一般メイドピクセルの休日 (三次たま)
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操作ミスで削除して上げなおしたので、一旦チラ裏に避難させます
まだ最新話ではありません。続きは練って途中なのですいません


 

 

 

 

 

 

 ピクセルはナザリック地下大墳墓9階層に配置され施設管理を任された41人の一般メイドの一人である。

 

 現在彼女は41日に1回だけ訪れるアインズ様当番を翌日に控え、41日に1日だけ与えられた安息日を享受せんとしていたが、現在大きな障害に見舞われていた。

 

 

 

「休日って……どうすればいいのよ」

 

 

 

 一般メイドの控室にて一人残されたピクセルは、途方もない空白を前に嘆きそして暮れていた。

 

 

 

 ピクセルは、ナザリックにおける多くのシモベがそうであるのと同じように、暇の使い方をこれっぽっちも知らなかったのである。 

 

 そもそも41日の休日制度を施行したのは絶対者たるアインズであり、実のところアインズ様当番というのは前者のための口実という意味合いが強い。

 

 だが生まれてこの方至高の存在への奉仕が自身の存在理由であった彼女にとって、アインズのサラリーマン的な労働価値観による施策というのはイマイチ噛み合わないモノだった。

 

 

 

 だってやることが無いのだから。

 

 自分にとって趣味らしい趣味は特にない。

 

 

 

「ご飯食べながらお喋りするのが一番たのしいけどなぁ」

 

 

 

 食事中に他のメイドと雑談を嗜むのが細やかな楽しみではあったが、一人飯に独り言を呟くような奇特な趣味は流石に持ち合わせていなかった。

 

 

 

「お裁縫は苦手だし」

 

 

 

 強いて言うなら守護者統括のアルベド様に一般メイドに裁縫を教授していただいたこともあったが、アレを自分は二度とやらないと決めたのだ。一度針を爪のあいだに刺し込んで大泣きして以来怖くてトラウマになったから。上司であり信仰系魔法職のペストーニャ様が直してくださらねば御方に与えられた体に傷跡を残すことになっていただろう。アルベド様には本当に申し訳ない話だが、気持ちの問題はどうしようもないので許してほしい。

 

 

 

「大浴場や美容院、衣服屋、雑貨屋、エステ、ネイルサロン……うーん」

 

 

 

 では9階層に数ある娯楽施設などを利用してみるか? 雑貨店やら大衆浴場やら、9階層にはそのてのものが何でもある。

 

 いや却下、一番ありえない選択肢だ。9階層の施設管理を任された一般メイドがソコを利用するのはいくらなんでもダメだろう。アインズ様はお許しなられているらしいが、同じ階層の同僚の仕事を増やしながら休日を謳歌するなど正気の沙汰とは思えない。

 

 

 

「他の階層の観光は……」

 

 

 

 なら6階層の大森林や4階層の地底湖は見応えのある大自然が広がっているらしいのでそちらはどうか。アルベド様や他の守護者の方々がそちらで休暇を楽しんだという話を聞いた覚えがある。

 

 無理だ行けない。上層に行くには7階層の灼熱エリアを踏破する必要があるのだが、一般メイドたるピクセルには灼熱エリアを耐えられる装備の用意も転移する能力もそれを出来る人物との深いツテも無い。

 

 10階層にあるのはせいぜい玉座の間と、ギルドの指輪が無いと行けない宝物殿くらいなもので――

 

 

 

「うん? そういえば」

 

 

 

 ――否、休日を過ごすには実におあつらえ向きの場所があったことを、この時ピクセルは思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 後ろめたさ故同僚の一般メイドに見つからないようこっそりと、ピクセルは9階層を通り抜け10階層へ続く長階段へと歩を進める。

 

 道中、執事助手ことバードマンのエクレアをプレアデスのアイドルことシズちゃんが連行していたのを見かけたが、今日ばかりは声をかけることは憚られた。

 

 

 

「えっと、ここであってるわよね?」

 

 

 

 何ぶん初めて来た場所なので自信が無かったが、10階層にある施設はここと玉座の間ぐらいしかないし間違えようもない。

 

 

 

 玉座の間の入り口と同じほどの大きさの、そして比較的質素な造りの大扉。2体の門番のゴーレムが立ち並んで入口に構えている。

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

 それだけ告げると門番が離れて両扉が開かれる。

 

 ピクセルは大図書館アッシュールバニパルへ生まれて初めて入場した。

 

 

 

 彼女はまずもってその壮大な構造美に圧倒された。巨人族の背丈程のゴシック調の彫り込みの走った本棚がいくつも整然と立ち並んでいて、広大な図書空間を情報の海が埋め尽くさんと広がっている。

 

 半円の天井からは薄紫のあわい光が広がっていて、静謐な雰囲気が全体を包み込んでいる。薄暗いはずなのに何故か不便や不快を感じさせない不思議な光だった。

 

 

 

 この光景を見ただけでも冒険してみた甲斐があったかもしれない。入口からはたと眺めてみただけなのに十二分な見応えを感じられてしまって、一周回って妙な肩透かしすら覚えてしまう程である。

 

 

 

 ピクセルは本棚一つに静かに近寄り、本と本棚の隙間部分を白魚のような指先でそっと撫でた。

 

 

 

「すごい、埃一つついてない。それにこの香り、極めて微量だけどハーブの一種かしら。とても落ち着くわ。空気循環もしっかりしているのね」

 

 

 

 メイドとしての職業病というヤツか。次点で気にかかったのが、こんな大規模な施設であるにもかかわらず、かなりに手入れが行き届いていることだった。

 

 

 

 当然だが規模が大きければ大きくなるほど、その施設に費やされる設備管理は分散される。

 

 ナザリック9階層には41名の一般メイドと10名の男性使用人が勤務していたが、1日がかりでは9階層全体をそれだけの人員でカバーすることは不可能である。数多くの施設を日替わりごとに清掃していき、1か月ぐらいの周期で一通りの行程が完了する仕組みになっている。

 

 9階層全体に比べれば小規模だが、それでもこの図書館の管理に求められる労働力は並々ならぬモノである。

 

 

 

「床や本棚の痕跡からするに、一通りの清掃完了までは1週間周期くらい? ここは確か理の間だからほぼ同じ場所が3か所あるとして……清掃に割り振られる人員はメイドに換算して10名ほどかしら。いやでも、他の仕事がどんなのかはわからないし……」

 

 

 

 施設管理のプロフェッショナルとして生み出された一般メイドたるピクセルは、至高の存在から与えられた知識と経験則から大図書館アッシュールバニパルの管理構造を無造作に考察していく。この程度の推察など他のメイド達でも容易く行えるので、彼女自身は別段それが優れていることだとは気づかない。

 

 

 

「あの天井もせめて3か月に一回くらいは点検する必要があるわよね。安全管理の観点から高所作業は一般メイドでは出来ないし、飛行能力のあるシモベ……清掃能力もあるプレアデスの方々がいい。〈飛行フライ〉を使えるナーベラルさんかルプスレギナさん、いえこの場合だと召喚虫で手数を増やせるエントマさんが理想的かも」

 

 

 

 

 

 余談だが一般メイド達の優秀性を考慮すれば、先日セバスが連れ込んできた人間のツアレが彼女達に並び立たんとする道のりは極めて険しいものと思われた。

 

 

 

 何せ彼女らは接待、礼儀作法、歓待、給仕、清掃、設備管理、会計帳簿というメイドとしての基礎的能力が軒並みカンストしているのだから。

 

 

 

 美的センスも優れており、エ・ランテルにおいては一介の都市長の邸宅の内装を魔導国宮廷として相応しいモノへと作り替えたのも彼女達だ。アインズ様当番における主人のコーディネイトの美的水準は、かつてのユグドラシルで振るっていればモモンガをファッションリーダに押し上げていただろう。

 

 

 

 ちなみに試しでメイド服からそれっぽいドレスに着せ替えてアインズの横に立たせると、アインズ様当番がただの取次宰相②になったのでアルベドが嫉妬で辞めさせた。

 

 

 

 ダメ押しに彼女たちのフィジカルステータスは、サービス業従事者としては異端な程に高かった。

 

 レベル1のホムンクルスの身体能力は外界の一般人と殴り合いさせると勝率は6割ほどである。だがこれは言い方が悪い。生まれてから拳も握ったこともない女給の戦績と考えれば、自ずと真の姿が見えてくる。

 

 わかりやすく言うとレベル1のホムンクルスのスペックは、建設業や工事現場に従事する平均的な20代男性とタメを張れる。

 

 ここまでくれば、ステータスペナルティで大食らいなことなど誤差であろう。

 

 

 

 少なくとも外界の帝国や王国における宮廷使用人なら裸足で逃げだすレベルである。果たしてツアレのセバスへの愛の力はどこまで通用するものか、その明日はわからない。

 

 

 

 

 

 閑話休題。一人飯に独り言を呟くような奇特な趣味は流石に持ち合わせていなかったピクセルだが、他所への清掃考察を膨らませ独り言ちるこの瞬間に彼女は確かな充足感を覚えていた。

 

 なのでそんな彼女は側方から近寄ってくる一人の人物の気配に対し、直前まで気付くことが出来なかった。

 

 

 

「素晴らしい! 流石9階層の方々のスキルはモノが違う! 神々の居住の管理者たるに相応しい!」

 

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 

 突然横から感激の声を浴びせかけられ、更にその人物の姿のせいで振る舞いを忘れピクセルは驚愕を声に出した。

 

 相手は白の贋金持ちと呼ばれるエルダーリッチである。

 

 

 

「大変失礼いたしました! 申し訳ない、驚かさせるつもりはありませんでした」

 

 

 

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。わたくしはホワイトブリム様に創造された一般メイドが一人、ピクセルと申します」

 

 

 

「これはこれはご丁寧に。私は司書Jです。名の通り、至高の方々から大図書館の司書を命ぜられたエルダーリッチが1体。御用の書物があれば何なりと申し付けください。利用者のご案内こそが私の使命ですので」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 慌てて取り繕って人当たり良く接しなおすピクセルだったが、その内心は渋面模様だった。なにせ彼女は裁縫と同様にアンデッドにも若干の苦手意識があったから。

 

 

 

 具体的に言うと、この世界に転移したての頃9階層を走り回っているデスナイトを見て尻もちをついたから。アレを堂々と叱りつけていたお姉さん・・・・は本当に肝が据わっている。

 

 あとでデスナイトの作成者がアインズ様だと判明し、主人から転んだピクセルに何度も頭を下げて頂いてしまったことは本当に申し訳ない。ただピクセルがドジでビビりなだけなのだから。

 

 

 

 それはそれとして気持ちの整理がつかなくて、以来中位以下のアンデッドを見るとどうしても怖気づいてしまうのであった。直さなければならない悪癖なのは言うまでもない。

 

 なので絶対に今の内心を悟られるわけにはいかないのだ。

 

 

 

「して、ピクセル嬢は如何なご用事でこの大図書館アッシュールバニパルへ参られたので?

