既にオンライン。おれの入る一年前から、鬼道の詠唱内容は学校のホームページで生徒向けに公開されてんだよ!」

「へー、すごいね」

「そんなことになったのか……」

「ん?」

「どうしたの?」

「生徒にしか見えないようになってんだこれヤッベ」

「とっとと教科書取ってこいアホ!」

「ごめんなさい行ってきまーす!」

 

 

 

少々の手違いはあったものの、誰にもバレずに手紙を出すことは成功した。

さて、潜入はここから。いつものヘアピンを外し、髪型を大きく変える。死覇装をちゃんと着込み眼鏡までつければ、普段のおれしか知らないやつなら全員騙せるはずだ。

まずは指定場所にいるパンツ装備の男に話しかける。

 

「はじめまして! 四番隊の──」

「あー、名前はいいよ。個人情報はなるべく明かさないのがうちの流儀だから」

「そ、そうなんですね! すみませんでした、よろしくお願いします」

「はいはいよろしくー。つか四番隊なんだ、ぽいわ

「そ゛……そう、ですか?」

「めっちゃぽい。俺は十一番隊なー。いいだろ、三席とか五席とか有名人だからさぁ」

「あ、えっと、書記もいますよね! なんでも書記は十一番隊にしかいないとか」

「あーあのヒョロいやつ? でも正直優遇されててムカつくし顔もパッとしねえよな

「な゛ん゛だとそうですよね!

 

いくら温厚なおれでも許せない。あんな仕事量で優遇だと? 一度やってみろあれを! お前も十一番隊ならおれのありがたみを感じるべきなのだ。

パッとしないと言うのがパッとしすぎなやつというところも腹の立つ原因である。

 

「そういやなんか質問ある? わかる範囲なら答えるけど」

「あ、ならこの集団のトップが誰か知りたいですけど……教えてもらえるものなんですかね?」

「実はね……俺なの」

「えっ」

「パンツって、素敵じゃん」

「そー……う、ですかね」

「うん。俺は特に、柄が凝ってる女性用のパンツが好きなんだけどさ。ああいうのってもう芸術作品じゃん? それを日常的に、しかも服で隠れるところに着用するエロさがたまらないんだよ。脱がす前提で履いてるみたいなもんだろ? ありえないよな……。でもシンプルなのはシンプルなので見られることを考えてない気の抜けた隙だらけなエロさもあるし、甲乙つけがたいけどさ」

「はあ……」

「お前はどんなのが好き?」

「え、っとお……あの、紐ついたやつとかですかね……?」

「うっわベタだなあ。ま、これから素晴らしさを知っていけばいいよ」

 

おれには到底理解できない熱い語りを聞いていると、持っている端末に通知が来た。どうやらLINEに何か来たらしい。

 

『紐パンw』

『経験値ないのが丸わかりだね、かわいそうに』

 

「うるせえよ!」

「あ? 何が?」

「あいやなんでもないです!」

「んじゃ、斬っていい?

「は!?!?」

「『は?』じゃなくて。俺の斬魄刀で斬っていい?」

「な、なんで!?」

「いや、俺の斬魄刀で斬ったらその人の理想のパンツが現れるから」

「理想のパンツが現れる!?!?」

「始解の効果な。そろそろ卍解習得してもいいころなんだけどなー」

「へ、へえ……人それぞれ効果が全然違うんですねぇ……」

「というか知らないって、持参してる感じ?」

「持参OKなんだ!?」

「ま、来週の会議のときまでに用意してくれたらいいから。頼むよ新人くん」

「アッハイ……」

 

こうして衝撃の事実を知ったおれは、トップの人とLINE交換して解散した。アイコンもパンツだった。

 

 

 

さて。

日は変わって本日、変態組織のメンバーが全員集まる会議の日である。LINEグループに入っているのは42名。これを全員摘発するのがおれたちの目標だ。

まずはおれが入る。そして動揺して逃げ惑うところを一角と弓親がボコす。完璧な作戦である。

大きく深呼吸し、緊張をほぐす。大丈夫だ。おれは大丈夫。よし。

 

「動くな! 変態仮面ども!!」

「十一番隊書記!? 貴様どうやってここを!」

「いや慌てるな。噂によるとこいつはどうしようもない雑魚らしいじゃないか」

「ハッ、その雑魚にまんまと侵入を許してるのはどこのどなたかないや雑魚じゃねえわ!! 平均だわ!

「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ! 相手は雑魚一人なんだ、とっととやっちまえ!!」

「だっから雑魚言うな!!」

「ごめんね、雑魚一人じゃなくて」

 

おれにとってだけでなく、大抵の人にとっても聞き馴染みのある声が響く。おれの後ろには弓親、もう一つの出入り口のおれがいない方には一角。

二人とも刀を抜いて構えた状態だ。

 

「テメェらも弱そうだなァ? こりゃ5分でカタつきそうだぜ」

「へ、おせーよ二人とも。……今、テメェら『も』って言ったか!?

「斑目三席と綾瀬川五席!?」

「あばよ、変態ども」

 

 

 

こうして、瀞霊廷を震撼させた変態軍団は解散。団員たちはその行いに合わせた程度の罰を食らった。そしておれたちはというと。

 

「いやだから違うんすって!」

「必要な犠牲だったんですよ」

「だからといって、建物一つ粉々に壊した罰は受けてもらわなければならぬ」

「だとしてもおれは関係ないでしょ!?」

「いやあれはお前の案だから、何だったらお前が一番関係あるぞ」

「ハア!? ふざけんなこんなやつのこと聞いちゃダメっすよ!」

「よくわかった。三人を当分の間減給処分とする!」

「結局こんなオチかよチクショーーーー!!」




間に合った! 良いお年を!


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第二十六話:新年! 飲み会! 野球拳!

私は死神である。名前は藍染惣右介。

今日は新年会と称したただの飲み会に参加する予定がある。時間があるのならば稽古でもすれば良いものを、なぜ酒を飲みぐだぐだと無益な話をし続けるのだろう。

しかし私にも付き合いというものがある。悟られないようにため息を一つ吐いて会場へと向かった。

 

「「アウトォ! セーフ! よよいのよい!!」」

 

そこには地獄が広がっていた。

否。正確には、その地獄は広がってはいなかった。ただ会場の一角で男二人がじゃんけんをしているだけだ。ごく普通のじゃんけんである。

……その両者がどちらも下着と靴下だけしか着用していない以外は。

私にも野球拳の知識くらいはある。じゃんけんに負けると服を一枚脱ぐというごく単純でごく下品な遊びだ。学生時代に一度巻き込まれたので覚えている。

しかしそんな子供の遊びをなぜ、綾瀬川五席と高槻書記が……?

斑目三席に至っては、既にパンツ一丁に剥かれて傍から他の観戦者たちと一緒になってヤジを飛ばしている。

学校でも死神になってからも大抵のことは一を聞いて十を知っていたが、珍しく──もしかすると初めて脳内を『なぜ?』が埋め尽くした。脳が理解を拒んだと言っても過言ではない。どころか少しマイルドな表現をしている。

 

「そのオシャレな靴下を脱いで、恥ずかしい姿になってもらうぜ弓親!」

(既にお互いパンツと靴下の変態コーデになっているのは恥ずかしくないのか)

「フン、受けて立とうじゃないか葉月。返り討ちにされる覚悟はできてる?」

(なぜこちらはこちらでそんな姿でキメ顔ができるんだ)

 

そして何度かのあいこののち、決着はついたらしい。勝者は高槻書記。

綾瀬川五席のほうは、それはもう恥ずかしそうに靴下を脱いでいた。そういう価値観のもとで育ったのだろうか。わからないがわからなくてよい事柄だ。

 

「あ、藍染たいちょー! いいところに」

 

脳内でツッコみつつ、なるべく見つからないように大声を出さず女性陣側に座ろうとしたが時すでに遅し。高槻書記(バカ)に見つかってしまった。周囲から憐れみの視線を感じる。

かくいう私も相手の次の言葉の予想ができてしまう。

 

「次、隊長対戦しましょうよ!」

「いや……僕はまだ来たばかりでお腹空いてるから」

「そっか、これとかオススメですよ!」

「あ、ああ。ありがとう」

 

パンツと靴下だけの変態大歓喜コーデで唐揚げを勧められてもさてそれを食べようとは思えないが、とりあえず愛想笑いだけはしておく。

やっと彼の意識を野球拳から逸らせたと思っていたら、彼は私の目の前に腰を落ち着けた。

……全く高槻書記が動く気配がしない。飽きることなく変態コーデのままでこちらをじっと見つめている。この男、おすすめしたものを私が食べるのを待っているのか?

