ドラゴンボールZ・オルタナティブ~世界線c~ (三軒過歩)
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無印編
(第一話)ある戦士の結末


初めまして。自分の妄想を楽しんでおりましたが妄想の設定が複雑になってきたのでせっかくだから整理の意味も込めて妄想を文章化していこうと思います。


エイジ???年

 

「…」グシャ!

 

「ッ!ゴハッ!」

 

背後から急に肺を貫かれ反応しきれなかったある青年が倒れる。

 

「ほう、攻撃の瞬間まで気を抑えていたにもかかわらず反応して見せるとはなあ。どうやら私の知るお前よりはずいぶんと強かったようではないか。まあもはやどうでもよいことだが…な。」

 

奇襲を成功させた相手は倒れた青年を見下ろしてそう言う。

 

「き…は、な…の…!」

 

肺を撃たれたことによりまともに声を発することのできない青年が言葉にならない言葉を絞り出す。

 

「知ったところで意味はあるまい、まもなくお前は死ぬのだからな。まあせめてもの情けだ。貴様の肉親も一緒にあの世に送ってやる。じゃあな。」

 

そう言うと相手は気功波を撃ちだそうとした。その威力たるは青年の背後の建物を吹っ飛ばすほどであり、今の青年に防ぐ術はなく、そのままやられるしかない状況だった。

 

「や…ろ!」キュイン!ドガアアアン!!

 

気功波により大きな粉塵が舞い視界が遮られる。その様を見て少し顔をしかめる。

 

「少し強くしすぎたか。まあいい。もう私がここに来ることはないのだからな。」

 

そうこぼし、青年を奇襲した戦士は姿を消した。

 

 

エイジ749年

 

男狼や女狼が住む集落ではある大会が行われていた。

 

狼姿の男の拳を涼しい顔で回避し脇腹に向かって蹴りを入れる。まだ成長しきっていない子供のものと思えない速さと威力を持つその蹴りは、狼男を吹き飛ばしダウンさせた。

 

「優勝は7年連続でライ!!」ワァーーー!!

 

母親の形見として生まれてきたライは生まれ育った村で毎年10月に開催される力自慢大会で7度目の優勝を果たしていた。

 

「今年は参加者が多く夜まで大会が続いて千載一遇のチャンスだったのに手も足も出ないのかよ…」

 

そう悔しそうな言葉を吐く割にはその顔は晴れ晴れとしているこの男、スウは我が子の成長を頼もしく感じていた。

 

「父さんは決して弱いわけじゃないでしょ。何なら超強い上に戦い方や加減の仕方まで教えてくれたし、何より今日は三日月だよ。」

 

スウは人狼(ひとおおかみ)の中でも特殊な体質をもつ人狼である。普通の人狼が満月の夜人間になることに対し、スウは満月の日こそに狼になるという人狼と真逆の体質を持っている。人狼の血ももちろん引き継いでいるので彼は月さえ出ていれば狼に変身してしまうといった狼人(おおかみびと)の社会にも溶け込めない体質になってしまっていた。この体質が周囲に受け入れられるまで相当の苦労をしたと以前笑いながらライに語っていた。

 

「周りと違うことを素直にすごいと考えられるところがお前のいいところだよ。これがなかなか難しい。武道以外はほとんど教えられなかったがまっすぐ育ってくれて何よりだ。」

 

「父さんの子だからね。」

 

ライは純粋な人間とスウの子供である。彼らの血が混ざりあった結果、ライは普通の狼人と同じ体質となった。そのライからしたら満月以外でも変身できる父親は尊敬の対象であった。

 

「いい子に育ってくれて…母さんに似たんだろうな。」

 

ライはルミの忘れ形見である。ライが立派に育ってくれてスウにとっては万感の思いである。

 

「そうだライ、お前、天下一武道会に出てみないか?お前ならいい勝負ができるんじゃないかと思うのだが…一人が不安なら俺も出るし、まあ本選出場すら俺からしたら難しいと思うけど。」

 

我が子の成長を感じたスウはライに腕試しの機会を与えたいと前々から考えていた。その言を聞いたライは食い気味に反応する。

 

「父さんも出るのですか!じゃあぜひお願いします。父さんが本気出せば予選突破なんて楽勝ですよ。これから一ヶ月は修業だけに費やせますし、二人で本選にでて会場の皆さんを驚かせてやりましょう!!」

 

この村は農業の時給自足で成り立っている。そして大会優勝者には1月分の新米と豊富な食糧が贈られるのだ。(ライが出る前は優勝者に商品が半年分であったが毎年優勝者が決まっている出来レースと化した大会では6位まで商品が出るように分配された。)

 

「いや、修行と農業を組み合わせた修業を行うのだ。今まではお前の力を使いこなすメニューだったが、今後はお前の力を増やす修業をする。これなら農業と組み合わせられるからな。これで半年ずっと修業漬けだ」

 

「一挙両得の修業ですか。さすが父さん。どんな修業をするのですか?」

 

「それは明日のお楽しみだ。さあ今日は大会で疲れただろう。早く寝なさい。」

 

 

次の日の早朝

 

「ほら起きろ、朝だぞ。」

 

まだ4時であり子供が起きるには少々早すぎる時間でもあるがサングラスをかけた父親が起こしに来た。毎晩変身してしまうスウだが、直接月を見なければ変身はしないので普段からサングラスをかけている。

 

「う…うん、まだ外が暗いじゃないですか。朝ご飯はいつも6時半ごろでしょう?もう少し寝かせてください。」

 

そう言ってライはまた布団にもぐろうとする。

 

「修業は朝からなんだ。牛乳配達に行くぞ!この村は広いからのんびりしてたら牛乳が腐ってしまう。」

 

「…はーい。」

 

 

「よおスウ、昨日は親子ともどもおめでとさん。これから働いてもらうわけだが…、給料なくていいのか?薄給とは言えだせなくはないんだぞ?」

 

顔なじみの牛乳配達員だ。この村で牛乳を生産しているのはここぐらいなもので、昔からよくしてもらっている人でもある。

 

「いいんですよ。修業ですから。それじゃあこれを運べばいいんですよね?」

 

朝起きるのに苦労していたのは何処へやら。元気にライが答える。

 

「がっはっは。子供にこう言われちゃ金はとれないはな!じゃあよろしく頼むぜ。スウ、ライ。」

 

こうして修業の朝が始まる。

 

 

朝の修行を終え、朝食のさなか体して疲れた風でなくライが父に口を開く。

 

「父さん、次の修業は何ですか?農業と組み合わせると言ってましたけど、何をするんです?」

 

「畑仕事をすべて手作業で行うのだ。特に土を耕したりするのはなかなか足腰にくる。水も井戸でなく川まで取りに行こう。重量トレーニングは馬鹿にならないからな。」

 

父親の修業方法に少しばかり不満そうな部分もあったが最初はこんなものかと話を聞いた。

 

「では次は畑仕事ですね。ご飯も終わりましたし、行きましょう。」

 

そう言って畑仕事が始まる。

 

 

一日も終わり、夕飯時…

 

「いや~物足りないとは思っていましたが、自分の土地だけでなく人手不足のとこまでこなす修業とは。これなら無制限に修業できますし感謝もされますし、もっと早くやればよかったですね。」

 

一日中働いておきながら疲れた様子をやはり見せずそんなことをいうライをスウは感心と疲労と少しばかりの悔しさを交えて話す。

 

「普通は疲れ切るものなんだよ。まあ今日で何をするのかは一通りやった。明日からはこれをつけて今日と同じことをしてもらう。」

 

そういって重そうな壺を取り出してきた。

 

「お前がこの程度では堪えないことはまあ想定内だったからな。20kgのおもり代わりだ。水が20L入る。ここに牛乳を入れて修業を行ってもらうが、最初は入れないで体を慣らすといい。」

 

「いえ、牛乳を入れて40kgでやります!!」

 

ライにとっても40kgは楽な負担ではない。しかしスウはライならやるだろうという確信があり、事実その通りになったことに苦笑いをしながら壺を渡した。

 

「ところでなんで牛乳なんですか?水のほうが重いですし、こぼしてしまう可能性もあるじゃないですか。勿体ないですよ。」

 

「この壺は特殊でな。中に牛乳を入れると牛乳がヨーグルトになる優れものだ。ほら、壺じいって呼ばれてる人が村にいるだろ。あの人の力作だよ。こぼれないように過ごすことで無駄な動きを大幅に減らせる。こぼれたら無駄がある動きというわけだな。」

 

この村には壺を作り続けて何十年という爺さんがいる。後継者がうまく育たないと嘆いているが本人は元気そのもので、しばらくは大丈夫だろう。

 

「なるほど。人を救って修業にもなって、おまけにヨーグルトまでできる修業というわけですか。でも一日20kgとか余りますよね。」

 

「それは今朝の牛乳屋に売れるように話がついてる。」

 

「抜け目ないですね。さすが父さん。そういえば父さんは壺に牛乳何kg入れるんですか。」

 

ライが当然負荷をかけて修業を行うだろうといった言葉に

 

“俺はしばらく何もつけずに修業に体を慣らすつもりだ”

 

そう言おうとした言葉を飲み込んだ。

 

「ま、まあ俺は壺を背負うところからやっていくよ…」

 

そう言って親としてのプライドを守った。

 

 

そして半年の月日が流れた

 

「お前ら親子が手伝ってくれるのも今日で取り敢えず終わりか。残念だなぁ。意外と好評だったんだぞ。お前らのヨーグルトも。」

 

馴染みの牛乳屋がそんなふうにこぼす。

 

「何言ってるんですか。大会終わったってまだまだお手伝いしますよ。修業に終わりはないんですから。」

 

「いや、俺は大会が終わったらお前には旅に出て欲しいと考えている。ここでできる修業には限りがあるし、広い世界を知ってほしいんだ。お前も12になるしな。」

 

12歳で1人前という風習が人狼の世界にはある。大体の人狼は村で農業を継ぐが俗にいう人間の社会を経験しに行く人狼も一定数いるのだ。

 

「そうですか。でももうしばらくはここに残るつもりでいます。まだ狼になったときのことは学びきれてないので。」

 

「まっお前はもう1人前になるんだ。お前がそう言うならそれでいいさ。狼の事についてはまだまだお前より上だからな。」

 

少しばかり嬉しそうに見えるスウを微笑ましそうに牛乳屋が眺めた。

 

 

一日も終わり大会前の最後の修業を終えたころスウがライに言った。

 

「明日は7時出発だ。到着時刻は前々日の6時。2日間の旅路になる。あの修業をこなしてきた俺たちには何の問題もないだろうが、徒歩なんだから修業の疲れをとる意味も含めて今日はよく寝ておけよ。」

 

「はい。楽しみですね。自分の実力がどこまで通用するのか。なかなか知る機会はありませんからね。」

 

スウの実力はもう村中の全員でかかったとしてもかなわないものとなっている。しかしそのスウをもってしてもライには敵わない。同じ内容の修業をしていても、差は開くばかりである。歳にかなわないのは人狼も人も変わらないようだ。

 

 

「天下一武道会受付はこちらでーーす。」

 

アナウンサーの元気な声が響く。

 

「すごい活気ですね。うちの村とは大違いだ!!」

 

「まあパパイヤ島はリゾート地でもあるしな。大会が終わったら見て回るか。」

 

「はい!」

 

そしてライ親子の天下一武道会が始まる!!




後書きにて私がこれくらいの戦闘力のつもりで書いたよっていうのを伝えるために書いていきます。ドラゴンボールは戦闘力なんて気にせずに読んだ方が面白いって方もいますでしょうし、参考程度にお願いします。とりあえず無印編はどこぞの超非公式さんを参考に少しだけ改変しています。この二次創作に出てきたキャラでここで触れてないキャラの戦闘力は非公式さんと同じってことでお願いします。勝手に参考にしたので怒られたらこの作品ごと闇に葬ろうかなと。

初登場時戦闘力
ライ32
スウ8

備考
地球人一般男性5
地球人一般女性4
子ども2
男狼の平均7
女狼の平均6
狼化で戦闘力3倍

修業後
ライ92
スウ39


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(第一.五話)大会前夜

この話一週間ほどは最新話においておきます。まあ明日には最新話じゃなくなるわけですが…


「明日到着ですね。」

 

焚火に囲まれながらライがそう言った。その表情は少しだけ思い詰めている。

 

「…何か言いたそうだな。ライ。」

 

「いえ、えっと…」

 

決意を固める。

 

「私と勝負してほしいんです。」

 

きれいな夜空の下、ライはそう宣言する。

 

「そうか、今日、いや、明日だな。お前の誕生日は。」

 

十二で一人前。そうなる前に一度自分の師匠と戦っておきたいと、そう思っていた。明日になれば、父が自分を見る目が少し変わってしまう気がしたから。自分の実力は素の状態では師である父を大きく超えている。明日になったら、尊敬する師として振舞ってくれないような気がした。

 

「本気で、来てほしいんです。」

 

もちろん、一人の大人として扱われることも代えがたい喜びだ。でもその前に一度()の本気を見てみたかった。

 

「分かった。師として最後の試験だ。」

 

そう言うとスウはサングラスを外す。満月でなくても変身できるスウの体は人のそれから変わっていく。

 

「行くぞ。」

 

 

「参りました!」

 

勝負の決着がつき、相手に対して礼をする。その瞳は失望に染まっている。彼が天下一武道会で優勝してから、否、天下一武道会でさえも彼が全力を出すことは一度としてなかった。

 

(そろそろ道場に戻るかな。)

 

門下生は天下一武道会優勝者という看板に惹かれてかそれなりに集まったが、自分に匹敵しそうな素養のあるものはいなかった。そうそうに諦めた目で見ていたからかもしれないが。だから、一番弟子に道場を任せ、一人武者修行に出ていたのだ。彼が二人の戦いに遭遇したのはただの偶然だった。

 

 

 

「はああああああ!」ドン!

 

ライがスウに向かって行く。全力の拳はしかし簡単に受け止められる。

 

「攻め方が素直だぞ。」

 

連続で振るわれる拳に蹴りをすべて躱し、捌きスウがそう言った。半年前は変身しても及ばなかったが、今は変身すれば直線的な攻撃などは簡単に防げる。

 

「反撃も容易!」シュッ!

 

そう言って反撃を繰り出すが、それはライに躱された。攻撃を単調化している分回避反応に集中できているのだろう。

 

「なるほどなっ!」

 

右拳と見せかけて左拳、左脚蹴りと見せかけて左拳。フェイントを混ぜた攻撃にライがだんだんと押されていく。攻撃の手が止み防戦一方になる。

 

「なかなかやるじゃないか。」

 

防戦一方になりつつも急所は確実に避けている。

 

「くっ!はっ!」

 

一撃覚悟で距離を取ると、意外にもスウは追撃をしない。

 

「同じ修業をしていても差は広まるばかり、ですもんね。気づいてないと思ってましたか?」

 

「あらら、結構高く評価されてるみたいだな。」

 

スウはライとの修業が終わった後に一人夜中に修業をしていた。それにライは気づいている。そして夜中に変身して戦う修業を積んでいるのも見ていた。

 

「高く評価しているんじゃなくて、真っ当に評価してるんです。」

 

狼姿の戦い方を自分ではうまくできなくても対策はとれる。だから変身したスウに食らいついていけてる。

 

「対策を盾に押し込もうと思ってたんですけどね!」

 

実力差は殊の外大きい。スウの変身した動きの癖を見切っていても防ぐのが精一杯だ。

 

「格上と勝負するときは有利を押し付けなければなりませんよね。」

 

優れたところで勝負する、不利なところでは戦わない。どうして父がそんなことを知っているのか分からないが、そう教わった。それはスウがライよりも格上がいることを暗示していることを意味する。今のように。

 

「腕を使った殴打も蹴り技もすべてが自分よりも上の相手と会ったらどうするかも教えたよな。」

 

「その時は、逃げの一手!」

 

そう言い切ると、スウは言った。

 

「言葉と行動がかみ合ってないな!」

 

引いて守って時間を稼ぐ。それが望めないなら逃げる。これも教わったことだ。今は時間を稼いでいる。

 

 

(これほどの動きが…!受け手に回っている方の実力ですら私に匹敵する、あの狼姿の方は私を超えている!)

 

ライ達の戦いを見たチャパ王は驚愕する。五年間世界を旅してきたがついぞ見つけられなかった自分に匹敵する存在にチャパはそれこそ十年振りに震えた。いや、十年なんて生ぬるい年月ではなかったかもしれない。この高揚感を最後に感じたのはいつだっただろう。

 

(戦ってみたい、あの二人と、全力の勝負を…!)

 

独自流で一見見たこともない動きだったが、その動きは彼が唯一敵わなかった仙描の動きに似ていた。

 

 

 

「そろそろ止め!」

 

ボロボロに追い込んだライに対してそう宣言する。流れるような拳の連撃の最後に繰り出すは…

 

「くっ!」バッ!

 

その拳を防ごうとライは両腕を胸に構える。拳に見せかけた足技の警戒も忘れていない。しかし、それを見てスウの口元が歪む。最後に繰り出すは爪による攻撃、それも()を狙う。

 

「っ!」

 

ライが驚いたような表情を作る。スウは決着を確信する。

 

ビシッッィ!

 

「なっ!」

 

意識の外、不意を撃とうとしている側はどうしようもなく不意打ちに弱い。

 

「不意打ちは読まれてたら最弱の手ですよ?」

 

頬から血を流しながら得意げにライは全力の蹴り技をスウに打ち込んだ。

 

 

 

「誰に似たらこんな無茶するのかねえ。」

 

「私は父さんの子供で、父さんを見て育ってきたんだけど…」

 

そう言って少し怒ったように付け足す。

 

「それにしたって、いくら本気でといったからって、ホントに顔面を爪で裂こうとするとは思いませんでした。」

 

「嘘つけ、顔に来るって分かってたから、最低限かつ最効率の動きで反撃できたんだろうが。」

 

手当をされながら珍しく文句を言うライに対してスウが言った。

 

「あはは…真っ当に評価してましたから。来ると思ってました。」

 

夜に一人修業していることを見ていたことがバレていることを織り込み済みでそこで練習してこなかった爪技を使った。これなら確実に不意打ちになると思ったから。でも練習が不足していたがゆえに、不意打ちのアドバンテージが無ければライにも十分に対応できる範囲だった。

 

「戦いのセンスがあるよな。もう、お前も一人前か。」

 

「そうですね。」

 

寂しそうに言う二人。日付はもう変わっていた。

 

 

「骨逝っちゃったな、大会までに治ると良いんだけど。」

 

「この傷が残ったら恨みます。」

 

「一応言い訳すると、寸止めする予定だったぞ。相打ち覚悟で来る様子を見せなければ。」




骨は治りました。人狼は治癒力が人より早めという設定を今作りましたし、まだスウも若いので。(三十代後半)
スウがライに対して不干渉気味なのはライを既に一人前として認めているからです。
チャパが第二十一回天下一武道会に参加したのはこの二人を見ているからです。スウとチャパがセットなのもそれが影響してます。スウは自分よりも強い武道家だと思ってるということです。


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(第二話)天下一武道会本選!

二話目です。二話目で気が早いと思われるかと思いますがこのシリーズには本編で書ききれなかったことなどを書いていく番外編も不定期で書いていこうかと思います。そのせいで本編の執筆は遅れるでしょうがこの作品を見てくださる心の広い読者様なら怒らないですよね!そうそう書き溜めの草案があるのでその分は週一投稿していこうかと思います。


天下一武道会の選手登録を終えいよいよ予選が始まろうとしていた。

 

「こちらのトーナメントに番号が書いてあります。ご確認ください。予選開始は15分後となっておりますので自分の番号を間違えないように注意してください。」

 

司会者らしき金髪の男性が大きな声で示す。その声を聴きたくさんの人がトーナメント表の前に集まってきたようだ。

 

「ライ。何番だったんだ?俺は39番だったんだが。」

 

スウにとってはライと同じブロックだった場合ほぼ負けである。気になるのも当然であろう。

 

「私は92番です。違うブロックなので予選ではぶつかりませんね。父さんとの戦いは本選までお預けですか。」

 

「本選までお預けでよかったよ。予選突破の目標を身内につぶされるなんて悲しすぎるからな。」

 

「そんなこと言って諦めてはいないんでしょうに。」

 

スウとライが戦えば実力的にはほぼ間違いなくライが勝つことは当然理解している。

しかしそれでもこの父は一筋縄では勝てないとライは信頼していた。

 

 

特に大きな障害もなく予選を突破したスウとライは同じく決勝進出を果たした8名の

猛者と一緒にアナウンサーの指示に従いトーナメントを作ろうとしていた。

 

「私が読んだ順番にくじを引いていただきます。中には1から8までの数字が書いてあるボールが入っているのでその番号のところに書いてあるところから試合を開始していただきます。ではまず、クリリンさん。」

 

「は、はい!」

 

どことなく緊張した面持ちでクリリンがアナウンサーのもとへ向かう。

 

「5番ですね~第三試合となります。では次、ライさん。」

 

 

そして参加者全員がトーナメントに書き込まれた。

 

「まさか第一試合で私たちが戦うことになるとは思いませんでしたよ。本選で直接対決できてうれしいです。」

 

「8人だからな。そういったこともあるだろう。俺も嬉しいよ。お前と本選で戦えて。」

 

俺ではここにいるほとんどのやつに勝てないからお前と本選で戦えて嬉しい。そういった言葉をスウは飲み込んだ。

 

「試合も大切だが他のほかの試合もよく見ておくんだぞ。勉強になることも多いはずだからな。」

 

「はい!」

 

 

「それではご会場の皆様お待たせしました。これより天下一武道会本選、第一試合を始めます。」

 

アナウンサーの声が会場から聞こえてくる。

 

「行きますか父さん。」

 

「おう、実力差はあれど、負ける気はないからな」

 

ライは笑みを浮かべると武舞台に向かった。

 

第21回天下一武道会本選が始まる‼

 

 

アナウンサーが簡単に選手の紹介をする。

 

「第一試合の選手はスウ選手対ライ選手です。なんとこのお二人は親子で参加して本選に出場した最強の親子といっても過言ではない親子です‼」

 

スウとライが武舞台の上で向かい合い構えをとる。

 

「それでは…はじめ‼」ドーーン

 

「はーーー!」

 

スウがライに向かって突っ込み鋭い素早さで脚や拳を繰り出す。ライはそれを体を後ろに引いていくことでうまく捌いていく。

 

「おーーとスウ選手の目にも止まらない猛攻だー!ライ選手うまくかわしているようですがが少しずつ武舞台の端に追い詰められております。」

 

(ライのやつ武舞台の端でカウンターで決着をつける気だな。)

 

スウとライの実力差は歴然であり、ライが丁寧な戦い方をすれば万に一つもスウに勝ち目はない。一方的な展開になることは目に見えている試合であることをスウは知っていた。しかしそうはなっておらずライは自分から武舞台の端に向かうようにスウの攻撃を捌いているのだ。ライの恩情であろう。父親に恥をかかさず、カウンターの一発勝負であれば、スウにも勝ち筋は存在する。愚かで対等な戦いをライは求めたのだ。

 

(我が子の恩情に甘えなければならないとは情けないな。でもそれを後悔させられるくらいの奇策は持ってるつもりだぞ、ライ。)

 

ライとの実力差を認めつつ、スウにもまだ闘志は消えていない。そして少しずつスウとライは武舞台の際に進んでいくそして…

 

(今だ!)

 

カウンター勝負になる半歩前、スウは武舞台を足で踏み抜き、足を埋め、ライに向かって舞台の床となっていた岩を蹴りつける。踏み抜かれた衝撃で砕けていた床はちょうどライの視界を遮るようにライを襲う。ライの虚を突いたこの奇策はこの二人のレベルでは十分な隙を作り出す。

 

「やーー!」

 

スウはその隙をついてライに渾身の一撃を繰り出そうとするが、けり上げた岩がライがいたはずのところをすり抜けることを見てとっさに回避行動をとりジャンプする。

 

 

(ライはどこに消えたんだ⁉)

 

スウは素早くあたりを見渡しこちらに向かって飛び上がろうと構えているライを見つけた。それを見てスウは戦闘態勢を解く。それを見たライも構えを解いた。この親子間ではそれだけで勝負の決着がついたことを理解できる。

 

「参った。降参だ。まさかあの攻撃を完璧に見切られるとは思わなかったよ。」

 

「いや、父さんが一筋縄ではいかないのは知ってましたからね。カウンター決着に乗ったと見せて何かほかの方法で倒しに来ると思って警戒してましたから。」

 

「俺の完敗だってことか。二回戦頑張れよ。おそらく…」

 

「スウ選手降参です。降参を宣言しました。よって勝者ライ選手ー!」

 

続きの言葉をアナウンサーに遮られる。

 

「おそらく…何ですか?」

 

「いや、何でもない。本当にすごいよ、お前は。」

 

カウンター作戦に乗ってしまった時点で負けだったのだろうとスウは述懐する。カウンターで決着という性質上仕掛けるタイミングは武舞台の端のほうでしか仕掛けられないのだから。仕掛けがわからなくてもタイミングがわかっていれば動揺も隙も分かっていないときとでは全然違う。加えて今回はそのタイミングで対策をとられたようである。最初から最後まで手も足も出ないとはこのことだろう。ここ数日でさえも進化し続けるライをやはり頼もしく思うと同時に悔しさも捨てきれず複雑な思いで称賛したのだった。

 

 

第二試合のヤムチャ対ジャッキーチュンは底の知れない強さを見せつけたジャッキーがヤムチャに触れることなく勝利し第三試合を迎えようとしていた。

 

「お次は第三試合クリリン選手対ナム選手です。クリリン選手は…」

 

アナウンサーの紹介が終わり、クリリンとナムが武舞台の上で向かい合う。

 

「それでは…始め‼」ドーーン

 

始めのコングの直後、クリリンが飛び出す。クリリンの小柄な体躯と素早さでナムを翻弄するように攻撃を仕掛けていくも、ナムは落ち着いた様子ですべての攻撃を時に受け止め、時にかわしていく。

 

「くっ!攻撃が全く入らない。このままじゃ…」

 

すべての攻撃を捌かれたことでクリリンに焦りの色が浮かぶ。

 

「素早さ、威力ともに私に匹敵する強さですが攻撃が単純すぎます。それに、私には負けられない理由がある。今度はこちらから行きます。」

 

静かにしかし力強くナムは宣言する。

 

「わわわっっ」

 

ナムの素早い攻撃にクリリンは何とかかわしていくがついに囚えられて攻撃をもろに食らい壁にたたきつけられる。

 

「へぶっっ」

 

壁に使われたレンガがすごい勢いで崩れていくもまだクリリンは立ち上がれた。

 

「だめだ、攻撃は当たらないのにこっちは避けきれない。経験が足りないんだ。」

 

クリリンは弱気になりそんなことをこぼすがすかさず悟空が檄を飛ばす。

「クリリン!落ち着いて相手の動きをよく見ろ!当てられないほどの差はないぞ!攻撃だってよけなくてもいいんだぞ!」

 

(そうか、避けるだけが回避じゃない、捌けばいいんだ。)

 

クリリンは悟空の発言の意味をしっかり理解し、冷静さを取り戻す。

 

「はーーー、やっ、ふっ、やーーー!」

 

ナムが再びクリリンに向けて飛びこんでくる。しかしその攻撃には若干の焦りがあっ

た。ナムはクリリンが立ち直ればどっちが勝ってもおかしくないと判断したのだ。そして、その焦りはクリリンに反撃の機会を与えてしまう。

 

(ここだ!)

 

クリリンの渾身の拳がナムにヒットし、ナムは後ろによろめきダウンする。

 

「おっと、ナム選手ダウン、1、2、…8……おおっとナム選手立ち上がります。クリリン選手の拳を受けたがまだ闘志は十分なようだーー!」

 

ナムは立ち上がりはしたもののダメージは確かに入っており、ナムの動きを鈍らせた。その動きを今のクリリンは逃さず確実に攻撃を入れていく。ナムよりも多く有効打を決めていく。たまらずナムは二回目のダウンをしてしまう。

 

「ナム選手再びダウンこれは苦しいかー」

 

アナウンサーのカウントが始まるがナムはまたも10カウント前に立ち上がる。

 

「まだ、私はここで負けるわけにはいかないっ。」

 

「ナム選手再び立ち上がります。その姿はまさに鬼気迫るといった様子です。」

 

クリリンにもナムの攻撃によって確実にダメージは入っている。

 

「まだ立ち上がってくるのかよ、でもこのままいけば…」

 

クリリンとナムの攻防が再び始まる。体力的にはクリリンより苦しいはずのナムだがここにきて鬼神のごとき迫力でクリリンと互角以上に立ち回る。その事実にクリリンは動揺し隙が生まれる。そのチャンスをナムは逃さない。

 

「やーーー!」ドゴッ

 

ダメージを与えることよりも奥へ吹き飛ばすように放った拳はクリリンを場外に飛ばすには十分なものであった。

 

「わっ!!」ドン

 

「く、クリリン選手場外!よって勝者ナム選手〜」

 

アナウンサーがナム選手の勝利を宣言し第三試合は決着した。

 

 

「続いて第四試合、孫悟空選手対チャパ王選手です。孫悟空選手は本大会少年の身でありながら本選まで勝ち上がってきた実力者三人の内最後の一人、チャパ王選手は前回大会でだれにも触れられることなく勝利を手にしたまさに王と名乗ることに恥じない選手であります。」

 

悟空とチャパ王が舞台に上がる。

 

「それでは始め‼」ドーーン

 

意外なことに二人は相対したまま動かない。

 

「さっきの二人も相当だったが、この二人もすさまじいな。振る舞いに隙がない。ジャッキーチュンと比べても遜色ないんじゃないか。」

 

スウが二人の振る舞いを見て慄きながら言葉をこぼす。

 

「ジャッキーさんからは底知れぬ強さを感じましたが、この二人からは確かな実力を感じますね。どっちが勝ってもおかしくない名勝負になりそうです。世界は広いんですね。自分の実力にも自信があったんですけどこの大会に出るとまだまだ上を目指せると感じます。」

 

二人が話している間に以外にもチャパ王がしびれを切らしたのか突撃した。

 

「やーーー‼」

 

それを悟空がいなし反撃をする

 

「はっ!」

 

それを読んでいたのだろう。チャパ王も無駄のない動きで回避する。そのような打ち合いが何度も繰り返された。

 

「チャパ王、リーチの差をうまく利用しているな。何があっても即応できる距離を保ってる。これは悟空はきついな。」

 

「有効打をうまく入れられないのに向こうは有効打を打ち放題。ただ距離があるのは事実なので悟空もうまく回避できてますが、このままだとチャパ王が優勢ののちに勝ちますね。せめてあと半歩詰められれば互角になるんですけどね。」

 

半歩詰められれば悟空からも有効だが打てる距離となり五分、あと一歩詰められれば形勢は逆転する。近すぎる相手を攻撃することは難しい。殊、実力差が無いならば。

 

「あと距離を詰めるなら一撃は覚悟しなきゃだろうな。その一撃をどれほど軽く済ませられるかが焦点になる。」

 

距離を空けるにしても詰めるにしても相手から追撃は免れない。だからこそ最初動くまでに時間がかかったのだ。そして最初の突撃を成功させたチャパが優位に立っているのである。

 

悟空が距離を詰めようと仕掛けるがチャパ王はその距離を保とうと動く。少しずつダメージが両者に蓄積するがダメージ量は悟空のほうが多い。チャパ王有利は変わらずチャパ王の勝利になるかと思われたとき、急に悟空が普通の人間にはありえない挙動でチャパ王と距離を詰めた。

 

チャパ王は反応できず形勢は一気に逆転する。その様を見てスウがこぼす。

 

「あいつも変身型の人間だったのか?急にしっぽが生えてきた気がするんだが…。」

 

「いや、何か意識して動いたようには見えなかったので偶然じゃないですかね。あるほうが自然であるようにも見えますよ。動きが格段に良くなった。そういう人間もいるんでしょう。聞いたことはありませんけど。」

 

亜人型の人間は普通の人間と同じように暮らしている種族や人里離れて過ごす種族といろいろなタイプがいるが、人間と同じように権利が認められている上に、普通の人間からも普通の人として認知されている。そのため、ライはもちろんスウもいろんな種族の人間を知っているのだが、しっぽが生える人間はスウですら聞いたことがなかった。

 

「こんな形で世界の広さを実感するとは思わなかったな。俺はいろんなところを旅したことがあったからそういう点では驚くことはもうないと思っていたんだが。」

 

「父さん物知りですもんね。知らないことが見つかると嬉しいですか?」

 

「別に学者というわけではないんだ。そんな風には思わないよ。自分の無知を実感しただけさ。」

 

しっぽの生えた悟空の動きはトリッキーであった。チャパ王は人間のみならず亜人との戦いも対応できるように修業を積んでいるが、今まで戦ったことのない、しっぽがあるという点しか変わらない(ただししっぽを的確に使ってくる)亜人に苦戦を強いられた。

 

「一気に形勢が傾きましたね。もう少ししっぽが生えてくるのが遅ければチャパ王が勝っていたんでしょうけど。」

 

「未知なる敵の未知なる戦術に即対応することはすごく難しい。一度外から見るチャンスが彼にあればまだ巻き返しを狙えただろうが…もう時間の問題だな。」

 

スウの言った通り数合の打ち合いの後チャパ王が場外に落とされた。

 

「しょ、勝者、孫悟空選手~。」

 

アナウンサーが驚いたように悟空の勝どきを上げ第四試合は終結した。




戦闘力
チャパ王100
彼の初登場は遅すぎたと思いませんか。この時期に登場していれば強敵として立ちはだかったと思うんですよね。まあ一回戦敗退させちゃったんですけど。彼は今後もこの物語に参戦するので要注目です。そういえば戦闘描写がないのに一話の後書きで修業後のスウとライの戦闘力を入れちゃったの少し後悔してます。今後はないようにしたいなあ。それではまた来月。


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(第三話)ライの天下一武道会

戦闘シーンて難しすぎて頭の中に妄想したことを言葉に落とし込むってすごい大変だとひしひしと感じてしまいます。今週も閲覧感謝です。感想もありがとうございます。励みになってます。


準々決勝がすべて終わり、準決勝が始まろうとしていた。

 

「では準決勝の前にここで第三試合、第四試合とすさまじい強さを見せたこの丸亀マークのクリリン選手と孫選手、そして同じく同年代でありながらこちらも恐ろしい強さを見せたライ選手にインタビューをしてみたいと思います。クリリン選手は第三試合惜しかったですね。しかし13歳にしては驚異的な実力でしたね。次回も期待していますよ。さて、クリリン選手は13歳ということですが孫選手とライ選手はいくつなんですか?」

 

「私は12歳です。」

 

「これ何?食えるの?」

 

悟空がマイクを見てそうこぼす。それを聞いてクリリンが突っ込み会場に笑いが起こる。

 

「…気を取り直して、ライ選手は孫選手やクリリン選手とは面識がないようでしたが二人についてどう思いますか?」

 

「そうですね…、正直言って同年代に張り合えるような人が思っていなかったのでとても驚いています。この二人とは全力で戦っても五分といったところですかね。同年代のライバルが欲しかったので、大会が終わってからも修業に身が入ります。」

 

「いや、13歳や12歳の子供が本選に出場するなんて中々無い…というか私がこの仕事を始めてからは一度も無かったんですけどね。さて、孫選手とクリリン選手はライ選手についてどう思いますか。」

 

「張り合う人がとか言ってますけど、僕からすれば、ライ選手のような人がいるということがもう恐ろしいですよ。僕たちは武天老師様という最高の環境で修業してこの実力で、僕のほうこそこんな人がいるとは思いませんでしたし。」

 

クリリンがそう驚きを口にするが悟空は、

 

「いやおらはこんな強えやつと戦えるなんてわくわくすけっどなあ」

 

と、喜びを口にする。

 

「なるほど…二人はあの武術の神と呼ばれる武天老師様のお弟子さんなんですね。道理で強いわけです。それにしてもあの方生きていたんですねぇ。ではライさんにはお師匠といえる方はいらっしゃるんですか?」

 

「私の師匠は父さんですよ。武術のことだけでなくこの世界のいろんなことを教わりました。私にとっては最高の師匠兼父親です。」

 

自信をもって言い切るライの姿に競技館の側で聞いていたスウの顔がほころぶ。

 

「それはそれは…次回の大会はもちろん三人の今後の展開も非常に楽しみですね。ありがとうございました。ではそろそろ第五試合を始めます。」

 

アナウンサーが第五試合を始めようとしてジャッキーを呼ぶとまたジャッキーも自己紹介をし始めるのだった。

 

 

「それでは第五試合、始め‼」ドーーン

 

始めのコングを聞きジャッキーチュンとライは戦闘態勢に入る。全く隙がないが動く気配もない。様子見のつもりだろう。

 

「余裕…ですね。こないならこっちからいきます。」

 

「わしもお主の実力に興味があるからな。いつでも全力でどうぞ。」

 

「お望みどおりに!」

 

ライがジャッキ-チュンにむかって突撃し素早い蹴りや拳を繰り出す。

 

「ほい、ほい、ほい」

 

ジャッキーチュンが落ち着いた様子で避けていくのを確認し、ライは全力で攻撃し始める。

 

「はああああああ!」

 

さすがに焦った様子であったが手を使って拳を受け止めた。

 

「やるのう。このわしに手を出させるとは。」

 

「ここにきてもあなたの実力の底が見えないのは本当に恐ろしいですよ。」

 

そういいつつ距離を取ろうとするがジャッキーチュンはそれに合わせて接近し拳を繰り出す。ライは両腕を使って受け切った。

 

「ぐっ、」

 

「わしのスピードについてくるやつはなかなか久しぶりじゃ。パワーも十分にあるようだしのう。じゃが…食らいつくのが精いっぱいのようじゃな。」

 

「格上との戦い方も教わってます。」

 

(技量もスピードもパワーですら私より強い。私がこの御仁に優れている部分があるとすればそれは…)

 

格上の相手とは優位のとれる部分で勝負する。それが無理なら逃げる。戦いの基本として最初に教わったことである。

 

「技お借りします!狼牙追風拳!」

 

同レベル内の実力ではスピードに抜きんでた技である。相手が格上であっても圧倒的力量差がなければ渡り合える技でもある。

 

「はい!はい!はい!はい!」

 

早業で攻撃を繰り返す。しかしそれを紙一重で躱される、受け流される。狼牙風風拳としての完成度は低い。でもそれでいいと思って打ち続ける。これは狼牙風風拳であって狼牙風風拳ではないのだから。

 

「見よう見まねではわしには通じんよ。あの若者のレベルに昇華させないとわしには通じない。」

 

ジャッキーチュンはそう声をかけるがライは気にせず打ち()()()。狼牙風風拳は体の動かし方による速度増加であるので、思うほどスタミナを消費しない。狼牙風風拳はある程度打ち込んだあとにとどめの一撃を放つ。それは技としては完成するが同時に完結する。でも狼牙追風拳は完成させない、完結しない。この技の本質はそこにない。ずっとスピードののった攻撃を術者のスタミナが尽きるまで打ち続ける。そして回避行動を相手に強制させ続ける。ライはジャッキーにスタミナで優れている可能性に賭けた。

 

「ほい、はっ!おっと、それっ。」

 

軽々とした身のこなしで避けているように見える。ただがむしゃらに打ち続ける。技を打っている方と避ける方、スタミナの削りあい。スピードを落とすと不利になるライに一度でも攻撃を食らうと連撃を食らってしまうジャッキー。この打ち合いは精神的にはライ優位、体力の消費量的にはジャッキー有利。しかしジャッキーの精神力の前に精神的優位は意味をほとんどなさなかった。一撃を覚悟でジャッキーが重い一撃を食らわせる。

 

「ぐっ、」

 

「ライ選手ダウンしました。1、2、3…8、9」

 

アナウンサーがカウントをするがぎりぎりで立ち上がる。

 

「あまり長引いて決勝戦に差し支えてもいけないので、悪いがここで決着をつけさせてもらうとするかのう。じゃがここまで善戦したご褒美だ。見せてあげよう。このわしのかめはめ波を。」

 

そう言ってかめはめ波をため始める。

 

「なーーんと、かめはめ波を使えるのは武天老師だけだと聞いておりましたが、この御仁も打てるのでしょうか。」

 

アナウンサーが疑問の声を上げるなかライはかめはめ波を打たせまいと接近していく。

 

「はああああ!」

 

しかしライの拳は空を切った。ジャッキーチュンが残像を残して後ろに回ったのだ。

 

「かめはめ、破ーー」

 

かめはめ波をもろに食らい場外にたたき出される。

 

「威力は調節した。大けがはしとらんじゃろ。また次を楽しみにしておるぞ。」

 

ライ親子の天下一武道会はここに終結した。

 

 

「いよいよ決勝戦です!決勝戦に残りましたはジャッキーチュン選手と孫悟空選手です。ジャッキーチュン選手はここまで危なげない展開で勝利をもぎ取った実力者、孫悟空選手は前回優勝者を下した実力者です。どちらが優勝の栄光を手に入れるのか全く想像できません。さあ第21回天下一武道会決勝戦、初めーー‼」ドーーン

 

二人の戦いは壮絶を極めた。悟空はジャッキーの技をかなりの精度で使い、時には応用して戦っていく。しばらくし、ジャッキーがここ一番の大技である萬國驚天掌を出した。

 

「さあ降参せい、そうしないと死んでしまうぞ。」

 

悟空はかなり粘ったが長くはもたなかった。

 

「く、悔しいけどま、まい…」

 

そこで悟空に変化が起こる。目は開かれたまま呆然とし、今まで萬國驚天掌に苦しんでいたのなど嘘のようであった。しかし、その状態は長くは続かない。悟空の体に変化が起こり大猿のすがたになっていく。その変身はジャッキーの萬國驚天掌をも押し返す。

 

「ぐぐぐぐ、ぐおおおお!」

 

「わぁぁぁ、悟空も私たちと同じように満月を見ると変身する種族だったんですね。しかも私たちよりも相当強くなるみたいです。」

 

「ここまでパワーアップするならぎりぎりまで変身しないのも納得だよ。もう勝負にならないんだから。」

 

悟空が大猿になると理性を失うことを知らない二人は会場の雰囲気には似合わないほどのんきにそんな話をする。

 

「がああああ!ぐおおおお!」

 

悟空がただ叫びながら会場を崩壊させていって二人も流石に焦り始めた。

 

「わっ!危ないなあ。理性を維持できないなら使っていい技じゃないですよねっ。」

 

石やがれきをよけながらライはそうこぼし自身も満月を視界に入れた。

 

「ほんと、ふざけてるよ‼」

 

スウもつけていたサングラスをとる。二人のすがたがだんだんと荒々しい狼の姿へと変わっていった。

 

「変身したところで俺たちじゃ食い止められないんだろうけど、何とかあいつの注意をこっちによこすぞ。観客が死ぬ‼」

 

「はい!」

 

二人が変身し素早く接近していくのを見たヤムチャが二人に声をかけた。

 

「おい!あいつの弱点はしっぽだ。しっぽを切れば元に戻る!俺も手伝うからあいつを止めるぞ‼」

 

「お、俺も手伝うぞ!」

 

ヤムチャ、クリリンも参戦し大猿を止めようと動き出し大猿を翻弄しようとしたその時、ジャッキーチェンがMaxパワーのかめはめ波を放った。

 

「あ、あの人恐ろしい。悟空と戦ってまだ余力を残していたなんて」

 

ライが驚きの言葉を漏らすがその声は暗い。

 

「悟空を殺してしまうとは、仕方なかったとは言えやるせないな。」

 

クリリンやブルマなど悟空の友人たちがジャッキーチュンを非難するなかであったが、ジャッキーチュンは落ち着いて言う。

 

「慌てるな。これを見るがいい。かめはめ波でぶっ飛ばしたのは月じゃ!」

 

アナウンサーが驚き風情もくそもないと嘆いている間に悟空が目を覚ましてしまう。

 

「風情もくそもとか言ってましたけど仕方なかったとはいえ二度と変身できない体にされてしまうとは思いませんでしたよ。間違いなく今日は厄日だ。あと少ししか変身が維持できないんですから。最後にこの体を見納めておかないと。」

 

ライが落胆した声でそうこぼす。

 

「人狼からすれば泣きたくなる話だな。まあ俺は変身できなくてもそんなに落胆しないけど。」

 

一方スウはそこまで堪えた風もなくそういった。

 

「父さん人の姿好きですもんね。変身した方が強くて素敵だと思うのですけど。来年は絶対に直接対決して、鬱憤を晴らします。」

 

「今ならお前は世界一の武闘家だよ。もう少しだけの時間だがな。」

 

大猿は月が出ていないと変身を維持できないが人狼は一度見ると一定時間は維持され続ける。あと少しの寿命とはいえ最強の武闘家となった事実をライはかみしめた。

 

 

「あの爺ちゃんもすごかったけど、おめえ変身できたんだな。すげぇ強くなれんじゃねえか。」

 

「まったくだ。対戦のカード次第では優勝できただろうに。惜しかったな。」

 

大会が終わり悟空とヤムチャがライに話しかけてきた。

 

「あなたと同じでもう二度とできないんですよ。今の私はただの第21回天下一武道会ベスト4です。次はジャッキーさんに直接対決して雪辱を果たします。」

 

「おらもだ。もっともっと修業してあの爺ちゃんには負けねえくらい強くなる。」

 

そこですぐ後ろで談笑している亀仙人たち一行が目に入る。

 

「あのご老人、ジャッキーさんでは?身内全員が本選出場とかすごいですね。」

 

自分のことを棚に上げてそういうライに悟空はおかしそうに言う。

 

「何言ってるんだよ。あの爺ちゃんは亀仙人っていってジャッキーの爺ちゃんじゃねえぞ。」

 

「?まあいいです。三年後に出てくれなければあの人のところに行くだけですし。」

 

ライには月を壊されたのが相当応えたようだ。

 

「そういえば、えっとヤムチャさんでしたっけ。大会中は技を勝手に使ってすみません。それで厚かましいとは思いますがあの狼牙風風拳をぜひ教えてもらいたいのです。」

 

ライは人狼として狼の動きをモチーフとした彼の動きは参考になると踏んでいた。

 

「え、あの狼牙風風拳をか、大会中も真似してくれたもんな。正直ちょっと嬉しかったんだ。俺の技はお前のレベルでも通用するってわかって。もちろん教える、と言いたいところだが、ブルマに許可をもらわないといけないんだ。これからは一緒に住むことになるからな。」

 

「あ、いえ、無理にとは」

 

そこまで言いかけたところでブルマが言う。

 

「別にいいわよ。部屋は余ってるし。礼儀正しくていい子そうだしね。」

 

「ありがとうございます。ブルマさん、ヤムチャさん。これからよろしくお願いしますね。」

 

「俺のほうこそよろしく頼む。それで技を使いこなすまで、俺にも修業をつけてくれると嬉しいのだが。」

 

「ええ、もちろん教えます。一緒に頑張りましょう。」

 

この日から占い婆のところに行くまでヤムチャに技を教わることとなる。




今回は新キャラがいないので後書きの戦闘力紹介はなしです。その代わりにオリキャラ紹介をして場を濁そうと思います。

ライ
今作の主人公。人狼族であり満月を見ると狼になる。スピードも戦闘力三倍相当なので狼化すれば現段階でも天津飯程度は余裕で捻れる。武術においてヤジロベーに次ぐ素養を持っている天才児。口調は丁寧だが敵には口調が荒くなることがある。

スウ
ライの父親。本文にも書いたが新月以外の夜は変身できる。変身すれば通常のスウと並ぶ実力を持つ。頻繁に変身できる都合上狼状態での身のこなしは完璧。これから彼とチャパはセットで登場する。

それではまた来週。


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(第四話)一週間の成果

タイトル考えるのすごく大変です。そのうち(第何話)とかだけになるかもしれません。あと前書きに何書けばいいのかも迷うので前書きは書かない時もままあると思います。それでは今週もよろしくお願いします。


「奥義、狼牙風風拳!」

 

素早い動きで拳を出していく。ここ1週間でライの狼牙風風拳の完成度はヤムチャのそれとほぼ変わらないものとなっていた。またヤムチャにもライという師匠がついたことは大きく、無駄な動きをライによって直されていき、1週間では驚異的な技量を身に着けた。

 

「ライは飲み込み早いなあ。狼牙風風拳を大会でも即興で使えるくらいだから早いとは思ってたがこれほどまでとは。」

 

ヤムチャが感心したようにライに言う。

 

「いえ、ヤムチャさんこそ少し動きを直しただけなのにここまで伸びるとは思いませんでしたよ。このままだと半年もするころには追い越されてます。」

 

今のライはブレスレットを両腕と両足につけている。壺を持っていないための代用品である。重さをある程度自在にでき相当な負荷がかかるカプセルコーポレーション特製のものとなっており、重さを調節することでヤムチャとの実力差を埋めて修業している。

 

「ヤムチャく~ん、ブルマから電話だよ~」

 

そこでブリーフ博士から声をかけられた。

 

「ブルマさんから?たしか亀ハウスに行ったって言ってましたよね。何かあったんでしょうか。」

 

「まあ電話に出てみるよ。何かあったのかもしれないし。」

 

ヤムチャがブリーフ博士のところに向かっていった。

 

「本当にこの人には私より強い、圧倒的なまでの実力がある師匠がいれば化けるんだろうけど。すでにこの人より強い人なんて人外だものなあ。宇宙人とか神様とか存在するならいい師匠になりそうなんだけど。」

 

毎度のごとく自分を棚に上げた発言である。そうこうしているとヤムチャがやってきた。

 

「RR軍の基地に悟空が単身突入しようとしているらしい。一人だとヤバイから援軍に行きたいそうだが、移動手段がないようだ。俺も悟空を助けに行こうと思う。ライも来てほしいのだが。」

 

「…分かりました。行きましょう。彼のような実力者が死のうものならこの世の損失ですからね。」

 

ヤムチャはライはついてこないかもしれないと思っていた。なぜなら

 

「悟空は月を壊した原因で、お前を二度と変身できないようにしたやつでもある。ついてきてくれるのか?」

 

「それはそれです。変身できることを知らなかったみたいですし。だったら教えなかった親の責任でしょう。まあそれでもあまり好きにはなれない人ではありますが、ライバルがいなくなるのは寂しいので。」

 

「今に見てろよ、俺もお前にライバル認定されるように頑張るよ。」

 

「あと数ヶ月後には今の私を超えてますよきっと。さあ、行きましょう。」

 

 

亀ハウスについて後すぐに亀仙人やランチとともに悟空を追いかけ始めた。

 

「そんなに焦らなくても大丈夫ではないですか。この飛行機よりも早い乗り物はそうそうないと思うのですけど、悟空はどうやってRR軍に向かってるのですか?」

 

「筋斗雲という雲じゃ。この飛行機はもちろん、人が乗る乗り物としては今のところ最高速度じゃろうな。」

 

「そんな乗り物でしたら悟空はもう戦い始めてるかもしれませんね。間に合うといいのですが。」

 

「あいつが簡単にやられることはないじゃろう。問題は体力が続くかどうか、疲れ切る前に援護してやれば大丈夫じゃろ。」

 

亀仙人にはそこまでの焦りがない。悟空を信頼しているのだろう。

 

「あいつはあれで意外としっかりしている。死にそうになるまではやらないだろう。」

 

ヤムチャもそこまで焦った様子はない。

 

「信頼されてるんですね。悟空は。」

 

話しているうちにRR軍基地の付近につく。そこで悟空がこちらに向かってきている姿を見つけた。

 

「悟空だ!悟空がいたぞ!」

 

クリリンが悟空を見つけ嬉しそうに叫ぶ。悟空が突撃を思いとどまったと思ったがもうRR軍を壊滅させた後のようだ。

 

(結構な田舎に住んでいる私でさえ知っているくらいの有名な組織をまさかこんな短期間で壊滅させてしまうとは。とんでもない武闘家になったものですね。少し前は私と同じくらいの実力だったはずなのに。)

 

 

悟空がドラゴンレーダーが壊れてしまったというので一度亀ハウスに戻りレーダーを修復することになったが壊れた様子は見受けられない。

 

「どこも壊れていないみたいよ。」

 

「でも七個目のドラゴンボールはうつってねえぞ、最初は七個映ってたんだけどな。」

 

ブルマの推測によるとドラゴンボールは何かに覆われていて周波数をとらえられないということだ。

 

「探し物なら占い婆に占ってもらうといい。占い歴500年の大ベテランじゃ。」

 

「どこにいるんですかその占い婆という方は。」

 

「西の都の先の地域じゃ。ほれ、そこの地図もって行ってくるといい。」

 

ドラゴンボール探しにいやな思い出でもあるのかウーロン、ブルマはカプセルコーポレーションに戻ることにし、亀仙人も亀ハウスに残ることになり、ヤムチャ、プーアル、クリリン、悟空、そしてライが一緒に行くことになった。道中悟空の道着を買い替える際にウパを迎え占い婆の屋敷に向かう。

 

 

「これからお前たちには5人で1対1の勝ち抜き戦をやってもらう。全員に勝てたら無料で占ってやろう。」

 

占い婆の屋敷で占い婆からそのように言われる。それなら大丈夫だと余裕を見せる一行だったが、ドラキュラマンに先鋒のクリリンをやられてしまう。

 

「ウパ君、あいつと戦ってくれませんか。あいつの弱点を利用すれば簡単に勝てる相手だと思うんだ。」

 

ライもヤムチャも、もちろん悟空もドラキュラマンに負けないだけの実力はある。しかし、クリリンも負けてしまった現状、リスクはとらずに戦おうとしての選択をした。

 

「ウパ一人で大丈夫かな。まだ小さい子供なのに。」

 

ヤムチャが心配して舞台に上がるウパを見つめる。

 

「大丈夫ですよ。クリリンさんとの戦いを見る限り完全にドラキュラでしょう。コウモリの特性も持っているかもしれませんけど、コウモリはニンニクや十字架が得意というわけではないですし。」

 

「そうか、そうだよな。ウパ!必ず勝てるぞ、がんばれよ。」

 

「では、試合始めじゃ!」

 

占い婆の合図を聞いてドラキュラマンが突撃してくるがライの合図でウパがニンニクのにおいをかがせる。

 

「うぎゃー!き、貴様ニンニクを食べたな~。」

 

苦しむドラキュラマンにウパが追撃のごとく息をかがせる。たまらずコウモリになり後ろから攻めようとしてくるがそこでウパが十字架のポーズをとった。

 

「ぎゃあああああ!」

 

十字架のポーズをとったウパからコウモリのすがたになって逃げだした。

 

「逃げた!!」

 

ドラキュラマンが空中に逃げ出したがウパは追撃ができず、ドラキュラマンも接近できない状況が続く。

 

「あの審判、この試合引き分けにして両者敗退扱いではだめでしょうか。」

 

「む、確かにそうじゃな、このままでは日が暮れてしまうしの。それでは意味がないからな。ようし、両者引き分け!」

 

ライの提案を占い婆が引き受けこの勝負引き分けとなり、2人目の刺客と戦うことになった。

 

 

「冗談やってないで早く二番手の戦士を出してくだ さいよ。」

 

ヤムチャがなかなか出てこない戦士に出てきてもらうよう占い婆に催促するが占い婆は不気味に笑い言い放った。

 

「はははは、見えないか、そうじゃろうな。透明人間のスケさんじゃ。」

 

「わあぁ、透明人間ですか!一度会ってみたかったんですよ。ぜひ握手してください。あれ、手どこかな。ウパ君も来てみなよ。透明人間に会える機会なんてそうそうないよ。」

 

初めてみる透明人間にライは少しテンション高めに言う。

 

キョトンとしているウパを少し強引に呼び出し、2人でスケさんと握手を交わす。

 

「あの、ライさん。透明人間ってそんな凄いものなんでしょうか。」

 

「それはもう凄いよ。見てればその凄さが分かるんじゃないかな。もう試合が始まるし、すぐ分かるさ。ヤムチャさんが負けるなんてそうそうないから、大したことないように見えるかもしれないけどね。」

 

そう言いながら舞台から降りてヤムチャを応援しようと舞台に向き直る。

 

「それでは試合始め!」

 

「ふふふ、それじゃあ凄いとこ二人に見せちゃおうかな。」

 

スケさんがそういうと、ヤムチャにするどい攻撃を仕掛ける。

 

「や、ヤムチャ様!」

 

プーアルが心配の声を漏らすがどうにもならず、攻撃を一方的に食らう展開が続く。

 

「相手が見えなきゃ、どうしようもない。少しでも見えれば…そ、そうだ!」

 

「悟空、武天老師様とブルマさんを連れてきてくれ、早く!!」

 

クリリンが悟空にブルマと武天老師を連れてくるように言う。舞台の上でヤムチャは戦いの中で透明人間のわずかな動きを探ろうとしていた。

 

「相手が動く時のわずかな気配で動きをつかむしかない。」

 

宣言通り、スケさんの動きをつかんで攻撃をかすらせるが、占い婆が歌い始めたことでまた一方的な展開になった。

 

「審判!歌うのをやめてください!審判は平等でないといけないでしょう。それは透明人間に有利になる行為です。」

 

「ふふふ、確かにそうかもしれないのう、では、ドラキュラマン!」

 

占い婆は歌うのをやめてドラキュラマンを観戦させようとした。

 

「これじゃあだめか、できれば一人で勝ってほしかったけど…ヤムチャさん右腕!」

 

「!やっ!」

 

ライの声を聴いてヤムチャが攻撃する。

 

「左脚、左手、右前、正面、左手!」

 

「やっ、とうっ、えい、はっ、はいーー!」

 

すべてが当たるわけではないが、いくつかの攻撃が当たるようになっていく。

 

「ライ、お前、透明人間が見えるのか⁉」

 

クリリンが驚いてライに問いただす。

 

「見えてませんけど、私、人より鼻がいいんで、匂いをたどっているんです。スケさん匂いもしない無臭戦士だったので、ウパ君に握手してもらってニンニクの匂いをつけてもらったんです。それで相手の位置をさぐってます。…真後ろ、左前、左脚、右脇!」

 

徐々にスケさんを追い詰めて行き、スケさんが白旗を上げて勝負がついた。

 

 

「あ、あれもう決着がついちまったのか?間に合わなかったのか。」

 

スケさんが負けて決着がついてすぐに悟空が亀仙人とブルマを連れてやってきた。

 

「いや、ライの機転でヤムチャが勝った。俺の作戦は使わなくてよくなったから、武天老師様とブルマさんには悪いことしちゃったな。」

 

クリリンがばつの悪そうな顔でいう。

 

「そうよ!私カプセルコーポレーションに帰る途中だったのにさ」

 

「わしもじゃ。帰ってビデオでも見ようと思っとたのに急に連れ出されて何事かと思ったぞ」

 

ブルマと亀仙人がクリリンに向かって文句を言う

 

「申し訳ありません。武天老師様、ブルマさん。」

 

「まあよい。せっかくじゃから悟空がどの程度戦えるのか見せてもらおうかの。あのライという者も気になるしの。」

 

「私もせっかくだから見ていこうかな。ヤムチャが戦うみたいだし。」

 

2人とも雑に悟空に連れてこられた割には怒っていない。悟空の無茶には二人とも慣れてしまったのだろう。そうそうにクリリンを許し、三人目の戦士との戦いの場である悪魔の便所に移動した。




今回も戦闘力紹介はなしです。一週間で戦闘力は上昇してますが戦闘描写がヤムチャのVSスケさんだけなので今回は見送ります。


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(第五話)悪魔の便所

誤字脱字等あればいつでも何話に対してでもご指摘ください。読まれている実感があって嬉しい物なのです。まだ指摘受けたことないのできっと多分、そうに違いないという願望ですけど。


「ま、まさかここで戦うのか⁉」

 

悪魔の便所はヤムチャやライ、クリリンはもちろん悟空ですら面食らう場所であり、落ちたら死亡といったサバイバルバトルの様相を呈してきた。

 

「一千万ゼニーのために命までかけるなんて。バトルを見るのが趣味といっても限度があるでしょうに。悪趣味なばあ様だ。」

 

ライが嫌悪も露わにそう言い捨てる。

 

「ヤムチャさん、死なないでくださいね!命があればこそです。あなたはまだまだ強くなれるんですから。」

 

「もちろんだ、負けるつもりは毛頭ない。全員に勝って生きて帰る。」

 

ヤムチャは短期間で急激な成長を遂げた。それが自信になっていたのかもしれない。ライがいざとなったら降参してくださいという真意を汲まずただの応援と受け取ってしまった。

 

「いでよ!戦う干物ミイラ君!!」

 

占い婆が何事か呪文を唱えてそういうとミイラ男が現れた。

 

「それでは試合開始じゃ!!」

 

試合開始の合図があってもミイラ男は悠然と立ちっぱなしで構えをとるヤムチャを見据える。それをみてパワータイプと思ったヤムチャがスピードと技を活かした攻撃を仕掛けるが、逆に後ろをとられて攻撃を繰り出される。

 

ひゅ!ひゅ!ひゅ!

 

ヤムチャは紙一重のところで攻撃をかわしていく。ミイラ男の動きは素早さに任せた攻撃のようで、技量で足りない速度を何とか補っていた。

 

「いまだ‼」

 

ヤムチャが攻撃の合間を縫って攻撃しようとするが逆に肘の攻撃を受けそうになりしゃがんで無理やり回避する。落ちないためには最良の選択肢であったが大きな隙を生む動きであり、ヤムチャは渾身の蹴りを食らって悪魔の像にたたきつけられる。

 

「ぐっ」ドン!

 

「降参しろ、お前と俺の実力差は歴然だ。どう頑張ったところでお前じゃ俺には勝てない。」

 

「な、なんだと。そこまで言うのなら見せてやるぜ。奥義・狼牙風風拳をな。」

 

ヤムチャは狼牙風風拳の構えをとり、ミイラ君に向かっていく。ライとの修業でパワーアップしたヤムチャから放たれる狼牙風風拳はミイラ君でも躱しきれるかどうかのぎりぎりのラインまでは昇華した。

 

「はいはいはいはいはいーーー」

 

ヤムチャの高速の連撃は躱され続けたが、連撃のうちの一撃が入った瞬間次をよけきれる余力がなくなりミイラ君は狼牙風風拳を食らう。

 

「はいはいはいはいはいーーーはーーーー‼」

 

止めの一撃をヒットさせミイラ君は後ろに吹っ飛ぶ。

 

「どうだ、貴様ごときがこの俺に勝とうだなんて100年早いぜ。」

 

ヤムチャが自信満々に言うが…

 

「ぐへへへへへ。今の連撃はなかなかのものだったぞ。俺でさえ避けきれなかったほどの高速攻撃とはなあ。」

 

「ば、ばかな。狼牙風風拳を食らっておきながら平然としてるだと。」

 

狼牙風風拳の真価は素早さにありパワーではない。しかしヤムチャほどの達人から放たれる拳は相当な威力を誇る。

 

「何千年と生きているんだ。この包帯は鋼鉄のように固い。そう簡単に俺にダメージを与えることはできないのさ。」

 

「そ、そんなのありかよ。」

 

ヤムチャが愕然としながらそうこぼす。

 

「今のが最大の技なんだろう。降参を勧めるぜ。お前では俺を傷つけることすらできない。」

 

降参の勧告にもヤムチャは屈せずに強気でいう。

 

「お前を傷つける必要はない。貴様を落とせば勝ちだ。最も、お前にダメージを与えることもあきらめちゃいないがな。」

 

ヤムチャの強気な宣言とは裏腹にミイラ君はヤムチャを追い詰めて行く。狼牙風風拳は見た目ほど消耗しないがそう何度も繰り替えせる技ではない。

 

「ぐぁ、うっ、ごふっ」

 

内出血で青あざだらけになりながらもまだヤムチャの闘志は消えはしない。ブルマやプーアルの静止も聞かずひたすら敵に向かっていく。

 

「悟空さん。ヤムチャさんが落ちた時に助けられるように如意棒を構えておいてください。もうミイラ君の心ひとつで落とされます。」

 

ライが厳しい顔をしている悟空にそう言うが

 

「ああ、もういつでも助けられる。」

 

悟空も危険を感じ取りいつでも助けに行けるようにしていた。

 

「そろそろ終わりだな。そらっ。」

 

ボロボロになったヤムチャを投げ捨ててしまったところを悟空が助け、この試合は終結した。

 

 

「悟空さん、次は私に行かせてください。ヤムチャさんをあそこまで傷つけたやつを私は許せない。」

 

「!分かった。次はおらの順番だったけど、おめえに譲ってやる。ぜってえ負けんなよ。」

 

悟空は1週間一緒に修業していたというライの怒りを汲んでそういった。

 

「ミイラ君、あなたは絶対に負けません。」

 

「お前もあんな風になりたくないだろう。諦めて帰った方がいいんじゃないのか」

 

ミイラ君がライにそう煽る。集中力を切らし優位に進めようとする彼の戦法だ。何百年と生きている彼には武技こそ隙が多いが、敵のリズムを崩して戦うやり方はとんでもない知識と経験があった。

 

「あなたごとき今の私でも十分です。ヤムチャさんの無念、受けてみなさい‼」

 

戦いの火ぶたが落とされた。

 

「はああ!」

 

ライはヤムチャ相手の時と同じように構えをとらないミイラ君に対して向かっていく。ヤムチャと似た動きをしたからだろう。ミイラ君はライの後ろをとるように回り込み同じように攻撃を仕掛ける。

 

ひゅ!ひゅ!ひゅ!

 

ライもヤムチャと同じように攻め、同じようにミイラ君のつくった誘いに乗り肘打ちをしゃがんでかわし、けりを食らって後ろに飛ばされた。

 

「狼牙風風拳‼」

 

ライはすぐに体制を立て直すとヤムチャの必殺技を使ってミイラ君を追い込んでいく。

 

「はいはいはいはいはいーーー」

 

ヤムチャよりも鋭く素早い狼牙風風拳は確実にミイラ君にヒットしていった。

 

「はいーーー!」

 

止めの一撃を放ち、ミイラ君を吹っ飛ばし、ミイラ君は後ろの悪魔像にぶつかる。

 

「お前はさっきのやつよりはやるようだな…だが、お前の攻撃も俺にダメージを与えることはできない。」

 

「あなたを傷つける必要はない。あなたを落とせば私の勝ちだ。」

 

ライはヤムチャの行動をなぞるように言っていく。

 

「さっきからあいつの焼き増しか。あいつと大差ない実力で同じ動きをして勝てるわけないだろうに。あいつと同じようにボロ雑巾になった後助けてもらうといい。」

 

そう言うとヤムチャに対してやった動きと同じように動いていく。ライはヤムチャとは違い、攻撃を避け受け流し、相手に攻撃を仕掛けていく。

 

「ほう、あいつと違ってそのスピードを継続できるのか。体力だけはあいつとは違うようだな。」

 

ミイラ君の煽りを無視して無言で攻撃を捌いていった。

 

 

「ライのやつどうしちまったんだ。どうしておもりを外そうとしない!全部で40kgはあるんだぞ。」

 

ヤムチャがライを見て不思議そうにまた焦ったようにそうこぼす。

 

「なんと!ライはそんなハンデを負いながら戦っているというのか。しかし動きは天下一武道会の時と比べても遜色ない動きじゃぞ。」

 

亀仙人がそういうもヤムチャがすぐにその理由を答える。

 

「多分あいつは狼牙風風拳を応用させた技、狼牙追風拳をつかっているんだと思います。一週間一緒に修業して狼牙風風拳を自分のものにしたんです、狼牙追風拳を使いこなせるようになっているのも当然だ。これならスピードはミイラ君に肉薄できるはずです。ですがそれだとパワーが足りないはずなんです。あいつ一体どうしてそんなことを…」

 

「ふむ、なるほどのう。」

 

ライがおもりを外さないのはヤムチャの敵討ちだからであろう。おもりを外さないライはヤムチャとほぼ互角の速さ、力となる。やり方次第ではヤムチャの実力で充分ミイラ君に勝てると証明したいのだろう。

 

 

(時間をかければこっちは狼牙追風拳を使っている分不利だ。短期決戦にしか勝機はない。威力ではなく衝撃だ。衝撃で相手を落とす。)

 

ライは相手を落とせるような位置取りをしようと試みるが今のライはミイラ君についていく程度の速度しかない。思うように有利な位置をとれず、いたずらに時間がたっていった。

 

「ふふふ、持久戦で俺と体力勝負を仕掛けようとしているのだろうが無駄だ。俺は疲れを感じない。ミイラだからなぁ。」

 

ミイラ君から見たらライは体力だけ異様に高い相手だ。ライが体力勝負をしていると考えるのはある種当然といえる。

 

(仕方ない。一撃受けて相打ちでカウンターを狙う!)

 

ミイラ君がとどめの一撃を打つ瞬間を狙いその攻撃を誘導するように動く。徐々に攻撃をわざと受けていく。位置取りを調整して悪魔の舌の際に追い詰められていく。動きが鈍くなったように錯覚させて最大の隙が生まれる瞬間を狙っていく。

 

「自分の力を過信しすぎたようだな。これで、終わりだぁ!」

 

(ここだ!)

 

ミイラ君がとどめの一撃を放つその瞬間、攻撃を受け流すように後ろに倒れこみながら足払いをかける。

 

「な、なんだと。」

 

ミイラ君は悪魔の舌からライの足払いによって落ちていく。一方ライは舌に手をかけて落ちることを回避した。

 

「自分の力を過信したのは、あなたの方だ‼」

 

ライがそう言い放つもミイラ君は不敵に笑い自分をまいている包帯を少しほどきさしずめターザンのように滑空する。そのミイラ君の動きを見て若干驚いた風のライであったがミイラ君が壁を足場に復帰し始めた直後に追撃を仕掛け始める。

 

「な、貴様、今俺に追撃すれば下手したら一緒に落ちて死ぬんだぞ!!」

 

ミイラ君が壁を蹴り復帰しているさなかライに気づいてそういう。真下には足場はなくミイラ君を落とせても自分も数秒後に同じ末路をたどる行為だ。

 

「相打ちなんて最も愚かな勝ち方の一つだ。そんな方法私はしない。」

 

ミイラ君がまさかのライの行為に動揺して対応できない中ライはミイラ君を猛毒の沼に向かって蹴り落とした。

 

「悟空‼」

 

「分かった!」

 

落ちていくミイラ君を悟空が如意棒を使って助ける。一方のライはミイラ君が一度目の復帰に使った包帯を握って落ちるのを回避していた。

 

「私の勝ちですね。」

 

「まつんじゃ!ミイラ君は自力で復帰できるのじゃ。悟空が助けなくてもよかった。試合は続行じゃ。」

 

占い婆が悟空が助けたことに文句を言うが、ライは冷静に返す。

 

「頭を打ちました。数瞬は意識を失ったはずです。悟空が助けなければ溶けていたでしょう。」

 

「その通りです。悔しいがそいつの言うとおりです。申し訳ありません。占い婆様、私の負けです。」

 

占い婆が待ったをかけるがミイラ君が負けを認め第三試合は決着を迎えた。

 

 

「対して強くないガキだと思っていたがなかなかどうして、機転はきくようだな。ここまで来たことは褒めてやりたいがいずれにせよここで終わりだろう。あんたの出番は来ないと思うぜ。五人目の相手は未知数だが、四番手があの実力じゃあ五人目も知れてる。」

 

「ふふふ、あのライという少年、そんな程度ではなさそうじゃぞ。あの身体能力にしては体力がありすぎる。何か枷をつけている可能性もあるじゃろうな。気を付けなされ。足元をすくわれないようにな。」

 

「あんな戦い方をされちゃあ油断はしねえさ、だからこそあいつに勝ち目がないということでもあるがな。まあゆっくり見ていてくれや。」

 

戦いを見ていた四人目の戦士アックマンと五人目の戦士狐面の男がそう話していた。最初から油断なく来る相手を崩すのは容易なことではない。

 

 

「よーし四人目の戦士じゃ。アックマン頼んだぞ。」

 

占い婆がそう呼ぶとまさに悪魔といった容貌の人物が出てきた。

 

「それでは始め!」

 

「お前も私の故郷に連れて行ってやろうか。」

 

アックマンが羽ばたきながらそうこぼす。

 

「あなたの故郷ですか。あの世なんて言いませんよね。」

 

「そんな甘っちょろいことは言わない。地獄に連れてってやるってことだ。」

 

アックマンがそういうと急降下して接近してくる。それに合わせて後ろにバックステップをとり回避するもすぐに追撃を受ける。

 

「どうした。先ほどのスピードさえも出ていないじゃないか。俺はミイラ君より強い。死にたくなければ本気で来るんだな。」

 

(この人は強い今まで戦ってきた中で最強の武闘家、ジャッキーさんよりも強いかもしれない。)

 

「失礼しました。こちらも全力で相手させていただきます。」

 

ライはそう言ってつけていた重りを外す。

 

「では、行きます!」

 

ライはそう言って突撃する。アックマンは様子見のつもりなんだろう。ライの攻撃を腕で防御しつつ受けた。

 

「ほう。貴様ミイラ君に迫る実力は持っていたようだな。戦力差でいえば今までのお前とミイラ君くらいの差になったかもしれんが、俺は奴ほどは甘くないぞ。」

 

ヤムチャくらいのパワーとスピードでミイラ君を倒した実績を考えれば今の全力のライがアックマンに勝つことも不可能ではないように思う。しかしアックマンには羽があり、落ちることがない以上負けることはないと考えていた。しかし彼は思いのほか苦戦することとなる。

 

「はいはいはいーーー!」

 

ライが狼牙追風拳を使ってアックマンより早い速度で攻撃を打っていく。今のライのパワーはアックマンには及ばないもののダメージは普通に通るくらいのパワーは持っていた。

 

「ぐっ、うっ、ぐわっ!」

 

ライの素早い連撃にさすがのアックマンも押され始める。とらえられない速さではないがこうも連続で撃たれると回避しきるのは簡単ではない。

 

 

「ライのやつあのアックマンを押しておる。まさか、技ひとつでここまで変わるとはのう。」

 

亀仙人が感心してそうこぼす。

 

「いえ、確かにライは強くなりましたが狼牙風風拳はそんなに連続して出せる技ではないのです。ライは相手からの攻撃がほとんど受けずに戦えていますが、もう相当疲れているはずです。ライはかなりやせ我慢してるんじゃないか。」

 

狼牙風風拳を編み出したヤムチャはライの状況をそう評価する。そしてその評価は当たっていた。

 

 

(これ以上長引いたらもう速さを維持できなくなる!ボロが出る前に決着をつけないと…!)

 

ライがひそかに決意し、より激しく攻撃を繰り出す。その激しい猛攻に耐えかねてアックマンが一度羽ばたき距離をとった。

 

「き、貴様まさかこれほどの実力を持った戦士だったとはな。いいだろうこの俺の必殺技アクマイト光線を食らわしてやる。」

 

そう言って羽を広げ手で三角マークを作る。

 

「どんなに良い子ぶったやつにも必ず絶対少しは悪の心がある。例えば、凄いやつをねたんで悪口をいったり、仲間を傷つけられて相手を必要以上に叩きのめしたいと考えてしまったり、そのどんなに小さな悪の心でもどんどん膨らませて行けば爆発を起こすのだ。ふふふ、どうだ。恐ろしい技だろう。お前はこの技で木端微塵になるのだ。」

 

「まて、アックマンそこまでせんでも!」

 

占い婆が焦ってそう声をかける。場外に落とされても悟空が助けるという安心があったが、アクマイト光線では確実に死んでしまう。焦ってしまうのも無理はないのだろう。

 

アックマンは両手の人差し指と中指を立てておでこにもっていった

 

「ハアアアアアアアアア」

 

高い声で叫びながら発射準備をする。

 

「これでおわりだな。さらばだあ」

 

ついにアックマンから放たれたアクマイト光線は渦巻き状にライに向かっていった。




1週間の修業後
ライ(重り~通常)60~95
ヤムチャ57
重りによる戦闘力低下はパワーとスピードのみで体力は95のまま
狼牙風風拳を使うと戦闘力1.5倍相当のスピード、1.1倍相当のパワーを得る。
重りや狼牙風風拳の仕様は独自設定です。ついでに1.3倍ルールも意識して戦闘力を調整しています。


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(第六話)アクマイト光線の真価

フラグというか伏線というかをいくつか散らしていますが回収するかはまだ分かりません。回収したいとは思ってますができなかったら番外編送りにして強引に回収しようかな。


容赦ない光線がライを襲うがすんでのところでライは光線を躱した。

 

「悪の心とやらには覚えがないですけど、そんな怪しげな光線食らうわけにはいきませんね。」

 

その発言自体が後ろめたさの表れなのかもしれない。

 

「ふ、恐れているな。悪の心の存在を白日のものとされるのが。だが恥じることはない。今までこの攻撃を食らって生きていたやつはいない。みんなが悪の心を持ってるということだ。」

 

アックマンが自分の技に絶対な自信をもってアクマイト光線を再び放つ。

 

「その光線はそこまで早くない、避けることもそう難しくはないです。」

 

狭いフロアでありながらうまく躱すライに不敵な笑みで三度アックマンがアクマイト光線を放った。

 

「よっ」

 

ライが横に回避したと瞬間急にアクマイト光線が()()()

 

「なっ」

 

急なことに驚き回避が遅れついにアクマイト光線がライにあたってしまう。

 

「うわっ、ううう。」

 

ライの中で悪の気が充溢していく。ライの体が爆発しそうになる直前アックマンがライに向かって声をかけた。

 

「さあ、降参しろ。この攻撃を受けた者はしばらくの間俺の意のままに悪の気を増やせる。俺があと少しその気になればお前は爆発して死んでしまうのだ。占い婆様が止めなければ情けをかけたりはしないが特別だ。」

 

アックマンがそう忠告する。

 

「な、なるほど。まさかこんな奥の手があったとはな。だが、しくじったな。今の()はお前より強い。お前は下手な優しさを見せず私を殺しておくべきだったんだ。」

 

ライはそう言うと目にもとまらぬ早業でアックマンに急接近しアックマンを一撃のもとに気絶させた。

 

「馬鹿め。これで終わりだ。じゃあな。」

 

そういうとライは猛毒の沼に蹴飛ばそうとする。が、その時ライをまとっていたピンクのオーラが消えた。

 

「!私は何を。」

 

増えた悪の気がもとに戻りライはもとの強さに戻る。同時に攻撃の手を止めた。

 

「この勝負ライの勝ちじゃ。」

 

いつアックマンが落とされるともわからなかったのか焦ったように占い婆が宣言した。

 

 

「まさかこちらの方が先に最後の戦士を出すことになるとはのう。じゃが、最後の戦士はこちらの切り札じゃ。すぐに決着をつけてしまうじゃろう。」

 

占い婆が不敵にそう言い放ち最後の狐面の戦士がライの前に出てきた。

 

「やあ。」

 

狐面の戦士はのんきな雰囲気で挨拶をする。

 

「…どうも。」

 

(この人アックマンよりも強いんじゃないか。どうしてこのご老人の周りにはこんな戦士がそろうのだろう。)

 

「ほほほ、それでは試合開始じゃ!」

 

占い婆が余裕の笑みで試合開始を宣言した。

 

「では、よろしくお願いしますぞ。」

 

狐面の戦士はそういって礼をする。ライも彼に倣い礼をして戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

(この人は一体どうなってるんだ。一見ただの老人にしか見えないのに。)

 

ライが恐れ慄きながらも全力で向かっていく。

 

「やあああああ!」

 

今のライには連戦の疲れもあり狼牙風風拳を使って戦えるだけの余裕が無かった。ライの限界を相手も見抜いたのだろう。一瞬でライの後ろに回ると首筋を手刀で一閃し決着をつけた。

 

「ぐっ」

 

「勝負ありじゃな。さあそちらの最後の戦士を出すがよい。」

 

 

「ま、まさかライがあんなにあっさりとやられてしまうなんて。」

 

クリリンが愕然としてそういう。

 

「連戦の疲れが出たのじゃろう。さっきのライはアックマンと戦っていたときと比べてだいぶ動きがわるかった。しかしライはよくやったじゃろ。わしでもあの二人の戦士との連戦は厳しいじゃろうし。」

 

亀仙人がそのように分析する。

 

「なるほど。そういうことでしたか。悟空大丈夫だ。あの爺さんはものすごく強いけどライは全力をだせなかったみたいだし、悟空なら勝てる。」

 

クリリンが悟空を気遣ってそういった。

 

「大丈夫だクリリン。おらも武闘会から相当強くなった。ウパも心配すんなよ。ちゃんと勝ってウパの父ちゃん生き返らせてやるからな。」

 

悟空が力強く宣言し舞台に向かうと狐面の戦士に耳打ちされていた占い婆が悟空に向かって言った。

 

「最後の試合はお互い全力を出せるように闘技場に戻って戦うこととする。悪いがもう一度移動してもらうぞ。」

 

 

「ライ大丈夫か。俺が不甲斐ないばっかりに無理させてしまってすまない。俺がミイラ君を倒せていればお前もあいつと全力で戦えたのに。」

 

意識を取り戻し闘技場に戻るときにヤムチャがライにそう言った。

 

「いえ、ヤムチャさんは十分頑張りましたよ。それにあの人とは全力で戦ったところで勝てません。レベルが一つ違います。だからそんな顔しないでください。それよりも次の試合は要注目ですよ。どっちが勝つか見当もつかないんですから。」

 

すまなそうにするヤムチャにライはそう声をかけた。

 

 

悟空と狐面の戦士こと孫悟飯っとの戦いは孫悟飯が降参したことで幕を閉じた。

 

「じっちゃ~ん」

 

狐面の男こと孫悟飯が参ったといって正体を明かすと悟空は瞳に涙をためて駆けて行った。

 

「すまんな、しっぽを鍛えろと口酸っぱく言っておったのに鍛えてなかったようじゃから厳しく戒めてやろうと思ったんじゃが、力が入りすぎちまったようじゃ。痛くないか?」

 

「もう平気だ。全然痛くないぞ」

 

悟空はそう言うが体の一部がとれて痛くないはずがない。久々の肉親を前に喜びが痛みを超越しているのだろう。

 

「悟空もまだ子供ですからね。私は父さんがいますけど、彼にはいないんですから、それは嬉しいでしょう。」

 

「いくら強くても子供は子供だしな。泣いてしまうのも無理もないよ。そういえばあいつ()()()()()()()()()()()()()()()っていってたんだけど、どうしてここにいるんだろう。」

 

ヤムチャがそう疑問を口にする。

 

「大猿に踏まれるとは…因果なものですね。」

 

ライがそうこぼすと占い婆が来て言った。

 

「孫悟飯がここにいる理由はわしが説明してやろう。わしはそもそも自在にあの世とこの世を行き来できるのじゃ。その能力を利用して死んだものを一日だけ現世に呼び戻すことができるんじゃよ。」

 

「へぇ~ばあちゃんはすげえんだな。」

 

悟空が感心してそう言った。

 

「ところで老師様、悟空は大猿になったりはしてませんかな。」

 

「安心せい、わしが月を壊してからは平和そのものじゃ」

 

孫悟飯が心配してそう言って亀仙人に確認をとった。唯一の心配だったのだろう。安心した表情で亀仙人の返事を聞いた。

 

「良かったなウパ、これで父さん生き返らせることができるぞ」

 

クリリンがウパに声をかけるがウパの表情は優れない。

 

「悟空さんのおじいさんが死んでしまっているのに父上ばっかり生き返らせてもらうわけにはいきませんよ。」

 

「なに、わしのことは構わんでいい。ぴちぴちギャルもあの世にたくさんいるしの。あの世でも楽しくやっておるのじゃ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

ウパが申し訳なさと嬉しさの混じった顔でお礼を言った。

 

「では皆さん、わしはもう時間なのでお暇します。ごきげんよう。」

 

しばらく悟空や亀仙人と再会を喜んだあとそう言ってあの世に帰っていった。

 

 

悟空が最後のドラゴンボールを集めてウパと一緒にカリンに向かって行ったときヤムチャが真剣な顔で亀仙人の声をかけた。

 

「老師様どうかわたしを弟子にしていただけないでしょうか。今回の件で私の実力のなさを痛感しました。是非老師様の元で修業を」

 

「だめじゃ、わしはすでに二人も弟子を抱えておるのじゃ。これ以上は手に負えんよ。」

 

「お願いします!どうしても老師様のもとで修業したいのです。」

 

ヤムチャが必死にお願いすると思わぬ援軍が入った。

 

「亀仙人さん、私からもお願いします。彼とは1週間一緒に修業しましたが素晴らしいものを持っています。是非弟子にしてあげてください。」

 

「そうよ、こんなに必死になって頼んでんじゃない。ケチなこと言わないで弟子にしてあげなさいよ。」

 

ライは彼の秘めたる才能を見て、ブルマはミイラ君と戦っているときの必死なヤムチャの姿を見てそれぞれ思うところがあったのだろう。

 

「け、ケチとはなんじゃ。わしにはわしの考えがあってじゃな。」

 

亀仙人はそう言って弁解するがここでブルマはさらなる秘策で追い打ちをかける。

 

「あーあ、そうなったら私も時々遊びに行くのになあ。新しい水着着て泳ぎたいなあ。」

 

その発言を耳にし、ヤムチャの肩に手を置いて亀仙人が言った。

 

「おい、いつからくる?今日でも明日でも構わんぞ。」

 

あまりの変わり身の早さに亀仙人とヤムチャを除く全員が盛大にずっこけた。

 

「いてて…あまりの変わり身の早さですね。俗物的なのも長生きの秘訣なんですかね。」

 

あきれ半分感心半分でライが言うと亀仙人がこう返してきた。

 

「お主はどうじゃ。ヤムチャと修業していたんじゃろう。この際じゃ。お主もわしの元で修業してみんか。」

 

「…私は結構です。確かにあなた様の元で修業すればもっと強くなれるんでしょうけれど、同じことをしていては悟空には追い付けませんから。」

 

「そうか、それなら仕方ないのう。ではお主はこれからどうするんじゃ?」

 

「父さんの元に行って修業しようかと。父さんは今チャパ王と一緒いるみたいなので。3人で修業します。まあその前にカリン搭に登ってみようかと思ってますけど。」

 

「そうか、今のお前さんならカリン搭も登り切れるじゃろう。実り多き修業をするんじゃぞ。」

 

そういった話をしているうちに悟空が帰ってきて、ウパの父親は生き返ったという話を聞いた。

 

「それじゃああと一年たったらまたドラゴンボールを集める旅をするのか。」

 

クリリンが悟空に言うが悟空はにんまり笑って石ころを取り出してきた。

 

「じゃじゃーん。四星球だけ飛び散る前にゲットしたんだー。」

 

「じゃあもうドラゴンボール集めは二度としないってことか?」

 

「おう、また次の武闘会に向けて修業あるのみだ。」

 

悟空が力強くいう。

 

「そのことなんだがな悟空、俺も武天老師様のところで修業つけてもらえることになったんだ。」

 

「え、ヤムチャもか。賑やかになってきたなあ。一緒に頑張ろうぜ。」

 

「いや、悟空は別じゃ。お主はすでにかなりの腕前じゃ、じゃがまだまだ上を目指すのじゃろう?これからは世界中を旅していろいろな世界にいってたくさんのことを経験してこい。お前は旅の中でもっと強く

なってわしを驚かせてくれ。」

 

「分かった。じゃあもう行くぞ。爺ちゃんに婆ちゃん、達者でな。」

 

筋斗雲を使わないで世界中を旅することを軽く流した後悟空は一人で旅に出た。

 

「あいつ三年後はどんくらい強くなってるんだろうな。」

 

「想像もできんのう、殊、悟空は。」

 

亀仙人でさえどうなるか読めない悟空の行く末に思いをはせていると占い婆が亀仙人に耳打ちする。

 

「お前も弟子に負けてられんのう。師匠の意地を見せなくてはな。」

 

占い婆にそう言われて奮起した亀仙人は

 

「よーしわしらもせめて家まで走って帰るぞ!!」

 

と言いクリリン、ヤムチャがそれに続いて走っていった。

 

「ヤ、ヤムチャ様待ってください~」

 

プーアルも焦って追いかけていき残ったブルマは

 

「ちょ、ちょっと置いてかないでよ。ねえ私関係ないでしょーー!」

 

と、途方に暮れた。

 

「…ブルマさん、ポイポイカプセルは私が持ってるんで大丈夫ですよ。私はこれからカリン搭に行くのでここでお別れですけど、気を付けて帰ってくださいね。」

 

ヤムチャがミイラ君と戦うときに念のためとポイポイカプセルをライに預けておいたのだ。だからこそすぐに亀仙人を追ったのだろうとも考えられる。

 

「ライ…良かった~これで帰れるわ。ヤムチャったら私を置いていくなんてどうかと思ったけどちゃんと私のことも考えてくれてたのね。」

 

「何せ急に亀仙人さんが言い出したことですからね。それじゃあまた三年後武闘会場でお会いしましょう。たまに会いに行くかもしれませんけど、その時は亀ハウスに一緒に行きましょうね。」

 

「ええ、じゃあまたねー」

 

 

一人になったライもまたカリン搭目指して旅立とうとした。

 

「これ、そこのお主。」

 

まさに行こうとしたとき占い婆に呼び止められる。

 

「お主カリン搭に行くとか言っていたが、行った後わしのところに来る気はないか。お主のように実力以上に力をだせる戦士がいればほかの戦士にも精がでると思うのだがな。」

 

占い婆の誘い文句も事実だろうが、亀仙人の誘いを断ったことも誘った要因なんだろう。

 

「…分かりました、カリン搭の修業の後、お世話になります。」

 

「ほっほっほそれでよいのじゃ、ではお主が戻ってくるのを楽しみにしておるぞ。」

 

こうしてそれぞれ三年間の身の振り方が決まった。

 

「…次の天下一武道会までに修業が終われば…な」

 

占い婆の館を出発したライの後姿を見ながら占い婆がそうこぼした。




今回も戦闘力紹介はなしです。前にも書いた気がしますが、原作キャラの戦闘力はここに記載のない限りはとても非公式してるサイトの値です。そうそう、アクマイト光線は原作によるとボカン!といったら爆発する設定みたいなので自在に増やせるという設定にしました。この技原作だともう二度と出てこないのでこの作品では出したいなあ。でも一撃必殺…。うん、無理!


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(第七話)三年間の修業と天下一武道会予選

題名にZをつけておいて無印の話をするのはタイトル詐欺かもしれないですね。まあ一応意味があっての今の題名なので苦情が来ない限り変えませんけど。Zはこのペースですと、20話付近から始まる予定です。予定です。


カリン搭までは相当な道のりで道中もかなりの修行となったが、数ヶ月の後にはカリンまで着いた。

 

「カリン搭、思ったよりずいぶん高いなあ、全くてっぺんが見えない。悟空はこんなのに登ったのか。もう暗いし明日の朝まで休憩して朝一からチャレンジだ。文句を言っても始まらないですしね。」

 

野宿の準備をしていると声をかけてくるものが現れた。

 

「ライさん、ライさんじゃないですか!お久しぶりです。」

 

「ん?あ、ウパ君じゃないですか。そうか、ウパ君カリン出身って言ってましたね。」

 

「どうしてカリンに来たんですか?ひょっとしてライさんもカリン搭を?」

 

「ええ、次に会うときには悟空に勝てるようになっていたいのでまずはここを踏破しようかと。」

 

「でもでも、登り始めるの明日からでしょう?もう日が暮れますし、私の家で休んでいきませんか。歓迎しますよ。」

 

ウパがそういったのでライはご厚意に甘えることにした。

 

 

「こんにちは。ウパから話は聞いているよ、最後のドラゴンボール集めに手を貸してくれたんだとか。頑張ってくれたんだってね。ありがとう。」

 

「いえ、感謝されるべきは悟空ですよ、私の場合は成り行きみたいなもんでしたし。」

 

「ははは。謙虚なのは美徳だな。」

 

(この人も強いなあ。少なくともおもりつけた私より強そうだ。悟空は達人でも呼び寄せる気質でもあるんだろうか。)

 

話すウパの父ボラをみてライはそう思いながら食事を続けた。

 

「そうそう、ここに来たということはカリン搭を登るつもりなんだろう。私も若いころに挑戦したんだけどな、とうとう登りきることはできなくてな。私の分まで健闘を祈ってるよ。」

 

「あなたほどの達人でも登り切れなかったんですか。すごく高い塔なんですね。分かりました。全力で登っていきます。」

 

そうして夜は更けていった。

 

 

「いってらっしゃーい頑張ってくださいねー!」

 

ウパとボラに見送られライはカリン搭を登り始める。おもりがあっては登り切れないだろうとおもりはぽいぽいカプセルに戻しての挑戦となった。

 

 

登り始めて半日がたったころ、日は暮れているがまだてっぺんが見えない状況にげんなりとしながら登り続けた。

 

(悟空は4日で降りてきたって言ってたな。ってことは悟空の腕でも2日かかるってことか。まだまだ先が長い)

 

ライは超聖水がただの水であることを知らない。だから4日で降りたという計算から2日かかると勘違いしたのだろう。実際はあと半分強、ライが登りきる時は思ったより近い。修業を終える日はいつになるか分からないが。

 

 

(はあはあ、よ、ようやく着いた。思ったより速かったな。悟空何かおもりでもつけて登ったのかな。)

 

丸一日たち何とか登り切ったライは疑問も残しつつカリン搭を踏破した。しかそその安心感からかそのまま気絶してしまう。

 

「丸一日か、かつての悟空と同じくらいの速度か、こいつは期待できる奴だろうかの。」

 

カリン搭の主、カリン様はぶっ倒れたライを見てそうこぼす。ライの修業はこれから始まるのだ。

 

 

目が覚めてみると仙猫(せんびょう)のカリン様が見下ろしていた。

 

「半日寝こけてようやく起きたか。あと少し早く気を失っていたら死んでいたところじゃぞ、最もこの塔に挑戦して死んだやつは珍しくはないがのう。」

 

カリン搭は一定以上の実力と見識をもつ武闘家ならば誰でも一度は挑戦する塔である。一定以上がとんでもないレベルであるが挑戦する者は800年という歴史もあればある程度存在する。

 

「…あなたが仙猫カリン様ですね。私は…」

 

「ああいわんでよい。心を読ませてもらえばすぐじゃからな。」

 

数秒の間お互いに向き合っているとカリン様が言った。

 

「超聖水はあそこじゃ、わしのことは気にせず飲みたければ飲むがいい。」

 

「ありがとうございます。…では!」

 

ライはお礼もそこそこに全力で()()()()()()()()()()()()()

 

「む!」

 

即座にカリン様は身を伏せることによって攻撃をかわし、その後に超聖水を杖に引っ掛けた。

 

「いきなりわしに攻撃してきた挑戦者は今まで一人としておらんかったぞ。一筋縄では超聖水を得られないと勘付いたことは褒めてやるが…手段は褒められたものではないのう。」

 

「心を読めるってずるいですよね、不意打ちも何もない。あなたクラスに強くてもただの達人なら今ので超聖水をとれていたはずですのに。」

 

悟空が4日で戻ってきたという前例からライはこうなるだろうと予測して先手を打ったのだが、その目論見は仙猫には簡単に看破されてしまう。

 

「ふむ、お主半分無駄だと思っていながらわざとやったようじゃな。」

 

「失礼しました。しかし今ので確信しましたよ、超聖水は実は強くなる効果なんてないんでしょう?」

 

カリン様の挑戦者という言い方にそう結論付けたライは挑戦的に言う。

 

「じゃとしたらどうする、帰るのか?」

 

「まさか、私は強くなるために来たんです。超聖水はただの飾りでそれをとる行為こそが修業になる…ならば修業をつけてもらうだけです。」

 

カリン様が値踏みするようにライを見つめる。その時間は数秒だったのだろうけれどライにはとても長い時間に感じた。

 

「…お主頭も相当切れるようじゃな。仕方ない、修行をつけてやるとするかの。」

 

カリン様がそう言ったことにライは顔を綻ばせる。

 

「ありがとうございます。では、行きますよ!!」

 

しかしいざ行こうとしたときにカリン様から待ったがかかる。

 

「まずは基礎能力をもう少し鍛えろ、カリン搭の上り下り一往復、その豆を食ったら始めじゃ。」

 

「…」

 

 

一日と半日が過ぎたころライは何とか一往復を完走させた。

 

「お主無茶が好きなんじゃのう」

 

カリン様がライの姿を見てしみじみという。

 

「いえ、距離も効率の良い登り方も分かったので少し負荷をかけようかと思っただけです。」

 

そういうライの両腕にはおもりがついていた。

 

「お主はまだ若いんじゃからな。過負荷は身を滅ぼす、そんなに焦るでない。」

 

「別に焦ってるつもりはないです。父さんみたいに頻繫に変身できたわけでないのですから。」

 

「無自覚なのは幸運なんじゃろうな。じゃが今のお主は危うい。わしの実力をお主が超えるまで全力で鍛えてやろう。その危うさがなくなるようにな。」

 

こうしてカリン様によるライの修業の日々はその後第22回天下一武道会が開催されるまで続くことになる。

 

 

パパイヤ島に着きまずライは同じく天下一武道会参加するであろう父とチャパ王に会いに行った。

 

「父さん!!お久しぶりです。」

 

目当ての人を見つけ嬉しそうにライが駆け寄る。

 

「ん、おおライか、久しぶりだな、3年間ずっと音沙汰ないから心配したぞ。ブルマさんのところに行ったら一緒にいないのか逆に聞かれてからは心配で心配で。占い婆ってばあさんにライについて占ってもらったんだからな。」

 

ヤムチャと修業するということしか聞いていないスウにとって、ルミの忘れ形見でもあるライの所在が分からないということは本当に大変なことだったのだろう。声音は少し咎めるようだった。

 

「すいません、父さん、連絡くらいするべきでした。」

 

親がどれほど自分を心配していたかをライは正確には分からない。しかし、それでも悪いことをしてしまったと誠実に謝った。

 

「ははは、仕方なかろう、親の心子知らずとはよく言ったものだろうからな。スウも気苦労は分かるが”かわいい子には旅をさせよ”だ。さあ天下一武道会は明日だホテルでライの三年間でもゆっくり聞こうじゃないか。」

 

これまで沈黙を守っていたチャパ王がそう締めた。

 

 

「…と、私の三年間はそんな感じです。ほとんどカリン様のところで修業でしたね。おかげで相手の実力もある程度わかるようになったんです。最初に会ったときはびっくりしましたよ。父さんもチャパ王もかなり強くなってますし。」

 

「はっはっは、私も相当の修業をしたからね。でも、王はやめてくれよ。私は前回負けた時からもう一度天下一武道会で優勝するまで武術の王を名乗ることをやめたのだ。」

 

チャパ王改めチャパがそう言って明日以降の大会に闘志を燃やしていた。

 

「しかしカリン搭に登っていたとは驚いたな。確かチャパも昔挑戦したんじゃなかったっけ。」

 

スウが意外そうに言った。

 

「昔の話だよ、わしは登りきれたがそこまでだったからな。超聖水はとれなかった。だがとれなかったからこそ、徒手空拳を極めようと思い、今の私がある。」

 

「チャパさんも登ってたんですか。道理で前回大会でも猛威を振るったわけですよ。」

 

カリン搭はただ登るだけでも相当な修行になる。動きを読むといったことはできなくとも基礎能力は相当上がるのだ。

 

「そういえば父さん占い婆さんに会いに行ったって言ってましたよね。ってことは五人の戦士と戦ったんですか。」

 

「ん?ああそうか、1000万ゼニー用意しないといけないって言われたからな。クリリンとヤムチャに手伝ってもらって4人で何とか倒したんだよ。」

 

「それはすごいですね。並大抵の強さではなかったと思うのですが。」

 

「確かに並大抵ではなかったな。だから実は俺たち占い婆の戦士としてそこで修業もしていたんだ。」

 

「なるほど。そこなら父さんたちにも相応しい相手がたくさんいそうですね。お二人がこれだけ強くなるのも納得です。」

 

「俺達はお前ほどの伸びではないと思うがな。…さて明日は大会だしそろそろ寝るか。」

 

ライの自分を棚に上げた発言にあきれ半分でそう言った。

 

 

翌日予選会場に着き順当に予選を勝ち上がっていくライは見知ったメンバーに挨拶しに行く。

 

「ヤムチャさん、クリリンさんお久しぶりです。」

 

「おう、ライ、久しぶりだな。親父さんには会えたか?心配していたぞ。」

 

ヤムチャがスウを気遣ってそう言った。

 

「ええ、昨日は父さんにチャパさんと一緒にこの三年間ついて話してましたよ。二人ともすごく強くなってました。」

 

「げえっ、チャパ王も強くなってんのかよ。これは優勝は一筋縄ではいかないな。」

 

クリリンが強敵の存在にげんなりとしてそう言った。

 

「クリリンさんもヤムチャさんも相当強くなったみたいですね。雰囲気というか気で分かります。」

 

「そうか、お前カリン様とか言う仙猫様に修業つけてもらってたんだっけな。仙猫様に修業をつけてもらうとそんなこともできるようになるのか。」

 

ヤムチャが感心してそう言った。

 

「相対した相手じゃないと詳しい実力までは分かりませんけど、ある程度距離があっても強い相手なら力を感じることができます。」

 

「悟空もそんな風な様子だったな。全く優勝のハードルは高そうだ。今回は前回のようにはならんつもりだが、厳しそうだ。」

 

「そう言いつつお二人とも全然優勝諦めてないですね。」

 

2人の雰囲気を感じ取ったのだろう。ライがそう言って二人を茶化す。

 

「実力差はあっても勝てるってのを教えてくれたのはライだぜ?目指すは優勝、これは変わらないさ。誰を前にしてもな。」

 

「その通りです。」

 

ヤムチャとクリリンの様子にライは油断はできないと再度気合を入れなおした。

 

「それじゃあDブロックで試合があるのでまた。」

 

「悟空には会っていかないのか?」

 

「本選で会えるじゃないですか。くじ引きの時にでもまた来ますよ。まあお二人もそれは変わらないんですけど。」

 

武道会の予選は粛々と進んでいく。残酷なくらい粛々と。




今日はこの作品を酷評される夢を見ました。感想くれたとこまで正夢になって欲しいです。もちろん、批評であれば酷評も受け入れて直すつもりですけど。


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(第八話)二回目の天下一武道会

一話の題名ひっそりと変えました。変えたの既にひと月くらい前なんですけど。後々の展開を考えてのことです。本文に変更はありません。


「それでは150番と170番舞台に上がってください。」

 

第二十二回天下一武道会では悟空達亀仙流と天津飯たち鶴仙流が本選で戦えるように組まれた。しかし、亀仙流でなく、天津飯たちとも面識がないライとチャパは確率としては高くない、しかし無視できない可能性の果てに予選で戦うことになってしまっていた。

 

「貴方とは是非本選で戦いたかったのですが…全力で行きます!」

 

「仕方あるまい。トーナメントとはそういうものだ。私も君に三年間をぶつけよう。」

 

二人とも一言ずつ言葉を交わし、戦闘態勢をとる。

 

「はあああああ!」

 

「ほーーーーー!」

 

開始の合図と共にお互いに向かって行く。先に攻撃をしたのはライ、リーチの差はまだあれど素早さに勝るライは懐に飛び込んで攻撃を繰り出した。

 

ガッ!ヒュッ!

 

チャパは体躯とスピードの差から懐に飛び込まれるのを見越し、その拳を手のひらで防いでそのまま流れるような動きでチャパ有利の間合いを取る。

 

「くっ」

 

三年前悟空と戦いの対策はほぼほぼライとの戦いにも応用できる。流派は違えど悟空とライの体格差に大きな違いはなく、有利の間合いであれば多少の身体能力の差は打ち消される。

 

(残像拳!)

 

しかしライもそのまま相手のペースに乗り続けるような受け身な修業は積んでいない。残像を一つ生み出しそれを囮に距離を取ろうとした。

 

「甘い!」

 

しかしチャパは残像に惑わされることなく距離をとろうとしたライ本人に追撃をうちこんだ。

 

「まずっ…」

 

重ための拳をとっさに両腕でガードするが、すぐさま蹴りが放たれる。力を込めた一撃でさえもただの囮、本命は蹴り技である。

 

(狼牙風風拳!)

 

このままではまずいと思ったのだろう、ライは狼牙風風拳を部分的に使い両足の速度を上げて蹴りをすんでのところで躱した。

 

「八手拳!」

 

その速度の上昇にすぐにピンときたのだろう。チャパはすぐさま八手拳で応戦する。しかしそれをみてライの口角が上がる。八手拳をしようとしたそのわずかな初動を見切り八手拳による連撃が始まる前に距離を取ったのだ。

 

「先ほどの蹴りの回避、そして今の距離の取り方、どうも私の動きを気取られている感があるな。」

 

「気取るなんて、ただの予測ですよ。それに予測していても防げないことはあります。」

 

「最初に間合いを取り損ねたのはそういうことか。なるほど、力とスピードにおいてライに分があるようだが…経験は私が上だ。君には、負けない。」

 

チャパの言うとおり単純な力比べ速さ比べではライのほうが優れている。ほかに気を読めるために相手の動きをある程度読める点でもライのほうが大幅な有利をとれるはずの試合だった。しかしそうはなっていない。その理由が先の発言にすべて集約されていた。今までのあまたの対戦経験とライよりはるかに長い修業の日々は単純な力では測れない強さがある。二人は再び衝突した。

 

「くっ、はっ」

 

先ほどの打ち合いと打って変わり今度は逆にチャパが押される展開となった。二人とも小手調べをやめてお互いの技を駆使して戦っていく。そのために狼牙風風拳と八手拳の性質の差が如実に表れたのだ。全身レベルで速度を上昇させる狼牙風風拳と比較して八手拳は拳の速度が上がる技。さらにはライの動きを予測できるという点もこの状況下では大きく響いていた。しかしチャパも練り上げられたおのれの武技を駆使して対抗していく。本選をかけた予選決勝にして本選決勝戦かと見紛うほどの試合運びである。Dブロック後半ということで予選全試合の中最後の試合であり、ギャラリーは多く、悟空、ジャッキー、クリリン、ヤムチャ、スウ、天津飯、餃子といった武闘家でさえも目を離せない試合が展開していった。

 

「いや、本当に強いですね。分かっていたことですけど、本選で戦えないことが残念です。」

 

「同感だ。お主との戦いは本選が相応しい。こんなところで勝負とは残念だ。」

 

二人の戦いはさらに過熱していく。

 

 

「あの二人前回大会だったら優勝候補筆頭の組じゃろうな。」

 

試合を見ながらジャッキーチュンが言う。

 

「でも今は違う、と。」

 

ヤムチャがジャッキーチュンに尋ねる。

 

「わしも、悟空も三年前とは違う、それにお主も、じゃろ?」

 

試すように言うジャッキーにヤムチャも好戦的に返す。

 

「もちろんです。」

 

戦いは最終局面を迎える。

 

 

「はあはあはあ」

 

お互い本選に余力を残す余裕のある相手ではない。八手拳を酷使したチャパには限界が近づいていた。しかし狼牙風風拳の部分的な使用にとどめていたライにはまだ若干の余裕がある。このままではまずいとチャパは最後の一撃となるであろうという直感とともに全力で拳を振るった。

 

「おおおおお!」シュッ!

 

バン!

 

「ぐっ!」

 

その一撃は意外にもライに直撃する。チャパの全力の一撃がライの意識の隙を的確に突いた。その攻撃はチャパ王ほどではなくとも戦いで消耗したライを場外に吹っ飛ばすには十分なものだったようだ。

 

「場外!150番の勝ち‼」

 

凄まじい試合展開のわりにあっさりとした決着がついた。審判による勝どきが上がり場外で呆然としているライにチャパが手を伸ばす。

 

「今回は私の勝ちだ。良い試合をありがとう。」

 

「……完敗です。本選頑張ってください。優勝してくださいね。期待してますから。」

 

悔しさもあるのだろう。言葉を絞り出したライはそう言ってチャパの差し出した手を握った。

 

 

「負けてしまったか、ライ。」

 

ライにスウが声をかける。今のライに話しかけられるのは彼くらいのものだろう。

 

「ええ、父さんは本選出場ですよね。頑張ってくださいね。前回大会はベスト8だったので今回はベスト4以上!」

 

「無茶を言うなよ、お前ならわかってるんだろ?俺がジャッキーチュンに勝てないってさ。」

 

既に対戦相手は決まっている。スウは第二試合でジャッキーチュンとの試合だ。基礎能力も経験もスウでは及ばない。三年前のジャッキーチュンと比べてさえもだ。

 

「確かに勝ち目は薄いのは事実ですけど、でも!」

 

父親がやる前から負けを認めていることがライには受け入れきれないのだろう。気を読むことによって二人の実力を正確に望めるライでさえも。

 

「そんなことよりだ、俺はいや、()()()()()は武道会を全力で臨んでいいのか?」

 

スウの顔が険しくなりそのように聞く。

 

「…何のことですか?」

 

「とぼけるんじゃない。負け方が不自然だった。何か気になることがあるんだろう。修業してきた三年間の成果を試すことよりな。」

 

「私を買いかぶりすぎです。チャパさんが強かったってだけの話です。」

 

目つきを少し鋭くして聞いてくるスウにライはそう返す。

 

「お前が一人で何とかなる相手なら構わない。だが、早めに頼れ。遠くのやつの実力ははっきりとは分からないんだろ?」

 

「…はい。でも問題ありません。ちょっと驚いただけですから。」

 

親に子は敵わないものなのかもしれない。そう思いながら話を終えた。

 

 

(急に現れた大きな力、そしてすぐにまた同種の大きな力が2つ現れた。どういうことだろう。ここからじゃ得られるものに限りがあるけど…)

 

ライは予選決勝で感じた大きな力について考えをめぐらした。今のライではその力がどの程度のものか分からない。ヤムチャやクリリンクラスの力であれば地球上のどこでも感じることができるが実力者がいるとしか感じられない。結局、急に現れたことが引っ掛かったがそれ以上の思案はせず、武道会の応援に回ることにした。

 

ライはこの時の決断を後に深く後悔する。

 

 

「それでは天下一武道会本選第一試合ヤムチャ選手対天津飯選手の試合を開始します!!」

 

アナウンサーによる選手紹介が終わりいよいよ試合が始まろうとしていた。しかしライは観客席の後ろの方で困り果てていた。

 

(まいったなあここからじゃ見えないや。)

 

ライが困り果てているとブルマがライを見つけ声をかけた。

 

「ライ~こっちこっち」

 

「!ブルマさん!助かりました、全然見えないと思ってたんですよ。」

 

「いいのいいの、今回は残念だったわね。ちょっと運が悪かっただけよ。次は頑張ってね。」

 

「はい。」

 

 

ヤムチャと天津飯の戦いはヤムチャが狼牙風風拳を使い善戦するも天津飯には及ばず気絶させられた後に足の骨を折られて病院送りになった。そんなヤムチャを見舞うためにライたち一行は病院に行く。

 

「すまないな。負けてしまった。」

 

「相手が悪かっただけですよ。ヤムチャさんは充分以上に頑張りましたって。」

 

「そうよ。ヤムチャは充分頑張ったわ。」

 

「ヤムチャ、心配すんな、敵はとってやるからな。」

 

「そうだ、ヤムチャさん、この豆食べてみてください。カリン搭から数粒持ってきたんです。最後のひとつぶですが、まあ大丈夫でしょう。けが、治りますよ。」

 

そう言ってカリン様からもらった豆を一粒渡す。カリン搭で修業していたライは、いつも仙豆を数粒は携帯するようにしているのだ。

 

「その豆にそんな効果があるのか、にわかには信じ難いな。」

 

「まあまあ騙されたと思って食べてみてください。その足じゃ観戦できないじゃないですか。」

 

「いやいや疑ってるわけじゃないんだ。ライの言うことだしな。」

 

ヤムチャが仙豆を食べると途端に立ち上がった。

 

「すごいな、この豆は。これさえあれば病院なんて必要ないじゃないか!!」

 

急に元気になったヤムチャに見舞いに来た面々は喜ぶ前に驚いている中、ヤムチャがテンション上げてそういった。

 

「いえ、この豆は病気には効かないそうです。それに一年に七粒しか作れないんだとか。作るのも大変らしいですし。」

 

「仙猫様といえどそう上手くはいかないってことなのかな。」

 

ヤムチャが全快し元気になったことを喜びこの場はお開きとなった。

 

 

「それでは本選第二試合を開始いたします。ジャッキー選手は前回優勝者、スウ選手は前回本選出場した実力者、どちらが勝ってもおかしくありません。」

 

二人が並び勝負が開始された。

 

「やあああああ!」

 

スウがすごい勢いでジャッキーチュンに突っ込んでいく。すさまじい連撃を繰り返すも涼しい攻撃で避けていく。

 

「動き自体は悪くない、悪くないレベルまではきているのじゃが、速さが足らんな。もう少し修業を重ねることじゃな。」

 

そう言って軽く小突くとスウは吹っ飛んだ

 

「くっ、今の俺の実力じゃだめか。だが、ただではやられない。今の俺ならできることもあるからな!」

 

再びスウはジャッキーめがけて飛んでいく。

 

「勝負は見えてると思うがの。」

 

ジャッキーがあきれたように攻撃を繰り出し、それをもろに受ける。

 

「なっ、お主わざと急所に受けおったな。」

 

死なないように加減した攻撃といえど相手自ら急所に攻撃を食らえば致命傷となる。その動揺がスウでもつける隙と化す。

 

「おらよっ!」

 

そのまま腕をつかみ場外に飛び込む。腕が下になっているジャッキーが先に場外になるように落ちていく。

 

「少し焦ったが、まだまだ甘いな。ほいっ。」

 

ジャッキーが空いている左腕でスウに一撃を放つ。その一撃で先にスウを場外にさせた。

 

「おーっと、ジャッキー選手、スウ選手ともに場外だああ、しかしわずかばかりスウ選手が先に場外に落ちてしまったようだーー。しかしスウ選手大丈夫か~?かなりのダメージを追ってしまったようです。」

 

「大丈夫じゃよ、意識を完璧に刈り取った。いわゆる仮死状態じゃ。早く病院に連れて行ってやれ。元々限界じゃったんじゃからな。」

 

宣言通りにスウが起きることはなく、チャパが仙豆を持ってやってきた。ライが仙豆をあげたのはチャパとスウに一粒ずつだったのである。

 

「ほんと今の俺とはよく言ったものだなスウ。さあ早く食べろ、下手すると死ぬぞ。」

 

チャパが胸に克を入れて無理矢理起こす。

 

「すまない、いや、ありがとう助かったよ。まさか気絶するとは思わなかったんだが迷惑かけたな。」

 

「全くだ。ジャッキーチュンを人殺しにするつもりかと思ったぞ、最も最後の一撃はお前を疑似疑似的な仮死状態にしたものだったから仙豆が無くても死にはしなかったんだろうがな。全く恐ろしい達人だよあの人。」

 

昨日ヤムチャが仙豆を食べた様子をスウは見ていない。ライを信頼していたからこそできた作戦だったのであろう。仙豆を食べて全快したスウは武舞台を後にした。

 

「およ?確かにわしの攻撃は致命傷だったはずだが、全快しているように見える。お主も仙豆を持っておったのか。だったら場外に落ちずとも対処できたものを。」

 

ジャッキーが場外に落ちたのは復帰を優先したらスウが死ぬ可能性が高まるからである。あの状況で死なないように最善を尽くした結果が場外に落ちた理由だ。

 

「ご迷惑をおかけしました。仙豆の存在を知られたら勝ち目はなかったもので。」

 

「あまり好ましいやり方ではないぞ。無論、手の内を隠すのは戦いにおいて当然のことじゃがな。」

 

完全に負けた、そう痛感するスウであった。

 

 

「続いて第三試合、クリリン選手対餃子選手です。クリリン選手はご存じ武術の神と呼ばれる武天老師こと亀仙人のお弟子さん、そして餃子選手はその亀仙人と双璧をなす達人、鶴仙人のお弟子さんだそうです。」

亀仙流と鶴仙流の戦いは頭脳プレーを駆使したハチデンネ作戦でクリリンの勝利となった。

 

 

「一回戦最後の試合はチャパ選手対孫悟空選手です。まさに三年前と全く同じ試合そして組み合わせ、運命のいたずらとはこのことを言うのでしょう。この二人の戦い果たして勝つのはどっちなのか、全く予想できません!!」

 

二人が舞台の上で相対する。

「お主に負けてから、王を返上し、お主に負けぬよう三年間修業を続けてきた。その成果とくとお見せしよう。」

 

「おらだって負けねえぞ。今度もおらが勝つ。」

 

「それでは試合始め‼」

 

アナウンサーの開始の合図とともに二人が消える。

 

(超高速移動か、目が忙しい試合になりそうだなあ。)

 

ライの想像通り舞台を激しく動き回る両者。拳を合わせ、膝を合わせ、全力で戦っていく。戦いの最中チャパは八手拳を繰り出した。

 

「はーーー、はっ、ほっ、たーー」

 

その凄まじい拳速に悟空はついていけずダメージを受け、ダウンする。

 

「おおっと、我々一般人からは全く追いつけない速度の試合ですが、孫選手ダウンです。戦いを有利に進めていたのはチャパ選手かーー。」

 

アナウンサーがカウントを始めるもすぐに悟空は立ち上がる。

 

「やるね。おらも本気出しちゃうからな。」

 

そう言うと悟空は試合用の本気から戦闘用の本気に変えた。

 

「強がりはよせ、今のお前では私の八手拳は見切れない。」

 

再び八手拳で勝負を決めに行くが、悟空はそれに対応して見せた。

 

「やっはっ、よっ!」

 

それを見てチャパ王が驚愕する。

 

「へへん。おめえの攻撃は確かに早いけんど、足が留守だぜ。それなら捌くのも難しくはねえぞ。」

 

悟空が八手拳の弱点を見抜いてそう言い放った。

 

「ははは、まさかこの短期間で八手拳の弱点を見抜くとはな。」

 

「短期間じゃねえぞ。おめえの戦い方は予選で見してもらったからさ。今日が初めてなら見切れんかったぞ多分。じゃあそろそろおらも行くぜ!」

 

悟空が残像拳を使いながらチャパ王に接近していく。相手を目で追うチャパにこの攻撃は非常によく効いた。

 

「二重や三重程度なら対応できるようにしたがまさかこれほどの残像を生むとは」

 

何重にも残像を作りながら確実に接近していき残像の影に紛れながら攻撃をしていった。

 

「このままでは…!」

 

対応しきれないと判断しチャパ王は空中に逃げる。空中は身動きが取れなくなるが悟空も残像拳を使えなくなる。悟空が跳躍しチャパに向かって行く。先んじて攻撃をしようとチャパが拳を繰り出したその瞬間、悟空が叫んだ。

 

「はああ!!」

 

一瞬悟空が静止し、攻撃を透かされたチャパが隙をさらす。そこを蹴り飛ばし、チャパを場外にたたき出した。

 

「おっと、チャパ選手場外!よって孫悟空選手の勝利です。」

 

アナウンサーが高らかに勝利宣言し一回戦はすべて終わった。

 

 

「完敗だよ悟空君、見事な武術だった。私もまだまだ未熟だな。」

 

「いや、チャパもすげえ強かったぞ。正直予選見てなかったらやばかった。またやろうぜ。次もおらが勝つけどな。」

 

「勝つよ。次は必ず。」

 

二人は再選を誓い合うかのように固い握手を交わした。

 

 

「惜しかったですね。」

 

「確かにな、車にあたっていなければ悟空が勝ってたのに」

 

「まあ勝負は時の運もあるからなあ」

 

天下一武道会決勝が終わり第二十二回天下一武道会は天津飯の優勝という形で決着がついた。車に当たって先に落ちてしまった悟空にヤムチャ、クリリン、ライが残念そうに言葉をこぼす。

 

「まあ決着もついたことですし、私は父さんのところに戻ります。チャパさんと一緒にいるのでしょうから。すぐ見つけられると思いますしね。」

 

「え、もう行っちゃうの?三年間は全く音沙汰なかったから何してたのか聞きたかったのに。」

 

「すいません、父さんとチャパさんの三年間も聞いてみたいと思ってますので。それじゃあまた三年後、何かあれば占い婆さんのところかカリンにきていただければ今度はそのどっちかにはいますので。それではまた。」

 

こうして大きな波乱もなく天下一武道会は決着した。波乱はこれから始まるのだ。




ライ170
スウ60
チャパ150
ヤムチャ120
八手拳使用時上半身の速度1.5倍
ヤムチャが120なのはライとの一週間の修業が影響しています。これでクリリンと並びましたね。ヤムチャ好きなのでどうしてもひいきしてしまいますがご愛嬌です。まあひいきしたところで結果は変わらないので歪んだ愛なのかもしれませんけど。


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(第九話)目覚める魔族達

オリ展開書くの楽しいです。原作を読み返す必要がないの凄い楽。好き勝手キャラ動かせるし最高です。もちろんドラゴンボールは神作なのでそこは勘違いしないでくだされ。矛盾が生まれる危険性はあるんですけど…ドラゴンボールは勢い!だからその二次創作も勢い!
あ、今日から一週間だけ毎日投稿します。なんか書き溜めが増えてきたのでちょっとペースアップ。


帰り支度を済ませ日が沈もうとしているころ、ライ達は天下一武道会について振り返っていた。

 

「今大会も一回戦敗退か…」

 

「全く、自分ももっと成長していると思ったんだがな。王を奪還するのはまだ先か…」

 

スウとチャパが少し悔しそうに言う。

 

「何言ってるんですか、そんなこと言ったら私は予選敗退ですよ。」

 

自虐的にライがいう。

 

「お互いまだまだ修業が足りないということですな。まあ次は負けないくらい成長して見せる。」

 

「さあ、今日は残念だったが大会が終わったんだ。ここはひとつ豪勢な夕食といこうじゃないか。」

 

仙豆を食べると十日間は腹が膨れる。ひどい怪我であればその分腹が膨れる期間は短いためスウは既に空腹であった。

 

「…そうですね。最も私は今日戦ってないんですけど。」

 

「いや、私は遠慮しておこう。孫悟空との戦いの前に万全を期するために仙豆を食べたからな。二人で楽しんでくるといい。弟子たちにも会っていきたいし先に占い婆のところに戻り始めるよ。」

 

チャパだけが仙豆を食べていたために食事を辞退し、帰ることを宣言した。

 

「そうですか。ではまた。カリン様の修業を終えたら私もそちらで修業しますのでその時はよろしくお願いします。」

 

「ああ、君との修業も楽しみにしているよ。」

 

そう言って先にチャパは帰っていった。

 

 

どこで夕食を食べようか話し合っているころかなりの実力を持った武闘家の気配が消えていくのをライは感じ取った。

 

(!誰かの気配が消えた。どうして⁉)

 

「どうしたんだライ?」

 

急に固まったライにスウが心配そうに声をかける。

 

「すいません父さん。夕飯はまたの機会にお願いします。どうしても確認しなければならないことができました。」

 

そう言って天下一武道会場に向かって駆けだした。

 

「杞憂だったら必ず占い婆の館に会いに行きます!できるだけ早く戻ってください。」

 

(まさかだれか死んだんじゃ…最低でも気絶しているはずだ。急いで向かわないと。)

 

全力で向かいながらそう考える。スウの気配察知能力は遠くの者に対しては不完全だが近くにいる者に対してはーこの場合はパパイヤ島にいる達人ー精度が高い。気配が消えたことで、だれか達人が死んだことを半ば確信していた。達人を殺せる殺人鬼がこの島にいる。だからこそすぐにスウをこの島から引き離したかった。

 

(あの時に感じた強い力の一つだ、急に強い力が生まれるわけないじゃないか。警戒しておくべきだったのに‼)

 

ライは後悔したがもう遅い。取り返しのつかないことをしてしまったのだ。

 

(力が近づいていることは分かっていたのに!くそっ‼)

 

 

武道会場に着くと悟空がしゃがんでいた。

 

「悟空、大丈夫か!」

 

「おらは何ともねえ、でも、でも!」

 

後を追うように亀仙人やヤムチャ、天津飯がやってくる。

 

「く、クリリンが殺された…」

 

一同に衝撃が走る。

 

(ま、まさかクリリンさんがやられたなんて。相当な実力者だぞ、ありえない、しかも、気配の消え方からすればあっさりと殺されたはずだ。そんな強者が!)

 

アナウンサーが意識を取り戻し、怪物がドラゴンボールと武道会の名簿を奪っていたことを知る。

 

「ブルマドラゴンレーダー持ってるか!」

 

ブルマからドラゴンレーダーを奪うようにとると亀仙人の静止も聞かずに会場を飛び出していった。

 

「私が追いかけます!今の悟空がクリリンよりも強い相手に勝てるわけないです!ここは私に任せて皆さんはここで待っていてください!」

 

ライは矢継ぎ早にまくしたてた。

 

「いや待て、なら俺も行く!」

 

ヤムチャが飛び出そうとするもライは押しとどめる。

 

「まだクリリンを殺した仲間がいつ来るとも分からないんです。詳しいことは悟空を連れてきたらすぐに話しますから、ヤムチャさんはここにいてください。そいつは亀仙人さん一人では厳しい可能性があります。」

 

そう話してすぐに悟空を追いかけた。

 

(悟空の気配は…北東か!)

 

本選に出場していないライには力が十分ありすぐに悟空を視界に入れる。

 

「待て!悟空!今のお前じゃクリリンを殺したやつには勝てない!」

 

すぐにでも止めようと声をかけたのがまずかった。悟空は筋斗雲の存在を思い出してしまう。

 

(しまった!筋斗雲には追い付けない!その前につかまなきゃ!)

 

「悟空ーーー!」

 

急いで悟空をつかもうとするも筋斗雲に乗られてしまった。

 

(みすみす殺せない。絶対に悟空は助ける!)

 

ライは地上から追いかけていく。悟空の気配ではなくクリリンを殺した相手の気配を追いかけて少しでも早く着くように動く。

 

(もうパパイヤ島からは出ている、泳がなければならないとなると追い付けないかもしれない。)

 

弱気になりながらも海を渡りきり再び別の島に上陸し陸を走り始める。そのさなか二人の気配の動きが止まったことを感じた。

 

(ついに悟空が追い付いてしまったか。急げ急げ!急げーー!)

 

全力をとして追いかけるが決着はついてしまう。悟空の気が感じ取れなくなったのだ。

 

(もう少し、もう少しだけ私が早く動ければ間に合ったのに!…いや、まだだ。悟空を探さないと。あいつの並外れた力ならまだ気絶しているだけかもしれない。)

 

そう思って悟空を探す。それでも暗くなった森の中では見つけ出すことはできずとりあえず亀仙人たちと合流することにした。

 

 

亀仙人と合流し、悟空の気が感じ取れなくなったことを告げる。

 

「そうか、悟空はもう死んでしまった可能性が高いか。」

 

「何言ってんのよ、孫君がそう簡単に死ぬはずないじゃない!」

 

「わしもそう信じたいが…とにかくいったん家に帰ろう。クリリンを葬ってやらねばならんしな。」

 

悟空が戻ってきたら亀ハウスにもどるようにアナウンサーに伝え帰路をたどる。天津飯、餃子、ライも亀仙人と一緒に行動を共にした。

 

 

道中ライはピッコロ大魔王の話について聞きつつライが感じた力について話す。

 

「私は達人の力を感じ取ることができるのはご存じの通りですが、その力が天下一武道会中に急に三つ生まれてきていました。一つ生まれてその後続いて二つ。その力の一つが大会後に近づいてきて、そしたら会場にあった気が、クリリンが死んだのを感じ取ったのです。亀仙人さんの話を聞く限りだと、多分最初に感じ取ったのがピッコロ大魔王で次に感じたのがその手下たちのものなのでしょう。でも武道の達人を狙っているという話でしたら、すいませんが一緒に行動することはできません。父さんは住所と違うところに住んでいますがチャパさんが危ないので私はそっちに向かいます。」

 

「だったらこれとこれを持っていきなさい。」

 

ブルマがぽいぽいカプセルを二つ渡してくる。

 

「飛行機と携帯よ、連絡することがあればそれを使いなさい。飛行機はオートで動かせるものだから電源さえ入れれば何とかなるはずよ。無理はしないでね。」

 

「はい!」

 

ライは一人離脱してチャパのところに向かう。

 

(動き回っている気は多分達人を殺して回ってるはずだ。気が感じれなくなっているものも多い、でもまずはチャパさんだ!)

 

 

チャパは三年振りに自身の武道場に戻ってきた。彼を師匠として慕う門下生は三年留守にしてなお多い。今残っている門下生はかなりの実力者がそろっている。

 

「ぐっ」

 

「うわっ」

 

「うっ」

 

「うう」

 

「「「「参りました!!」」」」

 

その実力者達を息切れひとつ起こさず圧倒した。

 

「ふむ、今日はここまで!」

 

「待ちな!俺にも稽古をつけてもらおうか。」

 

「何者だ貴様は。」

 

その質問には答えず話を進める。

 

「チャパ王、貴様は天下一武道会で優勝したことがあるそうだな。」

 

「今は一介の武道家だ」

 

「ふん、まあ俺には他愛のない相手だが、一応達人は殺しておかねばならないのでね。死ねえ!」

 

急に蹴りを入れようとしてくるがチャパ王はそれを受け止める。

 

「ほう、どうやらただの雑魚ではないようだな。」

 

チャパと、タンバリンの戦いが始まる。

 

「はああああああ」

 

チャパとタンバリンの実力はほぼ互角だった。タンバリンの拳をうまく受け止め反撃を入れていくが捌かれる。右拳は左手で、足蹴りは膝で、お互いに一歩も譲らない戦いを演じる。しかし少しずつ自力の差が出始めてきた。チャパが押され始めたのだ。

 

「受けてみよ、わが八手拳!」

 

分が悪いと判断したチャパはそう言うとタンバリンめがけて八つの腕が襲い掛かるかのごとく攻める。

 

「なっ、ちっ、くそっ、このっ!」

 

タンバリンは避けきることができずに攻撃を受ける

 

「な、なかなかやるではないか、ではこれなら…どうだ!」

 

タンバリンはそう言うと魔口砲を放つ。

 

「なっ!くそう!」

 

チャパの後ろには門下生がいた。彼らを気にしてよけずもろに食らってしまう。

 

「はあ、はあ。」

 

「ほう、お前、仲間をかばうためわざと食らったようだな。俺も舐められたもんだな。だが、俺は容赦はしないぞ!」

 

タンバリンはもう一度魔口砲を打ちこもうとするが突然の乱入者に全力の蹴りを食らった。

 

「うっ!」

 

「ライ!」

 

「チャパさん、遅くなりました。ここからは私も加勢します。援護お願いします。」

 

一撃魔口砲を受けているが、支援攻撃であれば十分戦える。ライとチャパはコンビネーションでタンバリンを追い詰めて行った。

 

「はあ!」

 

ダン!

 

タンバリンを大きく吹っ飛ばす。

 

「地球人の中にもまだ魔族に対抗できるものがいたとはな。仕方ないここは引くとしよう。さらばだ!」

 

タンバリンは翼をはためかせ侵入してきた窓から逃げ出した。

 

「まて!悟空は、孫悟空はどこにやった!」

 

追いかけようにも飛ぶことができないライたちは追うことができず仕方なしにタンバリンを見送った。

 

「やつは一体何者なんだ。達人を殺して回っているようだぞ。あいつの実力なら大抵のやつは殺せてしまう。何があったというんだ。」

 

「実は…」

 

ライは事の顛末を簡単に話す。

 

「なるほど、ピッコロ大魔王と達人が編み出した魔封波か、私も協力しよう。そのピッコロ大魔王には勝てずとも手下くらいなら私でも倒せるはずだ。」

 

「そういってくれると助かります。さっきのやつは一度、本拠地に戻ったようです。次にいつ動き出すかわかりませんが、これ以上犠牲者を出さないためにも、あいつの近くに潜伏します。」

 

そう言ってライとチャパは飛行機に乗り込み、大魔王の本拠地の飛行船を尾行し始めた。

 

 

「と、いうわけで地球人の中にも私に対抗できる武道家がいました。もちろん大魔王様には通用しないレベルではありますが、あのレベルの武闘家に徒党を組まれると厄介です。至急対策を練られた方がよいかと。」

 

タンバリンは飛行船に戻るとすぐに事の顛末を話した。

 

「ふむ、お前を苦戦させるレベルの武闘家が天下一武道会では一回戦負けと予選敗退か。もう数体くらい魔族を生み出した方がよさそうだな。」

 

「いけませんピッコロ様、そのお体で魔族を生み出してはドラゴンボールをあつめきる前に死んでしまうかもしれません。」

 

ピアノがピッコロ大魔王の体を気にするがそれをピッコロ大魔王は一笑する。

 

「心配するな、あと数回程度では死にはせん。私の命は最優先だがお前たちを死なせてしまうことが無いようにすることもまた重要だ。」

 

体を痛め、寿命を削り生んだ魔族である。ピッコロ大魔王にはわが子に近いものとして映っていた。そしてピッコロ大魔王は卵を二つ生み出す。

 

「さあ目覚めるのだ、シンバル、コキュウ」

 

ピッコロ大魔王の命を受け、ドラゴン型の魔物が一体、タンバリン型の魔物が一体生まれてきた。

 

「シンバルよ、お主はドラゴンボールを集めをしてもらう。そこの三人に場所を聞き、これと同じような球を集めてこい。続いてコキュウ、お前はタンバリンと組み武道家を倒してきてもらう。タンバリンに匹敵する武道家の存在もある。必ず二人で動くのだ。」

 

「「「分かりました。大魔王様」」」

 

三体がそれぞれの命を完遂すべく飛行船を飛び出していった。




タンバリン175
少しばかり強化しました。理由は次話で。オリキャラ・コキュウの戦闘力は戦闘描写がないので次回です。チャパ王タグ付けましたけどZからは出さない予定なのどうしようかなあ…


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(第十話)ライと魔族達

1.3倍ルールって実際は4/3倍ルールだったんですね。ずっと1.3倍でやってました。これからもそれでやります。許してください。


「!!」

 

魔族達の飛行船を尾行し始めてしばらくしたころライの顔が驚愕に揺れる。

 

「どうしたんだライ。何があった。」

 

「あの飛行船に強い気配が二つ増えました。おそらく魔族をピッコロ大魔王が生み出したのでしょう。」

 

「なるほどな。では再び武闘家を殺しに行くということか。」

 

チャパが苦虫を嚙み潰したような顔でいう。

 

「おそらくは。私たちの存在を加味して戦力増強したということでしょうね。ですが、向こうもそうやすやすとは魔族を増やせなそうです。魔族を生み出した者の気配が少し揺らぎました。今のピッコロ大魔王にはそれなりの負荷がかかるもののようです。ピッコロ大魔王が生んだ魔族は各個撃破でもよさそうですね。」

 

そうこうしているうちに魔族三体がそれぞれの目的のために動き出す。

 

「二対一に分かれて移動しているようだぞ。どっちを先に狙うんだ。」

 

チャパが飛行機の窓から飛行船を観察してそう言った。

 

「おそらく、ドラゴンボール集めと武闘家殺しをする役に分けたのでしょう。そうだとしたらまず二人組の方から行った方がいいですね。両方は無理ですし、ドラゴンボール集めなら死人が出ない可能性もありますから。」

 

飛行機を動かしてタンバリンとコキュウにつかず離れずでついていく。ピッコロ大魔王の援護が入らないところまで距離をとらないとまずいという判断だ。

 

(今はもう一体の方は無視だ。私は神じゃない、救えるものを確実に救わないと!!)

 

子供にはつらい決意を固め、魔族二体を追いかける。

 

 

「魔族が降りていくぞ!こちらも降りよう。」

 

早朝、魔族二人が降りていくことを確認し、こちらも降りていく。しかし、ここまで二体をうまいこと捕まえられずに犠牲者を増やしていた。空中戦では圧倒的に不利、地上に降りていくのは武道家を殺すときのみで大抵すぐに殺して飛び立ってしまうので飛行機から降りて現場に向かう頃にはすべてが終わっていた。

 

「もう、無駄なんじゃないでしょうか。空を飛べない私たちじゃ、相手と戦えない。これじゃあいたずらに辛い現場を見るだけだ!」

 

殺人現場を見るたびにライの心はすり減っていく。チャパでさえも辛いのだ。子供のライは相当堪えているのだろう。

 

「ライだめだ。諦めてはいけない。待つんだ数分あいつら相手に耐えられる武道家を!きっと、きっとそんな武道家を狙うときがくる。その時こそやつらを倒す!」

 

「…はい。」

 

何人もの武道家の犠牲の上についにそのときは訪れる。二体がライが感じ取れるレベルの武闘家に向かって動き出したのだ。

 

「!ある程度の実力をもった武闘家を狙っています。私でも感じれるほどの力を持った武道家だ今だ、今しかない!急ぎましょう‼」

 

ライとチャパはすぐにその島で着陸準備をしていたが、そこでライはヤムチャを目にしてしまう。

 

(ヤムチャさんだ!ヤムチャさんが狙われてるんだ。まずいぞ急がなきゃ。間に合わなくなってしまう!)

 

親しい友人のピンチに焦りながら着陸準備を始めた。

 

 

「あれ、ライがこっちに近づいているみたいよ。」

 

亀ハウスの場所を移し、身を隠したブルマたちはライにあげた飛行機がこっちに近づいているのを知った。

 

「どうしてそんなことが分かるんだよ。」

 

ウーロンが不思議そうに聞き、話を聞いていたヤムチャも同意するように頷いた。

 

「飛行機よ、飛行機。あの飛行機には発信機がついているの。あの子、礼儀正しいけど神出鬼没だからね。こんな時だし一応どこにいるか知りたくて。」

 

「なるほどな。確かに必要かもしれないな。でもライはここのこと分かってないから偶然じゃないか?」

 

「馬鹿ねえ、ライは強い人の気配を探れるって言ってたじゃない。きっとそれよ。」

 

しかし現れたのは、背中に羽の生えた魔族であった。

 

「おい、あいつヤムチャとかいう武道家じゃないか。」

 

「ほんとだ。まさかこんなとこにいるとは、住所と違うな。俺たちが武道家狩りをしてるって勘付いたんだろうな。」

 

「しっかしまあ運のないやつだ。俺たちに偶然見つかっちまうんだからな。」

 

二体がそう話すことで若干のロスが生まれる。

 

「な、あいつは魔族!ちきしょう俺も運がない男だぜ。」

 

ヤムチャは悪態をつきながらタンバリンに向かって突っ込んでいく。

 

「狼牙風風拳‼」

 

クリリンを殺した相手であるかもしれない。そんな相手に油断などなかった。しかし二対一この数の優位と実力差はどう頑張っても覆らない。

 

「少し早いがこの程度。俺たち二人が相手じゃどうしようもないな。」

 

「ぐっ!」

 

タンバリンの一撃を受けてヤムチャは吹っ飛ばされてしまう。

 

(ちきしょう。ライが近くにいるはずだ。もう少し時間を稼がないと。せめてブルマたちだけでも!)

