トレーナーじゃない学生の話 (白玉善哉)
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弟のポケモン飼ってくれ運動①

「やだああああああ!! かって! かってッ! かってぇぇぇっ!!」

 

 ヤマブキシティ某所にある我が家は賃貸である。父親も籍を置く大きな会社がある町のため非常に栄えている。学生の身分としては通学もしやすい立地にある。家賃と物価は高いがとても賑やかで夜も明るい。単身赴任の出張でジョウトに居る父親も週末にはリニアで気軽に帰ってくる。それが我が家だ。

 

「あ゛ああああ……うああああああ!!」

 

 防音機能のない俺の耳で絶叫に無視を続けるのも限界がある。

 園児である弟はタマムシにある学校から俺が帰るとここ数日この調子である。嘘泣きをするポケモンがいるそうだが、どう見ても今の弟はガチ泣きだし、控えめに言ってハイパーボイスだ。隣の家のロコンが興奮したのか弟の泣き声に輪唱してコンコンと吠え始める。壁は薄くはないが防音でないので非常に宜しくない。

 

 なぜ、こんな事になってしまったのか…。同じ幼稚園の友達がポケモンデビューをしたとかで自分も欲しくなってしまったクチである。

 

「先生、大先生……いらっしゃったら弟に向けて催眠術をお願いします」

 

 ニシシと笑い声を上げて壁をすり抜けてきた黒いガス。近場のどこかに生息しているらしい野生個体のゴースである。基本的には臆病で此方に害をなす訳でない。出会いは弟が言うことを聞かない時に怖い顔でたしなめてくれた育児のヘルパー……まさに野生の先生と呼ぶべき存在である。俺の顔を横目で見て笑うと弟の真正面にゴースはふよふよと飛んでいった。

 

「ひっ……」

 

 小さく悲鳴を挙げて弟は後ずさる。この前夜のニュースでフワンテが子供を連れ去ろうと空を飛んでしまった事件があったばかりな為かゴーストタイプが怖いらしかった。しかし、我が家の末っ子は生意気だ。すぐに目を吊り上げてゴースを涙目で睨みつける。

 ゴースの瞳が妖しく光って揺らぐ。その瞳を真正面から見てしまった弟は1、2のバタンで眠りに落ちた。これで朝まで眠気覚まし抜きにノンストップ睡眠は確定だ。かくして、ヤマブキの夜の静けさは守られたのである。

 

「また、あの子すり抜けて来てるの?」

 

 そう声をかけるのは母である。大人のお姉さんだったのも今は昔、すっかり専業主婦である。そして、大黒柱の父がいない現在困った事があると「お兄ちゃんに頼みなさい」を早々に切り出すため、俺は非常に迷惑をしている。

 

「のろわれボディならシオンで有名な祈祷師を呼ばなきゃだけどさ、単に浮遊してるだけっぽいし……良いんじゃない?」

 

「だって、大きな生き物だって技も使わずに二秒で倒しちゃうんでしょ?」

 

 博士のポケモン講座でやってたわと呟きながらゴースを見る目は少し複雑そうだ。しかし、幼いとはいえ子供をたしなめる事ができずに俺に丸投げしている時点で、批判の類はお門違いと俺は思う。そんな母親を無視して、冷蔵庫から冷えたモモンの実を切り分けた皿を取り出す。甘く瑞々しいが癖のない味でポケモンも人間にも好ましい味で、俺の分の夕飯のデザートだったものだ。こんな事もあろうかと……などとご都合主義的な話でなく、タマムシの大盛り食堂で食べ過ぎて夕飯もろとも手を付けられなかった為にそのままになっていた。

 

「先生、お疲れ様でした……此方をお召し上がりください」

「ニシシシっ」

 

 毒消しでもあるモモンを毒タイプに与えて平気か最初は迷ったが、案外平気なのである。ゴース先生は更に付着した果汁まで丁寧に舌で舐めると楽しそうに俺にまとわりついてから窓ガラスをすり抜けて行った。

 

 ゴースのガスの名残なのかゾクゾクとした寒気が背中を走る。今日は追い焚きをして風呂に入った方が良さそうだ。

 

 

 

 



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弟のポケモン飼ってくれ運動②

 我が家では父親から始まり、母親、当然ながら俺も弟も誰一人としてポケモンを持っていない非トレーナー家族だ。ビジネスの拠点であり、ジムがある。それがヤマブキシティだ。トレーナーやビジネスマンが集う活気のある町に住んでいながら珍しい家と言えるだろう。強いて言えば、俺は野良や野生のポケモンに襲われた時に備えてフレンドリィショップで買ったボールをポケットに一個忍ばせている。

 週末になり、弟のポケモンを飼ってくれ運動の矛先はめでたく帰宅した父親に向かっていった。

 

 

「…もう、ぷっぷちゃんの時のような悲しい思いはしたくない」

 

 

 そう家長である父が涙ながらに言うのだから弟に勝ち目はない。そして、「お父さんにぷっぷちゃんの話はダメ!!」と母が騒ぎだした。

 かくして、弟の夢は儚くも一撃必殺で破れ去ったのである。今は泣き疲れたらしく弟はふて寝をしている。

 

 ぷっぷちゃんは、俺が幼子の頃に我が家で飼っていたプリンだ。珍しい淡い碧色の瞳をした可愛いメスのプリンで写真が残っていた。父が若い頃にどうにも運命的な出会いをしたそうだ。俺は覚えていないが赤ん坊の頃にはうたって寝かしつけたり、泣き出すとビロードのような毛並みを擦り付けて俺をあやしてくれていたらしい。二才くらいまで何か柔らかなピッピ人形をしゃぶっていた記憶がほんのりと残っているが、ぷっぷちゃんには結びつかない。父のポケモンで優秀なベビーシッターだったぷっぷちゃん。彼女は隣町であるシオンの『たましいのいえ』で安らかな眠りについているとのことだ。

 

 母親も母親で、幼い頃に夏祭りのトサキント釣りで捕まえたトサキントを野生のピジョットに攫われただとかで生きたポケモンを飼うには抵抗があるそうだ。

 

 

 だが、俺としては弟の気持ちが理解できない訳でもない。

 ポケモントレーナーの兄や姉を持つ同級生達はたまにタマゴを上のきょうだいから貰って抱っこして歩いているのを羨ましく思ったものだ。

 

 孵化したばかりのヒトカゲを友達がボールに入れてこっそり幼稚園に連れてきたことがあった。あの頃の俺は、あまりの妬ましさに憤死もしくは羨ま死するところだった。頑丈な体に感謝である。

 小さかったモンスターボールのボタンを押して、ソフトボール大に膨らませ赤いビームと共に飛び出したヒトカゲ。

 レベル1のまだ動きもよちよちとあどけない姿も可愛かったが、幼稚園児だった俺たちと同じく幼く遊び盛りだったヒトカゲは陽気なお調子者だった。格好つけてひっかくをして見せた他になんと腹太鼓までして場を盛り上げるのだから幼少期の俺もそれはそれはポケモンが欲しくて仕方がなかった。

 

 一方、オスだと信じていた控えめで武士のようなリザードンのセパルトラがメスだった上にタマゴの父親がヤドランだったとヨシくんの兄ちゃんはとても落ち込んだそうだ。彼は今もセパルトラと元気にしているだろうか……。

 

 閑話休題、ぷっぷちゃんでもトットちゃんでもセパルトラでもなく我が弟である。正直、虫ポケモンの観察はトレーナースクールでもやるし情操教育として、そして防犯としてポケモンを迎え入れるのはありだと思っている。

 

 しかし、問題は両親である。

 母は、毒タイプや悪タイプを見れば複雑な表情を浮かべ、虫タイプを見れば悲鳴をあげる典型的な女性だ。父は父でぷっぷちゃんが忘れられない。

 強いて二人の好きな系統を挙げるなら、陸上や妖精グループに属する生き物感が強いポケモンだろうか。

 

 そう、生き物っぽいのを除外すれば良いのだ。きっと、コイルだとかイシツブテ辺りの「コイツ、何を食べるの?」って感じのポケモンなら多分文句も飲み込むに違いない。弟も格好いいのが欲しいんだろうが、取り敢えずポケモンを連れてくれば満足するだろう。

 

 正直、ポケモンが居ないと今の俺はとても困る。

 宿題のレポートを一瞬で書き上げられる天才なら別だが、俺は悲しいかな凡人だ。

 弟がポケモンを諦めるのを待っている間に怒りのボルテージが上がってしまう。家庭内平和のためなのだ。

 そう、ポケモンを手に入れようと思ったが吉日だ。俺にはツテがある。

 ロトムの入っていないスマホで、連絡先をそっとタップしたのだった。



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トライアル期間①

 電話相手は同じ学校の同級生だ。授業は選択制で殆ど時間割が被らない為、翌日を指定してタマムシデパートの屋上に彼を呼び出し相談をする事にした。

 

「ほほう、鉱物や不定形ですかな? 俺氏もニッチさの強いポケモンに目覚めてデビューをして頂けるようで何よりですぞ!」

 

 唯一、ゼミでのみ授業を共にするハカセと呼ばれている理科系の男である。

 俺はどちらかと言えば文系なのに何故に理科系と一緒なのだろうか。答えは単純にハカセは理科系っぽい見掛けをした文系の男だからである。

 

 頼み事をする立場でこんな事を思うのも失礼な話だが、ポケモンへのラブが溢れすぎてハカセは奇人変人の枠として年下や年上の生徒からもある意味で恐れられている。ずれた言動もあり、口の悪い者は彼をバカセと呼んでいるそうだ。

 そんな彼だが、飛び級や年齢層の疎らなスクールにおいて年が近く気楽につるむ事のできる俺にとって気の置けないありがたい存在である。

 

「……ふひひっ、俺氏。めくるめく理科系の世界にウェルカムですぞ」

 

 

 ……やっぱり、人選を間違えたかもしれない。そして、お前はまごう事なき文系だろう。

 不安がめきめきと成長中である。

 

 

「いや、俺じゃなくて弟がな……」

「なんと!! 弟君でしたか!」

 

 

 将来有望ですな! と鼻息をふんふん荒くしているハカセに事の経緯を話し終えるとずれてもいない眼鏡をぐいと中指で押し上げた。

 

 

「では、俺氏の弟君には拙者のポケモンのベイビィちゃんをお渡しすれば良いですかな?」

「不定形とか鉱物辺りから頼む」

「ちょうど、先日生まれたベイビィちゃんがおりましてな! しかし少し条件がありますぞ!」

 

 

 条件とは。そう首を傾げる俺にハカセは人差し指を突き付けてきた。熱弁を奮っていたが、要約してしまえば条件は二つ。

 

 

 一つ目、一週間のトライアル期間を設けること。

 

 二つ目、俺の家で過ごすベイビィちゃんの写真を撮って送ること。

 

 

 ニャースの譲渡会でよく聞くような内容だったので一安心である。やはりどれだけ岩に近かったりメカニックな見た目をしていてもポケモンは生き物なので無理をさせるのは禁物という事なのだろう。

 そもそも、上手く行けば譲って貰えるらしいポケモンも生まれたばっかりの赤ちゃんだしな。ハカセの心配もごもっともだ。

 

「ちなみに、預かるのってどんなヤツなんだ? ベトベターとかドガースだとポケモンに嫌な思いさせちまいそうでな」

 

 主に野生のシッターにさえ微妙な顔をする母親が原因である。懸念事項として伝えておく。ハカセは、チチチと舌を鳴らして指を振ったがしかし何も起こらない。

 

「ご心配には及びませんぞ」

 

 スペシャルラブリーですからな! と白い歯を光らせて笑っていた。

 本当に大丈夫だろうか。

 