 

「高槻くん、は……服を着ないのかい? 冬だし暖かくしたほうがいいよ」

「あ、大丈夫です! ここあったかいんで!」

 

違うそうじゃない。「大丈夫です!」がほしかったんじゃない。なぜその格好をしておいて、自分のことを心配していると思えるんだ? その格好をしているからか。

馬鹿に見えて十一番隊隊士にしては空気が読めると評価していたのだが、私が間違っていたのだろうか。

 

「隊長こそ、全然食べてないけど大丈夫ですか?」

「ああ、うん……。僕は大丈夫だけど見られていると食べづらいかな?」

「じゃあ先に野球拳しましょう!」

「君少しは野球拳から離れなさい」

「無理っすよォ、葉月は酔うと野球拳魔になるんで」

 

なんだその頭悪そうな酔い方。斬魄刀でその穢れを(すす)いだほうがいいんじゃないのか?

教えてくれた斑目三席は斑目三席で、台詞だけ見ると『仕方ない感』しか感じないが口調は満更でもない様子だ。この男もまさか例の『野球拳魔』というやつなのだろうか。

……ダメだ、ここにいるとひたすらIQが下がる。やはりこんなところに来るものではなかったな。

 

「すまない。少し調子が悪いようだから、今日はこの辺で帰らせてもらうよ」

「あ、お疲れ様でーす!」

「お大事にー」

「ここを通りたければ野球拳でおれに勝つんですね!」

「だから君は!! 野球拳から離れなさいって!!!」

 

周りに挨拶を返している間に回り込んだのか、一つしかない出入り口を塞がれた。くっ、この場から出るにはどうしてもこの男を野球拳で倒すしかないのか……!

しかし、私はもうここにはいたくない。そもそもこういう無意味な時間が嫌いなのだ。

だから私は、戦って勝つ道を選ぶ。

 

「このラッキーマンと呼ばれたおれに勝てるかな?」

「自称ラッキーマンの割には二人相手に装甲をかなり削られているようだけどね」

「ハンデですよ。このくらい追い詰められた状況でこそおれの真の強さが発揮されるんです」

「では尋常に……アウト! セーフ! よよいのよい!!

 

 

 

数時間後、私は自室にいた。

高槻書記改め野球拳魔には一回で勝った。とんでもない肩透かしである。

……私もあんなにはっちゃけられたら、楽になれるのだろうか。そんな気持ちを押し流すように酒をあおった。




あけおめございます。
中学のときには野球拳の面白さがわからなかったのですが、高校〜大学でやっとわかりました。服を脱ぐというアクションがそも面白くないですか?
とか言って野球拳したことはないし酒も味苦手で酔うほど飲んだことないので、野球拳・飲み会エアプでこの作品を書きましたことをここに謝罪させていただきます。

(主人公の身長・体重をサイレント修正しました。弓親が記憶より軽かったので……)


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隊長格+αからの主人公の評価・印象

総隊長

ザ・孫な振る舞い方で好印象だが問題を起こしがち、巻き込まれがちの問題児。チョロいから面倒なことを頼みやすくて助かる。

 

砕蜂

なぜ隊首会にいるんだ、こんな失礼で弱そうなやつが……。まあいいけど……。

大前田

そこまで接点はない。自分より隊長からの扱いが若干良いのが理解できない。

 

市丸

おもろいやつ。藍染さんが被害に遭えばもっと愉快。

吉良

実は仲良し。いつメン(一角・弓親)といるときより穏やかで仕事の話もできる。一緒に遊んだり仕事したりする。

 

卯ノ花

十一番隊隊士がよくうちで暴れるのでとっとと回収してほしい。本人には別になんの感情もない。やちると一緒に遊んでる人ですよね?

勇音

チャラ男そうで苦手。よく怖い言葉使ってるし……。

 

藍染

何をしでかすかわからんから観察対象になりがち。何を考えてるんだお前は。深読みする期とただのバカかもしれない期が2:8の割合である。

雛森

接点はほとんどなく、声がでかいし罵声多くてちょっと怖い。喋ろうと思えば喋れるけど……。

 

白哉

接すると鬱陶しいが、見てる分には面白い。お菓子をあげれば黙るのでやちるに拒否された自作菓子をよくあげている。やちると同類だと思ってる。

恋次

ノリが合う。テキトーに話してもテキトーに返される雑さが良い。それはそれとしてなぜ一角や弓親とタメ口であんな砕けて喋ってるんだ? そういえば席官じゃないじゃん。

 

狛村

元気があってよろしい。が、できればやちると一緒になって撫でるのはやめてほしい。デカくて怖がられがちなので仲良くしてもらって助かる。

射場

普通にいいやつだし面白いとは思うが、隊長を撫でるのを今すぐやめろ。そしてやちるを始め女性とも繋がりがあるので、男性死神協会に入って女性死神協会との橋渡しになってほしい。

 

京楽

元気な若者を見るのは楽しい。若いうちに女遊びもしたほうがいいよ!

七緒

礼儀とかはアレだけど仕事はしてるからまあいいか。やちると同類だと思ってる。

 

東仙

未だになんで隊長しかいないはずの会議に出席してるのかわからない。

檜佐木

書記は珍しいのでネタになりやすくて助かる。若者の文化を教えてもらうことも。でも誤った情報を渡されることもある。

 

日番谷

失礼オブザイヤー金賞。でも嫌いになる感じでもない、そんな雰囲気が副官そっくり。もう見た目と実年齢と席次の関係をわかってもらうのは諦めた。

乱菊

また面白い若者が出てきてニッコリ。酒のつまみに面白エピソードを聞く。何気にかわし方が上手く、被害を受けたことがない。

 

マユリ

失礼なので即座に実験台にしてやりたい。うちの書類仕事も手伝ってるからまだ許す。それはそれとしてうちのネムに変なことを教えないでくれるかネ?

ネム

仲は良いほう。でも一緒に遊ぶほどではない不思議な関係。いえーいって言われて真顔でいえーいって返すのが最近の2人のトレンド。

 

浮竹

食べっぷりがよくて喜んでくれるので、お菓子のあげがいがある。元気があってよろしい! でも怪我には気をつけるんだよ。

仙太郎・清音

繊細な隊長の周りで騒ぐな。個人的には明るくていいやつだとは思ってる。

ルキア

接点がない。なんか十一番隊のヒョロくて声がでかいやつ、くらい。




イマサラタウンだけどこんな感じ。
頻繁に書類届けに駆け回る姿とか見るのでみんななんとなくは知ってると思います。
この作品の主人公高槻葉月は、強い言葉を使うので弱く見えるし実際強くはないタイプ。一人称「おれ」、絶妙に弱そうで軟派な感じを表してて気に入ってます。


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第没話:姉、あるいはガキ大将

「さっきお前に来客があったぞ」

「え、誰?」

「なんかねー、きれいな人だった!」

「髪は亜麻色の長髪で、背が高くて……あと上質そうな着物を着てたかな」

「……おれは不在ですのでお帰りいただくようお伝えください」

「そう言うと思って」

「既にこちらへ招いております」

「アホーーーーーッッッッッッ!!!!」

 

亜麻色の長い髪をもち背が高く上等な着物を着こなす美人の女性。その挙げられた特徴全てに覚えがある。

冷や汗が止まらないし、口が思うように回らない。なんとか逃げねば、一度戦略的撤退を行って体勢を立て直さなければ。そう思うのに動けない。

なぜなら、おれの肩にぽんと手が乗ったのだ。振り向かなくてもわかる、この人は──!

 

「あ……ね、姉さ、ん」

「あら、これから用でもあるの?」

私より優先させるべき用が?

 

 

 

高槻蓮華(たかつきれんげ)。おれの姉であり高槻家次期当主だ。

容姿は身内の贔屓目を引いても美人だが(おれの女版をもっと綺麗にした感じだ)、その性格はまさしく女王様。当主たるもの強くなくてはと武道にも長け頭も切れる才色兼備なのを打ち消すほどの唯我独尊っぷりだ。

しかし、姉さんは一応TPOを弁えて振る舞う賢い人でもある。今日はきっとそろそろ一度帰ってこいと言いに来たんだろうし、用事を済ませたら何も火種を撒くことなくさっさと帰ってくれるはずだ。

 

「ごめんなさいねうちの愚弟が。この子気が利かない上に空気も読めなくて……迷惑ばかりかけてるでしょ」

「いえいえ。葉月さんにはいつも助けられてます」

「やめてよ姉さん、そんなこと言いに来たわけじゃないでしょ」

「は?言われたくなきゃあんたはお菓子の一つでも持ってきなさいよ愚図」

「え?」

 

空気が凍る。

ダメだ、今日の姉さんは機嫌が良い……ッ!! 久々に存分に罵れる弟に会って嬉しいんだこの特殊性癖女!

