やはり俺たちが看病するのはまちがっている (陽陰 隠)
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命令

一色可愛いよね


今日の授業も終わり、いつも通り部室へと向かう。

俺の『本物が欲しい』宣言からかなり時間が経ち、今ではそれをネタに弄られることもなくなっていた。

......別に名残惜しいとか思って無いんだからね!

そんな雑念を振り払うように、部室の前に着いた俺は引き手に指をかけ、強めに扉を開けた。

すると、そこにはなぜか横になっている一色(いっしき)いろはのそばに雪ノ下 雪乃(ゆきのした ゆきの)由比ヶ浜 結衣(ゆいがはま ゆい)が座り込んでいるという光景が広がっていた。

 

「何の騒ぎだ?」

「ヒッキー!大変なの!いろはちゃんがね、部室に入ってきたと思ったらいきなり倒れちゃってね、それで――」

「分かったから一回落ち着け。雪ノ下、説明してくれ」

「別に熱があるだけで大したことはないわ。もう平塚(ひらつか)先生を呼んだから大丈夫よ」

 

どうやら一色が部室に入ってきて早々ぶっ倒れたらしい。

最近は生徒会の活動も忙しそうだったし、そのしわ寄せが来たんだろう。そんな事を考えていると

 

「おい!大丈夫か!」

 

平塚先生が勢いよく扉を開けて入ってきた。なにその入り方格好いいんですけど。

平塚先生は、そのままなれた手付きで一色の体温を測る。

 

「......うむ、37度9分か。病院は行かなくても良いな。とりあえず今日は一色を家まで送るぞ。お前達も着いてきてくれ」

「行くわよ、由比ヶ浜さん」

「う、うん。ヒッキーこれ持って」

「俺は荷物持ちかよ...」

「あなたが一色さんに触れるよりはましよ」

 

どうやら俺はこんな状況でも警戒されているらしい。まぁ、同行を許されただけましか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか一色を平塚先生の運転する車に乗せ、一色の家に向かう。

車に揺られながら、今俺ハーレムだなーとか考えていると

 

「ん..んぅ...ここは?」

「平塚先生の車の中だ」

「っ!?せ、先輩!?」

 

一色が目を覚ました。てか俺が居ることに驚き過ぎじゃない?八幡(はちまん)泣いちゃうよ?

 

「一色、お前が倒れたと雪ノ下から聞いてな。今お前の家に向かっているんだが、誰か人は居るか?」

「今日は誰もいないです...」

「それは困ったわね....どうしましょうか」

 

どうやら現在一色の家には誰も居ないらしい。

さてどうしたものかと、全員が悩む中、平塚先生が意を決したように口を開いた。

 

「......よし、では奉仕部に平塚静が命じる。奉仕部の3人で一色を看病しろ!私はまだ仕事が残ってるのでな。頼んだぞ!」

 

えぇ...命じるってあんたはル○ーシュかよ。せめて依頼とかにしろよ。

 

「でも、私と由比ヶ浜さんは良いとしてもH企谷くんを一色さんの家に入れるのはどうかと思うのですが」

「ああ、その辺は大丈夫だ。どうやら彼は理性の化物(笑)らしいからな」

 

おい、なんでそれをあんたが知ってんだよ。てかH企谷ってなんだよ。

 

「先輩が私を看病.....えへへ///」

 

一色さん、話聞いてた?奉仕部3人でだからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ比企谷(ひきがや)くん、入っていいわよ」

「おう」

「あ、でも一色さんから2mは離れて頂戴」

「お前は俺のことなんだと思ってんだよ」

「いくら理性の化物(笑)とは言ってもいつ暴走するか分からないでしょう」

「そ、そうだよヒッキー。ど、どうせ手を出すなら......わ..私――」

「由比ヶ浜さん、タオル濡らしてきてくれるかしら」

「か、かしこまりましたっ!」

 

乾いたタオルを握りしめ、慌ただしく部屋を出ていく由比ヶ浜を尻目に一色の部屋を見渡す。想像通りの女の子の部屋って感じだ。ピンクを基調としたいかにも一色らしいあざといレイアウトをしている。あとちょっといい匂いですね......。

 

「せ、せんぱぁい...あんまりジロジロ見ないでくださいよぉ」

「そうよ比企谷くん。いくら女性の部屋に入ることが無いからって変な妄想に使わない方が身のためよ」

 

流石に視線が無遠慮過ぎたのか、雪ノ下と一色に咎められてしまった。

 

「す、すまん」

「あら、やけに聞き分けが良いわね。なにか企んでるのかしら?」

「だから俺をなんだと思ってんだよ。病人が居る状況で騒いでも迷惑なだけだろ」

「あなたが気遣いまでできたのは意外だったわ...」

 

最近の俺に対する評価厳しすぎない?お前は俺に気遣ってくれ。

 

「ところで一色さん、食材があるか見たいのだけれど、冷蔵庫の中の物を拝借しても良いかしら」

「あ、はい。是非お願いします」

「それなら俺がやるわ。昔から小町が体調崩した時は俺が看病してたからな」

「ならお願いするわ」

 

役割を与えられ、それを口実にこの少々居心地の悪い空気から抜け出せる機会を得たので、意気揚々と部屋を出ようとドアに手を伸ばした瞬間――

 

「タオル持ってきたよー!」

「うおっ」

 

タイミングが悪く、由比ヶ浜がドアを思い切り開け、そのせいで派手に転んでしまった。しかも足が痛むので挫いてしまったらしい。今日の俺、不憫過ぎない?

 

「比企谷くん!大丈夫かしら」

「ヒッキー、ゴメン!」

「ああ、大丈夫だ。だが、多分足を挫いた。めっちゃ痛い」

「それ、大丈夫じゃなくないですか!?私、湿布取ってき――」

「いろはちゃんは病人なんだから動かないで!私が取ってくる!」

「...すいません」

「.....仕方ないわね。じゃあ私は食材を見てくるわ。一色さん、くれぐれも気を付けて。比企谷くん分かってるわね」

「怪我しててもこの扱いかよ....」

 

ほんと、不憫すぎる......



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二人っきり

こんな後輩が欲しい人生だった...


「.....先輩」

「なんだ」

「二人っきりですね♪」

「やめろ恥ずかしい」

 

一色(いっしき)の言う通り、俺達は一色の部屋で二人きりだ。正直居心地が悪い。それにしても戻ってくるの遅すぎません?料理をするであろう雪ノ下(ゆきのした)はともかく、湿布取りに行っただけの由比ヶ浜(ゆいがはま)が遅いのはおかしい。早く戻ってきてくれと強く願っていると、俺のスマホから音が鳴り出した。

 

~♪

「由比ヶ浜から?」

 

嫌な予感がしたが、出ないわけにもいかないので、恐る恐る電話にでる。

 

「...もしもし」

『あ、ヒッキー?あのね、湿布無かったから買ってこようと思うんだけど、我慢出来る?』

「俺はガキか。大丈夫だ」

『比企谷くん?』

「待て、なぜ雪ノ下も居るんだ」

『食材が足りなかったのよ。だから私も由比ヶ浜さんと一緒に行くわ。』

「由比ヶ浜に頼んじゃ駄目なのかよ」

『あなた、一色さんにトドメを刺すつもり?』

「すまん、忘れてくれ」

『それに、私と買い物に行けることがよっぽど嬉しいのか、私から離れなくなってしまったの』

「由比ヶ浜は犬かよ....」

『まぁいいわ。さっきも言ったけど、一色さんには手を出したら容赦しないわよ』

 

そう言って電話は切られた。

いやー、電話越しであの殺気とかヤバすぎだろ。ゆきのんは呪言使いなのん?