 

 一般メイドの方がここに来るのは初めてかと思われますが」

 

 

 

「本日は私がアインズ様から賜りました安息日なのですが、どうにも暇の使い方が慣れないものでして

 

 せっかくなので見識を広げるためにこの地に参じた次第です」

 

 

 

 司書Jはピクセルの言い分を聞いて笑ったように頬骨を鳴らした。

 

 

 

「それは感心。ここは至高の御方々が誇る叡智の結晶です。利用者が増えるに越したことはありません」

 

 

 

「普段は何方が利用なさっているのですか?」

 

 

 

「シャルティア様やマーレ様が娯楽書物を嗜まれますね。精進することは重要ですが、精神生活の充実もまた同じように大切です。特に私はシャルティア様とは趣味が合いまして……おっとこの話は置いておきましょう」

 

 

 

「転移を使える方々が多いのですね、やはり」

 

 

 

「最深層ですからねここは。

 

 ところで何と言っても一番多く訪れてくださるのはアインズ様です。流石は我らが至高なる主人。ただでさえ偉大なる王の器をお持ちだというのに、帝王学系の書籍を更に学び日々精進を続けておられまする。

 

 そこらの努力するウサギなど路傍の石と同じ、あの方は天頂を極め昇り続ける竜神に等しい」

 

 

 

「流石はアインズ様です」

 

 

 

「近頃はアインズ様に倣ってここを利用する方々も増えてきました。

 

 特にアルベド様とデミウルゴス様はここでの時間を重要視されますね。アインズ様の読み終わった書籍を習い読み、始めはその不合理な論理の内容に頭を悩ませるそうなのです。しかし最後には御方の深淵なる御心に辿り着き、革新的な方策を気付かせてくださる。

 

 書物を通じてナザリックへの啓発を働きかけるアインズ様の所業は、大図書館アッシュールバニパルに属する者として冥利に尽きるというものです」

 

 

 

「なんてすばらしい話でしょう!」

 

 

 

 苦手意識があったはずのピクセルだが、アインズ様の話となると、ものの数分で司書Jとすっかり意気投合してしまっていた。

 

 世界が広いかは知らないが、ナザリックは広い。外側に見聞を求めに行くのは楽しみがある上に有意義なのだと、ピクセルは思い知った。

 

 

 

 重ね重ねだが流石はアインズ様である。最初は休暇の無意義さに悩んでいたピクセルだが、すっかりその掌は返されていた。

 

 

 

「他の一般メイド達もここに来るべきだと痛感いたしました。控室での裁縫以外にも素晴らしい過ごし方があるのですね」

 

 

 

「ぜひそうしていただけると嬉しいですね。……いやしかし、執事助手のエクレア殿も良くいらしてることを皆さんご存知無いのですか?」

 

 

 

「エクレアですか?」

 

 

 

 名前が挙がりピクセルはかのクソ生意気なバードマンのことを思い起こす。あのイワトビペンギンはこと清掃能力に置いて言えば右に出るものが居ない程に優秀だが、一つだけ妙な性質を有している。

 

 彼はレベル1でメイド以上にザコのクセに創造主からナザリックの簒奪を命ぜられているのだ。たぶんそういう道化として生み出されたのだろうが、それはそれとして多くのシモベにとって彼の印象はすこぶる悪かった。

 

 

 

 逆に何故かシズちゃんに酷く気に入られていて、本人は嫌がってるが抱きかかえられてるところをよく見る。というかさっき見た。

 

 

 

「はい、エクレア殿は何故か酷くおびえた様子でこの図書館にやってくるのです。そわそわしながらも読書を嗜まれたり、執筆作業をなさっておりましたよ」

 

 

 

 なるほどシズちゃんから逃げてきたわけだなとピクセルは即座に理解した。

 

 だがシズちゃんにバレると面倒なのでその理由を司書に説明したりはしない。

 

 なんだかんだ彼は有能な存在でありシズちゃんに時間を足られるのはあまり良くない。それと可愛いシズちゃんを独り占めしてるのが気に食わない。この二つの理由が主だった。

 

 

 

「なるほどよくわかりました。エクレアもこの大図書館アッシュールバニパルの清掃の行き届きに、さぞや驚かれたのではないですか? 一般メイドとしても目を見張るものがあります」

 

 

 

「はははは! 本職にそう言って頂けるとは実に光栄! 日々の仕事の甲斐があるというモノです

 

 しかし本当にご存じないようですが、我々司書に清掃指南をしてくださったのはエクレア殿なのですよ?」

 

 

 

 司書Jはアイテムボックスから一冊の書籍を取り出してタイトルを見せてくれた。

 

 

 

 

 

『超大型図書施設における効率的な清掃の指南』

 

 

 

著者:エクレア・エクレール・エイクレアー

 

 

 

 

 

 渡された書物をピクセルはパラパラとめくる。それはタイトル通り、図書館施設における効率的な清掃方法を記したマニュアル本。重点的にやるべき箇所、具体的な扱い、作業時の人数分配や道具の使い方など事細かに論理的な注釈を踏まえて記された実用書だった。

 

 敢えて欠点を述べるとしたら、文体が妙に高圧的で指摘が一々事細かすぎて読むたびに虫唾が走ること。

 

 

 

「なるほど全ては御方々のお導きなのですね」

 

 

 

 シズちゃんの悪癖もエクレアのアレも、全てはこうしてナザリックの利益と繋がっているということか。

 

  

 

 まぁなんと驚きな話であると思いつつ、ピクセルは深く納得した。なんだかんだアレは出来る男なのだ。見目には愛嬌があるし優秀なのに、アレさえなければ付き合いを深くするのも吝かでは無かったのだが。

 

 

 

 今度会った時は少しだけ優しくしてやろうと、ピクセルは心に決めた。

 

 多分生魚の一匹でもくれてやれば喜ぶだろう、ペンギンだし。

 

 あとシズちゃんに抱えられてることも見逃したあげよう、いつもなら引き離してやってたけど御方の意向なら我慢だ。

 

 

 

 

 

「顔が怖いですよピクセル嬢?」

 

 

 

「エクレアのクセに有能で生意気だとか、思ってませんよ、ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 アインズ様やデミウルゴス様、アルベド様のような知恵の無いピクセルには流石に帝王学には手を出せない。

 

 

 

 当初は娯楽書籍でも読んで時間をつぶそうと思っていたピクセルだったが、エクレアの活躍を聞いて彼女の心の中に妙な対抗心が生まれていた。

 

 

 

『超大型図書施設における効率的な清掃の指南』

 

 

 

 正直に言えば、隙間時間でアレを完成させたエクレアの実力にピクセルは舌を巻いている。

 

 所々で彼自身の残念な人間性が溢れているものの、それを加味してもマニュアルとしては良い出来だった。もっと言うなら人間性を加味すればするほど余計にムカつく。

 

 なら自分も似たような実用書を造ってみるか。いや無理だ。たった1日の休日では何もできやしない。

 

 ならたった1日でも出来ることをやろう。自分だけに出来ることを、エクレアには出来ないことを。

 

 

 

 とにかくピクセルには、形あるものを生み出したいという創作欲求が渦を巻いていた。それはりある世界にてプロの漫画家だったホワイトブリムの因子が由来しているのだが、今の彼女には知る由が無かった。

 

 

 

 娯楽用の書籍が立ち並ぶ本棚をふらふらと歩き、ふとピクセルは1冊の本に目を止めた。

 

 これだと思って一直線に手を伸ばす。

 

 

 

「これだわ!」

 

 

 

『みにくいアヒルの子』

 

 

 

 それはありふれて有名な子供用の童話の絵本であった。そのページ数は34。

 

 

 

「絵本なら、今すぐ描ける」

 

 

 

 否、描いて見せる。

 

 ピースはそろってる。ストーリーはもう出来た。この瞬間、既にピクセルの脳内には書籍の完成体の姿が見えていた。

 

 

 

 軽く頼むと司書Jは快く制作に必要な電子ツールを取り揃えてくれた。

 

 

 

 翌日のアインズ様当番までの準備時間を考慮し制限時間は18時間。この時ほどリング・オブ・サステナンス維持の指環が有難いと思った事はかつてなかった。

 

 

 

