性格が反転したウマ娘たちと、過労死したり尊死したりするトレーナー達の話 (室星奏)
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01 プロローグ [ハルウララ・オグリキャップ]
勢いに文字はいらないと思うんです(?)
その日から、私達トレーナーは突然変わった日常に翻弄される事となった。いや、原因はわかり切っている、というかこんな事が出来るのはアイツしかいない。
とりあえず、アグネスタキオンに関しては後でこってり絞るとして、今はこの状況をどうにかしないといけない。本人曰く『直し方が分からないから、暫くはこのまま』と言い切る為、打つ手は恐らくないに等しいのだろうけど。
レース等には余程の事がない限り支障は出ないのだが、日常生活においては大変な問題となる。というか私達の精神やツッコミ速度がもはや追いつかなくなる。猫の手も借りれるのなら借りたい気分だ。
……とまあ、何が起こっているかは、目の前の状況を見ればわかる筈だ。
「トレーナーさん、おはようございます」
「……ハル、ウララ……だよね?」
正直私は目を疑った。容姿だけは完成度の高いコスプレイヤーか何かだと思った。だが着ている制服は完全に我がトレセン学園の特注品だ。繊維を見ればすぐにわかった。
つまり、目の前の生真面目優等生感が漂う少女は、正真正銘のハルウララだった。……いや、そうはならんでしょ、おいっ!
「そうですが、何かありました? 顔に何かついてます?」
「あー……や、いいよ! 何でもない何でもない、毎日挨拶ありがとうねっ!」
「あ、はいっ」
性格が完全に真逆となっている。正直誰だお前って言いたくなる。
これは後に判明したことなのだが、トレセン学園にいるウマ娘ほぼ全員の性格がほぼ真逆になっていた(一部無影響となったウマ娘はいるのだが……)。普段の性格を見慣れた私からすれば、その光景は違和感の何物でもなく、話を続けていれば次第に鳥肌がたってくる。これではトレーナー業に支障をきたしてしまう。
慣れろ慣れろとは言うけれど、昨日まで天真爛漫だったハルウララがいきなり生真面目モードに突入したら、誰だって正気じゃいられなくなる筈である。私だって今こんな感じなんだ。
ハルウララでこれだ、他の皆は今どういう状況なんだろうか?
***
「あっ、トレーナー。朝早いな」
「あ、オグリンッ。そっちも早……いね?」
「? どうかした?」
明るいオグリンは可愛いので一先ず何とかなった。ちまたのウマ娘ファンが『可愛いは正義』という理由がよくわかる程に。もうずっとそのままでいいと思うよ、私は。うん。
だけどこれは明らかにおかしい。絶対におかしい。
「オグリンどうしたの!? 熱!? 体調不良なの!?」
「ど、どうしたどうした!?」
「だって……あのオグリンがパン1枚と卵焼き1枚とミルク1杯って……普段なら顔が見えなくなる程の山盛り食べてるのに!?」
「そう? 何時もこの量だけど……後私、小食だし……」
なんで人の食欲まで反転しちゃってるんですか!? ……食いしん坊は性格ステータスだったのだろうか?
「そ、そうだったっけ……?」
「忘れたの? もしかして、私にもう興味なくなった……?」
「いやいやそんなわけないそんなわけない! 泣くなあああああッ!!」
突然オグリンが泣きだした。健気だ、健気すぎる。大丈夫だよ? 私は決して見捨てたりなんてしないから……。
そっと抱きかかえ、背中をさすってあげると、彼女は感謝の言葉を述べながら、ぎゅっと抱き返してきた。ああ、もうずっとこうしていたい。永遠に、ここが
しかしその素晴らしき時間は、背後からやってきたチーム・スピカのトレーナーによって打ち消された。
「やべえぞおい大変だッ――ってなんだこれは、大惨事だな!?」
「お、沖野さんっ!? 何があったんですか?」
「お、おう、生徒会のルドルフたちもそうだが、俺の担当チームの方もなんか様子が変でな……」
あ、これは不味い。生徒会はまあ大体予想がつくとして、あの個性豊かなスピカのメンバーたちまでもが反転。何が起きているのか想像出来やしない。
特にゴルシだ、ゴルシ。アレが一番気になってしょうがない。
「と、とにかく来てくれ! 猫の手も借りたい気分なんだが!?」
「それこっちのセリフです!」
一先ず行くしかないだろう。行きたくないけれど。
半ば沖野トレーナーに無理やり引っ張られながら、私たちは勢いよくチーム・スピカ専用部屋の扉を開けた。
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02 明らかに異常である[チーム・スピカ・前編]
「新人トレェ~ナァァア~~ッ!!」
「ぐはっ!?!?!」
扉を開けた瞬間に、銀色がかった髪色のウマ娘が私目掛けて突進してくる。ゴルシか!? ゴルシか!? いやでも、少しだけ髪に紫がかかっていたような……?
