追い風を受け、ヒカリへと飛び立つ者 (モルモット0816番)
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追い風を受け、ヒカリへと飛び立つ者
あるウマ娘がいた。
彼女の名は『アグネスタキオン』
タキオン…『超光速の粒子』の名を持ち、戦績は4戦4勝。知る人ぞ知る超光速のプリンセス…
なぜ無敗を誇るにも関わらず、知る人ぞ知る…などという評価になる、いやなってしまうのか。
それは彼女の脚に問題があった。
彼女の脚は、いつ壊れるか分からないほどの状態が常に続き、レースはおろか他のウマ娘の行うような練習ですら激痛を伴うほど。
彼女曰く『エンジンばかりが立派で機体が脆い』とのことで。
故に彼女はひたすら基礎練習と自身の脚の補強を目的とした研究に邁進した。
そうして、レースに何度か出れるくらいの強度にはなった。
しかし幸か不幸か彼女はとても速かった。自身の名を表すかのように。そして彼女自身、手を抜けるような器用な性格でもなかった。
負担や重圧はどんどん増していく。
速く走れば走るほど、脚は強く悲鳴をあげる。控え室に戻った後、脚を抱えて動けなくなる時もあった。
レースに勝ってしまえば『何故そこまで速いのに今までレースに参加しなかった』などという声が少なからず起こり、レースへの参加を無理やり打診させられそうにもなった。
彼女のトレーナーも懸命に彼女に尽くした。
周囲が勧める無理なレースプランをバッサリ斬り捨て、タキオンの脚の状態や適性距離を判断し、最終的にタキオンの意思を尊重した上でのレースプランを作成。急な不調が原因のドタキャンによるバッシングも彼が全て請け負った。
試薬が出来たとなれば真っ先に実験台に手をあげた。
ウマ娘の身体能力に遠く及ばないなりに、彼女のデータになりそうな事ならなんでもしたし、なんでも用意した。
一度、試薬の実験を行った際、副作用か何かで全身が黄緑色に発光した時も、彼はむしろ誇らしげだった。
『どうだ、タキオンはスゴいだろう!』
なんてことを、発光したまま学園内を闊歩しながら、本気で言ってしまうようなトレーナーだった。
そんなトレーナーを裏切れるほど、アグネスタキオンというウマ娘は非情ではなかった。なりきれなかった。
そして騙し騙し…しかし確実に4度のレースを勝利し、5度目のレースを目前としたある日
彼女の脚は限界を迎えた。
『重度かつ治る見込みもない』と告げられた。
練習やレースの後に習慣付けていた、丁寧かつ迅速なアイシングの効果もあり、歩けないレベルまでには到達してなかった。
しかしそこまで。ホープフルステークスで見せた圧巻の走りも、皐月賞で後の強豪を倒したあの走りも…見る者を眩ませる『超光速の粒子』たる彼女の走りは、永遠に見られなくなった。
当然、トレセン学園からは退学となった。走る事の出来ない彼女の居場所は、この学園にはもう残されていなかった。
しかし、トレーナーは彼女と共に生きる事を選んだ。彼女の退学が決定したと同時に、トレセン学園のトレーナーを辞めてしまったのだ。
彼女はひたすらに激怒した。『走れない私に何故そこまでするんだ』と。『キミの経歴に泥を塗った私が寄り添われる資格は無い』と。
そんなタキオンの言葉に対して、トレーナーはさも当然のようにこう答えた。
『タキオンが寂しそうだったから』
数秒の沈黙の後、彼女はひたすらに泣いた。『自分も、もっとカフェや皆のようにターフを駆けたかった』と。『キミと一緒にもっと色んなレースを走り抜きたかった』と。
名家の出身ではあるが、親は基本的に放任主義者。その上彼女の特異性も相まってほぼ勘当状態。
トレセン学園に居場所が無くなれば、必然的に彼女はひとりぼっちになってしまうと、トレーナーは悟っていた。
表面上のマッドな面が強すぎはするが、根は真面目で寂しがり屋な彼女が、今この世界で唯一の居場所となり得るトレーナーと2人で居れば、行き着く先は当然というべきか依存だった。
食事は作って貰うし食べさせて貰う。いきなり退職したが為の事後処理で学園に行く際にも、自分のそばにいてくれと駄々をこねる。自身の行動の基準を、常にトレーナーに置いていた。
それを(妥協案を提示する事があるとはいえ)受け入れるくらいには、このトレーナーはタキオンの事が大好きだった。めっちゃ大好きだった。
幸いタキオンには研究で得た報酬金、トレーナーは元々の貯金と、ある程度の蓄えはあった。
それでも不安に思ったトレーナーは、タキオンと共に居ながら働ける在宅での仕事に励んでいた。
そんなトレーナーを見て、タキオンも自身の研究を続け、それを不定期に発表しては色んな機関からお金を貰ったりしていた。
しかしそんなある日、トレーナーは目を覚ますと同時に頭を抱えた。
まぁ、その…前の晩…ぶっちゃけた話、行くところまで行っちゃったのだ。
当のタキオン本人は優雅に紅茶を飲んでいる。機嫌がすこぶる良いのか、勝負服である白衣を久しぶりに着ているほどだ。
先ほども言った通りトレーナーはタキオンが大好きだ。学生時代以来に見たその光景はとても絵になると思った。
満足そうにお腹をさすってなければもっと。
もちろん嬉しい。タキオンとの愛の結晶だ。嬉しくない訳がない。けどもう少し…もう少しムードとかさぁ…とトレーナーは思わざるを得なかった。
何があったか?それ以上の詮索はやめよう。主にトレーナー君の威厳のために。
数ヶ月後…元気なウマ娘が産まれた。
『名前はどうする?』
『そうだねぇ…ウマ娘の可能性のヒカリに向かって飛び立つ者…』
十数年後…
「8番人気、16番《ヒカリフライト》」
「このメンバーで結果を残すのは難しそうですが、健闘して貰いたいですね」
『ホープフルステークス』
私にとって初めてのG1…越えなきゃいけない壁の一つ。そして、多分今…この勝負の場にいるどのウマ娘よりも思い入れのあるレースだ。
基礎練習に特化したトレーニングな上に、メイクデビュー後は他のレースには全く出てない状態だったから、ろくに名前も知られてない。人気が低いのは仕方ない事だ。
けど、お母さんが走れなかった分、私がこのターフを駆け抜ける。駆け抜けられるって証明する為に、このレースは絶対に落とせない。
緊張と不安。けれど、それがどうした。お母さんはもっと苦しかったんだ。それに比べたらこんなもの塵も同然だ。
そうしてゲートが開いた。
前目に走る先行策…お母さんが得意だった作戦。
スリップストリームで可能な限り風の抵抗を抑え、レースは中盤以降に差し掛かる。
他のウマ娘たちが少しずつ、確実に動き出した。
焦らず脚を溜める。
確かにみんな速い。当然だ。ジュニア級とはいえG1。遅いなんてあり得ない。
けれど、敢えて言おう。
「遅すぎる…!」
何度も観た。お父さんに無理を言って用意してもらった、お母さんの走ったホープフルステークスのレース映像。
そこに映っていたお母さんは、ここに居るどのウマ娘たちよりも、遥かに速かった。
そうして残りは600mを切った。
「…ここから!」
溜めていた脚を一気に解き放つ。
それと同時に、頭の中の砂時計が動き始める。
上側にはまだ大量に砂が残ってる。
けど、零れた時の砂は戻らない。メイクデビューの時にも同じ感覚があった。その時落ちた砂はそのまま下に落ちたままだ。
この砂が落ちきった時。
きっとそれが私の…こうしてレースを走るウマ娘としての最期なんだろう。
だから今…!
