はじめまして、私のエヴァンゲリオン (siriusゆう)
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〜序〜
はじめまして


紅く、赤く、赫く染まった母なる星を見つめ、私の脳裏には人生が変わったあの日の事が、鮮明に浮かび上がってくる。

 

2015年、当時7歳であった幼い自分は、ある筈の無い記憶に右往左往していた。

それを、何と言葉に表せば良いのだろうか?

在り来りな言葉で言うのなら、前世の記憶か?

いや、異世界で生きた記憶と言うべきであろうか。

 

『新世紀エヴァンゲリオン』

そう呼ばれた作品を好んでいたヒトの記憶。

 

セカンドインパクト、そして赤く染まった海、常夏の日本。

自身を取り巻く、それらの事柄は使徒と呼ばれる超常との戦いを描いた、その作品の世界そのものであった。

 

幼かった自分にはどうしようも無かった当時の無力感や焦燥感が今もなお思い出す事が出来る。

 

決戦の時が刻一刻と近づく中で、子供の頃の事を思い浮かべているのは、恐らく自分に自信がないからなのだろうか。

大人といってもよい歳になっても、私はあの頃と同じ様な感情を抱いている。

 

 

 

眼前に映る、アカイ地球を睨みつけながら、溜息を吐く。

ほんと、人生何が起きるかなんて解らない。

 

あれから14年経ち大きくなった私は今、戦う者として、エヴァンゲリオンに乗っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年、第一次使徒会戦と呼ばれる人類と使徒との戦いは、ニアサードインパクトと呼ばれる事象が発生し幕を閉じた。

 

 

 

次から次へと襲来する使徒。

人の常識を遙かに越えた力を持つ使徒達との戦い。

その戦いは苛烈さを極め、強大な力を持つ使徒が、次第に間髪入れずに襲いかかってくるようになる。

 

 

疲弊していく人類の戦力。

 

そして遂に、第13の使徒襲来において第3新東京市の巨大な地下空洞、通称ジオフロント内に有る、対使徒用に発足された特務機関ネルフ。

その本部に封印、守護されていた第2の使徒・リリスとの接触を許してしまった。

 

 

 

使徒とリリスとの融合。

 

それは新たな生命の誕生、そして古き生命の滅びであるサードインパクトの発生を意味していた。

 

そう、人類の終わりであった。

 

 

 

 

しかし対使徒決戦兵器エヴァンゲリオンのパイロットであるサードチルドレンと呼ばれる少年と、その専用機であるエヴァンゲリオン初号機によって滅びは免れることとなる。

 

 

サードチルドレンは自らをトリガーとして、初号機を核に独自のインパクトを発生させ、使徒のサードインパクトへ介入。

そして新生する使徒をジオフロント内に有るリリスの眠っていた地である、セントラルドグマの最深部[レベルEEE]に封印することに成功した。

 

自らが乗るエヴァンゲリオン初号機と共に

 

 

 

 

 

 

甚大な被害を受けた人類防衛の要であるネルフ本部と使徒迎撃要塞都市・第3新東京市を再建するのに膨大な予算と月日がかかるのは明白だ。

 

滅びを免れた事に安堵する人々。

 

しかし、使徒との戦いはまだ終わっていなかった。

 

各ネルフ支部に存在する第7世代有機コンピューター・MAGIシステムによる計算の結果、再度の使徒侵攻が予期されたからだ。

 

 

使徒といっても従来の使徒と違い、単一の完成した生命体ではなく群体としての使徒による再度の侵攻。

 

それは、第13の使徒を起源とした新たな理を持つ生命との戦い。

 

 

 

 

これらの予想される脅威に対抗するべく、世界各国でエヴァンゲリオンの開発・建造が着手される。

 

エヴァンゲリオンの各国保有数を決めたヴァチカン条約を改定、エヴァのパイロットである適格者の選抜をマルドゥーク機関より国連及び関連機関へ委託し検査の大規模化に着手。

 

そして、これまで使徒戦を担っていたネルフを解体し、新たに対使徒迎撃組織ヴィレを設立。

国連総会にて新たな国際法[使徒迎撃戦力確保法]とそれに関連した条約が制定される。

 

その法律の概要は至ってシンプル。

それは今後予想される使徒戦において、所属や分野に限らず一定の有用性を持つ人材・兵器・技術に対して、国連及び対使徒迎撃組織ヴィレが超法規的措置を行える事になるという事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年のとある朝、私は小学校へ行く準備をしながら、居間でテレビのニュースを見ていた。

そんな私の目に飛び込んで来たのは、第3新東京市壊滅のニュースであった。

 

 

使徒との戦いがあることは知っていた。

しかし未だに幼い自分には、どうしようも無いことなのだと諦めていた。

 

残りの今生をいかに過ごすのか。

私を産んでくれた両親や、双子の妹と幼い弟との良い思い出をどのように作るのかを考えて、いつか来る滅びの日を考えないようにしていた。

 

 

 

海が赤く染まり、海洋生物がほぼ絶滅しているため新劇場版の世界だと考えていたのだが、第3新東京市が壊滅してもニアサードインパクトが起こっていないことから、もしかしたらアニメ基準の世界なのかもしれない。

 

…ということはアニメの第16使徒との戦いが終わったということなのだろうか?

もしそうなのならば、残りの使徒は後一つ。

 

それは滅びの日が近いということを示していた。

 

 

 

「ユウカ、どうしたの?顔が真っ青じゃない。どこか具合悪いの?」

幼い妹達の世話をしながら母が心配そうな顔をして声を掛けてくれた。

 

「大丈夫。なんでもないよお母さん。少し、ニュースを見てたら…」

と言葉を濁しながら返答してしまう。

自分が思っている以上に動揺しているのかもしれない。

 

このどうしようもなく、もどかしい気持ちを誤魔化すように、ランドセルを背負い母に笑顔で、行ってきますの挨拶をして、私は日常へと逃げるように駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3新東京市壊滅の報道から既に三ヶ月が経過した。

 

 

今か今かと、滅びの時が来るかもと思いながら過ごすことは凄く苦痛な事であった。

 

あらゆる物事に集中することができなく、自分では気づかぬうちにうわの空だったのだろう。

小学校の友人や先生、家族から何度も心配されてしまっていた。

 

 

前世の記憶を思い出す前から大人しい子供だった私は、思い出してからは大人っぽい子供として周りに認知されていた。

 

そんな子供がソワソワして落ち着かない様子を見せていれば心配されてしまうのは解っていたが、どうしても態度に出てしまうのだ。

 

 

 

休日である今日は、お昼から家族で近場のショッピングモールへ出かけて、映画を見る予定をたてていた。

 

双子の妹達たっての願いで魔法少女アニメの新作映画を見るらしい。

私はそのアニメには興味ないが、小学校の友人達には好きな娘たちが多いらしく羨ましがられた。

 

 

 

朝ごはんを家族で食べていた時、家の電話が鳴り母が応対に出る。

直ぐに終わるだろうと思っていた電話がなかなか終わらない。

どうせ連絡網ついでのママ友同士の会話なのかな?と思っていたが、どうも母の声から見知った相手ではないと気付く。

 

母が私をチラチラと見ながら電話で話をしているが、動揺・驚愕、そんな表情がその顔に張り付いている。

そんな母のらしくない様子に、私は何かしたのかと最近の記憶を必死に掘り起こすが、思い当たる事なんかしていない。

 

 

いや、もしかしたら少し前にあった学校での健康診断で悪い結果でも出たのかとも考える。

最近はサードインパクトの事で悩むことが多かった為、ストレスでまさか重病にでも罹ってしまったのかと不安になる。

 

 

 

そんなことを考えていると母が父を電話口まで呼び出す。

父も母の様子が心配だったのか直ぐに駆け寄った。

父も通話先の相手と何かを喋っていたが、突然大きな声を上げた。

 

「そ、そんな馬鹿な話がありますか!?なんの冗談なんだ!?

そんなこと…、あ、ありえないでしょう!」

聞いたこともない父の声に驚く妹達と弟に、私は大丈夫だよと笑顔で声を掛ける。

そんな私達を見て父は再び声を小さくして会話を再開させた。

 

 

 

電話が終わったのは、それから少し経ってからだった。

 

その後父は自身の携帯を持ち外へ出ていった。

どうしたのかと気になったが、車のエンジンの音がしないため会社とかの用事では無いのだろう。

 

不安になりながらも、日課である小さな弟の食事を手伝う事にした。

 

 

 

 

 

弟の食事が終わり少しすると、父と母は私達に、今日のお出掛けが出来なくなってしまったと申し訳無さそうに伝えてきた。

 

どうしても大切なお客さんが家に来るのだと…

 

 

まあ、当然ながら下の姉弟達は、素直にうんとは言わない。

絶対にお子様ランチを食べてから映画に行くのだと駄々をこねている。

 

 

最終的には祖父母が一緒に行き、父と母と、何故か私は家で来客を待つことになった。

 

 

 

薄々と感じていた不安は現実味を帯びてきた。

 

どんな病気なのか、何か犯罪でも犯したのか、そんなの冤罪だとか、頭の中で支離滅裂で無茶苦茶な事を考えるはめになった。

後々考えると、馬鹿な不安を抱いていたものだと笑ってしまうが、不安と焦燥感に苛まれていた私は、妄想に逃避していたのだ。

 

 

 

祖父母が下の姉弟を迎えに来て、出かけて行った。

それから30分程すると家のインターホンが鳴る。

 

母が玄関先に迎えに行く傍ら、私と父は居間のテーブルに並んで座って待っていた。

 

 

 

私の心臓はバクバクと大きな音を立てている。

私はなにかしたのだろうか…ずっと考えていたが思い当たることが無い。

ちらりと父の様子を除くが、父も緊張しているが怒っている様子では無い。

 

静寂の中、居間の扉が開き、母が来客を案内する。

 

 

 

 

来客は二人の女性だ…

 

 

 

その姿を見て私は唖然とした。

余りにも記憶の中のある人物の特徴と一致していたからだ。

 

しかしその姿を見ても、私がここにいる理由を思いつかないし、混乱は増すばかりだ。

何故なら会うはずがないし、会う理由が無いから。

 

 

一人目は赤いジャケットを着て十字架のペンダントをつけた女性。

 

二人目は金髪に染めた髪で白衣を着た女性。

 

 

漠然と二人を見つめる私は、二人の女性が他人の空似ではないかと考え、現実から逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

居間に案内された二人の女性は母に促され、私と父の向かいに座る。

そして父に名刺を差出し自己紹介を始めた。

 

「わたくし、対使徒迎撃機関ヴィレ・作戦部所属作戦部長の葛城ミサトと申します。」

 

「同じく技術部所属技術部長、赤木リツコです。」

父は自身も自己紹介をしながら私のことも紹介する。

 

 

「この度は急な要請に対応頂き感謝しております。

担当官がお電話でもお話した通り。

娘さん、長門ユウカさんのチルドレン、エヴァンゲリオンパイロット登録の件で参りました。

ある程度はご存知かと思いますが、使徒との戦いに関しては後々一般にも詳しい情報公開されます。

ひとまずとして、これが今までの使徒戦の推移と公開可能な情報でございます。」

と葛城さんが書類を出してきた。

 

 

父と母がその書類を読んでいる間、私はこの短いやり取りで出てきた情報に混乱していた。

 

ネルフでなくヴィレ、私がチルドレンに登録、一般への情報公開?

…なにそれ正直意味がわからない。

 

ニアサードインパクトも起こっていないのにヴィレ?

いったい、どうなっているのか…

 

 

 

 

両親が書類を読んでいる姿を目で追っていた赤木さんが口を開いた。

「長門ユウカさんは、以前行った簡易検査で、現在建造中のエヴァンゲリオンMark7への高い適正を示しました。

これは、次に高い適格者の10倍以上高い数値となっています。

資料で読んでいただけたかと思いますが、ニアサードインパクトの結果、以降の使徒戦は世界規模の戦いとなり一機でも多く戦力が必要になります。

特にエヴァンゲリオンMark7は現行のエヴァンゲリオンを大きく超える性能を有しており、そのため高い適性をパイロットに要求します。

故に非常に言いづらい事ではありますが、お嬢様は国連で定められた使徒迎撃戦力確保法の対象となり、強制的に徴兵されることとなります。」

そんな赤木さんの言葉に両親は怒りをあらわにする。

 

まだ7歳なんだ、小さい子供なのにと…

 

 

 

そんな両親を尻目に私はニアサードインパクトが起こっていた事に驚きつつ納得もしていた。

それ故の第3新東京市の壊滅なのかと。

 

 

怒りをあらわにする両親に、葛城さんは頭を下げ言葉をつげる。

 

「私達は、力及ばず使徒に負けてしまいました。

その尻拭いをしてくれたのは碇シンジ君…。

私の家族で弟の様な存在の子でした。

彼は怖くて、逃げて当然な状況でも逃げないで戦ってくれた。

決して強い子では、いえ…臆病な子だったのに、皆の為にと、その身を犠牲にしました…。

ですから!

…私は、あの子の願いを叶えたいんです。

なのでお願いします。

私には、いえ…、私達人類には娘さんの力がとうしても必要なんです。」

 

そして次に私を見つめ目線を合わせた。

「長門ユウカさん。お願い、貴女の力を私達に貸してください。」

 

 

ああ、そうなんだ…

こういう世界なんだ。

もう居ないんだね君は。

 

1番会ってみたかった君が居ないなんて。

碇シンジ君…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葛城さんと赤木さんが家に来た日から1週間。

本来は、あのようにわざわざ来て、頭を下げる必要なんてなかったのに、両親と私に誠意を見せてくれたことを私は嬉しく思う。しかし両親にとっては、娘を奪い、兵士にするのだと告げた悪人という印象の様だ。

 

 

しかしどのように思おうと、一定以上の適正を持っている場合強制的にチルドレンとして登録されることになる。

 

だからやるしかないんだ…

それでも葛城さんが頭を下げたのは自らへのケジメなのか…。

 

 

この1週間、父は仕事を休んでいっぱい私達と遊んでくれた。

それは今後、私がヴィレの管轄に入り滅多なことがない限り直接家族と過ごすことが出来ないからだ。

 

母は私と一緒に寝たがったり、一緒にお風呂に入りたがったりとまるでどっちが子供なのかと言いたくなるような感じだった。

別れ際には家族みんな泣いて悲しんでくれた。

 

幼い弟以外は。

まあ弟は何が起きているのかを全く理解できていないので仕方ないことだ。

 

 

私を迎えに来てくれたのは葛城さんだった。

黒いsuvに乗り最寄りの空港へ向かう。

道中、いっぱいお菓子をくれた葛城さんだが、何処かぎこちなさを感じる。

多分小さい子と接した機会が余り無いのだろう。

明るくフレンドリーな女性だが、何処か不器用さを感じた。

 

 

 

空港の滑走路へと進入する車両。

向かう先にはヴィレのマークがついたV-TOL。

私達はそれに乗り、旧ネルフ松代支部へ移動する事になった。

 

 

 

 

 

旧ネルフ松代支部。

壊滅した旧ネルフ本部を再建する間、暫定的にヴィレの本部として運用しているとの事だ。

 

 

簡易的に増設されており、現存する稼働可能なエヴァンゲリオンが配備されていると聞いた。

 

 

私は葛城さんに連れられて両側に兵士が立つ扉の前まで来た。

 

 

「司令、葛城です。長門ユウカさんを連れて来ました。」

 

「構わんよ。入ってくれたまえ。」

 

入室する私達を出迎えたのは二人の男性。

長身の初老の男性と、無精髭を生やし髪を後ろで結っている男性。

 

「はじめまして、長門ユウカちゃん。

私は冬月コウゾウ。

ここの司令を勤めているよ。冬月さんと呼んでくれて構わない。」

初老の男性が優しく私に声をかける。

 

 

…違和感がある。

こんな冬月先生はアニメで見た時無い。

 

私が幼いからだろうか?

そんなキョトンとしながらも自己紹介をし、ユウカと呼び捨てにして下さいと伝える私に気さくに声をかけるもう一人の男性。

 

「はじめましてユウカちゃん。

俺は加持。加持リョウジ。

このヴィレの司令補佐なんてやっているよ。

まあ、司令補佐なんて言ってもただの何でも屋、雑用係だからね。ユウカちゃんも何かあったら直ぐに言ってくれ。」

 

冬月先生が司令。

ということはゲンドウさんが居ないのかな?

 

それに加持さんが司令補佐になっている。

私の知る原作知識なんて殆ど役にたたないな。

 

 

「ユウカちゃん。済まないがこんな老人でも凄く忙しくてね。

本当はヴィレの中の案内をしたい所だが、偉い人との会議があってね。また後で話をしよう。」

冬月先生が済まなそうにしている。

 

「よし、それじゃあ俺が案内をしよう。もちろん葛城も一緒にな。」

と私と葛城さんにウインクしながら加持さんが話す。

 

「あらあら、お忙しい加持司令補佐にユウカちゃんだけでなく私も案内して頂けるなんて、光栄ですわ〜。」

とニヤリと笑う葛城さん。

 

「ユウカちゃん。加持司令補佐が案内がてら色々と奢ってくれるそうよ。パーッ!と行きましょ。パーッとね!」

 

「おいおい。給料日前なの知ってるだろ。手加減してくれよな。」

 

やっぱりこれだよね。こんな二人のやり取りが見たかったんだよ。

私の周りで笑う二人を見上げながら、私は嬉しくなり笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

冬月司令に挨拶をして部屋を退出した後、ヴィレ施設内を加持さんと葛城さんが案内してくれた。

 

途中葛城さんがミサトでいいと言ってくれたので、ミサトさんと呼ぶことにした。

 

 

宿舎、食堂、大浴場、ランドリー、売店と日常生活に必要な施設を案内して貰ったが、よく3ヶ月でここまで建てられたものだと感心する。

 

 

基本的にチルドレンは食堂、売店、ランドリーをお金かけずに利用出来るとのことだ。

凄い!食べ放題だ!と喜ぶも、使い過ぎると経理の人たちから怒られるとのこと。

 

チルドレンとして、まだ本登録されていないから、今日の食堂は加持さんの奢り。

私はカツ丼とパフェを堪能した。

ちなみにミサトさんは焼肉定食だったが、加持さんはかけ蕎麦だった。

 

次に案内されたのがトレーニングルーム、実験棟、エヴァ格納庫、そして最後に仮設の発令所。

エヴァは見れなかったが、後で見せてくれるそうだ。

 

 

 

 

発令所に入る私達に目線を向ける四人の少年少女達。

私はその人たちを見て少し緊張してしまう。

その四人に近づく私達。

 

 

ミサトさんが四人を紹介するよりも早く、私に飛びかかる人影。

その人に抱きつかれ困惑する私。

 

動き早すぎ…。

 

 

「わ〜お!本当に小さいじゃん。こんな歳からエヴァパイロットだなんて、苦労するね。

…う〜ん、それにしてもいいニオイ。」

と私の後ろから抱きしめる胸の大きいいい女。

メガネをかけた美少女、真希波・マリ・イラストリアス

 

「ほら、紹介出来ないからそっちに行く。」

マリの頭に軽くチョップ入れ止めるように促すミサトさんに、ホイホーイと軽口を叩き三人の所に戻る

 

あ、マリがアスカに足を踏まれてる

 

 

「それじゃあ、左から順番に紹介していくわね。

ファーストチルドレンの綾波レイ、セカンドチルドレンの式波・アスカ・ラングレー、でさっきのがフォースチルドレンの真希波・マリ・イラストリアス、それで彼がフィフスチルドレンの渚カヲル君。

あとは現在アメリカに出向中のシクスチルドレンの霧島マナを含めた計五名が、ユウカちゃんの仲間になるわ。」

 

「それで皆には伝えてあったけど、この娘がセブンスチルドレンの長門ユウカちゃんよ。

貴方達はお兄さん、お姉さんなんだからちゃんと教えて上げるのよ。」

とミサトさんが矢継ぎ早に紹介して行く

 

それにしても、チルドレン呼称なのに惣流でなく式波だし、真希波マリが居るし、霧島マナがチルドレン?

それにシンジ君が居ないのにカヲル君が居るし。

 

 

…もう前世の知識を必要以上に、当てにするのは辞めよう。

 

もうフィクションの世界ではないんだ。

 

ここは私が現実として生きる世界。

キャラクターでなく、皆がそれぞれ考えて生きている世界。

 

 

ここに来て、ようやく実感できたのかもしれない。

 

私は今、生きているということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を見て、キョトンとした表情で戸惑っている様子の綾波レイ。

わかんない事があったら直ぐに聞きなさいと、私を気にかけている、式波アスカ。

何故か、私を後ろから抱きしめている真希波マリ。

そして笑顔だが、どこか壁を感じるカヲル君。

 

 

 

 

そんな初対面から早くも2週間が経過した。

現在、私が乗るであろうエヴァンゲリオンMark7はまだ松代にないらしく、模擬体とのシンクロテストやシミュレーターを使っての機体操作訓練。

それと軽い体力トレーニングが日課だ。

それ以外は基本施設内という制約が有るが、ある程度の自由を与えられている。

 

 

 

それと私は見た目がまだ7歳だからか、宿舎はなんと相部屋だった。

そのお相手は、真希波・マリ・イラストリアス。

 

 

それ故に殆どマリと二人で過ごすことが多いのだが、学校にも行かないし外にも出られないと、やることが無くなる。

 

私の部屋での暮らしは、マリが持っている大量の本を読んでいるか、勉強をしているかだ。

特にマリは私に機械関係の本を読ませてくる事が多いように思える。何故なのだろう?

 

 

私が部屋で本を読んでいると、訓練の終わったマリが部屋に戻って来た

 

「ねぇねぇ、ななちゃん。朗報だよ〜。」

と抱きつきながら話しかけてくる

 

「マリちゃん、どうしたの?」

何故かマリは、私にななちゃんという渾名を付け、自分の事はマリちゃんと呼ぶように要求してくる。

 

「なんとエヴァMark7、3日後に到着するって!」

そんなマリの言葉に喜ぶ私。

ふふふ、私のエヴァか…。

どんな見た目かな?ワクワクしてくる。

 

「私も早く8号機乗りたいにゃ〜。」

 

「8号機って、ここで造ってるんですよね?あとどれ位で出来るんですか?」

 

「んにゃ〜。全然情報寄越さないのよ。まったく、リっちゃんもケチだよね!?」

和気あいあいと話す私達。

まあ2週間も共同生活してるし、マリのコミュニケーション能力が高いから凄く助かっている。

 

 

「一応なんかあった時の為に、姫と渚君がエヴァに乗って待機するみたいだから大船に乗った気持ちで挑みなよ。

ななちゃんなら、だいじょぶだいじょぶ〜!」

そんなマリの言葉に、逆に少し不安になってしまう。

 

 

アスカとカヲル君といったら、エヴァ2号機とエヴァMark6。

現存するエヴァの全てだ。

 

それが、ただの起動実験に?

それに聞くところによると仮設ケージで行うとのこと。

原作3号機と同じように離れた位置で。

 

そんなことを考えながら、こちょこちょしてくるマリと戦う私だった。

 

 

 

 

 

 

 

Mark7の事を聞いてから3日後、私はマリとアスカと加持さんと一緒にヴィレ地上施設の屋上に居た。

今日来るエヴァMark7を一目先に見るためだ

 

「お!最大望遠でエヴァMark7発見!!」

と望遠鏡を持ちながらテンションの高いマリ。

 

アスカはそんなマリを見ながら腰に手を当て、その方向を眺める。

睨むような顔。

憎しみが宿る表情。憎んでるの?エヴァを?

 

 

そんな二人を見ながら私は加持さんにお礼を伝える。

「加持さん、ありがとうございます。付き添いをお願いして。」

 

「いやいや、司令補佐といっても案外暇なんだ。これくらいお安い御用さ。

…それに俺も見たかったからな、エヴァMark7を。」

そんなやり取りをしていた私達を見て、こちらへ来るアスカ。

 

「ホントこれのどこらへんが7歳児なのよ!ガキはガキらしくしてなさいよ、ガキユウカ!」

と私の頭をワシワシと乱暴に撫でる。

 

そんなやり取りを発見したマリが私とアスカに飛びかかるも、それをアスカが迎撃する。

 

そんなじゃれている二人を見ていると、徐々に飛行音が聞こえてくる。

視界に映る、巨大なウイングキャリアー。

 

それに吊るされて居る、エヴァンゲリオン。

 

肉眼でも段々と見えるようになってきた。

手すりに掴まり食い入るように見る私と、そのすぐ後ろに佇むマリとアスカと加持さん。

 

 

しっかりと見えてきた白亜の機体。

エヴァンゲリオンMark7。

 

白いんだ…私のエヴァ。

 

 

 

エヴァの顔を見て、安堵する私。

………よかったよ。鰻のような頭部じゃなくてさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

淡い青色をベースとしたプラグスーツを着た私は今エントリープラグ内に居る。

いよいよ始まる、エヴァMark7の起動実験。

 

 

 

 

…大丈夫、何度も模擬体とのシンクロテストはしている。

 

少し緊張しながら通信越しに見るアスカとカヲル君は、真剣な表情で待機している。

 

まるでこれから戦いが始まるのではないかと思えてしまう。

 

 

 

 

もう一方の通信越しに、赤木さんがスタッフへと色々と指示しているのが聞こえてくる。

 

そして、ついに準備完了の報告が入る。

赤木さんが通信で冬月司令に確認を取る声が聞こえた。

 

 

 

遂にこの時が来た。

始まるんだ。本物のエヴァとの接続が…。

 

「では長門さん。始めるわよ。」

赤木さんの声にうなずく私。それを見た赤木さんが号令をかける。

 

 

動くエントリープラグ、機械が接続する音、そして注水されるLCL。

 

私は瞳を閉じる。私の中を知覚する為に

 

 

 

繋がる。

その時何かが触れてくる感覚、それを受け入れようとして…嫌な予感がして、私はそれを拒絶した。

 

シンクロは、エヴァを受け入れることが重要なのは知っている。

 

しかし、これは違う。

この感覚を説明が出来ないけれども、なんか違う。

 

これは何だろう?何となく覚えがある。

 

 

そう、一度死んだ時のこと?

記憶にはないのに、魂が覚えている。そんな感覚。

 

 

死。

 

死の感覚?違う?これは何だろうか?

 

 

わからない…。

でもこれだけは受け入れてはいけない!

 

 

 

そう思い私は触れてくるナニカを強く拒絶して弾き飛ばす。

 

私の心の壁、ATフィールド。

それがエヴァの中へ流れていき、そして強くなるのを感じる。

 

奥に押し込まれ、消えたナニカ。

空になったエヴァの中。その中に私から何かが流れ込んでいくのを感じる。

エヴァの中に広がっていく私の世界。

そして寂しさと損失感を自分の中に感じた。

 

 

 

本来生れ出づるはずのないものがエヴァの中に生まれるのを知覚する。

 

それが私に触れようとしている。

それを私は、優しく受け入れる。

 

 

重なる私とワタシ。

そこには暖かさがあるだけ…

 

 

 

そして私は目を開ける。

 

 

 

 

「神経接続問題なし。双方向回線開きます。」

 

「シンクロ率安定!エヴァMark7起動。」

聞こえてくるオペレーターの人達の声。

周りのざわつき、驚きの表情が張り付いている赤木さんの顔を見る。

さらに細かくデーターを収集するように指示を出す赤木さんから視線を外し、アスカとカヲル君を見る。

 

 

ホッとしたアスカの表情。

そして今まで何処か壁を作っているようなカヲル君であったが、今はそれを感じさせない柔らかな微笑みを浮かべている。

 

 

ふと、エヴァから見る視界の隅にチラチラと何かが映る。

 

仮設ケージに乱入してきたマリと綾波さんだ。

綾波さんはマリに手を引かれている。

きっとマリが綾波さんを無理やり連れてきたのだろう。

 

マリが両手で思いっきり手を振り、笑っている

それを見た私は緊張していた体を解く。

 

 

 

成功の実感。

 

 

ミサトさんに首根っこを捕まれ連行されていくマリと綾波さんを見ながら、私は声を出して笑った。

 

晴れやかな気持ち

 

 

そして私は挨拶をする。

 

「はじめまして、私のエヴァンゲリオン!」

 

 

 

 




妄想の垂れ流し。
失礼を。
シン・エヴァンゲリオンを見てからエヴァ熱が再燃してしまい。
自分で作りたい話を書いてしまおうと思いやってしまった。
小説は読む専門だったため、書くのには苦戦しているため、アドバイスとか頂けたら幸いです。

一人称視点でおくっていく為、謎な部分とかは後々判明したりします。楽しんで頂けたら幸いです。

読んでくださりありがとうございます。


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シ者の想い

夢を見ている。

 

…私ではない、何者かになった夢だ。

 

凄く断片的で、支離滅裂

ただ何かを求め、焦がれる感情。それだけがはっきりとしている。

 

その求めていた何かを手に入れて、ただ一つのオモイを遂げようとしたとき、細長い物体を手にした、輝くヒト型に邪魔をされる。

 

新しく成れる自分を留めておく何か

夢の中では、そのヒト型に狂おしいほどの憎悪を感じるのだが、目が醒めてしまえば、その気持ちが一転する。

 

 

どうしても、その白いヒト型に想いを馳せてしまう。

ただ、悲しくなるのだ。

 

どうしても…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起動実験より早くも一週間が過ぎようとしている。

模擬体を通してのエヴァMark7とのシンクロテストは、起動実験の時よりも、うまく繋がれていない、そんな感じがする。

模擬体を通しているからか、それとも別の要因があるからなのか…

 

 

この日のシンクロテスト後に赤木さんより、私に通達があった。

 

「長門さん。3日後の1400より、エヴァMark7の実機動作テストを行います。」

実機での動作テスト?

エヴァって動かすだけでもお金がかかると聞いたけど。

 

そんな疑問は置いておいて、ひとまずは頷いておく。

 

「そのため明日は休日として、明後日に最終的な調整を行います。

まあ、ここに来てから機体の調整や検査なんかで休みを取れなかったのは悪かったわ。故に明日はゆっくりと休んでちょうだい。」

と赤木さんが微笑む。

笑った赤木さんってかわいい、とちょっと見惚れる私であった。

 

 

 

 

シンクロテストが1800に終わったため、チルドレン全員で食堂へ移動する。

午後の遅い時間にシンクロテストがあった日は、こうやって皆で一緒に食事を摂る事が出来るが、それ以外だと皆が集まることはあまり無い。

 

その1番大きな理由は私がまだ小さい為だ。

それ故に、体力訓練なんかは年齢を考慮してか軽めに調整されているし、戦闘訓練に至っては、見学や型の反復等のみで皆より早く終るため、時間が合わない。

 

 

 

 

今日の私の晩ご飯はカツ丼とコーヒーゼリー。

マリはローストビーフ定食、アスカはハンバーグ定食、カヲル君は鰻重、綾波さんは焼肉定食焼肉抜き。

 

…ん?焼肉定食焼肉抜き?

 

 

 

皆が集まった際、主に喋っているのはマリとアスカの二人だ。

そこにたまに私が加わる。

 

「…明日の休みどうしようかな。」

急に休みとなった為、どうしたら良いのか解らない。

ついつい悩みが口に出てしまった。

そんな呟く私に反応したのはアスカ 

 

「なによ?そんなの好きに過ごせばいいじゃない?

アンタ、趣味とか無いわけ?」

と呆れたような表情を浮かべる。

 

「確かにななちゃんは、空いている時間は私の本を読むくらいしかしてないね。さあ気になるあの娘のご趣味はな〜に。」

とおちゃらけながら、手にマイクを持つように、私へ向ける様なポーズを取るマリ

 

「いや〜、今の所、特に何もないかな…。」

やりたい事といっても、特に思いつかない。

アニメやゲームといった分野に関しては、セカンドインパクトの影響なのか、あまり無いのが現状だ。最近になって少し増えてきているみたいだけども。

 

「はぁ…。あんた、ほんとに7歳?大人っぽいってより、枯れてんじゃない?」

趣味くらい持ちなさいよとアスカは私の頭を乱暴に撫でる。

そんな私を微笑みながら見ていたカヲル君が唐突に口を開いた。

 

「それじゃあどうかな?長門さん。

明日は僕と一緒に過ごさないかい?僕も非番なんだ。」

 

…正直驚いた。

カヲル君が私を誘ってくれるなんて。

他人にあまり興味が無いのかと思える人がそんな事を言うなんて思ってなかったから。

焦った私は間髪いれずに答えていた。

 

「え!あっ、それじゃお願いしまふ!」

 

 

 

う、噛んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝ごはんを皆で食べていたが、私服なのは私とカヲル君。

私服と言ってもカヲル君は何故か学校の制服姿。

この後からカヲル君の予定に付き合う事になっている。

 

私の朝ごはんはカツサンドとサラダとコーンポタージュ。

マリがローストビーフサンドと紅茶、アスカはパンケーキセット、カヲル君はおにぎり定食2号機バージョン、綾波さんは焼肉定食焼肉抜き。

 

 

…おにぎり定食2号機バージョン!?

デフォルメされた2号機の顔を模したおにぎり。

なんでそんな物が?

ていうか、なんで2号機をチョイスしたの?カヲル君。

原作で使っていたからかな?

 

 

あれ?アスカ、目を抑えてどうしたの?

何だ、埃が入ったのか…

そうだ、目薬使う?

 

 

 

 

 

 

 

朝ごはんを食べ終わり、カヲル君に案内されたのが地上施設の中庭。その広い中庭の一角には、畑が作られており、スイカが植えられていた。

 

 

スイカ畑…。

もしかして加持さんのかな?

 

「済まないね、付き合ってもらって。

ここは加持司令補佐が作っているスイカ畑なんだ。

どうやら最近の彼は忙しいらしくて、お世話を頼まれたんだよ。

趣味が無いというのは勿体ないと思ってね。

どうだい?試しに一緒にやってみないかい?」

そんなカヲル君の提案に、シンジ君と加持さんの原作でのやり取りを思い出しながら頷いた。

 

 

 

 

照りつける陽射し。じわじわと滲む汗。

暑さに耐えながら進めていた作業も、今は小休止。

カヲル君から、色々とスイカの世話の事を教えて貰った。

 

 

前世を含め作物を作ることなんてした事も無かったし。

大変ではあったけど、これはこれでなかなか楽しい。

…なんか下の姉弟の世話をしていた事を思い出してきた。

 

 

近くの自動販売機で買ったスポーツ飲料を飲み、ベンチで休憩する私は、以前からカヲル君に聞きたかった事を聞いてみた。

 

「渚君は、どうしてエヴァに乗っているんですか?」

 

不思議でならなかった。彼が今もエヴァに乗っていることが…

この世界では、すでにシンジ君が居ないと聞いているからだ。

それともこのカヲル君はループをしていないのかな?

 

そんな私の質問にカヲル君は遠くを見つめ答えてくれた。

 

「約束だからね。大切な人との。」

 

「大切な人?もしかして、碇シンジさんですか?」

 

「…君は聡いね。式波さんではないけど、本当に7歳なのかと思ってしまうよ。

そう、碇シンジ君。彼と約束したんだ。

精一杯生きて、そして皆を守ってほしいってね。」

 

「君はどうなんだい?…何故エヴァに乗ってるんだい?」

そのカヲル君の質問に、私は言葉が詰まる。

 

理由はいくつもあるはず。

家族の為、この世界が好きだから、私の為。

でも本当にそうなのかな?どれも嘘という訳ではないが、しっくりと来る理由ではない。

そんな事を考えている内に、何気なく言葉が出てきた。

「希望、なんだと思います。細かな理由は色々とあるけれど、エヴァに乗れば希望が生まれるから。」

 

「希望、リリンの生きる糧。…確かにそうだね。希望があるからこそ生きていける。」

 

「ええ、そうですね。この希望は碇さんが繋いでくれたんですね。」

そんな私の言葉にカヲル君は微笑んだ。

 

「あの、碇さんって、どうなってしまったんでしょうか?」

 

ふと疑問に思ったことを聞いてしまった。

大切な人の事だ。軽々しく聞くものでは無いはずなのに、つい口に出てしまった。

 

「シンジ君は、新生する第13使徒を封印するために初号機と共に強大なATフィールドを展開しているんだ。時間すらも遮断するという形でね。」

そんな事が可能なのかと驚く私にカヲル君が言葉を続ける。

 

「シン化したエヴァはまさにリリンの言う神に等しい存在なんだ。あらゆる法則を越え、願いを叶える存在。

エヴァ初号機がシンジ君の願いを叶えているんだ。

にわかには信じられないことだろうけども、それが現実なのさ。」

 

「そうなんですね…。

あれ?でも時間を遮断しているってことは、時が止まっているってことじゃないんですか?

な、なら碇さんは生きているのかもしれない!」

シンジ君に会えるかもしれない。

そう思い目を輝かせる私だが、対象的にカヲル君の表情は冴えない。

「そうだね。…でも助けられないんだ。

僕には、そこまでの力が無いからね。」

カヲル君を見つめる私の瞳に映るのは、悲しみの表情。

そして諦めの表情。

 

 

そっか…。だから約束の為に乗ってるんだ。

 

 

 

そんな彼の表情を見て、私は思った。

シンジ君の為に生きる彼に、少しでも希望を持って欲しいと。

 

 

 

だから私は、自分に呪いをかける

 

 

「そっか。なら仕方ないですね。…うん。」

「でしたら、私が碇さんを助けます。」

とびっきりの笑顔を浮かべて。

 

果たせるかもわからない、根拠なんて物も無い、ただの口約束。

私はきっとこの約束に縛られるのだと確信しながらも、後悔だけはしないと誓う。

 

だってシンジ君に会いたいのは私の願いでもあるのだから。

 

 

 

 

 

あの約束の後、カヲル君は

「渚でなくカヲルと呼んで欲しい」と言ってくれた。

渚くんって、なんか言いづらかったから私としても大助かり。

 

 

その日の晩は少し遅めの夕食。

皆の訓練が終わってから一緒に食べた。

その日、カヲル君が選んだご飯は、私と同じでカツ丼だった。

 

 

突然カヲル君呼びに変わった私にマリが、

「ななちゃんが寝取られたにゃ!」

と叫ぶわけで、そんなマリに

あんたバカー!

とアスカが顔にアイアンクローを繰り出すのだった。

 

…少し過激過ぎませんか、アスカさん?

 

 

ちなみに何故か、今日はマリと一緒の布団に寝ることになりました。

 

 

 

 

 

 

実機動作テスト前日、今日は皆よりも長くシンクロテストを行う。明日へ向けたデータ収集や調整の為なのだろう。

そして午後からは、エヴァMark7の機能説明がある。

 

 

そう、私はまだエヴァMark7がどういう機体なのかを聞いていなかった。

 

チルドレン登録の際に赤木さんが言っていたが、エヴァMark7は現行のエヴァを大きく超えた性能を有しているらしい。

 

それに疑問に思う部分が有る。

起動実験の際は仮設本部より離れた場所で行い、2機のエヴァを待機させることまでしていた。

 

説明を聞いたら、もしかしたら、その謎が少しでも解るかもしれない。

 

 

 

 

 

シンクロテストが少し長引いた。

少しと言っても赤木さんの少しだ…。

 

私は1時間を少しとは言わない。

 

 

ただでさえ、いつもより長いシンクロテスト。

それが“少し”伸びたせいか、物凄くお腹が空きました。

だがスケジュールは変わらないため、私の今日のお昼ご飯は無しである。

 

あぁ、私のカツ丼が…

 

 

 

 

 

そしてやってきたエヴァMark7の機能説明。

赤木さんのオフィスにて行うことになっている。

 

 

初めて入る個人のオフィス。

そういえばミサトさんのオフィスも入ったときないや。

因みに加持さんにはオフィスが無いとのことだ。

司令補佐って何をやってるんだろうか。

 

扉をくぐり、部屋に入る私を1番に出迎えたのはバターの匂い。

ああ、空きっ腹にくる。

 

それにしても、なんでバターの匂いが?

 

部屋を間違えたのかな?

戸惑い、立ち止まる私。

そんな私に声を掛けてくれたのが技術部の伊吹マヤさん。

 

「ユウカちゃん。いらっしゃい!先輩は少し遅れるんだって。」

 

「ううっ、そうなんですか…」

忙しい赤木さんを恨むのは筋違いだが、お腹が空いた。

お腹が空いたのだ!

そんな私の事情を知っていたかのように、伊吹さんがデスクの上にある物を置いた。

 

 

こ、これは!

「ア、アップルパイ!!」

 

「作ってみたの。ユウカちゃんが、お昼ご飯を食べれないと思ってね。」

アップルパイをこんな短時間でどうやって作ったの?

この匂いを嗅ぐに、焼きたてだと思うのだが。

 

…まあ良いか。

頂きます!とアップルパイにかぶりつく。

 

美味しい!

 

 

 

アップルパイにかぶりついていると、赤木さんが部屋へと入ってくる。

かぶりつくように食べている私の顔を見て、クスッと笑う赤木さん。

そのままコーヒーを入れてくれた。ミルクと砂糖たっぷりだ。

 

赤木さんと伊吹さんも加え、3人でアップルパイとコーヒーでブレイクタイムと行きたいところだったが、早々に本題であるエヴァMark7の機能説明に入る。

 

 

 

現行のエヴァンゲリオンとは違う部分を説明する赤木さん。

 

まず第一にエヴァMark7という機体はスーパーソレノイド機関、通称S2機関と呼ばれている動力源を搭載していること。

それにより、アンビリカルケーブルと呼ばれる電源コードを接続しなくても、制限時間なく稼働可能となっている。

 

第二にフィールド偏向制御装置を搭載していること。

それによりATフィールドを利用して機動力を強化することが出来るようになるため、従来のエヴァよりも高い機動力を有している。

さらに搭載されている飛行ユニットとの併用により空戦対応が可能となる。

 

第三に物質の生成能力と侵食能力。

瞬時の再生とはいかないまでも、切断されたエヴァの四肢を装甲を含めて再生させることが出来るはず、と言うのだ。

そして何より、物質の生成能力により、武装を自身で作ることが出来るようになるはず、とのことだ。

 

第四にインパクトボルトと呼ばれる、機体に内蔵された新兵器。

強力なATフィールドによって生成された、逆位相空間によるエネルギーチャンバーを形成して、この中に高圧電流を放流、エネルギーチャンバーの中で電子を圧縮加速し、そして指向性を持たせて敵に対し発射するという一種の荷電粒子砲とのこと。

 

最後に、素体そのものが他のエヴァよりも強力だと説明された。それにしても、なんでこんなにも強力なエヴァが出来上がったのか。

 

 

…いや。3番目に説明された能力が無ければ、いわゆるF型装備のエヴァなのだが、生成と侵食能力というのはどういうことなのだろうか。

 

確か新劇場版で見たアダムスの器と呼ばれていたエヴァが、似たような事をしていたと思うが、武器まで作成したり出来るものなのかな?

 

…いや、何か違う気がする。

 

 

S2機関という要因だけでも、起動に慎重にならざるを得ないため、遠く離れた仮設ケージでの起動実験は理解出来る。

しかし、待機していた2機のエヴァ。その理由はなんだったのだろうか。

 

 

 

 

 

機能説明が終わり、夕食を食べて、あとは寝るだけとなった。

 

明日のテストの事を考えると少し緊張してしまう。

 

S2機関の稼働について、大丈夫なのかな?

実際、起動実験で稼働していたのを確認しているとのことだが、稼働率が上がった場合どうなるのかは、まだ未知数はずだ。

 

 

 

歯を磨きながら部屋を見渡す。

この時間なら何時も居る筈のマリがいない。

どこに行ったんだろうか。先程、お風呂に入った時は、いなかったけど…

 

まあ良いか。明日は早いからもう寝よう。

欠伸を噛み締め、子供ボディ特有の眠気に耐えながらそう考え、私の布団をめくる。

 

「お!?ななちゃんじゃん。どうしたの?

もしかして、そんなに私と寝たいのかにゃ〜?

いいよ、おいでおいで。」

 

 

……ここ、私の布団だよね?

 

 

 

 

 

 

 

ついに訪れた稼働テストの時間。

エヴァから見る、外の景色は、全てが小さく見えて新鮮さが有る。

 

運動テストを一通り終えており、次はATフィールドの展開実験。

 

通常のATフィールドは問題なく展開出来ているようだ。

応用とか出来るかな?

 

テスト内容に無いことだが、無性に試したくなってきた。

 

イメージするのは最強の拒絶タイプ!

なんてね。

 

 

 

 

…本当に出来てしまいました。

多重展開のATフィールド。

それを押し出すように広げたり、上から叩きつけるようにしたりと操作していく。

私がイメージした通りに形を変えるATフィールド。

息をするように簡単に出来てしまう。

 

 

ん?マリ、何?

先週観たスターウォーズのライトセーバー?

うん、多分出来るかな。

 

え!?円状のフィールドを高速回転させて投げる?

それも、多分出来るよ。

 

 

今はやらないからね。

 

…やらないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行実験に関しては、もうアスカとミサトさんの前ではやりません。爆笑するなんて酷いよ。

 

 

 

実機稼働テストが終了しても、まだアスカは笑っている。

 

「ふっ、くっ!本当おもしろっ、駄目よ!アスカ。

笑ってはっ、ぷっ!」

こんな笑うアスカは初めて見た。

ツボに入っているのか、私の顔を見るたびに吹き出している。

 

ねぇ、私、どんな飛び方してたの?

ビデオとか取ってないよね。

 

 

マリはマリで、昔のコメディ番組のテーマソングを口ずさんでいる。

この世界では今どきの子供が知らないであろう、セカンドインパクト前の有名番組。

ミサトさんはそんなマリに、

「なんであんた、そんな昔の番組のテーマソング知ってるのよ。」

と不思議そうにしている。

 

カヲル君は苦笑いを浮かべ。

綾波さんは…視線を背けている。

 

やだな、もう。恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

使徒の来ない日々を送るチルドレン達の日常は、あまり原作では描かれていなかったが、私がその生活を送れるとは思っていなかった。

 

来たる使徒との戦いには、まだ時間的余裕があるようで、およそ5年後との計算結果が出ているようだ。

多少は前後するため準備期間は4年くらいだろうか。

 

 

 

 

 

南極。

セカンドインパクトの発生地にして、唯一浄化された赤き大地のある大陸。

その地は、原罪無き浄化された世界。

人の踏み入ることの出来ない世界。

 

それを人はL結界と呼んでいる。

 

 

広大な南極大陸エリアそのものが、もはやL結界だということになる。

ニアサードインパクト後、そのL結界の境界内部より、ある波長が検出されたという。

それは第13の使徒によく似た波長であり、パターン青に酷似した波長であった。

 

 

 

使徒新生

 

古き理を捨て、新たな理を持つ生命体の誕生。

本来なら使徒由来のサードインパクトにより地球全体が浄化され人類が滅び、その浄化された地球に新たな生命が誕生するというプロセスを経ていく。

 

だがシンジ君のおかげでサードインパクトは中途半端に終わり、人類の滅びは無くなった。

しかし新生は避けられなかったということなのだろう。

 

浄化された世界である南極より、新たな生命が生まれることにより始まる生存競争。

 

それが今後起こる使徒との戦い。

 

 

 

その戦いに向けて、今日も訓練。

ミサトさん曰く、私のエヴァMark7に求められているのは空戦能力。それ故に飛行訓練は休日以外毎日行っている。

 

実機稼働テストの飛行実験にて取れたデータを使い新たなシミュレーターを作成し、それを使用しての訓練。

航空戦力としてのエヴァはMark7以外存在しないため、私一人の訓練だと思っていたが、綾波さんも飛行訓練に参加している。

その理由は、零号機が既に消滅しており、最近になって開発されたエヴァMark9に搭乗が決定したからとのことだ。

 

どうやら、そのエヴァMark9も空戦能力を有して開発されているらしく、さらに特殊な装備を有していると話を聞いた。

 

将来的には綾波さんとバディを組むことになる可能性が高いとミサトさんが喋っていた。

 

 

そんな綾波さんとの訓練だが、

沈黙が痛い。

話題を見つけようと頭を回転させるも、なかなか思いつかない。

 

 

シンジ君って凄く頑張ってたんだね。

心が折れそうだよ。

 

私自身コミュニケーション能力が高い方ではないから、会話が苦手な部類なのが致命的だ。

 

でも、このままではいけないのは解っている。

ミサトさんにも

「レイをよろしくね~ん。」

と軽く言われた。

…私と綾波さんの年齢を考慮すると、普通は逆ではないか?

 

 

訓練自体は、なかなか順調だ。

もうお空は怖くないぞ!

 

実際の空ではないが、航空力学やATフィールドによる作用を完璧に組み込まれた赤木博士印のシミュレーター様様です。

 

 

訓練の休憩中、二人で並んで軽食を摘んでいる。

勇気を出して話しかけよう。

そう、シンジ君のように。

 

逃げちゃ駄目だ…

 

 

「綾波さんは、ご飯の好き嫌いってありますか?」

うわ〜。

私のコミュ力頑張ってよ。

 

「肉、嫌いなもの。好きなもの…味噌汁。」

 

「味噌汁ですか?味噌汁のどんな所が好きなんですか?」

 

「暖かいから、ポカポカして美味しい。それに絆だから。」

 

「絆?」

 

「ええ、碇くんとの。」

 

ああ、そうか。そうだった。

シンジ君の味噌汁。

なんで忘れてたんだろう。

 

「碇さんと、会ってみたいです。綾波さんにとって碇さんってどんな人なんですか?」

 

「初めて頬を打ってしまった人、初めて約束をした人、笑顔を教えてくれた人、ご飯の美味しさを教えてくれた人、ありがとうを最初に伝えた人、一緒にいるとポカポカする人、守りたい人、寂しいという気持ちを教えてくれた人。」

泣きたいのか、笑いたいのかわからないような表情をした綾波さん。

 

「そっか。綾波さんって、碇さんの事が好きなんですね。」

何故か嬉しくなり、何気なく放った言葉。

 

そんな私の言葉に目を見開き、私を見つめる綾波さん。

だが直ぐに正面を向く。

「好き。…わからない。これが好きという気持ちなの?」

顔を赤らめている綾波さんは正直かわいいと思う。

 

「その人を想い、何かをしたくなる。

守りたいという気持ち。

そういうのが好きという気持ち、愛情なんだと私は思います。」

そう言う私の方を向く綾波さん。

そして、微笑みを向けて言葉を紡ぐ

 

 

 

「ありがとう。」

 

 



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ソラを翔ける少女

 

国際連合安全保障理事会

 

世界の平和と安全の維持を目的とし、国連の6つの主要機関の中で最も大きな権限を持ち、法的に国際連合加盟国を拘束することができる事実上の最高意思決定機関である。

 

その国際連合安全保障理事会にて決定されたのは、来たる使徒戦において全人類の総力を結集させることであった。

 

各国の軍事機関や、研究機関においては民・官を問わず有能な人材をすべて使徒戦の準備に投入。

 

あらゆる各分野において、規定以上の能力を有する人材は強制的な徴用など超法規的な措置まで可能になる。

 

それは対使徒戦力確保法として世間に知られることになった。

 

 

 

 

崩壊した旧ネルフ本部は、これまでの使徒戦やニアサードインパクトの被害でジオフロント天井部分は無くなり、今や巨大な大穴となっている。

 

ジオフロント最深部には第13使徒が封印されているため、そのまま穴を開けた状態にしておく事は出来ない。

初号機のATフィールドにより蓋がされているような状況ではあるが、今後来たる新たな使徒の最終目的は封印の開放であるとスーパーコンピュータ・マギシステムが結論を出している。

そのためジオフロントの防衛設備の拡充が必須。

現在急ピッチで行われている。

 

その他にも南極に近い大陸でも防衛設備が整えられており、南アメリカ、アフリカの海岸線において巨大な防壁等が日々作られている。

 

巨大兵器や大量破壊兵器の開発、増産。

民間でも巨大ロボットの開発計画が発表されている。

特に最近は日本の民間企業が開発したジェットアローンが少しずつ注目を集めているようだ。

 

 

こういった世界規模で動きを見せはじめている中、最も注目されているのがエヴァンゲリオンとそのパイロットであるチルドレン達。

 

使徒との戦いが起こることについては既に情報公開がされており、機密性の高い情報を除き一般人でも検索が出来るようになっている。

チルドレンのことについては、その重要性から、かなりの保護がされており、チルドレンというパイロットが居る事は公開しているが個人的な情報までは、現在公開はされていない。

 

ちなみに現状チルドレン達は学校に通っていない。

この国には義務教育という決まりがあるが、戦いの日に向けてチルドレンの能力を僅かでも上げることが急務でもあるし、護衛上の観点からも少しでもリスクを上げることが出来ないためだ。

 

 

 

 

 

今日は午後からの訓練が無い。

と言っても残念ながら休みという訳でも無い。

 

チルドレン全員がミサトさんに呼ばれているからだ。

何かしら報告の様なものが有るらしい。

 

という訳でやってきたのは発令所。

 

「んで、報告って何よ。ミサト。」

発令所に入り早々とアスカが切り出す。

 

そんなアスカにミサトさんが

「まあ色々とあるわよ〜。」

と返答し、チルドレン達に用意してあったパイプ椅子へ座るように促す。

 

 

足を組んで座るアスカ。マリは椅子の上で胡座。

綾波さんとカヲル君と私は行儀よく座る。

 

「それじゃ、ひとまず午前の訓練おつかれさま!

そんな貴方達に朗報よん。この報告が終わったら午後はお休み。」

ウインクするミサトさん。

 

「まず初めに、第13の使徒についてなんだけど…」

真剣な表情で話し始めるミサトさんの言葉を聞き、その場に少し緊張が走る。

 

第13使徒についてか。

チルドレン全員を集めての報告だ。

きっと重大に違いないと、真剣な気持ちでミサトさんの続きを待つ。

 

 

 

「名称が決まったわ。」

………

……

…。

 

 

「ねぇ…、ちょっと、それだけ?」

いの一番に反応するのはアスカ。

 

「ひとまず第13使徒に関してはねん。」

…はぁ。

 

「何よ。緊張して、損したじゃない。」

 

「ありゃ?姫は緊張したの?私はぜ〜んぜん。」

珍しく、焦った様子を見せるアスカをマリがイジる。

 

やめたら良いのに…。

ほら肘鉄くらった。

 

 

「という訳で、今後第13使徒に関しては呼称[アザゼル]とします。」

 

「アザゼル、死の天使か…。随分と大層な名前を付けるね。

リリン達にとっては、シンジ君が居なければ名前の通りになっていたということなのかな?」

カヲル君が独特な笑みを浮かべながら呟く。

 

アザゼルか。

前世でよくゲームやアニメとかで出てきた名前だ。

 

「まあ、上が勝手に決めたことよ。

どのように呼んでも構わないわ。

それにしても、上の連中も暇なもんねぇ。

名前を付けるだなんて。」

こっちはそんな暇もないっつーのと、吐き捨てながら腕を組み、ミサトさんは呆れている。

 

「ひとまず、アザゼルの件については以上よ。今後はアザゼルと言ったら第13使徒の事だと覚えておいて。」

ミサトさんは話を区切り、話題を変えた。

 

「続いて、今後現れるであろう使徒に関して。

これも上が勝手に名称を決めたんだけど。

以降、それらを[アポストル]シリーズとするとのお達しが有ったわ。」

 

「アポストルぅ。意味分かって付けてんのよね?それ?」

 

「まぁ、上も色々と有るんじゃにゃ〜い?」

 

「そういう事よ、アスカ。まあ難しく考えないで、そんなもんだと思っておけばいいわよ。」

アポストル、人類の敵か…。

どんな意味なんだろう。

 

 

「それと大変嬉しいお知らせが一つ。そのアポストルシリーズの侵攻時期なんだけどね、現在建てられているタイムスケジュールより、遅れるみたいよ。」

 

……。え?それってかなり重要じゃん!

 

「いい加減ねぇ。マギシステム大丈夫なの?一回検査した方がいいんじゃない?」

呆れたっと吐き捨てるアスカに綾波さんが反応する

 

「…猶予が出来たのは喜ばしいことよ。弐号機の人。」

 

「解ってるつ〜の、エコヒイキ。」

 

アスカと綾波さんが会話したのを、ここに来て初めて見たかもしれない。

 

というか、なんか二人の雰囲気が悪い。

 

「まあ、人類も捨てたもんじゃないわね。

最近本格的に実用化された[相補性L結界浄化無効阻止装置]。本来はL結界の侵食を抑える装置なんだけども、それを南極に打ち込むことで、アポストルの発生を少し遅延出来るとの結果が出たそうよ。」

という訳で、今後のスケジュールが調整されるからね。

と補足をくわえミサトさんがこの話を締めている。

 

「それと、ユウカちゃんにエヴァを使った初ミッションよ!」

 

 

ん?

「わ、私ですか!?」

は、初ミッション!?

 

 

「そ!エヴァでちょっち、地球のお外までおでかけよ!」

 

 

 

……えっ?

地球の外って何処!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球の外、それすなわち宇宙。

酸素が無く、重力の無い空間。

 

そこへ行く私。

 

 

 

…私宇宙へ征く。

 

 

最近は初ミッションである、宇宙へのお届け物作戦(葛城ミサト命名)のためシミュレーターを使って、作業のシミュレーションに明け暮れている。

 

シンクロテスト以外は全部それ。

 

 

 

 

ミッション内容は

 

その1、沢山の荷物を持っていき大気圏を突破。

その際荷物を傷付けないこと。

 

その2、軌道エレベーターを組み立てよう。

ある程度パーツが出来ているためちゃちゃっと作るように頑張ること。

 

その3、軌道エレベーターと建造中の宇宙ステーションをくっつけよう。

人が居るから潰さないように気をつけること。

 

その4、持っていった人工衛星を決まった位置に配置しよう。

その際、周りのゴミは片付けること。

 

その5、帰るまでが遠足です。

安全に気を付けて大気圏に突入すること。

 

 

 

 

何だこれ。初めてのお使い?

これって、普通の7歳にできる事なのかな?

 

てか荷物が多すぎじゃないかな?

いくらエヴァでも、こんなに大量の荷物は運べないって。

 

え?

ATフィールドで重力を遮断して運ぶの?

はい。わかりました。

 

 

 

 

 

宇宙へのお届け物作戦を翌日に向えた今日は、エヴァMark7を使っての、実機での飛行訓練。

それも実際に宇宙まで行く。

 

荷物は持っていかないが、何もかもぶっつけ本番なんてしたら失敗しかねない。

 

そんな訓練を前に、マリからある物を渡される。

「ほい、ななちゃん。」

 

「えっと、マリちゃん何これ?カメラ?」

 

「イェース!!LCL用防水カメラ!これでアース撮って来ちゃいなよ、YOU。」

カメラを撮るポーズをとりおちゃらけるマリ。

 

「まあ折角の機会だからさ、楽しんで来なよ。宇宙旅行。

明日の本番では、ゆっくり眺める時間なんて無いだろうから。」

 

「うん。そうするね。ありがとうマリちゃん。」

マリの気遣い、こういう所に彼女の精神年齢の高さを感じる。

そんな心遣いに嬉しくなり、私は笑顔でマリの手を握る。

手を握られながら、照れる様に目線を横に逸すマリを見つめた。

 

 

実機飛行訓練の直前、プラグ前でフルフェイスヘルメットを渡された。

エントリープラグ内はLCLで満たされるため、例え海の中や宇宙等の酸素がない場所でも、そのまま行けるのだが、万が一何かが起こった時の為にフルフェイスヘルメットを着用することになった。

 

それにしても、私の頭の大きさに合わせているってことは、これもオーダーメイドか。

私ってお金がかかる女ね!と心の中でおちゃらけて、緊張を誤魔化す。

 

 

 

「エヴァMark7、起動。」

私の声に反応し起動するエヴァ。

起動シークエンスを終わらせMark7を動かしていく。

 

Mark7は通常のエヴァとは違い、ワンマンオペレーションを可能にしたエヴァだ。

そのため、起動にかかる時間も少なく、ストレスフリー。

フィールド偏向制御装置やインパクトボルトを搭載しているが、他のエヴァと見た目に大きな差異は無い。

 

起動すると視界には様々な電子ウインドウが現れるが全く邪魔にならない。

 

 

ケージを出るとそこは、飛行場の滑走路のような広い空き地。

仮設本部のケージも地下にあるが、旧ネルフ本部のように遥か地下にある訳では無い。

航空戦力として用いられるエヴァは、他のエヴァとは別のケージが有り、起動後に直ぐに飛び立てる様にされている。

エヴァMark9も完成したら、こちら側のケージに入るそうだ。

 

 

赤木さんより通信が入る。

「それでは長門さん、飛行ルートのデータを送ります。

周辺の退避は完了しているから、任意のタイミングで飛行を開始して。」

 

「わかりました!」

そう答え、明日の練習として、エヴァを超える大きさの簡易コンテナを掴み、私はATフィールドを展開する。

 

波長を次々に変化させて展開される強力なATフィールドにより浮き上がる機体。

 

その後飛行ユニットを展開。

 

細い4対の翼の様な形のユニット。それが格納されていた背部より姿を現す。

飛行ユニットがATフィールドを纏い、そのフィールドが翼の形となり伸びていく。

 

フィールド偏向制御装置により推力をブースト、飛行ユニットで重力遮断と機体の姿勢制御と慣性制御を行う。

 

爆発的な推力で、瞬間的に加速していくエヴァMark7。

遮断された重力と機体を包むATフィールドにより、全くの負荷もなく上昇する。

エヴァの内部コンピュータの補助を受けて、司令部より受けたルートの通りに圧倒的な速さで進んでいく。

 

重力や空気抵抗の影響を受けない私達は、およそ2分程で建設中の新しい宇宙ステーションへ到着する。

 

無重力での飛行は私にとっては地球での飛行と変わらない。

元から重力や抵抗等のを遮断して飛行していたからだ。

…ATフィールドの汎用性には驚かされる。

 

持ってきた簡易コンテナを細部まで確認する。

…損傷していないね。コンテナ内部のカメラに映る範囲では、中身も同様に無事なようて、少し緊張感が解ける。

 

テストは完了。この感じなら明日も問題はなさそうだ。

 

 

行きと違い、帰りはもう少しゆっくりと進んでいく。

まあ、ゆっくりといっても音速は軽く超えているのだけども。

 

 

エヴァから見る景色を瞳に映す。

 

…そっか、前世と違い、地球は赤いんだった。

やっぱり地球は青い方が綺麗で好きだな。

 

そう思いながらもマリからの渡されたカメラを手にして写真を撮った。

 

ふと周りを見渡す。

宇宙で見る他の星々。

それだけは前世と変わらないのかもしれない。

 

 

 

 

今になってようやく気付く。

大気圏内での飛行中は電波を遮断してしまうため、通信すらも出来ないということに。

そうか、そのためのワンマンオペレーションになっているのか!

凄い!と技術者の皆のことを感心する私である。

 

 

 

 

エントリープラグ内に映る宇宙を撮っていたが、写りが気になりカメラ内の画像を確認する。

………カメラになんでこんなに一杯私の写真が入ってるの?

というか、これいつの写真?

 

 

 

 

本部へ帰還する私を皆が出迎えてくれた。

テストは成功。明日の心配は軌道エレベーターの組み立てだよね。

 

ていうか、これ下手したら今後も宇宙への輸送をさせられるのでは?

 

 

だって軌道エレベーターだけだと貨物の運搬に時間がかかるだろうし。

 

 

ありがとうとお礼をして、マリにカメラを返す。

そのままカメラの中身を見ていたマリであったが、途中で動きが止まる。

 

「な、ななっち!ほ、他の写真はどうしたのかにゃー?」

 

「なんかロック掛かってて消せなかったから、エヴァのコンピュータで消したよ。」

そんな私の返答に

「ガッテム!!」

と床に崩れる胸の大きいいい女。

 

そんなマリの背中に片足を乗せ、

「何て言葉使ってんのよ、コネメガネ!」

と怒るアスカ。

なんかアスカって、マリに厳しくない?

 

そんな姿を見る私に缶飲料を渡すカヲル君。

「やあ、お疲れ様。はい。遠慮は要らないよ、長門さん。」

 

「ありがとう。カヲル君。」

やった飲み物だ!と喜ぶ私だがラベルを見て唖然とする。

 

ん?抹茶ソーダー?

え…?

 

…しゅわしゅわした抹茶だ。

「美味しいかい?」

少し眉間にシワを寄せて聞くカヲル君。なんと答えるべきか。

「えっと、独特な味だね。嫌いじゃないよ。」

 

そんな私達を見ながら綾波さんが、抹茶ソーダーホットを飲みながらつぶやく。

 

「美味しくない。」

そりゃあ、ホットじゃあねぇ。

 

 

 

 

翌日の初めてのミッション、宇宙へのお届け物作戦はつつがなく終了。

 

人類初の軌道エレベーターは完成し、宇宙ステーションとドッキングも成功。

宇宙ステーションにも色々な物を届けたが、1番驚いたのがN2リアクターだった。

 

何と、それを含めたステーションユニットが荷物に入っていた。

人工衛星5機と軌道エレベーターとステーションユニットのリアクター入り。

どおりでエヴァより遥かに大きい荷物な訳だよ。

 

どうやら、エヴァの宅急便は好評のようで、ヴィレには既に次の依頼が来ているようだ。

 

 

 

 

 

その日の午後、マリが髪を切ってくれる。

部屋で、私の後ろにまわり髪をクシで整えながらハサミを持っている。

前と後ろ、少し伸びてきたから、前髪は目元の少し上、後ろは肩口からもう少し切ってもらう。

茶色の地毛をぱさぱさと切っていくマリ。

 

…上手だな。

 

髪を切っている間、珍しく静かだったマリ。

なんか、らしくない。

 

ほいっ、と後ろから手鏡を私の目前に持ってきて私を映す。

ありがとうと感謝を伝える。

 

「色素薄いから、ななちゃんって、あまり純粋な日本人には見えないね。」

私の髪の毛を袋に詰めながらマリが不思議そうに尋ねる。

 

「うん。あれ言ってなかったっけ?

私のお婆ちゃんイギリス人だったんだって?

そうそう、面白い名字だったんだよ。

えっと、確か、フォーミダブル?だっけか?」

 

「っ!おぉ!?イギリス人?これは運命を感じるじゃん!」

と異様にテンションの上がるマリ。

 

「マリちゃんもイギリス人なんだっけ?」

 

「そ!それしても凄い偶然だよね。あぁ、運命はななちゃんを愛せと言ってるにゃ。」

と抱きつきながら冗談を口にする。

 

運命か。

「マリちゃんは運命って信じる?」

 

「ななちゃんもお年頃かにゃ〜?

興味あるの?そういうの?」

 

「そういうの?」

そういうの?ってなんだろ。

 

「うん。まあ、恋愛とか。」

少しマリの表情が暗い気がする。

どうしたんだろうか…。

 

「恋愛とかじゃくて、なんていうか。私がエヴァに乗ってるのが不思議で…」

 

「あ〜。そういうことか!」

私の返答を聞くと、マリの表情が明るくなる。

 

「そうだね。エヴァに関わってると、たまに運命ってやつを感じるときがあるかにゃ。

特に人と人との出合いとかにね。

まぁ悪くなんじゃにゃい?運命って物があっても。」

 

何かを懐かしむ表情。

初めて見る気がする、遠い所を見るようなそんな顔は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い海、赤い空。

視界に映る水辺線を頼りに上下を確認しながら、縦横無尽に空を翔ける私。

 

私の視界に映るのは敵、敵、敵、敵。

数えるのもバカらしい程の数の敵。

 

 

音速を超え翔けるエヴァMark7。

ヒットアンドアウェイ、時には、薄くなる敵陣を突破する。

 

敵の遠距離攻撃は当たらない。

回避機動を取りながらもATフィールドを幾重にも重ねている。

 

同時展開する、強力なATフィールドを攻撃に転用。

両手両足の先に、丸い回転鋸の様にフィールドを回転させて敵を切り刻んでいく。

 

 

遠くより飛来する弾丸。

撃ち抜かれていく敵。

正確無比の遠距離射撃。

綾波さんが後方から援護をしてくれている。

 

 

次々と場所を変える私が当たらないようにと配慮されている。

物凄い速度でランダム軌道を描く私に、フレンドリーファイアを全く感じさせない射撃には、ただただ見事と言うしかない。

少なくとも私には到底出来るとは思えない。

 

 

 

綾波さんの動きに気を取られ、死角の敵への注意を怠ってしまった。

 

あ!ヤバい!

 

横から伸びてきた敵の腕。

それをフィールドで防御しようと展開する直前、地上から撃ち込まれた弾丸により、その敵が四散する。

 

目線を飛ばした先にはピンクのエヴァ。

地上で戦うピンクのエヴァはマリだ。

 

 

集中し直す。

ひとまずは空の敵を叩く。

 

深呼吸と共に、インダクションレバーを握り直す。

シンクロ率を意識的に上げ、敵の群れを睨んだ。

 

 

 

 

 

所代わり、ブリーフィングルーム。

中央に立つミサトさんを前に並んで座る私達。

 

「はーい!それじゃ反省会、はじめるわよ。」

とミサトさんが仕切る。

 

「それじゃあ、最初は地上班からね。

アスカ。

前線を維持したいのはわかるけど、もう少しゆったりと戦いなさい。

あの場合は前線を下げつつ戦うけど、あなたが前に出すぎると、下げたいときにさげられないの。」

 

「解ってるわよ!でもそのおかげで空の援護が出来たんでしょうが。早めの制空権確保!基本でしょ?」

とアスカとミサトさんが意見をぶつけ合う。

 

「それに後退命令にはちゃんと従ったわよ。」

 

「後退が少し遅れることを問題視してるの。

他の損傷率に影響するわ。2号機だって結構被弾してるじゃないの。」

 

「あんなのかすり傷じゃない。それに結果早く終わったわ。それは制空権を早めに確保出来たからでしょ?」

 

お互いが譲らない。

凄い!

ミサトさんって大胆なイメージあったけど、堅実に戦うミサトさんって新鮮。

 

「まあ、今回はいいわ。

 次は渚くん、もう少しアスカに合わせてあげて。それ以外には特にはありません。

 マリは、ちょっち空の心配をし過ぎかな。でもナイス援護だったわ。」

との指摘に。

「了解です。」「アイアイサー!!」

軽く答える二人。

 

「それじゃ初参加の航空班。

レイはもう少し空中での射撃に努力が必要ね。

射撃と射撃の間隔が少し長いわ。

エヴァの場合、射撃後の空中での姿勢制御は確かに難しいだろうけど、もう少し間隔短くして。」

 

「了解しました。」

 

「最後にユウカちゃん。後ろのレイを気にし過ぎな所があったわね。レイが撃ちやすいようにとか考えなくて良いから、もう少し好きに動いていいのよ?ああも敵ばっかりの空中戦闘だと捉まる方がマズいから。

他にはこれといって無かったわ。」

 

「は、はい!」

次はがんばろう!

 

「よし!それでは戦闘訓練終了!解散!」

 

 

 

号令と共に駆ける私達。

向かうは新たな戦場!

敵が来る前に到着せんと足に力を入れる。

 

あ、あぁ。置いていかないで。

体が小さいから足が遅い!

 

そんな私を担ぐ胸の大きいいい女。

嬉しくなり満面の笑顔でこう喋る。

 

「ありがとう!マリちゃん。大好き!」

 

 

 

さあ待ってなさい!私のカツ丼!

 




シンジをいつ出せるのか。
先は長いですね!

後悔だけはしない!


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赤い少女は幼女の夢を見るか?

エヴァMark7は次世代型のテストベッドとして開発されたが故に、他のエヴァから大きく規格が外れている。

その最たるものとして、物質の生成と侵食というものがある。

それらは無機物、有機物を問わずに行えると説明されていた。

 

 

実際にどのような原理で行えるのかは、私には解らない。

赤木さんは知っている様だが、説明をする気は無いのだろう、聞いてもはぐらかされてしまう。

備わっている筈の機能を使うことが出来ないのは、私の能力不足であることは明白なのに、赤木さんやミサトさんから、これといったアプローチが無いのは何故なのだろうか。

 

 

 

 

ここ最近のシンクロテストは実機で直接行われている。

しかも、チルドレンは私だけ。

 

それに、ケージの中の照明が落とされており、周りが殆ど見えない環境となっている。

これって本当に、ただのシンクロテストなのだろうか?

 

 

そんなことを考えていると、テスト開始の合図をする赤木さんの声が聞こえる。

それと共にプラグ深度が、段々と下げられているのを実感出来た。

 

 

近づいていく私とエヴァMark7。

 

 

不思議な一体感。

暖かく、穏やかで、欠けたものが補われていく。

 

居心地が良い。

何時までもシンクロしていたいと思える。

 

 

じわじわと私の中でナニカが広がる。

それと同時にココロが暖かくなっていく。

 

これ以上は広がらない、そんな限界を越えたくて、私はさらに深く潜る。

 

そして私は壁を1つ越えた。そんな確信があった。

微睡みに似た感覚を覚えると同時に、私の脳裏に唐突に、あるイメージが浮かんでくる。

二重螺旋構造の何か。私はそれを見て美しいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

マリと少し遅めの朝ごはん。

今日は私達が非番の日だ。

紅茶を二人で飲みながら、ゆっくりとした朝を過ごしていると、タブレットをいじっていたマリが奇声を上げる。

何処か喜びの混じった声。

 

そんな声を聞き、疑問に思った私はマリへとどうしたのかと問う。

 

その答えを聞き、私は驚愕した。

「8号機とMark9が完成したの!?」

いつの間に!と驚きを顔に貼り付けた私にマリが答える。

「そうみたいにゃ!や〜っと、8号機に乗れる。」

マリの視線は未だにタブレットに釘付け。

 

「マリちゃん、ほんと好きなんだね、エヴァに乗るのが。」

微笑む私の瞳に、マリの満面の笑みが映る

 

「あたり前田のクラッカー!ななちゃんも好きでしょ?エヴァに乗るの。」

楽しみで仕方ないという笑顔。まるで子供みたいと、思う私であった。

 

 

 

 

マリから詳しく聞いた、新しくロールアウトされた2機のエヴァ。

 

エヴァ8号機、S2機関搭載型エヴァンゲリオン。

[主機直結型超電磁砲アダド]対応機。

フィールド偏向制御装置を標準装備とした後発正規実用型。

 

エヴァMark9、S2機関搭載型エヴァンゲリオン。

[ヴェルテクス飛行ユニット]装備空戦対応機。

8号機と同様にこちらも、後発正規実用型。

 

両機とも正に次世代型エヴァンゲリオンというべき代物だった。

 

 

 

 

 

 

 

食堂でハムカツサンドとトマトサラダを食べた後、マリと一緒に来たのは第三ケージ。

エヴァ8号機を格納しているケージとのことだ。

 

 

昨日出来たばかりの出来立てほやほやちゃん。

ピンクのカラーリングがチャームポイントである。

 

「いや〜、さっきりっちゃんにさぁ、さっさと乗せてってモーニングコールしたんだけど、出来るわけないでしょってズンバラリン。

んじゃあ乗れないなら〜、ベイビーに一目お会いしないとっ、てね!」

 

うん、まあ完成したのは夜中とかだと思うからね。

休ませてあげようよと思いながらも、実物を見た感想を伝える

「ピンク色なんだ、8号機って。」

 

「違うのは色だけじゃ無いにゃ!

後期開発型テストタイプのMark7のデータを反映させた、ななちゃんの愛が詰まったパーペキなエヴァンゲリオンよ!」

8号機の前で腰に手を当て、こちらを見るマリ。

 

自信満々な表情も似合うな〜。

でもそんな事を自信満々に言われても。

まあ悪い気はしないけども…

 

若干の照れを隠すように、ニコッと笑いかける私。

それを見て、衝撃を受けたようにのけぞるマリ。

 

「っ!これが天使っ!…ちゃ〜んす。」

マリが言葉を続けながら、顔を私から背ける。

 

…チャンスってなんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘訓練。

私達の場合は、自身の体を使う戦闘訓練ももちろん行うが、1番カリキュラムが多いのがシミュレーターを使ったエヴァでの戦闘訓練。

こう言っては緊張感がなく聞こえてしまうが、正直ゲームみたいで凄く面白いのだ。

 

なにせ、この世界は碌にゲームが無い。

理由は単純で、セカンドインパクトが有ったからだ。

 

セカンドインパクトの復興は私が思っている以上に大変だったのだろう。

ゲーマーだった私としてはちょっと寂しい。

 

そういう訳で、私にとってシミュレーターの戦闘訓練はシンクロテスト並みに楽しみな時間である。

 

 

 

それで今日はシミュレーターでの戦闘訓練を行う。

ミサトさんを前にプラグスーツ姿で並ぶ私達は、訓練内容の告示を待っている。

 

「さてと、今日の訓練内容を発表するわよ。

今日はなんと、これ!

…エヴァでの1on1。シングルコンバットよ!」

わざわざ用意したのか、小さいホワイトボードを掲げ、内容を読み上げるミサトさん。

 

 

それにしても、シングルコンバット!?一騎打ちってこと?

 

そんなミサトさんの発表に、待ってましたという表情のアスカ。

確かにアスカは強そうなイメージがある。

 

てか皆、結構余裕が有りそうな表情をしている。

不安なのは私だけなのかな?

 

 

「んじゃ、早速。1番手やりたい人〜?」

とミサトさんが腕を組みながら笑う。

直ぐに挙がる赤いプラグスーツの手。アスカだ。

「はいは〜い!私がやるわ!」

 

「それじゃあ皆、アスカの相手を順番にやっていってね。」

 

 

うっ。いきなりアスカが相手か〜。

私、対人戦なんてやったときないんだけどな。

 

 

 

今回の訓練にはルールがある。

特殊な武装は使用禁止。

飛行ユニットは飛行以外では使用可能。

武装は自由。戦場にある物は何でも利用可能。

 

 

 

 

現在はアスカとマリが戦っている。

既に綾波さんとカヲル君との試合は終わり、両試合共にアスカの勝利となっている。

 

 

カヲル君が負ける所を想像が出来なかったが、見学してる感じでは、アスカの方が強かった様に見えた。

 

 

マリはライフルや短銃等を使用して上手い具合に距離を取って戦っているが、アスカの方が上手な様だ。

遠近どちらも戦える二人だが、近接戦闘ではアスカが、遠距離戦闘ではマリが強い。

 

だがATフィールドがある時点で、必然的に中和範囲での戦いになる。

故にある程度は距離が近くなるということだ。

 

AT弾等の特殊武装は禁止されているため決め手に欠けるマリが不利。

それにアスカの反応速度が早い。

 

回避する8号機だが、上手く合わせた2号機により、大剣で足を切り飛ばされた。

巨大な剣を匠に操り、盾としても活用するアスカの戦闘技師には眼をみはる。

 

それにしても、とんでもない剣である。

剣というにはあまりに無骨すぎるよ。

 

 

 

 

 

マリの敗北。

次は私の番だ。シミュレーターだから痛みはかなり抑えてるみたいだけど、正直すごく緊張する!

 

「ふふふ、ちゃ〜んと優しく、撫でてあげるわよ。」

不敵に笑うアスカ。

 

 

怖いっ。

逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ!

 

 

 

ミサトさんが送る戦闘開始の合図とともに、こちらへ疾走する2号機。

その手にはいつの間にかソニックグレイブを持ち、既に振りかぶっている。

 

ヤバい!意識が逸れていた。

私は、ATフィールドを推力へと利用して前へ出ると同時に、足を滑らせ広げながら腰を落とし2号機の懐へ。

 

その勢いのままに掌底を繰り出す。

掌底と共に溜めていたATフィールドを、2号機を抉る様に展開。

砕けた装甲を撒き散らしながら吹き飛ぶ2号機を追撃する。

 

苦し紛れに突き出すソニックグレイブへと合わせ、しなやかに腕を絡めながら相手の力を利用して、柄を折り、勢いに押され流れていく刃を逆の手で掴み、2号機の前腕へと叩き込む。

 

そのまま地面へと、腕を掴んで叩きつけ、刃を押し込み縫い付けるように力を込める。

 

叩きつけた反動を使い、そのままMark7で宙を舞う。

反転する私の視界。

視線を地に縫い付けられた2号機へと移す。

 

そして私は、多重ATフィールドを使い押し潰した。

 

 

 

着地して、すぐさま体勢を整え、身構える。

 

…。

 

 

あ、あれ?アスカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァンゲリオンMark7。

 

多重ATフィールドを複数展開し、S2機関を搭載し、強化素体を使用し、フィールド偏向制御装置と飛行ユニットによって機動力を強化された機体。

 

 

飛行ユニットを使ってないにしろ、あまりにも強過ぎる機体性能により、シミュレーターでの戦闘訓練はMark7による無双モードになってしまった。

 

 

ATフィールドがある限り、近づくことも傷をつけることも出来ない。

それがエヴァや使徒の戦い。

 

多重ATフィールドを複数展開出来るMark7は、もはやバランスブレイカーと言っても過言では無い。

更に波長を変えることが出来るため、ATフィールドの中和は困難を極めるのだろう。

 

 

 

う〜ん。それにしても、カヲル君は戦い辛かった。

何を考えてるのか少しも読めないし、終始凄く余裕そうな感じを受けた。

 

今も飄々と立っている。

 

 

綾波さんは近接戦闘が苦手なようだ。

組み手とかの生身での戦いは強いのに。

 

今は、無表情で佇んでいる。

 

 

マリは私のインターフェイス・ヘッドセットの位置を、ああでもないこうでもない、と弄っている。

マイペースが過ぎませんか?

 

 

アスカはイライラしたように腕を組んで目を瞑っている。

プライドが高いから、やっぱ怒ってるのだろうか?

 

 

 

ミーティングを終えると、アスカが私の前に立つ。

 

見おろされる私。

 

だが、直ぐに目線が合う。

何故ならアスカがしゃがみ込み私に目線を合わせたからだ。

 

「あんた、やるじゃない。

私の動きに合わせて踏み込んで来るなんて。

少なくとも、今まで戦闘訓練を受けた事の無い人間に出来るとは思わなかったわ。

それもこんな小さいガキがね。

…言い訳はしないわ。…私の負けよ。」

一方的に、淡々と私に伝えるアスカ。

そして私の頭を優しくポンポンと触り、

その後直ぐに立ち上がり、歩いていく。

 

 

 

…もしかして、褒められたの?アスカに?

