魔法ガチャしかできない魔法使いの日常 (アオイマスタング)
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第1話 カオティックランダム

 この作品は、RimWorldの A RimWorld of Magicというmodや、超次元ゲイムネプテューヌなどに触発されて書きました。

 上記のゲームの要素がそのまま出てくる訳ではありませんが、そこに存在する魔法や世界観などを少し参考にしていったので、楽しんで頂けると幸いです。


 魔法王国アルス

 

 様々な人や物が集まる都市で、他の街などに比べ住民や旅人などの魔法使いの比率が高いのはひとえに、様々な物が気軽に手に入り、魔法の研究などをしやすい環境にあるからだろう。

 

 そんな事を考えながら、この街をブラブラと歩く。勿論、お金に余裕がある訳では無いので、しばらくすればギルドへ寄ってお金稼ぎなのだが、それまでの間はこうやって、のんびりと過ごすのも悪く無いだろう。

 ゆっくりした時間が流れ、けれど足はあまり前へは進まず。自分自身の足が早く歩く事を拒否しているのか、早歩きしてやる事が無くなるのが嫌なのかはさておき、あまり長い間こうしてられないので、ギルドへ向かう事にする。

 

 

 

「おはようございます」

 

「はい、おはようございます」

 

「お、変な魔法使う(あん)ちゃんか。おはようさん」

 

「おはよう。これで大体この時間帯のイツメンが集まったかな?」

 

「そうですね。あの人は先にクエストを受けて出ていきましたし」

 

 ギルドの扉を開けると、時間が早いからかまだ人がまばらで、こんな時間に来る奴は毎度同じ様なメンツなので、この様に声を掛け合うぐらいの仲にはなる。

 

 軽くクエストが貼られている掲示板を見たが、あまり良さそうなのが無いので、灰色のカッターシャツに黒のリボンネクタイ、黒のベストとスカート、そして黒のコートという、ビンテージなゴスロリ調の服とは対称的な、明るく輝くセミロングの金髪を持つ、ギルドマネージャーのナナハに聞く事にする。

 

「おすすめのクエストとか無い?」

 

「おすすめですか。少しお待ち下さい」

 

 そう言い、スタッフ専用扉を用いて裏に回った彼女。忙しい昼間なら、裏に回ることなく適当に掲示板から選ぶのだろうが、この時間帯は他に客が来ない事が分かりきっているので、こうして良いクエスト等を譲って貰える可能性が高くなる。

 

「お待たせしました。これはどうですか」

 

「巨大化カエルの討伐?」

 

「魔法実験で失敗して、巨大化してしまったカエルを討伐して欲しいとの事です。カエルを討伐する手間と貰える金額のコストパフォーマンスが高いと判断したんです」

 

 確かに、これがただ巨大化しただけのカエルなら、かなり破格の値段だろう。しかし、裏にあったという事は、何処かに喜んでおすすめ出来ない理由があるのだろう。

 まあ、それを理解出来ない人は、わざわざこんな時間帯に来る事が無いだろう。

 

「わかった、これにするよ。何か対策しておくべき事はある?」

 

「粘液です。触れた部分が巨大化しようとして膨らんで破裂するらしいので、少しかかっただけでも相当痛いと思うです」

 

「粘液ね。了解」

 

 紙にさらさらとサインし、クエストを受ける。時間的には余裕があるので、少しゆっくりしてから行く事にする。

 

 

 

 ***

 

 

 

「アレか」

 

 巨大化したカエルが3匹目的地周辺に居るのが、遠目からでも分かる。

 

 さて、今回の魔法ガチャ(カオティックランダム)の結果は?

 

「うへぇ。まともな攻撃手段が毒だけかぁ」

 

 正直、倒せない事は無いと思うが、苦戦しそうな予感はする。魔法のクールダウンを待っても良いが、次に攻撃魔法が来る保証が無いので、このまま戦うのが無難だろう。

 

「うっしやるか」

 

 巨大カエルに近づくと、ドラゴン顔負けな咆哮を浴びせられ、彼らが戦闘モードに入った事を認知する。

 

「っぶない」

 

 右腕スレスレで飛んできた粘液をなんとか避け、反撃に毒を入れてやる。離れた所にいるカエルにも毒を当て、残りは一体だ。

 こっちにおびき寄せ、向かって来た所で毒を放ち、見事三体ともに毒を当て、後は時間経過で勝手に死んでくれるだろう。

 想像よりもずっと楽なクエストだと感じたが、まだカエルが死ぬまでは油断は出来ない。

 

 …呆気なく死んでしまった。カエルの耳をナイフで取り、それをクエスト達成の印にする。

 

 

 

 ***

 

 

 

「クエスト達成してきました」

 

「はい、確認します」

 

 ギルドマネージャーにカエルの耳を入れた袋を渡し、彼女はそれらを確認する。

 

「確認できましたので、こちら報酬です」

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、いつも裏のクエストを片付けてくれてありがとうございます。こちら、(ささ)やかなお礼です」

 

 そう言って彼女は、自分のポケットマネーからチップを報酬の上に置く。

 何度か断った事があるのだが、裏のクエストを片付けてくれる人に対して彼女は、こうして追加報酬を払うのを止めなかった。

 

「いつもありがとうございます」

 

「気にしないで下さい」

 

「それではまた明日」

 

「ええ、また明日」

 

 報酬を受け取り、ギルドを出て自宅へ向かう。何気ない日常。その筈だった。

 

「火事よー!誰か、消防隊を呼んで来てー!」

 

 水の魔法使いでは無いが、人が居れば助かる事に違い無いと思い、魔法ガチャを引きながらその場へ向かう。使えそうなのは無敵化ぐらいか。どうせなら水魔法を引きたかった。全く、運が良いのか悪いのか分からないな。

 とりあえず、消防隊に火事が起きている事を伝える為にサモンバードを使い、鳩を飛ばした。後は時間の問題だ。無敵化を使って、燃えている小さめのホテルへ突っ込んで行く。

 

「誰か居ますかー!」

 

 返事が無かったので、一つ一つ部屋を(しらみ)潰しに探す他無い。大体半分の部屋を探し終わり、折り返しといった所だ。マナは心許ないが、時間的に無敵化をもう一度使用し、捜索を再開する。

 

「大丈夫ですか!」

 

 年老いたお爺さんが倒れていた。背中に担ぎ、ホテルの外に行って爺さんを置いて、また家の中へと入る。こんな事を言ったらアレかも知れないが、爺さんは後1時間くらい放置していても大丈夫だろうと私は判断したから、ホテルの外に置いてきた。

 

 残りは後一部屋。ここを探し終えたら直ぐに家に帰って、泥のように眠る事にしよう。そう思い、その部屋を開けると、酷い光景を見た。

 

 焼け焦げた服やアクセサリーを身につけた、赤髪少女が倒れていた。酷い状況だと一目で分かった。そして、助けられそうに無い事も。

 

 もう一回魔法ガチャを引くのは、マナ的に厳しいだろう。今私が使える魔法で、この状況下を脱することが出来そうなのは、傭兵化(マーシナリー)のみだ。

 

 手段を選んでいる暇は無いので、魔法を使う事にする。

 