 

「あ、あはは僕は日課のヘアチェックがあるからこれで」

「何回見てもその前衛的どころか一周弱回って後衛的な髪は変わらないんだから違うことに時間を使った方がいいわよ」

「なんだァ? テメェ……」

「ナルシストがする顔じゃなくなってんぞ弓親!!」

「姉さんほんとに頼むからもう黙って!」

 

 

 

「お前の姉貴やばすぎるだろ……」

「全然違うんだよ、顔は似てんのに……」

「私が贈答用にもなれない潰れ梅のような顔だと言いたいの!?!?」

「おれそんなブサイク!?」

 

その昔学校で『残念爽やかイケメン』と呼ばれたこともあったというのに。男に。

女の子からは特に何も言われなかった。そもそも話す機会がなかった。

 

「ま、まあ、百歩譲っておれが贈答用の梅だったとしても」

「贈答用にもなれない潰れ梅よ」

「……だ、としてもッ! 姉さんだってちょっと目が切れ長なだけで、パーツは大して変わんないからね!?」

「まあ、あんたが私の下位互換であることは認めるわ。あんたの真の欠点は性格と能力だもの」

「能力はともかく性格は鏡見てから言ってほしい」

「美しく完璧な私を見たらあんたがもっと霞んで見えるじゃない」

「葉月、お前よくこの家庭で育ってそんな自己肯定力身につけたな……。いや遺伝子的には間違いなくそう育つのは理解できるが」

「姉さんは姉さんだから……」

 

言ってしまえば慣れなのだが、そもそも姉さんは許されそうな人や親しい人にしか罵詈雑言を浴びせないので、家で聞く分にはデカい猫がおれを爪研ぎにしてるようなもので大したダメージはないのだ。いや爪研ぎにされたらめちゃくちゃ痛いな……。

 

 

 

おまけ『もし姉に婚約者がいたら』

 

「俺様が許されるのは跡部景吾と私くらいのものなのよ。ねえ樺地」

「ウス」

「義兄さんも樺地に顔を寄せないで!」

「自分のこと俺様だと理解してんのか……」

「葉月の無茶振り体質は家系だったんだね」

「義兄さんはなんとも思わないの? ちゃんと嫌なことは嫌って言うんだよ?」

「うーんそうだね……。あ、できればもっと踏んでほしいな」

「あんた程度が私に指図するなんて。いい度胸だわ、踏んであげる」

「ありがとうございます!!!!」




結構初期から書き溜めてた今作主人公の姉ネタ。
なのに没にした理由は、主人公姉に言い返す人が思いつかなかったからです。基本的にこの作品では主人公がハゲって言ったら雑魚って言い返す人がいたり、おかっぱって言ったら君にはこの美的センスがわからないのか……って返す人がいたりします。それなのにこの女ときたら……。
あと主人公の掘り下げが必要な作品でもないのにオリキャラ多いのも……なので。


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第二十七話:バレンタイン=女の子を知る日

2月14日、隊舎内の一室にて。

本来は会議をする部屋なのだろう、全く使われていない様子の机と椅子に掛け、おれと一角と弓親は顔を突き合わせていた。

 

「こうして、バレンタインに悲しくも男3人集まったわけだけども……」

「男が3人集まったらやることっつったら、決まってるよなァ?」

「全くわからないけど言わなくていいよ」

「そう、心理テストだ!」

「本日はこちらの『女の子のための♡恋愛心理テスト』を使用します」

「ほらー趣味悪いドピンクの本を持ってると思ったらやっぱりー」

 

ノリノリなおれと一角とは違い、弓親はうんざりしたように机にベターっと身体を預ける。

ちなみに誤解されそうなので言っておくと、この本は誰かしらがやちるが好みそうかなと買って渡したが1ページも読まれずおれに渡ったものだ。悲しい。何よりやちる本人が誰にもらったのかも覚えてない様子なところが。

 

「死神男子たるもの、女の子の心理を知っておかなきゃいけないだろ?」

「そうだとしても、たぶんそれには書いてないよ」

「第一問、『大好きな彼のどこが好き?』……付き合ってなくてもいいらしいぞ」

「なるほど、実はおれのことが好きな女の子がおれをどう思ってるかを答えるのか」

「いや……これは恐らく女の子が男に何を求めているかを答える問題だな」

「なん……だと……」

「ハッ、だからテメェはモテねえんだよ」

 

一角の方が女の子について上手(うわて)なのはムカつくが、言う通りである。女の子は男のどこを見ているのか。そして男を見ている女の子は何を思うのか。これはそれらを知るための心理テストなのだ。

 

「じゃあいっせーのーせで言うぞ」

「ちゃんと弓親も決めたか?」

「はいはい」

「いっせーのーせ、」

「顔」「強さ」「手とか……?」

 

「今何言った? 俺ァ強さだ」

「おれ顔って言った」

「僕は手」

「「手?」」

「……で、答えは?」

「『手を選んだアナタ! アナタはちょっとむっつりな甘えん坊さん♡』」

「おい貸せ刻んでやる」

「やめ、やめろ!! 借りもんだぞこれ!」

「ナルシストでツッコミ役の綾瀬川弓親さん!?」

 

弓親がナルシストキャラとして許されない形相で女の子向けの本に斬魄刀で斬りかかろうとする。どの文節をとってもやばい。

借り物とはいえあのやちるがいらなーいポイっとこちらに渡してきたものなのでぶった斬っても構わないだろうけど……おれだってまだ最後まで読んでないからやめてほしい。

 

「ちなみに、顔って答えたら『移り気な気分屋』、強さって答えたら『何事にも一番じゃないとダメな努力家さん』らしいぞ」

「移り気な気分屋……間違ってはない」

「それ、他の答えはどう書かれてるの?例えばアキレス腱とかさ」

「アキレス腱……?」

「いや違うからね。僕が好きな部位がそうってわけではなくてね。ただの興味だから」

「書かれてねえよそんなマニアックなところ……」

「いや、あったぞ。『人とは違うところが気になる独特な美的感覚の持ち主』だとよ。まあ当たってんじゃねえか?

「いやだから僕がそうなんじゃないってば!」




登場人物の性癖、心理テストの答え、その他森羅万象は捏造です。実在する人物、団体、その他森羅万象とは一切関係ありません。


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第二十八話:高槻葉月の優雅な休日

高槻書記ことおれの朝は早いが、今日は違う。いつもなら5時には起きているところをなんと日がとっくに上った8時に起きる。

なぜなら今日は、世にも珍しいなんの心配事もない完全な休日なのだ。書類を持ち帰ってもない、十一番隊隊士が大暴れするような厄介な仕事もない、やちるは隊長と遊びに行くらしくこちらに来ることもない。なんて素晴らしいんだ。

まず、久々に朝ご飯をきちんと作る。とは言っても白米焼き魚味噌汁という日本の朝食ではない。

レタスにトマトにと野菜を洗って切って、バターを塗ったパンに挟み込む。一種類だと味気ないからバナナもチョコクリームと一緒に挟んでしまおう。あとはほうれん草とキノコを混ぜ込んだオムレツも用意する。

そして仕上げに、紅茶をティーバッグではなく茶葉から淹れる。モテそうだから飲み始めた紅茶だが、それを話したら『テメェ高槻の男なのにティーバックで紅茶を飲むたァどういうことだ?(意訳)』と実家から送りつけられたのだ。

ジャンピングとかいう謎の作法をきっちり行って、温めたカップに注ぐ。うーん、よくわかんないけどいい匂いだ。昨日はアールグレイで、今日はダージリン。違いはわからない。

朝食を食べ終えたら一休みしてから買い物に行く。もちろん服はあの死覇装ではなく普通の私服だ。お気に入りの上着を着てカバンを持ち家を出る。

 

「トマト残ってるからー……昼はカプレーゼでもしてみるか」

 

尸魂界には和食用の食材しか売っていないというのは一昔前の話。最近ではチーズやパクチーを作っているところもあるらしく、少し値は張るものの大抵のものは普通に手に入れられるのだ。

今日は行きつけのスーパーに行って、ついでに外れの方にまで足を伸ばしておやつを買い貯めとくか。まんじゅう、ドーナツ、クッキー……たまにはケーキを買ってもいいだろう。

 

 

 

スーパーでの買い物も終わり、目当ての店を見つけて喜んだ矢先。

その店周辺がやたら騒がしい。賑やか、というよりは阿鼻叫喚、と表現したほうが適切な感じの騒がしさである。先着何名さまの商品の取り合いかなんかかと適当に予測を立てたまま近づくと、原因らしきものが目につく。

 

「……なんか見覚えあるシルエットが見える気がする」

 

それは黒くてそこそこ大きくて、骸骨を模した仮面っぽいのがついている。カオナシかな?

 

「虚だー!!」

「ですよねー!」

 

店員さんが、お客様の中に死神の方はいらっしゃいませんかと叫んでいる。しかし、ここでおれが行くのはとんでもない悪手だ。

おれが弱いからではない。もちろんおれが弱いからではない。

今のおれには斬魄刀もなければ鬼道詠唱全集も持ってないのだ。所持品はチーズ、ほうれん草、鮭の切り身、鳥モモ肉、お金、マイバッグのみである。これでどうやって戦えばいいんだ!