 

孤軍奮闘するヤムチャであったが容赦なく死の刻は迫ってきているかのように見えた。しかし急にタンバリンとコキュウが空に舞い上がる。

 

「「(いかがいたしましたか、大魔王様。)」」

 

「(すでにこちらは順調に計画を進行中です。ただいま8匹目を始末しようとしているところです。)」

 

代表してタンバリンが答える。

 

「(よし、順調そうで何よりだ。しかし悪い知らせがある。ドラゴンボール集めに行かせたシンバルが殺された。)」

 

「「なんと!」」

 

そう二人が驚いている最中、着陸をして崖を駆け上り、上から飛び上がったチャパとライにタンバリンとコキュウが墜とされる。

 

「だりゃっしゃああ!」

 

相当怒りがたまっていたのだろう。普段のライからは想像しにくい声を上げコキュウに向かって拳を打ち込んでいた。チャパも静かながら確かな力をもってタンバリンを撃ち落とした。

 

「「うわっ!」」

 

「(どうしたタンバリン、コキュウ!)」

 

急に叫んだ二人にピッコロ大魔王が声をかける。

 

「(申し訳ございません。どうやら私に対抗した二匹の武道家が追いかけてきていたようです。こいつらを排除し10匹目まで仕事を完了したのちこちらから連絡を入れさせていただきます。)」

 

「よかった間に合った。」

 

ライは心底安心したようにヤムチャた達を一瞥すると魔族達に向き直った。

 

「今度は逃がさないぞ貴様等ぁ!」

 

ライらしくもなく雄々しく叫び全力で突っ込んでいく。怒りに任せているように見えて強かに。相手を翻弄するように攻めていった。

 

「もう一体は私達に任せろ!」

 

チャパがそう言ってタンバリンを相手する。ヤムチャも援護するように構えをとる。

 

二つの戦いが展開されていった。コキュウ対ライ、タンバリン対チャパ、ヤムチャどちらのパワーバランスも拮抗した戦いである。

 

 

「はあああ!」

 

ただならぬ気迫でコキュウを圧倒していく。実力が拮抗しているとき、思いの強さは戦況にある程度の影響を与える。

 

「ちいぃ、地球人の分際で、いつまでも調子に乗るなよ!」

 

コキュウが怒りを力に変えて攻撃してくる。怒りに任せて拳を振るっているように見えるが、実際のところは命を絶つために実に的確に攻撃を放ってくる。拳を使った攻撃を主体としているが、時々リズムを崩すように蹴りを放つ。

 

(この!動きが読みにくい。早くヤムチャさん達に加勢したいのに!)

 

焦っていても動きには影響を出さない。敵の動きから隙を探す。

 

(面倒だな、魔口砲で蹴散らしてやる。)

 

隙を見つけきる前にしびれを切らしたコキュウがわずかばかり距離をとり口にエネルギーをため始めた。

 

(そうだ!)

 

ライは作戦を思いついたライは無理やり接近する。口にエネルギーをためていても両手両足は自由に動く。エネルギーをためながらもライの攻防を防ぎきる。たまり切ったのかコキュウの目元が怪しく歪む。

 

(さあ貴様はその技で死ぬんだ!)

 

ライが狼牙風風拳を応用し、スピードを上げた攻撃であごを上に殴り飛ばす。ライは狼牙風風拳をコキュウに一回も見せていなかった。

 

「ぐむっ」ぼがあぁん!

 

すさまじい爆発がコキュウの口の中で起こった。

 

「ぐ、ぐぐぐ。」

 

「とどめだ。今まで殺した人の恨みを感じながら死ね。」

 

ライとは思えない冷酷な一言を浴びせとどめの一撃を放った。

 

 

「狼牙風風拳!」

 

ヤムチャは狼牙風風拳を利用しながら戦っていく。そうでもしなければこの戦いにはついていけない。

 

(ヤムチャ君は少し無理をしているようだな、向こうの加勢もしたいところだし、短期決戦で勝負を決めよう。)

 

チャパは戦法をある程度固めて戦っていった。

 

「はいーーーー」

 

狼牙風風拳の終わりの一撃を放ったところで一度ヤムチャとチャパはタンバリンから距離をとった。

 

「ヤムチャ君かめはめ波の準備を頼む。私では決定打がない、隙を何とか作るからそこを突いて全力のかめはめ波で決めてくれ。」

 

「分かりました。よろしくお願いします。」

 

作戦を伝えるとタンバリンに八手拳を使って食って掛かる。速度でいえばタンバリンを上回る拳劇がタンバリンを襲っていく。

 

「やっ、はっ、くそっ…」

 

タンバリンは何とかその攻撃に食らいつこうとするも攻撃を受けて行ってしまう。

 

「はあああああ!」

 

「あまりいい気になるなよ‼」

 

攻撃を受けながら無理やりチャパを殴り飛ばした。八手拳はスピードに特化した技であり攻撃力は普通の攻撃と変わらない。戦力差があれば数発程度なら耐えられることもまた事実であった。そして吹っ飛ばしたおかげでヤムチャがかめはめ波をためているのを見られてしまう。

 

「ほう、面白いことをやっているようだな。だが…」

 

タンバリンはヤムチャの企みを阻止しようと動き出そうとするが、その時爆発音が鳴り響いた。タンバリンはすぐにそちらを向く。

 

(コキュウのやつしくじりやがった。あのバカ!)

 

仲間がやられたことでタンバリンの意識に一瞬の葛藤ができる。しかしタンバリンの決断は早かった。

 

(まだあいつに死なれるわけには行かない。)

 

タンバリンが今まさにとどめをの一撃を放つライの足元に向かって魔口砲を放つ。

 

「(コキュウ海に飛び込め!)」

 

タンバリンの魔口砲によって土煙が舞う、その隙に崖にコキュウとタンバリンが飛び込んだ。

 

「ま、待て!」

 

ライも飛び込もうとするが先にヤムチャが手を打った。

 

「かめはめ、波ああああ!」

 

崖際から全力の一撃を海上で低空飛行しているコキュウに向かって打つ。

 

「な、あの野郎‼」

 

ヤムチャがエネルギー波をためていたことに気づいていたタンバリンは何とか避けきるがコキュウはライとの戦いのダメージも相まってもろに食らって絶命した。

 

「ぐわあーーー!」

 

「し、しまった。ちきしょう。貴様らの命、必ずや我ら魔族が奪いに来るぞ!」

 

タンバリンは勝ち目はないと断じその場から逃げ去った。魔族との戦いはまだ続く。




コキュウ170
オリキャラコキュウは170です。ライ達と渡り合うにはこれくらい必要。同じ理由でタンバリンも同じくらいは必要だということで上方修正しました。でもやっぱり先に生み出した方が強いような気がしたのでタンバリン>コキュウ。でもタンバリンは悟空に倒せるレベルにしないとなのでこんな感じに刻みました。少年編は戦闘力インフレしてないので結構大変です。それじゃあまた次回。


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(第十一話)王と神と魔王

私の中でセルと戦った時のSS2孫悟飯は1と比較して戦闘力4倍だった説がでてきました。せっかくなのでその説を活かしたいですね。まあ人造人間編まだまだ先ですけど。それでは今日もよろしくお願いします。


「うっ!!!!」

 

ピッコロ大魔王に衝撃が入る。

 

「(タンバリン、コキュウどうした、返事をしろ。何があった。)」

 

ピッコロ大魔王がすぐにコキュウとタンバリンにテレパシーで連絡をとる。

 

「(申し訳ございません。大魔王様。武道家たちに敗北し、コキュウを殺されてしまいました。徒党を組まれさえしなければどうとでもなったのですが…)」

 

「(な、なんとまさかお前らでも勝てない相手か。…仕方ないお前はそのままシンバルを殺したやつの元へ行きそいつを殺してこい。コキュウを殺したやつはこのわしが直々に手を下す。)」

 

ピッコロ大魔王が怒りをこらえたような声音でそうタンバリンに命令した。

 

「(承知しました。)」

 

タンバリンはピッコロ大魔王から場所を聞き動く。

 

 

「やつらはここをかぎつけてすぐ来るはずですので今すぐ移動しましょう。何かあってからでは遅いですし。」

 

ライがそう提案し、ブルマたちは再び引っ越しをすることにした。

 

「では、私はまだ残っているピッコロの部下を探しに行きます。」

 

そこでライは気を探るがそれらしい気配を感じ取ることができなかった。

 

「…あのもう一体のやつの気を感じ取れない。ドラゴンボール集めをしているなら動き回っていそうなものなのに単独で強い気配で動いているものがない。どうして…」

 

その疑問にブルマが憶測ながら解を出す。

 

「多分探しているあいだに亀仙人たちに倒されたんじゃないかしら。亀仙人たちもドラゴンボールを集めているし、途中で会えばきっと亀仙人たちが勝つわよ。」

 

「…なるほど、確かにあの三人なら敵を逃がすようなへまもしないでしょうし、その可能性は十分ありますね。でしたら私たちは亀仙人さんたちに合流します。結局ドラゴンボールの一つはピッコロ大魔王が持っていますし、奪い取るなら人数が多いほうがいい。」

 

「そういうことなら俺も行こう。」

 

ヤムチャも少しでも戦力になればと亀仙人たちに合流することにした。

 

「ありがとうございます。では行きましょう。」

 

ライ、チャパ、ヤムチャは亀仙人たちの元へ飛び立ちブルマたちはまた大魔王の魔の手から逃れるために移動するのだった。

 

 

「ピッコロ大魔王様、所定の場所に着きました。」

 

ピッコロ大魔王がコキュウとタンバリンが戦ったところにつくもそこにすでにライたちはいない。

 

「逃げられたか。わが子を殺したお礼をしてやりたかったのだが…そう簡単にはいかないようだな。」

 

「ピッコロ様、世界征服を成し遂げたあとであれば人数名くらいいくらでも探すことが可能でございます。今はご自身の願いを最優先に動いたほうがよろしいかと。」

 

憤慨するピッコロ大魔王をピアノがなだめる。

 

「仕方あるまい。まずはドラゴンボールを集めきるとするか。」

 

その時ピッコロ大魔王の頭にまたも衝撃が襲う。

 

「うっ!」

 

「ピッコロ様、いかがいたしましたか?」

 

「シンバルを殺したやつにタンバリンまでもが…殺された。」

 

「なんと!タンバリンはシンバルより数段強いはずですがそれでもやられてしまったのですか。」

 

「間違いない、今度のやつはドラゴンボールを持っているからわしらでも追える。コキュウの礼の前にまずシンバルとタンバリンの礼をしに行くとしよう。」

 

 

ブルマたちと別れたライたちは無事に亀仙人たちとの合流を果たしていた。

 

「これで五個目ですね。あと二つの内一つはピッコロ大魔王が持っているというわけですか。」

 

「いよいよ気が抜けなくなってきたな」

 

天津飯が再び気を引き締める。

 

「む、ドラゴンボールが二つまとまっておる。しかもこっちに近づいているおるぞい。」

 

「ピッコロ大魔王が、来る!」

 

一同に衝撃が走る。

 

「行きましょう。避けては通れない関門だ。」

 

 

ピッコロ大魔王から少しでもドラゴンボールを奪いやすいよう直接会う少し手前で待ち伏せをすることにした。

 

「どうしましょうか。」

 

ドラゴンボールを埋めて隠した後に亀仙人が作戦を伝える。

 

「天津飯とわしはあの岩陰に、ライとヤムチャとチャパは向こうの岩陰、そしてチャオズはわしらの中でドラゴンボールを奪えたものが投げるからそれを受け取り神龍にピッコロ大魔王をこの世から消せと願うのじゃ。」

 

 

ピッコロ大魔王が飛行船で上空にやってきた。その様子をうかがう一行はピッコロ大魔王がドラゴンボールを飲み込んだことを知る。

 

「の、飲み込んだ。あいつドラゴンボールを飲み込みましたよ。」

 

ライが愕然とそうこぼした。

 

「これは、どうしよもないぞ、やつを倒さない限りドラゴンボールを集めることができない。」

 

「戦うしかないのか…。」

 

「…無理でしょう。あいつは強すぎます。この距離までくれば実力は測れます。とても私たちが束になって挑んだところでおそらく勝てません。」

 

「ちくしょう、どうすればいいんだってんだ!」

 

いらだちも露わにヤムチャが吐き捨てる。

 

そうしていると亀仙人が作戦中止の合図を出してきた。

 

「武天老師様はどうするおつもりなんだ。ピッコロ大魔王がとんでもない強さだってことは一番良く知っているでしょうに。」

 

「…加勢してきます。みすみす死なすわけにはいきません。」

 

出て行こうとするライの腕をチャパつかむ。

 

「待ちなさい。束になってもダメなのだろう、であれば私が行く。私の伸びしろは君たちに比べればあってないようなものだ。なに、死ぬ覚悟はつけてきたさ。亀仙人さんはあの悪魔の戦い方を君たち未来ある若者に学ばせるおつもりなのだろう。ちゃんと対策を練ってくれよ。」

 

「し、しかし、」

 

「頼むよ。私の門下生たちや家族を守ってやってくれ。」

 

「わ、かりました。いつか必ずあいつを倒します。」

 

 

ライとヤムチャは岩陰に残りチャパが亀仙人と合流する。

 

「!お主どうしてここに!何があっても出てくるなといっただろう!」

 

「おひとりであいつと戦うことはありません。あの悪魔の対策を若い世代に練っていただきましょうよ。一人ではすぐにやられてしまっても二人なら少しくらいは奴の戦い方を見せれるかもしれません。」

 

チャパがそう言った。

 

「そうじゃな。それも必要かもしれん。一合だけだ。それだけあいつと戦おう。そしたらわしは封印術を打つ。今のわしにはうまく扱えきれず成功率が高いとは言えない術じゃ。もし失敗したら…」

 

「覚悟はできております。さあ行きましょう。」

 

悲壮な覚悟を持ち二人はピッコロ大魔王が降りてくるのを見上げる。

 

「わしらの集めたドラゴンボールはここに埋めてある。わしたちに勝てたら遠慮なく持っていけ。」

 

亀仙人がピッコロ大魔王にそう言い放つ。

 

「このわしと決闘しようとはな。愚かな奴だ。最もこの私のことをうわさでしか知らないのじゃから無理もないのじゃろうが。」

 

「お前の恐ろしさは知っておるつもりじゃよ。では、行くぞ‼」

 

そう言った瞬間横からチャパが蹴り飛ばす。その攻撃にピッコロ大魔王が吹っ飛んだ。

 

「なかなか、腹立たしい小細工を打ってくれる。…お前らもタンバリンやシンバルを倒したあの孫悟空とか言うやつくらいの強さはあるようだな。だがその程度ではこの俺様には勝てない。」

 

(!悟空生きていたのか。いやでももう既に…。)

 

図らずも悟空の安否を聞くことになってしまったライとヤムチャは天津飯に匹敵する地球上最強の戦士の一角が死んだことに確かに希望を打ち砕かれていた。

 

「そうかあの武闘家は死んだのか。私よりも強くそして私よりもずっと先のある彼がこれからどうなるのか楽しみにしていたのだが。貴様のようなうっとしい奴がいると、のんきに次の世代を見ていられもしない。はっきり言って目障りだよ。」

 

確かな怒りと共にチャパが攻撃をしていくのとは対称的に亀仙人は無言で攻めていく。その無言が何よりも彼の怒りの深さを示していた。

 

「たいした実力もないくせにうっとしいやつらだな。そろそろ終わらせてもらうぞ。」

 

二人の決死の攻撃もピッコロ大魔王には通用せず、二人を吹っ飛ばす。チャパは攻撃をもろに食らい、わずか一撃で戦えなくなった。

 

「次はお前だ。」

 

ピッコロ大魔王は容赦なくそう言い放つ。

 

「(チャパよ、わしの時代の尻拭いに付き合わせてしまって悪かったのう。最後にもう一仕事頼むぞい。そして天津飯、ライ、ヤムチャ、餃子、あとは任せるぞ。)」

 

亀仙人がライたちに念話で最後の言葉を残す。

 

「魔封波じゃあ!」

 

「な、なんだとっ」

 

亀仙人が一世一代の封印術を放つ。その技はピッコロ大魔王をとらえることに成功する。

 

(無駄だ、魔封場を使えても電子ジャーがない。これでわしを封印することはできない‼)

 

亀仙人は今回電子ジャーを用意しなかった。チャパがいたからである。チャパは電子ジャーを亀仙人が封印しやすいところにぽいぽいカプセルを投げた。

 

(くそ!世界征服を目前にしてこんなところでまた封印されてたまるかあ!)

 

その怨念が届いたからなのか、はたまたピッコロ大魔王に吹っ飛ばされ、ダメージを受けた影響か、亀仙人の手元が狂ってしまう。

 

バーーン‼

 

激しい音に煙が舞うが、確かにピッコロ大魔王は封印され切らなかったことをライ達はすぐに知る。

 

「はは、はははははは!脅かしやがって。失敗してくれて助かったぜ。」

 

そう言うと気功波を打って亀仙人の心臓を貫き絶命させた。

 

「わ、私が、戦おうなんて余計な提案をしなければ、封印は成功していた。平和の芽をつ、摘み取ってしまった…」

 

「ふははは、これは良い。その表情、わしが世界征服をしたらいつでも見れるが、こんな前祝があるとはな。」

 

失意に沈むチャパもピッコロ大魔王は容赦なく殺し、ついに大魔王は願いを叶えることになる。

 

 

「これが神龍か。ついに、ついに私の望みが叶えられる。はっはっは。」

 

(一体何を願うつもりなんだこいつは。いやそんなことはどうでもいい。今神龍にピッコロ大魔王をこの世から消せといえば…)

 

ライがそう思いっ立ったころにはすでに、餃子が飛び出していた。

 

「ピッコロ大魔王を、この世から…」

 

「きあああ!」

 

餃子が飛び出してすぐにピッコロ大魔王は餃子に気功波を放ち絶命させる。

 

(餃子まで。私があと少し早く飛び出していれば…!そうすればあいつを消せたのに‼)

 

後悔してももう遅い、その最悪の状況にピッコロ大魔王はさらに最悪を上塗りする。

 

「それでは神龍よさらばだ。永遠になぁ!」

 

願いを叶えてもらった恩龍をピッコロ大魔王は殺してしまった。

 

「そ、そんな、これでもう誰も生き返れないのか。」

 

生き残れてしまった戦士、ヤムチャ、ライ、天津飯はただ茫然とピッコロ大魔王が去っていくのを見送った。

 

 

死んでしまった三人を弔っているとブルマたち一行がやってきた。ブルマたちもそれぞれの死を悼みクリリンと同じように三人を冷凍カプセルに入れた。

 

「俺は魔封波を自分のものにする。」

 

天津飯が悲壮面持ちでそう言った。

 

「何を言うんですか。魔封波は精密なコントロールが必要なんですよ。それに一度打ったら死んでしまう大技。自分のものにしたところで成功するとは限らない!亀仙人さんのようになってしまうかもしれないんです!」

 

強い口調でそういうライに静かに天津飯は言う。

 

「老師様は確かに自分のものにしていらっしゃったが、ピッコロ大魔王との戦いで体力を消耗していた。魔封波を自分のものにしてかつ万全の状態で放てばきっと成功する。いや成功させる!」

 

険しい目でライを見つめる。それをみてライは何かを察したようだった。悔しそうに唇をかみしめる。

 

「ならば俺も!」

 

「だめです!ヤムチャさんまで死んでしまったら、いよいよピッコロ大魔王に太刀打ちできなくなる!」

 

「だがな…」

 

「だめです‼…本当は天津飯さんにも行ってほしくはないんです。私が彼より強ければ力ずくでも止めています。だから止めれるあなたにそんなことはさせません!」

 

強さの話ではなく覚悟の話である。天津飯にはライを殺してでも魔封波を習得しようという覚悟があったが、ヤムチャは死ぬ覚悟はあっても仲間を手にかけてまで習得する覚悟はなかった。

 

 

天津飯が魔封波を習得するため一人飛行機で飛び去ったあとライも飛行機を用意する。

 

「ヤムチャさん、カリン様のとこまで案内します。あのピッコロ大魔王には及びませんがおそらく天津飯さんよりも強い方です。そこで私と一緒にカリン様の修業を受けてください。」

 

「…分かった。よろしく頼む。」

 

 

飛行機を使ってカリンまで着いたのち搭を飛行機を使うことにより大幅に時間を節約して到達した。

 

「ただいま戻りました、カリン様。」

 

「お主らしくない戻り方だったな。塔を登るのはそんなに時間がかかるものではないじゃろうに。っとなるほど、もう一人おったのか。」

 

「…初めまして。カリン様。私はヤムチャ。是非とも貴方様の力をお借りしたくこうして参りました。」

 

「彼も相当な実力者です。塔を登るのも最初のころの私よりもずっと早く登れるはずです。どうか弟子として彼に武術を教えていただけないでしょうか。」

 

「構わんよ。今は強いものは多ければ多いほどいいからのう。わしも全力で教えよう。じゃが…わしを超えることがゴールではないぞ?」

 

「分かっています。」

 

ヤムチャの決意を聞きいよいよ修業が始まる。




オリキャラ紹介
コキュウ
魔族。タンバリンとシンバルの容姿を足して二で割った感じの姿をしている。胡弓という楽器から名前を借りた。本当はもう一人オリ魔族を出そうと思ったが尺の都合で出せなかった。いつかその没キャラを使ってあげたい。名前だけでも。


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(第十二話)超神水を求めて

最近、というか五話とか六話くらいからなのですが自分が投稿した作品が読めなくなりました。なんか恥ずかしいんです。でも書いたものは全部晒す。晒すったら晒す。一話を投稿した時から未完は許されないと思ってます。どんなにつまらない展開でも、どんな結末を迎えようとも完結させます、絶対に。


「そこまでじゃ!今日のところはこれくらいにしておこう。過負荷は身を滅ぼすからの。」

 

カリン様の修業を始めて経験したヤムチャは修業の終わりを聞くとすぐに倒れこむように寝てしまった。それを横目にライがカリン様に尋ねる。

 

「そういえば、今この塔を登ってきている人がいますね。最もこのペースだと踏破は厳しそうですが。この際ですからその人も連れてきましょうか?」

 

「いや、大丈夫じゃ。お主は気の扱いがまだ完璧でないから感じ取れないかもしれんが、一人がもう一人を背負って登っとるんじゃ。それでこのペースならまず踏破できるじゃろう。」

 

「!この塔を人ひとり背負って登ろうとしているのですか。相当な実力者ですね。これは希望が見えてきたのかもしれませんね。」

 

カリン搭を人を背負って登ることは今のライでも相当な重労働である。それができる下の人物に希望を見出すのはある種当然であった。

 

「ところでもう一人は誰なんですか?背負われて登ってこようとはなかなかずるい気がするんですが。」

 

「…お主もヤムチャを飛行機でここまで運んだくせによく言うのう。まあよい。悟空じゃよ。ピッコロ大魔王との戦いでひどく傷ついておるからの。そのもう一人に運んでもらってるんじゃ。」

 

「悟空って、あの悟空ですか?カリン様から超聖水を3日でとったあの悟空が登ってきていると?」

 

「…お主の気を探る腕はもっとちゃんと鍛えてあげるべきじゃったな。天下一武道会が終わってからでよいと思っとったが順序を誤ったのう。」

 

ため息をつきながらカリン様がそういった。

 

「今日は気を扱う関連の修業が多かったのはそういうことでしたか。」

 

顔を満面の笑みにして、嬉しそうにそう言った。

 

「お主の単純な力は正直わしと大差ないからのう。お主だけならともかくヤムチャと一緒には修業をつけてやれんからな。内容を変えるよりほかないのじゃ。」

 

「いえ、感謝しております。実力差が歴然なのに戦いに行くことがないようにしないといけませんので。ところで先ほどからずっと気になっていたんですが…」

 

ライが二の句を継ごうとしたときそれを遮るようにカリン様が言う。

 

「冷静で何よりじゃよ。誰の気がどれくらいの強さでどこにあるか。正確に測れるようになるまでこの修業は続く。焦るでないぞ。さあ、そろそろ休め。体に負荷がかかっていないように感じるじゃろうがお主の体は休息を求めておるはずじゃからな。」

 

「分かりました。ゆっくり休みます。」

 

ライもヤムチャに続いて眠りについたあと悟空とヤジロベーが到着した。

 

「ついたー。あぁ疲れた。ハアハア。」

 

「来るのは知っておったが、悟空を背負ってこの塔を登り切るとはとんでもないやつじゃなあ。」

 

ヤジロベーを見て感心したように言い悟空が何か言いだす前にすぐに二の句を継ぐ。

 

「悟空よ言いたいことは分かるがまずはその傷ついた体を何とかしないとな。ほれこれを食え」

 

そう言って仙豆を渡す。ヤジロベーがごちそうがこれのことかと落胆してやけ食いし、悟空がその回復力の凄さに驚愕した。

 

「すげえ。まさかここまで元気になれるなんて。やっほーー、すげえすげえやー!」

 

「してこのわしに修業をつけてほしいということじゃったが、わしに教えられることはもうないのじゃ。悔しいじゃろうがピッコロ大魔王には勝つことができんのじゃ、あやつの強さは桁違い。武天老師も殺された。」

 

「ええー!じっちゃんが死んじまったのか!じゃあ、じゃあもう会えねえのか…あのヤロー!!」

 

悟空は亀仙人との日々を思い出しピッコロ大魔王に怒りを燃やし復讐に飛び出そうとする。

 

「ちょっと待てみすみす殺されに行く気か!お主なら今はまだ無理でも修業を重ねればやつに勝てる日もきっとくる!」

 

「でも、でもおら、このままじっちゃんやクリリン殺されてて、それで修業の日々なんて耐えられねえよ!やるだけやってやるさ。」

 

そう言う悟空にカリン様は難しい顔で言った。

 

「どうせ死を覚悟するなら飲んでみるか。超神水を。」

 

修業を重ねればピッコロ大魔王を超えられる…その言葉に嘘はないが一体いつになるのかは保証できない。一週間後か、半年後か十年単位になるかもしれない。その説得の空虚さにカリン様は気づいていたのだろう。

 

「なんだそれ。超聖水みたいなもんか。」

 

「あんな子供だましとは違う。素晴らしい神の水と書く。神の力が宿る水じゃ。その水を飲めば神にも迫る力を得られるんじゃ。」

 

「飲む飲む!強くなれるんだろ。飲むよ。」

 

悟空がカリン様にせっつく。

 

「まあ待てい。全くせっかちな奴じゃのう。超神水はなそう簡単に飲むことはできんのじゃ。北の果てにある氷の迷路のさらに奥にある暗闇の洞窟の中にあるのじゃからな。見つけられんで死ぬ可能性も高いんじゃ。それでも行くのか?」

 

「おら行く!これ以上ピッコロ大魔王に奪われるのはいやだ。」

 

「そうか、では行ってこい。」

 

カリン様が氷の迷路の入り口に案内する。まさに壺に入ろうとするその時、悟空を止める声がかかった。

 

「どうして私より強い人は命を軽々捨てに行くんでしょうかね。」

 

「ライ!ライじゃねえか。そうだよな。おめえここで修業していたんだもんな。」

 

「よくもまあぬけぬけと。私や亀仙人さんの静止も聞かないで突っ込んでいってそんなことが言えましたね。」

 

「あの時はかっとなってたからな。わりいわりい。」

 

悪びれる様子もなく笑顔でそう言ってのける悟空にライはため息をついた後言った。

 

「…。あなたの性格は理解していますし長所でもあるんでしょうけどもうちょっと悪びれてほしいものですね。」

 

「で、おらに何の用だ?止めたって無駄だぞ。おらは超神水を飲んであのピッコロ大魔王を倒すんだ。」

 

「それは知ってます。先ほども言いましたが、私より強い人は命を軽々と捨てる傾向がありますからね。だから私もついていきます。カリン様の話によれば超神水にたどり着く前に何か修羅場があるのでしょう。超神水を飲めずにやられたなんてことのないようにお手伝いします。」

 

悟空は顔を綻ばせる。

 

「おめえも手伝ってくれるんか。良かった~。おら一人じゃ超神水って水を手に入れてもちゃんと帰れるか心配だったんだ。おめえがいれば安心して超神水とりに行ける。」

 

「では行きま…うわああああ。」

 

ライと悟空は壺に入っていった。

 

「死ぬなよ、ライ、悟空。」

 

 

壺に入って氷の迷路の入り口に着いた悟空とライはカリン様から戻ってきたときには引き上げてやるとのお達しを受けて氷の迷路を進み始めた。

 

「あれっ?あそこにいるのはヤジロベーじゃねえか?」

 

「ほんとですね。行かないって言ってましたけど来たんですね。」

 

ライが悟空にそう返すとヤジロベーが不機嫌そうに言った。

 

「来たくて来たんじゃねえよ。落っこちまっただけだ。」

 

「だったらその場から動かなければカリン様に引っ張ってもらえましたのに。」

 

「と、とにかく俺は帰るんだ。」

 

そう言って歩き始めるが帰り道とは逆方向に進みだした。

 

「そっち逆だぜ。帰り道はこっち。」

 

悟空がその間違いを指摘してライに提案する。

 

「送ってやろうぜこいつだけじゃちゃんと帰れなそうだ。」

 

「そうですね。ここで迷子になったら流石に死にます。」

 

「決まりだな。じゃあ行くか。」

 

悟空がヤジロベーを送り届けようと動き始める。

 

「悟空、その道は左です…」

 

「そうだっけ?あははわりいわりい。」

 

自分がいなかったら大変だったろうなあと思いながら来た道を引き返していった。

 

 

「さて、ヤジロベーも送り返しましたし今度こそ行きましょう。」

 

「そうだな。目指せ超神水。」

 

二人で氷の迷路を攻略していく。しかしその道のりは平たんなものではなかった。

 

「なあライ。この道さっきも通らなかったか?」

 

「…すいません。道に迷ってしまったみたいです。さっきからいろんな道を選んでいるんですがここに戻っててしまう。」

 

そう話した直後吹雪が吹き荒れ目の前の氷山が、氷山であるはずのものが動き始める。

 

「ヴヴヴヴ。」

 

氷山は手と足、顔を生やしライたちに向かって動き始めた。

 

「超神水ってのはほんとにとんでもないとこに隠されてるんですね。氷山が動き出すとかあっていいんですかこんなこと。」

 

ライが驚愕に震えているが悟空はある種冷静に動き出した。

 

「任せろライ、こんなやつおらの攻撃でぶっ飛ばしてやる。たりゃりゃりゃ、たりゃー!」

 

悟空の連撃で氷山の魔物を倒すが全然堪えてないように起き上がる。

 

「だめだこりゃ。全然効いてねえ。だったらこれならどうだ!」

 

悟空はかめはめ波を打とうとため始める。

 

「かーめーはーめー、はあああぁ!!」

 

その一撃は確かに氷山魔人の顔を吹き飛ばす一撃となるもそれさえも氷山魔人には堪えず、悟空たちを追いかけ始めた。

 

「悟空、突破しましょう。きっと超神水はこの奥です。」

 

逃げながらもライは超神水にたどり着くための案を模索する。

 

「分かった!おらがもう一回あいつを倒すから、その隙に行くぞ。」

 

有言実行、悟空は急旋回して氷山魔人の顔に強烈な一撃を加えて氷山魔人にしりもちをつかせる。

 

「行きましょう!」

 

氷山魔人が動き出したことによってできた道を二人は全力で駆けていく。

 

 

一体どれくらい走っただろうか。気が付けば氷山魔人はいなくなり、洞窟の入り口にたどり着いた。

 

「とりあえず第一関門は突破ってことでいいんでしょうか。」

 

「おらたち逃げてただけだけどな。」

 

「不死身みたいなものじゃないですか。いくら神の力が宿るといってもあれを倒すことが条件になったら誰も飲めませんよ。」

 

二人は益体もないことを話しながら洞窟の奥に進んでいった。しかし二人一緒にいることを洞窟は嫌ったのだろう。ライ達を分断するべく洞窟が仕掛け始める。

 

 

「それでは二日目の修業といこうかの。」

 

「はい!よろしくお願いします!!…ところでライはどこに行ったんですか。」

 

朝を迎えヤムチャのカリン様による修業は二日目を迎えていた。

 

「お前が昨日倒れこむように寝た後に悟空が来てな。一緒に修業に出かけたよ。うまくいけば今日の午後には帰ってくるじゃろう。お主は気にせずに早く修業に打ち込め。」

 

「失礼しました。今度こそお願いします!」

 

さらりと特大の朗報を投げてきたカリン様に少し不満を覚えるも深く聞くのは昼の休憩にしようと再び修業に没頭した。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

「おっとっと。大きな揺れだったなあ。大丈夫か?…あれっ、ライ?おーーい!どこ行ったんだラーーイ!」

 

こちらもライとはぐれライを探すため動き始める。

 

(まあでもライは気配を感じ取れるっちゅう話だしすぐに会えるだろ。)

 

ライが自分の気を探れることを知っている悟空は気楽に動き出した。やがて悟空は自分のところに近づいている足音を聞く。

 

(これはライの動きじゃねえ。まず匂いが違う。誰だ。)

 

岩陰に隠れ先手必勝と拳を出すとその手を受け止められる。なんと相手は亀仙人だったのだ。

 

 

「っと。大きめの揺れでしたね。大丈夫です…あれ、悟空?悟空ーーー!」

 

悟空とライは洞窟の仕掛けによって分断される。

 

(まずい。気は近くに感じるのにいない。気の方向はどう見てもただの壁。そもそもさっきまで一緒にいたはずなのに。)

 

そう思考をめぐらせながら悟空を探し始めると近づいている足音を聞いた。

 

(この足音は悟空ではない。でもこんな洞窟に人がいるなんてあり得るのか?)

 

警戒しつつその足跡の主をみてライは驚愕する。




超神水を求める旅は二人用なんです。ヤジロベーに危険な目にあって欲しくないという私の優しさです。


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(第十三話)神の如き力

超神水が本当に潜在パワーを引き出すものならばこの時点で悟空は五倍くらいパワーアップしてもいい気がしてます。最長老様の潜在能力解放がそれくらいの強化率だったので。でもそうするとこの段階でラディッツに勝ててしまうので神のごとき力とさせていただきました。超神水の潜在パワー解放をしょぼくするよりはこっちの設定のほうが超神水の威厳が落ちない気がします。本当はただの毒で瀕死パワーアップ説は知りません。



「父さん、どうしてこんなところにいるんですか。占い婆さんのところに行っておいてくださいと言ったはずですが。」

 

足跡の主はスウだったのだ。ライは動揺でうまく回らない頭を使いながらそう疑問を口にする。

 

「なに、ピッコロ大魔王が現れたと聞いてな。とんでもない強さなのは十分に占い婆から聞いたから占い婆達と一緒に地下に逃げようと思ってさ。そしたらライも地下にきているって占い婆が教えてくれてな。迎えに来たんだ。お前も一緒に来いよ。ここなら安全だし、食料も占い婆の力でどうとでもなる。」

 

その発言を聞いたライは顔を苦渋に満ちた顔に変えてスウを見た。

 

「父さん。私はカリン様のところで修業をしていて、今は気の扱いについて修業しているんです。それで感じ取れる気の範囲もかなり増えて、カリン搭から占い婆さんのところまで範囲が広がったんです。おかしいですよね。数が合わないんですよ。あそこで私が感じ取れる強さの人はアックマンとミイラ君、今はいませんけどチャパさん、そして父さんの四人です。」

 

「それがどうしたんだ?」

 

ライは頬から涙を一筋流して次の言葉を次ぐ。

 

「三つ感じ取れるはずの気が二つしか感じ取れなくて、カリン様に聞こうとしたらはぐらかされました。そもそも、あなたが、あなたが本当に私の父親なら、私の安全よりも自分の安全を優先するはずがないんです。」

 

そこまで言い切るとライは構えをとった。

 

「すぐに終わらせます。醜い偽物はもう見たくありません。」

 

ライはスウに向かって行く。仮にも父親を模したものである彼に搦め手は通用しない。全力な力押しで攻めていく。

 

「はあああ!」

 

その全力の拳を振るいきる前に洞窟の岩がライを襲う。壁だったはずの岩石が離れ、ライの顔よりも大きなものを含め大小さまざまの大きさの岩石がライめがけで飛んでいった。

 

「なっ!くそっ」ガガガガガ

 

岩を砕いて戦ってくが無限に飛んでくる岩を砕きれずにダメージを負う。

 

(このままじゃまずいぞ。接近できれば何とかなるのに…!)

 

そんなライの思考を知ってか知らずか岩の間を縫うように偽物が接近してくる。岩の攻撃の隙をつき的確に急所を突く攻撃を仕掛け始めた。

 

「うっ、くそっ!」

 

(父さんと搦め手の相性がこんなに抜群だったなんて。)

 

戦闘力差はあれど急所を突かれ続ければ大きなダメージとなる。ライはだんだんとスウの偽物に追い詰められていった。しかし劣勢の状態もそう長くは続かない。悟空が現れたのだ。

 

「わっ!くっ!このっ!」

 

悟空だけでなく亀仙人の偽物も現れる。それによって岩の量は倍になる。悟空も捌くが明らかに悟空とライの負担は増えていた。

 

「悟空!来てほしいと思ったときに切れくれるのはありがたいですけど、余計なものまで連れてこないでくください!」

 

「おめえも余計なものつけてるじゃねえか!お互い様だろ!」

 

「こっちにはあなたと違って余裕が無いんです!」

 

「おらだってそんなに余裕があるわけじゃねえぞ!」

 

悟空の余裕はライのフォローでなくなっていた。悟空のフォローありきでも洞窟の偽物二体のコンビネーションはすさまじくライの負担は軽減しきれていない。二人はだんだんと崖に追い詰められ始める。後がないと悟ったライはある決心を固める。

 

「悟空、自壊する可能性がある奥の手使います!片方落として片方隙作るとこまでやるんで一気に決めて下さい!!」

 

「!分かった!!」

 

悟空の返答を聞ききる前に行動に移した。

 

「八速・狼牙風風拳!」

 

ライは八手拳と狼牙風風拳を掛け合わせた技を披露する。素早さを大幅に上昇させる絶技だが今のライにはリスクが高い技でもある。その技を使って近くで急所攻撃をしているスウの偽物を崖に蹴り飛ばす。

 

「はあ!」ドン!

 

すんでのところでガードを決められ崖下に落とすまでには至らない。すぐさまスウの偽物に接近して追い打ちを放ち、取って返して亀仙人の偽物のところまで行く。

 

(もう…持たない!)

 

この技は特に脚に負担が大きい。長く使い続けると脚が使い物にならなくなる。しかしライは技を酷使し続ける。

 

「…」

 

亀仙人は無言でライの攻撃から急所のみを防ぎひたすら時間を稼ぐことに集中した動きをとる。わずかレイコンマの時間であっても今のライには苦しい時間だ。

 

「らぁぁ!」

 

体の許容時間を超過しながらも無理矢理亀仙人の偽物を宙に投げ飛ばした。

 

「ぐうっ」

 

脚の痛みに耐えきれずライは立っていられなくなって倒れこむ。しかし無理をした甲斐はあった。

 

「サンキュー!ライ!」

 

右腕でかめはめ波を溜め、左手と両足で岩を捌いていた悟空は跳躍し至近距離でかめはめ波を放とうとする。

 

「悟空!!後ろ!」

 

跳躍した悟空に崖下に吸い込まれていくスウの偽物が岩石を放っていた。

 

「っ!」

 

悟空は一瞬動揺するも回し蹴りで岩を払い数瞬遅れるもかめはめ波を打ち込んだ。

 

ヒュウウウウウウドゴォォォン!!

 

轟音とともに亀仙人の偽物が吹っ飛ばされる。立ち上がらないことを確認し、悟空はライのところに向かう。

 

「ライ!おめえ無理しすぎだぞ。足がひでえことになってる。」

 

「これしかなかったから、やっただけです。けど…相当辛いです。少し休ませてください。」

 

「そうだ!仙豆は?おめえ仙豆持ってねえのか。」

 

「あの二人を倒すために技の途中で食べました。偽物たちが時間稼ぎに徹していたんで途中で食べないとと足が持たなかったんです。途中で食べるつもりはなかったんですけど。」

 

苦しそうに話すライに悟空はすまなそうに言う。

 

「すまねえ!おらがもっと強ければこんな事させなくて済んだのに。」

 

「謝ることではないです。むしろ感謝するところですよ。」

 

「…そうだなありがとうライ。最後もおめえが叫んでくれなかったらやばかったしな。」

 

悟空が感謝の言葉を述べた瞬間何の予兆もなく地面が崩れ始めた。

 

「なっ!くそっ!…うっ」ズキン

 

ライは無事なところに飛び移ろうとするが脚の痛みによって跳躍ができない。一方の悟空はそんなライを見て助けようとし、崖に右手をかけ、ライの手首を左手でつかんだ。

 

「た、助かりました。」

 

ライが心底安心したようにいう。

 

「いやまだだ!」

 

悟空が厳しい声でいう。それを聞きライが上に視線を上げると倒れたはずの亀仙人の偽物がいた。偽物は怪しい笑みを浮かべると悟空の右手を踏みつけた。

 

「そいつを離せ。そうすれば超神水の元まで連れて行ってやる。」

 

「離すもんか。絶対に離さねえ!」

 

意地を張る悟空の手を偽物は何度も踏みつけ、時には顔面を蹴り飛ばす。それでも悟空はライの手を離さなかった。

 

「悟空、離してください。私は悟空が超神水を手に入れるためにここに来たんです。大丈夫。落ちたって死なないようにうまく着地します。」

声は震えている。まだ15歳という若さで死は重い。

 

「い、や、だ…!」

 

悟空はその提案を拒絶し一人青あざを作りながら耐える。そのうちに攻撃は止み急に洞窟が揺れだしたつぎの瞬間には崖にいた悟空とライは床に寝そべっていた。

 

「うわああああ…あ、あれ?」

 

「うん?」

 

二人は崖から落ちたと思っているために無我夢中で叫ぶが周りの状況が見えてくると二人して立ち上がった。

 

「さっきまで崖につかまってたはずなのにどういうことだ?」

 

悟空が不思議そうに言う。

 

「きっと幻覚か何かだったんじゃないですか。悟空のあざも治ってますし。」

 

「でもおめえの足はひでえままだぞ。」

 

「足は技を使った反動です。偽物にやられた傷は治ってますよ。最も一番治して欲しかったのはそこなんですが…」

 

「なるほどおらたちは空気にむかって技を打っていたようなもんだったってわけか。それなら納得だ。」

 

そんな話をしていると湖が現れた。

 

「!お前が闇か!!」

 

悟空がすぐに戦闘態勢をとり構える。

 

「…お前たちに超神水を与える。」

 

「え?」

 

どこからかちゃぶ台と急須、コップが二つ出てきた。

 

「試練を突破して認められた…ということですかね。」

 

「これが超神水?」

 

「…超神水は強い毒なのだ。すさまじいまでの体力と精神力、そして生命力が無ければ確実に死ぬ。」

 

「毒か…神の力を得る水は普通の人間には耐えられないってことですかね。」

 

「でも飲めば強くなれるんだろ?」

 

「分からん。神の力をお前が超えていれば超神水を飲んでも何ら変化はない。」

 

「なっ!では、これまで何人飲んで何人生き残ったんですか?」

 

沈黙が続く。

 

「一人とか二人とかですか?」

 

「十四人飲んで一人も生き残らなかった。」

 

闇が厳かに告げる。

 

「そんなの…ただの毒じゃないですか!!どうして神の力が宿ると言えるんだ!」

 

その発言に対して沈黙で答える。ちゃんとした答えが出せないのだろう。しかしそんな中でも悟空は解を出した。

 

「それでもおら飲みてえ。」

 

静かにしかし確かな覚悟を持って発したその言葉を止めるものはこの場にはいない。この覚悟を止められるものがいるはずがない。

 

「悟空、自分が超神水に耐えられず失敗したときに私がこの状態でで帰れないことを心配しているならばそれは無用です。私はあなたの枷にはならない。でも本当にいいんですね?」

 

「もう決めたんだ。おら飲むよ。」

 

「健闘を祈ってます。」

 

悟空は片方のコップに超神水を注いだ。

 

「…お前は飲まないのか。」

 

闇がそう問う。

 

「馬鹿なこと言わないでください。両足がボロボロで体力と精神力はは奪われ続ける、生命力だってそうです。そんな状態で水を飲もうなんて自殺行為だ。」

 

ライがそう言うとコップが一つ消えた。話している間に覚悟が決まったのだろう。悟空は雄々しい雄たけびと共に超神水を飲み込んだ。

 

「うらああああ!」

 

その直後悟空の周囲に稲妻が走る。

 

「ぐわあぁぁぁ」

 

数時間にわたる苦行の時間が始まる。

 

 

カリン様の修業の水とりもヤムチャはいまだ攻略の糸口をつかめず四苦八苦していた。

 

「もう少し動きを読むのじゃ。スピードはやり方次第ではわしから水をとれるレベルに達しておる。」

 

「くっ」

 

ヤムチャの欠点を指摘しながら動いているが急にカリン様の動きが止まった。

 

「!」ピク

 

「今だ!」

 

「おっと」

 

ぎりぎりでヤムチャから超神水を守る。その直後何か考え込むように止まってしまったカリン様を見てヤムチャも動きを止めた。

 

「どうしたんですかカリン様。」

 

「…いま、今悟空のとてつもないパワーを感じた、気がした。」

 

「ではもうすぐ悟空はパワーアップして戻ってくると。」

 

「これは…何とかなるかもしれんぞ。」

 

 

悟空が超神水を飲んでから実に半日が過ぎようとしていた。

 

「ぐわああああ!うわああああ!」

 

「す、すごい。すさまじい生命力だ。一体何時間超神水に耐えているんだろう。」

 

ずっと苦しみ続けた悟空だが急に叫びが終わる。

 

「悟空、大丈夫ですか。死んで、ませんよね?」

 

ライが最悪の想像をしてしまうが悟空は放心した顔で目を開けた。

 

「…お、おらは、どうなったんだ。」

 

「!よかった。無事だったんですね。それで、強くなれたんですか?」

 

「分からない。けど力が、力があふれてくるんだ。」

 

そう言うと、闇に向かって礼をいう。

 

「ありがとなー。…よし行くか。」

 

「帰り道知ってるんですか?こんな洞窟が動いてしまったり氷山魔人に追いかけまわされたりでガイドとしての役目は果たせそうもないんですが。」

 

「大丈夫だ。今のおらには道が、見えるんだ。ライ、おらの背中に乗れ。カリン様のとこまで連れてってやる。」

 

「助かります。」

 

 

すぐに悟空たちはカリン搭へと通じるところまで着く。

 

「カリン様ーーカリン様ー!」

 

悟空がカリン様を呼ぶ。

 

「やったな悟空。よく無事で帰ってきた。」

 

「早く上げてほしいんだけど、その前に背負ってるライに仙豆を食わせてやりてえんだ。一粒落としてくれ。」

 

「ライも無茶したようじゃな。ほれ!」

 

仙豆を食べて全回復したライは悟空と共にカリン搭に舞い戻った。

 

 

「ライ、悟空と一緒に修業に行ったんだったら俺も起こしてくれればよかったのに。」

 

「すいません。死ぬかもしれない旅だったので。大魔王に対抗できる武闘家を残しておく必要があったんです。」

 

「ははは、実力が足りないってストレートに言ってくれてもいいんだぜ。今の俺には事実だからな。」

 

その言葉にライは困ったような顔をする。

 

「ラーーイ!筋斗雲に乗せてやるから一緒に来ねえか?」

筋斗雲をカリン様からもらってはしゃいでいた悟空がそんなライに声をかけた。

 

「ええ、こちらからお願いしようと思ってたくらいですよ。正直どっちが勝ってもおかしくない勝負になりそうですからいざというときに手助けができるように近くにいたいと思ってたんです。」

 

「大丈夫だ。おらは負けねえぞ。」

 

悟空はそう言い放つ。

 

「もしもの話ですよ。もしもの。そうだカリン様、仙豆を三粒ほど頂いてもよろしいですか。天津飯という武闘家がキングキャッスルに向かってるかもしれないんです。」

 

ライはキングキャッスルに向かっている気を感じ取ってそういった。

 

「構わんぞ。しかし三粒でいいのか?」

 

「実力的には悟空が一度全回復できれば間違いなく勝てます。残り二粒の内一粒は天津飯さんのため、もう一粒は保険です。」

 

若返ったピッコロ大魔王を見ているライはそれでも自信をもってそういった。

 

 

悟空とライが筋斗雲にのってキングキャッスルに向かって行ってしまい、カリン搭にはカリン様、それにヤジロベーとヤムチャが残る。

 

「勝てますかね、悟空たち。」

 

「気の感じる量はほぼ互角、仙豆があれば実力的に確かに負けるはずはないのじゃが…」

 

「だったら心配するようなことなんてなんもないでしょーよ。」

 

ヤジロベーは楽観して言う。

 

「あいつは魔族を生み出すことのできる能力の持ち主じゃ。楽観はできまい。」

 

(ライが足手まといになる可能性もあるしの。)

 

ライの自信とは裏腹にカリン様の見立てでは五分五分のようである。




偽スウ60
偽亀仙人139
え、弱くねと思ったそこのあなた、ちょっと考えてみてください。例えばあなたが小学生から石を投げられるとしたらそれは脅威でないでしょうか。しかもたくさん投げてくるんです。普通にヤバイです。下手したら死にます。岩石攻撃は気弾を使った戦いをまだほとんどしていないライや悟空にとって極めて有効な技となるはずです。だからこれでいいんです。ええ。


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(第十四話)ライと魔王と時間稼ぎ

六話の本文を結構前に変えました。ライの一人称が一瞬だけ俺になりました。


悟空とライがキングキャッスルに向かっている地上から悲鳴のような声が聞こえた。

 

「!筋斗雲止まってくれ。」

 

悟空が急に筋斗雲に指示を出した。

 

「どうしたんですか、もう天津飯さんは戦いを始めてます。寄り道をしている暇はないはずです。」

 

ライが急に筋斗雲を止めた悟空に苦言を呈する。

 

「すまねえ、ライ。多分おらの知ってるやつがピンチなんだ。おらそいつを見捨てることはできねえ。」

 

悟空はそう言って地上に降りようとする。その姿を見てライは苦虫を嚙み潰したような顔をして悟空に言った。

 

「その選択の結果、天津飯さんが死ぬとしてもその子を助けに行くんですか?」

 

ライの厳しい質問にも悟空に迷いはない。それを見てライはしぶしぶ言った。

 

「…私をキングキャッスルまで投げ飛ばしてください。私だけでも先に行って天津飯さんと時間稼ぎます。仙豆、全部使ってしまっても恨まないでくださいね。」

 

その発言を聞いた悟空の顔がみるみる喜色に染まっていく。

 

「ありがとうライ!…それじゃあ行くぜ‼」

 

「え、はや、ちょっとおおおおおお!!」

 

いきなり吹っ飛ばされたライは絶叫をお供に吹っ飛んでいく。

 

 

「魔封波をこの私にかけ損ねたことで死ぬのを少しばかり先延ばしにできたようだな。さあドラム、やつの心臓を握りつぶして止めを刺せ。」

 

魔封波を放ったことで天津飯は倒れこむ。

 

「ち、ちくしょう、無念…」

 

まさにドラムに手を下されようとしたとき、叫び声と一緒にライが突っ込んできた。

 

「天津飯、少し下がってえええ!」

 

魔封波を打った満身創痍の体に鞭を打って10センチほどだろうか、天津飯は急なことに驚いている魔族達に先んじて行動した。ライにとってその距離は果たして十分な距離足りえたのだろうか、しかし、少なくとも天津飯は攻撃を受けずに衝撃だけを受け取るに抑えることができた。

 

ドゴオオン!!!

 

「ぐ、ぎやアアアア」

 

隕石よろしく降ってきたライは勢いそのままにドラムの肩を蹴りこんだようだった。ドラムの悲鳴が遅れて響く。

 

「ただ力任せに投げたら私だってただでは済まないのに…」

 

土煙の中からライが姿を現す。天津飯が土煙の中見た足は本来ありえない方向に曲がっているようだったが、すでに正常な向きに治っていた。

 

「どうして来てしまったんだ。逃げろライ!こいつらはとんでもなく強い。」

 

片腕をつぶしたとはいえ、それでも全快の自分自分以上の強さはあると天津飯は実感している。さらにピッコロ大魔王は魔族を生み出すこともできる。敗北は決定的といって良かった。

 

「またこの私に逆らおうという愚か者が現れたか。貴様ら如き、私が相手をするまでもないと思っていたのだが、ここまでわらわら出てくるとさすがにうっとおしいな。仕方ない。この私自ら愚か者に制裁を加えてやろう。」

 

ライはそんなピッコロ大魔王の言葉を聞こえていないかのように天津飯に駆け寄った。

 

「悟空がくるまでの辛抱です。これ食べて時間稼ぎに付き合って下さい。」

 

そう言って仙豆を渡す。それを食べた天津飯は効果に多少驚きながらもすぐに戦闘態勢をとった。

 

「悟空は生きていたのか!いや、しかしこの短期間で悟空がこいつらを倒せるほどになるとは思えないが大丈夫なのか?」

 

天津飯の顔が一瞬喜色に染まるがすぐに疑問を呈する。

 

「大丈夫です。悟空がくれば必ず勝てます。だから、二人で彼らを食い止めましょう。」

 

「何を話しているか知らんが作戦会議はそれで済んだかな。魔封波も一対一でなければ大して脅威でもない。貴様らが私に勝つなど不可能だ。」

 

しびれを切らしたかのようにピッコロ大魔王がドラムと共に構えをとって戦闘が開始された。

 

「八肢拳!」

 

「四妖拳!」

 

二人とも時間を稼ぐことに徹した動きをとる。八手拳を脚にも応用させた技で速度を上げて翻弄を試みる。

 

「ドラム、お前は三つ目の方を狙え。私は新しく来た方を狙う。」

 

既にライや天津飯が動き出しているにも関わらず悠長にドラムに指示を出した。

 

「やあああ!」

 

ライはピッコロ大魔王にめがけて拳を振るった。八肢拳を使ったライの速度はドラムを凌駕する速度を誇る。しかしそれでもピッコロ大魔王は簡単にその拳を受け止めた。

 

「パワーはともかくスピードは大したものだな。速さだけではドラムよりも早いだろう。まあ私にはその自慢の速度も児戯に過ぎないが…なっ!」

 

ピッコロ大魔王はつかんだライの拳を握りつぶさんと強く抑える。

 

「ぐううああぁぁぁああっ‼」

 

握りつぶされる痛みに耐えながら残った左拳を放つ。しかしそれもたやすく掴まれた。

 

「貴様のような身の程をわきまえない奴を見せしめに殺すのも国王の職務だろう。」

 

「くっ…」

 

握りつぶされる痛みにも慣れてしまったのかもう叫びだすことはせず表情を歪めるに留めていたがどうすることもできないままでいた。

 

「ライ!!くそっ」

 

天津飯がライの援護に入ろうとするもドラムとの戦力差は拮抗しているため助けには入ることができない。

 

「ふははよそ見する余裕なんてあるのかなあ!」

 

ドラムは片腕が使えなくても天津飯を倒せるほどの力を有していた。天津飯がライを気にしていることに対してドラムは天津飯を倒すことにのみ意識を集中している。この意識の差は大きかった。

 

「俺が、いつまでも助けられてばかりでいると思うな!」

 

しかし天津飯も天下一武道会優勝者としての意地を見せる。飛び上がって狙いをピッコロ大魔王に定めた。

「おかしな封印術は無駄だといっただろう!」

 

ドラムも飛び上がって追撃を仕掛けようとした。それを待っていたかのように天津飯は魔封波の構えから気功砲の構えと変えて、ドラムへと構え直す。

 

「気功砲だあ!」ピシュン!

 

ドゴオオン‼

 

すさまじい轟音が響くが天津飯は間髪入れず二発目を、そして止めに三発目を放った。

 

「はぁ!」ピシュン!

 

ドゴオオン‼

 

「はぁ!」ピシュン!

ドゴオオン‼

 

今の天津飯の実力では乱発できる技ではなかった。数発放つだけでも限界であるその技をドラムを倒すために限界ぎりぎりまで放つ。そして天津飯はさらに四発目を打った。四発目はピッコロ大魔王を狙う。狙いの先には拳を握りつぶさんとしているピッコロ大魔王と拳を握りつぶされんとしているライがいた。

 

「はぁ!」ピシュン!

 

ドゴオオン‼

 

「ほう、味方もろとも攻撃しようとはなかなかお主にも悪人としての見どころがあったのかもしれんな。」

 

とっさに両腕で気功砲を防いだのだろろう。あれだけの攻撃を食らったわりにほとんどダメージを受けていなかった。

 

「お、俺の最大術を食らって平気でいやがるとは。お前の手下を倒した技だったというのにな。」

 

「貴様と私では雲泥の差があるのだ。その程度の攻撃で俺に傷をつけることはできん。貴様を助けに来てくれた奴もさぞ無念だろうなあ。さっきの奴に詰られる姿が目に浮かぶ。」

 

「…な、何か勘違いしているような。お、俺が気功砲を打ったのは、そうすれば助けられる、と、踏んだからだ。」

 

気功砲を打った反動だろう。息も絶え絶えにそういうと舞空術を維持できず落ちて行った。

 

「何だと?」

 

ピッコロ大魔王があたりを見渡すが、そこには確かにライの姿はなかった。

 

「遅いじゃないですか。悟空。」

 

「生きていてくれてよかったぞ。あとはおらに任せてくれ。必ず勝って見せる。だからその手少しだけ我慢してくれ。」

 

悟空はそう言うと天津飯のところまでライを運ぶ。

 

「ライ仙豆余ったか?」

 

「…一粒だけです。」

 

「じゃあ天津飯に食わせてやってくれ。このままだと戦いの余波で死にかねねえ。その腕はおらがあいつを倒したらすぐにカリン様のところに連れてってやるか少しだけ我慢してくれねえか。」

 

「それは構いませんが…勝てますよね。」

 

ライの見立てでは悟空とピッコロ大魔王は拮抗している。負ける可能性も十分にあった。

 

「心配すんな。おらのわがまま聞いてもらったんだ。絶対勝ってやる。」

 

その心配を払拭するように悟空は力強くそう言い切った。

 

「こいつは驚いた。確かに息の根を止めたはずだったんだが。」

 

ピッコロ大魔王が意外そうに言い放った。

 

「おら運がいいんだ。」

 

「しかし残念だったな。私はドラゴンボールを集めて若返りに成功した。これがどういうことか分かるか。貴様をコテンパンにした奴がさらに圧倒的な力を身に着けたということだ。」

 

「おらもおめえを倒せるくらいまで強くなった。」

 

ひるむことなく悟空はピッコロ大魔王に言い放つ。

 

「倒す?このピッコロ大魔王を倒すだと?馬鹿を言え。私にはお前の冗談を聞いているほど暇じゃないのだよ。西の都が私を待っている。五秒だ。五秒で蹴りをつけてやる。お前のような奴は死なんと分からんようだからな。」

 

そう言うと悟空の首筋めがけて手刀を放つ。

 

ドン!

 

しかし悟空はその手刀を難なく受け止めそのまま後ろに投げ飛ばした。ピッコロ大魔王は建物に激突し建物が崩れさる。

 

「こ奴…!」

 

ダメージを追った様子もなくビルから飛び出したピッコロ大魔王に悟空は言う。

 

「もう五秒たったぞ。」

 

「なっ!…なるほど、よっぽど死に急ぎたいようだな。お望み通り殺してやろう。」

 

ピッコロ大魔王はそう言うと気を集中し全力で悟空を殺そうと攻撃を始めた。

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

拳と拳、脚と脚、すさまじい技と技が周囲の空気を揺らしものすごい轟音が響く。

 

「すさまじい戦いだ。さっきまでの俺達の戦いなんてまるで児戯だぜ。見えるかライ?」

 

「正直早すぎます。目で追うのがやっとですよ。」

 

「全くだ。だが悟空のほうが少しばかり優勢のようだぞ。」

 

第三の目を持つ天津飯はライよりも二人の戦いを見れていた。だからこそ悟空の攻撃の方が多くピッコロ大魔王に入っていると知ることができたのだ。

 

「…いえ、確かにそうかもしれませんが、二人ともまだ全力で戦ってないはずです。お互いにそこまでのダメージではないでしょう。」

 

ライは天津飯ほど戦いを追えているわけではないが、気の動きも使って戦いを見ていた。悟空が全力でないこともピッコロ大魔王が余力を残していることも気で感じ取っていた。

 

 

「…これは驚いた。前にあった時とは別人のようにパワーアップしている。お前がこの私を倒せると思ってしまうのも無理はないのかもしれんな。だが、俺はまだ本気を出していない。俺が本気を出した時がお前の最後だ。」

 

お互いに距離をとり仕切り直している最中、ピッコロ大魔王がライの予測を的中させる言葉をこぼす。

 

「だがフルパワーで戦ってしまうと寿命が縮む。だから使いたくなかったのだが、お前を一瞬で殺してやるには使うしかないようだな。」

 

「おらもだ。おらもまだ全力を出しちゃいねえ。いきなりのパワーアップで力を持て余していたけどもう十分に使いこなせる。」

 

その悟空の言をピッコロ大魔王は一笑に付す。

 

「これ以上の急激な成長をしていたらお前の体が悲鳴を上げて死んでいただろう。馬鹿な冗談はよすんだな。」

 

そう言ってフルパワーを出すべく気を充溢させていった。

 

「確かに死んじまうかと思ったぞ。でも生きてる。お前を倒すまでおらは死なねえ。」

 

全開の実力を開放した二人が再び激突した。 

 

 

「…追えてますか?私は気の動きはなんとなく感じられてますが、目ではもう無理です。」

 

「第三の目の力もあって大雑把な動きは分かるがどっちが押しているのか全く分からない。正直ここにいてもただの足手まといだろうな。」

 

「ええ、少しばかり距離をとりましょう。」

 

二人が実力の差に愕然としながら距離をとっていると悟空が吹っ飛ばされていた。

 

ドゴオオン!

 

地面に大きなクレータができる。

 

「「!!」」

 

「私を倒せるものなどこの世に存在するはずがない。ふふ、はーはっはっはっ。」

 

「万事休すか。」

 

勝利を確信し笑いだすピッコロ大魔王に天津飯は青ざめた顔でそうこぼし臨戦態勢をとるがライは表情を変えずにいる。するとクレーターから悟空の声が聞こえてきた。

 

「かーめーはーめー、波ああああ!」

 

その技は通用せんと両手を構えるピッコロ大魔王の裏をかきかめはめ波を曲・げ・る・。

 

「ぐわああ」

 

背中に攻撃を受け前に倒れこむピッコロ大魔王を前にしても悟空は油断しない。

 

「立て。今のはただの脅しだ。大したダメージじゃねえだろ。この戦いはどっちかがバラバラになるまでは終わらねえ。」

 

「無論、貴様だ!」

 

三度悟空とピッコロ大魔王が激突する。二人はほぼ互角の戦いを演じるがフルパワーに大きな負荷がかかるピッコロ大魔王が徐々に押され始める。激しい肉弾戦の末二人の息が上がり二人が一度距離をとる。

 

「いいぞ、悟空が押してる。このままいけば…」

 

悟空がピッコロ大魔王に接近し小柄な体躯からくる素早さとそれに見合わぬすさまじいパワーでピッコロ大魔王をタワーに蹴り飛ばしタワーが崩れ去る。追撃をしようと再び接近しようととびかかったところでピッコロ大魔王がががれきを投げる。

 

「はっ」

 

悟空はそれを両腕で防ぐがその隙にピッコロは魔光線を放った。

 

「ぐあああ。いってええ!」

 

「ふははは。片足をつぶしたぞ。これで素早い動きはできまい。」

 

「片足さえあれば十分だ!」

 

悟空はそう宣言し、如意棒を使って重い一撃をピッコロ大魔王に食らわせた。

 

「へっへえ、どんなもんだい!」

 

片足をつぶされてなお抵抗しきる悟空はピッコロ大魔王の逆鱗に触れてしまう。

 

「おのれえ、許さん、許さんぞ!はあああああ!」

 

「まずい!あいつにすさまじい気が集まってるぞ!!」

 

ピッコロ大魔王がエネルギーを溜め指から魔光線を連続で放つ。悟空もかめはめ波である程度相殺するが足の痛みもありうまいことかめはめ波を連続で出せず悟空は大きなダメージを受け如意棒をはじかれる。

 

「これで、終わりだあ!」

 

「いけない!!」

 

「いかん!!」

 

天津飯とライはピッコロ大魔王が渾身の爆力魔波を放つ前に悟空を逃がそうと悟空の元へ飛び込もうとするが少し距離をとっていたのが仇となったか無情にも超威力の爆力魔波が放たれた。




ドラム(片腕負傷~通常)180~210
ライ180
ライは超神水騒ぎで天津飯と並びました。何とか天津飯がドラムと戦える範囲に負傷させてやったぜ。ライがピッコロ大魔王と戦えるかといわれると…まあ根性で頑張ってもらいましょう。ピッコロが見せしめもかねて手を抜いていたと考えてもよいでしょうし。


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(第十五話)ある戦士の結末そしてリスタート

本日で連続投稿日間終了です。また週一投稿に戻ります。また気まぐれに連続投稿することもありますが、書き溜め次第ということで。それでは今週は毎日私の小説にお付き合いありがとうございました。来週もよろしくお願いします。


ドッガアアアアン

 

轟音が響きあたり一帯が焼け野原となる。

 

「ふっふっふっ…はーはっはっはっ。ようやく終わったぞ、ようやく消し飛んだ!」

 

ピッコロ大魔王が喜ぶのも束の間、ピッコロ大魔王は悟空の気を感じ取る。

 

「ばかな!あの怪我では避けられるはずがない。」

 

あたりを見回すと天津飯に抱えられた悟空とライが空中に浮いていた。天津飯は落ちるように降りていく。

 

「天津飯!ライ!すまねえおらの実力が足りなかったから…!」

 

悟空を庇うために爆力魔波を食らったライにライが防ぎきれなかった部分を悟空から庇いながら舞空術を使った天津飯は既に満身創痍であった。

 

「どうやら二度目はないようだな。」

 

二人の様子を見てピッコロ大魔王が動揺を抑え込む。

 

(い、意識が朦朧とする。もう、持たない…)

 

力尽き天津飯が気絶してしまう。ライも辛うじて意識があるようだが耄碌していた。

 

「もう一回撃ってみろ。お前も今のでずいぶん消耗したはずだ。今度は一人で受け切って見せる。」

 

「俺様の爆力魔波をなめるなよおおお!」

 

悟空の挑発を受けピッコロ大魔王が再びパワーをため始める。その時を見逃さず悟空が全力の拳をピッコロ大魔王に食らわせた。

 

「たあああああ!」

 

「…ぐっくっそおおお」

 

その一撃を受けながらピッコロ大魔王は再び爆力魔波を放つ。悟空を巻き込んだその爆力魔波は威力のわりには範囲は狭く天津飯もライもまだ生きていた。そして直撃した悟空も。

 

「そろそろ決着がつきそうだな。おらが死ぬか、おめえが死ぬか。」

 

そう言う悟空の気迫に気おされピッコロ大魔王はライを人質にとった。

 

「はーはっはっはっ、ようしわずかでも動いてみろこいつの頭が砕け散るぞ。」

 

「な、汚えぞ!」

 

「汚い?なかなか小気味よいことを言ってくれるじゃねえか。」

 

人質をとったことで余裕ができたのか饒舌に話し出す。

 

「…悟空…私のこ、となど気にしな、いでこいつをたお…!」

 

「余計なことは言わんでいいんだ。」

 

ライが悟空に攻撃するように言おうとするが頭を握られて言葉を区切られる。

 

「ぐぅぅ…」

 

「ライ!くそっ!」

 

悟空はライがやられているところを見て動けないでいた。

 

「それでいいんだ。こいつの命が惜しければ決して動くんじゃないぞ。」

 

そう言ってピッコロ大魔王は悟空の左腕を岩石をぶつけて動かせなくする。

 

「はっはっはっ。貴様ら人間の弱点はそこだ。非情になり切れない心の弱さ。それがある限り貴様たちは絶対に勝てん。」

 

自分の優位を確信したピッコロ大魔王はそう言ったがその一言が悟空に決断をさせた。

 

「…すまねえライ。きっとドラゴンボールで生き返らせるから、おらを、許してくれ…‼…はあああああ!」

 

悟空は今出せるすべての力を右腕に集約させ始めた。

 

「な、なに⁉この俺に攻撃をしようというのか。こいつがどうなってもいいというのだな!」

 

「かーめーはーめーー波あああああ!!!!」

 

ピッコロ大魔王が狼狽するも気にせず悟空渾身のかめはめ波を撃ち込んだ。 

 

 

「カリン様、悟空達は本当に勝てるでしょうか。」

 

ヤジロベーが筋斗雲に乗り損ねて下まで落ち静かになったカリン搭に残されたヤムチャはキングキャッスルの方を眺めながらそうこぼした。先ほど聞いたときカリン様が含みを持たせたのが気になったのだ。

 

「悟空とピッコロ大魔王の実力は同じくらいであることは間違いないが、正直厳しじゃろうな。」

 

「!どうしてですか。実力が伯仲していればライもいるんですし負けるはずがないでしょう。仮にライと次元が違う強さだとして、ライが援護に入れなくても仙豆があるではないですか。」

 

「悟空には守るものが多い。ライに悟空達よりも先に戦いに赴いたという武闘家。逃げ遅れた一般人がいればそいつも悟空は見捨てられんじゃろう。守るものが多いというのは諸刃の剣じゃ。おそらくピッコロ大魔王はその弱点を巧みに突いてくる。そうされたら仙豆を一粒どころか百粒あったって勝てんよ。」

 

 

 

 

「すまねえ。すまねえ、ライ」

 

荒れ果てた大地に土煙が舞う。かめはめ波をライを巻き込んでピッコロ大魔王に直撃させた悟空は悔しそうな顔でそう言った。

 

ヒュン!ガン!

 

岩石が土煙の中から悟空の左脚に当たった。

 

「ぐ、うわああああ‼」

 

痛みに悶える悟空をあざ笑うようにピッコロ大魔王が姿を現した。

 

「ふふ、はーはっはっはっ。この肉壁のおかげでこの俺は貴様を殺せる程度には体力を残すことができた。」

 

ボロボロになったライを投げ捨てピッコロ大魔王が言い放つ。

 

「そ、そんな、おらは間違いなく、間違いなく本気でやった、やったはずなのに。」

 

「ふん、非常になり切れんのがお前の、お前たちの弱点だ。無意識に威力を弱めたな。」

 

「ち、ちきしょう、ちくしょおおおお!」

 

悟空は悔しさに任せて叫ぶ。

 

「ドラゴンボールもこの俺が壊したし、魔封波も魔族を増やせば驚異足りえない。今度こそこの俺が支配する悪に満ちた世界の幕開けというわけだ。」

 

「!そんな、嘘だ!!ドラゴンボールが壊されたなんて嘘に決まってる!」

 

無慈悲な宣言に悟空の顔が絶望に染まる。

 

「それだ!その表情!!絶望に満ちたこの世界こそ俺の支配する世界にふさわしい。恐怖の世界の幕開けだ!…ではそろそろ止めと行こう。」

 

ピッコロ大魔王が舞空術で上昇していく。全員に当たるように攻撃を放つつもりなのだろう。しかしそう簡単に悟空は戦意を喪失しない。人を殺めた後悔に打ちひしがれながらせめて仇をと残った力のすべてを捧げる。

 

「失敗したなー!腕が一本残ってるぞー!波あああ!」

 

悟空が残った片腕でかめはめ波を地面に放ち飛び上がる。

 

「おらのすべてをこの拳に賭ける!つらぬけー!」

 

悟空の全力の右拳がピッコロ大魔王を貫いた。

 

「じっちゃん!クリリン!ライ…。か、勝った、勝ったぞーーー!」

 

勝利の咆哮と共に悟空は地上に落下していった。

 

 

「裁定は終わったかの」

 

ところ変わってあの世に行ったライは閻魔様の裁定を受け天国に行こうとしていたところを呼び止められた。

 

「…占い婆さんじゃないですか。そうかあの世とこの世を行き来できるんですもんね。どうしたんですか。」

 

「いやなに。お主はカリン搭の修業を終えたら来てもらうつもりだったからの。一日限定の戦士であるが切り札として捕まえておこうかと思ってな。ついでに悟空とピッコロ大魔王の戦いの結末を教えてやろうと思っての。」

 

付け加えられた言葉にライは息をのむ。

 

「…悟空は勝ったぞい。ピッコロ大魔王は死んだのじゃ。わしの弟を始め魔族に殺された者も報われることじゃろう。」

 

悲しそうに死者を悼む声音であるがその言葉を聞いてライはほっと胸をなでおろす。

 

「死んだ甲斐が、ありました。」

 

そう言葉にしたとたんライの目から涙が留めなく流れてくる。

 

「あ、すいません。死んで、しまったことに、ようやく、実感が…」

 

すすり泣くライが泣き止むまで占い婆は何も言わずにそばにいた。

 

 

 

 

「お恥ずかしいところをお見せしまして…すいません」

 

何とか涙を抑え込み落ち着いたところで占い婆に謝罪の言葉を紡ぐ。

 

「なに、気にすることじゃないわい。わしも長生きしておるからの。人の死には何度も立ち会って居る。お主のような反応が普通じゃよ。」

 

「いえ、父さんやチャパさん、亀仙人さんだったらこんな風にくよくよしないはずです。もっと強くならないと。」

 

死んでしまっても尽きない向上心を持ちそう言った。

 

「死んでしまったのは悲しいですけど、父さんやチャパさんに会えますし、母さんにも会えますからね。」

 

「…そのことなんじゃがな。お主の父親やわしの弟のように魔族が原因で死んでしまった者はあの世に来ることさえできず現世に魂のみが漂い永遠に苦しみ続けることになるんじゃ。」

 

「なっ!そうですか。」

 

ライがあの世に来たのは止めを刺した人物がピッコロ大魔王ではなく悟空だったからだろう。

 

「そんなに驚いていないようじゃな。うすうす勘付いておったのか?」

 

「いえ、父さんもチャパさんもピッコロ大魔王に立ち向かった人はあの世の存在を知らずに死んだわけですし、二度と会えないと分かっていてその選択をしたわけですから、ここで泣いたら彼らの誇りある死を汚すことになります。私もあの世で会えるからと思ったから死んだわけではないですからそこの覚悟はしてましたし、後悔は涙と一緒に流しました。」

 

精悍な顔つきをみて占い婆は本来の目的を果たすべく話す。

 

「…お主はアンニンという女仙のところで過ごせるように話を通しておいた。孫悟飯もいるし二人で鍛えるといい。天国にも行きたければいけるが、天国に行くと魂だけの存在となってしまい戻ってこれないから行くならよく考えていくのじゃぞ。切り札といったが気にせんでいいからの。世界を救った礼とでも思っとくれ。」

 

「何から何までありがとうございます。」

 

「天国行きを引き留めるんじゃからこれくらいはしないとじゃろ。戦士として使いたいときは会いに行くから気が変わって天国に行く際は孫悟飯にでも言伝を頼むぞい。ではな。」

 

「あ、ちょっと待ってください。聞きたいことがあったんです。」

 

今にも立ち去ろうとする占い婆をライは引き留める。

 

「なんじゃ、わしにかかれば大抵の事は答えられるぞい。占いもあるしの。じゃが…お主の父親の魂をあの世に連れていく方法は分からない。」

 

「いえ、占い婆さんは未来を占えるといってましたので、わざわざ言伝を頼まなくても分かるんじゃないかと。そもそもピッコロ大魔王と悟空の戦いの末も知っていたんじゃないですか?だとしたら…」

 

ライの声音に怒気が含まれる。ライは暗に言っているのだ。父親であるスウや占い婆の弟である亀仙人も占い婆が未来を教えていれば死ななかったのではないか、と。

 

「確かにわしは先にこの結末を知ることができた。弟に死を伝えることもできたじゃろうし、戦いに赴く前のお主にも結末を教えることができたじゃろうが…それだけじゃろうよ。」

 

「それだけ…とは?」

 

「お主も弟も死ぬことが分かったくらいでは死に向かうということじゃ。わしの行動で変わる程度の未来は見えないんじゃよ。もしわしがお主の死ぬ未来を見てしまったが最後、わしがどうあがいてもお主は死ぬ。じゃからわしは生死が関わる未来はもちろん、当人のその後に大きな変革をもたらす未来は見ない。わしがそいつの人生を狂わしたことになるからの。」

 

「なるほど、ありがとうございました。」

 

過去に覚えがあるのか少し苦しそうに言う占い婆の心境を察してかライはそれ以上の追及をしなかった。

 

「例を見せてやろう、お主アンニン様のところに行ったら間違いなく勝負を挑むじゃろう。あの方はピッコロ大魔王ほどではないがお主よりは強いからの。その時の決め手を占ってやろう。」

 

そう言うと占い婆は水晶玉をとりだし何事かとつぶやき始めた。

 

「へえ、そんな人がいるんですか。世界は広いですね。」

 

ライが感心したようにそうこぼすころには未来を見れたらしく呪文の詠唱は止まっていた。

 

「それでその決め手は何になるんですか、必ず防いで見せますよ。」

 

そう聞くが占い婆は急に笑い出したまま答えなかった。

 

「ふぉっふぉっふぉ。いやなに、お主はアンニン様と戦うことができないようでな、勝負が始まらないんじゃ決め手もなにもないようじゃよ。」

 

ようやく話したかと思えば予想外のことをなぜか嬉しそうに話した。

 

「アンニン様ってよっぽど忙しいんですか?でもこれからは無限に時間があるようなものですし一度も戦えないってことはないと思うのですけど…あったら勝負を挑んでみます。」

 

「すぐに意味が分かる。お主は戦えんよ。ではわしはこれでな。戻ってやらなければならないことがあるようじゃからの。」

 

そう言って占い婆がこの世に戻っていった。

 

 

 

(どういう意味なんだろうな。勝負を挑めないなんて…)

 

占い婆の言葉の意味を考えながら来た道を引き返しアンニンの元へ向かう。あの世とこの世の出入り口の管理者、自分よりも強い者の存在に胸を高鳴らせつつアンニンの元へと目指していると急に体が透け始めた。

 

「えっ、なにちょっ、は?」

 

急なことに何もできずに体が透けていくのを見守る。だんだんと意識も薄くなってきてライはそっと意識を手放した。

 

 

 

 

目を覚ますと自分が何かのカプセルに入れられているようだった。

 

(ここは…?)

 

靄のかかった意識がだんだんと晴れていくうちにカプセルの蓋がひとりでに開いていった。起き上がって周りの様子を見ると天津飯やブルマたち、そして同じようなカプセルからチャパ、亀仙人、クリリン、餃子と死んだはずの面々が顔を出す。

 

「生き返った?でもどうやって…?」

 

混乱しているライにブルマが教える。

 

「神龍よ神龍!孫君が神様に神龍を生き返らせるように頼んだの。」

 

「まさか本当に生き返らせてしまうなんて。あの時の言葉を本当にしたんだ…」

 

悟空に思いを馳せているといまだ状況が読めていないクリリンが驚いたように言う。

 

「え、なに俺、死んでたの?」

 

「のんきな奴だな、クリリンは」

 

ピッコロ大魔王の存在を知る仲間たちが呆けているクリリンをみて朗らかに笑った。

 

 

 

 

「悟空の奴上手くやりおったわい。ライたちが生き返ったようじゃ。」

 

カリン搭でヤムチャの修業をつけているカリン様がライ達の気を感じてそう言った。

 

「そうですか。良かった。ライ達は生き返れたんですね!」

 

「会いに行くか?」

 

「…いえ、今はまだいいです。次の天下一武道会の時までとっておきますよ。それに何人かはここに来ると思いますしね。今はただ早く悟空達に追いつきたいです。」

 

生き返ったもの達との再会は待ち遠しいものではあるが、それよりも今のヤムチャを突き動かすのは、ピッコロ大魔王相手に何もできなかったことに対する自責の念だった。

 

 

 

 

「そうか、悟空の奴が、やっぱすげえや!」

 

「ピッコロを倒すとは。それで悟空は今どこにいる。」

 

一通りの話を聞いてクリリンと亀仙人がそれぞれ話す。

 

「それが、よくわからないのですが、神龍によれば天界で修業しているそうです。」

 

亀仙人の疑問に天津飯が答える。

 

「て、天界じゃと!」

 

「老師様、ご存じなのですか。」

 

「ま、まさか信じられん!いや、悟空のことだ、ありえるかもしれん。」

 

「どういうことなの、説明して。」

 

亀仙人の剣幕にブルマが疑問を挟む。

 

「わしにも詳しいことは分からんが、天界で主修業をしているということは、教えているのは神様じゃ。」

 

すさまじいスケールに信じられないと驚くも、それぞれの武闘家たちは神様の修業以上の修業をしてやろうと意気をあらたにした。

 

 

 

 

亀ハウスから離れ、チャパとライはブルマからもらった飛行機に乗り占い婆の館を目指していた。

 

「しかしまあ天界で修業とは、少し前までは互角に戦えていたはずなのに若者の成長は目覚ましいな。」

 

「何言ってるんですか。チャパさんも十分強くなっているじゃないですか。」

 

「もちろん数年前とは比べ物にならないくらい強くなったが、武術の王を名乗っていたころが遠い昔のように感じるよ。」

 

チャパは十分若々しい見た目ではあるが既に孫もいる年齢になっている。日頃の修業によって老化が遅れているが止まっているわけではない。自身の限界を感じつつあるのかもしれない。

 

「このまま占い婆さんの館でいいんですか?それともお弟子さんに会いに行きます?」

 

「ああすまない。私の道場までにしてくれ。家族にも会いたいしな。そこからは自分の足で占い婆の館に行く。ライはどうするのだ?」

 

「私はカリン搭に行きます。まだまだ修行の続きでしたから。でも今度の三年間こそ修カリン様の修業を終わらせて占い婆さんのところでチャパさんや父さんと修業します。」

 

「はっはっはっ。君と修業できる日を楽しみにしているよ。」

 

 

チャパを道場に送りカリンまで着いたライはカリン搭を踏破してカリン様のところに着いた。

 

「ただいま戻りました!」

 

「おう、ライお疲れさん。」

 

「カリン様、またご指導よろしくお願いします!」

 

「わしの教えられることなどあとは気の扱いくらいじゃがの。完璧になるまで教えてやるぞい。」

 

カリン様に礼をすると修業が終わって休んでいるヤムチャの元へ向かった。

 

「ライ!生き返れて良かった。本当に良かったよ。」

 

ライを見つけるや否やそうこぼすヤムチャもライを心配していた人の一人だ。

 

「悟空のおかげですよ。これからしばらくは一緒に過ごすことになりますね。よろしくお願いします。」

 

「ああ、お前にもすぐに追いついて見せるさ。」

 

各々が修業に身をいれて三年という月日は瞬く間に過ぎて行った。




ライが天国に行ったのはとどめの一撃が悟空だからです。これを語るべきか迷いましたけど、それを知った方が悟空のセリフに重みが出ると思いましたので無粋ですけど書かせてもらいました。
そう言えば気の集中は第二十二回天下一武道会から使えてますのでそのつもりでお願いします。


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(第十五.五話)救世主の原点

番外編です。投稿後一週間くらいは最新話に置いておきます。この話は本編ではないので一月一本には含めません。本編はもう少しお待ちください。


「カリン様、ありがとうございました。」

 

「うむ。ここまでの武闘家によく成長した。残り二年は自分の好きなように鍛えるがよい。もし望むなら、神殿に行くことも構わんぞ。」

 

ピッコロ大魔王が死んでから一年、ライはカリン搭での修業を終わらせた。カリン様の勧めがあれば神に謁見する権利が得られる。ちょうど一年前の悟空のように。

 

「いえ、神様の修業は悟空も受けています。確かに今よりも強くなるのは間違いないでしょうけど、それをしたら絶対に悟空に追いつけません。」

 

「勿体ない気もするんだけどな。神様に修業をつけてもらえる機会なんてそうそうないぜ?」

 

きっぱりと断ったライに対して、同じくカリン搭にて修業を続けていたヤムチャがそう言う。

 

「でも、ヤムチャさんも同じ決断をするでしょう?」

 

「そりゃあまあな。同じことやってたんじゃ追い付けないのは間違いないし。」

 

勿体ないと言いつつもヤムチャも決断は同じだ。もっともヤムチャはカリン搭での修業がまだ終わっていないのだが。

 

「それじゃあ、私はこれで、自分の思うように修業します。」

 

「ああ、また二年後に会おうぜ。そしてその時の天下一武道会で優勝するのは俺だ!」

 

「私も負けませんから。」

 

「達者でな。」

 

「はい。」

 

そういってライはカリン搭から飛び降りた。

 

「さて、これからはお主一人に集中できるな。ビシバシ鍛えてやるから覚悟するんじゃな。」

 

「はい。ライは四年かかりましたけど、俺は半分です、二年であなたの修業を修めて見せます。」

 

 

ドドドドドドドドド

 

餃子の超能力によって大量の小石が宙を舞い、天津飯を襲う。

 

「ふっ、やっ…はぁっ!」

 

それを全て躱し、捌き、吹き飛ばした。

 

「お見事です、天津飯さん、それに餃子さんもお久しぶりです。」

 

カリン搭での修業を終えたライは気をたどって天津飯とライの元に向かっていた。

 

「ライ、久しぶり!元気そうでよかった!」

 

「一年振りか、だいぶ強くなったみたいだな。」

 

二人が嬉しそうに挨拶を返す。

 

「ええ、カリン搭での修業は終わらせたので、あなた達の戦い方を学び盗りにきました。」

 

「なるほどな、俺達としても修業相手が増えるのは願ったりだ。だがもちろん、お前との修業で俺もお前の戦いの技術を吸収して自分のものとするぞ?」

 

挑発するように言う天津飯にライは当然とばかりに頷いた。

 

「もちろんです。神様の修業に勝とうというんです、地上の武闘の英知を結集しなければならないでしょう?」

 

 

「はっ、たっほっはー、やっ!」

 

「甘いっ!」ガスッ!

 

「うぐっ…」

 

凄まじい連撃をいなされて反撃を食らう。

 

「そら、とどめだ。」

 

態勢が崩されたところに大ぶりの一撃が来る。さんざん疲弊をしてさらに態勢を崩されている以上避けきれない。

 

ピタ

 

「今回も俺の勝ちだな。」

 

拳が顔面の前で止まる。決着がついたことを確信してしりもちをついたスウに手を差し伸べるはミイラ君だ。

 

「完敗だ。だが、次は勝つ。」

 

ミイラ君の手を取り立ち上がる。

 

「はっはっは、お前に負けるのは俺が戦術を身に着ける前だけさ。」

 

ミイラ君とスウが初めて戦ったのはブルマのところにいたはずのライがいなくなり無事を確認するために占い婆に聞いたとき以来だ。その時は最初の二人はクリリンが前回の反省を生かし苦も無く撃破し、続くミイラ君とクリリンの戦いではクリリンが消耗させるも敗北、それをスウが撃破した。

 

「あの時はクリリンがお前をかなり消耗させてたからな。それが無ければお前には勝てなかったよ。」

 

それを証明するかのようにあれからほぼ毎日ミイラ君と組み手をしているが最初のこ頃は何度か勝てていたが今はほとんど勝てていない。力だけで言えば倍近くの差がある。ある種当然の結果だ。

 

「いや、あの時の俺なら全快だったとしても勝てなかっただろうさ。お前を舐めていたからな。」

 

「言ってくれる。」

 

スウが最初に戦った時、ミイラ君には戦術という物が無かった。ただの喧嘩野郎、パワーだけあるチンピラと変わらなかった。だからこそうまく攻撃をいなし、場外に叩き落すことができたのだ。

 

「だが今はお前を高く評価している。戦術の重要性を教えてくれたからこそ、俺はさらに強くなれた。お前に負けないほどにな。」

 

「余計なことをしてしまったかな。次ババ様の五人抜きする人たちがかわいそうだぜ。」

 

「それを言うなら俺よりもアックマンだろ。チャパとの組み手で相当強くなってるからな。」

 

「はは、違いない。」

 

チャパとアックマンは悪魔の便所で戦いをしている。スウとミイラ君とのレベルよりも一つ抜けたレベルの戦いが展開されているのだ。

 

「そう言えば、俺が占い婆様のチャレンジをやった時はこっちの人数に合わせて四人抜きだったが、本来は五人抜きなんだろ?ここに戦士は四人しかいないが、五人目の戦士は普段はここにいないのか?」

 

組み手が一段落着いたところで、しばらく気になっていたことを聞く。ここに占い婆の占い目当てでやってくる人はそれなりにいる。ミイラ君を突破できた組はいないが、ここ一年間ずっと五人戦士がそろうことはなかった。

 

「五人目の戦士な。少し前は俺とアックマンの間の戦士がいたんだが、そいつは地獄の番人としての仕事が決まってな。ここをはなれて地獄で番人をやってるだろうさ。それからは四人しかいないんだが、まあ俺に勝ったのは孫悟空だけだったし、その時は孫悟飯っつう戦士が一日限定で復活してたからまあ、四人しかいないが五人抜きを名乗ってるわけだな。」

 

「なるほどな、じゃあ次そう言うやつらが来たら俺を三人目の戦士にしてくれよ。」

 

「それじゃあ俺の意味がなくなっちまうだろう」

 

永遠に近い時を生きるミイラ君にとって少し前は数百年単位の話なのだが、それにを指摘する者はいない。

 

 

「舞空術、使えるようになったな。鶴仙流の戦い方もうまく取り入れられている。」

 

天津飯達とライが修業を始めてから一年間がたった。ライは気の扱いについて教え、天津飯からは舞空術を始めとする鶴仙流の技術を取り入れた戦い方をできるようになっていた。

 

「どどん波とか気功砲とかの気功波の類がまだうまく打てないんですけどね。」

 

「どどん波はともかく気功砲は禁呪のようなものだからな。マスターされたら困る。寿命が縮むぞ?そんな技、平和になった世の中で会得する必要はない。」

 

「まあそうですけど、気弾は遠距離攻撃として有用ですから使えないのはかなり不利ですし。」

 

「それは工夫次第でどうとでもなるだろう。武舞台は限られた空間だからな。最もそれは気功波を会得しなくていいことにはならないが。」

 

空中を飛び回るライに対して釘を刺すように天津飯が言う。

 

「まあ、気功波の習得はこれから父さん達と修業する中で身に付けます。それでは一年後に。」

 

天津飯達の修業を終えたライはさらなる高みを目指し、次なる修業場に行く。

 

「次の天下一武道会では僕も負けないぞ!」

 

「俺も負ける気はない。」

 

その宣戦布告を背にライは占い婆の館に向かう。

 

 

ところ変わって南の都の酒場。そこには二人のお調子者がいた。

 

「あんた、ミスターサタンじゃねえか、サタンの城の強豪たちをたちまちのしちまったっつう。」

 

酒を飲んで軽快に話をしている二人に声をかけるのは格闘技好きの男だ。

 

「む?この俺を知っているのか、ガーハッハッ、そうかそうか、まあ私も全世界格闘技チャンピオンにだからな。南の都ともなれば知っている人もいるか。」

 

「そうだろうそうだろう、サタンの城と言えば知る人ぞ知る有名な格闘道場だからな。アフロヘア―のイケてる武闘派集団とは、俺たちのことだあああ!」

 

「ナンバーワー--ン!」

 

機嫌をよくしたサタンとその師範は二人で盛り上がり乾杯をして酒をあおる。その道場ではもちろん高い実力ではあるがこの道場が有名なのはそれだけではない。この道場に入門する人間は全員がアフロヘアーになることが義務付けられる。その話題性もあってこの男も知っていたのだ。

 

「あはは、今回は南の都の大会の遠征かい?実は俺はその大会を見に来たんだよ。頑張ってくれな。」

 

「それは運がいい、このミスターサタンと師範の二人で今まで見たことのない高次元な決勝戦を見せてやるから、楽しみにしておくんだな。」

 

そう言ってガハハと二人笑い、再び乾杯して酒をあおる。話しかけてきた男は既に席に戻っていた。

 

「それにしても気分がいいな。この道場がここまで有名になっているとは。それもこれも、この道場に現れた新生、ミスターサタンのおかげだ。」

 

「よせやい師範。この大会、そして一年後の天下一武道会と優勝してもっとサタンの城を有名にするんだからな。」

 

「ああ、これからもサタンの城を背負って頑張っていこう!」

 

「もちろんだ、このミスターサタンに、任せなさい!」

 

再びナンバーワンと叫び二人ではしゃいでいると酒場の奥で一人飲んでいた辮髪の男がやってくる。

 

「何だ、お前も私のファンかな。悪いがサインはかわい子ちゃんか、アフロヘア―のナイスガイだけと決めているんだ。そんなだっさい髪の奴にはできないな」

 

ガハハと笑うサタンを辮髪の男、桃白白は何も言わず座っているサタンと師範を見下ろす。

 

「まあ、そう悲観することもないさ。君もアフロになってこの私の道場の門下生となるといい。私の道場は実力派ぞろいだが…」

 

グサッ!

 

「さっきからピーピーうるさいかったんだ。これで静かになったな。」

 

「あれぇ…」

 

「「「うわああああああ!」」」

 

一瞬静寂が酒場を包みはじけるような叫び声が酒場を満たす。桃白白が師範の心臓を隠し刀で貫いたのだ。刺した場所から血が噴き出す。

 

「お、おまえ、自分が何をしたのか分かっているのか…?」

 

サタンが後ずさりながら愕然とそうこぼす。

 

「貴様もこの私が誰か分かっていないようだな。宇宙一の殺し屋桃白白様だぞ。本来お前如き武器や手足を使うまでもないんだ。」

 

剣を引き抜きだが、と続ける。

 

「貴様は格闘技最強の世界チャンピオンとか言ってたな。上には上がいるものだということを教えてやろう。殺しの技は使わん。格闘術だけで殺してやる。」

 

「こ、この野郎おおお!」

 

サタンが猛然と飛び掛かる。

 

「サタンパーンチ!」

 

「デーモンスマッシュ!」

 

「チャンピオンハンマー!」

 

ドン、ガン、バシッ!

 

サタン渾身の三連撃を桃白白はよけようともしない。

 

「…お前、こんな程度で世界チャンピオンを名乗っていたのか?」

 

「何だと!このわたしの渾身の一撃がこんな程度だとお!」

 

サタンの頭に血が上り突撃する。その姿には格闘術の片鱗すら見えない。ただ怒りに任せた動きだ。

 

「本当の殴打とはどういう物か見せてやろう。」

 

ドンッッ!!

 

「うぐっ!」

 

ガンッッ!!

 

「おげっ!」

 

バシッィィ!!

 

「あ、があ…あれ?」

 

最後の一撃にうめき声を反射で上げてしまったがその実攻撃は届いていない。受け止めたものがいるからだ。

 

「俗世から離れた生活をしていても、こういう場面は胸糞悪くなる。」

 

「お前、何者だ?」

 

桃白白が聞く。相手を知りたいと思うほどに目の前の相手の実力は高く、立った一撃受け止められただけだが、その動きには鶴仙流の片鱗を感じ取れた。

 

「誰だっていいでしょう。貴方、それほどの実力を持ちながら用途は殺人ですか。」

 

「この俺は宇宙一の殺し屋だ。この技術を殺しに使って何が悪い。」

 

「この二人はターゲットではないでしょう。」

 

既に息絶えた師範と震えて縮こまっているサタンを見ながら言う。

 

「私を馬鹿にした。それだけで死に値する。」

 

「その力は相手を傷つけるものじゃない。」

 

「見解の相違というやつだ。私の機嫌を損ねた貴様を殺してもいいのだが…」

 

ヒュッ!

 

パシッ!

 

「弱い者いじめをするのは良くないと思うのですけど。」

 

サタンに向けられた隠し武器の仕込み針をつまんで阻止する。

 

(殺しの手も効かない、それも自分以外に向けられた殺しの手が。)

 

()姿()のライを見て撤退を選択する。

 

「お前の実力が分からないほど愚かではない。」

 

「待て!」

 

逃げ出すと見せかけて柱をもいで攻撃する。それは攻撃に見せた逃走の一手。気功波でサタンをこうげきして足止めも忘れない。柱飛び移り飛んで逃げた。

 

「ありがとう、ありがとう助かったよ!」

 

舌打ちを打つライに涙と鼻水で顔をグシャグシャにしたサタンが抱きついてくる。

 

「いえ、無事でよかったです。」

 

ピッコロ大魔王という巨悪が死んでも殺し屋なんていうくそみたいな人間は存在する。あの戦いは決して世界のためみたいな大義があったわけでもないが、それでも何のために自分や悟空が戦ったのか、そう思うときもないわけではない。

 

まあでも。

 

「感謝されるのは気分がいいものですからね。」

 

 

「本当にありがとう。俺はサタン。オレンジシティに住んでいるんだ。近くに来た時には是非寄ってくれ。いつでも歓迎する。」

 

その日泣きついてくるサタンをなだめすかした頃には日も開けようかという頃だった。

 

「ええ、いろんなところで武者修行しているので近くに来たら是非立ち寄ります。」

 

基本的に人がいいんだろう。狼姿の自分を見ても差別なく接してくれる。助ける価値のある人だったと確信できた。師範を助けられなかった悲しみも一晩で流しきってくれただろうか。

 

「お、お前、既にとんでもない強さなのにまだ上を目指しているのか?」

 

「武の道に終わりはありません。私より強い人はいます。それでは。」

 

そう言うと舞空術を使って飛んでいった。

 

「あいつとんでもない実力者だ。俺なんか、運が良かっただけだったんだろうなあ。」

 

サタンはこの出会いによって奮起する。




人の見た目を馬鹿にする行為はクソです。つまりサタンと師範はクソ行為をしたことになりますが、彼はこの時点でサイボーグです。なんかよく分からん見た目なのにそれがコンプレックスだろうと触れないでいていたのは二人のやさしさ故の行為で、彼等二人は本当に辮髪よりアフロの方が良いと思っての純粋なアドバイス、悪気はなかったという風にとらえてくれればうれしいです。


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(第十六話)チャパとライ

天下一武道会会場に一足早く着いて弟子やピッコロ大魔王打倒に尽力した仲間たちを待つ亀仙人とランチは仲間たちがなかなか現れないことに気をもんでいた。

 

「悟空達遅いのう。まさか今日という日を忘れたわけではないだろうな。」

 

「まさか、みんなこの日のために修業してきたんですよ。」

 

二人が心配しているとブルマたち一行も会場に到着した。

 

「おぉーい、ウーロン、プーアルこっちじゃこっち。」

 

「じいさん、久しぶりだね。」

 

「武天老師様もお元気そうで。」

 

久しぶりの再会を喜んでいるがなかなか肝心の選手が来ない。

 

「まあまだ時間はあるし、そのうち来るでしょ。」

 

ブルマたちは近況などを話しながら悟空達を待っていた。そこに、

 

「ブルマさん、亀仙人さんにみんなも、お久しぶりです。」

 

会場に着いたライが駆け寄ってきた。遅れてスウ、チャパも合流する。

 

「お、ライじゃないか、久しぶりだのう。」

 

いち早く気づいた亀仙人が反応するとみんなもどっと集まる。

 

「忘れてないかとちょっと心配したわよ。ヤムチャたちはまだ全然来る気配がないし、みんなももう少し余裕を持ってきて欲しいんだけどね。」

 

この三年間ブルマのところに一度も寄らずに修業をしていたヤムチャへの不満もあるのだろう。少し棘のある声音で話していく。

 

「ライ、俺とチャパは先にホテルをとっておく。ゆっくり仲間たちと話してくるといい。選手登録、忘れるなよ。」

 

気を利かせたのかスウとチャパはそう言って登録をしに行った。

 

「そういえばヤムチャたちは一緒じゃないの?少なくともヤムチャとは一緒にカリン搭で修業していたはずでしょ?」

 

なんだかんだでヤムチャが心配なのだろう。愚痴もそこそこにまだ来ていない仲間たちのことを聞く。

 

「すいません、私はカリン搭を二年ほど前に離れてまして、その後一年ほど天津飯さん達と修業、最後の一年を父さん達と修業していたので、詳しいことは何とも。」

 

「そっか…」

 

すこしがっかりした様子のブルマにライはすかさずフォローを入れる。

 

「でもほかの仲間たちもこちらに向かっているのは間違いないですよ。かなりの速度で向かってくる気が四つありますし、もう一つは…」

 

ライがそう言いかけたところで

 

「いやーーとってぇ!」

 

風船を気に引っ掛けてしまった少女がわめている声が聞こえる。

 

「大丈夫よ、私がとってあげるから。」

 

その様子を見てそう言ったはいいもののブルマの身長ではぎりぎり届かない。そうこうしているうちに長身の男が風船をとる。

 

「おっす。ほらブルマ。」

 

そう言って風船をブルマに手渡す。

 

「えっと、どうして私の名前を…?」

 

「久しぶり、身長結構伸びましたね。私も結構伸びたつもりでしたけど悟空には敵わないなあ。」

 

男が何か言うより先にライが男に向かって挨拶をし手を差し出す。

 

「「「ご、悟空?」」」

 

「おっす。ライ。おめえもみんなも元気そうだな。カリン様の修業全部終えたんだろ?大会で勝負するの楽しみにしてっぞ。」

 

他の仲間が驚いている間に悟空とライは握手をし、話を先に進めていた。

 

「クリリンやヤムチャ、天津飯たちはどこだ?もう受付済ませたのか?」

 

「彼らはまだです。ここに向かってきてはいるんですけどね。というか悟空も気で感じ取れませんか?」

 

「おらはあんまり広い範囲は相手の気を探れねえんだ。」

 

「ああ、そうなんですか。そう言えば悟空はカリン様の修業をすべてやったわけじゃないんですもんね。」

 

「ちょっと待ってよ。ライ、どうしてこいつが悟空だってわかるんだよ。俺まだ信じられない。」

 

「何言ってんだウーロン。当たり前だろ。おら悟空だぞ。」

 

悟空は自身の劇的な変化に頓着ないのかあきれたようにいった。

 

「あ、そっかこれ頭に巻いてるからわかんねえのか?とってやる。よく見てろよ。」

 

雨が小雨になったことをいいことに傘をたたみ巻物をとると悟空の特徴的な髪形が露わになる。

 

「ほ、ほんとに孫君だわ。ねえライ、どうして孫君って分かったの?」

 

「確かに見た目では難しいですけど匂いで分かるんですよ。私、これでも人狼ですから。」

 

「そういえば前々回の天下一武道会の時狼になってたような…」

 

「そうですそうです。気づけば月が復活していましたから正直かなり嬉しいです。」

 

「月な。神様が復活させてたぞ。なんかバランスがどうとか言ってたな。」

 

「なるほどのう。神様が。ん、それで悟空よ。しっぽは生えておらんがどうなったんじゃ?」

 

月が復活したことを聞いて大猿を警戒し悟空に聞いた。

 

「なんかしんねえけど、あっても邪魔なだけだろうって言われて生えないようにしてもらった。おら別にどっちでもよかったんだけどな。」

 

((((ほっ。))))

 

「そうだそうだ、そんなことより受付済ませねえと。ちょっと行ってくる。」

 

「ああ私も行きます。」

 

悟空に続いてライも向かって行った。

 

「神様の修業ってやっぱり大変でしたか?」

 

受付で並んでいる間に悟空と神様の修業について話をする。

 

「まあな。でも亀仙人のじっちゃんの修業と似てるとこも結構あったな。そういうのはやりやすかった。」

 

「へぇ。やっぱり武術の神は伊達じゃないってことですかね。じゃあやけに重い腕輪も修業の一環だったり?」

 

先ほど握手をした際に感じた違和感から探ってみたのだろう。

 

「え、ああ。おめえと同じでな。いろいろ負荷がかかる服になってるんだ。」

 

「あれ、気づいてたんですか。」

 

ライもカリン搭の修業を終え両手両足だけでなく、至る所に負荷がかかる服装にしている。

 

「気づいたついでに聞くんですけど…」

 

他の人に気取られないように声を落とす。

 

「ピッコロ大魔王、死んでないですよね。近くにきてるの気づいてます?」

 

「…そいつはピッコロ大魔王生まれ変わりだな。近くにきてるのは気づいてる。神様の修業ももとはそいつのためだ。でもみんなには秘密な。大会どころじゃなくなっちゃう。」

 

「相変わらずですね。まあピッコロ大魔王の生まれ変わりなら下手に刺激するのも得策とは限らないですし大会で勝負してくれるならその方が被害は少なくて済みそうですからとりあえず静観しときます。」

 

「サンキュー。」

 

気を感知する技術、特に近くにいる相手に限るなら二人とも最高峰の技術を身に着けている。その二人が静かに波乱の武闘会を予期していた。 

 

 

「もう受付時間ほとんどないですけど本当に間に合うんですかね。僕ちょっと見てきます。」

 

受付終了間際になり心配になったプーアルが様子を見に行った。

 

「こっちに向かってはいるんですけど、ぎりぎりですね。」

 

「大丈夫だ、きっと間に合う。」

 

受付時間がもう終わるという間際ライ達の周りに突風が吹く。

 

「来た!」

 

ぎりぎりで全員集まり無事天下一武道会出場となった。

 

 

「ご、悟空か…!」

 

クリリンと悟空が感動の再会をしている最中ライはヤムチャや天津飯たちと話をする。

 

「久しぶりですね。皆さん」

 

「ああ、二年振りかな。俺もカリン搭の修業を全部終わらせられたぜ。」

 

「ほんとですか!流石ヤムチャさん。」

 

「ああ、だがそれだけじゃないぞ。この大会のためにカリン搭の修業のあとさらなる修業を一年こなした。今大会ばかりは誰に当たっても勝って優勝するさ。」

 

カリン搭の修業をすべて終わらせるのにライは四年かかっている。それを半分の二年で終わらせたとあってはそれ相応の自信もつくだろう。

 

「それは聞き捨てならないな。」

 

「天津飯さんも餃子さんも一年前の時点で相当強くなってましたからね。」

 

「もちろんあの頃よりもさらに強くなってる。おれも餃子もな。」

 

「うん!」

 

「最後に手合わせしたのは一年以上は前ですからね。大会が楽しみです。でも、勝つのは私です。」

 

「お互いに大会では全力で戦おう。」

 

「「もちろん。」」

 

天津飯の言葉にライ達も気合を入れなおした。

 

「そうだ…伝えなければならないことがあります。貴方たち三人だけに。」

 

急に声を潜めたライに三人が真剣な表情になる。

 

「必要なら場所を変えるがここでいいのか?」

 

「聞かれたくない部分はすぐに済みます。…ピッコロ大魔王の遺した魔族がこの島に来ています。目的はおそらく悟空。」

 

「「「なっ!」」」

 

動揺は一瞬。すぐに平静を装う。

 

「大会に出場するようなのでとりあえず悟空も私も大会までは静観します。もちろん大会中余力を残せとは言いませんが、頭には入れておいてください。なすすべもなく死ぬなんてことのないように。」

 

「「「分かった。」」」

 

(あとはチャパさんと父さんにもこの話を通しておかないとな。)

 

嘘ではないが正確な真実でもない。しかし、ありのままを伝えれば大会どころではなくなってしまうだろう。ライの精いっぱいの気づかいである。

 

 

「ただいまより予選の組み合わせ抽選を行います。」

 

「(いいか餃子、仲間たちが予選で当たらないようにするんだ。そしてあの魔族もだ。様子を見ておきたい。)」

 

餃子が超能力で細工を施しているとライが急に念話を使って二人の会話に割り込んできた。ライは天津飯達の元で過ごした中で天津飯と餃子で念話を習得していた。

 

「(餃子さん、私とチャパさんを四ブロック前半になるようにそして第四ブロックの後半に父さんとあの魔族が決勝戦で当たるようにできますか。)」

 

「(え、でも…)」

 

急な申し出に餃子と天津飯が困惑する。

 

「(普通の参加者でははっきり言って実力が足りません。実力なんて見れませんよ。)」

 

「(ならば俺が…!)」

 

天津飯が申し出ようとするがそれを遮るようにライがいる。

 

「(策があるんです。ここは私達に任せてください。)」

 

結局餃子はライの言う通りにし、自分たちを第三ブロックまでにし、ライ達を第四ブロックにした。 

 

 

「22番決勝進出!」

 

悟空、天津飯、クリリン、ヤムチャが決勝進出を決め、餃子を倒した桃白白、匿名希望と称した女武闘家も決勝進出をはたし、残りは第四ブロックだけになった。

 

「68番の勝利です。」

 

(人数が少ないのは厄介だったけど、思ったより時間は稼げてますね。このままいけば…)

 

そう考えていると運営スタッフから声がかかった。

 

「62番の…ライさんと、65番のチャパさん折り入ってお願いがあるのですが…」

 

 

「さて、会場にお越しの皆様、これより、一部の予選試合を武舞台で行っていただきます。本大会は出場者の数では前回大会に劣るもののその実力は前回より優れた武道家が大勢集まり、一戦一戦が是非会場にお越しの皆様にもご覧に入れたい試合となっております。その中でも前回大会予選で一番の盛り上がりを見せた選手の戦いが今大会も実現しました。是非武舞台までお越しいただき、その武技をご覧になってください‼」

 

他の試合はすでに決着がついているというのに第四ブロックだけやけに時間がかかっている。それもそのはず、ライ達ができるだけ一つの試合に時間がかかるようにしている。そのため残りの第四ブロックの試合を本会場で行い、お茶を濁すことにしたのだ。

 

「それでは前々回大会ベスト4のライ選手対前々回前回と本選出場を果たした、チャパ選手の予選試合を開始します。」

 

(戦いの引き延ばしだけでなく、騒動を起こすのもかなり効果的でしたし、ヤジロベーさんには今度何かおごってあげないと。)

 

第四ブロック前半の番号に偶然なったヤジロベーはライの近くにいたことから見つかり、協力を頼まれていた。

 

(でもヤジロベーさん負けてしまったし、時間稼ぎはここが正念場だ。日が暮れるまで時間を稼いでやる!!)

 

ライが意気込んでいるとチャパが話しかけてきた。

 

「君を相手に余計なこと(時間稼ぎ)は考えない。全力で正々堂々戦おう。それが一番いいはずだ。」

 

「っ!ええ、今回こそ勝ちます。余計なこと(ピッコロ大魔王)に気をとられず、正々堂々全力で!」

 

「それでは始めてください!」

 

アナウンサーの宣言で予選で最も長い戦いが始まる。

 

 

「二人とも全く動かないな。」

 

「ああ、お互いに隙を探っているんだろうがこの展開だと素人目にはただ止まってるだけにしか見えないのが惜しいな。」

 

残る試合はこのブロックのみになっている。前回予選で最も激しい戦いだった二人の戦いだけに決勝進出を果たした選手だけでなく参加者全員が舞台の周りで観戦していた。

 

「ふっ!」

 

観衆の目線に耐えきれなくなったか、ライが動く。

 

「はっ!」

 

ライの右拳をチャパは左腕でガードし右足で蹴りを放つ。

 

「くっ」

 

それをライは左脚で防ぐ。一撃ごとに攻守が入れ替わり、戦いは白熱していく。隙が無いのに攻め始めた戦いはお互いに削りあいになる。

 

ドン!ドン!ガン!

 

拳と拳、脚と脚が衝突するすさまじい衝撃音が響く。大会前の最後の一年一緒に修業した彼らにはお互いの戦い方がよくわかる。手合わせの数も相当数を行っていた。しかし、練習と本番とでは気迫が違う。

 

「やっ!」

 

バン!

 

チャパの経験からくるいぶし銀な攻撃が光ってライに一撃を加える。態勢を立て直そうと一度ライはジャンプして距離をとった。

 

「むう」

 

追撃はせず地上で迎撃態勢をとるチャパにライは壁を蹴って一気に接近する。

 

「はああ!」

 

ダン!

 

急接近を予測していたのだろう、チャパは防御をしたが、威力は想像以上だったか、ライは防御の上から無理やりダメージを与え後ろに飛ばす。

 

「一週間前にも手合わせしてるのにあの時とはなかなか違った戦い方ですね。すごくやりにくいです。」

 

距離をとって仕切り直しといったところでライがチャパに話しかける。

 

「そうでもしないと勝てない相手だからな。ライこそたった一週間で攻撃の鋭さが増しているように思える。流石だよ。」

 

「その引き出しの多さは是非早くものにしたいとこです、ねっ!」

 

再びライはチャパに向かって行く。

 

「こればっかりは経験の差だよ。」

 

それを迎え撃つチャパ。戦いは長引く。

 

 

「なかなか決着がつかないな。見どころのある試合だから退屈はしないけど。」

 

戦いを見ながらクリリンと悟空が話をしている。

 

「これが予選なのもったいねえよなあ。本選でやったらいいと思うんだけんど上手くいかねえもんだ。」

 

「確かにな。そういえば俺達、ライと一回も戦ってないよな。」

 

「ん、そういえばそうだな。相当な実力者なのに前回は本選にも出れなかったからな。」

 

「正直三年前は実力的に負けてそうだったから、今回は直接やって勝ちたかったんだけどなあ。まあチャパ王にもだけど。」

 

「二人とも強えかんな。どっちにしても本選で勝負すんのが楽しみだ。」

 

 

「「はあ、はあ」」

 

壮絶な削りあいの末二人とも限界が近づき、同時に決着の時も近づいていた。

 

「はっ!」

 

最後の一合となることを予感しているのか、残る力の全力をもってチャパがライに向かって行った。

 

ガン!

 

「ぐっ…」

 

チャパの強力な蹴りを左腕で受け止め切り、素早く右拳を放つ。チャパも右手でそれを受け止めたが間髪入れず左足で蹴りを放つ。左腕で受け止められる。しかしその瞬間ライの口元が緩んだ。チャパは片足と両腕を使っていたからだ。

 

(舞空術‼)

 

ライは舞空術を使って右足で蹴りを放つ。両手両足を使って防げない蹴りはこの状況下においては必殺の蹴りだ。

 

ガッ!

 

「え…」

 

しかし、チャパが左足でライの蹴りを受け止めていた。チャパも舞空術を使っていたのだ。あまりのことに動揺し、隙が生まれる。一度距離を置こうと後ろに跳躍するが隙を繕いきれない。チャパは追撃をしようと飛び上がってくる。

 

(まずい‼)

 

跳躍により上をとられたライは右手をチャパに向け気を片手に表出する。淡い気の光が右手を覆い切る。

 

(お願い、上手くいって!)

 

ライは今まで気功波の類を打ったことはない。カリン搭で気の扱いについて修業し、体の内において自身の気を扱うことにおいては完璧に使いこなせるようになった一方、気に指向性を持たせることはできていなかった。つまり気功波が放てない。この土壇場においてもそれは変わらない。

 

バッ!

 

しかし発光を見たチャパは舞空術を使って無理やり回避行動をとる。

 

「っ!」

 

バン!

 

そうしてできた隙をついてライはチャパを場外に吹き飛ばす。威力がわずか足りなかったか、チャパは

 

ぎりぎりのところで場外を背にとどまった。止めを刺そうとチャパに蹴りを撃ち込もうと舞空術を使って加速し肉薄していく。

 

「参った!」

 

まさに蹴りが撃ち込まれようという直前チャパが降参を宣言し、ライの勝利が決まった。




ライ250
チャパ225
戦闘描写がないので明かしませんが、天津飯と餃子、そしてヤムチャも強化されてます。インフレにクリリンだけ取り残された感じです。ライとの関わりが薄いとそうなりがち。この世界線の不遇枠はクリリンですね。


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(第十七話)三年間の成果

「私の負けだな。いい試合をありがとう。本選出場、そして優勝、期待しているよ。」

 

観客の歓声に応えるのもそこそこに競技館に戻っていったライに後から戻ってきたチャパが声をかける。そのチャパの表情はライが今まで見たことがないほど晴れやかだった。

 

「正直、あんな勝負は納得できないんです。正々堂々と言いながら決め手はブラフ、いえ、本当はブラフですら…」

 

対称的にライの顔は曇っている。

 

「はっはっは、私程度完膚なきまで叩き潰しての完全勝利でないと認められないとでもいうのかな。」

 

「ちがっ」

 

そこまで言ってライは言いよどむ。

 

「ブラフだったらまだよかったんです。とっさに体が動いてしまった、ただそれだけの結果でチャパさんにありもしない気功波の対応をさせてしまったんです。そのうえその隙に付け込むような形で…」

 

万全に警戒した中、それでも警戒の上をいかれただけであればライはここまで負い目を感じなかっただろう。前回大会の負け方や、一緒に組手をした感覚から、他のことに気をとられなければ勝てる相手だと慢心があったことがライに負い目を感じさせていた。

 

(油断しなければ勝てるなんて、どこまで浅はかだったんだろうか。チャパさんは全力で私の対策をしてその結果完全に私の不意を突いたのに、私は慢心した挙句にあんな卑怯な勝ち方をしてしまうなんて…)

 

「良いんだ。どんな勝ち方だってライの実力だ。ライが気功波を撃ててもおかしくないと私は思わせられた、一緒に修業した成果だ。私は直前の一週間でライに勝とうとしたがライはそれまでの一年で私に勝とうとした。それだけの話だよ。()()()()()()()()()()であるからって気にすることはない、立派な勝利だ」

 

「ありがとうございます、チャパさん。」

 

「スウ選手の勝利です!」ワァーー!

 

ライがお礼を言うとちょうど第四ブロック後半のスウが出ていた試合の決着がついたようだった。

 

「頑張ってきなさい。後悔しているならそれを繰り返さないことだ。本選出場、期待してるよ。もちろん優勝もね。」

 

「はい!」

 

そう言って武舞台に行こうとして競技館を出る間際、ライがチャパに声をかける。

 

「チャパさん!大会が終わったら引退する前にもう一度私と勝負してください!」

 

そう言って武舞台に向かうライの顔は吹っ切れたものになっていた。

 

 

「続いての試合は、予選第四ブロック前半の決勝戦です。先ほどチャパ選手との激戦を制したライ選手と、ノーマークから予選決勝まで這い上がってきたシェン選手です!」

 

「どうもどうも」

 

「…」

 

武舞台に上がってたライとシェンはアナウンサーの合図を待つ。

 

(あのヤジロベーさんを倒してしまうほどの実力者だ。ただの頭突きだったら不意を打たれたってやられたりしないはずだからこの人も相当強いはず、きっと私やチャパさんくらいには。)

 

「それでは始めてください‼」ドーーーン

 

「よろしくお願いします。シェンさん。」

 

そう言って構えをとるとシェンは意外そうな顔で構えをとった。

 

「一分の油断も慢心もない構え、相当な達人とお見受けしますが、今の私に最初から全力で向かってくるものがいるとは思いませんでした。」

 

「…あなたが先の試合で何気なく倒した人はただの達人程度では万が一にも勝つことのできないほどの実力者です。そんなあなたを相手に油断などしません。」

 

(チャパさんと戦う前なら油断してたでしょうけど。)

 

「では、いつでもどうぞ。」

 

そう言うとシェンがまとう雰囲気が変わる。

 

「言われずとも!」

 

そう言うとライはシェンに向かって攻撃を仕掛けに行く。

 

「はあああ!やっ!えい!はっ!」

 

バッ!ガン!ドン!

 

拳を三発そして蹴りを二発放つ。すべてを巧みに防がれる。

 

「無駄がないように研がれた素晴らしい動きですね。しかし…」

 

バン!

 

「ぐっ」

 

シェンがライの攻撃の隙を縫うように反撃を撃ち込む。

 

「速さが足りません。もう少し攻撃から攻撃を流れるようにつなげるのです。」

 

(それなら…!)

 

攻撃を防がれ反撃まで食らったライは残像拳を使ってフェイントをかけていく。残像とワンテンポ遅らせて攻撃を仕掛けるが全くシェンの動きは鈍らない。

 

「完成度が高く、目で相手を見ている者には効果的でしょうが…私には通用しませんよ。」

 

残像をシェンの周囲に増やしていっても結果は変わらない。 

 

 

「あのシェンとかいう人、あれほどの残像にも全く対処が鈍ってない。どうなってんだよ。」

 

「おそらく、ライの気を読んで対処しているのだろう。視覚に頼らず感知しているんだ。」

 

「いや、いくら気で相手の動きを読んでいるからといってあれほど視覚的に邪魔があれば少しは効果があるはずだ。少なくとも俺なら動きが鈍る。」

 

クリリン、天津飯、ヤムチャの中で唯一気を探れるヤムチャがそう言った。気を探れる武闘家は相手の動きを視覚と気配で探る。どっちも使用する以上片方が使い物にならなくなれば多少なりとも効果がある。

 

「そんな驚くことじゃねえだろ。おらたちは相手の気を探れなくてもそんなに動きは鈍らねえじゃねえか。」

 

悟空が何でもないことのように言った。

 

「つまり、年季の差ということか?」

 

天津飯が理由に思い至ったのかそう言うとクリリン、ヤムチャもどうしてか理解したようだ。

 

「そ、そうか。シェンは気で相手を探る技術も息をするくらい自然に行えるからあの量の残像にも動きが鈍らないのか。」

 

「もちろん目で追う技術もそれくらい自然に行える…」

 

「でもそれじゃあ、ライはこのままだとヤバイだろ。効果のない技を出し続けるなんて体力の浪費だ。」

 

「そりゃあそうだろうけど、何も考えなしに動いてるようには思えねえ。ライは気を探れんだし、残像拳の効果が薄いのは分かってるだろ。」 

 

 

「何体増やしても結果は変わりませんよ。」

 

「…まさかここまで的確に攻撃を受けられるとは。」

 

残像の数は増えシェンの周りを囲むように舞台の上に残像が増えていた。残像に紛れてライの声が響く。

 

「視覚だけに頼っている種族がこういう攻め方ばかりをしてしまうのは仕方のないことではありますが、引き際も大切ではないですかな。」

 

「冗談でしょう。」

 

(仕込みは終わった。この一手で決める!)

 

「!」

 

ライが行動を起こした瞬間シェンが一瞬固まる。そして次の瞬間には増える一方だった残像が減り始めた。 

 

 

「「!」」

 

「ライの奴残像拳はあきらめたみたいだな。」

 

「無理もないだろう。あの量を対処されたなら次の策でいかなければならないからな。」

 

減り始める残像を見たクリリンと天津飯が言うがそれをヤムチャが遮った。

 

「いや、そうでもなさそうだ。」

 

「ああ、今なら残像が効果的だぞ。」 

 

 

(気を感知できなくなりましたね。あの武道家、気を探れないとばかり思ってましたが…なるほどこれなら残像が効果的です。)

 

気を集中させて迎撃態勢を維持しながらライの動きを目で探り始める。

 

(しかし、気を静めている間は残像が残るほどの速さでは動けない、私を攻撃できる距離にある残像は限られている。その方向を意識すれば、充分に対処は可能ですよ。)

 

気を感知できなくなってもシェンの余裕は崩れなかった。しかしその余裕は数瞬後に崩れる。

 

バン!

 

「なっ」

 

シェンの真上から両肩に向かって縦の回転を利用した両足の蹴りが炸裂する。

 

「はっ!」

 

踵落としを決めたライは態勢の崩れたシェンに全力の右拳を撃ち込んだ。

 

ダン!

 

拳を食らったシェンは武舞台の端に向けて飛ばされるが即座に態勢を立て直しライに突っ込んでいく。

 

(速い!)

 

ガン、ダッ!

 

即座に防戦しようと動いたライに二段構えの攻撃を撃ち込んだ。攻撃の余波でライがたたらを踏んで武舞台の際に追い込まれる。踏みとどまったライの胸にシェンの両手がかざされる。その両手の先には球形の光の玉ができていた。

 

「完全に不意を突かれました、お見事です。」

 

バアアアアアー、ドン!

 

そう言ってシェンはライに向かって気功波を撃ち込み場外に落とした。

 

「ライ選手場外!よって勝者、シェン選手~」

 

アナウンサーの宣言によって第四ブロック前半の本選出場者が決まった。

 

 

「ライさんでしたかな。凄まじいまでに練り上げられた武技、あなたの武闘家としての才覚はかなりのものです。このまま修業を続ければいずれは私を超えることもできるでしょう。応援していますよ。」

 

試合が終わりシェンがライに話しかけてくる。

 

「何十年先の話ですか。貴方と私には確かな実力差があります。気の感知技術も戦況を判断する力も私よりはるか上、最後だってわざわざ気功波を見せてくださって、余裕あったじゃないですか。」

 

悔しさからかついつい憎まれ口をたたくがシェンは軽く受け流した。

 

「いえいえ、確かに手加減をしていないといえば嘘になりますが、最後の二連撃は全力でしたよ。気功波だってあなたが習得したがっているようでしたので撃ちましたが、あの時に抵抗されていたら試合の決着はまだまだついていなかったでしょう。」

 

「あんな完璧に詰まらされて抵抗なんてするわけないですよ。…ありがとうございました。優勝目指して頑張ってください。」

 

「…ええ。もちろんですとも。」

 

 

「なあ、悟空、ライとシェンさんとの試合、最後どうしてシェンさんは攻撃を食らったんだ?気を探れるんなら不意打ちは効かないはずだろ?」

 

試合が終わり、最後の一閃についてクリリンが悟空に問う。

 

「ああ、ライの奴な、気を消していたんだ。だから不意打ちが決まったんだ。」

 

「なるほどな。気を消して強い攻撃が打てなかったり早く動けなかったりしても気を消す直前に跳べば落下の力を使って気を消したまま攻撃できるってことか。」

 

「そういうことだろうな。ライの奴とも戦ってみたかったんだけんど、相手が悪かったな。まあ、大会が終わったらいっちょ手合わせ頼んでみるかな。」

 

ライの戦いには悟空達にも影響を与えたようだ。




番外編を書きたいです。スウの妻の話とか21回天下一武道会でスウがあっさりとライが修業に出るのをスルーしたのかとか、チャパがなんで21回天下一武道会に出たのかとか。悟空がさっくりとかめはめ波をライに打ったのかとか。タンバリンが殺した武闘家の数についてとか…くらいですかね。今明かせるのは。番外編書きたいんです。でもそれ以上に本編を書きたいんです。一話冒頭の話を書きたいですしほかにも驚かせられるようなことも実はあったりなかったり。それを見た時の反応が気になったりして。書きたいです。ええ。


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(第十八話)スウとライとチャパの秘策

「ライの親父さんって普通の狼人(おおかみびと)じゃなかったんだな。」

スウがマジュニアと戦う姿を見てヤムチャがライにそうこぼす。

 

「ええ、月さえあればいつでも狼の姿に変身できる人狼です。あの姿の父さんは私やチャパさんより強いですよ。」

 

「そうみたいだな。感じ取れる気の大きさが一気に増えた。でもこれだけ強くなれるならライが変身すればやつにも勝てるんじゃないのか?」

 

そう言ってヤムチャはマジュニアを指す。

 

「私が変身すると急に膨れ上がったパワーを使いこなせなくなって武術を使えなくなります。満月を見ないと変身できないので狼の姿での修業は現実的ではありませんし、一ヶ月も何もしなければ得た感覚を思い起こすだけで一日が終わってしまいますからね。速さと力、そして体力は大幅にアップしているので単純な動きなら変身した方がいいんですけど…そんなに万能じゃないんです。」

 

「いくら力があっても武術の心得のある者には敵わないということと似たようなことか。」

 

「そういうことです。ついでですけど、狼の姿でできる技はスケールダウンするだけで人の姿でも扱えるみたいです。手加減とおんなじ感じなんだとか。まあとにかく頻繁に変身できないと使えない事実上父さんだけの技です。」

 

 

「まさかここまでやるとは思わなかったぞ。雑魚といったことは訂正しなければならないようだな。お詫びに少しだけ見せてやろう。この俺の実力をな。」

 

「そう来なくっちゃ。でもお前が本気を出しても簡単にはやられるつもりはない。」

 

「フフフ。そう言ってられるのも今の内さ。」

 

マジュニアはそう言うとすぐに全力で攻撃を始めた。

 

「いいっ!?」

 

先ほどスウの攻撃を対処していた時よりまたさらに早い速度で肉薄して両手両足を的確使って多角的な攻撃をしてくる。手数の多さにスウは防戦一方に追い込まれた。攻撃を受けていられる時間も長くはもたずスウは攻撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。

 

ドン!

 

「うっ」

 

ギリギリのところでスウは踏みとどまった。

 

(この速度で攻撃をしても急所だけは確実に守っていた。これほどの人間が孫悟空以外にもいたとはな。どうやら孫悟空を殺し世界を支配した後も強者の芽を摘み取りにいかなければならないらしい。)

 

バン!

 

絶対的優位であるという慢心がマジュニアに少しばかりの油断を招いた。その意識の隙をついてスウが拳を撃ち込む。

 

「戦いの最中に思索にふけるのは相手に対して失礼だろう。」

 

攻撃をクリーンヒットさせ得意げにスウが言う。

 

「…貴様が雑魚ではないのは事実だが、俺の実力からすれば取るに足らん相手であることに変わりはない。注意を払うに値する実力をつけてから言うべきだな。」

 

攻撃を食らったにもかかわらず平然とそう言ってのけたマジュニアは腹に入れられた拳を強く掴みとる。

 

「いっつ!!」

 

「それじゃあお返しだ。」

 

ドン!!!

 

「ウグゥ…」

 

拳を掴まれて動けないスウに容赦ないマジュニアの一撃が入った。

 

パッ、バタン!

 

「ス、スウ選手ダウン!1、2…9、10!スウ選手起き上がれず!マジュニア選手の勝利です。」

 

そのままスウが立ち上がることなく決着がついた。

 

 

「父さん、お疲れさまでした。」

 

決着がつき意識を失っていたスウは競技館の長椅子に寝かされていた。

 

「…ああ、すまないなもう少し粘るつもりだったんだが。」

 

「いえ、役に立ったって言ってましたよ。特にクリリンさん。彼、一回戦で戦うことになったみたいです。」

 

「…だといいんだけどな。」

 

「それにしてもスウとライの戦いを見ていて、マジュニアとシェンの戦いかたがやけに似ているような気がしたんだが。」

 

二人の戦いを見ていたチャパが言う。

 

「それは私も感じました。同じ流派…なわけないですし、でも偶然にしては似すぎてますよね。」

 

「不思議なこともあるもんだな。実力もライ以上なのに今まで聞いたこともない武闘家。ピッコロ大魔王の武闘家狩りだって返り討ちにしてただろうに。」

 

「まあ、悪意のあるものではなさそうだからそんなに心配することもないだろう。今心配すべきはマジュニアと名乗るピッコロ大魔王の遺産の方だ。」

 

「明日から本選ですしクリリンさん達には頑張ってもらわないとですね。」

 

ライがそう言って締めくくり三人は予約してあるホテルに向かった。

 

 

「会場の皆様おはようございます。二日目の本日は前日の激しい予選会を切り抜けた八人の武闘家による本選が開始されます。予選の一部を見た皆様もお察しのように前回大会の決勝戦レベルの戦いが一回戦から繰り広げられるでしょう。」ワァアアア!

 

大会は今までにない盛り上がりを見せている。

 

「ライ!こっちこっち!」

 

「ブルマさん!また最前列をとれたんですね。何かすいません。結構早くから場所取りしてるんでしょうに。」

 

ライ達ははブルマに合流し、最前列でブルマたちと共に観戦する。

 

「え、ああ、いいのよいいのよ、ライ達は予選で頑張ったじゃない。」

 

「?そう言ってもらえるとありがたいです。」

 

ばつの悪そうな顔したブルマたちに少しきょとんとしながらも一回戦の開始を見守った。

 

 

「お嫁にもらってくれるって!!」

 

一回戦は危なげなく天津飯が桃白白に勝利し、続いて二回戦の匿名希望もといチチと悟空の戦いの最中会場を騒然とさせる爆弾が投下される。

 

「「「「「「「えーーーー!」」」」」」」

 

「「お、お嫁!?」」

 

ブルマや亀仙人にライ達が驚愕に顔を染め、クリリンとヤムチャが愕然と言葉をこぼす。

 

「へ、お嫁?」

 

悟空もぽかんとしながらそう言った。

 

「フン、いまごろやっと思い出しただか。」

 

チチが不機嫌そうに吐き捨てるも悟空はいまだぴんと来ていないようだった。

 

「クリリン、お嫁ってなんだ?」

 

スッテーーン!

 

「ば、ばか、お嫁にもらうってのはな結婚するってことだよ。」

 

「夫婦になって一緒に暮らすってことだ。」

 

クリリンの説明に補足してヤムチャが説明を足す。

 

「一緒に暮らす⁉おめえと?おらそんな約束したか?」

 

お嫁にもらうという意味をようやく理解した悟空は驚愕もそのままにチチに言葉を続ける。

 

「いったい誰なんだ。頼むから教えてくれ。」

 

悟空がいまだに自分のことを思い出してくれていない事実に怒りを露わにチチが言う。

 

「フン、しょうがない、教えてやるだよ。ただし…おらとの勝負に勝ったらだ!」

 

「ほんとか、良かったあ。おら名前も知らない奴と一緒に住むことになるかと思ったぞ。」

 

不敵に笑うチチがそういうもそれを聞いた悟空は顔を喜色に染めて言った。

 

「もう勝った気でいるだか。甘えぞ!おらがそう簡単にやられると思ったら大間違いだべ。」

 

 

「なんだ悟空まだ分からねえのかよ。」

 

「あんたはあの人が誰だかわかるっていうの?」

 

得意げに言うウーロンにブルマがキョトンとした顔で聞いた。

 

「鈍感だなあお前たち。ブルマもプーアルも武天老師のじっちゃんも会ってんだぜ。まあ悟空の変化にも気づかなかったし、仕方ないなのかもな。」

 

「悪かったわね。ウーロンだって孫君には気づいてなかったじゃない。」

 

「いや、悟空があんなに変わったんだからわかってもおかしくねえだろって話だよ。」

 

そう言うウーロンにライが聞く。

 

「じゃ、じゃあ私は会ってないんですか。その人には。」

 

「ん、そうだな。この中だとライ達とランチさん、それにクリリンは会ってないかな。」

 

「…道理で。匂いにも覚えがないわけです。」

 

なぜか苦虫を嚙み潰したような顔でライがそう言った。

 

 

ヒュゴ―――!ダン!

 

ライが覚えがないといった直後、チチが悟空の拳の衝撃波で一撃のもとにチチを場外に吹き飛ばした。

 

「痛ってぇぇ。」

 

場外に飛ばされて倒れこんだチチは起き上がり、壁にぶつかった後頭部を抑えながら座り込む。

 

「おい、大丈夫か。」

 

悟空が声をかけた後もしばらく痛がっていたが流石は予選突破した実力者だけのことはあり、やがて武舞台に戻る。

 

「流石だべ。ここまで強くなってるとは思わなかっただ。やっぱりおらが旦那にと決めた男だけあるだよ。」

 

毒気を抜いた声音で話すチチに悟空がもう一度質問しなおす。

 

「それで、結局おめえの名前はなんだ?」

 

「…まだ分かんねえだか。おら牛魔王の娘のチチだよ。」

 

頭をさすりながらあきれたようにチチがそう言った。

 

「チチ?!」

 

悟空の顔がお嫁にもらうという意味を知った時と同じくらい表情を驚愕に染める。

 

「チチってあのチチか。あのフライパン山にいたあの…?」

 

コクリ

 

「ああ!思い出した、思い出したぞーー!!言った、おら確かに嫁にもらうって言ったぞ。」

 

チチがうなずいてから少し思案し、自分がチチとあった日のことを思い返したのだろう。

 

「やあっと思い出しただか。」

 

少し怒ったような顔でチチが言う。

 

「そぉっかぁ。おらってば嫁って食い物のことだとばっかし思ってた。」

 

しみじみと悟空が言うと呆気にとられたような顔でチチが言う。

 

「ええっ!食い物?…んだらあの約束は…」

 

素っ頓狂な声を出した後、約束が果たされないのではないかと瞳を潤ませて悟空を見上げる。

 

「でも、まいっか。約束したもんな。じゃあ、結婚すっか。」

 

持ち前の軽さを発揮し、一瞬思案した後悟空はチチに向かってそう言った。その答えを聞いたチチの顔が喜色に染まっていく。

 

「んだ!」

 

頬を染め周りにハートが浮き出るように見えるほどのチチを祝福するアナウンサーを始めとした観客たちの声が会場内に響いた。 

 

 

「さ、先を越された。まさかこんなに唐突に結婚なんて…。」

 

悟空が驚いている最中、観客席では以外にもライが傷ついていた。

 

「あら、意外ね、ライは結婚とか焦っているようなタイプには見えなかったけど。そもそもまだ焦るような年齢じゃないでしょ。」

 

「…人の基準からすればその通りですけど、人狼の基準からするともう適齢期です。人狼同士に限るなら十二で結婚も珍しくないですよ。」

 

「そんなに焦らなくてもいいんじゃないか。お前は俺と母さんのハーフなんだし、人狼と事情が同じわけじゃない。そもそも結婚は相手との巡り合わせ。」

 

「…まあそうですけど。」

 

スウのフォローも動揺を完全に消し去れずなんとなしに苦い顔をした。




スウ90
スウ未だに100以下で弱そうに思うかもしれませんが伸びはチャパと同じく三年前の1.5倍です。狼化でほぼ毎晩三倍になれるんで見かけ以上に強いです。この方。


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(第十九話)ヤムチャの秘策

「続いて第四試合、ヤムチャ選手対シェン選手です。」

 

本選第三試合はクリリンが善戦するもマジュニアとの実力差を痛感しギブアップをして、第四試合が始まろうとしていた。

 

「ヤムチャ選手は前回大会前々回大会と本選出場を果たした実力者、対するシェン選手はノーマークでありながら、前回大会本選出場のチャパ選手を破ったライ選手をも撃破した無名の実力者です。正直、どうして今まで無名だったのか分かりません!」

 

アナウンサーの紹介を終え、二人が相対する。

 

 

「どっちが勝つかな。ライで勝てないってなると、ヤムチャさんに厳しい戦いになりそうだけど。」

 

「まあそうだろうな。シェンの武術は年季が違う。でもなクリリン、おめえがあのマジュニアに善戦したように、ヤムチャにだってこの三年間で積み重ねてきたものがあるだろ。どっちが勝ってもおかしくねえ。」

 

 

「この試合まではある程度実力を隠しておきたかったのですが、なかなかそうもいかない方たちばかりだ。ここ数年間の武術レベルの上昇には目を見張るものがありますね。」

 

「…少し武術に心得があるからって立派に観測者気分か?その余裕が俺との戦いでいつまで持つのか楽しみだぜ。」

 

苛立っているように見せて心は穏やかに。ライと共にした修業の日々は武術もさることながら精神面をを大きく成長させた。そしてそのヤムチャの言葉は以外にもシェンに刺さる。

 

「観測者ですか…。これはこれは言い得て妙ですね。ではそろそろ始めますか。こうしていては観客に申し訳ない。」

 

そう言うと気配を一変させ立ち姿から隙が消え去る。観測者という言葉に反応した隙をつくように攻勢に打って出ていたヤムチャは攻め手を見つけあぐねて距離をとる。

 

「ぐっ…!」

 

しかし距離をとろうとするヤムチャの動きを読んでいたかのようにシェンは急接近して攻撃を撃ち込んだ。たまらずヤムチャが膝を崩す。

 

「神速の一撃!ヤムチャ選手たまらずダウンです。1、2…8、おっと立ち上がりました、試合再開です‼」

 

仕切り直しとばかりに相対したヤムチャに対し、シェンが言葉を投げかける。

 

「いや、まさか釣りに引っかからずきちんと距離をとるとは、一撃で決めるつもりでしたが…いやはや、思うように威力を乗せられなかった。」

 

「あれほどの反応速度で、あの威力で思うような威力でないとはな。本気で言ってるんだとしたら大したものだ。仕方ない。準決勝と決勝用にとっておいた奥の手を切らなければならないようだ。」

 

シェンとの実力差は明白になったものの未だヤムチャの顔に焦りはない。それを不審がったのかシェンは気を集中させて構えをとる。

 

「新生・狼牙風風拳!」

 

ヤムチャがそう叫びものすごい速度でシェンに飛び掛かっていく。

 

「はいはいはいはいはいはいはい!」ダッ、ガッ、ドン!

