R-type the endless danse (桜エビ)
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設定・用語集
原作設定・用語集(オリジナルの内容も含む


:R-type設定

 

・バイド

22世紀の人類の前に突如現れ、地球人類に牙を剝いた生命体。エイリアンとも解釈できる

有機物無機物を問わずあらゆるものを侵食、取り込んで自らの物とする能力を持つ超集束高エネルギー生命体である。

それの浸食能力は精神や空間にも作用する。

正体は26世紀に「銀河系中心星域に確認された敵意を持った外宇宙生命体」が確認され、それの対策として作られた極地限定型の環境破壊を主とする生体兵器である。

だが、それが使用される前に手違いで太陽系で起動、空間消去型の兵器で亜空間の彼方に飛ばしたものが現代に流れ着いてしまった。

 

 

 

・R戦闘機

バイドに対抗するために作られた、異層次元戦闘機。

元は航宙機開発計画に端を発した多目的宇宙艇であったものなのだが、異層次元探査艇”フォアランナ”による異層次元航行中「バイドの切れ端」というエネルギー生命体が発見され、バイドの存在を認知。

この計画は異相次元戦闘機の開発へ変更され、最終的にR-9(もしくはR-9A)として結実。

その後これから派生していった兵器たちをR戦闘機と呼ぶこととなる。

基本装備として電磁式機銃(レールガン)、各種波動砲、後述のフォースやビット、ミサイルまたは投下型爆弾など各種に渡る

 

 

 

・フォース

バイドの存在を認知した人類が作り出した兵装。

「悪魔の兵器」とも呼ばれ、エネルギー生命体である「バイドの切れ端」を培養し、そこから抽出されたエネルギーを固定、コントロールロッドで制御している物。

このことから「バイドを以てバイドを制す」という言葉の元ともなった。

シューティング作品では破壊不能であり、絶対の盾として。そしてエネルギー体を捕食させ、レーザーの発射機という強力な矛として機能する。

タクティクスシリーズでは破壊は可能であるが高い耐久値を誇る。

本作品では折衷案として「通常兵装では破壊不能。波動砲と言ったバイドを完全根絶可能な兵装のみ損傷を与えられる」としている。

タクティクスシリーズで、そして今作品で戦争の原因の一つになった。

 

 

・マクガイヤー社

RX-10 アルバトロスを軍と協働で開発した航空機メーカー。

今作品ではフォース反対派のパトロン兼戦争代行者として戦争を請け負うことになる。

キョウヤなどはここの所属。

 

・ウォーレリック社

R-13Aケルベロスを軍と協働で開発した軍需企業。

今作品ではフォース賛成派のパトロン兼戦争代行者として戦争を請け負うことになる。

ライザの所属はこちら。

 

:登場R戦闘機解説

 

R-9A2:

R-9A直系の機体であり、試作機でありながらサタニックラプソディを戦い抜いた機体。

今作品ではそれに実戦向けに近代化改修を施したR-9A2+という元機体の性能を引き継いだ半オリジナル機体という扱いである。

元機体解説として大気圏での戦闘を考慮して小型軽量化、2段階目のチャージで拡散する波動砲を放つ試作型拡散波動砲(近代化改修で試作型ではない正式タイプに換装されている)と汎用性の高いスタンダードフォースの装備(マクガイヤー社所持機には装備されていない)といった、試作型ながら正当進化的な機体になっている。

大気圏内での運用性や良好な運動性からマクガイヤー社の前主力機を努め、R-9A3への転換後もキョウヤ専用機を始め長生きしているスコル向けとして少数ながら生産が続いている。

またキョウヤ機に関しては独自のチューンが施されており、ロールとピッチ方面の機動性と強度が強化されている他、小型翼を側面に追加する大気圏内装備も存在する。

 

R-9A3 レディ・ラブ

R-9A2の後継かつマクガイヤー現主力戦闘機として運用されている機体。

波動砲は3段階チャージ式のスタンダード波動砲Ⅱ。フォースはスタンダード・フォース改を装備する。なお、マクガイヤー社の方針で同社所属機でフォースを装備する機体はない。

正当進化の系譜ではあるが、先祖返りを起こしている部分もあり、機体の大型化(R-9A2が小さいのであってR-9A3はR-9Aと大差ないサイズとなっている)や拡散波動砲ではないという点から格闘性能に関してはR-9A2に譲る部分がある。

無論、総合性能に関してはR-9A3のほうが高いのことは言うまでもない。

 

R-13T エキドナ

 

本来はフォースのバイド係数(バイド兵装の攻撃性を表す数値。高いほど攻撃性が高く、そして多くの場合でバイド性の近さも高い)の限界を試すための試作機だった機体。

本作ではフォースリンクシステムというオリジナル機能の実戦試験の機体として登場する。

チェーンフォースという光子チェーンによる有線制御されたフォースを装備しており、原型機はこれによって高い攻撃性を持つフォースの暴走を抑制、今作品ではフォースリンクシステムに使われている。

波動砲は試作型ライトニング波動砲、雷撃を放ち前方広範囲を攻撃する。なお今作では試作型ではなく正式採用型のライトニング波動砲を搭載し、電撃が側面まで回り込むほどの誘導性を持つ。

 

R-9C ウォー・ヘッド

 

第二次バイドミッション(R-typeⅡ)において実戦投入されたR-9Aのアッパーバージョン(性能向上機)。

当時のR-9Cは以前の全自動工場での生産がされたR-9Aとは違い、職人による手作業での製作で3機が製作された。それに応えるようにその機体は当時最高峰であり、「突き抜ける最強」などと言った称賛を受けた。

その後生産された物(FAINAL等)はベテランパイロット向けのカスタム機として扱われている。

本作品においてはタクティクスシリーズの設定も盛り込み、近代化改修を受けて亜空間航行能力を付与された強化戦闘機としての立ち位置としてウォーレリック社XX-9試験飛行部隊に配備されている。

 

 

 

 

:航空機用語

 

・早期警戒機、早期警戒管制機(AWACS)

通常機よりはるかに高性能かつ大型のレーダーを搭載した、索敵専用の機体。

後者にあたるAWACS(早期警戒管制機)の方は同時に指揮機能を持たせており、司令官やその他指揮に必要な機材を搭載している。

R戦闘機にも早期警戒能力を持たせた機体が存在し、R-9E系統となっている。

 

 

・ドッグファイト

航空機が後ろを取るために激しい機動戦を行うこと、もしくはその機動戦のこと。

後ろに向かっての迎撃機能をつけることは元から、なにより昨今の音速機にとっては効率があまりにも低いことその他もろもろもあり、航空機にとって敵の後ろを取ることは攻撃に必要とされる行為である。

よって、戦闘機同士で命を懸けた後ろの取り合いが行われる。

その様子がまるで「犬が尻尾を追って激しく駆け回ること」と例えられるためこの名がついた。

 

 

・切り返し

旋回している戦闘機が、反対方向に一気に旋回し直す行為。

敵の攻撃を回避する初歩的な動きであり、駆け引き次第では後ろについた敵を引き剥がすことも不可能ではない。

 

 

・バレルロール

筒の外側を前進しながら回る様な機動。

予測や完全な追従が難しく、機銃などの回避に向いている。

また、速度をある程度維持したまま敵をオーバーシュート(後ろにいた敵を自分の前に出す、端的に言えば追い抜かさせる)させる可能性も秘めている。



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本編
日暮れを見送る、永遠の子供たち


R-typeはにわかに近いので、間違ってたらごめんなさい


人類はかつてい滅亡の淵に追い込まれていた。

当時何処からやってきたかもわからない、凶暴なエイリアンの手によって。

その名はバイド―それはこちらを破壊侵食し、宇宙進出した人類の住処を次々と食い荒らしていった。

それを食い止め人類を救ったのは

 

汎用作業艇をベースとした、異相次元戦闘機。通称R戦闘機。

 

それで滅び切らなかったバイドは、幾度となく人類を襲い、そのたびにR-typeがそれを返り討ちにしていった。

人類は、滅びの危険に何度も晒され、ついにバイドの完全根絶を掲げた作戦【オペレーション・ラストダンス】を決行した。

最強のR戦闘機を求め開発チーム、Tame R-Typeを結成し、それに完成したそれをバイドの中枢へと送りこんだ。

 