「私が生きてる事を…!その証を!!ここに刻む!!!」
残り400mを切った。
2位のウマ娘を抜いた。
残り200mを切った。
1位だったウマ娘の驚く顔が一瞬だけ見えた。
その瞬間、歓声が湧き上がった。
『勝ったのは8番人気のヒカリフライト!2着と1バ身差で今ゴールイン!600mを切ってからの走りはまさに圧巻の一言です!これからのレースにも期待がかかります!』
「どう見る?トレーナー君」
「600m切ってからのペースアップが、やっぱりフライトにとっては1番調整が利きやすいかな。けど、ラストスパートに入るのがやや遅めになるから、そこを上手いことしないと皐月賞はな…
あと、脚に負担を極力掛けない走り方についても、割と形にはなってると思う…まぁその辺は多分フライトのトレーナーも分かってる筈だけどな」
「『モルモット君』としては?」
「やっぱウチの娘最高!」
「アッハッハ!やはりそれくらいがキミらしくてとても好みだよ!もちろん私も同じ意見だがね!」
「(すっごくやりづらい…!)」
センターでウイニングライブを踊るヒカリフライトは、当たり前のように最前列にいる両親のベタ褒めを聞きながらなんとか完唱した。両親ともにすごく良い笑顔だった。
この物語は、走れなくなってしまったウマ娘アグネスタキオンと、それを懸命に支える元トレーナー。
そんな2人の間に産まれたウマ娘…ヒカリフライトのお話である。
…この娘の名前の元ネタがバレたら、これ書いてる人間が誰かめちゃくちゃ早く辿り着くと思う。特に知り合い。バレるまでは匿名でずっといますが。
本当に続きませんからね?
(ちらっ)
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Tの意地/予想外のファン感謝祭
この話だけでも問題はない筈ですが、前の話の要素(ヒカリフライトの出たホープフルの話だったりとか)もほんの少し加わったりしてるので、よろしければどうぞ。
なおファン感謝祭の競技に関しては想像上のものです。こんなのあったりするかなぁ…くらいのレベルです。
ここは病院。タキオンは脚の調子を確かめる定期検診に来ていた。のだが、いつもの病院は予約が埋まっており、急遽別の病院に行く事になったのだが…
「…え?」
「まさか…この十数年で医学が一歩も進まず停滞しているとお思いでしたか?アグネスタキオン『博士』」
「いや、体質故のものと思っていたからねぇ…治る時代になっているとは…」
なんと、タキオンの脚は治る見込みがあるそうで。
タキオンは驚きを隠せてませんが、内心はめちゃくちゃ喜んでます。
ちなみにタキオンはトレセン学園を退学した後、研究の成果が認められ一部の人間からは『博士』付けで呼ばれています。このお医者さんもその1人で、現役時代のタキオンの大ファンだったそうで。
もちろんこちらも内心めちゃくちゃ喜んでます。
「もちろん、治療を施したとしても全盛期のようなスピードを出せるか…と言われればそうはいきません。そうですね…上手くいって8割から7割、場合によっては5割ほどかと。これが発症したてなら或いは…」
「構わないよ。むしろ7割程でもなければ、また脚が壊れかねないからねぇ…」
「いや本当に…本当に全力のダッシュは極力やめて下さいね?貴女の脚、シンデレラの履いてたガラスの靴みたいに脆いんですから」
「失敬な。私はプリンセスだぞ?」
ツッコミ所がややおかしいと思います。
「おや失礼。では、『超光速のプリンセス』様はどのようなご決断を?」
「もちろん、受けさせてもらうよ。で、どんな治療法なのかね?」
「あー…治療自体は何なら日帰りで終わります。終わるんですが…念の為に数日は安静にしといてくださいね?」
「んん?一体どういう」
「鍼灸、つまり笹針です」
「(ガタッ!)」
無言で立ち上がり逃走を図ろうとしますが、
「逃がしませんよ」
ウマ娘でもないのに膂力がやたら強い目の前の医者に、強制的に座らされました。
「ぜっっっったいに嫌だ!あの女みたいなのが出てくるんだ!絶対そうだ!」
「落ち着いて下さい!貴女の言う『あの女』の心当たりはありますが、担当されるのは別の方ですから!」
「…本当かい?」
「えぇ、なんなら三女神の像にでも誓いましょうか?」
「分かった。そこまで言うなら受けようじゃないか」
「そういえばモルモット君、2週間後はトレセン学園のファン感謝祭だが…予定はしっかり空けているのかい?」
「勿論だ。急に大量の書類作成とかチェックとかをぶち込まれない限りは、ノーパソ持って行ってフライトの競技見ながらやるさ」
「そう言った時に限って山のような仕事が降りかかるのが君だろう。杞憂であれば良いが…」
2人はヒカリフライトの出るファン感謝祭を見学しようとしてました。モルモット君も大量に仕事が来ない限りはなんとか見れそうです。
「そういや、フライトの出る競技なんだっけ?」
「まず中距離模擬レース、芝2400の左回りからだね」
「どういう路線になるかは分からないけど、日本ダービーにオークス、ジャパンカップも芝の2400mの左回りだから、距離の感覚を掴むにはもってこいだな」
「あと、生徒の親や地域の子供も参加出来る、こちらは芝の1600左回り…安田記念ベースのファンとのふれあいレース…なんてのにも出るらしいが…」
「まぁ、ファンも増えてきたし交流しとく事に越した事はないだろ。そもそもファン感謝祭ってそういう催しだからな?」
「それはまぁ、知識としては知っているが…」
タキオンはトレセン学園のファン感謝祭に出た事がありません。そんなものに出るなら研究に時間を費やすという方向性だった上、デビューから皐月賞までの4戦の中でファン感謝祭が実施されていなかったためです。
「それはそうと、脚はどうだ?いつもの病院とは違ったんだろ?」
「あぁ、カルテは送ってもらったがね。
「悪化してないだけマシと考えるべきなんだろうな…」
「…君が気負いする必要はないさ。なにせこれは私の身体の問題だ。どうにも出来ないならどうしようもないさ」
「そうだな…けどもし、もしもだ。また走れるようになったら…もう一度タキオンの走りが見たい…遅くたって良い。走りきれなくたって構わないから…フライトと一緒に走る、君の走りが見たいんだ」
「随分と期待されているねぇ…この十数年トレーニングもしてない鈍り切った私に何を期待しているのさ」
「とか言いながら基礎練習は部屋で欠かさずやってるよな」
「あくまで健康のためさ。誰かさんにこっぴどく叱られたからねぇ…」
「…そういう事にしとくよ」
そんな夫婦の会話から2週間後…
「ふぅ…」
ヒカリフライトは緊張していました。
なにせ、レース場で行う何時ものレースとはかけ離れた、レースに出るウマ娘全員が皆等しく声援を受けるレースだからです。
今のところ勝ち星のみでここまで来てはいますが、このヒカリフライト、1番人気には未だなったことがないんです。なっても2番人気まで。
それだというのに…
「なんで私が1番人気なんだろ…?」
何故かって?ホープフルステークスでの勝利を皮切りに、弥生賞では動揺した他のウマ娘が掛かり気味になってスタミナが切れた所を突き抜けて勝利。皐月賞は短い直線での勝負でかなりギリギリ。ハナ差での勝利となりました。
そんな次代を背負うような活躍を見せるウマ娘が注目されないなんて事あるでしょうか。いいえ、ありません。
模擬とはいえレースはレース。
人気というのは計上されるもので、ヒカリフライトは『1番人気』というプレッシャーを真っ向から浴びる事になった。
「んっんっ…ふぅ…よし!」
スポーツドリンクを飲み、パドックへ向かいます。
「(…んぅ?少し眠い…テスト勉強で夜更かししたからかな…)」
「あれを飲んだみたいね…」
「下手すればそのまま…!」
が、迫る悪意にヒカリフライトは気付きません。
そしてパドックでの顔見せを終え、ゲートに入り息を整える。
お母さんもお父さんも客席から見ているはず。
負けられないし、負けたくない。
そんな想いを胸に、開いたゲートから飛び出す。
いつも通りの先行策。違うとすれば、自分を囲むウマ娘が異様に多い事である。
「(随分警戒されてるなぁ…けど、私は私のペースで…!)」
一方その頃。
「…おかしい」
「タキオン?」
「1番人気とはいえ、周りのマークの仕方が異常だ。アレでは接触も当たり前だぞ…それにフライトのフォームも少し…まさか」
「あ、おい!待てってタキオン!」
そうして団子状態のまま、最後のコーナーを曲がり切る。
依然として囲まれた状態でここまで来たヒカリフライト。しかしココで
「抜け…出す!!!」
ほんの少しの隙間を縫って囲いから抜け出した。
そのまま残り300mに差し掛かり、このまま1着でゴール
出来なかった。
ガクン
「…ふぁ、れ?」
「「「フライト!!」」」
聞こえる
それを聞いた直後、ヒカリフライトの意識は落ちた。
まぁ…一つも黒星がないウマ娘が、妬まれないなんて事、無いですよね…
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Tの意地/ファンとのふれあいレース トレセン学園特設レース場 芝 1600m 左回り
後、(恐らく)オリジナルの役職みたいなのも出てきます。
「…ふぁ、れ?」
「「「フライト!!」」」
叫んだ3人の内2人はもちろんタキオンとモルモット君である。そしてもう1人は…
ガシッ!