 

「一色、悪いが雪ノ下と由比ヶ浜が食材を買いに行ったから飯は遅くなるそうだ」

「じゃあ、本当に二人っきりですね♪」

「やめろ、雪ノ下に殺されちまう」

 

本格的に居心地が悪くなってきたので、近くにあったテーブルに突っ伏し、寝てるので話しかけないでくださいアピールをする。

すると、一色が立ち上がったのか、静かな空間に布の擦れる音と一色の足音が響き、止まったと思ったらガチャリと鍵をかける音がした。

.........え?鍵をかける音?

 

「先輩と....二人っきり....フフフ...」

 

え?何?怖いんだけどこの子。俺はこれから何されちゃうの?今日は運が悪いとは思ってたけど俺の命日だったの?

 

「先輩、起きてるのは分かってるんですよ?」

「......オキテナイヨ」

「やっぱり起きてるじゃないですかー」

「バレたか...てか体は大丈夫なのか?」

「実は先輩が転んだ時点でもう結構大丈夫だったんですけど、雪ノ下先輩に止められたので言い出せませんでした」

「そ、そうか。なら良かった。じ、じゃあ大丈夫なら俺は帰るわ」

 

無理やり話題を反らし、て席を立とうとしたが、足を痛めていることをすっかり失念していて、危うく倒れそうになる。

 

「痛っ」

「怪我してるんですから無理しないでくださいよぉ」

「ニヤニヤしながら言われてもな.....」

「てか今先輩動けないんですよね!なんでもできるじゃないですか!それじゃあ失礼して――」

「あっ、おい、やめろ――」

「....ふぅ」

「み、耳は、や、やめ――」

「....せんぱぁい」

「や、やめろって...」

 

一色の妙に熱っぽい息が俺の左耳に当たる度に耳が赤くなっていくのが分かる。

......新しい性癖に目覚めそう。

 

「じゃあ私の言うことを3つ聞いてください♪」

「は?なんでそんな事――」

「......いいんですかぁ?」

「分かった、分かったから耳に顔を近づけるのはやめろ!」

「絶対ですよ?言質取りましたからね♪」

「はぁ....出来る範囲にしてくれよ?」

「じゃあ1つ目のお願いは――」



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お願い

「今日は私の家に泊まって下さい♪」

「は?何言ってん――」

「あ、でも雪ノ下先輩と結衣先輩をどうにかしないといけないですねぇ...」

「あのなぁ...」

「何か不満でも?」

 

そう言って一色(いっしき)は俺に顔を近づける。

悲しいけどそこから動く足も遠ざけるために一色に触れる勇気も持ち合わせてないのよね。

 

「まぁ、この際先輩が居るなら別にいっか!」

「俺にも俺の帰りを待ってくれている人が居るんだ。小町って言うんだが――」

「お米ちゃんなら大丈夫って言ってますよ」

 

すると一色は、待ってましたと言わんばかりにスマホの画面を見せつけてきた。

そこには、お米ちゃんと書かれたトーク画面に、

 

『先輩今日は私の家に泊まってくそうです♪』

『了解です!お兄ちゃんをお願いします!』

 

と表示されていた。

いや待って何してくれてんの?外堀埋められたらどうしようも無いんですが?今帰ったら絶対小町に「なんで帰ってきたのさ。これだからごみいちゃんは...」とか言われるじゃん!

 

「これでもう逃げられませんねぇ?」

「...もう好きにしろ」

「やった!」

「はぁ......」

 

どうやら本当に俺を泊める気らしい。

もう八幡お婿に行けない....

 

「それじゃあ先輩は泊まるとして、雪ノ下先輩と結衣先輩はどうしたら泊まってくれますかね?」

「別にお前が誘わなくてもあいつら泊まる気だぞ」

「そうなんですか!?」

 

実はついさっき由比ヶ浜からメールで、『今日はいろはちゃんの家に泊まることにしたよ!』とメールが来ていたのだが、それを言ってしまうと墓穴を掘ることになるので言わなかったのだが、もう意味が無くなってしまった。

 

「じゃあとりあえず私はまだ体調が悪いフリをするので、先輩は秘密でお願いします!」

「それが2つ目か?」

「え?違いますよ?使うならもっと普段出来ないような凄いお願いをしますよ!」

「え...急に怖くなってきたんだけど...俺殺されないよね?」

「ふふ...どうですかね♪」

 

一色の言葉で急に背筋が寒くなってきた。一色は小悪魔どころか死神だったらしい。

ついでに尿意も込み上げてきたので、トイレに逃げることにする。が、それが間違いだった。

 

「ちょっとトイレ――痛ッ!」

「わわ!ちょ、せんぱ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――痛ぇ...また足のこと忘れて転ぶとか老人かよ...

ん?なんか柔らかい...?

 

「せ、せんぱい...あ、あんまり動かれると...」

 

え?なんで床から一色の声がするの?

俺が状況を理解できずにいると、部屋のドアが勢いよく開く音がした。

 

「凄い音したけど大丈――え?」

 

ドアの方に目をやると、そこには呆然と立ち尽くす由比ヶ浜とゴミを見るような目をこちらにむける雪ノ下がいた。

 

「――最ッ低」




次回 八幡、死す。デュエルスタンバイ!


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誤解

完全復活パーフェクト比企谷様だぜ!


比企谷(ひきがや)くん、平手打ちしてしまったことは謝るけれど、あれは酷い顔だったわよ」

「......返す言葉も無い」

一色(いっしき)さん、貴方の話を聞く限り、比企谷くんのせいではなく自分の意思で布団から出てきたように聞こえたのだけれど?」

「......すいません。体調はもう大丈夫です」

「......なぜ隠していたのかは聞かないでおくわ」

 

俺と一色は仁王立ちをしている雪ノ下(ゆきのした)の前に揃って正座させられていた。事故だったとはいえ、部屋に入ると一色の上に俺が抱きつくように重なっていたのだ。傍から見れば俺が一色を襲ったようにしか見えない。そのため、雪ノ下におもいっきり平手打ちをお見舞いされてしまった。怪我が増えた。

まぁ、そこは一色は必死に説明してそれ以上の追撃は免れたので良しとする。いろはすマジ天使!

 

「じゃあ一色さんはもう大丈夫そうだし、泊まる必要は無くなったわね」

「え!?帰っちゃうんですか!?」

「泊まる必要が無くなったのだから当たり前でしょう?」

「で、でも先輩は泊まっていきますよね!」

「泊まらなくて良いならそれに越したことはない」

「ゆ、結衣(ゆい)先輩!お泊まり会しましょう!」

「お、お泊まり会!?う、し、したい....ゆきのんとヒッキーも一緒だと良いなぁ....」

「ですよねですよね!」

 

お泊まり会という(由比ヶ浜にとっては)魅力的な提案を持ちかけられ、由比ヶ浜は容易に陥落した。チョロい由比ヶ浜、略してチョロガハマさんですねこれは......。

 

「ゆきのん......ダメ?」

「......ゆ、由比ヶ浜さんが言うなら仕方ないわね」

「......先輩は約束がありますよね?」

 

由比ヶ浜のうるうるとしたおねだりにたいして雪ノ下も撃沈する。これはチョロノ下さんですね......。あと一色、俺にだけ聞こえるように約束持ち出すのは止めろ。折角逃げれそうだったのに......。

 