そしてそれは功を奏し、それ以降人類はその手にある最強兵器であるフォースを除いてバイドを確認していない。

 

 

そう

 

人類は平和を手にした

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

幾度となく滅びては復活してきたバイドが、今度こそ根絶できたか。

誰も断言はできない。奴らが滅んだかは悪魔の証明でしかない。

少なくとも中枢は撃破し、太陽系圏内のバイドの活動にトドメを刺したのは確からしいのだが。

 

そんな状態で、悪魔の兵器であるフォースとR戦闘機を手放せるか否か。

当然否である。

 

 

 

しかし、その兵器こそ、またバイド。

これを手放すことにより、完全根絶は成る。

 

そう考えるものも多かった。

 

傷だらけの地球には、それ以外にも多くの火種が多く存在していた。それは復興していってなお消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『こちらクリアアイズ4。エアロファイター、状況知らせ。』

 

「―その呼び方はやめろと言ったはずだ。カシウス1、異常を視認せず。各種観測機器にも感なし。」

 

 

『異相次元すら何の波も経たない、平和そのものだよ。誤報じゃねぇか?』

『それだったら時間を返してほしいぜ。今頃レストランでクレアと楽しくやってたのにさぁ』

 

R-9E:MIDNIGHT EYEで早期警戒に出ているクリアアイズ4は本来今日は非番であった。

コパイロットで情報分析屋の彼に関しては、デートの予定があったらしい。

 

「墜とされて、明日そのクレアとかいう女に会えなくなるよりはいいんじゃないか?」

 

『うげ、冗談でも言うことじゃないぜ』

 

 

『―な、急に異相次元レーダーに感!当機から4時の方…ぐぁあああ!』

 

通信にノイズと悲鳴が入る。

クリアアイズ4が被弾した。早期警戒機としての性能からして、直撃をもらう位置の機体は探知できてなければおかしい。

つまり、なんかしらの妨害装置などで探知を阻害されて接近されたか。

まだ反応は生きてる。機体はまだ原型を保っているようだ。

 

「クリアアイズ4!状況報告!」

 

『敵波動砲が直撃、いや掠めた!航行に支障はないがレドームが壊れて再探知不能!最終位置をそちらに送る!』

 

「了解した。俺が向かうからとにかく下がれ。あと増援の要請を。」

 

自機レーダーでクリアアイズ4の後退を確認しながら、該当宙域に向かう。

 

そこにいたのはR-9C:WAR-HEADが3機。 少し前に亜空間潜航機能を追加され特殊強化戦闘機にバージョンアップされた機体だ。中央指揮官機はフォースも装備している

異相次元レーダー以外での補足はまず無理、そして今回、クリアアイズ4が見逃しているというヘマをしていなければ、異相次元レーダーにも映らない厄介な存在であると考えられる。

 

「…帰すつもりはない。」

 

さすがに連続しての異相次元潜航は無理のようだ。

その上こちらは俺の【R-9A2+:DELTA近代改修】この1機。

 

数で上なら逃げる理由はない。

事前情報通りなら、目的はコロニーの急襲。それを押し通すつもりなのだろう。

その事前情報のせいでスクランブル気味に警戒任務に当たっていた。

ならば阻止せねば。

 

「当たらない、それでは。」

 

ヘッドオンの状態で、俺はスロットルを限界まで前に押し込み突撃。傍から見れば無謀な突撃に、三機のR-9Cは想定外と言わんばかりに、急いで中途半端な拡散波動砲を発射した。

 

それを俺は掻い潜り、敵に対し僅かに下に回り込みながら中央の一機に電磁機関砲を叩き込んだ。

あまりの速攻に反応できなかったのか、フォースでの防御も回避もできずにボディを穴だらけにされ爆散する。

 

左右の機体は爆炎に煽られ制御が一時効かなくなり、その二機の間を俺は攻撃を受けずに通っていく。

 

「じっとしすぎだ。」

 

急停止してのその場での旋回ではなく、速度を保ったまま円を描くように旋回する。

敵は速度ゆえに見失っていたこちらをようやくレーダーで再捕捉したのか、その場で反転してこちらを見る。

だが

 

「遅い。FOX5。」

 

俺は容赦なくミサイルを発射した。

光学センサを搭載したミサイルは、デコイ機能のないR-9Cめがけて突っ込む。

その場で反転したそいつは速度がなく、ミサイルを回避する速度を確保していなかった。

 

斜め上に回避しようとするが叶わず、その無防備な腹にミサイルが着弾。前後に両断された。

 

「2つ……」

 

残り一機になった敵に意識を向けるが、その機体は反転して撤退していく。

 

「…終わったか…」

 

『相変わらずすごいな…エースの名は伊達じゃないってか』

 

「まだ通信圏内にいたのか。遅いぞ。」

 

どうやら破損したレドームを緊急修理もでもしたのか、遠方でこちらの戦闘の様子を眺めていたらしい。

敵は撤退した。俺も早いところ帰還して――

 

『待て!ボギー1(敵機1)!いきなり圏内に突っ込んできた!速い…そっちに向かってる!』

 

急いで俺は操縦桿を引いた。

自分が死なないぎりぎりまでコックピットの慣性制御を、機体側の制御に渡す。

速度を殺さずに帰還しようとしていたがために、かなりの旋回半径を伴って旋回した。

それが功を奏し、直後に俺の居た宙域に放たれた稲妻が俺を捉えることはなかった。

 

「ライトニング波動砲…まさか…」

 

R-13T:ECHIDNA、それが機体の照合システムがはじき出した答えだった

幸いこの機体はライトニング波動砲のサーチ機能――範囲内にいる敵に向かって雷撃が飛ぶ――持ってない筈…とは慢心できない。

既に再開発、再研究が始まったR戦闘機達が以前の通りの性能とは限らないからだ。

 

もしそうなら、奴の攻撃圏内に入れば即撃墜が待っているということになる。こちらを捉える雷撃を目視で回避することなど物理法則からして不可能だ。

先程は砲撃に対して進行方向が垂直となり、範囲から急速に離脱できたから回避が出来た。しかし現在、対面して接近しあっている状態。

完全にヘッドオン(正面から撃ち合い)対決すれば撃墜される。フォースも装備しているため相討ちすら難しい。

 

「…俺だけがまともに相手できるってわけか。」

 

俺の悪い手癖【ドッグファイト】が、こんな形で生きるとは。

 

こちらに向かってくる敵R-13Tを尻目に、こちらはいっきに機首を上げて真上に上昇した。

敵はその動きに対して必死にこちらに食いつこうとして、こちらの現在位置に向かっている。こちらを先回りしたりといった行動ではない。

射程に入ればそれこそライトニング波動砲の餌食かもしれないが。好都合だ。

 

そのまま距離が近づくが、射程に入るか否というところで、俺は左に急旋回した。

敵は俺の進行ルートを少し通り過ぎたあたりでどうにか機体を持ち上げて、再び視界内にこちらを捉えようとしている。

俺はレーダーでそれを確認して、すかさず右に切り返した。

敵は再び正面に俺を捉え損ね、俺に続くように切り返しをする。

 

まるで猛獣だ。

とにかく俺を必死に正面に捉えようと追いすがってくる。

だが、それが隙になる。

 

既に2回の切り返しの間、常に俺を正面に捕らえようとした敵は俺の前に押し出されるような状態(オーバーシュート)になりつつあった。

 

それはなぜか。

簡単なことで、俺は大きめに旋回したのに対し奴は最短距離で対応しようとした結果だ。同じ距離を飛んでるように見えるがそれは正面方向の話だけ。

スタートとゴールが同じでも、直線で行こうとすると最短となるが、蛇行した道を通ると距離が長くなる。同じ速度でそれぞれの道を行けば直線の道を通ったほうが早くゴールに着く。

やつは先にゴールに付いたせいで、後からやってきた俺からは背中が見えるような状態になっているのだ。

 

そんな状況に、俺は少し減速しつつバレルロールをすることで完全にやつを俺の前に押し出し(オーバーシュート)させた。

 