 

驚き、立ち尽くす私の後ろで、ほうほう、これは面白くなって来た、とマリが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

あの訓練の後より、マリが部屋に帰ってくるのが少し遅い。

しかも帰ってくると少し疲れたような表情を見せている。

 

マリは、今日も少し遅く帰ってきた。

お風呂上がりで髪をほどいている。

 

借りたマリの本を読みながら布団に横になっている私を抱き上げ、マリは自分の膝の上に私を座らせる。

「はぁ、ちかれたび〜。」

くたびれた様子のマリ。

 

「おつかれさま。訓練、また今日も長引いたの?」

大体こう遅い日は、私の居ない格闘訓練の日が多いようだ。

 

「うん、まあ、お姫がね。なんか気合い入っててさ〜。シミュレーターを使っての自主練ってやつをちょいちょい。」

 

ん?自主練!?

「え!?マリちゃん!自主練って出来るの?」

驚いた!まさかシミュレーターを使った自主練が出来るなんて!

そんな目を輝かせる私に

 

「ななちゃんは、残念ながら出来ないにゃ!

子供に必要な休息を取るためにって、リっちゃんが禁止してたからね〜。」

ガーン!!

うう、理屈はわかるけど、酷いや赤木さん。

 

そっかー。

でも、色々考えてくれてるんだな。

 

 

むふむふと私の髪に顔を埋めるマリに、今日は好きにさせようと思うことにした。

 

 

 

 

 

少しずつ回数が増えてきた、国連御用達エヴァの宅急便。

宇宙への物資配達が主な任務。

人工衛星や宇宙ステーションのパーツを運んでいるが、宇宙ステーションとは違う巨大な建造物も立てているみたいだ。

 

他にも通常の人工衛星よりも大きく、宇宙ステーションよりも小さい物なんかも。

 

 

多分パーツから見るに、兵器関連だろう。

宇宙にも防衛設備を配備するだなんて、SF好きとしては興奮してくるシチュエーションだ。

 

 

最近の宅急便は、私一人ではないから運べる物資もかなり増えているのだ。

 

そう、エヴァンゲリオンMark9。綾波さんである。

オレンジをベースにしたモノアイのエヴァ。

少しメカメカしくなったエヴァ0号機のような見た目。

 

モノアイのロボットは私の好みだ。凄くカッコイイ!

 

 

 

 

二人で宇宙を進みながら、原作の事を思う。

 

今、この世界を生きると誓ってからは、原作の事をあまり考えないようにしてきたが、軌道エレベーター、宇宙ステーション、宇宙に配備される戦力を見ていると、新世紀エヴァンゲリオンの更にその先を想像してしまう。

 

まさに私がいる世界は、その先の世界。

しかしアフターEOEでも、アニマでも、新劇場版Qでも無い。全く新しいエヴァンゲリオン。

 

その物語を紡いでいくのは私達、この世界に生きるすべての人達なのだ。

 

 

 

 

「長門さん、見えてきたわ。」

綾波さんが見る方向にそれはあった。

 

…え?なにあれ?

 

宇宙を飛び作業をする、複数いる少し大きめのロボットと…

完成しつつある巨大な建造物。

 

まさか、これは宇宙要塞!?

ここ、スパロボの世界じゃないよね!?

 

驚くとともに、興奮してしまう。

 

 

無感情な綾波さん。驚かないのだろうか?

 

「?わからないの。こんな時どうしたらいいのか。」

 

「えっと、わーおって言えば良いと思うよ。」

 

……

「わーお。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の夕食は、皆で一緒のご飯だ。

 

その際に今日見た、宇宙要塞の事について話をした。

アスカとマリは驚いているが、カヲル君は微笑みながら聞いているだけ。

カヲル君に驚かないのか聞くと意外な答えが返ってきた。

 

「宇宙要塞ってなんだい?」

あぁ、そうか。そもそも知らなければ驚かないよね。

 

 

詳しく説明するも驚く様子は無い。

いや、何処か嬉しそうだ

「リリンは常に進化を模索してきた。少しずつ行ける場所を増やし、その場を自分達のテリトリーに変えていく。

これはその延長線上での出来事でしかない。そう思わないかい?

驚きはしないけども、感心はしているよ。」

 

わーお。カヲル君の淡々とした感情にビックリだよ

 

「そうだね。人間黙ってたって、なんの良いこともないってね。

幸せは歩いてこない、だから歩いてゆくんだね〜て言うじゃん?」

マリは、カヲル君の答えを肯定しながら、両手を頭の後ろで組み天井を見上げる。

 

そっか、これも進化の形なのか。

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が過ぎ、今日の戦闘訓練は1on1。

二度目のシングルコンバットのシミュレーション訓練だ。

 

なんかMark7に制限でもかけるのかと思っていたが、ミサトさん曰く、

「そんなのかけても訓練にならないでしょ?壁は高い方が良いのよん!」

らしい。

 

 

進んでいく訓練。私は既に綾波さん、カヲル君に勝ち星を収め、マリと戦っている。

 

 

銃撃を混じえながら接近してくる8号機、それをフィールドで吹き飛ばし、空中にいる相手にこちらからも短銃を全弾撃ち込む。

8号機の頭に吸い込まれて行くように走る弾丸。

だがフィールド偏向制御装置を利用して体勢を変えることによって避けられる。

 

着地する8号機。

「にゃろ〜う。フィールドかったいな〜。」

 

そう呟き、パレットライフルを構えこちらの頭に狙いを定める。

 

そんな8号機に、私は右手の平を見せる。

マリの視線の先に右手を置き、手の延長線上に多重ATフィールドを小さく何枚も展開。

 

困惑するマリに間髪入れず、右手の位置を少しも変えずにエヴァの体を左に傾け、足に力を入れて疾走する。

頭部への狙い故に、私の動きに遅れて反応するマリ。

銃制御を揺さぶる様に、機体を射線の反対側へと動かしていく。

 

防御用のフィールドは最低限に、攻撃用のフィールドに力を貯めておく。

 

 

パレットライフルを蹴り上げ、左足のみで跳躍。

空中で体勢を整え、8号機の上がった右腕を拘束しながら宙返りをする。

見上げる8号機と視線が交じわる。

宙返りの勢いとフィールドによる推力を利用して、拘束した右腕をねじ切る。

 

咄嗟に千切れた右腕部分を抑えてしまう8号機の頭へ向けて、左手を銃の様に形作り構える。

 

伸ばした人差し指と中指、少し開けた隙間の中に歪む圧縮したATフィールド。

それを見据えるマリ。

 

「ななちゃん、」

ア・イ・シ・テ・ルと口を動かす。

 

圧縮したATフィールドを撃ち込む。黒く変色したフィールドが8号機の頭を撃ち抜いた。

 

 

いや…これ、訓練だよ?

 

 

 

 

 

 

 

いや〜、負けた負けた。と頭を掻くマリ。

次はアスカだ。

 

どんな戦いになるのか?

前回は緊張していたが、少し楽しみを感じる。

 

 

 

 

 

戦闘開始!

そんかミサトさんの合図と共に、突撃してくる2号機。

 

私は叩きつける様にフィールドを展開し迎撃する。

そのフィールドを横に飛び回避する2号機は、続けざまに薙ぎ払う様に手を振るう。

 

っ!ATフィールド!?

 

2号機の攻撃用フィールドを、多重展開したフィールドで受け止める。

その間に2号機はもう一度、ATフィールドで空間を薙ぎ払う。

もう一度防ごうと防御用の多重ATフィールドを展開するが、2号機のフィールドは下にそれている。

 

 

接触する2号機のフィールドと地面。

 

同時に高鳴る轟音と、地面を走る衝撃。

割れた地面により、少し崩した体勢を立て直しつつ、前方を見渡すが砂塵により見えない。

 

 

上!?

僅かながら見える影に方向を察知する。

 

私じゃなきゃ、見逃しちゃうね。、なんて…

 

 

上からくる影を避けるように機体を動かす。

着地の直前を狙い、フィールドを攻撃するために溜める。

 

一撃必殺。そんな思いで圧縮したフィールドを撃ち出す。

 

四散する影、響く轟音と爆発!?

 

 

爆発?なんで!?

エヴァの持つ圧倒的な身体能力のフィードバックを受けてゆっくりと流れるように瞳が映す。

 

視界に入る戦艦の砲塔。

 

まさか戦場近くにあった戦艦?

 

 

周りを警戒するよりも早く、聞こえる風切り音。

とっさに回避行動を取るも、上腕から切り飛ばされてしまう右腕。

 

再度奔るプログナイフ。

なんとかナイフを持つ2号機の手首を、左手で掴み握り潰す。

 

しかし、畳み掛けるように力強く前進する2号機に、片腕では押し負けて体勢が崩れる。

フィールドで吹き飛ばそうとするも、赤い機体は既に視界の外にいた。

ゼロ距離。気づいた時には、後ろから首を締め上げられ、そして何かが折れる音がする。

 

 

停止するシミュレーション。

 

…負けたんだ。私。

 

 

 

 

 

 

今回の全勝はアスカ。

1番スペックの低い2号機を使っての全勝。

よく考えれば、前回も、他の機体よりスペックで劣っているのに勝ちを収めていた。

 

 

 

勝ちへの執念、精神力の高さ、冷静な判断力、相手の力を見抜く分析力。そして高い操縦技術。

 

これが、エースと言われた者の資質。

 

私はそんなことを考えながらアスカを見つめていた。

 

 

ミーティングを終えると前回同様、私の前に立つアスカ。

 

「式波さん。えっと、凄かったです!」

感動から出た言葉。

そんな私に

「あんたもね。ナイフで決めるはずだったのに避けられたわ。

…正直焦ったもの、腕を握りつぶされた時は。」

褒めてくれてる、アスカ

「でも組まれると、まだまだね。対応が雑なのよ!」

 

うう、反省点だ。

でもアドバイスか、嬉しいな。

あはは、と笑いながら私はお礼を言う、

「ありがとうございます!式波さん。」

 

顔を逸らすアスカ。すこし頬を染めている。

「私のこと、アスカで良いわよ。」

おお、やったぁ!

 

「わかりました!アスカさん。」

喜ぶ私の頭を乱暴に撫でながら。

「アスカよ!ア・ス・カ!呼び捨てにしなさい。私も呼び捨てにしてんだから。

後、敬語も禁止!」

 

「え?あっ、うん。わかったよアスカ。」

アスカがデレた!

と感動する私だが、

 

その後ろでやり取りを聞いていたマリが、

「くっ!またしても、ななちゃんが寝取られるなんて!まさかのお姫!」

と崩れ落ちていた。

 

そんなマリに怒りの表情で詰め寄り、目の前で仁王立ち。

「コネメガネ!アンタねぇ、子供の前で変な言葉使うなって言ってんでしょ!

ほんとつくづくウルトラバカね!」

 

この二人も仲いいね!

 

 

そんな二人に近づき食堂へ誘う。

先に歩いていた綾波さんとカヲル君にも声をかける。

 

 

五人で食べる夕食。

みんなカツ丼だった。最高だよねカツ丼。

 

 

綾波さん、ここの食堂に大豆ミートのカツ丼なんて有ったの?

 

 

え?

 

カツ丼のとんかつ抜き?

 

 

……なんかごめんなさい。




読んでくださり、ありがとうございます。
オリジナル武装を出しました。
もしかしたらいつか、武装や機体の設定とかをまとめて書くかも、書かないかも。

初戦のアスカはかなり油断していました。


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意思の中心でアイをさけんだケモノ

ヴィレ・アメリカ支部。

旧ネルフ・アメリカ第1支部の施設をそのまま使用した支部である。

 

今度、そのアメリカ支部からシクスチルドレンの霧島マナと、その専用機体エヴァンゲリオン5号機改が到着すると聞いた。

 

それにしても5号機改?

5号機って使徒戦において自爆したと聞いたことがあったのだが、完全には消失してなかったようだ。

 

 

 

しかし、その報告を聞いて、アスカと綾波さんは複雑そうな表情をしている。

 

その二人の様子を見るに霧島さんと、知り合いなのかな?

…ということは、やっぱりこの世界は[鋼鉄のガールフレンド]も混じってるのか。

 

 

 

つまらなそうに表情を歪めるアスカは、霧島さんのことが余り好きでは無いのかもしれない。

 

綾波さんも複雑そうな表情が出ているから、何かしら思うところがあるのだろう。

 

 

 

その他にも、ヴィレのユーロ支部とロシア支部と中国支部にて、それぞれエヴァンゲリオンMark10とMark11とMark12が建造を開始されたとの事だった。

ロールアウトはまだまだ先だが、近々チルドレンが二人、選出予定になっているとの事。 

 

 

建造されているエヴァは3機だが、選出されるチルドレンが二人。やはりチルドレンは中々見つからないのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日は晴天。

風もあまり無く、良き輸送日和である。

 

そんな今日はエヴァ5号機改とシクスチルドレンの霧島さんが本部に到着する。

そのなんやかんやで、今日はテストも訓練もお休みとなっている。

 

 

仮設本部地上施設屋上で、5号機改を見に来た私達。

マリと私は顔をくっつけ、二人で一つの双眼鏡を覗いている。

双眼鏡越しでもやっと小さく見えてくる。

 

アスカは左横で、腕を組んで柵に寄りかかっており、綾波さんは私達の後ろに。

カヲル君は右側で立ち私達が双眼鏡を向けている方向を向いている。

 

双眼鏡でしっかりと見えてきた!

「「エヴァ5号機改、最大望遠で確認!」」

マリとユニゾンする声。

 

5号機改は濃い緑をベースカラーにした機体だ。

新劇場版で見たのとは違い、ちゃんとした脚がついている。

あれ?5号機改の後ろにもエヴァ?

 

いや、あれはエヴァじゃない。

エヴァよりも大きい!

「ほうほう、あれが5号機改に装着予定の強化外骨格[アイギス]か。

いや〜、それしても全然アイギスって名前が似合わない代物じゃん?」

そんなマリの言葉を聞き、エヴァに強化外骨格という発送に驚く。

 

 

身の丈程の両手パーツ、それは腕周りだけでエヴァの腰周り程の太さがある。前腕に至ってはそれよりも太くて武骨。

肘より後ろに伸びるパイル。

胸部の大きな生体部品型のパワーアシストと追加装甲。

それよりも小さいが、その他全身を強化出来る同様のパワーアシストスーツと追加装甲、それにフィールド偏向制御装置。

そして複眼の付いたフルフェイスヘルメット。

 

 

その見た目に凄く既視感を感じる。

もはやGANTZのハードスーツではないか。

 

 

 

そんな私達のやり取りを聞き、アスカは寄りかかっていた柵から身を離し、私達の向く方向を見て睨む。

 

「いい気なもんね、30分も遅刻なんて。」

と吐き捨てるように呟く。

 

綾波さんも、眉間が少し寄っている。

…な、なんか心配になって来たにゃ。

 

動揺のあまり、何故かマリが感染ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

搬入されるエヴァ5号機改を迎えた後、私達は発令所にて待機する。

この時間までには、いるようにとミサトさんに言われたからだ。

 

 

五人で待っていると発令所の扉が開く。

入ってくるのはミサトさんと茶髪の少女。

 

私は心配になりアスカと、綾波さんの様子を伺うが、

アスカは顔をそむけており、綾波さんは無表情。

 

「えー、ではこちら、シクスチルドレンの霧島マナさん。」

とミサトさんが茶髪の少女、霧島さんを紹介する。

 

「アスカも、レイもお互い面識が有るから紹介は必要ないわね。

それじゃ左から順に、メガネをかけたのが真希波マリ・イラストリアス、男子が渚カヲル君、そして最年少の長門ユウカちゃんよ。」

 

「霧島マナです!」

明るい声で挨拶をする霧島さん。

 

「よろぴく〜。」「よろしくお願いします。」

挨拶に返したのはマリと私だけ。

 

カヲル君は笑顔だけど、うん、なんていうか無関心?

いや、カヲル君にとってデフォルトの反応だ。

 

アスカは面白くなさそうにしているし、綾波さんは相変わらず無表情。

 

 

…前途多難だ!これ。

 

 

その後、お後は若いもの同士でー、とミサトさんは私達に対応を任せる。

 

逃げたな…

 

 

 

 

 

 

所変わって食堂、お昼だから食べに来たが正直空気が重い。

こういうときはマリに期待したいが、何かこの空気を楽しんでいるような気がする。

 

 

…ここは私が何とかしないと。

 

「霧島さんは、アスカや綾波さんと、面識が有るんですか?」

地雷だろうと知らん!と踏み抜いていく。

大丈夫だよ。

死にはしないんだから。

 

「私、一時期、第3新東京に居て同じ中学校通ってたんだ。

まあ、それでね。」

大切な所を省いているな。

うう、もっと突っ込まなきゃダメか、

 

「へ〜、じゃあワンコ君とも面識あるんだ?」

私にウインクするマリ。

私では聞けないようなことをサラッと。

そこにシビれる憧れる!

 

「えっと…ワンコ君?」

そんなマリの言葉に戸惑う様子の霧島さん。

そっか、ワンコ君呼びしてシンジ君を想像しないよね。

 

「にゃはは、碇シンジ君の事だよ。」

笑うマリに霧島さんが答える。

「シンジ。もちろんです、私の大切な人ですから。」

 

おや?まさか、恋人とか!?

 

「大切な人!!だったら何であんな!…っ!」

急に立ち上がり怒鳴るアスカ。そんなアスカに周りが驚いている。

綾波さんもムッとした表情。

 

シンジくんの話題に関して、地雷は地雷でもN2地雷だったか…

気まずい。

 

 

「ふふ、僕と同じだね。

僕にとっても、シンジ君は大切な人だからね。」

そんな雰囲気にも関わらずカヲル君がシンジ君の話題に食いつく。

「霧島さん、君にとって、シンジ君はどんなふうに大切な人なんだい?」

何時に無いほど多弁なカヲル君。

そんな事、普通初対面の人に聞かないよ

 

「え!えっと、、」

案の定、困惑したような顔。

そしてアスカと綾波さんを見て真剣な表情になる

 

「…愛していました。」

目を伏せる霧島さん。

 

……。ヤバい。何なの、この会話。

 

 

「愛していた、過去形かい?」

何やら少しガッカリした表情のカヲル君。

 

「だってシンジは…」

泣きそうな表情の霧島さん。

もしかしてシンジくんが死んだと思ってるのかな?

 

 

「…シンジ君なら生きてるよ。時の止まった結界内でね。」

カヲル君が笑う。

驚きの表情のアスカ、綾波さん、霧島さん。

えっ、アスカと綾波さんも?

 

 

「あっ、アンタそれホントなの!?」

食いつくように前のめりになるアスカ。

 

カヲル君に穴が空くのではないかと思えるほど、見つめる綾波さん。

 

緊張、安堵、喜び。そんな表情の霧島さん。

 

三者三様の反応。だけど共通した感情。それは希望。

 

「シンジ君の事で、嘘をつかないよ。」

そんな反応を向けられても、淡々と答えるカヲル君。

 

「長門さんも、真希波さんも知っているから、他の人達も知っていると思っていたよ。」

あ、マリも知ってたんだ。

唖然とした表情で私達を見る三人。

 

 

マリと二人揃い、アールグレイティーを口に含み、ティーカップで顔を隠した。

 

だって、なんか目が怖いもん。

 

 

 

 

 

 

 

そんな食堂の騒動から数日が経ったが、最近は時折物思いにふけるアスカや綾波さんの姿が見られる。

やっぱり、シンジ君の事を考えているのかな?

 

 

霧島さんはテストに次ぐテストで大忙し。

 

そして技術部の皆さんはお冠。

何故なら、アメリカで調整してたはずのエヴァ5号機改だが。

機体性能は良いが、パイロットとの調整が雑にされていたようだ。

エヴァ強化外骨格アイギスとの接続にも、当然調整が必要になる。

霧島さんはアメリカ支部に出向してた期間の半分が無駄になってしまった、らしい。

 

 

 

私は最近になり、宇宙への輸送のみならず、地球内の輸送も追加され、任務数も増えてきた。

地球内は海外がメインなのだが、旅行なんかはもちろん出来ず、エヴァであっち行ったりこっち行ったり。

その地球内の輸送ではヴィレのスタッフも一緒に付いてくる。

それも荷物と一緒に。

 

だから余計に気を遣う。

荷物を壊すような事があるという事は、一緒に付いてくるスタッフも怪我か、それ以上が有るかもしれない。

 

今まで、一度も荷物に傷をつけた事がないためか、信用して貰っているのは有り難いけれど緊張して気が滅入ってしまう。

 

 

 

 

 

南アメリカ大陸、その南部海岸線に建築中の巨大な壁。

ウォール・オブ・ジェリコ、日本語ではジェリコの壁と呼ばれる。

 

今日は綾波さんと一緒に、その壁を要塞化させるための色んな種類の砲台や、それらを稼働させるために使うN2リアクターを持ってきた。

 

今までは日本とユーロを行き来していたが、初めての南アメリカ。

 

初めてユーロに行ったとき、一般市民の方々が人類を守る巨大ロボット(ロボットではないのだが)を一目見ようと騒ぎになっていたのは記憶に新しい。

 

しかし、今回はジェリコの壁近く。

建造中の防衛設備の近くに一般市民が近寄れるはずもなく、関係者が少し野次馬に来ているぐらいであった。

 

 

 

 

 

 

私は綾波さんに謝らなければならない事があった。

仮本部に帰ってきた私は、素早くエヴァから降り、隣のケージへと走る。

 

ケージに入ると、ちょうど綾波さんが降りてきたところだ。

私は駆け寄り話しかける。

「あの、綾波さん。少しお時間いいですか?」

駆け寄ってきた私を見て小首をかしげる。

ええ、と頷くのを確認して一緒にケージから待機室へと歩いていく。

 

 

 

待機室。

そこはチルドレン達が非常時待機命令が出た場合等に使用する部屋で、私達エヴァ航空隊のケージは、地上部隊のケージとは離れた位置にあるため、他の人が入って来ることはない。

 

 

二人っきりの部屋、そこで私は口を開く、

「私、前に飛行訓練で綾波さんと、あんな話をしたのに碇さんの事を伝えれなくて…その、ごめんなさい。」

と以前飛行訓練の休憩中での会話、その際にシンジ君の事を伝えなかったことを謝罪した。

 

「言い訳になりますが、綾波さんは知ってると思ってたんです。碇さんの事を…。」

頭を下げる私。

 

「別に気してないわ。碇くんが生きてる。…それだけでポカポカするから。」

嬉しい、そんなことが顔にかかれている。

でも、碇さんに会いたいとも。

いくら私でも、その顔を見れば解る。

 

 

そんな綾波さんへ私は、とある約束の話をした。

「私、カヲル君と約束したんです。碇さんを助けるって。

出来るかなんて解らないし、方法なんて思いつかないけど…

でも、やらないと始まらないから。…だから、…私が、やります。」

 

私の想い。無責任な約束。

それでもやりたい事だからと、少し泣きそうになりながらも言葉にだす。

それがきっと私の決意、覚悟になるのだと信じて。

 

うつむく私の視界に映る白いプラグスーツの手。

その手が私の手を握る。

うつむいた顔を上げ、綾波さんの顔を見る。

「貴方は一人じゃないわ、私が居るもの。」

そんな言葉が耳に入る。微笑む綾波さんの表情。

 

「私も一緒にやるわ。約束。」

 

 

 

 

 

 

あれから碇さんの事を以前よりも考える事が多くなってきた。

 

私が悩んでいる事が解るのだろう。

マリには心配されている。

それでも突っ込んで聞いてこないことから、何かを察しているのか。

それが凄く有り難い。

 

 

 

 

地下実験棟より地上へ行く道のり。

そのエレベーターの中でアスカと一緒になった。

 

そういえば、今までアスカと二人きりになることは無かった。

…そっか、今まではマリが一緒に居たからか。

そのマリは現在、午後から予定されている、特殊武装のテストへ向けて最終調整中のため居残りしている。

 

 

「ユウカ、アンタ休みの日は本ばっかり読んでるってコネメガネから聞いたけどホント?」

エレベーターに乗るまでエヴァの事を話していたのに、急な話題変換。

「うん、調べたい事もあるし。色んな難しい本をマリちゃんが持ってるから。」

 

「ふ〜ん、物語とかは読まないの?」

少し呆れ顔のアスカ。

 

「気分転換には読むかな?なんで?」

そんな私の質問に

 

「最近読んだ小説で、よくわかんない所があんのよね。

作られた少女が、ある男を好きになるって話。

でも、その少女は男を好きになるように作られているって、まあそれで悩んでるって内容の話。

その娘の悩みが、わかんないのよ。

…まあ!ただの暇潰しよ!暇潰し。」

 

これって、

「でも、好きなんでしょ?その男の子の事…」

私はわざと間違った内容で聞き返す。

 

「うん。まあ。」

 

「歪められたとか、そんなんじゃ無いんだよね。生まれた時から好きだった?そんな感じ?」

 

「うん。多分よ!?多分。」

 

「じゃあ、別に悩まなくても良いんじゃないかな?

だってその娘の感情は、その娘の中から生まれてくる物だから。

たとえ、そうインプットされていたとしてしても、人を好きになる、その気持ちは間違いなんかじゃないんだから。」

 

「恋愛は戦い。って良く言うから。

自分との、相手との…

だから私は、その娘を応援したいな!」

隣に立つアスカへ笑いかける。

 

エレベーターが到着する。

アスカが微笑んでいるのが視線に入る。

…笑えるんだよ、貴女も。

 

 

 

 

 

 

午後からは特殊武装のテスト。

参加するのはマリと綾波さんだ。

私達はその見学。

 

エヴァ8号機の扱う[主機直結型超電磁砲アダド]

主機と直結させ、S2機関による膨大な電力を使用した大型レールガン。

浸食型ATフィールドを付与出来るようにフィールドを一部制御出来るようにするアシスト機能付き。

 

 

エヴァMark9の扱う[天使の背骨]

それと素体接続式生体外部ユニット[ヘカトンケイル]

通称ヘカトンケイルユニット。

 

ヘカトンケイルユニットは、素体と直接接続して副腕をエヴァに付けてしまうという生体ユニット。一応付け外しが出来る。

操作はMark9の搭載コンピュータとシンクロによって行う。

 

そのヘカトンケイルユニットの副腕を改造して素体と擬似的に直結させたのが、天使の背骨。

フィールドの反発力を利用して重粒子を射出するという兵器。

こちらも膨大な電力を必要としている。

本来はエヴァの腕自体を直接改造して遠距離武器にしなければ行けなかったが、ヘカトンケイルユニットによって、本体の腕を改造せずに副腕を改造することによって実現した。

背部につけられたヘカトンケイルユニット。

そこから前へ伸ばされる副腕、そして天使の背骨。

エヴァMark9が凄い魔改造されてる。

 

 

8号機もかなり強化されているのが解る。

 

 

 

響く轟音。ドローンによって空に投影された目標を次々と撃ち抜いていく両機。

 

 

テストは順調。問題なく実戦投入出来るみたいだ。

頼もしい相棒を手にした両機は、今までよりも力強く見える。

 

 

 

 

何、アスカ?えっ、私のインパクトボルト?

…あれは聞かないで。

私のATフィールドが強すぎてエネルギーチャンバーが崩壊したのだ。

まさか感電するなんて思わないじゃん。

 

ほんと大惨事だったよ。

まさに豚に真珠だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、マリの本を読みながら碇さんを助けるためにはどうしたら良いのかを考えていた。

 

ATフィールドによる時間停止。

ATフィールドの出力が高い、私やカヲル君でも不可能な事象。

 

…出来ないと言えば、虚数空間の展開。

あの、アニメ版のとんでも使徒の芸当。

確か内向きのATフィールドによって支えてるとか何とか、アニメ版で赤木さんが説明していた記憶があるけど。

 

ん?…内向きのATフィールドってなんだろ?

実際にATフィールドを使ってみて解ったけど、内向きにフィールドを展開なんて出来ないよ。

外向きの方向を変えるだけで、どのようにしようと反発する力であるATフィールドは内向きにならない。

 

なんで赤木さんはアニメで内向きなんて言葉を。

検出されたATフィールドの波長が反対だった?

 

…排除、拒絶、嫌い、憎い、怖い、痛い、…

 

…好き?、優しい?、愛?

愛?

 

でも使徒に愛なんて、

でも使徒もATフィールドを持っている。

拒絶する心。ATフィールド

 

原始的な感情?愛…

自己愛?

それが使徒の内向きのATフィールドだとしたら、

 

感覚で解る。外向きのATフィールドじゃ、内向きのATフィールドを中和出来ないと。

 

 

内向きのATフィールド。

それを考えながら電気を消す。

 

 

布団に潜る。

 

温かい、やわらかい。

 

 

…いつの間に潜り込んだのマリさん。

 

 

 

 

 

善は急げ!

翌日の訓練やテストが終わり。

 

夕食時、私はチルドレンの皆に、この後話を聞いて欲しいと真剣な表情で伝えた。

少し驚いた表情をする皆の中で、マリだけが笑って見つめている。

 

 

 

チルドレンの待機室。

そこに各々座る皆。

 

私は碇さんの現状、そして昨日考えついた持論を語った。

驚くアスカと綾波さんと霧島さん。

メガネを拭きながら皆を眺めるマリ。

 

 

そして顎に手を当て、考えに耽るカヲル君。

 

「内向きのATフィールドって本気で言ってるの!?」

アスカもATフィールドを攻撃に使っているためか、それがどれほど困難なのか解っているようだ。

 

「でも、それを中和したらシンジを助けられるんですよね。なら!」

と食いつく霧島さん。

 

そんな霧島さんに反論するアスカ。

「アンタバカァ!?簡単に言うんじゃないわよ!

内向きのATフィールドってのは波長が違うどころの話じゃないのよ。

流れる水に、反対の流れの水を流せば対抗出来る。でも流れが同じ水を入れたって意味ないのよ!」

 

「方法は?」

私を見つめ問う綾波さん。

そんな綾波さんの質問をあえて後にして、まずは聞かなければいけない事を聞く。

「その前に、カヲル君。内向きのATフィールドなら内向きのATフィールドを中和出来ると思う?」

 

そんな私の言葉を聞きカヲル君は顔をあげる。

「出来る、はずさ。…そうか。ふふ、面白い事を考えるね。」

その言葉を聞き、私は堂々と方法を答える。

そう。愛こそが内向きATフィールド。

故に!

 

 

「愛ですっ!!」

 

 

…あれ?空気が凍った。

 

 

 

 

なんかスベったみたいな空気。ウケを狙ったわけじゃないんだよ。

 

そんな空気を破るのは一人の使者。

「愛。リリンの希望。好きという言葉の延長。

ふふふ、僕はやるよ。シンジ君の為なら、どんな事でもね。」

笑い、そして真剣な表情を浮かべる。

 

次に声をあげたのは蒼い少女。

「私もやるわ。」

 

そんな綾波さんに負けじと

「私もやります!」

霧島さんが綾波さんを見ながら声をあげる。

 

飄々と声をあげたのは、胸の大きい良い女。

「まあ、ワンコ君のため。そして何より、ななちゃんの為!いっちょ張り切ってイキましょ〜!」

 

そして私も

「言い出しっぺですし、碇さんに会いたいし。

それに、約束しましたからね。愛をもって誓います!」

 

そして私は紅い少女を見る。

 

顔を真っ赤にして口をパクパク動かしている。

かわいい。

皆に見つめられ自爆する少女。

「いいわよ。やってやるわよ!

あんなバカ愛してやれるの何て、そんなに居ないんだから。」

 

愛の告白、大胆だね。

「お姫、本人いないよ?」

茶化すメガネさん。

 

さよなら。

 

ビースト化する紅い少女を見ながら。

黙祷を捧げます。

 

 

 

 

 

「それで、具体的にどうすんのよ。」

人に戻ったアスカが聞いてくる。

 

「単騎のエヴァじゃ、どうしようも無いよ。

数が必要になるさ、それも並のエヴァでは駄目だろうね。」

目を瞑り真剣な表情で考えるカヲル君。

 

「私達の成長も必要だね。必要な人材の確保も。あとは万全を期して、エヴァが11機くらい必要なのかな?今の所2機足りないけど。」

サードインパクトを止めるための方策も必要だと答えておく。

 

「新しいチルドレンは協力してくれるのかな?」

不安そうな霧島さん。

 

そんな霧島さんの言葉を聞き、強い口調で答える綾波さん。

「してもらうわ。」

 

「エヴァに関しては、まあ宛があるよ。」

カヲル君が不敵な笑みを浮かべる。

 

 

至らないところ多く、穴だらけでも少しずつ形になっていく計画。

その先にある希望を想い笑みを浮かべる私達。

 

 

「んじゃあ、いっちょやりますか。

ワンコ君補完計画。」

 

 

碇シンジ補完計画。始動。なんてね




外向きと内向きはなかなか理解しづらい表現ですが、
補足するなら
人→←人これの矢印がフィールドの性質、外向きです。
人→→人これが外向き、内向きの性質となります。
自分にとって外向きか内向きか。
攻撃ではないので通る通らないではなく、力の方向性。
そう自己解釈して設定してます。
要は話しかけても、相手はイヤホンでガンガン高い音で音楽を聞いてて、聞いていない状態に近いかな?


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今はまだ会えない、在りし日のキミを想う

今回、少し短めです。


戦いは、いつも突然だ

 

そんな事を考えながら、高速で空を飛ぶエヴァMark9を追いかけ、Mark7で空を翔ける。

ランダム飛行で私から距離を取ろうとするも、私は速度を上げ回り込む。

 

 

下より飛来する弾丸。

一瞬だけ抵抗するも、瞬時に破られる私のATフィールド。

 

これは地上の8号機による援護射撃だろうと即座に判断し回避機動を行う。

 

回避する私を追い立てるように次から次へと弾が飛んでくる。

侵食型位相転移ATフィールドを発生させてATフィールドを破壊する銃弾、[情報宮装備弾]だ。

 

数に限りがあるのに…出し惜しみ無しとはね。

 

 

そんな8号機による援護によって、Mark9より離されてしまう。

 

 

 

くっ!逃した!

悔しさに下唇を軽く噛みながら、オレンジ色の機体を視界の隅に捉える。

 

 

エヴァMark9より撃ち込まれる重粒子弾を、回避行動を取りながら多重ATフィールドで受け止めた。

 

12枚のATフィールドのうち、4枚を破られる。

 

ATフィールドを4枚も破る威力に戦慄しながらも、Mark9が構える銃口に気を付けながら機体を動かしていく。

 

 

 

さらに下のエヴァ8号機からの銃撃も襲いかかる。

今度は通常の銃弾に侵食型ATフィールドを付与した、通称AT弾。

 

ATフィールドで受け止めるも、ジリジリとATフィールドを侵食していく弾丸。

 

しかし、一瞬で破られないだけ、情報宮装備弾よりマシだ。

僅かでも時間を稼げれば、既に私はそこに居ない。

 

 

 

オレンジ色の機体に向けて、全速力で飛ぶ。

衝撃波を撒き散らしながら接近する私。

 

そんな私へと重粒子弾が飛んでくるもバレルロールを用い回避していく。

 

 

 

遂に射撃戦中距離へと至る。

ここからは私の距離だ。

 

ATフィールドで抗力を発生させつつ機体を起こし軌道を変え、手に持ったパレットライフルでMark9の頭と胴体を狙い撃つ。

 

警戒していた為か初弾は回避されるが、偏差射撃を行い着弾させていく。

ATフィールドは既に中和されており、着弾の衝撃により敵の回避行動が乱れる。

 

 

地上から敵の援護射撃が来るも、ATフィールドが私を守ってくれる。

高速機動戦において、即貫通してこない攻撃はほぼ無意味だ。

 

 

私のパレットライフルの弾が切れる。

弾切れしたライフルを投げ捨て、短銃をウエストラックより取り出す。

 

急速反転してこちらを攻撃しようとする敵を翻弄するように、私は機体を下に動かす。

反応して私に標準を合わせようとするのを見て、嘲笑うかのように急速に高度を上げる。

 

その私の動きに再度、エヴァMark9が反応するが、次の瞬間僅かに怯む。

 

…太陽の位置は、常に把握して動かないとね。

 

 

 

エヴァMark9の頭に向けて短銃の引き金を引く。

弾け飛ぶ頭を確認し、眼下を見た。

 

 

 

 

 

 

紺色のエヴァと赤色のエヴァが、一回り以上大きなエヴァと戦っている。

そこから離れた位置にはピンク色のエヴァがこちらへと銃口を向けていた。

 

 

私は急速降下し、ピンク色のエヴァ8号機に接近する。

 

地上を移動しながら高反動の武器を巧みに操り、射撃してくる8号機。

それに対し回避機動を行いながら短銃で応戦する。

 

 

 

8号機は弾切れなのか、射撃が止まる。

 

この隙に空中で機体を静止させ、銃撃姿勢を取る。

よし、残りの残弾ならやれるかも…。

 

 

そんな事を考えるが、8号機は持っていたアダドをオーバーロードさせる。

視界を埋める閃光、そして爆発音。

 

上空に居る私に飛び掛かって来る8号機を、咄嗟にATフィールドでガードする。しかし、僅かに上を取られてる。

上から物凄い威力の蹴りを浴びせてくる8号機。

繰り出される侵食型ATフィールドを纏ったその蹴りを完全にガードしきれそうにない。

 

咄嗟に防御用ATフィールドの出力を上げたため、なんとかガードに成功するが、高度維持へとフィールドを回せない。

故に墜ちていく機体。

しかし損傷なし。

 

 

着地をして、8号機に向け短銃を構える。

 

 

「ユウカ!」

鋭く飛んでくるアスカの声を聞き、考えをめぐらす前に機体を斜め前方へと飛ばせる。

 

 

 

次の瞬間、響く轟音に、崩れ弾け飛ぶ地面。

 

 

 

アイギス装着エヴァ5号機改が、エヴァの胴回りよりも大きな腕で私の居た場所を粉砕していた。

 

…アスカの声が無ければ、やられてたかもしれない。

 

 

 

そのエヴァ5号機の後ろより走ってくる赤色のエヴァと紺色のエヴァ、2号機とMark6。

そんな2機へ体を向け構える5号機。

5号機は私に背を向けた状態だが迂闊に攻められない。

何故なら私の相手はこちらに来る8号機になるからだ。

 

 

しかしよく見ると、Mark6が2号機より前に出ている。

 

「スイッチ!」

そんなアスカの号令を聞き、私は5号機へ向けて機体を疾走らせる。

 

5号機とMark6が接敵

その横を駆け抜ける2号機に、それとすれ違う私。

 

5号機がMark6を弾き飛ばそうと腕を振るうが、その巨大な前腕を蹴り空中に身を踊らせて回避するMark6。

 

 

 

背中が、がら空き!

 

5号機の背後より何重にも重ねたATフィールドを圧縮し、開放する。

限界まで圧縮されたATフィールドの反発力は、物凄い衝撃力として隙だらけの背中に直撃した。

 

吹き飛んで行く5号機を追撃するため、機体を走らせる。

 

機体を起こす5号機だが、動きが遅い。

強化外骨格のせいで人体構造とは離れた形をしているから当然だろう。

 

畳み掛けるように、上から多重圧縮フィールドで叩き潰す。

しかし、想像と違い倒れる事なく耐えきっている。

 

 

うそ、冗談でしょ…。

 

 

しっかりと立ち上がる巨体。

どっしりと構える隙の無い体勢。

それは戦自式格闘術の構え。

掴み技や、寝技、カウンターを得意とした近接戦闘技術。

 

戦自上がりのチルドレン、霧島マナか。

バリバリのインファイターのようだね…

 

 

 

手のひらをこちらに見せるように構える5号機。

5号機のフィールド偏向制御装置を使った突撃に、多重ATフィールドを展開しつつ飛行ユニットへもATフィールドを纏っていく。

 

激突する5号機と私のフィールド。

5号機が装着しているアイギスの手のひらより飛び出すパイルが次々と私の多重ATフィールドを容易く破って行く。

 

これはまさか、簡易式ロンギヌスの槍!?

 

 

 

ロンギヌスはマズイと、飛行ユニットのフィールド出力を最大展開し飛び立ち距離を取る。

 

 

空は私の領域だが、現在は有効な遠距離武器を持っていない。

 

ATフィールドの出力で押し切りたいが、ロンギヌスのパイルが邪魔過ぎる。

 

飛行位置を変え、両手の先に円を描くようにフィールドを展開。

それを圧縮、高速回転させ5号機に投げつける。

 

生身で見ると十分早く見える投擲だろうが、エヴァの身体能力のフィードバックを受けた状態だとそれ程早くは見えない。

 

だが目立つ攻撃だ。威力も十分に一撃必殺に至るだろう。

 

 

私の読み通り、5号機は回避するが、それで良し。

私の投げたATフィールドが消えるより早く、2号機に投げられた8号機がフィールドにぶつかる。

 

コンビネーションプレイを咄嗟に成功させるとは、流石はアスカ!

 

私のフィールドにより真っ二つになった8号機を蹴りつけ、5号機に当てようとする2号機。

5号機は8号機の胴体を咄嗟に回避するが、少しだけズレた軌道をもって投げつけられた槍をフィールドで防御する。

その槍を投げたのはMark6。

それも、8号機の胴体により見えづらくして投げつけたものだ。

 

フィールドにより一瞬槍が止まるも、しかし、次の瞬間には槍が貫通し、串刺しとなり背中から倒れる。

 

どうやらカヲル君は、今まで槍に強力なATフィールドを侵食させていた様だ。

 

 

串刺しとなった5号機だが、機能中枢は無事な様だ。

もがいているが上手く起き上がれないでいる。

ただてさえ、刺さった槍で、地面に縫い付けられた状態。

さらに強化外骨格の腕部があまりにも大き過ぎるため、すぐさま手で抜くことが出来ないみたい。

 

まさにまな板の上の鯛状態。

後は、好きに料理するだけだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカチームの勝利で終わったチーム戦シミュレーション訓練。

どんよりとした相手チームと、対象的な私達。

 

「ほら、やっぱり圧勝じゃない?」

訓練前にチームバランスを指摘したアスカは、呆れた様にミサトさんへ声をかける

 

「おっかしいわね〜。作戦部全員でバランス良く決めたのに。」

納得いかないと、首を傾げるミサトさん。

 

「そもそも、ユウカ争奪戦じゃないのよ、こんなの。

エコヒイキにユウカの相手なんて、どだい無理よ、無理!」

 

「そうかしら?特殊武装を解禁した状態ならMark7に匹敵すると思ったんだけど?」

 

「それはこいつがバリバリのインファイターならでしょ。

基本高水準のオールラウンダーで空中戦の天才。

その上、射撃戦中距離に至っては的確に、瞬時に撃ち抜くようなやつよ。

それがMark7なんて機体を使ってる時点で、空で勝ち目なんて無いのよ!」

 

「あら、やたら褒めるじゃない?アスカにしては珍しい。」

言い合うアスカとミサトさん。アスカに褒められてるのは嬉しいけど、恥ずかしい。

 

「ユウカちゃん、あまり運動得意じゃないのに何でそんなにエヴァの操縦上手いの?」

ガーン!霧島さん、酷いよ。

確かに運動はそんなに得意じゃないけど…

 

「ノンノン。ななちゃんにはまだ3段階の進化が残されているのだよ、榛名っち。運動に関しては時間の問題だにゃ!」

マリが私の髪を櫛で梳かしながら、冗談を言う。

なんですか?3段階って…

 

それにしても榛名っちという、霧島さんのアダ名。

マリのセンスが良くわかんないよ。

 

「だから私の名前はマナだって〜。なんで榛名っちなのよ。」

霧島さんが、最近馴染みとなった突っ込みを入れている

 

 

「大体、なんでこんなチーム対抗戦なんてやってんのよ。連携訓練なら仮想敵と戦闘でもやればいいでしょ!」

アスカとミサトさんの言い合いはまだ続いている。

 

確かに、アスカに一理ある。

そんなアスカの言葉にミサトさんは

 

 

「だって、そればかりだと面白くないじゃない?」

 

そんな言葉を聞き、げんなりする私達。

ミサトさん、たまにそういう所あるよね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現行エヴァンゲリオンの開発と建造の停止。

 

 

その知らせはすぐさま組織内を駆け巡った。

 

理由は様々有るらしいが、大きな問題は建造コストと時間、何よりもパイロットの特殊性とのことだ。

 

パイロットを選出することは出来る。

しかし既に世界中の子供を調べ上げた時点で判明した(質)の問題。

 

 

エヴァはその特殊性からほぼ専用機体だが、実際には造ってからでしかパイロットを選べない。

しかし造ってからパイロットとしての適性が低過ぎても困るというのが上の意見。

 

現状調べ上げた適格者の素質を鑑みるに、今度新しく選出されるチルドレン2名を登録したら、以降は2つか3つ程、適格者としての素質が下がる人しか居ないらしい。

 

 

しかし、アポストルには通常兵器の有効性が不安視される。

いくら完成された単体生物では無いとしても、ATフィールドを持つことが予測されるからだ。

 

どんな敵かも解らない。

そして負ければ今度こそ人類が終わる。

 

エヴァ程アポストルに有効な兵器は未だに無いのが現状。

だがしかし、エヴァにばかり力を注ぐ事は出来ない。

 

南アメリカのウォール・オブ・ジェリコ、ジオフロント防衛設備、キラー衛星による防衛システムであるアルテミスの首飾り、宇宙要塞、アフリカ南部の複合要塞防衛線テンティリス。

これだけエヴァ以外にも準備をしている。

 

今後、戦力として確実性に欠けると判断した上層部の人たちは苦渋の決断の末に、エヴァンゲリオン配備計画を一時停止措置とする事に決定したとのことだ。

 

 

 

 

 

それから数日が過ぎ、今日は非番の日だ。

今日は私と霧島さんが非番となっている。

 

 

チルドレンの休み事情は最近になって少し変わった。

完全な休みは月に3回。

 

三週目までに一人一回の休み。最終週に全員の休みが1回。

あとは午前・午後どちらかが休みとかが多い。

 

 

そんな今日は、朝から食堂でコーヒーゼリーとジュースを堪能しながら、携帯端末を使用してのお勉強である。

 

スイーツ食べ放題。ふふん、食堂最高!

 

そして優雅にお勉強。ああ、しあわせ…

そんな事を考えながら携帯端末に打ち込んでいく。

 

 

今勉強しているのは形而上生物学。

冬月司令が大学教授時代に教えていたと言う学問。

 

エヴァを知る上で必要な学問の1つで、ざっくりと言えば人の魂と肉体に関係した学問である。

この形而上生物学を応用して作られたのがマギシステムであり、エヴァンゲリオンだ。

 

そんな勉強をしていると、私の座る席に近づいて来る人影が映る。

 

「ユウカちゃん、おはよう。ここ空いてる?」

にこやかに話しかける霧島さん。

 

「おはようございます。空いてますよ。」

私の返答を聞き、席に座る霧島さんの手には朝定食Bセット。

パン、スクランブルエッグ、ソーセージ、サラダ、コーンポタージュ、日替わりフルーツのセットメニュー。

女子力高い!?

 

私の朝のメニューはカツ丼と蕎麦のセットだというのに。

 

 

 

「ユウカちゃんはご飯食べたの?」

 

「はい。食べましたよ。」

勉強は一時中断

コーヒーゼリーのクリーム追加を食べ進める。

うまっ。

 

「いや〜、久々の休みでゆっくり寝ちゃったよ。

ユウカちゃんは何時に起きたの?」

 

「朝6時です。マリちゃんも起きたので、その時間から起きてます。」

 

「真希波さんか〜。一緒に過ごしてるんだよね?部屋ではどんな感じ?」

マリの普段って気になるよね?

私も最初はそうだった。

 

「まあ、普段とあまり変わらないですよ。あとは、暇なとき本ばっかり読んでます。意外に本の虫なんです、マリちゃん。」

 

「本?へぇ、凄く意外だね!漫画とかも読むのかな?」

 

「漫画は…あまり持ってないみたいですね。もっぱら学術書とか古典文学とか、あとは色々です。」

そんな私の返答に絶句する霧島さん

まあ普段のマリを見てれば驚くかもしれない。

 

その後も会話は続いていく。

話し上手な人だなと、羨ましく思える。

 

何せ私のコミュ力は5ですから。…なんだゴミか

 

 

 

 

霧島さんの食事が終わり、食器を返却しに行った。

その間に、私も勉強を進めていく。

 

戻ってきた霧島さんが私の後ろから、携帯端末を覗く。

「今、どこ勉強してるの?」

笑顔で覗いていた霧島さんだったが、次第に表情が引きつる。

 

「えっと形而上生物学というのをちょっと。」

「えっと、ざっくり言えばエヴァのベースとなった学問です。」

 

驚く霧島さん

「エ、エヴァ?えっと小学校範囲とかはいいの?」

そっか喋ってなかった。

 

「私、ここに来てから高校卒業資格取りまして。えっと、特別に受けれるそうですよ?資格試験。」

 

まあ前世の記憶も有るから、ズルしたようなものかな?忘れてる事もあるから勉強はしたけど…

 

「凄!頭良いんだね。ビックリしちゃった…」

 

頭良いか…

前世は別に普通だったと思う。

でも生まれ変わってからは、測定したIQが高くなっているし、記憶力も相当良いくなっているのを自覚している。

 

ふと、会話が止まる

なんだか霧島さんが落ち込んでいるような気が…

 

「私ね、なんか自信ないんだ。」

私は黙って聞く

「私だけ凡人な気がして…」

 

「昔、戦自に居て訓練を受けてたから多少は自信があったの。エヴァに乗れるってわかった時は。

実際にアメリカでは他のチルドレンはいなかったし、シンクロ率は悪くないって聞いてたし。」

 

「でも、ここに来てから、チルドレン皆が何かしら飛び抜けた才能を持ってるし、皆が私よりもシンクロ率が高いし。私だけ取り柄ないって思えて…」

 

「あはは、何言ってんだろうね。私。」

 

そうだったんだ。

実際、私も来た当初は不安ばっかりだったのを思い出す。

 

「不安、なんですね。私もその気持ち、わかります。

最初はそうでしたから。

才能とか私はよく解んないですけど、ここに来る前は勉強とかしてませんでした。ただ自分に何が出来るか解らないから、今は沢山勉強しています。

そんな私が出来るアドバイスは一つ、エヴァの事だけです。

…エヴァには心があります。私達はそれとシンクロをしているんです。

だから、シンクロ率を上げるならエヴァを心から受け入れないと。例えそれがどんな物だとしても…。

そうしたら、エヴァが答えてくれるはずです。」

 

コンプレックスの問題ならば、結局は解決にはならない。

それに正論をぶつけられるのは嫌かもしれない。苦手に思われるかも。

でもそれが少しでも霧島さんの為になるのなら、私はそれで構わない。

 

今私は、確かに小さな子供だし、たまに言動が幼くなるが、確かに大人だった記憶がある。

好かれる事だけを考える訳にはいかないんだ。

 

 

「そっか、ありがとね。ユウカちゃんは、なんだか大人だね…。」

にこやかに笑い、受け入れる霧島さん。

私はそんな霧島さんも大人だと感じる。

 

「弱音なんて吐いてられませんよ?碇さんを助けるんですから。」

発破をかけるよう声をかける。

なんの為に乗るのかを忘れるちゃダメだと、言外に伝えた。

 

 

「シンジ。」

 

そのたった一言、だけどもその中に色々な感情が宿っているのを感じる。

 

目を閉じる霧島さん

決意を新たにするように、目の前で右手を握りしめている。

 

再び目を開けたとき、そこには弱い光なんて無かった。

決意を固めた女の子は強いんだよね。

 

今、女の子となった私には解る。

感情。それこそが女の子のパワーなのだと。

 

 

 

それからはシンジ君の話題になる。

今は無き第3新東京市、そこでの短くとも濃厚な日々。

最初は戦自のスパイとしてシンジ君に接触したこと。

人生で初めて好きになった人。芦ノ湖デート。

そしてシンジ君との別れ。

 

 

鋼鉄のガールフレンドと違うところは、シンジが霧島さんを好きになったのかが分からないところと、アスカと綾波さんが原作以上に霧島さんの邪魔をしていた事。

わーお。ラブコメじゃん。青春青春!

 

ニマニマと笑っていたのか、もー!っと指摘される。

反省反省……。ニヤリ

 

 

 

もうお昼になり、人が多くなってきた。

 

「結構喋ったね。ありがとう聞いてくれて。

シンジの事、話せる人が居なかったから。凄く楽しかった。」

 

「碇さんの事、また聞かせてくださいね。」

シンジ君の貴重な話頂きました!やはり生で聞くに限る。

 

「そうだ、私の事はマナって呼んでよ。

あと式波さんや真希波さんみたいに砕けて喋っても良いからね?」

 

「うん、わかったよ。マナちゃん。」

笑い合う、私とマナ。

 

 

シンジ君という名の絆で繋がる私達。

儚いつながりだけど、今はそれで良い。

 

 




霧島マナ回。

鋼鉄のガールフレンドは結構昔のゲームですので、もしかしたら知らない人も居るかもしれませんが、ヒロインとして好き嫌いが別れるキャラクターかもしれません。

作者はエヴァのキャラクターで嫌いなキャラクターはおりません!

誤字なんか、あったら教えて頂ければ幸いです。
ありがとうございます!


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君が、君に生まれた理由

タイトルを知ってる人は、結構なエヴァマニア。
ということで、あの子出ます。




まどろみの中、暖かな陽射しがカーテンの隙間から射し込んでくるのを感じる。

眩しい…

 

寝返りを打ち、身体ごと顔を背ける私。

目を細くした視界に入る、胸の谷間

 

 

 

はあ、まただ…

 

長い髪を解き、いつもは掛けている眼鏡を外した素顔、大きな胸。

真希波・マリ・イラストリアスが私の隣で眠っている。

何故私は、布団に潜り込まれても気付かないのか。

 

一応は確認して置く。ここは…

うん、私のベットだ。

 

頭上に有る時計を取り、時間を確認する

時間は0547、アラームの13分前か…

 

 

身体を起こすと欠伸が出てくる。

サイドテーブルの上にあるペットボトルに口をつけ、少なくなった中身を一気に飲み干した。

少し乾いた身体に染み渡るような感覚。

 

 

隣に寝てたマリが身じろぎするのを感じる。

私が起きているのを確認し、身体を起こすマリ。

「ななちゃん、グッドモーニング。いま何時?」

 

「おはよ、今は0548。まだ早いけど、もう起きる?」

 

「う〜ん。ななちゃん、もう少しお姉さんと一緒に寝ない?」

 

「寝ない。今日も朝一でシンクロテストだもん。」

多分今の私は、表情が死んでいる。

最近は私だけ、やたらとシンクロテストが多い。

シンクロすることは好きなのだけど、こうもテストが多いと少し疲れてしまう。

 

ベットから立ち上がりクローゼットを開き、Yシャツとキュロットを取り出す。

着替えを済ませ、歯磨き。

歯磨き粉はクールミント系、スキッ!とするから好き。

なんちゃって…

 

 

私が歯を磨いている間、マリが櫛で私の髪をとかしてくれる。

 

「マリちゃん、ありがとう。私、髪とかすの下手だから凄く助かるよ。」

マリの顔を見ながらお礼を言う

 

「これくらいは朝飯前!」

私に笑いかけながらウインクする姿は、髪が跳ねてなければ様になっているのだけど…

 

「早いから、私先に行くね!」

声をかける私に、

それじゃあ、私午後からだから。と布団に入るマリを見ながら朝ご飯を食べに食堂へと歩く

 

…あれ?マリの入った布団って私のじゃ?

 

 

 

 

 

朝早い時間からのシンクロテスト、眠気をがまんしながらも集中しようとするが、いかんせん上手くいかない。

 

 

ああ、駄目だ眠い…

シンクロによる居心地の良さも相まって、今にも目を閉じそうになる。

 

微睡むような感覚と共に、自身が広がっていく感覚

現実と虚構が入り混じる、気持ち良くも苦しい。

そんな感じ。

 

自分とエヴァが入り混じっていく

 

 

 

誰?誰かが叫びながら、私の名前を呼んでいるのが聴こえる。

返事をしようとするも、身体が動かない。

 

 

 

 

 

 

さらに意識が奥に沈んでいく。

 

奥に沈むにつれ、私がバラバラになって拡散していく。

しかし、恐怖なんて無かった

バラバラになっても、それぞれが私を形造る。

 

 

 

 

沢山の私、私、私、私、私、私、私。

ワタシ

私達が世界を埋める。

 

 

分かれて、一つになり、また分かれる。

一つになるのも、バラバラになるのも自由自在だ。

どれほどバラバラになり、一つ一つが小さくなろうとも、全ては私。

 

 

 

 

気付いたら、草原のような場所に居た。

そこで増える私達、増え続けるワタシ

 

 

 

ふと、誰かに止められる。

どうしたのワタシ?

 

ワタシに抱きしめられる私。

暖かい、いつまでもこうしていたい。

 

 

そろそろ戻る時だと、そんな意志が私に伝わる。

 

 

…どうして?こんなに暖かいのに。こんなに居心地が良いのに。

 

 

 

私にはやる事がある?約束?誓い?

 

 

何だろう?

うん、大切な事。だけど思い出せないよ…

 

 

 

 

名前?私の名前?

なんでそんな事を聞くの?ワタシなんだから分かってるでしょ?

 

 

これも大切な事?言えばいいの?私の名前を…

 

私の名前、私の名前はね…。私は、私は、

あれ?私の名前って何!?

 

 

教えて!お願い、ワタシ!

駄目?どうして!?

ワタシは知ってるんでしょ?なら教えてよ!

 

どうして、お願い、教えてよ。イジワルしないでよ…

 

俯き涙を流す

不安なんて無い筈の場所に居て、こんなに暖かい世界なのに、何でこんなにも寂しいんだろう。

 

 

 

ふと、風を感じて顔を上げる。

 

え、蝶々?キレイ

見惚れている私の胸元に銀色の蝶が止まる。

 

 

その時、脳裏に蘇る約束…

「そっか。なら仕方ないですね。…うん。」

 

「でしたら、私が碇さんを助けます。」

 

碇さん?碇シンジ。

シンジ君…

 

カヲル君?

 

蝶が羽ばたく。

 

そして思い出す。

これまでの考えもしなかった、夢のような日々を

 

 

 

そうだ、私の名前…私の名前は

 

 

長門ユウカ

 

 

そう呟く私に、微笑みかけるワタシ。

おめでとうと云う意志が伝わる。

…もしかして、貴方は。

 

そう確信に近い答えを問おうとした、その時、光が視界を埋める。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を開けた私の目に映るのは

 

 

 

 

知らない天井だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

寝てたのかな?

周りを見渡すも知らない部屋だ。

隔離室?そんな印象を受ける

 

 

規則正しく聴こえる電子音、心拍モニター?

それ以外の音が全く聴こえない。

 

 

扉の開く音

音につられ、そちらを向く私の目に入ってきたのは、携帯端末を持った赤木さんと厳しい顔をしたミサトさん。

二人の雰囲気が良くない感じがする。

 

 

私が口を開く前に、赤木さんから質問が飛んでくる。

「起きて早々に悪いのだけど、貴女、自分の名前を言えるかしら?」

 

「長門、ユウカです。」

少ししゃがれた声。声が出しづらいや…

 

次々と私の事について質問をしてくる。

家族構成、家族の名前、チルドレンの仲間たちのこと、エヴァの事、ミサトさん達の事。

私なら知ってて当然な事を聞いてくる。

 

「それで、最後の記憶では何をしてたか憶えているかしら?」

 

「えっと、そうだ。シンクロテストで寝ちゃって…。

あの、すみません!どうしても眠気に耐えられなくて。ごめんなさい…。」

この部屋での前の記憶を思い出し、血の気が引く。

ヤバい!寝ちゃったんだ!

 

 

 

携帯端末を見ながらの質問が終わったのか、赤木さんがこちらを見る。

「貴女が謝る必要なんて無いのよ、長門さん。

今回はこちらのミスです。貴女が強い眠気を持っていたのは、脳波をモニターしていたから、わかっていたのにテストを継続したのは私達なのですからね。

その所為でちょっとした事故があって、貴女は3日間程寝ていたの。

本当にごめんなさいね。謝るわ。」

 

…3日!あれから3日も寝てたの?

 

 

「それで、今後はこんな事、起きないんでしょうね。」

ミサトさんが赤木さんに鋭い視線を投げつける。

 

「無いとは言い切れないわね。特にエヴァMark7に関しては。」

ちょっと!とミサトさんが赤木さんに声をかける

 

「しかし、葛城一佐。さらに希望が増えたのは事実です。

不幸中の幸いとは当にこのこと。私達は次のステージに進むことが出来るのよ。

現状考えうるあらゆる方策が取れる様になるかもしれないの。

この娘とMark7が有ればね!」

興奮した表情の赤木さん。怖い笑顔。

 

一体何の話をしてるの?私とMark7が何?

 

 

リツコ!と飛ぶ怒声

ミサトさんが赤木さんの白衣の襟を握りしめる。

え!なんでケンカ!?

慌てた私は二人の間に入ろうとして、足に力が入らなくベットから崩れ落ちた。

 

「何をしてるんだ!二人とも!」

誰かが駆け寄り、転んだ私を抱き上げる。

 

 

え!加持さん!?どこに居たの?

 

「赤木!葛城!この娘の前だぞ。

周りも見えないくらい熱くなるな。らしくない…」

気まずそうな表情を浮かべる二人。

 

「りっちゃん、少し休むんだ。ここのところ全く寝てないだろ。

葛城、希望が見えたのは確かだ。タイミングはどうあれ、りっちゃんの言ったことは間違っちゃいない。

それと、この娘を心配している子達がいるからな、そっちを頼む。」

 

加持さんが、おさめてくれる

私に謝って退室する二人。

 

「いや、すまない。二人とも君の事を心配しててね。

赤木に至っては君の事があって、ここ数日寝ることなく仕事してたからな。

感情的になってたみたいだ。許してやってくれ。」

 

「あの、私は大丈夫です。ビックリしただけですから。」

本当にビックリした。でも一体何があったんだろうか。

 

私とMark7。

 

 

 

 

聞くのは簡単だ。でもきっと、それで得られる物はベストな答えじゃないだろう。

これは私の事だし、私のエヴァの事だ。

 

分からないことがあったら聞く事は、悪いことではないけれど、何もかもを聞くべきではないのだ。

 

人によって教えて貰った事、それが全て真実かなんて分からない。

 

自分達の事は、自身の力で答えを探さなきゃいけない。

そうしないと、自らの糧にならないということを知っている。

 

 

 

 

 

 

他の個室に移された私は、ベットの上で病院食を食べていた。

お腹が空いてたのか、黙々と手を動かし食べる。

 

扉が開く音に反応し目線を向ける。

「ななちゃ〜ん!生きてる?」

マリを先頭に次から次へと入ってくる、アスカ、マナ、カヲル君、綾波さん。

ん?あれ一人多い?

 

「ほらほら、ななちゃん。髪跳ねてんよ!

Leave it to me(任せて)!」

櫛を手に持ち、髪を整えようとするマリ。

 

3日も寝てて風呂に入ってないと断ろうとするが、髪が櫛を通る感触的に、洗われてるのだろうか?

胸元を掴み、顔を寄せてニオイを確認する

…身体も洗ってる?というか消毒の匂いが若干する?

 

 

ていうか、そろそろ誰か、もう一人を紹介してくれないのかな?

 

…無理そうだね。

自分から聞こうと、顔を向けて声をかける。

「あの、はじめまして。私は長門ユウカといいます。」

無難な挨拶。依然として私のコミュ力は上がっていない。

 

「あっ、ごめんなさい。

はじめまして。山岸マユミと申します。

エイスチルドレンとして登録されました。

よろしくお願いします。」

黒い髪のロングストレートヘアで、大人しめの美少女。

 

え!山岸マユミ?

もしかしてセカンドインプレッションの?

眼鏡をかけてなかったから気付かなかった。

 

 

そんな挨拶をする山岸さんに、アスカが呆れたような表情で訴える。

「なんで悪くもないのに謝ってんのよ。」

 

「え、ご、ごめんなさい。」

再度謝ってしまってる。ゲームでも語られていた彼女の癖。

 

また謝ってんじゃないの、と返すアスカに、またしても謝ってしまう山岸さん。

 

そんな様子を見ながらご飯を進める私に、袋を持って近づいてくるマナ、カヲル君、綾波さん。

 

「ユウカちゃん!これデザートのフルーツゼリー。お見舞いの品だよ。」

おお〜!売店のフルーツがたっぷりと入ったゼリーだ。

美味しそう

 

「長門さん、僕からはこれだよ。」

カヲル君は私に缶飲料を手渡す。

これはドクターペッパー!売ってたの、ここ!?

好き嫌いが、はっきり分かれるということで有名な飲み物だ。

 

「私からは、これ。長門さんが好きなもの。」

手渡される袋。下の部分が暖かい、それにこの匂いは!

急いて袋を開けて現れたのは、

 

カツ丼!!

 

やった!綾波さん素敵!

そんな事を考えながら、蓋を開けようとする。

 

しかし、横から伸びてくる手により蓋が押さえられる。

「ねえ、手、離してよ。」

私の目線はカツ丼に釘付けである

 

「駄目よ!こんな脂っこいもの、今のアンタにはダメなのよ。

エコヒイキ!アンタ3日も寝てたやつに、なんて物を買って来てんのよ。」

 

アスカ、邪魔しないでよ!

私はこの蓋を取って、カツ丼を食べるんだ!

「アスカ、どいてよ!」

 

「あっ!ちょっとユウカやめなさい!

アンタなんでこんな時だけ、ガキなのよ!」

 

「ちょっと、ななちゃん。今カツ丼はやめなよ〜。吐いちゃったら楽しい事なんて無いよ?」

マリとアスカに止められてしまう!

わちゃわちゃと揉み合う私達。

 

そして、飛んでいくカツ丼…

それをキャッチするミサトさん。

 

 

…え、ミサトさん?いつの間に居たの?

笑顔だが、何処か迫力のある表情で私達を見ている

 

「あなた達、ここは医療室なのよ?

他に人が居なかったとしても、静かにしていなさい。」

 

 

カツ丼は、ミサトさんが美味しく頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

療養は1日だけだった。

身体に怪我もないし、検査でもなんの異常も無し。

 

次の日から再度、実機でのシンクロテストだ。

シンクロに問題がないかどうかを調べないといけない。

 

 

結果は良好。いや以前よりも良いという実感がある。

エヴァへの理解、それが深まったという、そんな感じだ。

目を瞑りながらシンクロを楽しむ。

笑顔になっている事を自覚しながらも、笑みを浮かべることをやめられなかった。

 

 

 

機体の問題も無し!シンクロも問題なし!

通常通りのシフトへ戻る。

日常への回帰

 

 

ちなみに山岸さんは、チルドレンへ登録はされたが、まだ乗る機体であるエヴァンゲリオンMark10が完成していないため、模擬体を使用してのシンクロテストを行っている。

 

エヴァMark10か、どんな機体なのだろうか。

早く見てみたい!

完成するのが待ち遠しい。

 

それにMark11とMark12も建造中だし、ロボット好きな私としては心底楽しみなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

輸送任務再び。

シンクロテストでの事が有ったから、任務がストップしていた為、一日の任務時間を増やすことになった。

 

 

今日はユーロから南アフリカへの輸送だ。

 

複合要塞防衛線テンティリス。

南アフリカ大陸の海岸線に沿って後方に、いくつも建てられている要塞群。

それぞれの要塞に設置される各種攻撃兵器の射程内に他の要塞を配置し、要塞と要塞の間に、地面より展開される何重もの防御壁を使い敵の足止めを行う事により防御する。

攻勢防御をコンセプトにした防衛陣地。

 

その性質上、防衛壁を展開する前なら、前方に戦車大隊等の陸上戦力を展開出来る。

 

 

 

南アメリカのウォール・オブ・ジェリコの場合は巨大な壁、城壁のようなもののため、一部に設置せれているゲートから地上戦力を展開するようだ。

 

テンティリスは、まだ1割程しか造られていないが、それでも凄い数の要塞だ。

 

荷物を置き、周りを見渡す。

南アメリカと違い野次馬があまり居ない。

皆必死になって建築作業に取りかかっているのが見える。

 

 

 

南アメリカには、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、ユーロの支援。

 

南アフリカには、ユーロ、ロシア、中国の支援。

他色んな国が双方を支援しているが、南アフリカの方が支援してくれている国が少ないのが現状か。

 

だからこそ、危機感が違うのかもしれない。

自分の、家族の命を守るために

 

私はその光景を焼き付けるように見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

山岸さんがチルドレンに加入してから2週間が経過した。

シンクロテストも順調で、シミュレーターを使っての動作訓練も行えているとの事で、今日から戦闘訓練に移ることになったようだ。

 

山岸さんのすみれ色のプラグスーツ。

黒髪にすみれ色は日本っぽさが出ている。

 

 

エヴァMark10の機体情報はまだ来ていないそうだ。

その為シミュレーション上では青色のエヴァになっている。

 

 

 

7機のエヴァが揃うのはシミュレーションとはいえ壮観だ。

カラフルだから戦隊物みたいになってしまっている。

 

 

今回の訓練内容は仮想敵の大群との戦闘。

いくつか用意されているグレードの中で一番低いグレードの仮想敵が出てくる。

それは新人である山岸さんに配慮した訓練となっている為だ。

 

ちなみに今回は空中の敵は居ない。私としては凄く楽

何せ制空権は既に確保済みということなのだから。

 

 

ミサトさんの号令と共に、敵の第一波の反応あり。

海岸線防衛任務、故に敵はできる限り水際までで抑えたい。

 

私は、Mark7で上空から攻撃しようと、飛び立つ。

隣には綾波さんのMark9が並ぶ。

 

 

 

 

海中に敵を確認。

有効射程内の敵へ、ガトリング砲で弾の雨を降らせていく。

隣の綾波さんは天使の背骨を使い、的確に撃ち抜いていく。

もちろん、少しでも実践に近づけるようにミサトさんより、お達しが出ている為、綾波さんは天使の背骨の出力を敵を倒せる最低出力まで下げて撃っている。

 

 

う〜ん。

これでは、私達はただ銃を撃つだけになってしまう。

このガトリング砲を撃ち終わったら、狙撃の練習の為に狙撃銃を持ってこようと考える。

 

これじゃあ、訓練にならないもんね。

 

 

 

地上では物凄い数の敵を上手い具合に捌いていっている。

 

特にアイギス装着5号機の暴れ具合が凄まじい。

巨大な腕を振るうたびに、数体の仮想敵が消し飛んでいく。

これくらいの敵では、数がいようと全く問題になっていない。

 

 

 

山岸さんはどうなっているのか気になり、機体の向きを後方へ。

眼下の敵へ撃ち込みながら、ちらっと覗き見る。

 

前線へ走っている青い機体の姿が見える。

それをフォローするのはエヴァMark6、カヲル君だ。

 

 

マゴロク・エクスタミネート・ソード

通称マゴロク

 

それを手に持ち駆けていく山岸さん。

接敵するMark10だが、近接戦なのに攻撃があまり当たっていない。

山岸さん。距離の取り方が絶望的だ…

 

 

やばい、前に出過ぎてる!

このままでは囲まれてしまう。

 

同じ事を思ったであろうカヲル君に指摘されたのか、わざわざエヴァでカヲル君の方を向いてしまっている。

 

次の瞬間、袋叩きにされてしまうエヴァMark10。

助けるまもなく、大破判定。

 

私もカヲル君もATフィールドが間に合わなかった。

山岸さん、大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

その後も3度同じシミュレーションを行ったが、ポジションを変えても、何をしても大破判定を貰ってしまっている。

 

 

残念ながら、山岸さんには、戦いへの適性が無い。

それが作戦部、チルドレン達の総意だ。

 

訓練を続ければある程度は戦えるようになる。

射撃は搭載コンピューターの補助があるからある程度は出来ている。

しかし、補助は補助。射撃にはシンクロ率と操縦技術、あとは本人の資質が重要となる。

エヴァでの銃撃もやはり資質に欠けていれば、機械化砲台の射撃の方が有効になってしまう。

 

何故ならATフィールドさえ中和していれば、通常兵器でも大抵は有効打を与えられるからだ。

 

 

考える一同に、物凄く落ち込んでしまっている山岸さん。

 

何とかしたいけど。

本人の資質が低いのに、無理に前線に出せば、将来実戦で本当に戦死してしまうかもしれない。

 

 

 

シンクロ率も、予想されるATフィールドも良い物を持ってるのに、と呟くミサトさん。

 

シンクロ率も、ATフィールドも良い?

 

確か以前マリと一緒に趣味として作った、エヴァ用装備の原案にATフィールド偏向制御装置の特化発展タイプの設計図が有ったような。

 

自身の携帯端末を使い検索をかける。

アレでもない、コレでもないと探し続け遂に見つけた。

 

趣味の一環とはいえ、折角作ってみた装備。

これを使ってみたい、という微かな欲望が現れる。

 

「あ、あの。山岸さんを支援能力に特化させてみては?」

私の発言に疑問を持った声が聞かれる。

 

「以前、マリちゃんと一緒に作った装備案に丁度よいものが有ったので。ご検討お願いします。」

携帯端末でファイルを共有させる

 

ATフィールド偏向制御装置を高出力化し、フィールドの中和範囲に特化させ。

さらにATフィールドを光の波長に変換可能にして、索敵や通信にも使えるようにした装備案。

 

 

「な〜るほどね。中々いいじゃないこれ。

後でリツコんとこに持って行ってみるわね。

期待しててねん!」

ミサトさんもかなり乗り気になっている。

 

すこし不安なのが、こういう顔をしたミサトさんは何か、どデカいことをやる事がある。

同じ結論に至ったのかアスカはミサトさんを、不審げに見ている

 

 

ひとまずは、これからの山岸さんの方向性が決まった。

さっきまで落ち込んでいた山岸さんも、いくらか表情が明るくなっている。

 

 

 

訓練後のミーティングが終わり、皆で食堂まで歩く道中、山岸さんに話しかけられる。

 

「ユウカちゃん。さっきはありがとう。

私、あのままじゃ、皆の足を引っ張るだけだった。

だからもし、あの装備を使えるようになったら、もしかしたら皆の手助けが出来るかもしれない。

それが凄く嬉しいの。」

山岸さんの笑顔、初めて見たかもしれない。

ここに来てから笑っているところを見てなかった。

 

 

私は、もしかしたらエヴァを動かすこと以外でも役に立てるのかもしれない。

山岸さんのお礼を聞き、そんな風に思えた。

 

 

もちろん、それはこれからの私の頑張り次第だろう。

でも最初に自信を付けさせてくれた言葉

 

ありがとう、感謝の言葉

 

 

「山岸さん、こちらこそありがとうございます。私も凄く嬉しいです。」

 




山岸さんのファンの方すみません。

作者の勝手な考えの結果、こんな感じになってしまいましたが、
後々山岸さんは戦いでも活躍する予定なので許してください。


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シト新生

人によってはもしかしたらグロいと思える要素があります!
ご注意ください。
その件での苦情は受け付けませんm(_ _)m

若干のクロス要素あります


ジリジリと照りつける陽射し、茹だるような暑さの中、黙々と土を弄り、雑草等を抜いていく。

同時に、蔓についた害虫を見つけ次第駆除をする。

丸々と大きくなったスイカは、収穫の時期が近づいているようだ。

今年、二度目の収穫なのだと加持さんが教えてくれた。

 

私と綾波さんは今、加持さんのスイカ畑で農作業をしている。

麦わら帽子を被り、首にタオルをかけて、私も綾波さんも黒いジャージを着て汚れても良いようにしている。

 

ちらりと加持さんを見ると、私達が作業していない方向へと水を撒いている。

 

今日は私と綾波さんが非番となっており、同じく非番の加持さんに頼まれて、畑仕事を手伝う事にしたのだ。

 

 

 

暑い。

額から流れる汗を首元にかけたタオルで拭く。

 

ふと地面を見ると、ウネウネと動く生き物が。

あ、ミミズだ。

 

小さな命、土を豊かにする生き物。

 

ミミズを見つめる私を気にしたのか、綾波さんは私の目線をたどりしゃがみ込む。

 

「生きてる。」

呟く綾波さん。

その表情は何処か優しげで、慈しみがある。

 

「はい。精一杯生きてますね。」

こんな小さな命でも、一生懸命に生きている。

 

 

私達人類の生存競争、アポストルとの戦いは、負けてしまえば、人類だけでなく、目の前のこの命を含め、今いる全ての種族が滅んでしまう。

 

だから、勝たないといけない。

きっと綾波さんもそう思っている、それがなんとなく分かるんだ。

 

 

ミミズに少し土をかけていると聞こえてくる加持さんの声。

 

「おーい、お二人さん。そろそろ、一度休憩にしないか?」

ホースを手に持ちながら私達を呼んでいる加持さんの元へ、二人でグローブを取りながら近づいていく。

 

 

近くのベンチに三人で腰掛けながら、売店のおにぎりをつまむ。

そういえば一時期、加持さんの事を見なかった時期があった。

前から疑問に思った事を聞いてみようと、そんな風に思い、話を切り出した。

「そういえば、加持さん。一時期本部であまり見かけませんでしたけど出張とか何かだったんですか?」

 

「ん?ああ、実はそうなんだよ。エヴァ関連の調整事でユーロ、ロシア、中国にね。

同じ組織でも利権なんて絡んでくると、また面倒なんだな、これが。」

苦笑しながらも、何処か余裕の有る表情を浮かべた加持さん。

 

「お疲れ様でした。凄く長い間いなかった様な気がして。大変だったんですね?」

 

「…いや、実はな。中国の会稽にあるヴィレの施設で、エヴァMark12に搭載される、新しいAIの開発を手伝わされてたんだ。

そこの技術者がどうも変なこだわりが有るらしく、そのAIの声を頼むと言われて。

音声の提供をちょっとやらされてたって訳だ。」

 

「エヴァにAI!?どうしてですか?」

搭載コンピューターにAIを組み込むのかな?

 

「エヴァMark12は自立稼働型のエヴァンゲリオンとして開発されているらしい。

ダミーシステムと、開発されたAIコンピューター会稽零式を使ったパイロット不要の機体だって話だよ。」

まあ詳しくは俺も知らないんだけどな、と呟く加持さん。

 

 

そっか、Mark12にはパイロットが居ないのか。

 

 

無人のエヴァ、そしてダミープラグ。

それで思い出すのは、まるである種子供が持つ残虐性を見せ、獣の様な、人の様なエヴァンゲリオン。

 

エヴァンゲリオン量産機

 

AIによって制御されるということだが、果たしてそれがどこまで信頼出来るのか。

少し考えさせられる事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大量の瓦礫の上を歩きながら、辺りを見回す。

 

周辺には重機で瓦礫を撤去していく人々。

ニアサードインパクト発生から、既に1年が経とうとしてるのに、今だに防衛設備の建設どころか、周りに積もった瓦礫も撤去しきれていない。

 

 

ここはジオフロント。

その成れの果て。

 

今や巨大な大穴となっているそれを見下ろす。

穴の中も大量の瓦礫が存在するが、さらにその奥へと続く穴がセントラルドグマ。

あの奥にシンジ君が居る。

 

 

 

 

セントラルドグマへの降下と調査。

そして、さらなる封印の補強。

 

今回のミッションには、現存する全てのエヴァンゲリオンが投入される。

エヴァ2号機、エヴァ5号機改アイギス、エヴァMark6、エヴァ8号機、エヴァMark9、そして私のエヴァMark7。

 

セントラルドグマへの降下はMark6とMark7が担当し、その他のエヴァは有事の際の戦力として待機する。

 

 

『エヴァ両機、指定位置に到着。』

通信越しに聞こえるオペレーター、日向マコト2尉の声。

 

『では、Mark6、Mark7。ジオフロントへ降下開始。』

ミサトさんの許可の元、機体を降下させる。

重力を遮断してゆっくり降りていく。

隣に見えるMark6も同様だ。

 

やっぱりカヲル君も重力を遮断する程のATフィールドを展開出来るんだ。

なかなか自分の手札を見せないよねカヲル君って。

 

 

ジオフロントへの降下完了

その報告の為、一度ATフィールドを解除して通信を入れる。

 

重力を遮断する程のATフィールドとなると、通信すらも遮断してしまうのだ。

それ故に大気圏内での飛行時は通信不能になってしまう。

 

『二人共、セントラルドグマへの接近を許可します。気を付けて。』

 

 

瓦礫を潰しながら歩みを進めていく。

ジオフロントの地表より私は上を見上げる。

 

広く、高い。

エヴァに乗っていても地上部までの距離が高く感じる。

ジオフロントって、こんなに大きかったんだ。

 

 

セントラルドグマ。その淵へ立ち中を覗くが、ズームさせても奥が見えない。

まるで地獄への入口の様にも見える。

 

『両機、指定位置まで到着しました。葛城1佐。』

 

通信の画面に映るのは目を瞑るミサトさん。

『リツコ、準備は良い?』

 

『こちらは構わないわ、葛城1佐。』

 

『了解。以降、エヴァ両機との通信は、降下停止まで不通になるため、いざとなったら各々の判断に任せます。では…作戦開始。』

 

カヲル君と顔を見合わせる。

頷くカヲル君を見て、私はMark7を降下させて行く。

 

ここからは私が先に行き、カヲル君が後に続く。

 

 

使徒がセントラルドグマの隔壁を破った跡が続いている。

それにしても、なんなのだろうか、この破壊跡は。

 

爆発したような跡では無く、何かが溶かしたような…いや、まるで隔壁を砂状にしていったような痕跡。

 

 

ゆっくりと降りていく私だが、凄く緊張しているのか、少し手が震えている。

深呼吸して、精神を落ち着かせる

 

そろそろ封印位置のハズ。

しかし眼下には何も映らない。

 

 

 

いや、あれは…

ATフィールド?

黒いATフィールドの結界。

あれがシンジ君と初号機が施した封印。

 

 

光すらも遮断する、時間結界というべき代物だ。

 

 

目標を確認。そのように、上のMark6へハンドシグナルを送り、着地可能な場所を探す。

 

 

暫定着地可能地点を発見し、そこへMark7を着地させ、上のMark6を確認する。

 

Mark6は上方で既に着地している。

 

「ミサトさん、こちらMark7。封印を目視しました。」

 

『了解。ジオフロント班は既に作業完了済み。

エヴァ用降下ワイヤーと封印補強ツールを下ろすわね。』

 

「了解しました。待機します。」

待つこと数分でワイヤーと封印補強ツールが到着する。

 

ワイヤーに足をかけ、エヴァの手で降下の為のボタンを押す。

 

 

 

封印への接近。

それに伴い、補強ツールの中からアンカーボルトを取り出す。

このアンカーボルトは近くのATフィールドへの干渉を阻害する効果があるとの事だ。

 

僅かでも時間を稼ぐ為の悪足掻き。

しかしその僅かな時間が、運命の別れ目となるかもしれない。

その為の作業。

 

 

…近づいてきた、そろそろかな?