「決定ですね!じゃあ私は布団とか諸々持ってきますね♪」

「お願いするわ」

 

そう言って一色は嬉しそうに部屋を出ていった。

 

「あ、そうだ!ヒッキー、湿布貼ってあげるね!」

「おう。頼む」

「比企谷くん、そのままで良いのだけれど、ほ、本当に一色さんには特別な感情...とかは無い、のよね?」

「あ、あぁ、別にそんな物は無いぞ」

「そう、なら良かったわ...」

「なんでお前が安心してんだよ」

「い、一色さんが無事だったことに対してに決まっているでしょう!」

「ヒッキーってホント鈍感だよね~」

「ゆ、由比ヶ浜さん!」

「なんのことかさっぱり分からん」

「分からなくて良いのよ!」

 

あれ、俺また何かやっちゃいました?つくづくこいつらの考えていることがわからん。

そんなこんなしているうちに一色が布団を引きずって戻ってきた。

 

「お待たせしました~。何の話してたんですか?」

「な、なんでもないわよ、ね?由比ヶ浜さん」

「う、うん!ただヒッキーに湿布貼ってあげてただけだもん!」

「怪しいですねぇ.....まぁそれは後で詳しく聞くとして、先輩って一人でお風呂入れますか?」

「当たり前だろ。俺は小学生じゃねぇぞ」

「そういうことじゃなくて、その足でってことです」

「あ、そうだった。じゃあ今日は風呂入ら――」

「じゃあ私が先輩のお背中を流して差し上げます!」

「いろはちゃん!?そ、そんな大胆な....」

「一色さん?あなた自分が何を言っているか分かってるのかしら?」

「一色?お前まだ体調悪いんじゃないか?無理せず休めって」

「自分で言ってることくらい理解してます!あと体調はホントに大丈夫ですって!」

 

布団を持ってきたと思ったら、代わりに思考能力を置いてきてしまったらしい。

 

「一色さん、まさか比企谷くんに脅されてるんじゃないでしょうね?」

「だから俺は何もしてねぇって!一色、俺は一人で入れるから大丈夫だ」

「じゃあお風呂場まで肩貸しますよ!」

「それくらいなら私も出来るし!ヒッキー、ど、どうぞ!」

「お、おう。ありがとな」

「じゃあ私は右側支えますね~」

「ち、ちょっと――」

 

そのまま俺は由比ヶ浜と一色に部屋から連れ出された。何か後ろから声がした気がするが気のせいだろう。

てか左右からめっちゃいい匂いするんですけど。しかも由比ヶ浜さん、なんか当たってません?理性の化物(笑)の俺じゃなきゃ勘違いするどころかその場で襲っちゃうまであるよ?もうちょっと危機感持ったほうが良いわよ?

そんな葛藤をしている間に風呂場に着いたようだ。

 

「着替えは私のパパの物をここに置いておくので使ってください。バスタオル使った後はこのかごにお願いします!」

「おう。ありがとな、一色、由比ヶ浜」

「なんかあったら遠慮無く呼んでくださいね。お背中流しますので♪」

「わ、私も言われたら何でもするし!」

「変なこと言うなよ....」

 

とりあえず一色と由比ヶ浜が出ていったのを確認して風呂に入らせてもらうことにした。

まだ足が結構痛むので見てみると、赤く腫れ上がっている。

 

「折れてないよな....」

「痛々しいですね~」

「あぁ、そうだ――え?」

 

後ろから今日一日で何回も聞いた声が聞こえた。ついに耳もおかしくなったか?幻聴が聞こえる....いや、まさかな。

念のため後ろを振り替えると、そこにはやはり一色が立っていた。

タオル一枚で。もう一度言おう、タオル一枚でだ。

いやさすがにヤバイだろ!俺の八幡がありったけ八幡さんになっちゃうって!こんなところでありったけは使うべきじゃないだろ俺!念のため腰にタオル巻いといてよかった!

まず一色を追い出さねば――

 

「おい!馬鹿なことしてないでさっさと戻――」

「あんまり大声出さないで下さい。お二人にバレますよ?いいんですか?」

 

一色は俺の口に手を被せ、そう言ってきた。あいつらには秘密で来たらしい。リスクを負ってまで来るなよ....

 

「....何のつもりだ」

「先輩のお手伝いに来たに決まってるじゃないですか~」

「俺はイケメンじゃ無ければ葉山(はやま)でもないぞ」

「........なんでこういうとこ鈍いんですかね」

「なんて?」

「とにかく!背中流しますので、背中向けて下さい!」

「お前なぁ――」

「む・け・て・く・だ・さ・い!」

「はぁ.....はいはい」

 

俺は渋々一色に背中を向けた。が、一向に背中には何も来ない。すると、いきなり人一人分の重さがのし掛かってきた。って一色さん!?何してるんですか!?

 

「おい、一色!?」

「すいません、先輩....大声出したせいで限界来ちゃいました....」

「やっぱお前無理してたんじゃねぇか....」

 

やはり一色はかなり無理をしていたらしい。タオル越しでも体温が高く、汗をかいているのが分かる。

 

「すいません、今退きますね――」

「無理して立つな、肩貸すから出るぞ」

「....ありがとうございます」

 

とりあえずリトル八幡が暴走しかねないので触れあう面積を最小限に減らし、一色を脱衣場に運ぶ。持ってくれ、俺の(ムスコ)

 

さて、一色を運んだは良いものの、ここからどうするのが正解か。俺と一色はほぼ裸だし、あいつら呼んだら次はどうなるか分からん。足もかなり痛みが激しくなってきた。

 

「....詰みじゃね?」




更新頻度下がってきたゾ~


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問題

いつも通り短いです


「どうしよ.....」

 

俺、比企谷八幡(ひきがやはちまん)は窮地に陥っていた。

ほぼ全裸の美少女(動けない)と脱衣場で二人きりとかどういう状況?

だが、そんな事を考えていても埒が明かないので取り敢えず服を着ることにする。

 

一色(いっしき)、服着てくるから待っててくれ」

 

そう言って一色の居る脱衣場から、誰もいないリビングに移動しようと足が痛まないようにゆっくり足を動かそうとすると、その足を思い切り掴まれた。ホラー映画かな?

 

「い、一色さん?痛いんですけど」

「...こで......さい」

「え?」

「...ここで着替えて下さい」

「は?」

 

は?この子何言ってるのん?聞き間違いじゃないよね?新手のセクハラかこれ。

 

「も、もしリビングとかにどちらかが降りて来ていたらどうするんですか?」

「そ、それもそうか.......じゃああっち向いててくれ」

「.....わかりました」

 

俺は一色が言ったことがもっともだと感じたので、一色には見えないようにしてもらい、その場で着ることにした。それにしても、俺が目の前で裸になっても何も思わないの?あ、目の前ではないか。でも私この子の将来が心配だわ。

 

「先輩、終わりましたか?」

「ああ、もう良いぞ」

「じゃあ次は私ですね~」

 

そう言うと、一色は地面に腰を下ろしたまま、体に巻いているタオルに手をかけた。

 

「お、おい、ちょっと待て!」

「先輩は見たくないんですか?」

 

いや、見たくないことは無いかもしれないことも無いけど!

 

「倫理的にマズイだろ!」

「先輩はほんっとにヘタレですね~」

「うるせ」

「じゃああっち向いてて下さい!」

「へいへい」

 

一色が視界に入らないようにしたのは良いが、布が擦れる音と一色の息づかいが鮮明に聞こえるため、かえって背徳感が凄い。

落ち着け八幡。落ち着いて素数を数えろ......1って素数に入るっけ?