バレルロールも先程の原理と同じだ。

ドリルのような軌道は直線より当然ゴールまでの距離は長くなる。

 

急なバレルロール。その突然の大きな動きに対応できず、軌道変更をする間もない敵の後ろを完全に取った。

 

「もらった!」

 

俺の間合い。必殺の位置取り。

左右に振り払うような旋回で抵抗を続ける敵機に、容赦なく機銃の雨を浴びせる。

敵の数か所に被弾し、俺は勝ちを確信した。

 

それは、一種の慢心でもあった。

 

「っ、な!?」

 

敵は炎上して空中分解してもおかしくない機体に鞭を打つかのような、バカみたいな推力で一気に弾幕の雨を抜け出しながら旋回して、俺の側面を捉えたのだ。

慣性制御を完全に機体制御に回した自殺行為のマニューバだっただろうそれに、俺は驚愕せざるを得なかった。

勝利の予感が反転し、死神の鎌が振りかぶられたことを直感する。

 

「イジェクトッ!!!」

 

被撃墜は免れない。

そう確信した俺は、咄嗟にエンジンブロックを盾に脱出ポッドともいえる機首を射出した。

その直後、本体は機銃掃射とフォースシュートの直撃を受ける。

分解の後に粉砕、無残な状態になり爆発する。

 

その後敵の機体は辛うじて残った力で撤退を開始していく。

恐らくさっき撤退したR-9Cに拾われることになるだろう。

 

『おい、生きてるか!?機体シグナルが一瞬消えたぞ!おい!』

 

「無事だが、撃墜された。脱出ポッドを除いて機体を壊された。相手を戦闘不能に追い込めは出来たが。」

 

『マジかよ…エアロファイターを撃墜できる化け物が敵にもいたなんて…』

 

一応、俺はエースだ。

こんな戦場で7年戦い続けてる。

そして、独特な戦闘方法で撃墜数を重ねて、エアロファイターなるあだ名までもらった。

そんな俺が墜とされたと、周囲は絶望しているらしい。

 

「…勘違いしているようだが、今まで撃墜されなかったわけじゃないぞ。ベテランでエースなのは撃墜されても生きてるからだ。」

 

『そ、そうなのか…』

 

「だから、回収を頼む。酸欠で死ぬのは御免だ。」

 

味方は近い。

スリープモードを使うほどではないだろう。

コールドスリープの類なので、使ったら復帰に時間と労力がかかるので多用するべきではないと過去の被撃墜で学んだのだ。

 

にしても、さっきの敵機。

確かに強敵であった。

キャノピー越しに感じた異常なまでの殺気、闘志は只者ではないと直感が告げている。

そして最後の、殺意のみとなった、そう表現したくなるマニューバにはしてやられた。

 

アイツは一体なんだったのか。

そんな思考に意識を沈めながら、俺はコロニーの軍港まで曳航されていった。



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月が地平から顔を見せ、子供たちは腰を下ろす

「…どうしてここに俺がいる?」

 

思わず俺は呟く。

 

ここはコロニーの一般人居住区画の街にある、人気のレストランだ。

ここは俺も気を紛らわしに来ているので、問題点はそこではない。

目の前の席には、先日助けたクリアアイズ4のコパイロット、イノノキ・トウゴとそのガールフレンドがいた。

俺の隣にはパイロットのクラウス・シンシア。この4人だ。

 

「だからぁ!俺達は助けてもらったんだ、早期警戒機の俺達じゃあ戦闘中には余り借りは返せないからな。こういう場でないと。」

 

だからって彼女との埋め合わせと同時並行でやるな。そう思わずにはいられない。

こちらとしては非常に気まずい。ひたすら気まずい。

 

「私からもお礼を言うわ。デートが潰れただけじゃすまなかったかもしれないんでしょ。」

 

「…ぁ、ああ。」

 

…トウゴがトウゴなら、彼女も彼女というわけか。あまり気にしていないようだ。

諦めて素直に受け入れる。

…隣のクラウスも苦笑いだ。

 

「にしても、あなたが噂のエアロファイターさんね…昔のジェット戦闘機みたいな戦い方をして、敵を墜としまくってるってパイロット」

 

「…話したのか?」

 

「いや、俺は話したことないぞ?」

 

彼女が俺のあだ名、TACネームを知っているとは驚いた。

俺のことを知っているのはミリタリマニアぐらいだと思ってたのだが…

 

「結構いい男よねぇ…トウゴったら、私を取られると思ってあまり話してくれないのよ?エアロファイターさん?」

 

「な、そんなことはないって!」

 

前言撤回、これはトウゴが質の悪いサキュバスのような女に引っ掛かっただけだ。

机の向こう側から乗り出して俺を品定めするように見る彼女の目は、確実にこちらを撃墜しようとロックオンしている。当然俺のアラートも鳴り出して止まない。

明日死ぬかもしれない俺達が、こういうのに引っ掛かってしまうのは多少仕方ない事ではあるが。

 

「…その呼び方は好きじゃないんだ。ミナモト・キョウヤ大尉相当官、そっちで呼んでくれ」

 

「あらそうなの、私はクレア・ミスティーナ。」

 

攻め方を間違えたかしら?

そんな心の声が聞こえそうな、ちょっと残念と言わんばかりの表情で乗り出した体を戻す。

ちょうど料理も運ばれてきたところでもあった。

 

「…クレアさん、だったか。」

 

「何かしら?次のお誘い?」

 

「おい待て!お、俺は!?」

 

どうやら完全にこっちに目が向いてしまっているようだ。

トウゴが浮気されそうで大変心苦しいが、幸いそうではないので安心てもらいたい。

 

「違う、俺達が何者か知ってるんだろう?」

 

「そうね、もし生き続けてもらったら先にこっちが逝っちゃうくらいは。」

 

どうやら、充分こちらを理解していて、なおというわけか。

俺達はまともじゃない、それが将来的に破局の理由になるのでは俺達まで傷つく、そんな気がした。

まあ、相性的にはどうかと言われたら自信がないが。

 

「そうか、なら思った以上の心配はなさそうだ。」

 

「な、なんだよぉ……」

 

「トウゴ、お前はもうちょっとどっしり構えてろ。」

 

トウゴはおちゃらけてて人と話をしたり交流関係を持つことが趣味と言ってもいい。

それゆえ、破局すると分かっている恋愛も毎度凹みながらやめられないのだ。

正直もっと芯がしっかりしていれば長持ちすると思わざるを得ない。

…正直、女性経験がない筈の俺に、この発想が何処からきてるのか俺にも分からないが。

 

そのまま話を交えつつ、食事が進んでいく。

俺は戦闘の話しか持ちえなかったが、どうやらクレアはむしろそれがいいらしい。

武勇伝、というと自分としては小恥ずかしいが、そういうのも俺を求める理由の一つなのかもしれない。

 

「こんな時間か。すまない俺は先に失礼する。」

 

「何かあるのか?撃墜された療養休暇だろ?」

 

「エースは撃墜されると研究に回されるんだ。撃墜した奴がどんなことをしてたかとかな。」

 

そういいながら、俺は席を立ってカバンから財布を取り出す。

しかし、その直後にクラウスに手を掴まれ止められた。

 

「おいおい、今日は俺達のおごりだって。」

 

「…そういえばそんな話だったな。じゃあ、お言葉に甘えるよ。」

 

財布をしまいながら、その場を後にする。

こちらとしては、被弾させてしまったのだから正直おごられるのはあまりいい気がしない。

今度なにかおごってしまおうか。

そんなことを考えながら、俺はコロニーの中を繋いでいるモノレールの駅へと歩みを進めていった。

 

 

「―ええ、報告書にも記載されていますが、理性を感じない追撃と、自機の慣性制御の恩恵をパイロットからすべて機体に譲渡するという異常性。ウォーレリック社はこの試作機を用いて何かしらの技術の実践データを収集していたと思われます。」

 

マクガイヤー社の上官の前で、敵試作機と思われる敵機の交戦における報告。事実上の二度目のデブリーフィングに俺はいた。

ホログラムに表示されるフライトレコーダーとカメラの映像を必要に応じて切り替えながら話を進めていた。

 

「理性を感じない追撃は、確かに新人ではやりがちなことですが、次の慣性制御の譲渡という発想は新人では生まれません。ここに矛盾があります。」

 