「頼むからワイルドサージ*1が起きないでくれよ」

 

 そんな事を思いながら、残り少ないマナを利用するために、口上を言いながら集中力を高めていく。

 

 

 どうやら魔法は成功しそうだ。早速、最初の命令をしよう。最初の命令は、傭兵化によって対処人物がとる行動の基本になるので、とても重要だ。

 

「我、アル…マグナの名において、この口上によって君が傭兵になる事をここに宣言する!早速だが最初の命令は…」

 

 ここで息を大きく吸い、次に発する言葉の為に貯めておく。もし次に発する言葉を間違えてしまえば、私が傭兵化を解くまで、それを彼女が守らなければならなくなるので、とても重要だ。

 傭兵化の魔法は、少なくと一週間の間は解くことが出来ない為、一週間もの間、私が間違えたせいで彼女に恥をかかせる訳にはいかない。

 

「生きろ!」

 

 …

 

「ごふっ」

 

 彼女は一瞬だけ苦しそうな声を出し、また倒れている。しかし、今はもう生きるか死ぬかの瀬戸際という感じはせず、ただ寝ているだけのように見える。

 

「非力でごめんな」

 

 そう言い、彼女を背中におんぶして、焼け焦げたホテルから脱出した。

 

 どうやら私がホテルを脱した時間と、消防隊が来た時間が一緒だったらしく、消防隊に色々と事情などを聞かたので、適切に答えてその場を去った。

 

 さて、どうしたものかと考えるが、とりあえず家に帰るのが先だと思い、魔法ガチャを引きながら、ゆっくり時間をかけて家へと帰る。

 なぜ魔法ガチャを引きながら帰るかは、回復(ヒール)系統の魔法を、出るまで回す算段なのだ。マナは心許ないが、流石にもう家に帰るまで何も起こらないだろうと考えている。…無事に帰れるといいのだけれど。

 

 

 

 ***

 

 

 

 なんとか家に帰り、彼女を私のベットに寝かした。この家の唯一のベットというだけで、やましい気持ちがある訳では無い。

 家に帰るまでの道中でヒールを引けたので、マナが十分に回復したら彼女にヒールしてあげよう。

 

 

 

「んっ。ふわぁー」

 いつの間に、そしてどれだけの間かは分からないが、寝ていたようだ。とりあえず顔をあげようとするが、何かによって阻まれた。

 少し顔を見上げると、赤髪の少女がその手を私の頭に乗せながら眠っているのが分かる。

 

 何故こんな状況になっているのかは分からなかったが、別に特に急いでいる訳では無いので、そのまま眠る事にした。

*1
一定確率で魔法が発動せず、何かが発生する現象の事



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第2話 クエスト

 何故か続いてしまいました。続いた事に驚いている自分がいます。

 自分の知らない内に第1話が投稿されてた…怖い、怖くない?

 因みに、本編中に登場するバトルフェイズとは、戦闘を行っているのか、行ってないのかの判断を分かりやすくする為に取り入れました。

 基本的にバトルフェイズは三人称視点でお送りするつもりなので、少し違和感があるかもしれません。


 今日も早朝からギルドに来ている。赤髪の少女はどうしたかって?

 ゆすっても起きなかったので、朝食と手紙と少しのお金をテーブルの上に置いて、私はギルドに来た訳だ。

 

 本来なら、赤髪の彼女も連れてくるべきなのだろうが、全然起きなかったので、留守番させる事にした。

 傭兵化して1番最初の仕事が留守番なのは申し訳ないとは思うが、どっちにしろクエストには連れて来なかっただろうから、結局こうなってた可能性は高い。

 

 ギルドに着いたのは良いが、扉を開けたらギルドマネージャーであるナナハ以外に、誰もこの部屋に居ない状況に少し違和感を感じた。が、そういう日も有るだろうと、あまり深くは考え無い事にした。

 

「おはようございまーす」

 

「はい、本日も宜しくお願いします。"町のヒーロー"さん」

 

 ナナハは私の事をそう呼び、恍惚とした表情を浮かべていた。まるで大好物を目の前に置かれたペットの様な顔をしている。

 

「昨日のはそんなんじゃ無いよ」

 

「たまたま近くで火事が起きただけ。そう言いたいんですよね?」

 

 実際その通りなのだが、ナナハは自分の予想を貫く癖があるので、あの感じだとナナハは私の言うことに耳を貸さないだろう。

 

「火事が起きた原因を自分にしたかったかけど、ホテルの中に人が居たから助けざるを得なかった。って感じですか?」

 

 私は、とある理由で悪名を広める必要があるのだ。ちなみに、これまで私は悪事を行った事は一切無いのだが、"誰か"が起こした事件などを自分のせいにしている。

 その為、世間でマグナと聞けば、誰だってニュースで一度位は聞いた事がある位までは来た。

 

「そういう事にしておいてくれ」

 

「はい。ふふっ、貴方は変わらないですね」

 

「人は変わるものだろ?」

 

「それもそうですね、っと。もうこんな時間ですか。そろそろクエストを選ばなくても良いんですか?」

 

 ズボンに入っている懐中時計に目を通すと、もうすぐ人が(まば)らに来はじめる時間帯なので、そろそろクエストを受ける事にする。

 

「…今日はダンジョン系が良いかな」

 

「ダンジョン系ですね。少し待ってて下さい」

 

 ナナハはそう言い、裏へと回って行った。

 

 ここのギルドは、他の場所(例えばもっと大通りにある所とか)にある普通のギルドと違い、ここのギルドには普通のギルドの後ろ盾にある"協会"*1の影響がほぼ無いと言っても良い。

 その為、出所などがあやふやでもクエストを受ける事が出来るので、ここのギルドを何回も利用するような人は、自分も含めて総じてヤバイ奴が多い。

 

「これはどうですか?コヨーテ街道に沿って北東に進んだ所にあるみたいなんですけど」

 

 ナナハが持ってきたクエストペーパーをぱっと見た感じ、特に難しそうでも無く、その上で報酬は普通程度なので、悪くは無い。

 

「そのクエストを受けるよ。変なのは出ないよね?」

 

「ええ、至って普通のモンスターしか出ない様ですが、牧場を広げる為にモンスターが邪魔なそうで」

 

 重い腰を上げ、ギルドの扉を開けて外へ出る準備をしながら、私はナナハに話しかける。

 

「だったら、その邪魔なモンスターを直ぐに倒しに行かないとね」

 

「…行ってらっしゃい」

 

「行って来ます」

 

 扉を開け、私は街中へとこの身を投じた。今日はどんな魔法に出会えるかが楽しみだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 現在、コヨーテ街道に沿って移動中で、ダンジョンまでもう少しな筈なのだが、肝心のダンジョンが一切見当たらない。流石におかしいと思い、もう一度辺りを見回してみるが、やはりダンジョンの入口は無さそうだ。

 ダンジョンが見つからないのなら、手間だけど1度ギルドに戻る他無い。

 