そう思った瞬間、急な変調が私を襲う。

 

 

何かが侵入しようとして来る、そんな感覚。

 

その感覚には覚えがある。

そう。最初にエヴァとシンクロしたときのアノ感覚だ。

 

 

『大変です!エヴァMark7より高エネルギー反応!』

 

『何ですって!ユウカちゃん!』

 

駄目だ!拒絶できない。私の中に何かが入ってくる!

あまりの気持ち悪さに、頭を抱えてしまう。

 

『この波長パターンは…間違いありません!

第13の使徒です!』

 

『何てこと、やはりMark7はまだ繋がっていたの!?』

 

『エヴァのAAシステムは?』

 

『作動してますが、侵食されています!』

 

『初号機の封印結界は!?』

 

『現在変化ありません!』

 

『時間結界が作用しててもなお、影響しているというの!?

ありえないわ!』

 

『センパイ!ユウカちゃんのプラグ震度が徐々に降下していきます!』

 

『不味いわ!早くせき止めて!』

 

『駄目です!シグナル受け付けません!』

 

『作戦中止!Mark7を上昇させて!』

 

『了解!』

上へ引っ張られる感覚。

しかしその瞬間、背中が引き裂かれるような痛みが私を襲い、そして背中の中から何かが伸びていくような、そんな感覚を覚える。

 

 

それと同時に、機体に奔る衝撃。

上へと動いていた視界と慣性が止まる。

 

急な停止!どうして?

そんな疑問から、身体がバラバラになるのではないかと思えるような痛みを我慢しながら上を見上げる。

 

そこに見えたのは、機体の背部より突き出た、機械の様な触手が4本。

それらがセントラルドグマの壁へ突き刺さっている。

 

 

 

な、なんなのあれ。

こんなのシラナイ…

 

 

唐突に、躰の中へ何かが入ってくる感触に苛まれる。

 

それはまるで無数の、小さな小さな虫に躰の中を食い散らかされるような…

皮膚や神経中を這う何か。

 

余りのおぞましさと、痛みに絶叫する。

 

 

『Mark7を現時刻でもって破棄!パイロット保護を最優先!プラグを強制射出して!』

 

『駄目です!シグナル受け付けません!』

 

『くっ!プラグ周辺の指向性爆砕ボルト点火させて!』

 

『了解!点火します!……駄目です!これはボルトが侵食されています!』

 

『まずいわね。彼女を逃さないつもり…。

しかし何故?使徒にとって、彼女は異物の筈なのに…』

 

『渚くん!Mark7を攻撃して。パイロットの保護を最優先。』

 

攻撃しようとするMark6に向けて、さらなる触手が展開される。

こんな狭い場所じゃあMark6がやられてしまう。

 

 

駄目だ!これ以上は好きにさせない。

『プラグ震度さらに降下!…これは、パイロットからのアプローチです!』

 

『やめなさい!ユウカ!それ以上は危険よ!』

もう、こんな時に赤木さんから名前で呼ばれるなんてね。

 

 

 

 

痛みに耐え、歯を食いしばりながら、プラグの奥を睨むように見据える。

 

幻なのかそこにヤツがいるのが見える。

 

私は、ワタシは…アナタなんかに負けないから!

 

掴みかかり、飛び込んだ私は、奴と一緒に底へ落ちていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に落ちるような衝撃、ごろごろと転がる身体。

 

……?

ここは、加持さんのスイカ畑?

起き上がり、ヤツに視線を向ける。

 

 

 

 

え!?あれは銀色のエヴァ?

まさか、エヴァ4号機なの?

どうして?

 

 

ふと気がつくと、私の身体はいつの間にかMark7に乗っていた。

でもスケールが違う。

畑に生っているスイカと比べるとエヴァが人間サイズになっている。

 

 

 

そうか…

ここは私の心の中。私の中でヤツと戦うのか。

 

 

ふと重みを感じた私の手には、いつの間にか一本の槍が有る。

 

見知らぬ槍。

刃が十字になった槍だ。

 

でも解る。これはワタシが創り出した物なのだと。

 

 

 

その槍を上段に構え、ヤツを見据える

ヤツは獣のような姿勢でこちらを警戒していた。

 

 

すり足で一歩前へ進めると同時に、ヤツの背部から生えた機械状の触手が襲いかかってくる。

 

それらを槍で切り払いながら、その勢いで身体を左に傾け、そのまま疾走し一気に距離を詰める。

 

私の動きに呼応して、更に展開される触手をATフィールドで薙ぎ払う。

 

 

 

四散する触手。

 

その残骸を私は、エヴァの顎部ジョイントを破壊し口を開けて捕食した。

 

 

Mark7に備わるとされる、侵食と生成 

まだ私はこの能力を習得出来ていないが、ヤツの持つ触手の様な物を見て、ふと思った。

 

多分、エヴァMark7はヤツそのものだったんだ。

新生し、抜け殻となった第13使徒アザゼルの躯。

 

そして、その残り滓。

 

シンクロしたときに私に触れてきたナニカ

そして私とワタシにより奥へと押しやられたモノ

それはアザゼルの一部だったモノ。

 

 

 

勝たなくちゃ…

 

目を瞑る。

そうすると、私の中に有る思い出が私に力をくれる。

今生の家族と過ごした日々、会えるとは思ってなかった人達との笑いあった日常、皆とした約束、賢明に生きる為に努力する人々の姿、そして今を一生懸命に生きている命。

 

 

 

想いを力に変える器、エヴァンゲリオン

お願い。

力を貸して、ワタシ。

 

 

目を見開いた私に、怯えたような様子を見せる敵の姿

呼応するように視界を埋め尽くす程の触手が迫ってくる。

 

 

ATフィールドを最大まで圧縮し、乱回転させて開放する。

乱回転に巻き込まれ、無数の触手が千切れ飛ぶ

 

私はヤツの体制を崩そうと、多重のATフィールドを展開しぶつけるが、同様に多重ATフィールドで中和される

 

 

 

 

シミュレーションでは無い、初めての殺し合い。

震える心の中にある臆病を燃やし、私は動く。

 

 

槍を回転させ触手を切り裂いていく。

連続で刺突を繰り出し、触手の再生をもろともせずに接近する。

近づく私に対して、ヤツは身体を起こし、腕を増やして掴みかかって来た。

 

 

間抜けめ!と、ヤツを嘲笑う

 

身体を起こしたヤツとは対象的に、私は体を深く沈め懐へと入り、ヤツの身体を真上へと蹴り上げる。

 

同時に、足に貯めていた侵食型ATフィールドを開放する。

上へと吹き飛ぶヤツを睨みつけ、自身が獰猛に笑っているのを自覚する。

 

槍を逆手に持ち、身体の向きを横へ

拡げた足と、槍を持つ腕へと渾身の力を込める。

 

「止めれるものなら、止めてみなさいよ。」

ATフィールドを槍に限界まで侵食させる。

 

翼を生やし回避しようとするが、もう遅い!

 

 

咆哮する私とワタシ。

全身の力を使い槍を開放する。

 

衝撃波を撒き散らし飛翔する槍が、ヤツの多重ATフィールドを紙のように突き破り、半身を削る。

 

敵の血が雨のように降り注ぐ。

 

回転しながら墜ちていくヤツに、私は飛びかかった

 

 

触れたところから徐々に侵食されていく

やっぱり侵食能力に関しては勝てないか。

しかし、そんな事は構わない。

 

完成された単体生物であるヤツにはなくて、私には有るもの。

 

 

 

それは捕食する事

 

 

私はMark7の口を開き、宣言する

「これで、終わりっ!」

 

そして、私はヤツの頭を噛み砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上する。

 

ここは?エントリープラグの中…

 

私、勝ったの?

まだ全身に痛みが残る。

 

 

誰かに抱き上げられている?

 

 

目線を上に上げると、そこに映っていたのは片側の眼球が潰れ、装甲がボロボロになった8号機の顔。

私が乗るMark7を横抱きにして、ワイヤーを使い、セントラルドグマを上昇している。

 

 

その上には、私が先程まで使っていた槍を持っているMark9が浮かび、上昇している。

…あの槍、なんで有るんだろう

 

 

通信ディスプレイが開き、私の目の前に、マリの顔が映る。

 

「ななちゃん。起きたの?大丈夫?」

 

心配そうな、いつもとは違う表情をしている

頷き、気になった事を聞く

 

「カヲル君は…?」

 

「下に残って、封印の補強作業中。後は渚くんに任せんしゃい。」

そっか。

良かった…無事なんだ。

 

 

それにしても、

「マリちゃん、無茶したね?8号機ボロボロだよ?」

 

エヴァの首を横に傾け下を見る。

片脚を無くし、全身の装甲がボロボロになった状態の8号機の姿。

無事な片脚をワイヤーにひっかけている

 

「こんなの、君が受けた苦痛に比べたら何てこと無いよ。

ななちゃん、還ってきてくれて、ありがとう。」

微笑むマリの姿を見ると安心する。

 

急な眠気、瞳を閉じる

「今はまだ、ゆっくりとおやすみ。」

そんなマリの言葉を聞きながら眠気に身を委ねた。

 

 

 

 

 

次に目を覚ました私は今、まるで棺のような箱の中に居た。

そして意識が覚醒したと同時に、下へとスライドして開いていく箱。

 

するとそこは、ガラスに覆われた部屋

ガラスの外には赤木さんと、伊吹さん。その他技術部の人達。

 

ガラスの外から赤木さんが、私にヒヤリングをしていく。

 

身体に変化はないか?体調はどうか?と。

 

 

「長門さん、貴女にとって辛い事を話さなければならないの。」

 

何となく解ってる…。

笑い、頷く私に、目を伏せる赤木さん。

そして口を開き、使徒に汚染されたのだと告げる。

 

既に全身を浸食されていて手の施しようがないらしい。

 

それでも私は、使徒に勝ったのだという確信があった。

それを言葉にすると、肯定するような事を返された。

 

「確かに、今の貴女から第13使徒の波長を、欠片も感知出来ないわ。それはMark7も同様にね。

…新たなる使徒の誕生、といったところなのかしら。

非常に興味深いわね。

まあ、それでも、油断はしないで頂戴。肉体面でも精神面でも不調をきたしたら直ぐに教えるように。

いいわね、長門さん。」

 

一度は名前で読んでくれたのに、また名字で呼ばれるのは寂しい。

「あの時は名前で呼んでくれたのに。」

暗い空気を吹き飛ばすように、わざとらしく可愛く拗ねてみる。

 

 

そんな私を見て驚く赤木さん。

「はあ、なんであんな時に、周りの事を認識する余裕があるのよ。貴女は…

わかったわ。ユウカと呼ぶわ。

私の事もリツコで良いから。」

眉間を指でほぐすようにしながらも、何処か嬉しそうな雰囲気。

 

「はい!リツコさん。」

 

「あ!先輩ズルいです。私もマヤで良いからね。ユウカちゃん。」

 

「マヤさん、ありがとうございます。」

人生山あり 谷あり。

些細な事だが、それでも今の私にとっては大事なことなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

隔離室より出れない日々が続く。

Mark7は現在凍結中、私の処置は現在上で検討中らしい。

 

 

殺すか、殺さないか。

 

 

以前の私なら、不安で仕方なかったかもしれない。

しかし、今は生死の瀬戸際だというのに何も感じない。

 

 

そう、精神は肉体から影響を受ける。

その事は、前々から実感していた事だ。

 

 

しかし、こうも顕著に変化していると不思議な気分にもなる。

 

 

使徒に汚染されてから、私は眠ることも、ご飯を食べることも必要なくなった。

 

肉体の強度や力も増している。

 

もはや人ではない、新たな使徒。

 

 

 

 

…今なら解る。

カヲル君や、新劇場版でのアスカの気持ちが…

 

自らの死というものが、こんなにも遠くに感じるのだ。

 

生きるということ、死ぬということ。

 

そのどちらにも同じ価値しか見いだせない。

 

ならば自分に残るのは一体何なのか…

 

それは感情だけだ。

本能という枷から開放された心。

 

だからこそ、希望に縋ってしまう。

痛がりの心を守るために、他人を欲する。

 

心を持ってしまった使徒の末路か…

 

そう、生と死は等価値なんだ。

心が死ぬか、身体が死ぬかそれだけの違いでしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はチルドレンの皆が全員来てくれた。

よく私と会う許可が降りたね。

 

「ななちゃん、ヤッホー!元気してる?」

変わんないな、マリは

 

「うん、元気だよ?皆は変わりない?」

そんな私の質問に各々変わりないことを伝えてくれる。

強化ガラス越しの面会。

ガラスに手を当て、少しでも私は皆に近づく。

 

「最近コネメガネが、特にうっとおしいのよね。

アンタ早くそこから出てきてコイツの相手して。」

 

「そうね、うるさいわ。」

 

「弁護の仕様がないよね、マリさんは。

毎日毎日、ユウカちゃんのことばかり喋ってるし。」

 

「あの、流石に真希波さんが可哀想では?」

 

「うそ!皆酷いんじゃにゃい?

優しいのは同志だけだとは。流石の私も傷つくよ〜?」

どうし?…もしかして、同じ志での同志?

何そのアダ名、いつの間に。

もしかして、山岸さん、本好きだからかな?

 

こんなやり取りをしててつくづく思う。

ここから早く出て、皆と居たいと。

 

「私も、早くここから出たいよ。」

切実な思い

そんなわたしの言葉を聞き、カヲル君が口を開いた。

 

「おや、聞いてないのかい?今日中、あと少しでここから出られるよ。」

 

驚く皆。カヲル君は…何でそんなこと知っているんだろ?

 

「渚くん、本当!?」

嬉しそうなマナの声が響く

 

「アンタ、何でそんな事知ってんのよ。

ガセだったら承知しないわよ!」

アスカは懐疑的だ

 

「それは、老人達がそうしたからさ。

だからこそ、僕らにも面会許可が降りてるんだよ。」

老人達…まさかゼーレ?

 

遥か昔からこの世界を裏から動かしてきた、秘密結社。

そして、ネルフやエヴァンゲリオンを用意していた組織、人類補完委員会そのもの。

 

私に価値を見出したということ?どこに?

イレギュラーを嫌うものと思っていたのに。

 

 

疑問も不安もあるが、ひとまずは笑顔を作る。

嬉しいものは嬉しい。

 

それに考えるのは後ででも出来る事だ。

皆も、カヲル君の言葉を信じたのか嬉しそうに笑ってくれる。

しかし笑顔になる前、マリだけが、カヲル君を少し冷たい目で見ていたような気がした。

 

 

 

カヲル君の話から少しすると、ミサトさんとリツコさんが来た。

ミサトさんは何処か、硬い表情だ。

 

「あら、皆来てたのね。

まあ丁度良かったかもね。

ユウカちゃん。長く拘束してごめんなさい。

今、扉を開けるわね。」

隔離室のドアの電子パネルにパスワードを入力するミサトさん。

開く扉。

久しぶりに空気の流れを感じる。

 

 

隔離室から出る私を抱きしめるマリ。

これ、私の匂いを嗅いでるな。

 

ようやく日常に戻れそうだ。

しかし、これまでとはきっと違う日常。

 

それでもいい。寂しさを感じないなら些細なことだ。

 

 

私達の前に立つミサトさん。

その手に持つ物を見て、私は固まる。

 

そっか、そうだよね。

 

ミサトさんを見上げる。

 

「ユウカちゃん。外に出る為に、どうしても必要な条件が提示されたの。

悪いんだけど、これを首に着けてもらえる?」

それを見て、表情を歪めるカヲル君。

 

「老人達は、それを着ける事を条件にしてなかったはずですがね。」

鋭い言葉。咎めるような目線。

そんなカヲル君にリツコさんが答える

 

「委員会では無いわ。その条件を出したのは国連よ。」

目を瞑るカヲル君。もしかして怒ってるのかな?

あのカヲル君が?

 

「そのチョーカーみたいなの、何ですか?」

マナがミサトさんへ質問する。

 

「これは、居場所を知るためのセンサーみたいな物よ。」

…嘘だ。本当の事を喋りたくないんだ。

それを着けさせる自分が嫌で

 

優しい人。だから仕事だとしても、嫌になるんだろう。

 

「ミサト、しっかりと伝えるべきよ。」

リツコさんの厳しい優しさ。

そのリツコさんの言葉を聞き、目を瞑るミサトさん。

そして、目を開ける。

 

「ごめんなさい。嘘付いたわ。

…これはDSSチョーカー。

ユウカちゃん。貴女が人類の脅威となったとき、貴女を殺すための物よ。」

 

次の瞬間、アスカにより叩き落されるDSSチョーカー。

「ふざけんじゃ無いわよ!こいつが使徒に汚染されたからって、何でこんな物!

ミサト、アンタこれを受け入れたの!?」

 

ミサトさんを睨みつけるアスカ、マナ、山岸さん。

「言い訳はしないわ。」

 

張り詰めた空気、少しでも対応を間違うと爆発してしまうのでは無いかと思えるような雰囲気。

 

 

私は一歩踏み出し、チョーカーを拾う。

誰かに着けさせるなんて事はさせない。

それは呪いとなって、その人を蝕んでいくだろうから。

 

だから自らの意思で首に嵌める

 

なんで、と誰かが呟く。

ミサトさんなのか、アスカなのか、マナなのか、山岸さんなのか。

いや四人共だったのか。

綺麗に重なった声は判別できなかった。

 

そんな驚く皆に向かって想いを伝える

 

「私は、私の意思でエヴァに乗ります。

だから、自分で着けました。

死ぬつもりなんてありませんから。」

 

人は自分の足で歩み出さなければ前には進めない。

 

 

 

 

 

久々の陽射し。

この体になって良かったことが増えた。

暑く無いのだ!

 

正直、常夏と化した今の日本では嬉しい誤算。

 

皆で地上施設の中を歩いていると、加持さんが誰かを連れて歩いている。

 

あっ!とミサトさんが引き攣っていた。

「まさか、ミサト。彼女が来るの今日だったの?

報告受けてないのだけど…」

リツコさんが怒っている。

こちらに来る加持さん。

 

「よっ!葛城。依頼通りちゃんと連れてきたぞ。」

ウインクする加持さん。これはミサトさんをフォローしてるな。気配りの出来る男はポイントが高いですよ!

 

「あんた、バカジャージじゃない。こんな所で何してんのよ。」

 

意外そうに声をかけるアスカ

 

「なんや、式波。久々っちゅうのにご挨拶やな。」

関西弁、やっぱり…

 

「鈴原君!久しぶりだね。覚えてる?霧島マナです。」

鈴原トウジ。

アニメ版だとエヴァ3号機に乗ったフォースチルドレンだった。

もしかして新しいチルドレン?

アスカ、マナ、山岸さんと話すトウジ。

綾波さんにも声をかけている。

 

トウジもマナや山岸さんがチルドレンになっているのに驚いていた。

 

「それじゃあ、紹介するわね。新しいチルドレン。」

折を見てミサトさんが声をあげる。

あれ?もう一人居る。私と同じくらいの身長だ。

 

「新しいお仲間。ナインスチルドレンの

鈴原サクラちゃんよ。」

 

 

…え?




読んでくださりありがとうございます。
今回はななちゃん、パワーアップ回



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〜破〜
嚆矢濫觴


一部、紳士の方に謝ります!
期待させてごめんなさい!!m(_ _)m

許してくだされ!


穏やかな風、暖かな光が差し込む、湖畔にあるベンチの上で、小型のキーボードを打ち込み端末へ情報を入力していく。

 

 

ここはジオフロント内に人工的に作られた場所。

気温、水温、そして気流までもが管理されている空間。

この陽射しすらもまやかしでしかない。

 

 

人類補完委員会か将来を見越して進めているMプラン。

その為に創られた世界。

 

 

 

私はこの環境が好きだ。

例え人の手によって創られた物だとしても、そこには暖かさがある。

 

データを入力しながら、何気なく端末に映る日付を見る。

 

そうか。

私が人でなくなって丁度7年が経つのか。

 

 

 

 

 

新生日

 

勝手にマリが作った記念日だ。

 

あの時は、もう成長する事が無いという、説明のしづらい現実を想像して、たまに顔を合わせる家族へどのように説明したらよいのかと、頭を悩ませていた。

 

 

しかしそんな悩みを嘲笑うかのように、すくすくと成長していく私の肉体。

 

この躰を構成するナノマシン型の細胞は、私に眠る人の遺伝子を読み取り、成長させていっているようだ。

 

都合のいい奴。と自分の躰に内心で語りかけた。

 

 

 

 

無機物、有機物に変化し自己増幅と侵食機能を有したナノマシン細胞。

 

それは光のような波と粒子の性質を併せ持つ。

表向きにはエヴァが持つ特有の因子によって制御可能なナノマシンとして、世間に知られている。

 

レガリア細胞という名前で。

 

 

しかし、その正体は第13使徒アザゼルの細胞が、人と混じり合って出来た代物だ。

 

 

 

 

…レガリア細胞の事を考えていたら、手が止まっていた。

 

今日中に、新しく来る作戦部の新人さん達の為に、エヴァの簡易資料完成させないといけない。

 

ある程度完成した資料を読み、間違いが無いかとチェックを行う。

 

 

 

 

 

 

 

〜部外秘〜

エヴァンゲリオンシリーズ簡易資料

 

エヴァ2号機改。

メインカラー︰赤

機能中枢は以前の2号機よりそのまま流用、大規模改修を行い素体の強化と、S2機関を搭載させた第一世代エヴァンゲリオン。

担当パイロットは式波・アスカ・ラングレー中佐

 

 

エヴァ5号機改。

メインカラー︰ダークグリーン

以前の使徒会戦において、第3使徒との戦闘にて自爆した封印監視特化型限定兵器 人造人間エヴァンゲリオン 局地仕様 仮設5号機の機能中枢を流用し、ほぼ新造に近いほどの改修を施したS2機関搭載の第一世代エヴァンゲリオン。

エヴァンゲリオン用強化外骨格・アイギス対応機。

担当パイロットは霧島マナ中尉

 

 

エヴァMark6。

メインカラー︰紺

旧ネルフ月面のタブハベースで建造されたエヴァンゲリオン。

製造方法、その他機体性能は、人類補完委員会の権限により開示不可となっているため、不明となっている。S2機関搭載型である事は確認済み。

担当パイロットは渚カヲル中尉

 

 

エヴァMark7レガリア。

メインカラー︰白亜

後発型実験機として開発された、エヴァMark7を改修し、レガリア細胞を全体に使用した、第二世代エヴァンゲリオン。

ヴェルテクスユニット改を搭載し、レガリア細胞の特異性である多重ATフィールドを展開できる、全領域対応型エヴァ。レガリア細胞によりすべての武装を使用可。

全身をコンピューター化させて演算機能を高めることにより、ソロモンシステムを使用する事が可能になる。

 

第二世代型の概要として、フィールド偏向制御装置とS2機関を建造段階から搭載した、後発機。

以降記載せず。

担当パイロットは長門ユウカ少佐

 

 

エヴァ8号機レガリアニコイチ型。

メインカラー︰ピンク

[主機直結型超電磁砲アダド]対応型、第二世代エヴァンゲリオン。

レガリア細胞素体を四肢に換装しているため、ATフィールドを同時に展開可能となっており、四肢限定ではあるが自己修復可能となっている。

レガリア細胞をエヴァに使用する際は、パイロットに特殊な適正が必要なため注意。

担当パイロットは真希波・マリ・イラストリアス中尉。

 

 

エヴァMark9。

メインカラー︰山吹色

ヴェルテクス飛行特化ユニットを搭載した第二世代エヴァンゲリオン。

素体接続式外部生体ユニット ヘカトンケイル、通称[ヘカトンケイルユニット]

ヘカトンケイルユニットにより増やした腕素体を直接改造し遠距離兵器とした[天使の背骨]を装備。

重粒子を弾丸とするため実質、残弾を気にせずに運用可能。

上記天使の背骨は、その性質上たやすく生産、換装が出来ないため、他エヴァンゲリオンへの装備は現実的では無いと明記する。

担当パイロットは綾波レイ大尉。

 

 

エヴァMark10。

メインカラー︰ガンメタリックグレー

第二世代エヴァンゲリオンとして開発されていたが、葛城ミサト准将の発案により、超弩級空中生体戦艦シャマシュの主機として運用される。

四肢を船体と直結させているため通常運用は不可。

回転座式エントリープラグを使用し、あらゆる体勢での長時間運用を可能にしている。

 

追記

空中生体戦艦シャマシュ:全長3000メートル、最大幅400メートル

 

レガリア細胞を使用して、廃棄されたエヴァの残骸を再利用しキールを作成。

船体構成はエヴァの素体を流用した生体4割、機械6割となっている。

 

動力

エヴァ4機分のS2機関を搭載

 

艦載装備

簡易式超電磁砲アダド14門

天使の背骨2門

多連装ミサイルランチャー8機

広範囲ATフィールド中和装置エンキ

全対応艦載コンピューターシステム・ナブー

 

艦載機

下記参照

担当パイロットは山岸マユミ大尉。

 

 

エヴァMark11。

メインカラー︰藤色

特装型義足装備及びヴェルテクスユニット改を搭載した第二世代エヴァンゲリオン。

特装型義足により、水上・水中での運用に対応。

ヴェルテクスユニット改を使用して航空運用も可能。

刃状の両義足のため、地上運用に注意されたし。

担当パイロットは鈴原サクラ少尉。

 

 

エヴァMark12。

メインカラー︰黒

AIコンピューター会稽零式とダミーシステムを使用した自立稼働型の第二世代エヴァンゲリオン。

4本の腕を持つ、ケンタウロス型の機体のため、エヴァンゲリオン専用エアーキャリアー対応外となっている事に注意されたし。

 

 

エヴァンゲリオン・ウルフパック

メインカラー︰蒼銀

統合AIコンピューター・レギオンを使用して集団運用を最適化。

戦艦シャマシュに格納されるため、小型化する為に犬型のエヴァとなっている。

最大格納数12機。

狼の特性をインストールされており、命令はリーダー権限を持つ戦艦シャマシュにより行われるため、山岸マユミ大尉に一任される事に注意されたし。

無人運用をコンセプトとした第三世代エヴァンゲリオン。

 

 

エヴァンゲリオン・ウルトビーズ

メインカラー︰青

エヴァMark7レガリアをベースに、レガリア細胞によって複製し、エヴァMark7レガリアの搭載システム・ソロモンによる、遠隔操作によって運用する機体。

システムとシンクロによる操作のため、Mark7行動時は細かい戦術に対応出来ないため、注意されたし。

第三世代エヴァンゲリオン。

 

 

エヴァンゲリオン・フォロー4型シリーズ

メインカラー︰グレー

通常のエヴァンゲリオンと違い、生体部品を最小限に抑え、身体の大部分を機械化にすることによりパイロットに必要な適性を低くしている機体。

ダミーコアシステムを搭載し、パイロットの交換を簡略化。

パイロット単体運用では機械部品とのシンクロに大きな負担がかかるため、メインパイロットとコパイロットのデュアルシンクロにより、負荷なく操作可能となっている。

動力源はN2リアクター。

機械部品が多い都合上、S2機関は搭載不可。

簡易量産型をコンセプトにした第四世代エヴァンゲリオン。

 

 

エヴァ・フォロー4型Aタイプ

上記機体、地上砲撃戦特化タイプ。

上半身は通常タイプと差異がないが、下半身は車輪のついた4本の脚部となっている。

 

エヴァ・フォロー4型Bタイプ

航空戦を可能とした第四世代エヴァンゲリオン。

その性質上、パイロットの資質が高くないと操縦不可となっている。

航空能力をつけるため生体部品の割合を多くしており、細かな調整が必要な為、パイロット専用機での運用である事に注意されたし。

 

 

以上エヴァンゲリオンシリーズ簡易資料となる。武装については別紙参照。

 

 

 

 

 

 

 

 

…これで、良いかな?

 

 

私がまだ小さかった時、書類仕事なんてしたことが無かった。

 

本来、任務を終えた後は、その内容を書類にまとめる必要があるはずなのに、今までどんな任務を終えても報告書を書く必要が無かった。

 

それは全てのナンバーズがそうだった。

何故なら、作戦部のスタッフがそういう雑務をしっかりと肩代わりしてくれていたからだ。

せめて、少しでも私達の負担を無くそうという心遣い。

 

ミサトさんが上司で良かった…

 

 

 

 

昔の事を思い出しながら、上を見上げる。

 

映るのは人工の光と、ジオフロントの天井。

このヴィレ本部施設が出来たのは、今から3年程前だったか。

 

 

昔は階級なんて付いてなかったのに、ちゃんとした軍事組織となってからは階級も統一され、色々と変化もあった。

 

ヴィレは同時に研究組織でもあるし、司令の特色なのか、他の軍事組織よりも緩いところが有るから、独特な空気を持っている。

 

そういえば、チルドレンからナンバーズへと呼び方が変わったのも同じ位の時期だったかな?

いや、もう少し前だったか。

 

確か、エヴァフォロー型が開発され始めた頃からだったはず。

パイロットが増えすぎて番号を付けるのが大変だったからとか。

 

 

…エヴァフォロー型か。

あの頃は忙しかったな。

リツコ先生とマリと私で、一生懸命に開発したのが昨日のように思い出せる。

 

睡眠を必要としなくなった私はまだ良かったけど、リツコ先生なんかは常時寝不足が続いていた時期もあった程だ。

試作4機目でようやくの目処が付いた時は、技術部総出でパーティーを開いてしまったくらいに大変だった。

 

 

 

そういえば、誰だったっかな?

フォロー型Aタイプを、第四世代4型Aタイプだからフォーツーエーなんて呼んだの。

 

ミサトさんだっけか?

 

新劇場版のあれとは似ても似つかないのに、そんな呼び方って無いよ。頑張ったのにさ…

 

しかもその呼び方が定着しちゃったし。

 

 

 

その他にも、時間が無いからって、このヴィレ本部施設とジオフロントの再建、それとセントラルドグマの防衛の要であるバビロンシステムをレガリア細胞で作れだなんて。

 

委員会は何を考えているのか。

アザゼルの封印を防衛している設備に、アザゼル由来のナノマシンを使わせるなんて。

 

危機管理がなってないよ。リスクが高過ぎる筈なのに。

 

 

 

次々と脳裏をよぎる過去の思い出。

一つを思い出すと数珠つなぎの用に記憶が蘇る。

 

 

色々大変だったけど、楽しかったんだ、本当に…

 

 

 

 

 

携帯端末を横に起き、ベンチより立ち上がる。

 

 

湖畔を覗く私。

そこに映るのは私の顔。

そして、金色の瞳。

 

それは、ナノマシン型の細胞の弊害。

 

いつかリツコ先生にも言われた

もはや、躰全体がコンピューターのように成っているって。

 

 

ふと、目の前が真っ暗になる。瞼に触れる人肌。

 

「だ〜れだ。」

 

「誰だろうな〜。マナかな?それともサクラ?」

解っているけど、あえて答えない。

 

「ヒント。胸の大きな良いオンナ。」

自分で言うのか。それじゃあ私も

 

「う〜ん、長門ユウカって名前だったりしない?」

 

「むむ、確かにしっかりと育っておられる。

しかし、偽物の可能性も。

触って確かめるかニャ!」

視界を塞いでいた物が、下へとズレる。

胸を触ろうとする手をペシっと軽くはたく

 

「良いではないか、良いではないか。」

振り向いた私の前には、厭らしく手を動かす、眼鏡の少女。

真希波・マリ・イラストリアス

 

その少女が、出会った時から少しも変わらない姿でそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

人造人間エヴァンゲリオン。

 

それはパイロットに特殊な条件を求める対使徒兵器の名称。

セカンドインパクトの後に生まれた人間にしかシンクロ出来ず、素質の高い人間、適格者でしか動かすことが出来ない。

 

 

そのエヴァンゲリオンには心があると、パイロットは言う。

 

パイロットがエヴァを求め、エヴァがパイロットを求める。

その過程でエヴァからのアプローチにより、パイロットは、エヴァの求める姿になっていくのかもしれない。

 

誰かが言っていた、エヴァの呪縛。

 

 

初めて会って何年も経つのに、姿の変わらないマリ。

アスカも、マナも、マユミちゃんも、カヲル君も、綾波さんも、少しだけ成長しているが、年齢相応とは言えない若さを保っている。

しかし小さかった私とサクラは無事に大きく成長している。

 

 

 

 

隣で歩くマリを見ながら、目を細める。

本当に違いが無いのか、気になる…

電脳内に昔の写真を投影して見比べてみた。

 

…髪の長さしか変わらないや。

 

「そういえば、ななちゃん。

イスラエルの反乱がようやく鎮圧されたってさ。

ほんと連中も危機感ないよね。」

思い出したかのように話を振るマリ。呆れるように肩をすぼめている。

 

「エヴァフォロー型の実装のせいなのだろうね。

自分たちでもエヴァを揃えられる。

だから、自身の力だけでアポストルを撃退出来るであろうという勘違い。まあ、その考え自体が米国の差金だよ。」

 

「ヴィレへの依存が面白く無いと。

世界のパワーバランスに敏感な所は、本当にあの国は変わんないね〜。

イスラエルを焚き付けてヴィレの戦力を偵察するとは、しゃらくさいにゃ。」

 

「イスラエル周辺に配備していたフォロー型の全滅と防衛設備の全壊。

進んでいた第5次防衛計画が白紙だよ。ミサトさんも大変だ。」

 

「荒れてたよね〜。冬月先生もカンカン!」

 

「まあ、私達も少しだけやり過ぎたかな?」

 

「姫も、ななちゃんも容赦なく暴れたからね〜。

ついたアダ名が赤い悪鬼と、白い悪魔か…

味方からは赤き戦乙女と白衣の天使だってさ。」

にやにやと含み笑いをしてるマリ。

 

「やめてよね。そういうあだ名は好きじゃない。

…それにしても勿体ないよね。反乱に加担したとはいえ、フォロー型Bタイプの航空団の全滅は。

精兵である敵パイロットも処理命令なのだから、上の人達も容赦ないよ。」

 

「まあ反乱に加担した時点でギルティ。しゃあない、しゃあない。

そういえばさ、反乱の際に押収した、あのサメみたいな顔のエヴァはどうなった?」

 

「現在松代に移送して、精査中。

向こうの技術部に一任してるよ。

まあざっと調べた感じでは、第一世代のエヴァンゲリオンに近いみたい。」

 

「ほうほう!ってことはパイロットはどうするつもりだったのか…。宝の持ち腐れとはこの事ね。」

 

「アポストル侵攻まで、後どれくらい時間が有るのか分からないというのに頭の痛いことだよ。

最悪の場合は、日本以北とユーロ方面の防衛戦略にシフトする必要が有るかもね。」

 

「防衛プランCの33か…。そうなったらワンコ君補完計画の妨げになりそうだにゃ。」

 

舌打ちをする私。リリン同士の争いとかバカバカしい。

 

「あ、そういえばマスコミがまた、施設出入り口にたむろしてるって、サクランが言ってたよ。」

思い出したかのようにマリが話題を変える。

マスコミ?最近多いな

 

「サクラ?外に用事あったの?」

 

「ジャージくんが来てたから、送って行った時に見たらしいよ。」

 

「鈴原さん、また来てたんだ。ヴィレの採用試験に受かったんでしょう?」

 

「まあ、サクラン最近気落ちしてるから。」

 

「人を殺した。そのことに悩んでるんだね。」

 

「反乱鎮圧は急務だったとはいえ、まだ16歳。悩みもするか。」

 

人を初めて殺したのは、殆どの皆がそうだったと思う。

でもサクラ以外に悩んでいる人は居なかったな。

悩むのが普通なのに、私達エヴァパイロットは何処かハズレているのかもしれない、

 

 

ちなみに、私は何も感じることが無かった。

あったのは、将来の戦力が減ってしまった事への、残念という気持ちだけ。

 

段々と人だった時との差異が、浮き彫りなっていく。

 

 

傷ついたサクラに寄り添うことは出来る。

しかし、今の私にサクラを理解する事は、きっと出来ないのだろう。

 

 

 

 

 

 

マリと一緒に食堂の席へ着く。

 

私のご飯はかつ丼大盛り。

マリはローストビーフ丼。

 

本来、今の私は食事をする必要がない。

しかし、私が人で無くなったのは最高機密となっている。

 

 

だから、これはアピールみたいなものだ。

 

カヲル君と同じく、人であると周りに認識させる為の行為。

 

人から外れた行動は少しでも取らないように注意されている。

だから寝れなくても夜は部屋にいるし、食堂も利用する。

排泄物は出ないのに、たまにトイレにも行く。

汗はかかないから、あまり運動はしないようにして誤魔化している。

 

 

それにしても、かつ丼。うまうま…

消化の機能が無いから飲み込んだ物は、これもレガリア細胞を使い分解処理をしている。

 

それ故に、私は周囲から結構食べると認識されている。

まあ、食べても全然お腹が膨れないからね…

 

かつ丼に舌鼓を打っていると、頭の上から声をかけられる。

 

「ホント、色気の無い食事ね。

ユウカ、あんたも15歳なんだから、少しはそういうの気を使いなさいよ。」

 

目の前に現れるハンバーグ定食。

自然な動きを意識して、箸でハンバーグを摘もうとするも、避けられる。

 

「ユウカ、アンタいい度胸じゃない?」

不敵な笑みの少女。

式波・アスカ・ラングレー。

はじめの記憶よりも、身長も伸び、胸の大きくなった少女。

少し成長してる彼女だが、決して22歳の女性には見えない。

 

「お姫!おつかれサマンサ〜。

会議、少し長引いたんじゃない?」

ローストビーフを箸でヒラヒラさせながら挨拶するマリ。

行儀悪い。

いや…人のことを言えなかったや。

 

「アスカおつかれ。そのハンバーグ美味しそうだね。全部頂戴?」

ハンバーグ凄く美味しそう。

 

「い、や、よ!いくら食べ盛りでも食べすぎよ、長門博士さん。あまり運動しないんだから、太るわよ。」

 

「失礼ね、適正体重の範囲内だよ。

…アスカこそ、油断してると碇さんに会ったときに、困るんじゃないの?最近書類仕事が増えて、身体動かしてないでしょ?」

 

「んなっ!なんでそこでバカシンジの名前が出てくんのよ!」

真っ赤になるアスカ。

やっぱりアスカをイジるときは碇さんの話題に限るね。

 

「おやおや、真っ赤な姫は、囚われの王子様に夢中のようだにゃ。」

ヒューヒューと囃し立てる私達。

真っ赤になりながら、身体を縮こまらせ、ハンバーグを摘むアスカ。

そこで逃げないアスカのプライド。

何だろうこの式波さんは…。かわいいね

 

 

「お!アスカ、マリ、ユウカおっはよ〜。」

元気が形造っているような高校生ぐらいの茶髪少女。霧島マナ。

彼女も初対面の時より少し大人っぽくなっている。

「榛名っち、もうお昼だよ〜?寝てたの?」

 

「非番だから許して〜。」

榛名っちというアダ名に慣れ、訂正を諦めているマナ。

そんな彼女のご飯は、リゾットとフルーツにサラダ。

 

な、なんて女子力!?

そんなんでよく訓練であんなに動けるよ。

 

「マナ、まさか目覚まし壊してないよね?」

私の直した目覚まし

 

「……あはは、…ごめん。」

 

「アンタ、また壊したの!?これで何回目よ。」

呆れるようなアスカの表情

 

これでも、任務には全く遅れる様子がないのが、マナの凄いところ。

 

「そんで他の皆は?」

マナが疑問に思う。

 

「綾波さんは、今は宇宙。カヲル君は、委員会に呼ばれてるし、マユミちゃんは、エヴァに乗ってウルフパックの訓練。サクラはMark11の調整が長引いてるらしいよ。」

 

「サクラ、大丈夫かな?最近精神的に揺れてるよね。」

マナが心配そうにしている。

 

「そればかりは仕方ないわ。時間がまだあるかどうか、それを祈るだけよ。」

リーダーとしての顔をしたアスカが呟く。

 

時間が心の傷を癒やす。

人は忘れる事により生きていける、か。

 

 

 

 

 

ご飯を食べ終えた私達は、食堂の出入り口に向かっていた。

この後は各々予定がある。

別れる前に、こちらへ歩いてくる見知った人影が見えた。

…加持さんだ。

 

「こんにちは加持さん。」

 

「やあ皆。お疲れ様。

ご飯は食べたかい?」

 

「食べました!加持さん、リョウト君元気?」

マナが元気に聞いている。

 

加持リョウト君。

ミサトさんと、加持さんの息子さん。

実際に会ったときは無いが、しょっちゅうミサトさんから写真を見せられている。

ちなみに二人は、結婚していない。

まあそれでも一緒に過ごす時間を何とか取っているみたいだ。

 

「ああ、元気だぞ〜。今はエヴァのフィギュアに夢中さ。」

エヴァのフィギュア。

ヴィレで出しているからか、一通り見たけど凄いクオリティだった。

 

「あの子の一番人気は、ユウカちゃんがデザインした、白いウナギみたいなエヴァだな。」

 

何と…、お遊びでデザインしたあの量産機が。

「よく、あのウナギ見たいな頭のエヴァに、2号機がやられてるけどな。」

そ、そっか〜

 

…アスカ、目を押さえてどうしたの?

え?目に埃が?ほら目薬だよ

 

 

 

 

唐突に赤く点滅する館内。

壁面に展開される電子ディスプレイが緊急事態を告げている。

 

『総員、第一種戦闘配置!対アポストル迎撃戦用意!』

『これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練では無い!』

 

驚きを現すマナ。

真剣な表情でディスプレイを見る加持さん。

「…遂にこの時が来てしまったか。皆、後は頼んだぞ。」

私達を信頼したようには見つめている加持さん。

 

頷き、走る私達に、道を譲るように別れるヴィレスタッフ。

敬礼する者、声をかける者、こちらを見て首肯く者、不敵な笑みを浮かべる者。他者多様である。

 

「まったく。いつも奴らは唐突だにゃ〜。」

 

「うう、ちょっと緊張しちゃうな。」

 

「ミサトさんはどうするんだろうね?」

 

「はん!今更使徒なんて、どうってこと無いわよ!

たく、ミサト!さっさと通信開きなさいよ!

え…何!?タスクAAA!?

アンタ、やっぱりイカれてるんじゃない?」

 

いきなりタスクAAA!?

 

初実戦だってのに。

ミサトさん、やっぱり動く時は大胆が過ぎるよ。

 

 

 

「エヴァパイロット全員に通信繋いで。

 

OK!?全員聞こえてるわね?

それじゃあ行くわよ、アンタら。

覚悟はいいわね。

 

ナンバーズ、アッセンブル!!」

 

 

これ言ってみたかったのよね、と残るアスカの声。

 

 

 

はいはい、キャプテン・アメリカさん




唐突に時間が飛んですみません。
あれ以上は蛇足感が出たかなと思いこんな感じに。

もしかしたら序章の外伝とか、後々出そうとは思っています!




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轗軻不遇

グロ要素あります!
ご注意ください。

短めですm(_ _)m


エヴァMark7レガリアのエントリープラグに乗った私は、インテリアに腰を降ろし、身を委ねる。

 

「プラグ内、LCL注入。電荷後シンクロスタート。」

音声入力に反応し、自動的に起動準備を始める機体。

注水されたLCLを肺に取り込み、シンクロの為に心を開放する。

シンクロが完了し、起動準備完了を表示した電子ウインドが現れる。

 

 

「エヴァMark7レガリア、起動。」

私の声を聞き本格起動に至る、エヴァMark7。

 

ATフィールドを展開し空中へ浮遊。

その場でジオフロント内を見渡す。

 

巨大な人工湖に浮かぶ、ヴィレが所有する空母打撃群6、戦艦8隻、4隻の黒いNHGである、ブーセ・エアレーズング・エルブズュンデ・ゲベート。

そして、その中心に旗艦であるAutonomous Assault Ark ヴンダー[通称AAAヴンダー]が視界に入る。

 

 

 

アポストルの推定進行目標は南アメリカ大陸南部、アルゼンチン、旧チリ国内である。

ミサトさんが発動した作戦コードタスクAAAは、ヴンダーを旗艦として、戦艦4隻と空母打撃群4を随伴、エヴァMark12を除くエヴァ各機をアポストルへの戦力として割り当てる攻撃的な作戦コード。

 

残りは本部防衛として即応待機となる。

 

 

起動段階に入るヴンダー。

『全艦、発信準備!主機、点火準備!』

ミサトさんの号令がかかる。

『重力バラストを準備。』

続けてミサトさんが指示を出していく。

 

『了解。全ベントをチェック。』

オペレーターがミサトさんの指示に応えていく。

『LCLガス充満。電化密度クリア。』

 

 

『エントリースタート。』

リツコ先生の声で、ヴンダーのブリッジのスクリーンが光を放って起動する。

ブリッジの視界を覆う程の巨大な画面は、次々と情報を映し出していく。

『LCL、電荷状態は正常。各演算総合システムをスタート。』

 

『操艦系切り替え。』

ミサトさんは次の指示を出して行く。

『了解。時空間制御を開始。立体指揮操舵に移行します。』

 

『転換と同時に、ATフィールドを展開。』

と、ミサトさんが続ける。

 

『システムオールグリーン、行けます!』

その応答と同時にジオフロント上部隔壁が開いていく。

 

広がる空間。

空より降る天気雨は上空に虹を作っている。

 

『では行くわよ。…ヴンダー、発進!』

 

 

湖面をかき分けて、ヴンダーが持つその双つの船首が、ゆっくりと浮上する。

その船体の大きさは、並ぶ空母と比べても10倍を越えていた。

 

時空間制御によって空中に浮遊する艦隊。

その中心で、鳥のような主翼を広げるヴンダー。

船底に2つの光輪を発しながら上昇を続け、ヴンダーを中心とした陣形を組む。

そこに、野外でウルフパックの訓練を行っていた、エヴァMark10シャマシュが合流する。

 

地上型のエヴァは各々船に乗り待機。

 

空戦型のエヴァはそれぞれ配置に付き艦隊の護衛をする。

 

ちなみに私は先頭配置。

自らの眼前でウルトビーズ8機に、両方向の斜めに連なる隊形を組ませている。

 

そういえば初めの頃は、大気圏内で飛行しながらの通信が出来なかった事を思い出す。

現在は光波通信を確立した事により飛行中でも通信が行えている。

 

 

 

 

 

 

 

広大なATフィールドを用いた時空間制御により、数年前では考えられないような速度で空を進む私達。

このままなら開戦前には余裕で間に合うだろう。

 

 

観測されたデータから見るに、アポストルは南極から水中を通ってアルゼンチンへと移動しているらしい。

尋常でない程の数の動体反応を検知しており、観測されたエネルギーから、およその敵単体戦力を計算したところ、戦闘シミュレーションでのグレード3相当とのことだ。

 

 

グレード3相当ならフォロー型でも苦戦しない筈だ。

しかしそれは、一対一の戦いの話である。

 

 

 

 

私達は遂にエヴァ降下予定位置に到着する。

しかし、地上部隊が一向に降下しようとしない。

どうしたのか聞こうと、私は通信を繋いだ。

 

 

…あら、皆お揃いで。

『どうしたの?何で降下しないの?』

そんな私の質問に、イライラしたアスカが答える。

『アメリカよ。あいつら、自分たちで迎撃出来るからって言って、参戦許可を出さないのよ。』

 

『ちょっと〜、何で初戦からそんな事言ってるの?迎撃出来るかなんて分かんないじゃん。』

呆れるマナ。言葉を聞くに、マナも同じタイミングで通信を繋いだようだ。

 

それにしても、グレード3相当と言っても、敵の数は、こちらを凌駕している。

敵の能力も分からないうちから勝てると思うだなんて、恐らく軍人の思考では無い。

 

『そもそも、そんな勝手が通るんですか?』

マユミちゃんが疑問に思う。

 

『もっともらしい事を言ってんのよ。

最大戦力である本部戦力の温存と、これが陽動だった時の備えとして。だそうよ。』

呆れ顔のアスカは、溜め息をこぼす。

 

『委員会は?』

私の疑問にはカヲル君が答える。

『静観しているよ。老人達にとっては、彼らよりも優先するモノがあるのさ。』

淡々と答える。彼にとってもどうでもいいことなのだろう。

 

『なんやの、それ。ホント堪忍やわ。』

ボソッとした声で心の内を吐露するサクラ。

精神的に辛い状況で、上がごたごたしていては頭にもくるだろう。

 

『あの人達、このままでは死ぬわ。』

天使の背骨を構えアメリカ連合軍を眺めながら、呟く綾波さん。

…そうかもしれないね。

 

 

 

 

それにしても、人類補完委員会。いやゼーレの動きが読めない。

ここにきてアメリカに釘を刺さないなんて。

委員会として一言言えば解決する話なのに。

 

一見ヴィレを牽制しているようにも見えるが、現在のヴィレの戦力、権力は委員会が協力にバックアップしての結果だ。

現にゼーレの影響力の強いユーロ、ロシア、中国からの支援は尋常ではない。

 

それに、組織の中枢に位置するようになった今なら分かるが、委員会の権力は常軌を逸するほどの力を持っている。

 

資金力も、国家予算並みの資金が委員会から流れてきている。

特にレガリア細胞関連に至っては顕著である。

まあ、そんなバックアップのおかげで能力を操れる様になったのはありがたいが。

 

以前のイスラエルの反乱も、委員会なら事前に潰せたのではないかと私は思っている。

 

イスラエル。アメリカ。

どれもアポストル迎撃に必要な戦力な筈なのに、なぜ無駄にするような真似を?

 

『皆、今しがた委員会から別命有るまでの現状待機を命じられたわ。

祈りましょう。彼らが勝つことを。』

苦虫を潰したような表情のミサトさんより通信が入る。

祈るだなんて、ミサトさんらしくないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗み聞く通信越しから聞こえる悲鳴と怒声。

私は遠く離れた上空より、最大望遠にて戦場を眺めている。

 

 

アポストル上陸より既に20分が過ぎている。

味方は地上戦力の3割を失っているが、未だに敵第一波の撃滅には至っていない。

敵の航空戦力が無いにも関わらず、不利と言わざるを得ない状況だ。

 

 

最前線は混迷を極めている。

第二陣までの陣形を崩され、敵味方入り混じった酷い混戦となっているため、航空支援をうまい具合に行えていない。

 

敵後方への爆撃等はATフィールドの中和が出来ていない為、効果無く。

N2兵器による攻撃は若干の効果が有るが、効率が良くない。

密集地点に攻撃を加えても、重なった敵のATフィールドによりブロックされてしまう。

 

 

視界には今も、一機のフォロー型が敵三体に組み付かれているのが見える。

 

 

 

花の蕾の様な形状の頭、ゴリラの様な体躯に、先端に鳥類の足のように物体を鷲掴み出来る部位を持った尻尾。

蕾の様な頭が開くと、そこに覗くおぞましい様相の捕食機関が覗く。

 

これがアポストル…。人類の敵か。

 

 

 

組み付かれた機体は既に機械部品をバラバラにされており、生体部品を捕食されている。

 

エントリープラグ周辺が潰されていた。

あれではパイロットが脱出できない。

 

響く悲鳴。助けを呼ぶ声。

二人のパイロットが泣き叫んでいるのが聞こえてくる。

 

おそらくシンクロをコントロールする本営のシステムがクラッシュしているのだろう。あんな状態でも未だにシンクロが続いたままだ…

機械部品の含有率が通常のエヴァよりも遙かに多いフォロー型は、その性質上コンピュータによる制御アシストのキャパシティが多分だ。

そのためシンクロのコントロールは、最寄りの発令所により行う事になっていた。その弊害が地獄を生み出している。

 

見ればリアクターも破損しており、既に自爆の機会を失っている。

 

生きながら食われる感覚。

 

あの痛がり方からして、高シンクロ状態。

しかしフォロー型の特徴からしたら、高シンクロなのは本来の機能から逸脱しているのだ。

恐らくは、フォローに搭載されている、フィードバックの抑制システムを規格外のシステムか何かで無効化しているのだろう。

それと戦闘力を高めるための、シンクロドーピングが影響してるのか…

 

 

 

 

 

戦場のあちこちで似たような地獄が繰り広げられている。

 

一部英雄の様な活躍をする機体も見受けられる。

しかしそんな活躍も、あっという間に劣勢という波にのまれていた。

 

 

戦場全体を見回すと敵の数が少なくなっている。

ようやく終わるのか。

 

敵の第一波が…

 

 

 

 

 

戦闘力損傷率6割、軍事的に言えば全滅。

このままいけば地上戦力の壊滅は必至か…

敵第二波の推定戦力は第一波のおよそ1.5倍。

 

 

…まだプライドが折れないというの?

 

それにしても、44Bを地上に降ろすなんてバカな真似を。

空中戦力を地上に降ろすなんて。

空中ではあまり役に立ってなかったといっても44Bは精兵なのに。

通信では私達への恨みの声が混じって聞こえてくる。

 

高みの見物か。

 

 

 

漸くアメリカ軍の司令部に動きが見えてきた。

今しがた、軍上層部が、私達が参戦してこない理由を現場に伝えているのが聞こえてくる。

 

それは軍部の離反を意味していた。

しかし、遅きに失した感じが否めない。

まあ第二波だけでもどうしようもないのに、その後に第三波の襲来を検知しているのでは無理もない。

 

 

 

 

海岸に蠢く巨大な影。

もう、見えてきている。敵の第二波だ。

接敵まで時間が残されていない。

 

迫りくる敵の波に立ち尽くす姿の兵士、パイロット達。

 

外部通信へ怒鳴り散らしている将校も呆然としている。

 

 

海面から姿を表したのは、

エヴァの二倍以上の体躯を持つ新種のアポストル。

首から上が無い巨人の姿。

先ほどと同種の敵の方が圧倒的に多いが、それでも決して少ないわけではない。

 

通信より聞こえる祈りの声や、神を呼ぶ声。

それらは絶望とあきらめを表現しているようだった。

 

 

 

 

……。

私は、周りに浮かぶウルトビーズを分散させる。

そして握っている槍を敵の方向に突き出し、ATフィールドを全力で展開した。

 

『ユウカ!?』

ミサトさんの驚いた声。

 

意思と魂の槍、アルべス。

私の思いに応えて、エネルギーとATフィールドを増幅させるという機能を持つ、レガリア細胞によって作られた最初の槍

 

増幅されるMark7のATフィールドとエネルギー。

瞬時に高度を上げ、機体を翻す。

『目標、8号機の誘導レーザーポイント。マリちゃん誘導よろしく。』

 

『ガッテン承知!!』

私の無茶振りに即座に答えてくれるマリ。

 

『目標確認。ポイントそのまま。ヨーソロー』

 

まさかっ!と言い端末に打ち込むリツコ先生。

ちょっと!と静止しようとするミサトさんの声を尻目に、嵐のように吹き荒れるエネルギーを利用して、急速落下時の運動エネルギーにブーストをかける。

 

『爆砕推定規模、直径42万、ジオノイドマイナス1万5千レベルよ。』

素早くミサトさんに報告するリツコ先生。

 

機体が地面へと接触する瞬間、増幅し溜めていたATフィールドを展開し、広大な範囲を持つ結界を作る。

その結界内を走る衝撃波は、内部に居たアポストルの第二波と第三波を粉々にする。

 

走る轟音、視界を埋め尽くすのは輝く私のATフィールド。

 

静寂ののちに残ったのは、赤い霧のように舞ったアポストルの血液と、降ってくる大量の肉片だった。

 

後ろを振り向く私の視界には、先ほどまでと変わらぬ姿の地上部隊とジェリコの壁が存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

アポストル第四波に対し、ヴィレにより再編された地上戦力が対峙する。

そこにUN軍も部隊を展開。

そこに国連が指揮権を持つ、ウォール・オブ・ジェリコからの砲撃も加わる。

 

 

巨大な光輪を展開するエヴァMark10シャマシュにより、広大な範囲内のアポストルのATフィールドが中和され、範囲爆撃や砲撃にて殲滅されていく。

範囲外に存在するアポストルはエヴァンゲリオン・ウルフパックが追い立て、フィールドを中和する。

 

各エヴァはアスカの前線指揮により、討ち漏れを仕留めていくのだが、中央のアスカは2号機で腕を組んで仁王立ちしている。

エヴァMark10シャマシュの援護が有る状態で、これくらいの敵戦力なら、後進の育成の為に他に任せるのは正しいことだ。

 

 

 

そんな中、私はヴンダーのブリッジでマリと一緒に正座をしている。

先程の独断専行を咎められてだ。

マリは私の行動を幇助したため。

先程まで私達はミサトさんに怒られていた。

 

まあ、ミサトさんの命令なしに動いたことは反省している。

その後の指揮権移譲がスムーズに行えたのは、私の行動のインパクトが大きかったようだが、独断専行はご法度。

本来は懲罰ものなのだ。

 

いくら緩いとは言っても、ヴィレも軍事組織。独断専行や命令違反は重罪である。

 

この後は懲罰房かな?…私はいいけどマリにはきついだろう。

後でお詫びしないと。

 

 

 

終わりに近づくアポストルとの初戦。

しかし、今後も続いていく事は明白だ。

これからの戦いが同様だとはとても思えない。

 

 

 

それにしても、アポストルにはS2機関が無さそうだが、あれほどの巨体の維持と、ATフィールドを展開するエネルギーはどこから来ているのか。

 

エネルギーの流れを見るに供給源は背部にある鱗状の器官だが、いったいどうなっているの?

 

それにエネルギーの波長を見るに、第13使徒のエネルギー波長と同じであるのが解せない。

 

それも、どの個体も全く同じ波長なのだ。

…さらなるデータが必要だ。

 

 

脳内でヴンダーのメインシステムにアクセスし、アポストルの解析をしていく。

供給元の特定を急ぐ。

 

 

 

…やっぱり、おかしい。

エネルギーを生成している痕跡が無い。

突然、そこから湧いているような感じだ。

 

周辺環境の変化を精査していく。

鱗状の器官周辺の空間、そこのボース粒子に大きな乱れがある。

 

これは、いったい…

 

 

 

「それで、何か解ったのかしら?ユウカ。」

戦場を眺めながら、私に話しかけるリツコ先生。

ばれていたのか。

 

「おおかた、インターフェイスヘッドセットを利用して、レガリア細胞でマギ2ndにアクセスしていたのでしょうが、バレバレよ。

もう少しシステムにログを残さないようにしなさい。」

 

「ななちゃん、何調べていたの?」

リツコ先生の話を聞き、マリも会話に入る。

 

「えっと、アポストルのエネルギー器官を調べていたんだけど…。」

リツコ先生の端末に収集したデータを転送する。

それを見るマリとリツコ先生だが、直ぐ難しい表情に変わる。

 

「これは、面白いわね。」

目を光らせるリツコ先生。マリは宙に何かを書き込んでいく。

 

 

「ダメだこりゃ!」

先に匙を投げたのはマリ。

「こんなの既存の理論に当てはまらないにゃ。」

 

「そうね。しかし現実に起こっていることよ。

おそらくは一種の次元連結システム。それにより現在の第13使徒からエネルギーを供給していると、見るべきね。」

 

「いくら新生した使徒といっても、あの数のアポストルにエネルギー供給なんて無理ではないですか?」

私の疑問に答えたのはリツコ先生。

 

「時の止まった空間内にいる使徒のエネルギーを、どれだけ吸い上げても、無くならないわ。」

 

「あじゃぱ〜。冗談きつくない?」

口調は軽いが、表情の硬いマリ。

私も同意見だ。

 

 

そんな議論をする私達へと声がかけられる。

「貴女達、今反省中だって事を忘れているのではなくて?」

振り向く私達の目の前には、冷たい目をしたミサトさんが腕を組んで立っていた。

 

 

 

 

 

 

第一次アポストル壁前会戦は、アメリカ連合軍に甚大な被害を与え終えた。

 

戦いの様子は世間にも知られるようになる。

 

おびただしい数の死者。

 

あまりにも悲惨な状況に、アメリカの市民が暴動を起す事態にまで発展した。

 

そしてアメリカ大統領の弾劾裁判。

それによってアメリカ合衆国は混迷の時代に入って行った。

 

 

他人事では無いのは、アフリカ諸国。

現地でさらなる増産に入るエヴァフォロー型だが、いささか増加数が多過ぎる。

恐らくは隠し持っていた戦力を表に出していってるのだろう。

南北アメリカ、アフリカ諸国も今回の件を経て、反ヴィレの機運が下がって行ったのは、怪我の巧妙なのか、それとも…

 

もし、本格的な侵攻が始まってから、こんな事が起こっていたら今回以上の惨事になっていたのは確かだろう。

 

 

 

 

 

帰還後、指揮権の無い状態での独断専行の処罰を受ける。

重いことを考慮していたが、厳重注意処分のみとなっていた。

 

 

反省文を書くと、既に時刻は夜中となっていた。

私とマリは、大浴場の脱衣室で服を脱ぎ、入浴の準備をしている。

 

各々シャンプーやリンス、ボディソープ等を持ってきている。

こんな時間には誰も居ないだろうと思い、浴場の扉をあけると、見知った顔。

 

サクラだ。

 

 

身体を洗ってから、浴槽へ入る。

私達はサクラの近くへ腰を下ろした。

 

「こんな時間に、どうしたのサクラ?」

横目でサクラの表情を観察しながら質問する。

悩み、暗い表情をしている。

 

「別に、何でもないです。二人こそ何でこんな時間に?」

関西弁のイントネーションが残る独特な言葉。

サクラの質問に二人そろい、反省文だと返す。

 

「何でなの?あんなに活躍したのに、何で反省文なんて書かな、あかんの?」

納得がいかぬという表情。

 

「別に乗りたくて乗ってる訳やないのに。」

ボソッ出てくる心の声。

「私、何のために人殺したんですか?何でエヴァに乗れるからって、こんな思いしなきゃあかんの?」

浮かぶ涙。

 

「全く、全く、活躍できへんかったのに。」

瞳より溢れ出ていく感情。

今回の戦いで活躍しなきゃいけない。そんな風に考えてたのか。

だから全く戦えなかった自分に腹が立ち、活躍した私達が処罰を受けたのが納得いかない。

殺した人の分も活躍すれば、人を殺した事に折り合いをつけることができるかもしれないという希望に縋っている。

 

「乗りたくて乗ってる訳じゃない、か。

碇さんと、同じだね。」

 

「え?碇さん?」

 

「逃げたくても逃げられない、逃げないように、自分に言い聞かせてる、そんな奴だっているのにさ…。

これ、碇さんの言葉だよ。

マユミちゃんを助けた時に、呟いた言葉。

それでも明日は続いていく、明日はもっと良い明日になるかもしれない。だから逃げちゃ駄目だ。

そう言ってたって。

私は聞いた話でしか、碇さんを知らないけど、きっとサクラと同じだったんだよ。」

 

「でも、私は…」

 

「今直ぐに、答えなんて出ないのは解ってるよ。悩んだっていい。

ただ、貴女だけじゃないという事を知って欲しかっただけだよ。」

そんな私の言葉に、たどたどしく笑顔を作るサクラ。

 

 

ゆっくりでいいんだよ。

心は痛がりだもの…

でも傷付いたほど、強くなるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

マリさんは、なんで私の胸を凝視してるの?

え、プラス1.2?何が?

 

あ、そうですか。

育ってるんですか?私の。

 

あの、サクラさん?

どうしてそんな怖い顔をしてるんでしょうか…

 

 

やめて…

お願い。

二人共近づかないでよ…

 

あっ、ちょ、やめて!

たすけて!

 




初戦は、敵も様子見となります。
あと、作者自身アメリカが嫌いな訳ではないです(汗)



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愚公移山

登場人物や組織に若干のクロス要素があります。
見た目や声等を参考にしました。

それほど出番は多くないので、覚える必要はないです!


第二次アポストル侵攻の予兆を検知したのは、南アメリカでの戦いより、およそ一ヶ月後の今日であった。

 

観測データからの予測では、前回の侵攻時よりも敵総数が増加している。

推定敵侵攻地点は南アフリカ。

現地へは葛城准将率いる、ヴンダーを始めとした空母打撃群3と戦艦4隻、ヴンダーと同系統の空中戦艦であるゲヘーテが出撃する。

 

エヴァは44B(第四世代エヴァフォロー4型Bタイプ)の一個航空団とエヴァMark10シャマシュ、Mark11。

それとエヴァ2号機と5号機とMark12が共に出発する。

 

他防衛戦力はUN軍と、アフリカ連合軍より大規模な地上戦力と航空戦力が参戦する。

 

 

念の為、陽動を警戒してか、私、マリ、カヲル君、綾波さんは即応待機となっている。

 

 

今回は前回の様なゴタゴタは無い。

各指揮権はUNとヴィレが保持し、合同での作戦となっている。

 

ATフィールドを中和した後に、複合要塞の圧倒的な砲火力での殲滅を主とした攻勢防御を行うようだ。

 

その為エヴァMark10シャマシュ、ヴンダー、ゲヘーテ、ナンバーズが乗るエヴァンゲリオンの広範囲のATフィールド中和が要となる。

 

 

 

前回、一番最初に確認されたアポストルをA1(Apostle1)とし、首の無い巨人タイプはA2と名付けられた。

今回も同様に、A1とA2による襲撃と確認されている。

 

 

開かれる戦火だが、終始危ない場面も無く戦況が推移している。

まるで獣の軍勢と戦う軍隊といった様相だ。

 

敵の数は多いが、遠距離攻撃を持つ敵も、空を飛ぶ敵も居ない。

只々上陸を目論む敵に砲弾や爆撃を叩き込むだけの作業となっていた。

 

 

前回と今回の襲撃で解ったことがある。

それはアポストルはエヴァシリーズを優先しているという事だ。

最大の敵として認識しているのか、それとも別の理由があるのか?

 

それにしても、エヴァを捕食しようとする行為が気になる。

アポストルは一種の永久機関により、エネルギーを得ている。

そんな生物が果たして捕食する必要があるのだろうか?

戦う状況下での、エネルギー供給が追いついていないのかとも考えたが、検知出来ているエネルギー量では不足ないように思える。

 

戦場より随時送られてくる、敵生体の情報を精査していく。

ヴィレの技術部にも所属している身として、こういう仕事もしなければいけない。

 

 

 

即応待機中、パイロットの行動はエントリープラグ内なら何をしても良い事になっている。

私は、このようにデータから得られることの検証や、新しい装備等のことで頭を回転させている。

 

マリは、インテリアに腰掛けながら、手を枕にした体勢でエヴァ搭載コンピューターで色々している様だ。

空いた片手で電子ウインドウをイジっている。何を見ているかは分からないが、時折にやっと笑っている。

 

カヲル君は、クラシックを聞いている。

若干だが通信越しに聞こえてくる。

Mark6の搭載コンピューターに音楽データを入れたのは私だ。

 

綾波さんは、電子書籍を読んでいるみたいだ。

彼女の最近の好みは恋愛小説。

電子書籍のデータを入れたのも私だから、入っている物は把握している。

 

緊張感が無いようにも思えるが、張り詰めて待機しているよりは良い。というのがミサトさんの考えである。

 

 

横目で覗く戦場の様子では、そろそろ終わりが近づいている。

もはやアポストルには、勝ち目が無いというのに撤退しようとする様子が見られない。

 

そのような思考が無いのか、玉砕するように最後の一匹まで突撃してくる。

余程の事がない限り、野生の獣でさえ、そんなことはしない。

どうしても、そこに不気味さを感じる。

 

快勝に湧く現場や発令所の声を聞き、私は密かに危機感を強めていた。

 

 

 

 

第二次アポストル侵攻を退けた翌日には、私達は既に次の行動へと移っていた。

 

ヴィレ本部第一会議室では、作戦部と技術部に司令部。

そして通信モニターごしにUN軍の将校等が集まっていた。

 

エヴァパイロットからはアスカと私。

それと、UNからはフォロー型の指揮官パイロットの3名が出席している。

 

冬月司令の言葉で始まる会議。

昨日の勝利を祝う言葉は早々に終わり、ミサトさんが切り出す。

 

「昨日は、お疲れ様でした。

勝利の美酒を、と言いたいところではありますが、ニ度の侵攻を見たところ、恐らくこれらは威力偵察である可能性が高いと考えています。」

 

ざわめく会議室。

海岸を埋め尽くして、なお納まらない数の敵が、威力偵察であろうとは考えづらいのが普通ではあるが、葛城ミサトという女性は普通の感性をしていない。

何よりも、使徒という常識に囚われない敵を知っている。

 

「葛城准将、あれ程の数の敵が威力偵察とは、根拠でもあるのかね?」

根拠を聞くのは、UN軍の将校であるビュコック中将。

叩き上げの将校で、有能な指揮官であると聞いたときがある。

冬月司令と同じくらいの年齢に見える。

 

「明確な根拠はありません。しかし、ただの獣の様な生物の侵攻と捉えると不可解な点があります。その不可解な点を考慮すると、別地点への攻撃という点から見えてきたのが…」

そんはミサトさんの言葉を続けるように、ビュコック中将が返答した。

 

「威力偵察という訳だね。確かにアポストルの行った波状攻撃を考えるに、こちらに損傷を与えつつ戦力の把握に努めていたと考えられる。

ゼートゥーア准将はどう考える?」

ビュコック中将は同じくUN軍の参謀将校に意見を求める。

 

「葛城准将の意見に賛同いたします。

ひとつ申し上げるのならば、威力偵察以外にも実戦での機能試験という側面も持っていたのでは無いかと考えます。

理由を申し上げると、A2の数が第二次侵攻時の方が、数も割合も多かった事です。

第一次では姿を見せただけで、一撃のもと、消滅してしまって、いましたので。

第二次侵攻にて実戦での働きを把握しようという意図が見えます。」

鋭い眼光だ。

有能なイケオジ二人…素晴らしい

 

確かに、そう考えると威力偵察兼、実施テストとも見える。

しかし、それではアレ等が兵器ということになってしまう。

そしてその裏には、明確な思考を持つ何かがいる事になる。

冷徹な思考のもと、あの数の戦力を捨て駒同然に使うような存在。

そして、それに追従する生物か。

 

 

「日本には、勝って兜の緒を締めろ、ということわざがあります。

これからの侵攻はさらに激化し、新しいタイプのアポストルが現れていくかと思われます。

ですので、さらなる戦力増強をお願い致します。」

ミサトさんが頭を下げる。

その先には一つのディスプレイ。

映るのはバイザーをかけた老人の姿。

 

最初から気になっていたけど。

やはり、あの男性は…

 

「予算については一考しよう。」

自身という存在に響くかのような、重みを纏った声。

居るだけで他を引き締める存在感。

 

人類補完委員会、キール・ローレンツ。

秘密結社ゼーレの議長を務める男。

 

こんな所に顔を出すなんて思わなかった…

 

 

 

進んでいく会議。

こんなに、無駄なく進行していく会議は見たときないよ。

 

「それでは、次は技術部から報告があります。

敵生体アポストルのエネルギー器官は、やはり一種の次元連結装置であり、そのエネルギー源は時間結界内にいる、第13使徒アザゼルの持つエネルギーで有ると結論に至りました。

少なくとも、それを裏付ける現状証拠がいくつかあり、逆に否定する術は、現在の人間が持つ理論に反するという事だけです。

この鱗状の器官を[QRシグナム]と呼称します。

恐らくではありますが、一度に供給される最大エネルギー量は、理論上サードインパクト相当規模のエネルギーとなるでしょう。

しかし、それは単純なエネルギー量の話ですので、実際にインパクトを起こすことは出来ないでしょう。

他にも、それ程のエネルギーに耐えうるには、QRシグナムは脆弱な器官であり、純粋な生命体であるアポストルの躰も、膨大なエネルギーには耐えられません。」

 

唖然とする一同。

それ程にリツコ先生の報告は現実離れした内容であり、信じ難い物だった。

 

しかし、動じない人間は幾らか居る。

その内の一人であるミサトさんは、不敵な笑みを浮かべる。

「な〜るほどね。それで赤木博士。そのQRシグナムにエネルギーを供給してるのは、第13使徒の意志で?

それとも、奴らが無断拝借してるのかしら?」

 

「時間結界内では、意識も停滞してるはずです。以前、Mark7が事故を起こしたのは、Mark7内に居た残りが反応したのであって、結界内からの干渉では無いとデータが示しています。」

 

「そう、じゃあ、そのQRシグナムを鹵獲出来ればこちらも利用できるわよね?」

…んなバカな。

いや出来るだろうけど、普通そんな事考える?

 

皆同じような考えに至ったのか、少し引き攣っている。

しかし一人だけ、リツコ先生は呆れた顔をしているにとどまる。

伊達に親友やってないね。

 

「可能よ。もちろん、綺麗な状態で確保出来ればね。」

 

「よっしゃ、んじゃあ、敵さんが余裕こいてるうちに捕まえちゃいましょうか。

捕まえるなら、やっぱあのデカブツよね?」

 

嫌な予感がする。

アスカも同じなのか、私と顔を見合わせて、目で訴えて来る。

何とかしなさいよ、と。

そんなアスカに、私は満面の笑みを作り口を動かす。

 

ム、リ!

 

 

 

 

 

正式に決定してしまった、アポストル捕獲作戦。

一度技術部で、捕獲に必要な装備や物品をリストアップし、作戦部がそれを基に計画を立てる事になった。

作戦の際には、UN軍もバックアップすると話していた。

実働部隊は、エヴァンゲリオン部隊のナンバーズが担当する事になってしまった。

会議は予定より、少し早めに終了。

 

神は天に在り、世は全てこともなし…か。

 

 

それにしても、会議の間キール・ローレンツから観察されている様な目線を感じた。

それを隠している感じでは無かったから、気の所為では無いのだろう。

 

 

 

会議が終わり、早々に技術部での協議が始まった。

議題はもちろん、アポストル捕獲に必要な物のリストアップなのだが、そんな物ヴィレには存在しない。

 

以前の使徒捕獲作戦で使用した装備は、今回は使えない。

そもそも使徒の捕獲は、対象の使徒が休眠していたからで、活動状態の使徒を捕獲しようなんて事は考えられなかった。

使徒よりも劣るとはいえ、ATフィールドを持つ巨大生物の捕獲か。

 

 

一つだけ思い付いた事がある。

アポストルは、QRシグナムによりエネルギーを得ている訳だが、使徒と違い完成された生命体ではない為、高熱に適応出来ない性質が有る。

そのため、エネルギーの排熱処理は血液流による循環冷却にて行われているようだ。

もしも、この循環冷却に不全が生じた場合、QRシグナムは停止する。

血液凝固剤の投入による、アポストル凍結案。

これらに役立つ情報を以前見た時があった。

 

「そういえば、日本政府が設立した対アポストル政策に、巨大生物特設災害対策本部ってのありますよね。あそこで、使徒凍結プランってのが確かありましたけど、そこで候補にあがった血液擬固剤を使えませんか?」

 

ふと思い浮かぶのはシン・ゴジラ。

以前行っていた情報収集の中で、近いものがこの世界には存在しているとは思ってなかったから、印象に残っていた。

 

発言する私に、そんな物あったかしらと皆首をかしげている。

まあ、私も色々な物を読み漁っていた中に見つけた情報。一般には公開されていないプランだ。

皆の携帯端末に情報をアップする。

 

「あら、なかなか政府の役人もバカには出来ないわね。

使徒には通用しないけど、純生命体であるアポストルになら通じるわ。

マヤ、マギで詳しいデータを集めておいて。」

 

リツコ先生のお墨付きが出ました。

後の流れは、あっという間に終わっていく。

ヴィレのスタッフは皆優秀な人達ばかりだからね。

 

 

 

捕獲方法は定まった。

アポストルの組織サンプルから、アレンジした血液凝固剤を創り出す事にも成功した。

後は血液凝固剤の投与方法なのだが、一つ問題があった。

血液凝固剤を素早く全身に活かすには、均等に投与針を突き刺し一斉に投入する事なのだが、投与タイミングがズレてしまうと、QRシグナムが停止せず、エネルギーにより自壊してしまう可能性が高いということだ。

 

投与予定のアポストルタイプはA2。

理由は上記投与方法の場合、素早く小柄なA1よりも、大きいが愚鈍なA2の方が成功確立が高く、QRシグナムもA2の方が大きく自壊し辛い為だ。

 

しかしA2はエヴァの2倍以上の体躯をほこり、膂力も相当な物を持っている。

 

そのため、A2に負けないパワーと、正確な投与を行える精密性が必要になる。

 

そこで作戦部は、エヴァ5号機アイギス、エヴァMark12、エヴァMark7レガリア、エヴァウルトビーズによるオペレーションを決定した。

 

その名もオペレーション・ティタノマキア。

 

 

 

 

 

第二次侵攻より3週間が経過。

再びアポストルが動き出した。

オペレーションの準備には2週間を要したが、その間に敵の侵攻が無かったのは幸いだった。

 

推定侵攻地点は、南アメリカと南アフリカの2箇所同時である。

っぱり、威力偵察なのか…

同時侵攻への私達の対応を見ようという腹積もりだろう。

 

 

南アメリカへは、エヴァ2号機、Mark6、Mark9、Mark10シャマシュ、Mark11、ゲヘーテが。

 

南アフリカには、エヴァ5号機アイギス、Mark7レガリア、8号機、Mark12、ウルトビーズ、ヴンダーが出撃する。

 

 

 

 

 

本来オペレーション・ティタノマキアは、他エヴァの援護を織り込んでいたが、敵の同時侵攻により、戦力が分散してしまった。

だからといって、次回侵攻時への延期はリスクが更に高くなる可能性がある。

 

未だに余力のある今がチャンスだ。

QRシグナムを解析し、コピーができれば人類の新たな武器となる。

故に、多少被害が増えることも承知で実行が決定された。

 

 

 

「失敗は許されないね。」

Mark7レガリアのプラグ内に響く独り言。

 

『まあ、ななちゃんなら大丈夫さ〜。

それに一番重要な部分は榛名っちだしね。』

片手で栄養補給液をストローですすりながら独り言に反応するマリ。

 

『うわ!ちょっと、緊張してるんだから言わないでよ〜。うう、シンジ、力を貸して…』

シンジ君に祈るマナ。いやシンジ君死んでないの知ってるよね?

 

そんな私達に声をかける、存在が一つ

『案ずることは無い。我が機能を全て発揮し、作戦を完遂することを誓おう。』

凄いな、こうも会話することが出来るAIだなんて、未だに信じられない。

会稽零式、エヴァMark12か…

 

『ありがとう!頑張ろーね、零式!』

励ましてくれる零式に笑顔を向けるマナ。

 

最初は無人のエヴァを心配していたが、今では私にとっても頼れる仲間だ。

 

『ほんじゃ、まあ、ぼちぼち行こうか?』

マリが見据える先には、要塞群が山脈のように幾重にも連なっている。

本格稼働した複合要塞テンティリス。

うん…。凄過ぎでしょ。

 

 

 

 

 

もはやその音だけで、生物を殺せてしまうのではないかという程の轟音を絶えず響かせる戦場。

ありとあらゆる面を制圧する砲撃を繰り広げる要塞群。

侵攻するアポストルはキルゾーンより、こちらには一歩も踏み込めないでいる。

 

しかし、それではオペレーション・ティタノマキアを完遂出来ない。

故に敢えて砲火の緩い場所を作り、その地点付近にエヴァを配置して敵を誘引する。

 

上空より敵を偵察している私の目に映る、ちょうど良さそうなA2。

『Mark7より全ユニットへ。目標をマーク。

対象、A2への攻撃を禁ずる。

周辺アポストルと共に誘引を開始せよ。』

それと共に、凍結特殊兵装を積んだウルトビーズを展開させる。

 

隊列を組み、誘引を開始するフォロー型。

少しずつ周囲の敵を排除していく。

 

『ねらった敵は外さないよ〜。

ヘーイ!カモーン!!』

通信越しに、聞こえてくるマリのはっちゃけた声。

しかし、的確に周辺のA1の頭を撃ち抜いていく。

 

『規定位置に目標接近。合図はヴンダーに一任。Mark7は位置を変えます。』

ウルトビーズを連れ作戦位置へ移動を開始する。

 

『ヴンダーより各員。目標規定位置への到着を確認した。…それでは、オペレーション・ティタノマキア、スタート。』

ミサトさんの号令が降りた瞬間、戦場を横断し、目標A2一群の後方より突撃をかける機影。

他エヴァよりも一段と大きな巨躯を持つエヴァMark12が音速を遥かに超えた速度で駆けている。

その4足の脚部が繰り出す馬力は多の追従を許さない。

巨大なソニック・ブームを撒き散らし、スピードを落とすことなく4本の腕、それぞれで持つブレードで、周りのアポストルを容易く屠っていく。

 

遂に目標と接敵するMark12。

目標の側面から、助走を経て増した突撃力をそのままに、身体全体で目標を遠方作戦位置まで押し込んでいく。

 

群れより切り離される目標A2。

作戦位置への押し込み完了を確認し、横へ逸れるMark12だが、最後に目標の体勢を崩していく。

 

ナイスアシスト!!

 

そこに畳み掛ける様に、上空から降下し強化外骨格アイギスの左巨腕で、目標を地面に叩きつける5号機アイギス。

 

両手両足を地面につけ、膝を付く目標。

 

近くに着地した5号機アイギスは、渾身の力で右巨腕を地面に振り下ろす。

振り下ろしの瞬間、肘部のブースターパーツが火を吹く。

『ロケット、パーンチ!!』

そんなマナの声と共に、エルボーブースターが展開される。

力を増した打撃は、地面を深く深く砕いていく。

 

その直後、右掌部付近に取り付けられたショックウェイブパルサーが最大出力で放出される。

地中を走る強力な衝撃波。

 

そして、液状化する地面に両手両足を取られた目標。

 

 

今だ!

展開していたウルトビーズを最速で奔らせ、目標の各部位に正確に投与針を突き刺す。

 

暴れようとする目標を全身を覆うパワーアシストスーツの機能を最大にして押さえる5号機アイギス。

注入される血液凝固剤。

 

 

…。

目標体表温度の低下を確認。

エネルギー供給停止。

 

 

…目標完全に凍結。

 

状況終了。

 




読んでくださりありがとうございます!
今回、書いていてちょっと楽しかったです。


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晴耕雨読

戦闘のない、日常回になります!