「とは言ったものの、君もまた異常なマニューバを繰り返している。それについて行こうと行った、対抗的な奇行だったとも考えられないかね?」

 

「…だとよかったんですが…私が撃墜される直前のマニューバ。あ、これです」

 

ホログラムに表示されるデータが、すべて俺の撃墜前までのものに変化する。

複雑に入り混じった自機と敵の機動を描いた線が表示され、カメラも敵に機銃を撃とうとした瞬間のものが映っていた。

 

「これ、私もやった経験があるのですが、大抵の場合ここまでGがかかると、慣れていなければ気絶したり機体のコントロールを失います。慣れてくると逆に制御を確実に手放さないようにするため、程度によっては完全移譲はしません。しかし、この機体は不必要なまでに慣性制御を機体に対して行っています。」

 

「…ベテランなら加減できただろうがしていない。だが素人が見様見真似でやって、それで成功と辻褄をあわせようとすると、違和感があるわけか。」

 

「もちろんこの試作機が、ザイオング慣性制御システムにおいても多大な出力向上を可能にした試作機という線も捨てがたいです。ですが、そのためにR-13Tを素体とするのはいささか違和感を感じますね。」

 

全員が唸る。

不合理が通った機動を行われ、自社のエースが死にかけた。

利益を求める会社としては、これが配備された時の損失を考えると対策は必須。その損失が、たとえ替えの利く消耗品だとしても、少ないに越したことはない。

いや、これが発生させる損害は軽く見積もってもそんなものでは済まない。

それゆえ今回の報告は必要だったのだ。

 

「…そういえば諜報部が掴んだ情報、いや、確実性はかなり低い物ですが…いいでしょうか?」

 

「ああ、かまわん。」

 

集まっていた上層部のうちの一人が、その情報の信頼性に自ら疑問を持っていると思える口調で周囲に発言の許可を求め、この場の最高責任者であった副支社長が許可をした。

 

「―それが………」

 

 

 

「んぅ…!」

 

数時間ぶりの外の空気―コロニーの中なので語弊はある―を吸いながら伸びをする。

堅苦しい場はやはり慣れない。

 

ここはオフィスから出て少しのところにある展望台のような場所。

あたりは既に夕暮れ時で、春前ということで少し肌寒く感じ始める時間帯だ。

コロニーだから常に適温でもいいと思うのだが、そうすると体内の年単位のリズムが崩れて不調になるのが人体のままならないところだろう。

 

「やはり、コックピットの方が性に合うかい、キョウヤ。」

 

「…艦長」

 

後ろから声をかけてくる男は、ラリー・アデクス艦長。

俺達の母艦の艦長を勤めていて、俺を最初から見てくれている存在だ。

 

 

「…ええ、そうですね。まさか副支社長が来るとは思いませんでした。」

 

「それだけお前の存在がデカくなってるってことだ。ほれ。」

 

「…いただきます」

 

そういいながら手すりに手を置いて寄りかかり、労いと言わんばかりに缶コーヒーを手渡してくれた。

その好意を受け取り、俺は静かにタブを開ける。

 

「例えデカくなっても、俺はスコルです。経験を失うのは大きいかもしれませんが、似た物は作れるはずです。」

 

「経験こそ、消耗品が消耗品でなくなる要素の一つだよ。R戦闘機の初期経験はラーニングさせられるとはいえ、お前のような特異個体は本来戦場に出したくないのが上の考えだろうよ。」

 

そこで艦長はコーヒーを一啜りして、温まったことを実感するように息を吐く。

コロニー中央の人口太陽は徐々に光を落としていき、夜へと切り替わっていった。

 

「…本当に一生パイロットのままでいるつもりか?」

 

「それが生きがいですから。スコルは老けない。だから死ぬまでパイロットができる。」

 

それ以外の人生は考えられない。

俺の意見は変わらないと主張したくて、話を切るように俺もコーヒーに口をつけた。

正直、生まれたばかりの時はコーヒーの良さが分からなかった。

そんな俺も、姿が変わらなくとも7年をかけてこれが好きになった。

スコルにとっても、時の流れは押し寄せる物だと感慨に浸る。

 

「…任期を終えた者の特権がなければ、上層部はとっくにお前を教官に昇進させてただろうなぁ。」

 

任期。

作られた兵士である俺達が、兵士を辞められる時。

戦いを押し付けた人々にも罪悪感があったらしい。

5年戦い続けてなお生き延びた者には、戦場から離れ一般人と同じ生き方をできる権利を得られる。

だが俺はもう7年戦い続けている。

何故なら―

 

()を飛び続けられないというなら、喜んで辞退しますよ。」

 

「俺も死んだ目をするお前を見るくらいなら、首差し出してもお前をうちに居させるさ。安心しろ。」

 

「やはり…感謝しかないですよ。艦長。」

 

俺が飛び続けることを生き甲斐としていることに理解を示してくれていること。

そのための居場所をずっと作ってくれていること。

なにより、空戦に魅入られた俺に、大気圏内でかつての戦闘機と同じ挙動を再現できるR-9A2を近代化させて手配してくれたこと。

そのすべてに感謝して、俺は今も飛んでいる。

 

「いいってことさ。俺はお前のファンだからな。」

 

出会った頃より皺の増えた顔で、彼は微笑みかけてくれた。

 

 



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月を頭上にして、子供たちは腰を上げて踊りだす

ストックはまだある…(震え声



『ブリーフィングを始める』

 

艦のブリーフィングの明りが落ち、ホログラムによる仄かな光が俺達を照らす。

あれから3日、緊急とのことで俺の休暇も打ち切って出撃命令が出されたのだ。

 

『諜報部からの情報により、明日未明に敵が地球にある本社のシリコンバレー工場を攻撃するという情報がもたらされた。』

 

シリコンバレー。既に地名として変化し名前の意味を持たない土地だが、それでもマクガイヤー社の精密電子機械の大動脈である。

 

『敵は我が社が敷設した対空陣地を衛星軌道上から波動砲で狙撃、破壊することによって爆撃機の道を切り拓く算段のようだ。』

 

『当然、そのようなことが無いようシリコンバレー上空の制宙権は我々が握っていた…昨日までは。』

 

そう、当然のことだ。

重要な基地、工場は宇宙からの狙撃も抑える為に宇宙も抑えているはずなのだ。

しかし、この流れがから予測されるのは当然、それを失ったということになる。

 

『3時間前、R戦闘機4機一個飛行隊の襲撃に遭った。そのたった一個飛行隊によって、旧アメリカ大陸上空の監視防衛網に無視できない穴が空いたのだ。そのうち一機は諸君が先日遭遇した試作R-13Tであることが確認されている。』

 

場がどよめく。

当然だ、その被害が正確にこちらに伝わってないが、狙撃型R戦闘機の部隊が無傷で通れ、追撃すらできないほどの穴を開けたのだ。

2,3中隊の壊滅まであり得る。

それが、たった4機で行われた。

 

『そこで、諸君らにこの狙撃R戦闘機隊のインターセプトに参加してもらいたい。もちろん今言った一個飛行隊の護衛も考えられる。諸君らの主な目的は、その一個飛行隊を含めた防衛機の露払いだ。』

 

一騎当千のR戦闘機隊、それを多勢で攻めたところで損失を増やすだけだ。

ならば、相打ちとは言え実質撃墜経験のあるエースをぶつけるのは、ある種当然である。

 

『諸君、最適の健闘を』

 

通信が途切れ、明りが戻る。

話が確かなら、俺は再びあの猛犬の相手をすることになるだろう。

…奴は生きていた。

確かに、アレで殺せたとは思っていなかった。

だが、なぜだろうか。恐怖ではない何かに俺の胸はざわつき、ただただ困惑が俺の頭の中を満たしていた。

 

 

『出撃まであと15分。各員戦闘配備を維持。戦闘機隊は速やかに出撃体勢に移行せよ。』

 

「おいキョウヤ!!」

 

愛機を整備してくれている、整備課のおやっさんに呼び出された

この前コックピットだけになって帰ってきたときは…正直申し訳ないと思っている。

無重力の中、近づいてヘルメットをくっつけて確実に会話する。

 