 

「…少しだけ、修行をつけてあげましょう。」

 

今までの狼牙風風拳よりはるかにパワーアップした速度の狼牙風風拳もシェンには通用しない。それどころか、足元がお留守だと攻撃を食らう始末である。

 

 

「スピードもパワーも以前の狼牙風風拳からは考えられないほど上がってますね。特にスピードは凄まじい。」

 

「だが、スピードとパワーの両立をした結果、以前の狼牙風風拳にあった強みがなくなっている。」

 

「…ええ。あれを蹴りにも適応させれば完成された技だったんですが、あれだと足元の弱点を見抜かれたら意味のない技になってしまいますからね。」

 

「もともと、狼牙風風拳を知っている相手に向けた技だったんじゃないか。元の技は蹴りも早くなってたし、そういう先入観がある相手には刺さるだろ。」

 

「まあ、シェンさんがすぐに弱点を見抜いたことが凄すぎるんであって、相当な修行の末の技で充分奥の手として使えますよね。」

 

 

観戦しているライがそうまとめ、スウが指摘したように元々ヤムチャはこの技をクリリンや、天津飯といった顔見知りの相手対しての奥の手としてとっておいていた。予定を崩され調子を狂わされたまま戦っていってもよい結果を引き寄せられるはずもない。

 

「グハッ」ダン!ズザァァァ

 

狼牙風風拳の隙を的確に突かれて強烈な反撃を食らったヤムチャは武舞台の外に向かって飛ばされるが、何とか武舞台を滑りながらも持ちこたえた。

 

「切り札がまだあるのならば全て切ることをお勧めしますよ。出し惜しみをして負けるのは本意ではないでしょう。」

 

圧倒的優位を維持しているシェンがそのように言うがまだヤムチャの瞳は諦めの色に染まらない。

 

「再三の忠告本当に感謝するぜ。だが切り札はまだ切り終わっちゃいない。…操気弾!」

 

そう言ってヤムチャが右腕をかざすとその手のひらから球状の気弾が露わになる。

 

「はあああああ!」

 

ヤムチャが右手を動かすとそれに呼応するように気弾が動く。

 

「ひえっ、はっ、おわっと。」

 

縦横無尽に動き狙ってくる気弾をかいくぐっていく。その動きには余裕があるようにすら見えた。操気弾はシェンを急降下して狙うがそれも避けられ武舞台を突き抜け地中にもぐっていった。

 

「いや、まさかエネルギー弾を操ることができるとは。これは驚きました。私にもできない技です。気の扱いにおいて光るものを持っておられるようですね。」

 

本当に驚いたと称賛するシェンに対して不敵な笑みを浮かべてヤムチャは言葉を紡ぐ。

 

「攻撃する一瞬、防御する一瞬、意識して気を高める集中とは違い、気を最大限まで高めてそれを維持し続ける技術。それを習得してから俺の戦術の幅は大きく広がった。」

 

急に気の開放について話し出すヤムチャにシェンは怪訝な顔をするがヤムチャは構わず続ける。

 

「気を集中させることで戦う奴等と俺には決定的な差がある。それは…不意打ちが有効かどうか、だ!」

 

そう言った瞬間、地中から操気弾が出てきてシェンを襲った。無意識化では気を集中していない。そのシェンにヤムチャの全力の一撃が極めて有効な一撃となった。

 

「グフッ」

 

武舞台の端の方に吹っ飛ばされるシェンに向かって止めの追撃を放とうと、一気に突っ込んでいく。

 

キッ!「ほい!」ガッ!

 

このままヤムチャが勝つかに思われたが、シェンは武舞台に腕を使って受け身をとり、即座に接近してきたヤムチャをその勢いを利用して後ろ側に蹴り飛ばした。

 

「んなっ」

 

即座のリカバリーからの反撃をもろに食らい宙を舞っているヤムチャにシェンは舞空術を使って接近しとどめの一撃を放った。

 

バン!ドォン!

 

場外に向かって蹴り落とされたヤムチャになすすべもなく、そのまま決着となった。

 

「じょ、場外、よって勝者、シェン選手~!」

 

土煙が収まり、勝敗が明らかになった後アナウンサーの宣言が響いた。 

 

 

「完敗です。まさかあの操気弾を受けてあそこまで早く反撃を打ってくるとは思いませんでした。」

 

試合が終わりそう言ったヤムチャの顔は晴れやかだ。持てる力のすべてを出し切ったからだろう。

 

「いやいや、完敗というにはあまりにもあなたは強い。最後場外に飛ばされた時も気功波での復帰を試みていたでしょう。あそこまで的確に反応できていればそれこそ、先のライさんに勝るとも劣らない才能をお持ちのようだ。貴方も、まだまだ強くなれますよ。」

 

 

「勝負あり!勝者孫悟空選手!」

 

四身の拳の弱点を見抜かれ、太陽拳をもろに食らった隙を突かれ場外に出た天津飯は悔しそうにその宣言を聞いた。

 

「四人になったのは驚いたけど一人の力を四人に分けちまったのは失敗だったな。スピードもパワーも四分の一になっちゃんもんな。」

 

「ライやヤムチャは気配をつかっていることを聞いたときにこの弱点を見抜かれるのは時間の問題とは思ったが、あの乱戦の中でそこまで早く見抜かれちまうとはな。」

 

悟空に手を引かれ武舞台に戻った後そう言った。

 

「ははは、天津飯も気配を探る修業をライに付けてもらってたんだろ?もう少し極めればすぐにできるようになるさ。」

 

ライとの修業の中で天津飯たちは舞空術の修業をつける代わりに気を感じる修業を受けていた。しかし、一年ではある程度の感知にとどまり、戦闘に応用するまでには至らなかったのだ。普通の人よりも目がいいという天津飯の長所は、殊、気の感知に関しては短所となった。

 

「完敗だよ。決勝も頑張れよ。」

 

素晴らしい試合を披露した悟空と天津飯に会場の観客から惜しみない拍手が送られた。

 

 

「魔封波だ!」

 

ナメック語を使って何事かを話した後、シェン改め神様が魔封波を放った。神様からまばゆいばかりの光が放たれ、光の筋がマジュニアを囲む。

 

「馬鹿め!魔封波返しー!」

 

光がマジュニアに到達する直前、不敵に笑ったマジュニアがそう叫ぶと光の筋が逆流して神様を囲う。

 

「し、しまっ…うわああああ」

 

神様でさえも予期しえない思わぬ反撃を受け、悟空に望みを託し小瓶に吸収されていった。 

 

 

「(い、今の技は魔封波じゃ、魔封波じゃった。まさかいや、そんな…)ちょっと行ってくる。」

 

魔封波を見た亀仙人は一人そうこぼすと一人観客席から離れていく。

 

「薄々感じていたことではあったが、俺の実力では、マジュニアの力の半分をやっと引き出せたかどうかだったんだろうな。」

 

ピッコロは実力を隠していたのだろう。直接戦ったスウだけがマジュニアの実力を観客で見ている者の中で最も正確に見抜いていたのだろう。そんなスウと魔封波という技の存在を知っているライとチャパは深刻そうな顔を崩せない。

 

「…シェンさんに会ってきます。聞かなきゃならないことが山ほどある。」

 

魔封波を使ったことで、ライ達にとってシェンはただ強い武闘家という存在ではなくなり無視できない存在になった。彼の匂いを探り、シェンの元に急ぐ。人狼の優れた嗅覚はこの人ごみの中でも正確に機能し、すぐに目当ての人物を見つけ出す。

 

「シェンさん!シェンさんってば!あの!聞きたいことが!」

 

目当ての人物を見つけたライは彼を呼びかけるがかなり大きな声を出したにも拘わらず彼は聞こえないのか反応しない。結局肩を掴んで少し強引に引き留める。

 

「無視しないでくださいシェンさん、さっきの技は何なんですか、どうしてあなたが魔封波を知っているんですか。しかもあの技を放っておきながら生きてますし、どういうことですか!」

 

「へ?シェンって私のことですか?私はそんな名前ではないですけど?」

 

強い口調で突き詰めるライにぽかんとした顔で応じる男にあきれと一緒に怒りをもってさらに強く聞こうとする。

 

「ふざけないでください。あの技は…」

 

そこまで話したところでライは目の前の男が自分が戦った時の気と全く別の気を発していることに気づく。

 

「…昨日の昼頃、いえ、一昨日の夕方からの記憶ありますか。」

 

気が全くの別物になっていたことでライがこの体を誰かが乗っ取って操っていた可能性に思い至る。

 

「いやそれがどうも天下一武道会を見ようと思って家族と一緒に会場に来たとこまでは覚えているんですが、それからはさっぱりなんですよね。」

 

(やっぱり誰かがこの人の体を使っていたんだ。だとすればそんなことをできる人、いやそんなことをできる存在は限られている。そもそも魔封波を使える時点で…)

 

ライの中である確信に近い仮説が生まれる。その仮説を証明すべくライは全速力で悟空の元へ向かった。 

 

 

「やつは、ピッコロ大魔王だ。」

 

ライが悟空の元に着くとちょうど、魔封波を見て問いただしに来た亀仙人と同じくあいつの異次元の強さに驚愕している天津飯たちに悟空が本当の正体を明かしていた。

 

「なるほど、腑に落ちない点はあるが、あいつの強さを見ればそれは納得だな。しかし、神様でさえもやられてしまっている。俺達で何とかなる相手なのか?」

 

シェンが神様だと悟空から聞いたヤムチャがそういうのを聞き、図らずも最悪の仮説が正しかったと証明されてしまう。

 

「何とかするさ。この日のためにおらは修業を重ねてきたんだ。」

 

「全員でかかるべきです。私の見立てが甘かった。正直、私と父さんとチャパさんでかかれば勝てるだろうって思ってましたけど、そんなレベルじゃないです。全員でかかっても勝てるかどうか。」

 

悟空が厳しい顔でそういうのを遮ってライが言った。

 

「悟空がどんな修業を天界で積んだかは知りませんけど、神様(師匠)が負けたんですよ。あなた一人では…」

 

なおも言い募るライを制して悟空が言う。

 

「一人でやらせてほしいんだ。おらさっきの戦い見てたけど、さっきのがあいつの本気ならおらは負けねえ。神様も借りもんの体だったし、全力は出せてなかったはずだけど、おらはあの戦い見て少なくとも神様よりは強くなったことを確信した。」

 

「神様よりも強くなったから?だから勝てるっていうんですか。あいつがどれだけ強くなってるかも分からないのに!!」

 

「勝てるなんて言わねえし、手合わせもしないうちから自信あるなんて思ってねえ。それはあいつだけじゃねえ。戦う前から勝てる自信のある試合なんて一つもねえよ。だから何も変わらねえ。おらはほかの武闘家と同じようにあいつと戦い、そして勝つんだ。」

 

どれほどの実力を持っても慢心しない。武闘家としてある種完成された姿がそこにはあった。

 

「ライ、悟空に任せてみてもいいんじゃないか。もちろん全員でかかった方がいいのかもしれない。でも、もしライが想像している強さをあのピッコロ大魔王が持っていたとしてその時俺たちはちゃんと力になれるのか、俺たちは神様よりもずっと…弱いのにさ。」

 

悔しそうにそう言ったヤムチャにライは言葉を失う。

 

「休憩時間が経過しましたので、これより決勝戦を行います。孫悟空選手とマジュニア選手は武舞台まで上がってきてください。」

 

深刻な話に合わない明るい声が武舞台に響いた。




ヤムチャ400
ライが250でチャパが225で何言ってんだとなると思うはずですけれど気の開放を習得したためです。ライは気の集中で500まで上げられますし、チャパは450までいけます。ヤムチャがかめはめ波打っても戦闘力そのまま400です。そんなにおかしくないでしょう。ヤムチャびいきはここでも発動です。
今回ヤムチャがつかった狼牙風風拳は戦闘力500相当の速度が得られます。でも腕の動きだけ。


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(第二十話)天下分け目の戦い

グダりました。本当にグダりました。反省も後悔もしてません。私は頑張った。


「さあいよいよ決勝戦です。孫悟空選手は前回、前々回と準優勝をした実力者。マジュニア選手は無名ながら前回大会決勝をも凌駕する戦いを何度も披露した超実力者です。この戦い果たしてどのような結末を迎えるのか、全く想像できません!」

 

アナウンサーが元気よく宣言し、観客も想像できないほどの戦いを期待して会場は大盛り上がりだった。

 

「のんきなもんですね。この戦いで地球の運命が変わるかもしれないのに。」

 

「今後二度と見れないであろう名試合になるのは間違いないからな。正体を知らなければ俺も多分あんなになってたぜ。今はそんな風に思えないけどな。」

 

ライとヤムチャがそう話すも準備は粛々と進みアナウンサーが開始を宣言しようと舞台に立った。

 

「それでは大決勝戦、始めてください‼」ドーーーン

 

「はああああ!」

 

「やああああ!」

 

ゴングと同時に悟空とマジュニアが向かって行く。開幕からすさまじい速度に観客は目で追うことができず二人の打ち合う音だけが響くように聞こえる。

 

「はああああ!」

 

マジュニアが腕の長さを自在に変えて悟空につかみかかりに行く。それを読んでいたのか、脇を通すように回避してその腕をつかみ、投げ飛ばす。跳躍してマジュニアに追撃しにいくがそれを防ぐように魔光線を目から放ち、落ちていく悟空を連続の気弾で追撃した。

 

 

「小手調べ…ですかね。お互いに初めて戦うので当然といえば当然ですけど。」

 

ライ、ヤムチャ、クリリン、天津飯、そして亀仙人が武舞台の側でこの戦いを見守る。

 

「さっきの神様との戦いよりも少し早いくらいだからな。気と目を使えば十分追える範囲だ。」

 

「当たり前のように気で動きを読んでるけど気を探れない身からするともう今の時点で動きを追うのがやっとだぜ。なあ天津飯?」

 

「俺には第三の目があるからな。気を読めなくてもある程度は何とかなる。まあ奴らが本気を出したら俺程度では追えないだろうけど。」

 

「今のが小手調べという事実に驚愕しているわしの立場はどうなるんじゃ…」

 

悲しそうな亀仙人の声がこぼれる。

 

 

 

 

「いつまで倒れているつもりだ。貴様がこの程度でやられないことくらい分かっている。」

 

あまりの衝撃にカウントすることも忘れて呆然と立ち尽くしているアナウンサーや観客をしり目にマジュニアが悟空に対してそう言った。

 

「ありゃりゃバレてた?」

 

悟空もその言葉を聞くやすぐに起き上がり飄々と言う。

 

「貴様の仲間たちでさえ気づいているのだ。この俺が気づかないわけないだろう。」

 

「それもそうか。じゃあ小手調べはこれくらいにするかな。おめえはどうしようもなく悪い奴だけどさ、腕はすげえから俺はわくわくするんだ。」

 

そう言うと悟空の雰囲気ががらりと変わり、まるで悟空の周りに稲妻が走っているように写る。そしてそれは悟空だけではない。

 

「フン。小手調べとはいえ、この程度なら拍子抜けだぞ。…貴様を殺して父の無念を晴らさせてもらう。」

 

マジュニアも雰囲気をがらりと変え、鬼気迫る雰囲気はライ達に周りに稲妻が出ているように錯覚させる。二人の実力に差はほとんどないようである。

 

「行くぞ!」

 

「はああ!」

 

二人の凄まじいぶつかり合いはものすごい轟音を生み出す。お互いの覇気に動きを鈍らされる中、腕と腕がぶつかり合ったかと思うと凄まじい打ち合いを展開した。お互いにすべての攻撃を捌き切り取っ組み合う。

 

「んんん!」ピィン

 

マジュニアが目から怪光線を放つもそれを伏せて躱し蹴り飛ばす。それをマジュニアは手を掴んだまま腕を伸ばして下がることで衝撃を和らげ長いリーチを生かして悟空をたたきつける。しかしすぐさま脱出して渾身の膝蹴りをお見舞いした。そしてすぐさま武舞台から消える。

 

 

「見事じゃ悟空の奴気配を完全に消しておる。」

 

「ええ、すさまじい速度で動いていながら音を一切出していない。でも…」

 

亀仙人が驚愕と共にそう言うもライがすぐに切り返す。

 

 

「そこだぁ!」ガン、ガッシャーーン!

 

マジュニアが肘を打つとそこに吸い込まれるかのように悟空が現れ壁に吹っ飛ばされた。

 

「…音は消せても気は消せません。」

 

壁が崩れ去った後には不自然なほどの静寂が残る。

 

「フ、フハハハハハ、その程度の動きで俺を出し抜けると思った…か?」

 

高笑いをするマジュニアはしかしがれきに悟空の姿がないことを見ると言葉尻に力がなくなる。

 

「後ろだ!」バン!

 

悟空が瓦礫にいないことを知るころにはもう遅く、マジュニアの背中をとり、攻撃を与える。体制を立て直そうとするマジュニアだがその前に悟空からの追撃の連打を食らい、重い蹴りの一撃を受けて吹っ飛ばされる。しかし直ぐに体制を立て直し、武舞台を蹴って空中で静止した。口元を蹴られたマジュニアからは赤い血が流れる。その赤は魔族である印。悪の気を持つことで紫の血は赤く染まる。

 

「おのれ、たとえ一滴でも聖なる魔族の血を流させるとはな。許せん…会場もろとも吹き飛ばしてくれる!!」

 

そんな血を流した彼は激高し、両手に気功波を溜める。

 

「まずいっ!みんな逃げろー!」

 

会場が大変なことになると悟空は観客に退避を促すが観客はきょとんとするばかりで動くことができない。そしてそれはライ達もである。突然の高エネルギーに圧倒され動くことができない。

 

「ちくしょう!間に合わねえ!!」

 

そう叫ぶと悟空は飛び上がり気功波の軌道をずらす。

 

「馬鹿め!人間なぞを庇いおって。」

 

飛び上がったことによる動きが鈍るタイミングを狙い、気功波を放つ。それを悟空は拳圧にそる衝撃波で自分を後ろに飛ばし躱した。会場から離れた山に気功波当たる。その衝撃はで会場は揺れあまりのことに観客は動揺しうろたえていた。

 

 

「うぬぬ、悟空が上に跳んでくれなきゃ、今頃わしらは仲良くあの世行きじゃったな。」

 

「分かっているつもりでしたが、理解していなかったってことでしょうかね。この二人が戦うのにこの会場は狭すぎる。」

 

「会場どころかこの島ですら狭いくらいだろ。山が削れるんだぜ。はっきり言ってあいつがその気になれば観客は即死だ。俺達ですらきっと…」

 

 

観客やライ達が戦々恐々としているなか、悟空が超かめはめ波放とうとしていた。

 

「サンキュー、クリリン!」

 

クリリンのドラゴンボール発言に悟空は迷いを払い、マジュニアと気功波との撃ち合いを展開した。

 

「はあああああ!」

 

「うおおおおお!」

 

二人の超強力な気功波のぶつかり合いは会場を揺るがし、ぶつかり合いの中心にほど近い競技館の屋根は吹き飛ばされ建物の破片が舞う。それだけにとどまらず、恐ろしいほどの風圧が会場を襲う。

 

「きゃああああ!」

 

「うわああああ!」

 

観客がその衝撃にまるでドミノのように倒れ、軽い種族や子どもはその風圧だけで吹き飛ばされていた。

 

「「はっ、よっ。」」バッ、ガシッ!

 

観客席で戦いを見ていたスウとチャパが吹き飛ばされている人をフォローしながら飛ばされてくる瓦礫からも守る。

 

「凄まじいぶつかり合いだな。」

 

「観客席で見ててよかったぜ、こんな飛び火とすらいえないような形で死人を出してしまったら悟空も報われないしな。」

 

撃ち合いに悟空が勝利し、武舞台に似合わぬ静けさが満ちる。

 

「勝った、悟空が勝ったんだ!」

 

その静寂をクリリンが破るが再び厳しい声で亀仙人がいう。

 

「いや、上を見よ。」

 

つられてアナウンサーや観客も上を向いた。煙でかかった靄が晴れるとそこには服をボロボロにし、怒りに顔を歪ませているマジュニアがいた。

 

「お、おのれ…」

 

憤慨しながら武舞台に戻ってきたマジュニアを近くで見た観客たちがマジュニアはピッコロ大魔王の生まれ変わりであるというカミングアウトを受けて、会場は大混乱に陥る。

 

「「「「きゃああああ!」」」」

 

「「「「うわああああ!」」」」

 

ピッコロ大魔王の生まれ変わりがいたという事実は瞬く間に広まり、会場が閑散とするころにはメディアに拡散され、会場だけでなく世界が大混乱に陥った。

 

「おぉっと、なんと驚異的な強さを誇ったマジュニア選手はなんと、あのピッコロ大魔王の生まれ変わりだったのです。この戦いがどのような結末を迎えるのか全く予想がつきません。」

 

閑散とした会場にアナウンサーの声が響いた。

 

 

「プロだな。」

 

「プロですね。」

 

ヤムチャとライが悟空が促した通りに競技館の側に来たアナウンサーに向かって言った。

 

「いやあ、職業病みたいなもんです。それに…なんだかんだ言って私は好きなんですよ。強い人たちの凄い戦いを見るのが好きなんです。」

 

プロの精神がいかんなく発揮されている。彼もまた、ライ達と同じように一つの道を極める者なのであろう。

 

 

「言っとくがお前なんかに天下はとらせねえからな。」

 

悟空がマジュニアをにらみつけて言う。しかしマジュニアは撃ち合いに負けたにも関わらず不敵な顔を崩さない。

 

「そういう強気なセリフは次の技を見てから言うんだな。」

 

そういうとマジュニアは雄たけびをあげながら力んでいく。するとみるみるうちにマジュニアが巨大化していった。

 

 

「まるで大猿みたいだな。最もパワーの上昇率は大猿ほどじゃないし、理性も残ってるが。」

 

競技館の側に来ていたスウがライに向かって言った。

 

「元が悪人だから理性を失ってない方がたちが悪いのでは?」

 

「…まあ、スピードは変わってないのに巨大化したから小回りは効かないだろ。戦い方次第で充分勝ち目はある。」

 

理性の有無の是非には答えず、マジュニアの巨身術に対して評価を下す。

 

「巨大化していながらスピードが落ちていないっていうのがすでに恐ろしいんですけどね。」

 

 

スウとライが話している間にも超巨身術を使ったマジュニアが悟空を踏み潰さんとしていた。巨身術によって体重も増えたのだろうか、悟空が必死に抵抗するもそのまま踏みつぶされてしまった。

 

「悟空さっ!」

 

踏みつぶされたことに我を失くして飛び込もうとするチチをヤムチャが止める。しかし叫びが悟空に通じたのかもしれない。悟空はなんとマジュニアの足を掴みなんと投げ飛ばした。そしてマジュニアの大して不敵に言い放つ。

 

「その程度の大きさならどうとでもなるさ。もっともーっとでかくなるなら話は別だけどな。」

 

その発言を聞くとマジュニアは口元を残酷に歪ませる。

 

「この大きさが限界だと思っていたのか?」

 

そう言ってさらに体を大きくした。 

 

 

「まるで超巨身術とでも言いそうな大きさだな」

 

「でも悟空の罠にはまったな。あれほどの大きさだったら悟空をとらえることもうまくできないだろう。」

 

「ははは。体内にでも入れればむしろ圧倒的有利ですね。」

 

ライが圧倒されるように言った発言を聞いてクリリンと天津飯がピンと来たようだ。

 

「!ああなるほど。そういうことか。」

 

「悟空も考えたもんだな。」

 

「どういうことなんだい?」

 

合点が行ったような表情をしたクリリンとヤムチャ、天津飯に対してチャパが言う。

 

「準決勝で封印された神様をあいつは小瓶ごと飲み込んでしまったんですよ。それで悟空はあいつを攻撃することをためらったりしてたんです。」

 

クリリンがそう説明をする。

 

 

クリリンやチャパ達が話をしていると悟空のその目論見がうまくいったのか。悟空がマジュニアの体内に潜り込み内側からマジュニアを攻撃していた。

 

「なっきさっ!ウェッ!」

 

「天津飯こいつを!それを開けてくれ!」

 

体から吐き出された悟空は何かを手に握っておりそれを天津飯に向かって投げつけた。小瓶を受け取った天津飯は戸惑いながらも小瓶の蓋を開ける。

 

ボン!

 

もくもくと煙が上がり神様が姿を現した。そのあまりにピッコロ大魔王と酷似した姿にその姿を知る悟空以外の顔が驚愕に染まる。神様も状況が飲み込めていないらしく呆然としていたがそんな神様に対して悟空はVサインを送ると徐々に状況を理解できたようだ。

 

「そうか、私はピッコロに魔封波返しをされて…」

 

「おのれ悟空、貴様…」

 

悟空を吐き出してえずいていたピッコロは元の大きさに戻る。再び構えをとり戦いを始めた二人はさっきまでよりもずっと早い戦いを繰り広げた。

 

「もう追えませんね。」

 

上を見上げながらライが言う。

 

「気でおおよその位置が分かるけどその程度だな。どっちが優勢かわかりゃしない。」

 

同じように上を見上げながらヤムチャが答える。

 

「気を追えるって便利な力じゃのう。わしには全く読めんぞ。」

 

亀仙人がそう言うとクリリンや天津飯もうなずいた。

 

「ぐわっ!」

 

そうしているうちに悟空は足からかめはめ波を放ち遠心力を利用した強烈なパンチをピッコロに与えるも返しの光線によって空中で大ダメージを負い態勢を崩した悟空にピッコロはさっきのお返しとばかりにさらに強力なパンチをお見舞いした。

 

ガッシャアアアアン!

 

壁に悟空が激突し粉塵が舞う。

 

「なぜ止めたのだ!もはやピッコロを倒す好機はいま悟空と私が共闘する以外にないかもしれんのだぞ!」

 

悟空が吹っ飛ばされている中、助太刀を阻止された神様がライに向かって言った。その声音には神様らしからぬ怒気と焦りがある。

 

「…すいません。世界の平和のためにはなりふり構わず戦うべきだとは思います。…でも悟空に任してあげてくれませんか。悟空は私達の助太刀を望んでいないんです。私達は悟空の意思を尊重しようと、決めたんです。」

 

「む…う。」

 

神様でさえもライの真剣なまなざしと言葉に二の句を告げずにいると悟空が口を挟んできた。

 

「すまねえな神様。おらに任せてくれ。必ず期待に応えて見せる。」

 

軽い口調とは裏腹に悟空の声音と顔は真剣そのものだ。それを見た神様は数瞬瞑目し答える。

 

「わしのことは気にせんでいいから、遠慮なくピッコロ大魔王と戦うんだぞ。わしのことは後でドラゴンボールを使ってくれればよいんじゃからな。」 

 

 

「貴様以外は俺にとってはとるに足らない雑魚でしかないが、それでもなりふり構わず協力を頼みこむべきじゃなかったのか?」

 

ピッコロが挑発するように言った。悟空が仲間の協力を得ないと分かっていながらも自分は悟空と仲間たちが協力しても勝てないと見せかける。

 

「冗談じゃねえさ。おめえはすげえ悪いやつだけど、腕は確かだからな。正々堂々と戦って勝ちたいんだ。それに今までの手合わせで確信した。おらは勝てる!」

 

自信満々にいう悟空にピッコロの顔がだんだんと引きつっていく。

 

「勝てるだと?口から出まかせを言いおって。」

 

「でまかせじゃねえさ。おめえの技は見切った。それを見してやる。」

 

そう言って構えをとる悟空にいよいよ怒りが頂点に達したか怒気を孕んだ声で吐き捨てる。

 

「見切っただと。そんなはずはあるまい。俺は三年前貴様と戦った時よりさらに強くなっている。」

 

「じゃあおらはおめえが得た強さよりさらにもう少しだけ強くなったんだ。」

 

「ほざけ!」

 

余裕の表情を崩さずに言う悟空についにピッコロが攻勢に出た。しかしそれはただの気功波。いままで散々撃ってきた技であり、爆力魔波と比べれば威力は控えめであった。悟空は今更通用しないとばかりに簡単にジャンプして躱す。しかし一度躱した気功波が大きく曲がり、再び悟空のほうに向かって行った。

 

「なに!」

 

再び襲ってくる気功波をジャンプで躱す。追尾精度は一度避けた時よりも上がり、急角度で斜め上に動いていった。

 

「そういうことか!」

 

悟空はかめはめ波を使ってさらに空中で速度を上げて追尾弾から逃げる。しかし何か思いついたのか、かめはめ波を止めて急降下していった。

 

「諦めたか!」

 

ピッコロの顔に余裕が戻りなおも悟空を追尾する気弾はしかし、悟空がピッコロの近くに限界まで接近したことでとん挫する。追尾性能のせいで自分で食らってしまったのだ。控えめといえども悟空とピッコロたちのレベルでのそれの威力はライや天津飯、神様でさえもただでは済まないほどの威力を持ち、すさまじい轟音と粉塵を巻き起こす。粉塵が収まり攻撃を食らったピッコロの姿が露わになる。ピッコロの左腕は大きく負傷しており、使い物にならないことが一目瞭然であった。

 

「その腕じゃまともに戦えねえはずだ。降参しろ。」

 

悟空が降参を進めるがピッコロは苦しそうに顔を歪めながらも口角を上げた。

 

「フン。」

 

そしてピッコロは自分の腕を自分で引きちぎり、かと思うと者の数秒後には新しい腕を生やした。

 

 

「「「「いぃっっっ!」」」」

 

その様を見て神様を除く全員の顔が驚愕に染まる。

 

「あいつ、ナメクジみたいなだな…」

 

突然のことにウーロンが呆然とそうこぼす。

 

「腕が生えてくるなんて羨ましい再生能力ですね。まあ自分で引きちぎれるほどなんで私達よりは脆いようですけど。それに…」

 

ライの言葉をヤムチャが継ぐ。

 

「気は戻っていない。あいつが治せるのは怪我であって体力じゃない。」

 

腕をやられ、追い詰められているという事実はピッコロの怒りを高めていく。




大体一話5000文字前後を狙ってるんですけどこの二人の戦いはなぜか一万文字近くなって二話に分けなければならなくなりました。無印編もあと一話で終わりです。ようやくタイトル詐欺をやめられます。


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(第二十一話)天下一武道会決着

今だから言いますけど三話投稿時点でこの話は予約投稿で完成してました。さて、今はどこまで書き溜めがあるのかなあ。


「許せん、許せんぞ、この俺をここまで追い詰めるとは。この俺様の最後の賭けを受けてみるがいい。」

 

ピッコロがそう言うと両腕で体を抱き込むように気を高め始める。それをいち早く感じ取った悟空は会場の仲間たちに向かって叫ぶ。

 

「逃げろー!早く逃げろー!とんでもない攻撃がくるぞー!」

 

「マジュニア選手、何やらものすごい大技を繰り出すようです。会場は揺れ、大地には亀裂が入っております。」

 

「あんた実況放送しとる場合か!」

 

職業病を発症しているアナウンサーにブルマが怒鳴り込むがそれよりも鬼気迫る様子で悟空が言う。

 

「みんなー!何やってるんだよ。早く離れろ!この島から離れるんだー!」

 

その凄まじい様子が仇となったか、ライ達はすぐには動けない。

 

「悟空さはどうすんだべかー」

 

チチが悟空に問うと悟空はすぐに答える。

 

「おらはこらえて見せる!!」

 

そう言うと悟空も気を充溢させていく。意識をピッコロの攻撃を防ぐことにのみ注力していた悟空の様子を見ていち早く我に返った天津飯が地面に向かって気功砲を放ち、簡易の退避所を作った。普通に放てば底が見えないほどの退避所となるはずの場所は、人ひとりは十分に入るが降りれないほどではないほどに調節されており、気の扱いを習得した天津飯の三年間の修業の成果が出る場でもあった。

 

「馬鹿なことはやめろ!こんなのはもはや試合などではない。場外を利用した、ただの殺戮だ。お前も逃げろ!」

 

神様が悟空に向かって叫ぶが目の前の攻撃に集中している悟空の耳には届かない。しかしそれでもさらに言い募る神様にしびれを切らしてランチが動こうとしたがスウが先に動いていた。

 

「おい!早くしろ。悟空はあんたのいうことなんて聞こえてねえよ。師匠として心配なのは分かるが弟子の成長を受け入れて自分の身を大切にしろ!」

 

神様は弟子をとったことはなかった。実力で追い越されてもまだ自分の弟子でありそういう意味で庇護の対象であるというように考えているのかもしれない。その考えをスウは一蹴する。弟子であり最愛の子であるライの成長する様を見てきたからこその言葉は事情を読むことのできる神様には深く刺さる。

 

「はあああああ!!!!」

 

神様が穴にもぐったわずか数瞬後ピッコロの全力の超爆裂魔波が炸裂した。まばゆいばかりの光が島を包み始めそれから少し遅れて衝撃が伝わる。天下一武道会会場は跡形もなく吹っ飛ぶだけでなく、パパイヤ島の建物すべてが破壊されていった。

 

どごおおおおおおんんん!!!!

 

凄まじい轟音と爆発から武闘家ではないブルマやウーロン、プーアルたちを庇うようにライ達が気功砲の穴に気のバリアを張る。全員の気を結集してなおピッコロの爆撃の衝撃波相殺しきれず地上近くにいたスウとライに神様、そしてチャパは大きなダメージを負ってしまい、その三人より奥にいたクリリンと天津飯にヤムチャでさえも軽傷とは言えない傷を負った。その甲斐あって、武闘家ではないものたちは土煙で薄汚れてはいたが怪我はなく、せいぜいかすり傷程度であった。

 

 

「悟空は…試合はどうなったんだ?」

 

クリリンが目をこすりながら爆音が収まり爆裂魔波で雲が吹っ飛び快晴となった空の元穴から這い出てきた。そして彼はあの超爆裂魔波に耐えきった悟空を見つけ顔を喜色に染める。

 

「た、耐えちゃったもんねー。お前の負けだ!」

 

悟空はそう宣言するとピッコロにめがけて突っ込んでいく。先の攻撃を防ぐために悟空も気を大幅に減らしていたが、全体に攻撃をしたピッコロほどではなく、一方的に攻撃を与え、強烈な拳を腹に打ち込むと飛び上がり、身動きが取れないでいるピッコロに向かってかめはめ波を叩き込んだ。

 

「悟空は勝ったのか…?」

 

悟空がかめはめ波を撃った後にはクレーターができており、口を大きく開けて白目をむいているピッコロの姿がその中心にあった。

 

「カウントダウンを頼む。」

 

悟空がアナウンサーに向かって言う。アナウンサーはピッコロは死んでしまったのではないかというが悟空が死んでないと断言し、神様からもお墨付きをもらってカウントダウンを始める。

 

「1、2、…8、9」

 

しかし9カウント目にして急にピッコロが起き上がり悟空めがけて魔口砲を放った。その一撃は完璧な不意打ちとなり悟空の肩口に直撃する。その攻撃に悟空は吐血する。

 

「うあああああああ」

 

この試合で受けていなかった致命的な一撃により悟空は苦しみに叫ぶ。

 

「「「「悟空ーー!!!」」」」

 

クリリン達が叫ぶがそんなものとばかりにピッコロが悟空によっていき、容赦ない蹴りを加える。

 

「「「ちくしょう!」」」

 

悟空が負けてしまうと見たクリリンとヤムチャに天津飯がピッコロに向かって行くがピッコロは大技を放ち悟空からの攻撃も受けているにも関わらず気による衝撃波でクリリン達を制する。

 

「先に死にたいのならいつでもころしてやるぞ!」

 

ピッコロは満身創痍であるが先の爆発を防いだ三人も少なくないダメージが蓄積しており三人がかりでもうかつには攻められないでいる。そして先の爆発を前面で防いだ4人は攻撃するだけの余力がなかった。しかし、その三人が飛び出したかいはあったのか悟空が立ち上がる。

 

「よかった、急所は外した見てえだな。」

 

「な、貴様!」

 

急所を外した程度はただの気休めにならないほどに消耗している悟空であるが何とか立ち上がり再びピッコロと対面し打ち合う。その動きは最初の打ち合いに比べると見劣りするものではあるが迫力は前半の打ち合いにも引けを全くとらない。しかし血を流しすぎた悟空は目がかすんできたのだろう、打ち合いはピッコロ有利で展開し、強烈な肘うちで悟空が倒れてしまう。

 

「はあああ!」ゴキッ!

 

「ぐあああああ!」

 

その隙を逃さず悟空に向かって膝をいれ、両足を折った。

 

「父は左腕を残して敗れたが、俺は…父のように甘くはない!」

 

そう言って左腕も使えなくして最後の一撃を放とうとゆっくり上昇していった。

 

「殺される、悟空が殺されてしまうぞ!」

 

クリリンが悲痛に満ちた声音でそう叫ぶ。それを見て神様が天津飯に自分を殺せというが悟空が口を挟む。

 

「大丈夫、おらが勝ってみせるから…」

 

口々に周りの仲間が無理だと叫ぶ中、ライだけは無言で悟空を見つめる。そんな中ピッコロの最後の一撃が悟空に襲い掛かった。

 

ズドーーン!

 

気功波が当たったところには大きなクレータができてその場に悟空の姿は跡形もなかった。

 

「お、終わった。ついに俺は孫悟空に勝ったのだ。孫悟空は死んだーーーー!恐怖に満ちた魔の世界の再来だ!」

 

今までにないほどの喜びを全身で表現するピッコロとは裏腹にクリリン達の顔は絶望に染まる。しかしその雰囲気を割く一声がライから放たれる。

 

「大丈夫ですよ。悟空にはまだ切り札が残ってますから。」

 

ライは爆裂魔波のダメージが大きくチャパやスウと一緒に穴の中にいたがそこから顔を出してクリリン達に行った。

 

「何だと…?」

 

そう言うとすぐに悟空の声が空から響く。

 

「お前の負けだあ!」

 

舞空術を使った全力の頭突きでピッコロを場外に放り投げ世界分け目の決戦に決着がついた。

 

 

「いやっほぅぅ!天下一武道会で優勝したぞー!」

 

ピッコロとの戦いで傷ついた悟空をいつの間に地中に隠れていたのかヤジロベーが現れて仙豆を渡す。復活した悟空は体いっぱいに優勝の喜びを表現した。

 

「悟空は前回も前々回も準優勝でしたからね。喜びもひとしおでしょうね。」

 

「地球を二度も救ってしまうのだからでっかくなったもんだよなあ。出会った頃はであった頃はほとんど互角だったのにさ。」

 

「全くですよ。武天老師様の元で一緒に修業した時が懐かしい。」

 

三人で和やかに談笑している隙に悟空がピッコロを殺そうとする神様を引き留めあろうことか仙豆を与えていた。

 

「ほれ、仙豆だ、怪我が治るぞ食え。」

 

「うぅぅ…」

 

「「「いぃっ!」」」

 

「おみゃあ何してるだ!」

 

ヤジロベーが叫ぶがピッコロは全快してしまいすぐに悟空達から距離を取る。

 

「おめえがこのまま死んじゃったら神様も死んじまうもんな。それにおらにとっては宿敵がいなくなっちゃうってのも寂しいしな。」

 

怪訝な表情で悟空をにらみつけるピッコロに不敵に言い放つ。

 

「へっへっへっへ。忠告したはずだぜ。その甘さが命取りとなるとな。今日のところは引き下がるがいつか必ず貴様を倒す。そして必ずこの世界をいただくぞ。」

 

そう言うと舞空術を使って去っていく。

 

「ほら見ろ!封じ込めてしまえばよかったんだよ!」

 

「まあ悟空ですし。」

 

「ライ…そこは諦めていいところではないと思うぞ。」

 

ライは今までの悟空と過ごした時間の中で既に諦念の境地に達していた。

 

 

「悟空さー!」

 

ピッコロが去った後にチチが悟空に向かって抱き着いていく。

 

「なにすんだ、チチ、やめろって。」

 

こういうことに慣れていないのであろう、顔を赤くしながら答える。

 

「そういえば悟空は新婚でしたね。婚約初日に未亡人にならなくてよかったです。」

 

困ったように頭をかく悟空に神様が声をかけるが悟空は即答する。

 

「孫よ、お主私に代わって神になってくれんか。」

 

「えぇっやだよー!あんな退屈なところにいたらそれこそ死んじまうよ。」

 

少しずつ後ずさっていく悟空とチチに神様が迫っていく。

 

「いいか、孫、神だ。神になれるのだぞ。私の後を継げるのはお前しかいない。」

 

「べぇ~」

 

神様に向かって舌を出すとそのまま筋斗雲に乗っていってしまった。

 

「はっはっはっ、悟空らしいな。」

 

「彼はまあ自由に修業していった方が良いタイプではあるだろう。」

 

チャパとスウがそう言うとライもスウ達に合流して頷いた。

 

「そうそう。悟空を神様にするのはそれこそ才能の無駄遣いですよ。」

 

去っていく悟空を眺めて天下一武道会は終結した。

 

 

「そう言えばチャパさんはこれからどうするんですか?」

 

天下一武道会が終わり帰路に着くなかライがチャパに聞く。齢300歳にしてばりばり現役である武天老師がいるため見落としがちであるが、チャパはもう武闘家を引退するにふさわしい年齢となっている。

 

「後進の育成だよ。ずいぶんと道場を留守にしていたが、それでもまだ私を師と仰いでくれる者を無下にし続けるのも悪いのでな。おっと、その前に君との再戦かな?」

 

「道場に行くなら私も一緒に行っていいですか。そこでもう一度勝負しましょう。」

 

「じゃあ俺は一足先に占い婆のところ行こうかな。」

 

人狼は12歳頃にして狼としての姿が成熟しその後人の姿が普通の人族のように成長・衰え、死んでいくまで狼の姿の成長は止まる。スウも人の年齢では武道家を引退してもおかしくないが狼化の力もあって未だに現役を続けられている。

 

「スウは私達の戦いを見ないのか?」

 

「お前たちの戦いはこの半年間で見てきたよ。それに結果はなんとなく想像がつく。」

 

「そうですか?ではここでお別れですね。次会うのは…武道会はしばらくないでしょうし、修業の合間に会いに行きます。半年に一回は占い婆の館に行きます。」

 

そう言うライにスウはキョトンとした顔で問う。

 

「あれ、お前は占い婆のところで修業しないのか?」

 

「ええ、チャパさんとの再戦が終わったらピッコロを追います。何かやらかそうとしたとき悟空がくるまでの時間稼ぎをしなければなりませんからね。…最も、ピッコロが悟空より先に誰かを殺すようなことはしないような気がしますけど。」

 

「…分かった。無茶はするなよ。」

 

親にしては淡白すぎる反応であろうがこれが二人の親子の形。信頼があればこそ成り立つ関係、そこに他人が入り込む余地はない。

 

 

こうして五年間の穏やかな時が流れた。




無印編終わりー!イェーイ!次回はサイヤ人編です。ここまで応援ありがとうございました。サイヤ人編も応援お願いします。もちろんいずれ来るフリーザ編もその次もずっとよろしくお願いします。と、強欲に応援を求める作者はこちらです。


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サイヤ人編
(幕間)サイヤ人編から見始める方へ


今回はメタ回です。いつも読んでいる人はこの話は読まなくても構いませんし、最初数行読んでみてこのノリが受け付けない人は即座にブラウザバックして本編を読んでみてください。…読んでくださいお願いします。ではいつもと違う私の小説の世界へいってらっしゃい。


ライ「無印編終わりましたね」

 

チャパ「え?無印編って何のことだい?」

 

ライ「あーえっと、まあ、一段落着きましたねって話です。」

 

チャパ「そうか、まあ、悟空も結婚したしな。」

 

ライ「うぐ…」

 

スウ「でも、一体どうしたんだよライ、いつもはこんな形式じゃないだろ。」

 

チャパ「形式?普通に会話してるだけじゃないか。二人とも何か変だぞ。」

 

ライ「…チャパさん、あなたもこのノリについてこれないんですね。」

 

スウ「原作キャラたちはこのノリについてこれないからな。でもチャパならあるいはと思ったんだが。」

 

チャパ「おいおい、どうしたんだ、二人とも。」

 

スウ「じゃあな。」パチン!

 

チャパ「は?」シュン!

 

ライ「原作キャラいなくなっちゃいましたね。」

 

スウ「仕方ないだろ。チャパは原作よりだいぶ改変されたが、やっぱり原作キャラだしな。」

 

ライ「では、始めますかね。」

 

ライ・スウ「「これまでのあらすじ!」」

 

スウ「俺達がこの世界に入り込んだのは悟空達の最初の天下一武道会前だったな。」

 

ライ「ええ、なかなか才能がある設定で送り込まれたので天下一武道会でもそれなりの成績を残せましたね。」

 

スウ「特にお前はな。」

 

ライ「残念ながらそれは二十一回だけでしたけどね。」

 

スウ「まあ結果だけ見れは俺は三回中二回本選に出れたけど、お前は二十一回以外予選敗退だからな。でも実力で言えばお前の方が上だろ。」

 

ライ「そうでしょうか。私より父さんの方が強いと思ってますけどね。特に夜。」

 

スウ「ま、俺は月が出てればいつでも変身して狼化できるからな。それでも通常時のお前と互角くらいだけどな。」

 

ライ「私も満月以外で変身できたらいいんですけどね。」

 

スウ「それができたら俺がいらなくなるだろ。」

 

ライ「それができないばっかりに、私一回死んじゃったんですよ。」

 

スウ「それを出されると辛いなあ。でもまあ、それができた俺も一回死んでるからお前ができていても死ぬように調整されたんじゃないか?」

 

ライ「そんなことはないです!きっと!多分!ストーリも他の原作キャラが微強化された程度でなく、もっと爪痕残せたはずなんです。」

 

スウ「微強化っていうわりにはヤムチャ結構活躍したよな。」

 

ライ「活躍してるのに戦績上がらないのはヤムチャさんらしいですけどね。」

 

ライ・スウ「「わっはっは!」」

 

ライ「…これでサイヤ人編から読もうって人もいるでしょうか。」

 

スウ「俺たちが好き勝手に話してただけだから微妙な気もする。」

 

ライ「まあ私は楽しかったのでそれでよしです。」

 

スウ「それじゃあ今後ともこの作品をよろしく!」




後書きでは二人のキャラ紹介と、主要キャラの無印編終了時の戦闘力を乗せときます。左数値が通常時、右数値が戦闘時の最大値
ライ250~500
スウ90~180
チャパ225~450
ヤムチャ200~400
ここに乗ってない奴は某非公式を参照してください。

ライ
今作の主人公。人狼族であり満月を見ると狼になる。スピードも戦闘力も三倍になる武術においてヤジロベーに次ぐ素養を持っている天才児。口調は丁寧だが敵には口調が荒くなることがある。

スウ
ライの父親。新月以外の夜は変身できる。変身すれば通常のスウと並ぶ実力を持つ。頻繁に変身できる都合上狼状態での身のこなしは完璧。


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(第二十二話)ある戦士の独白

はい、今回からサイヤ人編です。実はサイヤ人編は六話くらいで終わってしまいます。無印で二十話以上もやっておいてどうしてこうなったんでしょう。フリーザ編はもっと短いかも?


エイジ???年

 

俺が修業をする理由は自分と、そして大切な人を守るためだった。でも今、俺は自分さえ守れればいいと思って修業していたのではないかと考えてしまう。俺は大切な仲間たちを守れず、しかもまた大切な人を失いそうになっている。俺の手の届く範囲はあまりにも狭く、そのくせ自分だけはその範囲に入ってしまっていた。でも今、俺は自分の修業する理由を大切な人を守るためでもあったと証明できるかもしれない。

 

 

ピッコロを悟空が天下一武道会で倒した後、その後五年間平和な時間が流れた。

 

「ピッコロのやつこの数年ひたすら修業を積むだけで何も悪さしなかったな。」

 

「意外でしたか?」

 

「いや、まあ確かに意外だったけど平和で何よりだよ。この数年でのライとの修業で俺も相当強くなれたしな。」

 

ピッコロを監視していたライには天下一武道会が終わってしばらくたった後、ヤムチャが加わり二人で修業しながらの監視となった。ライはヤムチャから気の開放をマスターし、ヤムチャもライとの修業で数年前より相当強くなっていた。

 

「今の俺達なら、ピッコロにも勝てるんじゃないか?」

 

「多分無理でしょう。あいつも修業してますし、縮まっているとは思いますけど。というか、気を読めば分かるでしょうに。」

 

「期待したくなるもんなんだよ。悟空ばっかりに世界の命運を託すのは悪いからな。」

 

「悟空はそんなに気に病んでないと思いま、す、け…」

 

言葉尻がしぼんでいく。彼らの平穏の日々は今日をもって崩れ去り、波乱の日々が幕を開ける。 

 

 

「やっほー。久しぶりに遊びに来てやったわよ。」

 

「お主らも冷たいのう。呼ばなきゃ遊びに来んのだから。」

 

ところ変わって亀ハウスでは亀仙人が久しぶりに悟空達一行を呼び旧交を温めようとしていた。亀仙人たちはおよそ三年振りに会うことになる。

 

「なかなか遠いのよここ。そんなことより、はい、お土産。」

 

「ありがとうございます。ブルマさん。ところでヤムチャさんは?」

 

クリリンがお土産を受け取りながらその名前を出すとブルマの顔が見る間に不機嫌になっていった。

 

「知らないわよあんな奴!もう半月は会ってないし!」

 

「あれっ?一緒に住んでるんじゃないんですか?」

 

「二年前まではね。ちょうど最後にあなたたちと会った後、ヤムチャはライとピッコロの奴を追ってるわよ。全くこんなに可愛い恋人をほっといてさ!」

 

「で、でも、半月前ってことは一ヶ月前くらいには会ってたんでしょ?」

 

その怒りに圧倒されながらクリリンが問う。

 

「一ヶ月に一回くらいは帰ってくるのよ。まあでもそんなわけだからヤムチャは来ないわ。私達だけで楽しみましょ。」

 

そうこうしていると悟空も筋斗雲に乗ってやってくる。 

 

 

「無事か、悟空!」

 

亀ハウスに悟空が訪れた後、悟空の兄を名乗るラディッツというサイヤ人が悟空のルーツをひとしきり語り、悟空を仲間に引き入れようとご飯を人質にして去っていったあと、ピッコロからラディッツへと監視対象を変えたライとヤムチャが合流した。

 

「ヤムチャ!ライ!」

 

「すみません、加勢できなくて。でも話は私達も亀ハウスの陰に隠れて聞きました。あいつから悟飯君を取り戻しに行きましょう。作戦があります。」

 

「作戦?」

 

クリリンがそう口にするとヤムチャが思い至ったような顔をする。

 

「尻尾か。」

 

「ええ。尻尾を握れば力が抜けてしまうんですよね。それを利用しましょう。悟空に私が協力すれば可能性はあります。」

 

「ならば俺も行く。人数が多いほうが可能性は上がるし、そもそもお前たちだけではうまくいく可能性は低い。大丈夫、もし死んじまっても神龍に頼めば生き返れるさ。」

 

その話を聞いてヤムチャがそう言う。

 

「いや待ってくれ、ヤムチャはまだ一回も死んでねえから大丈夫だけど、ライとクリリン、それに亀仙人のじっちゃんは無理なんだ。神龍は同じ願いは叶えられないんだ。天界で修業したとき神様がそういってた。」

 

「「「なっ…」」」

 

その言葉に一度死んでしまった三人が言葉を失う。

 

「…でも行きますよ。少なくとも誰かしら一人は一度死んだ人が行かないとほぼ無理ですから。」

 

「俺もいくぜ。悟空に救われた命だからな。ここで借りを返すさ。」

 

「…わしも行こう。」

 

三人とも声音は震えている。死ぬことに対する恐怖は亀仙人ほど達観しても恐ろしい。クリリンやライなら尚のこと。それでもみんなついて行くのは悟空の不思議な人徳のなせる業だろう。

 

「さあ、行きましょう。」

 

ライがそう言って武闘家全員で行こうとしたとき声が響く。

 

「お前たちでは無理だ。」

 

声の主は舞空術を解き降り立つと、悟空に向けて思いもよらないことを言った。

 

「やつが桁外れな実力なことは分かっただろう。そこの四人を引き連れたってやつは倒せん。前衛を張れるやつがお前だけではな。」

 

「「「え?」」」

 

キョトンとした悟空達を無視してピッコロは言う。

 

「この俺が一緒に行ってやる。」

 

と。

 

「どういう風の吹き回しだ。」

 

「フン、世界征服の野望にあいつが邪魔なだけだ。あいつとその仲間二人とやらを倒したら、次は貴様の番だ。」

 

「世界征服はさせねえがおら達が組むっていうとこまではいい考えだ。」

 

「そう言うことだ我慢するんだな。俺も貴様と組むのは反吐が出そうだ。」

 

背中越しに語る二人の交渉がまとまり、悟空とピッコロの地球最強コンビが爆誕した。

 

「私、置いてかれそうなんで言っときますけど、私も行きますからね。というか、遠くの気を感じ取れる人が必要でしょう。」

 

「俺も行くぜ。前衛が二人なら後衛も二人いた方がバランスがいい。」

 

「おめえたち…ありがとう。」

 

そう悟空が言うと悟空は筋斗雲に乗り、ピッコロとライは舞空術を使って浮き始め、ヤムチャも同じように行こうとした。

 

「待って!!」

 

そこでブルマからヤムチャに向かって静止の声がかかる。それを聞いてヤムチャは悟空達に先に行ってくれとしぐさで応じ、ブルマに向き直った。

 

 

「ねえ、危険なことはやめてよ。孫君とピッコロ、そしてライが行くのよ。三人に任せれば大丈夫に決まってるわ。」

 

引き留めるブルマの瞳は少しばかり濡れている。普段喧嘩もしていても、修業に行ってほとんどヤムチャと会えなくてもブルマにとってヤムチャは大切な恋人なのだ。

 

「ブルマ、分かってくれ。今ここで行けば救える命があるかもしれないんだ。」

 

死ぬ()()()()()()。助けられる()()()()()()。たらればの話で、ブルマが引き留めるのも決して間違っていないしヤムチャが行こうとするのも間違っていない。ブルマもヤムチャもお互いを大切に思っていて、でもお互いに譲れないものが違うだけ。

 

「…どうしても行くの?」

 

数秒の沈黙の後絞り出した声にヤムチャは答える。

 

「ごめんな。」

 

「そう、わがまま言ってごめんね。行ってらっしゃい。」

 

ごめんと聞いたブルマは少し表情を陰らせたが最後には笑顔で見送った。

 

 

「残らなくてよかったんですか。」

 

おおよその位置と方向を悟空とピッコロに指示し上空で様子を見ていたライがそう問う。

 

「聞こえてたのか?」

 

「人狼族は耳もいいんですよ。鼻ほどじゃないですけど。」

 

「全く、あんまり聞かせたい話じゃなかったんだけどな。」

 

「すいません。でも…」

 

「いいんだ。みんなを守れるように修業してきた。だからその矜持に殉じたい。ライも悟空も、死なせない。」

 

言葉を続けようとするライを遮ってヤムチャは言った。

 

「では行きましょう、あまり二人を待たせても悪いですしね。」

 

観念したのかそれ以上いうことはなく、ラディッツに向かって行った。

 

 

ラディッツにからかなり離れたところ、悟空もピッコロもラディッツの気を感じ取れる距離まで来て待っていた。

 

「お待たせしました。結構離れたところで待っていたんですね。」

 

「いや、大丈夫だ。それよりあのサイヤ人はどうやら妙な機械でおら達の位置を探れるらしいぞ。だからここで待っていたんだ。」

 

「そうだな。その間に作戦を考えよう。どうやって奇襲を仕掛けしっぽを掴むかの作戦を。」

 

 

作戦を立てた四人はラディッツの元に向かった。

 

「貴様等何しにここへ来た。」

 

「決まっているだろう、おらの息子を取り返しに来たんだ。」

 

「貴様もう少し頭が切れると思っていたんだがな。まさか三人がかりで行けば勝てるなどというバカバカしい計算をしたんじゃないだろうな。」

 

二人の会話に業を煮やしてピッコロはターバンとマントを脱ぎ捨てる。それをみて悟空も重りを外した。

 

「我が一族の恥だ!仲間と一緒に死んでしまえ!」

 

三人が臨戦態勢になったのを見てラディッツが接近し、悟空とピッコロの背中に肘を撃ち込み、後衛に控えていたヤムチャに蹴りを入れた。

 

「「「ぐっ」」」

 

悟空とピッコロへの攻撃でワンテンポ遅れた攻撃をヤムチャは何とか防ぎ切り急いで距離をとり、ヤムチャへの攻撃の隙をついて三人で三角形を作るようにしてラディッツを囲む。

 

「波あああ!」

 

ヤムチャが気弾を数発放つとそれを合図にピッコロと悟空が突っ込んでいく。目にもとまらぬ連撃を二人がかりで浴びせ、ヤムチャの気弾も襲い掛かっているというのにそれらすべてを捌ききって見せた。

 

「「フッ」」ピシュン!

 

二人で同時に後ろに回るも舞空術を使って両足蹴りを食らわせその後飛び上がる。

 

「かめはめ波!」

 

飛び上がったラディッツにかめはめ波を撃ち込むが空中に飛び上がって接近してきた悟空とピッコロごと気功波を放って返り討ちにした。

 

「くっ!」

 

何とかかめはめ波で片方の気功波を相殺し悟空を庇ったがピッコロは攻撃を食らい片腕を失くしてしまう。

 

「後ろかっ!」

 

「遅い!」

 

地上に戻った悟空はすぐさま背後に回ったラディッツに反撃しようとするが凄まじい速度の肘を入れられ吹っ飛ばされる。

 

「三人がかりでこれでは、まるで話にならんな。」

 

「「ピッコロ!」」

 

「安心しろ片腕くらいなくても何とか戦えるぜ。」

 

「いよいよ貴様らの死が近づいてきたようだな。」

 

 

ピッコロが片腕を失くし、形勢が大きくラディッツに傾き、いよいよピッコロが新開発した技を使う。

 

「おい、孫悟空貴様新しいとっておきの技はないのか。」

 

「はっきり言ってねえよ。」

 

「手を抜きやがって。結局この新しく開発した技を使うことになるとはな。だがこの技はためるのに時間がかかる。その間お前とヤムチャで時間を稼いでくれ。」

 

「頼むぜ、ピッコロ、お前の技にかかってるんだからな。…行くぞ悟空。」

 

「二人でくいとめっぞ!」

 

ピッコロが技を溜める間に悟空とヤムチャが突っ込んでいく。しかし悟空とピッコロの連撃をも躱して見せたラディッツに対して悟空とヤムチャの連撃では当たる道理もなく、一方的に攻撃を食らう展開が続いた。

 

「ふん、そこの奴と組んでもダメだったのにそいつより弱いやつの前衛を組んだところでどうしようもないだろう。」

 

余裕を示すかのように話しながら攻撃を加え、悟空とヤムチャを吹っ飛ばした。

 

「か…め…は…め…波ああああ!」

 

すぐに態勢を立て直し、悟空はかめはめ波を放つ。それに合わせてヤムチャも即興でかめはめ波をはなった。

 

「波ああ!」

 

「戦闘力を一点に集中させてあげることができるのか。チッ、小賢しい真似を!」

 

両サイドからくるかめはめ波を両腕で受け止め切った。

 

「今度は俺がプレゼントしてやる!」

 

そう言って気功波をヤムチャと悟空にあて、落ちてきた悟空に止めを刺そうと胸倉をつかんで手を振り上げた、その時…

 

「やあああ!」ボコッ

 

ライが地中から出てきてラディッツのしっぽを掴んだ。

 

「「よぉし!」」

 

ピッコロとヤムチャが喜びの声をあげる。

 

「四人いるとは思わなかったでしょう?これで終わりです。」

 

地中をスカウターで計測されないレベルに気を抑えて掘り進み、魔貫光殺砲を打つことを感じ取り作戦を実行に移した。

 

「死ぬのは貴様の方だったな。これで終わりだ。魔貫光殺砲!」

 

凄まじい貫通力を持った必殺の一撃が放たれる。

 

「ちきしょう!このまま死んでたまるかあ!!」

 

ラディッツは覚悟を決める。いや諦めとも言えるかもしれない。その思いは事態を最悪の方向へと導く。




ライ700
ヤムチャ686
二人とも気の開放を習得しているのでこんな感じです。無茶するヤムチャで686にしました。偶然語呂合わせできそうやんってなったんでいじりました。ヤムチャびいきはしばらく続きます。私好きなんです。ヤムチャ。


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(第二十三話)犠牲の上に

「ゴフッ…」

 

力が抜けた状態で避けられず確殺の一撃になるはずだった攻撃はライを貫いていた。

 

「ど、どして…」

 

ライの手にはしっぽが握られていて、その先はラディッツには続いていなかった。

 

「その気になればしっぽを自分で切ることができる。もちろん真の力を出せなくなるが、まあそのうち生えてくるだろう。」

 

ラディッツはライを盾にしてできた数瞬の隙に避けることに成功していた。

 

「ライっ!!!!」

 

「ちくしょおおおお!!」

 

ライがやられたのを見てヤムチャが突っ込んでいく。狼牙風風拳を使い全力で攻撃していくがこれをすべて躱される。

 

「はいはいはいはいはい!」

 

「雑魚が、圧倒的強さの前に怒りなど無意味だ!」ゴン!

 

そう言って首筋に強烈な一撃を撃ち込みヤムチャは吹っ飛ばされた。

 

「う、うう。」

 

「ヤムチャ!」

 

「チッ」

 

悟空が叫び、ピッコロは舌打ちを打つ。

 

「さあ次はお前だ!カカロット!」

 

ラディッツが悟空に攻撃を打ち込む。倒れこんだ悟空が立ち上がろうとする。

 

「フン!」

 

それを足で踏みつけにした。

 

「今度こそ殺してやるぞ。それ!」

 

「ぎゃああああああ!がああああ!」

 

ラディッツが悟空を痛めつけ苦しむ声があたりに響く。

 

「ご、悟空…」

 

「これではまたよけられてしまう…」

 

二人が言葉をこぼしたその時、破壊音が響く。孫悟飯が父のピンチに現れたのだ。瞳に涙をため、父親を痛めつける相手に際限のない怒りをぶつける。

 

「お父さんを、いぢめるなあああああ!」

 

凄まじい速度で放たれる頭突きは完全な不意打ちとなりラディッツの戦闘服にもひびを入れた。あまりのことにさっきまで苦しんでいた悟空の顔は驚愕に変わり、絶望に染まっていたピッコロ、ヤムチャまでもがぽかんとした顔をさらす。

 

「このガキ!感情と共に戦闘力が変化しやがるのか。」

 

「やめろ、悟飯に手をだすな!」

 

「冗談じゃない。あのガキはお前たちよりも戦闘力ははるかに上だ。今のうちに始末する。」

 

吹っ飛ばした悟飯に止めを刺そうと手を振り上げた時、悟空がラディッツを羽交い締めにする。

 

「ふ、ふっふっふっ、そう来るだろうと準備していたぞ。だがもう少し時間がかかる。あと少し、あと少しだ!」

 

「は、早く…」

 

「放せ!もう心を入れ替える。もう地球には来ない!」

 

ラディッツが命乞いを始める。

 

「ふん!」ゴン!

 

満身創痍のヤムチャがラディッツの鳩尾に一撃を加えた。

 

「ぐふッ」

 

「きさまを許すと思うか!俺は、俺達はお前を、許さない!」

 

そのダメージと悟飯の一撃でパワーが落ちたラディッツにピッコロは今度こそ必殺の一撃を浴びせた。悟空もろともに。

 

 

この世を去ったラディッツは不吉な予言を残した。そうした後に亀仙人たちがやってくる。

 

「悟空!悟空ってば。しっかりしろ。」

 

ピッコロから事情を聴いた亀仙人たちが悟空とライの周りに集まる。

 

「悟飯君は無事よ。気絶してるだけだわ。でも、ライはもう…」

 

「そっか、おらだけ生き返れちゃうのはずりいよな。ははは。」

 

「なに、いって…ですか。そ…なの、許さ…いです。クリりン…ちゃんと、ごく…を生き返…」

 

一発目の魔貫光殺砲を食らっていたライは悟空より先にこと切れた。

 

「死人に、気を、使われちまった。もう、あいつ、に、顔あがんねえや。」

 

「安心しろ悟空、すぐに生き返らせてやるから。それがライの望みでもあるんだから…さ。」

 

「ああ、ありが…と…。」

 

悟空もついに死に、すると急に悟空とライの死体が消え去った。

 

「神の仕業か。何を企んでいるんだか。」

 

ピッコロが忌々しそうにそう言って、再びターバンとマントを身に着けた。

 

「そう言えばこいつ、なんで孫君の位置が分かったのかしら。」

 

「そいつが身に着けている機械の力だ。どこにいるのか、どの程度の強さなのか、分かるらしい。」

 

ブルマがスカウターについてみてみるとピッコロは腕を生やし、そして悟飯を連れて行こうとした。

 

「待て!お前に任せて置けるか。お前に任せるくらいならば俺が鍛える。」

 

「貴様等孫悟空の仲間にガキを鍛え上げるなんてできるわけが無かろう。止めるなら貴様らを殺してでも連れて行く。」

 

そう言うと超能力なのか触らずして悟飯を浮かせて、自分の腕に抱えた。

 

「では一年後貴様等の家に行く。孫悟空には楽しみにしておけと伝えておくんだな。」

 

そう言って飛び立っていった。

 

「…俺はピッコロを追いかける。悟飯を殺させやしない。」

 

ヤムチャもそう言って飛び立った。

 

「ヤムチャ…」

 

ブルマの寂しそうな声だけが場に残った。

 

 

「「舞空術!」」

 

閻魔大王様のところで界王様のところまで行ってもよいと許可をもらったライと悟空は界王様のところへ向けて蛇の道を進みだした。

 

「悟空、先に行けるなら先に行ってくださいね。少しでも早く修業つけてもらえた方が良いですから。」

 

「そうか?じゃあ先に行くぜ。もう誰も死なせないためにな。」

 

そう言うと凄い速度で空を飛んでいった。

 

「もっとも意外と私の方が早いかもしれないですよ?」

 

取り残されたライがそう言葉を放つ。

 

 

「お父さんが生き返るならぼく、お父さんに修業をつけてもらいたいよぉ。」

 

「あいつは強いが師匠としてはてんでだめだ。甘すぎるからな。」

 

上着を脱いだ悟飯はピッコロに何をすべきか問う。

 

「修業って何すればいいの?」

 

「何もしないでおのれの力だけで生きろ。六ヶ月後に迎えに来る。そしたら修業をつけてやる。」

 

ご飯は、お風呂はベットは本やノートや鉛筆は…と聞いていく悟飯を尻目にピッコロは飛び立っていった。ピッコロが飛び立った後、ヤムチャがピッコロに追いつく。

 

「おい、ピッコロ!悟飯をどこにやった。」

 

「フン!ちょっと荒野に置いてきただけだ。あいつには精神的強くなってもらわなきゃならないのでな。何、心配するな。半年後生きていたら修業をつけてやるさ。」

 

「貴様!!」

 

「フン。そんなことより修業をつけるのはあのガキだけじゃないぞ。何のために半年空けたと思ってるんだ。」

 

「なに!?」

 

「貴様もこれから鍛えればそれなりの力になる。気の扱いは俺よりも優れているかもしれないが、絶対的な力が足りてない。それを鍛えてやる。半年も鍛えればそれなりになる。」

 

「そんなことより悟飯だ。あいつは無事なのか。」

 

「勝手に感じ取れ。気の扱いは俺よりも優れているんだろう?だが、あいつを助けに行くのは許さん。そんな余裕はないからな。俺を倒せたらその限りではないが。」

 

ヤムチャとピッコロの修業が始まる。

 

 

悟空とライが死んでから三ヶ月後

 

「100万キロって嘘だったんだろうなあ。」

 

ライは独り言ちながら飛んでいた。孫悟空は第二十二回天下一武道会の際わずか二日で地球を半周、つまり2万キロを走っている。理論上はその頃の悟空でも二ヶ月かからずつけるはずなのだ。その頃の悟空よりもずっと強いライはもっとはやくつけるはずであるのに既に三か月が過ぎていた。

 

「悟空よりも気の扱いを上手くできるはずだから舞空術を使い続けて悟空よりも短い距離でいけるはずなんだけれどなあ。」

 

ライの気を感じ取れる範囲は流石に数万キロも離れると感知することはできなくなる。悟空の気を感じ取れないほどの距離が悟空とライにはあった。

 

 

ところ戻って再び悟空とライが死んだ日の夜。崖の上に潜在パワーを使って登ってしまった悟飯にピッコロがこっそりとリンゴを二つ届けていた。

 

(あいついいとこあるじゃないか。)

 

ヤムチャとピッコロは二人で修業をし、ヤムチャはピッコロに修業の中で気の扱い方を教え、逆にピッコロはヤムチャに肉体の強化、素早さの上げ方を教えていた。しかしずっと修業をしているわけではなく、睡眠や休憩は挟んでいる。その合間を見て悟飯の様子をピッコロが見に来たのだ。

 

(これでだめならお前はそこまでだ。)

 

そして悟飯の元を離れようとしたその時、ちょうどトイレに起きた悟飯の目に満月が写る。

 

「ぐ、ぐぐぐぐ」

 

満月を見た彼はどんどんと大猿になっていった。その破壊力は凄まじく、サイヤ人の本来の性格が表出されたようにひたすらに暴れていく。

 

「おい!ピッコロ!あいつ大猿になっちまいやがった。月を壊せば元に戻る。さっさと破壊するぞ!」

 

「月!?」

 

「尻尾切ってもいいが、今のあいつに近づいて攻撃を食らったらただでは済まない。そっちが安全だ。」

 

そうヤムチャが言い終わるが早いか、ピッコロは気功波で月を破壊した。変身が解けた悟飯はそのまま気絶する。

 

「サイヤ人が来るならどっちにしろ壊しておいて損はないな。ついでに尻尾もとっておくか。」

 

「いや、月が壊れれば別にもう問題ないだろ。」

 

「何を言っている。サイヤ人は尻尾が弱点なんだぞ。弱点を克服する修業に費やす時間もない。そもそもあのサイヤ人が克服できてない時点で治せないもんなんだろ。」

 

「それも、そうか。仕方ない。」

 

そう言って悟飯から尻尾をとる。この時のヤムチャに八年前の記憶が呼び起されていればサイヤ人たちの戦いは少し違ったものになったかもしれない。

 

「ついでに服と刀くらいは用意してやるか。」

 

そして悟飯に指をかざすと服と刀が出てくる。

 

「げぇっ!魔の文字なんて入れるなよ。」

 

「フン。文句があるなら全裸で過ごさすぞ。」

 

「…ごめんなさい。」

 

半年間はそうやって過ぎて行った。

 

 

「そろそろ四ヶ月か。あとひと月くらいの内にはつかないと修業どころじゃなさそうだけど…ん?この気は!」

 

蛇の道を進み始めて早四ヶ月。ついにライは悟空に追いつくことに成功する。悟空はというとかなり疲れたのか、蛇の道を歩いて進んでいた。

 

「悟空!」

 

「ん?ライか。まさか追い付かれちまうとはなあ。」

 

「気の扱いがうまいと舞空術をまるで地面を歩くかの如く使うことができるのです。」

 

もちろん速度によって使う体力は変わるが、たとえ歩くような速度であってもまっすぐ進めれば相当時間の短縮になる。

 

「げえっ。ずるいぞライ。じゃあおめえまっすぐ進んできたのか。」

 

「ええ。ヤムチャさんとの修業の賜物です。それじゃあお先に失礼!」

 

ずっと悟空が蛇の道を道なりに歩いていくのに対してライはまっすぐに距離を飛んでいく。悟空より短い距離を進みライは悟空を追い越して行った。そしてついにライは蛇の道を踏破する。踏破にかかった期間は五ヶ月と一週間!

 

 

「やっと着いた。界王様は…上か」

 

何とか蛇の道を完走したライは気を三つほど頭上に感じ取り界王星に行った。

 

「ふぐっ」ドン!

 

(は?重っ!)

 

界王星に着くもあまりの重力に地面にたたきつけられる。あまりのことに呆然としていると声がかかる。

 

「お前何しに来たんだ?大丈夫か?」

 

「え、ああ、すいません。」

 

何とか起き上がり挨拶を済ませる。

 

「私は地球という星からやってきました、ライという者です。地球に降り注ぐサイヤ人の脅威を払うためこれから界王様に修業をつけていただきたく参りました。」

 

「なるほどのう。わしに修業をつけてほしいわけじゃな。」

 

「ええ、是非お願いします。」

 

「まあええじゃろう。サイヤ人から母星を守るために戦うなら悪いやつではないだろう。ではまず…そこのバブルス君を捕まえるのじゃ。この星の重力に慣れろ。地球の十倍じゃ。」

 

こうして界王様とライの修業が一足早く始まった。




私の思惑ひとつで死んでしまうなんてこの世界の住民の命は軽い。だから展開上ご都合主義的に殺さないように意識していました。ですがサイヤ人でない以上界王拳がないとこの後詰むのです。許してください。


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(第二十四話)遅れる救世主

「そろそろ半年か。」

 

「半年前よりだいぶ強くなったからな。これならサイヤ人相手にも何とかなりそうだ。」

 

「フン。俺はこれから孫悟空の息子を鍛え始めるが、修業を怠るんじゃないぞ。サイヤ人との決着がつくまでは貴様にもせいぜい頑張ってもらわねばならんのでな。」

 

ヤムチャとピッコロは半年間ともに修業した中である種の信頼関係のようなものが生まれていた。

 

「お前がいずれ敵に回ると思うと恐ろしいよ。まあサイヤ人を倒すまでは頼りにしてるぜ。それじゃあ半年後にな。」

 

ヤムチャはこれから我流でわが身を鍛えていく。

 

 

ライが界王星に到達してから一ヶ月の時が流れた。

 

「はああああ!待てぇ!」

 

ライも相当十倍重力に慣れてきて、かなり俊敏に動けるようになった。

 

(界王星小さいから、姿勢を低くして逆方向に走れば…)

 

うごけるようになったことで、バブルスを捕まえる算段を立てられるようになり、ライがバブルスを捕まえられそうな場面も何度もあった。そしてその時はついに訪れる。

 

「そぉれぇ!」バシッ

 

「やった!やったぞ。ついにバブルス君を捕まえたぁ!」

 

相当嬉しかったのだろう。子供のようにはしゃぐライに界王様が話しかける。

 

「なかなかこの重力にも慣れてきたようじゃの。次のステップに進もうと思うのじゃが…そこでつぶれているのはお主の仲間か?」

 

界王様の視線の先には悟空がいた。

 

「悟空!たどり着いたんですね。でも、結構時間かかりましたよね。舞空術って大切でしょう?」

 

悟空をみたライは得意げにそう言う。

 

「いやあ、参った参った。もうちょっと気の修業しとくんだったと後悔したぜ。」

 

「ははは。ああ、界王様、彼は地球出身の孫悟空です。実力は私よりも上ですから是非彼にも修業をつけさせてください。」

 

「よ、よろしくお願い、いた、します。」

 

あまり丁寧な言葉使いに慣れていないのか、若干言いよどみつつもそう言う。

 

「まあ、ええじゃろ。ちょうどライがバブルス君の修業を終わらせたところじゃからな。ではまず…」

 

「そ、その前に飯食わしてくれねえか。腹減っちまってよう。」

 

「お前死人なのに腹が減るのか…?」

 

死人は基本的に食事も睡眠もあの世にいる限りは必要ない。しかし悟空は食事をとるし、睡眠もとる。これは生きていたころの名残でお腹がすいたり疲労したような感覚が襲ってくるためであるが、実際のところ意味のない錯覚だ。食事や睡眠それ自体が嗜好品扱いなのだ。

 

「まあお前はサイヤ人が来たら生き返るのだし、睡眠も食事も習慣づけておいて損はないだろう。」

 

飯を書き込む悟空に圧倒されながらそういった。

 

「いやあ、自分が死人だと実感しますね。悟空を見てると。」

 

ライが寂しそうにそう言った。ライは蛇の道に挑戦する前に鬼から食事が必要ないと聞いた折、睡眠も必要ないと聞き、最初の一ヶ月ほどはそれでも睡眠をとっていたが、だんだんと睡眠をとる頻度が少なくなり、今となっては最後に睡眠をとったのは三ヶ月前である。ライが悟空よりも早く蛇の道を踏破したのにはそういう要素もある。

 

「ライは食わねえんか?」

 

「私はサイヤ人がくる日だけ占い婆に復活させてもらうだけですから、もう死人として過ごしておくのが良いんですよ。もちろん休憩はしてますよ。バブルス君もグレゴリーさんも界王様も生きてるので。」

 

「そっか…」

 

一人でも修業はできる。三人が睡眠をとっている間は肉体的に疲れる(と錯覚する)修業はせずに精神面や気のコントロールの修業をしていた。

 

「こいつストイックだからのう。どこまで強くなるのか楽しみじゃわい。」

 

そうこうしているうちに悟空も食事が終わり、悟空はバブルスをライはグレゴリーを追っかける生活が始まった。

 

 

「お前たちとの修業もとりあえず今日で最後じゃな。まあ大体のことは教えたつもりじゃ。これまでの復習じゃ。やってみろ。」

 

そう言うとライと悟空はバブルス、グレゴリーをそれぞれ驚異的な速さで捕まえ、悟空は元気玉のチェックに入る。

 

「結局最後まで元気玉習得できませんでしたね。」

 

「お主は今日が終わってもまた帰ってくれば修業をつけてやる。だから絶対死ぬんじゃないぞ。まあさっきも言ったが大体のことは教えたがな。元気玉は適正もあるしの。そう気落ちするでない。」

 

「はい、ありがとうございます。必ず戻ってきますよ。」

 

元気玉も完璧にマスターしたことを確認し、今まさに出発といったところで界王様がとんでもないことに気づく。

 

「ああああ!しまった。お主たちが帰る時間を考えてなかったああ!」

 

「「え?」」

 

その発言を聞き、ライと悟空が固まる。

 

「界王様の力ですぐに地球に返してもらえるんじゃないの!?」

 

フリーズから一足早く復活した悟空が界王に詰め寄る。

 

「それはできんのじゃ。」

 

「冗談じゃないよ。おらはここに来るのに半年かかってるんだよ。間に合うわけないじゃねえか!」

 

「心配するな。今のお前なら二日もかければつける。」

 

「それでも一日オーバーしちゃいますよ。しかも悟空で二日かかるなら私はどうなるんですか。界王拳をぶっ続けで使わないととても間に合いませんよ。」

 

界王拳は繊細な気のコントロールを求められる。覚えたばかりの界王拳は長時間連続して使うには向いていない。

 

「界王にだってミスはある。仕方なかろう。ごちゃごちゃ言わずに急ぐのだ。神には連絡を付けといてやる。」

 

そう言う界王様に言われてすぐに悟空とライは旅立った。

 

 

「界王拳!」

 

ライは界王拳を使って悟空と同速ですっ飛ばしていく。

 

「繊細なコントロールは長くはもちません。おいてってください。ペース配分考えて、私より遅れるなんてことないようにしてくださいね。」

 

「もう大丈夫だ。じゃあ先に行く‼」

 

界王拳を一度解除し、素の速度で進み始めた。明らかに悟空のほうが早く着くはずであったが、意外にもライのほうが先に戦場に駆けつけることに成功する。

 

 

「俺が最後…というわけじゃないようだな。肝心の悟空がまだ来てないのか。」

 

「遅かったなヤムチャ。逃げ出したのかと思ったぜ。」

 

「逃げるわけないだろ。何のために修業したと思ってるんだ。」

 

サイヤ人が栽培マンを出したその頃、ヤムチャが合流し、地球人戦士が勢ぞろいする。六人来たのを見てベジータが栽培マンと一対一で戦うゲームを提案した。

 

 

「どうやらその化け物はお前たちが思ってるより強くなかったようだな。」

 

天津飯が栽培マンを倒し、制裁としてベジータが栽培マンを破壊する。戦える味方をも容赦なく殺すベジータに周囲が圧倒される中、次の戦士としてクリリンが立候補する。

 

「よ、よーし。俺が相手だ。」

 

「待てクリリン。俺にやらせてくれ。ここらでお遊びはいい加減にしろってとこを見せてやりたい。それにお前は一度ドラゴンボールで生き返っているからな。」

 

 

栽培マンとヤムチャの戦いが始まった。天津飯との戦いを見て最初から全力でやる栽培マンだったが、終始ヤムチャが圧倒する。栽培マンが放った溶解液を軽々と躱し、返しのかめはめ波で栽培マンを倒した。

 

「残りの、四匹もこの俺一人で片づけてやるぜ。」

 

「今度はお前たちが栽培マンを甘く見ていたようだな。」

 

「ぐぎゃぎゃ!」ピキッ!ガーーーーン‼

 

得意げに言うヤムチャに若干の油断が出たか、倒したはずの栽培マンが起き上がり抱きつき爆発する。

 

「情けねえ栽培マンだぜ、あんなくずどもを相手に相打ちとはよ。」

 

ナッパがそう言うが煙が晴れて現れたヤムチャは立っていた。

 

「まさか自爆して相打ちを狙ってくるとはな。だが、その程度の爆発じゃ俺は倒せないぞ。」

 

そう言って不敵に笑うヤムチャが敵を見据える。

 

「どうやらなかなか骨のあるやつのようだな。少しは楽しめそうだ。」

 

ナッパがそう話しているとクリリンの声が響く。

 

「ヤムチャさん伏せて!」

 

クリリンの拡散エネルギー波が残りの栽培マンとサイヤ人たちに炸裂する。

 

「クリリンもやるなあ。」

 

ヤムチャがそう言うがクリリンの顔は渋い。

 

「一匹逃しちまった。」

 

その一匹である栽培マンが悟飯の元へとびかかっていった。しかしそのままやられることをピッコロが許しはしない。襲い掛かる栽培マンの腕をつかんだ。

 

「くたばれ。」ガン!

 

そのまま魔口砲を放ち栽培マンを地球の戦士が一掃した

 

 

 

(ようやく半分は超えたかな。悟空はもうついてるといいんだけど…)

 

地球ではサイヤ人と地球人の戦士が交戦を始めたころ、ライはようやく半分のところまで来ていた。

 

(このままじゃ間に合わない。界王拳を使うしか。)

 

そう言って界王拳を使おうと気のコントロールをし始める。

 

(二倍界王…)

 

しかしその時ライが二つの気を感知する。

 

「!」キイッ!

 

「よかった。お主には気づいてもらえたようじゃ。」

 

「全く一年かけてもつかないんじゃから蛇の道とは恐ろしく長いようですな。」

 

「占い婆さん!孫悟飯さん!どうしてここに?」

 

ライは思わぬ遭遇に驚いて聞く。

 

「何、お主らからの伝言を聞いたときにな。いつサイヤ人がくるのか占ったらお主らがサイヤ人がくるときまでに地球に戻ってこない未来が見えたからの。迎えに来たと言わけじゃ。わしならここからわしの館に飛ばせる。」

 

「よかった!」

 

「言っておくが二十四時間のみの復活じゃ。それが過ぎれば強制的にここに戻される。二十四時間たったらまずはわしたちを閻魔大王のとこまで連れてくんじゃよ。」

 

「はい!ありがとうございます。」

 

ライがお礼を言うと占い婆は何事かをつぶやき、ライは占い婆の館に飛ばされる。

 

「あれ、取り残されるの、わしだけ…?」

 

 

「さて、行ってこい。」

 

占い婆の館に来たライは隣の占い婆を見て驚いた。

 

「占い婆さんもここには自在に来れるんですね。」

 

「自在といわれると微妙じゃ。わしはあの世からはここにいつでも来れるが、この世からはあの世でいた場所にしか帰れないからな。」

 

「じゃあ、すべてが終わったら、閻魔様のとこまで悟飯さんと一緒に運びます。」

 

「うむ。よろしく頼むぞ。」

 

そう言ってライは占い婆の館をでた。

 

 

「よっ!」

 

占い婆の館を出るとすぐに仙猫のカリンが出迎えた。

 

「あれっ、カリン様どうしたんですか?」

 

「仙豆じゃ。もってけ。」

 

そう言ってカリン様が二粒仙豆を渡す。

 

「三粒しかないからもう一粒は悟空に渡す。戦う前に食べるとよい。では頼んだぞ。」

 

「ええ、行ってきます。」

 

(まだ六人の気がある。急ごう!)

 

 

「俺にやらせてください。六人まとめて一瞬で決着をつけて見せます。せいぜい楽しませてくれよ。まずは…」

 

ナッパがそう言って天津飯にとびかかる。その力にナッパの周りに稲妻が走り、天津飯に腕を振り上げた。

 

「天津飯!よけろ!」

 

ピッコロがそう叫ぶが天津飯はその攻撃を左腕で受けてしまう。

 

ズシッ‼

 

「うがあああああっ!」

 

その鍛え上げられ銃弾ですら通さないはずの鋼の肉体はまるで豆腐を切るかのようにあっさりとナッパに切り落とされた。チャオズの悲痛の叫びが響く。

 

「ちくしょう!」

 

そう言って天津飯が飛び上がり気弾を放とうとするもその前にナッパが急接近し蹴り落とす。

 

「うぐ、ぐぐ。」

 

「まだ生きていやがるか。しぶといな。」

 

「「天津飯!」」

 

ヤムチャとクリリンが天津飯を庇いに行くが、それをナッパが衝撃波で地面に穴をあけて止める。凄まじい轟音にクリリンとヤムチャは避けるだけで精いっぱいであった。しかし、その中で一人、ナッパに一矢報いようと行動を起こしていた。

 

「フン!」

 

「こいつっ。離れろ!」

 

背中を地面に打ち付けたり崖にぶつけるが離れることはない。

 

「(さよなら天さん。どうか死なないで。)」ドゥグォーン!!!!

 

「餃子ーーー!!!!」

 

凄まじい爆発と煙が舞う。

 

「そんな、餃子さん。」

 

「へ、平気だなんて、ひでえよ。餃子の奴、命まで張ったのに…!」

 

「餃子は一度ドラゴンボールで生き返っている。もう二度と生き返れないんだぞ!」

 

地球人戦士が呆然とする中、一人ヤムチャが絶叫する。

 

「ちきしょおおおおおおお!」

 

(俺は、俺はまた、ライと同じ轍を踏ませてしまった…!)

 

ヤムチャの目に一年前の出来事が重なる。それは彼にとって最も苦い記憶。ピッコロ大魔王の時と違い、自分には守れるだけの、少なくとも戦いに参戦するだけの力があったというのに、ライを死なせてしまったという記憶。おのれの無力さに対する怒り、やるせなさ。もう二度と生き返ることのできない、二度目の死。

 

「次に俺と遊ぶやつは、そこのお前かな?」

 

絶叫するヤムチャに向かってナッパが言う。

 

「許さん、絶対に許さんぞおお!」

 

しかし、先に天津飯がナッパに飛び込んでいった。ひたすら右腕と両足を使って攻撃を仕掛けていくが、片腕を失ったハンデは大きく、すべて躱される。

 

「なめるなあ!」

 

天津飯が突っ込んでいくのを見てヤムチャも飛び出すが、攻撃はせいぜいかする程度で簡単に躱され、返しの攻撃で天津飯が地に伏せる。しかし、彼の気迫も相当なものですぐに立ち上がりまた猛攻を仕掛けるが、二人がかりでも力の差は歴然だった。

 

「このままじゃ天津飯もヤムチャさんもやられる!」

 

「待て!やつが攻撃を仕掛ける一瞬の隙をつく、とどめの一撃の前に仕掛ける。その時を待つんだ。分かったな、クリリン、悟飯!」

 

クリリンが飛び込もうとするのをピッコロが制し、機会をうかがい始めた。

 

 

「ううおおああ!」ゴン!

 

「うう…ああ…」

 

「波ああああ!」

 

「よっと」シュン!バン!

 

「ぐぐぐ…」

 

ナッパの重たい一撃が天津飯に加わり、その隙にヤムチャが気功波を放つも軽々とよけられて脇腹に肘を受けて倒れこむ。

 

「どうやらここまでのようだな。くたばれえぃ!」

 

二人に向かって突っ込んでいく。そこに生じたわずかな隙、それをピッコロは見逃さない。

 

「今だ!散れっ!」

 

シュン!シュン!

 

ピッコロ、クリリンが高速移動をして、ピッコロがナッパの頬をひっかくように一撃を加えた。

 

「おりゃあ!」

 

クリリンもそれに続いて叩き落すように攻撃を仕掛ける。

 

「悟飯!やれー!」

 

「撃てー!」

 

しかし悟飯は逃げ出してしまう。まだ五歳の子供にこの戦場はあまりにも辛い。ここまで逃げ出さなかっただけでも御の字といえよう。

 

「俺たちでやるぞ!」

 

「あのクソガキが!」

 

クリリンが気功波を構え、ピッコロが悪態をつきながらもクリリンと二人で合わせて気功波を撃つ。

 

「「波あああああ!」」ドーン!

 

「遅かった‼」

 

クリリンが言うようにナッパは攻撃をかわしていた。

 

「二人ともよっぽど早く死にたいようだな。殺す順番を変えてやろう。まあそこのナメック星人だけは虫の息程度に生かしておいてやるがな。」

 

「ど、どうする。」

 

「こっちから仕掛けるぞ。先手を打つんだ!」

 

クリリン、ピッコロがそう言って二人でナッパに襲い掛かる。

 

「「はあああああ、とりゃあああ、やああああ!」」

 

二人の攻撃もナッパには通用せず攻撃をかわされる。

 

 

「ヤムチャ、俺の最期の賭けに付き合ってくれ。」

 

ナッパに向かって行ってなすすべなくやられた二人はピッコロとクリリンが悪戦苦闘しているなか、苦しみに悶えながら態勢を立て直していた。

 

「天津飯、お前、まさか…ふざけるな!そんなことはさせない。俺の前でもうそんなことは許さないぞ!」

 

「餃子、仇は打ってやる。そして俺も行く。お前ばかりに寂しい思いはさせない。」

 

天津飯の最期の策を止めようと言葉を重ねようとするが、あの世にいる餃子に話しかけるように言葉を紡ぐ天津飯にヤムチャはこれ以上の言葉を失くしてしまう。

 

「うまくいって、サイヤ人たちを倒したら俺はあの世で餃子と楽しくやるさ。後を頼んだぜ。ヤムチャ。」

 

残った右手にありったけの力を集中させた天津飯を見てヤムチャも天津飯の思いを組むべくナッパに向かって飛びあがった。




ピッコロ4000
ヤムチャ3500
悟飯2000
ナッパ6000
ピッコロとヤムチャは一緒に修業したことで原作よりパワーアップしました。ナッパの戦闘力は4000という意見もあるので(むしろそれが主流な気がしますが…)世界が違えば互角の戦いを繰り広げられたことになりますね。まあこの後のライの戦闘力との兼ね合いでこの世界のナッパは6000です。

占い婆の地球召喚について少しだけ補足します。孫悟飯が一緒にいるのは単純に占い婆だと蛇の道を進むのに時間が掛かりすぎるからです。孫悟飯におぶさる形で運んでもらってました。それでも悟飯程度の実力では一年で半分程度しか踏破できませんでしたが…。あと、仮に悟空がこの二人の存在に気づいても悟空は生き返っているので、占い婆の力で地球に召喚はできません。


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(第二十五話)非情な結末

「はいーーーー!」ガン!!

 

「うぐおっ?」

 

飛び上がったヤムチャはクリリンとピッコロと戦っているナッパの不意を突く形で攻撃に成功する。二人を相手にしてなお余裕があったナッパは普通に奇襲をかけただけでは対応できたであろう。不意打ちが成功したのはひとえに、ヤムチャがナッパの想像の上を行く速さで動いたからだ。狼牙風風拳、気の開放を覚えてからは上半身のみの不完全な技であったが、彼はライとの数年の修業、半年のピッコロとの修業と自己流の修業を経てその技を昇華させた。今の狼牙風風拳は強化の幅は大きく劣るものの原理自体は界王拳に近いものがある。彼はその技を独学で体得したのだ。

 

「気功砲だあ!」ピシュン!

 

ドゴオオン‼

 

ヤムチャの援護を受け、天津飯渾身の気功砲が炸裂した。 

 

 

気功砲の凄まじい威力に煙が舞う。しかし、煙が晴れて映ったサイヤ人の姿は地球人戦士たちをさらに絶望に落とすものだった。

 

「ふう。脅かしやがって。」

 

餃子の爆発では壊れなかった戦闘服は確かにボロボロになり相当の威力が与えられたことは分かるが、それでもサイヤ人にダメージを与えるには届かなかった。

 

「む、無念…」

 

技を撃った反動と今までのダメージが災いし、天津飯は息絶える。

 

「はっはっはっ、馬鹿め。おとなしく寝ていればいいものを、力付きて無駄死にしやがった。」

 

「俺は、俺は!無駄死にさせるためにこんなことをしたわけじゃない!!」

 

天津飯を殺された怒りからナッパに向かって行くヤムチャ。しかし、どんなに怒っていようとも、それで力関係は覆らない。そんなことができるのは選ばれた人間だけなのだ。ヤムチャは…

 

「フン!」ゴキッ!

 

選ばれない側だ。

 

ナッパが首筋に放った一撃で本来なってはならない音が響く。ヤムチャは一瞬にして白目をむき息絶えた。最初に集まった六人の内二番目に強い戦士がただの一撃で葬り去られたのだ。

 

「悪夢だ。こんなのってないぜ。俺たちはどうすればいいんだよ…」

 

「それじゃあ、あと三人か。さっさと片付けるとするかな。」

 

「あ、ああ、くそっぉおおおお!」

 

ナッパが凄い速度でクリリン達に向かってくる。そのあまりの戦力差にクリリンにピッコロ、悟飯の顔が絶望に染まり始める。彼らの顔が絶望に染まり切り、戦意喪失するのも時間の問題に見える、しかし、彼らの目から希望の灯が消えることはない。なぜなら、彼らには…いや地球には

 

「孫悟空がいるんですから。」

 

凄まじい速度でクリリンとナッパの間に入り、ナッパの拳を受け止め気合で吹き飛ばした。

 

「彼が戻ってくるまでこれ以上あなたたちの好きにはさせません。」

 

「ぬう?」

 

「ライ!?」

 

「貴様、もう生き返れないはずでは?」

 

「その話は生き残ったらクリリンにでも聞いてください。ちょっとごまかしてここにきてるんです。天使の輪があるでしょう?」

 

そう言うライの頭上には死者の証が存在を主張していた。

 

「すいません。遅くなりました。悟空はもっと遅くなりますけど、まあ何とかあと数時間もすれば来てくれるでしょう。それまでの辛抱です。全員でかかればなんとかなりそうですから頑張りましょう。」

 

そう言うライの言葉にベジータが感心を示す。

 

「ほう?その孫悟空というのはカカロットのことか?」

 

「ええ。ラディッツにやられたときの彼だと思ったら大間違いです。私よりもずっと強くなってあなたたちを倒しにきますよ。」

 

「ほう、そんな話があるんだとしたら見せてもらいたいもんだ。面白い。やつがくるまで待ってやろう。ただし三時間だけだ。」

 

こうしてピッコロたちの寿命が延びた。

 

 

「チッ、貴様に期待した俺が情けないぜ。」

 

三時間思わぬ時間が空いたが、その雰囲気は決して良いものではなかった。

 

「無理もないよ、初めての実践がこれじゃあな。」

 

「そうですよ。逃げ出さずにこの場にいるだけでも評価されるべきです。」

 

クリリンとライがフォローを入れるが悟飯の顔は暗い。

 

「すいません、少し席を外します。」

 

そんな中ライはどこかに行こうとする。

 

「へ?どこに行くんだ?」

 

「ヤムチャさんや天津飯さんに手を合わせておこうかと思いまして、餃子さんは…」

 

「自爆してばらばらになっちまったよ。」

 

「気が急に大きくなったと思ったら、また急に消えちゃったからそうではないかと思いましたけど、自爆でしたか。じゃあ天津飯さんも…。」

 

「ああ、天津飯も気功砲を撃って死んでしまった。」

 

「それは…すいません。私がもう少し早く来れていれば。」

 

「お前のせいじゃない。悪いのはあいつらサイヤ人でライに落ち度はないさ。」

 

あの世からこの世に来るとき、体は一度死人のそれから生者のそれに変わる。死者と生者では勝手が違う、慣れるまでそこまで時間はかからないが、それが悟空が地球に来てから自分より遅いはずの筋斗雲を使った理由であり、一日半で半分蛇の道を進めるライが占い婆の館からここに来るまで時間がかかった理由である。

 

「そ、そう言えばライ。お前も界王様とかいうえらい人の元で修業したんだろ?どんな修業だったんだ?」

 

「精神統一に、気のコントロール、でも一番大きかったのは体の使い方ですね。一から教え込まれました。」

 

「なるほど、精神統一ね。」

 

そう言うとクリリンは合点のいった顔になる。クリリンだけでなく、近くにいたピッコロも納得したようだ。仲間を殺されていながら、今のライはその怒りを内にとどめ、一目には穏やかなように見える。しかしその実、ただ激情を表に出すよりも凄味のある迫力があった。そして三時間がたってしまう。

 

 

「さあて、結局臆病者のカカロットは来なかったな。」

 

(私が蛇の道の半分にかかった時間からして、三時間あればなんとかなると思ったが、甘かったようですね。)

 

「少なくともあの片方は全員でかかれば互角以上にやりあえます。悟空がくるまで持ちこたえましょう。」

 

仲間たちの士気を上げようとライがそう言う。

 

「お前たち、俺に策がある。」

 

ピッコロがそう言う。四人は少しでも勝利への細い糸をたどる戦いを始める。

 

 

「行くぞ!」

 

クリリンがそう叫んでナッパに突っ込んでいく。そしてナッパの攻撃範囲に入る直前に気功波を地面に向かって放ち飛び上がる。普通の戦いにおいて奇天烈な動きとなりナッパは思わずクリリンを見上げる。

 

(今!)

 

見上げた瞬間にライが高速で移動してナッパの背をとり、尻尾を掴んだ。

 

「ぬ、貴様!」

 

「ピッコロ!悟飯!」

 

ライが叫ぶとご飯とピッコロが突っ込んでくる。二人の同時攻撃を食らえば流石にダメージは避けられない。

 

「馬鹿め!」ゴン!

 

「うっ…ぐうう、な、ぜ?」

 

ナッパからの強烈な一撃を受け倒れこむ。

 

「そんなあ!」

 

「へへへへ、残念だったな。せっかくの助っ人も、このざまだ。お前たちの中で一番強いんじゃなかったのか?」

 

「「くそっ!」」

 

再びピッコロとクリリンが攻めていく。しかし今回は三時間前と違う。悟飯も攻撃に参加したのだ。

 

「三人がかりの攻撃でも、お前ら三人じゃあ、な。」

 

ナッパが軽々と攻撃を捌いていく。

 

「おら、よっ!」ゴン!バン、ガッ!

 

「うぐぅ!」

 

「「グハッ」」

 

強烈な一撃が入りピッコロが倒れこみ悟飯とクリリンは吹っ飛ばされた。

 

「おっと、まだ死ぬなよ。お前にはドラゴンボールのことをしゃべってもらわなきゃならんからな。さて…」

 

「ううう…」

 

「ナメック星人と面倒なガキが眠っている間に孫悟空の息子を倒すとするかな。」

 

「させるかぁ!」

 

悟飯に向かって行こうとするナッパの脇からクリリンが蹴りを入れて吹っ飛ばす。すぐに態勢を立て直し、反撃をしようとするナッパの攻撃を、クリリンは長年の経験だけで躱して見せた。

 

「とっておきを見せてやる!気円斬‼」

 

気円斬を撃ち込むが、ベジータの一声により躱される。顔に傷をつけられたナッパは怒りに震え、気功波をクリリン放つ。クリリンは避けるが気功波の爆発だけでクリリンは致命傷を食らってしまった。何とか止めを刺される前にピッコロが意識を取り戻し攻撃をして防ぐ。そして彼らは気づく。凄まじい力がこっちに向かってきているのを。孫悟空の気を。

 

「ようやく戻ってきやがったか。あのヤロー待たせやがって。」

 

「悟空だ、悟空が来てくれたんだ。」

 

「お父さん。早く来てぇ!」

 

気絶してしまっているライを除く全員が悟空の到着があとわずかであると知り歓喜する。そしてその事実は悟飯を奮い立たせる。

 

「ピッコロさん逃げて!お父さんがくるまで何とか食い止めるよ!」

 

「貴様一人で食い止めるなど、無理に決まってるだろ。」

 

「でも、ピッコロさんが死んじゃったらドラゴンボールが…!」

 

「このガキィ!生意気なぁ!」

 

そう言って飛び込んでくるナッパを悟飯はその勢いを逆手にとって蹴り返した。しかし、ナッパには大したダメージでなく、怒りに狂ったナッパは特大威力の気功波を悟飯に放った。

 

「いかん!」

 

今にもその攻撃を食らわんとしている悟飯をみてピッコロにこの半年間の修業の日々が走馬灯のようにめぐる。自分を畏怖の対象でなく、尊敬のまなざしを向けてくれた彼にとって唯一の存在。そんな変えのきかないただ一人の子が今まさに死のうとしている。それをピッコロは許容できなかった。

 

 

ライが意識を取り戻した時すべては取り返しのつかないことになっていた、ピッコロはナッパの気功波を浴びて死にかけていた。その後悟飯も怒りの魔閃光を放つもナッパには通用せず倒れこむ。クリリンもナッパにやられたのだろう、ボロボロで地に付している。体が思うように動かず、カリン様からもらったもう一粒を食べたのは

 

「ぐちゃぐちゃにつぶされた息子を見たカカロットの顔が楽しみだぜ。」

 

そう言ってナッパが足を振り下す寸前であった。

 

(界王拳!)ガッ!

 

体を深紅のオーラで包みこみ赤い閃光がナッパに向かって行った。

 

「貴様が許せない。でもそれ以上に私の慢心が許せない。体への負担やもう一人のサイヤ人なんて二の次にするべきだったのに、そんなことを考えてしまったせいで私は大切なものを失ってしまった。」

 

ライはナッパの足蹴を防ぎ悟飯を抱える。

 

「何を!貴様!」

 

ナッパの攻撃を悟飯を抱えてない左腕で防ぎ、蹴りでナッパを吹き飛ばす。

 

「悟飯、ごめんね。恩師をみすみす殺させてしまって。許してとは言わないけれど、せめて仇はとるよ。」

 

「おら達二人でな。」

 

そう言うライの後ろには孫悟空が到着していた。




ライ5000
ライがナッパに気絶させられた時間が原作のピッコロより長いのはナッパが原作でピッコロに攻撃するのとは違い殺すつもりでやってるからです。1.3倍の範疇なんで善戦できるはずでしたが…不意を食らえばこんなもんでしょう。


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(第二十六話)超エリートと下級戦士、そして

昨日の話で骨は治ったって言いましたね。じゃあ頬の傷はどうなんじゃいって思った方はいるのではないでしょうか。頬に傷があるのなんかかっこいいなあとか思ったりするので今は明言を避けます。でも忘れたころに傷がどうなったのか話す予定です。あくまで予定。



「びっくりしたぞ、ライ、どうやっておらより早く着いたんだ?」

 

「途中で占い婆さんに会いましてね。私は一日限定の復活なんで占い婆さんさえいればどこからでもあの館に行くことができるみたいなんです。まあ意味があったかといえば微妙でしたが。」

 

「いや、おかげで悟飯にクリリンが死なずに済んだじゃねえか。守れなかったものじゃなく、守れたものを見ようぜ。」

 

「それもそうですね…悟飯、これをクリリンと分けて食べてください。」

 

「はい!」

 

悟飯をおろしてサイヤ人たちと相対する。

 

「許さんぞ、貴様らー!」

 

悟空は怒りを露わにそう叫び構えをとる。ライも同様に構えをとり、サイヤ人二人をにらみつけていた。二人の気迫で小石が浮き大地が震える。

 

「ベ、ベジータ!カカロットの戦闘力はいくつだ?」

 

ベジータが悟空の戦闘力を測り、数値を告げてスカウターを握りつぶした。

 

「8000、以上だ!」

 

「8000以上!?ありえねえ。スカウターの故障だ。」

 

(界王拳!)

 

二人が驚愕している間に悟空とライが動く。ナッパを挟みこみ二人で脇腹にきつい一撃を加えた。

 

「ぐぅ…」

 

「「今の一発はチャオズの恨みだ。」」

 

そう言うと二人で回し蹴りを放ちナッパを吹っ飛ばす。

 

「「天津飯の恨み。」」

 

バン!

 

「ぐおおおお!」

 

崖に埋もれたがそれを吹っ飛ばし、出てくる。しかしその隙を逃さず再び二人の拳がナッパに刺さる。

 

「「ヤムチャの恨み!」」

 

「「そしてこれが…」」

 

腹部への一撃で悶えているナッパに対して悟空とライが片手ずつかざす。

 

「「ピッコロの恨みだ!」」

 

二人の気功波を受けたナッパはなすすべなく倒れ伏した。

 

「もうそいつは戦えないはずだ。そいつをつれて、とっとと地球から消えろ!」

 

ナッパをベジータに投げ飛ばしそう告げるがベジータの表情は変わらない。

 

「情けないやつだ。まさかあのカカロットとその仲間如きにこの俺が動くことになるとはな。」

 

「ベ、ベジータ、助けてくれ…」

 

意識を取り戻したナッパがベジータに助けを乞い手を伸ばすがベジータは気功波で吹き飛ばす。

 

「動けないサイヤ人など必要ない!」

 

「ライ逃げろ!」

 

「!」

 

凄まじい攻撃にライ達がさっきまでたっていたところにも衝撃が飛ぶ。

 

「危なかった…」

 

「「え、ええ。」」

 

悟空はクリリンの腕をつかみ悟飯を抱きかかえて上空に跳び、ライも自力で躱していた。

 

「余波で死ぬとこでしたね。」

 

「ああ。…二人とも今すぐ亀ハウスに帰ってくれ。」

 

「え、なんで?」

 

「…そうか。分かった、悟飯早く行こう。俺たちがいたって足手まといだ。悟空達に任せるんだよ。」

 

「分かりました。」

 

「すまねえな。すべてが終わったら、また釣りに行こう。」

 

悟飯とクリリンが飛び去っていき悟空とライがベジータに相対するべく地上に降りていく。

 

「場所を変えましょう。みんなの死体が無茶苦茶になったら、生き返った時に悪いから。」

 

「でも、もうピッコロが死んでしまった。悔しいけどみんなはもう生き返れねえ。」

 

心底悔しそうに悟空が言うが、ライは少しだけ得意げに返す。

 

「策があります。生き残ったら話します。多分クリリンも同じことを考えているはずですから、私が死んでも彼に聞いてくれれば大丈夫です。」

 

「死なせはしねえさ。もう死んでるけどよ。」

 

戦う場所を変えようとライと悟空、そしてベジータは荒野に向かって飛んでいく。

 

 

「よし、ここなら人も動物もいねえだろう。」

 

そう言って悟空が降りていき、ライとベジータもそれに続く。

 

「ライ、おらが前にでるからおめえは援護頼んだぞ。」

 

「任せてください。」

 

小声でライとおおよその方針を立てる。

 

「作戦会議は済んだか?光栄に思うがいい、貴様のような下級戦士の落ちこぼれと大した力も持たない下等種がこの戦闘民族サイヤ人の超エリートと遊んでもらえるんだからな。」

 

「弱い奴ほどよく吠えるんです。地球を舐め腐った貴様に私たちが負けるはずがないでしょう。」

 

「それは自分に言い聞かせているのか、え?」

 

実際に拳を交えてなくとも気を感じ取れる二人は目の前のサイヤ人の恐ろしい力を感じ取っている。気圧されていることを感じ取っているベジータには余裕があるし、逆にライには余裕が無い。

 

「落ちこぼれだろうと、戦闘種族でなくたって、必死で努力すればエリートを超える事があるかもよ?」

 

でも、悟空には余裕がある。いや、余裕というには語弊があるかもしれない。しかし、悟空はベジータに対しても物怖じしていなかった。彼のその様子はライにも不思議な力を与えてくれる。三人は構えをとった。

 

「行くぞ!」シュン!

 

「波あああ!」

 

悟空がベジータに突っ込んでいきライが気弾でそれを援護する。悟空の凄まじい速度の連撃をベジータは右腕でライの気弾をはじきながら防ぐ。

 

「たりゃりゃりゃ、はっ、おりゃ!」

 

悟空の蹴りをベジータはバックステップを踏んで避ける。その表情には余裕があり、ライとの連携攻撃にも十分に対応できるようだったが、素早く動き回って戦うことでライの援護が通りにくくなっていた。下がるベジータを悟空もすぐに追うが反撃を食らう。

 

「悟空、後ろ!」

 

態勢を立て直すもベジータを見失った悟空にすぐにライが指示を飛ばし、悟空は辛くも攻撃をよける。

 

「どうした、貴様ら!そんな程度じゃないだろう。ナッパの奴を倒した時はこんなもんじゃなかったはずだ!」バギッ!

 

連撃を悟空に食らわせながらそう言うベジータは悟空を打ち落とした。

 

「見せてみろ!」

 

再び岩山に乗り三人相対する。

 

「大丈夫ですか。私も前に出ます。あいつに遠くからの援護なんてあってないようなものですよ。」

 

「ああ、あいつまだ全然本気じゃねえしな。そうするしかなさそうだ。おら達も本気で行くぞ!」

 

「「2倍界王拳!」」

 

ライがベジータがいる岩山に向けて気合砲を放つ。飛び上がったところを悟空が急襲した。

 

ドン!

 

「やあああああ、とりゃあ!」

 

一撃打ってできた隙に連続で右拳を打ち込み、蹴り飛ばす。素早く追撃に打って出るが逆に蹴り飛ばされる。

 

「まだです!」

 

悟空が飛ばされるも悟空の死角にして接近してきたライが素早く一撃を放つもそれを防がれた。

 

「その程度では、話にならんぞ!!」

 

「でしょうね!」

 

ライがそう言って左指を少し上に動かすと気弾がベジータに向かう。ヤムチャの開発した操気弾はクリリンも同じ原理の発展型である拡散エネルギー波を開発していたり、ラディッツ戦で悟空がかめはめ波を曲げたりと、活躍の幅は広い。

 

「フン!」

 

しかしベジータはその気弾を足で両断するとそのままライを殴り飛ばした。

 

 

「どうした、それが貴様らの限界らしいな。貴様の死に土産に見せてやろう。超エリートサイヤ人の圧倒的パワーを!」

 

そう言うとベジータは力を込め始める。その力は雷雲を引き起こし、まるっきり台風のようだ。

 

「はあああああ!」

 

一気に力を放出すると雷雲は晴れ今度は雲一つない真っ青な空が出迎える。

 

「終わりだ。」

 

そう言うとものすごい速度でライに接近する。

 

「ぐっ!」

 

「ライ!」

 

「次は貴様だ!カカロット!」

 

ライを二発の攻撃で打ち落とし、悟空に向かって行く。強烈な頭突きからの肘うちの連撃、悟空は岩山に着地するも、後ろをとられて蹴り飛ばされる。吹っ飛ばされながらも態勢を立て直しあたりを探る。

 

「そおれ!」

 

先ほど後ろを取られたことが活きたか、ベジータが気弾を放つ前に気づき、2倍界王拳で避けるも二発目は避けきれずかすってしまい、道着が破れる。

 

「いいぞ!よく避けた。避け易くしてやったんだ。すぐにやられちまったらつまらんからな。」

 

降りてきた悟空に対して余裕の表情でそう言い放つ。ベジータのその油断とも読み替えられる余裕の隙を突きにライが動く。

 

「フッ!」バギッ!

 

顔を苦悶にゆがめてベジータを殴り飛ばした。追撃を仕掛けようと再び深紅のオーラをまとってすっ飛ばす。

 

「え?」

 

それを見た悟空が唖然とする。界王拳を仮に三倍まで引き上げても悟空の二倍にすら届かないのだ、ベジータには当然届かないはずである。

 

「実力の不足は!無茶で補える!!」

 

ある世界線で、そしてこの世界では数分後、悟空が一瞬繰り出す4倍界王拳。それを悟空よりもさらに未完成な体で使う。わが身を滅ぼす危険な思想。払う代償は一撃打ち込むたびに使った部位の骨が砕ける。得る利益はベジータに匹敵する戦闘力。

 

「くそったれがああ!」

 

吹っ飛ばされた先の岩盤を吹っ飛ばし追撃してくるライに向かってベジータが腕に気を溜めて殴りかかる。

 

「遅い!」ドン!

 

残った左腕で重い一撃を入れる。速度の上では二人に差はない。しかし思わぬところで攻撃を受けると立て直すのは難しい。

 

「う…ううう…あああ。」

 

痛みに悶え腕を抑え込み動きが鈍る。それも敵の前で。

 

「無茶にはしわ寄せがくるもんなんだよ。残念だったなあ!」

 

「させるか!」

 

痛みに倒れこむ前にライを攻撃しようとするベジータを悟空が蹴り飛ばす。浮き上がったベジータを今度は殴り飛ばし吹っ飛ぶ速度よりも早く追いつき両足で上空にけり上げた。

 

「てりゃっ!」

 

再び接近してくる悟空に対し気弾を放つも悟空は大きく回り避けてベジータを蹴り飛ばした。

 

「同じ手を食うか!」

 

奇しくも数瞬前のライに対する状況と同じになる。

 

「フン!」ゴン!

 

先ほどと違うのはライと悟空の実力。ライとベジータの実力は互角だったが、今の悟空とベジータでは悟空のほうが上回っていた。

 

「体中が…やっぱり界王拳を3倍にするんは、無理があったか…!」

 

ベジータが自分を上回るサイヤ人の存在にうろたえているなか、悟空がライに合流する。

 

「ライ!大丈夫か!」

 

「あと、二撃です。それがあのサイヤ人に有効な攻撃の限界。」

 

「ばかやろう、そんな体で無茶しやがって!」

 

悟空がライの身を案じていると怒りに狂ったベジータが上空に上がってエネルギー波をため始める。

 

「絶対に、絶対に許さんぞ!もうこんな星などいるもんか!地球もろとも粉々に打ち砕いてくれる!!」

 

「あんなとこから気功波を撃たれたら…!」

 

「かけるしかねえ‼」

 

地球へのダメージを気にした悟空が再び3倍界王拳を使う。

 

「か、め、は、め…」

 

「俺のギャリック砲は絶対食い止められんぞー!」

 

「波あああああああ!」

 

悟空の3倍界王拳かめはめ波とベジータのギャリック砲が衝突し凄まじい衝撃が襲う。その余波でライが吹き飛ばされてしまった。戦闘力で上回っているはずの悟空の攻撃は拮抗している。無茶をした反動で戦闘力が落ち込んでいたのだ。

 

「界王拳・4倍だあ!」

 

実力の不足は、無茶で補える!ライの心意気をなぞるように悟空は倍率を4倍に上げる。その一撃で均衡は崩れ去り、一気にかめはめ波がギャリック砲を押し込んだ。

 

 

 

「孫!やったでねえかよ!こんにゃろー!」

 

気功波が上空に消えたあとヤジロベーが悟空の元にやってくる。

 

「ヤジロベー、どうしてここに?」

 

「なんだよ気づいてなかったんか。よっぽど必死だったんだな。」

 

そう言ってヤジロベーは悟空を軽くたたく。普段であればダメージにもならないその行為は無理がたたっている悟空には堪える。

 

「ど、どうしたんだよ。」

 

「体に無理な技を使った反動です。私も悟空も、もう体はボロボロですよ。」

 

舞空術を使って合流したライがヤジロベーにそう言う。

 

「それより、ヤジロベー、おめえ逃げた方が良いぞ。」

 

「え、なんしてだ、まさか!」

 

「あいつはまだ生きてる。この程度でくたばるんだったら苦労はねえ。」

 

「で、でもおめえのほうが強かったし、ライだってあいつにどぎついのかましてたでねえか。」

 

「ライが言っただろう。体に無理な技使ったって。もう限界が近えんだ、二人ともな。」

 

「そ、それじゃあ、がんばってちょ。」

 

ヤジロベーは簡単な激励を送ると逃げていった。

 

 

 

 

「降りてこないな。」

 

「ええ。」

 

かめはめ波で上空に吹っ飛ばされたあと、ベジータはなかなか降りてこなかった。その間に二人で話し合う。

 

「悟空、あいつに勝つにはもう元気玉しかないです。私が時間を稼ぐんでうまくやってください。」

 

「ああ、頼むぜライ。」

 

そう話しているとベジータが降りてきた。その顔には薄ら笑いが浮かんでいる。

 

「月を壊してしてやったりってとこだろうがそうはいかんぞ!」

 

そう言ってベジータはサイヤ人が大猿になるメカニズムを話す。しかし、ライが驚愕したのはそこではない。ベジータは言ったのだ。選ばれたサイヤ人は月を造ることができる、そして自分は選ばれたサイヤ人であると。

 

「まずい!」

 

ライが飛び出そうとするがもう遅い。パワーボールが上空ではじけ、白いエネルギーボールができる。

 

「悟空!急いで元気玉を!早く!!」

 

ライが言うが悟空は呆然として動けないでいた。

 

(そうか、悟空は大猿のことを知らなかったから…!)

 

大猿と化したベジータが拳を振り下ろすのを見てようやく正気に戻ったか動きだす。

 

「ふはは、どうだ、これで貴様らはもう終わりだ!」

 

(だめだ、これほどの戦力差じゃ界王拳を4倍にしたところで時間稼ぎすらできない!)

 

ベジータがいたぶるように攻撃をして戦っていくためにぎりぎりしのげているが、ベジータの気分ひとつで決着がつく。

 

「なんてことだ、じっちゃんを踏みつぶして殺したのも、武道会場をぶっ壊したのも、この、おらだったのか。」

 

(ごめんよ、じっちゃん、こいつとんでもない化け物でさ、おらの気を全部使わないと勝ち目はなさそうだ。死んじゃってあの世に行ったら謝りに行くよ。)

 

決意を固めなおし元気玉を溜めようとする。

 

「うらあ!」

 

しかしベジータが止まっている相手を逃すまずもなく吹っ飛ばされる。界王拳を使って何とかしのいでいくがじり貧だった。そこでライに天啓がひらめく。




ベジータ20000
大猿ベジータ80000
ベジータは元は18000でしたが前線で戦ってきた経験を考慮してこの作品では少しパワーアップさせました。大猿ベジータは蓄積ダメージと人工の月を作った影響でこの戦闘力。人工月を作ったってことは…?


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(第二十七話)地球人戦士と超エリート

今回でサイヤ人編完結です。無印編完結の際は投稿を始める前から草稿があったので書けませんでしたが、今回は書けます。サイヤ人編を書ききれたのも読者様たちのおかげです。本当にありがとうございます。フリーザ編もよろしくお願いします。


「こっちを見ろ!サイヤ人!」

 

そう言ってライはベジータの作った月を視界に入れる。ライに半分流れたスウの血が月を見たライを狼に変えていく。

 

「ぐうううう…!」

 

「何だ、貴様も変身型の人種だったか。だがその程度ではどうすることもできんぞ!」

 

大猿になると戦闘力は十倍、狼化は三倍。元の戦力差を加味すればどうしようもない差。しかしその三倍がライに光明となる。

 

「界王拳・4倍!!」

 

(これなら一撃で腕は砕けない!)

 

狼化したことにより人間の時よりも4倍が無理のない倍率になる。人間の姿の時と比較したライの戦闘力は十二倍にも及ぶ。

 

「はあああ!」

 

残った両足を使って攻撃をしていく。余裕で受け止められると思って掌で受け止めるが予想外の衝撃にうろたえる。ベジータ自身が思っているよりもずっとパワーボールはベジータの力を奪っていたのだ。

 

「なに?」

 

「やあっ!」ガンッ!

 

続けざまに攻撃するが今度は完璧に防がれた。

 

「調子に乗るなよ雑魚が!」

 

そう言うとベジータはライを叩き落とし両足を踏みつぶす。

 

「ぎゃああああああ!」

 

その叫ぶ姿をみて満足したのかベジータが悟空の元に向かった。

 

 

「きた!よしっ!」

 

ライが作った時間で元気を集めきった悟空だが、ベジータがライを倒して悟空のほうに向かってきていた。

 

「来る!いや、この距離なら!」

 

いける!と振りかぶるがここにきてベジータが気功波を放つ。大猿になってから一度も打ってこなかったために悟空の意識の外の攻撃となった。その一撃で元気が逃げてしまう。

 

「まさか、あんな攻撃をするなんて。」

 

「しぶといやろーだ。だがもう限界は近いらしいな。分かるぞ。」

 

そう言って倒れこんでいる悟空の足を踏みつぶす。

 

「これで貴様もあの地球人と一緒だな!次は心臓でも潰してやろう。いい加減うんざりしてきたところだ。死ねええ!」

 

まさに心臓を潰さんとしているとき悟空が最後の抵抗をする。残ったすべての気を使ってベジータの目をつぶしたのだ。ベジータは怒りに震え、悟空を握り潰そうとする。悟空の気はどんどんと小さくなっていく。

 

 

(動け!動け!ここで動かなければ悟空が死んでしまう!それに…)

 

体はぐちゃぐちゃで意識は朦朧としている中でライは気を感じ取る。悟空だけでなく誰かが増援に来たことを悟る。そしてその援軍ももはやどうにもならないことも。

 

「ごめんな、ライ。遅くなった。わが子に死線をくぐらせておいて自分だけ天界で高みの見物なんて許されないよな。当然だ。」

 

(そん…な、父さ…だめ…、殺さ…る…。)

 

ライの意識はそこで途絶える。

 

時は悟空が神殿に到着したころにさかのぼる。月が壊されて変身もできず、足手まといを宣告されたスウは天界で神様たちと一緒にサイヤ人が地球に到着してからずっと今か今かと悟空の到着を待っていた。

 

「来た!」

 

戦いが中断していた三時間が過ぎようとするころ、悟空が来たことを感知した神様は急いであの世に悟空を迎えに行く。

 

「じゃ、行ってくる。」

 

そういうと悟空はすごい速度でサイヤ人との戦いに出発していった。

 

「悟空がこの時間ってことは、ライ、間に合わない。」

 

悟空の出発を見送りポポがそう言うのを、スウはどことなく安心したような複雑な表情をした。

 

「私の寿命かとも思ったが、この分だと、ピッコロの死が私の死となるようだな。」

 

「では悟空はサイヤ人の戦いには間に合わないのですか。ここまで来たのに…!」

 

「ふむ。」

 

神様はそう言うと天界から下界の様子を伺う。

 

「!ど、どうしてライがサイヤ人と…」

 

ライは蛇の道を急いでいると思った神様はついその言葉をスウに聞こえるボリュームで言ってしまった。

 

「!!」

 

「待て、スウ!お前が言ってもどうしようもない!」

 

それを聞いたスウは神様の静止も聞かずに神殿を飛び降りた。

 

(実力が足りないなんてそんなの言い訳にならない!自分の子供が、ライが戦っているのに!)

 

 

「こいつは驚いた。カカロットのガキじゃないか。父親の最期を見に来たのか。よく見て置くんだな。」

 

ベジータは悟飯と会話しながらも冷静に周りの気配を読みクリリンの気円斬を躱す。

 

(近づくこともできないほど凄まじい気だ。でも…)

 

「よし、行くか。」

 

覚悟を決めたスウは凄まじい気に圧倒されながらもベジータに特攻する。

 

「はあああああ!」

 

「うっとおしい!」ガン!

 

「うぐっ…」

 

「次から次へと湧いてきやがって、そんな雄たけびを上げてもどうにもならん!」

 

勝ち誇ったようにベジータは言うが、スウの狙いは尻尾を切るのではなく気を散らすための一撃を放つこと。できるだけ目立って本命に託す。すぐにはねのけられダメージにもならないその一撃はしかし、ベジータの気をそらすことには成功する。彼のその信頼の一撃は動く気のなかった男を突き動かす。

 

スパン!

 

 

「あとは知らにゃーっと」

 

そう独り言ちて岩陰まで隠れるヤジロベー。しかしその一撃は値千金だ。

 

「き・さ・ま・ら~!!」

 

怒りに震えながら、クリリンに悟飯、そしてスウを睨む。

 

「望み通りぶっ殺してやろう。ゴミどもめぇ!」

 

そう言うと目の前にいた悟飯を急襲し腹に一撃を加える。悶える悟飯にもう一発かまし、援護に加わったクリリンとスウをも蹴り飛ばした。

 

「順番が変わっちまったかな。」

 

そう言って悟飯の胸倉をつかみ頭突きをかます。

 

「下級戦士のゴミでも血だけは赤いらしいな。」

 

そう吐き捨ててベジータは悟飯を悟空のところに放る。

 

「せめて父親の隣で死なせてやろう。俺は優しいんだ。」

 

 

(あいつも相当弱ってきてる、でもこっちはもっと…)

 

一瞬で吹き飛ばされたスウは己の無力を嘆く。もう少し力があれば、あるいはここにいるのが自分ではなく、ピッコロやヤムチャだったなら、結果は全く違っていただろうに、と。弱腰になるスウの視界の片隅にライの姿が入る。

 

(ライなら、こんな状況でも向かって行っただろうな、俺の子だからと俺を過大評価してさ…!)

 

スウは奮い立つ。

 

 

「お前を、倒す!」

 

その宣言を聞き、スウもボロボロの体に鞭打って悟飯の援護に向かった。実の子を逃がさないなど普通はありえない。例え敗北が人類皆殺しを意味するとしても。だからこそ、悟空がこの状況下でも勝算があることを察した。

 

「援護する!」

 

そういってベジータに対して攻撃を仕掛けていく。怒りに震えて力を引き出す悟飯と変身によって力を引き出すスウの二人で何とか時間稼ぎができるくらいだ。

 

(クリリンが来てくれれば…!)

 

そうスウが考えるがそれはできないことをスウは知っている。クリリンはサイヤ人を倒すための切り札となる技を悟空から託されているに違いないのだから。

 

(何とか隙を作る!)

 

悟飯にはまだ戦術面でスウに劣る。ピッコロから修業を受けたとはいえまだ五歳。悟飯がベジータとがむしゃらに戦い、スウはそのベジータの後ろをとるように戦う。

 

「見えてるぞ!」バン

 

「くそっ」

 

しかし後ろを取ろうにもなかなか素直に取らせてくれない。それどころか、しっかりと反撃をかましてくる。こちらが一回攻撃を当てるのに向こうは悟飯とライ合わせて三回は攻撃を与えてくる。時間稼ぎ程度しかできない実力差があるため当然ではあるがだんだんと劣勢の様相を呈してきた。

 

「魔閃光!」

 

「フン!最後のあがきか?」シュン!

 

「もう一つ!それ!」

 

不利を悟った悟飯は魔閃光を連続で放つ。一発でも当たれば形勢が傾くだろうがベジータ相手にそれは通用しない。

 

「そんなもん当たるか!」

 

そう言ってこの隙にと攻撃してきたスウを掴み悟飯が放った魔閃光に向かって投げ飛ばす。

 

「うわっ!」

 

ギリギリのところで体をひねって躱すが、それをみた悟飯は気功波を迂闊に放てなくなる。

 

「フハハハハハ!貴様らはくだらんものが好きだからなあ!」

 

逆に今度はベジータが気弾を連続で放ってくる。二人に向かって放つために数が分散されるはずだがそんなことはお構いなしの量だ。

 

「くそっ!うぐぐぐぐぐ…」

 

「うわっ!わわわわわわ!」

 

近くにいたスウに連続で押し寄せる。スウも流石に避けられないと悟り、両腕で必死にガードをしているがそれでも押されていく。悟飯は何とかバックステップで避けるが長くはもたず攻撃を食らってしまった。

 

「フハハハハハ!よく見ておくがいい、カカロット!貴様の愚かな息子の最期だあ!」

 

未だスウに気弾を放ちながら、悟飯に向かって突撃していく。スウは援護に行けず、悟空も動けない。

 

 

「とらえた!」

 

「馬鹿やろー!とっとと撃っちまえ!」

 

クリリンがベジータの悪の気をとらえたころ、ヤジロベーのヤジによってベジータが元気玉を勘付く。

 

「当たれー!」

 

そう叫ぶのは本当は当たらないと分かっているから…なのかもしれない。ベジータは間一髪のところでジャンプして躱す。そしてその先には悟飯がいる。

 

 

(不味い。このままじゃ死んじまう!)

 

元気玉をよけるのに意識を割いたため、ベジータの気弾の嵐が止んだスウが見たのは悟飯に元気玉が当たろうとしているところだった。そこに悟空のテレパシーが入る。

 

「(跳ね返せ!悟飯。そいつは味方だ。悪の気がねえもんなら跳ね返せるはずだ!)」

 

そのテレパシーをスウも聞く。その次のスウの行動は早い。

 

(神烈光線!)ビッ!

 

神様が修業をつけてくれた気を扱う技を彼はなかなか習得できなかった。変な癖が彼についていたのかもしれない。一緒に天界で修業した天津飯、餃子、クリリンは既に気功波をおのれの流派で扱っていたし、ヤジロベーも気を使って相手を感知する技術には本人の性格もあってか誰よりも早く習得した。半年間天津飯たちよりも多く修業をした彼が、神様から習った技。それは見た目にはどどん波と同じ。貫通力のある術で、ただし連射性はない。でもこの技は当たった周囲に裂傷を刻み込む。どどん波よりも習得が難しい、言ってみればスウ自慢の技。それを、当てるためではなく、ベジータの動きを阻害するように使う。

 

「あのゴミ!」

 

その光線に気を取られ悟飯が元気玉を跳ね返し、それが自分に向かってきていることに気づかない。

 

 

「ライ、ライ。」

 

誰かに呼び掛けられる声を聴いてライは目を覚ます。

 

「よかった。死んじまったかと焦ったぜ。」

 

「と、父さん。そっか、サイヤ人は倒せたんですね。」

 

「ああ、悟空が作った元気玉?だったかをクリリン達が何とかあいつにあてれたんだ。これで地球は救われたよ。悟空も悟飯も誰も死んでない。」

 

「それは、安心、しました。これで、心置きなく、帰れます。」

 

ズドン!

 

そう言った直後ベジータが落ちてくる。

 

「「「「「!」」」」」

 

隠れていたヤジロベーを除く、近くにいた全員が一斉にベジータを見る。

 

「いや、大丈夫だ、死んでるよ。」

 

そう言ってベジータの方にクリリンが向かって行った。

 

「とんでもないやつだったけど、墓ぐらい作ってやるか。」

 

「貴様らの墓をか?」

 

「「「!」」」

 

「いいっ!」

 

「ずいぶんひどい目にあわせてくれたな。今のは俺も死ぬかと思ったぜ。」

 

そう言って起き上がる。あまりのことにクリリンは全く動けず、悟飯も全く援護に行けない。悟空やライに至ってはそもそも動ける状態でなかった。

 

「ちくしょう!」

 

唯一動けるスウがベジータに向かって行く。

 

「だが、ごみを片付けるくらいの力は残っているぜ。」

 

そう言うとクリリンの首筋に一閃、重い一撃を加える。吹き飛ばされたクリリンは倒れこみ、激しくせき込んだ。その咳は赤い。

 

「貴様もだ!」

 

スウをも蹴り飛ばし、六人の中心まで行く。

 

「六人がかりとはいえ、ごみどもにこれでは俺様のプライドが傷ついたぜ。貴様等次から次へと湧いてきやがって、このゴミ虫どもめが!」

 

そう言って体を広げて爆発波を起こした。唯一避けられうる体力を残した悟飯も驚愕から動けず、隙を見て攻撃しようと接近していたヤジロベーも吹っ飛ばされ、他四人はなすすべなく爆発波にやられてしまう。

 

「我ながら情けない威力だぜ。六匹ともまだ生きてやがる。」

 

六人ともまともに動けるような状態ではないが辛うじて六人とも生きていた。自分の思う以上のダメージに翻弄されながら、何とか一番近くにいた悟飯から殺そうと悟飯の元に行ったベジータは悟飯の尻尾に気づく。

 

「このガキ、尻尾が再生していやがる…!」

 

その尻尾を握りしめベジータは自分が作った月の存在を思い出す。

 

「変身でもされたら厄介だ。早く尻尾を取らないと。」

 

そう言って尻尾に気を取られた彼は後ろにいる刺客の存在に気づかない。自己中心的で臆病者な彼は、仲間の、そして地球のピンチにない勇気を振り絞る。

 

「うらあああああ!」ズン!

 

鈍い音を立てて、ベジータの背中に切り傷を入れ込む。その攻撃でベジータは倒れた。

 

「はあ、はあ…へ、へへへ、うははははは!やったぜ、どうだ、おみゃあなんかこのヤジロベー様に勝てるわけないでしょ!…へ?」

 

しかしベジータはまたも立ち上がりヤジロベーに向かって行く、ヤジロベーは剣を振り回すがヤジロベーが無意識に少しづつ下がっているためベジータに当たらない。そのうちに剣を落としてしまう。だが、悟空がその隙に悟飯を大猿にさせた。

 

「悟飯が大猿に!一か八かの賭けだ。」

 

「悟飯、頼みます…!」

 

しかしその願いむなしく、悟飯は好きに暴れまわる。だが、急に悟飯の動きが止まった。悟空が悟飯に呼び掛けたのだ。

 

「「サイヤ人だ!サイヤ人をやれ!」」

 

動きが止まったこれ幸いとクリリンとライがそう呼びかける。その呼びかけに応じるように悟飯の目つきが変わり、サイヤ人を攻撃し始める。

 

「そうだよ。悟飯は半分地球人なんだぜ。」

 

執拗にベジータを追い回すが何たるタフネス。ベジータは悟飯から逃げ回り、尻尾を切り落とす。しかしそれ以上は体力が持たず、人の姿に戻っていく悟飯に押しつぶされた。そうまでしてようやく、ベジータは撤退を決断する。

 

「こ、この俺が、まさか引き返すことになるとは。」

 

宇宙船を呼びそのわずかな距離を這って進むベジータをライが追いかける。

 

「こ、ここまでやっ…たんだから…止めを…!」

 

もはや四肢の骨は砕け、這うようにベジータに近づいていく。その最中、ヤジロベーの刀を口で嚙み取り、必死に這っていく。そこにそれを遮る人影が一つ。

 

 

「人殺しなんてお前がやらなくていいんだよ。そう言うのは年長者の役目だ。」

 

ライの前に立ち、フラフラになりながらもライから剣をとったのはスウだ。

 

ベジータが宇宙船に乗り込もうとしているころ、スウはベジータに追いつく。

 

「殺されたみんなの仇だ。」

 

刀を逆手に持ってベジータに向ける。狙いは首筋。いや、今のベジータではどこに当たろうとも致命傷で死に至るだろう。無言でベジータを見つめる。その瞳には感情がない。

 

「(待ってくれ!)」

 

刀がベジータに刺さる直前悟空の声がスウの胸の内に響く。

 

「悟空!どうしてそんなことを言うんだ。」

 

「(すまねえな。スウ、そいつを行かせてやってくれ。)」

 

「こいつを今見逃せば必ずもう一度やってくる。次も撃退できるかなんて分からない!それを、こいつを見逃すことが何を意味するか分かっているのか!!」

 

「(それは…よく分かってる、あいつのとんでもねえ強さもだ。)」

 

「じゃあ…」

 

「(でも、おら、そいつが死にそうになっているのをみて、思っちまったんだ。()()()()()()って、おらもサイヤ人なんだな。強いやつ見ると心が躍っちゃう。)」

 

そのあんまりなセリフにスウは、そしてテレパシーを聞いていたライとクリリンも目を見開く。心が躍るという悟空、こんな風に感じることを悔やんでるようでもある声音。

 

「こいつは、ヤムチャに天津飯、餃子を殺した。神様もだ。それを、お前はそれを分かっているのか!」

 

「(間違ってるのは分かってる!でも…!頼む、おらにあいつと一人で戦うチャンスを…くれ…!)」

 

その魂の叫びにも構えた剣が震えることはない。スウは既に覚悟を決めてきた。人を殺す覚悟を。そこにライが加わる。

 

「父さん…悟空のいうことを聞いてあげて…くれませんか。」

 

「お、お前まで何を言ってるんだ!?」

 

流石に動揺したか、ライの方を向きそう言い放つ。

 

「この地球があるのも悟空のおかげです。…悟空にはわがままを言う資格がある…のでしょう。それに…」

 

不本意であることは伝わってくるが、ライはそれ以外にも理由があるようだ。だがそれを口に出す前にスウが言う。

 

「分かった。分かったよ。お前ら二人がそう言うならもういいさ。次にこいつが来たとき後悔だけはすんなよ。」

 

悔しそうにそう言ってスウは剣を放り投げた。そして彼らはサイヤ人襲撃を退けたのだ。

 

 

「すいません。私のわがままに、付き合ってもらって。」

 

帰りの飛行機の中、ライが申し訳なさそうに仲間たちに言う。

 

「せっかくの一日をこの日に選んでくれたんだ。これくらい許されるさ。まあ、悟空には少し辛いかもしれないけど…」

 

「そうだ…ぞ。おめえが来てくれなきゃみんな死んでたんだ。病院に行くのが一日やそこら遅れたっておら死なねえしよ。あと一ヶ月もすれば仙豆ができるらしいしさ。それにライだってボロボロじゃねえか。」

 

「私はあの世に戻れば怪我がなかったことになりますから。」

 

彼らが向かう先は占い婆の館。少しでも長く仲間たちといるために、彼らはそこで一晩明かした。そして帰る時が訪れる。

 

 

「もう二十四時間か。」

 

悟空達は朝方先に病院に行き、スウとライだけが占い婆の館にいた。

 

「父さん、ごめんなさい…親不孝で、先に死んでしまって…私は父さんの自慢の子に…」

 

「そういう湿っぽいのはなしにしようって言っただろ。あの時、初めての武闘会の前に、お前を一人前と認めた。その結果がこれなら上出来、流石俺の子。」

 

涙を流すライとは対照的にスウの顔は晴れやかに見える。

 

「まあルミには怒られるだろうけど…死んだら会えるのか?」

 

「それは…私や悟空みたいに肉体を与えられた一部の例外を除けば、死者は天国に行くと魂だけの存在となって、意思の疎通は可能ですけど…もう母さんは生まれ変わってるはずですからその魂ももう…」

 

少しためらうがライは界王から聞いた真実を伝える。

 

「そっか、それは残念だな。」

 

「ただ穏やかに日々を過ごすみたいです。魂が別の器に移るまで。」

 

魂が別の器に移ると生き返れなくなる。個人差はあるが大体一年程度で生まれ変わるものが大多数だ。神龍の一年という期限の理由の一つがこれだ。

 

「じゃあ俺が死んだらライには会えるのか。」

 

「父さんは死んでしまっても望めば肉体を与えられるはずです。地球を救った英雄の一人ですから。」

 

「いや、そう言うのは良いんだ。俺は、天寿を全うしたらそれで終わりでいいのさ。ルミに会えるならそれもよかったんだけどな?」

 

「父さんらしいですね。私は、もう少し界王様の元で修業します。悟空に負けっぱなしは悔しいので。」

 

そう悔しそうにするライの顔には少しばかり笑顔になっていた。

 

「それじゃあ父さん!お元気で!死んだらまた会いましょう!生まれ変わる前に会いに行きますから。最もナメック星でうまくいけばそれが一番ですけど。」

 

「俺もうまくいくことを願ってるよ。」

 

こうして彼ら親子はお別れをした。彼らはそう遠くない未来に再び再会できる。ただし最悪の形で。




大猿化後ベジータ3000
元気玉後ベジータ1000
スウ600
前も言ったような気がしますが、戦闘力という指標を作った鳥山先生は天才だと思います。でもそれはそれとしてドラゴンボールにおいてこの時の戦闘力がどうこうというのは無粋だとも思ってます。だからこういうのも無粋なんでしょう。それでも考えずにはいられない私の性分が恨めしい。


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ナメック星編
(幕間)次回からナメック星編!