ということでまことに残念ながら、『この中にお医者さまはいらっしゃいませんか』と言われたときのレントゲン技師のような心持ちでガン無視することにした。

はあ……。ここに、いつもは馬鹿で品のないつるりんだけどその実戦いに関しては自称クソ強いハゲがいたらなあ……。なんて馬鹿なことを考えた矢先。

 

「おらよっとォ!」

 

天高く舞い、一撃で虚をぶっ倒してみせたのは、我らが十一番隊三席斑目一角その人だった。一角はそのまま華麗に地上に着地し、周りから喝采を浴びる。

 

「い、一角!」

「あ? ……葉月じゃねえか、ンでこんなとこに」

「ちょっと買い物にな。つーか見たぞさっきの!! お前本当に強かったんだな!」

「テメェは今まで俺がこの程度の虚一体倒せない雑魚だと思ってたってか!?」

「誰が雑魚じゃ!!!」

「いやテメェのことじゃ……もしかして倒せないのか?」

「倒ッ……せ、ますがぁ?

「なんか、悪かったな……。ごめんな?」

「くそ、クソが!! 弓親に言いつけてやる!」

「言いつけたところで弓親は何もしないだろうけどな」

 

こうして、おれこと高槻葉月のなんでもないようでそうでもない休日は終わり、おれは密かに鬼道の詠唱の文言を一つくらいはきちんと覚えようと心に決めたのだった。

お菓子は買いそびれたので後日やちると十三番隊に遊びに行った。美味かった。

 

 

 

おまけ

「聞いてくれよ弓親!! 一角がちゃんと強かったんだよ! 弓親も知らなかったよなあ!?」

「知らない十一番隊隊士がいることを知らなかったんだけど……」




(紅茶をティーバッグ以外で飲んだことないし(紅茶自体苦手)、カプレーゼもパクチーも食べたことないし、虚を倒したことも)ないです。


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第二十九話:日番谷隊長先輩兄貴

おれが十一番隊隊士になってすぐ、仕事量が予想以上に多くて目を回していたころ。十番隊宛の書類を届けに行ったときの話だ。

 

隊首室の扉を開けると、そこには子供がいた。雪のように真っ白な髪、幼さを感じさせる柔らかな頬。

そしてその矮躯に纏うのは、隊長のみが着用を許可された隊長羽織。ここ、十番隊のものだ。

 

「こらこら坊や、その上着誰から借りたの? ダメだよそれは隊長しか着られないやつだから」

「殺す」

「エッ」

 

なるべく穏やかに注意したつもりが、明らかに子供が放つ量じゃない殺意に晒される。おれまた何かしちゃいました? 何って……子供に優しく注意しただけだが?

いやいや、きっと聞き間違い──殺意の放ち間違いに違いない。

 

「え……っと、た、隊長さんは不在、かな?」

「俺だが」

「そっかー、君が隊長か! ってなんでやねん!」

「ノリツッコミの振りじゃねえ!」

 

少年は見た目のわりに大人っぽい喋り方をするらしい。

……ああ、普段は大人びた振る舞いをしてるけど、たまには隊長をしてる親の羽織を着て隊長ごっこしてみたかったのかな。そりゃたしかに殺意も放つ。恥ずかしさで自死するまであるな……。

 

「……じゃあ、ここに置いておきますね、隊長」

「ああ」

「ただいま戻りましたー! ……あれ、珍しい。隊長にお客さんですか?」

「松本か。どこ行ってたんだ、書類届けるだけで時間かけすぎだぞ」

「パトロールしてたんですよ!」

 

諦めて隊長宛の書類を渡し、帰ろうとしたそのとき。扉が勢いよく開き、美女が現れた。

女性は少年と軽快に言葉を交わす。

さっきほのかにアルコール臭がしたために、『パトロール』はそう称した寄り道だとわかる。少年もそれを知っているらしいが、諦めたようにため息をついた。

 

「あ、あの……」

「初めましてよね? あたしは松本乱菊、十番隊副隊長よ」

「初めまして、十一番隊書記の高槻葉月です! 十番隊の隊長さんを探してたんですけど……」

「隊長ならいるじゃない、ここに」

「え? いやでもこの子は……その、そういう時期、ってことでしょ? だから本物の──」

「だから、ここにおわしますのが日番谷冬獅郎十番隊隊長なんだって」

 

 

 

「じゅうばんたいたいちょう!?!?!? の息子さんの間違いでは!?」

「話通じないの?」

「やっぱり拳で理解させるしかねえようだな」

「蛮族なのは十一番隊だけだと思ってたのに!!」

 

たっぷり15秒ほど言葉の処理をして、同じく15秒ほどで松本副隊長が嘘を言っていないことを理解して、ようやく驚きの声をあげる。

少年──日番谷冬獅郎十番隊隊長はおれの態度に口許をひくりと動かし、ぐーの形をとった右手に息を吹きかけるモーションをした。

 

「ていうか十一番隊はやちるいるじゃない。あの子もあの見た目で副隊長なんだからわかるでしょ」

「あれはなんかの間違いだと思ってるんですけど」

 

腕相撲の強さや走る速さも、未だにきっと何かの間違いなんだと思ってるんですけど。

それは言わなかったが、どうやら副隊長には伝わったようだ。

 

「わからなくもないけど……ま、諦めなさい」

「まじか……。はあ、本当に見た目あてになんないな」

「あてにならなくて悪かったな」

「謝ることないって。ごめんな、失礼なこと言っちゃって。若いのに大変だな……

「お前根本を理解してないようだな」




「日番谷冬獅郎の原作開始時の年齢」
我々はこの謎を探るべく、アマゾンの奥地へと向かった。そして、「二次創作だからまあええか……主人公は日番谷兄貴より年下ってことにしたろ!」という結論に至った。主人公はわりと早くに真央霊術院入ったってことで……ナニトゾ!

アンケート、作ってみたのでボタン押したい兄貴姉貴はどうぞ。


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第三十話:犬はデカければデカいほどいい

久々の完全オフな日に、おれは毎日オフにしか見えない十一番隊副隊長ことやちるとぶらぶら歩いていた。

仕事はないし、必要な買い物もない。服もこないだ買ったばっかだし……。

 

「今日は何すっかなー、お菓子食べ行くか」

「うん! 剣ちゃんにお土産買ってあげなきゃね!」

「おー、そだな。隊長甘いもん食うかなあ」

「剣ちゃんはねー、食べられるものが好き! だから大丈夫!」

「食えねえもんも食っちゃいそうだけどな」

「剣ちゃんに食べられないものはない!」

「たしかに……」

 

隊長が鉄パイプをバリバリ食ってる姿を想像して、思ったよりそれらしい図になってしまったので早々にイメージ画像を削除した。逆に隊長がケーキをうまうま食べるのは全く想像できないから不思議である。

やちるならどっちも想像できるのになあ。

 

などと考えていると、曲がり角でドンっと身体に衝撃。それもパンを咥えた女子高生とぶつかったような鋭いものではなく、例えるなら……ちょっと硬めのクッションに体当たりしたような鈍い痛みだ。

なんだなんだとびっくりして瞑った目を開くと、一面に白と黒が広がる。死覇装?

 

「すまない」

「いやこっちこそ……い、いぬ?

「わんわんだ!!」

「デッカ!!!」

「もふもふ! もふ!!」

 

よくわからないが目の前にめっちゃデカい二足歩行の犬がいた。やちるは一目散に飛びついて、肩まで登り頭の毛並みを堪能している。

おれも触らせてもらうと、それはもう綺麗に手入れされたやべえ手触りだった。

 

「うっわほんとだ! 昔飼ってたのよりふかふか!!」

「えーはづちーわんわん飼ってたの!? いいなー」

「めっちゃ可愛かったぜ、おれが基本世話係だからそれはもう懐いてたし」

「へー!」

「……も、もう良いだろうか」

「うん! わんわんありがとー!」

「あざっした、結構なお毛並みでした!」

 

少し照れたように先ほど撫でくりまわされた頭を摩る犬、のような存在。今度会ったらまた撫でさせてもらおうと心に誓ったところで、一つの疑問が浮かぶ。

……この人、犬? は誰だ?

よく見ると、死覇装の上には隊長羽織を羽織っているように見える。しかもそれは七番隊隊長のもので……そういえば七番隊隊長ってデカくなかったか?