「手持ちにあるデルタのボディはこれで最後だ。この前みたいに派手に壊したら、次に本部からの補給が来るまで予備機しかないからな。」

 

「…了解。次は上手くやる。」

 

企業同士の戦争故、正規軍が保持しているR-99のような戦闘機はさすがに運用できないのが実情。だからうちの艦隊の主力はR-9A3―それも【オペレーション・ラストダンス】の影響である程度近代化はされている―という数世代前の機体だ。

だが、R-9A2はさらにその前世代。エースだからと俺の趣味に合わせて特注しているようなものだ。

だから、予備パーツはほかの機体以上に貴重。

だから前回のような機体全損レベルの被害に遭うと、こうなってしまう。

 

回転式固定台に固定されている愛機の最終点検を済ませた俺は、コックピットの座席へと宙を泳ぐ。

 

「キョウヤ、お前が頼みの綱だ。あの番犬をどうにかできるやつはお前くらいだろうからな。」

 

大声で声をかけてくるトウゴに、俺はサムズアップを掲げて応える。

彼らも彼らで、5年の任期こそ終えてないが既に4年近く生き残っているベテランだ。

AWCS担当ではあるが、彼らもかなりの腕だ。

 

…それが、俺を頼りにするしかない。

軽い絶望感と、高揚感の両方が俺の胸を満たしていく。

機関と俺の胸の鼓動がシンクロするように高まっていく。

そこにノイズもなく、俺自身も、おやっさんに実質新調してもらった機体も調子は完璧。そう俺は確信し―

 

「いや、違うな…やはり。」

 

軽い否定がよぎる。

確かに、俺も機体にも不調はないのは間違いない。

だがあの胸のざわつきは、やはり強敵に相対する高揚ではなかった、そう確信した俺は一層それがしこりとなって思考に引っ掛かり続けた。

 

だが、時は年を取らないスコルすら待ってくれない。

 

『R戦闘機発艦シーケンスを開始せよ。』

 

頭上のエアロックが開き、固定アームが愛機を宇宙へと送り出す。

 

 

 

 

宙が俺を迎え入れる。

 

 

 

 

 

それが俺の思考を思案から戦闘へと切り返させた。

アームが俺の機体を開放し、それが出撃の合図となる。

 

「R-9A2+、ミナモト・キョウヤ。出撃する!」

 

スロットルを全開にし、俺は愛すべき宙へと漕ぎ出した。

 

 

 

 

『クリアアイズ4、ボギー確認。照合……間違いない。R-9D2(MORNING STAR)が12機。R-9K(SUNDAY STRIKE)が16機…感づいてるな。R-9Kの4機がこっちに来てる。』

 

『こちらの後続機も近い…どうしますか』

 

敵がR-9Eの索敵範囲内に入った。

今更だが、戦闘機隊の隊長はキョウヤだ。

この判断はキョウヤが下さねばならない。

 

こちらはR-9A3(LADYLOVE)の4機編隊がカシウス、アルタイルの2つ(カシウスにキョウヤのR-9A2+が混じっているが)に早期警戒機のR-9E(MIDNIGHT EYE)

味方に後続の本命がいることを忘れてはいけない。

 

「…後退しつつ波動砲で護衛機を叩く。俺が拡散波動砲で接近中の4機を片付けるから、他は全機本丸を…」

 

『そんなまどろっしいことしてられないってえの!』

 

「…やめろ!カシウス4!」

 

勝利のために、キョウヤはこだわりを捨てつつ砲撃戦に持ち込む算段であった。

だが、新入りで血気盛んなカシウス4が命令を無視して突撃を開始した。

 

『喰らえ!』

 

敵機が装備しているフォースからの対空レーザーを回避し、2ループ状態の波動砲を発射。

こちらに向かっている小隊が分散した。

それを好機と見たのか、カシウス4はその中央を抜けて反転。

 

『FOX5!』

 

反転の間に合わない編隊の二機をミサイルで破壊する。

爆炎がカシウス4と敵編隊を遮るほどに迸った。

 

『やった!俺だってでき…な!?』

 

その直後、赤と青のレーザーがカシウス4の機体側面を削り取った。

爆炎から現れたのは、フォースを後ろ側に装着した敵機の姿。

マクガイヤー社はフォース反対派を取り込んだがために使えない、フォースの利点。

配置さえ間に合えばその方向からの攻撃は無効化され、反撃すら行われる。

味方の犠牲によって稼がれた時間に、彼らは反撃するべくフォースを後ろに配置したのだ。

 

そしてそのフォースが、カシウス4に向けて射出される。

破壊不能兵器という異名を持つフォースが、カシウス4の機体を粉砕しようと迫る。

損傷した衝撃で回避運動が取れないカシウス4に迫るフォース。

 

「させるか!」

 

―今言った破壊不能、というのは正確ではない。

フォースはバイドを培養してコントロールロッドで制御している物。

バイドの性質を持つ故にバイドなのでは破壊できないというのが実情。

ならば、バイドを打ち倒す手段の一つである波動砲は?

 

拡散波動砲がフォース諸共敵機体群を破壊していく。

撃ち下ろすように放たれたそれがカシウス4に着弾することはない。

この編隊で拡散波動砲を搭載している機体は一機しかいない。

 

『お、俺に貸しを……』

 

すぐ隣に、R-9A2+が降り立った。

カシウス4が強がろうと震えた声を上げようとするが。

 

「全機散開!!その後各々弾幕を掻い潜り吶喊せよ!!敵と完全に認識された!波動砲の雨が来るぞ!!」

 

カシウス1、隊長であるキョウヤの大声が味方全機に響く。

その声を聴いて全機が編隊飛行を解除して、一斉に散る。

 

その瞬間、その空間を青い光が満たした。

 

 

「…あのバカ!」

 

あの先陣ごと一斉に護衛機を叩かなければ、弾幕を浴びることになるのは目に見えていた。

背伸びして俺より手柄や武勇を上げたかったのかもしれない。

だが、それはまともに戦える土俵を組み上げてからだ。

 

俺だってドッグファイトの方が好みだ。だが、それだけが戦場じゃないことは学んでいる。

そうでなければ5年を通り越して7年戦って生きてるわけがない。

 

スクランブル的にコンタクトを取りに来た先行機。

それにすぐに敵と判断されれば、後続の敵機がこちらに向けて数での圧殺を選択する。

その前に砲撃してくる数を削ることでこちらのリスクはかなり減るだろうという寸法だ。

何しろ相手にはR-9D2がいる。

狙撃されればたまったものではないのだ。

何ならR-9Kの波動砲のフルチャージは拡散波動砲だ。遠方から断続的に放たれれば、戦艦の対空砲火さながらの弾幕になる。

 

「っッくう!」

 

既にコックピットの慣性制御を限界まで機体に渡している状態で、機体を青い光の間に捩じりこむ。

耐えられる限界寸前のGが体を襲い、視界が滅減してる。

 

『アルタイル2被弾!推力25%低下!このままじゃもちません!!』

『カシウス3、制御不能!制御不能!』

 

既に味方はこの弾幕に限界を迎え、脱落機すら出ている。

いまできる最善の策は、俺が拡散波動砲を敵編隊に叩き込み攪乱。弾幕を薄くさせて味方の突撃ルートを確保し、乱戦に持ち込むことだろう。

 

「あと少し…!!!」

 

圧縮波動砲が左上の尾翼のようなスタビライザーを掠めて丸ごと持っていかれたが、戦闘に支障はない。

拡散波動砲のチャージが終わり、最も効果が高いであろう位置につけた!