 明日、ハカセからボールを預かる事になった。

 響きだけは俺もトレーナーデビューみたいで年甲斐もなくウキウキする。

 そう、ついに明日には弟の「飼って!!!!」から開放されるのだ。



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トライアル期間②

 ハカセと別れた後、我が家の夕飯はなんとも気まずいものだった。

 

 俺が居ない間にまた泣いたらしく腫れた目ですんすんと鼻を啜っている弟。

 ぷっぷちゃんの事で未だ上の空な父親。

 流しっぱなしのエレブース対コイキングスの試合中継で若い選手の時に箸の手を止めて集中して見ているらしい母親。

 

 会話らしい会話が成立しそうにない重苦しい雰囲気の中で明日にポケモンのトライアルを受ける事にしたと告げなければならない俺の心労はストレスでマッハである。しかし、迎え入れると独断専行したのは俺だ。明日には父親がまたジョウトにリニアで帰っていくのだからタイミングとしては今しかないのだ。

 

「あのさ…、明日、うちにポケモン来るから」

 

 打ったー……エレブース、特大ホームランと実況の底抜けに明るい声が響く。三人の目が此方に向いているのが酷く居心地が悪い。

 

「友達の家で生まれたんだって。それで、人に慣らす経験を積ませたいって、ウチで預かることになったから」

 

 泣いてグズグズだった弟の顔が一気に日本晴れだ。一方で、両親の顔は非常に暗い。そりゃそうだ。

 

 

「預かることになったって……生き物なのよ?」

「好奇心や一時の衝動で家族にして、粗末にしていい命や価値のない命なんて一つもないんだぞ?」

 

 

 その声には熱が籠もっていた。大好きクラブがスポンサーのポケモン紹介チャンネルで嫌な顔をしているのを見たことがない。本来はポケモンが好きであったのだが、悲しい別れを経験したがために穴を別なポケモンで埋めることを拒否したのはわざわざ言うまでもない。二人の表情は硬かった。

 

「どんなに避けようと思っても、ポケモンを切り離しての生活は無理だと思う。プリンも、トサキントもそうだし……生き物には必ず寿命があるのも分かってる」

「そうは言ってもねぇ……」

 

 父親は目を閉じて何か考えている風だった。母親はそんな父親を気遣うように俺と弟、父と落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

 

「弟もポケモンがどんな生き物なのか知らないまま育って変な関わり方をしても怖い。だから、トライアルって話だからお試しで一週間。我が家とポケモンの相性が良ければ貰えることになってる。俺も事故でポケモンが死ぬのは嫌だから不定形とか鉱物とかのポケモンをお願いしてるから」

 

 お試しという点と、丈夫そうなポケモンを頼む。この二つが決め手になったらしく最終的に父親は「どうするかはお前が決めなさい」とそう言って、試合のハイライトに目線を移していた。その背中はどこか寂しそうだった。

 

※※※

 

 翌日、クチバでハカセとの待ち合わせをしたが中々来なかった。何をそんなに時間が掛かるものだろうとトイレに行こうと場所を移動する道すがら、ジュンサーさんに職質か何かを受けているハカセを発見した。腕には幼女を抱えている。

 ……おまわりさん、ソイツです。どうしたものかと遠目に眺めていたら

 

「俺氏ィィ!! 遅くなって申し訳ないですぞ!!」

 

 大声で此方に向けて声を掛けてくるからさあ大変である。このままでは犯罪歴はマサラタウンな俺に人身売買の疑惑が掛けられてしまう……!! ───と、そんな事もなく普通に腕にいたのはラルトスだったし、他の地方が原産のベイビィポケモンを逃がして生態系を崩さないようにと注意喚起を受けたハカセ。彼は、折角ジュンサーさんに声を掛けて貰ったのだから『初めてポケモンを飼う君へ』だとか『ポケモンの飼い方』なる官公庁にあるような配布冊子を警察署で持っていれば欲しいと頼み込んでいたのが事の真相だった。

 

 全部、話を持ちかけた俺の頼みのためである。後でサイコソーダやミックスオレと言わず何か美味いものを奢ってやらねばなるまい。

 

 ハカセには感謝してもしきれない恩が出来てしまった。

 



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トライアル期間③

 きょおは、にいさゃんがポケモンをつれてきてくれるってゆってたよ。

 パパとママはダメってゆってたけど、にいさゃんがかった。

 なにをつれてくるのかはわかんない…かっこいいのがいいな。

 リザードンなら、せなかにのりたい。ジムのナツメおねえさゃんみたいにフーディンもかっこいい!! 

 

 はやくポケモンにあいたい!!!! 

 

 

※ ※ ※

 

 

 昨日の夜は弟が覚えたての文字でそんな日記を書いていたと母親は言っていた。トライアルでポケモンを迎え入れることが殆ど決定してしまってからは「ポケモンフーズを買っておかなきゃね」となんだかんだ一番に乗り気だったのが母親だ。

 そして、ジュンサーさんから冊子と餞別としてキズぐすりまで貰ってからようやくお迎えをするラルトスと対面したのである。

 

 

「うおぉ…ちっちゃいなぁ…」

「この子は少し兄弟より小さい子でしたからなあ!」

 

 

 抱っこしていたラルトスを俺に抱かせてくるハカセ。弟が小さく大人しくしていた頃の要領で恐る恐る抱いてやると嬉しそうに「ラルル」と声をあげた。そんな無邪気な姿を名残惜しそうにカメラを抱えてハカセは連写していた。

 

 

「流石はベテラン兄上ですな! これなら、安心してベイビィちゃんを任せられますぞ!」

「ほら、まだトライアル期限の一週間経ってないし…ラルトスの居心地が悪そうならハカセの所に帰る感じになるだろ?」

「ラル…?」

 

 

 ハカセは涙ながらに俺に告げるとラルトスを愛しそうに───眼鏡が分厚くて殆ど瞳は見えないが──眺めていた。

 

 

「いけませんな…親心が付く前に、俺は行きますぞ。これがベイビィちゃんのボールですから、移動で疲れてしまいそうな時には使ってくだされ!」

「おう、何から何まで世話になっちまって悪いな」

「ル……」

 

 

 俺に握らせたボールは職人が手作りで作り上げると聞くフレンドボールだった。まだピンポン玉大のボールを押し付け、未練に顔を歪めながらゆっくりと離れる。

 

 

「ラル…ラルル?」

「わっ、コラ…落ちちまうっての!」

 

 

 俺に抱かれたままのラルトスは赤い角を動かし何か変だとジタバタしていた。

 そして、ハカセが後ろを向き走り出そうとしたその時──

 

 

「ラルルーッ!!!!」

 

 

 おにいちゃん、おいていかないで。…ひとりにしないでよう!

 ──ラルトスが叫んだのと同時に頭の中にテレパシーのように感情が流れ込んできた。ハカセにも聞こえただろうかとヤツの姿を探すと消えている。

 

 

「んぶっ…!!」

 

 

 いや、駆け出そうと腕を前に出したやたらフォームの良い俊足ポーズのままずっこけて呻いていた。動こうにも体の自由を奪われ動けないらしい。スマホからラルトスが使える技をポケペディアで調べてみると親の技を引き継ぐことがあることや金縛りについて書かれていた。

 

 

「ああ、お前これをハカセに使ったのか…」

「ラル…ラルルゥ……」

 

 

 おいていかないでよう。ままにあいたいよう。

 そんな思念がまた抱いているラルトスの体から俺に伝わってきた。

 ちらりとハカセを見ると此方を見つめて泣いていた。やっぱりハカセにも伝わっていたらしい。

 

 バトル換算で数ターン後、ハカセの金縛りは解けたがラルトスと抱き合っておいおいと声をあげて泣いている。道の真ん中を占拠してしまっている俺達を避けるようにして、群衆は通り過ぎていく。

 

 

 いや、これは……どう考えてもラルトスを連れて帰るのは無理だろう。

 

 



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出会いもあれば別れもあるさ

「この埋め合わせは必ずや!ばってん、今は早くベイビィちゃんをサナに会わせたか!」

 

 普段は標準語を心掛けているのに興奮したハカセはホウエン訛りが出ていた。随分と落ち着かない様子だったので直ぐに別れる事となった。そう言えば実家がトウカシティだかキンセツシティと言ってた気がする…うろ覚えだ。

 

 そして、残された俺は頭を抱える事となる。

 

 トライアルを楽しみにしていた母親は、きっと何を連れ帰るかも分からないのにケージだとか色々と揃えているに違いない。そして、ちびっ子モンスターが嘆きのハイパーボイスを放つ姿が目に浮かぶ。きっと隣のロコンもまたコンコン吠えるし、そろそろ上か下にお住まいのご家庭からドンドンと床だか天井を叩かれるに違いない。

 

 …連れて帰るポケモンは居ない。しかし、その辺の草むらに都合良く捨てられたばかりのベイビィポケモンがいる訳もない。野生のベイビィはどうか親と引き剥がしたくないから、そのまま立派になってくれ。

 

……詰んだわ。

 

 衝動的に頭に浮かんだ四文字に何処か無意味に遠くを眺めたくなる。──ラルトス、ほんのり温かかったなあ。そんな現実逃避をしながら、用事の無くなったクチバを後にする。

 

「すげぇ家に帰りたくねぇなぁ…」

 

 気が滅入り過ぎて、思わずデカい独り言が口から出てしまった。真っ直ぐ家に帰る気も起きずフラフラとタマムシに足が向いてしまう。ああ…遊んで行くか。

 

※ ※ ※

 

ガチャーン、トゥルルルルル、チャリンチャリンチャリーンみたいな感じである。

 

 これがイッシュのセレブ御用達のカジノだったら俺は億万長者だが、健全さが売りのスロットコーナーでそんな事はない。

 

 換金が出来ない代わりにコインを入れるホルダーを進呈してくれたり景品と交換してくれるのが関の山である。

 一時、マフィアの資金調達源だったと噂になっていたがジムリーダーのお膝元であり、有名な大学のある大都会タマムシで流石にそれはないだろう。

 

そして、このコインの数よ…あっ、また出た。

 

※ ※ ※

 

コインケースがパンパンである。もう一枚も入らない。しかし、それを超過してコインがタンマリである。

 

周りのおっさん達が羨ましげに俺の席を見ていて、とても居心地が悪い。そろそろ出るかと腰を上げると死にそうな顔のおじさんが俺の手を握りしめる。

 

 

「た、頼む…!」

「嫌です」

 

 

 何と言っても俺はノーと言えるヤマブキっ子である。即答した。いやー、1000円50枚からのスタートが増えたものである。20万以上の大勝ちだ。普段、全部飲まれているのに今日は金運の女神は微笑むどころか俺と結婚したいんじゃないかと思うレベルである。

 

…気を付けないと明日は運の枯渇で死ぬ気がするので気を引き締めないとな。受付のお姉さんから、コインケースをもう一枚貰い全部を詰めて念願だった景品所に足を運んだ。

 

 当たった者のみが踏み入れる場所。景品所…閑散としているかと思いきやトレーナー達がギラギラと技マシンのディスクコーナーに張り付いている。正直、ちょっと怖い位の熱気である。

 

──そこで俺は運命的な出会いをした。

 

 無機質なつるぴかボディは傷なんか付かなそうで温かみを感じない。どことなくヤドンを彷彿とさせるぼんやりとした瞳。しかし、図鑑に載っているし間違いなく生き物…ポケモンと認識されている。

 

…そう、9999枚のコインを手に入れた者だけが引き換えられる。超高級ポケモンのポリゴン様である。



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科学の力ってすげー!