突然の出来事でまだ目を開けられない。紫の記憶が脳裏をよぎる度に、信じられない妄想が走り事実確認するのを阻みに阻む。おそるおそる沖野トレーナーに確認を取る。
「……あの、沖野さん」
「何だ」
「この子は?」
「……信じられないが、マックイーンだ」
「っすよね~~~~~」
――……誰!?
私の知っているマックイーンじゃないっ! どうしてだ!? 落ち着いた淑女的な物腰と気品で周囲を魅了する高嶺の花ともいえるべき存在のウマ娘な筈です! 私がトレーナーになる前からファンだったウマ娘でもあった。恐らく私じゃなくてもファンだったらば、この状況に目の当たりにして、失望しない筈がないだろう。
恐る恐る目を開くと、私の腹に座りながら、子供の様に微笑みながら顔をのぞき込む可愛らしいマックイーンがいた。普段クールな彼女を見慣れてしまった故に、戸惑いを隠しきれないがじっくり見ると、これはこれでアリだと思ってしまう。なんだか娘が出来たような気分だ。
「今日もお疲れ様~。何? トレーナー誘ったの?」
「何に!?」
「顔赤いですよ新人トレーナ――ぐえっ!?」
「わわっ?」
当時の面影無くじゃれつくマックイーンが、突然誰かに首元引っ張られて、撤収していく。沖野トレーナーが助けてくれたのかな? と思ったが、背後で顔に手を当てて『あちゃー』みたいな表情をしていたので違う。じゃあ一体誰が?
スピカにそのような事をする人がいる? あ、スズカさんかなーっ! それともテイオー!? 誰はともあれ、お礼はしなければならない。えっと、何者かな――……。
「こら、マックイーン! 困ってるからやめてやれって~の」
「ウ、ウオッカ~!?」
「……!?」
えっと、今何と行った? とても短い名前だったような気がするんですけれど……。
「ごめんな、トレーナー。この子、毎回こうでさ~」
「ウ、ウオ……え?」
「? 私、何か可笑しなこといった?」
私!? ウオッカが何時どこでそのような名乗りを覚えたんだ!? ヤンチャだった面影はすっかり消え去り、その言動や言葉遣いはすっかり常識人に変貌してしまっていた。ああ、これは予想外の助っ人だ。
まともなツッコミ役が反転していなくなった分、言い方悪いが前がまともじゃない子に至っては揃って真面目な子に反転しているようだ。元がヤンチャで常識が通じないウオッカは、ちゃんとした常識人になっているようだった。ずっとこのままだと楽っちゃ、楽なんでしょうけど、違和感があるのは確かだ。
……待った。常識が通じない相手と言えばもう一人いた。顔を上げると、奴はそこにいた。椅子に腰かけながら、そのマックイーン達の光景を哀れな物を見るかのような眼で眺めているウマ娘がいた。姿を見て察したが、行動は思っている物とは完全に違っていた。
「全く。子供じゃないんだから、もう少し言動を考えてほしいものだけど」
「ゴ……」
「?」
「ゴルシッ!?!?」
今世紀最大の驚きだった。
そのたなびく長い銀髪の高嶺の花は、紛れもなくあのトレセン学園でも屈指の問題児、ゴールドシップその人であった。何時もなら現在のマックイーンの立場がゴールドシップな筈なのに、今のゴールドシップの立場が、マックイーンと化している。
巷では『黙ってれば美少女』と形容されていた事もあったが、今のゴルシが正にそうだろう。そのままの貴方でレースに出れば、ファンも結構増えると思いますよ。
ツッコミ疲れた。スピカってまだいるんですよね、スペちゃんと、テイオーちゃんと、スズカさんにダスカちゃん。どうやら今は席を外しているとのことらしい。
「何というか、慣れない性格になっちまったからか、トレーニングが何時も以上にやりにくくなりそうだ。特にマックイーンとスズカ」
「え? スズカさん、そんなヤバイんですか?」
「ヤバイってレベルじゃねえな。あれは」
一体何があったというんだろうか?