今回は二度目のメタ回です。でもナメック星編から読み始める人は多分いないのであらすじとかはな…くもないですけどほぼないです。サイヤ人編は短いので気になる方は是非読んでみてくださいね。


ライ「ん?ここは…」

 

スウ「気が付いたかライ。」

 

ライ「へ?父さん、どうしてここに!まさか、死んじゃったんですか!?」

 

スウ「違う違う、ほらサイヤ人編が終わっただろ。だからさ。」

 

ライ「ああ、なるほど、把握しました。」

 

ライ・スウ「これまでの…」

 

チャパ「ちょっとまった。」

 

ライ「あれ、チャパさんじゃないですか。えっと、ここにいて大丈夫なんですか?」

 

チャパ「いや、ちょっと文句を言おうと思ってね。サイヤ人編になってから一回も登場してないし。あのタグは一体何なんだとな。」

 

スウ「タグ、じゃあ、チャパお前…」

 

ライ「チャパさん、メタ側の住人になってしまったということですね。」

 

チャパ「君たちもメタ側の住人じゃないか。なってしまったとはどういうことだい?」

 

スウ「チャパ、落ち着いて聞いてほしいことがあるんだけどな。」

 

ライ「私達オリジナルキャラクターと違ってチャパさんは原作キャラですよね。多少の性格や背景の違いはあるにしても。」

 

チャパ「まあそうだな。原作では天下一武道会予選で初戦敗退してるかませとはいえ、ちゃんと原作に存在しているな。」

 

スウ「自分で言ってて悲しくなるだろそれ。」

 

ライ「追い打ちをかけるようで申し訳ないんですけど、原作キャラがメタ側の住人になってしまった場合、本編での出番はもう…」

 

チャパ「そんな、馬鹿な。確かにサイヤ人編が始まってから妙に俯瞰的な視点を持てるようになった気がしていたが…はは、すまない、少し一人にしてくれないか。」

 

スウ「…」パチン!

 

シュン!

 

ライ「作者も酷いことしますよねえ。」

 

スウ「番外編ではまだ出る余地があるんだけどな。特に修業編。」

 

ライ「実はそれ以外にも一瞬だけ出そうと思ってるところがあるらしいですよ。」

 

スウ「へえ、どこで出すんだろうな。」

 

ライ「作者の好きなキャラクターと間接的に絡ませるらしいです。」

 

スウ「ヤムチャとかかな?」

 

ライ「それはお楽しみだって言ってました。でも、馬鹿みたいにほくそえんでましたよ。」

 

スウ「自信があるってことなのかな。」

 

ライ「さあ、まああんまりひどい扱いをしないで欲しいものですけどね。いくら創造主だからって殺されんじゃたまりません。」

 

スウ「結局サイヤ人編で原作と変わったとこなんてないからな。ヤムチャとピッコロとナッパが強くなったくらいで。」

 

ライ「それも、ナッパが強くなったおかげで展開変わらないなら一緒ですよ。いくら自分が強くなっても敵が強くなって展開が原作と変わらないんじゃ、見る気も失せてしまうんじゃないんですかね。」

 

スウ「オリジナルの敵キャラとか劇場版の敵を出せば物語に起伏がつくのに何でしないんだろうなあ。」

 

ライ「創造主が何考えてるかなんて私にはわかりません。ああ、でもオリジナル展開は完結までには挟むって言ってました。」

 

スウ「結末変わんなきゃ二次創作の意味ねえぞ。ってだれか言ってくんねえかなあ。」

 

ライ「タイトルのオルタナティブの意味も全く分かりませんし一体どういうつもりなんですかねえ…」

 

スウ「あと、戦士の結末と独白の場面もいつになったら出てくるだろうな。伏線回収もちゃんとできませんでした、なんて許されんからな。マジで。」

 

シュン

 

チャパ「ただいま。心の整理をしてきたよ。ここからは私も加わろう。」

 

ライ「…すいません、この話はもう締めに入ろうかと…」

 

スウ「チャパの扱いひどいな。この作者。まあ俺たちは逆らえないんだけど。」

 

チャパ「それはもう仕方ないさ。番外編である少しの出番だけでも頑張るよ。」

 

ライ「それじゃあ、今後ともこの作品をよろしくお願いします!」




ライとスウがこの作品に対してぼろくそ言ってますし、読者の皆様も深くうなずいた方もいるかもしれませんが、ヘイトを買うことを覚悟して言いましょう。読者様たちにどんなことを言われても、私は私の小説のスタンスを変える気は、ない!低評価だろうとなんだろうとどんとこいやです。そんなことで私が投稿するのをやめたりはしません。がっはっは。


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(第二十八話)ある青年の慟哭

スウ「今日から俺が主人公!」

ライ「いくら父さんといえどそのポジションは譲れません!」

悟空「まあいいじゃねえか、おらだって原作じゃあしばらくこの話に参加できねえんだからさ。」

ライ「魔人ブウ編で悟飯から主人公の座を人気で奪ったナチュラルボーン主人公は黙っててください!」

悟飯「何か関係ないところで僕に飛び火が…」

反省も後悔もないです。ええ。




「あああああああああああああああ!」

 

雷雨が降り注ぐ悪天候の中、青年が慟哭する。自分のことなどお構いなしに叫んで叫んで叫び続ける。

 

(俺は、あの時と同じ、また…!)

 

その青年は自分の強さに自信があった。決して最強にはなれなかったけれどそれでも自分は、自分もこの世界を守れるだけの力があると、そう思っていた。今ならみんなを守れるとそう信じていたかっただけなのかもしれない。

 

(もっと、もっと強く!もう決して、負けはしない!)

 

青年はさらなる高みへと足をかけた。

 

 

 

「それでは私は界王星に戻ります。」

 

あの世に帰り、占い婆と孫悟飯を送り届けたライは悟飯と占い婆に挨拶をしていた。

 

「達者で暮らせよ。悟飯、お前もな。」

 

「「もう死んでるんですけどね。」」

 

死者特有の冗談を言い合って三人は別れた。

 

 

「ようライ、元気そうで何よりだ。」

 

そう言われて振り返るとヤムチャ、天津飯、餃子、神様が一緒にいた。

 

「元気って言っても微妙なとこですけどね。そう言えば、皆さんは肉体を与えられているみたいですけど、これから界王星に行くんですか?」

 

「ああ、俺達も悟空や、ライの受けた修業を受けてみたいからな。餃子の肉体もここでは元通りなようだし。」

 

「なるほど、ということは神様も?」

 

「いや、わしは…」

 

「そいつは行かないだろうよ。」

 

「ピッコロ!まさかあなたも肉体を与えられていたとは。」

 

「そいつは本来肉体を与えられるような善人ではないのだが、神である私の半身であるから、わしに肉体を与えると、ピッコロにも肉体を与えられるのだ。生まれ変わってから、結果的にではあるが善行しか積んでいないという点もあるし…まあ天国に行かすよりは界王様のところで修業させた方があの世は安定するだろうしな。」

 

ピッコロの悪の気は彼が生まれ変わった時と比べると非常に少なくなっており、それは彼の血の色が魔族を示す赤色からナメック星人を示す紫色に代わっていたことからも明らかだ。しかもピッコロは生まれ変わってから打倒孫悟空、そして世界征服を目標に人里離れたところで修業をしていたので人を殺しておらず、悪人の気でありながら結果的に閻魔大王の裁定では天国行きになるのである。

 

「せっかくなんで行きましょうよ。いまや地球には強い戦士は多ければ多いほどいいじゃないですか。うまくいけば神様も生き返るんですから。何なら連れてきますよ?」

 

「むう…確かにここ数年で地球は何度も脅威にさらされているからな。私も修業を受けられるときに受けておくべきかもしれんのう。」

 

(何やら胸騒ぎもするしの。)

 

「じゃあ背負うので背中に乗ってください。」

 

「…いや自分で行く…。」

 

 

「なんでい、俺はちょっと手当てしただけで終わりなのかよ。」

 

「ははは。おめえは逃げてばっかりだったからな、最後は頑張ってたけど。」

 

「俺も悟飯も一週間くらい治るまでかかるらしいからなあ。」

 

クリリンも悟飯も骨折している。普通は一週間では治らない。この二人も常識の枠外にある人物なのだ。それは悟空も。

 

「おらなんて最初見てもらったときはもう普通に生活できるようになれればいい方だって言われたぞ。診断が終わるころには医者のおっちゃんがすげえ顔して二、三ヶ月もすれば完治するって言ってたけどな。」

 

「お前らうらやましいなあ。俺は怪我の具合は悟飯たちと変わらないのに全治二週間だってよ。」

 

スウの怪我の治り具合は常人よりも早いがその程度。しかし、スウも年齢を考えれば凄まじい。

 

 

 

「ただいま帰りました。」

 

占い婆と孫悟飯を無事に送り届けた後、ピッコロたちよりも一足先に再び界王の元に帰ってきた。

 

「無事に戻ってこれて嬉しいぞ。よくぞサイヤ人を退けた。死なんですんだこともな。」

 

「何言ってるんですか、私もう死んでるんですよ。もう死ねないじゃないですか。」

 

そう笑顔で言うライに対して界王は複雑な表情でいう。

 

「お主…知っとったのか?」

 

「あの世でもこの世でも存在できなくなり消滅する…でしたかね。生まれ変わるなら記憶もなくなりますし、どうせ変わらないでしょう?」

 

呆気からんというライに界王は穏やかな顔で言った。

 

「お主はまだまだ強くなる、もう数年も修業したら大界王星に連れてってやることにしよう。あのサイヤ人など目じゃない戦士がたくさんおるぞ。」

 

「そんな戦士がいるなら占い婆に頼めば…」

 

「馬鹿もーん、死者に頼るなぞ何事か。本来、界王が贔屓にしてはいけないのじゃ。修業をつけることすら特別なのじゃぞ。」

 

そう言う発言には思いがこもっていない。おそらく建前なのだろう。

 

「いや、私も死人ですけど…」

 

「そもそも、そこで修業をしている者は何千年、何万という単位で修業しているのじゃ。地球に行ったら病原菌に侵されて死ぬ。地球人が当たり前に持っている免疫を死人はもっておらん。元地球人でも病原菌の種類は数百年もたてば変わるしな。」

 

「なるほど…死者の力は簡単には使えないということですか。」

 

がっかりとした表情でそう言うが、その顔は少しすっきりしていた。

 

 

 

「スウさんもクリリンさんも技が多彩ですよね。僕まだまだだなって思い知らされますよ。」

 

「いやあ、悟飯も相当なものだぞ。」

 

「なんせ、悟空の血を引いて、ピッコロに修業をつけてもらったわけだもんな。そりゃ強いはずだよ。」

 

宇宙船で暇な一ヶ月ほど、スウ、クリリン、悟飯は三人でイメトレに勤しんでいた。スウの怪我が治るまでの一週間でブルマは人が冬眠状態のようにできる長期睡眠装置を発明し、一人カプセルの中で眠っている。

 

「それにしても、スウさんのその発想力というか、即興の構築力は流石ですよね。戦い方がライっぽいですよ。まあ、親子だから当然か。」

 

「まあ、ライの最初の師匠は一応俺だからな。根幹の部分は俺と同じだし、戦い方は似る部分もあるんだろうな。最も、あいつはもう俺なんかよりずっと強いんだけど。」

 

話していると、ブルマが入っていたカプセルが一人でに開き、中からブルマが起きてきた。

 

「うーーん、あら?あなたたちはこのカプセル使わなかったの?せっかく人数分用意したのに。」

 

「あ!ブルマさん、おはようございます。」

 

「ブルマが起きてきたということはもうすぐ着くのか?」

 

「ええ、明日の午前中に着く予定ね。今から二十四時間後くらいよ。」

 

「じゃあ少し起きるの早かったんですね。」

 

「私は宇宙船の操縦があるでしょ。だから早く起きたのよ。君たちのはそれこそ明日の朝にセットしておいたのにさ。」

 

唇を尖らせてブルマはそう言った。

 

「「「ははは。じゃあ、帰りは是非それを使わせてもらいます。」」」

 

「あのさあ、ナメック星に酸素があるかどうか、そもそも人間にとっては猛毒なガスが充満してるかもしれないのに何の調査もしないで外に出るなんてどういう神経してるわけ!?」

 

「「「すいません…」」」

 

ナメック星に着いたそばから宇宙船を飛び出したスウ達はブルマからのお説教を受け、三人とも正座で縮こまっていた。

 

「この星は運よく、大気が地球とそっくりだったから大丈夫だったけど、もしこんなことが次もあったら…分かってるわね?」

 

「「「はい…」」」

 

年長者であるスウが縮こまってしまっているのだ。クリリンや悟飯が委縮するのも当然だろう。

 

「全くもう。ま、ドラゴンボールがあればいいけどさ。」

 

そう言ってドラゴンレーダーを起動させる。その画面には確かにドラゴンボールの反応が写っていた。

 

「やった、反応があるわ!」

 

「「やったやった、いやっほぅぅぅ!」」

 

ブルマの言葉にクリリンとスウが手を合わせて踊る。するとその時悟飯が何かを感じ取った。

 

「クリリンさん、スウさん、あっちに強い気が。」

 

「ほんとだ。」

 

「しかも強い気がたくさんあるな。」

 

「ど、どういうことだ。」

 

感じる気の大きさに数、何より質に三人に動揺が走る。

 

「何言ってるの、ナメック星人でしょ?神様やピッコロがあの強さなら本家のナメック星人が凄い強さだってなにも不思議じゃないわ。」

 

「だが…」

 

「ちょっと嫌な感じの気ですね。」

 

「大丈夫よ。本来ナメック星人は穏やかな種族だって界王様も言ってたじゃない。」

 

「…だ、だよな。そうだ。ナメック星人だろ。ビビることはないさ。さあ、少し休憩したらドラゴンボールを集めに行こう。」

 

スウがそう言って場をとりなした時、一同の目にとんでもないが写る。ナメック星にベジータが乗ってきたポットと同じものが降ってきていたのだ。

 

「あれは…サイヤ人が地球に来るときに乗ってきたポッドだ。」

 

「あの気は間違いなくベジータとかいうやつだろ。」

 

「どうする?もう駄目よ。サイヤ人が来ているなら地球に帰るしかないわよね!?」

 

半ば願望。サイヤ人に関わりたくないという思いは根深い。

 

「…俺は残るぞ。サイヤ人にドラゴンボールを渡したらそれこそ地球は終わりだ。あいつが不老不死になって地球に来るんだからな。」

 

「僕も残ります。」

 

「俺もです。頭数は少しでも多いほうがいい。ブルマさんはこのことを地球に連絡してすぐに帰ってください。」

 

「でも!」

 

「大丈夫、こっちにはレーダーがあるし、気も消せますから一つでも手に入れられれば最悪の展開は回避できます。」

 

「分かったわ。地球に帰ったら孫君連れてすぐに迎えに来るから。往復で二ヶ月ちょっとだけど…待っててね。」

 

「二ヶ月…」

 

「大丈夫!二ヶ月なんてあっという間よ。たったの六十日!千四百四十時間!八万六千四百分!五百十八万四千秒!ね!」

 

不安そうに言う悟飯を安心させようとブルマは大げさに明るくそう言った。

 

 

 

「そう!だから孫君にそう伝えて!頼んだわよ!」

 

ブルマが電話をしているころサイヤ人が乗ってきたポッドがまたナメック星にやってきた。

 

「これは、人生で一番長い二ヶ月になりそうだな…」

 

スウの言葉が重くのしかかる。状況は悪化していく。

 

「こうしちゃいられないわね。じゃあ私は地球に帰るから、ドラゴンボールは頼んだわ。頑張ってね。」

 

努めて明るく言うブルマが宇宙船に入ろうとするころ、悟飯が何者かが接近していることに気づく。

 

「誰か来ます!」

 

「ええっ!」

 

「ナメック星人さ。きっとな。」

 

そう言いながらもスウは気の方向に向けて構えをとる。気を消してはいるが、すぐに動けるようにしているのだ。そしてその気の主が姿を現す。

 

「ナメック星人じゃないわ。」

 

「これは向こうにあるたくさんの気もナメック星人じゃないかもな。」

 

宇宙人、フリーザの兵士たちは、舞空術を使って接近してきた。三人が相手の出方を伺っている中、フリーザ兵の一人が手持ちの光線銃を宇宙船に放つ。

 

「まずっ!」バシッ!

 

ギリギリのところでスウがはじく。

 

「危なかった。ナイススウさん!」

 

ブルマがスウに向かって親指を立てているころにはもうクリリンと悟飯が動き出していた。

 

「なかなかやるじゃねえか。ん、あのチビ達はどこに…」ガン

 

「オベッ!」ドン!

 

ドッボーーン!

 

フリーザ兵たちは二人して湖に落ちた。

 

「「イェーイ!」」

 

「いや、正しいよ?正しいのだけどね?」

 

さっくりと敵を殺した悟飯に対してなんとなくやるせない気でスウは見つめた。そう、殺したというある種の油断に辛うじて生き残ったフリーザ兵の一人が湖から顔を出し光線銃を放った。

 

「貴様等一人だけでも…!」

 

「危ない!」

 

誰が一番弱いのか、スカウターで測れなくとも目算でブルマに放つ。この場においてそれは最適解だった。

 

ガスッ!

 

スウが何とかはじくが、はじかれた先には宇宙船がある。宇宙船の外装の脆い窓にぶつかり窓が割れてしまった。

 

「波あああ!」

 

クリリンがそいつに気功波を放ち、今度こそフリーザ兵は絶命した。

 

「う、宇宙船が…」

 

悟飯がそう言うのを聞いてブルマたちが途方に暮れる。

 

「もうちょっと余裕があればはじく方向も調整できたんだが、すまない、直せないのか?」

 

「無理に決まってんでしょ。ここにはまともな機材もないのよ。いくらあたしが天才でも、地球の技術を二歩も三歩もずっと先行く技術を何とかするならここじゃとても無理よ。」

 

「それは…そうか。まあ、とりあえずこの場所を移動しよう。」

 

「そうですよ、さっきの奴のもっと強い仲間が来ちゃうかもしれませんから。」

 

「そうですよ。宇宙船だってナメック星人が直してくれますよ。さあ、行きましょう。」

 

「楽観的でいいわね。あんたたち」

 

ひとまず四人は移動する。




スウ1800
死闘を経て三倍にパワーアップ、ベジータ戦では変身して戦ってたので変身なしで一ヶ月前の実力を出せるようになりました。スウだけ怪我の治りが遅いのは、こいつ置いてけばフリーザ編でライが出るまで書かなくてええやんって思ってた頃の名残です。せっかくなのでブルマが長期睡眠カプセルを作りました。この一週間の遅れはフリーザ達も一週間準備に戸惑ったってことでお願いします。


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(第二十九話)悪魔の一手

執筆中には前書きや後書きに何書こうか考えて案を頭の中においてるのに完成した瞬間にすべて忘れる。なぜでしょう。


かなりの距離を歩いたブルマたちは手ごろな洞穴を見つけた。ご令嬢であるブルマは洞穴生活に抵抗があるようだがしぶしぶ洞窟に入っていく。

 

「クリリンさん、スウさん。向こうに気を感じませんか。」

 

「ほんとだ。さっきとは違う感じの気だな。」

 

「今度こそナメック星人かもしれませんね。」

 

先ほどまでとは違う、優しい感じの気を探っているとスウがそこに向かって飛んでくる気をいち早く感じ取った。

 

「!みんな、気配を殺して洞窟に隠れろ!あっちから別の気が近づいてくるぞ。」

 

「こっちに向かってくる…!」

 

「僕たちのこと、バレたのでしょうか。」

 

悟飯の心配はとりあえず杞憂に終わり、その集団はその場を素通りしていった。

 

「よかった、あの人たち、私達が目的じゃなかったのね。で、でも今のは一体何だったの?」

 

ブルマが三人に向かって言うと三人は金縛りにあったように固まり唇を震わせていた。

 

「ブルマさん、ドラゴンレーダーで確認を。」

 

「四つのドラゴンボールがどうなってるか調べてくれないか。」

 

クリリンとスウがそう言ってブルマがドラゴンレーダーを確認するとその集団がドラゴンボールを四つ持っていることが分かった。

 

「悟飯、クリリン、感じたか?あの、前から二番目の奴の気。」

 

「はい、ものすごい力を感じました。」

 

「あいつだけは桁違いだ。ベジータの比じゃないとんでもない強さだった。」

 

「ベジータより?そんな、何者なの?」

 

「分からないが…」

 

スウが言いよどむとクリリンが吐き捨てるように言った。

 

「ちきしょう!あんな奴からどうやってドラゴンボールを奪えば…!」

 

「服装からしてベジータの仲間だろうな。」

 

「今の連中、もう一つのドラゴンボールに向かってる。どういうことなの?」

 

「クリリンさんがナメック星人の気を感じたところです!」

 

「俺、様子を見に行ってくる!」

 

「僕も行きます!」

 

「ちょっとちょっと行ってどうするのよ?」

 

「相手が万が一ドラゴンレーダーを持ってるとしたら一巻の終わりです。それだけでも確かめてこないと。スウさんは残っててください。俺たちに何かあったら、すぐにここを移動できるように。」

 

「分かった。無理はするなよ。何があっても飛び出したりするな。」

 

「ええ、分かっています。悟飯!気を抑えながら急ぐんだ。行くぞ!」

 

「はい!」

 

二人は舞空術を使わず、それでも凄まじい速度で様子を見に行った。

 

 

二人が凄い速度で去っていった。

 

「大丈夫かなあの二人…」

 

「クリリンはまあ、自分の分をわきまえているしへまはしないだろう。問題は…」

 

「悟飯君?彼もしっかりしてるし大丈夫だと思うけど。」

 

「あいつは正義感が強すぎる。それは決して悪いことじゃないが…もし、あの集団が非道の限りを尽くしたら、悟飯は飛び出しても不思議じゃない。っと俺は少しこの先にいる気の持ち主の元に行ってみる。この気は多分ナメック星人だ。生き残ってるナメック星人ももうきっとほとんどいないはずだし、今は少しでも情報が欲しい。」

 

「そうね。確かにそうだわ。じゃあ私はこの洞穴にカプセルハウスを用意しておくからお願いね。」

 

「ああ。」

 

 

スウが洞窟を離れてすぐに五つあった気から三つ離れた。

 

(五つあった気から三つ離れた。あの集団が向かった村に向かってる。多分助けに行ったんだろう。ナメック星人は気を探れるのか、いや、でも…?)

 

気を探る能力があるのならば力の差が歴然であることもすぐにわかるはずだろう。スウは不審に思いながらもベジータ達に気取られないよう気を抑えつつ、その二人の元へ向かう。その間にフリーザたちのいるところでは波乱の展開が巻き起こる。

 

(!悟飯!あのバカ!飛び出しやがって!)

 

援護に行くべきか逡巡するが、すぐに二人が逃げた始めたことを確認し、ナメック星人を優先する。

 

(大丈夫。クリリンが飛び出したってことは逃げきる算段か何かしらあるはずだ。)

 

より一層気を抑えてナメック星人の元に向かった。しかしそう悠長にしているうちにもどんどん事態は変化する。スウが向かう先のナメック星人たちがデンデのいた村で生き残ったフリーザ兵と遭遇してしまっていたのだ。

 

 

「三人は無事でしょうか?」

 

畑仕事に出かけたのは五人、村の様子を見に戻ったのは戦闘力が完成している大人たち三人。残ったのはもうすぐ畑仕事から長老の補佐に仕事を移すことになる初老のナメック星人と、最近畑仕事を始め、大人の仲間入りをした青年のナメック星人。

 

「むう…嫌な予感が一向に晴れない。村の者たちが無事だといいのだが…」

 

村のことを気にしながらも畑仕事を継続する二人のナメック星人の元にフリーザ兵が通りかかる。

 

「ん?あいつらは…ナメック星人じゃねえか。しかもまだ年端も行かねえガキと爺さんだ。これなら俺でも十分に制圧可能だろう。ほかの村のことを聞き出せれば…」

 

そう、あの三人の猛攻に勝つとまではいかずともやられないでいられただけの戦闘力。ザーボンやドドリア、キュイにすら遠く及ばないながら、確かにこのフリーザ兵、アプールもエリートの部類なのだ。

 

「!サウン、構えなさい。何やら邪悪な気配の持ち主がやってきたようだ。」

 

アプールが接近してきたことで、初老のナメック星人ガウがその気配を感じ取る。それを聞いて青年のナメック星人サウンもガウに倣った。

 

「このような星に何用かな?」

 

「ナメック星人が住んでいる村についてすべての正確な場所を話してもらおう。俺たちはドラゴンボールを探しているんだ。」

 

「貴様からは邪悪な気配を感じる。ドラゴンボールや村の情報を渡すことはできない。この星を立ち去るがよい。」

 

ナメック星人は龍族のようにもとから備わる能力とは別に年齢と共に備わる能力がある。相手の善悪を見抜くこともナメック星人の持つ能力なのだ。しかし戦闘タイプでないナメック星人は最長老クラスにならなければ彼我の戦力差を知ることはできない。だが、ナメック星人は子供を除けば戦闘力1000はゆうに超える超エリート種族。大抵の宇宙人には負けない、性格によってはサイヤ人に匹敵するほどの戦闘種族として名をはせただろう。先の発言は何も間違っていない。ただ、相手が悪いだけだ。

 

「では少し痛い目にあってもらうぞ。」

 

アプールが動き出し、ナメック星人二人とフリーザ兵の語られなかった戦いが始まる。

 

 

「くっ…」

 

「ガウさん!大丈夫ですか!」

 

「やはり先程のナメック星人たちほどの実力はないな。俺でも十分勝てる。もちろん苦しめて村の場所を聞きだすがな。」

 

「わしがもう少し遅くに生まれておればこ奴如き…!」

 

二人がかりで戦うも、戦いに関してはこれから指導を受けようというサウン、体が衰え始めて久しい上に超能力といった技をこれから長老たちに教わろうというガウ、戦況は圧倒的に不利だった。

 

「サウン、わしが時間を稼ぐ、お前は逃げるのだ。このままではわしらは二人とも捕まる。大丈夫。同胞を裏切ることは絶対にせん。お前はこのことを最長老様に伝えるのだ。」

 

「そんな!同胞を、ガウさんを置いて逃げるなんてできません。俺がもう少しうまくやれればまだ勝ち目はあります!」

 

「無駄だ。こやつは今の我々が勝てる相手ではない。みすみす死ぬことはあるまい。お前は大人になったばっかりなのだからな。」

 

ガウが覚悟を決めた時、二人にとっての救世主が舞い降りる。

 

「やっ!」ガスッ!

 

「では三人ならどうだろう?」

 

アプールを蹴り飛ばし、スウはそう言い放った。

 

「話は後といいたいところだけど、簡単に状況を話す。あんたの村の仲間たちはあいつの仲間に皆殺しにされてドラゴンボールを奪われた。俺はあいつらとは別口でドラゴンボールを探しに来た地球人だ。今は少しでも情報が欲しいから危険を冒して助太刀する。では行くぞ!」

 

そう言うとスウは気を開放してアプールに飛び込んでいった。

 

「フン!」ガシッ!

 

アプールに向かって殴り掛かるがアプールはそれを受け止める。

 

「さっきは不意を突かれたが、貴様もそこのナメック星人たちと大して変わらん実力なんだろう?貴様ごときが一人増えたくらいじゃ俺の優位は崩れないぜ!」

 

そう言うと空いた左腕でスウを殴り飛ばし、追撃に来たサウンも蹴り飛ばす。

 

「助けに来たのに役目を果たせなそうだな…」

 

何とか起き上がると弱音を吐きながらもアプールに向かって行った。

 

「「「やあああああ!」」」

 

三人がかりで猛攻を仕掛けるもアプールはうまく躱しきる。

 

「よっよっはっ…フッ!」

 

「グッ!」

 

「グハッ!」

 

ガウがやられ、スウもやられてしまう。

 

「最後はお前だ!」

 

「カハッ…!」

 

サウンも重い一撃を受けて倒れこんだところを蹴り飛ばされた。

 

「サウン!」

 

ガウが呼びかけるが彼はうめくだけで立ち上がれない。

 

「助けに来ておいてこの体たらく。全く恥ずかしい限りだ。…奥の手を使うことにする。頼むからこれを使ったからって俺を拒絶しないでくれよ?」

 

「奥の手?」

 

「できることならこれを友好関係を結びたい人たちには見せたくないのだが、このままだとこちらに死人が出る。」

 

「ごちゃごちゃと今さら逃げる相談か?さあおとなしく捕まるんだな!」

 

アプールが接近してくるそれに合わせてスウは必殺技を放った。当たれば文字通り必ず殺す技。ある世界線では全く使われなくなった悪魔の一手、アクマイト光線を。

 

「アクマイト光線!」

 

両手を額に合わせてアクマイト光線を放つ、今まで一度も気功波を放たなかった相手が急に打ってくる気功波にアプールはもろにアクマイト光線を受ける。

 

「む、なんだこれはエネルギー波ではない?…うおおおおおおお!」

 

アプールに当たったアクマイト光線はその効果を十全に発揮する。アプールの悪の気を増幅させアプールの体がだんだんと肥大化していった。

 

「さあ、とどめだ!ボカ…は?」

 

少し間抜けな掛け声と共にアプールは爆発するはずだった。しかしアプールは両手から気功波を放つことで増えた悪の気を逃がしていた。

 

「なるほどな。エネルギーを増やすことで自滅させる技とは面白い技だ。だが、エネルギー波なんてフリーザ様の兵士ならだれでも打てるぜ?では、このフルパワーエネルギー波を食らえ!」

 

そう言うとアプールはフルパワーのエネルギー波を連続で放つ。

 

「くそっ!普通あの速さで対策できるかよ!」

 

「技は失敗ということか!?」

 

エネルギー波は一つ一つがとんでもないものだが大ぶりな攻撃だったために何とかガウとスウは避けていた。

 

「腕が肥大化してから気づいたのがせめてもの救いだ。攻撃が雑にしか打ててない。でもこの技の効力が切れるまでしばらく逃げ回ってくれ!」

 

「ひいい!」

 

ガウがここ何年も出していないだろう悲鳴を上げるほどに状況は切迫していたが何とか効果が切れるまでスウとガウは避けきった。

 

(サウンが動けないのはむしろよかった。生け捕りが目的な以上、この気功波の嵐を受けずに済んだ。)

 

ガウが何とか避けきりサウンの無事を見て安心していると、再びスウがアクマイト光線の構えをとる。

 

「!やめろ、それはもう通じない!それどころかさっきよりも精度の高い気功波がくる!」

 

それを見たガウが止めようとするがスウはアクマイト光線を発射する。それを見てアプールは無防備にそれを受けようとするがその光線はスウ自身に向けて放たれた。彼はピンクのオーラをまとい、気が悪に染まっていく。

 

「気づかなければ、ラッキーだったが…気づいたなら仕方ない。じゃあ、この技本来の力を見せてやろう…お前らは、下がれ…」

 

自信にアクマイト光線を当てると何が起こるか、そう、悪の気が()()()

 

「あまり、強くすると、心が…悪に取り込まれる、のでね。それじゃあ、第二ラウンドと行こう…!」

 

心身が侵食されていく感覚。界王拳とは違った意味で負担がかかる技。二倍より強くすると問答無用で心が悪に染まる。あまり長いこと使っていたい技ではない。しかし、この技でアプールの戦闘力を確かに()()()

 

「なにっ!」ドン!

 

「うっ…」

 

最初と同じ軌道で殴ってくる攻撃をアプールも同じ動きで受け止める。しかしその衝撃だけで気圧される。そのために左腕で反撃をする前に相手の蹴りを食らった。

 

「おらよっ!」バキッ!

 

「あが…」

 

顎を強打してまともに言葉を発せなくなったアプールに対してスウは残忍な笑顔を浮かべた。

 

「他愛、ない…じゃあな。」

 

悪の気を発散するかのように気功波をアプールに打ち込んでアプールは絶命した。

 

 

スウの戦いを唖然とした表情で見ていたガウ、そして意識を取り戻したサウンは敵を倒し、オーラが消えたスウを前にしても、すぐには感謝の言葉を告げられなかった。

 

「こうなる気がしたからやりたくなかったんだけど、これしかなかったんだ。悪いね。俺を悪と断ずるのは構わないけれど、今の戦いを理由にドラゴンボールを渡せないといわれたら…」

 

次の言葉を言う前にガウが言葉を遮っていった。

 

「いや、すまない。恩人に対してとって良い態度ではなかった。わしたちを救ってくれたあなたに感謝を。」

 

「ありがとうございました。」

 

「いや…こっちもこの星には少し前に着いたばっかりでね。何が起こってるのか、知ってることを教えてほしいんだ。もちろん、俺が知ってることも全部話そう。」

 

 

 

時を少し進めてスウがアプールを討った時から数時間後。ザーボンは予定していた三時間が経過したため、フリーザの宇宙船に戻ってきていた。

 

「遅い、三時間後に集合といったというのに。」

 

アプールに対するザーボンの評価は高い。三時間後といったら三時間後に来ると信頼していた。

 

「チッ、戻ってきたらきつい仕置きが必要だな。少しは休ませてやろうと思っていたが…おい。」

 

「はっ!」

 

「ナメック星人の村を再び探す。今度は貴様に手伝ってもらうぞ。お前はあっちだ。ついでにアプールを見つけたらすぐに戻って来いと伝えろ。」

 

アプールの代わりに手近な兵士に指令を与え、再び村の探索を始めた。ザーボンがベジータと出会うのはもう少し先である。




アプール2400
サウン1850
ガウ1750
備考
ナメック星人:戦闘タイプ・気のコントロール相手の気を探る能力にたける。
ナメック星人:龍族・回復能力、ドラゴンボール作成能力あり。
ナメック星人:通常・年齢と共に能力を取得。
アクマイト光線1.5倍が基本限界、それ以上は悪に染まる可能性がある。
2倍を超えると精神汚染、2倍ちょうどで五割の確率で精神汚染

アプールは原作ではこの二人を生け捕りにし情報を得ようとしますが、とらえたところを二人に自害されて情報を得られず、そのためザーボンにも報告をせずに何食わぬ顔で三時間後に合流、フリーザ船で雑務をこなすことになった。その後メディカルマシンでベジータが意識を取り戻したことにより殺される。というストーリーが私の中に出来上がっています。アニメの矛盾はこの流れで補完できる?


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(第三十話)不足を補うもの

今後の展開に全く関係ない話をします。
前話の後書きで二倍ちょうどで精神汚染確率半々と言いましたが、厳密には二倍弱です。善の気と悪の気がちょうど同じ量になった時に半々なので。だから仮にスウが善の気と悪の気が9:1だったとしたら戦闘力1800のスウは(1800-180)×2で3240が半々ラインとなります。実際にはもっと少ないと想定し、面倒だから悪の気ほぼ0と近似して二倍としてますけどね。


「たった一ヶ月だというのにものすごく強くなったな。やはり、一度の死線は修業の何倍にも匹敵するというのは確かだのう。」

 

「ははは。まさか自分がここまでになるとは思いませんでしたよ。今の力があの時あれば誰も死なせなかったのに。」

 

ブルマたちがナメック星に着いた頃ライは界王星での修業でとてつもないパワーを身に着けていた。

 

「ラディッツと戦った後も凄まじいパワーアップでしたが、今回はそれ以上ですね。」

 

「すぐに修業したのが効いていたのだろうな。あの世に来れば怪我はなかったことになるからの。」

 

「まあでも…」

 

「うむ、実際に死んですぐ修業すれば…いやこの伸びはそれだけの理由ではとどまらん気もするが…」

 

そう言ってライと界王は精神統一をしているピッコロとヤムチャを見る。ピッコロはそれが終わったのか目を開いた。

 

「おい貴様、界王と話す余裕があるなら組み手をしてもらおう。」

 

「ええ。分かりました。お相手します。」

 

ヤムチャとピッコロは一週間ほど前に蛇の道を踏破した。しかも二人はお互いに妨害ありのルールで界王星まで競争をしていたらしく、界王星に来る頃には二人とも既に地球に襲来したベジータをも凌駕する実力を身に着けていた。そしてそのまま界王に弟子入りし、この短期間でライに匹敵する実力を身に着けたのである。

 

「波あ!」

 

「よっ!」

 

組み手といいながらいきなり気功波を放つピッコロ。それを予期していたように躱すライ。躱しざまに接近して今度こそ組み手が始まった。

 

「「はー!はっ、やっ、てりゃあ!」」

 

拳を膝で蹴りを肘で、お互いに防ぎあう。

 

「あいつらこんな狭い星で組手なんてあんまりやってほしくないんだがのう。」

 

「ははは。もう少し広い星を作ったりは出来ないんですか?界王様ならできそうなものですけど。」

 

ヤムチャも精神統一を終わらせて二人の組み手を見ながら界王にそう問う。

 

「わしはこの星を気に入ってるんじゃよ。小さいながらもこの星自体の強度は相当なものだしの。ただ、車や家はそうでないから困るのじゃが。あとわしも。」

 

「それは…すいません。」

 

「謝ることはないぞ、車も家もわしが手作業で作っておるが、やろうと思えば一瞬で作れるものなのじゃからな。まあ、わしとバブルス君、それにグレゴリーのことは気を使ってほしいがの。」

 

「修業をつけてもらっている身ですから今後はより一層注意を払います。」

 

「うむ、それではお主もそろそろ修業を再開せい、体の動かし方を再構築するんじゃ。界王拳を覚えるための下地になる。励めよ。」

 

「はい!」

 

その数分後天津飯、餃子、神様が到着する。

 

 

「なるほど、ドラゴンボールを同胞を殺しながら強奪している一派がいるのか。そしてお主たちはその一派に殺された仲間を生き返らせるためにドラゴンボールを集めていると。」

 

ガウが得心を得たような顔で頷く。

 

「その一派は既にドラゴンボールを五個集めたと。…いや待て。どうやってその一派はドラゴンボールの位置を知っているんだ。貴方みたいにレーダーを持っているわけではないというのに。」

 

サウンは話を少し読み切れなかったか、疑問を口にした。

 

「多分気配を探る力を持つ戦士がいたのだろうさ。それで村を探していたというわけだ。ただ、そいつはあんたたちの村で何かあって死んだんだろうぜ。それで村を探しているんだろう。」

 

「では、まだ最長老様のドラゴンボールはとられていない可能性が高い。最長老様のところに行こう。案内する。とにかく最長老様に事情を説明しなければならないのでね。」

 

そう言ってスウとサウン、ガウは最長老様のところに向かって飛んでいった。

 

 

「!この気は…クリリン!クリリンだ!」

 

最長老のところに向かうところ同じく最長老のところに向かうクリリンとデンデに合流した。

 

「!スウさん!」

 

「デンデ!デンデじゃないか。」

 

「ガウさん!サウンさん!良かった。無事だったんですね。」

 

「感動の再会は後だ。ベジータともう一人の凄いやつと潰しあってるうちに最長老の元に急ごう!」

 

「ああ、そうだな。急ごう!」

 

五人は急いで最長老のところに向かう。

 

 

「最長老様はあの家の中に。」

 

最長老の元に着いたスウ達は岩山の上に立つ最長老の元に着いた。するとすぐにドアが開き中からネイルが出てくる。

 

「ネイルさん、無事だったんですね。」

 

「よく来たな、ムーリ長老の村の者たち、そしてお客人よ。最長老様はおおよその成り行きを知っておいでだ。中へ入ってくれ、最長老様がお会いになる。」

 

(こいつ、できる。ベジータにすら…?)

 

スウとクリリンが頷きあっている間にみんなが中に入っていった。遅れてスウとクリリンも続く。

 

「ようこそ、地球から来たお客人よ。まずは同胞を守ってくれた礼を。ありがとう。」

 

「いえ、俺は大したことは…」

 

(目が見えているようには見えないが…この人も相当だな。いや相当だった、か。)

 

「悪党たちのせいで我が子はほとんど殺されてしまった。無念です。ナメック星人の知恵と力の証である希望の玉がまさかこのようなことを。」

 

「単刀直入に言うが、あなたのドラゴンボールを渡してくれないか。あいつらには決して渡さないと約束する。だから…頼む。」

 

そう言ってスウは深く頭を下げる。クリリンもそれに倣う。

 

「ドラゴンボールを知っているのですか?」

 

「ええ、地球にもあったんです。地球に逃れてきたナメック星人がいました。そのナメック星人がドラゴンボールを作り出したんです。そのナメック星人もサイヤ人に…」

 

「そうか、カタッツの子か、地球にたどり着けたとは。あの子は龍族の天才児だった、相当の強さを持っていたはずですが…。まさか超サイヤ人ですか?」

 

「え、超サイヤ人?」

 

何のことだというような声音で言うクリリンに気を害した風もなく最長老が二の句を継ぐ。

 

「少しこちらに来ていただけませんか。少し地球の過去を探らせてくだされ。」

 

そう言うとスウとライを両脇によび地球の過去を見た。

 

「体が二つに分離してしまうとは。神になるためには悪の気はわずかたりともあってはならないのか。元通り一つになれば死なずに済んだかもしれないのに…」

 

「「一つ?いや、え?」」

 

二人が驚愕している間にも最長老は一人話を進めていく。

 

「まあよろしいでしょう。あなた達の望みは純粋なものだし、ここまでの勇気は評価に値します。このドラゴンボールはあなた達に差し上げます。ですが、願いは叶わないでしょう。私の寿命はあと数日ですかから。」

 

「それでも、受け取ります。あんな奴らに渡すよりはずっとましです。僕たちはこれを命がけで守ります。」

 

そう言うクリリンを見て最長老が頭に手を置きなおした。同じようにスウにも逆の手で手を置く。

 

「貴方たちはとびぬけた力を持っておいでのようですね。ですがまだ眠った力がある。その力を起こして差し上げます。」

 

「いや、もうそんな力ないっすよ。さんざん修業しましたし、もう限界超えてるくらいなんですから…」

 

そう言うクリリンの言に最長老は口角を上げて潜在パワーを開放する。

 

「私が開放するのはあなた達の眠った力のほんの一部です。体が耐えられる範囲でしか眠った力は起こせません。ですがこれによってあなたたちは今後もしばらく潜在パワーが目覚めやすい状態が続きます。何とかあ奴等から逃げ切ってください。」

 

「…あ、あああ」

 

「力が、力がどんどん湧いてくる!!」

 

「そちらの、あなたは変身型の地球人ですね。変身型の種族の潜在パワーは目覚めやすいのです。その力をうまく使い、邪法は極力控えるのです。頼みましたよ。」

 

二人は相当なパワーアップを果たし、仲間の悟飯も力を引き出してもらえるように連れてくるため一度洞窟に戻る。

 

「これだけの力ならすぐに悟飯を連れてこれる!」

 

「ああ、急ごう!」

 

超ハイテンションで二人は洞窟に向かった。急激なパワーアップを果たした彼らは気づかない。ベジータが追いかけてきていることを。二重のチェイスが展開されていく。

 

 

一方その頃孫悟空は…

 

「悟空よ、聞こえるか、悟空~あれ?」

 

「その声は界王様か?」

 

二十倍重力に慣れ三十倍もものにしようかという頃界王様からテレパシーが入った。

 

「お前宇宙にいるのか?ああナメック星か。ドラゴンボールがあるといいのう。」

 

「のんきなもんだよ界王様。今地球ではとんでもないことにってるっていうのに。」

 

「とんでもないこと?まあその話は後にして、実はなこの星に客がきたんだ。しかも五人じゃ。」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「お前よりはるかに短い時間でここに到達したんじゃ。ライも界王星にいるがライのことじゃないぞ?」

 

「ま、まさか」

 

「みんなお前より厳しい修業を積み始めたぞ!」

 

「すごいや!みんな揃って界王様のところに着いたんだ!」

 

そう感心していると悟空の心にヤムチャの声が響く。

 

「俺たちのためにドラゴンボールを探してくれてるんだってな。」

 

「五人って言ったな。ヤムチャと天津飯、ピッコロと神様とあと一人は…」

 

「なんと餃子だ。神様が体を再生してくれたんだ。」

 

「餃子か、そっかそっかよかったな、餃子。」

 

「しかしここの重力には驚いたぜ。おかげで相当強くなれた。今なら悟空にも勝てるかもな?」

 

「はっは。おら負けねえぞ。おらももっともっとすげえ重力で修業始めてんだ。後五日半でもっと強くならねえととんでもないことになるからな。」

 

ことのあらましを聞いたヤムチャを通してナメック星の話をライ達も聞いた。

 

(わしが感じた胸騒ぎはこれのことか。だがこんな話を聞けばピッコロは…)

 

神様の懸念通りピッコロが生き返ってナメック星に連れていけと悟空に告げる。

 

「もしピッコロが行くなら私も…」

 

私も行くとライは言えない既に二度死に占い婆に生き返らせてもらってもいるからだ。肩を落とすライに神様が念話をする。

 

「(お主が行きたいのであれば私の力で疑似的ではあるが生き返らせてやる。きっとそのために私は界王星に来たのだ。)」

 

「(神様…)」

 

思惑が入り交じった界王星での修業が再開される。

 

 

 

「ブルマさん。外に出てたんですか?危ないですよ。やつらに見つかっちゃいますよ。」

 

洞窟に着いたクリリンとスウは洞窟の外で本を読んでいたブルマと合流する。ブルマが本場のドラゴンボールに驚いているとスウとクリリンが気を感じ取る。

 

「気が!この場に向かってきてる!すぐそこだ!」

 

「悟飯君よ。早かったわね。」

 

「違う。この気は…」

 

クリリンがそう言うとベジータが追い付いて降りてきた。

 

(不味った、急激なパワーアップに浮かれて気づかなかった!!)

 

スウが後悔するももう遅い。ベジータは不敵に笑う。

 

「お前の持っているドラゴンボールを渡してもらうぞ。それが手に入れば俺は七つすべてのドラゴンボールを手に入れることができるのだからな。」

 

「「何だって!?」」

 

「今の俺はすこぶる機嫌が良いんだ。おとなしくドラゴンボールを渡せば今は見逃してやるぞ?」

 

(そうか、悟飯が取りに行ったドラゴンボールはきっとベジータが隠したんだ。そしてあのとんでもない集団からこいつはドラゴンボールを奪いやがった…!じゃあ、悟飯とベジータを鉢合わせるわけには行かない!でも何も知らない悟飯はきっと…)

 

事態を推察したクリリンはどうしようもないこの状況に青ざめる。そしてさらに少し遅れてザーボンもやってくる。

 

「あ、あいつは、あのものすごいやつの近くにいた…!」

 

「隊服からしてだが、ベジータの仲間か…!ちくしょう!これで勝ち目はゼロだ…!」

 

スウがそう言うがクリリンが訂正する。

 

「いえ、ベジータは単独で動いています。ここには三すくみが出来上がってるんですよ。最も俺とスウさんじゃ、こいつらにはどうしようも…」

 

そう言う間にもザーボンとベジータは戦いを始める。

 

「クリリン、だったら大丈夫だ。ブルマとドラゴンボールをもってさっさと逃げろ。ここは俺が何とかする。悟飯と合流してさっさと逃げてくれ。このままだと奴等がドラゴンボールをそろえてしまう。」

 

「何言ってるんですか!確かにスウさんは俺よりもパワーアップしましたけどそれでもベジータやそこの奴には及ばないはずです!」

 

クリリンがそう言うがスウは引かない。

 

「お前らが邪魔だといってるんだ。早く行け。」

 

そう言うと、スウは再びアクマイト光線をその身に宿しピンクのオーラに身を包む。

 

「ほう?貴様みたいな雑魚が俺と戦うと?」

 

二人の戦いに割って入ったスウを見てベジータがそう言った。

 

「逃が、して…くれ、るのが、一番なんだ、が…そう、もいかなそう、なんで、な…。」

 

何度やっても慣れることのない精神が汚染される感覚と向き合いながらスウは悪魔の力を引き出し始める。

 

「ほう?ただの雑魚というのは訂正する必要がありそうだ。少しは楽しめそうじゃないか。とはいえ…」

 

スウの戦闘力上昇をみたベジータはすぐさまザーボンに接近し、そのまま止めを刺した。

 

「こいつにも及ばない力でどこまでやれるんだ?」

 

戦闘の邪魔者が入るのを嫌って止めを刺したのではない。二人に協力されると残りの地球人に逃げられる恐れがあるためだ。

 

「…」

 

ベジータの戦闘力はスウの倍近い。だからこそスウはアクマイト光線で悪の気を引き上げる。スウの気は膨れ上がるが、そんな恩恵を粉々にするリスクがこの技にはある。そう、この技の恐ろしいところは、

 

(これ以上は、俺の精神が…。)

 

精神汚染。

 

「行くぞ!」

 

そう言ってベジータに気功波を放つ。それを軽々とはじくが本命は接近しての打撃。空いた胴に攻撃を放つ。

 

「そんなエネルギー波なんぞ、囮にもならん!」

 

それを受け止め、返しのエネルギー波でスウを吹っ飛ばす。

 

「がああああ!」

 

禍々しい雄たけび一閃、スウが再びベジータに向かって行った。

 

 

「い、今のうちに逃げましょう。スウさんにこんな力があったなんて。」

 

「そ、そうね。せっかく作ってくれた隙を逃すわけにはいかないわ。」

 

二人がその場を離れようとするがすぐにエネルギー波が飛んでくる。そのエネルギー波は行く手を阻むように大量に、そして高威力に。

 

「そいつ如きに貴様らを逃がすほどの隙は作れんさ。諦めるんだな。」

 

「くそっ!」

 

 

「うおおおお!」

 

精神が侵食される中、正気を保つのは難しい。スウは叫ぶことによって意識を善性にとどめていた。自身の技に苦しみながらも必死に抵抗していく、禍々しい戦い方。

 

「どうやらそのパワーアップは体に相当な負荷を強いるようだな。地球で戦ったカカロットともう一人も同じようなことをしてたぜ。貴様等はそろいもそろって強引に力を伸ばしやがる。」

 

地球での戦いと違い、ベジータには余裕がある。悟空とライは無茶によってベジータに匹敵、あるいは上回ったが、今のスウはそれでもベジータに劣る。善戦するのが精一杯だ。だから…

 

「じゃあ、そいつは、こんなこと…を、言っただろ?」

 

「む?」

 

「実力の不足は無茶で補える…」

 

そう言うとスウの気がまた一回り大きくなった。

 

「ゔおおおおおお!」

 

「貴様!あの地球人の…!」

 

自身の力のちょうど二倍、精神が悪に乗っ取られるかどうかは五分。ここにきてベジータからクリリン達を気にする余裕が無くなった。それだけではない、ベジータの実力をスウはわずかばかり上回る。




潜在能力解放スウ18000
クリリンを超えるパワーアップとはいえ、十倍のパワーアップ、変身したら54000なのでギニュー特戦隊に匹敵する実力者となる。さてスウはベジータと戦い生き残れるのか、来週もお楽しみにお待ちください。


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(第三十一話)運命の賽

オリキャラのサウンとガウはどこにナメック要素があるんだと思った方もいるかもしれませんが、これは無印編の妄想でのみ存在したピッコロ大魔王が生み出したもう一人のオリキャラサウンガウから持ってきたからです。展開上二人のナメック星人が欲しかったのでサウンガウをサウンとガウに分けました。


「す、凄すぎる…!あ、あまりにも…!」

 

もちろん実力に対しての発言でもあるが、クリリンは悪の気を利用して戦うスウの凄みに圧倒されていた。

 

「じゃ、じゃあ、ベジータを押してるの?」

 

「ええ、気の大きさでは完全にスウさんが上回りました。…今のうちに逃げましょう。」

 

「どうして?勝てるなら逃げなくてもいいじゃない。巻き込まれないように離れた方が良いかもしれないけど。」

 

「いえ、逃げるんです!今ならなんであんな強い口調で逃げろって言ったのか分かります。スウさんの思いを無駄にはできません。行きましょう!」

 

クリリンはそう言ってブルマを連れて逃げ始めた。

 

(悪の気に負けないで、スウさん!)

 

 

「調子に乗るなよ!」ゴン!

 

「うぐ…があっ!」ガスッ!

 

「チッ!」

 

ベジータの一撃を食らっておきながらその痛みを無視して殴りかかる。超接近戦、インファイトの殴り合いの様相を嫌ったか、ベジータは舌打ちと共に距離を取った。

 

「貴様のような下級民族が…この俺に勝てると思うな!」

 

距離を取ったベジータが気弾を連続で放つ。ライはそれを両腕ですべてはじいていった。

 

「今だ!」ガシッ!

 

気弾を目くらましに接近したベジータだったがそれを読まれていたのか、スウがベジータの膝蹴りを受け止めた。そのまま二人は取っ組み合う。

 

「フン!」ゴスッ!

 

両の手をお互いに封じた状況からベジータは強烈な頭突きを食らわせる。

 

「うぐっ…」

 

「はあああ!てりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

そうしてできた隙にベジータは今度こそ連続でエネルギー波をぶつけた。陽動でない気弾は一撃一撃が重い。スウは何とか両腕でガードしていたが耐えきれず吹っ飛ばされた。

 

「てこずらせやがって。」

 

気弾による土煙が舞い、それが晴れた時、スウは岩壁に背を預けながら座り込んでいた。そのスウには既にオーラが失せており素の気の大きさになっていた。

 

「ふぅー、ふぅー…ふふ、はははははは!」

 

少なくないダメージを負いながら、劣勢に立たされているであろうスウが笑いながら怪しく立ち上がる。

 

「フン。パワーアップはお終いか?きっちり地球人たちを逃がしやがって。だがこっちのドラゴンボールを探しに必ずやってくるはずだ。その時こそドラゴンボールを奪って見せる。」

 

ベジータの言葉など届いていなさそうなその虚ろな瞳はひどく濁っていた。

 

 

「!」

 

「最長老様どうかなさりましたか。」

 

「どうやら事態はかなり混迷を極めてきたようです。私の判断は正しかったのか、もはや私にも読めません。」

 

唯一生き残ったナメック星人たち、おおよそを把握できる心眼を持つ最長老でさえも読めないこの状況、もはやこのドラゴンボール争奪戦の行きつく先を誰も想像できない。

 

 

「ちくしょう、あの野郎、まさかあの状況で逃げやがるとはな。」

 

うつろな瞳で立ち上がったスウはあろうことかベジータにも劣らない技のキレをみせ、ベジータと互角の戦いを演じた。急に技のキレが増したスウに攻撃を食らい、動揺を落ち着けて反撃に転じようとしたときに既にスウは気弾を煙幕代わりにその場から姿を消していた。

 

「まあいい、俺がいる限りあいつは地球人たちと合流できない。それならどうとでもなる。」

 

 

「クリリンさん、ブルマさん!無事だったんですね。」

 

スウによって逃がされたクリリンとブルマは無事悟飯と合流しベジータやフリーザ軍から逃げるため、気を消して動いていた。

 

「ところでスウさんは…」

 

悟飯も気を探り、クリリンとスウがベジータと鉢合わせたことは知っていた。そこにザーボンー悟飯はザーボンという名前は知らずデンデの村を襲ったやつの側近という認識だがーがいたことも。

 

「スウさんは…俺たちを逃がすために一人残ったよ。」

 

「じゃあ助けに行かないと!」

 

「だめだ!俺たちが敵う相手じゃない。」

 

「でも…!」

 

「…悟飯、スウさんの気、感じただろ。もうスウさんは…。」

 

気を探ればおおよそのことは分かる。スウの気のベジータに匹敵する高まりを見せたスウの気は急に搔き消えていた。

 

「何とか逃げ切っただけかもしれないじゃないですか!スウさんはベジータにも匹敵するくらいの気でしたしそっちの可能性の方が!」

 

「…そう、だな。そうだよな。スウがそう簡単にやられるわけないよな。でも悟飯、スウさんと合流しようとすると気を高めなければならない。そうすればベジータに見つかっちまうよ。ひとまず見つかりにくい場所を探そう。そしたら最長老様のところに行こうぜ。そうすれば悟飯もパワーアップできるし、スウさんとは悟飯を最長老さんのとこに連れて行こうって話をしてた。無事ならスウさんもそこを目指すはずだ。」

 

今日から数日、事態はひとまず停滞する。

 

 

(ドラゴンボールはクリリン達が二つ、ベジータが五つ。ベジータも今の俺なら勝てなくはないが…)

 

クリリンと悟飯は気を消して最長老の元に向かっている。スウには見つけようもなく、ベジータは気を完全には消せていないが戦えばクリリン達は願いを叶えることを諦めて時間切れまで隠れられる可能性が高くなるため得策ではない。ベジータとの戦えばすっかり変質してしまった気をクリリン達に感じ取られてしまうからだ。

 

(ベジータは俺にも勝てると油断しているはず…俺がクリリン達と戦えばベジータはきっと俺のところまで来るだろう。となれば…俺も最長老のとこを目指そう。あのナメック星人の強さは気がかりだが、クリリン達からドラゴンボールを奪えれば形勢は一気に俺に傾く。ふふふ、ドラゴンボールを使い、願いを叶えるのはこの俺だ!)

 

 

「もう四日近くなりますけど、まだ遠いんですか?」

 

気を悟られない程度まで抑えての最長老の元へ行く行軍はクリリンがデンデといった一回目の何倍もの時間がかかっていた。

 

「ああ、この分だと、あと一日か二日くらいはかかるだろうな。くそっ!最長老さん死んじまうぜ!」

 

顔をしかめるクリリンをみて悟飯の顔も暗くなる。

 

「思い切ってペースを上げてみるか。きっとベジータともかなり距離があるはずだ。きっとベジータも気づかねえさ。」

 

「そうですよね。」

 

「よし!全速力で飛ばそう。そうすればあと一時間もあれば着く。少しでも早くパワーアップしてもらうことが先決だ。スウさんが大丈夫ならスウさんも最長老さんのとこに向かってるはずだしな。スウさんとパワーアップした悟飯と俺ならベジータにも勝てるさ。もうすぐ悟空も来るはずだしな。」

 

「はい!」

 

 

(もう四日か。フリーザのやろうがスカウターをナメック星に届けさせてるはずだがあと二、三日、下手すれば明日にもスカウターが届いてしまうだろう。そうなる前に地球人どもからドラゴンボールを奪いたいところではあるが…この四日仕掛けてこないとはな。向こうが時間切れを意識していなければフリーザの一人勝ちになりかねん。あと一日だ。それまでに動きが無ければこちらから動こう。何、ドラゴンボールは五つあるこれを使えばいかようにもできるだろう。)

 

時間がないということをこの三勢力は理解していた。ただ、それでも悠長だったと言わざるを得ない。ギニュー特戦隊は、()()やってくるのだから。

 

 

((!))

 

「「捉えた!」」

 

別々の場所しかし、その言葉は同時。スウとベジータはクリリンが全速力で飛ばす気をとらえたのだ。

 

「ずいぶん遠くにいたな。てっきりこの周辺で機会をうかがっていると思ったのだが。」

 

「予想通り、最長老のところに向かっていたな。ベジータも動き出し始めた。この分だとちょうど最長老のところで鉢合わせるはず。クリリン達とあのナメック星人とベジータで潰しあってもらうか。フハハ、俺のいい方向に事が進む!」

 

 

「見えた、あの岩山の上にあるのが最長老さんの家だ。」

 

「あれですか。よく今まで見つかりませんでしたね。」

 

悟飯が最長老の家を見てそう告げる。フリーザ兵たちがスカウターがない状況でもドラゴンボール集めようとしていればこの数日で確実に見つかっていたであろう。

 

「誰か来る!」

 

クリリンが後方からものすごい速度で迫る気を捉えた。

 

「ベジータだ。ちきしょう、最長老さんのとこにスウさんの気は感じない、きっとあい…」

 

「いえ、クリリンさん、ベジータのさらに後ろからも気を感じます。これがスウさんじゃないですか?」

 

「…よし!悟飯!お前は先に最長老さんのとこで強くしてもらってこい。ここは俺が時間を稼ぐ。」

 

「はい!」

 

(スウさん、この気は、そう言うことですね。)

 

 

「ほう、凄まじい潜在能力をお持ちだ。それだけに惜しい、体がもう少し成長していれば誰にも負けない力を引き出せたでしょうに。」

 

「そ、それじゃあ僕の力は引き出せないのですか!?」

 

「いえ、もちろん引き出せますが、体が耐えられる範囲でしか引き出せないのです。このままでは…いえ、できる限りのことは致しましょう。」

 

悟飯も最長老に力を引き出してもらうが、その力はクリリンよりも少し上回る程度、スウにさえ及ばないパワーアップであった。

 

「幼子にこのようなことを言うのは酷ですが、死線をくぐればあなたの体は急激に成長します。頭の片隅にとどめておいてください。」

 

 

「お前たちの持ってるドラゴンボールを渡してもらうぞ、面倒なことをしやがって。」

 

「そ、それはできないな。お前にドラゴンボールを渡したら地球はお終いだ。」

 

「すぐにしゃべらせてやる。」

 

気をたぎらせながらじりじりとクリリンに迫っていくがベジータが悟飯が向かった岩山にも気があることを感じ取る。

 

「ドラゴンボールを隠したのはあの岩山か?」

 

「ち、ちがっ」

 

ベジータが岩山に向かっていくと、ネイルが家から出てきた。

 

「帰れ。」

 

「ふん、死にたいらしいな。」

 

一触即発の状況だがベジータが中にいる悟飯の気を感じ取る。

 

「む?この気はカカロットか、やっぱりこの星に来ていやがったなな。今日こそ決着をつけてやる!」

 

しかし出てきたのは悟飯である。

 

「貴様はカカロットのガキだと?どういうことだ。どうして戦闘力が大きく上がったんだ。貴様一体中で何を…いやそんなことはどうでもいいか、この俺にはまだ遠く及ばないのだからな。軽くひねってやろう。」

 

(スウさん、早く!)

 

悟飯がそう祈るがスウは来ない。近くまで来たらまた気を消して潜んだ。削り合わせるためだ。そこでサウンから最長老が凄まじいパワーがこの星に向かっていると感じたと聞く。

 

「この気は五つ…まさか!」

 

ベジータが怒りの様相で悟飯につかみかかる。

 

「貴様、早くドラゴンボールを俺に渡すんだ。」

 

「そんなこと…」

 

「約束してやる俺がその力を手に入れても貴様等には手を出さん!」

 

「だまされるもんか、そんな事したら…」

 

クリリンがあくまでも抵抗の意思を見せるがさらにベジータが言い募る。

 

「よく聞けよ、これから来るギニュー特戦隊ってやつは今の俺、いやそれ以上の化け物だ。そんな奴が五人もいるんだ。最新のスカウターをつかってすぐに俺たちを見つけ殺しにやってくるぞ。」

 

ネイルからも邪悪なパワーが五つ来ているとお墨付きを受け、やむなくドラゴンボールをベジータの言う通りする。

 

 

「叶えられる願いは三つか。いいことを聞いたな。だが…」

 

崖下で話を聞いたスウもまたギニュー特戦隊のことを聞いてどうすべきか判断がつかないでいた。

 

(この気の持ち主がくるとなればドラゴンボールは奪われる。フリーザだったか、から出し抜けるとも思えない。それでもドラゴンボールを奪うのであれば…)

 

「よう、ネイルさん。」

 

「なんだ。先ほどから下で潜んでいたようだが。まさかここまで変わり果ててしまうとはな。」

 

「これが本来の俺だってことだ。そんなことより、ドラゴンボールについてまだ隠してることがあるだろ。」

 

情報、フリーザを出し抜く唯一の策。スウは地球のドラゴンボールと同じく合言葉があるであろうことを確信していた。それが地球のそれと違うことも。

 

「何のことだ?」

 

「例えば、願い方。地球にいたナメック星人は固有の言語を持っていたぜ?まだ隠していること、あるだろ。」

 

「…そんなものはない。ドラゴンボールを七つそろえれば願いは叶う。」

 

「ふん。ならばいい。どのみち俺はお前には勝てない。」

 

「あまり時間もない。最長老様の命を受けた。あの者たちを助けに向かう。」

 

「それはできない。お前にはここで最長老を守ってもらう。」

 

「何だと。」

 

「ドラゴンボールは奪われる。だがフリーザ達は願いを叶えられない。だから叶え方を聞きに間違いなくここに来る。そこを出し抜く。お前がいれば時間稼ぎができる。奪いやすくなるということだ。」

 

(時間稼ぎで潰されればこのナメック星人を拷問でもなんでも使って願いの叶え方を聞き出せる。)

 

「俺が行かなければほぼ間違いなく仲間が死ぬぞ。」

 

「これは予測だが、お前が行っても結果は変わらない。だったら残った方が良いだろう?」

 

悪魔の囁き、ネイルが求めていたものを的確に突いていく。

 

「そのささやきに乗ろう。」

 

(私がその親玉につぶされるのを待っているのだろうな。うまくいくとも思えないが。)




スウが悪の気に飲まれるかどうかは信じてもらえないかもしれませんがサイコロで決めました。スウの運命はこれでどう変わるのか。それと、スウが怪しく立ち上がった後ベジータに劣らない動きができたのは単純に精神汚染されて思考がクリアになったからです。


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(第三十二話)ギニューとスウ、フリーザとネイル

予約投稿の設定を間違えて一日遅れてしまいました。すいません。



「あの地球人はやはり悪の気に取り込まれてしまったのですね。」

 

ネイルが最長老の家に戻ると最長老がそう言った。

 

「っ!」

 

「クリリンさん達の仲間で善良な気を持っていたのに!」

 

サウンとデンデが動揺するが意外にもガウは納得したような表情だった。

 

「ガウ、あなたは気づいていたのですね。」

 

「ええ、彼が悪の気を使った戦いをこの目で見ましたから。」

 

そうしてガウは続ける。

 

「彼の心の奥底には人、その中でも自分の同族以外に対するどうしようもないほど強烈な憎しみがくすぶっているようでした。おそらくそれが爆発してしまったのでしょう。」

 

「でも、スウさんは私達を救ってくれたではありませんか。」

 

サウンが納得できないとばかりに言う。

 

「おそらく私達には分からない感覚なのでしょう。過去を読み取りましたが、なかなか壮絶な人生でしたからね。」

 

同族しかいない、しかも全員が血のつながった家族である今のナメック星人に人種間の確執を理解するのは難しい。スウがその体質によりどんな差別を受けてきたのか。知ることしかできない。

 

「だからこそ、相当に驚きました。あのような目にあいながら、異種族(我々)に対して好意的に振舞えることに。」

 

そのようなことのできる方々だから、ドラゴンボールを託したのです、と最長老が締めた。

 

 

「間に合わなかったか…!」

 

「よう、久しぶりだな、ベジちゃん。」

 

ベジータがドラゴンボールを置いていたところまで最短距離で急いできたが間に合わず、ちょうどドラゴンボールの目の前でギニュー特戦隊に追いつかれてしまった。ギニュー特戦隊の面々が不敵に笑う。

 

「まさか、もうドラゴンボールが全部そろってるとはな。フリーザ様がお喜びになるぞ。」

 

ドラゴンボールがそろったタイミングでギニュー特戦隊にバレてしまい、三人の顔が焦りを帯びる。

 

「貴様等スカウターで人間は探れてもドラゴンボールは探せないだろう?」

 

しかしベジータはこの状況でも打開策を即座に考えた。

 

「こういうことだー!」

 

そう言って遠くに投げ捨てるがバータの超高速移動でボールを奪われる。クリリンが破壊しようとするとグルドの超能力で奪われる。

 

「何とか逃げられないのか…」

 

クリリンがベジータに言うがベジータははっきりと切って捨てる。

 

「逃げても無駄なのは分かっただろう。地球で俺に見せた底力を無駄と分かっても期待するぜ…!」

 

ギニュー特戦隊のギニューじゃんけんによりベジータをリクームが、クリリンと悟飯をグルドが相手することになる。

 

「おい、ちょっとこい。」

 

戦う相手が決まったところでベジータが悟飯とクリリンを呼ぶ。

 

「貴様が戦うグルドは戦闘力は低いが超能力を使う。油断するな。…ところでカカロットは本当に来ていないのか。むかつく野郎だがあいつが味方になれば少しはましだ。」

 

「来ていない。でもこっちに向かってる。」

 

宿敵と認める悟空を引き入れなければならないほど切迫した状況であることがベジータから伝わってきていた。

 

「スウさんがいてくれれば…!」

 

「そうだ、あの地球人もだ。あいつはいないのか、あいつがいれば勝率が少しはあがる。1%が2%になる程度だがな。」

 

「身をくらましたよ。気を隠して様子を伺ってるんだろうぜ。スウさんがまともならベジータがいるんだ、変身できたのに…!」

 

「ど、どうして?いつものスウさんなら助けに…」

 

「待て、今変身といったな。あいつはあのカカロットと一緒にいたやろうの血縁かなんかなんだな!」

 

「ああ、でもここには…」

 

「俺がお前たちと手を組んだように、この状況なら間違いなくスウとかいうやつもフリーザ達に不利のある行動をとるだろうぜ。一番厄介なんだからな。」

 

そう言うとベジータは掌にパワーボールを作り出す。

 

「む、ベジータちゃんのあれは…」

 

「はっ、尻尾もねえのに満月なんて作ってもどうしようもねえだろうよ。今から再生すんのかねえ。」

 

ベジータの作る人工太陽は作るのに大きく気を消耗する。それは破壊にも同様で作った時と同じ量の気弾をぶつけなければ人工月は破壊できない。しかし裏を返せばそうすることで破壊できるということ。特戦隊の脅威足りえない。

 

「せいぜい役に立ちやがれ!」

 

人工月はらんらんと輝き、その光はナメック星全土にも届こうかという存在感を放った。

 

 

(む!あれは…)

 

事態を気を隠して遠くから静観していたスウがベジータの作った人工月の存在に気づく。

 

(ベジータか、俺が変身して加勢することを狙ったのだろうが、残念だったな。俺がそんなことするわけねえだろ。一人だけ離れたとんでもない気。ドラゴンボールはそいつが持ってるんだろう?)

 

今いるスウの位置はちょうどベジータ達とフリーザ船の中間地点、まさしくギニューがそこを通りかかろうとしているところだった。

 

(だが感謝はしてやろう。そのおかげで俺はドラゴンボールを総どりできるんだからな。)

 

 

「ふーふーふんふふん」

 

鼻歌を歌いながらドラゴンボールでお手玉をしつつフリーザの元に向かう。

 

「おっと、危ない危ない、ちゃんとフリーザ様に届けなくてはな。」

 

「それはできない相談だな。」

 

「む、何者だ貴様。」

 

そう言ってスカウターの反応を見る。

 

「スカウターの反応にない。どういうことだ、この最新型のスカウターが故障したのか?」

 

「やはり気を消せばスカウターってやつでも人を探すことはできないようだな。フフフ、ハハハ。何もかもが俺のいい方向に進む!」

 

そう言って気を開放する。

 

「む、戦闘力54000か。まさかこんな強敵がいるとはな。ドラゴンボールを届けるのが俺でよかったぜ。ジース達なら下手すると負けてたからな。」

 

「この程度で驚くなよ。俺の力はまだまだこんなものじゃあない。」

 

そう言ってスウはピンク色のオーラを身にまとった。

 

「ほう、戦闘力がどんどん上昇していくな。70000、85000、ほう。まだ戦闘力が上がるか。」

 

「貴様の戦闘力を超えたぞ?これで貴様は終わりだ。」

 

「108000か。」

 

気を高め切ったスウが不敵な笑みを向ける。

 

「ふん、その余裕がいつまで続くかな…。フン!」ガシッ!

 

物凄い速度で拳を振るうがギニューは簡単につかむ。

 

「惜しいな、貴様ほどの実力ならフリーザ様に仕えればこの栄光あるギニュー特戦隊に入れるというのに。」

 

「なめるなあ!」

 

余裕の表情を崩さないギニューに向かって高速の連打を放つが攻撃が思うように当たらない。

 

(おかしい、こいつの気の大きさであればこんなに避けられるはずがない。)

 

「お前は戦闘力を感知できるんだろう。俺の戦闘力をもう一度探ってみてはどうかな。」

 

改めてギニューの気を感知したスウが戦慄する。

 

「お、お前も俺たちと同じ、気の大きさを変えられるのか…!」

 

「お前たちと違って感知はできないがね。さて余裕をなくしたのはお前の方だったようだが…フリーザ様をお待たせしたくないのでな、さっさと終わらせるぞ。」

 

「こなくそ!」

 

ギニューの隠していた実力により優劣が入れ替わる。

 

「てりゃりゃりゃりゃ、やあっおりゃあ!」ガガガガガ

 

「ふん!」ヒュイヒュイヒュイヒュイ、ズドン!

 

「おごお…くそっ!」

 

気功波を放つが無理やりの態勢で放った気弾、それを受けても大したダメージを受けていない様子だ。

 

「そお、れっ!」

 

ギニューによって地面に思いっきりたたきつけられる。戦闘力では絶望的な差ではないにしても、自信を折られてしまった精神的差は大きい。

 

「うぐぐ…うがああああ!」

 

しかしスウもやられっぱなしではいられない。連続で気功波を放った。

 

「なっ、くそっ…!」

 

相手が気圧されてる間に距離を取りなおす。

 

「はあ、はあ…まさか、この今の俺よりも強いやつがいたと、は…」

 

「あ、当たり前だ。全宇宙一のフリーザ様の率いる軍の最高戦力だぞ。貴様ごときがどうにかなる相手ではない。」

 

「ちきしょう!」

 

「このまま戦っても俺が負けることはないが…あまり時間をかけたくないのでな。すぐに終わらせてやろう。」

 

「すぐに終わらせるだと…!俺が、負けるかあ!」

 

上空で挑発するギニューの挑発に乗りそのまま突進していく。この場において力任せの突撃は意外と効果的だ。ギニューにボディチェンジが無ければ。

 

「チェンジ!」

 

ギニューのボディチェンジによりスウとギニューの体が入れ替わる。

 

「な、なにを…、どうして俺が目の前に…」

 

スウが動揺している隙をギニューは逃さない。

 

「もう少し戦闘力が高ければこのまま使ってやろうと思っていたが…こういう使い方もできるのだ!」

 

そう言うとギニューは入れ替わったスウの体を自傷する。

 

「な、なぜ俺が俺を傷つける…!いやまさか…!」

 

スウが気づくも時すでに遅い。

 

「チェンジ!」

 

「!コハッ」

 

ギニューは体を乗っ取り乗っ取った体に致命傷を与えたうえで、再び元の体に戻ったのだ。スウは吐血する。

 

「じゃあな。」ズン!

 

致命傷に致命打、スウは倒れ地上に落ちて行った。

 

「さて、急ごう。フリーザ様がお待ちかねだ。」

 

 

「大体わかった。そうかスウが。」

 

「ああ、今も行方をくらましてる。」

 

「スウにもおめえたちにも無理させちまった見てえだ。遅れてすまねえな。後は任してくれ。」

 

そう言う悟空はギニュー特戦隊を次々に片づけて行った。

 

 

「とうとうここをかぎつけられたようです。もうすぐそこに。」

 

ネイルがそう言うと最長老も気を感じ取っていたのであろう、頷いた。

 

「デンデ、こちらへ。」

 

そう言って最長老はデンデの潜在パワーを引き出した。

 

「言ってあげなさい。デンデ。地球人たちはあなたを必要としています。急いでくださいね。」

 

「…ネイル、わしを同化させてくれないか。」

 

フリーザの魔の手が迫るこの状況でナメック星人が外敵を払うために自衛の最終手段として残していた一手、同化。ベースになったものの戦闘力を大幅に上げるナメック星人の秘技。

 

「やめなさい、ガウ、あなたとネイルでは戦闘力に差がありすぎる。今のままでは同化しても効果が薄い。」

 

元々一人だった二人が元に戻るとはわけが違う、同じナメック星人、しかも兄弟とはいえどもネイルとガウには隔絶した差があった。

 

「しかし…!」

 

「ガウさん、それならば私と同化してください。」

 

それでもなお言い募ろうとするガウに対しサウンがそう提案する。

 

「サウン、お前はまだ若い、死地に向かうのは少ない方が良い。」

 

「時間稼ぎが、必要なんでしょう?少しでも戦力はあった方が良い。私とガウさんが同化すればネイルさんのきっかけになれるはずです。」

 

その眼差しは真剣そのものだ。

 

「分かった。お前のその覚悟を尊重しよう。」

 

サウンがガウに手をかざすとガウの体が光り輝きその光が取り込まれるようにサウンに宿った。

 

「これで…ネイルさん、無理を承知でお願いします。地球人の願いが叶うまで粘ってください。」

 

「ああ、最期まで全力を尽くすと誓おう。」

 

ネイルがサウンに手をかざしネイルも同化を果たした。

 

「我が子たちに無理をさせてしまい、親として情けないですが、頼みましたよ、ネイル。」

 

「はい。」

 

 

フリーザが来た後、最長老の場所から少し離れて戦闘力を測る。

 

「戦闘力42000、43000…」

 

時間稼ぎとしてか、はたまた急激なパワーアップに体が慣れないのか、ゆっくりと戦闘力を高めていく。

 

「ほう、戦闘力が120000を超えましたね。まさか、ギニュー隊長の上をいくものがいるとは。しかもまだ…」

 

フリーザが言うようにさらに戦闘力が上がっていく。

 

「ああ、残念です。戦闘力200000を超えてしまうようですね。せっかくなので正確なところを測ってみたかったところですが、残念です。まあ、その様子では高くとも戦闘力250000前後といったところですかね。さあ、いつでもどうぞ。」

 

「はあああ!」

 

右手を手刀代わりに首筋に打ち込む。

 

「ふむ…戦闘力は210000といったところですか。せっかく首筋を空けておいたのですが、もっとしっかりとした攻撃を入れてほしいですね。ああ、参考までに私の戦闘力をお教えいたしましょう。…私の戦闘力は530000です。」

 

圧倒的な戦闘力は小細工でどうしようもないから圧倒的なのだ。それを体現するようにフリーザはネイルをなぶっていく。




ネイル21万
この後ネイルはピッコロと同化しますが、ピッコロは特別強化されたりはしません。同化はきっかけなのできっかけになれる最低限あればいいのです。

ちなみに最初の方でガウが言っていた同族とは、種族的にはヤムチャ、チャパ、ブルマなどの普通の人間のことを指し、同族以外は種族的には、ウーロンやプーアル、犬国王に加えて、スウの出身地にいた人狼族などの亜人(獣人)ことを指します。ガウはスウが狼化した姿を見ていませんのでそのように話しました。


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(第三十三話)最悪の再会

無印編って中だるみしてたんだなあと今にして思ってます。だって話数が多すぎるもの。もちろんサイヤ人編やナメック星編が中だるみしてないとは言ってません。


「おお、いよいよ願いが叶うようだぞ。」

 

界王星でナメック星の様子を見ていた界王がナメック星のドラゴンボールがクリリン達によって呼び出されたことを感知した。

 

「これで私と餃子さん以外は生き返れますね。」

 

「よかったね天さん。」

 

餃子はこのひと月の間に天津飯と過ごし、天津飯は生き返るべきだと強く言っていた。

 

「むむ、どうやら生き返れるのは一つの願いにつき一人だけらしいぞ。」

 

それを聞いたピッコロがすぐに動く。

 

「界王よ、頼む悟飯と話をさせてくれ。頼む…!!」

 

その真剣な表情に界王も了承し悟飯と話す。

 

「叶えられる願いと仕様は分かった。よく聞け、一つ目の願いでこの俺を生き返らせるんだ。」

 

「勝手を言うな!」

 

「待ってください。ピッコロが生き返るとは神様が生き返るということです。そうすれば…」

 

「なるほど、そう言うことか。」

 

ヤムチャたちが納得しているとピッコロは二つ目の願いを言う。

 

「この俺をナメック星へ飛ばしてくれ。俺はフリーザと戦いたいんだ!俺はここではるかに力を増した。きっと倒して見せる。」

 

「何を…!」

 

界王がピッコロに物申そうとしたときライも界王の肩を掴む。

 

「私もです。二つ目の願いで私も連れてってください。」

 

「何を言うか、すでにお主は死んでおる。ナメック星には行けないはずじゃ。」

 

そう言う界王を遮るように地球の神が進言する。

 

「申し訳ありません。界王様。あのフリーザの強さは私もある程度分かったつもりです。そのうえで、ライを行かせるべきだと判断します。きっとライとピッコロならどんな巨悪にも勝てるはずです。」

 

「何を言うか、地球の神まで…!フリーザとは戦っちゃいかんとあれほど…!!」

 

そう言うと神様がライの体に()()。そうするとライから天使の輪が消えた。

 

「私が乗り移れば生きた精神を体に取り込むことになり、生き返れるのです。最も私が出ればこの体がまた死んでしまい、あの世にはじかれますが…」

 

悟空とベジータがポタラで合体した時と原理は同じ。この状態でいる以上ずっとライの体でも生活できる。

 

「でもその状態じゃライの意識は…」

 

「その状態で意識の主導権を…」

 

そう言うと再び口調がライに戻った。

 

「私に譲っていただければ疑似的に生き返れるというわけです。さあ行き…」

 

そこまで言いかけたところで再び神様が表出した。

 

「すまぬな、ライ、ポポに言伝を残しておかなければならないのでな。」

 

「(ポポよ、ドラゴンボールを集めておいてくれ。必ず近いうちに必要になる。)」

 

念話でポポと話を済ませようやく精神をライに明け渡した。その直後瞬間移動でナメック星に到着する。

 

 

「あれ?ナメック星に来たはずなのに、クリリンや悟飯はおろかピッコロまでもいない。まさか…失敗!?」

 

焦るライに脳内に直接声が響く。

 

「(おそらくナメック星に飛ばせという願いだったからだろう。ナメック星のどこに飛ばすかは指定していなかった。)」

 

「ああ、なるほど、そっか、本場のドラゴンボールなのに融通が利かないんですね…ん?神様話せたんですか。」

 

「(言いたいことを思い浮かべればわしと会話はできる。ここにきてわしの知識が必要になるとも思えんが、お前の目を通してわしも周りのことは見えている。必要だと思ったら呼ぶがよい。それより急げ、フリーザとクリリン達はもうすぐ戦闘を始めるだろう。)」

 

「(ええ。ありがとうございます、神様。)」

 

ライは人口の月を視界に入れ合流を急ぐ。

 

 

「ここがナメック星か、初めてくるはずなのに妙に懐かしい。俺のナメック星人の血がそうさせるのだろうな。さて、急ぐか。ライも別のところに飛ばされたようだし、時間はほとんどないだろう。」

 

ピッコロもピッコロで凄まじい速度で合流を急いでいた。しかし彼は消えそうになっている気に気づく。全速力で飛ばすピッコロがネイルに気づいたようにライもまた気づくのだ、消えかけた気に。

 

 

「消え去りそうな気が一つ、ドラゴンボールを集めた場所に父さんはいないようだったし、ひょっとして…!」

 

少しばかり進路を変え、気の持ち主のもとへ向かう。

 

「!父さん!父さんじゃないですか。良かった!!生きて…」

 

ガン!

 

その言葉を最後まで言い切ることはできない。満身創痍で今すぐにでも死んでもおかしくないその体で近づいてきたライの首を掴み、押し倒した。

 

「はは、神様も気が利く!最期に亜人を殺せるんだからな!」

 

「な、なにを…」

 

急なことに二の句が継げない。されるがままに首を絞められているほどに動揺していながらも、いったいなぜ自分は死にかけの父親に首を絞められているのだろうと嫌に冷静な自分もいる。首を絞める手に力がまるでこもっていないことも理由の一つだろう。

 

「ずっと、ずっとお前等に対する憎しみは消せなかったんだ!ルミに会ってから、ライが生まれてから薄れていった、それでもなくなったりはしなかった!」

 

殺そうとしている人がライだということにスウは気づいていない。

 

「亜人に復讐してやりたかった。でも、それももう!叶わない!!」

 

目の焦点が合っていない。もう目が機能していないのかもしれない。

 

「すぐにフリーザの宇宙船まで連れて行きます。多分治療設備がある。」

 

無理やりに、と言ってもほとんど力をかけずに腕を離し抑え込む。地球人ならば動かせないほどの力は死にかけの身体でも十分出せるが、相手がライならばダメージにすらならない。

 

「ちくしょう、今の俺には、目の前の亜人ひとりでさえも…。」

 

そこまで言ったところで血を吐く。抜け出そうとする手には力が全く入っていなかった。

 

「(神様何とかなりませんか、このままじゃ父さんは!)」

 

正気でないことはすぐに分かった。それ以上に生きているのが不思議なほどの状態だとも。

 

「(無理だ、既に生きているのがふしぎな状態なのだ。もう数分もせずに…。)」

 

「何一つ、思い…通りに、動か…ねえ、くそが…」

 

うわごとのようにそう言うスウは既に拘束を解かれたことにも気づいていないようだ。

 

「だめだ、生きて!生きてください!父さん!天寿を全うするんでしょう!ここで死んで全うしたといえるんですか!!」

 

もう声は届いていないのだろう、うわごとのように呟く。

 

「俺、の、やぼ…は果たせな、かった。いや、こいつだけ、でも…!!」

 

「(ライ、離れろ!)」

 

急に脳内に響く声、間に合わないと知りながら、父親をフリーザ船に運ぼうとしているライに反応できるはずもなく、光線を食らう。悪の気を増幅させる、アクマイト光線を。ライを禍々しいピンクのオーラが包む。

 

「…」

 

「ッ…!」

 

「(心を無にするのだ。そうすれば悪の気は収まる。落ち着け、落ち着くんだ。)」

 

焦る神であったがライの表情は固まったまま微動だにしなかった。

 

「き、きっと、父さんは…この技で暴走した、んでしょう。でも父さんの最期の思い、()()受け入れる…!」

 

最期の思い、ライの想像する思いではないかもしれない、悪の気にとらわれたスウの邪悪な想い。しかしそれでも確かにライの力は増す。悪の気が内に沸いたとき、抑え込もうとするもの、払おうとするものがほとんど、取り込まれれば人格が変わってしまう。利用するなどということを思いついたのはスウが最初。それもとんでもない発想だ。さらに突飛な発想、ライは悪の気を受け入れた。悪の気を確かに自分の血肉に変えた。

 

「フゥー、フゥー…」

 

「(ライ、お主…)」

 

「行くぞ…いえ、行きましょう。」

 

こと切れた父を一瞥し、荒い息を整えながら戦場に向かう。

 

 

 

(ピッコロの方が先についたみたいだ。しかもなぜだか界王星にいたころよりもさらにパワーアップしてるし。どうなってるんだ。)

 

距離だけでいえばライがいた場所の方が近い、しかしネイルと同化しパワーアップしたピッコロの速度はライよりも早く、スウとの再会にも時間を取られた。

 

(こちらはまだもう少しかかりそうだ。急ごう、今のピッコロならフリーザにも勝てるはずだけど…)

 

「(急にフリーザの気が膨れ上がった。それを思えば全く安心できない。)」

 

フリーザとの戦いの気を感じながら飛行していく。凄まじい力を手に入れたライだが未だ戦場に着かないでいた。

 

「(父さんのとこで時間をかけすぎましたね。急ぎましょう。)」

 

 

「「待て!」」

 

「どうして止め…」

 

悟飯が第三形態まで変身したフリーザに飛び掛かっていく。援護をしようとクリリンが飛び出そうとしたがベジータが止める。その声にもう一人の声がかぶさった。

 

「ライ!どうしてここに、お前は、もう二度とこの世には戻ってこれないんじゃ…」

 

「裏技使っただけです。死者のままでもこの世に戻る方法、結構あるんですよ。さて…」

 

「(急ぐのだ、このままでは悟飯が…)」

 

「お、おい。まさかお前もフリーザと戦うってんじゃないだろうな。」

 

「まさかってそれ以外の何のためにわざわざあの世からくると思ってるんですか。」

 

「馬鹿言うなよ。フリーザの恐ろしさをが分からないのか!あのフリーザって野郎は変身をする種族で、あと一回変身を残しているんだぞ!しかも、今でさえピッコロでも敵わないほど圧倒的な強さなんだ!そんな奴にどうやって勝つっていうんだ!」

 

そう言って引き留めようとするクリリンに対してライは不敵に返す。

 

「確かにピッコロは強くなりましたけど、今の私はピッコロと比較にならない強さを引き出せます。まあ任せてください。」

 

(この気はスウさんに似てる。そうかライの奴も…)

 

 

「ふん!」ドン!

 

「む?」バシッ!

 

「あらら、意外と冷静。」

 

「また一匹虫けらが死にに来たようですね。」

 

蹴りを防がれ距離を取りなおす。

 

「初めましてで悪いのですけれど、死んでもらいます。」

 

「どうやら、早死にがお好きなようだ。一瞬で決着をつけてあげましょう。」

 

二人が構えをとる。ライの体が赤いオーラに包まれ、戦いが始まる。

 

「では宇宙のゴミ掃除を始めましょう。」シュン!

 

ガシッ!

 

フリーザの繰り出した凄まじい速度の拳を簡単につかみ、蹴りこんだ。

 

「今の私は、ピッコロをも凌駕する。」ドゴッ

 

「うごっ!」

 

「この宇宙に帝王なんて存在はいらない。」

 

自分と互角、いやそれ以上の力の片鱗を見せるライに対して意外にもフリーザは冷静だった。

 

「いやあ、驚きました。この私にここまで張り合う戦士が、まさか存在するとは思ってもみませんでした。」

 

「互角?おかしなことを言いますね。」

 

そう言うフリーザの前でライは倍率を三倍に引き上げる。

 

「互角だったらゴミ扱いなんてしません。貴方が私よりもずっと弱いから、その扱いをするんです。」

 

「ほう、それでは、見せてあげましょう。この私の最後の変身を、この私の真の姿を。」

 

そう言うとフリーザは変身をしようと力をため始める。

 

「そんな悠長に変身させるわけないでしょう!」

 

そう言ってライがフリーザに向かって行く。

 

 

さて、ライがフリーザ戦に参戦したのはフリーザが第三形態になってから。その時点でピッコロはぼろぼろ、ベジータもフリーザが変身を始める前にはクリリンによって半殺しにされた。悟飯にクリリンはピッコロの安否を確認し、その後治癒を拒否するデンデを説得するためにフリーザに意識を払っていなかった。この四人は変身をその目で見ていたために最後の変身の実力もある程度予測を立てていたからこそ、味方を優先した行動をとった。つまるところその四人は変身を始めたフリーザの気に注意を払っていなかった。ライが、ライだけがその途方もない実力を正しく感じ取ったのだ。

 

「んなっ!?」

 

フリーザに向かって行ったライは途中でそのあまりの気の大きさに動きが止まる。

 

「焦らないでくださいよ、あなたにもちゃんと地獄を見せてあげますから。」

 

変身をしながらもフリーザがそう言う。ライは金縛りにあったかのように動けなかった。




ライ20万
スウからのアクマイト光線を受けて戦闘力は1.5倍にパワーアップしたと想定、フリーザ戦では変身込みで90万だせる。そこから界王拳を使うのです。負けるはずがないと錯覚するのも仕方のないことだと思います。

この話は本当に苦労しました。最悪の形で再会するとかサイヤ人編で言っておいたのに大したことのない再会劇しかできなかったので超展開気味ではありますが、この形をとりました。


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(第三十四話)Prince of warrior Saiyan race

よこもじはかっこいい。


「ライ、大丈夫だよな?あいつさっぱりして迫力が減っちまったし…」

 

呆然としていたライにピッコロ達が合流しクリリンがそう言った。

 

「む、無理です。次元が違いすぎる、悟空が来たってどうしようも…」

 

「今までよりもずっと強化されているが、ライの実力ならどうしようもないレベルでは…。」

 

ピッコロは潜在パワーを探り、フリーザの気を読んだ。しかしフリーザは変身をしたことで気のコントロールを数パーセントと単位でできるようになり、潜在パワーをごまかすこともできた。唯一変身の一部始終を見ていたライだけが実力の全容を把握できていた。

 

「バン」

 

フリーザが指を光らせたかと思うとデンデに光線が一直線に進み、一撃のもとにデンデを殺す。

 

「これでもう、復活はできない…ね。」

 

そう言ってフリーザはライ達の背後をとる。

 

「約束だったよね。地獄以上の恐怖を味合わせてあげるって。」

 

「あ、あああ…」

 

既にライは戦意を喪失して動けないでいた。ピッコロ達はそれでもフリーザに向かって突っ込んでいく。

 

「うあああああああ!」

 

「ちきしょうううう!」

 

「くそったれえええ!」

 

三人がそれぞれフルパワーでフリーザに向かって行く。しかしその攻撃のすべては躱されてしまう。

 

「バカヤロー!後ろだあ!」

 

三人が放った気功波で煙が舞う中、フリーザを見失った三人にベジータがそう言う。三人とも全く反応のできない光線が再び、今度は悟飯を襲った。

 

「伏せろお!」

 

そう言ってベジータが悟飯の頭をどつき悟飯が倒れる。その頭上を光線が通っていった。

 

「ありがとう。」

 

「勘違いするなよ、これから始まる凄まじいショーを貴様等にも見せてやろうと思っただけだ。貴様の命など俺にはどうでもいい。」

 

そう言ってフリーザと相対した。

 

 

 

ベジータは驚異的なパワーアップを果たして今度こそフリーザに勝てるとそう確信して勝負を挑もうとした。ライはフリーザが変身する直前まで二倍界王拳で戦っていて三倍に引き上げたがその時すでにベジータは半殺しにされておりライの気を感知していなかった。だからこそ彼は絶対の自信をもってフリーザに挑む。

 

 

「大した自信だねベジータ、それとも恐怖のあまりどうかしちゃったのかな?」

 

「今のうちにニヤニヤ笑っていろ、ここにいるのが、貴様の最も恐れた超サイヤ人だ。」

 

そうフリーザを指さし宣言するが、フリーザは笑うだけだった。

 

「相変わらず冗談きついね、君は。」

 

ベジータは気を高め戦闘力を全開にする。

 

「スカウターが無いことに感謝するんだな。もしスカウターがあれば、俺の戦闘力は貴様を超えていて、貴様は震えあがっていただろうぜ。覚悟しろフリーザ、今度こそ貴様もお終いだ。」

 

「ふん、そう言ってられるのも今のうちだぜ。俺は貴様を、殺す。」

 

自分に言い聞かせるように、言葉にすることでそれを実現できるように。

 

「何を言うかと思えば、大した自信だね、それとも恐怖のあまりどうかしちゃったのかな。」

 

余裕の表情をフリーザは全く崩さない。

 

「そこまで言うなら、史上最強の戦士であるらしい伝説の超サイヤ人の実力を見せてもらうことにするよ。」

 

そうフリーザが言った直後、ベジータは岩石を目くらましに突撃する。

 

「見えてるぞ!」

 

一撃躱されるが、すぐに動きを捉え、追撃を仕掛ける。凄まじい連打にフリーザは攻勢に転じない。

 

「すげえ、フリーザが完全に押されてるぜ。」

 

「うん、これなら!」

 

悟飯とクリリンが希望を見出しているがピッコロとライが冷たく言い放つ。

 

「いえ…」

 

「ベジータがやられる。」

 

 

「はああああ」

 

連撃を繰り返していくベジータが両手を組んで振り下ろそうとするとフリーザが目の前から搔き消えた。

 

「馬鹿な、超サイヤ人となった俺が見失うはずが…」

 

するとあざ笑うごとく嘲笑が聞こえそこを振り向くとフリーザが腕を組んでベジータを見ていた。

 

「ちょっとスピードを上げたら追い付けないなんてね。それでも超サイヤ人なのかい?はっきり言って今みたいな攻撃ではとても勝てないよ。」

 

「やっぱりだめだ、どう頑張ってもフリーザには…!」

 

ピッコロが愕然とそう話す。

 

「確か、超サイヤ人とか言ってたね。もし君がそうだとしたら、史上最強なんてそんなものなのかい?しょせん超サイヤ人なんてただの伝説だったんだ。」

 

嘲るようにフリーザが言う。ベジータはその現実を否定するかのように気を高め、連続で気弾をばらまく。

 

「そんなはずは、そんなはずは、ない!!」

 

叫びと共に放たれる気弾は恐ろしい威力、スピード、そして数。相手がフリーザでさえなければどんな相手でも消し飛ばせる必勝の弾幕。そんな弾幕すらもかいくぐり、フリーザはベジータの前に悠々と現れる。

 

「だあああああ!」

 

上空に飛び上がり全力のエネルギー波を放つ。

 

「この俺は、この俺様が超サイヤ人なんだ。くたばれフリーザ!」

 

全力のエネルギー波ですらもフリーザの足蹴りではじかれる。

 

 

「ピッコロ、悟飯とクリリンを連れて逃げてください。悟空の宇宙船があります。それで地球へ。」

 

「お前はどうするんだ!」

 

「時間稼ぎです。数分は何とかしますから急いでください。もっとも、あなたは神様が死ぬんで意味ないですけど。宇宙船まであなたが二人を掴んで飛ぶのが一番早い。」

 

「そんなことしてもあいつは地球にやってくる。そうすれば今逃げても何の意味もない。」

 

「ポポさんがドラゴンボールを集めてます。神龍に悟空の宇宙船がついたらすぐに地球をフリーザの知らないとこに瞬間移動するようにでも願わせれば何とかなるでしょう。早く行ってください!」

 

「でも、お父さんやブルマさんが…」

 

「行くぞ悟飯、クリリン。」

 

「でも…!」

 

()()いうことが聞けないのか!今のお前には、他の奴を気にする強さがないんだ、ライに守られる分際でわがままを言ってるんじゃない!」

 

ビクッ!!

 

そのあまりの剣幕に悟飯は二の句が継げなくなる。ピッコロが悟飯とクリリンの腕をつかみ飛ぼうとしたとき、ベジータが四人の目の前に叩き落される。

 

「約束したじゃないか、地獄以上の恐怖を味合わせてあげるってさ。」

 

逃がしはしない、そう暗に言われてピッコロも動けなくなる。そんな中ライだけが何とか前に出た。

 

「さて、第二ラウンドといきましょうか、フリーザ。」

 

声だけでなく、体が震えている。その震えを抑えるようにライは深紅のオーラを全開にした。

 

 

ドン!

 

地面に穴をあけるほどの踏み込みでフリーザに突っ込んでいった。突っ込みの勢いも乗せたパンチをフリーザは片腕で受け止める。

 

「おや?」

 

「てりゃ!はっ、やあっ!」

 

連続で攻撃していくが、全く通用しない。全て受け止められた。

 

「あなた、随分パワーアップできるじゃないですか。これなら私に対して自信があったのも納得ですよ。まあ、その自信も砕け散ったようですが、ね!」

 

そう言ってカウンターの要領で攻撃を当てる。その攻撃は相手の力を利用するやり方であるがゆえにライでもなんとか耐え切れた。

 

「うぐぅ…」

 

「ベジータがあまりにもあっさりとやられてしまいましたから、少しは私を楽しませてください、よ!」

 

ライがやられない程度に攻撃を加えていく。

 

「く、そぉ!」ピシュン

 

「おっと、逃がしはしないよ。」

 

気功波を放つも簡単に避けられ、硬直が解けたピッコロが悟飯たちを逃がそうとするが、それを光線で防ぐ。その時にできた隙、いや、フリーザが敢えて見逃したのだろう。そのタイミングで距離を取り、両手に気功波を蓄えた。

 

「いえ、逃がじまず!」

 

ベジータが先ほどやったようにライも気功波を連続で放つ。界王拳を二十倍まで引き上げてのそれはベジータのそれよりもはるかに厚い弾幕。

 

「ん、ぎっ…!」

 

「なるほど、この速度に追いすがる弾幕ですか。」

 

弾幕を避けながら感心したようにさらに速度を上げた。

 

「だめだっ!くそっ!」

 

「逃がしはしないと、そう言ったでしょう?」

 

動き出したピッコロの目の前に現れる。あっという間にピッコロ達も弾幕に飲み込まれる。

 

「おやおや、あの方たちはこのエネルギー波の雨の中生きていられるとも思えませんがねえ。」

 

軽々とよけながらフリーザがそう言うがライは構わず気弾の嵐を起こし続ける。気弾はすべてピッコロ達に当たりそうになるとその軌道を変えていた。操気弾の応用。味方をよけ、敵のみに作用する弾幕。

 

「気弾の衝撃が目くらましになる間に逃げるぞ。」

 

ピッコロがそう言い逃げ出そうとするがまるで見えているかのようにフリーザが目の前にいた。

 

「同じことを何度も言うのはいやなんですがね。少し弱らせておきましょうか。」ビシッ

 

「うっ」

 

「ピッコロさん!」

 

「ピッコロ!」

 

手を手刀のようにしてまるで豆腐でも切るようにピッコロの両腕を切り裂いた。腕を掴まれていた悟飯とクリリンが悲壮な声を上げる。

 

「君の腕は再生するみたいだけど、体力は戻らない。」

 

そう言ってフリーザは第三形態の時にそうしたように光線を執拗に当て始めた。

 

「それ以上はさせない!」

 

気の弾幕に効果がないと悟りライが再び接近していく。もはや逃がすことは叶わない。それを悟ってもライは足止めをやめない。

 

「パワーがさっきよりも落ちてますね。無理をしたんですかねえ。それでも足元にも及ばなかったようですが。」

 

そう言ってフリーザはライに膝を入れる。

 

「貴方は生かしておくと非常に鬱陶しい人だ。無理と分かっていながら何度も立ち上がる。ベジータの方がまだ物分かりがよかったとはあなたも相当だね。」

 

「うぐぅ……」

 

悶えたところを尻尾で首を絞め一方的に殴り始める。意識が途切れてしまえば界王拳も切れる。そうすれば死もすぐそこだ。

 

「助けたければいつでもどうぞ。」

 

フリーザがピッコロ達に言うが誰もが動けない。無理であると分かっているのだ。とんでもない相手を敵に回してしまったのだと。唯一悟飯だけが激情に任せて飛び出そうとするがピッコロが抑えた。そんな中一人だけ立ち上がる戦士がいる。一度は戦意を折られ、涙まで流した彼はもう一度戦意を奮い立たせる。

 

 

ドン!

 

完全な不意打ちになり流石のフリーザも吹っ飛ばされた。

 

「諦めただと?この俺が戦意を喪失したと?なめるなよフリーザ。この俺が、俺こそが、戦闘民族サイヤ人の王子、ベジータだ!」

 

「高々一撃入れたくらいで、力の差は歴然だってのに、とうとう恐怖で頭がおかしくなってしまったのかな。」

 

「言ってろ。この俺が貴様を殺す!」

 

自分に言い聞かせるように、言葉にすることでそれを実現できるように。そう言うや否やベジータはフリーザに突貫する。先の手合わせではフリーザは攻撃をすべて避けたが今度は正面から受ける。

 

「うん、どんなに強がっていたとしてもしょせんはこの程度。さっきの方がまだパワーがあったよ。最も誤差みたいなものだけどね。」

 

「くっそおおおおお!」

 

全力で殴っていくがすべて片手で捌かれた。

 

「君もつくづく戦うしか能がない猿と変わらないよね。負けると分かって戦うのはあきれを通り越してある意味尊敬するよ…フン!」

 

「うぐっ…」

 

みぞおちに一撃を食らい腹を抱えながら後ずさる。そこにさらに一撃を加えた。

 

「おが…」

 

「いやあ、失敗だったよ、ベジータに動ける力を残してあの地球人と戦い始めたのはね。だから、今回は…」

 

そう言ってフリーザはライに向けてエネルギー波を放つ。五本の指でそれぞれ皮膚を焼くように放つ。いたぶるためだけに放った光線。

 

「うが…」

 

「君で遊ぶ前にあの地球人から余力を奪っておこう。」

 

ただでさえ意識が朦朧としていたライはそのまま気絶してしまった。そしてフリーザはライにやったように尻尾でベジータの首を掴みサンドバッグのように殴り続ける。

 

「う!が!ごふっ!おが!え!ぅ!ぁ!…!」

 

うめき声すらも上げる余裕が無くなり何も答えなくなったところでフリーザはベジータを投げ飛ばし、とどめを刺そうとした。その時風圧が場を駆け巡る。その衝撃にその場にいる全員がその風圧を起こした者、

 

孫悟空に顔を向ける。




原作でサイヤ人の手でフリーザを討てと言ってるのに戦意喪失して泣いてたってのはないだろうと思いましたのでちょっと頑張ってもらいました。原作よりボロボロになりました。


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(第三十五話)奮戦、VSフリーザ

「そうか、やっぱりでけえ気の正体はピッコロとライだったか。」

 

そう言って前に出ていく。

 

「ドラゴンボールでやってこれたんか、ナメック星のはすげえな。」

 

表情には微笑を湛えて今にもベジータを殺そうとしているフリーザに対して言い放った。

 

「貴様がフリーザか、思ってたよりずっとガキっぽいな。」

 

「まだゴミが残ってたか。」

 

「ベジータはおらと決着をつける約束をしていたんだ。邪魔するなよ。」

 

「カカロット…」

 

「ピッコロ、ライを頼む。」

 

ライを一瞥してそう言った。

 

「怪我はひどいが死ぬほどじゃねえ。戦いに巻き込まれないように離れててくれ。」

 

そう言い残し、フリーザと相対する。

 

「生意気だよお前…覚悟は良いか。」

 

「ああ。」

 

悟空がそう言った瞬間フリーザが凄まじい速度、ピッコロやベジータですら見えない速度で蹴りを入れようとするがすぐさま背後に回って蹴りをお見舞いした。

 

「なるほど、少しはやるようだ。」

 

そう言って指を悟空に向ける。

 

「やばい!よけろ悟空!!」

 

クリリンがそう言って悟飯と共に横っ飛びに跳ぶが放たれた光線を悟空は右腕ではじいた。しかも一撃ではない、連続で放たれるレーザーをすべてはじいていく。ライ達を庇いながら。

 

「ふっふっふ…」

 

煙が舞い、悟空の姿が見えなくなり、フリーザの笑い声だけが響いた。しかし土煙が晴れるとその笑いも消える。

 

「まさか、全部弾き飛ばした。それも片手だけで?」

 

流石に驚いたのかフリーザの顔が驚愕に染まる。

 

「はっはっは…フリーザ本気でやった方が良いぜ?こいつこそ、貴様が最も恐れていた、超サイヤ人だ。あの全宇宙最強の戦士だ。もう貴様はお終いだ、ざまあ見やがれ、はっはっは。…うっ!」

 

死に体の体で高らかに笑うベジータにフリーザのエネルギー波が貫いた。

 

「おい、貴様、ベジータはもう身動きもできなかったんだ!わざわざ止めを刺すこたあねえだろ!」

 

「お、おい、貴様まだそんな甘いことを言ってるのか、超サイヤ人じゃないないのか…!」

 

既にベジータに迫る死は避けられない。そんな状況でもベジータは語る。

 

「馬鹿野郎…!非情になれ。甘さを捨てれば貴様はきっとなれたはずだ。超サイヤ人に…!」

 

「心臓を貫かれたのにしぶといねえ。無駄話はまだ続くのかい?」

 

「いいか、よく聞けよ。俺とお前の故郷、惑星ベジータは消えてなくなったのは、巨大隕石の衝突のせいじゃなかった。フリーザがやりやがったんだ。俺たちサイヤ人はあいつの手となり足となり働いたってのに、俺達以外は全員殺された。フリーザは超サイヤ人が現れるのを恐れたからだ…!」

 

「よく言うよ。」

 

涙を流しながら必死に語る。

 

「頼む、フリーザを倒してくれ、頼む、サイヤ人の手で!頼…」

 

そう言ってベジータはこと切れた。その誇りは宿敵である孫悟空、カカロットに引き継がれる。

 

「おらも、少し分けてもらうぞ、その誇りを。おらは地球育ちのサイヤ人だ!!お前に殺されたサイヤ人のためにも!そしてこのナメック星人のためにも!おめえを、ぶったおす!」

 

悟空はフリーザに向かって行った。

 

 

「悟飯!クリリン!俺たちは邪魔だ。ここから離れるぞ!」

 

ライをおぶったピッコロが凄い速度でその場を離れた。悟空とフリーザはお互いに一撃を狙いつつ戦っていく。

 

「悟飯伏せろ!」

 

ピッコロが叫び、クリリンが何とか悟飯を庇う。

 

「危ない危ない、流れ弾で死ぬとこだったな。」

 

「クリリンさん、ありがとう。」

 

「気を抜くなよ悟飯、この戦いで安全な場所なんてこの星のどこにもないんだ。」

 

超能力を駆使して襲い掛かるフリーザ、それに抵抗する悟空。二人にとってはウォーミングアップに過ぎない戦いは、ピッコロ達からすれば凄まじい戦いに見える。次元が一つ違う戦いも二つ違う戦いも彼らにはものすごい戦いとしか映らない。唯一この戦いが小手調べと分かるライも何も言わない。

 

 

「空中戦と地上戦、どちらがお得意だ?」

 

「どっちかといえば地上戦かな。」

 

そう言うとフリーザは手近な島を指さし、そこに飛んでいく。

 

「サービスが良いな。それとも余裕ってやつか?」

 

「こう見えても僕はとてもやさしいんだ。さらに大サービスをしてあげよう。両手を使わないで戦ってあげよう。」

 

自身は少しだけ浮き、両足そして尻尾を使って巧みに戦っていく。両手を使えないというハンデをものともせずに連撃を加えていく。悟空もバックステップで避けるがふいに来た尻尾の攻撃にやられてしまう。劣勢が続く。

 

 

「ピッコ…ロ、もう、大丈夫。立てます。」

 

ピッコロに背負われたままのライがそう言った。

 

「ライさん、もう気づいたんですか!」

 

ライは何とかピッコロから降りて、自分の足で立つ。

 

「首を絞められているときに神様に意識の主導権を取られましてね。神様が気絶したと同時に私の意識が戻ったんです。」

 

「ああなるほど、気絶するほどの一撃を神に肩代わりさせたってことか。」

 

「理解が早くて助かります。言い方はアレですけど。」

 

意識を奪うほどの一撃の痛みのピークは受けないが食らったダメージは残る。辛いことには変わりない。

 

「ライ、お前から見てどうだ。この二人の戦い、どっちが勝つと思う。」

 

「今のままだと悟空に勝ち目はほとんどないです。」

 

さらりととんでもないことを抜かす。

 

「隠していた実力に差があったか…!」

 

ピッコロも薄々感じ取っていたのだろう。疑念が確信に変わったようだ。

 

「でも、悟空は界王拳とかいう気を高める技があるじゃないか。今のライでも十倍くらいできてたんだし、悟空なら三十倍くらい出せるんじゃないか?そうすれば…」

 

「界王拳は実力に関係なく、十倍が限界です。それ以上は体が悲鳴を上げる。二十倍までなら自壊覚悟で引き出せますけど、それでもフリーザには…」

 

そこまで言いかけたところで悟空の気が膨れ上がったことを感じ取る。

 

「!悟空いけない。死期を早めるだけだ!」

 

ここで叫んだところで悟空には届かない。自壊覚悟で界王拳を二十倍に引き上げた。

 

 

「くぅぅうううああああああ!」

 

全力で叫び界王拳を二十倍に引き上げていく。

 

(やつの言葉がハッタリであろうとなかろうと…)

 

「二十倍界王拳に賭けるしかねえ!うわあああああああ!」

 

雄々しい雄たけび一閃、フリーザを殴り飛ばし、さらに吹っ飛ばされているフリーザに追いすがり追撃を放つ。

 

「かーめーはーめー波ああああああ!」

 

それすらも大したダメージではない。しかしその程度のダメージであってもフリーザには受けたことのない物だった。二十倍界王拳を使い、パワーダウンした悟空をフリーザは激情に任せて痛めつける。

 

「この猿!」ドゴオ!

 

「ぐふっ」

 

海に落とされた悟空が起き上がってきたところを胸倉をつかむ

 

「もうそれまでのようだな。そろそろ止めを刺そうか。」ガン!

 

死を幻視してなお悟空は敗北を受け入れない。

 

「負けらんねえ、おらは、フリーザなんかに負けらんねえ。」

 

「き、さ、まあ!」

 

灯消えんとして光を増す。それを体現するように、フリーザの突撃をよけ、攻撃を繰り出す。しかしそれでもフリーザには全く通用しなかった。

 

ドガン!

 

地上にたたきつけられ、息を切らしながら何とか立ち上がる。

 

「そろそろ死にたいだろう?今楽にしてあげるよ。」

 

そう言って近づいてくるフリーザの前で悟空は両手を挙げた。

 

 

「元気玉だ。」

 

「元気玉だと?」

 

「この星にある草木や動物、俺達や微生物から少しづつ元気を分けてもらうんだ。そしてそのエネルギーの玉を作って攻撃する。」

 

「でも、この星は草木も動物も地球よりずっと少ないのに。」

 

悟飯が言うとライがかぶせるように言った。

 

「そんなことは悟空も分かってるはずです。きっと悟空は、この星だけじゃない、近くの惑星からも元気を分けてもらう気なんだ。」

 

 

「なんだ、その手は。そんなフラフラで何ができるというのだ。」

 

急に手を挙げた悟空に対してフリーザは問う。フリーザは悟空が全く動かないことに疑問を持っていながら、大したことはもはやできないだろうと少しばかり見ていた。しかし、彼が静観している時間は元気玉完成には足りな過ぎた。

 

 

「やつの前であんなことをしている時間などもうないぞ!」

 

「ええ、それに元気玉が気付かれたらその時点で…!」

 

悟飯がそう言うとフリーザがしびれを切らしたのか悟空を蹴り飛ばした。

 

「バレた!」

 

「いえ、まだです。まだ…!」

 

それからも悟空は蹴られ、殴られを繰り返すが両腕を上げたまま耐えていた。

 

「くっ…悟飯、クリリン、ピッコロ、残った気を私に寄越してください!」

 

そう言ってライはピッコロ達に両腕を出す。

 

「そんな体で無茶です!」

 

「良いから!」

 

悟飯が躊躇するがピッコロとクリリンは手を握った。

 

「急いで!」

 

「でも…」

 

「早くしろ悟飯!これしかないんだ!」

 

なおも言い募る悟飯にピッコロがそう言うと悟飯もライの手を握り気を渡し始めた。ピッコロの気、悟飯の気、クリリンの気、それにライの気が合わさることで一時的にその気の大きさは悟空を()()()

 

「どうやらバレちまったようだぜ。」

 

「大丈夫です。これだけの力があれば間に合います。」

 

そう言って手を放し、フリーザに向かって突撃した。

 

 

 

どん!!!

 

「うぐおっ!」

 

「ライ!?」

 

「長くはもたない!」

 

それだけ言い残して追撃を仕掛ける。界王拳十倍でも二十倍でも届かないことを悟空との戦いで見てきた。でも時間稼ぎに限るなら、完璧な不意打ちを入れられるアドバンテージがあるのなら。

 

「このゴミむ…」ドン!

 

言葉は継がせず殴りかかる。

 

「まだまだあ!」ブン!

 

「調子に乗るなよ!」ガシッ!

 

三発目は防がれ、お互いに両手を掴んで組み合う。

 

「く、そおおお…」

 

「君は本当に身の程を知らないね!」ぐっ!

 

「うぐぐぐうわあああ!」

 

手を握られら痛みで叫ぶ。二度の二十倍界王拳の使用は手のひらにも確実にダメージが蓄積していた。それを的確に突いてくる。

 

「ふん!」

 

「ぐわっ!」

 

両腕を封じられたまま膝を入れられてその後蹴りで吹っ飛ばされた。それと同時にピッコロ達から分けてもらった気が尽きる。無茶がたたり界王拳ももはや使えない。

 

「はっ!」

 

「うぐっ…」

 

もはやただの衝撃波で吹き飛ばされ、岩壁を背に座り込んだ。

 

「おやおや、随分とパワーダウンしたみたいですねえ。先ほどまでの猛攻が嘘みたいですよ。」

 

余裕を取り戻し、残酷な顔で笑う。

 

「では、とどめといきましょう。あなた方は殺さないと何度でも湧いてきますからね。」

 

人差し指をライに向ける。その先には額。ライは下を向いて動かない。

ガッ

 

「させんぞ!」

 

「なに!?」

 

ピッコロがライを援護に行く。彼もライにほとんどの気を渡してしまっていたが残る気を振り絞って突撃してきた。

 

「うおおおおりゃあああ!」

 

フリーザの腕をつかみ思い切り投げ飛ばす。そのためにフリーザから放たれようとしていたデスビームはあらぬ方向に飛んでいく。

 

「孫!」

 

「最高だぜピッコロ!」

 

悟空が両腕を振り下ろし、一直線に元気玉がフリーザに向かった。

 




ライ90万+ピッコロ139万+悟飯79万+クリリン6.5万=304.5万
1万だけ残しました。そうしないと死んじゃいますからね。え?ピッコロは1万でフリーザに立ち向かったのかって?ええそうです。彼は1万でフリーザを投げ飛ばしました。


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(第三十六話)宇宙最強の男

先週の「最高だぜピッコロ」はGTの「最高だぜベジータ」をオマージュしているというのもありましたが、私は最初に書いたときは「最高だ、最高だぜキャンチョメ」が浮かんでました。見返した時にああそう言えばとなりましたので「最高だ、最高だぜピッコロ」から「最高だぜピッコロ」に変えました。個人的にエモくなったので満足です。


キッ!

 

「フン、そんな技など俺が食らうか!」

 

ピッコロに投げ飛ばされたフリーザはすぐに態勢を立て直した。フリーザですらギリギリの距離ではあるが、躱しきれない距離ではない。すぐさまよけようとしたところで二つの気弾が襲い掛かる。

 

ピュン!ドカーン!

 

「まだハエが残ってたか!」

 

その一撃が、その激高が、フリーザから元気玉を避ける隙を、()()

 

「しまっ…」

 

元気玉がフリーザを押しつぶす。

 

 

「クリリンさん!」

 

何とか海から這い上がったクリリンの元に、運よく海に飲まれなかった悟飯がくる。

 

「無事だったみたいだな。良かった。」

 

「はい。」

 

二人がナメック星の変わり果てた姿を見回す。

 

「すっかり変わっちまったな。」

 

「お父さんは、ピッコロさんは、ライさんは…」

 

心配そうに三人の名前を言う。

 

「三人の気を感じない…」

 

「それは、俺たちが集中力を欠いているからだ。ピッコロが向かって行ったんだ、あいつらが死ぬもんか。」

 

自分に言い聞かせるようにもそう言ってあたりを見回すと、ひときわ大きく岩が露出した場所にピッコロが這い上がってきた。続いて悟空も自力で這い上がってくる。

 

「はあ、はあ、ううう…はっ」

 

息を切らしながらピッコロが右腕を引き上げるとそこにはライが掴まれていた。

 

「よかった、みんな無事だ!」

 

二人はふらふらと悟空たちの元に飛んでいった。

 

 

「よかった、全員、無事みたいで…」

 

「(一番まずかったのはお前だろうがな。)」

 

脳内に神様の声が響く。

 

「一番やばかった奴が何言ってやがる。俺がもう少し見つけるのが遅ければお前だけ死んでたんだぞ。」

 

「はは…感謝、してます。」

 

似たようなことを言う二人にライが一人笑いながらお礼を言った。

 

「悟飯、心配かけたな。」

 

悟空が悟飯の肩を借りて胡坐をかきながらそう言った。

 

「すごかったなあ。あの元気玉。」

 

クリリンが感心したように言った。

 

「宇宙のみんなの願いがこもってるんだ、そりゃそうさ。」

 

「僕、三人とも死んだんじゃないかと…」

 

「俺たちがそう簡単にくたばるものか。」

 

ピッコロがそう言うとクリリンが息をつき言った。

 

「これで胸張って地球に帰れる。俺もうできないかと思ってたんだ。」

 

「何が?」

 

「俺も、一度くらいしてみたかったんだよな、結婚。」

 

そう言うと一同に笑いが起こった。ライだけが寂しそうに深くうなずいていた。

 

 

「さて、行くか、おらの乗ってきた宇宙船なら一週間もしないで地球に帰れる。」

 

「ああッ!」

 

悟空がそう言った直後クリリンが何か不味いことでもあったのか、急に叫んだ。

 

「ブルマさん、すっかり忘れてた、でしょう?」

 

それにライが答えを与える。

 

「そう!迎えに行ってあげないと。というか、ライ、覚えてたんなら言ってくれよ。」

 

「いや、さっきからブルマさんがの話題が一度も出ないし、ブルマさんのことだから宇宙船にいるのかとも思ってたんですけど、その表情を見る限り、まだ違うところにいるんですかね。」

 

「急いで迎えに行かないと、ある意味じゃ、フリーザよりも怖いから。」

 

クリリンが焦ったように言うのを聞いて今度こそ全員の爆笑が起こった。

 

「体中が痛えんだからあんまり笑わすなよ、はっはっは。」

 

ひとしきり笑い、今度こそ動こうとして周りを見渡したピッコロがそう言った。

 

「改めてみると、ナメック星もひどいことになってしまった。だがこれで最長老様や他のナメック星人も安らかに眠れるだろう。」

 

「そう言えば、なぜかめちゃくちゃにパワーアップしてることもありますけど、なんか妙にこの星の事情に詳しくないですか?私と同じタイミングでナメック星にきたの…に。」

 

言葉尻が泣きそうなくらい震えて、小さくなった。それを見て悟空やクリリンもその方向を向く。

 

「流石の僕も今の攻撃では死ぬかと思ったよ。この、全宇宙最強の僕が、死にかけたんだ!」

 

そう言って人差し指から光線を放つ。

 

「「悟空!」」

 

最初にフリーザを見つけ、正気に戻ったライとこんな時でも冷静でいたピッコロが悟空を庇おうと動く。

 

「いぎっ…!」

 

ライが痛みに動きが止まりピッコロが悟空の代わりに肩口を貫かれた。

 

「ピッコロ!」

 

「ピッコロさん!」

 

悟飯がそう言ってピッコロの側で膝を落とし愕然と繰り返す。

 

「ピッコロさん…ピッコロさーーーーーん!」

 

「まだ、生きてます。でも…!」

 

ライがピッコロを見てそう言うが表情は絶望に染まっている。

 

「逃げろ、おめえたち。おらが最初に来たとこの近くに宇宙船がある。ブルマをつれてすぐにこの星を離れろ。」

 

「あ、ああ」

 

悟飯はまだ呆然としたままだ。

 

「悟飯しっかりしろ。さっさと行け!お前たちは邪魔だ。みんな揃って死にてえのか!!」

 

「急ぎましょう!」

 

ライが言って三人が何とかピッコロを抱えて舞空術で飛び始めようとしたとき、フリーザがクリリンに超能力をかける。

 

「貴様らを許すと思うか?一匹残らず生かしては返さんぞ!」

 

そう言ってクリリンを上空に飛ばし手のひらを握った。

 

「悟空ーーー!」

 

その叫び声と一緒にクリリンが爆散した。

 

プツン

 

「!」

 

それを見た悟空の頭の線が切れる音がライには聞こえた気がした。悟空の怒りに呼応するかのように悟空の周囲に稲妻が走る。髪の毛は金色に染まり始め、金と黒の髪が交錯する。

 

「うおおおおおおおおお!」

 

獣のような方向を上げ、ここに史上最強、伝説の超サイヤ人が降臨した。

 

「「あ、ああ」」

 

あまりのことに悟飯もライも動けないでいる。

 

「悟飯、ライ、ピッコロを連れてとっとと地球に帰れ、俺の理性が残っているうちにとっとと消えるんだ!」

 

「でも!」

 

「行くぞ悟飯!悟空の言う通りにするんだ!」

 

焦ったようなライに背中を押され悟飯は動き出す。

 

 

「何だあいつの変化は、サイヤ人は大猿にしか変わらないはず、どういうことだ!?」

 

フリーザは愕然としながらそう言った。

 

「いや、まずはあいつらだ、逃がしはしないぞ!」

 

そう言ってフリーザは手をライ達にかざす。

 

ピシュン!