 

 景品所はとても居心地が悪かった。下手に「ポリゴンください」と言い出そうものなら周りのポケモントレーナーに睨まれるんじゃないかと少しドキドキした。

 

 ちょっとした偏見だが、トレーナーは目が合うだけで「バトルしようぜ!」と戦闘民族のような事を言い出し、自分も吠えて跳ねてポケモンは空を飛ばしてるような気がする。

 

 そんな事より、ポリゴンである。トライアル期間としてポケモンの引き受けを失敗した今、弟に金的狙いでメガトンパンチをされる心配がメキメキ浮上中なのだ。相手は園児といえど、急所に当たれば効果は抜群なのが避けようはない。だって男の子だもん。必ずや人工生物で死の概念と無縁そうなアイツを連れて帰らねばならない。

 

 

「あのー、すみません」

「何と交換されますか?」

 

 

 トレーナー連中は単なる冷やかしなのか、奮発して500枚だけ買っちまったとか今日は欲しい技マシンが無いとか仲間内でワイワイしているだけで此方には興味は無いようだった。

 

 

「ポリゴンで」

「はい、ポリゴンでお間違いはございませんね?」

「大丈夫です。あっ、トレーナー登録だけ無しでお願いします」

 

 

 満タンのコインケースをおっちゃんの店員に渡すと蓋を開けて事務的に機械にコインを落とす。銀行に置いてあるコインカウンターより少しチープな型の物だ。

 

 

「枚数ピッタリですね、確認しました。…それでは、景品のポリゴンになります。間違いがないかお確かめください」

 

 

 トレーの上にはコインケースと既にソフトボール大のモンスターボールが台座の上に乗せられている。此処で出してみろって事である。人差し指でそっとボタンを押し込む…ポチッとな。

 

 

「×△✩……クエー!」

 

 

 ビープ音と共に頭を360度にグルグルと回し周囲の状況を確認しているのは超合金ゴルーグZではなく紛れもなくポリゴン様である。暫くして、状況を把握するとポリゴンは俺の方に頭を向けて一声鳴いた。いや、鳴った?ピンクとブルーのツートンカラー。カクカクボディが地上から30センチ位の所で浮いている。何かこう…動き方が独特だ。ゲームで見えない壁に邪魔されてバグったような…RPGの移動中にNPCとオブジェクトの間で操作キャラが詰まった時のような不思議な動きをしている。

 

 

「あの…ポリゴンって皆こんな感じなんですか?」

「ポリゴンをお迎えした方は皆さん揃って、そう言われますが…コレは普通ですねぇ」

 

 

 ポリゴンの通常動作らしかった。見れば見るほどポケモンってすげー!となる。厳密には人工ポケモンを作り上げた科学の力の方かもしれない。

 

 

「クエ……ジジッ」

 

 

 何かを読み込む音がした。少しだけポリゴンの動きが良くなる。そして、床の色を角ばった瞳で見つめるとポリゴンの体はフロアと同じ色に変わった。どうやら擬態のつもりであるらしい。しかし、床の色をしただけの角ばった物体が浮遊しているのだから違和感が物凄い。

 

 

「あっ、テクスチャーしてますねぇ。お客さん、水の中のシャワーズ程ではないですが屋外でポリゴンを出す時は見失わないように気を付けてくださいね」

 

 

 店員はそう俺に忠告をくれると物珍しそうにポリゴンを見ていた。実際にコイン最高値のこのポケモンを引き換える人は少ないんだろうなとおっさんの様子から想像できた。ポリゴンを戻し、コインケースと共にモンスターボールをポケットに仕舞うと俺は交換所を後にする。

 

 空はすっかり日が傾いていて、夕焼けが眩しい。昼にハカセと別れてから随分とタマムシに長居をしてしまったらしい。

 

──早く家に戻ろう。



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おいでませ我が家へ

 

 ヤマブキの我が家に帰ると、俺の姿を見るまで落ち着かなかったらしく母親と弟が熱烈に出迎えをしてくれた。普段、俺が普通に帰宅した所でこんな事は無いので、よっぽどポケモンが気になるらしい。

 

 

「お帰りー、連れて来たの?」

「ポケモンは?どこ?」

 

 

ポケットを弄りボールを取り出す。赤くて艶々で新品のモンスターボールだ。この中にポケモンが入っていると思うとどうにも緊張する。

 

 

「ん、ちょっと離れてくれ」

 

 

テレビで見たシバvsキクコのエキシビションマッチを思い出し、ボールを膨らまして宙に放り投げる。

 

ゴンッ

 

普通に失敗した。狭い玄関で上に投げれば天井に当たりますわ。母親に睨まれながら開いたボールは赤い光を吐き出し、みるみると体積を広げ一体のポリゴンへと変わった。

 

 

「グエー…」

 

「あら、この子なの。子供にしては…少し大きいわね?」

「コイツなに?なんてなまえ?なんかゲンキないよ?びょーき?」

 

 

我が家の玄関はポリゴンにジャストサイズだった。挟まった足を胴体と壁の隙間から引き抜くために周囲の状況を頭を回して確認していた。

 

 

「クエクエェェッ!」

 

 

カクカクボディが更に固く鋭くなる。元から丸みのない体は更に角ばった。そして、無理矢理に足を動かす物だからまだまだ割と綺麗な玄関の張り紙はひとたまりもなかった。

 

 

「きゃあああ!ボールに仕舞って!壁!破けてるじゃない!」

「あー、おれもまえラクガキやったらママにおこられた!いーけないんだ!」

 

「クエ」

 

 

頭をぐるりと此方に向けて反転させると無機質にポリゴンが鳴いた。ラルトスみたいに思念を飛ばせなくてもコイツが何を言いたいか分かる。

 

 

 た す け て

 

 

口ほどに物を言うタイプの目ではないが、間違いなくそう言ってる。ボールをポリゴンに向けると光となって吸い込まれた。

 

ファーストコンタクトはどうにも失敗のようである。

 

 

※ ※ ※

 

 

ポリゴンが破いた張り紙は俺の小遣いから天引きとなる事で沙汰が決まった。玄関でお披露目に踏み切ったのは俺だし諦める事とする。

 

やっぱり、母はガーディやロコン、弟はヒトカゲやピカチュウに夢を見ていたらしくポリゴンの姿を不思議そうに眺めている。不定形か鉱物を連れてくると言った事はすっぽり頭から抜けていたらしい。

 

母が連れてくるポケモンの為にやはり購入していたゲージは、どう見てもポリゴンにはサイズオーバーのため返品する事が決まった。

そして、人間は夕飯。ポケモンは餌の時間である。

 

 

「ポリゴン、たべろたべろ!」

 

 

浅い餌皿に固形のポケモンフーズを弟は流し入れた。ざらざらと小気味良い音を立てて、容器はあっという間に満たされる。

 

 

「ウィーン…ガガ、クエクエ!」

 

 

餌皿に尖った鼻先だか口元と思われる先端を突っ込みフードを押し砕く。ポリゴンの目が喜んでいるし石柱のような尻尾を振ってご機嫌だ。少しだけ動きがガーディっぽい。

 

しかし、何となく園児時代にお母さんごっこに付き合い、茶碗に盛った砂山をご飯に見立ててモリモリ食べるフリをして「おいしー!」と叫んでいた事を思い出してしまった。

 

コイツ、無理とかしてないよな?俺の心配をよそに、どんな原理か分からないが餌皿のフードは減っているからポリゴンはしっかり食べているらしい。いや、待て。口はどこよ?

 

俺は悶々としていたが、母はカレーを食べながら物珍しそうに…。弟は食事も忘れてニコニコとしたままポリゴンがエサをつつくのを見届けている。よっぽど嬉しいんだろう。ポリゴンの体をぺちぺちと叩いていた。

 



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リラックスタイム

 

 食事が終わると弟は暫くポリゴンの名前を呼んで歌って踊って喜びを表現していたが、母親が風呂に連れて行った。自分で全身綺麗に洗えやしないのに母に首根っこを掴まれるまで「ポリゴンとおふろいくの!」と大騒ぎだった。

 

そもそも、コイツを風呂に入れても良いものなのだろうか?ノーマルタイプだから水に入れて岩タイプみたいに悲惨な事になるとも思えない。だが、テレビの特集で大企業ではウイルスハンターとして電脳世界にダイブさせている様子をモザイクだらけ──機密情報や個人情報の保護とテロップが出ていた──で放映していた事があったから、多分電気技も使える筈である。ポリゴンが危ないと言うより人間の方が結構危ないんじゃないだろうか。

このポリゴンが電気技を使えるか否かはともかく、技が『テクスチャー』と『かくばる』後は推定で『電磁浮遊』を使うこと以外が未知数なのだ。そもそも、技で浮いてるのか自前の能力なのかも不明なのだ。

 

万が一の事を考えて「ポリゴンは乾いた布で磨いてやると喜ぶ」と、適当に伝えて何とか引き下がらせたのだ。

 

今、そんな訳で俺とポリゴンがリビングに残ってまったりとしている。適当にテレビを付けると数年前に『イッシュ地方が泣いた』と煽り文句でコマーシャルを流しまくっていたポケウッドの映画が放送していたので掛けておく。

 

 

「あー、録画しておけば良かったなあ…」

 

 

ソファに凭れて、時たまスマホが震え届くメッセージには気付いていたが今はいい所なので後回しだ。齧り付くようにして画面に集中していたのだが…

 

 

「クエクエー」

 

 

──顔の前に浮遊したポリゴン。障害物と化したポリゴンを避けて右に体を傾けると同じようにズレて、完全にテレビの視聴を邪魔しに掛かっている。顔は俺を向けたまま体をグルグルと回転させると尻尾に引っ掛けるようにして台布巾を下げていた。

 

 

「あ…、もしかしてコレで拭いてくれって?」

「クエ」

 

 

全身を縦に揺らして肯定の姿勢。さっきの磨いてやると喜ぶを聞いて今か今かと待っていたらしい。メカメカしい見た目と裏腹に案外お茶目なヤツである。

 

 

「仕方ねぇなぁ…ほら、磨いてやるからそれ貸してくれよ」

 

 

そう言って尻尾から布巾を取り上げるや否や、さあどうぞとばかりに高度を落としてポリゴンはフローリングに着地した。なぜか背中の面がねっとりと粘着質に濡れていた。我が家に到着した初日から食器用洗剤でも悪戯をしたのだろうか。そりゃ拭いて欲しくもなる訳だ。

台所の布巾を持ち出してみたり、我が家に馴染んでいるようで何よりである。弟もポリゴンを気に入っているようだし、このまま行けば我が家で永住権を獲得するのも時間の問題かもしれない。

 

ソファーから降りて、さあ磨こうと思ったその時だった。ゾクゾクとした寒気が背中を走る。まあ良いか。終わったらスマホでニュースをチェックしてから風呂だな風呂。

 

 

 ※ ※ ※

 

 新着メッセージ 一件 

 ハカセ よりメッセージ

 

 

 昼間は大変失礼いたしましたぞ!

 ベイビィちゃんの方は親のサーナイトに会わせたら随分と落ち着きましたな!

 

 そういえば、小耳に挟みましたがヤマブキで最近どうに縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?縺ゥ縺?@縺ヲ縺吶※縺溘?