 図書館のテーブルでツールを広げ、脳内のストーリーを文章体にアウトプット。登場人物と起承転結をざっと組み上げてサッと書き上げる。これは1時間もかからない。

 

 

 

 次に漫画で言えばネームに当たる、30枚ほどの絵コンテを作成。やや構図の判断に困らされたが悩んでいる時間は無いのでテキパキ決める。この手の演出は彼女の中では殆ど体系化されているので、知識の中からベターなテンプレートを引き出して流用した。かかった時間は4時間。少しかかり過ぎたとピクセルは歯噛みした。

 

 

 

 最後の仕上げが1時間かかるとして、残り12時間で30枚の原画を描き上げなければならない。

 

 枚数を時間で割ると1時間当たり2.5枚。1枚当たり24分。シーンごとの演出性まで考慮に入れ注ぎ込む作画カロリー分配を即座に計算。

 

 演算終了。ピクセルは電子ツールのカラーペンを握り締め、下書きもなしにモニターへと殴り描き始めた。

 

 

 

 18時間で絵本執筆などおおよそ正気の沙汰とは言えないし、凡人には不可能な所業である。

 

 だからピクセルは狂気の只中に陥っている天才だった。鬼神の如き形相を見せるその後姿をアインズが見れば、在りし日の創造主の姿が薄らと透けて見え感激の涙を流しただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ピクセルの創造主たるホワイトブリムはユグドラシルにおけるネトゲのやり込みと漫画の隔週連載を両立させた、業界屈指の速筆として有名である。

 

 

 

 9階層所属41名の一般メイドの外装データがデザインされた当時はなんと、本業締め切り二日前にして20ページ分の作業を残している状況だった。そのような逆境に身を投じたことは幾度とあれど、彼は一回も原稿を落としたことが無かったのだ。

 

 もっともそんな無茶ばかりやって作家担当とアシスタントが死にかけたからこそ、彼はユグドラシルを引退せざるえなくなったのだが。

 

 

 

 又の名をスーパーダメ作家。ピクセルはまず間違いなく、そんな創造主の影響を色濃く受け継いでいた。

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

 

 かくして13時間後、全ての製作工程を終えたピクセルは完成品を無造作に司書Jに渡すと、何も言わずに脱兎のごとく9階層へと帰って行った。

 

 

 

 そして当初は論外と断じていたスパリゾートナザリックのスチームバスを利用しものの10分で湯浴みを済ませ、魔導王が待ち受けるエ・ランテルの王宮へ向かいナザリックより姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『骨の翼と羽の翼』

 

 

 

ピクセル:さく え

 

 

 

 

 

 

 

 それは30ページほどの幼児向けの絵本だった。内容は、ひょんなことから種族間を乗り越えて仲良くなったバードマンと骨のハゲワシボーン・ヴァルチャーの愛おしい友情物語である。

 

 

 

 最後は人間に囚われてしまったバードマンを骨のハゲワシボーン・ヴァルチャーの主人のネクロマンサーが助け出し悪い人間を滅ぼしていつまでも平和に暮らしましたとさ、という極めて心温まるオチで締めくくられる。

 

 

 

 一般メイドの1日の休日ででっち上げられた絵本のクオリティとは誰も信じるまい。

 

 ナザリックにおける人類哲学や種族間融和などの思想の流れを見事に汲み取り、伸び伸びとして斬新なカラーイラストで描かれたその作品は、どっからどう見ても野生のプロの所業だった。

 

 

 

 幼児向け絵本でありながら、ピクセルの作品は大図書館アッシュールバニパルの司書たちのあいだで見事に好評を得ることになる。

 

 また他の利用者たちからも数多くの称賛の声が上がっていた。

 

 

 

 

 

「最後に二人仲良く過ごせて本当に良かったです! あとネクロマンサーの絵がカッコよかったです!」

 

 

 

70代男性・ダークエルフ

 

 

 

「道徳的で素晴らしい内容だったわ! いつか愛しい方と為した未来の我が子に読み聞かせてあげたい」

 

 

 

年齢未設定・淫魔

 

 

 

「作者は素敵で繊細な感性をお持ちのようだ。作品への不敬になるやもしれないが、もし許しを頂けるなら外界侵略のためのプロパガンダに利用させてはもらえないだろうか?」

 

 

 

年齢未設定・上級悪魔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで時に、世に放たれた創作物は時に思わぬ拾い物を創作者へと送り届けることもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バードマン×骨のハゲワシボーン・ヴァルチャーまじてぇてぇ!この作品を読んで目が覚めたでありんす。真実の愛の前には性別や種族差の垣根など何の意味もありんせん。

 

 わた……わらわが今まで御方に抱いていたのはただの劣情でありんした。世界の真理は漢と漢の鳥×骨!

 

 つまりペロロンチーノ様×アインズ様まじてぇてぇ! 欲を言うなら二人の間にはさまりてぇ!」

 

 

 

年齢未設定・真祖

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作品発表から41日後、ピクセルの元へ訪れる一人の吸血真祖の危険思想が、ナザリック地下大墳墓に未曽有の大災厄を齎すことになるのだがまたそれは別の話。

 

 



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続きを書くと言いながら間が大変空いてしまいました申し訳ありません
オリ主モノの方と並行してやろうとするとなかなか時間が取れなくて……

後自粛生活のせいでファミレスに通いづらいせいもあります

本当は上下編で終わらせたかったのですが、途中が長くなり過ぎたので間を挟みます


 

 

 

 今ナザリックにおける一般メイド達の界隈で、大図書館(アッシュールバニパル)で休日を過ごすのがトレンドとなりつつあるらしい。

 

 単に読書で時間をつぶしたり、書評を入れた栞を巻末に挟んだり。後学のための調べ物をしたり。アインズ様が御手に触れた本を追読しながら慣れない頭脳を悩ませたり。あるいは電子描画ツールを借りて自分で創作してみたり。等々、各々の個性のままに過ごしているらしかった。

 

 主に与えられし安息日を有意義に過ごせるならば、大いに素晴らしい事である。 ピクセルの休日譚がどういうわけかメイド達界隈の中で広まった結果だと思うと、本人としては少し気恥ずかしいものがあるが。

 

 そんなわけでピクセルは41日ぶりに大図書館(アッシュールバニパル)を訪れるに至る。

 例の如くゴーレム達に開いてもらった大扉を通過し、荘厳さと静寂が合わさった知的な神秘空間へと足を踏み入れた。

 

 のだが、その先の光景を見てピクセルは唖然とした。

 

「あらら、みんな随分手を付けたわね……」

 

 メイド達は、ピクセルが職務に努めていた41日間で図書館の内装に数多くの手を加えていたらしい。

 ざっと全体像を見据えただけで、ピクセルには手に取るように事の次第が読み取れた。

 

 以前記憶したはずの大図書館(アッシュールバニパル)の内装と目の前の状態を間違え探しの様に見比べる。

 すると、保存魔法の欠けられた上等な生け花の花瓶や、アルベド様から手習いした刺繍技術の応用で造られたであろうテーブルクロス。額縁に飾られたアインズ様や他の至高の御方々の肖像画。ほかにも様々な微細な小物が加えられているのがわかる。

 

 幸いにも図書館内の雰囲気を致命的に損なう無粋者はいないようだ。ピクセルとて同僚たちの美的センスは信頼している。しかしこれは如何なものか。

 エ・ランテルにおける旧都市長邸宅とかならまだしも、至高の御方々が御造りになられたものに、ここまで手を加えていいものだろうか。

 

 多分、代わる代わるに訪れたメイド達一人一人は一品添えた程度の気持ちなのだろう。だが塵が積もって山になり、大きな変化をもたらしてしまったようだった。

 残念ながらそれをメイドの中で理解できたのは、一番最初の状態を知っているピクセルだけだったということだ。

 

 入り口近辺に控えて利用者を待っていた司書J氏に、ピクセルは不安を込めて伺いを立てた。

 

「久しくお目にかかります、司書J様。同僚たちが大変な模様替えをしてしまったようですが、これは大丈夫なのでしょうか?」

 

 ピクセルが飾られた小物たちや小道具を視線で指し示しすと、司書Jは笑うというか嗤うみたいに顎骨をカクカクさせて快く答えた。

 

「事の次第をお知りになったアインズ様が大変お気に召されたそうですよ!」

 

「えぇ!? それなら良かったのですが」

 

 意外に思いながらも、ピクセルは胸をなでおろした。

 アインズ様は他の至高の御方々がお決めになられたことを極力尊寿しようとするきらいがあるから。

 

 代表例では至高の41人の一柱、源次郎様の私室のことが挙がる。

 かの御方の部屋は自他ともに公認の『汚部屋』だ。メイドとしての感性と観点からはっきり言えば、マジックアイテムや宝物が散乱して足の踏み場が切ないあの状態はあまりに見るに堪えない。だからメイド達の中で室内に臨時で収納スペースをつくり、分類別に整理しようかと案が挙がったのだが、源次郎様の意向を尊重するためにアインズ様によって却下された。

 

 ほかにもプレイアデス7姉妹におけるエントマとシズ・デルタの年功序列が不明な問題について。本人たちが暫定的にでもとりあえず決めて欲しいと申し立てたのだが、「何か意味があるのかもしれない」ということで先送りになったらしい。

 

 また少し特殊な例だが、アインズ様が直々に守護者統括のアルベドに『愛するよう』に命じたことについて。ご自分で命ぜられたことでアルベドも大変喜んでいるのに、時折タブラ・スマラグディナ様へ慚愧の念を浮かべることがあるそうな。

 