色とりどりの花が咲き誇る一室。

窓からはジオフロント内が一望できる。

白を主体にした清潔感が感じられる壁紙。

 

そんな部屋で嗜好品の紅茶を口にしながら、鹵獲したQRシグナムを解析している。

データの収集は既に完了しており、レガリア細胞に侵食させて、さらに詳しい解析を行っている最中だ。

 

もちろんQRシグナムとレガリア細胞の接触には、幾重にも安全策を考慮し、もしもの時の為に、エヴァを即応待機させて実施した。

 

 

…そういえば、このオフィスを貰ってもう2年以上が経つのか。

レガリアプロジェクト、Mプラン、E計画、F計画と、いくつかのプロジェクトチーフになってしまっており、はっきり言って忙しすぎる。

しかし、ほぼ全てがレガリアに関係する事の為、私しか出来ないのだから仕方ない。

だが何故だろえうか。

どうしてE計画まで私が担当しなければいけないのか。

 

確かにリツコ先生は全ての統括を行っているから、私以上に忙しいのだが、解せない。

 

 

んにゃー、と身体を伸ばしながら大きな声を出すマリ。

椅子に座りながら天井を見上げている。

長い時間パソコンに齧りついていたから、身体が強張っているのだろう。

「ななちゃん、最近開発していたIFSっていつ完成する?

一々データをタイピングするの面倒なんだけど?」

椅子の背もたれに、もたれ掛かりながらこちらを見る。

 

「まだもう少しかかるよ。リリンの肉体に害の無いように調整してるけど、まだクリアしてない部分が有るから。

まあ、個人調整のワンオフ試作なら完成してるけど。」

 

「お!マジマジ?

何なら私、実験体しようか?」

興味津々なマリの表情を見て、しまったと思った。

試作が有るなんて知られたら、使おうとするに決まってたよ。

 

「えっと…、あはは…。

ごめん、もうリツコ先生で調整しちゃってて。

手元にも無いよ。」

 

「んにゃ!リっちゃんばっかズルくない?おーぼーだ。

ちょっと抗議してくる!」

端末を開き、リツコ先生への通信回線を開こうとする。

 

うわ!ちょ、

「ちょ、ちょっとマリちゃん!今日は駄目だって。リツコ先生、アポストルA2の解剖検査中で絶対ピリピリしてるから。」

 

「おっと、そうだった。

姫も一緒にいるから、どやされるところだったね〜。」

あぶない、あぶないと胸を撫で下ろすマリ。

2号機でA2を解剖しているアスカと、特殊スーツ越しとはいえ、場合によっては生身で直に触る事もあるリツコ先生達の邪魔をしてしまえば、何を言われるか分からない。

 

 

シナシナと変な動作ですり寄ってくるマリ。

「なーなちゃん。お願いが、あるんだけど〜。

IFS、私用に造ってくんなまし!」

はあ、やっぱり言うと思ったよ

 

 

「うん、まあ実験は成功してるから、いいと思うけど…

本当に疲れるんだよ?生身で物を造るのって。」

 

私も自身を構成するレガリア細胞を分裂させて物を造る事が出来るのだが、正直生身だとかなり疲れる。

Mark7レガリアに乗ってれば、エヴァクラスのS2機関で負荷なく出来るけど、生身だと、小さい躰のS2機関では余剰分裂でさえも疲れが出る。

 

「ななちゃん、シルバーティップスインペリアルと交換なんてどう?」

 

ええ!シルバーティップスインペリアル!!

もしかして、あの高級茶葉の…

 

「…まさかマカイバリーの?」

マリの耳に顔をよせて、恐る恐る小声で聞く。

聞いてる人なんていないけど、誰かが部屋に入ってくるかも…

眼鏡を光らせ、頷くマリ。

 

「100」

ボソッと、呟く私に

 

「Non!精々50にゃ。」

50か…もうひと押し!

 

「50+20。」

どうかな?

マリの事だから持ってるはず!

 

「うーん。ワンオフ物だし…。ななちゃんの愛が私の中に入ってくると考えるなら…、よし、乗った!」

満面の笑みのマリ。しまった、100でもいけたか!

 

 

悔しく思うも、交渉は既に終わった。

私は両手を皿のようにして拡げる。

その上に銀色の砂のような物が少しずつ、湧いてくるように増えていく。

 

レガリア細胞。ナノマシンだ。

 

形造っていくナノマシンが、注射装置の様な物に変わる。ついでにマリの情報を組み込んでいく。

 

 

IFS、イメージフィードバックシステム。

これは委員会から、強い支援を受けて開発されたナノマシン装置。

簡単に言えば、宿主の思考を読み取り、データに変換し、それを出力する。

一種の電脳化みたいなものかな。

 

レガリア細胞を躰に埋め込むため、かなり調整が必要で、現在は個人個人調整する必要がある。

その為、一般的な実用化はされていない。

というより、現状では簡易式を四肢欠損者と義肢の補助等で使用しているだけだ。

 

 

造り出した注射装置をマリの首に押し当てる。

ぷすっとな

 

「ああん!ビックリした!

ななちゃん、いきなり挿れるとは鬼畜だにゃ。」

挿れる言うなし。

ひとまず、これでシルバーティップスインペリアルをゲットだぜ!

ついでにマリに、IFSインターフェースを造って渡しておく。アフターサービスだよ。

 

「お〜!これは、これは。

慣れるまで結構難しいかにゃ?

しかし、エヴァに慣れてる私に隙きは無い!

…いや〜、楽しいねこれ!」

早々に試してるよ。

おお、流石にエヴァに乗ってるだけ、慣れるのが早いや。

もうデータ入力をしてる。

 

 

それにしても、委員会。

いや、ゼーレはレガリア細胞をどうする気なのかな?

特に彼らが力を入れているのが、F計画。

 

レガリア細胞を使用した、巨大なコンピューターの作成だ。

それとアルベスの槍の複製。

現状の槍では私しか使えないのに、何故その複製を急がせるのか。

 

ゼーレ究極の目的、人類補完計画。

いったい、どうするつもりなの?

 

 

 

 

 

お昼休み。食堂で注文した物を持ち、二人で空いている席を探していると、目に入ってきたのは死んだような顔をしたアスカの姿だった。

どんよりとした雰囲気を醸し出し、サラダを箸でつついている。

そんなアスカの近くには、座ろうか迷っているマナと綾波さんとマユミちゃん。

そんな三人に近づき声をかけるマリ。

「姫、どしたの?」

 

「わかんない。来たらあんなだったよ。」

「ええ、不気味だわ。」

「お肉を食べてないアスカさんを見るの初めてです。」

三人も原因は解らないとのこと。

 

聞こえてるわよ、エコヒイキ。

とボソッと呟き、こちらに顔を上げるアスカ。

 

いや、正直不気味だよ。

 

「サラダだけで大丈夫?私のカツ丼分けてあげようか?」

心配になり声をかけるが、私のお盆の中をみてゲンナリした顔になるアスカ。

 

「あんた。そのカツ丼…なんなのよ…」

 

「えっと、地上施設食堂の一般来客用チャレンジメニュー、長門カツ丼だってさ。

4キロ位のデカ盛りメニューらしいよ。」

笑顔が止まらない。ここのカツ丼美味しいもん。

あ然とするアスカ。

 

「今はいい。肉食べる気しないし。」

目を伏せるアスカに、皆で顔を見合わせる。

ツッコんで来ないなんて。

アスカが居ないとツッコミ人員が不足するよ。

 

「アスカ、本当にどうちゃったの?

解った!夢の中でシンジに振られたんでしょ!?」

マナ、いくらなんでもそれは無いよ

いや、アスカなら有り得そう。

結構な乙女なんだよね…アスカの秘密データファイルを見てしまったから私には解る。

バレたらヤバいから誰にも言ってないよ

 

幽鬼のような顔でマナを睨むアスカ。

あ、これ反論する気力も無いやつだ。

 

「もしかして、A2の解体。きつかった?」

私の言葉を聞くと、アスカがギョロッとこちらを見る。

「聞かないで。」

あ〜、だから肉食べないのか。

アスカなら余裕そうだと思ったけど、精神的に参ってる。

 

「部位ごとに分け、繊維に沿って繊細に切る作業は、集中する必要もあったから、精神的に負担かかるのはリリンにとって当然の事さ。」

カヲル君、いつの間に来たの?

 

「カヲル君も一緒に作業してたの?」

 

「いや、僕はアポストルに興味が有ったからね。見学をさせて貰ってたんだ。」

にこやかな笑顔。

その手には、もつ煮込み定食を持っている。

 

アスカの周りに座る私達。

各々食事を開始するが、周りの目を集めるのは私のカツ丼だ。

デカいからね、これ。

 

次々に箸を進める私に声をかけたのは、司令部所属のオペレーター青葉さんと、作戦部所属のオペレーター日向さんだ。

「やあ、ユウカちゃん。

凄いものを食べてるな。」

 

「あまり女性の食事姿を、しげしげと見るものじゃないぞ。」

私のどんぶりを覗き見る青葉さんに、日向さんが一言入れている。

シゲルだけに…?

 

「こんにちは。青葉さん、日向さん。

今度チャレンジしてみては?美味しいですよ?」

 

「ははは。いや、流石にもう若くないから無理だな。その量は。」

苦笑いする青葉さん。頭を掻きながら答えているが、若ければいけたのかな?

 

「ユウカちゃんは、その、余裕なのかい?」

心配そうに、表情をかえる日向さん。

そんな日向さんに、私はサムズアップする。

何せ、お腹に入れた瞬間、侵食・分解してエネルギーに変えているからね。

 

それじゃあ、俺達食べ終わったから。と挨拶し去っていく二人と入れ違うように、サクラが歩いてくる。

手招きし、こっちに呼ぶ。

 

「ユウカ、また凄いもの食べとるね?」

やっぱり、第一声はこれの事か。

 

「サクラは何食べるの?」

 

「私はオムライス。美味しいんよ、ここの。」

確かに美味しそう。

 

「あ、サクラちゃん、同じだね。」

マユミちゃんもオムライスを食べている。

この二人、結構仲が良い。

航空隊ではバディを組むことが多いから、一緒にいる時間が一番多いのだ。

 

マナはアスカに話しかけている。

マナがここに来た当初の、雰囲気は全く感じられない。

シンジ君をめぐるライバル。

これに綾波さんと、マユミちゃんが加わる。

 

サクラは、気になる人くらいなのかな?

カヲル君はシンジ君しか眼中に無いし…

 

あれ?ナンバーズの殆どがシンジ君好きなの?

私も好きだけど…

これは、シンジ君を助けた後が別の意味で大変ではないかな?

 

ふむふむ、これは楽しみだね。

 

 

 

 

 

アポストルの解体は午後も続くようだ。

アスカの口にカツを一切れ突っ込んでやって、送り出す。

 

 

食堂から、自分のオフィスへ行く前に寄るところがある。

ミサトさんのオフィスだ。

作戦部のエリアにあるのは、ミサトさんとアスカのオフィスだけ。

 

ノックして入室の許可を取る。

「ミサトさん、長門です。」

そんな私の声に、入って〜、と軽い声が届く。

 

自動スライドドアをくぐると、見えてくるのは整然と整えられた部屋。

いつ来ても綺麗な部屋で驚く。

 

なんで家は汚いのに、オフィスは綺麗なのよ。と以前アスカがぼやいていたのを思い出す。

まあ、仕事が忙しい人の一人暮らしは、中々部屋を片付けられない事が多いから。

 

「ユウカちゃん、日向君から聞いたわよ〜。

凄いもの食べたんだって?」

うっ、ミサトさんにまで話が…

笑って誤魔化しておこう。

 

「QRシグナムのデータは見てくれました?」

 

「ええしっかりとね。それで聞きたいことが有って来てもらったんだけど…。

実際コピーは出来そうなの?」

 

「レガリアでのコピーは可能です。

しかし、クローニングに関しては現在リツコ先生の返答待ちです。」

 

「そう。それでレガリアでコピーした場合、エヴァに搭載は可能かしら?」

 

「現状では、Mark7、8号機、Mark12、ウルトビーズ、ウルフパックになら可能ですが…

S2機関搭載型に搭載しても恩恵を大きく得られませんから、無駄になります。」

 

「やはりフォロー型には無理か。

それじゃあ、やっぱあれよね?

[アルテミス]、あれに搭載する形が一番かしら?」

 

レガリアにより造られたキラー衛星、アルテミスか。

「そうですね。少なくともクローニングで作れない限りは、レガリア対応型にしか使えないですね。」

 

「それと、次元連結システムとしての改良は出来そうかしら?」

 

「前にミサトさんが言ってたワープ装置としてなら、構成率100%レガリア細胞を素材とした物体ならばワープ可能です。

ただ、この場合は座標自由指定のワープでなく、ゲート間でのワープという形になります。」

 

「なるほどね、どこでもドアは無理か。」

あ、うん。そうなんだけど。

…今の世代はドラえもん殆ど知らないよ?

セカンドインパクト前のアニメはあまり残って無いからね。

 

「ユウカちゃん。レガリア細胞でQRシグナムのリアクターを造って、それを通常のコードで繋げばQRシグナムを使えない?」

 

…なんで思いつかなかったんだろう。

「あ、多分使えます。しかし、アザセルの封印が解けてしまえば使えなくなる可能性が高いので、考慮すると信頼性は低くなります。

封印ありきですので、搭載するものには注意する必要があります。」

 

「解ったわ。しっかりと、そのへんは考慮しておくわね。以上よ。

ありがとう、ユウカ。」

 

「はい。それでは失礼します。」

挨拶をして、退室する。

 

 

 

 

 

自分のオフィスに戻り、F計画を進めていく。

委員会から出来る限り優先するように伝えられている。

 

レガリア製エヴァを丸々一つのコンピューターとして造り、耐久性に特化させた、異質なコンピューター。

こんなもの、いったい何に使うつもりなのか…

 

破壊不可能の巨大コンピューターでも造るつもり?

波形が変わるATフィールドを常時展開し続けるなんて。

 

 

 

「にゃんとー!!」

うわ!ビックリした。

 

 

「マリちゃん、いきなり大きな声を出さないでよ。ビックリしちゃった。」

 

「いやー、めんごめんご。

ちょっと驚くものを発見しちゃってね。」

にやにやしてる。

怪しく思い、マリのログを辿っていく。

 

 

…あ、アスカの秘密ファイルだ。

これは、私がマリにIFSを渡したのが原因じゃないか。

ごめんなさい、アスカ。

お詫びにしっかりとロックかけておくから。

 

 

 

 

 

1800、今日の仕事はこれで終わり。

次の休みは、マリから貰ったシルバーティップスインペリアルを楽しむとしよう。

いくら身体が疲れないといっても、精神は疲れてしまう。

この後は夕食だ、今日はカツカレーにしよう。

そう考えながらマリと一緒に食堂へ足を運んでいたが、後ろから誰かが駆け寄って来る音がする。

 

振り向いた私の目に飛び込んできたのは、顔を真っ赤にしたアスカの姿。

 

「ちょっと、バカユウカ!こっちに来なさい!

話が有るから!」

私の手を握り、強引に引っ張って行く。

 

「お姫!?どこ行くの?」

驚き付いてこようとするマリに、アスカはドスの利いた声で答える。

 

「ちょっとコイツ借りてく。アンタはついてくんじゃないわよ。」

グイグイと引っ張られていく私。

そんな姿に、手を伸ばしながら、ななちゃーんと声をあげるマリ。

…私、なにかしたっけ?

 

 

 

廊下の影に連れられる私。

うわっ、壁ドン!

顔を寄せるアスカだが、色っぽさの欠片もない。

怖い。

 

「アンタ、見たの?」

「えっと、何の話かな?」

 

「だから、あれよ。…ファイル!私の!」

え!?何で私が見たのバレたんだ?

アクセスログは消したのに。

 

「な、何の話かな〜?見てないよ写真なんて。」

 

「やっぱ見てんじゃない!写真なんて私は一言も喋ってないわよ!」

ヤバっ!口が滑った!

 

「う、ごめん。だってマギの過去の監視映像をダウンロードしてたから、スパイかと思って。見ちゃった…。」

そんな私の言い訳に、バツの悪そうな表情になるアスカ。

 

「ま、まあ、そうよね。

だからって何で、無駄に高度なセキュリティをかけたのよ?

私以外が見れないように。

おかげで、リツコに中身見せる羽目になったのよ!」

私、完全に自分で墓穴掘ってんじゃん…

 

「そ、それは、マリちゃんが中身を見ちゃってたから、他の人に見られないようにって…」

 

「…は?コネメガネ?

…嘘でしょ。

お、終わった。」

ガックリとひざまずくアスカ。

確かにマリにあれを見られたら、当分の間イジられるし、多分色々とオネガイをされるかもしれない。

 

ヤバい!これ、完全に私のせいだよ。

フォローしないと…

 

「大丈夫だよ!アスカだけじゃなく、綾波さんも、マナも、マユミちゃんも、サクラも同じようなことやってるし。

まあ、サクラは幾分マイルドだけど…

それに、綾波さんに至っては、ちょっと犯罪チックなとこまで…」

あ、私の馬鹿。これ言っちゃいけないヤツ。

 

「ふ〜ん。そう私以外にもね…。

それで、エコヒイキのヤツ、何してんのよ。

ちょっと私に教えなさいよ。」

 

駄目だ、これ以上は口を滑らせないようにしないと。

何でこう、焦るとうっかりするんだろう。

そんな事を考えながら、両手で口を塞ぐ。

私の手を、退けようと奮闘するアスカ。

もみくちゃになる、私達。

響く、カメラのシャッター音。

 

…シャッター音?

 

そちらの方に目を向けると、そこに居たのは

 

綾波さんだ。

こちらに携帯端末をかざしている…

「犯罪現場ね。」

 

ああ、アスカ貴女、今日は厄日すぎるよ。

 

 

 

 

 

 

夕食を食べ終え、ジオフロント内にあるMプラン第3試験場に、ナンバーズ女子メンバーで来ている。

ここは、私が完全に趣味で造った人口環境の一つ。

遂に完成したから、お披露目。

 

そう、疑似露天風呂。

周りには桜が咲いている。

まあ、この桜は普通の桜ではなく、レガリア細胞により侵食された桜で、年中花が咲いているように造ったのだ。

 

花見湯だよ。

 

ということで、せっかく完成したのだから、皆で露天風呂を楽しむ事に。

 

 

マリは、会った時から全く変わらない姿をしているが、他のメンバーは結構変化がある。

 

アスカは色々と成長している。

 

綾波さんも同様で、しかも髪がロングヘアーになっている。

 

マナは、少し大人っぽくなっている。

 

マユミちゃんは、凄く大きくなっている。

 

サクラは、まあ年相応の成長を遂げている。

 

 

…マユミちゃん、私、マリ、アスカ、綾波さん、マナ、サクラの順番かな?

皆、多分肉体的には16歳位で維持されているような感じだ。

 

 

 

それにしても、エヴァの呪縛か…。

Qでのアスカが喋っていたけど、確かに成長が止まっている。

髪や爪が伸びるのは、成長でなくて、代謝だからだろう。

ということは、食べ過ぎると太るのかな?

 

アスカのお腹をマジマジと見ていたからか、お湯を顔にかけられた。

私のすぐ隣にいた、マリにもかかったらしく、お湯かけ合戦になっていく。

 

しかし、眼鏡をかけていないマリは弱かった。

うまく、アスカに当たらず、マナに当たったり。

こうなると、もう全員が巻き込まれる。

 

いや、楽しいねこういうのも。

最後には、お湯に浮かんでいた桜の花びらを身体にくっつけた私達がいた。

 

 

こんな事が、日常となる日のために、頑張らないとね。




以上、アスカの厄日でした!
読んで頂きありがとうございます!

遅れましたが、シンジ君誕生日おめでとう!
それと、お陰様でユニークアクセスが1万件突破しました。
ありがとうございます。


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艱難辛苦

オリジナル兵装、クロスオーバー戦闘機がでます。

原作キャラが出ますが、調べても年齢が書いてなかったため、独自にななちゃんと同い年にしています。




慌ただしく動くヴィレ本部の中を、Mark7があるケージに向かって全力で走っている。

人の行き交う本部内だが、私の進路を塞がないように、皆が避けてくれる。

 

 

発端はエヴァ航空隊にかけられた緊急発進の命令。

詳細に関しては知らされていないが、今までに無かった緊急事態だ。

 

私はなりふり構わず、ケージのパイロット専用入口へ速度を下げずに突入していく。

入口に入ると直ぐ、プラグスーツが吊るされている。

脱ぎやすく設計されたパイロット専用のヴィレの制服を剥ぎ取り、プラグスーツを着用する。

 

簡易消毒を受け、直ぐさまエントリープラグへ飛び込む。

緊急事態のため、起動シークエンスは大幅に省略されている。

エントリープラグ内には既にLCLが注水されていた。

 

 

「エヴァMark7、緊急起動!」

音声入力に反応し、即座にシンクロと起動が行われる。

特別コマンドのため、細かい調整は後回しとなっている。

 

起動を完了すると、機体が外へと運ばれている最中だった。

発令所でもMark7の起動を確認したのか、通信が入り、

そこへ息を切らしたミサトさんの声が聞こえてくる。

 

『いいわね?ユウカ。

先程、南極方面から大量の未確認飛行物体の移動が検知されたの。

波長パターンはアポストルタイプの新型よ。

現状では、他航空戦力の配備が間に合わないわ。

貴女は単騎先行して遅滞戦闘につとめて。良いわね?

最短の増援はMark9が360秒後。

44B航空団、及び空中戦艦群は660秒後になるから、何とか保たせて。』

敵の航空戦力か…

出てくるのが遅かったじゃない。

そんな事を考えながら、自分が獰猛に笑っているのを自覚する。

自らを鼓舞するための強がりかと、自己分析する。

 

 

視界に外の景色が映り、私は覚悟を決める。

『Mark7、了解。緊急発進します。』

機体を最速で飛ばしながら、検知されたデータを閲覧していく。

 

私の後ろには、スクランブルをかけられたウルトビーズ。

そしてUNの次世代型戦闘機ADF-11F Ravenも展開されているのが見える。

最新鋭の戦闘機とはいえ、アポストル相手に通常兵器での出撃とは、パイロットは命知らずだね。

 

『こちら、UN空軍レイヴン01だ。フェアリー07久しぶりだな。』

この声は合同訓練の時の隊長さん。

今だに初めて会った9歳の頃のコードネームのままなんて、ちょっと恥ずかしい。

 

『お久しぶりです。接敵まで時間が無いので手短にいきます。

訓練通りに、囮兼、ATフィールド中和を本機が行います。

ご存知かと思いますが、青の機体ウルトビーズは自律式無人運用機ですので、細かい戦術動作は苦手です。なので、そちらが合わせてあげてください。

いざとなったらウルトビーズに敵を擦り付けてください。従来のアポストルはエヴァに惹きつけられる性質がありますので。

しかし、この事に関しての過信は禁物でお願いします。相手は新種ですから。』

 

『了解、お嬢ちゃん!いや、今は少佐だったな!』

このままじゃ階級が追いつかれそうだ!と笑う隊長さん。

部隊の隊員も軽口を言い軽い雰囲気だ。

 

 

 

見えてきた、まるで海の中の魚群の様に、固まって動いている飛行群体。

アポストル飛行タイプ…

 

奴らに対して、UNの戦闘機が戦力として動けるかは未知数。

しかし、ATフィールドを持つ飛行体との戦いを想定した、シミュレーター訓練を受けたパイロット達だ。

戦い方は熟知しているだろう。

後は、敵の性能によるだろうけれど…

 

 

速度を更に上げて、敵へと近づいていく。

エヴァが手に持つ、新型パレットライフル[パワードエイト]を握りしめる。

私、だいぶ緊張してるみたいね。

エヴァの動きにまで、精神状態が反映されるなんて

 

 

…敵もこちらに気がついたようだ。

一部が群れより離脱して、こちらに接近してくる。

あいつらの速度は音速を超えている

 

 

 

徐々に縮まっていく距離。

 

距離3000、今だ!

ATフィールドを最大まで展開し、敵のATフィールドを中和していき、トリガーを引き絞る。

パワードエイトから吐き出される弾丸は、敵の先頭集団を蜂の巣にしていく。

 

 

距離も近づき、くっきりと敵の姿が見えてきた。

翼が生え、下半身のなくなったA1という見た目。

さらに、尻尾の先端も刃状に変わっている。

 

 

私の後方からはレーザーが飛んでいく。

ADF-11F Ravenに搭載されているレーザー兵器による攻撃だ。

 

撃ち落とされていくアポストルだが、戦闘機よりも速度が速い。

 

特に旋回性能が想像以上だ。

ADF-11F Ravenでは、あの旋回性能には追いつけない。

 

 

UNのパイロット達もそれを悟ったのか、一時離脱し、距離を取る。

その際に彼等が置き土産として放った誘導ミサイルが、次々と敵に着弾していく。

 

 

敵後方に動き有り、第二波!

視界の隅に置いた第二波は長蛇の列を作るように進行してくる。

 

単縦陣か…

 

偶然の産物なのか、それとも、思考の果ての末取った行動なのか。

 

散り散りになった、敵第一波の掃討をウルトビーズに担当させ、Mark7の速度を上げて、敵第二波に接近し攻撃を加えていく。

銃撃を与えつつ、敵を誘引していき、キルポイントにおびき寄せる。

 

ちっ!弾切れ!?撃ち過ぎたか…

空になったマガジンを外し、アポストルへ投げつける。

タイミング良く飛来し、敵に着弾していく戦闘機のミサイル群。

 

良くこちらを見ている。援護ありがたい。

 

大蛇の腹を食い破る様に、単縦陣の側面から、ADF-11F Ravenとウルトビーズが攻撃を加えていく。

 

それに合わせるようにMark7を急速反転させ、敵集団先鋒へ、右腕を振り払い圧縮したATフィールドを叩きつける。

肉体が四散していくアポストル達の姿を、流し見しながら左ロールで機体を動かす。

事前に放り投げていたパワードエイトを掴みつつ、マガジンを装填し、第二波後方を撃ち抜いていく。

 

くっ、センサーに感あり?。

第三波と第四波と第五波の多方面からの同時展開!

まだ第二波の残敵掃討が終わってないのに!

 

『掃討任せます!』

 

『任せろ、少佐!』

 

機体を更に加速させ、それぞれの単縦陣をかすめる様な機動を取りつつ、銃撃を加えていく。

 

喰い付いたな…

3個の単縦陣がそれぞれ動き私を追いかける。

付かず離れずの距離を取りながら、パワードエイトで撃ち抜いていく。

 

『こちら、アルテミス04、オペレーター長良。Mark7応答願います。』

遠隔操作キラー衛星アルテミスのオペレーター、長良ちゃんの声だ!

10代前半で、重力操作適正とレガリアへの適正を見込まれて、徴兵されたオペレーター。

『聞こえてるよ、長良ちゃん。』

 

『支援可能域に到着しました。

これより援護に入ります。』

 

『了解!ATフィールド中和範囲のデータを送ります。後はよろしく!』

了解という、返事を聞き敵に集中する。

遥か上空より、降ってくるポジトロンリボルバーカノンによる砲撃。

アルテミスのメインウェポンだ。

リボルバー式電導カートリッジのシリンダーを切り替えていく事により、充電と砲撃を同時に行える様にしている。

カートリッジ型の利点は、動力直結型よりも次弾発射が早い事で、欠点はどうしても大型化してしまう事。

 

 

ちっ!くそっ!

第六波が既に来ている。

しかも、場所が戦闘機部隊に近い!

 

ウルトビーズに戦闘機部隊の援護命令を出す。

 

『来やがったな、01より各機。

死ぬ気で飛べよ!』

隊長さんより、激が飛ぶ。

旋回性能では大きく劣るADF-11F Ravenだが最大戦速は上回っている。

見事な編隊を組み、各々アポストルの死角から致命傷を与えていく。

凄い!ATフィールドを持っていないのに!

 

このアポストル、ATフィールドの強度が低いのか。だから不意打ちへの防御が弱すぎる。

恐らく、ATフィールドを推進力に回してるからだ。

翼とATフィールドによる飛行、初期のMark7に少し似てる。

まあ、出力が低すぎて、初期型Mark7の足元にも及ばないけども…

 

 

ウルトビーズが到着し、第六波の数が少なくなってきたからか、後ろに付かれた戦闘機はクルビット機動で後ろを取り、撃ち落としている。

凄い練度だよ。

 

 

こちらも負けてはいられない。

3個の単縦陣を削っていってるが、未だに数が多い。

パワードエイトも予備マガジンが無くなりつつある。

アルテミスの援護もあるけど、掃討には時間がかかりそうだ。

 

パワードエイトを背部にマウントし、腰部にある大きな翼、ヴェルテクスユニット改に取り付けられている新武装シグナムハンドガンを2丁両手に持つ。

この武器はQRシグナムを使った陽電子拳銃。弾数無限だが射程距離が短いという欠点を持つ。

 

ハンドガンの射程に入った敵からフルオートで撃ち抜いていく。時にはバラバラの標的を2丁の拳銃で狙う。

高速回避機動の中、機体を回転させたりして狙うため、視界が目まぐるしく変わっていく。

 

 

あれ?射程外の敵が弾け飛んていく?

これは北東方角から。…綾波さんだ!

 

Mark7の最大望遠でも補足が難しい遠方から重粒子弾が飛んでくる。

 

今の戦力なら敵の本隊も殺れるか。

『綾波さん、敵本隊を始末しましょう。』

ヴンダーを始めとした本隊の到着を待つ手も有る、本来ならそうするべきなのだが、何か嫌な予感がする。

いくら群れているとしてもコイツらの侵攻速度が遅いのだ。それに戦力を小出しにして来るのも解せない。

 

『解ったわ。私も同感よ。』

そう答えて、天使の背骨のバレルを装換する綾波さん。天使の背骨のレーザーバレルだ。

 

機体を加速させて、敵本隊へ奔らせる。

 

『長良ちゃん!オリオンコンテナM番を出して!』

 

『了解。コンテナの軌道データを送ります。

オリオンコンテナM番射出。

突入角度調整、燃焼開始。

…燃焼終了。調整ブースター、ジェットソン。

角度、軌道問題なし。オリオンコンテナ突入します。』

 

赤く発熱した巨大なコンテナが落下してくる。

軌道はデータ通り、流石は長良ちゃん。

 

降ってきた、エヴァよりも少し大きなコンテナに飛びつき、レバーを思いっきり引く。

中から出てきたのは、エヴァ並の長さのガトリング砲、その大きさの殆どがドラムマガジンだ。さらに指向性N2ミサイルと、その大きさに見合うブレードを合わせ持った兵装、マステマセカンド。

リツコ先生の力作。

 

マステマセカンドを構え、敵本隊に銃弾の嵐を直撃させる。

近くまで来ていた綾波さんも、太いレーザービームを撃ち込んでいく。

 

高速機動で敵の動きを纏めながら、数を減らしていく。

ウルトビーズもADF-11F Ravenも敵をバラつかせ無いように動いている。

 

爆破範囲内に敵が収まった。

味方に警告を送り、緊急退避を促す。

発射される、指向性N2ミサイル。 

『耐ショック、対閃光防御!』

 

世界をを埋め尽くさんとする眩い光と轟音。

まさしくラース・オブ・ゴッド、神の怒りのようだ。

 

 

後に残るは、多少バラけてしまっていた敵の残党のみ。

 

通信越しに聞こえる、戦闘機部隊の歓声。

ほっ、と、一息つく

考え過ぎだったかな?

アポストルの変な動きに敏感になりすぎたのかも…

 

 

落ち着いた所で、私達が今居る座標に驚愕する。

いつの間にか南極に近づきつつあったのだ。

これ以上南極側に近づけば、空中のL結界密度も高くなるから戦闘機のパイロット達は危なかった。

 

 

 

ミサトさんに現状を報告。

呆れながらも、良くやったわ。とお褒めの言葉を頂いた。

 

 

残党狩りをウルトビーズに命令しようとした瞬間、エントリープラグ内に響き渡る警告音。

展開される電子ウインドウに表示されるのは、パターン青の警告。

 

『そんな!パターン青?使徒!?

何処にいるの!?』

慌ててあたりを見渡す私。

 

『何故?』

と困惑する綾波さん。

何でセンサーに反応がない?

誤作動?

 

それにアポストル反応でなく、使徒の反応だなんて。

 

 

 

 

周囲のL結界密度が揺らめいているのに気がつく。

強大なATフィールド反応!?

 

まさか!海中!?

 

 

 

クソ!L結界密度が高すぎて気が付かなかったんだ!

敵の伏兵なんてね、しゃらくさい!

 

 

揺らめく赤い水面。

南極の海から迫り上がってきたそれは、土星の様な形をした巨大な黒い球体だった。

 

違う、球体じゃ無い。その形に形成された飛行型アポストルの群体。

それに中心部にコアブロックの反応?

まさか、あの群れが一つの生命体だとでもいうの?

あまりにも強い反応で、センサーがパターン青と誤認したのか!

 

 

 

それを目の当たりにし、目を見開き驚愕の表情を浮かべる私と綾波さん。

 

なんなの、あの数…

 

 

 

『マズイ!ユウカ、レイ、逃げなさい!!』

ミサトさんの声が聞こえる。逃げる?

で、でも、あんなの野放しにしたら…

 

物凄い速度で群体から伸びてくる、単縦陣を布いたアポストル達。

反射的に機体を動かし回避するが、追ってくる。

機体の旋回性能が落ちている。

くそ、マステマセカンドが重すぎるんだ!

 

『長良ちゃん!マステマセカンドの回収よろしく!』

私の言葉にすぐさま反応し、マステマに重力糸がくっつく。

 

 

機体を加速させるが、敵も加速してくる!?

これは、お互いをATフィールドで押し出して加速しているの?

 

マズイ、数が増えれば増えるほど、敵のスピードが増していく。

 

『綾波さん!』

私の一言で察してくれたのか、私達は機体を前後に並べる。

シグナムハンドガンを両手に構え、迫ってくる敵に撃ち込んでいく。

Mark9は私の後ろからレーザーを照射する。

 

Mark9単体だとこのスピードに追いつかれるから、Mark7の後ろに配置するしかない。

私のATフィールドでMark9を押し出す形になる。

その為、射線を塞がないように小さいフィールドを展開する。

 

 

 

くそ、敵の処理が追いつかない!

速度的に、重力遮断の方にフィールドを使ってる余裕がないよ。

 

意識し遮断率を下げる。

すると途端に身体への負担がかかる。

 

 

射撃をしながらの後退機動のため、どうしても足を敵に向ける事になる。

そこへ繰り出される敵の尻尾が、瞬時に私のATフィールを破る。

 

っ!Mark7の足に敵の尻尾が刺さった!

チクショウ、アンチATフィールドか!

 

 

『ランダム機動を取るよ、綾波さん!』

 

『合わせるわ。』

インダクションレバーを押し込む。

二人で、迫りくる敵の大群に攻撃を途絶えないようにしながら、高速でランダム機動を行う。

 

ウルトビーズは既に戦闘空域から退避済み。

戦闘機部隊も同様。

故に敵は私達達に釘付けだ。

 

 

『ユウカ、レイ!』

聞こえてくるミサトさんの声。

そして視界にチラッと映るヴンダー。

本隊が来たのか。

 

でもこの数はヤバい。

測定不能な数の敵。

下手したら全滅だよ!

 

 

『来ないで!』

私と綾波さんの声が重なるす

今、敵が散らばったら袋叩きに合ってしまう。

 

味方はヴンダー、エリュブズンデと44Bの4個航空団。

随伴の4個空母打撃群。

エヴァMark10シャマシュ。

他には、ナンバーズのエヴァが全機揃ってるの?

 

 

それにしても、私達の攻撃で敵の数減ってるのかな!?

かなりの敵を倒してるのに、全然勢いが衰えないんだけど…

 

 

 

援軍に少しだけ視線を移す。

味方本隊は単縦陣、先頭はMark10シャマシュで、それにヴンダーが続いている。

 

 

少しするとミサトさんからの通信が入る。

『ユウカ、レイ。そのまま、敵を撹乱して。

ヴンダーで敵のコアブロックごと叩くわ。』

え、ヴンダーで?

まさか!?

 

『葛城准将!本気なの!?

まだ試射すらしてないのよ!

それにいくらヴンダーの主砲でもあの規模の敵を仕留められないわ。』

リツコ先生が反対意見を述べる。

 

『ええ、ですので防御用のATフィールドを全て主砲関連の保護に回し、S2機関を最大出力で主砲を放ちます。』

 

『正気の沙汰とは思えないわね。』

リツコ先生、もうエヴァ説得諦めたの?

ブリッジ要員も無茶だ、無理ですと言う。

 

『無茶は承知の上よ。ですので希望者の退艦を許可します。』

そんなミサトさんの言葉に笑っているのは、青葉さん、日向さん、マヤさん、リツコ先生と古参の旧ネルフスタッフ達。

若いメンバーは引き攣っているも、誰も退艦しようとしない。

 

『誰もいないのね。…では作戦開始。

シャマシュ、ヴンダー前進!』

ミサトさんの号令の元、動き出す全隊。

 

『ヴンダー各砲門、任意に標準。

撃ち方はじめ!』

日向さんの指示によりヴンダーの対空砲やレールガン、副砲が火を吹く。

 

ヴンダーよりも前に出るエヴァMark10に敵が殺到する。

エヴァMark10シャマシュの上には、船首にエヴァMark12が、主機であるMark10本体の近くにはエヴァ5号機アイギスが守るように陣取っている。

 

『ほ〜、ほ〜、よっと。ふむ、ふむ?これはなかなか…』

と声を漏らすのはマリ。

8号機に、四肢に重機関銃を装着するガンスーツを装備している。

その機体にはアルテミスから重力糸が付いている。

 

『結構難しいけど、楽しいからイイ!

今助けるよ!な〜なちゃん!

ほんじゃわっしは、上から行くよ〜ん。

それじゃあ、長良っち。操演ヨロピクねぇ〜!!』

マリが言い終える前に、急上昇する8号機。

 

重力糸に操作され、宙を舞う8号機。

近づいてくる敵に次々と弾丸を浴びせる。

 

『速度維持、トンボ位置プラス20(フタマル)、バカ棒、角度そのまま。ヨーソロー』

上昇していく8号機に、下から追いすがる敵群。

 

『にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃはぁ、にゃにゃにゃ、にゃんにゃにゃにゃー!

にゃにゃにゃにゃにゃっ、にゃにゃにゃー!』

とヤケクソに掛け声を出しながら撃っている。

ちょっと楽しそう。

 

 

敵の大群に襲われるMark10の船首では、Mark12が4つの腕に長いブレードを持ち、アポストルの身体を次々に両断していく。

もはや人の目には映らないほどのスピードで腕を振るっている。

適所にATフィールドを展開し、防御しながら攻撃していく様はまさに古の武将を思わせる。

 

 

主機として直結しているため、動けないマユミちゃんを守るのはマナだ。

5号機アイギスの巨腕を振るい、迫りこようとするアポストルを四散させていく。

たとえ自分が危なくなろうとも、マユミちゃんのため、その場を離れない戦いに、見てて不安になってくる。

 

 

マユミちゃんは、アポストルに取り付かれ、少しずつバラバラにされている船体のダメージに耐えながら操艦している。

船体へと取り付いたアポストルはウルフパック達が駆け回り随時排除している。

 

 

シャマシュの上ではアスカがツイングレイブを振り回し、次々と敵を屠っているのが見える。

しかし、近くにいるMark11の様子がおかしい。

Mark6も近くで槍を振るい、戦っている。

 

『む、無理です。こんなん出来ません。』

サクラの声だ。

『私一人でなんてやった時ないんですよ。

こんな数の敵、倒すなんて…そんなん博打や。』

 

そんなサクラにアスカは怒鳴る。

『無理って言うな!出来ないなんて、やってもないのに言うんじゃ無いわよ!

あのバカシンジは、初めて見たエヴァで単騎で出撃したのよ。

それに比べて何とも思わないわけ?』

 

それでも動かないサクラに業を煮やしたのか

『ちっ!良いわ。私が左側をやる。

渚、ちょっとだけ敵を近づかせないで。』

 

『行くわよ、2号機。裏コード999!』

拘束具がパージされる2号機。

身体のリミッターが解除され、2号機から赤い霧が上がっていく。

S2機関が高エネルギーを発している。

 

轟音が鳴ったその瞬間、2号機は既に空中にいた。

グレイブを目視できない速度で振り回し周辺の敵を瞬く間に、バラバラにしていく。

そして空を飛ぶ敵を踏みつけ、空を駆けていく。

 

2号機鬼神化形態。

僅かな動きでも肉体を損傷するほどのパワーを発揮させる裏コード。

機体から立ち昇る赤い霧はエヴァ2号機の血液。

S2機関を使用した素体再生を利用しての荒技である。

 

激痛に苛まれるも、アスカは動き続ける。

ツイングレイブの真ん中のジョイントを外し、双剣にして、敵の中へと突っ込んでいく。

 

 

 

『それじゃあ、鈴原さん。僕も行くよ。

さよなら。』

そうサクラに告げ、Mark6を宙に踊らせるカヲル君。

宙に浮くMark6は、Mark10の右側に機体を動かす。

 

やっぱ飛べるんだねカヲル君。

槍を振るうたびにATフィールドは伸びていき、アポストルを両断している。

とてつもない強度のATフィールドを操るカヲル君は、まさしく自由の天使のごとく、何者にも阻害されない存在になっていた。

 

 

孤立してしまうサクラにも敵は殺到していく。

あまりの敵の数に怯んでしまっているサクラ。

そんなサクラを守るために、意識してウルトビーズを動かし周りの敵を仕留めていく。

 

『長門さん!』

綾波さんの警告!

ヤバい!意識を少し割きすぎた為、敵に取り付かれてしまった。

目の前に繰り出される、敵の尻尾。

アンチATフィールドにより多重ATフィールドは破られていくが、この敵を振り払う動作は、殲滅しながら移動する私達に、取り返しのつかないロスを生み出す。

そうなると、二人共敵の波に飲み込まれる事になってしまうだろう。

 

一か八か、エヴァの口で尻尾を受け止めるしかない。

失敗したら、ATフィールドを一極集中させて綾波さんを逃がすしかないかな…

眼前の敵を睨みつけ、ATフィールドが破られる瞬間に集中する。

 

 

 

ATフィールドを破られる瞬間、敵を串刺しにする巨大な刃が視界に映った。

そして、そのまま目の前のアポストルか視界から消える。

 

世界最速を誇るエヴァンゲリオン、エヴァMark11。

刃状の脚部で飛び蹴りをしたのか。

『ありがとう、サクラ。』

 

 

 

空中を滑るように動くMark11。

刃状の両足は、何もない所にATフィールドで広い足場を作っている。

空間に道があるように滑っていくMark11は、自由機動で敵を撹乱していく。

踊るような動きは、戦場で無ければ見る者を引き付ける。

 

 

巨大な球体のようであったアポストル群は、各々に攻撃され、惹きつけられる様に動き、縦に伸びている。

皆の奮戦のおかげで、敵の速度が落ち、こちらへの負担がだいぶ減った。

 

私と綾波さんは通信越しに頷く。

やることは解っている。

既に、私達が次に取る軌道はデータとしてMark9に送ってある。

 

 

 

 

二重螺旋を描く軌道。

お互いのATフィールドで重力場に異常を起こしながら、その軌道を描く。

多重ATフィールドを前方に展開し、ドリルの様に動かし突撃する。

 

多少だが薄くなった敵の群れを突き破るが、コアブロックは守りが固く突破出来ない。

まあ、それは私達の役目では無いから構わない。

コアブロックの付近を掠める様に通った私達の後に続くよう、重力場異常が起こっていく。

その重力異常に引き寄せられていく、周辺のアポストル達。

 

その直前には退避していたナンバーズ。

敵が居ないと足場がないアスカはサクラがちゃんと拾っている。

 

『エネルギー充填率300%。

ATフィールドにて重要機関保護完了。

葛城准将!』

青葉さんの報告を受けて、ミサトさんは頷く。

 

『ユウカとレイによる、重力場異常が正常に戻るまで残り10秒よ。葛城准将。』

リツコ先生の計算を聞き、獰猛な笑顔になるミサトさん。

『それじゃ、あの子達に変わってお仕置きよ。

グラヴィティレール展開。』

 

『重力場直ります!』

『グラヴィティレール展開完了。主砲発射行けます!』

マヤさんと日向さんの報告が聞こえてくる。

 

 

『グラヴィティブラスト、撃てぇー!!』

ミサトさんの号令に合わせて、発射される主砲。

黒く歪んだ重力場が広く奔っていき、敵を飲み込む。

 

その黒い重力場は、その中にあるもの、全てを潰していく。

まるで、全力で握りつぶされた卵のように、潰れるコアブロック。

QRシグナムを破壊され爆発する敵群の姿は、黒く歪んだ重力場も相まって、天の川の様に見えてしまう。

 

『波長パターン消滅を確認。状況終了!』

青葉さんの声を聞きながら、身体をエントリープラグのインテリアに沈め、身体の緊張を解くように大きく息を吐く。

 

 

…つかれた。

 

勝利に湧く歓声を聞きながら目頭を押さえ、目をつむる。

 

『では、上空に配置してた44Bで、散らばった残敵を始末してくれ。葛城君、君も休んでいたまえ。

後始末は私がやっておくよ。

帰ったら祝勝会といこう。』

冬月司令!?増援か。いつの間に44Bを上空に配置してたの!?

奇襲準備とは、流石ですね。

 

 

祝勝会と聞き、さらに湧く歓声。

豪勢な事だ、ヴィレとUN軍の合同祝勝会とは。

 




素晴らしき褐色美女。
なお、今は美少女。

ということで、長良さんです!


サクラの精神モデルにかんしては、若干シンジをイメージしております。
これは16才の普通の少女の為です。


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青天霹靂

今回は若干のガールズラブ要素が混じっています。
マリシン以外は認めないという方は、ページの3分の1くらいまでスクロールをお願いします。
ただ、私としては話の都合上必要だったのでご容赦を。

登場人物にクロスオーバー要素があります。

この物語は一応作者として、エンディングが決まっていますが、マルチエンディングも書きたいと思っています。
アンケートを実施しますので、良かったらご協力お願いします。

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ヴィレ松代支部。

以前までヴィレの仮設本部として使われていた見知った廊下を、リツコ先生とマヤさんとの三人で歩いている。

 

 

以前、イスラエルの反乱の際に、彼等の研究施設から押収されたエヴァンゲリオンの調査の為に訪れている。

松代支部に調査を任せていたのだが、従来のエヴァと大きな差異が有るため呼ばれたみたいだ。

前にざっと調べた感じでは第1世代のエヴァンゲリオンだったんだけどな…

 

 

「赤木博士、こちらです。」

松代の主任研究員の案内でケージに訪れる。

 

サメのような歯がむき出しになった口、側頭部の集音装置、両目部分にはカバーが着けられているエヴァ。

 

ミサトさん曰く、エヴァンゲリオン無号機。

反乱勢力により秘密裏に開発されていた機体。

フォロー型を超える機体として、第1世代をベースにして造られたと思われるとのことだ。

 

収集されたデータを見る限り、第1世代よりも素体部分が強化されているようだ。

リツコさんはコアブロック、マヤさんは機体システム関連、私は素体、兵装関連に精通しているため、各々が携帯端末に転送された情報を見ている。

 

…なるほどね、こりゃあ直接呼ばれる訳だ。

まさか、本部からの情報流出があったとはね。

 

てっきりアメリカ支部かと思っていたが、本部特有の旧世代の素体ゲノムだよ。

あと、素体のコアブロック周辺が他のエヴァと大きな違いがある。これは今までのエヴァには無い特徴だ。

 

「先輩、どうやら操縦システムに大きな違いがあるみたいです。

少なくとも既存のエヴァと違い、エントリープラグを使わずに操縦するようですね。」

マヤさんが端末から目を離さずにリツコ先生へ報告している。

 

続けて私が報告する。

「素体に関しては本部由来の旧式素体ゲノムが使われていました。兵装関連は第1世代を踏襲しています。しかし、その、コアブロック周辺の素体にはヒトゲノムが一部確認されてます。」

クソだな。こんなこと、理性のある人間のすることじゃ無いでしょ。

 

「そう、やっぱりそうなのね…。

このエヴァはパイロットでなく、外部からの信号を使い操作しようとして開発していたみたいね。

エヴァその物を一つの生命体として造り、外部からの命令を遂行する生体兵器。

近いもので言うなら、S2機関のない使徒といったところかしら。」

深く考え込んでいるリツコ先生。

何か他に気になることでも有るのか、それでもまだ仮説にも至ってないのだろう。

長年一緒に仕事してきて、何となく仕草でわかる。

リツコ先生はそういうところがあるから。

 

 

それにしても、何故こんな物を造ろうと。

まだ間接シンクロシステムの方が兵器としての信頼性が高いはずなのに…

まさか、兵器でなく、実験機として造られたのか?

もしそうなのだとしたら、これを造った人間は何かしら妄執に囚われているような気がする。

じゃなければ、こんな事出来るはずが無いんだ。

 

 

 

結局技術部として、エヴァ無号機に関して破棄処分を提案する事になった。

ネルフやヴィレの手が全くかかっていないエヴァンゲリオンだが、はっきり言って防衛戦力にはならない代物だ。

現行のエヴァとは全く違ったコンセプトだが、その制御系は倫理に反するうえ、到底制御出来ないと言わざるを得ない。

今更エヴァに関して倫理を説くつもりは無いが、アレは論外だ。

…思い出すだけでも反吐が出る、そんな思いは初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻ってからも無号機の事が頭から離れない。

洗面台の鏡に映る自分の表情は、眉間に皺を寄せ冷たい目をしていた。

蛇口から水を出し、顔にかけていく。

駄目だ、こんなふうに感情を荒ぶらせるな…

そう自分に言い聞かせて目を瞑る。

 

 

「ななちゃん、大丈夫かい?」

後ろから優しく抱きしめられる。暖かい…

人と触れ合っていると、冷たくなった心が暖かくなっていく。

目を開き、鏡越しにマリと目を合わせる。

「ありがとう、マリちゃん。

今、大丈夫になったよ。」

 

鏡の中の自分は笑えている。

 

時々自分の心が解らなくなることがある…

こうやってリリンの汚いところを見ると、どうしてもそうなってしまうのを自覚している。

そして、そんな自分に対して悲しくなってくる。

まるでリリンという種族に失望するような感覚自体が、私が人間であった事を忘れていくということを示唆しているのではと。

 

 

それでも私には、こうやって触れ合える人達がいる。それが安らぎにも、励ましにもなる。

 

ベットに腰掛け、今日あった出来事や自分の感情の事をマリに打ち明ける。

エヴァに関しては守秘義務違反に当たるが、私はたまにこうやってマリへ相談している。

 

「ねぇ、ななちゃん。

君は、人間をどのように思おうと自由なんだよ?

たとえ君が人間を嫌いになっても、私は君の事が好きだからね。

だから、自分の心に蓋をしないで。

君の強いATフィールドが、君自身を傷つけてしまうから。

…ななちゃん、私がずっと側にいるよ…。」

おでこを合わせ見つめ合う。

マリの瞳の中に映る自分はどこか安堵した表情をしていた。

 

 

…いや、キスしないよ。

何どさくさに紛れてしようとしてるの?

 

そんな捨てられそうな猫みたいな表情しないでよ…

今日は一緒に寝てあげるから元気だして。

そう言いながら、使徒である私では彼女に相応しく無いと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日が経ち、今日も今日とてアメリカ戦線には元気なアポストル達が押し寄せてきています。

ここのところ、襲撃の頻度が増えてきている代わりに、敵の数が少くなっている。少くなったと言っても、こちらの数より多いのは変わりない。

 

ここ連日は、南アメリカへ襲撃してきているが、同時にアフリカの方へも敵戦力が集結しているようだ。

南アメリカに来ているのは私と綾波さんとマナ。

アフリカにはアスカとマユミちゃんとサクラ、残りは本部防衛となっている。

 

敵の航空戦力であるAF(ApostleFlyingType)を斃しながら、要所要所で地上の援護をしていく。

地上にいる5号機アイギスの背後に敵が迫っているのを発見。

瞬時に5号機に襲いかかる敵に弾丸を叩き込むが、別方向から飛んできた弾丸も同時に敵へ突き刺さった。

 

あれ?デジャヴュかな?

全く同じ光景を見た時が有る気がする。

 

…なんだろう、さっき見たデジャヴュが頭から離れないな。

敵の航空戦力をパワードエイトで撃ち抜きながらも、別の事に意識を割いていた。

 

 

今日はあまりにも変だ。

さっきのデジャヴュを見てから、デジャビュを頻繁に見るようになってきている。

 

何となしにパワードエイトを九時の方向に構えると、味方の44Bが敵に組み付かれそうになっている。瞬時に発砲し敵を始末する。

私の後ろから迫る敵を見ずに、ATフィールドで叩き潰し、地表に向けてパワードエイトを斉射する。味方を叩き潰そうとしていたA2がハチの巣になるのを見届けずに、マガジンを飛んできた別の敵に投げつける。

怯む敵を掴み、別方向からくる敵に叩きつける。

 

…何だろう、敵の動きが解る?同時にデジャヴュを見る感覚。

釈然としない。

 

 

長距離通信のディスプレイが映る。

これはアフリカに居るミサトさんから?

『はい、こちら長門。』

 

『ユウカ、ちょっと聞きたいのだけど、貴女から見てそちらの戦況はどう?』

 

『戦況は有利ですが、連日の襲撃の疲れが全体に出ております。

敵の数も昨日より多いようですので、予断を許しません。』

 

『そう、了解したわ。気にしないで頂戴。

通信終了。』

あちらの戦況が良くないのか、厳しそうな表情をしていた。

 

改めて目の前の戦況を観察する。

何だろう、勝ちは揺るぎないが、今こちらからアフリカへ援軍を出そうものなら、被害が大きくなるような規模の絶妙な敵戦力であると感じる。

 

…凄くキモチワルイ。

 

 

 

 

 

夜の帳が降りると共に、敵の殲滅を確認する事が出来た。

敵の戦力逐次投入により、戦いが長引いた感が否めない。

 

もしかして敵の遅滞戦闘?しかし、何の為に?

 

 

現在、司令部に呼ばれた私達はウォール・オブ・ジェリコの仮設ケージにエヴァを格納し、発令所へと歩いていた。

 

「あ〜、つかれた〜!今日の敵、何なんだろう。凄くうっとおしかった。

ユウカも綾波さんも援護ありがとね。」

マナが歩きながら両手を伸ばし、こわばった身体をほぐしている。

朝から戦いっぱなしだったし、地上の最大戦力はマナの5号機アイギスだから凄く走り回っていた。

 

「なんだか、今日私変だな。凄くデジャヴュ見るし。皆は?」

 

「私は変わらないわ。」

「私も変わらないかな?デジャヴュとかあまり感じたときないし。」

似た声の二人が話す。あ、またデジャヴュ。

 

それにしても、今日も本部には帰れなさそうだな…

敵の戦力が直近の海底で待機しているのを検知している。

 

「はあ、今日も帰れなさそうだね。

本部のご飯の方が美味しいから、早く帰りたいよ。

う〜ん、パンケーキ食べたい!」

 

「最近カツ丼食べてないから私も帰りたい。」

 

「何故ここには肉料理ばかりしか無いの?」

贅沢なのは解っているが、私含め三人共ご飯の不満が出てくる。

方やオシャレなご飯が無い、方やカツ丼が無い、方やお肉や魚ばかりだと。

そんなくだらない事を話しながら、発令所の扉をくぐる。

 

 

そこで待っていたのはウォール・オブ・ジェリコを指揮するシトレ大将。

黒人の大柄な将官で、優しい人だ。

敬礼する彼に返礼する。

「やあ、君たち。待っていたよ。

アフリカに居る葛城准将と通信が繋がっている。

葛城准将、ナンバーズが到着した。そろそろ始めよう。」

 

『ユウカ、レイ、マナ。今日もお疲れ様。

良くないお知らせがちょっちあってね。

…アフリカ戦線なんだけど、第一次防衛線を抜かれてしまったわ。』

 

え?

複合要塞の第一次防衛線が抜かれたですって?

 

「え!ちょっと、どうしたんですか?

予測値より敵が多かったんですか?」

驚くマナが声をあげる。

 

「敵の戦力が推定値を大きく上回るような事は無かったのだけどもね。

どうも敵に指揮官でも付いたようなのよ。

こちらの戦術機動をことごとく読まれてしまってたわ。

ナンバーズや予備戦力を動かすとその地点の敵が少くなったりね。陸も空もそんな感じで終始押されてしまい、要塞群の一部が陥落。

奪還できずそのままよ。そのため第一次防衛戦を破棄。現在は敵を誘引して撃滅に成功。戦力を再編成中といったところよ。」

長時間にも及ぶ指揮に疲れの色が見えるミサトさんの表情。

アスカ達が居て負けるなんて、考えもしなかった。

 

「はっきり言って、敵の指揮官は化け物よ。

リツコ曰く、頭脳特化した新種のアポストルではないかとのことよ。」

ミサトさんにそこまで言わせるなんて。

驚く私達に指示が入る。

 

「シトレ大将と協議し、配置変えを行うことに決まったわ。

霧島マナ、長門ユウカ両名はアフリカ戦線へ移動。鈴原サクラは南アメリカ戦線へ移動。

バディとして訓練してきた航空班の二組をバラすことになるけど、今回はコンビネーションよりもシングルコンバットの成績と殲滅力を重視します。

マナの穴埋めには、ヴィレが保有するフォロー型の一個大隊を送る事になったから。」

初の敗戦。

被害は第一次会戦よりかなり少ないが、5つある防衛戦の内、1つの損失はかなりの痛手だ。

顔を見合わせ気合いを入れ直す私とマナ。

さて、いっちょやりますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照りつける太陽、快晴の空だが喜ばしい気持ちにはなれない。

眼下には崩壊しているいくつもの要塞が映る。

 

現在は第一次防衛線の奪還のため動いている。

敵の大規模な航空戦力を捌いているが、数が減っていかない。

通信越しに聞こえるのはアスカの怒声と、マナのイライラした声。

二人はことごとく敵に振り回されているようで、碌に戦果を挙げられていない。

私は逆にスコアが凄い事になっているが、それはただ敵に釘付けにされているだけで、味方の趨勢に影響を及ぼしているようには見えない。

 

私とカヲル君は、活躍と戦況が一致して無いというおかしな状況になっている。

アスカとマナとマユミちゃんは敵の戦術機動に振り回されており、これもやはり戦況への影響力が落とされている。

機動力と殲滅力に優れるエヴァMark12がいなければ戦線を崩されていたかもしれない。

 

 

それにしても、またデジャヴュか…

今日も連続してデジャヴュを見ている。

神憑った活躍をする私とカヲル君に称賛の声が掛けられているが、何だろう、やはり私は釈然としない。

身体が勝手に動くような感じる。まるで繰り返しやってきた事をあまり意識せずに行っている感覚と言えば良いのか…

 

ヤバい、また地上部隊が押されている。

眼下に映る味方の劣勢。

 

え?うそ、空は私だけ孤立してる?

それに地上にはナンバーズが誰もいない。

 

 

私は両手に持ってたシグナムハンドガンを規定位置にマウントし、アルベスの槍を喚ぶ。

飛来する槍を手に持ち、ATフィールドを増幅させ、ATフィールドで周辺の敵を一時的に押しのける。

 

敵地上戦力に打撃を与えるため、再度ATフィールドを増幅させ地上にダイブする。

奔る衝撃波により、一部敵の地上戦力を始末する事に成功。

辺り一帯が血の海のようになるのを気にせずに、再び空を飛びAFへと飛びかかるが、槍を持っていると逃げるように散っていく。

 

槍に怯えているというよりは、このまま槍を持たせたままにしたくないという意図を感じる。

しかし、このまま敵を散らせて、場所を移動しようとすると、このAFが地上に行こうとするのだ。

そんなAFに私がダイブしようとすると、飛び立ち私の攻撃を回避する…

さっきからこの流れを繰り返している。

槍を宙に待機させ、シグナムハンドガンを構えると私へ殺到してくる敵の姿。

 

来たる敵を撃ち抜きながら遠目に見える、見慣れぬ物体にズームする。

 

ん?何だろう。あれは?

地上にいる敵が何かを護衛している?

 

 

巨大なダンゴムシのようなアポストル。

そのアポストルは口元の触手を地面に突き刺した。

何してるの?あれ。

 

センサーが警告音を発する。

新種付近のL結界密度が上昇している!?

 

嘘でしょ!

驚愕した私はすぐさま情報をヴンダーへ送る。

その情報を見たミサトさんがすぐさまマリへ指示を出す。

『マズイわ!マリ、あのダンゴムシを狙撃して!』

 

『ん〜、ダメにゃ!ここからじゃデカブツが邪魔で狙えないよ〜。ていうか近い人いないじゃん!』

 

『ユウカ!』

 

『ごめんなさい!敵に囲まれて突破出来ません!ああ、もう、うっとおしい!』

うまい具合に追い立てられてる?

畜生!このままじゃアフリカの海岸線が侵食される。

 

アルベスの槍を呼び戻すが、今度は散らばらず、距離を取りながら少数づつが突撃してくる。

増幅したATフィールドをぶつけて粉々にしていくが、畳み掛けるように敵が突撃を繰り返してくる。

 

 

焦りながら視線を地上に移すと、大地を赤い閃光が奔っている。

 

閃光の様に見えたのは裏コード999を発動させたエヴァ2号機。

大刀ビゼンオサフネを閃かせながら新種へ突撃していく。

周りのA2を次々と斬り倒しながら進み、遂に新種の元へと到達する。

 

『これで!ラスト!』

聞こえるアスカの声、収縮されたATフィールドを開放し渾身の力で切り払う2号機。

あたり一面に散らばったアポストルの残骸の中で血を払う。

 

『アスカ!早く、先程までいた地点に戻って!

ダンゴムシタイプが来たわよ!』

ミサトさんの焦った声が届く。 

なんでアスカがいた地点に!?

 

まさか読んでたの、この展開を?

ありえないよ。

もう!またデジャヴュ?

何なのこれ!?

 

 

 

その後も各地点に出没していく、ダンゴムシのようなアポストル。

この新種は、こちらの戦力が薄くなった場所に狙って現れている。

 

侵食され、コア化していく大地。

徐々に赤く染まっていく様を見ながらある欲求が芽生えていく。

…カエリタイ

疲れた精神が安らぎを求めているのを自覚しながらインダクションレバーを握る。

今はまだ戦う時だ…

 

 

 

 

 

夕暮れが大地を照らす。

コア化した大地とはまた違った赤に、一日の終わりを感じる。

敵の戦力は既に枯渇し、あとは残敵を掃討するだけだ。

途中より南アメリカから、味方航空戦力が援軍に来てくれたおかげで何とか凌ぐことが出来た。

 

南アメリカにいたAFが、こちらに大多数来ていたようで、あちらは快勝だったようだ。

 

しかし、援軍が来た時点でかなり押し込まれており、第一次防衛線は既にコア化され、現在は急遽集めた相補性L結界浄化無効阻止装置、通称[封印柱]を第二次防衛線の手前にばら撒き、侵食を抑えている。

 

 

 

 

 

残敵掃討を終え、現在は発令所にて会議を行っている。

もっぱら議題に上がるのは防衛戦力の不足だ。

この広大なアフリカを守るには、戦力が不足している。いや、敵の数があまりにも多過ぎることが問題なのだが、それを言ってもどうしようもない。

 

疲れきったナンバーズの皆。

とくにカヲル君が精神的に疲れているようだ。

いつも飄々として余裕があるのに、疲れが表情に出ている。

 

「カヲル君、大丈夫?」

心配になり声をかける。

 

「ん?大丈夫だよ。

長門さん、君こそすごく疲れて見えるよ。

大丈夫かい?」

声をかけたが逆に心配されてしまった。

そんなに疲れて見えるのかな?

 

「アンタらどっちもヤバいわよ。

どうしたのよ?二人揃って。」

アスカにまで心配されてるのか…

いまどんな表情になってるんだろう?

マリには頭を撫でられている。

 

「いや、何かね。昨日から変なんだよ。

ものすごくデジャヴュを見るし、動きは良いと自分でも思えるのに、その事が何か釈然としないし。

それに精神的な疲れが溜まってて。まるで延々と、簡単なゲームのステージをやらされてる感じかな?上手く言葉に出来ないけど…」

本当に上手く説明出来ない。けれども違和感があるのは確か。

そんな私の言葉に驚くのはカヲル君だった。

 

「長門さんもかい?僕も昨日から全く同じ状況でね。」

 

…カヲル君も?何でだろ?

「私とカヲル君以外に、そんな感じの人居る?」

この共通項、何か有りそうだ。

そう思い周りに聞くも、首を振る一同。

私とカヲル君だけか…

 

 

そんな私達のやり取りを聞いていたミサトさんとリツコ先生が、会議そっちのけで何やら話をしている。

進行が止まる会議、注意しようとするUNの将官を止めるビュコック中将。

何かあるのかね?と意見を言うようにミサトさんへ促す。

 

「失礼しました!

渚、長門両名の話を聞き、少し気になった事がありまして、技術部の赤木に確認を取っておりました。…一つ、提案したい事がございます。」

力強い眼差しに、不敵な笑み。

こういう表情をしたミサトさんは強い。

いったい何を提言するのか…

 

 

 

「明日、全ての戦力で総攻撃を仕掛けましょう。」

 

 

 

……はい?

えっ、何で?




マリとのカップリングフラグが立ってしまいました。
本当に申し訳ないです。
本来はシンジ君総受けとなっていましたが、書いているうちに主人公である、ななちゃんを補完しないといけない事に。

精神状態をトレースすると、誰かしらが寄り添わないとバッドエンドになりかねない…
そうなるとマリ以外に居なかったです。申し訳ないです!

ちなみに作者の一番好きなキャラはシンジ君ですが、女性だとアスカとリツコさんです。

ルート補足としては
カヲル君、シンジ君ルートはあまりカップリング要素がないですが、彼らがヒロインになります。
上記2つのルートでもマリはななちゃんについていきます。


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雲外蒼天



前話にて取ったアンケートのところで、マリがどのルートでも付いてくると補足で書きましたが、正しくはシンジ君ルート、カヲル君ルートの2つでした(汗)
直しておきますが勘違いしてしまった方には申し訳ないです!

今回は短めです!
直ぐに敵の能力の解説が入ります。

結構わかりやすい?能力なので
スクロール前に前話で考察するという楽しみ方もありなのかな?


気にしない人はそのまま読んでいってください!
どちらにせよ楽しんで頂ければ幸いです。


有り得ないなんて事は有り得ない…

 

 

 

 

 

 

 

時間遡行、タイムスリップ、タイムリープ、逆行。

呼び名は色々と有るが、それらは現在の科学では到底なし得ない、理論上の事象である。

しかしそんな事柄を、葛城ミサトという女性は可能なのではと思っている。

何故なら彼女は、今戦っている敵がそれを行っていると考えているからだ。

 

 

この2日、敵の動きは神懸かっている。

ことごとくこちらの動きを予見し、対策を打ってきているのだ。

 

当初私達は、頭脳に特化した指揮官タイプのアポストルが出現したと想定していた。

しかしミサトさんが言うには、敵の動きにちぐはぐさがあるとの事だ。

その件に関しては、他の指揮官達も同様の意見のようだ。

全体を見ていない私には解らないが、皆が言うのならそうなのだろう。

 

しかしそれだけでは、敵が時間遡行をしているという仮定は出来ないはずだ。

 

そこでミサトさんが理由にあげたのは、私とカヲル君に訪れている変調であった。

異常なまでに多いデジャビュと精神的な疲弊。

そして、何度もその場面を繰り返したのかという程に、身体に刷り込まれた様な戦い方をしている事だ。

 

しかし例えアポストルが時間遡行をしているとしても、私達だけに影響を及ぼしているのは何故なのか。

 

それをリツコ先生は、私とカヲル君が異常なまでに強いATフィールドを持っていることを理由に挙げているが…。

恐らくは敢えて違う事を言っている。

 

 

本当の理由は、私とカヲル君が、光のような波と粒子の性質を併せ持つ生命体、使徒だからなのだろう。

そのため、時間遡行により変質した世界の影響を残していると考えられる。

 

流石はリツコ先生だ。私では考えつかない事を思いつく。

 

 

 

 

そうなると、時間遡行なんて能力を持つ敵をどうやって倒すというのか…

そこでミサトさんは、この敵が時間遡行の能力を持つとして、どのような制限が有るのか予測した。

 

制限を持つ理由として、敵が未来を変えているにしては、後手に回っている部分が有ることだ。

もし自在に時間遡行をしているなら、私とマナが南アメリカからアフリカへ渡った時点で戦略を転換したり、戦力を動かすことも出来たのに、実際に敵航空戦力の援軍が南アメリカからアフリカに移動を開始したのは日が昇ってからだった。

 

ということは、少なくとも遡れる時間に限りが有ることになる。

他にも、幾ら理論外の敵とはいえ時間遡行となると膨大なエネルギーが必要になる筈なのに、そんなエネルギー反応を全くと言っていいほど検知出来ていない事にも着目している。

 

そうなると、敵は戦場に居ない可能性がある。

しかしそれなのに、戦場に居なければ対応できない事にも対応している。

だとすると考えられるのは、時間を遡らせているのは指揮官タイプとは別のアポストルである可能性だ。

親機と子機みたいな感じにセットになっており、何かしらのトリガーで指揮官タイプを遡らせているのだろう。

そのトリガーが何かは解らないが、恐らくは主導権は指揮官タイプのはずだ。

 

それとこの2日、一瞬だがパターン青に近い波長を検知している事もミサトさんは怪しんでいるようだ。

そのパターン反応が、時間遡行の仕立て人ならば攻略の糸口が見えてくる。

 

初日と2日目どちらも、パターン青に近い反応が海中に出ていたようだか、発生箇所が近づいてるみたいだ。

恐らくは能力に射程範囲がある。

もしも、これ以上敵が侵略するならば、仕立て人は地上に上がらなければならなくなる。

ならば直接叩くチャンスでもある。

 

 

全軍による総攻撃を陽動として、少数精鋭にて仕立て人を仕留める斬首戦術。

それがミサトさんの提言した作戦の内容だった。

 

 

 

作戦は明日、パターン青が内陸で検知されたら決行される。

もし検知されなかった場合は、そのまま防衛戦へとシフトされる事になる。

 

強襲班はアスカとマナの二人だけだ。

残りは陽動のため、総攻撃に参加する。

 

問題は強襲班の移送方法なのだが、察知されない遥か上空からの空挺降下は、準備時間が無いため却下となってしまった。

できる限り敵に察知されないようにするため、輸送手段にATフィールドを持つエヴァやNHGは使えない。

エヴァのウイングキャリアーでは最高高度が足りず、戦闘空域に入ってしまうから論外。

 

 

ミサトさんやUNの士官達が方策を練っているが、結論には至らず、悪戯に時間が過ぎている。

そんな中、ふと思い浮かんだ意見を挙げる。

 

「エヴァを大陸弾道ミサイルに括り付けて打ち出しませんか?」

私の意見を聞き、ギョッと驚きの表情を浮かべるアスカとマナ。

 

「ア、アンタバカー!?何考えてんのよ!」

「ユウカ、えへへ、冗談だよね?」

冗談とは心外な。

「え?それ以外に方法あります?」

唖然とする二人。

 

「それ、いいわね。んじゃそれで行きましょ。」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるミサトさん。

UNの士官たちも頷いている。

士官の人達もミサトさんの考えに染まってきたね

 

とんとん拍子に決まってしまった事に、呆然としたアスカとマナを置き去りにして会議は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

エヴァ2号機と5号機アイギスの輸送、弾道ミサイルへの加工、ウルトビーズの調整。

それらの準備を終え、一休み。

 

 

世界を覆う闇がうすれ、朝焼けが東の空から滲んでいく光景をエヴァの中から眺めながら、作戦に思いを巡らす。

 

今回の作戦は不確定要素が多いため、はっきり言って作戦の成功率は高くない。

それでもこの作戦を行うのは、ある意味私達に後がないからだ。

これで仕留められなげれば、あとはジリ貧。

負けが重なっていき、人類の敗北は時間の問題となるだろう。

そんな瀬戸際なのに、私の心に焦りはなかった。

 

 

 

30分前、海中から膨大な数のアポストル反応を検知、現在はすでに上陸し、奪われた第一次防衛線にて集結していっている。

こちらも呼応し、ばら撒いた封印柱の前に戦力を展開している。

ただし封印柱の前となると、L結界密度が高いためエヴァシリーズしか展開出来ない。

戦車大隊や砲兵部隊は封印柱の後ろに配置される。

ユーロ、ロシア、中国、インドを始めとした国々が保有するエヴァシリーズや軍隊も参戦している。

特にこちらが保有する航空戦力の数は、敵に匹敵する数となっているため圧巻である。

 

攻撃か防衛か…

未だにパターン青に近い波長を検知していない。

 

『これは?…一瞬でしたがパターン青に近い波長を検知しました。推定位置、第一次防衛線の要塞G−4番と被っています。』

青葉さんの報告を聞いたミサトさんは結論を出す。

『そう、では衝撃と畏怖作戦を実行します。

各員配置に付き、別命ある迄待機。』

 

 

陸上戦力は、右翼にカヲル君、中央にマリ、左翼にMark12が配置。

航空戦力は、右翼にゲヘートとエアレーズング、中央にヴンダーと私とウルトビーズの航空団、左翼にヴーセとマユミちゃんを配置している。

エルブズュンデは本部防衛のため待機している。

 

地上を埋め尽くさんとする敵と味方の戦力。

お、アレはJA改?無人巨大ロボットの参戦か。

民間の戦力も組み込むとは、出し惜しみ無しだね。

 

何度かデジャビュを見てる。既にこの段階で時間遡行をしているとは、恐らくこの敵の数は、現在奴らが集められる限界値かな?

やはり、巻き戻す時間に限界が有るみたいだね。

 

衛星軌道上のアルテミスからも敵のデータが送られてきている。

それを見て、笑みを浮かべてしまう。

 

 

『総員傾注。決戦とはいえ長々と喋るようなことはしません。各員の奮闘に期待します。

では、衝撃と畏怖作戦開始!』

ミサトさんの号令の元、全戦力が動き出す。

それに呼応するように敵も動き出していく。

 

会議後から、ギリギリまで調整していたウルトビーズ達を前面に押し出していく。

新武装であるATスフィアも展開し、広範囲の敵ATフィールドを中和する。

ATスフィア、技術部曰くフィンファンネル。

私としては新劇場版の13号機のあれだったんだけど、形は確かにフィンファンネルに近い。

リツコ先生の一声で決まった見た目だが、まさかガンダム見てたのかな?

 

 

敵は単縦陣となり、範囲殲滅兵器を警戒している。

あれなら、集まったフィールドで、中和されない限り範囲攻撃を遮断できるためだ。

 

 

空も地上も、お互いが攻勢を仕掛けているため、戦いの激しさが増していく。

ウルトビーズの軍団に紛れるように、Mark7を動かしロングバレルに換装したパワードエイトで敵を殲滅していく。

 

ATフィールドを貫通する情報宮装備弾による遠距離射撃により、遠くの敵を一方的に撃ち抜く。

窮地に陥る味方の援護に努めるが、やはり身体が勝手に動いていく。時間遡行の影響が私達の力になっているのは皮肉だね。

…そうか、だから昨日は孤立させられたのか。

敵の指揮に感心しながらも手を動かしていく。

 

それにしても、流石は精兵揃いの44Bパイロット、空はかなり有利な状態になっている。

地上の援護はヴンダー等の空中戦艦に任せ、制空権の確保に努める。

しかし、幾ら有利だからといって敵を押しこんでいくと、指揮官タイプが撤退を決定する可能性もある。

まだ敵に勝ち目を残して置かなければいけない。

 

地上は左翼が押し込んでいるが、中央軍が押し込まれていく。

左翼のMark12とウルフパックが地上の敵を血祭りにあげているのが見える。

キラー衛星アルテミスからの支援砲撃が地上の各地点に撃ち込まれる様は、まるで天から光る矢の雨が降り注ぐ様相だ。

 

苛烈な敵の攻勢に、中央軍はよく持ちこたえている。戦線を下げ後退していく中央軍、対象的に戦線を上げていく左翼。右翼は開戦時から拮抗を保っている。

 

 

そろそろかな…

『解錠開始!』

ミサトさんが下す命令のもと、ウルトビーズの動きを事前にプログラミングしていたモードにして、パワードエイトを背部にマウント、アルベスの槍を手元に引き寄せる。

 

限界まで圧縮していたATフィールドをアルベスの槍に纏わせる。

それと同時に航空中央軍が私の後ろに陣形を作っていく。

再びのデジャビュ…敵が後ろに下がっていくのを見て感心する。ここまでは敵も経験しているか。

問題はこの後か… 

 

槍を突き出し、圧縮していた多重ATフィールドを解放しながらMark7を突撃させる。

後ろにはウルトビーズと44Bの大部隊が続く。

四散していく敵を流し見ながら、目の前を睨みつける。そしてついに瞳に映り込む、奪われた第一次防衛線。

 

『突破成功!部隊展開!』

私の通信を聞き、同じく中央突破してきた部隊は左右に展開し、敵航空戦力の後方を遮断する。

同時にヴンダーのグラヴィティブラストが私達の開けた傷口を拡げていく。

 

戦場を横断するように飛来する連結された弾道ミサイル、途中その飛翔体から2つの影が飛び出す。

 

ミサイル群は敵左翼に着弾し大規模な爆発を起こしている。

その爆発を機に、飛び出すように苛烈な攻勢をかける右翼軍。

先頭ではMark6が身の丈ほどの槍を巧みに扱いアポストル達を蹴散らしていく。

 

空中で飛び出した2つの影は、G-4要塞に勢いのまま突っ込んで行き、着地寸前ATフィールドを展開する。

 

動揺するように動きを乱す敵の地上中央軍。

やっぱりそこに居たのか…

だけど、もう遅いよね

敵を見下しながら、嘲笑っている自分を自覚する。ヤダな私、性格悪いや…

 

『くたばれー!コラー!』

とアスカの怒声が通信越しに聞こえてくる。

今までの鬱憤を晴らすかのように強大なATフィールドが解放されるのを見届ける。

 

『ユウカー、そろそろ向かいに来て。』

周りにいたアポストルを始末しながら、マナがピックアップを要請してくる。

 

そんなマナに返答するのはミサトさんだ。

『あら、余裕そうじゃない。なら貴女達はそのまま、地上の敵を相手してて!』

 

『えー!聞いてないですよ?』

作戦には無かった事を聞き、顔を膨らませたマナの反論に

 

『あら、今言ったじゃない?』

と聞く耳を持たない笑顔のミサトさん。

 

そんなやり取りを聞きながら、私は身体を伸ばす。スッキリとした感覚。

もうデジャビュは見ない。

 

 

インダクションレバーを握り、機体を加速させる。

『んにゃー!早く誰か援護プリーズ!!

そろそろ限界だよーん。マリちゃんピンチ!!』

 

囲まれている8号機の背後に着地させて槍を構える。

8号機はハンドガンとナイフを構えている。

 

『おっしゃ!ななちゃんキター。

ほいじゃ、反撃といきますか。』

獰猛な笑みを浮かべるマリ。

背中合わせの格好だが、凄く安心感がある。

飛び掛かる敵を踊るように二人で始末していく。

 

『Shall we dance? 』

笑顔のマリが通信越しに映る

 

『I would love to』

そんなマリに私は笑顔を返し答える

戦場の真ん中で踊るように戦う私達。

アルテミスの矢が降り注ぐ中、危なげ無く踊り続けていた。

 

 

 

 

 

ミサトさん曰く、解錠のち回転ドア。

航空隊の中央突破の後、中央部隊からの包囲。

押し込ませた地上中央軍を囮に、両翼からの包囲。

包囲殲滅陣の完成となる。

 

後は敵を料理していくだけ…

昼前には終わりそうだね。

 

 

 

勝利に湧く歓声を聞きながら、帰投する私達。

南アメリカも早々と終わったそうだ。

海中に敵の残敵も無し。

 

敵も大規模な損害をだしている。恐らくは残存戦力が枯渇したのかな?

今までの流れだとインターバルが入るはずなんだけど…

そのインターバルの長さにより次の攻撃の苛烈さが伺えるだろう。

 

問題はまだ残っている。

陥落した複合要塞防衛線の第一次防衛線に、コア化してしまった大地。

頭の痛い事だ…

 

 

 

久々な感じのする本部に到着し、少し遅めの昼ごはん。

ナンバーズも全員揃っているし、リツコ先生やマヤさん、ミサトさんに加持さん、青葉さんと日向さん、そして冬月司令まで昼ごはん。

他にも戦場に出ていたスタッフ全員がいる。

 

注文をさせてもらえずに円形の席に座らされる。

祝勝会か…明日からもきっと忙しくなるから、今だけは楽しもう。

 

目の前に映る料理。これは巨大なカツ丼!!

できたてホヤホヤだよ。

 

アスカには大きなハンバーグ定食。

マナにはパンケーキとフルーツ盛り合わせ。

マリにはサンデーローストとサラダ。

カヲル君には鰻の蒲焼。

私には巨大なカツ丼。

綾波さんには野菜のアヒージョと味噌汁。

マユミちゃんにはお蕎麦と天ぷら。

サクラにはお好み焼きとたこ焼き。

 

加持さんが手配してくれた最高級素材、天然物100%との事だ。

うそ、何時もの人工肉じゃないの…

加持さん素敵!!

 

たまには良いかもね…こんな贅沢も。

冬月司令の音頭の元、グラスを傾ける。

もちろんノンアルコール。

 

 

 

「くーっ!やっぱ人生、この時のために生きているようなもんよね!」

あれ?ミサトさんだけ本物のビールだ。

そのビンは高級クラフトビールじゃないの?