 

「……は!? もしかして狗村隊長!?」

「はづちー気づいてなかったの? においおんなじなのに

「いやわかんねえよ! え、なんで犬に?」

「もともと儂はこうだったのだが……心境の変化、というやつだ。これからも変わらず接してほしい」

「はーい!」

「なるほど……もちろんっす!」

 

 

 

おまけ

「あ? 副隊長と狛村隊長じゃないっすか」

「つるりんだー!」

「斑目か、久しいな」

「ハゲには眼鏡が似合わないからって意地張ってるからおれが見えなくなるんだぞ」

「お前が見えなくなるだけなら支障ねえだろ」

「ありまくるわボケ!! つか狛村隊長だってわかんの?」

「葉月気づかなかったのか? 覇気が同じだろうが

「え、これおれがおかしいの?」

「でもそういや顔違うな。なんでだ?」

「なんか、今まですっぴん恥ずかったけどまあいいかってなったらしい

「あー、失恋って辛いけど前より強くなれる感じするよな」

「わかるー! 角子もそうなんだ。私も前片想いしてた彼が告白してくれて運命じゃんって付き合ったけど15股してるって知ったとき今まで放ったことない綺麗な右フック出たもん

「葉子もあの15股クソ野郎と? あたしも! やっぱりそういうのあるよね〜」

「あるのだろうか……」

「二人は適当にノって話し合わせてたら引っ込みつかなくなっちゃっただけだから気にしなくていいよ!」

「その通りだけど辛辣すぎない?」




アンケート答えてくれた兄貴姉貴大好き♡
それ以外の森羅万象も大好き♡


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第三十一話:読書談義

「お前んち意外と本多いんだな」

「漫画だけじゃないなんて」

「お前らマジ他人んち押しかけといてクソ失礼だな」

 

仕事の日に見る顔を、なぜおれは休みの今日も見ているのでしょうか。

 

某日の昼下り、いつも通り部屋の掃除をしたり本を読んだりしていたおれの家に入ってきたのは、一角と弓親だった。選手2名、堂々と窓からのご入場です!

不法侵入者2人はそのまま、おれの家の本棚からキッチンから扉という扉を開けてはケチをつけて歩いていく。なんなんだお前ら、強盗かなんかなのか?

しかしそれも飽きたのか、さっきからは適当な本を取ってパラパラ読んで戻してを繰り返している。ちゃんと戻してくれるから許しているが、適当に戻していれば一本背負いを仕掛けてやり返されて参りましたと言っているところだ。

 

「今週のジャンプどこだ? ああ葉月はまだジャンプ読んでもわかんねえか」

「まだコロコロなんじゃない?」

「どういう目でおれを見てるかよくわかりました。残念ながら昼ご飯はないです

「なんでだよ! こちとら飯作る音で腹空かせてんだ食わせろボケ」

ちょっと葉月の精神年齢はコロコロコミックの対象年齢くらいだねって言っただけでしょ、ケチくさいこと言わないでよ」

「よくそれで『じゃあ昼飯食べていいよどうぞ』って言われると思ったな……」

 

ちなみに今日の昼飯は自家製甘辛タレの天丼である。

そもそも不法侵入者に食わす飯はないのだが、2人が食材を大量に持ち込んできたのだ。食べきれなくて腐っても申し訳ないからね!

 

「つか小説ばっかだなこの棚」

「その辺は友達に薦められたやつで、大体推理モノ。こっちは趣味で買ってる本」

「うわっ恋愛モノもある。ちゃんとわかって読んでるの?」

「わかっとるわバカ! なんなら十一番隊で一番恋愛がわかる男だわ」

「「それはない」」

「マジで昼飯抜くか???」

 

「逆にお前らは何読むんだよ」

「「ジャンプ」」

「これだから十一番隊は……」

 

2人が口を揃えて言う。弓親はそれこそ恋愛小説とか好むのかと思っていたが、ナルっても十一番隊隊士なんだなあ。……おれのことを散々馬鹿にした割に2人とも漫画じゃねえか。

 

「バーカ。最新の研究で、ジャンプ読んだら読解力と文章力が上がるって結果が出てるんだぞ」

「まじか、でも最新の研究でハゲは知能が低いことが証明されたらしいぞ」

「ハゲ差別やめろそして俺はハゲじゃねえ」

「じゃあ一角がジャンプを読んだら人間の読解力文章力になるってこと?」

「いくら弓親でも締めんぞ」

「そうだそうだ、ジャンプ読んだくらいじゃ人間には遠く及ばないって」

「オマエ ヨウシャナク シメル」

「タイヘン スミマセン デシタ」




絵描いて学校行って文章書いて絵描いて絵描いて文章書いて動画作っておとわっか見ておとわっか見て絵描いておとわっか見てたら遅くなりました。
※最新の研究はマジで全く全然嘘です。ハゲに罪も罰もない。


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第三十二話:めちゃモテ(ない)十一番隊

「お前らの罪は何だ」

「助けた女に剣術を三日かけて叩き込もうとした」

「女の子に美容について聞かれたから5時間かけてじっくりと教えてあげた」

 

一角と弓親が悪びれもせずにそう言いのける。

2人ともさっきその辺をぶらついている途中に見たときは女性と仲良さげに話していたのに、なんという体たらくだろう。

 

「ハ〜〜〜〜……十一番隊席官のお前らがモテないムーブをかますことで、十一番隊全員がモテないみたいに見られるんだぞ?? ちゃんと自覚しろ!」

「ところで手前は昨日何してたんだ?」

「街に出たらカツアゲされそうになって女の子に助けてもらった」

「十一番隊の面汚しはテメェだろうが!!!!」

「ごめんなさい!!!!!!!!!」

 

強くてもモテないことが証明されていい気分になっていたが、2人は昨日おれがイカツイお兄さんたちにカツアゲされている一部始終を見ていたらしい。

あれ? じゃあなんでそのとき助けてくれなかったの??

 

「こほん。ふん、モテないお前らに指導してやる」

「テメェに教わるくらいなら京楽隊長ンとこ行くわ」

「あの人意外とためになること教えてくれるんだよな……」

「モテない枠扱いされがちだけど普通にモテてるよあのおじさん」

「「クソが」」

 

色気があるのは理解できるが、どうしても女好きでセクハラしてるイメージが付いて回ってしまう。

しかしああ見えても護廷十三隊の隊長が1人。地位もあり割と気遣いもでき、あとお金持ってそうだからそりゃモテるよな。

 

……ちょっと湧きかけた殺意を抑えて、本題に戻る。

 

「さて問題です。おれは今日少しイメチェンしてみました、さて何でしょう」

「……………………顔?」

「ハイざんねーん!! そもそも顔は気軽にイメチェンできませー痛い痛い痛い痛い!!!!

「イメチェンできるだろうがこうやって握り潰せば」

「サイコパスかお前は!!!!」

 

ちょっと煽っただけでノータイムで顔面を握りつぶしてくるハゲ。だからモテないんだお前は、と思った瞬間また力を込められた。

ハゲのくせに読心もできるなんてズルだズル。

 

「で? 結局答えはなんだったの?」

「弓親もわかんねえの? ヘアピンの色がR:106、G:215、B:255からR:106、G:198、B:255に変わってるだろ」

「せめて日本語で表してよ」

「そもそも元が何色かも知らねえよ」

「水色だわ!!」

「……今も水色に見えるんだけど」

「これはいつもより青みがかった水色なの!! 女の子は些細な変化を理解してほしい生き物なんだからちゃんと気づかねえと、な?」

「ブン殴りてえ……ッ!!!!!!」

「甘いね一角、僕はもう殴ったよ」

「イッテェ! 甘いっておれにかよ!?」

 

 

 

おまけ、八番隊にて。

「「「どうやったらモテますか」」」

「女の子の気持ちを一番に考えて相手を尊重することかな」

「じゃあ……気持ちを一番に考えた結果、自分の身を守れるように剣術を?」

「叩き込まない」

「なら、相手を尊重して、もっと美しくなれるように美容豆知識を」

「教えない」

「てことは、俺を尊重して女の子にカツアゲから助けてもら」

「論外だよ」




スランプなのか、ネタは出るが1000字も書けなくてめちゃくちゃ時間かかりました。でもモテない話書き始めたら一瞬でした。自分と同じ境遇だからかな?
とか言って多分斑目三席も綾瀬川五席もモテると思います。悲しいね。


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第三十三話:売り言葉に買い言葉に雑魚な書記 前編

「高槻、十一番隊の連中がうちの隊士と喧嘩していたらしいんだが……回収してくれるか」

「また!? 了解っす……!」

 

七番隊の狛村隊長に呼ばれ、なるべく早く駆けつける。

他の隊の隊士や一般人とのトラブルに呼ばれるのは大抵隊長か副隊長だが、十一番隊ではそれもおれの仕事なのだ。

 

あたりを見渡すと建物にヒビが入っているのがわかる。

こちらは打撲程度、相手は脚が折れているように見えるし話を聞くにもどうやらこちらが先に手を出したらしいので、どう考えてもこちらに非がありまくる。

 

「お前らな、なんで他の隊の人を巻き込むんだよ。強いやつはちゃんと誇りと責任を持て! 修繕費と治療費は天引きしておくからな」

「て、天引き!?」

「おかしいだろ! 大体、なんでうちで一番弱い高槻書記が十一番隊取り仕切ってんだよ」

「隊首会にも行ってるって話だし、経理も一人でやってるから勝手に給料上げ下げし放題だし……俺たちずっとおかしいと思ってたんですよ」

「え、え、」

 

なんか飛び火来た!?