 そう思い、私は踵を返してアルスの街へと向かい始めた。…のだが、どうやら建物の裏にダンジョンがあったみたいで、単純に居た場所からは見えなかっただけのようだ。

 仕切り直しとして、ダンジョンに入る事にした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 今回倒すモンスターはミノッタスと言い、昔話に出てくるミノタウロスに見た目が似ているからと言う理由で付けられた名前なのだが、その手斧から繰り出される攻撃は、数々の中堅冒険者を葬り去ったと言われており、所謂(いわゆる)上級冒険者への登竜門として一番有名なモンスターだろう。

 

 まあ、今回は魔法ガチャでしっかりと攻撃系氷魔法のアイススパイクと、身体強化系付与魔法のNストロンガーを引けてるので、戦闘面で遅れを取る事は無いだろう。

 

 早速Nストロンガーを発動させ、試しに2回ジャンプしてどれくらいジャンプ力が高まったのかを確認し、問題無さそうなので早速ミノッタスとの戦闘を始める。

 

 ーVSミノッタス戦 バトルフェイズ 開始ー

 

 まずマグナは、数体程居るミノッタスの内の、少し離れた位置にいる一体に、気が付かれない程度の素早さで近づき、アイススパイクによって地面から生み出された氷柱(つらら)のようなものでミノッタスを突き刺し、まず確実に一体を仕留める。

 

(因みに、これはメタになるが、この世界ではモンスターも人間も、死ぬとSAOみたいな感じでガラスの割れた感じの光を発生させて消え、代わりにドロップや着ていた服などが残ります。また、この物語中では単に消滅エフェクトと呼びます)

 

 勿論ミノッタス側も黙って居られる訳もなく、怒鳴り声のようにも聞こえる大きな鳴き声でマグナを威嚇し、それらの内の一体が、その手斧をマグナに向けて振るった。

 

 その斧の軌道はしっかりとマグナを捉えており、この場にパーティーメンバー等が居たのならば、次に起こるであろう出来事から目を逸らそうとしていたのだろうが、そのような事態は起こらなかった。

 何故なら、マグナは確かにそこにいるのだが、ミノッタスの方は既に消滅エフェクトを出して消えている。玄人(くろうと)でも目を疑う様な現象を前にし、ミノッタスは勝ち目が無いと判断したのか、はたまた何かの作戦か、一斉に逃げ始めたのだ。

 

 一方マグナの方はと言うと、もう既にクエストの達成に必要なミノッタスの手斧を必要分確保してあるので、もうこれ以上ミノッタスを倒す必要が無いのだが、次の魔法ガチャの結果次第で奥へ進むかを決めようと考え、早速、混沌の流儀*2を使う事にした。

 

 …混沌の流儀の結果。攻撃系炎魔法ヘビーブラスト、移動系光魔法ライトスキップ、天候系雷魔法サンダークラウド。

 

「うわぁ」

 

 そう言いたくなるもなるだろう。何故なら、この洞窟内というロケーションにおいて、屋外でないと使えないライトスキップと、天候を雷雨にするサンダークラウドは全くもって意味を成さない。

 

 つまり、必然的にヘビーブラストしか無い訳だが、このヘビーブラストも一癖も二癖もあり、パーティーを組んでいるなら味方を巻き込む事必死な爆発魔法なのだ。しかも、洞窟内で爆発なんて起こそう物なら、生き埋めになる未来が見える。

 

 マグナはこれらの魔法を引いた事により戦闘を行なう事を諦め、スタスタと大人しく出口へと歩いて行ったのだった。

 

 ーVSミノッタス戦 バトルフェイズ 終了ー

 

*1
その国を(おさ)める女神を信仰する思いの強い人達によって構成されている組織

*2
魔法ガチャのこの世界での意訳みたいな感じ




 バトルは三人称視点じゃ無いと書きにくいし、かと言ってこの作品は主人公目線の作品なので、間を取ってバトルフェイズのみ三人称視点という手段を取りました。

 それにしても、三人称視点で描き始めた瞬間、別人のような文章になる自分が怖いです。むしろ、三人称視点の出来が良いから、三人称視点で物語を書くべきでは?作者は(いぶか)しんだ。


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第3話 ベストオブ

小説の内容がほとんど決まったので、長編から短編へと変更しました。

とは言っても、元々この作品は長編のつもりだったので、短編にしては長くなるかも知れませんがお楽しみに!


 ダンジョンを抜け出し、私はライトスキップで天から続く光の柱を自身に発生させ、光が強くなって少しすると、私はその場から消え、代わりにギルドの近くに光の柱を発生させて私は出現した。

 

 ギルドの中に入り、ギルドマネージャーへの報告の為に順番待ちを行い、自分の番になったのでナナハに報告しに行く。

 

「クエスト終わったよ」

 

 鞄の中からミノッタスの手斧を2つカウンターに起置き、ナナハがそれを手に取って確認する。

 

「はい、確かにミノッタスの手斧ですね。何の魔法で倒したのか聞いても良いですか?」

 

「アイススパイクとNストロンガーだよ」

 

「成程、それぞれは強くない魔法を組み合わせてですか。やっぱり、貴方の使う魔法は面白いですね」

 

 そう言い、彼女は嬉しそうに手を合わせている。魔法を組み合わせること自体は難しい事では無いが、それらが別々の属性を持つ魔法(例えば今回は氷と付与)となると話が違う。

 まったく別の属性の魔法を使うには、そもそもこの世界に対する根本的な考え方などが全く別なのと、例えば熱い氷などの、全く対極のイメージの魔法は、普通は発動出来ない。

 

 しかし、混沌の魔法使い(カオティックマジシャン)の魔法のみは、それらのしがらみから解放される。まあ、弱点の方が多い魔法なので、魔法学校の教科書には、他は1~2ページに渡って解説されてるのに対して、混沌魔法の方はたった3行なのだ。

 まあ、自分に子供が居たのなら、混沌魔法なんて覚えられたく無いので、妥当な対処だとは思うが。

 

「はい、これが報酬です。あと、追加報酬の方も置いときますね」

 

 いけないな。つい考え込んでしまった。頭の中で話が脱線していたのを私は静かに反省し、ナナハに返事をする事に決めた。

 

「いつもありがとう」

 

「こちらこそ。それで、BoMには参加しないんですか?」

 

「あー…そういえばそんなイベントもあったね」

 

 BoMとは、ベストオブマジシャンの略で、要は魔法使いが仮面を付けて名前を隠し、貴族や一般人などの地位に縛られる事も無く、ただ一点、魔法使いで16歳以上ならば、誰でも参加出来、賞金も出るイベントなのだ。

 一年に一回開催されており、設備が新しくなってから今年で5年目という事で、国を持つ5人の女神がこの日に集結し、開会式の前座として仮面を付けて女神同士で戦う姿を見れるらしい。

 

 因みに、このイベントの主は魔法使いによる戦闘だが、オマケとして一人で魔法を使い、魔法の綺麗さなどを、戦闘と戦闘の合間に観客に見せたりするのも、このイベントの特徴だろう。

 戦闘ばかりでは飽きてしまう人も居るだろうから、良く考えられたイベントだと思った事があるのを思い出した。

 

「でも、なんでBoMに?」

 

「自分達の知らない魔法を使える人が一人でも居れば、今後のBoMがより面白くなると思ったんです」

 

