中年指揮官と零細基地の日常 (へなころ)
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1.ナイルの場合

ごめん。
入社のところ書いていたら、全然戦術人形出てこなかった。
おかしいな・・・


熱くもなく寒くもない、そんな春の日に俺は新天地にやってきた。

ここは、とある国の大きな街のアッパータウン。

最近勢いのあるPMCのグリフィンの本社があるところで、その本社に再就職の用で来ている訳だ。

 

俺? ああ、俺はナイル。ナイル・ルースだ。元軍人だったんだけど、最近退職した。

軍人というと、いわゆる公務員で先が長そうな仕事に見えるけど、実はそうでもない。

俺は現場仕事、いわゆる鉄砲持った兵隊さんやってたんだけど、これガッツリ体が資本な仕事なんですよ。

所謂、プロスポーツ選手みたいなもんなんで、おっさんになると厳しい。

出世するにも、上のポストがそんなにあるわけでもないしね。徐々に同年代は数を減らしていく。

俺は部隊長まで進んだけど、そこどまりでした。そんで40も半ばで退職と相成ったわけ。

けど、元軍人は一部民間企業では有用なもんで、再就職先は国もある程度斡旋してくれる。

PMCをはじめ、ガードマン、武器メーカ、警察、消防、コンサル・・・・。いろいろあるわけだ。食うには困らない。

まあ、懲戒処分受けたやつとかはダメだろうけど。俺は真面目だったんです!ってことで。(笑)

 

 

・・・・

さてさて、歩き慣れぬアッパータウンを進むと、ありましたよ本社。

立派な鉄筋コンクリートの建物。一見役所のように見えるが、一つ違うのがその警備だ。

 

『あ?女の子??』 思わず口から言葉が出てしまった。

ビルの入り口の立哨が少女といっても差し支えない見た目だったもんでつい・・・・

 

じろりと見られたが、手荷物のチェック、ボディチェック、金属探知機によるチェックと滞りなく、確実に実施する。

就職の要件を伝えると、ホールに迎えとの指示。

 

(そうか、グリフィンは戦術人形を積極的に使うPMCって、会社説明のパンフに書いてあったっけ。斡旋だもんで詳しくは読んでなかったわ)

 

ビルの中、エントランスは一般的なビルと同じ大空間。しかし紺色の制服を着こなしStg-44を手にした立哨の少女が綺麗な姿勢で立っている。

 

(うーん、すげぇ違和感・・・)

 

目を逸らすわけでもなく、注目するわけでもなく通り抜け、入社式が開かれるホールに足早に向かう。

 

 

・・・・

入社式はお偉いさんの話、就職の手続きと滞りなく進む。

会議室の中に座っているのは新人だが、2種類に分かれていそうだ。

前の方には、明らかに大学出てきました系の若者。

で、後ろの一部が、どう見てもアラサー以降の人。自分入れて三人、男性1、女性1だ。

俺も後者の男性その2なんだけど、これ多分軍人とかのキャリア再就職組なんだろうね。

 

とりあえず手続きは終わったけど、明日から研修だってさ。

研修はロアタウンの外にある、本社基地でやるんだってさ。明日から本社基地に寝泊まりになるってさ。

 

(まあ、がんばりますかね)

 

 

 

・・・・

翌日から、研修が始まる。

 

「ルース候補生。全然合っていないじゃないですか!説明を聞いていましたか!」

『も、申し訳ありません・・・・』

「やり直してください。アシスタントの方、フォローお願いします」

20代前半の女性教官に今日何度目か叱られる。だんだん言葉が厳しくなる。

若い同期からは、このおっさんダメじゃね?的な目で見られる・・・

アシスタントの先生が付きっきりになってるしで、完全に落ちこぼれ認定っす・・・・

 

基地運営に必要な知識を叩き込まれている訳だけど、まいった。

所謂部隊長レベルだと、それほど金勘定や提案書の作成などの所謂「組織運営・経営」といったことはやらない。

これは、完全に今までのキャリアが通用しない分野。

(きつい。この年になってまた勉強とは。偉い人が言ってたけど人生日々勉強は本当だな。)

 

なんとか食らいつきクリアする。

入社二日目でクビとかさすがに勘弁だし、元鞘の先輩後輩にもにも迷惑かけちまうからな。

 

 

一方、射撃や格闘といった兵隊さんの実務はバッチリ!隣の若人にもコツを教えてやったり。

あれ?このおっさん落ちこぼれじゃなかったん?と見直させてやりましたよ。

 

・・・・

そんなこんな、苦労はありましたが、無事に10日間の研修は終わりました。

最初は難しかった科目も問題ない程度にはなった。と思う・・・

明日からは、新卒とキャリア組で別れるみたい。

キャリア組は、間を置かず新基地配属なんだけど、その前に部下つまり人形との顔合わせだって。

顔合わせ後は、10日間の慣らし期間だと。

 

で、その顔合わせが明日。

どうなるのやら・・・・



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2.新たな部下

何とか一人、登場させらた。
作者指揮官の準推し人形なんです。
推し人形?無理っす。俺には恥ずかしくて出来ないす。

まあ、推しはメジャーな人形なんで、一応出さない予定。


(やばいな。やっぱり緊張するよなぁ・・・。こういうのは慣れねえもんだ。)

 

 

今日は部下との顔合わせの日。

宿舎から指定の会議室に向かうと、上司であるヘリアントス上級代行官が先に来ていた。

外見から見てアラサー。エリートで美人の部類だ。しかし、俺にはわかる。

男運が悪いタイプと見た。地雷になるケースがある。だからここは触らぬ神に祟りなし作戦だ。

あたり障り無いあいさつで締めとく

 

『ナイル・ルース訓練生、只今到着しました』

 

昔から慣れている敬礼を行う。他のキャリア組も同様

あいさつの後に席に着席する。今日はキャリア組3人のみ。

 

「おはよう。本日は顔合わせだが、その前に辞令口達がある。本日をもって貴官らを指揮官に任命する」

「この後、各人別の部屋に散ってもらい、そこで顔合わせだ。」

「明日以降は模擬司令部にて、慣らしを兼ねた指揮訓練をしてもらう。完了後にいよいよ各地区司令部に行ってもらう。何か質問はあるか。」

 

特に無いので、3人それぞれ分かれる。

 

 

・・

・・・

・・・・

 

学校の教室のような部屋で待つこと5分。

 

(やばい。本当にで緊張するわ。だっていきなり全員見知らぬ部下だぜ。今後の職場がある意味気決まる。緊張しない方が無理がある)

そんなこんなぐるぐる思考を巡らせていると、外から男女の問答らしき声が聞こえる。

 

「---指揮官。----さい」

(なんだ。うるせーな。痴話喧嘩か?)

ドアをソロっと開けて外を伺うと、もろに目の前の男女と目が合う。なにやら女性が男性に追い縋っている。

 

「なんだ貴様。新入りか?見世物じゃないんだ。目障りだ。さっさと消えろ」

初対面で無関係のこっちに問答無用で喧嘩腰である。

男の年のころは20代、恰好から恐らく先任の指揮官であろう。俺はこれでも大人だ。いきなり先輩の喧嘩を買うわけにはいかない。

 

『いやね。そんだけ大きな声を出して入れば、嫌でも人は出てきますよ。で、ただならぬ雰囲気ですが何があったんです?事が事なら人呼びますよ』

「チッ。使えない人形の解体廃棄処分にきただけだ。・・・不良品を掴ませやがて」

 

(え??この人何言ってんの???)

『プッ・・・』

露骨に嫌な顔を見せ吐き捨てる何処ぞの指揮官。それを聞いて思わず吹き出す俺。

 

「貴様、何がおかしい。」

『いやすみませんね。他意は無いんですがね。部下を育てるのが上司の役目ですよね。』

『不良品か知りませんが、ご自分は無能と言っているようなもんだと思いますがね。』

 

突然赤の他人に刺された若者は青筋たてて露骨に怒りを露にする。

 

「ほう。ゴミは所詮ゴミにすぎんが貴様がコイツを使うか?女の前でカッコいいこと言うだけなら誰でもできるんだよ。」

男はそう言って女の髪を掴み怒りに任せ持ち上げる。

 

「やめて・・・下さい。指揮官様・・・」

男は懇願を聞きより興奮したのかさらに力が入る。女の綺麗なグレーの髪がプチプチと音を立てて抜けていく。

 

『いいですよ。むしろありがたい申し出ですよ』

目の前の女の子のためにも即答してしまったが、売り言葉に買い言葉で煽りを入れておく。

 

「しかしなぁ、こいつには金がかかっているからな。どうするか・・・」

「そうだな。コア30個と交換だ」

目の前の男は見下したようにニヤついている。

 

(コイツ腹立つな。しかしコア?なんぞそれ?知らんよ俺)

???マークを頭上に浮かべている俺を見て男がいう

 

「コアも知らんのか。ド素人が。会社から配られているPDAを出せ」

 

言われた通りPDAを開くと、所持物資の表が出てくる。

ちょうど、コアなる物が30個あることが表示されている。

 

「指揮官同士の物資の融通は可能だ。30個を俺のPDAへ送れ。理由項目は戦術人形のトレードにチェックを入れ、人形のうなじのバーコードを読ませろ」

・・・・

無事にやり取りが完了する。

「ふっ。ごみ処理のはずが、とんだ儲けもんだ」

「精々、これから頑張るんだな新米のおっさん指揮官よぉ」

ニヤニヤしながら去っていった。

 

(いちいち腹立つやつだな。次会ったら覚えとけよ。)

コアゼロになっちゃったけど、まあいいか。どうせすぐに手に入るんだろうし。

 

「新たな指揮官様・・・ですね?・・・ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

えらいうなだれている女の子・・・

(苦手だな・・・こういうの)

 

 

『とりあえず、部屋に入ろうか』

 

嵐は去った??いや、去ってねえ。

この女の子どうすんだよ・・・。

まずいぞこれ。何がまずいって絵面が悪すぎる。だまして誘拐したみたいな感じだぞ。

これからどうなるんだろうか・・・・




準推しも★5のあの人っす。
すんません・・・。

誤字報告:TFTRDHさん、ありがとうございました。


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3.どうしてこうなった・・・

とりあえず、初期の部下が全部そろう3話です。


俺は今、美人上司と美しい女性人形に囲まれている。

しかし俺の姿勢は低い。なぜかって?

そりゃ、絶賛正座中だからだ。

 

目の前の美人上司はうつむき加減で、額に手を当て考え事をしているのか、肩を震わせている。

周りを取り囲む女子人形からは様々な視線を向けられている。

軽蔑、呆れ、興味、無関心・・・・。概ね、ネガティブな雰囲気である。

端っこのピンク髪の子なんて、まるで道端のゲ○でも見るような目である・・・

 

(どうしてこうなった・・・)

 

 

・・・・・

 

少し時を戻そう。

 

若い指揮官と揉めていた女の子を訳アリで引き取ってしまった。

女の子は黒を基調とした制服、ロングブーツに、臙脂色のベレー帽、グレーのロングヘアに大人びた年頃。

まあ、有体に言って美人。本当に美人だ。

しかし、メンタルモデルに相当ショックだったのか、ハンカチで顔を抑えて泣き続けている。

 

(参ったし、やべえだろ。これ)

子供のころ皿割ったとき、母にどう言い訳するか。そんな思い出が蘇ってくるが、はっきり言ってその状況は負け戦である。

何かできることもあるわけではなく、その時が訪れてしまう。

 

「待たせたな、ルース指揮官。貴官の部下の---」

言葉を発しながら、美人上司が部屋に入ってくるが、状況を一瞥し、動きが止まる。

上司の動きは止まったが、残念なことにそのあとからフル装備の女性人形が続々と入ってきてしまう。

 

いるはずのない女性人形、そして泣いている。目の前の男からは焦りの表情がにじみ出ている。

この状況に対する答えは多くはない。

 

「ルース指揮官・・・貴様、何をしている」

 

明らかに、疑いの目を向けられている。変な言い訳はまずい。

 

『はっ。先任の指揮官殿と親睦を含めた結果、人形を譲っていただけることとなりました』

嘘は言っていねえ。

 

「譲り受ける?・・トレードか。貴様は何を渡した」

 

『はっ。コアを30個と。非常にありがたい話でした』

よくわからんが、そう言うしかねえ・・・。

 

一瞬あっけにとられた後、美人上司の顔はみるみる怒りに形相に変わっていく。

「コア・・・30!貴様、PDAを出せ」

 

素直に渡すと手早くチェックを始める。

「これから研修で説明し、使うコアを勝手に・・・」

つぶやくように漏れた声を聞き逃さない。

 

「ルース指揮官?貴様、分かっているのか??」

美人上司の視線が自分に向くが、明らかに冗談で済ませられる雰囲気ではない。

 

(やべえ、やっぱりやべえ・・・でもクビは勘弁)

(昔、東洋の戦友に聞いた謝罪で済ますしかねえ。これが最強と言ってたことを今は信じる!)

 

俺は、静かにその場で正座し、頭を垂れるのだった・・・・

 

これが冒頭前の話である。

 

・・・・・

 

正座し、叱られた子犬のような顔を見せるおっさんを見て、美人上司が落ち着いたのか、ため息を一つ吐く。

「まあ、平等かは別にして手続きは正規であり、こちら側もコアの説明や振り込みの連絡をしなかった事実はある。しかし貴様の対応については検討が必要だ」

「相手のジャスティン指揮官にも事情を確認する。貴様は部下になる戦術人形との挨拶を済ませておけ」

そう伝えたヘリアントスは、会議室から出て行った。

 

(アイツジャスティンとか言うの?こっそり俺のいつかぶっ殺すリストに書きこんどくからな。)

(しかし、どうすんの?この空気?)

(まあ、しょうがねえ。始めるか。)

 

そのまま正座したまま自己紹介をナイルは始める。

 

『初めましてだな。この度指揮官に任命されたナイル・ルースだ。新任だが君たちに苦労は掛けるつもりはない。これからはよろしく頼む』

もうすでに苦労を掛けられそうな気が満々のこの状況で、抜け抜けと挨拶する。

こういのは、ビビったら負けと昔から言われている。上司はピンチでも涼しい顔で言い放つ豪胆さが必要なのだ。と自分に言い聞かせる。

隙をついたところを畳み掛ける。

『君たちのことも知りたい。自己紹介してくれ。・・・じゃあ、そっちから』

 

急に振られて、一瞬戸惑うが、すぐに自己紹介を始める。

 

 

「私はPPS-43。お逢いできて光栄です。私は軽いのが取り柄であります」

ピンク色のショートヘアに編み込まれた長いポニーテール、黒を基調とした制服に、髪の色と同色のミニスカート。制帽の上のアクセサリはなんだ??

彼女は自分の半身であるサブマシンガンの特徴を交えて紹介した。しかし、その目は完全に見下すようなジト目である。先ほどから変わらないところを見ると、好感度は最悪なのだろう。

 

「初めまして指揮官。指揮官のご指示であれば、イングラムM10は喜んでお受けしますよ。」

黒色を基調としたヘソ出しのタンクトップにショートパンツ。黒髪おさげの少女だが、SMGのM10を持つ姿勢は見るからに悪い。

(指揮官の指示なら喜んで受ける?まさか変な意味で言ってないよね?)つい、ちらりと泣いている女の子を見てしまう。

口調は穏やかであるが、何か隠しているような雰囲気である。指揮官に興味深々な感じ。

 

「はじめまして、指揮官様。FF FNCです。チョコ食べます?」

チョコ棒をかじりながら紹介する少女。少女らしいスカートをはいた服装である。半身のアサルトライフルを持っていなかったらピクニックに行くと言っても疑わないだろう。

しかしなぜチョコ・・・本当にくれるようには思えないほど夢中に齧り付いている。指揮官よりチョコに興味深々な感じ。

 

「ニイハオ、指揮官。56式自動歩槍1型だよ。全ての敵を殲滅してあげるね!FNCちゃんとはおやつ仲間だよ」

黒髪のロングでおさげ。髪を結ぶゴムには大きな赤い星。中国銃をアピールしているが珍しと思う。

なるほどFNCとは仲良いのね。メモメモ。

好感度は良くも悪くも無さそう。

 

「わたくし、92式拳銃が着任しました。指揮官のもとに配属されて光栄であります」

黒のトップスに紫のミニスカート、そして若干紫がかったボブカットの髪。

HGを持つ彼女は真面目な雰囲気がある。指揮官を見る目はどこか冷たい。やはり言葉とは裏腹に好感度は最悪なのだろう。

 

「アストラです。よろしくお願いしますね。」

さっぱりした挨拶である。赤いツインテールに青いリボン。そして・・・海賊なようなデザインの洋服であるが、その大きな胸元をこれでもかと強調している。

しかし、外観からの雰囲気とは違い落ち着いた雰囲気を感じる。好感度は悪くない感じ?

 

「私はSPAS-12!指揮官の堅牢な盾となりましょう!」

SGを持った薄いブルーのツインテールの女の子である。柔かに話すその姿から指揮官の俺にに興味深々な様子。

しかし、しっかりとした肉付きであり女性アスリートのような雰囲気を出している。

アストラに負けない豊満なバストであるが、強調させない実務的な服装は対照的である。

「私のことはサブリナと呼んでください」

(自分から愛称を指定してくるとは珍しいが、問題なかろう)

『分かった。サブリナ、よろしく頼む』

色々話を聞くと、軍用ベースの義体であるとのこと。

(軍用?燃費悪いのかな。そんな訳ないか。)

 

「トレフォイル、確かにこの人なの?……トレフォイルに認められるなら、本当はまともな人なのでしょう・・・」

サラッとディスってきているのは、スカウトライフルである。トレフォイルとは、肩に乗せているペットの小鳥のアンドロイドらしい。

何?ペットじゃなく保護者?知るかバカタレ。

どうせなら、ペットじゃなく戦場で便利なドローンかなんかにしてくれよ。

好感度は悪そう。

 

「初めまして、指揮官・・・いや、ほかの子は紹介しなくてもいい、私一人で十分よ。」

過激な自己紹介で始まったのはMGを持つLWMMGである。

なにやら、S地区の支部からの転属らしい。現地で一通り訓練は受けており、実戦も経験済み。ダミー人形も3体は動かせるとのこと。

なるほど強気な紹介も理解できる。まあ話した感じ、紹介のような自己中感は感じ無い。まとめ役としても十分だろう。

好感度は良くも悪くも無さそうだ。

 

『LWMMGか。呼びづらいのでニックネームをつけたい』

 

「・・・了解しました。お任せします」

 

『では・・・。 ライト でどうか』

ビクリと彼女の体が震え、間を置いて真顔で返してくる。

 

「その名称は受け入れられません」

 

(任せといて受け入れられないとかあるのかよ・・・)

『では、頭文字のLからとり エル ではどうか』

懇切丁寧に命名理由をつけて再度聞く。

 

「了解しました。今後エルとお呼びください」

 

エルの過去については・・・まあお察しください。

 

では最後の隊員

 

「62式正式に入隊!指揮官、初めまして!…ちょっと、何か言ってよ!?」

聞かない、見ない銃だな。形式から中国??とか思っていたら何か言えと催促された。

 

『62式とはあまり聞かない銃だ。生まれは中国か』

ふと興味から聞いたのが運の尽きだった。

すぐに56-1式からチャチャが入る

「指揮官やめてよ。中国はこんな欠陥銃を作らないわ」

「私は欠陥銃じゃない!私が使ってトラブルは起こしていない。指揮官!中国銃と同じだと思わないで。」62式が憤慨する。

「じゃあ、そのテープ止めはなによ」と56-1式が再度返す。

「これは・・・日本の伝統よ!」

「伝統?ふふっ」すかさず56-1式が煽りを込めて返す。

「うるさい!じゃあ、、、生活の知恵よ!」

その後も二人でギャーギャー騒いでいる。

(そうか日本の銃か。日本も年号を形式に入れることが多いんだったな)

(で、伝統?生活の知恵?)いやここはツッコむのは厳禁。流そう。

 

両名は今にもつかみかかりそうな状況である。

(あかん。触れてはいけないところに触れてしまった)

『すまない。出自を間違えた私が悪かった。56-1式にもすまなかった』

指揮官に謝られた二人は、なにか言いたげではあったが、とりあえず落ち着いた。

(いかんな・・・両名に仲直りの場を設けんと、あとあとまずくなるな。課題は山積みだな。)

 

あ、一人忘れていた。

『すまん。君の自己紹介も頼む』

横で泣いていた女性に声をかける。

 

「こんにちは指揮官様、G36式コンパクトです、拾って頂けてうれしいですわ。」

半身であるG36Cを持った彼女は俺の前に来て跪いて手を伸ばした。

(前の指揮官と何があったのかはわからない。後々ゆっくり話をしよう)

 

そう思いながら、手を取り立ち上がろうとしたその時。足がしびれて立てないことに気づいた。

『あ・・れ』

間抜けな声が出ただけでそのまま彼女に胸に倒れこんだ。顔から。

豊満な胸に体重を預けながら、考えた。

(やわらかいし、大きいし、下着も黒、じゃねえ!これはあかん。完全にセクハラ。完全にセクハラ。けど本当に事故だって)

部下の皆が見ている前である。対応を間違えるとえらいことになる。頭をフル回転である。

そっと、胸から顔を起こし、努めて冷静に謝る。

 

『正座で足がしびれていた。すまないことをした。』

(完璧だ。ファインプレーだ。勝った)

 

「指揮官様・・・。皆の前では恥ずかしいです。二人の時でよろしいですか。」

顔を赤くし、もじもじしながら話す。

(おい~。その発言や態度はアウトや)

効果は抜群だ。俺のファインプレーがなかったことになった。

周りを見渡せば、益々視線が厳しくなっている。指揮官の好感度は完全に地に落ちていた。

 

 

(どうしてこうなった・・・・)




LWMMGは別の作者様(SPEC様著 S10地区司令基地作戦記録)より設定拝借しました。
LWMMGは低レアで数多く手に入るので、副官殿の指導を受けて他地区に転属していくという勝手な設定で。
(LWMMGを出す予定なかったけど、上記作にハマってしまったので、採用させていただきました)
エルはS10地区の育成でLv70設定です。
G36Cはジャスティン指揮官が使っていたのでLv10。
その他の人形は新造なのでLv1です。

そんな設定です。


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4.最低な指揮官

普段仕事で報告書書いてるけど、小説はむずい〜
淡々と書いちゃうし、表現力の無さを痛感。
でも楽しいからいいや。笑

今回は閑話回みたいになっちゃいました。
次で、新人研修編を終わらせたい!
けど、もうちょいかかるかも。
全然日常に入れなくてスミマセン。泣


すったもんだの部下との顔合わせがあった日の午後、急遽美人上司による研修となった。

配属された人形は宿舎で待機となっている。

なんでかって?要約すれば「どっかの馬鹿がいきなり仕出かしてくれたからだ」だってさ。

今後の新人指導プログラムが変更されることになったらしい。それくらい大ごとになっちまった。

ちなみに今回の件での処分は無かった。

幹部は処分賛成派が多かったらしいが、社長がバカ笑いして処分は流れたらしい。

「いきなりやらかすとは面白いやつだ」って事らしい。悪目立ちしている俺は何も楽しくない・・・

 

特別研修で一通り戦術人形について説明をいただいたが、例のコアこと正式名称代「代用コア」。これ、かなり貴重品じゃないですか。ジャスティンめ~!くそ~!許さぬぞ~

 

あと、これは、と感じたことは、

 

1.人間の兵士と人形の違いを理解しろ

人間と違い、復旧が可能。理論的には死は無い。

なんで結構無茶な戦術、例を挙げれば、命を懸けた殿や時間稼ぎや対戦車地雷を体に巻いてのカミカゼアタックとかをやらせたやつもいるらしい。

グリフィン社としては、一戦術については関知しない。とのこと。 

まあ人間と同列視すると、ギリギリのところで判断を誤ることがあるってことだな。

 

2.戦術人形との恋愛について

社としては関知しない。表立って禁止もしない。とのこと。

表には出ないが、指揮官のハーレム、捌け口になっている基地もあるだろう。と。

まあ、結果さえ出していれば特に問題ないみたいね。

 

ただ、

「総じて言えることだが、人形を大切にしない指揮官で結果を残し続けたものは居ない」とのことだった。

当たり前だ。修理がかさめば基地の運営を圧迫するし人形の技術も高まらない。また、人形はただのロボットではない。モチベーションが低下すれば、その練度にも影響するだろう。

そんな戦術/運営はありえない話ですよ。本当。

 

「ところでルース指揮官。貴官は部下の人形からだいぶ不信感を持たれているようだが、大丈夫かね?」

 

『・・・・』

(ニヤついてい言うことではないですよ。ヘリアントス上級代行官殿)

俺、結構気にしているんだぜ。それ。

 

 

・・

・・・・

 

 

臨時の特別研修が終わり夕方になったが、明日からは模擬司令部や訓練場での実地訓練が始まる。

その前に、部下からヒアリングをしておこうと思う。実務経験があるエルとG36Cの両名だ。

やはり先人の教育プランを知ることで、効率よく育成が可能となるからだ。

それぞれ個別に指揮官の個室に呼ぶ。

まあ個室といっても本社基地の臨時の部屋なので、三次大戦前の安ホテルの部屋みたいな感じだ。

ベッドにモニタに対面テーブル、ユニットバスの簡易な部屋だ。

 

まず一人目のエルだ。

入室後の敬礼の挨拶の後、単刀直入に聞く。

『君は技能が相当高いが、前の基地での訓練内容を教えてほしい』

「ーーーーー」

うむ。内容を要約すると、半身のメイン武器だけでなくサイドアームや格闘の習熟、行軍訓練などを行ったらしい。

『なるほど。人形の仕様いっぱいの性能を出しきるのはもちろん、戦術の幅を広げる訓練か』

『理にかなっているな。S10地区の指揮官は切れ者だな』

 

思ったことを口にするとエルは誇らしげに答えた。

「指揮官だけではありません。姉と慕っている副官、部隊員達、皆優秀です」

(人形にそこまで言わせるなら、相当よい基地だったのだろう。我々の基地もかくありたいものだな。)

(まあ、現状は好感度暴落中だがね。泣)

 

 

二人目のG36Cだが、こちらは大問題だった。

呼び出して部屋に入ってくるなり、そのままベッドに歩み寄ってちょこんと座った。

「指揮官様。今からはじめても・・・大丈夫です・・・・」うつむきながら呟く。

 

(へ?何が大丈夫だって?へ??)

よくわからなくて固まっていると、顔を真っ赤にして続ける。

「一緒に・・・その・・・指揮官のストレス、よかったら私で解消してください」

 

『ぶ~~~』飲んでいたお茶を盛大に吹き出しましたよ。

(え?俺、そんなエロ親父に見られているわけ?)

『そんなことしたくて呼んだんじゃないよ。前の基地での訓練方法とかをだな・・・・』

 

「えっ?も、申し訳ありません。指揮官…許してくれますか?」

『いや、まあ許すも何も未遂だからいいけど・・・ここは二人だけだし。』

 

待て、嫌な予感がする・・・。

『他の隊員には、その勘違い伝えていないよね。まさかね・・・』

 

「あっ・・・。前の指揮官もそうだったから、多分そうじゃないかと・・・」

『言っちゃったの・・・(泣)』

「・・・・はい」

 

眩暈がしてきた。俺の好感度がどん底に・・・なんてこった。

 

『念のため聞くけど、前の指揮官の、ジャスティンは、そうだったのかな・・・』

「はい・・・。定期的に私も含め所属人形は皆交代で呼ばれて・・・」

 

ふざけんなよ!ジャスティン!さっきのダメな例がいきなりかよ。

とんだとばっちりだよ。まったく!

 

肝心の教育プログラムも有用な情報は無かった。

人形任せに射撃訓練を行い、適当に完熟させたらそのまま実践らしい。

当然、落とされる人形も出るが、2、3度落ちた者は無能の烙印を押されて、解体やトレードされてしまうらしい。(仲間思いで身を挺した人形ほど評価が落ちるシステムかよ・・・)

ざっくりそれくらい聞いたところで、G36Cのメンタルが不安定になってきたので終わりにする。これ以上は聞いて為になる話も無いだろう。

 

でも決まった。G36Cはしばらく副官だな。どうもまだメンタルが不安定だ。しばらくリハビリが必要だな。

人形の性格設定の特徴はあるが、恐らくその中でもかなりネガティブよりの個性として生まれてきたんだと推察する。

そこをうまく解きほぐし、実力と自信をつけられれば大丈夫だろう。

 

一応この後、トラウマ消去もかねてメンタルモデルの初期化をするか確認したけど、それは絶対に嫌だってさ。

まあ本人がそういうのなら、希望通りにしよう。

 

この研修でやることは大体見えてきた。

好感度だって、どん底まで落ちればそれ以上落ちないだろう。

ポジティブに考えよう。

『よし、明日からも頑張るぞ』




一方そのころ・・・
風評被害は拡大していた。(笑)

ジト目で「指揮官は人として最低であります!」
紫なHG「本当に最低な男ね…」
ヘソ出しSMG「指揮官の指示ならば、喜んでお受けすると言ったのに・・・残念」
ビニテを指でリングみたく回しながら「連続で二人なんて、歳の割にはお盛んだよねー」
腹話術師RF「仲間達にこんなひどい事を……トレフォイルが許さないわよ!」
どっかのAR「チョコおいしいよぉ」
どっかのAR「FNCちゃん、おやつタイム楽しいね」


G36Cがメンタルモデル初期化を嫌がったのは、指揮官に拾ってもらえた思い出を無かったことにしたくなかったから。です。
嫌だったことも嬉しかったことも、全部受け入れて進むことを決意した。という感じですね。


あと、戦術人形は破壊再生されると、レベルが5くらいダウンする独自設定にしています。
新たな義体となり、慣らしが終わっていないから。とかそんな理由で。
ゲーム内の、好感度低下だけだと現実的にはペナルティが甘いかなって思っています。


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5.最終訓練その1

結局、2話に分かれてしまった。すまぬ〜。

スカウトがHG並みの機動性というのはオリ設定です。
昔よくやってたCSの設定を持ってきています。
何故かスカウトを装備していると、HGやナイフ装備時より動きが早いんですよね。
好きな銃でしたね。
(書いてたらまたCSやりたくなっきたな)

訓練内容もSPEC様著 S10地区司令基地作戦記録から一部設定拝借しております。
と言うか、先陣の作者様の訓練プランが良すぎて、外すのが難しいっす。(泣)


最終訓練が始まった。

この期間のスケジュールは指揮官自らが立てる。

 

やることは既に決めている。

ざっくり、

基礎訓練 →対戦戦闘 →作戦報告書による戦術訓練 →対戦戦闘 →小隊指揮訓練

の順だな。

 

訓練には指導するために俺も参加する。ひとりレベルの高いエルには助教をしてもらう予定。

 

・行動訓練

まだ薄暗い早朝のグラウンドにフル装備で全員集合。

俺は愛銃のM4とサイドアームのブローニングHPを装備し、指揮官用戦闘服(普段着)で行く。

春の早朝はまだ寒い。けどランニングにはちょうどいい気温である。

人形は総じて不満そう。好感度もあるがある意味当たり前の反応。

何故かって?そりゃ仕様で決まっているのに改めて走らせる意味がわからない。根性論?馬鹿なの死ぬの?ってな感じだ。

「指揮官。やる意味が分かりません。理由を説明して下さい」と92式が不満そうに問いかける。

『やれば分かるよ。だから一度やってみよう。初日だから5kmね』

・・・

走り出すと、軽やかに走る指揮官にピタリと着くエル。

その後ろをHGとRFのスカウト、SMGが息も切れ切れついて行く。

終了する頃はARとSG、MGは大きく離されヘロヘロである。

・・・

一様に、何故スペックの劣る人間に置いていかれる?訳がわからない。と言った表情である。

終了後のクールダウン時に簡単に説明する。

『スペックはあくまで理想状態の理論値だ。慣れた半身の武器を持っただけでも状況は変わるのは体験の通りだ』

『状況変化時にどれだけスペックを落とさず性能を出すかは、皆のメンタルと義体の最適化次第だ』

『これからは天候も関係なく毎日走り込め。コースも色々最後は道なき道を走ると思え。目標はまずは自身の設計スペック超えだぞ』

「・・・・・・」

一様にげっそりとした表情で、返事をする気力も無いようだった。

 

 

・射撃訓練

朝飯後に射撃場に集合。ランニングが衝撃だったのか、概ね真剣だ。

とりあえず固定標的にセミオート、バースト、フルオートで撃ってもらう。

初弾はまあまあだが、すぐに弾がバラける。

(こりゃダメだな…)ってのが初見の感想だ。

(義体のパワーがなまじ人間より強いが故に、力で無理やり押さえて射撃しているな)

92式の構えを直してやるが、

「あまり触らないでね。誤射したら大変?ねぇ?」

『分かった分かった、とりあえずこれで撃ってみろ』

タン、タン、タン、タンとHGのセミオートの連弾が中央付近に集まる。

「え?何故・・・・」

『合理的な姿勢で撃てば弱い力でも制御しやすくなる。力の弱い人間でもお前達より上手く撃つ者は多い。今の構えを覚えておけ」

次いでアストラの姿勢を直してやる。同じく集弾性が上がる。

「うん、指揮官ありがとぅ」

うんうん、頑張れ。素直でいいぞいいぞ。

AR,SMGの姿勢も修正して、継続させる。

 

横を見ると、エルに任せた62式がしごかれている。

集弾率を上げろ。とか、弾は無駄にするな。とかなんとか。

(うっわ。エル厳しいな。62式頑張れよ)

 

さて、RFのスカウトは固定標的は余裕だよな。このRFの特性上立射が基本となるのでまずはその姿勢の適正化を終わらす。

『君は軽量ライフルだから、HG人形並の機動力を活かした動的なポジション取りが出来ることを期待する』と説明。

なんで、中距離射撃が可能なフィールドで、移動 →ストッピング →標的射撃の繰り返し練習をひたすらやらせる。

一連の正確さと速さを念頭に続けさせる。

 

さて、最後はSGのサブリナ。

『とりあえず、ナナハンの弾とフルチョークの準備をしようか』

「え?バードショットにフルチョーク?クレー撃ちでもやらせるのかしら」

『御名答。まずは人間用の練習速度でやってみようか』

・・・

(うん。二、三枚外したのち、全て落とすか。)

『じゃあ次は、旧オリンピック、じゃつまらないから、その二倍で』

とても人間では反応できないえげつない速度、切角のクレーが射出される。

(うーん、やはり二、三枚外したのち、全て落とすか。なるほどね)

『速度、方向、射出場所全てランダムでやってみようか』

今度は当たったり外したりなかなか安定しない。

『やはりな。サブリナは効率を上げるために無意識に予測して撃っていたわけだな』

『目視確認、エイミング、射撃の一連の精度を上げるために、この変則クレー射撃を続けよう』

 

昼まで全員ぶっ通しで続けたが、すごいな。

(これが戦術人形か!一度教えただけで、完璧に習熟できるのかよ。もう新兵のレベルを超えてるぞ)

本当に教えがいがある。先が楽しみだ。

 

 

・対戦戦闘訓練

昼食後はペイント弾を用いて所謂キルハウスでの戦闘訓練だ。ステージは岩系の遮蔽物の多いガレ場。

1vs1、2vs2で何周か対戦させるが・・・(やっぱり、ダメか)

射撃のフォームはいいが、素直すぎる。コンピュータゲーム初心者が動かすキャラみたいな感じである。

しょうがないから、俺が手本を見せる。端的言えば、俺つえーをリアルでやった訳だ。

鋭い駆け引きを交えてからのヘッドショット、バイタルエリアへの確実な射撃。接近して格闘からのサイドアームによるダウンなどなど、容赦無しである。

一通り終わったところで解説する。

『この差が何故なの何なのかかわかるか?』

「人形同士よりも指揮官の動きは嫌らしかった。やりづらく感じたわ」と56-1式

『そうだな。相手を困らせるように動いたからな。それがテクニック、応用だ』

『射撃の基本は学んだ。応用の必要性も理解した。なんで明日は一日中応用の座学でーす!』ニヤり。

「・・・・・」

心から嫌そうな顔をする一同であった。

 

 

・作戦報告書による戦術訓練

翌日のランニング、朝食の後からいよいよ座学だ。

(地獄の苦痛を味わうがいい!)なんて舐めていた時期が俺にもありましたよ・・・

電脳ってすげーな。最初こそ解説をしたけど、思考の柔軟さ、速度、記憶力ともに人間と比べたら完璧と言って過言でない。

まるで乾いた砂が水を吸うように吸収する。わずか3時間ちょいですごい知識量。

(いやいや、こんななら初めからインストールしといて下さいよ。ヘリアントスさん・・・)などと恨み節を思う。

とりあえず、午前で資料全て使い切ったので、急だけど午後から対戦戦闘訓練をしてみよう。

なんか、プレッシャーを感じるのは気のせいか??

 

 

・対戦戦闘訓練2回目

初日と同じキルハウス。

いやいや、昨日と動きが違いすぎるやろ。

まだまだ荒削りだが、自分らなりに緩急、軟硬交えた戦いをしている。

明らかに作戦報告書の戦術を理解している。

(もう教えなくても自分らで成長出来るだろうな)なんて思っていたら、

「そう言えば、指揮官とエル教官はどちらが強いんだ?」と62式が言い出した。

 

(ちっ。余計なことを。エルとやったら負けるぞ。マジで。年齢的に10年遅いんだよ)

そんな事を考えていたら先制されてしまった。

「私に胸を貸していただけますか?指揮官」と真顔でエルが答える。

『お、おーう』気の抜けた返事しか出ねえ。

 

「指揮官の戦闘、見たーい」FNCを初め、ほ皆がワイワイと囃し立てる。

(いや、マジでやばいって・・・。けど、こうなったらやるしかないか・・・)

 

『分かった。やろうかエル。俺を鉄血のハイエンドと思ってかかってこい』

(しかし、なんか好感度良くなっている??)

 

・模範対戦訓練 指揮官 vs エル

キルハウスの両端に分かれて開始を待つ。

人間は訓練用特殊スーツとヘルメットを着ける。これは、ペイント弾のダメージ軽減と着弾した部分の動きを制限する機能がある。敗北判定も自動で出る機能も付いている。

(エルはMG人形だから、速攻で近接戦に持ち込んで瞬殺で行くか。接近戦なら小回りの効かないMGに対して有利に戦えるだろう)

そんな作戦を考えているところで、開始の合図が出る。

「では、開始!」審判を買って出たG36Cの声が響く。

 

開始直後、素早く遮蔽物から顔を出しM4を構える。

(よし、牽制射撃を入れて・・・?え?エルが居ない??)

(まさか・・・・不利な近接戦闘を選んだか?)と疑念の隙を突かれた。

全速力で側方から回り込んできたエルがチラリと見えた瞬間、右手片手でM4をエイミングしフルオートの牽制射撃を入れると同時に横の岩陰に滑り込む。と同時に今いた場所にペイント弾が着弾する。

(疾走中の射撃の精度じゃ無いだろ。マジで。)

エルも同時に走りながらLWMMGを撃っていたが、M4の牽制射撃を警戒して遮蔽物に隠れる。

幸いな事に大きな岩だったので隠れながら、岩を次々と移動し距離を離す。

(くそ、完全に後手に回らされた。仕切り直すしかねえ)

しかしエルは逃がさない。指切りによるセミオート射撃、バースト射撃を移り変わる岩に確実に当て、追い立てる。まるで軽量なカービン銃かのようにLWMMGを振り回す。

(本当にMG人形かよ・・・)

 

ついには先のない岩に追い詰められる。

(マジかよ。シャレになってねーぞ。一回の牽制射撃しか出来てねえ)

(どうする・・・このままだと確実に負ける。ならば…)

敢えて露出が多くなる岩の左側から乗り出して、しっかりエイミングしたバースト射撃を数射入れる。が、一発エルの頬を掠っただけで外れる。

(くそ、有効弾を入れたかった。)欲をかいて一発終了を狙ったHSを外した事を後悔する。

エルは隠れず、LWMMGの凄まじい射撃レートで応射してくる。

素早く岩に隠れて、一呼吸、岩の上からエルに向けて一直線に飛び込み、M4を撃ち込む。と同時にLWMMGの銃弾を受けた。

虚をつかれたエルだったが素早くLWMMGをエイミングし射撃する。しかしそれと同時にM4の銃弾が義体に着弾した。

・ ・・

(痛えええ。着弾した左足がマジ痛え。これ本当にペイント弾かよ。MGの威力はヤバいな、スーツじゃなかったら足もげてたんじゃねえか?)着弾判定でスーツの左足が固まり使えなくなると同時に、メットのバイザーに3分のカウントダウンが始まる。出血の判定だ。時間内に止血動作を行わないとカウントゼロで失血死判定となる。

(このまま逃げられたら負けだ、捕まえて倒すしかない)

そのままエルに飛びかかるが、幸いエルも右手に被弾しLWMMGを落とした上、バランスを崩していた。

エルを押し倒して上を取る。と同時にM4を捨てて左手で腰から模擬ナイフを取り出して逆手に持ち。被弾して防御出来ない右脇腹を刺す。

ここで勝利判定となったが、エルの左手にも模擬ナイフが握られており、ギリギリの差だった。

しかし勝利後に止血用具を持っていなかったため処置できず、間をおかず失血死判定を貰ってしまった。

「指揮官の勝利ですが、その後に死亡となるので、ルールに則り引き分けとします」G36Cが結果を告げる。

 

・・・

(うーん、残念。部下と引き分けとか、うーん益々威厳が・・・)

エルと二人で戻り、『という結果だ。戦術の参考になったら嬉しい』と一言いってコソコソ逃げようとするが、皆に捕まってしまう。

「指揮官、人間なのに高レベルの戦術人形を倒すなんてすごいわね」呆れ顔で褒めるサブリナ

「エル教官に勝つとは…指揮官、尊敬します!」とエルの実力を知る62式が目を輝かせる。

「指揮官様、素晴らしい戦いでした」とG36Cが微笑みかけてくる。

他の面々も「少しは見直したわよ」とか言っているが、褒めるならもっと素直に褒めろよな。

 

エルも「ハイエンド相手と思って本気でやったし、もっと楽に勝てると思ってた」的に言ってくる。

『いや、僅かな差だったよ。たまたま右腕にヒットしたから運が良かっただけ。お前らはこれから伸びるだろうから、俺が勝てるのも今日が最後なんじゃないか』

『エル以外もすぐに俺を完封出来る様に育成プラン考えているから、黙ってついてこいよ、な。!』

 

「「はいっ!」」

皆、笑みを浮かべ熱い視線で返事を返す。

ん?なんか素直だし。やっぱり好感度上がってね?




うん。何故かエルと戦う事になっていた。何故だ?

誤字報告:TFTRDHさん、ありがとうございました。


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6.最終訓練その2(初代小隊紹介あり)

初代小隊紹介です。
ゲーム画面から陣形をキャプチャしてみました。

第一小隊
【挿絵表示】

HG:92式(隊長)
SMG:イングラム
SMG:PPS-42
AR:56-1式
AR:FNC


第二小隊
【挿絵表示】

MG:LWMMG(隊長)
MG:62式
SG:サブリナ(SPAS-12)
HG:アストラ
RF:スカウト

バフの位置と効果があまりよくないのはご愛敬で。(笑)


『第一小隊、制圧目標は200m先だ』

『状況を報告せよ」

 

「こちら92式、制圧目標を視認しました。」

視認された制圧目標を示す黄色い旗の周りに、鹵獲された鉄血兵がうろついている。

巡回モードに設定され、フラッグの周りをランダムに周回しているだけのようだ。

「敵守備勢力はプラウラー10、リッパー10。以上」

索敵能力に優れるHG戦術人形の機能を使った探索結果からも、目前の敵以外は見当たらない。

 

『第二小隊、制圧目標の周辺の状況はどうか』

「こちら、隊長のエル。制圧目標周辺に敵増援は認められない」

第二小隊は第一小隊のバックアップとして待機させる。

 

了解了解。ならサクッと目標制圧しちゃいましょう!

『第一小隊、予定通り攻撃開始せよ』

『第二小隊は継続して警戒。敵が現れた場合は即排除せよ」

 

・・・・

ナイルから攻撃開始の指示を受けた小隊長の92式は、一斉攻撃開始の号令をかける。

「手筈通り攻撃の準備を。・・・攻撃開始」

 

先陣を切ったのは、前衛のイングラムだ。

「さぁて、皆殺しの準備をしましょうか。」

スモークグレネードを敵正面に投擲後、直ぐに破裂し敵の視界を奪う。

ローモデルの鉄血兵は突然の発煙に対してエラーが発生し、直ぐに対処出来ない。

そこへ同じく前衛のPPS-43がHEグレネードを投げ込む。

「あんたたちに、チャンスなんてやらないからね!」

敵陣中央に投擲されたHEは派手な音をたて破裂し暴力的な衝撃波と破片をまき散らす。たまらず敵の半数弱が破壊される。

固定標的と化した残りの敵をARとSMGの射撃により制圧する。綺麗に敵に集弾する十分な訓練が伺える射撃だった。

ただの一度も反撃を受けない完封勝利。

 

「指揮官、目標制圧しました。」

『確認した。第一小隊、第二小隊共に帰還せよ』

「「了解」」

 

・・・・・

「見事だ。ルース指揮官。」

背後からヘリアントス上級代行官の声がかかる。

周りの採点員も、パーフェクトですね。と声を発している。

『元軍人ですからね。出来て当たり前の部類だと思いますよ。』

「しかし、パーフェクトは少ないものだ。多くは多少の反撃を受けるし、酷いと死傷人形がでることもあるからな」

(死傷って・・・そんなの指揮官にして大丈夫か?そんな指揮官と共同作戦なんて嫌だぞ・・・)

逆に不安になる発言は聞き流す事にした。

「練度も非常に素晴らしい」

「配属に何ら問題ない。予定通り、明日配属先へ移動せよ」

 

・・・・・

「第一小隊戻りました。今回もミスはありません」

「第二小隊、帰りました」

92式とエルから完了報告を受ける。

 

『お前たち、よくやった。』

『明日、予定通り前線基地へ配属となった。今日中に準備し明日0800に第一ヘリポート集合だ。朝食を各自済ませておく事』

『では解散』

「「はっ」」皆綺麗な敬礼をして解散する。

 

・・・・

思えばこの10日間、色々あったけど、皆立派になったな。人間では考えられない成長速度だよ。

軍の新兵はゆう超えて正規兵以上の練度になっていると思う。

やりがいのある職場だよ。ほんと。

 

 

鍛錬に励んだ結果、結局コアは30個では全然足りなくなっちゃったんだよね。

最終計測で皆レベル30超えちゃってね。

この前無断で使った30個は超特例で再度もらえたけど、さらに特別に10個追加でもらえた。

それで全員のダミーを一体ずつ作っておいた。流石に二体目分まではもらえなかった。

美人上司の話だと、一般的にはダミー1つ持てるかどうかの育成になるらしい。つまりレベル10に届くかどうか。コア30で充分足りたんだとさ。

それはそれでどうなのか。と思うよ。うちくらいが普通だろ?

大丈夫なのか、この会社。人間に問題があるんじゃないの?ジャスティンの野郎みたいに!

 

 

あと、射撃訓練時に色々あった。日課の訓練を行っていたんだが・・・

・・・

タタタン、タタタン、「モグモグ」、タタタン、タタタン、「モグモグ」、、、

FNCのやつがチョコ齧りながら射撃訓練を始めやがったのよ。

左右のレーンの人形もびっくり。射撃中にチラチラ見てるしで、明らかに異質な空間が出来ていたわけだ。

流石にそれはあかんので、やめるように指示したんだけど、「指揮官、チョコ美味しいよ」とか言って続けたのよ。

これはマジであかん。激怒ですよ。説教ですよ。

 

FNCに射撃を中止させて『命令無視は重罪だぞ。覚悟しているんだろうな』と告げる。

FNCは命令無視の認識が無かったのか、青い顔をして震え出す。

人形は規約を完全に理解している。命令無視は義体及びメンタルモデルを完全に破壊消去され処分されることを。言わば人形における死刑だ。

「だって・・・指揮官の冗談かと思って・・・」震えながら声を出す。

『お前の電脳はそう理解したのかも知れんが、俺はやめろと命令した。お前はやめなかった。それが事実だ』

「・・・・」事の深刻さを理解したのか、FNCからは以降の言葉が出ない。言い訳できない現状に指揮官の次の出方を待っている。まな板の鯉、とも言える状況なのだろう。

ナイルから言葉を告げられる。

『歯を食いしばって足を広げろ。そして目を瞑れ』

次に起こる事を理解して、黙って従う。

俺は、ゴッっと思いっきりゲンコを落としてやる

 

「・・・う、うっ・・・うわぁ〜ん」

「指揮官がぶったぁ〜〜」

FNCは盛大に泣き出した。恐らく突然の命令無視指摘とゲンコで済んだ事、指揮官からの初めての制裁により、メンタルモデルに大量のエラーが出た影響だろう。

周りの人形達も射撃を中止し事の成り行きを見守っている。

(まったく、しょうがないな)ヘッドセットマイクをオープンにして全隊員へ繋げる。

 

『FNC、命令違反の重大さは分かるな。罰則ではなく結果だ。自分だけでなく皆が死ぬ事になる』

『命令か判断がつかない時は命令か確認をすること』

「うん…分かった」

『なら、多くは言わん。それは終わり』

『もう一つは、訓練に対する集中だ。お前はチョコを味わうことにリソースを振り分けていただろう』

『訓練の時は訓練に全リソースを集中しろ。おやつの時はおやつに集中しろ。でないとチョコにも失礼だろうよ』

『まあ、なんだ仕事も遊びも切り替えて集中しよう。って事だ』

 

「うん・・・」

ちょっとしょんぼりした顔でFNCはうなずく。

(なんだよ、軍隊だとクソ生意気なガキ野郎相手だから気にしないが、可愛い女の子だとペース狂うな)

(しょうがねえな、アメも与えとくか・・・)

『分かってくれてよかった。FNCが成長したらチョコでお祝いするよ』

「指揮官本当に!やった〜!」

泣き顔が瞬時に笑顔に変わり、飛び上がって大喜びするFNC。

(え??そこまで喜ぶの??意味がわからん・・・。チョコだよただのチョコ。このグリフィン配給のチョコ危ないお薬とか入ってんじゃねーのか?)

とか唖然としながら考えていたら、想定外のところからラッシュを受ける。

 

「ちょっと指揮官、FNCちゃんだけズルい!」

「私も欲しいんだけど!」

「指揮官、私も・・・ご褒美は、チョコレートがいいなぁ。」

射台を離れて、56-1式、サブリナ、アストラの3名が詰め寄ってくる。

真顔で、超真剣な眼差しで迫る3人に指揮官もたじろぐ。

(いや、マジでなんなんだよ。え?。お菓子だろ、ただのお菓子だろ?マジで電子ドラッグでも入ってんのか?)

 

顔が引きつっているナイルに、なお詰め寄る3名。

それに呼応する様に多くが射撃そっちのけでギャーギャーワーワー騒ぎ始める。しっちゃかめっちゃかである。

 

『分かった分かった。ではこうしよう。今回の研修では皆成長している』

『なんで、配属したら配属記念パーティーを開こう。引っ越し直ぐは本社から防衛部隊が着くと聞いている。全員参加のパーティーが開けるだろう。それでどうか?』

 

それを聞いて皆、大喜びだ。エルとか92式、PPS-43、G36Cは静かなタイプなので反応は大きくないが、嫌では無さそうだ。

しかし、この4名が懸念を示す。物資の余裕が無いのでは?と。

『ふむ、皆頑張ってくれているから、俺が奢ろう』

 

サブリナが手を挙げて発言する。

「幹事やりまーす」『いいぞ、任せた』

「指揮官、()()()()()()()()()」『おう!男に二言は無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()もやっていいかな?」『おう!()()()()()()()()()()()()()()()()()

わいのわいの皆で盛り上がっている。

 

『はい、今は訓練の時間だぞ。パーティーの話は後でやれ』

それぞれ射台に戻り、何事も無かったように訓練を再開する。

 

全く、この職場に来るまで全くわからなかったが、女性戦術人形もいいもんだな。

軍隊だと男ばっかりで殺伐としているからな。やはり若い子が多いと活気が出るな。俺もおっさんになったもんだ。

 

というのが、研修の一幕であった。

 

 

 

しかし、まさかこの時のナイルの口約束が、後々自身を地獄に突き落とす事になるとは、思ってもいなかった。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

最終研修の翌日、ヘリで所属基地に向かう。

所属基地は「R-15地区前線基地」だ。グリフィン進出のために新たに作られた基地である。

R地区は比較的安定しているがあの有名な激戦地のS地区に隣接している為、突発的に大規模な戦闘になったりする。そういう意味では比較的危険ではある。

通常新卒はこのような地には配備されないんだけど、キャリア組は別なんだとさ。厳しい世の中だ。

 

3台のヘリに分乗して基地を目指す、ヘリは速いので本社から一時間弱だ。

俺のヘリは副官のG36Cと第一小隊長の92式、第二小隊長のエルの4名。便宜的ではあるが我が基地の幹部陣だ。

(ちょうどいい。簡単なミーティングしとくか)

『聞いてくれ。今後の基地運営について簡単に話をしておきたい』

皆大人な戦術人形だから、静かに聞く。

『第一小隊、第二小隊の人員と隊長は訓練通り行く。副官はG36Cにやってもらう』

『あと、92式とエルには副官代行とG36Cへの相談役を頼む』

「配属は了解しました。副官代行と相談役の狙いを教えて下さい」と92式が質問をする。G36Cも同様に聞きたいようだ。

『うん、代行についてはそのままだ。副官には指揮官代行権があるから、作戦中に司令部壊滅時は権限を用いて退却しろ。特別な指示がない限りは退却だ』

司令部壊滅との強い言葉に、92式達の眉が動くが、内容は理解したようだ。

「司令部安否不明の場合は臨機応変に対応しますが、よろしいですか」

『ああ、任せる』

『相談役の件は、G36Cの副官経験不足へのフォローもあるが、君たちの節約能力に大いに期待しているところだ』

それを聞いて、エルと92式は笑い出す。

「分かりました。厳しく管理します」両名はやる気満々のようだ。よかった。

 

・・

・・・

・・・・

そんなこんなでR-15基地につきました。

3台のヘリから全員降りると、本社基地所属の多目的活動隊のクリスティーナ指揮官が待っていた。

多目的活動隊は、基地の建築、運営準備、新基地立ち上げまでの守備を受け持つ隊である。

簡単な挨拶を済ませて基地の各施設を案内される。その後戦術人形は宿舎へ、俺とG36Cは司令室で説明と引き継ぎ打ち合わせを行う。

配属記念パーティーを開催する件も伝えたが、特に問題なし。

「ナイル指揮官の噂は色々聞いております。人形達にモテる指揮官になってくださいね。」だって。

誰から何を聞いているんだよ!まったく!

 

多目的活動隊は一週間ほど滞在するので、その間に荷物の整理や業務習熟のプランを立てる。

配属記念パーティーは6日目の夜と決めた。

サブリナにも伝えたけど、「大丈夫。頑張って準備間に合わせるよ」とのことだった。

 

『うん。これからこの基地で新しい生活が始まる。頑張ろう!」

 




やっとこさの前線基地配属です。
日常の話ができるかどうか・・・

乞うご期待ということで。(笑)


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7.地獄行の配属記念パーティ

配属記念パーティ回です。
ナイル指揮官の知らぬところで進む陰謀
勘違いから始まる強烈な一撃。
君は生き残ることができるか??(初代ガンダム風)

お金の話が出てきますが、計算とか面倒くさいので以降含め現代の日本円で表記します。

今回から数話ですが、ゲストに出席いただいております。

SPEC様著の「S10地区司令基地作戦記録」より Px4 さんが参戦です。
調達屋を営まれている美人さんです。(笑)
SPEC様の作品を読まれるとより楽しめると思いますので、ぜひぜひ!


着任してからの戦術人形のスケジュールは概ね決まった。

まあ、本社基地での訓練と基本変わらない。むしろ、配属後を想定して組んでいたから当たり前なんだが。

朝のランニング、射撃訓練、戦闘訓練、自主訓練。これを小隊任務の合間にやる形になる。

まあ、特に悩みなくスケジュール立ては完了する。

 

引っ越しも荷物は少ないのですぐに終了。

しかし、戦術人形の宿舎を見たがありゃ酷いぞ。ダンボールや木箱とか・・・

思わず、多目的活動隊のクリスティーナ指揮官に苦情を言ったんだけど、

「それをなんとかするのが、前線基地指揮官の腕であり、甲斐性ですよ♪」

とにこやかに言われてしまった。

(マジか、そんなことまでやらせるのかよ。この会社は。)

宿舎の改良は後々考えていこうと思う。

 

ーー

ーーー

ーーーー

 

多少あったけど、今日が6日目。配属記念パーティーの日だ。

定時後に続々と会場のホールに人形が集まる。

うちの小隊の人形だけでなく、多目的活動隊の手隙メンバーとクリスティーナ指揮官も参加している。

よく見ると、グリフィン本社の広報部も数名来て忙しそうに準備しているようだ。

(うんうん。賑やかな方がいいぞ。でも本社広報部?生中継??たかがパーティーに大袈裟だな)

「指揮官様、本当に楽しみですね」と横のG36Cが微笑みかけてくる。

『そうだな。色々あったけどここがスタートラインだ。頑張っていこうな』と返す。

 

・・・・

「はーい、皆さん。ご参加ありがとうございます。R-15前線基地の配属記念パーティーを開催しまーす」

幹事のサブリナが開始の挨拶をすると、パチパチと拍手が鳴る。と同時に皆に乾杯の酒が回される。

 

「シャンパンは高額すぎて買えないので、美味しいスパークリングワインにしました。」サブリナの説明に笑いが起こる。

「はい、では乾杯の挨拶をお願いします。当基地のナイル・ルース指揮官です。」

『ーーー』

細かく書くと長くなるから要約すると、戦術人形のみんな研修期間ご苦労様、よくついてきてくれた。皆の成長が素晴らしい。これからが本番だから頑張ろう。多目的活動隊のクリスティーナ指揮官一同、ありがとうございました。ってところかな。

『では、R-15前線基地の将来を祈念して、乾杯!』今度は盛大な拍手が鳴った。

 

しばし歓談となったので、クリスティーナ指揮官と話す。

こんなに人形が明るい基地は久しぶりだ。とのこと。

「ナイル指揮官は人形達に愛されていますね」だって。いやいや、好感度低いっすよ。って言ったら

「ふふふっ。女心が分かっていませんね〜♪」だとよ。うっせーやい。どうせ女房に逃げられてますよ。だ。

 

「はい。では余興を始めまーす」

(お!サブリナがドヤ顔をしながら話し始めたって事は内容に自信があるんだな)

 

「本日の余興は、大食い大会でーす」ニコリと笑う。

 

『・・・・・・』

『・・・・え?』

『なんて?』

一瞬、聞き間違えかと思ったが、どうやら間違いではなかったらしい。

は?大食い大会??余興の域を超えてねえか?

 

・・

・・・

 

サブリナの合図と共に、家事用ロボがテーブル配置を変更する。

参加選手用に長机が横一列に並べられ、前方の机が片付けられる。

立食パーティーの会場の一角に、観戦しやすいようにオープンな空間が作られる。

「本日の食材は・・・ピザでーす。」ニコニコ顔でサブリナが伝える。

(イタリア出身だからな。自分の好みなんだろうな)

 

サブリナの発表に合わせて、場に不釣り合いな大型機械をフォークリフトが運び込む。

 

『・・・・・・』(なに?あれ??)

 

「今日の大会の為に買っちゃいました〜。可搬式業務用連続ピザ窯「ピザ屋さん」でーす。」

 

『ぶ〜〜〜』俺は盛大にビールを吹き出した。

一分間に三枚焼く能力があるとか、機械の仕様なんて聞いてねえ。

R15前線基地(うち)はピザ屋じゃねえ!