ズザザザザザザ…!
「はぁ…はぁ…あっぶな…!」
「あれは…!」
「良かった…!君がいて助かったよ、スカーレット君…!」
タキオンのかつての後輩にして、恐らくこの学園で唯一、タキオンの事を全面的に信頼し尊敬していたウマ娘、『ダイワスカーレット』である。
「タキオンさん!それにタキオンさんのトレーナーさんも!?」
スカーレットは驚きながら2人の事を呼ぶが、それをタキオンは慌てて制す。
「今ここで私の事を話すのはやめておいた方が良い。それより…」
「あ、はい!すいません!この娘を保健室へ連れて行きます!」
「分かりました!」
近くの係員に伝え、ダイワスカーレットは保健室に走る。
その時、モルモット君にはヒカリフライトを見て薄く嗤うウマ娘たちが一瞬だけ目に入ったが、優先順位を考えタキオンを背負って保健室へ走り出した。
「すまないね、トレーナー君…」
「モルモット呼び出来てないぞ…焦る気持ちは分からねぇでもないけど、保健室に誰も居なけりゃ原因が分かりそうなのはお前くらいなんだ。落ち着いてくれ」
「君も口調が荒ぶってるよ…」
「おっと…だいぶ焦ってんな、お互い」
ただでさえ広い学園ではあるが、2人とも元々はこの学園に在籍していた身。すぐに保健室に辿り着いた。
そしてヒカリフライトの様子を確かめた保健室の担当者とタキオンの所見は
「「誰かに睡眠薬を盛られたようですね(だね)…」」
「「はぁ!?!?」」
急な意識の消失からただ事ではないと思っていたが、薬を盛られたとは到底思わないだろう。
「まさかと思って、スカーレット君に控え室のカギを貰って正解だったねぇ…フライトの水筒から睡眠薬の成分が出てきたよ…」
「まさか…」
「犯人に心当たりがあるのかい?ト…モルモット君」
「タキオン、無理すんな。呼び方は気にしてないから。さっきのレースに出てた奴で、倒れたフライトを見て笑ってた奴がいた…多分そいつらだ」
「はぁ!?勝ちたいからって薬に手出して良いと思ってるの!?」
「スカーレット君…」
スカーレットはレースを引退した後も、現役のウマ娘の為に自らのノウハウを教えたりする、準教官と言うべき立場にいた。
「フライトがどれだけ頑張ったと思ってるの!?タキオンさんの走るはずだった道を代わりに進むんだってどれだけ努力したと思ってるの!?」
ヒカリフライトも、スカーレットから教えを授かったウマ娘の1人だ。
トレーナーとの練習だけでなく、先行策についてのヒントや走り方について、熱心に聞いていた。
これはタキオンが、『もし走る事について悩みが出来たなら、スカーレット君を頼ると良い』と言っていたからでもある。
「スカーレット君」
だが、スカーレットの怒りは止まらない。
「ここまで無敗で来れたのも!他の娘の何倍も努力して!プレッシャーにも負けずにちゃんと自分のペースで走って!ただ『お母さんとお父さんが褒めてくれるから』って!それを何より大事にしてたからじゃない!そんな娘を薬で眠らせる!?ふざけるのも大概に」
「スカーレット君!!」
そんなスカーレットの慟哭を止めたのは、タキオンの悲痛な叫びだった。
「…!すいません…」
「そう…そうだ。今はこうしてフライトが眠ってるんだ。そっとしてあげてくれ」
「ごめんなさい…私…」
「いや、むしろフライトの事をしっかり見ていてくれて感謝してるんだ。俺たちは既に学園から去った身だからな…スカーレットが学園に残ってくれていて助かったよ」
「でも私…タキオンさんの時にも何も出来ませんでした…事実無根な『あんな記事』はおかしいって…みんなにも言ったのに…」
「良いんだよ…こうして退学してから、君が私に信頼を置いてくれていた事に気付けた。今でもこうして『タキオンさん』なんて呼んでくれるだけでもありがたいのさ」
「…レースに出てたウマ娘のリスト持ってきますね…」
そんな事を言って保健室から出て行ったスカーレットは、1分ほどで帰ってきた。
「これがさっきのレースの出場者リストです…どのウマ娘かわかりますか?」
「あの会長程ではないが、俺も記憶力には自信があるからな。こいつと、こいつとこいつ…あ、後こいつとこいつもだ」
「…トレーナー君」
「あぁ…コイツら、フライトを囲ってた奴らだ…!」
「てことはあの時抜け出せたって…!」
「恐らくフライトは嵌められたね…抜け出すのにパワーを使い、ゴールへ向かうためにスピードも上げた。それにより体力を使い切った状態…今回の場合なら眠気への耐性は0。それにほぼ全速…そんな状況で転倒したら?」
「まさか…」
「無敗がそこまで妬ましいのかと聞きたくなるねぇ…私からすれば!全力で走れるだけでも妬ましいというのに!!!!」
「タキオン…」
モルモット君は、タキオンの叫びを聞き無力感に苛まれた。自分がもっと彼女に尽くせていれば或いは…?そんな想いでいっぱいだった。
「スカーレット君。このリストによればこのウマ娘たちはフライトの出るはずだった、昼からのレースにも出るみたいだねぇ…そこでなんだが…」
だから、タキオンが次に言った言葉を聞いて、感情が爆発した。あとなんか身体が発光した。黄緑色に。
「と、トレーナーさん!?」
「おや、昨日飲ませた薬が今効いたようだねぇ…となると感情の起伏で発光するのか…いやしかしそれなら…まぁ良い。スカーレット君、よろしく頼むよ」
「はい!!!!!」
「…私置いてけぼりですね…」
保健室の担当者さん、ドンマイ。
「チッ、作戦失敗だったわね…」
「まさかあの女に邪魔されるなんて…!」
「あの準教官、『ドーピング女』の事めちゃくちゃ庇ってる奴でしょ?そのまま巻き込まれれば良かったのに」
「まぁ、あいつのいないレース…のんびり走らせて貰いましょうよ?」
「さんせー」
裏で色々と進んでいる中で、この犯人たちはのうのうと笑いながら昼食を食べていた。
『スカーレットに受け止められる所までは完璧だったのに』などと平気で言う。
「努力したって意味ないんだから、薬使って引き摺り落とすのなんてセオリーでしょ。気付かない方が悪いのよ」
「無敗とか調子乗ってるからこうなんのよ」
そうして地べたで這いつくばっているからこそ
『ふれあいレース、出走メンバーの変更のお知らせです。ヒカリフライトさんに代わり、親御さんの【アグネスフライト】さんが出走する事になりました』
ポールの先にあるスピーカーから流れる、この放送に気付けなかった。
「タキオンさん…!」
スカーレットは歓喜に震えていた。
「脚は、本当に大丈夫なんだな?」
『トレーナー君』は脚の心配をしていた。
「もちろんさ。芝の1600、確かに苦手な距離ではあるが…遅くとも走り切れなくとも、私はこのレースに出なきゃいけない。薬は可能性を探るためのものだ。潰すためのものじゃない。それより出走者の名義は…」
「はい、きちんと言われた通り『アグネスフライト』にしてきました」