 



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世知辛い検索結果

 

俺が磨くとポリゴンが喜ぶ。磨けば磨くほど手掛けた面が光る。目指せ鏡面ボディ。コンパウンドを使ってみたら、もっと艶が出るかもしれない。

打ったら響くではないが磨いたら結果に繋がるのだから凝り性でなくとも没頭してしまうのは無理もない。

 

 

ポリゴンはとても気持ちよさそうにしている。

一方で俺は悪戦苦闘している。

 

 

「お前なあ…何したらこうなるんだよ?」

 

 

ポリゴンの背中がやたらベチャベチャしているのだ。推察だと、俺が映画に集中している間に物珍しさから台所で悪戯でもしたんだろうと睨んでいる。付着した液体からは変な臭いがするから…多分そうだろう。悪戯の対象が洗剤の線こそ消えたが完全にギルティである。

愛玩用ポケモンのしつけは、現行犯の現場を押さえて「いけない」と叱るのが一般的である。そう考えるとポリゴンの悪戯は既に時効として扱わなければならないだろう。次回、悪戯を発見した時にはしっかり注意をしなければいけない。

 

電気技を心配して風呂を避けてしまったが、洗っても平気なのだろうか。

人気のピカチュウやピッピ、トレーナー初心者に御用達の御三家達なんかは飼い方の本が山のように出ている。そして、名前を挙げたポケモン達はポケファインダーやポケッターといったSNSでバズっている写真をよく見る。つまりは飼育している分母の数が大きいのだ。

 

しかし、人工ポケモンともなると飼い方の紹介や本が極端に少ないのはヤマブキへの帰り道にスマホで確認済みだ。

ブリーダーが載せたものは皆無で、企業がデータの巡回で使用するポリゴンを何体所持していると備品として紹介するページが目立った。また、父の勤めるシルフカンパニーのポリゴンの販促ページの中に企業に向けての機能紹介やお手入れの仕方。バージョンアップとして、『バーチャルポケモン ポリゴン、アップグレードのお知らせ-ポリゴン2のご紹介-』が載っている。

 

センセーショナルな取り上げられ方をしていたのは、古い雑誌ページのPDFファイルでポケモンカメラマンのトオルなる人物が激写した写真だ。斜めに煽り文が付いて「不法投棄の末の野生化。自然適応してしまったポリゴン!」なるタイトルで、緑豊かな自然の中で呑気にテクスチャーをしているポリゴンの写真が画像サーチに引っかかる程度であった。

 

何とも世知辛い検索結果である。野生化してしまったと聞くとそんなに飼いにくいポケモンなのだろうかと衝動的に連れ帰ってしまった事が少し心配になる。今のところ、俺はこのポリゴンに不満はない。

 

 

「よし、綺麗になったぞ」

「クエ」

「ポリゴンただいまー!」

 

 

弟が素っ裸で戻ってきた。そしてそのまま綺麗にしたばかりのポリゴンに引っ付いて頬の肉が変形するほど頬ずりを繰り返している。風呂場から母の声がする。体は拭いたから弟にパジャマ着せて欲しいとの事で、仕上げはお兄ちゃん任せである。

 

 

「コラ、ぶらつかせてんじゃねぇよ。パジャマの時間だ」

「えー!!」

 

 

お兄ちゃんを遂行するしかない。そして、早く寝かしつけよう。

レポートもまとめないといけない。呑気に映画を見ている場合でもスロットで遊んでいる場合でもなかったのだ。

 

 

「弟を連れてきてくれるか?」

 

 

ポリゴンにそう声を掛けると背中に絡みつく弟を気遣いながら、ふよふよと浮かんだ。俺が先導する直ぐ後ろで名前を呼んだり甘えたような声でキャッキャと楽しげな黄色い声が聞こえてくる。

 

 

ご満足いただけたようで何よりである。



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レポート

 

キッチンのすぐ隣の部屋が母と弟が一緒に寝ている部屋だ。ドアフレームで詰まりそうなポリゴンを部屋の外で待たせ、弟の着替えを手伝う。

 

 

「パンツ、どれ履くよ?」

「きょうはリザードン!」

「いや、今日もだろ」

 

 

リザードンパンツとフシギバナパンツのどちらを履きたいか弟に選ばせる。俺が勝手に他のを選ぶと弟のやる気がどうにもダウンするのだ。

 

弟のタンスにはリザードン柄の下着や着替えが沢山詰まっている。ヘビロテのリザードン柄はともかくフシギバナやカメックス、ピカチュウパンツの出動率が悪い。お陰でリザードン以外はパッと見は新品と同じだ。

 

最近、衛生放送ではガラル地方の中継が特集されている。弟はチャンピオンのダンデが登場した試合を見てから、とにかくリザードンがお気に入りなのだ。そのため、チャンピオンがバトルの度に披露するリザードンポーズを弟が覚えて──ダンデが登場しようがしていなかろうが──とにかく俺や母親を観客に見立てて披露しまくる日々が続いている。お陰様でチャンピオンはリザードン使い程度の知識しかないのに俺までポーズを覚えてしまった。

 

パンツのターンが終了すると、怪獣マニアで有名なデザイナーが監修したお気に入りの着ぐるみパジャマを着せてベッドで寝かしつける。今日は絵本の読み聞かせや、催眠術なしでも弟はグッスリ眠りに落ちていった。

 

俺が帰ってきてからも随分とテンションが高かったし、きっと日中から昼寝もしないでずっとポケモンが来るのを待っていたのだろう。電気を消して、寝息の聞こえる部屋を後にする。自分の部屋に戻る途中、風呂場では母親が髪にドライヤーを掛けているらしくモーター音がした。扉を軽くノックし声を掛ける。

 

 

「弟寝かせたし、俺は部屋でレポートやってるから」

「了解。じゃあ、お母さんは髪乾かしたら弟と一緒に寝ちゃうけど…夜更かしは体壊すから駄目よ?」

「分かった。それじゃ、お休み」

 

 

 ※ ※ ※

 

さて、3LDKの我が家は4人で住むには手狭である。父は薄給ではない筈だが、学生時代の奨学金の支払いで我が家は金がないとぼやいてる。どうやら苦学生だったらしい。今は夢のマイホームに向けて倹約を心掛けているそうだ。

 

父の単身赴任で空いた部屋が今は俺の部屋となっている。とは言え、子供の頃から見慣れた父のコレクションやポスターに混じって、俺の好きなバンド、ホミカ率いる『ドガース』やシンガーソングライターで絶大な人気を誇るネズのポスターが貼られて統一感の無い部屋になっている。

 

部屋は、昨晩から付けっぱなしのパソコンの画面はぼんやりと青白く光っている。ほんのりと家具の輪郭を映し出している部屋を摺り足で進み腰を掛ける。

 

明日の提出は、ウツギ博士の講義で出された一件だけだ。

テーマは【今日の講義の感想と、捨てポケモンの抑止策についての提案か政令都市での捨てポケモンを減らす取り組み、施策について調べる】だったな。

 

ウツギ博士はジョウトのタマゴ研究の一任者だ。最近は育て屋と野良ポケモンが与える環境変化についての研究を行っているそうで、ホウエンのオダマキ博士と共同研究でフィールドリサーチを行っており、頻繁にカントーへと足を運んでいるのだ。俺の学校への講義は、後進の育成のためにと快く引き受けてくれたらしい。

 

ハナダに行く道すがらにある育て屋付近の草むらでは俺が幼い頃には見なかったポケモンを見るようになった辺り、影響は随分と出ているんじゃないだろうか。講義で取り上げられていたカロス地方では、野生のポケモンがトレーナー産の高個体のポケモンの台頭により生活を脅かされていると前回の講義で取り上げていた。傷付いた野生のホルビーの兄弟が怪我をした患部を寄り添って舐め合う姿や人を怯えた目で睨み付けるリオルが八卦掌のポーズで威嚇するスライドは随分と堪えるものがあった。

 

 

「さて、どうするかね…。感想はともかく色々と調べないとだな」

 

 

コンコン

 

 

ポリゴンが部屋の外から控えめに扉をつつく。さっき俺が着替えの時に待たせた事や、風呂場の戸をノックしていたのを見て学習したらしかった。

 

 

「邪魔しないなら入って良いけど…入れるか?」

「クエ」

 

 

体を浮かせ体を傾けたりしながら大分気を遣って部屋の中に入ってくる。少し発光しているポリゴンを微笑ましく見ていると、急に良いアイディアが沸いてきた。

 

 

「なぁ、ポリゴン。ちょっとだけ手伝ってくれるか?」

「クエ!」

 

 

上手くいけば、睡眠時間が大幅に確保出来る筈である。

ポリゴンには是非とも頑張って貰いたい。

 



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トランスミッション

 

そう、資料を集めるにも時間的に限界がある。検索エンジンが幾ら類似結果を省いた所で、データが多過ぎるのだ。

 

そこで、ポリゴンだ。

 

企業であれば、悪意あるウイルスソフトの探知と除去にポリゴンを使う所を、必要な単語をポリゴンに伝えて電脳の大海原に送り出して引っ張ってきて貰おうという魂胆である。

 

アーボックの道はアーボック。パソコンにはポリゴンだ。

 

資料さえ集めて貰えれば情報の取捨選択は楽になるし、文字書きは文系の領分である。

ポリゴンに頑張って貰っている間、感想をしたためて纏めるくらいの時間は取れるだろう。

 

 

「パソコン、入る。オーケー?」

 

 

見えぬ神より目の前のポリゴン頼みだ。俺の急な片言口調に、ポリゴンは暫く首を傾げていたが、ふよふよとデスクに浮遊する。そして、気合いを入れるように角ばると水に浮かべるゼンマイ式玩具のフルスロットルに似た動きで足を急速回転させ始めたのだ。

 

 

「ガガ…クエーッ!!」

「ポリゴン、物理的な指示じゃないからな!デジタルだぞデジタル!」

 

 

加速と気合いで勢いを付けていたポリゴンの体がピタリと止まる。補足をしなければ、渾身の体当たりで画面をぶち破るつもりだったらしい。

 

 

末恐ろしい話だ。

 

※ ※ ※

 

気を取り直し、改めて俺の計画をポリゴンに伝え直す。パソコンの周りを角ばった瞳で観察するとプログラム…もとい、本能で何をすれば分かるらしい。備え付けのボールシステム用の台座部分を嘴の先端でつつき始めた。

 

 

「ボールに入れれば良いのか?」

「クエ」

 

 

ポリゴンをボールに戻してから、システムを起動し台座にセットする。

無機質な音声でポケモンの転送サービスが起動。しかし、何も起こらない。

 

どうなってるんだ?

 

シルフカンパニーのポリゴンのQ&Aを調べて目を通す。転送はまだかと催促でもするように台座の上でボールが揺れている。ポリゴンのボールをデコピンして、読み進める。

 

 

Q.ポリゴンを電子ネットワークに繋ぐには?