 

「いい加減にしろ、この屑野郎。罪もねえ者を次から次へと殺しやがって。クリリンまで…!」

 

フリーザの手を握り潰さんとするほどの力で握りしめる。

 

「うぐぐぐぐ…なぜ貴様にこんな力が。ま、まさか…!」

 

何とか振りほどいて距離を取る。

 

 

「お父さん、僕分かったよ。ベジータの言ってたことは本当だったんだ。お父さんはなれたんだ。超サイヤ人に…!」

 

「ええ、伝説は本当だった。誰も比肩できない最強の戦士です。」

 

 

「では僕はブルマさんを迎えに行ってきます。」

 

悟空の乗ってきた宇宙船に着いた悟飯はライをその場に残しブルマを迎えに行く。

 

「(ライよ、ミスターポポと連絡を取りたい、しばらく変わってもらうぞ。)」

 

悟飯が出発してすぐ脳内に神様の声が響く。

 

「(分かりました。)」

 

神様はミスターポポに集めたドラゴンボールを使うように指示する。

 

「(ベジータ達サイヤ人に殺された者たちを生き返らせてもらうように願ってくれ。)」

 

ミスターポポにそう念話をするとライの声が割って入る。

 

「(待ってください神様。ピッコロが死ぬかもしれないのでヤムチャさん達を生き返らせておきたいのは分かりますが、ここはフリーザ一味に殺された人を生き返らせるにすべきです。)」

 

「(それはどういう意図があるんだ?確かにヤムチャたちは肉体を持つから一年という枷はないが…)」

 

「(これは願望が混じった予測ですが、きっとその願いで最長老様が少しだけ生き返るはずです。そうすればナメック星のドラゴンボールはまだ一つ願いが残っている。それを使えばみんながこの星を脱出できる。問題は、最長老さんとどうやって連絡を取るかですが…)」

 

「この体では最長老様のところに行くにも時間が掛かりすぎるか。」

 

神がライの体を軽く動かしてそう言ったところでライと神様の心に声が響く。

 

「(その役目は私がやろう。)」

 

「「((界王様!))」」

 

「(お主らは常識的な判断ができると思っとたのにわしの忠告を無視してフリーザと戦いおって。)」

 

「「((申し訳ありません。))」」

 

「(まあ、結果的には何とかなりそうじゃからな。戻ってきたら本格的にお説教をしてやる、地球の神よ、お前も一緒にな。)」

 

「(ええっ!?わ、分かりました界王様。)」

 

神様がたじろぐも状況は進んでいく。ミスターポポが願いを叶えたのだ。

 

「(気がやたらと感じられるようになりましたね。うまくいったみたいです。空が暗くなりましたし、最長老さんも…!)」

 

「(ナメック星の最長老よ聞こえるか、私は北銀河の界王だ。これからいうことをよく聞いてほしい。)」

 

声がライ達にも聞こえる。

 

「(ナメック星はすぐにも消滅するかもしれん。今すぐ神龍にフリーザを除くすべての者たちを地球に送ってくれと願ってくれ。)」

 

「(まて!それじゃだめだ。フリーザとこの俺を除くすべての者たちに変えてくれ!)」

 

悟空が割り込んでくる。

 

「(悟空らしいといえばらしいですね。さっさと決着をつけて、生きて地球で会いましょう!)」

 

ライが激励を界王を通して伝えると、体が白く光り次に瞬間には見知った景色が広がっていた。

 

 

(ピッコロに悟飯、ブルマさんに他のナメック星人、あとはベジータもか。)

 

周りを見回しているとデンデがピッコロを治しているのが目に入る。

 

「「「「さ、最長老様!」」」」

 

そこまで見たところで最長老を心配したナメック星人たちの声が響いた。

 

「皆の者、私が寿命で召されるのも近い。だがその前に今我々に起こったことは伝えておこう。」

 

そう言って最長老は地球のドラゴンボールで生き返ったこと、ナメック星のドラゴンボールで地球という星に飛ばされたことを語った。

 

「し、しかしツーノ長老の村の者が生き返っておりませんが…」

 

それに対してはベジータが解を与えた。

 

「その村の奴等を殺したのは俺だからな。俺はそのフリーザの一味じゃあない。残念だったな。」

 

ベジータがそう言ったところで七つの石が落ちてくる。

 

「ナメック星のドラゴンボールも我々を追ってこの地球に来たようだ。」

 

「ナメック星のドラゴンボールって便利ですね。地球のは散らばるだけなのに。」

 

「散らばってしまっては探すのに何年もかかってしまうでしょう?」

 

さも当たり前のようにナメック星人たちは言う。ナメック星のドラゴンボールは使用されるとその輝きを与えた者、最長老の元に戻るようになっていたのだ。

 

「さっきも言ったように私の寿命はもうほぼない。これからはムーリ、お前が最長老となるのだ。そうすれば再びドラゴンボールは輝きを取り戻す。それを有効に使ってくれ、頼んだぞ。」

 

そう言ってムーリに手をかざした。

 

「は、はい。」

 

その言葉を聞いて安心したように笑みを浮かべ、再び最長老は天に召された。

 

「最長老様、どうか安らかな眠りを。」

 

ピッコロがそう言ったのを聞いてデンデが確信を持つ。

 

「貴方はネイルさんと同化したのですね。」

 

それを聞きピッコロが頷いた。

 

「サウンとガウも俺の中にいる。」

 

「そうですか、三人とも生きて…!」

 

無事を聞いたデンデの顔がほころんだ。

 

「最長老さんも死んじゃったし、クリリン君も、もう戻ってこれないのね。」

 

「ええ、ドラゴンボールで一度よみがえった人間は二度は戻れないですから。」

 

悔しそうに悟飯が言うがデンデはキョトンとした顔で言った。

 

「え?大丈夫ですよ。ナメック星のドラゴンボールは何度でも蘇れます。自然死でなければですけど。」

 

それを聞いて笑みがこぼれる悟飯たちをライもまた顔を綻ばせて聞いた。

 

「(ナメック星のドラゴンボールは地球のそれと比べてだいぶ優秀ですね。)」

 

願いを使えば特定の人の元へ帰ってくる。三つまで叶えられる、同じ願いを何度でも叶えることもできる。確かにそう考えるのも無理ないであろう。

 

「(お主も生き返れるではないか。良かったな。それにスウも。)」

 

「(ええ。本当に良かったです。私も結婚、してみたかったんですよ。)」

 

「(わしにはよくわからないができるとよいのう。それにしても…)」

 

そう言う神の声から察するに少しむくれているのだろう。

 

「(地球のドラゴンボールは何人もの人間を生き返らせれるのだぞ。ナメック星のそれとも劣らんほど凄いのだ。)」

 

「(ははは、それは失礼しました。)」

 

そう言う声はやはり弾んでいた。

 

 

ライ達が地球戻ってきて、ナメック星人たちをどうしようかという話になろうとしているころ界王の能力を使ってヤムチャから通信が入る。

 

「(ブルマ、ライ、聞こえるか。)」

 

「(ヤムチャさん!)」

 

「(ヤムチャ!)」

 

「(落ち着いて聞いてくれ。悟空のことだ。悟空はフリーザを倒して…)」

 

そこまで聞いたところでフリーザを倒したことをブルマが周りに言う。

 

「(静かに聞いてくれ!それだけじゃないんだ。フリーザを倒した後で悟空はナメック星の爆発に間に合わずに、死んだ…!)」

 

ヤムチャは悲壮な声音で言うが、ブルマは軽いノリで話した。

 

「(お、おい。少しは悟飯のことも考えろ!)」

 

「(ヤムチャさん、ナメック星のドラゴンボールは何度でも生き返らせられるんですよ。)」

 

「(へ?)」

 

間抜けなヤムチャの声がライとブルマの脳内に響いた。




超サイヤ人悟空とフリーザの戦いはライが入る余地がないから楽でした。次の次からは人造人間編ですね。


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(第三十七話)スウの結末

主人公っぽい何かが足りない。これはオリ主ものなのに、ドラゴンボールに脇役突っ込んでみたになってしまっている。うーん、どうしたものか。指摘されて確かにってなるあたり独りよがりな文章になってるんだなあと。


生き返っても宇宙空間であるという問題もベジータによって解決し、ライ達が生き返れることが分かったところでライは閻魔大王のところに戻ってきていた。

 

「ようやくお主の体から出られるな。さんざん無理するからこっちも大変だったのう。」

 

「それはすみませんでした。けれど、無理しなければ勝てない相手でしたし、仕方ない部分もあったかと。」

 

「責めているわけではない。お主も含めたみんなの活躍があったからフリーザに勝てたのだろう。」

 

「そうです…か。」

 

そう言うとライが少しよろけ、気が小さくなった。

 

「アクマイト光線の効果が切れたのか。それにしても効果時間がやけに長かったの。三時間くらい持ったんじゃないか。」

 

「なんか、やけにスッキリしましたね。」

 

悪の気がなくなったライの頭は靄が晴れたような気分になっていた。

 

「すまなかった。とんでもない技を、とんでもないことをしてしまって。」

 

そこにスウの声が響く。目の前を見ると魂がふよふよと浮かんでいた。

 

「父さん…ですよね?」

 

「魂になって見た目では分からないかもしれないがそうだよ。何ならお前の小さい頃の話をしてやろうか?」

 

「いえ、結構です。とんでもないことを言われそうですからね。」

 

「ここには俺達以外いないんだから気にすることなどないと思うのだがな。」

 

「スウよ、この私を無視するとはいい度胸だのう。」

 

軽く咳払いした後神様がスウに言った。

 

「まあ良い、最期くらい親子水いらずにしておいてやろう。」

 

そう言うと神様は去っていった。

 

「改めて、本当にすまなかった。正気を失っていたとは言え、許されることではない。」

 

「いいえ、結果論ですけど、私たちがフリーザに勝てたのは父さんのおかげでもあるんです。」

 

アクマイト光線による戦闘力の増強、これなしにライはフリーザが悟空が来るまでの時間を稼げなかっただろうし、元気玉のときも悟空を助けに行けた。

 

「それに、父さん、悪の気に飲まれていても私や母さんのことは大切に思ってくれてたみたいですしね。」

 

「え?」

 

小声で言ったその発言はスウの耳には届かなかったのか、スウが聞き返す。

 

「いえ、とにかく、恨んでなんていませんよ。こういう軽いところ、悟空のが移ったのかもしれないですね。」

 

そう言ったライの言葉に魂になって表情は読み取れないがそれでもスウが救われたようにライは感じた。

 

「ところで、アクマイト光線、私に教えてくれませんか。フリーザ打倒の協力者ですし思惑はどうあれ天国に行けるどころか肉体を与えられてもおかしくないくらいのことを父さんもしてるはずですし、あの頃みたいに一緒に修業しましょうよ。」

 

「いや、俺は、ここまでさ。俺はもうすぐ生まれ変わる。」

 

「え?」

 

「俺の心は悪に囚われていた。今は元に戻っているのは、俺の魂が既に浄化され始めているからなんだ。悪の気の部分から浄化され始めるから今はこうしてライと話せるが、やがてすべての気が浄化されて生まれ変わる。今は、閻魔大王様に功績を盾に少し時間をもらっただけさ。」

 

唖然としているライにスウはやけに流暢に話していく。

 

「そ、れ、は…」

 

ライに構わずスウは話を進めた。

 

「もうこの世に未練もほとんどないし。俺はこれでいいんだよ。さっさと次の人生を歩んだ方が、いいと思う。」

 

「最近、らしいという言葉で色々済ませてるような気がします。でもしょうがないですよね。それが父さん、スウらしいってことなんでしょうから。」

 

そこまで言うと、

 

「流石ライ、あたり。それじゃあさよならだ。生まれ変わったらまた会おう。」

 

そう言ってスウは搔き消えた。搔き消える瞬間、ライはスウの魂からスウの姿を幻視した。

 

「また、会いましょう!」

 

慌てて言ったその声はきっとスウに届いている。

 

「生まれ変わってもそれが父さんって分からないじゃないですか。全く、本当に、最後までらしいんだから。」

 

その顔は、泣いているのか、笑っているのか、自分でも分からなかった。

 

「ちゃんと別れを言えたか?」

 

いつの間にか神様が近くに来ていた。目元をこすって神様に向き直る。

 

「ええ、ちゃんとかどうかは分かりませんけど。」

 

「それならよかった。では私も神殿に戻るとするよ。それではな。」

 

神様が帰ろうとしたところでライが呼び止める。

 

「神様、お説教が残ってますよ。」

 

「……そうだったな。」

 

たっぷり数秒をかけてそれだけ言った。

 

 

「それでは今度こそ神殿に帰るとするよ。それでは界王様、私は失礼します。」

 

げっそりとした表情で神は蛇の道を戻っていった。神様もパワーアップを果たしている。数日とかからず帰れるだろう。

 

「「お帰り、ライ。」」

 

「お帰りなさい。」

 

ヤムチャと天津飯、それに餃子がライを出迎えた。

 

「ただいま帰りました。みんな。」

 

「わしをスルーするのか。そうか、そうか、これはお説教が足りなかったかな。」

 

「!」

 

ライの背筋に緊張が走る。

 

「さっすが界王様、スルーとするをかけたんですね。」

 

そう言ってヤムチャがフォローして溜飲を下げる。三人はこれから四か月修業に励む。

 

 

「界王拳!」

 

界王拳の倍率ををどんどん上げていく。しかしそのライのオーラは白いままだ。

 

「十二倍!」

 

ライのオーラが赤く染まった。

 

「ん、ぎっ!」

 

すぐにライからオーラが書き消えた。

 

「十倍までは赤いオーラが出なくなったな。」

 

「多分界王拳に慣れが出てきたからじゃろうな。今までは、肉体が耐えられるだけで負荷は二倍だろうとあったが、それすらもなくなっているのだろう。」

 

「それでも十倍を超えると無理ですね。体が持たない。」

 

「まあそうじゃな。そもそも人の体は実力の数倍の力に耐えられるようにはできておらんのだから、十倍まで耐えられるだけで相当お主らが鍛え上げられてる証拠だ。」

 

そこまで言ったところで界王様が地球でポルンガが呼び出されたことを感知した。

 

「孫悟空が生きていたようでな。自力で帰ってくるから一つ願いが残ったらしい。誰か一人を呼び戻したいといっておるが。」

 

「俺はもう少し修業をしたい。」

 

「僕も天さんと一緒にいる。」

 

界王拳を習得したばかりの天津飯と餃子はまだ残るといい、ライとヤムチャが候補になる。

 

「じゃあ、ライか、ヤムチャだな。どっちがいい?」

 

「私ももう少し残りますよ。ヤムチャさんにはブルマさんがいるじゃないですか。早く会ってあげてください。」

 

「そうか。なんか悪いな。じゃあお先に生き返るぜ。」

 

そう言うとヤムチャが消え地球に生き返った。

 

 

さらに四ヶ月後

 

「餃子さんも界王拳、マスターしましたね。」

 

「うん。これでもう心残りはない!」

 

「あとは俺達で独自に実力を磨いていくとするさ。そろそろまたナメック星のドラゴンボールが使えるころだろう。」

 

そう天津飯が言うと界王がちょうど三人を呼び出した。

 

「お主らとも今日でお別れだ。お主らにはわしの知る武術は一通り教えた。後は自分たちで実力を磨くがよい。もう死ぬなよ。」

 

「「「はい!」」」

 

そう言って三人は地球に帰っていった。

 

 

「お帰り、ライ、天津飯、餃子。」

 

地球に着くとヤムチャがそう出迎え、ブルマや悟飯たちも次々に出迎えてくれた。

 

「これでようやく、サイヤ人の騒動は決着ですね。」

 

「ほんと、長かったようだけど年数にしたら二年だぜ?いろいろありすぎた。」

 

ヤムチャはカプセルコーポレーションに住み、ベジータは宇宙に武者修業、ピッコロはサイヤ人が襲来したときに悟飯と修業した場所で一人己を鍛え、悟飯は学者になるという夢のために勉学に励んでいる。

 

「ライはこれからどうするんだ?」

 

天津飯も餃子も己を高めるために修業を続けるようだがライは今後の身の振り方が決まっていなかった。

 

「私は…とりあえず村に戻ります。毎年帰ってたんですけど、死んでから帰ってないので地元のみんなに元気な姿を見せようかと。それからは、まあ少し考えてることがあるので。」

 

「まあ、今のライならどこにいても気で場所が分かるし、何かあっても連絡が取れないなんてことはないか。」

 

「ええ、たまには会いに来ます。」

 

そう言ってライはカプセルコーポレーションを後にした。

 

 

それから数日後、ところ変わってピッコロが修行場としている渓谷。

 

「貴様、何か言いたいことがあるなら隠れてないで言ったらどうだ。」

 

ピッコロが岩陰に向かってそう声をかける。

 

「バレてましたか。」

 

「隠れる気もないのにバレてたはないだろう。何の用だ。」

 

「いえ、私、サイヤ人がくるまではあなたの監視をしてたんですよ?サイヤ人の脅威が払われたのでそう言えばピッコロがいたな、と。」

 

「けっ!だったら気を隠すくらいしたらどうなんだ。あの頃のようにな。」

 

「することもないから暇つぶしみたいなものですよ。バレたっていいんです。」

 

己を鍛えた始めた理由は何だったか。よく考えてみれば父さんに言われたから、だったような気がする。お前なら天下一武道会でも通用しうる、世界最強を目指せると言われたから始めた。そして、自分よりも強い人(武天老師)に出会い、ライバルと呼べるような人(悟空やクリリン)にも出会った。その人たちに負けられないと思ってさらなる修業を積んだ。そしてかつてのライバルの一人は今や次元が違う強さを誇り、手の届かないと感じられるほどの高みにいる。修業を続ける意味をライは見いだせていない。

 

「だったら俺の修業に付き合え。打倒孫悟空は変わらない。」

 

「…超サイヤ人、見ました?」

 

「次元の違うフリーザをも倒してしまう伝説の最強戦士。だからどうした?俺があいつに届かない理由はあるのか、最強に比肩したフリーザの存在が、俺も孫に勝ちうると証明する。」

 

「強いですね。」

 

戦闘力的な強さではない、強さを追い求める者としての(つよ)さをライは感じ取った。

 

「分かりました。お付き合いしましょう。界王拳も教えます。一緒にさらなる高みを目指しましょう。」

 

「当然だ。ライ、貴様にも決して負けん。」

 

「いえ、私だって、悟空にもピッコロにも、誰にも、負けません。」

 

そして約一年の月日が流れた。




スウはこれで永久離脱です。スウがあの時悪の気に飲まれていなかったら、多分死んではいなかったように思いますがこれも運命なのです。さて、今のところ無印、サイヤ人、ナメック星と三つの章を書きましたが、話数的には後半分ない気もしますがストーリー的には約半分ってところです。これからもよろしくお願いします。章の初めに散らした結末や独白や慟哭はまだ先の話。


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人造人間編
(第三十八話)二人目の超サイヤ人


お久しぶりです。更新ペースが落ちていますが、書き溜めの都合です。しばらく月一になります。


「気づいたか、ライ。」

 

「ええ、フリーザは悟空に殺されたはずなのにどうして…」

 

ライは界王からフリーザが悟空に殺されたことを聞いている。驚愕も人一倍だろう。

 

「だが、この気は間違いなくフリーザだ。大方孫を殺しに来たんだろうぜ。」

 

「では、悟空ももう少しで来るんでしょうか。いやでも…」

 

「そんなことは知らん。だが、これだけは言えるぜ、俺たちは孫がくる可能性に賭けてあいつを食い止めなけりゃならん。」

 

そう言うとピッコロはフリーザの方へ向かって飛び始めた。ライもそれを追う。

 

「やつの気から察するにおそらくここからそう遠くないところに着陸するだろう。急ごう。」

 

「ええ。」

 

 

「貴様等さっさと気を消せ、スカウターで居場所がバレるぞ。そこのナメック星人と地球人はそうしてる。」

 

「ライ!ピッコロ!」

 

ベジータとヤムチャ、天津飯に餃子がいたのでそこにピッコロとライが合流するとすぐにベジータがそう言った。

 

「お久しぶりです、ヤムチャさんに…ブルマさんも!?」

 

「私はナメック星にいた時は一度もフリーザを見れなかったからね。一目見てみたかったのよ。どうせフリーザが本気になれば地球ごとドカンじゃない。」

 

「いや、まあ確かにそうかもしれませんけど。地球上はどこも危険な場所ですがここはとても危険な場所です。すぐに帰った方が…」

 

そこまで言いかけたところで悟飯とクリリンが合流する。

 

「悟飯、悟空は!」

 

ヤムチャが問いかけるが悟飯は首を横に振るだけだった。

 

「やはりまだ戻ってないのか。」

 

そうしてフリーザの宇宙船が地球に着陸する。

 

「「「「「!」」」」」

 

その気に圧倒され、ヤムチャ、餃子、天津飯は言葉も出せない。

 

「お、おい、フリーザってのはあんなにとんでもない馬鹿でかい気なのか。」

 

「あんなもんじゃないですよ。この程度ならまだ希望はありましたけど、もっともっと大きくなります。」

 

ライがそう言って悟飯やピッコロも頷く。

 

「生き返ったばかっりでまた死ぬのか。」

 

そう言いながらもフリーザ船の着陸地点にヤムチャは向かい始めた。

 

「逃げてもいいですよ?私たちが食い止めてる間に悟空がくる可能性もありますからね。」

 

「馬鹿言うなよ。みんなを守れるよう修業してきた、あの時そう言っただろう。平和ボケしてたのは認めるが、だからといってお前らを置いて逃げたりはしない。」

 

それを聞いてライは口角を上げると、崖を登り始めた。

 

 

「何か用かな、地球人。」

 

地球人皆殺しに動き始めたフリーザ兵たちを切り落とし、一人の青年が立つ。残った兵士が動揺するなか、フリーザとコルドは冷静に問う。

 

「お前たちを殺しに来た。」

 

厳しい目つきでフリーザ達を睨みつける。

 

「今、なんて言った?」

 

「お前たちを殺しに来た、と言っているんだ。」

 

それを聞いてフリーザとコルドが不敵に笑う。

 

「何も知らないというのは良いものだな。」

 

「知っているさ、お前、フリーザだろ。」

 

「こんな銀河の果ての辺境の星まで僕の名が知れ渡っていたとは。だが残念なことに僕が宇宙一の力を持っていることまでは知らなかったようだ。」

 

馬鹿にしたように言うフリーザに対してそのあおりに乗ることもなく返す。

 

「お前がここで死ぬことも知っている。」

 

怒りに顔を歪ませるが、すぐに兵たちを動かす。

 

「戦闘力たったの5か、ゴミめ、ちょっと痛いけど我慢しな、すぐに終わるからよ。」

 

そう言うと凄まじい速度の光線銃を放つがすべて片手ではじく。

 

「「「「こ、このおおおお!」」」」

 

兵士たちが一斉に飛び掛かるが一瞬で切り伏せた。

 

 

 

「「「!」」」

 

急に戦士たちの動きが止まる。それを見てブルマが言った。

 

「な、なに?どうしたのみんな。」

 

「わ、分からない。でかい気が急に現れて」

 

「一瞬にしてたくさんの気が消えた。」

 

「あの山の向こうで何が起こっているんだ!?」

 

 

 

「なかなかやるではないか。」

 

「地球人にしてはだけどね。」

 

一瞬で兵士たちを切り捨てた青年を前にしてもフリーザ達の余裕は崩れない。この程度の芸当は、ライ達でも可能なのだから。

 

「次は、お前たちの番だ。」

 

「知ってるかい、中途半端な力を持つとかえって早死にするんだ。」

 

「お前のようにか」

 

馬鹿にしたように言う。

 

「そんな姿になってまで、よくおめおめと地球に来られたもんだ。わざわざ殺されるために。」

 

「口の減らないガキだ、お仕置きが必要だね。光栄に思うがいい、僕が死刑執行人になってあげよう。」

 

ようやくフリーザが戦闘態勢をとる。

 

「初めから全力でかかってくるんだな。僕は孫悟空さんのように甘くはない。」

 

「ほう、お前もあの超サイヤ人の仲間か。」

 

その強さに少し納得したように言った。

 

「会ったことはない、知っているだけだ。」

 

「ほう、知っているだけ。」

 

「お前たちはさっきこう言っていたな、あの超サイヤ人が来るまでに地球人を皆殺しにして悔しがらせてやろうと。」

 

「確かに言った。最も貴様が部下たちを殺したおかげで、このフリーザの手で殺さなければならなくなったけどね。」

 

「誤算だったな。超サイヤ人は孫悟空さん一人じゃない。ここにもいたということだ。」

 

そう言うと青年の髪が逆立ち、色は金色に染まる。

 

 

 

「な、なんだ。あいつは!」

 

ようやく戦場に到着したベジータ達が見たのは謎の青年がフリーザを切り刻み、気功波で完全に消滅させた場面だった。

 

「い、今のは、間違いなく、フリーザだ、フリーザだった。」

 

「フリーザをあっという間にばらばらに。」

 

「孫君たらすっごく強くなったのね。また助かったわね。地球。」

 

「ち、違います。あれは悟空じゃ、ない…!」

 

戦士たちはその謎の青年の元へ飛ぶ。

 

 

 

「素晴らしい強さだ。超サイヤ人、まさに想像以上だ。どうだ、フリーザの代わりに我が子にならんか?地球よりもっと素晴らしい星も、思うがままだ。宇宙一の貴様こそ我が一族にふさわしい。」

 

「興味がない。それに、俺よりも俺の師の方が強い。それにその師よりも…」

 

しゃべりすぎたとでも言いたげに口を閉じる。

 

「ほう、それは残念だ。ところでその剣はなかなか素晴らしい剣だな。あのフリーザの体をいとも簡単にばらばらにしてしまうのだから。少し見せてはもらえんかな。」

 

剣を受け取ったコルドはその剣で青年に切りかかる。

 

チャッ!

 

「どうやら剣だけではなかったようだな。」

 

そう言うとコルドに向けて気功波を放つ。その力はコルドの体をやすやすと貫通する。命乞いも全く意に介さず二撃でコルドを殺し、フリーザ船も破壊した。

 

 

 

フリーザ一味を瞬殺した謎の青年を唖然とした様子で伺っていると、その青年から好意的な声音で呼び掛けられる。

 

「これから、孫悟空さんを出迎えに行きます。一緒に行きませんか?」

 

唖然としている間にもその青年はもうじき悟空が着くといって着陸地点に向かい始めた。

 

「ぼく、あの人について行ってみます。」

 

「悪い人には見えませんもんね。得体は知れませんが。」

 

悟飯がついて行くと言うのを皮切りにみんなで青年を追いかける。

 

 

「孫悟空さんが着くまであと、三時間ほどかかります。飲み物たくさんあるので、良かったらどうぞ。」

 

到着地点につくと、その青年がぽいぽいカプセルから冷蔵庫を取り出した。肝が据わっているブルマが頂くと言うと悟飯も飲み物を取りに行く。

 

「私もいただいて良いですか?」

 

「え!ああ、もちろんです。どうぞ。」

 

ライも飲み物をもらい、気になっていたことを聞こうと口を開くとそれよりも先に悟飯が青年に問う。

 

「どうしてお父さんのこと、知ってるんですか?」

 

「僕も話に聞いているだけで、会ったことはないんです。」

 

「じゃあ、どうして悟空が来ると?」

 

「すいません、言えないんです。」

 

クリリンの問いに申し訳なさそうに答えるがそれをベジータが強く咎める。

 

「言えないってどういうことだ。貴様は一体何者だ。」

 

「あの規格外の力も気になります。フリーザを倒した時、超サイヤ人になってましたし、サイヤ人なんですよね?」

 

ベジータに便乗し、ライも聞く。

 

「えっと、いや、確かに超サイヤ人にはなってましたけど…」

 

「ふざけるな!サイヤ人は俺と、カカロット、ここでは孫悟空と呼ばれているが、あとそこのカカロットと地球人の混血のガキ以外残っていない。だから貴様がサイヤ人であるはずがない!」

 

「でも、さっき超サイヤ人になってるんですよ。この方。」

 

「チッ!だいたい、サイヤ人には黒髪しかいない。」

 

「不思議なもんですねえ。不思議と言えばもう一つあるんですけど…」

 

青年は困ったような表情でうつむいたままだ。

 

「そのロゴ、カプセルコーポレーションのですよね。そこの社員なんですか?」

 

「えっ、ああ確かに。」

 

「そ、そう言うわけじゃないんですが…」

 

「それも秘密ですか。じゃあ、名前も歳も全部秘密にするんですか?」

 

「えっと…」

 

「ああ、いろいろ知ってるみたいなので、知ってるかもしれませんが、私はライって言います。以後よろしく、で合ってますか。」

 

「え、ええ、よろしくお願いします。そしてすいません、名前は言えないんです。歳は十七歳です。」

 

「じゃあ、私は年齢を黙っときます。これでおあいこってことで。」

 

そう言って笑うと悟飯にクリリン、ブルマたちも名乗る。

 

「それで、さっき突っかかってきた人がベジータで、そこのターバンとマントをつけた人がピッコロです。」

 

「ええ、よく知ってます。あ、いえ、これも聞いたことがあるだけですが。」

 

「不思議な人ですね。まあ、地球を救ってもらった恩人には変わりないのですけど。フリーザ達を倒してくれてありがとうございました。」

 

そう言ってライは深々と頭を下げた。

 

 

 

「ピッコロさん、ずっと聞きたかったんですけど、どうしてデンデ君達と一緒に新しいナメック星に行かなかったんですか?」

 

「大した理由なんかない、刺激のない退屈な日々は、ごめんだからな。」

 

ぶっきらぼうにそう言う。

 

「ということは今でも毎日厳しい修業をしてるんですか。」

 

「ああ、そこのにやけ顔と一緒にな。余計なことは言うなよ。」

 

「はいはい、分かりました。」

 

にやけ顔ことライは残念そうに頷いた。

 

「ところで、えっと、そこの十七歳さん、私と、ついでにベジータに何かついてますか、さっきからちらちらと見てきてますよね。私、意外に視線には敏感なんですよ?」

 

「す、すいません…あ、そろそろ三時間です。孫悟空さんが到着します。」

 

そう言うとライ達も悟空の気を感じ取る。土煙に巻き込まれない程度の距離に宇宙船が着陸した。

 

 

「あれ、どうしておらがここに着くって分かってたんだおめえたち。」

 

仲間の歓声の中、宇宙船を降りた悟空の第一声がそれである。

 

「この子よ、この子、この子が孫君がここに来るって教えてくれたのよ。」

 

「お父さんこの人知ってるんでしょ?」

 

「ん?誰だ?」

 

ブルマと悟飯がそう言うが悟空は全く知らないといった。

 

「え、でもこの子が孫君がくるって教えてくれたのよ。」

 

「ほんとか?フリーザ達はおらがいつ着くか知ってたみたいだけど、あ、誰がフリーザ達をやっつけたんだ?ピッコロかライか、それともベジータか。すげえ気だったな。」

 

「フリーザ達をやっつけたのはこの方ですよ。しかも超サイヤ人になれます。」

 

「超サイヤ人に?そいつはすげえや、若いのによ。おら達以外にもサイヤ人がいたんだな。」

 

ベジータに否定されるもどうでもいいと軽く返した。

 

「孫さん、実はお話があります。貴方だけに伝えなければならないことが。」

 

青年の様子から事態をくみ取り、少し離れた場所に移動する。

 

「ピッコロ、聞こえます?」

 

「盗み聞きとは悪趣味だな。ライ。」

 

「いえ、私は聞こえてませんよ。耳は普通の人よりはいいんですけど、嗅覚ほど優れてるわけじゃないので。」

 

「まあ、聞こえてはいる。だが、その内容を伝えるかどうかは、保証しない。」

 

「それで充分です。」

 

 

「孫さんは自分の意志で超サイヤ人になれますか。」

 

「ああ、最初は無理だったが、修業でできるようになった。」

 

「なっていただけませんか、今、ここで。」

 

そう言われ、悟空は超サイヤ人になる。

 

「これでいいのか。」

 

「ええ、驚いたな。超サイヤ人になった僕とそっくりだ。」

 

そう言うと青年も超サイヤ人になる。

 

「失礼します。」

 

そう言うと悟空に切りかかる。しかし悟空は微動だにしない。

 

「どうして、避けなかったんですか。」

 

「殺気が無かったからだ。避けると分かっていた。」

 

「なるほど、では今度は止めません、いいですね。」

 

そう言って構えると悟空も人差し指に気を込める。

 

 

「超サイヤ人同士の戦いが見れるなんてな、あいつ、悟空の噂を聞いて腕試しに来たとかだったりしないか。」

 

「多分そう言うのではないですよ。数合しか打ち合っていないですし、彼、相当実力を抑えてます。」

 

ヤムチャがそう言ったがライが潜在パワーを探り、そう判断する。

 

「へ、へえ。そう。」

 

「あれほどのサイヤ人をベジータが知らないのもおかしいですし、謎が深まるばかりですね。」

 

そう言いながらピッコロに目線を送ったが、まだ話せないとばかりに首を振る。

 

 

ー貴方なら信じることができる。すべてをお話しします。ーとトランクスと名乗った青年は話す。それは地獄のような未来の話。フリーザを悟空が倒した世界。

 




界王拳の赤いオーラが出なくなったのはライと天津飯と餃子の三人です。ヤムチャは修業してなかったのでオーラは赤いままです。メカフリーザの後、悟空の死後と必死に修業してましたけどそういう方面では修業しなかったので。ついでにピッコロですが、本家から聞いたわけではないのでそこまでは昇華しませんでした。ライはそのことに少しばかり負い目を感じていたりするのですが…それはが物語に関わるのはもっと先の話


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(第三十九話)最強の幻影

前話と少しかぶってますが、日が開いたので思い出す意味もかねてってことで。展開上必要なことでもあります。


「気づいたか、ライ。」

 

「ええ、フリーザは悟空に殺されたはずなのにどうして…」

 

ライは界王からフリーザが悟空に殺されたことを聞いている。驚愕も人一倍だろう。

 

「だが、この気は間違いなくフリーザだ。大方孫を殺しに来たんだろうぜ。」

 

「では、悟空ももう少しで来るんでしょうか。いやでも…」

 

「そんなことは知らん。だが、これだけは言えるぜ、俺たちは孫がくる可能性に賭けてあいつを食い止めなけりゃならん。」

 

そう言うとピッコロはフリーザの方へ向かって飛び始めた。ライもそれを追う。

 

「やつの気から察するにおそらくここからそう遠くないところに着陸するだろう。急ごう。」

 

「ええ。」

 

 

「貴様等さっさと気を消せ、スカウターで居場所がバレるぞ。そこのナメック星人と地球人はそうしてる。」

 

「ライ!ピッコロ!」

 

ベジータとヤムチャ、天津飯に餃子がいたのでそこにピッコロとライが合流するとすぐにベジータがそう言った。

 

「お久しぶりです、ヤムチャさんに…ブルマさんも!?」

 

「私はナメック星にいた時は一度もフリーザを見れなかったからね。一目見てみたかったのよ。どうせフリーザが本気になれば地球ごとドカンじゃない。」

 

「いや、まあ確かにそうかもしれませんけど。地球上はどこも危険な場所ですがここはとても危険な場所です。すぐに帰った方が…」

 

そこまで言いかけたところで悟飯とクリリンが合流する。

 

「悟飯、悟空は!」

 

ヤムチャが問いかけるが悟飯は首を横に振るだけだった。

 

「やはりまだ戻ってないのか。」

 

そうしてフリーザの宇宙船が地球に着陸する。

 

「「「「「!」」」」」

 

その気に圧倒され、ヤムチャ、餃子、天津飯は言葉も出せない。

 

「お、おい、フリーザってのはあんなにとんでもない馬鹿でかい気なのか。」

 

「あんなもんじゃないですよ。この程度ならまだ希望はありましたけど、もっともっと大きくなります。」

 

ライがそう言って悟飯やピッコロも頷く。

 

「生き返ったばかっりでまた死ぬのか。」

 

そう言いながらもフリーザ船の着陸地点にヤムチャは向かい始めた。

 

「逃げてもいいですよ?私たちが食い止めてる間に悟空がくる可能性もありますからね。」

 

「馬鹿言うなよ。みんなを守れるよう修業してきた、あの時そう言っただろう。平和ボケしてたのは認めるが、だからといってお前らを置いて逃げたりはしない。」

 

それを聞いてライは口角を上げると、崖を登り始めた。

 

 

「「「!」」」

 

急に戦士たちの動きが止まる。それを見てブルマが言った。

 

「な、なに?どうしたのみんな。」

 

「わ、分からない。でかい気が急に現れて」

 

「一瞬にしてたくさんの気が消えた。」

 

クリリンと天津飯がそう解説する。するとすぐに地球が震えはじめる。

 

「この気は…お父さんだ、お父さんの気だ!」

 

「でもどうしてこんな一瞬で!?」

 

「どうやったかは知らんがカカロットが地球に戻ったようだな。」

 

すぐに爆発が起こり土煙が舞う。

 

 

「貴様、まさか生きていたとはな。」

 

「お前を殺すまでこの僕が死ぬとでも?言ったはずだよ。貴様は俺に殺されるべきなんだ、と。」

 

「それにしてもこの超サイヤ人はどうやってここにこれたんだ、レーダーではあと三時間くらいはかかる予定だったはずだが。」

 

コルドがそう疑問を投げかけるのに悟空は少し口角を上げるだけでその場から()()()

 

「む?」

 

「瞬間移動ってやつだ。」ピュン!

 

ドッガアアアン!

 

「な、なに!?」

 

その気功波はコルドの心臓を貫通し、奥の宇宙船が爆発する。

 

「貴様ら一族はこの程度では死なないだろう、何度もチャンスを与えてやったのに反省しなかったようだな。」

 

「こ、のお!」

 

コルドが指から光線を放つが軽々と悟空は避ける。

 

「死ねえ!」

 

フリーザもエネルギー波を放つがそれを弾いた。

 

「馬鹿な!今の攻撃を、片手で!」

 

フリーザが驚いている間にも悟空は高速移動でフリーザに接近する。

 

「今度こそ止めを刺してやる!!」

 

そうしてあの時、フリーザを両断した気円斬をなぞるように左手に気を込めて手刀でフリーザを真っ二つに切り裂いた。

 

ビシッ!ガスッ!スパッ!ザクッ!

 

そうして目にも止まらぬ早業で小間切れにした。

 

「波あああ!」

 

気功波でフリーザが完全に消滅する。

 

「ま、待て、星を一つ、いや太陽系すべての星をやろう、だから助…」

 

後ずさるコルドの命乞いも意に介さず気功波で消滅させた。

 

 

「流石は悟空だなあ、やっぱり遠くに行っちまったような気分だ。」

 

クリリンが圧倒的な強さでフリーザ達を倒した悟空を見て少し悔しそうにそうこぼした。

 

「あの時よりも強くなってましたね。流石は父さんだ。」

 

そう言うは悟飯。悟飯はライと一緒に超サイヤ人になった悟空の姿を見ている。その凄さを肌で感じた悟飯は悟空の強さをそう評価する。

 

「それはそれとして、どうやって急に現れるなんて芸当ができたんですか?」

 

「そうだ、それに教えろ、カカロット、貴様どうやってナメック星から生き残った。」

 

ベジータがそう聞く、悟空の仲間たちも同じ様に頷いた。

 

「フリーザの船は壊れちまってたんだろう?界王様も悟空は死んだって言ってたし。」

 

「おらももうダメだって思ったさ。もう死ぬんだって。けどな…」

 

そう言って悟空が事情を話す。ギニュー特戦隊の宇宙船を見つけられたこと、その宇宙船がヤードラット星に行くようにインプットされていたこと。その星で瞬間移動を教わったこと。

 

「ほかにもいろんなことができるらしいんだけどな。念話とか遠くの出来事を知る能力とか。でもあんまり長居するのも悟飯やチチに悪いと思ってな。期限を決めてやったから、瞬間移動しか習得できなかったんだ。」

 

「それはすごいな。」

 

「結果的にそのおかげで俺達は助かったわけか。」

 

ヤムチャと天津飯がそう言って感心する。

 

「それにしても外敵を払えてよかったです。」

 

「今まで散々な目に地球も私達もあってきたけど、これからは孫君さえいれば大丈夫よね。良かったあ。」

 

「はっはっは。かもな。それじゃあ、おらは悟飯と一緒にチチのとこに帰るとするさ。チチの飯が恋しいぜ。」

 

そう言って悟空は悟飯と一緒に瞬間移動で帰っていった。

 

「便利だなあ。瞬間移動。」

 

「ま、孫に教わっても無理だろう。お前と違ってあいつは感覚派だしな。」

 

「まあ、確かに。」

 

それぞれが各々の場所に帰り、再び平和な日々が続いていった。しかし…

 

 

「僕、ドラゴンボールを探してきます!!」

 

そう言って悟飯が孫家を飛び出す。悟空が心臓病に侵されてからわずかに一週間。彼の容体は恐ろしい速度で悪化していった。その心臓病はウイルス性という今までにない物であり、カプセルコーポレーションが提携している最高峰の医療機関に見せても治療法はなかった。一ヶ月も持たないと余命を宣告された悟空とそれを聞いたチチはそれを悟飯に隠していたが、余命を一週間切った段階でそれも隠し通せなくなり、それを悟飯に明かした。その矢先に飛び出した言葉だ。

 

「待ってけれ!悟飯ちゃん!!」

 

ご飯を呼び止める声は一つしかない。悟空は寝たきりになってしまっていた。最も起きていたとしても衰弱しきっていた悟空には悟飯を呼び止める余力はないだろう。

 

 

「病気で死んだものを生き返らせることはできない。同じような理由で、死因となる病気も治療することはできない。それは神の理に反する。」

 

「神龍って意外と融通が利かないですよね。病気で死ぬのは自然死ではなく病死でしょうに。」

 

ピッコロとライは悟空からその病のことを聞いた。余命が宣告された時点で、悟空の仲間にこの事実は周知のものとなった。子供だからと伝えられなかった悟飯を除いて。

 

「神は万能ではない。何せ俺の半身だからな。」

 

「微妙に反論のしにくいことを…」

 

ライは思案に暮れる。

 

「知らず知らず、ドラゴンボールに頼りすぎてたんでしょうかね。」

 

どうにもならないことを察して悔しそうにそうこぼした。そして数日後、その日は訪れる。

 

 

「確か…いでよ神龍そして願いを叶えたまえ、だったよね。」

 

わずか一週間でドラゴンボールをそろえ切った悟飯が神龍を呼び出そうとしていた。わずか八歳にして一週間でドラゴンボールを集めたのは初めてドラゴンボールを集めた悟空が十二歳だったことを思えば破格の速さだ。

 

「いでよ神龍そして願いを叶えたまえ!」

 

空が暗く染まり、神の龍が顕現する。

 

「ドラゴンボールを七つそろえし者よ、さあ、願いを言うが良い。どんなものでも叶えてやろう。」

 

「お父さんの、孫悟空の病気を治してください。」

 

悟飯が切実な声音で頼むが神龍は表情一つ変えずに言う。

 

「それはできない。」

 

と。

 

「どうして、どんな願いでも叶えるって言ったじゃないですか!」

 

そして神龍は最悪の事実まで突きつける。

 

「孫悟空という者の病気は孫悟空を死に至らせる病気だ。自然死の要因となる病気は治すことができない。」

 

この心臓病で後遺症が残るだけであれば神龍に頼めば完治させることができる。超サイヤ人ならば耐えられるのではないかという、淡い期待を粉々に打ち砕いた。

 

「じゃあ…いいです。ありがとう。」

 

神龍をボールに戻すとドラゴンボールは輝きを失わないまま散った。

 

 

神龍に願いを叶えられずとぼとぼと帰っているとピッコロから念話が入る。

 

「(悟飯、急いで戻ってこい、悟空が、もう…)」

 

「お父さん!」

 

彼は急ぎ驚異的な速さで帰り始める。

 

 

「ピッコロ、悟飯は間に合うでしょうか。」

 

「急いでこっちに向かってきてるが、五分だな。」

 

いよいよ悟空の死が近いということで悟空の家には悟空の仲間、クリリン、亀仙人、ブルマ、ヤムチャにプーアル、ウーロン、天津飯と餃子、ヤジロベー、果てはベジータまでもが集まっていた。そうしていると悟飯が凄い速度で戻ってくる。こちらを見向きもせずに家のドアを開けた。

 

「お父さん!!」

 

家の中には牛魔王とチチが悟空の最期を看取る。

 

「悟飯ちゃん…」

 

悟飯が帰ってくるのを待つようにかすかに感じ取れた気が完全に消えた。

 

「「「「!」」」」

 

「チッ!」

 

ベジータが忌々しそうに舌打ちを打ち、それが仲間内で悟空が死んだことを確信させる。

 

「史上最強も病魔には勝てないってことかよ。」

 

「悟空!」

 

「悟空…」

 

「孫君…」

 

全宇宙最強はただの病魔に敗北する。

 

 

「でりゃ、とりゃ、たああ!」ゴン!バシッ!ドガッ!

 

すべての攻撃をいともたやすくピッコロはいなす。あれから一年、悟空の死を乗り越えようと、ライとピッコロは以前にもまして激しい修業を積んでいたが、成果はなかなか感じられない日々が続いていた。目標の喪失、悟空の死は重く二人にのしかかる。

 

「ここまでにしよう、ライ。」

 

「…ええ。」

 

修業に一区切りをつけ一息つく。二人ともがむしゃらに修業をしていたが、どうしてもこういう時には思い出してしまう。孫悟空の喪失を。

 

「あれから二年か。」

 

「ええ。まだ数ヶ月しかたってないような、そんな気がします。」

 

「同感だな。だが、悟飯を見ると、嫌でも時の流れを感じずにはいられん。」

 

身体的な成長が止まったライやピッコロと違い、悟飯、そしてトランクスはすくすく成長している。時々悟飯は様子を見に来るが会うたびに成長に驚かされる。

 

「悟飯は学者目指して頑張ってるらしいですね。この前来た時もテストがどうとか言ってましたし。」

 

悟飯は悟空の死後、武術から離れて生活している。まるで父の未練を振り払うように。そのくせ、ここに来ると必ず組み手をしていく。少しでも父の面影を感じようとするかのように。

 

「もともと学者になりたいとか抜かしてたからな。あいつの望み通りの人生だろう。俺たちがとやかく言うことじゃない。もうこの世界は平和なのだから。」

 

悟飯は武術から離れてはいるが、肉体は子供のそれから大人のそれに変わりつつある。特段の修業を積まずとも力は増している。戦いの感は鈍ってきているが。

 

「勿体ない気もしますけどね。まあ、悟飯は頭もいいですし、どっちにしても勿体ないのかもしれませんけど。」

 

こうして平和な日々は過ぎていく。

 

 

「ピッコロ、俺と勝負しろ。」

 

さらに一年が経つ頃、ベジータがライとピッコロのところにやってきた。ベジータも修業を一人続けていた。

 

「貴様とか、今更何のために。」

 

「カカロットが死んだ今、貴様がこの地球、いやこの世界で最強だろう。いや、最強だった。」

 

そう言うとベジータが超サイヤ人に変身する。

 

「史上最強の超サイヤ人。俺がそれになれた今、俺は、負けることは許されない。最強を証明しなければならない。」

 

 

ピッコロはベジータに対して油断を一切せず全力で戦ったがそれでも一瞬で決着がついた。それほどまでに超サイヤ人は圧倒的だった。あまりの力の差に、ベジータはピッコロの命を奪おうとすらせず、死なないように加減さえした。勝利したベジータはしかし、全く嬉しそうな顔をしなかった。

 

「完敗だ、流石伝説の戦士、超サイヤ人。」

 

もはや悪態すらもつけない。それくらいピッコロとベジータには差があった。

 

「フン、貴様に言われたところで嬉しくもなんともない。それに、俺はベジータだ。超サイヤ人だから強いんじゃない、俺は俺だから強いんだ。」

 

「…」

 

ベジータはそれだけ言うと飛び去った。超サイヤ人にこだわっていながら、超サイヤ人をその強さの理由にすることを拒む。そのあり方がいびつだと、ライは思う。

 

「ベジータは、まだ悟空を目指しているのでしょうか。」

 

ピッコロに手を差し伸べながらそう疑問を投げかける。

 

「そうだろうな、だが、どんな強さを手に入れたとしてもベジータは満足しない。いつまでも孫の幻影を追い続けるんだろうよ。」

 

「そう、でしょうね。」

 

(あなたも私もそうなんでしょう。)

 

いつまでも幻影を追っていては強くはなれない。そう分かっていながら、追うのをやめられない。




人造人間・未来編開幕。


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(第四十話)南の都南西九キロ地点

最新話に掲載していた十五.五話を移動させました。まだ見ていない方は是非。


ピッコロが、ライが、そしてベジータが孫悟空の幻影を追い続けることをやめていれば、あるいは、それが幻影でなく、本物であれば、結末は全く違うものとなっていたはずだ。あるいは、もっと他の、少しだけ何かが味方をしてくれるだけで、結果は変わったのかもしれない。だが、事実として悟空は死に、三人も幻影を追い続けていた。

 

 

五月十二日、午前十時頃、南の都の南西九キロ地点に二人の悪魔が現れる。その日はちょうど悟空がレッドリボン軍を亡ぼした日からちょうど十六年の節目の日だった。そして悪魔の誕生、それから続く地獄の日々を憂うかのようにその日は曇っていた。

 

 

(急に気がどんどん消えていく。どうしてだ。戦争でもあったのか、もしくは爆弾でも落ちたのか?いや…)

 

その島の異変に気付いたのはヤムチャだった。犬国王が国王に着いてから内戦はほとんど起こらなくなった。世俗を離れたライやピッコロ達とは違い、彼は世界の情勢を彼らの仲間内ではブルマに次いで詳しかった。だからこそそれが異常なことであると、彼が、彼だけが気づいた。

 

(昔の、ちょっと前までの俺なら、気にしないでいただろうに。俺が悟空の真似事なんてらしくないよな。)

 

ヤムチャが修業してきたのは仲間を守るため、そこに一般人は入っていなかった。それだけの力が彼にはなかったから。仲間のピンチが地球のピンチだったから今まで戦ってきただけだ。今回は仲間は誰も危険にない。最も地球人同士の戦いなど今のヤムチャにはただの児戯に過ぎないが。

 

「さて、爆弾なら一斉に死ぬし、軍隊がいると思ったんだが…いないな。」

 

戦争をしているのならば近くに行けば軍人がいる。少し近づけば分かるがそうと分かるような人影はなかった。ヤムチャは悲鳴のする方へと飛んでいく。

 

 

「弱い、弱すぎるね、人間はさ。」

 

「俺たちが強すぎるんだ。なにせ…」

 

そう言って逃げている子供の背中に向かって気功波を放つ。悲鳴と共に煙が舞う。

 

「俺の気分ひとつで、少し指をかざすだけでどんな人間も俺の思うままだ。」

 

そう言って二人はクスクスと笑う。しかしその笑みは次第になくなっていく。

 

「違う、お前達の思うままにはならない。世の中、悪は滅びるようにできている。」

 

あのフリーザでさえと、言葉にせずに続ける。煙が晴れる。

 

「ドクターゲロのデータによれば、貴様はヤムチャだな。こんな早く孫悟空の手がかりを得られるとは。」

 

「ドクターゲロ?悟空?どうやら貴様が何者なのかも、聞かなければならないようだな。」

 

さあ、お逃げと子供を逃がして破壊者二人と相対する。

 

「なに、隠すほどのものではないさ。俺たちは孫悟空を倒すためにドクターゲロによって改造された最強の人造人間だ。」

 

「ま、私たちはゲロの命令なんてどうでもいいんだけどね。こんな風に改造してくれちゃってさ。でもせっかく手に入れた力だ。気に入らないものを壊して行こうかと思ってさ。」

 

「復讐も済ませてゲロも殺したし、好き勝手生きる。俺たちのやりたいように、生きていく。まずは、俺達の最強をかみしめるのも悪くないだろう?」

 

「改造されなきゃできないことをしておいて、しかも殺してるとか、トんでるな。お前等なら躊躇はいらないようだ。」

 

ドン!

 

ヤムチャが本気を出せば、いや加減を間違えば、地球上に存在するあらゆる暴力は太刀打ちできない。それは改造人間たる人造人間にも適応されるはずだった。彼は本気だった。本気で人造人間の片方、十七号を打った。

 

「流石に強いな。ドクターゲロの予測の孫悟空のデータよりも強いじゃないか。この分だと孫悟空はもっと強いのかな?」

 

しかし、それを難なく受け止められた。

 

「は?」

 

「もう少し楽しませてくれよ。」ガンッ!

 

「ぐっ!」

 

蹴りを入れられて吹っ飛ばされる。ビルが崩れて瓦礫がヤムチャを襲う。

 

「うらぁ!」

 

シュン!

 

それを気合だけですっ飛ばし、すぐに人造人間に襲い掛かる。彼をまとうオーラは赤い。

 

「おっと!」ガッ!

 

凄まじい速度で襲ってくるヤムチャを難なく払う。すぐに瓦礫を足場に利用して追撃にかかる。十七号を円の中心に置くように何度も何度も襲い掛かる。その猛攻はまるで獲物を襲う狼。

 

「こいつ面白い!いいおもちゃになりそうだ!」

 

十七号が嬉々とした残忍な笑顔でそう言った。

 

「十八号、手を出すなよ!これは俺のおもちゃだ!」

 

「はいはい、分かったよ、好きにしな。」

 

不機嫌そうに言って十八号はどこかに向かって行く。

 

「服でも探すのか?人は殺しすぎるなよ、楽しみがはじっくりといかなきゃな。」

 

十七号が余裕そうに言った。

 

「させるか!」

 

ヤムチャがそう言ったが十七号が阻止する。

 

「おいおい、お前は俺と遊んでもらわなきゃ。」

 

「くそっ!」

 

 

「!」

 

亀ハウスで、クリリンはヤムチャが全力を出したことを感じ取る。しかし、ヤムチャが全力を出すに足る相手の気を感じ取れない。

 

「様子を見に行った方が良いよな。」

 

亀ハウスは南に浮いている孤島。すぐ近くだった。

 

 

「「!」」

 

ある旅路で、餃子と天津飯もヤムチャが全力を出したことを感じ取る。しかし、ヤムチャが全力を出すに足る相手の気を感じ取れない。

 

「天さん、これ…」

 

「ああ、様子を見に行こう。」

 

この場所は南の島から遠かった。

 

 

「「!」」

 

ある場所で、ライとピッコロもヤムチャが全力を出したことを感じ取る。しかし、ヤムチャが全力を出すに足る相手の気を感じ取れない。

 

「珍しい、ヤムチャが界王拳を使うとは。」

 

「尋常ではないことが起こってるのでは?」

 

「仕方ない、様子を見に行ってやるか。」

 

その場所は南の島から決して近くはなかった。

 

 

「ゴホッ!」

 

「脆いな、お前も。そこらの雑魚よりはやるみたいだけど、やっぱり手加減しなきゃ死んじまうってとこは一緒だな。」

 

シュッ!

 

油断した十七号に対してヤムチャは口角を上げて指を少しだけ上に動かす。それだけでいい。それだけで繰気弾は十七号に向かって行く。地面からの気弾は完璧な不意打ちとなって襲う。

 

「ぐっ!」

 

完璧な不意打ちは十七号を吹っ飛ばす。

 

「やはり見たまんま子供だな。隙が多すぎるぞ。」

 

額から血を流し、それでなくとも体は既にボロボロだった。それでも不敵に言い放つ。

 

「なるほどな、それは忠告感謝する。参考にしよう。」

 

そう言ってあらぬ方向に気功波を放つ。その様子にはダメージを受けている様子はない。

 

「うわっ!」

 

気功波を放った方向から辛くも回避したクリリンがヤムチャの横に並ぶ。

 

「クリリン!」

 

「無事でよかったです。ヤムチャさん。」

 

「貴様は…クリリンか。」

 

「俺も有名になったみたいだな。俺はお前のこと全く知らないのに。」

 

「そう言えば名乗ってなかったな。俺は人造人間十七号だ。まあ覚えたところでお前らは死ぬことになるんだが。」

 

ヤムチャとクリリンはそう言う十七号の言を聞き流しながら作戦を練る。

 

「逃げましょう。すいません、不意打ちで太陽拳打とうと思ってたんですけど。」

 

そう言いながら上を見上げる。太陽は雲に隠れている。

 

「いや、俺が余計なことしなけりゃその不意打ちが成功していたんだろうさ。クリリンのせいじゃない。」

 

クリリンであれば太陽拳でなくとも何か気を引ける技を使えただろうということだ。とはいえ、繰気弾を撃たなければクリリンは間に合わず、ヤムチャは十七号に致命傷を負わされていただろう。

 

「二人で行けばその隙も作れるでしょう。行きますよ!」

 

戦闘力ではヤムチャに分があるが、技の多彩さにおいてクリリンは一歩も二歩も秀でている。格上に勝つのではなく、格上相手に生き残る戦い方にクリリンは特化している。

 

「残像拳!」

 

そう言いながら十七号を囲うように動く。動けば動くほど残像は増えていく。まずは相手が気を探る能力があるかを見極める。繰気弾を食らったがクリリンの存在には気づいた。洞察力の賜物か、レーダーか何かが内蔵されているのか。

 

「こいつは、なかなか面白い技を使うな。スピードは今のヤムチャと互角くらいだから全く大したことのない雑魚だが。」

 

そう言いながら十七号は衝撃波を全方位に放つ。

 

「うわっ!」

 

「ぐわっ!」

 

二人とも弾き飛ばされた。

 

「さて、君たちはさっき逃げるとか言ってたみたいだけど、逃げたければ逃げてもいいんだぜ。もちろん無様な背中を打ち抜くけどね。」

 

その発言に二人は戦慄する。

 

「ああ、ここら一帯を気功波で焼き尽くすのもありだな。死人もたくさん出るだろうな。今生きている人間が何人この島にいるかは知らないけど。」

 

嬉々として殺害を予告する人造人間におののきながら、クリリンとヤムチャは攻撃を放つ。

 

「「波ああああああ!」」

 

拡散エネルギー波と連続のかめはめ波。当てるのではなく周りにあてることによって目くらましとする。土煙が舞い、相手から自分の姿が見えなくなる。その隙を逃さず、二人は目配せをして一斉に逃げ出す。残像拳を少し方角が違うところに濃く残すのも忘れず、クリリンの機転で衝撃波でできた血を残像拳の囮の方に数滴たらした。気を捉えられない以上、全力で逃げて構わない。この悪魔たちは自分たちではかなわなかったが、ピッコロやライなら、ベジータならば大丈夫だろうと逃げに全力を注いだ。ただ、土煙の性質上、飛んで逃げると見つかる可能性が高まる。まずは地上で充分に距離を取って隠れる必要があった。ただそれでも逃げ切れるはずだった、二人にとってはどうとでもなる逃避行だった。

 

ドン!

 

角を三つ曲がったところでクリリンが人にぶつかる。

 

「うわっ」

 

あまりに焦っていたのだろうそのまま転びかけたが何とか体制を立て直す。そして焦ったようにぶつかった人に言った。

 

「君、ここは危険だ、どうしてこんなところに…!いや、そんなことはいい、とにかく今は逃げよう。」

 

そう言ってその()()の手首をつかむ。彼女を背負って走ってもここまでくれば逃げ切れるし、手を引くよりはるかに速い。ヤムチャの表情は青ざめている。おかしいのだ。クリリンほどの達人がぶつかったのにその少女は全く身じろぎもしていなかったのだから。

 

 

ちょうどそのとき、ピッコロとライは島に到着していた。

 

「ひどいものですけど、戦争をしていたわけではなさそうですね。」

 

「地理的な話をすればここはたいして重要な場所じゃない。ここで人同士の争いが起こることは考えにくいだろう。」

 

大魔王として世界を征服しようとしていた父であり、自分、その記憶。

 

「ヤムチャさんとクリリンが心配です、急ぎましょう。」

 

 

「汚い手で触るんじゃないよ、おっさん。」

 

「クリリン!離れろおおお!!」

 

十八号が手を出すよりも先にヤムチャがクリリンを襟首をつかんで上空に投げる。

 

 

「チッ」

 

土煙の中で二人を見失い、うっすらと映った人影めがけて気功波を撃つが手ごたえはない。さらに血痕の残った方に特大のエネルギー波を撃ったが手ごたえはなかった。しかし彼は見つける。上空に投げられた人の姿を。

 

「はは!俺は運がいい!」

 

クリリンを殺すには大きすぎる、避けることも防ぐことも許されない全力のエネルギー波。

 

「あ、ああ、ああああああああああ!」

 

叫ぶ相手がいない。この絶望が払える人が、こいつなら大丈夫だとすがる相手がいない。そのようにしてクリリンは死んだ。

 

 

「クリリーーーン!!」

 

投げるという選択肢はその場においては最善手だった。とっさに投げたのが上空だったのは最悪手だった。叫んでいても人造人間はそんなものを考えてはくれない。

 

「このおじさんもうるさいねえ。」グサッ!

 

「うぐっ…」

 

肺を打ち抜かれ声も上げられず、最期を迎える。

 

「服が汚れちまった。こんなおっさんたちのせいで。チッ。」

 

気功波で完璧に消滅させられる。遺体すら残らなかった。

 

 

「あ、ああ…」

 

クリリンが殺されるのをその目で見た。次いでヤムチャの気がなくなるのを感じ取った。ライは呆然と言葉をこぼし、ピッコロは苦虫を嚙み潰したような顔だった。ライがオーラをどんどんと強くしていく。

 

「許さない、ゆるさないユルサナイ…」

 

「ライ、落ち着け!ライ!」

 

父の死、そして悟空の死、ライは今、死というものがトラウマになっていた。死が本当に今生の別れであると、強く実感していた。ライはそのまま特大の気功波が打たれた方に飛んでいく。

 

 

「ずいぶんと派手にやったねえ…おや?」

 

十七号の元に戻ってきた十八号がそうこぼす。驚いたのはその速度、ヤムチャやクリリンを軽く超えている。

 

「貴様だな!クリリンを殺したのは!お前があああ!」

 

全力の蹴りを顔面に打ち込む。十七号はなすすべなく蹴り飛ばされる。

 

「なかなかやるじゃないか。それにしてもヤムチャといいクリリンといい、孫悟空は来ないくせに他はよく来るねえ。」

 

その発言がさらにライを怒らせる。

 

「じゃあお前は、ヤムチャさんの仇か。」

 

ふつふつと気が充溢してくる。普段はめったに使わない力を使う。白いオーラがだんだんと赤く染まっていく。

 

「おもちゃがなくなってしまったと思ったが、お前の方がずっといいおもちゃになりそうじゃないか。」

 

蹴り飛ばされた十七号が大してダメージを負っていなそうにがれきから出てきた。

 

「チッ」

 

それを見てライは舌打ちを撃つ。

 

「ライ、怒りに身を任せるな。こいつらは強い。俺達で確実に仕留める。」

 

ピッコロも合流し二対二の構図が出来上がる。




太陽拳だったらクリリンは死んでなかったでしょうし、空飛んで逃げきれてたでしょう。本編世界が偶然が生んだ奇跡の連続でうまくいった世界であれば未来世界は偶然が生んだ不幸の連続で壊されていく世界だと思ってます。もちろん最後には救いを与える予定ですけどね。予定です。
ヤムチャ45万
クリリン35万
悟空が死んでから人造人間出没までの期間の修業で全員を一律+15万にしてます。悟空の死はZ戦士+ベジータにとって等しくつらい喪失だったという意味を込めて。天津飯や餃子、ベジータもこの後の話で今の時期の戦闘力を書く時が来るのでお楽しみに。


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(第四十一話)絶望の幕開け

二作品連載してますが、こっちを書いてる時が一番楽しいです。


「ライに、ピッコロ。こいつらもドクターゲロの予測データより強い。あてになんないな、ゲロのデータは。」

 

数回の打ち合いのあと十七号がそう言った。

 

「手伝ってやろうか、十七号」

 

「冗談じゃない、あいつら二人よりよっぽど強い、良い遊び相手になりそうだ。」

 

二対二といいながら一対二に傍観者が一人。それでも互角以上の戦いを相手に展開されていた。

 

「(引くぞ、ライ。少なくとも俺達じゃ勝てない。大丈夫だ、俺もお前も界王拳を全開までは出していない。逃げに徹すれば逃げ切れる。)」

 

早々に状況を判断しピッコロがそう話しかけてくるが、ライは首を横に振る。

 

「(逃げるなら一人で逃げてください。ドラゴンボールのこともありますし、それが最善手でしょう。隙は作ります。私はこいつらを、ヤムチャさんとクリリンを殺した二人から逃げるなんてできない。)」

 

「(馬鹿言うな。ベジータでも敵わない可能性も考えろ。ここで戦力を削ぐのは得策じゃない。)」

 

「(逃げるなら気を引きますから、その隙に逃げてください。)」

 

そこまで言ってライは飛び出す。自分が逃げることなど眼中にない。

 

「こんなもんじゃないんだろう?」

 

ライの連撃が十七号を襲うがそれを完璧に捌かれる。

 

「よっ、よっ、よっ」

 

蹴りも殴打もすべて両腕で捌かれる。こっちが四肢を使った戦いをしていながら相手は二肢で対応している。戦力差は大きい。

 

「その余裕を砕いてやる!」

 

ライが界王拳を二十倍まで引き上げる。赤いオーラは深紅に染まり、ライの全力が披露される。

 

「はあああ!」ドン!

 

急にスピードとパワーが増せば反応できない。普通なら。

 

「俺たちは人造人間だぞ?見えている攻撃なら急にスピードとパワーが上がったってどうしようもない。」ゴン!

 

「うぐぅ…」

 

「チッ!ライ!」

 

膝を入れられたライにピッコロも界王拳を最大まで引き上げ気功波を放つ。しかしその気功波が十七号に届くことはない。

 

「これは…」

 

「バリアーだ。自分を守るためじゃなくて、こういう使い方もできるんだぜ。」

 

ピッコロは十七号のバリアーに閉じ込められた。しかしピッコロもやられっぱなしではない。すぐさま対策を練る。二本の指に気を集中させる。

 

「もう少し楽しませてくれ…よっ!」

 

そう言ってライに向かって拳を放つ。

 

「ま、負けるかあ…!」

 

気弾を手のひらに出し、そのまま爆弾のようにぶつけようとする。

 

「よっと。」

 

バリアを十七号に当たる直前に出され気弾が爆発し、右手が焼ける。右腕を掴まれる。距離を取ることもできない。

 

「くっそお!」

 

残った左腕で気功波を今度は()()。しかし十七号は無傷だ。

 

「十七号!いつまで遊んでるんだい。そんな奴さっさとやってしまいなよ。」

 

「まあそう言うなよ、十八号。こいつらの顔がだんだんと絶望に染まっていくのを見れるのは最初だけなんだからさ。」

 

「わ、私の全力だった。全力のエネルギー波をこいつは…!」

 

「バリアのおかげかと思うか?生身で食らったっていいんだぜ?」

 

十七号は圧倒的な自信を持って挑発する。

 

「な、舐めるなあああ!」

 

オーラを再び深紅に染め、焼けた右手に左手を合わせ、両手で全力の気功波を放つ。凄まじいエネルギーに放った方向が更地になって海が広がる。

 

「やはりこんなものか。」

 

「そんな、そんな馬鹿なことが…」

 

ライが驚いたのは自分の気功波をもろに食らって平気でいる十七号に対してではない。バリアを脱出するために打ったピッコロの魔貫光殺砲、それはバリアを突き破って十七号に向かって行ったがそれを十七号は手のひらだけで受け止めて見せたのだ。

 

(勝てない)

 

その四文字がライの脳内を支配する。戦意が折れそうになる。

 

(だから、どうした!?)

 

今まで格上と戦うことなんていくらでもあった。今だにフリーザは超えられてないし、悟空には言わずもがな。ピッコロにもベジータにも及ばない。自分が最強でないことは知っている。今は、まだ。

 

「染まってやるもんかああああ!」

 

体力を削って衝撃波を放つ。命を燃やすほどではないが十七号がライの腕を離すには十分だ。

 

「(撤退、します…)」

 

テレパシーを送る。それを聞いているのは()()。すぐに二人が行動に移る。

 

「チッ!面倒な技を。ん!?」

 

追いかけようとする十七号だが、体が一瞬止まる。

 

「真・気功砲!」ピシュン!

 

ドゴオオオン!!

 

格上相手にも通用しうる命を削る技、鶴仙流の奥義。

 

「はあ!」ピシュン!

 

ドゴオオオン!!

 

「(天さんが食い止めてるうちに早く!)」

 

餃子の声に押されライとピッコロが逃げ始める。しかし、悪魔はそんなことを許さない。

 

「あの馬鹿。遊んでるからそうなるんだ。」

 

そう言ってエネルギー波を四人に向かってはなつ。今まで戦いに参加する様子を全く見せなかったから、しかも、十八号には十七号みたいな遊び心が無かったから、その攻撃は今までの何よりも脅威足りうる光線だった。

 

「うっ」

 

「ぐっ」

 

「わっ」

 

「うぐっ」

 

両手で二発、続けざまにもう二発。ライとピッコロは避けきれず、気功砲を撃っている天津飯も同様だ。辛うじて餃子だけが避ける。

 

「ライとピッコロ、逃がす!」

 

餃子は気功砲を撃った後の天津飯を連れて逃げようと、一番人造人間の近くにいた。彼の判断は早い。超能力を使用してライとピッコロを後方に投げ飛ばす。

 

「させないよ!」

 

しかしそれを見ていた十八号が両手で気弾を放った。片手ではない、両手の気弾は速度も威力もさっきとは違う。

 

「ぐっ…」

 

「餃子!」

 

超能力が切れてピッコロとライが落ちる。

 

「グググ、それっ!」

 

最後の渾身の力を振り絞り、ライだけ逃がす。ピッコロよりライの方が軽かった。だから逃がせた。

 

「餃子!天津飯!ピッコロ!」

 

叫んでもどうしようもなく、ライは撤退に成功する。

 

 

「!」

 

パオズ山の自身の家で、悟飯は次々と人が死んでいくのを感じ取る。悟飯は世界の情勢についてまだ詳しくはなかったが、それが異常なことであることは理解できた。

 

「様子を見に行った方が良いよね。」

 

悟飯の家は東のエリアのさらに奥地、すごく遠かった。

 

 

 

「はあ、はあ」

 

「ピッコロごめん、もう限界だった…」

 

気功波を受けて辛うじて立ち上がったピッコロは餃子の最期を看取る。天津飯も真気功砲と十八号の気功波のダメージで辛うじて意識はあるがもはや死を待つだけだ。

 

(チッ!俺もここまでか。)

 

「しまったねえ。一人逃がしてしまった。」

 

「少し遊びすぎたかな。まあいいだろう。どうせまたやってくるさ。」

 

「魔閃光!」

 

そこまで言ったところで気功波が飛んでくる。二人は辛うじて回避する。

 

「おやおや、次は…孫悟飯かな?」

 

「お、お前達、まさか…まさかクリリンさん達を…!」

 

「まあ、そうだな。俺達にはむかってきたから始末した。一人逃がしたけどな。」

 

「ゆ、許さない、絶対に許さないぞ!お前達!!」

 

「悟飯、逃げろ。お前じゃ勝てない!」

 

怒りに震え悟飯が向かって行く。怒りに任せた蹴りを十七号の首筋に打ち込む。ピッコロの声は届かない。

 

「お前、孫悟空の息子だろう、孫悟空は来てないのか?」

 

飄々とそう聞く十七号に悟飯はさらに怒りを増す。

 

「うるさいうるさい!お父さんがいれば、お父さんが生きてさえいれば、お前達なんか!」

 

そう言って連撃を繰り出す。すべて躱されてしまう。

 

「ほう、孫悟空は死んだのか。はは!これは良い。すごくいいことを聞いた!」

 

「くっそおお!」

 

連撃の嵐の中でもおしゃべりを続ける。

 

「ゲロはもう死んだやつを殺すために俺達を起動して殺されたんだ、はは!最高だ。傑作じゃないか!」ドン!

 

「カハッ」

 

そう言って鳩尾に重い一撃を入れると悟飯をピッコロと逆方向に投げ飛ばす。その時、

 

「地球を…舐めるなあああ!」ダン

 

ピッコロのまとうオーラが赤から深紅に染まる。四肢がもげる。ナメック星人であるピッコロは界王拳を十倍より引き上げることができない。再生する四肢は人間の、地球人のそれと比べて脆い。二十倍にしたら攻撃する前に体が壊れる。でも彼にとってはそれでよかった。彼には自分の命よりも大切なものがある。

 

「何だと?」

 

急激なパワーアップによる不意打ちは人造人間たちには効かない。でも、急に四肢を弾けさせながら突進してきたら?

 

「悟飯!今すぐ逃げろ!そして生きるんだ!」

 

瓦礫に十七号を吹っ飛ばしそう叫ぶ。

 

「これは流石に反応できないね。」

 

十七号を横目に十八号がピッコロに気功波を放ちピッコロが絶命する。そして即座に悟飯に手を向けた。

 

「あ、ああ…」

 

あまりのことに悟飯は動けない。

 

「き、気功砲!」

 

「うわっ!」

 

気功波が放たれる寸前、横から天津飯の気功砲が()()を襲う。天津飯最期の一撃は威力ではなく衝撃に重きを置いた一撃。悟飯をはるか彼方まですっ飛ばした。

 

「すまない、悟、は…」

 

その日、五月十二日、クリリン、ヤムチャ、餃子、天津飯、ピッコロの五名、人造人間の襲撃により死亡。あまりにもあっけなく、あまりにも唐突な絶望の幕開けだった。

 

 

「!」

 

とある渓谷でベジータはヤムチャが全力を出したことを感じ取っていた。そしてライが、ピッコロが、どんどんそこに向かい、気を開放させては気を消していった。

 

「地球人がどうなろうとも俺には関係のない話だ。」

 

ベジータがいる場所は南の島から遠かった。少なくとも様子を見に行こうと思える距離にいなかった。しかし、ベジータの態度も軟化し始めていた。あと数ヶ月あれば、いや、あったとして結果が変わっただろうか。それは誰にも分からない。

 

 

「うぐぐ…があっ!!」ドン!

 

気功砲に飛ばされた悟飯は衝撃波でそれをかき消す。髪は金色に輝き、瞳は澄み切った緑色、黄金の気を放っていた。

 

「うぐっ…」

 

気功砲をかき消すのに力を使いきって気絶し孤島に落下する。三人目の伝説の戦士がここに降臨した。

 

 

ドボン!

 

超能力で飛ばされたライは海に落ちた。

 

「………」

 

気を感じ取れるライはもう分かっている。ヤムチャが、クリリンが、天津飯に餃子が、そしてピッコロが殺されたことを。顔だけ海面に出して静かに涙を流す。たっぷりと時間をかけて動き出す。

 

(悟飯を迎えに行かなきゃ。)

 

悟飯の気が消えたところに向かって飛び始めた。逃げられたことは分かっていた。生きているだろうということも。

 

 

気絶している悟飯を連れてカリン搭に向かった。見つけるのはそこまで難しくなかった。気が消えた場所の真下にいたからだ。

 

 

 

「お久しぶりです。カリン様、ヤジロベーさん。」

 

「おう、久しぶり。」

 

「何もなけりゃ全く来ないのう、お主。」

 

「五年振り…いえ、二年振りでしたか。」

 

二人と最後に会ったのはサイヤ人襲来のときでない、悟空が死んだとき。

 

「しんみりしてしまったな。話を変えよう。とはいえ、これからのことも暗い話になるわけじゃが。」

 

「俺は戦わねえぞ。」

 

「お前には期待してないんで大丈夫じゃよ。」

 

「とりあえず、仙豆を悟飯に分けてください。このままでは悟飯も厳しいでしょうし。」

 

そう言ってカリン様から仙豆をもらう。悟飯に仙豆を食べさせると、傷が癒えて穏やかな表情になる。まだ目は覚めていない。

 

「ちなみに仙豆ってどれくらい余っているんですか?」

 

「結構あるぞ。十四粒だ。今ので一粒減ったがの。」

 

「十三とはまた不吉な。」

 

「まあお主らに預けておく。わしが持ってても仕方ないしな。」

 

そう言ったカリン様からライが仙豆を受け取った。

 

「それで、今後の話ですね。」

 

「ベジータが人造人間に勝てれば問題はないんじゃ。じゃが…」

 

「勝てないでしょうね。」

 

ライは感じ取っていた、ピッコロが二十倍界王拳を使ったこと、たった一度しか使えないとしてもその力はベジータに肉薄する。それでも通用しなかったからこそ、悟飯は逃がされたのだろう。

 

「ですので、これまで通り修業します。人造人間たちから隠れてあいつらに勝てるようになるまで。」

 

「それが良いんじゃろうな。悟飯はどうするのじゃ?」

 

「本人の希望次第です。一緒に戦ってくれるのであれば私の戦いの術は教えますが、学者を目指すというならばそれを尊重しようかと。」

 

「なるほどな、二人で戦えりゃあ、やつらを倒すのに必要なレベルも下がるけんど、子供にそんなことを頼むわけにはいかねえもんな。」

 

「じゃが、こいつは人が殺されてるのを黙って見ていられるほど大人ではないぞ?」

 

「ここで、私に任せておけって言えればいいんですけどね。」

 

寂しそうにライが笑う。

 

「悟空が生きてりゃあなあ…あ、すまん…」

 

ヤジロベーの言葉が三人に重くのしかかる。

 

「ま、まあとりあえず、悟飯の家に向かいます。チチさんも心配してるでしょうし。そしたらブルマさんと亀仙人さんのところに行って事情を話します。修業はそれから。」

 

「うむ、お主が人造人間に勝てる日が来ると、信じておるぞ。」

 

「ええ。任せてください。」

 

そう言って悟飯を背負ってパオズ山に向かう。




ライ150万
ピッコロ900万
天津飯125万
餃子25万
皆に活躍してもらいたかった。だから強化した。メカフリーザ戦を見てからの修業でパワーアップしないのはおかしいと思います。本編世界のとんでもないパワーアップをもとにそう考えました。悟飯だけは勉強してましたから据え置き。


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(第四十二話)生き残った者

未来編は原作キャラが少ないのでライが物語に与える影響は大きくなるはずですが…原作から大きく乖離するのはまだまだ先の話です。


「よかった、悟飯ちゃんが無事で。」

 

悟飯の家に着くと血相を変えたチチが出迎えた。すぐに悟飯を抱きとめ、寝室に寝かしつける。

 

「ライさん、夕飯まだだろ、食ってってけろ。時々気を抜くと大量に作っちまうんだ。」

 

悟空が死んでから早二年。チチは吹っ切れようとふるまっているが、時々こういうことがある。

 

「…せっかくですから、いただきます。」

 

ライはその好意を受け入れる。ただ、純粋な好意だけではないだろう。

 

「早速聞くのもどうかと思うけど、悟飯ちゃんに何があったか、聞いてもいいだか?」

 

暖かい夕飯の前で、雰囲気はお通夜のように暗い。

 

「私や、ピッコロ、ベジータでも太刀打ちできない敵が現れました。破壊衝動の塊で、人を殺すことに愉悦を感じるような奴らです。」

 

「やつらってことは一人じゃないんけ。」

 

「ええ、人造人間十七号に十八号と名乗る、化け物二人組。島を破壊するので私やピッコロと一緒にみんなで戦いましたが、私達以外はもう…」

 

「じゃあ、誰も太刀打ちできないのか。」

 

「ベジータだけはまだ戦ってはいませんが、おそらく無理でしょう。」

 

「そ、それじゃあ…」

 

「私はしばらく人造人間から隠れて修業します。奴等は気を探れないみたいですから。…悟飯は、こちらからは誘いません、どうするか話し合ってください。」

 

話し合えなんてなんて白々しいのだろうと、ライは思う。実質的な一択。カリン様が言ったように悟飯は人が殺されていくのを我慢できない。きっと悟飯は自分の元に来る。

 

「すいません。ブルマさん達にも事情を話さなければならないのでこれで失礼します。夕飯ごちそうさまでした。」

 

さっさと口にご飯をかき込み席を立つ。

 

「またいつでも食べに来てけれ!」

 

悟飯が離れてしまうことを察しているのか、いつでも一緒に戻ってこいと言ってくれたような気がした。

 

 

「そう、ヤムチャたちが死んだのね。」

 

あらかたの事情を話し終えた後の第一声がそれである。以外にも冷静にブルマは答えた。

 

「チチさんにも思いましたけど、母親って強いですね。」

 

「ええそうよ。母親は強いの。トランクスを守ってあげなきゃって、そう思えば泣いてなんていられない。」

 

そう言ってトランクスを抱くブルマに強さは凡人のそれなのに敵わないと思った。

 

 

「おい、貴様。」

 

カプセルコーポレーションから出ようとしたとき、ベジータに話しかけられる。

 

「…ベジータ。」

 

何か用かと目線で問う。

 

「ピッコロは負けたんだな。」

 

「…ッ!分かっていたなら、戦いがあったことを知っていたなら!どうして助けに来なかったんだ!!」

 

ベジータが来ても勝てないと半ば確信しているが、もしベジータが来ていたら、死人はもっと少なかったはずだ。ベジータが自分の生存を優先したうえで、だ。怒鳴り散らすライに対して、ベジータは冷静に返す。

 

「悟飯でなく貴様に聞いている理由を考えろ。お前ならそんな面倒がないと思っていたんだがな。」

 

そう言ってにらみつけ、吐き捨てるように二の句を継ぐ。

 

「貴様は最初に地球人の雑魚どもが次々と死んでいったときに助けに行こうと動き出したか、あのヤムチャとかいうやつが向かって行ったから、お前も向かったんじゃないのか?」

 

お前は自分が正義のヒーローのつもりなのか、と。仲間を助けに行ったただの人ではないのか、と。

 

「お前が命に優先順位をつけて見殺しにしたように、俺にとっての貴様等もその対象だったというだけだ。」

 

まさかこのベジータに正義のヒーローであることを期待したのか、と。

 

「そ、れ、は」

 

「俺を糾弾できるのはそうだな、今回でいえばヤムチャだけだろうぜ。最も死んでしまってはそれもできんがな。」

 

死んでしまったなら、正義のヒーローとしても間違った行為。あの世からヤムチャがベジータを謗ってもそれに何の意味もない。

 

「失言でした。撤回します。」

 

ライはその理屈を飲み込める。悟飯ならばそれにも我慢できず食って掛かっただろうが、ライは納得も理解もできてしまう。どうにかそれだけ言うと、ライは亀仙人の元に向かった。

 

「ピッコロでも勝てないのならば、それは俺よりも強い可能性が万が一にもあるということだ。そいつらは俺が倒してやる。この俺がナンバーワンなんだ。」

 

 

(亀仙人さんにも話は通したし、きっとウミガメたちと潜水艇にでもひきこもるだろうからここは安心かな。)

 

彼もまたこの話を聞いても冷静だった。何年生きてるんと思っとるんじゃといわれた。言っても百二十くらいだろうと思ってたら三百歳以上と言われた。そこからは数えてないんだとか。そう言えば占い婆は五百歳を超えていたなあとか思った。

 

そして数日の時が流れた。悟飯はライの元に来ない。そして人造人間が次の町を襲撃する。

 

 

「南方の島の次はここか。この俺様の近くを襲ってきたことを後悔するといい。」

 

ベジータは西の都のカプセルコーポレーションに住んでいる。すぐ近くにいた。ベジータは人造人間が現れたことを感じ取ると舞空術で戦場に向かおうとしていた。

 

「…力ずくで止めようってんなら受けて立ってやるぞ。」

 

振り返らずに後ろの襲撃者たちに向かって言い放つ。

 

「!」

 

ライは構えを解く。

 

「一応確認ですけど、引き留めたら受け入れてくれるか?」

 

「ありえないな。」

 

無意味なことをするものだと、あきれた声音でベジータは言った。

 

「ですよね。」

 

分かっていたことであるが、それでも残念そうにライはそうこぼす。話は終わりだと飛び立とうとする直前、ベジータが思い出したかのようにライに言う。

 

「この俺が負けることなど万に一つもあり得ないが…万が一が起こった時は、トランクスを頼む。あいつが六つになるまでで構わない。守ってやってくれ。」

 

急にらしくもないことを言うベジータにライは言葉に詰まる。

 

「な、なにを言って…」

 

サイヤ人の親子関係は地球人のそれとは違う。一人で戦えるようになるまでは面倒を見て、それが終われば親子の絆などないかのように戦士として扱う。トランクスはまだ戦士には程遠い。ライ達をを置き去りにベジータは戦地に赴く。実力差を感じていながらなぜベジータが戦いに行ったのか、それはベジータにしか分からないのだろう。

 

「身勝手な王子()

 

ライの言葉はもう行ってしまった者には届かない。

 

 

「十七号、どうしてこんなしょぼいとこばっかり狙うんだい?四つの都を落とせばすぐじゃないか。」

 

「楽しみがなくなってしまうと、前も言っただろう。そこを落としたら軍隊も来なくなってしまう。それじゃあ楽しめない。」

 

「まあもういいけどね。私は新しい服さえ手に入れられればさ。」

 

そう言って十八号はいまだ破壊していない場所に行く。今だ人造人間たちは世界に認知されておらず、離れたところを襲ったのはそう言う側面もある。

 

キュゥゥン!ドガアン!

 

「人造人間だか何だか知らないが、ピッコロを殺したらしいな。」

 

まさにその場を離れようとした十八号の背中に気弾が当たる。撃った主は黄金色の気に身を包み勝気な顔で上から二人を見下ろしていた。

 

「んなっ!せっかくの服が台無しじゃないか。せっかくあの忌々しい服から変えたってのに!」

 

「そんなことはもうどうでもよくなるだろうぜ。貴様等は今日ここで死ぬんだからな。」

 

「お前は、ふむ、ベジータだな。その姿はデータにはないが、相当強いみたいだ。」

 

人造人間たちとベジータの戦いが始まる。

 

 

「悟飯、私のところに来たってことは、学者の夢をあきらめるってことだけど、本当にいいのかな?」

 

ベジータに取り残されたライは先のベジータをなぞるように後ろを振り向かずに悟飯に問う。

 

「ええ。この数日、いろんな場所を見てきました。襲われた島とか、まだ人造人間のことを知らない町。お母さんともたくさん話して、僕は、お父さんのように、守れるようになりたいって思ったんです。」

 

「死ぬかもしれないよ。」

 

「それでも。僕は、最強(お父さん)の血を引いてピッコロさんの教えを受けた戦士として、恥じたくないんです。」

 

最強たる父と、魔王でない、何者でもない、ピッコロ。その二人の意志を引き継ぎたいと、そう思っている。その決意を聞いてライも覚悟を決めた。

 

「それじゃあ、私も、君の師匠だ。私の戦術や技術をすべて教える。でも悟飯、その前に一つだけ、受け入れてもらわなければならないことがある。」

 

そう言ってライは悟飯の方を振り向く。目を合わせて、それが重要であることを伝える。

 

「私が力をつけるのは()()()()()()()を守るため。そして君に教えるのも君と、君の大切な人を守れる力をつけてもらうためだ。だから…」

 

一呼吸置き、ライは言う。実際に言葉にするには物凄くためらわれる言葉。

 

「これから、私たちが人造人間を超えるまで、大切な人が危険に晒されない限りは助けに行かない。」

 

「そ、それは、これから地球のみんながどんどん殺されていくのを、地球人を見殺しにしろってことですか…?」

 

悟飯が信じられないものを見るような目で言う。しかし数瞬後には理解できてしまう。納得は出来なくても、助けに行っても死ぬだけだと。今まさにベジータを助けに行けないように。

 

「そうだ。私は正義の味方にはなれない。」

 

救いたい人は大勢いる。故郷にいる村のみんな、チチにブルマ、チャパに亀仙人、ウミガメや、ウーロンにプーアル、カリン搭にいる二人。でもライは彼らを振るい落とした。ライは確信していたのだ。人造人間に対抗できる人物はもはや自分と悟飯、そしてトランクスだけだと。希望をつなげるための最低限を残し、それ以外のすべてを諦めると決めた。そしてそれを悟飯にも強要する。

 

「悟飯、君にも決めてもらう。大切な人を。」

 

重い沈黙が流れる。長くも短くも感じる時間を経て、悟飯が口を開く。

 

「僕は、そんな風に誰かを、ましてやお母さんたちを振るいにかけるなんてできません。でも、それを通すだけの力がないのも分かるんです。だから、僕があなたを超えるまで、お母さんたち以外は守りません。少しでも早く力を、手に入れます。」

 

知らない人ではなく、知っている人は全員助ける。それが今の悟飯にできる最大限の譲歩。それをライは受け入れるのか。

 

「うん。それでいいよ。それじゃあよろしく、悟飯。」

 

そう言って手を差し出した。

 

 

「くそったれ!」

 

「ふむ、なかなかの力だ。だが、それじゃあ勝てない。俺たちのエネルギーは永久式で無尽蔵なんでな。」

 

ベジータの相手をしているのは十八号だ。服をボロボロにされた仕返しに一人で相手すると言い出し、十七号はそれを受け入れた。

 

「俺が、俺が、負けるかああ!」

 

ベジータが連続でエネルギー波を撃っていく。煙が舞い、十八号の姿が見えなくなる。この時の連続エネルギー波は悪手。敵を気で探れる普段であれば悪くないが、人造人間、人間ベースの人造人間の持つ気はただの人のそれと変わらない。それでは精確に狙い打てない。

 

「馬鹿だねえ。あんたたちは気を探れるのが唯一の取柄だってのに、立ち向かってくるんだからさ。」

 

煙をかき分けて、ベジータの近くに接近する。

 

「そう来るだろうなあ!」

 

接近してきた十八号に対してベジータはカウンターの要領で攻撃を放つ。

 

「ガッ…ァァァ」

 

血反吐を吐くのはカウンターを成功させたベジータの方だ。

 

「チッ、なかなかうざいことをしてくれるじゃないか。」

 

ベジータのカウンターはこれ以上なく正確に十八号の腹を打ち込んだ。十八号も表情を歪めるほどの一撃だった。ただし、カウンターという性質上、ベジータは一撃を受ける必要があった。その一撃が致命打だった。十八号の拳はベジータの体を貫いていたのだ。

 

「あーあ、これじゃあこの服はもう着れないねえ。」

 

ボロボロになった時点で二度と着ることはなかったであろうが、ベジータの腹から流れ出る血を見てもそのような感想しか出てこない時点で何か大切なものが欠落しているのだろう。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうぜ。この町ももう人は残っちゃいないだろう。」

 

無感動にベジータに止めを刺して人造人間たちは飛び立つ。

 

 

「「!」」

 

ライと悟飯は修業する場所を決めるべく移動していた。その最中、ベジータの気が消えたことを感じ取る。

 

「ベジータさん…」

 

悔しそうに悲しそうに言う悟飯に対してライは冷静に言う。

 

「こういうことは今後当たり前のように起こる。何も感じなくなれとは言えないし、私もできないけれど、いちいち反応していてもきりがないよ。」

 

「…はい。」

 

ライ達はこれから世界を転々としながら修業をしていく。




ベジータ450万
超サイヤ人で2億2500万。かなり強いです。生前の悟空に並び、宇宙最強でした。人造人間が現れるまでは。


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(第四十三話)分かたれた道

いろんな場所を回った。氷山の近くで寒さに耐える修業、活火山の近くで暑さに耐える修業、ひたすらに過酷な場所で修業を続けた。瞬く間に十二年の月日が流れた。その中で失ったものもあった。まず、人類は約一割にまで減少した。四つの都の内三つが壊滅させられ、カプセルコーポレーションのある西の都も襲撃を受け、かつて都として繁栄した面影を残すのみとなった。そして、

 

「今日で七周忌ですね。私がここに来るのは…四年振りですか。あれから七年もたって…私があの時、あなたを助けていれば、何もかも違っていたのでしょうか。」

 

ライは一人カリンまで来て折れてしまったカリン搭の根本で手を合わせる。かつて天にも届こうというカリン搭は折れ、その残骸が森に横たわっている。そして、この地でライを鍛えた仙描のカリン様は人造人間の戯れで死んだ。ヤジロベーも巻き込まれただろうが、死体は見つからず、弔ってやることもできない。

 

 

これからの話は七年前の出来事。悟飯がライの元を離れるきっかけになった顛末。

 

 

「そろそろ休憩しよう、悟飯。」

 

「いえ、まだやれます!」

 

世界をまたにかけて修業の旅を続けていた。二人とも五年前よりも相当強くなっていたが、人造人間の差は広く、いまだにライ達は人造人間から隠れながら修業を続けていた。

 

「無理をすればいいというものではない。適度に休憩しなければ逆に弱くなってしまう。」

 

「…はい。」

 

この頃の悟飯は焦っていた。人造人間には及ばず、ライにさえも勝つことができない。思い通りに行かない苛立ちもあった。

 

「ライさん、ずっと聞きたかったんですけど、どうして僕に界王拳を教えてくれないんですか?」

 

「界王拳は危険な技だから。それに、君は超サイヤ人になった方が強い。」

 

「でも、僕は全然超サイヤ人になれるような兆しもないですし、もし超サイヤ人になれたとしても重ね掛けすればもっと強くなれるじゃないですか。」

 

自分が混血のサイヤ人であり、半分しかサイヤ人の血がない。だから超サイヤ人になれないのではないかと、悟飯は日に日に膨れる不安に押しつぶされそうになっていた。

 

「私は実際に超サイヤ人になれるわけじゃないけど、超サイヤ人になった悟空を見てれば併用は無理があると分かる。超サイヤ人は気が荒ぶりすぎるんだ。そんな状況で精密な気のコントロールはできないよ。」

 

「そう、ですか。」

 

納得できないような声音だが、それでも悟飯はそれを受け入れる。

 

「さあ、そろそろ場所を変えよう。この環境の修業もそろそろ慣れてきた頃だしね。」

 

「今回は少し環境変えるの早くないですか?」

 

「いや、ここでの修業はもう十分だよ。次に行こう。」

 

そう言ってライと悟飯は移動する。ライ達がいた場所の近く、ライ達なら数分で着く都市が人造人間に襲われたのはライ達がその場所を離れてから数時間後のことだった。

 

 

「悟飯、気持ちは分かるけど、ここからじゃもう間に合わないよ。」

 

「分かってます。分かってますけど…!」

 

さっきまですぐ近くにいただけに悔しそうに悟飯が言う。

 

(やっぱりあの気は人造人間たちだったか。少しだけ早く離れてよかった。)

 

ライは人造人間の気を探れた。彼ら二人は人と同程度の気はもっていたのだ。そのわずかな気を探るなど、悟飯はもちろん、仮にクリリンやヤムチャといった気の扱いに秀でた者たちであっても考えなかっただろう。普通の人と変わらない気など、一度意識が途切れれば、つまり睡眠をとれば、気は紛れてしまう。相当強く対称の気を記憶していないとできない。二人の気を見つけるのも、都で人を探すのと何ら変わりのない苦行だった。それを修業しながら行っていた。だからライは気付かない。悟飯の不満が破裂しそうになっていることを。

 

 

そう言うことが、これまでの五年で何度か繰り返された。ライでも事前に逃げきれずギリギリの移動になることはそれなりの頻度で起こる。悟飯が、ありえないだろうと思いつつもライが人造人間たちの気を探れている可能性も思い至り始める。そしてその時が訪れる。

 

 

「さあ、そろそろここも移動しよう。」

 

移動してから数週間が過ぎ、再び移動しようとしたときに悟飯から待ったがかかる。

 

「もう少しだけ、ここで修業していきませんか?」

 

「いや、でも…」

 

「じゃあ、せっかくカリンの近くに来ているのでカリン様にご挨拶してから移動しましょう。たまにはカリン様やヤジロベーさんにも会いたいです。」

 

確かにカリン搭はそこまではなれているわけではないが、決して近いというわけではなかった。何かに気づいたように言う悟飯にライは嫌なものを感じながらそれを拒絶する。

 

「だめだ。情が移るぞ。悟飯、私達の手は彼ら二人を囲えるほど大きくない。」

 

毅然とした声音で言うライに対して悟飯は信じられないものを見る目で返す。

 

「な、なに言ってるんですか。だってヤジロベーさんは一緒に戦った仲間ですし、ライさんにとってカリン様は師匠ですよね。その二人はライさんの大切な人には入ってないわけが…!」

 

「入ってない。彼らを私は守らない。」

 

濁った瞳がこれ以上ないほどライが本気で言っていることを表す。

 

「この際だから言っておくけど、私は君か、トランクスが危険に陥らないなら助けにはいかないよ。」

 

「なん、で?だってライさん、故郷の人達は?ブルマさんや亀仙人さん達、チャパさんとかいう人にも良くしてもらったって言ってたじゃないですか。」

 

悟飯は知らない。もう今言った人たちの半分が死んでしまっていることに。

 

「人造人間を倒す可能性が私より高いのは、多分今は悟飯だけ。将来性を鑑みればトランクスも。君たちは最後の希望なんだよ。だからその二人は守る。情はこの世界では邪魔なんだよ。それに、もうヤジロベーさんとカリン様は助からない。」

 

見計らっていたかのようにカリンから大勢の気が消える。

 

「あなたは、やっぱり。」

 

「薄々気づいていたんだね。流石悟飯。」

 

「人造人間の気を探って動きを読んでる。だからこれまで、あいつらにが破壊し始めた町は僕たちが急いでもどうしようもない場所ばかりだったんだ。」

 

今までの疑問が、疑念が氷解していく。それと同時に師と仰いだこの人が何か別のナニカに見えた。

 

「今まで、ずっと、あなたをすごい人だと、思ってました。目的のためにひたむきに努力を続けていて、地球人のみんなは見捨ててたけど、それも仲間のことを想ってのことだと、尊敬できる人だと、そう信じていたのに。」

 

悟飯の中で何かがこぼれだしそうになる。

 

「貴方は、自分が助かりたいだけだったんですね。だから人造人間を倒してくれそうな人だけ守るんだ。貴方は自分と自分の命に大切な人だけを守っていたんでしょう?」

 

何に対する怒りなのだろうか、髪は黄金と黒で明滅し、瞳も緑に変化しつつあった。

 

「落ち着いて悟飯、何を言って…」

 

「うるさい!!」

 

腕を払うだけの動作でライは吹っ飛び近くに生えていた木にぶつかった。界王拳も使わずに攻撃を受けたライは簡単に意識を刈り取られる。

 

「悟飯…だめだ…!」

 

「自分と大切な人を守るために修業してきた。貴方と違って。」

 

悟飯はカリンに向かって飛び出す。

 

 

分かっていたのだ。ライの考え方が、最も人類を多く残して人造人間を倒すのに最善の策だと。でもそれを受け入れるには悟飯は少しばかり幼かった。だから、歪んだ理解をした。ライが自分のためだけに動いているのだと。

 

 

「ヤジロベー、一刻も早くこの場を離れよ。ここに人造人間が来る。」

 

「へ?この辺鄙なとこに人造人間が来る!?ここなら安全だとおもったのによ。」

 

驚愕と絶望が入り混じるヤジロベーにカリン様は冷静に仙豆を投げ渡す。

 

「地球の環境が悪化してしまって仙豆を全く作れなかったが、この七年で一粒は何とか作った。持ってけ。」

 

「カリン様。ごめん、いや、ありがとう。」

 

そう言ってカリン搭を飛び降りる。

 

「見ろよ、十八号!人が上から降ってきた!」

 

「ちきしょう!みんなの仇だあ!」

 

飛び降りるのが少し遅かった。ヤジロベーは身動きの取れない状況で人造人間たちと鉢合わせる。

 

「はっは!面白い。」

 

落下の勢いを利用して十七号に切りかかる。

 

「死ねええええ!」ガキッ!

 

剣が折れる。腕が曲がる。

 

「!」

 

「面倒残さないでよ。十七号。」

 

「くっそおお!」

 

体をひねってよけようとするも避けきれず両足が切れる。

 

「ぎゃああああ!」

 

「うるさいねえ。仕留め損ねちまった。」

 

「両足がちぎれたんだ。もう死ぬだろ。さ、上に行こう。ひょっとしたらまだ人がいるかもしれない。」

 

 

ヤジロベーが落下した直後、カリン様がこぼす。

 

「この八百年で、一番退屈しなかった五年だったぞい。」

 

カリンの地を守るボラ、ウパ、他の村の者たちの気が消えていた。

 

「ずっと搭を守ってもらいながら、挨拶もしなかったのは薄情だったかの。」

 

「いやあ、まさか、本当にこんな上空に人がいるとは思わなかった。いや、人ではないか。」

 

「しゃべる猫なんて珍しいねえ。飼ってやってもいいよ。私の言いなりになってくれるならね。」

 

「冗談じゃ…」

 

その言葉を最後まで言い切ることなく人造人間によって殺される。

 

「十七号、まだあの猫は答えてなかったじゃないか。」

 

「そうか?拒絶の言葉が聞こえたんだが。そんなことより上に行こうぜ。この分だとまだ上に何かありそうだ。」

 

 

「ここは神聖なる神様の神殿だ。お前達が来て良いところではない。」

 

「やっぱりまだ人がいたねえ。」

 

「神だってさ。そんなものが存在したのか。是非お目にかかりたいね。俺たちを放置している時点で碌な神じゃないだろうけどな。」

 

「神様は、地球の神様は素晴らしい方だった。地球の先をいつも憂い、人の種としての成長を心から願っていた。」

 

そう言ってポポは構えをとる。現在存在する勢力でライと悟飯に次ぐ戦闘力を、ポポはもっていた。最も…

 

「その程度で俺達に歯向かうのは、愚かだな。」

 

どうしようもない差がポポと人造人間の間にはあった。

 

 

「しかしこの神殿とやらはどうやって浮いてるんだろうな。」

 

「そんなのどうでもいいじゃないか。早くここも破壊しようよ。」

 

「それもそうか、粉々にしたらどうなるのか気になるしな。」

 

一瞬でポポを倒した人造人間たちが神殿の上でそう話す。二人で気功波をため始める。

 

「魔閃光!」ピシュン!

 

そこに悟飯が到着する。

 

 

「おや?貴様は孫悟飯じゃないか。久しぶりだな。七年振りか?随分と雰囲気が変わったな。」

 

魔閃光を直撃しておきながら平然としている人造人間たちに対して、瞳を怒りに染め、黄金色の気をたぎらせて二人に相対する。

 

「おまえたち、ヤジロベーさんやカリン様、それにポポさんまで…!」

 

悟空が生きていた頃、まだ学者を目指していた、戦いに関わろうともしなかったお坊ちゃまでいられた頃に悟飯はよく父の武勇伝をせがんでいた。神様の元で修業した話もよく聞いていた。

 

「もう許さないぞ、お前達!」

 

そう言って悟飯は飛び込む。

 

「てりゃああ!」ガシッ!

 

拳を簡単に十七号に受け止められる。

 

「今日の俺はものすごく気分が良いんだ。面白いものも見れたしな。じっくりと遊んでやろう。」

 

「な、めるなあ!」

 

蹴りを入れるが簡単に躱される。そこからは目にもとまらぬ連撃を仕掛けていく。しかしそれも地球の戦士のレベルの話。人造人間たちには通用しない。

 

「なかなかの速さだな。ベジータに次ぐといってもいい。」パシッ!

 

まるで子供をあやすかのように軽々と受け止めた。

 

「威力もなかなかだ。」

 

「馬鹿にするんじゃ、ない!」

 

そう言って悟飯は気功波を連続で打ち込んでいく。煙が舞い視界が遮られる。

 

「エネルギー波の威力も申し分ないな。よし、決めた!」

 

そう言ったかと思うと十七号はすごい速度で悟飯に接近し、腹に強烈な一撃を加えた。

 

「おごっ…」

 

「七年前にお前たちの仲間を殺してしまってからは退屈だったんだ。今回はしばらく生かしてやろう。また挑みに来い。」

 

「う、ぐぐぐ…」

 

「もっとも、挑みに来るときは覚悟して来いよ?俺たちはいつでもお前を殺せる。少しばかり苛立っていたら手加減し損ねてしまうかもしれない。」

 

(くっそお…)

 

そこで悟飯の意識は途絶え、落下していった。

 

 

「全く遊びが好きだねえ。」

 

「まあいいじゃないか十八号。どうせこのままでも後十年もすれば人間は確実に滅んでしまう。少しばかり遊んでもそんなに差はないさ。」

 

「まあどうでもいいけどね。あんな奴。」

 

 

ズドン!

 

「おっと!」

 

カリンから落ちてきた悟飯をヤジロベーが掴む。

 

「う、うう…」

 

「どひゃあ、人造人間に向かって行ってまだ生きとるだがね。弔ってやろうかと思ったけんど、これならすぐに安静にさせた方が良いだろうな。いや、ライのとこ行けば仙豆があるかもしれねえ。」

 

そう言いながらライの気を探るが全く感知できない。医療機関も人造人間によってほとんどが機能を停止してから久しい。

 

「医者に見せてやりたいけんど、そんなこともできなくて、すまんなあ。」

 

カリンに住んでいた人たちの家を勝手に拝借し、そこに悟飯を寝かせる。

 

「じ、人造人間めえ…」

 

「ライの気が探れないのはやられちまったってことかねえ。」

 

ヤジロベーは人造人間たちに殺された人たちを埋めていきながら、そのようにため息をついた。




悟飯250万
ライ300万
変身込みでお互いに億超えを果たしました。


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(第四十四話)未来の悪魔

「いろいろ、お世話になりました。」

 

「おう。無事でよかったぜ。」

 

あれから一週間。驚異的な生命力で完治した悟飯はヤジロベーにそう礼を言う。

 

「おめえ、これからもやつらと戦うのかよ?」

 

「もちろんです。」

 

迷いなく即答した悟飯を見てヤジロベーは激励を送る。

 

「そうか、無理するな…とは言えねえな。死ぬなよ。」

 

「ええ。」

 

悟飯はそう言って飛び去った。

 

「そういえば、ライはどうなったのか聞けなかったなあ。」

 

ヤジロベーの独り言が空に消えて行った。

 

 

それから数年間、人造人間はそれまでに百の都市や街を襲った。そして彼らは悟飯が一人修業をしている山麓の近くの都市、オレンジシティを襲う。

 

 

「ぎゃああああ!」

 

「うわあああ!」

 

「馬鹿、逃げるのよ、早く!!」

 

「お母さぁん!お父さぁん!うわあああん!」

 

「ははは!逃げろ逃げろ!」キュン!キュン!キュン!

 

金切り声を上げる者、驚き逃げ惑う者、子供の手を引くもの、両親とはぐれて泣き叫ぶ者。その全員をエネルギー波で皆殺す。

 

「ひっ…!」

 

何とかエネルギー波を逃れた市民の前に十八号が立ちふさがる。

 

「それ。」

 

十八号の拳が胴を貫通する。血があふれ出す。

 

「やっぱり、遠距離から殺すより、直接やった方が気分がいい。」

 

返り血で赤く染まった十八号の姿は彼女の残虐さを引き立たせる。

 

 

「ビーデル、お前も早く逃げろ。」

 

人造人間が現れるとすぐにラジオで、テレビで、その他あらゆる機関でその情報が発信される。オレンジシティから外れた郊外の豊かな土地に家を構えていたサタンは娘にそう言った。

 

「パパは!?パパは逃げないの?」

 

「俺はあいつらを食い止める。やつらを倒すためにこれまでに厳しいトレーニングを積んできたのだからな。」

 

人造人間が現れる数日前に彼は天下一武道会で優勝をした。それでも彼の強さへの探求は留まるところを知らない。ひたすらにトレーニングを積み続けた。

 

「俺はもう、お前と、妻の愛したこの町を、守らなければならんのだよ。」

 

妻のミカエルは一年前に病気で死んでしまった。それからはそれを振り切るように、修羅のようにトレーニングに臨んだ。今ならば、今の俺ならばあの時のように守られるだけには、圧倒的な力にねじ伏せられることにはならない。

 

「待って!パパ!待ってよ!」

 

そう言ってサタンは人造人間たちに向かって走り出す。

 

 

「この辺の人間も大体片付いたかな。」

 

「まだまだこの都市にはたくさんの人がいるさ。まだまだ楽しめるだろうぜ。」

 

オレンジシティの北エリアを壊滅させた二人は東エリアに移動する。

 

「ダイナマイトキック!」ドン!

 

人造人間たちが移動しようとしたときに救世主が現れる。いや、この世界ではただの格闘家。しかしただのと言えないほどに強い。必殺の蹴りを入れえすぐさまバク転をして距離を取り二人に向かって見栄を切る。

 

「おらおらおら、黙って見てればいい気になりおって。だが残念だったな。ミスターサタンのいるこの町を襲ったのが運のツキだ。貴様等はここで俺にぶっ壊される。」

 

「悟飯たちのほかにも俺達に歯向かうやつがまだいたとは。世界は広いな。まあ、俺たちを超えるレベルの奴がいない程度には狭い世界だが。」

 

サタン必殺の蹴りを受けた十七号は大したダメージを負っていないようにー実際に全くのダメージを受けていないーいった。

 

「なっ!…フン!今のはほんの小手調べだ。次はもっと重たい攻撃をしてやる。」

 

「おう、どんどん攻撃してこい。歯向かってくる人間など貴重だからな。」

 

「ふざけやがって!」

 

そう言うとものすごい速度で前進していく。

 

「ローリングアタックサタンパンチ!キングオブドリーマー!」

 

「普通の人間ではなかなかの強さだな。まあ普通、では。」

 

「くっそおお!」

 

サタンの連撃も人造人間には当然通用しない。

 

「サタンミラクルスペシャルウルトラスーパーメガトンパンチ!」

 

サタン最高の一撃、隙も大きいが威力はサタンの技の中では最高の一撃を食らわせる。

 

「それがお前の最大威力かな?」

 

「くっ!」

 

自分の最大攻撃も通用しなかったことに愕然とし、表情がどんどん真っ青になっていく。それを見て人造人間は何かを思いついたかのようにニヤリと微笑んだ。

 

「グワーッ!」

 

そう言って吹っ飛ばされる。それを見て十八号はため息をついた。

 

「な、なんて技だ…!痛い、痛いぞ!」

 

そう言って十七号はのたうち回る。

 

「ふ、ふふ、フハハハハハ、何気ないパンチに見えるかもしれないが数秒後に爆発的な衝撃に襲われるサタン必殺の技だ。どうだあ!まいったかあ!」

 

サタンの顔がどんどんと喜色に染まり始める。

 

「やったあ!流石パパね。」

 

優位になったタイミングとビーデルがサタンに追いついたのは同時。

 

「む!ビーデル、来てしまったのか。ここには来るなといっただろう!」

 

サタンが強い口調で言う。何を憂いているのかとビーデルが疑問に思うがその疑問はすぐに氷解する。

 

「へえ、娘がいたのか。これはなかなかいいショーが見れそうじゃないかい。」

 

「確かにそうだな。まさかこうなるとは俺も予想外だ。」

 

場の空気が一瞬で氷つく。

 

「や、やっぱり俺程度では…」

 

「お前も実力があるのは認めるが、残念だったな。俺たちは貴様等と次元が一つも二つも違うんだ。悟飯たちに先に会っていればこんな身の程知らずなことをしないですんだのにな。」

 

「ビーデル!今度こそ逃げるんだ。ここは俺が食い止める。急げ!」

 

「残念。無理だ。」

 

そう言って気功波を放つ。その一撃はサタンが全く反応できずにサタンの頬をかすめて走るビーデルに迫る。

 

「いや、可能だ。」

 

人類にとって、少なくともサタンとビーデルにとって本当の救世主が現れる。

 

 

「!」

 

悟飯がライを振り切って超化してから悟飯はライの元に戻ってこない。一人で修業していたライは、悟飯が人造人間の元に向かった気を感じ取る。

 

「…」

 

助けに行っても無駄かもしれない、今の悟飯を一度助けたところで何度でも悟飯は人造人間たちの元に行くだろう。

 

「それでも、私は。」

 

ライは悟飯のところに向かう。

 

 

「うん、人を襲っていれば来てくれると思ってたぞ。孫悟飯。」

 

「呼んでくれればいつでも殺しに行くぞ。人造人間。」

 

「こうして呼んでるじゃないか。」

 

「呼び方を考えろ。屑ども。」

 

気と怒りをたぎらせて吐き捨てるようにいった後悟飯は人造人間に向かって行く。

 

「逃げるぞビーデル。何者かは知らないが、あいつに任せてここを離れるんだ。」

 

そう言ってサタンたちが逃げるが、その前に十八号が立ちふさがる。

 

「逃がしはしないよ。あいつの鼻っ柱をへし折れるのはそれなりに気分が良いんだ。」

 

「くっ!」

 

向きを変えて走り出す二人を十八号は狙い撃つ。

 

「させるか!」

 

悟飯が十七号を振り切って動く。二人を庇うように飛び出す。気弾を放ち、十八号のエネルギー波を防ぐ。

 

「うわっ!」

 

「きゃあ!」

 

その余波で二人は吹っ飛ばされる。二人はまともに動くことができなくなる。

 

「おいおい、お前は俺と遊んでもらわなきゃ。」ドン!

 

「うぐっ…」

 

実力が足りない状態で援護に回れば当然大きな隙になる。一撃でやられるレベルの、大きな隙に。

 

「が、あああ」

 

首筋に大きな一撃を食らって地に這いつくばった。

 

「あらら。威力の調整を間違っちまったかな。」

 

「十七号、そろそろ行かないと、この都市の人が逃げちまうよ。早く行こう。」

 

「ふむ、そうだな。行くか。」

 

そう言うと十七号と十八号の両手にエネルギー波が集まる。

 

 

薄れゆく意識の中で、悟飯はビーデルたちの姿が目に入る。サタンが必死にビーデルを庇う姿が目に入った。

 

「うう…」

 

自分が受け取れなかった、受け取ることを諦めた親の愛情を一身受けるビーデルを見て嫉妬するほどに羨ましい。でも同時に、この人たちは死んでほしくないと思った。この残酷な世の中で少しでも幸せをかみしめてほしいと、そう思った。

 

「はっ!」

 

残った気をバリアのように展開し、それを二人に向かって打つ。意識を失う直前、何か暖かいものが、自分を抱きとめたような気がした。

 

 

「ビーデル!」

 

「パパ!」

 

地上に落ちた光が、爆弾のように広がっていくのを見た。それから庇おうとパパが両手を広げているのも見えた。しかしそれがどうしようもないだろうことを悟る。その時に自分たちを助けようとしてくれた青年から放たれた球体が自分たちを覆う。それに気づいたサタンが自分のことをエネルギー波から守るように抱きしめる。凄まじい衝撃が襲った。バリアによって相当な威力が削がれているが、それでも二人には十分な威力が襲っていた。

 

 

ライがオレンジシティに着いたのは悟飯が致命傷を食らって、人造人間たちがエネルギー波を打ち込もうとしているときだった。彼は悟飯が逃げ遅れたであろう二人を庇おうとしているのを見る。

 

(君は、やっぱり正義の味方だよ。)

 

迫るエネルギー波から悟飯を庇うように抱きしめて気でバリアを張る。凄まじい衝撃をその一身に受けた。

 

 

人造人間の二人が去っていき、ライが気によるバリアを解除する。

 

「あいつら、わざと悟飯が死なない程度の威力に抑えてた、のか?」

 

悟飯が残った気を使って二人を庇わなければ、死にはしない程度の威力ではあった。最もそれから動けるかは別の話で、そのまま死んでしまう可能性の方が高かった。

 

「さて、悟飯が庇った二人の様子も見ておかないとかな。」

 

悟飯に仙豆を食べさせて、ライは気を失った悟飯を背負い、ビーデルたちの元へ行く。いくら悟飯が庇っていたとはいえ、バリアでは防ぎきれない威力で二人は死んでしまっているだろうと思っていたが、意外なことに予想は裏切られる。

 

「う、うう…」

 

「驚いた、まだこの子には意識がある。」

 

仙豆を取り出してビーデルに与える。そしてサタンの生死を確認するが、サタンは既に息絶えていた。娘を守り切った武闘家の最期に敬意を払って手を合わせる。

 

「パパ!しっかりして!パパ!」

 

ビーデルが意識を取り戻すと、すぐに倒れている父親をゆする。次第にビーデルは父の死を察する。

 

「そんな、パパ、嫌だよ…!」

 

ビーデルが泣きわめく中、ライは何も言えなかった。

 

 

「みっともないとこを見せて、ごめんなさい。貴方達が助けてくれたんですよね。ありがとうございます。」

 

「死を悼む姿がみっともないわけはないよ。あと、そのお礼は悟飯に言ってくれ。私は何もしてない。」

 

「でも、私はあの光でボロボロになってたんです。貴方が何かしてくれたんじゃないんですか?」

 

「それも、悟飯が命がけで守ったから助けただけ、いや、私の都合で君を助けたから、こっちが感謝しなきゃいけないくらいかな。」

 

「え?」

 

そう言うと悟飯をおろして仙豆を一粒だけ取り出して、残りの仙豆の入った袋をビーデルに渡す。

 

「君を助けた人は孫悟飯って言って、私の…」

 

そこまで言いかけたところではたと言葉が止まる。悟飯は私の何なのだろう。少し前までは弟子だった。でも今の悟飯は自分のことを師とは呼んでくれないだろうし、一緒に戦う仲間という表現も、いまや正しくない気がする。自分と悟飯の関係の希薄さに、ライは今更ながら気づいた。

 

(これだから悟飯のことを分かってあげられなかったのかな。)

 

「えっと、あなたの名前は何ですか?あと、この袋をどうすればいいんですか?」

 

言葉に詰まったのを見てビーデルがライに聞いてくる。

 

「ああ、そうだったね。私の名前はライ。その袋は、悟飯にあげてくれ。えっと、餞別だって言って渡してくれるとありがたいかな。あと、仙豆一粒ぶん、勝手に使わせてもらう分だけ、一つ借りにしておくって伝えておいてくれ。」

 

「えっと、あの、悟飯…さん、を置いてどこか行っちゃうんですか?」

 

もう去ろうとしているライを引き留めるようにビーデルが言う。

 

「ごめんね。君を助けたのは悟飯への伝言をお願いしたかったからなんだ。だから重ねて言うけど、私に感謝しなくていいから。」

 

そう言ってライは飛び立つ。

 

「あ、そうだ、()()()()、悟飯は君と同い年だよ。だから変に丁寧に接されると困るはず。少し気を使ってあげて。」

 

「へ?」

 

今度こそライは飛び立った。




人造人間17号4億
人造人間18号3億
サタン99.9
ビーデル66.6
サタンはひたむきに努力を続けた結果人外の力を手に入れました。まあ死んでしまったんですけど。ライがビーデルの名前を知っていたりサタンがSATANなのは、番外編で語ります。


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(四十四.五話)ライの七年間

ちょっとキャラ崩壊気味の番外編スタートです。


「うぐっ、うあ…」

 

うめき声をあげ空を仰ぐ。自分の限界を悟り修業を中断する。修業に没頭していなければ目をそらしたい現実が思考を支配する。悟飯と二人で修業をしていた頃からずっと自分の実力が伸び悩んでいたこと。修業相手ができれば少しはましになるかと期待していたがその弟子は満足に育てられずに自分の元を離れて行ってしまったこと。

 

(悟飯ならきっと一人でも強くはなれちゃうんでしょうね。)

 

一人より二人でやった方が良いに決まっているけれど、それでも孫悟空(最強)の息子であるあの子ならいずれ必ず人造人間を超える。そう言う確信がある。でもそれは自分が投げ出していいことにはならない。

 

(人工の月、作れるようにならなきゃ。)

 

最近は修業の合間にパワーボール生成やり方を調べている。ただの気弾を空中で破裂させればできるかと思えばそんなことはなかった。ゼロから生み出す大変さを実感すればするほど、多芸だったクリリンをはじめとする地球人戦士の強さも実感する。

 

バチバチバチ!

 

(気功波が発散せず、その場に留まるように気を回転、気弾の内側の気功波だけは発散させないといけないから…)

 

二つの異なった性質を持つ気功波を一つの気弾に込める難易度は半端じゃない。何かコツとかがあるにせよ、これができたベジータは相当凄い技量があったのだろう。

 

「はじけて混ざれ!」

 

パワーボールを作り空中に放り投げる。作られたパワーボールはその場に留まる。

 

(よし、これなら!)

 

しかし数瞬後には人工の月ははじけ飛んで散ってしまった。

 

(パワーボールの内部の気功波が外側の気功波を破っちゃったんだ。これじゃあ実戦には使いようもない。)

 

一度変身すれば少しの間は狼姿のままでいられるが、相手は永久に疲れない。今の実力で短期決戦を仕掛けられるほど強くはない。今日一番うまくいったはずのパワーボールも全く思った通りにならないことに肩を落とす。

 

「移動しないとな。」

 

人造人間たちが近づいていることを感知し、慣れ親しんだ修業場からの移動を始めた。

 

 

「ここは、オレンジシティか。そうかこんなとこまで移動してたんだな。サタンさん、元気かな。」

 

助けたのは十年以上前の話だ。にもかかわらずサタンのことを思い出せたのは、偶然目の前にあった二階建ての建物がサタンの運営する道場だったからだ。向こうはこっちのことを覚えていないだろうか、恩に着せるつもりはないが流石に命の恩人だ忘れてはいないと思いたい。

 

「道場破りも面白いかもしれませんね。」

 

修業がうまくいかず、虫の居所が良くなかった。そう言う意識はなかったが、自分も理不尽をばらまいてみたくなったのかもしれない。最も道場破りをしても看板を持っていくつもりもなければ道場を畳めと命令する気もなかったが。

 

「たのもー!」

 

私を見たサタンさんがどんな反応をするかワクワクしながら扉を両腕で開けてそう叫ぶ。サタンの弟子たちが何人くらいいるのだろうと気を探ってみるが、十名程度しかいない。少し意外だった。あの時会った時はお調子者感が強かったから、もう少し弟子を取るものだろうと思っていた。

 

「あんた、何者だ?ここに入門希望か?」

 

最初に話しかけに来たライの倍はあろうかというほどの大柄な男だった。

 

「いえいえ、いわゆる道場破りってやつをしに。」

 

巨躯の男に怯みもせず、堂々と言ってのけるライに対して一階にいる門下生たちが鋭い視線を向ける。

 

「道場破りか、このサタン道場に来るとはよほど腕に自信があるらしい。だが、道場破りに失敗したらここの門下生になってもらう決まりになっている。それでもやるのか?」

 

普通は道場破りを失敗したら半殺しにされそうなものなのに、ここの道場はずいぶんと甘いみたいだ。

 

「ええ。構いません。失敗したら門下生になりましょう。さて、師範の前にあなたを倒せばいいんですかね?」

 

道場の真ん中に入り、そして構えをとった。

 

「自分で言うのもなんだが、このピロシキ、師範に次ぐ実力があると自負している。」

 

「そうだ、そうだ~お前なんかピロシキさんにかかれば一瞬でやられちまうぜ!」

 

周囲のヤジにため息をつきながらピロシキも構えをとった。

 

「では、参るッ!」

 

そう叫ぶや否や凄まじい瞬発力で加速し急接近する。一瞬視線が交わる。ライの顔面目掛けて鋭いパンチを飛ばす。

 

「おっと。」

 

少し腕を左に押して逸らし、躱す。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

ピロシキのラッシュを全てスウしい顔で回避して見せる。

 

(この人既にサタンさんより強いでしょ。普通に人外の強さだ。)

 

避けながらそんなことを考える。この人が天下一武道会に出たら、ほぼ確実に優勝するだろう。流石にチャパさんほどではないが、逆に言えばそれくらい強い人でない限りはこの人には勝てない。

 

(まあ、対人造人間の頼もしい仲間にはなり得ない程度でしかないかな。)

 

パンチを受け止める。その一瞬ピロシキの顔に笑みが浮かぶ。今まで腕しか使わなかった。蹴りには対応できまいと。

 

「おらあ!」

 

バシッ!

 

「よいっと!」

 

蹴りの一撃を受け止めてそのまま投げ飛ばした。

 

ドーーン!

 

死なないように、さらに言えば大きなけがができないように加減して投げ飛ばしたが壁に当たった衝撃が響き建物が揺れた。

 

「この建物丈夫ですね。」

 

壁にピロシキの形の穴が開くかと思ったが、意外にもピロシキはたたきつけられたままだ。衝撃が収まり壁からずり落ちたピロシキが起き上がる。

 

「まだ続けますか?」

 

「当たり前だ、ピロシキさんがこの程度でやられるわけないだろ。今のはちょっと力みすぎただけで…」

 

「いや、降参だ。二階に上がるといい、師範は今二番弟子のカロニーとトレーニングをしているはずだ。」

 

周りにいた門下生が挑戦的に言うが、ピロシキは今の一瞬で実力差が分かったらしい。両手を挙げて降参した。

 

 

「さっきの音はピロシキが投げ飛ばされた音だったのだな。相当骨のあるやつが来たようだ。」

 

二階に上がると先ほどまで組手をしていたのか、息を切らして膝をつく美丈夫と、あの頃のままのアフロヘア―の男、サタンがいた。

 

「ええ、ピロシキさん、相当強くてびっくりしましたよ。一番弟子を名乗るだけはありました。」

 

どうやら昔の命の恩人とは気づいてくれないらしい。

 

「しかしお前はその我が道場の一番弟子を倒したわけだ。」

 

「次はあなたです。」

 

「フフ、ピロシキを倒せるほどの相手だ。私が本気をだしても死ぬことはないだろう。全力で行くぞ。」

 

二人が構えをとった。

 

「先に仕掛けてきて結構ですからね。」

 

「では遠慮なく。」

 

そういって十秒間、サタンは微動だにしない。

 

(すぐに向かってこないってのは意外に冷静だな。ピロシキさんも相当だったけど、サタンさんはさらにその上をいくってことか。)

 

あの時のお調子者のようだったサタンさんから、ピロシキさんよりも強いなんてありえないだろうと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。ピロシキさんと相対したときと同じ構えなのに突っ込んでこないことからもそれは読み取れる。

 

「こ…」

 

「はあぁぁ!」

 

来ないならこっちから行きますと口を開きかけた瞬間、サタンが突撃してくる。口を開こうとわずかにできた一瞬の隙、揺らぎを的確に突いた、ということだろう。

 

「とりゃぁぁああ!」

 

ピロシキよりも完成された連撃がライを襲う。しかしそれはライにとっては児戯に過ぎない。ピロシキの時と同じように腕をつかんで天井に向かって投げ飛ばす。

 

「波っ!」

 

投げ飛ばしただけではすぐに態勢を立て直して天井を足場に再突撃してこようとしていたために、気合砲で抑え込む。

 

「うぐっ!」

 

「なッ!師範が身動き一つとれていない!?」

 

壁に押し付けづづけ、ずり落ちないことにカロニーが驚愕の声を飛ばす。

 

「さて、とどめといきましょう。」

 

気合砲を止めて飛び上がる。

 

「まだだっ!」

 

相当な圧力がかかっていたはずだが、それに耐えきったというのだろう。舞空術の類を習得していない彼は落ちてくるだけだが、その中でもカウンターを入れようと構えていた。

 

(カウンターって、ハハッ!)

 

呆れての失笑ではない。圧倒的実力差がある相手に有効な攻撃なんて相手の威力を利用するくらいしかない。それを選択した目の前の相手に対して地球にこれほどの戦士がまだいることに笑みがこぼれた。

 

ドンッ!!

 

「うぐぉお…」

 

しかしそれも一撃耐えるというありえない前提を乗り越えたうえなければいけない。

 

「師範!」

 

「大丈夫死んではいませんよ。」

 

駆け寄ってくるカロニーにそう話して気を分け与えた。この男も目の前で師範を倒した相手の近くに危険を顧みずすぐに駆け寄れるだけで見どころがある。サタンさんの元には粒がそろってるのだろう。

 

「ん、うう…」

 

「よかった、無事で何よりです。師範!」

 

「俺は、負けたのか。」

 

「ええ、理不尽なことをしてしまってすいません。虫の居所が悪かったみたいです。」

 

呆然と、しかしどこか嬉しそうにそう話すサタンに少し疑問符を浮かべながらライは言った。

 

「理不尽なものか。俺はまだまだだということが知れただけで看板を渡す価値があるというものだ。」

 

「あー、まだ気づきません?一応お久しぶりなんですが。」

 

「?これほど強い人間の知り合いだったら絶対に忘れない。誰かと間違えてるんじゃないのか?」

 

「あっ…」

 

人間という言葉にハッとする。そう言えばあの日は満月で自分はこの人の前で狼姿しか披露してない。そりゃあ気づいてもらえるわけない。途端に八つ当たりみたいなことをして申し訳ない気持ちが沸き上がった。

 

「ちょっ、ちょっと外に出てくれますか?」

 

サタンを連れて外に出る。

 

「まだうまくは出来ないんですけどね。」

 

そう言って不完全なパワーボールを生成する。相変わらず一瞬しか人工月としての効果を発揮できてないが、それでもライの姿が人のそれから狼のそれに変わった。

 

「あ、貴方は、まさかッ!」

 

しかしそれでも狼姿になったライを見てサタンは気づいたらしい。

 

「あの時殺し屋から私を助けてくれた…」

 

「ええ、今度こそお久しぶりです。サタンさん。道場破りなんて申し訳ないことをしてしまってすいません。すごく強くなったようですね。」

 

「あなたに少しでも近づこうと必死で努力しましたから。あの時名前を聞いていなかったのをすごく後悔していたんですよ。」

 

「そう言えば名乗ってませんでしたね。人狼族のライです。」

 

嬉しそうに話すサタンだが、その門下生たちはサタンが負けてしまったことを知り表情が暗い。

 

「そうそう、心配している方もいそうですから一応言っておきますけど看板はいりませんからね。近くに来たから立ち寄るついでに、少し腕試しをしてみただけですので。」

 

「貴方にだったらこの道場を差し上げても一向にかまわないのですが。」

 

「はは、私は誰かにものを教えられる人間じゃないんです。この道場は引き続きサタンさんが師範のままの方が良い。」

 

門下生たちが胸をなでおろしていると、道場からピロシキが出てきた。

 

「師範、娘さんからお電話です。」

 

「なにっ!ビーデルからか!」

 

先ほどまでの威厳ある顔つきはどこへやら、すっかりだらしない顔で電話を受け取った。受話器越しに甲高い声が響く。

 

「もう、パパ!今日はママの誕生日なんだから早く帰ってくるって言ってたじゃない!」

 

「ああっしまった!つい…」

 

「ついじゃないでしょもう!ママさっき私が学校から帰ってきてからずっと機嫌悪いんだから!」

 

そう聞くや否や受話器を放り出しすぐに道場に引っ込みドッタンバッタンと豪快な音を響かせたかと思うと、道着から着替えたサタンが道場から飛び出す。

 

「サタンさん、タイミング悪くお邪魔したお詫びに送ってあげます。家はどこですか。」

 

今にも走り出していこうとするサタンを呼び止めてそう聞いた。

 

「いや、しかし…」

 

サタンほどの達人となれば、100mを五秒台で走ることができる。時速にして約72㎞、疲労により常にその速さを出せるほどではないが、車よりも早い。

 

「大丈夫、例え地球の裏側でも五分とかからず連れて行きますから。」

 

「本当ですかッ!じゃあ頼みます!」

 

その発言を聞いて、ライが乗り物ではなく自ら連れて言ってくれると確信したのだろう。少し不格好ではあるが、ライにおぶさって、住所を言った。

 

「大体わかりました。では行きますよ、しっかりつかまって!」

 

ドシュン!

 

「うぶぶぶぶぶ。」

 

舞空術を使って飛び立つ。圧力がかからないように気である程度緩和しているが、それでもサタンにとってはつらいようだ。ものの数十秒で着いた。街はずれの郊外にあるものだったこともあるのだろう。すぐ見つけられた。

 

「本当にありがとう!これで妻が機嫌を直すのも少しは楽になりそうだ。」

 

「それなら良かったです。いい家住んでますね。ベランダから街を一望できる。…そうだっ!」

 

サタンにベランダに奥さんと娘さんと一緒に出てきてもらうように言う。

 

「ささやかながら奥さんへの誕生日プレゼント、ですっ!」

 

(気功波を発散するように生成して…撃つ!)

 

そう言ってパワーボールの未完成品三発投げる。パワーボールは空中で飛び散り花火のようになる。

 

「ライさん!素敵なプレゼントありがとう!」

 

サタンの声を聞き、満足げに頷いてライはまた修業の日々に戻っていった。




さて、ライがパワーボールを完成させるまでの物語とビーデルのことを知っている理由付けの回でした。次の番外編はパワーボールの生成に成功したライとライの元を離れた悟飯が人造人間に立ち向かう話になるかなあ?


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(第四十五話)託される者

「ん、んん…」

 

「よかった、目が覚めたのね。」

 

悟飯が意識を取り戻す。

 

「ここは?」

 

「ここは、オレンジシティ。人造人間はいなくなったのよ。」

 

「そうか…ごめんね、守り切れなくて。」

 

悟飯が気を探り、サタンが死んだことを悟る。

 

「貴方のおかげで私は助かったわ。謝ることなんてないの。助けてくれてありがとう。」

 

ライの前で泣きわめき、もう心の整理は出来ていた。言いよどむことなく言葉を出す。その甲斐あってか、悟飯は少し救われたような顔をした。

 

「それじゃあ、俺はもう行くよ。まだまだ修業を続けてあいつらに勝てるようにね。」

 

「ちょっと待って!」

 

悟飯がすぐに飛び立とうとするのをビーデルが引き留める。

 

「ライさんからこれを渡してほしいって預かってるの。」

 

「これは、仙豆か。」

 

袋の中身が十粒あるのを確認する。

 

「餞別って言ってたわ。一粒は借りにしておくとも。」

 

「分かった、確かに聞いた。君ももう逃げ遅れることのないようにね。」

 

今度こそ悟飯は飛び去る。一人修業を続けるために。

 

「世の中にはこんな人がいたのね。それにしてもライさんはどうして私のことを知ってたのかしら。」

 

その疑問に答えるものは誰もいない

 

 

「悟飯は何度も死線をくぐってるみたいですけど、私はあれから一度しか人造人間と戦ってはいません。やっぱり自分は悪人ではないだけなんでしょうね。」

 

寂しそうにそう言ってライは合わせていた手を解く。

 

「また来ます。」

 

 

「悟飯さんはどうしてライさんと一緒に修業しないんですか。」

 

トランクスが悟飯の弟子になって数ヶ月。トランクスは気を感じ取れるようになってからずっと疑問に思っていたことを聞いた。ライの気は決して悟飯に劣っておらず、一緒に修業すれば人造人間に勝てる日も近くなるという確信があった。

 

「それは…そのうち話すよ。あの人もトランクスの言う通り強い。俺に何かあったら俺の代わりに修業をつけてもらいなさい。」

 

しかしトランクスに対してその理由を話してくれることはなかった。この話を振った時、悟飯は(ベジータ)の話をするときのように少し困った顔をしていた。それを見たトランクスはこの話を二度と振ることはなかった。

 

それから一年の月日が流れる。

 

 

 

「君はここに残るんだ、いいな!」

 

「いやだ!俺も悟飯さんと戦う。もう十分強くなったはずだ!」

 

この一年で腕は欠損し、その状態でも戦えるように体を慣らすために修業を費やし、悟飯は一年前からほとんど強くなっていない。

 

「だめだ!君は最後の…」

 

そこまで言いかけたところで悟飯は言いよどむ。かつてその言葉をかけてくれた師匠を自分は裏切った。今の自分にトランクスを止める資格なんてない。それでも。

 

「分かった。行くか。トランクス。」

 

その言葉を聞いて油断したトランクスの首筋を手刀で打つ。

 

「あの人のいうことを聞かなかったくせに、弟子(トランクス)には自分の言葉を強要する、か。師匠、最後まで面倒かけてごめんなさい。後のこと頼みます。」

 

自分にライを師匠と呼ぶことが許されないとそう思っていた。師と呼びたくないとすら思っていた。自分が師匠になるまでは。今なら、ライの正しさを理解できる。本当に大恩ある、尊敬する人だと、自信を持って言える。

 

 

「あの馬鹿。」

 

それから数十分後、地球の最果てともいえる場所で、ライの瞳から一滴の涙が頬を伝った。

 

 

「一年振りですね、カリン様。」

 

何か弱音を吐きたいとき、どうしようもない悲しいことがあった時、ライはこの場所に訪れる。

 

「悟飯は死にました。つい先日のことです。仙豆を使いきって、それでもまだ挑んで、それで死んでしまった。」

 

話ながらカリン様ならもう知っているかと思う。悟飯もあの世に行っているのだから。

 

不肖の(正しい)弟子でした。私が師として未熟だったばっかりに。私があなたのような師匠だったら、良かったのに。悟飯を死なせずに済んだのに。」

 

それは懺悔だ。自分が一度守ると決めた人を見捨てたことに対する。

 

「次来るときは必ず人造人間を破壊したと報告します。」

 

それは宣言。もう取りこぼさない。その決意。

 

 

カリンを去ろうとしたときライは気を感じる。その気の持ち主が言葉を投げかけてくるのを黙って待った。

 

「ライさん、ですよね。初めまして。」

 

「久しぶり、が正しいよ。最も最後に会ったのは君が三歳にも満たないころだったから覚えてないのも無理ないけどね。」

 

悟飯と別れて七年間、悟飯と会ったのは一度きり、トランクスには会ってすらいない。

 

「悟飯さんから少しですけどお話は伺っています。」

 

「自分の保身を一番に考える人って、かな?」

 

「ちが…」

 

トランクスは動揺して口をつぐむ。本題に早く入ろうと口を開きなおした。

 

「俺に修業をつけてください。おれの二人目の師匠になって欲しいんです。」

 

「断る。私には誰かの師になる資格なんてなかったんだ。もう、誰かにものを教えたりはしない。」

 

即答した。自分は師たる資格がないとライは思っていたから。しかし、トランクスはその答えを予想していたように次の言葉を告ぐ。

 

「仙豆一粒の貸しを返してもらいに来ました。」

 

「!…その言葉を、どうして。」

 

「自分にもしものことがあったら修業をつけてもらえと、悟飯さんから言われています。その時にこういえば断らないとも。」

 

天を仰ぐ。

 

ああ、本当に、悟飯は自分には勿体ない弟子だ。こんなに優しい子を自分は守ってあげられなかったのかと胸が締め付けられる。師匠と見られなくとも、何か悟飯とつながりを持っていたいという、見苦しい未練を見抜かれていたかのように、悟飯はあれから一度も自分を頼ってきてはくれなかった。腕を失った時でさえも。でもそれはこの時のためにとっておいたのだろう。自分よりも次代に希望を託す、悟飯は師匠(ライ)の思想を師匠(ライ)よりも高潔に体現していた。

 

「分かった。今日から私…いや、今日から俺が君の師匠だ。」

 

口調を変える。今までの自分を捨て去って、こんどこそ弟子を導いていけるように、守ってあげられるように。

 

 

「じゃあ、まずは君の実力を見よう。全力でかかってこい。」

 

そう言ってライは構えをとる。トランクスも構えをとりこちらに向かって飛び込んできた。

 

「やああああ!」

 

「ふむ。」

 

素早い連撃を軽々と躱し、一撃を打ち込む。ダメージよりも衝撃に重きを置いた一撃にトランクスが後ずさる。

 

「うわっ…まだまだ!」

 

「トランクス、俺は本気でかかって来いといったんだけど?」

 

再び突っ込もうとしてくるトランクスを制してそう言った。

 

「俺は全力です!」

 

むっとしたようにいうトランクスに対してライは怒気を孕んだ声で言う。

 

「悟飯が死んでからひと月、君がその間俺の元に来なかったのは、自由に超化できるようにしてきたからだろう。力の半分どころか十分の一も出さずに全力って、俺を舐めてるのか。」

 

「っ!でも超サイヤ人になったら…!」

 

「お前如きが超サイヤ人になったところで何ら支障はない。いいからさっさと本気でこい。」

 

挑発的に言うライにトランクスは苛立ちも手伝って超化する。髪は金髪に染まり、サイヤ人の強さを余すことなく引き出す。

 

「後悔しないでくださいね!」

 

先ほどとは比べ物にならない速度で踏み込む。しかしライはその動きに対応して見せた。超サイヤ人になった自分の攻撃が通用しないことにトランクスは動揺する。

 

「力に引っ張られてるぞ!動きから繊細さが消えた!」

 

「な、負けるかああ!」

 

拳の連撃だけでなく蹴りも混ぜ、四肢をフルに活用するが、それをライは地に足つけたままで防ぎきる。

 

「そこ!」

 

「ぐっ!」

 

意識の死角を突くような攻撃を食らい、少しづつ消耗していく。

 

「遅い!」

 

結局いいようにさばかれ、ライに押さえつけられ地に伏せる。そのままの状態でトランクスに話かける。

 

「トランクスは悟飯からどんな修業を受けてきたんだ?」

 

「武道の基本とっ、超サイヤ人になる特訓です!」

 

「それだけ?」

 

「戦術についても一通りっ!」

 

「気のコントロール技術は教わらなかったのか?」

 

「気功波は…打てます!」

 

そう言って掌に気弾を表出させて無理やりライに向かって放つ。それを避けるのにできた隙にねじ込むように無理やり脱出した。

 

「そうじゃない。お前は超サイヤ人になって得られた圧倒的なパワーをまるで使いこなしていない。だから人狼化すらしてない俺にいいようにやられるんだ。」

 

軽く手で服に着いた汚れを払いながらそう言い放つライには隙だらけに見えて、全く隙が無かった。やがて構えを解く。

 

「単純な力だけで言えばトランクスの方が強い。だからこれからは気のコントロール技術について学んでもらう。」

 

「はい…。」

 

 

地味な修行である。それが有用だと分からせるために自分との実力差を見せつけた。それもトランクスが超サイヤ人になれていればこそだ。

 

「そこ!歪んでるぞ!」

 

そう言ってトランクスの脇腹に触れる。それだけで攻勢に転じていたバランスは崩れ去る。派手に転ぶ。

 

「わっ!」

 

「今日はここまで。体を冷やさないようにね。」

 

そう言って修業を終える。トランクスはカプセルコーポレーションに戻る。

 

「ライさん、今日は一緒に夕飯でもどうですか。お母さんがたまにはライさんも顔を出してほしいって言ってましたよ。」

 

悟飯と修業していた時はほとんど一緒に行動していたが、トランクスには帰る場所がある。悟飯にもあれば、もう少し心に余裕をもてていたのだろうかと考えたりする。

「…今日は、すまないが、遠慮させてくれ。ちょうど今夜は満月なんだ。狼の姿でやりたいことがある。」

 

ライは悟飯と別れてからの七年間でパワーボールを作れるようになった。自由に人狼化はできるようになっているが、流石に人工の月は目立ちすぎるためにほとんど作ったりはしない。

 

「そう言えば、ライさんは狼人なんでしたね。」

 

「自分では人狼のつもりだ。一応、ジルフ村、人狼族の村の出だからね。」

 

「人狼?狼人ではないんですか。」

 

「満月の日に狼化するのは狼人で、俺もその体質だけど、俺は人狼の父と地球人のハーフだから。」

 

「なるほど?」

 

よくわかっていなそうな声音。まあ仕方ないのかなと思う。これは自分のプライドとか、そういう類のものでしかない。

 

「せっかくなんで見てもいいですか?俺、まだライさんが狼の姿になったところ見たことないですし、全力のライさんがどれくらい強いのかも気になります。」

 

「じゃあ、今日の夜、八時にここに来い。俺も少し休むし、トランクスもブルマさんのとこに行って夕飯と風呂を済ませてこい。」

 

そう言って一時この場は解散となった。




ライ600万
悟飯625万
トランクス250万
悟飯は超化で3億以上、怒りによる倍化で6億を超えるとこまでは行きます。一対一なら確実に人造人間に勝てていたでしょう。腕の欠損なしで修業していれば二対一でも勝てたかもしれません。


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(第四十五.五話)ライと悟飯

四十四.五話の続きとして読むと分かりやすいと思います。時系列的には四十五話の後でいいと思ってるんですけど。


「あはっ、できた、できたぞ!完璧な人工の月だ!」

 

爛々と輝く人工の月の下で狼姿の男が嬉しそうに笑う。

 

「サタンさんのおかげだ。このお礼は人造人間を破壊することで返してやろう!」

 

サタンの妻のために花火のような気弾を撃ちあげた時に気づいたのだ。片手に二つの性質の気を同時に作るのではなく、片手ずつに性質を分けて作成すればいいと。ベジータが作る人工月に先入観を持っていたライにとって両手で作るという発想をくれたサタン一家には感謝してもしきれない。

 

ドシュン!

 

「ハハハハハ!待ってろよ人造人間!」

 

ライは二人の人造人間の微弱な気をたどっていった。

 

 

「波アッ!」

 

気合砲で岩を粉々に砕く。この地球上で自分の力に耐えうる物質なんて存在するのだろうか。少なくとも人類にはそんな物質を見つけることも作り出すこともできていない。それでもブルマさんならできるかもしれないが、ライと仲たがいしたことを打ち明けるのも気まずく、なかなかブルマさんのところに頼りに行けなかった。

 

「あの人のとこで修業した時よりも明らかに伸びが悪いなあ。」

 

ぽしょりと弱音がこぼれ出る。首を振り頬を叩く。ライは弱音を吐いたりはしなかった。人造人間から逃げ続けてほとんど自分の命だけを大切にしているような人だったけれどそれでも見習うべきところはある。…学びきれていないこともたくさんあった。

 

「!ライさんが凄い速度で移動している。人造人間から逃げてるのか…?」

 

大きな気が動いているのを感じ取った悟飯が不思議そうにそうこぼす。しかしその疑問に答えてくれる者はいない。

 

ドシュン!

 

悟飯もライと合流しようと飛び始めた。

 

 

「!」

 

人造人間のところに一直線で飛んでいたライは悟飯が合流しようと近づいていることを感じ取る。

 

「全くよくできた弟子だよ。」

 

自分と大切な人を守るために修業させて、そして今は人造人間の脅威から全人類を守るために修業している。奴らに勝てる力が付くまでと自分に言い聞かせて逃げ回っている師匠への当てつけのように、彼は何度も人造人間と戦っている。

 

「大丈夫。今日で全て終わらせるから。だから…」

 

教えたいことが山ほどある。弟子として悟飯を育て初めて気づいた。彼は自分が嫉妬するのもおこがましいほどに才能にあふれている。大きすぎる力故にその力はほとんどが眠ったままだ。だから究極の戦士の誕生に一役買えるなら武の道を歩むものとしてこの上ない喜びだ。彼とまた一緒に修業したい。

 

でもそれよりなにより。

 

「生きたいように生きてくれ!」

 

まだ学者を目指せるうちに、自分の夢を追い求めて欲しい。もうあいつらに囚われて生きてほしくない。

 

 

「おや?あそこにいるのは孫悟飯じゃないか。あんな速度で飛ぶなんてなにがあるんだろうか。」

 

「さてね。私達以外に地球人を殺そうとするような奴が現れたんじゃないかい。」

 

「それは面白そうだ。見に行ってみよう。」

 

「全く仕方ないねえ。」

 

いつもなら止めるはずの十八号も言葉では呆れたように言いながら乗り気な表情で飛び立った。

 

 

「ライさん、何があったんですか!」

 

悟飯が飛んでいると視界にライが映る。全力で移動しているから何事かと思ったが、どうやら人造人間に追われていたわけではないらしい。密林の上空、人が誰もいないであろう場所で悟飯はライに詰め寄った。

 

「悟飯、構えて。」

 

「え?」

 

動揺も一瞬、ライが両の掌に気弾を表出させる。

 

「今日であいつらを殺すんだよ。大丈夫二人ならできるから。」

 

そう言ってライは二つのパワーボールを混ぜ合わせ空中に放った。

 

「面白い冗談だね。この私達を殺すとはさ。」

 

「この最強の人造人間を殺すなんて無理に決まっているのにな。」

 

「人造人間!」

 

二人を見た悟飯が怒りを露わに超化する。

 

「今にみせてあげるよ。…はじけて、混ざれっ!」

 

ライのはなった人工の月が爛々と空で輝きを放つ。

 

「やっとだ、やっと貴様等を殺すときがやってきたんだっ!」

 

その声音は本当に心の底から喜んでいるように聞こえた。それほどまでに自信があることに悟飯は驚愕する。

 

「ふん、すぐにでもその自信をへし折ってやる…ぞっ。」

 

ガン!

 

十七号の拳をライはいともたやすく受け止める。

 

「言っただろ。貴様等を殺すって。」

 

二十倍界王拳を使ったライは力任せに十七号を地上に投げ飛ばした。

 

「まだまだ行くぞッ!」

 

「チッ!」

 

急降下の勢いを乗せた攻撃が辛うじて転がってよけた十七号のわきの地面を抉る。

 

「お前っ!そんな力があったとはな!」

 

先ほどまであった油断はない。全力で十七号は目の前の敵と戦う。

 

「まだまだいくぞ!」

 

連続のラッシュで追い込んでいく。

 

ドドドドドドドドド!

 

「そぉらっ!」

 

ドーーン!

 

 

「十七号!」

 

「邪魔はさせないぞ!」

 

援護に向かおうとする十八号を超サイヤ人化した悟飯が止める。

 

「ッ!うっとおしいんだよ雑魚の癖に!」

 

二人が組み合う。単純なパワーではまだ十八号の方が上だ。しかしそれは、悟飯たちが敵わないということを意味しない。

 

グッ

 

力を急に抜き巴投げの形で十八号の下に滑り込む。そんなことをした理由は一つだけ。下で十七号を吹っ飛ばしたライが飛び上がっていたからだ。

 

「こ、こいつっ!」

 

どしゃっ!