「これで私とバレてもシラを切り通せるねぇ…トレーナー君にスカーレット君。もし私が1着じゃなかったら、全力で私を慰めたまえ。
…睡眠薬はごく少量。恐らく最悪の事態が発生した際にバレないためならそろそろ…」
「ん、んぅ…あれ…?お母、さん…?」
ここでようやくフライトが目を覚ました。
「フライト。大丈夫か?」
「あれ?お父さんに、スカーレットさんも…」
「…スカーレット君が居なければ、命の危険があった。フライト、まずはスカーレット君にお礼を言っておきたまえ」
「え…?あ!ありがとうございます!」
「良いのよ、パワーと根性ならタキオンさんにだって負ける気はしないんだから」
「いや、あの速度を身体一つで受け止めて倒れなかった所を見れば、説得力が強すぎてねぇ…返す言葉もないよ」
「そういえば、今何時ですか!?」
「昼食休憩が終わって、もう少しでふれあいレースの時間ね」
「私出なくちゃ…!そうだ、こんな所で寝てられない…!」
「…フライト?」
しかし、起きたヒカリフライトの表情は、明らかに焦燥に駆られていた。
「お母さんは何も悪い事なんてしてない。私なんかよりずっと苦しみながら努力して走ってきたんだ。それを証明しなきゃ…レースに出なきゃ…」
「フライト!落ち着いて!」
「見返さなきゃ…お母さんを悪く言ってきた人たちを…」
「フライト…」
そんなヒカリフライトを、タキオンは優しく抱きしめた。
「うぷっ…お母さん…?」
「フライトには、随分と重い荷物を背負わせてしまっていたねぇ…」
「私が勝手に背負っただけ!お母さんたちは悪くない!」
「気付けなかった時点で、私たちに非があるのさ。私たちに掛けられた疑惑を知ったんだね」
「…」
無言で頷いた。
「そうだね…ならコレは謝罪とお礼、かな」
「え?あ、お母さん!その服って…!」
「客席から見ていたまえ、私にも意地があるからねぇ…負けてやる気はないさ」
「ならなおさら!私も一緒!一緒がいい!」
タキオンの服装を見て、急に駄々をこね始めるが、
「落ち着けってフライト。さっきまで睡眠薬で眠らされてたんだ。身体になにか異常があったらマズい。それに、これからはタキオンが無理をしない範囲でなら、いつでも一緒に走れる。
…過去の映像で見るのは飽きただろ?20年弱ぶりのタキオンの生の走りだ。3人で一緒に特等席で見ようぜ」
「…うん!」
トレーナー君の説得を素直に受け入れ、喜色満面な様子だ。
「なら、タキオンさんはレース場へ。2人はこっちね」
訂正、スカーレットも同様の様子です。尻尾がめっちゃブンブン動いてます。
クリーニング済の勝負服を身に纏い、アグネスタキオンは約20年ぶりにターフに脚を踏み入れました。
あ。ちなみにサイズや体格はほとんど変わってません。基礎トレーニングと栄養バランスの考えられた3食により、昔のタキオンを知る者からすれば、学園にいた時のままに歳を取ったと思われるレベルです。
「(さて…フルゲート18人…私の娘の命を奪おうとした不届き者は…なるほど、やはりフライトを囲めるように近くのゲートからの出走か…)」
「あれ誰…?あそこ空白になったんじゃないの?」
「変更の知らせとかあったっけ?」
「そんなの無かったと思うけど…」
不届き者のヒソヒソ話は、まるで聞こえている様子がありません。ウマ娘の聴力なら聞こえるはずなんですがね…
「(先ほどの走りを見る限り、このウマ娘たちはマイル〜中距離型…となれば距離の適正のみを考えれば不利なのは私だが…)」
「さすがに見ず知らずの奴囲むとヤバくない…?」
「そうね…ここはひとまず様子を見て…」
そんな事を言ってたら
「負ける気は無いから覚悟しておきたまえ」
「「「「「!!?」」」」」
タキオンがそう言った瞬間、ゲートが開きました。
『しまった!』と、5人は思ったでしょう。なにせタキオンの発した一言に気を取られ、大幅に出遅れたんですから。
「お母さん、すごいスタートだ!」
「いや…多分あれゲート内でなんか言ったな…変な疑いかけられたくなかったから、極力するなとは言ったけど…あれ絶対なんか言ってるよ…」
トレーナー君は頭を抱えてます。ある種の常套手段ではありますし、今回は事が事。「絶対にするな」とは言いませんでしたが、変な事だけは言ってくれるなよ…くらいに思ってました。
「てことは、相手が動揺して遅れたから相対的にそう見えるだけ…ってことね」
「あぁ、あとはどこまで走れるか…!」
「頑張って、お母さん…!」
「(なにせ急だったが故に、レースプランはある程度しか考えられなかったが…なるほど、確かに出ている速度は、あの皐月賞の7割強程度だな。だが、これなら脚を潰さずに済む)」
まだ小さなウマ娘たちが一生懸命走ったりもしている中で、ただひたすらにゴールまで駆けていくタキオン。
不届き者が追いつこうにも一向に追いつきません。どころかどんどん差を開きます。
不届き者には覚悟と努力、そして地力が足りないみたいですね。重点的に鍛えられる日は来るのでしょうか。
「何者よあの女…!」
「てか、あんな事言うって事は、アレがアイツの母親?」
「チッ、親がノコノコと!出しゃばんな!」
「そういうセリフは、私に勝ってからにしたまえ」
最終コーナーを曲がりきり、直線へ入る…
前の残り600m。最終コーナーの段階で、タキオンはラストスパートに入る。
「…アレって」
「フライトのペース配分、よね?」
「残り600mからのスパート…間違いないが、曲がり切れるのか!?」
「(コーナーを曲がるのはこんなにもキツかったか…?芝に脚を取られる感覚とは、こんなにも絡みつくものだったか…?約20年…伊達に走らず年は取ってないねぇ…だが、私が勝つのを見ておきたまえフライト。自称するのは流石に恥ずかしいがね…君の母親は…『超光速のプリンセス』なのだから!)」
そして、コーナーを曲がっている最中にさらに加速。そうして達した速度は…
「おんなじだ…」
「え?」
「お母さんが走った皐月賞とおんなじくらい…うぅん。それ以上に速い、かも…」
「そうだ、これが…お前の憧れにしてお前の母親、アグネスタキオンの走りだ」
「タキオンさん…!良かった…またターフを駆け抜けられるんですね…!」
「スカーレット。言った物は?」
「もちろん用意してますよ!冷却スプレーと念のための氷水の入ったバケツです!」
「助かるよ」
「くそ、クソクソクソクソ!」
「なんで追いつけない!」
「明らかに私たちの方が走ってるのに…!」
最後の直線に入り、そんな嘆きにも似た呟きを聞いたタキオンは、セーフティーリードを保っているからか、急に立ち止まったかと思えば、わかりやすいため息を吐き、後ろを見ながら
「薬という物を、他者を蹴落とすだけに使うようなウマ娘が、私に勝てるわけないだろう」