 

A.ボールに入れたポリゴンを転送装置にセットし、トランスミッションを押してください。

 

※ポリゴン.exeをダウンロードしていない場合には、ページよりファイルをインストールしてから転送システムのメインファイルにポリゴン.exeを移動させてください。

 

 

よく分からん。そして、お目に掛かった事のないファイルだ。サクッとインストールをしたまでは良かったが、我が家のパソコンは古い方の為か随分と動作が遅いのである。ポンコツパソコンを叩きながら紐付けをする。

 

 

「頼む、動け動け動け!」

 

 

悪戦苦闘すること30分以上。そろそろ自前でパソコンを買うべきかもしれない。漸く、細かな処理が終了し、ポリゴンをパソコンに転送する事ができた。デスクトップには居眠りをしているアイコンサイズのポリゴンが映っていた。バッチリ成功したようである。

 

パソコンに向けて声を掛けるもポリゴンは居眠りをしている。PC内に居るからか、此方の呼び掛けに気付いてないらしい。

 

どうしたものかと思いつつマウスのカーソルポリゴンに合わせてクリックしてみる。あ、起きた。アプリのメモ帳を出して、ポリゴンをメモ帳までドラッグしてからキーボードで文字を入力する。

 

 

『捨てポケモン、政策で出てくるURLを此処に貼り付けて欲しい』

 

 

ポリゴンは鳴くかわりに、オーバーアクションでフレームの上を跳ねている。メモ帳に運んだのと同じ要領でインターネットのアイコンにポリゴンを移した。

 

画面の中でポリゴンを中心に渦を巻いたかと思うと一瞬で姿が掻き消える。どうやら、行ってしまったらしい。

 

健闘を祈りつつ、俺も授業内容を思い出しながら授業の板書メモに目を通し始めるのだった。最初の余裕も今は陰っている。もしかしたら今夜は寝られないかもしれないな。



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一撃必殺

 

──人間は技術力で強さを誇るが、弱い生き物である。不幸なポケモンを無くすことは出来ないかもしれない。一人一人が心掛けて、ポケモンとより良い関係を築き、共に発展協力が出来る社会になるのを私は強く望みます。

 

学籍番号 0083190

文学部 俺

 

 

 

A4用紙にびっしりになる位の量にはなった筈だ。感想の筈が随分と壮大になってしまったが、夢や理想は地味にみみっちいよりもビッグマウス上等でいた方が良い。

 

そして、パソコンの画面を見るとポリゴンが並べたURLがズラリと並んでいる。有能だ。

クリックしてみると、カントー、ジョウト、シンオウの大都市部の役所の地域保健ポケモン課だったり、アルミア地方のレンジャーに関する記事。他は、イッシュやガラル、アローラは怪しい単語を辞書を引けばどうにか読めるかもしれないが、カロスの物はページを丸ごと翻訳に掛けるしかない。

翻訳が嫌なら自分で言語を覚えるしかないが、生憎だが時間が足りない。

 

例えば『お使いに行って何か買ってください』と別言語で書いてあったとする。それを俺が読める言葉に直すと『どうぞ、特使に行き、私に何かを買ってください』といった具合に怪しい感じの言葉に変わるから好きではないのだ。

 

眉根を寄せているとポリゴンがアイコンの歪みからデスクトップに現れ、新たなURLを貼り付けている。

マウスを手にポリゴンをクリックするとキョロキョロと辺りを見回しているようである。ディスプレイを通して此方がポリゴンを見ることは出来ても、ポリゴンが此方を認識する事は出来ないらしい。

 

 

『ありがとう。戻ってきてくれ』

 

 

そう入力すると、返送中の表記と共にメーターが現れる。カリカリとパソコンが処理をする音が暫く続き、【返送完了】の文字が現れた。お帰り、ポリゴン。

俺がボールに触れずともポリゴンが勝手に飛び出してくる。

 

 

「お疲れさん、ご褒美食べたら休んで良いぞ」

「グ…」

 

 

鳴き声も、いつものクエでなくまだ聞いた事のない鳴き方だった。心無しか尻尾にも元気がない。

疲れた時には甘いものである。デスクを弄り、おやつ用に忍ばせていたハートスイーツの包装を剥いてポリゴンに与える。

 

ポリゴンは目だけで笑うとチョコを嘴に突き刺し、出て来た時と同じように勝手に戻って行った。

 

チョコの残り香に俺も甘いものが欲しくなった。一口大のチョコを口に放り込み、肩や首の骨をゴキゴキと鳴らす。

 

まだ、課題は目標の半分…いや、それ以下かもしれない。

 

溜息を吐きながら、スマホを手に取るとハカセからメッセージが届いていた。

そういや、映画見てた時に──いや、途中から読めねぇよ。文字化けが凄い。

 

最近、俺の周りではテレビの砂嵐や蛍光灯のチラつき、ATMの文字パネルが作動しないなど電化製品のトラブルが頻繁に起きるのだ。

静電気体質とでも言うか…きっと前世は徳を積んだピカチュウなのかもしれない。ポリゴンの鳴き声に時々ノイズが混じるのも、もしかしたら俺のせいなのだろうか。

 

そして、途中で途切れていたヤマブキに何があったのか気になるところだが、明日学校で確認すれば良いだろう。

 

 

「ちと、トイレにでも行ってから続きをやるか」

 

 

その後、肛門にウォーターカッターのような衝撃を受けた俺は「み゙っ゙…」と悲鳴を上げて気絶し、朝まで目覚める事はなかった。



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アクアジェットさん

 

俺はウツギ博士の講義を休んだ。

 

と、言うより学校に行けなかったのだ。朝方にトイレに行くため起きた母親に俺は発見されレスキューに通報され、近所の個人病院に搬送されたのだ。弟は俺の失神騒ぎで母親が園に送りに行けず、今日は家でポリゴンと留守番をしている。

 

大袈裟だと思うのだが、開かぬ扉と呼び掛けへの返事がなかった事から慌ててしまったらしい。扉をこじ開けてみれば、息子が泡を吹いて気絶をしていた。動揺からの即通報も無理もないと納得である。

 

原因に心当たりがあるか、と医者に問われたが、ウォシュレットがアクアジェットで死にましたとは言える訳もない。噂好きな病院で食事を作るおばちゃんや美人なナース達に裏で『アクアジェットさん』と呼ばれたり、ネタの十八番として取り扱われるのだろう。心が死んでしまう。だって、俺ならウォシュレットで入院したと聞いたら笑ってしまう。自分の名誉を守るため──

 

 

「俺は…多分、疲れていたんだと思います」

 

 

──と、ドクターを始めとしたスタッフ達に告げた。カルテに書かれた診断は過労となった。

 

嘘をついてはいけない。これは世の中の真理である。今までコツコツと積み上げた信用を無くしてしまうからだ。

 

しかし、時に優しい嘘は人を救うこともあるのだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

大事をとって、精密検査をしつつ経過を見る事を条件に明後日の退院となった。

ドクターは、人が居ないのを見計らって医療従事ポケモンのラッキーと共に俺に会いにきた。

 

 

「意識を失った原因は本当は違うんだろう?」

 

 

レスキュー隊から、尻の産毛が焦げていた事と臀部に雷撃痕があったと報告があった事やナース達を気にする素振りから本当の事を言い出せなかったのだろうと推測して、俺のカルテを手に問診のやり直しに来たと説明した。

 

ぶっちゃけ、そこまで分かっているなら看護師をどうにかしてくれと思う。

 

…気の弱そうな顔のドクターは、少し草臥れて見えて年齢不詳だ。だが、きっと尻に敷かれるタイプなのだろう。肉食か草食かと聞かれればポニータに食われる草タイプに見えて仕方がないのだ。物腰の穏やかさが少しだけウツギ博士に似てるような気がしなくもない。

 

 

「ウォシュレットを使っていたら、勢いが物凄く強くて…気付いたら病院のベッドに居たんです」

「…そうか、ウォシュレットか」

 

 

カリカリと音を立てて記入される。きっと、カロスの近くの芋とビールとヴルストでプロージットな地方の言語なのだろう。

他にも幾つかの質問をされた後、電気ショックによる感電と気絶だろうと診断された。

 

最近、ヤマブキシティでは電化製品による負傷事故が急増しているそうだ。

 

冷蔵庫に凍える風を打たれて凍傷になった人、炊飯器がオーバーヒートを起こし火傷をした人、急に倒れてきた自販機の下敷きになった人などだ。新しく尻にアクアジェットで気絶。改め、ウォシュレットで感電した俺が仲間に加わったのである。

 

 

そして、問題はウツギ博士の授業だ。

流石にこんな状態なので欠席だけは見逃して貰えるだろうが、板書メモが無いと流石にテストが辛い。ウツギ博士はオリエンテーションで「僕のテストは持ち込み式だから、授業の聞き逃しが無ければ落とす事はないよ」と笑顔で言っていたのだ。

 

ちなみに、博士の授業をハカセは取っていない…と、言うよりも取れなかったそうだ。有名な研究者の授業である。公開講座でもないのに聴講希望者が他の学科からも殺到し、抽選で受講者を決めた授業だったのだ。

 

取り敢えず、博士に連絡をしてからハカセにも連絡をしようと思う。



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来訪告知

 

ウツギ博士は、『僕の講義で、質問や解説で分かり難い事があれば気軽にメールを送って欲しい』とオリエンテーションの自己紹介スライド──と、言っても受講者の中に博士を知らない者はきっと居ない──でアドレスを生徒にメモをするように指示をしていた。俺の場合、スマホに残っている。それを引っ張って要件を送れば、博士への連絡は完了だ。

 

 

【お世話になってます。本日、午前中の授業を欠席しました学籍番号0083190の俺です。

家電事故により、入院となってしまい授業に参加する事が出来ませんでした。

本日提出のレポートを次回の講義で提出させて頂けると嬉しいです。】

 

 

要件のみで、簡潔に。そして謙虚にだ。何せ博士は権威である。お手を煩わせる訳にはいかないのだ。

 

ハカセには、入院した事に始まり、博士の講義に出れなかった事や文字化けして読めなかった文章の事。俺の尻が感電し、尻の毛が焦げた事と物凄く痛かった事、我が家のトイレやメーカーへの恨み節を延々と書き連ねて送りつける。ハカセは、別に何を聞かせても笑い合う位の仲だ。なので、病院の所在地までバッチリと送りつけた。アパートがクチバだと言っていたから、学校帰りに寄ってきてくれる筈だ。

 

そして、何より横になる事しかない。暇なのだ。

 

今やれる事は、母親が帰り際に置いていったテレビカードでテレビを見る位だが今は別段見たい番組も無い。

 

俺はどちらかと言えばラジオ派だ。作業用BGM代わりにコージのポケミュージックを掛けてみたり、寝る時はポケモンの笛の音色を一日流しているだけの局を回して聞いたりしているのだ。無い物を強請っても仕方がないので、ネットサーフィンとメール。後は時間が来れば食事を摂って寝るだけだ。

明日は、尿検査と血液検査とMRIほか健康診断のオンパレードである。

 

そして、程なくスマホのバイブが手の中で響く。ウツギ博士からだ。

 

 

※ ※ ※

 

件名:俺君、お加減はどうだい?

 

 

トイレで感電だなんて、とても大変な思いをしたんだね。

 

単なる故障や設計ミスの漏電であればメーカーへの訴訟も勝機があるかもしれないけれど、異常動作となると原因はポケモンかもしれない。そうなると負けてしまう可能性が高いと思うんだ。

 

君は、シンオウのナナカマド博士の論文を読んだ事があるかい?

とあるポケモンにまつわるものなんだ。概要を言ってしまうと、ポケモンが入り込んだオモチャのロボットを新種としてポケモン図鑑に載せるかどうかだ。当時、学会で議論になって権威達が凄く白熱したんだ!

結果は、博士達の熱気に怯えたポケモンが逃走。現物が無いと登録もできないとお流れになってしまったよ。

 

そのロボットに入り込んで居たのがロトムで、今はパソコンや図鑑、スマホに入り込んで僕達を助けてくれている。

もしかしたら、君の家のトイレもロトムが入り込んだのかもしれないね。新フォルムとして登録をするなら、ウォッシュロトム…いや、もう洗濯機に入り込んだロトムが居たか。

 

面白い話をありがとう。今日の5番道路の調査が終わったら、是非ともお見舞いに行かせて貰うよ!

 

P.S メールを送る時には、アドレスを確認しないと駄目だよ。

 

 

ウツギより

 

※ ※ ※

 

──やってしまった。

 

アドレス帳に入力する手間を惜しんで、ウツギ博士をはかせ、ハカセはハカセと登録していたのが仇となった。ハカセは、ヒロシと本名で登録しておこうと心に誓う。

 

しかし、大変だ。博士が来る。来てしまう!

たかだか感電で尻の焦げた学生の見舞いにだ。

 

慌てているとハカセからメッセージ。『教授か誰かと間違えていませんかな?』との事だ。

 

もう遅いんだよハカセ!!!!