 

「魔閃光!」

 

鈍い音とともに蹴り飛ばした十八号に追撃する形で悟飯が気功波を放つ。しかし十八号はすぐに態勢を立て直し回避した。

 

「すいません、一瞬遅れました。」

 

「いや、相手の復帰が早かっただけだ。悟飯の落ち度じゃない。」

 

そう言って十八号に向き直った二人の死角を突いて、十七号の声が響く。

 

「そうそう、爪が甘いんだよ、お前は。」

 

「ッ!?」

 

後ろを見れば既に振りかぶっている十七号。素早く界王拳を二十倍に引き上げ直そうと、オーラを紅く染めて攻撃を受けるが間に合わない。悟飯は吹き飛ばされライも攻撃を受ける。

 

「うぐっ!なめるなぁ!」

 

反撃を仕掛けようとする攻撃を十八号の気功波が防ぐ。

 

「ぐはっ!」

 

シュドドドドドド!

 

二人のエネルギー波が連続で襲い掛かる。

 

「波アッ!」

 

気合砲で気弾を全て弾き飛ばす。

 

「おお怖い。お前はいっつも頭に血がのぼって」

 

「ライさん!」

 

地上に落とされた悟飯がライを助けようと飛び上がってきた。それを十八号が返り討ちにして再び叩き落す。

 

「だから俺に勝てない。」

 

「うがっ!」

 

ヒュゥン!ボウッ!

 

殴り飛ばされるが界王拳を全開にしてすぐに反撃をする。

 

「なめるなよ、人造人間がっ!」

 

ドン!ドドン!バシッ!

 

十七号は先ほどまでと違い防御に徹していた。左腕の殴打を両手で受け止められる。ダメージがないわけではないはずだ。実際に彼の顔は歪んでいる。

 

キーン!バー-ン!

 

それならばと右手に気功波を溜めて放つ。左手を掴んでいた手は離されて十七号は吹き飛んだ。

 

 

十七号をライが攻め立てているその時、地上に叩き落された悟飯と十八号の戦いは十八号優位で進んでいる。

 

「うらららららら!」

 

ババババババ!

 

攻撃を数発もらい、これ以上の追撃は避けなければとけん制にしては過剰すぎる力を使って十八号と距離を取る。しかしそうでもしなければ距離を取ることもままならない。

 

「はあっ、はあっ…」

 

息を切らし、動悸が収まらない。いつもはもう少し対等に戦えていたはずなのに。どうして、今日に限って、あの人が戦ってくれているときに限って僕はこんなにも押されているんだろう。

 

「不思議そうな顔だねえ。いつもなら二人相手に時間稼ぎができたのに、どうして今回に限って私相手にすら時間稼ぎができないのか。」

 

「んなっ!」

 

ヒュゥン!ドォォン!

 

図星を突かれて動揺のままに気功波を放つ。すぐ後ろには十八号がいた。

 

「随分楽しかったよ。自分は地球人を守れているとそう考えているお前を見るのは滑稽だった。なぜお前の存在が地球人にとって噂程度にしかなっていないか、考えたことはないかい?」

 

「ッ!」

 

飛び上がる。地上には既に十八号はいない。心臓が締め付けられるような、先ほどとは全く違う理由で動悸が収まらない。

 

「私たちが殺して回っていたからさ。お前に助けられた人間たちはあの世でお前を恨んでるんじゃないかい、中途半端に希望を見せたことを。」

 

「そ、そんな、嘘だッ!すべて無駄だったなんてそんなこと、あるはずがない!!」

 

絶叫が響く。痛感する。自分がずっと手加減されていたということ。遊ばれていただけだということを。

 

「うがっ!」

 

地面に突き落とされ土煙が舞う。

 

「遊び相手が減ってしまうけど、これからはライをおもちゃにすればいい。」

 

「悟飯ッ!」

 

十七号と戦っていたライが悟飯の気が大きく乱れたことを感知してすっ飛ばしてくる。全力の蹴りを肘で受け止めた。

 

「お前のパワーアップは一時的なものだろう?」

 

「!」

 

自分でも気づいていなかった。その弱点を十七号に、十八号に暴かれる。界王拳と人狼化のダブルパワーアップに浮かれていて冷静になれていなかった。今も二十倍のままに蹴り飛ばそうとしたのにそれを維持できなかった。だからこそ受け止められている。

 

ドン!ドン!

 

「ハア、ハア…悟飯無事か!?」

 

余裕そうに講釈を垂れる十八号を二度の蹴りで吹き飛ばし悟飯の方を向く。一目見て打ちひしがれていることが伝わる。

 

「…はいっ!」

 

しかし声をかけられただけで冷静さを多少なりとも持ち直した。

 

「さっきよりも全開でいられる時間が短くなってるんじゃないか?」

 

気功波で吹き飛ばしたはずの十七号がもう接近してきている。

 

「こいつっ!」

 

ドン、ドン、ドンドンドン!

 

高速移動をしてぶつかり合う。悟飯に視線を一瞬向けるが悟飯は十八号を食い止めているようだった。

 

「さっきと状況が変わってしまったなあ!」

 

ドン!ドン!ドンドンドン!

 

ライはここまでの戦いで二十倍界王拳を一瞬引き上げるだけで限界になるような状態だ。二十倍まで引き上げられなければ逆に圧倒されてしまう。

 

「さっさとくたばれよ!」

 

一瞬のパワーアップ、その針の意図を通すような攻撃を決めて、十七号が吹っ飛ぶ。しかし彼の表情にある余裕は全く崩れない。

 

「お前如きがこの最強の人造人間に勝つなんて無理に決まっているだろう。」

 

服に着いた汚れを払ってライに冷たく言い放つ。

 

ドガン!

 

「ゴハッ!」

 

「そうそう、お前達は身の程をわきまえないからよくない。」

 

そう言う言葉に呼応するように悟飯が十八号にやられて倒れる。血を吐いた。意識も朦朧としている。

 

「さてと、孫悟飯の代わりもできたし、しばらく生かしてやる。」

 

「なんだと…?」

 

「お前は孫悟飯よりもずっといい遊び相手になってくれそうだからな。」

 

何を言っているか理解する。同時に、孫悟飯が今まで死なないでいた理由も。悟飯は引き際を見極められる賢い子だと思っていたがそんなことはなかったらしい。その無謀さを、その強さを、危うく思うと同時に嬉しくも思ってしまう。

 

ボゴッ!

 

決意を固める。そしてその決意を声に出す。もう悟飯には届かないとしても。

 

「この子は殺させない。必ず守る。たとえこの身が朽ち果てようとも。」

 

普通の子供のように生きて欲しかった。それをさせられないのは私達大人が不甲斐ないせいだ。だからせめて悟飯を守るのは私の義務だ。

 

「界王拳、二十倍!」

 

再び界王拳を二十倍まで引き上げる。

 

「満身創痍でその技を使ったところでどうにもならないと思うけどなあ。」

 

「なめるなよ、人造人間どもが!」

 

シュゥゥン!

 

身体をまとうオーラが赤く染まる。悟飯が倒れてしまった今、二人を相手にしなければならない。二十倍界王拳を使っても二人相手には五分だ。

 

「はあぁっ!」

 

ドンッ!

 

二十倍界王拳の拳を十八号が両腕で受け止める。その隙に十七号が繰り出す拳を左手で受け止める。両腕がふさがったのを皮切りに、二人の人造人間が連続で攻撃を入れる。引き気味にそれらすべてを捌く。

 

シュッ!ガッ!

 

「なにッ!?」

 

十七号の腕をつかみできるだけ遠くへと投げ飛ばす。

 

「十七号!」

 

「隙だらけだぞクズ!」

 

ライの一撃が鳩尾めがけて突き出される。

 

パシッ!

 

「知ってるんだよ。覚悟を決めたり窮地に追い込まれた人間ってのは普段は到底出せないような力を引き出せる。…今のお前みたいに。」

 

渾身の右拳を両手を使って防いでいる。余裕で受け止めたわけではないはずだ、腕が震えている。されど彼女はライの一撃を受けて残忍な笑みを浮かべている。

 

「二人相手によく諸刃の技を使い潰せたねえ。相当体に負担がかかっているんだろう?」

 

図星だ。もう二十倍界王拳を維持していられない。ライからオーラが消える。十八号が勝利を確信した顔になった。

 

「チェックメイトだな。」

 

遠くに投げ飛ばしたはずなのに、十七号が気づけば背後に立っていた。ボロボロの状態で使った二十倍界王拳はきちんと効果を発揮してはくれなかったか、あるいは元の力がもう大してなかっただけか。隠し玉をこの二人にあてても状況は好転しないだろう。

 

「お前だけなら悟飯を囮に逃げれたかもしれないのに、下手に意地を張ったおかげで残念だったなあ。」

 

「そんなことをするくらいなら死んだ方がましだ。」

 

「ふむ、それならお前だけ見逃してやることにしてみるか。」

 

「ッッ!?」

 

動揺などしている暇はないと一瞬のうちに自分を叱咤する。そこからの行動は早かった。地中に潜ませていた繰気弾を悟飯のめがけて進ませる。

 

「心臓を踏みつぶして止めとしようか!」

 

十七号の脚が悟飯の胸を貫こうとするとき地中から出てきた繰気弾が()()を上空に吹き飛ばす。

 

ボゴッ!

 

「波アッ!!」

 

空中に飛び上がった悟飯に向かって気合砲を放つ。方角はカプセルコーポレーション。生きてさえいればどうにかなるだろう。

 

「フン!」

 

ドンッ!

 

「オゴッ!」

 

その隙を突かれないはずもなく、十八号からの攻撃をもろに食らう。意識を失った。

 

「逃がしてしまったか。おい、十八号!そんなボロボロのやつくらい抑えて置けよ。」

 

「すまないねえ。ここまで往生際が悪いとは思わなかったんだ。」

 

「まあ確かに防ぐほうが難しいか。これからは遊び相手が二人になるんだ。そう悪いことでもない。」

 

「殺しといたほうがいいんじゃないかい?孫悟飯があいつ程度に強くなったら面倒だ。」

 

さあ行こうと空中に飛び上がった十七号に十八号が言うがその言葉を聞いた十七号は首を振る。

 

「やつを殺したらそれこそやつの本懐を遂げたことになるだろ?それは癪じゃないか。次殺すのは孫悟飯だ。面白そうじゃないか、孫悟飯が死んだことをしったライの顔を見るのがさ。」

 

「あはっ、そいつは傑作だ!」

 

二人の悪魔の声が響き渡る。




四十六話が大きな転換点となる要素を含んでるのでここにきて投稿を躊躇してしまっています。最遅でも今月中に更新するのでもう少しだけ待ってください。


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(第四十六話)新しい過去

「来たね。トランクス。」

 

トランクスを見るとライは満月を瞳に映す。ライの姿が人のそれから狼のそれに変わる。

 

「これがライさんの全力…」

 

「せっかくだから少しだけ手合わせしてみるか?」

 

「是非、お願いします。」

 

トランクスも超サイヤ人に変身して構える。

 

「行きます!」ドン!

 

トランクスが繰り出す拳をライは真っ向から受ける。

 

「なっ!」

 

驚きも一瞬、すぐに連続で攻撃を出していく。

 

「うんうん。超サイヤ人になってもうまく力をコントロールできるようになってきたな。」

 

それをすべて捌きながら余裕にそう言う。

 

「まだまだあ!」

 

さらに速度を上げた連撃も簡単に防ぎきる。

 

「焦ると動きが悪くなるぞ。」

 

速度を上げた結果動きが単調になる。気づけばいつかのように組み伏せられていた。

 

「やっぱり修業の成果が出てるな。これなら狼化しなければ負けるかもしれない。」

 

「俺はまだ、いつかと全く変わってません。」

 

数ヶ月前と全く同じように組み伏せられるのは相当なことだ。相手をそうできるように誘導しないといけない。実力差がかなり無ければできないことだ。だからこそ、トランクスが後ろ向きなことを言う。

 

「ああ、全く同じように組み伏せた。()()()()()()()、だ。」

 

「!」ピシュン!ボンッ!

 

その言葉に気づいたようにトランクスは手から気弾を放つ。気功波と違い、起爆する。

 

「やっぱり修業の成果が出てる。」

 

顔を煤で黒くしながら笑顔でそう言い放った。

 

そうして日々は過ぎて行った。

 

 

 

「今日の修業はここまでにしよう。」

 

「はい。ありがとうございました!」

 

三年間でトランクスの体は少年のそれから青年のそれに変わった。徒手空拳で戦うやりかただけでなく、ブルマがタイムマシンを作る傍ら開発した業物の剣を手に入れたために剣術も身に着け始めていた。

 

「本当にその剣は固いよな。俺と戦って折れないんだから。」

 

「母さん曰く、人類の英知の結晶、らしいですからね。」

 

剣の手入れをしながらトランクスが応える。

 

「人類の英知というより、ブルマの英知だろ。」

 

「ははは、そうかもしれませんね。」

 

この二人の戦いでも折れない剣はトランクスの技量もあるのかもしれないが、相当な硬度がないとできないことだ。

 

「そう言えばタイムマシンはまだできないのか。」

 

「ええ。機構自体はかなり前からできているらしいんですが、それを過去に飛ばしうる燃料にすごく時間が掛かるそうです。でもめどは立ってるみたいですよ。」

 

タイムマシンの作成はベジータが死んだその日から取り掛かり始めた。燃料が課題だったらしく、皮肉なことに悟飯が死んで数日後に燃料を作る画期的な方法を見つけれたらしい。トランクスは努めて明るく言う。

 

「それだとあと何年くらいかかりそうなんだ?」

 

「試行錯誤してたみたいですけど、最近ようやく燃料の生成に成功した見たいで…」

 

そこで少し言いよどむ。

 

「あと、一年らしいです。」

 

それを聞いたライは少し目を見開くもすぐに笑った。

 

「やつらが現れてからもう十五年は経った。今更あと一年くらいなんだって言うんだ。」

 

「っ!そうですよね!それにこの分なら俺達が人造人間を倒せるようになってるかもしれませし!」

 

「そうだな。そうだと…いいな。」

 

 

 

「久しぶりねライ。悟飯君もそうだったけれど、ライも来いと言えばちゃんと来てくれるからこっちも準備のし甲斐があるわ。」

 

「それは良かった。こっちも美味しい夕飯がごちそうになれてありがたい限りだよ。」

 

ブルマは月に一度くらいのペースでライを夕飯に呼んでいる。

 

「もう食材の流通は落ちるとこまで落ちちゃったからね、でもその分、技術で何とかしているつもりよ。」

 

三人で食卓を囲む。いつもより少しだけ豪華で賑やかな時間。

 

「そう言えば母さん、タイムマシンが完成して過去を変えたら、この世界はどうなるんですか?」

 

タイムマシンが完成するめどが立ち、疑問に思っていたことを聞く。

 

「この時代は特に何も変わらないわよ。どんなに過去を改変しても世界が二つに分岐するだけで、この世界に影響はないわ。」

 

「じゃあどうしてタイムマシンを作ろうとしてるんだ?」

 

「過去に戻って人造人間の弱点を知ることができればこっちでも人造人間を倒せるじゃない。それにどうなってもこんな時代はもう繰り返したくないでしょ。」

 

「それはまあ、確かに。でも、過去に戻って何するんだ。ベジータやピッコロたちに戦いに行くなと言ってもあいつら絶対聞かないぞ。…多分俺も。」

 

自分だけなら、戦いに行かないだろうが、もしピッコロ達が戦いに行くとなれば必ずついて行くだろう。

 

「だから、タイムマシンで行くのは人造人間が現れる三年前、孫君が帰ってきたタイミングにするのよ。そして人造人間の出現を伝えて…」

 

そう言ってブルマはカプセルを取り出す。

 

「孫君を襲った病魔を払う特効薬を渡すの。」

 

「ああ、なるほど」

 

納得した表情のライとは対照的にトランクスの顔には疑問が残っている。

 

「でもたった三年じゃ、あいつらには勝てないんじゃないかな。その、孫さんが生きていたって多分結果は変わらないと思うし。もちろん薬を渡すことには賛成なんだけど。」

 

「トランクスは悟空に会ったことないからな。でも、会えば分かるさ。悟空がいれば何とかしてくれる、何とかなるってな。」

 

「そうよ。不思議な力を持った人なのよ、孫君は。」

 

「そう…ですか。」

 

釈然としないながらもトランクスは頷いた。

 

 

 

あれから一年の月日が流れた。ライもトランクスも人造人間とは戦わず、隠れて修業を重ねていた。

 

「これでようやく完成ね。長かったし、燃料に時間が掛かりすぎるからぶっつけ本番だけど、理論上は完璧だから大丈夫なはずよ。」

 

「これで過去に飛べるんですね。誰が行くんですか?」

 

トランクスがブルマに問うと、ブルマはあきれた顔で言う。

 

「何言ってんのよ。貴方が行くに決まってるでしょ。」

 

「まあ、トランクスが行くのが妥当だろうな。」

 

ライもさも当然のように言う。

 

「え、なんでですか、僕が行くより、母さんやライさんの方が良いんじゃないですか、説明もスムーズになるでしょうし、懐かしい…」

 

そこまで言って言いよどむ、昔の仲間に会いに行かせることが残酷なことであるかもしれないと考え至った。それを気に病まないように努めて明るく言う。

 

「三年後には俺もついて行く。戦力が少しでも多いほうがいいからな。でも今回はお前だけ言ってこい。」

 

同じ時代に同じ人間が存在すると、世界が思わぬ方向に歪みやすい。同じ人間に自我があればその危険性はさらに高い。トランクスが生まれた時期はその意味ではベストタイミングだったと言える。

 

「分かりました。渡さなければいけないのはこの特効薬、伝えるべきことは三年後の五月十二日南の都南西九キロ地点で人造人間が襲来、でしたね。」

 

「そうそう、孫君以外に会わないように注意するのよ。説明がもっと面倒になるんだから。」

 

「もちろんです。」

 

そう言ってトランクスがタイムマシンに乗り込んだ。ブルマによる使い方の説明を受けていく。

 

「じゃあ、このメモリで調節すればいいんですね。何時に飛べばいいんですか?」

 

「その機械も完璧じゃなくて、少なくとも数時間、下手したら十時間単位で狙った過去からずれる可能性があるから日付を設定したら時間は正午に設定しておけばいいわ。」

 

「まあ、早く着きすぎたら何もしないで待ってればいいだけだし、遅く着いても悟空が心臓病に侵されるまでには余裕もあるから大丈夫だろ。」

 

「分かりました。では、行ってきます。」

 

「ちょっと待て、トランクス。まあ、気をまわしすぎると思うが、一応な…」

 

トランクスを呼び止め、ライが何事かを伝えた後に今度こそトランクスがタイムマシンに乗る。二人に見送られ、トランクスは過去に向かった。

 

 

 

「少し早く着きすぎちゃったみたいだな。」

 

タイムマシンの計器を眺めながらトランクスはため息をこぼす。

 

「さて、早く孫さんに会いに行きたいんだけど…」

 

そう言いながらトランクスは気を探っていく。

 

(この気は…フリーザ達一味か、ちょうど地球に着いたらしいけど、変だな、悟空さんの宇宙船がつくのはあと三時間後のはずだ。まさか、俺がこの時代に来た、その事実だけで過去は変わってしまったのか!?)

 

トランクスに焦りが生まれる。フリーザ達など今のトランクスの敵ではないが、この時代だと悟空以外には倒せない強敵であるとも聞いている。この状況に陥ったトランクスの判断は早い。そして場面は戻る。

 

 

 

「それじゃあ僕はそろそろ戻ります。母さんにちゃんと渡せたことを伝えてあげたいし。」

 

未来のことを伝え、特効薬を渡したトランクスは元居た時代に戻ろうとしていた。

 

「そうだ、聞きそびれていたことがあったんですが、いいですか。」

 

「おう、どうしたんだ。」

 

「あの、ライさん、あそこにいるライさんは、女性、ですか?」

 

「?声聞けば分かるだろ。あいつは女だぞ。会った頃はどっちか分かりにくい見た目だったけど、大人になっても女は声が変わらないみたいだからな。」

 

「そ、そうですか。そうですよね。失礼しました。それでは今度こそ戻ります。」

 

「おう、ブルマにもよろしく言っといてくれ。変わるといいな。未来。」

 

「はい。悟空さんの強さを知って、少し希望が持てました。」

 

「また会えるんか。」

 

「もう一度往復分のエネルギーがたまって、その時まで生きていたら必ず応援に行きます。」

 

「生きろよ、こっちもそのつもりで三年間、たっぷりと修業するさ。」

 

それを聞いてトランクスは飛び立った。




ライが男性なのか女性なのか。それを今までずっとぼかしてきたつもりです。この設定を思いついたときにこれをみんなに共有したいと思ったのがこの作品が生まれたきっかけです。また一から読み始めたくなったりしませんか?そう思ってくれればうれしいです。先を越されたという発言の意味のとらえ方が変わってくるでしょう?


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(第四十七話)それぞれの選択

選択と言いつつ未来の平和は戦って勝ち取る派しかいない。


「お帰り、トランクス。」

 

「母さん、ただいま戻りました。」

 

「その顔だと、ちゃんと人造人間のことと、特効薬を渡せたみたいね。」

 

「ええ、少し手違いがあって、悟空さん以外にも会うことになってしまいましたが、ちゃんと悟空さんに渡せました。」

 

「そうだったの?でもそれはそれで良かったわ。どうだった、昔の私たちは。」

 

「母さんやライさんから聞いた通りの人達でした。ただ…」

 

そこまで言って周りを少し気にする。

 

「ただ?」

 

「その、ライさんのことなんですけど、ライさん、昔は女性だったんですか。」

 

「へ?」

 

「いや、その。俺が言った過去のライさんが女性だったんです。」

 

「ああ、そう言うこと。」

 

多少驚いたようだが、すぐに納得のいったような顔をする。

 

「ライは男よ。だいぶ前に一週間くらい一緒に住んでいたことがあったのだけど、その時に聞いたのよ。当時はまだ声変わりもしてなくてもおかしくない歳だったし。」

 

「なんか、悟空さんもそう言ってましたけど、ライさんの性別って声で判断してるんですね…」

 

一緒に修業をしていれば、ふとした瞬間の力のかけ方、重心の移動で性別なぞ一目瞭然だ。トランクスにとっては少し違和感を覚える。

 

「お前は声以外でも判断できるだろうな。トランクス。」

 

「うっ!ライさん。いつの間に。」

 

「過去のライさんが女性だったんです、っていったところからだな。」

 

「あら、気を消していたの?トランクスが気づかないなんて。」

 

「隠れてたわけじゃないんだが、常時気を探れるようになるにはそれなりの修業を積まなきゃならないからな。トランクスはできない。」

 

常に気を探り続ける能力はライ以外誰もできない。それこそ生前の仲間たちにも誰もいなかった。人造人間のわずかな気を感じ取って逃げ続けてきたライが長い年月をかけてものにした能力。今や眠っている間でも対象を定めれば見失ったりはしない。

 

「もちろん、俺はライの弟子ですから。」

 

過去のライさんには頬に傷がないしと、言葉にせずに思う。

 

「で、自分が過去では女だったって聞いてどう?」

 

「別にどうということはない。今の自分がそれで女になるわけじゃないからな。」

 

「でも、なんで女性なのかは気になりませんか?」

 

「それは単純なことだろう。俺が男であるか、女であるか、それは些末なことに過ぎないということだ。」

 

「そうでしょうね。ライの性別は世界線を分けるほどの差じゃないってことでしょう。」

 

ブルマは少し想像する。ライが女性だったらどうだろうかと。そしてこう結論付ける。”何も変わらない”と。きっとライはピッコロ大魔王打倒に力を尽くし、サイヤ人を倒そうとヤムチャたちと奮闘し、人造人間たちにあらがい続けているだろう。今のように。

 

(きっと、せいぜい私がヤムチャと今より早く別れていたくらいなのよね。)

 

ヤムチャと別れを意識したのは、いつだったか、孫君が死んでしまってからか、しかし気持ちはもっと早くにお互いに別方向に向いていた気がする。

 

「え?母さんはともかく、ライさんも納得できてるんですか。」

 

「俺の場合は納得というよりその事実を丸ごと飲み込んだという方が正しいがな。」

 

まだ疑問符が頭に見えるほどに混乱するトランクスにブルマが言葉を選びながら説明する。

 

「例えば、そうね。トランクスは今朝の主食はご飯とパン、どっちだった?」

 

「え?パンを食べました。というか、母さんも同じものを食べてたじゃないですか。」

 

「ええ、そうね。じゃあ仮に今すぐ今朝に戻ったとして、トランクスがご飯を主食に食べてたとしたら、それが自分の過去の話だと思う?」

 

「え、いやそれは俺が過去に飛んだことでまた別の未来ができてしまったのかと思いますが…」

 

「ははは、なかなか頭が固いな。」

 

「トランクス、難しく考えなくていいのよ。この世界は基本的に一本の線、世界線って考えてるからそう思ってしまうかもしれないけど、一本の糸だと思えば納得できるんじゃないかしら。」

 

「一本の糸?」

 

「糸はさらに小さい糸を結ってできているでしょう。私達がいる世界の糸もその大きい糸のひとつってことよ。」

 

「なるほど、少しくらいしか変わらない世界は同じ世界としてまとめられるってことですか。ん?ということは…」

 

「そう。俺が女であった過去で、トランクスが悟空に薬を渡さなかったら、俺はどうなってたと思う?」

 

「…」

 

トランクスは少し考える。そして口をひらいた。

 

「少なくとも、俺の知るライさんは、今と何も変わらないと思います。」

 

「つまりそう言うことだ。お前が過去に戻ってしたことはその世界の糸に切り込み入れる行為だったってことだな。」

 

切られた糸がいい方向に転ぶのか、それは今のところは誰にも分からない。

 

 

 

ピッコロから未来から来た青年の話をぼかされつつ聞いたライ達一行の間には衝撃が走っていた。

 

「にわかには信じがたいな。未来から来たなんて。」

 

「うん。」

 

「信じられない奴は遊んでいろ。俺は修業するぞ。死にたくはないんでな。」

 

ピッコロの話に天津飯、餃子がそう言ってブルマとクリリンも頷くが、ピッコロは早々にそう切って捨てる。

 

「まあ、ピッコロが言うならそうなんだろうぜ。」

 

「ええ。ピッコロがその青年の話を信用に値すると判断したから話したんでしょうし。」

 

ピッコロが言うなら、とライとヤムチャは修業をする構えだ。その様子をみて天津飯達もさらなる修業しようと決意を固める。

 

「お、俺も修業するぞ。」

 

「僕も!」

 

「俺もだ。」

 

全員が戦う覚悟を決めたところで、ベジータが悟空にどうやって生き延びたのかを聞き悟空が瞬間移動を覚えたことを聞いた。

 

「カカロット、貴様どうやってナメック星から生き残った。」

 

ベジータがそう聞く、悟空の仲間たちも同じ様に頷いた。

 

「フリーザの船は壊れちまってたんだろう?界王様も悟空は死んだって言ってたし。」

 

「おらももうダメだって思ったさ。もう死ぬんだって。けどな…」

 

そう言って悟空が事情を話す。ギニュー特戦隊の宇宙船を見つけられたこと、その宇宙船がヤードラット星に行くようにインプットされていたこと。その星で瞬間移動を教わったこと。

 

「ほかにもいろんなことができるらしいんだけどな。念話とか遠くの出来事を知る能力とか。でもあんまり長居するのも悟飯やチチに悪いと思ってな。期限を決めてやったから、瞬間移動しか習得できなかったんだ。」

 

「それはすごいな。やって見せろ。」

 

天津飯が驚きのあまり少し強い口調で言う。そうすると悟空はここから遠く離れた亀ハウスから亀仙人のサングラスを取ってきた。

 

「ここと亀ハウスは相当な距離があるんですけどね。」

 

「あんた今や何でもありね。」

 

ライとブルマがそう言って感心した。

 

「ねえねえ、ちょっと考えたんだけどさ、その人造人間ってやつを作ったドクターゲロってやつを今のうちに倒しちゃえばいいんじゃない?居場所が分からなくてもドラゴンボールを使えば見つけられるし、そうすれば三年後に苦労することは、ないわ。」

 

三年後の正確な日時と場所を聞いた後にブルマがそう言った。

 

「ふざけるな。そんな余計なことをしやがったら、貴様ぶっ殺すぞ!いいな!」

 

それを聞いたベジータがいうがそれを強気に言い返し、悟空や仲間に同意を求めるがほとんどがその作戦に乗り気じゃない。

 

「ライ!ライなら分かってくれるわよね!」

 

「え、と…」

 

その少し困った様子を見てブルマはライの意向がどこにあるか察したようだ。

 

「はあ、もういいわ。あんたたち戦闘狂に巻き込まれる私達一般市民はたまったもんじゃないけどね。」

 

「未来の平和は戦って勝ち取ろう!」

 

「「「「おー!」」」」」

 

「まるでどこかのやばい独裁者ね。変態よ!」

 

「「うっ…」」

 

悟空とライが少しダメージを食らっているが、最後にはブルマも付き合ってくれると聞き、胸をなでおろした。

 

 

ベジータと天津飯達がそれぞれ修業に飛び立ち、悟空達親子とピッコロ、ライ、ヤムチャ、クリリンが残る。

 

「ピッコロ、おらと悟飯と一緒に修業しねえか。」

 

「良いだろう。望むところだ。ただ…」

 

「ああ、私のことは気になさらず。少しやりたいことがあるので、とりあえず一緒に修業をするのは今日までです。」

 

「むう。」

 

ピッコロは少しだけ残念そうなそぶりを見せる。

 

「クリリンとヤムチャ、お前たちもどうだ、一緒に。」

 

「俺は遠慮する。ちょっと一緒に修業してみたいやつもいるし。」

 

「俺もいいや。武天老師様とでも一緒に自分のペースで修業するよ。」

 

「そうか。」

 

「ライ、本当にいいのか?」

 

悟空はあっさりと引き下がったが、ピッコロだけは今まで一緒に修業していただけに少しだけ引き留めるそぶりを見せる。

 

「やりたいことがあるので、悟空がいれば相手には困らないでしょう。一年か二年ほどしてそれができたら合流します。」

 

「分かった。」

 

そう言ったのを最後に悟空達はパオズ山に飛んでいった。

 

「さて、クリリンさん、私と一緒に修業しませんか?」

 

「へ、俺と?なんで俺なんだ?」

 

「私、今までいろんな人と一緒に修業しましたけど、クリリンさんとは一度も一緒に修業してなかったので。その技巧、参考にしたいな、と。」

 

「まあいいけど、足を引っ張ることになるかもしれないぜ。」

 

「大丈夫です。そうならないように、工夫しますから。」

 

「じゃあよろしく頼む。」

 

「ヤムチャさんはどうですか。」

 

「断ってばかりだが、俺はいい。」

 

「そうですか。じゃあクリリンさん、そろそろ行きませんか。」

 

「ああ、まずは武天老師様のところにこれ返しに行かないとな。」

 

クリリンとライも飛び立とうとしてライが思い出したように言った。

 

「ヤムチャさん、死なないでくださいね?」

 

今度こそ二人は飛び立つ。

 

「死なないでっていったい誰と修業するつもりなのよ。」

 

「それはな…」

 

 

「なあ、ライ、ヤムチャさんに死なないでって言ってたけど、ヤムチャさんは誰と修業するつもりなんだ?天津飯達じゃないのか?」

 

「きっと、ベジータですよ。」

 

「へ?ベジータ!?そんなことしたらすぐに死んじまうんじゃ…いや、あいつが一緒に修業するような奴じゃないだろ。」

 

「いえ、多分断りませんよ。一人より二人で修業した方が効率がいいのはベジータも分かってるでしょうしね。だから彼が超サイヤ人に覚醒するまでは、一緒に修業する…と言いたいところですけど、ヤムチャさん、最近は修業してなかったみたいですから、修業相手が務まるか微妙ですね。まあそこも含めて死なないで欲しいってことです。」

 

 




この作品のヤムチャに浮気する気がしないんですよね。だからサイヤ人編最初の話でブルマとヤムチャの絡みを少しだけ書きました。ほらほらもう一度読みかえしたいでしょう。ほらほらあ!
そうそう、忘れたころに頬の傷。これであの時の話ねとなった方は相当この作品を読み込んでくれている証拠。そんな人いないか。


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(第四十八話)戦って勝ち取る

修業編は番外編としていつか書きます。だからなんでこいつらこんなにパワーアップしてるんだとかは今は飲み込んでください。修業編早く書けって言われたら優先して書き始めようかなあ。


「クリリンさん、お久しぶりです!」

 

「よお、ライ、二年振りだな。」

 

指定の場所に向かうライは同じくその場所に向かうクリリンを見つけて声をかける。

 

「…浮かない顔ですね。」

 

「これからやばいやつらとやらかそうって時だからな。ライは修業捗ったか?」

 

一年間クリリンと修業し、それからは各々の修業に没頭した。

 

「それなりに、ですかね。できるだけのことはしたつもりです。」

 

そう言うライの顔もどこか不安そうだ。その不安から、二人そろって口数が減り、自然と飛ぶ速度も速くなる。

 

 

「さて、そろそろ行くとするかな。」

 

「ええ。」

 

未来ではブルマが何とか往復分のエネルギーを溜め、ライとトランクスが過去の仲間を援護しに行こうとしていた。

 

「母さん、本当に今のライさんと過去のライさんがあったとしても問題ないんですよね。二人のライさんが会うことでその、自分自身と会ってしまったことによる自己矛盾に耐えきれなくなるとか。」

 

「心配ないわよ。当人同士が出会ってもあなた達がこれから行く過去はあくまで別の世界のライだもの。本人じゃないわ。」

 

トランクスの介入によって過去は改変され、別の世界として存在を始めつつある。別の世界として完全に独立してしまえば、タイムマシンでトランクスがフリーザを倒した世界線に飛ぶことはできず、それでも過去に戻ろうとすれば改変前の過去に戻るだけになる。

 

「それでも、あまり姿を見せるのは好ましくないかもしれないな。」

 

過去にトランクスとライが戻り、人造人間を倒すことを目指すというのは、過去と今の世界線を完全に独立させようとしているのと同義だ。独立しきる前に戻ってくる算段を立ててはいるが、本人同士が会えばその計算が狂う可能性も十分にある。

 

「だったらこれでもつけてなさい。」

 

そう言ってブルマがライに黒いローブを渡す。

 

「要は正体がバレなきゃいいのよ。そもそもあっちのライは女の子なんだから適当に…そう!銀河パトローラーとか言っとけばいいわ!」

 

「「銀河パトローラー?」」

 

二人の顔から疑問符が浮かぶ。

 

「この宇宙には銀河パトロールっていう組織があるのよ。銀河の平和を守る組織らしいわ。確かこんな感じのトレードマークがあったはずよ。」

 

そう言って黒いローブに白いインクでマークを書く。

 

「母さん、面白い設定だけど、それなら今まで地球に助けに来ないのが不自然ですよ。」

 

「いや、設定じゃないわよ!本当にそう言う存在があるのよ!あったこともあるんだから!」

 

「まっ、適当に言い訳を考えておくよ。」

 

「まあ、信じてもらえないのも無理ないかな…あんたたち、必ず生きて帰ってくんのよ。死んだら許さないから。」

 

小さいころに会ったジャコに思いを馳せ、燃料をセットし終えてライ達を送り出す。

 

「大丈夫です、きっとやつらを倒せるようになって帰ってきますよ。」

 

そう言って二人はタイムマシンに乗り込んだ。

 

「五月八日に飛びましょう。そうすれば九日の十時には間に合うはずです。」

 

「そうだな。じゃあ頼むぞ。」

 

運悪く、この時タイムマシンは十時間単位のずれを起こす。

 

 

 

「結構大きい島ですね。一回くらい下見に来ておけば良かった。」

 

「まあ、もう今更だな。でも町もあるから人造人間が現れたら他の場所に誘い出す必要があるな。」

 

島の上空でそう話していると、悟空達がくる。

 

「クリリンさん!ライさん!」

 

「「悟飯、久しぶり。」」

 

「何だよ、クリリンもライも元気ねえなあ。」

 

「私たちは超サイヤ人じゃないんです。」

 

口をとがらせてライは言った。

 

「とにかく、あの山のあたりに大きな気が二つあるから、とりあえずそこに行こうぜ。」

 

 

 

「やっぱりそうだ、悟空達だ。」

 

先に来ていたヤムチャにブルマが手を振る。

 

「ヤッホー、大きくなったわね、悟飯君。」

 

唖然とするライやクリリン達に先んじて悟空が声をかける。

 

「おめえなんで来たんだよ。」

 

「見学よ、見学、大丈夫よ、一目見たら帰るわ。」

 

何でもないことのように言うブルマに驚愕冷めやらぬ声音でクリリンが問う。

 

「俺はそんなことより、ブルマさんが抱えてる物体の方が、驚いたけど。」

 

「いや、そんなことより、その子供の父親の方が驚くべきですよ…」

 

疲れたような声でライが言う。

 

「あら、ライ分かるの?驚かそうと思って誰にも言ってないのに。」

 

「匂いで分かるんです。ピッコロの耳と同じくらいに人狼族の鼻は良いんです。」

 

人にはそれぞれ特有の匂いがある。子供にも親の匂いはある程度受け継がれる。だからライにはトランクスの匂いから両親を推測できた。

 

「だ、誰なんだよその親ってのは。ヤムチャさんじゃないのか。」

 

「…多分、ベジータです。」

 

「あったりー。人狼族って凄いのねえ。」

 

軽い調子で言うブルマに愛想笑いしつつ、岩壁際に座っているヤムチャに声をかける。

 

「その、気落ちしないでくださいね。生き残れば、いい人も見つかりますよ。」

 

「いや、もうずいぶん前に別れたんだ。気にしてはいないさ。」

 

強がりもあるのかもしれないが、ヤムチャはそう言いきった。

 

 

 

「もう十時過ぎましたね。」

 

ドッゴオォォォン!

 

ヤジロベーから仙豆を受け取った直後、そう話すとそれを合図とばかりにヤジロベーの乗っていたスカイカーが爆発する。

 

「あそこだ!」

 

ピッコロが指さすが、あまりに遠すぎて容姿は見えない。そのまま二人は町中に繰り出す。

 

 

 

「悟空も写真くらいもらってくれれば良かったのに…!」

 

町に繰り出して人造人間を探しながらそう文句を垂れる。過去に未来の品を持ってくることは過去を大きく改変するために本当に最低限、特効薬以外は渡さなかった。

 

「!」

 

不思議な二人組を探しているとヤムチャの気がどんどんと減っていくのを感じ取る。

 

 

 

「お、お前たちは、まさか!?」

 

レットリボン軍のマークを見て後ろに跳ぶが老人の方の人造人間がヤムチャが声を上げるのを阻止するように口元を掴んだ。

 

「んんんんん!」

 

叫び声があてにならないことを察し、すぐさま手を引きはがそうと両手で人造人間の腕をつかみ界王拳を発動する。

 

「ほう、私が計算した予測値よりも相当強いエネルギーだな。」

 

そう言いながらも容赦なくエネルギーを吸い取っていく。

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!」

 

気を吸い取られていることに気づいたヤムチャが界王拳を二十倍まで上げるがそのとき既に遅く、引きはがすには至らない。やがて人造人間の左手がヤムチャの心臓を狙う。

 

「その手を放せえええ!」

 

「はっははあ!」ガシッ!

 

ライが二十号に向かって右足で飛び蹴りを撃つがそれを十九号が止める。

 

「まだだ!」バッ!

 

左足でクロスするように二発目を放つがそれも十九号の腕に阻まれた。

 

「お前は96%の確率で、ライという人間。」ドン!

 

冷静にそう分析しながらライの足首を掴んでたたきつける。

 

ドン!ドン!ドン!

 

右に左に何度もたたきつけていく。そのうちにライのまとうオーラが白から紅色に変わっていく。

 

「ヤムチャさんを、放せ!」

 

十九号に翻弄されながらも気弾を二十号に向かって放つ。

 

「二十号!」

 

「見えている。」

 

十九号がそう言うと二十号がヤムチャの口から手を放す。既にヤムチャは気を失っている。

 

シュゥン

 

二十号が手を開くとライの打った気功波がすべて二十号によって吸収された。

 

「なっ!」

 

「はっはあ!」

 

「もが…」

 

動揺している間に口を押さえられたまま地面に抑え込まれた。

 

ドゴン!

 

その不意を突くようにピッコロが合流し十九号を蹴り飛ばす。ビルの柱が一本つぶれる。

 

「貴様らが人造人間か、やっとツラが拝めたぜ。」

 

「クリリン、ヤムチャはまだ生きてる、ライと一緒にブルマんとこいって仙豆を食べさせてくれ!」

 

「ライ、大丈夫か。」

 

悟空に指示を受けたクリリンが、人造人間にやられていたライに声をかける。

 

「ええ、怪我、自体は、大したことないです。行きましょう、ヤムチャさんが危ない。」

 

そう言うとクリリンとライでヤムチャの腕を片腕ずつ肩にかけた。

 

「不思議だ、なぜ我々が人造人間と分かった?ここに来るのも知っていたようだな。」

 

「気になるんなら、力づくで聞いてみたらどうだ。」

 

「そうしよう。」

 

そう言った二十号の側に十九号が立つ。ピッコロの蹴りを食らったが、大したダメージを負っているように見えない。

 

「待った、場所を変える。ここは人が多すぎだ。誰もいない場所に行くぞ!おめえらもいいな!?」

 

「誰もいない場所か、そんなもの移動する必要はない。」

 

そう言うと二十号が街を破壊し始める。悟空がすぐさま止めるが、その一瞬で相当数の人が死んだ。

 

 

 

 

「ゴフッ!」

 

ブルマの待つところまで飛んでいく最中、ヤムチャが吐血する。

 

「ライ、ペースを上げよう。少しでも早い方が…」

 

そこまで言った時クリリンが息を呑む。ライの呼吸が大きく乱れていたのだ。

 

「お、おい、大丈夫かよライ。」

 

「あいつら、多分気を吸い取れるんです。力が、うまく、入らない。クリリン、ヤムチャさんを連れて先に向かってください。その方が早いはずです。」

 

自分は一人で向かえますからとそう言って強がりを見せる。それを見捨てられるほど、クリリンは薄情じゃない。

 

「ライ、球状の気弾を十秒、いや、五秒でいい、作れるか?」

 

「え?それくらいなら、なんとか?」

 

要領を得ない様子のライに構わずクリリンはライにヤムチャを背負わせた。

 

「これからブルマさんのとこの少し上空めがけてかめはめ波を撃つ。ライの気弾とかめはめ波との撃ち合いに押し返すようにできればブルマさんのとこまで一気に行けるはずだ。」

 

説明をしながらクリリンは気で作ったアームリングでヤムチャとライを固定していく。

 

「大丈夫、ライは気弾を自分の胸の前で維持していればいい。威力の調整は俺がやる。」

 

そこまで言うとクリリンはかめはめ波を溜め始めた。ライも言われた通りに気弾を作る。

 

「俺はすぐに吸収のことを悟空達に伝えに行くから、ライも回復したら仙豆を持ってきてくれ。頼んだぞ!」

 

そこまで言うとクリリンはかめはめ波を放つ。そのかめはめ波は威力は調整されており、かめはめ波の形状もライが気弾でガードしやすい形になっていた。

 

「さて、悟空達が戦い始める前に伝えないとな。」

 

 

 

ビシュゥン!シュン!

 

「おわっ!」

 

かめはめ波の軌道からうまくそれてブルマのいるところに落下していく。実のところ、クリリンがうまく逸らすように打ったという方が正しい。

 

「わっと!」バシッ!

 

ブルマの元にいた悟飯がライとヤムチャを受け止める。それを待っていたかのようにヤムチャとライをつなげていた気のリングが消えた。

 

「!ヤムチャさん、心臓が!ライさんも気が凄く小さい!」

 

すぐにブルマから仙豆を受け取る。

 

 

 

「良かった、なんとか間に合った。」

 

クリリンが悟空達が戦い始める直前で合流する。

 

「手を出すなよ、みんな、やつの狙いは俺らしいからな。俺が戦う。」

 

超サイヤ人になったことで一人称が俺に変わる。

 

「悟空、やつらは気を吸い取る力がある、手のひらからだ。気をつけろよ!」

 

「分かった。早速その強さ、見せてもらうとするさ。」

 

クリリンの言葉にそう返し、悟空が十九号に突っ込んでいった。

 

 

 

「何だって!奴等、気功波も吸い取ることができるのか!」

 

仙豆を食べて全快したライにヤムチャ、それに悟飯は悟空達に合流しようとしていた。

 

「ええ、私があの長髪の方の人造人間に打った気功波がやつの手のひらに吸い寄せられたんです。」

 

「それじゃあ大変ですよ!クリリンさんは気を吸い取ることは伝えられても気功波まで吸い取ることは知らないんじゃ…」

 

「そう、だから急いで合流しないとまずい。」

 

三人はさらに速度を上げる。

 

 

 

「くそっおう。」

 

凄まじい連撃を食らって地上にたたきつけられても堪えた様子のない十九号に悟空がかめはめ波を放つ。

 

「だらあっ!」

 

「は!」

 

凄まじいエネルギーのかめはめ波を前に十九号は顔色を喜色に染めて手を前にかざした。

 

ピシュン!シュウウン!

 

かめはめ波を吸い取られてから悟空の動きが格段に鈍る。人造人間に攻撃を与えているが堪えた様子も無く返しの反撃で大ダメージをくらう。たっていることもままならなくなり膝をつく。

 

「ど、どうなっちまったんだ、おらの身体…」

 

「とどめだ。」

 

無感動に十九号が悟空に向かって行く。

 

バン!

 

「なに!?」

 

「「ライ!」」

 

二十号が驚いている間にも深紅のオーラをまとわせて飛び蹴りを決めたライがさっきの借りを返すとばかりに左脚で蹴りを後頭部に当てて十九号の足首をつかんだ。

 

「さっきのお返しです!」

 

ダン!ダン!ダン!

 

ちょうど十九号にたたきつけられた回数やり返し、岩壁に向けて十九号を投げ飛ばした。

 

「手を出すなとか、カッコつけてたんですかね。この馬鹿は。」

 

「へへ、あたり。すまねえな。助かっ…」

 

そこまで言いかけてライに向かって倒れこむ。黄金色に染まった髪色が黒に戻る。

 

「ちょ、ちょっと悟空、本当に大丈夫で…」

 

ガシャン!

 

「まずっ!」

 

岩壁に埋もれていた十九号が飛び出してくる。

 

ガシッ!

 

「人造人間はこの程度ではやられない。」

 

両腕で悟空とライの首を掴み二人をたたきつけた。

 

「うぐっ…」

 

「あが…」

 

二人ともやられてしまい、悟空は苦しそうに十九号の左手を掴むがその両手には力が入っていない。ライも右手を放そうとするが首を強く締められているために力が入っていない。

 

「ま、まずい、悟空達のエネルギーが吸い取られちまう!」

 

「あの馬鹿、油断しやがって!」

 

クリリンとピッコロがそう吐き捨てるながら助太刀に向かうとそれに続いて悟飯たちも助けに行こうとする。

 

「ここから先へは一センチたりとも進むことは出来ん。」

 

両腕を広げて戦士たちの行く手を遮るように二十号が立ちふさがった。

 

「試してみるか。」

 

「そうしよう。」

 

すぐさまピッコロが蹴りを入れるがそれを躱して目から光線を放つ。その光線をもろに食らってピッコロが落下していった。

 

「ピッコロさん!」

 

すぐさま悟飯がピッコロの元に降りていく。

 

「今の行動は勇気とはいえんな。ただの馬鹿というんだ。」

 

「くっ!」

 

三人とも二十号の速度に動き出すことができないでいた。その間にも十九号がエネルギーを吸い取っていく。悟空だけでなくライの抵抗も弱くなってきた。

 

「くっそおお!」

 

焦ってヤムチャが気弾を放つ。

 

「ヤムチャ、やめろ!」

 

天津飯がそう言うが既に気弾は放たれた。

 

「馬鹿め、わしがエネルギーを吸収できることを忘れたか。」

 

ピッ!

 

そう言って手をかざそうとする二十号に対してヤムチャが指を上に動かすと気弾は二十号の頭上を通っていく。

 

「繰気弾だ!」

 

頭上を通り過ぎて十九号に向かって行こうとした気弾はしかし、二十号が手を強く開いて気弾の方へ向けると十九号に向かって行く気弾が二十号の手のひらに吸い寄せられていった。

 

「「「何だと!?」」」

 

「本当に愚かだな。お前達は。」

 

憐れむような視線すら送ってくる二十号が三人を倒そうとしたまさにその時

 

ドン!

 

十九号が蹴り飛ばされた。




ライ500万
ヤムチャ400万
クリリン200万
人造人間19号1億
人造人間20号1億5000万
ライは未来のライの半分に三年でレベルアップ。これくらいしておかないと後々の展開で完全なる足手まといになるので許してください。ヤムチャはベジータが超サイヤ人になるまで一緒に修業したことでクリリンの倍以上に。クリリンも一年間ライと修業したおかげで界王拳を習得と同時に原作の120万よりも少しパワーアップしました。

さて十九号と二十号ですが界王拳を使ったライが翻弄されるくらいでないといけなかったので原作よりも少しだけパワーアップです。心臓病悟空の負担が増える増える。



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(第四十九話)ミライ

「カカロットを倒すのはこの俺だ。貴様等ガラクタ人形なんかお呼びじゃねえ。」

 

「私はついでですか。」

 

せき込んだのちにライに言うがベジータは一瞥しただけで悟空に話を進める。

 

「俺はすべて見ていた。貴様は自分の体の異変に気付きながらも超サイヤ人になってしまった。そんなことをすれば症状は一気に進行しちまうだけだ。馬鹿め。」

 

そう言うとベジータは悟空をピッコロ達のところに蹴り飛ばす。

 

「全く、わざわざ隙を作ろうと下手な芝居をしたのにベジータめ、余計なことをしやがって。」

 

文句を言いながらも悟空を受け止めた。

 

「僕、お父さんを家に連れて行きます!」

 

「まて、俺が連れて行く。悟飯よりも戦力になれないだろうし、体格差も考えれば、俺が一番早く連れて行ける。」

 

「未来から来たやつの話では、そいつはウイルス性らしいから、お前も薬を飲んでおけよ。」

 

「分かった。悟空を家に届けたら、必ず加勢に戻る。」

 

そう言ってヤムチャは飛び立った。十九号が追いかけようとするが二十号の静止でここにいる戦士を倒そうと構えをとる。

 

「今日だけで仙豆を二粒も食べることになるとは。」

 

「油断しすぎだ。悟空に寄りかかられたくらいで集中力を乱すんじゃない。」

 

「ちょっと想像以上に悟空が深刻だったんで驚いただけです。もう油断しません。」

 

そう言った直後、十九号と相対していたベジータが超サイヤ人になる。

 

「「「「!!」」」」

 

人造人間たちだけでなく、ベジータ以外全員が驚愕する。

 

「そんな、馬鹿な、超サイヤ人は穏やかな心を持ってないとなれないんじゃないのか!?」

 

「穏やかだったさ。そして純粋だった。ただし、純粋な悪だがな。」

 

そう言って人造人間に向き直る。

 

「ヤムチャさんは知ってたんですかね。ベジータが超サイヤ人になれること。」

 

「さあな。そんなことは分からん。だが…」

 

ピッコロが言葉を区切る。その表情は複雑だ。

 

 

「!」

 

「この気は…!」

 

悟空を運ぶヤムチャは悟空が何かに気づいたことを感じ取り、すぐにベジータが超サイヤ人になったことを確信した。

 

「ベジータも…超サイヤ人に…?」

 

悟空が苦しそうに何とかそれだけ言う。

 

「俺も知らなかったが、どうやらそうみたいだぜ。ベジータの奴、ついに超サイヤ人に目覚めたんだな。」

 

「はは、追いつかれちまったってことかな、うぐっ!」

 

「無理するな。もうすぐパオズ山だ。すぐに特効薬を飲ませてやるから。」

 

ヤムチャがさらに速度を上げる。そして独り言ちた。奇しくも、ピッコロとセリフがかぶる。

 

「「やつが超サイヤ人になれるんなら、あいつら人造人間に勝ち目はない。最も、人造人間がいなくなった後、やつが地球の脅威になりうるから全く安心はできないがな。」」

 

そのヤムチャの確信を体現するかのようにベジータが十九号を圧倒する。

 

「言ってなかったが、超サイヤ人になると狂暴性が増すんだ。貴様等痛みを感じないんだろう?ラッキーだったな。」

 

地面にたたきつけ、その衝撃でクレーターができる。倒れている十九号に向かってそう言い放つベジータには圧倒的自信がうかがえる。両腕でベジータを掴んだ十九号の腕を引きちぎる。

 

「恐怖を感じるのか。人造人間でも。」

 

自分が飛べることも忘れ、クレーターから這い出て逃げる十九号にベジータが渾身のビックバンアタックを打ち込んだ。

 

「あの狂暴性は素でしょう。」

 

ライがそう言い、それに他の戦士がうなずいた。

 

「クリリン!仙豆をさっさと寄越せ。さっさとしろ!」

 

二十号との問答の末、二十号は逃げて岩山に身をひそめる。ベジータのブラフにひっかっかり、戦闘を避けた。

 

「クリリン、仙豆をやるんだ。」

 

戸惑うクリリンにピッコロが指示を出す。仙豆を受け取ったベジータはすぐに超サイヤ人に変身して二十号を追った。

 

「ベジータは戦いの天才ですね。人造人間が本当に手からエネルギーを吸い取ることをわざわざ戦いを長引かせてまで確認して、しかも、あのままだったら二十号が勝っていたでしょうに、奥の手があるように見せかけることで人造人間の情報を実質無償で手に入れた。」

 

十九号をベジータが圧倒していれば、二十号はすぐさま撤退の選択を下し、十九号を盾に逃げていただろう。ライはベジータの凄まじい戦闘センスに感嘆する。

 

「超えたかもしれない、悟空を。」

 

ピッコロが同調するようにそう言った。

 

「ともかく俺はベジータを追うぞ。人造人間の最期をとにかくこの目で確認したい。」

 

「俺も行くぞ。」

 

「僕も。」

 

「私もです。」

 

天津飯がベジータを追おうとすると他の戦士たちも同じ様に動き出す。

 

「分かった、だが戦おうとするな。お前達の手で負える相手ではない。見つかったら気を高めて俺かベジータに知らせろ。くれぐれも慎重にな。」

 

ピッコロがそう指示を飛ばし、ライ達は人造人間を探し始めた。

 

 

「気がないというのは相当に厄介だな。気に頼りすぎていたのかもしれない。私には嗅覚もあったというのに。」

 

ライがいらだちも露わにそう独り言ちたところでどうにもならない。すると急にピッコロからテレパシーが入る。

 

「(ライ、すぐに来てくれ、人造人間だ!)」

 

「!どこだ…わずかな気の乱れ、あっちだ!」

 

テレパシーを聞いてすぐさま駆け付けようとするが、全員人造人間に悟られないように気を抑えていたことが災いし、ワンテンポ遅れる。

 

「ふっふっふ、貴様のエネルギーはほとんど吸い取れた、このまま死んでしまえ。」

 

「ふっ!」ドン!

 

ガシャン!

 

ライの攻撃により二十号が引きはがされる。

 

「すまないライ、助かったぜ。」

 

「お礼は結構です。こうして人造人間をあぶりだせたんですし。」

 

「なぜだ、あいつに見つかるわけは…」

 

二十号はライ達の距離が離れたところを狙った。それなのに援護が早すぎると不思議がっているうちに二十号は包囲される。

 

「俺にやらせろ、ベジータ。絶対に手を出すな。」

 

クリリンから仙豆を受け取り全回復したピッコロが二十号に相対する。

 

(手を出すな、か。いいぞ、もう一度やつのエネルギーを吸い取ってやればベジータに…)

 

ピシュン!

 

二十号がピッコロに目線を向けた瞬間ピッコロが搔き消える。

 

「!」ゴン!

 

驚ている間に、ピッコロの膝蹴りがもろに入る。油断したからだと自分に言い聞かせ、特攻してくる二十号を再び返り討ちにした。

 

 

 

「遅かったか、悟空達も人造人間もどこにもいない。」

 

「タイムマシンで余裕をもってセットしたはずなのに、どうしてこんなにずれてしまったんでしょう。」

 

過去に戻り、人造人間が現れた島に着いたライとトランクスはボロボロになった島を見てそう話す。

 

「もう一度タイムマシンでもう少し前に戻ればいいんじゃないか、今度は一週間単位で。」

 

「いえ、帰りの分だけで燃料がやっとですよ。」

 

「じゃあ、この世界で一月ほど長居すればちゃんと帰れるだろう。」

 

「いえ、タイムマシンでは、時間を移動する長さよりもその跳躍にエネルギーを使うんです。」

 

「そうか、じゃあ、今の時代で何とかするしかないな。急ごう、まだ戦いの気を感じる。」

 

「!確かに、向こうの方ですね。急ぎましょう。」

 

そう言ってライとトランクスは戦場に向かった。

 

「時間がずれてしまった原因だが、多分タイムマシンが一人用だったからだろ。」

 

戦場に向かう途中、ライがそう話す。

 

「一人用?」

 

「二人だから一人分余計な重量が重なって、それが不安定で精緻な構造の上に成り立っていた渡航にゆがみを生じたんだろ。」

 

「ああ、なるほど、だから前回俺が来た時よりも大幅にずれてしまったんですね。」

 

「まあ、俺はタイムマシンの原理なんてからっきしだし、ただの勘だがな。」

 

そう話していると、眼下にクレーターが目に入る。

 

「ライさん、あれを!」

 

素通りしようとしたライをトランクスが呼び止める。

 

「何だ、まだあいつらは戦ってる、道草食ってる場合じゃ…」

 

そう言いながらライも目を見張り言葉を失う。

 

「これは何だ?人造人間は三人いたのか?」

 

何とかそれだけ言うと、今度はトランクスがありえないような顔をした。

 

「ライさんも知らないんですか!?俺はてっきり、昔ライさんや悟飯さんが仲間たちと倒した人造人間なのかと。」

 

「いや、俺もこんな人造人間は知らない。俺の知る、いや、死んだ他の仲間だって人造人間はあの十七号と十八号だけしか知らない。」

 

「皆は一体何と戦っているんだ…!」

 

二人はより一層速度を上げた。

 

 

 

「はぁあ!」

 

「てぃや!」

 

二十号の攻撃を避けて肘うちを当てる。何とかもう一度気を吸い取ろうとする人造人間を冷静に反撃していった。

 

「ぐっ…おのれぇぇ!」

 

再びピッコロに襲い掛かるが腕を掴まれてみぞおちに重い一撃を食らう。そのまま蹴りを食らい岩山に突撃し土煙が舞う。

 

(しめた!)

 

土煙を目くらましにピッコロに接近していった。

 

ガシッ!

 

「よく覚えておけ、俺たちは戦いで一気にお前たちの言うエネルギーを増幅して、爆発させるんだ。さっきお前が奪ったエネルギーは知れたものだったということだ。」

 

ガシャン!

 

右腕を切り落とし、投げ捨てる。

 

「本来の歴史では俺たちは貴様等にやられたらしいが、どうやら未来は変わってしまうようだな。貴様らが思ったほどの強さじゃなかったか、俺たちが強くなりすぎてしまったのか。」

 

「…くそっ」

 

二十号が逃げようとするがそれを防ぐように先回りした攻撃を浴びせていった。

 

「では、とどめといこう。」

 

そう言ったところで二人が到着する。

 

((あいつも違う…!))

 

「だ、誰なんですか、あいつは、あいつと戦っていたんでしょう!?」

 

「何を言っている、おまえの言っていた人造人間だろう。」

 

「違うのか!?」

 

流石にベジータやピッコロでも動揺を隠せない。

 

問答をしていると、飛行機に乗ったブルマたちがやってきた。

 

「今だ!」

 

そう言った直後、二十号の様子が変わる。二十号から感じられるはずのない気が、起こるはずのないオーラが顕現する。

 

「「「「「は?」」」」」

 

「なにぃ!」

 

ピッコロに悟飯、天津飯にクリリン、そして現代のライとベジータが固まる。

 

「貴様等に絶対に勝ち目がないと言ったのは本当だ。今に貴様等を殺しにやってくるぞ!」

 

「逃がすか!」

 

「まずい!母さん!」

 

気功波を波状に乱発し凄まじい衝撃があたりを襲う。未来のライがその気功波の中を突っ込んで二十号に肉薄する。

 

「二十倍界王拳!」

 

オーラを紅く染めながら二十号に向けて片手をかざし気功波を放つ。

 

「チッ!」

 

舌打ちを一つ打って気功波を受け止め、吸収する。その二十号からは既にオーラも気も感じない。

 

「なっ!くそっ!」

 

気功波を吸収されたことに驚きながらもすぐに追いすがろうとする未来のライに両目から光線を放つことで目くらましとし、逃げおおせた。

 

「俺としたことが、くそっ!逃げやがった!」

 

悔しそうにしているベジータの前にトランクスが立ちはだかる。

 

「なぜ、あなたは助けなかったんですか!あなたの奥さんと子供でしょう!」

 

厳しい口調と言葉で攻め立てるがベジータは悪びれもしない。

 

「下らん、俺はそんなものに興味はないんだ。邪魔だ引っ込んでろ!」

 

そう言って一人二十号を探し始める。やがてブルマが二十号の正体はドクターゲロであると言い、ベジータとトランクスはドクターゲロの研究所の方に飛んでいった。

 

 

「お父さんってどういうことかしら、あの子のお父さんも人造人間に殺されちゃったってこと?」

 

ベジータを追いかけるトランクスが去り際に残した言葉をブルマが拾う。

 

「もう黙っていても意味はない。あいつの名前はトランクス、父はベジータ、母はお前だ。つまり、あいつはその赤ん坊の成長した姿だ。」

 

「えええ!」

 

「ぎえええ!」

 

「うっそお?」

 

「そう言えば似てる、そうか、だからあいつも超サイヤ人になれたんだ。」

 

皆がそれぞれに驚きと納得をしていると未来のライが岩陰から姿を現した。

 

「トランクスの正体が明かされてしまったなら、俺が隠れているのも意味はないか。」

 

そう言った未来のライがまとっていたローブは先の戦いで破れ、姿を隠すという本来の役割を満たせなくなってしまっていた。

 

「えっと?あなたはトランクスと一緒にいた…」

 

「あーえっと…まあ銀河パトロールだ。」

 

上手い言い訳も思いつかず、結局ブルマに言われたままにそう名乗った。

 

「「「「銀河パトロール?」」」」

 

「それ、役に立つの?」

 

五人が疑問符を浮かべるが、一人だけ疑問が違う。

 

「へ?」

 

ブルマの疑問にライが驚いたような顔をする。過去のブルマによって銀河パトロールが存在することが明らかになったからだ。

 

「だって銀河パトロールって、ジャコと同じってことでしょ。」

 

「あ、ああ、大丈夫だ。俺はジャコと違ってスーパーエリートだからな。」

 

圧倒されながらもとっさにそう言った。

 

「余計心配になるんだけど、まあ分かったわ。だからそのローブにそのロゴが入っているのね。」

 

「まあそう言うことだ。最も、俺はあの人造人間に程の実力はないから、お前達にも協力してもらう形になる。すまないが、よろしく頼む。」

 

先ほどゲロを取り逃したことが尾を引いているのかそう言って頭を下げる。

 

「いや、協力してくれることだけでもありがたいんだ。こちらこそよろしく頼む、えっと、名前はなんて言うんだ?」

 

天津飯がそう聞く。

 

「…ミライ、銀河パトロール隊員のミライだ。」




二十号に発生したオーラや気はそのうち本人が話すでしょう。我々はその時を待てばよいのです。
さて現代のライ、未来のライと区別が面倒なのでこれからは未来はミライ、現代はライと呼びます。

ピッコロ2億
ミライ1000万
トランクス800万
ピッコロは通常時でではなく界王拳使用時の値です。ピッコロは十倍界王拳を普通に戦うときにも赤いオーラなく引き出せるようになりました。十倍以上は無理です。


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(第五十話)ミライとライ

「ミライ、ミライねえ。うん、未来世界から来たミライ、覚えやすいわね。これからよろしくね。」

 

ブルマがそう言って他の戦士がそれに続く。

 

「さて、では私達も人造人間を追いましょう。」

 

戦士たちが飛ぼうとしたとき、悟飯がブルマに向かって言った。

 

「ブルマさん、お父さんににこのことを知らせてくれませんか、万が一ゲロが人造人間を起動したときのために病気が治ったらすぐに来てくれって。」

 

「いいけど、どうやって知らせるわけ?壊れちゃったのよ。飛行機。」

 

「それなら同性ですし私が連れてきます。人造人間を破壊するだけならピッコロ達だけでも事足りますからね。研究所の捜索は人手が多い方が良いですが、ブルマさんとトランクスをここに置いていくわけにはいきませんし。悟飯はすぐに家に帰ってこのことを伝えてください。悟空はもちろんヤムチャさんも重要な戦力ですから。」

 

そう言ってブルマとトランクスを背負ったところでヤジロベーが岩穴から這い出てきた。

 

「俺を忘れるな。俺も連れてけ。」

 

「ヤジロベーさん飛べないんでしたっけ。困ったなあ…。」

 

少しばかり思案顔になり、すぐさまミライを呼ぶ。

 

「ミライさん!ヤジロベーさんをお願いします。」

 

「…分かった。」

 

ヤジロベーをミライが背負う。

 

「待て、おめえが連れてくなら俺はそのままカリン搭に連れっててくれ。」

 

「ミライさん、早く()()()()()()。」

 

「ああ、分かった分かった、今行くさ。」

 

「いや、だから、カリン搭に…」

 

ヤジロベーを黙殺したミライがライについて行った。ピッコロ、天津飯にクリリンはゲロの研究所を探し始める。

 

 

ベジータ達が自分の研究所のおおよその場所を知っているというアクシデントがあったものの、何とか研究所にたどり着いたゲロは人造人間の二人を起動しようと機器を操作する。

 

「エネルギー吸収装置さえ無事なら、こいつたちを動かさずともやつらを殺せるのに、こうなった以上は仕方あるまい。」

 

そう言って自身の使い物にならなくなった左手を見る。右腕はもがれ、左手のエネルギー吸収装置も逃げる際に無理に吸収したときにシステムがショートし、吸収できなくなった。

 

「吸収モードと解放モードの切り替えのラグは今後の課題だな。」

 

そう言いながら非常停止装置を手に十七号と十八号を起動した。

 

「「おはようございます。ドクターゲロ様。」」

 

「ほお、私に挨拶をするか。」

 

「当然です。私達の生みの親ですから。」

 

「ドクターゲロ様も人造人間になられたのですね。」

 

「永遠の命が欲しくてな。正直言って安心したぞ。お前達は機能の大半を永久炉と強大パワーに振り向けすぎたため、以前は私の命令を聞かないありさまだった。今度は、わしの命令に従ってもらうぞ。ここに来る命知らずともを倒すんだ。いいな。」

 

「はい。」

 

「分かりました。」

 

従順に従っているふりをしながらも十七号と十八号は目線を合わせて反逆の機会をうかがっている。

 

 

「それでは私たちは皆のところに戻ります。」

 

そう言ってライは飛び立つ。

 

「え、俺は?カリン搭に返してくれねえの?」

 

取り残されそうになるヤジロベーがミライを留めてそう話す。

 

「あー、ブルマ、車か何か、見繕ってあげてくれ、今のお前なら、痛手でもないだろう。」

 

「え、まあそれくらいは良いけど…。」

 

「じゃあよろしく頼むな。」

 

そう言ってライを追いかけて行った。

 

「今の、ねえ。」

 

意味がありげにブルマはつぶやいた。

 

 

シュッ!

 

「な、なにをする!」

 

十八号が気を引いたところにすかさず十七号が緊急停止装置を奪う。

 

「俺達がお前などに従うわけないだろう。これさえなければな。」

 

そう言って装置を踏みつぶす。

 

「チッ、貴様ら失敗作が!すぐにまた停止させてやる。」

 

「フフッどうやって?」

 

「作り直す!」

 

いかに天才と言えど、頭に血が上った状態ではそれが現実的でないと気づけない。

 

「じゃあ、楽しみしているよ。俺達に殺される前にそんなことができるのか、なっ!」

 

十七号が振りかぶって心臓部を貫こうと腕を構えたその瞬間、鉄扉に激しい衝撃が走る。

 

「くそっ!」

 

その衝撃に気を取られ、攻撃の手が一瞬鈍ったおかげで十七号からの攻撃を避ける。

 

「チッ!もうベジータ達が来たのか、ゲロを殺し損ねてしまった。」

 

「なんだと!」

 

悪びれずにそう飄々と言ってのける十七号にゲロが戦慄する。

 

「じゃあ、生き残れちゃったついでに聞きたいんだけど、このカプセルの中にいるのも人造人間なの?」

 

「ッ!触るな!絶対に触るんじゃない!そいつは試作型で失敗作なんだ!」

 

「おや、俺達より前に作られたみたいじゃないか。まだ残っているのもあったのか。」

 

そう言って十六号のカプセルをのぞき込む。

 

「触るんじゃない。そいつを起動すれば、わしだけでなく、お前たちの首を絞めることにもなる!」

 

「そんなものをどうしてとっておいたの?」

 

「作り直すつもりだったんだ!ええい!触るなっ!」

 

「汚い手で触るな!」

 

十八号を引きはがそうとするゲロを吹き飛ばす。

 

「忘れてるかもしれないけど、俺たちは貴様を恨んで殺そうとしてるんだぜ。まずは自分の身を案じたらどうなんだい?」

 

「お前等…!」

 

残った左手で鉄扉を開けるボタンを押す。この二人を相手にするよりも第三勢力を介入させようと画策した。

 

「ふむ、ベジータ達を隠れ蓑に使う気か、なかなか悪くない策だな。ベジータ達が俺達程度に強いというありえない仮定が必要だが。」

 

 

「何か言いたいことがありそうだな。それも誰にも聞かせたくないことで。」

 

ブルマたちを送り届け仲間たちと合流しようと移動しながら、ミライがライに問う。

 

「流石、ミライさん。いえ、流石()と自賛すべきでしょうか。」

 

その言葉を皮切りに、ライは移動をやめて空中で静止した。ミライもそれに倣う。

 

「俺はミライだ。ライではない。だからその表現は正しくないぞ。」

 

「まあ、確かにそうかもしれませんね。私はトランクスがいうような地獄の未来は体験してませんし、頬傷もない。」

 

暗にもう正体が分かっていると伝えている。その発言を聞いてミライは両手を挙げて降参のポーズをとった。

 

「トランクスから過去の俺、過去のライは女で頬傷もないって言われてたから同一人物とは思われないと思ったんだが。わざわざトランクスに嘘もつかせたってのに。」

 

「その頬傷で確信を持ちました。その傷は私が父さんから認めてもらった証ですから。忘れるはずもありません。」

 

「もう親父が死んでから何十年もたってるっていうのに、よく覚えていたものだ。」

 

「貴方にとっては何十年でも、私にとってはまだ五年もたってないんです。」

 

歳より扱いするなと憤慨する。

 

「そうか、そうだよな。ここはまだ、平和な可能性が残されている時代だ。」

 

はっとした、少しばかり悲しそうな声音でそう話す。

 

「そうです。絶対に平和にして見せます。…ところで、」

 

覚悟を新たにしたところでライがずっと聞きたかった核心を突く。

 

「貴方はなぜ正体を明かさないのですか。トランクスの正体は明かされましたし、正体がバレたところであなたがこの世界で存在できなくなることなんてありえないでしょうに。」

 

「それは、少し難解な話だ。今、お前がいる時代と俺達がいる時代は別物として離れて言っている。同一人物が二人同じ時間軸にいて、その矛盾を知る存在が増えれば増えるほど世界線が歪んで二つの世界同士が離れる速度が加速度的に早くなる、らしい。俺たちがここで人造人間を倒す方法を見つけても帰れなければ意味がない。」

 

ブルマから聞いた話をそのまま話す。それ以外にも理由はあるのだが、それは敢えて話す必要はないだろうとそれだけ言った。

 

「ああ、なるほど分かりました。それでは、二人の時以外はいままで通り銀河パトロールのミライと呼びますよ。」

 

「よろしく頼む。」

 

そう言って二人はまた合流に動き出した。

 

「そう言えば、なんでお前は傷がないんだ?本質は同じだから、そういうのに無頓着だと思うんだが。」

 

自分が女性になったとして、何か変わるとも思えない。現にこの時代のライも武闘家で交友関係も自分とそっくりだ。

 

「私は気にしてませんでしたけど、この時代では最初の天下一武道会の後ヤムチャさんと一週間ばかり修業をしたんです。その時ブルマさんに顔の傷は治しておきなさいって言われて、そのまま治療を。」

 

カプセルハウスで改めて自己紹介をしたときに男だと思われていたようで女だと訂正したら凄い剣幕で詰め寄られた。あれ以来、ブルマは実の姉のように良くしてくれる。

 

「ああ、なるほど。じゃあその大きめの髪留めも?」

 

「これは悟空が結婚したときに、先越されたって言ったら結婚願望あるなら身だしなみに気を使いなさいってその時にもらったやつですね。」

 

そう言って髪留めを触る。

 

「よく壊れなかったな。頭部に攻撃を食らうことはまあそんなにはないが、ベジータやフリーザ達と戦えば、それ以前に修業をしてれば簡単に粉々になってしまうだろうに。」

 

「実はこれは十代目です。最初にもらったやつは一週間と持たずに壊れちゃって、そしたらブルマさんがいろいろ工夫して壊れにくいやつを作ってくれたんです。」

 

「なるほどな。ブルマが絡むなら納得だ。」

 

そう言ってミライは苦笑いした。

 

 

「これ以上人造人間を増やされてたまるか!」

 

ゲロと十七号達の話を聞いて、さらに十六号なるものが生み出されそうになっていることを悟ったトランクスが超サイヤ人に変身する。

 

「よせ!こんなところで気功波を撃ったら…!」

 

「はああああ!」

 

クリリンの静止も聞かずに、トランクスは気功波を放った。

 

「馬鹿野郎!」

 

ドッゴーン!

 

クリリンがそう叫び洞窟から飛び出す。クリリンよりも入口よりにいたピッコロ達も巻き添えを避けるべく後退し、研究所が粉々になった。

 

「馬鹿め、無駄に気を消耗しやがって。奴らがあんな攻撃でやられるわけないだろう。」

 

粉々になったはずの研究所から出てきたのは七人。クリリンやトランクスたちだけでなく、十七号と十八号も難を逃れていた。しかも十八号は十六号が入っているカプセルを持ったまま脱出している。

 

「まあ、元凶は死んだようだがな。敵が一人減ったんだ、そう無駄でもないだろう。…これから一人増えるわけだが。」

 

距離を取って人造人間の出方を伺う。十七号達は十六号を起動するとそのままどこかへと去っていった。

 

「あいつらどこに向かったんだ?」

 

天津飯が呆然とそう話すがそれをベジータが遮る。

 

「そんなことはどうでもいい!このベジータ様を前に無視を決め込むとはどういう了見だ?全宇宙一は俺だぞ!それを分からせてやる…!」

 

「待ってください!と、ベジータさん!」

 

トランクスの静止を遮ってベジータは人造人間たちを追い始めた。

 

 

「ベジータの気が上がりましたね。」

 

合流しようと移動しているとベジータの気が大きく上がる。

 

「残念なことに、ゲロの企みは防げなかったわけだ。」

 

ベジータの気を感じ取ってライが言うと、ミライがそう付け加える。

 

「ゲロと戦っているだけという可能性はないでしょうか。」

 

「最悪は常に想定して動け。覚悟の有無はいざというときに生死を分けるぞ。」

 

自分をたしなめるという不思議な体験をしながらミライとライはさらに速度を上げた。

 

 

「ああああああああ!」

 

折れた腕を庇いながらベジータは膝をつく。最強を確信していた。超サイヤ人になり、サイヤ人の王子に戻ったと、取り戻したはずのプライドは簡単にへし折られた。

 

「父さああん!」

 

父の危機にたまらずトランクスが飛び出す。しかしそれは、十七号の参戦を意味する。戦力差がさらに開く。

 

「あの馬鹿!」

 

「ちきしょう!」

 

「天津飯、ピッコロ!よせっ!」

 

天津飯とピッコロが飛び出し、クリリンが唯一二人を制止しようと動く。クリリンは自分よりも圧倒的に強い相手と何度も戦っている。気を感じれなくとも、彼は天津飯はおろかピッコロよりも正確に敵の実力を測っていた。だから、動けない。

 

「はあああ!」

 

トランクスが十八号に向けて振り下ろした剣は簡単に防がれる。それだけではない。フリーザをも両断したその剣の刃は欠けてしまっていた。全く通用しないことに驚く間もなく十七号の豪檄を食らい、トランクスが吹っ飛ぶ。一瞬で超化は切れてしまった。

 

「無粋なことをしてくれるな。お前達は。そこで動けないでいるあいつを見習ったらどうだ?」

 

ドンッ!ガンッ!

 

クリリンに視線を向けているというのに、ピッコロ、天津飯の攻撃に的確に反撃し一撃で沈めていく。

 

「やはりこんなものか。」

 

「俺が、俺が負けるかあああ!」

 

片腕を折られていることを意に課さず、ものすごい速度で十七号に突っ込んでいくがそれを十八号につかまれる。

 

「ちょっと、あんたの相手は私なんだけど?」

 

「くっ!」

 

「それっ!」

 

地面にたたきつけられる。それでもエネルギー波を放ってくる。

 

「もう片方の腕も折っておこうか。」

 

死体蹴りのように蹴り上げたことでついにベジータの髪色も元に戻った。ライ達の合流は間に合わない。



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(第五十一話)ピッコロと二人のライ

「クリリン!無事ですか?」

 

「あ、ああ。俺はな。全く動けなかったから、見逃されちまったかな。」

 

ハハハと懐から仙豆を取り出して力なく笑う。

 

「彼我の戦力差を見極めていたからこそ動けなかったんだろう。恥じることはない。それより仙豆を寄越してくれ。俺もトランクスたちに配る。」

 

「ああ、ミライさん、頼む。」

 

「ミライでいい。」

 

「私も配ります。」

 

三人でピッコロや天津飯、ベジータにも配っていく。

 

 

「ミライさん、俺達も修業しましょう。一週間程度しかないですが、少しでもあがきましょう。勝率を少しでも上げるんです。」

 

飛んでいったベジータを見てトランクスがそう言った。今のままでは悟空が完治しても勝てないと思っているのだろう。実際に戦力差は大きい。しかしミライは首を振る。

 

「トランクス。お前はベジータを追って一緒に修業してこい。」

 

「と、ベジータさんとですか?」

 

少し動揺した声音で返す。

 

「そうだ。俺はいろんなやつと修業して、そいつらの戦い方を取り込んでスタイルを確立させてきたが、あいつとは修業したことがない。あいつの戦い方はお前のさらなる成長につながる。」

 

「…分かりました。行ってきます。」

 

少しためらったが、さらなる成長という言葉に突き動かされトランクスも飛びさった。その後クリリンが話す。

 

「さてと、俺たちはどうするかな。」

 

トランクスが去った後ピッコロに判断を求めているかのようにクリリンがそう言った。

 

「さあな、勝手にしていろ。」

 

「なんだよ、冷たいなあ。仲間じゃないか。」

 

しかし仲間という言葉にピッコロは噛みつく。

 

「ふざけるな。いつから俺が貴様等の仲間になった!?この俺は世界を征服するために貴様等をただ利用しているだけだということをわすれるな!!」

 

「すっかり忘れていた。あいつは魔族だもんな。ま、まだ世界征服を考えていたのか。」

 

飛び立ったピッコロを見て天津飯が呆然とそうこぼすが、クリリンとミライ、ライは考え込むように沈黙しクリリンが一足先に口を開く。

 

「オレは世界征服なんて嘘だとおもうな…」

 

「私もです。彼も悟空やベジータと一緒ですよ。誰よりも強くありたい。最強でいたいと思ってるんでしょう。そのために、きっと神様のところに。」

 

思い起こされるのは四年前、ピッコロと修業を始めた時。

 

ー----

 

「次元の違うフリーザをも倒してしまう伝説の最強戦士。だからどうした?俺があいつに届かない理由はあるのか、最強に比肩したフリーザの存在が、俺も孫に勝ちうると証明する。」

 

ー----

 

「ピッコロは、強いです。」

 

その言葉にハッとした表情をした天津飯が言う。

 

「悟空が治るまで一週間くらいだったな。俺は餃子のところに戻って少しでも修業する。それじゃあまたな。」

 

天津飯も去っていく。決意に満ちた表情だった。

 

「俺も武天老師様のところに戻って修業する。ヤムチャさんと悟飯も悟空を連れてそこに向かってるんだと思う。悟空の家はバレてる可能性が高いからかな。お前達もどうだ?」

 

「ええ、それなら私も…」

 

クリリンに答えようとしたライをミライが留める。

 

「まて、ライ。お前は俺と一緒に来てもらう。」

 

「へ?」

 

「…何か考えがあるんですね?」

 

ライがミライにそう問い返す。

 

「まあ、多少は強くなれるはずだ。」

 

「クリリンさん、私はミライと一緒に行きます。有事の際はすぐに合流します。」

 

クリリンにそう話し、ライとミライは二人で飛んでいった。

 

 

「それで、どこに向かうんです?方角的には天界ですけど。」

 

「場所は正直どこでもいい。神様の近くに行けば、状況がすぐ読める。合流も楽だろう。そこで俺と修業してもらう。」

 

「自分と修業するとはピッコロみたいですね。」

 

「それはやってみてのお楽しみだな。俺はお前よりも約二十年修業している。戦術の幅が違う。ちゃんと指導してやるさ。」

 

ライとミライは神殿に着く。

 

 

「やっぱりまだ同化してなかったんですね。」

 

下界を見下ろす神の後ろで座して待つピッコロをみてライがそう言った。ピッコロは盛大に舌打ちを放つ。

 

「そいつが人造人間が本当に脅威となるのか見極めさせろとな。さっきからずっとあんな調子だ。取り返しがつかないことにならんといいがな。」

 

「なるほど、それならちょうどいい。神様が決断を下すまで俺達と修業してくれ。」

 

その様子を見てミライがピッコロに話を持ち掛ける。

 

「貴様は、ミライか。そんな余裕はない。俺は一刻も早く、こいつと同化しなければならない。余計なことをしてられんのだ。」

 

そう言って断るピッコロを神様が遮る。

 

「ピッコロ、その者たちの相手をしてやれ。」

 

「神よ、余計なことに構わず、さっさと見極めて俺と同化しろ。あいつらが地球に害を為す存在なのは明らかだ。俺達を攻撃してきた。死んでもおかしくない攻撃だ。」

 

「先に仕掛けたのはお前たちの方だ。」

 

何度も同じことを言わせるなと言外に言う。平行線であることを察知し、それ以上会話が続かない。

 

「チッ!いいだろう。神が見極めるまでだ。それまで貴様等で憂さ晴らしをしてやる。ついて来い。」

 

そう言って身をひるがえし神殿の中に入っていった。

 

 

「ここは、かなり劣悪な環境ですね。」

 

「修業をする場ととらえれば最高の環境だけどな。」

 

ピッコロに連れられて精神と時の部屋に入る。

 

「ここは精神と時の部屋と呼ばれる部屋だ。扉を閉めれば現世と時間の流れが変わり、現世の一日がここでは一年となる。残念なことに制限がいくつかあってな。現世で二日間以上使うと出られなくなる。」

 

そう言って扉を閉める。

 

「そんな場所をどうして今まで教えてくれなかったんですか。」

 

「それは多分やみくもに長い間修業すればいいという物ではないからだろう。俺とお前の実力が拮抗しているのがいい例だ。」

 

「あっ…」

 

ミライはライよりも二十年近く修業している。それでも差がほとんどないのはつまるところ自分よりも強い相手と戦わないことにはいずれ限界が訪れる。そう言うことだろう。ミライはほとんど人造人間と戦っていなかった。

 

「好都合なことに、今はピッコロがいる。あいつとの修業は俺たち同士で戦うよりも成果が出るはずだ。」

 

格上との対決。それはミライとライをさらなる高みへと導く。

 

「そう言うことだ。だが修業を始める前に、ミライ、お前に一つ答えてもらうぞ。」

 

「なんだ。俺に答えられることは多くはないぞ。」

 

「なに、お前の正体にようやく確信が持てたから、なんでそんなことをしたのか聞いておきたくてな。正体を偽るやつに背中を預ける気にはならない。」

 

場に緊張が走る。ミライ、未来のライの素性を知るものが増えれば増えるほどこの時代に居られる時間は短くなる。

 

「驚いたぜ。ライ。三年前にトランクスはお前のことを死んだと伝えていたが、まさか生きていたとはな。」

 

 

「ヤムチャさん、悟空は?」

 

「薬を飲んでからは落ち着いている。多分、トランクスの見立て通り、一週間もすれば治るんじゃないか。」

 

亀ハウスに来たクリリンとヤムチャがそう話していると、悟空の様子を見ていた悟飯がやってくる。それをみてヤムチャは状況説明をクリリンに求めた。

 

「それにしても無事でよかったぜ、あれからどうなったんだ。悟飯から少しは聞いているが、あれから人造人間は復活してしまったんだろう?」

 

「ええ、ゲロは倒しましたけど、それよりはるかに強い人造人間十七号に十八号、さらにはトランクスの歴史にはいないはずの十六号までが起動してしまいました。十六号の強さは分かりませんけど、十七号と十八号は俺達はおろかベジータでさえも勝てないほどの強敵です。幸いにも誰も殺されませんでしたが、やつらの目的が悟空の抹殺なのは間違いありません。」

 

「やっぱり、お父さんが…」

 

実の父親が狙われていると知って悟飯が愕然とする。

 

「まあ、ここに居ればある程度は安全だ。奴等、なぜか飛んでいこうとしてなかったし、時間を掛けながら悟空の元に向かってるっぽい。それにここなら周りに俺達以外居ないから、誰か近づいてきたらすぐに逃げられる。」

 

「それなら少しは時間がありそうですね。ところでピッコロさんは何しに神殿に向かったんですか?」

 

「それは多分神様と同化しに行ったんだ。ナメック星でネイルってやつとしたように。」

 

「そうですか。神様と。ピッコロさん、あんなに神様を忌み嫌っていたのに。」

 

悟飯はピッコロと一年間修業をしている。その時にとりとめのない話を少しだけした。彼が神様の半身であること。その話をしていた時のピッコロの表情はとても苦しそうだった。その話を聞いた悟飯は決意する。

 

「クリリンさん、ヤムチャさん。お父さんが元気になるまで、僕に修業をつけて下さい!」

 

決意に満ちた悟飯の顔を見て二人は顔を見合わせて言う。

 

「「もちろんだ。」」

 

 

ボコッ!ドオオン!

 

ドクターゲロの研究所がトランクスに破壊されてから数時間後、誰もいないはずのその場所で地中から一人の人造人間が飛び出す。

 

「はは、ふははは!わしはまだ生きておる。孫悟空への復讐も、十七号達への制裁も、成し遂げられる。いや成し遂げて見せる!」

 

切り落とされた右腕に吸収機能を失った左腕を高く上げ、荒れた山地にゲロの声がこだまする。

 

 




ピッコロが精神と時の部屋の存在を知っているのは分離前の神様が先代の元で修業していたからその時に教えてもらったということで。精神と時の部屋三人入ってる問題は魔人ブウ編見ればまあってのもあるんですが、一応独自設定の理由があります。


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(第五十二話)束の間の修業

「驚いたぜ。ミライ。三年前にトランクスはお前のことを死んだと伝えていたが、まさか生きていたとはな。」

 

ミライを見据えたままそう話す。

 

「何言ってんだよ。俺は銀河パトロールの…」

 

ミライが否定しようとする言葉に重ねてピッコロが付け加える。

 

「精神と時の部屋には使用制限があるって言ったな。その二つ目がこの空間には二人以上の人間は入れないってことだ。二人以上いると本来ならあの扉は閉まらない。」

 

扉に視線を向けてそう言う。間違いなく扉は閉まっていた。

 

「この部屋の改良がされていたとか、他に原因があるんじゃないか。」

 

なおも食い下がるミライに畳みかける。

 

「この人数制限には例外があってな。同一人物なら何人でも入ることができるんだよ。」

 

先代の神からこの場所の存在を聞いたとき、興味本位で扉を閉めたまま人数制限を超えたらどうなるのか、他にもいろんな実験を試みたのだ。ナメック星人特有の分身能力だが、そんなことをやっていたからこそ、自分が二人になってしまったのかもしれないと今更思う。

 

「この部屋には俺とライ、そしてミライしかいない。であればお前の正体はおのずと出てくるという物だ。お前は、ミライは…」

 

ライだったんだな、と続けようとするピッコロをライが止める。

 

「ピッコロ、それ以上はいけません。貴方は何も気づいてない。そう言うことにしておかなければミライとトランクスがこの時代に居れる時間が無くなってしまうんです。」

 

ミライの本当の正体に気づく者が増えれば増えるほど、ミライとトランクスがこの世界に入れる時間は短くなる。人造人間の問題が解決するまでこの時代に入れるとは限らなくなってくる。

 

「ライ、無駄だ。もうピッコロは気づいてしまっている。…良く気づいたな。俺がライだってことに。」

 

「ッ!」

 

ライを押しとどめ、ミライは正体を明かす。

 

「ふん、お前等地球人は性別なんてものにこだわってるからな。その偏見が無ければ見抜くのはたやすい。」

 

「これは盲点だった。ナメック星人らしい視点だ。」

 

「そうするとミライの正体に気づいたのはこれで二人、いえ、神様とポポさんも気づいているでしょうからこれで四人ですか。」

 

この部屋に向かうライ達を見送ったということは人数制限に引っかからないと知っていたからに他ならない。

 

「そうなるとそろそろまずいな。これ以上バレればこの時代に居れる時間が極端に短くなる。」

 

「心配するな。俺が神のやろうと同化すれば三人に減る。」

 

そう話しながらピッコロは分身した。

 

「まあ、お前が正体を隠す理由も時間制限があるなら仕方ない。何かあったら正体をごまかす協力はしてやる。さあ、憂さ晴らしを始めるぞ。」

 

 

「てりゃりゃりゃ!たあー-!」

 

亀ハウスの上空で悟飯の連撃がヤムチャを襲う。それを界王拳を使って戦闘力の底上げをした状態で捌ききる。

 

「悟空やピッコロはもっと鋭いぞ!」

 

そう言い放って悟飯の肩口に一撃を食らわせようとするがクリリンの気功波によってそれを防がれる。彼もまた界王拳を使っている。

 

「流石だな悟飯。今の攻撃を避けるとは。」

 

ヤムチャはともかく悟飯にまでよけられて感心したように言う。

 

「一対二の戦い方はお父さんとピッコロさんにたくさん鍛えてもらいましたから!」

 

二人組の人造人間に万一単独で遭遇してしまった時のために仕込まれている。

 

「じゃあこういうのはどうだ?」

 

そう言うとクリリンの身体が分身して三人になる。

 

「天津飯の技だ、残念ながら完全に再現は出来ないんだけどな。」

 

「久しぶりに見たぜ。いうなれば三身の拳ってところか。」

 

技の弱点を知っているヤムチャが目線で合図を送る。弱点を補うようにヤムチャが立ち回ることを察する。

 

「三人に分身ってそんなあ。」

 

「クリリンにばっかり気を取られていいのかな!」

 

「うわっ!」

 

そう言いながら攻撃を仕掛ける。驚きの声をあげながらも動きは良い。矢継ぎ早にせめてクリリンの気の低下を気づかせない。

 

「「「かめはめ、波ー!」」」

 

三重に攻めてくるかめはめ波も何とか避けきる。これは敢えてだ。そうすることによって威力の低下に気づかせないために。

 

「隙ができたぞっ!」ドンッ!

 

「おわっ!」どぼぉぉん!

 

海中に落とされ水しぶきが舞う。

 

「流石に初見では対応できないか。」

 

「ヤムチャさんの戦い方がうますぎますよ。」

 

「あれじゃあ気づけないのも無理ないです。」

 

ヤムチャとクリリンの分身が話していると水中から三人のクリリンとヤムチャに向かって気功波が放たれる。

 

「おっと危ない、危な…」

 

「そこだあ!」ガン!

 

「へぶっ!」

 

「おぶっ!」

 

気功波の陽動にまんまと引っ掛かり、もろに食らった分身の一人はもう一人の分身に向かって蹴り飛ばされている。分身が一人減った。

 

「動きが悪くなってます!それが弱点なんでしょう!?」

 

「よく見抜いたな。正解だ。」

 

三身の拳を解き一人に戻ったところで再び三すくみの状態が出来上がった。三人の修業はまだまだ続く。

 

 

「やはり十九号の吸収装置は生きておる。それにここに残ったエネルギーさえあれば…!感謝するぞベジータ。貴様が十九号の腕を切り離していたことをな!」

 

誰もいない荒野でゲロが一人そう話す。この場は悟空と十九号が戦った場所だ。

 

「研究所を破壊してくれたあの青二才も結果からみればよかった。ベジータと一緒に礼はたっぷりとしてやる…!」

 

不敵に笑いゲロは再び研究所に戻る。

 

 

「ベジータさん、俺に修業をつけてください!」

 

ベジータに追いついたトランクスはそう頼み込むがベジータは崖上で腕を組んだまま目障りだ失せろの一点張りだ。しかも何をするでもない。

 

(ライさんが修業をつけてもらえと言ったんだ、きっとベジータさんの気が変わるのを待つ意味があるはず…!)

 

そうこうしているうちに時間は過ぎゆく。

 

 

「むう、やはり地下にある器具だけでは限界があるな。十九号の左腕が取ったベジータのエネルギーをこちらに移すためにはやはりこいつは諦めるしかないな。」

 

地下の隠してあった研究所に戻ったゲロはそう言いながらスーパーコンピューターにさせていた研究、セルを見てそう判断する。

 

「まあもう良いことか。この左腕をわしに付け直し、ベジータ達からエネルギーを奪えれば奴らを超えることなど造作もない。」

 

不敵に笑う。彼の企みに気づく者は今だ現れない。

 

 

「そらそらどうした!十年以上も修業していたわりには大したことないなあ!」

 

二人に分身したピッコロはミライとライ一人ずつに分身をあてがい、一対一を二つ作って戦っていた。分裂して戦闘力が二分されているのに互角の戦いを展開される。

 

「何年も修業したからこそ出せる戦術が通用しないのは自信を無くすな!」

 

そう叫びつつ攻撃を足で受け止める。

 

「当然だろう。俺には父であり俺自身である大魔王の記憶があるんだからな。」

 

「厚みが違うって話か。」

 

「そう言うことだ!」

 

強烈な足蹴にミライは吹っ飛ばされる。すぐさま追撃を仕掛けてくる。

 

「でもまっすぐだ。」

 

ピッコロが追い付くまでのわずかな間、ミライは気功波を両手で二つ放つ。一つは目の前のピッコロに、もう一つは少し離れたところでライと戦っているピッコロに。

 

「ぐわっ!」

 

予想外の攻撃にライと戦っていたピッコロに隙ができる。

 

「!」

 

驚きも一瞬、すぐさまライは行動に移す。

 

「波っ!」

 

「調子に乗るなよ!」

 

何とか態勢を立て直したピッコロがライの攻撃を受け止める。

 

「何か反則みたいな勝ち方ですけど、まあ経験の差ってことですかね。」

 

拳を受け止めたピッコロに対してライの足から気功波が放たれた。

 

「ぐ…」

 

ライともう一人のピッコロ相手に横やりを入れたミライはそこでできた隙を的確に突かれ防戦一方だった。

 

「まさか横やりを入れる余裕があったとはな。何のための修業だ。おかげで向こうのピッコロはやられてしまった。」

 

「面白いこと言うな。憂さ晴らしって言ってただろ?」

 

「チッ!」

 

ピッコロが舌打ちをした後気弾がピッコロに向かって迫ってくる。しかしそれは予期していたか。ピッコロがその気弾を弾く。

 

「一対一の戦いに水を差すなよ。ライ。」

 

「いや、憂さ晴らしなら私が加勢してもいいんじゃないですか?」

 

戦闘力を半減した体で二対一では流石に勝てず、決着までそう時間はかからなかった。

 

 

「四身の拳、いえ、この場合は二身の拳ですかね。この技の弱点は力が分けられるのはもちろんのこと、分身同士が接しないと戻れないって言う弱点もあります。」

 

「自分が使えるわけでもないのによく知ってるな。」

 

「クリリンとも一緒に修業しましたから。」

 

痛感する。この二人のライは言っているんだ。力で劣っていても、自分たちもあなたに修業をつけられるのだ、と。

 

「お前は俺達や天津飯達よりも一段上の、悟空やベジータに迫る実力を持っている。それに神様と同化すれば間違いなく悟空達よりも強くなるだろう。プレッシャーがあるのも理解できるし、かつて大魔王として世界を恐怖に陥れた記憶と今の自分で葛藤するのも分かるが、お前はピッコロ大魔王じゃなくてピッコロなんだよ。そんなに気負うこともない。」

 

「大人びてますけど、あなたはまだ地球人基準だと少年ですから。もっと私達を頼ってください。」

 

ピッコロはまだ十三歳悟飯と三つしか変わらないのだ。そう言ってライ達がピッコロに片手ずつ手を差し伸べる。

 

「けっ!さんざん俺に頼っておきながら、今更ガキ扱いするんじゃねえよ。」

 

言葉は不機嫌だが声音は好意的に、ピッコロは二人の手を取った。

 

「じゃあ、今度は修業を始めるか。」

 

 

「また来やがったのか。いつ来ても無駄だ。失せろ。」

 

「そう言うわけには行きません。このまま何もしないでいていいわけがない。悟空さんが完治するまで毎日来ますよ。」

 

そう言うトランクスは一日一時間のわずかな仮眠時間を除いて常にベジータの後ろでベジータが応えてくれるのを待っている。

 

「チッ!」

 

ベジータは盛大に舌打ちを打ちつつ、組んでいた腕を解き、気弾を後ろに放つ。

 

「うわっ!」

 

急に撃ってきた気功波をトランクスがぎりぎり避けるとその気弾が爆発する音がしない。代わりに声が聞こえてきた。

 

「ほう、このモードの時のわしには気がないはずなのだが、良く気づいたな。」

 

「ふん!確かにお前には気がないが、もともと俺は気などという物を使って敵を感知していないかったんだ。わずかに漏れる足音、風の吹き方、そういうので気づけるんだよ。」

 

「人造人間!お前、生きていたのか。」

 

ゲロの存在に気が付いたトランクスが後ろに飛びのく。

 

「貴様ごときの気功波でこのわしがやられるはずなかろう。なあ、トランクス。」

 

「どうして俺の名前を!?」

 

ゲロがトランクスの名を知る機会はなかった。その問いにゲロは指先をトランクスの後ろを指して答える。

 

「超小型のスパイロボ。貴様等のことはずっと前から監視していた。」

 

自身もそのスパイロボの映像を見たのは地下の研究所で腕を直したつい先日ながら、既にあらかたの情報は知り得た。

 

「だから知っているんだ。名乗られたことが無くても。」

 

ドン!

 

黙って聞いていたベジータが超サイヤ人化する。

 

「では、これから俺に破壊されることも知っているんだろうな。」

 

「もちろん、お前たちがこのわしのエネルギーになることを知っている。」

 

二人が構えをとる。トランクスも超サイヤ人化し構えをとろうとするとベジータから鋭い声がかかる。

 

「一対一の戦いに手を出すんじゃないぞ、()()()()()。」

 

名前を知られたことで未来の息子であることがバレた。そのことへの動揺も手伝って、ベジータの言葉に従い、構えを解いて一歩下がってしまう。

 

「さあ、始めようか。ガラクタ人形。」

 

「そのガラクタと舐め腐った相手に貴様は負けるんだ。」

 

そう言い放った瞬間、ゲロから、気がないはずの人造人間から、ベジータの気があふれ出す。金色のオーラをまとう。

 

「んなっ!この気は、父さんの!?」

 

トランクスが驚きに顔を染めるがベジータは不機嫌そうに吐き捨てる。

 

「貴様、その手はあの時の人造人間の物だな。なるほどな、そう言うことか。貴様は吸い取ったやつの気を自分のものにできる。」

 

その言葉を聞いたトランクスが再び超サイヤ人化しベジータに並び立つ。

 

「ベジータさん、俺も一緒に戦います!ベジータさんの力がゲロの元の力に加えられていても俺達二人で戦えば勝てます!」

 

「失せろ!お前なんかお呼びじゃねえんだよ。俺の気が取られてるっていっても全てじゃねえ。こいつを壊すくらい俺一人で充分だ!」

 

「なっなにを…くだらないプライドを持ってやられたら元も子もないでしょう!今は戦力を減らすわけには行かないんだ!」

 

「黙れ!」

 

凄まじい剣幕に圧倒される。

 

「俺はな、地球人が殺されようが、地球がどうなろうが、関係ないんだよ。俺は、俺よりも強いというやつに分からせてやるだけだ。()()()サイヤ人には限界などないと!!」

 

「か、関係ないって…?」

 

拳を強く握る。悟飯さんもライさんもみんなが平和に暮らせるように二十年以上も足掻いていた。もちろんトランクスも、物心がついたころから修業に明け暮れて、そんな二人を間近で見てきている。それがよりによって自分の父から、関係ないと言われる。

 

「敵を前にして随分と余裕だな。」

 

ただ黙って二人の言い合いを見ていたわけではない。隙を伺っていた。実際にゲロはこの上なく的確にトランクスを急襲する。

 

「しまっ…!」

 

左手で首筋を掴まれたトランクスが何とか手を放そうともがくが力が吸われていく上に最大パワーで負けているトランクスにはどうにもできない。ベジータは距離を取るだけで助けようともしなかった。

 

「…気を抑えたか。」

 

数瞬後にはトランクスの超化は解けさらに数秒後にトランクスは気を失った。振りほどけないことを確信したトランクスは少しでも取られる気を減らそうとすぐに気を抑えて相手のパワーアップを最小限にした。

 

「邪魔者は消えた。さあ、今度こそ貴様をスクラップにしてやるぜ。」

 

「その自信が、自分を追い詰めているとも知らずにな。感謝するぞベジータ。貴様のおかげで私はさらなる強さを手に入れられるのだからな。」

 

二人の戦いが始まる。




気を取られている間に気を抑えるのは回復手段がない状態では敗北を意味します。掴まれてベジータの助力がないことに気づいてベジータの負担にならないようにするトランクスは聖人か何かですね。
さて、吸われる量が少ないといっても全体の20%くらいはとられます。サイヤ人組は超化を解除するだけで全力の2%になるので取られた気は20%×2%=40%!嘘です。0.4%。ベジータとゲロの戦いでは誤差です。


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(第五十三話)ドクターゲロ

最近この作品が僅かに伸び始めていまして、文章力が磨かれつつあるのかと喜んでたんですけど映画の力ってすげーに着地しました。ちくしょう。


「まさか、ゲロが生きていたとは。…神と魔王が一つになる時が来たようだな。」

 

天界でベジータとゲロの戦いを見ていた神はついに決断を下す。ベジータ優勢のその状況を見て、神様はベジータに気づけていない何かを感じ取った。それはピッコロ達が精神と時の部屋に入って一日が経とうかという頃だった。

 

 

「その程度!」

 

ゲロの蹴り技をベジータは軽く受け流し、足を掴んで投げ飛ばす。すぐに空中で態勢を整えられるが少しでも隙ができればそれでよかった。

 

「そらっ!」ピシュン!

 

気弾を放つ。それをゲロは吸おうとはしない。回避先を読んで殴り飛ばす。

 

ガン!

 

吹っ飛んだ先で土煙が舞い、ゲロが口元に着いた赤色の液体をぬぐう。

 

「流石はサイヤ人の王子だな。戦闘センスはかなりのものだ。それに…」

 

「当然気づいているぞ。貴様が俺の気をまとっている間は気を吸収できない。その上、吸収している最中は俺の力を使えない雑魚になり下がる。」

 

はた目から見て、実際にトランクスは気を失っているのではた目から見る人間などいないが、優勢なのはベジータであった。ベジータは不敵に笑う。

 

「もう逃がしはしない。ここで確実にスクラップにしてやる。」

 

「このっ!」

 

ベジータが再び突貫する。凄まじい連撃をゲロが迎え撃つ。ピッコロと戦った時では考えられない速度で反応し、ベジータの連撃を防ぐが流石に数発直撃する。

 

「お前はあの人造人間どもと違って永久式じゃないんだろう。だからエネルギーを吸収する必要がある。戦えば戦うほど、有利になるあいつらとは違い、条件は五分、いや、俺の気も使い切りだな?動きが格段に悪くなってきている。」

 

「ふん、私の計算に狂いなどない。貴様を倒すのなど今の実力で充分だ。」

 

「その虚勢がいつまで続くか、見ものだぜ。」

 

 

「一年か。使用制限までちょうど半分ってところだな。」

 

ピッコロとライとの修業が一段落つき、ミライがそういった。そこで三人にテレパシーが入る。

 

(ピッコロ、判断がついた。今必要なのは神でなく、強き者だ。)

 

「ようやくか。これで貴様等との修業も終わりだな。」

 

ターバンとマントを作り直して扉に向かう。

 

「この三年間の修業と同じくらいの濃密な一年でした。」

 

「俺なんかもっとだな。」

 

二人のライも扉に向かう。その二人にピッコロが光線を放ち、ボロボロだった服装が新品になる。

 

「「これは…!」」

 

「少しでも足手まといにならんようにしてやったまでだ。」

 

二人で顔を見合わせる。

 

「さて、人造人間を倒しに行くとするか!」

 

決意を新たにピッコロ達は精神と時の部屋を出た。

 

 

「俺達が修業している間にどうやら相当事態が悪化したらしいな。」

 

精神と時の部屋を出てすぐ、神様が立っていた。その後ろにはミスター・ポポも控えている。少しでも早く融合を済ませなければならないからこそ神様は精神と時の部屋のすぐ前にいるのだ。

 

「基本となるお前が、私に触れるのだ。」

 

「神様!」

 

黙って下を向いていたポポがそう叫ぶ。行かないで欲しい、そう言う意味が含まれているような、でも止めてはいけないと分かっているような、複雑な感情の乗った声音だった。

 

「今の地球に必要なのは私ではないのだ。」

 

過去を回想するように話していく。

 

「ピッコロの悪の気もだいぶ消えておる。もう二度と分離することはないだろう…世話になったな、ミスター・ポポ」

 

誰も口を開けない沈黙が数秒流れる。神様が叫び、光が神様を包む。ライ達がまぶしい光に目を閉じてしまい、目を開けた時には神様はもういなかった。代わりに別次元にパワーを高めた一人のナメック星人が立っている。

 

「さようなら神様、それにライも、死なないでください。」

 

三人を見送るポポがそう言う。()()()()()()()()()、その言葉に答えるはライだけだ。

 

「もちろん。死んだりしませんよ。」

 

「「行ってくる。」」

 

 

 

「次で決めてやるぜ!」

 

「くっ!」

 

ゲロとの接近戦を制し、殴打と蹴り技を全て躱しきり反撃とばかりに一撃入れて少しの距離ができたところで特大の気弾を構える。

 

「ビックバンアタック!」

 

ただうち放つだけでない、ゲロがビックバンアタックを吸収しようとすれば、ゲロ自身を殴り壊せるように接近している。ゲロはビックバンアタックに向かって右手をかざす。

 

(そっちを選ぶなら俺の手で直接壊してやるまでだ。)

 

数瞬前に放ったビックバンアタック、それに追随するように迫る。ゲロに対しては間違いなく必殺の連撃だ。ゲロがビックバンアタックを吸収し始める。

 

「ばらばらにしてやるっ!」

 

拳をゲロの胴体めがけて打ち込む。拳で受け止めようとするが、吸収しているときならば受け止められるような威力ではない。勝ちを確信する。

 

 

「ピッコロ、事態が悪化したって言うのは、ベジータが気を開放していることと何か関係があるんだな?」

 

ピッコロを追いかけながらミライがそう聞く。ベジータの近くにいるはずのトランクスの気は感じられないことにライとミライは焦る。

 

「ドクターゲロが生きていた。それもベジータに匹敵する程度のパワーを持ってな。」

 

「いや、でもベジータに匹敵する程度だったらトランクスもいるんです。普通に戦えば負けるはずは…まさか!」

 

「一対一での戦いを望んで、そのためにトランクスを先に始末させたか。」

 

淡々としかし表情は険しく、ミライが最悪の想像を口にする。

 

「正解だ。急ぐぞ。ベジータが負けたら、取り返しのつかないことになってもおかしくはないからな。」

 

 

「なっ!なにい?」

 

必殺の連撃の一撃目であるビックバンアタックは吸収されている。だというのに二撃目、ゲロの身体を粉砕するはずだった拳はゲロの左手で受け止められていた。握りしめた拳を握り潰すようにゲロの左手がベジータの左手を包む。

 

「お前の見立ては正しい。確かにわしはエネルギー吸収型の時はお前達から手に入れた力を使うことができない。だがな、その力は片手ずつ独立しているんだよ。」

 

そう言うゲロの右腕は十九号のもの、だが左腕はゲロのもののままだった。

 

「くっ!離せ!くそっ、なぜ俺はこの手を振りほどけない!」

 

ゲロの話が正しいとすれば、ゲロは今ベジータの力をどんなに多く見積もっても半分しか使えないことになる。パワーではベジータに分があるはずだった。

 

「いったいわしがいつ、右手で吸収したパワーを左手で使えんと言った?」

 

「舐めるなあああ!」

 

力が吸われ始めたのを感じた。叫びながらも顔面に向かって両蹴りを打ち込む。しかし今度は十九号の時のようにゲロの腕はとれない。

 

「無駄なことをせずにお前もトランクスのように気を抑えたらどうなんだ。少しは孫悟空が勝つ確率が上がるかもしれんぞ?」

 

それが挑発で、自分からより多くの気を奪うためであることが分かっていても的確だった。

 

「なぜだ、なぜ俺がこんなやつに負けるんだ。そんなことはありえない…超サイヤ人は全宇宙最強なんだ!」

 

ベジータはありったけの気を開放して再び蹴りを入れる。

 

「ほう、まだそれだけの力を残していたのか。まだエネルギー吸い取れそうだな。」

 

しかしその蹴りは今や無駄な一撃でしかない。

 

「感謝するぞベジータ。貴様のおかげでこのわしが孫悟空と十七号、十八号を倒せるのだからな。」

 

ベジータの金色のオーラが収まり髪色が黒髪に戻る。それを確認して投げ捨てる。

 

「じゃあな。」

 

エネルギー弾がベジータとトランクスに向けて放たれようとするがそれは途中で止まる。ピッコロ達が着いたからだ。

 

「お、俺を…ば…」

 

薄れゆく意識のなか、猛烈な怒りがベジータを焦がす。

 

「間に合わなかった…!」

 

到着したライが投げ飛ばされたベジータを見てそうこぼす。

 

「おや、まさかエネルギー源の方からきてくれるとはな。」

 

ゲロが三人を見て嬉しそうに表情を歪める。

 

「ッ!」

 

「いや、ぎりぎり間に合った。それに、ベジータ二人分くらいの力なら俺でも五分までは持っていける。」

 

言外に、力を貸せと言われ二人のライが構えをとる。ピッコロに対してまだ青年だといったのはもう彼らの中では一年前だ。精神と時の部屋での一年、そして神様と同化したことにより、ピッコロを子供扱いはもうできない。ピッコロの言葉には安心感があった。

 

「それならここでこいつを仕留めましょう。」

 

「ああ、出し惜しみはなしだ。」

 

そう言うとミライの両の手のひらからエネルギーボールが生まれる。

 

「人狼族の変身は知っているな?満月の日しか変身できないという枷を、俺はこの二十年近くの修業で解いた。」

 

そう言って得意げに片手ずつ発生させた気功波を組み合わせ、パワーボールを生成した。しかしゲロはあきれたように手をかざす。

 

「狼化か。パワーボールも人工月になるまではただのエネルギー波だ。」

 

そう言うと手のひらに出されていたがパワーボールが吸い取られていく。

 

「あ、あらら…触れた気功波を吸収するだけじゃなくて吸い寄せることもできるのかよ。」

 

「そう言うことだ。この私が対策を取っていないとでも思ったか?」

 

得意げに言い放つ。しかしミライとピッコロの言葉がシンクロした。

 

「「まあ少しは。」」

 

「なに?」

 

ドン!

 

深紅のオーラに身を包んだライがゲロを蹴っ飛ばす。

 

「最近の私は不意打ち担当なんですねえ。」

 

「不意打ちがお前達の専売特許だとでも思ったか?さあ、ばらばらにしてやろう。」

 

「ピッコロ大魔王ごときがあまりいい気になるなよ。」

 

三人に囲まれながらゲロは不敵に言い放つ。

 

「残念ながら、人違いだ…!」

 

そう言うとピッコロは凄まじい速度で接近し、膝打ちを入れようとする。さながら最初にゲロとピッコロが戦った時のようであり、しかし結果は違う。ゲロはその膝打ちを左手で受け切った。

 

「確かにピッコロ大魔王にしては異常なパワーアップを遂げているな。」

 

「チッ!」

 

舌打ちを一つうち、左足で回し蹴りを放つがそれも右腕で受けられる。

 

「「はっ!」」

 

背後を取った二人のライが踵落としの要領で蹴りを打ち込むがすぐさまピッコロの攻撃を受け止めていた左手を放し蹴りを入れ、エネルギー波を放つ。

 

「ぐっ!」

 

「くそっ!」

 

二人も体をのけぞらせて回避しようとするが自力に差が大きい。回避はするも隙が大きくできる。

 

「他愛ないな。」

 

「なめるな人造人間!」

 

より大きな隙ができたライに向かうゲロの攻撃はしかし、ピッコロが気功波で止める。吸収するための動作の隙に態勢を立て直し、再びゲロを囲む。

 

「(こいつちょっと強すぎないか。ピッコロと互角って言うレベルじゃない。抑えきれてないだろ。)」

 

戦いながらテレパシーで作戦を練る。

 

「(勝てないなら引くしかないですけど、この化け物放置するわけにもいかないじゃないですか。ほっといたらもっと手に負えなくなりますよ。)」

 

「(いや、まだ勝ちの目はある。こいつ、さっき一瞬パワーが一段増しやがったが、その後の動きは鈍くなった。多分、吸収したエネルギーは自分のものとして使うと消費されるんだ。)」

 

「(それにしては動きがなかなか鈍らない気がするがな。)」

 

「(おそらく、気功波として放ったエネルギーのみ消費しているんだろう。)」

 

「(それって結局じり貧で負けるだろ。こいつが気功波を連発しなければならないほどの戦力差はない。)」

 

戦いが長引けば長引くほどにライ達は不利になる。ゲロは戦いながらわずかずつ気を吸収しているからだ。気功波を撃たずとも、否、撃たないからこそ接近戦は必至だ。

 

「(ああ、だから圧倒的な戦力差を作って一瞬で決める、隙を作るから両手を壊せ。)」

 

「(…了解。)」

 

そうテレパシーで話した直後、ミライがゲロに対して繰気弾を放つ。

 

「この期に及んで気功波とは馬鹿め!」

 

操れる気弾とは言えども、それはエネルギー波を吸い寄せる吸収装置には通用しない。せいぜい吸収時間をわずかに増す程度、しかしそれで充分だ。接近したピッコロの右腕が振りぬかれる。

 

「界王拳、二十倍!」

 

ピッコロの力が倍に跳ね上がる。右腕が曲がる。

 

「うがっ!」

 

「まだまだ行くぞ!」

 

ゴシャッ!グシャッ!バキッ!

 

左脚がつぶれる。左腕から血が噴き出す。右脚が爆ぜた。

 

「ライ!」

 

「…ッ!」

 

ミライがライに指示を出す。吹っ飛ばされたゲロの両腕を気で作った剣で切りかかろうと、二人のライが飛び出す。

 

 

「レッドリボン軍が、我が軍が壊滅した?」

 

十六年前のことは今でも覚えている。息子を失ってすぐのことだ。

 

「孫悟空という子供一人に?そんな、そんな馬鹿なことがあってたまるか!」

 

しかし、いくら事実を伝えてきた一般兵に詰め寄っても、それからしばらくして事実をこの目で、この手で調べても、孫悟空という一人の少年に壊滅させられたことは疑いようがない事実だった。そのときから、自分の目的は孫悟空の殺すことになった。息子を失ったゲロにとってもう寄る辺は軍だけだ。その軍が壊滅させられた今、もうそうしなければまともでいられなかった。否、もう自分はまともではなかったのだろう。息子が死んだあの日から。

 

「こいつを殺すには、今までの兵器ではだめだ。何か、革新的な何かが必要なんだ!」

 

「そろそろお休みになってください。もう何日もこもりっきりじゃないですか。」

 

「口を出すんじゃない!お前は、私に従っていればいいんだ!」

 

研究にとりつかれているうちに妻も病気に侵され死んでいた。自分は病名すら知らない。なぜ、妻が自分から離れなかったのか、今となっては知ることはできない。

 

 

全て、全てを捨ててきた。差し伸べられた手を拒んできた。だから

 

「わしは、こんなところで、終われんのだ!」

 

パワーが一段どころか、数段増す。空中で急停止し、気の刃を躱す。

 

「しまっ…」

 

両腕で二人のライを地面にたたきつける。ゲロの息が上がっている。エネルギーを吸収されていく。

 

「うぐぅ…」

 

「孫悟空を殺す、それを邪魔する者も殺してやる。」

 

「そこをどけ!」

 

再生させた足でピッコロがゲロを蹴り飛ばした。

 

「ハア、ハア。驚いたぞ。お前達がこれほどの強さにまで成長していたとはな。エネルギーの消耗も大きい、ここは引かせてもらおう。」

 

倒れているベジータとトランクスに向かってエネルギー波を放つ。

 

「させるか!」

 

ベジータとトランクスに向かったエネルギー波を気功波で防ぐ。土煙が舞う。

 

「この私の目的は誰にも邪魔させない。」

 

「待て!」

 

ゲロは逃走に成功する。




少しわかる、ドクターゲロの戦闘形態
ドクターゲロ(と十九号)には三つ戦闘形態があります。それぞれ一長一短。勝手な独自設定ですが知っておくと少しこの話が読みやすくなることでしょう。

・戦闘形態
気弾を吸収することは出来ません。吸収した力を行使するための戦闘形態です。ゲロなら1億5000万+吸収した力になります。

・吸収形態
吸収するときの形態です、と言いながら普段はこれです。気弾を吸収することに特化しており、吸収した力を行使することはできません。よってこの形態を使っているときはデフォルトの戦闘力(ゲロなら1億5000万)になります。そのおかげで気も感じ取れなくなります。

ゲロは十九号の腕と自分の腕を持っているので二つの形態を併用できます。さて、あと一つはなんやねんと思うことでしょう。それはまだ秘密です。

まあ細かいこと気にしないでゲロかませじゃないんだあ、程度に思ってくれればOKです。


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(第五十三.五話)レッドリボン軍

独自設定もりもりのドクターゲロ一家+レッドリボン軍です。さて、文章中でも言ってますが、ゲボはゲロの息子、オトはゲロの妻の名前です。ゲボは公式の名前でオトは私が勝手に名付けました。


「感情を学習するプログラム、なかなかうまくいったみたいだな。」

 

まだレッドリボン軍があった頃の、妻も息子も生きていた頃の、わしが一番幸せだったころの話。

 

「ええ、これで指示を人間のように判断して聞くことができる人造人間が完成します。」

 

褒めて褒めてと態度と声音で言う妻は愛くるしい。そんなことを本人に伝える日は来ないだろうが。

 

「私の天才的頭脳でもこればっかりはうまくいかなかった。今までただの兵器としてしか使えなかったこれまでの人造人間とは違う。究極の人造人間が完成する。…よくやったな。」

 

そう褒めると彼女は花が開くように笑うのだ。

 

「貴方の技術と私の技術、二つが合わさればレッドリボン軍が世界を征服する日ももうすぐそこです!」

 

レッドリボン軍が悪の軍隊として名をとどろかせるのはまだ少し先の話だ。

 

「俺は除け者か。」

 

二人で実験の成功を喜んでいると研究室に入ってくるものがいた。この二人の頭脳はレッドリボン軍の中で突出しており、彼らの話についてこれるものはいない。故に、ここに来る人は限られている。二人の息子であるゲボはその中の一人だ。

 

「ゲボ、戻ってきてたか。今回はどうだった?」

 

「ニッキータウンまで支配圏を広げられた。亜人族が大半を占める小さな集落だったから、歓迎されたよ。でも…」

 

少し不機嫌そうに言葉を続けた。

 

「父さんと技術と母さんの技術が合わされば世界征服なんて簡単って話は少し不満だな。」

 

「あらそう?今作ってる人造人間ができればレッドリボン軍が世界を征服するのは文字通り秒読みよ?」

 

「それはそうだが、母さんが言ったとおりの指示を聞く人造人間、その指示を出したり連携を取るのは兵士である俺達だ」

 

「それは確かにそうだな。期待してるぞ。お前の活躍をな。」

 

「もちろんだ。俺達家族の力でレッドリボン軍を世界の頂点に導く。」

 

「ところで、その頭はどうしたの?」

 

今までこらえていた疑問を母であるオトは出す。任務に行く前は夫であるゲロと同じ長髪にしていたのに今のゲボはモヒカンだった。

 

「これが、今の流行りだと言われた。」

 

そんなわけないのである。現にレッドリボン軍の中でモヒカンな髪形の者はいない。真面目で真っ直ぐな彼は見た目と裏腹に騙されやすい。

 

「へえ、そうなの、私そう言うの疎くて。これが今の流行りなんだ。」

 

「ああ、部下たちには笑われたがな。」

 

「フフッ、部下から懐かれてるのね。」

 

おおよそを察したオトが笑う。

 

「私もゲボと同じ髪型にしてみてもいいかもな。」

 

「まあまあ、あなたまで。」

 

そう言ってオトはゲボが自分の部下にからかわれているであろうという事情を耳打ちした。

 

「そうなのか、なかなかイケてると思うんだがなあ。」

 

「?」

 

実験はうまくいき、真面目な息子がいて、素敵な妻がいて。こんな日々が、いつまでも続けばいいとそう思っていた。

 

 

「お前は久しぶりに会ったって言うのにずっと仏頂面を崩さないよなあ。」

 

飲め飲めと酒を進めてくるのはシルバーだ。ゲボと同期でもある。偶然に同期の任務完了時期が合致し、ヴァイオレットとブルーを加えた四人で飲むことになった。

 

「そんな仏頂面だから、私達と同じ上級兵士なのに恋人の一人もできないのよ。ご両親も急かしているんじゃないかしら?天才の遺伝子がここで途絶えるのはもったいないわよ。」

 

ヴァイオレットがそう言うと、ブルーがすり寄ってきた。

 

「うふ、私だったらいつでも歓迎よ、ゲボちゃん♡」

 

「俺はまだそう言うのは考えていないんだ。それにあの二人もそんなこと考えてもいなさそうだ。最近は赤ちゃんができるって楽しそうにしてたからな。」

 

ブルーを手で押し返し、そう返す。

 

「へ、へえ、そうなんだ。」

 

あんまりな話題にも何とかシルバーが相槌を打つ。

 

「ああ、まあ、弟とか言って、その見た目がフランケンシュタインそっくりのごつい男にするのは相変わらずよく分からないセンスだけどな。」

 

「あ、ああ、人造人間のことね。そう言えば、なんか物凄い成果が出たとか聞いたわよ。」

 

言葉が足りないぞ、と思いながらもヴァイオレットが聞く。

 

「何でも機械に感情を持たせられるようになったみたいでな。感情を一から学ばせていくんだそうだ。だから赤ちゃんなんだってさ。最初に聞いたときは驚いたよ。」

 

「なるほど、人工的に作る子どもか。」

 

「まるで神の所業ね。流石ゲボちゃんのご両親。」

 

「上手く行ったら自分の若いころをモデルにした人造人間を造ろうとかも言っていたよ。」

 

「貴方の両親は生涯現役ね。」

 

「さっさと悠々自適な隠居生活を送らせてあげたいんだがな。」

 

「だったら、さっさとレッドリボン軍の野望を果たさなければな。世界を征服して亜人と人の迅速な融和を目指さなきゃ。犬国王のやり方は生ぬるい。対話如きで亜人と人が融和って、何年かかることやら。」

 

とりとめのない話をしたのちに、夜は更けていく。

 

「それじゃあ、レッドリボン軍のさらなる活躍に、乾杯よ。」

 

カチン

 

最後にブルーがそう締めてお開きとなった。

 

正義を憎み、悪の軍隊と呼ばれる前のレッドリボン軍は決して悪に染まった軍隊ではなく、確固たる信念があった。亜人と人との融和。犬国王と目的は同じながらその手段は対称的だ。武力による圧倒的な支配者を爆誕させ、その圧倒的個人による力で強制的に融和を推し進めるというもの。レッドリボン軍の創設メンバーであるレッド総帥、ドクターゲロ、ドクターオトの三人はもちろん、この四人のレッドリボン軍兵も本気でこれが最善だと信じていた。

 

 

「本当にいいのか、この地区は激戦区だ。死ぬ危険は今までの比じゃない。」

 

「そうよ、それにあなたは戦いは好きじゃないでしょう?無理することないわ。」

 

ゲボは今まで、犬国王率いる現政府が統治しきれていない地域の制圧を主としてやってきた。そこでは制圧とは名ばかりで統治という方が正しい。犬国王が就任して未だ数年、まだ犬国王の完全統治とはいかない。

 

「レッドリボンの世界征服、平和実現のために軍に入った。俺の命はもう軍に預けてある。」

 

ゲボが向かう先は、犬国王が統治している地域、そこを武力行使で奪おうというのだ。どんな風に取り繕ってもそれはテロ行為でしかない。国が擁する軍との衝突は避けられない。

 

「これもレッドリボン軍のため、か。充分に気を付けて行ってこい。」

 

「無事に戻ってきなさい。」

 

テロと言えども世界征服をするためには避けられない行為。その先陣を切る時がやってきた。彼が軍の中でも特に優秀な兵士だからこそその任が与えられてしまっている。ゲロとオトもそれを知ってゲボを送り出した。

 

「ああ。これを足掛かりに二人に楽させてやるから。」

 

これが最後に息子と交わす言葉になるとは夢にも思わなかった。死ぬ危険があると分かっていたはずなのに、比じゃないと息子に言い聞かせたのはほかならぬ自分だというのに、息子だけは死なないだろうと勝手に思い込んでいた。

 

 

「息子が、ゲボが戦死した?」

 

初めての国王軍との戦いはレッドリボン軍の完全敗北だった。武器は互角、むしろこっちの方が優れていたがしかし、兵の練度が圧倒的に違った。レッドリボン軍の兵は壊滅、生き残ったのはゲボの小隊数名だけだ。彼の獅子奮迅の活躍により、ゲボの部下は逃げきれた。

 

「すいません、俺のせいで…!俺を庇ったから…!」

 

目の前が真っ暗になるというのはこういうことだとその時初めて知った。

 

「う、嘘よ。ゲボが死ぬなんて、そんな…」

 

「オト、泣かないで。どうすれば、泣き止んでくれる?」

 

完成したばかりの人造人間八号。そのうち名前を付けてあげるとオトから言われていたが、それは叶わない。数日後、狂ったように兵器開発に取り組みだしたゲロと一緒に居たら悪影響だろうと、彼はホワイトタワーに送り届けられる。

 

 

「お前が二人の天才ドクターの傑作、人造人間八号か。」

 

「よろしくお願いします。ホワイト将軍。」

 

そこでの日々をオトが知っていれば、八号を手元に置き続けていただろう。心優しき人造人間は無垢の民を傷つけられない。武器としての欠陥品がどういう扱いを受けるかはわかり切ったことだ。

 

 

「あなた、少し休んでください。貴方が倒れてしまっては、レッドリボン軍の戦力は激減します。」

 

あれから数年間、散発的に犬国王の治める地域を攻撃し略奪を繰り返しているが、犬国王側との全面戦争は避けている。

 

「あれほどの強力な兵器を開発しておきながら世界征服にいつまで時間をかけるつもりなんだ…!」

 

ゲロが憤慨する。ドクターゲロが執念ですさまじい武器を開発しているのにレッドリボン軍が世界征服を果たせないのはオトがいるからだ。ゲロの開発する武器はもう地球で使うには強大すぎた。オトがゲロの開発した武器に手を加えて軍に提供していた。それでも犬国王側と正面衝突すれば地球の環境は人の住めるものではなくなってしまうだろう。

 

 

「レッド!早く世界征服を成し遂げろっ!わしの武器を使っているのにその体たらくはどうしたッ!」

 

「ええいっ!物事には順序というものがあるんだ!もう少しまてい!!」

 

ゲロがレッドにそう怒鳴り込みに行った日は大佐となったシルバーが孫悟空に出会った日だ。




ゲロとオトって上級兵士の息子がいるんで既に四十路くらいではあるはずなんですけど、おしどり夫婦だったんじゃないかなあと妄想しています。ちなみに映画でボミと名前が明かされたのですが、この話を書いたのは映画公開前でオトという名前に愛着を持ってしまったのでこの作品ではオトで行きます。ご了承ください。


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(第五十四話)ゲロの爪痕

「ライ、ミライ、無事か!?」

 

ゲロに逃げられたことを確信し、共に戦った二人の無事を確認する。

 

「なんとか無事だ。気は結構取られたがな。」

 

せき込んだのちによろよろと立ち上がった。

 

「それよりライだ、結構無理してたみたいだからな。」

 

立ち上がることができず座り込んだライに手を差し出し、立ち上がらせる。

 

「仙豆がある。二粒しかないが、一粒はお前が食べろ。」

 

ピッコロがライに仙豆を渡す。

 

「いえ、これはトランクスかベジータに渡すべきです。」

 

肩で息をしながら倒れている二人を指し示す。

 

「私より危険な状態でしょう。私は少し休めば動けますけど、あの二人はこのままだと死んでしまうかもしれません。」

 

「半粒ずつ渡せば大丈夫だろう、サイヤ人の生命力はお前等地球人とはけたが違うからな。」

 

「それならピッコロが食べてください、あなた四肢が一度もげているんですよ、かなり消耗してるはずでしょう。何より、あなたが地球の最高戦…」

 

そこまで言ってハッとする。間違いなく全快したピッコロは地球の最高戦力だ。それは人造人間を含めても。ベジータよりわずかばかり実力が上だった十八号、十七号の方が強いようだが、流石に倍以上の差があるとも思えない。そう考えれば今消耗したゲロを超えてピッコロが地球最強ということになる。そして三人はほぼ同時に気づく。ミライが叫ぶ。

 

「ピッコロ!さっさと仙豆(それ)食って亀ハウスに急げ!」

 

ピッコロを始めとして、ベジータ、トランクスにミライとライ、多少なりとも抗える戦士が全員ここにいた。悟空も病に侵されている今、亀ハウスは全く安全ではない。ドクターゲロがそのことに気づかないわけがなかった。

 

ドシュン!

 

ピッコロはすぐさま手に持っていた仙豆を食べると、懐から最後の一粒をライに投げ渡し、凄い速度で亀ハウスに飛んでいった。

 

「ライ、そいつらに仙豆を与えたら神殿に向かわせてくれ、戦力が足りなすぎる。そいつら二人で精神と時の部屋の修業をしてもらうんだ。」

 

「ミライはどうするんですか!」

 

「俺はピッコロを追いかける。亀ハウスのみんなを守りながらだと苦しいだろうから。」

 

そう言って今にも飛び立とうとするミライの腕をライがつかむ。

 

「だったら仙豆を食べてから行ってください。貴方もこの中ならましってだけでダメージは大きい。」

 

「しかし、いや、最悪はピッコロが倒されることか。」

 

迷いは一瞬、すぐに仙豆を食べた。

 

「そう言うことです、少し体力を回復させたら私は天界に二人を連れて行きます。博識なポポさんなら手当もしてくれるでしょう。事情を説明する必要もありません。」

 

「分かった、頼んだぞ。」

 

そう言うとミライも飛んでいく。

 

 

「やっぱり、僕達も様子を見に行った方が良いんじゃないですか。」

 

時は数刻前に遡る。トランクスの気が一瞬にして消えたかと思えば、ベジータそのものとしか思えない気が二つ感じ取れた。驚いているうちにも二つのベジータの気に急接近していく強大な気を感じ取れた。そうかと思えばベジータの気が倍になって片方が消える。もう何が何だか分からないと混乱していると戦いが終わったのか気が急に収まる。

 

「俺達が行ってどうにかなるようなものじゃない。ベジータのとこに向かった強大な気に注意がそれたが、あの強大な気と一緒に、ライとミライの気も移動していた。俺たちが行っても足手まといになるだけだ。大丈夫、ライがいるなら何か重要なことは俺達に伝えに来るはずだ。」

 

自分にも言い聞かせるようにクリリンが悟飯に諭す。

 

「そう言うことだ。ライと一緒に感じる強大な気の持ち主は、多分…」

 

「「ピッコロだ。」」

 

クリリンとヤムチャの声が重なる。それを聞いて悟飯の顔が喜色に染まる。尊敬する師がとてつもないパワーアップをしていることに。

 

「「!」」

 

「ピッコロさんだ!ピッコロさんがこっちに来てるんだ!」

 

強大な気がこっちに向かってきていた。悟飯は純粋に喜んでいるがクリリンとヤムチャの顔はこわばる。

 

「ヤムチャさん。」

 

そう呼ぶだけで意図が伝わる。戦闘態勢を取った。ピッコロがここにものすごい速度で来ているのであれば、気を感じ取れない敵、人造人間がいる可能性があるからだ。

 

「ああ、悟飯、構えろ。人造人間が奇襲してくるかもしれない!」

 

「!」

 

三人で互いの背を守るように陣を取る。凄まじい緊張が場を満たす中ピッコロが亀ハウスに着いた。

 

「ドクターゲロは来てないな!?」

 

「ぴ、ピッコロなのか?」

 

多分ピッコロだと言ったのは1分にも満たないごく最近だ。しかしそれでもこの強大な気が目の前の戦士一人によってもたらされているものだとすぐには受け止められなかった。しかし、ピッコロの強さを1番に信じているものは違う。

 

「ピッコロさん、凄い気だ。ものすごく強くなったんですね!」

 

「まあな。聞きたいことはあるだろうが取り敢えずあとにしてくれ。ここも危険だ別の場所に移動するぞ。」

 

「それなら1つアテがある。それなりに広いから無人島があるんだ。周りに他の有人島がないから戦いになっても巻き込まないですむ。」

 

ヤムチャが提案を受けた場所にひとまずクリリンたちは悟空たちも連れて移動を始めた。遅れてミライ、そして様子を見に来た天津飯がその島に合流し数日間が過ぎる。強くなったがゆえに、ピッコロはその場を動けない。ピッコロ以外に人造人間と戦えるものはいないからだ。

 

 

 

「あんまりのんびりもしてられないな。そろそろ二人を連れて行かないと…!」

 

体力は万全ではないが、それでも二人はできるだけ早く連れて行かないと命に関わるかもしれない。無理を押して、ベジータとトランクスを背負おうと立ち上がる。

 

「ライ!無事で良かった!」

 

ちょうどその時、餃子がやってくる。

 

「餃子さん、ちょうどいいところに。」

 

様子を見に来た餃子は頭に疑問符を浮かべる。同時にライがかなり消耗していることに気づいたようだ。

 

「ライ、気が小さい、かなり無理してる!」

 

「でも、あんまり休んでばっかりもいられないんです。これでもましになった方ですし、二人を天界に連れて行かなければいけません。トランクスさんの方、お任せできますか?」

 

そう言ってベジータとトランクスに視線を向ける。餃子の疑問は氷解し、すぐに超能力で二人を浮かせた。

 

「まかせて、ライも連れてくよ!」

 

飛んでいこうと舞空術を使い始めたライに対しても超能力を発動させた。

 

「すいません。よろしくお願いしま…す。」

 

そう言って超能力に身を任せ、緊張の糸がほどけたのか意識を失った。

 

「事情を聴くのはライが起きてからだ、天界に急ごう!」

 

三人を超能力で浮かせ、飛行の負担がかからないように調整しつつ、天界に向かった。

 

 

「生きている…俺はなぜ死んでいない?」

 

天界でポポの手当てを受けたベジータとトランクスが目を覚ましたのは、三日後だった。ベジータは周りを見渡す。部屋の両端に置かれたベットは二つあり、少し離れた場所ではトランクスも眠っていた。

 

「ピッコロがゲロを追い返したからですよ。運んだのは餃子さんです。二人には感謝しなきゃですね。」

 

その分だとトランクスも大丈夫そうですね、サイヤ人の生命力は半端ないなあ、そう感心半分あきれ半分で言ったライは部屋の入口付近の壁にもたれかかっていた。二人の身を案じていたのだろう。

 

「ピッコロだと?馬鹿な、あいつは俺の力を二回吸収しているんだぞ。高々ナメック星人如きが敵う相手じゃ…」

 

「ライさんは嘘をつくような人ではありません。」

 

そこまで言いかけたところで目を覚ましたトランクスが会話に割って入る。

 

「ふん、知ったようなことを言いやがるな。お前のいた未来ではライもお前が物心つく前に死んでいるんだろうに。」

 

「あ、いえ…それは、そうなんですが…ライさんのことも母さんや悟飯さんから聞いていたので。」

 

トランクスは口ごもる、それに助け船を出すようにライは言葉をつなげる。

 

「ピッコロが神様と同化したんですよ。ナメック星の時のように。」

 

「…同化だと?そうか、あの時の急激なパワーアップと、今ゲロを追い返せたのはそう言うわけだったのか。」

 

「あの時のパワーも今回のこともそれだけではないですけどね。修業の成果でもあります。」

 

同化だけではないピッコロの努力を知るライは語るがベジータは気にしない。

 

「そう言えば追い返したって言ったな。ということは逃がしたってことだ。俺が気を失ってから何があったのか、詳しく話せ。」

 

助けられた立場で偉そうに…と不機嫌になるライを無視して詰め寄った。

 

「ええ、ライさん僕からもお願いします。あの時何があったのか。詳しく話してください。」

 

トランクスからの言葉もあり、ライはすべてを話した。ゲロはパワーを一時的に上げられること、そうするとエネルギーの一部が消費されること、三人で戦いエネルギーを消耗させたが、三人の戦いで吸収された分を考えるとほぼ変わっていないこと。そして、あれから三日間ほどたっていること。

 

「ドクターゲロは生かしておけば一般人からもエネルギーを吸収して手に負えなくなっていくってことですよね。みんなで協力して一刻も早く見つけ出さないとまずいことに!」

 

トランクスが言う。

 

「探すのは無理でしょう。ゲロには気がないですし、地上の人間たちを殺して回っているわけでもありません。完全に隠れているんですよ。ミライさんはそれでも地上を飛び回って探していますが、期待は薄いでしょうね。」

 

「じゃあどうすれば…!」

 

焦るトランクスにベジータは言い放つ。

 

「そんなの決まっているだろう。向かってきた野郎は俺がぶっ殺してやる。俺が超サイヤ人をさらに超えて!」

 

「超サイヤ人を、超える?」

 

トランクスが考えたこともなかったというような顔になり、それはライもだ。だがその言葉を聞いてライはベジータに提案する。

 

「一朝一夕でできることではないでしょう。一日で一年の修業ができる部屋に案内しますよ。現実世界で二日間という枷はありますけど出し惜しむ時じゃないでしょう。」

 

「それは本当だろうな。」

 

「間違いないです。私達も一日使いました。でも…」

 

視線をトランクスに向ける。トランクスはそれでライが何が言いたいのか察したらしい。

 

「ベジータさん、俺も一緒に修業させてください。」

 

「…いいだろう。貴様みたいなやつでもいないよりはマシだ。」

 

「では、案内します。ついてきてください。」

 

話が着いたことを見て、ライが二人に対してそう言った。そして精神と時の部屋の扉の前に着く。

 

 

「てりゃりゃりゃりゃ!たあ!」

 

「…」

 

悟飯の連撃をピッコロは涼しい顔で避ける。ピッコロと悟飯には隔絶した差があった。それほどの差が生まれたのは初めてだった。軽く触れるだけで悟飯は倒せる。

 

「とりゃああああ!」

 

トン。

 

「あぐっ…」

 

簡単に花に触れるかのように見えるその一撃で悟飯は地上に落ちた。

 

「さあ、次はどいつだ?一斉でも構わんぞ。」

 

取り囲むようにしているクリリン、ヤムチャ、天津飯に向けて言い放つ。三人が一斉に、否、少しだけタイミングをずらしてかかってくる。完璧な間合いで急所に向けて攻撃を仕掛けてくる三人をしかし、簡単に捌く。

 

「はっ!」

 

「うわっ!」

 

「うっ!」

 

「くっ!」

 

気合砲だけで三人は簡単に吹き飛ばされる。戦闘態勢を解いたのを見てクリリンが口を開く。

 

「ピッコロはとんでもなく強くなっちまったな。」

 

「もう、おれたちじゃ力になれないか。」

 

「…」

 

地球人の限界を三人は痛感する。その瞳には諦観の色がのる。しかし、そんなものをものともせず吹き飛ばすそんな不思議な力をもった男が、復活する。

 

「諦めるなんてお前ららしくねえな。」

 

「「「「「!」」」」」

 

「お父さん!」

 

悟飯が一足先に喜びで顔をいっぱいにして声をかけた。

 

「ピッコロ、悟飯を連れて修業に行ってくる。今のままじゃ人造人間に勝てねえ。一日で一年の修業ができる場所に。」

 

「精神と時の部屋か。それなら早く行ってこい。今は力のある戦士が少しでも欲しいときだ。」

 

「ああ。」

 

悟空が悟飯に手を取ってもらい、指をおでこに付けて集中する。

 

「悟空、一つだけ聞かせてくれ、フリーザよりもとんでもない敵が現れて、怖いか、それとも嬉しいか?」

 

「両方だ。」

 

クリリンの問いにそう答え、悟飯と一緒に姿を消した。

 

 

「悟空さん!」

 

精神と時の部屋に入ろうとした時に悟空と悟飯が姿を現す。

 

「よっ。」

 

「悟空、元気になって何よりです。」

 

「ありゃ、先を越されちゃったな。おめえたちも精神と時の部屋で修業を?」

 

「ええ、ライさんに勧められてとりあえずこれから一年間修業するつもりです。」

 

「そっか、しっかりやれよ。ベジータと仲良くな。」

 

「ふん。」

 

二人が精神と時の部屋に入り、悟空と悟飯とライが残る。

 

「おめえも精神と時の部屋に入ったんだろ。相当強くなってるじゃねえか。」

 

ライを見てその実力が以前とは違ったものになっていることを察する。

 

「ええ。でもまだ人造人間には届きません。」

 

「そう言うわけでもねえだろ。おめえにはおら達とは違う力があるじゃねえか。」

 

「なんか悟空に言われると自信が付きますね。…ピッコロと合流します。ベジータ達が精神と時の部屋に案内してもうここにいる理由はありませんから。」

 

「無茶だけはすんなよ。」

 

「しなくて済むように強くなってください。」

 

そういってライは下界に下りて行った。




精神と時の部屋修業後
ピッコロ(神と融合)15億
ミライ2000万
ライ1500万
神様との融合は5倍で考えてます。

ドクターゲロ1億5000万+14億

ドクターゲロはベジータと戦う前に十九号が吸ったエネルギーを自分のものとしたのでその時点で7億5000万で、今回ベジータから8億とったんで15億5000万になります。


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(第五十五話)持っていた手札

「ミライ、やっぱり見つけられなかったんですね。」

 

「ドクターゲロにも人間レベルの気はあるはずだ。それをたどれば、と思ったんだがな。」

 

ミライは未来世界で人造人間十七号と十八号の力の人間としてのわずかな気を感知し、逃げ続けていた。しかし、ゲロは完全な機械タイプだった。ゲロの残滓は脳だけだ。人間の気よりもはるかに小さい気でミライでも追いきれない。さらに言えば、ドクターゲロには気を探知するレーダーがある。気を一般人レベルに抑えての移動は制限が多すぎた。

 

「では、ピッコロと合流して人造人間に備えましょう。」

 

「ピッコロじゃなくて孫悟空のところに合流してくれないか。」

 

「「ッッッ!!」」

 

急に割って入ってきた声に二人は戦慄する。特にミライの驚きはライの比ではなかった。

 

「馬鹿な、この距離になるまで気づけないわけがない!」

 

未来世界においてライは十七号と十八号のわずかな気を感知し気は未来て逃亡しながら修業をしていた。それがこうも接近されるまで気づかない、この二人のの二人とは性質が異なっていることを意味する。

 

「仕方ないです、こいつらには気がほとんどないんですから感知するのは至難の業です。しかし…」

 

飛びのいて構えをとるライ達に対して十七号は余裕ぶって構えすら取らない。

 

「孫悟空の居場所を教えてくれればとりあえずはお前たちに手出しはしないぞ?」

 

「そんなこと言うわけないでしょう。」

 

毅然と言い放つ。

 

「では、力ずくでも聞き出してやろう。死ぬ前にその強情な口を割るんだぞ?お前たちの仲間と戦った時のような手加減はしない。」

 

「冗談、返り討ちにしてやる…!」

 

そうライが一歩前に出てそう宣言した直後、轟音が響き渡る。ミライが不意を突いて十六号を襲ったからだ。

 

ドガアアン!