 

「先輩、もう良いですよ」

「おう。お前もう体調は良いのか?」

「落ち着いてきましたがまだ立てそうには無いです。てか可愛い後輩のパジャマ姿ですよ?何か無いんですか?」

「はいはい可愛い可愛い」

「むぅ、ちゃんと言ってくださいよぉ」

 

一色は俺の感想が不服そうに口を尖らせる。いや本心だが?実際可愛いしな?

まあそれは今はどうでもいいことで、問題は別にある。ということで、先ずは作戦を練らなければならない。

 

「そんな事よりここからどうするかだ」

「そうでしたね」

「じゃあ念のため俺が先にリビングを偵察してくるから」

「了解です!」

 

随分と簡素な作戦会議を早々に終わらせる。今度こそ脱衣場から音を立てないように脱出し、リビングの方をゆっくりと覗き見たが、誰かいる気配は無い。これならなんとかなりそうだ。取り敢えず一回脱衣場に帰還することにする。

 

「あれ、ヒッキー?」

 

パターン桃!使徒です!まさかガハマエルとエンカウントするとは....

 

「ヒッキー足大丈夫なの?」

「おう、おかげさまでな。あとでまた湿布貼ってくれるか?」

「ヒッキーが頼み事してる......」

「そんなに珍しいか?」

「珍しいよ!ヒッキーいっつも一人で依頼とか色々やっちゃうし......」

 

由比ヶ浜(ゆいがはま)が言っているのは文化祭や修学旅行のことだろう。あの時の由比ヶ浜と雪ノ下(ゆきのした)の顔は忘れたくても忘れられない。

重くなってしまった空気を察したのか由比ヶ浜が口を開いた。

 

「そ、そういえばいろはちゃん見なかった?」

「みみみ見てないぞ?」

「そ、そっか」

 

危ねぇ、動揺して噛んじまった。由比ヶ浜が鈍感で助かったぜ。

 

「一色はどこ行くって行ってたんだ?」

「ちょっと下に用事が....って言ってから戻って来てないんだよねぇ」

 

あいつそんな適当な誤魔化し方したのかよ......、もっとましなのあっただろ。

 

「どうせトイレとかだろ。取り敢えず上に戻――」

「じゃあ先にお風呂入らせてもらお♪」

 

おいおいおい、死んだわ俺。あんなの見つかったら本当に死刑宣告されるって。ここはなんとか由比ヶ浜を思いとどまらせねば。

 

「由比ヶ浜、悪いんだが脱衣場に服を脱ぎっぱなしにしていてな。取って来るから風呂はまだ待っててくれ」

「早くしてね?」

「了解だ」

 

咄嗟にでた言い訳としては上出来じゃないか?国語三位の実績がここで役に立つとは、皆も勉強しよう!

取り敢えず時間稼ぎが出来たから脱衣場に一旦撤退する。

 

「おい、一色。戻ったぞ――」

「ふぇ?」

 

脱衣場に戻ると、何故か俺の脱いだ服に顔を埋める一色と目があった。




感想・評価欲しいなぁ~


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作戦

カンソウ...ヒョウカ...ウレシイ...


一色(いっしき)。お前何してんの?」

「えーっと、これは...ですねぇ....」

「....」

「あ、あれです!床って寝心地ワルいじゃないですかぁ。だから先輩の服をクッション代わりにしようと思って....」

「いやバスタオルとかあるだろ」

「そ、それは....高いところにあったから取れなかったんですよぉ」

「いや普通に頑張れば取れる位置に置いてあるんだが....」

 

色々と言ってみたが、少しずつ一色の目が潤んできてこっちが悪いことしている気分になってくる。いろはすには勝てなかったよ......

 

「てかそれどころじゃねぇから手短に説明するぞ。取り敢えず今から由比ヶ浜(ゆいがはま)がここに来る」

「え?それヤバくないですか?」

「しかも特に作戦とかも無い。という事でなんかないか?」

「いきなり言われましても....」

 

我ながらとても雑すぎる気がするが、今は一刻を争う。取り敢えずここから脱出しないと何も出来ない。

 

「うーん...あ!思い付きました!」

「マジか!どんな作戦だ?」

「結衣先輩に見えないように先輩の後ろに私が隠れて移動しましす!結衣先輩になら多分バレません!」

「えぇ....不安要素しかないんだけど....」

 

人の後ろに隠れて移動とかどこの烈○王だよ。でも、由比ヶ浜ならワンチャン行けると思ってしまう。

 

「....てかお前今歩けんの?」

「多分大丈夫です!」

「多分かよ....まあそれ以外に取れる手が無いしな。取り敢えずやってみるか」

 

他に方法が思い付かないので、一色の烈○王作戦を決行することにした。と言っても、由比ヶ浜とエンカウントした時のみということになった。さすがにずっと後ろにくっつかれるのは居心地悪いからね。

まずは脱衣場から脱出する。

 

「由比ヶ浜、風呂空いたぞ」

「あら、比企谷くん」

「「え?」」

 

え?なんでゆきのんもいるのん?てか一色声だすなよ、バレるだろ。

 

「なんか今変な声しなかった?」

「すまん、俺の内なる小町が出てしまった」

「ヒッキーなんかキモい」

「あなたのシスコンぶりには呆れたわ」

 

よし、話題は逸らせた。これが八幡流ミスディレクションだ!幻のシックスマンも夢じゃないぜ!いや、俺はエイトマンか。いや、エイトマンも違うか。

 

「てか雪ノ下はどうしたんだ?」

「あら、居てはいけないのかしら?」

「ゆきのんは私と一緒にお風呂入るんだよ~」

「そ、そうか」

 

いつも二人で百合百合してると思ってたが、もう裸の付き合いに発展してるなんて....

 

「ところで一色さんが遅いのだけれど、なにか隠して無いでしょうね」

「そ、そんなわけ無いじゃないですかぁ~」

「一色さんの真似をしているつもりなら即刻止めてちょうだい。とても不愉快だわ」

「....さいですか」

「まあいいわ。私たちはお風呂に入ってくるから、決して覗いたりしないように。あと一色さんにも手は出さないように」

「お前は保護者か」

「奉仕部の監督責任者よ」

「そうだったわ....」

 

そういえばこの人部長だったわ。俺への当たり方が厳しすぎて軍曹的な立ち位置かと....

まあ今は早くここから立ち去らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れましたぁ....」

「マジで死ぬかと思った....」

 

俺と一色はなんとかバレずに一色の部屋まで撤退することに成功した。雪ノ下が居たときは本当に死ぬかと思った。

取り敢えず風呂も入ったので、あとは寝るだけだ。

 

「それじゃあどこで寝ればいい?」

「へ?」

「え?何その反応。風呂入ったら寝るだろ普通」

「え!?もっとやることあるじゃないですか!」

「やること?....あ、歯磨きしてねぇ」

「いやそれもそうですけど!」

 

一色の言いたいことが全く分からん。ラノベもゲームも無いから夜更かしする理由も無いしなぁ....