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おとうとのおるすばん

 

にいちゃんがトイレでたおれた。びょーいんにつれてゆかれた。きゅうきゅうしゃのひときて、すごかった。

おくちからしゃぼんだまがでて、ゼニガメみたいだった。びょーいん、ちゅうしゃかな?

 

はやくげんきになって、ダンデごっことかいっぱいしようね!!

 

 

※ ※ ※

 

 

私はポリゴン。人間との関係構築の為に製造されたバーチャル生物であり、主人はまだない。青年のパーソナルアシスタントに着任する確率が非常に高い。

 

高品質なボディと愛玩用のキュートな見た目で洗練されている。つまり、超エキサイティングなポケモンでああああああああある。

 

意思形成プログラムが乱れる感覚は好きになれない。外に派遣されて分かったのは、悪い磁場が外には多過ぎることで、私はとても困ってしまう。

 

ホームである球体からの放出を確認。原因は子供とホームを手にしている事から断定。青年のルームから連れて来られた模様。

 

彼は既に何処かに出掛けているようで姿が見えない。

私とホームを置いていくなんて…とても悪い、いけない青年だ!

 

 

「にいちゃんはーっ、バーッブルこーうせん、ふっふふふーん」

 

 

昨日、私にじゃれついていた子供の声を認識。音律を取っている事と紙に記入を行なっている様子から『遊ぶ』をしている模様。行動原理が予測できないため、クエに置き換え。成文解析の結果、兄がバブル光線、以降意味のない言葉。兄がポケモンである可能性。理解と処理が不能であるため思考停止。

 

人間の鳴き声は、意味があるものと無意味な物に分かれるため言語データだけでの処理がむむむむむむずかしい。

 

周囲の様子のスキャン続行。

ポケモンの鳴き声をキャッチ。

音声認識を開始します。

 

 

『ねえ、そっちに誰か!いるんでしょ!ご主人さまがずっと帰ってこないの!』

 

 

きつねポケモン、ロコン。音声認識の続行。

リージョン情報の結果、カントーを含め広く分布を確認される姿と断定。

ご主人さまの情報が不足。生体反応に乱れあり。バイタリティが下がっている模様。

 

ヘルプを子供に求めます。

 

 

「クエー!」

「ポリゴン、どうしたの?」

「クエクエクエッ!」

「めっ!かべつついたらおこられちゃうんだぞ!」

 

 

ヘルプ支援に失敗。

生体反応に乱れあり。生体反応に乱れあり。

 

 

『たすけて…ちょっとずつ食べてたけど、お皿にご飯もお水もないよ。お腹が空いたよ…』

「コラ!ポリゴン!!だめっ!!!!」

「クエーッ!!!!」

 

救援要請。救援要請。

生体反応に乱れあり。生体反応に乱れあり。

 

 



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神との遭遇

俺が頭を抱えること暫く──もう、焦っても仕方ないなと開き直る事にした。

ハカセには、ウツギ博士に誤爆した事を申告。

すると電話の通知が激流である。病んでいるタイプの彼女かよ。面倒なので、病院だから電話は無理だとメールを送ったら少しの間の後に長文メールだ。

 

ウツギ博士に失礼をするな。授業の席に穴を空けるな。タマゴ研究は愛の成せる研究だと誤字りながら熱っぽい文を送ってきたのだ。対面せずとも興奮しているのが分かった。

 

ポケモンを研究する人は大体崇めているハカセだが、ウツギ博士はタマゴの研究者という事で別格。オブラートに包んで神扱いだったし、包まなければ狂信者だ。だが、不慮の事故での欠席は無茶を言わないで欲しい。人間、激昂したら色々と言葉を並べ立てても伝わらないのである。

 

父と母が卵焼きに醤油かケチャップか言い争っていた時も凄かった。そんなに怒る?って勢いだった。あの時は、ソース派の俺とマヨネーズ派の弟も乱入し収拾がつかなくなっていたな。最終的には皆でただ調味料の名前を叫んでいただけな気もする。

 

話は逸れたが、簡潔にハカセを静める可能性が高い言葉を幸い俺は知っていた。

 

 

『博士、フィールドワークが終わったら見舞いに来てくれるんだけど、ハカセも病院に来る?』

 

『どちらに向かえば宜しいですかな?』

 

 

バーサーカーは正気に戻った。

 

 

※ ※ ※

 

 

ハカセは昼過ぎにやってきた。値段の着いたままのパリッと糊が張ったリクルートスーツを着て、普段と比べ緊張しっぱなしだった。何を話しかけても丸椅子で背筋を伸ばし「えー」だとか「あー」だとか、上の空だったので、放置して昼寝を決め込んだ。一応は怪我人様である。

 

──陽が傾いて夜と夕方の色が混じる頃、ウツギ博士は病院にやってきた。俺は夕飯、味の薄い肉じゃがとほうれん草の和物だとかのヘルシー献立だ。

 

 

「やあ、遅くなってごめんね。調子はどうだい?俺君…と、君は?」

「ひひひろしです…!」

 

 

固く握手を交わす二人のコンタクトを見ながら、食べる手は止めない。電子レンジの無い部屋では、食事は冷めてしまってからじゃ遅いのだ。温かく美味い内に食べるのがマナー。これは俺の持論だ。

 

ハカセが、ピチューのタマゴの発見時の事や連れ歩きなど博士の功績についてやポケルスについてをまくし立てている。何度も聞かれる質問だろうに笑顔で解説してくれているウツギ博士は人懐こく、感じの良い人だ。

俺も何か言おうと思ったが、「スターミーの図鑑説明にある地元ってどこですか?」位しか思い付かなかったので黙っておく。

 

 

「ところで、ウォシュレットについて何か分かった事はあるかい?」

 

 

ひとしきりの解説が終わると急に声を掛けられた。やっぱり忘れてなかったんですね。

 

 

「今のところは何も。ただトイレの電気系統は引き抜いてるから家族の感電は無いと思います。母も怖くてトイレに行けないわと言っていました」

「いや、それだと不十分だよ」

 

 

そう言って人差し指を立てた博士の解説が始まる。原因がロトムであった場合には、電気タイプである事を忘れてはいけない。体を走るプラズマが電源の役目を果たして意味がない事を指摘された。ハカセもウツギ博士の説明に合わせてポケチューブから【ロトムに電化製品与えてみた】というタイトルの動画を引っ張って俺の前にスマホを突き付けてきた。

 

なら、早い方が良いとスマホで家に電話を掛ける。──が、繋がらない。出掛けたのか?

 

 

「にいちゃーん、ポリゴンがぁ!!!!」

「ダメよ、走ったら病院の人に迷惑でしょ!」

 

…と、思ったら家族の方から出向いてきた。バタバタと落ち着きのない足音が響く。恥ずかしいから廊下を叫びながら来ないで欲しい。

 

と、言うよりもポリゴンがどうかしたのか?



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事情聴取

「…で、ポリゴンがどうしたよ?」

 

 

病室に駆け込んで来た弟に尋ねてみる。顔を真っ赤にして、地団駄を踏んでいる。よほど興奮しているのか、前髪が汗でうっすらと額に張り付いていた。

 

 

「すっごく、かべをコンコンコンッて!!」

「お、おう…」

 

 

子供だから仕方がないが、説明が要領を得ていないので話の全容が分からない。この場に居れば弟の言葉を補足説明をしてくれたであろう母は、声がしたのにまだ来ない。ナースステーションにでも挨拶に行っているのだろうか。

 

 

「そのポリゴンって、お兄ちゃんのポケモンかい?良かったら、おじさんにポリゴンの事を教えてくれるかな」

 

 

屈んだウツギ博士が柔らかな物腰で問い掛ける。目を見て笑ったからか、弟はもじもじとしたまま勢いが落ちる。我が家の暴れん坊が、借りてきたニャース状態である。

 

 

「あのね…、にいちゃんのへやからポリゴンをつれてきたの…」

「君の年でポケモンのお世話をしてるのかい?凄いじゃないか!」

 

 

弟は鼻の下を擦りながら、えへへと照れたように笑っている。しかし、来たのは昨日である…わざわざ水を差すことは無いだろう。それにしてもウツギ博士は、子供の扱いに随分と慣れているようだ。そんな博士の一挙手一投足を逃すまいと手帳に何かを書き付けているハカセ。…博士の聖書でも作る気だろうか。

 

 

「さいしょはね、せなかにのったりしてて…おれがおえかきしてね。うたってたの…そしたら、ポリゴンがいきなりかべをね!つついたんだよ!」

「そうだったのか、教えてくれてありがとう。──俺君、ポリゴンが壁をつつく理由に何か心当たりはあるかい?」

 

 

そう言われてもだ。何度も繰り返すがポリゴンを連れて来たのは昨日である。何か原因になりえる事はあっただろうか。

 

 

「いや、特には…昨日、初めて連れて来た時は少し悪戯をした位で大人しかったんすけどね」

「…うーん、ならポリゴンの気を引くような物があったのかな。壁にネット空間に潜り込む為の差し込み口があったり、隣で何か物音がするとか?」

 

 

隣と言えば、よく吠えるロコンが飼われてた筈だ。それに反応をしたのだろうか。

 

 

「なぁ、ポリゴンが悪さをしてた時ってロコンの声とか聞こえたか?」

「んー、してた…かな?」

 

 

分からないらしい。言うことを言ったら落ち着いたのか博士をチラチラと見ている。大人に褒められたら嬉しいもんな。俺も息を吸ってるだけで褒められたいから気持ちは分かる。

 

次の事情聴取は、母親か。

 

※ ※ ※

 

母親が病室に現れたのは随分と遅かった。利き手にはボールが握られており、ポリゴンが光となって飛び出すと形になる前に直ぐ様母親がボールのボタンを押して引き戻す。移動の途中でまた飛び出したポリゴンをボールに戻す。それを繰り返しながら、少しずつ壁からポリゴンを引き剥がすようにして連れて来たらしい。途中で口の悪いトレーナーに「あのオバサン、ポケモンにめっちゃ嫌われてる」と、指を刺されて凄く恥ずかしかったそうだ。

 

 

「もう、ペッペったら…穴よ穴!すっごいんだから!」

 

 

母親はボールを構えて飛び出すポリゴンを制しながらぷりぷりと怒っている。それよりも勝手にパチモンのピッピみたいなニックネームを付けないで欲しい。

そして、聞き捨てならないワードが出た。

 

 

穴である。

 

 

俺は昨日、破いた壁紙の補修のため小遣いの減額が決まったばかりである。このまま行けば、俺の小遣いは絶望的だ。

 

 

「俺、一瞬帰るわ…ハカセ、デコイ代わりに寝といてくれ」

 

 

ただ病衣を着せられただけだったので身軽だ。フラフラと体を起こすと少しだけ痺れを感じる。感電の名残だろうか。

 

 

「クエー!!!!」

 

 

母が俺が起き上がる様子を見ていた一瞬の隙を突いてポリゴンが飛び出す。そして、走り去ってしまった。チラリと見えたポリゴンの目がとても怒っていた。あんな表情も出来たんだな。

 

 

「俺氏、入手経路は分かりませんが…ポリゴンは売買される際には安い値段ではありませんからな。一匹だけにしておくと変な輩に狙われる危険がありますから気を付けてくだされ」

 

 

そう言ってハカセは頭まで布団を被りながら俺のベッドに潜り込む。

ポリゴンは現金換算で約20万だ。そんなポケモンが街中でフラフラ…恐ろしい話だ。

 

急いでポリゴンを追いかけなければ…。



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良薬は鼻に臭し

追いかけなければいけない。

 

強い意志とは裏腹に、とにかく足を動かす事が苦痛過ぎるのだ。弟と母親はポリゴンまっしぐらで此方に気付いた様子はなく、さっさと行ってしまった。

 

ベッドで横になっていた時には気にならなかったが、一歩踏み出す毎にビリビリと感電系のドッキリグッズの痺れだか痛みだかに似た刺激に襲われる。

気合いで病室の扉の前までヨタヨタと数歩は歩いたが、もう無理。辛過ぎるわ。口を真一文字に結んでいると、見兼ねたウツギ博士がポケットから使い掛けのスプレーを振り掛けてくれる。

 

少し湿布に似たツンとした刺激臭がした。ボトルの色は何度も学内のトレーナーが持っているのを見た事がある。なんでもなおしだ。

 

 

「それ、ポケモン用ですよね?」

「そうだね。市販品は治療で扱う物より成分は調整されてるから大丈夫だよ。人間が使うにはもっと薬効が低い方が良いんだけど、こっそり使ってる人は多いんだ。かなり効くだろう?」

 

 

効くなんてレベルじゃない。効き目が瞬間で表れ過ぎて怖いくらいだ。岩や鋼の体を持つポケモンにさえ染み込んで効いてしまうのだから、本当に大丈夫かと訝しげに博士の顔を見る。とても良い笑顔でこう言った。

 

 

「僕も研究で寝る間が惜しい時にはお世話になってるから平気だよ」

 

 

なんと常用者の方だった。そして、ライフハックのように語っているが何が平気なのだろうか。優しそうな見掛けに反して凄く破天荒な人である。

いや、でもニドランに突かれただとかアーボに噛まれた、バタフリーの粉を吸ったなんて話を時々見るが死亡事故に至った続報は見ない。案外、ポケモン用を人間にも使ってるのか?