 

「無駄なことはやめろ。」

 

しかし、それは不意打ちの体を為していたのだろうか、ライの気功波は簡単に防がれる。

 

「古いタイプだからと侮ったつもりはなかったんですけど、これはどうやら想像以上みたいですね。」

 

冷汗が流れる。

 

「おいおい、そんなに早まるなよ。お前らごとき俺一人で充分なんだ、二人に手出しはさせないから少しは俺を楽しませてくれ。」

 

そういって二対一を許容する十七号をしかし、十八号が静止する。

 

「ちょっと待ってよ十七号、自分ばっかり楽しんじゃってさ。わざわざ無駄なことして孫悟空を探したんだ、少しくらいわたしにも鬱憤晴らしをさせてよ。」

 

「む?それを言われると弱いな。なら二対二といくか。十六号はどうする?お前が行くなら俺は見物するが。」

 

「俺は孫悟空を殺すために作られた。そいつらはどうでもいい。」

 

「そうか、じゃあこいつらは俺達がもらっていいな。」

 

残酷なまでに無邪気な笑顔で十七号はミライを見た。

 

「さっきライが言っただろう。返り討ちにしてやる、とな。」

 

そう言ってミライはパワーボールを作った。

 

 

「ライ達は無事だと良いんだけどな。」

 

「ミライの気は高まっていないから戦闘はしていない。それにライは悟空が復活したからこっちに戻ってくるはずだ。心配してないでさっさと休め、お前等地球人はやわだからな。」

 

時間は少し遡り、悟空が目を覚まして天界に瞬間移動してすぐの頃のこと。その発言が翻るのはわずか数分後だ。

 

「気を開放しろっ!」

 

そう叫んで自分は気を亀ハウスの一階部分にシールドを張るように展開する。一階にいるクリリンとヤムチャは庇いきれたが上にいるはずの武天老師とチチと天津飯は守り切れない。

 

ドゴオオン!

 

数瞬後に亀ハウスの二階部分が大破する。

 

「何が起こったんだ!?」

 

せき込みながらチチと亀仙人を抱えた天津飯がエネルギー波を放たれた方を見て言葉を失った。全員生きていることにピッコロは心の中で胸をなでおろした。

 

「初撃にしては随分手心を加えてくれたようだな。」

 

すぐに逃げろとクリリン達に言ってゲロにそう声をかける。

 

「足手まといがいた方がわしに有利だろう?」

 

「ふん、このピッコロ大魔王様にとってはあいつらが死のうが生きようがどうでもいいんだ。」

 

虚勢を張り強気に言い放つピッコロにゲロは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「半端者が強がるな。」

 

「何だと?」

 

「大魔王になり切れず、神の看板すらも下ろして、そうまでしても仲間を守り切れるほどの力を得られない雑魚を半端者と呼ばなければ何と呼ぶ?」

 

「貴様どこまで…!」

 

天界での出来事などゲロにバレるとも思えない。自分の知らないところで見られている可能性に思い至る。それは即ち、どこに隠れても見つかるということ。ここでの自分の敗北は仲間の死とイコールだ。

 

「貴様が最高戦力だ、おまえがやられたらあいつらからエネルギーをいただきに行く。」

 

(あいつらを生かしたのは俺から確実にエネルギーを奪うためか。)

 

内心で舌を巻く。トランクスが気を抑えて吸収を阻止したように自分も吸収され掛かったら気を抑えればゲロの強化は止められる。しかしそれは助けが見込めない状況では自分の敗北を意味する。悟空達の修業が終わるのはまだ先だ。吸収され掛かったら意地でも気を開放し、相手を引きはがさなければならない。

 

(ライ、ミライ、早く来い…!)

 

「援護を期待しても無駄だぞ。最も、それを狙ったわけではないがな。」

 

「何?」

 

ドクターゲロの言葉を合図にライとミライの気が解放される。しかし相手となる敵の気は感じ取れない。

 

「まさかっ…!」

 

「十七号と十八号もたまには役に立つ。さあエネルギーをいただくぞ。」

 

 

「はじけて、混ざれ!」

 

サイヤ人の中でも選ばれたエリートしか作ることができないとされる人工の月、長年の修業と研究の果てにミライは独学で人工月を作れるようになった。

 

人造人間を倒し、自分の大切なものを守るために。

 

「…」

 

十六号の瞳が光る。レーダーを使って二人の戦闘力を測り始める。その上昇に合わせるように二人の姿が人のそれから狼のそれに変わる。

 

「さあ、精神と時の部屋での修業の成果を見せる時だぞライ。」

 

「ええ。この姿を使いこなせるようになったのは、一年間の修業の大きな成果です。この姿は、」

 

「「最も力を引き出せる姿」」

 

二人のライの声が重なり、興味深そうに十七号が話しかける。

 

「へえ、お前達も変身できたのか、もっとも孫悟空やベジータの変身と比べると大したことのないようだが。」

 

「十七号いつまで話してるんだ、早くやろうよ。」

 

変身した姿を見ても全く動揺しない二人の人造人間に対してミライは界王拳を発動させた。

 

「気をつけろ!ゲロのデータによれば、その姿は…」

 

十六号の警告は間に合わない。ミライの拳が十七号の拳に刺さる。

 

「通常時の三倍のパワーだ!!」

 

遅れて十六号の警告が響き渡った。

 

「十七号!」

 

やられた十七号の方を向いた十八号にライが死角を縫って攻撃にはいる。

 

「後ろだ!」

 

殴られて態勢を崩しながらも十八号に対して十七号が指示を出す。辛うじて攻撃を受け止める。

 

「こいつ…!」

 

舌打ちを一つ、受け止めた手を掴み、十七号と戦っている場所に向かって投げ飛ばす。十八号がライを投げ飛ばした場面を見ていないにもかかわらず、しゃがんでライを避ける。

 

「おっと。」

 

ライを受け止め距離を取る。

 

「(血縁だけあって連携が取れてるな、バラすぞ。)」

 

テレパシーがライの脳内に響く。軽くうなずき、それを合図にライは界王拳の倍率を二十倍まで引き上げた。

 

「赤いオーラ、金色だったり赤だったり、お前たちは派手なのが好きだな。」

 

十七号は先の攻撃を食らっていながら余裕の態度を崩さない。

 

「悪いけど、サシでやらせてもらいます。」

 

「!」

 

気合砲を十八号に向けて打ち込む。両腕を交差させてダメージを抑えるが、衝撃は抑えられず別の島に吹っ飛ぶ。小鳥と戯れていた十六号が少し視線をライに向けた。

 

「どうやらお前たちは俺の思った以上にいい遊び相手になるらしい。」

 

 

「容赦はしません。すぐに壊して差し上げますからね。」

 

吹き飛ばされた無人島にてライと十八号が向き合う。

 

「全くいちいちうるさいやつだね、さっさとかかってきな。どちらが上かはっきりさせてやるからさ!」

 

心底ウザそうに視線を少し下にむけて吐き捨てるように言った。その一瞬にも満たない視線がそれた瞬間動き出す。

 

「隙だらけだ。」

 

後ろに回り込み後頭部を殴りこむ。前にのけぞったところに蹴りを突っ込む。

 

「こいつっ!」

 

空中で態勢を立て直してエネルギー波で応戦する。それをライも気功波で応戦した。エネルギーどうしの衝突で土煙が舞う。

 

「貴方はパワースピードともに凄いですけどそれだけだ。」

 

土煙が晴れた後、十八号に向かって煽るように言い放つ。

 

「スタミナ切れもない。調子に乗るんじゃないよ、その程度なら先に音を上げるのはそっちだ!」

 

「試してみれば分かります。ベジータとは違う。あなたに対して何の遠慮もせず、すぐ壊す。」

 

 

「連携を嫌ったか、まあどうでもいいけどな。俺達最強の人造人間が負けるわけがない。」

 

そう話している最中にもミライにラッシュは続く。

 

「お前は無駄な口上が多すぎるな。」

 

「余裕だからな。」

 

「じゃあその余裕を奪ってやる。」

 

ミライのオーラも赤く染まる。素早さとパワーが跳ね上がる。

 

ガスッ!

 

「なんだとっ!」

 

人造人間には急激なパワーアップによる不意打ちが効かない。しかしそれは十七号自身の力を上回らない範囲でだ。十七号に匹敵するパワーとスピードを持った一撃は十七号の顔を驚愕に染めるのに十分だ。

 

「はっ!」ビュゥン!

 

気合砲で吹き飛ばし、追撃を仕掛けようとする。

 

「まだまだ行くぞっ!」

 

吹き飛ばした十七号は十六号に止められる。十六号の視線に射竦められ動きが止まる。

 

(こいつは、強い。下手したらピッコロと三人がかりでも…。)

 

「十七号、そいつのパワーはお前に匹敵する。俺も手を貸そう。」

 

あくまでも手助け程度にといったふうに話をする。

 

「意外だな、孫悟空の抹殺以外興味がないんじゃなかったのか?」

 

「いたずらに人を殺したり、自然を壊したりしないお前達は一緒に旅をしてきた仲間だ。仲間を助けるのは当然のことだろう。」

 

十七号の目が見開かれた。

 

「…そうか。でもそれなら十八号の方に行ってくれ。この最強の人造人間である俺に迫る戦士はもう二度と現れないかもしれないからな。この戦いをやつを殺す瞬間まで楽しみたいんだ。」

 

負けることは微塵も考えていないことが分かる。その発言はあるいは不安を助長するものだ。

 

「分かった。」

 

それでも十六号はその発言を受け入れた。

 

「待てっ!」

 

ライの方が危ないとそう自分に言い聞かせ十六号に立ち向かう。

 

「待つのはお前だ。俺に集中しろ。向こうを気にする余裕なんてお前にはないんだぞ。」

 

飛び立つ十六号の間に入られればミライは十七号を倒さなければライの援護に行くことはできない。

 

「邪魔だっ!」

 

猛然と十七号に襲い掛かる。それを十七号は受け止めカウンターを仕掛ける。

 

ドンッ!!

 

「くっ」

 

ゴンッ!!

 

「チッ」

 

バギッ!!

 

「くそっ」

 

ドガッ!!

 

「殴り合いが好きならいくらでも相手してやるぞ。」

 

ミライの一撃を受けながらそう言ってのける。ミライのパワーが落ちていた。

 

ガンッ!!

 

「うぐっ」

 

吹き飛ばされる。常時二十倍界王拳を維持するには相当なパワーを消費する。長引けば不利になるのはミライのほうだ。それ以上に、ライの方が危険だと彼女の気の乱れから感じる。もう後何分も持たないはずだ。

 

「はは」

 

乾いた笑いが漏れた。状況は絶望的だ。

 

「降参か?」

 

まさか、と言ってふらふらと立ち上がる。

 

「この時代はまだ、平和にできる可能性が残されているんだ。生き地獄な俺の時代とは違う。」

 

自分が強ければこんな時にさらなる強さを引き出せた。悟空のようになれたならこんな程度の戦いなんて覚醒せずとも勝てた。自分にはそんな器じゃないし、あつらえ向きの覚醒なんてない。持っていた手札を切っていくことしかできはしない。

 

「どういうことだ、お前は未来から来たとでも?」

 

「そんなのはどうでもいいことだろう。」

 

目が座っていた。両手の人差し指と中指を額に持っていく。

 

「時間がないんだ。速攻で終わらせる。」

 

自分の父親が偉大であったことを、この技を身に着けようとしたときから痛感し続けてきた。現にいまだに不完全だ。

 

ー----

 

「アクマイト光線を教えてくれ?」

 

「ええ、自分の素の実力はもう伸びしろはほとんどないでしょう。人工の月は作れるようになりました。次はこの技です。父さんがものにできたんですから私にできない通りはない。」

 

人狼化し悟飯と共に人造人間たちに挑んだが返り討ちにあった。しかし手ごたえはあった。占い婆の館に赴き、アックマンにアクマイト光線の教えを乞う。界王拳と人狼化、そしてアクマイト光線を三重にすればあいつらに届きうるという手ごたえが。

 

「悪いが俺には教えられない。」

 

断られるなどつゆほども思っていなかっただけに思考が止まる。

 

「今地球がどういう状況か、分かってるんですか!?人造人間が現れて久しい、人類は五万を切ろうかというくらいに追い込まれているっ!それなのに、どうして協力してくれないんだ!」

 

激高して詰めよるライにアックマンは落ち着けとなだめる。

 

「スウが使うアクマイト光線は俺の使うものとは似て非なるものだ。たしかにアクマイト光線のように渦巻くし、ピンクのオーラをまとうがな。効果時間や操縦性がまるで違う。」

 

教える気がないと言葉と態度で示すアックマンにライは食い下がる。

 

「改良前の技で構いません。それさえ教えてくれればたとえ何年かかろうとも私も父さんと同じアクマイト光線を完成させます。」

 

「無理だ、あいつがアクマイト光線を改良させられたのはあいつが現世で無念の魂としてさまよった経験があるからだ。アクマイト光線は地獄の苦しみを味わい続けた者が初めて自分の技として昇華できる。それに改良前のアクマイト光線は…」

 

スウはピッコロ大魔王の配下の魔族に殺されている。しかし、ライにはそんな経験はない。

 

「アックマン、教えてやるのだ。」

 

アックマンの言葉を遮り、言葉を失っているライに占い婆が割って入る。

 

「占い婆様、いやしかし…」

 

「無意味ではないとわしの占いで出た。必ずその技はライの役に立つ。」

 

その言葉を聞いたライの顔に希望の色がともる。

 

「分かりました、婆様が言うのであれば。」

 

ー----

 

「アクマイト光線!」

 

悪の気と善の気が溶けあい体の内側から悪の気が膨れていく。操縦性なんてない。渦巻きながら前に進んでいくだけだ。父さんみたいに自在に技を打てるわけではない。額に両手を合わせてポーズを取らないといけない。そして何より、この技は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。内側から気が膨れていくゆえに気功波を撃って相殺することは善の気を放ち、悪に染まることを意味する。

 

「すぐに終わらせる。」

 

二人の決着は一瞬で着く。




ミライ12億
変身と界王拳20倍でこの値になります。さて、ミライは未来世界で何年も修業してますがその割に全然戦闘力伸びてないやんと思う方いると思いますが、人工月を作る修業、アクマイト光線の修業、常に最高のパフォーマンスで戦う修業と、戦闘力に出ない技能をこれ以外にも多数取得してます。
さてこの話でパワーボールを使うときにベジータと違って両手で作る描写があったのですが、これはこの花火パワーボールから着想を得ています。二つの性質を片手で再現するのではなく片手に一つの性質ずつ作って合わせるというやり方に気づいたわけですね。


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(第五十六話)必ず殺す技

「赤の次はピンクか。まあどうあろうとおれには…」

 

勝てないと続けようとした。しかしそれは許されない。

 

ドン!!

 

「うぐぅあ、あがあああ!!」

 

腹に強力な一撃を食らった十七号は腹を抱えて座り込む。

 

「このやろっ」

 

何とかかすむ目を開きミライの居場所を探そうとするが見つからない。

 

ガッ!

 

「うあっ」

 

後頭部に強い衝撃を受けて十七号は気を失った。

 

 

凄まじい衝撃波が何度も起こる。島の木々は爆ぜ、地面はえぐられる。島の形は変形しつつある。

 

「動きが鈍くなってきたんじゃないかい」

 

戦闘はライ有利に進んでいたが界王拳を二十倍にして戦い続ける負担は相当重い。攻守は完全に入れ替わっていた。気功波とエネルギー波がぶつかって煙幕ができる。

 

「舐めるな!」

 

煙の中に飛び込みながら、徐々に下がっていく倍率を再び二十倍まで引き上げる。意識をし続けなければ二十倍は維持できない。自分が最も力を引き出せる形態の修業を怠っていたことを痛感する。十八号の蹴りを同じく蹴りで受け止める。

 

(こんなの慣れるなんて数年じゃ無理でしょうけど…!)

 

体の内側からきしむような音が聞こえてくる気がする。界王拳を使った時に発生する独特な音はこれをごまかすためかもしれないと益体のないことが浮かんでは消えていく。十八号の拳を紙一重ではじく。

 

「波っ!」

 

「チッ」

 

衝撃波で煙幕が晴れる。少し距離が取れた。

 

「威勢がいいのは最初だけかい。やっぱり人間は私達とは違う。戦えば戦うほどに動きは鈍く、力は弱くなるんだから。」

 

煽られて失われていた冷静さが戻った十八号相手に勝ち目はなかった。

 

「人間の中にもその制約に相反する者がいるようだぞ。」

 

勝気なセリフに水を差したのはミライではない。十七号に言われて加勢しに来た十六号だ。

 

「十六号!」

 

「十七号とあの戦士は互角だったがこっちはお前が優勢か、十八号。」

 

「当然さ。この私がこの程度の人間にやられたりはしない。加勢はいらないよ。」

 

「それでも加勢するつもりだったんだが、どうやらそうはいかないようだ。そいつの相手はできるだけ早く済ませてくれ。」

 

そう言う十六号の視線は十八号達に向いてはいない。

 

「え?」

 

「油断しすぎだっ!」バシッ!

 

ライが両手を組んでハンマーのようにぶつけ叩き落とす。

 

「うわっ!」

 

追撃を仕掛けようと落下していく十八号に気功波を放つ。土煙が舞う。

 

「二人がかりだろうと、私は…!」

 

息も絶え絶えに十六号に視線を向ける。二十倍界王拳は切れている。十六号の視線の先にはミライがいた。

 

「よかった、十七号に勝てたんで…」

 

しかしその言葉は途中で途切れる。ただならぬ姿のミライに言葉を失った。界王拳なら深紅のオーラでおおわれているはずなのに、彼をまとうオーラは毒々しいピンク色だ。

 

「あんたも油断しすぎじゃないかい?」

 

「しまっ」

 

さっきの意趣返しだと言わんばかりに音もなく接近してきた十八号に今度はライが墜とされる。

 

「さっきのお返しだよ!」

 

島にたたきつけれるまでのわずかな間に無数のエネルギー波が追い打ちとして迫る。疲労を知らない人造人間から繰り出されるエネルギー波は先ほどライが追い打ちに使ったそれとは数も威力も段違いだ。

 

(これは、防げない…)

 

これを食らったらどうなるんだろうか、無茶をしすぎたことが動かない体から伝わってくる。だというのに思考は加速する。今のボロボロの自分がこれだけの攻撃を食らえばただでは済まない。何とか両腕を交差させて急所を守れば、そうすれば両腕は欠損するだろうが生き残れるかもしれない。仙豆は後何粒あるんだろう。

 

(私が生きているのは運が良かっただけだったんだ。)

 

死と隣り合わせの人生だと認識して(分かって)いるつもりだったのに理解して(分かって)いなかった。自分はどうしてこんな戦闘ばかりの世界に身を投じ続けていたんだろうか。腕は全く動かない。

 

(こんなになってしまったのが誰のせいかなんて、分かり切ってる。)

 

死を覚悟したその時最後に思うのは癖の強い黒髪の武闘家だ。こんなふうにして是非責任を取って欲しい。目から涙があふれてくる。こんな数瞬にも涙が出せるんだなと益体のないことを思いながら意識を手放した。

 

ピシュン!シュン!ドガガガガガバーン!

 

「鬱陶しいのがようやく一人。でもこれでお相子だ。そうだろう?」

 

凄まじい爆風も意に課さず十八号はいう。その声には怒気が孕まれている。

 

「ここに来たってことは十七号を殺してきたってことだ。お前も殺してやるよ。」

 

ミライは答えない。ただ圧倒的な威圧感をもって十六号と十八号の前に立っているだけだ。

 

 

「この気は!」

 

ピッコロの指示通りに逃げたヤムチャ達はライとミライが戦っていることを感じ取る。

 

「まさか、ライ達は十七号や十八号と戦ってるって言うのか!?」

 

いくら何でも無謀すぎるといいかけたが、ライとミライの気が膨れ上がったことでその言葉を飲み込んだ。

 

「あれは、ベジータが使っていた人工の月?」

 

クリリンが空で爛々と輝きだしたエネルギーボールを見てそう言った。

 

「じゃあ、ミライも人狼族ってことか。これなら…!」

 

十七号達に勝てるかもしれないと表情に希望がともる。しかしそれはピッコロが期待していたであろう二人の援護が来なくなったことを意味するのだ。

 

「俺、ピッコロの援護に行ってくる。」

 

「だめじゃ!」

 

天津飯がそう言って飛び立つ前に鋭い静止の声が入る。その声は亀仙人のものだ。

 

「お前達程度が助けに言ったところでどうにもならん。犬死する気か!」

 

一緒に飛び出そうとしていたクリリンやヤムチャに対して伝わるように言い放った。

 

「駄目で元々、それでも前向きでいたいんです。それが、」

 

「武闘家としての誇りです。」

 

その言葉をヤムチャが引き継ぐ。

 

「クリリン、武天老師様たちを頼む。」

 

「ッ!」

 

クリリンが唖然とする。二人は飛び出した。

 

「今のわしにはどうすることもできんのか、世界一の武天老師と言われたのも時代が懐かしいわい。」

 

動けないことを恥じる必要はないとミライさんから言われた。でもそれは彼が銀河パトロール隊員だからだ、武闘家でないからだ。今動かなくてもそれを責める者はだれ一人としていないだろうけど。

 

「俺も行きます。」

 

俺は武道家だ。

 

 

「そらっ!」

 

ビシッィ!

 

ゲロから放たれるエネルギー波を避ける。かすったために頬が切れる。接近して組み合う。

 

「この私に勝つなら力が互角では話にならんぞ?」

 

気を吸収されていることに気づいたピッコロが目から光線を放ちけん制する。

 

「その攻撃は面倒だな。吸収もしにくい。」

 

「へっ、貴様にやるエネルギーなんて一ミリたりともないんでな。」

 

「それにしてはもうずいぶんエネルギーを吸われている気がするが?」

 

形勢は明確にゲロ優位だった。それでも何とかくらい付けているのは神の経験に基づいた戦略がうまくはまっているからだ。消耗を抑え時間稼ぎにのみ徹した。先ほどゲロが言ったセリフは強がりでも何でもない事実なのだ。単独ではピッコロはゲロに勝てない。

 

「味方の援護も望めない状況、貴様に待っているのは死だけだ。」

 

「ほざけっ!」

 

ゲロに向かって行く。狙いは左脚。腕を破壊できればこちらに有利に傾くが、隙はほとんどない。蹴りを打ち込む。防がれる。左手で裂くように首を狙う。避けられる。

 

バッ

 

気合砲を食らう。距離を取る。

 

「衝撃波であろうともエネルギーには変わらん。お前はじわじわと負けて…ん?」

 

ゲロが目元を抑えて明後日の方向を向く。それにつられてピッコロも感知するミライの気が膨れ上がっていることに。

 

(この気はミライか?これほどの力を引き出せるなら人造人間など簡単に、いやしかし…)

 

戦いの最中、思考が戦闘以外のことに割かれるのは隙になる。普段のピッコロなら絶対にそんな隙は晒さない。それでも思考がそれたのはその気があまりに禍々しいものだったからだ。しかしその隙は相手に付け込まれることはない。自分以上に無防備に、邪気ある笑みでゲロはその方向を見ていた。

 

「あれは、そうか使()()()()。フハハ、今行くぞミライ!」

 

ドシュン!

 

ゲロが飛び立つ。自分の存在など意識していないかのように。

 

「あのやろう…!」

 

ドシュン!

 

体力はじわじわと削られてはいたが、まだ動ける。すぐにゲロを追い始めた。

 

 

「さっきからだんまりを決め込んじゃって、うざいんだよ!」

 

「待て十八号、迂闊に突っ込むな!」

 

グシャッ!

 

「あが、ぐぅっ…」

 

ゴンッ!

 

向かってきた十八号はミライによって一撃入れられた後叩き落される。水柱が上がる。

 

「十八号!」

 

「次。」

 

ガギッ

 

「くっ、押し負け…」

 

拳を受け止めようとした十六号を強引に殴りつける。島に吹っ飛ばされる。

 

「早く片付けないとまずそうだ。」

 

島に下りてきたミライ相手に十六号は構えをとった。

 

 

時は数日前に遡る。セルが細胞を採取するために使っていたスパイロボは地下施設にあったセルの完成を諦めて自身の修復に使った時のゲロによって映像がリアルタイムで伝わるように設定されなおされていた。

 

「まさかこんな形でスパイロボが機能するとは思わなんだ。」

 

自分の作ったスパイロボだが想像をはるかに超える情報を自分にもたらした。

 

「全て筒抜けだぞ、孫悟空達よ。それに…」

 

スパイロボは全部で八機ある。それぞれ悟空、ベジータ、ピッコロ、天津飯、ライ、ヤムチャ、クリリン、悟飯の戦闘力が最も高い上位八名にマンマークで情報を集めていた。そして、今ここに情報を送っているスパイロボは()()

 

「未来の情報を得られるとは思わなかった。」

 

未来世界でトランクスと未来のライに張り付いていたスパイロボはタイムマシンで時空を超え、ここに情報を送ってくる。

 

 

ドン!ゴン!バン!

 

ミライのラッシュに十六号は徐々押され始めてきた。アクマイト光線の悪の気は膨れ上がるもの。どんどんパワーもスピードも増す。

 

「ぐっ、うぅ…」

 

守りを重視した立ち回りでひたすら防御に徹する。しかしそれでも削られ続けていた。

 

ドン!

 

「ぐぉおお!」

 

岩壁にぶつかる。

 

ダダダダダダダダ!

 

壁にぶつけられ連撃を打ちづづけられる。

 

「う、うらあぁぁぁ!」

 

連撃を食らったボロボロの身体でつかみかかった。

 

「貴様のその膨れ上がる力は危険すぎる!この俺の使ってはならない最後の力で!」

 

「あがっ!?」

 

十六号の力が今までの比でないくらい膨れ上がった。引きはがせない。

 

「俺と一緒に死んでもらうぞ!」

 

「う、がああああああ!」

 

雄々しい雄たけび一閃、体が膨れ上がる。悪の気が増えて爆発する兆候が如実に表れた。そしてそれは自爆モードの十六号も同じだ。

 

「うおおおおおおおお!」

 

「十六号、止まれ!」

 

「っ!」

 

しゃがれた声が響く。起爆寸前の自爆装置の作動が止まり、膨れたからだがしぼんでいく。それにつられて自爆モードだからこそ引き出せていたパワーが収まっていく。

 

「くくっ!何もかもだ、私の思う通りに何もかもが進んでいく!」

 

そのパワーダウンがミライの力を上回る前にミライの身体にゲロの吸収装置が触れられる。

 

「永遠に気が噴き出していくエネルギータンク。最高じゃあないか。」

 

ゲロの力が無尽蔵に上がっていく。

 

「それ以上好きにはさせんぞ!」

 

シュォン!バババババババ!

 

追ってきたピッコロをエネルギー波でけん制した。

 

「こいつはアクマイト光線で悪の気がどんどん膨れ上がる。わしが吸収をやめればこいつは爆発して死ぬ。」

 

爆炎が晴れ、ピッコロに言い放つ。再び攻撃しようとしていたピッコロの手が止まる。しかしこのまま動かなければ無尽蔵にゲロが強化されてしまう。ピッコロの判断は早い。

 

「だとしても、お前を止める!」

 

ピッコロがゲロに向かって行く。凄まじい速度で殴り掛かる。

 

パシッ!

 

「本当に半端だな。ピッコロ。」

 

「ぐっ!」

 

神の知識があればこそ、ピッコロはミライを切り捨てる。しかし既にミライから大量に気を吸収しているゲロは既に片手間でピッコロをあしらえた。

 

「はあっ!」ブンッ!

 

蹴りを簡単に防がれる。

 

「だが、半端なりに目障りではある。」

 

「ぐわあっ!」

 

エネルギー波による気合砲でピッコロを吹き飛ばした。

 

「ぐっ、ぐぅぅ、このままお前を好きにはさせん、そのために、俺は神と同化した!」

 

気をためながら起き上がる。

 

「はあああああ!」

 

「愚かだなピッコロ、このわしに気功波は通用しないというのに。」

 

「魔貫光殺砲!」

 

必ず殺す技、だから必殺技と呼ばれる。吸収装置にやられないからこそ、ピッコロはまだ必殺技としてこの技を使う。

 

バッ!

 

片手を魔貫光殺砲に向けて、吸収装置を使う。気功波は曲がる。

 

「何?」

 

しかし、魔貫光殺砲は曲がらない。貫通力に優れたこの術はそう簡単には曲げられない。

 

グサッ!

 

吸収装置の吸収機構をものともせず、魔貫光殺砲はミライの心臓を貫いた。




自爆モードはポケモンで言うリフストやオバヒってイメージです。多分そのうち意味に気づくかと思います。


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(第五十七話)奮戦、地球人戦士

悟空ってかっこいいんですけどイケメンではないと思います。なんていうか、悟空はアイドルにはなれないと思いますし。でもこの話の悟空はイケメンです。


「生きて…る?」

 

「ああ、生きてるぞ。ここはあの世じゃねえ。」

 

死を悟った、死んだと思ったのに、助けられた。喜ぶべきことなのにまだ理解が追い付いていない。

 

「な、んで?」

 

「おめえは危なっかしいんだ。無理だって分かってもそれを何とかしようとするし、その果てに簡単に命を投げ出すしさ。心配したぞ。」

 

真剣な顔で言う悟空をみて泣きそうになる。生き残れたことの実感が追い付く。そして、自分が何もできずにやられた不甲斐なさもこみ上げる。

 

「うう、うあああ…」

 

涙がこぼれ出る。悟空が見ているというのに悟飯もいるというのに、止めることができない。

 

「無理すんなって言っただろ?」

 

悟空が困った顔で優しく頭をなでた。

 

 

「んなっ!貴様ライを…!」

 

心臓を貫かれ悪の気の膨張が止まる。

 

「う、うがが…」

 

ミライの動きを止め続けていた十六号が倒れこむ。自爆モードを強制的に停止させられ、下がりゆく力でそれでもミライを留め続けた。負荷の許容範囲を超えている。

 

「きっさまあ!」

 

物凄い怒気を向けられたピッコロは既に逃げる気すら起きていなかった。

 

「好きにするんだな。もう俺にどうにかなる次元じゃない。」

 

「「違うっ!」」

 

「む?」

 

立ち上がり魔貫光殺砲を打った状態から腕をだらりと落とした状態でそう言ったピッコロに二人の声が重なる。

 

「今更貴様らが来たところでどうしようもないだろ。なぜ来た。」

 

「俺達が稼ぐ数秒で、悟空が駆けつけてくれるかもしれないだろ。」

 

「俺にも時間稼ぎくらいできるぞ。」

 

ヤムチャと天津飯がそれぞれ構えた状態で言った。

 

「気円斬!」

 

「見えているぞクリリン。」

 

真後ろから気配を消した不意打ちをゲロが吸収する。

 

「ピッコロの言うとおりだ。今更貴様等如きじゃ何もでがっ!」

 

操気弾がゲロを襲う。

 

「時間稼ぎには俺達一家言持ってるんだ。」

 

ヤムチャが虚勢を張りながら不敵に言った。

 

「まあ良い。少しくらいは相手してやろう。最高のエネルギータンクを潰されて気分が良くないんだ。雑魚をいたぶるのも悪くなかろう。」

 

「ピッコロ、お前はもう一度天界に行って修業してこい。隙は俺が作ってやる。見逃すなよ。」

 

天津飯がピッコロにそう言葉を残して、クリリンとヤムチャに続いた。

 

「気功砲!」ピシュン!

 

ドゴォォォォン!

 

爆音が響く。

 

「気功砲、範囲が広すぎて吸収しきれんか。まあ今更この程度吸収する必要もない。」

 

「「「残像拳!」」」

 

三人が残像を大量に発現させる。

 

「下らんな。残像にはエネルギーがないのだから。」ド、ガ、バッ!

 

「うっ」

 

「ぐっ」

 

「ぐわっ」

 

「本体を見つけることなど造作もない。」

 

天津飯とクリリンの鳩尾に一撃入れ、ヤムチャを気合砲ではじく。天津飯とクリリンが腹を抑えて座り込む。それぞれ一撃入れれば、残像の数が減り始める。

 

「はいッ!」ボゴッ!

 

「同じ手を食うか!」

 

吹き飛ばされながらもヤムチャが地中から繰気弾を出す。一つ目は吸収する。

 

「はいッ!はあ!そりゃあ!」

 

一つ目が吸収されたのを皮切りに二つ三つ四つと一斉に気弾が地中からでてきた。

 

「うっとおしいやつめが!」

 

空中に飛んで距離を取り、一気にヤムチャの繰気弾を吸収しにかかる。しかしそのゲロに上空から気弾の雨が襲い掛かる。

 

バババババババ!

 

「何?」

 

ピシュン

 

全身を囲うようにバリアを張った。

 

ガガガガガガガガガガ!

 

「ちくしょうっ!」

 

拡散エネルギー波を撃ったクリリンが悔しさに顔を歪める。

 

(なぜだ、あいつはうずくまっていたはずだ。)

 

地上を見る。未だクリリンと天津飯はうずくまったままだ。しかしクリリンの姿が少しずつ薄くなり消えて行った。

 

(四身の拳か!天津飯が使ってた技をクリリンが使ってくるとは。)

 

「攻撃を集中させるぞっ!」

 

ドドドドドドドドド!

 

バリアに向かって一つ消えてしまい二人となったクリリンとヤムチャが気弾を連続でぶつけ続ける。バリアにはひびすら入らない。

 

「雑魚の相手もつまらん、そろそろ殺してしまおうか!」

 

上空で気を打ち続けるクリリンとヤムチャに集中しているゲロは気づかない。うずくまった天津飯の姿もまた四身の拳の内の一体であることに。

 

「真・気功砲!」ピシュン!

 

ドゴォォォォン!

 

「「「あぁ!あぁ!あぁ!」」」

 

バリアにはひびすら入らない。しかしその衝撃はバリア越しにゲロに届く。ゲロが島にたたきつけられ、さらに地面は陥没していく。威力は三分の一、しかし密度は三倍だ。間髪入れずに気功砲が叩き込められていく。

 

「威力はほぼないというに…!」

 

球状に張ったバリアもろとも地上にたたきつけられる。バリアを解除する暇はない。解除すれば地上ににたたきつけられダメージまで食らう。

 

「ピッコロ!今ださっさと行けッ!」

 

ヤムチャがそう叫び、ピッコロは動き出す。

 

「天津飯、俺たちの気も使ってくれ、少しでも長くあいつらを留めおくんだ。」

 

クリリンとヤムチャが気を天津飯に渡していく。気功砲の砲撃は続く。

 

 

「恥ずかしいところをお見せしました。」

 

「気にすんな。おらのために戦ってくれてたんだろ?」

 

人造人間の目的は孫悟空の抹殺が第一目標である。悟空のうぬぼれでもなんでもなく、そういう側面はある。

 

「…あなたのためじゃなくて地球のためです。」

 

人の姿に戻るころには何とか涙を引っ込めてライは悟空に言った。

 

「もう大丈夫みたいだな。それじゃあ悟飯のこと少し見ててくれ。」

 

それもそうかと頷く悟空は気を探り、クリリン達が戦っていることを悟る。天津飯が命を削る大技を連発しきったことも。

 

ピシュン!

 

「あ、ちょっと!」

 

 

「「「あぁ!あぁ!あぁ!」」」

 

気功砲を乱発する天津飯はもちろんのこと、分身体でありながら気を分け続けるクリリンも負担は大きい。

 

「も、もうだめ、だ…」

 

クリリンの分身体がそう言い残し消え、天津飯の分身もそれに応じるかのように消えた。

 

「「あぁ!あぁ!あぁ!」」

 

「天津飯、すまん…!」

 

クリリンの本体も気を分け与えすぎた反動で舞空術すら保てずに島に落ちていく。天津飯三人目の分身体も消えた。

 

あぁ!あぁ!あぁ!」

 

「もう、限界だ…!」

 

あぁ!」

 

ヤムチャも限界を迎え落下し、一発分遅れて天津飯も落ちた。

 

「ようやく終わったか」

 

バリアを解除し、落下した三人を確認する。

 

「ピッコロは…チッ、スパイロボの限界高度を超えているようだな。」

 

ピッコロに張り付かせたロボの位置を調べようとしたがそれは既に破壊されていた。

 

「まあ良い。十七号達の破壊も一応確認しておけば後は孫悟空だけだ。こいつらを殺せば向こうからやってくるだろう。」

 

「そうはさせねえ。」

 

「む?」

 

瞬間移動で天津飯とヤムチャのところに移動した悟空はゲロを睨みつける。

 

「孫悟空、まさかもう来てくれるとはな。」

 

「おめえの目的はおらだろ、これ以上おらの仲間を傷つけるんじゃねえ。」

 

「お前や十七号達以外は興味はなかったんだが、わしに牙を向けるなら話は別だ。きっちり殺す。」

 

シュォン!

 

そう言うとゲロが悟空から最も離れた位置に倒れているクリリンに向かってエネルギー波を放つ。

 

「クッ!おめえっ!!」ピシュン!

 

瞬間移動でクリリンを助け、その後天津飯のところに瞬間移動しなおす。

 

「瞬間移動、厄介な能力だな。貴様の仲間を一人は始末しておきたかったのだが。そうすれば敵討ちに来るだろう?」

 

「…一日だ。」

 

「一日?」

 

「一日だけ待ってろ。おめえをぶっ壊してやる。」

 

悟空は宣言する。今のままでは勝てないけれど、必ずお前を超えて破壊してやると。

 

「はっ、何を言い出すかと思えば、たった一日でだと?吸収装置もない貴様には無理な話だ。まあたとえ一年あっても無理だがな。今の私はライからエネルギーを奪いつくした。」

 

クリリン達がうめき声をあげる。すぐに仙豆を食べさせないと死んでしまってもおかしくない。

 

「おめえを超える。必ずだ。」

 

そう言って悟空はその場を去った。

 

「自分から来てくれるなら一日くらいは待ってやるか、今はそれよりも十七号達だ。」

 

 

「ゲロは既にとんでもない強さになってしまった。もう誰にも勝てない、俺はそう思う。」

 

神殿に帰った悟空とほぼ同タイミングでピッコロも神殿に着いた。

 

「俺たちが命かけて守ったって言うのにひっでえなあ。」

 

仙豆を食べて復活したヤムチャがそう言った。しかしピッコロの顔は優れない。

 

「それより、やつがやけに俺達の事情に詳しい理由が分かった。」

 

そう言って破壊された昆虫型のロボットを出す。

 

「スパイロボってやつだろう。これで俺たちの情報を得ていたんだろうぜ。」

 

「だったらそれ、ブルマさんに調べてもらおう。どの程度まで詳しい情報を送ってたのか、詳しいことが分かるかもしれない。」

 

クリリンがそう言ってスパイロボをピッコロから受け取る。

 

「スパイロボが一機であるはずはないが、天界には来れないようだ。下界に下りたら注意しておけ。」

 

ピッコロの警告を受けて、クリリンが西の都に向かった。

 

 

 

「いない、やつはライに殺されたんではないのか?」

 

ミライに付けていたスパイロボから送られてきた映像によれば十七号と十八号は倒されたはずだ。しかし、死体となったはずの二人はいない。

 

「…十六号、貴様。」

 

後ろに付き従ってくる十六号の姿をよく見てみれば、機械でできたからだは濡れている。

 

「逃がしたな?」

 

「俺に下された命令は孫悟空の抹殺だけだ。」

 

失敗作が、とこぼし十七号達を探し始めた。十六号はまだついてくる。失敗作だが、孫悟空の抹殺という命令に限れば忠実だ。孫悟空を殺すことを阻止しようとする雑魚掃除には役に立つだろう。こいつのパワー数値は十七号をも凌駕する。私を除けばこいつは間違いなく最高戦力だ。手助けが必要ないレベルにはライから力を吸収したが。

 

 

「ライ、ちょっといいか。」

 

クリリンが下界に下りていくのを見送った後、ピッコロが声をかける。あまり他の仲間の前ではしにくい話なんだろう。想像はつく。

 

「どんな状態だったのかおおよそ読めてます。別に恨んでなんていませんよ?」

 

「いや、しかし…」

 

「そもそも私は十八号を止められずに悟空に助けられてますし責めることなんてできません。むしろ感謝しなければいけないとまで思いますが…」

 

流石にそこまで割り切れません、と続けた。ミライは強い。彼の戦闘力だけで言えばとびぬけてこそいなかったが、彼の継戦能力はとびぬけていた。どんなに戦っても疲れない人造人間とため張れるくらいに。

 

「私はミライが勝って援護に来てくれるまで粘らなければいけなかったのに、それができずに彼を焦らせてしまった。責められるべきは役割を果たせなかった私です。」

 

二十倍界王拳を乱発し、気は相当乱れていた。自分が十七号との決着をつけるまでに持たないと、ミライは思っていたはずだ。

 

「辛い役目を押し付けてしまってすいませんでした。」

 

「いや、お前は…お前も、最善を尽くした結果だ。謝ることはない。」

 

未来の自分が殺されたというのに、涙はもう流しきったのだろう。割り切れきれずとも吹っ切った、そんな表情だった。

 

「おーい、トランクスとベジータ、精神と時の部屋から出てきたぞ!」

 

遠くでミスターポポがそう呼んでいるのが聞こえる。ライとピッコロは二人の元に行った。




どこかで悟空にちゃんと振られるライを書きたい。


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(第五十八話)人造人間十六号

脳内にいろんな設定は浮かんでるのですけどそれを記述するのが難しくて矛盾が湧きそうだったり後の展開に不都合ができそうだったり大変です。


「お待たせしました。」

 

精神と時の部屋は開かれ、中からトランクスが出てくる。続けてベジータも外に出てきた。

 

「本当に待ったぞ。」

 

「すいません、父さんは中に入って二ヶ月ほどで超サイヤ人の限界を乞えたみたいですが、それでも納得するまで修業を続けていたので、それでここまで時間が…」

 

遅れた事情を話すトランクスの言葉をベジータがさえぎる。

 

「トランクス、余計なことを言うな。」

 

その不敵な笑みに悟空は修業がうまくいったことを確信する。

 

「うまくいったんだな、ベジータ。」

 

「ああ、貴様がこれからこの部屋に入っても無駄になる。人造人間どもは俺が片づけてしまうからな。」

 

「ベジータ、お前がどれほど強くなったかは知らん。だが、人造人間たちを舐めすぎている。」

 

「お前がその部屋で修業している間にゲロはとんでもない力を手に入れてしまった。」

 

「ベジータ、おらもちらっとだけゲロを見てきたが、とんでもねえバケモンだったぞ?」

 

ピッコロや天津飯、悟空までもが忠告するが、ベジータの自信は崩れない。そしてそれは意外なことにトランクスもだ。

 

「相当、強くなったんですね。二人とも。」

 

ライが二人をそう評した。そうしていると、ブルマの声が神殿の外から響く。

 

 

「ブルマ、なんでここに?」

 

「亀ハウスに行く途中でクリリン君に会ってね。そこでここのことを聞いたのよ。クリリンの持ってたのはカプセルハウスで見るために先に届けてもらってるわ。それで目的は…」

 

最初に外に出た悟空がブルマにそう問うとブルマはそう答えるがトランクスを見たブルマは話を止める。

 

「あら!?」

 

ブルマが駆け寄る。

 

「あんたなんで髪型が変わってるの?かつら?」

 

そう言って髪を引っ張って不思議がる。トランクスから精神と時の部屋について聞きだした。

 

「そんな下らんことをしに来たんじゃないだろう。用があって来たんじゃないのか!?」

 

「ああ、そうそう。」

 

そう言ってブルマはフリーザ兵が使っていた戦闘服を取り出した。

 

「ライやピッコロ達は着ないの?」

 

「フリーザやサイヤ人たちが着ていた服など、着る気にならん。」

 

「俺もだ。ベジータと同じ服なんて死んでもごめんだ。」

 

ピッコロと天津飯が突っぱねるが、ライはそう言う理由ではないらしく、少し困ったような顔をした。

 

「私はその…変身があるのでこういうしっかりした服には向かないんです。」

 

「確かにそうね。今度貴方にあう戦闘服も作ってあげるわね。」

 

だから絶対に人造人間をベジータ達に倒してもらわなきゃ、と続けた。二人が話しているうちにベジータは飛び立ち、トランクスも悟空から仙豆を受け取り飛び立とうとしている。

 

「トランクス!」

 

「何ですか母さん?」

 

「絶対に死んじゃだめよ。二人ともだからね。」

 

母親らしく妻らしいセリフ、こういうところが尊敬できる、自分にないものを持っている。

 

「はい。」

 

トランクスも頷き飛び立った。

 

 

「それじゃあ、次はおらたち親子の番だな。」

 

「はいっ!」

 

悟空と悟飯が精神と時の部屋に行くのを見送った後、天津飯がピッコロに問いかける。

 

「ベジータはゲロを見つける算段があるんだろうか。」

 

「ある。奴はスパイロボの存在を知っていたからな。」

 

「!」

 

「気づいていたならスパイロボを壊しちまったてことだろ。だから何だって言うんだ。」

 

ヤムチャが疑問を投げかける。

 

「多分、壊してない。」

 

「壊してない?」

 

「ベジータのやりそうなことですね。十七号や十八号は偵察をするような性格ではないでしょうし、となればそのロボを使っているのはゲロしかいない。ベジータが気をある程度出して飛んでいるのもスパイロボにベジータをもう一度見つけさせてゲロに場所を知らせるためですか。」

 

「ベジータを見つければ多分ゲロは襲いに行くだろう。探すまでもない。」

 

 

「父さん、どうしてここに?」

 

ベジータを追いかけていたトランクスはベジータが止まった場所に首をかしげる。

 

「ここに居れば、ゲロのやろうがやってくるからだ。」

 

不機嫌に言い放つ。その場所は数日前にベジータがゲロに倒された場所だった。

 

「あいつ以外はもはや雑魚だろう。まあゲロのやろうも雑魚だとは思うがな。まあとにかく、ゲロを殺して俺が全宇宙ナンバーワンであることを証明する。」

 

「強気なセリフだな、ベジータ。」

 

そう宣言した直後ドクターゲロが姿を現した。その後ろには十六号も控えている。

 

「卑怯な不意打ちからくると思っていたが、意外だな。」

 

「今の私にもう敵はいないからな。」

 

「ほう、では後ろの奴は飾りか?」

 

十六号に視線を向けて問う。

 

「当然だ。こいつは勝手についてきているだけだからな。それに、貴様等が共闘したところでこの私には敵わない。」

 

レーダーで調べるまでもないと構えをとった。吸収形態から通常形態に変わりゲロの気を感じられるようになる。

 

「ははははは!知らないというのは幸福なことかもしれないな。」

 

超化する。拳を振るう。

 

「何だと!」ガシッ!

 

辛うじて受け止める。

 

「確かに相当パワーを取ったようだが、この俺には敵わない。」

 

感心したようにベジータが言う。余裕の表情は崩れない。

 

ドガン!

 

蹴り飛ばす。岩壁にぶつかる。呆然と、信じられないものを見るようにベジータを見た。

 

「あ、ありえない。たかが数日だぞ。私はあの時よりはるかに強い力を手にしているんだぞ!?」

 

「計算だけで分かるものじゃない、俺達サイヤ人はな。」

 

不敵に言い放つ。しかしそれでもいくらか平静を取り戻したゲロは言った。

 

「いや、まだだ。貴様一人なら、まだ負けん…!なめるなよ、ベジータ如きが…!」

 

ガッ!ガッ!

 

両手で組み付く。

 

「うおおおお!」

 

「はあああああ…はあー-!」ドガッ!

 

「おぐぅ…」

 

ベジータに蹴りを入れられてうめき声が漏れる。

 

「そらっよっと!」ゴシッ!

 

「うがっ!」

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「こ、この…まだ負けんぞ!」

 

「なかなかタフだな。おっと、人造人間に痛みなんてないか。」

 

(なぜだ、こいつのエネルギーを吸収しているのに、まるでパワーが落ちない。)

 

「お前もあの十九号とかいうやつみたいに首だけにしてやる…よっ!」

 

ゲシッ!

 

「っ!」

 

掴んできたゲロを蹴り飛ばしきる。ゆらゆらと立ち上がった。

 

「どうやら本当に相当のパワーを吸収したようだ。どうやって吸収したのか興味はあるが…まあ、貴様を殺せばカカロットたちから聞き出せるだろう。」

 

そう幻滅したように言うベジータにはもう自分が脅威として映っていないことなど明らかだ。

 

「な、め、るなあ!」

 

戦闘形態を変える。エネルギーが消費されていく。力は引き出される。

 

「お前如き、お前如きにこのわしがやられるわけにはいかんのだッッ!」

 

ガッ!ババババババ!

 

エネルギー波を乱射して撹乱し、その隙にベジータ接近して殴りかかる。

 

「む!?」

 

顔面を殴られ唇が切れる。少しよろけた。

 

「ふっ。」

 

「やはりこんなものか。だが超サイヤ人を超えた俺には遠く及ばない。」

 

「何だと?」

 

「はああああああああ!」

 

ベジータが気を高め始める。筋肉は肥大化し、体が一回り大きくなる。超サイヤ人を超えた姿を披露する。

 

「き、貴様は本当にあのベジータなのか…?」

 

レーダーで強さを図ったゲロが戦慄した。不敵に笑う。

 

「違うな。俺は、超ベジータだ。」

 

「超ベジータ?」

 

ドンッ!

 

そう言いきって間もなく、速攻で接近しゲロを殴り飛ばす。空中に飛ばされたゲロに追撃とばかりに蹴りを打ち込んだ。

 

「おげ…あ…」

 

「そらっ!」バンッ!

 

おまけとばかりに肘うちを放ち、ゲロを海に叩き落す。水柱が上がる。

 

ザバッ

 

「計算外だ。あいつがこの数日でここまで力を上げることがありえるなんて…!」

 

「どうやら修業で差が付きすぎてしまったらしいな。」ゴォン!

 

「あぐっ」

 

「そぉらもう一発だ。」ゲシッ!

 

「うぐぅ!」

 

バン!ガン!ドン!

 

「あ、がぁぁ…」

 

右腕でゲロを掴み左腕で連打を浴びせていく。最初の数発はガードできていたが、それができなくなっていった。

 

「これで終わりだな。」

 

ゲロを投げ捨てて止めとばかりに気功波をため始める。

 

「こんなところで、こんなところでわしは…!」

 

戦意を喪失したゲロが岩壁にもたれかかりながらそうこぼす。もはや気功波を吸収する気すら起こっていない。しかし、そんなゲロを助ける者が存在する。

 

トン。

 

「む?」

 

ドンッ!

 

「うがっ!」

 

ベジータが殴り飛ばされた。

 

ヒューン!ドッシャアァン!!

 

「なっ、父さんが!?」

 

「じゅ、十六号?」

 

傍観を決めていたトランクスが動揺し、しかしそれは助けられた本人も同じだ。

 

「ありえない。十六号のパワーではベジータを吹き飛ばすことなどできはしないはずだ。まさかっ!」

 

「貴様…ゲロのやろうより強かったとは思わなかったぜ。少しは楽しめそうだ。」

 

吹き飛ばされたベジータが起き上がりそう言い放つ。

 

「ドクターゲロは殺させない。」

 

「十六号は自爆モードに移行している。だが…」

 

十六号は自爆モードになってから一度キャンセルされている。それから調整もしていない今、自爆モードに移行したときのパワー上昇率はとんでもないが、基礎パワーは半減以下だろう。自爆が発動するまでは五分。残り一分になれば止めることはできなくなる。それまでに決着をつけることは不可能に近い。

 

「うおおおお!」

 

ビュン!バッ!ガスッ、ガシッ!

 

十六号の凄まじいラッシュをベジータは避け、あるいは避けきれずにかすり、最後には受け止めた。

 

「これだ!これなんだよ!俺がやりたかった戦いはこういうものだ!!」

 

ドンッ!ガガガガガガガガ!

 

ベジータは歓喜し、ベジータは十六号と打ち合う。

 

ドンッ!

 

ベジータが一撃食らう。

 

「まだまだぁっ!」

 

攻撃を仕返す。

 

ゴンッ!

 

「うぐっ!」

 

再び十六号が攻撃を入れる。

 

バンッ!

 

ドン!ドン!ドドン!ドドドドン!

 

衝撃波が舞う。恐ろしく強い力が周囲を埋めつくす。

 

「い、今のうちにゲロに止めを…」

 

ベジータと十六号が戦っている中、トランクスがゲロを倒そうと近づいていった。

 

「ッ!そうはさせんっ!」

 

「んなっ!」

 

それに気づいた十六号がトランクスに襲い掛かる。

 

バン!バン!

 

トランクスと十六号が組み合う。

 

「うおおおおお!」

 

「くっ、おおお!」

 

それをベジータは黙っていない。トランクスを蹴り飛ばす。

 

「そんな雑魚に構うな、全力で来い。」

 

ゴスッ!

 

すぐさま腕を外しロケットパンチを放つ。急に飛んできた拳をもろに食らう。

 

「ヘルズフラッシュ!」

 

そしてそのままに必殺のエネルギー波を撃つ。狙うはトランクスだ。

 

「あの野郎!」

 

ヒュンッ!

 

飛ばされた腕を投げ返してぶつける。

 

「あがっ!」

 

二人の実力は伯仲していた。ベジータがトランクスを蹴り飛ばした隙を十六号がロケットパンチでついたように、十六号がヘルズフラッシュをトランクスに打った隙をベジータが突く。

 

「あいつの邪魔をする余裕などないはずだ。俺に集中しろ。」

 

「そうはいかない。俺は、俺はドクターゲロを守る。」

 

投げ返された腕を付けなおし、構えをとる。

 

「人造人間のくせに地球人みたいな甘ったれたことを言うもんだな。反吐が出る。」

 

だが、と言葉を続けてトランクスに向かって叫んだ。

 

「トランクス、手を出すなよ。どうやらこいつはゲロのやろうが気になって仕方がないようだからな。」

 

「なっなにを言ってるんですか!」

 

ゲロを攻撃すれば守るように動く十六号は隙だらけだ。その隙を突けば、確実にベジータは勝てる。もちろん、トランクスがゲロを逃がすことなく。しかし、トランクスは渋々ながらも攻撃しようとしていた構えを解き、それでも逃がすまいとゲロの近くに立ち戦いの様子を見始めた。

 

「さあ、存分に俺と戦ってもらうぞ。」

 

「悪いが、すぐに決着をつける。」

 

エネルギーが暴走を始めてもう二分以上たっている。自爆モードは五分経てば自動的に爆発する。あと二分以内にベジータとトランクスを倒さなければいけない。それができないなら二人を道連れにする。

 

ドン!ドン!ドドン!ドドドドン!

 

凄まじい衝撃波が地上を再び支配した。その衝撃波は数十秒経ち唐突に終わりが来る。

 

「グハッ!」

 

十六号が島に叩き落された。奇しくもゲロの目の前だ。

 

「チッ!貴様ずっとその死にかけを気にしやがって。実力が近い者同士の戦いで余計なことを考えればどうなるかなんて、ガキでも分かる。」

 

片腕は外れ、頬はえぐれ、耳飾りが砕けて落ちた。それでもまだ立ち上がる。後ろで壁にもたれかかっているゲロを庇うように。

 

「そんなになっても、いやそんなになるほどにその死にかけが大事か。」

 

「なぜだ、わしを守れなどという命令は、いや、そもそも自爆だって孫悟空の抹殺以外には使用できないように設定していたはずだ。」

 

「俺はあなたに、過去と決別して欲しかった。

 

ベジータに突っ込む。反撃を食らう。片目の機構が機能しなくなる。しかしそれでも、左腕でベジータを掴んだ。

 

「バリアを張れ!」

 

自爆が始まるのを実感する。いくら基礎パワーが半分以下になっているとはいえ、この距離ならベジータは確実に巻き込める。近くにいるトランクスもドクターゲロがバリアを張って閉じ込めてくれれば間違いなく道連れだ。

 

「はっ!」

 

ドヒュゥン!

 

しかし慌てた様子もなく、ベジータは十六号気合砲で弾き飛ばす。左手はもげた。岩壁にもたれかかるゲロにぶつけられる。

 

ガン!

 

「自爆しようとしていることくらい気づかんとでも思ったか?」

 

自分の身を犠牲にしようとしているやつは皆似たような顔をする。フリーザ兵として地上げ屋をやっていた時、そんな奴は腐るほど見てきた。

 

「あがっ…」

 

身体が膨れ始めた。もう止めることはできない。ドクターゲロだけでもとゲロを投げ飛ばそうとするが、両腕が取れている。十六号の顔が絶望に染まる。

 

「もういい、もういいんだ十六号。」

 

しかしそのドクターゲロの顔はつい先刻まで驚愕の表情だったとは思えないほどに、トランクスやベジータが今まで見たこともないような表情で、ゲロが十六号に言った。

 

 




少しわかるゲロの戦闘形態

・解放形態
吸収した力を消費するときの形態です。通常形態よりもはるかに強い力を発揮できますが、吸収した力は消費され減っていきます。エネルギー波を撃たないときにもできますが打つときは必ずこれです。ゲロなら1億5000万+吸収した力×2となります。

これでゲロの形態は全部書きました。なかなか魔改造されたと思ってます。まあこの話ではすでに実力が足りてませんけどね。原作のベジータみたいに相手が悪かっただけです。ベジータはいつも嚙ませしてましたけど強いって感じるのと似た感じで。


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(第五十八.五話)ゲボ

時系列的には第二十三回天下一武道会終わってからラディッツが来るまでの間くらいを想定してます。


十六号を造ったのは妻が、オトが死んでからのことだ。永久エネルギー炉を完成させ、孫悟空への復讐が成ると確信したとき、もう何日もオトが来ていないことに気づいた。

 

「はは、ハハハ!ついに、ついに完成したぞッ!!」

 

この喜びを共有しようとオトを探し回るも見つからず、自室にいるのかと興奮のままに扉を開けた。

 

「オト、聞いてくれ!永久エネルギー炉が完成したんだ。人類の英知に唾を吐きかける最強の機構が爆誕した!これで孫悟空に復讐できるッ!」

 

研究者の自室と聞いてどんな部屋を想像するだろうか。いろんな資料で雑多な部屋を想像する人が多いかもしれない。実際、ゲロの自室兼研究室は実験器具で散らかっている。そしてそれはゲロに匹敵するくらいに優れた研究者であるオトの部屋も似たようなものだった。

 

「オト?」

 

しかし、ゲロが入った部屋は間違えてしまったかと思うほどに綺麗になっていた。研究関連の物であふれていたはずの部屋にはほとんど何もない。数十年前に開発してプレゼントした睡眠カプセルだけが、その部屋がオトの物であると主張している。

 

「何だ寝ていたの…か。それ、は、すまなかっ、た。」

 

声が震える。カプセルの中で目を閉じているオトからは命の鼓動を感じない。ミイラのようだ。

 

「いや、質の悪い冗談だろう?」

 

このカプセルは健康状態もチェックする物だ。中の人に異常があればアラートが鳴る。それに気づけないことなんてあるはずがない。たっぷりと数十秒時間をかけてふと冷静になる。

 

「違うか。」

 

ずっと孫悟空の復讐のことだけを考えて、妻を顧みなかった自分が気づけないのは当たり前だ。悲しみはある。しかしそれは成果を共有できる者がいなくなったことに対してだ。愛する者が死んでしまったことに対しての悲しみではない。あんなに愛した妻だったのに、その愛情はどこに行ってしまったのだろうか。

 

「私は、何のために孫悟空に復讐したいのだったか。」

 

考える。自分の原点は、なぜ軍に傾倒するようになったか。机に置手紙が置いてあることに気づく。たった一文だけだが妻の字だ。一目見てそれと分かったことに驚きつつそれを読んだ。

 

ゲボに囚われないで

 

「ハッ!この私が息子に囚われているとはよく言ったものだな。」

 

囚われてるとすれば孫悟空にだ。そいつのために私は研究に狂ったのだから。しかし、ふと思う。

 

自分は今、息子に対して何を思う。妻に愛情がなくなってしまったように、息子に対しても愛情を感じなくなっているのだろうか。

 

どうなるのか、考えるのが怖かった。だから、彼をモデルにした人造人間を作ってみよう。今までの十五体のノウハウを集結して、開発したばかりの永久エネルギー炉を使って、最高の人造人間を造ろう。それを前に自分は何を思うか、確かめよう。

 

 

目の前にはくたびれた老人がいる。データによるとこの老人は私の父親のようだ。

 

「目覚めたか、私はお前の生みの親、いや、お前を造った研究者ドクターゲロだ。」

 

父と入力されていたデータから創造主に書き換える。自分はアンドロイド、孫悟空を殺すために作られた殺人兵器。この人は息子を愛せなくなっていたらしい。

 

「お前の目的は孫悟空の抹殺だ。」

 

「そうか。しかし孫悟空のデータはまだ俺にインプットされていない。」

 

「まだ孫悟空のデータを集めきれていない。だからしばらくはお前を使うつもりはない。お前を起動したのは動作確認と最終調整だ。数日後それが終わればまたしばらく眠っててもらう。」

 

「分かった。」

 

やはり自分は孫悟空に囚われている。自分はただの復讐鬼だ。十六号を見て、見た目はゲボとうり二つのそれを見て、ゲロは復讐に身を焦がす。

 

 

「俺はあなたに、過去と決別して欲しかった。」

 

ボロボロの十六号にそう言われて思い出す。自分が孫悟空に復讐したかったのはレッドリボン軍が壊滅させられたからだと思っていた。それはある意味で正しくある意味で違う。レッドリボン軍に入れ込んでいたのは、依存していたのは、ゲボの死に囚われていたからだ。

 

自分はなんと愚かだったのだろう。過去に囚われた私を変えようと十六号は、私の作った息子はやりたくもないはずの人殺しを忠実に遂行しようとしていた。そのように振舞わせてしまった。

 

「もういい、もういいんだ。十六号。私が間違っていた。」

 

気づけばそう言葉を発していた。




前話の滲み文字は過去と決別して欲しかったって書いてありました。まあ滲み文字ってちょっと工夫すれば読めるようになるのでもう知ってる人もいるかもしれませんけどね。これどう考えても欠陥仕様。


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(第五十九話)現代の結末

二次創作は原作の終わりがちゃんとあるから間延びしても完結に向けて確実に進んでいる実感があります。人造人間編に限らずもっとコンパクトに出来ればよかったんですけどね。


「な、何を言って…」

 

十六号が動揺しているうちに、時間切れが来る。体は膨れ、身動きが取れなくなり始める。

 

「レッドリボン軍に、孫悟空に囚われるあまり大切なものを見失っていたんだ。でももういいんだ十六号。私が間違っていた。」

 

ザシュッ!

 

「あ、が…」

 

自爆モードに入って自分でも解除することができなくなって尚、生き残る方法を、ゲロは知っている。

 

「十六号に付けた爆弾はここら一帯を平にする。貴様等でも防ぎきれない威力でだ。」

 

「な、なんだと!」

 

ベジータが驚愕の声を上げる。一瞬だけ視線を後ろに向けた。

 

「だが、わしなら防ぐことができる。…交換条件だ。そいつを生かせ。貴様等の科学力でもそれくらいはできるはずだ。」

 

首だけになった十六号を動揺しているトランクスに向かって投げる。

 

「お前はわしの最高傑作だったんだな。造ってよかったぞ。」

 

首が切れた十六号の身体と自分を囲うようにバリアーを張る。ただのバリアーではない。今までベジータやミライから吸収したエネルギーすべてを消費して強固なものにする。

 

「待て、待ってくれ、父さん!!」

 

十六号の叫びは届いたか、最期に泣きそうな顔となったゲロと目が合った。

 

キーン、ドッゴオオオオオオオン!

 

「ぐっ!」

 

「この威力はっ!」

 

バリアは張られたままだというのに、すさまじい爆音に爆風がバリアの外まで届いてくる。耳鳴りが収まり、バリアがあったところを見ると、そこには何も残っていなかった。

 

(恐ろしい威力だ。俺でも防げたかどうか)

 

トランクスがそう思うほど、パワーだけならばセルすらも凌駕するほどの力を手に入れて、その弱点を気づいていないトランクスがそう考えてしまうほど、その爆発は凄まじく、それをバリアの中で収束させ切ったゲロの力がとんでもない物であったと痛感する。トランクスはあのバリアが吸収した力をすべて使いきる一回しか使えない技だと知らない。

 

「俺と戦うときは手加減してやがったんだ…!」

 

そしてそれはベジータもだ。つい先ほどまで圧倒していた相手が実は本気でやっていなかったと感じてしまった。自分を凌駕しうると痛感してしまった。

 

「俺はこいつらガラクタ人形に、勝てなかった。」

 

ドシュン!

 

ベジータが飛んでいく。

 

「最後に人造人間に救われるとは思わなかったな。あんな奴の交換条件でも、ちゃんと果たさないとか。」

 

爆風で機能停止したのか、何の反応も返さない十六号をトランクスはカプセルハウスに持っていった。

 

 

「すいません、本当は昨日のうちに事情を説明しに戻るつもりだったんですが…」

 

「気にするな、大体の事情は俺が見ていたからな。」

 

十六号をカプセルハウスでブルマに預け、事情を説明しようと天界に行こうとしたトランクスだったが、ブルマの両親につかまり、そこで一晩過ごすことになっていた。

 

「同じ一年の修業だったのに、どうしてこうも成長速度に差があるんですかねえ。圧倒的だったじゃないですか。」

 

一晩たち、天津飯とヤムチャは下界に下りた。今天界にいるのはライとピッコロ、修業中の悟空と悟飯、そして天界の管理者であるミスターポポの六人だ。

 

「それでも最後にはゲロに救われました。俺も父さんも。」

 

「そう言えばそのベジータはどうしたんですか?」

 

ベジータが天界についてこないのは理解できるが、どんなに気を探っても地球上にベジータの気を感じなかった。ベジータほどの実力であれば、意図して気を抑えた状態でなければ地球のどこにいても分かる。

 

「父さんは、多分武者修業に言ってるんだと思います。俺が十六号をカプセルコーポレーションに持っていったときに、少し前に宇宙船に乗ってどこかへ行ってしまったとクリリンさんから聞きました。」

 

「絶対の自信を三度へし折られて、それでもまだ上を目指すんですか。」

 

一度目は先を越されて超サイヤ人に覚醒した下級戦士に、二度目は天下無敵のはずの超サイヤ人で負けたことに、そして超サイヤ人の壁を越えても人造人間に及ばなかったことに。

 

「その飽くなき強さへの執着が父さんを純粋のサイヤ人足らしめてるんです。」

 

そう言ったトランクスは満足げだ。精神と時の部屋での一年間は、不器用な親子の関係に変化をもたらしたのか。

 

「それで、あの、ミライさんはどこに?」

 

満足げな表情から打って変わって不安の色を濃くしてトランクスが聞く。否、もう気づいている。気を感じ取れないということがどういうことか。自分が精神と時の部屋にいる間に何があったのか。

 

「ミライ、は」

 

「ミライは人造人間十七号達との戦いで死んだ。」

 

ライが言いよどんでいる間に、ピッコロが言い切る。

 

「やっぱり、そう、ですか。でも十七号達はピッコロさんとライさんが仇を討って倒してくれたんですね。」

 

「それは…ミライは十七号と十八号を倒して私を助けるために自滅前提の技を使ったんです。それで二人を倒してそのまま。」

 

私のせいで師匠を二度も失わせてしまってすいませんと謝るライに慌ててトランクスが言った。

 

「ミライさんは俺を鍛える時に言ったんです。大切な人を守るために自分を鍛えているって。ライさんは、ライさんも、ミライさんにとって大切な人だった。これはそれだけの話です。俺に謝るのを見たらミライさんは怒りますよ。」

 

「俺が再び分離できれば生き返れたかもしれないんだが。」

 

地球の神龍は同じ人間は二度生き返らせることはできない。しかし、この世界でミライを生き返らせたことはない。試してみる価値はあることだった。三人の雰囲気が重くなる。

 

「そんなの簡単なことじゃねえか。ナメック星に行けば何度でも生き返らせる神龍があるんだろ?」

 

重くなった雰囲気を吹き飛ばすような明るい声が場に響く。

 

「「悟空!」」

 

「悟空さん、修業が終わったんですね。」

 

「ああ、しっかし、本当におらたちが修業している間に全部片付いちまうとは思わなかったぞ。」

 

ポポから話を聞いたのだろう。冗談めかしてそう言った。

 

「やけに早いですね。三時間くらいまだ時間はあったはずですけど。」

 

三時間、精神と時の部屋で言うならば一ヶ月半程度早く出てきた。

 

(超サイヤ人をごく自然な状態で維持している。超サイヤ人を超えるために原点回帰したってとこでしょうか。)

 

「これ以上身体を無理に鍛えても辛いだけだ。そんなのは修業じゃねえ。今の限界近くまでは鍛えられたつもりだ。」

 

「それはまあ、見てればなんとなく分かります。」

 

この二人の得も言われぬ威圧感、明らかに昨日までの二人とは違う。

 

「事情はあらかた聞いた。人造人間に殺されちまったのはミライだけじゃあねえ。ナメック星をおらの瞬間移動なら見つけられるだろうし、ナメック星のポルンガにミライを生き返らしてもらうついでに新しい神様も連れてこれたら最高じゃねえか。」

 

あっけらかんと戦いででた犠牲を解決する策をだしてきた悟空にその場の全員の顔が驚愕に染まり、そして…

 

「あは、そっか、そんなことでよかったんだ…!」

 

事態ををいち早く理解したライが満面の笑みで笑った。

 

 

「お世話になりました。いろいろごちそうになって…ここ数年で一番贅沢させてもらいました。」

 

「何言ってんの。地球のために戦ってくれた人を歓迎するのは当たり前でしょ…特にあなたは私の息子なんだから。」

 

トランクスとミライに視線を向けながらトランクスを抱いたブルマがそう言った。

 

「ありがとうございます。」

 

あれから二日後、悟空は界王の助力もありナメック星を発見、ポルンガでミライを生き返らせたのち、地球に憧れを持っていたデンデを新しい神へと据え地球のドラゴンボールも復活した。

 

「もう帰っちゃうのね」

 

「長居しすぎると帰れなくなりますから。」

 

ミライが生き返ってから一晩慰労会をした次の日の朝、タイムマシンの前でトランクスたちが別れを告げている。

 

「ちゃんと倒せたのかの報告くらいは来て欲しいんですけどね。」

 

それから少し離れたところでミライもライとピッコロに別れの挨拶を済ませていた。

 

「それは難しいだろうな。時間が経てば経つほど、そしてタイムマシンを使えば使うほど、この時代と俺達のいる時代は離れていく。往復に必要な燃料も爆発的に増える。」

 

「それは残念です。」

 

不満げに言った。

 

「心配はいらないさ。俺でもこの時代の人造人間と互角程度には強くなれた。この時代の人造人間は俺達の時代よりずっと強かったし、まず負けないさ。なにより…」

 

目線をトランクスに向ける。

 

「あいつの強さはもう桁違いだよ。全く、師匠の面目丸つぶれだ。」

 

「そう言うわりには嬉しそうですけど。」

 

カリン様といい界王様といい師匠は弟子に越されると悔しさより喜びが勝るらしい。私も師匠になれば分かるのだろうか。

 

「それはまあ、お前も誰かの師匠になれば分かるさ。なあピッコロ。」

 

「ふん。」

 

話を振られたピッコロは少し気まずそうに顔をそむけた。

 

「まあ私は誰かの師匠とかそういう柄じゃないですから。」

 

「遠回しに()も向いてないって言ったな。」

 

「あ…はっはは。」

 

乾いた笑いでごまかす過去の自分を見ながら、まあそうなんだろうなと思う。もっと優れた師匠がいれば、ピッコロが生きていれば、悟飯は数年もしないうちに人造人間を凌駕し過去に助けを求めずとも解決していたのだろう。あの時生き残るべきは()じゃなかった。

 

「ミライさん!」

 

トランクスに呼ばれ後ろ向きの思考を中断する。ピッコロが何か言いたげだったがトランクスの呼びかけがあったことで飲み込んだようだ。

 

「別れの挨拶は済んだか。」

 

「ええ。最後に父さんに会えなかったのは残念ですけど、でもいいんです。俺は父さんがただ冷たいだけの人じゃないって知ってますから。」

 

あたり一帯を吹き飛ばす威力で爆発するとゲロに告げられた時、ベジータが一瞬視線を自分に向けていたことをトランクスは見逃さなかった。あれは自分を庇うためだったのだとそう結論付けていた。

 

「じゃあ、いくか。」

 

「はい!」

 

二人がタイムマシンに乗り込む。

 

「忘れるところだったこれ持ってきなさい。」

 

ブルマからホイポイカプセルを投げられる。

 

「カプセルコーポレーションも壊されちゃってんでしょ。簡易ガレージが入ってて、いろいろ必要そうな器具とかもあるから未来の私に渡しなさい。立て直しが早くなるわ。」

 

「ありがとうございます!」

 

二人は見送りに来た面々に手を振り返して過去の時代を後にした。




十六号の自爆で人造人間編を終えるのは最初から決めてたことなんですけど、原作通り悟空をあの世で修業させるために十六号と界王星に瞬間移動させるか、ゲロに決めてもらうかですごく悩みました。展開上これが自分にできる一番自然な終わり方です。対十六号も今回のようにベジータが戦うパターンとトランクスが戦うパターンで考えてみたり、難産でした。でもどう頑張っても主人公であるライとミライは空気になる。この作品は原作ありきとはいえ私の好きなように出来るんですけど、書き始めて気づいたんですけど私って結構原作厨だったみたいでオリ主は異物に感じてしまうんですよね。どうしようもない自己矛盾。


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(第六十話)ある戦士の結末

これで当初考えていた話は全部書ききったことになります。長かったです。




「おかえり、トランクス、ライ。」

 

「「ただいま。」」

 

タイムマシンで戻ってきて壊れかけのカプセルハウスに入るとすぐにブルマが出迎えてくれた。

 

「ちょっとーどうしたのよ。ずいぶん身長が伸びたんじゃない?」

 

トランクスとライは過去の精神と時の部屋で一年以上過ごしているが、ブルマからすれば一週間程度しかたっていない。

 

「神様の神殿には精神と時の部屋って言う一日で一年過ごせる部屋があるんです。そこで俺もライさんも一年間修業をして…」

 

「なるほどね。それにしてはライは全く変わってない気がするけど。」

 

「当たり前だろ。俺はもう成長期なんて終わってるんだから。」

 

冗談っぽく憤慨するライにごめんごめんと謝って二人に向き直る。

 

「とにかく無事に戻ってくれてよかったわ。その感じだとうまくいったみたいだけど。」

 

コーヒー三つを用意して椅子を勧めるブルマにトランクスとライがにんまりと顔を合わせて過去であった出来事を話し始めた。

 

 

「へえ、この世界では人造人間に殺されたゲロがそんなになってたんだ。」

 

「ひょっとしたらこの時代にも十九号や十六号がいるのかもしれないな。」

 

「そうかもしれませんが、ドクターゲロが亡き今彼等が起動することはないでしょう。放っておくのが一番です。」

 

「研究所の場所は分かってるから、様子ぐらいは…」

 

と、そこまで言いかけたところでラジオから人造人間に関する情報が流れてくる。

 

「パセリシティなら結構近いな。」

 

「行きましょうライさん。過去だけじゃなく、この時代も平和にしなくちゃ。」

 

「ホントに大丈夫なの?」

 

いざ戦うとなって心配が顔と声音に乗るブルマにトランクスが力強く返した。

 

「大丈夫。過去で父さんに鍛えてもらえましたから。」

 

ド、ドシュン!

 

「へえ、ベジータがねえ。あいつそんな一面もあったんだ。」

 

残されたブルマがぽしょりとベジータへの評価を改めた。

 

 

ドアッ!ドガガガガガ!

 

パセリシティでは十八号が破壊の限りを尽くしていた。

 

「ゲームに負けた腹いせにこれとは、まるでガキだな。」

 

「うるさいよっ!」

 

ドドドドドドド!

 

ガキだとたしなめられても十八号が破壊の限りを尽くすのをやめない。人造人間として生を受けるまでの十八年間、人造人間として生きてきた十八年間、三十六年の月日が経っているにもかかわらず彼らの精神年齢は十八のまま止まっている。

 

ギャウウンッ、カッ!

 

「む?」

 

あきれた様子で十八号を見ていると突如上空に光の玉が現れる。

 

「やっとだ、やっとお前らを殺せる力が手に入った。」

 

狼姿に変身したライが人造人間たちの前に立つ。

 

「久しぶりだな、ライ。」

 

「ちょこまかと逃げ回ってたようだけど、また戦いに来たのか。あはっ。最高のタイミングだよ!」

 

私は今機嫌がすこぶる悪いんだ。そう言って残忍に笑う十八号をライもトランクスもかわいそうなものを見る目をするだけだった。

 

「もうさっさと殺してしまっていいだろ十七号。こいつらを殺せば、街を襲うより何倍も気が晴れそうだ。」

 

「遊びが一つ減ってしまうが、まあいいだろう。だが、後ろの奴は俺がもらうぞ。」

 

その言葉に残忍な笑みを浮かべ気功波をトランクスに打ち込んだ。

 

「あの時、あの時とは違うぞッ!」

 

キンッ!ドーーン!

 

そう叫んで腕を振るう。気功波は弾かれる。

 

「フン、少しは強くなったみたいだね。」

 

ババババババ!

 

連続エネルギー波を打ち込み続けるがすべて片手で弾きながら接近していく。

 

「殺された仲間たちの仇だ。消えろっ!」

 

「ッ!」

 

ズバッ!

 

「んなっ。十八号!なぜお前如きに十八号が…」

 

「次は、悟飯さんの仇だ。」

 

「貴様ごときに俺を殺せるか!」

 

トランクスに突っ込んでいく十七号をトランクスは返り討ちに打つ。

 

「でぇりゃあっ!」ピシュウン!

 

ドガァァァン!

 

十七号も十八号も塵一つ残さず消滅した。

 

「これですべてが終わりましたね。」

 

「ああ。やっと、やっとあいつらに顔向けできるよ。」

 

ライが天を仰いでそう言った。

 

そして三年の月日が流れた。

 

 

「まさか三年で往復分のエネルギーがたまるなんて思わなかったわ。」

 

「俺としては三年もかかることに驚いたんですけど。前々回は八か月、前回は一年だったじゃないですか。」

 

過去に渡航するのは回数を重ねれば重ねるほど、時間が経過すればするほど難しいものになる。今の時代と過去の時代、二つに分かれた世界線はトランクスとライの介入によってどんどん別物として離れて行ってしまうからだ。

 

「私としては十年はかかるはずだったのよ。でもあんたたちが過去の私からもらってきたカプセルのおかげで燃料の開発が相当早く済んだわ。」

 

過去の私に感謝しなくちゃとブルマが続けた。

 

「人造人間を倒せたことの報告、ライさんは本当に来なくていいんでしょうか。」

 

「まあライにも今は仕事があるから忙しいんでしょ。見送りには来るって言ってたわよ。ちょっと夜遅くなりそうだって言ってたわ。」

 

今ここにはブルマとトランクスしかいない。ライは二年前警察官となり、市民の平和を守っている。

 

「過去に渡航する人数は少ない方が燃料も少なくて済むから、それはありがたいんだけどね…」

 

そう言いながら語尾には若干の疑問が乗る。当然二人より一人の方が燃料は少なくて済むが、仮にライが一緒に渡航してもあと半年ほど燃料を溜めれば済む話、警官の仕事だってライが一週間やそこらいなくなるだけで回らなくなるならこの都市の治安は崩壊しているだろう。いずれの理由も少し弱い気がする。

 

(俺達が過去にいる間この時代が無防備になることを気にしているのか…?そんな脅威が万一現れたとしてもこの時代は人造人間の殺戮と破壊を二十年近く耐えきった。俺達が過去に行く数日で地球が取り返しのつかないことになるとは考えにくい。)

 

どうもしっくりくる理由に心当たりがない。

 

 

「この件、殺人の可能性が高いんじゃないか。」

 

ライが今追っている事件は、数時間前に都市の住民が丸ごと消えた件だ。同僚が言う可能性について考えてみる。

 

「でもこの都市には数千人はいたんだぞそいつら全員殺すってどうやるんだよ。しかも都市には被害がほとんどない上に遺体もない。」

 

絶対にしようとは思わないが、数千人殺す程度なら数分でできる。建物などに傷つけないという枷をつけなければ一瞬だ。しかし…

 

「それが問題なんだよな。皆殺しってだけなら兵器を使えば可能だろうが、遺体すら残らないってのがなあ…。」

 

頭を捻るがここで考えてもどうにもならないだろうと現場を見て回る。

 

「服だけが残されるって、今までもあったんだけどな。規模は違うが。」

 

「何だと!!」

 

同僚がボソッと言ったとんでもない発言にライはつかみかからんとする勢いで聞いた。

 

「うわっ!急に大声を上げるなよ。ったく、年間数十名程度似たように服だけ残して消える行方不明者がいるんだよ。でもその程度の数の行方不明者は珍しいわけじゃあない。」

 

過去の記録を見たらしいその同僚によれば大体千人に一人くらいの割合で行方不明者は出ているそうだ。その一つ一つに手を回せるほど警察も暇じゃないことはライも知っている。しかし、嫌な予感がぬぐえない。

 

「どうにも嫌な感じだな。」

 

妙な胸騒ぎがした。少なくともこの事件を引き起こした人物は俺やトランクスにもできないことができる者だ。とんでもない存在がいる気がした。

 

ー-----

 

「ちょっといいか、ミライ。」

 

「そんな体で俺に話しかけてくるとはいい度胸だな、人造人間。」

 

三年前、過去から現代に戻る前に十六号に言われたことを思い出す。

 

「壊されるならそれはそれで構わない。お前からすれば俺も悪の権化にしか見えないのは理解できる。だが、この話は聞いておいた方がいい。」

 

首だけになった十六号はブルマたちの技術で肉体が与えられていた。もちろんゲロが作ったそれとは見た目以外は別物だ。今の十六号には普通の人間より少し強い程度の力しか与えられていない。

 

「…冗談だ。何か忠告があるなら話せ。」

 

「未来はどうなってるか知らんが、この世界のゲロは十七号や十八号、そして自分自身よりもはるかに強力な人造人間を造っていた。この時代では完成を諦めたようだし、未来では既にゲロが死んでいるようだからまず心配はいらないだろうが、一応気に留めて置け。」

 

ー----ー

 

過去で十六号から聞いた話が思い出される。そんなはずはないと首を振った。その話を聞いてこの時代の研究所も破壊したのだから。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ上がる。」

 

「おう、お疲れ~」

 

警察署で同僚たちの挨拶を背に、すっかり暗くなった空を見上げる。普段ならブルマからもらった車を使うが、カバンにしまってあるホイポイカプセルには目もくれず誰にも見られないように裏路地に入り、一気に舞空術で上空に飛んだ。

 

「気のせいだ。異様な事件で後ろ向きになってるだけだ。」

 

自分に言い聞かせながら凄い速度でカプセルコーポレーションに向かった。

 

 

「ライさん、仕事終わったみたいです。」

 

カプセルコーポレーションにいたトランクスはライの気が動き出したことを研究室にいるブルマに伝える。

 

「あらそう?この研究が終わったらすぐに行くから、先に外出て待っててちょうだい。戻る年調整しといてね。」

 

世界が平和になりタイムマシンの燃料も生成も終わった。ブルマが早急に研究しなければならないことはとりあえず終わったのだが彼女は天才研究者、新たなる発明に余念がないらしい。

 

「分かりました。ライさん結構急いでこっち来てるみたいなんで早めに来てくださいね。」

 

ブルマにそう言ってトランクスは外に出た。

 

BOMB!

 

「さて、十八年前に行きたいからエイジ770年だな。」

 

タイムマシンを出して年代をいじるために乗り込もうとするトランクスの背後を()()が急襲する。

 

 

エイジ???年

 

   ↓

 

エイジ788年

 

「…」グシャ!

 

「ッ!ゴハッ!」 

 

背後から急に肺を貫かれ反応しきれなかったある青年が、トランクスが倒れる。

 

「ほう、攻撃の瞬間まで気を抑えていたにもかかわらず反応して見せるとはなあ。どうやら私の知るお前よりはずいぶんと強かったようではないか。まあもはやどうでもよいことだが…な。」

 

セルは奇襲を成功させたことに満足しトランクスを見下ろす。

 

「き…は、な…の…!」 

 

肺を撃たれたことによりまともに声を発することができず言葉にならない言葉を発する。

 

「知ったところで意味はあるまい、まもなくお前は死ぬのだからな。まあせめてもの情けだ。貴様の肉親も一緒にあの世に送ってやる。じゃあな。」 

 

そう言うと相手は気功波を撃ちだそうとした。その威力たるは青年の背後の建物を吹っ飛ばすほどであり、今のトランクスに防ぐ術はなく、そのままやられるしかない状況だった。 

 

「や…ろ!」キュイン!ドガアアアン!!

 

気功波により大きな粉塵が舞い視界が遮られる。その様を見て少し顔をしかめる。

 

「少し強くしすぎたか。まあいい。もう私がここに来ることはないのだからな。」

 

そうこぼし、青年を奇襲した戦士はタイムマシンに乗り込む。雨が降り始めた。

 

「むう、この姿のままではタイムマシンに乗れないか、仕方ない。これも完全体のためだ。」

 

発進のボタンを押し、カバーが下がっていくのに呼応するかのようにセルの姿がどんどん縮み卵になっていった。タイムマシンが作動する。それを止める者はいない。

 

 

「…ゴフッ!」

 

セルがトランクスに止めを刺そうと放った一撃はしかしトランクスには当たらない。そのすべてをライが肩代わりしたからだ。

 

「ッ!」

 

「私が生き残った意味をずっと考えてた。あの時、私じゃなくてピッコロが生き残ったらきっとこんな未来になってなかったのにって。ずっとそれが負い目だった。」

 

それが払拭できたわけじゃないけれど、

 

「やっとみんなに謝りに行ける。」

 

「グ、ウ…ライさん!待って、死んじゃだめだっ!」

 

血があふれる状態で尚、叫ぶ。雨によって待っていた粉塵が地に落とされる。カプセルコーポレーションが大破している。ブルマは助かっていないことを悟る。

 

「私の手の届く範囲は、最期まで狭かった。ごめんね、トラ…」

 

瞳から光が失われ、倒れ込んだ。肺を貫かれた痛みで最初から気なんて感じられなかったけれど、ライの気はもう感じられないであろうことを、死んでしまったことを理解してしまった。

 

「ライさん!ライさん!うわあああああああああああ!」

 

死の淵に立ったトランクスが、その肉体が窮地を脱しようと超化する。稲妻が全身からほとばしり、すさまじい光を放つ。

 

「雷が落ちたか!?」

 

「見て、あそこ!二人倒れてる!」

 

異変に気付いて様子を見に来た近くの住民が慌てて騒ぎ出す。

 

「本当だ、急いで救急車を呼ぶぞ!」

 

トランクスの超化が解けて気を失ったのは救急車が到着する直前のことだ。

 

 

「臨時ニュースをお伝えします。西の都、カプセルコーポレーションにて落雷による火災が発生しました。この事件により、代表のブルマ氏が火災に巻き込まれて死亡、その息子のトランクス氏が意識不明の重体です。また付近にいたとみられる警察官のライ氏が雷に打たれて死亡しています。」

 

 




世界線cell

この世界線はセルがトランクスを殺した世界、ゆえにタイトルドラゴンボールZ・オルタナティブ(別の世界のドラゴンボール物語)でした。

トランクス8億
ライ2500万
セル12億

トランクスは未来に帰ってきてからも修業を重ね、原作の未来トランクスセルゲーム時と同じくらいの強さを手に入れました。トランクスは通常時でこれなので不意打ちでなければセルに勝ち目はありません。セルは未来世界でも生体エキスを頑張って集めてこの値まで伸ばしました。

ライは修業自体はしていましたが警官として働き武道からは少し距離を置いていたので500万のパワーアップに収めました。年齢もきついですしね。ちなみにライが助けに入った時は界王拳のみなので5億です。この日が満月だったらまた違った結果になったでしょう。

セルは数万人程度しかいない人間全員から生体エキスをすっても12億には届かないので動物からも吸ったりしたんでしょう。なんならほとんど動物エキス。


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(第六十.五話)武器と武闘家

キン!キン!キィィン!

 

「今日はここまでにしよう。」ピシッ!

 

首元に気で作ったブレードをあてがい、決着がついたことを確信してライはトランクスに修業の終わりを伝える。

 

「…分かりました。」

 

悔しそうにしながらもその言葉を受け入れたトランクスは持っていた剣を鞘に納めた。

 

 

「随分使いこなせるようになってきたな。」

 

帰り際に剣の手入れをしているトランクスにそう話しかけるとトランクスが不思議そうに返す。

 

「まだまだですよ。というか、ライさんって剣を習っていたことあるんですか?気のブレードを使った戦い方があまりに手慣れてる気がするんですけど。」

 

実際まだ全然勝ち越せてません、と愚痴をこぼすトランクスの前で、ライは気で様々な武器を形作っていく。

 

「短剣、長剣、槍、鞭に大鎌やこん棒、そして弓。銃火器以外の武器はある程度使いこなせる。」

 

なんとなく辛そうに話すライに余計なことを聞いたかなと後悔しながらもその意図がつかめずに質問を重ねた。

 

「俺達は武闘家は言ってみれば拳を武器にして戦うスペシャリストじゃないですか。どうして他の武器を扱えるようになったんですか?」

 

「戦いに応用できるからだ。戦いは基本的にこっちにとって有利な戦い方を、相手にとっては不利な戦い方を押し付けてで勝負するものだぞ。」

 

剣を持つものがと槍を持つものが戦う場合は自分のリーチにいかに相手を入れるかが焦点になる。それを自在に使い分けられるようになればある程度の実力差は覆せる。

 

「なるほど、それじゃあ俺も剣ばかりではなく他の武器を使えるようになっておいた方が良いですね。」

 

「いや、こんなのは小手先の技術だ。お前ならあと数年修業すれば人造人間に勝てる日がくる。トランクスは今まで通りの修業をするべきだろう。少なくとも今はな。」

 

武器に気をまとわせればそれだけでただの武器が凄まじい戦いに耐えうる業物に変わる。だが一から気を使って武器を生成するとなるとその難易度は跳ね上がる。それに掛ける時間は今のトランクスにはないだろう。

 

 

「フッ!ハッ!とうっ!」スッ!シュッ!ピッ!

 

気で生成した大鎌で大岩を駒切りにする。

 

パラパラパラ…ドスン!

 

切り刻んだにしては大きすぎる大岩の塊を見て気で生成した大鎌を見る。武器を生成する気は乱れ、なまくらとなっていた。

 

(ブレードにしかしてなかったのは使いこなせなかったからだったんだろうか。)

 

師匠は実戦においてブレードの長さで間合いを調整することがほとんどで武器を生成することなどなかった。その理由も今にして思えば理解できる。気で武器を生成するだけならまだしも戦いながらそれを維持し続けるのは至難の技だった。

 

(でもまあ戦い方を拳術に応用できるようになったのは良かった。)

 

意外なことに戦う上で一番強くなれたと実感できたのは弓術を学んだことだった。身を隠す技術、不意を突く技、そして相手の攻撃を察知する能力。

 

「この力があのときあればよかったのに。」

 

俺はいつも、力が足りない。




書き忘れたキャラクターの戦闘力を書いておきます。(六十話終了時点)以前にもどこかで書いた気がしますが、この後書き欄で書かなかったキャラクターは某非公式さんの値だと思って書いています。
餃子150万
天津飯は某非公式と変わっていませんが餃子が天津飯と一緒に修業するなら天津飯の四分の一はないと修業にならないと思うので強化しました。ここは非公式様との解釈違いってやつです。


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魔人ブウ編
(第六十一話)全宇宙の危機


DBZカカロットで語られた世界と似ているようでどこか違う。魔人ブウ編(未来)スタートです…が、これ以降の話は全部蛇足になります。それでも読んでくださる方はもう少しだけお付き合いください。



「凄まじい生命力だよ。私は正直君が運ばれてきたときには助からないと思っていたんだけどね。もう峠は越えた。時期に会話もできるようになるだろう。」

 

目を覚ましたトランクスが口を開こうとするがそこから言葉は出てこない。目の前の医者が言う通り、しばらくは会話できないのだろう。あのとき力の限り叫んだ影響だろう。肺に負荷がかかりすぎた。

 

「……!」

 

巡回に来た看護師に聞きたいことがあると意思の疎通を試みる。何か言いたいのだろうと紙とペンを持ってきてくれた。

 

ー俺の母さんと、俺の近くにいた人は無事ですかー

 

「それは…」

 

看護師は言いよどむ。それが既に十分答えになっていた。

 

ー覚悟はできてますー

 

そう書くと、看護師は二人が死んだことを伝えた。

 

「……!」

 

涙があふれ出す。今だけは声を出せなくてよかったと思った。

 

それから一週間後、全治数か月と言われた彼の怪我は完治していた。

 

 

「お世話になりました。」

 

「君の生命力には驚くばっかりだったよ。怖くすらあるくらいに。君ならそう簡単には病気にもかかるまい。辛いことがあったばかりだが、気を強くな。」

 

お世話になった医者に頭を下げて病院を後にする。人造人間と戦い続けてきた日々の仲間はもう誰もいない。孤独になってしまったトランクスは一人、修業の日々に入る。

 

そして四年間の月日が流れた。

 

 

「母さん、ライさん今日で四年ですよ。人造人間ですらない何者かに殺されてからそんなに経ったんです。」

 

世俗を離れた生活をしていると日付感覚が狂っていく。だから母さんとライさんの死んだ日と、悟飯さんの死んだ日の二日間だけは、必ず墓参りに行くようにしている。

 

「あの時、俺が常に超サイヤ人になってたらって…悟空さんの修業の成果を見たのに。」

 

ごく自然に超サイヤ人の状態になれるような特訓を悟空さんと悟飯さんは完成させていた。それが超サイヤ人を超える修業よりもさらに優れた効果を生み出す修業だったことを知ったのは取り返しがつかないことになってからだ。

 

「って去年もおんなじこと言いましたね。俺はあの時からなんも変わってないみたいです。」

 

超サイヤ人の限界をさらに一つ越えた姿を得たトランクスはさらに先を目指し続けたがゆえに、基礎をおろそかにしてしまったのだ。

 

「また来年来ますね。」

 

そう言ってトランクスは飛び立とうとするが背後にいる二人の気を感じ取り、気を入れる。

 

「不意打ちは効かんぞ。」

 

「き、貴様、界王神様に向かって無礼だぞ。」

 

言いよどんだのはトランクスの凄まじい気に当てられたからだろう。

 

「キビト、こちらは依頼する立場なのですよ。」

 

振り返れば地球人基準で見れば大柄な男と小柄な男の二人だった。地球人の限界をはるかに超えた強さ、人造人間すらもを超えうる力を持つ二人組にトランクスは警戒レベルを引き上げる。

 

「初めましてトランクスさん。私はシン、この宇宙の界王神をしています。」

 

「カイオウシン?」

 

「地球の神よりも上位の界王よりもさらに上位の存在ととらえてくれればよい。界王くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

「え、ええ。」

 

ライの使っている戦闘力を何倍にも引き上げる御業、界王拳。どうやって身に着けたのかを聞いたことがあるが、その時に界王の存在を教えてもらった。だが…

 

「証拠がないでしょう。急にそんなことを言われてもすぐには受け入れられません。仮にカイオウシンという存在がいるとして、そのお方が何の用ですか?」

 

圧倒的に強大で刺々しい気には不釣り合いなほどに綺麗な魂。師匠を二度失くしたことがトラウマになっているのだろうと界王神は察した。

 

「この地球に巨悪の影が忍び寄っている。貴方にはそれを払う手助けをしていただきたいのです。」

 

「巨悪の影?」

 

「ええ、地球だけでなく、宇宙の危機です。」

 

「意味が分からない。突然何を言い出すんですか。まさかそんなことが…」

 

動揺するトランクスはしかし、すぐさま否定はしない。自分より強い存在が急に現れることはありうることだと身をもって知っているからだ。界王神は事情を説明し始めた。

 

「魔人ブウが復活してしまえばこの宇宙はお終いです。どうか、その力を私たちに、いえ、宇宙に貸してください。」

 

「あなたが界王神であるということも含めて、すぐに信じられる話ではないですね。」

 

頭を下げる界王神に対してトランクスは力を貸そうとはしない。

 

「下界の人間が、立場をわきまえろ!」

 

後ろに控え、頭を下げた界王神に戸惑っていたキビトが不遜な態度をとるトランクスに向かって不機嫌を露わに言葉を放つ。

 

「キビト」

 

その言葉は短く、しかし威圧感があった。

 

「私が悪いのです。界王神の使命は人間を見守り導いていくことだというのに、人間の力で成長しないと意味がないなどと言って地球を地獄のような世界にしてしまった。」

 

頭を下げたまま言葉を発する界王神の言葉にトランクスはひどく心を揺さぶられる。この人が二十年前に来れば、悟飯さんもライさんも、他の仲間たちも死ぬことはなかった。母さんだって死ななかった。頭に血が上る。

 

「ふ、ふざけるなッ!それだけの力があって、地球の危機を知っていながら二十年も見過ごしたやつに、誰が力を貸すかッ!」

 

気づいたときには怒鳴りつけていた。界王神から釘を刺され黙っていたキビトが我慢の限界とばかりにトランクスに怒声を飛ばした。

 

「時を逆行し、未来を捻じ曲げた大罪人の分際でなんという態度だ!」

 

キビトッ!

 

その声はそれほど大きくない。しかしその言葉に乗せられた怒気は怒りの矛先が向けられていないトランクスでさえも竦んでしまうほどだ。

 

「私は地球が人造人間に蹂躙されているときに手を差し伸べなかった。だというのにこんな時だけ神を名乗って協力を仰ごうというのがどれだけ身勝手な話なのか分かっています。ですがどんなに見苦しく無様であろうとも私にはあなたの力が必要なのです。どうか、私に力を貸してください。」

 

界王神が言い切るころにはキビトも腰を折り頭を下げていた。

 

「魔人ブウ復活阻止のために、どうか界王神様のお力になってはくれまいか。」

 

つい先ほどまで見下していた人物に頭を下げて懇願するキビトの姿は、宇宙を憂いて奮闘する神の矜持を感じ取れた。この人たちがいうことが本当なら自分たち人間は虫けらのような存在なのかもしれない。自分が彼の立場だとして頭を下げて懇願できるだろうか。すぐに首を振る。きっとできない。

 

「…分かりました。俺の力でよければお貸しします。」

 

目の前の人物がいうことを全て信じることは今すぐには難しい。でもそれとは別の話として、この二人は信用できるとそう感じた。

 

「魔導士バビディは地球のどこかに潜んでいます。その居場所は彼が魔人ブウのエネルギーを集めようと動き出さない限り見つけられないでしょう。彼が動き出すまでの少しの間ではありますが界王神界に来てください。貴方の力を見てみたいですし、さらなる力を得られるかもしれません。」

 

界王神に言われ、三人はその場から姿を消した。

 

 

「ここが界王神界…」

 

「大界王すらも来たことのない聖域だ。光栄に思うがよい。」

 

界王神に目線で制されてばつが悪そうな顔をする。

 

「あの世とこの世の理から外れ外側にある世界、それが界王神界です。この星はよっぽどのことがない限りは壊れない頑強さも持ち合わせています。」

 

万が一魔人ブウが復活してしまったならばキビトの能力でここに魔人ブウを連れて戦うことになるだろうと界王神は思案する。ここから下界に下りることは界王神以上の高位の神でなければ瞬間移動を使うよりほかにないのだから。

 

「さて、あなたにはまず、どんな力も手に入れることができるとされるZソードに挑戦してもらいます。」

 

暗い考えを払い、トランクスに向き直る。今まで何人もの界王神を拒んできたZソードがトランクスを受け入れるのであれば、今だトランクスを認めきれていないキビトもトランクスを、ひいては下界の民を認めざるを得ない。

 

「ただ岩に突き刺さっているようにしか見えないんですけど。」

 

道中Zソードについて説明をしたがまさにその剣を前にしたトランクスが不思議そうに言う。

 

「やってみれば分かる。私はおろか歴代の界王神様ですら引き抜けなかった代物だ。お前如きに抜けるとも思えんが。」

 

挑発するキビトを横目にトランクスは気を開放する。

 

「はあああ!」

 

「「!」」

 

「なんと!?」

 

「凄まじい気です、トランクスさん!」

 

その凄まじい気に驚愕する間にもトランクスは剣を両手で持ち引き上げにかかる。

 

「うおおおお!」

 

しかしその剣が動くことはない。

 

「は、はは。やはりな。下界の人間にこれは無理だろう。」

 

キビトがどこか安心したような声音で言う。

 

「パワーだけならまだ上があります。」

 

ボンッ!バンッ!

 

筋肉は肥大化し、後ろでまとめられた髪は破裂したかのように逆立つ。

 

「あ、ああ…」

 

スピードが殺される欠陥変身と言えど、気は爆発的に増える。それこそ、魔人ブウの恐ろしさを知る界王神が圧倒されるほどに。しかしその変身をすぐに解いた。

 

「どうしたのだ。そ、それほどのパワーがあればZソードを引き抜けてもおかしくないだろう。」

 

キビトが動揺してそう話すがトランクスは首を振った。

 

「いえ、この変身で剣を引き抜いても意味なんてないんです。また同じ過ちを繰り返すところでした。」

 

その姿は誰かを想っているようで、心を読むことのできる界王神たちはそれ以上追及することができない。

 

「ま、まあ下界の人間としては考えられないほど高い実力だ。それほどの力なら必ず界王神様の力になるだろう。」

 

そう言ってその姿は聖域にふさわしくないと手をかざすとトランクスの服装が変わった。服の形状は界王神やキビトと同じく、しかし色はキビトや界王神と違って青い。そして。

 

「その耳飾りは大界王よりも高位の神である証。界王神様の付き人であるものの証だ。色が黄色に近ければ近いほど、界王神様に近いと言える。」

 

自慢げに言った。トランクスについているのは青色の耳飾り、キビトは黄緑、そして界王神は黄色だ。そんなキビトを横目に界王神が陣を描く。

 

「では、トランクスさん、あなたには私の付き人となるための儀式を受けてもらいます。バビディが動き出すまで時間はありませんが、三日間ほどで終わります。その程度であれば問題ないでしょう。」

 

「三日間!?そんなにかかるんなら途中で動き出す可能性も十分以上にあるじゃないですか。」

 

「トランクスさんにとっては三日は長く感じるかもしれませんが、私達や魔導士バビディにとってはそんな長い時間ではありません。」

 

地球人の寿命は宇宙にいる人間の中でも短い部類に入る。何千年と生きる者にとっての百年が人間でいうところの数年であるように、数万年と生きる芯人にとって三日は地球人で言うところの数秒としか感じない。そして時間という枷から解き放たれた界王神にとってはまさに瞬きする間にしか感じないだろう。そしてそれは数百万年以上を生きるビビディやバビディも一緒だ。

 

「魔導士バビディを倒し宇宙に平和をもたらすために、万全を期さなければならないのです。大丈夫、キビトには地球で動きがないか見ていてもらいますから。」

 

付き人になれば復活パワーに瞬間移動といった界王神を補佐するに必要な能力が身に着く。これは本来は副産物としてではあるが、戦闘の幅が大きく広がる。そして今はその副産物こそが必要だ。

 

「分かりました。では、お願いします!」

 

そう言って界王神に向き直ったトランクスは不思議な踊りと掛け声でトランクスの周囲を回る界王神に言葉を失った。

 

 




ネットで見つけたんで信ぴょう性は微妙ですが界王や界王神って木から生まれるらしいですね。しかも平均寿命が三万年だとか。でも魔人ブウは五百万年まえから暴れまわってたという…は?


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(第六十二話)動き始めた計画

芯人の戦い方は柔拳をイメージしてくれれば大体あってると思います。


「フンフンフーン、フッフフフーン…」

 

界王神トランクスの周りをまわり始めて五時間ほどが経とうとしていた。

 

「これで儀式は終わりです。」

 

トランクスの正面に来た時、界王神は止まってトランクスに言った。

 

「これでトランクスさん、いえ、トランクスには瞬間移動やテレパシー、そして復活…」

 

界王神が付き人になることによって身に着けられる能力を説明しようとしたときキビトが割って入る。

 

「界王神様、バビディが動き出したようです。」

 

魔術でかくしていた宇宙船はバビディが外にでて行動を開始したことでとらえることができた。それは自分たちを誘うようにも思える。

 

「!分かりました。説明は後にしましょう。今はあなたに必要最低限なテレパシー能力だけお伝えしておきます。」

 

そう言ってテレパシーの能力を説明し始める。曰く、その力は思考の共有。付き人に界王神が伝えようとしたことが伝わる。逆もまたしかり、界王神が伝えようとしたことが言葉にせずとも付き人に伝わる。この力は自分と付き人の間でしか発動しない。めったなことでは使わないが、界王神の方は任意で付き人の心を読むことができるらしい。作戦のやり取りはこの力を使うことになった。

 

「(では界王神様、トランクス、行きましょうか。)」

 

「!」

 

急に言われてもできるわけがないと戸惑っていたトランクスだったが少なくとも受信の方は問題ないらしい。キビトの言うことが伝わり自分もわかりましたと思念を送る。

 

「(大丈夫、私にもキビトにもちゃんと聞こえていますよ。)」

 

その念話に胸をなでおろし、トランクスは界王神と同様にキビトの手を取った。

 

「カイカイ」ピシュン!

 

次の瞬間には慣れ親しんだ地球の景色が目に入ってきた。

 

 

「(二人とも、バビディの野望は一刻も早く阻止しなければなりません。仕掛けるは速攻。行きましょう。)」

 

界王神が飛び立ち少し遅れてキビト、トランクスと続く。人が多い都に紛れているかと思いきや意外にもバビディの拠点は人気の全くない山岳地帯だそうだ。周りを気にしないで良いことは利点だが逆に何か罠を貼っているのは間違いないだろうときが引き締まる。

 

「死ねぇっ!」

 

「ッ!ハァッ!」

 

ガン!

 

トランクスの懸念の通り、バビディの拠点までほど近くについた頃バビディからの刺客だと思われる戦士が不意打ちを仕掛けてきた。しかしそれは読めていたか、トランクスは苦も無く対応する。

 

「今の不意打ちが防がれるとは思わなかった。それなりの実力を持っているということか。」

 

「直前に殺意を出す攻撃など不意打ちとは呼ばない。」

 

「確実に当たると判断したから声を上げたんだがな。」

 

そう言うと目の前の刺客の雰囲気が変わる。相手が本気を出したことが伝わる。それに対し界王神とキビトが警戒レベルをさらに引き上げた。

 

「(界王神様、トランクス、こいつはそれなりの強敵です。三人で連携して確実に無力化しましょう。多少なりとも消耗してはいけません。)」

 

テレパシーが脳内に響く。それは界王神やキビトの実力を考えれば当然の判断だがトランクスからすれば悠長すぎた。

 

「(いえ、この程度なら俺一人で充分です。界王神様、最初に行ってたじゃないですか。速攻を仕掛けると。)」

 

バビディが動き出した時点で魔人ブウ復活の算段が立った可能性が高い。一刻も早く野望を阻止する必要があった。それを理解したのか、界王神は臨戦態勢を解き警告をする。

 

「(バビディの魔術で宇宙船の一部屋とこの空間をつなげたみたいです。部屋の仕掛けには注意してください。)」

 

地上をみると確かに明らかに自然のものではない丸いドアのような模様があった。そしてすぐさまバビディの魔術によるものか、周りの環境がガラッと変わる。

 

「これは…」

 

「俺の故郷の星だ。俺の故郷は地球などとは比べ物にならないくらい過酷な環境でな、満足に動けないだろ?」

 

惑星ズンは地球の十倍以上の重さがある。常人なら重力が倍になるだけでもほとんど身動きが取れなくなるだろう。それでも。

 

トランクスにとってこの変化は枷にすらなり得ない。

 

「この程度何が変わるということもない。」

 

ピシュン!

 

「消えた!?どこだッ!」

 

プイプイが視線をさまよわせるが、トランクスの姿を捉えられない。

 

「後ろだ。」

 

キーン、ドガ―――アン!

 

攻撃の瞬間、居場所をばらす。これが本当の不意打ちとでもいうかのように。気功波が消え去った後には何も残らなかった。

 

 

「まさかあのプイプイが全くダメージを与えられずにやられるなんてね。」

 

「とはいえ、あの程度の実力であれば、私が出れば間違いなく倒せます。しかし…」

 

宇宙船の最奥では今回の騒動の元凶であるバビディ、そしてその一の部下である暗黒魔界の王ダーブラがプイプイとトランクスが戦う様子を見ていた。

 

「奴等三人を倒しても魔人ブウ復活にはエネルギーが足りないと思いますが。」

 

ダーブラが当然の疑問を出す。魔人ブウ復活にはきれいな魂を持つものの気が必要だ。実力だけで言えば少なくともダーブラ二人分は必要だろうとバビディから聞かされている。

 

「それは心配いらないよ。何のために僕があのトランクスとかいうやつの儀式が終わるのを待って動き出したと思ってるのさ。」

 

「はあ、何か関係がおありなのですか?」

 

要領を得ない解答にダーブラは首をかしげる。

 

「最初にエネルギーをため始めてから分かったことなんだけど、魔人ブウの復活エネルギーに使えるいわゆる’きれいな気’って言うのは地球人の中でも一部の人間しか持っていないんだ。だから地球人全員のエネルギーをかき集めても大した量にはならない。もっと言えば界王神たちから気を搾り取っても足りない。」

 

「それでは復活は諦めると?」

 

驚いた表情と動揺が乗った声音でダーブラがバビディに聞く。それを見て満足したか、バビディは得意げに話し始めた。

 

「いいや、僕はそんな程度のことで諦めるほど愚かじゃないよ。気を増やす方法がないか調べ上げて、そしてこの装置を造った。」

 

そう言ってバビディは目の前の装置をなでる。ブウの玉に取り付けられたそれはエネルギーを一時的にためておく容器が二つ。その容器に何か無骨な装置もつけられている。

 

「メタモル星人って言う種族がこの宇宙にはいてね。その種族に伝わるはヒュージョンって技からヒントを得たんだ。全く同じエネルギーの量、そして似通った体格の二人がポーズをとることで合体し一人の戦士が生まれる。その戦士のエナジーは足し算では測れないほど強大なものとなる。」

 

「まさか、バビディ様…」

 

「想像の通りだよ。その融合を復活エネルギーどうしでさせるのがこの気の融合装置だ。」

 

「ですがトランクスとかいうやつの儀式を待ったのはそれと何の関係が?」

 

「ヒュージョンの場合はポーズによって二人のエネルギーが溶けあうように変化するんだけど、残念ながらエネルギーにポーズを取らせることはできないからね。だから二人の気が勝手に溶け合うコンビを見つけるしかなかったんだけど…」

 

ハッとした顔になる。

 

「界王神の付き人という気の性質どうしの気なら溶け合うコンビとなりうる。」

 

「正解だよ。あいつら程度の力でもこの装置を使えば魔人ブウ復活にたるエネルギーになる。」

 

バビディにダーブラは感心して頭を下げた。

 

「流石はバビディ様。出過ぎたことを進言して申し訳ありません。」

 

「さて、プイプイ程度じゃ相手にならなかったことだし、次はヤコンにでてもらおう。」

 

ダーブラが少し目を見開いたが、すぐに部下にヤコンに出るように告げた。

 

 

「(これ以降はどんな会話もテレパシーを使いましょう。バビディに動きを見られている前提で動くべきです。)」

 

「(相手の意表を突くために速攻を仕掛けるはずだったのですが、うまくいきませんな。)」

 

すぐさまテレパシーに切り替えて界王神とキビトが会話を始める。

 

「(おそらく刺客はどんどん来るでしょう。一刻も早くバビディたちの元へ向かいましょう。)」

 

それに倣うようにトランクスもテレパシーを始めた。

 

「(いえ、むしろここで待っていればいいんじゃないですか?動きながらだと警戒は薄くなりますし、向こうが空間をつなげられるなら勝手に刺客を送ってくるはずです。)」

 

トランクスが待ちを提案するがその案にキビトと界王神は渋い顔をした。

 

「(いえ、こちらからも宇宙船を目指すべきでしょう。相手が宇宙船の場所を魔術でこちらに移してくると、相手はバビディの意志一つで宇宙船に逃げることができます。態勢を立て直されてはまずい。)」

 

「(そうですか…分かりました。それでは急ぎましょううか。)」

 

ボゥッ!

 

そう念話を送るとトランクスは超サイヤ人化する。そのままにキビトの後ろから鋭い爪を振り下ろそうとしていたヤコンに向かって気弾を放った。

 

「オワッ!貴様、良ク気ヅイタナ。気ハ消シテイタハズナンダガ。」

 

怪物らしく少し濁った声が響く。その声を聞いて界王神とキビトは顔をこわばらせた。特にあわや戦闘不能になっていたであろうキビトは青ざめている。

 

「魔獣ヤコン、まあ、この程度の戦力は整えなければ目立った動きはしないでしょうが!」

 

少しばかり苦しそうに界王神が言う。その表情を見たからか、キビトは深呼吸をして平静を装って言った。

 

「界王神様、トランクス、ここは先に行ってください。バビディはこいつをここで切れるほど、強者を手元に置いているということでしょう。」

 

「しかし…!」

 

「戦力を小出しにしている理由なんて一つしかありません。奴等は時間稼ぎをしているのです。一刻も早くバビディのところへ。」

 

その覚悟の表情を汲んで界王神は先に進むことを決意する。

 

「無理だけはしてはいけませんよ!」

 

ヤコンは界王神たちを追いかけることなく先に行かせた。その場にキビトとヤコンだけが残る。

 

「まさか先に行かせるとは思わなんだ。」

 

「界王神ハバビディ様ガ直接手ヲ下サルソウダカラナ。一人トドメテ置ケバ十分ナンダヨ。ナニセ、バビディ様ニハダーブラ様ガツイテイル。」

 

「な、なんだと…!?」

 

「貴様ヲ殺シテバビディ様ノ悲願ヲ達成シテヤルサ。」

 

振り下ろされる腕をいなすように動くが爪がキビトの皮膚を浅く切り裂く。芯人の戦い方は敵の攻撃をいなし捌き、翻弄するものだ。そのスタイルは同じ芯人を相手にすることに想定されている。ある種当然の話だ。芯人よりも強い生命体など、基本的に下界には存在しないのだから。だからこそ。

 

「ぐ、ぅ…」

 

魔獣との戦いに対してキビトが身に着けていた戦法は攻撃を受ける時にめっぽう相性が悪かった。自分より格下の相手には戦法の相性など無視できるが、自分と同格、あるいは格上の相手に対して相性の悪さはいかんともしがたい不利要素だ。

 

「口ホドニモナイ。」

 

ずっと劣勢を強いられ、致命傷こそ何とか避けているものの、無数の切り傷が全身に刻まれて装束が血でにじむ。

 

「神の無力さを、自分の見識がいかに狭かったのかをここ最近ずっと感じている。」

 

違う。神が無力なのではなく自分が未熟なだけだ。

 

「ソロソロ止メトイコウ。コノ程度ノ雑魚ニ時間ヲカケスギタラバビディ様ニ怒ラレテシマウ。」

 

シュン!

 

「!」

 

スパスパッ!

 

咄嗟に念力でヤコンの動きをわずかに鈍らせ、後ろに飛び退く。しかしその懸命の回避行動むなしく肩口、左の脇腹を爪で強く引き裂かれ、膝にも同じように引き裂かれた。

 

「う、が…」

 

すぐさま傷の状態を確認する。傷は深く血が噴き出し、肩をやられた影響か右腕が動かせない。念力を自分にかけて傷口を強引につなぎ、止血とする。

 

(あなたのお役に立って見せます。例え死ぬことになっても。)

 

「今ノデ即死シナカッタノハ褒メテヤルガ、次コソ確実ニ殺シテヤル。」

 

右腕がだらりと下がったキビトに対して、魔獣は笑った。

 

 

「(心配しなくてもキビトがそう簡単にやられることはないですよ。)」

 

不安そうにしている心の内を読まれたか、いや、顔に出ていたのだろう。界王神がトランクスに念話してきた。

 

「(そうですよね、いざとなったら瞬間移動でここに来れるでしょうし…)」

 

「(キビトは負けませんよ。)」

 

トランクスの言葉を遮ったその言葉は願望に聞こえる。元付き人だった界王神は瞬間移動がそうそう都合の良い物でないと、復活パワーを自分にかけられないことを、勝ち目が薄いことを、知っている。

 

それでも。

 

界王神とキビトが一緒に過ごしてきた日々は人間の尺度で言えば永遠ともいえるほどの時間だ。その日々は二人にしか分からない信頼を積み重ねた時間だ。だからこそ。

 

その言葉は確信だ。

 



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(第六十三話)バーニングアタック

あまり過剰に説明しないで読者に想像してもらうような表現をしたいと思っているんですけど、どうしても後で読み返して説明不足感が否めなくなって書き足して結果読みにくくなるのどうすればいいでしょう。


ずっと身に着けることができなかった、否、身に着けるのを止められていた能力がある。私の主たる界王神様も魔人ブウの脅威が明らかになってから身に着けた能力。神たる素養のある芯人は付き人や界王神となることによって得られる能力のほかに長年の修業によって得る能力がある。それが…

 

「ソラヨッ!」

 

振り下ろされた爪は傷の痛みで思うように動けないキビトにとっては不可避の一撃、仮に傷が全くない状態であったとしても躱すのは難しい、そんな速度で振り下ろされた一撃。

 

サッ

 

その一撃を避ける。

 

スッ、ピション!

 

懐に潜り込んだキビトは左手でヤコンの腹に触れると気合砲で吹き飛ばした。

 

ガシャン!ドン!

 

岩山が崩れ、岩壁にぶつかるが大きなダメージを負った様子のないヤコンが意外そうな顔をして起き上がって言った。

 

「その足でよく避けたな。」

 

足の神経は切れていないようだが、深く膝に傷が入っている。何やら念力のようなもので無理やりつなげているらしいが、痛みがなくなるわけではないはずだ。動きを全く鈍らせず避け、あまつさえ反撃してきたキビトにある種感心していた。しかしなればこそ、先ほどよりも早い速度で切り刻みに接近する。

 

サッ、スッ、ピシュン!

 

「ウグッ!」

 

それに対してキビトは先ほどと同じように攻撃をかわして見せ、先ほどと同じように反撃をした。

 

「これならお主を倒せそうだ。」

 

本来ヤコンの身体は強靭な皮膚によって守られている。外側から攻撃を受けたところで同程度の実力からの攻撃ならほとんど意味もない。しかし芯人の戦い方は気功波で体内にダメージを与える技だ。芯人の戦い方は魔獣に対して防御の面では不利だが、攻撃の面では有利だった。そして今、キビトはダメージを無視して行動できている。

 

…それが痛覚遮断。感覚を麻痺させ、閉じる能力。

 

 

「待っていたよ、界王神」

 

「お前の計画はなんとしてでも阻止する!」

 

バビディの宇宙船に着くと、何やら空間が歪むように景色が変化した後、バビディが現れ、続いてダーブラが現れる。

 

「魔獣ヤコンをあんな形で切ってくるからには大物が控えているとは思っていましたが、まさか暗黒魔界の王までも配下にしているとは…!」

 

「ふふふ、万が一にもお前に勝ち目は残さないさ。お前を倒し、()()()()()()()たるこの僕が宇宙の王となる!」

 

父親の復讐に囚われた息子、父親が倒されて、界王神に憎しみを抱いて生きてきたバビディにとって、界王神のやることなすことすべてが気に入らないのだろう。こいつが界王神を殺せば、また宇宙を破壊して回るはずだ。

 

「お前は恵まれているな。」

 

バビディの野望を聞いて、今まで黙っていたトランクスが口を開いた。

 

「復讐する相手がいる。頑張れば努力は報われる。取り返しがつかなくても、無念を晴らすことは出来る。」

 

今にして思えば、師匠(孫悟飯)の仇を打とうと修業に明け暮れていた日々はこの数年間よりずっと幸せな日々だったと断言できる。目標に向かってがむしゃらに過ごせることが、自分の成長が実感できることがどれだけ尊いのか分かる。

 

ボゥッ!!

 

トランクスの全身からが金色のオーラが噴き出す。ダーブラがバビディを庇うように前に出た。

 

「憎いくらいにまぶしくて、羨ましい。」

 

だからこれは恩師(ライ)を殺されて仇すらも分からない自分の…逆恨みだ。

 

 

痛覚がない生き物についてどう思うだろうか。痛みを感じない人間種はメタルマンを始めとして数種族いるがその種族は桁外れに強靭な肉体を持っていたり、未来を予知する能力を持っていたりとそれぞれ痛覚の代替機能を持ち合わせている。芯人は他の多数の種族と同じくしっかりと痛覚がある種族だ。その感覚を閉じる。痛みがないだけで、皮膚は容易く裂け血が足りなくなれば死ぬ。界王神様はこの力を使うときは自分の前にしろと言い含められていた。

 

「「ゴハッ!」」

 

キビトの拳がヤコンに触れるのとヤコンの爪がキビトの脇腹を貫くのは同時。お互いの身体がお互いの血でぬれる。

 

「波ッ!」

 

「ウグゥッ!」

 

爪が体に食い込んだままだというのに、全く意に課さずに気合砲でふっとばした。

 

「ア、アリエナイ。ソノ傷デ、ソンナ体デ、ドウシテ動ケル!」

 

ヤコンも相当なダメージを負っているが、それ以上にキビトは致命傷となるはずの傷を何発も受けている。右腕を動かせなくなるほどの肩の傷、右脇腹に空いた穴、ちぎれかかっている脚、そのどれもが一つだけで動けなくなるほどの傷だというのにそれほど傷を持ったまま、否、増やすことも厭わずに自分に攻撃を仕掛けている。

 

「来ルンジャナイ!」

 

ここに至っても間違いなく優勢なのはヤコンだというのに、ヤコンは恐怖に支配されつつあった。攻撃にキレがなくなり、近づいてきたキビトに振るった攻撃は頬をかすめる程度に留まる。

 

「ヒッ!」

 

だらしなく空いた口に左手をかざす。強靭な外皮を持つものはえてして

 

ピシューーン!ドーーン!

 

体内は脆い。体内で爆発のような音が響き、魔獣は四散した。

 

(界王神様…すぐに助けに行きますから。)

 

この体でも痛覚を閉じたままなら十分に動ける。最悪でも界王神様を守る肉壁くらいにはなれるはずだと歩みを進めようとするが、ヤコンを倒したことで集中の糸が切れたのか意識に靄が掛かったように重い。

 

フラッ

 

「あがっ!」

 

ダメージは大きく一瞬意識が飛ぶが、それと同時に閉じていた痛覚が開かれて痛みにより意識が戻る。再び痛覚を閉じてもまた意識が半端に飛ぶだけだろうと痛む体を引きずって界王神たちの方へ向かい始めた。

 

 

「バビディ様、ここは危険です。こいつら二人は私が相手しますのでどうぞ下がっていてください。」

 

オーラを噴き出し臨戦態勢をとるトランクスを前にして、ダーブラの余裕は崩れない。

 

「界王神を目の前にして隠れて居ろだなんて冗談じゃないよ。奴を倒すのは僕さ。界王神の相手は僕がするから、あのトランクスとかいうやつの攻撃が万が一にも僕に来ることがないようにね。」

 

「承知しました。」

 

傍若無人な振る舞い。それが最善ではないとダーブラは理解していても、彼は主の要望を完璧に果たそうとする。

 

「トランクスとか言ったな。バビディ様の宿願のため、ここで死んでもらうぞ。」

 

「(トランクスさん、私はバビディを相手します。バビディを倒しても洗脳が解けるか分かりませんが、洗脳が解ければダーブラとは戦う必要はありませんし、解けなくても二対一の方が優位に運べます。出来るだけ早く始末するので少しでも時間を稼いでください。くれぐれもやつの唾には触れないでください。石にされてしまいますので。)」

 

テレパシーが脳内に響きそれに分かりましたと答える。

 

「ようやくつかんだ平和を、お前等に奪わせはしない。」

 

キーン!ピシュゥン!

 

「その程度の気弾など、この私には通用しない。」キン!

 

バーン!

 

どこからか出してきた剣で気弾を真っ二つに割り、後ろで爆発音が()()

 

ピッ!

 

「バビディ様!」

 

口角が上がっていることに二つに割った一つがまだ爆発していないことに気づき後ろを向くと、半球になった気弾がバビディにすっ飛んでいた。気づくのが遅く守りに行けない。断腸の思いで叫ぶ。

 

「ッッ!?バリアー!」

 

鋭い爆発音が響き、煙が晴れる。そこには五体満足でバリアを張ることに成功した魔導士が一人。

 

「チッ」

 

「こらダーブラ!そいつの攻撃が来ないようにって言っただろ!無理を通せよ!お前は僕の家来なんだからさ!」

 

「…失礼しました。」

 

苦虫を噛み潰す顔を体現してなんとか返し、トランクスに向き直った。

 

「さっきのような不意打ちは二度と効かんぞ。」

 

「ではお前を殺してからバビディを殺す。」バッ!

 

ババババババ!

 

強気なセリフとは裏腹に、距離を取った気弾攻撃で時間を稼ぐ。

 

「強気なセリフは虚勢かな、トランクス。」グッ!

 

気弾の嵐を抜けたダーブラの首に向かって手を伸ばす。それを右手で防ぐと手首を捻られた。

 

「あ、がっ!」

 

「(そのまま留めて!)」

 

界王神からの念話を聞き、爆発波で脱出しようとしたが痛みをこらえる。数瞬としないうちにダーブラの背後に無数の槍が出現した。その切っ先は全てダーブラに向かっている。

 

何もない空間から物質を顕現させる()()の能力。付き人でも使うことのできる能力ではあるが、宇宙を司る最高神として発揮される創造は付き人がするそれとは一線を画す量と質で発現する。

 

シュバババババババ!

 

「ぬぅ!?」

 

(こいつ、この私を盾にする気で!)

 

トランクスが身をダーブラに覆い被されるようにずらしたことで気づいたのだろうがもう回避は間に合わない。

 

「波アッ!」

 

すぐさま体力を使う代わりに予備動作を捨てた爆撃で無理やりダーブラが爆発波で弾く。トランクスもこの隙に距離を取った。

 

「(トランクスさん、これを。)」

 

距離をとるとちょうど界王神と背中合わせになった。界王神からの念話が脳内に響く。

 

「(この宇宙で最硬の鉱石で作ったものです。あなたなら使いこなせます。)」

 

手渡されたのは黒い槍。神が生み出しその武器はこの世界に存在するどんな業物をも上回る。

 

「槍を持ったくらいで対等になるとでも思うのか?」

 

「近接武器は一通りの心得がある。」

 

剣を構えたダーブラに槍を構えて相対する。

 

「はあっ!」

 

「うおらっ!」

 

キィィン!

 

剣と槍が交錯して轟音が響く。

 

「驚いたな。まさかここまで槍を使いこなせるとは思わなかった。」

 

「フン。」

 

数合の打ち合いの後のダーブラの賛辞にぶっきらぼうに返し、ダーブラにはじかれた無数の槍に気を通す。ダーブラに相当の余裕があることは今の立ち合いだけでも十分に分かった。次は手数だ。

 

ピッ!シュバババババババ!

 

槍を両手持ちから片手持ちに持ち変える。空いた左手を少し動かすだけで無数の槍がダーブラを襲う。自身も突撃し飽和攻撃を仕掛けてようとする。

 

「その程度どうということもない」

 

ドォォン!

 

「ぐっ!」

 

爆発波で槍を弾き飛ばし、そのままトランクスにもダメージを与える。ならばとタイミングをずらして槍を矢継ぎ早に突きさしていく。それをみてダーブラは動き回りながら躱していきトランクスに切り込む。

 

キィン!

 

鍔迫り合いになったことで身動きが取れないことをいいことに、槍の連撃を浴びせていく。

 

ドォォン!

 

先ほどより威力は弱い衝撃波だが、操作していた槍は弾かれてしまう。気を薄く通しただけの槍ではダーブラの衝撃波を突破することはできない。

 

「遠隔攻撃なぞ俺には効かないぞ。」

 

「それなら近距離で特大の一撃を与えるまでだ。」

 

キーーーン!ピシュン!

 

「んなっ!」

 

槍を投げ捨て、両手を合わせる。近距離専用の気功波術であり、肉弾戦において攻撃を捌く動きが予備動作になる、トランクス唯一のオリジナル技。

 

「バーニングアタック!」

 

すさまじい光があたりを包み、後ろに飛びのくダーブラに迫る。

 

「エビルインパルス!」

 

飛びのいたおかげでわずかにできた時間で光弾を発射してバーニングアタックと打ち合う。

 

「うぐぐぐ…」

 

きっちり準備して打ったトランクスのバーニングアタックでも即席で撃ったエビルインパルスに押されだす。気合砲で押し返そうとするも押し返しきれず逆の押され返す。それほどまでに戦力差は大きかった。

 

「(援護する!押し返せ!)」

 

トランクスが押し負けて吹き飛ばされようかというタイミングでキビトの声が脳内に響く。

 

「うがああああああ!」

 

その言葉を信じて気合砲を再び強く打ち出し押し返す。

 

「な、体が、思うように…くそっ!」ピン!

 

エビルインパルスに気弾を重ねて放ち爆発させる。

 

「(助かりました、キビトさ…)」

 

トランクスの後ろに来たキビトに振り返りお礼を言おうと振り返るがそのあまりの姿に絶句してしまう。

 

「(私のことなど今はどうでもいい。界王神様がバビディを倒すまで体力を少しでも温存するのだ。)」

 

そう言うと界王神が先ほど作り、トランクスが気を通していた無数の槍が浮き始める。

 

「(槍を使った遠距離攻撃で支援する。ある程度距離を置いて引き気味に戦え。大丈夫、我々なら出来る。)」

 

念話は思考の共有。トランクスがイメージした戦い方を最大限発揮できるようにキビトが立ち回り、完璧な援護を実現する。その力は圧倒的戦力差にも通用しうるかもしれないとトランクスは槍を構えた。




トランクスが槍を操ってるのはガッシュに出てくるレイラの技、ミベルナ・マ・ミグロンのコネクト、ハーベストができないものと考えてくれれば大体イメージに合ってます。
さて、バーニングアタックを初めて見た時、かっけえの後にあの手の動き何?ってなりまして、それに理由付けをしようとした結果がこれです。


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(第六十四話)復活

ドラゴンボール超の設定を一部使っていますが、この物語は魔人ブウ編までで完結させます。


トランクスに槍を渡した直後、界王神はバビディに攻めあぐねていた。

 

「ビビディよりもはるかに厄介な魔術だ。」

 

何より面倒な魔術はバリアだった。界王神の力では破壊することのできない硬度のそれは界王神の焦りを助長する。

 

ガギィン!