いくらしたんだよ。金は誰が出したんだよ。

 

『G36C・・・なんだか・・・分かるか?』混乱のあまり、無表情でうわ言のように要領の得ない問いかけをするナイル。

優秀な電脳を持つG36Cが聞かれたことを咀嚼して調べ出す。タブレットを取り出し素早く確認する。

「指揮官様、サブリナから本部へ稟議書が回されており、決裁が通っております」

なになに?なんの決裁?え?

 

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いや、待ってくれ・・・当の本人はそんなお願いした記憶がないんだぜ。

「指揮官様の承認は口頭承認となっているようです。映像の確証が添付されております。開きますか?」

口頭?映像?添付ファイルを開いてみる。

 

ーーーーーーーーー

「幹事やりまーす」『いいぞ、任せた』

「指揮官、()()()()()()()()()」『おう!男に二言は無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()もやっていいかな?」『おう!()()()()()()()()()()()()()()()()()

ーーーーーーーーー

(おい。あの時の口約束かよ)

 

『ちなみにいくら分の申請がされているのか』

 

「最大で年収1年分、新任指揮官の年収は約1000万円ですが、最大金額で申請されております」

(年収分?冗談・・・だよね。)突然の出来事でプルプル震えだす。

 

『てか、本社の財務管理課は何考えている。流石に通さねえだろ。こんな稟議書』

 

「しかし・・・体裁は整っているので、決済された今となっての文句は難しいです。指揮官様の承認があるので逆にR-15基地(こちら)側の管理責任を問われるかと・・・」

G36Cは苦しそうにナイルに伝える。

 

(で、いくら使ったんだ???なになに)

『よ、予算の執行状況は…998万円支払い済み!!!』

『ほぼ残ってない・・・・』

 

(いや、まだだ。まだ終わらんよ。今すぐ中止して返品すれば多少なり回収可能だ)

今すぐ中止だ。と口に出そうとして、俺は言葉を飲み込んだ。

 

(しまった。本社広報部と多目的活動隊のクリスティーナ指揮官がいる)

ここで止めたら組織的にまずい。一度自身が承認し本社の稟議が通った事を突然止めたパワハラ指揮官の烙印を押されてしまう。

(くそっ。本社広報は宇宙中継の生放送か!)

 

第三者からのそのLIVE情報は確実に本社に広まり、軽くは無い処分に至るだろう事は想像に難くない。

自分が身動きの取れない状況に置かれている事を認識するナイル。

(くそっ。こんな搦手をうちの人形が出来る訳ない)

(裏で絵を描きやがった奴は、どこのどいつだ!)

 

やり場の無い怒りを心の中で叫んでも、答えてくれる者も事態が好転することも無かった。

もはやナイルには川に落ちた木の葉のごとく、流れに身を任せる事しか出来なかった。

 

・・

・・・

・・・・

 

時を二週間ほど遡る

 

サブリナは困っていた。

イタリア生まれでパーティーが好きな性分もあり、配属記念パーティーの幹事を買って出たのはよかったものの、いいプランが決まらない。

仲間の多くは偶然食事好きが集まっていたので、仲間(大食い仲間)の賛成もあり早食いや大食いみたいな事が出来ればいいな。と思っていた。

しかし、その様な事を実現出来る伝手を持っておらず、ただの夢物語に過ぎなかった。

(ただ普通に立食パーティーをやってもつまらないよね)

(やっぱり、私たちならではの事をしたいよね。相談に乗ってくれる人、居ないかな)

 

宿舎で木箱に座っていると、エル隊長が目に入った。その時ふと閃いた。

(エル隊長、S地区からの転属だったよね。誰か知り合いいないかな。聞いてみよう)

 

『エル隊長、相談があります』

ーーーー(かくかくしかじか)で、色々な物を調達できる伝手はないでしょうか」

 

「その伝手は・・・ない事は無いです」顔を顰めてネガティブな感情を込めて回答を返す。

 

訳ありそうなので聞くかどうかサブリナは迷ったが、思い切って聞いてみることにした。

 

『ぜひ紹介頂けますか?』

サブリナは強くエルに伝えた。

 

エルは迷っていたが、

「・・・分かりました。紹介しますが、正直あまり関わらない事をお勧めします」

「後で先方からサブリナに連絡入れるように伝えておきます」

 

・・

・・・

・・・・

 

その夜、サブリナの端末に見知らぬ番号から映像通信の着信があった。

エルとの話があったので、恐らくその紹介頂いた方だろうと急いで出て見ると、フードを目深に被った戦術人形が映し出される。

 

「こんばんは、サブリナさん。LWMMG(妹ちゃん)、ああ今はエルちゃんか。の紹介で連絡した、Px4ストームです」

 

『妹ちゃん?』聞き慣れない隊長の愛称に思わず聞き返す。

 

「ああ、昔のエルちゃんの愛称。そっちでは落ち着いて小隊長やってるって?信じられないよね。昔は色々あって大変だったんだよ」

「話が逸れちゃった。パーティーの相談がしたいって聞いているわ」

 

『ーーーー』

サブリナが経緯や希望を話す。

 

「なるほどね。事情は分かったわ」

「その規模で大会を開くと業務用調理器具が必要ね。その規模の物だと通常納期が半年、普通に手配して金額は200万円は必要ね」

 

『2・・200万円ですか・・・しかも半年・・・』

目を見開いて驚くサブリナは思わず呟いた。

『やっぱり、夢かなぁ・・・』

 

「納期は置いとくとして、予算はどうするつもりだったの?」

 

『実は、これを提出しようと・・・』指揮官年俸前借りの稟議書を共有する。

今度はPx4が目を見開き、頬をひくつかせる。

 

「流石にこれは・・・通らないと思うけど」

 

『通らないのは分かっているんです。でもそれで財務管理課の人と話が出来ますし、予算の相談もできるかなと・・・』

俯き加減で薄っすら目に涙を溜めているのが分かる。

 

「・・・分かったわ。通るの前提の見積もりと代案も考えておくわ」

「その稟議書はいつ出すの?」

 

『明日の夕方に出そうと思っています』

 

()()()()()ね。じゃあ、明後日以降には結果が分かりそうね。結果が出たら連絡下さいね。お客様。」

 

・・

・・・

・・・・

 

Px4は通信を切ると溜息をつく。モニタの向こうのサブリナが一瞬見せた悲しい表情を思い出す。

(本当に最低な男のようね・・・)

 

机の上にはファイルが開かれている。そのページにはナイルの個人情報が詳しくまとめられていた。

(ナイル・ルース 44歳 男 7年前に配偶者と別れる。 20歳前後の娘が2名・・・・)

そしてその下には、ナイルの入社後の素行が記載されていた。

 

曰く「先輩指揮官から気に入った戦術人形を力ずくで奪い取った」

曰く「その人形の胸を大勢の前で揉みしだき、辱めた」

曰く「業務時間中に2体の人形を自室に連れ込み、欲望のはけ口とした」しかも、その1体がエル(妹ちゃん)だという話だ。

自分の娘と同じくらいの年齢設定の人形に欲情するその男に吐き気すら覚える。

ふと元S地区支局長(あのクソ野郎)の顔が浮かぶ。二度と思い出したくもない自分を道具(使い捨て)として扱い身も心も弄び続けた男

メンタルモデルが軋むように痛む。

(二度とあんな思いをしたくない。そしてだれにもさせたくない。)

 

『ジュルッ』と音を立てて、唇を舌で潤す。

薄暗い部屋の中でプクリとした小ぶりな唇が光っており、艶かしさが殊更増している。

『フフッ。R-15基地の指揮官(ゲス男)さん。少しお仕置きが必要なようね・・・』

 

翌日から、ゲス男を地獄行きにする下ごしらえに動き出すのだった・・・




うむー

ちょっとPx4さんが悪女系になってしまいました。
サルベージで再投稿ですが、その折はSPEC様にご迷惑をお掛けしました。反省!


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8.影で爽やかに吹く暴風1

前話に続いて、SPEC様著の「S10地区司令基地作戦記録」のPx4さんにご出演頂いております。

きっちりナイル指揮官が下ごしらえされちゃう回です

なんか、出来損ないの半沢直樹みたくなってます(笑)
どうしてこうなった?俺の日常ってこんなのとは程遠いですがね。汗

P38の趣味はオリジナル設定です。


サブリナとの通話を終えた翌日、Px4は朝からS10前線基地の地下の事務所に居た。

 

地下の事務所、それは副業を執行する彼女の城であった。

 

 

 

グリフィンの全社共通の始業時間から少し経ち業務が落ち着いたであろう頃、ある相手に映像通信を送っていた。

 

数コール程で相手が通信を取る。

 

「もしもし・・・おはようございます。S10のPx4さんから通話なんて珍しいですね」

 

モニタの向こうには、大人びて落ち着いているが可憐さを残した私服の女性が現れる。

 

 

 

電話の相手は、グリフィン本社の財務管理課のP38課長代理である。

 

彼女は低レアリティの戦術人形でありながら優秀な副官成績を収め、本社へ栄転した経歴をもつ。

 

戦闘用のコアを取り外し、事務方として働き始めてからもその能力を遺憾無く発揮し、メキメキと頭角を表した。

 

結果、人間の課長の補佐。という肩書きだがその実、現在の管理業務は全て彼女が取り仕切っている実質の財務管理課のトップである。

 

 

 

『こんにちは、P38課長代理。今日は少し相談と提案がありまして』Px4が会釈をする。

 

『会社の友人から稟議が通るか相談がありまして、見ていただけますか?』

 

サブリナに見せてもらった稟議書を共有する

 

「拝見します」と一言述べてP38が読み始める

 

 

 

・・・

 

「正直、難しいですね」と言うが、ハッキリ言って門前払いの扱いだろう。

 

「この稟議書は基地運営において、緊急時に指揮官の給与を担保に物資を購入する事を想定したものです。申請額はさておき今回は想定外に近い申請になりますからね…」

 

分かりきった回答を丁寧に当たり障りなく説明してくるP38は、やはり優秀なのだろう。

 

 

 

『そうですか。R-15前線基地の指揮官は、所属の人形に報いたい気持ちが強いようでしたのでね。出来ればと私も思いまして・・・』

 

「・・・・・」静かに目を瞑り紅茶を啜るP38。まあ、答えは変わらないのだろう。

 

 

 

・・・

 

(やはりね。一筋縄じゃいかないか)

 

そう思うPx4の机の上にはファイルが開かれている。そこにあるのはP38課長代理の個人情報だ。

 

彼女は元アイドル志望の人形。そして彼女の趣味は・・・・アンティークアクセサリの収集。

 

(けど、いつもの収集先は…アッパータウンの実力の無いボッタクリ業者と。フフッ)

 

 

 

『ところでP38課長代理、私が()()()を副業で営んでいるのはご存知と思いますが、最近面白いアンティークアクセサリが手に入りましてね』

 

雑談の内容を聞いた途端、一瞬ピクリと肩を震わし、目を薄っすらと開ける。続きを促しているようだ。

 

その反応を見てPx4はにこやかに微笑んで続ける。

 

『これが初めに言った提案の内容。第三次大戦前の1990年代、2000年代の正真正銘のブランド物ですわ』と伝えて商品情報を共有する。

 

それを見たP38は目を見開いて釘付けとなった。

 

 

 

・・・・

 

P38はS10前線基地所属のPx4が、よからぬ店を開いている情報を掴んでいた。

 

しかし、所詮前線基地の人形風情が開いている場末の店。本社の街の足元にも及ばないおママごと。そう思っていた。

 

ところが、彼女が見せた商品情報はその考えを粉々に打ち砕くものだった。

 

(こ、こんな上物は初めて見ましたわ・・・)ゴクリと唾液を飲み込む音が頭蓋骨格を通し耳の集音センサに届く。

 

P38はPx4が次に発する言葉を待っていた。自分が完全にイニシアチブをとられていることにすら気づけていなかった。

 

 

 

・・・・

 

P38が商品への興味を隠せなくなっている姿を見て、Px4は最後の仕上げに入る。

 

『詳細な商品リストと価格表を送りますわ。それと、()()()()()()を送らせていただきますね』

 

 

 

「商品サンプル?」想定外の言葉にP38が聞き返す。

 

 

 

『ええ。もちろんサンプルは本物のアクセサリですよ。写真だけでは不安ですよね。サンプルなので返却は必要ありません。不用でしたら処分頂いて結構ですよ。』

 

『P38さんはネックレスが似合いそうなのでいくつか見繕い送りますね。』

 

P38がアクセサリの中でも特にネックレスが好きなこともリサーチ済みである。

 

画面越しにP38の顔が緩むのを見てPx4も微笑んだ。

 

 

 

『ところで課長代理、お友達の稟議書、詳細確認頂きたいのですがいかがでしょうか。』

 

言われて、P38は改めて読み込む。少し考えて一つの答えを出す。

 

 

 

「・・・そうですね。体裁も整っていますし、指揮官の強い希望も承認の確証映像から分かります。決裁可能と考えます」

 

 

 

『本当ですか!それは良かった。友達は今日の夕方に稟議書を回すと言っていました』

 

 

 

「分かりました。私が直接受けるように準備しておきますね」

 

 

 

『助かりますわ。では、こちらもサンプルを本日中に発送しますね。明日には着くと思います』

 

その後いくつか事務的なやりとりをして、通信を終了する。

 

 

 

(さて、主食の下ごしらえは完了。それにP38課長代理は()()()のお得意様になってくれ切っても切れぬ縁が出来るだろう。フフッ、一石二鳥ね。)

 

『今日の準備は、明日の収穫のために。ってね』

 

 

 

・・

 

・・・

 

・・・・

 

(さて、予算の目処はついた事だし、商品の現物も用意しなきゃね)

 

サブリナの希望はピザの大食い大会だったので、業務用ピザ窯の用意を進める。

 

通常納期は半年。それを二週間弱で仕入れなければならない。

 

 

 

鼻歌を歌いながら、Px4はご機嫌に端末を操作する。

 

画面に現れているのは、先日S地区の比較的大きな街であった同時多発テロのニュースだった。

 

 

 

『こう言うのもなんだけど、良いタイミングだったよね』

 

 

 

陽気に端末をいじるその姿は、まるでデートの計画をたてる乙女の様であった。




あれれこんなに引っ張るつもりなかったんだけど。
もう1話Px4さんが続きます。


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9.影で爽やかに吹く暴風2

前々話、前話に続いて、SPEC様著の「S10地区司令基地作戦記録」のPx4さんにご出演頂いております。
SPEC様、引っ張ってすみません。orz

ナイル指揮官がPx4さんに美味しく料理されちゃう回です。(笑)

なんか、人形があまり出ない回になってしまった。
これ、本当にドルフロ 作品か?って感じであります。
すんまそん。


サブリナとPx4が出会う少し前のことだった。

 

ここはS地区の大きな街だ。上級指揮官が治める地区であり要所である。

ある昼下がりの出来事だ。

その日は休日でミッドタウンの繁華街には多くの人が溢れていた。

 

「天誅〜〜!」

「人形に自由を!」

「グリフィンは出てけぇ!」

場違いな叫び声と共に、工事メット、マスク、ゲバ棒を持った男たちが現れ、建築中の店舗のガラスを破り火のついた火炎瓶を放り込む。

店舗はあっという間に炎に包まれる。

突然の出来事に、通行人は悲鳴と共に蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う。対テロ部隊の戦術人形が到着する頃には、犯人の男たちも人混みに紛れ逃げていた。

この日は同様のテロ行為が同時多発的に発生していた。

 

人権団体等の過激なテロリストに狙われたのは主に人形を従業員として雇っている企業だった。

向こう三軒両隣を半焼としながら完全に焼け落ちたこの店舗は、大手ピザチェーンの開業近い新店舗だったものだ。

 

翌日には、店舗所有者であった大手ピザチェーンの社長が上級指揮官へ混乱の謝罪に訪れたが、事の重大さから無期限の出店見送りの処分が言い渡された。

しかしこの出店見送り処分は、ピザ業界では無理な出店を続けて業績が悪化していたピザチェーンの芝居と噂されていた。それなりの金額がチェーンから上級指揮官に支払われ()()()()()()()()()のだろうとの噂とともに。

その根拠として、後にチェーンの出店が大きく絞られたからだ。

 

ピザチェーンは保険会社に多額の損害金を請求した。機会損失、基地からの無期限出店見送り処分と言った社会的地位の毀損による損失など、ここぞとばかりに請求した。多額の補償金の支払いを受けたチェーンの業績は後々急回復する。

 

しかし人間も人形も会社も、弱い者が踏み躙られるのが世の常だ。

その数多の会社の一つがピザ窯製造会社だった。

 

・・

・・・

・・・・

『部長、お願いします。キャンセルだけは勘弁してください。お願いします。』

店舗の焼失により、納入間近だったピザ窯の突然のキャンセルが言い渡されていた。

当然弱い者を守る法律はある。しかしそれを使えるかは別の話である。使えば今回は助かるがその後二度と大手チェーンとの取引は無くなるだろう。結局待っているのは死だ。だから、とにかく頭を擦り付けてでも頼むしか無い。

 

「ダメだ。今回は飲んでくれ。次の機会は優遇するから。な。」

口約束の空手形を切って部長と呼ばれた男は通信を切る。部長も飼い主から厳命されており命に代えても代金を支払うことは出来ない。

ここもまたまさに生き死にの戦場なのだ。

 

消えたモニタを見つめる三ちゃん企業の社長は頭を抱えていた。このままではピザ窯の材料費も支払えないからだ。

ピザチェーンの購入価格は定価の1/3にまで叩かれていたが、それでもキャンセルよりはるかにマシだった。

『ああ・・・うちももう終わりだ・・・』と社長はつぶやく。

 

もう、どうにでもなれ。と思いはじめた辺りで、映像通信の着信が入った。

(材料の販売会社にしては情報が早いな)なんて思っていたら知らぬ番号からだった。

 

出てみると、モニタの向こうにはスーツを着たビジネスウーマンが映し出される。

肩で揃えたブロンドのショートヘアの美人な女性であった。

 

「初めまして、急なお話で申し訳ありませんが、急ぎで業務用ピザ窯を探しております」

「お得意様のクライアントが急遽イベントで使うことになりまして、何としても探さなくてはいけなくて・・・」

ビジネスウーマンは伏目がちにつぶやく。少しやつれた雰囲気から苦労が見て取れた。

 

『へ?ピ、ピザ窯ですか??いや・・・・』

要らないとか欲しいとか、目まぐるしい変化に思考が追いつかず、気の抜けた返事が出る。

 

「そうですか・・・やはり在庫はありませんか・・・失礼しました」

気の抜けた返事をネガティブに捉えたビジネスウーマンは通信を切ろうとする。

 

『待ってください!あります!あります!即納可能です!!!』

降りてきた蜘蛛の糸(チャンス)を危うく逃しそうになり、社長は慌てて返事をする。

 

「本当ですか。よかったです!!」

ぱあっと明るい笑顔を見せるビジネスウーマンの瞳の奥が、獲物を捉えた肉食動物のような鋭さに変わったことに社長は気づかない。

 

「ただ、クライアントはお金に厳しくて・・・定価の半額でなんとか頂けないでしょうか。」

とてもじゃ無いが一般人へは販売出来ない激安金額を提示する相手。しかし、予定していたピザチェーンへの販売価格の約1.5倍の金額である。

しかも、会社が潰れるかどうかの瀬戸際。まさに渡に船。ここは折れるしか無かった。

 

『今回限りの金額であれば、お売り出来ます」

 

「今回限りで構いませんわ。社長、ありがとうございます!」

可搬化のOP追加、納入条件や支払い条件についての調整をして、通信は終了した。

 

(フフッ。まさに三方良しってやつね。)

保険会社の損害は彼女の勘定には入っていないらしかった。

 

・・

・・・

・・・・

 

Px4は続いて、低温冷凍庫の調達も済ませた。もちろんうまい交渉からの大幅割引にて購入している。

大物物資の調達を完了させて、Px4は焦らずにサブリナからの連絡を待った。

 

二日ほど経ってサブリナから、映像通信が入った。

 

「Px4さん・・・稟議書通っちゃった・・・どうしよう」

モニタの向こうのサブリナは明らかに挙動不審である。

大きな金額を執行できる状況に不安になっているのだろう。

 

Px4は決済された稟議書を読み。目一杯驚いたように演じる。

『えっ!通ったの!?あなたのところの指揮官はすごいわね』

 

「え?指揮官??どう言う意味ですか??」

 

『ほら。稟議書に財務管理課の記述があるでしょ。「指揮官の強い願いがあったので」と書いてある』

『指揮官の心情を確認されたんだと思うわ。じゃなければサブリナのこの稟議書は普通に考えたら通らないわよ』

まるで役者のように不信感なく演じる。

 

「そっか。じゃあ指揮官は理解して。なんですね」

「でも、何で一言声をかけてくれないんだろう」

 

『多分、サブリナに自由にやってもらいたいからじゃないかな。指揮官が声を掛けたらそれに影響されちゃうと思ってるんだと思うよ』

『サプライズでびっくりさせるパーティーになるよう、一緒に頑張りましょ』と微笑みかける

 

「はいっ!!」と応じるサブリナ。

 

(サブリナちゃんは素直でいい子ね。けど将来()()()に騙されないか心配ね)

現在進行形で行われているこれは、彼女の中ではそれには該当しないらしい。

 

『サブリナちゃん、業務用ピザ窯もピザ保管用低温冷凍庫も手に入れる算段がついているわ』

『ただ、金にモノを言わせて買うから、()()()2()()()()()()()()()()()()()。でも勉強して込み込みで稟議書の予算に入れてみせるからね』

定価の半額近くで仕入れた大物を定価の倍で売りつける。通常ありえない超短納期調達を考えれば高過ぎるとも言えない絶妙な金額設定。流石の商魂逞しさである。

 

『もちろん、ピザも食べ物も私が見つけた安くて美味しいところから仕入れるからね』

Px4はサムズアップしてウインクしてみせる。

 

「Px4さん、ありがとうございます」

(エル隊長の知り合いだけあってすごい出来る人だなぁ)

(こんなに良い人なのになんで隊長は渋ってたんだろう・・・)

サブリナは完全にPx4の事を信頼しきっていた。

新造されたばかりの素直なサブリナに海千山千のS10のPx4を正しく評価する事など、土台不可能な事であった。

 

そしてそのまま、契約が何事もなく締結される。

 

『とてもよい取引が出来ましたわ。何かあったらいつでも御用命くださいね』

にっこり笑顔でPx4は慣例的な挨拶を交わし締める。

 

そして最後にPx4は保険を打つ。(念のためリスクは減らさないとね)

 

『そうそうサブリナさん、パーティーを大々的にやるなら、()()()()()()()()()()()()()()にも声を掛けた方がいいと思うよ』

『賑やかになるし、基地の盛り上がりを社内にアピールできるからね。良い宣伝になるよ』

 

「そうですね。助言ありがとうございました」

サブリナは最後に本当に良い笑顔を見せて通信を終了した。

 

・・・

Px4にとってこの取引の一番のリスクは、R-15基地からの無理やりな返品や自身のマスターへ苦情が入ること。

調べればS10の人形から商品を買ったのはすぐに分かる。

もちろんあらゆる面で私の胡散臭さは脱臭済みではある。

しかしそれでも苦情を入れられれば、マスターの経歴に傷がつく。

例えそれがどんなに言いがかりだったとしても、それは自分がマスターに迷惑をかけた事と同じである。

(それに、マスターはこういうとこ真っ直ぐだから、一連のことがバレたら本気で叱られちゃうだろうし)

(まあ、バレるようなヘマはしないんだけどね)と付け加える。

パーティーの途中中止を防ぎ、つつがなく終了させれば世は事もなし。である。

そこにはR-15地区の指揮官の心情など微塵も考慮されていなかった。

 

机の上の開かれたファイルのナイルの写真を一瞥する。

(フフッ。ご馳走様でした。R-15の指揮官(ゲス男)さん)

エル()ちゃんをまた泣かせたら、今度こそは文字通り地獄行きだよ』

呟き片手で半身のPx4を遊ぶように弄る人形のその目は、仲間を守るS10基地の戦術人形そのものだった。

 

(ああ、これ以上仕事サボってたらまずいな。)

ひと山終えたPx4はファイルを閉じ静かに地下の事務所を出て業務に向かうのだった。

 

・・・・

こうしてサブリナプロデュースのパーティーは、誰もの想像を遥かに超えた天災(ストーム)のような規模で行われるのだった。




次回は、後始末の間話かな。
ナイル指揮官はブチ切れるのか??
何ちって半沢直樹の締めをやります。
そのあとパーティーの続きか。

あと、何度も書きますがSPECさん、Px4さんの出演許可ありがとうございました。m(_ _)m


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10.宴の後始末


まあまあ、閑話的な後始末ですね。

書いてて分かったが、P38課長代理大好きや。
俺は冷たい目で見下されて罵られたいのか?
課長代理の日常も書くかな〜(笑)


配属記念パーティーの翌日、2名の戦術人形が司令室に呼び出されていた。

呼び出しを受けたのはサブリナと小隊長のエルである。

 

サブリナはパーティー成功を青筋立てたナイルに褒められた直後、()()()()()()()と予算の件でお説教である。

サブリナは当初(稟議書??予算??)と質問が理解不能であったが、あの稟議書が指揮官の知らないところで承認されたものと分かり、顔を真っ青にして固まっていた。

 

司令室の床に竹のラグを莚代わりに敷き、サブリナを正座させる。

 

『サブリナ、パーティーの予算についてどうしてこうなった』

ナイルの問いかけに、正直に全て話すサブリナ。

 

「相談のきっかけにするため稟議書を出したけど、承認されてしまって・・・。Px4さんも指揮官が話つけたに違いない、理解しているに違いないって・・・』

混乱しているのか、いまいち要領を得ない説明をするサブリナ。

 

Px4の名前が出た途端、エルが顔を顰める。

エルを見ると(どうせこうなる事は分かっていたんです)的な雰囲気を出している。

『エル、お前も何か知っているな。・・・正座だ』

エルも黙って莚の上に正座する。

 

『で、なに?Px4??何処の誰だそいつは。そいつが今回の件の元締か?』

キレかけたところで、猛烈に胃が痛み出してうずくまる。

 

「指揮官様、胃薬です。飲んでください」とG36Cが心配そうに介抱する。

『すまない・・・』と薬を一気に飲む。高級な薬なのかすぐに痛みが和ぐ。

昨日の暴飲暴食もあるが、意味不明の給料前借り使い込みのストレスが大きい。

だって俺、入社して一カ月弱よ。お給料まだ一回ももらってないのよ。なのに既に年収分借金してるのよ。

 

副官とのやりとりが落ち着いたところで、サブリナが涙を流しながら答える。

「Px4さんは悪くありません。調達とか助言とか協力してくれただけです。本当に良い人です!」

 

その褒め称える回答を聞いて、エルがギョッとしてサブリナを見る。そして観念して伝える。

「指揮官、サブリナにPx4を紹介したのは私です。彼女は前の所属先S10地区で特注物資の調達などを副業としてやっていました」

「ただ、悪事を働く人形ではないのは確かです。だから紹介しました」

 

ふむ。ちょっと想定外。

もっとこう、悪事や企みが明確になると思っていた。

念のため全て詳細に確認しよう。

『サブリナ、エルとの会話、Px4とのやりとりの映像記録を全て渡すんだ』

 

G36Cが「サブリナさん、ごめんなさいね」と伝え頭部のアウトプットコネクタにコードを繋ぐ。

繋いだ瞬間から、サブリナは目を見開き無表情となり固まる。外部接続モードになった証拠だ。

それと同時に、大型モニタにサブリナの記録(記憶)が再生される。

G36C、エルを入れた3人で確認する。

 

・・

・・・

・・・・

全て確認して要約するとこうだ。

ーーーーー

サブリナが要望を伝えダメ元の稟議を出す。稟議が通ってしまった。

相談相手のPx4が承認結果にビックリし、指揮官が理解し希望を伝えたのでは?とコメント。

指揮官が知っているならばと見積もりをもらい契約。

盛り上げるために広報部とか呼んだらどうかと助言を受け実際に呼んだ。

ーーーーー

『うーん、不審点はあるが、白に近い灰色ってところか』

変に全て白塗りして隠したような取り繕った痕跡もない。

見積も各品目について安くは無いが、異常な金額でもない。

むしろ、納期内に調達した手腕を考えると極めて有能。俺でも使いたいくらいである。

(条件によっては自ら工作してでも調達してくるだろうな。それくらいの手腕を持っていると推定する。)

(とてもじゃないが、今のサブリナが使いこなせるレベルの人材では無いな・・・)

 

エルの方を見て目を合わせると、目をつぶって首を振る。

(悪巧みの可能性はありますが、これ以上は無理)と言外に伝えている。

 

くそっ。S10基地が糸引いていたなら乗り込んで苦情を言ってやろうと思ったが、この件はこれ以上は無理か。

 

サブリナを起こし、二人の正座を解く。

流石戦術人形、痺れは無いらしい。

 

・・

・・・

・・・・

一応、念のために本社の財務管理課にも確認をしておこう。

財務管理課へ映像通信を繋げる。しかしコールが鳴ってもなかなか出ない。

 

「お待たせしました〜。財務管理課です」と20代前半の女性が出る。

『おはようございます。R-15前線基地指揮官のルースです。課長代理はいらっしゃいますか』

「課長代理は電話中です・・・ルース指揮官?ああ研修のときの・・・」

げっ。落ちこぼれ認定されたあの教官の女性か。

どーもどーもとか、手続きで分からないことがあったらいつでも連絡ください、とか世間話を始める。

 

「昨日のパーティーの生中継見ましたよ〜。ウワサ通りなんですね〜。うふふ」

どんなウワサだよ。誰が流してやがるよ。

「でも、人形には優しくしなくちゃダメですよ〜」幼稚園児を叱る保母さんみたいな顔で言ってくる。

G36Cやエル、サブリナの前で・・・はらすめんとはやめてください・・・

 

雑談中に課長代理の電話が終わったらしく変わってくれる事となった。

 

・・・

『おはようございます。P38課長代理。本日は先の稟議書の件でお電話しました』

 

「おはようございます。R-15基地ルース指揮官・・・昨日の生中継、見ましたよ」

P38課長代理は落ち着き可憐さを残した美しい女性。静かに返事をする。

ただ、少しハイライトが薄くなったその瞳には、ゴミでも見るかのような嫌悪感が滲み出ている。

 

『本日は稟議書の決済が通った理由を聞きたくお電話しました。』

ナイルは率直に伝える

 

「体裁は整っていましたし、何より指揮官の気持ちが滲み出ており感化された。・・・それでは不満ですか?」

薄っすら目を細めて説明する課長代理。

 

『しかし、』

課長代理は追い縋るナイルの言葉に被せるように続ける。

「ただ、昨日の生中継を見て私の判断は間違っていなかったと確信に至りました」

「とてもお楽しみでしたわね・・・。最後はあんな破廉恥な様を全社に中継して・・・。その感性は理解出来ませんが」

気分が悪いのかハンカチで口を押さえて、目を瞑る

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言外に課長代理は言っている。

(くそっ。分かっちゃいたけどそうくるよな。俺が中止出来なかった時点で文字通り後の祭りだ。)

(しかし、そんな酷かったっけ?酒が回っててぶっちゃけ後半は記憶が曖昧なんだよな。)

 

「他に話がないなら、これ以上は時間の無駄ですわね」

紅茶を啜りながら話す課長代理の胸元にちらりと気品あるネックレスが見える。

よく似合っているその姿をナイルは特に不審に思う事もなく通話は終了するのだった。

 

ーーーーー

R-15基地では、このパーティーは大きな事件となったが、悪意のない偶然の産物つまり事故と断定された。

以降、事故防止のために新たにルールが制定された。

曰く、予算申請は必ず指揮官と副官の書面承認を行う事

曰く、他地区との無断取引は禁止。取引が必要なら指揮官の書面承認を行う事

 

ーーーーー

 

なお、サブリナはお咎め無しとなった。

意外なことかもしれないが、ナイルは今回の彼女の行動を大きく評価していた。

自身の借金の結果は最悪ではあるが、パーティーを計画し手配実行した行動力は大変素晴らしい。と。

今回のことをネガティブに捉えず精進するように、と皆の前で褒めたほどだ。

 

(まあ、年収分1000万円。高級車でも買ったと思えば・・・。)

(しかし、その高級車(ピザ屋さん)どうすっかな・・・。)

 

そうか!決めた。

『エル。これは第二小隊の連帯責任だ』

『第二小隊でうちの高級車(ピザ屋さんと冷凍庫)を使って金回収案を考えろ。一カ月で検討しろ命令だ。』

(どうせ中古で処分しても二束三文。足元見られるだけだ。それなら有効利用するしかない)

 

一連の責任と後始末を押し付けられたエルは、二度と元鞘の戦術人形をこの基地に近づけてはならないと心に誓うのだった。




Px4「エルちゃんを泣かせるな」o(`ω´ )o

エル「Px4さん大暴れの尻拭いの責任とらされたぉ」。゚(゚´ω`゚)゚。

ナイル「一体何が何だか…わい完全な交通事故の被害者やん…」(´ω`)

次回以降は、地獄のパーティーの続きを書かんとね。
課長代理に破廉恥とバッサリ切られたが、いったい何があったのか??
乞うご期待?なのか??(笑)


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11.配属記念パーティーの恐怖

なかなか進まない。
文才の限界ですな。泣

UA1000行きました。(←誤削除前です)
読んでくれている方々、ありがとうございます。
頑張って書きます。



前話の宴の後始末の前日の話しに戻る。

 

サブリナプロデュースの配属記念パーティー。

サブリナの口から余興の「大食い大会」が宣告された瞬間から、何かが壊れ出していた。

まるで、全てが破壊される嵐が訪れる夜のように・・・

 

大きな業務用ピザ窯がフォークリフトで運ばれてきたところで、指揮官は呆然として固まり、副官は慌てて調べ物を始めた。

その様子から会場は逆にヒートアップ。とびっきりのサプライズなのだろうとの期待感があふれる。

 

会場準備が進む間に指揮官は色々な人や人形達と会話をしていたが、空いたタイミングで中国娘達に絡まれていた。

 

「指揮官!乾杯しよ!乾杯!」

56-1式と92式である。

56-1式は明らかにアルコールが回っているのが見て取れる。電脳とメンタルのリンクが不安定になっている感じである。

92式は全く問題無さそうに見えて、気持ち朗らかになっている。56-1式ほどでは無いにしてもほどほどに飲んでいるのだろう。

 

『お、おう。乾杯、しようか』

不足の事態の混乱から頭を切り替えてナイルは部下と接する。ビールジョッキを掲げて乾杯しようとするが、

 

「指揮官、なにやってんのよ〜。中国式の乾杯だよ。()()()()!」

へ?と思っていたら92式からガラスコップを渡され並々と白酒(パイチュウ)を注がれる。同じく56-1式にも注がれる。

「指揮官〜、乾杯〜!」と言って56-1式は一気に飲み干す。

 

『乾杯』と言って飲んでみるが、なんぞこれ。濃すぎるだろ。

きついな〜なんてチビチビやってたら、お叱りを受ける。

 

「中国式の乾杯は、グラスを全部あけるのよ」はい飲んで。と一気飲みを強要される。

 

うげー。先程のストレスとの相乗効果で胃が焼け爛れているのがわかる。

(と言うか、ワンカップのグラスで飲むもんじゃ無いだろ。ショットグラスにしてくれよ)

終わったと思いきや、続いて92式と乾杯になる。

 

「指揮官、偉い人は皆と乾杯するのが中国式です」との事。

普段あまり見ないニコニコした顔で92式が白酒をなみなみ注いでくる。

はい、二杯目の一気強要。

 

うぐ〜〜。胃が胃がぁ…

(地獄だろ。この中国システム。とりあえず中国銃が二人でよかった。次から飲み会の時は要注意。と)

 

・・

・・・

・・・・

 

大食い大会の会場が整ったらしく、サブリナがマイクを持って皆の前に出て笑顔で司会を続ける。

「みなさ〜ん。準備が整いました。これから選手の紹介をします!ショーの始まりだよ」

「向かって左側から紹介します。…62式さんと56-1式さんです。いつも日本と中国でバチバチやってるのをここで決着つけてしまいましょう!」と過激な煽りを入れる。

 

「ふっ・・・小籠包じゃないから負けましたなんて言い訳は聞かないよ?」と62式

「そっちこそ!SUSHIじゃ無いから食べられませんなんて止めてよ?」と酒でグダっている56-1式

しばらくお互いにガンを飛ばし合ったのちに、

「「あ〜〜〜ん!!」」と顔を近づけて威嚇し合う二人。

 

散々煽ったサブリナがニコニコしながら続ける。

「は〜い、はいはい。喧嘩はダメですよ。」

「なんで、お目付役にエル隊長がついちゃいまーす」にっこり笑ってサブリナが告げる。

 

げっマジで、と呟きシュンとする62式。射撃訓練で散々扱かれている62式はエルの恐ろしさがその身に染みている。

ジロリと二人を見てから「美味しく食べて楽しみましょう」とニッコリ告げるエル。

まさに蛇に睨まれたカエル状態となっている62式であった。

 

「はいでは改めて、左からエル隊長、62式さん、56-1式さんです」

「続きまして、56-1式さんのマブダチ。チョコ大好きFNCちゃんです」

 

「チョコ美味しいよぉ。モグモグ」とチョコに齧り付いている。これから大食い大会なのにチョコを我慢出来ないその姿に皆呆れるばかりである。

 

「はーい、FNCちゃんの隣の2枠はシークレットなので飛ばします。飛ばした先は…ワタクシ、サブリナでーす」

 

「サブリナの隣は、アストラさんです。隣同士頑張ろうね〜」アストラがにっこり手を振り返して「がんばるぞー」と返事をする。

 

「アストラさんの隣は多目的活動隊、クリスティーナ指揮官の部下のMG5さんです」

 

「私がいれば十分だ!ちゃんと見ててくれ!」とMG5が高らかに宣言すると「MG5〜頑張って〜」とクリスティーナ指揮官から黄色い声が飛ぶ。何か視線で分かり合っている様子。

(うーん、クリスティーナ指揮官とMG5の関係は…うん、深く考えない方がいいか…)

 

「最後〜。シークレット枠の2人は…指揮官と副官のG36Cさんでーす!」

 

突然の宣言にビックリする

『・・・・』(マジかよ。俺、胃がやられているのに…。俺の参加意思は無視かい)

せめて前もって言って欲しいな。コンディション調整もクソもなく、普通に飲み食いしてたし。

(しょうがないか)

ショボーンとしながら、諦めて席に着く。

 

副官は何やらゴネている。大食い大会に出たく無い様子。

「サブリナさん、私はそんなに沢山は食べられませんわ」と困り顔のG36Cだが、隣にサブリナが来てニヤリと悪そうに笑いG36Cに何か耳打ちをする。

 

「賞品は・・・・」

 

「!!!!」とG36Cは驚き、キッとサブリナを睨む。

「サブリナさん、本気ですか?」との呟きにサブリナは、「本気だよ」と返す。

 

「G36Cさんは棄権かな?かな?」と煽りを入れると、「参加しますわ」と強く返事をする。

「そうこなくっちゃね!参加選手が揃いましたので、始める準備します」と宣誓するサブリナ。

 

「今回の1〜3位の賞品は…自主的なサービス残業券です」

なんだよそれ!ブーブー!とヤジが飛ぶ。

 

「みんなそんな事言っていいのかな〜。残業場所は、()()()()()()()()()()だよー」

うおお、マジか〜〜とテンションが上がる会場。

それを聞いて『ぶ〜〜〜』とまたもやビールを吹き出すナイル。

 

(おい。どう考えてもその警備がいる方が、色々危険だろうが!)

色々言いたいことはあったが、好きにやれと言った手前もあるしでナイルはもう諦めて好きにさせている。

 

「絶対に・・・ゲットしますわ」と呟いて拳を握りしめている副官を横目に見るが、聞かなかった事にする。

 

あと、最下位には簡単な罰ゲームがあるのでよろしく。と伝えていよいよ大食い大会が開始されるのだった。

 




とりあえず、開始します。

長机向かって左から、
エル、62式、56-1式、FNC、指揮官、G36C、サブリナ、アストラ、MG5
そんな感じです。

次回でパーティーは終わらせる予定。


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12.サブリナプロデュース

長くなっちった。
パーティー系の話はなかなか難しい。
肉付けが下手くそっすね。
けど頑張って書きます。

第三期局地線区始まりましたね。
私はまったり系なんでちょこちょこ出来るこのイベントは好きなんですよね。
AT4の3人、可愛くてイイね。頑張って育成するぞ〜

ゲームのフレンドが70人を割ってるんすよね。
ここで募集掛けてもいいんすかね。マズイかな?


いよいよ余興のピザ大食い大会の開始である。

 

大会参加者が席につき、テーブルの上にピザが家事ロボットにより配膳されてくる。

目の前に並べられる大判ピザを見てびっくりするナイル

(おいおい、このピザLサイズじゃねーか。そんなに食えねえぞ)

 

サブリナが選手となって着席しているので、司会兼実況はイングラムが代行する。

「さぁみなさん、大食い大会、スタート」

 

皆一斉に目の前に置かれた食べ始める。

食べると同時に可搬式連続ピザ窯「ピザ屋さん」からは次々とピザが払い出され参加者の前に並べられる。さながらマシンガンのようである。

 

(お、このピザ美味いな。このチーズは合成チーズだな。代用チーズとは味が全然違うな)

 

このご時世、巷に多く出回っているのはほとんどが代用食品である。

代用食品は色形味を似せた物であり、ベースは現物とは全く異なる物である。

一方で合成食品は素材こそ違うものの、化学合成により現物と同じ成分に作られたものとなる。

細かい違いを気にしなければ本物と同じである

 

しかしナイルは謎の前借りと白酒(パイチュウ)の一気飲みの影響で、食欲が止まっていた。

(美味いけど…。胃が、胃が痛い…)

 

「あら、指揮官が早くも止まってしまいましたよ」

「最下位確定ですかね」

難しい顔をして止まる指揮官を見てイングラムがニヤつきながら実況する。

 

だがナイルには余裕があった。

(ふっ…バカが。FNCを入れたことが貴様らの敗因よ)

(俺を最下位にしたかったんだろうが、そいつは通らねえ)

(FNCは大食いではなくただのチョコ好きよ。奴より食うことなど雑作もないこと)

 

「チョコの方が好きなんだけど〜」と駄々をこねて食が進まないFNCを尻目に、FNCより少し多めをキープする頭脳戦を仕掛けるナイルであった。

 

一方その頃、左手のエル、62式、56-1式は、というと。

62式と56-1式がガンを飛ばしながら食べ続けている。

中国はどうとか日本はどうとか互いに罵り合いギャーギャー騒ぎながら食べているが、ヒートアップしすぎると62式の右脇腹にエル隊長の肘鉄が入れられ静かになる。

Lv70超えのエルからの一撃は正直堪える。62式にとっては厳しい状況が続いている。

56-1式もその様を見て自分に累が及ばないよう自重する。

 

「エル隊長の容赦無さたるや・・・62式さん、強く生きてくださいね」

他人事の適当なコメントを残して右手側に移動するイングラム。

 

もう一方の右手側ではサブリナがモリモリと食べている。自身の半身のSPAS-12に装着したスピードローダーの給弾速度の如く次々とピザを処理していく。

追い縋るようにアストラが着いていくが、驚愕なのがG36Cもアストラに遅れずについていっていることだ。

 

「副官さん、無理しない方がいいよ〜。いきなりは無理だよ」とサブリナが気を使うが、食べる速度と量は落とさず全く空気が読めていない。

 

「私は指揮官様の為にも負けません」とG36Cは汗だくで辛そうな顔を見せながらもついていく。食べた食事のカロリーを直ぐに消化して熱に変えて消費する作戦だ。

 

「私も絶対に負けませんよ〜」とアストラがついていく。アストラは大食いには慣れているので苦しくならない範囲でペースを作る。

()()()()()()ガチ組は血を血で洗うバトルに発展している。

 

「こっちはガチですねぇ」

「触らない方がいいですね。3人で勝手に頑張ってくださいな」

気だるく投げやりなイングラムの実況を無視するが如くピザを消費していく3人。ピザ屋さんも大忙しである。

 

そんな3人を見て隣の多目的活動隊のMG5は「R-15基地の戦術人形はすごいなぁ」と感嘆の声を上げている。

相当ガチの勝負となっているので、他の基地から参加のMG5は一歩引くことに決めていた。

クリスティーナ指揮官にウインクしたり、楽しみながら食べ進めている。

クリスティーナ指揮官もうっとり気味の視線をMG5に向け、ときどき優しい声をかけている。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

折り返しを過ぎて、

・トップはぶっちぎりでサブリナ

・2位争いが、アストラ、エル、G36C

・5位争いが、62式と56-1式

・7位がMG5

・8位がだいぶ離されて1.5枚の指揮官

・ビリが0.5枚のFNC

 

(くっくっく、俺の8位は揺るがないだろう。逃げ切るぜ)

ナイルは余裕をかましていた。しかしその判断や戦略が間違っていたことをこの後痛感することとなる。

 

・・

・・・

・・・・

「うーん?ああ、サブリナの悪巧みがここで入りますよ」プログラムを見て身も蓋もない解説のイングラム。

 

「イングラムちゃん、悪巧みはやめてよもう。サプライズよサプライズ」サブリナから苦情が入る。返事を返す余裕があるようだ。

 

「分かった分かった。はいはいサプライズですね。」

「ここで使い方自由のトッピングが追加されますよ。」

イングラムの言葉とともに多種多様なトッピングが家事ロボにより運び込まれる。

 

真っ先に反応したのはFNCだった。

「あ〜!チョコがある〜!」

 

ホイップチョコに強く反応し、家事ロボットに取りに行かせる。

届けられたホイップチョコのチューブに吸い付くFNC。

 

「チョコおいし…」

マヨチュチュならぬチョコチュチュを始める。

 

「FNCちゃん。それダメ。反則ですよ」

「ちゃんとピザ食べてくださいね」とイングラムから注意が入る。

 

「え〜ダメなの〜・・・あ、分かった。こうだね」と頭に電球が出たように閃いたようだ。

 

ぶりゅっ・・・ビチビチ、ブリュブリュブリュ〜

 

と、とても食品とは思えないほど下品な音を立ててピザの上にホイップチョコが絞り出される。

まるまる一本を絞り切り空になったチューブに吸い付き最後まで搾り取ったあと投げ捨てる。FNCはもはやピザならぬ「ホイップチョコ、ピザ風味」なる食べ物に齧りつく。

「チョコ美味しい〜」と言い次々にピザ1枚にホイップチョコ1本を絞り切りモリモリ食べ出すFNC。その瞬発力はサブリナを超えるほどである。

次々とホイップチョコとピザがその小さな体に飲み込まれていくのだった。

チョコ幼獣が目覚めてしまった瞬間だった。

 

ナイルは隣の席で行われているFNCのスパートを見て頬をひくつかせる。

(バ、バカな。このままでは負ける!)

(つーか、あれは美味いのか??)

慌てて急ぎ食べ出すナイルだったが、時すでに遅しだった・・・

 

・・

・・・

・・・・

 

エルは考えていた。

このまま食べれば、2位、3位まで食い込めるだろう事を。

しかし、あの控えめの副官G36Cがなんとしても3位に入るべく頑張っているのだ。

(今はまだバラバラだけど、纏まったらいい支部になる気がするな。)

そう考えたら、今後の生活が楽しみになってきた。

(G36C、副官頑張りなよ!)

エルは静かにピザを置いたのだった。

 

・・・

「はい。大食い大会は終了ですよ」

相変わらず気だるくイングラムは宣言する。

パチパチパチ〜と皆拍手をする。

 

「じゃあ、順位ね」

「1位、ぶっちぎりでサブリナ」「あんたちょっとは手加減しなさいな」えへへへと笑うサブリナ

「2位、アストラ」「すっごいね、私見直したよ」ありがとうございます。と素直なアストラ

「3位・・・・副官G36C」「4位のエルと僅差。これはすごいよホント」苦しそうに汗だくでグッタリのG36Cだが、誇らしげに笑顔を浮かべている。

「ここまでが指揮官警備券プレゼントです」「正直私は要りませんけどね」と呆れ顔で続けるイングラム。

 

「4位エル、惜しかったね」特に悔しそうな顔も見せずにっこり笑顔のエル

「5位FNC、あんたいつ追い上げたのさ?」空のチョコホイップの容器に夢中で吸い付く幼獣は順位に興味無しである。

「6位、同立で62式、56-1式、結果と同じように二人は仲良くやってよね〜」

「8位MG5、なんか観客席に視線向けてたけど、バレてるからね」

・・・

「それで、ダントツのビリッケツが指揮官!・・・もうちょっとやる気出して頑張ってくださいな。ホントに」

 

(うるせーやい。戦略があったんだよ戦略が。くそ〜。)

(チョコはずるいだろうがよ!)

(しかし、飲み過ぎ食い過ぎで気持ち悪い。)完全に酔いが回って泥酔気味のナイル。

 

「指揮官、お分かりですよね。罰ゲームですよ」

「はい、もう司会は面倒くさいからサブリナ、チェンジね」

イングラムは司会に飽きたらしく、サブリナにマイクを返す。

 

「はーい、ではサブリナから罰ゲームを発表しまーす」ニヤリと悪い笑みを浮かべ指揮官を見る。

「罰ゲームは・・・・変則の王様ゲームでーす」

(は?おうさまげーむ?マジかよ…)

 

「指揮官は確定で、相手とやる事をクジで決めます」

「試しに私が引いてみますね。相手は・・・PPS-43で、やることはハグで〜す」

 

「はぁ〜?なんで私なのよ!」盛大に怒り出すPPS-43。キャーキャー囃し立てる周りの女子たち。

「指揮官、何見てんの!?早くしなさいよ、待つのは嫌いよ」頬を赤らめながらそっぽを向くPPS-43

 

(へ、喜んでるのか嫌がっているのか…)

正面から向き合い、軽く抱擁する。

 

「…指揮官、勘違いしないでよね。ゲームだから仕方なくなんだからね」

ぷいっと横を向いてつぶやくPPS-43。周りはニヤニヤしている。

 

「はいはい。次行きますよ。じゃあPPSさん、クジ引いて」

「…クリスティーナ指揮官を・・・お姫様抱っこ!」

クリスティーナ指揮官は「きゃ〜」とか言ってたけど、MG5さんの鋭い視線がキツいのでサラッと終わらす。

 

「次は〜FNCちゃんと、チョコ棒でポッキーゲーム」

 

「指揮官!チョコ棒美味しいよ〜」

 

よかった軽く終わると思ったら大間違いだった。開始と同時にFNCがサクサクっと食べ進み唇がブチュッと触り、ジュルりと俺の口からチョコ棒を吸い出す。

 

け、穢されました(泣)

 

周りは「まあっFNCちゃん過激!」と囃し立てるが、本人はチョコ美味しいよーしか言わない。

要はチョコ棒が食べたかっただけなのだろう。という事で気を落ち着ける。

 

「次は、シークレット!で。内容は触った物当てです。」

「指揮官は目隠しと耳栓して椅子に座って下さい」

 

・・・・

ゲームが始まった。右手と左手。何かを掴まされる。

 

『右手は…手よりも大きいけどちょうどいいと言うか何というか。暖かくて柔らかい』

『左手は…だいぶ大きいな。ハンドボールより大きいくらいかな?右手よりちょっと張りがあるけど柔らかい、いい弾力』

『なんだろう。モミモミ、ぷにぷに・・・ぷにぷに?ぷに?………ま、さか』

 

パッと目隠しを取られる。右手がエルの右胸に、左手がサブリナの左胸に繋がっている。

 

「指揮官・・・ぷにぷに、し過ぎです」と顔を耳まで真っ赤にしたエル

 

「んっ・・・指揮官、強く・・何回も握り過ぎ」体をくゆらせて恥ずかしい感情を堪えるサブリナ

 

(なんてもん触らせてくれるんや・・・・これはあかんやつや)

『す、すまん。ゲームで致し方なく』としかナイルは言えなかったがファインプレーな対応だろ?

 

「あー指揮官、サブリナちゃんとエルちゃんの、お○ぱい揉んでる〜」と大きな声で囃し立てるFNC。

 

『ちょFNC、それは大きな声で言っちゃダメ。し〜っ』

それに合わせて周りから「指揮官のエロ親父〜」とか「変〜態〜」と囃し立てられる。

FNCめ。ファインプレー殺し過ぎる。

 

他にもいくつかあったけど、最後に爆弾が残っていた。

「最後は、G36C副官に〜。誓約の言葉をかけるでーす」

 

G36Cはサブリナの言葉を聞くと同時に顔を真っ赤にして下を向く。

そりゃそうだ、こんなオッサンにそんなセリフ言われたくはないだろう。

『そんなの、ふざけては嫌だよな』『やめよう』と伝えるが・・・

 

「指揮官、私は指揮官の誓約の宣誓、聞きたいです・・・」

(いや、こっちが恥ずかしいからやめたいんだよ。空気読んでくれよ。空気を)

 

分かったよやれと言うなら恥ずかしいけどやりますよ。やる以上、女子に恥はかかせられない

『ーーーーー』超真面目に伝える俺。

 

「指揮官、様。私は一生ついて行きます。片時もお側を離れません」G36Cは涙を流して嬉しさが溢れる笑顔で答える。

G36Cおめでとう。とか指揮官大切にしてね。とか声が飛び、誰かが摘んできた飾りの生花の花びらの吹雪がかけられる。

クリスティーナ指揮官も「ナイル指揮官、おめでとうございます」と満面の笑顔で祝福してくる。

 

(ちゃうねん。まだ誓約してないねん)と思っていたら、G36Cが唇を重ねてきた。しかも濃厚なディー・・げふんげふん。

もうね。ヤバいでしょこれ。

 

酔いも回っていたので強引にお開きとする。

お片付けは家事ロボットに任せて解散〜。今日はもう寝るぞ。

あ、エルとサブリナは明日朝イチで司令室に来てね。

はい、おやすみ〜

 

・・

・・・

・・・・

 

俺は泥酔してすっかり忘れていた。

今日は本社から広報部が来て生中継をしていた事を。

このロアタウンの場末のスナックですら顔負けの乱痴気騒ぎが、GKTV-4によってグリフィン中に流されていた事を。

 

ナイルの知らないところで、「やっぱりR-15地区の指揮官はウワサ通りなんだな」と印象が固まってしまっていたのだった。

 

・・・




広報部「年収分借金して一晩人形と遊び倒すとかマジか。クレイジー過ぎるwww。これからのスキャンダルが楽しみや。追っかけちゃる」( ̄∀ ̄)

ジャスティン「悪いウワサ流してたけど、アイツ本当にヤバいやつやったんやん」( ゚д゚)

ヘリアントス「アイツは一体何をやっているんだ?」(ㆀ˘・з・˘)

課長代理「下品ですわ・・・」(>_<)

次回から日常会、日常ったら日常。


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13.財政難

うむ。
ゲームの方、やっとこさカリンちゃんのハートが5000個集まったんだぜ?
そろそろ脱いでくれてもいいと思うんだよね。
皆さんもそう思いますよね。

ちょっと試しにフレ募集
ID:175513
ネーム:Gel-C
空き枠30人くらいなので埋まるまで、ですが・・・
まったり勢なので、いいね周回もほとんどしませんが・・・

ちなみに、本作の設定やキャラはフリーです。


サブリナプロデュースのパーティーの翌日一杯でクリスティーナ指揮官達の多目的活動隊は帰任となった。

 

着任7日目の夕方、天気も良く斜めに降り注ぐ綺麗な夕焼け空の下での出発である。

四小隊+αの人材で来ていたので、基地も賑やかだった。友情を育んだ人形達もいたようで、彼方此方で別れの挨拶が交わされている。

 

(明日からうちの二小隊だけになるから、寂しくなるな)そんな事を考えていたら声をかけられた。

 

「次に会うとしたら戦場かな。でも私たちと戦場で会うとしたら不幸だから、それは嫌だよね」

クリスティーナ指揮官はなんとも言えない顔で話しかけるが、まあそれもそうだろう。

彼女達は多目的活動隊である。一線級の戦力ではなくどちらかと言うと後方支援部隊である。

そんな隊すら前線に投入される状況は地獄のような状況なのだろう。

 

「だから、本社基地に来た際には是非寄ってくださいね」

しょっちゅう出向しているから居ないかもだけどと付け加えるが。

 

ふと周りを見ると多目的活動隊の人形はヘリに搭乗完了していた。

「指揮官、出発準備完了だ」

そろそろ出ましょうとMG5が歩きながら伝えてくる。

「ナイル指揮官、頑張って下さいね」とウインクしてMG5と共にヘリに乗り込み飛び立つヘリ群。

帰り際に映像通信の番号を交わし、協力出来るところはしていこうと約束して送り出した。

(クリスティーナ指揮官、また会いたいな)

 

よし、いよいよR-15基地の日常が始まる。

 

・・

・・・

・・・・

 

その日の夜、本社から業務連絡の映像通信が入った。相手は上司のヘリアントス上級代行官であった。

 

「ルース指揮官、生放送は見たぞ。配属早々楽しんでいるようだな」

「私のところに彼方此方から大量の苦情が来ているんだがな。どうしてくれるんだ?」

指揮官としての品位がどうとかに留まらず、グリフィンの社員としてどうなんだ、会社を辞めさせるべきからアッパータウンのPTAからの苦情も含めれば7,8割は苦情であった。

一方一部からは熱烈に歓迎されてもいる。鬱積したこの時世に娯楽を求める者達だったり、戦術人形達からだった。

話が逸れるが、戦術人形からの反応はI.O.P社も確認しており想定外の反応として認識された。今後研究対象とすべきとの話が出ている。後に社内の研究組織である16Labによる研究がスタートする訳だが、それはまた別の話である。

 

・・・

やばい、真顔で相当お怒りの様子だ。なんだ?最近合コンでしくじったとか??そんな冗談も口に出せない雰囲気。

お前、何立ってんだよ何様だ?反省してんのか?誠意見せるためには正座だろ。正座。

まあ要約するとそのようなやりとりがあり、今朝エルとサブリナを正座させた竹ラグの筵の上に自分も座る羽目になったわけだ。

 

(この竹ラグ、正座するとすげえ痛い。拷問かよこれ。マジで立っちゃダメ?ダメかな??)