 

「はぁ.....お泊まりと言ったら夜更かしして遊んだりお喋りしたりするのがセオリーってもんじゃないですか」

「俺がそのセオリーを知っているほど人の家に泊まったことがあると思うか?」

「....なんかすいません」

 

どうやら一色は俺たちと遊びたかったらしい。

この人最初の目的忘れてません?一応あなたを看病するために泊まってるんですけど。

 

「それにお前さっきも無理して倒れたんだから今日くらい休んどけ」

「今は部屋に居ますし会話くらい布団に入りながらでも出来ます!」

「....どうなっても知らんぞ」

 

今日は寝れなさそうだ。




作者は単純なので、感想・評価を貰うとモチベと口角が馬鹿みたいに上がります。


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混乱

「それじゃあ先輩!オセロしましょオセロ!」

「お、おう」

 

なぜかさっきから一色のテンションが妙に高い。

まあ何をするべきか全くわからない俺には、これぐらい相手が先導してする事を決めてくれる方がありがたいのだが。

 

「そこの棚の中にある箱に入ってるので取ってください」

「おう」

 

指示通りに棚の方へ向かう。

結構片付いていたのでそれらしき箱は直ぐに見つかった。見つかったのだが―――

その箱を元の場所に戻そうとしたところ、その奥に『0.01』と大きく書かれた金色の小さな箱を見てしまった。

いやおいおいおい、なんでこんなとこに仕舞ってんの?てかなんで常備してんの?遊び道具の裏にあるってそういう事?これも『オモチャ』って事なの?

だんだん頭が混乱してきた。しょうがないじゃん、童貞だもん。

 

「先輩、どうかしましたか?」

「い、いや、ななななんでもねぇよ?」

「なら早くしてくださいよぉ」

 

動揺し過ぎだろ俺。自分でも引いたぞ。

自分の行動に引いたことによって少し冷静さを取り戻してきたので、大人しくオセロだけ持って一色の元へ戻る。

 

「じゃあ後輩である私が先行で!」

「オセロに年齢は関係ないだろ....」

「....ダメですか?」

 

目を少し潤ませ、上目遣いで問いかけてくる。やめろ、その聞き方は今の俺には効きすぎる。

何がとは言わないが危なかったので、仕方なく了承する。

 

「ふっふっふ、私に先行を譲ったのが運の尽き。ボコボコにしちゃいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....うぅ」

「ふはははは、さっきまでの威勢はどうした?」

「こ、こんなはずじゃ....」

 

目の前に置かれているオセロ板には、全てのマスにまんべんなく俺の白い石が置かれていた。

いくらなんでも弱すぎじゃありません?

 

「ぼっちの先輩になら勝てると思ったのになぁ」

「残念ながらこの手のゲームは小町とやりこんでいるんだ」

「先輩に罰ゲームとかさせようと思ったんですけどね」

 

不穏なワードが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。世の中知らない方が幸せな事もある。

 

「先輩、小腹空きませんか?」

「お、おう。そうだな、少しなんか腹に入れておきたい」

 

いきなりの話題転換に少し動揺してしまった。話に前後の脈絡無さすぎんだよ....ただでさえさっきのアレを見てから一色の口から放たれる言葉に敏感になってんだから。

 

「さっき布団持ってくる時に下からチョコレート持ってきたんですよ。それ少し食べません?」

「おお、良いな」

 

俺の肯定の言葉を聞くと、一色は雑に置かれた布団の中からちょっと高級そうな箱を出してきた。

 

「戸棚漁ってたら出てきたんですよね~」

「....それ勝手に食っちまって良いのか?」

「戸棚は家族共用なので大丈夫です!....多分」

「多分かよ....」

「そんなのいちいち気にしてたら身が持たないですよ!」

 

そう言うと、一色はチョコを一つ口に放り込んだので、俺も一色に倣って一つ頂いた。

 

「なんか食ったことある味だな」

「......」

「こんなんいつ食ったっけ?」

「......」

「一色、これなんてチョコ――」

 

なんてチョコだ?と聞こうとして一色の方を向くと、そこには顔を耳まで赤く染めた一色が焦点の合っていない目で俺を見つめていた。

おいおいまさかこのチョコって――

俺は放り投げられた箱の蓋を確認すると、予想通りの文字が書かれていた。

 

「やっぱウイスキーボンボンじゃねぇか....」

 

説明しよう!ウイスキーボンボンとは、その名の通りウイスキーなどの酒が入っているチョコレートの事である。ちなみに飲料ではないので未成年でも普通に頂くことができるが、普通は酔わない。かくいう俺も昔親に食わされたが、普通に美味いなくらいの感想しか出てこなかった。

だが、目の前のこいつは見るからに酔っている。それはもうベロベロだ。なんか左右に揺れてるし.....酔ってても可愛いなこいつ。

 

さてどうしたものかと一人考えを巡らせていると、一色がおもむろに立ち上がり、千鳥足でドアの方へ向かい、本日二回目の施錠をした。

 

「せんぱぁい、あそびましょ?」

 

....ここは風呂に入ってるあいつらが戻ってくるのに賭けるしかないようだ。




ここ最近やらなければいけないことが増えてきたので時間がある時に少しずつ書いてはいますが、更新頻度がしばらく落ちるかもしれません。
でも俺負けないよ。え~、もじだっ、文字たちが躍動する俺の二次創作を、皆さんに見せたいね。
不定期更新ではありますが、一週間に一回は更新したいなぁと思ってますので、感想・評価お願いします!


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危機

生命とは尊いものであると思う。

小学校からひたすら義務教育によって教えられる事だが、改めてそう感じる時がある。例えば、飼っていたペットが死んだ時。あるいは、新しい命が誕生する瞬間などだ。

だが、その新しい命を育む『行為』をむやみやたらに行うのは、生命に対する冒涜なのではないだろうか。ましてや、その過程に生命の危機を感じることがあって良いのだろうか。

否。まったくの否である。

 

さて、本題に入ろう。俺は何も理由も無しにこんな長ったらしく語った訳では無いのだ。

なぜなら、現在進行形で危機を感じているからである。これだけだと伝わりにくいと思うので、結論から言おう。

比企谷八幡、貞操の危機である。

 

ヤバい。マジヤバい。どれくらいヤバいって、こんな現実逃避するくらいヤバい。

 

「せんぱい、腕細いですねぇ~」

「お、おい、目を覚ませ一色。そして服を着ろ」

「嫌ならよければいいじゃないですかぁ~。まあ、せんぱいの力じゃ無理ですけどぉ」

 

俺は今、下着姿の一色に押し倒されている。しかし酔っているとはいえ、一色の力が強いのと、俺の力が貧弱すぎるのでよけることができない。しかものし掛かられて、ちょっと苦しいのだ。

要するに、詰みである。

近所迷惑覚悟で雪ノ下たちを呼ぶしかないか......

 

「......スゥ―――」

「無駄ですよ♪」

 

覚悟を決め、大声を出すために息を吸い始めた瞬間、文字通り一色の手によって防がれた。そして、段々一色の顔が近づいてくる。

 

「......責任、取ってくれるんですよね?」

 

オイオイオイ、(社会的に)死ぬわ俺。

 

「せんぱいも暑いですよね?とりあえず脱ぎましょ?」

「―――」

 

残念ながら口を塞がれているので俺に拒否権は無いようだ。

 

「じゃあ上から脱ぎましょうねぇ~」

 

そう言うと一色は、俺の口にハンカチを詰め込み、俺の服を脱がせ始めた。

 

「せんぱい、肌白いですねぇ。......下はどうかなぁ?」

「―――」

 

次はズボンに手がかかる。ゆっくりと割れ物を扱うように下ろされ、一色と同じ下着姿にされた。

もう八幡、お婿に行けない......