 

界王神の気をまとった手刀がバリアとぶつかり鈍い音を立てる。優勢なのは界王神でもその戦いをコントロールしているのはバビディだろう。

 

「ふふん、僕が君を殺したがっている理由の一番はパパの復讐だよ。パパの弱点がそのまま僕に使えると思ったのか?」

 

「確かに攻撃は防がれているがこちらもお前からの攻撃はほとんど効いていないぞ。」

 

挑発してくるバビディに言い返す言葉は全くの負け惜しみというわけでもない。バビディの存在を知ってから魔術に対する対抗策として神術も磨いてきた。この戦いに限って言えばどちらが勝ってもおかしくない。この戦いに限るのならば。

 

(トランクスの気の消耗が激しい。少しでも早く援護に向かわなければ…!)

 

バビディと界王神の実力は拮抗していてもバビディの勢力と界王神の勢力は拮抗してはいないのだ。

 

「びりびりの魔術!」

 

バビディの魔術によって粘性の球体がいくつも飛んでくる。それを躱し、あるいは念力で弾き、バビディに接近する。

 

「ぱっぱらぱっぱー!」

 

しかし、界王神の拳が届く距離に入る前にバビディが別空間とつなぎ界王神の周りに球状のマグマドームを造り出す。魔導士の名に偽りはなく、界王神はこの戦いで同じパターンの攻撃を受けていない。

 

「…」ブゥゥン!

 

周囲を囲うように現れたマグマに対し界王神は神術を掛けて熱に対する耐性をつけマグマの中に飛び込む。

 

「んなっ!」

 

マグマに飛び込んでくるとは思ってもみなかったのだろう。遠隔で攻撃できる魔術を構築していたのか、背後のドームが凄い速度で収縮していったが既にドームを飛び出した界王神にとってまたとない攻撃のチャンスだった。

 

「バリアー!」

 

この期に及んでも即座にバリアを展開するその周到ぶりしかし、今はそれこそが望んでいた展開だった。

 

「ホール!」

 

界王神の生み出した手刀の斬撃が、バリアをすり抜けてバビディを切り裂く。

 

 

「はぁぁあああっ!」ピシィッ!シュッ!ガッ!

 

トランクスから連続で放たれる槍の攻勢を防ぎながら、キビトが念力で操る槍の攻撃を気合砲で弾く。

 

「うっとおしい!」ドガッ!

 

トランクスの攻撃の隙間をついて爆発波を放つ。思わずのけぞってしまったトランクスを置いてキビトに仕掛けに行く。

 

「キビトさん!」

 

「(構えろっ!)」

 

念話はイメージしたことを伝える能力だ。どのように動いて欲しいか伝わった。

 

シュッ!

 

崩された態勢から手に持っていた槍を投げつける。ダーブラの拳は既にキビトに迫っている。ダーブラもうっすらと槍の存在を確認し、槍から逃れるよう態勢を変える。それでも。

 

「ッ!」

 

「食らえぇ!」

 

キビトとトランクスの位置が入れ替わる。ダーブラに100の実力があろうと、10(キビト)の動きを想定していたのに80(トランクス)の動きをされればそれは有効な不意打ちだ。彼は人造人間ではないのだから。

 

ドンッ!

 

「しまっ!」

 

吹き飛ばされ、態勢を立て直し、唇に付いた血をぬぐう。

 

「貴様等ァ!!」

 

「(入れ替え技、ブギウギは自分以外とでも発動できるが強制発動は自分以下の実力でないといけない。目を媒体に発動するため視認できれば発動できる。)」

 

トランクスが先ほどキビトの意図を察せたからこそ発動できたのだ。ダーブラに直接使うことはできない。

 

「(分かりました。では多用せずブラフにしましょう。)」

 

使いすぎるとダーブラと入れ替えられないことに勘付かれる可能性がある。方針を決めて激高したダーブラにトランクスとキビトが相対する。

 

 

「ぐうっ!」ぎしゃぁ!

 

界王神が放った斬撃がバビディの左腕を切り裂き血が噴き出す。それと同時にバリアが解かれた。

 

「とど…んなっ!」

 

接近して攻撃しようとした界王神がとっさにバビディの右腕を弾こうとほぼ反射的に動く。バビディは魔導士、直接攻撃に威力はほとんどないはずだというのに界王神がとっさに動く。その拳を振るう速度が今までよりはるかに速かったからだ。

 

ゴン!メキミシッ!

 

界王神が軌道を逸らそうとしたのにも関わらず全くその軌道は逸れず、界王神の腹に直撃し人体からおおよそ鳴ってはならない音が響く。

 

「ゴハッッ!」

 

吹き飛ばされ地面を転がり土煙が舞う。

 

「ふふ、ふはははは!無様だねえ、界王神!」

 

「この、この威力は…ありえない!」

 

界王神から食らった斬撃で左腕から血を噴き出しているというのに、全く意に介さずに勝ち誇る。

 

「どんな気分なのかな。魔導士である僕の殴打で致命傷を食らうってのはさ。」

 

「バビディぃぃ!」

 

倒れていた界王神が起き上がり、バビディに突撃する。その手のひらから放たれる発勁を受け止める。

 

「おや?まだそんなに動けたんだね。」

 

「クッ、ハアッ!」ビュゥン!

 

ありえない、ありえないありえない。念力でバビディの動きを止めながら考える。バビディが魔術で肉体を強化してもここまで圧倒的な力を得るような呪法は存在するはずがないのだ。そんな呪法があるのなら神術に精通する界王神が知らないはずがないのだから。神術にできないことが魔術にできても神術の限界をはるかに超える魔術は存在しえない。なぜなら、魔術は()()()()()()()()のだから。

 

「そんなもの、今の僕には通用しないよ。」ゴン!

 

「ゴフッ!」

 

念力を振り払い、再びバビディの拳が叩き込まれる。万全の状態かつ両腕で放つ念力はとある世界では孫悟飯をも止めうるものだが、今の状態で放つ念力にはそのような強力な阻害効果はない。

 

「まだだあ!」

 

バシッ!

 

「おかしいね。僕の攻撃を二撃食らってもそんなに応えてないみたいじゃない…かっ!」

 

バビディの念動力によって動きを封じられ、連打を浴びる。

 

ドン!ゴン!ゴシャッァ!

 

「どうなってるんだろうね。体はボロボロなのに全く痛みを感じているように見えない。それに…」

 

嫌な目つきだ。勝負を諦めていない者がする目つき。ダーブラを洗脳するときもそうだった。心をほとんど奪われていたはずなのに尋常じゃない覚悟が含まれている目。潜在能力を引き出した洗脳後の方が強いはずなのに、今のダーブラが暗黒魔界の王として君臨していた過去のダーブラに勝てるように思えない。

 

「こ、このぉ…」

 

「苛立たしい苛立たしい、本当に苛立たしいよ。この状況を覆す方法などあるはずがないのに敵意だけは失わないってのがさ。」

 

魔導士に戦闘力で負ける、それがどれほど界王神の心を折るのか精神をズタズタにできるのか、この戦闘力を借りる魔術を思い付いたときは想像するだけで笑みがこぼれたほどなのに、実際には肉体的にどんなに追い詰めても精神的に追い詰められているようには見えない。その目を屈服させるためにさらにダーブラから力を借りて殴っていく。

 

 

「相手と自分の位置を入れ替える、実に厄介だ。」

 

その選択肢があるというだけで、常に警戒しなければならない。未だ使ってこないが、自分(ダーブラ)との入れ替えをされれば相当厄介だ。あの付き人(キビト)に対しての遠距離攻撃は全て自分に降りかかる。

 

「だがまあ、貴様等を殺すのに問題はない。」

 

その入れ替え術を大技を打たれる前に使わせることができたのは幸運だったのだろう。

 

「少しずつ動きが悪くなっているようだが?」

 

バビディ様に力を貸し続けている現状では思うように戦えない。それも事実ではある。それでもだ。

 

「負け惜しみはその辺にするんだな。」

 

「負け惜しみ?それは違う、これは時間稼ぎだ。」

 

会話により動きが止まるトランクスとダーブラ。その隙をキビトは援護の準備を整える。

 

ザッ!バババ!

 

大量の槍の切っ先がダーブラに向かう。

 

「行くぞッ!」

 

射出される。しかし涼しい顔してダーブラは言い放つ。

 

「槍での援護も鬱陶しいと思っていたところだ。」

 

ダーブラの目が光ったかと思うとキビトが操っていた槍を全てひとまとめにした。

 

「「んなっ」」

 

「念力が貴様等だけの能力だと思ったか?」

 

キビトとトランクスが動揺のあまり声を出す。援護がなくなったトランクスに対して強力な拳が振るわれる。

 

ドンッ!

 

「うがっ」

 

吹き飛ばされ地面にたたきつけられる。

 

「止めだ。」ゴン!

 

地面で悶絶しているトランクスに蹴りの追撃を入れて唾を吐き出す。悶絶しているトランクスに対して避けることなど叶わない必中必殺の一撃だ。

 

(いやだ)

 

思考が加速する。だからこそというべきか体は全く思うように動いてくれない。加速した思考は自分が石化唾から逃れることができないことを残酷に判断する。

 

(イヤだ、こんなところで、まだ何も…)

 

何も為せてない。悟飯さんに、ライさんに、生かしてもらった意味を果たせてない。地球を脅威から、守れてないのに。

 

「そう簡単にはやらせんよ。」

 

キビトの念話が脳内に響く。犠牲になるから(ブギウギを発動させるから)受け入れろと、そしてそれは拒絶することは許されない。ダーブラに勝てる可能性があるのはトランクスだけなのだから。

 

「(待って、だめだ!俺じゃあ!)」

 

パッ!

 

もう誰かを犠牲にしたくないのに、咄嗟に拒絶の言葉が出てきているのに、キビトとトランクスが入れ替わる。石化唾が掛かる。

 

「(あとを頼むぞ。)」

 

念話を済ませて石化する体を厭わず手を伸ばす。

 

「ただでは死なんッ!」

 

「(やめてくれッ!キビトさん!!)」

 

決して離さないと残りの命を燃やして両腕をつかみ、念力を掛ける。

 

「俺ごと石化するつもりか、無駄なことを。」

 

(「キビトさん!!」)

 

(「近づくな!」)

 

石化する体に構いもせず叫ぶ。どうせもう、間に合わない。

 

「お前の実力からしたら今の俺ですら止められるはずがないというのにその念力はどういう仕組みなんだか興味はあるが…」

 

「ぐ、ぬう…」

 

キビトの両腕が石化される前に頭部が石化され始める。それと同時に念力が解かれる。

 

「残念だったな。お前がこと切れる方が早かったようだ。」

 

そう言って未だ生身のキビトの両腕を切り落とす。本来石化で死ぬことはないが、既にキビトは限界だった。腕を両断されたダメージが最後の一押しとなった。

 

「次はお前だ。」

 

「は、ハハ、俺は、俺はまた、あの時と…ハハ、ハハハ、ハハハハハ!」

 

認めたくない、知りたくない。それでもキビトが死んだことは認めるしかない現実だ。ポタラが黄緑色に変わる。

 

「気でも触れたか?」

 

ダーブラが聞いてくる。そんなわけない。この程度で気が触れるなら俺はとっくの昔にぶっ壊れてるというのに。あるいはついに限界に達したのかもしれないけれど。

 

「今度は、今度はあの時と違うッ!憎むべき相手がはっきりと分かるッ!こんなに嬉しいことはない!」

 

ドォン!バチバチバチ!!

 

トランクスから凄まじいオーラが走り、稲妻がほとばしる。

 

「敵討ちを今度こそ果たしてやる。」

 

ずっと果たせなかった師匠の敵討ち。分かっている。これはキビトの敵討ちであって師匠の敵討ちではない。その代わりにはならないと知っていても今のこの気持ちを留めることなんてできない。

 

 

「気を失ったかな。苦しむ姿が見たかったのにつまらない。」

 

ボロ雑巾のようになった界王神を投げ捨てる。

 

「死んじゃいないだろうね。魔人ブウが復活した姿を見せたかったのに。」

 

曇ったその顔は少し晴れる。魔人ブウ復活エネルギーがたまり気の融合装置が稼働し始めたからだ。

 

「ははっ、ようやくだ。僕が世界の王となる時が来たんだ!」

 

「そうはさせない。」

 

ゾクッ!

 

「ヒッ!」

 

強烈な悪寒が走り思わず飛びのく。その判断が正しかったと、直後には知る。ものすごい速度で拳が耳元を掠めた。

 

「お前まだ戦う気、いやそもそも…もう動ける体じゃないはずだ!」

 

徹底的に痛めつけてやったのだ。界王神の傷の深さはあるいは本人以上に知っている。だからこの状況が理解できない。

 

「私は、この宇宙の最高神としての責任を果たさなければならない。どんな手段を使ってでも…!」

 

「ふ、ふはは!そんな体で?どうせさっきの一撃も精一杯の動きだったんだろう!?」

 

パワーもスピードも界王神を大きく凌駕している。しかし肉体は貧弱な魔導士のままだ。今のバビディは不意打ちに弱い。界王神はそれをこの一瞬で見抜けたのだろうか。

 

(さっきは危なかったが不意打ちが失敗した以上もうこいつにやられることはない。…()()()()()?)

 

「ッッッ!」

 

戦慄する。今の自分はダーブラから借りていた強大な力がない。ダーブラに力を借りることを拒否されている。

 

「(何やってるんだダーブラ、僕に力を寄越すんだよ!)」

 

魔術を使って直接ダーブラの脳内に話しかけるが応答がない。

 

「このグズッ」

 

毒を吐いて仕方なしに自己強化魔術を掛ける。

 

「こ、このっ」

 

この力では界王神と何とか渡りあうので精一杯だ。

 

「魔人ブウはあと数十秒後には復活するんだ。お前如きそうなれば一瞬で…」

 

バッ!

 

「ぎゃあ!」

 

粋がるバビディに界王神の気合砲による衝撃が襲う。地面に倒れこむ。

 

スッ

 

「今すぐ魔人ブウを再封印なさい。しなければお前を消します。」

 

無機質な声と表情で耳もとに手をかざし界王神が言い放つ。

 

「出来るものならやってみるといいよ。どうせお前は僕を殺せない。」

 

バビディを殺せば魔人ブウを再封印できなくなる。だからこその余裕。

 

()()といいました。」

 

「無理さ。言っただろう。勝ちの目は残さないとね。」

 

界王神がこれ以上の対話は無意味だと悟る。耳元にかざしていた手に握られている神具(ポタラ)をバビディに付ける。

 

「業腹です。貴方にこの手段は使いたくなかった。」

 

神を寵愛する融合装置。ヒュージョン以上の効果を秘める融合(ポタラ合体)は、片割れが界王神の時のみ発動する効果がある。

 

「たとえこの身を汚そうとも、貴方の全てをもらい受ける…!」

 

それは人格が界王神のままであるという効果。

 

「ぱっぱらぱー!」

 

バビディが魔術を唱えるがもう遅いとポタラをバビディに取り付けた。

 

キイィィン!

 

「うがッ!」

 

ポタラを取り付けた油断に、バビディの攻撃が襲う。ポタラが作用しないことに呆然とする。

 

「な、ぜ…?」

 

「融合拒絶の魔術なんて存在しないよ。」

 

その言葉がさらに界王神を混乱へと誘う。

 

「今唱えたのは…拘束の呪文さ。」

 

「ッッ!」

 

その言葉とほぼ同時に界王神の意思に反して身体が浮き上がり球状の火球が自身を囲う。

 

「パパの復讐を果たすためにお前を殺そうと思っていたが、気が変わった。お前には殺すより残酷な復讐を思い付いたからね。」

 

「くそっ!私の攻撃が通用しないのか!?」

 

火球を吹き飛ばそうとするが攻撃が通っている様子がない。

 

「こちらからも攻撃ができない代わりに僕が死なない限りは壊せない檻だ。さあ、魔人ブウが復活して僕の意のままになる宇宙を指をくわえてみるといい。ひとしきり満足したら殺してあげるよ。」

 

バビディが指をさしたその先にはブウが封印されていた玉がある。その玉から煙が噴き出して二つに割れた。

 

 




呪術廻戦の東堂葵の術式名をお借りしました。不義遊戯(ブギウギ)というセンス好きです。キビトのブギウギは東堂のそれとは汎用性が違いますけどね。


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(第六十五話)今はこいつを

最近読んだ小説の影響をもろに受けて展開がねじ曲がってしまいました。さあてどうやって想定していた結末に持っていこうかな。


「きっさまぁ!」バッ!

 

「うおおおおお!」ピシッ!

 

新たなる覚醒を遂げたトランクスの実力はダーブラに匹敵する。先ほどまではキビトの援護を含めても余力がある様子だったが、今はその余裕がない。

 

「ピックバンアタック!」

 

「フレイムウォール!」

 

気功波を撃ち、それに並走して突撃する。炎のガードが相殺されてダーブラの懐に潜り込む。

 

ゲシッ!

 

「ウグッ」

 

自分に匹敵するものがいなかったダーブラは初めて負けうる可能性のある敵相手に精彩を欠いていた。

 

「食らえ!」

 

ダァン!

 

鋭い蹴りで飛ばされバランスを崩す。土煙が舞う。

 

「お、おのれえ!」シュイン!

 

投げやりを魔界から召喚させる。気功波であれば感知されるだろうが、投げやりであれば不意打ちできる。そしてそれを考えていたのはトランクスもだ。

 

シュイン!

 

神に連なる付き人としての能力、使い方を教わらずとも無意識に槍を創造できた。界王神が無数の槍を創造したことを見たからかもしれない。

 

「「ッッ!?」」ゾクッ

 

投げようとした手が止まる。凄まじい気を感じ取ったからだ。

 

(この気が魔人ブウ…!!)

 

復活だけはさせてはならないと界王神が言っていた理由が、キビトが命を懸けた理由がはっきりとわかる。これは存在してはいけない災厄だ。

 

「お、おお…ついにバビディ様の宿願が果たされる。」

 

土煙から槍が飛び出し、続いてダーブラが飛び出す。先に正気に戻ったのはダーブラだった。

 

「舐めるな!」キィン!

 

振りかぶられた槍を同じく槍で弾いて爆発波で強引に距離を取らせる。

 

(今は、こいつを殺すだけ。)

 

それ以外は考えない。

 

 

「魔人ブウ、この目で見るのは初めてだ。ハハッ、さあ僕を王にしろ!」

 

「終わった、もうどうしようも、私はこの宇宙を守れなかった。」

 

火球の中でうなだれる。そうしている間にもバビディは魔人ブウに命令を下そうとする。

 

「おい!僕を無視するのか、僕はお前のご主人なんだぞ!?」

 

「べろべろバア!」

 

「ひぃっ!」

 

何するんだと憤慨するバビディの態度もどこ吹く風なブウに対してバビディが切り札を話す。

 

「良いのかい、僕はお前を封印する呪文を知ってる。僕がその気になればお前はまた封印生活に逆戻りだよ?」

 

その言葉を聞いたとたんブウの動きが止まり、バビディに礼をし始めた。それをみて満足そうにうなずくバビディを少しだけ見開いたブウの目が射貫いている。

 

その最中

 

ドォン!ドン!ゴァン!

 

「ひぃっ!」

 

「うっとおしいぞ貴様!」

 

気弾による弾幕を弾き、あるいは躱してダーブラが叫ぶ。いつの間にか離れた場所で戦っていた二人は、この激しい戦いの中で再び戦場を共有していた。しかし実力が拮抗した二人には周りを気にする余裕がなかった。

 

「あいつらなんだ?」

 

凄まじい戦いだ。間違いなくこの宇宙で最強の二人の戦いであった。しかし、この魔人の存在の前には最強の戦いなどおこがましい。

 

「あいつらか、金髪の方は界王神の仲間でもう一人は僕のしもべのダーブラさ。ダーブラの奴、忠実なしもべとか言っておきながら僕の魔術を受け入れない不忠な奴だけどね。」

 

「それじゃああいつら、殺していいか?いいだろ?あいつら俺を無視して戦っている。あいつら生意気。」

 

「まあお前がいる以上ダーブラも用済みか。よーし、僕の忠実な配下魔人ブウ、あいつらを殺すんだ!」

 

「フンフーン!殺しちゃおー!」

 

明るい声には不釣り合いな物騒なことを宣言し、魔人が二人の戦いに割って入った。

 

「…魔人ブウを封印するのです。貴方にとってもブウは厄災、復活させたことをきっと後悔するときがくる。」

 

魔人ブウを見送っているバビディに界王神が説得を試みる。

 

「ははっ、無様な負け惜しみだねえ。でも不愉快だよ。お前はこの火球の中で無様に嘆いていればいいんだ。僕がお前を殺すときまで。」

 

 

「ビクトリーキャノン!」

 

「フレイムブラスト!」

 

キー-ン!ズガアアァ!

 

二つの気功波がぶつかり合ってせめぎ合う。実力が拮抗しているからこそ確信がある。

 

「波ああああああ!」

 

「うぐぉおおおお!」

 

この一撃を決めた方がこの勝負に競り勝つだろうと。その決意をあざ笑うように、

 

「ばあ!」

 

パンッ!

 

圧倒的な力が二人を蹂躙する。

 

「え?」

 

「なに?」

 

二つの気功波を弾き飛ばした存在に二人が固まる。

 

「お前等俺より弱い。ふっふーん」

 

「この間抜けが魔人ブウ?」

 

硬直が解けたダーブラが今度は愕然とする。ふざけた見た目だが実力だけは疑いようがない。そう疑いようがないのだ。ハッとした表情でブウに近づいて言った。

 

「失言だった、撤回する。」

 

言動がみっともなくとも目の前の相手こそがバビディ様の野望を果たすに欠かせない人物だ。であればバビディ様を主と仰ぐ同士に当たる。禍根は残すべきではないだろう。それはそれとして。

 

「好意は受け取るが…」

 

トランクスとの戦いでバビディ様の要望にお応えできなかった。せめてその元凶は自分で片を付けなければバビディ様に申し訳が立たない。

 

「手出しはふよ…」

 

バチイイィィン!

 

「お、おぉ」

 

「はは、変な顔!はっはっは!」

 

助太刀を断ろうとしたダーブラの両頬を両手で叩く。分かっていたはずだ。俺とダーブラの気功波をまとめて消し飛ばしたやつの実力がどれほどのものか。しかしこうして実際の動きを見ればこうも違うのかと逃げ出したくなる。だけど、

 

(大丈夫分かってます、キビトさん。)

 

もうキビトはいないけれど、キビトさんの心残りは全て俺が注いで見せますから。

 

「はあァァッ!」

 

バチバチバチバチ!!

 

(今は()()()()を殺すだけ。)

 

自分を守って散った人を思えばこんなところで怖じ気づいてられない。

 

 

トランクスが覚悟を決めたころ、ダーブラはブウに詰め寄っていた。

 

「魔人ブウ、何をする!!」

 

しかしそれもどこ吹く風にブウは言い放った。

 

「お前、バビディに捨てられたんだ。だから俺が殺す。」

 

「この大馬鹿者がぁ!」スカッ!

 

激高して殴りかかっても簡単に避ける。激高していても、いやそれだからこそ相当な速度であるのにかかわらず。

 

「ほいっ!」ズゴォ!

 

「う、うぐぅ…」

 

「それー!」

 

ダァン!

 

「うわっ!こっちに吹っ飛ばすんじゃないよ…ヒッ!」

 

地上にたたきつけられ土煙が舞う。バビディが巻き込まれかけて文句を言っているとダーブラがバビディの前に立つ。

 

「バビディ様、魔人ブウは危険です。貴方の宿願の障害に必ずなります。今すぐ封印してください。」

 

「お、お前がトランクス如きに苦戦するからこんなことになってるんじゃないか!」

 

必死に叫ぶ。俺が力不足だったのは事実ではあるけれど。

 

「貴方が信じてくだされば、俺は必ず応えて見せるッ!」

 

そう叫んだ時がタイムリミットだった。魔人ブウが叩き潰しにくる。

 

「お前、弱いな。」

 

ダーブラを蹴り飛ばす。既に虫の息のダーブラを信頼することはできない。

 

「魔人ブウ、次はあいつだ。あの金髪のトランクスを殺せ。」

 

「つまんない。」

 

「へ?」

 

ダーブラ(あいつ)、そんなに強くなかった。きっとトランクス(あいつ)もそう。」

 

「な、なに言ってるんだ!そんなに封印されたいのか?」

 

ブウが見せる反抗の意志にバビディは動揺し封印をちらつかせる。それは諸刃の剣だ。

 

ダーブラ(あいつ)は俺がボコボコにした。今俺を封印したらお前トランクス(あいつ)に殺されるぞ。」

 

「余計な知恵をつけるんじゃない。お前は僕の言う通りにしてればいいんだよ。お前は僕の家来なんだ、言うこと聞くのは当たり前だろ!」

 

「まあいいや、あいつ、俺を殺す気みたいで生意気だもーん!」

 

向けられた殺気を敏感に感じ取り目を見開いてトランクスを睨みつけ突進してくる。

 

「ブギウギ!」パッ!

 

その動きにだいぶ余裕をもってトランクスは入れ替え術を発動しいて回避した。入れ替え先は…

 

「ヒッ!待てブウ、僕だ!君のご主人様だぞ!」

 

バビディ。それはブウにとっては絶好の機会、ブウにとって自分に対抗しうる唯一の存在。

 

「イヒィ…」

 

だからこそこの機を逃さない。間違えようもないはずなのに、間違えたふりをして顔面を潰す。

 

「死んじゃえ!」バチュッ!

 

火球はすぐには消えない。体を上下二つに切られても死ぬことのないバビディは顔を潰されても息絶えるまでには数秒かかる。そしてその数秒でさえもブウと相手どるなら死を覚悟しなければならないほどの時間だ。だから。

 

パッ!パッ!

 

バビディと自分の位置を入れ替え、その後()()()()()()()()に自分と界王神を入れ替える。火球の中にブウとトランクスが押し込められそして。

 

パッ!

 

バビディと入れ替わる。

 

「トランクスこっちに!」

 

火球にバビディとブウを閉じ込めて、バビディの命の灯が消える前にダーブラを捕まえている界王神に触れて。

 

「カイカイ!」

 

トランクス達は界王神界に帰還する。

 

 

ピシュン!

 

「なんとか戻ってこれましたね。」

 

界王神界で界王神がほっと胸をなでおろす。それも一瞬。魔人ブウを倒す策をトランクスから聞き出さなければならない。

 

「意図を酌んだ動きをしてくれて助かりました。ダーブラを連れて界王神界に戻るなんて強硬策を認めてくれたことも。」

 

ダーブラを回復しながらトランクスが界王神に礼を言う。

 

「心を読みましたからね。火球の中にいる時はただ見えるだけで神術は全く意味をなさなかったので、説明は欲しいところですけど。」

 

火球の中ではトランクスの思考を読むことはできなかった。だから火球からブギウギで出た瞬間トランクスの思考を読んで、理由を後回しに動いた。思考を覗くなどこんな非常時でなければ使ったりはしないのだがこの未曾有の時にそんなことは言ってられない。

 

「ポタラを使うのです。」

 

「ッ!なぜそれを?」

 

トランクスが付き人になってすぐに戦いに赴いた。トランクスには付き人としての能力の使い方さえもほとんど知らない。さらに踏み込んだ神具についてはなおさらだ。

 

「キビトさんが殺されてから付き人としての能力の扱い方とか、神具についての知識とかが流れ込んできたので。」

 

「そうですか、キビトは…」

 

よくよく見ればトランクスのポタラが青から黄緑色に変わっている。一の付き人が繰り上がったことによる変化だ。界王神や付き人が死んでしまった時のための安全装置。界王神が死ねば一の付き人が繰り上がり、二の付き人が一の付き人になるように、キビト(一の付き人)が死んでしまったことでトランクス(二の付き人)が繰り上がったのだ。その際キビト(死んでしまった付き人)の付き人としての知識の全ては引き継がれる。

 

「ポタラは私、界王神が関わらなければ一時間で解除されます。あの世とこの世を含めて三本の指に入る二人の合体であれば勝つこともあるいは可能かもしれませんが…。」

 

ブウを倒せたとしてももう一つ、ポタラにはリスクが存在する。

 

「大丈夫です。分かってますから。」

 

「分かりました。貴方の覚悟に頼らせてください。」

 

自分のポタラを外しているトランクスに頭を下げる。

 

「ええ、ダーブラを片割れにそれで魔人ブウを殺してきます。」

 

つい先ほどまで殺し合いをしていた相手との合体、拒否感は相当のもののはずだ。自分がバビディと合体するのと同じようなものが。心配を読み取ったのだろう。心配するなと言葉を続ける。

 

「今はこいつらを殺すことしか考えられないので。」

 

丁寧な口調だが、それが逆に狂気をはらんでいるような、バビディたちへの憎しみが強すぎて心を上手く読み切れない。きっと一時間が立った時、ダーブラも殺すのだろう。見届けなければならない。トランクスとダーブラの合体戦士が負けてしまえば魔人ブウを止められる者などいないのだから。

 

キイィィン!

 

黄緑色のポタラが明るく輝き、合体戦士が誕生する。

 

「さあ、行きましょうか。」




トランクス15億
師匠を失ってからの日々はトランクスをさらなる高みへと連れて行った。かつての孫悟飯に並び立てる戦士へと成長する。それでも、彼の力は足りていない。


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(第六十六話)決着

読む前に注意事項です。この話には二重人格の表現があります。不快になる恐れがあるので読む際は自己責任でお願いします。この話を読まなくても次話以降全く問題はありませんがざっくりとした流れを後書きに書いておきます。



界王神たちが下界に戻ってきたときとほぼ時を同じくして、バビディの火球が解けて魔人ブウが解き放たれる。

 

「バビディ様はだいぶ往生際が悪かったようですね。」

 

ええと頷きながら界王神は思考する。火球による封印呪文、魔人ブウにおいても破壊できなかったことを見れば、その封印呪文はかつてビビディが魔人ブウ封印に使ったものと同系統の魔術だったのだろう。神術での解呪も叶わず本当に必殺の封印だった。バビディの悪趣味によって外の景色をみることができたからこそ、ブギウギを発動できたのだろうがそうでなかったらと思うと恐ろしい。

 

()()()()()

 

「ッ!」ビュオン!

 

念力を掛ける。界王神界でトランクスから回復を受けたから、それなりに強力な行動阻害効果があるはずだ。

 

「なにを…?ッ!」

 

自分があの魔導士をなんと呼称したのかに気づいたのであろう。自分の人格の主を担うのがどちらなのか。

 

「大丈夫、大丈夫です界王神様。俺はトランクスだ。」

 

一瞬の逡巡の後にそう言って魔人ブウに気を向けた。心を読めば少なくともトランクスの人格の方が強いことが見抜ける。今はそれでよいとしよう。

 

「お前、強いな?」

 

火球がバビディのものと本能的に悟ったブウがバビディを入念に気で消滅させた後心底嬉しそうにこちらに、トランクスに視線を向ける。

 

「ああ、お前よりも圧倒的に。」

 

大丈夫、大丈夫だ。どこからか湧いてきているバビディ様、バビディへの忠誠心はバビディが死んでも消えてくれたりはしなかったが、ダーブラも俺も魔人ブウを亡ぼすことに関しては一致している。それならばこいつを殺すの()()支障ない。

 

「ブウー--!」

 

頭から蒸気を出したかと思うとブウが突っ込んでくる。その速度ははるかに速いものだ。単体の戦士としては最高の速さ、そして

 

ドオン!

 

振るわれる最高の威力な右拳。それを同じく右手で受け止める。受け止められる。

 

グシャッ!

 

握り潰す。ピンク色のジェル状の細胞が弾けて地面に落ちる。

 

「ブィーブウー-!」

 

ブウはすぐさま再生して拳の連撃を繰り出し始めた。

 

「さんざん馬鹿にしてくれたなあ、魔人ブウ。」

 

「てりゃあああああ!」

 

それもすべて簡単に躱す。今の俺にはこの程度の連撃の隙など簡単に避けられる。

 

「そおれっ!」

 

「があああ!」

 

蹴りの一発でブウは倒れる。

 

(さっきの借りがこんな簡単に返せるなどとは思わなかった。…違う、借りなんてない。)

 

甚振るような戦いなどヤメてさっさと止めを刺すべきだ。

 

「ブウ!ブウ!ブウ!ブウ!」

 

気弾を撃ってくる。簡単にかき消せる。気弾の弾幕を全て消し飛ばし、隙だらけな腹に殴りこむ。

 

「うごぉ…」

 

「ハハハッ!」

 

空いた左手をブウの口元に持っていく。ここまで圧倒できるなんて思わなかった。

 

「体内が爆発したことはあるか?」

 

そうじゃない、体の外からの攻撃がだめなら中からだ。この攻撃はただ苦しめたいからじゃない。

 

バッ!キーン、ズギャアアア!

 

「う、ご、があ…ギッ!」

 

ドォン!

 

体内からの攻撃でも再生できるようだ。ダメージを受けても一瞬で復活される。だったら気で消滅させればいいだけだ。いいや、自ら死を求めるように懇願するまで徹底的に痛めつけてしまえばいい。それで殺してやるんだ。バビディ様を殺した報いを受けさせてやる。

 

「うぐっ!おがっ!おひっ!うがあ…」

 

ブウの触覚を掴みサンドバックのように殴り続ける。豊満な体がぼこぼこにへこむ。

 

「少しは恰好よくなったんじゃないかな?」

 

パッ!ピシュゥン、ドーーン!

 

「ギッアァ…」

 

「再生能力はあるのに痛覚があるのか。痛めつけがいがある。それに、どんなに殴ろうとも痛めつけようとも再生してくれるってのはいいものだな。バビディ様の仇をとれ、る。」

 

頭を振る。思考をクリアにする。俺はトランクスだろう。仇を取れるからなんだそんなことがしたいんじゃない、さっさとこいつを殺す。

 

「よくも、よくも俺を馬鹿に…!ブウー--!」

 

怒りに震え、蒸気を出すその姿からはまだ戦意喪失してはいないようだ。だが。

 

「ギャッ!」

 

放たれた気功波が魔人ブウの右手を抉る。

 

「お前を殺すぞ、ブウ。」

 

ダーブラの思想に飲まれる前に、こいつを滅してしまおう。

 

ポンッ!ピィー-!

 

宣言を煽りととらえたのだろう。怒りに飲まれて再び蒸気が出る。右腕が再生する。

 

ドゴォッ!

 

「ごッ…」

 

スパッ!ガシッ!

 

鳩尾に深い一撃を与えれば動きは止まる。気のブレードで首を切り飛ばし、体を気功波で消滅させた。

 

「く、くそー」

 

残りの顔だけでもブウは復活し始める。でもブウ自身も分かってる。自分がもうすぐ殺されることを。ただ悔しそうだ。死への恐怖、死という概念が分かっていないのかもしれない。

 

パッ

 

「これで終わりだ。」

 

「ブ、ガアアアー-!」

 

ヒートビームアタックがブウを消し去った。

 

「あっけないな。」

 

一息つく。魔人ブウは子供みたいなものだった。どこかで何かが違えばこんな化け物にならなかったかもしれないのに。最初に会ったのが界王神様であったならきっと頼りになる付き人になっていたかもしれない。

 

「これで宇宙は救われます。お疲れ様でした。」

 

界王神が頭を下げてくる。不味い、界王神様に頭を下げさせている。顔を上げてもらわなきゃ。

 

「いえ、あなたの神具があればこそ、あの魔人に借りを返せたのです。これは俺達の勝利ですよ。そして…」

 

そして…なんだ。次はバビディの敵討ちだとでも言うのか馬鹿め。

 

「あと数十分の辛抱ですトランクス。少し眠りなさい。」

 

その不自然さを感じ取ったのだろう。界王神が何事か呟くと界王神の気が全身を覆い瞼が急に重くなる。衝撃波を撃てば簡単に突破できるだろうけれど、頭がおかしくなりそうな精神状態の今は神術に身を任せるべきだ。

 

「カイカイ」

 

意識を失う直前、界王神がそう言う声を聞いた。

 

 

「もうすぐ一時間ですか。」

 

魔人ブウを倒しもう憂いはない、そう言えればよかったのに。合体したトランクスにかけた神術は合体が解除されると同時に切れる。そうすれば最後の戦いの幕開けだ。私の援護は確実な勝利を呼び込めるほど強くない。

 

(キビトを失い、トランクスさんに苦痛を強いて、それでもこんな私についてきてくれた二人に報いなければ。)

 

キーン、パッ!

 

合体戦士が光って二人に、トランクスとダーブラに分離する。

 

「波アァッ!」ビュウィン!

 

「フン!」パッ、キラッ!

 

分離直後の無防備な瞬間に動きを封じてしまおうとするが気によるバリアで防がれる。その一瞬の隙に。

 

「フィニッシュバスター!」

 

トランクスが急襲する。

 

ペッ、ジャキン!

 

唾を吐きかけ石化した気功波の球を切り裂く。魔人ブウ復活という枷がないダーブラはありとあらゆる攻撃を繰り出せる。それに対して。

 

「そこだ!」ドンッ!

 

トランクスがその全力のダーブラに匹敵する実力を身に着けたのもまた事実。

 

ドン!ドドン!ダン!ガン!バン!

 

(速すぎる、動きを目で追うので精一杯だ。)

 

分離直後の奇襲でトランクスに先手を取らせることには成功したがそれだけだ。その早すぎる戦いに、界王神は干渉できない。

 

「(身代わりにはなれます。いざというときは使ってください。)」

 

干渉できなくとも役に立つ方法がある。トランクスとダーブラが分離するまでの数十分何もせず待っていたならばそれこそ無能の烙印を押される。

 

「エンチャント・アンチカース!」

 

戦いを有利にする付与の神術、アンチカースは呪いの拒絶。

 

 

ペッ!

 

ダーブラの唾が吐かれる。

 

ピシッ!

 

それを気弾で弾く。石化唾自体は気弾で簡単に弾けるが、それに気を取られれば他の攻撃が来る。だから距離を詰めたいダーブラと距離を取りたいトランクスの戦いは膠着する。

 

「それッ!」

 

「うらぁ!」

 

生成したカッチン鋼を投げ、それをダーブラが念力で弾く。

 

「(接近なさいトランクス!)」

 

界王神の指示が脳内に響く。それと同時に界王神の術がトランクスの身を包む効果を理解したトランクスはすぐさま接近戦に躍り出た。

 

ガキン!

 

「チッ!」

 

剣を生成して切り込むと、ダーブラも同じ様に剣を取り出し防ぐ。急に距離を詰めてきたトランクスにダーブラの対応は一歩遅れる。

 

「マキシマムフラッシャー!」ズァッ!

 

片手で放つ気功波、父から学んだ必殺技だ。

 

「うぐおっ!」

 

「波ああ!」

 

「グガァ!」

 

気功波に吹き飛ばされて界王神界の地面にたたきつけられる界王神界は他の星と比べてはるかに硬く、トランクスとダーブラの戦いでも壊れることはない。

 

 

吹き飛ばされたダーブラは界王神界にできたクレータの中からトランクスを睨む。

 

(界王神の援護がやつの攻撃の起点になっているな。)

 

界王神程度の実力などはっきり言って大した脅威になり得ないと思っていたがなかなかどうして厄介なものだ。先の石化唾の無効化に始まり視界を制限する霧、分かっていれば隙などできないが、そうでなければわずかに隙ができる。

 

(俺に直接干渉した技は使ってこないから戦えてはいるが…)

 

自分より劣っていたトランクスとの戦いを何とか成立させていたキビトの力量を思えば、それよりも優れたる界王神の援護が効果的なのは当然のことかもしれない。

 

(ならば、まずは界王神を殺すか、いや…)

 

入れ替え術のことを考えれば界王神を先に殺すのは至難の業だ。二人を殺すことの難しさを痛感する。きっと無理だ。

 

(俺は、負けるのか。)

 

バビディ様、私はどこで間違えたのでしょうか。

 

そんな問いは無意味だ。答えは分かってる。バビディ様に私の忠誠を信じてもらえなかった。植え付けた忠義をあの方は信用しきれない。

 

伝えればよかった。私が自身の心を操る糸に気づいていたことを。その糸に私の意志で身を任せていたということを。

 

死後の世界があるのなら、私はバビディ様に会えるだろうか。

 

ガキィン!

 

「うっ!」

 

戦いのこと以外に思考を割いたのだ。ただでさえ押されていた。この結果は必然だ。抗うことを諦めた者にふさわしい末路。特大の気弾がトランクスの両手の上で輝く。

 

「エンチャント・エンハンス!」

 

界王神の声が響くとその特大の気弾はさらに力強く輝く。ああ見事だったよ。アンチカースに始まり、時間が掛かるはずの付与術を連発して、お前も間違いなく私の敗北の立役者だ。

 

「フィニッシュバスター!」

 

ズガアアァ!

 

巨大な気弾がダーブラを滅ぼした。

 

 

「これで全てが終わった。」

 

「ええ、これで宇宙が平和に。」

 

彼等が宇宙の平和を守ったことを彼等以外に誰も知らない。

 

「っと、大丈夫ですかトランクスさん。」

 

界王神には復活パワーを使うことができない。ずいぶん無理をしたトランクスをねぎらうことしかできないことをもどかしく思いつつ、肩を貸す。

 

「この宇宙の救世主ですよ、トランクスさん。」

 

「ようやく、ようやく地球を守れました。俺はようやく師匠たちに顔向けできそうです。」

 

自分を捕えていた因果をやっと張らせた。ようやく前を向ける。

 

「私以外にその偉業を称える者がいないのが少し勿体ないですが…だからこそあなたが望むならこのまま付き人として修練を積んだ後にこの座を譲り渡すこともできます。」

 

芯人でない者が界王になる例はあれど、界王神になる例は今までで一度も無い。それでもその働きに報いるならば前例を作るくらいはするつもりだ。

 

「いえ、俺には界王神の座は性に合いませんよ。俺は地球に戻ってこれからも地球の平和を守っていきます。この体がそれを許す限り。」

 

そう言ってトランクスがポタラをなでる。

 

「この座はお返しします。」

 

「界王神になれば寿命という枷から解き放たれます。半永久的に地球を守ることもできますが。」

 

それこそ地球が自分の力なくても大丈夫だと思えるまで、と続ける界王神にトランクスは首を振る。

 

「俺は地球人として生きていきたいんです。後進も育てます。地球が地球人の手で守れるように。」

 

「そうですか。私も頑張らねばなりませんね。宇宙の危機をこの私の手で守れるように。」

 

「界王神様は今のままでも十分強いですけどね。」

 

戦闘力という意味ではなく、その他のあらゆる意味でこの方は強い。人として完成されている。でもそれは神の目線で言ったら違うのだろう。

 

「ハハ、ありがとうございます。」

 

「さてと、それじゃあ俺は地球に戻りますね。もう会うことはないでしょう。さようなら。」

 

そう言ってポタラを外して界王神に渡そうとするが界王神は首を振った。

 

「いえ、その力はこれからの人生に役立つでしょう。何かあれば私とあなたをつなげる物でもあります。何かあったら頼ってください。」

 

界王神のトランクスに対するせめてもの礼。付き人の能力に加えて神具のポタラだ。その言葉にトランクスの顔が綻ぶ。

 

「ありがとうございます。それでは…また会いましょう。」

 

そう言ってトランクスが下界に戻った。この平和はトランクスと界王神によって守られ続ける。




この小説はいつから異能力バトルになったんでしょうね?

以下この話の概略
トランクスとダーブラの合体戦士がブウを圧倒し倒す。界王神界にもどったら二人の体力の平均で分離してしまう。トランクスとダーブラが戦ってトランクスが勝つ。

たった二行で語れることが五千字に増えるとかどうなってるんだ?


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(第六十七話)七年後

前話で魔人ブウ編(未来)完結です。ここからは魔人ブウ編(現代)ですが、かなり駆け足で行きます。この物語はライがインフレに食らいつく話でブウ編のライはインフレに食らいつけないでしょうから。ついでにこの小説で微強化されてきた地球人たちも全員食らいつけないので悟空が生きていることがブウ編にどんな影響を及ぼすのかって感じですね。


「こんにちはライさん、お久しぶりです。」

 

「悟飯久しぶりです、大きくなりましたね。」

 

人造人間の騒動から七年後、ライは数年振りにあった悟飯に顔を綻ばせて言う。

 

「そう言うライさんは全然変わりませんね。」

 

「貴方と違ってもう結構いい歳で成長のよちないんですよ。でもまあ変わらないってのは好意的に受け取っておきます。ところで悟天君はどうですか元気してます?」

 

父さんのことを聞かないあたり、なんとなく想像できるのだろう。実際に修業に明け暮れているからおそらく想像通りであろうが。

 

「ええ、最近じゃ父さんとの組み手で超サイヤ人になっちゃいましたよ。」

 

「へえ、超サイヤ人になった悟天ですか。少し戦ってみたくはありますね。近いうちにパオズ山にお邪魔しようかなあ。」

 

「本当ですか!ええ、是非来てくださいね。僕も悟天も父さんや母さんだっていつでも歓迎しますから。」

 

そう言ってくれた悟飯に礼を言って先を促す。

 

「ふふ、ありがとう悟飯。それじゃあ悟飯の学校が休みの日にでも。ところで何か用があったから来たんじゃないんですか?」

 

「ああそうでした!ライさん、一月後に天下一武道会が開かれるんです。学校の友達に誘われて出ることになったんですけど、そしたら父さんや悟天も出るってやる気になったんでみんなも誘おうかなって。」

 

「それじゃあピッコロや天津飯さん達も?」

 

「ええ、ピッコロさんやブルマさん一家はもう出場してくれるって言ってました。ブルマさんからヤムチャさんにも話は通ると思いますし後はクリリンさん一家と天津飯さん達ですね。」

 

「なるほど、久しぶりに勢ぞろいするわけですか。」

 

「はい。いい返事がもらえると思ってます。でも…」

 

でも天津飯さん達の気が見つからないんですよねえと愚痴る。

 

「彼ほどの実力者なら地球のどこにいても見つかるはずなんですけど…きっと今取り組んでる修業のせいですね。私が居場所を知ってるので話を通しておきますよ。」

 

「そうですか!よかったあ。天津飯さん達だけ仲間外れになりそうで困ってたんですよ。是非お願いします。」

 

「ええ。」

 

「それじゃあ僕はそろそろ行きますね。一か月後、楽しみにしてます。」

 

そういって悟飯は飛び立った。

 

 

「ほう、天下一武道会か。懐かしい大会だな。」

 

悟飯がライの元を訪れた次の日、ライは天津飯のところにやってきていた。

 

「せっかくだからどうですか。私も出ますし、久しぶりにみんな集まるみたいですけど。」

 

「…すまないが、今回は見送らせてくれ。」

 

少し悩んだようだが、断られてしまう。予想していたことではあるけれど。

 

「やっぱりその修業、一ヶ月じゃ完成しませんか。」

 

「まあな。これが完成するまでは自分を追い込むのをやめたくないんだ。」

 

この人は生真面目で自分に厳しいから。

 

「そうですか、残念ですけど仕方ないですね。それじゃあ修業が完成したら私と手合わせしましょう。修業の成果を見てみたいです。」

 

「ああ、そうだな。そしたら餃子も連れてこちらから会いに行くよ。」

 

「ええ。楽しみにしてますね。」

 

そう言ってライは天津飯の元を去った。

 

 

そして天下一武道会の日はすぐにやってくる。

 

 

「ライ!こっちこっち、おーい!」

 

パパイヤ島について受付に向かっていると聞きなじみのある声が聞こえた。

 

「ブルマさん!お久しぶりです。それにみんなも。」

 

集まっていた、ブルマ一家に孫一家、そしてピッコロにそれぞれ挨拶を交わす。

 

「悟飯ごめんね。天津飯には断られちゃった。」

 

「いえいえ、本人の都合もあるでしょうし、仕方ないですよ。今日は頑張りましょうね。当たったら絶対勝ちますから!」

 

「私もそう簡単には負けません。」

 

そう話しているとクリリンが会話に入ってきた。

 

「お前達と戦うにしてもせめて本選で戦えればいいんだけどなぁ。これだけいれば誰かしらは予選でぶつかっちゃうよ。」

 

「あれ?知らなかったんですかクリリンさん、今回から予選の形式がかわったんですよ。」

 

「へえそうなのか、そりゃまたどうして?」

 

「なんでもアナウンサーが前回の本選があまりに地味だったから少しでも派手になるようにパンチマシンでパワーが上の人から順に16人とっていくみたいです。」

 

この話はあくまで噂だけれど、意外と核心をついていると思う。第二十三回天下一武道会を最後までリングアナとして全うした彼にとって前回の大会は余りに面白みに欠けるものだろうから。

 

「へえーラッキーだったな。それなら俺達全員本選出場は決まったようなもんじゃないか。」

 

「ええ。ついでにもう一個朗報です。前回から子供の部と大人の部に分かれたらしくて、だから悟天君とトランクス君は別枠です。これも悟空とピッコロレベルの戦いに子供を巻き込めないっていう配慮だったんでしょうけどね…」

 

「今のあいつらよりも物凄い大怪獣バトルが少年の部で行われるってことか。なんか今回出場する子がかわいそうになってきたぜ。」

 

「はは、確かにそうですね。でも僕は悟天とトランクス君の戦いが楽しみですよ!」

 

「ええ、きっと天下一武道会史上最高の戦いになりますよ。もっとも今日はその最高の戦いが何度も塗り替えられる日になるんですが。」

 

「ははっ!違いない。」

 

そう言ってライ達は受付を済ませ、道着に着替えなおすと予選会場に入る。

 

 

「ややっ!やややや!君達は!」

 

予選会場に入るとすぐにアナウンサーが嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「今日はなんと素晴らしい日だ。まさか君たちに会えるなんて、ずぅーっと待っていたよ。君たちがまた参加してくれるのを!」

 

「よっ」

 

「どうも」

 

「お久しぶりです、アナウンサー。」

 

何度も参戦していた悟空やクリリン、そしてライが挨拶を交わす。

 

「正直言って君たちが出場しない天下一武道会は退屈そのものだったよ。もうレベルが低い低い、おや?」

 

三人の後ろにいる仲間たちに目線を移す。

 

「ところで、皆さん仲間かな?」

 

「ええ。みんな前回よりも圧倒的に強くなってきてますから楽しみにしてくださいね。」

 

「いやー結構結構頼もしい。あなた、もう会場を破壊しないでくださいね。」

 

アナウンサーがピッコロに釘を刺す。

 

「さあな。」

 

「こらこら。」

 

「まあまたあの凄まじい戦いが見れるならなんでもいい。期待してるよ。君たちなら予選突破確実だ!素晴らしい試合を頼むよー!」

 

そう言ってアナウンサーが去っていった。

 

 

それからほどなくして天下一武道会の予選が始まる。予選方法はライが調べていた通り、パンチマシンの数値の高い順だった。アナウンサーと目が合う。

 

「それでは最初は前回優勝者のミスターサタンさんにやってもらいましょう。」

 

(参考記録を見せてくれるってところかな。変に目立たないようにってことでしょうか。)

 

アナウンサーの細やかな気づかいに軽くお辞儀すると彼がにんまりと笑った。

 

「130も出せれば予選突破ですかね。」

 

悟飯が友達に会いに行くと去ってしまったがそれ以外の仲間内にそう話す。

 

「そんなことは分かってるさ、問題はどうやってそれくらいの値に調節するかだ」

 

十八号が少し困ったような表情で言った。

 

「そんなもの壊しちまえばいいだろう。」

 

「せっかくの気づかいを無駄にしちゃ悪いでしょう。まったく。」

 

「気を調節すればいいんだよ。そんな難しくない。」

 

そう言うとちょうど十八号の出番になったようだ。一度とんでもない値を出したがなんとか調節しなおして200前後に数字を抑える。

 

「やっぱり難しいですよね。日常レベルの力と戦闘用の力は違いますもん。しかも武闘家レベルなんて日常レベルとも戦闘用のレベルとも離れた中途半端な力ですもん。」

 

「ふっふっふ、気のコントロール技術だったら俺の独壇場だ。」

 

そう言ってクリリンがパンチマシンをたたく。結果は140。その後も悟空やピッコロ、それにライが調節に難儀しながらも200前後をたたき出し、ベジータがパンチマシンを破壊した。サイヤ人として生きてきた彼に手加減など技術的に可能かどうか以前にありえないのだろう。

 

「あ~ららやっちゃった。」

 

クリリンがそう言うように、ライ達もあちゃーと頭を押さえているが、それでパンチマシンが復元されるわけではない。ライ達より後にパンチマシンをたたくことになる悟飯は組み合わせによっては悟天とトランクスの戦いを見れないかもしれない。ちょうど少年の部が始まるとアナウンスが入った。

 

「悟天とトランクスが出る少年の部が始まるらしいぞ、せっかくだから見に行こうぜ」

 

悟空を皮切りに予選を終わらせた六人が移動する。その途中で悟飯のところにも立ち寄った。悟空が驚きクリリンが茶化す。

 

「女の子の武闘家なんて珍しいですね。」

 

仲間内に女性の武闘家がいなかったから、ライにとってビーデルの存在は珍しく映る。

 

「しかもけっこう強い。」

 

当然、ライやクリリン達の領域には遠く及ばない。あくまでも一般の武闘家としてみるならば、だ。

 

「ええそれに飲み込みもいいんです。僕最近彼女に舞空術を教えたんですけどもう飛べるようになったんですよ。」

 

「私それ覚えるのに数ヶ月かかってるんですけど…」

 

なるほど、彼女もまた何か違えば私達と同じ領域に踏み入れたかもしれない人間なのだろう。

 

「そう言うことならちょっと楽しみになってきました。本選ではよろしくお願いしますね。」

 

「は、はい、よろしくお願いします。」

 

そうして挨拶を済ませ悟天達の戦いを見に行った。

 

 

「場外!トランクス選手の勝ち!優勝です!!トランクス選手の優勝!」

 

少年の部は当たり前というべきだろうが、二人の独壇場だった。彼等二人がお互い以外に負けるなど、そんなことはありえない。ブロックが違う幸運にも恵まれて彼等二人で決勝戦となり、二人は超サイヤ人を解禁しての激しい戦闘の末、トランクスの優勝になった。決め手はトランクスの気功波。背中にもろに受けた悟天が勢いを殺しきれずに場外に出てしまう。

 

「すっげえ戦いだったな。俺正直ちびっ子たちがこっち来なくてほっとしちゃったよ。」

 

大人の部本選が午後から始まるとのアナウンスを聞いて昼食にしようと移動している間も二人の戦いの話題で持ちきりだった。

 

「私はむしろこっちに来て欲しかったくらいですよ。絶対白熱したのに…」

 

二人の戦いを見て臆するクリリンとは対称的にライは二人の戦いを見て彼等が少年の部で出場したことに不満があるようだ。武闘家を引退して警官として身を立てているクリリンとは違ってライはまだ武闘家で生計を立てている。その差。

 

「弱音吐いてるんじゃないよ。みっともない。」

 

弱気になったクリリンに十八号がしっかりしろと檄を飛ばす。

 

「そりゃあライや十八号はまあそれなりにあいつらともやりあえるだろうけどさ…俺はあいつらと戦うってなったら場外に追い出すくらいしか勝ち筋がないよ。」

 

「なんだ、勝つ気あるじゃないですか。」

 

そういってライ達は食堂に向かった。

 

 

昼食でサイヤ人たちの無尽蔵ともいえるのではないかという胃袋を見たのち、本選の組み合わせを決める抽選会に出る。本選出場者十六名の中で不運にも悟空とベジータが一回戦で戦うことになってしまったが、それ以外は仲間内での戦いはなかった。ただ、仲間内以外にも意外な強者はいる。それは例えば。

 

「最初から彼の仲間と戦えるとは運が良かったですね。どの程度のものかある程度見極められるでしょうし。」

 

「ええ。彼等の実力が私達の力になればよいのですが。」

 

何やら不穏なことをはなしている二人だったり、

 

「ちっ、さっさとエネルギーを吸収してあの方のお役に立たねば。」

 

「そう焦るな。戦いになれば実力も分かる。」

 

さらに不穏な話をしている二人だったり、

 

「一回戦目からライさんじゃん、俺あの人がどれくらいやれるのか、前からすっごい気になってたんだよねえ!」

 

「僕も僕も!この前家に来た時は戦ってくれなかったし。」

 

本選出場者に成り代わったちびっ子二人組だったりする。まあちびっ子二人は仲間内だが。

 

(仕方ない子たちだなあ)

 

係員に突き出してもいいがせっかくの機会だ、騙されてあげよう。きっと悟空やベジータ達気を探ることができる者はみんな気づいたうえで放置しているのだろうし。十八号だけは気を探れないから気づいていないかもしれないが、戦うことになればクリリンが伝えるだろう。まあ一回戦で倒すつもりだし、彼女はどちらが勝ち上がるにせよ二回戦でやられてしまうだろうから戦うことはないだろうが。

 

「さて、抽選が済んだのですぐに本選に移ります。一回戦目のクリリン選手とブンタ―選手は武舞台に上がってください。それ以外の選手は控室に移動してください。控室はあちらです。」

 

係員に案内され控室から本選の様子を見始めた。ライにとって四回目の天下一武道会が始まる。




途中で気づいてしまったことがあるのです。この世界はサタンが英雄ではないということに。天下一武道会優勝ということで有名ではあるんでしょうが。ちなみにこのパンチマシンの記録は現実のものとはかなり乖離しているようです。少なくとも単位がkgでないことは確かです。


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(第六十八話)幕引き

伸びてたり連続投稿したりと内通者の方がモチベあるんでしょって思うでしょう。残念でしたねぇ!こっちの方がモチベあるしいろいろ展開考えとるわ。結果がついてこんだけだわ!ちくしょう…


本選ではクリリンが簡単に突破し、ピッコロがあのシンという人に対して棄権する。その後のビーデルとスポポビッチの戦いは一方的な展開でスポポビッチが勝利した。そして。

 

「ふはは、意外と簡単だったな。」

 

悟飯とキビトの戦いは界王神であったシンによって動きを阻害されたために悟飯がエネルギーを吸われる。

 

「もしよければ、あなた達もついてきてください。とても助かります。」

 

そう言って界王神がヤムーとスポポビッチを追いかけ始めた。

 

「どうすんだ、悟空。」

 

「おらはいくさ。こうなって原因を絶対に知りてえからな。」

 

「それじゃあ、俺も行こうかな…」

 

それを悟空やそれを追いかけるベジータ、ピッコロやクリリンがついて行くことを決意する。

 

「私は残ります。」

 

しかしライは残ることを宣言する。

 

「え、お前は残るのか?」

 

「ええ。あの二人を止められる監視役が必要でしょう?」

 

会場の屋根の上を指さしていった。上にはトランクスと悟天が扮したマイティマスクがいる。

 

「ここにはブルマさん達もいますし、何かあれば私とヤムチャさんで時間稼ぎ位はします。悟空がいればすぐに戻ってこれるでしょうし。」

 

「そっか、じゃあ悟天達を頼むぜ。」

 

そういって悟空やベジータ、それにピッコロが飛び出し、クリリンが十八号に追いかけることを伝えに行く。

 

「ええ、任せてください。…さて」

 

 

「ねえ、私も一緒にいっていい?いっぱいあるの知りたい事。」

 

キビトによる復活パワーで復活した悟飯がビーデルに詰め寄る。

 

「駄目って言っても…」

 

「無理です。あなたはついて行かせない。」

 

強い意志でついて行こうとするビーデルをライが押しとどめる。

 

「ライさん!」

 

「スポポビッチ程度に勝てないあなたがついて行ったって足手まといです。やめておきなさい。」

 

「何するのよ!足手まといになんかならないわ。もし私がやられそうになっても見捨ててくれて構わないから!」

 

「悟飯はそんなことできない。分かってて言ってるなら相当性格悪いよ。」

 

そんなつもりはないだろうけれどこうでも言えば止まるだろう。なんとなく分かるのだ。大界王よりもさらに上、界王神が危機感をもって動いている現状、相当大変なことになるだろうと。

 

「悟飯、行ってきなさい。こっちは私に任せて。あとで顛末を教えてくださいね。この子にも。」

 

「はい、行ってきます!」

 

ドシュン!

 

悟飯が礼を言って飛び立っていった。

 

 

「事態がはっきりするまで天下一武道会は休憩としまーす!」

 

悟空達が飛び立ってしまった後、出場選手の大半がいなくなったために試合は中断となった。それから一時間が立つ。

 

「残ったのがわずか五人、この中でトーナメントをやっても盛り上がりに欠けますからねえ。」

 

「賞金さえもらえればどうでもいいよ。悟空達がいなくなったのはある意味じゃラッキーだったね。高順位を取れる確率が上がった。」

 

「フフ、それはどうでしょうね。私以外にも意外な強敵が紛れてるかもしれません。」

 

少年の部で戦っていた二人を見れば私も十八号さんも簡単には勝てないだろう。二人で一人を演じるというハンデはあってもそれを強みにした戦いだってできるはずだろうし。

 

「皆さん、大変長らくお待たせしました。去ってしまった選手たちは戻ってくる様子がありませんので残った五名に加え、一回戦で敗退してしまったブンター選手、ビーデル選手に加え、予選会で惜しくも本選出場を逃したキーラ選手を加えた八名で本選を開催したいと思います。」

 

二人で話しているとアナウンサーが選手たちにそう通達する。

 

「それ大丈夫なのかい、なぜだか超回復したビーデルさんはともかくブンターはもうボロボロだろう」

 

ジュエールがそう言うが、傍らにいたブンターは不敵な笑みを浮かべる。

 

「へっ俺があの程度のチビ親父の攻撃にいつまでもやられてると思うなよ。全然大丈夫だぜェ」

 

「ちっ!あのやろうクリリンが気を遣ってやったのをいいことに…!」

 

クリリンは気のコントロール技術が極めて高い。きっと大きなけがやダメージを引きずらないように気絶させたのだろう。同じ芸当ができる武闘家を私は知らない。亀仙人さんならできるのだろうか。

 

「復活することに対して不満が無ければこれを開催したいのですが…いかがでしょうか。」

 

これはお伺いだったのか。なるほど、選手が去るなんて非常識な行動だったって言うのに、それの穴埋めをしなければならない運営には頭が下がる。もっとも悟空達を止めるなんてことは世界の破滅を招くかもしれないことを考えれば、悟空達を咎めるなんてできない。咎めるべきは悪の手先であろうヤムーとスポポビッチくらいだろうか。

 

「ええ、私は構いませんよ。数年に一度の大会、無駄には出来ないでしょうし、少年の部に劣らない戦いをお見せしますよ。ねえ、十八号さん。」

 

「ああ、そうだな。私も構わない。」

 

もともと残っていた選手が次々に案を承諾していく。

 

「俺達…じゃなかった、俺も構わないぜ!」

 

「みなさんありがとうございます。それではトーナメント表を作らせていただきますね。選手は呼ばれましたらこちらにくじを引きに来てください。」

 

 

「会場の皆様お待たせしました!人数が減ってしまったため、一回戦で惜しくも負けてしまった二人と、惜しくも十六名に滑り込めなかったキーラ選手を復活させての八人でトーナメントを開催したいと思います!そのトーナメントの結果は…これだ!」

 

第一試合はキーラとライ、第二試合はジュエールとマイティマスク、第三試合は十八号とブンター、そして第四試合はサタンとビーデルだった。第一試合から第三試合までは当然というべきだろうライ、マイティマスク、十八号が勝利する。第四試合は盛り上がる。前回大会大人の部チャンプと少年の部チャンプ。二人の戦いはそれまでの試合が全て一撃で決まったこともあって白熱した。その結末は激戦の末、ビーデルが勝った。いや、激戦とは呼べないだろう。ビーデルは舞空術を使わずに戦っていたのだから。

 

「技巧とパワーのぶつかりあった素晴らしい試合でした。皆さん、その試合の立役者親子に惜しみない拍手を!」

 

パチパチパチパチ!

 

「さて、それでは続きまして、ライ選手対マイティマスク選手です!二人とも圧倒的な強さで一回戦を勝ち上がってきました。その実力はどれほどのものか、私非常にわくわくしておりますっ!」

 

「よろしくお願いしますね、マイティマスクさん、いえ、トランクス君に悟天君。」

 

武舞台に上がり握手を交わす際に耳打ちする。

 

「イイッ!ば、バレてる…!」

 

「大丈夫、大丈夫。ばらしたりしないから。私もあなた達と戦ってみたかったので。」

 

「よ、良かったぁ…俺達もライさんがどれくらい強いのか気になってたんだ。全力でかかってきてね!」

 

その言葉にはいはいと返して距離を取った。

 

「それでは、始めてください!」

 

「ハアッ!」ドン!

 

合図と共に二人が飛び込んでくる。振るわれる攻撃を受け止める。

 

「よっと!」ドン!

 

「てりゃりゃりゃりゃりゃ!たあー!」

 

凄まじい速度の連撃、だが両手しか使ってこないのであれば対処は容易い。

 

「それっ!」

 

「うわぁ!」

 

蹴りがマイティマスクの下半身、すなわち悟天に当たる。

 

「よ、は、それっ!」

 

ドン!ゴン!バガン!

 

拳を二つ、ついでに蹴りを一発。マイティマスクが吹っ飛ぶ。

 

ビュイン!

 

空中で静止し観客席に突っ込むのを防ぐ。止まれるように調節した。

 

「足元がお留守ですよ。マイティ、さん。」

 

「な、なんだとー!俺達の実力はこんなもんじゃないんだ!」

 

どうやら何事かもめ始めたようだ。この年で超サイヤ人になれる天才児、プライドが高く、煽り耐性は低いだろう。動きが単調になるはずだ。

 

「おい、悟天おまえもキックとか使えよ!このままじゃ負けちゃう!」

 

「だって、前が見にくいんだもん!うまく攻撃なんてできないよ!」

 

「うまく攻撃を出来ればあげるおもちゃ増やしてやるからさ、頼むよ。」

 

「本当!?絶対だよ。よーし、任せて!」

 

ビューン!シュシュシュシュ!

 

「うわっ!ちょ、まっ…」

 

逆効果だったのか、奮起された。確かにヒントになるように煽ったわけだけれど。腕と足が独立しているがゆえにアンバランスな動きだ。対応が難しい。防戦一方になる。

 

「ハアァッ!」ボウッ!

 

ドンッ!

 

「ギャッ!」

 

ドーーン!

 

叩き落す。武舞台にクレーターができる。

 

「ちょっと、いえ、かなり大人気ないとは思うんですけどね。君達に負けたくないのです。」

 

界王拳、二人が超サイヤ人にならない限りは封印しておきたかったのだが。あまりに受けにくかった。それほど二人は強い。

 

「マイティマスク選手ダウン!だ、大丈夫でしょうか、起き上がれます?」

 

「ちっくしょう、パワーアップするなんてずるいよなあ。」

 

「イテテ…あれカイオウケンってやつだよ。兄ちゃんから聞いたことがある。」

 

「だったら、俺達も超サイヤ人になろうぜ。そうすりゃ絶対勝てる。」

 

「そうだね!そうすれば勝てる!」

 

カウントが数え終わる前に飛び上がる。

 

「飛び上がりました!マイティマスク選手はまだまだ戦うようです!」

 

「ライさん、驚いたよ。あんなに強いなんて。だから…」

 

「僕たちも本気出す!」

 

「「ハアァッ!」」ボウッ!

 

「ハハッ!」

 

本気を出してくれた。全力の二人と戦える。ジャッキーさんもこんな気持ちだったのだろうか。

 

「まだまだ君たちには負けられない!」

 

パワーボールを作り、打ち上げる。ライが人の姿から狼の姿に変わっていく。オーラが白から深紅に変わっていく。

 

「さあ、私の全力をもってあなた達を叩き潰す!」

 

 

「あの覆面野郎、悟天とトランクスだったのか。」

 

控室で戦いを見ながら十八号は独り言つ。ライが言ってた意外な強敵ってのはあいつらのことだったわけだ。二人で戦っているなら係員にでも突き出せばいいのだろうにそれをしないのはやっぱり彼女も武闘家ということなのだろうか。強さを無理やり手に入れてしまった私と武の道を探求し続けた彼女、考え方が違うのは当然だ。

 

「まっ、あいつらが削り合ってくれるなら好都合だし、どうでもいいけどね。」

 

実力は伯仲しているようだしどっちが勝つにしてもこっちが有利になるだろう。

 

 

「く、ライさんがこんなに強かったなんて…」

 

ドォン!ダガッ!ガッ!

 

ライの連撃をトランクスが受け止める。

 

「君たちもすごく…強いっ!」

 

相手の攻撃は大体防げているものの、自壊技の二十倍界王拳を連発している。そうしなければ防げないが、見た目以上に追い込まれている。

 

(楽しいなぁ)

 

口角が自然と上がってしまう。次世代は育ってる。私が圧倒的才能の壁の前で醜く足掻いている間にも、その壁の向こうにいる者たちはどんどん次のステップに進んでいくのだろう。

 

「さあ、そろそろ決着と行きましょうか!!」

 

きっと、地球の危機に私は必要ない。ライという武道家の幕引きの時間がやってきたのだろう。決着はここだ。最後に見せてあげましょう。この私唯一のオリジナル技を。

 

「ビクトリーキャノン!」

 

接近してくるライにカウンターのようにトランクスが放つ気功波を気弾を使って滑るように接近する。

 

「ウルヴィアインパクト!」

 

バン!ババン!ババババ!

 

爆発波をまとった拳、当たった場所を衝撃波が何度も襲う。

 

「うわっ!おわっ!ちょっと!」

 

動きが鈍る、その隙に。

 

「気円斬!」

 

「トランクス君、まずいよ!よけて!」

 

「あわ、あわわわ!」

 

ギシャッビリッ!

 

「ヤバッ、ああ、服が…!」

 

マイティマスクが悟天とトランクスに分離する。

 

「ああッ!なんと、マイティマスク選手二人で出場していたようですッ!失格、失格でーす!」

 

地上でのアナウンサーの声を聞き、ライが口を開く。

 

「武闘家として最後に全力で戦ったのがあなた達でよかったです。」

 

言い争ってる二人を見ながらそう言って二人に手を差し出す。

 

「二人とも素晴らしい試合でした、ありがとう。」

 

「え、あのえっと…こちらこそ?」

 

「僕も楽しかった!」

 

悟空やベジータ、悟飯にも決して劣らない戦士。手を握ってくれようとした二人を躱して抱きしめる。

 

「「わっぷ」」

 

「君たちの行く末が楽しみです。君たちには無限の可能性が広がってるんですから。」

 

もちろんこの子たちが武の道に進まない選択をとっても尊重するけれど。できればこの子たちが武道を極めていく姿を見てみたい、そう強く思った。



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(第六十九話)隔絶たる差

駆け足のつもりが全力疾走してます。でもそれくらいがちょうどよかったんだろうなって今にして思ったり…


「場外!十八号選手の勝利ですっ!」

 

十八号とビーデルの戦いは瞬殺されるはずだが、意外にも十八号はビーデルに善戦させていた。それでも準決勝第一試合とは程遠いが、観客たちにも動きが分かる戦いは盛り上がりには事欠かなかった。五位を決定するために一回戦敗退者の四人でバトルロイヤルをしてから決勝戦が行われる。

 

「それでは決勝戦、なんと女性武道家同士の戦いですっ!しかし実力に関しては二人とも疑いようがないでしょう!それではライ選手、十八号選手、ご入場ください!」

 

武舞台に立ち、相対する。

 

「あのチビ共と戦って消耗しているだろうが、賞金のためだ、遠慮はしないよ。」

 

「ええ、構いませんよ、もちろん。」

 

その一戦は一撃で決着がつく。ライは満足してしまっていたから。ライの拳を受け止めた十八号には伝わる。ライが本気でないことが。勝ちに来ていないことが。だから。

 

ドン!ドドン!

 

「波ァ!」

 

「タァー!」

 

気功波同士がぶつかり合う。

 

「す、すげえ!あの二人めちゃくちゃ強いぞ!」

 

「すげえ勝負だ!こんなの見たことねえ!」

 

それでも見るものが見れば分かる。それはただの演舞だ。決勝だからと二人とも少し派手にぶつかってその後はライが場外に飛ばされて終わる、出来レース。

 

「インフィニッティバレット!」

 

連続で放たれる気弾の弾幕、それを全て躱す、躱せるように打たれている。それに合わせて接近する。カウンターを食らえば決着だ。

 

「そらっ!」

 

「うわっ!」

 

ドン!

 

「場外!十八号選手の勝利です!よって優勝は、十八号選手~!」

 

場外の歓声が響く。見た目だけなら準決勝よりも派手にした。会場の興奮は最高峰だ。

 

 

「おまえどうして本気じゃなかったんだ?武闘家じゃない私には本気を出せないとか?」

 

ジュエール、サタンを含めた上位五名が武舞台で表彰を受ける。係員が優勝賞品を用意するまでの控室で待機しているうちに十八号が聞いてきた。

 

「満足してしまったんですよ。」

 

観客席に目線を向ける。チチさんとブルマさんに怒られてこぶができている二人が目に入った。

 

「あの二人が超サイヤ人になった時思ったんです。ここで終わっておくべきだって。この先何かあっても私はもう力になれないから。だから…」

 

一度言葉を区切る。そして宣言する。

 

「引退します。」

 

「お前…」

 

「心がぽっきり折れちゃいました。」

 

そう言ってほほ笑んだが十八号は神妙な面持ちで言った。

 

「私はお前のこと他の奴等よりは知らないけど、ここにお前が見栄を張りたいやつがいないことは分かる。無理しなくていいんだぞ?」

 

心が折れたなんて冗談で言ったつもりだったのに、その言葉は的を射ていたみたいだ。悔しいんだろうか。涙が後から後からこぼれて止まらない。

 

「あれ…えと、そんなつもり、は…」

 

天津飯さんのように、未来の自分のように、自分の強さに向き合えた武闘家を、尊敬する。私には出来なかったことだから。何のために武道家になったのか、原点を振り返る。ああそっか、この涙は彼等への羨望と、己への失望だったんだ。

 

「すいません、少しだけ胸貸してください。」

 

すぐには涙をひっこめられなかったけれど、もう武闘家としての人生に決別するべきだ。

 

 

「それでは優勝者及び入賞者の皆さん、武舞台に入場してくださーい!」

 

気遣ってくれたわけじゃないだろうけど、涙を何とか引っ込めたタイミングでアナウンスが掛かった。

 

「優勝おめでとうございます!素晴らしい強さでした。今大会で前々回のような素晴らしい試合を見せていただき、私としても嬉しい限りです。優勝のご感想を…」

 

マイクを向けようとしたとき四人が急に現れる。

 

「悟空、それにみんな、どうしてここに?」

 

唖然としている中、いち早く反応できたのはアナウンサーだ。

 

「遅かったじゃないですか、孫さん達、もう大会終わっちゃいましたよ。どこに行ってらしたんです?」

 

悟空によって行く。ベジータの脇を通りかかる。

 

「あぶねえっ!」

 

「う、うう…があ!」ビュィィン!

 

界王神の前に悟空が立ち衝撃波を防ぐ。吹き飛ばされるアナウンサーを悟飯が、ジュエールをライが、ビーデルを十八号が受け止める。

 

「うわああああ!」

 

そしてサタンは吹き飛ばされた。

 

「ベジータ、お前何考えてるんだい!」

 

「うるさい、俺の目的はカカロットだけだ。他の奴らなどどうでもいい。」

 

十八号の言葉は届いていないのだろう。十八号以外の誰かと会話しているようなそんな言葉を放つ。

 

「悟飯、詳しくは聞きません。今私達がしなければならないことは何か分かりますか。」

 

「それは…」

 

あまりのことにうまく頭が回ってないのだろう。二の句が継げない。

 

「とりあえず、ベジータを止めましょう。様子がおかしい。悟空と悟飯なら出来ます。」

 

こういう時、私達ならと言えないのが歯がゆい。

 

「俺とカカロットの戦いの邪魔はさせない…」キーン!

 

そう言って悟空に向かって手を伸ばす。そこからは一瞬だ。いや、多少の時間はあったのだろうが誰も動けない。

 

「お、おい!バカヤロー!!」

 

咄嗟に防御態勢をとるが悟空は超サイヤ人になっていない。そんな状態でベジータの気功波など防げようもない。防ぎきれずに後ろに受け流してしまう。

 

「ベジータさん、なんてことを!!」

 

加減はしてただろう。本気で放ってれば超サイヤ人になっていない悟空はただでは済まない。だからこそ分かってしまう。こいつは悟空を焚きつけるために受け切れない程度の威力で気功波を放ったのだと。だから悠長にはしていられない。悟空が戦いを決意するまで犠牲者は増え続ける。

 

「この馬鹿野郎がー!!」

 

人工月を作っておいてよかった。すぐにでも全力を出せる。なによりこれ以上父親が人を殺すのをトランクスには見せられない。もう手遅れだとしても。

 

「ゔゔゔゔ、が、あ、あ、あ…!」

 

人の姿だったライから鋭い爪が生え、体毛が全身を覆う。耳の位置が変わり、獰猛な牙が生える。

 

「これ以上そんなざまを見せるなッ!!」

 

ガッ!

 

二十倍界王拳で爪をつかった引き裂くような攻撃、それがベジータに届くはずもない。当然だ。彼と私には隔絶たる差があるのだから。

 

「どけぇっ!」

 

気による衝撃波。それで吹き飛ばされる。

 

「うわあー--っ!」

 

「雑魚は引っ込んでろ!!これは俺とカカロット戦いだ!」

 

そうだ。彼にとって私はまさしく雑魚だ、それでも。

 

「だったら観客を巻き込むなよっ!」キーン!

 

それでも、自分に誂え向きの覚醒がなくても、今はベジータを止めなければならない。

 

ピシュン!

 

ビシュゥン!

 

打ち込んだ気功波をベジータの気功波で受け止められ撃ち合いになる。

 

「く、くっそおおぅ…」

 

今撃ち合いに負ければやられるのは私だけではない。余波で観客がまたたくさん死んでしまう。

 

「うわぁああああああ!」

 

想いの力が強さになるなら…いや、それでも勝てないだろう。自分はもう武闘家として失格の烙印を自ら押したのだから。

 

ドッッゴォォォン!

 

吹き飛ばされ、直撃を悟空に助けられる。それでも観客は大勢死んだ。

 

「ライ、お前はもう引いてろ。ベジータとはおらが戦う。」

 

鋭い目つき、ライを放し、超サイヤ人になる。

 

「いけません、それはバビディの思うつぼ!エネルギーを吸収され、確実に魔人ブウが復活してしまうのですよ!」

 

悟空が先ほどから戦いたがらなかった原因が明かされる。でももうどうにもならないところまで来ている。界王神の説得はベジータの逆鱗に触れる。それでも界王神は戦いを止めようと二人の間に入る。

 

「どうしても戦うというのなら、この私を倒してからになさい!」

 

しかしベジータの様子を見て悟空も覚悟を決めたようだ。戦いの邪魔をする者を殺す覚悟を。気功波をため始める。その様子を見て界王神もあきらめたようだ。お好きになさいとうなだれると再び四人が消えた。

 

「また、消えた?…いやそんなことどうでもいい!トランクス君は!?」

 

気を頼りにトランクスたちを探せばすぐに見つかった。ブルマに抱きしめられている。

 

「十八号さん、とりあえずはブルマさん達に合流しましょう。」

 

ふと十八号を振り返ると既にマーロンちゃんを抱えている。動きの速いことだ。確かにあの場では彼女の手の届く範囲が一番安全と言えば安全なのだろうが。

 

 

「そんな嘘だッ!パパが人殺しなんて、するわけないっ!!何かの間違いだあ!」

 

ブルマさん達に合流すると泣きわめくトランクスとそれをなんとかなだめようとしているブルマさん以外はみんな唖然としていた。

 

「ライさん、ベジータはどうしちゃったんだべか!?」

 

「すいません、私には何が起こったのか、でも彼は何かに操られているような、そんな感じでした。」

 

こうでもしないと戦わんだろうという言葉からもベジータは擁護できようもないが、少なくともこれは許される嘘だ。今は彼のメンタルケアが最優先されるべきだろうから。

 

「ホントなの!?」

 

「ええ、頭に変なマークがついてましたし。誰かと会話するようなそんな様子もありました。大丈夫、君の父さんは操られていただけだよ。」

 

そういってトランクス君の頭をなでる。大丈夫だと繰り返す。

 

「とりあえずドラゴンボールを集めておかないか?ことが済んだ後に死んでしまった人たちを生き返らせれるようにさ。俺飛行機を出せそうな場所探してくるから。」

 

ヤムチャがそう言って動き始めた。

 

 

「「「「「!」」」」」

 

飛行機にのってドラゴンボール探しを始めてすぐ、気の感知能力がある亀仙人、ヤムチャ、悟天にトランクス、そしてライが一斉に体を震わせる。

 

「おいおい、なんだよこの気は。一体何が起こってるんだ!?」

 

「今感じられる気だって実力のほんの一部でしょう。悟空達でも勝てるかどうかの…界王神様が止めようとしていたのは多分こいつの復活だったんだ。」

 

「だからと言って、わしたちにできることなどないじゃろう。わしたちは悟空達がうまくやってくれることを信じてドラゴンボールを集めるんじゃ。」

 

「そうだよ!兄ちゃんたちがうまくやってくれるさ!」

 

「ちょっとちょっと、あんたたちだけで分かってないで私達にも教えなさいよ。」

 

たまらずブルマが聞いてくるが、五人にも分かることは大差ない。

 

「悟空達でも勝てないかもしれない敵が現れたんですよ。きっと、界王神様が止めようとしていたのがなにか、ようやく分かりました。」

 

「そう言えばライ、さっきからちょくちょく出てくる界王神ってのは何者なんだ?」

 

「そうですね、知ってることは皆さんとそう大差ないですけど、知ってることをすべてお話しします。」

 

ドラゴンボール探しは順調だが、ライには嫌の予感がぬぐえないでいた。

 

 

「…というわけです。きっとこの気は界王神がちょこっと言ってた魔人ブウのことでしょうね。」

 

「なるほど、そう言うことか。魔人ブウを倒すために界王神様って言う人が動いている…と。」

 

「ええそうです。それで操られたベジータが悟空と戦っているのでしょうね。」

 

そこまで話したところで激化していた二人の戦闘が一瞬止まる。きっと戦っていた二人も気づいたのだろう。

 

「パパたちの戦いが止まった?」

 

「どうなってるんだろ?気だけじゃ分からないよ!」

 

気を探って戦いを把握しようとしている二人の後ろに回る。

 

「悟天君、トランクス君、ちょっとごめんね。」ドンッ!

 

「へ?」

 

「うっ…」

 

二人を手刀で気絶させた。どんなふうに決着がつくにしても悟天君やトランクス君にとってろくな結果にならないだろうから。今はこの子たちに暴走されては困る。

 

「さて、私達の力ではどうにもならないことは今は置いておきましょう。早くドラゴンボールを集めるべきです。」

 

気を探りたくなる気持ちを抑える。今は目の前のことに集中するべきだ。



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(第七十話)大人の義務

ドラゴンボールを七つ集め終わり、西の都のカプセルハウスに着く。

 

「ねえ、さっきから深刻そうな顔してるけど、その魔人ブウとかいうやつの戦いがどうなったのかって気だけでもなんとなく分からないの?」

 

カプセルハウスに戻ってトランクスと悟天を寝かせるとブルマがライに詰め寄ってきた。

 

「ブルマさんえっと、あの…」

 

「何か隠してるでしょ。分かるのよ。あなたのことは妹みたいに思ってんだから。」

 

確信のある表情。そんな顔をされたら正直に答えるしかなくなる。

 

「気を読んでいるだけなので正確ではないかもしれませんがそれでも覚悟のいる内容です。後悔しませんか?」

 

「ええ、いいの。どんな内容でも受け入れて見せるわ。どうしようもないときはあなたの胸を借りるもの。」

 

敵わないなあとこぼしライは降参のポーズをとって話し始める。

 

「まず魔人ブウと悟飯の戦いです。悟空とベジータの戦いはブウが復活してもしばらく続いていました。二人の決着がつく前に悟飯はブウに殺された。」

 

これに関しては確信がある。ブウの気が膨れ上がったと思ったら悟飯の気が消えた。生きているとは思えない。同様に界王神に関しても似たようなことが言える。彼も死んでしまったのだろう。でも彼等に関してはドラゴンボールで生き返らせることができる。問題は悟空とベジータだ。

 

「ッ!」

 

「その後に悟空とベジータとの戦いはおそらくベジータが勝ちで決着がつきました。でも決着が不自然だったので、悟空がどうなってるのか分かりません。まあ今動きがないってことは期待しない方が良いんでしょうけど。ベジータはそのまま魔人ブウに挑んで、そしてそのままブウに…。」

 

「そっか…」

 

「意外と冷静なんですね。」

 

泣き叫ぶかと思ったのだが、ブルマはそっかと言っただけで落ち着いている。

 

「言ったでしょう。あなたのことは妹見たいに思ってるって。なんていうか、あなたの前ではかっこつけたいの。ねえ今の話ってヤムチャや亀仙人さんも知ってるの?」

 

「そうですね。大体私と同じところまでは推測できているでしょう。」

 

「気を利かせてたのね、労ってあげないと…」

 

「本当にブルマさんは強くてかっこいいです。貴方みたいなれればよかったのに。」

 

私にあなたのような強さがあればベジータが凶行に走る前に防げたかもしれないのに。きっとブルマさんがあの時武舞台にいればベジータを止められたのだろう。

 

「何言ってるのよ。あなたがすぐにベジータを食い止めようとしてくれたから犠牲が減ったのよ。私はあの時なにもできなかったんだから。」

 

そう言ってくれて少しは救われた。

 

「さあ、みんなのところに戻りましょう。このことを伝えてあげなきゃいけないから。」

 

「そうですね。」

 

そう言って大広間に戻るとちょうど悟空が瞬間移動でやってきたところだった。

 

「良かったぁみんな揃ってる。ライがいてくれたおかげですぐ瞬間移動できたぞ。」

 

「い、生きてる?だってじゃあいままであなたはなにを…」

 

「すまねえな、詳しい話は後だ。今はとりあえずドラゴンボールを持って集まってくれ。神殿まで瞬間移動する。」

 

目を白黒させながらもライ達は神殿に移動した。

 

 

「というわけだ。とりあえず地上は危険だから神殿に連れてきた。」

 

「なるほど、魔人ブウは復活してしまったんですか…。」

 

「そったらことより、悟飯はどこだ?」

 

「あ、いやチチさん、それは…」

 

話を聞いていたブルマと気を読める者たちの表情がこわばる。覚悟を決めるのが一番早かったのは悟空だった。

 

「どうせ言わなきゃいけないことだから、言う。…悟飯とベジータは死んだ。魔人ブウに殺されたんだ。」

 

「あひゅう…」

 

その言葉を放った瞬間チチはショックで気絶する。仕方ないことだ。実の息子が死んだなんて私には想像もつかないことだから。

 

「(僕の声が聞こえるかな、地球の諸君?)」

 

気で感じ取って薄々分かっていたこととは言え、実際に言われるとショックは大きかった。でもそんな余韻に浸れる暇さえ悪魔どもは与えてくれないらしい。

 

「(そんなわけで、僕が言った三人に心当たりがある人は僕に教えるんだ。魔人ブウにお菓子にされたくなかったらね。)」

 

要約すれば、ピッコロと悟天、トランクスの情報提供を求める念話だった。ただし期限は五日でそれまで地球人を殺して回るらしい。

 

「あ、あのヤロー…!」

 

「あいつらが悟飯やベジータを殺したのか、どぶを下水で煮込んだようなクズ野郎め。」

 

「みすみす犠牲者を出すことはない。俺が出ていく。」

 

「馬鹿なこと言ってんな。おめえが言っても殺されるだけだ。」

 

ピッコロが飛び出そうと動き出す前に悟空が止める。

 

「耐えなければならねえって言ったのはおめえじゃねえか。殺された人々や地球はドラゴンボールで元に戻せるんだ。気にするな。」

 

「そうですよ。気持ちは分かりますけど今は辛抱するときです。」

 

「…なるほど。」

 

頭では分かっているはずだ。だから踏みとどまってくれる。

 

「悟空、でもどうするのですか、あなたとベジータの実力は拮抗していた。ベジータが負けた以上悟空一人では勝てないでしょう。あなたを援護できる戦士だってもうここには…」

 

辛うじてピッコロだろうか。そのピッコロでさえ悟空から殺されるだけだと言われるレベルだ。

 

「それに関してはおらに一つだけ考えがある。その修業を精神と時の部屋でするつもりだ。おらが使えるぎりぎりまでな。」

 

悟空が精神と時の部屋を使える時間はあと二十四時間と少し。どんな修業をするか知らないが、一年で体得できるか怪しいのだろう。

 

「上手くいくのか?」

 

「分かんねえよ。ずっと前に一回試して諦めたことだ。でも一年間ずっと向き合えば出来るかもしれねえ。」

 

「分かりました。あなたが修業を終えるまで必ずこの神殿は守りますから。ねえピッコロ?」

 

「ああ、バビディの念話を聞いてチビ共が先走らないようにもな。」

 

「ああ、チビ共と、チチと、みんなを頼む。」

 

ピッコロとライとクリリンに見送られ悟空は精神と時の部屋に入っていった。

 

 

「いっつも悟空に頼りっぱなしで、どうしてこうなんでしょう。」

 

悟空を見送った後ピッコロとクリリンにそう愚痴をこぼす。

 

「仕方ない。俺達の実力が足りないからな。だがだからと言って何もしなくていいというわけではない。俺達には俺達に出来ることがあるだろう。」

 

「まっ、とりあえずバビディたちがここに勘付かないことを祈りつつ悟天やトランクスをここにとどめておかなきゃな。」

 

クリリンがそう言ったタイミングで悟天とトランクスの気が動き出した。彼等の目が覚めたのだろう。三人が二人の場所に行く。

 

「あ、ライさん!良かった、ここがどこなのかさっぱり分からないし、パパたちがどうなったのかすっごく気になるし、事情を話してもらうからね!」

 

「僕達を気絶させた理由も!」

 

そう言うと今度はごまかされないぞという強い意志の表れか超サイヤ人になって気を高めている。そんな姿を見てピッコロやクリリンがため息をこぼす。

 

「もちろん説明するよ。全部聞いてもらってこれから一日、何があっても私達と一緒にいてもらうために。」

 

そう言ってライは二人に今地球で何が起こっているか、どうして二人を気絶させたのか話始めた。

 

 

「嘘だッ!パパが殺されたなんてそんなの…!!」

 

「うわーん!兄ちゃんが死んじゃったああああ!!」

 

事情を話し終わってベジータと悟飯が死んでしまったことに二人は泣きわめく。まだ十歳にも満たない子供だ。三人は彼らが泣き止むまで待とうとするがそんな都合を相手は考えてはくれない。

 

「(地球人諸君!どうやらだれも情報を提供したがらないみたいだからとりあえず東西南北の都を破壊することにするよ。まずは南の都からだ。全部の都を破壊すれば地球人の三割くらいは死ぬんじゃないかな?)」

 

「お前達聞いちゃだめだ!あと一日待てば悟空が何とかしてくれるッ!」

 

クリリンが叫ぶが直接脳内に響くようなバビディの念話を聞かないようにすることなんてできない。ピッコロとライが動き出す。

 

「子供だからって何度もやられない!」

 

トランクスがそう言ったかと思うと悟天と共に超サイヤ人になってピッコロとライから距離を取る。

 

「俺達だってここで飛び出したらどうなるか分かってるよ。パパや悟飯さんがやられたんだからきっと勝てない。でも…」

 

「兄ちゃんたちの仇を僕達も討ちたいよ、このまま何もしないでいるなんてできない!」

 

そんな二人を慈しむような顔でライがなでた。

 

「君たちは強いよ。そしてもっと強くなる。だけど君たちはまだ子供なんだよ。無茶させられない。」

 

「俺たちはそこらの大人よりずっと強いってば!!」

 

その言葉にクリリンが引き継いだ。

 

「分かってる。お前達はライや十八号との同じくらい強いし当然俺よりずっと強いさ。ここにいる中でお前達に勝てるのはピッコロくらいだよ。」

 

「だったら!」

 

「でもお前達はまだ成長途中なんだ。まだまだ強くなれるし悟飯みたいに学者の道だってあるし、何でもできる。その未来を守るのは大人の義務、俺達の役目なんだ。そこに強さは関係ない。」

 

「そう言うことだ。いいからお前達は俺達大人の戦いを見てればいい。そしてお前等が大人になった時、今度はお前たちが次世代を守るんだ。」

 

トランクスがピッコロの相手をすれば悟天くらいは神殿から飛び出せたかもしれない。でも二人とも受け入れてとどまってくれた。

 

「さて、神殿と二人を守るって話だったもんな。次は神殿をあいつらに悟られないようにしなきゃ。」

 

バビディが通信をしてきた位置から南の都まで、彼らはカリンを通る。彼等がこんな目立つ塔にちょっかいを掛けないわけがない。ここを通りかかるまで数分。神殿が如意棒を取り込んで移動できるようになるまで十分はかかる。だから時間稼ぎは大人の役目だ。

 

「あいつらの狙いをここから逸らすだけだ。なに、そんなに難しい話じゃない。」

 

その言葉に二人が頷き神殿の外に出るとクリリンが十八号に呼び止められた。

 

「待てよクリリン!」

 

「十八号…」

 

「やばそうだったら逃げろって言っただろ。こんなのめちゃくちゃヤバイじゃないか。どうしてまた戦いに行こうとしてるんだよ。」

 

先に行ってくれと言葉を受けピッコロとライが天界から降りる。

 

「ごめんな十八号、このまま万が一ここがバレたら地球はお終いだ。お前たちが暮らせるようにちゃんと地球を守っておきたいんだよ。一日待てれば悟空が何とかしてくれる。」

 

「そ、そんなの、ライやピッコロにやらせればいいじゃないか!わざわざお前が行かなくたって!」

 

ハッと口をつぐむ。自分勝手なことを口走ってしまったとバツの悪そうな顔になる。

 

「俺はこんなんでもお前の旦那でマーロンの父親だからさ、降りかかりそうな火の粉は払っておきたいんだ。ごめんな。」

 

「大丈夫、ピッコロやライがいるんだ。そう簡単にはやられないよ。」

 

ニカッと笑う。俺の笑顔に悟空みたいな力はないかもしれないけど、十八号には通用してくれることを願って。

 

「じゃ、行ってくる!」

 

そう言ってクリリンも天界を降りた。




超にてデンデが十七号のところへ悟空を案内する際にやっていた神殿の移動に如意棒しまう時間を独自設定として追加しました。


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(第七十一話)それぞれの覚悟

(第六十七話)から今の話の途中まで十六号が存命なこと完璧に忘れてました。修正しようかと思ったんですけど、番外編で書きます。


「こら!急に止まるな、このぼけっ!…おやおやぁ、ようやく出向いてくれる気になったんだね」

 

バビディと魔人ブウの前に彼等を取り囲むように戦士が三人。

 

「せっかくだ地球のみんなにも見せてやろう。」

 

そう言って地球人たちと魔術で交信する。

 

「一応聞いておくが、俺がこのまま殺されたらこれ以上の破壊や殺戮をやめてくれたりはしないな?」

 

ピッコロがそう聞くが彼らは嫌らしく笑うだけ。

 

「ありえないね。僕達は破壊行為も楽しんでいるんだから。」

 

「だろうな。だったらお前に抵抗しないわけには行かない。」

 

そう言ってピッコロ達が構えをとる。

 

「後ろにお仲間を二人連れてきたみたいだし何か企んでいるのかな?何人で挑んでも無駄だよ。魔人ブウは倒せない。」

 

「そりゃあ私達じゃ無理でしょう。でも孫悟空なら話は別です。」

 

「ソンゴクウ?」

 

「ええ、ベジータと戦った男がいたでしょう。彼があなたを殺してくれる。」

 

それを言った瞬間バビディと魔人ブウが爆笑する。

 

「ぶっ、はーはっはっは!この僕を殺すって?そんなに強いならベジータにどうして負けたんだよ。」

 

下卑た笑いを続けながら話を続ける。

 

「第一どうしてここにいないんだ。」

 

「あと数日もしないうちに現れるさ、俺たちはそれまでの捨て石だよ。」

 

クリリンがそう言うとバビディの顔が不快に歪んだ。

 

「不愉快だね。さっさと見つけ出して殺してやるよ。そのソンゴクウとかいうやつをさ。無駄話はこれくらいにしようか。魔人ブウ、さっさとやってしまえ。」

 

「ブウー---!!」

 

ブウの叫び声が開戦の合図だった。速攻で気弾を二つライとクリリンに放つ。

 

「ヤバッ!」

 

ライが咄嗟に回避行動をとるがあまりにも実力差が大きすぎる。避けきれずに左腕が吹き飛んでしまうと覚悟を決めた時、

 

「ライ!」

 

グイッ!

 

クリリンが放った鞭のような気功波がライの右腕を掴み引っ張った。その結果として。

 

バシュッ!

 

クリリンがはじけ飛ぶ。

 

「クッ!はじけて、混ざれっ!」

 

こうなることは覚悟していた。クリリンがやられた今、自分がクリリン以上の働きをしなければならない。クリリンのおかげで人工月を作れたのだから。

 

「さあ、抵抗を始めましょうか!」

 

人の姿から狼の姿へと変貌を遂げる。この姿が自分が最も実力を引き出せる姿。

 

「あっけないねえ。お仲間の一人はたったの一撃でやられちゃったみたいだよ?もう一人も大したことなさそうだし、これは一瞬で片が付いちゃうんじゃないかな。」

 

「冗談、()()はそう簡単にはやられない。」

 

そのピッコロの宣言と同時に。

 

スパッ!

 

「そうそう、俺()ね。」

 

クリリンの気円斬が魔人ブウを真っ二つにした。

 

「な、な、な、お前はブウに消し飛ばされただろう!?」

 

「不死身がそこの魔人だけの特権だとでも?」

 

「何度でも蘇る私達に何度でも気で完全に消滅させないと倒せない魔人ブウ、さて、根競べと行きましょうか。」

 

「ふん!本当に不死身ならさっきの攻撃でお前を庇う必要なんてなかっただろう。地球人如きが不死身なわけがない。何か仕掛けがあるに決まってる。」

 

「あまり地球を舐めるなよ。宇宙のゴミが。」

 

その声と共に気功波を放つ。ピッコロに続いてライとクリリンがそれぞれ同じ個所に気功波で追撃した。それを魔人ブウは避けもせず受けた。

 

「こんな攻撃じゃ俺を消せない。お前達俺には勝てない!」

 

糸目が見開かれる。その瞬間衝撃波が三人を襲った。

 

「ぐわっ」

 

「あぐっ」

 

ピッコロ、ライ、クリリンその衝撃波に吹き飛ばされる。普通ならその衝撃はだけでやられてしまいそうなものだがうまくその波に乗ることでダメージを極限まで減らした。

 

「おわー!」

 

その結果クリリンがはるか後方まで吹き飛ばされたから二人で魔人ブウの気をひき続けなければならないが。

 

「おわりっ!」

 

バシュッ!ビシュッ!

 

元より戦力が圧倒的に足りていない。無理な話だった。

 

「さて、不死身を語るなら現れてくれなきゃ話にならないよ?」

 

煽るように戻ってきたクリリンに対して話す。その言葉に反応するのはクリリンじゃない。

 

「それは当然だな。」

 

スパッ!

 

「うーん、流石はクリリンが編み出した技ですね。」

 

ライの放つ気円斬が魔人ブウを切り裂く。

 

「ギギギッ!」

 

「怒ってるのか?お前がさんざんしてきたことだろう?」

 

やられてもやられても復活する。うんざりするほどに。だけれどもピッコロはそんな理由じゃ煽らない。彼の行動には意味がある。

 

パッパッパッパッパッ!

 

ピッコロの分身が無数に現れて魔人ブウを取り囲んだ。その分身一つ一つに実体はないただの幻。でも気の感知能力がない彼等には効果絶大だ。こんな分身術はピッコロにしかできない。だからヘイトを自分に向けた。

 

「全部倒せばいいだけだもんねー!」

 

圧倒的な力の前にそんなものが無意味だと知っていても。

 

 

「俺もう二人とも消されたぞ。」

 

三身の拳を使って疑似的な不死身を演出した。三身の拳は触れれば体力消費もそれほどなくもとに戻れるが、そうでなく分身が消滅された場合、本体の体力三分の一が奪われる。

 

「早すぎますよねえ。ピッコロがヘイト集めてくれたのについで感覚でやられちゃって。」

 

距離が離れすぎても術を維持できないからブウ達の少し上空にいた。

 

「お前が本物だなあ!」

 

だからブウに本体の位置がバレた。

 

「残念ながら俺もやられたようだ。」

 

「上に誘導するように戦えばそりゃバレるでしょうよ。」

 

なんてことしてくれたんだと憤慨するクリリンにライは冷静に返す。

 

「まだもう少し時間が足りないんですよ。さっ、頑張りましょ。大丈夫ですって。そう信じてください。」

 

「ここを抑えれば孫がやってくれる。俺たちはそれに期待するしかないんだよ。お前も覚悟決めたからきたんだろう。」

 

三人がそれぞれの覚悟を持って戦い、そして…

 

 

「さあ、これで神殿を移動させられます。そうすればそうそう見つかることはないでしょう。三人は気を探れば戻ってこれるでしょうし。」

 

ところ変わって神殿ではデンデが移動の準備を整え切った。気を探ることのできるデンデを筆頭とした武闘家たちは彼ら三人の結末が分かる。

 

「くそっ!みすみす見殺しにしちまって、どうして俺は…!」

 

「ヤムチャ、それを言ってもどうにもならんわい。クリリン達の戦い方にお主は向いてなかった。結果は変わらんよ。お主がここにいることでできることもあるんじゃ。そう自分を責めてはいかん。」

 

ヤムチャをなだめるように亀仙人が話す。実際に三身の拳を使えないヤムチャがついて行っても戦い方が歪んでしまうだけだっただろう。ヤムチャはそれから悟空が精神と時の部屋を出てくるまでずっとこらえきれずに飛び出そうとするトランクスと悟天をなだめる役回りに回った。

 

 

「チッ!結局東西南北の都を破壊しても孫悟空は現れなかったか。お前があいつらをすぐに殺しちゃうからだぞグズめ!」

 

拷問でもなんでもすればよかったのにと憤慨するバビディにブウの不満が爆発する。

 

「なあなあ、俺とってもいいこと考えちゃった。」

 

「なんだと、お前が?どうせ大したことじゃないだろうけどまあ言ってみろ。」

 

ガバッ!

 

「!?」

 

「喋れないだろ?だからお前は俺を封じ込める呪文も言えない。」

 

「~~~~~~~!!」

 

「お前からいろいろ覚えた。俺はお前の駒じゃない、もう我慢しない!」

 

キーン!ズアアアァァ!

 

この瞬間、魔人ブウを封印する方法は消え去り、彼を止める方法が力押し以外になくなった。

 

「いやっほうぅぅぅぅ!イェイイェイイェーーイ!」

 

彼は無邪気な子供のようなもの。それゆえに、彼のストッパーはいない。本能の赴くままに地球人を殺し始めた。

 

 

「「「「!」」」」

 

バビディとブウの気を追っていた四人の気を感知できる戦士がそれぞれ反応を見せる。

 

「バビディが、死んだ?」

 

「魔人ブウが殺したんじゃろうな。バビディの通信で見た二人の関係は歪じゃった。」

 

「でもそれならブウは人殺しをやめるんじゃない?命令する人がいないんでしょう?」

 

「そんなわけには行かないみたいだぞ悟天、地球人の気の数が減ってる。」

 

「あと半日後には悟空が出てくる。それまでの辛抱だ。それまでに地球が滅ぼされなければいいが…」

 

「それは大丈夫じゃろう。クリリン達が布石を打っといてくれたからのう。」

 

悟空があなたを殺してくれるとそう言って意識を悟空に向けた。バビディだけならそれを待たずに破壊する可能性も考えられるが強敵の出現を予感されたとき、ブウは嬉しそうにしていたから。

 

「まあ、俺達には悟空が何とかしてくれるのを祈るだけだな。自身の無力が悔しいよ。」

 

ヤムチャが悔しそうにつぶやきそれから半日が立ち、孫悟空が精神の時の部屋から修業を終わらせてやってくる。

 

 

「「「「!!」」」」

 

「ようやく終わったか…いや、それとも。」

 

悟空が精神と時の部屋に入れる時間は二十八時間。そのぎりぎりまで時間を使って彼は精神の時の部屋を出てきた。

 

「待たせてすまなかったな。みんな。」

 

そう言って悟空が仲間たちの元に行く。その顔を見た時修業がうまくいったのか、それを聞く者はいない。きっと彼ならなんとかするとそう信じているから。

 

「みんな無事…ってわけでもないみてえだけど、もう大丈夫だ。後はおらが何とかするから。」

 

そう言って悟空は瞬間移動で消えた。

 

 

ピシュン!

 

「ん?やっと来た!」

 

「お前が、魔人ブウだな。見れば見るほどふざけたなりだ。それなのに悟飯やベジータ、それにクリリンを殺したってんだから覚悟はできてるんだろうな。」

 

「俺、お前と戦うの楽しみにしてたんだ。俺を殺すなんておかしなこと言ってるのが本当のことなのか、俺すっごく楽しみだった!」

 

会話がかみ合わない。この化け物が人間性を得るような、そんな世界があるのだとしたら、それはきっと特別な力がない人間がそれを為すのだろう。おら達には出来ないことだ。

 

「おめえに殺された地球人のためにも!」

 

こんなに怒ったのはいつだっただろうか。

 

「そして、殺されたおらの仲間たちのためにも!」

 

ああ、きっとフリーザだ。こいつはフリーザとは違って悪意はないのかもしれないけれど。

 

「おめえをぶったおす!」

 

もう、おらはこいつを許せない。

 

「はああああああ!」

 

金色のオーラに紅さが混じる。

 

「何をするつもりか知らないけど、俺には勝てないよ?」

 

その言葉と同時にオーラが消えて、孫悟空が宣言する。

 

「十倍超界王拳!」

 

金色のオーラを覆うように深紅のオーラが悟空を包む。彼が七年前に一度だけ、ただの界王拳と超サイヤ人を併用したことがある。超サイヤ人の状態で穏やかな心を得ることができたのなら出来るのではないかと。しかし超サイヤ人の界王拳は二倍にすら達しない倍率の界王拳でさえ気のコントロールを一瞬でも間違えたら体中がぶっ壊れてしまう危険な技となっていた。だから彼は超サイヤ人と界王拳の併用を諦めていたのだ。

 

「超サイヤ人での気のコントロールを極めてきた。お前をぶったおすために。」

 

「ゾクゾクッ!ゾクゾクッ!」

 

気を探る能力のない魔人ブウがそれでもその最強の魔人としての本能か、孫悟空の実力を正しく測り取る。

 

「早く戦おう。俺もう我慢できない!」

 

「そうだな、さっさとやろうぜ。」

 

この姿を長く維持することはできないから。安定して十倍を引き出すことは一年余りの時間じゃできなかった。どうしようもなく短期決戦にしか勝ち目はない。だけど。

 

ピシュン!ドゴン!ドンドンドン!

 

それは負けていい理由にはならない。それは信じて散っていった三人の覚悟を無駄にすることになるのだから。




だからいつからこの話は能力バトルになったんだと。


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(第七十一.五話)人造人間十六号

日付なんて適当です、彼の機械らしさを出したいために書きました。


「全員、とは言えないがお前達だけでも無事でいてくれて何よりだ。」

 

ドラゴンボールを集めて西の都にあるカプセルコーポレーションに帰ってきたブルマやライ達一行は十六号に迎えられた。彼は七年前十七号や十八号によって起動され、ゲロを守るために首だけになったところをブリーフ博士やブルマに肉体を作り直されていたのだ。最もその戦闘力はゲロ製のものと比べればはるかに劣る。それでも一般の武闘家にはとても及ばない境地ではあるが。

 

「十六号、ライを寝室まで案内してくれないかしら。トランクスと悟天君を寝室に運ぶのも手伝ってあげて。今はゆっくり休ませてあげたいの。私は客間にみんなを案内するわ。」

 

「…承知した。」

 

十六号がトランクスを、ライが悟天を抱えて奥へと進む。その最中十六号が口を開いた。

 

「事情を、聞いてもいいか。」

 

寡黙な彼が自ら口を開くのは珍しい。最も気のレーダを搭載している彼が今の状況を聞かないでいられるわけもないだろうけれど。

 

「私もその全容を知ってるわけじゃないんですけど、まあ知ってる範囲でよければ。」

 

 

寝室を後にして、みんなのところに戻る前に別の客間を使って事情を説明した。

 

「俺も行けばよかっただろうか。」

 

全てを話した後十六号がボソッとこぼす。それに対してライはどうだろうかと考える。彼ならベジータたちが現れた時どうしただろう。きっと自分が破壊されるのも厭わずに止めに入っていたんだろう。犠牲は間違いなく減っていた。

 

「そう、かもしれませんね。」

 

でもその問いはどう答えても正解にならない気がする。どんなに死んでいてもドラゴンボールで生き返らせるし。ベジータが無実の人を一人でも殺した時点でトランクスには消えない傷が刻まれただろうし。

 

「でももう過ぎたことです。死んでしまった人はドラゴンボールで生き返りますから。」

 

生き返らせるなら殺してもいいのか、その答えは否だ。死ぬ直前の恐怖、そして痛み、それを味合わせるのがどんなに残酷なことか。ライは身をもって知っている。ため息を一つ立ち上がろうとして、扉の隙間からブルマが見えた。

 

「話してくれてありがとう、俺はブリーフ博士たちのところに戻る。今はお前の仲間たちと一緒にいるだろうから。」

 

十六号もブルマの存在に気づいたのだろう。ライに先んじて立ち上がって部屋を出た。入れ替わるようにブルマが入ってくる。

 

「ねえ…」

 

 

「気を失っていたみたいだけどトランクスたちは大丈夫なのかい?」

 

ドクターブリーフ夫妻の元に行くとすぐにそう聞かれた。彼等一家は世間からずれていることもあるのだが、孫のことになればどこにでもいる祖父母に早変わりする。俺も兵士にならずにさっさと結婚して孫を見せていれば全く違う結果になっていたのだろうか。

 

「大丈夫です。武道大会に出ていたので怪我はありますがどれも重度ではないですし、数時間もすれば目を覚ますでしょう。」

 

考えても無駄なことだと意識を切り替える。魔人ブウが復活してしまって、今や地球だけでなく宇宙規模での危機が迫っている。俺には何ができるだろうか。

 

「心配しすぎることはないだろう。悟空や悟飯がいるんだ。そうそうやばいことにはならないだろうさ。」

 

思案していると十八号がやってきた。彼女の夫のクリリンから悟空の凄さは耳にタコができるほど聞いているんだろう。ちょっとだけうんざりしたような声音でそう言ってくる。

 

「久しぶりだな。十八号」

 

「本当にな。もう五年近く会ってないんじゃないかい?」

 

「正確には三年と百六十五日だ。まだ四年もたってない。」

 

「そうだったね、よくもまあ日付まで覚えているもんだ。」

 

俺は人造人間だからな、と語り視線を下げる。

 

「お前の娘の生まれた時だったからな、マーロンも元気そうで何よりだ。」

 

そう言って足にしがみついているマーロンの頭をなでた。

 

「こんな時に聞くことではないかもしれないが、今幸せか?」

 

十八号とクリリンが結婚することになった背景には十六号も少なからず関わっている。意識してそうなったわけではないが、この夫妻にとって十六号は仲人のようなそんな立場だ。

 

「おかげさまで退屈してないさ。…いや、すごく充実してるよ。ありがとな。」

 

十八号の心に最も近いところにいるクリリンでさえも、いやだからこそ彼でさえも見たことのない種類の素直な態度。十八号と十六号の間にしかありえない関係性。

 

「なら、いい。」

 

安心したように十六号はつぶやいた。

 

ピシュン!

 

ライとブルマが戻ってきたのと悟空が瞬間移動でやってきたのは同時。悟空が神殿の方が安全だろうと迎えに来たのだ。ライから悟空は死んだと聞かされていたし、レーダーの反応にもなかったから十六号も戸惑ったが、他の者たちは悟空の言われるがままに悟空に触れて移動する準備をし始め、それを確認して十六号もトランクスと悟天を連れてくる。

 

「ちょっとちょっと、パパやママはついてこないの?」

 

ブルマたちが悟空と輪を作る中ブリーフ夫妻はここに残ると宣言していた。それを見て十六号もトランクスと悟天をブルマとライに抱きかかえさせる。

 

「ドクターたちが残るなら俺も残る。お前やドクターがいなければ俺は生きていなかったんだから命の恩人を置いてはいけない。」

 

そう言ってブルマや十八号達を神殿に向かわせた。

 

 

バババババババ!ドッゴーーーーン!!!!

 

彼女等を神殿に向かわせて半日経った頃、西の都が爆撃され始める。バビディらがやってきたのだ。

 

「覚悟していたことではあるが来てしまったか。」

 

「大丈夫よ。ブルマちゃんたちが生き返らせてくれるわ。」

 

死を受け入れている二人に対して十六号は抗うべく動き出す。

 

「地下シェルターに動物たちを連れて逃げてください。俺が時間を稼ぎます。」

 

「ちょっと、まちたまえ、十六号。お前の脳の機構はまだ私もブルマも解明できてない。お前が壊されたら復活できないんだ。ドラゴンボールでも戻せるか分からないだろう?お前はほどの実力があればこの爆撃の中生き残れる。ここまで一緒にいてくれたのは心強かったがここまでだ。もう逃げてくれ。」

 

「違います。俺はあなたに命をもらって、生き返らせてもらった。もう十分なんです。あなた達が生き返れるとしても俺にとっては見殺しにしていい理由にはならない。」

 

「十六号…」

 

「これまでありがとうございました。」

 

最後に死地に飛び出そうとして、そして。

 

「十六号ちゃん、きっとまた会いましょうね~」

 

その底抜けに明るい言葉に死地を破壊された。

 

「ええ、また。」

 

そんな気がした。

 

 

「お前もあの馬鹿三人の仲間か。あいつらのような馬鹿がまだいるなんて驚きだよ。」

 

「あの三人の侮辱は許さない。」

 

バビディとブウの前に立ちはっきりと言い放つ。

 

「それぞれが覚悟を持った素晴らしい人物たちだ。俺とは違ってな。」

 

「俺とは違う…?お前はなんだ、人間ではないとでも言いたいのか?」

 

「ああ、俺は一から機械で作られた人造人間、命令を遂行するだけの駒。そこの魔人ブウのように。」

 

「ブウ~~~!俺は駒じゃない。俺は最強の魔人!」

 

「まあ、お前がなんであろうと俺にはどうでもいい。さあ、始めよう」

 

その戦いの結末は語るまでもないことで、バビディが見せしめにしようとすら思えないほど一瞬のことだった。




十六号ってシリアスになる呪いでもかかってるんじゃないですか…?


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(第七十二話)決着

解釈違いの方もいると思います。でもこの世界って悟空の隣に大体ライがいたんですよね。一人よりみんな一緒に戦う、この世界の悟空はカリフラみたいな考え方をする存在なんじゃないかなって思います。


「ブウッ!」

 

殴り飛ばしたブウはすぐに態勢を立て直してきた。

 

ピシュン!ドンドンドンドンドンドン!

 

頭の触覚を掴んで毬のように何度も殴る。

 

「そりゃああああ!」

 

触覚が伸びきったところを投げ飛ばし地上に投げ飛ばした。地上は魔人ブウが滅ぼした村の跡地だ。生きている人間など一人もいない。

 

「ほぉいっ!」ピピピピピピピピピ!

 

魔人ブウが両手を挙げて気弾を連射する。ベジータが得意とする連続エネルギー弾。きっとベジータとの戦いで学び盗ったのだろう。

 

「チィッ!」ガガガガガ!

 

ベジータの技を受けたのは一年前、でもおらにはそれで十分だ。ある程度対応は出来る。

 

ピシュン!

 

しかしその技の対応をしていればブウに対して隙ができる。背後を取られた。

 

「それっ!」

 

腕を伸ばして殴り掛かってくる。その攻撃はピッコロで知ってる。瞬間移動で避ける。

 

シュウィン!

 

「うがっ…!アグッ」

 

避けた先に攻撃が置いてあった。戦いの中ではたった一度しか見せてないというのに対応された。そして攻撃されたら緻密な気のコントロールに綻びが出る。

 

「ブウーーーー!」

 

ピシュンピシュンピシュン!

 

追撃をしてくるブウから瞬間移動引き気味に躱しながら時間を稼ぐ。

 

(今ッ!)ドグッ!

 

ブウが怒って攻撃が単調になったところでカウンターを仕掛けた。直撃したはずだが体が埋まり始める。

 

「イヒィ…」

 

「な、うぐぐぐ…うがあああああ!」

 

圧殺してこようとしてくるブウに対して爆発波を浴びせた。

 

「チッ!」

 

爆発波を至近距離で食らわせたら普通ばらばらになって飛び散るだろうに、ブウは体を平べったくすることで衝撃を逃がしたらしい。息を吸い込むことで何事もなかったかのように復活する。

 

「お前、本当に強いな。もっと、もっと戦おう!まだまだ満足できない!」

 

戦いとはわくわくするものだ。目の前の相手はそうなのだろうに自分はそんな感情に浸れない。かつては自分が一番戦いを楽しんでいたはずなのに。ああ、格上の相手に対してわくわくしたのなんていつの戦いが最後だったろう。

 

ドン!ドドドドドン!

 

肘と肘、膝と膝、右拳と右拳がそれぞれぶつかりあってスパークを生む。界王拳はただ発動するだけで大きく体力を奪っていく。ライやクリリンのように界王拳を使いこなせれば、そんな風に修業中何度思ったことか。

 

「ぐぅ!」キィン!

 

「ブゥ!」ダァン!

 

殴打がお互いの頬に刺さる。お互いに同じ威力のダメージが蓄積されるが再生できる魔人ブウに比べて悟空が圧倒的に不利だ。お互いの身体が密着したのをいいことに魔人ブウの身体が紐のようになって悟空の全身に巻き付いた。

 

「こういうのはどうだ?」

 

爆発波は通用しないことは先ほど証明されている。

 

「うらあ!はあっ!どぉおりゃああ!」ダン!バン!ドゴォン!

 

なんとか自由が利く左腕で巻き付いたブウに拳を何度も打ち付ける。

 

「ブウッ!?ぐうッ!?おがぁ…」

 

再生能力があっても痛みが無いわけではない。それも普通の人間と比較すればだいぶ鈍いのだろうが、しつこく連撃をくらわすことによって解放させた。

 

「拘束技なんて使い勝手の悪いもんだ。おらの仲間だってめったに使わねえ。」

 

使うとしたら大技を当てるための時間稼ぎだ。拘束している間は攻撃の恰好の的だし致命傷を浴びることだってある。さっきの爆発波だって普通はそれで決着がつくはずだ。魔人ブウが粉々に吹き飛べば気で完全に消滅させていた。

 

「じゃあこんなのはどうだ?」

 

そう言うとブウが体の一部を切り離す。かと思えばその細胞片が意志を持つかのような動きを見せた。

 

「なに?」

 

速度はブウに匹敵し、動きはブウよりはるか変則的、その細胞片が右足に絡みつく。ブウの目が少しだけ邪悪に見開かれる。

 

「ブウッ!」

 

ブウが再び肉弾戦を仕掛けてきて悟空もそれに応じる。ブウの攻撃を右腕で受け、左膝で攻撃を放つがそれを左腕で防がれる。続いて繰り出されるブウの足蹴りを右足で受け止めようとして、そして。

 

「!」バァン!

 

絡みついた細胞片がその動きを阻害した。

 

「グワッ!」

 

「それが邪魔で動きにくいだろ?」

 

バンバンバン、ババンドン!

 

その一撃を皮切りにブウが悟空を滅多打ちにする。

 

「ブウ~~~~!」

 

ドォォン!

 

止めというように放った連撃最後の一撃を悟空は受け止めた。

 

「こんなものでおらは止められねえ!」ドグゥッ!

 

そう言ったかと思うと右足で蹴りを放つ。

 

「うぎゃあ!」

 

腹を抉るように蹴りをいれた。

 

「波ああああ!」

 

気功波を放ち、それをブウはもろに受ける。体に大穴があく。

 

「うううう…ブウッ!」ポンッ!

 

少し気を入れるだけで魔人の身体は再生する。

 

「チッ!この強さで不死身なんだからインチキもいいとこだ。」

 

「今の面白い。俺もやってみよ!」

 

そう言うとブウが両手を合わせてかめはめ波を放った。

 

ビシュゥゥン!

 

「不味いッ!」

 

位置取りが悪かった。斜め下に放たれた気功波はいずれ地球に直撃する。そうすれば地球はお終いだ。

 

「ぐ、ううう…がァッ!!」

 

気功波を受け切り衝撃波で気功波をかき消す。

 

「ハア、ハア…」

 

「やっぱりお前、強いときと弱いときがあるな。お前が俺と戦えるの、紅いオーラが出てる時だけ。しかもちょっとずつ紅いオーラが出てる時間が短くなってないか?」

 

(勘もいいんだからやってられないぜ。)

 

ほぼ常時十倍にはしているがそれでもほんの僅か、水中で息継ぎが必要なように、体がぶっ壊れないように界王拳を解除しなければいけない瞬間がある。そしてその時間は戦いが長引けば長引くほど長くなる。

 

「ハハ、当たり。」

 

「おまえと戦うの面白い、けどお前の力どんどん減ってる。面白くなくなっっちゃたら俺すごく嫌だ。だからこれで終わりにする!」

 

再生能力があるお前とは違うんだよ。普通の人間は戦えば体力が減り、最大パワーが出せなくなるものだ。

 

「ハハァ…!」

 

特大の球状の気弾、別の次元では破壊と殺戮の純真となったブウが放った大技、プラネットバースト。この局面でこれほどの大技を放たれることに愕然とする。

 

「ハ、ハハ、マジかよ。」

 

戦いの気力が削られる音が心に響く。何とかできると思ってた。これまでがそうだからといって今回もそうである保証はどこにもないというのに。おらは自分で思っていたよりずっと、人間だったんだと思い知らされて。

 

「(孫!)」

 

ピッコロ達の声が脳内に響く。神と同化したことにより会得した念話術。

 

「(お前は孫悟空だ、孫悟空にできないことなんてない。そうじゃないのか?自分を信じろ。孫悟空!)」

 

「(ああ、そうだ、そうだったなピッコロ、おらは孫悟空だ。おらは最後まであきらめない!)」

 

おらは自分で思っていたように、素晴らしい仲間に囲まれていると再確認して。

 

「地球には、地球には指一本触れさせはしねえ!うおおおおおお!」

 

両手に気を目一杯にため込む。

 

「十倍超界王拳!」ボウッ!バアアアア!!

 

「ブウッ!」シュッ!

 

「でえええりゃあああああ!」ズアッ!!

 

両腕から放たれたかめはめ波がブウの放たれたプラネットバーストを変形させる。

 

「うおおおおおおおお!」

 

その全力のかめはめ波がプラネットバーストを貫こうかという瞬間。

 

「おまけっ!!」

 

ズオン!

 

()()()がブウから放たれた。

 

「お、おい!?」

 

大技を打っているはずだ。そのエネルギー波はそうそう連発できない類の威力だ。そんな常識をこいつは軽々と超えていく。

 

「く、くっそおおおおお!」

 

体から悲鳴が上がる。筋が引き裂かれ、腱が切れる。界王拳を維持するためにわずかに肥大した皮膚から血が噴き出し始める。

 

「(まだ終わってないだろ。どんなときだってどんなピンチだって今まで跳ね返してきたじゃないか。)」

 

クリリンの声が響く。それだけで体から聞こえてくる悲鳴を覆いつくすような闘志がわいてくる。

 

「二十倍だあ!」

 

ガアアアア!

 

二つのプラネットバーストをそれでも悟空のかめはめ波はプラネットバーストに抗った。それでも。

 

プシャッ!

 

「うぐぉおおわあ…あ、あ、あ、がああ!!」

 

体から血が噴き出し、血色のスパークが悟空を苛む。プラネットバーストがかめはめ波を押し返しだす。

 

「(大丈夫だよ悟空。いっつも一人で何とかしてきたから今回もひとりでなんとかしようとしたのかもしれないけれど、悟空、君が今まで積み上げてきたものを思い出して。)」

 

願わくば、そこに自分が入れれば良かったのだけれど、地球の命運を守るは今を生きる者たちだ。

 

「父さん、あなたの背負っているものを少しだけでも僕に分けてください。」

 

「お、おめえ死んじまったんじゃ…」

 

界王神界で修業をしていた悟飯が、なんとか間に合ったと悟空の肩に手を置く。

 

「僕達の力も!」

 

「使ってよ!」

 

悟天とトランクスが悟空の背中に触れて。

 

 

「すまねえな、悟空、悟天とトランクスを止められなかった。」

 

天界でヤムチャが座り込み独り言つ。

 

「でもしょうがないじゃねえか。あんな目をされたらさ。流石お前やベジータの息子だよ。」

 

仮に悟天やトランクスより強かったとしてもきっと二人を止められなかっただろうから。

 

 

「おらの背負ってるもん、一緒に背負ってくれ!」

 

その一声で悟飯たちが満面の笑みになる。三人の気が送り込まれて、今のおらなら何でもできる気がするんだ。

 

「波あああああああああ!」

 

全力のかめはめ波が二つのプラネットバーストを打ち破る。

 

「ぶうううううう!」

 

かめはめ波を魔人ブウは受け止めて、

 

ピシュン!ドゴォン!

 

「うぎァ…」

 

一日だけの復活をとげたベジータがビックバンアタックが最後の一押しとなって、魔人ブウは細胞一つ残さず消え去った。

 

 

「今を生きる者たちって思ってたのに、水差してくれたね。ベジータ。」

 

「フン、貴様の感傷なんて知ったことか。」

 

あのあと、二十四時間復活できるはずのベジータはただの一発であの世に戻ってきた。誰と会話することもなく。

 

「まあこれくらいの後押しは見逃してやるんだな。最後に何か一つくらい息子に残してやりたかったんだろうぜ。」

 

「チッ!」

 

ピッコロの言葉にベジータが忌々しそうに舌打ちを打つ。父親として死んだ彼はしかし、罪を犯しすぎていた。地獄に落ちる魂は悪の気を浄化されて生まれ変わる。悪の心が強いものは浄化に時間が掛かるが、ベジータならそうそう時間もかからないうちに浄化が完了するだろう。

 

「何のプライドか知りませんけど、時間あったんですから最後にブルマさん達に会いに行けばよかったのに。」

 

息子や妻に会いに行く、それくらいのわがままは許されるはずなのに。

 

「俺は今更父親面をする資格なんてないんだよ。」

 

ぶっきらぼうにベジータは言った。

 

「そうですか。」

 

なればこそ、ライもぶっきらぼうに返して立ち去る。表情をのぞき込むなんて悪趣味だから。

 

「なあピッコロ、俺達生き返れると思うか?」

 

「地球のドラゴンボールじゃ無理だな。全員一度死んでいる。」

 

閻魔大王の館から少し離れた蛇の道、三人が会話を交わす。

 

「それでもナメック星のドラゴンボールなら生き返れます。神様の帰省ついでにドラゴンボールを使わせてもらえれば。」

 

私達だけ生き返れる方法を知ってるのはずるい気がしますけどねとライが続ける。

 

「まあそれだけの功績はあげてるだろ。」

 

「だから肉体を与えられてるわけだ。気にしすぎる必要もないだろう。数日後にはまたいつもの日常が戻ってくるさ。」

 

その言葉通り、死んでしまった者たちはすべからく生き返る。ただ一人、ベジータを覗いて。

 

 

キビトの復活パワーによって悟空達は体力を取り戻した悟空達は神殿に向かいながら話をしていた。

 

「へえ、それでおめえ生きて修業してたってわけだ。生きてたならおら達にちょっとだけでも顔見せてくれればよかったのによ。」

 

「すいません、お父さんやベジータさんが死んでしまったと思っていて少しの時間も無駄にできないと思ったんです。」

 

まあ無駄になっちゃいましたけど、と背中の剣に視線を向けながら言った。

 

「無駄じゃねえさ悟飯。おめえたちの気が合ったから最後何とかブウを倒せたんだ。少しでも気が足りなかったら駄目だったかもしれない。おめえのおかげでもあるんだよ。」

 

「「もちろん俺(僕)たちもね!」」

 

「ああ、みんなありがとな。」

 

(ベジータもな。サンキュー!)

 

悟飯たちは最後にベジータが来たことには気づいてないだろうから、続く言葉飲み込んで、悟空は笑った。



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(第七十三話)十年後

「今日の実験はここまでにするわね。ありがとライ。」

 

十年後、ライはカプセルコーポレーションで働いていた。人の限界を超越した彼等の力の秘密を探る研究の協力をするために。実験体というと聞こえは悪いが、待遇は良い。

 

「あんた私と四つしか変わらないってのに、全然老けないわねえ。」

 

ちょうどこの日は実験と研究が一段落ついたタイミングだった。お茶でもと紅茶を飲んでいるとブルマがそう切り出す。

 

「気をある程度以上扱えるようになると老化が大幅に遅れるのよね。羨ましいわあ。流石に寿命が延びてるわけじゃないみたいなんだけど気功アンチエイジングとか、地球人がもうちょっと強い種族なら絶対流行ってたわね。」

 

「でもそれも気を日常的に扱わないとですから流行るのは難しいんじゃないですかね。ともかく武闘家やっててよかったと思えることの一つです。たまに体を動かすくらいですけど、ブルマさんより若々しいですもん。」

 

そう言うとブルマにコラと小突かれる。これでも歳のわりに若いとよく言われるのだと。実際にそうだと思う。ベジータさんが死んでしまってから積極的に見た目に気を遣っているわけではないのだろうに年齢を考えれば驚異的な若々しさだ。

 

「それだと年齢詐欺もし放題でしょ?二十代でも通用するじゃない。」

 

「はは、流石にそれは罪悪感が咎めますよ。」

 

そう言ってタハハと笑う。そう言うところが幼く見えるのだと、ブルマはため息をついた。

 

 

「こんにちは、ライさん久しぶり!」

 

「悟天久しぶりです、大きくなりましたね。」

 

魔人ブウの騒動から十年後、ライは数年振りにあった悟天に顔を綻ばせて言う。

 

「そう言うライさんは全然変わりませんね。」

 

「ふふ、ありがと悟天。ブルマさんの研究で最近分かったことなんですけど、ある程度以上の実力を持った地球人は老化が鈍くなるらしいですよ。寿命は変わらないみたいですけど。ところでお兄さんはどうですか元気してます?」

 

父さんのことを聞かないあたり、なんとなく想像できるのだろう。実際に修業に明け暮れているからおそらく想像通りであろうが。

 

「ええ、最近は論文も認められ始めたみたいで、その分野ではちょっとした有名人らしいです。詳しいことはよくわかんないんですけど。」

 

「そっかそっか平和になった世で夢がかなえられたみたいで何よりです。悟天は何かやりたい事でも見つけました?」

 

彼等が武闘家としてその道を極めていくさまはもう見れない。平和な世の中でひたすら武を極めたりはしなかった。彼等混血サイヤ人は周囲の影響もあるのだろうが穏やかに育った。

 

「うーん、今はまだよくわかんないです。トランクス君はもうカプセルコーポレーションを継ぐって決めてるらしいですけど、僕はまだ。」

 

兄とは対称的に自由にのびのびと育てられて、選択肢が多すぎて自分の将来像があまりはっきりとしないみたいだ。

 

「少なくとも悟天なら将来に困ることなんてありえません。やりたいことが見つからないからって焦らなくていいんです。まだまだ人生は長いんですからゆっくり探せばいい。」

 

甘いんだろうなとは思う。でも仕方ないじゃないか。こんな風に誰もが抱くような悩みに頭を抱えているいるさまが見れることがただただ嬉しいのだから。

 

「そう言ってもらえるとちょっと安心します。」

 

「私でよければいつでも悩みを吐き出しに来てくれていいんですからね。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

ニカッと笑う姿を見ると髪型を変えているとはいえ悟空によく似ている。思わずこちらも顔が綻んだ。

 

「ところで何か用があったから来たんじゃないの?」

 

「ああそうでした!ライさん、一月後に天下一武道会が開かれるんです。父さんが最近体がなまってるだろうから出ろって言われちゃって。せっかくの機会だからみんなで集まれたらなって。」

 

あれから十年、武闘家をやめたライに参加を誘われることはない。それでもこんな風に声をかけてくれるのは素直に嬉しかった。

 

「なるほど、それで…それなら応援しに行こうかな。パンちゃんがどれくらい大きくなったのかも気になるし。」

 

「ええ、是非来てくださいね。僕も頑張ります!」

 

 

そして天下一武道会の当日になる。

 

「あら、ピッコロも出場しないんですか?」

 

悟空達より一足早く会場に入ったライがピッコロやクリリン達と合流する。

 

「今更俺が出たところで仕方ないだろう。今日は悟空たちがどの程度強くなったか見させてもらうことにするさ。」

 

「確かにどれくらい強くなってるか楽しみです。それに…」

 

会場にいる気を探ればある戦士によく似た性質の気が一つ。

 

「ああ、今大会で一番注目すべき戦士だろうな。」

 

「ふふ。そうですね。地球人に生まれ変わらしてくれた閻魔様には感謝しないと。」

 

ライとピッコロがそう言って笑った。

 

 

「お前達がやった決勝ってもう十年前だよな。どんだけ派手にやったんだよ。」

 

クリリンがあきれたように十八号とライに向かって言う。いい席が見つからず、どうしようかと悩んでいたところそんな様子を見かけた彼女らのファンだという観客が道を開けてくれたのだ。

 

「あの時は実力の半分も出しちゃいなかったよ。」

 

「それでも観客が満足する戦いを演じるのには十分すぎるくらいでしたからねえ。」

 

あの頃を思えばトランクスや悟天やトランクスが武の道に進んでくれなかったことを少し惜しく思う。平和な証拠ではあるけど。

 

「まあそのおかげでこうして最前列で試合が見れるんですからいいじゃないですか。」

 

ライがそう言うとちょうどトーナメントの抽選会が始まった。予選を突破した十六名による抽選会は粛々と進み、一回戦の組み分けが決定する。

 

「それでは抽選の結果を発表しまーす!第一試合、パン選手対猛血虎選手、第二試合、孫悟天選手対トランクス選手…」

 

アナウンサーの紹介を聞きながらライ達が組み合わせについて話す。

 

「小さかった二人も今や立派な青年ですからね。」

 

「実力伯仲の二人だ。見ごたえはあるだろうぜ。勝敗が分からないって意味では一番楽しみな試合じゃないか。決勝戦の勝敗なんて悟空達の誰かが勝つに決まってるからなあ。」

 

「はは、確かにそういう意味ではそうですね。」

 

第四試合までの左側のブロックに悟天にトランクス、悟空やパンと集まってしまった。悟空が勝ち上がるにしても、悟天達のだれかが勝ち上がるにしても、相手は一般の武闘家だ。普通ならつまらない勝負になるだろう。でも。

 

「一番驚く試合にもきっとなりますよ?」

 

そう言って含み笑いを残す。

 

 

悟天とトランクスの試合は辛くも悟天が勝利するも、全力を尽くした悟天はパンに敗北する。そのパンを悟空が倒して、決勝に進出した。

 

「いよいよ決勝戦です!決勝に勝ち上がった選手は最年少ながら圧倒的な実力を前に快進撃を続けてきたパン選手をそれ以上にすさまじい実力で打ち破った孫悟空選手と、これまた相手選手を一撃で倒し続けてきたトミー選手ですっ!」

 

「よろしくな。おめえと()()戦えるのを楽しみにしてたぞ。」

 

「なんだ、おっさん。俺はお前に会ったこともないぞ。」

 

尊大で不遜な態度を露わに構えをとる。その構えがかつての悟空のライバルを彷彿とさせた。

 

「まあ、戦いの超天才児であるこの俺に遊んでもらえることを光栄に思うんだな!見せてやろう、その才能の差をな!」

 

「ははっやっぱり間違いねえや!おらの予感は間違ってなかった!」

 

悟空も構えをとる。その構えは二十年前の天下分け目の戦いに合わせていた。

 

「じゃあ必死で努力すればその才能の差をも超えれるって見せちゃおうかな!」

 

二人が激突する。

 

 

「地球を舐めるなよって貴方がベジータ達に言った言葉でしたね。ピッコロ。」

 

限りなく強くなっていくサイヤ人たちに自分は追い付けないと思っていた。自分が地球人だから。でも彼を見ると思うのだ。生まれ変わりとはいえ純粋の地球人でありながらあの戦士はきっと強くなる。それも悟空に迫るくらいに。地球は地球人によって守られる時代はもうすぐそこにあるんだと、実感した。ベジータの生まれ変わりをみてそんな風に思うのは皮肉だけれど。

 

「あーあ、私がもうちょっと前向きだったらあんな風になれてたかもしれないのに、惜しいことしたなあ。」

 

「へっ!そんな満足げな面でなにいってやがるんだか。未練があるならやり直すことだってできるだろう。」

 

ドラゴンボールを使えば若返ることが可能で、そうすればまた一から修業しなおせる。今の強さをもったままやり直すことだって叶う。

 

「あはっ。いやあ激動の時代を生き抜いてもうそんな風には思えませんってば。後はゆっくり余生を過ごすんです。」

 

「だろうな。お前もこんな強い奴等がどうなっていくか、わくわくするだろう。」

 

「ええ。武闘家やめてもう燃え尽きた気でいましたけど、やっぱり私も武闘家だったみたいですから。今後が楽しみです。」

 

地球はこれから危機に見舞われることもあるかもしれない。でもそれでも大丈夫だ。今は悟空がいる、悟空以外にも強力な戦士がいる。そして次代は育ってきてる。きっと地球はこれからも彼等に守られ続けると確信して

 

ライは笑った。




これにて完結!よくもまあこんなに長々と書いたものだと自賛したくなります。内容はともかくとして完結までこぎ着けて安心しました。魔人ブウ・未来編で書いた伏線をほっといてますがまあエタるよりはずっといいはず。さて、せっかくですから裏話書きます。当初の予定ではブウ編前の七年間のうちにヤムチャとライを結婚させる気でいました。そのための伏線というかまあ匂わせもしてきたつもりです。子供がいればこの十年後の話も少し面白くなるだろうしなあみたいなことも思ってましたし。でもブウ編を書いているときになんか二人をくっつける必要性を感じなくなって物語が間延びするだけだって思うようになりました。だからライは少なくともブウ撃破時点では独身です。その後十年のうちに誰かと結婚してる可能性はありますがそれはご想像にお任せしますね。それではこれまでお付き合いいただきありがとうございました。


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