まあそりゃ経理もしてるけど、隊士の給料なんか操作できるわけないだろうが。

もし操作できたとして、ただでさえ鍛錬だの喧嘩だので建物や備品にかける経費がとんでもないのに個人の給料上げるとかただのアホである。

 

「賄賂でも渡したんじゃねえの?」

「なんでそうなる!? 十一番隊はおれの入隊志望ランキング堂々のワースト2位だったのにわざわざ賄賂渡してまで入隊するかよ!」

 

1位は十二番隊。絶対こき使われるか実験体にされる。

あそこは次のコマで生き返るくらいのギャグ世界線に生きる人でないと生き延びられない場所だ。

 

「でもちゃんと仕事してるように見えませんよね、いつも副隊長と遊んでて」

「弱っちいのに十一番隊入んなよ雑魚」

「んだとコラお前らよりは強いわボケ」

「は?」

「見えすいた嘘つくなよ、俺たちより強いとか……」

「始解もちゃんとできるようになってんだぞこっちは。なめんなよ!」

「そういう見栄張らないほうがいいと思いますよ」

「言ったな!? 証拠見せてやる、一対一で勝負じゃい!!」

 

「あでも痛いのとか危ないのはダメだから別の競技にしようぜ」

「お前本当に死神か?」

 

……十一番隊所属かも通り越してそこ疑われ始めたのか、おれは。

 

 

 

「それで明日試合することになっちゃったの」

「ハイ……………………」

「十一番隊みんなバカだけどお前も大概バカだよな」

「あ? やんのかハゲ」

「だからハゲじゃねえって言ってんだろ雑魚

「あああああ雑魚って言わないでください!!!」

「トラウマになってるんだ……」

 

『雑魚』という言葉を聞いて耳を塞ぎガタガタ震え出したおれを見て、弓親は哀れな目を向ける。

相手は少年漫画の世界線に生きるやつら、こっちは学園ハーレム系ラノベの世界線に生きるおれ。戦闘経験なんか学生の頃ちょっと授業でやらされたくらいなんだ。

ああなんでこんなことに……と頭を抱えていたおれに、神の声が降りてくる(なお髪はない)。

 

「ま、安心しろ。俺たちに考えがある」

「幸いにも種目は竹刀での剣道だからね」

「おお!! 持つべきものは仲間だな!!!!」

 

 

 

試合は一対一の3本勝負。面・胴・小手の三箇所が得点部位というスタンダードなものだ。

それが、うまくいけば2回繰り返される。相手は2人、こちらは1人の勝ち抜き戦である。

 

「よし一角、考えってのを教えてくれ」

「わかった。まず葉月、竹刀になれ

「え?」

「一角……言葉が足りないよ、相手の知能レベルに合った言い方じゃないと。あのね葉月、一角は君に始解して竹刀になってほしいんだ

「なるほど、やっとわかったぜ! まったく一角は雑なんだからな〜」

「へへ、ありがとよ弓親」

「「「はっはっは」」」

 

一角と弓親の名コンビは言葉まで補うらしい、わかりやすく言ってくれたおかげで全然わからなくなった。

 

「おれが理解できなかったのは脳が拒んだからだよ!!! なんでおれがここで始解せにゃならんのじゃ!!」

「俺たちの最高の案にケチつけんのか手前」

「そりゃそうだろ! これから竹刀を使うっていうのにおれ自身が竹刀になってどうすん、……!」

「気づいたようだね、完璧な作戦を」




この作品を書いたせいで喋りが下品だと親に注意されることが増えました。どうしてくれるんですか? 20代
というお便りが寄せられました。怖いですね〜! みなさんも気をつけてくださいね☆


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第三十四話:売り言葉に買い言葉に雑魚な書記 後編

場所は十一番隊隊舎の剣道場。『真剣絶対NG』というおれお手製の張り紙が見える。

そこにおれは、()()()()()()()()()()()入場した。

 

「待たせたな」

「遅いっすよ……って斑目三席!? 書記はどこですか」

「あいつ、逃げやがったのか!」

「逃げてねえ!!」

「今、声が聞こえなかったか……?」

「……ああ。くぐもって聞きづらいが、書記の声だ」

「葉月ならここだ」

「「………………」」

「『三席、戦闘狂すぎて頭おかしくなったのかな?』みたいな顔をするな」

 

やれやれ、頭が固いやつらはこれだから。

自分で気づかせようと思ったが、一角の脳が心配されはじめたのでいよいよ真打高槻葉月が説明してやることにする。

 

「おいお前ら、よく聞け! おれの始解はな……おれ自身が獲物になることなんだよ!」

「「……………………」」

「アーッハッハッハ! 声も出ないようだな!!」

「葉月、2人は『バカだバカだとは思ってたがこんなに頭がおかしかったとは』みたいな顔してるよ

「こんなナリでも見えとるわ!! その上でスルーしてたんだわ!!!」

 

 

 

「じゃ始めんぞ」

「オッケー。お互い準備はいいね?」

「い、いやいや良くねえよ!」

「ズルでしょそれ!!」

「ハァ? おれは()()()()()()()()()()()()()なんて卑怯な真似してないぞ、なあ審判」

「そうだね。葉月はきちんと()()で戦おうとしてる、僕が証明するよ。良い加減始めよう、試合開始!」

「いやどう考えても──おわッ!?」

「一本。試合終了だね」

 

一角が相手の頭に軽くコツンと竹刀(おれ)を当て、試合は終わった。

 

 

 

同様にして二試合目も終了後、納得がいかない顔で2人が一角と弓親を見る。

 

「……なんでそいつごときのためにそんなに協力するんですか?」

「「仲間だ(貴重な雑用要員を手放すわけにはいかない)からに決まってるだろうが!」」

「ルビを消せ!!」

 

ついいつものやりとりがつい出てしまうが、相手方にとっては満足できない回答だったらしくさっきよりイライラが増している。

おれも満足できないからとてもわかる。

……しかし、なんでそんなにおれが気に食わないんだろう。

 

「お二人とも知ってるでしょ、書記は十一番隊で一番弱いんですよ!? 『強いやつしか入れない』って触れ込みなのに弱いやつがいるっておかしいでしょ!」

「うるせえ! 事実陳列罪で除隊処分にすんぞ!!」

「本当のことでも言っていいことと悪いことの区別がつけられるようになってから出直してくるんだね!」

「2人って本当におれの味方だよね??」

 

……………………おれ、そんなに弱いの?

 

「……三席に憧れてこの隊に入ったのに、いつも隣にいるのはヘラヘラしてるこいつなんて」

「俺、綾瀬川五席の強さだけじゃなくて美しさを追求する姿勢が好きだったんです。だけど、最近はこんなやつと連んでバカばっかりやって……五席はそれでいいんですか!?」

 

2人は、喉からなんとか絞るようにそう言った。

おれを嫌いなのはただ弱いからってだけじゃなく、弱いにも関わらずみんなの憧れみたいな人と仲良くしているからだったのか。そりゃ平行線なわけだ。

 

「僕は付き合いたい人と付き合うだけだよ。強さも美しさも関係ない」

「ひとの友人(ダチ)にイチャモンつけんじゃねェ」

 

──おれは斑目一角と綾瀬川弓親が『みんなの憧れ』という意識なんかこれっぽっちも持ってない、ただの友人なのだから。

 

 

 

おまけ

「ちなみにだけど、葉月は強いよ」

「見てみろよ。ほら」

 

「あ、朽木隊長じゃないですか! ちょうど六番隊宛ての書類あるんすけど渡していいです?」

「構わない」

「京楽隊長も! 書類渡して──待って待って逃げないで!?」

「隊舎に七緒ちゃんいるからそっちに渡してー」

「高槻、七番隊の書類はあるか?」

「狛村隊長……!! これです、いつもあざっす!」

 

「た、隊長相手にあんなフランクに……」

「正気じゃねえよ……」




まあ、この後KRSK ICGくんが来て今作主人公なんか比じゃないくらい隊長相手にタメ口使うんですけどね。あれはもうなんか別格だから……。

そしてお気に入り300ありがとナス! ついでに評価してくれてもええんやで。


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第三十五話:ファーーーーーーー!(レ♯)

これは、まだおれが十一番隊書記になる前の話である。

 

「はよっす美岬ー」

「おっす陽太」

「よっすっす〜二人とも」

「「お疲れ様です高槻将軍!」」

「やめろそれただの雑魚だろうが!!!」

 

既にクラスに来ていた2人は、おれがよく話すやつらである。

美岬は中性的な見た目とは真逆の性格と好みを持つ読書家な文系。

陽太は背が高くバカで力仕事が得意な典型的な体育会系だ。

そしてこのおれ、高槻葉月は暗算が得意な理系であり、テストのときは3人で力を合わせてなんとかしている。鬼道の暗記の仕方は美岬が、体術のコツは陽太が、買い物のときの金額の計算法はおれが教えることで支え合う関係なのだ。……あれ、おれテストでは役に立ってなくない?