と険しい顔をしながら現状を憂いていると上司が本題を話し始める。

 

「まず前借りの借金だが、給与の1/3を天引き返済に回す。来年から給与も正規の指揮官待遇になるから、金利を考慮しても3年程度で返済されるだろう」また「返済の遅延は一切認めない」

 

と言うのが、財務管理課からのお達しとの事だ。何やら課長代理直々に上司のヘリアントスに伝えてきたそうだ。

「お前、課長代理に入社早々何したんだ?相当嫌われていたぞ」と残念そうな目で見てくるヘリアントス。

 

『・・・・いえ、特に何も』

(課長代理ェ・・・。俺、何もしてないんだけど。朝電話しただけなんだけど)

 

『で、私には何か処分があるのでしょうか』

返済の話があるくらいだからクビは無いのだろう。そう考えれば多少は気が楽になる。

 

「ん?処分?そんなものは無い」

 

『そうですか・・・』

(勝ったな)と余裕をかまし笑顔が漏れる。

(実質お咎め無しじゃないか。)

 

「・・・は〜〜〜」と大きくため息をつくヘリアントス。そして益々残念そうな視線を向けながら伝えてくる。

「いいか。うちの会社は結果を出せばかなり自由だ。わかるか、()()()()()()だ」

「お前はもう自由の方を使ってしまった。よって一年である程度の結果を残す必要に迫られている。()()()()()()()()()()()()()()

 

『クビ・・・ですかね・・・』

 

「借金が残っているうちはクビにはならんよ。正規軍の前線へ傭兵として出向するだけだ。」

「今までの実績から考えるともって3ヶ月でKIAかMIAだ。貴官も正規軍にいたから分かるだろ?最下層の訳ありの傭兵がどのように使われるかくらい。な」

 

(あーあーこれはあかんやつだ。結果残さんとマジで死ぬわ)

 

「また、条件が悪い事も認識しろ。一般的な話だが各指揮官は給与から装備を揃える事が多い」

「会社が支給しない特殊装備などを自費で買い使用する事を認めている。基地によっては攻撃ヘリ、戦車、装甲車などの装備を揃える所もある」

「しかし貴様は借金返済で給与が絞られる。装備や資材の調達も苦しくなるだろう」

「まあ私が言うのもなんだが、正直詰んでいると思うぞ。頑張ってくれとしか言えんがな」

真顔で伝えてくるその姿に、嘘も誇張も無いのだろう。全くもって気が滅入る。

 

『・・・・・』

(マジか、あかんやん)

 

社長は「悪目立ちして自ら追い込んで仕事をするとはストイックなスタイルだな。面白いやつだ」とのこと。

全く。全くそんなスタイルを目指してなんていないんだけどね。ほんと。

 

『ちなみに、結果を残すとは具体的にどの様な事を求められていますか』

 

「ふむ・・・そうだな。例えばだが、R地区にはまだ鉄血の工場があると考えられているのでそこを落とす。ハイエンドモデルを撃破する。などかな」

(ふむふむ。分かったよ。やればいいんだろ。)

 

『あと、借金の繰上げ返済は可能ですか?」

 

「ん?ああ可能だ」

 

『分かりました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「好きにしろ」

 

(よっしゃ言質取ったぜ。・・・録画もOK出来てるね。)

(こうなったら、やりたいようにやらせて貰うぜ)

 

まあ状況は理解した。他に用件はないということで通信を終了する。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

痛え。状況も痛えが正座している足が特に痛え。感覚が完全に無くなっている。

どう立とうかと考えていたら、G36Cが前に来て膝をつき両手を広げてきた。

 

『・・・・・・』

しばらくお互い向き合う形で視線が合ったまま固まる。

『G36C?・・・なにやってんの・・・かな?』

 

問いかけに顔を赤くして横を向き、恥ずかしそうに返答をしてくる。

「指揮官様が立とうとしているので・・・倒れないようにお手伝いを、と」

 

『ああ、それはありがとう。けど普通は手を取ったり体を支えたりだろう』

ジト目でG36Cを見ながら疑問をぶつけてやる。

 

「いえ・・・指揮官様は・・その・・・女性の胸が大好きだ。と・・・ウワサが』

「飛び込んでこられても、大丈夫ですよ」

途中から開き直ったのか顔を赤くして恥ずかしがりながらも堂々と言い切りやがった。

 

(うおーい。誰だ?誰がウワサを流してやがるんだ?)

『まったく、しょうがない連中だ。ただのウワサだ』

適当に誤魔化して立とうとする。

 

『あ・・・れ?』

やっぱり痺れていた。

そしてそのままG36Cの方に倒れ込み、彼女の狙い通りに収まってしまうのだった。




幼獣「指揮官ってさ〜。お◯ぱい大好きだよねー。モグモグ、チョコおいしい」

中華AR「二人のめっちゃ揉んでたもんね。目隠しして知らないふりしてだよ、きっと」

中華HG「最低ですね・・・」

ハグされたSMG「・・・・」


ナイルさん、きっとここがどん底さ。
ここから這い上がればいい。
そう思うしか無いよね。

ナイルさんには頑張って欲しい。
ちなみにナイルさんはスケベではありません。ありませんったらありません。



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14.副業

誤削除後の新話です。

ナイル指揮官が副業を始めるそうですよ。
うまく稼げるのか?上司のヘリアントスさんに怒られるのか?
どうなるのか・・・・

作者にも分かりません。(笑)

読んでくださる皆様のおかげもありサルベージ頑張りました。
ここから心機一転がんばります。

ちなみに、この作品は設定人物ともにフリー素材となっております。


ある日、基地の幹部が招集された。

呼び出した副官のG36Cが切り出す。「基地保有の配給が減少傾向です。このままですと二週間で作戦に支障が出ます」

 

マジ?なになにいきなり問題なわけ?・・・大食い連中の食費が半端ない。と。あいつらかよ。

先日の大食い大会が人形達の間で評判が良く、皆が皆次の大会に備えて普段から多く食べている。と

 

『やめさせろ。すぐにだ』

 

食事の消費量の表を見るとサブリナはともかく、G36Cも上位に居る。

ちょっとG36Cさん、この消費量増加はなんですかね?

なになに?私も次は負けたくないから、朝晩は2食分食べていると・・・・

沢山食べていたら太ってはいないけど胸は大きくなったと?

 

(いや、聞いてねえから。)

 

え?なに、指揮官は女性の胸が大好きですから?いやいや、それ否定したよね。

いつ()()()()()()()()()が行われても大丈夫なように、って?

 

(勘違いだから。完全に勘違いだからね。それ皆の前で言わないでね。頼むから)

 

ジト目で副官を見ると目を泳がせている。まあ、2食食いはやめてくれればいいさ。

話し合い、とりあえず飯は1人1食1人前だけとする。

本当は好きなだけ食べさせてあげたいが、俺が不甲斐なくてすまんな。

 

本社から来る定期的な物資供給の、人力、弾薬、部品の供給割合を変えようかと思ったけどそれはとりやめた。

隊長達から反対があった。変な無理はやめた方がいいと。

例えば人形の損傷が無ければ部品の数は少なくても大丈夫だろう。理論的にはである。

しかし、実際には損傷は発生してしまう。このようなところを気合と根性でなんとかしようとすると無理が起こり破綻に至ってしまう。

本社が決めている「使うであろう割合」は変えるべきではない。と言う事である。

 

まずは全体的に倹約することとした。意識を変えていこうとの考えだ。

意識を変える策として、あちこちに標語をペタペタ貼りまくる。

皆の気持ちを見える化して統一することが大切。

と言うわけでデータベースから歴史上使われた強めの標語を集める。

 

「欲しがりません勝つまでは」

「ぜいたくは敵だ!」

「R-15の仲間ならぜいたくは出来ない筈だ!」

「全てを戦争へ」

「一発必中」(この語は妙にエルが気に入っていたな。数多く刷られていた)

「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」(これは司令室に貼られた)

 

ナイルも今日は特別に「ぜいたくは敵だ!」の鉢巻を絞める。

よし!気合が入ってきたな。

 

・・

・・・

・・・・

 

この日、第一小隊は基地周囲の地形調査と哨戒任務に出ていた。哨戒中に鉄血の部隊を発見したとの一報が入る。

R-15地区は比較的安定しており、現れる鉄血は稀な上に本体から逸れた部隊や一般人を殺傷する目的で放たれている自立ドローンに近いプラウラー、スカウト、ダイナゲート程度である。

ぶっちゃけ、基地に篭っていても何ら手柄は得られない=一年後には死刑宣告されると言うことを意味している。

 

『やっとこさ見つけたか。電動バギーを家事ロボに運転させ出させろ』

『第一小隊は攻撃開始せよ。予定通りしっかり狙っていけよ』

 

「92式了解。第一小隊は敵を排除します」「皆さん予定通りお願いします」

 

「はいはい、行くよ〜」いつも通りの気だるさでスモークグレネードが投げ込まれ鉄血兵の視界を奪うと同時にエラーによるフリーズを誘発する。

今回はPPS-43のHEグレネードは使用せず、ARとSMGのバースト射撃を電脳とコアに集中させ鎮圧する。

多少の反撃を許したが、完封勝利である。

 

「クリア。指揮官どうしますか」

 

『殲滅した敵は、リッパーとヴェスピドだったな。状態の良い奴を2体ずつ持ち帰るぞ。まもなくバギーがつくので積んで帰投しろ』

 

「ラジャー」「みなさん、帰投しますよ」

「「了解」」

 

・・・

「でも指揮官、鉄血の人形なんて何するんだろう」帰投中のバギーの上で鉄血の残骸(死体)を見ながら56-1式がぼやく

「さぁーね。どうせ碌でもないこと考えてんだと思うけどね」とPPS-43が返す。

「お人形遊びでもするんじゃないかな」FNCが無邪気に話す。

 

「「()()()()()・・・」」FNCが悪意なく話したその言葉を繰り返しそれぞれがナイルがする遊びを想像する。

あまりの悍ましさに、それぞれ顔色を悪くしたり吐き気を催したりしている。

とりあえず思考するのは止め、何かあったら命に代えても指揮官を止めざるを得ないのだろうと認識を共有する第一小隊の面々であった。

 

・・・

ナイルは第一小隊帰投指示に続いて、グリフィンが収集しデータベース化している社内情報システムにアクセスする。グリフィンの社内情報システム、それは世界情勢、企業情報、個人情報、あらゆる情報が収集されている。

その収集は情報部により行われているとの事だがかなり秘匿性が高く社員もよく分かっていない。誰が何処でどの様な活動を行なっているのか一切不明、あまりの秘匿性から非合法活動もやっているのではとウワサが立つほどである。

そんなデータベースにてナイルは鉄血工造の資料にアクセスする。前線基地指揮官には多くのアクセス権限は無いが鉄血工造の一般資料は開示されていた。

リッパーとヴェスピドは胡蝶事件以前よりラインナップされていたので、各種仕様書や取説、顧客整備マニュアルだけでなくメーカー技術者による重整備マニュアルまで揃っていた。ナイルは整備マニュアル系を一通り印刷して目を通し到着を待っていた。

 

・・・

第一小隊は帰投と共に、鉄血の残骸をメンテナンスルームに運び込む。メンテナンスルームには戦術人形用の修復装置がある他に簡易的に分解調整する事が出来る調整室も備えている。鉄血の残骸は調整室の診察台に乗せられる。

 

『皆ご苦労様。鉄血の人形を運んで貰った理由はパーツを剥ぎ取り中古部品として売買出来ないか。と考えたからだ』

(就業規則には鉄血との対立に関する規定はあるが、中古部品や電子部品の売買禁止の規定は無かったからな)

(副官にも確認したが確かに規定には無い、該当しないで確認済み。ただしグレーではあるらしいがね)

 

PCやタブレットの部品売買が成り立っているように中古人形のパーツ売買も一定の需要がある。どうせなら潰した鉄血兵から頂いてリサイクルしちまおうとの考えだ。

これを聞いた人形達は何とも言えない顔を見せる。人間で言えば倒した敵兵から臓器を抜き取り売買する様なもんだ。倫理観は置いといても気分がいいものではない。

 

『まあそう嫌な顔をするな。自分でやるのは一度だけだ。次からは家事ロボにやらせるよ』『それに一度くらいは鉄血の中身を見て勉強してもいいんじゃないか?』

ナイルにそう言われてやっぱり碌でも無い人形遊びだと観念する人形達だった。

 

まず鉄血人形の製造コードをPDAに打ち込み確認する。(ふむ、未確認の工場製か。どこかに新工場があると言うことかな)

まず鉄血兵の体全体をX線透過撮影する。(怪しい部品無し、過去のマニュアルと部品配置は同じ。と)

一点一点PDAで確認、記録しながら進めていく。

(じゃあマニュアルに沿ってバラしていきますかね)

 

人形は大きく分けて生物に近い生体部品と、骨格や駆動部品と言った機械部品に分かれる。

流石に生体部品は腐敗するので売買には向かない。機械部品の回収を行う。

 

まずは擬似体液の回収っと。診察台のホースをマニュアルに従いコネクタに接続し吸引する。

合わせて、自動で診察台が擬似体液の解析を行いすぐに結果がプロットされる。

(ベースオイルは変わらないが、ナノマシンは変わっているか。鉄血の開発は続いているんだな)

 

続いて、腰からパワーコンデンサとエナジーセルを外す。コイツは転売の品にするので保管する。

「コンデンサとエナジーセルはI.O.P.の人形より容量は大きいわね」と92式が漏らす

「けど、鉄血兵にはパワーや瞬発力があるようには感じないけど」と56-1式が返す

『電源に余裕を持たせているのかもな。メンテナンスが悪くても性能が落ちないようにとか。ね』

 

続いてモーター駆動用のインバータユニットを外す。これも保管。

「指揮官の予想通りね。インバータの出力はI.O.P.の人形より小さいわね」PPS-42がこぼす。

設計思想的に鉄血の人形は冗長に作られているらしい。恐らく戦場などでラフに使われる事を想定しているのだろう。I.O.P.の人形は逆にしっかり整備が行き届いた状態でフルスペックの性能が出せる設計なのだろう。

(長期戦や行軍といった活動ではI.O.P.の人形は苦しいだろうな。下手したら鉄血のローエンド人形より下まで性能低下するかもな。運用には注意が必要だな)

 

通信モジュールやジャイロも売れそうではあったが、ヘッドショットにより破損している。

致し方無しだろう。安全第一、取れる時は取るスタイルで行こう。

 

四肢の生体部品を外して調整室の処分箱に破棄し、肩と股関節から四肢の取り外しを行う。

「関節の接続規格と配線コネクタも私たちと同じ規格。鉄血のクセに真面目に国際規格を守っているところが笑える」とイングラム

 

『昔から変えていない。と言うところかね。長期遠征でお前たちが四肢を失ったら使えるんじゃ無い?』と笑って言うと

 

「そんな状況になった時点で指揮官失格でしょう。まあ足はともかく腕は何とか使えるんじゃないかしら。鉄血の腕を使うなんて気分は最悪だろうけど」92式がジト目で言ってくる。

 

そんなこんなで、電源制御周りと四肢を外して完了。流石にコアと電脳は破壊されているしバグって危険なので処分。他の部品も処分。

リッパーもヴェスピドも大きな違いなし。2台目以降は家事ロボに教育しながらやらせる。

次回以降は家事ロボに全て任せられるだろう。

作業が完了したので第一小隊は任務完了。解散とした。

嫌々付き合わされていた作業から解放されたので、皆そそくさと宿舎へ引き上げていく。

 

・・・・

よしよし。サンプル回収出来たので次は売買だ。PDAでエルを呼び出す。

「指揮官、お呼びでしょうか」すぐに司令室に現れるエル

 

『ああ、鉄血人形の中古部品を売りたい。そこで・・・・どうした?』

俺の問いにみるみる眉間に皺を寄せて険しい顔になるエル。何か懸念しているようだ

 

「指揮官・・・・」

「S10地区の知り合いは絶対に紹介できません!!」

抜き差しならぬ真顔で強く言い切るエル。

前回のサブリナプロデュースのパーティーで懲り懲りな様子である。

 

『え・・・お、おう』

『大丈夫、紹介して欲しくて呼んだわけじゃないよ・・・』あまりの迫力にタジタジで返すナイル。

 

「では、何用でしょうか」頭の上に??を浮かべて頬に手を当て首を傾げるエル

(うん、そのポーズすげえ可愛い)何かを本能的に感じたのかジロリとこちらを睨んでくる副官のG36C・・・

(いやそうじゃねえ。そうじゃねえ。本題本題と)ヤバさを感じて頭を切り替える。

 

『鉄血の部品を売りに行くから、荷物持ちと護衛を頼みたい』

単純な話だ。

 

「そう言う事ですか。了解しました。出発はいつになりますか」

内容が分かりスッキリしたエルは話が早い。

 

『うん3日後。なんで出発まで最低限の手入れだけで()()()()()()()()()()で頼む。』

 

「え?それは・・・どう言うことでしょうか」

意味が分からず聞き返すエル。3日も風呂に入るな服を変えるなとかどんな拷問だ。

お肌も髪も生体部品が傷まないようにきちんと手入れしないといけないのに・・・

風呂に入って手入れするのが日課のエルには我慢し難い命令だった。

(これならまだS10の知り合い紹介の方がよかったよ・・・)

 

『まあ頼むわ』とにべもない指揮官にため息で答えるエルだった。

 




この先が結構難しい。
悩んでいるんだぜ。

ちょっとアップが遅れるかもしれません。


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15.潜入準備

今回は次話に向けての間話的になっちゃいました。
次話の構成、結構悩んでいます。

そうそう第三局地戦区進んできましたね。
今、一桁台10%弱くらいで推移しています。
一桁で終わりたいです!
と思ってた時期が私にもありました....
最終のステージ8鬼畜やろ・・・無理だって無理。
ステージ6周回になりそうです・・・
けど、頑張りますぞ〜

この物語はフリーなので、設定やキャラの使用は自由です。




LWMMG(エル)は疲れていた。

 

指揮官から入浴と着替えを禁止されたことをエルは真面目に守っている。

遠征時などで使う簡易お手入れスプレーを全身にかけて対応するが、汗も汚れも落ちるわけでは無いので見た目は酷くなる一方だ。ツインテールにまとめた自慢の髪だってベタベタガサガサになりつつある。

今日だって訓練中に部下の小隊員から「隊長、少し臭う気がします」と言われる始末である。

明日の任務が終われば風呂に入れる。それまでの我慢である。

部下からは女をやめたようなその格好に憐れんだ視線が飛んでくる。

任務とはいえ困ったものである。

 

(流石にこれはタダじゃ割りに合わないよ。指揮官に特別手当を貰うしかないよね)

迷惑料をもらう気満々のエルであった。

 

・・・・

一方のナイル指揮官はいつもの制服ではなく、ラフな戦闘服姿で過ごしていた。

体臭も外観もお構い無しである。副官のG36Cから嫌そうな目で見られているが全く気にしていない様子である。

まあ昔の職場の正規軍での若い頃はこんな状態は日常茶飯事だったので慣れたものらしい。

悠々自適なバツイチ中年生活である。

 

・・

・・・

・・・・

中古品売買の当日はヘリでR-14との境界付近まで行き、ヘリに積んだ電動オフロードバイクを降ろしてそこからタンデムで目的地へと向かう。

ヘリの着陸場所は臨時飛行場とは名ばかりのただの原っぱである。

『1800にここに帰投するのでヘリを頼む』とヘリ操縦の人間に伝える。パイロットはサムズアップしてすぐにヘリは飛び立つ。

 

そんなやりとりを見ながらエルは作戦前に指揮官と二人での打ち合わせを思い出していた。

 

・・・・

翌日の売買の打ち合わせのために指揮官室に呼ばれるエル。

 

「売買のツテがないので闇市まで行って直取引することにした」「リサイクル業者(回収屋)とその相棒の人形に扮して潜入する」

「グリフィンの指揮官であることがバレるのは避ける必要がある。頼む」

指揮官は突拍子もない事を言い出す。

この潜入の為に風呂に入らず意図的に汚す考えとのことだった。

 

『闇市ですか?指揮官自ら出向くのは危険です。治安が悪すぎます』

至極当たり前の事、リスクの大きさをエルは訴える。

しかもグリフィンの指揮官である。最下層の闇市で身分が割れれば、拉致されて身代金請求ならまだマシで、即殺される可能性が非常に高い。

 

「その通りだが人形だけでは無理な任務だ。他にツテがない以上多少のリスクは致し方ない」

「そのリスクを減らすために、エルにもついてきてもらう」

ナイルはテーブルの上の水をひと口飲み、何事もないように続ける。

「闇市は隣のR-14地区内になる。境界ギリギリまでヘリで向かいバイクで潜入する」

「隣の地区なので、基地からの援護は不可能だ。安全を最優先とする」

無茶苦茶な事をさらりと言う。

 

『・・・・』

『了解しました』

ため息と共に返事を返すエル

一度言い出したら何を言っても止まらないのだろうと諦める。

 

「装備は自然を装うためにAK系アサルトライフルとサイドアームで行く」

「AR、サイドアーム、CQC全てをこなせるお前が適任だ。頼むぞ」

「準備して1300に出発する」

 

(確かに人間の指揮官とバディを組んでうまく立ち回れるのは今は私くらいか)

ならば、完璧にこなして指揮官を守って見せると心に誓うエルだった。

・・・・・

 

エルは半身のLWMMG(マシンガン)ではなくカービン銃のAK-102とサイドアームのHK45タクティカルを装備する。指揮官の判断通り出身のS10地区での教育でARとHGの訓練のみならずCQC,CQBの技能も高レベルで習得しているので何ら心配はない。

指揮官もAK-102とサイドアームはブローニングHPを装備する。

共に装備と荷物を確認してバイクに跨がる。ナイルが運転しタンデムシートにエルが乗る。荷物の重量もありサスペンションがギシリと沈み込む。

 

『身分がバレるから俺のことを指揮官と呼ぶなよ。今日いっぱいはナイルと呼べ』

『そうだエル、お前は()()()()()()の設定だ。低俗な売女(ビッチ)キャラで頼む』

楽しそうにニヤつきながら言葉にするナイル。完全ではないがふざけているのをヒシヒシ感じる。

ナイルは笑いながらエルの返事を聞く前にバイクを発進させる。

 

(売女キャラ?好き勝手言ってくれるわね。女の子は怒ると怖いんだよ。後で後悔しても知らないからね。()()()

 

ナイルが気付かないタンデムシートでエルは悪く笑っていた。

 




またナイルさん、余計なこと言ってますねー。
大丈夫なんですかねー。
口は禍の元と学ばないといけませんね。

作者は責任持てません。(笑)


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16.エルとのデート?

闇市での1日です。
ちょっと詰め込みすぎたような。
表現が難しいっす。
文字数も平均の倍くらいになっちった。

ナイルさんの余計な一言からの惨劇
ビッチなエルさんの活躍をお楽しみ下さい。
一応、規制的にR-15内だと思います。(笑)

この作品の設定やキャラはフリー素材です。


バイクを30分ほどトコトコ走らせると、小さな丘を越えた先に汚い街が見えて来た。通称、闇市である。

 

この世界の街にはランクがある。PMCが代行統治している都市には富裕層が住むアッパータウンから貧困層が住むロアタウンまであるが、それらは居住権をもつ人間しか住むことは許されない。

何らかの理由で居住権を失った者がなんとか生きていくために同じ境遇同士で集まり出来たのが、この闇市のような非合法な都市である。

公共の行政など存在しないため、力あるマフィアや自警団が街を仕切る弱肉強食の世界となっている。敵は鉄血やE.L.I.D.など人外も多く日々命をつなぐだけでも大変なのである。

しかし、だからこそなのか欲望が渦巻き娯楽あふれる街となる。明日への蓄えより今日の快楽のために生きる街なのだ。

 

街はぐるり高い塀で囲われており、数カ所の入り口では検問が行われている。

観察すると街の外にバイクや車が多数止まっている。恐らく車両の入場は制限されているのだろう。バイクを塀の外に止めて、徒歩で入場する。特に検問で止められる事もなく入場出来た。

 

街はとにかく賑やかで道路脇の店舗では食料品や医薬品、服から雑貨、風俗までありとあらゆる物が溢れている。値段はロアタウンでの販売価格よりだいぶ高い。恐らく非合法な転売物なのだろう。貧困地帯で正規の値段より高いのは皮肉な話である。

 

「ナイル、あれ・・・」通りを歩いているとエルが呼びかけてくる。

 

指を指す方を見ると、そこは「人形屋」だった。簡単に作られた檻の中で人形が座っている。

I.O.P.の戦術人形もいるようだが、共通して言えるのは目のハイライトが消えているのと首にSMプレーで使用するような金属鋲が打たれた首輪を嵌めていることだ。

首輪は人形の行動阻害する電子装置である。これを嵌められると通信や会話が不能となり強制的にセーフモードでの稼働とさせられる。通常はメーカでの試験時に使用される機能であるが、ならず者に機能をクラックされよく悪用されている。

この首輪のデザインは作者のタチの悪い趣味なのか、自分たちの奴隷であることをこれ見よがしにアピールしているのだろう。

 

『首輪をしているところを見るとどこかからか拉致られてきたのだろう』

『周りを見ろ警備が厳重だ。恐らくこの街を取り仕切るマフィアの店だ。・・・いくぞ』

気になっているエルの手を取り引っ張っていく。厄介ごとにするわけにはいかない。

 

・・・

5分ほど歩き、繁華街から少し抜けたところに目的の店があった。中古の買取屋だ。

ドアを押しあけ中に入る。ドアのベルがカランカランなり店のおやじが気づく。

「らっしゃい・・・兄さん見ない顔だな」無愛想なおやじだが、警戒しているのが分かる。

 

『ああ、最近流れてきた回収屋だ。今日は人形のパーツを売りにきた』なるべくフランクに言うナイル

 

「パーツ?その人形じゃないのかい?I.O.P.のLWMMG型だろう?いい人形だ。50万でどうだい?」

一般人が入手出来ない人形を連れるナイルを明らかに警戒して揺さぶりをかける。

 

『冗談言うなよおやじ。コイツは俺の()()()()()()()()だよ。逸れ人形を捕まえてやっとこさ俺好みに調()()したんだからよ」

(しょうがねえな、やるしかないか)

 

左横に居るエルの後ろから腰に手を回してぐっと引き寄せる。そのまま手を上方にスライドさせて左胸を鷲掴み揉みしだく。

(エル、ごめんな)心の中で謝っとくナイルだったがこの後の展開に気圧されることになる。

 

敏感なところを刺激され体をピクリと揺らし「ん・・・・」と小さく声を漏らしたエルだったが、ナイルの方に体をむけ青い瞳を妖美に輝かせ両腕を首に絡ませてくる。そして男を自分の方へと引き寄せ唇を重ねる。後ろに回された腕により男は女の唇へ強く固定され暴力的なキスを受けることとなる。

続いて少し開いた男の唇の隙間から舌をねじ込み、男の舌と口内は執拗に嬲られ続ける。

 

(ち、ちょっとエルさん・・・やりすぎですよ・・・)

そう思うナイルだがおやじの疑いを溶かすためにもここでやめるわけにもいかない。

 

エルは挑発するような流し目をおやじに向けながら、意図的に舌が戯れるピチャピチャとした音を立て続ける。

首に回された左手がナイルの厚い胸を通り過ぎ下腹部の方向にゆっくり動き出したところで、

(マジでやばい、止められないけど誰か止めてくれ。おやじでいいから頼む)

 

ナイルの願いが届いたのかここでタオルが投げ入れられる。

「分かった分かった。ここでおっ始めるのはやめてくれ」

「兄さんの趣味も人形への調教度合いもマトモじゃないことはよく分かったからよ」

「仕事の話に入ろうや」

その言葉を聞いて、エルはつまらなそうにナイルを解放して、フンっと鼻を鳴らす。

(た、助かった。しかしエル、本当に演技かこれ??)疑心暗鬼になるナイルだった。

 

・・・・

「鉄血人形の部品か・・・どれどれ」

「パワーコンデンサ、エナジーセル、インバータユニットに四肢か・・・程度は極上だな」

「一体分で2万でどうだ?」

 

『冗談言うなよ。生きてるやつを殺して取ったんだぜ。5万はするだろうよ』

相場がよくわからないのでとりあえず高めで攻めてみる。

 

「5はキツイな。4でどうだ?」

クソ、反応的にもっと上に行けたな。

 

『分かったよ今回はそれで手を打とう』

「OK取引成立だ」

準備した副業専用のPDAで金の受け渡しをする。

とりあえず4体分で16万ゲットだぜ!

 

商売を終えて雑談タイムに移行し色々情報のやりとりをする。基地のデータベースでは分からん生の情報を仕入れるチャンスだ。

 

「兄さんは連れている人形といい、軍隊上がりか?」

 

『ああ、物資の横流しがバレてチョンよ』首を切る仕草でクビになったとアピールする。

『軍隊のお陰でI.O.P.の人形の扱いとか詳しくなれて、コイツを相方に出来たんだけどな』とエルの肩に手を乗せる。

 

「ここらの廃墟はあらかた回収されて、回収屋でやっていくにはキツイだろう」

 

『そうみたいだな。だからおまんま食うために鉄血兵のパーツ取りなんてやってんのさ』

『どっか商売にいい場所は無いかい?とりあえず金になりそうなとこならどこでもいいよ』

 

「ここから北に行ったR-14の外れに廃墟になった大きな街があるが、そこの採掘や回収はまだ終わっていなかったはずだ」

「ただ最近どういうわけか鉄血兵の影が濃くなったらしく回収が止まっているらしい。出入りの回収屋も何組か顔を見せなくなった。」

ありゃあ死んじまったんだと思うぜ。との事。

 

『おいおいそれじゃ俺も死んじまうだろうが。ここらがダメなら違う土地に移るさ』

『それに、鉄血がいるの分かってんなら、R-14のグリフィン支部も動くだろうよ』

 

「あーダメダメ、ここの支部の指揮官は引きこもっているだけのクソよ。タマも無くしたオカマってウワサだ」

そうかそうか。と思わずわらってしまった。

 

そんなタイミングでカランカランとドアを開けて入る者が来た。

仕事が済んだ俺たちは上がる準備をし入れ違いで表に出る。

『じゃあ、帰るか』

 

・・・・

「ナイル。雑貨屋に寄りたいわ」珍しくエルが自分の希望を口にする。

『お、おう。いいぜ』と返し帰り際に雑貨屋による。

雑貨屋は生活必需品以外のものも置いてある何でも屋に近い店だ。

エルはさっと品物全体に目を通してからリボンに目星をつけ選び始める。入念に選んだ後に自分の瞳と同じターコイズのリボンを10組20本を渡してくる。

『え??』渡された理由が分からず固まるが、

 

「今回の件で色々大変だったんだから、迷惑料よ」ねっ。と言ってウインクしてくるエル。

 

(やべえ可愛いな)

『たく、しょうがねーな』と言って買ってやると、エルは嬉しそうにポーチへとリボンをしまう。

何やら、基地の人形達へのお土産らしい。エルは意外に面倒見がいい。

しかしトータルで2万円もした。この街物価高えよ。まあ、今回は仕方ないかな。

 

・・

・・・

・・・・

用も済んで店を出たところで、公道は異様な雰囲気に包まれていた。

明らかに堅気ではない5人の男達が屯して居る。ナイルとエルが表に出たところで男達が二人に近づきドスの効いた声で絡んでくる。

「お前ら他所者だな。ちっと面貸せや」

有無を言わさぬセリフを吐き、5人で囲んで路地裏へと引き込む。十分奥まで連れ込んだところでリーダー格の男が仲間に用件を伝える。

 

「女は商品だ傷つけるな。おっさんには死んでもらえ」

いきなりリーダーの男が問答無用の結論を告げる。

下っ端と思しき4人は刃物や銃を出すが、慣れていないのを表すように動きが遅い。

 

(相手に殺す宣言しといてこの遅さはギャグか?素人かよ)

『エル、生死は問わない。吐かせるから1人は残しておけ』端的に伝え、サイレンサー付きのブローニングHPを素早く抜き手近な男の頭にエイミングし、躊躇なく引き金を引く。

「ブス」とサイレンサーのくぐもった音が出ると共に目の前の男は額に穴を開けて斃れる。

 

「てめえ・・・」とナイルに襲い掛かろうとする別の男にはエルのナイフが襲いかかる。鋭く振られた切先を視認すらできなかった男はパックリと切り裂かれた喉元を押さえて声にならない悲鳴をあげて倒れ込む。驚き動けなくなった逆の男には逆手に持ち直したナイフを肋骨の間から差し込み心臓に突き立てて即死させる。

その間にナイルはもう1人の頭に風穴を開けて始末する。残りはリーダーだけだ。

 

あっという間の想定外の結末に「ひっ」と悲鳴をあげて駆け出して逃げようとしたところで、エルのサイレンサー付きのHK45タクティカルにて両足を撃ち抜かれ、そのまま躓くように倒れ込む。

倒れた男をナイルは興味なさげに無表情で見る

『誰の依頼だ?』『気持ちよく話せば助けてやるぜ?』淡々とナイルは告げる。

 

男は足を撃ち抜かれ立てないため、ズリズリと体を引きずりながら逃げる。

奥までナイル達を連れ込んだのが災いし、助けを呼ぶ事も逃げる事もままならない。

男は逃げる事を諦め命乞いに全てをかける事とした。

「本当に本当だな!中古部品屋の店主だ。女に首輪をつけて連れてくれば報酬をやるって・・・」

 

『そうか分かった十分だ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ」と声を上げたリーダーの額にサイレンサーが向けられ、引き金を引かれる。

路地裏に寝転ぶ5人の男達は二度と動く事も話す事も出来なくなっていた。

(助けてやるとは言ったが、殺さないとは言ってないぜ)屁理屈を心の中で呟くナイルだった。

 

『さて・・・エル、楽しい見送りをしてくれたヤツのところにお礼にいくか』

「そうね」

ちょっとそこまで散歩にでも行くような気軽さで言葉を交わす二人だった。

 

・・

・・・

・・・・

買取り屋の店主は機嫌が良かった。

(さっき来た戦術人形は、是が非でも欲しい)

I.O.P.のLWMMG型はかなり人気のある人形だ。成人女性型で美形、肉付きスタイルともにバランスがよく、人形に付与される性格も責任感が強いが控えめでそれでいてどこか家庭的と男心をくすぐる。戦術人形のため一般入手は不可能なこともあり闇での流通はごく少数、人形風俗でも引くて数多だ。

(しかもあの男の調()()だ。首輪で拉致してもすぐに心が壊れマグロだが、あそこまで()()()調()()()()()()()()後は簡単。電脳をハックして所有者を書き換えればすぐにでも楽しめる。)

(俺が飽きるまで楽しんだ後に人形風俗へ売り飛ばせば丸儲け。300万以上は余裕、上手くいけば500万くらいは狙えるだろう)

取らぬ狸の皮算用とは言った物だがもう勝負はついたようなもので笑が止まらない。

(くっくっく。今日はなんてついているんだ。楽しめる上、ボロ儲け確定だ)

 

そんな事を考えていると、カランカランとベルを鳴らしてドアが開き、女が入ってくる。

『おお。成功したか・・・・うん?』

待った女に続き、来るはずの無い男が入ってくる。

 

『お、お前。なぜ生きて・・・』

想定外の結果に思わず声を出してしまう。

 

「おいおいおやじ、自分から喋っちゃダメだろ〜」

冴えない中年の男はニヤけながら伝えてくる。もう誤魔化しは効かない。

 

『・・・男達はどうした?』

(おかしい。会わなかったのか?いや、話しぶりから会ったのだろう。ではなぜ??)

 

「ああ、見送りの下っ端だろ?疲れてたみたいで路地裏で寝てるってよ」男は戯けながら答えてくる。

 

(ちっ、ボコったのか。最近の組織の下っ端はどうしようも無いな。まともな喧嘩すら出来ないのか。)

自分は荒事の喧嘩なんて出来ない事を棚に上げて、心の中で組織の下っ端を罵る。

 

『テメェら、俺はマフィアの幹部だぞ。手を出してみろ組織をあげて地の果てまで追いかけて殺すぞ』

中年男の顔がピクリと動くのを見て、目の前の男がビビったと判断して店主は続ける。

『おい、今なら許してやるオンナを置いて消えな。』勝ったな。所詮は回収屋だ。自分が置かれている状況はバカでも分かるだろう。

 

「ふっ、ははははっ」目の前の男が笑い出す。心から楽しんでいる笑い方だ。イラッとしながら店主が目をやると、男が言葉を続ける。

「エル、このおやじはお前と遊びたいらしいぞ」「死なない程度に遊んでやれ」

 

なんだって?と思った瞬間、喉に激痛が走り苦しくなる

『は・・ごっ。ぐ・・・うぅ』(い、息が出来ない。く、苦しい)

女の左手がまるで肉食獣の牙のように自分の喉元に深く食いついている。そのまま足が浮く程度まで持ち上げられる。

両手で女の左腕を力一杯掴むがまるで緩む気配はない。

 

女の目が細くなり妖艶さを帯びる。

「なぁに?私と遊びたいの??うふふっ」と声を掛けてくる。

苦しさもあり必死で動く範囲で首を縦に振る。ほんの少しだけ首が縦に動き相手に意図が伝わったようだ。

 

次の瞬間「ゾブッ」と右手の牙が俺の下腹部の大切なモノに噛み付く。しかし苦痛を与えるわけではなく舌で転がししゃぶり尽くすように揉みしだき始める。

これは気持ちいいが、状況が状況なので縮こまったまま元気になる様子はない。

 

「こんなに縮こまっちゃって可愛そう・・・これでは楽しめないわ・・・」残念そうに女が呟く。

 

(本気で楽しみたいのか?楽しめるのか?)

そう思った瞬間だった。

 

 

ブチュ

 

 

と何かが弾ける音がした気がした。

女が力一杯右手を握り込んだのだ。

 

下腹部に猛烈な痛みが産み出され、体の硬直、視界の暗転、吐き気が一気に襲いかかる。

そのまま地面に開放されるが、股間を押さえて倒れることしかできない。

口からは『〜〜〜〜〜』と声を絞り出す悲鳴が出るのみである。

 

「あらら、もう一生大きくなることもなくなっちゃったわね」

「遊べなくて残念だわ。楽しみにしてたのに♪」

女は自分がした事を棚に上げて、どうでもよさそうに適当に話す。

 

遠くから男の声が聞こえる

「おやじ、マフィアの上納金隠して使い込んでるなぁ。こりゃ消されるんじゃねーのか?」

「あと、一連の迷惑料は貰っていくぞ」

痛みから何を言っているのかよく理解できない。

次の瞬間、顎に衝撃を受け意識が途切れた。

 

・・

・・・

・・・・

 

ナイルはエルがおやじを拘束している隙に店のパソコンを確認していた。

(はい。取引先の情報をゲットだぜ。)持ち込んだ外部媒体にデータを全て落とす。

(これで店が中古品を卸す先がわかるから闇市に来なくて済むわ。見た感じ卸先は中小の人形メンテ会社っぽいな。カタギの企業だと助かるな。)

 

追加で調査していたら売上のちょろまかしの痕跡を見つける。

(ペーパーカンパニーを作り、支払いのフリして自分の懐に金を入れてやがる)まったく。

と思っていたら、視界の端でエルがおやじの男のシンボルを文字通り再起不能に破壊するのが見えた。

おやじの拘束を解いた後、血と小便となんだか分からない体液で濡れた右手をそこらにあった布巾で拭っている。

 

(ちょ・・・エルさん・・・)

(殺さない程度とは言ったが、あれなら殺された方がマシじゃないか)

想像からの痛みでナイルは無意識で内股になり股間を押さえる。

(あれはイタイヨーイタイヨーイタイヨー)

 

・・・

さて、用も済んだし帰るか。

一応、おやじに使い込みを見つけた事を伝えたが、ありゃ聞こえていないな。

あと目の前のレジから迷惑料を頂く、グリフィン発行の札は全部で9万円か。

 

おやじがうるさいのを見かねたエルが、軍用編み上げブーツで顎を蹴り上げ静かにさせる。

(エルさん、容赦がねえ・・・マジで怖いぞ)

 

・・

・・・

・・・・

2人で表に出て、ドアにかかった「OPEN」の看板を「CLOSED」に変えて帰路に着く。

街の入り口の検問を越えたあたりで警備の門番が走っていくのが見えた。方角的に覚めないお昼寝中の5人が見つかったのだろう。

 

バイクのタンデムで街を離れ臨時飛行場へのんびり向かう。時間的には十分余裕がある。

飛行場には既にヘリがアイドル状態で待っていた。バイクを搭載し素早く帰投する。

 

帰りのヘリの中で俺はついに耐えきれず聞いてしまった。

『エル・・・今日のビッチキャラは・・・演技だよね・・・?』

 

エルはにっこり笑い「演技に見えましたか?」と疑問に疑問で答える。

 

演技だよね。マジで演技だよね。頼むから演技だと言ってくれよ〜。

(これからどうやってエルと接すればいいのだろうか)

余計な一言から部下との接し方に頭を悩ませることになるナイルだった。

 

・・・・

本日の回収 25万円(迷惑料込み)

残りの借金 975万円

ナイルの財布 -2万円




幼獣「エルちゃん、指揮官とデートしたみたいだよ」

サブリナ「え?本当?じゃああのリボンはデートのお土産かな?(私もデート行きたいなぁ)」

副官「次は私が一緒に(デートに)行きます」

腹話術RF「トレフォイル、デートは楽しいのかしら」

ナイルさんの余計な一言で、中古屋のおやじは男を失いチンピラ5人組は永遠の眠りにつく事になりました。
ナイルさんとエルの関係?知らんがな、ナイルさんが責任取ればよろしい。(笑)

今回はビッチキャラのエルちゃんでした。
Q.どうしてこうなった??
A.作者の暴走です(笑)

でも、次の話がなかなか書けない。
もうストックも切れた。遅れる可能性大ですがよろしくお願いします。


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17.春の夜の夢

第三局地戦区どうですか?
何とかステージ8クリアできましたが、しんどい。
でもこのギリギリ感は楽しいですね。
と思っていたらミノタウロスに粉砕されたわ。
おかしいな、何故ミノを倒せないんだ??うちのシノがね・・・

ノープロットで進めてきてるので、そろそろ話の芯がグダりそう(笑)

やるだけやって頑張りますぞ!

この作品の設定やキャラはフリー素材です。


闇市への出張から少したった頃だった。

 

副官のG36Cから報告があった。

「指揮官から指定された企業リストの調査が概ね完了しました」

「マフィアのフロント企業が多いですが、通常の企業もありました」

「人形関係ですと、この「ドールハウス」という会社はいかがでしょうか。人形の保守や売買などを業務としております。本社も比較的近いR-13地区です」

 

アウトプットされた企業情報に目を通してナイルは考える。

(なるほどなるほど。確かにこれなら問題無さそうだな。)

(R-13地区か。うちを管轄する上級指揮官が治める地区だが、企業取引なら問題無いだろう)

 

あれから数度鉄血人形の部隊と遭遇したので、本格的な回収を行なっている。

10体分の部品をキープしている。調査結果ではS09、S11などのS地区の既存工場からも流れてきているようだった。

S地区は激戦区だからな。隣接しているし仕方ないだろう。

鉄血の活動を改めて調べてみると、連中の作戦とか目的とか読めそうで意外に面白いな。

楽しみながらやれば副業と趣味の両方を兼ねられて一石二鳥だね。

 

・・・・

ドールハウス社の営業は珍しい客から連絡を受け、グリフィンのR-15前線基地に来ていた。

「取引の相談があるので、一度基地に来ていただけませんか」と社に連絡が来たのが数日前。

I.O.P.の人形しか使わない会社からの話だ。チャンスがあるかもしれない。必ず行け。との上司からの指示だった。

前線基地なんて初めて来るからドキドキだ。

入り口で女性の戦術人形にチェックされる。

メカメカしい人形を扱う自社と比較してあまりに違いすぎて新鮮さを堪能していた。

 

その後通された応接室で中年の冴えないオッさん指揮官と面談する。

ーーーー(かくかくしかじか)で鉄血の人形の部品を買っていただきたいのです」

 

グリフィンの指揮官がそんなことやるの?滅茶苦茶じゃないか?と驚きながらもそこは営業、顔に出さずに会話を続ける。

『ええ、我々は問題はありません。ちなみに今サンプルはありますか?』

人形が運んできたサンプルを見てピンときた。

(これは闇市から回ってきた極上品と一緒。出所はここだったのか。)

 

営業は少し考えて回答する。

(確かあの品は15万で買わされてたよな)

部品自体は良いものだ、ただ15万では少し高い。

『このクオリティであれば、一体分で10万出しましょう。』

 

「分かりました。金額は結構です」

(え?そんなに高く売れるのかよ)

ナイルは自分の商売センスのなさに残念になるが、まあ今さらしょうがない。結果的にこの会社にたどり着くことが出来たので良しとしよう。

(それより、まずはリスク回避の保険。と)

 

「金額は問題無いですが念書を一枚頂きたいです」

指揮官は紙を一枚出す。念書と書かれたその紙には、「反社会的な組織及び個人には転売しません」と書かれている。

「まあ、我々の会社の敵に売られても困るのでね。部品の追跡なんて出来ないですが、こんなご時世ですからね」

と笑いながら男は言う。

 

(なるほどそう言うことね。形上整っていればいい。でも裏を返せばブツが敵対勢力に渡り仲間が死のうが知った事じゃない。になるけど大丈夫なのかなこの指揮官。それとも実は悪党なのか?問題になっても僕は知りませんよ・・・)

(普通ここは価格が下がっても敵に売らないシステム作れ。だと思うけど)

まあ他社の詮索はやめよう。一応システムを作る準備はしとこう。と心に決めた営業は優秀だった。

 

営業は念書のサインとともに買取の契約書を作成する。つつがなく契約は締結される。

本日の10体分を100万円で購入して、部品と共に帰社するのだった。

また10体分貯まったら取りに来る形の取引となる。

 

・・・・

おっしゃ!一気に100万だぜ。これ今年中に完済余裕だろ?

返済が終わったら基地拡張して、装備整えて、戦術人形(部下たち)に好きなだけ食わせて、パーティーも何度も開いてやって、夢が膨らむぜ!

(イャッッホォォォオオォオウ)久しぶりに興奮してテンションが上がる。

()()()()()()ナイルであった。

 

・・

・・・

・・・・

 

続いて、闇市で仕入れた情報の整理についてだ。

大きく2点ある。

一つ目がR-14地域の北の廃墟周辺に鉄血が増えたこと。

二つ目がR-14の指揮官の動きが悪いとのウワサ。

 

まあ、とりあえず向こうの指揮官に繋いでみよう。話せば何か分かるだろう。

 

・・・・

副官のG36Cと襟を正して映像通信を送る。

 

コール後間を置かずに画面が繋がり相手の副官が出る。

「グリフィンR-14地区前線基地副官のリー・エンフィールドです。以後お見知り置きを」

白いパンツに白いシャツ、上にレッドコートを羽織った凛々しい麗人である。まさに軍人の鑑と言った出立ちである。

こちらはR-15基地としてきちんと挨拶をしたのち、指揮官と話したい旨を伝える。

しばしお待ち下さいと返事をして、指揮官へ確認に行く。

 

・・・・

おっせえな。なんかあったのかな。

スクリーンセイバーみたいな画面をかれこれ5分くらい見ている。

 

・・・・

10分くらいして、やっと繋がった。

 

「いや〜ん。ダーリンのエッチぃ」

いきなり場に馴染まない声が聞こえて来る。

画面のなかでは金髪ショートカット、青い瞳のかわいい女の子が旧USA国旗を模した下着姿でもう一人のとっぽい若い男とイチャイチャしている。

(どう言うことだってばよ?)状況についていけず混乱するナイル。

隣のG36Cもびっくりしている。いや、羨ましそうに感じているのか?

 

「指揮官、もう映像通信が繋がっております・・・・」

副官のリーが酷く疲れた様子で伝えている。多分本当に心労が溜まっているのだろう。

「指揮官様、お部屋でお待ちしていますね」と通信に気づいた女の子は下着姿を恥ずかしがる素振りもなくそそくさと立ち去る。

 

ちっ、ウッセーな。誰だよ。はいもしもし、R-14基地指揮官のアクセルでーす」

どうもイチャイチャタイムの邪魔をされてイラついている様である。

(こいつナメてんのか。場末のスナックじゃねーんだぞ。こら)

さすがにちょっとキレかけるナイル。

 

「んで、何の用・・・・あっ、アニキじゃないっすか」

不機嫌な顔がナイルの顔を見た途端、おもちゃを見つけた子供みたいに突然明るくなる。

何やら、ナイルの弟分の気分らしい。

(俺はお前みたいな弟を持った記憶は無いが!)

 

「見ましたよ!生中継!アニキすげーっすよ。」

「年収分の借金して所属人形と遊び倒す。しかも生中継であの王様ゲーム!パネエっすよ」

(うん、あそこまでは全くやりたくなかったんだけどね。褒められても嬉しくねえ。てか、誉める要素ねえだろ?誰がどう見ても)

 

「ソッコーでGKTVに応援の連絡しちゃいましたよ。ヘリアンさんにも熱く気持ちを伝えときましたよ!」

(バカ。広報部に余計なもん送るなよ。あとヘリアンさんから俺は一言も聞いてねえから。お前無視されてるぞ)

 

何にしても、ナイルの事を同類の年上として尊敬している様子。

(まあ、嫌われるよりかマシか。ポジティブに考えよう!)

もうポジティブに考えないとやっていられないナイルだった。

 

・・・

『R-15側の北方にある廃墟都市に鉄血兵が多く出没しているとの情報を得てね』

『なんらかの鉄血の作戦、あるいは工場の建造の可能性があるので調査してはどうかと』

 

「うーん。パス」気怠そうに回答するアクセル指揮官

(はぁ?マジかよ)回答への返答に困るナイル。

 

「女の子達とイチャイチャする時間が減るし」

「てか、アニキがやっちゃっていいっすよ」

欲望に忠実なところは揺るがないアクセル。

 

(コイツマジか?よくグリフィンの指揮官やってられるな…)

『うちでやってもいいが、解決したらうちの管轄にしてもらうけど大丈夫かね』

 

「あ、いいっすよ」即答、業務に興味が無さそうである。

(それでいいのか?グリフィンもこれでいいのか??)

一応、言質は記録しておくナイル。

 

『それと非合法都市の闇市、あれがR-15のそばにあるので治安悪化で迷惑なんだ。あれも廃墟同様うちで対処して構わないかね』

「オッケーオッケー、いいですよ」手をパタパタ振って話を終わらせる。

副官のリーは、作戦は共同ですべきです。再考を。としきりに訴えているがどうも指揮官はやる気はない様である。

 

これ以上は意味もないので最低限の挨拶をして通信を切る。

切り際に、次回パーティーがあったら呼んでほしい旨要望されたので、機会が有れば必ず呼ぶ旨回答した。

とりあえず副官のリーには頑張って生きてほしいと思う。

 

・・・・

続けて、ヘリアントスに通信を送る。

 

「ルース指揮官、一週間ぶりくらいか。貴様と一週間顔を合わせないとなんとも言えないが心配だ」言外に、お前はほっとくと何するか分からんと言われている。ちょっと失礼じゃなかろうか。

鉄血の情報とアクセル指揮官との約束を伝えて了承を取る。もちろん確証の映像録画も送る。

 

「ふむ。了解した。両者の約束の履行を許可しよう」

 

ついでに、

大丈夫なの?ねえ?あいつが指揮官でいいの?とやんわりと問い詰める。

 

アクセル指揮官も昔はやる気に満ち溢れていたのだが・・・とボヤくヘリアントス。

やってもやっても終わらない戦いに心がすり減ってしまったのだろう。とのこと。

(知らんがな。仕事なんだからキチッと働けだ。あとそれ読み間違えてるよ多分。ありゃあ生まれ持った素質だな)

 

用件は済んだので通信を切ろうとするが、

 

「まあまて、貴官は精力的に動いているが特に問題は無いのだな?」

やはりヘリアンは何か気になるようだ。

 

(しつこいな、もう!)

『全く、何一つ問題はありません。何ら就業規則を破る様なこともしていません』

全く人の事を何だと思っているのだ。心外にも程がある!

 

なら良いのだが、如何にも嫌な予感がするんでね。とブツブツ言っている。

 

(故郷のオカンかよ。ヘリアンさんは案外いい母親になりそうだな)

なんて思っていたが母親の前に結婚が絶望的なのを思い出して考えるのをやめた。

 

「まあ無理はするな。何かあったらすぐに連絡しろ」と子供に言うような言葉で締め、通信を終了するヘリアントス。

 

(まあ、任せてくださいよ。すぐに借金完済してしっかり結果出しますから)

 

・・・・

『よし、とりあえずR-14の廃墟と闇市の対応を考えるかな』

前途は明るいぞ。頑張っていこう!

 

・・・・

本日の回収 100万円

残りの借金 875万円

ナイルの財布 変化なし

 




ナイルさんのサイドビジネス、軌道に乗りそうですね。
でも、円満には終わりそうに無いですが(笑)
まあ、今回は露骨であからさまなフラグ回という事で(笑)

ただ廃墟の探索も闇市の攻略も人員不足なんですよね。
どうするかな〜
悩み中です

R-14基地の指揮官 アクセル・フォーリー
ご覧の通りの人物。入社時は女癖は悪くなかった模様。
しかし、美人戦術人形に囲まれた生活によりその女癖の悪さが開花。
それを基地内で止めるのは副官だけだったため、ブレーキが効かずここまでエスカレートしまっていた。
能力はあるはずなのだが・・・・

R-14基地の副官 リー・エンフィールド
ゲーム内同様真面目な性格ゆえアクセルの所業に頭を悩ませている。
彼女が副官を降りたらR-14基地は崩壊するだろう。
アクセルもそこは認識しているので、副官を続けている。
ただしその心労は凄まじいようだ・・・・


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18.招かれざる客(本社所属小隊紹介あり)

第三局地戦区どうですか?
ミノ以外の敵は片付けられるようになりました。
ミノあいつはマジ嫌いですわ。
と思ったけど、ギリ倒せるようになった。
キモはライフルのタゲリセットと手動発射なんやね。
ごめんようちのシノちゃん、悪口言って。
俺という指揮官がクソやったんやね(泣)


新しい部隊を出します。
本社基地所属の部隊です。
これからどう絡ませようか悩み中。
部隊を多くすると人形一人当たりの密度が薄まるからなぁ。
悩ましいところです。

本社基地 第11中距離支援小隊
【挿絵表示】

HG:ウェルロッドMkII (隊長)
SMG:FMG-9
RF:PSG-1、M21、OBR

相変わらず、陣形効果最悪・・・
そこはご愛嬌という事で(笑)

この物語のキャラや設定はフリー素材です。


R-14基地との連絡から10日程経ったある日の事。

天気も良く過ごしやすい良い日だった。

 

 

『アストラ、前方のターゲットまでの情報をお願いします』

ハンドガン人形のアストラをスポッターとしているのはスカウトライフルをもつライフル人形のスカウトだ。今日は二人で任務を行なっている。

 

「目標までの距離は500m、気温18℃、風は・・・・」

と狙撃に必要な情報を伝えていく。・・・通常は。

しかし、どこか上の空でスポッターを務めていたアストラはうっかり考えていた事が口に出てしまった。

 

「指揮官、私のこと好きなのかな・・・」

わずかな呟きであったが隣の人形には確かに伝わっていた。

それを聞いてしまったスカウトは集中しかけていた狙撃動作を止めてしまった。あまりに想定外の情報が追加されたため、それも致し方ないとも言える。

 

スカウトはアストラの方を向き、

『トレフォイル・・・」(空耳かしら)と続けようとしたとき・・・・

横のアストラの頭が弾ける。

一瞬何が起こったかわからなかったが、力なく崩れ落ちるアストラを見て素早く身を隠す。

 

(カウンタースナイプ!)

 

スカウトは素早い身のこなしで、狙撃スポットを移動していく。狙撃者の位置は概ね掴んでいる。

位置を変えて、身を晒すと同時に狙撃するカウンターをこちらも狙う。ライフルタイプの戦術人形としては、負ける気がしないし負けられない。

自身のライフルの有効射程を少し超えているが、烙印で繋がっている半身のライフルで外す距離ではない。確実に敵スナイパーのバイタルエリアに着弾させられる。

 

(よし!)

気を込めて身を晒すと同時に敵のスナイパーへサイティングを行い引き金を引くその瞬間、相手の銃からマズルフラッシュが出ているのが見えた。

(回避!)と考えた瞬間、自身の頭部に衝撃を受け眼前が原色に染まり、体が後方にスローモーションで倒れ込む。

(トレフォイル・・・これが・・死なのかしら・・)

それがスカウトが感じた最後の思考だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

『スカウトにアストラ、なんてざまですか』

目を覚ましてすぐにかけられた言葉がそれだった。

目の前には残念そうに言葉をかけてきたエルが腰に手を当てて立っている。眉間に皺を寄せてこの結果に本当に困っている様子。周りには第二小隊の面々も来ているが、それぞれどのように声をかけたら良いか悩んでいる様子である。

 

『連続10回のスナイプを成功させる訓練の筈でしょ』

今回の狙撃訓練は、第二小隊長のエルが新たに考えた戦術の実験であった。

第二小隊はSG1人、MG2人、HG1人、RF1人の5人編成だが、問題はそのRFの特性が合いにくいことである。スカウトライフルはHG人形並みに機動力があるライフルだが、射程や威力、射速はライフルの中では決して高くない。なので持ち前の機動力を生かすためHGのアストラと組ませ鈍重な本隊から離れて機動的に動き中距離支援する運用を考案したのだった。

肝はアストラとスカウトの呼吸である。HGとRFの2人となり防御力が皆無となるので敵を早期に発見攻撃して素早く転戦する動きが必要となる。

今回はそのフィールドテストの日だった。

 

より実戦形式で緊張感を出すためにエルがカウンタースナイパーを買って出ていた。予定通り7回目までエルに一度も撃たせずスカウトたちの完勝。エルの全身はカラフルに染まり訓練用ペイント弾の痕跡に溢れている。

ところがどういう訳か8回目から2人の動きはチグハグになった。M14を装備したMG人形にすらカウンタースナイプが出来てしまう程度に、である。

結果ラスト3戦は連続で全くいいところがなく負け。

その理由は前述のアストラの呟きにあるのだが、皆の前で本当のことを言うわけにはいかない。黙っていると眉間に皺を寄せているエルから強めの言葉を掛けられる。

『帰ったら二人は私と反省会です!』

 

反省会の言葉を聞き、アストラとスカウトは渋い顔になる。エルの反省会、それがどれくらいしんどいものになるか考えたくも無かった。

 

『それと新たな戦術は無期限で凍結とします』

 

まあ元気出して頑張ろうよ。と第二小隊の面々は伝えてくるが、原因がわかっている2人は只々どんよりと落ち込むだけだった。

 

そんな折に、エルのPDAに通信が入る。どうやら指揮官からの通信のようであるが訓練中の通信は珍しい。

通信のやりとりを終えてエルが小隊の全員に声をかける。

 

『指揮官から緊急任務が入りました。全員完全装備でバギーに搭乗。アストラとスカウトは模擬弾からの変更を忘れないでください』

『みなさん、それでは出発!』

電動バギーは目的地に向けて軽快に走り出していった

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

エルたちが緊急任務に出発する少し前に基地司令室に一般通信が入っていた。

ちょうど、副官と休憩でお茶を飲み始めたタイミングだったので、2人で顔を見合わせる。

グリフィンの通信は機密情報が多いので強度の高い暗号通信で行われる。基地と作戦中の人形の通信は短距離の比較的強度の低い暗号通信が使われるが、一般通信などはまず使われないため非常に珍しい。

 

指揮官が通信を繋げると、一方的な通信が入る。

 

「メーデー、メーデー、メーデー、こちらグリフィン第11中距離支援小隊、グリフィン第11中距離支援小隊、グリフィン第11支援小隊」

「エリアR-15 アルファスリーにて多数の鉄血兵に追われ西へ敗走中も振り切れない。支援を要請する」

「メーデー、メーデー・・・・」

グリフィンの部隊による遭難信号だ。通常は作戦中の暗号回線で行われるがなんらかの理由があったのだろう。

相当な緊急事態と考えられる。

 

作戦連絡から詳細は不明もS地区で大規模な作戦が行われていることは分かっていた。

恐らく、その作戦支援に出ている部隊が敵に捕捉されR地区方面に敗走したのだろう。

(作戦地域から離れすぎたため、回収部隊の展開が間に合わなかったのか?)