 BoMの歴史は、魔法の対策の歴史とも言える。普段、魔法使いは自身の扱う魔法を型どった金のブローチ(混沌魔法はエルダーサイン)を左胸に付けるのだが、BoMではブローチも外し、相手が何の魔法を使って来るのか分からない状況から戦いが始まるのだ。しかし、普通は一つの属性しか扱えないので、これではどちらが先に相手に魔法を使わせるかの勝負になり、面白くなくなるだろう。

 

 この状況を良い方にも悪い方にも動かしたのは、コピーという謎の能力によって魔法を扱っていたとされている、アルクスという伝説の様な男だ。

 別属性の魔法の同時発動こそは出来なかったものの、2~3秒で使える魔法を切り替えられるその力によって3年連続優勝し、BoM史上初の殿堂入りを果たした人物でもある。

 

 この事が有ってから、BoMでは相手は常にコピーした魔法を使ってくる事を想定しろと言われるようになり、挑戦者に緊張感が生まれるようになったのだ。(因みに、まだ新しくなってから殿堂入りした人はまだ居ない)

 

「勝てる気が全くしないんだけど」

 

「今日ミノッタスを狩ってきた貴方に言われても説得力が無いですよ」

 

「…それより、次の人を入れなくても良いのか? 結構長い間喋ってたと思うんだけど」

 

 そう、私が頭の片隅で違和感を感じで考えていたのは、ナナハが異常に話を引っ張ろうとしている事だった。これが早朝や夕方ならまだ分かるが、今は昼過ぎで、いつもなら人がそこそこ来る時間帯の筈なのだ。それなのにも関わらず、私の足をこの場で止めようとしている真意が、どれだけ考えても出てこないのだ。

 

「貴方はそんな事を考えていたんですね」

 

 ナナハは悲しそうな表情をし、やがて口を開いた。

 

「まあ、確かに長い事引き止めていたみたいですね。また会いましょう」

 

「じゃあ、私は帰るから」

 

「ええ、行ってらっしゃい」




 因みに、感想とかはいつでも受け付けてるから、気になる所や聞きたい事は、答えられる範囲で答えます。
(ネタバレを含む場合を除く)

また、無理のない範囲で隔日投稿する事にしました。


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第4話 ブラッドマジシャン

 遂に、放置していたあの子との会話です。


 私はギルドを出て、自宅へと戻る道を歩いていた。しかし、道の途中で少し違和感を感じた。私は違和感の正体を探る為に周囲を見渡すが、違和感の正体を見つけ出すことが出来なかった。

 この辺にある建物は自分の家だけなので、とりあえず一番可能性の高い自宅に向かう事にした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 自宅周辺に着いたが、特に自宅が変になっていない事は確認出来た。だとすれば、違和感の正体は必然的に室内という事になる。

 室内の違和感を感じ取れるようになった自分の感覚に疑問を持ちつつ、自宅へと入って行った。

 

 自宅に入っても、違和感の正体を直ぐには見つけられなかった。

 強いて言うなら、置き手紙が何処かに行っており、私が用意したご飯の代わりに、真っ白なお皿があるぐらいだ。

 

 状況を考えると、彼女はご飯を食べて食器を洗い、手紙を持って何処かへ行ったのだろう。

 などと考えていると突然、ヒュンと音が、首元から鳴る。

 

「っな」

 

 それ以上声を出す事が出来なかった。ゆっくりと右手を首元に添えると、血が流れていた。が、思っていたよりも少ない量だったから、多分攻撃主がわざと掠めたのだろう。『お前なんていつでも殺せるんだぞ』という意思表示に違いない。

 

「要件はなんだ?」

 

 だから、私は簡潔に言葉を述べた。どうやら、発声出来なかったのは、傷が深いと自分で思い込んでいたかららしく、その思い込みが解けた今では、こうして普通に声を出す事が出来るという訳だ。

 

「ふうん。意外と早く降りるのね。噂程にも無いやつなのか、それとも噂が独り歩きしてるだけかしら」

 

 私の家の扉は何故か押し戸になっている為、扉の後ろに隠れていたのだろう彼女のその見た目は、昨日助けた少女そのものだった。白をベースにして、まるで血しぶきが舞ったかのように赤色がはいったデザインの服に、子供っぽさの残る短かめのスカートを身に纏い、左胸には水滴のような形に、ナイフが左向きに刺さっている様な形をしたブローチを付けた、いわゆる血の魔法使い(ブラッドマジシャン)のブローチだ。

 

「殺さないんだったら、眠たいから寝たいんだけど」

 

「貴方自由ね!そっちがその気なら!」

 

 そう言い、彼女は再びナイフを私の首元に添えた。彼女はそこから力を込めようとしているみたいだが、何故か出来ない事に対していらついていた。

 

「なんでっ」

 

「…マーシナリー、規約違反、歯向かい」

 

「うぐぁぁぁ!」

 

 彼女はまるで電撃にでも撃たれたかの様に体を動かし、私から離れた。

 

「私に何をしたの!」

 

「火事から助ける為に、マーシナリーを使っただけだよ」

 

「何それ!別にヒールでも良かったじゃない!子供でも覚える汎用魔法よ!なんで使わなかったの!」

 

「まあ、私はコレだしなぁ」

 

 そう言い、私は左胸に付けている、エルダーサインを模したブローチを少し持ち上げてみせる。

 

「何そのブローチ。五芒星に瞳?えーっとたしか…混沌か!混沌の魔法使いなんかに傭兵化されてるのかぁ。ほんと、最悪」

 

 まあ、混沌魔法なんて使ってる人は、私が探した限り、自分自身以外居ないので、知らなくても構わないと思ったのだが、意外と彼女は知っていたようだ。

 

 それにしても、彼女の怒りようは凄いの一言に尽きる。これは私が大罪人として名前と筆跡が割れているから、普通なら助けたお礼なりをするのだろうが、何せ助けて貰った相手が大罪人では、その火事を起こした原因も私という事で自己解釈するだろうし、私も同じような状況に陥ったらその人の事をとことん恨み尽くすだろう。

 

「あーもーむしゃくしゃする!マーシナリーを使うなら、せめて貴方が私よりも強い事を直接見せなさい!」

 

「戦う事自体は別に良いけど、君は良いのかい?」

 

「そうやって時間を稼ごうとしても無駄よ!」

 

「今の私は、ライトスキップにサンダークラウド、ヘビーブラストを持ってるけど、正気か?」

 

 私が対戦相手だったら、その並びを聞いて卒倒するだろう。何故なら、3つとも上級魔法の中でも、特に高い効果を誇る魔法であり、その魔法に適性を示したのならば一度は憧れるような魔法を持って居るような相手が居るのなら、私は為す術もなくやられるだろう。

 

「うっ。は、ハッタリかも知れないじゃない」

 

「…えいっ」

 

 私は隙を見つけ、彼女の首元に手刀を叩き込み、ノックアウトさせる事に成功する。

 明日になれば、また新しく混沌の流儀を使わなければならず、しかも良い魔法が出た次の日は、大抵しょぼい魔法しか出ない為、彼女にとても有利な戦闘になるだろう。

 まあ、彼女の魔法を一発でも当たれば、全身の穴という穴から血が発生するという、スプラッタな状況になってしまいかねないので、モンスターを倒した数で勝負するのが妥当だろう。