 

「あと一枚ですねぇ......ん?せんぱい、『コレ』はそういうことですかぁ?」

 

一色は俺の元気な息子を見て、嗜虐的な笑みを浮かべると、ゆっくりと手をそこに伸ばした。

 

「これがせんぱいの―――」

 

瞬間、俺の脳のキャパシティが限界を迎えたのか、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、起きましたか?」

 

知らない天井だ。てか◯っぱいか。

 

ん?なんで俺の目の前におっ◯いが?あれ?何も思い出せないぞ?

 

「今日は下着可愛くないんで、そんなにジロジロみないでくださいよぉ......」

「お、おぉ、悪い」

「......まあこの体勢ならしょうがないですけど」

 

なんでこの子はまんざらでも無さそうな顔してるのん?てか俺膝枕されてるのね。今気付いたわ。

 

「で、何なのこの状況。俺何されちゃったの」

「あ、ゴムは着けましたよ」

「ぶふぉっ!」

 

いきなりの爆弾発言に思わず吹いてしまった。え、ゴムってそういうことだよな......。いや、バンジーガムのことかもしれない。そうだ、そうに違いない。

だが、その淡い期待は、一色の一言でいとも容易く壊された。

 

「私、初めてだったんですからね。責任、取ってくださいよ♪」

「......マジかよ」

「証拠写真見せましょうか?」

「い、いや、いらん。てかなんで撮ってんだよ」

「先輩を逃がさないために決まってるじゃないですかぁ」

「なんで俺なんだよ......」

「先輩が好きだからですよ」

 

一瞬、その言葉の意味がわからなかった。いや、わかろうとしなかったからかもしれない。今まで散々勘違いだと自分に言い聞かせ、目を背けていたツケが回ってきたのかもしれない。

でも、それを俺がいまさら撤回するのもちゃんちゃらおかしい。だから、これは、勘違いの筈だ。

 

「......は?」

「だってこうでもしないと気付かずにどっか行っちゃうじゃないですか」

「え、だってお前は葉山が―――」

「あれは『本物』じゃなかったんです」

 

『本物』。そのワードを聞いた瞬間、心臓が早鐘を打ち始める。珍しくも、面白くもないそのワードにどれだけの想いが込められているのか、意味までは理解できていなくても、俺が一番知っている。

 

「結局、葉山先輩は先輩の言う、『本物』じゃなかったんですよ。前に言いましたよね、『本物』欲しくなっちゃいましたって」

「だからってお前、ここまでしなくても―――」

「それだけ本気なんですよ。先輩のこと」

 

二人の間に静寂が生まれる。何度も声を出そうとしても、喉に引っ掛かったみたいに出てこない。それどころか、どう繋げれば正解なのかもわからない。

 

一分。あるいは五分経っただろうか。

静寂を破ったのは、一色だった。

 

「多分先輩は今何を言っても勘違いだとか言って納得してくれないと思います。でもどれだけ時間をかけてでも納得させてあげます。だってそれが私の『本物』だから」

「......」

 

俺は何も言えなかった。今まで自分が目を背けてきたものを正面から見せ付けられてしまったから。まだ出せていない解を、先に解かれてしまったような気がしたから。

 

「取り敢えずお二人が戻ってくる前に服着ちゃって下さいね」

「あ、ああ、わかった」

 

あいつらと顔合わせるの、気まずいな......




週一更新が出来なかった敗北者です。
来週からは頑張るので、感想・評価お願いします!


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責任

「ヒッキー、入るよ」

「お、おう」

 

服を着て、さてどうしたものかと思考を巡らせていると、由比ヶ浜が戻ってきた。

 

「あれ、いろはちゃん部屋に居たんだ」

「遅かったですね結衣先輩」

「ゆきのんと一緒にご飯作ってたの。今ご飯持ってくるけど大丈夫そう?」

「少し頭痛がしますけど、大丈夫だと思います」

 

どうやら二人が遅かったのは晩飯を作ってくれていたからのようだ。じゃあそんな時に俺と一色は......いや、これ以上考えるのは止めておこう。

 

「先輩はお腹空いてますか?」

「おおおう。俺はそんなにチョコ食ってないしな」

 

突如話題を振られたせいで少し声が震えてしまった。正直あまり飯を食えるような心境では無いが、人間食わねば生きていけないので食うことにする。八幡、体は正直なの。

 

「ご飯できたわよ」

「ありがとう、ゆきのん!」

 

雪ノ下がお粥とお茶漬けを持って部屋に入ってきた。おそらくお粥は一色の物だろう。

 

「これは一色さんのね。お茶漬けはあなた達のよ」

 

予想は正しかったらしく、お粥は一色の前に、お茶漬けは俺と由比ヶ浜の前に置かれた。

 

「時間が無くてこんなものしか作れなかったけれど......」

「いやいや作ってくれただけで十分ですよ!」

「そうだよゆきのん、作ってくれてありがとう!」

「そ、そう言ってもらえると助かるわ」

 

恥ずかしそうに赤面する雪ノ下に抱き付く由比ヶ浜と手を握る一色。あー、百合百合してきたなー。え?お前は何かしないのかって?ばっかお前そんな事したら『百合に交わる男殺しの剣』とかで殺されちゃうだろ!

 

そんなくだらないことを考えていると、もう既に三人共離れていただきますの体勢になっていた。俺もそれに倣って両手を合わせる。

すると、一色が俺の様子を見て口を開いた。どうやら一色が音頭を取るようだ。

 

「それじゃあ、すべての食材に感謝を込めて......いただきます!!!

「「「いただきます」」」

 

ト○コ知ってんのかよ......好きなキャラ誰かな?ちなみに俺はスター○ュン。

そんな事を考えながら、目の前のお茶漬けを黙々と食い進める。

 

「先輩」

 

お、鮭か。てか普通に美味いな。

 

「先輩?」

 

家で作るお茶漬けと全然違うぞ。いくらでも食える。

 

「せんぱーい」

 

今度作り方教えてもらおうかな。

 

「......先輩?」

「......な、なんでせう」

 

一色の声に少々怒気が混じり始めたので、仕方なく一色の方を向く。いろはすマジ堕天使。

 

「ちょっと腕がダルいんですよね~」

「おう、無理すんなよ」

 

俺は再び目の前のお茶漬けと対峙する。

すると、一色に脇腹を思いっきり殴られた。

 

「何すんだよ......」

「いやー、腕がダルくて動かないなー。どこかにご飯を食べさせてくれる目の腐った先輩はいませんかねー?」

 

一色はそう言いながらこちらをチラチラと見てくる。そんな事しなくても目の腐ったってところでもう選択肢が絞られてるんですけどね。

でも流石に俺がそんな事するのは問題があるので、雪ノ下と由比ヶ浜に目線で助けを求める。

 

「いろはちゃん、流石にヒッキーはちょっと......」

 

ナイスだガハマさん!少し俺が傷付いたけど普段から空気を読んでいるだけはある。良かったな一色。由比ヶ浜があーんしてくれるってよ!

後は由比ヶ浜に任せようと思い、視線をお茶漬けへと戻そうとしたところで、一色が予想外の言葉を放った。

 

「あれれー?結衣先輩、もしかして嫉妬してるんですかぁ?」

 

こ、こいつ挑発しやがった!由比ヶ浜は俺と仲が良いことを全力で否定したことがある女だぞ!あと煽り耐性も無い。

 

「な、そんなことない......こともないけど

 

ほらやっぱりこうなる!最後の方とか何言ってるかわかんなくなってるじゃん!

