岸辺露伴 紅魔館へ行く (柊樹布由)
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岸辺露伴 紅魔館へ行く

「初めましての人がいるかもしれないから一応自己紹介をさせてもらうよ。 僕の名前は『岸辺露伴』漫画家だ。

早速だが君達は『吸血鬼』がこの世に存在しているって事は知っているだろうか? そう、 あの不死身で人間の血を吸って生きていると言われている種族だ。

なにィ? 信じちゃあいないって? 確かに僕も信じてなかったよ。

以前、 承太郎さんが吸血鬼と戦った事があると言ってた時は耳を疑ったが流石に今回の件で信じることにしたよ」

 

 

【岸辺露伴 紅魔館へ行く】

 

 

僕が週間少年ジャンプで連載している漫画「ピンクダークの少年」に吸血鬼を出したくて「ドラキュラ伝説」があるとされるルーマニアへ取材をしに行ったんだ。

その時はまさか彼女に会えるとは思っちゃあいなかったがね。 あれは確か……そう、 山奥の料理店で夕食を食べていた時だったな。

「これが『サルマーレ』か。 挽肉とタマネギ、 そしてそれらが『酢キャベツ』に包まれている。

実にロールキャベツそっくりだなァ。 ウゥン、 爽やかな香りだ。 味はどうだろうか。 う、 美味すぎる…… 最高だァ!! 」

「フフっ料理一つでそんなに喜ぶなんて、 面白い人ね」

僕が食事をしていると、 二つほど離れた席から少女の声が聞こえてきたので僕は思わず振り向いた。

そこには青みがかった美しい銀髪に白が強いピンク色のドレスを身に纏った見た目は十歳ばかりだが

溢れんばかりの気品が漂う少女がいた。 驚いたよ、 こんな店に僕以外の客がいたなんてね。

「声に出てしまっていたか。 この店の料理が実に美味しくてね、 感動してしまったよ」

「確かにここの料理は場所の割には美味しいわね。 でも、 咲夜の料理と比べるとそんなだわ。

ところで貴方、 わざわざこんな所まで何をしに来たの? ただの観光客って訳ではなさそうに見えるわ」

「吸血鬼についての取材だよ。 なんせ僕の漫画「ピンクダークの少年」。 その中の一コマに吸血鬼を出すからね」

「まぁ、 その為にわざわざこんな所まで来たのね。 こだわりが強いこと」

「当然だ、 僕は『リアリティ』のある漫画を描きたいのさ。 もし僕の描く吸血鬼に読者が違和感を覚えたらたまったもんじゃあないからね。

そうだ……僕の描いている漫画見てみるかい? 」

僕は彼女に「漫画の原稿」を手渡した。

「もちろん気になるわ! ……………………ん? 」

彼女は原稿を手に取ると一瞬だけだが彼女の身体は硬直した。

「どうか……したのかい? 」

「いいえ、 なんでもないわ。 それにしてもこの漫画面白いわね! 気に入ったわ。 貴方今日の宿は決めているのかしら?

もし決まっていないのなら私の屋敷に泊めてあげるわ」

どうやら彼女は僕の漫画が気に入ったみたいで泊めてくれるなどと言い出した。 「やったァ! ありがとうございます! 」などと普通の人は言うのかもしれないが僕は違う。

「フンッやけに親切だなッ! なにか『裏』があるんじゃあないのかい? 例えば金目の物をこっそり盗むとか、 寝込みを襲うとかさ! 」

「違うわよ、 貴方の漫画が面白かったから。 それに吸血鬼に興味があるって言っていたから色々と教えてあげようと思ったのよ。 私、 こう見えて吸血鬼にはかなり詳しいの。 フフンッ」

彼女は胸元を叩き、 自信ありげにアピールをしていた。 そんな大人らしい態度をとるには十年ぐらい早いと僕は思うがね。

「そこまで言うなら聞かせてもらおうじゃあないか。 もしくだらない知識を披露してみろ、 ただじゃあおかないぞ」

「任せなさい、 私は絶対に貴方を満足させられる自信があるわ。 行きましょう、 付いて来なさい」

 

 

 

「へぇ、 ここが君の家か。 思ったより大きい家に住んでいるじゃあないのかい? 」

彼女の後を付いていき長い山道を登っていくと目の前には大きな血のように赤い洋館が建っていた。

館は少々年季が入っており、 威厳のある造りとなっている。

「さぁ、 上がって」

内装も血のように赤くなっていて所々には赤い飛沫の模様があり、 返り血を彷彿とさせる。

「デカい家の割には人が少ないね。 何かあったのかい? 」

「えぇ。 昔は門番にメイドに友人、 そして妹と今よりもっと賑やかだったのだけれど……色々とね」

「色々と、 あったのか。 ところで泊まらせてもらってこんなこと言うのも何だが……君ィ、 この少々趣味が悪すぎじゃあないかァ?

こんな派手すぎる家は落ち着けないね、 むしろイライラしてくるよ」

「あら、 貴方なら気に入ってくれると思ったのだけれど……嫌だったかしら? 」

「あぁ。 ハッキリ言って苦手だねッ」

そんなこんなしている間に部屋に辿り着いた。 全く……これでもし話がロクでもなかったならとんでもないぞ。

「さてと、 吸血鬼について話す前に貴方には一つ、 この『紅魔館』のルールを説明しなくてはいけないわ」

「ほう、 なんだい? 」

「簡単よ、 私の機嫌を損ねたら殺す。 それだけよ」

「それは怖いね。 でも考えてみろッ、 君みたいな子どもが大人である僕を殺せると思うのか? 」

「ええ。 だって私、 吸血鬼だもの」

「………………フフッ、 オイオイ。 冗談はよしてくれないか? ギャグにしてはつまらなすぎるね」

「冗談じゃないわ、 この羽と牙が証拠よ」

いつの間にか彼女の背中からは巨大な蝙蝠のような羽、 そして唇からは鋭利な牙が見えていた。

オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ

冗談じゃあない! 僕の目の前にはッ! 本物の『吸血鬼』いると言うのかァ!?