 

「…持ってけ…ッ!!」

 

波動砲の弾幕を押し返すように、敵に拡散波動砲が降り注ぐ。

敵のいくらかに命中し、陣形は形を失い各々が必死に回避する。

 

弾幕が途絶えた。

 

『いけぇ!!隊長が体張ったんだ!その分俺達が働くんだ!』

 

『そこだぁ!!!』

 

そこに猛犬のようにくらいつくカシウス隊、アルタイル隊の生き残り。

 

俺も立ち上がりかけの敵機を撃ち、味方への被害を減らす。

 

『隊長…俺…』

 

カシウス4が申し訳なさそうに並走する。

既にそれなりの損失を被っており、処罰は逃れられないだろう。何しろ命令違反だ。

 

「今は作戦に集中しろ。今を生き残らないと話にならない。」

 

 

『…了解……』

 

 

 

その直後、クリアアイズ4の大声が無線に響いた。

 

 

 

『反応が急にホップアップ!この前のやつだ!』

 

 

『………っ!!??』

 

 

 

 

カシウス4の機体が、上からフォースに食われた

余りに一瞬の事で、脱出の間もなく彼は散っていく。

 

 

 

今、俺は生き残れと言ったはずだ。

 

 

今まで何度も味方が撃墜されるところは見てきた。

5年生き残れるパイロットというのは少ないのが現実。俺は俺の僚機や部下をたくさん失ってきた。

だが、目の前で即座に2度目の命令違反(戦死)されるのはさすがに堪えた。

 

「どこから…っ!」

 

その直後、頭上から黒い機体が俺の真横を落下するかのように通り過ぎる。

 

R-13T

 

あの猛犬だ。

 

 

 

「…!全機、猛犬が来たら離れろ!奴は俺が狩る!」

 

確実に後ろが取れるよう、若干遠回りするように奴を追いかける。

前回墜としていれば、カシウス4は犠牲にならなかった。

例え命令を守らない奴であっても、ろくでもなくても、もしかしたら挽回できた可能性はあったはずだ。

その可能性を奪ったのは俺だ。

 

俺の全力を以て、俺は奴を狩る。

 




ぶっちゃけ描写とかにツッコミどころかあると思うので…感想お待ちしております


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月明かりが照らす舞台を眺める少女

サブタイトルのセンスをください


私の記憶の始まりは、培養槽から自分が生産されるところ。

 

私は特異個体として生産された存在。

その誕生の瞬間、当然といえば当然。

 

特別ではあるけど、モルモット。

幸い毎日のように実験の連続という、昔のSFのような扱いを受けなかった。

研究は最高機密とはいえ、存在そのものを隠すよりその性質を隠す方がコスパがいいのだろう。私は通常のスコルとしての待遇で今を生きている。

 

 

「た、隊長が墜ちた!こ、こっちに…!う、うわああぁあああああ!!!」

 

「すまない!俺達には勝てない…!」

 

私はシステムのスイッチを入れる。

これを使えば、私の思考は切り替わり常人のものではなくなる。

 

だが、これを使わなければ奴は倒せないと確信めいた直感が告げている。

目の前のエネルギー体の破壊衝動が流れ込み、私を兵器へと変貌させていく。

 

そこから先は特筆すべき思考はない。

たった一つ、そこまでしてなお被弾して炎上している中で、敵の動きを思いだして真似した以外は。

システムが機体の破損に影響されたのか、もっと別の理由だったかは分からない。

分かっていることは、私が一時的に少し私を取り戻したということだけだ。

 

『だ、大丈夫か!?』

 

「ええ……でも長く飛べない…消火した後こっちのエンジンは切るわね…」

 

 

 

『ミッションを説明する。』

 

暗いブリーフィングルームの中で、私は上官の話にただただ耳を傾けていた。

 

『君達はこれよりシリコンバレー上空の宇宙監視防衛網に穴を開けてもらう。これは後に行うオペレーション・メキドの前段作戦だ。』

 

そう言うと、ホログラムが地球付近の宙域を表示し、敵の予想分布を表示する。

 

 

―広い。

 

私の抱いた感想はその一言だった。

 

『知っているとは思うがこの網は非常に強固で、そして広大だ。だが、この部分は異層次元レーダーの置き換えが間に合っていない、旧式のものということが分かった。そこで君たちの出番というわけだ。』

 

そのうちの一箇所の色が変色し、敵の弱点を強調する。

決して広くはない上そこまで気にするほどでもない筈のそれが、私達という特異な存在にはあまりにも致命的すぎた。

 

『君達は以前決行したように新型のR-9Cとそれが牽引するR-13Tで異相次元より接近、最大出力の波動砲で突破口を穿つ。』

 

…最新式のレーダーでしか捉えられないほど、深くまで潜航できるよう改装したR-9C。

最大効力射が狙える距離にまで接近できるのは非常に大きく、面制圧に優れる両機の波動砲で抵抗を許さず殲滅する。

 

『そして、その突破口にR-9D2とその護衛機が突入する。その際、損耗次第ではあるが退路の確保兼いざという際の増援要因としてその場で待機してもらう。』

 

一度抜けてしまうと、そこは防衛網の空白地帯。

おそらく2日は抵抗無く行動できる。

 

壁の強度こそ確保しているけれど、広く分布した防衛網は破損のリカバリーに時間が必要になる。

その僅かではあるが確かに存在するスキを突いて、電撃的にことを進める算段。

 

『長く過酷な任務になる。だが、君達の力を信じての作戦だ。最適の健闘を。』

 

お決まりの言葉で通信は途切れた。

明かりが戻るブリーフィングルーム。

 

「初陣がこれですか…僕達、できるでしょうか?」

 

隣にいた少年が声を掛ける。

先日撃墜されて失われたパイロットの補充―再生産された子の一人。

優秀と名高い素体をもう一回使ったのか、顔立ちも髪の色も前の子とそっくりの男の子。

大きく違うのは髪型、彼はくせ毛をそのままにしていたが、彼は少し誤魔化そうとしているのかかなり短めに切ってる。

それと、これまた僅かな差だけど経験値。

 

「以前貴方の同タイプと出撃しましたことがあるんです。彼はとても優秀でしたよ?気休めにしかならないかもしれませんが…」

 

私は出来る限り自然に微笑みかけ、期待のまなざしで彼を見た。

 

「いえ、ありがとうございます。」

 

間違ったことは言ってない、一切。

あのR-9A2ベースの機体を使って妙な機動をするアイツに、この前撃墜された彼。

3年やってきたベテランで、とても強くて、頼りにしていた存在…

弱ければ死ぬのはこの世界の、スコルの常なのは刷り込まれた知識で分かってはいる。

だけど、彼は決して弱くはなかったはずなのに。

 

あのデルタを使うエースを墜とせたのは正直言って偶然だった。

私がフォースの共鳴して破壊衝動に身を任せていたままだったら、きっとあのまま機銃の雨で私の機体は砕かれていたはず。

何故かあの一瞬だけ、少し理性が回復した。

 

僅かな理性と破壊衝動は上手い事調和できた。

敵のやってきた挙動を咄嗟にマネして、私はあいつの機体を粉砕した。

 

でも敵討ちは果たせなかった。

視界の端に、脱出した敵の機首が見えたから。

だけどあの時むやみに追撃していれば、私の機体は空中分解していたと思う。

 

「…ああ、一つだけいい?」

 

「なんでしょう。」

 

「デルタだけは私が墜とす。」

 

 

『こちらハウンド1、まもなく異相次元から復帰する。全機各部チェック、異相次元で永久に迷子にならないようにしろ。』

 

『了解!』

 

前回の作戦で隊長は死んだ。

私と、隣にいるエドガーだけが生き残った。

その結果、一番長生きしているエドガーが隊長に就くことになった。

いきなり渡された隊長の座に緊張しているのだろう。通信越しでもわかるくらいには声が震えてるのが伝わってくる。

 

「…エドガー。」

 

『…なんだ?』

 

「リラックスして…とは言えないね。【もしも】の時はあなたに任せなきゃいけないから…」

 

緊張をほぐそうと声をかけたが、すぐそのことに気づいた。

沈黙がしばらく続く。

 

私がモルモットとして搭乗しているこの機体。そして搭載システム。

それは暴走の危険性がある。

だから、この部隊の責任者であるエドガーが【処分】しなくちゃいけない。

 

『…任せろ。俺を頼ってくれ。』

 

だが、幸いにも腹をくくる要因の一つにはなれたようだ。

決意に満ちた声が、沈黙を破って帰ってくる。

 

「…ありがとう。」

 

私は静かに応えると、戦闘に備えた。

既に波動砲のチャージは済んでいる。後は通常空間に復帰して、食い散らかすだけだ。

 

『通常空間の敵機を再確認。このまま続行する。』

 