何にしてもグリフィンの部隊だ。放っておくわけにもいかない。

 

通信内容を聞き急いで準備をする。

場所から考えるとうちの基地が一番近い。電動バギーで15分程度の距離だ。

外部で訓練中の第二小隊のエルを呼び出し急行するように指示を出す。

続けて、第一小隊を至急呼び出す。5分とかからず小隊が司令室に完全武装で集合する。

「本社の支援部隊が敵に食いつかれ全滅寸前だ。第二小隊と共同で部隊を回収し即離脱せよ」

本社基地の部隊は地区名を付けない慣習があるので、今回の通信相手は本社部隊である。

 

「了解しました。しかし基地の防衛戦力が無くなりますが」92式が至極当然の疑問を確認してくる。

 

『近場なので大丈夫だ。緊急時はG36Cと籠城するさ』

あまり論理的ではない回答をするナイル。

 

「・・・・分かりました。すぐに終わらせて帰投します」

92式は納得してはいないが致し方なしと判断する。しかしリスクを減らすために長く留守にするつもりもないようだ。

 

それでいい。

『では頼むぞ』

 

「「はい。出発します」」

いい返事だ。

 

ナイルとG36Cも不足の事態に備えて完全装備にて指揮を取る。

ナイルはM4にブローニングHP、G36Cは自身の半身とブローニングHPである。ちなみにG36CはR-15基地に配属されてからサイドアームをブローニングに変更している。理由は気分的にとの事だが、人形達の間では指揮官と同じにしたんだろうと噂されている。しかしその噂について、本人は頑なに否定している。

指揮官が大好きな事は全く隠せていないのに何故そこだけ否定するのか、皆ニヤニヤして見ていたりする。

話が逸れたが、基地の防護扉類を全て閉じて施錠する。これで仮に敵が攻めてきても十分時間を稼げるだろう。

 

・・・・

その頃、第11中距離支援小隊は鉄血兵の猛攻にさらされていた。

何とか身を隠し敵の撃退を続けながら耐え、隙を見て後退をかける。しかし倒しても倒しても押し寄せる敵に食いつかれ足が止まってしまう。

足の遅いライフルを主体とした部隊のため近距離の敵を薙ぎ払うこともままならない。

 

「ええっと、やっぱ……笑えないな。この状況」赤いノースリーブの制服にブラウンのスカートそして白のニーハイソックス。毛先にいくほど紅に変化する茶色のロングヘア。少しきつめの目つきだが明るい性格なのはライフル戦術人形の M21 である。この隊の盛り立て役でもある。

 

「仲間は傷つけさせません!」銀髪ポニーテールで黒灰色を基調とした服およびタイツで身を固めるのは同じくライフル戦術人形の PSG-1 である。おっとりとした控えめの口調ではあるが、しっかり仕事をこなしている。

 

「ここで一生懸命頑張れば、あたしの借金も……えっ?あっ、なっ、何でもないです」売り飛ばされて嫌々戦場に来たかのような言葉を発しているのはライフル戦術人形の OBR  である。ブロンドの肩までのツインテールの可愛らしい少女である。ビキニのような見せブラ、パンツのホックを外して下着をチラ見せしといたりと、セクシーさをさりげなくを通り越して文字通り全開でアピールしている。

 

ライフル人形達は鉄血兵の弾丸が掠める中、射撃しチャンスを見て後退しているが脚の鈍重さから効率は上がらない。接敵距離も近くスコープ無しで射撃可能な距離となっており、ライフル人形の狙撃能力が活かせない苦しい状況である。

 

残り2人は、隊長でありスポッター役の ウェルロッドMkII と近接戦闘の護衛役の FMG-9 である。

敵の距離が近いためウェルロッドも陽動としてFMG-9と共に鉄血兵の足止めを行なっている。

「隊長、敵に見つかって殲滅できません・・・」

「勝利を求める信念と犠牲の覚悟があれば・・・・」

両名ともRF人形を庇っているため、敵の弾幕に晒されるリスクが高い。身体のあちこちから擬似体液が流れており、無視できない負傷が見て取れる。しかし2人の陽動が止まれば小隊は即全滅するだろう。少しでも長く死ぬまで踊り続けるしかないのだ。

(ダメか。最後にかけた救援要請も空振りでしたか・・・・)

 

「隊長、もう弾も切れます。牽制も不可能になります」FMG-9からタイムオーバーのお知らせが届く。

『奇遇ですね。私も同じです』ウェルロッドも残弾と体力の限界に近づいていた。

 

もう本当にダメだ・・・と観念した時に、鉄血兵を側面から猛烈な弾幕が薙ぎ払う。

目の前の鉄血兵達が次々と文字通り鉄屑に成り果てる。

 

「R-15地区所属の第二小隊長のLWMMGです。」

「貴部隊の回収に来ました。急ぎ後方のバギーに搭乗してください。」

 

短距離通信の相手を見ると、全身を七色に染めている。

思わず吹き出しそうになるが、それこそ訓練中に取るものもとりあえず急いで来てくれた証だろう。

『ありがとう。心から感謝する』

『第11中距離支援小隊は撤収。後方のバギーに急いで搭乗せよ』

鉄血兵による釘付けから解放された人形達は急ぎ後方のバギーへ搭乗する。

 

一方、第二小隊の方に敵が食いついたため、第二小隊の撤退が難しくなる。

文字通り前方の敵は大量で、抑えるので精一杯である。

 

その時、横に新たなバギーが到着しバギー上から鉄血兵へクロスファイアが浴びせられる。第一小隊達だ。

「エル、支援するので後退してください」

「イングラム、PPS-43、お願いします。出し惜しみしないでください」

 

「92式、ありがとう。第二部隊牽制射撃を加えながら撤収」

エルが部隊の撤退にかかる。

 

「いけいけぇ!」

「ウラー!」

と掛け声とともに第一小隊より複数のSG、HEが投げ込まれる。

大量の煙と爆発による土煙が鉄血兵の視界を遮り、エラーを発した鉄血兵が動きを止める。

その隙に、任務を完了した第一小隊と第二小隊のバギーは華麗に戦場から撤収していく。

 

煙が晴れる頃には、グリフィン人形の部隊は影も形もなくなっていた。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

『・・・・・』

グリフィン人形達は気づかなかったが、一連の撤退作戦を冷静に見ていたものが居た。

それは、白と黒を基調とした女性の姿をしていた。

戦場に似つかわしくない楽団の指揮者のような装いのそれは一目で人形と分かる。

何故なら、身体が浮遊し周囲に飛行型小型砲を複数携えているからだ。

 

SP65 Scarecrow 鉄血工造製のハイエンドモデルである

 

スケアクロウは楽しんでいた。

落伍したグリフィン舞台をすり潰し生捕として拷問を加え情報を抜き取って遊ぶ予定だったのだ。

それがどうした事か、突然手際良く目の前から消失したのだ。

その過程で「R-15基地」なる聞き慣れない単語が飛び出していた。

グリフィン部隊が戦場で使用する短距離通信は暗号強度が高くないため、鉄血のハイエンドモデルには解析が可能だ。

R-15とは近くの基地なのだろう。一般通信で救難信号を送っていたのは確認している。発信から約10分、来た方向から考えるとここから西方。当たり付けは簡単だった。

 

『・・・・・』ガスマスクを付けた彼女の表情や呟きの内容は分からない。

(新しいオモチャを見つけた・・・・)

(準備して遊びに行こう・・・・)

 

ナイル達に新たな脅威が目を向けた瞬間だった。

 

・・・・・

 

基地に撤収した第一、第二小隊の隊長と、本社基地第11中距離支援小隊長は司令室に集まっていた。

「ーーーーー」ウェルロッドから経緯と状況報告を受ける。

『状況は理解した。修理装置と宿舎と食堂および娯楽施設の使用は許可する。後は許可なく動かぬように』

『ウェルロッド以外は退室を許可する。修理をしてこい』

 

さて、ウェルロッドは怪我が酷いので早く用件を終わらせよう。ヘリアンを呼び出す。

 

・・・・

「本社部隊の救援を感謝する」

画面の向こうのヘリアンから、珍しく感謝を述べられ変な気持ちになるが、冷静に続ける。

 

『本社部隊の帰投はどうなりますか?』

 

「うむ、S地区の大規模作戦が継続中である。しばらく帰投は難しい」

「二週間ほどそちらに待機を要請する。所属部隊と同様に使用しても構わない」

 

うーん・・・・

『なんなら、我々持ちで本社に送りますよ』不機嫌な顔で返すナイル

 

画面の向こうのヘリアンは眉をピクリと動かす

「何か不都合でもあるのか?」

 

『ええ、中途半端な関係の連中が混ざると士気に影響します。』

『任務ならまだしも、よくわからない理由で居られるのは迷惑ですね』

『送りますよ』

横でやりとりを聞いているウェルロッドはなんとも言えない気持ちになるが、ナイル指揮官の感覚も理解はできるので自身の気持ちは飲み込む。

 

「こちらの受け入れ人員と移動手段を割くのも惜しい」

「R-15基地待機を指示する」

 

(指示と来たか)

『分かりました。命令として承ります』

『ただし、戦術人形としてではなく客人として扱います。よろしいですね』

ナイルはこのような中途半端が嫌いである。部下と作り上げたこの環境に毒にしかならない異物を混ぜたくないと思っていた。

 

「結構だ」と即答するヘリアンであった

 

・・・・・

通信を終了してヘリアンは何とも言えない顔をする。(何事もなければいいのだが、ね)

S地区大規模作戦もほぼ成功で終了しそうである。

頭を切り替えそちらの後始末に意識は変わっていた。




反省会の一コマ

怖い痴女「スナイプが突然失敗したのはどういう訳ですか。正直話しなさい」

大食いHG「隊長・・・指揮官は私の事、好きだと思いますか??」

怖い痴女「(ビクッ)そ、それは・・・・」(指揮官は私の・・・・)

腹話術RF「トレフォイル、エル隊長がタジタジだわ」

・・・・

カカシさんに目をつけられちゃいましたね。
私は、エリートの中でカカシさんが一番好きなんですよね。
でも、カカシって書くと、なんかナルトの上忍の印象が強くて、
頭の中で『む〜〜〜』ってなるんですよね。
難しい。


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19.風の前の塵

第三局地戦区終わりましたね。
ステージ8で遅れたので、16%で終了でした。
自分的にはまあまあの結果ですかね。
ミノの野郎め〜。


今回はナイル指揮官の副業に関する間話ですね。

なんか、組織的な話ばっかりですみません。
やっぱり鉄砲でバンバンやる戦闘回の方がいいですかね?
ナイルさん、苦境ばっかだとつまらないっすかね?

需要があるのかわからなくて、ちと不安です。

本作のキャラと設定はフリー素材です。


ナイルがR-14基地のアクセル指揮官と会話をしていた頃

 

とある大きな街のアッパータウン。

非常に広大な土地を所有する企業I.O.P.社である。

I.O.P.社は鉄血工造とシェアを二分する自立人形製造会社であったが、胡蝶事件により鉄血工造が文字通り消滅してしまった為、現在では世界一の人形製造会社となっている。

技術力、製造能力、供給能力どれをとっても他社を圧倒的に引き離す会社である。

そのI.O.P.社の技術の中枢に16Labと呼ばれる組織がある。ここは社の最先端の研究を行う組織であるが、その実1人の人間に大きく集約されている。その人間はペルシカリア女史であるが、現在の第二世代戦術人形の基幹部分と言えるエッチング理論による烙印システムをつくら上げたのが彼女と言われている。

 

そんな、16Labの中である会話がなされていた。

「ペルシカリア主席研究員、最近の鉄血工造の汎用人形も改善が進められているようですね」

「擬似体液のナノマシンの改善により命令に対する反応向上と複雑な行動パターンに対応できるようになっていますね」

それでも我が社の戦術人形の足元にも及びませんが。と胸を張り笑顔を作る。

 

(そこは胸を張るところじゃないだろ、君)と思いながらデータを受け取る。

確かに、色々な工場で近年製造されたロースペック人形のデータが並んでいる。

(未だにこんな基礎的データを取る研究などしてたのか?)と疑問が過ぎる。

 

『君、このデータはどこの誰が取得したものかな?』と問いかける

 

えーと、と即答できない若い担当に

『データは信頼性が肝心だ。出所は必ず確認する癖をつけるように』と諭す。

 

担当は上司に呆れられてしまったと感じ、名誉挽回するべく青い顔をしながら急いで調べる。

「わ、分かりました。人形整備用の診察台による自動計測データです」

 

『診察台?うちの会社の製品の診察台か?」

そんな事あるのか?あれはI.O.P.人形向けの製品だぞ。他社製品の研究に用いるには粗すぎて使う研究者は居ない。研究であればもっと高性能な装置を使うはずだ。

もちろん計測データに誤りがあるわけではないがもっと効率の良い装置を使った方がより詳しく取れて良い。と言うだけだ。

 

「ええ、間違いはありません。診察台による計測データの収集記録のものです」

胸を張る若い担当だが、収集経緯の不自然さに気づかない事が残念極まりない。

突っ込んでもしょうがないので流して確認する。

 

『どこの診察台か分かるか?』

 

「はい、えーと・・・グリフィンのR()-()1()5()()()()()に貸与されたものです」

「かれこれ20体を超える解析が行われておりますね」

 

グリフィンの前線基地で20体?

擬似体液の測定をするには破壊を最小限にする必要がある。何故ならバラバラに破壊してしまえは体液は失われるからだ。

オイルの純度データからも極めて損傷が少ない事が分かる。

鉄血兵と戦う前線基地で、意図的に損壊を抑えて破壊した鉄血人形を基地へ持ち帰り、擬似体液を抜いている。

何故?・・・・では体液を抜いたその先はどうする?バラすのか?バラしてどうする?

意図してバラしたなら・・・ブラックマーケットへの部品転売???

人形売買は規制が厳しいが、部品は比較的自由だ。少なくとも犯罪ではない。

本当にそうなのか?

・・・・

R-15基地の指揮官に興味が湧いていることを自認する。一度話してみたい。

しかし社の立場もある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

R-13前線基地は城下町が形成されている大きな基地である。

 

優秀な指揮官が着任すると地域の鉄血が掃討され工場などの生産設備も排除される。そうなると比較的安全となり多くの人が基地周辺に移り住む。もちろん居住権などなく非合法にである。そうなるとグリフィンも住民の囲い込みに入る。防御壁を建造して居住権を設定し税を取る。このようにして前線基地周辺に都市が形成され育って行くこととなる。

R-13基地もこのような経緯をたどり急成長している街である。

指揮官はローズマリー・ムーン。20代前半の女性上級指揮官である。

 

ローズマリーは貧困街の出身であるが、幼少の頃より知性の高さが認められグリフィンの奨学生として会社が出資する学校に引き取られている。まあものは言いようで親が子供を売り飛ばしたとも言える。

学校は普通の教育を行なっているが、成績の振るわない子供は退学させられる。退学した子供に行き場など無くその先に真っ当な生活などない事は明白であった。なので皆必死にしがみつく。

ローズマリーは学校を非凡な成績で卒業し、10代半ばで指揮官見習いとしてグリフィンへ入社していた。

その後も順当に成績を残し、20代前半で上級指揮官という異例中の異例な出世をしている。

 

しかし、近年街が大きくなるにつれてテロ攻撃が増えて頭を悩ませている。

人権団体、人形人権団体、反グリフィン団体、これらが合流しているので総称として「反グリフィン連合」と呼ばれている

最近は簡易自律ロボを自作して無人自爆テロを行なっている。ロボなので知性が無く人形とは異なるのでこれら連合も使用しても良いらしい。(全く都合のいい話だ)とローズマリーは思う

先日も自律ロボによる銃撃からの自爆攻撃により50人近い死傷者を出している。

しかしこれ以上は街の統治者としても許容は出来ない。

まずは自律ロボに転用可能な()()()()()()()()()()に目を光らせる必要があると考えていた。

 

域内には人形販売業者のドールハウスがあるが、この会社の役員連中はローズマリーの子飼いとなっている。

そう考えると無茶はしないだろう。まあ一度社内を洗濯させる必要はあるが。

(まずは()()()()()()()()()()()()()()()()()

「悪行を働く人間は絶対に許さないからな」

 

・・

・・・

・・・・

 

ヘリアントスは焦っていた。

別になんて事のない一日の筈が、16Labの主任研究員(優秀な知人)からの連絡とR-13基地の上級指揮官(優秀な部下)からの立て続けに来た通信により、どエライ一日に変わっていた。

色々考えるが、どうにもならない。自分の責任の範疇をゆうに超えている事を自認する。

(社長に判断を委ねるしかない)との結論に早々に至る。

 

・・・・

ビルの低層部に大きな部屋がある。この階はエレベーターのボタンにも無い社長の執務室があるフロアである。

社長室は高級ではあるが大分控えめな調度品により飾られている。分かる人間が見れば腰を抜かす金の掛けようである。

ヘリアンは社長の執務机の前で頭を深く下げていた。自身の管理不行き届きについてである。

 

しかし、社長は笑っている。ただ一言をその笑いに追加する。

『番犬を使え・・・』

ヘリアントスはただ「了解しました」と返すのみだった。




猫耳研究者「R-15の指揮官は面白いな。会わせろよ」

合コン常連「あいつはやめとけ」

猫耳研究者「なんや?恋人に狙ってんのか?」

合コン常連「そんなわけあるか!」

猫耳研究者「じゃあ、私が狙うか?」

合コン常連「っ・・・・!」

( ̄▽ ̄)ニヤリ

うん。筆者はペルシカさんも好きなんやで。

ナイルさんどうなっちゃうの?
やられてまうのかね??

所属する組織に目をつけられたらあかんですよね。
ナイルさん、強く生きてくれ。


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20.準備万端

新人形のAR-57をゲットしましたぞ〜
はははっ。見たまえ!資材と製造契約がゴミの様だ!
・・・
ふー。早く出てよ〜早く。ボソッ

実は筆者の推しメン筆頭はAR-15なのですよ。
知らなかったでしょ〜。(`・∀・´)
(知るかボケって言葉は勘弁で(笑))

なんでAR-57は是非我が基地にお迎えしたかったわけです。

この物語のキャラと設定はフリー素材です。


R-15基地に第11中距離支援小隊が回収され2、3日した頃の事。

 

某所某基地。此処は鉄血工造の主要工場である。

人の住んでいた街の一部が派手に破壊され、歪な形の建物へと変わっていた。

鉄血の人形は暴走により人間を絶滅させる命を受けている。すなわちそれは鉄血陣営に人間は一人もいない事を意味している。

何がどうしてなのかわからないが、建物の外観も内部構造も人間の感性から理解できないものとなっている。鉄血人形に最適化しているからなのか人からするとどこか気分が悪くなる居心地の悪さを感じる。

工場の周囲の街は破壊され人の気配は無い。いや、もはや人とは呼べぬ老若男女問わず多くの動かぬ人だったモノが大量のオブジェクトとしては存在しているが。

 

工場内部の一角で、鉄血工造エリート人形のスケアクロウがフヨフヨと浮かびながら忙しなく動いている。

それを見た別の人形が何かに夢中になるスケアクロウを見て気になったのか声を掛ける。S地区での敗北で新素体で復帰したばかりで少し暴れたいようだ。

『なんだよスケアクロウ。何か楽しいことあんのか?教えろよ』

 

ピタリと動きを止めたスケアクロウは話しかけられた相手をじっと見て考える

スケアクロウが見ている相手は、同じく鉄血工造のハイエンドモデルSP88 Executioner。

黒髪ロングではあるが短パンで男勝りな性格、ちなみに一人称は俺である。性格に合わせてか武装も近距離特化だ。大型ハンドガンにあらゆる物を叩き切るブレード、そして格闘に用いる右手の鉤爪である。鉤爪は通常の手の二倍くらいのサイズの無骨なメカメカしい外観であり鋭い爪がつけられている。人間は当然のこと戦術人形の主骨格すらも容易く切り裂きその握力は人形の頭蓋骨格も容易に粉砕する。

素体も耐久性に優れておりI.O.P.の戦術人形でも足止めするのは容易では無い。先のS地区大規模作戦では最終的には破壊されたものの活動停止までに何十体ものグリフィンの戦術人形を屠っていた。

 

「エクスキューショナー、面白いオモチャを見つけました。R-15前線基地なるところです」

「私1人で遊びに行こうと準備しています」

エクスキューショナーの問いに真面目に答えるスケアクロウ。

 

『なんだよ俺も連れてけよ。グリフィンの人形共々人間をぶっ殺したいんだよ』

スケアクロウのお楽しみプランに相乗りする気満々のエクスキューショナー。本人的には遊べるならどこでも誰でもいいらしい。

 

(冗談じゃありませんわ。私が見つけたオモチャを横取りされるなんてごめんです)

「お断りします。ここは私一人でやらせてもらいます」

「調査の結果、隣のR-14基地なるところも見つけております。そちらに向かったらどうですか?」

スケアクロウは楽しみを取られたら堪らないので、たまたま見つけた隣の敵基地を代わりに紹介する。勝手にそっちで遊んどけ。との気分だ。

 

『お?何?別口があるなら早く言えよ』

『じゃあそっちでリハビリしてくるわ。どっちがグリフィンの人形と人間の死体積めるか勝負だからな』

と人間が聞いたら卒倒しそうなセリフをニコニコしながら吐くエクスキューショナー。

素早くスケアクロウと基地の位置情報を共有すると、適当に準備を始めるのかどこかに消えていく。

 

よしよし、これでこっちはじっくりとR-15基地を味わうことが出来る。

皆殺しもよし生捕もよし、仮に生捕したとしても情報を吐かせた後は()()()()()()()()の姉妹が居るから処理も困らない。人形も人間も綺麗に食い尽くしてくれるだろう。

ゆっくり楽しもう。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

その日はどんよりと曇った日だった。

特になんて事はない1日の筈が、R-15基地では記録に残る日に変わっていた。

 

R-15基地にとって幸運だったのはかなり初期に敵の存在を確認できた事だ。

エル達第二小隊が訓練を兼ねた基地外の調査及び索敵に出ていた。先日のスナイプ失敗の問題ありエルが実践しながら指導していた。

『では、前方の双子の大樹を目標として設定して下さい』

 

了解とアストラが答え狙撃情報を集める。

「距離700、風速・・・・え?え?」

とまたもや怪しげな情報伝達となってくる。

 

『どうしましたか、アストラ?』また何かやらかすのか?とエルの眉間に皺が寄りつつあるがアストラからは見えないことは彼女にとって幸いだったのだろう。見えていたら先日の反省会の恐怖を思い出して、フリーズしてしまったかもしれない。

 

「エル隊長・・・鉄血兵です。しかも大軍・・・???」

こんな光景見たこともない。ありえない。視覚センサが故障したかメンタルや電脳がおかしくなったか、思わず簡易自己診断を掛けてしまったくらいだ。

もちろん異常無しである。何故なら本当に大軍が向かってきているのだから。

 

『っ・・・・第二小隊大至急帰投!』言われて双眼鏡を覗いたエルから鋭い声が飛ぶ。

それを聞き、小隊員は我に帰り電動バギーへ飛び乗り急ぎ出発する。

同時にエルは指揮官へ映像付き緊急連絡を入れていた。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

エルからの緊急連絡を受けたナイルは心の中でとにかく毒づいていた。

(はぁぁ?馬鹿じゃねーの?何大軍で押し寄せてるんだよ?もっとやることあんだろ?暇なのか?暇なんだろ?クソが!)

無駄な思考は本当に時間の無駄にしかならいので適度な所でやめるが愚痴りたくもなる。

圧倒的な物量を持って拠点をすり潰す。攻略の王道だ。多少の戦術などではひっくり返せない圧倒的な破壊。

それを敵、しかも人形にやられているのだ。

端的に言えばこの基地を完全攻略しに来た。相手が鉄血であることを加味すると全員皆殺しとなる。と言える。

 

こうなると出来る事は多くない。逃げるか城を枕に眠るかそんなところだろう。

逃げるか?無理だヘリもないしそもそもグリフィンの指揮官に基地を放棄しての逃亡は認められていない。戦闘の末の撤退は認められているが実質無理だ。囲まれたら退路などあろう筈がない。

ならば押し返すしかない。どうやって??

 

司令室には完全武装の第一小隊の他にウェルロッドにも来てもらっている

『・・・・・』(籠城しかないだろう)

『92式、籠城戦を行う。基地内の各出入り口や窓の防護シャッターを閉じて施錠。正門前方に土嚢で簡易陣地を作成して弾薬類も各部配置。土嚢には自爆用のC4も仕掛けておけ。ダミー人形も全て使用せよ。では準備開始』

『ウェルロッド、客人として扱うと言ったが申し訳ない。防衛戦を手伝って欲しい』自身の述べたことを自身の都合で曲げるのだ。頭を下げて頼み込む。

 

「構いません、ご協力します。準備しますので基地の人形と同様の権限を下さい。」鉄血に基地を陥落させられたら命が無いのだ。思うところはあるが快諾する。

 

『了解した。基地の人形として権限を解放する。ウェルロッド隊は屋上からの狙撃部隊として頼む。弾薬類は各自持ち場へ運び込んでくれ。FMG-9は正門防衛隊に合流させてくれ。弾薬類の補給は家事ロボにやらせるので設定などの準備はしてくれ』

伝えるとウェルロッドは了解と敬礼を返し、準備の為に退室する。

 

エル達第二小隊の帰任により防衛戦準備が捗る。

基地側面は高く頑丈な塀に囲まれているので、正面玄関の攻防が鍵になるだろう。第一、第二小隊でここを厚く守るよう指示する。

その隙にナイルは増援を依頼する。打てる手、切れる札は全て使用する以外に生き残る方法はない。

 

・・・・

基地の映像通信に上司のヘリアントスが映し出される。

「状況は確認した。こちらも貴基地が堕ちるのは困る。増援部隊は送るがしばらく時間がかかる」

「1時間半ほど耐えてくれたまえ」

比較的好意的に対応してくれそうだ。少しは先が明るくなる。

『ありがとうございます』(本当にこんな死地に送ってくれれば、だがね)

 

・・・・

続いてR-13基地へ連絡する。特に間を置かず映像通信がつながる。

『はじめまして、ローズマリー上級指揮官。R-15前線基地のナイル・ルースです。』

 

目の前の若い女性は

「ふっ。貴官の生放送は見ている。人となりも理解しているつもりだ」

「今日は急になんの用件だ?」

 

ーーーー(かくかくしかじか)』鉄血の大軍が向かってきてピンチな旨、増援をお願いしたい旨を伝える。

 

ローズマリー上級指揮官はピクリと眉を動かして考える

「ふむ、大軍となるとハイエンドモデルが動いているのかもしれない。増援を送ろうと」

と回答を受けたところで映像が乱れ砂嵐となり消える。

 

(なんだ?故障か?)

と思っていると、隣のG36Cから悲鳴のような報告が上がる。

「指揮官様、ジャミングです。長距離通信が封鎖されました!」

 

(クソ。もう来やがったか)

正直、相当焦っているが焦りを隠して全人形に短距離通信で一方的に伝える。

『皆、落ち着いて聞け。まもなく鉄血の馬鹿どもが遊びに来る。いつもの訓練通りやればいい。簡単な話だ』

『傍受の可能性があるから必要最小限の指示以外は無線を封鎖する。以上』

 

(後は耐えて耐えてチャンスを伺う他ない。皆頼んだぞ)

R-15基地の記録に残る熱い1日が始まるのだった。




なんか上手く書けない。
アップするまでコツコツ修正します。(泣)

スケアクロウの前線基地攻略戦はどうなることやら。
頑張って書き切るぞ。ノープランだけどね(笑)


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21.攻略戦?防衛戦?

AT-4のスキル、やっとこ上げ切った。
次はレベル上げですね。
第三局地戦区攻略のために緊急でスキルアップしてたのでスキル訓練資料がすっからかんですわ。
しばらくは貯めないと。
キツイ〜

なーんとなくやる事は考えているが、終わりが全く決められない。
小説の締めって難しいですね。最終回をイメージしないといけませんね。

防衛戦回です。

・屋上班
HG:ウェルロッド(班長)
RF:PSG-1、OBR、M21

・玄関班
HG:92式(班長)
SMG:イングラム、PPS-42、FMG-9
SG:サブリナ
MG:LWMMG、62式
AR:56-1式、FNC
玄関後方 HG:アストラ、RF:スカウト




R-15基地を潰しに来たスケアクロウであったが、戦力は相対するグリフィンに対して十分であり余裕があった。

『リッパーとヴェスピド、ガードとイエガーの部隊で波状攻撃で行きます』

 

グリフィンのみならず人間共を蹂躙するには物量が一番確実。

指示して後は待つだけ。お手軽な話だ。

その圧倒的な戦力差からの絶望に支配され心折れた者どもを皆殺しにするも生捕にして遊ぶも自由自在。

全ては戦力の優位をとること。グリフィンのR-15基地とやらは戦術人形は10人そこら、こっちは100体も準備すれば十分だろう。

(今日はその3倍の300体を連れてきましたわ。何がどうなっても結果は動かないでしょう)

 

『そうですね。グリフィンの指揮官は生捕にして下さいまし』

『指揮官の前で残った人形を破壊してあげましょう』

(ふふっ。絶望に染まった人間を徹底的に潰すのを見るのもまた一興)

スケアクロウは尊敬する()()()()()の口調を真似している。ハイエンドモデルを束ねる強く美しい姉様。きっと今回の作戦成功も誉めてもらえる。本当に楽しみだ。

 

・・

・・・

・・・・

 

『ウェルロッド、屋上狙撃班は動きが遅く防御力の高い敵や中距離支援を行う敵を優先して狙ってくれ』

『リッパーやヴェスピドは玄関の班が処理するので後回しでいい』『弾薬は限界があるから狙って行けよ』

 

「了解。玄関は任せますよ」と返すウェルロッド。いい仕事をしてくれるだろう。

 

玄関は門前に簡易陣地を作成して敵を迎え撃つ。

第二小隊のLWMMG(エル)と62式の機関銃を主軸にARの56-1式とFNCでフォロー、SMGとSG達で近接防御と牽制を行う。92式は通信と臨時の小隊指揮を担う。

『玄関の班はギリギリまで粘ってくれよ」

 

「お任せください。楽しんでやりましょう」気負いもなく明るい顔で返してくる92式。

ふっ、92式も真面目過ぎるところがあったが大分砕けてきたかな。いい隊長、いや中隊くらい任せられるかな。何にしてもこの戦いに勝たなければ全て意味のない話だ。

よし、部下の戦術人形達に負けているわけにはいかんからな。腹括ってポジティブに行こうか。

 

・・・・

戦闘の火蓋を切ったのは、屋上狙撃班だった。

敵はガードとイェーガーを一つの隊に纏めているので狙撃はしやすい。

PSG-1、M21、OBRの3名で呼吸を合わせて確実に落としていく、屋上からの有利な撃ち下ろしポジションであるため敵はカウンタースナイプも難しく、イェーガーも標的目標の如く倒れていく。

基地側面、後方からの侵攻もなく単調な攻撃が続いている。

 

簡易陣地の玄関班は押し寄せるヴェスピドとリッパーと相対していた。

機関銃の2名がリロードおよび高温となった銃身交換のタイミングをそれぞれのダミー人形とずらしながら射撃していく。

リッパーもヴェスピドもそれなりの運動性能があるため機関銃の銃弾を回避する個体があるが、SMGの牽制とARによる丁寧な射撃で確実に落としていく。

MG人形に迫る銃撃はサブリナが盾で防御する。

 

基地防衛の開幕戦はグリフィン側が余裕で守る展開でスタートした。

グリフィン人形側に余裕が生まれ部隊内で雑談が混じるほどである。

 

(スタートは狙いが刺さったか。これから鉄血がどの様に出てくるか。か)

(ハイエンドモデルが居るかもとのことだが姿は見えない)

(このまま終わるなら鉄血のハイエンドとやらもポンコツだな)

余裕をかますナイルだが、その判断は誤っていた事を痛感する事となる。

 

・・

・・・

・・・・

 

スケアクロウは驚くと同時に楽しんでいた

グリフィンのいくつかの基地を攻略してきていたが、どこも単調な物量をともなった波状攻撃で簡単に堕ちていた。

多少の抵抗を試みる基地もあったが、そのまま十分押し切れた。

人間の指揮官など無能。早く鉄血に皆殺しにされるべきだろうと思っていたところだった。

 

ところがこの基地はどうだ?頑強な抵抗で単調な攻撃はあっさりと跳ね返してきた。

(楽しい。本当に楽しいですわ。今日は色々連れてきておいて良かった)

(これからが本番ですわ。せいぜい楽しませて下さいまし。グリフィンの指揮官様)

 

スケアクロウは新たな兵士を呼び出し編成を追加する。

まだまだ手持ちの兵士は居るし、ハイエンドモデルの能力でそこらの野良兵を招集することもできる。

時間的制限があるわけでも無い。こちらの負けは100%あり得ない状況。

 

スケアクロウは余裕を持って楽しむのであった。

 

 




ちょっと短めですみません。
ここで一度刻ませて下さい。


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22.R-15基地攻略間近♪( ´▽`) byスケアクロウ

チマキ集めが捗らんな
うっかり周回忘れしたりね。

CUBE+始まりましたね。
当時の内容、全く覚えていない。(笑)
頑張っていきましょう。

読んでくれている人、ありがとうございます。
少しずつ上がっていくUAが励みです。

うん。やっぱりスケアクロウは可愛い。
R-15基地攻略も順調みたいですね。

今回は長めになってもうた。

この小説のキャラ、設定はフリー素材です。


スケアクロウのR-15基地攻略戦は順調とは言えなかったが楽しんでいた。

屋上からの狙撃と正面陣地の厚い弾幕と防御力。

(急襲したのに見事な対応ですわ)

(次からが本番。その対策を正面から潰してみせますわ)

 

・・

・・・

・・・・

 

『ウェルロッド、92式、被害状況はどうだ?』

 

「屋上班ウェルロッドです。被害は全くありません」

「玄関班の92式です。多少の被弾はありますが作戦継続に支障はありません」

屋上は有利な撃ち下ろしポジションで一方的な狙撃である。現時点では全く問題はない。

玄関も陣地からの機関銃掃射と各銃種の連携に大人数での対応なので十分余裕がある。

 

『よし順調だな。この調子で最後まで突っ走るぞ』

 

・・・・

R-15基地はまもなく第二波の攻撃に晒されていた。

特に一波から変わらない様に見えたが、屋上班が異様な敵を発見していた。

 

『指揮官、新手が現れました。重装甲のイージスです映像を送ります』ウェルロッドから新たな情報が上がる。

『みなさん、徹甲弾を使用して下さい』

 

ウェルロッドの指示がインカムの向こうから漏れ聞こえるが、

(まずいな・・・徹甲弾は質も数も少ないぞ。何とかなればいいが・・・)

 

屋上班のOBRはウェルロッドの指示を受けて、赤いテープが巻かれたマガジンへ交換する。

戦闘前に念のために支給されたM61徹甲弾を詰めたマガジンである。

M61徹甲弾はグリフィンでは以前より広く流通する一般的な徹甲弾であり、価格も比較的安く多量に使用されている。

しかし、近年の高防御化に対しては心許なくなってきているのは事実である。

真っ先に徹甲弾の準備が完了したOBRは狙撃ポジションにつき半身のセミオートスナイパーライフルでイージスを撃つ。

装甲を何とか貫通しダメージを与えているが、5~6発は当てないと斃せない。

 

「しつこいのは嫌いです!」

呟きながら3体目を始末したその時、イージスの後方より鋭い光が発せられた。

次の瞬間大きな衝撃と爆風を受けOBRは吹き飛ばされていた。

 

・・・・

狙撃ポジションより後方にいたウェルロッドは突然の衝撃で転倒したもののダメージは無かった。

『みなさん、大丈夫・・・』ですか?と続けようと振り向いた時、惨状が広がっており言葉を飲む。

 

『OBR!OBR!大丈夫ですか!!』後方まで吹き飛ばされ倒れているOBRへ駆け寄る。

吹き飛ばされたOBRは敵のカウンターを受け左腕が肩から消し飛んでいる。

衝撃と腕消失の痛みと混乱で「〜〜〜」と呻き声をあげてパニックになっているのか、痛覚カットと擬似体液循環の停止を失念してしまっている。

しかし幸いコアへのダメージはギリギリ回避できた様だ。

(よかった。早く修理装置へ運ばないと・・・)

ウェルロッドは人形の応急救護薬剤のインジェクターを取り出し、OBRの首筋に押し当て流し込む。

薬剤のナノマシンにより、痛覚カット、擬似体液循環の制限、メンタルの沈静化が処置される。徐々にOBRは落ち着きを取り戻し擬似体液の流出も停止する。

 

OBRの状況がひと段落ついたところで周りを見渡すと、PSG-1が同様にM21を介抱していた。敵の射撃の直撃は免れたものの弾着により弾け飛んだ厚さ30cmはあるコンクリート柵の破片が身体に直撃していた。コンクリート片により腰の主骨格(背骨)が押しつぶされ下半身が動かなくなっているようである。

幸いな事にM21はパニックにならず痛覚カットなど自身で処置を行なっていた。

 

ウェルロッドは敵の攻撃を受け最悪の状況になった事を急ぎ指揮官へと連絡する。

『指揮官、申し訳ありません。敵の自走砲の砲撃により屋上班は壊滅的被害です』

『OBRとM21の2名が重傷で戦闘継続不能。家事ロボに修復装置へと搬送させます。』

『私とPSG-1は軽傷ですので戦闘を継続します』

 

・・・・

屋上を砲撃したのは高装甲の自走砲のニーマム達であった。イージスの後ろに配置されていたためグリフィン側の視認が遅れ屋上へクリティカルヒットとなった砲撃が叶った。

スケアクロウはその報告を聞き、ほくそ笑む。

(ふふふ。あの五月蠅かった屋上連中を黙らせられれば玄関の制圧も楽になりますわ。ニーマム達は念のため屋上の増援を警戒、そこで待機なさい)各機とリンクし思念により指示を出していく。

そして玄関に対する次の一手をスケアクロウは手配する

 

・・・・

司令室には屋上へ着弾した音と衝撃が伝わっていた。直後ウェルロッドから緊急連絡が入り状況の悪化を認識する。

 

(クソっ!屋上がやられたのは想定外だ!)

ナイルは指揮をとりながら急ぎ修復装置へ向かう。資材が使われるため人間が装置を作動させる必要がある。

ちょうどメンテナンスルーム前でOBR達と合流する。

 

『OBR、M21、ご苦労だった。すぐに修理してやるからな』

ナイルが修復装置の準備していると、OBRが縋りついてくる。

(大怪我で不安なんだろうな)

『安心しろ。必ず助けてやるからな』気持ちを落ち着かせるために笑顔で声をかけ頭を優しく撫でてあげる。しかしそこへ想定外の返答が返ってくる。

 

「指揮官・・・安心・・出来ません」

「借金が・・・借金が・・増えてしまいます・・・」

今にも泣き出しそうな顔で借金が増える事を心配している様だ。

 

(はぁ〜?このクソ忙しい時に馬鹿言ってんなよ)

『お前な。()()()()()()()()()()()

 

その言葉を聞いてパーっと明るくなるOBR。

「本当ですか指揮官。あたし、何でもやります!」

ひどい怪我でしんどいだろに脂汗が浮いているが笑顔で語りかけてくる。

 

(なんだ?よく分からんがとりあえずさっさと修復開始して戻らんとな)

あまり司令室を空けるわけにはいかない。OBRとM21を修復装置に放り込み起動させて司令室に戻る。

 

急ぎ司令室に戻ると丁度玄関班から緊急連絡が入ってきた。

 

・・・・

ナイルがメンテナンスルームに向かっているころ、玄関班は苦境に立たされていた。

屋上班が壊滅したためガードやイェーガーも玄関に押し寄せてきており、他の兵への攻撃が困難になっていた。

屋上のPSG-1はチャンスを見て狙撃を行うが、ニーマムの砲撃を受けるため全く捗っていない。

 

「あの…この状況は…ヤバくない?」62式が呟く

「私だけでも、皆を守る!」エルが吠える。

倒しても倒しても押し寄せる敵に、防御力の高いガードに邪魔をされ後方からはイェーガーの狙撃が飛んでくる。

じわりじわりと敵最前列の距離が陣地に近づいてきている。

 

・・・・

(そろそろ基地へ後退するタイミングかしら)

92式は簡易陣地を放棄するタイミングを計っていた。しかし運はスケアクロウの方へ傾く。彼女の放った一手の方が僅かに早かったからだ。

鉄血の大型多脚戦車のマンティコアが二両が簡易陣地に突然現れて攻撃を開始する。マンティコアが現れた事で押し気味だった鉄血サイドに勢いが一気に傾く。

 

(この状況でマンティコアが追加されるのは想定外よ!)

(くっ。撤退タイミングを逸したわ)

『みなさん急いで玄関へ撤退します。イングラム、SGの投擲をお願いします』

『SGの発煙と同時にダミー人形を囮として残して撤退します』

『指揮官!敵部隊にマンティコア二両を発見。簡易陣地は持ちません。基地玄関へ後退します』

 

92式が陣地放棄の指示を伝えると同時にマンティコアが機関砲を斉射し始めた。凄まじい破壊力を伴う暴風が吹き荒れる。

グリフィン人形達は一斉に伏せるが機関砲弾が着弾し陣地の土嚢が爆ぜる。このまま射撃を受け続けると陣地も保たないだろう。

 

射撃がひと段落したタイミングを見計らって56-1式が立ち上がり半ば自棄っぱちとなってマンティコアに対してアサルトライフルを乱射する。

「武器が無くたって一歩も引かないからね!」

高威力な7.62mm弾の斉射によりダメージを与えてはいるが駆動停止には遠く及ばない。

マンティコアの機関砲が五月蠅く射撃を加えてきた56-1式へ向き射撃を加えようとしたその時、56-1式は押し倒された。

 

「痛たたた。・・・62式?ちょっと重いよ。どいてよ」

自身を庇った相手がライバルの62式だと分かり、しかもなかなかどかないためキツめに声をかけて押す。

しかし退いてくれると思った62式は、その場でドサリと地面に崩れ落ちる。

「?・・・62式?しっかりしろ!62式!!」

 

62式の体を揺する56-1式の手がベットリと擬似体液で濡れる。よく見ると左脇腹が機関砲により抉られ、ジャケットとセーラー服が擬似体液に染まっていた。

 

「何で・・・62式。だって私のこと・・・」

56-1式は今が戦闘中であることも忘れ、今にも泣きそうな顔で62式を揺すり続けるがグッタリと力無く倒れる62式から帰ってくる返事は無かった。

 

SGが破裂し、スモークに覆われて敵の銃撃が止まった隙に92式が撤退命令を出す。

『56-1式撤退です。急いで!』呆然としている56-1式が動かない事を見て、FNCへ指示を飛ばす。

『FNC、56-1式を連れてきて下さい。エル、62式をお願いします』

 

チョコ棒を咥えた小柄な少女がヒョイと56-1式を米俵を持つ様に担ぎあげ、56-1式の銃も持ちスタコラ引き上げていく。

見かけとは異なり戦術人形の胆力があるからこそ出来るが異様な光景ではある。

エルも62式と銃を担ぎあげ基地の玄関まで撤退する。

 

92式は全員の撤退を確認して指揮官へ連絡を入れる。

『基地玄関へ撤退完了。62式が重傷で戦闘不能、ダミー人形は全機喪失、62式以外はダメージはありますが継戦可能です』

『このまま玄関入り口に防衛線を張り死守します』

 

・・・・

ナイルは運ばれてきた62式を修復装置に入れその足で玄関まで向かう。

62式は機能停止寸前ではあったがギリギリ間に合った。ロストせずに済んだのは幸運だった

 

『もうすぐ増援が来てくれる。ここで一旦立て直し戦線を維持するぞ。最後まで諦めるな!』

『56-1式、62式は無事だ。安心して戦いに集中してくれ』

62式の安否を気にしていた56-1式はとりあえずの無事を聞きメンタルを落ち着かせる。

(62式、必ず勝利を届けるからね・・・。増援が来るまで必ず持ち堪えてみせるよ)

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

アストラとスカウトはエルに直訴していた。

両名は玄関班の後方支援だったためダメージは皆無であった。

「エル隊長、私たち二人で敵地深くに潜入して鉄血のハイエンドを鉄屑にしてみせます」

 

エルが進めていた新戦術のアストラとスカウトを本体から離れて遊撃する運用。

アストラの例の呟きによる失敗もあり、まだ実戦運用はしていなかった。

しかも、この極限状況下での一発勝負

しかも、本体から離れるどころでは無く二人きり(デュオ)での戦闘

しかも、大量の敵中への遊撃どころかほぼ潜入

正直、上手くいったら奇跡。しくじったら死亡確定。

 

『・・・認められません。危険過ぎます』

エルは隊員からの訴えを聞き、否定するも心は揺れていた。

危険過ぎる。けどこのままではジリ貧、緩やかな自殺に過ぎない。

増援が来る。来ないかもしれない間に合わないかもしれない。

 

(どうする?賭けるべきか?絶対無理だ。確実に死ぬところに部下を出せるか。いや、ここに居ても死ぬ。でも・・・)

思考はぐるぐる回るが答えが出ない。こんなことになるなら新戦術など考えなければよかった。

ふと思う。出身のS10ならどうしてただろうか。隊員は?指揮官は?

・・・考えるまでも無く答えは決まっていたので思わず吹き出してしまった。

(決めたよ)

 

エルは部下と共に司令室に入り、指揮官に伝える。

『アストラとスカウトをデュオで敵地に潜入させてハイエンドを討ち取らせます。許可を』

 

指揮官はゆっくりと部下を見て一言問う。

「アストラ、スカウト、決死隊になるが頼めるか」

「「任せて下さい」」即答の二人。変に気負っている様子も全くない。

(いい顔だ。こんな顔されたら任せたくもなるな)と思うナイル。

 

「分かった頼む」「カモフラージュマントが2枚ある。持っていけ」

指揮官は端的に伝えて、ウェルロッドへ連絡を取り敵勢力の薄いポイントを確認する。

「正面に対して8時方向が手薄だ。周り込んでハイエンドを探索して撃破しろ。撃破するまで無線は一切使用するな」

「裏口から出立後に扉は封鎖する。片道切符となることは覚悟してくれ」

 

「了解しました。必ず仕留めて(ハントして)みせます」スカウトが強く返事をする。

 

・・・・

準備が完了したアストラとスカウトは裏口から飛び出して、5mはある塀を軽く乗り越えてフィールドへと消えていった。

丁度、陣地に仕掛けていたC4を爆破し押し寄せていた敵と共に陣地が轟音をあげて吹き飛んだ、丁度そんなタイミングだった。

 




R-15基地ピンチ!
スケアクロウの攻略戦は成功間近。
アストラ、スカウトの凸凹コンビはスネーク出来るのか?

この戦いの結末はどうなってしまうのか?
次話でカタがつくかな?


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23.無茶苦茶な乱入者

CUBE+、終わらせました。
完全なるゴリ押しですが(笑)
毎回こんな感じ
【挿絵表示】


スケアクロウさん、攻略間近の模様です。
ナイルさん、大丈夫ですかねー。(すっとぼけ)

ワシ、関西弁がしゃべれへんので、ガリルはんの会話は大阪弁変換サイトを使ってみたんや。どや?
↑(これは筆者なりの関西弁です)

最近解った。ワシの小説は人形と指揮官の絡みが薄いからあかんのや。せやせや。
Q.絡みを濃厚にできますか?
A.出来ません。現状が作者の素体の能力の限界一杯です。。( ;∀;)

この話のキャラや設定はフリー素材です。


スケアクロウによるR-15前線基地攻略戦は終盤を迎えていた。

 

グリフィンの簡易陣地爆破処理にマンティコアが一両巻き込まれて玄関先で動作停止していた。

しかし残った一両が玄関まで詰め寄っており、玄関から見える位置は機関砲の射程内となっている。

マンティコアがサイズ的に基地内に入れないのは運が良かった。

グリフィンの戦術人形は玄関からさらに入った廊下や階段に陣取り建物内に侵入してくる鉄血人形を撃退している。完全にCQBとなっている

 

「指揮官、危険です。司令室に入っていて下さい」

叫ぶ92式が自販機を盾にレーザーサイトをつけた半身のハンドガンで応戦している。

突出していたガードがHS(ヘッドショット)を受けて崩れ落ちる。

 

『馬鹿野郎、司令室は目と鼻の先だよ。このままじゃ押し切られる』

『防戦するなら一丁でも多い方が良いだろ。それに若い頃は正規軍の前線でバリバリだったんだ。余裕だよ!』

 

指揮官と副官のG36Cも応戦に出ている。共にM4にG36Cとカービン銃を装備しておりCQBに十分対応できる。

しかし、ここまで後退してきた玄関班の人形達は気が気じゃない。

流れ弾が一発でも指揮官に当たったらタダじゃ済まない。

 

「副官はともかく指揮官は下がってください。昔は出来てたとかドラマでやられる役者の台詞です!こんなところで倒れられたら迷惑です!」92式がちょっと怒って返す。

 

『俺は子どもかよ…』ボソッと呟くが皆にバッチリ聞こえていたらしく、「今の今まで気づいてないのか?」との文字が貼り付いた顔や目を向けてくる。

(クソ。コイツら無駄に耳が良いと来たもんだ。)

その視線を見て、ちょっとしょぼんとするが絶対に後ろには引いてやらない。

 

「もう!指揮官は一度言い出したら聞かないんだから!本当に子どもね!」

「しょうがないからお姉さんの私が守ってあげるよ!」

サブリナがウキウキルンルンで盾を展開して指揮官の前に立ちはだかる。

「エル隊長ごめんね~。今日は私が指揮官に付きっきりだから諦めてね~」小悪魔的に笑ってエルを煽るサブリナ。

 

『・・・・』

(お前ら、このピンチになにやってんだよ・・・)

(まあ、ネガティブになるよりはマシだけどさ)

 

「・・・・」無言でジロリとこちらを向いたエルの眉間に深く皺が寄っている。

(あ、あれはかなり怒っている顔・・・)

(後で何か買わされたりとフォローが大変だから、もうそれ以上煽るのは勘弁してくれ)

 

突っ込んできた鉄血人形が数体、LWMMGの銃撃を全身に受けて粉々に吹き飛ぶ。

エルの八つ当たりを受ける哀れな鉄血人形達であった。

 

横にいたG36Cは俺とサブリナの間にずずいっと強引に入ってくる。

「指揮官様、私の後ろに下がって下さい」

いやお前、敵の銃撃じゃなくただサブリナから離したいだけだろそれ。

「指揮官様、お守りしますわ」と和かに話しかけてくるG36Cではあるが、明らかに思いは透けて見える。

 

『G36C、大丈夫だ。俺は一人でもやれるさ』

(これ以上燃料をくべてヒートアップさせるのはやめてくれ…)

 

指揮官との間に割って入られたサブリナはG36Cへ困った顔を向ける。

「もう!指揮官の盾になれないでしょ!」

「副官は防弾性能無いんだから邪魔だよ」

「前に出て自慢の機動性能を発揮して鉄血を翻弄してきなよ〜」空間の狭いCQBでは機動力を発揮出来ないのを分かっててサブリナがG36Cを煽る。

 

『・・・・・』

(ちょっと・・・・鉄血が攻めてきてピンチなんだからやめてくれ。)

今にも掴み合い殴り合いが起こりそうな状況に困るナイル

(ひょっとして、俺がいない方がチームワークはいいのか??そうなのか??)

この支部で一番要らない子は自分なのかもしれない。そんなふうに思考が飛びかける。

 

「・・・・」サブリナの煽りを受け、能面のようにG36Cの顔から表情が抜けているが目だけはギラついている。

 

(え?G36Cが怒るとこんな顔になるの?いや見たくなかった知りたく無かった・・・)

G36Cはセミオート射撃で鉄血人形の頭部とコアを撃ち抜き次々に始末していき、薄っすらと笑みを浮かべる。

(マジで怖いんですけど・・・・)

 

ちょっとサブリナさん、貴方この空気どうしてくれるのさ!

 

・・・・・

(くっそー押し寄せる敵が切れない。これはジリ貧だ)

徐々に追い立てられていきもう後が無い。

「最後まで諦めずに頑張りましょう!」92式が鼓舞する。

 

『そうだ!諦めたら試合終了だと昔の偉人が言っていたぞ』『とことん頑張ろう』

いよいよダメか。そんな事を考えていた時だった。

 

 

カチャ

 

トイレにでも入ってました的な雰囲気で廊下のドアを開けて女の子が出てくる。

白を基調としたブレザーのような制服に同デザインの丈の短いスカートに黒いストッキング。服全体やアクセサリに欠けた六芒星があしらわれている。

特徴的なのは赤いリボンに背中まで伸ばした桃色の髪、そして吸い込まれるようなハイライトの消えた紅の瞳はどこか狂気を帯びている。

 

機関銃のネゲヴを右手に持つ少女はダミー人形を4体従え、鉄血人形の方に何事も無いかの様に歩いていく。

呆気に取られていた鉄血人形が我に返りその間抜けな人形を撃ち殺そうと銃を向けた時、何がどうなったのか逆に撃ち殺されていた。

少女は笑みを浮かべ歩みを止めず玄関へ向かっていった。

 

・・・・

(なんなんだ?アイツは?グリフィンの人形・・・なのか??全く隙が無かった・・・)

(味方で良かった・・・アレが敵だったら・・・瞬殺されていた。勝てる気が全くしない・・・)

『味方、だよな?援護するぞ!』

指揮官の指示を聞き、固まっていた人形達は動き出す。

 

・・・・

ネゲヴは歩みを止めずに建物内の鉄血人形を皆殺しにしていく。

部屋から飛び出そうが、曲がり角で待ち伏せようが、数体で強襲しようが関係なく一方的に鉄血人形達は殺されていく。彼女の歩みを止めることさえ出来ない。

 

鉄血人形も建物内の異様な状況を受け侵入を踏みとどまり玄関で待ち受ける。ここなら扇状に開いた鉄血人形部隊とマンティコアで迎え撃てる。

 

仲間の断末魔である電子データが通信で多量に入っており、基地の奥で何かヤバイことがあったのは分かっている。

銃撃でめちゃくちゃに玄関は破壊されどこからでも入れるオープンな空間となっているので待ち伏せにはおあつらえ向きだ。

あの廊下の奥から何か来るのだろう。だが飛んで火に入る夏の虫だ。多対単、負けるわけが無い。

 

ネゲヴが姿を現した瞬間に射殺する。そう思った瞬間、ピンク色の何かが5個飛び出してきた。

ピンクの物体は扇状に開いた部隊の前に立つと同時にフルオートで射撃する機関銃(ネゲヴ)を横薙ぎに払い鉄血人形が一体も残らず全て瞬時にバラバラになる。

続いてマンティコアに5体で集中的に射撃を加える。

スペシャルな16LAB製の硬芯徹甲弾はマンティコアの装甲をまるで紙でも撃つように貫通していき、機関砲で応射するまも無くあっさり電脳とコアを砕かれただの鉄屑に成り果てる。

玄関の鉄血兵達はピンクの何かが現れてから3秒も掛からず皆殺しにされていた。

 

ネゲヴはそのまま建物の外に出たが、表の敵もガリル、TAR-21、Micro Uzi達によりほぼ始末されていた。

 

「なんや。全く歯応えがあれへん。肩透かしや」参ったと手を広げてガリルがボヤく。

「こんなんに追い詰められるなんてこの基地のやつらはまだまだやな。落ち着いた後にネゲヴが稽古つけてやったらどや?」

明るい栗色のセミロングヘアに黄土色の半袖制服を着るのはアサルトライフルの半身を使用するガリルである。

話さなければ綺麗系のお姉さんといういで立ちであるが、どういうわけだか彼女は関西弁であり会話をすると印象が180°変わる。とっつきやすい近所の姉ちゃんてな感じである。

 

「ネゲヴ隊長。片付きましたわ」TAR-21が合流したネゲヴに伝える。

格好は近未来的でぶっ飛んでいるが、話し方はお嬢様のようなTAR。そのギャップがどこか可笑しい。

 

「無事片付けたわよー。中々やるでしょ?」

豊満なバストをこれでもかと張って伝えてくるのはSMG人形のMicro Uziである。

側では、彼女の投擲した焼夷手榴弾により数体の鉄血人形が焼き殺されている。

エメラルドグリーンのロングなツインテールの可愛らしい小柄な少女だが、その名前とは裏腹にバストは全くMicroではない。

 

「私が居れば当然の結果、感謝してほしいものね」とネゲヴが返す。

相も変わらずハイライトの消えた目で淡々と告げるネゲヴだが、初めて見る者からするとどこかクセの強いキャラでまとまっている小隊であり、これでチームになるの?と不安を感じるものである。

 

「さて、屋上も終わりかしらね」

さっきまでの銃声が無くなり静かになっている屋上を見てネゲヴは呟いた。

 

・・

・・・

・・・・

 

少し前、グリフィンの増援が到着していた。

本社基地とR-13の増援が同時の到着だった。

ニーマムの砲撃を避けるため、スモークを撒きながらヘリが侵入して屋上の上にホバリングし本社基地のヘリからネゲヴ小隊が飛び降りる。それと同時にヘリが離脱する。

ネゲヴは建物内、他の隊員は壁伝いに降りて外の敵を倒しに向かう。

 

R-13のヘリは下に中型AmmoBoxを吊り下げており屋上へ投下すると同時にヘリからダミーを連れた人形が2体飛び出して行く。

二人はオレンジを基調とした派手な服の人形と紫を基地とした物静かな小柄な人形、カルカノ姉妹である。

カルカノ姉妹はAmmoBoxからMk211徹甲榴弾(APHE)をまとめたエンブロック・クリップを取り出し射撃の準備をする。

 

「妹にお手本を見せてあげないと!」姉のカルカノM1891が準備を完了して狙撃に向かう。

「作戦計画?聞いたことありませんが。まぁ、とりあえずいきましょう?」妹のカルカノM91_38も興味無さそうに姉について行く。

 

『二人共、敵の自走砲が狙っています。危険です!』ウェルロッドが狙撃するために歩いて行く二人を見て注意を促す。

真顔で心配するウェルロッドに明るい姉は「きっと大丈夫です!」と笑顔で返す。

大丈夫じゃないですよ。と心の中で突っ込むウェルロッドだったが、その心配は杞憂に終わる。

 

狙撃ポジションに二人同時に着き、即ニーマムを狙撃し始末する。すぐさまボルトを操作してリロードしイージスも一撃で斃す。

それぞれ4体のダミー人形と合わせて10人のカルカノ姉妹がまるで踊るように敵を狙撃して行く。

APHEの威力もあるが、二人の人形の技量が高すぎる。ウェルロッドとPSG-1はただただ見ている事しか出来なかった。

 

10分ほどでカノシノの姉妹は狙撃距離の敵は概ね始末していた。直下ではガリル達が暴れている。

決して性能の良い素体ではないが、ネゲヴ小隊の隊員は練度が高く問題なく鉄血を始末していた。

 

成功寸前だったスケアクロウのR-15攻略作戦は、一つの小隊と二人の姉妹によりあっさりと押し返されてしまった。

この想定外の乱入者の無茶苦茶ぶりに、鉄血陣営は大いに混乱に陥るのだった。

 




次回で基地攻防戦終わりそうですね。
頑張って書き上げますぞ。

がしかし、仕事がやばくアップが遅れそう。
テンパイ通り越して一発ツモ状態です。
お待ちいただければ幸いです


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間話.P38課長代理の日常

なんか、書いてみた。
メインの話を止めちゃってすみません。
出来上がって思ったが、なんだこれ?需要はあるのだろうか??