しかし、美岬も陽太も流魂街の出身で文字も読めなかったのを教えたのはおれだ。それから美岬は知識をぐんぐん吸い上げて今ではおれの知らない言葉までたくさん知ってるけど……。

ちなみに高槻将軍とは美岬に勧められて読んだ小説に登場するキャラクターで、初登場してからこの方死亡フラグを立て続けるザ小悪党だ。なんと自称しているだけで将軍でもない。

 

「葉月はさー、もう決めたー?」

「何が?」

「お前大丈夫かよ。今『もう決めた?』って聞いたら進路調査表に決まってんだろ?」

 

そうだった。

学生最後の年、しかも昨日に説明会が開かれたばかりである。

 

「おれ八番隊か十三番隊かで迷ってるわ」

「へー! 四番隊だと思ってた、回道使えるし女子いっぱいいるよ?」

「葉月って回道使えたっけ」

めちゃめちゃちっちゃい傷くらいならなんとか。紙で切っちゃったくらいの」

ホント使えねえな! 落とされた腕をくっつけるくらいできなきゃ入れねぇぜ」

「入るつもりないし! 女子ばっかで肩身狭そうだから」

「ほんとビビりだな」

「ビビビビビビビビビビってねえし!!!」

「どっちかっていうと痺れてるねぇ」

 

2人は姉さんを知らないからそんなことが言えるのだろう。姉さんみたいな女性を知っていたら『女性は怖い』『人は物理的でない力にも負けることがある』と常識を改めるだろうに。

いわんや身近な女子が姉さんしかいなかったおれをや、である。

 

「そういう美岬はどうなんだよ〜教えろよ〜」

「あ? 俺は七番隊に行くぜ。隊長がかっけーんだ、いかにも義って感じで」

「うんうん、どっしりしてるよねー」

「物理的に?」

「ちげーわ! はい次陽太な」

「うーん……俺は、まだ迷ってる……かなあ」

「あれ? てっきり十一番隊に行くもんだと思ってたけど違うのか」

「運動は好きだけど、別に強くなりたいわけじゃないんだよねぇ。でも、ならどこがいいかとかよくわかんなくてー……」

「隊の特徴だけじゃなくて、隊長の人柄とか中の雰囲気も決め手になるんじゃねえか?」

「おれも第一志望楽そうだからだしなー、隊長のんびりしてたし。やっぱ楽で厳しくなくて楽しいとこに行きたいよな!

「カスすぎるだろ……」

「なるほど……もうちょっと考えてみるかぁ」

 

陽太がそう言って会話が一段落したとき、外がやけに騒がしいのに気づく。

昔は上級生のエリートイケメンが来たとかで女子たちが黄色い声をあげていたこともあったが、最近はめっきりそういうこともなくなったなあ。久々にこんなに盛り上がってるところを見た。──いや、これは盛り上がっているというのか?

 

「……なんか様子おかしいぞ」

 

美岬がいち早く、感じ取ったものを言葉にした。

そう、一見は賑やかなように見えるが……そんな楽しそうな感じではなさそうだ。例えるなら教室でGが出たときのような騒ぎ。さっき歓声だと思ったものは、今では悲鳴に聞こえる。

3人でビビりながらそっと窓を覗く。人だかりがいくつかあり、そのほとんどは具合が悪くなった人を運ぼうとする人たちのものだった。

しかしひとつだけ、異質なものがあった。

その人だかりは厳密には人だかりとは言えない。正しくは『複数人が数メートル距離を置いて誰か一人をぐるっと囲んでいる』だろうか。

そして真ん中の人影は白い羽織を着ており、学生でも先生でもないことがわかる。

 

「って、十一番隊の隊長!?」

「まっさかー! なんでこんなところに十一番隊の偉い人がほんまや!?!?

「お前モノマネやりたいだけだろ」

 

全くもってその通りだった。

 

 

 

今日のナントカ会では、直前まで一角や弓親に何度も『人を斬るな』だの『なるべく霊圧を抑えろ』だのと言われたが、そもそも斬りたくなるような強いやつはあの場所にはいなかった。

なんとつまらないことか。ただ立っているだけなら自分の部屋で昼寝でもしていたかった。

そういえばこの間は、『書類仕事はオレの仕事じゃありません』と訴えに来たやつがいた。『誰々が喧嘩しているからなんとかしてくれ』と言ってくるやつもいた。『こちらの隊に書類が回らない』なんて言うやつもいた。

面倒だったことを一つ考えると連鎖的に思い出される。こうして考えるのも面倒だ。

 

「ゆみちー、おつかれ?」

「副隊長! そうですね、書類が多くて……書記でもいたらいいんですけど」

「しょき?」

「書類仕事をやってくれる人ですよ」

「あたしと遊んでくれる?」

「さあ、そうなんじゃないですか? そんな人いたらですけど」

「あたし書記ほしい!! 剣ちゃん、探しに行こ!」

 

他愛のない会話がぽんぽんと進んでいくので耳だけでぼんやり聞いていたが、なるほど書記か。面倒なこと全部やってくれるやつはそろそろ必要だろう。

それが面白いやつなら尚更だ。

 

こうして更木剣八は草鹿やちると共に真央霊術院へと赴くこととなり、護廷十三隊隊長の目の前で明石家さんまのモノマネをする男が十一番隊書記として選ばれたのであった。




主人公(葉月)と美岬と陽太は同じクラスメイトで教室内でよく喋るくらいの仲だったはずのにわりと仲良いなこいつら。
今も続いてるかはわかりません。そもそも書記のお仕事にかかりきりなのに遊ぶ時間が主人公にあるのか?


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第三十五.五話:超短編三本詰め合わせセット

1000字以上には膨らませられなかったネタを詰めました。
全部一角と弓親とオリキャラ:葉月の会話文です。


発売は10年以上前ですが。

 

「護廷十三隊でCDを出す!?!?」

「ああ、最近流行りの曲を隊長たちがカバーするらしいぜ」

「例えば、浮竹隊長は三席たちと一緒にギャロップを歌うらしいよ」

「うちの隊長もそういや全部英語の歌歌うんだっけか」

「隊長が………………………………?」

「あ、藍染隊長と雛森副隊長は一輪の花を歌うんだって」

『君は君だけしかいないよ代わりなんて他にいないんだ』

「どうあがいても地獄だよね」

「一護たちも歌うって聞いたぜ」

「護廷十三隊とは」

「結構雑に人選されてるみたいだね」

「じゃあおれたちにもチャンスあるのか! おれMOVIN'歌いたいなー」

「そういうことなら俺はアフターダークにするぜ」

「僕は──え? 追加募集はない?

「こ、こんなに書記として頑張ってるのに!?!?」

「こいつはともかく、普通の人間やら破面まで歌ってんのに三席の俺も呼ばれねえのかよ!!!」

「僕の美声をお届けできないなんて……」

「そんな、ここにいる全員参加してないブリコン〜BLEACH CONCEPT COVERS〜!」

「「「ぜひ、聞いてください!!」」」

 

 

 

 

常識改変

 

「総隊長の部屋に飾ってあった写真、やっぱ昔の隊長たちなのかな」

「知らねえよ」

「なんで??」

「葉月はまだ分からないかもしれないけどね、総隊長の部屋って普通の(まともな)隊士は行くことないんだよ」

「おれだって仕事かお茶でしか行かねえよ!!!!!」

「「お茶…………?」」

「今飲んでるお茶も総隊長に淹れていただいたやつだぞ」

「水筒から適当にその辺のコップに注いだこの茶がァ!?」

「ねえなんでそんなすごいものをちょっと凹んでる使い古してそうな水筒に入れたの!?!?」

「飲み切れないし持って帰れって言われたから……」

「そういうもんか??」

「それでもちゃんと美味しいからすごいね魔法瓶って……」

 

 

 

 

なぜか生き残る系役立たず

 

「ねえなんでおれが仕事してる目の前で漫画読むんだよ!! 嫌がらせかよ!!!!」

「そうだが?」

「許せねえよ……許せねえよぉ……」

「葉月がこの作品の主人公になったら……やっぱり自分自身が武器として悪魔に使われるのかな」

「ナチュラルに主従関係逆転させるんじゃねえよ! おれが悪魔を使うんだよ。おれイケメンだから狐と契約して後方から支援するわ」

「イケ……メン……?」

「あ?」

「あ?」

「まあまあ……一角はこう言いたいんだよ、『高槻葉月は、誰かを使役なんてできないし、戦闘では役に立たないし、やること全部裏目に出なきゃいけないんだ』と」

「厄介オタクが一周回ってアンチみたいになってるやつじゃん。なんだよやること全部裏目って」




前回投稿の前日くらいに事故に遭いました。骨折だの縫合だのしました。
でもしばらく投稿できなかったのは卒研と絵の仕事と課題をやっていた上に文章スランプになっていたからです。スランプは治ってないのでまたしばらく投稿できないかも!
千年血戦編はビビってまだ見てません。戦闘とか怖い、怖くない?