空間の一層下に潜み、攻撃の配置についた私達。

タイミングを合わせて浮上、砲撃すればそれで勝敗は決する。

敵機全滅とまでは行かないだろうけど、ここまでの奇襲に烏合の衆になった敵たちを片付ける仕事になるんだから。

 

『カウントセット。5,4,3,2,1,浮上!』

 

私の愛機は、みんなのR-9Cによって通常空間に引っ張り出される。

異相次元戦闘機は、異相次元の航行はできるけど自分の意志での潜航はできない機体が多い。

この機体もその一つ。

 

だから、こういった作戦にはみんなが必要だった。

 

『浮上完了、撃てぇぇぇぇぇ!!!!』

 

4機すべてが通常空間に復帰。

目の前には敵の艦隊と哨戒機。護衛機は上がってすらいない。

 

そんな無防備な敵に、私達は一斉に最大チャージの波動砲を撃ち込んだ。

私のライトニング波動砲が周囲の機体にホーミングして的確に射抜き、そして3機の拡散波動砲が艦と周りの機体を穴だらけにして行く。

 

それだけで敵は混乱し、組織的な抵抗が出来なくなっていた。

 

『気を抜くな!』

 

「分かってる!残敵を掃討する!」

 

 

 

 

そこから先は、特筆すべきことな何もない。

動きが鈍すぎる敵機を的当ての要領で撃墜し、この宙域は完全に沈黙した。

 

作戦成功の報を受けて、進んでいく味方の狙撃部隊。

キャノピー越しに敬礼をし合いながら、仕事の場へと赴くR-9D2を見送った。

 

そこから数時間後、いきなりエドガーが呟く。

 

『…やっぱりそうだよな…』

 

「何が?」

 

『いや、この前の敵と比べちゃってな。』

 

恐らくデルタの事だな、と納得する。

フォースを装備した隊長もあっさりと撃墜されてしまったほどの猛者。

私だって殺されかねなかった。化け物と言われても仕方ない私から見ても化け物だった、あの機体。

 

「あんな動きをするヤツが沢山いたら今頃こっちは負けてる。」

 

『だな…念のため研究しておこうかな…』

 

…それは…ありかもしれない。

一瞬否定しかけたけど、あの動きはある程度参考になるかもしれない。

慣性制御とフォースの存在で、砲撃戦の様相を呈しているR対Rの戦闘。

それに対し、高速度で常に機動し続け後ろを狙うあの動き。

決してセオリーではないけれど、全く無意味というわけではない。

もしかしたら新しいセオリー………になるというのはさすがに過言か。

R戦闘機のメリットがいくらか機能していない。

 

『…救援信号。インターセプトする部隊はいたようだな。行こう。』

 

「了解。」

 

思考の海から引きずり出された私は、スロットルと操縦桿を握り直す。

味方が襲われているんだ。助けない手はない。

 

最大戦速で急行すると、既に陣形は崩れていた。

乱戦となり、R-9KもR-9D2も次々と撃墜されている。

敵を退けなければ、作戦の遂行は難しくなる。

 

「…フォースリンクを使う。」

 

『承認が出た。行ってこい!!』

 

フォースリンクシステム。

 

フォースとはバイド。

そのバイドは本能として高い破壊衝動と戦闘本能を持つ存在。

ならば、それをR戦闘機の戦闘能力として利用できるのではないか?

かつて存在したバイド機に近い発想をもって生まれたこれを扱うために、私とこの機体がある。

 

システムが起動し、サイバーコネクタを通して私の脳は機体だけではなくフォースとも接続される。

その瞬間、私の思考回路はバイドに近いものへと変貌した。

 

「コワス」

 

ただ淡々とそう思考し、そう発する。

本能に従い目の前にいた手負いで動きの鈍い敵にフォースシュートを撃ち下ろした。

テキは油断していたのか、回避もできずにひしゃげてコワレタ。

次のテキは―アイツは。

 

爆炎を突き抜けるように動いていたワタシの機体と、ヤツが、デルタがすれ違った。

 

ヤツは…奴は墜とす。



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少女は一瞬、頭上の月を琥珀色に錯覚する

失踪同然で失礼しました…
書き溜め居たのですが、次の話に苦戦していたのとドッグファイト描写の難しさから筆が止まった直後、色々リアルで発生していたので完全に止まっていました。

取り敢えず書き溜め分を加筆修正してお送りすることになります。
次話も頑張ります…


「後ろには…ついた!」

 

 

 

俺はスピードを維持した狂犬の背後につくまでは成功した。

だが、敵は何度も切り返し、必殺の配置につくことを拒んでいる。

フォースをつけているとはいえ、不用意にその場でこちらに機首を向けないあたり、学習されているなと感じる。

 

速度を緩めず、こちらの隙を伺っている。

だが、ここは俺が乱戦に持ち込んだ宙域。お互い好きに飛べる空間ではない。

 

『…ッ!』

 

 

蛇行を続けていた狂犬が右旋回から左旋回に切り替えようとしたところで、狂犬の友軍機であるR-9D2の、流れ弾じみた圧縮波動砲に進路をふさがれて、直進に近い軌道を取らされる。

 

 

「今…じゃないっ……!く、そ。ままならない…!」

 

 

それを好機と見た俺は機銃の射線上に狂犬を捉えようとしたが、照準に入りきる直前で爆炎に煽られ敵機を視認できなくなる。

その隙に敵は俺の真似をしたような、慣性制御を機体に渡した急な宙返りで俺の後ろを取りにかかる。

この機動をモノにしたのか、以前よりかは無駄のないコントロールだ。

 

 

爆炎の衝撃で制御が僅かに鈍った俺は反応が遅れ、左にブレイクターン(急旋回)することで機銃の射線から回避は出来た。

しかしそのまま急旋回に喰いつかれ、後ろをほぼ取られた状態が続くことになってしまった。

 

「…しまった!」

 

立場が逆転し、俺が逃げ回ってあいつが追い回すことになる。

そこで、俺はずっと左回りに旋回し続けた。

機体の運動性は恐らくこっちの方が高い事。そして切り返せば一時的に敵の射撃範囲に入ることになり、ライトニング波動砲の餌食になることを考えてだ。

ライトニング波動砲は、照準を手動で付ける必要はない。範囲内に敵を捕らえた状態で解放すれば、勝手に敵が落ちる。

その範囲内に入ることだけは避けねばならなかった。

 

「…悪いが利用させてもらうぞ。」

 

ふと視界端、進行方向の近く上方に敵のR-9Kが移りこんだ。

旋回に上昇を加える――ハイヨーヨーとも呼ばれる機動に似た動きをする――ことでR-9Kを進路上に持っていき、ミサイルを撃ち込んだ。

 

不意打ちを喰らい、爆散するR-9K。

その爆炎を、機体の姿勢を変えずに慣性制御を利用した俺らしくない(R戦闘機らしい水平移動する)機動をして上を乗り越える形で飛ぶ。

敢えて左旋回をやめて直進を続けることで、敵の視界から俺の機体は爆炎で隠れ続ける。

 

 

 

敵は爆炎から黒煙の塊になったそれに突っ込んだ。

それは、こちらの読み通りだ。

視界が一時的に0になった瞬間に、俺はバレルロールを一周ではなく敵と頭上を取り合う形で止める。

キャノピーの上、真ん中に狂犬を捉える。

僅かにまだこちらが押し出され気味だが、予想通りとそれも受け入れる。

 

 

昔の空中戦なら、ここからシザース機動でチャンスを狙っただろう。

シザース機動とはお互いに急旋回して交錯を繰り返す機動で、重力やその他条件で交錯するたびに後ろを取れる側が入れ替わる形になる機動だ。

だがここは静止衛星軌道からも遠い超低重力宙域。

上という概念は、この宙域ではあくまで地球の北、北極星のある方向という意味でしかない。

つまり、位置エネルギーという概念はほぼ無視できる空間。ここでのシザース機動は旨味はなくはないが少ない。延々と敵の目の前を横切ることになるかもしれない。

 

ならどうする?