…そういえば、このセリフ、生で初めて聞いたな。

 

 

カツ丼を食べ勧めつつ、アスカのハンバーグを一切れ食べる。

旨い。

 

固まるアスカ、続くようにひょいひょいと皆がアスカのハンバーグを摘んでいく。

綾波さんは付け合せのポテトを摘んでいる。

 

「アンタら!何してんのよ!」

再起動するも既に遅し、もう食べちゃったよ。

唖然としたアスカの皿に、カツを二切れ載せる。

皆も自分の皿から少しずつおかずを載せていく。

無くなった分よりも多くなった皿の中身。

 

 

そんな光景を眺めるアスカ

キョトンとした表情を浮かべた後、微笑む。

 

勝てたのは、アスカのお陰だよ。

ありがとね。

 

 




読んで頂きありがとうございます!
アンケートはひとまず継続していきます。

自分が思っていた以上に、最後の質問を選ぶ人が多かったのに驚いています!

アンケート回答してくださった方に感謝を!
読んでくださっている方に感謝を!


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死中求活

技術関連にクロスオーバー要素があります。

今回は、賛否両論があるかと思いますが、今後の成長のため欠かせないのかな?と思います。




エヴァンゲリオン・リルインフィニティ

 

人類補完委員会が多額の資金を投じたF計画により完成した新しいエヴァンゲリオン。

 

 

レガリア細胞により作製され、その性能は全てコンピューターのような機能と自己保存に特化した機体。

その体躯は既存のエヴァの2倍以上の大きさを誇る。

さらに4本の腕を持ち、S2機関を搭載している。

 

 

この後月面のタブハベースへ輸送され、保管されるとのことだ。

 

 

レガリアプロジェクト、Mプラン、F計画。

レガリア関連のこれらは、既に大部分が私の手を離れ、委員会が進めている。

これらが今後、どのように進められていくのかは機密となるようで、私では知り得ない事になってしまった。

 

…もしかしたら委員会、いやゼーレはレガリア細胞のコントロール方法を見つけたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

ヴィレ本部第7会議室、今そこでエヴァンゲリオン航空隊の会議が、作戦部の主導で行われている。

 

現在ヴィレが保有するエヴァンゲリオン航空隊はAFが出現して以降、徐々にその数を減らしている。

現状私、綾波さん、マユミちゃん、サクラの四人のナンバーズ、それと44Bのパイロットが106人で計110名が在籍している。

高シンクロ率を前提とした、44Bのパイロットはその性質上、簡単には補充が出来ないため、数が減る一方だ。

 

 

当初は単縦陣を形成し、ただ獣のように襲いかかるだけであったアポストルであったが、黒い甲殻を纏った指揮官タイプのアポストル・ACが出現して以降は、ただ襲いかかるだけでなく、多少戦術を使うようになってきている。

 

 

過去、2度確認されたパターン青に近い波長を持つアポストルに関しては、最近は確認されていない。

1度目はAFをコピーする能力を持ち、2度目はACを過去に遡らせる能力を持っていた。どちらも共通しているのは波長パターンとコアブロックを持っていたことであった。

これら、パターン青に近い波長を持つアポストルを私達は特異個体と呼んでいる。

 

 

そんな徐々に進化をしていく敵に、こちらも手をこまねいている訳にはいかない。

今まで航空隊は3機1個小隊で有ったのを、4機1個小隊へ変更。

それらをATフィールド中和に長けた各ナンバーズの指揮下に置き、1機あたりの攻撃力を高めることにした。

少くなった小隊数の穴埋めとして、今まで以上にヴンダーを始めとした空中戦艦や戦闘機達との連携を密にする事が決定している。

 

4機編成となっても、ヴィレが保有する44Bが1機余ってしまうことになる。

そこで最も能力の高い44Bとパイロット。

彼らを、少尉という階級を持ってはいるが、唯一ナンバーズの中で士官教育の受けていないサクラの補助とすることになった。

 

 

 

会議が終わり、44Bパイロット達が部屋から退室するのを待っていた私達の元へ、二人の44Bパイロットが近づいてくる。

 

「やっ!綾波、山岸さん、サクラちゃん、長門さん。」

片手を軽く上げ、挨拶をするメガネをかけた青年。

その後ろで私達に、にこやかに手を振る、そばかすの残る女性。

 

「あっ!ケンスケ兄さんや!

顔はたまに合わせるのに、何か話すの久しぶりやね。」

見知った人物に、顔をほころばせるサクラ。

 

相田ケンスケ中尉。

シンジ君と鈴原トウジさんの友人で、アスカや綾波さんの元クラスメート。

もちろんマユミちゃんやマナとも面識がある。

鈴原トウジさんとは仲が良く、サクラとも見知った中のようだ。

 

そしてもう一人のパイロットは、洞木コダマ中尉。

アスカの親友である、洞木ヒカリさんのお姉さんだ。

 

「サクラちゃん、実は編成の件なんだけど。

俺とコダマさんがフォローする事になったんだ。

まぁ、ということで、これからよろしくな。」

相田さん達がサクラのフォローか…

 

見知った相手にフォローされることに、気恥ずかしさや申し訳なさを感じさせる表情をするサクラ。

ナンバーズの中で、一人だけ補佐が付いてしまうことに何処か納得のいってない感じであった。

それに、真面目で責任感がある娘だから、気にしてしまうのだろうか…

 

 

それじゃあ、と挨拶をして離れていく相田さんと洞木コダマさんの背中を見送りながら、無理に笑顔を作るサクラを、私は横目で眺めていた。

 

 

 

 

次はシンクロ実験の為、模擬体のある実験棟へ歩みを進める私達。

そんな中、先程の表情が気になり私はサクラに声を掛ける

 

「サクラ、フォローが入ることは気にしない方がいいよ?」

 

「……。」

 

「どちらにせよ編成の都合上、1機余っちゃうし。それに指揮しながら戦うのって凄く大変なんだから。」

 

「……。ユウカに、私の気持ちの何が解るの?」

え?と返してしまう私に、怒ったような顔をしてサクラは言葉を続ける。

「何でも出来るユウカには、そうやって解ったように口出さんで欲しいわ。」

 

「え、あ、ごめん…。そんなつもりは…ただサクラが心配になって…。」

 

「心配って…、私の方が年上やない…。

…もうええ。」

そう言葉を吐き捨て足早に去っていく。

そんなサクラを慌ててマユミちゃんが追いかけていった

 

怒らせてしまった

…踏み込み過ぎてしまったのかな?

ため息を付き、落ち込む私の頭をポンポンと撫でる綾波さん

 

「人間関係って、難しいですね…。」

 

「ええ、そうね。」

 

 

 

 

今回のシンクロ実験では、新しいデュアルシンクロの方法を試す。

 

今までフォロー型に使われていたデュアルシンクロは、パイロット同士をブレインハンドシェイクと呼ばれる神経接続により繋げ、その繋がった二人を、一人としてエヴァに認識させてシンクロさせていた。

 

しかし新しいデュアルシンクロは、二人のパイロットがそれぞれエヴァにシンクロして、息を合わせ操縦する仕組みだ。

この新しいデュアルシンクロの場合、従来の方法に比べると、機体の性能やATフィールドの出力が上がる。しかしデメリットとして、シンクロや操縦の難易度まで上がってしまう。

 

この実験はかなり注目されているみたいだ。

冬月司令や加持さんまで見学に来ている。

 

 

 

 

そんなシンクロ実験が終わると、サクラは私の顔を見ようともせずに出て行ってしまった。

 

そんな私達の様子をおかしいと思っていたようで、アスカが残った私に話しかける。

「ちょっと、アンタ達どうしたのよ?」

 

アスカの周りには、マリやマナに加持さんまで居る。

正直私は、何故サクラを怒らせてしまったのか理解できていなかった。この現状を打破したいが、今までこんな事は経験したことが無かった為、どうしたら良いのか解らない。

サクラの事を考えると事情を話しても良いのか悩んでしまう。

そんな、悩む私に微笑んだマリが声を掛ける。

 

「ななちゃん。一人で悩んでいたって良いことなんてないよ?話してみなよ…これでも口は堅いからさ。」

 

 

うん…

私は頷き、会議室での事から実験前までの事を四人に話した。

話を聞き最初に口を開いたのは、苦笑いしたマナだった。

 

「多分、サクラは劣等感を抱いてるんだと思うよ。」

 

「劣等感…。」

 

「そ。自分だけ士官教育を受けていないこともそうだけど、やっぱりナンバーズで一番シンクロ率が低いのもあるし、シングルコンバットの成績では下から二番目だし、そういった積み重ねが劣等感を刺激してるんだと思うな。

まあ、私も経験あるもん。

それに、年下のユウカが博士号持ってるし、ナンバーズの中でもトップクラスに強いし、スタイル良いし、色んな言語喋れるし、運動も出来るようになっちゃったし。欠点もあるけど、あまり見えないじゃん?

そんな年下のユウカに慰められるのは、きっと堪える事だよ…。」

マナ、結構ズバッと言うね…

でも、そっか…

 

 

マナの言葉に続き加持さんも意見を言う。

「そうだな。劣等感以外にも、後悔。そんな感情が有るんじゃないかな?」

 

「後悔、ですか?」

小首を傾げる私に言葉を続ける加持さん。

 

「ああ…、皆は努力して士官教育を受けただろ?

ユウカちゃんも物凄い努力をして博士号を取ったりと、7年程前から全員が絶えず努力を積み課せねてきた。それによって今の君たちが居る。

だけどな、サクラちゃんは、はっきり言ってしまえば、今までそういった個人的な努力って物をしてこなかった。」

 

そう言うと、一度言葉を区切り、私の様子を伺いながら再び口を開いた。

「もちろん、彼女は彼女なりに頑張ってきた。

しかし、君らと違い、エヴァに乗る明確な理由、覚悟と言うべき物がサクラちゃんには無かったのも有る。その差が今になって現れているんだ。」

まるで、誰かを重ねているような…そんな表情の加持さん。

 

「サクラちゃんは、その事に気が付いていて後悔しているんだろうな。

だからこそ自分に苛ついているし、それが周りにも出てきてしまっている。まあ一種の八つ当たりみたいな物さ。」

 

私、根本的に対応を間違っていたんだね…

 

「ユウカちゃん。心配なのは解るが、もうちょっと信頼しても良いと俺は思うぞ。

時には見守ることも必要なんだ。」

優しく笑みを浮かべながら語る加持さん。

昔を思い出しているかのような表情にも見える。

 

劣等感、後悔、昔の私ならきっと解っていたはずなのに。

やっぱり私も変わっていってるのか…

 

感謝の言葉を四人に伝える。

私一人じゃきっと空回りしていた筈だから、聞いてもらって、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、今私はサクラに呼ばれ、あまり人の来ない廊下で二人きりになっている。

 

「ユウカ、この間はごめん。私イライラしてて、つい当たってもうた。」

下げられたサクラの頭を見て思う。

やっぱり優しい人なんだと…

それに、もしかしたら誰かがフォローしてくれたのかもしれない。

 

「私こそ、ごめんね。サクラの事を解ってるつもりになって、話をしてたよ。」

そう…、私の中には未だに新劇場版のサクラがいたのだと気が付いた。少しそれと重ねていた事も。

新劇場版のサクラと、今目の前に居るサクラ。

声も同じで、仕草も似通った部分が多い。

しかし、その辿った人生は全然違うことに今更ながら思い至った。

 

親が居て、兄がいて、友人が居るこのサクラ。

兄が居るも、親や友人と死別したあのサクラ。

 

違うのは当たり前だったのにね。

 

「私もユウカの事、わかってへんかった。」

 

「お互い、解ってるふりをしてたのかもね。」

 

「そやね。」

 

私はサクラへ向けて手を差し出し、握手を求める。

「私は長門ユウカ。実は皆から結構ポンコツだと思われてます。」

キョトンとした顔で私の手を見つめていたサクラだが、私の言葉を聞き笑みを浮かべ、手を取った。

 

「ふふふ、それは知っとるよ。

私は鈴原サクラです。兄曰く、しっかりしてそうだけど甘えん坊らしいです。」

 

「それ、知ってるよ。」

笑い合う私達。

そんな私達に聞こえてきたのは、コネメガネ!押すんじゃないわよ!という声と、何かが倒れるような音。

 

振り向いた私達の目に飛び込んできたのは、床に重なって倒れた、バツの悪そうな顔のアスカとマナ。

それを起こそうと手を伸ばすマユミちゃん。

そして、悪びれもなく佇むカヲル君と綾波さんだった。

 

 

…マリは、廊下の影に隠れてるな。

 

 

 

 

 

 

 

長いインターバル。

約3か月に渡った、準備期間。

何時敵が来るかなんて予測はつかない。

そして、いつも機先を制するのは奴らからだ。

 

敵の本拠と思わしき場所は南極。

しかしそこは、あまりにもL結界密度が高すぎて、ヴンダーやNHG、ナンバーズの乗るエヴァでしか入れぬ聖域。

何度か攻撃作戦が提唱されては、その未知数の領域を理由に却下されてきた。

 

 

その南極より、またしても大規模な敵の侵攻を検知する。

それは今までの侵攻が、お遊びだったのでは無いかと思えてしまうほどの数であった。

 

 

ヒリつくほどの緊張感を感じながら、新しく編成された44B航空隊の中隊である12機とウルトビーズ16機を率いて先頭で飛行する。

 

今回敵は南アメリカへのルートを取っている。

収集されたデータを見るに、敵の航空戦力は今までの侵攻と変わらない数のようだ。

 

 

 

戦場へ先に到着したのは私達。

敵の到着までの予測時間は、残り1時間となっている。

それまでの間に陣形を組み、次から次へと送られてくる弾薬等の物資を、援軍として来たヴィレやUNの部隊に行き渡らせる。

そうすると1時間なんて直ぐに経過してしまう。

 

地上にて即応待機していたエヴァ航空隊の発進命令がミサトさんよりくだされる。

その命令通りにエヴァMark7で空を駆けていく。

 

海岸線を埋め尽くすアポストルの大群

しかし、敵の航空戦力は少し後方に位置している?

おかしいと、地上の敵に目を配らせる。

海上に今までと違う敵影。

まるでクジラのような姿

新種のアポストルか!

 

『全隊停止!』

通信にて号令をかけるが、指揮権の違う戦闘機部隊は敵へ近づいてしまう。

しまった。そう思った瞬間、新種の敵より何かが飛来してくる。

四散する戦闘機部隊、一部は回避するも大きな損害を受けている。

 

敵の遠距離攻撃!

判断するやいなや、すぐさまヴンダーへデータを送信し、隊をエヴァMark7の後方へ下げる。

後続の戦闘機部隊も機首を返し方向転換しているのが確認出来る。

 

ATフィールドを最大に展開したウルトビーズの小隊を先行させる。

飛来する敵の攻撃がATフィールドと接触

徐々に侵食されるウルトビーズのATフィールドだが、最終的には防御の方が勝る。

 

侵食型のATフィールドを纏った遠距離攻撃とは…

ウルトビーズの最大出力を突破できないという事は、44Bの最大出力のATフィールドを突破出来ないという事だ。

 

しかし今見た限り、新種の敵一体から、一度の攻撃で同時に7から8発の攻撃が散弾銃のように飛んできていた。

恐らくは、3から4発同時に被弾してしまえばATフィールドを破られる…

 

ATフィールドを貫通する、情報宮装備弾は新種への攻撃に取られるか。

中隊全隊で、所持するパワードエイトのマガジンを情報宮装備弾へ変更し、新種のアポストルを安全圏から撃ち抜いていく。

 

 

呼応するように敵の航空戦力AFが動き出す。

単縦陣で進路を向ける。

 

『全隊、今装填しているマガジンの中身は、全部見える限りの新種へ撃ち込め!

後、通常弾へシフトし、AFへ対処する。

敵新種の位置に注意。』

 

お互いにカバーしながら奮戦する各小隊の姿を見ながら、敵新種の位置をマークしていく。

横から襲いかかってくる敵の群れを、ATフィールドで薙ぎ払い、別の位置にいる敵へ弾丸を食らわせる。

 

やっぱり、指揮しながら戦うって難しい。

 

『新種アポストルが戦線を押し上げてるのを確認。こちらのラインを下げます!』

 

 

ん、ヴンダーから敵遠距離攻撃の解析データが…

これは、海水をATフィールドで包んで飛ばしているのか。

ならば上陸はしないはず。

 

しかし、そんな私の浅知恵を嘲笑うかのように上陸していく新種。

体内に水を貯蓄していたのか…

私の間抜けめ!

 

…それにしても、上手い具合に戦線を後退させられている。

地上の援護が出来ない。

これ以上は下げたく無いが、私達だけその場に留まっても意味がない。

 

圧縮した多重ATフィールドを広範囲に叩きつけ、敵を粉砕しながらも、焦りが募っていく。

多重ATフィールドを次々に展開し敵を砕いていくが、戦況は変わらない。

 

ヤバい、そろそろATフィールドを攻撃に転用出来なくなる。

長時間ATフィールドを攻撃に使用した場合の弊害が現れているのを自覚する。

息が乱れていき、頭の痛みが少しずつ増してくる。

 

攻撃方法をパワードエイトへシフトする。

ふと遠方の空に、多数の巨大な影が映る。

 

また新種!?

てか、既にサクラから発見の報告が来ていた!

気づかなかったなんて…

 

 

それにしても、なんだろう、あれ。

空飛ぶ巨大なクラゲ??

 

 

ゆっくりと近づいてくるクラゲ状の敵。

こちらの攻撃範囲に侵入してくるが、それと同時に敵のAFが苛烈に攻撃を仕掛けてくる。

 

攻撃させまいとしている…

意図が見え見えだが、それが出来ない。

そんな敵の意図を砕かんと、ヴンダーよりグラビィティブラストが放たれ、敵の航空戦力が大きく削れていく。

 

それに乗じ突撃していく、UNの44B部隊を援護しようとした

その時、各地に散らばったクラゲ状の敵が一斉に大規模な帯電を始める。

高エネルギー反応、同時に核反応を検知。

 

研ぎ澄まされた集中により、周りの時間だけが遅くなったように見える感覚の中、攻撃?退避?防御?と次に何をすべきか思考を巡らす。

 

『全ユニット、ナンバーズもしくは空中戦艦のフィールド内へ退避!

フィールド最大で展開して!

無理なら最大戦速で後退、及びプラグイジェクト!緊急脱出急いで!』

ミサトさんの声に反応して、私は瞬時に前方へATフィールドを最大にして展開した。

 

 

クラゲ型が眩い光を放つ。

空間に走る電流、強力な電磁波を伴い光が広がってゆく。

さらに地面を奔る大電流が地上部隊を飲み込んでいく。

 

 

 

 

嘘でしょ…

まさか、EMP攻撃?

既に地上では多くのフォロー型は動いていない。

戦車大隊等も同様。

 

一般の物よりも電磁パルスの対処は強化していたのに、それすらも上回って来るなんて。

 

もはや現存する戦力は、ナンバーズや空中戦艦の後ろへ退避していた僅かな戦力のみ。

 

幸いなのはこちらの航空戦力が大多数残っている事と、既にクラゲ型が自滅という形でいなくなり、巻き込まれたAFも殆どが死滅していることか。

 

しかし、地上の敵は津波のように押し寄せてこようとしている。

 

地上の戦力が足りなすぎる。

それにウォール・オブ・ジェリコも稼働して無いじゃん。

 

 

アルベスの槍を持ち、エヴァMark7を地上にダイブさせ、地上の一部アポストルを一掃する。

…そういえば、このダイブ結構やってるよね。

そろそろ技名を付けても良いかもしれない。

プロミネンス・ダイブなんてどうだろう、と心の中で呟く。

これは只の強がりだ。今弱気になるわけにはいかないから。

 

 

頭痛に耐え、エヴァMark7の体勢を整える中、ミサトさんより通信が入る。

『皆、全軍に撤退命令よ。

…といっても、ここら一帯の文明の利器は、ただのオブジェに変わってしまったし、壁のゲートも稼働しないから殆どが逃げられないかもしれないわね。…それでも、お願いできるかしら?』

 

 

『わかったわよ。さっさと戦艦を地上に降ろしなさい。

…一匹たりとも通さないから。』

 

『よし!それじゃあ気合入れようか。』

 

『…まあこれも約束の内、というやつだね。』

 

『私が右から来るのをヤルからね。

ふふん、今宵のアルベスは血に飢えているよ。』

 

『んじゃあ、あっしがななちゃんのフォローを頂くよん!』

 

『地上、任せたわ。』

 

『私もすみません。ウルフパックを展開しますので、皆さんご無事で…。』

 

『私も、地上で戦います。このままじゃ不甲斐ないやんか。』

 

『我が戦術体躯でもって、全力で守護すると誓おう。』

 

壁面を背に、半円の陣を組む私達。

その中へと懸命に走ってくる兵士の人達。

私達の後ろには、残った地上戦力が密集陣形を組む。

ヴンダー等の空中戦艦が降り、生存者を回収するまで守り続けるのか…

 

制空権はほぼ確保済みといっても、正直これはキツイ。

まあ人命救助優先、仕方ないよね。

 

 

槍を構えて、前を見据える。

頭痛はまだ治まっていない…

敵を睨みつけながら、笑みを浮かべる。

 

 

 

 

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ!

 




難産でした。
サクラって難しいですね。

しかも、この世界のサクラは新劇場版とは違う人生を歩んでいるためこうなりました。

サクラは、まだ成長途中ということで許してください。
はっきり言ってサクラの心理描写は自分も自信ないです(汗)

感想欄とかで、ご意見等も。


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〜急〜
upheaval


日常回?となります。
ここからは新章になります!


あの南アメリカでの敗戦から、世界は一変した

陥落したウォール・オブ・ジェリコ。

アメリカ方面軍の壊滅。

侵食された南アメリカ大陸。

 

 

なにより、初めて世間に映像として周知されたアポストルとエヴァの戦い。

南アメリカでは避難する市民を護るために、市街地での戦闘になった。

そのため、一部逃げ遅れていた市民がSNSにアップしたり、ジャーナリストの撮った映像が世界を駆け巡った。

 

巨大生命体と巨大ロボットの戦い。

それらに映るのは、市街地に侵入したアポストルを瞬時に倒し、襲来してくる敵を次から次へと倒していくエヴァンゲリオンの姿。

 

映像によっては映る機体が違うが、そのどれもが敵を圧倒していた。

 

そんな圧倒的に強いエヴァンゲリオンの姿に熱狂する世間だが、同時にそれは、それらのエヴァがありながらも敗北したUNやヴィレへの批判に繋がった。

 

 

南アメリカの半分を失い、戦力の壊滅したアメリカ方面。

複合要塞の一次防衛線を失ったアフリカ方面。

 

それらの国に再燃した反ヴィレの機運。

しかし、今度は市民の後押しまであった。

 

そこで彼らが出した案が、ナンバーズの接収案。

戦地であるアメリカ大陸、アフリカ大陸の代表国がナンバーズを接収するという事だ。

 

それに反発するのはユーロ、中国、ロシア、日本とそれらの周辺諸国であった。

国連ではそれらの対立が激しくなり、議論が紛糾する。

 

幸か不幸か、大規模な戦力を消費したアポストルは長いインターバルを挟んでいた。

しかし、次の襲撃がいつかなんて人類側には解らない。追い込まれている国に焦りがあったのは誰でも解っていた。しかし、高を括っていたのだ

 

こんな時勢に人間同士で争う事なんてしないだろうと…

 

 

 

 

 

最初に暴発したのはアメリカ合衆国だった。

国としてのプライドが許さなかったのか、いや、なんだかんだ市民もアメリカが無くなることを許さなかったのか…

対アポストルの戦力が壊滅したといっても、人間と戦う分の戦力は有り余っていた。

 

ヴィレ本部への侵攻作戦。

ヴィレ本部が独占するナンバーズとその専用機であるエヴァンゲリオンの接収を目的とした戦争。

 

 

アメリカの電撃戦により血に染まる本部施設、思い出すのは旧劇場版。

 

しかし、ヴィレが本格的な軍事組織だった事で、対人戦力がネルフの頃よりも大きく強化されていた事と、対人戦闘のプロ集団である戦略自衛隊の援軍が早く駆けつけてきた事。

さらにロシアが誇る特殊部隊スペツナズやイギリスのMI6やSAS等がいつの間にか本部内に展開していた事や、いくつかの所属不明部隊がヴィレの味方として参戦していた事が分かれ目だったのだろう。

 

 

双方血で血を洗う戦いの末の勝利だが、そこに歓声は無かった…

こんな時に、人間同士で殺し合いをしたことは、全ての関係者にとって悪夢みたいな事だったから。

 

救援のUN軍や中国軍にも、被害が出ていた。

アフリカや一部アジアの国からの攻撃を受けた為だ。

まさか、アジアからも離叛する国が出ていたのは驚いてしまった。

 

 

もはや賽は振られた。

しかし、出目が最悪なのは分かりきったことなのに…

 

世界へ広がる戦火。

それを一時沈めたのは皮肉にも人類の敵だった。

アポストルには人類の都合など知ったことではないのだから。

 

アポストル、人間同士の戦いと、被害を受けていたヴィレは初動が遅れてしまった。

それに敵の目標はアフリカ大陸。

 

もはやヴィレにとっては敵となっているアフリカでの戦いは、足並みなど揃うはずもなく甚大な被害を出してしまった。

勝利する事が出来たのは、アポストル側も本腰を入れた侵攻ではなかったからだ。

 

 

世界が感情に支配されていく。

理性で考えれば、争いを収める事が当然であるのに、それを行うことができなかった。

既に出てしまっていた犠牲というものが、手を引くという行動を抑えてしまっていた。

 

 

これ以上現状のまま、アポストルの侵攻を抑えていける余力は無かった。

下される決断は、防衛戦略Cの17。

本部及び、周辺諸国とロシア、中国近辺での防衛を選択。

ユーロ含め、その他の国は国民総避難となった。

 

離叛した国々に関しては、アフリカやアメリカは国民の自主性に任せるとの事。

アジアの離反した国に関しては立地の都合上、ロシア・中国軍が大規模な軍で制圧。

それが上層部の決定だった。

 

 

 

 

 

過去に思いを馳せていたが、ふとエントリープラグ内の時計を見ると、今日が以前マリの決めた新生日だと気付く。

そういえば、4年前のこの日だったな…

初めてアポストルが襲来したのは。

 

 

 

空に浮かぶ私の眼下に広がるのは、赤の広場。

ここは多くの避難民を受け入れ拡張されたロシア連邦の首都ニュー・モスコー。

 

 

共産主義は変わらぬも、執政するのはマギセカンド。

機械により管理された国。

代表の人間は居るも、大まかな指針を決めるだけ。

議会は形骸化しており、ただ市民の意見をマギセカンドへ伝えるだけの存在となっている。

 

 

現在、赤の広場近くのクレムリン宮殿にて現国連の会議が行われている。

私はその護衛としてエヴァMark7で空に浮いている。

 

護衛とはいうが、誰かを護れなんて命令はされていない。

これはただの政治的パフォーマンスに過ぎない。

私のMark7の周りには、同じく白に統一されたウルトビーズが幾重にも傾がった円を描くように陣形を組んでいる。

 

市民はそれを見上げ、写真を撮ったり、見物したりしている。

いまや露見してしまったナンバーズや、そのエヴァは、もはやアイドル的な存在になってしまっている。

特にナンバーズそれぞれにファンがついたりと、以前とは全く違っている。

それもこれもネット上に私達パイロットの情報をブチ上げた某国のせいだ。

 

そして上の人間は、それを逆手にとって偶像を仕立て上げたという訳…。

 

 

 

私のエヴァMark7に求められているのは、神聖さや神々しさといったもの

白く、女性の様なスマートさがある機体。

腰部に設置された大きな翼部ユニットにより、見た目は神話に登場する天使の様なエヴァである事から、総合的な人気が高いとの事だ。

 

そして、そのMark7と似た見た目のウルトビーズを指揮することにより、天使の軍団の完成となる。

わざわざこの為に白くなってしまったウルトビーズを見つめる。

 

これ槍を持ってなければ、端から見て私の事判らないよね?

…ウルトビーズに槍持たせてバックレようかな?

 

 

 

 

ニュー・モスコーにそびえ立つ2つの巨大な建造物。

人類補完委員会が建設した大きな軌道エレベーター。

衛星軌道まで伸びるそれらを眺めながら、委員会の行動に考えを巡らせる。

 

従来の人類補完計画はリリスを完全に失った今、遂行できるのかは未知数だ。

代替案があるのか、もしくは補完計画を諦めたのか…

悲願たる人類補完計画を諦めるとは到底思えないのだが。

 

今、委員会が強く推し進めているのがレガリア細胞を使ったIFS(イメージフィードバックシステム)の普及だ。

IFSを取り込むには検査が必要で、ある程度の金額がかかるのだが、それを委員会が負担し、検査に合格したら無償でIFSを組み込めるようになっている。

 

このIFSとMプラン、F計画。そして人類補完計画。

これらは繋がっているのかな?

それとも、私の考えすぎなのか…

 

既に余裕すら滲ませる委員会には、どこか不気味さを感じざるを得ない。

 

 

 

本部へ帰還する頃には、太陽が沈み闇が世界を覆っていた。

ケージから出て本部の展望エリアで、人工芝の上で横になり天井を見上げる。

そこには星空と輝く月が映る。

この天井は雲を除いた現在の空が映される仕組みになっている。

創られたそよ風を身体に受け、破れた聖書を取り出し眺める。

過去、南アメリカ撤退戦の際に助けた女の子から貰った御守り。

たまにこうやって、自分が戦う理由を再確認している。

 

ふと感じる人の気配

「ななちゃん…今宵も月が綺麗ですにゃ。」

 

破れた聖書から目線を外し、声の方に顔を傾ける。

そこに立っているのは本を持ったマリの姿。

シンプルなスキッパーシャツとスカートを着用している。

 

「マリちゃん、本読みに来たの?」

 

「連れないね…本持ってこなければ良かったかな?」

そう笑いながら、私の横に腰掛ける。

 

「ななちゃんは、何時も見世物になるとここに来てるからね。」

 

「そうかもね。嫌いなんだ。知らない人に注目されるのは…」

 

「そんなシャイな所も粋なものだにゃ。」

 

「マリちゃんは、上手く隠れてるよね?

どうやってるの?」

 

「ななちゃんが無防備過ぎると思うにゃ。

他人の気配や視線に鈍感なのは、あまり良くないよ。」

私の方を向き、横になりながら頬杖をつくマリの顔が映る。

 

「今の御時世、他人に敏感になるには、もう少しATフィールドを薄くしないと駄目かもね。

まあでも、ななちゃんはそのままで良いよ〜。」

チェシャ猫のように笑うマリ。

なんだ?良からぬ事を考えてるな…

 

ムッとした私に気付いたのか、満面の笑みを浮かべる彼女だが、僅かにIFSを動かしているのを感じる。

電子空間をトレースする私の脳裏に映るデフォルメされたマリは、何かに厳重なロックを掛けている。

私の視線に気づいた電子空間のマリ、同時に現実空間のマリは笑みが引きつる。

 

「…テヘペロ。見逃してお代官様〜!」

可愛いけど許さん!

 

電子空間で追いかけっこしながら、現実ではお互いに月を見上げる。

 

………。

 

 

 

 

 

日を跨ぎ、午前のシフト。

現在は2号機ケージで2号機レガリア改の調整をしている。

四肢と左側の眼球をレガリア製に換装してある為に、その調整をアスカと行っている最中だ。

 

『どう?アスカ?』

私の質問に少し考え、アスカが答える。

 

『…良さそうね。感覚のズレを感じないわ。』

通信越しに映るその顔は左眼以外は差異がない。

4年前のあの撤退戦において、左の視神経が焼き切れてしまったアスカは、左眼にレガリア細胞を移植し、身体にIFSを組み込んだ。

その弊害か、左眼の色が金色に変わっている。

 

 

エントリープラグから出てくるアスカ。

「調整お疲れ様!」

 

「アンタもおつかれ。少し早いけどご飯でも行く?」

 

「そうしようか。」

時計を見ると、昼前だ。

周りの職員にも休憩を告げる。

喜びの声を上げる職員達の声を聞きながら、脳裏でデータを纏めていく。

 

白衣を翻し、ケージの外に出る。

そこには、既にシャワーを浴び終わったアスカが既に待っていた。

赤いジャケットとスカートを着たアスカの姿は、何処かミサトさんを思い出す。

 

食堂へ向かって歩いていく途中、後から駆けてくる足音が…

 

「ユウカ、アスカ!二人ともご飯?一緒に行こ!」

少し寝癖のついた茶色の髪の毛。

 

「呆れた、もしかしてアンタ、今まで寝てたの?」

溜め息をつき、マナへ近づくアスカ。

そのまま、寝癖を手櫛で撫で付ける。

 

「あれ?残ってた?」

照れ笑いを浮かべるマナ。

スプレーでもかけてきていたのか、直っていく寝癖。

紺色のシンプルなシャツとスカート、シンプル襟元から覗くネックレスが煌めいている。

そのネックレスは写真が入るタイプで、中には14歳の彼女とシンジ君が芦ノ湖で撮った写真が入っている。

こんな写真有ったんだと驚いた覚えがある。

 

「それにしても、何か3人でつるむの久々って感じだよね?」

マナがアスカの隣で歩きながらつぶやく。

 

「最近は誰かしら任務が入ってたからね。」

 

「ほんと見世物じゃないっちゅーの。私達は。」

アスカが吐き捨てるように言う。鬱憤が溜まっているみたいだ。

 

アポストルへの対処は戦力を集中させている為、私達抜きでも現状は何とかなっている。

それにインターバルが少し長くなっているため、私達の仕事にパフォーマンスに分類された物が少し増えてきている。

 

人類の生存可能領域を削っての遅滞戦闘は功を制しているが、これはただの時間稼ぎに過ぎない。

 

海岸線を守る要塞群と、陸続きのルートを守る巨大な塹壕。

一部海域はアンチLシステムにより青い海へと姿が変わっている。

この青い海にはアポストルが近づいてこれない。

 

アポストルは封印柱にも近づきたがらない為、大規模な侵攻ルート以外では、封印柱近辺も安全地帯となっていた。

 

ヴィレを擁する国々は連合して、もはや国という境はあまり無いが、反ヴィレの国々はほぼ残っていなく、封印柱の周りに集落が点在しているだけとなってしまっている。

その多数の集落を助ける為に、連合国内にクレーディトと呼ばれる組織が出来たのには運命というものを感じる。

 

 

 

色々と喋りながら食堂まで歩き、食券機でご飯を注文する。

 

各々注文したご飯を持ち、空いていた四人席へ座る私達。

アスカはミートボールパスタ。

マナはガパオライスプレート。

私はカツ丼大盛りに稲庭うどんのセット。

綾波さんは、野菜丼セット。

 

……

ん?

 

「エ、エコヒイキ!声くらい掛けなさいよ!

びっくりするじゃない!」

 

「こんにちは。」

うん、こんにちは。じゃなくてっ!

 

「綾波さんいつから?」

マナも気づいていなかったようだ。

 

「今よ。」

しれっと答える綾波さん。

サマーセーターにロングスカート。そして長い髪を1つにまとめている。

それ、前に私と決めたコーディネートだ。

 

「綾波さん、似合ってるね。」

私の言葉に微笑みを浮かべている。

 

それにしても、段々と神経が図太くなっていく綾波さん。

外では全く表情を変えない為、容姿と相まって、その神秘性からアヤナミストと呼ばれるファンがいるとか。

弁当を受け取って、照れている学校制服の綾波さんの写真が高値で取引されているのを見たときが有る。

 

 

 

食事も終わり、午後のシフトの為に戦艦ドックへと歩いている最中、サクラとトウジさんを見つけた。

白衣を着たトウジさんは、現在医療班で勤務している。凄いよね医者になったんだ。

 

「あ、ユウカ。おつかれ〜。」

サクラの胸元には医療の参考書。

目元には少し隈が出来ている。

 

「サクラ、お疲れ様。

頑張るのも程々にね。」

 

「そんなこと言って、差し入れに眠気覚ましの栄養ドリンク持ってきたのユウカやんか?」

 

「試験前には寝るんだよ?」

そんな私の言葉にサムズアップするサクラ。

 

「妹が世話なっとります。」

と挨拶するトウジさん。

 

「あ、この度は結婚おめでとうございます。」

トウジさんへお辞儀する私。愛でたく、洞木ヒカリさんと結婚したことを祝う。

私の周りにはハッピーウエディングの電子アイコンが浮かぶ。

同時にギフトブックを送信する。ご祝儀だ。

 

「これは、いやーすんませんな。お返し後で贈りますんで。」

と頭に手を当てお辞儀するトウジさん。

 

 

それでは、と先を急ぐ私。

ヤバい、少し遅刻かも…

 

 

午後からはシャマシュの新武装、シリウスロアの調整と試射がある。

 

このシリウスロアは、簡易複製した自壊性アルベスの槍を撃ち出すレールガンだ。

 

「これを使う日が、来て欲しいのか、来ないで欲しいのか。迷っちゃうね。」

そのレールガンを見ながらマユミちゃんが呟く。

 

「私としては、しっかり機能してくれるかが心配です。どちらにせよ使う日が来るのは確定事項ですから…まあマユミちゃんの言いたい事もわかるけど、私は、その使う日が待ち遠しいかもしれません。」

 

「そうだね…。出来れば私達のタイミングで使いたいね。」

マユミちゃんの何処か決意した表情を眺める。

強さを手に入れた彼女は、どこか芯のある雰囲気を持っている。

シンジ君、今のマユミちゃんを見て、ひと目で解らないんじゃないかな?

 

 

 

新兵器の調整と試射も終わり、一段落。

 

 

廊下を歩いている時、急に目の前が真っ暗になる。目を覆われる感触。

 

 

「だーれだ。」

 

 

 

 

 

 

…?

 

 

 

え?

 

んん?

 

 

 

 

誰?

 

 

 

……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか…

 

 

 

 

 

 

「えっと、カヲル君?」

 

 

「正解だよ、長門さん。」

マジでカヲル君だったよ…

え?なんで?

 

「え、えっと、どうしたの?カヲル君。」

 

「いや、すまないね。シンジ君とさらに仲良くなる為の練習を、ね。」

ええ…誰に教わったのそれ。

 

「うん、いいんだけどね。」

 

「結構上手くいったと思ったけど、どうだい?」

 

「足音しなかったからビックリしたよ。

きっとシンジ君とも、更に仲良くなれるよ?

それにしても、誰に教えてもらったの?」

 

「?この前長門さんが言っていたじゃないか。

サプライズと言うやつだよ。」

 

…。うん。私か…。

いや、私なのか?

 

 

ごめんね、シンジ君。

駅のホームで、後ろにカヲル君が立っていても許してね。

 

あ、大丈夫だよ。

私のチョーカーは外さなくていいからね。

 

 




短めですみません!
作者は民主主義、共産主義共に一長一短があると思っています。
大事なことなので2度目言います。
アメリカ嫌いではないですよ?

そして共産主義が好きな訳ではないです!
題名を日本語にすると激動になります。


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victimize

原作キャラに一部オリジナル設定がございます。
あまりキャラが変わらないように努めましたが、苦手な方がいたらすみません。
どうしても許容できない方はブラウザバックをお願いします。


フランスの首都で、花の都と呼ばれたパリ。

上空から、その都市を見下ろし思う。

 

 

もう、6年ぶりとなるパリ。

…私の好きなシャンゼリゼ通りはマロニエの並木道まで赤くなっている。

こうも一面赤いと、以前の面影があまり感じられない。

唯一の救いは街並みはそのままという事か。

 

今日、そのパリを訪れたのはユーロ支部施設周辺の復元を行う為だ。

 

敵地の中に飛び地を作り、敵の侵攻行動を少しでも阻害する事、そしてコア化した土地を問題なく浄化出来るかの試験が目的となっている。

まあついでにアポストルの数でも減らしておこうという魂胆もある。

 

この作戦にはヴンダー、エヴァMark7、ガンスーツを着用したエヴァ8号機、エヴァMark9、そしてキラー衛星アルテミスが参加する。

 

 

本作戦中、ヴンダーは敵の航空戦力の最大高度よりも上で待機し、作業をする人員は揚陸艇で移動する。

私達エヴァは作業班の護衛。

 

役割として囮兼攻撃が私、遊撃がマリ、ヴンダーの護衛兼狙撃手が綾波さん。

 

現在パリ周辺に敵反応は無し。

降下準備の中、通信越しに聞こえてくるマリの歌声。

 

真実一路のマーチ

 

…その歌、よくお婆ちゃんが歌ってたな。

マリの歌に合わせながら、私も口ずさむ。

短くたって構わない、か。

 

 

 

 

巨大な円柱状の物体。

ヴィレユーロ支部、第一号封印柱の上に着陸する揚陸艇。

船体固定の完了が報告されると、揚陸艇から特殊なスーツを着たリツコ先生とマヤさん、そして作業スタッフが降りてくる。

 

『14年ぶりのパリ。かつて花の都と歌われた街がこの有様とは…痛ましいわね。

それにしても、L結界密度が予想よりも高いわ。

ユーロ支部第1号封印柱の復元オペ作業可能時間は、今より720秒とします。』

淡々と告げるリツコ先生。

作業スタッフからは、予定より作業時間が減った事についての愚痴が聞かれる。

 

そんな中、揚陸艇よりはしごを伝い降りてくる女性。

 

『いや〜、それよりこの恥ずい格好。エヴァパイロットだけにしてほしいわ。』

そう宣い、端末を起動するピンク色の髪をした女性。

IFS情報オペレーター、北上ミドリ。

その容貌はまさしく、ギャルという言葉が似合う。

しかしそのスーツ、リツコ先生が作ったのを知っているのに、本人の目の前で喋ってしまうメンタルの高さ。

素直に凄いと思う。

 

 

そんな愚痴を言う若い世代を叱責するのはマヤさん。

『いいから、口の前に手を動かせ。』

人の上に立つ立場になって以来、どんどん口調が変わっていくマヤさんだが、オフの日は昔と全然変わらないのだから、未だにそのギャップにはついて行けない時がある。

 

 

本格的な作業が開始されると、直ぐにミドリから通信が入る。

 

『ながちー、やっぱり来た!アポストル航空タイプ、4時方向からこちらに接近中!』

同時にIFSにより精査されたAFのデータが送られてくる。

やっぱり凄いな、ミドリのIFS情報処理能力。

 

『了解。殲滅行動に入る。』

 

『やっちゃえ、ながちー!』

ミドリの声援を聞きながら思う。

彼女、何時もアポストルが殺られているとき、活き活きしてるんだよね。

 

 

 

機体を敵の方向へ飛行させながら、機体の両翼にマウントされている、陽電子砲短銃シグナムハンドガン・ステージ2を両手に構える。

敵の単縦陣を振り回すように機体を右に逸らしつつ、フルオート射撃で敵先頭から撃ち抜いていく。

敵全体が旋回する形になったタイミングで機体の高度を急速に上げ、敵の頭上より銃撃を浴びせる。

 

早々に第一波を撃破っと。

…うん。以前よりも射程の伸びた、このステージ2を実戦で使うのは初めてだが、何も問題なく使えている。

それに射程の違いって、やっぱり重要だね。以前よりも殲滅力が大幅に上昇しているのを実感する。

 

 

『続いて航空タイプ第二波を確認。敵総数増加!遠方にも第三波を検知!』

ミドリの報告を聞きながら、期待を飛ばし第二波へと接敵する。

 

 

すごい数だな、多過ぎるでしょ…

 

遅滞戦闘を繰り返し、第三波を巻き込んでいく。

 

第二波と第三波を引き連れ、大きく円を描くように移動する。渦のように広がり、円状になる敵の単縦陣。

 

『マリちゃん!』

私の呼び声と共に、円の中心に上空から降下してくるエヴァ8号機は、その四肢に装着した重機関銃をばら撒きながら、機体を回転させている。

重機関銃の餌食になり、一掃されるAF。

 

『ふふん、お茶の子さいさいだよん!』

一掃した敵を確認しながらドヤ顔を決めるマリ。

うん、お見事…

 

 

 

しかし、

『やっぱり数が多いね。間引くのは正解だったよ。』

 

音に引き寄せられたのか、次々と敵の増援が来襲する。

私達の周りには敵の群れが周回しており、もはや台風の目の中にいるようだ。

 

背中合わせにお互いをカバーし合う私とマリ。

『ありゃりゃ、第四波かぁ。

多勢に無勢、まさに

many a small bird drive away a hawk ね。』

 

私は腕を広げ、左右の手に持つシグナムハンドガンを構える。

『もう、アンコールはいい加減にして欲しいよね…』

 

『むふふ、それじゃあ、厄介なお客さんには、お帰り頂くかにゃ!』

マリが言い終える瞬間、二人同時に引き金を引き絞る。

 

号砲、開演。

 

 

それを合図に四方八方から、いくつもの単縦陣を形成したアポストルが襲い掛かって来る。

 

お互い背中合わせで、独楽の様に回転し、銃撃を加えていく。

レーダーと目視を合わせながら、敵の進行方向を察知し出鼻を挫く。

銃撃のみでは捌ききれない敵を、蹴りで仕留めながら、要所要所で圧縮したATフィールドを杭のように敵の陣へ打ち込む。

 

あれま!とすっとぼけたマリの声と共にオーバーヒートした8号機の重機関銃。

ガンスーツから重機関銃をパージし、マリは徒手空拳で敵を打ち据えていく。

真上から突撃してくる敵群を、お互いが背中を反発させ回避すると同時に、下方から二人で先頭の敵へ蹴りを打ち込む。

後続と次々に衝突していくアポストル。

 

そんな衝突していくアポストル達へ周りから来る奴らを、捌きながら更に衝突させ塊を造っていく私達。

そんな、くっつき密集したアポストルを逃さんと、反転させたATフィールドを展開しながら塊を掴む8号機。

そのATフィールドに吸い込まれる様に吸着していくアポストル。

8号機はその塊を振り回し、周りの敵にぶつけて更に塊を大きくしていく。

 

『お帰りはあっちだにゃ!おととい来やがれ、べらんぼうめ!!』

開放され、勢い良く地面に衝突するアポストル塊。

破壊された敵のQRシグナムが爆発を起こし、他へと誘爆していく。

 

 

 

…レーダーに感なし。周辺の敵は一掃したかな?

 

『ちょっと待って、特異個体反応を検知!ながちー、8号機パイロット、ボスキャラに気を付けて!』

ミドリの警告と共に、センサーに特異個体反応の警告音が…

 

周りを見渡すが、敵影を見つけられない。

レーダーにも反応がない。

ヴンダーやアルテミスも敵を見つけていないようで、通信越しにオペレーター達が様々な報告をしているのを聞こえる。

 

 

『周辺から超高エネルギー反応!

なにこれ!マジあり得ないんですけど!

周辺から反応が乱反射してる?

ヤバ!粒子加速の反応有り!?』

ミドリの切迫した声が聞こえる。

 

私はシグナムハンドガンを翼部にマウントして、レガリア細胞で大盾を形成し、耐熱処理を施していく。

 

8号機は揚陸艇と作業スタッフの近くへ待機しATフィールドを展開している。

 

 

…どこから来る?

レーダー、目視共に意味をなさない。

攻撃の瞬間に敵の居場所を把握するしか無いか。

 

 

自らの機能をそれ一点に集中させる。

エヴァへ溶け合うような感覚の中、周りの世界を知覚し、自らを広げていく。

時が遅くなる感覚、周りのざわめきが聞こえなくなる。

もはや自らの触覚すらも感じない…

 

 

 

ふと感じる敵意。目標は封印柱!?

瞬時に8時方向へ機体を滑らせる。

 

 

私の前方から開放される高出力エネルギー。

光の奔流を正面から見据える。

多重ATフィールドを最大まで展開し抑えようとするが、物理的に

押し込まれそうになる為、推力へとフィールドを割く。

 

目視できる程のATフィールドを推力へ展開し、物理的威力を抑え込むが、防御用多重ATフィールドの出力が減り、徐々に破られていく。

 

大盾での防御方法へシフト。

ATフィールドを侵食させた大盾を斜めに構え受け流すも、徐々に削られていく。

レガリア細胞を最大まで増幅させ、盾を再生させていくが若干削られる方が早い。

 

 

『特異個体のエネルギー反応更に増大!』

ミドリの声と共に、敵の攻撃出力が更に増す。

 

歯を食いしばり、更にATフィールドを高める。

目視できる程に光り輝く私のATフィールドが、さらに光を強めていく。

 

耐熱処理をしていた盾と装甲が、徐々に熱で溶け出す。

警告音がけたたましく鳴り響くエントリープラグ内。

激しく振動する機体を感じながらも、インダクションレバーを懸命に押し込み、敵がいるであろ前方を睨みつける。

 

沸騰していくLCL。

全身や肺が焼け付いていくのを感じながらも、意識だけは守る。意識を失ってしまえば、ATフィールドが消失してしまう。

例え死んだとしても、それだけは駄目なのだと自分へと言い聞かす。

 

 

もはや、声のでない私の変わりに、Mark7が咆哮する。

さらに強くなる私のATフィールドが段々と圧縮していき、遂に耐えきれなくなり反撥する。

黒く歪んだATフィールドが敵の攻撃を割っていき、敵へとダメージを与える。

 

 

途端に周りの景色が割れるように崩れ落ちた。

それと同時に現れる敵の姿。

 

 

巨大な亀の様なアポストル。

尻尾の部分には何本もの大きく長い触手が生えており、それぞれが付近に居るA2のQRシグナム付近に突き刺さっている。 さらに亀の頭部分が砲身の様になっているのを確認した。

粒子加速部位は、あの膨らんだ甲羅の中にあるのだろう。

 

 

 

姿を見せた敵へと、空から重粒子弾が殺到する。

綾波さんの攻撃は、明滅する硬い甲羅に阻まれ上手くダメージを与えられていない。

なんて硬さなの…

 

『再び特異個体に高エネルギー反応!

はやっ!既に粒子加速開始。早くも、発射体制!?

チョーまずい!ゲキヤバですぅ〜!!』

今にも堕ちそうになる機体をなんとか上昇させ、敵を見据え、融解し腕にくっついた盾を構える。

 

『駄目だって!ながちー!私達を見捨てろ!!』

ミドリの声が聞こえてくる。

 

ああ、声が出せないのがもどかしいね…

 

 

ふと、マリが居ないのに気が付く。

視界の端に、何か巨大な物を持ち地上を走る8号機を見つける。

 

『綾波ん、長良っち。陽動ヨロシク!』

力強いマリの声。

そんな声にハモるように

『了解。』と答える二人。

 

頭上から降り注ぐアルテミスとMark9による援護射撃。

上手い具合に敵の砲身を揺らしていく。

私の攻撃により甲殻を破られ、そこより覗くコアブロックへ向けて駆ける8号機。

 

エッフェル塔を担ぎ突撃をかける8号機へ、特異個体はA2に差し込んでいた触手を向ける。

跳躍する8号機の脚を絡めとるが、マリは自損覚悟でガンスーツのブースターを最大まで展開し、フィールド偏向制御装置で機体をドリルの様に回転させる。

『なんのこれしき!Excusez-moi,Eiffel《ごめん、エッフェル塔》!』

回転に負け、圧し折れ、千切れる脚を置き去りにしてコアブロックへとエッフェル塔を突き刺す。

 

 

アルテミスの重力糸により、退避する8号機。

それと同時に大規模なエネルギー崩壊を起こす特異個体。

 

それを見届け、安心したのか、閉じていく瞳。

そして私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

全身に感じる気だるさ、意識が浮上していく。

目を開くとそこは、ヴンダーの医務室のベッドの上で、私は点滴を受けていた。

点滴?再生が間に合わなかったのかな?

エネルギーの外部補給が必要とは。

小さなこの身体ではS2機関の出力に限りがあるからね…

 

ふと頭の上に暖かな感触がする。

 

「また、無茶をしたものね。いくら使徒だからといっても、貴女死にかけたのよ。」

リツコ先生が、私の頭を撫でながら言葉を掛けてくれる。

「私は貴女を叱らなければいけないわ。

あの時、私達を見捨てるべきだったのよ。

私達と貴女では存在価値が違うの…そこをしっかりと把握して置きなさい。」

 

「そうですね、解っています…。

でも、私があの時、皆を見捨てていたら、ヒトとしての私は死んでいました。

私がヒトである為に、ただのエゴだとしても、私は私の為に戦います。」

呆れたようにため息をつくリツコ先生。

 

「はあ、貴女達エヴァパイロットはなんで皆そうなのかしらね…。

立場上、褒めることなんて出来ないけど。

個人的にお礼を言っておくわ。

ありがとう、ユウカ。」

優しく微笑むリツコ先生。

 

しかし、身体を起こそうとする私を見て、表情を一変させ、私の頭に拳骨を入れる。

「何をしてるの?寝てなさい。命令よ。」

痛い…

私って、一応怪我人なんじゃないの?

 

 

 

 

 

医務室で横になりながら、先程の作戦の報告書を閲覧している。

 

作戦は成功。

コア化した大地の復元に成功し、ヴィレユーロ支部の地上施設も起動。

アポストルAFの一回分の侵攻総数を撃滅、特異個体を討った事はかなりの戦果であると言ってもよいだろう。

代償として、エヴァMark7の大破と8号機の中破を加味しても。

 

 

 

ノックと共に開くトビラ。

…いや、ノックと一緒に開けたら意味無くないかな?

入ってきたのはミドリだ。

 

「やっほー、ながちー。

死にかけたにしては元気そうじゃん?」

 

「ん、事情は知ってるでしょ?上級オペレーターなんだから。

…それで、どうかしたの?」

用が無いのに、顔を出す人じゃ無いのは知ってる。

それを聞き、ミドリは袋から1つの本を取り出し呟く。

 

「まだ、持ってたんだ?これ…。」

それは破れた聖書。

私が御守りとして持っていた物。防水バックに入れてエントリープラグ内に持って行っていた…

 

それをミドリの手から受け取り、表紙を撫ぜる。

「うん、こうやって想いの籠もった物を貰ったのは初めてだったから。」

 

照れたように目を背けるミドリ。

「まあ、なに?その…あんがと。

姉妹揃って、ながちーに助けられた。

妹のモモには、ながちーがアンタの聖書持ってたって言っとくわ。」

茶化すように笑い、私をおちょくる。

 

「恥ずかしいからやめてよね。

…まだ、他のエヴァパイロットの事は許せない?」

 

「ごめん…無理。八つ当たりなのは解ってる。

私のパパとママを守れなかった理由も解ってるけど、感情が許さない。」

両親を奪ったアポストルへの恨みと、唯一残された妹を守るためにヴィレに入った彼女。

私以外のナンバーズには、八つ当たりじみた感情を抱いているのを本人も気にしているようだ。

 

ひとまず返したから!と明るく振る舞い部屋を退出するミドリ。

 

そんな彼女を見送り、私は布団に身体を沈め、破れた聖書を眺めた。

 

 

 

 

 

本部へ到着したヴンダー。

私はそのまま、本部の病院へ運ばれた。

念の為の検査を行うそうだ。

リツコ先生って、偶に過保護な所がある。

 

ちなみにエヴァMark7はかなりの損傷を受けており、復旧に結構な時間を要するとのことだ。

私が回復したら、シンクロさせて再生させる事に決定した。

 

まあ、今日で敵にそこそこ大きな損害を与えたはずだし、特に特異個体を始末できたのは重要だろう。

当分はアポストルの襲撃も減るだろうから、エヴァの修理は間に合うはずだ。

 

病院のベッドの上で、マリが持ってきたカツ丼を食べ進めながら、それらの話を聞いていた。

マリも高シンクロ下でエヴァの脚を失ったから若干の後遺症が残っているが、明日か明後日にでも治るらしい。

 

「ま、短いお休みを楽しむにゃ。

ななちゃん、明日あたり一緒にティータイムでもどう?

良い紅茶入ったんだよね。」

 

「いいね。そうしようかマリちゃん。」

 

笑顔で笑い合う私達の頭の上から、リツコ先生の呆れたような声が聞こえる。

 

「貴女達、一応自分達が傷病人だということを忘れないでよ…。」

 

 

 

 

 

 

日を跨ぎ、お茶会の準備をしていた私とマリだったが、突如鳴り響くアポストル襲撃警報。

アメリカ大陸方面から大規模な敵侵攻を検知。

 

 

誰よ?当分敵の侵攻が減るなんて言ったのは…

 

…あ、私だったか。

 




北上さん、リフトオフ!

と言う事で北上ミドリさんでした。彼女にはオリジナル設定がはいっております。
性格が違っているのは、この世界線ではエヴァ由来のインパクトが起こっていない為です。


あと、マリが綾波んと言ってるのは誤字ではなく、アダ名です。
後々外伝とかでミドリと主人公の過去をやります。


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over run

グロい描写が有りますので、閲覧は自己責任でよろしくお願いします。


今や赤き大地となってしまったアメリカ大陸。

封印柱により、ほんの一部のみが人類の生存可能領域となっている。

 

その大陸からの侵攻は予想外であった理由は、衛星軌道上に広がる人工衛星による監視網、それらに、昨日まで映ってなかったからだ。

しかし今は、アポストルの大群をマギシステムは検知している。

 

前日までいなかったその大群は、エヴァと比べても遥か巨大な花の蕾の様な物体から出てきていた。

特異個体の波長を発しているそれは、一種の次元連結ゲートだと思われる。

 

 

敵侵攻目標はロシアのカムチャツカ半島。

既に東部方面軍は戦線を構築済み。

最大規模の大陸中央軍も移動を開始している。

ヴィレの部隊も本部から既に出撃し、後5分程で現地へ到着する予定である。

 

 

前日の戦いの損傷が、未だに治っていないエヴァMark7と8号機は出撃不可能な為、待機命令を受けている。

 

故に現在は、新しい新型プラグスーツを着用し、新調したエントリープラグを機体に挿入して、エヴァとのシンクロを行うための準備をしている。

 

 

それにしても、もはやMark7はズタボロである。

全身の装甲が融解し、素体まで一部炭化した部分も有り、マシな箇所でも重度の火傷状態。

 

更には、背部のエントリープラグ挿入口周辺は、グチャグチャになっている。

敵の攻撃により溶けた装甲のせいで、エントリープラグをイジェクト出来なかったようで、綾波さんがプログレッシブナイフで切り開いたみたいだ。

 

現在はマリの8号機にエントリープラグを持ってもらい、Mark7へ入れてもらっている。

ちなみに8号機だが、千切れた脚部はレガリア細胞を動かし、先程修復を終えた。

 

エヴァとのシンクロをスタートさせる。

フィードバックは最小限に設定し、シンクロ率もあまり上げないように注意している。

 

 

シンクロして改めて思ったが、これはかなり酷い状態だ。

 

内部コンピューターまで破損している。

自らの肉体をコンピューターとして設定し、シンクロを調整。

レガリア細胞とエヴァのS2機関を最大まで稼働させ、機体を再生させていく。

 

…そもそも、無事な細胞が少なすぎる。

素体の再生には思った以上に時間が掛かりそうだ。

 

これは、もっと耐熱処理を施さないといけないと改善案を頭の隅に入れておく。

正直、こんなにもレガリア細胞が熱に弱いとは思っていなかった。

 

 

Mark7の修復を進めていると、遂に開戦の報告が入る。

ロシアから送られてくるデータでは、既に戦端が開かれ激戦となっているのが見て取れる。

 

これは修復を急がないと…

 

 

さらにシンクロ率を上げ、修復に意識を集中させて行くが、唐突に鳴り響くアラートにより邪魔をされる。

 

驚き顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、本部ルートへのアポストル襲来の報告。

 

…やられた、まさか大規模な陽動後、本部への奇襲だなんて。

 

 

 

本部への侵攻を報告されたのか、ミサトさんから通信が入る。

『ユウカ!マリ!悪いんだけど此方は離れられないわ。二人共エヴァの状態は?』

 

『8号機は問題ないよ〜ん。』

 

『Mark7は、現状では出撃不可。満足に機体を動かせる状態では無いです。

稼働可能な最低限の修復完了まで、およそ1時間を要します。』

 

私の報告を聞き、難しい表情を浮かべるミサトさん。

脳裏でいくつもシミュレートしているのか、言葉を発さない。

そんなミサトさんへ、本部に残っていた冬月司令が声をかける。

 

『葛城君、君は君でそちらの対処をしたまえ。

本部防衛は私が指揮を執るよ。』

穏やかだが、何処か強制力を感じる口調。

そんな司令の言葉に、力強く了解と答えるミサトさん。

 

通信を終え、冬月司令は号令をかける。

『総員、第一種戦闘配置だ。』

 

号令のもと、動くヴィレ本部施設。

続けて司令は、作戦コードを開示する。

『ふむ、コード・アレゴリカ47を展開。

準備したまえ。』

 

そんな冬月司令の命令を聞き、待ってました!とマリが騒ぐ。

そっか…アレゴリカ47か。

 

イジェクトされるエントリープラグ。

すぐさまプラグ内より飛び出し、LCLも落とさずに走り出す。

既に8号機はケージに戻っている。

 

疾走し8号機ケージに突入する私を待っていたのは、新型の白いプラグスーツに着替えたマリ。

その胸元には、同じく白いプラグスーツを持っている。

 

「ほい、ななちゃんの。温めて置いたよ〜。」

ケージの物陰に隠れ、マリに手渡されたプラグスーツへと着替える。

白をベースにして、従来の私のスーツのベースカラーである淡い青色のラインが入っている。

手首のボタンを押し、身体へフィットするプラグスーツ。

 

「白も似合うね、ななちゃん。」

 

「マリちゃんも似合ってるよ。」

お互い笑いながら褒め合う。

 

二人で並んで歩く先には、新型のエントリープラグ。

中を覗くと、通常と違いインテリアが2つ上下に並んでいる。

下は通常のインテリアと同じだが、上のインテリアはコンパクト化されており、インダクションレバーが付いていない。

 

マリが下のインテリアへ、私が上のインテリアへと着座し身体を固定させる。

 

『エントリープラグ内、注水。』

オペレーターの声と共に、迫り上がるLCL。

 

『LCL注水完了。続いてLCL電化。』

『電化完了。』

『エントリー、スタート。』

 

『両パイロットシンクロ開始。』

『神経接続問題なし。メインパイロットを真希波・マリ・イラストリアス大尉で設定。』

 

『コパイロット、長門ユウカ少佐に設定します。』

 

『双方向回線開きます。

…プラグ震度、シンクロ率共に安定。』

 

『エヴァ8号機、アレゴリカモードへ移行し起動。』

開ける視界。

それにしても、初めての他人のエヴァだ。

 

「…マリちゃんのニオイがする。」

 

「にゃ!私もななちゃんを感じるよ。」

つい出て来てしまった私の言葉に反応するマリ。

 

いや、これは、私達言葉に出してないな。

お互いの思考が丸わかりじゃん!

ちょっと恥ずかしいかも…

 

『では、良いかな?二人共。』

冬月司令から通信が入る。

同時に頷く私達に微笑み、次の瞬間には真剣な表情になる司令。

『エヴァ8号機、発進。』

 

地上へと物凄い勢いで射出される8号機。

そういえば、この発進方法、私…初めてだった。

 

 

地上にてリフトオフした後、同時に並んで、地上へ射出していたウルトビーズ3機のうち、真ん中の1機へ近づく8号機。

 

「ななちゃん、後はヨロピク!」

言葉と同時にウルトビーズへ、勢い良く8号機の腕を刺しこむ。

 

レガリア製の8号機の腕が、ウルトビーズへと融合していく。

私は、シンクロしている8号機を媒介にウルトビーズを変成させていく。

真ん中のウルトビーズを構成しているレガリア細胞を操作して、さらに左右のウルトビーズへと繋げる。

 

パーツ毎に形を変えて、8号機に装着されていく3機のウルトビーズ。

もはや原型を留めていなく、それらは外部ユニットとして機能する。

 

8号機もその様相を変え、エヴァMark12の様に4本の腕が有るケンタウロス型の機体へと変貌していく。

Mark12との違いは、馬型の下半身につけられた大きなヴェルテクス翼ユニットと、大きな尻尾のようなパーツ。さらに背部に、いくつもの円柱状のパーツが付いていること。

エヴァ8号機の外部に強化ユニットとして付けているため、体躯も他のエヴァよりも大きくなっている。

 

「ほ〜、ほ〜。これは、これは…

いや〜、凄い力だにゃ。

出来れば今後もこれでいきたいね。」

感心したように手を握ったり開いたりするマリ。

 

「分かってると思うけど、これは一時的なものだからね。無理矢理繋げてるから私がいないとバラバラになって普通の8号機に戻るよ。」

 

「OK、OK!」

と笑顔のマリ。

 

もはやエヴァ4機分のS2機関の出力は、人知を越えた力だ。

しかし無理矢理繋げている為、レガリアやヴェルテクスユニット、S2機関の出力調整のため私がコパイロットで搭乗している。

 

それに恐らくは、8号機の機能中枢に結構な負担がかかるはずだ。

その辺は私が上手く調整出来れば良いが…

 

 

私自身を構成するレガリア細胞を演算機能へ特化させる。

 

神経系に沿って金色に光る私の身体。

これ程に特化させてしまっては、身体を動かすことは出来ない。

 

私の周りには、次々と電子アイコンとディスプレイが映し出されていく。

マルチタスクを処理していき、並列分割思考を巡らす。

発進してゆく他のウルトビーズや、ATスフィアの操作も同時にこなしていく。

 

 

再建された第3新東京市も戦闘形態に移行し、市民もシェルタートレインにて退避済み。

完成された迎撃都市の様相は圧巻の一言で、数え切れないほどの兵器が並ぶ。

 

 

 

徐々に近づいてくるアポストルの大群を視界に入れながらマリが呟く。

「使徒もどきが囮とは、ホント洒落臭い。」

 

「敵が知恵をつけてきたって事だね…」

 

「これは、ちょぴっとマズいのでは無いかにゃ?いささか予想よりも早いよ、ななちゃん。」

 

「…残された時間はあと僅かということか。」

 

「まあ、今はこの事態をズバッと解決しないとね。

ここでとちれば本部がパーじゃん!」

 

 

兵装ビルが火を吹き、私の操作するATスフィアによりフィールドを中和された敵が次々に躯へと変わっていく。

 

ミサイルが、砲弾が、レーザーが、ビームがアポストルへと殺到していく。

8号機は両手にパワードエイトを装備し、引き金を引き絞る。

マガジンの装填はもう一対の腕で行っていく。

 

 

空から迫り来るAFは、ウルトビーズと対空砲火により殲滅されてゆく。

AFに関しては、時間は掛かるが問題なく対処できる数だ。

しかし、地上の敵はそうでは無い。

 

何重にも陣形を組みながら、恐怖というものが無いかのように振る舞うアポストルは、味方の死骸ごと踏み荒らしていく。

 

これほどの火力があってもなお、抑えきれないとはね…

 

津波のように押し寄せる敵は、一部崩した兵装ビルすらも巻き込み、ただただ突き進んでくる。

 

 

「これ以上の侵攻は許容出来ないにゃ。ななちゃん、行くよ?」

そんなマリの言葉に、返事する余裕のない私は了解の思念を送る。

 

「言葉を介さない、意思疎通も乙なもんだね。ツーカーみたいな感じでさ!」

心底うれしそうなマリの感情が、私の中を駆けていく。

 

四本脚から繰り出されるパワーが速度として反映される。

フィールド偏向制御装置とヴェルテクスユニットを使用して推進力をブーストしていく8号機。

右腕の一本を巨大な円錐状の馬上槍へと変成させる。

 

私とマリのATフィールドが槍を覆っていき螺旋を描いていく。

二重螺旋を描き高速回転し、広がっていく私達のATフィールドが敵へとぶつかっていく。

 

ドリルのように敵陣を割っていく私達。

「ハイよ~シルバー!騎兵隊のお通りだ!そこのけそこのけ!」

大きな笑い声を出しながら、マリが宣言する。

四散していくアポストルの群れ。

圧倒的な力で戦況を変えていくエヴァ8号機。

 

「ふふん。これが、エヴァ8号機レガリアニコイチ型ウルトビーズ・アレゴリカ47だにゃ。」

どや顔で相手もいないのに自慢をするマリ。

名称長いよ。

 

…それにしても機体への負担が大きいな。

 

 

ふと前方に違和感を感じる。左側の敵が分厚くなってきた。

 

一本の左手を変成させ、弓のリムと弦を生成し、腕そのものを弓へと変える。

矢の形状の相転移型アルべスの槍を三本生成し、右手の指の間に挟み込みつがえ、弦を引き絞る。

 

左側で密集した敵へと、多少山なりの軌道を描くように、相転移型アルべスを打ち込む。

接触と共に一定範囲の空間を真空にして、真空空間のエネルギーを相転移させる。

強制的に相転移させられた空間は、内包する物質を消滅させる。

 

少し遅れて右前方の敵も厚くなっていた事から、左右から挟み込もうとしていたのかと推察する。

 

「ななちゃん、助かったよ。あのまま挟み込まれてたら危なかったね。」

真剣な表情でアポストルを睨み付けるマリの思考が伝わってくる。

 

 

急に背筋へ奔る悪寒。

二人同時に山間部へと視線を移す。

 

徐々に沈んできていた夕日を背に、人型の何かがこちらへ歩いてきている。

肩が上方にせり上がったそのフォルムは、まるでエヴァのようだが、それがエヴァでないのは感覚で解る。

 

私達を包む緊張感。

特異個体のパターン反応。

 

「エヴァのぱちもんとは、中々洒落が聞いてるにゃ。全然笑えないけどね…。」

眼鏡を押し上げ、冷たい視線を向けるマリが脳裏に映る。

全く同意見だね。物凄く不愉快だよ…

 

 

骸骨の様な顔だが、むき出しで開いた口の中には、巨大な目玉が忙しなく動いている。

せり上がった肩の付け根には、エヴァフォロー型の頭部の様な物が左右それぞれに埋め込まれ、口をカタカタと動かしている。

せり上がった部分は、そのままフォロー型のウェポンラックのようだ。

 

フォロー型の識別番号まで発している。四年前南アメリカで敵に鹵獲されていたのか。

 

私達の通信にアクセスしてくる二機のフォロー型。

馬鹿な…通信システムが生きてるなんて?

 

 

映るのは肉の様なモノに埋もれた四人の人間の顔。

 

目を見開く私達。まさかパイロットまで…

 

EMPにより脱出出来なかったのか。

肉体的融合。パイロット達はただ肉体が生きているだけだ。

 

 

 

怒りの感情が沸き起こっていく。

なるほどね、急に知能を得たわけだよ。

人間を取り込み、コンピューターのように思考させているのだから。

 

hes so fucking annoying!!(アイツ!マジでムカつく!!)

 

私の感情が伝わったのか、いつになく怒りを露わにして怒鳴るマリ。

そんならしくないマリへ落ち着くように思念を送る。

 

空の敵はもうそろそろ殲滅出来るだろう。残りの地上残敵はウルトビーズと本部の防衛兵器に任せる。

 

特異個体のデータを精査していくが、エネルギー総量が今まで観測したどの敵よりも多い。

マリへと情報を送り、ATフィールドへと意識を傾ける。

 

地面を爆発したように砕きながら、特異個体へと疾走する8号機アレゴリカ。

 

ソニックブームをまき散らしながら、瞬時に距離を詰め、その勢いのままに馬上槍となった右腕を突き出す。

 

まさに会心の一撃と思われた攻撃は、紙一重で体を反らした敵により避けられる。

伸びきった8号機の腕を取ろうとする敵を、もう一本の右腕で横からフックを入れ吹き飛ばす。

 

敵の速度が速い…

マリの思考を読み、右腕の馬上槍を通常の腕へと戻し、翼部からシグナムハンドガンを装備する。

 

ハンドガンを敵へと連射していく。

疾走する敵はハンドガンから吐き出される陽電子の弾丸を置き去りにする。

急に進行方向とは違った方向、すなわちこちらへ跳躍する敵。

 

その人体構造からは考えられない挙動に、一瞬マリの思考が止まる。

 

私はATスフィアをぶつけて空中の敵を迎撃する。

破壊されるATスフィアだが、稼いだ一瞬はマリの思考を正常に戻すのには十分な時間だった。

 

後部の足で立ち上がり、前方の足で渾身の蹴りを打ち込む8号機。

 

左斜め前方へ吹き飛ばされる敵をハンドガンで追撃をかけながら距離をつめ、左手でプログレッシブナイフを肩のウェポンラックから取り出す。

空中を吹き飛ばされる敵であったが、奴の左肩に埋め込まれていた素体の顔の眼球が動く。

あらぬ方向を向いていたそれが、急にこちらを見つめる。

 

 

嫌な予感がする。

弓状になっていたもう一本の左手をシールドに変え、ATフィールドを侵食させていく。

 

奴の左肩の顔が、無理矢理にこちらへと向き直す。ガパリと開く口。

 

きらめく赤い閃光。即座に左手の盾を差し込む。

 

展開されるマリのATフィールドと、私の多重ATフィールドだが、針のように細いその光はフィールドを透過しシールドに直撃する。

 

一瞬左手に奔る熱、直後の激痛。

内部からはじけ飛ぶ左腕。

 

余りの痛みに歯を食いしばるマリと、叫び声を上げる私。

 

あの頭部、完全に元のフォロー型から逸脱している…

それにまさか、ATフィールドを透過してくるなんて。

 

円柱状にしてストックしていたレガリア細胞を、瞬時に左腕の再生へと回す。

 

今度は奴の右肩の顔がこちらに向きなおる。

開く口、きらめく閃光、それを察した私は即座にヴェルテクスユニットを使い急速に高度を上げる。

 

青い閃光が奔る。

光が通り過ぎた後、私達が居た周辺が凍り付く。

 

 

避けることが出来たのは奇跡に近い。

やすやす避けれる攻撃ではないのは明白だ。

 

「まともにあれらの攻撃を受けたら、あじゃぱーね。」

マリが機体を接近させながら、呟く。

しかし、あの攻撃は早々と連発出来ないだろう。

それに収集したデータが正しければ、この敵はただの特異個体ではない。

 

 

瞬間エネルギー総量はインパクト相当分。それを一瞬であれば使用できるようだ。

まあ、それ以上は奴の肉体が持たないだろう。

 

しかし、奴が持つ最大の脅威はそこではない。

そのエネルギー量なら、初号機の施した封印を破る事が出来るのだ。

自身の崩壊と共に。

 

既に存在が想定されていた敵。

 

アポストル・オップファータイプか。

 

 

マリへと思考を飛ばし、注意を促す。

逆境でこそ咲く、胸の大きないい女は不敵に笑う。

格闘戦近距離にて殴り合う8号機アレゴリカとオップファータイプ。

 

腕の多いこちらのほうが格闘戦では有利だ。

そのまま押し込み敵の首を締め上げる。

首をへし折ろうと渾身の力を籠めるが、敵の背部から、もう一対の腕が生える。

8号機の首に迫る敵の腕を、オップファータイプの首を掴んでいた腕でつかみ取る。

 

自己進化では無い。もともと持っていて隠していたのだろう。

 

こちらの首を掴ませなかったのは正解だ。

奴の両手はそれぞれ、左手が高熱を、右手が極低温を纏っていた。

いや正確には分子運動をそれぞれがコントロールしている。

同時に同じ個所を掴まれていたら、どうなっていたことか…

 

四本足から繰り出される馬力により、敵を押し込んでいく。

「ゼロ距離ならば!」

笑みを浮かべるマリ。

8号機の両肩のウェポンラックが開き、オップファータイプの両肩にある顔へとペンシルロックを射出する。

 

オップファータイプの左側の顔には直撃するも、右側の顔へは外してしまう。

射出の瞬間に体勢が崩れた…敵が急に力を抜いたためだ。

 

してやられた。

右側の顔がガクガクと動きこちらに向く。

ギョロリと見据える眼球、開く顎部。

ヴェルテクスユニットを使い無理やり体勢を変えるも、オップファータイプも渾身の力で射線を確保する。

 

きらめく青い閃光。

腰より下が凍結する8号機。

 

 

通信越しに私達を嘲笑う、取り込まれたパイロット達の顔。

 

趣味の悪い奴。

「趣味の悪い奴。」

ふふ、こんな時にマリとハモるなんてね。

前の座席に座るマリが私に振り返り、微笑んでいる。

 

「ごめんね、ななちゃん。君と一緒に戦って負けちゃうなんてね。」

まあ、マリちゃんと一緒なら死んでも良いわ。

 

 

 

ふふふ…。ついつい笑みが浮かんでいく…

恰好つかないね?

 

疑問符を浮かべるマリの顔。

 

 

 

 

成長したね。サクラ…

 

蹴り抜いた姿勢で隣りにいるMark11。

胸元から四散するオップファータイプ。

僅かに遅れて奔る藤色の閃光、そして衝撃波と轟音。

 

光すらも置き去りにした飛び蹴りとは。

ロシアから飛んできたらしい。

 

 

通信越しに映る、疲弊しながらも安堵したサクラの顔。

 

ありがとう。シンクロしてお礼を言う私とマリ。

キョトンとした顔のサクラ。

 

「二人ともどうしたん?口は動いてるけど声、出てないよ?」

今まで言葉を介さずに意思を伝えあっていた影響か、しゃべった気になってたや。



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Force of Will

精査していたデータを保存し、長時間椅子に座り続けた為に、固まってしまった身体を伸ばす。

周りには、天井を見上げたり、デスクに突っ伏したりする技術部の職員が目に入る。

 

近くのデスクを視界の隅で覗く。

 

リツコ先生は、IFSでデータ入力を続けている。

マヤさんは、大きなアクビを手で隠した後にコーヒーを飲もうとマグカップに手を伸ばす。

マリはアイマスクを着け、椅子に座りながら仮眠している。

 

窓の外に視線を向けると、既に日が昇って居るようで、ジオフロントの天井から光が射し込んで来ている。

 

 

Mark7と8号機の修理や、オップフォータイプのデータ整理等があり、最近は物凄く忙しいのだが、何よりもMark11の件がこの状態を引き起こしている。

 

 

光速を超えたエヴァMark11。

エヴァのログを覗くと、一時的に疑似シン化覚醒を果たしていたらしい。

 

まさか、サクラが一番に果たすだなんてね…

だが、本人には自覚が無かったらしく再現は出来なかった。

 

さらに光速を超えた事により、新たな発見が有ったのだ。

それは、既に理論としてのみ存在していたタキオン粒子だ。

 

それらのデータを精査していて、夜が明けてしまった。

こればかりは科学者の性なのだろうか。

仕事でもないというのにね…

もちろん、今日が非番な訳では無いため、ここに居る全員は寝ないで業務へと移ることになる。

 

 

「ユウカ、もう終わったのかしら?」

いつの間にか背後に立っていたリツコ先生。

私の肩越しから窓の外を覗いている。

 

「はい、一応は。」

 

「そう、やっぱり凄まじいIFS処理能力だわ。

一度でも良いから、貴女の見る世界を見てみたいわね。

…もし貴女と一つになれれば、見えるのかしら?」

え?

「リツコ先生、今なんて?」

 

「いえ、なんでもないわ。

…何でも無いの。」

 

窓からジオフロントの景色を見つめるリツコ先生の表情は、どこか遠くを見るような表情をしていた。

 

 

 

 

全損したエヴァMark7と、下半身を失った8号機の修復がやっと終わった。

気分転換にジオフロント内を散歩していた私は、今ベンチに座りながら、近くの売店で購入したカップのアイスココアを飲んでいる。

 

 

公園のようになっているこのエリア。

周りには非番の職員が、私と同じように散歩したり、ジョギングしたりする姿が見られる。

 

ジオフロント内のルート分岐となっている道を眺めながら、そういえば左の道を進んだ事が無いと思い至る。

3本の分岐のうち、真ん中は湖へ通じており、右はMプランの実験場がある。

 

その左の道から見知った二人が歩いてくる。

加持さんとカヲル君だ…

二人共、農作業着でスイカを持ってきている。

 

…もしかして、ここでもスイカ畑を作ってるのかな?

収穫したのであろうスイカを台車に入れてある。

 

マジマジと見ていた私に気づいたのか、二人が近づいて来た。

「やあ、ユウカちゃん。休憩かい?」

 

「はい。やっとエヴァの修復も終わりましたし、今日は午後からのシフトをリツコ先生が変更して、皆を休ませましたから。」

 

「リッちゃんがか?やっぱ変わったな…

昔なら半日くらい、鞭打ってでも仕事させてたのに。

子供の面倒を見ると変わるものだな。」

 

…ん?

「え!?子供!?」

驚く私に、苦笑いの加持さん。

 

「君のことだよ、ユウカちゃん。」

キョトンとする私に言葉を続ける。

「博士号を取る為にリッちゃんが勉強を教えてただろ?それに何だかんだ、リッちゃんにとって君は、一緒にいる時間が誰よりも多い。

凄く君を気にかけているよ。」

 

「そう、だったんですね。あまり考えたことが無かったです。」

 

「そうだろうな。それは君にとってリッちゃんが近い存在だからだな。

それだけ、二人の間に絆があるって事さ。

外から見なければ分からないものもある。だからこそ人生は面白いんだよ。」

 

「そうですね…。私もそう思います。

そういえば、スイカ美味しそうですね?」

丸々と大きなスイカに目を奪われる。

 

「自信作だよ。長門さんも食べるかい?」

スイカの話題に返したのはカヲル君。

 

「もしかして、カヲル君が畑を作ってるの?」

 

「物造り。本当に興味深いね。

音楽とはまた違った良さがある。

業が深くは有るけれども、生命の巡り合いには感じるモノがあるよ。」

微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「僕らは本来、物を食べる必要性がないから、食べるという行為に生命を無駄にしてしまっている感じが否めない。

でも、君には食べて欲しいんだ。

使徒であり、ヒトでもある君は、生命を糧にヒトとして生きているのだから。」

 

そう言って、一際大きなスイカを私の膝の上に乗せる。

驚く私に笑うカヲル君。

 

「ああ、大丈夫だよ。リョウちゃんは僕の事も知っているからね。」

そんなカヲル君の言葉を聞き、苦笑いをする加持さん。

 

「まあ、そうなんだが…いくら近くに人が居ないからって、こんな所で喋られると困る内容だぞ?」

肩をすぼめるカヲル君。

二人の関係性は親しいのだと感じるやり取りだ。

 

それじゃあ、と台車を押して行こうとする二人だが、直ぐに立ち止まり、加持さんが振り返り、私に真剣な表情で言葉を口に出す。

 

「ユウカちゃん…。今や人類の未来は君の選択次第だ。今はまだなんの事かは分からないだろうが、この言葉を忘れないでくれ。」

 

遠ざかって行く二人の背中を見つめながら、困惑する私。

さっきの言葉はどういう事なのだろうか…

 

膝の上に乗せた大きなスイカの重さが増したように感じた。

 

 

 

 

スイカを皆で食べた翌日。

警報と共に慌ただしくなる本部内。

アフリカ大陸方面と、南アメリカ大陸方面からの大規模侵攻。

 

この短いスパンでの大規模な襲撃は初めての経験だ。

しかし今回は、本部の戦力を一部のみ援軍に送るだけだ。

 

「どう考えても、囮よねこれは。」

ミサトさんが腕を組んで、情報が映し出された大型ディスプレイを見ながら言葉に出す。

 

「当たり前でしょう。敵の意図が見え見えじゃない!全く、次は私がブチのめすわよ。」

同じく腕を組むアスカが答える。

 

特異個体の反応がない大規模侵攻など、囮であるのは明白であった。

それがブラフである可能性も捨てきれないが、本部強襲が有効であるのは、前回である程度証明されてしまった。

 

「何時ものパターンなら、前回は威力偵察を兼ねていたはず。ならば恐らくは今回が本命ね。」

真剣な表情のミサトさん。

 

「特別宣言D-17を発令。全人類へ警告。

委員会にも連絡してA計画を進めさせて。」

 

「いつになく弱気じゃない?どうしたというのかしら?」

そんなリツコ先生の言葉を背中で受け、ミサトさんが答える。

「…嫌な予感がするわ。」

 

 

 

 

ゲヘートとエルブズュンデとヴーセ、そしてナンバーズ以外の本部戦力は既にロシア・中国の戦線へと赴いた。

 

私達はエヴァを起動させ、即応待機。

本部の機能は全てヴンダーとエアレーズングに移行させてある。

 

無人になった本部施設。

今、日本にはこの場にいる人以外誰も居ない。

 

 

ロシア・中国戦線での激戦の報告を聞きながら、アポストルの襲撃に備える。

 

既に開戦から1時間が経過している。

ブラフだったのかという考えが脳裏をよぎるが、焦る心を落ち着かせる。

 

 

『これは、成層圏にエネルギー反応を検知。パターン確認!間違いない!