やや大きい声でそれだけ言うと、また直線をひたすらに駆け抜けていきます。
不届き者たちは…あぁ、完全に戦意を折られてますね。止まってしまってる娘もいます。
それを見る事なく、タキオンは1着でゴールイン。
「すごいすごい!お母さんすごい!」
「はっはっはっ!フライトも見ているからね!思わず全力で走ってしまったよ!それ故か脚がものすごい勢いで悲鳴を上げていてね!トレーナー君!いつもの物を!」
「スカーレットがちゃんと用意してたよ!ていうか何が7割強だよ!フライトの目測頼りだけど、ピークの10割超えてんじゃねぇか!」
「まーた口調が荒ぶってるよ?モルモット君」
「言ってる場合か!早く冷やせ!」
「はいはい…」
やる気のない返事とはいえ、モルモット君の心配も分かる故にしっかりと念入りに冷やす。
「タキオンさん…いつかまた、私とも併走して下さいね!」
「あっはっは!引退してブランクだらけの私と併走か!弱い者いじめの間違いじゃないのかい?」
「お母さん…あの走りを見たら流石に疑わしいよ…」
ヒカリフライトはジト目でそう言いますが、
「いや、普通のランニング程度ならともかく、レースを考慮したような全力でのダッシュは、完全に治るまでは3、4か月に1回に留めてくれとの事だ…流石にまた脚を壊すのは忍びないからねぇ…」
「あ、すいません…」
「気にする事はないさ。機会があればフライトも入れた3人で走ろうじゃないか」
とまぁ…こんなことを言うくらいです。やはり走ることが大好きなんでしょう。
「分かりました!絶対無茶しないでくださいね!トレーナーさん!無茶させないように見張りとサポートを徹底して下さいね!」
「分かってる分かってる…あ、でもモルモットになるのは良いだろ?」
「もうあのレベルの全身発光は勘弁してくださいね!?サングラス無かったら失明しそうなレベルでしたし!」
「善処する。さて…フライト。すまんが今日はもう帰るからな」
「下手に騒がれても困るしねぇ…」
そう言いながら、タキオンとトレーナー君は帰り支度をします。
「また帰省できそうな時は連絡するね、お母さん」
「あぁ、今日は楽しかったよ。こんな気持ちになるのも何年ぶりか…!やはり私もウマ娘…ということなんだろうねぇ…」
「タキオン、支度終わったぞ」
「そうかい…では2人とも。また会おう」
「うん!」
「今日はありがとうございました!」
過去には戻れない。けれど未来はこれから創る事ができる。
あの時はどうしようもなかった。けれど今でなら対処法が見つかっている可能性がある。
小さい頃の『どうして』が、今は『待ってるね』に変わっていた。
いつか、アグネスタキオンと走る光景をイメージしながら、ヒカリフライトとダイワスカーレットは、帰っていく2人の車を笑顔で見送りました。
ん?不届き者たちはどうなったかって?レースが終わった直後にこれまでの余罪まで全部バレて、みんな仲良く退学&牢屋行きしましたよ?牢屋はウマ娘が全力を出しても破壊できない特別製です。
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ヒカリフライトのトレーナー「Q.私の存在ってどうなってるんですか〜?」
ウマ娘の設定に対しての理解度が足りてないかもなんで、気づいた時は言ってください。
というかぶっちゃけた話。感想ください(切実)
どこが良いとかここが悪いとかそういうの知りたいんで。
「じゃあ後は軽く流して終わりにしよーねー」
「はい、今日もありがとうございます」
「いいんだよー。ほんとに無理はしないでね…」
「善処はします」
「そこは断言してよぉ!?」
ここまで4戦4勝と無敗のウマ娘『ヒカリフライト』ですが、トレーニングはいつもこんな感じのゆる〜い雰囲気でやってます。
トレーニングメニューも、強豪チームばりのかなりハードなものもあったりすれば、寮の門限ギリギリまでトレーナーの自室のベッドで溶けたアイスのように、『べちゃ〜 ̄▽ ̄』って寝っ転がってトレーニングしない事もあったり…
性格も本当にこの子トレーナー?ってくらいには超ゆるいです。自室で他の目がないことをいい事に、アイス食べたりしてます。
まぁ、彼女がヒカリフライトのトレーナーになったきっかけは、少し特殊なものではありましたが…
選抜レース。
このレース、超簡単に端折った説明をするなら、ウマ娘たちがただ走るだけでなく、その結果を踏まえて、トレーナーがウマ娘をスカウトする場でもあった。
芝の1900m。中距離ではあるがかなり半端な距離。ヒカリフライトが絶対に走らなきゃいけないレースはすべて2000m。なので最低でも2000mは欲しかったが、トレーナーが居ないことにはそもそもレースへの登録が出来ないので諦めた。
2000mに合わせた距離の感覚からほんの少しだけズラして、1900mをゴールする為のペースの計算を行う。中距離のペース配分については、教え方が上手いだけ(ヒカリフライト基準)の教官なんかよりずっと頼りになる副教官や母親という分かりやすい前例があった。
その前例をゲート内で反芻していたヒカリフライトの出した結論は、
「(私のスタミナから考えて…スパートは残り600mくらいかな…)」
先行して差すくらいの勢いで行く事。
母親が言うには逃げて差す…なんていうトンデモ走法としか言えない走りをしていたウマ娘も居たそうなので、出来ないことはないだろうと考えた末のものである。
息を整えた直後、ゲートが開く。
出遅れたとまでは言わないが、完璧なスタートとは口が裂けても言えなかった。
それでもなお自分のペースを保ち、前方にいるウマ娘の背後を走る。そして、時折ほんの少しだけ左右に身体をズラし、前のウマ娘の集中力を散らしにかかる。
そうして残り600mに差し掛かったところで
「(ここ!)」
ヒカリフライトがスパートをかける。
それに負けじと他のウマ娘も速度を上げようとするが、選抜レースというプレッシャーからか、持久力が既に切れておりスピードを伸ばしきれず、ヒカリフライトがゴールを突っ切る背中を見るだけとなった。
「俺にトレーナーをさせてくれないか?」「私が貴女を1番速く走らせてあげるわ!」「僕に任せてくれないかな?」「自分なら君を輝かせられる!」
「あ、えっと…」
ヒカリフライトは困惑していた。
選抜レースで1着を取ったウマ娘なのだから、取り合いになる事は確実ではあるが、いかんせん数が多かったのだ。そんな中でトレーナーを選ぼうとしたのだが、
「君の憧れているウマ娘は誰だい?僕ならそのウマ娘より強く出来る!」
「確かに気になるね!やはりあの伝説の生徒会長、シンボリルドルフかな!?」
「…」
そんな事を言われて急激に思考が冷めた。と同時にトレーナーに選ぶ者の基準が明確になった。
「そんなに知りたいならお教えします。私の憧れているウマ娘は、アグネスタキオンただ1人です」