 至高の41人の頂点として他の至高存在を徹底的に尊重するアインズ様のスタンスは、仕えるシモベとしてとても好ましいと思うと同時に模範とすべきものでもある。

 だから御方の言動から最大限その価値観を読み取って尽くすのが、従者としての務めである。

 

 

 しかし上記3例がアウトゾーンで、図書館の小物追加がセーフ。考えるだけでは法則性が見いだせない。

 

「具体的に、アインズ様はどういった部分に感心しておられたのですか?」

 

「寄贈される本や品のクオリティの高さですね。また、一般メイドの皆様方が有意義に休日を謳歌していることも気にかけておられるご様子でした」

 

「なるほど」

 

 単純に図書館内装へのメイドの干渉がグリーンゾーンに収まっているからという理由。

 それにメイドに命じた休日の遵守を、アインズ様自身が快く思われている点が大きいようだ。

 

 とはいえ万が一ということもある。次の休日当番には軽く釘を刺しておくべきだ。

 更に翌日のアインズ様当番の際にピクセル自ら、図書館のことをさり気無く伺いを立てるのが望ましい。

 それにより主人の意向が判明した後に、次の一般メイド朝礼で全体に注意喚起を行うのがあるべき流れであろう。

 

 

 円滑な報連相は正確な確認作業の上に成り立たねばならないのだ。

 

 そうして胸算用に顎に手をやるピクセルを見て、司書Jは笑いながらも緩やかに窘めた。

 

「いやはや生真面目と言いますか生粋の従者と言いますか。ピクセル嬢の業務への忠実振りには、同じくシモベとしてひたすら関心するばかりです。

 しかし今日は貴女様だけの休日、どうかごゆるりと図書館をご利用くださいませ。アインズ様もきっと、それをお望みでしょうから」

 

「確かにそうですね」

 

 ごもっともな話であった。

 休日は翌日のアインズ様当番に控え、肩の力を抜いて過ごすべきもの。

 明日のことは明日思い悩めと、どこかの誰かが言っていたような気がする。

 

「では、失礼します。また電子ツールお借りしますね」

 

「どうぞどうぞ。良い休日を」

 

 かくして司書Jと別れ、ピクセルは一般的な書籍が所蔵されている知の間へと向かった。

 

 目的としているのは、前回の休日でピクセルが著作した絵本の修正である。

 

 衝動と熱に浮かされて勢い任せにでっち上げたあの絵本。司書たちや他のシモベやメイドの同僚からよくできてると評価の声を頂いたわけだが、下書き無しの急造作品であったため思い返すと粗が多くかえって恥ずかしくて仕方が無かった。

 だから今日は絵の構図をもっと練って下書きからちゃんとやり直すつもりである。もちろん、本日までの40日間の間に構図案の修正は考えてきたので抜かりはない。

 

「そうそう、あとアレをちゃんと付け加えないと」

 

 おなじみの『この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは何ら関係ありません』である。

 著作物としてある意味最も重要な注意書きだ。

 

 事は第1から第3階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンが発端。

 何と彼女は恐れ多いことに、ピクセルの描いたあの絵本をアインズ様とペロロンチーノ様の同性愛の暗喩として解釈してしまったのだ。

 

『ペロロンチーノ様×アインズ様まじてぇてぇ! 欲を言うなら二人の間にはさまりてぇ!』

 

 彼女の感想を聞いた時は思わず拳が出そうになるところだった。

 ピクセル自身は我慢したが、後で事情を知ったプレアデスのユリ・アルファがレベル差をものともせずおなかに良い一撃をくれてやったらしい。

 

 自分の作品がどのような形で読者に嗜まれようと気にするピクセルでは無い。だが流石にピクセル自身がそのような意図で絵本を作ったなどと思われてしまっては、ナザリック地下大墳墓中から白い目で見られること請け合いである。

 だからこそ、フィクションうんぬんの注意書きは必須なのだ。

 

 なぜだかわからないがあの時の彼女の背後からは、ピンクの肉棒の如き畏れ多い御姿の幻影が感ぜられた。

 彼女の創造主はペロロンチーノ様のはずなのだが、血は争えないというものなのか。

 

 廊下を歩きながらピクセルは、事の次第を考察し始める。

 

「シャルティア様は死体愛好家(ネクロフェリア)

 故に最上級アンデッドであるオーバーロードのアインズ様が性的対象として魅力的に映る。それをお決めになられたのは創造主のペロロンチーノ様。

 そしてシャルティア様は両性愛者(バイセクシャル)で、同性愛にも非常に寛容。アインズ様とペロロンチーノ様は……非常に仲がよろしかった。

 

 あれ?」

 

 何かがピクセルの思考に引っかかる。多分この引っ掛かりを引っ張り上げると恐ろしいことになるだろうなという確信があったので、ピクセルは振り払うように別のことを思い浮かべた。

 

 6階層守護者のマーレは男性なのに雌のような顔でアインズ様を見つめているな、とか。

 武装したシャルティアは吸血鬼の羽じゃなくてバードマンのような翼のアイテムで飛行するんだよな、とか。

 7階層守護者のデミウルゴスと執事長のセバスは本当に仲が悪いよな、とか。

 

「ないないない、それはない。ありえない。万が一もない。私は知らない。何もわからない」

 

 世の中には知らないほうがいいことなんていくらでもある。

 餓食孤蟲王の生態とか、御隠れになられた至高の方々の行き先とか、第8階層の謎とか、エントマのおやつの素材とか、立ち入り禁止されたアルベドの部屋とか。

 多分これもそう。

 

 星座の如く悍ましい一枚絵を描きつつあるシナプス回路を強引に引きちぎりながら、ピクセルは努めて平静にして歩き続けた。

 

 

 とっとと絵本修正して帰ろう。そう思って目的の本棚に近づいたわけだが、ピクセルの目の前に思わぬ障害が立ちふさがっていた。

 絵本が収納されている本棚のすぐ近くのテーブル。そこに幾冊の書籍とノートを広げ読み書きにふける、メイド見習いのツアレニーニャ・ベイロンの姿である

 

 内心で『ゲ』とつぶやいて、まるでそれが聞こえたかのように気配に気づいたツアレはピクセルの方を向き直った。

 

「! お疲れ様ですピクセルさん」

 

「お疲れじゃありませんよ……今日は非番です。ツアレこそ日本語の勉強御苦労様ですね」

 

「早く日報や帳簿を書けるよう頑張ります」

 

 愛嬌のある表情で健気に声を張るツアレ。

 ノートに習字された不格好なひらがなを見下ろして、ピクセルは酷くバツが悪くなった。

 やはり、自分が休んでいる中で同僚が働いてる姿を見るのは後ろめたいものである。

 

 休日には同僚に出くわさないよう気を付けていたのに、丁度メイド見習いとして日本語を勉強している彼女に出くわすとは本当に運が悪い。

 しかもよりによって、今彼女が広げている本の一冊は――

 

「お顔が赤いようですが体調がお悪いのですか?」

 

「……気遣いは不要です。ところで読み途中で悪いのですが、その絵本すこし貸してください」

 

 何も言わずに差し出してくれればいいものを、何故かツアレはパアッと顔を明るくして尻尾を振る子犬の様に笑みを浮かべる。

 

「やはりこの絵本、ピクセルさんがお書きになられたのですよね!

 わかりやすいストーリーできれいな絵で、日本語の勉強にとても役に立ちました!

 一般メイドの皆様方は、お仕事だけでなくこのような才覚もお持ちなのですね! 尊敬します!」

 

 ピクセルは差し出された絵本をそっけなく受け取った。

 

「どうも、お役に立てたようなら結構です

 貴女の場合は業務でもそうですが、それ以上に(・・・・・)セバス様との恋文を交わすのに役に立ちますからね」

 

「以上だなんて……そのようなことは決して……」

 

 ツアレ二ーニャ・ベイロン。

 

 大多数の一般メイドと同じように、ピクセルはこのツアレというメイド見習いが酷く苦手であった。

 

 9階層最高責任者でピクセルの上司である家令(ハウススチュワード)のセバス・チャンが、外の世界で拾ってきた下等生物である彼女。それがなんの偶然かアインズ様の恩寵に預かることになり、一般メイド見習いの地位を与えられ今に至る。

 

 一般メイドとして極めて悪く言えば、彼女はセバスに媚びて擦り寄り、神への奉仕という尊い仕事を奪いに来た簒奪者だ。

 彼女のメイドの志望動機はピクセルたちからすればとても不純なもの(・・・・・)だから、すべからくその第一印象は最悪だった。

 

「失礼しますね。暇者が習字の邪魔をしては悪いですから。ナザリックの皆を見直させたければ忠義に励むことです」

 

「はい! 拾って頂いたセバス様だけでなく、お仕事を教えていただいたナザリックの皆様方。

 なによりアインズ様から賜った御恩を返すべく最大限尽くさせていただきます」

 

「よろしい。ただ図書館ではお静かに。少々はしたないですよ」

 

「……失礼しました」

 

「こちらこそ」

 

 後々彼女は、エ・ランテルで出張し人間の使用人を束ねるメイド長の地位が与えられる予定である。

 とっとと一人前になってナザリックから出てってもらえればピクセルにとっても気が楽である。そういう意味では彼女の頑張りにとても期待したいところであった。

 

 今はピクセルから立ち去ろうとしたのだが、遠くから近づいてくる人影に気付いてふと足を止める。

 『ゲ』と今さっきの様に心の中で呟いた。

 

「これはこれはデミウルゴス様、まさかこのような場所でお会いすることになるとは奇遇でございますね」

 