 

 とりあえず私は、次に起きた時には準備ができている様に、得意では無いがマナポーションを飲み、彼女をベットに置いて私はソファに寝る事にした。



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第5話 ホワイトメイジス

 魔法使い同士での戦いは、あまり書く気が無いです。


「…まあ確かに、私の魔法を食らったら貴方は無事では済まないでしょうね」

 

 良かった。彼女が私の話を聞いてくれるかが心配だったから、とりあえずは理解して貰えたみたいだ。

 

 私は彼女が起きてから、戦うのは良いけど、直接じゃなくてモンスターを倒した数で決めようという事を話したのだ。

 

「で?何のモンスターを倒すの?」

 

 それならアテがある為、私が今朝ナナハに貰ってきたクエストペーパーの写しを見せる。

 

「小型フェンルルの討伐ね。スライワじゃ無いだけまだましね」

 

 フェンルルとは、昔話に出てくるフェンリルに見た目が似ているという理由で付けられた名前で、特徴的なのはその動きの速さだろうか。

 通常時は対して移動が早いわけでは無いのだが、戦闘時になると途端に素早い動きを見せ、上級冒険者でも手を焼く様な相手なのだが、小型のフェンルルは魔法次第では初級魔法でも倒せ無くは無いレベルの弱さなので、彼女に自信があるのも理解出来る。

 

「じゃあ、目的地まで向かおうか」

 

「馴れ合うつもりは無いわよ」

 

「今ならまだギリギリライトスキップ残ってるんだけどなー。先に行ってヘビーブラストぶちかまして全部倒しても良いんだよ?」

 

 私は彼女から見て悪の権化でないといけない為、私はとことん悪役を演じてみせる。ライトスキップを無詠唱で発動させ、ほんの少し光の柱を出現させる。

 

「お先に失礼!」

 

「あっちょっまっ」

 

 彼女が人を引き止める時のテンプレートを口にするが、既に始まった魔法が止まるわけも無く、私は彼女に背中を見せて、先に目的地に飛んだ。

 彼女とクエストペーパーの写しを残して。

 

 

 

 ***

 

 

 

「で、なんで貴方の方が先に着いた筈なのに、貴方の方が少ないのかしら」

 

「それは、ただ単に使える魔法が出なかったからだよ。言ったろ?ギリギリライトスキップ使えるって。ライトスキップ使う前の時点で、ヘビーブラストが使えなくなるのは分かってたからね」

 

「じゃあ、最初から負けるつもりだったって事?」

 

「そういう事になるね」

 

「何それ、どういうつもりでそんな事」

 

「引き際には丁度良いと思っただけさ。そろそろしんどくなってきたしね」

 

 私は、助けた少女に倒された大罪人。もっと言うなら、自分で火を付けて人を助け、いい人になろうという作戦が失敗した大罪人という風に世間では広まるのだろう。

 

「私が勝ったんだから、きちんと答えなさいよ!」

 

「それは出来ないけど、頑張って早く傭兵化を解除出来るように頑張るよ」

 

 まあ、次に引けるのがいつになるのかは分からないけれど、出来るだけ毎日混沌の流儀を使って早く引けるようにがんばろうと考えた。が、その直ぐ後に良い方法があるのを思い出したが、言わないでおく事にした。

 

「何一人で会話を進めてるのよ。私は、なんで貴方がこれまで数々の罪を犯したのか、この際だから聞きたいの」

 

「君は優しいんだね。大罪人を見つけたってなったら、普通は警備に連絡するだろ?」

 

「別に、それは後でも出来るじゃない。私は貴方の事情を知りたかったのよ」

 

「それこそ、警備とかの仕事じゃないか。それに、ライトスキップを使った時に私が逃げる可能性を考えなかったのか?」

 

「大体の国の警備の人達が、何故か貴方と接触しても敵対してないっていう情報を掴んだから、貴方と警備がクロなのかどうかを確かめたかったの」

 

 ここで私が否定すれば、さらに疑いが深まるだろう。しかし、あながち間違いでは無いだけに否定しずらい。

 警備の人達は私の活動を知っているので、頭も上がらない等といつも言われるのだ。因みに、国を治める女神達には、私の活動は耳に入らないように警備の人達に言ってある。

 

 まあ、一般人からすれば大罪人に対して謝罪する女神なんて誰も見たくも無いだろうから、私はこれで良いと思っている。というか、そう自分に思い込ませないとやってられない。

 

「流石はホワイトメイジス。この世の悪を晴らす魔法使いの組合員なだけあるね」

 

 だから、私はわざと話をずらす。ホワイトメイジスの話をしておけば、少しは時間を稼げるだろうから。

 ホワイトメイジスとは、ありとあらゆる魔法使いによって構成された自警団のようなものであり、その活動は主に、法の行き届かない国外で起きた事件などを扱う組織だ。そして何より、ブローチとしてただの白い円を使用魔法の識別用ブローチの上に付けているのが特徴だ。



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第6話 トリアーネ

「で?結局、貴方はなんで大罪人やってるの?それに、なんで警備は貴方の事を捕まえようとしないの?」

 

 やっぱり無理だったか。ホワイトメイジスは正義感がとても強いと聞くから、苦し紛れの言い逃れはさせて貰えないようだ。

 仕方無い。彼女に教える必要性などまったく無いが、この状況を脱するにはあそこに連れて行くのが一番だろう。

 

「はぁ…分かったよ。とある場所に連れてくから、それまでは大人しくしててよ」

 

「どこなの?」

 

「アルス王国から離れた所にある監獄だよ」

 

「監獄?」

 

 

 

 ***

 

 

 

「おはようございます」

 

「おはよう。といってももう夕暮れだがな。ところで、急に用事とは、何があったんだ?マグナ様」

 

 そういう彼の名前はゲルトで、この国の中央付近の警備を行っている大ベテランで、上に立てるような能力を持っていながらも、あえてずっと自らが体を動かして国を守る姿から、国民の人に一番顔を覚えられているといっても過言では無いような人なのだ。

 そのような人でも私の活動に協力的で、一番動く事になる私に対して様と付ける程、謙遜的な人物なのだ。

因みに、私のマグナとしての活動を知っているのは極わずかな警備の人達のみなので、下っ端などは普通に私の事を追ってくる。

 

「あそこに居るやつに中を見せてやりたいんだ」

 

「あの壁に隠れている子ですかな?はて…どこかで会ったような気がするぞい」

 

「ああ、あの子はwmgs(ホワイトメイジス)だからね。火事から助けたらwmgsで、話がややこしくなったという訳だ」

 

「成程。てっきり、説明が面倒くさくなったのかと思ったわい」

 

「それに、そろそろ顔を出さないとナニされるか分かったもんじゃないからね」

 

「それもそうじゃのう。あの子はマグナ様に対してゾッコンじゃからのう」

 

「ははは、冗談だったらどれ程良かったか」

 