とりあえず今は、探しに行く所から始めた方がいいだろう。その他のウマ娘たちの状況も確認してこなければならない、特に生徒会。何となくろくな事になってなさそうな予感がする。
「すみません、沖野トレーナー。私、他の皆の様子確認してきますッ」
「お、おうっ? 真面目だなぁ~お前」
「さすがに放っておけませんから。疲れましたけど、ははは」
そう言って私はスピカ部屋を後にし、生徒会室へと駆け抜ける。――が、その道中。
何かにぶつかった。
「ご、ごめんなさいっ!? 急いでて……」
「っ~たぁ。ちょっと! 走る時はちゃんと前見なさいよっ!」
聞きなれた声で、聞きなれない口調が飛んできた。
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03 私は姉でもママでもない[ライスシャワー & チーム・スピカ 中編]
「ご、ごめんなさいっ!? 急いでて……」
「っ~たぁ。ちょっと! 走る時はちゃんと前見なさいよっ!」
ぶつかった瞬間に放たれた声は、普段聞き慣れたウマ娘のものだった。しかし、その言葉の内容はその子のものと180度かけ離れていた。
恐る恐る謝罪で下げていた頭を上げる。小柄な背中から垣間見える長き美しい髪――ああ、なんと哀れな事なのだろうか。
「……ごめん、ライス。色々慌ただしくて。ははは」
「ははは~じゃないッ! 怪我でもしたらどうしてくれるのッ!?」
臆病なライスは見違える程に強くなってました。お姉さんは嬉しいよ(悪い意味で)。
この異変の影響下にある筈なのだが、どこかしら無理に見栄張ってるように伺える。普段のライスを見続けていた私だからこその違和感なんだろうか? 彼女を指導した期間も、他のウマ娘たちより長いし……。
でも寧ろその姿はどこか愛おしさすら感じられる。彼女特有の魅力なのかな。今気づいたけれど私さっきからこんな事しか言ってない気がする。
あれ? 反転後のみんなの方が可愛いのでは?
これは一時の
「今度何か奢ってあげるから、とりあえず先行くね?」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ~ッ!」
マズイ、これは根に持つタイプのライスか(どういうこと?)。私の一番苦手なパターンだ。どうすればいいか……。秘密兵器『ルナコール』を使ってもいいのだが、ここで一つ問題が生じる。
『ルナコール』とはその名の通り、私がひとたび『ルナー!』と叫ぶと、ルナ(シンボリルドルフ)がどこからともなくやってくるという仲のいい私達だからこそできる荒業である。
……なのだが、ルナもこの異変下に置かれていたらどうだろう? この手の業は使えない可能性がある。
賭けだが仕方ない。やってみるか。
「ハルウララーッ!!!」
「へ?」
「……ォォトォォレェェエエナアアアッ!?」
私はハルウララの名を大声で叫ぶ。
ドドドドッと校舎の奥からそれにこたえるかのように、叫びながらハルウララが駆け走ってくる。その姿は『ルナコール』をした時にやってくるルナの姿にどことなく似ていた。成程、ハルウララが反転するとルナになるんだね。
……あれ、じゃあまさかルナの方は? 嫌な予感がしてならない。まあその確認は後にするとしよう。
「あっ、ライスさんっ!? トレーナーに何してるんですか!?」
「卑怯でしょトレーナーッ!!」
「知らない!! ハルウララ委員長、後は宜しく!!」
委員長ではないが、そう呼んでしまった。
響きわたるライスとハルウララの声を背に、私は勢いよくその場から離れる。『ハルウララコール』しばらくは乱用させてもらう事にしよう。余りに使い勝手が良すぎる。
***
そのまま校舎2階へとやってくる。念のため背後を振り返るが、そこにライスの姿はなかった。ハルウララさまさまである。
座学の時間はもう終わっているので、教室に残っているウマ娘は殆どいないと思ったのだが、一つの教室から何やら掠れ、淀んだ声が響く。そっと扉を開けると、そこには二人のウマ娘がいた。
しかも、二人ともチーム・スピカのメンバーだった。……のだが。
「ねえ、テイオー。来週レースだったわよね。私、勝てると思う?」
「なんでボクに聞くのさ……。ただえさえボクだって走りたくない気分なのに~」
「いや、話聞いてくれそうな子がアンタしかいなかったからさ~」
――……重ッ!? ナニコレ、息苦しッ!?