読んで下さる皆さんのおかげでモチベーション維持しております。サンクスです。
これからもよろしくお願いします。

本小説の設定及びキャラはの私オリジナル部はフリー素材です。



ここはグリフィン本社。

多くの人と人形が共に働く財務管理課である。

この職場で一際目立つ儚げな美人が働いている。

向かい合わせに並ぶ机の島の窓側に、島が見える形で机が一つ置いてある。その離れの机の主人であるP38課長代理その人である。

 

机に座る彼女は端末に送られてくる連絡を確認している。

グリフィンの予算を引き受ける彼女のところにはあらゆる根回しや情報が送られてくるからだ。

(各地区予算配分案について)

(次期システム改修案予算案について)

(◯◯前線基地臨時予算申請書草案)

(I.O.P.社との共同開発予算案について)

(アンティーク品の新商品案内)

などなど。

 

課長代理は溜息を吐きながら一件一件目を通して行く。

 

(全く、会社の金だと思って気軽に送ってくるものですわね)

予算関係はどれもこれも自分の都合ばかりが透けて見える。

社の業績や躍進に関する考察が薄すぎる。この程度であればいっそのこと「俺のために金を寄越せ」と言われた方がまだ清々しい。

R地区のどっかのバカ指揮官のように。

 

(出来の悪い資料ばかりで憂鬱になりそうですわ)

やはりリーダークラスには経営の基礎知識を叩き込まないと話にならない。

少なくとも脳筋な現場の叩き上げには必須だろう。

 

そんな事を考えている課長代理はいつも通り美人ではあるが、ご機嫌斜めになっている。

微妙な差ではあるが課の人間や人形は皆大体分かっている。

こういう時はあまり近づかない方がいい。

遅らせることができる提出物は遅らせるに限る。それも大体皆分かっている。

 

しかし、残念ながらどうしても理解できないマヌケも一定数いる。

そういう奴に限って間も悪いもんである。

 

「課長代理!頼まれた資料、作ってきました〜」

威勢のいい掛け声を上げ、元気だけが取り柄です!的な入社2年目のシンジだった。

ハイライトの薄い目で課長代理がシンジを見つめる。

『拝見しますね』とだけ告げて資料に目を通す課長代理。

・・・・

ふ〜、と溜息を一つついて課長代理からダメですねと告げられるシンジ。

こんな日はチェックも厳しくなるのにあいつはマヌケだな。と課の皆は思っているがシンジには分からないようだ。

いつもより厳しく指摘されるが、シンジも若い男なもんでつい食いさがってしまった。

 

「課長代理、そうは言いますけど!これでも悪くはないと思うんですよね・・・・」

たいして覚悟も決めずに返した返事は綺麗に地雷を踏み抜くこととなった。

(あ〜あ、やっちまったなアイツ)課の皆の意見が完全に一致した瞬間だった。

課長代理は薄っすらと目を細めてシンジの言葉を正面から叩き潰しにかかるのだった。

 

・・

・・・

・・・・

約二時間。シンジが釈放されるまでにかかった時間だ。

資料の悪い点、シンジの理屈などを徹底的に論破され、雑な勤務態度などなどに及んだ説教にはぐうの音も出ない。

最後にはげっそりと別人の様になり「すみませんでした。以後気をつけます」くらいの言葉しか言えなくなっていた。

 

『シンジさん、私が厳しく言うのも貴方に期待しているからです』

『貴方を採用した私が間違っていなかったと仕事で証明して欲しいですわ』

どこか儚げな課長代理に言われ、へこんでいた気持ちも吹っ飛ぶ。やはりシンジは若い男なのだ。

 

『アスカさん、ちょっとよろしいですか』

「は、はいっ!」

シンジへの説教を聞かないふりして仕事していたアスカが課長代理に急に呼ばれてキョどる。

アスカと呼ばれた女性はシンジの一年先輩で教育担当だった。

他部署への予算教育も行なっており、ナイルを落ちこぼれ扱いした女性教官その人であった。

呼ばれた理由は『教育プログラムの再確認をお願いします』との事。

アスカの行なっているプロジェクトである社内の教育プログラム開発の実験をシンジの教育を通して行なっていたので、うまく回ってないところがあるもしれないとの事で総点検の指示となった。

完全にシンジのとばっちりだった。

 

・・

・・・

・・・・

シンジはアスカに連れられてリフレッシュエリアに来ていた。

『ちょっとシンジ。頼むわよ。あのタイミングで課長代理へ行くのは無しでしょ』

呆れ顔でやれやれとのポーズをするアスカ。

 

「いやでもアスカさん、、」シンジが反論するが、

『それもだよ。いやでも、じゃないよ。課長代理の地雷でしょ。それ』『いい加減覚えなよ』

アスカは完全に呆れ顔だが、シンジも納得はしていない様子。

 

「分かりましたよ。空気読めるように頑張りますよ」

何を言ってもダメなのだろう。シンジが諦めて折れる。

アスカも面倒のかかるしょうがない奴だと思い、シンジに慰めのジュースを奢ってやる。

 

その後は二人で軽く雑談を交わしていた。

 

・・・・・

「課長代理って、誰かと誓約(結婚)してるんですかね?」

シンジがなんとなくアスカに聞く。

 

『はあ?聞いた事ないけど。ただ多くの人が指輪を渡そうとして散っていったって聞いてはいるけど』

『重役の誰かのコレなんだろうってウワサだけどね』

アスカは左手の小指を立てて振る。愛人を意味しているのだろう。

 

「そうなんですか?・・・課長代理、美人で仕事が出来て大人で、すごく魅力的な女性ですよね」

シンジは考えこみながら話す。

 

『そう?女の私には分からないけどね。ま、どのみちシンジじゃ無理だから諦めときなさい』

なんすかそれ。と返して話は終わったのだった。

 

・・

・・・

・・・・

 

ある水曜日のこと、シンジはたまたま退社時に課長代理と同じエレベーターになった。

『・・・・・』

「・・・・」

 

話づらかったけど、思い切って声をかけてみることにした。

『あの、課長代理。よかったら一緒に晩飯食いに行きませんか?』

いきなり飯の誘いもどうかと思うが、ダメ元で勢いに任せようと思った。

 

「今日は予定がありますので無理です」

にべもなく課長代理は答える。

 

『そう・・・ですか・・・』

シンジはアスカから聞いた重役の愛人だという話を思い出していた。あっさり断られたんだ、本当にそうなのかもと思い始めていた。

(愛人ならしょうがないよな)

 

そのシンジの回答を聞いて、課長代理はチラリとシンジを見る。

(何か勘違いしていません?)P38は何か引っかかるのでさらに返事を返すこととした。

「今日は、ですよ。金曜なら空いていますがどうですか」

シンジの方を向くわけでもなく淡々と伝える。

 

『え?どう言うことですか?大丈夫って聞こえたんですけど』

課長代理の回答が空耳の勘違いかと思ってシンジは聞き返す。

 

「だから、金曜なら大丈夫です。定時後に行きますか?お店はお任せします」

ハイライトの薄い目で続けて淡々と答える課長代理。

 

ポジティブなのかネガティブなのかよく分からんのでシンジも少し困るが、成功には違いない。

『やった〜分かりました。行きましょう!店はどんなところがいいですか』

シンジは顔をパーっと明るくする。

 

「シンジさんの普段使いのお店で構いませんわ」「ではまた明日。お疲れ様」

最後に退社の挨拶を交えてエレベーターを降りて行く課長代理。

 

(やった!課長代理を飯に誘えたよ。二人だけで一緒行ってくれるってよ。奇跡だろこれ)

『イヤッッホォォォオオォオウ』

(金曜日が楽しみだぜーーー)

エレベーターホールで声を荒げる。居合わせた人や立哨の戦術人形にギョッとされるがお構い無しだ。

こんなことでテンションマックス、やる気があふれる単純な20代の男子なのであった。

 

 




シンジとアスカ、
某世紀末アニメから名前だけ拝借しました。
性格や設定は全く異なりますので悪しからず。


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24.デュオ

22話のアストラとスカウトの潜入の続きです。
スカウトさん、立ち絵は左利きっぽいですよね。
けどSDは右撃ち。
本小説では右利きとします。

時間が無く肉付けが甘々かも。
せっかくの見せ場なんですけどね。
読者様の脳内肉付けをお願いします(笑)


基地の勝手口からアストラとスカウトが飛び出してすぐに塀に取り付く。

後ろを見ると仲間によって「ガシャン」と防御扉が閉じられ封印される。もう戻る事はできないがそれは望んだ事。後ろを見るのはこれが最後だ。

 

(スカウトさんとはずっと訓練してきた。失敗もあったけど大丈夫。やり遂げてみせるよ!)

(必ず敵ボスのハイエンドを倒して帰任してみせるわ)

互いに目を合わせてうなずくポジティブなアイコンタクトを交わす。

 

中庭のこの辺りに敵がいない事を確認して、塀を一足飛びに駆け上がる。

二人での遊撃を見据えてずっと訓練してきた。狙撃や情報収集の基本の高台や高所を確保する訓練として崖登りや木登り、フリークライミングなどをやってきたから、高さ5m程度の塀なんて無いも同じだ。

 

・・・

情報の通り、基地のこちら側の塀の外は敵がいなかった。

すぐに塀から降りて基地から離れる。二人ともカモフラージュマントを羽織り敵から視認される確率を下げる。

可能な限り敵との戦闘を避ける必要がある。

敵の本体は12時の方向から来ているので距離をおきながらその流れを遡上していく。

時折、逸れ部隊なのか警邏なのか散発的に敵が現れるが、地形の窪みやブッシュなどのストラクチャーに隠れカモフラージュマントでやり過ごす。

 

稀に隠れている数メートル先を敵兵集団が通り過ぎる事もある。

カシャン、カシャン、カシャンと規則正しい足音が通り過ぎる脇でマントを被り息を殺す。

見つかったら即射殺されてミッションは失敗。息を潜める二人を緊張が支配する。

 

・・・・

足音が消えてしばらくしてアストラがマントから顔を出す。周囲に敵兵は見えない。

(ふー助かった・・・)

『スカウトさん、敵はいません。進みましょう!』

 

「了解。行きましょうか」

 

二人は素早く立ち上がりマントを羽織り直して、潜入を進める。

立ち去った後には何事もなかった様に虫の鳴き声が残っているだけだった。

 

・・

・・・

・・・・

 

さらに何度か敵との接触を躱して進んだところ、鉄血の臨時基地らしき物を発見していた。

アストラとスカウトは離れたブッシュから、双眼鏡で確認している。

 

『スカウトさん、敵の基地でしょうか?ボスもここに?』

 

隣で双眼鏡を覗いているスカウトも答えは分からないようだ。

「どうだろうね。それらしき人形は見当たらないわね・・・」

 

『奇襲をかけますか?』

ここにボスがいるなら早い話ではある

 

「かけるにしても、ボスが視認出来なければ攻撃は出来ないわ」

「見える限りで守備兵は5体、少なく見積もっても10体は居るでしょうね」

今のままでは攻撃など不可能だ。ボスを探さないといけないが、建物などの遮蔽物がありこの拠点を調べるのは簡単ではない。

 

互いのやり取りでアストラが疑問を口にする。

『10体・・・今までの敵の数からは少なすぎません?』

 

「確かに・・・じゃあここは本拠地では無いのではないか?本拠地でないならここは何かしら??」

 

『何でしょうか・・・ん?、スカウトさん右奥のコンテナの向こう、そうそう』

 

「あれは・・・大出力のアンテナ・・・と言う事はここはジャミング基地かしら!」

 

『ですね・・・此処にはボスは居ないと仮定して先に進みましょう。位置はマッピング済みなのですぐに戻れます』

 

「よし、この基地を迂回して進みましょう」

 

隠れながらの侵攻は精神疲労が激しい。ここなら楽なのにと思うが気力を奮い立たせて歩みを進める二人

 

・・

・・・

・・・・

ジャミング基地を越えてからは、敵との接触がほとんど無くなった。

恐らく、ここまで見つからずに潜入して来る者はいないと推定しているのだろう。二人の移動速度も早くなる。

 

・・・・

敵の行軍を遡上してきたその先に敵の本拠地があった。

鉄血の本拠地はただの原っぱであり、とても本拠地と呼べるものではなかったが。

空中にフヨフヨ浮き浮遊式の自走砲台を従えている。明らかにまともではない出立ちの黒を基調とした女性。

その前に100体弱の鉄血の下級兵士が整列している異様な風景。

 

『アストラ、あの人形・・・』

 

「ええ、まともじゃ無いですね。外観の色調やロースペック人形を使役していることからボスと見て間違いないですね」

鉄血のハイエンドモデルがモノトーンを基調とした外観なのは有名である。

鉄血工造が会社として機能していた頃から変わらないデザインである。デザイナーの趣味はなかなか良い。

 

ボスを視認した二人はブッシュに隠れる形でカモフラージュマントを羽織り伏せながら狙撃準備を進める。

いつもと同じ、狙撃担当のスカウトはスポッターのアストラへ解析を依頼する。

『アストラ、隙を見て狙撃します。情報をお願いします』

 

「距離は400m、気温18℃、無風で時折左から右へ2mーーーーー」狙撃情報を伝えていく。

 

・・・・アストラが情報を伝えてからもしばらく狙撃が行われない。

 

スコープから視線を外さずにスカウトが狙撃しない状況を報告する。

『ダメね・・・隙が無い。敵兵が邪魔で射線を確保できないわ』

『継続してチャンスを待ちましょう・・・』

 

「了解」

 

・・

・・・

・・・・

 

狙撃準備を始めてからどれくらい経っただろうか、鉄血の本拠地に動きがあった。

徐々に出発していたロースペック人形が、突然一気に全員行軍を開始したのだ。

ちょうど、前線基地で乱入者が大暴れして鉄血側の想定が狂ったタイミングだったが、二人には当然そんなことは分からない。

 

『アストラ、狙撃のチャンスです。情報をお願いします』

 

「分かりました。ーーーーー」情報を伝えていく

 

情報を伝えてさあ狙撃というときに、アストラはまた思わずつぶやいてしまった。

「私たちの基地に・・・何かあったのでしょうか?」

狙撃を失敗してエルに反省させられたあのときと同じ。それにそんなこと言われたら基地が心配にもなる。

 

スカウトに一瞬動揺が走るが、あのときと違って動作は止めず呟き返す。

『トレフォイル、またかしら』

今日のトレフォイルはスカウトの肩にオブジェクトの様に止まったままである。潜入のため飛び回る事は自重している。

 

しかし、この一瞬が明暗を分けた。

 

さあ狙撃。引き金に指をかけたときにスコープの中の相手の人形、スケアクロウと目が合った気がした。

(気のせい?・・・・な訳ない)

スカウトの目が大きく見開き、

『アストラ!回避!!』スカウトが叫ぶ

 

両名は素早く後退をかけて身を隠し移動を開始する。同時に隠れ蓑にしていたブッシュが爆ぜる。

ボスによるカウンター攻撃を意味していた。

 

スカウトはカウンター攻撃の結果を見て相手の攻撃を評価する

(精度は低い。遠距離は不得手。ならば距離のある今決着をつけるしかない!)

考えた直後にアストラから情報がもたらされる。

 

「周囲に敵性反応。囲まれています。接敵まで1分・・・いや30秒」

 

『・・・分かったわ。十分よ』

状況の悪化に対してスカウトは冷静に判断する。

 

『アストラは周囲の敵を警戒して足止めをお願い。無理はしないで』

スカウトは要件を伝えて移動する。

 

(エル隊長に負けたカウンタースナイプ。今度は負けない)

自身のロングに編み上げたツインテールのリボンを触る。

今日はエル隊長から頂いたターコイズカラーのリボンを結んでいた。

負けてロストなんて出来ない。

 

身を晒すフェイントをかけると、自走砲の弾丸が通り過ぎる。

狙撃ポイントを素早く変えながらスカウトは考える

(やはり精度が低い、方向は変わらない)

(勝てる)

 

『よし』気を吐くスカウト。そして意を決して飛び出す。

 

・・・・

飛び出し左右にフェイントのステップを刻む。相手の遠距離射撃精度を勘案してだ。

敵の方角も距離もバッチリ予測通り。

フェイントに掛かる形で相手の砲弾が逸れる。

 

スカウトは右足を踏ん張りステップにストッピングをかける。

集音センサが捉えた足が砂を噛む「ジャリ」っと言う音、電脳に伝えられる右足の負荷。ジャイロが表示する速度。

全てが速度ゼロを意味する瞬間に変わると同時に膝打ち姿勢に移行する。それとともに半身のライフルの肩付け、頬付け、サイディングを済ます。

 

サイトのクロスヘアは正しくボスの胸のコアに合致していた。

スカウトは躊躇なく引き金を引く。

 

「カシュッ」というサイレンサー付きのライフルから射撃音と衝撃が肩と頬に伝わる。

それと同時に相手の浮遊砲台が光ったのが確認できた。

次の瞬間、頭部に衝撃を受けて後方に吹き飛ばされていた。

 

吹き飛ばされながらスカウトは呟く。

『トレフォイル・・・今度は勝ったのかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされたスカウトは空を見つめていた。

 

(どんより曇った嫌な空ね)

ふと考えるが、考えられる事から死んではいない様だ。

素早く立ち上がり、半身の銃のボルトを操作してリロードし鉄血のボスを確認する。

(ハイエンドは・・・倒れている?)

 

いつでも射撃可能なように警戒しながら接近するが動く気配は無い。

真横まで近づきスケアクロウを見下ろすと、胸部のコアを完全に撃ち抜かれていた。

完全な機能停止を確認すると念のため動作できぬ様拘束措置を施す。これで欺瞞も防げる。

 

処置を施し一息ついたとき初めて勝利の気持ちが込み上げてきた。

(勝った・・・指揮官!作戦成功です)

 

戦闘と勝利の興奮が支配する義体。左頬をハイエンドの砲弾に抉られていた事にはアストラに指摘されるまで気づかなかった。

 




アストラとスカウトはデュオで見事にビクトリーロイヤル達成ですね。
アストラはまたやらかしましたが。(笑)

後始末は次回かな。


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25.実益を兼ねた趣味

こんばんは
皆様、CUBE作戦続けています?
私は四週クリアしたっきりですね。
人形発掘も済んでるしで、いまいちエネルギーが湧きません。

うん。スカウトさん可愛いですね。
差別化も込めてマイナー人形メインで進めていきますぞ。
(需要が無いとも言いますが(笑))

UAが少しずつ上がっております。モチベーションは読者様の皆様のお陰です。
しかし、需要があるんですかね?いまいちよく分からんです。

今回は長くなってしまった。
2話分くらいになってしまった。


敵の接近阻止のための時間稼ぎを進めていたアストラだが、突然鉄血兵が稼働停止したため肩透かしを食らっていた。

 

『あれ?急に動かなくなったけど・・・?』

不審に思ってスカウトの方へ向かうと、倒れたハイエンドを拘束しているスカウトが見えた。

状況からスカウトがハイエンドを始末したと認識し、スカウトに駆け寄る。

 

『スカウトさ〜ん。ハイエンド、倒したんですか!』

 

スカウトは振り返るとともに、

「そうね。なんとか・・・倒したわ」と返事を返すが、頬をざっくり抉られているのを見てアストラが驚く。擬似体液だってそれなりに流れている。一目で軽傷を超えていると見て取れる。

 

(痛く無いの?いや痛いよね?)

『ちょ、スカウトさん。ほっぺ・・・大丈夫ですか?』

動じていないスカウトを見て大丈夫なのか?と思うが、やはり大丈夫な訳がない。

『すぐ手当します』と伝えてスカウトが初めて怪我に気づいた。

 

「え?・・・痛った〜〜〜」

痛いけど今の今まで気づかなかったことが可笑しく、笑い出してしまう。

緊張と勝利の喜びに頬の痛み。全てが最高だった。

 

アストラが人形用の止血補修用の絆創膏をスカウトの頬に貼る。

なんか間抜けな格好に二人してまた笑い出す。

初めての大手柄に浮かれてユルユルになる二人。こんな姿をエル隊長に見られたら反省会待ったなしだっただろう。エルが居ないことが最大の幸運だったと思う。

 

・・・・

浮かれてすっかり忘れていた。鉄血のロースペック人形が残っていたことを。

『そう言えばスカウトさん、鉄血兵が稼働停止していました』

原因は分かりませんが。と続けるアストラ。

とりあえず確認しようとスカウトが答え、見にいくこととなった。

警戒しながらゆっくりと鉄血兵に近づく・・・

 

・・

・・・

・・・・

結論から言うと、ハイエンドのボスと接続されたままボスが倒されたため、エラーにより稼働停止してしまっている様だ。

折角なので先程アストラを囲んでいた10体程は射殺せずに稼働停止処理を行う。指揮官が()()()()が好きな事はR-15基地では有名な事だった。ハイエンドの上等な残骸(死体)と共に手土産に持ち帰ろうと思っていた。

 

そのためにも指揮官に連絡しなければならない。ジャミングの為通信が不可能なのでジャミング基地を破壊しに行く。

案の定ジャミング基地の鉄血兵も停止していた為、とりあえずこちらは一人残らずHS(ヘッドショット)で始末しておく。ジャミングを止めた瞬間実は罠で全員復帰しました。なんて事になったら目も当てられない。なのでとりあえず皆殺しにする。

全滅させたのちに、ジャミング装置を停止させる。

 

「鉄血のジャミング装置なんて初めて見るわね。アストラ、操作方法分かる?」

 

『いや、分かりません。・・・電源スイッチらしき物があるからとりあえず切ってみましょう』

躊躇なくポチっとスイッチを押すアストラ

 

「え、ちょっと・・・電源、切れたわね・・・」

ダミーの自爆スイッチとかだったらどうする。と言おうと思ったが結果的に電源が切れたので口をつぐむ。焦った自分が馬鹿みたいだ。

(スポッターの狙撃情報のときもだけど、素直だからなのか後先考えない行動は長所短所のどちらなのかしら?)

肝を冷やすのも嫌なので、できる事は極力自分でやろうと心に決めたスカウトだった。

 

・・・・

ジャミングが止まったはずなのでテストも含めて基地と連絡をとってみる。

『こちらアストラ、R-15基地、聞こえますか?』何度か呼びかけるが出ない。

まさか、間に合わず皆やられてしまったのか、と心配するがそれは杞憂だった。

 

直後に基地から返信が帰ってきた。

「こちらR-15基地。アストラとスカウト、応答しろ」

無線の向こうから指揮官の声が聞こえて安心する両名。

とりあえず、鉄血のボスを倒したので作戦終了の連絡を入れる。

 

『アストラです。指揮官ご無事ですか?こちらは敵のボスを撃破。ただ今ジャミング装置を停止しました』

『帰任と敵ボスの回収を行うのでバギーを出してもらえますか』

 

「了解した。ウェルロッドと増援で来たネゲヴを護衛兼残党処理で一緒につける」「ポイント情報を頼む」

会話の内容から指揮官が依頼していた増援が間に合い基地は無事だった様だ。よかった。

 

『了解しました。現在位置は-----』

現在のジャミング基地のポイントを伝えて回収のバギーを待つ。

 

・・・・

さて、待つ間暇なのでジャミング基地の探索を行う。

「ジャミング装置はバッテリー駆動式か。残量から見て丸一日は稼働可能ね。予備バッテリーも無さそうだし24Hでカタが付くと踏んでいたようね」まあ、判断としては間違っていない。

装置類は一式回収する事になるだろう。

 

『スカウトさん、補給物資があります』アストラから呼びつけられる。

アストラが見つけたのは鉄血製の人形用の高カロリーレーションだった。

人形専用の食品は人間には消化不能なので無意味なものである。誤食を考慮して人間に無害ではあるのが一般的ではあるが・・・

 

『食べてみますね』と言い袋を開けて齧りつくアストラ。食いしん坊は伊達じゃない。

 

止める間もなく齧り付くアストラを見て焦るスカウト

「え、ちょっと・・・。大丈夫なの?」

またかよ!と思うがさすがに止める間も無くならばどうしょうもない。

精神的に良く無いので本当に自重してくれと心から思う。

 

食べて瞬時に渋い顔になるアストラ

『マズ〜〜。何これ。もうちょっと味を考えようよ。エネルギー補給には最高だけど』

味は最悪だけど機能的には最高らしい。一応人間には無害な物の様だ。

余談だが人形には人間向けの毒見機能がある。人間への毒は基本的に人形には効かない。なので例えば人形と一緒に遭難した時に自然の物を口にするときなど人形が先に確認する事で安全に食すことが出来る。

まあ民生用であったとしても人形と一緒ならその様な不足の事態はまず起こらないのだが、なのに万が一に備えてなのかこの様な機能を付加するのは人間の性なのだろうか。

 

まあ、とりあえずこの辺りの物は後ほどジャミング装置と共に全回収だろう。

 

・・

・・・

・・・・

 

間も無く、回収の電動バギーが到着する。

ウェルロッドともう一人初対面の人形がいる。特徴的な桃色の髪にハイライトの無い紅の瞳のネゲヴだ。全身擬似体液を返り血として浴びているため有り体に言って怖い。

アストラとスカウトが固まっていると、ネゲヴが自己紹介を始める。

 

「ああ初対面で驚いたかしら。私はネゲヴ。本社基地の特務小隊の隊長よ。・・・・ん?どうしたのかしら?」

フレンドリーに挨拶してもまだ固まっている二人を見て首を傾げるネゲヴ。

 

その様子を見て思わず吹き出すウェルロッド。

「二人とも。取って食われる事は無いから乗って下さい」と伝えアストラとスカウトに搭乗を促す。

我に返り、二人は慌ててバギーに搭乗するのだった。

 

・・・・

鉄血の本拠地のポイントを運転する家事ロボに伝える。バギーは残党警戒のため低速で進む。

警戒中ではあるがアストラがウェルロッドへ雑談を持ちかける。

『ウェルロッドさんは本社基地所属ですよね。ネゲヴさんとも知り合いなんですか』

 

「ネゲヴ小隊はスペシャリストの集まりで有名ですから、本社基地でネゲヴを知らない者は居ないでしょうね」

「何度か行動を共にしたことがあるから、互いに知っています」

ウェルロッドが当たり障り無く回答する。

 

『スペシャリストの小隊と一緒に行動するなんて凄いじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

周囲を警戒しながら目線を合わさずに笑いながらアストラは答える。

それを聞いたウェルロッドは一瞬真顔になり答えに窮するも「そうかもね」と適当に返事をする。

 

「雑談はそこまでにしてきちんと警戒を続けなさい」ネゲヴが告げる。

そんな時にちょうどフリーズした鉄血兵の集団が現れるが、ネゲヴが淡々とHSをきめていく。

まるでオートマチックのピストルを撃つように機関銃(ネゲヴ)を振り回す。

 

「「・・・・・・・」」

あまりの非常識ぶり、あまりの凶悪ぶりに言葉を失うアストラとスカウト。

やっぱり初対面の時に感じた「怖さ」は本物じゃないか。と思う二人だった。

 

バギーの速度は一切変わることなく鉄屑の山の中を通り抜けて行くのだった。

 

・・・・

定期的に現れる鉄血兵をネゲヴが始末しながら進むと、鉄血の本拠地についた。

 

スカウトが家事ロボに指示を出しながら、スケアクロウの残骸に横付けする。

 

「アストラ、手伝って。鉄クズのボスを載せるわよ」

 

『了解です』

 

スカウトとアストラがバギーから飛び降り、手早くバギーへとスケアクロウの残骸を載せる。そこらに散乱している浮遊式砲台も見える限り回収する。

続けて、生け捕りした鉄血兵を回収に回る。

 

「ローエンドの鉄血兵まで持ち帰るの?」疑問に思ったウェルロッドが問いかける。

 

「まあ色々あるのよ」と積み込み中のスカウトが素っ気なく答える。

ふーん。とあまり納得のいっていない返事を返すウェルロッド。

 

全部積み込み、過積載状態のバギーは基地に向けて走り出す。

やれやれこれで全部終わって帰れるね~と笑顔のアストラだが、ジャミング基地もあるからまだまだ終われないよ。と返すスカウト。

まあそれでも一度帰れて一息つけるのは違いない。帰ったらまずは勝利の喜びを仲間で分かち合おう。そう心に決めるスカウトだった。

 

そんなときに、今度はネゲヴから雑談を振ってきた。

「鉄血兵の義体を集めるなんて珍しいわね」

 

『あーそれね。指揮官が・・・・』と言おうとしたとき、スカウトが止める

「アストラ、基地外の人に余計なことを言うのはやめなさい」目をつむりスカウトが淡々と述べる。

 

「ほほーん。隠し事ってことね」表情を変えずに答えるネゲヴ。その目はやはりどこか狂気に満ちている。端的に言って怖い。

 

「指揮官は基地外の人の心ないウワサで散々傷つけられているわ。自衛するのは当然でしょ」

「なにが知りたいのか知らないけど指揮官に直接聞くことね」

目を開けたスカウトはネゲヴの目を真っ直ぐに見て答える。譲る気も教える気も更々ない。と言外に伝える。

 

「・・・・・・」ネゲヴもこれ以上は特に無いようだ。

 

バギーの上は微妙な空気のまま基地を目指すのだった。

 

・・

・・・

・・・・

基地に到着すると、ウェルロッド、ネゲヴ、アストラ、スカウトの4名はバギーを降りる。

スカウトが家事ロボに「運搬までお願い」と伝え4人で司令室を目指すがスカウトは最後を歩く。

 

基地は玄関も廊下もめちゃくちゃに破壊されていた。

床は空薬莢と鉄血兵の残骸と擬似体液の海と化していた。

こんな状況でよくもまあ勝ったもんだと思う。

 

惨状に引き攣り歩みが止まるアストラとスカウトを見て、前の二人も歩みを止めて振り返る。

「どうしたの?こんなの地獄からは程遠いわ」

「これからも戦術人形としてやって行くなら覚悟することね」

とウェルロッドとネゲヴが伝えてくる。

二人はどれだけの地獄を見てきたと言うのか。なにか底知れぬものを感じるスカウトだった。

 

・・

・・・

・・・・

『アストラにスカウト、よく困難なミッションを成功させてくれた』

『鉄血のボスを仕留められたのは二人の活躍の賜物だ』

笑顔で褒める指揮官。司令室には小隊長の92式とエルの他にウェルロッド、ネゲヴ、カノシノの姉妹がいる。

『落ち着いたら、ボス暗殺成功パーティーでもやるか?』

指揮官がめちゃくちゃ喜んでいるのを見て、アストラもスカウトも嬉しい。

「指揮官、パーティーの約束忘れないで下さいよ!絶対約束ですよ!」アストラもスカウトも念押しを忘れない。それくらい開きたいパーティーだ。

 

『本社基地の小隊にR-13基地の・・・姉妹?我々への支援を心から感謝する』

『基地の惨状は見ての通りだが清掃は家事ロボにやらせる。基地の補修と守備は本社の多目的活動隊のクリスティーナ指揮官に依頼した。早速今日から入ってもらえる事になった。』

ヘリアントスにも状況は報告済みだ。他基地の人形には客人用の宿舎を使ってもらう事とした。

『では、本日は解散』

 

・・

・・・

・・・・

俺は皆が解散して行く中、部屋から出ようとした92式に声を掛けた。

『92式、時間あるならちょっと付き合えよ』

 

急に声を掛けられた92式は、なんでしょう?と返事をする。

いや趣味の時間だよ。早速見てみたくてさ。と伝えると一瞬嫌な顔をする。

 

けど、「本当は嫌ですけど、指揮官のたってのお願いなら仕方ありませんね〜」

と言い凄く良い笑顔を作る92式だった。

(いや、なにがそんなに嬉しいんだ??)

 

・・・・

メンテナンスルームの中の調整室に二人して入って行く。

調整室には機能を停止させられた鉄血兵が保管されているが、一体のハイエンド人形が診察台に寝かされていた。

胸のコアを撃ち抜かれて破壊されたスケアクロウだ。

 

「指揮官、この人形が鉄血のボスのハイエンドモデル・・・・ですか」

92式が緊張を露わにして聞いてくる。

楽団の指揮者の様なモノトーンの服装。ウェーブのかかったツインテールに何故か分からないガスマスク。

どこかまともでは無いそのいで立ちから圧を受ける。

 

『実物は初めて見るが、そうらしいな』

『人間に近い感じはI.O.P.の人形に似ているな。少なくともローエンドの鉄血兵とは明らかに設計思想が違うな』

うむーと興味を隠せなくなる俺。

 

「それで指揮官はこれをどうするおつもりで?」

 

『まあ、調査しながらバラして転売でしょ。高く売れそうだしね』

戯けて答える俺に、やれやれとの顔とジェスチャーを返す92式だった。

 

さてさて、今日はもう休んで後は明日にしようとそんな事を話した時に想定外の声が掛けられる。

 

 

 

 

「二人とも動かないで!伏せて頭の上で手を組みなさい」

突然現れた者が二人に銃が向けて投降を促していた。

 

 




ナイル指揮官、ピンチ?
相手は誰か、どうなることやらですな。


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26.指揮官、逮捕されるの巻

スケアクロウ攻防戦が終わったその日に何なんだってね。
波瀾万丈のナイルさんです。

早く日常やりたいんだけどね。
すぐ問題が起きちゃうんですよね。この基地。
呪われてるんじゃないのか?

ちょっと原作比でキャラ崩壊してるかもです。そこは御免ということで(笑)


「二人とも動かないで!伏せて頭の上で手を組みなさい」

 

銃を向けて投降を促してきたのはウェルロッドmkIIである。そして横にFMG-9もいる。

本社の第11中距離支援小隊の二人がなぜ?全くでは無いが不審な点は無かったし、マークもしていなかった。

 

黙ってやられるわけには行かないナイルが対抗するため動こうとしたところで再度動くなと警告をする。しかしナイルに注意が向いた隙に92式が半身のハンドガンを抜いていた。

 

「ウェルロッドさん、これはどう言うことでしょうか。前線基地指揮官に銃を向けるなど重罪です」

銃を構える92式が二人を睨みつけて問いただす。

我々の基地側からすれば明らかにまともでは無い敵対行為だ。

 

これに対してFMG-9が答える。

「この基地のデータはもう調査済みです」

「ナイル指揮官は鉄血人形部品を収集しブラックマーケットに流していますね。証拠は上がっています」

そのFMG-9による宣言にウェルロッドが付け足して行く。

「反グリフィン団体への利益供与、テロ支援行為、つまり反逆行為の嫌疑ということね」

「悪行はこれでお仕舞いです」

真顔で説明していく。

 

それに対してナイルは嫌味を込めて回答する。

『さてはお前たち、根暗な情報部の人形だろ?』

『これはこれは御内密な調査ご苦労様。だがしかし我々は合法の範囲内でやらせてもらっている』

()()()調()()()()違法では無いと分かると思うがね』

お前らの調査が雑なんだよ!と言外に込めて返す。

その言葉に合わせて92式から抵抗する圧が増すが・・・

 

カチャリとドアを開けてネゲヴが入ってきて機関銃(ネゲヴ)を二人に向ける。

「んふふふ、甘ちゃんたちが。基地の救援の他にウェルロッドの護衛も任務に入っているわ」

全身擬似体液(返り血)まみれでハイライトの無い紅の瞳、あの凶悪な戦闘力。それがこちらに銃を向けているなど恐怖でしか無い。

指揮官と92式の抵抗の意思が削がれる

 

仕切り直してウェルロッドが告げる。

「本件について社長の承認は取っています」

ナイルに書面を見せると同時に、92式に電子命令書を送信する。続けて92式に指示を飛ばす。

 

・・・・

電子命令書を受け取った92式は愕然となる。社長の強権がこの場に限りウェルロッドに移譲されていたからだ。

続けてウェルロッドから指示が来る。ナイル指揮官を拘束せよ、と。

嫌だ。私はしたくない。しかし最高度の命令には逆らえない。意思とは別に体が勝手に動く・・・。嫌だ嫌だ嫌だ!

 

92式は手に持つハンドガンを指揮官へ向けていた。

拒否する意思からか手が震えているのが見て取れる。こんな状態では撃っても当たらないだろう。

「指揮官・・・抵抗しないでください・・・撃ちたくありません・・・」

 

ナイルが92式を見ると大粒の涙をポロポロと流していた。

92式のどこか冷たさを感じる瞳に涙とともに哀しさが溢れている。

 

ナイルはウェルロッド達に顔を向けて睨みつける

(くそっ!ウチの92式を泣かせやがって・・・・)

(いや、泣かせたのは迂闊に事を進めた俺なのか・・・しかし・・)

ナイルは歯軋りするが92式までも失ったこの盤面でこれ以上は難しい。

両手を上げ降伏を示すしか無かった。

第二ラウンドで巻き返してやるさ。

 

・・・・

92式に銃を取り上げられて、後手に手錠をはめられる。

黙ってウェルロッドの事を睨み続ける。抵抗はしないがささやかな反抗くらいはする。

 

その態度を見てウェルロッドはゴミでも見るように見下し言葉を紡ぐ。

「ふっ。反抗的ね」

「92式、抵抗の意思があるようだから制圧しなさい」

92式に汚れ仕事をやらせるウェルロッド。92式が敬愛する指揮官に暴行せよと命じるとは、嗜虐的な趣味も持ち合わせているようだ。

 

「誰が・・・やるものですか。やりたければ貴方がやればいいでしょう。」

抵抗を見せる92式。

 

「ふふっ。私は貴女にやれと命じている。・・・もう一度言う。やれ」冷笑し見下すような冷徹な目で命令するウェルロッド。

何がなんでも92式にやらせる気らしい。

(こいつ…ハラスメントの基本を分かってやってやがる…)

 

人間も人形も嫌なことを強制されるとメンタルに支障をきたす。逆に目的意識と合致しているとスペック以上の性能を出したりもする。

この辺りは旧世紀から研究されており、例えば「首尾一貫感覚」などがその結果だろう。

一方、意図的にこのバランスを壊すことで精神を支配することもされてきた。古くからの拷問や洗脳がこれに当たるだろう。

何にしても、今現在は悪意をもって92式のメンタルを破壊しに来ていると言うことだ。

 

命令には背く事が出来ない92式はメンタルでは必至に拒否するも体は言う事をきかない。

大粒の涙を流しながら「指揮官ごめんなさい・・・」と小声で呟く。

92式はナイルの後髪を掴むとそのまま顔面をコンクリートの壁に叩きつける。

戦術人形が全力でやれば一撃で人間の頭部を粉砕してしまうため適度に手加減されている。しかし人間にとってはそれでも十分強い。

「ゴッ」と鈍い音がし指揮官の口から呻きが漏れる。ブチッと92式が握っているナイルの後髪の一部がちぎれる。

(がはっ。凄まじく痛え・・・)脳への強い衝撃で意識が飛びそうになり目の前がチカチカする。

 

「ふっ。足りないわね。もう一度」

 

「ゴッ」

 

「まだ足りない。もう一度」

 

「ゴッ」

 

三度目に叩きつけた時、ゴリっという感触が92式の手に伝わる。2回目で意識が飛んだナイルが多少なりの防御態勢も取れなくなりノーガードで鼻を強打し骨折した感触だった。

ナイルは掴まれた髪が千切れ解放されたが気絶しているためそのままずり落ちるように床に崩れ落ちる。壁にはナイルの体から漏れ出た血の跡が床までスジを作り残っていた。

 

指揮官を手にかけてしまった92式は心が折れていた。

目から力が消え焦点が定まらず体は震えている。口は「指揮官ごめんなさい」との呟きを壊れたレコードのように繰り返していた。

ウェルロッドから「ふふふ、92式さんご苦労様でした。食堂に皆が集まっているから貴女もそこに合流しなさい」

と命令され一人ふらふらと調整室から出て行った。

 

92式のメンタルを破壊し、自身のコントロール下に置けた結果に満足する。

今後、R-15の人形達が廃棄処分になるなら洗脳して情報部の手先にしてやるのもいいかもしれない。煮るも焼くも私たちの自由だ。

 

「さて、ナイル指揮官?あら?聞こえてないかしら??」

水を汲み気絶したナイルに掛けて叩き起こす。

「これから本社に連行します」

 

・・・・・

立たされて引き摺るように連れて行かれるナイル。

 

途中、食堂の前を通る時に中で監視されている人形達に声をかけられる。

怪我が辛いナイルは、『本社の誤解だ。嫌疑が晴れて戻るまで基地を頼む』と一言だけ伝えそのまま連れて行かれる。

副官も拘束されて連行される。首には行動阻害用の首輪が嵌められており会話は不可能。完全に自律した意思を喪失しており家事ロボ以下の機能に落とされている。操り人形のように命令されたままトボトボと歩かされている。

副官は抵抗したのであろう傷が全身についている。

(くそっ、G36Cまで…)

(全部俺の責任だが、この代償はただでは済まさねえからな)

連行される先での第二ラウンドでの巻き返しを誓う。

 

・・・・・

ヘリポートに着くと、多目的活動隊のクリスティーナ指揮官達と会った。

ちょうど彼女達が乗ってきたヘリでそのまま連行されるようだ。

 

「ナイル指揮官、事情は聞きましたが私はあなたの潔白を信じていますわ」とクリスティーナから声をかけられる。

 

『ああ、俺もそのつもりだ。すぐに戻ってくる。基地と人形の皆をよろしく頼みます』と頭を下げる。

 

そのまま数台のヘリにナイル、副官、破壊されたハイエンドと生捕の鉄血兵、それにネゲヴ小隊とウェルロッドとFMG-9を乗せ、すぐに本社基地に向かって飛びたったのだった。

 

 




食堂で待機の一コマ

紫HG「指揮官をやってもうた・・・陰険ウェルロッドいつか殺す!!」( *`ω´)

ツンデレSMG「ろくでもない人形遊びするからよ」ʅ(◞‿◟)ʃ

痴女「指揮官を信じるのみ」( ˘ω˘ )

大食いSG「指揮官は悪い人じゃありません!」o(`ω´ )o

幼獣「チョコ美味しいよぉ」∩^ω^∩


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27.第二ラウンド

イベントの間で中弛み中です。
あかんね。
4-3eを周回しないと(笑)

今回は本社でのお叱り会です。
どうなることやら。ですね。

投稿日の昼休みになんとか仕上げた。
肉付けも怪しい。生煮えチックですが御容赦お願いいたします。


本社の一室、周りがコンクリートに囲まれた殺風景な部屋。警察署の取調室の方がまだ綺麗だろう。

視界を塞ぐ頭巾を取られたらそんな部屋の少しゴツい椅子に拘束されていた。

目の前には汚ならしい机が一つ。対面する側には椅子があるが誰も居ない。少なくとも自分の椅子より座り心地はよさそうだ。

 

ふと横を見るとウェルロッドが手を後ろに組立っていた。眼を瞑っているところを見ると会話などするきは無いのだろう。誰かの到着を待っているようだった。

 

(なるほどね。これから尋問な訳か)

(これからの回答で俺の生死が決まるのね。ま、頑張りますかね)

(尋問官は誰なのか。殴る蹴るの拷問はやめてほしいけど)

そんな事を考えていると扉が開く。

入ってきたのはヘリアントス上級代行官だった。

 

マジか。正直やりづらい。

 

特に挨拶を交わすこともなく対面の椅子に座るヘリアントス。

こちらから見えない位置に書類が置かれているようだ。軽く目を通しているのが伺える。

 

書類からこちらに目を移して問うてくる。

「今日、連行されてきた理由は分かるか?」

特に感情も篭っていない。この尋問は甘くは無さそうだ。

 

『ええ。聞いております。部品の転売に対して身に覚えのない嫌疑を掛けられていると』

正直にオレは悪くないと言い張る。

 

「鉄血の部品を売り捌いている様だな」

『ええ。しかし部品は禁制品ではなく合法です』

 

「R-13基地の城下町では自立ロボによる自爆テロが発生している。お前が捌いた部品が使われたと疑っている」

 

『それは違うと思います。全てカタギの会社のドールハウスに渡っています。ドールハウス社には反社会団体に売らぬ様、確約をとっています』

『調べればすぐに分かると思いますよ』

 

「・・・・・」返す言葉に詰まるヘリアントス。

まさか正面切って言い返してくるとは思っていなかった。

「しかし、前線基地指揮官がそんな金儲けをやるのはどうなんだ!」

 

『どうと言われても、ヘリアントス上級代行官にお伝えし承認取りましたよ。ピザ屋さんなどで合法範囲内で借金返済のために稼ぐと』

「・・・・・」

 

『なんで、特に咎めを受ける様なことはしておりません』

「・・・・・」

 

なんだよ。本気でキチンと調べてなかっただけか?ウェルロッドのやつスクラップにしたろか?

とにかく難癖つけられる前にこの勢いに乗ってさっさと帰ろう。

『特にないなら、G36Cと帰ります。解いてもらっていいですかね』

「・・・・・わかっ」とヘリアントス言い掛けたところで、カチャリとドアが開く。

 

入ってきたのはグリフィンの社長、クルーガーである。

 

・・

・・・

・・・・

「社、社長。この様な所に・・・」と言いヘリアンが立とうとするが手で制す。

ウェルロッドは襟を正し敬礼をしている

 

「気にする必要はない。期待の新人がやらかしたと聞いてな。顔を見にきただけだ」と顔を緩めて話す。

『・・・・』(やばい雰囲気を感じる。ここは黙して流れるのを待つしかねえ)

 

「それでしたら、嫌疑は・・」とヘリアントスが言い掛けたところで資料に目を通していたクルーガーが言葉を発する。

 

「あー、これは問題だな新人。すぐには帰れんぞ」残念そうな顔つきで語りかける。

するりとヘリアントスと椅子を変わっている。

様子を見にきた?冗談じゃない。自らやりに来たんだろう。

 

『何か・・・問題でもありましたか?社長』

『合法の範囲内でやっております』と俺は言葉を選び答える

 

「ああ問題だ。副業は構わないが"グリフィンの指揮官"としての立場でやられては困る」

「社の立場を悪用して私服を肥やす。立派な規則違反だ。申し開きはあるか?」真顔で伝えてくる。

 

『元はと言えば社のために出来上がった借金です。指揮官としての立場で返しても問題ないでしょう』

 

「誰が社のために借金しろと命じた?貴様が自分の判断で勝手に使ったんだろう?」

 

この野郎。そこまで言い切るか。そこはグレーで構わない範囲だろ。

『確かに命令はありませんが社のために使ったのは事実です』

この理屈で押し切るしかねえ。それしかねえ。

 

「認められんな」

一言でバッサリと切り捨てられる。

 

(この野郎・・・)

理不尽に感じていたためか思わず睨みつけていた。

「ウェルロッド・・・足りなかった様だぞ」と話すと、ウェルロッドが申し訳ありませんと深々頭を下げる。

(こいつ・・・()()()()()を全部聞いて知ってやがるな)

 

そう思った時、丸太の様な鉄拳を横っ面に受けて椅子ごと壁まで吹き飛ぶ。

(が、がはっ)何が起きたのか瞬間分からなかったがどうやら社長に殴られたらしい。折れた鼻に痛みが響く。

 

「ウェルロッド、起こせ」ウェルロッドが乱暴に元の位置に戻す。

俺は左頬がガッツリ腫れている。

(痛え。人間の鉄拳ってレベルじゃねーぞ)

 

「ふむ、やはりまだ足らんか」

 

「ヘリアントス、次はお前がやれ」とヘリアントスに命じる。

「はっ」と回答して木の棒を持ち、俺のことを一発殴る。

(痛い・・・けどこれならまだ助かるわ)

 

「ヘリアントス、そうじゃない」「死んでも構わん気持ちでやるんだ」

ごくり、とヘリアントスが喉を鳴らす。

正直、凶器で人を殴ったことなどない。それを死んでもいい気で殴れと。かなりの無茶だ。

 

「ふむ、木の棒の時点で甘い。これを使え」と鉄パイプを手渡す。

(おい、バカ言ってんじゃねーぞ。おい)

 

社長に命じられたヘリアントスは鬼気迫る表情でナイルを殴る。

3発ほど思いっきり殴られたところで、まあそんなところだろう。とストップが入る。

(・・・マジで死ぬ)

 

・・・・

「前後したがナイル指揮官、貴様の言い分もまあ分からんでもない」

「部品転売業は認めよう。ただし会社に3割納めろ。それと仮に被害が出た場合は貴様が責任を取れ」

「あと、R-13基地の企業を使うならローズマリー上級指揮官にも話を通せ」

 

それと、と続ける

「ウェルロッド、貴様はR-15基地に転属だ。新人をフォローしてやれ」

「ただし現業務も兼務だ」

告げられたウェルロッドは想定外とばかりに目を見開くが、了解しましたと返す。

(クソッタレ。兼務だと?要は俺に対する監視だろう)

 

「ナイル指揮官、貴様には処分を言い渡す」

「処分は罰金だ」

 

『分かりました』

(よかった・・・死刑かと思ったわ。よかった)

 

目録を渡され、確認すると・・・

 

 

罰金・・・2000万円也

 

(冗談だろこれ、冗談だろ・・・)

ボロボロなナイルは天を仰ぎ呆然とするだけだった。

 

・・

・・・

・・・・

ナイルの拘束が解かれ、医務室に運ばれる。

今回の怪我は自業自得と言うことで、治療費は本人持ちとのこと。無茶苦茶だ。

 

ヘリアントスは社長の執務室に呼ばれ指導を受けていた。

『人間、窮地に立たされたとき動きが止まる者と、自ら人参をぶら下げて走る者がいるが、奴は完全に後者だ。』

『そういう奴はいい仕事をするが、慣れぬ内は得てして暴走する。うまく舵取りをしてやる必要がある』

『今回は尋問のOJT(実地訓練)を兼ねて貴様に任せた。まだ甘いが今日の訓練を忘れるな』

 

「はっ」と敬礼するヘリアントス。

(アイツにはちょうどいい訓練相手なってもらえたな)と社長はほくそ笑む。

 

『それと、アイツには何かにつけて借金を背負わせとけ』

『組織に縛るには丁度いい。縛りが無くなったら制御は出来なくなると思え』

 

「はっ」と改めて敬礼するヘリアントス。

ヘリアントスは社長のあまりな発言に顔をしかめる。

アイツはとんでもない人に眼をつけられたな、と同情する。

計画的に借金を負わされるなど地獄以外のなにものでもない。しかもその計画相手が自社の社長などと。

もはやなんのために働いているのか、意味が分からないだろう。

しかし、言われた以上やるしかない。

私は社長に期待されている。そう思いあっち側には行かないように気を付けよう。と心に決めるのだった。




あらら。また借金が上乗せされちゃいましたね。
ナイル指揮官は社長の思惑から逃れることができるのか。
乞うご期待ですね。


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28.やりすぎの後始末

おほっ。次のイベントはアストラちゃんの水着スキンですか。そうですか。
これは頂かない訳にはいかんでしょう。
頑張ってフレンドの皆さんにいいねしますぞ。

今回は後始末回ですね。
基地に帰ったら何をしようか。
悩みますな。


(あー何時だ??体中痛いわ眠いわでしんどい・・・)

本社の医務室で翌朝に目を覚ますナイル。完全にだらけたオフモードとなっている。

 

それもそうなるよ。

昨日は鉄血のボスの襲撃を何とか撃退したと思ったら、ウェルロッドに本社基地へ連行されるというダブルヘッダーですよ。

しかも92式に鼻は折られる、社長から強烈な鉄拳をもらう、ヘリアンに棒で何度か殴られる。

おまけに、借金は2000万円上乗せからの諸々の治療費自分持ちだ。

これでまともな会社だって言うんだから信じられないだろ。

 

というわけで今日は朝から本社の医務室でやさぐれ中だ。

今日くらいゆっくりしたってバチは当たらんだろ。

 

・・・

なんて考えていたら、

「指揮官様、お加減はいかがですか?」

「今日は休んだらどうですか?無理は体によくありませんわ」とG36Cが見舞いに来た。

自分だってしんどい思いをしたのに見舞いに来るなんて良い子だ。ほんと。

 

『G36C、君こそ大丈夫か?』

『昨日は暴行を受けたようだし行動阻害装置もつけられていた』大丈夫なのか?

G36Cの心配をするが、どうもあまりダメージは大きくないらしい。

 

「修復装置を使わせてもらいましたから、傷は完治しております」

「行動阻害の首輪も、無防備なメンタルを傷つけられなかったので、特に後遺症はありません」

その回答を聞いて安心した。要するに完治しているということだ。

 

行動阻害装置をつけられるとメンタルに対するファイアウォールがなくなり無防備になるので人形にとっては非常に危険である。

もし悪意ある電子攻撃や改ざんを受けると自身の消失や人格の改変につながる。

今回はそれに至らなかったので幸いである。

 

G36Cは本社に連行後にすぐに行動阻害装置が外されて軽い尋問を受けただけらしい。俺の回答や記録との齟齬が無いか確認された程度のようだ。指揮官との待遇の差が大きい。

 

「指揮官様のお怪我はひどいですね・・・」G36Cが悲しい顔で問いかける。

 

『ああ。思いのほか痛い。92式にやられたところが一番重症かな』

『とはいうものの、再起不能のけがはないから、日にち薬かな』笑って返す。

 

「92式さんがですか?何があったんですか??」

R-15の仲間と怪我が結びつかないので、頭に??を浮かべて聞き返す。

 

『ああ、ーーーー(かくかくしかじか)

ナイルの状況説明を聞いて、G36Cの顔がキリっと変わる。どうやら怒ているらしい。

 

「ウェルロッドさんが・・・・許せません・・・」

これはかなり怒っているな。

 

『まあG36C。今回ウェルロッドもR-15基地に配属となった。今回のようなことに至らないようにフォローして貰えるとのことだ。』

隠してもしょうがない。早く正しく伝えることが大切だ。

 

「・・・・・どういうことですか?」やばい。顔が能面みたいになりかけている。

「副官の私の力不足。もう不要ということですか??」引きつり笑いも起きかけている。

(これはやばいやつや・・・)

 

『いやそうじゃない。ちがうんだ。G36C君は優秀だ。ただ荒事に慣れている専門家をつけるってだけだ』必死に説明する。

(いやいやおかしいだろ。なんで俺がこんな説明してG36Cを納得させにゃあかんのだ。社長かヘリアンかウェルロッドが責任もってやれや。クソ)

 

「不要です。ウェルロッドなんて不要です」

「配属、お断りしてください!」

いや俺だってお断りしたいよ。心からお断りしたい。

けど社長直々の命令なんだからどうしょうもない。これを断ったら今度は殴られるだけでは済まされない。

 

『昨日の敵は今日の友だ。嫌いだから仲良くできませんと言うわけにもいかんからな』

『配属になった以上チームとして頑張って行こう』

配属はウェルロッドだけでFMG-9は帰任とのことだ。

まあ、あれだけやってくれたからな、タダでは済まんだろうな。

ついでに第11中距離支援小隊の面々もうちに配属になるとの事。まあこれは助かる。配給の支給も多めになるらしいしね。

 

「・・・・」

「指揮官様は、ウェルロッドの肩を持つのですね・・・」G36Cが冷たい目で見てくる

 

いやいや。どうしてそうなる。

『落ち着けG36C、そう言う事ではない』

 

「R-15の皆は受け入れられないと思います。うまくいかないと思います」

「たまには副官の私の意見も聞き入れてくださいね」

そこまで言うと、G36Cはプイっと出て行ってしまった。

 

なんでこうなる。俺とG36Cがギクシャクする理由なんて無いだろ。

ウェルロッドに社長に、本当にいい迷惑だ。

 

・・

・・・

・・・・

モヤモヤした気持ちでベットでゴロついていたら、また客が来た。

白衣を着て猫耳をを着けたお姉ちゃん。美人だけど見たからに不健康なアラサー。ヘリアンに通じる地雷臭。

(誰だ?)

(もうお腹いっぱいだから見ないふりしとこう)

 

「・・・・・」

(マジで早くどっか行かねえかな)

ついチラリと見て目が合ってしまう。

 

「やあ」

社会人として声を掛けられた以上、無視はあかんよな。

 

『どうも・・・』

最低限の挨拶でスルーだ。

 

「ずいぶんな対応だね。それじゃあ人生の伴侶も逃げ出すだろうよ」

おどけて返してくる残念美人。明らかにケンカを売っている。

俺の経歴を知っているってことは、個人情報を見ることのできる偉方なんだろうよ。

 

『あ?ケンカ売ってるんですかね?』ビキビキきながら返すナイル。

 

「やっと人間らしい返事をしてくれたね」とニヤけて話しかける美人。

 

『・・・・・』確かに人としてどうかと思う態度だった。反省。

『R-15基地の指揮官のナイル・ルースです』姿勢を正して挨拶する。

 

「ああ知っているさ」やっぱり俺のこと知っているのか。

「私はペルシカリア。I.O.P.で研究員をやっている。ペルシカと呼んでくれ」

 

ふむ、人形会社の研究者か。俺に何の用だ?

『その研究者が現場指揮官なんぞに何の用ですかね?』

ストレートに聞いちゃるわ。

 

「君は色々と興味深くてね。そうだね・・・一つずつ行こうか」

「鉄血人形を集めている様だけど・・・転売でもしているのかい?」

 

『よく知っていますね。ヘリアントスにでも聞きましたか?』最近のホットな話題だからね。この怪我の原因だし。

 

「いや、診察台から送られてくるデータからさ」

なんだよそんなところから漏洩すんのかよ。

「そのデータが研究に有用なのよね。これからも継続するなら新型の研究用診察台に替えたいのだけど。どうだろう」

別に構いませんよ。と、了承する。じゃあ後ほど業者を送ると決まった。

 

「二つ目だけど、あの回収したハイエンドはどうするつもりだったのかしら」

 

『バラして売る予定でしたけど、なにか?』

まずいのか?

 

「やはりそうか。提案なんだが今後は我々に譲ってくれないだろうか」

「今回の素体と武器の回収は見事だ。今までにない上物だよ」

「我々の研究に必要なんだ」

え?お金次第だけど。と答えると、

「今回は謝礼で100万円支払う。次回からは都度相談でお願いしたい」

 

マジか!そんなに貰えるのか。

『問題ないと思いますが社内で相談してみますよ』

了解した。頼む。と仮で決まった。

 

「最後、君たちの基地でパーティーをやる時は呼んで欲しい」

『は?』あまりに想定外で間抜けな声が出た。

 

「いやなに、人形のメンタルについて研究したいのさ」

あ、そう言う事でしたら理解できます。呼びます。で話がついた。

 

以上で互いの連絡先を交換して今日の面会は終わった。

 

・・・・

帰る前にヘリアンに挨拶に行った。

特にわだかまりもなく挨拶を済ます。そこはお互いに大人だからな。

ハイエンド撃破の件、功績になるか聞いたが懲戒との相殺で無かったことになるらしい。

ちなみに人形達の功績はきちんと着くらしい。

マジかよ!鬼かよ!

死刑にならなかっただけありがたいと思えだと。

まったく酷い会社だよ。

 

 

・・

・・・

・・・・

翌日の朝にヘリで帰ることになったが、空気が悪いのなんの。

G36Cからは殺気、ウェルロッドからは触るなオーラ、俺の気持ちも考えてくださいよ。

 

『そうだウェルロッド、I.O.P.からハイエンド提供の謝礼があるみたいだけど、これは社に三割収めるのか?』

 

「・・・・謝礼は収める必要はありません」素っ気なく答えるウェルロッド。

お前、何ウェルロッドと話してんだよ!との意味を込めた視線を投げかけてくるG36C。勘弁してください・・・

 

『なら、次回からも謝礼で通せばいいか・・・』

「I.O.P.以外はダメです。その言い訳は通用しませんよ」とやんわりダメ出しするウェルロッド。

やっぱり悪いやつではないんだよな・・・。業務に対して真面目なんだろうな。

 

「指揮官様、ウェルロッドさんとずいぶん仲良しなんですね・・・・」怒気が含まれた問いかけである。

いや、それほどでも。と誤魔化すが、明らかにG36Cとの関係がおかしくなっている。

 

基地に着いたらどうすればいいんだろうか。

社長の無茶振りで大迷惑です。ほんと、この空気どうすればいいんだろうか。

これから起こるだろう悶着に頭を悩ませるナイルだった

 




指揮官とG36Cはギクシャク気味ですが大丈夫かな。
愛の反対はヤンデレですよね。
え?愛の行き着くところがヤンデレです?