アポストル・オップファータイプだ!』

青葉さんの報告が通信を駆ける。

 

『ん?強大なATフィールドを確認。

高エネルギー反応!やっば!

ながちーのダイブ直前と同じパターンじゃん!』

 

『耐ショック防御!アブソーバーを最大に!

各機ATフィールド全開!』

ミドリの報告を聞き、すぐさまミサトさんが命令を下す。

 

次の瞬間、鳴り響く轟音。揺れ動く大地。

全体に細かく罅が入る、ジオフロントの天井部を見上げる。

 

『ヴンダーATフィールドを全開!艦を倒立!主機全力運転!ゴーヘッド!』

ミサトさんの指示に即座に答える高雄さんと長良ちゃん。

『両舷一杯!』

『ゴーヘッド!ヨーソロー!』

 

崩れゆく天井部を突き進んでいくヴンダーと、その後ろに続くエアレーズングとナンバーズ。

 

突き抜けた先には一面の空。

眼下には、再びの崩壊を迎えた第3新東京市。

 

瓦礫の上で立ち、こちらを見上げるヒト型のアポストル。

頭部は4方向にそれぞれ顔があり、大きな両翼と3対の腕を持っている。

その体躯はエヴァよりも3割程大きく、装甲のような甲殻を纏っている。

推定エネルギー総量は、もはや計り知れない。

少なくとも前回を大きく上回っていることは確かだ…

 

そんなエネルギー量を内包してもなお崩壊しないなんて、まるで使徒ではないか。

 

 

そのオップファータイプの周りを囲むように2号機と5号機アイギス、Mark6とMark12がシャマシュより飛び降り、地上に着地して包囲する。

 

上空には私とMark11が、遠方から標準を合わせるのは8号機とMark9、Mark10シャマシュ。

 

 

 

 

場を支配する緊張感。

微動だにしない双方の口火を切ったのは、オップファータイプ。

 

私の前方に位置していたMark11が吹き飛ぶ。

想像を遥かに超えた速さに虚をつかれてしまった。

 

組み付かれたMark11は抵抗しようとするも、敵により右脚を引きちぎられてしまう。

噴出するエヴァの血液。サクラの絶叫が聞こえる中、私は敵に向けてアルベスの槍を突きだす。

 

敵の速さに対処するため、自身の演算機能と動体視力を強化していく。

 

Mark11を掴みながら私に対処しようとするも、同時に飛んできた、重粒子弾と情報宮装備弾を回避しようと敵がバランスを乱す。

 

その僅かな隙を付き、サクラがプログレッシブナイフを持ち、流れる様に自らを掴む腕を狙う。

それを回避しようと、敵がMark11を掴む腕を大きく動かすが、サクラの狙いはその先だった。

そのままナイフを離し、勢いで飛来する先は敵の脚。

敵の機動力を割くのは定石。

 

しかし、敵に直撃する瞬間、検知した高エネルギー反応と明滅する甲殻。

 

弾かれるナイフを見送りながら、私は杭のように圧縮したATフィールドを、Mark11を掴む腕に向かって打ち込む。

敵は身体を横にそらし回避しようとするが、私は圧縮状態からATフィールドを開放し、位相空間をぶつけ腕へとダメージを与える。

 

衝撃により緩む力。

渾身の力で敵の手を開き、拘束から抜け出すMark11。

しかし、最大の武器である速度を出すために必要な特装義足を失ってしまっている。

 

一番にサクラを狙うなんて、前回の敗因を知っているのか?

 

 

 

墜落したオップファータイプに襲いかかる4機のエヴァだが、蹴り飛ばされる5号機。

 

距離の離れたこの位置から見ても、閃光が走ったかのような速さを持っている。

 

5号機を蹴り飛ばした流れで、隣にいた2号機へと掴みかかる。

既にコード999を発動していた2号機は反応し、装備していたビゼンオサフネで首を狙う。

しかし、それよりも早い動きで屈み攻撃を回避する敵。

屈んだ状態から再度掴みかかろうとするのを、今度はMark6が槍を突き出し阻害する。

 

Mark12が4本の腕で、それぞれに持ったブレードで踊りかかるも、横へ大きく跳ぶ事により回避するオップファータイプ。

Mark12が小回りが効かないのを知ってる動きだ。

やはりコイツ頭が良い。

 

 

急に帯電したオップファータイプは、次の瞬間には地上にいるエヴァ全機に殴打を当てていた。

さらに速くなった!?

 

観測するタキオン粒子。

一時的に光速に達しているなんて!

 

ヤバい。

速い、硬い、力強いなんて…

なんの冗談よ。

 

 

だが解せないのは、硬い筈なのに攻撃を回避している点と、速く動いている時はそのパワーを発揮できていない事だ。

速さによる打撃力は驚異だが、エヴァを引きちぎるパワーに比べると劣る。

 

もしかして、どれか一つしか引き出せないのか?

通信越しに各々の表情を見ると、恐らく察しているのはアスカとマリとカヲル君。

 

『能力が少なくても3つ。一度に引き出せるのは1つってところ?』

私の推察に答えるのはアスカ。

 

『そうね。ちっ!速くなるのだけでも厄介過ぎる。こっちが能力に気づく前にサクラを潰されたのが痛いわね!洒落臭い…。』

 

『ほんま、すいません。』

未だに後を引く痛みに、顔をしかめるサクラ。

 

『サクラン、ドンマイ!いや〜、それにしてもあの硬さは何なんだろうね?

プログレッシブナイフがかすり傷一つ付けられないなんて、冗談キツイにゃ。』

眼鏡を中指で上げながら、前のめりで敵へ注目しているマリ。

 

『ミドリから送られてきたデータでは、あの明滅の瞬間、一瞬だけど相転移反応が出てたみたい。考えられるのは、フェーズシフト防御?』

私の言葉を聞き、沈黙する一同。

 

『ええ!ちょっとそんなの無敵じゃん!?』

マナが驚愕をあらわにする。

 

『だとしたら、何らかの制限がありますね。

皆さんの攻撃を避けてますから。』

マユミちゃんの指摘は正しい。

インターバルか?回数制限か?

 

『恐らくでは有るけど、全ての能力も、同様に無制限に使える訳では無いのだろうね。

完全生命体ではない彼には、どれも身の丈に合わない能力だから。』

うん。確かに、カヲル君の言うとおりかもしれない。どこかチグハグさがある。

 

『…何かおかしいわ。あれ。』

綾波さんが敵の挙動に注意を促す。

 

敵が上を見上げている。

 

ん?

目線の先はMark10。

帯電するオップファータイプ。

私は瞬時に、奴とMark10の間に機体を割り込ませる。

 

強い衝撃、錐揉み回転する中、目の前には奴の顔が有る。

衝突して、組み付いた状態か。

空いている左腕で、奴の顔面にテレフォンパンチを叩き込む。

 

奴にとっても衝突が予想外だったのだろう。

ノーガードで入った。

 

よし!と勢い込んだ瞬間、再度の衝撃。

聞こえるマユミちゃんの驚く様な悲鳴。

これって、組み付いたままシャマシュに衝突した?

 

私が追撃を叩き込む寸前、下に位置する腕でこちらを掴もうとする。

この腕、Mark11の脚を引き千切った腕だ。

 

瞬時にATフィールドを推力に使い機体を動かす。

距離を取り、シャマシュの船体の上で対峙する私とオップファータイプ。

 

 

『ユウカ!悪いんだけど、そのままマユミと一緒にそいつを引き付けておいて。

アポストルの大群がすぐそこまで来ているわ。』

ミサトさんからの通信で、初めて大群の接近に気づく。

 

どれだけ、オップファータイプに気を取られてたのか…

 

アスカやマナの、アポストルへの罵詈雑言を聞くに、皆も同様だったようだ。

 

現在ウルトビーズはヴンダーやエアレーズングの護衛についている。

そのウルトビーズと残りのナンバーズ、展開したウルフパックで大群への対処をするようだ。

 

サクラは右脚のシンクロをカットし、ヴェルテクスユニットで空を飛び戦線に復帰している。

 

 

 

 

睨み合う私達。

ATフィールドの出力はオップファータイプの方が上回っている。

Mark10が居なかったら、中和しきれていなかっただろう。

 

構えながら敵を見据える。

もし、武器を使うならプログレッシブナイフだけだ…

槍や銃では奴の速さに対処出来ない。

 

 

帯電するオップファータイプ。

やっぱりそう来るよね…

 

身構える私、その瞬間閃光のように迫る敵。

 

ちっ!上部に位置する両手で首を掴まれた!

即座に振りほどこうとするが、中段の腕で両手を抑え込まれる。

奴の帯電が解け、予想通り下の手が動き出す。

 

その瞬間、捕まれている機体の腕を変形させる。

Mark7の腕の中から、割って出る様にカマキリの手に似たブレードが飛び出し、下と中段の腕を切り飛ばす。

そのまま、流れるように腕を振るい首を狙うが、明滅する甲殻の前にノーダメージで終わる。

 

 

再び帯電し距離を取る敵を見据える。

やっぱり速い…。

 

 

レガリア細胞によって無理矢理変形させていた両腕を元に戻しながら思考を加速させる。

 

こいつ、スピードの強化に関してはそれほど制限が無いみたいだ。

しかしトップスピードの維持は難しいのだろう。

本体の元のスピードはそれ程速くない事から見ても、他の能力を使っていない時は、常時スピードを強化しているようだ。

その強化具合は帯電の強さで判断可能だ。

 

 

恐らく下の腕を損失した事から、速さでの攻撃にシフトしてくるだろうと推察する。

持久戦か…。

 

 

プログレッシブナイフを逆手に構え、距離を詰め組み付こうと伸ばしてくる敵の腕を切り払う。

フェーズシフトによる局所防御により、滑っていくナイフ。

上段蹴りで敵の頭部を蹴り抜き体勢を崩す。

そのまま軽いステップを踏み、流れのままに上からナイフを振り下ろし頭部を狙うも、強引に体勢を変えた敵の翼に当たる。

 

切断した翼が私の視界を塞ぐ。

 

敵は残った翼を使い、渾身の力で私を打ちすえる。

私は翼へナイフを突き刺し押し込んでいくも、敵の血液によりナイフを手から滑らせてしまう。

 

勢いよく飛んでいくナイフは、シャマシュのレールガン砲台に直撃し爆発する。 

 

 

距離が開く。

殴りかかってくる敵をバックステップで適度に距離を取りながら回避し、カウンターを狙うが、中々速さについて行けない。

次々と場所を変えながら、拳と脚を打ち合う。

 

足場を蹴りつける脚が、振り下ろされる拳が、シャマシュの船体に傷を付けながら、戦いを進めていく。

痛みに喘ぐマユミちゃんの姿を見ると焦りが浮かんでくる。

ゴメン、マユミちゃん!!

 

一進一退の攻防。

決め手に欠ける戦い。

 

敵が徐々に緩急をつけてきた。

時折トップスピードを混ぜてくる為、こちらの防御をすり抜けて来る回数が多くなっていく。

 

 

やっぱり、コイツ急激に成長してる!?

パワー、スピード、テクニック。

いずれも成長していっている。

 

持久戦では不利になる一方だ。

 

自身もアポストルと戦いながら、隙を見て、時々撃ってきてくれる綾波さんの援護射撃が無ければ、もっと押されていただろう。

 

 

しかし、これ以上の戦闘継続は無理そうだ…。

演算機能を上げ並列分割思考により、何十通りもシミュレートした結果は全て敗北で終わっている。

 

 

飛んできた綾波さんの援護射撃を利用して敵から距離を取る。

 

 

 

 

 

 

 

使うしかないか…

 

 

覚悟を決め音声入力を行う。

 

 

 

「リミッター解除。裏コード・000」

 

 

 

言い終わるや、プラグ深度が急激に降下していく。

七色に光るエントリープラグ内。

 

私のプラグスーツの両腕に埋め込まれた装置が作動し、私の身体に液体が注入される。

同時にMark7の素体にも、装甲板から投与針が刺さり液体が入ってくる。

 

エンジェルブラッド。

そう呼ばれる薬液を自身とエヴァに注入し、使徒としての制限を開放する。

 

 

『ななちゃん!人を捨てる気!?』

マリの声が通信越しに聞こえて来る。

 

『ユウカ!辞めなさい!

それ以上は、ヒトに戻れるか解らないのよ!』

ごめんなさい、リツコ先生。

 

他の皆も叫ぶように静止してくる。

 

 

ごめん、そして…

 

 

 

 

皆、ありがとう。

 

「アイン・ソフ・オウル!」

私の声と共に、全てのリミッターが外れていく。

 

咆哮するエヴァMark7。

機体の頭上にはエンジェルヘイローが輝き、白亜の機体が更に白く、眩い程に輝きを帯びる。

 

 

リミットブレイクしたレガリア細胞が爆発的に増幅していく。

その増幅したレガリア細胞、それらが持つS2機関をオーバーロードさせ、そのエネルギーを推進力へ変えていく。

 

自壊していくレガリア細胞。

それらの痛みに耐えながら敵を殴打していく。

 

莫大な推進力から繰り出される殴打に、フェーズシフト防御で耐えるオップファータイプだが、押し出してくる衝撃までは無効化できない為か、吹き飛んでいく。

 

人知を超えた速度で空を飛び、追撃をかける。

目まぐるしく変わっていく景色は、以前の私なら認識も出来なかった事だろう。

 

 

 

相転移反応が絶え間なく感知出来る。

しかし次第に損傷していく敵の身体。

 

なるほどね…フェーズシフト防御の温存。

それに使うエネルギーを安々と賄えなかったって訳か。

 

供給しようとエネルギーをQRシグナムから取り出してはいるが、そのエネルギーに耐えられず身体が徐々に自壊していくオップファータイプ。

 

 

しかし、敵は急速に成長していく。

時間を少しでも掛ければ、何が起こるか解らない。

それに、この戦い方に私とMark7がそうは持たない。

残り時間は後、極僅か…。

 

 

 

 

成層圏から渾身の力で叩き落とし、それを追い越し、下から人知を超えた速度で高度を上げる。

すれ違う瞬間、エネルギーを貯めていた右脚で膝蹴りを叩き込んだ。

 

 

空間に走る大規模なプラズマと金属イオンの嵐。

私の雄叫びと共に、輝くATフィールドがそれらの逃げ道を塞ぐ。

 

 

一層輝く光に焼かれ敵が崩れていく。

3つに別れ、重力に導かれ堕ちていく影。

 

それらと共に落ちる私。

墜落の瞬間、ATフィールドを展開し、被害を最小限に留める。

 

 

 

ここ、ジオフロント?

 

 

…ヤバいなあ。もう機体が動かないや。

 

 

 

 

そんな私を嘲笑うかの様に、先に墜ちていた3つの影がうごめき、瓦礫から身体を起こしていく。

 

 

はあ、そういう事なの…?

先程までのオップファータイプ、4体が分子単位で融合していたのか?

だからって、あれで死んだのが一体だけだなんて。

もしかして、融合と分離の能力?分離の際は再構築させるタイプか。

全く、質量保存の法則はどこにいったのよ…

 

 

それじゃあ、分裂したコイツらが持つ能力は。

 

 

 

 

徐々に奴らの全貌が見えてくる。

 

一つは、時々帯電し、青黒い全身ラバースーツを着た筋骨隆々の男性のような風貌に見える生物。

 

 

一つは、巨大な頭を持ち、長い手足を持った生物。

 

一つは、まるで蟻とヒト型が融合したような生物。

 

3体のオップファータイプがその身体を起こし、私を見つめる。

 

 

 

 

 

締まらないなぁ、本当に。

苦笑いする私。

 

 

走る青い閃光。そして衝撃。

地面をバウンドしながら勢いよく吹き飛ぶ私。

帯電しているオップファータイプが拳を振り抜いている。

 

追撃をかけようと更に帯電する敵は、次の瞬間に爆炎に飲み込まれる。

これは、Mark10による面制圧重爆撃。

 

 

地表部分からジオフロントへと飛び降りてくる影。

動けない私の側に来て、奴らとの間に立ち塞がるアスカ、マリ、マナ、カヲル君、綾波さん、零式。

 

 

『本当に面倒くさい敵ね。黙って死んでなさいよ。バカユウカも奥の手出して何でトチってんのよ!』

 

『助けに来たよ、ななちゃん。』

 

『ユウカ、私怒ってるんだから!』

 

『また君は、無茶をしたものだね。』

 

『心配したわ。』

 

『案ずるな、長門ユウカ。我が全力で汝を護ろう。』

 

 

不敵に笑う皆。

 

 

口火を切ったのは鬼神化形態の2号機。

爆撃によりダメージを負った、帯電している敵へ接敵。

衝撃波と共に、ビゼンオサフネで突きを繰り出す。

 

回避するスピード型だが、その速さには以前の面影が無い。

横より追撃をかけるMark12はリミッターを外し、追いすがっていく。

血煙を上げながら、緩急をつけ踏み込んでいく2号機の動きに惑わされる敵。

剣閃が次々と傷をつけていく。

 

地を奔る青と赤と黒の光。

一条の光と化した戦いは、何回もぶつかっては離れてを繰り返す。

最後にはバラバラに切り裂かれたスピード型の死骸と、自損し行動不能に陥った2号機とMark12という決着に終わった。

 

 

 

 

 

蟻の様なヒト型と戦う、綾波さんとマリ。

距離を取りながら戦うも、フェーズシフト防御を抜けないでいる。

あの防御型は、防御力に関して融合体の時よりも高い。

このままでは勝てないと見越した綾波さんとマリは、戦法を一点突破へとシフトする。

 

8号機は装備しているレールガン・アダドを、Mark9は天使の背骨を、それぞれオーバーロードさせる。

ATフィールドを武器へと侵食させ、S2機関を最大出力で稼働、二人同時にコアブロックを守る殻の同じ部分へと着弾させる。

まさに神業的所業。

 

粉々に砕け散る武器と、それを構えていた両前腕。

 

フェーズシフト防御を貫いた弾丸だが、防御殻を僅かに突破するだけで消滅してしまう。

ひび割れた殻から覗くコア。

 

勝ち誇るように口元のハサミを鳴らし、8号機とMark9の居た所に視線を送るオップファータイプだが、既に二人はそこに居なかった。

 

跳躍、そしてツープラトンキック。

両腕の無い2機だが、凄まじいバランス感覚でそれを成功させる。

 

砕け散るコアブロック、形象崩壊する防御型。

後に残ったのは折り重なって倒れた8号機とMark9の姿だった。

 

 

 

 

 

 

大きな頭部を持つオップファータイプと戦うのは5号機アイギスとMark6。

 

短時間で成長、進化していく敵とぶつかり合う。

 

今や5号機の強化外骨格アイギスと同じような巨腕へと腕を進化させたオップファータイプは、轟音を鳴り響かせながら5号機アイギスの巨腕と拳を打ちあう。

 

技術で勝っていた筈のマナの動きを、遂に敵が上回る。

脆い肘に打撃を貰い、へし折れる5号機の左腕。

 

押される5号機を援護しようと槍を繰り出していくMark6の動きも、馴れたように捌いていく。

打ち上げる様に腕を振るう敵の巨腕を足蹴にして回避しようとするMark6だが、接触した瞬間に足が弾け飛ぶ。

まさか、5号機のショックウェーブパルサー!?

あれすらもコピーしたというの?

 

空中でバランスを崩すMark6。

追撃する奴の攻撃を防御するATフィールド。

何故?エヴァのフィールドは敵により中和されているはずなのに…

まさか、カヲル君本人のATフィールドか!

 

敵の側面より、無事な方の腕でロンギヌスパイルを打ち込もうと突撃する5号機。

フィールド偏向制御装置と脚部の生体パワーアシストが、爆発的な加速を生む。

粉々に砕け散った足元の瓦礫が、粉塵となり広く空中に舞っていく。

 

駄目!マナ!

敵の手から打ち出される光のパイル。

胸元を貫かれる5号機アイギス。

機体の中心…あれではエントリープラグまで。

 

絶望が心を覆っていく。

怒りが沸き起こり、強い殺意へと変わる。

 

 

 

コロシテヤル。

 

 

 

機体の修復に全力を傾けながら、さらに使徒としての力を高めていく。

 

 

 

 

…ふと感じた違和感。

目を凝らすと、貫かれた強化外骨格アイギスには中身が無かった。

 

粉塵に隠れ、空中で身を翻し敵の後ろへ落下していく緑の機体。

強化外骨格アイギスの背部にマウントされていたマゴロク・エクスタミネート・ソードを手に、落下と共に上段から振り下ろす。

 

コアブロックごと真っ二つになる、最後のオップファータイプ。

 

パターンの消滅を確認し、大の字で倒れる5号機。

 

 

 

 

笑みが浮かぶ、安堵する私。

 

 

 

 

最低限Mark7の修復を終え、機体を起こし皆の元へ行こうと、歩き始めたその時。

急にアスカが叫んだ。

 

『ユウカ!後ろ!』

 

その声に反応し、振り向いた私の目に飛び込んできたのは、大きく細長い飛来物。

間一髪ATフィールドを展開し、防御に成功する。

 

危なかった…

そう安堵した瞬間、それは形を変える。

 

 

先端は二股に、二重螺旋の構造物。赤い槍。

 

ウソ…

 

「ロンギヌス!?」

叫ぶ私。

 

それは、私のATフィールドを安々と貫き眼前へと迫る。

時がゆっくりと流れる中、私の脳裏に今までの記憶が断片的に蘇っていく。

 

矛先が右目の視界全てを覆う。

左目で見る、飛来する槍の延長線。

その先を見つめる私の瞳に映ったのは、紫色のエヴァ。

 

エヴァンゲリオン初号機…

 

 

 




やっと、やっとだ…


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Force of Will Part2

かなり短めです。



右目から頭部へ突き抜けていく激痛。

 

Mark7の頭部を貫通したロンギヌスの槍は、そのまま機体を後ろに反らせ、地面に縫い付ける。

 

高シンクロしていた弊害か、脳を破壊されたと誤認した私の身体は満足に動かない。

凄まじい痛みだが、叫び声すらも出せない状況だ。

 

Mark7の腕を動かし、槍を引き抜こうとするも力が入らず、腕をフラフラと動かし、宙を掴もうとするだけになる。

 

こうなる前に一瞬遠目に見えたエヴァの姿に、動揺を隠せない。

何かの間違いに違いないと、そう思い、もう一度見ようと足掻くも視界に映るのは一面の空だけ…

 

 

『ユウカ!』

とマナが叫びながら5号機を走らせ、近づいてくるのを横目で見る。

返答しようにも、声が出ない。

 

 

いくらなんでもおかしい、なんでこんなにも身体が動かないの?

Mark7だけでなく、私の身体まで…

 

 

『なんなのよ!なんなのよ、コイツは!

こんのぉ!』

アスカが叫びながら、戦う音が響き渡る。

 

槍を手に握ろうと腕を伸ばす5号機だが、突如飛来してきた円盤状の物体により吹き飛んでいく。

 

空中から幾重にも砲撃の音が響き渡る。

戦況はどうなってるの?

 

視界の隅を吹き飛んでいく、赤い機影。

 

 

そして遂に私の目に映り込む影、紫色のエヴァンゲリオン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、これは…

 

 

 

 

 

 

 

違う、初号機じゃない…

 

 

 

 

まさか、エヴァンゲリオン第13号機?

 

間近で見ると明確な差異が有るのが解る。

 

 

槍ごとMark7の機体を持ち上げる13号機。

突き放そうとMark7の腕を使い、押しのけようとするが、まるで赤子のように力の入らない機体は、13号機を撫でるだけだ…

 

Mark7を持ち上げ歩いていたが、急に立ち止まる13号機。

その視線の先には損失した両腕をレガリアで簡易修復した8号機の姿があった。

 

 

通信越しに口を開くマリ。

『ここから先は通行止めだにゃ…

ゲンドウ君。』

 

えっ…

ゲンドウ?

碇ゲンドウ

 

そんな声に答えるように、通信に映るバイザーを装着した男性。

 

『久しぶりだな、真希波。』

息を呑む一同が通信に映る。

 

『おひさ!まあ、それは置いておいて、私の大事な人を返して欲しいんだよね?』

 

『人?これがか?』

槍を揺らすようにして、Mark7をアピールする13号機。

 

 

その動作に激昂したように横合いから突進してくる2号機を、吹き飛ばす13号機。

 

『碇ゲンドウ!どうやってエヴァを動かしている!』

ミサトさんが彼に質問を投げつける。

聞こえているが、答えないゲンドウ。

 

『碇、まさかネブカドネザルの鍵か?』

冬月司令が、確認するように問う。

 

『冬月、その通りだ。

私はこれと、セブンスを使って願いを叶える。』

だから邪魔をするなと、言外に伝える。

 

ネブカドネザルの鍵か…

人類補完計画のロストナンバー

 

 

しかし、どうやってエヴァを新造したというのか…

しかも従来の操縦方法とは違うエヴァを。

 

プログレッシブナイフを持ち、斬りかかってくる8号機を円盤状のATフィールド発生装置で応戦する13号機。

 

『邪魔をするな、真希波!』

一喝するゲンドウに負けじと言い返すマリ。

 

『それは出来ない相談だにゃ!ゲンドウ君!

ななちゃんを返してもらうよ。』

 

何度も弾き返される8号機だが、果敢に突進していく。

13号機の視界を塞ぐようにMark7の手を伸ばす。

攻撃に参加する5号機と2号機。

しかし、一向に中和できないATフィールド。

なんて強固なATフィールドなのか…

 

ありえない。

 

飛来するMark9が上から踵落としを繰り出すも、同様にフィールドで止められる。

 

『レイか…』

 

『お久しぶりです、碇司令。』

 

『お前も、私の邪魔をするのか?』

 

『わかりません。何故こんな事をするのですか?』

 

『私の目的、願望の為だ。お前もその為に生まれたんだ、レイ。だからそこを退け。』

 

『…私は、貴方の人形じゃない。

私も、私の願いのために戦います。』

 

 

次々と蹴りを繰り出していくMark9。

合わせるように波状攻撃を加えていくマリ、アスカ、マナだがフィールドに阻まれる。

 

『無駄だ、お前たちのATフィールドでは、私のATフィールドを破れんよ。』

歩みを止めない13号機へ、上空から情報宮装備弾が撃ち込まれるも、それすらもATフィールドに阻まれる。

 

『なんでや!フィールドを突破出来る筈なのに…』

撃ち込んだMark11に乗るサクラが驚きの声を上げる。まだ残してたんだ、情報宮装備弾。

 

しかし、何故だ…?

情報宮装備弾がATフィールドを貫けないなんて

 

 

固まってしまう皆を一瞥して、不敵な笑みを浮かべるゲンドウ。

 

ヴンダーやエアレーズング、シャマシュからの砲撃をものともせず、本部施設直上へ到達する。

 

 

Mark7を貫いたまま、槍を持ち上げる。

更に増す痛みに声が出る。

 

『ななちゃん!』

マリが叫んでいる。

 

私の声に反応したのか、飛来するアルベスの槍。

それを空いてある手で持ち、地面に突き刺す13号機。

瞬間、そのまま崩れ落ちていく地面の瓦礫。

 

これは、まさかセントラル・ドグマを守護するバビロンが乗っ取られた!?

瓦礫と共にセントラル・ドグマを落ちていく私達。

 

 

『老人共も、他の者達も、神器を過信し過ぎている。このように、鍵と制御装置さえあれば乗っ取るのは容易い。』

 

 

 

セントラル・ドグマを降下していく13号機。

追撃するため追いかけてくる、2号機、5号機、8号機、Mark9。

 

上を見上げながら、苦笑いをするゲンドウ。

今彼はどんな感情を持っているんだろう?

 

こんな日のために築き上げた防衛設備は13号機をスルーして、他のエヴァを狙って稼働している。

 

 

 

じっと私を見つめる碇ゲンドウ。

『ままならん物だな、ユイ。』

何故私を見て、碇ユイを思い出すの?

 

 

遂にレベルEEEへ到達する13号機。

『では、はじめよう。』

そう、宣言するように喋り、Mark7からロンギヌスの槍を引き抜く。

 

途端に軽くなる身体と機体。

そうか。ロンギヌスの槍は一種の停止装置みたいな役割まであるのか…

 

 

機体を再生させ、立ち上がらせる。

未だに私達のリミッターはハズレている状態だ。

その状態で、全レガリア細胞のオーバーロードさえしてなければ、高速再生とて簡単だ。

 

相対する13号機。

その手に持つアルベスの槍を私の方へ放り投げる。

 

 

 

?何故だ?何故武器を渡すような真似を…

 

足元に転がるアルベスの槍を見つめる。

拾って良いものなのか解らない。

しかし、武器が無くてはロンギヌスの槍とは打ち合えない。

 

敵の施した物を拾う方がマズいだろうと、レガリア細胞を使い、新しい槍を作っていく。

 

ロンギヌスの槍を構える13号機。

私は新造アルベスの槍を構え相対する。

 

踏み出す13号機に合わせ、私も踏み出し槍を突きだす。

正面から激突するロンギヌスの槍とアルベスの槍。

 

その瞬間、13号機が投げ捨てたアルベスの槍が反応し宙に浮かぶ。

光輝き、封印結界へとその矛先を沈めていく。

 

なんで…

いったい何が…

 

 

 

 

崩れ落ちていく封印結界。

 

 

アルベスの槍はそのまま、巨大なヒト型。

まるで小さなヒト型のナニかをつなぎ合わせ形造ったそれにまっすぐ向かっていった。

 

動き出していたソレに突き刺さる、アルベスの槍。

静止する巨大なヒト型。

 

 

『第1段階はなったな…』

気が逸れた私の隙を付き、Mark7の胴体を串刺しにするロンギヌスの槍。

 

そのまま上から叩き落とされる。

 

頭に刺さった時ほどの束縛性を感じない。

槍の柄をもち、引き抜こうとするも、上から来た13号機により、更に奥へと差し込まれる。

 

痛みにより絶叫してしまう。

 

 

そのまま、Mark7の背部へ手を伸ばす13号機。

まさか、プラグ?

私本体を狙っているのか?

 

 

止められないか…

何を企んでいるのか解らないが、碌なことではない筈だ。

Mark7に備えられている自爆装置に手を伸ばす。

 

私が死を恐れているとでも思っているの?

思い通りにはさせないと、エントリープラグをロックする。

 

 

 

 

しかし、突如として割り込む影が13号機を横から殴り飛ばした。

 

 

私の眼前に映るのは、紫色のエヴァンゲリオン。

まさか、エヴァ初号機…

 

 

シンジ君。

 

 

 

『父さん、そこまでだよ。』

通信に映る、落ち着いた表情の少年。

その瞳は赤く輝いていた。

 

 

『はじめまして、長門ユウカさん。』

え?

なんで私の名前を?

 

私を見て優しく微笑むシンジ君。

 

 

『ありがとう、今度こそ僕が皆を護ってみせるよ。』

決意の表情。

 

カシウスの槍を手に持ち、13号機と私の間に立ち塞がる初号機の後ろ姿。

 

『シンジ。起きたようだな。』

ロンギヌスを構えながらゲンドウが答える。

 

『そうだね、長い夢を見ていたよ。』

瞳を閉じるシンジ君。夢の内容を思い出すかのように…

そして微笑む。

 

 

 

 

少しして、瞳を開ける。

そこに映るのは、力強い眼差し

 

 

『決着をつけよう、父さん。』

 

 




やっとだ。やっとだったよ。


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Omniscience

ぶつかり合う初号機と13号機。

カシウスとロンギヌス。

 

お互いに渾身の力で槍を押し込もうとする。

顔を押し付け合うように鍔競り合う両機。

何より驚くのは、皆が中和しようとしても中和出来なかった13号機のATフィールドを中和しているエヴァ初号機だ。

 

お互いのパワーにはじかれるように距離を取る2機のエヴァ。

 

私は、この隙に機体の修復を済ませておく。

 

 

仕切り直し、後、再びぶつかり合う紫色のエヴァ。

かがみ合わせのように同じ動きをしている。

 

『力だけでは私を倒せんぞシンジ。』

まるで教えるように話すゲンドウ。

 

『解っているよ、父さん。』

 

『そこのロストナンバーを使うことによって、理想の世界を築き上げる事が出来るのだ。

シンジ、母さんに会いたくはないのか?』

 

『僕には、そこまでして母さんに会いたいという気持ちが理解出来ないよ。』

語り合いながら、槍を打ち合うシンジ君とゲンドウ。

拮抗する両者。

 

『夢を見ていたんだ。エヴァが見せてくれていた夢…

皆、僕の尻拭いの為に長い時間を準備に費やし、エヴァで戦ってくれていた。

綾波も、アスカも、カヲル君も、マナも、山岸さんも、サクラちゃんも、真希波さんも、そして長門さんも。

…怖気づいて、結局は中途半端にしか封印できなかった僕のために人生を賭けてくれた。

皆、やさしいんだ。だから父さんと戦うよ。』

どこか泣きそうな声で話すシンジ君。

 

『僕がもう少し早く決断していれば、こんな戦いは起こって無かった。

父さんも、新生した使徒を操ってこの事態を起こすなんて事は無かったはずなんだ…』

まるで懺悔するように言葉を絞り出す。

 

『ふん、そんなのはお前のエゴだろう。シンジ。

人はそんなに綺麗なものでは無い。別の戦いが起きていただけだ。』

そう、どこか諭すように言葉を紡ぐゲンドウ。

そこに含まれているのは、冷たさでなく温かさ。

 

『他者という存在を求めながらも、自身が傷つきたくないというわがまま。

欠けた人間の心は、どうしても他者を求める。

傷つけられることを恐れるが故に、他者を傷つける。

そんな矛盾に多くの人間が気づかぬ振りをしている。

だからこそ、絶対的な心の支えが必要なのだ。あらゆる恐怖に耐えられるように。

それは決してATフィールドなどでは無い。ATフィールドを開放してこそ、それらを手に入れることができる。』

言葉を区切り、シンジ君の顔を見つめるゲンドウ。

 

『だからって、多くの人が死んだんだよ、父さん!

父さんのように、大切なモノを失った人が居るんだ。

それを解っていても自分の願望をかなえようとするからこそ、そんな父さんを僕が止める。』

 

『お前に出来るのか?私を止める事が。』

真剣な雰囲気を作り、シンジ君へ問いかけるゲンドウ。

そんな問いかけに対して、彼は力強く答える。

『出来るか、出来ないかなんて関係ないよ。

やるんだ。何がなんでも。』

その赤くなった瞳でゲンドウを正面から見据える。

その眼差しには、紛れもなく強さが宿っていた。

 

 

 

既に機体の修復は完了してある。それでもこの二人の戦いに介入出来ない。

シンジ君の援護をして、早々に13号機を無力化する事は誰だって考え付くし、そんな行動を取るのが普通だ。

 

でも、この戦いは力だけでは解決しない。

碇ゲンドウの持つATフィールドは恐らく、通常のATフィールドでは無い。

 

内向きのATフィールド。故に、同じATフィールドを操れるシンジ君にしか戦えない。

性質の違うそのフィールドは、ただ傷つけようとする意志に対しては、より強い効力を発揮する。

 

 

槍を、言葉を、気持ちをぶつけあう二人の戦いを眺めている。

 

そうしていると、唐突にレベルEEEの入り口が爆発するようにはじけ飛ぶ。

そこから降りてくる2号機と5号機と8号機とMark9。

 

『初号機!?うそ…。

…バカシンジ。』

 

『シンジ。やっぱり生きてたんだ。』

 

『碇君…。』

 

『………。』

Mark7の周りに着地する4機のエヴァ。

 

互角の戦いを繰り広げる初号機と13号機を見て、この戦いがどういうモノかを察した4人は私に並んで見守る。

 

疑似シン化形態へと移行する初号機は、徐々に13号機を押していく。

先手を取っていくシンジ君の動きは、まるでこれから13号機がどのように動くかを解っているかの様だ。

それに反応するゲンドウも同様だが、まるですべてを理解している様に動く両者。

 

『馬鹿な!ネブカドネザルの鍵を超えていくのか。シンジ、ユイ!』

大きくはじかれて飛んでいくロンギヌスの槍。

 

地面に片膝をつく13号機。

槍を引き、眼前に立つ初号機。

 

『私の、敗北か…。』

 

『…うん。僕たちの勝利だよ、父さん。』

 

 

遂に終わったんだね…

息を吐くと、自分の身体を抑えつけていたようなものが取れていく感覚。

通信越しにマリと視線を合わせる。

肩をすぼめ、笑顔をみせるマリ。

 

他の3人は、頬を赤く染めシンジ君の顔を見つめる。

 

 

 

後は、アザゼルの再封印を施すだけ。

碇ゲンドウのおかげでアルべスの槍が、第13使徒の停止装置として使える事が分かった。

 

視線を移し、アザゼルを観察する。

機能中枢付近に刺さっていたアルべスの槍を探すが、見当たらない。

ん?確か、あの位置だったような気がしたけど。

 

ふと、視界の隅に光るものを見つけ気になり、視線を移す。

レベルEEEの隔壁扉の残骸が積み重なっている。

光った部分を見つめると、その下に埋まる、アルべスの槍の柄が視界に入る。

 

視線をそっとMark7の手に移す。

何かの間違いであって欲しいと思う自分と、冷静に結論を下そうとする自分。

 

映る手の中にもアルべスの槍がある。

今この場で現存するアルベスの槍は二本のはずだ。

碇ゲンドウが、使徒を停止させるために使った槍と、私が13号機と戦うための槍。

 

 

 

…急激に血の気が引いてくのを実感する。

 

瞬時にアザゼルへと視線を移す。

先程と変わらぬ姿勢だが、その眼球は初号機に向いていた筈だったのに、今は私と目が合う。

見つめ合う私達。

 

 

そんな私の様子にマリが心配して声をかける。

 

『どったの?ななちゃん。』

 

『…げて。』

声がかすれる。

 

『え?』

キョトンとすマリ。

他のみんなも私を見て疑問符を浮かべる。

 

『逃げてっ!!』

叫ぶ私に呼応するかのように、地面が揺れる。

手に持つ、アルべスの槍をコアブロック周辺へと投げつける。

 

地面から生えるように展開された巨大な触手により防がれる投槍。

防がれたのを見るや否や、私は瞬時に槍を呼び戻し、その手に握る。

 

 

距離の近い初号機へと鋭利に尖った触手を突き出すアザゼル。

疑似シン化を解いていた初号機は反応が遅れる。

 

迫る触手が紫の機体を貫通する。

立ちふさがった13号機から血が噴き出していく。

 

『父さん!』

叫ぶシンジ君へ、ゲンドウが叫ぶ。

 

『逃げろ!シンジ!』

 

次々と展開される触手が迫る。

疑似シン化した初号機がレーザーを放ち触手をバラバラにするが、数が増えていく触手に、処理が追いつかなくなってくる。

 

『シンジを逃がせ!レイ、セカンド!』

ゲンドウの声に反応したアスカと綾波さん。そしてマナが初号機を羽交い絞めにして下がらせる。

それを追い迫る触手を、アルべスの槍を持つ私とマリが切り払っていく。

 

『ゲンドウ君!』

叫ぶように名前を呼ぶマリにゲンドウが懇願する。

 

『真希波、頼む。シンジとユイを…。』

貫く触手から徐々に侵食を受けていく13号機。

ATフィールドを展開しさらなる攻撃を防ぐ13号機だが、アザゼルが持つ無数の触手の矛先より検知するデストルドー反応。

それによるアンチATフィールドにより、徐々に侵食されていく13号機のフィールド。

 

 

『アスカ!綾波!マナ!どいてくれ!父さんが!』

 

『バカシンジ!あれを何とかする方策があるの!?

無いんでしょ!』

アスカの一喝を聞き、悔しそうに唇を噛みしめるシンジ君。

 

 

 

『私ってさ…すごくわがままなんだよね。』

急な私の独白を聞き、一瞬キョトンとする皆の顔を見る。

そんな中、諦めたような表情を作るマリは、その手に持つアルべスの槍を私に手渡す。

 

アルべスの槍を経由して伝わってくるマリの感情、意思。

両手にアルべスの槍を持ち、構える。

 

 

『行くよ、アルべス。

アイン・ソフ・オウル!』

 

 

白く、強く輝く機体と頭上のエンジェル・ヘイロー。

 

閃光と化したMark7を走らせ、呼応し迫りくる無数の触手を、機体を翻しながら回避していく。

すれ違いざまに槍を突き出し、次々と触手を切断していく。

地面を、空中を蹴りつけ進路を変えながら13号機に接近する。

 

徐々に触手に飲み込まれていく13号機。

『バカな。何を考えている。綾波ユウカ。』

驚きの表情を張り付けているゲンドウの顔。

 

こんな時に、そんなことを言ってくるなんて、貴方も何を考えているの?

 

『何の事か全然わからないけれど、カミングアウトは時と場所を考えて!

貴方は、黙ってあたしに助けられていてください!碇ゲンドウさん!』

 

跳躍し、渾身の力で、交差させていた槍を振り払う。

増幅したエネルギーとATフィールドが斬撃として広がっていく。

 

周辺の触手が一掃されてゆくのを見ながら、13号機に抱き着く。

ヴェルテクスユニットの機能を最大まで発揮させ、離脱する。

元の位置より、さらに後退した皆の元へと戻っていく私達。

 

 

 

そんな私達を追う、触手群を居合い抜刀で斬り払う鬼神化2号機。

そのまま横から迫りくる無数の触手を、地面を蹴り、身体を横回転させながらビゼンオサフネで斬り裂く。

 

正面と横からさらに展開してくる触手群を、足を引き、後退しながらの回転斬りでまとめて斬り裂き、

時間差で襲い掛かってくる、触手を刃を閃かせ斬り払っていく。

 

四方八方から襲い掛かる触手を最小限の動きで回避しつつ、大刀を振るう。

密集した触手群が正面から迫り来る。

 

居合いの構え、そして強く前傾姿勢になる。

舞っていく2号機の血煙。

 

 

静寂のち、掻き消える2号機。それはまさに霹靂一閃

赤い閃光が奔り、そしてバラバラになって飛んでいく触手群。

 

 

2号機の硬直を狙う触手をシンジ君がレーザーを奔らせ、焼き切る。

 

後退する2号機を援護する為に前進する5号機。

プログレッシブナイフを閃かせ、迎撃していく。

 

後退しながらビゼンオサフネを振るい続けるアスカだが、反応が落ちていく。

長いリーチを誇るビゼンオサフネだからこそ、中に入られると無防備になる。

アスカへと迫る触手を破ったのは、私のシグナムハンドガンを持つ8号機だった。

 

『コネメガネ!援護射撃2秒遅い!』

 

怒鳴るアスカに対して言い返すマリ。

『そっちの位置、3秒早い。』

 

『臨機応変!合わせなさいよ!』

 

『仰せのままに、お姫様っ!』

狙いを定め、ハンドガンで次々と撃ち抜くマリ。

そんな援護射撃の合間を縫うように動いていく2号機。

 

密集陣形を組む私達。

 

次々に触手が生えていくのを眺める。

アザゼルはその巨体をゆっくりと動かしながら、こちらを見つめる。

 

離れた距離でにらみ合う私達だが、地面を奔る振動が強くなり、アザゼルの前方の地面が隆起していく。

地面から顔を出すように、エヴァから見ても巨大なワームが現れる。

先端をこちらへと向けるワームだが、大きく開いていくそこから見えるのは、何重にも重なった円状に連なる牙。

 

『口!!なんでこうも口に縁が有るのよ私は!』

アスカが顔を引きつらせながら、悪態をつく。

 

『おえ!エグイね~あれは…。食べられるのだけは勘弁だにゃ!』

 

 

唐突に通信システムに追加される電子ウインドウ。

通信範囲に入ったのか、映るカヲル君とサクラの顔と、サウンドオンリーのアイコン。

そして上から降ってくるMark6、Mark11、Mark12。

 

『シンジ君…。また、会えたね。』

シンジ君を見つけ、微笑むカヲル君。

 

『あの、碇さん。お久しぶりです。私、鈴原サクラです。

兄がお世話になりました。』

頬を赤く染め、緊張したようにサクラが自己紹介をする。

 

そんな二人に、微笑むシンジ君。

『積もる話もあるけど、今は13使徒を何とかしたいんだ。

力を貸して、二人とも。』

 

シンジ君の言葉に力強くうなづく二人だが、巨大なワームとその奥のアザゼルを見つけ顔が引きつる。

 

 

『よせ、シンジ。現状、奴をどうにかする方策は無い。

解っている筈だ。』

沈黙を保っていたゲンドウが言葉を発する。

そんな言葉に沈黙で返すシンジ君。

それが同意の沈黙なのは、ここにいた全員が理解した。

 

 

今なら何とか逃げられるかもしれない。

飛行ユニット3機、地上ユニットが6機

 

 

一層強くなる振動、頭上の地盤が崩れていく。

視線だけ上に移すと映るのは、もう一つのワームが顔を覗かせている姿。

 

このままじゃ退路が塞がれるが、目の前のワームや触手が邪魔だ。

対処しきれずに挟み撃ちに会うだろう。

 

『私が殿を務める。お前たちは上のアレを突破して撤退しろ。

ここからは、年配者の務めだ。』

ロンギヌスの槍を手元に呼び寄せ、ボロボロな機体を、槍を杖のようにして立ち上がらせるゲンドウ。

 

 

しかし、そんな13号機の眼前に手をかざし静止するMark12。

 

零式…

 

 

命を守るようにプログラムされた零式。

その背中は反論を許さなかった。

そこには確固たる意志が宿っているように思える。

 

ATフィールドを操るように作られた彼には、もしかしたらゴーストが宿っているのかも知れない。

四本の腕に刃を持ち、広げていく。

 

 

そんな姿を見て涙を流す、マナ。

 

 

 

光翼を生やす初号機。

え、初号機って飛べるの?

驚く私を尻目に、13号機を抱え右手にはカシウスの槍を持ち、上に陣取るワームをにらむシンジ君。

 

撤退の準備を進める私達。

Mark7の背中に抱き着く8号機。

翼部のヴェルテクスユニットを掴むMark6。

 

そして、

Mark11にくっつく5号機。

Mark9に嫌々引っ付く2号機。

 

 

初号機が放つ金属イオンを多く含んだ荷電粒子ビームを合図に、

カヲル君が渾身の力で槍を投擲する。

投擲の反動で、急造した義足が砕けるMark6。

 

 

飛び立つ私達。

ATフィールドを合わせ、私達は一本の槍となりワームを貫いていく。

 

 

殿を務めるMark12は、私達を追おうとするワームや触手へ向けて疾走する。

 

『行け、我が屍を踏んで。』

それが私達への最後の言葉。

多くは語らない零式、その機体はS2機関を過剰に動かしソニックブームを纏う。

 

『力を以て山を抜き、気迫を以て世を覆う!我が意思を、此処に示さん!』

 

リミッターを外し刃を振るいながらアザゼルへ接近していくMark12。

高エネルギーにより自壊していくその機体を見送り、私達のエヴァはレベルEEEを脱出する。

 

 

 

センサーが、Mark12が持つATフィールドの崩壊を検知する。

そして大規模な爆発。

 

セントラル・ドグマを抜け、上空に退避する私達の目に映るのは半円状のエネルギーバーストだった。

 

 

 

 

地下で起こったことを、手短に報告するアスカの声を聞きながら、真下にある壊滅したジオフロントを見下ろす。

 

既にMark7とMark9以外のエヴァは格納している。

ゲンドウさんは、大人しく13号機から降り隔離されている。

使徒に関しては崩壊したMark12の影響か、反応を全く検知できないでいる。

 

 

『なにこれ、パターン青反応増大!質量が大幅に増加してる?

何なのこれ、マジあり得ないんですけど!』

唐突にミドリの困惑しつつも焦る声が聞こえてくる。

 

その報告と共に異変が起こる大地。

辺り一帯からアザゼルの巨大な触手やワームが生えてくる。

 

隆起し、砕けていく大地。

L結界密度が上昇し、コア化が急速に進んでいく。

 

『そんなことが、あり得るというの?

まさか使徒が、地球のコアと一体化するだなんて…。』

絶望の表情を張り付けるリツコ先生の言葉を聞き、ミサトさんが命令を下す。

 

『委員会に観測データを送って。これより本艦とエアレーズングは宇宙空間へ退避します。

冬月司令、構いませんね?』

司令へと確認を取るミサト。頷く司令を皆が見つめる。

 

 

退避する傍ら、ロシア・中国方面から天へと昇っていく沢山の光を見つめる。

ロシアの首都は形をそのままに、巨大な二つの軌道エレベーターを軸に宇宙へと上がっていく。

まるで、空中都市の様に。

 

 

人類補完委員会が発令したアーク計画。

人類及び保存された種を宇宙へと退避させる計画だ。

 

 

 

赤く染まっていく地球を宇宙空間から唖然と眺める。

 

 

周りにはいくつもの避難シャトルと移動都市。

それが宇宙要塞へと集結していく。

 

 

 

急に大きく揺れる機体。はしる強い衝撃と爆発。

衝撃により私の身体が、前へとつんのめる。

機体のATフィールドに接触するミサイル群とレールガン砲。

 

『何をしているの!攻撃中止!攻撃中止よ!』

ミサトさんが国連軍へと連絡するが、帰って来たのは使徒殲滅の命令。

エンジェルブラッドを注入しリミッターを外した影響で、パターン青を発する私の殲滅。

それが国連の下した決断。

 

 

私の乗るMark7へと集中する攻撃の嵐。

しかし、ATフィールドを突破できずにいる。

 

私のATフィールドが教えてくれる。

多くのリリンが抱く、恐怖、憎悪の感情。

私が使徒だという情報は既に一般の人達にも拡散されている様だ。

 

 

ヴィレの皆が止めようとしてくれているのを感じる。

通信越しに映る皆の顔は、焦りと怒りが入り混じった表情をしている。

 

 

……。

 

 

 

機体を奔らせ、みんなから距離を取り、国連組織の中核を担う宇宙船へと近づいていく。

周りに展開した国連軍のパイロット達は、しかし私への攻撃を中止していく。

通信越しに映る私の表情から何かを察したのか、視線を送ってくるだけ。

 

 

思い出すのは、加持さんのあの言葉。

 

私の選択次第か…

そうですね加持さん。私なら逃げる事も、戦うことも簡単に出来る。

 

でも、きっとこの選択が正しいのだと信じている。

それが、皆を守ることに繋がるから。

 

そうだよね?カヲル君。

リリンには未来が必要なんだ…

 

 

 

本当はこんな所を…他の、親しい人たちに見られたくなんかないし、見せたくもない。

 

でもきっと最終的には皆解ってくれると思う。

 

 

 

通信の音声は既に切ってある。皆の声を聞くと辛くなるから

 

でも通信自体の遮断は出来ない。それをしてしまうと装置の起動が出来なくなってしまうから…

 

だから、ごめんね。

 

……

 

 

見ないと誓っていた通信画面をつい見てしまう。

 

そこには画面いっぱいに、泣きながら叫んでいる皆の顔。

 

 

シンジ君、君までそんな表情をしないでよ。

 

マリ、君は泣かないと勝手に思っていたのに…

 

アスカ、涙が似合わないね

 

マナ、もうずっと泣いてばかりじゃん。

 

綾波さん、泣きながら叫ぶ貴方を想像も出来なかったよ。

 

マユミちゃん、顔を上げて欲しいのは私のわがままだよね…

 

サクラ、泣きながらそんなに怒らないでよ。般若みたいだよ?

 

リツコ先生、床冷たいですよね。泣き崩れる貴女を見るなんて…ごめんなさい。

 

カヲル君は微笑みながら、まっすぐこちらを見つめている。

後は任せたよ、カヲル君。

 

 

 

 

遂に射程範囲内に入ったのか、首に巻くDSSチョーカーが作動する。

首の回りを周回する、細かく欠片のような簡易式ロンギヌス。

 

 

 

腕を広げ、リリンを受け入れる。

 

 

 

 

痛み

熱い血潮、噴出する命

赤く染まる世界

暗転していく視界

 

 

 

そして、終わる世界…

 

 

 

 

 




予告??

月に降り立つ、エヴァMark6と8号機。

対峙するエヴァ13+初号機とMark7。

赤き地球へと迫っていくエヴァ6+7+8号機。

起動するエヴァンゲリオン・リルインフィニティ。

赤き海岸に映る人影。
はたして、生きることを望む人々の物語は何処へと向かっていくのか。

次回、シン・エヴァンゲリオンrepeat
さ~てこの次も、サービス・サービスゥ!!


そろそろ、マルチエンディングのアンケート締めます!


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〜シン〜
シン・エヴァンゲリオン プロローグ


注意!
マリシン、マリアス至上の方はブラウザバックをお願いします!

見るなら自己責任でお願いします!
短めです。


どこまでも広がる闇の中を、フィールド偏向制御装置を使い、機体を動かしていく。

 

無重力空間でエヴァを動かすのは初めてだけど、彼女が何度も宇宙へ赴いた時のデータがサポートしてくれていると思うと、自然と顔がニヤけてしまう。

 

手元のインダクションレバーを経由して、IFSで機体に接続されたブースターをコントロールする。

 

隣にはエヴァンゲリオンMark6。

渚くんの乗るエヴァが並走している。

 

 

 

 

 

それにしても、あれから約半年か…

ようやく形になったよ。

 

 

 

 

 

自ら、人により殺されることを受け入れた彼女。

その行動は、多くの人にとって予想外であり、心境を動かされる事柄だった。

多くの人々が望んだ彼女の死は、時間が経つに連れ、それを願った者たちにとって、望まぬものとなっていった。

 

 

 

後悔先に立たず。

使徒というだけで、殺す必要が有ったのか?

 

故郷を、隣人を使徒により失った人達は、冷静さを取り戻した瞬間、後悔したのだろう。

日に日に、彼女への哀悼を捧げる人達が増えてきた。

 

 

自身の死に様を、隠すことが無かった彼女。

いや、隠すことが出来なかった彼女。

その死の間際に浮かべた美しい微笑みは、今や全ての人が知っている有名な絵画となった。

 

 

死にゆく彼女の写真も、動画も、調べれば見ることが出来るのは、それを多くの人が願ったから。

 

しかし、関係者である私達にとっては辛いことだ。

まるで見世物のように彼女の死が使われることが、許せなかった。

しかし、それを我慢できたのは、彼女の事を受け入れる人達が増え続けたからだ。

 

 

 

それは奇跡だった。

あっという間に、宇宙要塞で住まう人々の中に広まった、彼女の名誉回復運動。

 

全人類の9割以上が、使徒としての彼女へと祈りを捧げた。

 

今私が持つ、このアルベスの槍へと。

 

 

 

 

都合の良い事だ…

死んだ人間は戻らない。

どれほど願おうと、祈ろうと。

 

 

 

しかし、そんな都合の良い事が、まさか現実になる可能性があるなんて。

 

 

 

渚くんが持ってきた、長門ユウカ・サルベージ計画。

本来、人が死ねばその魂は輪廻の輪の中に戻っていく。

 

しかし、彼女は使徒となった存在。

その魂は生命の実を手にした時点で大きく変質する。

もし、スペアが存在するなら、肉体が変わるだけで、そのスペアへと魂が移る程に…

 

本来彼女にはスペアボディは存在しない。

しかし、その代わりとなるものが存在した。

 

 

エヴァンゲリオンMark7。

死したその時、魂の座に座っていた彼女の魂は、Mark7の中に有ると、渚くんは言っていた。

 

 

 

しかし、本来のサルベージでは成功しないとの事だ。

使徒の強固な魂を揺さぶるには、相応の刺激が必要なのだそうだ。

 

 

彼女の魂を揺さぶるのは、この数多の人が込めた祈りを内包したアルベスの槍と、いま私達が向かっている月の裏側。

ダークサイド・ムーンにあるジオフロント。

そこに眠る、巨大な正方形の物体。

 

 

ムーンセル・オートマトン

 

 

そう呼ばれる、第一始祖民族が作り出したとされる代物だ。

ありとあらゆる情報を収集していると推測されたそれを使い、彼女に膨大な情報をぶつけて覚醒させる。

 

いくら使徒とはいっても、そんな事をされたら自己を保てる保証はないが、それを助けるのが、人々の祈りを実際に込めたアルベスの槍。

 

 

 

『作戦最終段階に移行。

各機エヴァはMark6、8号機の突破を最優先。

両機がエリア89を突破後に防衛線を構築。

何としても月へ奴らが到達するのを食い止めて。』

ミサトの命令に承諾の意を返すエヴァパイロット達。

 

エリア88に侵入。

同時にセンサーが検知する宇宙特化のアポストル。

『やっぱり来た!アポストル宇宙特化タイプ!

特異個体反応は今のところ無し!』

ピンクちゃんの報告が通信を駆け巡る。

 

私達の前に出て、先行する紫色のエヴァと、赤色のエヴァと、山吹色のエヴァ。

 

ファーストからサードまで揃い踏みとは、豪華な事で!

『戦いは男の仕事ってね。僕が先行するから、援護よろしくね。』

おおう、いつになく男らしいじゃん。ワンコくん。

そんなワンコ君に、姫が噛みつく。

 

『前時代的ね!今は女も戦うのよ!

バカシンジ、アンタが援護しなさいよね!』

口調がきつく感じるが、それは姫がワンコ君に甘えてる証拠。

 

『碇君、安心して。私が援護するわ。

2号機の人は、頑張ってね…』

姫に一人でやれば?と言外に伝える綾波ん。

いや〜、ますますあの二人はバチバチだね。

まあ、いざとなったら普通に連携するんだから、恋のライバルというのは面白いものだ。

 

綾波んに噛みつく姫と、澄まし顔の綾波ん。

引きつった顔のワンコ君。

 

 

初号機と2号機を先頭に敵の群れへと突撃していく。

綾波んの射撃が、両機のスレスレに通りながら敵に風穴を開けている。

 

シン化した初号機のレーザーにより焼かれていくアポストル達。

 

マステマセカンドを発砲しながら機体を追加ブースターで制御する2号機。

 

更に遠方から、Mark10シャマシュとヴンダーによる砲撃の嵐がアポストルを襲う。

 

衝撃に揺れる機体の中、歌を歌う私に、姫が怒鳴る。

『コネメガネ!何時まで歌ってんのよ、うっとおしい!』

おっと、怒られちゃったか〜

 

『メンゴメンゴ!でもさ、テンション上がるじゃん!?』

彼女に会えるかもしれない…

そう思うだけで、心の底から歓喜がこみ上げてくる。

これでも、抑えてるんだけどね。

 

『最終ライン、エリア89。フラーレンシフトを抜けた!ミサト!』

姫の声と共に、ヴンダーのグラビティブラストがアポストルの群れを直撃する。

 

『マナ!シールドをパージして!』

ワンコ君の指示が飛ぶと同時に、後ろに位置していた両面合わせの巨大なシールドが一枚弾け飛ぶ。

姿を見せる、5号機と抱えられた白亜の機体。

 

榛名っちがMark7を、Mark6へ手渡し、シールドに付いたブースターを点火、月面に着陸する。

巨大なシールドが別れ、それを5号機が両腕で装備する。下部が尖った大きなシールドを2枚持つとか、ある意味ロマンを感じる…

 

シールドが外れた、大きな円盤状の部品を地面に置き、それを5号機が踏みつける。

途端に展開される2つの重機関と多連装ミサイルランチャー。

新兵器パンドラボックスか…

レガリアにより作られている、ナノマシン可変式ユニット。

 

見た目と内容量が合わない、端から見たら不思議武器だ。

 

 

 

そんな5号機の近くに存在する、見えないように作られた横穴。

エヴァが通れる横穴なんて驚き桃の木。

 

『二人共気をつけてね。グットラック!』

サムズアップする榛名っちが通信に映る。

 

 

『行こうか、真希波さん。ここからは僕が案内するよ。』

そう渚くんが、先導していく。

 

 

 

 

長い、長い横穴を抜けた先には、巨大な空間。

光の無いはずの空間は、しかしエヴァから見ても遥かに大きな正方形の物体が放つ、淡い青色の光により照らされていた。

 

彼女が来ていたプラグスーツを思い出す。

優しい色。

 

『真希波さんは、間違ってもアレに触らないように気をつけて欲しい。

触れた瞬間に、自己を損失する可能性が高いからね。』

だろうね…見ただけでも理解できるよ。

槍を持ち、Mark6の後ろに続く。

 

ムーンセル・オートマトンまで後少し、しかし展開されるATフィールドにより歩みを止められるMark6。

 

まさか、ムーンセル・オートマトンのATフィールド?

 

 

『悪いね、Mark6。君の恐れに邪魔をされる訳にはいかないんだ。』

そんな渚くんの言葉に気づく、これはMark6が独自に出したATフィールドなのだと…

 

しかし…

『こりゃあ、私が前に出ても同じ事が起こるだけじゃん?』

ここまで来て、作戦失敗?

冗談じゃない…

 

 

しかし、私の心配は杞憂だった。

中和されていくMark6のATフィールド。

 

 

そう、そういう事だったんだ。

彼女が妙に信頼を寄せる筈だよ…

ゼーレの秘蔵っ子が、まさかの使徒とはね。

 

嫉妬に染まる自身の感情を抑える。

彼女と同じなんて…

寄りによって、何処かゲンドウ君に似た独特な雰囲気を持った彼が、彼女と同じだなんて。

 

眼鏡を触り、気持ちを落ち着ける。

自らが着ている服に視界を移す。

よく彼女と過ごした、この服は、彼女の好みの服だった。

プラグスーツでなく、日常を思い出せるこの服を…

 

 

大丈夫だよ、ななちゃん。

私が迎えに行くから。

 

 

中和されたATフィールド。

抱え上げたMark7をムーンセル・オートマトンへと押し当てるMark6。

 

『今だ!真希波さん!』

余裕の無さそうな渚くんの声を聞きながら、Mark7へとアルベスの槍を突き刺す。

 

Mark7を貫通してムーンセル・オートマトンへ、その矛先を接触させるアルベスの槍。

 

 

 

その瞬間、私は裸で青く薄暗い空間に漂っていた。

 

目の前には、赤に遮られた空間。

その中で、胎児のように膝を抱えた彼女の姿。

 

半年ぶりの再開。顔は見えなくても彼女だと解る。

近づこうとするも、赤い境界に邪魔をされて、なかなか彼女へ近づけない。

強引に近づこうとする私に奔る激痛。

だから何だと、身体を境界の中へと入れていく。

焼け付く身体、押しのけられていく感覚に抵抗しながら手を伸ばす。

 

「ななちゃん!ななちゃん!!」

叫ぶ私を見上げる彼女。

しかし、キョトンとした表情で私を見つめるだけだ。

クソっ!自己が薄れているのか…

 

「手を、掴んで、ななちゃん!」

吹き荒れる赤い奔流。

思い出して!自分を、皆を、そして私を!

 

徐々に伸びてくる彼女の手。

しかし、後少しのところでその手が止まる。

 

迷いのある動き。

 

大丈夫だよ、皆が君を待っているのが聞こえるでしょ?

人類の祈りが…

 

 

それでも迷う彼女へと私は、叫んだ。

「来て!ユウカ!!」

 

伸びる彼女の手を強く握り締める。

もう、離さないから!

 

思い切り、掴んだ手を引き上げる。

私の胸元に収まる彼女の顔。

私はそれを抱きしめる。

 

そういえば、お互いに裸で抱き合った事は無かったな…

 

 

 

 

 

白い光が世界を包む。

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間には、月面の空間へと8号機が放り出されていた。

近くにはMark6も同様に宙を舞っている。

 

 

 

少し離れた所には、巨大な帯状の形態、中心部には露出したコアブロック。

特異個体か!

 

 

それと戦闘を繰り広げるエヴァ初号機とMark11。

他のアポストルの大群と激戦を繰り広げる、2号機と5号機とMark9とMark10。

そしてヴンダーと44B。

 

国連軍も援護のためにアポストルと戦火を交えている。

 

 

『どうなったの!?ななちゃんは!?』

私の疑問へ答えたのは渚くん。

 

私達は大規模なエネルギーサージが放出したために、ジオフロントごと吹きとばされたようだ…

 

Mark7は、不明なのだと…

 

 

 

土煙が舞う眼下を覗く。

大規模なエネルギーの影響か、センサー類は機能しない。

 

 

 

 

土煙の中から、白い何かが割って出て来る。

 

 

あれは…羽根?大きな、大きな翼?

 

伸びきった翼を羽ばたかせると、エネルギーの奔流が風のように舞っていく。

晴れる土煙。

 

 

 

そこに居たのは、白い大きな、美しい女性。

腰部から生える大きな柔らかな翼。

頭上のエンジェルヘイロー、目元をバイザーで隠した整った顔、大きな双丘を覆う装甲。

通常のエヴァよりも、少し大きくなった体躯。

エヴァの装甲から覗く、装甲とは違う白い素肌が所々見える。

大事な所は隠れていて、安堵する。

 

 

それにしても、ちょっとエロいにゃ…ななちゃん。

つい、マジマジと見てしまう。

中途半端に露出したほうが、色気があるのは何故なのだろうね。

 

 

一層輝いていく白い光が、私達を包んでいく。

戦場を飲み込んだ光が晴れた瞬間には、戦っていたアポストル達が、全て崩れていく。

 

 

 

 

 

通信越しに聞こえる、数多の息を呑む音。

静寂が世界を支配する。

 

 

 

ムーンセル・オートマトンを取り込んだエヴァMark7。

 

 

新たなる神の誕生。

人々の祈りにより生まれた女神。

 

女神転生か…

 

 

 

静寂の中、それを見届けていたゼーレのキール・ローレンツの呟く声だけが、通信越しに聞こえてきた。

 

 

『成ったな。…全てはこれからだ。』

 

 




まだ、くっついてないんや

アンケート今週末(土日)に締め切ります!


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Plan zur Komplementarität der Menschheit

大気成分もやっと問題なしか…。

手に持っている、携帯端末に映るデータを確認し、ホッと安堵する。

上天人造恒星・カグツチも問題なく稼働しており、温度も快適だ。

 

 

経過は上々。

後ろを振り返る私の目には、1年半程前とは一変した景色が映る。

 

もの凄く巨大な禿山だった山は、今や緑に覆われ、小さいが川も流れている。

麓には、広大な食料プラントが幾つも建設されており、稼働試験を行っている。

 

なおも増えていくプラント。

大きな煙突のような大気ナノマシン散布機。

オートメーションで建造されていく、高層ビル。

既に幾つものマンションが完成しており、その全てには光発電システムが取り付けられている。

 

かなり前から建てていた風力発電システムは、最近になってようやく稼働してきた。

 

少し離れた所には、もの凄く広大な湖。

そこには空中戦艦の発着場と、大きなドックが有る。

 

 

さらに離れた場所には巨大な軌道エレベーターがそびえ立っている。

 

まあ、まだまだ完成には程遠いがギリギリ間に合った。

全く、こき使い過ぎだよ…

それに期日を伸ばせないなんてさ、私じゃなければ過労死まっしぐらだったよ。

復活して1年半で、再度死ぬのは勘弁だ。

 

 

ひとまずは、ここには物資も含め5億人を養える衣食住環境は整備出来た。

まだまだ足りないのだけど、仕方ない…

 

 

 

 

ふと後ろからゴソゴソと小さな音が聞こえてくる。

振り向くと、そこには全身宇宙服を着たマリが立っていた。

 

「ありゃ?気づかれた?」

 

「まあ、そりゃそんな宇宙服を着て音を立てないのは無理だよ?」

 

「おっかしいな〜、私の耳には音がしなかったのに。」

ヘルメットの中で小首を傾げるマリ。

心底不思議そうな表情を浮かべている。

そんなマリのヘルメットをコンコンとノックする私。

「外の音はそう聞こえないって…。会話出来てるのは疑似鼓膜とIFS、あと外部スピーカーのおかげだけど、勝手に雑音は消すから、物が擦れるような音は自分に聞こえないよ。」

 

「ななちゃんは、羨ましいにゃ。

生身で外に出れるんだから。」

少しむくれ顔になるマリ。珍しい表情だ。

そんなマリの顔を見ながら笑いかける。

 

疑問符を浮かべるマリに顔を近づけ、ヘルメットを取る。

「にゃんと〜!

えっ!?

メット取って大丈夫なの?」

 

「うん、問題はなくなったよ。」

 

「心臓に悪いにゃ〜。ちょっとドキドキしちゃったよ。」

急に吹き付ける風が、マリの髪をたなびかせる。

あっ、と風に驚くマリ。

マリにとっては久々の風だろう。

髪を抑えるマリ。気持ちの良い風を肌に感じながら、私達は空を見上げた。

 

雲の少ない空は、遮るものが無く、遙か先まで見える。

 

空に浮かぶ光源。

そこから視線をそらすと月のような物が。

…宇宙要塞が日に日に近づいてきているのを実感できる。

 

さらに視線を別に移すと、赤い星が瞳に映る。

 

 

 

「明後日には第一便が到着するだなんて、感慨深いものがあるね。」

マリが腕を上へと伸ばして、懐かしむように呟く。

私はだらんと垂らした左腕の肘を右手で掴みながら、上に上げていた視線をマリへと移す。

 

「ねぇ、マリ…。」

 

「うん?」

 

「付いてきてくれて、ありがとね。」

本来、このミッションは私一人で行う事になっていた。

それを強引に付いてきたのがマリだった。

 

久しぶりだな…皆に会うのは。

肩を寄せ合い、寄り添う私達。

再び青い空を見上げながら、目を細める。

 

「当たり前じゃん、ななちゃんの側が私の居場所だからね。」

うん…

 

 

 

 

 

 

第一陣が到着する前夜、マリの好物である桃と紅茶を嗜みながら夜天光を浴びる。

 

人工の光が全く無い、澄んだ空。

一面に映る星海原を眺め、デッキチェアに身を委ねる。

二人の間にあるテーブルから、既に切り分けてあった桃を摘む。

 

レガリアにより品種改良された桃は、よく出来ている。

うん、甘い…。

 

ここへ来るときに、荷物へ忍ばせていた高級茶葉、シルバーディップスインペリアルを使っての御茶会。

今や手に入らない代物である。

 

「あの時からMプランを考えていたなんて、委員会は何処まで用意周到なのか…

この展開を読んでいたとしか思えないにゃ。

ホント、まいっちんぐね。」

ティーカップを置きながら、マリが常々思っていた疑問を口にする。

 

「彼らが、死海文書って呼ばれる一種の予言書を持ってるのは知ってる?」

 

「…名前はね。内容は一部しか知らないけど。私としては、ななちゃんが死海文書を知っている事に驚いたよ。」

 

「死海文書外典・断章。

そこに、私達が経験した事の一部が記載されているってカヲル君から聞いたよ。

それでも、大体の事はゼーレが自身でシナリオを書いている、とも聞いたけれど。

底しれないね、彼らの先を読む力は…」

 

「ふ〜ん、渚くんがね〜。

結構仲が良い見たいだけど、もしかして異性として好きなのかにゃ?」

共に過ごす時間が長い私だからこそ解かる、どこか、棘のある雰囲気。

笑顔だが、少しだけ睨んでいるようにも見えるマリの表情。

異性か…

 

「あまり考えたことが無かったよ。

う~ん、異性というよりも兄弟の方が近いのかな?手のかかる兄?」

実際お兄さんなのかな?

いや、私は生粋の使徒では無いから従兄弟かな?

それを言ってしまうとアザゼルとも、親戚とか、そうなってしまうのか。

内心苦笑してしまう。

 

「ほうほう、にゃるほどな〜。

それは一安心だにゃ。」

私の返答を聞き、朗らかな笑みを浮かべるマリ。

 

安心か…

それって、やっぱりそういう事なんだよね?

でも、使徒である自分がどこかで、こういうのを留めている。

いや、違うか。ただ意気地なしなだけかもしれない。

桃を食べながら私を見つめるマリを、見つめ返す。

良く視線が合うよね、君とは…

 

小首をかしげるマリ。

近いうちに結論を出す必要があると決意する。

それまで、ごめんねマリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か上空から降下してくる、空中戦艦群や避難シャトル群。

軌道エレベーターも降りてくるのが見える。

ついに、この日が来たのか…

 

新たなる新天地に降り立つリリン。

大気も、環境も、建造物も、全てがレガリアナノマシンにより構成せれたMプランの集大成。

 

 

テラフォーミングされた、火星へようこそ。

皆さん。

 

 

 

「よっ!久しぶりだな、二人共。」

手を挙げて、私とマリに挨拶する加持さん。

その後ろにはナンバーズを始めとしたヴィレのスタッフ。

 

そして科学者やエンジニア等、これから更に火星を発展させていくために必要な人材も続いてくる。

 

「「ようこそ〜火星へ!」」

二人揃ってお辞儀をして出迎える。

 

「お疲れ様。マリ、ユウカ。」

私達を抱きしめるミサトさん。

 

そんなミサトさんの行動に感化されたのか、次々とハグをすることに…

アスカ、綾波さん、マナ、マユミちゃん、サクラ、カヲル君と会話しながらハグをしていく。

そして、目の前に来るシンジ君。

少し顔を赤く染め、固まってしまう彼。

 

「お久しぶりです、碇さん。

元気そうで良かったです。」

ハグをする私に、固まってしまうシンジ君。

 

「えっと、あ、あの。ひ、久しぶりだね。長門さん。」

…かわいい。

女性慣れしていない様子の彼。

散々マナに抱きつかれたりしているのに。

 

そんなシンジ君へ、ハグくらい軽くしなさいよっ!と頭を小突くアスカ。

何すんだよ、アスカ!と拗ねたようなシンジ君の表情を見ると、凄く安心する。

シンジ君を小突いた、アスカの頭を小突く綾波さん。

いやアスカが凄く、つんのめったんだけど…

 

ファースト!と綾波さんへ噛みつくアスカと、無視してシンジ君へと寄り添う綾波さん。

いつの間にかファースト呼びになっているのに驚いた。

 

こんな日常を見ていると、やっと帰ってきたんだと感じる。

私がサルベージされてから、直ぐにテラフォーミングミッションへと駆り出されたため、皆と過ごす時間はあまり無かった。

再会を分かち合った時間は、あっという間に過ぎ、それから1年半も離れていたから…

 

 

最後にリツコ先生が私を強く抱きしめる。

そこに言葉は必要無かった。

 

 

久しぶりに触れ合った皆との時間はあっという間だった。

発着場から外へ案内する。

 

外へ出て、身体全体で風を浴びるようにする皆。

閉鎖された空間で2年近く過ごしてきた皆は、造られた自然環境に喜びを顕にしている。

口々に感動を表現する皆を見ていると、やってきた事を誇らしく感じる。

 

マリと目を合わせ、笑い合う。

そして手を打ち合った。

やったね!

 

 

 

 

 

加速していく、火星の開発。

IFS処理を施したリリンは、レガリア細胞をある程度、増幅・操作出来るようにまでなっていた。

進化していくリリン。

数年前までの生活と比べると、その急激な発展は凄まじいの一言だ。

IFSを使用した電脳化、拡張現実、仮想現実。

肉体の義体化や、もはや資材を使うことなく造られる構築物。

理論だけであった、科学技術の実現。

 

神器を手に入れたリリンは大きく躍進していく。

 

 

 

大きくなっていく都市を、高所から見つめる。

「凄いものだね、リリンは。

こうやって、何でも自らに取り込んでいき、生きようともがく。

そこが美しくも醜くも有るけど、同時にどこか愛おしさも感じるよ。

そうは思わないかい?長門さん。」

 

斜め後ろに佇むカヲル君が、私と同じものを見つめながら話す。

 

「そうだね。」

そんなカヲル君の言葉を肯定する私。

リリンよりも高次の存在であるからか、どこか種族としてのリリンが幼く感じる。

 

「…そろそろ行こうか、長門さん。

老人達が待ってるよ。」

振り返り頷く私に微笑み、カヲル君が先導する。

 

 

 

高所にある吹き抜けた廊下の先にある扉へと入っていく私達。

その先には巨大な能面のエヴァが…

 

 

「エヴァンゲリオン・リルインフィニティ…。」

呟く私に返答したのは一人の老人。

 

「その通りだ、ガブリエルよ。

お前が生み出した、あのエヴァンゲリオンだ。」

キール・ローレンツ。

他にも11人の老人達が居る。ゼーレか

 

「ガブリエル?」

天使の名前?

唐突な呼び方に疑問符を浮かべる私に答えるカヲル君。

 

「君の使徒としての名前だよ、長門さん。」

そう、私の使徒しての名前ね…

 

「それで、私をここへ呼んだのは何故なのですか?」

目線をキール・ローレンツへ向けて問う。

 

「君に、このエヴァンゲリオン・リルインフィニティを起動してもらいたい。

人類の次なる段階への進化のために。」

真剣な表情を浮かべるキール・ローレンツ。

 

 

「神々の麗しき霊感、天上楽園の乙女よ。」

 

「我々は火のように酔いしれて。崇高なる者よ、汝の聖域へと入る事を願う。」

 

「汝の魔力は再び結び合わせるのだ、時流が強く切り離したものを。」

 

「全ての人々は一つとなる、汝の柔らかな羽根が留まるその場所で。」

キール・ローレンツの言葉の後に、一部のゼーレが詩を唄うように言葉を紡いだ。

 

「死で持って人間を受け入れた貴女は、今や箱を取り込み、神に等しいほどの力を手に入れた。」

 

「さよう、ムーンセル・オートマトンを取り込んだ貴女と繋がっていた、このエヴァンゲリオン・リルインフィニティにも、それは影響を与えているのだ。」

 

「相補性を保ちつつ、一つとなれる魂の揺り籠。

新たなる世界。虚構世界SE.RA.PHの構築。

そこに住まい、保管される魂。」

 

「死という概念が、真に肉体だけのものとなる人類は高次の生命へと至るのだ。」

 

「全てのIFSに内蔵された、極小サイズの魂の槍、アルベス。」

 

「それにより魂は、このエヴァンゲリオン・リルインフィニティへと移ることが出来るのだ。」

 

「アルベスの槍・オリジンに集約した人々の祈りと、貴様の内向きのATフィールドが欠けた魂を補完する。」

 

一人づつ紡いだ言葉を、締めるようにキール・ローレンツが私に向き合う。

「人類補完計画。

これこそが我々、滅びゆく人類に残された最後の希望なのだ、ガブリエルよ。」

 

私の知らない人類補完計画。

破綻した計画をここまで形にしたのは、彼等が持つ信念と義務感。

そこに嘘を感じない。

ただ人類を良くしたいという意思…

 

 

 

目の前の、淡い青色を宿す純白のエヴァンゲリオンを見つめる。

母たるリリスを失ったリリンは、もしかしたら無意識に自立の精神を手に入れたのかもしれない。

それが、この流れに影響しているのかも…

 

「第三の神の奇跡を此処に。」

声を合わせ、私へと強い視線を送るゼーレ。

 

カヲル君はそんな私達を笑顔で見守っている。

 

 

手を伸ばす、私。

ATフィールドで水のように、柔らかくエヴァを包み込む。

 

エヴァンゲリオン・リルインフィニティ

起動

 

私の思念と共に、エヴァが宿す淡い青色の光がさらに強くなる。

 

 

 

「はじめまして、エヴァンゲリオン・リルインフィニティ。」

 




アンケート終了しました。
今後の展開、主にマルチエンディングについて

■回答
(65) マリルート、ずっと一緒に
(18) カヲル君ルート、カヲル君を助ける
(23) シンジ君ルート、シンジ君どこいったの?
(5) マリはシンジ君だけだろ、フザケンナ
(26) 主人公は読者の嫁に決まってんだろ

Bパートに関しても、エンディング後でという方の方が多かったため、ひとまずはエンディングへと進めたいと思います。

最初に、恐らくマリルートエンドを書き、その後シンジ君、カヲル君ルートと分岐別エンディングとなります。

最後にシークレットエンディングとして、読者様ルートを書いていきます。
正直、最後の質問に関してはただのお遊びで作った質問だったので、二番目に多い事に驚いております!
ノリで投票した人も居るでしょうが、正直嬉しく思います。

駄菓子菓子!私の娘をそう簡単に貰えると思うなよ!(笑)
マリシンの方には申し訳ないですが、具体的にマリシンの話を書くことはしません。


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Werd ich zum Augenblicke sagen: Verweile doch

暖かな陽射しの下、ビーチパラソルが作る影の中で、サマーベッドに身を沈めながら、湖畔で遊ぶ皆を眺める。

白いビキニとパレオを身に着けた私は、こうやって雰囲気を楽しんでいる。

やっと来た青春を取り戻すように、楽しんでいる皆を見ていると、自然と笑みが浮かんできてしまう。

 

水着を着た皆は、水辺で大いにはしゃいでいる。

今を思えばナンバーズは、青春時代と呼べる物を全て、戦いの準備に費やしていた。

その後も戦いの日々を過ごし今に至る。

やっとできた休息か…

 

私の目線の先には、両手をアスカと綾波さんに拘束され、背中にはサクラが張り付き、正面からはマナに抱きつかれるシンジ君。

近くのマユミちゃんは、そんなシンジ君を見ながらオロオロとしている。

皆、押しが強すぎるよ。

 

カヲル君はシンジ君と遊ぶために持ってきたビーチバレーのボールを手に持ち、佇んで微笑みながら見守っている。

 

 

「ふむふむ、やっぱりワンコ君はモテモテだにゃ。」

私が寝そべるサマーベッドからテーブルを挟んで椅子に座るマリが、頬杖を付きながらニヤニヤと笑う。

 

「碇シンジ補完計画は、イレギュラーが多分に有ったものの、順調に推移しているね。

これもマリさんのシナリオ通りですかな?」

マリへと横目で目線を向けながら、私もニヤリと笑いかける。

 

「ふ、全ての計画はリンクしている。

全ては流れのままによ、ななちゃん。」

両肘をテーブルに付き、指を組み合わせ口元を隠す様なポーズを取るマリ。

光を反射させた眼鏡は目元を隠す。

 

「しかし、いささか焚き付けすぎたんじゃない?まあ眼福だから、私はいいんだけどさ…」

 

このバカシンジ!とアスカの胸を触ってしまったシンジ君へと、ハイキックをかますアスカ。

それと他の3人を巻き込み倒れてしまうシンジ君。

ありゃ、マユミちゃんも巻き込まれたね。

水飛沫でよく見えないが、なんとなく、さらなるラッキースケベが発生しそうな予感がする。

…リアルラブコメ。

 

「問題ない。計画通りだにゃ。」

隠した口元をニヤリと歪ませるマリ。

 

顔をマユミちゃんの大きな胸元に埋める形で倒れ込み、両手で綾波さんとマナの胸を鷲掴みにし、サクラの顔を膝の間に挟んだ状態のシンジ君。

あちゃ〜。特にサクラがヤバいのでは?あれ?