 いわゆる、ヤンデレとかいう奴に近いのだろう。私が女子の近くに居るだけでも鋭い目線を送ってくるような奴なのだ。

 

「まあ、そういう事なら、護衛としてわしもいこうかの」

 

「助かる。ところで、私達はもう行くけど、ずっとそこに居るつもりなのか?」

 

「容疑がまだ晴れて無いから、迂闊に近づかないようにしているだけよ!」

 

 彼女の言葉には棘があったが、触れるもの全てを痛めつけるような感じでは無く、どこか優しさを感じた。

 

「そういえばまだ名前聞いて無かったね。名前は?」

 

「誰が大罪人に教えるものですか」

 

「確か…トネリコとか言わんかったっけ」

 

「トリアーネ、ね。全然違うじゃない」

 

「こいつ今自分で言ったぞ」

 

「あ…」

 

 彼女…もといトリアーネ。長いのでトリアと呼ぶが、トリアはやってしまったといった感じで口を手で抑えている。

 

「で?結局、付いて来るの?来ないの?どっち?」

 

「付いてくわよ。ここまで来て引き返すわけにも行かないもの」

 

「分かった。じゃあ、一つだけ約束してくれ。これから行く所で目にしたり、聞いたりした事は、女神達とwmgs達には伝えないってね」

 

「wmgsは分かるけど、なんで女神にも?」

 

「まあ、それは私の完全な自己都合だから気にしないで」

 

「もう夕日も暮れてきましたな。早く入って早く帰れる方が、お互いに良いのでは無いかの?」

 

「なら、早く済ませますか」

 

 この監獄は外から見れば豪邸や館の様な見た目をしているが、その内部を知るものは極めてわずかだ。

 私は警備の人から扉の鍵をもらい、早速扉を開ける。




因みに、トリアーネの名前の元は、医療用語のトリアージです。
血の魔法使いなので、医療用語から名前っぽいのを使いたかったのが1番の理由です。


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第7話 カンナ

 ナナハー


 中に入ると、少し大きめのエントランスだが、所々にシックな印象を受ける内部になっており、ナナハによく似た人物が受付を行っている。

 

「貴方、ナナハ?何故こんな所に?」

 

 トリアはそう言うが、もはやこれは何度目かのお約束の展開だなと私は頭の中で思い、飽き飽きしていた。

 

「私はナナハでは無く、カンナと言います。以後お見知り置きを」

 

「双子?」

 

「いえ、いとこのようなものですよ」

 

「ええぇ…。双子みたいに顔がそっくりなんだけど」

 

 まあ、トリアの言いたい事は分かる。私も正直、初見でギリギリ別人かもと気がついたぐらいなのだから。

 

 そんなカンナの見た目は、顔はそのままナナハと同じ顔をしているが、カンナの方は目立たないオッドアイで、左目がナナハと同じく金色なのに対して右目がうす茶色なのだ。

 髪の毛は腰まで届く程のロングの金髪で、艶やかに輝いている印象を持つ。

 服装は、白いブラウスに緑のトップス、緑に白が混じったデザインをしたスカートに、お世辞にも似合っているとは言えない黒をベースに赤をアクセントにしたロングコートを羽織っている。

 そして、その左手の薬指には、銀色の様にも金色のようにも見える指輪を()めている。ナナハの方は、右手の薬指に、黒色に挟まれるような形で紫色の線が入ったデザインをした指輪を嵌めている。

 

 因みに私は、左手の薬指にはカンナの付けているのと似たようなデザインの指輪を。右手の薬指には、ナナハのと同じようなデザインの指輪をはめている。

 

「まあ、そんな事より、この頭の弱い血の魔法使いに中を見せてやって欲しいんだ」

 

「あたっ、貴方ねぇ!」

 

「付いて来なさい。貴方には早く帰って貰わないといけないから」

 

 スタスタとカンナは歩いていき、内部へ続く鍵で重厚そうな扉を開け、中へと入っていく。トリアもそれに着いて行くような形で入っていく。警備の人もトリアの後に付いて行っている。

 

 私は一人になったが、彼女にとってあそこでは私は居ない方が良いので、私はあえて行かない事にする。

 

 ***

 

 私はナナハに似た外見を持つカンナを追いかけ、その分厚い扉の中へと入った。

 

 監獄と彼が言っていたから、中の状態は酷いものだと予想していたが、どうやらそれは思い違いだったらしい事を、内部にある建物の様子から私は感じた。

 

 普通、監獄には鉄格子やコンクリートなどがあり、殺風景で居るだけで精神がやられそうな場所をイメージするが、実際には監獄の砦の内側には、至って普通な家々が並んでいた。

 

「これが監獄?ただの住宅街に見えるんだけど」

 

「居住者は食堂に集めています。早く移動して」

 

 セカセカと歩くカンナに対して、トリアーネこと私は疑問を抱かずには居られなかった。が、今はそんな事より、大罪人であるマグナが見せたいものが何なのかを知る方が先だ。

 いつもだったら罠かもしれない所に足を踏み入れるなんて滑稽だと思って立ち止まっていただろうが、不思議と大罪人である筈のマグナからは、罪人が持つ特有のオーラを感じないので、信じたいという気持ちが私自身の中に芽生えたのだろう。

 

 そんなぐちゃぐちゃな頭の中を整理する為にも、食堂に集められている人達に私は問い詰める必要があるんだから!

 

 

 

 食堂に着くと、老若男女様々な人が食堂の席に座っているのが分かる。一般的にロリと呼ばれるような見た目をした可愛らしい少女から、ヨボヨボなおじいちゃんまで、まるで共通点の無い人達の集まりだった為、私は困惑した。

 しかも、皆が皆、私を見て嫌そうな顔をしている。まあ、wmgsなのでそういった目には慣れているが、慣れているからといって、そう見られて嬉しい訳では無いので、複雑な気持ちだ。

 

「この人は、見ての通りwmgsです。ですが怖がる必要はありません。この人は執行部では無く調査部ですし、マグナがここの事は言わないように言ってあるので」

 

ほんとう?

 

 さっき見かけた可愛らしい少女が、私の事を見て壁に寄り添って震えながら声を出している。

 

「私は、ここがどんな場所か知りに来ただけだから」

 

「いや、イヤ!イヤーーーーー!」

 

 少女はそう言うと、どこかへ逃げて行ってしまった。

 

「あぁーーー」

 

 私は彼女の為に伸ばした手をゆっくりと、しかし強く握りしめた。



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第8話 ディーバ

「まあ大丈夫ですよ。直ぐに戻って来ますから」

 

「分かった。じゃ、本題になるげど、ここに居る人達がどんな人達なのか教えてくれないかしら?」

 

 自分でも嫌になるくらいにすんなりと本題を聞く事が出来たと思う。

 

 カンナは少し言いずらそうに…はしていない。わざと言うタイミングをずらしているという印象を私は持った。

 

「わしから伝えても良いかい?」

 

「…御自由に、ディーバ」

 

 ディーバとよばれたおばさんは、私のブローチを懐かしそうに見つめながら口を開いた。

 

「簡潔に伝えるのと細かく伝えるの。どっちが良いかい?」

 

「簡潔に」

 

 迷うまでも無く、そう答えた。するとディーバは「そうかいそうかい」などと首を上下にしながら言った。まるで自分の孫を見ているかのような目で見てくるディーバに、私は少し気分が悪くなった。

 

「まずこの場所についてじゃが、ここに居る皆は罪を犯し、表では普通には生きれないようになった人に対してマグナが、普通の暮らしを送っていられるように建てた監獄じゃ」

 

「罪を犯した人が普通に暮らせる監獄?」

 

 私はその言葉の意味が分からなかった。そもそも、まだマグナは何者なのかを聞けていない。

 

「マグナは何者かについては、カンナの方が適任じゃな」

 

「…分かりました。マグナは、本来罪を被るべき皆さんの代わりに、それらの事件等のほぼ全てを自身が犯人であるというすり替えを行ったのです」

 

「え?」

 

 すり替え?ナンノタメニ?