一応ヤンデレ化はしないで行きますぞ。


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29.基地に帰って

ウェルロッドさん、配属ですね。
二人目の星5人形。ハイレアな人形は出したく無いんですけどね。
S地区と絡ませて、スポット的にAR小隊や404小隊を出してもいいのかもですね。

勝手気ままに書いておりますが、どうなんですかね。
少しずつUAあがっているので読んでいただけているようですが大丈夫かな?
気になっている今日この頃です。


本社からヘリでやっとこさ帰ってきましたよ我がR-15基地。

この一時間弱マジで地獄だったわ。

G36Cもウェルロッドも険悪なんだもん。

 

ヘリがヘリポートに着陸すると、クリスティーナ指揮官とR-15基地の面々が出迎えてくれていた。

「ナイル指揮官、お務めご苦労様です」とクリスティーナが笑いながら声をかけてくる。

事前に情報を聞いていた様だ。

 

『全くだ。殴る蹴るに借金の積み増しだからね。罰ゲームだろこれ』

 

「ふふふ。期待されているんだと思いますよ。人形のみなさんにも愛されていますしね♪」

小悪魔的に笑いながら言うが揶揄っているのだろう。

 

『そんなもんですかねー』と別に普通じゃん?的に返す

 

「そうですよ。私の経験上、このパターンは十中八九死刑ですから♪」

 

『お、おう・・・・』いや、にこやかに言うことじゃ無いっすよ。それ。

 

 

 

『基地の人形は迷惑かけませんでしたか?』俺はそこだけが心配だ。

 

「ん?全く問題ありませんわ。みな教育の行き届いた優秀な人形達ですわ」

おかしいな。俺の時は毎日トラブルまでは行かないが、何かしらあったが・・・

首を傾げているのを見てクリスティーナが続ける。

「ナイル指揮官はやっぱり人形達の気持ちが分かっていませんねー」と言って笑う。

「確か娘さんいましたよね?上手くいってるんですか?」顔を覗き込み笑ってくる。

 

『うまく行っていますよ。10年間喧嘩なしですよ。・・・会話もありませんが』

 

「全然、ダメじゃないですか」と言って笑う。

 

 

 

「指揮官、おかえりなさい!」会話の切れ際に続いて話しかけてきたのは92式だ。

「お怪我・・・大丈夫・・でしょうか・・・」命令とは言え指揮官に暴行してしまったことを少なからず気にしている様だ。

 

『まったく問題ない訳ではないが、特に支障はない。大丈夫だ』

極力明るく問題ないことを強調する。嫌々やらされた92式はメンタルに傷が付いているだろう事を考慮してだ。

 

「本当に申し訳ありません」やはりかなり気にしている。

 

『らしくないな92式。指揮官ではないにしろ指示された命令だ。致し方なかろう』『おかしいと思い精一杯正そうとしていたのは見ていた。俺のお前に対する信頼は落ちるどころかむしろ上がったさ』

 

「指揮官・・・ありがとうございます」心から思っているのだろう。キチンと頭を下げる92式。

うむ、まだ本調子じゃないな。その傷はゆっくり溶かして行こう。

しかし、当たり前だがこんなくだらない事で第一小隊長に潰れてもらっちゃ困るのさ。 

 

 

 

「全く、指揮官は迂闊です。本社に連行されて懲戒処分なんて初めて聞きましたよ」呆れ顔のエル

「もう少し年齢相応に落ち着いた方がいいですよ」

・・・いやまあ、好きで無茶はしたくないけどさ。

 

『いやまあそうだが、多少の無茶はしないと借金が返せないし・・・』

大金を擦ったギャンブラーの様だと自分でも思うがしょうがない。

真面目に働いても返せない金額じゃどうしょうも無いじゃない。と開き直る。

 

「私たちも少し落ち着いたら"ピザ屋さん"での商売を考えますね」

「借金も残り2/3くらいですもんね」

うん、その情報は少し古いね。かくかくしかじか。

「は?2000万円追加?何がどうなってそうなるんですか」

「ちょっと頑張るくらいじゃどうにもならないですよ?」無理ゲーでしょこれ。ってな感じで問うてくるエルだけど、俺もそう思うよ。

 

『懲戒処分の罰金なんだと。命あるだけマシと思えと言われたよ』諦めました的に答えるナイル

『なんで、多少の無茶は致し方なしかなと思っている』

 

『まあ、その辺のリスク回避人員を付けられたから大丈夫だろう』

そう言われてヘリを見ると、大きなトランクを持って降りてきた少女がいた。

 

・・

・・・

・・・・

 

どう言う訳だか、ヘリポートに正座する羽目になった・・・どうしてだ?解せぬ。

横ではクリスティーナが、あちゃーこりゃダメだ的な感じで顔を手で覆っていた。

 

・・・・・

大きなトランクを持ってヘリから降りてきた少女はウェルロッドだ。

クールな出立ちで基地の人形のことなど眼中に無いと言った感じである。

 

ヘリポートに来ていた人形達は呆気に取られて絶句した後、敵意をガンガンに出している。特に92式からの圧は凄まじいものがある。

ウェルロッドの後ろから降りてきたG36Cも同様である。前後から敵意に挟まれているウェルロッドだがどこ吹く風に無視を決め込んでいる。

 

(うーん。しょうがねーなコイツら。仲良くやれよ)(俺が手本を見せちゃる)

おーいウェルロッド、と横に呼び寄せて肩に腕を回して紹介する。

『ウチの基地配属になったウェルロッドだ。みんな仲良くするように!』

どうだ?これで仲良く出来るだろ。溶け込めない転校生を見る学校の先生の気持ちがわかる気がする。

 

 

よしよし。これで雰囲気良くなるだろ。と思ったら余計敵意が増すという逆効果だった。

92式とG36Cなんて今にもウェルロッドを射殺するんじゃないかと言った感じだ。

 

「ちょっと指揮官・・・これはどういう事ですか?」とエルが目を細め妖艶な笑みを浮かべている。

まてまてまてまて。これはマジであかん。買取屋のおやじが潰された時の顔や。

 

どうしてこうなったのか分からんが、もはや言葉で収まるレベルを超えている。態度で示すしかねえ。

 

不本意ながらヘリポートに正座をするナイルだった。

 

・・・・・・

人形達に問い詰められ正直にゲロるナイル。

社長直々の人事である事、情報部のエリートのウェルロッドに合法確認をさせる狙いがある事を強調する。

嫌々とかウェルロッドを蔑める訳にもいかない。言葉を選びなんとか持ち直す。

 

それでも92式とG36Cはおさまらない。

分かったよ。分かった分かった。

『二人はどうしても納得できないか?』

 

「あれだけの事をされてそのまま仲良くしましょうは流石に無理です」92式が口にする。

「私も同じですわ」G36Cが続ける。

まあ、直接被害を受けた二人はそうなんだろう。

ふー。ため息を吐いてサブリナを見る。サブリナは「ん?」と首を傾げて見返してくる。

 

『ハイエンド撃破成功パーティーやるって言ったが、本社部隊とウェルロッドの歓迎会も兼ねてやるぞ』

『サブリナ、パーティーの準備だ』

『不満な気持ちを持つ者はパーティーで勝負しろ!』

もう、これしかねーわ。

あ、でも予算は相談してね。と忘れずにサブリナへ伝える。

 

パーティーは5日後、クリスティーナ指揮官達の修理工事が終わる前日だ。

「ナイル指揮官、基地の守備は請け負いますわ。楽しんで下さいね」とクリスティーナ指揮官も言ってくれる。

基地の皆もパーティーと聞いて、ウェルロッドの事はどうでもよくなったらしい。ワイのワイの会話を始めている。

 

よかった。さあ立って仕事と思ったが足が痺れていた。

『あっ』と間抜けな声と共に横のウェルロッドの太腿に倒れ込んでいた。

ウェルロッド足に付けたホルダーと銃にほっぺをぶつけて痛かったが、足に抱きついていた。

 

あ、ごめん。と言ったが既に手遅れだった。

一部始終を見ていた人形達の怒りを一身に受けるナイルだった。

 




色々あって苦し紛れのパーティーとしてしまいました。
パーティーばっかだな。この支部(笑)


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30.嵐再び

こんにちは。今回は久しぶりにS10基地からPx4さんに登場いただいております。
SPEC様著 『S10地区司令基地作戦記録』からの登場です。
SPEC様の作品はいいですぞ。この作品より圧倒的有名ですので紹介は烏滸がましいですが、読んでいない方はぜひ読んでみて欲しいですぞ。
私のお気に入りから飛べます。
SPEC様の作品を読んで執筆活動をやる気になりましたので、勝手に心の師匠にしています(笑)


サブリナと本社の第11中距離支援小隊だった3人、今は第三小隊の3人が司令室に来ていた。

「指揮官!映像通信使わせて〜」と4人で入ってきたのが始まりであった。

個人持ちのPDAでも可能だが他基地との勝手な通信は禁止にしたので司令室に来たのだ。

備え付けの大型モニターで指揮官の見ている前でやろうと言う事である。

 

『で?誰と通信する訳だ?』

 

「S10のPx4さんだよ〜。パーティー用のピザと飲み物を頼みたいんだよね。まずは見積貰うんだよ」

サブリナが明るく伝える。通信のアポ取りは済んでいるらしい。

 

『S10のPx4だと!?』オフホワイトだが俺の借金生活のスタートは奴からだ。この会議は席を外せない。

『俺も同席するわ』

 

「分かったよ〜でも指揮官は見てるだけだよ〜」一度やったから余裕のようだ。

 

テキパキと相手の連絡先を入力してコールをかける。

一見のほほんとしたウチのサブリナだが流石戦術人形、機器の取り扱いはお手の物だ。

数コールで相手が出た。

 

「こんにちは、R-15基地のサブリナさん」映像の向こうに紺のフード付きコートを羽織ったブロンドのショートカットの美人が映し出される。

(彼女がPx4・・・サブリナの記憶で見た人形だな)

 

「あら?今日はお客さんが多いわね。はじめまして。R-15基地のルース指揮官」そう言って俺の方を見て丁寧にお辞儀をする。

(コイツ・・・俺の事を知ってやがる・・・。どこまで知ってるか分からんが油断は出来ないな)

 

『ああ、はじめまして。S10のPx4さん。R-15基地指揮官をやっているナイル・ルースです』

『今度、S10の指揮官にもご挨拶させてもらいますよ。ウチのサブリナが()()()()()()()()()()()()()()ね』軽くプレッシャーを掛けとく。

 

「いえ、それにはおよびませんわ。これは個人事業ですから」

「ナイル指揮官も副業なさってましたよね。それと同じですよ」にっこりと伝えるPx4

 

『・・・・・』

(サラッと言うが、なぜお前が知っている??)

知らない者たちが見たらなんて事のない光景だが、互いに軽くジャブを交わす。

素性が丸裸にされている分、ナイルの方が押され気味ではあるが。

 

「ちょっと〜。指揮官は見てるだけだよ」サブリナがほっぺを膨らませてクレームをつける。

「Px4さん、こんにちは。今日はパーティー用のピザと飲み物を追加で頼みたいんだ」

「また大食い大会やるのと、人数が増えたので前回より多めかな。前回のあまりもあるから適当に見繕って欲しいかな」

サブリナがさらさらと要領よく伝えるのを見てナイルは驚く。

(サブリナも成長しているな)

 

「それならピザは100人前追加に飲み物は前回の消費から考えて、20人分ってところかしら」

「やはり大食い大会分、普通のパーティーより割高にはなっちゃうかな。30万円位は見て欲しいな」

Px4がサラサラっと暗算して概算回答する。

 

「基地の皆、約10人から参加費1.5万円集めて・・・」

「指揮官、15万円位出して欲しいかな。ダメかな??」

サブリナが申し訳無さそうに聞いてくる。

 

『パーティーで勝負しろと言ったのは俺だからな。それくらいなら出すよ。問題無い』

うん、料金も悪くないしね。正式見積は欲しい旨伝えとく。

 

『そうだPx4さん、こんな細々したやりとり毎回かったるいでしょ。仕入れ先教えてもらえれば今度から自分たちでやりますよ』と俺はダメ元で聞いてみる。

Px4は真顔になり溜息をついて答えるが、要約すると「商人が仕入れ先を教える訳ないでしょ。バカなの死ぬの?」って事だった。手間隙が掛かったとしても1ミリたりとも手の内は見せないタイプらしい。

 

そんなこんなしていると指揮官のPDAに呼び出しが掛かる。クリスティーナ指揮官の急ぎの相談らしい。

ナイルが後は任せたと退席する時にPx4が声を掛ける。

「ナイル指揮官お疲れ様です。ご覧の通り私の商会はフェアをモットーにしております。行き違いはあったかもしれませんが、ご入用の際は是非お声がけ下さい」と頭を下げる。

 

『・・・・そうだな、その時は頼む』少し考えて回答し退席した。

 

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ここからは雑談タイムだ。Px4にしても情報集めの大切な時間である。

『へ〜!ハイエンドを倒したんだ』

「そうそう、アストラちゃんとスカウトちゃんが二人で潜入して撃破してきたんだよ」

『相手はスケアクロウだったよね。物量で押し切る戦術が得意なのね。その代わり近接戦闘は不得手。か』

「そう。基地の中まで敵が入ってきてギリギリだったんだ。けど本社のネゲヴやR-13のカルカノ達が間に合ってなんとか押し返せたんだよ」

『ギリギリだけど頑張ったんだね』

『そうそう、もし敵のハイエンドで狩人(ハンター)ってヤツを見かけたら連絡欲しいな』『うちと因縁があるのよね。指揮官さんにも伝えといて』

「ハンターね。分かったよ〜」

 

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『それで、後ろの3人は?』紹介されていないので、こちらから催促しておく

「そうだね。紹介するね。本社から転属になったライフル人形たちです」

PSG-1、M21、OBRたちが自己紹介していく。

今回の歓迎会の主役だけどサブリナのお手伝いを買って出たらしい。

「M21ちゃんとOBRちゃんはハイエンドとの戦いで頑張ってたけど怪我しちゃったんだよ。大変だったんだ」

頑張ったんだけどね〜と明るく話すM21だったが、一方のOBRは急に泣き出す。

 

「え!?どうしたのOBRちゃん。どこか痛いの?」サブリナが慌て出す。

 

「体は痛くはないです。実は私の借金が・・・・」急に身の上話の相談を始めるOBR

 

----

『なるほど、要約すると指揮官がなんとかしてくれると言った話を反故にしたと。そう言うわけね』

一瞬、Px4の目に鋭さが宿るが誰も気づかない。

『OBRさん、そのやりとりの映像はあるかしら。確認が必要だわ』

 

OBRが二つの映像を通信機器に送る。

 

一つ目はあのスケアクロウ攻防戦の時の映像であった。

====

吹き飛ばされ重傷のOBRにウェルロッドが駆け寄り、すぐに修復装置へ送られる。

修復装置の前での指揮官とのやりとり。

借金を心配するOBRに"お前な。金なんて後で何とかなる"と言う指揮官。

"本当ですか指揮官。あたし、何でもやります!"と安心するOBR。

====

 

二つ目はごく最近

====

"指揮官、借金なんとかしてくれる件はどうなりましたか"

"へ?俺がなんとかする?・・・いや、知らんが。俺も大変なんだしお互い頑張ろっか!"

固まっているOBRを置いてスタスタ行ってしまう指揮官

====

 

うーん、微妙な判定。と考え込む4人。

「Px4さん、指揮官もOBRちゃんも言い分はあると思います。丸く収める案は無いですかね」サブリナが相談を持ちかける。

 

ちょっと考えて妙案が浮かんだらしい。

『・・・・有るわね。恨みっこ無しのAI判定が』

『あれなら四角いものもまーるく収まるんじゃ無いかしら』

Px4が提案してきたのはグリフィンのAI判定システムだった。

人間と人形、どうしてもトラブルがゼロとはいかない。どうしても人間の方が権限が強いので人形が涙を飲む事が多いが、それだけでは人形の不満が溜まってしまう。それを解消するシステムがAI判定だ。社内で行われる簡易的な民事裁判のようなものである。

これで決まった事は社の正式決定になるので従う必要がある。結果については恨みっこ無しと決まっている。

 

「へ〜こんなシステムがあるんですね。OBRちゃん、やってみよっか」ね、と明るく話すサブリナ。

OBRも「これでダメなら諦めがつきます」と元気になる。

 

『じゃあ、AIの申請は明日提出してみてね』と伝えて見積出来たら連絡します。と通信を終える

 

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通信を終えたPx4は呆れ顔をしていた。

 

『まだ人形を泣かせてるのね・・・・』相変わらずだ、やはり人間は本質的に変わる事は出来ないのか。マスターの爪の垢でも飲ませてやりたい。

しかしかわいいサブリナの仲間を泣かせたままは我慢できない。見積外だが一肌脱ぐと決めた。

そうと決めたらすぐに映像通信を飛ばす。相手は本社の財務管理課だった。

 

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コール後にすぐに繋がる。相手への直接回線だから当たり前だが、それを持っている事から両者の親密さが見てとれる。

 

「S10のPx4さん、こんにちは」映像の向こうはP38課長代理だ。胸元には貴賓あるネックレスが見える。Px4が卸した品だった。

うん、商品も気に入ってくれているようで何より。

『こんにちはP38課長代理、本日はお友達の相談でお電話しました』

それを聞いた課長代理はくつくつと笑う。

「いつも他人からの相談なんですね。Px4さんの人柄が現れていますね」

悪党を自認しているPx4だし他人からも誤解されやすいが、本当は優しい人形である。それをストレートに告げられこそばゆくなる。

『いえいえ・・・本日はAI判定の使用のご相談なんです』『R-15の知人からでして・・・』

R-15と聞いて、目つきが変わる課長代理。それを見て(やはり目をつけられていたか)と認識するPx4。

『確証を送付しますね』と映像を送る

 

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「確かに微妙ですね」紅茶をひと口啜り端的に述べる課長代理

「これならAI判定の使用は特に問題はありません」

「ただし、AI判定の使用の最終承認は社長なので、そこは私にはどうにもできませんよ」と告げる課長代理。

 

『大丈夫です。社長から先は運を天に任せます』

(ふふふっ。私の情報から推察するに社長まで届けば十分。勝利確定よ)

 

『そうそう課長代理、新しい商品が入りましたわ。早速いくつか"サンプル"を送らせて頂きますね』

最後に二人にとって楽しい商談を進めるのだった。

 

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翌々日、社長の元にOBRのAI判定の稟議書が届く。

映像を見て即判定を下す。

 

「却下」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社長講評」

AI判定を使うまでも無い。明らかな指揮官の約束が見て取れる

OBRの借金500万円はルース指揮官の支払いとする。以上。

 

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後日、この稟議の結果を一方的に届けられたナイルが発狂する様子をR-15基地で見られたと言う。

 




Px4さんが来てタダで済むわけ無いよね。と言うことでフラグ回収でした。
まあ、概算見積で安心して途中退席したナイルさんの落ち度でしょう(笑)
でも、一番の悪人は社長だと思っています。(笑)


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31.急転直下

1時間遅れてしまった。すまぬ。

うん。日常回ですな。
まあ、次のパーティーに向けて、ですかね。

ゲームは大型イベントに向けて細々ですね。
毎日いいね入れてますぞ〜
アストラちゃんの水着ゲット頑張りましょう!


その日の司令室は極寒のブリザードのような状況だった。

(昨日、パーティーで勝負しろって言ったじゃん・・・)

(頼むから俺に気を使ってよ。頼むから)

 

司令室には俺の他にはG36Cとウェルロッドの二人。

G36Cは継続して副官をやってもらっている。ウェルロッドは本社の小隊を引継ぎたいがFMG-9が抜けたため、小隊は凍結中として副官代理をやってもらっている。

 

ところがどっこいこの二人の相性が悪いことこの上ない。

昨日基地に帰ってくるヘリの中からですよ。この雰囲気。

 

G36Cは敵対モード全開。一方、ウェルロッドは無視全開。

昨日から何も変わらない態度ですよ。

・・・・

ちと、試しに一回ブチ切れてみようか?

 

『おまえら・・・・パーティーで勝負しろって言ったよな』

『大人なんだからいい加減にしようや。な?』

ゲンドースタイルで圧をかけて言う俺。

指揮官のこのプレッシャー。完璧やろ?

 

「・・・・」紅茶を啜り見えないふりのウェルロッド

「・・・・」ウェルロッドに無言のガンを飛ばすG36C

 

だーめだこりゃ。

はい!指揮官の事完全に無視です!もうどうにも無理です。お手上げです。

早くパーティー始まんねーかな。

 

・・・・

さっきから時計の音が妙に気になる。時間も業務開始の定時から30分しか経っていない。

早く時間が過ぎねえかな。頼むよ。マジ・・・・

 

そんな居心地の悪い午前中に緊急通信が入ってきた。

ウェルロッド、G36Cと顔を見合わせて通信に出る。業務に対しては二人とも真面目な様だ。

 

・・

・・・

・・・・

通信相手はヘリアントスだった。

 

「ルース指揮官、貴様とは一週間と開かずに顔を合わすな」

 

『・・・・』

『こっちは別に会いたくて会ってる訳じゃ無いですけどね』

全く勝手だなぁ。ヘリアンさんは。そりゃこっちのセリフだよ。

 

「ふっ。まあそう言うな。今日は急ぎの依頼だ」

「R-14基地との連絡が取れない。いつからかは分からないのだが、3日前の定時連絡を最後に音信不通だ」

「確認に行ってもらいたい」

 

R-14基地か。指揮官はあのトッポイ女好き、アクセル・フォーリー指揮官か。

どうせ、お気に入りの人形としっぽり楽しんでるんだろう?アホだからな。

そういえば、パーティーに呼べとか言ってたっけ。しゃあねーからちと見に行くか。

 

『分かりました。ちょっと様子見してきますよ』

ついでにパーティーに拉致ってやるわい。

 

ナイルは気楽に考えていた。この時はまさかあんな結果になっているなんて想像もしていなかった。

 

・・

・・・

・・・・

司令室に第一小隊とアストラとスカウトを呼び出していた。

第一小隊の92式はR-14基地への連絡員の任務詳細を聞いているが、ウェルロッドに対しての圧は忘れない。器用なやつだな。

アストラとスカウトにはウェルロッドをつけて遊撃支援を強化する。ウェルロッドの勉強にもなるだろう。

・・・・と言うのは半分言い訳で、ウェルロッドに席を外して欲しいのが半分だったりする。

 

ここでふと気になるものが目に入る。

『スカウト、お前左頬にひどい傷痕が残っているが・・・治らないのか?』

美人の頬に傷がついているのはすごく気になる。

 

「いえ、治ります。ただこれは・・・自分に対する勲章です。わざと残しているのです」

胸を張って答えるスカウトだが、俺としては治して欲しい。

だって俺が指示したんだよ。スケアクロウを倒せって。

そのせいで怪我が残ったなんて寝覚が悪いよね。まあ本人がいいならしょうがないけど。

 

『ふむ。とりあえず任務は以上だ。すぐに出発してくれ』

『ヘリは30分後に到着するので準備するように。念のためフル装備だ』

 

「了解です」と92式は告げ出発準備を開始する。

 

・・

・・・

・・・・

とりあえず、第一小隊とウェルロッドたちは出立していった。

(ふー。とりあえず安らぎの時間を過ごせれば助かる)

 

しかし、G36Cにどうやって話しかければいいんだ?

デスクに座って下を向いている。

どうしたものか・・・。

 

『・・・・・』

『なあG36C、お茶でも飲むか?』当たり障りない会話からお茶の準備を始める俺

 

カップを用意して、ポットにお湯を汲んで・・・・としている時に突然後ろから抱きつかれた。

想定外の結果に俺はビクッと震え、動きを止めてしまう。

 

 

ナイルの背中に抱きついたままG36Cが呟く。

 

「指揮官様・・・。やっといつも通りの二人になれました・・・」

(いや、いつもこんな事してないよね)

 

「指揮官様が居ないと、私は生きていけません・・・」

(いや、それ気のせい。だって出会ってから1ヶ月よ・・・)

 

「ウェルロッドが、ウェルロッドの態度がどうしても許せなくて。ごめんなさい」

(いや、ウェルロッドも大概だけど、G36Cもちょっとは反省して欲しいな)

 

もちろん、心の声を口にするわけにはいかない。

口に出したら色々な意味で人生にピリオドを打たれる可能性が高いからだ。

 

しばらくしてG36Cの拘束が緩む・・・

俺はゆっくり振り向きG36Cと対面する。

 

G36Cは胸の前で祈る様に手を組み、そっと目を閉じて顔を少し上に向けて薄っすらと開いた唇を突き出している。

ぷっくりと瑞々しく綺麗な唇だ。どうやらキスのおねだりらしい・・・・

(いやいやまてまて。なによこのドラマのオフィスラブみたいな展開。流石にマズイやろ。)

 

キスをしますか? "YES or NO"

さっきからNキーを連打してるのにエンドレスに繰り返される質問の様に終わりが来ない。

 

しょうがない、別のコマンドを進めるしかねえ。

 

コマンド?

a.笑って誤魔化す

b.黙って逃げ出す

c.ビンタで正気に戻す

d.代わりにハグ

 

ここでしくじる訳にはいかない。40も半ばまで生きた経験で冷静に判断する。

 

ここは、dのハグにしとこう。当たり障り無い選択だろう。

 

優しくG36Cを抱きしめて頭を撫でてやる。

ハグから解放すると口をへの字に曲げて不満そうにしている。

「指揮官様の意地悪・・・」

「意地悪な指揮官様にはお仕置きです♪」

と呟いたかと思うと両手で俺の頭を押さえて、彼女の胸のたわわな果実の谷間へと押し込まれる。

 

『~~~』(息が出来ねえ!)

と声にならないうめき声が出るが、G36Cはお構いなしである。人形の胆力には成人男性でもかなわない。されるがままである。

 

(柔らかいし甘い良い匂いがする・・・。いやそうじゃねえそうじゃねえ。死ぬ死ぬ)

動く手でG36Cの肩を叩き、ギブアップのアピールをする。

 

やっとこさ解放され、俺は深呼吸をする。

アブねえ、危うく窒息するところだ。

選択肢dは誤りだったか。bの逃げ出すが正解だったかも。

 

大食い大会に向けて、毎食大盛にしている?

お陰で胸のサイズがG36C型の標準スペックの上限を超えたって?

(いや、胸の話なんて聞いてねえから。タダでさえ配給カツカツなんだから飯の量はもっと控えてよ。)

 

何にしても、段々大胆さがエスカレートしてきているな。二人業務は危険かもしれない。

ウェルロッドに大人になってもらい三人でやるしかねえか。

頼む。ウェルロッド、早く帰ってきてくれ!

 

そんなことを考えていると、指令室のドアが開きエルが入ってきた。

「指揮官、訓練の相談が・・・ん?」

明らかに不自然な空気にエルが何か感づく。

 

『あ、いや、事態は収束したっ!』

テンパって何かありました。と自白してしまっている事に気づかないナイル。

それを聞いて眉間に皺を寄せるエル。怒っているのがわかる。

 

「事態ってなんでしょうか?指揮官?」ジト目で問いかけるエル。

よかった、まだそんなに怒っていない。

ここは適当に誤魔化すしかねえ。

 

『いや、まあ、その。なんだ?』

と話した時にG36Cが「指揮官と仲良しって事です」とニッコリ微笑む。

いや、ここは黙っててくんねえかな。マジで。

ヤバイからね。俺は中古屋のおやじみたくはなりたくない。

 

「・・・・」

「しばらく司令室で業務させてもらいます!」

(僥倖!なんたる僥倖!助かった)

 

なんてやりとりしていたら、通信が入ってくる。

 

・・・・・

「こちら第一小隊の92式。指揮官緊急事態です」

「R-14基地が襲撃を受けた様です。基地から離れた所に着陸し探索と救援を開始します」

 

うっそだろ。マジかよ・・・・

アクセル指揮官は無事なのか?

十分注意して活動するように伝えて、本社へ急ぎ連絡へ動くのだった。

 

 

 




G36Cさんが暴走気味です。
ナイル指揮官は大丈夫なのか?
頑張って貰いたいですね。

あと、アクセル指揮官は無事なのか??


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32.闘いに敗けるという事

R-14基地。読者の皆様は知っていると思いますが、
エクスなんとかさんのリハビリ先にえらばれたようです。
スケアクロウさんのお断りを受けてですね。

なんかちょっと鬱回になってます。
よければこの後にエクスさん視点の攻略も書こうかなと思っています。
需要があるか分かりませんが(笑)


SPEC様の作中でご紹介を受けてUAがどっと増えてビックリです。
読者の皆様が来てくれることをモチベーションにしております。
応援ありがとうございます。
ヘタらないように頑張ります。


第一小隊長の92式からの報告を受けてナイルは本社のヘリアントスに連絡を入れ、増援を依頼していた。

本社もR-14基地への襲撃は想定外だったらしく、急ぎ準備するとの事だ。

 

一方その頃、R-14基地調査に切り替えた第一小隊とウェルロッド達は、基地から500mほど離れた丘にヘリを着陸させ、準備を行っていた。

 

92式はR-14基地のマップを全員と共有する。

『ウェルロッドとアストラ、スカウトはここで基地外部の敵の確認と私たちのバックアップをしてください』

『増援が確認された場合、基地内部で待ち伏せを受けた場合は即撤収します。』

『合流ポイントはーーーー』と手早く決めていく。

ウェルロッドも特に異論は無い

 

偵察ドローンまで持って来なかったのは悔やまれる。詳細は不明も、基地屋外に鉄血の姿は見られなかった。

とにかくやるしかない。

 

『では作戦開始しましょう』

 

・・・・・

第一小隊はR-15基地まで少しずつ進行する。地雷などの危険物を警戒しているためである。

が、特に何もなく基地正面に到着する。

 

92式は発光信号で突入する旨の合図をウェルロッドへ送る。

ウェルロッドは「了解」の無線応答のみ返信を打つ。

 

・・・・・

門から基地敷地を確認すると、塀内側の広場に鉄血兵の残骸が転がっていた。

R-14側が強く抵抗したのであろう。20体程度は倒れている。

そっと近づき確認するが、どれも射殺されている。

傷痕の数や口径から、ARやSMGと言ったフルオートの銃で撃たれていた。

感じからして阻止は叶ったように見える。

(敵の数が少ないわね。倒れている位置から察するに、これなら阻止は出来ているように見えるわ。でも基地の玄関は・・・・)

 

視線を向けるその先の玄関は派手に破壊されている。

(どういうことかしら・・・)

 

玄関は内部に敵が待ち構えていた場合クロスファイアを受ける恐れがあるため、基地を回り込み勝手口からの侵入を試みる。

 

・・・・

勝手口は破壊されては居なかった。ロックの電源が落ちている為、人形からI.O.P.の有線規格で接続しロックに電力を供給する。

指揮官が本社から入手した緊急開錠コードを入力する。

 

「なんか様子が変だよね。敵の気配も味方の気配もない?」56-1式が疑問に思う。

「まだ分からないんじゃない?救助に来た奴らを皆殺しにするために中に潜んでるとかね」とイングラムが返す。

 

『イングラムの言う通り、待ち伏せが危険です』

『ここからだと、宿舎、メンテナンスルーム、司令室の順に全員でクリアリングしていきます』

『CQBになりますので、SMGの二人を先頭にHGの私で進みます。ARの二人は後方警戒とバックアップで行きます』

小隊長の92式は務めて冷静に指示する。

 

「「了解」」

第一小隊の練度は確実に上がっていた。

 

・・

・・・

・・・・

ドアを開けるとともにSMGの二人が飛び込みクリアリングする。

「・・・」

「ここも居ないわね・・・」PPS-43が呟く。

綺麗に整えられた少女趣味の部屋。主人達が出て行ったきり帰っていないのだろう。

綺麗な事が逆に寂しさを表している。

『次に行きましょう』92式が感情を込めずに呟く。

 

結局、宿舎には味方も敵も居なかった。

何処かに隠れているのだろうか?

無事ならいいが、可能性は・・・・

誰も思っていることは口に出せなかった。

 

・・・・

宿舎を後にしてメンテナンスルームに向かう。

「ストップ。倒れている者がいる。皆さん警戒して下さいな」イングラムが告げる。

周囲を警戒して近づくが、倒れている者は鉄血兵だった。よく見るとこの先ポツポツと倒れている。

『こんなところまで侵入されているなんて・・・』92式の顔がネガティヴに変わる。

 

メンテナンスルームに近づくほど鉄血兵の死体が多くなる。一体ずつ死亡を確認するが確かに死んでいる。激しい戦闘があったのだろう。

一歩一歩進み、メンテナンスルームの前に着くが、そこは凄惨を極めていた。

 

メンテナンスルームの前は鉄血兵の死体の山と擬似体液の海。

メンテナンスルームに入ると斃れているI.O.P.の人形2体と破壊された修復装置。修復装置内には3体のI.O.P.の人形の死体があった。

92式が壁を思いっきり叩き『くそっ』と強く言葉を吐く。

状況から、修復中の3人を守るため二人で命をかけて戦ったのだろう。

しかし死守の希望叶わず斃れて、身動きのできない味方も装置とともに破壊されてしまった。そんなところだろう。

斃れている人形の無念さが滲む見開いた目を閉じてやる。

 

『・・・・』

先日のR-15(自分たち)の戦闘も似たようなものだった。ここと紙一重。そう考えると複雑だった。

 

『司令室に向かいます』

『気持ちをリセットして丁寧にクリアリングしていきましょう』

92式の指示に気負いは感じられなかった。

 

・・

・・・

・・・・

司令室周辺は異様であった。

建物の壁は銃弾の痕跡だけでなく、刃物か爪のような凶器による擦過痕が至る所についている。

まるで正体不明の大型獣が無差別に暴れたような。そんな雰囲気である。

また、爆発物が使われた破損も見られた。

鉄血兵の死体は銃創だが、I.O.P.戦術人形の死体は刃物による切断、体幹骨格や頭部の圧壊など異様なものであった。

 

・・・・

「隊長、生存者!生存者がいるわ」PPS-43が駆け出す。

 

両腕を切り落とされた戦術人形、M1911が腹を鉄パイプで突き刺され壁に縫い付けられていた。

「今助けるわ」とPPSが近づくが、92式が違和感を感じる。(なんでしょうか?)

はっとした92式が、「PPS、引いて」と声を発する。

一呼吸置いてPPS-43が引くが、一瞬遅かった。PPS-43の右手首にM1911が噛み付いた!

 

「うっ・・・」M1911の噛みつき(バイティング)を受けて一撃で前腕の手首関節が砕かれる。

56-1式が異様な状況を認識して、間を置かずPPS-43の上腕の肩関節からすぐ下を7.62mmライフル弾で撃ち抜く。

上腕骨格を綺麗に撃ち抜き腕が切断される。しかしこの判断はファインプレーだった。

M1911が咥えているPPS-43の腕の血管が全体的に浮き出で波打つ。そして切り離された腕の指がユラユラと蠢き始める。

 

「な、なにあれ・・・」誰かが呟くが誰も答えを出せない。

『感染症・・・・』電子的なウイルスによる感染症と思われるが、みたことも聞いたこともない症状である。

 

「くっ」とPPS-43が呟き、右上腕を肩関節からパージする。念のため自己診断を回すが異常なし。

万が一の傷口からのウイルス侵入を防ぐため、関節からのパージを優先する。

「隊長、万が一の感染を考えて機能停止します。再起動不能処置はお願いします」

92式はうなずき、機能停止したPPS-43の処置を行う。

 

壁に貼り付けられたM1911が咥えていた腕をぼとりと落とすと共に狂ったように笑いだす。本当に狂っているのだろう。

 

 

「あは♪あははははははははは♪」

「ぐ、ぐりふいんのにんぎよう、にんぎようころす」

「しきかんもころすころすころすころす」

「にんげんみなころすころすころす・・・は、やく、にげ、ころすころす。ころす♪」

「ころすころす・・・ころ、ころして、おね、がい・・・ころすころすころす〜〜♪」

 

叫び続ける人形は顔だけでなく服が肌けた箇所の血管が浮き出で波打っている。

体の中に侵入した異物が体内を駆け巡っているのか。

目は血走り、可愛らしかった青い瞳は真っ赤に変わっている。が目からは涙を流している。

わずかながらメンタルが生き残っているのだろう。

仲間を思う気持ちが短い言葉となって漏れる。

 

 

「クソッ」と56-1式が頭部にアサルトライフルをエイミングするが92式が止める。

『殺してはダメ。彼女の為にも未来へ向けて活かすのが正しいわ』

『生捕にする。この基地の倉庫から感染症防護服と首輪を探してきて』

56-1式とFNCが探しに行く。幸い倉庫は通り道でクリアリング済みだった。

 

・・・・・

防護服も首輪もすぐに見つかり、隊員達が防護服を着込む。

そして、落ちていた鉄パイプを猿ぐつわのように口に咥えさせた隙に92式が首輪を装置する。

しかし、セーフモードへの移行は不可能だったので、首輪による強制シャットダウンを行いやっと停止した。

(くそ。鉄血はなんて危険で残酷なウイルスを作ったのかしら)

防護服を脱ぎアンチナノマシン(滅菌)処理剤を全員に振りかける。唾液からも即感染する凶悪なウイルスだ。ウイルスが残り傷口に入ろうものなら大変なことになるからだ。

M1911は回収部隊の到着まで放置する。

 

さて、いよいよ司令室の中だ・・・結果はもう想像できた。

 

・・・・

司令室の中は爆発物が使われて損壊が見られたが、殆どの兵の死因は刃物による斬殺だった。最後の最後まで抵抗したのだろう。

副官のリー・エンフィールドは四肢が切り刻まれていた事から拷問を受けたのだろう。最後は頭部を圧壊され死亡していた。彼女の特徴的な服から彼女であることを特定できた。

そしてアクセル指揮官は・・・腹部を大きく切り裂かれ傷ついた内臓が漏れ出ている。恐らく長時間苦しんで死ぬように即死は意図的に避けられたのだろう。

 

「「・・・・・」」誰も何も言えなかった。ほんの数日前の自分たちは助かったが、本当に紙一重だった事をつくづく感じさせられた。

そして、負けた時のIFをまじまじと見せつけられているのだ。

 

・・・・・

基地の通信装置はギリギリ生きていた。

92式はナイル指揮官に通信を送り現状報告を行うと同時に、本社との三者通話を開始する。常時通話をするだけでも基地の状況の報告となるからだ。

機能停止したPPS-43以外の三人は基地内のクリアリングを継続する。結果的に基地内には鉄血兵は居なかったことが分かった。

 

・・・・

最終的には大きな戦闘もなく本社の部隊に引き継いだが、決して他人事ではない敗北の現実を植え付けられたのだった。

第一小隊のPPS-43は未知の感染症に冒されている可能性ありと判断され、M1911同様にI.O.P.の研究所に移送されて精密検査を受けることとなった。

他の四人は作戦成功として帰任することとなったが、想定外の任務の疲れだけでなく落とされた仲間の基地の惨状に当てられ成功を喜ぶ気にもなれない。

 

刃物を使う鉄血、恐らくはハイエンドだろう敵は必ず自分たちが壊す。R-14の弔い合戦を心に誓う92式だった。

 




アクセル指揮官・・・・
ナイルの良き理解者だったのにやられてもうた。

まさか、R-15のスケアクロウの裏でやられてるとは思わなんだ。
ナイルも本社もR-13も、R-14への襲撃はノーマークでした。

ちょっとこのあとどうしようか悩み中です。


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33.商売のセンス

とりあえず、第一小隊帰任しての簡単な後始末回ですね。
R-14基地の復旧が優先されるので、R-15基地は後回しになりました。
パーティーも合わせて延期ですね。

読んでくださる皆様のアクセスが励みになっております。
頑張ります。



R-14基地の襲撃の探索を終えた第一小隊とアストラ、スカウト、ウェルロッドはR-15基地へ帰任していた。

本社部隊への引き継ぎ、会社の幹部への説明、I.O.P.技術者への未知の感染症の経過説明。それに伴う書類の提出などなど、とにかく後始末が多く帰って来たのは結局深夜だ。R-14基地の探索以上に時間を取られた。

 

(PPS-43の一時診断結果など色々聞きたいことがあったのに)

帰ったら指揮官にも報告かと思ったら、

「ご苦労様。大変だったろう。今日はもう寝て明日の朝全員で司令室に来てくれ」ですって。

スケベなところはいただけないが、こんな風に人形の気持ちを汲んでくれるところは好感が持てる。

人形を道具にしか思はない指揮官は案外多い。というかそれが普通の感覚らしいが、やはりきちんと部下として見てくれるだけで何もかも違う。私たちは使い捨ての道具じゃないのだから。

 

・・

・・・

・・・・

『おはよう。朝一から呼び出してすまんな』

 

「おはようございます。指揮官」「まずは昨日の報告からさせて頂きます」92式が昨日報告予定だった内容説明を始めようとするが・・・

 

『あー、ウエイトウエイト。今回の件は内容が内容なんでお偉方にも聞いてもらうわ』

ナイルはそう言って映像通信をG36Cに頼み接続する。

相手は本社のヘリアントスとI.O.P.の研究部門のペルシカリアが三者通話に現れる。三者三様に適当に挨拶を済ます。

『とりあえず両名は話を聞いているだけだから、あまり気にせず普通にいつも通りやってくれ』

 

・・・・

92式が自身の視覚(記録映像)を交えながら説明を進めていく。

R15基地の探索、メンテナンスルームでの出来事、司令室内外の惨状。特にM1911とのやりとりなどを分かりやすく説明していく。

 

『なるほど・・・しかし説明がまるで敗北の反省じゃないか。緊急任務成功なんだからもっと胸を張って成果を説明しないと。部下が可哀想だぞ』

ナイルがこめかみを掻きながら言う。どちらかと言うとヘリアントスへ伝わるように言っているのだろう。

 

「指揮官・・・R-14基地の惨状を考えたら、とても任務成功なんて言えません!」鬼気迫る顔で涙を浮かべて92式は訴える。

「「・・・・」」ヘリアントスもペルシカリアも特にコメントはない。ナイルの対応を見ているようだ。

 

『R-14基地の陥落はお前のせいではないだろう。だから今回の仕事には胸を張っていい』

『逆に胸を張ってもらわないと周りが困る』(ヘリアントス(上司)の前だし特に俺がね。)

 

「指揮官、私は納得がいきません。あんな酷い所業をした敵を許せません。私たちの手で破壊(敵討)してみせます」

R-14基地で散っていった指揮官と人形の無念を晴らすのは自分達なんだと気を込める。

 

『・・・・・』92式の言葉を受けてナイルが真顔に変わる。

『92式、その感情は今すぐ捨てろ。敵討、復讐といった思いは百害あって一利無しだ』

『その敵と相対したときに撤退や時間稼ぎが最適な選択だったとしても、復讐の感情により撃破に拘ってしまったりする。つまり判断を誤る可能性があるからだ』

『そして最も厄介なのが上司や部下に最良の判断が下せているのか?と疑念が生じる点。任せて大丈夫か、信じて大丈夫か、その様な疑念が作戦やチームワークのレベルを下げてしまう』

 

「分かりました。以後気をつけます」顔も緩み多少の笑顔も出てきた。

説明に納得がいった様だ。気持ちにも多少余裕ができたようだ。

 

・・・・

『ヘリアントスさん、ペルシカリアさん、なにかありますか?』お偉方にも会話をふっておく。

ヘリアントスは特に何もないとのこと

ペルシカリアはM1911確保の状況を事細かに再確認している。まあ報告についての詳細確認程度であるが。

 

「ペルシカリアさん、PPS-43の診断結果はどうでしょうか」92式がずっと聞きたかったらしい。

 

「昨日の今日だから一次診断となるけど、まあ問題はないだろうね」

喰いちぎられた腕の症状から即効性のウイルスと推定しているが現状変化無しであること、簡易診断で異常無しなことからであると。

「念のため擬似体液の全交換を行い詳細分析を行う。これで問題無しなら晴れて退院ね」

2,3日中には復帰できるだろうとの事。

それを聞き92式は安心したのか、やっとこさ本当に笑顔が溢れる。

 

・・・・

『ところでペルシカリアさん、今回のM1911の生捕りの件ですがね、謝礼をいただけないものかと』

 

「ルース指揮官、言葉が過ぎるぞ」とヘリアントスがたしなめるがペルシカリアがいいよいいよと制する。

「成程、確かに現場で破壊処理(殺処分)してもいい場面で生捕にしてくれたからね。()()()()()()()()払わないとね」

「で、いくら欲しいんだい?」

素直に払うと言われると思わず、一瞬動きを止める。顎に手を当てて金額を検討する。

(いくら?いくらが妥当なんだろうか)

(ハイエンドの極上素体で100万円だろ?それよりは低いよな?)

(うーん、10万円くらいかな?多分そうだろう?)

 

『そうですねぇ。10万円は貰えないと割に合わないですねぇ』ニヤリと笑いながら伝える。

それを聞いたペルシカリアに驚きの顔が浮かぶ。

 

「そうか・・・分かった10万円・・・払おう」ペルシカリアは残念そうな顔をしている。

(ふっ。勝ったな)

 

・・・・

「今回M1911に使われたウイルスは未知ではあるが、新種では無さそうなんだ。いや、正確には類似の点が見られる程度だが」

何やらグリフィンの特殊部隊、AR小隊?が関わっている重要なウイルスに近いとかなんとか。

M1911の素体回収のお陰で、研究や検証が大きく進みそうだ。との事。

(ん?会社の最高機密に関係する有益な結果だと??)

 

『ペルシカリアさん、あの・・・謝礼10万円はやっぱり低すぎませんかね??』おずおずと言葉を溢すナイル

 

「低すぎる?キミが指定した金額だろう?疑問形で聞く意味が分からないな」

 

『いや、その、もう少し増額・・・』と先を続けようとした所でペルシカリアに被せられる。

 

「男に二言はない。だろ?」「請求され、支払い、受け取った。もう終わった話さ」ペルシカリアが戯けて返す。

「はっきり言えば、最低1000万円は請求されると思っていたし用意もしていた」

「まさか百分の一で良いと言われるとは思わず酷く驚いたさ」

 

『・・・・・』(え?まじで??)

 

「M1911の調査と検査は継続するが、現時点の大方針としては廃棄ではなく治療だ。これは治療後の予後を確認したい為だ」

「ヘリアントス、先の話だがM1911はR-15基地で面倒を見てもらいたいが構わないか?」

問題ありません。と一言だけ返すヘリアントス。

 

(待てや。指揮官無視して決めるなや。それにそんな爆弾抱えた人形を送り込むのやめてよね)

『ちょっと・・・指揮官の意見を聞いて欲しいのですがね』

 

「ん?キミにはもう支払ってあるだろう。()()()()を」と一言だけ述べるペルシカリア

 

(うえ・・・。危険手当って、当日のやつでしょ)

『いやいや、そんな話聞いていませんでしたよ』

 

「聞かなかったのはキミだろ?一連の迷惑に対する危険手当さ。と言ってもそれでは納得出来ないだろう。手当の上乗せをしよう。」

「倍の20万円に増額しよう。太っ腹だろう?」ニッコリ笑って伝えるペルシカリア

 

『・・・・・・はい、ありがとうございます・・・・』酷くげっそりとするナイルだった

 

・・・・

「ナイル指揮官、キミの商売センスの無さは驚異的だね」

「借金が増えていく理由が分かったよ」

げっそりしたまま、はいそうですねーと相槌をうつナイル。

 

「まあそうやさぐれなさんな。これは助言だが私の作った人形の方がよっぽどセンスがあると思う」

「例えばキミの後ろにいるウェルロッドとか見事な手腕だぞ」

「キミももう少し人形に頼る事を覚えた方がいいと思うよ」これも助言だけどね。と告げるペルシカリア。

 

「そうだルース指揮官、申し訳ないが基地の修復は一時中止だ」と伝えるヘリアントス。

「R-14基地の修復を優先する。その後貴様の基地の修復を行う」

まあ、妥当な判断だろう。了解ですと伝える。

 

『そうそう、基地の修復完了しましたらハイエンド撃退記念のパーティーやるので参加をお願いします』と伝える。

笑いながら両名が了解と返し、今日の通話は終了となった。

 

・・

・・・

・・・・

 

『は~・・・・』部下の前もはばからずガックリくるナイル。

 

「まあ、これからは相談に乗りますよ」と残念そうな目をしながら答えるウェルロッド。自身の指揮官だから手助けをしなければなるまい。

 

情けねー。本当に情けねー。

あ~あ、大金のチャンスに何してんだか…

まあ、済んだことはしょうがないか…

気を取り直して行こう!

 

・・・・

『92式、R-14基地を見てどう思ったか?』急に問われた意味がわからず即答できないが、考えながら話す。

 

「敗北の結末を改めて見せられた衝撃と、自身の基地も紙一重だった現実に恐怖しました」正直に話す。

 

『そうだな。その恐怖とウェルロッドとの嫌悪感を比較するとどうか?』

ウェルロッドも引き合いに出されて目を見開く。

 

「比べるべきものでは無いですが、好き嫌いと敗北の衝撃とではレベルが違います」

 

『そうだな。なら最悪の結末を避けるためにも、仕事中は好き嫌いを飲み込んでやってくれ』『これはG36Cもウェルロッドもだ』

頼むぞ。と付け加えられてミーティングは終了となった。

 

(いやあ、雨降って地固まるだな。というか降った雨のあと無理くり固めたが正解か。なんでもいいが俺の職場環境もなんとかなりそうだ。)

 

大金を逃したナイルだったが、これだけは唯一の成果であった。




そろそろネタが切れてきた。
日常回回すチャンスだけど、日常のネタがなかなか出ないと言うポンコツ作者。
なぜ題名に日常を入れたのか(笑)

あと、2日に1話はキツいかも。3日に1話にまもなくなると思います。すみません。


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34.一方その頃

ネタが切れてきた。
いよいよここから執筆も大変になりそうです。

遅くなってしまい申し訳ない。
日常回を書きたいのだが難しい(泣)
そろそろお楽しみのパーティー回もやりますぞ。



とある地区にある鉄血工造の本部となっている工場にて、ある人形が目を覚ました。

ウェーブの掛かったハイツインテール、そしてガスマスクを装着した独特な風体。

そうスケアクロウだ。

 

今日の寝起きは最悪だ。

『・・・・』(記憶があやふやだ)

ゆっくりと電脳内のデータ(記憶)を整理していく。

そして思い出していく、R-15での出来事を。

 

『私の・・・ミス?』

全て思い出し呟きが溢れる。

そして顔を怒りによって顰めるが、マスクのせいでいまいち外からは分からない。

 

鉄血兵300体を連れて遊びに行ったR-15基地

途中までゲームをやる様に楽しかった筈なのに・・・・

あと少しでゲームオーバーと言うところまで進めたのに・・・・

今となっても意味のわからない逆転劇

(私の手下共を屠ってくれたのは誰だ?)

(・・・まあそれは後で調べればいい)

 

本当に頭にくるのは、どうやってか私の元まで来たあの2体の人形だ。

『絶対に負けないゲームに土をつけてくれたあの2体は絶対に許さない・・・』

『絶対にだ!!』

あまりの怒りに顔が醜く歪む。普段は見せない感情を口から強く吐き出していた。

 

 

「ふふふ。そこまで感情を露わにした貴女を見たのは初めてですわね」

「それに、義体を破壊されたのも初めて、でしたか」

そう声を掛けられて振り向くと、いつからいたのか見目麗しいメイド姿のハイエンド人形が立っていた。

 

SP47 Agent

 

鉄血のハイエンドのトップに立ち、鉄血の真のボスの命令を受けて全てを采配する人形だ。

鉄血工造特有のモノクロをベースとしたカラーやその冷徹さが滲み出る雰囲気でかろうじて分かる外見。

普通に街を歩いていても、出来の良いメイド人形にしか見えないだろう。

その腰から下、スカートの中から生えている複数のアーム砲が無ければ、だが。

 

『お、お姉様』スケアクロウの顔が怒りから恐怖へと変わり呟く

 

『・・・・申し訳ありません』

『300体の下級兵士を損失し、私自身も破壊されるなど・・・』

『なぜ私は廃棄処分にされなかったのでしょうか』

今回の不始末を恥と感じ、処刑されなかったのが不思議だった。

 

「失敗の度に廃棄処分にしていたら部下は育ちませんわ」ニッコリ笑いスケアクロウに答える

「ただし、同じミスをするバカは不要ですわね」

「それが例え妹でも、ですわ・・・」口をスケアクロウの耳元へ近づけ静かに言う。そう伝えるエージェントの顔は冷たく笑っている。

それを見聞きしたスケアクロウの顔がふたたび恐怖に染まる。

 

「ね、姉様。同じミスは二度としません。R-15はすぐに落として見せます」

汚名返上、名誉挽回をすぐにでもすると誓う。

 

「・・・R-15への手出しは禁止します。貴女はエクスキューショナーとハンターと組み、S地区の基地を潰して回りなさい」

先日の大規模作戦でS地区は押されていたため戦力的に梃入れする必要がある。

スケアクロウの指揮特性、エクスキューショナーとハンターの攻防特性を合わせれば、大部分の基地は簡単に攻略可能だろう。

R-15地区で遊んで、ましてや破壊などされている暇など無いのだ。

 

慌てて立ち上がったスケアクロウは急いでS地区への出撃準備を進めるためにフヨフヨ浮いて出て行った。

 

・・・

スケアクロウの出て行った方をしばらく見続けながら考え事をしていた

「さて、可愛い妹を弄んでくださった殿方に近いうちにご挨拶に伺わないといけませんわね・・・」

 

エージェントはちょっとR-15(そこ)まで散歩にでも出掛けようかと考えるのだった。

 

・・

・・・

・・・・

『なんだよスケアクロウ、一人でやるって言っといてやられて帰ってきたのかよ』

ニヤけながら近づいて来たのはエクスキューショナーだ。

会話すらもする気が無かったスケアクロウは無線通信でエージェントの命令を伝える。

『お、なに。次はハンターと一緒に仕事か。やったぜ!』

『スケアクロウ、お前も一緒か。今回は仲良く楽しもうぜ』

 

・・・・

『で、R-14は楽勝だったけど楽しめたぜ』

ハンターのところに向かう二人だが、フヨフヨ浮いている次の任務の相方に話す。

言ってしまえば攻略成功の自慢話だ。

無視するつもりだったが、無線通信で無理くり頭に情報を送ってくる。うざい事この上ないと思うスケアクロウだが無視し続けるのも悪いので諦めてR-14攻略話を聞くこととした。

 

『基地入り口の抵抗は激しかったけど関係ねーよな。俺が突っ込んで行って全部ぶった斬ってやったわけよ』

戦略もクソもない。ただ性能に物を言わしたゴリ押しじゃないか。と思うスケアクロウ。

まあ、エクスキューショナーはそれが正しい運用だって分かってはいるが。

 

『メンテナンスルームと司令室に立て篭もりやがったから、メンテルームは部下に皆殺しを指示して、俺は司令室に向かったんだよな』

テーマパークに遊びに行った思い出を語る様に愉快に話すエクスキューショナー。

 

『あー、そうそう。アイツらにも根性ある人形がいたんだよ』

そう言ってスケアクロウの肩をバンバン叩いてやる。

スケアクロウはフヨフヨ浮いている為、姿勢制御が危うくなって転倒しそうになり非常に迷惑そうな視線を向けてくるが、エクスキューショナーは全く気にしていない。

 

『そいつらがさー・・・・』

 

・・

・・・

・・・・

 

「くっ、アクセル指揮官、司令室前の防衛隊は全滅です」副官のリー・エンフィールドが苦しそうに報告する。

 

隣のアクセルは頭を抱えて「死にたくない死にたくない」と呟き反応がない。パニックになっている様子である。

 

「指揮官。もう少しシャキッとしてください!」と発破をかけるが、あまり効果が無い様子である。

「敵のハイエンドだけでも倒せれば…」と思うが、有効な策は思い浮かばない。

こんなときに人間の指揮官の能力が求められるが、先にフリーズしてしまっていて役に立たない。

 

「そうだよ!お前らの誰かが命掛けて・・・特攻して倒してこいよ!」涙と鼻水を垂らして騒ぎたてる指揮官。

戦術人形たちもそれを聞いて固まるが、悪くないというかそれくらいしか無いと感じていた。

 

・・・・

「指揮官様、私たちが行きますわ」

とM1911とブレン・テンが立候補し準備を始める。指令室の中に集めた武器弾薬の中から、対戦車地雷を持ち出す。直撃すればマンティコアすら破壊できる強力な地雷。それを手動起爆モードにして身体に固定する。

両名の準備が完了したところで、

「私が先に行って道を作ります。M1911はその後にお願いします」

「行ってきます。バイバイ、指揮官」と悲しそうな顔を見せて出ていく。

 

ブレン・テンの特攻に合わせてグリフィンの仲間は射撃を中止する。鉄血からの射撃は続き被弾しながらもブレン・テンは敵に肉薄する。

多数の直撃を受け機能停止直前になるが、ギリギリ敵前方にたどり着き地雷は起爆された。

爆発による凄まじい爆風と熱によりブレン・テンの義体は消滅するが、それに巻き込まれる形で多数の鉄血兵も損壊させられる。

 

『特攻・・・かよ』さすがにエクスキューショナーも怯むが・・・

 

ブレン・テンの特攻に間をおかずM1911が飛び出してくる。

(指揮官様、行って参ります!寂しがらないでくださいね・・・)

 

M1911がエクスキューショナーを視認し一気に駆け寄る。

「獲った!」M1911が勝利を確信した言葉を吐く。

地雷を起爆して作戦成功!・・・のはずが、地雷は起爆しなかった。

「なんで・・・・?」

右手に握りしめた起爆装置・・・右手?・・・

 

「あああああっ」気がついたら両腕が肩から下で斬り飛ばされていた。痛みと衝撃でパニックになるM1911。

 

『ああ悪りいな。どっちかわかんねーから両方斬ったわ』

『しかし、お前ら根性あるな』友達に話しかける様に声をかけて、左手で首を掴み吊り上げる。

 

「か、かはっ」首を絞められ苦しむM1911であるが、

「て、鉄クズが・・・殺す」と強がり言葉を発する。

 

『いいねえ。根性があって折れないヤツは敵だろうが俺は好きだ』

身体に巻き付けてある地雷を取り外しながらエクスキューショナーは楽しそうに声をかける。

 

『お!いい事考えたぞ』

『おいお前、そこらに転がっている鉄パイプ拾ってこい』

横にいたイェーガーに指示するが、よくわからない事態に反応が遅れてしまった。

と言っても大した話では無かったのだが・・・

 

『テメーに言ってんだろが!』突然激怒し蹴り飛ばされたイェーガーは壁にビチャリと貼り付き破壊される。

慌てて周りのイェーガーがパイプを持ってくる。

鉄パイプを受け取ったエクスキューショナーはM1911の腹に突き刺し貫通させ、壁へと磔にする。

両腕を喪失したM1911に解く術はなく吊るされるがままだ。

 

『お前さぁ。鉄血に来ねえか?』吊るされたM1911へ真顔で問うエクスキューショナーだが、

 

「誰が!・・・殺してやる」

 

『いいね。その態度。だからさ、これを使ってやるよ』そう言って人形用のインジェクターを取り出す

それを見たM1911の顔は恐怖に染まる。

 

「なに・・・それ?イヤ。やめて・・・」身を捩るが磔にされた身体が解ける事は無かった。

 

『姉達が作った鉄血人形に改造するウイルスさ』

『電脳とメンタルが犯されていく感覚をゆっくり楽しめ』

笑顔のエクスキューショナーはM1911の首筋にインジェクターを突き立て全量注入する

 

「ああああああああああっ」

注入されたおぞましいウイルスを乗せたナノマシンが全身を巡り身体が溶けるほど熱くなる。身体中の血管が浮き出て蠢く。

ウイルスによりファイアーウォールが破壊されメンタルが書き換えられていく。その過程で大量のエラーが発生してシャットダウンさせられたのか、M1911は程なく気絶していた。

 

・・

・・・

・・・・

司令室にはM1911から外した地雷をブルートに取り付け特攻させ切り崩し、最後は自身が乗り込んで全て斬殺してやった。

まあ、余裕だったな。

司令室から出てきたエクスキューショナーはグッタリしたM1911を見て声を掛ける

『助けに来たグリフィン人形と指揮官は皆殺しにしろ』

 

「・・・・」

「わかりました・・・えくすきゆーしよなーさま」

おう。良さそうじゃないか。すぐに射殺されるだろうが上手くいけば何体か巻き込めるだろう。

 

『おーし、お前ら引き上げるぞ』

生き残った鉄血兵をまとめてさっさと撤収するのだった。

 

・・

・・・

・・・・

『・・・てな感じだったわけよ』

事細かに話すエクスキューショナーは楽しそうだ。

お前の話も聞かせろよとせがんで来るが負け戦など話す気はないスケアクロウは無視を決め込む。

 

『分かったよ。S地区の遠征が終わったらR-15を三人で潰しに行こうぜ』

『三人なら余裕だろ?』

確かに仲間で行くのも悪くないだろう。

 

「分かりましたわ。次は皆で潰しに行きましょう」

S地区の任務をさっさと終わらせてリベンジに行く気満々のスケアクロウだった。

 




うーん。ハイエンド達にしっかり目を付けられてしまいましたな。
エージェントが来たら、一撃で粉砕されますぞ。
それにエージェントじゃ無いにしてもスケアクロウたち三人が来たら死にますがな。
この三人はS地区から無事に帰ってくることはできるのか?