 

「…。」

そんな彼らを見ながら、沈黙し冷や汗をかいてしまう私達。

問題ない?のか?

アスカ鬼神化モード…

シンジ君は全面的に悪くないけど、これは仕方ないことよね。

 

うわ〜!と悲鳴をあげ、皆から離れるシンジ君。

そして鬼と化したアスカを見ながら表情を引きつらせ、自分に暗示をかける。

 

「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ、駄目だ!」

 

「そこは逃げるんだよ〜!」

と私の大きな声に反応し、逃げるシンジ君を

「逃げんな!ゴラァッ!」

とドスの利いた声で追いかけていくアスカ。

 

そんな二人を綾波さんとマナが追いかけていく。

マユミちゃんは、真っ赤になって腰を抜かしているサクラを介抱している。

 

飛びかかるアスカに耐えきず倒れるシンジ君。

今度はアスカが押し倒す形で、シンジ君の顔を胸で包む。

…。ふむ、やるわねアスカも。

「キャー!エッチ!痴漢!変態!

信じらんない!」

と、立ち上がりながら、何処か嬉しそうな悲鳴をあげる。

 

いや、いや、とその場で声を合わせる私とマリ。

自分で押し倒してたじゃん。

そう、私とマリは見逃さなかった。

空中で体勢を変えて、ああなる様にしていた事を。

多分当事者たるシンジ君以外は皆解ってる。

 

責任取りなさいよね!と顔を背けながらシンジ君に言うアスカだが、シンジ君には聞こえていない。

何故なら、追いついた綾波さんとマナの胸に顔を挟まれているからだ。

 

「皆、わっかいんだから〜。」

 

「それ、一番年下のななちゃんが言うセリフじゃないにゃ。」

 

 

 

湖畔でのバーベキューも終え、帰り支度をする私達。

カヲル君と一緒に楽しそうに会話しながら、重い荷物を纏めているシンジ君の元へ、マリと一緒に足を進める。

私はあるお願い事をするために、シンジ君を誘う。

二人の交流を邪魔してしまった事に対して、カヲル君に目配せをして謝罪する。

微笑んで頷き、許可をするカヲル君。

 

シンジ君を連れ、少し離れた所で私は話を切り出した。

「急にごめんなさい。明日なんですが、もしお暇なら私に付き合って貰えませんか?」

 

「え、えっと、僕?」

不思議そうに自身を指差すシンジ君。

 

「実はマリには、既に了解を取ってるんです。

だから実質は、碇さんへのお願いですね。」

 

「いいけど、何処へ?」

 

「…ヴィレ仮設本部。そこの隔離室です。」

 

「そこって、まさか!」

私の答えが予想外だったのか、物凄く驚くシンジ君。

 

「はい。碇ゲンドウさん。彼が居る場所です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィレの仮設施設の廊下を加持さんに案内され進む私達。

私、マリ、シンジ君、リツコ先生。

この4人がゲンドウさんと会うメンバーだ。

シンジ君は結構な回数会っているようだが、私は2年ぶりとなる。

 

「ここだよ、ユウカちゃん。

…リッちゃん、後は頼んだぞ。」

 

「わかっているわ、加持くん。」

真剣な表情で目線を配らせる加持さんに対して、リツコ先生が力強く頷く。

 

 

開く扉。

その奥には椅子に座りながら、ゲンドウさんがこちらを見つめている。

その姿は、バイザーを着けておらず、私にとって馴染みのある碇ゲンドウの姿をしている。

恐らく、レガリアによる肉体補整か…

 

そんなゲンドウさんは、一人ずつ確認するように見て、私に視線を合わせる。

「君か…。」

 

「お久しぶりです。碇ゲンドウさん。」

挨拶する私をじっと見つめ、先を促すゲンドウさん。

「私がここへ来た理由は、恐らく既にご存知ですよね?」

 

私の言葉を聞き、目を瞑り、少ししてから言葉を発する。

「ああ、解っている。

2年前、何故君を綾波と呼んだのか、その理由を聞きに来た。そうだな?」

一度区切りテーブルに置かれたお茶を飲み、再び口を開いた。

 

「君も知っている通り、エヴァを動かすには特殊な資質が必要だ。

だが開発当初、機能中枢であるコアシステムには問題が有った。想定と違いコピーであるエヴァには魂が宿らなかったのだ。

そのため、機械により動かす事を目的とした実験が開始されたのだが、それは事故により頓挫してしまった。」

言葉を区切るゲンドウさんは、マリを見つめる。

そんな視線を受けたマリは苦笑いを浮かべている。

 

「そこで今度は、それに耐えうるパイロットを作ることにした。

それが当時綾波姓であった妻の碇ユイとフォーミダブル女史の遺伝子をベースに、第3使徒やアダムとリリスの要素を取り入れた人間の創造。

一つの身体に二つの魂を宿らせる禁忌。

理論上あらゆるモノを内包できる、最初期のアヤナミシリーズ・オリジンにして、同時に人類補完計画のテストベッド兼ロストナンバー。

…それが君だ、長門ユウカ。」

 

驚き息を呑むリツコ先生とシンジ君。

 

「でも、ユウカとは年齢が合わないわ。」

声を震わせながら、リツコ先生が矛盾した部分をつく。

 

「それは、新たなコアユニットを開発したことにより実験は中止されたからだ。

あまりにコストのかかるオリジンの計画は現実的では無かった。

造られた赤子は力を恐れた者により凍結され、本来ならそのままであったはずだったのだが…。

しかし何を思ったのか一人の研究員が、勝手に凍結を解除して赤子を連れ出した。

その研究員が赤木博士、君の母親であるナオコさんだ。」

 

「母さんが?ありえないわ!

そんな事をする人間では無いはずよ!」

母親から想像できない行動に、声を荒げるリツコ先生。

 

「赤木博士、君も覚えている筈だ。

ナオコさんが、一時期仕事を休み、知人の子供といって赤子を養っていたのを。

…あの人は、良き母親と成りたがっていた。

赤子を育てていたのに、途中で取り上げられる事は、きっと彼女にとって辛かったのだろう。

愛するようになっていたのなら尚更だ。

……人は失って初めて気付くモノもある。」

そう言い切り、シンジ君を見つめるゲンドウさん。

リツコ先生は思い当たる節があるのか、ただ唖然としていた。

 

「では、私は初めから使徒だったのですか?」

彼の話を聞いてから、疑問だった事をぶつける。

 

「人間がベースなのだ、要素を少し取り入れただけでは使徒にはならん。

まあ、厳密に人間と言えるかはわからんがな。

連れ出した後の事はナオコさんしか知らない事だが、本人が鬼籍に入ってしまっているから、闇の中だろう。

しかし、一つだけはっきりしているのは、君の両親がこの件には関わっていない事だ。」

 

沈黙したゲンドウさん。

その雰囲気は伝えるべきことは、伝えたのだと語っていた。

 

聞いた内容は衝撃的な事ばかりだった。

両親が実の親ではない事や、自身が造られた命であることは、正直凄くショックな事であった。

 

そして、一つの身体に二つの魂という言葉。

…そうか、だから私は転生したと思っていたんだ。

あの記憶は確かに私へと大きな影響を与えていた。

しかし、その記憶が自分の経験した事柄だという実感は全く無かった。

 

エヴァMark7の中に居るワタシ。

それが転生してきた人、もう一つの魂だったのだと気がついた。

 

ずっと…。

ずっと、見守ってくれていたんだね。

私の事を守ってくれていたんだね…

 

 

目頭に熱いものが込み上げてくるのを感じる。

溢れ出す感情。

喜び、怒り、悲しみ、愛おしさ。

色々な感情が混じり合う。

 

マリが私の頭を抱きしめ、リツコ先生が背中を擦ってくれる。

とまらない涙…

なんだろ、なんで私、泣いてるんだろう?

感情の吐露。

長く感じたそれが、次第に終息していく。

憑物が落ちたように落ち着く私。

 

そっか…私って、泣けるんだ。

 

 

泣き止んだ私を見つめるマリ。

ありがとうと、マリやリツコ先生へお礼を言い、ゲンドウさんへ近づく私。

 

「あの、お恥ずかしい所を見せました。」

少し気恥ずかしい。

そんな私から目をそらし、言葉を発するゲンドウさん。

「私こそ、済まなかったな。ユウカ、シンジ。」

私の事を名前で…

もしかしたら女性の涙に弱いのかな?

そっか、こういう所がカワイイ所なんですね、碇ユイさん。

 

手を差し出す私を見つめるゲンドウさん。

握手を求める私におずおずと手を伸ばす彼を見つめる。

繋がる手に違和感を覚えたのか、驚く表情を見せるゲンドウさん。

そんな彼に、私は一言伝える。

「切符です。返却は受け付けませんからね。」

しかし開いたその手には、何も無い。

そう、これは彼に与えられる事は無かった魂の切符。

 

これで、あの人に会えますよ。

 

言葉にしなくても伝わる私の意思。

目を見開くゲンドウさん。

その瞳から、一雫の水滴が流れ出る。

 

握りしめた手を、顔の前に持っていき俯く彼の肩は震えていた。

溢れ出るものを押し殺したような声。

ゲンドウさんに寄り添うシンジ君は、只々彼の背中を擦り、見守っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつだって奴らは唐突だ。

あれから、数日が過ぎた頃、ある事象が確認される。

 

地球軌道の変移

 

その赤い星は、火星の太陽周回軌道上へルートを変更している。

 

現状エヴァンゲリオン・リルインフィニティは起動したが、虚構世界の構築が完了していない。

取るべき方策は、エヴァンゲリオン・リルインフィニティの準備が出来るまでの時間稼ぎ、そして可能ならば使徒アザゼルの撃滅となる。

 

既に決戦の準備は進められていた。

皆何処か、解っていたのだ。奴との戦いがそう遠くない未来にあるということを。

 

ヴンダーや4隻のNHG、ナンバーズのエヴァは追加ユニットや特殊武装を装備させている。

 

ヤマト作戦と名付けられた、その作戦の性質上、人員の作戦参加は志願制となった。

驚いた事にそれは、ナンバーズにも適応される事となる。

最低確保戦力による作戦遂行、マギセカンドの計算により提示された作戦成功率は約4%、生還率に至っては約1%。

この数字は全ての人間に公表され、参加の是非は作戦直前まで各々の自己判断に任された。

 

 

 

 

 

 

月明かりが暗闇に差し込む中、目の前のエヴァンゲリオンMark7を見つめると今までの事を思い出す。

外の仮設ケージへと格納されたエヴァ。

既に出撃準備は完了しており、後は時間が来るのを待つだけ。

 

こんな私にも、ミサトさんや冬月司令は作戦参加の拒否権をくれたが、その場で突っぱねた。

気持ちは嬉しいが私のやりたいことは変わらない。

 

 

奴とけりを付けるのは私だ。

それはきっと、義務感や正義感なんて物では無い。

この感情を上手く説明出来る言葉を見つけられないが、哀れみなのか、それに近いような感情。

 

心を持った使徒の末路。

本能から開放された生き物が持つ心。それは寂しがりで、痛がりな心。

故にどうしても他者を求める。

 

心の相補性を知らない奴は、その心の痛みを和らげようと、新しい生命を生み出した。

しかし知恵の実を持たぬ、ましてや自己進化機能すらも無いアポストルでは心の様なモノを持たず、その痛みを緩和することは出来ない。

そのために、リリンを求めて動いている。

まるで赤子のように…

 

一つになることしか知らない奴は、いくら経とうと寂しさを埋めることが出来ないだろう。

その果てには、行き着く所まで行き宇宙とも融合するかもしれない。

その前に、殺してやる事も慈悲なのだろうと思う。

永遠の寂しさにより、心が死へと至る前に。

 

 

最新型の白いプラグスーツを着て、機体の搭載コンピューターのアップグレードや新しいプログラミングをしている私を、影が覆う。

 

 

 

背後に立つ人影が、月明かりを浴びている。

 

「ななちゃん。」

名前を呼ぶ彼女は、白いプラグスーツを着ている。

作業を中断し、マリへと向き合う。

 

「マリも作戦に参加するんだね?」

 

「ななちゃんが参加するって聞いたからね。」

真剣な表情で私を見つめるマリ。

そこには緊張と不安が覗いている。

瞳を瞑り、何かを決意しようとするマリへと私は唐突に距離を詰める。

瞳を開けたマリは、目の前に私の顔があるのを見て驚いている。

 

「ねえ、マリ。…今日は、月が綺麗だね(貴女を愛しています)。」

そんな言葉を言うも、私の瞳に映るのはマリの顔だけ。

目を見開くマリ。

微笑む私に、マリは泣きそうな表情を浮かべながら微笑む。

 

死んでもいいよ(私も愛してる)。…綺麗なのは、ななちゃんと見る月だからだろうね。」

言葉をゆっくりと紡いでいく、マリの顔が近づいてくるのを見ながら、私は瞳を閉じる。

 

うなじに感じるマリの腕の感触。

唇に触れる、柔らかな感触と少し湿った熱。

長いような短いような時間が過ぎ、ゆっくりと離れていく熱を感じる。

 

瞳を開けた私に映るのは、眼鏡を外したマリの顔。

おでこをくっつけ、二人で微笑み合う。

 

「これで、ななちゃんは私のモノ。」

ニヤリと笑うマリ。

 

「うるさい。」

と私の唇でマリの口を塞いでやる。

 

攻勢に出る私だが、直ぐにマリに反撃される。

あ、ちょっと舌はまだ早いって!

ンん!

 

口を離してマリへと言葉をかける。

 

「ね、ねぇ。つ、続きは帰ってからに、…しよ?」

きっと私の顔は凄く赤くなっている。

自覚できる程に顔が熱い。

それに恥ずかしい…

 

「それはヤバイよ、ななちゃん。そんな顔は反則だにゃ。

むふふ…これは、何としても帰って来ないといけないな〜。」

微笑む彼女の表情は、今まで見たどの表情よりも可愛かった。

 

 

 

 

明朝、作戦開始時間。

広場には多くの人員が居る。

皆、白い布を腕に巻いている。

リツコ先生、ミドリ、ミサトさん、マヤさん、長良ちゃん、青葉さん、日向さん、冬月司令、高雄さん。

阿賀野さん、大井さん、最上さん、多摩さん。

 

驚いた事にキール・ローレンツまで居る。

 

そして、白いプラグスーツを着たナンバーズ全員。

 

 

 

壇上へ登るミサトさんを全員が見つめる。

 

「ひとまずは、この場に集まった貴方達と出会えたことを、嬉しく思っている事を伝えましょう。

元アメリカ軍も、アフリカ戦線の勇士達も、連合国の皆も集まってくれた事に感謝を。

死をも覚悟した、これ程の勇士達を、率いることが出来ているのは有史以降、私が初めての将なのだと自負します。」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるミサトさんは、一度区切った言葉を続ける。

 

「この戦いの勝利は一つ。

それは、人類が生き残る事!

今や人類補完計画は発動し、あとは時が解決する。

しかし、クソッタレな奴は、その時間すらも奪おうとしている!

そんな奴の目論見を木っ端微塵にしてやれ!

死の先をゆく者たちよ!貴方達となら出来るのだと、私は信じている!

…願わくは、未来において貴方達が、自らの孫にこの戦いの事を聞かれた時に、「孫よ、私は偉大なるヤマト作戦軍にいたんだ。葛城ミサトというクソッタレの元に!」と語れる先が来ることを!」

 

ミサトさんの言葉と共に、雄叫びを上げる男連中。

肩をすぼめるのは女連中。

 

「総員!出撃準備!人類の力を見せてやれ!」

 

 

 

 

 

 

宇宙を翔ける私達。

私を中心として、先頭をヴンダー。

私の上下左右を囲むようにヴーセ、エアレーズング、エルブズュンデ、ゲヘートが配置され、後方にはエヴァMark10シャマシュが続く。

 

作戦は私の働きに掛かっている。

あの時から、一度も成っていないから自身でも未知数な能力。

ムーンセル・オートマトン。

あれの能力を引き出せば、僅かでも勝機がある筈だ。

 

 

プラグ内のモニターに映る現在の日時を見る。

その日付はエヴァMark7と初めて出会った日。

 

感慨深い。私がエヴァのパイロットだなんて、昔は想像もしていなかったのに。

想い出がフラッシュバックする。

最終的に思い出すのは、やはり家族の事だった。

一度死んでから、顔を合わせなかった家族。

いや、直接会ったのはヴィレのSUVに乗った日が最後だったね。

 

 

 

 

 

今に戻った私は心中で呟く。

 

あれから14年経った今も、私はエヴァンゲリオンに乗っている。

 



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Air

徐々に大きく見えてくる赤い星を見ながら、私はインダクションレバーを握りしめる。

その赤い星からは、四半世紀以上前の面影は微塵も感じられない。

 

 

青く美しく、生命の息吹を感じられたその星は、今や生命を感じられない寂しさをかもし出している。

 

生きているモノがいない訳では無い。

しかしこの星に住まう生き物は、どこか無機質で、躍動感というものが無い。

それが、ここまで表層に現れるなんて…

 

 

そんな事を思いながら、自らを形造るレガリア細胞を変質させていく。

これから必要なのは演算機としての能力、ただ一つだけ…

そのように自身とエヴァMark7を特化させていく。

 

しかしどのように変質しようとも、ムーンセル・オートマトンの能力を十全に使用する事が出来ない…。

未だにレガリア細胞がムーンセル・オートマトンに馴染んでいないのだろうか?

 

 

そうなると、やっぱりあの方法しかないのか…

不確定要素が有るから、頼りたくなかったのだが。

 

 

そろそろ作戦域へと到達する。

あまり時間は残されていない。

 

 

コード・000ガブリエル

そのように名付けられたリミッターを解放する。

 

『…これは?エヴァMark7の形態制御のリミッターが解放されていきます。

エヴァMark7、ガブリエル統合体へと変性!』

オペレーターの声が聞こえる。

 

 

 

容姿が女性的になるMark7。

マリ曰く、エロいにゃとのことだ…

 

私自身も、意識がエヴァと混ざり合い、エントリープラグ内にいる感覚は無くなる。

まるでエヴァが私であるかの様に知覚する。

 

 

もはやエヴァと成った私は、ムーンセル・オートマトンに意識を割き起動させる。

やはり、この形態なら多少は負荷がかかるが使うことができる。

機能を押し出すムーンセル・オートマトンだが、まだそれを完璧には使えないと察する。

 

しかし、構わない。

その演算機能さえ使えれば…

 

 

 

 

これからの戦闘に思考を傾ける。

ムーンセル・オートマトンが行う天文学的回数の未来演算から、より良い未来を選択するのが私の仕事だ。

 

 

『エヴァMark7より各艦・各機。

これより光波通信を使い、随時軌道データを送っていきます。

…皆の武運長久を祈ります。以上。』

 

 

『了解。総員、これより戦闘シフトへ移ります。作戦域まで残り10000。』

ミサトさんの通信を聞き、マリへと視線を移す。

既にこちらを見つめているマリ。

何時も私を見てるのかな?マリの方を向くと毎回目線が合う。

微笑む私に、投げキッスを送ってくるマリ。

言葉は要らないね。

 

 

自らの意識を更にエヴァへと沈み込ませる。

 

 

『作戦域到達!葛城中将。』

日向さんの声を聞き、ミサトさんが力強く頷く。

 

『私の気持ちは出撃前に、既に伝えています。

今更長々と語るつもりは無い!

ヤマト作戦、開始!各艦、主機全力運転!』

ミサトさんの号令の元、各艦が最大戦速で陣形を組みながら前進する。

 

『敵防衛エリアへ侵入!動体反応多数!

えっと、とうてい数え切れないけど億は越えてるっぽい!

マジありえないんですけど…

あ!それと、アザゼルの体動を検知!』

ミドリが敵の動向を伝えるが、数が多過ぎて細かくは精査出来ないでいた。

遠目で見ても地球を覆う程の敵の数が見て取れる。

 

 

『Mark7より軌道データが来ました!』

青葉さんの報告を聞き、ミサトさんが下知をくだす。

『艦の軌道は、データに沿って。

日向君、主砲を除いた艦の攻撃は貴方に一任します。』

 

『了解です!一番から十番までの多連装ミサイルランチャーのロックを解除!

各火器管制オペレーターに標準は一任。

撃ち方始め!

ミサイルの残量は気にするな。

距離が詰まる前にミサイルを撃ちまくれ!』

日向さんが各オペレーターへと命令を下す。

 

 

全ての艦から多数のミサイルが飛んでいく。

それらがアポストルの大群へと着弾し、次々と敵の数を減らしている。

情報宮装備弾と同じ機能を有した、特別製のミサイル群。

ATフィールド中和範囲外からの攻撃に為す術もなく討たれていくアポストル。

 

 

ヴンダーのリフトから姿を表すエヴァ5号機。

『それでは私も攻撃開始します!

いくよ!エヴァ5号機JA改ニコイチ。

ミサイル全弾発射!』

JA改を外装のように纏った5号機が、全身に付いた小型ミサイルランチャーを発射する。

 

侵食型ATフィールドを内包した小型のスマートミサイルは、一つ一つがアポストルの急所であるQRシグナムへと自動で飛んでいく。

ミサイルに内蔵されたAIは目標以外を正確に避け、QRシグナムへと迫る。

ATフィールドを侵食、後着弾。

 

QRシグナムを破壊され、エネルギー崩壊を起こし消滅していくアポストル。

暗き宇宙に、墓標の様に十字の光を残して…

 

 

『続いて全副砲、対空砲ロックを解除。

標準・発砲は各オペレーター任意で行え!

うちーかた始め!』

日向さんもノリノリに掛け声を入れる。

 

外部ユニットにより、さらなる増設を施された大量の砲台が火を吹く。

せわしなく動き、次々と標準を変えていき、短い間隔で発砲する。

 

『シンジ君を除いた、残りのエヴァ全機発進!アポストルの迎撃へ移れ!

もしも艦から振り落とされた場合、拾いに行かないので注意してね。』

ミサトさんが笑いながら、笑えない事柄を言う。

 

『解ってるちゅうの!ホント、ミサトの冗談は笑えないわね。』

不敵な笑みを浮かべるアスカが2号機でマステマセカンドを構え、嵐のような銃弾を敵へ浴びせていく。

マステマセカンドの弾倉は、今回は特殊使用になっており、ゲヘートヘと直接繋るベルト式になっている為、通常のマステマよりも膨大な弾の雨を降らせる事が出来る。

 

 

後方に位置された綾波さんとサクラも、マユミちゃんの動かすMark10シャマシュと共に後ろに回り込もうとするアポストルを討っていく。

 

『ホンマ数が多いわ。マユちゃん、七時の方向に敵の大群を確認!迎撃するよ!』

 

『了解、サクラちゃん。…標準良し。火器管制リンク良し。撃ち方始め!』

 

Mark10とMark11が息のあった射撃で無駄無く敵を撃ち抜いていく。

 

さらにシャマシュの艦載システム・ナブーがマユミちゃんの意識外の敵を、副砲で薙ぎ払う。

同様にMark9の綾波さんが後方の残敵を確実に、素早く始末してゆく。

 

作戦に参加しているフォロー型は各艦に半ば固定され戦闘を行っている。

 

 

マリとカヲル君は私の周りを周回し、Mark7を防衛している。

 

『ヨー、ロー、フィッチと。

宇宙戦仕様の特製ガンスーツ。

全手動になったから、また難しくなったけど、このスーパーマリちゃんには無問題!

ななちゃんの、ナイトの座は私が頂いた!』

四肢に付いた重機関銃を使いアポストルを殲滅していく8号機。

 

撃ち漏らして近づいて来た敵は、外装式F型装備を着用したMark6が大槍で斬り払う。

 

これじゃあ、カヲル君の方がナイトだよ…マリ

 

 

 

 

 

敵の居なくなったところを算出し、艦隊の機動を私がコントロールする。

割っていくように前進する艦隊だが、それは同時に敵を四方八方に置くリスクを負っている。

 

 

『ヴンダー増設砲台4番、12番沈黙!

続いて、対空砲21から25も沈黙!』

 

『第3区画にて火災発生!死者多数!』

 

『ヴンダーのミサイル砲台、全滅。』

 

『ゲヘート船尾損傷!』

 

『エアレーズング、損傷率1割を超えました!』

 

『フォロー型、戦力2割を失ってます!』

 

『5号機、小破!』

 

『ヴーセの左翼損壊!さらに第8区画崩壊!艦内の生命維持に支障が出ます!』

 

『Mark10シャマシュ、船体への損害多数!』

 

叫ぶように各艦のオペレーターが状況を報告していく声が聞こえる。

それを各艦長は怯むことなく対策を打っていく。

 

『こいつはいいぞ、どっちを向いても敵ばかりだ。

狙いをつける必要もない、とにかく撃てばアポストル共に当たるぞ!』

 

そんな獰猛な声すらも聞こえてくる。

 

 

 

 

大きな被害を出しながらも前進していく艦隊。

そんな私達に一気に優位にたとうと、敵は包囲しつつ、一部が密集していく。

 

でも、その動きは計算通りなんだよね…

 

 

『今よ!各N2ミサイル、密集目標へ発射!』

ミサトさんの合図の元、N2ミサイルが目標へ向けて高速で接近する。

数多の密集陣形が光の中へと飲み込まれていく。

広大なフィールド中和範囲を持つMark10のエンキにより、防御手段を失ったアポストル達は跡形もなく消え去った。

 

 

『アポストル反応大幅に消失!予想進路オールクリア!葛城中将!』

青葉さんが読み上げるデータを聞き、ミサトさんが口を開く。

 

『密集陣形を維持!全艦主機全力運転!

ゴーヘッド!』

 

『ゴーヘッド!ヨーソロー!』

長良ちゃんが艦を前進させるため、操舵レバーを押し込む。

 

 

残りの敵を置き去りにして、勢いよく加速する艦隊。

 

『フラーレンシフトを抜けた!

うん?アザゼルの更なる体動を確認!

うぎゃ〜!えっぐい!あのデカイ触手がキモいんですけど!』

アザゼルが展開する触手群を見てミドリが悲鳴をあげる。

大量に湧く大小の触手と、何より目立つのはヴンダーよりも大きいワームのような器官。

 

確かにアレは生理的に受け付けないよね。

 

 

『アンタもビックリするような物を用意しているわよ、アザゼル。

今よ!シンジ君!』

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、動じないミサトさん。

 

『はい、ミサトさん。エヴァンゲリオン13+初号機起動!』

そして聞こえてくるシンジ君の声。

 

 

もはや離れていても感知出来る程のエヴァ反応。

他のエヴァよりも大きな紫色のエヴァ。

 

エヴァ13号機と融合した初号機がヴンダーより発進する。

 

 

2対の腕でカシウスとロンギヌスを持つ紫のエヴァは、疑似シン化を果たし光翼を展開し飛び立つ。

カシウスとロンギヌス、2本の槍を交叉させ、先端にATフィールドにより操作されたブラックホールを展開、大小多数の触手群を飲み込んでいく。

 

私達の進路を開けるように、それていくシンジ君。

後ろから周り込んで来る触手を2本の槍を振り回し斬り払っている。

 

大多数の触手を引き受けてくれたシンジ君。

しかしヴンダーの前方を、今度はひときわ大きなワームの様な器官が打ち据えんと迫って来る。

 

 

『リツコ、例のやつ、準備は出来てるわよね?』

 

『ええ、出来ているわ。』

 

『そう…、それでは、ヴンダーのレオニダスシステムを起動。

続いて全艦の増設相転移エンジン全力稼働!』

そして、ヴンダーの通信画面を見つめ、続けて言葉を発するミサトさん。

 

『ヴンダー総員に告ぐ。これよりレオニダスシステムを起動。

全員のATフィールドを隆起させ、ヴンダーのフィールドへと上乗せします。

意地でも自身のLCL化を食い止めてちょうだい。

では、幸運を…』

 

ヴンダーへと迫る巨大な触手。もう、あまり距離は無い。

『リツコ!』

 

ミサトさんの呼ぶ声に、反応して下知を下すリツコ先生。

『マヤ!アルベス・デミクロン展開!』

 

『了解です!先輩!艦首外部装甲パージ!』

マヤさんが整備班へと命令を下す。

 

 

艦首より現れる巨大な刃。

『総員、ATフィールド全開!

その生命を、魂を燃やせ!

行くわよ…。吶喊!』

ミサトさんの声と共に激突するヴンダーとアザゼル。

力強く光を増すヴンダーのATフィールド。

 

しかし…

『マズイ!艦長!このままでは押し負けるぞ!』

高雄さんの警告を聞き、ミサトさんはさらに命令を下す。

 

『主機が焼け付いても構わないわ!オーバーロードさせて!』

 

『了解。主機オーバーロード!』

雄叫びをあげるように吠える高雄さん。

 

『さらに艦首を上げて!かち上げるわよ。』

 

『それでは艦の損傷率が上がっていきます!』

多摩さんの警告が響くが、獰猛な笑みを浮かべるミサトさん。

 

『構うな!レオニダスシステムの最終リミッターを解除!』

その命令に反応しリツコ先生がIFSでシステムを開放する。

苦痛の表情が全員に浮かぶ。

 

『発動!テルモピュライ・エノモタイアー!』

 

雄叫びを上げるヴンダー乗員の声が通信越しに響き渡る。

魂の咆哮に呼応してヴンダーが更にフィールドを強めていく。

下から上方向に、アルベスデミクロンがワームに突き刺さる。

 

『今だ!取り舵一杯!』

『了解!取り舵一杯!』

長良ちゃんが操舵レバーを捻ると同時に、回転していくヴンダー。

 

千切れ飛ぶ巨大なワーム。

そして内部を奔る強力な衝撃波により、本体付け根の方までバラバラになっていく。

テルモピュライ・エノモタイアーによる反転させた圧縮貫通衝撃波とATフィールドの開放。

しかし反動により大きな損傷を負うヴンダー。

 

 

 

大きく開けた前方。

それを見てミサトさんは続けて指示を出す。

『各艦!作戦行動開始!』

 

上へと進路がそれるヴンダーの変わりに、前へ出るエヴァMark10シャマシュ。

 

上下左右に位置した各艦が艦を斜め上へ倒立させる。

相転移エンジンを臨界寸前まで稼働させた4隻が、各々の方向に位置する触手群へと、追加ユニットの主砲の標準を定めている。

 

『全艦準備できました!葛城中将!』

日向さんが状況を伝える。

 

『各NHG、相転移砲、撃てぇ!』

4方向へと放たれる光。

広大な領域を相転移させるその砲撃は、ATフィールドをも無効化し触手群を消滅させる。

 

『マユミ!』

ミサトさんがマユミちゃんへと合図を発する。

 

前方に艦首を向けるMark10シャマシュ。

『はい…。

行くよMark10。

シリウス・ロア発射!』

雄叫びをあげながら、勢いよくインダクションレバーを押し込むマユミちゃん。

 

艦首砲台から自壊性アルベスの槍を大出力で一斉に撃ち出す。

オーバーロードさせたシリウス・ロアは次々と爆発していき、次の瞬間粉々に吹き飛ぶシャマシュの船体。

 

『マユミ!』

皆がマユミちゃんを心配して声をあげる。

 

 

シャマシュから発生した爆煙を突き抜けてくるMark11。

その両腕にはMark10の主機を抱えている。

ナイス!サクラ!

 

 

助かって良かったよ、マユミちゃん。

 

 

射出された自壊性アルベスは、突き刺さった部分から徐々に侵食し、共に崩壊させていく。

 

かな切り声のようなものをあげるアザセル。

大きな触手をヤケクソのように展開するが、先程と違い隙間がかなり空いている。

 

 

その隙間へ飛び込むようにブースターを使い、飛び出していく2号機と5号機。

 

2号機はビゼンオサフネを、5号機は巨大な電動鋸のような兵器を手に持ち触手を足場に駆けていく。

機体を翻し触手を避けながら手に持つ武器で斬りつける。

 

『ヤバい!あんまりパワーが出ない!ごめんアスカ!』

予想より遅れてしまう5号機。アポストルとの戦闘で負った損傷が響いているようだ。

先行する2号機が孤立してしまう。

 

『作戦継続!このまま行くわ!裏コード999!』

リスク度外視で作戦継続を決めるアスカ。

次から次へと迫りくる触手を避けながら、ビゼンオサフネで道を斬り開いていく。

 

敵本体へと近づくにつれ、大小触手の数が増えていく。

 

遂に重力圏へと到達する2号機。

落下に任せながら、身を翻しビゼンオサフネを閃かせる。

 

しかし、遂に処理限界が訪れたのか右腕を持っていかれる2号機。

ビゼンオサフネを握っていた腕の為、武器を損失する。

 

マズイ、アスカが!

 

 

2号機へと迫っていく触手。

そんな迫りくる絶望を払ったのは紫と白の閃光。

 

一対の腕で2号機を横抱きにし、もう一対の腕で2本槍を振るう。

 

『シンジ…。』

唖然としているアスカへ、シンジ君が声をかける。

『アスカ、無事かい?もう大丈夫、僕が来た。』

不敵な笑みを浮かべるシンジ君。

こんな表情のシンジ君なんて初めて見た。

 

そんなシンジ君を包囲しようとする触手を、上から降り注ぐ閃光が焼き切っていく。

 

頭上には輝きを放ち、エンジェル・ヘイローを掲げたMark9の姿。

綾波さん、遂に疑似シン化形態を…

 

『貴方達は死なないわ…私が守るもの。』

モノアイからレーザーを放ち、両手からエネルギー波を放出して遠近の敵へ対応するMark9。

 

そんな綾波さんの姿を見て、13+初号機の腕から抜け出すアスカ。

『全く、生意気なのよファースト。

アンタに出来ることが、私に出来ない訳ないでしょ。』

輝いてゆく2号機。

ここに来て、アスカまで…

 

 

2号機が損失した腕はATフィールドが形造る。

さらにフィールドが巨大な刃となって両手へと収まっていく。

 

『絶対に負けてらんないのよ!この戦いは!』

アスカの咆哮と共に斬撃が空間を奔る。

 

 

『行こう、綾波、アスカ。』

シンジ君の声と共に、不敵な笑みを浮かべる3人が通信ディスプレイへと映る。

 

 

そんな彼らを見送り、私は周りを見回す。

奴との距離も近くなってきた。

そろそろ行こうか、マリ、カヲル君。

 

『キタキタ!ななちゃん待ってたよ〜ん!』

 

『了解だよ、長門さん。』

 

ワタシを真ん中に左右に8号機とMark6が位置する。

 

 

 

マリ…

 

呼びかける私に、反応するマリ。

『8号機、リミッター解除!』

顎部シールドが上がり、咆哮する8号機。

 

 

しかしこれからという時に、待ったが入る。

 

『待って待って!私も入れて!

これじゃあ私、良いところないよ!』

とマナが5号機のブースターを吹かせこちらに来ている。

 

『待って私達も入れてください!』

 

『仲間外れは勘弁しといてください!』

Mark11に担がれたMark10も近くに来た。

 

 

『どうする?ななちゃん?』

マリが私に聞いてくる。

これは、是非もないよね。

 

『OK牧場!それじゃあ、ななちゃんをカゴメカゴメ!』

 

ワタシの周りに囲むように位置取る5機のエヴァ。

『いっくよ〜ん!

エヴァンゲリオン・オーバーラッピング!』

 

同化装置であるオーバーラッピング装備を展開する8号機。

するとワタシを中心に光が広がっていく。

 

 

 

 

光が収まった時、頭上には光により構築されたかの様なエヴァンゲリオン。

 

 

さらに周りを見渡すと淡い青色の空間。地面には一面の百合の花。

そして、腕を胸の前で交差して、宙に翼を固定されたように浮かぶ私の周りに、5方向に伸びたエントリープラグがゆっくりと周回している。

真下にはエヴァのコアの様な赤い球体。

 

何だか、懐かしい様な不思議な場所だ。

しかし、こんな場所は見覚えもない。

 

 

「うわ!何これ!」

マナが驚きの声をあげてる。

 

「これは、そうか長門さんの心象世界に物理的に入ってしまったのか…」

カヲル君が面白そうに周りを見渡す。

私の心象世界…心の中?

 

「ななちゃんの中に入れたのは嬉しいけど、私一人でないのが悔しいにゃ!」

ムフムフと口を動かすマリ。

それ、どんな表情よ?

 

「暖かいですね。何時までも居たい気分です。」

景色を楽しむように下を眺めるマユミちゃん。

 

「あの!あんまり時間ないんやないんですか?」

サクラが皆に注意する。

うん、サクラの言うとおりだよ…

 

「じゃあ皆で声を合わせるよ?」

すぅ、と息を吸う音がシンクロする。

 

「「エヴァンゲリオン・5+6+7+8+10+11号機、起動!!」」

皆の声が、思いが重なる。

私の世界へと映し出される外界。

 

 

 

 

敵を見据える巨大な光のエヴァ。

 

 

 

怯えたように体動する赤い地球。

 

巨大な触手群が私達に向かってくるも、腕の一振りで消し飛び、地球の地表も吹き飛ぶ。

 

 

全然力を入れてなかったのに。

 

「すっごーい!」

マナが無邪気にはしゃいでいる。

 

「不思議な感覚ですね。私の思考が皆の思考になっています。」

マユミちゃんが感想を告げる。

 

「話してる暇は無いよ…制限時間はもう3分も無いからね!」

私の注意により気を引き締める皆。

 

 

それにしても、いささか機体が大きすぎる。

これではアルベスの槍が小過ぎて持てない…

 

「確かに、これでは倒しきれないかもだにゃ。

ななちゃん、大きいアルベスの槍を造って。」

マリが私に提案するが、出来ない。

 

「ごめん、この状態だとレガリア細胞をコントロール出来ないみたい。」

 

私の返答を聞き、青ざめるカヲル君以外の皆。

 

「うそ。え、そんな。強化したら、それが仇になるなんて。」

マナが泣きそうな顔をしている。

 

「何とかならんの?」

サクラが懇願するように私へ問うも、答えは出ない。

 

 

…おかしい、ムーンセル・オートマトンはこの未来を私に見せなかった。

どうして?成功の未来を提示していたハズなのに…

 

 

 

 

そんな困惑し佇む私達に声がかけられる。

『何をしているのかね?』

オーバーラッピングにより通信は機能していないはず。

これは心に語りかけられているの?

 

「冬月先生!?」

聞こえてきた声に、マリが驚いたように名前をあげる。

 

 

『君達は開いた道を歩め。槍は私達が用意しよう。』

「っ!これはキール議長、貴方までとはね。驚いたよ。」

目を見開いたカヲル君。

 

 

『ユウカ、貴女はこのまま戦いなさい。』

どうして?リツコ先生!?

 

 

ヴーセ、エアレーズング、ゲヘート。

3隻のNHGが連なるように前進してくる。

 

他の乗組員を降ろし、ワンマンオペレーションシップとなった3隻。

その3隻を構築しているレガリア細胞が変性していく。

主機となっていた3機のウルトビーズ・アダムスとアルベス・オリジンを中心に長く細くなり、繋がる3隻。

贖罪が、救いが、祈りが合わさる。

 

 

 

『全てはこれで良い。ご苦労だったな渚カヲル。

…罪を精算する時が来たのだ。それは私が持っていこう。』

 

 

『マリ君、君は君の幸せの為に生きなさい。

…これが私の最後の教えだよ。君は人の為に生きすぎる。』

 

 

『ユウカ、大丈夫よ。私の肉体は失われるけれど、これが終わればきっと、貴女の中でまた会えるわ。

…ずっと愛しているわ、ユウカ。』

リツコ先生、私も愛しています…。

 

 

 

 

目の前に巨大な槍が静止する。

 

そのシン槍アルベスを持ち、構える光のエヴァ。

 

「シンジ君、頑張っている君に答えないとね。」

 

「待たせたよね、零式。…ようやく仇を取れそうだよ。」

 

「冬月先生、最後までありがとうございます。」

 

「この時が来たのは、皆で頑張ったからですね。シンジ君。あの時、電車の前でした約束を果たせそうです。強くなれた私を見てください。」

 

「碇さんが、皆がもうエヴァに乗らんでええように!」

 

 

 

シンジ君が、アスカが、綾波さんが切り開いてくれている道を進む光のエヴァ。

 

もはや妨害など、なんの壁にもならない。

圧倒的なこのパワーがなければ、3人が奮闘してくれていても難しかったかもしれない。

 

 

 

これで、これで良かったんだ…

 

 

 

 

溢れ出る涙を払うように私は叫ぶ

「行くよ!アルベス!」

 

 

 

これが私達のラストダイブだ!

 

 




原作キャラ死亡?に関しては申し訳ないです。



ようやっとここまで来ました。
この次は、マリエンドとなります。



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まごころをキミに

駅のホームで一人佇みながら、反対側のホームを眺める。

流れていく人を見ていると、それだけで時間を潰せてしまう。

 

 

腕時計を確認すると、まだまだ電車の時間まで猶予がある事がわかる。

 

 

少しづつ進む秒針。ついつい、そんな時計の針を見ていると、

ふと目の前が真っ暗になる。

 

瞼に感じる暖かな感触。

背中に当たる柔らかな物。

 

急なことに驚いてしまう。

 

 

「だーれだ。」

 

「…胸の大きな良い女。」

 

「Exactly!おまたせ、ユウカ。」

振り返る私の目の前には、赤い縁の眼鏡をかけた少女が顔をほころばせてる。

 

何処か悪い顔をしたマリの顔が瞳に映る。

そんな彼女の瞳には何処かキョトンとした私の顔が。

距離が近すぎる気がする。

 

うそ、まさか、こんな所で!?

 

 

マリは手で私の顎を持ち、向きを変えて、熱い口づけをしてくる。

その後、間髪入れずに腕を私の頭の後ろに回しキスを続けていく。

 

ちょっと、舌まで入れるなんて!

 

 

 

周りの人が私達を見て、ざわめき出す。

 

えっ!?…女の子同士だよな?

どっちも可愛いのに、勿体ない。

同性愛ってやつ?

始めて見た!

 

との声が聞こえてくる。

 

 

やっぱり、こういう所は前時代的だと感じる。

 

 

 

 

私はマリを引き剥がし小言を言う。

「ちょっと!マリ!こんな人前で何するの!」

そんな私にマリは拗ねたように答える。

 

「ななちゃんが可愛過ぎるのが悪いと思うよ?少し前にナンパされてたし!マーキングってやつ?」

してやったりという表情をしたマリ。

言葉の詰まる私に、更に聞こえてくる周りの声。

 

 

恥ずかしい…

マリの手を勢いよく掴み、引っ張るようにその場を離れる。

 

強引なユウカも乙なものだね。

と呟くマリ。

 

次の電車乗れないじゃん!マリのバカ!

 

 

 

 

 

マリを引っ張る私が行き着いたのは、駅のホームにある立ち食い蕎麦屋。

カウンターに立ち、注文した品が届くのを待ちながらマリのお尻をつまむ。

 

アウチ!と小さく身体を跳ねさせるマリ。

 

「ごめんて、ユウカ。

許してちょんまげ!」

おちゃらけるマリの姿を見ると怒りが収まってくる。

こういうのに弱いんだよな私。

 

「というか、ご飯食べてて大丈夫なの?

電車来ちゃうんじゃない?」

 

「もう!誰のせいで、次の電車に乗れないと思ってるの?恥ずかしかったんだから。」

さっきの事を思い出し、顔が赤くなってくるのを感じる。

そんな私を見つめ、ニヤニヤと笑うマリを見てると再び怒りが湧いてくる。

 

「んでさ、ユウカ。今度は何処へ行くつもりなの?」

 

「ないしょ。行ってからのお楽しみ。」

はにかむ私の顔を見て、照れたように目線だけを逸らすマリ。

マリはたまに、良くわからない所で照れる。

長いこと一緒に居るが、未だに良くわからないマリの生態の一つだ。

 

 

 

 

おまちどうさま。

その声と共に、注文していた商品が目の前に置かれる。

私は月見蕎麦、マリは天ぷら蕎麦。

 

それらを食べ進めながら、私は大切な人と過ごせる時間を幸せに思う。

 

 

 

 

 

 

 

一つ電車を遅らせ、次の目的の駅へ。

ここからは電車を乗り換える。

 

本来の予定では、ここの駅でマリの為に近くの古本屋へと寄る筈だったのだが、もう時間に余裕は無い。

 

ぶーたれるマリの背中を押しながら特急列車へと乗り込む。

席へと座り、窓からホームに居る人々の営みを見つめる。

 

「ユウカは好きだね?そんなにリリンの生活を見てて楽しいものなのかにゃ?」

 

「私は好きだよ?…真実を知らずに過ごす姿は、どこか無垢で、明日からの旅路もまた、何事も無く過ごせるのだと思っている。

世界の黎明が、いつ来るのかも解らないのにね…。」

 

「まあ、そういった物事はいつも唐突だからね〜。

ほんと、まいっちんぐね。」

足を組み、頭の後ろで腕を組みながら、背もたれへと身体を沈めるマリ。

今までの経験が、マリの言動に出ているのを感じさせる。

 

 

通路を挟んで反対側の席へと誰かが座る音が聞こえてきた。

私は外へと向けていた視線を、そちらへと移す。

一人の少年が対面の席へと荷物を置いている。

その耳にはイヤホンをしており、音楽を聞いているのだろう。

 

 

私の視線を追い、マリも少年の姿をその視界に入れる。

マリの顔に浮かぶ、面白そうなものを見つけた時の表情。

 

運命の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うだるような暑さ。

アスファルトへと照りつける太陽により、温度の増した地面は陽炎を作り出している。

 

それ程の暑さでも、私とマリは汗一つかかずに街中を歩いている。

シャッターの降りた商店街には人の気配がなく、ただ蝉のなく声が聞こえてくる。

 

とある事情により、目的地へ到着することなく止まってしまった私達が乗っていた列車。

駅から歩いていると、先程列車の中で見かけた少年が公衆電話を手に持ち途方に暮れているのが見える。

 

「やあ、少年。そんな所でどうしたのかにゃ?」

マリがにこやかに彼へと喋りかける。

驚いたようにこちらへと振り返る少年。

 

「あ、あの、えっと、人と待ち合わせしていたんですけど、電車が止まっちゃって…それで…。」

しどろもどろになりながら、事情を話す彼。

 

 

ふと人の気配を感じて、そちらへと視線を向けると青い髪の少女が立っていた。

 

鳥の羽ばたく音。

電線に止まっていたカラスが一斉に飛び立ったようだ。

その音につられ、外していた視線を少女のいた場所に戻すと、もうそこには誰もいなくなっていた。

 

 

次の瞬間、強い衝撃波と空気を裂く音が聞こえる。

それに驚き耳を塞ぐ少年。

ふとこちらへと顔を向ける彼は、平然としている様子の私達を見て恥ずかしくなったのか、少し顔を赤くしている。

 

そんな彼へ私は、彼の背後を指差すようにして笑いかける。

その方向には国連軍所属の垂直離着陸型攻撃機が次々と空中を後退していく様子が見えた。

そしてそれらに続くように大きな足音のようなものが近づいてくる。

 

私達の視界に入る、巨大な二足歩行の生物。

その大きさは近くにあるビルを優に超えている。

 

現実離れしたその光景に、固まってしまう少年。

私とマリはその少年へと、二人だけで聞こえるように話をしながら近づいていく。

 

「いや〜、びっくりしちゃったにゃ。

やっぱり他人の空似という訳では無かったんだね。」

 

「まだまだこれからだよ。彼のことが今回の目的と言う訳ではないから…。」

 

「お預けをくらってる気分だにゃ。」

私のお尻を触るマリの手をつねりながら、言葉を返す。

 

「もうすぐマリも察すると思うよ。」

 

 

 

 

巨大生命体の攻撃により、こちらへと墜落してくる垂直離着陸型攻撃機。

 

それを察知して逃げようと振り返る少年は、いつの間にか後ろにいた私の胸へと顔を埋めるようにしてぶつかってしまう。

 

笑顔だが、どこか寒さを感じるマリの表情。

その視線は少年へと向かっている。

 

驚き、慌てている彼は私の胸を鷲掴みにしてしまう。

自分が何をしているか把握した彼は、私に謝ろうとするも、その前に墜落した攻撃機が少し手前で止まり、ホッとするのも束の間、間髪入れずに巨大生命体が浮き上がり墜落した機体を踏み潰す。

 

巻き起こる爆炎と、飛来する破片。

しかし、それらが私達へと届く前に、目の前へ滑り込むように一台の車が停車する。

 

 

「乗りなさい!碇シンジ君!」

車の助手席側のドアを運転席から開け、叫ぶように声をかける女性。

 

しかしその女性は私とマリを視認した瞬間、驚愕の表情を浮かべる。

どうして、と声にならぬ言葉を口の動きが表す。

 

 

少し時間が欲しい。

そう私が思った瞬間、巨大生命体が私達の反対側へと転倒する。

その動きで自分を取り戻したのか、女性は私達にも乗るように指示し、私へと咎めるような視線を送る。

 

 

車に乗り込んだ少年が女性へと確認するように声をかける。

「えっと赤木リツコさん?」

 

車に乗り込んだ私達を確認して、アクセルを踏みハンドルを動かす女性。

 

「ええ、そうよ。はじめまして碇シンジ君。」

そう彼へと挨拶をした後、バックミラー越しに私へと視線を向け、続けて口を開く。

 

 

「…ユウカ?なの?」

 

「はい、リツコ先生。」

私のその言葉を聞き、泣きそうになるリツコ先生。

 

「な〜るほどね。今回の旅の目的はリっちゃんだったんだ。…やっと見つけたんだね。」

納得するように頷くマリ。

 

 

 

 

シン槍アルベスへと至った3人の魂は、輪廻より外れてしまった。

それは地球の浄化へと必要なプロセスだったのだとムーンセル・オートマトンは答えた。

 

 

青い海。緑で覆われた大地。

使徒アザゼルの消滅。

 

 

地球の再生。

コスモリバースと名付けられたその現象は、3人の思いと記憶を元に、ムーンセル・オートマトンが展開した事象変遷能力を利用した現象だった。

 

その後人類補完計画が発動し、次のステージへと移行した人類は、エヴァンゲリオン・リルインフィニティという一つの完全な生命体に成りながらも、虚構世界にて相補性を保ち暮らしている。

 

しかし、その世界にはあの3人は居なかった。

奇跡の代償として…

 

 

 

まあ、私は非常にわがままなんだ。

だから旅に出たのだ。

探求の旅へと。

 

 

永遠の命。

それを持つ私は長い時間をかけて3人の行方を追い、色々な次元を旅してきた。

 

 

そんな途方も無い旅へとついてきた一人のおバカさん(愛しい人)

 

私の全てを受け入れ、私が造った肉体に魂を容れ、魂の補完をしたヒト。

新たな使徒となった、真希波・マリ・イラストリアス。

 

 

脳裏に浮かぶのは、マリと二人で歩んできた旅の想い出。

 

 

 

今、その長かった旅路が一段落を迎えようとしている。

 

 

「ようやく会えましたね。また会えると信じてました、リツコ先生。」

 

きっと私一人ではここまで来れなかった。

ありがとうマリ。

 

 

これからもよろしくね

 

 




ひとまずは、これにて本編完結となります。
ここまで読んでくださりありがとうございます。


シン・エヴァンゲリオンで終わりを迎えたエヴァンゲリオンの物語り。
あれも良い終わりなのかと思いますが、自分にとっては他の終わり方も有るのではと思いました。
碇シンジの物語りはきっと皆さんの中で色々あると思います。
自分にとっての青春の一つであるエヴァンゲリオンを、終わらせたくないという自己満足で書いた二次創作ですが、楽しんでいただけたのなら幸いです。


長門ユウカというオリジナルキャラクターの旅路は続いて行くかもしれません。







読まなくても良い裏話

当初のプロットではマリとのカップリングは無く、シンジ君とくっつくかも…という流れのはずがこうなった(汗)
それにバットエンドに近い予定だったのに。
全てはマリのせいです(笑)



この後、マルチエンドへ移りますが
カヲル君やシンジ君と主人公がくっつく訳ではありません。
シンジ君は皆の嫁!カヲル君はシンジ君の婿ですからね

4つ目のエンドは…恐らくマリは出ません(汗)


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アナザーインパクト
命の選択を


赤き惑星。

もはやアザゼルの肉体となってしまった、その大いなる母体に三位一体のシン槍・アルベスが深々と突き刺さる。

 

そこを起点に広がっていく、淡い光。

 

3人の魂と記憶がアルベスを通して、地球へと流れ込む。

 

数多の生命を育んできた星の記憶。

それを読み取り、シン槍を構成するレガリアが侵食された世界を再生させていく。

 

 

 

あと少しで全てが終わる。

そう思ったその時、残された赤い大地を割り、その中から巨大な球体が浮上していく。

 

マズイ!逃げる気か!?

 

そう思い至り、皆と思考を合わせ光のエヴァで追撃をかけようとするが、融合していた機体が解けていく。

制限時間!?予測よりも早い…

 

 

 

8号機に搭載していたオーバーラッピング装置により、半ば無理やり融合させていた反動なのか。

融合が解けた今、動く事が出来る機体は、全身をレガリア細胞により構成されていたMark7だけだった。

 

 

宇宙空間へと逃げていくアザゼル。

赤い巨大な球体となった奴の姿は、地上から見上げると、まるで紅い月の様にも見える。

 

 

 

動くことが出来ない皆のエヴァ。

 

地球とアザゼルの融合を解いたといっても、なおもエヴァよりも遥かに大きい相手だ。

恐らく、エヴァ単騎では相手にならない可能性が高い。

 

…。

しかし、このまま逃してしまったら、取り返しのつかない未来が訪れるのは明らかだ。

 

 

 

マリが乗る8号機を見つめる。

 

…会って、話がしたい。

しかし、ダウンした8号機の通信装置を修理している時間は無い。

それにエントリープラグを外に出す暇も…

 

 

統合体となった私は、翼を羽ばたかせる。

手元にアルベスの槍・オリジンを呼び寄せ上を見上げ、奴を睨む。

 

 

 

飛び立とうとしたその時、私の側へと舞い降りてくる巨体。

 

紫色のエヴァンゲリオン。

エヴァンゲリオン13+初号機が、限界を超え動けなくなってしまった2号機とMark9を抱えている。

 

『長門さん。』

こちらを見つめるシンジ君の瞳は、まるで炎を纏った刃のように、熱さと鋭利さを宿している。

 

彼が言いたいことは何となく察する事が出来た。

しかし、それを私が受け入れる事が出来るかは別の問題だ。

 

『いえ、今度は私がやります。』

貴方は既にやった事だから…。

言外にそう答える私に、彼は静かに首を振る。

 

『いや、僕が決着をつけるよ。今度こそ。』

優しい微笑み。

私が初めて合った時から変わらぬ彼の心。

覚悟を決めた彼は、何時だって止まらないから。

それは解っている。

 

だって、ワタシがそれを知っていたから…

 

 

 

抱えていた2号機とMark9を地面に横たえ、こちらへと向き合う紫色のエヴァ。

その手にはカシウスの槍を携えている。

 

 

『その槍を、アルベスの槍を僕に渡してくれ。長門さん。』

 

『いえ、貴方こそカシウスの槍を私にください。碇さん。』

 

 

方法はお互いに解っていた。

 

一つの魂でニ本の槍を扱う必要がある。

 

 

 

これが他の使徒なら、カシウスとロンギヌスで良かったのだが、奴の場合はカシウスとアルベスが必要だ。

 

『問答している時間は有りません。しかし、力尽くという訳にもいきませんね。

では後は心の中で、全てはそこで…。』

私の言いたいことは伝わっている。

 

 

カシウスの槍を引き、構えるシンジ君。

 

それに対して私はアルベスの槍を上段に構える。

 

お互い、相手を見つめる。

同時に踏み出す私達。

ぶつかり合う槍が甲高い音を響かせると共に、私とシンジ君の世界が交わった。

 

 

 

 

 

 

まるで微睡みから覚めたような感覚。

意識をすると、そこは火星の湖畔。

皆と遊んだあの場所だ。

 

心の中で相対する私達。

「現実世界に戻った時、1秒も時間は過ぎていないでしょう。

ここなら思う存分、時間が取れますよ。碇さん。」

微笑む私に、苦笑いするシンジ君。

 

Mark7となった私と、初号機となったシンジ君。

お互いその手には槍を握っている。

 

 

「お願いだ、長門さん。アルベスの槍を僕に…。」

 

「いえ、私は何度でも言いますよ…。

そのカシウスの槍を私にください。」

 

少しも譲ることが無いお互いに、苦笑いを交わす。

言葉だけでは解決しないことも有る。

 

 

疾走し槍を交える私達。

 

「碇さん。何故そうまでして自分で決着をつけようとするんですか?

その先に待っているものを知っている筈でしょう?」

疑問を投げかける私に、アルベスの槍を払い除けながら答えるシンジ君。

 

「知っているからこそだよ。そんな役目を長門さんに負わせたくないんだ。」

 

「それが、それが皆を傷つける事になるのは理解しているのに、何でそんな事を!

アスカとマナと綾波さんとマユミちゃんとサクラの気持ちはどうなるんですか!?

彼女達の気持ち、それに気づいて無いなんて言わせませんよ!

私が何年も見てきた、あの彼女達の想いはどうなるの!?」

怒りを顕にする私は、荒々しくも的確に槍を振るう。

 

「…気がついているよ。それでも僕は、君に幸せになって欲しいんだ。

だからこそ、君を救うために槍を手に入れる。」

 

「何故ですか?貴方にとっては私に馴染なんて無い筈なのに…。どうしてそこまで?」

 

「夢の中で君を見てたんだ。

そこで見た君は他人の為に、自分を犠牲に出来る人だった。

他人の為に喜んで、怒って、哀しんで…。

そして、楽しそうに過ごす姿は輝いているように見えた。

そんな君みたいになりたいって思ったんだ。

そうだね、…多分、僕は長門さんのファンなんだと思う。」

微笑んで喋るシンジ君から、つい目を逸らしてしまう。

正面から私を見据え、恥ずかしげも無くそんな事を言う彼に照れてしまう私。

 

 

そんな風にしながらも、彼が繰り出す槍を捌いていく私。

槍を操る技術は私が圧倒しているのに押しきれない。

 

 

 

以前から、彼が操る槍には既視感のような物があった。

今、打ち合ってみて解る…

彼の槍から読み取れる術理は、私のそれと似かよっているという事に。

 

見て覚えたのか。

ファンか…あながち間違っていないのかな?

 

 

槍を引くシンジ君に合わせ、身体を捻り遠心力を利用しカシウスの矛先を払いぬく。

体勢の崩れる初号機に渾身の蹴りを放つ。

腕でガードするが、吹き飛ぶ初号機。

 

例え、どれほど私を見てきたのだとしても、槍さばきでは負けることなんかない。

…今までだって、私は本気で槍を振るった事なんか無かったのだから!

 

両腕を、肘を、体動を駆使して槍を操り、大振りである攻撃を隙無く繰り出していく。

ギリギリのガードしか出来ないシンジ君。

 

「君こそ、真希波さんの事はいいの!?」

苦し紛れ。

私の動揺を誘うなら、それは失敗だ。

今の私は精神が揺れることなんか無い。

 

「貴方はこうと決めると、それ以外が見えなくなる癖がありますね。

私だって…貴方に幸せになって欲しいんだ!」

 

お互いの我儘を押し通さんという思い。

これは単なる私とシンジ君のエゴのぶつかり合いでしかないのだ。

 

 

荒い息づかいが聞こえてくる。

疲弊しているシンジ君を私は見据え槍を構える。

 

 

これが普通の戦いなら、既に決着は付いている。

だけど、そうじゃないんだ…

そうじゃ、ないんだ

 

 

大きく距離を取り、睨み合う私達。

 

お互いが同時に走り出す。

 

 

 

正面から相手を見据え、槍を振り上げる。

最後の踏み込みを行う私とシンジ君。

2本の槍がぶつかりあった瞬間、お互いの心に映し出される断片的な相手の記憶。

 

 

 

 

 

貴方は死なないわ、私が守るもの。

 

 

私の事、アスカで良いわよ。私もバカシンジって呼ぶから。

 

 

いつか、いつか逢いに来るよ。

 

 

私もシンジ君みたいに頑張れるかもしれないって。

 

 

僕は君に会うために生まれてきたのかもしれない。

 

 

碇さんが、皆がエヴァに乗らんでも良いように!

 

 

行きなさい!シンジ君!誰かの為じゃなく、貴方自身の願いの為に!

 

 

済まなかったな、シンジ。

 

 

逃げなよ、早く逃げないと死んじゃうよ?

 

彼女の姿を見ると、私のココロが揺れていくのを感じる。

それが他人の記憶の中の姿だとしても

 

 

 

マリ…

私は、

 

私…

 

 

 

 

___________、マリ。

 

 

そんな言葉が世界を覆う

 

 




シン・エヴァンゲリオン
100億円突破おめでとうございます!

100億円記念何かやるかな?


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命の選択を 〜男の戦い〜

マリの姿が脳裏によぎった瞬間、ふと言葉が口をついて出る。

 

 

マリ、愛してる。と

 

それは意識すらしていない事だった。

その言葉は世界を覆い、私の中に響き渡ったのだ。

 

 

 

私、こんなにもマリの事を?

それを自覚した時、私の瞳が熱を持つのを感じる。

 

溢れ出る感情は涙として顕れた。

 

 

 

 

 

私達の戦い。

それは他人から見たら、きっと一瞬の事だったのだろう。

虚構と現実が合わさった時。

心の中での戦いは、現実での決着となっていた。

 

 

 

唖然とした私は宙を回転する槍の柄を見つめる。

 

弾き飛ばされた槍は、大きく空中を回転し、その矛先を地面へと沈めた。

 

 

私は、自らが乗るMark7の両手を見つめる。

 

 

 

 

 

 

その手の中には、何もない…。

先程まで確かに槍の重みを感じていた筈なのに、今はただ寂しさしか感じない。

 

地面に刺さるアルベスの槍を、シンジ君が掴み取る。

紫色の機体の背中は彼の決意を訴えているように感じた。

 

 

ごめんね。

アスカ、マナ、綾波さん、マユミちゃん、サクラ、カヲル君。

 

私、負けちゃった…

 

 

 

 

何年も努力してきたんだよ。

皆で。

シンジ君を助けるのだと、皆と約束したのに…

 

 

それなのに、最後に私は、マリの事を思ってしまった。

愛しい人の事を。

 

 

その人ともっと一緒に居たかったって…

そう思ったんだ。

 

思って、しまったんだ。

 

 

 

 

大粒の涙が頬を伝う。

年甲斐も無く声を出し、大泣きする私が居る。

負けた事に不甲斐なく思う自分と、どこか安堵している自分。

それがなおさら罪悪感を煽る。

 

 

「長門さん、皆の事をよろしくね。

このままじゃあ、長いことプラグの中に閉じ込められてしまうだろうから。」

下手したら皆が死んでじゃうよ。と穏やかな表情をしながら、私に声をかけるシンジ君。

 

 

整理された心には、その先に待つ出来事の不安など無いと人は言う。

まるで眠りにつく前のような、明日という新たなる旅路を前にしたような、凪いだ心を彼から感じる。

 

 

涙を流しながら、シンジ君の顔を見つめる。

 

 

私の返答を聞かず、光翼を展開し宇宙へと飛び立つエヴァ13+初号機。

その両手にカシウスとアルベス、2つの槍を携えて…。

 

 

 

 

 

 

皆が乗るエントリープラグをエヴァから取り出し、再生した地球の大地へと横たえる。

外へと出れた事を察したのか、各々プラグから出て来ていた。

 

それを見てエヴァMark7から降りた私は、涙を止め彼女達の元へと歩く。

事の顛末を説明する為に…

 

 

何一つ欠けることなく、私とシンジ君の事を打ち明ける。

語り終わった私は、視線を地面へと固定させていた。

いや、話している最中から?もしかしたら最初からかもしれない。

 

罪悪感が私の心を押しつぶす。

皆に目線を合わせられない。

 

そんな私に足音を隠すことなく近づいてくる人が。

目線を少し上に上げると、映り込む白のプラグスーツに赤いラインが入った脚。

 

アスカ…

勢いよく私に近づき、そのまま私の頭を強く抱きしめた。

 

「ホント最低ね。こんな女の子泣かすなんて…

あのバカシンジは!」

そういいながら私の頭を乱暴に撫でる。

 

「泣いてなんか、無いよ…。」

そう言う私に、アスカの優しい声が降ってくる。

 

「隠せてないわよ。その充血した目と腫れた目元。

泣いてたんでしょ?バカユウカ。」

 

何で、何で…

止めた筈の涙が溢れてくる。

 

「ごめん!ごめんね!皆!

私、碇さんの事、止められなかった!」

叫ぶように謝る私。

じゃないと哀しみと悔しさ、罪悪感で溺れる私は、きっと声が出なかったから。

 

集まって来る皆の気配。

私を囲むように皆が抱きしめてくれる。

 

皆、何でこんなに優しいの…

 

 

 

 

 

その後、エヴァを回収しに来たヴンダーと合流し帰路へつく私達。

 

シンジ君がインパクトを起こし、奴を消滅させた事はミサトさんも知っていたようだ。

私の説明を聞き、ただ一言「そう…。」とだけ呟いた彼女の心境を全て察っすることは出来なかった。

だが、私の頭を撫で、艦のブリッジから退室するミサトさんの背中は何処か寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

人類補完計画が発動し、リリンは新たなるステージへと至った。

 

 

エヴァンゲリオン・リルインフィニティ。

一つになりながらも、その世界で相補性を保ち、補完されながら過ごす彼らは幸せそうに見える。

 

エヴァの中で住まうリリン達は、まるで端末を動かすかのように、外界の肉体を操作して様々な準備をしている。

 

 

新しくヴンダーの主機となるエヴァンゲリオン・リルインフィニティ。

そのヴンダーを改造していくリリン達を見ながら、私達は修理したエヴァの調整をしていた。

 

 

ナンバーズは全員が、人類補完計画という楽園に入ることを拒んだ。

それは、ただ一つの目的の為だった。

 

 

今はまだ外界に出ることが出来るリリン達だが、いずれ肉体が朽ちてしまうと、外界へは出られなくなる。

2つの世界を行き来することが出来るのは今だけなのだ。

 

しかしそれでは、私達の目的とは相容れない。

故にナンバーズは皆、楽園へと入らなかった。

 

 

 

 

ある人は

「あいつと一つになれないなら死んだ方がマシよ。」と言う。

 

ある人は

「私は、私の願いの為に生きるわ。」と言う。

 

ある人は

「私はシンジのお嫁さんだから、迎えに行かないとね。」と言う。

 

ある人は

「私、人の顔を伺うのは辞めたんです。

だから、シンジ君と一緒に生きるために…今を生きます。」と言う。

 

ある人は

「碇サクラって名前、良いと思いませんか?

お兄ちゃんも応援しとるし、頑張るよ!」と言う。

 

ある人は

「新しい僕が次の世界へと移行した今、僕はなんの力もないヒトに過ぎない。

だからシンジ君に逢いに行こうと思ってね…便乗させてくれないかい?」と言う。

 

ある人は

「一つ、ななちゃんの為に!二つ、ななちゃんの為に!三つ、ななちゃんの為に!

迷子のワンコ君を迎えに行こうか。」と言う。

 

 

そして私は

「どこにいても、必ず迎えに行きますから。

待っててくださいね、碇さん。」

と、そう誓う。

 

 

 

 

私達の新たなる旅路。

偉大なる遺産(ヴンダー)を船にして、世界を渡る航海へと出発する。

 

 

無理やりインパクトを起こした代償として、

この世界から弾かれてしまった彼を迎えに行くために。

 

 

 

 

 

 

ああ、美しき世界よ。どうか、

桜の花がせせらぎを流れるように、優しく彼の元へ導いて…

戦いの前に、彼女達がした彼への口づけが、最後の機会とならぬように。

 

 




シンジ君ルート完結です。
基本的に前話からの分岐でマルチエンドとなります。

故に前半は同じ展開となります。


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命の選択を 〜最後のシ者〜

カヲル君ルート
命の選択をからの分岐となります。


マリの姿が脳裏によぎった瞬間、ふと自然に言葉が口をついて出る。

 

 

マリ、ありがとう。と

 

それは意識もしていない事だった。

そしてその言葉は世界を覆い、私の中に響き渡ったのだ。

 

 

ありがとう、感謝の言葉。

ずっと、私を助けてくれていたマリへの言葉。

 

それと同時に思い出す、とある約束。

その約束を私が守るために、どれだけ彼女が助けてくれたのか…。

それを自覚した時、私の瞳が熱を持つのを感じる。

 

動揺してしまう私。

何故、泣いているの?私は…

 

 

 

 

 

 

 

私達の戦い。

それは他人から見たら、きっと一瞬の事だったのだろう。

虚構と現実が合わさった時。

心の中での戦いは、現実での決着となっていた。

 

 

唖然とした私は宙を回転する槍の柄を見つめ、流れを追う。

 

弾き飛ばされた槍は、大きく空中を回転し、その矛先を地面へと沈めた。

 

 

私は、自らが乗るMark7の両手を見つめる。

 

 

 

 

 

 

その手の中には、何もない…。

先程まで確かに槍の重みを感じていた筈なのに、今はただ寂しさしか感じない。

 

 

視線を槍へと移す。

地面に刺さるアルベスの槍とカシウスの槍。

 

 

まさかこんな決着だなんて…

これじゃあ、締まらないね。

 

お互いに、様子見をし合う私達。

しかし時間は余り残されていない。

 

 

 

シンジ君の方が2本の槍に近い。

地面を蹴り、手を伸ばし、槍を掴もうとする13+初号機。

取らせまいと私もエヴァを走らせるが、ふと私の横を高速で通り過ぎる物体。

視界に映る13+初号機の背後へと飛来する影。

 

アルベスとカシウスの槍に気を取られているシンジ君はそれに気がついていない。

 

 

その影はシンジ君が乗るエヴァを背中から安々と貫き、エヴァを完全に停止させた。

 

その影の正体は赤い二叉の捻れた槍。

そう、ロンギヌスの槍だ。

 

 

そしてロンギヌスが飛んできた先を見ると、そこにはエヴァMark6と、その眼前に生身で浮かぶカヲル君の姿があった。

 

 

 

 

 

私に近づいてくるカヲル君とMark6。

ATフィールドを介して、意志のやり取りをする私達。

 

「良かったの?こんな事をして…。」

未だに唖然として、驚きを隠せない私に、苦笑いをしながら彼は答える。

 

「シンジ君には酷いことをしてしまった。

しかし、これで良いのさ。

彼らには止まっていて欲しかったからね…。」

停止してしまったエヴァ13+初号機を見つめるカヲル君。

その眼差しには優しい色が見える。

 

「そっか…。それじゃあ、後は私がやるから槍を頂戴。」

そう言う私に対して、緩やかに首を振るカヲル君。

拒否された事に驚く私を感じたのか言葉を紡ぐ。

 

「シンジ君を止めたのは僕だ。

だから、あとは任せてくれないかい?

それに君にも大切な人が居るからね。」

だから僕がやるのだと。

それでも渋る私に言葉を続けるカヲル君。

 

「感謝してるんだ、長門さん。

君が居なかったら、ここまで来れなかった筈だから。

…僕は今回もシンジ君を助ける事を諦めていたんだ。

しかし、それを救ってくれたのは君がしてくれた約束だった。

アザゼルと呼ばれた彼は、僕の繰り返しから生まれた一種の抑止力の様な存在と言っても良い。

それをどうにかする方策は僕に無かったのに…。

君が、君たちがその絶望打ち払ってくれた。

彼を生命の書から消す方法が見つかった。

そのおかげで、次の世界から彼が出てくることはもう無いだろうね。

だから、ありがとう。

君に会えて良かった。」

カヲル君にしては珍しい程のにこやかな笑み。

 

 

「…私こそありがとう、カヲル君。

いや、お兄ちゃん。」

少し悪戯な笑みを浮かべながら、そう呼ぶ私に驚くカヲル君。

同じ使徒なのだから、貴方が兄。

 

「お兄ちゃん、か。

兄妹とは素晴らしいね。

長門さん、…いやユウカ。

僕はもう大丈夫だよ。答えは得た。

だから、これからも頑張っていくよ。」

心配要らないと、にこやかに言う。

そして宇宙を見上げ呟いた。

 

 

「希望は残っている。どんな時でもね。」

それが、カヲル君が得た答えなんだね。

 

 

 

 

 

カヲル君を見送りながら、皆を動かなくなったエヴァから救出していく。

 

 

外に出られたことを察したのか、各々エントリープラグから外に出てくる。

自然と一箇所に集まる私達。

そこで大きな赤い月が消滅するのを皆で見届ける。

 

目元を押さえ、肩を震わせるシンジ君。

時折、込み上げてくる感情を押し殺したかのような声が小さく聞こえてくる。

そんな彼の周りを囲むように、5人の女性が寄り添う。

それを私とマリは、手を繋ぎながら見守っていた。

 

これが、私とカヲル君の見たかった終演。

 

…ねぇ、カヲル君。

本当にこれで良かったのかな?

 

 

 

 

 

人類補完計画が発動したリリンは、次のステージへと進む。

火星を新たなるリリンの本拠地として、地球には新たな生命の種を蒔いた。

 

 

以前までのリリンは、自らの発展の為に地球を破壊していた。

だからなのだろうか?

彼らは地球を離れることにしたようだ。

 

ヴンダーの主機として、自らの肉体であるエヴァンゲリオン・リルインフィニティを使い、星の大海原へと船を出す。

いずれ新たな生命が文明を築いた時に、邪魔にならない様に。

 

 

それとヴンダーの守り人として、定期的にエヴァに乗れば肉体の朽ちることがないエヴァパイロットが選ばれたのは当然の帰結だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

最終決戦から数年が経ち、遂にリリンは新たなる旅路へと出発するようだ。

 

それを見送るのは、私とマリ。

QRシグナムとアルベスにより繋がった私達とエヴァンゲリオン・リルインフィニティには、距離なんてものは意味を成さない。

会おうと思えば、リルインフィニティが構築する虚構世界で何時でも会える。

 

だから寂しさは無い。

 

 

 

 

火星の地表から、飛び立つヴンダーを眺め感傷にひたる。

彼らがこの火星に来たのが、まるでついこの前のような感じだ。

 

そう思うのは、マリと二人きりで同じように空を見上げているのも有るだろう。

 

 

「行ったね。…ねえ、ユウカ。

この後、何処へ行くつもりなの?」

唐突に口を開くマリ。

 

彼らが旅立つ準備をしていた頃、私達もまた同じように準備をしていたのだ。

 

「…ちょっとだけ後悔している事があるの。

だから追いかけようかなってさ。」

空を見上げながら答える私。

 

そんな私を見つめるマリ。

そちらを向かなくても、感じる視線。

 

「何となくユウカの考えている事、解るよ。

でも私としては少し複雑かな?」

 

見上げていた顔を戻し、疑問符を浮かべる私に言葉を続けるマリ。

少し恥ずかしそうにしている。

 

「いや〜。実はちょっち嫉妬してたんだよね、彼に。

ユウカが妙に信頼してたからさ…。」

そう言い、目線をそらしながら頬を指で掻き、苦笑いする。

 

「それでもついて来てくれるんでしょ?」

背けたマリの視線に回り込むように動き、マリの顔を覗き込む。

 

「あたり前田のクラッカー。私は君のパートナーだからね!」

にこやかに笑うマリ。

そんな彼女へと伝える言葉は唯一つ。

 

「ありがとう、マリ。

それじゃあ私達も行こうか!」

白いプラグスーツを着た私達は手を繋ぎ、野原を駆け出した。

 

 

その先に待つ、エヴァンゲリオンMark7の元へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある惑星の遥か上空に位置する宇宙空間で、極秘の軍事作戦が行われようとしていた。

ノイズに被われた音声が、電波に乗って真空の暗闇を飛び交う。

その音声は、任務を担う少女達の耳へと届いていた。

 

 

『追跡班、全機の現在位置を報告。』

 

『ポッド・ツー・ダッシュ、作戦高度に到達。予定軌道に乗った。』

 

『ポッド・エイト、軌道投入に問題発生。高度が足りない。』

 

『確認した。以後はツー・ダッシュとセブンでのオペレーションへと切り替える。』

 

『了解。ポッド・エイトを直援。ポッド・セブンは遊撃シフト・デルタへ移行。遊撃に専念せよ。』

 

『ポッド・ツー・ダッシュ、不帰投点を通過。エリア88に侵入。』

 

オペレーターの音声通信が次々と発せられる。

作戦はなんの問題も無く進行しているように見えた。

 

『了解。これより、US作戦を開始。』

スピーカーから芯の強そうな女性の声が流れる。

声の主は葛城ミサト、その人であった。

 

『了解。ポッド・ツー・ダッシュ、作戦最終軌道に投入開始。減速行動へ移る。』

女性オペレーターが、それに応じて状況を展開させていく。

 

『第一弾、全エンジンを点火。燃焼を開始。』

男性オペレーターの音声が聞こえた直後、輸送ポッドが激しい明かりを放って、暗闇の中に幾何学的なシルエットを浮かばせる。

 

『S1C、燃焼終了。減速を確認。』

 

『第一弾、ブースターユニットをジェットソン。』

ポッド本体から4つのブースターユニットがゆっくりと分離する。

そして、充分な距離に達したところで推進装置が作動し、本体の軌道を外れて宇宙の闇へと消えて行った。

 

 

『分離を確認。電装系をチェック。異常なし。』

 

『了解した。燃焼タイミングはオート。第二弾全エンジンを点火。』

 

二度目の点火によって、暗闇の中に局所的な明かりが灯る。

ポッドの周囲には、大量のデブリが浮遊していた。

 

『S1C燃焼終了。圧力弁を閉鎖。』

 

『第二弾、ブースターユニットをジェットソン。』

ブースターユニットが本体から分離すると、本体を見送る星屑となって消えていった。

 

『減速行動を終了。』

 

『最終作戦軌道への投入準備。機首を反転。回頭開始。』

 

『降下角度、確認。誤差、修正内。』

輸送ポッドは、細かく推進装置を噴射しながら体勢を整えてゆく。

その全貌は、二本の大きな支柱に挟まれた巨大な楯であった。

支柱は末広がりの三角錐で、まるで電波塔の足下をロケットエンジンにして積んだような無骨な形をしている。

 

『相対速度、再計算。座標高度を再確認。すべて問題なし』

 

『軌道最終修正完了。』

 

『180℃回頭完了。』

 

『了解。ポッド・ツー・ダッシュ、交叉起動への遷移スタート。これより、作戦行動へと移る。』

 

『現時点で全てのリモート誘導を切る。

以後の制御はローカル。』

 

『では、グッドラック。』

輸送ポッドは、ゆっくりとした浮遊状態から一転して、重力に引き寄せられるようにして急降下を始めた。

その先には、赤い星、かつて青かった地球が広がっていた。

 

赤いヘルメットとプラグスーツに身を包んだ少女は、エントリープラグの中で次々と状況を伝える映像ディスプレイに意識を集中していた。

通信モニターからは、オペレーターの通信に混じって、緊張感の無い少女二人の鼻歌がシンクロして聞こえていた。

その鼻歌は、赤い少女のエントリープラグの中へと入り込んでいる。

 

『目標との交叉起動に乗った。接触まで残りハチマル。』

 

『目標物を確認。』

 

『接触地点に変更なし。』

 

『シフトMを維持。問題なし。』

赤い少女は、操縦レバーを握りしめながら、様々なスイッチを押して機体の微調整に努めていた。

 

『ツー・ダッシュはランデブー用意。セブンは護衛に専念せよ。

エイトが高度不足のため、再突入までの96秒間だけ援護可能。

それまでにケリを付けて。』

 

ミサトが緊張感のある声で作戦への士気を引き締める。

その時、エントリープラグにアラートが鳴り響き、正面の映像が切り替わった。

 

『目標宙域に反射波あり。妨害が入った。』

 

『自動防衛システムの質量兵器だ。問題ない。』

次の瞬間、ポッドの進行方向に多数の爆発が発生した。

急降下中のポッドは、そのまま爆発の中へと突っ込んでいく。

 

『爆散流発生。到達まで3・2・1…。』

カウントダウンが終わるや否や、金属を激しく打つ音が何度も響き渡る。

それと共に強い衝撃が赤い少女の乗るエントリープラグを揺らす。

 

 

『続いて第二破。パターン青、厄介な連中だ。』

 

『接近中の物体を識別。コード4Aと確認。』

 

オペレーターの声と共にレーダーがそれを捉えて間もなく、超高速の飛行物体がポッド・ツー・ダッシュ目掛けて突っ込んで来た。

 

飛行物体は、円盤状の本体の平面に二本の爪を生やし、それを前方に突き出した状態で体当たりを仕掛けてきた。

機体の目の前に現れる位相空間による防御壁、ATフィールドが飛行物体の進路を塞ぐ。

しかし、

 

『アンチATフィールド!?』

飛行物体の爪が、赤い少女の乗った機体前方に展開されたATフィールドへと突き刺さる。

そして、錐のようにし回転しながらATフィールドに穴を空けると、二本の爪を左右に開いてそれを引き裂く。

 

そのまま飛行物体は、ATフィールドを失った機体に向かって、すぐさま散弾銃のような攻撃を浴びせる。

楯状の装甲板に蜂の巣のように穴が開く。

 

『ちっ、タチ悪い!ええいっ!やっぱり…邪魔っ!!』

赤い少女は、ヘルメットを強引に脱ぎ捨てて髪を振り乱しながら前を向く。

インテリアの上で前のめりになった式波・アスカ・ラングレーの左目は眼帯に被われていた。

 

彼女の操る機体は、敵の攻撃で破損した楯を捨て去ると、そこにはエヴァンゲリオン改2号機が姿を表した。

 

 

『コネメガネ!コネモドキ!