そう言った瞬間、ほぼ全員の顔が歪んだ。この時点でヒカリフライトはその者たちにトレーナーを任せるという選択肢を排除した。
「アグネスタキオン…」「それってドーピングしてたっていう…」「なんであんなウマ娘を…」「勿体ない…」「知らないって罪だよな…」
「…ウマ娘の聴力舐めてませんか?あなた方の顔は覚えました。今後勧誘されてもNOとしか言いませんので」
「〜〜〜〜!!お前みたいなウマ娘、こちらから願い下げだ!」
そんな罵声を真正面から浴び、蜘蛛の子を散らすように離れていくトレーナー達をやはり冷めた目で眺めていたが、ただ1人残っているトレーナーを見つけた。
「…貴女は行かないの?」
「えっと〜…ヒカリフライト…で合ってる?アグネスタキオンが憧れって言ってた、よね?」
「はい」
「なら、ちょ〜っと付き合ってくれないかな…?」
「…?」
怪訝そうにしているヒカリフライトだが、自身の憧れに対して否定から入られなかったので、着いてくことにした。
そうして着いた先は彼女のトレーナーとしての自室。ドアを開けた先にあったのは、
「凄い…!」
壁一面にタキオンの競走バとしてのデータや新聞・雑誌の切り抜き、果てはレース中のタキオンの走りを常に捉え続け連写したのであろう写真すら貼られてある部屋だった。
「私もあの人の走りを見て、トレーナーになろうって決めたんだ〜。一生懸命勉強して、いつかは彼女のようなウマ娘を育てるんだ〜ってね…」
「この写真、ホープフルステークスですよね…てことは、貴女が見たレースって」
「そ、メイクデビュー。目も心も奪われちゃった…けど、アグネスタキオンは…」
「先天的な体質による脚の故障で、引退を余儀無くされました。なのに、新聞や雑誌は…!」
「『ドーピングによる副作用か?』『担当トレーナーを実験台にする狂気のウマ娘』、挙げ句の果てには『ライバルを薬で蹴落としたのでは?』なんて言ってたね…」
「お母さんはそんな事してない!!!!!!」
「もちろん知ってるよ!って、お母さん…?」
「…!」
言った後でヒカリフライトは思い出した。自分はタキオンの娘であると公表していなかったのだ。
これはタキオンとモルモット君からの『自分たちの事については何も言わない事』という言いつけをしっかり守っていたからである。
そんなカミングアウトに対してこのトレーナーは
「そっか…アグネスタキオンの娘さんかぁ…今までよく頑張ってきたね」
そんな事を言いながら、優しくヒカリフライトの頭を撫でていた。
「…え?」
「あんな悪意に晒されて、ずっと耐えてきたんだよね…それでもずっと憧れているお母さんの事を言い出せなくて…ほんとに…づらがっだよね…」
「あぅ、えっと…泣かないでください…」
「ぐずっ、キミも泣いていいんだよ…さっきだって、必死に叫ぶの我慢してたでしょ?追い返した後も泣くの堪えてたでしょ?もう誰もいないから…泣いていいんだよ…」
「…ひっく、なんでみんな、お母さんの事を悪く言うの…?お母さんが何したの…?みんなより速いのがそんなにいけないの…?なんでお母さんをあんなに悲しませるの!?」
「…そうだよね、許せないよね」
「ドーピングの検査にも引っかかってない!証明書だって持っていったって!でも誰も相手にしなかった!お金を稼げたらそれでいいの!?お母さんの後の人生めちゃくちゃにしていいの!?教えてよ…なんでお母さんが泣かなきゃいけなかったの…?」
ヒカリフライトは小学生の頃に1度、本当にただ1度だけ、雑誌の見出しを見て悔しそうに涙を流す、タキオンの姿を見た事がある。自分の前では常に笑顔で優しい母が泣いているのを、ただ見る事しかできなかった。
父のように、すぐにそばに寄り添えるくらいの行動力が無かったのと、理由を聞いてまた泣かせたくないと思ったからだ。
「…ねぇ、キミが走りたいレースを教えて」
それを聞いたトレーナーは、真剣な表情でヒカリフライトに問いかけた。
「絶対に、何を言われようとも走るレースはあります。ホープフルステークス、弥生賞、皐月賞です」
「お母さんと同じ道を行く…うぅん、きっと証明したいのかな」
「はい、お母さんの娘である私が同じ戦績を出せば、お母さんが何もしてないって…4戦4勝のウマ娘『アグネスタキオン』の娘は、同じ戦績を持ってここにいるって、証明出来るはずだからです」
「メイクデビューを含めて4戦4勝がスタートライン…どのレースも落とせない、か。辛いよ?」
「お母さんとお父さんを泣かせない為なら、辛さなんてありません」
「…なら、お願いしていいかな?トレーナー契約結んで下さい!」
「いえ、こちらこそお願いします。私と契約を結んで下さい」
「うん、もちろん!」
そうして2人はトレーナーと担当ウマ娘という関係になった。
「とりあえず〜…どのレース見る~?」
「じゃあやっぱり、あのレースがいいです」
「ふふ、多分同じ事考えてるだろうなぁ〜…せーの、」
「「皐月賞!」」
「で、トレーナーさん、次のレースは?」
トレーナーの自室でいちごアイス(1個151円)に舌鼓を打ちながらヒカリフライトが問いかけます。
「もちろん決まってるよ〜。次は日本ダービー。皐月賞を勝って優先出走権貰ったからね〜。あ、会見で何言うか考えといてね」
「ふふっ、なら堂々と言っちゃおうかな。私が『超光速のプリンセス』アグネスタキオンの娘だって!あ、そうだ!私とお母さんのドーピング検査の証明書の原本も公開しちゃおう!」
「はっはっはっ!!いいね〜!記者達のキモ冷やしてやろ〜!」
「あぁ、お母さんを泣かせた人達がどんな顔するのか楽しみ…!」
ヒカリフライト、めちゃくちゃ恍惚としています。掛かっているかも知れません。
「おやおやヒカリフライトさん…悪い顔しとるのぉ〜」
「そういうトレーナーさんこそ〜」
「「…あはははっ!!」
ヒカリフライト、日本ダービーまであと25日。
「お母さんはそんな(お父さんをモルモットにする)事(以外)してない!!!!!!」
ちなみに、休みの日に寮ではなくトレーナーの自室でくつろがせるのは、トレーナー曰く『メニュー以外での練習はさせたくない…というか、自主練とか勝手にするのを防止するためと、フライトは今までが頑張り過ぎてたから、リラックスする事を覚えさせるのとで半分半分』とのこと。
あと、タキオンが屈腱炎を患ったとされる日は、ダービーの25日前だそうですね…
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混・沌・会・見
こんな見切り発車も甚だしい作品をお気に入り登録していただきありがとうございます。
感想も気軽にしてくれて構いませ…いやダメですよ?作者調子に乗って生活リズム崩してでも書きかねないからね!?お気に入りだけでも有頂天になってるのに!