そこにいたのはトウカイテイオーとダイワスカーレットの二人。どちらも実力的には上位に入る程なのだが、何故そのような会話をする?
「ふ、二人とも、どうしたの?」
「ふやぁあぁっ!? 負のオーラのお化けッ!?」
「ああ……トレーナー。ちょっとしたお悩み相談よ……はあ」
テイオーは私を何だと思っているのか。ダイワスカーレットに至っては、かつての負けん気は何処に行ったのやら。こちらもこちらでかなりの反転具合だった。うん、重症だね。沖野トレーナー、ご愁傷様です。
重苦しいが、さすがにこのままにしておくのはダメだ。彼女達に期待している人達も多いことだし、少しだけ話を聞いてあげる事にしよう。私は、近くにあった椅子に座り話を聞く。
「何だか最近、調子出ないのよね~。ウオッカも力付けてきてるし、そろそろ負けちゃうかも」
「だ、大丈夫だと思うよ? スカーレットちゃんだって、前のレース大差だったでしょ? 大丈夫だって」
「そうだったかしら……」
自分が出たレースの結果ぐらいは忘れないでいただきたい。そこまで落ち込んでしまっていたら申し訳ないが私にはどうしようもできない。
「そうそう、だから自信もって。ね?」
「……わかったわ」
何でちょっと不機嫌そうなんだ。何はともあれ、とりあえず立ち直って(?)くれたので良しとしましょう。空気も少しだけ軽くなってきた。
あとは……。
「テイオーは、何があったの……」
「この前のレース転びそうになって……踏まれたらって思うと……ふえぇ~」
臆病にプラスしてネガティブと来たか。バレないように、異変前のトウカイテイオーを想像する。
ぴょんぴょんと笑顔で飛び跳ねながら、トレーナートレーナーと無邪気に呼んできて、『次のレース、絶対勝つからね!』と余裕そうに宣言する姿――。
うん、戻して。
「だ、大丈夫だよ。ほらほら、泣かないで? ね? 無事だからさ」
「まだトラウマになってるよぉ~。次のレースでまた転んで……いや、骨折までいったらあぁああ!」
おいおいこの展開、さっきオグリンでもやったぞ! 言っておくけど、私はママじゃないからなッ!
抱きかかえて、背中を優しく叩き落ち着かせる。とりあえず対処法がこれしか思いつかないのである。
「……親子ごっこなら、あっちでやってくれない?」
知らんわッ!!
まだスピカ2人いるんでしょ? これ体力もつんだろうか? いや、持たせなければならない。私は他のトレーナーのように、多数のウマ娘を見ているわけではない。つまり、一番手が空いているのは私というわけだ。
何だかんだ言って、ここまで8人のウマ娘の相手をしているんだ。きっと何とかなる筈……多分。
「あ、そうそう。スペちゃんとスズカさん、どこにいるか知らない?」
「ん? ……屋上にいるわよ。良い意味で酷くて、見てられないけど」
本当にどういう事? 何はともあれ、情報を教えてくれたので感謝の言葉を述べる。……とはいっても、テイオーの震えがまだ止まらないので、もう少し一緒に居てあげる事にしよう。
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04 好かれるというのは苦痛[チーム・スピカ 後編] (セリフ多め)
スペスズはいいぞ
多分スペちゃんはそんな反転してないです。効力が薄かったのでしょう。
「ちょ、ちょっと何!? 何なんですか!?」
「スペちゃんっ! ちょっとそのままでお願いできる? こうしていると落ち着いてくるの!」
「何で私!? ちょっ、ちょっと!? あ! ど、どこ触っ……ッ!?」
「スペちゃんが一番の親友だからだよ? いや、もう好きなほどかもしれない!」
「えぇ~~~~~っ!?!?!??!?!」
扉を開いた刹那、耳に入った会話と、目に入った衝撃的な光景を感知して、そっと扉を閉じる。見てはいけない物を見てしまった気がする。
な、何だあれは? 何をやっていたんだ? スズカさんとスペちゃんの関係が逆になっている? 受け攻めから攻め受けですか!? アグネスデジタルが凄い喜びそうな光景だ。
成程成程、関係性の逆という事もあるのか。……いや、スズカさんはクールな子だったから……これもまた反転の一つか。スペちゃんの方は……人見知りさの倍増だろうか。
「ね? 見てられないでしょ……?」
「あれまだやってるの? ボクには到底信じられない光景だよぉ~……」