いつまで歌ってんのよ!うっとおしい!』

アスカは、暖気な歌声の主に苛立ちを向けながら、特攻を仕掛けて来る飛行物体を弾き返して応戦する。

先程まで漂っていた静寂の中の緊張感はどこかへ消え、宇宙空間は一瞬にして戦場へと化した。

 

再び改2号機のATフィールドに食らいついた飛行物体を、今度は遠方から鼻歌の主の一人が狙撃して撃破する。

 

『援護射撃、2秒遅い!』

アスカは苛立った顔で、狙撃の方角を睨みつける。

 

『そっちの位置、3秒早い。』

アスカが睨んだその先には、二枚の楯に挟まるように身を隠したもう一体のエヴァが浮かんでいた。

そのエヴァの機体をすっぽりと被う楯の先端からは、長いライフルの銃身が突き出している。

 

『臨機応変!合わせなさいよ!』

ピンクのプラグスーツに身を包んだ少女が乗るエントリープラグの中に、アスカの声が響き渡った。

 

真希波・マリ・イラストリアスは、それを聞きながら次の獲物へと照準を合わせる。

 

『仰せの通りに…お姫様っ!』

マリは、正確な射撃によって次々と飛行物体を破壊していく。

 

同じように、もう一つの白い機体も動き出し飛行物体をライフルを操り撃破していく。

しかし、その動きは他の機体と大きく違いがある。

また機体には、ブースター等が取り付けられていなかった。

 

それでも宇宙を自由に移動するそのエヴァは、どこか異質な物のように見える。

 

 

『フラーレンシフトを抜けた!最終防衛エリア89を突破!』

アスカの操るエヴァ改2号機は、マリの掩護射撃の合間を縫うようにして敵の攻撃を躱して進む。

 

『!?…目標物が移動してる!』

アスカが見据えたその先には、目標物となる黒い固まりが浮かんでいた。

 

目標物は、十字架のような形をした巨大なコンテナだった。

黒く平坦な目標物の背後には、赤く染まる地球が迫っている。

 

『軌道修正が追い付かない!このまま強行する!』

とアスカは叫ぶ。

 

エヴァ改2号機が、目標物のコンテナに向かって三発のワイヤーロープを発射する。

ワイヤーロープの先端が、コンテナの表面に張り付いて固定される。

そのままの勢いで一度コンテナを追い越したエヴァ改2号機は、ワイヤーの反動を利用して減速し、そのままワイヤーを巻き上げて目標物へ急接近して行った。

 

 

『っ!減速!!』

コンテナにしがみついた改2号機は、進行方向に対して反対側へと機体に取り付けられた巨大ブースターの足を向けると、そのまま点火する。

巨大な火柱が二本吹き出して、目標物の慣性を沈めて行く。

 

『8、7、6、5、4、3、2、1……燃焼終了!』

燃料を使い切ったブースターは、その役目を終えて改2号機から切り離されると、推進装置を噴射して本機が取る軌道の外へと進路を向けた。

 

『2ダッシュ、最終ブースターをジェットソン。

再突入保安距離を確保。』

 

『強奪成功。帰投するわ。』

アスカは、息を荒げて胸を大きく上下させた後、呼吸を落ち着かせて外の景色に視線を向けた。

 

『了解。回収地点にて待つ。合流コードはサターン・ファイブ。』

ミサトの声が無線から流れる。

 

『了解…。』

無事に任務が果たされ、アスカは緊張の糸を緩めた。

 

 

 

しかし、休む暇もないまま、突然エントリープラグ内にアラートが鳴り響いた。

モニターには、即座に状況を解析したコード次々にが表示される。

そして映し出されるパターン青のコード。

 

 

『パターン青!?どこにいるの!』

アスカは顔色を変えて周囲を見渡した。

しかし、敵は何処にも見当たらない。

 

『妨害物はコード4B。フィールド反射膜を展開中!』

 

オペレーターの音声が届く。

 

 

なんと、敵は目の前にいた。

 

アスカが捕えたコンテナは、正方形の面をサイコロの展開図のように面を広げていき、あっという間に薄く長い触手を作り上げてしまった。

 

『ちっ、しゃらくさい!再突入直前だっちゅうの!』

 

アスカはその光景を目にしながらも、全く怯む様子を見せない。

 

 

『コネメガネ!援護!』

アスカは、マリのいる方向へ顎を向けて激を飛ばした。

しかし、マリの乗った機体は、掩護射撃を一発打ち込んだところで大気圏への突入を開始してしまう。

仕方なく超長距離ライフルを手放したエヴァ8号機は、正面の楯を蹴り飛ばして着陸体勢を取った。

 

『めんご!高度不足でおっ先に!

あとはセルフサービスで…よろぴくぅ〜。』

 

『ちっ、役立たず!ああ、もう、しつこい!

こんなの聞いてないわよ!』

アスカは苛立ちを押さえ切れずに、改2号機の足でコンテナを何度も蹴りつける。

まるで地団駄を踏むように。

 

 

『コネモドキはいったい何してんのよ!』

怒りを顕にして叫ぶアスカ。

 

そんなアスカへもう一人の声が届く。

 

『ん〜?今は残敵掃討中だよ〜ん。

そもそもシフト・デルタは少し遠すぎるって。

上の作戦ミスってやつ?

まあユウカと二人きりで宇宙デートだと思えば、最高の作戦ミスだにゃ!』

 

白いプラグスーツを着たマリと瓜二つの少女。

差異といえば、スーツの色か、眼鏡をしていないことと、金色の瞳だろうか?

 

以前から、自らが乗る白いエヴァを、ユウカと名付け呼ぶ少女。

そんな乙女思考をしているというのに、悪びれもなく嗤う。

 

そんな彼女の態度に舌打ちをするアスカ。

『コネメガネ!アンタのシリーズ、ムカつくわね!何とかしなさいよ!』

 

ギリギリ通信可能位置にいたマリは、そんなアスカへ答える。

『いや〜、私は認知しておりませんで…。

クレームはネルフの広報部へお電話をお願いしたいにゃ。』

 

 

本人曰く、ネルフにより作られたとされているマキナミシリーズ。

その彼女がエヴァンゲリオンMark7という白い次世代型のエヴァを強奪し、合流してきたというのは一年程前。

 

マキナミシリーズとの事だったが、

しかし、本人は[長門マリ]と名乗った。

 

 

 

そんなやり取り等知らぬと、コンテナから伸びた触手は、波打ちながら一つの束となって収束していく。

触手はコンテナと改2号機を取り囲むようにして輪を作ると、光を帯びて激しく輝き出した。

 

触手が放った光は、一点に集中して改2号機の顔を焼き付けるように照らす。

それを受け、眼帯で隠したアスカの左目が急に発光する。

 

『うわっちっちっちっち!なにこの光!?ATフィールドが中和してない!』

 

LCLで満たされたエントリープラグ内に、アスカの左目から血の色をした気泡が吹き出す。

 

『コアブロックをやらないと!ん?…逃げんなゴラァー!』

しかしコンテナの中心にあった円盤状のコアが、平面状の触手を伝って改2号機から離れて行く。

 

『ヤバい!降下角度が維持できない!このままじゃ機体が分解する!』

きりもみ状態で急降下を続けるコンテナと、必死でそれにしがみつくエヴァ改2号機。

 

『ツー・ダッシュ、作戦遂行を最優先。

機体を捨ててでも、目標物を離さないで。

…致し方ない。セブンは作戦を変更。目標の回収を優先して。』

ミサトの通信が改2号機の込み入った状況に割って入る。

 

『分かってるっちゅうの!』

アスカは果敢に体勢を立て直そうとするが、触手の放った光が臨界点を突破し大爆発を引き起こす。

 

『うあっ!』

衝撃で上半身を後ろに弾き飛ばされたエヴァ改2号機。

しかし、その姿勢を戻した時には、左肩から先が完全に失われていた。

 

『ぐうううぅぅぅ…。』

痛みに喘ぐアスカ。

大きく損傷した改2号機に対して、次々と触手の放つ光が襲いかかる。

チクチクと刺すような痛みと、爆発の衝撃を繰り返し浴びたアスカは、思わずコンテナに向かって叫んでいた。

 

『何とかしなさいよ……!バカシンジ!!』

その声に答えるようにして、コンテナに赤い亀裂が入る。

次の瞬間、紫色の光が一直線に伸びたかと思うと、一瞬のうちに触手を切り刻み、細切れにしてしまった。まるで海の藻屑のように。

その後直ぐに、強力な電磁砲が逃げ出したコアを追い立てるようにして放たれると、少ししてそれを安々と破壊した。

 

 

アスカは、唖然とした表情で目標物を見ていた。

その視線の先には、赤い亀裂の隙間から人の目のようなものが覗いていた。

その目は、ゆっくりとまぶたを閉じて、再度の眠りの中へと入っていったかのように見えた。

 

 

再び訪れる静寂。

目標物と改2号機は、青い光を放ちながら大気圏へ突入し、そして成層圏へ沈み込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、碇シンジ君。待っていたよ。」

戦闘が起きた宇宙空間の遥か彼方、地表からその光景を眺める一人の少年の姿があった。

 

銀髪の少年は、全てを知っているかの表情で、地球に向かって降下する光を見ている。

 

しかし、次の瞬間驚いたように視線を少しだけ横にずらす。

 

 

「そうか、まさか君達までこんな所に…。

お転婆な妹を持つ兄とは、こんな感じなのかな?」

苦笑いを浮かべる少年は、しかし何処か安心したような雰囲気に変わる。

 

 

「久しぶり。…本当に久しぶりだね、ユウカ、真希波さん。

君達に会える日も楽しみだよ。」

 

 



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命の選択を 〜ヒトの形、ココロの形〜

シークレットエンド。
この話は、マリを含め皆とのお別れになります。

それと、主人公はその設定や、作られた性質上バイセクシュアルであります。


苦手な方は、ブラウザバックでお願いします!


マリの姿が脳裏によぎった瞬間、ふと自然に言葉が口をついて出る。

 

 

マリ、ごめんね。と

 

それは意識もしていない事だった。

そしてその言葉は世界を覆い、私の中に響き渡ったのだ。

 

 

 

それを自覚した時、私の瞳が熱を持つのを感じる。

 

しかし、涙は流さない。

これは私が決めたことだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

私達の戦い。

それは他人から見たら、きっと一瞬の事だったのだろう。

虚構と現実が合わさった時。

心の中での戦いは、現実での決着となっていた。

 

 

唖然とした私は宙を回転する槍の柄を見つめ、流れを追う。

 

弾き飛ばされた槍は、大きく空中を回転し、その矛先を地面へと沈めた。

 

 

私は、自らが乗るMark7の両手を見つめる。

 

 

 

 

 

 

その手の中には、アルベスの柄が握りしめられている。

 

 

 

視線を、地面に刺さる槍へと移す。

刃を土の中へ埋めるカシウスの槍がそこには有った。

 

 

 

『何で、何で僕は大事なときに限って!!』

インダクションレバーを殴り、自身への怒りを顕にするシンジ君。

そんな彼は俯き、肩を震わせている。

 

 

『私は、これで良かったと思っています。

だって、これは私の我儘だから。

お互いの我儘をぶつけ合った結果、私の方が頑固だったって事なだけ。

だから、自分を責めないで…。

私が貴方に願うのは、皆の想いに向き合って欲しいと言うことだけです。それがどんな結果でもね。』

 

涙を流しながら、私を見つめるシンジ君。

その視線を受け止めながら、カシウスの槍を手に持つ。

 

2本の槍を携えて、翼を羽ばたかせる。

 

『私、皆に出会えて良かった!!』

この一言をATフィールドに乗せて広げていく。

さよなら、それは別れの言葉。

 

 

 

急上昇し加速する私。

 

 

朱い月を見据え、これ迄の道のりを思い出す。

 

実際に一緒に過ごした時間は、私の人生の半分にも満たなかったけど、確かに愛情を注いでくれた家族。

 

会えるなんて、思ってもいなかった人達との楽しかった日常。

 

辛かったけども、けして忘れたくない戦いの記憶と、それに携わった人達の事。

 

そして、彼女と一緒に見た火星の夜空。

 

 

喜びも、怒りも、哀しみも、満足感も、生も、死も、愛も。

全てを飲み込んで、私の意識は世界を覆う。

 

 

私の元へと飛来してくるロンギヌスの槍。

 

 

ムーンセル・オートマトンにより導かれた私の思考は、確実性に欠ける新たなインパクトで無く、別の答えを選択する。

 

 

 

カシウス、ロンギヌス、アルベス。

それら(希望)(絶望)(意識)が一つに成った新たなる槍の創造。

最果てへと至る槍、聖槍アルベス。

 

一つとなった、槍を掲げ、その矛先を奴に向かって振り下ろす。

三千世界より来たりし幾億もの槍が姿を表し、アザゼルの肉体へと音速を超えて迫る。

 

もはや大瀑布となった大量の槍は、奴が生成した触手やアポストル達ごと飲み込んでいく。

 

 

 

 

 

月の様な巨大な肉体すらも脱ぎ捨てようと、エヴァ並の大きさをした影が藻掻くように外へと出てくる。

 

 

それはまるで資料で見た4号機のような姿をしている。

 

 

アザゼルがリリスへと到達する前日。

奴は、人知れずエヴァ4号機を乗っ取り、ネルフ本部へと進行した。

度重なる使徒との戦いにより疲弊し十分な迎撃が出来なかったネルフは、リリスと、4号機に乗り移っていた奴との融合を阻止できずニアサードインパクトが発生してしまった。

 

その際奴は、所詮仮初の肉体であったエヴァ4号機を捨て、新たな肉体を創り出した。

 

その4号機が今、Mark7へと存在を変えてアザゼルを追い詰めている。

 

 

4号機のコアに有った魂は、汚染されてはいたが確かに存在していたのに、新生する際に奴はその魂を見捨てていた。

それがMark7の事故の原因であり、

アザゼルの残り滓と私が称したモノの正体。

 

それもまた、アルベスの槍という存在に姿を変えて奴を追い詰める要因となっている。

 

 

今、そのMark7と、アルベスの槍と一つに成った私は、巨大な肉体から抜け出そうと、地を這い藻掻く奴を見下ろしている。

 

魂の切符を渡した際、彼が保険の為に私へと移したネブカドネザルの鍵が、漸く馴染んだ。

量子テレポーテーションを使い移動した私。

 

 

私を見上げる奴の顔を見つめる。

 

 

そして私は槍を振り上げる。

 

ふと、奴の顎部が動き表情を変える。

それはまるで私を嘲笑っているかの様に見える。

 

 

身体へと走る衝撃と激痛。

足元から生えた鋭利ないくつかの触手が、私の機能中枢を貫いている。

 

口元から溢れ出る血液。

 

 

勝ち誇った奴の顔を見据え、冷たい視線を送る。

最後まで、奴は自分の事しか考えられなかった。

4号機のコアに触れて、ココロを持った奴だが、結局は考え方を改めることなんか出来ないようだ。

 

 

振り上げた槍に力を込める。

 

「三千世界に、その魂の屍を晒せ!」

 

怯えるように、その身体を震わせ、逃げようと自らの肉体を切り離すアザゼル。

しかし、もう遅い!

 

「逃げ場なんて無いよ。ここが貴様の終焉だ。」

繰り返しも輪廻転生も無い。正真正銘、これが終わりというやつだ。

 

逆手に持った槍を振り下ろす。

矛先が奴へと突き刺さった瞬間、聖槍アルベスは真価を発揮する。

 

奴の存在を、多重次元に至ってまで、未来永劫消し去る変わりに、私の魂も消滅する。

 

光に包まれる感覚。

その先の不安は無い。まるで、眠りにつく直前のような気持ちだ。

 

 

マリ。ごめん、ありがとう、愛してた。

 

 

私の瞳が降りる瞬間、私はワタシから切り離される。

白に覆われた世界で、離れていくワタシへと手を伸ばす。

しかし、そんなワタシは私に優しい笑みを浮かべるだけ。

 

 

遠のくワタシ。

 

落ちていく意識。

 

 

 

 

…。

 

 

次に目が覚めた時、私は赤い水の中にいた。

身体を起こし、水の中から勢いよく出る。

 

立ち上がり、辺りを見回す。

 

赤い海、そして白い砂浜。

 

 

遠くには崩れた巨大な綾波さんの顔が、存在感を発していた。

 

 

 

 

散策する私だが、何も見つけられない時間が続く。

 

砂浜を歩く私の目の前に、横たわる人影。

漸く見つけた人の姿に嬉しくなる私。

 

 

駆け寄った私は、その人物の様子を観察する。

上下する胸元。

良かった…、生きてる。

 

安堵し、その人物の頭を持ち上げ、自らの太腿へと乗せる。

 

 

 

何でだろうか?どうして私はこんな行動を取っているのかな?

疑問に思うも、膝枕くらいは良いかと思い直す。

 

 

 

 

早く起きてくださいね、見知らぬ誰かさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ている。

寝る前に読んだエヴァの二次創作の影響なのか、その夢には真希波・マリ・イラストリアスが出てきた。

 

彼女は自分を見据え、何かを喋っているが、その内容が頭に入ってこない。

そんな自分の状態を把握したのか、肩をすぼめる。

 

 

そして寂しそうに笑う。

 

唐突にマリに突き飛ばされる。

身体が落ちる瞬間、聞こえてきた言葉。

今度はやけに鮮明に理解出来た。

 

「…ななちゃんを、ユウカをよろしくね。」

 

そう彼女が言っていたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう、何か硬いような、柔らかいような感触が頭に。

目を開くと、そこには一人の少女の顔がこちらを覗いていた。

 

金色の瞳。

茶色の髪の毛。

物凄く整った顔。

日本人のハーフかクオーター。

そんな感じの美しい少女。

 

 

「起きましたか?バイタルは正常のようですが、気分が悪い所とかありますか?」

そう声をかけてくれる、その少女。

 

どこかで聞いたときが有る声だ。

アニメの声優の声に似てる気がする。

 

周りを知覚すると、膝枕されている自分が…。

 

驚き、身体を起こす。

そして声を出そうとするが、声が出ない事に気がつく。

 

そんな姿を見て、目の前の少女がこちらを観察するように見つめる。

 

「ATフィールドが定着しきっていないのですね。しばらくしたら喋れるようになると思いますよ。」

 

…ATフィールド?

ATフィールド!?

え、どういうこと?

困惑する自分に、少女は微笑みながら話す。

 

「ATフィールド。ご存知なんですね?

うん、うん。…そっか、マリがアナタを。

…ごめんなさい。少しだけアナタの記憶を覗かせて貰いました。

それにしても、こんな事があるんですね。

あ、えっと、はじめまして?長門ユウカです。

…。

でも、アナタは私の事を知っているみたいですね。

ふふっ、まさか、私が二次小説の登場人物なんて。」

驚いたように表情を変える彼女。

 

 

え。

ドッキリ?いやいや、こんなドッキリ誰がするの。

二次の登場人物ドッキリなんて…

 

そう考えを巡らす自分に、ドッキリじゃないですよ。と思考を読み、返事をする彼女。

しかし、その口は動いてなく、耳から聞こえた声でもない。

頭の中に聞こえてくる不思議な感覚。

 

…もしかして、テレパシー?

 

 

 

 

そんなテレパシーを通じ、やり取りをする自分たち。

 

この世界から外へと出るためには、自分が彼女のパイロットになるしか無いとのこと。

 

今の、魂の欠けた彼女には、自身のエヴァとしての機能を十全に発揮出来ないそうだ。

だからパイロットが必要なのだと…。

 

 

ここから外に出たら何処へと行き着くのか。

元の世界に帰れるのかを聞いた。

 

その質問に対して、彼女は申し訳なさそうに答える。

「この世界から、そう遠くない次元世界に出ると思います。

今の私とアナタのシンクロ率では、多分元の世界へ戻ることは出来ません。

あの、ですが、いずれシンクロ率が高くなれば帰ることもできます。

私にはその機能が有りますから、安心してください!

それにシンクロをしていれば、歳も取らないですし!」

引きつった笑み。

自分でも無茶苦茶な事を言ってると自覚しているようだ。

 

でも、まあ仕方ない。

 

 

こんな世界から近い次元ってなると、もしかしてエヴァの世界かな?

 

まさか、自分がエヴァの…

彼女のパイロットになるだなんて。

 

 

 

パイロットになるという決意を彼女へと送る。

 

それを受け取り、笑顔で手をこちらへと差し出す少女。

同性、異性どちらから見ても可愛いと思えるような彼女に微笑まれると、少し気恥ずかしくなる。

 

自分へと差し出される手を、握り返す。

その瞬間、自分はエントリープラグの中で座っていた。

 

 

凄い。

エントリープラグだ!と感動する。

 

慣れないLCL。

そしてシンクロする自分と彼女。

 

外の景色が映ると同時に、自分の感覚が広がっていくような感じがする。

全能感と、暖かさが自分の中を駆け巡っていく。

 

 

成功の実感。

緊張していた自分が安堵するのを知覚する。

 

ふと、彼女の事を知った二次創作小説の題名を思い出す。

彼女にとっても想い出が有るであろう、あのセリフを自分も言ってみる事にした。

今なら声も出そうだ。

 

 

はじめまして、長門ユウカさん。

「はじめまして、私のエヴァンゲリオン。」

 




これにてマルチエンディングも終了になります。
皆さんの思っていたマルチの感じとは違うかもしれませんね(汗)

最後に登場してきた人物は、読者さんでもよいですし、見知らぬ誰かでも、良いです。

男性、女性どちらでも構わないですし、くっつく、くっつかないも皆様の自由。

そう、皆様のココロのままに。


今までお付き合い頂き、ありがとうございます!



外伝、bパート、後日談をもしかしたら書くかも?
あとは私のモチベ次第かな?
ひとまずは、もう少しだけ後日談を一部書こうかなとは思っています。


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〜Beautiful Journey:Apocalypse〜
黙示録の記憶、そして…


新章。
マリエンド、Airアフター。



お試しリクエスト作品。前編


コスモリバースと呼ばれる現象により、再生した地球。

そこに住まうのはセカンドインパクト以前に生存していた動植物と、どうしても人類補完計画を受け入れられなかった極一部のリリンのみ。

 

そんな地球を観測していた衛星が、強力な次元振動を観測。

その後、観測地点にてパターン青を検知する。

 

まさか、アザゼルを仕留めきれていなかったのか、と焦るがその波形は奴の物では無かった。

 

しかし、使徒は使徒。

このまま放置しておく訳にもいかない。

 

人類防衛を担う組織となったヴィレは、この事態にエヴァンゲリオンによる迎撃を決定する。

 

しかし諸事情により、現在ヴンダーを戦場に出す事は出来なかった。

そして、ヤマト決戦後、戦力を解体していた人類には、新たに現れた使徒への対抗手段がナンバーズ専用のエヴァンゲリオンしか残されていない。

 

出撃するのは、さらなる調整と強化を施されたエヴァ13+初号機、通称エヴァ最終号機。

2号機、5号機、Mark6、Mark7、8号機、Mark9。

そして、Mark10とMark11を融合させた通称Sエヴァの、計8機のエヴァンゲリオンだ。

 

その他にも、残されたNHGの一隻であるエルブズュンデ。

その主機を流用して建造された、

[第四世代型・超光速恒星間航行用・超弩級万能宇宙戦艦ヱクセリヲン]をエヴァンゲリオンの母艦として運用を決め、出撃に至る。

 

 

そのエクセリヲンの中でエヴァMark7に搭乗しながら、母艦とリンクを繋いだ私は、青い地球を眺めている。

 

何度見ても飽きない、生命の躍動感が溢れたその光景。

未だに動物の絶対数は足りないが、徐々にだが戻ってきている生態系。

それが、この星の雰囲気を形作っているように感じる。

 

 

オペレーターから通信が入る。

どうやら誘導ビーコンの準備が出来たようだ。

この後は、私達航空隊の出番。

 

 

『カタパルト・オールグリーン。射出いけます。』

オペレーターの報告を聞き、ミサトさんが頷き号令をかける。

 

『エヴァMark7、Mark9、Sエヴァ、最終号機。発進!』

 

起動するカタパルト。

全長7キロにも及ぶ巨大な戦艦は、それ相応に横にも縦にも巨大だ。

格納庫から出るにもカタパルトが必要な位には。

 

勢いよく宇宙空間へと射出される私達。

暗闇をATフィールドの輝きが切り裂いていく。

カタパルトとフィールドによる推力、その勢いに身を任せるだけで、地球へと近づいていく。

 

 

陣形は単縦陣。

先頭から、Mark7、Mark9、Sエヴァ、最終号機の順番だ。

 

 

防御力が一番高いMark7を先頭に、次点の防御力を誇る最終号機を最後尾に配置。

 

援護能力が高いMark9を二番目にし、作戦の要であるビーコンを持つSエヴァを守る形になっている。

 

それにしても、Sエヴァのフォルムは独特だ。

膝から下が一本の刃を取り付けた様な特装義足はMark11のままだが、二対の腕の一つが、折りたたまれ背部へと、その先には巨大な鉤爪状の手がマウントされている。

 

 

 

少しすると、降下ポイントへ到達した。

私が展開する多重ATフィールドで、抵抗を遮断して作戦領域を目指す。

 

 

大地が近づく。

緑に覆われた、美しき世界が私達を包み込む。

人工物が何一つなく、植物が支配するその領域は、私が知る地球とは思えない。

まるで、別の惑星に来たのではないかと錯覚する程に。

 

 

地面へと着地する私達。

私はアルベスの槍を手に、周辺を警戒するように見回す。

 

ビーコンの設置に移るSエヴァを守るように私とシンジ君が、それぞれ反対側を警戒する。

上空には綾波さんが、天使の背骨を構え、同じように周囲を見渡している。

 

 

それにしても、使徒は何処へ行ったのか…。

確かにパターン青を検知したというのに、今は影も形もない。

 

 

ATスフィアを周囲に展開し、ATフィールドを音波のように広げていく。

 

このATフィールドの波に接触すると、敵を感知できる仕組みだ。

これで、どれだけステルス能力が高い敵だろうと、近づいてくるなら察知出来る。

 

 

『準備できました。皆さん、誘導ビーコン装置から距離を取ってください。』

マユミちゃんの報告を聞き、距離を取る私達。

 

 

装置から上空へと伸びていく光の柱。

その先には母艦エクセリヲンが待機していた。

 

 

大きくなっていく光の柱を眺めながら、人類の叡智がここまで来たのかと、感慨深くなる。

 

 

増減するボソン粒子とタキオン粒子。

一際強くなった光が収まると、先程まで何もなかった場所には、4機のエヴァンゲリオンが立っている。

 

QRシグナムを利用した時空間跳躍装置。

それにより転移してきた2号機、5号機、Mark6、8号機。

そんな彼、彼女らは感心したように辺りへと視線を飛ばしている。

 

『ふ〜ん、なかなかやるじゃない。』

アスカの心を体現したかのように、腰に両手をあてて、辺りを見回している2号機。

感心するアスカに、誇らしげに頷く8号機。

 

『当然だにゃ。ユウカと私が設計したベイビーだからね。

これくらい、お茶の子さいさいよん。』

私達が携わったのは基本設計だけなんだけどね…

ドヤ顔で自慢げなマリに、声を挟めないでいる私。

 

『…皆集まったし、ひとまずは使徒の追跡をしようか。』

皆をまとめるように、声を掛けるシンジ君。

我が強く、自由人な皆をまとめられるのは、やっぱり彼だけだ。

私も、マユミちゃんも、サクラも、中々シンジ君のようには出来ない。

 

次元振動とパターン青を検知できた地点はここから近い。

使徒という巨大な生き物が移動したなら、何かしらの痕跡が残っている可能性が高い。

 

 

 

 

『あれ?たしか、ここだよね?』

マナが頭を掻きながら、小首をかしげる。

次元振動の影響か、周辺が焦土となった場所を見つけた私達だったが、いくら周囲を探索しようとも痕跡を見つけられないでいた。

 

ゼロ地点に残る放射能も、不自然にその場で留まっている。

そこから使徒が移動したなら、放射能を足跡のように残していくと考えたが、おそらくはATフィールドによって痕跡を消して動いていると仮定するべきか。

 

『…おかしい。そもそも残りの使徒は存在しない筈なのに、何故新しい使徒が現れたのか。』

口元に手をあて、エヴァの搭載コンピューターが出力するデータに目を走らせるカヲル君。

 

『次元を揺るがす現象が気になる。なぜ使徒はこんな目立つ行動を?』

ゼロ地点に戻り、情報を精査しながら意見を述べる私。

 

『私達をおびき寄せる罠とか?』

思いついたことを口にするマナ。

その意見しか私も思いつかないが、しっくりと来ない。

わざわざ、こんなことをする必要があったのか…

 

『だとしたら、使徒がこの辺に居ることになりますよね?』

サクラが警戒したようにキョロキョロと見回す。

しかし、ここまで姿を消しているとなると先手を譲ることになる。

 

『ん~、この次元振動がどうして起こったか調べた方が良いかもね。囮にするにしても少々大げさ過ぎだにゃ。』

マリが電子ウインドウをスワイプしながら、意見を述べる。

時間はかかるけど、マリの意見が一番堅実か。

 

 

ゼロ地点で膝を地面につき、Mark7をガブリエル統合体へと変成させて、ムーンセル・オートマトンを使い原因を調べようとした、その時、遠方にて高エネルギー反応が増大するのをセンサーが捉えた。

 

一斉にその方向へと振り向く私達。

 

光の奔流が迫る中、同時にATフィールドを展開する8機のエヴァンゲリオン。

 

今まで経験した中で、一番の威力を見せる、その攻撃を受け止めるATフィールドは、まさに不可侵領域に相応しい防御力を発揮する。

 

光が収まる前に、既に行動を開始していた。

音を置き去りにして大地を駆け、距離を詰める私達は、大きく開いていた敵への距離を詰めていく。

そんな私達の行動が、予想外なのか動揺した様子を見せる使徒。

 

囲むように位置取る私達。しかしその使徒を認識した瞬間、不自然に固まってしまう。

 

 

…その使徒は、まるでどこか見たときあるような相貌をしている。

 

『第3の使徒?』

マリのキョトンとした声が響くが、それに返すのは同じく唖然としたシンジ君。

 

『いや、第5の使徒だと思うけど。』

 

『アンタ、バカァー?

どっちかっていうと宇宙からダイブしてきた使徒でしょ。』

 

『いえ、頭の上の八面体の物は第6の使徒よ。』

 

今まで、襲来してきた使徒を混ぜたかのような姿。

唖然とした私達と使徒は見つめ合う。

 

 

『よし。…解ったわ。この使徒の名前は以降、キングシトエルとします。』

真面目にそんな名前をつけるミサトさんに、脱力してしまう私達。

通信に映るオペレーター達も引きつった顔をしているのが見て取れる。

 

『はいはい、で、そのキングなんちゃらは殲滅でいいのよね?』

ミサトさんの行動に慣れているのか、獰猛な笑みを浮かべながら一応確認を取るアスカ。

 

そうして頂戴と、返答するミサトさん。

 

 

それを聞くや、新調したビゼンオサフネで斬りかかるアスカ。

横合いからの神速の踏み込みに対して多重ATフィールドを展開して防御を試みる使徒だが、そのフィールドを残さず私に中和される。

 

動揺し硬直する使徒。

 

しかし、その動揺は一瞬であった。即座に己を取り戻し、ベルトアームを杭のように打ち出して2号機を迎撃するキングシトエル。

それを回避して内に潜り込もうとする2号機に対応し、そのずんぐりとした巨体に似つかわしくない速度で距離を取る。

同時に荷電粒子砲を撃とうと頭上の正八面体が形を変えていく。

 

 

飛びかかる5号機と最終号機。

同時に投擲体勢を取る、私とMark6。

その手に握りしめた槍へとATフィールドを侵食させていく。

 

飛びかかる2機のエヴァを打ち払おうと、蛇のような胴体を回転させる使徒。

視界を覆う程の砂塵を巻き起こしながら、その巨大な胴体から繰り出される攻撃は、しかし、割って入ったSエヴァと巨大なシールドを持つ5号機により受け止められる。

 

 

宙を舞う砂塵を突き抜けるように、使徒へと迫る2本の槍。

そんな私とカヲル君による投槍を防ごうと、その背中にあるサハクイエルのような形の器官を動かし衝撃波を展開する。空間を奔る強力な衝撃波により勢いを失う私達の槍。

 

 

チャージを終え、荷電粒子砲を撃とうとするキングシトエル。

しかし、発射と同時に撃ち込まれる重粒子弾により粒子ビームが拡散させられる。

 

攻撃の邪魔をした綾波さんに顔を向ける使徒。

 

その第4の使徒の様な顔から放たれるビームは、マリが放った侵食型ATフィールドを纏った弾丸と接触して、空中で爆発する。

圧縮したエネルギーが拡散し、空間を奔る光が使徒の視界を覆う。

 

 

その隙に再び懐へと潜り込もうとする2号機。

そんな2号機から再度距離を取ろうと試みる使徒だが、その行動を見越していた5号機のシールドバッシュをもらい、体勢が大きく崩れる。

 

振り抜かれるビゼンオサフネ。切断されたベルトアームが、その勢いに流され血潮と共に飛んでいく。

 

 

伽藍堂の眼窩を光らせ、懐の2号機を睨みつけるキングシトエル。

徐々に強くなっていく光を見据えるアスカは、ピンチの筈なのに不敵な笑みを浮かべる。

 

その笑みの理由は私にも解っている。

何故なら使徒は、最も目を離してはいけない相手を見失っているからだ。

 

 

使徒の頭上へと目線を移す私。

その先にはカシウスの槍を振り上げ、落下してくる紫色のエヴァ。

 

落下エネルギーと共に、振り下ろされるカシウスは使徒の頭上にある正八面体を砕き、そのまま顔ごと胴体を縦に断つ。

 

コアにはかろうじて届かなかった最終号機の一撃。

しかし、もはや使徒には、継戦能力は残されていないのは明白だった。

 

後はとどめを刺すだけ…。

 

シンジ君による最後の一撃を待つ私達だが、不自然に止まった最終号機は微動だにしない。

 

『どうしたの?碇くん。』

不思議に思った綾波さんが声をかける。

 

『ごめん。僕には、この使徒を殺せない。

…殺したくないんだ。』

 

感情を押し殺したかのような声。

らしくない彼に困惑する私達。

いったい、どうしたというの?シンジ君。

 

『今更、博愛主義にでも目覚めたわけでは無いでしょ?どうしたのよ、シンジ。』

心配そうに伺うアスカ。

そんなアスカに、ポツリポツリと返答するシンジ君。

 

『槍で使徒の身体を斬った瞬間、記憶のような、感情のような物が流れて来たんだ。』

 

『記憶?』

 

『…こことは違う何処か。でも近い場所。

そこでは、外から来た黒い巨人が破滅を振りまいていた。

溶けていく多数の魂。それを貪り喰う奴から、この使徒は逃げて来たんだ。

ただ、生きたいと願って…。』

きっと、使徒から流れて来た感情にあてられたのだろう。

ただでさえ優しい人だから。

 

アルベスの槍を持ち、瀕死の使徒へ近づく私。

そんな私へと、懇願するように、半分に欠けた顔を向けるキングシトエル。

 

多分、私が同類なのを感じ取っているのだろう。

 

ごめんね。

ここはアナタが生きるべき所ではないの。

一つの星には、一種類の生命しか生きられない運命なのだから…。

 

槍を引きコアを狙う私。

さよなら、キングシトエル。

 

 

 

槍を突き出そうとした、その時、私の後方の空に突如として出現する空間の歪み。

段々と大きくなる黒い歪みは、重力波の異常と周りに奔るプラズマを伴い広がっていく。

 

『こんなんありえないし!何なのこの数値!

色んなパラメーターが振り切れてんじゃん!』

エクセリヲンから地球を観測しているミドリの、悲鳴の様な報告が通信から漏れてくる。

 

『あの時と、サードインパクトと同じ…。』

唖然としたミサトさんの声が聞こえる。

余りにも急な出来事に、頭が追いついていかない。

 

 

重力異常により、特異点へと隆起していく大地。

そして、遂に開くガフの扉。

 

このままではマズイ!

飛び出そうとする私を、手で遮り制止するシンジ君。

 

 

ガフの扉の奥が一瞬煌めく。

人知を超えた速度で飛来するそれを、私はアルベスの槍で渾身の突きを放ち迎撃する。

 

激突するアルベスと、飛来してきた槍状の武器。

強い衝撃により、空気が破裂し、足元の大地が粉々に砕けていく。

 

勢いに負け、あらぬ方向に飛んでいく、飛来してきた槍。

統合体でなかったら迎撃出来なかっただろう威力に驚愕する。

 

 

ガフの扉を睨みつける私達の視界に映る、黒いヒト型。その大きさは恐らくエヴァと同じくらい。

 

満足に動かない身体を引きずるように、あのヒト型から距離を取ろうとするキングシトエル。

その姿はまるで、怯えているようにも見える。

 

 

シンジ君の言っていた記憶。

外から来た黒い巨人か。

 

あれを見た瞬間から身震いが止まらない。

 

悪意を纏ったかのような黒いカラーリング。

最大望遠で観測したヒト型の姿は、色以外はエヴァ初号機と同じ形をしていた。

それは、取り巻きを伴い大地へと降下する。

 

 

はっきり言って、理解が全く追いつかない。

だけれども、一つだけ理解した事が有る。

アレは生きとし生けるもの、全ての存在にとって敵なのだと…。

 

 

 

 

 

 

黒いエヴァがこちらへと来る前に、シンジ君が見た記憶を皆で共有していく。

アレは恐らく、キングシトエルを追ってここまで来たのだろう。

あの使徒が隠れていたのはその為だ。

 

 

シンジ君へと流れて来た記憶から読み取れるのは、黒いエヴァが世界を移動して、その度、その世界の全ての生命を溶かし、魂を捕食しているという事。

 

新種の使徒が出るよりもたちが悪い。

負ければ世界が終わるだなんて…

 

 

 

 

 

 

悠々と歩いてくる敵の姿を見つめる。

 

相対する私達と黒いエヴァ。

その手には、先程私が弾き飛ばした槍を持っている。

側には宙を浮く黒い大型の銃と、隣に立つ赤黒いエヴァが居る。

…あの浮いている銃からATフィールドを感じ取れる。

まさか、生きてるの?

 

 

 

睨み合う双方の口火を切ったのは、黒いエヴァ。

私達を見下すように顎を上へ向けて、首を掻っ切る仕草をする。

 

へぇ、凄く人間的ね…。

 

見え透いた挑発に、敢えて乗るのはアスカ。

激昂したようにビゼンオサフネを下段に構えて踏み込んでいく。

 

同時に、援護するように、黒い大型の銃と赤黒いエヴァへと撃ち込まれる弾丸。

その銃撃をATフィールドを展開して防ごうとするが、情報宮装備弾が即座にフィールドを破りダメージを与える。

そんな黒銃と、赤黒いエヴァへと接近する5号機とMark6。

 

斬り込んでくる2号機を、腕を組んで見据える黒いエヴァ。

その姿は、余りにも余裕が有り過ぎる。

 

 

それを見据え、私は以前までは使えなかったムーンセル・オートマトンの能力、その一部をコントロールする。

未だに使用するにあたり、アンカリングが必要な程に集中力と精神の安定が重要な能力。

 

 

 

ビゼンオサフネを振り抜こうとする2号機を見つめる。

もし敵が罠をはっているなら、このタイミングだろう。

 

一拍、手拍子を打つ。

 

その瞬間、2号機と赤黒いエヴァの位置が入れ替わる。

途端に赤黒いエヴァが大地へと叩きつけられる。

しかし、周りには何も無い。

 

姿の見えない敵が居るのか、それとも…。

 

 

『ふ〜ん、そういう事。挑発なんてするから何が待ってるのかと思えば、ちゃちな罠ね。』

ニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべるアスカ。

 

『しかし、ATフィールド感応波で調べても何もありませんよ。』

Sエヴァによる探査にも引っかからないなら、本当に存在していないのだろう。

マユミちゃんの報告から推察するに、恐らくは位相コクーンに潜伏し、そこから直接攻撃している。

理論的にはとんでもない事だが、敵もエヴァの系譜ならば不可能とは思えない。

 

 

 

孤立を避けたマナが黒銃より距離を取った事により、仕切り直しとなる。

 

黒銃を乱暴な動作で手に取り、2号機へと向けて射撃する黒いエヴァ。

ATフィールドを安々と貫通し頭部へと迫る弾丸は、咄嗟に射線から身体をずらしていた2号機の右上の目を削り、後方へと抜けていく。

 

吹き出す赤き血潮。

それと同時にアスカの舌打ちが聞こえる。

 

即座に綾波さんが天使の背骨で撃ち返すも、直撃したと思った弾丸は、しかし敵をすり抜け後方に着弾する。

 

 

飛び出す2号機を追うように、最終号機も黒いエヴァへと距離を詰める。

 

そんな両機の前に位置を変える赤黒いエヴァ。

迎撃しようと2号機へと蹴りを繰り出すが、私が手拍子を打つと、2号機と黒いエヴァの位置が変わる。

 

赤黒いエヴァの蹴りは、黒いエヴァをすり抜けた。

 

それを見て、黒いエヴァの背後に居るシンジ君は即座に擬似シン化形態へと移行し殴りかかる。

そんな最終号機の方へと身体を向け、余裕そうに立つ黒いエヴァだが、最終号機の殴打は機体をすり抜けずに直撃し、黒いエヴァを吹き飛ばした。

 

追撃をかける私達。

黒いエヴァと5号機が接敵。

 

即座に黒銃を放り投げ、槍を手に取る敵。

 

槍と大盾がぶつかり合う。

盾の表面を滑る槍の矛先は、外側へと流れていく。その勢いを利用して体勢を変え、蹴りつける5号機。

その5号機の攻撃もすり抜けずに直撃する。

 

 

‘’無‘’という概念を纏うことにより、そこに有るが無いという矛盾を成立させていた黒いエヴァ。

しかし、擬似シン化した最終号機により‘’有‘’を付与された事により、慣れ浸しんだ防御を取れないでいるようだ。

 

 

黒いエヴァへと畳み掛けるように攻撃を加えようと、5号機とMark6が2方向から迫る。

 

大盾によるシールドバッシュと、槍による刺突が黒いエヴァへと襲いかかるその時、急に大きく体勢を崩すMark6。

その後直ぐに、5号機も同様に体勢が崩れる。

 

そんな5号機の隙を付くように、槍を繰り出す黒いエヴァ。大盾故に、一度崩れたバランスが仇となり無防備を晒す。

黒いエヴァの持つ槍の矛先が、5号機のコアを狙う。

 

回避も防御も出来ない5号機。

既に‘’無‘’を取り戻したのか、8号機とMark9の射撃を物ともしない黒いエヴァ。

 

 

マナ!

私達の声がシンクロして響く。

 

咄嗟に手拍子を打ち、5号機の位置を変えようと身構えるが、急に機体の顔面を殴打される。

 

乱れる集中力。

作動しない事象変遷能力を怨めしく思う。

 

 

現実は無情にも流れていく。

殴打により吹き飛ばされ、流れていく視界の中、5号機に迫る絶望を見つめる。

 

後少しが、どうしても足りない。

 

 

ふと、黒いエヴァと視線が合う。

ニヤリと嗤う奴の表情が瞳に、脳裏にこびりつくのを感じた。

 

 

 

 



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The Beast

身体を精一杯捻り、迫りくる槍の矛先を回避しようとする5号機だが、無情にも胸元へと吸い込まれていく切っ先は、血飛沫を伴いながら大きな傷を与えていく。

 

そんな絶望を振り払うかの様に、5号機へと直撃する多重ATフィールドの煌めき。

押し出される様に吹き飛ばされていく5号機だが、槍をそのまま突き刺されるよりはマシな結果だろう。

 

 

『ナイスよ!ユウカ!』

アスカが私の方へ向き、喜びの声を上げるが、改めて私の位置を確認するとキョトンとした表情を浮かべる。

 

何故なら、私の位置からは多重ATフィールドを5号機に当てられないからだ。

 

一瞬私達の間に奔る沈黙は、皆の驚きと疑問を表している様に感じる。

まあ、実際私も驚いている。

何せ私は何もしていないのだから…。

 

 

敵の敵は味方という言葉が有るが、これはそういう事なのだろう。使徒がエヴァを助けるだなんて。

改めて周りを見回すが、その存在を知覚する事は出来なかった。

大した隠密能力だ。

 

 

 

体勢を直したカヲル君が黒いエヴァから距離を取り、最終号機と肩を並べ、警戒するように槍を構える。

 

アスカと綾波さんは、赤黒いエヴァと黒銃に対峙している。

 

マリは私の背後で周辺を警戒。

 

吹き飛ばされた5号機を介抱するようにSエヴァが抱き起こす。

しかし力の抜けきった5号機は、まるで未起動の機体の様に見える。

 

『うう、気持ち悪い。なんだろう。まるで熱中症になったみたいな…。クラクラする〜。

あれ?ていうか、エヴァが動かない?』

マナが胸元を押さえながら、言葉を発する。

 

私は5号機の情報を映す電子ディスプレイを引っ張り出し、眼前に持ってくる。

そこに映るデータを確認すると、シンクロ率が一気に起動指数を割っているのが見て取れる。

 

槍の刺突と同時に、エヴァへと侵食しているアンチATフィールド。それが一時的に、パイロットであるマナに大きな影響を与えている。

徐々に戻っているマナのシンクロ率だが、復帰には時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

通信越しに私とマリへ視線を送るアスカ。

彼女の言いたいことは解っている。

一番厄介な奴を何とかしろということだろう。

 

見つめ合う私とマリ。

肩をすぼめ、苦笑いをするマリ。

そんな彼女へと頷き、笑みを返す私。

 

そんな私達のやり取りを見ていたアスカは、確認する様に皆にも視線を送る。

各々反応を返すナンバーズを、不敵な笑みで迎える彼女。

そんな彼女の心の内を表すように、エヴァ2号機はビゼンオサフネを右手に持ち、巨大な刃を右肩に乗せるように置き、左手を腰に当て敵を見据える。

 

 

 

『じゃ、行くわよ。Gehen!!』

アスカの掛け声と共に、黒いエヴァへと駆けていく最終号機とMark6。

 

同時に、赤黒いエヴァへと踏み込みビゼンオサフネを振り上げる2号機。

 

そして、黒銃へ向けて重粒子弾を撃ち込むMark9。

 

 

それらの動きを見つめ、バックステップをして厄介な敵からの妨害対策をしつつ、手拍子を打つタイミングを図る私。

既に、位置を入れ替える対象は決めてある。

 

 

勢いよく私の両手が閉じていく。

その手が閉じるよりも早く、私の目に映る景色が大きく変わる。

 

私の目の前には、防御姿勢を取り、オーバーラッピング装備を展開した、背後にいた筈の8号機の姿。

 

 

レガリアにより深く繋がった私とマリに関しては、一定の距離内なら、手拍子を打つ必要もなく場所を入れ替えられる。

故に手拍子はブラフ。

 

 

オーバーラッピング機能により、触れたものを融合させられる8号機。

それを利用して、位相コクーンから敵を引きずり出すという算段。

 

 

8号機の機体に奔る衝撃が見て取れる。

敵からの攻撃を受けた瞬間、目の前の空間が歪む。

 

既に8号機へと踏み込んでいた私は、その勢いに身を任せ、空間の歪みに手を突っ込む。

体勢を立て直したマリも、私から少し遅れて、手を突き入れた。

 

『ATフィールド、全開!』

私とマリの声がシンクロする。

強く光りだす私達のATフィールドが位相コクーンの入口をこじ開けていく。

 

 

まるでガラスの割れたような音が響き渡ると同時に、位相コクーンが崩壊。

その先に潜伏していた敵の姿を視認した瞬間、私を襲ったのは凄まじいまでの嫌悪感だった。

 

いままでに感じたことが無いほどの激情が心の内を駆け巡る。

怒り、哀しみ、嫌悪。それと形容し難い負の感情に戸惑いながらも、眼前の敵を睨みつける。

頭にザアザアと血が登っていくのを感じる。

 

 

何故私は、こんなにも怒り狂っているのか解らない。

目の前がクラクラするが、同時に敵の姿だけははっきりと認識している。

 

 

…キモチワルイ

 

 

 

 

 

 

気が付いたら、目の前の敵へと踏み込み、顔面へと殴打を繰り出していた。

すかさず防御の腕が差し込まれ、捌かれる。

 

そのままの勢いで、流された腕を折り曲げ、体動を使い、肘で顔面を狙う。

後退する事により回避されるが、私は流れていく身体を利用して、裏拳で発勁を叩き込む。

咄嗟に防御した敵だったが、予想よりも大きい威力の攻撃だったのか、防御姿勢が崩れる。

 

後ろへと仰け反った為に、晒している首元を両手で思い切り握りしめる。

そのまま足を刈り、押し倒しマウントを取って、さらに両手へと力を込める。

 

 

 

折れろ、折れろ、折れろ、折れろ、おれろ、おれろ、オレロ、オレロ!!

 

感触で解る、後少しだ。

 

 

 

 

 

ふと全身へと奔る衝撃。

視界が目まぐるしく変わっていく。

 

…誰かに抱き着かれてる?

 

視界に映るのはピンク色。

 

マリ?

 

 

『ユウカ、正気に戻った?』

マリの声が聞こえる。

私。

 

『なんで?後少しで…。』

唖然としながらも、責めるようにマリへと視線を移す。

そんな私の頭に、叩かれたよう衝撃が奔った。

驚き、そちらに振り向くと、手を振り抜いたであろう2号機の姿。

目線が合うと、直ぐに顎をしゃくる。

 

その方向へと顔を向けると、先程の敵のすぐ近くに黒いエヴァが槍を持ち佇んでいた。

 

 

 

全く、周りが見えていなかった。

そっか、助けて貰ったんだ、私。

 

『マリ、ごめん。』

謝る私に、マリは微笑みながら言葉をかける。

 

『無問題!ユウカが無事なら、それで良し!』

 

いつの間にか、私達の周りには皆が居た。

敵もまた、一箇所に集結している。

 

仕切り直しか…

 

 

『どうしたん?ユウカ。ホンマ珍しい事もあるね。冷静さを無くすなんて。』

サクラの声に謝罪しながら苦笑いをする。

 

先程よりも落ち着いている。

今は、もう大丈夫。

 

 

 

ふと視界の端で、ゆっくりと動く5号機を見る。

起動指数には達したようだが、戦闘に耐えられるシンクロ率ではないみたいだ。

 

 

5号機の護衛として、Sエヴァがその場に残り、私達は駆け出す。

 

 

 

 

敵もまた、呼応するように動き出す。

 

位相コクーンへ戻ろうとする敵と最終号機の位置を入れ替え、同時に最終号機の居た場所へと殴打を入れる。

 

瞬時に適応し、私の殴打を受け止める敵を見据える。

黒い靄を纏った姿のヒト型、それと格闘戦を繰り広げる私。

敵の動きは八極拳をベースにした、我流の格闘術。

それは、私と全く同じ術理であった。

 

相手の動きが手に取る様に解る。

敵もまた、私の動きを直ぐに把握していく。

 

最初、私が押していたのは機体性能の差が大きかったのだが、それに慣れた敵は技術でもって差を埋めてくる。

 

 

お互いに腕をぶつけ合いながらも、相手の体勢を崩そうと、腕を絡めていこうとする。

 

同時にお互いの腕を捌いた為か、両者共に体勢が斜め前方へと崩れる。

私は、そのまま八極拳・鉄山靠を繰り出すが、相手も同様に動いていたため、痛打にはならなかった。

 

2つの鉄山靠のぶつかり合い。

衝撃に耐えられなかった地面が大きく砕け、バランスが取れなくなる。

 

 

翼を広げてバランスを取り、なんとか転倒を防ぐ私。

対象的に敵は足を取られている。

 

大きく崩れた体幹を、さらに揺さぶるように崩しながら、その動きすらも利用して打撃を連打していく。

 

格闘至近距離戦において、強力な破壊力を持つ八極拳。それが敵の肉体を砕く。

防御の開いた胴体を見据え、敵の足を踏み砕きながら身中へと肘勁を打ち込み、肘に侵食させていたATフィールドを開放する。

 

吹き飛ぶ敵を見据え、これ程に身体を砕けば継戦能力は既に無いだろうと判断した私は、奇襲を警戒しながら近づいていく。

 

 

 

 

『あははは!容赦ないね…。』

?聞き慣れない声が、通信に流れてくる。

誰の声だと考え始めたその時、

その声にマナが反応する。

 

『どうしたの?ユウカ?

らしくないじゃん。

戦いの最中に意味なく喋るなんてさ…。』

 

そんなマナに私は疑問符を浮かべる。

『え?私、喋ってないよ?』

 

返答した私に5号機の護衛をしていたサクラが反応する。

『何言うとんの?さっき「容赦ないね。」って喋ってたやん?』

心配そうなサクラ。

 

『いや、それは私じゃあ…。』

なおも否定する私にマユミちゃんが声をかける。

 

『でも、ユウカちゃんの声がはっきりと聞こえたよ?』

マユミちゃんの、その言葉に同意するように頷くマナとサクラ。

 

私達のやり取りに、クスクスとした笑い声が聞こえる。さっきと同じ声…。

 

『ユウカ!巫山戯てる場合じゃな…!』

サクラが怒ったような声を上げるが、間髪入れずマユミちゃんが声を上げる。

 

『待って。今、ユウカちゃんは口を動かしてなかった。』

 

 

 

…もしかして。

状況から見るに、敵の声なのか?

 

『あ〜、面白い。仲間の声もわからないの?』

嘲るように喋る謎の声。

痛たたた〜と喋るその声と連動して、黒い靄を纒った敵が身体を起こす。

 

『貴女、誰?』

私の質問になおも笑い声を上げる。

 

『まだ、気づかないの?おバカさん…。』

答える気がないのか?

苛ついた私は、いつの間にか枝をつけられていた通信をこじ開ける。

 

 

 

追加される通信ウインドウ。

そこに映る顔には見覚えがあった。

 

顔色が悪いが、それ以外は全く同じだ…。

鏡越しに見る自身の顔と。

 

 

驚いたのは一瞬だった。

かけられた声により、動揺は無くなった。

 

 

 

 

 

『はじめまして、この世界の私。

私は陸奥ユウカ。貴女の名前も同じなのかな?』

 

『はじめまして、クソ野郎の私。

私は長門ユウカ。貴女の名前とは名字が違う。』

 

 

 

 

 

 

息を呑む皆。

ウソ、と言葉を発するのはマナだけ。

 

 

『ふ〜ん。ここでは皆生きてるんだ。

シンジ君の事も助けてるし、なんか私と皆が仲良さげじゃない?

不思議だね。私の世界と何処が違うんだろね?』

心底不思議そうな表情を浮かべる私の顔。

そんな奴の顔を見ながら、イライラしているのを抑える。

 

『ユウカ。大丈夫?』

機体を寄せながら、心配そうに触れてくる8号機。

そんなマリに大丈夫と笑顔で伝える。

 

 

『は?…え?何?

もしかして、あのウザイ、ネコメガネとそういう関係!?

趣味悪いよ!この世界の私、趣味悪いね!

オエ〜、キモチワルイ。』

マリを馬鹿にされて頭に血が登る。

8号機が手で抑えていなければ、飛び掛かっていただろう。

 

『ほらほら、ななちゃん。

落ち着いて。ただの挑発だにゃん!』

解ってるけど…。ダメだ、何故かアイツにだけは抑えられない。

しかし画面に映るマリの顔が若干強張って見える。

 

 

そうだよね…。

マリだって我慢してるんだから、感情を抑えないと。

 

 

 

 

 

 

既に立ち上がっていた敵を見据える。

まんまと再生時間を稼がれたみたい。

 

再生時間が予想よりも遙かに早い。素体の再生時間を脳裏に刻み込む。

あれ程のダメージをこの短時間で…と、驚いたが表に出さないようにする。

 

 

 

 

同時に走り出す私と陸奥。

翼を使った推力のブーストがあるため、私の方が衝撃力は上で有ることを考慮して、発勁を叩き込む。

 

対して、相手は柔らかな軌道を描くように足を動かしている。

それは八卦掌の歩法だった。

 

カウンターを狙って放たれる敵の掌打を、腕を絡め捌きとる。

 

相手も柔らかな動きで、絡めた腕を使い、更に接近してくる。

くっつく程の距離での打撃の応酬。肘や腕、時には膝をぶつけ合いながら相手の急所を狙っていく、端から見たら地味な戦いだろう。

 

私は特殊なATフィールドを腕の内に展開。

手を開き、陸奥の繰り出した右の掌打を、正面から少し手首を捻りながら掴み取ると同時に、その特殊なATフィールドを一部開放する。

 

ATフィールドの中に溜めていた衝撃が、私の開いた指を伝い、相手の腕へと細く奔る。

 

その5本の奔る衝撃は、まるで刃のように、相手の腕を、螺旋を描くように深く斬り裂いた。

 

 

驚きと、痛みに耐える陸奥の表情。

『なに、それ…。

そんなの持ってたの?

特殊なATフィールドの使い方。

性質が反対?…内向きのフィールドって、何なの?』

 

そうか。

陸奥は内向きのATフィールドを知らないし、使えないのか。

 

内向きのATフィールドを隆起させると同時に機体の一部が輝き出す。

擬似シン化形態へと移行させ、多重ATフィールドで陸奥を吹き飛ばす。

 

ボールのように地面を跳ねて行く敵を追撃する為に、風を切り裂き走る私。

 

 

 

宙を舞う砂塵が多い!視界を塞がれた。

わざと大げさに受け身を取ったのか!?

 

翼を使い、突風を巻き起こし砂塵を吹き飛ばした。

開けた視界に敵の姿を探すが、どこにもいない。

 

咄嗟に身構え、目線だけを忙しなく動かす。さらに周りの空間にATフィールドを浸透させ索敵をする。

 

 

…どこへ行ったの?

もしかして、位相コクーンへ退避した?

いや、位相コクーンを開いた反応も無かったし、その時間を与えていない筈だ。

 

 

 

僅かな先の未来予知の為に早めた思考の中、急に奔るノイズ。

 

ん?…何だ?

 

背中に痛み?

咄嗟に背後に手を回し、エヴァに刺さった物を掴み取る。

 

 

痛みに耐え、背後に目線を送る。

そこに映るのは、抜き手を放った手を掴まれた、黒い靄を纒ったエヴァの姿。

 

うそ!

いつの間に背後に?

 

ATフィールドで警戒していたのに。

それに、さっきまで前方にいた筈!

 

 

『不思議そうだね?

…長く生きてると、そのうち鍛錬で身につく物も有るんだよ。

気を使い、周囲の状況を感知し、また、自らの存在を消失させる技法・圏境。

極めれば天地と合一し、その姿を自然に透けこませる事すら可能になる。

ATフィールドの探知では周囲と溶け込んだものは察知出来ない。透明化とは違うからね。』

通信に映る陸奥が笑っている。

勝ち誇った顔。

 

突き刺さった敵の手を抜こうと動こうとした、その時、傷口から自らの中へと入ってくるおぞましい感覚。

 

 

 

絶望と死。

それを象徴するような感情が侵食してくる。

 

幾億幾万の魂が持つ絶望。

 

感覚的に解る。

それは陸奥が捕食してきた魂の叫びだった。

 

そうか、黒いエヴァがメインでは無いのか…。

別世界の私が、こんな事を。

 

 

 

侵食は一秒にも満たなかった筈なのに、私へと与えた影響は考えられない程大きかった。

離れようと踏み出した勢いのまま、力の入らなくなった機体は大地を転がっていく。

 

 

 

精神が大きく揺れている。

それが身体にも影響を及ぼし、湧き上がる嘔吐感を我慢できず、口元から溢れ出す。

 

『ユウカ!』

マリの叫び声が聞こえる。

人間では無い私には、胃液というものは無いが、身体に貯蓄していた水分が逆流してくる。

 

 

 

徐々に下がるシンクロ率を自覚する。

 

…これは唯のアンチATフィールドではない。

今まで取り込んできた世界の、全ての魂が発するデストルドー、それを凝縮したモノ。

 

人類補完計画プロトタイプよりもたちが悪い。

補完も何も無い、ただ自らの糧とする為の悪行。

 

 

 

統合体が解け、通常のMark7へと変化する機体。

それを見て、陸奥が声を発する。

『へ〜。その女性的な容貌は、厨二病的な機体じゃ無かったのか…。

エヴァの肉体がパイロットに合わせる程の親和性。エヴァ統合体って所かしら?』

何処か感心したような表情を浮かべる。

 

満足に動けなくなってる私に近づいてくる陸奥を、邪魔するように銃弾が飛来する。

回避行動を取る陸奥と私の間に立ちふさがるピンク色の機体。

8号機が擬似シン化した状態でアダドを構えていた。

 

 

 

『この世界のネコメガネは、擬似シン化出来るなんて…。凄いね。』

 

『まあね。私のユウカへの愛ってやつ?』

陸奥の言葉にマリが軽い感じで返すが、そのマリの表情はブチギレていた。目を見開き、獰猛に笑っている顔は、まるで肉食動物が捕食する直前の様な表情だ。

 

 

8号機の手に持つ、アダドが火を吹く。

射線から身体を逸しながら近づいてくる陸奥は、その歩法もあり、連射式では無い上に高反動のアダドでは狙い撃つのは至難の業だ。

それなのに的確に、素早く狙い撃つマリの銃撃。その業に歩法を若干乱される陸奥。

 

高反動を利用して、体勢を変えたマリは、その勢いのままに下方から、身体を目一杯伸ばした蹴りを叩き込む。

 

左腕で8号機の蹴りを防御するが、その瞬間砕け散る敵の腕。

目を見開き、驚く陸奥の表情は、次の瞬間納得するように笑う。

 

『防御不可。事象飽和を利用した絶対破壊の力か。一撃の威力を強化するのでなく、一撃を同時の複数回に増やす、世界の理を越えた能力。』

マリの能力を一目見て理解するなんて…。

 

 

躰道をベースにしたマリは近接遠距離からでも、蹴りを主体に格闘戦を展開する。

それに両手に持った大型のレールガンであるアダドで腰撃ちしたり、鈍器のようにストックを使って殴打を放つ。

 

それらの動きに陸奥はイライラしたように対処を重ねていく。

マガジンを変えたマリは、銃撃を加える回数を増やす。

途端に敵の傷が増えていく。

 

『散弾式の情報宮装備弾。近接戦の虎の子よん!』

 

『クソ!私の動きをことごとく!

何なの、この世界のネコメガネは!』

苛つきを隠さない陸奥の声が聞こえてくる。

 

『Catは感が良いんだにゃ!それに、20年近く一緒に住んでれば、癖なんかはまるっとお見通し!

身体構造上の癖はやっぱり変わらないみたいだしね。』

 

私の鍛錬にも、戦い方の構築にも、常に一緒に居たマリは、私との戦いを熟知していると言っても過言では無い。

 

 

牽制の為に撃ったアダドの銃弾を、飛び込むように当たりに動いた陸奥。

 

至近距離で受けた為か、散弾により千切れ飛ぶ残った腕と、大きな傷を負う胴体。

その血飛沫が8号機を襲う。

 

視界を完全に塞がる前に、無理にでも飛び退く8号機。

マズイ!

 

 

警戒するように、マリへと伝えようと思ったが、声が出ない。不調の影響がまだ抜けてない…。

 

姿が消えた敵。

奇襲を警戒する為か、オーバーラッピングを展開する8号機。

 

 

 

 

警戒し時間が過ぎていく。

次の瞬間、多重ATフィールドにより、遠方から吹き飛んで来る最終号機とMark6。

 

彼らが戦っていた方へ目を向けると、黒いエヴァの後ろに立つ陸奥の機体。

 

仕切り直すように、位置取る私達。

敵の戦力に変わりなく、唯一黒銃だけが大きな損傷を負っている。

流石は綾波さんだ。

 

 

 

 

『ここは、最高だね。

精神的に補完された、強いシンジ君が居る。

今までの世界には、そんなシンジ君は居なかったし、こんなにチルドレンが多い世界も無かった。何より、長門という名字の私も居なかった。

まるで平行世界で無く、異世界の様に差がある。

アザゼルも居ない。使徒も居ない。

私の理想に近い世界。だからこそ、価値が有る。』

嵐の前の静けさの様な雰囲気。

その中で喋る陸奥。

そんな彼女にアスカが口を開く。

 

『で、何が言いたいのよアンタは。

大人しく帰るとか言わないでよ?

アンタ達を始末して置かないと、安心出来ないから。』

冷たい目線を送るアスカ。

そんなアスカに嘲笑うような表情を浮かべる陸奥。

 

『はっ!誰が帰るもんか。この世界を取り込めば、私の願いがようやく叶う。心が補完されたシンジ君を手に入れれば、それを元にして、私の世界のシンジ君を、ようやく助けられる!!

…約束だもんね、カヲル君?』

 

狂気に取り憑かれたような笑みを浮かべる陸奥はカヲル君を見つめる。

対してカヲル君は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

『君は…。』

そのカヲル君の一言には、色々な感情が込められているように感じる。

 

『だから、ここで終わらせる。開放、裏コード・666!』

そう陸奥が言葉を発した、次の瞬間、彼女が乗る機体を覆う黒い靄が爆発したかのように広がっていく。

 

 

そして再び、ガフの扉が開き出す。

その奥から、この世界へと飛び出してくる数え切れない程の、翼の生えた黒いエヴァ。

その顔は、旧劇場版のエヴァ量産機と同じだった。

 

『あれって、ユウカちゃんが考えたエヴァフィギュアの!?』

驚くマユミちゃん。

 

『どの世界でも、バカユウカのあの未知なデザインセンスは同じってことかしら?』

ボソッと呟くアスカの声に否定したいが、未だに声を出すのがツライ。

 

あれは陸奥が作ったんじゃ無くて、滅ぼしてきた世界に有った量産機なのだろう。

あの数を見るに、滅ぼされた世界すらも数え切れない程だ。

 

 

 

絶望的な数量。

しかし、それを前にして私達が取る表情は笑みだけだった。

何か、懐かしさすらも感じる。

 

マナが5号機で大盾を振り回しながら、復活をアピールしている。

 

 

私も、やっと調子が戻って来た。

機体を立ち上がらせ、前方を見据えながら、再び統合体へと変成させる。

 

『もう大丈夫なの、ユウカ?』

心配そうに覗き込む8号機。

 

『うん。守ってくれてありがとう。』

感謝を伝え、軽くハグをする。

 

『…柔らかい。これも最高だにゃ。』

何やら感触を楽しむマリ。

離れてから8号機のお尻を叩く私。

アウチ!と通信に声が流れる。

 

何やってんのよ?と呆れた顔をするアスカと、仕方ないと笑う皆。

 

 

 

 

迫りくる量産機を前に、各々武器を構え、擬似シン化形態へと移行する。

 

『全員が擬似シン化出来るとは、本当に理想的ね。

…だからこそ、壊すの。憎いから。欲しいから。』

心底憎いと、表情を歪ませる陸奥。

 

 

 

視界を埋め尽くすエヴァ量産機。

最終号機を中心に陣形を組む私達。

あの黒いエヴァを倒せるのはシンジ君だけ。

だから、出来るだけシンジ君が消耗しない様にしなければいけない。

 

 

 

迫りくる量産機を最初に迎え討ったのは、綾波さんと、マリ。

マリの事象飽和を利用した銃弾が、安々と防御を抜き機能中枢を破壊する。

 

綾波さんに至っては、見ているだけだと、何をしているのか解りづらいが、トリガーを引くたびに量産機に風穴が開く。

撃った時点で、既に当たっているという事象を引き起こしている様だ。

生半可な防御力では軽々貫く攻撃力を持った綾波さんが、必中能力とは正直エグいと思った事が有る。

 

 

二人の銃撃から溢れた敵は、アスカとマナとカヲル君が迎撃する。

 

カヲル君は、あらゆる縛りから開放されたかの様に、空間を自由に動き回る。

短い距離ならば、空間転移すらも行って槍を振るう。

 

マナは、大きな盾を振り回しながら量産機にぶつけていく。

時には大盾で攻撃したり防御したりするマナだが、敵が盾に当たるたびに接触部位が消滅していく。

相転移による攻防。それは、正に最強の矛と盾。

 

アスカの動きはまるで、一人だけ加速した時間の中を動いている様に見える。

今の彼女は余裕を持って動いているのに、まるでコード999を発動させたかの様に敵を斬り裂いていく。

量産機が周りを囲む中、大刀を閃かせ敵をバラバラにする2号機。

そんな2号機へ向けて大きな剣の様な物が投げつけられる。

ATフィールドで受け止めるアスカ。

その瞬間、剣の様な物は形を変えていく。

二叉の螺旋状の槍。

 

ロンギヌスの槍のコピー。

 

それが2号機のATフィールドを安々と破り、頭部へと向かって行く。

突き刺さる瞬間、一瞬で体勢を入れ替え、空いた片手で掴み取る。

そして、その槍で量産機を斬り捨てた。

 

 

 

量産機の数が見る見ると減っていく。

忌々しいと、顔を歪ませる陸奥。

 

後は、最終号機の道を開く。

 

巨大な鉤爪状の両手を背部から外したSエヴァが前に立つ。

開いたその手を、握りしめると同時に、前方2方向の広い空間が、勢い良く圧縮されていく。

最終的には、その中に居た量産機が小さいキューブ状にまで圧縮されて残った。

 

その空いた空間に飛び込み、SエヴァはアンチATフィールドを展開する。

そのアンチATフィールドを、粘性の液体を形造った内向きのATフィールドが覆い、津波の様に動き出す。

 

その巨大な津波は多くの量産機を飲み込み、溶かしていく。

 

 

皆が開いた道を走る私とシンジ君。

疎らに来る量産機は、呼び寄せたアルベスの槍で再起不能にして進む。

 

 

 

未だ遠いが、見えてきた黒いエヴァと陸奥の乗る機体。

 

黒い靄の晴れた陸奥の乗るエヴァは、既に素体が腐ったように表面の肉が剥がれ落ち、蛆の様に小さな白いヒト型が、骨格や表面に纏わりついていた。

 

 

それにしても、エヴァがあんな形に成るだなんて。

いったいどれだけの時間を過ごしたのか。

 

 

『準備は出来た。後はこのルクレティウスの槍を使い、私を贄として、私の中に内包する、幾多もの世界が持つ全ての魂と、それらが持つ碇シンジの記憶や記録を開放する。

そして、その億をも超える無尽蔵の魂が見たシンジ君への客観的視点と、幾人もの碇シンジの魂で、私の世界のシンジ君を補完し復活させるんだ!』

 

黒いエヴァが持っていた槍を手に取る陸奥。

その矛先は彼女が乗る機体の胸元へと向かっていた。

 

あの槍は、もしかして、全ての碇シンジに繋がっているというの?

マズイ!

 

 

最終号機を抱きしめ、覆い被さる様にして、内向きのATフィールドで保護する。

 

陸奥の機体へと突き刺さるルクレティウスの槍。

 

それと同時に膨大な情報がシンジ君へと流れていくのを感じる。これらからシンジ君を守る為には、私が中継機になって、ムーンセル・オートマトンが持つ無限大の情報をぶつけるしかない。

 

私の中でぶつかり合う、無限の情報。

それらに翻弄される私の魂。

 

 

明滅する視界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に気付いたときには、私は地面に横たわって居た。

視界に映る黒いエヴァは、靄のような物と雷光を纏い、5号機の大盾と拳を打ち合っていた。

 

黒いエヴァが持つ圧倒的なパワーに押される5号機。

 

…5号機の相転移が効いてない。

 

 

視界を回すと、近くにはMark9が利き腕と天使の背骨を失った状態で片膝を付いていた。

 

Sエヴァも4本の腕、全てを失い。

 

Mark6は左脚を太腿から引き千切られたようになっている。

 

マリは私の側で、援護射撃をしているが、やはり効いていない。

 

アスカも果敢に攻撃しているが、やはりダメージを与えられていない。

 

 

 

最終号機は私の背後に居た。

通信を流れる声を聞くに、シンジ君も一時的に行動不能になっていたらしい。

 

戦線に復帰し、黒いエヴァへと駆けていく背中を見送る。

 

 

陸奥から流れて来た情報に飲まれて、やっと解った。

 

あれは、もはや世界そのものだ。 

それを倒すことは物理的には不可能に近い。

 

 

身体を起こしていく。

『ユウカ、起きた?』

マリには心配されてばっかりだ。

 

『長門さん。大丈夫?』

近くの綾波さんが残った腕で、起きるのを助けてくれる。

 

『ありがとう、マリ、綾波さん。

…丁度良かった。二人の協力が必要なんだ。』

疑問符を浮かべる二人に守秘回線で作戦を説明する。

 

 

 

 

戦局は一見優位に動いている。

最終号機の参戦により、ダメージを負うようになった黒いエヴァ。

特に最終号機が、技術的に黒いエヴァを上回っているのが要因として大きく占める。

あの黒いエヴァの戦闘技術的は、私達の誰よりも下と見てもよい。

 

最終号機がその能力を発揮している限りは負けることは無い。

しかし、同時にあの黒いエヴァの能力も最終号機に匹敵する。

 

そして、それは自己保存に特化していると言っても良い。

例え、最終号機がどのようにシンジ君の願いを叶えようと、その出力が圧倒的に足りていないのだ。

故に、勝てない。

 

ならば方法は一つ。

 

世界をどうにかするには、世界にどうにかしてもらうしかない。

 

 

 

 

 

最終号機と黒いエヴァの格闘戦。

2号機と5号機は、全身に受けていたダメージを休める為に一時的に離脱している。

 

 

圧倒的なパワーで一挙一動で大地を砕く黒いエヴァ、その一撃を片腕でガードし同時に逆側の腕でパンチを繰り出す最終号機。

その最終号機の一撃は衝撃波だけで空を割り、雲を散らす程。

 

組み合う両機だが、拮抗は一瞬だった。

最終号機が放つ荷電粒子砲により吹き飛ぶ黒いエヴァ。

終始私達のシンジ君が押している。

 

 

 

起きたばかりだったからか、今になって違和感に気づいた。

通信からシンジ君の声が2つ聞える。

陸奥ユウカの世界のシンジ君が復活したのか…。

 

 

 

 

 

Mark9の残った腕と、Mark7と8号機の腕をくっつける様に触れさせる。

レガリアを使い、物理的に融合させ変成させていく。

 

銃身は綾波さん。撃鉄はマリ。弾丸は私。

人の理を超えた情報を弾丸に込める。

 

 

 

必中させる銃身。

弾丸を飽和させる撃鉄。

世界を超越する情報を持つ弾丸。

 

出来た銃の名前は、ピースメイカーで良いかな?

 

 

 

私達3人の意識がシンクロする。

視界の中で格闘戦を繰り広げるエヴァを見据え、集中力を高めていく。

音も色も無くなっていくような感覚の中、エヴァが放つ暖かさが私達を包み込んでいる。

 

 

 

 

戦いの推移を注目して隙を探す。

いくら必中といっても、あのエヴァの能力と出力なら弾丸自体の無効化が出来てしまう。

 

僅かな時間でも良い。完全に奴の意識を私達から遠ざけたい。

意図は解らないだろうが、私達が何かをしていたのは解ってる様だ。視界の隅に捉えていたし、今も意識の片隅に私達を置いているのを感じる。

 

 

『何かやるつもりなんでしょ?

ワタシが隙を作るわ。』

アスカの声が聞こえる。

 

『でも、アスカまだ回復してないでしょ?

それに今更アスカの攻撃じゃあ…。』

私の小声の反論に、眉を片方吊り上げて、何かを考えるアスカ。

守秘回線はここで使うのは得策では無い。直ぐに気づかれるより、これくらいの内容なら、相手に聞こえづらい小声の方が良い。

 

『…。まあ、黙って見てなさい。』

アスカが腕を組み、最終号機と黒いエヴァの戦いを真剣な顔で眺める。

 

 

キョトンとした私達。

行動を起こすと言ったのに、エヴァを休ませているアスカ。

らしくない。

 

『どしたの?姫?』

マリの言葉に、コネメガネ集中!と返すアスカ。

 

 

そんなアスカの様子に、疑問を覚えながら黒いエヴァに集中する。

 

 

 

 

ふと敵の後ろに立つ影が見える。

その瞬間、黒いエヴァの腹部から赤黒い腕が突き抜けてきた。

黒いエヴァの背後から抱きつく様にする、赤黒いエヴァ。

 

『ど、どうして、アスカ…?』

痛みに喘ぎながらも声を発する敵のシンジ君。

アスカ?もしかして、赤黒いエヴァには別世界のアスカが?

 

『アンタは、私の知ってるシンジじゃない。

アンタは…、あの狂犬女が作った継ぎ接ぎの碇シンジ。憎悪によって補完された偽物ってことよ。』

 

『アスカも、そんな事を言うの?

もういいよ!そんなアスカは要らない!』

貫き手をした赤黒いエヴァの腕をそのまま引きちぎり、赤黒いエヴァから距離を取って、裏拳を放つ黒いエヴァ。

その拳は赤黒いエヴァの頭部へと吸い込まれていく。当たる直前、間に割り込む黒銃。

それと一緒に、血飛沫を上げながら吹き飛ぶ赤黒いエヴァ。

 

それを見ながら、冷たい目をした敵のシンジ君が

『綾波もか…。』

と言葉を放つ。

失望した様な表情。

その瞬間、確かに私達から完全に意識が離れる。

 

 

トリガーを引く私達。

 

飛来する弾丸は黒いエヴァへと吸い込まれた。

 

 

この弾丸には直接敵を倒す力は無い。

その代わり敵の能力を誤作動させる事により、地面にガフの扉を開かせる事が出来る。

しかしその先は、ガフの部屋では無い。

 

撃ち込んだ情報により、開く先を変えてある。

 

 

 

これは凄く危険では有るけれど、倒すにはこの方法しかない。

後は、シンジ君に託すだけだ。

 

既にシンジ君には、作成の概要と、移動先の知り得る情報を送ってある。

 

 

『解った。やってみるよ、皆。

ネオン・ジェネシス。』

難しい事をお願いしてるのに、微笑むシンジ君。

 

そして地面を蹴り、黒いエヴァへ突進していく最終号機。ぶつかり落ちる先は、ガフの扉。

 

 

その先には、前人未到のマイナス宇宙が広がっている。

 

 

 

 

 

 

 

ただ待つ私達。

私は閉じていこうとするガフの扉を維持していく。

シンジ君が勝つことを祈って。

 

ふと、ガフの扉に近づいていく機影が視界に映る。

あれは、別世界のアスカと綾波さん。

 

『行くの?』

私達のアスカが声をかける。

 

『まあね、あの黒く染まった初号機の中には、魂がバラバラに砕けたけど、確かにバカシンジが居る。

一緒に死んであげる人間が一人でも居たほうがいいでしょ?』

まあ、エコヒイキも一緒みたいだけど。

それに、マイナス宇宙でなら、僅かでもバカシンジに会えるかもしれないし。

そう、呟く別世界のアスカ。

 

 

そして、私の方を向く赤黒いエヴァ。

『…この世界の私がアンタの事を凄く心配してた。

アンタと仲良くなる世界があるなんて、正直信じられない気持ちよ。いや、私の世界の狂犬女とは、だいぶ性格が違うのは解ってる。でも、根っこの部分は多分同じなんだと思う。育った環境が違うだけで…。

私達がもっと根気強くアイツと接してれば、もしかしたら…。

…ふん!意味の無い話ね。忘れて。』

そう一方的に喋る、別世界のアスカ。

彼女は黒銃を手に取り、後一発位は撃ちなさいよエコヒイキと、銃を小突きガフの扉へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事は、帰って来たシンジ君が語ってくれた。

 

 

 

アディショナル・インパクト。

 

それによる、円環の中心であった陸奥ユウカの救済。

そして、結果として黒いエヴァの消失。

 

 

 

 

その話を聞いて思った事は、総じて、いつの世も母は強いってことかな。

 

それと、卵が先か? 鶏が先か?ってこと…。

 

 

 

 

それにしても、やばいな。まだ顔が赤いや。

シンジ君の語った内容は衝撃的で、まるで私がヒロインの物語みたいだ。

アディショナルインパクトで叶えた願いが、そんな事だなんて…。

 

 

私の視界の中で、シンジ君へ怒ったように飛び掛かるマリと、それを止める女の子達。

そして、あやまりながらマリから逃げるシンジ君。

 

 

「私のユウカを口説くな!!ワンコ君!」

聞こえてくるマリの叫び声。

 

 

 

…締まらない終わりだね。

 

 

「大丈夫だよ!私が愛してるのはマリだから!」

そんな私の声に、笑顔で、勢い良くこちらを振り向くマリ。

 

 

シンジ君を追いかけるのを辞め、こちらに駆けてくるマリを見ながら、心の内で感謝する。

 

 

 

 

ありがとう、全てのシンジ君。

 

ありがとう、碇ユイさん。

 

 



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