 あらわれたのはピクセルたちにとって遥か格上の存在、第7階層守護者で上位悪魔(アーチ・デビル)デミウルゴス。

 いつものように刺々しい耳とオールバックヘアに鮮やかな橙色のスーツの姿。柔和な笑みを浮かべながら、しかし眼鏡越しに輝くダイアモンドアイはギラギラと二人を見据えていた。

 

「ごきげんようピクセル嬢。それにツアレ嬢、君に会うのは王国以来だったかな?」

 

「……はい、お久しぶりでございますデミウルゴス様」

 

 デミウルゴスの視線の種類はピクセルとツアレに対しそれぞれ全くの別物である。

 前者は志同じくする同士だが、後者は興味深い実験動物。

 しかもセバス・チャンと根深い因縁のあるデミウルゴスの存在は、ツアレにとって酷く険しい鬼門と言えるだろう。

 

 上位者を相手に気後れしてしまうツアレの態度はシモベとして低評価であるが、相手が悪いのだから今ばかりは致し方が無い。

 少なくとも即座に喧嘩腰になるセバスよりは100倍マシだと思うべきだ。

 

 ピクセルは塩味の強い汗を垂らしつつも、努めて二者に割って会話を促す。

 

「してデミウルゴス様は本日如何ご用件でこちらにおいでになられたのですか?」

 

「2冊ほど気になる本があってね。今後の侵略計画の参考にしようと読みに来たのさ

 そうしたら君に会えたものだから、ついつい声を掛けたくなってね」

 

 デミウルゴスの視線はピクセルの手元に落とされて、次いでピクセルもあわてて手元の絵本を見た。

 背筋が凍る感覚が奔り思わずひきつった笑みが浮かび上がる。

 

「……先日のご評価は一種のお戯れかと思われましたが、よもや本気でおっしゃられていたとは。大変失礼しました」

 

 絵本がプロパガンダに使えるだのなんだのと言われたが、一体全体どうしてそうなる。

 

「キミからすればピンと来ないかもしれないがね。ペンは剣より強しという言葉もある。実際絵本や童話は世界の文化の中で大きな意味を持つものだ。

 君の作品のおかげで、アインズ様の真の御計画を理解することが出来た。心より感謝を送るよ」

 

 本当に何がどうなってピクセルの拙作からアインズ様の御心へと繋がるのだろう。

 シャルティアもそうだが、どいつもこいつも普段からどんな視点で読書しているというのだ。同じシモベなのに得体が知れなくて鳥肌が立ってくる。

 

「左様でございますか。創作者として大変興味深く思いますので、どうかあちらでお聞かせ願えますでしょうか。

 ここではツアレの勉学の邪魔になってしまいますし」

 

「ああそうだね。ところでツアレ嬢」

 

「は、はい!」

 

 デミウルゴスは値踏みするような目つきでツアレを見つめ、彼女は睨まれた蛙の様に縮こまる。

 表情だけは本当にニッコリと、悪魔なのにキューピッドの様に慈しみに満ちていた。

 

「セバスとの進展は如何かな? メイド見習いとしての自己研鑽も大変結構だ。

 しかしそれよりも個人的にはナザリックの将来において君たちの展望は個人的に大変興味深いところだよ」

 

「……は、はぁ」

 

「交渉術に困りごとがあれば是非相談に乗ってくれたまえ。配下に専門家がいるからね。

 彼女はその手の知識に関してならば、同種族のアルベドなどとも比べ物にならないから安心してほしい」

 

「……どうも、ありがとうございます」

 

 カチーン。

 

 ふとピクセルの頭蓋の頂点に、響きよい亀裂が立ち上った。

 

「それは下世話というものです、デミウルゴス様」

 

 会話は酷くオブラートに包まれ気遣いに溢れていたが、聞いていたピクセルはかなーり頭にきてしまったのだ。

 

 デミウルゴスは彼なりに、真摯に紳士にナザリックの将来を見据えて、ついでにツアレのことも思い遣って相談を持ち掛けたには違いない

 しかし彼の意図には確かにツアレの努力を足蹴にするニュアンスが含まれている。

 そしてそれは結果的に、一般メイド達の誇りとアインズ様を軽視することに繋がるのだから怒りが沸くのは当然のことだ。

 

「僭越ながら申し上げます。メイド見習いの地位を与えたのは他ならぬアインズ様の命によるものであり、それを軽んずることは不敬に値します。

 また、ツアレはいまだ従者として未熟な身であり、当分他事にうつつを抜かせる暇も余裕もありません。

 デミウルゴス様としてもナザリック全体のことを慮り提案した次第でございましょうが、アインズ様直々の勅命でもない限りは優先事項を間違えてはならないかと」

 

 口にはしていないがデミウルゴスは、所詮人間が一般メイドの真似ごとなどと……思っているようである。

 当初の一般メイド達も同じような認識をもっていたのでその気持ち自体は本当によくわかる。

 だがツアレがアインズ様の命に忠実に従い懸命に学習を積んでいることは否定しようのない事実。

 

 だからこそツアレは一般メイド達の間で浮くような存在になったとも言えるのだ。下らぬ人材であれば簒奪者にもなりえないのだから一般メイド達から敵視すらされないだろう。そういう意味で彼女の存在は、閉鎖環境にあった一般メイド達のカンフル剤としてちゃんと機能している。

 

 そして一番大事なことだが、将来的なエ・ランテル王宮におけるメイド長就任の辞令は、彼女の努力をアインズ様が評価していることの何よりの証明なのである。

 

「……失礼、大変不用意な言動でありました。階層守護者でありながら御方の意向を軽んじ、ひいてはツアレをはじめメイドの皆様方の業務を侮辱するような発言を申し上げたこと、心よりお詫び申し上げます」

 

 このように理屈と筋を通し、真心こめて意見を述べればデミウルゴスはしっかり理解を示してくださる御方であった。

 

 知能と力に優れる悪魔でありながら、その能力に奢ることなく己を顧みることが出来るその性質は、ある意味で彼の最も尊敬すべきところと言えるかもしれない。

 少なくともツアレの故郷たる王国の中枢などとは、話に聞く限りでも比べるべくもないことがわかる。

 

「滅相もない事でございます。ツアレの未熟故にかような行き違いが生じてしまいますことは、教育を仰せつかりし一般メイドとしての落ち度でもあります

 それに重ねて申し上げますが、デミウルゴス様なりの深い御心遣いであることは全く重々承知の上です。そうでありましょう? ツアレ」

 

 上位者からの謝罪は、こちらの落ち度を引き出して相殺し相手を極力立てるのが常識である。

 煮えた腹の内は正直まだ治まってはいなかったが、これを怠ることこそ真の不敬と言えるだろう。

 

 そしてそろそろツアレを黙らせているばかりではみっともないので。軽くひと睨みしながら発言を促した。

 

「はっ。わたくしの心技それぞれが未熟でありナザリックの皆様方に不愉快とご迷惑をおかけしていることは紛れもない事実であります。

 にもかかわらずお気遣いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。

 ……一体幾年かかるやもわかりませんが、いつか自分に猶予と暇が許された暁には……その、ご相談の程どうかよろしくお願いいたします」

 

 ほら、やればできるではないか。任命初期のコミュ障ぶりが嘘のような礼節ぶりだ。ツアレもツアレなりに成長はしている筈なのである。

 それを見て理解できないデミウルゴスではないだろう。

 

 ひとまず丸く会話が治まってよかったなーと、ピクセルは心底より安堵した。

 

「ああ! 逆に間違ってもアルベドにだけは相談しないでくれたまえよ。

 色恋の類なら彼女は快く知恵を貸してくれるかもしれないが、全く当てにはならないのでね!」

 

「はぁ……承知しました。肝に銘じておきます」

 

 

 かくしてようやくピクセルは、デミウルゴスからツアレを引き離して話を聞くことになった。

 彼は彼で、シャルティアとはまた別にとんでもない絵本の解釈をしてしまったのだが、結果的に言えば階層守護者たちの中では一番マシな部類に入るのだから頭の痛い話である。

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

※おまけ

 

上の話はまだ続きますが、書けるスペースの無いオチのネタがあるのでそっちを書きます

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところでデミウルゴスがツアレに対し、執拗にアルベドの助力に注意を促していたことについて。

 この理由をピクセルが知ったのは翌日のアインズ様当番の時のことである。

 

 あろうことかアルベドも、シャルティアの絵本の解釈を鵜吞みにしてしまったのである。

 

 バードマンの同性がお好みならばと勘違いした我らが守護者統括。

 彼女は恵まれたはずの豊満なバストやヒップを無理矢理引き締めて男装麗人の装いをなし、己の黒翼に合わせたカラスの被り物をかぶってアインズ様に熱烈なアピールを敢行してしまったのである。

 

 あれはまったく目を覆いたくなるほど哀れな姿だった。

 

『カァー♡! カァー♡! カァー♡!』

 

 だが一番哀れなのは、倒錯した彼女を見て何らかの精神支配を確信して心を痛められたアインズ様に他ならない。

 本当に、本当に、哀れなご様子であらせられた。

 

『おのれぇ!! シャルティアを手籠めにするだけに飽き足らずアルベドの尊厳を奪い辱めるかぁ!!

 あの糞共めがぁ!! その正体暴いた時には必ずや地獄を越える苦しみを与えてやるぞぉ!!』

 

 違うんです、ソイツ自分で尊厳捨てたんです。辱められたんじゃなくて恥ずかしい奴なんです。

 

 本当に、階層守護者という連中はヒトの描いた絵本を何だと思って読んでいるのだろう?