 

そして何より痛いよりも多少臭い方がまだ良い。良薬は鼻に臭しだ。

 

 

「いってらっしゃい。ポリゴンの行動は興味深いけれど、お客さんがいた方が看護師の人も部屋に入るのを遠慮をしてくれるだろう?」

 

 

と言う博士の言葉に甘える事にした。感謝の一礼をしてから、スマホと護身用のボールを持って部屋を抜け出す。

足の具合も好調だ。

 

 

※ ※ ※

 

診療時間が終わっているからか、病院内の人出は疎らだ。小さい病院だからベッドは20床程度だが、半数以上が埋まっている。

 

漏れ聞こえる声から、おじいちゃんのお見舞に来た子供の声やイビキが聞こえてくる。

見舞い客の出入りに紛れて、病院から抜け出すと座り込んでいる弟を発見した。

 

 

「にいちゃん、あしいたーい…」

「…仕方ねぇなぁ」

 

 

幼児の足で急いで来た事を考えると既にガス欠なのだろう。背中に背負って足早に後を追う。

 

母の居場所は離れているが分かりやすかった。ポリゴンをボールに戻そうとして失敗しているのか赤い光線がチラチラと上空を飛んでいるのだ。その光を目で追っていると弟が呟く。

 

 

「ポリゴン、おれんちにくるのがイヤだったのかなぁ…」

「そりゃ、ポリゴンに聞いてみないと分からないな」

 

 

ポリゴンの気持ちはポリゴンのみぞ知るだ。

本当に嫌なら暴れたり、人間に攻撃したりと昨日の時点でもっと大騒ぎになっている筈だ。だが、今ここで何を言っても気休めにしかならない。弟のポケモンにするつもりで連れて来たのだから、ポリゴンから伝えて貰った方が間違いない。

 

ずり落ちる体を担ぎ直して、腰を叩く。マンションに着くと、クエーとポリゴンの怒ったような声と固いものがぶつかり合う音がする。きっと体当たりだ。

 

 

「もう、ペッペ!止めなさい!!」

 

 

ポリゴンは命令を無視して体当たり!

下から窺い知る事は出来ないが、ポリゴンの固い体でぶつかったならステンレスだろうが傷やヘコみが出来ているだろう。

 

俺は、急いでスニーカーで非常階段を駆け登った。



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扉の奥

 

駆け登るとポリゴンは居た。ガツンと硬質な音を立てて、隣の家の扉に体当たりを繰り返す。母の言葉は意に介さず、親の仇を前にしたかのような猛攻だ。

 

 

「戻りなさい、ペッペ!」

 

 

ボールを向けてもすぐに出てきて、ポリゴンは攻撃を止める気配が無い。昨日の夜、しっかりと時間をかけて磨き上げた体には傷が付いている。扉の方がポリゴンより頑丈だったようだ。これでは体当たりでなく突進だ。

 

 

「どうしたんだよ、ポリゴン。何があったんだよ?」

 

 

俺の声を聞いてポリゴンの攻撃が止まる。足をグルグルと回し地団駄を踏んでいる。何かを訴えているのが分かる。

 

 

「クエクエー!」

「すまん、分からん。お前昨日は普通だったろ。この家に何かあるのか?」

 

 

俺の言葉に扉をノックでもするように扉をつついている。人の家だからポリゴンが何を気にしているのか確認する手立ては無い。困ったと頭を掠めた時だった。

 

 

「カネナシさんのご親族の方ですか?」

 

 

制服を来たガードマンに声を掛けられてしまった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「トライアルをしているポリゴンが、なんだか突然…此方のお宅に向かって攻撃を始めたみたいなんです」

 

 

俺が口を開くより先に母親が返事をする。ガードマンの表情は固く、横に居るクレッフィのジャラジャラと鍵を打ち鳴らす陽気な金属音が場違いのように響いていた。

 

 

「そうだったんですね。此方にお住まいの方、電話でのご連絡も取れないんですよ。…その様子だと、今もご在宅ではないようですね」

 

 

ガードマンが何度かインターホンを押すが反応はない。鍵を頼む。と短く男はクレッフィに指示を出す。金属の輪の部分が割れて全ての鍵を落としてしまった。少しおっちょこちょいらしい。その中から一本をガードマンに渡すと器用に鍵を戻し始める。

 

 

ガチャリと錠が回り扉が開いた。招かれた訳でも無いのにポリゴンは勝手に薄暗い室内を進んでいく。

獣臭や他の何かが腐ったような臭いがした。換気もされていないため空気が滞留していたのだろう。室内の生温かな風と共に臭気が奥の部屋から流れ込んで来る。咽せてしまいそうだ。

 

 

「あ、眩しいんで直接見ない方が良いですよ。クレッフィ、灯りを」

 

 

頭上でクレッフィが眩く輝く。テレビで見た古代遺跡探検隊ではピカチュウにフラッシュを使わせていたが、アレはもう少し眩かった。マジカルシャインか何かなのだろうか。淡く幻想的ながらハッキリとした光が室内を照らす。間接照明みたいだ。

 

土足のまま、ガードマンは進んで行った。ポリゴンの後を追う為、背負っていた弟とポリゴンのボールを母親とトレードした。俺もその後に続く。

 

※ ※ ※

 

 

廊下は目に見える範囲でもゴミが散乱していて、進む度に袋や何かゴミを踏んで音を立てた。一言で言えばゴミ屋敷の手前のような有様だった。

 

 

奥の部屋の隅。ポリゴンはゴミの中でロコンに寄り添っていた。

 

 

力なく投げ出したロコンの体を気遣うようにクチバシで顔や腹を押す。フローリングにへばりついたモモンの皮。何度も舐めたのか周りのものに比べて綺麗なロコンとマジックで書かれた餌皿。自分で食いちぎったらしいゴミ袋の残骸の傍でグッタリとしていた。生きてはいるが、瀕死だ。浅い呼吸を繰り返している。

本来なら美しいと言われる赤茶色の毛並に毛玉が出来て、かなり汚れてしまっている。いつからこうしていたのだろう。

 

弟の声に反応していたロコン。子供の声に反応して興奮しているのだと思っていたが、そもそも、近隣で大きな声を出すのが弟だけだったのだ。

クエとポリゴンは短く鳴いた。臭いのせいか動悸と頭痛がする。

鼻を摘んだガードマンの人が室内を見渡しながら口を開いた。

 

 

「…可哀想に。この子の様子を知ったからポリゴンが荒れていたみたいですね。暫く帰った様子も無いですし、恐らくは…夜逃げですかね」

 

 

雑にゴミ袋を蹴って通り道を作りながらそう言った。

俺はショックで咄嗟に言葉が出なかった。



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保護

 

「…ロコンはどうなるんですか?」

 

 

夜逃げの言葉で暫くフリーズしていたが、漸くしてから俺は口を開いた。何となく、検討は付いているが目の前でこの可哀想なポケモンを見てしまったら、聞かずにはいられなかった。

 

 

「…他の残置物と同じで投棄された扱いになると思います。ポケモンって、生き物なのに物扱いなんですよ。この子も保健所とか保護シェルターですかね」

 

 

事実だけを淡々と。だが気の毒そうにそうガードマンは言った。そして、ガードマンはスマホを手に何処かに電話を掛け始めた。

じっとポリゴンが此方を見つめている。助けて欲しいと言っている気がした。

 

 

「ごーふ?」

 

 

不明瞭だが聞き覚えのある鳴き声がした。口を一杯に膨らませたゴースが壁を擦り抜けて入って来たのだ。

 

 

「もしかして、先生か?」

 

 

俺の方を見て笑顔になる。やっぱり先生だった。ゴースは一杯にした口からゴミを吐き出す。飲みかけで放置された封の切れたペットボトル、生ゴミにただのゴミ。どれも人間が廃棄した物ばかりだ。最近はベトベターを連れた清掃会社の緑化運動が話題なため、これだけの量を拾ってきたなら大した物である。部屋のゴミも先生が集めてきたのだろうか?

 

そして、一頻り口の中の物を吐き出すと倒れているロコンを見つけ慌てたように上空を飛び回った。長い舌でロコンの顔を舐める。反応がない。

──そして、

 

 

「ゴォォスッ!!!!」

「クエッ!?」

 

 

──急に鳴き声をあげた。ポリゴンが驚いたように飛び上がる。目を閉じてロコンの体にガスの体を寄り添わせる。少しだけロコンの呼吸が穏やかになる。そして、同じようにポリゴンにくっ付いてからロコンに再度纏わりついた。暫くすると普段よりもはっきりしない飛び方で先生は何処かに行ってしまった。

 

一時期、先生を我が家で飼う事が出来ないかとゴースの技や生態を調べていた時期があった。該当する技は、多分…痛み分けだろうか。

 

その甲斐があってか、ロコンに劇的な変化があった。息も絶え絶えで、死んでしまうんじゃないかと思っていたのに不意に呼吸が安定した。腹を膨らませ、ぷふーと寝息を響かせている。汚れている事と痩せている事、それから尻尾の数が少ない事を除けば健康そのものだ。

 

ポケットに手を突っ込む。元々は護身用に買ったボールを手に取り、ロコンの腹に押し当てた。赤い光が小さな体を包む。手の中でボールが一度だけ揺れて動きが止まった。

 

 

ロコンを捕まえた。

 

 

人のポケモンはとったら泥棒。捕獲と言うよりも保護のつもりだ。弾かれる可能性も考えて、物は試しだったが、結果的に弾かれる事は無かった。部屋の中で逃がしたのだろうか。手の中のボールを眺める。

 

 

「ええ、もぬけの殻です。中はゴミと瀕死のロコンが一ぴ…うわっ!」

 

 

電話で話したまま足癖悪く雑に袋を蹴っていたガードマンが悲鳴をあげた。振り返るも此方からは何も見えない。

 

 

「もう一匹居たんですが、こっちは死んでいて…ええ、生きてる方は近所の方が保護を。床がやられてるんで施工の業者を──」

 

 