あ、あとSPEC様から教練のご許可を頂いたので送ろうかと思います。
近日中に濃ゆい人形を送らせていただきます。
よろしくお願い申し上げます。(笑)


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35.R-15基地修復中の日常

今回は一人語り形式にしてみました。
どうだろうか。


こんにちは、R-15指揮官のナイルです。

最近すっかり暖かくなりましたね。R-15周辺もすっかり春です。 ※5,6月頃の想定

襲撃してきたハイエンドのヤツに基地めちゃくちゃにされたけど、R-14の方は全滅でさらにめちゃくちゃらしく、修理は向こう優先になっちゃったのよね。

玄関とかブルーシート掛けだしで情けない見た目に、まあ中も酷いんで見た目だけじゃ無いんだけど、そんな状態ですわ。

 

そうそう、PPS-43が帰ってきましたよ。

全交換で抜いた擬似体液もウイルスは陰性だった様で特に問題なく、ね。

ついでに少し早いけど合わせて定期オーバーホールも実施したので元気いっぱいだとさ。

 

「ただいま。指揮官のために働いてなんてやらないんだからね」だってさ。素直じゃない。

なんで帽子の上から頭撫でてやったわ。顔真っ赤にして縮んでおったわい。

だいぶこの子の扱いに慣れてきた。

こんどのパーティーはPPS-43の復帰祝いも兼ねることになったな。

 

そうだPPS-43の話によると、M1911の治療も少しずつながら進んでいるらしい。

体内のウイルス量も徐々には減ってきている様で峠は越えたとか。

従来のアンチウイルス薬は効かないらしく、抜き取ったウイルスを鋭意解析中との事だ。

治療薬作成も時間の問題だろうと。ね。

 

最近のホットな話題はそう。OBRの借金の件だよ!

突然ヤツの500万の借金が俺に付け替えられたのよ。意味がわからん。

なんか戦闘中の励ましが約束になっちまった様で、社内のAI判定?で決める事になったらしいんだが、納得いかないのはここからだよ。

AI使うまでもないとかで社長が勝手に俺の借金にしやがったのよ。おかしいでしょこれ?

頭来て、本社の財務管理課に文句言ったけど、梨の礫ですよ。

なんで課長代理に直接文句言ったら、冷たい目で「社長の決定は社において絶対です。社のルールが守れないなら罰が下りますよ」だって。

そうじゃなくてその無茶苦茶な決定はなんなんだって話ですよ。その怒りをぶつけたけど効果なし。紅茶啜ってスルーですよ。あの課長代理、俺に恨みでもあるのかってーの!

横のウェルロッドにどういう事なの?と聞いてみるが、こいつもダンマリだ。この態度は何か知ってやがるが多分吐かないだろう。

紅茶を啜ってやがるが、なんなの?本社の人形は隠し事する時は紅茶啜るのが様式なのか?R-15は紅茶禁止にしたろか?マジで。

 

で、OBR呼び出してこれはなんなんだって聞いたら、AI判定の結果だって。

決まった事は恨みっこなしです!しつこいのは嫌いです!パワハラですよ!とか怒ってんのよ。怒りたいのはこっちだってーの!

不満そうにしてたら周りの人形達から、指揮官最低ですとか言われて冷たい目で見られるわけですよ。

なんなんこれ?俺が悪いのか?

 

で、さらに狂ってるのが翌日また借金こさえてきて「指揮官〜、ごめ〜ん」だって!

なんか昔の仕事先のヤツと通信してて助けてくれってせがまれて、10万借金肩代わりすることになったとかなんとか。

お前はあれか?すごろくゲームの勝手に借金作ってくるお邪魔キャラかなんかか?あ?

 

「なんとかならないかな?しきか〜ん!」

とか言って俺のデスクに両手をついて、腕でバストを挟んで揺すってくるのよ。

見せブラに包まれた、はちきれんばかりの果実が目前で揺れていて、思わず見惚れてしまったのは内緒だ。男だからそこはしょうがないだろ。

俺も揺れる果実に思考能力を奪われてうっかり、なんとかなるんじゃん?とか呟いてたらしい。記憶に無いけど。

だってしょうがないじゃん!目の前で揺れてる果実から甘い匂いがするんだぜ。G36Cの熟れた果実とは違ったフレッシュな香り。手や顔を伸ばせば届く距離。ブラ()を剥いてツルッと行きたくなっちゃうじゃん。いや、若い娘のいる親としてはいかんか…

 

そんなところで、能面の様な顔のG36Cから二人して脳天にアイアンクローを掛けられて正気に戻ったが、これもこれで危なかった。怒りがこもってたせいか頭蓋骨がミシミシ言ってたぞ。頭がパーンで痛いを通り越して遺体になるところだった。

 

用が済んだらOBRのやつサッサと出ていきやがった。またAI申請→社長による付け替えの茶番で俺の借金になるんやろ?

全く、OBRのヤツは俺のこと財布かうちでの小槌くらいにしか思ってねーんだろうな。あざとすぎるだろ?マジで人形風俗にでも出向させたろか?いや、ダメだ。稼ぎに行ったはずがなぜか借金が億単位になって帰ってくる事になるだろうからな。もちろん俺に付け替えられるお約束付きでね。

マジであいつ貧乏神か?手放した方がいいのか?

 

・・・・・

書き出すととんでもない日常ばっかだな。

まあ、翌日はR-13のローズマリー指揮官に挨拶に行く事にしているから、そんなに問題にはならんだろ。

ゆっくりした日常が送りたいものだ。

 




うん、やっぱりOBRええな。
かわいい+エロい+借金癖。・・・正直、大好きです(笑)
なんか、キャバクラのお姉ちゃんみたいなキャラ設定だと思うのは俺だけか?


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36.祭りの準備

遅くなってごめん。

悩んだ。何を書くか。
とりあえずパーティーを進めます。
今回は入りも入り、入り口で一度くぎらせて下さい。
短めですみません。

そうそう、アストラちゃんの水着、手に入りましたぜ。( ̄▽ ̄)


R-14基地の問題とか色々あったけど、R-15基地も無事修復完了。

この間にR-13の上役のローズマリー指揮官と色々あったりしたけど、それはまた別の話という事で。

 

と言うわけで、

「ハイエンド暗殺成功パーティー兼、本社組配属記念兼、PPS-43復帰祝い(兼、仲直り会)」

を本日開催する事になった。

本社組はパーティーのゲスト扱いでいいんだけど、ライフル3人衆は早く馴染みたいから一緒に準備を手伝うんだってさ。

戦術人形は真面目だねえ。俺なら後輩に丸投げして飲んだくれているけどね。

M21は明るい人形だから、サブリナと二人で司会をやるんだってさ。

 

そのM21がテンション高めに話し出す。

 

「新しい生活が始まるんだよ。指揮官!私のギャグ見る?うぇ?嫌なの~~!?」

まだ何もリアクションしてないのに勝手にボケ始めるM21。

 

『いや、嫌だなんて言ってないが』自分で見るか聞いて即自身で否定されてもね。見ると聞いた以上やってもらおうか!

『じゃあ、ギャグやれ。命令だ』

 

「え!?マジか〜」

なんて言っているが困っている様子もない。

まあ自分なりに楽しめよ。

 

 

で、サブリナはなんかやりたい事や、やる事が増えたらしく午後の定時前から始めるんだって。

構わないけど、「やりたい事が増えた」という言葉が気になる。

当日のサプライズでやりたいらしく「指揮官には秘密で〜す」だって。

まあ、予算がヤバく無いなら大丈夫だろう。

前回の事があるから、金銭関係に怪しい動きがないかは入念に確認済みである。

 

ウェルロッドのヤツは相変わらず。いつも通りのマイペース運転ですわ。普通にお客様気分の様子。

『お前も何か手伝ったら?仲良くなれるかもよ?』

 

「戦術人形に馴れ合いは不要です」興味もない様子で言い放つウェルロッド

 

『必要以上にベタベタする必要は無いけど、仲良くしといて損はないんじゃ無いの』

『配属される前の方がよっぽどとっつき易く感じたのは気のせいか?』

 

「配属前は任務での潜入調査ですから」作り上げた性格だと言いたい様だ。

 

『器用なヤツだな。しかし尚更分からんね。同じように当たり障り無く接すればいいじゃないか』

『意図的に不仲になる必要は無いだろうよ』

 

「・・・・指揮官には関係のない事です」

 

『そう言われたらそこまでだ。ならば仲良くしろと命令したらやるのか?』

 

「命令ならば・・・努力はします」

 

分からんな。分からんが何か事情があるのだろう。

そんなものもパーティーで解けてくれればいいんだけど・・・

 

・・・・・

サブリナが呼びつけた本社の広報部が生中継の準備をしているが、広報部の偉い人はサブリナとM21とで打ち合わせしている。

三人して笑っているが、俺には悪巧みにしか見えない。

まあ今回は大丈夫だろう。そう判断して任せる事にした。

 

・・・・・

俺は客人を待っていた。

上司のヘリアントスとI.O.P.の技術部門のお偉方のペルシカリアだ。

ヘリアントストを呼んだのは健全に運営しているのを目で見てもらう為だ。ペルシカリアはあちらの仕事の関係だ。

本社から出立した時間から逆算してヘリポートで待つ。エルと92式も一緒に連れてきている。G36Cは司令室で俺の代打をしてもらうのでお留守番だ。

『やはり上司や取引先のお偉方を相手にするのは気を使うな』

その言葉に、92式達は怪訝な瞳を向ける。

「指揮官、まさか気を使ってアレなんですか?」

どれだが知らんが、気を遣ってこの状態ですよ。ええ。

「「・・・・・」」

私たちももう少し手厚くフォローします。とかなんとか言っているが。失礼なヤツらめ。

 

そんなこんな考えていたらヘリが来ましたよ。

着陸したヘリからヘリアンとペルシカが降りてくる。くるなり挨拶と嫌味を言われた。

前回のパーティーの苦情の件だった。そこは諦めて欲しい。

司令室に連れて行き接待するが、特に変わったこともない会話を交わす程度だった。

 

そうそう、基地の守備はお偉方が来るから、クリスティーナ指揮官のところの多目的活動隊と本社からの臨時部隊の計4部隊で守備するとのことだ。厳重なこった。

 

開始まで2時間はある。人形達は準備を、ナイルは接待を進めるのだった。

しかし、なんだかんだもとい、絶対にまともに終わるわけのないパーティーが迫っている事にナイルは気づいていなかった。




ナイルさん、またやられてしまうん?

人形の裁量に任せたい →何故か悪い方向に毎回ブレる →大変な事になる。
何故毎回悪い方にブレるのか本人も分かっていない。
恐らく偶然だろうと考えているわけですね。
あと二、三度はめられれば『なんかおかしくね』となると思いますが、
その時まで生き残れるのか?


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37.シークレットその1

パーティーの開始とシークレットその1の開始までです。
刻んで進めます。よろしくお願いしますm(_ _)m

皆さんのおかげでUAもお気に入り登録も増えてきました。
それらをモチベーションに頑張っております。
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m


放送開始時間になりGKTV-4にて放送が開始される。

放送が開始されるなりサブリナの顔のドアップが映し出される。多分TVを見ていた全員がびっくりしたと思う。

 

「R-15基地のパーティー開始しまーす。ショーの始まりだよ!」ドアップのサブリナがウインクして告げる。

そのドアップ演出、誰の発案だよ。

 

「始まったばかりだからね。しばらく歓談で〜す」

いいのか?TV的にいきなり歓談で。TVつけていきなり飲み会の歓談流されたら速攻でチャンネル回すぞ。

 

ナイルは知らないようだがGKTVはメインの番組を1~3で流しており、4チャンはキワモノ系の番組がメインであった。

どこそこに埋蔵金や遺跡が埋まっているとか、どこそこに未開の廃墟があるので調査とか、そういう系の番組が多かったりする。

まあそんなチャンネルが放送しているのでお察しである。埋蔵金や遺跡発掘と同程度の娯楽と認識されているのがR-15基地のパーティーなのであった。

 

「面白いねキミの基地の人形達は。SPAS-12型の人形があんなに砕けているのは初めて見るわね」

「ペルシカ、コイツを理解しようとしてもいい事はない。なっても反面教師がいいところだ」

横に居るペルシカが呟くが、ヘリアンが俺をディスる。

『そりゃどうも・・・』

適当に返事するがなんなんだよ。コントか?とりあえず褒めてくれたっていいじゃないかヘリアンさん!

二人はいつもの白衣や制服ではなくカジュアルな服装である。

俺的な目の保養によし!と言うのは脳内に留めておく。

 

とりあえず、お偉方のヘリアンやペルシカの側でしんみりやってよう。ここならうちの人形も無茶しないはずだ。

と思っていたが、このお偉方バリアーは役に立たない事がすぐに分かった。

現れたのは92式と56-1式の二人だった。

 

「指揮官!何やってるですか?乾杯ですよ♪」朗らかな92式が話しかけてくる。

これは早くも酒が入っているな・・・

 

『いや、俺の前にお偉方たちと乾杯が先だろう?』バカが。バリアーがあんだよ。なめるなよ。

 

「私たちはいい。キミが部下の人形と接する姿を見に来たのだからね」あっさりペルシカに見捨てられるナイル。

いや、待て待て。助けてくれや。頼むから〜。(泣)

 

「はい、指揮官乾杯ですよ」と言ってビールジョッキを取り上げてタンブラーを渡してくる。

いや待てや、このタンブラーは普通サイズの350mlは入るヤツやろ。ワンカップの倍くらい入るのはまずい

 

「はい指揮官。飲みますよ」と言って92式と俺のタンブラーに56-1式がなみなみ白酒(パイチュウ)が注がれる。

(あ、これは俺、オタワ)

「指揮官。乾杯!」92式が一気に飲み干す。

『・・・・・』俺は流石にタンブラーの白酒にビビっているが、56-1式に「はい一気ね」と言われ無理くり一気飲みさせられる。

『・・・・・』胃が・・・胃が死ぬ・・・

 

「次は私とだよ!」と間を置かずに56-1式との乾杯が続く。

案の定、92式がなみなみ注いでくる。

頼むよ。タンブラーで飲む酒じゃ無いでしょ。ショットグラスよショットグラス。

「指揮官〜。かんぱ〜い」とオートマチック一気飲みが開始される。

『ああ・・・かんぱい』と呟くが、飲めねえよ流石に。

 

「指揮官!乾杯ですよ!」と92式が怒り顔で一気を強要してくる。

致し方なく一気飲みして、そのままトイレに直行する羽目になるのだった。

 

もちろん、絡まれている指揮官の姿はLIVE中継されていたのだった

(中国銃人形がいる基地の指揮官、すまねえ。皆さんも自分ちの人形にやられないように気をつけてくれ)

 

・・・・・

「キミも人形に好かれたもんだね」

トイレから帰ってきてげっそりのナイルにペルシカが話しかける。

 

『なんですかね。好かれているんですかこれ?特に何かやっているわけでは無いですけどね』

『ヘリアンさんには俺が被害者だって理解して貰えれば幸いですよ』

 

「ふっ。貴様の管理の悪さが評価に付け加えられるだけだ」

容赦ない物言いだが笑いながら話している事から冗談と信じたい。

 

『ペルシカさんはなんでうちの基地視察なんですかね。なんかあったんですか?』

 

「言ってなかったかな。このR-15のパーティーが想定外に他の基地の人形のメンタルに良い効果が認められてね。人形の娯楽、という位置付けで研究すべきと話がでていたんだ。」

『へーそうなんですか』

 

「なんで、今回はGKTVには我々から依頼したんだよ。私たちもパーティーの度に参加するよ」

 

『あーそうなんですか・・・。え?パーティーの度?生中継強制??』

『いや、勘弁ですよね。それ』

 

「それもそうだね。謝礼を払うよ。一回10万でどうだい?」

 

『あ、助かります』と頭を下げるが、あれウェルロッドに相談してねえけどまずかったか?まあいいか。

結果的にこれは良くなかったようで、後々ウェルロッドに正座させられて説教された訳だが、それはまた別の話である。

 

・・・・・

「皆さん、これから余興その1がはじまりますよ。サブリナちゃん、何でしたか?」

「余興その1は・・・ハイエンドとの攻防戦の反省会でーす」笑顔にピースでアピールのサブリナ。

 

それを聞いて、ぶ〜〜〜とビールを吹き出すナイル指揮官。

ちょっと待て、え?グリフィン全基地に向けて生中継でやんの?いきなり?

『ちょ・・・G36C、なんか聞いてる?』

「いえ、初耳です・・・」G36Cも知りませんでしたよ。って顔を返す。

 

あかん、あかんやつや。

基地内なら何も問題無いけど、全基地に向けてアドリブでやるなんて。

芸人が打ち合わせせずに突然アドリブで漫才始めるようなもんだ、しかもプロの漫才師をお客さんにね。

 

ヘリアン、ペルシカ、クリスティーナ、おまけに生中継中や。今更知りませんでした中止なんて間が悪すぎる。

しかも、全人形がすげーやる気満々で盛り上がってるし・・・

中止出来ない前回のピザ屋さんの二の舞やん・・・・

 

(クソ。こんな手の込んだ嫌がらせは、またS10のPx4だろ?)

(マジで乗り込んで苦情言うか?ひと暴れしたるか?)

 

・・・・

ナイルはPx4を疑っていたが、実は珍しく無罪であった。

Px4とサブリナの雑談で、ハイエンド撃破の報告した時に作戦報告を詳しく聞きたいわね。と話題として出ていた。

それを聞いたサブリナが指揮官にダンマリで計画してしまったのが真相であった。

完全にサブリナのミスでPx4にしてみれば風評被害なのだが、まあ今までの行いの結果といえばその誤解も致し方なしかもしれない。

 

(くそ。今度はこっちから人員を送って釘刺すしかねえな)

(覚えてろよ、Px4め!)

R-13のローズマリー上級指揮官から、S10で教練を受けられる事を聞いていた。

パーティーが終わったらスパイも兼ねて送ってやろう。

 

仕返しの内容に意識が飛びかけたが、この局面をなんとかするしか無い。

とりあえず、そつなくこなそう。

ナイル指揮官にとって試練の時が訪れるのだった・・・

 




うーん、ナイルさんの推理ミスですね。
余計な疑いをかけて、それをネタにまたやられてしまうんでないか。

S10に教練に送る事は確定したようですね。
パーティーが終わるまでに人選をせんと行けませんな(笑)

パーティーはまだしばらく続きます。


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38.スケアクロウ反省会

反省会だけど難しい。
思いの外、難しい。
やはりパーティーはむずい。

頑張って書きました。
ちょっと自信がありません。


やべー。すげえ緊張する。どうなるの?この反省会。出たとこ勝負やで?

サブリナに任せるしかねえって言うのが不安しかない。胃が痛い・・・

なんて考えていたら、ステージに呼ばれる。

 

「指揮官からパーティーの挨拶も兼ねてお願いします」

ああ、うん。

基地防衛とハイエンド撃破、負傷者の復帰おめでとう。反省会も楽しみながらやろう。

他の基地の皆さんもよろしく。出来て3ヶ月弱なので弱小なんで暖かく見守って欲しい。

的な話をしてまとめましたよ。

ついでに、飲み始めていたけど乾杯もしとく。

なんとも締まりがないスタートとなった。

 

「じゃあ、反省会を始めるよ」と言いながら、サブリナは丸めた竹ラグを持ち出して敷きはじめる。

(ん?あの竹ラグは正座用のやつじゃね?)

 

『あの、その竹ラグ、何に使うのかな?』

嫌な予感がして恐る恐る聞くが、回答は想定どおりだった。

「反省用だよ~」とにっこり笑って言うが、何の反省だよ。

まさか正座させるのか?あれに?誰を?

聞くのも嫌になったので、何も見なかったことにする。

 

「では戦いを時系列で振り返っていきます」

「第二小隊の皆さんお願いします」

ゾロゾロとステージに上がる第二小隊のメンバーたち。

 

「じゃあ、敵の発見辺りから」司会はM21にチェンジしている

「ちょうどスナイプの訓練中で・・・」エルが解説を始める。

画面には記録映像(記憶)が映し出される。ちょうどアストラの視界のようだ。

 

解説と討論が始まるが

「見つけたの偶然だし、超ラッキーだったよね」

「ここで見つけなければ準備できず全滅だったよね」

 

『うん、簡単に運搬できる簡易式のレーダー基地的なものが有れば便利かな』

『設置しといて、敵の通過や基地の破壊が判別できれば便利だよね』

ツールでなんとかしたいねと講評するナイル。

 

「次の場面行ってみましょう」

 

・・・・・

「エル隊長の一報を聞いた司令部です」

うん?G36Cの記憶が映し出される。おーおー、俺が悪態ついてるわ。

その後、本社とR-13基地に増援のお願いをするが、R-13への連絡中にジャミングで通信不能となる。

 

「・・・・・」

「これは指揮官、どうなの?」「どうでもいい悪態ついてて超ギリギリじゃない」「私たちがベストを尽くしてるのに・・・」

え?いやジャミングなんて分からんし、俺悪くなくない?

「はーい、指揮官アウトです。反省でーす」とサブリナがホイッスルを鳴らして俺を連行する。竹ラグの上へ・・・

「はい指揮官、正座です」にっこりしながら言う。

いや、待ってよ。俺は悪くない。最後まで抵抗するが、

「指揮官、めっ!だよ」サブリナが頬を膨らませて子供を叱るように続ける。

周りの人形からの冷たい視線に観念して、ナイルは正座するのだった。

 

『俺が言うのもなんですが、先行してジャミングで通信不能にさせるのが連中の手口のようなので、自動でジャミングを検出する機能があると便利だと思います。はい』

(やっぱりこの竹ラグ、すげえ痛い。マジで拷問だってこれ)

と講評する。

 

「はい次の場面に移りますが、指揮官が選択した戦術を解説します」

大きく分けて屋上班と玄関班、玄関は簡易的な陣地を作成して徹底した守備を敷く。

ナイルが正座のまま解説を加える

『時間が無かった中急ぎ決定した・・・基地の塀を壊されない前提の作戦・・・人数も限られていたので・・・』苦痛で途切れ途切れの解説になる。

『いや、マジで足痛えから立って良いかな?良いよね?』

「駄目です♪」にっこり即答するサブリナ。

鬼かよ。この竹ラグマジで痛いんだって。いつかサブリナとエルを正座させた仕返しか?

 

・・・・・

屋上班の解説に変わる。

ウェルロッドとM21、PSG-1、OBR達の屋上班が登壇する。

第一ラウンドでは順調にガードとイェーガーを仕留めている。

「ここまでは完璧でしたね」とウェルロッド。3人の記憶も丁寧に目標を一方的に屠っている。

本当に順調だったんだね。お陰で玄関班も助かってたんだよ。とサブリナがお礼を伝えている。

その心遣いを一ミリでも俺に分けて欲しい。

 

続く玄関班の解説もMG、AR、SMGの綺麗な連携で敵を寄せ付けない。

特にMG二名の連携は素晴らしかったな。62式は大分エルにしごかれた様で上達していた。

 

『屋上班も玄関班も素晴らしい。報告は聞いていたが映像からも練度の高さがわかる』

なんで、もう立っても良いかな?

「駄目です♪」相変わらずにっこり即答するサブリナ。

まじで?まだっすか?

 

・・・・・

そして、第二ラウンドに移行する。

 

問題の屋上班だ。

ウェルロッドが重装甲のイージスを発見してM61徹甲弾の装備を指示する。

「失態です。後ろにいたニーマムを見落としておりました」

反省の色を見せるウェルロッド

その後にニーマムの砲弾が屋上にクリティカルヒットして、OBRとM21が重傷となってしまう。

(よしよし、反省シートは俺とチェンジやで!)

 

ウェルロッドやOBRの記憶が映し出されるが、悲惨なものだった。

『ウェルロッド、反省が必要だな。正座だ。』

「ウェルロッドちゃんのせいじゃないよ」等々ライフル組からかかる声。

俺が真面目な顔で正座を宣言するが、ライフル組はウェルロッドを庇いおった。

「みんな・・・ありがとう」ウェルロッドが顔を緩めながら呟く。

 

「はい。ウェルロッドちゃんの反省は終わりました。」

さらっと流すサブリナ。

『ちょっと、サブリナ。ズルいでしょ。チェンジチェンジ!』抗議の声を上げるが、

「指揮官!そういうところですよ!反省が足りてません!まだ正座継続です」サブリナが容赦なく宣言する。

 

その後に、M21とOBRが家事ロボに修復装置へ運び込まれる。ここで指揮官と落ち合うのだが、OBRの不安に適当に回答するナイル。この後に後日「借金なんて知らん」的にOBRへ言い放つナイルも映される。

 

「うわー、指揮官最低」「女の子騙してるよ」とか軽蔑の言葉をかけられる。

「はい。指揮官、アウトです。二回目です」ホイッスルをならされるが、これ以上どうにならんでしょ。と思ったらゴミ置場から持ってきた雑誌の束を足の上に置かれた。

鬼かよ。まじでヤバイって。足が・・・足がっ・・・

 

・・・・・

屋上班壊滅の後は玄関班が窮地に立たされる

ガードやイェーガーが加わり大変なのに多脚戦車のマンティコアまで現れる。

「簡易陣地放棄の判断が遅れました。相手の方が一枚上手でした」反省の弁を述べる92式

「私の判断遅れで、62式が怪我を負うことに・・・」

(よしよし、怪我人まで出てるんだ、これは反省だろう)

 

「62式、あの時はありがとう」しゅんとして改めて例を言う56-1式

「気にしなくていいよ。仲間のピンチを助けなきゃ人形じゃないよね」「それに92式はよくやってくれたよね。謝る必要なんてないさ」と62式

なんか、62式と56-1式の仲が深まったを通り越して親友みたくなってるのは意外だった。

「最後はピンチだったけど楽しかったよ。フリーズした56-1式を運んだのは私だよー」とFNC

「だって・・・62式が怪我しちゃって・・・」と思い出して恥ずかしがるの56-1式

「私も焦ったけど、92式の隊長判断は良かったと思うよ」とエルが締める

 

「はい、92式さんの反省も完了です」

 

『タイミングの遅れはあったけど・・・まあ大きな問題なかったかな』『あの状況でよくやってくれた』

『で、そろそろ立っていいかな?』

「駄目です♪」

もうゆるして・・・

 

・・・・・

基地内に入り込んだ敵とのCQBに話が移る。

「結構抑えていたけど敵が多くて大変だったよね」と参加者一同

「こんな感じの戦闘だったんだ」とライフル組や怪我で脱落していた62式は感想をこぼす。

「ここで意外な人が戦場に出てきました。指揮官でーす!」

うおおおお。と盛り上がる会場。

しかし、その後が酷かった。指揮官の取り合いを始めてチームワークがグダグダになる人形たち。

 

『お前ら!この時俺は怒ってたんだぞ!特にサブリナとG36C!お前らは反省の正座だ!』

ナイルが吠えるが、人形達は特に動かない。

(ううっ。誰も指揮官の言うことを聞きゃしない。どうなってんだこれ。(泣))

 

サブリナが記憶を流す。

「指揮官、この時指揮官は下がれって皆言ってるじゃないですか」

「指揮官が下がらないからこんな事になってるんですよ」サブリナが頬を膨らませて怒る

 

『いやいや、一丁でも多い方がいいって言ったろ。ここはお前らが仲良く自重しなさい』俺も引けない

 

「はい、分かりました。ではCQBでのスコアを記録しましたので紹介します!」

ん?スコア?

「キル数トップはエル隊長です」エルの視覚がモニタに映り流し出される。

MGの発射レートで直撃させ敵を次々に粉々にしている。有効弾の割合も高いしで正直ヤバい戦闘力だろ

 

「命中率トップは92式隊長です」同じく92式の視覚が映し出されるがコイツもヤバい。

突出してくる敵に容赦なくHSを含め有効弾入れていく。一撃で倒せないが動きをとめられている鉄血にすれば相当なハラスメントになっているだろう。

 

「HS、コアを合わせたクリティカル率トップは副官のG36Cでーす」やはりG36Cの視覚が映し出されるが、これは・・・

高速のエイミングでヘッド、コアに的確にセミオートでライフル弾を撃ち込んでいく。まるでFPSのプロゲーマーのような動きである。

これ、あの"能面+引き攣り笑い"のG36Cの時だろう。ヤバすぎる。病んでるだろこれ?口に出せないけどね。

 

「最後は指揮官です。キル数はゼロ、命中率、クリティカル率も最下位です」

がーん(T-T)。マジっすか?

『いやいや、皆のために牽制をだな・・・・』と言い訳するが、

 

「指揮官、こんな時くらい真面目にやって下さいな」「指揮官、見損ないました」などなど厳しい言葉が飛ぶ。

「指揮官は司令室にいてもらった方が結果的には良かったかな〜」意地悪っぽく言うサブリナ

「と言うわけで、指揮官3アウトです♪」ホイッスルが鳴らされ、追加で雑誌を抱かされる。

もう拷問の域ですよこれ。

 

この後、本社とR-13の増援が来てピンチは去るがもうどうでもいい。

足が痛え、はやく終わってくれ

 

・・・・・・

最後にアストラとスカウトのデュオだったが正直足が痛くて覚えていない。

潜入からハイエンド撃破のところは皆さん大盛り上がり。

特にハイエンドとのカウンタースナイプ合戦は凄かった。

「二人ともすごい」とか「見直したよ」とか声をかけられ皆にもみくちゃにされている。

アストラのおっちょこちょいもあったけど、その後の敵の足止めを含めて両名の動きは非常に良かったよ。

 

うん、これで終わりだよね。そうだよね。

 

・・

・・・

・・・・

「はい皆さん、これで反省会は終了です」

もう終わりだよね。立つよ。マジで立つよ。

「指揮官の反省も終わりましたね。立っていいですよ」

サブリナが前に来て起こしてくれるが・・・

 

痛ててて。まずい。今動かしちゃらめっ!

痺れを通り越して激痛で固まった膝が動かず、そのままサブリナの胸の双丘に顔面ダイブするが足が動かない為、顔が地面にずり落ちないようにサブリナに腕を回し抱きつく形となる。はたから見たら胸に顔を埋めて抱きついているエロ親父そのものにしか見えない。

 

「えへへへ、指揮官はしょうがないな。でもこういうのは夜の二人の時にやって欲しいな〜」満面の笑顔で呟くサブリナ

適度に張りがあり柔らかい双丘に埋まった頭を撫でるサブリナ。

(お前、狙いはこれかよ。全基地に生放送やぞ。洒落にならん)

しかし、足の回復には時間がかかるのだろう。動けないナイル。

 

その時、横にぬおっと現れたのは顔を能面ようにしたG36Cだった。

必殺の脳天アイアンクローで俺の頭をクレーンゲームの様に持ち上げ、自分の双丘へと移す。

柔らかいその谷間に顔を埋められる。

(いててて、その掴み方は間違ってる!絶対間違ってる)

(あは、でもぷにぷにできもちいい!・・・じゃねえ。生中継だ。早くなんとかしないと!)

「指揮官様は私が面倒を見ます!」とか言ってるが、どう考えても目的は違うだろう。しかし足が痺れてどうにもならん。

 

その後、サブリナと副官だけズルイ〜とか言って、代わる代わるくる人形に俺のあたまを自身の双丘へと送られる。

いや、ぷよぷよの気持ちよさと足の痛みと生中継のヤバさが混ざり訳が分からなくなる俺。

ただ、アイアンクローで頭掴むのやめて。40代の頭皮に優しくないらさ。

色んな人形が入り乱れしっちゃかめっちゃか。92式やエルやウェルロッドも居たような・・・

 

仕舞いには顔を般若のようにしたヘリアンさんが登壇して「風紀が乱れている」と俺だけめちゃくちゃ説教された。もちろん再度正座させられた上で。

なんなん?俺、被害者でしょ?

 

全基地にみっともない姿を晒したのちに、足が痺れたナイルはG36Cにお姫様抱っこされて降壇するのだった。

めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。(泣)

 




ナイルさんの足は怪我には至っておりません。ただの痺れです。
そこはしっかり見極めた上で人形達にいじられております。(笑)

結局、反省会を隠れ蓑としたサブリナさんの「指揮官ラブラブ大作戦」が決行されてしまいました。
何故かヘリアンさんに説教されたのはナイルさん一人でした。
合掌。

他の指揮官さん(他の作者様)とか大丈夫でしょうか。
うちの馬鹿騒ぎが悪影響しなければいいのだけど
少し心配です。


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39.途中の歓談

スケアクロウ攻防戦の後の歓談中の1コマです。
ナイルさん強く生きてくれ。


いってー。足がまだ痺れてるよ。

 

ハイエンド攻防戦の反省会が終わってG36Cのお姫様抱っこで降壇したけど、こんなおっさんのお姫様抱っこだぜ?テレビ的に絵面が悪すぎだと思うのだが。俺がみてたら絶対にチャンネル回す。

まあ、こちとら背に腹はかえられんからな。俺一人だったら壇上でピクピクするのが精一杯だったから。G36Cナイスファインプレー!

 

G36Cが俺を回収しているのを見てサブリナから鋭い視線が飛んで来てたな。試合に勝って油断して美味しいところを掻っ攫われた形になっちまったからな。さりげなくG36Cも勝ち誇ったドヤ顔向けて煽ってやがったし。この後の方が色々恐えよ。俺は。

 

・・・・・

降壇後は上司達VIP陣の横に運ばれて椅子に座らされる。立食形式だが足がまだ治らないので致し方ないということ。

『お騒がせしました。いつものことですが』と頭を掻いて反省したふりをするナイル

G36Cの他にウェルロッドも呼んでいる。

 

「ふふっ。来た甲斐があったよ。キミの人形との付き合い方は独特だね」とペルシカが感想をこぼすが

「いや、正しくは同じ様な指揮官もいたが皆いなくなっただな。大体馴れ合いが過ぎて統率が取れなくなってな。名誉の戦死と言うやつだ」サラッとヘリアンが言うが、気軽に言うことではないと思うのですがね・・・

 

まあ、その話題に乗っかって聞いてみるか。酒に酔ったナイルは普段よりふみこんでみた。

『お偉方はあんなこと言ってるけどG36Cはまえ(ジャスティン)と比べてどうなのよ?転属組はお前とエルとウェルロッドくらいだからな』

『エルの元サヤはお察し(ほぼヤクザ)だし、ウェルロッドは機密でしゃべれんからな』俺の言葉にウェルロッドは反応しないが無言の肯定なのだろう。エルの元サヤ、S10に対する悪印象(風評被害)の原因はPx4の所業が半分を占めている。

『で、実際のところどーよ?』

ペルシカもヘリアンもこの答えには興味があるようでG36Cの返事を待っている。

 

「指揮官様、非常に答えにくい問いですわ」G36Cが困り顔で溢す

『大丈夫だ。俺はもとよりこの二人は話は漏らさんさ。ウェルロッドお前も秘密厳守な!』

何がなんでも答えて欲しいのだろう。それを察してG36Cは答えようと思ったが、指揮官に遠慮なく言おうとも思った。せっかくの機会だ思いの丈をぶつけても指揮官は受け止めて考えてくれるだろう。()()()()()()()()()()()()()

 

「では指揮官様、言わせてもらいますわ。覚悟してくださいね」G36Cキリッとした真顔になりナイルに告げる。

覚悟?なんぞ?

 

「ナイル指揮官からは信頼され多くの裁量を与えられております。結果、好循環を保ち結果も出せており好感度も高まっております」

「しかし、今は指揮官の技量と人形の実力と信頼がいいところでバランスしているから上手くいっているのでしょう。このバランスが崩れるとデメリットが目立つようになると思います」

「指揮官様、最近人形が暴走する、は言い過ぎですがやり過ぎと思うことは無いですか?そうであればもしかしたらバランスが崩れてきているのかもしれませんね」

 

うん、よく知っているね。現在進行形で今日のパーティーで感じてますよ。はい。

 

「グリフィンには強烈な実力とカリスマを有した指揮官がいます。そのような指揮官であれば裁量を与えても人形側から思いっきり依存して上手くいくのでしょうが、指揮官様は優秀なお方ですがごく普通の・・・・・」目を伏せ苦しそうな顔をするG36C

 

おい。そこで言葉を止めんなよ。なんか問題だらけの指揮官みたいな雰囲気じゃねーかよ。

普通ですよ。俺くらいが普通。他が異常なのですよ。

 

「ふふふっ。副官のG36Cの方が客観的に見れているみたいだね」ペルシカが薄笑いを浮かべる

「何が人形の娯楽、つまり琴線に触れるのか。ぜひ研究を進めたいところだね」

 

「指揮官様、誤解なきように言えばジャスティン指揮官のやり方、強権による支配も問題はあります」

「やはり、人形が萎縮してベストな能力を発揮出来なくなりますから」

G36Cの的確な意見に少し驚いた表情を見せるウェルロッドだが、内容的には肯定的なようだ。

 

うん、フォローありがとう。けどそれまでに精神的に致命傷もらって御陀仏になってますからね。手遅れです。はい…。

 

『厳しい意見だが心に留めとくよ』

というか、そこまで考えているなら普段から話せよ。というとG36Cは露骨に目を逸らす。

そうか分かったよ。お前もサブリナと同じように現状を利用して都合の良いこと考えてやがったな。

くそ、コイツら油断も隙もねえな。マジで基地運営の練り直しを考えよう。

 

・・・・・

『しかしヘリアンさん、さっきの説教はやり過ぎじゃないですかね』困るんです的な雰囲気で文句を言っとく。

 

「しょうがあるまい。R-15基地で何をしようが基本的に勝手ではあるが、私の前でかつ生中継でやられてはな」

「組織としての示しがつかんからな。まあ説教だけだ。懲戒処分を課すほど無粋ではない」笑って話すが手前が悪いんだからな。の姿勢は崩さない。

 

はいはい。私が悪うござました。カラスが黒いのも太陽が東から登るのも私のせいでございますよーだ。くそ。

 

「ナイル指揮官。G36Cの意見は客観的かもしれないが、やはりキミには何か違うファクターがあると私は思っている」とペルシカは述べて言葉を続ける。

「普通なら、G36Cのいう通りなら、もっと早く破綻している。そうでないなら何かあるのではないか?そう思っているんだよ」

「なので、運営をあまりドラスティックには変えないで欲しいかな」

はは、俺の命と人形達、ひいてはR-15基地の命運をかけた実験をしろと?するかバカタレ。俺はまだ死にたくないんじゃ。

 

「ナイル指揮官。命令だ。ペルシカの言う通りやれ!」へ、ヘリアンさん、勘弁してよ。命かかってんのよ。

「後で社長から直々に通達を出そう。安心しろ」

いやいや、そうじゃねえ。そんなやり方を限定される、手足を縛るだけの命令はやめてくれ。全く安心できねえ(泣)

 

といっても社長の強権でゴリ押してくるのは間違いない。ここは無駄な抵抗は諦めて実利を取ろう。

『ウェルロッド、無茶苦茶な要求されているから金でも貰わんとやってられんわな』と言って、ウェルロッドの肩に腕を回すナイル。ウェルロッドがウザったそうな顔を向けてくるが無視する。

端から見れば酔っぱらいに絡まれる美女の絵面で印象が悪いが、ウェルロッドも賛成した図式で金を拐いに行く作戦だ。

 

「指揮官分かりました。だから放してください!」

「ヘリアントスさん、ペルシカリアさん、制限が発生する以上対価が頂きたいですね。別途協議させてください」と伝えるウェルロッド。

ヘリアン達両名も吝かではないようだ。

(うん。ウェルロッドのやつ使えるな!)

 

俺の借金がなくなる日もそう遠くはない。淡い期待を持つナイルだった。




SPEC様、風評被害とは言えS10の悪口スミマセン。

結局、人形との関係は現状維持を強制されるようです。
それって、ナイルさんの借金が増えカタに嵌められ続けると言うことですが…。
会社やペルシカさんからいくら貰っても割に合わんと思うんだけど、どうなることやら。

次回以降は余興その2ですかね。
内容は…筆者はノープランです(笑)
大丈夫かな。


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40.大食い大会勃発

すんません。仕事でやられてました。
間もなくオリンピックですね。
作者としては4連休楽しみます。

大食い大会どうしようか悩んでましたが、変則マッチにしました。
ナイルさんが会社ぐるみでやられるのはいつも通りとなっております。


ペルシカとヘリアンのお偉方とG36C、ウェルロッド達と歓談を楽しんでいたらたら、次の余興が始まるようですよ。

 

これは前回と同じ大食い大会だと分かっていますぜ。サブリナとPx4とのやり取り見てたからね。

家事ロボにより机が片付けられ、フォークリフトにより可搬式連続ピザ窯「ピザ屋さん」が運び込まれる。

 

うーん、一度やっているから勝手は分かるが幹事はあのサブリナだからな。

予測不能な何かが起こりそうなんだよな・・・。

次回からは幹事を変えようか?などと考えていたら準備が整ったらしい。

 

「はーい!次の余興は前回と同じピザの大食い大会だよ〜」笑顔でサブリナが宣誓する。

「今回は新人の歓迎とPPS-43の復帰、そしてハイエンドを倒したスカウトとアストラの二人組です」人数が多いから復帰組だけど前回参加の62式はパスでお願いね。と伝えている。

何かあったら大会に参加させられるとか嫌がらせにしか思えんよな・・・この大会への参加は罰ゲーム級だと思っているのは俺だけか。

「後は、92式と副官のG36Cですね」

 

あれ?俺は無しか。ラッキー!

 

「何言ってんの!指揮官!言うまでもなく参加だよ!」と呆れ顔で伝えてくる。

 

はぁ〜。一瞬でも希望を抱いた俺がバカだった。そんなに甘いわけがないよな。

白酒の一気飲みで胃の調子が悪いんだけどね・・・

中華銃コンビの一気飲み(乾杯)とサブリナの大食いで示し合わせてるんじゃないかとさえ思う。

内臓への集中攻撃は正直やめて欲しい。歳とったおっさんには堪えるのよ。

 

『で、サブリナは出ないの?』

「うん。今回は出ないよ。新人歓迎と復帰祝いを兼ねてるからね〜」

観客席で一人大食いにしけ込むらしい。結局、食うんかい!

「次回は大食い人形のみんなで派手にやりたいかな」

派手にやるのは構わんが、俺を巻き込むのは勘弁だからな。

 

・・・・

席順は、向かって左から、

新人ライフル3人(M21,PSG-1,OBR)、ナイル、PPS-43、スカウト、アストラ、G36C、ウェルロッド、92式

となっている。なんだかんだ人数が増えたな。

 

「はい、では罰ゲームを発表します。今回は変則的にしました」

「まずライフル3人の中で勝負です。トップは指揮官からご褒美、ビリは他のメンバーからマジックで顔に落書きです」と言って、カラフルな油性マジックが準備される。

え?水性じゃなくて油性なの?落とすの大変やん。容赦ねえな。

で、指揮官からのご褒美って何?え?秘密??・・・嫌な予感しかしねえ・・・

 

「続いては、G36Cとウェルロッドと92式です。ビリはマジックですが他の二人は両名共に指揮官からご褒美です!」と言ってニヤリと笑うサブリナ。

なるほどね。パーティーで勝負するのはこのチームね。これはナイスだな。

 

「続いて、指揮官とPPS-43、スカウト、アストラですが・・・うーん」何やら決まっていないようで考え出すサブリナ。

「指揮官、PPS-43、スカウトの3人対、アストラでやろっか」

 

『いやいや、アストラが不利過ぎるだろ?・・・え?いいの?』流石にダメだろと思って声を上げるが、

「大丈夫です。指揮官、わたし頑張るよ!」との事だった。

 

「へー指揮官アストラに気遣う余裕あるんだ〜」悪い顔して指揮官に問いかけるサブリナ。何やら思いついたらしい。

「じゃあ、負けた時はアストラにご褒美2倍ね♪」

2倍のご褒美ってなんだよ!マジで。

 

・・・・

さてさてスタートかなと思ったところで、OBRから手が上がる。

「はいOBRさん、何でしょうか?」とサブリナが声を掛ける。

 

「あの〜・・・指揮官・・・借金の相談が・・・・」

は?え?借金??もうないやろ・・・・え?まさか??

 

『いや、聞きたくないが』拒否の姿勢を見せるが俺の気持ちは無視される。

 

「あのね、ネットワーク経由で動画見てたら〜。未払いのお金があるとかで支払ったら〜」とかなんとか。

『・・・・・・』

お前、それ昔からある典型的な振込め詐欺じゃねーかよ!なんで払っちまうんだよ!人形のくせにローテクな電子戦に完敗してどうすんだよ!と、心の中でツッコミを入れるがあまりの酷さに唖然とする他無い。

 

『で、いくら・・・やられたの?』正直1ミリも関わりたく無いが念のため聞いとく。あくまで念のためだ。

 

「え〜と〜・・・50万円」罰が悪そうにニヤけながら答えるOBR。

は?50万円もかよ・・・・。ガックリですよ。

 

『そ、そうか。まあなんだ。野良犬にでも噛まれたと思って諦めろ』

『頑張ってお給料で返済していこうな』

借金の付け替えを警戒して当たり障りなく、しかしハッキリと「テメーで返せや」と伝えておく。

 

だがどうも俺の話は無視されたようで、

「それで、指揮官と差しウマの勝負がしたいです!勝ったら借金返済をお願いします」そう言って頭を下げるOBR。

は?いやいやいやいや。いきなり50万円の差しウマとか頭おかしいやろ?

額がまともじゃなさ過ぎる。平然と言うとかどんなギャンブラーだよ

てか、お前なんで差しウマなんて言葉知ってんだよ。

お前まさか戦術人形になる前は・・・・いや考えるのはやめよう。

 

『いや、意味が分からんが。俺が勝ったらどうなるんだ』

「50万円渡します!」即答するOBR

いやいや、渡しますじゃ無いだろ。支払う50万円すら無いのになんで即答できちゃうのよ?

しかも、仮に50万円支払われても最終的にはドサクサに紛れてそのツケを全部俺に押し付けるんやろ?

俺、勝ってもプラマイゼロやん。

 

『絶対にその勝負は受けません!』ここは断固拒否ですよ。やらせてたまるかってんだ。

 

その回答を聞いてシクシク泣き出すOBR。

「指揮官、女の子には優しくしないとダメだよ」

サブリナがOBRをよしよしとあやしながら苦情を言ってくるが、ここは受けられない。情に流されてはいけない。

『サブリナはそう言うが流石に無理だぞ』

はいはいこの話はお終いね。

 

と思った時に、横から待ったが入る。

「ナイル指揮官、受けてやれ。業務命令だ」とヘリアンさん

いやいやいやいや、意味が分からん。そんな業務命令無しでしょ!

 

『いや、ヘリアンさん。それは無いでしょ。そんな業務命令流石に・・・』

「うん?分かった安心しろ。社長の承認は取っておくよ」

いや、だからそうじゃねえ。その業務命令の承認どうこうではなく。業務命令の内容に文句があるんだよ。

え?有効??・・・とんでもねえブラック企業だろ。ここ。

 

「はい。上司の命令も下りましたので、差しウマ成立です♪」間髪おかずにサブリナが宣言する。とびっきりの笑顔だ。OBRも飛び上がって喜んでいる。

・・・コイツら。

くそっ。こんなところで負けらんねー。勝てばプラマイゼロだ。俺は勝って生き残るんだ。

 

いつも通り、無茶苦茶な要求を飲まされるナイルだった。




うーん。
書いてみて、社長とヘリアンさんのコンビは極悪だと思うんだよな。
こんな会社だったら、私なら逃げだします。
ナイルさんは逃げても捕まって、尋問と称して人形達にあんな事やこんな事をされてしまうのだろう。と想像しております。
ナイルはん、強く生きてくれ。


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41.大食い大会前半

家でゴロゴロする連休になっとる。

と言うわけで、大食い大会前半戦です。
難しいっすね〜雰囲気をうまく伝えたいんですけどね。
作者の能力の限界一杯です(泣)


差しウマだなんだと色々とあったが大食い大会がスタートした。

M21は競技に参加しているし、サブリナはサブリナで一人大食いにしけ込んでいるため、司会はサブリナからイングラムに丸投げされている。

 

「まったく、サブリナ雑過ぎ.・・・」

マイクを渡されたイングラムはボヤいているが、イングラムの中継やコメントも大概であると思うのは俺だけか?

 

「それじゃ、見ていきましょうかね」

「新人ライフル3人だけど・・・一名除いた二人はやる気ないねえ。まあ別にいいけどさ」

M21とPSG-1は和気藹々とおしゃべりしながらゆっくり食べている。ここだけ切り取ったら大食い大会とは誰も思えないだろう。

まあ、別に無理に食う必要はないから違反ではないのだが、大食い大会でまったり和気藹々と言うのは逆にシュールである。

 

「で、一人目を三角にして食べてますねぇ。隣の指揮官と張り合っているけど枚数は・・・ほぼ同じか」

頑張って食べているのはOBRだが普段から大食いでは無いので捗ってはいない。50万円50万円とブツブツ呟きながら取り憑かれた様な目をしながらピザを口に運ぶその姿はウイルス感染(病気)している様にしか見えない。

「差しウマの勝負頑張って下さいね。私的には指揮官の惨敗を期待しますよ。空気読んでくださいな。指揮官♪」心の声が漏れているイングラムをジロリと睨むナイル。指揮官はやる気満々のようだ。

ナイルは前回のFNCに敗北した経験から、コンスタントに食べ進める作戦の様子。

苦しくならない範囲で食べ進めている。成人男性で体格的にも指揮官が有利っぽい。

 

「しかし、PPS-43とスカウトはやる気がありませんねぇ」相変わらず気だるそうに解説するイングラムだが、言ってることは間違ってはいない。

「私は軽いのがとりえなんだから!大食いなんてしないわよ」全く競技にたいして興味なさそうに言うPPS-43であるが、まあ普段の様子を考えればさもありなんである。

「トレフォイル、もうお腹一杯だわ」スカウトも機動性を売りにしているためか食事は普段から控え目である

まあ、歓迎やお祝いではあるが、なんでやる気のない人形を入れたのか。競技のアイデンティティに関わるんと思うんだが。

テレビ的に絵面は大丈夫なのかこれ?

 

一方でアストラは容赦が無い。前回にサブリナに完敗したのが悔しかったのか普段から鍛えていた様だ。そう言うのは配給が不足するのでやめてくれって話なのだがね。

「アストラはすごいわね。身体のどこにピザが入っているのか気になる。一度解体してみましょうか」心底呆れているように解説している。

「頑張るよ〜」とTVカメラに向かってピースをしている。全然余裕らしい。

 

最後にG36C、ウェルロッド、92式の3人だが、ここは異様な雰囲気を醸し出している。

互いを一切見ずに話もせずにただただ黙々と食べ続けているからだ。

ミッドタウンのオフィス街のライスボール屋の昼飯時みたいな雰囲気と言えば伝わるか。赤の他人がカウンターに並んで座って黙々と食べている様なそんな絵面である。

「ここの三人はなんなんですかね。R-15の幹部人形なんだからみんなのお手本になるようにもっと仲良くして欲しいですけど」普段は優秀なのに集まるとポンコツになる上役を残念に思い苦情や嫌味の一つも入れとこうと思うイングラムであった。

 

・・・・

「で、あんた達はなにやってるの?エル隊長も自重出来ないんですか?まったく・・・」ジト目で睨むイングラム。

観客席の一番前、競技者の目の前にあるテーブルには、サブリナ、56-1式、62式にエルの四人が座ってピザを食べているが、明らかに食べる量がおかしい。このテーブルだけで「ピザ屋さん」が焼くピザの半分以上を消費している。

「そんなに食べたいなら競技に出てくださいな」

観客の方が多く食べてますとか、大食い大会としてどうなのか。

勝負をしているわけでも無いので和気藹々として楽しみながらのくせに消費量だけ半端ないとか理解不能な卓となっている。

 

そんなこんなスタートして前半の状況だが、大食い大会としてどうなのか?テレビ的に大丈夫なのか?心配になるナイルだった。

まあ、OBRには負けるわけにはいかんからな。

俺も本気よ。指揮官様の実力を見せつけてやるわ。

 

しかしこの後案の定な状況になってしまうナイル指揮官であった。




すみません。短目ですが一度切ります。
OBRには流石にナイルさんなら負けないでしょう。
アストラには無理でしたね。PPS-43もスカウトも大食い大会向きじゃありませんから。
もう、大食い大会をチョイスしたことが失敗でしたね。サブリナさん。(笑)


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42.大食い大会終了

大食い大会後半です。
会場の雰囲気を伝えるのが難しい。
難しいばっかりですみません。
力を振り絞って書いてみましたが・・・どうだろうか。

ナイルさん、差しウマに勝てそうですね。
指揮官の実力を見せてやって下さい。


全体的に見れば本当に大食い大会なのか?と言った状況の中で大会は進んでいっていた。

参加者が思い思いに楽しめればこそだが、それぞれの思惑が交差しており邪悪な催しと化している。

 

「ライフル三人組のM21とPSG-1は大食い大会ではなくただの会食よね。女子会?」

イングラムが呟くが本当にその通り。二人でおしゃべりしながらワインを嗜み、前回と同じ大判のピザ1,2枚程度をちょぼちょぼ消費している程度である。

 

「PSG-1ちゃん、このピザ美味しいね」とM21が呟けば

「このワインもすごく美味しいですね」とのんびりしたPSG-1が返す。

 

S10基地のPx4が手配した飲食物は値段以上のクオリティを出している。やはりしっかりとした良いものを選択しているようだ。ピザも飲み物も誰もが美味しいと評価している。

 

「まあ、どうでもいいけどさ。サブリナ、あんたはちょっと人選については反省しなよ」とイングラムは雑な幹事のサブリナに苦言を言っとく。

 

「ちょっと大食い大会は無茶だったかな〜」と、頭に手を当ててウインクするお茶目な反省のポーズをとるが、本心としては何ら反省はしていないのだろう。

 

横のOBRを見ると、苦しそうな様子で食が止まっていた。

「OBRは本気で食べてるけど訓練が足りないね。手が止まっちゃてるよ。ほら頑張って下さいな」

イングラムが雑に煽るが、OBRの手は動かない。

 

一方で手の止まったOBRは鋭い目つきで横のナイルを見据えてブツブツと呟いている。

「負けない。絶対に負けない。50万円・・・50万円・・・」

 

そのあまりに異様な様子に流石のイングラムも引き攣りながらコメントを絞り出す。

「・・・・・」

「OBR、あんたホントに病気じゃん?」あまりなコメントであるが、豹変度合いに皆がうなづいている。

「感染されたくないので次行きましょう」

 

OBRの横ではナイルが黙々と食べておりOBRとの差は一枚以上に及んでいる。後半の終了間近でこの差は大きい。

「ちょっと指揮官、空気読めてないんじゃなくて?」

 

うん?とコメントしているイングラムへ視線を向ける。

『適当なこと言うなよ。50万円の差しウマで負けるわけにはいかんでしょ』

『このままぶっちぎるぜ?』

ナイルは食べながらも返事をするくらい余裕があるらしい。OBRとは天と地の差である。

 

「でも、アストラには勝てないんじゃない?」

横のPPS-43とスカウトはちょぼちょぼ食べるだけで全く戦力になっていない。

 

『あ〜、アストラは諦めた。何をどうやっても勝てねえわ』

『三人がかりで完敗だ』

『お前らももう少しやる気出せよ』と呆れながらナイルがボヤく。

 

「指揮官、何見てんの!」とジト目で返してくるPPS-43だが、俺は悪くないだろ。やる気出してよ。頼むからさ。

「トレフォイルももうやめとけと言っているわ」とペット?保護者?のせいにしているスカウトだが、知るかってーの。頼むからお前も頑張ってくれや。

二人はもうご馳走様らしく、デザートのアイスを摘んでいる。大食い大会なんだからアイス食う余裕あるならピザ食ってよ。頼むから。

 

ナイルはやれやれと言った顔でイングラムを見るが、「まあ頑張って下さいな」とけんもほろろに返されるだけだった。

 

・・・

最後の幹部人形達の勝負だが、相変わらず会話もなく食べ進められている。

 

「相変わらずですね。仲良くして欲しいですけどね」呆れ顔のイングラムだが、

「枚数は・・・ウェルロッドさんが遅れていますね。これは勝負あったかな?」とコメントすると、ウェルロッドから鋭く睨まれる。

 

どこか冷徹さのある氷のような視線にイングラムも気圧されるが、遅れているのは事実である。

G36Cをトップに92式が続き、少し離れてウェルロッドが追い縋る順位である。

 

「何か逆転の秘策はあるんですかねぇ」なんて適当なコメントを話すが、ウェルロッドに特に策は無さそうである。

 

そう思った時、突然ウェルロッドがおもむろに立ち上がった。

イングラムは突然の出来事に殴られでもするのかとビビッたが、どうもそうでは無いらしい。ウェルロッドは腕を背中に回してカチャカチャ何かしている。

次の瞬間、「ゴトリ」という音と共にウェルロッドが装置していたコルセットが床に落とされる。

シャツは胸から上に着用するトップスタイプだったようで鳩尾から臍下まで肌があらわとなる。ピザの大食いのためお腹がぽっこり膨らんでいる。コルセットで苦しかったようだ。

 

「わお。服を脱いで本気モードになるなんて、格闘アニメの主人公みたいねえ」

「ここから期待していいのかしら」珍しくイングラムの解説にもテンションが入る。

 

観客達も芝居じみた演出にテンションが上がり、ウェルロッドの変化に期待を寄せているようすである。

再び席についたウェルロッドは先ほどとは違った速度で追い上げる。

 

「くっ・・・」と92式の口から声が漏れる。ウェルロッドの追い上げを正しく脅威と認識したようだ。

92式とG36Cの顔に焦りの色が浮かぶが、両名もスパートをかける。

 

「すごいですね・・・プライドを掛けた血を血で洗う勝負といったとこですかね」

本社広報部=GKTV-4のクルーもこの様子を逃すまいとピッタリマークして撮影をしている。やはり大食い勝負を期待しているのだろう。

三者三様の苦しい顔をしながら己のプライドを掛けて食べ続けるのだった。

 

・・

・・・

・・・・

「さ〜残り3分ですよ」「最後まで頑張って下さいな」

ラストスパートを煽るイングラム。その声を聞いてナイルも勝利を盤石にすべく最後のピザにトドメを刺すために残された力を振り絞る。

 

『ふっ。OBR、気合と根性だけじゃ勝てねえんだよ。それで勝てるならグリフィンに指揮官など不要よ』

『戦略、戦術に実力、全てが噛み合って初めて勝利が舞い込むのさ』

『これで俺の勝利確定だ!』と言ってピザを口に放り込み、水で流し込む。

 

「くそ、くそ、くそ〜!私の50万円〜!返せぇぇぇ!」

OBRが普段見せないような鬼気迫る表情で叫ぶ。あまりに普段の可愛らしい様子と異なり醜い顔で汚い言葉を吐くOBRを皆ドン引きで見ているが、本人は全く気付いていない。

恐らくこの口汚く叫ぶ姿が素のOBRで普段は猫を被っているのだと基地の皆、TV中継を見る向こうの人たちも理解したに違いない。

OBRは目先の50万円に気を取られプライスレスな大切な何かを捨ててしまったことに気づいていなかった。

 

しかし。そんな一連の様子を見て誰にも気付かれずに1人悪く笑う者が居た。観客席のサブリナだった。

(ふふっ♪ 指揮官、残念でした〜♪)

 

 

 

・・・・・

『うっ・・・』と声をあげて口を押さえるナイル。

(バ、バカな。俺が飲んだのはなんだ?これは水じゃねえ??)