 

 この後滅茶苦茶弁明した。

 

 

 

 

 

 




次回、デミウルゴスの話を聞いてから、ピクセルがもうひと作品思いついて発表して完結です


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宗教ネタとBLネタと14巻の独自解釈が混じります。
とくに宗教ネタに関して表現的に問題があると思われた方は、なにとぞ是非にご意見をくださいまし。重く受け止めて修正させていただきます。



 デミウルゴスをツアレから引き離したピクセルは、少し離れた書架の裏でデミウルゴスの話を伺った。

 

 自分の書いた絵本がどうして世界征服にかかわってくるのか、作者としては気になってしかたない。

 

 

「アルベドが打ち立てた、アインズ様の巨大石像建設計画のことを覚えているかい?」

 

「アインズ様に凍結されたご計画ですね? 一見素晴らしい案のように思えたのですが」

 

「ああ、私もアルベドも当初は是非行うべきだと思っていた。力なき愚なる民にも、御方の力と威光をあまねく伝える手段として手っ取り早く合理的と思ったからね。

 だがアインズ様はこの案に、即座にわかる‘‘5つほどのデメリット‘‘があるとおっしゃられたんだ」

 

「5つも、でございますか!?」

 

 

 なぜ御方の威光を示す大石像の建設に、それほどまでのデメリットが存在するというのだろう。

 

 その後デミウルゴスとアルベドは二人で論じ合ったが芳しい考えは浮かばなかったそうな。

 

 

 ピクセルは改めてアインズ様の深淵なる思慮に畏敬の念を憶えつつ、それはそれとしてもう一方の理解しがたい頭脳の言葉に訝しみながらも耳を傾けた。

 

 

「そんな中、思い悩んで図書館で思索していた時見つけたのがキミの絵本だったというわけさ」

 

 

「はぁ」

 

 

 形容に困る気持ちを飲み込んで拝聴に努めるピクセル。

 

 すると聞いてるうちに、どうやらデミウルゴスは比較的マトモな話をしてくれた。少なくとも吸血真祖の某階層守護者よりは。

 

 

 言ってみればピクセルの絵本は、ナザリック地下大墳墓およびアインズ・ウール・ゴウン魔導国の思想の縮図のようなものであるらしい。

 

 そのどちらも根本にあるのは、ネクロマンサーの主の下に為される異種族同士の融和思想。

 

 

 そしてそれは、実在したとある宗教の構造と非常に近いらしいのだ。

 

 

 デミウルゴスが見せてくれたのは、辞書の様に分厚い装丁の、表紙に十字マークが刻まれた神話書物だった。

 

 彼が気になっていた2冊の本のうち、もう一冊がそれのようである。悪魔たる彼が玩具の様に嬉しそうにその書物を手に取る姿は、冒涜的でもありどこか滑稽でもあった。

 

 

「それは十字教の聖典にございますか?」

 

「そうだとも」

 

 

 内容は確か……地上に降り立った神の分身が全ての人類の悪業を背負い、救済を為すとかなんとか。

 

 伴って、神の支配の下での全人類の平等も謡っていた気がする。

 

 

「そう、そこだ! 神の下による絶対平等! その根本的思想もアインズ様による支配思想と非常に類似している。君の絵本のおかげで、そのことに気付くことが出来たんだ。心より感謝を申し上げたい」

 

 

 絵本のおかげというより、たまたま連想ゲームの中間地点にピクセルの絵本が挟まっただけではないのか。

 

 逐一大げさだよなとピクセルは内心毒づいていた。

 

 

「はぁ……それはなによりで。して、十字教との類似性に、一体どんな意味があるのでしょう」

 

「それを説明するため、まずこの宗教の強大さについて知ってもらわなければいけない」

 

 

 悪魔たるデミウルゴスが言うに、十字教はその存在そのものが強大な奇跡によって成り立っているらしい。

 

 最初は一地方の民族宗教だったものが、神の御子の光臨によりその存在を昇華させ、2000年以上の伝道を経て、全人口70億人の3割以上を抱え込むまでの強大な集合体へと成り上がったのだ。

 

 学者の中には神と御子の存在を否定する者も居るのだが、もたらされた伝道の結果だけは覆しようもない事実であり、それはまさに神の奇跡と言っても過言では無い。

 

 

「2000年以上!? 70億の3割ということは少なくとも20億人以上ですよね!? そんな宗教あり得るんですか!?」

 

「ああ、おそらくあらゆる世界に於いてすら類を見ないものだろうね! 旧約の聖典を含めれば更に時代を遡れるが、それはともかく」

 

 

 デミウルゴスはノックするように、ページをたたいて示して言った。

 

 

「もしこの偉業をアインズ・ウール・ゴウン魔道国で再現できれば、どれほど盤石な体制を築くができるだろうね

 2000年どころか、それこそアインズ様のおっしゃる通り万年単位での安定した支配体制を確立できるとは思わないかい」

 

「ま、まさか!」

 

「だからこそアインズ様はこの十字教に目をつけられた!

 あの方の真の本懐とは、聖書神話をこの世界においてオマージュして、己を唯一神の座に据えることだったのだよ!」

 

「なんて恐れ知れずなことでしょう!

  あー!! 冒険者のモモン様ってそういうことですか!?」

 

 

 ピクセルはプレアデスのナーベラルを共連れて旅だった漆黒の騎士の姿を思い起こした。

 

 

「そこをわかってくれるかい! 最高だよピクセル君!」

 

 

 デミウルゴスは感に堪えないというように、パチンと指なりをした。

 

 

 魔道国における冒険者モモンの真の意味とはすなわち、十字教における神の分身の救世主と同義だ。

 

 

 アインズ様は自ら人の身を装い下界に降臨なされた。そしてかの存在が民の犠牲として魔導国の傘下に加わることで、民の罪は許されてエ・ランテルには平穏な統治が約束された。

 

 

 それはそのまま、全人類の罪を背負って十字架にかけられた存在のオマージュなのである。

 

 正に、神をも恐れぬ神のごとき所業だ。

 

 

「もちろん私はその神の奇跡と実在には一定の敬意を覚えています。

 ですが己は悪魔ですので、この偉業を足台にアインズ様が輝けるなら、この上ない本懐です」

 

 

 デミウルゴスは恍惚とした笑みで言い切った。ピクセルはその言葉に深く納得した。

 

 

 信仰対象が違うのである。その神がどれだけ強大であろうが、自分たちにとっての最高の主はアインズ様に他ならないから。

 

 

 ここでようやく、話の話題がアインズ様の巨大石造建設計画に戻ってきた。

 

 

「アインズ様はこうおっしゃられていた。『我が偉大さは物によって知らしめるものではない』と。

 我ながら恥ずかしいよ。十字教において偶像崇拝は禁止されている。だからアインズ様はこれを躊躇ったのだろうね。

 

 即座にわかる『5つのデメリット』だって? 冗談じゃない。5つどころか10も100もあるじゃないか。アインズ様からすれば、物質を超越した威厳こそが大事なのだということが、やっと理解できました」

 

「流石はアインズ様ですね!」

 

「まったくです。神騙りの悪魔たるデミウルゴスとして、最高の主人たるアインズ様を世界の主神に祀り上げるこの偉業、必ずや成功させなければなりません」

 

 

 そう言ってデミウルゴスは嬉しそうに1枚の羊皮紙を差し出して見せてくる。

 

 おもむろに覗き見たピクセルは、思わず「うわぁ」と声を漏らした。

 

 

「十字教の魅力の一つは、実践的な教訓を交えた情緒豊かなストーリーラインにあると言えます。

 古代の一文学作品とみても十字教の聖書はとても優れていますからね。その方式を利用しない手はありませんよ」

 

 

『ナザリック創世記』

『エンリ・エモット記』

『漆黒の英雄譚』

『フール―ダ・パラダインによる魔道探求記』

『魔導国記』

『ネイア・バラハによる福音書』

 

 

 羊皮紙にはそのようなタイトルがいくつか書き込まれていた。これから制作する聖典のタイトルのようだ。

 

 

 もう本格的に聖典の形式を丸パクリするつもりらしい。実際世界を跨げば著作権も何もないのだから、成功例をそのまま流用するのは極めて合理的であると言える。

 

 

 そしてその一番下の方に、自分の書いた絵本の名前があった。

 

 

『骨の翼と羽の翼』

 

 

「十字教においても、絵本の形式で子供にも理解しやすく教義や思想を伝えることは極めて効果的とされていたんだ。

 ピクセル君さえよければこの本を現地語に訳して出版させてもらえないかい?」

 

「そういうことでしたら是非に! このような拙作でも世界征服のお役に立てるのでしたら、これ以上の誉れはありません」

 

 

 おだてられたピクセルはいい気になって、ついぞ修正予定だった自分の絵本をそのままデミウルゴスに渡してしまう。

 

 これから修正しようと思っていた、未完成だったのにである。

 

 

 

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ やっちゃったー! 何やってんだ私は!!)