もう一匹居たらしい。直接見る気にはなれずに、男の背中に向けて手を合わせる。

ただ、安らかに眠れるようにと俺は静かに黙祷を捧げた。

 

 

※ ※ ※

 

 

電話が終わったガードマンにロコンを連れて行く事を告げて部屋から出る。臭いが鼻にこびりついて取れない。服から臭いがする気がして袖に鼻を寄せる。しかし、鼻が馬鹿になっているのか分からない。

 

 

「ねぇ、ペッペちゃんは?」

「にいちゃん、くさーい…」

 

 

やっぱり臭うらしい。母にポリゴンのボールを渡し、もう一つのボールはポケットに仕舞う。

 

 

「中にボロボロのロコンが居たから保護した。ポリゴンは、心配で暴れてたっぽい。ポケセンに寄ってから病院に戻るわ」

 

 

そう伝えると病院までの道を戻る。一応は入院をしているのに、色々と疲れた。

 

※ ※ ※

 

センターに着くと匂いに顔を顰めたラッキーにアロマセラピーで問答無用で良い匂いにされた。自分からアロマなお姉さんに似た匂いがするのは微妙だ。アロマなお兄さんの完成である。響きだけは、カフェでラテアートでも作ってモテそうな印象だ。しかし、エナジードリンクが大好きなだけのフツメンの自分からフローラル臭は遠慮したい。ポケモンは言葉が使えない分、反応が正直だ。ちょっとばかり傷付く。

 

ロコンは経過観察で預かりになった。俺と同じである。ただ、栄養状態が悪いので点滴をされたり精密検査をするようだ。前言撤回、点滴分を加味すると俺より治療が丁寧だ。

ロコンに対してのちょっとした問診があり、料金が心配になったがポケモンセンターは無料である。寧ろ、人間の方が個室代も食事代も掛かるのだ。

 

 

そして、肝心の電源を抜いたトイレに注意する話を伝え忘れた。病院に戻る帰り道で電話を掛ける。母も弟もポリゴンが守ってくれるから平気だと言っていた。

 

 

ポリゴンは自力で信頼を勝ち取ったようである。

 



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サーナイト

病院に戻ると普通にナースに見つかり、勝手に出歩かないでくださいと怒られた。

…居残り組の二人は何をしていたのか。布団に潜る事を捨てたハカセが皺だらけのスーツでウツギ博士と楽しげに語らっていた。

 

 

そりゃあ、俺の一時帰宅もバレますわ。

 

 

扉が開いても二人は気付いた様子はなく、部屋を出る前には居なかったサーナイトがラルトスを腕に抱えて静かに佇んでいた。昨日のベイビィちゃんの母なのだろうか。優しい目で眠っているラルトスの寝顔を眺めている。見れば見るほど二匹はソックリだと思った。

 

 

「ただいま。それが噂のサナか?」

「おお、待っておりましたぞ。ちなみに、そのサーナイトはベイビィちゃんの二番目の兄で、ヤマブキシティのテレポート移動担当ですぞ」

 

 

サーナイトは次男だった。此方を一瞥すると腹に手を当てて恭しい一礼をして見せる。俺はドラマでしか見た事はないが、金持ちの家の執事のようだ。人に近い見た目をしているせいか、つられて頭を下げてしまう。

ギャラドスを見ても全てオスと勘違いしてしまう俺にはポケモンの目利きは無理そうだ。人間相手でさえ時たま怪しいのだから、自分の目は信用しない事にする。

 

 

「ヒロシ君はエルレイドにしなかったんだね?」

「次男がキルリアの時代に長兄がエルレイドになりましてな。ブレードでケムッソを一刀両断するのを見てから、めざめいしを拒否するようにサーナイトになりましたぞ!」

 

 

サーナイトは静かに頷いた。その通りだという事らしい。確かに素手で幼虫を…なんてのを見たら俺も嫌かもしれない。

 

 

「ところで、ポリゴンは落ち着いたかい?」

「落ち着いたには落ち着いたんですが…」

 

 

※ ※ ※

 

 

ポリゴンが荒れていた理由が隣の家だった事。ロコンを保護するまでの経緯を二人に説明する。博士は神妙に、ポケモン過激派のハカセは激怒していた。

 

 

「飼い主を見つけたら八つ裂きにしてやりましょう!死んだポケモンの無念を考えれば、鬼畜の所業は万死に値しますぞ!」

「ゴースが他のポケモンの世話を焼くなんて珍しいね」

 

 

ハカセは通常運転。でも、俺も憤りは感じる。

ウツギ博士は手帳を手に俺の言葉をメモしていく。

 

 

「あのロコン尻尾も二本しかないし、ガリガリで可哀想だったんですよ。空腹に耐えかねて自分の尻尾を食べたのかもしれません」

 

 

あのゴミ屋敷の中でゴース先生が運ぶ僅かばかりの生ゴミや果実を食べて生き延びていた事を加味しても十分ありえる。

俺の脳内では腹を鳴らしたロコンが自分の尻尾を甘噛みし、やがて…そんな図が浮かんでは消えを繰り返している。

 

 

「俺氏、実際のロコンを見ていないから分かりませんが…思うに、尻尾の数は子供なのが理由ではありませんかな?」

 

 

ロコンって、生まれた時から六本の尻尾な訳ではないのか。目から綺麗な鱗が出そう。まぁ、出てもコンタクトレンズが関の山なんだが。

 

 

「尻尾に白い毛が残っていれば、間違いなく子供だね。トレーナーが居ない環境下で生まれたから野生個体の判定になったんだと思うよ。…おっと!」

 

 

腕時計を見てウツギ博士は徐に立ち上がる。バタバタと皮のスーツケースにメモや汚れた白衣を詰め込む。博士のカバンを少しだけ覗き込むとボールやデジカメ、ノートパソコンに紙の束が入っていた。

 

 

「そろそろ、リニアの時間だ。明日はワカバでポケモンを渡す約束があるんだ。それじゃ、少しだけサーナイトをお借りするよ」

「では、ウツギ博士を丁重に頼みますぞ!」

 

 

ハカセが緑のボールにラルトスを戻すと、胸に手を当てながらサーナイトは逆の手で博士の手を取る。不思議な力が体を包みふっと姿を消した。エスパータイプ…とても便利だ。

一人と一体の姿が掻き消えた辺りを俺はまじまじと見ているとハカセが口を開く。

 

 

「ところで、俺氏がポリゴンを入手していた件についても、ご説明いただけますかな?」

 

 

眼鏡を押し上げながら博士は言った。ポリゴンの事を言った覚えは無い。トライアルを頼んだ件もあったのに昨日は誤爆報告の前にすっかり博士を放置していた。

 

俺は根掘り葉掘りの追求を覚悟した。



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婦長

スロットで大勝ちした事とポケモンを待ち侘びる家族への期待値が重かった事をハカセに洗いざらい吐いた。

もっと羨ましがるかと思ったが、微妙そうな顔をしている。高かったんだぞ、ポリゴン。

言葉を選んでハカセが漸く口にした。

 

 

「俺氏がポリゴンの景品としての価格にステータスを感じているなら、7番道路の草むらには立ち入らない方が良いかもしれませんな…」

 

 

確かに俺はポリゴン高い!と連れ帰ってから浮かれまくっている。だが、毒タイプと虫タイプ、ゴーストタイプでもない頑丈そうなポケモンで、手に入れられる範囲内で居たのがポリゴンだったのだ。

 

 

「ああ、地下通路の側の所な。そもそも、バトル用じゃなくて弟の遊び相手のつもりで引き換えたから草むらに用事がないわ」

 

 

何より、草むらは出会いの巣窟だ。消極的な理由は主に好戦的過ぎるトレーナーにある。繰り返すが、ポケモントレーナーの認識は戦闘民族だ。数の暴力や経験差でゴリ押されたなんて話をよく聞くし、昼飯代を稼ぐつもりが向こう一週間の食費に困る有様になった奴も知っている。平たく言えば、カツアゲに遭いたくない。

 

 

「勿体ぶっても仕方ないから言ってしまいますと…まだ噂の段階ですが、出るらしいですぞ。野良ポリゴン」

 

 

野良ポリゴン。我が家のポリゴンは元手は千円だし、短い付き合いだが連れ帰って愛着も湧いている。野良にいてもきまぐれだったり生意気だったり家に馴染まない可能性もある。店員が手渡してくれたポリゴンがアイツだから良かったのだ。

それにしても、人工ポケモンだし…プログラムで動いてるんだよな。

 

 

「それより、ポリゴンを外に出しっ放しで錆びついたりエラーを吐いたりしないのか?」

「テクスチャー2辺りで順応して暮らしたりしてると思われますぞ。タマゴを育てる個体に期待ですな!」

 

 

最近知ったばかりのテクスチャーに知らないナンバリングが出てきた。前に教えて貰ったテクスチャーも2だったのだろうか。それにしても、タマゴ…産めるのか?

詳細を聞こうと思ったら、先程のサーナイトがテレポートで帰ってきた。時計を指差し腹を鳴らしている。きっと普段は今頃が夕食の時間なのだろう。

 

 

「む…、博士との時間が楽しくて時を忘れておりましたな。帰る準備をして、そろそろお暇しますぞ」

「見舞いに来てくれてありがとな」

 

 

帰り支度と言っても立ち上がるだけだ。サーナイトは既にサイコパワーを発動していて「ま」しか言えずにハカセの姿は消えた。

 

また、学校で聞けば良いか。

 

※ ※ ※

 

入院から翌々日、検査の結果は異常なし。麻痺の後遺症もなく。俺は無事に退院した。

敢えて言うなら、味が濃いものが食べたい位だ。食事代。ベッドの場所代。治療費のトータルで二万は軽く出てしまった。思わぬ出費だ。

 

家に帰る前に、ポケモンセンターに寄ってロコンの様子を確認しに行った。ジョーイさんに話を聞くと自然治癒力を高めるため今は眠らせたばかりらしい。

 

 

「治療室には立ち入れませんが…少し様子を見て行かれますか?」

「お願いします」

「では、このラッキーに案内をお願いしますね」

 

 

そう言って、次の人の案内に移ってしまった。ラッキーは、一昨日見たアロマセラピーぶっぱの気が強そうな個体とは違うラッキーだった。俺にポケモンの目利きは出来ないが、自動ドアの近くで消毒をしないトレーナーに「ラッ!!」と目を釣り上げて一喝していたのが昨日のラッキーだと思う。

 

 

「…は、なんだコイツ?」

 

 

そんな風にラッキーに悪態を吐いたトレーナーへの対応は鮮やかだった。丸いボディからは想像も付かない俊足で飛びかかり、愛の鞭往復ビンタを決める。穏やかなイメージしかないラッキーに襲撃されたからか、男はポッポが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

仕上げに、掲げた手から出した水球──多分、いのちのしずく──を頭からぶっ掛けて消毒兼治療をしていたので間違いない。

学園系のドラマで「顔は狙うなよ。先生にバレちまうからな」なんて不良のシーンを見るが、ラッキーは手を出した上で即座に治療をして証拠の隠滅をしているのだから、かなりのやり手だ。初犯じゃないだろうし、アグレッシブにも程がある。

 

このセンターに所属するラッキー自体、怪力で物資をカイリキー顔負けに運んでいるのも街を歩いている時に何度か見ているので、武闘派でも驚かない。その気になれば格闘タイプみたいにスカイアッパーや投げ技も出来るかもしれない。

 

ちなみに今日の俺は臭くないので、他のラッキーがするのと変わらない対応だった。心の中であのラッキーは婦長と呼ぶことにした。




誤字報告ありがとうございます。確認前に電源が落ち、詳細確認が出来ないまま消えてしまったので、後程修正を致します。


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