 そんな考えで頭をフリーズさせてしまう所だったが、どうやらすんでのところで止まらずに済んだらしい。

 

 どうにか固まらずに済んだ頭を使って見るが、マグナが何の為にそんな事をやっているのかは検討もつかない。

 

 そんな事を考えていると、カンナは話し始めた。

 

「最初こそ、時間的にどんな魔法を使っても明らかに不可能な犯行が行われている事に疑問を抱く者も少なくありませんでした。が、ありとあらゆるところで起こるマグナの犯罪の対応に追われていく内に、そんな考えを持つ人が居なくなってしまいました」

 

 カンナは言うと、どこか懐かしむような、悲しそうな目をした。

 

 私はその目を見るのが嫌になって、今すぐこの場所から逃げたくなった。

 とはいっても、本当に逃げる訳にはいかないので、なんとなく誤魔化して帰る理由でも作ろう。

 

「まだ引っかかりはあるけど、とりあえず"大罪人マグナ"は人々の生み出した偶像って事で良いんだよね?」

 

(おおむ)ねその解釈で間違いありません」

 

「なら、もう夜だから帰っても良い?」

 

「ええ、皆さんお騒がせしました。おやすみなさい」

 

カンナがそう言うと、食堂の中に居る人達が「おやすみなさい」と言い、自分の家?へと帰って行く。

 

「戻りましょうか」

 

そう言って、入って来た方にスタスタと歩き出したカンナ。こんな所に独りで取り残されるのは嫌なので、急いでカンナを追った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 エントランスに戻るとそこに居るはずのマグナは居なくなっていたが、カンナはそれを気にも止める様子は無く、

 

「早く帰る方が宜しいのでは?」

「マグナが何処に行ったのか気になって」

 

「それなら、今日も濡れ衣の犯罪者になりに行ってると思います」

 

 ふと、マグナと牢獄の中に入る前に約束した事を思い出した。"これから行く所で目にしたり、聞いたりした事は、女神達とwmgs達には伝えない"か。

 

 正直、伝えた所で信じてくれるとは思わないし、私も半信半疑だが、もし本当だとしたらその2つの陣営に真っ先に知られるべき功績だろう。

 なのに、それを隠してわざわざ追われる立場として活動するマグナに、私は苛立ちすら覚えた。しかし当の本人が居ないのではぶつけようも無い為、私はさらにイライラしていた。

 そして、そのイライラを納める為にも、早く家に帰る(帰るホテルは燃えてしまったので別のホテルに行く)事にした。

 

「じゃあ、私は行くから」

 

「ええ」

 

カンナは私に視線を送る事無く短く返事し、手元の本に何かを記していた。

 

「もし帰路が心配ならわしが付いてやろうか?」

 

空気を読んで黙っていたのだろう警備の人に対し、私は「要らない」と、少し声をイガイガさせながら言葉を放った。

いくらマグナに対してイラついているからといって、他人に当たってしまっている自分に対して自己嫌悪を抱き、私は居ずらくなって逃げるようにその場を去った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 もうどれくらい走ったのかは分からない。けれど、もう絶え絶えの息を発し続けるのに限界を感じ、私はついに立ち止まった。

 

 酷く肩を動かして呼吸する。

 

 馬鹿みたい。なんでこんなに必死になって走っているのかが自分でも理解出来なかった。

 

 とりあえず近くにあるホテルや宿屋を探そうと歩き始めたが、中々この時間帯になってくると空いてる所が無かったり、ポケットに入ってたお金じゃ厳しい場所もある為、路頭に迷っていた。

 

 今日は月が出ていない為、正確な時間は分からないが、次の所で時間的にもラストだと考え、その宿屋の扉を開ける。

 

「おや、こんな時間に客とは珍しい。明日は雪かな」

 

 言って、読んでいた本を閉じると顔を現したが、意外にも声の主は少女のように見えた。

 

「部屋は空いてるぞ。泊まるか?」

 

 料金は店の前に掲げられていた為、お金に関しては問題ない。

 

「泊まるよ」

 

ポケットの中から丁度の額を机の上に置くと、その子は壁に掛けられている部屋の鍵を取り、机の上に置いた。

 

「一番手前の左の部屋だよ」

 

 私は鍵を取り、一番手前にある左の部屋の扉に鍵を挿して回すと、するりと扉のロックが解除された。

 

 私はすぐさまベットに飛び込んで寝た。



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第9話 レイラ

 嫌な予感がした為、私は監獄から出てアルス王国の夜の街に身を繰り出していた。

 

「この辺だった筈だけど」

 

 一人言なので勿論、返してくれる人が居ないのは了承済みだったが、それでも悲しくなって来る。

 

 それに、嫌な予感がして来てみた場所が全く関係無さそうなので、家に帰ろうかと思ったその瞬間に、二人の人間が走ってくる音がする事に気がついた。しかも、何かに追われて必死に逃げているような走り方だ。

 

 私は仮面を付け、その人達をマグナとして出迎える事にした。

 

「はぁ、はぁ。警備が何時にも増してしつこいな」

 

「当たり前だろ?一国の姫様を(さら)ったんだ。そりゃ追いかけるさ」

 

 そんな話し声が(かす)かに聞こえる。成程、この国の姫を攫ったようだ。城の警備を抜けるのは至難の技なので、どのような方法を用いたのかは知らないけれど、私は彼らの身代わりにならないといけない為、彼らに気が付かれないように近づいて眠らせ近くの草木にどかし、姫をいわゆるお姫様抱っこの形で抱き抱え、走り出す。

 

 

 

 警備の人達に追い込まれるような形で行き止まりの路地に居る。絶対絶命と普通ならなるだろう。現に、追ってきた警備の内の一人が、魔法を使えなくする効果を持つ魔法をかけようとしていた為、ライトスキップで逃げようにも逃げれないだろう。

 

 まあ、最初から逃げるつもりは無く、わざとここを目指して移動していたのだが、警備がそれを知るよしも無いだろう。

 彼らは私を捕らえようと動くが、それらを常にギリギリで避けていた。そう、追い詰められて全然動けない筈なのに、である。

 

 種明かしをすると、あそこで動いているのは人形だ。私は既にこの場から離れた場所で姫を腕で抱いている。

 

 私はさっさと自宅の方に向かって疲れない程度に走っていた。

 