 

 後悔先に立たず。

 

 いささか調子に乗り過ぎた。

 

 

 いくらなんでも、たった20時間で描いた手抜き絵本がこの世界中に流布されてしまうなんて恥ずかしいにもほどがある。

 

 

 せめて修正しようにも、すでに絵本はデミウルゴスの手中である。自分から差し出した手前、今から上位者たる彼に頭を下げて「修正させてください」なんて言いづらい。本人は気にしないかもしれないけれど、上下関係とはそういうものだ。

 

 

 それになんとなく、一度入稿してしまったモノに手を付けなおすのは、なんとなくしまりが悪いように思われた。

 

 

「大丈夫ですよピクセルさん。とてもお上手な本でした」

 

「……世辞は要りませんよ。でもありがとうツアレ」

 

 

 まさかツアレに励まされるようなことがあるとは、ピクセルは思いもしなかった。……存外悪い気はしない。

 

 そして彼女は、小動物のようにぺこりと頭を下げる。

 

 

「ところで、先ほどはデミウルゴス様とのご対応、ありがとうございました。

 その……あの方はセバス様との仲がよろしく無いようなので……怖くて」

 

「……それに関してだけは深く同情しますがね」

 

 

 ピクセルとしてはツアレがデミウルゴスを苦手とする気はよく理解できる。

 

 ツアレの身元引受人でもあるセバスはデミウルゴスと犬猿の仲だ。

 

 二人が9階層で顔を突き合わせた時などは、恐ろしくて周囲の使用人が逃げ出すのが恒例である。 

 

 残虐な悪魔でもあるそんな彼を、外部の人間であったツアレが恐れない方が逆におかしい。

 

 

「もっともナザリックに招かれたものである以上、デミウルゴス様もあなた自身を邪険ににすることはまずありませんからそこはご安心を。今度からはしゃんとなさいね」

 

「はい、今度からは無礼の無いよう努めさせていただきます!」

 

 

 元気よく返事をするツアレの姿にピクセルはうんうんと頷いた。

 

 セバスに連れられてナザリックに訪れた最初期に比べれば、見間違うほど元気で明るいようすである。少しはメイドらしくなって結構だ。何せ愛嬌が大事な仕事だから。

 

 

 実のところツアレに懐かれてるだけなのだが、ピクセルはさっぱり気づいていなかった。

 

(ん-? なんだか現場教育みたいになってない? 休日なのに)

 

 職業病か、いつのまに勤務時間の空気感覚でツアレと接してしまってる自分に、ピクセルは少し内省した。

 

 アインズ様がシモベに望む休日のスタイルとは乖離してしまってる。よろしくない。

 

 

 世間話でお茶を濁す体で、ピクセルは世間話を持ち掛けた。

 

 

「それにしてもほんと、デミウルゴス様ってセバス様と仲が悪いですよね。どうしてなんでしょうね」

 

 

 すると、ツアレはすぐには返事をせず遠くの書架をぼんやりと見据えた。

 

 そして何とも言えない表情で、ポツリとこぼす。

 

 

「……理由はわかりません。セバス様もデミウルゴス様も、お二方で言い争っている姿が一番生き生きしていると、そんな風に私は思えました。あくまで個人的な所感なのですが」

 

「そ、そうでしょうか」

 

 

 あまりにも意外なツアレの意見に、ピクセルは少し戸惑った。

 

 

「喧嘩するほど何とやら……というやつでしょうか?」

 

「いえ……何と言ったらいいか……」

 

 

言葉を探しあぐねる様子を見せるツアレは困ったように眉尻を下げている。

 

 

「ただ、私にはどうしても二人の間に入り込めないものを感じてしまったんです。その……あまり気持ちの良い言い方じゃないのですけど、男女の関係のような。それが何かわかるまでは、私は彼らに近づくことはできない、そう思っています」

 

 

 どこか嫉妬するようなツアレの様子に、ピクセルは唖然とする他なかった。

 

 

「まさかツアレあなた……お二方をそんな目で見てたの?」

 

「……っ、いけませんよね、こんな考え。でもそう思わずには居られないのです。

 言い争う時だって、まるで二人きりの世界に入ったかのように没頭なされていましたし。

 セバス様にデミウルゴス様のことを伺った時だって、熱がこもったように長々と小言を呟かれていたのですよ? なのでやっぱりその……そういうことなのかなって。

それに……」

 

 

ツアレは自分の発言がいかに恥ずかしいものかを自覚したのか、俯いて黙ってしまった。

 

 

「……ちょっと待っていてください」

 

 

しかし、このまま放置しておくわけにもいかない。なによりセバスとデミウルゴスが不愉快だろう。

 

 とりあえずツアレの考えを否定することで、会話を再開させることにする。

 だが、彼女はもうかなり先まで進んでいたようだ。

 

 

「ねぇ、どうしてそんな発想に至ったの!? すごーく嫌な心当たりがあるのですけど」

 

「……その、昨日シャルティア様が図書館にてマーレ様に、ご自身の創造主とアインズ様がそのような関係かもしれないと仰ってて、それならあのお二方も……ってそう思って……」

 

 

 やはりあのバカ階層守護者が感染源だったらしい。

 

 どうしたものか、一度プレアデスのユリ・アルファにでも相談して一発ぶんなぐってもらおうか。

 

 ピクセルは心の中で罵倒しつつ、ツアレの勘違いを訂正することにした。

 

 

「あなたは誤解しています。確かにセバス様とデミウルゴス様は、互いへの感情がとても強いかもしれません!

 ですが、それは只のライバル意識であって、決してその……そういうそれじゃあ、ありませんから!」

 

 

 必死に弁明を試みるピクセル。連れはどこか煮え切らない様子だったが、ひとまずの納得を口にした。

 

 

「そうなのですか?……セバスさんもデミウルゴスさんのことが好きなのではないのですね?……よかったです!」

 

 

 安心したような、それでいて悲しんでいるかのような複雑な表情を浮かべる彼女に、ピクセルは頭を悩ませた。

 

 

「馬鹿ですかあなたは! 絶対に! ぜーったいにそんなこと、金輪際口にしてはいけませんからね!」

 

「……はい」

 

 

 さっきより返事のトーンは明らかに下がっていた。

 

 

 

 

 再三強く念押ししてからツアレの元を離れたピクセルは沸騰しそうな頭を冷やすように、無心を努めて書架の回廊を早歩きしていた。

 

(まずいまずいまずいまずい!)

 

 どうにも、ツアレの話を聞いてからピクセルの頭の調子がおかしい。

 

 瞼を閉じるとどうしても、例の二人が憎からず思い合い頬を朱に染めるという邪悪な幻覚が浮かび上がってしまう。

 

 

「私は一体何を考えているんだ……最低だ……」

 

 

 気をそらそうと別の本を手に取って読んでみても、図書館風景を模写しても全く頭から離れてくれない。

 

 かえって様々な発想が連なって思い浮かび、脳みその中に重たくなってのしかかった。

 

 

 時間が解決してくれるかもしれないが、休日明けは栄えあるアインズ様当番と決まっている。

 

 断じてこれは、腐り切った幻影にとらわれたメイドに許されていい仕事ではないのだ。

 

 こうなれば、解決する手段はただ一つ。

 

 

「描くか!!……BLもの!!」

 

 

 確実に幻影を振り払う手段、それすなわち己が手で妄想を一切をアウトプットし頭の中から追い出すことに他ならない。

 

 

 ピクセルは赤らんだ顔で書架の一つのテーブルに腰を下ろし、司書から借り受けた電子ツールを起動させた。

 

 

 そしてそのまま、一心不乱にキーボードに両手の指を走らせた。

 

 

「ふぅ……ふーっ……」

 

 

 ジャンルはファンタジー/恋愛モノあたり。

 

 まずはキャラクターの設定と関係性だ。

 

 モデルは一応……セバスとデミウルゴスと決めているが、まさかそのままナマモノ*1として作品を出すわけにはいかない。さもなくばピクセルの社会的地位は絶命に追いやられるから。

 

 種族も設定も立場もすべて変えたうえで、二人の関係性だけをキャラクターに反映しストーリーを構築していくのが望ましい。そうすれば作品がバレても気づかれないし言い逃れができる。

 

 

 というわけでまずは、セバスのことを姫に使える敬虔な聖騎士スティアヌスとしようか。対するデミウルゴスは、姫を付け狙う山羊悪魔のアンベール。二人は姫を取り合うライバル関係で、いつも互いに一歩も譲らずいがみ争い合っていた。

 

 ところが実は両人、姫に対する恋慕より、ライバルに向かっていく情熱の方がはるかに強い。相手を屈服させることだけに、頭がいっぱいだったのだ。

 

 

(でも、そこからどうやって恋愛関係にもっていこうかしら? ただでさえいがみ合っているのだから、内に禁断の情熱を秘めていたって簡単にはいかないわ)

 

 

 実在のモデルがいるというだけあって、スティアヌスとアンベールが結びつくようにストーリーを動かすのは至難である。そもそも男性同士というのがピクセルにはあまりしっくりこない。

 

 

 しばし頭を悩ませたところで浮かんできたのが、アインズ様とペロロンチーノ様にみだらな関係を見出そうとした不敬者であるシャルティア・ブラッドフォールンの存在だった。

 

 

(あー!! ……もしよ? もしシャルティア様の言う通り……アインズ様とペロロンチーノ様がそういう関係だったとしたらよ? 神官戦士として天敵の能力を有しながら、ネクロフィリアとしてアインズ様のことを愛するシャルティア様の本当の意味って……)

 

 

 シャルティアは、ペロロンチーノ様の有するアインズ様への禁断の愛の、代行者として生み出されたのではないか?

 

 それこそエ・ランテルの安寧のために遣わされた、漆黒の英雄の如くである。

 

 

(ありえないあり得ないあり得ないったら! ぜーったいにありえない‼ 何不敬なこと考えてるのよ私!!)