彼女はいきなり僕に飛びかかったッ! 咄嗟に伏せたことによってなんとか僕は避ける事ができた……。

「ま、 まさかここまで大きい館に君一人きりって事はッ!? 」

「ええ。 門番の美鈴はサボって寝ていたから永遠に眠らせ、 メイドの咲夜は暑いと言って私の許可無く窓を開けたから焼いて殺し、 親友であったパチェは私の嫌いな流水の魔法を生み出そうとしていたから部下の小悪魔共々湖の中へ沈めた。

そして妹のフランは外へ遊びに行きたいとワガママを言って仕方がなかったから外で日光浴をさせてあげたわ」

彼女はその殺されたであろう人達と撮った写真を持ちながら僕に語りかけた。

「そして貴方はさっき、 この紅魔館を見て私の趣味が悪いと侮辱したわね。 これは万死に値するわっ! 」

ヤバい……こいつ「マジ」で殺す気だッ! 僕は一目散に部屋を出てこの館の出口を目指した。

「待ちなさい! 逃がさないわよ」

当然人間である僕が吸血鬼にかなうはずもなく彼女は素早く廊下を駆け抜け、 僕の目の前に立ちはだかった。

「ひ、 ひいィィィ!! や、 やめてくれ! こんなことになるなんて知らなかったんだ!! どうか、 どうか命だけはッ……!! 」

 恐怖心によるものか、 僕は必死に命乞いをした。

「確かにもし私が先にルールを言っていれば貴方は趣味が悪いなんて言わなかったのかもしれないわね。

それに貴方の漫画、 面白かったから……そうだ! 一生私好みの漫画を描くっていうのはどうかしら? 素敵だと思わない? 」

どうやら彼女曰く提案を呑めば僕を助けてくれるらしい。

「ほ、 ほんとに僕の『命』は……助けてくれるのかい? 」

「えぇ。 私、 レミリア・スカーレットの名において貴方の命を保証するわ」

「『だが断る』」

「何っ!? 貴方……正気なの!? 」

当然だ。 この岸辺露伴の最も好きな事のひとつは、 自分で強いと思っている奴に「NO」と断ってやることだ。

それに、 僕は『僕の』描きたい漫画を描きたいんだ。 人に指図されて描く漫画なんて僕の漫画じゃあない。

「そもそも君は僕に『危害』を加えることなんて出来ないからね」

「フフっ、 死に際の割には威勢がいいわね。 残念だけど、 これでおしまい! 」

彼女は右手の爪を伸ばし、 僕に向けて突き刺した。 しかし、 その爪は僕ではなく僕の近くの壁に向けてであった。

「な、 なんでなのよ!? 何故貴方を殺せないのよ! 」

「それはね、 僕の『能力』のせいさ」

僕は彼女の右手に向けて指を差しながらそう伝えた。

「こ……これは? 」

彼女の右手の一部がまるでメモ帳のように薄く剥がれだし、 本のようになった。

「何も言わないっていうのもフェアじゃあないからね。 僕に贈られた天からのギフト。

その名も『ヘブンズ・ドアー』その力は『相手の能力や記憶を本にして読み、 書き加える事が出来る程度の能力』ッ! 」

そして彼女の右手にある本にはこう書かれていた。

【岸辺露伴に一切の危害を加えることはできない】

「何これ……貴方! いつの間にこれを!? 」

「そうだね、 このヘブンズ・ドアーは『相手に僕の漫画を見せる』事によって発動ができるのさッ」

僕は彼女に「漫画の原稿」をヒラヒラと見せつけた。

「ま、 まさかあの時に!? 」

 

僕は彼女に会って漫画を見せた時。 その時点でヘブンズ・ドアーで彼女にそう書き込んでおいたのさ。

きっと事件や事故に巻き込まれたって事にして人を攫って食べるつもりだったんだろう。

正直あんなボロっちい

店にあんな格好の人がいるなんて絶対に『変』だからね。 念の為書かせてもらったが正解だったよ。

「……完敗よ。 さぁ、 煮るも焼くも殺すも好きにして」

「どういう風の吹き回しだい? さっきとは大違いだな」

「何故かって? 私は貴方を殺そうとした。 だから殺せなかった以上なにをされても文句は言えないわ」

「へェ~~ じゃあ、 君に何でもしていいって事かァ!! ……………………だが何もしない。

君という種族はこの現代において非常ォ~~ に『貴重』だからねッ! それに、 僕の漫画を

面白いと言ってくれた人に危害を与えることなんてできないね。 さらばだ、 もう会うこともないだろう」

そう言って僕は紅魔館の扉を開けて出ていった。

「フフっ、 アハハハハハハハハ!! やっぱり人間という生き物は面白いわね! 巫女に魔法使い、 そして咲夜……………………」

彼女がなにやら呟いているのをよそに、 僕は紅魔館を後にした。

 

 

【岸辺露伴 紅魔館へ行く】 完




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