 

「えー?何ですかぁ?ちょっと声が小さくて聞こえなかったのでもう一回言ってもらえますぅ?」

「......むぅ」

 

怖いわー、この子怖いわー。先輩に対してこの煽り方はえげつないわー。もう由比ヶ浜黙っちゃったじゃん。

 

仲間が一人やられてしまったので、雪ノ下の方を見る。

すると、何故か雪ノ下は下を向いたまま小刻みに振動している。そこに一色が近寄り、雪ノ下の耳元に顔を寄せ何かコショコショと話したかと思えば、雪ノ下はなにかボソボソ言いながら動かなくなってしまった。

 

私が......比企谷くんを......」

「さあ、逃げ道はもう無くなりましたよ。どうしますか?先輩?」

「くっ......」

 

一色は嗜虐的な笑みを浮かべながらこちらにスプーンを差し出してくる。後ろには視線だけチラチラとこちらを見てくる由比ヶ浜と、微動だにしない雪ノ下。目の前にはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる一色。

 

「......ます」

「え?なんですかぁ?」

「......やらせていただきます」

「はい、お願いします!」

 

堕天使には勝てなかったよ......




隔週投稿になりつつあるこの二次創作ですが、気付いたら10000UAを突破してました!ありがとうございます!
感想なども貰えて、大変ありがたい限りです。
でも僕は強欲な壺なので感想・評価の二つをドローしたいです。
こんな作者ですが、今後ともお願いします!


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羞恥

おまたせ、待った?(激遅)


世間一般で言うカップルっぽい行動とはなんだろうか。手を繋いで歩く?お揃いの服装でデート?

これらがカップルっぽい行動であることは間違い無いだろう。だが、これらをするには、他人のバカップルとして見られる危険性が高いので、少々ハードルが高い。

 

では、最も容易くリア充感が出る行動とは何か。それは、俗に言う『あーん』である。ただ食べ物を相手の口に運ぶだけのことなのに、何故か人生を最高に楽しんでいる気楽なカップルの様に見えてしまう。そんな俺には無縁な恐ろしい動作のはずなのだが―――

 

「あ、あーん」

「あーん。......美味しいです!」

 

―――あ…ありのまま 今起こっている事を話すぜ!

『おれは奴の家で看病をしていたと思ったら、いつまにかリア充になっていた』

な…何を言っているかわからねーと思うが、俺も何をしているのかわからなくなってきた...。頭がどうにかなりそうだ...。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わっているぜ...。

 

俺は軽いポル◯レフ状態に陥るほど、今の状況が飲み込めていなかった。いや、何をしているか理解はしているつもりだが、俺が女子に『あーん』をしているという事実を脳が拒んでいる。

 

「先輩?手を止めないでくださいよ」

「あ、おう、すまん」

 

色々考えているうちに手が止まっていたようで、一色に咎められてしまう。だが、もうかれこれ10分はこんな状態である。少しくらい止まっても良いのではないだろうか。ダメですかそうですか。

 

頼みの綱である由比ヶ浜と雪ノ下を見やるが、由比ヶ浜は自分のご飯を頬張りながらチラチラとこちらの様子を確認しているだけだし、雪ノ下に至っては、ト◯コもびっくりの勢いでシバリングしながらブツブツと何か呟いているだけで反応が無い。

つまるところ、俺に逃げ場は存在していないのだ。

 

そんなこんなで諦めの境地に達した俺は、無心で一色の口に食事を運ぶ機械となり、ようやくその役目を終えた。

 

「いやー、お腹いっぱいです!」

「そりゃ良かった」

 

責務を全うしたので、自分の飯を食うために一色の方に背中を向ける。多少冷めてしまっているが、それでも美味しいと感じるほどに雪ノ下は料理が上手いことを再確認する。

 

「あ、先輩」

「......なんだ」

 

黙々とお茶漬けを味わっていたところ、後ろから一色が声をかけてきた。すいません、ゆきのん特製お茶漬け味わうので忙しいんですけど。

 

何を言い出すのかと待っていると、おもむろに俺が先程まで向いていた方向を指差した。もちろんその方向には、食べかけのお茶漬けがある。

 

「それ、食べさせてあげましょうか?」

「は?」

「だから、食べさせてあげましょうか?」

「は?嫌だが?」

 

笑顔でなんてこと言ってんのこの子。年頃の女の子が軽々しくそんなこと言っちゃいけませんよ。うっかり勘違いしちゃうだろ。

そんなわけで、当然の如く断る。

 

「えー、折角こんな美少女があーんしてあげるって言ってるのになー」

「いや、お前さっき腕がダルいとか言ってただろ」

「おかげさまで治りました!」

「治ってすぐに動かすのは良くないと思います」

「大丈夫ですって!あ、それともお二人に見られるのが恥ずかしいんですかぁ?」

「い、いや、そういう問題じゃねぇだろ......」

 

一色と応酬を繰り広げていると、流れ弾が由比ヶ浜と雪ノ下に飛んでいってしまい、若干うろたえてしまう。

 

シバリングしてる雪ノ下は安全だと思われるので、由比ヶ浜の方にゆっくり視線だけを動かしたのだが、それと同時に由比ヶ浜が口を開いた。

 

「ヒッキー......その、私がしてあげよっか?」

「「......は?」」

 

由比ヶ浜の口から放たれた予想外の言葉に俺と一色が呆然とする。 なんで今の流れでその答えに辿り着いたんだよ。いつもの空気読みスキルはどこ行ったんだよ。

呆気にとられている俺たちをよそに、いつの間にか復活していた雪ノ下が恐る恐る尋ねる。

 

「その、由比ヶ浜さん、お茶漬けに変なものでも入っていたかしら?」

「いや頭がおかしくなったとかではないし!」

 

手と顔をブンブンと横に振りながら否定する由比ヶ浜。そんなはずないわとお茶漬けの中を確認する雪ノ下。口を半開きにしたまま動かない一色。そして、それを見守る俺。うん、平和だね!

まあ仮に雪ノ下の料理に何かおかしなものが入っていたとしたら、由比ヶ浜だけじゃなく、俺や一色もおかしくなっていないと不自然だ。いや、一色はおかしくなっているのかもしれない。その...セッ......先輩の寝込みを襲う...くらいだしな。

 

先程まで平和だった俺の脳内が曇り始めたので、思考を止めて由比ヶ浜の方を見ると、もう既に雪ノ下を説得できたのか、スプーンと俺の顔を交互に見ている。

 

「由比ヶ浜、別にお前がする必要はないんだぞ。てか一人で食える」

「そういうのじゃないし!ただ、ちょっと迷ってるだけだし......」

 

いや迷うくらい嫌ならしない方が良いんじゃないですかね。普通に一人で食えますしね。

 

由比ヶ浜はそれから少しの間スプーンを見つめ続け、そろそろいいかなと思い、目線を外そうとしたところで、由比ヶ浜の持っていたスプーンが俺のお茶漬けへとダイレクトシュートされた。

そしてそのお茶漬けを乗せたスプーンが、俺の目の前へと運ばれてきて、少し頬を赤らめた由比ヶ浜と目が合った。

 

「ヒッキー......はい、あーん」

 

 




気づいたら前話の投稿から一ヶ月が経っていました。大変申し訳ないです。ここにきて見切り発車の弊害が出てしまいました。
この二次創作はプロットというものが存在していないので、その時のテンションで書いています。なので遅れました(言い訳)
あと、息抜きで書いてたはずの二次創作の続きを書くのが楽しくなっちゃったのもあります。二つ同時更新は無理やったんや......

次話はいつになるか分かりませんが、完結までは持っていきたいので、気長にお待ちいただけると幸いです。


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虚偽

に、二ヶ月...だと...