 

 

 おぞましい推測を思い浮かべてから即座に却下するピクセル。

 

 

 しかし発想そのものは、目の前の創作にとって非常に有用であった。

 

 

(そうよ、アンベールの性別を女の子に変えてしまえばいいんだわ! 理由はえーっと……)

 

 

 圧倒的な戦闘力を誇るスティアヌスに、いつもアンベールは悪知恵で食らいついていた。けれどそれも限界が近かった。

 

 焦燥したアンベールは「スティアヌスに勝てる肉体が欲しい」と身体強化を司るピンクの魔女と契約。彼女の肉体改造を無防備に受け入れる。

 

 ところが魔女は悪魔を出し抜いた。魔女はアンベールの体から魂だけを抜き取り去って、その肉体を強奪した。かわりにアンベールに与えられたのはか弱いホムンクルスの少女の体である。

 

 元のアンベールとは似ても似つかない、小動物的な愛嬌にあふれる姿。それは正に、ライバルのスティアヌスの性癖ドストライクゾーンだった。

 

 

『契約通り、スティアヌスに勝てる肉体を用意してあげたわよ! その体でせいぜい彼に媚びを売って、背中でも一刺ししてやればいいわ! 元の肉体は、あたしがありがたーく有効利用させてもらうよ』

 

『ふざけるな! 元の体を返しなさい!』

 

 

(そうそう、こんな感じ! 性別が変わっちゃうなんて、なんて背徳的かしら。ここからなら自然と純愛に移行できそうね!)

 

 

 行き倒れた少女アンベールを何も知らないスティアヌスが拾って介抱する。

 

 アンベールは己に残された唯一の存在意義であるスティアヌスへの勝利の為に、苦渋の決断で慣れない女の子を装って誘惑する。けれどスティアヌスは理性でぎりぎり持ちこたえる。互いに悶々とした劣情が累積していく。

 

 

 何も知らないスティアヌスは、懐かしむように悪魔アンベールとの戦いや意外な心境を少女アンベールへと語る。

 

 やがてアンベールの中に、スティアヌスに女として惹かれていく感情を自覚し始める。

 

 

 それから、主人のお姫様とひと修羅場起きたり、正体がバレてぎくしゃくしたり。いろんなイベントが巻き起こる。

 

 

 なんやかんやあって最後は、悪魔アンベールの体を利用したピンクの魔女が暴れまくり、世界全体が大ピンチ。

 

 それを二人の愛の力で打ち滅ぼして、祝福と共に結ばれてめでたしめでたし。

 

 

「こんなものかしら、ふぅーすっきりしたー!」

 

 

 ピクセルはふーっとピンク色の溜息を吐いて、電子ツールのキーを止めた。

 

 

 ざっくりとしたシナリオプロットを作り上げ、そのおかげで忌まわしい幻影をすべて滅却することができた。

 

 

 最後に一文念のため、『このシナリオはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません』と書き添えた。

 

 

 ところで熱中し過ぎたが今の時間は何時だろう、そう思ってピクセルが時計を見ると……

 

 

「げーっ!? 日付が変わるまであと1時間!? いけないわ! アインズ様当番に間に合わない! 急がなきゃ!」

 

 

 どうやら熱中し過ぎたようだ。

 

 急いで書いたシナリオプロットを電子ツールに保存して、司書に返却し身支度のために9階層へと帰還する。

 

 

 それからまたしてもスパリゾートで即行スチームバスを浴び、身支度を整えアインズ様の御前へと向かっていった。

 

 

 なお保存したシナリオプロットは、電子ツールでタブが開きっぱなしになっており、いつでもだれでも見放題だ。

 

 

 そして次にそれを目にしたのは、ピクセルと同じホワイトブリム製の一般メイドの一人である。

 

 

「なななな! 何! ナンなのこれー!?」

 

 

 彼女は顔から火を噴くように頬を真っ赤に染め上げた。

 

 これから何が起きるかは、火を見るよりも明らかだった。

 

 

◆◇◆

 

タイトル『悪魔と聖騎士、ひかれあう魂』コミックス125ページ

 

原案:ピクセル 原作・作画:ホワイトブリム製一般メイドによる共同著作

 

 

これはホワイトブリム製一般メイド一同により制作された、対峙する悪魔と聖騎士を主人公とした純愛系TSF(TransSexual Fiction )ラブコメディコミックスである。

 

性転換を主軸のテーマに据えたラブコメディという少々ニッチなジャンルであることから、一般的な評価価値からは大きく逸れてしまうだろう。しかし独特のストーリーと情緒表現は、一部特定の者たちから熱狂的な支持を得ている。

 

また画面構図や作画力や、それを作り上げた一般メイドたちのチームワークには、確かな普遍的真価が見いだせる。この作品は、携わった一般メイドたちが休日ごとにリレー形式で制作したものであるが、均一的なクオリティを実現している点はただただ驚嘆の一言であろう。制作への熱意があまりにもずば抜けている。

 

ぜひとも彼女たちの次回作には期待したいところである。

 

 

 

「屈強な大悪魔が非力な少女に成り下がり、仇敵であった男に救われて雌の肉体が否応なしに反応するというシチュエーションがとてもそそりんした!

 この、尊厳破壊と独特の性的表現からなされる情緒の変遷がとても癖になるでありんす!」

 

 年齢未設定:真祖:女性

 

 

 

「絵柄がとってもきれいでびっくりしました!! あと話もすごく面白かったです。

 ただなんというか、どんなに互いを思い合っても、性別が違うとすれ違ってしまうのかなと思うと悲しいです。

 二人が最後に結ばれてよかったです」

 

 70代:ダークエルフ:男性

 

 

 

「妻に勧められて読みました。ストーリーは難解で理解に苦しみましたが、生き生きとしてさらに愛嬌ある絵柄には魅力を感じました。

 しかし熱心な読者である妻の様子がおかしく、時折興奮して鼻血を出すようです。健康被害が出てるので禁書指定するべきかもしれません。

 犯人はあなたですかピクセル?」

 

 年齢未設定:竜人:男性

 

 

 

「違うんです! 私はぜんっぜんその気はなくて! なんとなーく思いついて書きなぐったメモを他の子が覗き見たらしくて、気づいたらこんなことになったんです!

 ……っていうかそもそも鼻血吹いて倒れるようなR指定シーンなんて一切ありませんよ。おかしいのは……その奥さんなのでは?

 またこの作品はフィクションであり実在の人物団体とは何ら関係ありませんから!」

 

 年齢未設定:ホムンクルス:女性

 

 

 

※以下、一通のファンレター

 

『この作品を通し、生まれて初めて「漫画」というものを読ませていただいたのですが、自分の人生がひっくり返るぐらいの強い衝撃を受けました。

 斬新なイラストと文章の表現を見事なバランスで調和させて物語を織りなしたこの「漫画」という媒体は、実に革新的な表現体系だと思います。絵本や文学作品のそれとは比較できないほどの臨場感を味わうことができ、まるで本当に自分がその世界の中に没入したかのようです。

 

 そしてそんな素晴らしい表現方法で描かれたのが、これまた胸を打つ極上の純愛ストーリーだというのですから、この上なく贅沢な作品だと思います。

 忠義と博愛にあふれ圧倒的強さを誇りながら、どこか甘くて抜けてる聖騎士スティアヌス。そんな彼のライバルである、邪悪で権謀術数に優れながら愛情深い一面もある悪魔アンベール。正反対なようでどこかに通っている部分のある二人の対立関係を、アンベールへの『性転換』という驚愕のギミックによって掘り下げていく原作者の手腕にはただただ舌を巻くばかりです。

 

 まずは序盤の■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■と言えるでしょう。

 他にも語りたいシーンは数多くありますが、ここぞと一つ選ぶならやはりピンクの魔女との最終決戦でありましょう。

 いがみ合ってばかりだった二人が最後の最後に手を取り合い認め合うシーンがとても好きで、何度も何度も読み返しました。

 スティアヌスの武力とアンベールの策略、二つ合わさり最強の二人。最高です。後日譚でしばらく赤面で素直になれなかった経緯も合わせて愛おしかったです。何といえばいいんでしょう、これが『尊い』という感情なのでしょうか。

 

 このような素晴らしい作品を生み出した一般メイドの皆様方と、そしてそんな素晴らしい方々を生み出した創造主ホワイトブリム様には深い感謝と畏敬の念を覚えます。誠にありがとうございました。

 またこの作品のおかげもあって、日本語への勉強により一層の熱が入るようになりました。そのことも重ねて感謝申し上げます。』

 

十代後半:人間種:女性

 

(なお■部分は鼻血で着色して解読不能。文章は全て日本語で記されている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一般メイドチームの制作力の底力を感じました。今後もぜひともこの能力を有効活用してほしいです。

 しかしなぜかこの作品を読んでいると、根源的な恐怖を覚えました」

 

 年齢未設定:上級悪魔:男性

 

 

 

 なおこの作品を読んだデミウルゴスは悪寒のあまり、しばらく9階層に踏み入れることもツアレと接触することも避けるようになった。

 

 

 ピクセルや一般メイド達が悪意を持ってこのような作品を作ったわけではないことは、当然彼も理解はしている。

 

 

 けれどそれはそれとして、十字教神話の悪用を企んでいたデミウルゴス自身が、また別の創作物のモチーフとして利用されたというのは、余りにも痛快な偶然と言える。

 

 出来過ぎた因果応報だ。

 

 

 十字教の神罰は異世界の壁すら超越するのかもしれない。そう思ったデミウルゴスは、悪魔らしく身を縮めてひそかに恐怖した。

 

 

 

*1
 実在の人物を題材にした同人ジャンルや、同人誌などを指す俗語。




聖書の中では、神を騙ったり冒涜したりする「聖霊に対する冒涜」は非常に重い罪の一つです。

偽りの神という意味の名を持つデミウルゴスにとって、自らの最高の主であるアインズ様を偽救世主として仕立て上げる背信行為には、最上級の喜びを感じることでしょう。

一方で悪魔であるデミウルゴスは、悪魔として十字教の神の存在と強大さを深く理解していてリスペクトすらしています。



聖書パクって世界征服なんて作者は怖くてできません。
こんなこと思いつくなんて流石はアインズ様……


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