ほんとにダメだよ!モチベとかその辺ここまで失墜せずにすらすら指が動くの久々なんだから!(スマホ投稿)
今回、仕上げを夜中にしてるので、ケアレスミスがあるかもです。その時は言ってください。修正します。
さらに、今回はいつにも増して短いですし、オリジナルのウマ娘が数人出ます。
「これ以上のオリジナルウマ娘は許容出来ねぇ!Gold Ship(丁寧な発音)直伝のドロップキックをお見舞いしてやるぜぇぇぇ!」とお考えの皆様はBB(ブラウザバック)をお願いします。
特設会場にて行われている、日本ダービー前の記者会見。
…といっても、全員やってたらキリがないので、注目どころのみをピックアップしていこうと思います。こらそこ、手抜きとか言わない。
まず1枠1番『イッポサキヘ』。6番人気です。
トライアルレースの青葉賞を勝ち抜いたウマ娘です。
2着のウマ娘とはクビ差という大接戦でしたが、一歩だけ前に出ていた故の勝利。
このレースでステップアップしたいという、強い決意が見られます。名前の通り、そして青葉賞のように一歩先へ、一歩先に踏み出せることを期待しましょう。
続いて4枠8番『ユアイズオール』。こちらは3番人気。
こちらもトライアルレースであるプリンシパルステークスを勝ち抜いたウマ娘です。
デビュー戦でこそ4着と躓きはしましたが、続く未勝利戦では4バ身差の勝利、プリンシパルステークスにおいても1/4バ身差での勝利と、どこかしらに4が刻まれるという謎多きウマ娘です。そして今回は4枠での出走。もはや狙ってるのでは?との噂もあります。
さらに続いて3枠5番『ヒロイックフィリア』。7番人気です。
こちらは皐月賞で2着を獲得した為、優先出走権が与えられたウマ娘です。
デビュー戦から約2ヶ月はほぼ負け続きでしたが、トレーナーとの二人三脚で、なんとかこのダービーの舞台に足を踏み入れました。最大の武器である恐ろしくも美しいと称賛される末脚は、ほぼ最後尾からウマ娘を喰らい尽くしていく光景が幻視されるほど。
このレースで波乱が巻き起こるとなれば、『英雄喰らい』の名を持つ彼女が起点と見て、おそらく間違い無いでしょう。
そして2番人気『ヒカリフライト』、5枠10番での出走が確定しています。
ここまで無敗の4戦4勝。無敗のまま2冠目を手にすることができるのでしょ…おや?なにやら騒がしくなりましたね…
「…すいません、今なんと?」
「私は、『超光速のプリンセス』ことアグネスタキオンの娘、ヒカリフライトです」
「えぇ!?」「待てよ、アグネスタキオンっていえば…」「あの4戦4勝の…」「待てよ、この娘の出たレースって…」「アグネスタキオンと同じレースじゃないか!」
「そうです。正直な話、私が走る理由には私怨も含まれています。純粋に勝ちたい…そんなウマ娘たちに私怨まみれの私が混じるのも、あなたたちからすれば不相応に見えると思います」
ヒカリフライトはただひたすらに、事実を述べていく。ヒカリフライトの走る理由の大部分は、母であるタキオンを泣かせた者たちを見返す為…マジで私怨なのだ。
「そりゃそうだろう!」「私怨って…なにが君をそうさせたんだね!」「私怨…もしかして…」「このレースに出るために懸命に努力したウマ娘ばかりなのに…走る理由は私怨?ふざけるな!」「第一母親と同じレースしか走らなかったのも、母親と同じで何かやってて、副作用が出るのが怖いからでしょう!」
まぁそりゃブーイングの嵐です。最後の奴に至っては、証拠もないのにあたかもドーピングをしているような口ぶりだ。
「ちょっと黙ってもらえませんか?」
ヒカリフライトはそんなブーイングを一蹴する。だが、ヒカリフライトは記者からのブーイングの中で、ただ1人ブーイングを飛ばさず考え込む記者に狙いをつけた。
「あー…そこの記者さん、何か思う事あります?」
「はい、えっと、もしや私怨とは…私たちメディアに対してでしょうか」
「正解です。母はもちろん、私もドーピングなどしていません。他者を薬で蹴落とすような事もしてません。
にも関わらずあなたたちメディアは、あたかもそういった不正に手を出したと報じ、母や父を悲しませた」
怒り…いや怨念とすら形容出来るほどの表情で記者陣を見ながら、淡々と自分の意見を言っていく。
「…この際なんでハッキリ言いますね?恨みや怒りを煽るのは2000歩譲って構いませんが、自分にその矛先が向いたからってギャーギャー喚くのは、大人として…いえ、人としてどうかと思いますよ?」
「甘ったれんなクソガキが!」
とそこまで聞いた記者が顔を真っ赤にしながら、怒りに任せてヒカリフライトに殴りかかる。
しかしその拳も、スレスレの所で警備員に止められる。あーだこーだと喚き散らしながら連行されていくが、それを見てヒカリフライトを糾弾する記者はいなかった。
そうすればあの記者と同じと認める事になる上、ヒカリフライトが先ほど言った『愚かな人間像』にピタリと当てはまってしまうからだ。
「まだここにいる記者さん達は冷静さがあるみたいですね。ではこれ見てください。あ、そこのテレビカメラさーん。生放送ですよね?ちゃんとズームして見てくださいね」
なんて言って取り出したのは、自身と母であるタキオンのドーピング検査票。共に4レースとも陰性となっている。これを見て当然ざわめく記者陣。
「これは原本です。コピーして皆さんに配布しようとも考えましたが、こちらが確実ですので、こうしてお見せしております。真偽が怪しいと思うなら、○○病院へ電話してもいいですよ?カルテと共に検査の詳細もしっかり残っていますので」
記者陣はとうとう黙り込んでしまう。無理もない。自分達が正しいと思っていた事象の裏を知ってしまったからだ。
「あなたたちは利益を得る為なら、嘘を言ったり書いたりしても良い立場にあるんですか?その嘘で後の人生をズタズタにされて悲しむ…そんな人たちを生み出しているかもしれないという自覚はありますか?よく考えて下さい。私からは以上です」
…完っ全に会見会場がお通夜ムードとなりました。
しかし、それで終わらないのが今回の会見。
そう。あの素晴らしい戦績を残しているヒカリフライトが『2番人気』なのだ。
彼女の人気をぶち抜き、堂々の1番人気となったウマ娘がいる。
彼女が顔を覗かせた途端、記者陣が色めき立つ。それが彼女の人気ぶりをより引き立たせる。
彼女の名は…
「ドリームオブプリンセスだ。日本での大舞台に出れるとなり、興奮が隠しきれないというのが本音だ。だがあえて言うなら…私が目指すのは頂点ただ一つ。日本のウマ娘達にも負けないと自信を持って宣言しよう」
自信をここぞとばかりに見せつける彼女の姿を捉えようと、カメラのシャッター音が鳴り響く。
そう、このウマ娘『ドリームオブプリンセス』は外国からの刺客。元々は皐月賞から参戦する予定だったが、手続きの承認で誤差が生じタッチの差で参加できなかった。が、その実力は本物。
大逃げから追い込みまで可能な幅広い脚質。芝もダートもお手の物と申し分ない。最も得意な距離は中距離だが、他の距離も走れなくはないという、オールラウンダーなウマ娘だ。
戦績も負け無し…という綺麗な戦績とまではいかないが、数多くのレースで勝利経験を持つ。
突然の参戦に驚く者も多かったが、しばらくすればご覧の通り。こうして1番人気をかっさらっていった。
日本ダービー。
それは『最も運のあるウマ娘が勝つ』レース。
『最も速いウマ娘』はヒカリフライトだった。
ならばこのレース。
幸運を引き寄せるウマ娘は、ダレだ。
………ちらっ
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『最も運のあるウマ娘』/東京優駿(日本ダービー) 芝 2400 左回り
亀更新のタグも付けないといけないな…