「ヒッキー、あーん」

「あ、あーん......」

 

今、私の目の前ではとても面白いことが起こっている。あの捻デレでお馴染みの先輩が、結衣先輩にあーんしてもらってるのだ。そう、あの先輩が。

 

それにしても先輩......

 

 

......何かすっごい可愛いんですけど!普段はずっと真顔と腐った目のせいで冷めた印象が強いけど、今は恥ずかしがって必死に結衣先輩と目を合わせないようにしてるのに結衣先輩が顔を覗き込んでくるせいでどんどん顔が赤くなってて動きがぎこちなくなってるのとか普段とのギャップですっごい可愛い!最初の方はちょっと結衣先輩に嫉妬しちゃったけどもうそんなのどうでもよくなるくらい今の先輩はヤバい。いややっぱどうでもよくないわ。私も先輩にめっちゃ餌付けしたい。あとめっちゃ近距離で見たい。

 

 

......ふぅ。ちょっと興奮し過ぎちゃった。

普段は見られない先輩の表情を目にして、脳内とはいえ早口で語ってしまった。

 

でも、先輩が悪いんですからね!いっつも頼み事しても「ちょっとアレがアレだから......」とかいって逃げようとするくせに、本当にヤバそうなときはちゃんと手伝ってくれるし、荷物持ってくれたり車道側を歩いてくれたりさりげないところで優しさ見せてきてあざといし......

 

「一色さん?顔が赤いけれど、大丈夫かしら?」

「あ、こ、これはちょっと暑いなーってだけなので!」

 

雪ノ下先輩の声で思考を急停止する。どうやら興奮が顔に出ていたようだ。

少し苦しい気がする言い訳をとっさに並べたは良いものの、まだ私の思考は乱されたままである。先輩のあざとさにやられたのもあるが、それより大きく影響している問題があるのだ。

 

それは、先ほど先輩に脅し文句として使った既成事実は咄嗟とはいえ、実はハッタリであるという問題だ。

 

実際はドッキングなんてしておらず、証拠写真も下着姿の先輩に跨がっただけの写真がたまたま角度的にドッキングしているように見えるだけなのだ。

でも、そんな嘘の既成事実をでっち上げないといけなかったのも先輩が気付かないふりをしているのが悪い。だって、先輩はそうでもしないと逃げちゃうから。あれでも責任オバケだから、取り敢えず嘘だってことは暫く黙っておこうと決心したのだ。

 

と、そんなことを考えているうちに結衣先輩による餌付けタイムが終了したようだ。結衣先輩は未だに顔を赤く染め、先輩は元凶である私のことを睨んできている。まさに絵に描いたような「くっ殺」って感じで嗜虐心を煽られますねぇ......。

 

「......おい、その悪人面はやめといた方がいいぞ」

「ぴゃっ!......そ、そっちこそいきなり耳元で囁くのはやめてください」

「あ、ああ、わりぃ」

 

いきなり先輩が耳元で喋ってきたので、驚いて変な声が出てしまった。

 

それにしても、何で先輩はこんなにいつも通りなんですかね?自分で言うのもなんだけど、結構えげつないことした(ことにしてる)と思うんだけど......。

まさか、バレてるとかじゃないよね......。

 

まぁ、今更そんなことを考えたって後の祭り、結局は突き進むしかないのだ。

 

どうせこうなるならヤることヤっちゃった方が良かったかもって少しは考えたりもしたけど、そんな度胸は私には無いわけで......。

少しチラッと先輩の息子さんのご尊顔を拝見しただけで、それ以上はまったくもって何もしていない。......嘘ですちょっと触りました。

 

まぁそれは一旦置いといて。まずはこの部屋の色ボケムードを一変させなければならない。じゃないと、私を含めた女性陣がそろそろ暴発しそうだ。もちろん性的な意味で。

なので、何か気を紛らわせられる方法を考えなければ......。

あ、確かパパの部屋に――

 

× × ×

 

4人で一つの卓を囲み、黙々と牌を手元へと持ってくる。さて、俺の手牌は......

 

「......おい、一色。何で麻雀なんだ?」

「いやー、この前やっとルール覚えれたんで、やれるかなーって思ってぇ」

「いや無難にトランプとかUNOとかあっただろ......」

 

途中まで何も考えずに準備をしていたが、直前になって異常性を感じ取る。何故ここで麻雀なんだ......、こっちは一色のせいで気が気じゃないってのに......。いや、この事は考えない方が得策か。

 

それより、さっきからずっと険しい顔して悩んでるガハマさんは良いんですかね。あいつ絶対ルールとか分かんないだろ。

 

「由比ヶ浜、ルール分かんないなら無理しなくてもいいぞ」

「ううん、大丈夫だよ。一応、優美子とかとやったことあるし」

「そ、そうか」

 

どうやら麻雀経験はあるらしい。てかあいつら麻雀とかすんのかよ。麻雀やる高校生とか咲の世界線だけかと思ってたわ。

 

「んんっ、ん、ん"っ"」

 

一色がいきなり喉の調子を確かめるように咳払いをした。当然、一色の方に視線が集まる。

一色は、視線が集まったのを確認すると、大きく息を吸い込んだ。

 

「これより、『第一回、ドキッ!高校生だらけの麻雀大会(ポロリもあるよ!)』を行います!ちなみに、ポロリっていうのは、ポン・ロン・リーチのことですからねー?先輩?」

 

一色が大物司会者ばりの勢いで、タイトルコールを行った。完全に病み上がりの元気じゃないよね......。あと俺がやましいこと考えてたみたいに言うな。バレたかと思っただろ。

 

これには雪ノ下もこめかみを抑え、呆れたようなため息を吐く。

一色はそんな俺たちをよそに、説明を始める。

 

「ルールを説明します!まず、麻雀を通常通り行い、一位から四位までを決めます。そして、ここからが重要です。この大会の最大の特徴は、ズバリ!最下位の人が他の三人からの命令を受けることです!」

 

おいおいおい、そりゃあちょっと横暴過ぎやしませんかねぇ......、と顔をひきつらせると、それに気付いた一色がニヤリと口角を歪めた。

 

「良いですか?命令は絶対なんですよ?しかも最下位になる確率は四分の一、やるしかなくないですかぁ?」

「べ、別に命令がしたいわけでは無いけれど、どうせ比企谷くんが最下位になるのは明白でしょうし、勝負は受けないと気が済まないから仕方なく受けてあげるわ。決して命令がしたいわけではないわよ。決して」

 

え、俺が負けるの確定なのん?この際その誤魔化しは無視してあげるけど負けるの確定なのは御免なので、抗議をしようとしたところで、今度は由比ヶ浜が声をあげる。

 

「い、一応聞くけど、命令は何でもありなんだよね?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。――勿論、法に触れなければ何でもありです!」

「法に触れなければ何でも、ね......」

「ヒッキーに......何でも......」

 

一色の回答を聞き、由比ヶ浜と雪ノ下は俯いて考えるような仕草をする。

てかそんな意味ありげに何でもって言わないでね。八幡、命の危機を感じちゃうわ。

 

はたして本当に大丈夫なのだろうか。不安が残るまま、地獄の麻雀大会が始まるのだった。




今回はかなり悩みましたね......。ちょっと無理矢理感が拭えないけど。

余談ですが、最初の方の話に暇を見つけては少しずつ加筆修正を施したりしています。見直したらかなり粗が目立っていたので......。

さあ、次回更新はいつになるのかは毎度の如く未定ですが、お待ちいただければ幸いです!


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