俺が出した答えは力技だ。

 

「ぐんぅうううううう!」

 

かつてコブラと呼ばれた特殊マニューバ。

R戦闘機なら、そこまで変わった動きではないかもしれない。

信じられないほどの急減速だという部分を除けば。

 

進行方向に機体の腹を見せるように、機首を狂犬に向け瞬時に下げる。

それと同時に姿勢制御用バーニアと慣性制御で、空気抵抗を再現するように機体を急減速させる。

 

―捉えた

 

機首が完全に狂犬に向く。

それに合わせて機銃と20%程度のチャージをした波動砲を撃ち続けた。

 

波動砲が、奴の機体右側面を持っていった

機銃もいくらか当たったようだ。

 

敵は機体を左右に揺らしてこちらの狙いを外しにかかるが、こちらもコブラを解除。狂犬に機首を向け続けながら、逃げに入った狂犬の後ろに移動するまで撃ち続けた。

しかし、揺れるように動く敵に当てるのは難しく、最初の攻撃以外は当たらなかった。

攻撃は切り上げ、敵の後ろから離れないように機体を制御していた。

 

だが、敵はこの小休止めいた俺の隙を見逃さなかった。

敵は今度は360度バレルロール。

パイロットの慣性制御をギリギリに絞った、例の急激な機動。

 

先程急激にGのかかる機動をしたばかりで、敵の後ろを確実に取ろうとしていた俺はそれに反応が追いつかなかった。

 

「くそっ!」

 

操縦桿を左前に引く。

左に回避した俺のすぐそばを狂犬のフォースが飛んで行く。

 

フォースシュート。基本的に破壊できないエネルギー体であるフォースは、衝突すれば必ず相手が破壊され無傷のフォースが残るということになる。それを利用するため、フォースを射出し衝突を狙う攻撃。

 

しかし、これはブラフだったか。旋回が甘かったのか、後ろに食らいついてくる狂犬。

波動砲のチャージを検知した機体COMがアラートを鳴らす。

このままでは確実にライトニング波動砲が俺を撃ち抜くだろう。

 

一か八か、俺は可能な限り全力で右に切り返した。

激しいGが機体を軋ませ、体が悲鳴を上げるが無視し続けた。

 

 

 

しかし、賭けはほぼ負けたらしい。

 

 

 

狂犬の機体側面に近い位置にいた俺に、回り込むように追尾してきた稲妻が突き刺さる。ここはまだライトニング波動砲のギリギリ射程内だった

不完全なチャージとはいえ機体装甲は破壊できる出力はあった。

 

俺の愛機の左ブロックが大きく抉れ、エンジンが火を噴いた。

衝撃に俺は激しく揺さぶられ、意識が途切れ―

 

 

 

レストランのディスプレイに、宇宙とそこに散らばる閃光が映る。

少しして画面が切り替わり、公開情報となった今回の両者の作戦内容と進軍経路が示された図へと切り替わる。

そのディスプレイが見えるテーブルで、一人座る女性がいる。

クレア・ミスティーナ、先日キョウヤ達と共にいた女。

 

「まさかここまで出来る子がいたなんてね……案外、彼の時代が来てるのかしら。それとも彼を超えるパイロットが現れたってこともありうるわね……」

 

彼女の手持ちの端末でもまた、今の戦闘が流れていた。

そこに映っているのは、戦場の様子。

遠方のカメラから望遠モードで捉えている、アンティークが主体の戦場の中でさらにアンティークのR-9A2+とR-13Tの激しいドッグファイトの様子だった。

レストランのモニターもそこに切り替わり、モニターを見ている人々はそのドッグファイトに見入っていた。

そして今、その画面の中で稲妻がR-9A2+の側面を捉え、左エンジンの機能を低下させていた。

 

「…まくられた…本格的にまずいかしらね。」

 

少し深刻そうに、だが心配は言葉ほど感じない様子で呟いた。

どちらも中破状態、次に派手な攻撃を喰らったほうが墜ちるという状態。

 

その様子に、魅了された者達はモニターから目が離せない。

 

ショーとしての戦争で、キョウヤが持つ潜在的人気は彼の想像を遥かに超えるほど高い。

元々この戦争そのもののファンであったクレアは、ある日見つけた彼に深く興味を持った。

トウゴを彼氏にした理由に彼がいたわけではない、むしろ後になってトウゴがキョウヤと同じ飛行隊に属していたことを知ったのだ。クレアにとってトウゴがキョウヤの戦友であることはうれしい誤算と言ったところ。

 

その彼が、今にも負けそうなのだ。

左エンジン損傷、これは機動戦において大幅なハンデを負わされる。

その状態でいくら敵も損傷しているとはいえ、ほぼ互角のドッグファイトを行った敵を相手にするのだ。

…いや、それ以前に

 

「――ああ、制御すら……」

 

きりもみするように回転しながら慣性に任せて直進、まるで墜ちていくような姿に彼女も含めて皆エースは撃墜されたのだと落胆する。

敵に新しいエースが生まれ、それに敗北した――

 

その筋書きを完成させるように、敵のR-13TがR-9A2+に追撃をかける。

確実な撃破。それを相手は求めている。

 

 

だが次の瞬間、その先から青い光が煌めいた。

 

 

レストランにいた者の中には、肩を跳ね上げるほど驚く者もいた。

それだけ予想外な出来事だった。

 

R-13Tは咄嗟に機体を沈み込ませようとするが、先程ダメージを受けている右側面を閃光が通る。

そしてエンジンが火を噴いた。

 

「死んだふり……そういうこともできるのね。」

 

クレアもまた、純粋に驚いていた。

彼の機体は制御を失っていた。誰もがそう思うほどだったのだ。

 

だが、同時に敵のR-13Tだけが標的ではなかったことを、クレアは悟った。

 

 

 

 

『くそっ!喰らった!』

 

『墜ちる!!!墜ちる!!!』

 

 

 

何が起きたの?

 

相手が死んだフリをしていたのまでは理解した。

敵が強引にその場で振り返って拡散波動砲を発射したことも、機体が損傷したことも別に吞み込めないわけではない。

 

だけれども、あれほど私を占拠していた衝動がプツンと途切れるように消えた。

その影響で思考が人に戻る。

その事と通信を埋め尽くす悲鳴。困惑だけが私を支配していた。

 

 

――振動

 

敵のデルタがすぐ脇を正面から通り過ぎたのを見て我に返り、急いで機体をチェックする。

損傷は激しいけど、まだ戦えないことはない。

先程までの激しい機動戦を行えるわけではないが、それは相手とて同じ事……

 

「光学チェーン、リンク先ロスト……?」

 

私自身と接続していたフォースが見つからない。繋がっていない。

モニターから目を放した私の、その視界の端に見えた物。

 

衝動となぜかある僅かな理性による必死のドッグファイト。それに夢中になって回収していなかった私のフォース。

そのコントロールロッドの一部が焼け爛れていた。よりにもよって光学チェーン用の接続部分が。

 

「そんな……」

 

光学チェーンがなければ、フォースリンクは使えない。

暴走を阻止するため、チェーンによる制御を失ったフォースは強制休眠させられていた。

 

敵は別にチェーンの部分を狙撃したつもりはないんだろう。

むしろ破壊する気でいたのに的を外したのが正解かもしれない。

 

だけど無力化はされてしまった。

 

それだけではない、こちらの味方も酷くやられた。

拡散波動砲が乱戦の中撃ち込まれたのだから。

その上、事前に連絡していたのかフレンドリーファイアは見当たらない。

 

目の前にいる相手が、正真正銘のエースであることを今まで以上に強く意識する。

あそこまで損傷しながら、ここまでの戦果を挙げる化物以上の化物。

 

「…あれ?」

 

機体を復旧させるため停止していた私の機体。その視界の端で休眠していたフォースが少し明るさを取り戻した気がした。

 

 

 

何かと共鳴している。

私とではない何かと。

 

ただただ嫌な予感が私を支配する。それはもう、悪寒にも近いほどの。

フォースと共鳴する存在など、数が知れている。

 

私のような禁忌の機体。

それか――

 

『なんだ…なんだよこの反応!!!』

 

『終わったんじゃないのかよ!クソッタレ!!!』

 

 

 

『総員!バイドの襲来に備えろ!』

 

悲鳴にも近いエドガーの宣言が無線から放たれたのは、それからすぐの事だ。



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