「んっ。ふあぁ」

 

 どうやら走っている際の衝撃で姫が目を覚ましたらしい。彼女は細々とした目をようやく開けた。

 

「だれぇ?」

 

 彼女はまだ頭がぼんやりしているのだろう。普段の姫としての、キリッとした冷たい声からは想像出来ない程のふわふわとした声だった。

 

「もしかしてーあなたがあたらしくくるおせわがかりさん?」

 

「違うよ」

 

 これが彼女の素なのでは無いかとも思ってしまうが、少なくともお世話係の下りは催眠か何かによるものだろう。

 

「でもーじじょおでかおをかくしてやってくるからーまっててってー」

 

一体どんな催眠を掛けられたんだと思ったが、それよりも面倒な自体になっている事に気がついた。なぜなら、ここで強く否定してもまた彼女が否定するだろから、無限ループが発生してしまうのだ。

 どうした物かと悩んだが、暴れられないだけましだと思い、彼女の問いに適当に答える事にした。

 

 一度、今の時点で誰も追って来て居ない事を確認し、城の方へと駆け出した。

 

「なまえは?」

 

「…マグナ」

 

「おぼえた」

 

 数秒経って、多分頭の中で繰り返してたのだろう彼女は自分の名前を言おうとしたが、私はこの国の姫の名前も知らないような人間では無いので、大丈夫だと断っておいた。因みに、彼女の名はレイラだ。

 

「まぐな、みえる?つき、きれい」

 

「ああ」

 

 私は移動中だった為、直接月を見上げる事はしなかったが、この国のお姫様が言うのだから、相当綺麗に違いない。

 

「まぐな、このくににいてながい?」

 

「うん」

 

 適当に右から左へと聞き流しながら返事を言う。この返事で合っているかどうかさえ分からないが、返事をしないよりかはマシだと考えた。

 

「まぐな、あのねーまいにちつまんないからかえりたくないなー。なーんて」

 

「───っ!」

 

 確証は何もないが、その言葉は紛れもない本心だと感じた。なら、この状態は素の状態に近いと一番初めに思ったのはあながち間違いでは無かったのだろう。

 私は彼女の望みを叶えてあげられるが、その気持ちに気がついたからといって私は、今のレイラに何もしてあげられない。

 

「君が─」

 

 その先は言え無かった。君が罪人になれば、私が救ってみせるだなんて。一国の姫に対して。

 

 そんな事を思っている内に、城に付いてしまった。私は姫の部屋に近い部屋の窓から簡単に侵入し、レイラをそっと置いた。

 

「あれ?いっちゃうの?」

 

「ああ。このままここに居たら、死ぬまで外に出れない場所に入れられるからな」

 

「しぬまで?なんで?」

 

「それは…おっと。時間が無いみたいだ。さよなら」

 

 何者かの足音が近づいて来た為私は慌てて窓から飛び出し、警報に引っ掛からないように慎重に城から抜け出した。

 何かを忘れて来たような気もするが、家に着くまでは確認している余裕は無いのでとにかく夜の街を駆ける事にした。




レイラは別世界線では主人公と幸せに暮らして欲しい。


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第10話 パープルリング

「んっ…ふわぁー」

 

 私は眠寝起きの頭を起こす為に腕を上に伸ばし、口を大きく開けた。私はぼんやりとした目で自身の手を見ると、ある違和感を感じた。

 なぜなら、右手の薬指に嵌っている筈の黒と紫色の指輪が無かったのだ。私は眠気が一気に覚め、指輪を探し始めるが、取り敢えずこの部屋には無い事が分かった。

 

 だとすると、心当たりがあるのは…城を出る時に感じた違和感だろうか。あの時は急いでいたので確認する余裕が無かったが、多分レイラの近くに落としたのだろう。

 あれには思い出が詰まっている為、捨てられるのは非常に困る。レイラが拾ってくれれば捨てる事は無いだろうからまだ良いのだけれど。

 

 指輪の圧から解放された右手に違和感を持ちつつも、あの指輪は自分で付けた指輪で、特別な物では無いのでついでに買いに行こうと考え、陽で明るい街に身を繰り出した。

 

 

 

 ***

 

 

 

「すまんなぁ。紫は在庫切れで暫くは入って来なさそうなんだ」

 

 私は何度目かの指輪店に入店して指輪を探したが、どうしてかどこの店からも黒色に挟まれる形で紫色の線が入ったデザインの指輪が無くなっていたのだ。

 

「何故無いんですか?」

 

 これを聞くのも、もう何回目という感じだ。しかし、どこも言えないとしか発言しなかった。

 

「まあ、本来は教えちゃ駄目なんだが、特別に教えると、姫さんがその指輪を右手の薬指にしてるのを見て、国王がその指輪がどこで作られた物かと探してるそうだ」

 

「そんな事が」

 

 私はできるだけその話をなにも知らないという顔で聞いた。私の指輪が無くなっていない事を知れたのは良かったが、まさかこんな#大事__おおごと__#になるとは思わなかったので、微妙な心境だ。

 しかも、右手の薬指というのが厄介だ。私が付けているのを真似たのだろうが、右手の薬指の指輪は"心の安定"や"恋が叶う"などの意味があり、まだ付き合っている段階での男女でのペアの間で人気だ。

 レイラはその事を知ってか知らずか親である国王に見せ、相手が誰なのかを必死に国王が探しているといった状況なのだろう。

 

「教えてくれてありがとうごさいます」

 

「良いって事よ。まあ、時間は掛かるだろが絶対入荷するから、そんときは宜しくな」

 

「ありがとうごさいます」

 

 私は2度店主に対して謝罪の意を込めた言葉を送り、その店を後にした。

 

 

 

 右手が少し軽い事に未だに違和感を覚えるが、改めて自身の手を見てみると、男性にしては小さく頼りがいの無さそうな手だと感じた。

 

 指輪を探す為に時間を食ってしまったが、(しばら)く普通に暮らせるだけの余裕はあるので、今日はギルドには寄らず、このまま暇を持て余して家に帰ろうかと考える。

 その為に私は踵を返し家へと向かおうとしたのだが、警備のゲルトが手招きしているのが見えたので、そちらに向かう事にした。

 

「どうしたんだ?」

 

「姫の指輪の件は知っておるか?」

 

「ついさっき知ったよ」

 

「やはり指輪はマグナ様のか」

 

 ゲルトは私の右手を見ながらそう言った。

 

「じゃったら、この国から早めに逃げた方が良いかもしれんな」

 

 もし指輪を探している過程でその主が大罪人のマグナだと知られれば、見つかった時に何をされるか分かった物じゃ無いので、ゲルトの懸念はごもっともだろう。

 しかし私は、トリアーネの傭兵化状態を直さなければならないので、あと4~5日はここを離れる訳にはいかないのだ。

 

「用事が済んだら別の国に行くよ」

 

「わしもできるだけ手助けしてやるが、あまり期待はできんぞ」

 

「見つからないように頑張るよ」

 

 外出を控えたりする必要がありそうだ。お金に余裕はあるけど流石に3日を超えるとキツイので、帰り道で今からどうしようかで悩んでいた。



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