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第三十六話:女の趣味

「そういやさー、一角って彼女いねえの?」

「ああ、今はな」

 

なんで『今は』を強調したんだよ言わなくてもわか……いや、さてはこの男。

 

「……もしかして彼女いたこ」

「殺す」

「否定もせ痛いずに痛い暴力に訴え痛いるのは痛い図星痛い痛い痛い!!!!!ごめんてそんな気にしてるなんて思わなくて」

「それがフォローのつもりなら、総隊長に国語を教えてやってくれって一緒に頼みに行やってもいいぞ」

 

いくら彼女0男でも、アイアンクローされたら痛い。だからモテないんだぞ。

おれ? おれは若くして彼女0、こいつは年上なのに彼女0。どっちが恥ずかしいかはわかるよな。

 

「怒んなって! お前みたいなやつを好きなやつもいるだろ、蓼食う虫も好き好きっていうし」

「誰が蓼だ。せめて十人十色とか言えや、俺と俺のこと好きなやつに失礼だろうが。……まあ、いるにはいんだよ。俺のことが好きとか言うやつ」

「じゃあなんだよ、理想が高いの?」

「そんなつもりはないが……少なくとも俺に一太刀入れられるような強い女じゃないとなァ」

「なるほど理想が成層圏突破してるな」

「そうか? このくらい普通だろ、オゾンより下なら問題ないって話も聞くし」

「いや完全に弓親レベルだぞ。あいつ絶対『僕より美しくないと付き合えない』って言うじゃん」

「……いや、弓親は俺たちの想像をはるかに超えると信じてるぜ」

 

一角がそれらしく大げさに頷くと、部屋の扉が開く音がした。

噂をすれば影。入ってきたのはナルシスト大王こと綾瀬川弓親であった。今日もよくわからない羽飾りが顔に鎮座している。

 

「なんの話してるの? 僕の名前が聞こえたけど」

「今好みのタイプの話してんだよ」

「へー、びっくりするほどどうでもいいね

「ならちょっとはびっくりしろや。弓親の女の子の好みは?」

「どうせ『僕より美しくないと〜』だろ?」

「そんなこと言うわけないでしょ? 普通にそこそこ綺麗で落ち着いてて知的、くらいだよ」

「意外だ……」

「当たり前でしょ、僕より美しい人なんてごく少数いるかいないかなんだから。そんな人探してたら一生見つけられないよ」

「「……」」

「何その目。何か言いたいことあるなら言いなよ」

「ほらな。弓親のナルシストっぷりは俺なんかじゃ超えられねえんだって」

「これはマジだわ、ごめん一角」

「失礼な」

 

許可を得たから言いたいことを言ったのにグーで殴られた。だからモテないんだぞ。

まったくこれだからモテないコンビは……とため息をついたらさらにどつかれる。ねえおれがアホになったら困るの君たちだよね??

 

「それで、葉月はどうなのさ」

「いや〜まあ別にこだわりはないんだけど、あえて言うなら背が低くて胸デカくてふわふわしてて守ってあげたい感じの子?」

「キモ。寝言は寝て言いなよ、いや寝ても言わないで」

「かわいそうになァ、現実がそこまで見えてねえなんて……」

「お前らだけには言われたくなかったんだけど!?!?」




多分原作前の話です。一角のこと好きって人が現れたら、「ダハハこいつを!?」ってそういうおもちゃみたいに手を叩いて喜ぶ主人公いそう。
お久しぶりです。卒業できることになりました。卒論を一週間で書き上げたのもいい思い出です。主人公も大学生だったら絶対卒論一週間で書くタイプだと思います。


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第三十七話:朽木隊長は悪くないよ

「こんにちはー、七番隊からの書類を届けに来ましたー」

 

どうも、高槻葉月です。

現在おれは六番隊に来ています。

六番隊は厳格すぎる隊長とチンピラの副隊長に見えてわりと二人ともまともだから、十二番隊とかに比べておれの足取りも軽い。

比較対象が悪い? ……おれもそう思う。

 

「葉月じゃねえか。なんで七番隊から?」

「十二番隊に書類届けて、どうせ外出てるならって十三番隊への書類預かって、届けたら申し訳ないが届けてくれないかって一番隊への書類預かって、届けたら帰るついでにって七番隊への書類を預かって、届けたら隣だからって六番隊への書類を預かりました」

「……お前十一番隊の書記だよな?」

「おれもそう思ってたんですけど違うみたいですね」

 

最近、十一番隊以外でも仕事を頼まれることがやたら増えてるような気がする。おれの肩書き、『護廷十三隊書記』とかだと思われてるのかな?

……それとも、ただの便利屋さんだと思われてるのかな??

 

「あーでも、今は隊長んとこ行かねえほうがいいんじゃねえか……?」

「え、なにかやってるんすか?」

「今は……実はな、六番隊銘菓を開発中なんだよ」

「お菓子だ! って、そんな言い淀む必要あります?」

 

 

 

ところ変わって六番隊の隊長のお部屋。

おれの部屋とほぼ同じ構造だから隊長クラスでもおれと同じ部屋割り当てられるんだと思ったら、そもそもあの部屋隊長用なんだった。

──そして、おれの目の前には謎の生命体を模した和菓子があった。

 

「センス……いや、形が…………いや、えっと……うん。おれが悪いんですよ」

「どういう意味だ」

「おれがこれを受け入れられないのがいけないんです……隊長がこんなに自信満々に見せびらかしてるってことは世界的にこのデザインが素敵なのは常識なはずなのに! おれは……それがわからない……ッ!!

「命がいらぬと見える」

「葉月ーって何事起きてんだ!?!?」

 

あのクールな隊長が拳一つで別の隊の書記に殴りかかるところを、恋次さんが目撃してしまった。訴えたら勝てるんだぞこの状況。

というか、生粋のツッコミ役であるおれをしても手のつけられない謎の生命体の批評を、朽木隊長は気に食わなかったらしい。見る者のレベルが十分でないから判断できないという流れにすることで、直接『ヤバい』と言うより遠回しかつ口当たりが優しくなるテクニックのはずだったんだけど。

 

「なんだって、葉月が隊長のデザインした菓子を酷評したァ!? じゃあ葉月お前がデザインしてみろよ!」

 

己の批評の未熟さ(あるいは朽木隊長の理解力)を省みていた間に、恋次さんは隊長に話を聞いたらしい。いやちょっと待ておい、それかなり偏向報道じゃない?

 

「ずッずるいですよ恋次さん! さっきまでこっち側だったのに朽木隊長がいるとなった途端に!! 共通の敵としておれを利用すんな!」

「『こっち側』……?」

「朽木隊長。この男、先ほど六番隊銘菓に後ろ向きな発言をしていました」

「ほう……? そうなのか恋次」

「そんなわけないじゃないですか。葉月悪かった、さっきのは冗談だ」

「冗談で済むなら世界は今ごろ十一番隊がトップとってるんですよ」

「お前わりと自分の所属してる隊に辛辣だよな」

 

まあ食べてみろって、と差し出されたのは、例の高尚すぎておれにはよくわからない饅頭的なもの。中身はつぶあんらしい。

おれがつぶあん派だと知ってやっているならおれに食べさせる気満々でムカつくが、知らないでやっているなら危うく戦争が起こるところだったので乙丙つけがたい。

 

「……これって食べていいやつなんすか?」

「何か言ったか」

「美味しそういただきますと言いました。美味しそういただきます!」

 

見た目に騙されないという意思表示を込めて目を瞑って口に含む。Oh、今口にあるのはさっきのアレなんだよな。

口に入ってきたものを前歯でかじると、しゃお、といった感触がする。触った時点で薄々気がついていたが、さてはこれ外が少し焼かれていてサクサクになっているな?

そして中のつぶあんも、恐らく大人向け(というか隊士向け?)なのか甘すぎずあっさりしている。しかしつぶあんならではの食感は損なわれておらず、素材の味とホクホク感が楽しめる。

つまりこれ──。

 

「……あれ、見た目のわりに美味しい」

「『見た目のわりに』?」

「朽木隊長、『美味しいとは思っていたけど想像よりもずっと』の聞き間違いです」

 

そう、美味しいのだ。

まあでもそりゃそうか。誰が作ったと思ってる、天下の朽木隊長だぞ。精鋭のシェフだのパティシエだのを集めて作ったに違いない。

じゃあどうしてプロのデザイナーさんは呼べなかったんですか? いえこれは朽木隊長の批判ではないんですけど。

 

「では、兄の目から見て売れると思うか」

「いやいや、感想聞くなら若造のおれよりもこちらの副隊長のほうが人生経験も豊富で目も肥えてると思いますよ」

「おいお前マジふざけんなよ!!!!」

「ハーッハッハッハ! バチが当たりましたね!」

 

このとき高笑いをしながらおれは、これいつものパターンかもなと思った。おれは大抵いつも、知力をもってやり返したと思った瞬間にしっぺ返しが来るのだ。

そして、それは本当になる。

 

「恋次には既に聞いた。今私は兄に聞いているのだが。売れると思うか?

「エッアッ……ハイ………オモイマス……」

 

嘘じゃないもん! 美味しかったから見た目気にしない人には売れるもん!!



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