「うん、ごめん。アレはヤバイ」
これが俗にいう百合って奴だろうか。いや、一方的な行為だから少し違いはあるか。
「……でも、行かなきゃ行けないよね……。さすがに」
だがしかし、ここトレセン学園に勤めるトレーナーとして、このような異常事態は見過ごせない。
そして何より、この光景は見てられないし、なおかつ止めなければ永遠にこの状態になりかねない。そうしたならば、スペちゃんの精神状態が天元突破するかもしれない。
そしたらどうなる? 知らんのか、植物状態になってしまうだろう。……いや、それはそれで……いやいやダメだダメだ! ここは心を鬼にしなければ。
「ちょ、ちょっと二人とも!? 一体何をし、て……ッ!?!??!?!」
「と……トレーナー……助け……」
「何か用ですか? 私はただスペちゃんと遊んでただけで?」
扉を開けた先に現れた光景は、先ほどよりも更に酷い状態だった。相当スズカさんに攻められたのだろうか、スペちゃんが涙目になりながら、上半身の半分が露出した状態で横たわっていた。上にはイヌ乗りとなったスズカさんが。
何も知らない人が見たら、絶対に『事案発生』とか言い出して通報しかねない状態だ。でも何故だ……何故これが素敵な光景に見えてしまうのだ? マズイ、眩いぞ。
「ふゃぁ~!! スペちゃんが裸になりかけてるよ!!」
「テイオー、私達は見ちゃダメだよ。トレーナーに任せよ」
「あ、逃げんな!! スズカさんも、スペちゃん嫌がってるでしょ? 離してあげ――」
「私からスペちゃんを取り上げる気ですか!?」
「スズカさん!?」
「断じて違うし、そんな趣味はないッ!!!」
何故そうなった? 過激派すぎやしないか?
沖野トレーナーが、『特にスズカさんはヤバイ』と言った理由が今ようやく理解した。何というスペちゃん狂信者だろうか。クールな彼女は何処へ行ったんだ。
スペちゃん、御気の毒に……。私が絶対に何とかしてあげるから、今だけは我慢してください。
「ス、スズカさん……はぁ、お願いです、離してください……はぁ」
「ス、スペちゃん……」
「ほら、スズカさん? スペちゃんも疲れ切ってるし……さすがに、ね?」
「そんなスペちゃんも可愛いよッ!!!」
「く、苦しッ!!」
「こらぁ!!!」
こうなったら仕方ない。私もこの手は使いたくなかったが。
逃げようとするテイオーとスカーレットの二人を呼び止め、3人の力で無理やりスズカさんを引き離す。さすがはウマ娘、かなりの抵抗力だ。
「離してッ! スペちゃん!!」
「ち……強ッ!? 3人がかりだよ!?」
「うゃ~! 落ち着いて~!」
「何で私まで……」
「はぁ……つ、疲れた……」
「スズカさん! スペちゃんが疲れて走れなくなったらどうするの!」
「……っ」
私が無理やり引っ張り出してきたセリフを吐くと、ようやくスズカさんは落ち着いてくれた。というかここまでしないと、落ち着いてくれないのか。そりゃ無理だ。
一瞬小声で『それでも……』って声が聞こえたような気がしたが、さすがにヤバイのでスルーしておく。そこは沖野トレーナーの技倆に任せるしかない。一応あの人は私の先輩なのだ。何とかしてくれるだろう。
さて、これでスピカは一通り全員確認した事になる。となると次は……リギルか。
チーム・リギルは、東条ハナトレーナーが管理する凄腕のチームである。ルナちゃんやエアグルーヴさんが所属していると言えば、その力量が伺えるだろう。
あっちもあっちで大変な事になってるだろうな、と哀愁の想いを募らせる。私も確認に行った方が良さそうだ。
「二人とも、スズカさんとスペちゃん連れて沖野トレーナーの所にいって。監視は厳重に!」
「何でボクたちが!?」
「トレーナーがやってよ……今気が滅入ってるって言うのに……」
「ごめん。今度スイーツ奢ってあげるから!」
そういうと、二人は渋々承諾してくれた。スイーツ様様である。
四人を見送った後、私は勢いよく駆け出し、チーム・リギルのチーム専用部屋へと向かった。
イヌ乗り。という言葉がありましたが、この世界にウマはいないし、かつそのままウマ娘の意味でウマ乗りと言ってしまったら、明らかに騎〇位なので、ここでは四足歩行の代表としてイヌを登場させました。
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