※途中、実況だけになります。
「すぅ…ふぅ…」
「緊張してるね〜…」
控え室で時を待つのは、勝負服に着替えたヒカリフライトとそのトレーナー。
会見での騒ぎは世間的に注目され、マスゴ…失礼、マスコミ各社に往年のタキオンファンからの問い合わせが殺到。
勿論ファンとしてはそんな事してないと分かっていたのだが、『タキオンの娘がタキオンの出れなかったダービーに出走する』という事実が導火線に火をつけ、何処かの阿呆がそのタキオンの娘に、あろう事か暴力を振るおうとした事で爆発した。
伊達に長年、タキオンのファンというだけで『薬漬けのウマ娘のファンとかw』などと馬鹿にされ続けては居ない…ある種最高かつ最悪の形で弾けてしまったのだ。
そんな事もあり、ヒカリフライトは珍しくプレッシャーを感じていた。
『勝たなきゃいけない』『私に勝てるのかな…』
『お母さんが走れなかったんだ』
『お母さんを応援してくれた人の為にも』
『私の為に頑張るトレーナーさんの為にも』
『馬鹿にして来た人を見返す為にも』
『絶対に勝たなくちゃ』
「こーらっ!」
「ふぇっ!?」
思考の海に沈みかけたヒカリフライトだったが、なんとか戻れたようだ。
「ハッ…ハァッ…トレーナー、さん?」
「…色々考えてるとは思うよ…だって、お母さんが走れなかったレースだもんね…」
「だから私は…!」
「うん、けどね。フライト自身の為にこのレースに勝って。お母さんや私、ファンの皆の為に…じゃなくて、貴女自身の為に」
「…私の?」
珍しく、間延びした口調も抜きに話すトレーナーは、驚くヒカリフライトに続けて口にする。
「そう。この舞台に立つって事は、期待を背負うのは当然のことなの。それを重荷にせず、ブースターとして使えるかは貴女次第だから」
「…」
「貴女はどこまででも行ける…ヒカリに向かって飛び立てる…そんな貴女自身の為に、このレースに勝って」
「…はい!」
「よ〜し良い返事!勝負服もキマってるし負ける気しないよね!2冠目、取っちゃおうか!」
「はい!じゃあ…行って来ます!」
ヒカリフライトはそう告げ、ターフへと向かった。
『ここ東京レース場にて行われます、日本ダービー!【最も運のあるウマ娘】は、果たしてどの娘になるのか!』
『今年は注目出来るウマ娘も多いですからね!期待も高まります!』
『しかし、やはりというべきか…ドリームオブプリンセスの風格が別次元ですね…』
『果たしてこのウマ娘を超えられるウマ娘は現れるのか!』
『ゲートイン完了、出走の準備が整いました!』
『ここに居るのは強者のみ。
その強者ひしめくゲートが…今開かれた!』
『おおっと!!イッポサキヘ、ロケットスタート!かなりのハイペースで飛ばしていく!
ユアイズオールはその半バ身真後ろ。イッポサキヘを壁にして、スリップストリームでスタミナ消費を抑える体勢か』
『その後ろの集団にヒカリフライトとドリームオブプリンセス。共に先の2人を追いかける形。
ヒロイックフィリアは最後方、というよりも殿。前半は脚を溜め、後半での爆発を狙っているようだ!』
『ここまで先頭から殿までおよそ9バ身。やや団子になってる感が否めません』
『ここで800mを通過。全体の1/3を超え、先頭は依然変わらずイッポサキヘ。他の娘はまだまだ脚を溜めている状態。
ただイッポサキヘ、やや掛かり気味か?』
『さぁ1600mを通過。全体の2/3を超えたぞ、おおっと!ここでヒロイックフィリアが飛び出して来る!
それに呼応するかのように、ヒカリフライトとドリームオブプリンセスの2人もスパートを仕掛けているぞ!』
『ここでイッポサキヘの背後に潜んでいたユアイズオールも、負けじとスピードを上げて行く!
イッポサキヘ、辛そうだが必死に食い下がる!だがここが限界か!?』
『そして残り400m!先頭争いはヒカリフライト、ヒロイックフィリア、ドリームオブプリンセス、ユアイズオールに絞られた!
誰だ!?誰が栄光を手にする!?4人ともに並んだ状態でゴールへ突っ込んでいくぞ!
そしてそのまま、雪崩れ込むようにゴールイン!
ほぼ同着に見えましたが…ユアイズオールがやや体勢不利の4着か!』
『残り3人の結果は写真判定が行われています…今しばらくお待ちください…』
「頼む…勝ってくれ…フライト…」
「大丈夫だよ、モルモット君。私たちの娘は必ず勝つ。それを私たちが信じなくてどうするんだい?」
「…それもそうだな…なぁ、タキオン」
「ん?」
「ごめんな、日本ダービー…走らせらむぐっ」
「まったく…ここ数日は同じ事を言ってるねぇ…私があの時脚を壊したのは君のせいじゃないさ…ただ、こうして見ると少しは思うよ…この声援の中で走ることが叶っていたなら…とはね」
「…すまん」
「泣くなよ、モルモット君。その涙はフライトが勝った時の為に置いておきたまえ」
「あぁ…そうだな…」
「写真判定…随分時間がかかってるなぁ…」
ゴールしてから約10分が経過しても一向に結果が出ないことに言葉を漏らしたヒカリフライトの前に、
「あれほどの接戦だ。むしろ私がこれ程までに追い込まれるとは、思いもしなかった…」
「確か…ドリームオブプリンセスさん…でしたっけ」
「ドリーで良い。トレーナーからはそう呼ばれてるからな。そして同い年だ。敬語も要らん」
「あ、うん…随分な自信だね」
「伊達に海外で経験は積んでない。日本のレベルの高さは常々聞いていたからこうしてやって来たが…まさか…冠を1つ、走ることなく逃す事になるとは…」
「確か手続きがどうのって話だったっけ…けど、皐月の冠を取ったウマ娘として、やっぱり負けられない」
「私を忘れて貰っては困るのですが…」
「あ、フィリア」
「フライト…2000mの皐月賞は貴女に取られましたが…2400mは私のフィールド。誰が相手でも負けられませんから」
「…なるほど、ここにいる3人。誰も自身の勝利を疑わないか…」
「「もちろん(です)」」
『写真判定の結果が出ました!』
「「「!!」」」
『1着は…ハナ差でヒカリフライト!2着はヒロイックフィリア!そしてドリームオブプリンセス!2着は同着です!』
「私が…1着…2冠目…!」
「同着2着、か…」
「悔しい…ですね…」
3人がそう呟いた直後、しんと静まり返っていた観客が、今更のように歓声を上げる。
「悔しいが…2冠目もキミのものだ。だが『次』は負けない」
「えぇ、最後の冠だけは…絶対に渡しませんから!」
「2人とも…うん、でも次もきっと、私が勝つよ!」
そうして3人はウイニングライブへ向かう…
前に、2着ポジションでの動きが、ややぎこちなかったドリームオブプリンセスの動きの確認を、2人がかりで急ピッチで行ったそうな。
「ええっと、ここがこう…だったよな?」
「いや出す手が左右逆ぅ!」
「ここをこうして、こうです!」
「す、すまん…負ける事をまったく想定していなかった…!」
「むしろそこまでの自信が羨ましいよ!!」
「レースより疲れている気がします…」
そんな2人の苦労の末、ウイニングライブはミスなくなんとか成功したそうな。
「「次からは気を付けてね?(くださいね?)」」
「…はい…」
3人の勝負服について
ヒカリフライト→改造白衣。基本はノースリーブだが、稀に母親譲りの萌え袖白衣になったりする。タイツは母親とお揃い。ファンの癖は拗れた。
ドリームオブプリンセス→黒のゴスロリ。薔薇の装飾が施されたタイツは白で、腰に剣をマウントしている。ファンの癖は拗れた。
ヒロイックフィリア→レースとフリルたっぷりの白いミニスカドレスで、ニーソックスもお揃いの白。しかし太ももからは黒いガーターベルトが見える。ファンの癖は拗れた。
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