 

「ちょっと!指揮官!私のウォッカ飲んだでしょ!」隣のPPS-43がジト目で抗議する。

(え?ウォッカ??どう言う事??なんでそんな物が俺の前に??)

 

「私の飲んでた、65度のウォッカのストレートよ。もう・・・」困ります的な顔をするが、困るのは俺だよ!!

 

『なんでそんな物が・・・俺の前に・・・・』

 

「知らないわよ。まったく」つんとするPPS-43だがそんなのに構っている余裕は無い。

白酒を上回るアルコールが胃の中で暴れているのが分かる。

白酒の乾杯、ピザの暴食、それに合わせてグラス一杯の高濃度のウォッカの一気飲み。

胃への集中攻撃の結果、何が起こるかは・・・・明白だった・・・・

 

口を押さえた俺は真っ青な顔をして立ち上がる。

席の後ろに置かれたバケツまでヨタヨタと歩いていき・・・・

「おろおろおろ〜」とリバースする他無かった。試合終了まで我慢しようと思ったが、生理的に俺の体が一瞬たりとも受け付けなかったのだ。

 

「あ〜っと、指揮官ここでリバースです。終了1分前で失格です。ざ〜んね〜ん!!」普段やる気のないイングラムが見せたこともないテンションで指揮官の失格を告げる。大逆転の敗北で心から嬉しそうなイングラム。

 

指揮官の口から出るものをリアルタイムで即時キラキラ処理してTVで流される。広報部も指揮官の大逆転失格を楽しそうに映している。何故ならこの後の指揮官イジリに繋がる事が確定したからだ。

テレビをみている人形達(お客様)の希望通りの結末となったことでテレビ的には最高の結果だった。

 

こうして、指揮官の大逆転敗北で大食い大会は幕を下ろしたのだった。




あちゃー。指揮官最後の最後でやられてもうた。

サブリナちゃん、悪く笑っていたが何か知っていたのか?
そりゃもちろんでしょう。ウォッカをさりげなく間違いを誘発する位置に置いたトラップ設置の犯人ですからね。(笑)
まあ、完璧に上手くいくとは思っていなかったようですがね。
サブリナちゃんがどんどん悪い子になっていく・・・おかしいな。


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43.サブリナプロデュースその2

今回はパーティーの後始末回ですね。
恐怖のサブリナプロデュースの大食い大会。
あの手この手で指揮官に迫る魔の手。
ご褒美にお仕置きに、ナイルさんは生き残る事ができるのか??


マジで誰だよ。俺の前にウォッカのグラスを置いたのは。

隣のPPS-43の飲み物だからわざとじゃ無いのかもしれんが、あの置き方は俺の水にしか見えないぞ。

 

あの後、事故だし終了1分前なんだから食った分カウントしろと駄々こねたけど即答で「駄目です♪」だって。

頑張って食べたんだからまけてくれって追い縋ったけど、やっぱり即答で「駄目です♪」だってさ・・・。

取り付く島がないとはまさにこの事だ。

サブリナのやつめ〜。おのれ〜。許さぬぞ〜。

 

結局あの後、胃のダメージが大きくて医務室に運ばれて胃洗浄を受けたけど、テレビも来てるし指揮官の役目(罰ゲーム)も残っているからすぐに戻ってこいだとよ。鬼かよ。

すごく気分悪かったけど会場に戻りましたよ。指揮官はしょんぼりですよ。

 

・・・・

「指揮官が帰ってきたので、順位発表とかご褒美にペナルティと全部やっつけていきましょうね」とイングラムから司会を引き継いだサブリナが宣言するが、俺のペナルティは無かったことにしてくれてもいいんだけどね。

 

「まず指揮官とOBRの差しウマの結果です。・・・でも指揮官は失格なのでOBRちゃんの勝ちです」

「よかったねOBRちゃん。指揮官が50万円払ってくれる事になったよ」満面のの笑みで伝えるサブリナ。

 

「よかったですぅ。頑張った甲斐があったよ。みんな応援ありがとね」にこやかに可愛らしく手を振るが、皆本性を知っているのでおざなりな返事を返している。

「???」OBRは本性を見せた事を覚えておらず皆の反応を不思議に思っているようだ。

 

「ではライフル3人組の結果発表です。トップはOBR、最下位は僅差でPSG-1です」

まあ、PSG-1とM21はやる気なかったからいいのだろうが、OBRかよ。

50万円とられた上にご褒美?だと?ふざけんなよ。

 

「ご褒美は、()()()()()()()()()()()()()()()()転がして決めます」

「1が出たら人形が決めます。2と3はお姫様抱っこ、4以降はハグです!」

ふーん、1の内容は常識的な範囲で頼むぜ。とお願いする。まあ1/6なんて滅多にひかねーか。

 

「じゃあ、私からかな」と言ってOBRがカランカランとサイコロを振る。

出目は「1」だった・・・

(マジかよ。一発目から1かよ。運がわるいな)

「やった〜。1だよ」とOBRが喜ぶ。

 

どうしよう、と呟きながらOBRが考えるが、すぐに決まったようだ。

「じゃあ指揮官、立ってください!」

 

言われて立つナイル

 

OBRはナイルに近づき、ほっぺにちゅっとキスをする。

「指揮官!借金助けてくれて、ありがと!」

()()()()()()()()()()

ニッコリ笑って笑顔のOBR。可愛いじゃん。

 

『おう。よろしく頼む』

 

・・・・

ん?ちょっと待て。

『おい!借金返済はあかんぞ!』と言うがあの野郎、遠くで聞こえないふりしてやがる。

事が済んだらさっさと消えるあたり相当悪どい。

くそ!油断した。嵌められたのか?

 

・・

・・・

・・・・

 

「続いて、アストラちゃんかな」

「アストラちゃんは2倍だから、サイコロを2回振ってね」

 

「はーい」と言ってカランカランとサイコロを振る。

出目は「1」、もう一度振るも「1」

 

『・・・・』

『こぉら、サブリナぁ!お前グラ賽使うなんていい度胸してんなぁ』

ナイルがイカサマだと声を上げるが、

 

「ん?イカサマなんてしていないよ」

困った顔で首を傾げるサブリナ

 

『じゃあ、これは何だ!』と言ってサイコロをカランカラン振るナイル。

出目は「3」

『ほらよく見ろ・・3・・3?え?3??』

 

「でしょ!イカサマなんて出来ないよ。ほらサイコロ透明だし」

サブリナがサイコロを見せる。中に仕掛けは特に無い。

 

『む・・・じゃあ、サイコロとライスボールを換えよう!』

 

「それは出来ないよ指揮官!私は()()()()()()()()()()()()()()って言ったよね。指揮官が疑っているイカサマを見つければいいんだよ」

「あ〜あ、私イカサマ扱いされて傷ついたなぁ」

「でも、私もご褒美で許してあげるよ」ニヤリと笑うサブリナ

 

この野郎。絶対にイカサマの証拠を突きつけてやるわ。

 

「アストラちゃん、ご褒美は決まったかな?」

 

「はいっ!指揮官から誓約の言葉とその後に・・・キスを」顔を真っ赤にして下を向き小声で話すアストラ

 

出た!誓約の言葉!チラッとG36Cを見るがニコニコしている。よしよしこっちはセーフだ。

皆、ゾロゾロと壇上から降りていく。誓約の言葉は特別らしい。

『アストラ!覚悟は出来ているな』

『-----』

女子に恥をかかせるわけにはいかない。本気でやる。

 

「指揮官!大好きです。私は指揮官の人形です」と言って抱きついてきて、そのまま接吻を交わす。

おめでとう!とか声が聞こえるが、ちゃうねん。これはごっこやねん。前回も言ったけどまだ誓約してないんやで。

 

・・

・・・

・・・・

 

「さてさて、最後は幹部人形たちの戦いだね」

「最下位は・・・・惜しかったウェルロッドでした。でも本当にギリギリでした」

「トップはG36Cで少し離れて92式です」

「じゃあ、92式さんとG36Cさんはサイコロを振ってくださいね」

 

ナイルはどんぶりを持ったり場所を変えたりしながらじっくり振られるサイコロを見る。

しかし怪しいところは一切なく、さっぱり分からなかった。

二人の出目はやはり「1」であった。

 

「指揮官、何か分かりましたか?」

 

『いや・・・怪しいところは無い。無いが有り得ない』

 

「怪しいところは無いのですよね。ではイカサマなど無いのですよ」

「私も振りますね。きっと1が出るんじゃ無いかな〜」

「はい。1でしたね。ふふふっ」サブリナが楽しそうに笑う。

 

ちくしょう。悔しいが・・・ここでも負けかよ・・・

 

「では、92式さんどうしますか?」

 

「私も・・・指揮官とキスがいいです」いつもキリッとした92式が顔を真っ赤にしている

「指揮官、私から・・・行きます」真面目に伝える92式

ゆっくり近づき、唇が一瞬触れたあと、強く唇同士を重ねられる。大人な92式らしい落ち着いたキスだった。

 

続いてG36Cだが、

胸の前で手を組合せて、眼を瞑りながら顎と唇を突き出して待っていた。

これはいつぞや司令室でハグで誤魔化したアレの続きかよ・・・

プックリとした可愛らしく瑞々しく唇が照明で光っている。

ううっ。これは罠だ。危険すぎる。と心が警鐘を鳴らすがせざるを得ない。

 

ゆっくりと近づいて軽く抱き寄せ唇を重ねる。

早めに終わろうとした時、腕を頭の後ろに回されて強く固定された。

たっぷり1分ほど続く長いキスとなってしまった。

 

「最後は私かな?私もキスがいいな」

そう言って、G36Cと同じように待ちの姿勢を取る。

やばそうなので、ほっぺにチュっと軽くキスするに留めた。

「指揮官の意地悪!」ほっぺを膨らませて怒るサブリナだが、

どこにキスするか指定されて無いもんねーだ。と言ってやった。

ざまあみろ!

 

・・

・・・

・・・・

よし終わりだな。帰るぞ。と言ったがサブリナに止められる。

「まだだよ指揮官、マジックが終わってないよ」

「みなさん、負けた人形にマジック落書きがありますがどうしますか?」

 

サブリナに問われるもの、みな困惑している様子。

どうも皆仲間であり互いに遠慮しているのかやる気は無さそうである。

 

「じゃあ、失格で最下位の指揮官にみんなでやるのはどうですか?」

おい!まて!そんな話は聞いてないと言おうと思ったが、

 

「「指揮官にならやりまーす」」満場一致で決まってしまった。

 

冗談じゃ無いと逃げようとするが素早くサブリナに拘束され、後手に壇上の家具に固定されてしまった。

『おい、やめてくれ〜』と言うが誰も止まらない。顔をヌリヌリされ始める。

 

途中で誰かが耳を塗り始め、くすぐったくて思わずビクッと震えてしまった。

したら誰かが、「あー、指揮官耳が弱いんだ〜」と言いやがった。

それが人形達の嗜虐心を刺激したらしく、皆の顔が妖艶に変わった気がした。

 

そんな時、ウェルロッドが「はい、みなさんどいてください」と人形たちを離す。

ぶーぶー声が上がるが助かった。ウェルロッドサンキューと呟くが、ウェルロッドの顔が拷問の時と同じになっているのに気づいて絶望感が溢れる。

「指揮官、塗る面積が少なすぎます」と言い、制服とシャツのボタンを外し上半身を裸にされた。

後手で手錠をかけられているのでシャツ達は手首のところに絡まっているがもはや役に立つものでは無くなっていた。

「ウェルロッド、グッジョブ」と声が飛び人形達がナイルに群がる。

脇の下、臍、乳首と弱いところを集中的に弄られる。

 

『お前ら、油性ペンは・・・くすぐるための道具じゃねえ』と言うが止まらない。

『やめっ、あっ、あははは、あっ・・・』

『アッーーーーー』

 

ひたすらくすぐり続けられるナイルだった

 

・・

・・・

・・・・

『あひゃ・・あは・・・あはは・・・』

手錠をかけられたまま地面に座り込み白目をむいてプルプル震えているナイルの上半身は油性ペンで地肌が消えるほどカラフルに塗られていた。

ウィークポイントをひたすら責められ、完全に逝ってしまっていた。失禁しなかっただけでも頑張ったと思う。

 

そんな斃れた指揮官の横にサブリナがしゃがみ、最後の挨拶をする。

「TVをご視聴のみなさん楽しかったですか?」

「これが私たちR-15基地のパーティーです。ぜひ皆様の参加をお待ちしております!」

「ではまた次の機会に会いましょう!チャオ〜!」

 

楽しい楽しいパーティーは無事に幕を下ろしたのだった




このイカサマサイコロは、16Labの有能な研究者が暇潰しもとい研究で作ったものでした。
ASSTシステムの要素研究の一環で作られたものであり、どの人形とも簡易的な烙印として登録可能なアイテムです。
烙印として登録すると、出目を自由に操る事が可能になります。
今回はそれぞれの人形がサイコロを振るときに自由な目を出せる状況となっていました。
人間の指揮官のナイルさんには判別できないので致し方なかったでしょうね。
こんなものを持ち出したサブリナが悪い子なのです(笑)


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44.宴の後の副業

私事ですみません。誘われたので日曜に久しぶりにバイクでツーリングへと出かけ、ヘトヘトになったのでアップが遅れてしまいました。
房総半島中央を鴨川まで下り、館山回りで海岸沿いを千葉まで帰るプラン。
折り返しの館山でケツが限界を超えて死にそうでした。仲間にはオカマ野郎と罵られましたが必死に帰りましたよ。
何とか無事に帰宅しましたが、しんどさに耐えるナイルさんの苦労が少し分かったような…

と言っても、ナイルさんにはまだまだ苦労してもらう予定です。(笑)


しかし、とんでもないパーティーだった。

気がついたら上半身裸で油性ペンの落書きだらけ。というか、ペンでカラフルに全塗装された状態だった。

本社広報部(GKTV-4)の連中は撤収準備をすでに完了していたが、「いい絵が取れました」なんて言ってやがるしね。

服を整えてヘリアンさんたちのところに戻ったらまた説教を受けるしで、ひどい話しですよ。

 

何度も言うが、俺じゃなくてサブリナに言ってくれよ。犯人は全部アイツです!

え?管理責任は俺だって?

まあそうだけどさ~。そこはね…お願いしますよ。

 

結局、油性ペンが全部落ちきるまで1週間はかかったね。

 

・・

・・・

・・・・

 

「指揮官!鉄血の部隊を発見しました」

そんなパーティーの惨事を思い出してたときに本日の哨戒任務中の第一小隊からの連絡が入った。

スケアクロウの襲撃の一件から哨戒は密に行なっていたが、年がら年中襲撃があるわけもなく空振り続きだ。

今日は久しぶりの鉄血兵発見の知らせである。

報告からも声色からも緊急事態では無さそうだ。

落ち着いて指示を出す。

 

『敵部隊の行動と周囲の状況を報告せよ』

 

「敵はリッパーとヴェスピド・・・初めて見る敵もいます。確認します」

92式はネットワーク経由でグリフィンの鉄血兵DBにアクセスし画像検索をかける。すぐにヒットした。

「ブルートですね。それぞれ5体合計15体です」

「周囲に敵部隊は見られません。方角からS地区からの逸れ部隊と推定します」

 

『であれば、いつも通り始末しろ』

『可能であれば()()()()の素材として回収できるように頼む』

R-15基地の人形遊びとは鉄血兵をバラして転売する行為を指す隠語である。

初めはFNCが言い出したが無断での遊びが本社にバレて制裁されたにも関わらず、未だにやめようとしないナイル指揮官に呆れて人形達が呼び始め定着した。

最近ではナイル自身も自虐的に人形遊びと呼んでいる。案外気にいっているのかもしれない。

 

転売の素材にするには極力破損を防ぎながら即死させる必要があり難易度は高い。

しかし、戦術もないはぐれ鉄血兵の始末などR-15の第一小隊には朝飯前であった。

 

「了解しました。任せて下さい!」

 

ふむ、とりあえず転売素体はゲットできそうだ。

 

・・

・・・

・・・・

 

「指揮官!敵は制圧しましたが、PPS-43が重傷、イングラムが軽傷です」

「バギーの派遣をお願いします」

 

『了解した。至急送る』

話を聞いていたG36Cはすぐに第二小隊のエルに連絡を入れて、バギーでの出発を指示している。

第二小隊の到着と入れ替えで第一小隊が引き上げ、哨戒任務はエル達が急遽引き継ぐ形としての指示だ。

G36Cの的確な指示を聞きナイルは安心する。

 

92式の第一小隊の練度は十分高い。はぐれの鉄血兵の一小隊などにやられるレベルではない。何があった?

突然の想定外の報告であり詳しくは分からんのでやる事やってから聞き取る必要がある。

 

しばらくして出発したエルたちと入れ替えで第一小隊が帰ってきたので、負傷したSMGの二人は修復装置にて修理を開始する。

PPS-43の怪我が思いのほか酷く、修復完了まで8時間程度は掛かるようであった。

ちなみにイングラムは30分掛からないとの事で軽傷の部類だった。

一応、鉄血兵も使えるものを新型含めて回収してきており家事ロボがメンテナンスルームの調整室に運んでいる。

 

・・

・・・

・・・・

 

司令室にナイル、G36C、PPS-43の3名が集まっていた。

雰囲気は暗く、お通夜モードでのミーティングスタートとなった。

 

「指揮官。大きな被害を出して申し訳ありません」

92式は唇を噛み沈痛な表情で頭を下げる。

 

『92式、簡単に指示を出しただけでなく人形遊びの指示まで出した俺の責任だ。全てな』

『被害があったものの任務を達成した92式が責任を感じる必要はない』

 

「しかし・・・」

 

『まあそれはいいから、内容を聞かせて欲しい』

 

「はい・・・・」

 

・・・・・・

92式の首元のジャックに有線接続してG36Cが操作を行い司令室の大型モニタにうつしだす。

 

第一小隊の92式はナイルの指示を受けて強襲攻撃の準備をしていた。

「数が多いのでイングラムの発煙手榴弾(SG)の後にPPS-43が手榴弾(HE)を投擲」

「残存兵は順次、ヘッドショットあるいはコアの破壊で人形遊びの材料にします」

「難しい時は無理をせずに破壊を優先して下さい」

 

「では、開始して下さい」

 

いつも通り、特に油断も気負いもなくリラックスした戦闘開始で異常は見られない。

イングラムの投擲したSGが炸裂し、鉄血兵がエラーにより停止する。

そこへいつも通りPPS-43がHEを投げ込み大半を始末し圧倒する・・・筈だった。

 

PPS-43がHEを投げると同時にSGの煙から5体のブルートが飛び出して来ると共に前衛のSMGの二人に襲いかかる。

第一小隊の面々は鉄血兵の想定外の動きに一瞬対応が遅れるが、特にHE投擲直後のPPS-43が特に深刻だった。

ARの2名の斉射により3体のブルートを破壊するが、残りの二体がイングラムとPPS-43に肉薄する。

 

「こいつら・・・やられた分は100倍にして返す!」

イングラムは接近されたブルートの異様に切れるナイフにより決して浅くない切り傷をつけられながらも、訓練したCQCにより辛うじて捌く。

 

「かはっ・・・」

一方のPPS-43はHE投擲後のタイミングを突かれ、ブルートのナイフに腹部を貫かれていた。

しかし、コアを狙った必殺の一撃だったがPPS-43はなんとか体を捻り急所を外していたのだった。

ブルートは突き刺したナイフをコアの方に振り抜きPPS-43の即死を狙うが、PPS-43がブルートの腕を押さえて追い討ちを防ぐ。

と同時に空いた手で顎に掌底を当ててブルートとの距離を取る。

だがPPS-43のダメージは甚大であり稼働停止寸前となりその場で膝を着いてしまう。

距離をとったブルートがすぐに追撃を掛けようとした時、ブルートの額にレーザー光線が当てられると同時に頭が弾け飛び崩れ落ちる。

92式がヘッドショットを当て始末していた。

続いて、イングラムと相対しているブルートもCQCの隙をつきヘッドショットを当てて始末する。

 

「PPS-43は私が後方に退避させます。ダメージがありますがイングラムと56-1式、FNCの3人で排除を続けてください」

「「了解」」

「隊長、後で一杯奢ってくださいな」イングラムも頑張るようだ。

 

PPS-43を後方に退避させて戻ると、追加の損害はなく鉄血兵を始末していた。

排除を優先した結果、転売に使える素体は各種それぞれ2体となった。

俺としては、部下の安全が優先だったのでゼロでも構わなかったが、命令に忠実に従ってくれた結果だろう。

今回の戦いでは俺が100%反省ですよ。マジで。

 

・・・・・

うむ。今回は俺のミスも多分にあるが、部隊のレベルすなわち戦術人形のレベルも問題だと思う。

スケアクロウ襲撃の極限状態での勝利、ハイエンド撃破で自信をつけたのは良いが地力が追いついていないように感じる。

 

S10基地の教練、受けよう。

早急に先方と調整するとしよう。

 

 

・・

・・・

・・・・

 

さてさて、鉄血兵の部品も集まってきたしで、ドールズハウスの営業に連絡するか。

 

トゥルルルル・・・ガチャ

『あー、お世話になってます。ドールズハウスの営業さんですか?そろそろ部品も貯まったのでまた取りに来て頂けますか?』

 

「・・・・」

 

『うん?どうかしましたか??』

 

「申し訳ありませんが今は取りに行けません・・・」

「本社の街の指揮官のローズマリー上級指揮官より、ナイル指揮官から取引連絡があったら両名合わせて出頭するよう申しつかっております」

「お伝えしましたので、訪問日程を今決めて下さい」

 

『は?マジで??・・・これ、ヤバくね??』

また一難起こったことを認識するのだった。




SPEC様著『S10地区司令基地作戦記録』のS10地区にいよいよ教練をお願いする予定です。
何度かご紹介させて頂いておりますが、SPEC様の作品は良いですぞ。
評価も高いですし良い話です。是非ご覧になってみてください。
私は大好きです。

さて、R-13のローズマリー上級指揮官との悶着も解決しないとね。
ナイルさんは上役に勝てるのか?(笑)


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45.やっぱり副業最高!

うーん、間話かな。
最近本当にネタ切れなんすよ。
そろそろ借金返済に向けて進みましょうかね(つまり完結?)
どうかな??


ローズマリー上級指揮官の呼び出し指示を取引先経由で聞くことになったナイル。

 

人形メンテナンス会社のドールハウスはR-13基地に本社があるからな。恐らくそこの社長以下重役達はローズマリーの子飼いなのだろう。

先日俺に下されたクルーガーによるお仕置きから考えて、本社経由でローズマリーにうちとドールズハウスが取引している情報が行ったと推察されるが・・・。

確かにうちの社長からはローズマリーに挨拶しとけとは言われたが、直接R-13と取り引きがあるわけじゃないから後回しにしてたわ。

たく、めんどくせーな。

・・・あかんな、今は亡きアクセル指揮官に似てきたな。ダメだダメだ真面目にやろう。

 

とりあえず、今日は昨日回収した鉄血兵の分解だな。

と言うことで、嫌々な92式達第一小隊を呼び出してメンテナンスルームに向かうのだった。

 

・・・・

「指揮官、メンテナンスルーム集合という事は、まさか、ですが・・・」

ジト目で92式が問いかけて来る。また趣味に付き合わされるのですか?と

 

『硬いこと言いっこ無しだろ?ブルートの中身、気になるよな?』

 

「まったくもう・・・本当に世話がやけるんだから」

92式は諦めたようだが満更でもなさそうなんだよな。

「指揮官のご指示であれば、イングラムM10は喜んでお受けしますよ」

イングラムはご指名にノリノリの様だ。

 

と言うわけで、ブルートをバラしていこうと思う。リッパーとヴェスピドは家事ロボが解体済みとなっている。

『じゃあバラしていこうか。と言っても胡蝶事件後に作られた人形だからマニュアルが無いんだよな』

『一応、リッパーとヴェスピドのマニュアルを参考にやってみるか・・・」

 

とりあえずいつも通り製造コードをPDAに打ち込みますっと・・・ふむS地区製か。S地区からの逸れ部隊みたいだし辻褄は合うか。

S09を筆頭に激戦区だからな。PDAで確認できるって事はすでに工場は潰し済みなのだろう。

 

『次行ってみよう。X線透過で内部構造の撮影だな』

旧世紀の飛行場とかにあったらしい装置と基本構造は変わらない。

 

『うん、変なものは無さそうだし、基本構造もヴェスピドとかと同じだね』

擬似体液を抜くが、場所は・・・小柄軽量の人形なので微妙に位置が違う。どこだ?

義体をまさぐるがよく分からない。

 

「指揮官!手つきがやらしいよ」56-1式が突っ込んでくる。

う、うるせ〜。分からないんだよ!

「私たちがやるよ。FNC、手伝って」

はーいと言って一緒に確認を始める。

 

「あー、体が小柄だから分かりづらかったね。人で言うところの尾骶骨くらいにあるね」

下着型のアーマー?を下にずりおろし、半ケツ状態にされるブルート。なんか微妙にエロい。

「あ〜指揮官が鼻の下伸ばしてる〜」とFNCが突っ込むが、そこは言わないのが武士の情けというものだ。

 

診察台の擬似体液回収ホースのコネクタを接続して回収を始める。診察台はペルシカからの依頼もあり基地の補修と同時に研究用途の性能を持つ高性能品に変更されている。

(オイル成分もナノマシンも前回から変わらない。そりゃそうだろうが、今後もしっかり継続してみていかないとな)

 

擬似体液を抜き取り、続いて電源周りの解体に入る。

『X線透過では腰あたりにあるのは確認しているから、リッパーとかと同じようなもんなんだろうが・・・』

手を出そうとするが、56-1式達に止められる。

「さっきから指揮官、手つきがやらしいんだよね。私たちがやるから調べたい事があるなら指示出してよ」

し、失礼な。怪しい手つきなんてしてませんよ!そういうこと言うと風評被害が広がるからやめてよね。もう。

 

『じゃ、じゃあ腰からパワーコンデンサとエナジーセルを外していこう』

そう伝えると、56-1式達は腰回りの電源部の分解を始める。

 

「パワーコンデンサの容量がヴェスピド達より大きいわね。体格を考慮するとコンデンサ容量のパワーウェイトレシオは倍はあるんじゃないかしら」92式が感想を漏らす。

 

『ああ、第一小隊との戦闘を見る限り脚部の瞬発力のためだろう』

エナジーセルはエネルギーの蓄積能力は高いが瞬時の大量放出は不得手である。なので瞬発力に優るパワーコンデンサ容量を大きくして、瞬発力の元にしているのだろう。となると・・・

 

「うわ・・・モーター駆動用インバータユニットは異様」イングラムが微妙な顔をする。

「脚部駆動用インバータが異様に大きいわね。今までの鉄血兵はI.O.P.人形より小さめのインバータだったけど今回は大分違うわね」PPS-43のコメントだ。

 

『恐らく脚部の瞬発力に全振りしてるのだろう。とにかく敵の懐に飛び込む事を優先していると思うな』

『逆に上肢のインバータは普通だな。接近されての格闘のパワーは普通なんだろう。ないとは思うが念のため蹴り技のパワーには注意と言ったところか』

 

さてさて佳境だな。後は四肢の生体部品を取り外して廃棄。四肢の取り外しに入る。

「ぷぷぷ。胡蝶事件後もやっぱり国際規格守ってるねぇ(笑)」イングラムが居ない鉄血に向かって煽り笑いをいれる。

まったく・・・。相手いねえからな。意味ねえぞそれ。

 

上肢はヴェスピド達と大きな違いはない。楽しみなのは下肢だ。

56-1式達が下肢の取り外しにかかる。こちらも国際規格なので取り外しは特に問題ない。

 

「うーん、指揮官の予想外れていない?モーター小さいよ」

確かに小さいが、これは・・・・

『確かに小さいな。けどこれは加速重視でわざと小径モーターを採用しているんじゃないかな』

最近、人形の研究が楽しくて、技術資料とか読んじゃってんだよね。

モーターは径が小さいほどトルクは出しにくいけど、モータそのものの加速性能は高くなるって書いてあったな。

加速重視のモーターに電流突っ込んでトルクも出す仕様なんだろうな。インバータのサイズが大きいことから間違い無いだろう。

単純にトルクだけなら、大径にしたほうが有利だからね。

よく考えられてるな。けど、この足回りはピーキー過ぎて流用するのは難しそうだな。リセールバリューは低そうだなぁ。

 

いやはや楽しかったな。

2体目はやはり家事ロボに指導しながら引き継ぎを行う。これで全て終了。

 

『第一小隊の皆、付き合ってくれて本日はありがとうな』

『ブルートの武器のナイフは回収してあるよな?礼に皆にプレゼントしよう。それでいいか?』

異様に切れ味がいいから、戦闘でも十分使えるだろう。

 

指揮官からのプレゼントって事で盛り上がる。

『近接戦闘の訓練は簡単にはしているが、改めてしっかり訓練しようか』

 

なんだかんだ楽しんで今日という一日が過ぎるのだった。

 

しかし、数日後にローズマリー上級指揮官との厳しい面談がある事をまだナイルは知らなかった。




ブルートさんの設定は全て作者の妄想です。
公式設定とは全く関連性が無いので悪しからず。m(_ _)m


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丸投げコラボ企画:S10基地へ教練受けに出発の巻

皆様こんにちは
今回は本編と離れてのコラボ企画です。我が心の師であるSPEC様にご許可頂けました。
SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」とのコラボになります。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

SPEC様の作品はいいですよ。私は大好きです。
未読の方は是非読んで頂ければと思います。
(私の作より圧倒的好評価ですので紹介する資格など無いですが。笑)

今回のコラボはうちの人形達を揉んで下されるとの事で教練に送り出すと言うお話です。
専門用語でこれを「MARUNAGE」と言います。(本当にすみません。)
お時間ある時に書いていただけるとの事なので気長にお待ちします。

本コラボは物語の時間軸的には適当になります。よろしくお願いします。


ある日の午後の事だった。

第一小隊と第二小隊、第三小隊(仮)に所属する一部の人形と幹部人形が司令室に集合していた。

小隊毎ではなく、居る人形居ない人形がランダムな形なので珍しい。そんな事もあり人形達も緊張気味だし、なんだろうね?と雑談を交わしていた。

 

『お、皆集まったな。では話をしていこう』

指揮官のナイルが明るく話し始めるので多少なり緊張は和らぐが、普段とは異なるシチュエーションなので皆集中している。

 

『あまり緊張するな。大した話ではないよ。S10基地へ教練に送り出すことが決まったのでその連絡だ』

『人員は5名だ。サブリナ、56-1式、スカウト、ウェルロッド、G36Cの5名となる』

『出発は3日後。期間は二週間。往復共にヘリで先方の基地へ移動し現地基地に泊まり込みだ。フル装備だが半身の武器はケースに入れていけ。各自準備を進める様に』

『ここまでで質問はあるか?』

一気に必要な用件を伝えるナイル。特に大きな質問もないだろう。と思ったが、色々ある様だ。

 

 

「指揮官、人選はどういう基準なんですか?隊長達の方が優秀なのに入ってないですし」手をあげて56-1式が聞いてくる。

 

『うむ。各銃種を分けたつもりだ。皆の練度も高くなっているが伸び悩んでいるのも事実だ。先方の練度は素晴らしいと聞いている。訓練を受けて学びR-15基地に持ち帰り展開して欲しい。そのように考えた総合的な人選だ』

 

 

「S10基地とはどんなところなのですか」スカウトからの挑発的なニュアンスを含んだ質問だ。

左頬の傷跡を撫でながら鋭い視線を向けてくる。

教練と言うが練度が高いとは雖もいち基地である。教練?教えを仰ぐ?他基地に遜り過ぎである。

私たちは鉄血兵のハイエンドを倒した基地なのだ。それなりに強いというプライドもある。

そんな気持ちが感じ取れる。

 

『うむ。一基地ではあったが「多目的戦闘群 MAG」として社長直々に任務を受けている特別な基地だ』

『他の基地からの教練依頼も多く内容も好評の様だぞ。まあ勉強と思って揉んで貰え』

 

「つまらなかったら後で文句言いますからね」

スカウトはハイエンド倒してるから相当自信があるんだな・・・

今回のことで上を知るもよし、(無いだろうけど)スカウトの方が上ならうちを宣伝できてよし、俺はどっちでも構わない。

まあ、何にしても勉強にはなるだろうさ。

 

『分かったよ。終わった後に先方から講評は貰っとくよ。結果を楽しみにしとくよ』

 

 

「指揮官!ショットガン人形の私が行っていいのかな?敵の射撃から味方守るだけなのに」

味方の盾以外たいしてやる事なくない?的なサブリナ。

お前、仕事に対して大雑把過ぎじゃねーか?

 

『その戦術的考えが変わったりするかもよ?技能だけでなく認識や考えの変革も教練の大切な目的だ』

 

大体な、サブリナお前は平常時は俺のコントロールが効かねえからな。本当に人形かと思うくらい効かない。

まあ仕事はきちんとやってるけどさ、平時の指揮官(オレ)に対するハメ技の数々よ。明らかにやり過ぎだからな。

ブリッツ指揮官にもやらかしてシメられてこい!

うまく隠しても先方の()()()戦術人形を見て学んでこい!

帰ってきてマトモになってたら幸いだ。

丸投げ?違う違う。教練ですよ教練!

すまんなあ、ブリッツ指揮官・・・うちの問題児を送っちまって・・・。

 

 

「指揮官様・・・G36C(わたし)はもう不要ですか?」

不安そうな顔をする副官。どうしてそういう話になる。

 

『そうではない。今は副官メインだがこれからは部隊への配置も検討しようと考えている。なので戦闘技能を高めていく計画だ』

『まずはオレと離れての業務訓練としてこの教練を利用しようと思う』

 

「分かり・・・ましたわ」

あまり納得はしていなさそうだ。不安なのかな?

 

『大丈夫だ。他意はないよ。G36Cがより強くなって帰ってくることを期待している』

極力不安を取り除くように説明したら、分かってくれたようだ。よかった。

 

一通りの説明を完了した。

『本日の内容は以上だ。解散』

『幹部人形は残るように』

 

・・・・

『さて、ここからは裏任務の連絡だ』

『G36C、君はS10の意向をそれとなく探って欲しい。うちを潰す意向があるのか知りたい』

『会話などの聞き取りだけで構わない。変に隠れてやるのは危険だからだ』

 

R-15(うち)を潰すですか?仲間ですよね?」

「お言葉ですが、勘繰り過ぎではありませんか」

G36Cはナイルの指示に対してかなり疑問のようだ。

それもそうだろう。先方はどこにでもある仲間の基地なのだ。しかもエルの出身地でもある。

 

『念のためだ、丸々戦闘特化の特殊部隊の基地だ。そんな基地の人形から情報戦を仕掛けられた。というのも気になってな』

『本当に念のためだ』

Px4の借金攻勢があった事を警戒している。何しろ本気で狙われたら数時間で俺たちを皆殺しに出来る力を持っているのだ。

相手の指揮官の意向は確認したい。

 

「分かりましたわ。無理しない誤解されない範囲で見てみますわ」

 

 

『ウェルロッド、お前はG36Cの調査の手伝いとS10のPx4独断だった場合の釘刺しを頼む。借金の件もありこちらへの干渉を看過できない』

『ただし、潰す事は禁止だ。先方基地との関係及び今後の調達時の利用価値があるからだ。頼む』

 

そのナイルの要求に顔を顰めてウェルロッドは回答する。

「指揮官、その制限は解除できませんか?目的の未達だけでなく逆になめられる恐れもあります」

制限によるデメリットを伝えるウェルロッド

 

『いや、相手が危険なのもある。相手への攻撃意思は一切無いのでそこは誤解されないようにしたい』

『よろしく頼む』

 

「了解しました」

 

以上で説明会は終了となり。三日後に何事もなくS10基地へ向けてヘリが飛び立って行ったのだった。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

時は数日前に遡る。

 

・・・・

『ローズマリー上級指揮官からの推薦でS10に教練に送ろうと思う。ローズマリー上級指揮官には受ける旨回答している』

『なんで、ウェルロッド、S10の情報を教えてほしい』

ウェルロッドとふたりだけの司令室でナイルがそんな話題を出した。

それを聞いたウェルロッドは目を見開いて見つめ返してきた。

 

『どったの?何か不味かった?』

 

ウェルロッドは立ち上がり無言でプリンターへ歩いていく。

プリンターから一枚の紙が吐き出される。ウェルロッドの無線接続でプリントアウトしたらしかった。

どうぞと渡された紙に目を通す。どうやら情報部が仕入れた身上書のようだ。

 

なになに?

名前:ブリッツ

性別:男

役職:S10前線基地指揮官、多目的戦闘群特別現場指揮官

・・・意味を持った情報はそこまでだった。

 

年齢 空欄(ブランク)、前職 空欄(ブランク)、経歴 空欄(ブランク).....以下全て空欄(ブランク)であったからだ。

『情報部の適当な仕事自慢か?』

ナイルが揶揄いながらウェルロッドを見るがウェルロッドは真顔で返す。

 

「これが全てです。これ以上のデータはありませんし、S10への調査は禁じられております」

「本社の経営幹部クラス以上がアクセス可能なデータは存在するようですが・・・・詳細は不明です」

「禁止前に情報部員による調査が行われた事がありますが、ブラックホールですね・・・・」

ブラックホール、つまり情報は一切漏らさないしちょっかい出して帰ってきたものもいない。と。

 

ナイルは空欄(ブランク)だらけの身上書を改めて見て、嫌な汗が背中を流れるのを感じていた。

(多目的戦闘群の現場指揮官?現場で人形と共に切った貼ったするだと?戦術人形とだぞ?そんなことできる人間居るのか?居るならば恐らくは表に出せないような正規軍のヤバいところ出身なんじゃないか?それも本当にヤバいトップクラスの戦闘系の特殊部隊)

コレ系の正規軍の特殊部隊はいくつか知っているが、どこもかしこもヤバかった。あいつらは人間じゃなかったよ。()()()()()()

俺はひょっとして触ってはいけない何かに近づいているのでは無いか?

 

・・・・・・

そんな警戒があったが、覚悟を決めてS10へ連絡してみた。

応対したのはナビゲーターと名乗る女性秘書であった。映像通信を送ったがサウンドオンリーの応対だったのをみてこちらの警戒心がぐっと上がる。

物腰は柔らかく特に抑揚もない機械的な対応だったが一切の情報を漏らさない徹底ぶり。優秀な秘書を雇っているようだ。

教練に必要な約束だけを取り付けて退散するしかなかった。

 

(これは色々ヤバい事になるかもな)

 

Px4被害の会会長のナイルは、S10基地に対する盛大な誤解と杞憂を抱えながら部下を送り出したのだった。




うちの問題児達がS10でどうなるのか楽しみです。
ナイルさん的には、少しでもマトモになれば御の字みたいですが、はてさて。


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コラボの裏で:フリーダム

せっかく出張で人形が出ていくので、その裏での基地の日常を書いてみました。
ナイルさんは自由な男なんやで!


S10基地へ教練に向かう隊員達を見送り、司令室へと92式とエルと共に帰ってきて一息ついたタイミングだった。

 

『イヤッッホォォォオオォオウ』

突然、椅子に座ったまま満面の笑みで両腕を突き上げナイルが声を上げるが、それがなんの脈絡もなくあまりに突然の事で92式とエルがギョッとした顔をしてナイルを見る。

 

「指揮官・・・どこかお加減が悪いのですか?」

「一緒に医務室にいきましょうか?」

怪訝そうな顔をして、何か異常でもあるのでは無いかと確認するようにナイルに問いかける92式であるが、そう思うこと自体わからないでもない。あまりに突然で想定外の動きだから。

 

一方のエルはジト目でナイルを見つめている。大方ナイルが何を考えこのような行動に至ったのか理解が及んだのだろう。

「指揮官?真面目に仕事しないとダメだよ!?」と釘を刺すが・・・・

 

 

『ん?どこも悪くは無いぞ』

『くくくっ、お目付役のウェルロッドが出張に行ったからな』

『これで二週間は自由だぜ』

『やりたいようにやらせてもらうぜ!』

伸び伸びとした表情で言い放つナイル。

 

 

私の指揮官は今置かれている現状を端的に述べた様だ。監視役のウェルロッドが居ないので好き勝手出来ると。

そのように92式は認識したが、「やりたいようにやる」と言う部分が理解できない。今までだって散々やりたいようにやってたじゃ無いか。まさか、今以上に好き勝手やると言うのか!?

92式の電脳はその様な結論に至り驚愕の表情を浮かべて指揮官に聞いた。

「指揮官・・・一体何を・・考えているのですか?」

 

『へ?いや別に特に。お目付役のウェルロッドが不在だから開放的だなってだけだよ』

ナイルは教練へと送り出した時を思い浮かべて考える。

ウェルロッドのバカめ。まんまと騙されおったわ。

いや正確には騙したわけでは無い。調査とかPx4への釘刺しとかは本当にお願いしたい事で人選も間違ってはいないが、それを理由にのこのこ出て行ったウェルロッドがマヌケってことよ。

社長からの指示の俺への監視は、ウェルロッドが社長から直に言われているだろう事で、俺は全く関与していない。

はっきり言ってその成否については俺の知った事では無い。俺の指示で出張に出て失敗しようが知らんと言うことよ。

残念だったな、ウェルロッドよ。これが世の中というものだ。

 

あとG36Cやサブリナも出張というのも大きい。

いい意味でも悪い意味でも何かと問題を起こす二人が居ないからな。

こんなチャンスは2度と無いのではないか?

基地に残っている幹部人形が、大人な92式とエルであるので特に問題も起こらないだろう。

 

「はぁ〜。ほどほどに自重して下さいよ・・・」

ガックリ肩を落として呆れの言葉とため息しか出ない92式であった。

 

・・・・・

『なあエル。三日後に「闇市」に偵察に行こう』

事務仕事の休憩中に突然ナイルが話を切り出してきた。

どうやら、仕事中によからぬ事を思い立ったらしい。

 

「闇市、ですか。何か目的でも?」と92式が先に聞く。

 

『ああ、アクセル指揮官とはうちで対処して管轄に置いていいと約束していたからな。R-14基地に新しい指揮官が来る前に唾つけときたいんだよね』

『あと、鉄血兵の部品転売以外の副業のネタも仕入れたい』

やってもやっても借金が増え続けるんだよ。とショボンとしながらナイルが零す。

その様子を見て92式もエルも同情を禁じ得ないが、その明後日の方向へ力を入れるのが事態の悪化を招いているのでは?とも思う。

 

「準備が大変だけど私は大丈夫よ。()()()

エルが笑みを浮かべて答えるが

 

「ナイル?」

ファーストネームで呼ぶエルに92式が疑問の言葉と目を向ける。

 

「そっか、説明してなかったよね」

「前回潜入する時に、指揮官からの指示で"ナイル所有のオンナ"を演じろと言われたのよ。しかも痴女キャラでってね」

「大変だったんだよ〜。人前で胸を揉まれるわ、汚いおやじと関係しろと言われるわ」

あれもこれも面白おかしく92式へ説明するエル。

 

『ちょっとまてって、それは言い過ぎだろ』

 

「あら〜?私は"嘘"はついていないわよ。ね〜()()()♪」

小悪魔的な笑みで、多少の盛りはあるが大筋は間違っていないと言うエル。

まあ、間違っちゃいないが・・・嫌な冷や汗が出てくる。

 

「ふ〜〜ん・・・ずいぶん楽しいデートだったみたいね。()()()()()()()()()()!」

ジト目で強く言ってくる92式。

これは・・・結構怒っているのかな?かな?

 

『あ〜・・・ああそうだ、今度の出張は92式に護衛を頼もうかな?ははっ』

こんな苦し紛れの代案が余計女子の心の火に油を注ぐ結果になる事はナイルも理解していたであろうが、急転直下の状況に対応できず思わず口から零してしまっていた。

 

「結構です!パートナーの()()()()に頼めばいいんじゃないですか?」

怒って頬を膨らませてプイっと横を向く92式。

(怒った顔も可愛いじゃん)

(いや、そうじゃねえそうじゃねえ。機嫌をとらないと)

 

この日一日、92式のご機嫌を取るのにナイルは苦労するのだった。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

3日前に戻る。

 

ナイルから教練の話が出た晩、ウェルロッドは92式と会っていた。

「夜にすみません。92式に相談があるんだけど」申し訳無さそうにウェルロッドが切り出す。

 

「何かしら?何か困りごとかしら?」

92式が応答するが、パーティーと大食い大会を通じて二人の間の、指揮官連行時のわだかまりは解けていた。

一度解ければ真面目な性格の二人であり、気も合う間柄であることから親密な関係になっていた。

 

「実は出張中の指揮官のお目付役の代理をお願いしたくて」そう言って頭を下げるウェルロッド。

「社長の承認は取得済みなんです」

頭を上げ、数度のまばたきと共に無線通信で社長承認の電子データを送付する。

 

「確かに・・・協力は可能ですが私は立場上、指揮官を裏切れません」

「指揮官の毎日の行動をレポートにまとめてウェルロッドへ送付する事は可能です」

「判断はそちらでお願いしたいです」

92式も困っているウェルロッドを助けてあげたいので最低限のできる協力はするつもりだった。

 

「それで大丈夫。恩に着ます」

助かったと、笑顔を見せるウェルロッドだった。

 

 

そんな事情もありナイルの態度と行動はウェルロッドに筒抜けであった。

しかしナイルはその事を知らなかったため、二週間羽目を外しまくるのだった。

二週間後にために溜めた悪行の数々をウェルロッドに追求され、キツイお仕置きを受けたとかなんとか・・・

それはまた別のお話しですね。




ウェルロッドの方が一枚上手でしたね。
いつものオチがつくナイルさんでした。
この話はこれでお仕舞い予定です。


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46.R-13への表敬訪問

お盆休みが開けて、初日出社からの二日目いきなり有給でした。
お盆休みズレの友達からの釣りの誘いでね。お陰でヘロヘロで筆が遅れてしまいました。申し訳ない。

さてさて、鉄血部品転売の件で上級指揮官から呼び出しです。
回答次第では反逆行動となって、死刑まっしぐらですね。
しかし、ナイルさんは気づいていない模様。


こんにちは、ナイルです。

本日はR-13基地へ挨拶として出張中です。

 

R-13前線基地、それは鉄血に潰されてしまったR-14と我が15を管轄する上役の上級指揮官の基地である。

R地区自体は激戦区のS地区より歴史は古いが、ナンバーが大きいところはごく最近に出来た地区である。13も決して古くはないが人が集まり城下町まで出来ている事から分かる様に、急速に発展を遂げている基地である。

これは指揮官が優秀である事を示していると言えよう。

 

今はR-13基地へ向かうヘリの中だ。今回の出張はウェルロッドと92式が同行している。まあこの二人は所謂鞄持ちってやつだ。

え?俺の保護者?無い無い・・・・・無いよね?

 

・・・・・

『ローズマリー上級指揮官、か』

ヘリの中で上級指揮官の事をふと考えていて思わず口に出していた。

スケアクロウに襲われた時に映像通信で顔を見て少し話した程度だ。人となりも正直よくわからん。

 

『優秀・・・なんだよな?』

独り言の様な問いかけの様な中途半端な言葉を続いて吐いた。

 

そんな言葉を聞いた部下が解説を始める。

「ローズマリー上級指揮官は短期間でR-13地区を安定させて街を発展させています」

「戦術指揮はもちろんのこと、戦略眼と経営力を兼ね備えた傑物。と言ったところでしょうか」

「まあ、上記の能力が無いとそもそも上級指揮官には登用されませんが・・・」

ウェルロッドが淡々と説明してくれる。

私が仕える指揮官なんですから、早くスキルを身につけて出世して下さいね。と余計な一言を追加してくる。

うるせ〜。余計な借金のせいで副業やる羽目になってるってのもあるだろ。

ウェルロッドも借金肩代わりしてよ!え?バカ言うな?・・・だよね。(泣)

 

「本当にしょうがないですね。一緒に頑張って借金返済していきましょう」

「そのかわり後で紅茶をご馳走して下さいね」

ニッコリ笑ってウェルロッドが視線を送ってくる。笑顔は可愛いじゃない。

横で92式も笑っているところを見ると、以前の二人のわだかまりは解けつつあるのだろう。

サブリナの策略でえらい目にあったが、パーティーの目的は達成できたのかなと思う。よかったよかった。

 

R-13基地は同じR地区内にあるので距離もそんなに離れてはいない。

ヘリならそんなに遠くも無い。まもなく着く頃合いだった。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

程なくしてR-13基地の上空に到達する。

 

『基地も街もデカいな。これは立派だ』

窓から下を見ていたナイルが子供の様にはしゃぐ。

基地はともかく城下町までが出来ており活気があるのを伺える。

うちの基地も各ありたいものだ。

 

ん?まてよ?そうか町を作れば住民から税金を徴収できるのか!

なるほどなるほど。なるほどね。

これは色々と夢が膨らみますな。

 

下を見ながら静かにニヤけるナイル。

それを見て、92式とウェルロッドがジト目を送ってくる。

 

「指揮官、何考えているかは知りませんが一応言っときます。自重して下さいね」

92式が無駄とわかりながらも釘刺しをする。

戦術人形である以上、無駄と諦めるのは許せない。そろそろ効果的な釘差しを考えねばとも思う。

ナイルをコントロールするべく人形達の管理包囲網は確実に狭く、強力になっている様だった。

 

・・・・

何事もなく着陸シーケンスが行われて無事にヘリポートへと着陸する。

ドアを開けて表に出ると2名の戦術人形が出迎えに来ていた。

派手なオレンジと闇に紛れる様な紫。カノシノの姉妹だった。

 

「ナイル指揮官!お久しぶりです。お待ちしておりました!」

明るい声で挨拶して話しかけて来たのは姉のカルカノM1891だ。ニックネームはカノである。

とにかくポジティブさを全面に出した性格で明るくていい。これで実力が不足していると能天気に見えるのだろうが、実力も一級品であり困難な状況もなんとかしてくれると思えてしまうのが彼女の凄いところだと思う。

 

『ああ久しぶり。カノも元気そうで何よりだ。基地防衛戦では本当に世話になったよ』会釈して礼を述べる

 

「いえいえ。ローズマリー上級指揮官の采配です。指揮官を信じています!」

カノは照れながら返すが、自分の指揮官の采配の賜物だ。と指揮官を持ち上げる。

うん、いい人形だな。

 

一言二言話した後に、カノはヘリから遅れて降りて来たウェルロッドと会話を始める。

防衛戦では屋上に降り立っていたから、うちのウェルロッドとは付き合いが深いのだろう。

 

 

続いてカルカノM91/38、ニックネームはシノでありカノの妹である。

(前回の防衛戦の時はほとんど話していないんだよな・・・・)

 

あまり話をするのが好きそうでは無いが、まあ適当な雑談をする。

これから、ローズマリー上級指揮官への案内役が来るとの事だった。どうやら妹さんがいるらしい。

ふむふむ。

 

そうこうしていると、ジュニアハイスクール位の金髪の女の子が建物からこちらに歩いてくるのが見えた。

ふむ、シノの言う通り迎えの使者の様だ。

(ここは失敗しないようにキチンと挨拶をしないとね)

 

『お嬢さんこんにちは、お出迎えありがとうございます』

『ローズマリー上級指揮官へのご案内よろしくお願いします』

うん、フレンドリーさをアピールしとこう!

頭を撫でて御使いありがとう!と伝える。ジュニアハイスクールだと少し子供扱いしすぎかな?

 

・・・・

ナイルの行動を見てウェルロッドは度肝を抜かれていた。

カノと会話をしていたら、出迎えてくれた()()()()()()()()()()()()自身の指揮官がとんでもない事をしたからだ。

ローズマリー上級指揮官はかなりの小柄。言ってしまえばロリ体型であった。

まさか、何か勘違いしたのか?

何にしても上役相手に何しているのか。これはまずい!

 

「指揮官・・・ローズマリー上級指揮官へ何をなさっているのですか?」

とりあえず、相手がローズマリー上級指揮官である事は伝えようと思った。

 

・・・・

 

ウェルロッドの言葉を聞き、俺はただただ黙って正座、いや土下座をしていた。

え?姉妹はいないし本人だって?話が違うじゃん!とシノを見たがどこ吹く風である。

カノは妹の嘘が原因でとんでもない事態になってしまいアワアワしている。

ウェルロッドは呆れを通り越して、怒りながら俺に説教をしてくる。

説教なんて普段は嫌だが今日この場に関しては助かる。このどうにもならない空気を動かしてくれるからだ。

 

ローズマリー上級指揮官?彼女は何も一言も発していない。凄まじい怒りの形相でプルプル震えているだけである。

どうもロリ体型なのはコンプレックスな様だ、つまりは地雷。俺はシノに綺麗に地雷を踏まされたようだ。シノよお前は鬼か。ついていい嘘と悪い嘘があるだろう。今回は完全にダメなやつだろうよ。

しかし何を言っても後の祭りだし、そもそも面会する上役の情報を仕入れていない時点でアウツである。

 

ローズマリー指揮官のナイルに対する印象は最悪、そしてナイルの今日一日の正座対応が確定した瞬間だった。

なんとか挽回しなくては。と考えるがどうにも難しい。

プンスカ怒ったローズマリーに、建物内へ案内もとい連行されていくナイル御一行なのであった。




シノさんの洒落にならんウソがナイルさんに効果ばつぐんの模様。
シノの天邪鬼な性格を認識していなかった。ローズマリーの情報を調べなかった。この2点はナイルさんの失敗ですな。
これは正座で反省ですね。笑


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47.ローズマリー上級指揮官

難産でした。
結局、通称半沢直樹回になってしまった。
人形と人間の関係にメリハリつけたいけど難しいっす。
あまり上手くかけていないような気がしますが・・・

アップに時間がかかっていたら、大型イベントが始まってもうた。
15と16のピックアップ回しましたが、15で弾薬5万、16で10万溶かしましたよ。
キッツーと思いましたが30万近く溶かしても出ない人もいるようで、地獄ですね。これ。


こんにちは、R-15基地の指揮官のナイルです。

 

ただ今R-13基地の、我々の地区を管轄する上級指揮官のところに呼び出され来ているわけ。

呼び出しといえども、悪いことしていたわけでもないので、挨拶をするつもりで軽い気持ちで来たのが失敗でした。

相手のエリート人形のシノのウソにやられて大ピンチです。

おかげさまでローズマリー上級指揮官にウッカリ色々と失礼してしまいまして・・・。

うん、運が悪いね。なんて考えていたら。

「準備もしないで失礼にも程がある」と92式とウェルロッド(鞄持ちたち)に公開説教されましたよ。

そんなに俺悪いかな?

まあ、説教のお陰でローズマリー上級指揮官の怒りも多少収まったから助かったとも言える。

なんで、もう何も言うまい。

 

・・・・・

基地内を案内されというより、罪人の市中引き回しのごとく連行され、目的地に着く。

会議室とか期待したがそんな温い訳もなくオープンなスペース、パーティーでもやる様な広場だった。R-13基地の戦術人形だけでなく働く人間や市民?なども集まっており完全な見世物の様相である。

 

(なんだってんだ。やけに芝居じみてやがるな。ん?なんだ?)

よく見ると先約がいる様だ。一人の男が正座させられている。

近づくと、ドールハウスの若い営業だった。

(え?・・・と言いますと・・・)

 

ここまで案内してきたローズマリー上級指揮官が歩みを止めて振り返る。

「ナイル指揮官。わかっているな」

「言っておくが、嘘も誤魔化しも通用するとは思わないことね」

「いつまでぼさっと立っているのかしら。自分の置かれている立場くらい分かっているのだろう?」

 

ローズマリーの冷徹な瞳がナイルを射抜く。

(これはアカンかもしれない)

 

黙って営業の横に正座するナイルだった・・・・

 

横にはガックリ項垂れた営業の兄ちゃんがいるが、前に立つ上司から仕切りに罵られている。

話の内容から前の男は会社の役員らしい。俺を連れてきたローズマリーにしきりにおべっかを使ってやがるからな。

 

(営業の兄ちゃんには悪い事をしたな)

(じゃあ、せいぜい悪足掻きの言い訳やらしてもらいましょうかね)

部の悪い勝負を乗り切るべく気合を入れるナイルだった。

 

・・・・・

多くの人形と人間が注目する中、ローズマリーとの問答は続く。

淡々としたやりとを観客が黙って聞く。まるで裁判のようだ。

心なしか周囲の視線が冷たい気がするが、すぐに理由はわかることとなる。

 

「貴様が鉄血兵の部品を売り始めた経緯は分かった。進め方の問題で本社より懲戒処分を受けたこともね」

「その過程で我が街のドールハウスと取引が始まったのも理解した」

「問題は安全に対する配慮だわ」

いよいよ核心の話へと入っていく。

 

『それでしたら、ドールハウス社からは反社会勢力への転売しない旨の念書を頂いていますよ』

キチンとやっていますよ。と回答するナイル。

これなら乗り切れる。と思う一方で横で営業が正座させられている事実。嫌な予感がする。

 

「ほう。念書とね。では、約束が守られているか確認の会社への査察は?」

それだけか?と言わんが如く突っ込む。

 

『・・・いえ、特には』

やっちゃいないが問題ないだろ。との態度のナイル。

 

「具体的にモノがどこに売られたか把握しているのか?」

 

『いえ・・・・』

(しつこいな)

 

「反社にモノが流れて事件に使われた場合の責任は?」

 

『それは・・・ドールハウス社が・・・』

 

そこまで言ったところでローズマリーが鋭い視線と共に追い討ちをかける。

鋭く怒気を孕んだ声でハッキリと告げる。

「テロで親を失った者、子を失った者にお前は売ったのは私だが結果は知らん。そう答えるのか?」

 

『・・・・・・』

(クソッ。なんも言えねえ。確かに・・・それは言い訳できない)

ローズマリーを見ていた視線を床に下ろして頭を垂れる。

ド正論により正面から論破され、乗り切るプランが頓挫した瞬間だった。

 

人殺し!鬼悪魔!と言ったヤジが観客から飛ぶ。

どうやら、市民はテロの被害者遺族のようだった。

ナイルの事を共犯者の如く見ているというわけだ。

(・・・・)言いたいことはあるが、この場面で述べるのは悪手だろう。何も言えずに黙るナイルだった。

 

 

「・・・・・」

無言でしばらくナイルの反応と様子を観察してローズマリーは次の言葉を続ける。

 

「私の指示でドールハウスの扱った中古部品の販売先を全て確認したが、全てシロだったよ」

言葉と同時にナイルへ歩み寄り、髪を掴み顔を上げさせ、視線を合わせる

 

「良かったな、ナイル指揮官。貴様の売却品がテロに使われて死者が出ていたら・・・・生きては帰れなかったよ」

「ドールハウスの営業君に感謝するんだね」

全てを見透かす様な冷徹な瞳に見つめられ、冷や汗が流れる。

横の営業の兄ちゃんを見ると、正座の苦痛の中笑みを向けてくる。

(営業の兄ちゃんには助けられたな。後で何かしないとな)

(しかし、まだ20そこそこの女が・・・どんな経験をしたらこんな目になるんだよ)

 

「以降の中古品は刻印の追加と追跡を指示した。販売先には反社へ流した場合はグリフィンが潰しに行く旨の注意文書も出すようにした」

「これで最低限。全部貴様個人に対する尻拭いだ」

「尻拭いとR-13基地への迷惑は払ってもらおうか」

 

そう述べると、副官のスプリングフィールドが書面を持って前に出てきて、ナイルに渡す。

ナイルの横にウェルロッドと92式も現れて二人して内容を確認する。

 

 

R-13基地での特別対応料:1000万円

テロ被害支援金の請求:1000万円

合計金額:2000万円也

 

 

「なっ!」92式があまりの金額に声を漏らす

「ローズマリー上級指揮官、いくらなんでも」と92式が声を上げたところでナイルが静止する。

『了解しました。謹んでお支払いします』

 

「ふふっ。ナイル指揮官。折り合いがついて良かったよ。これで今回の件は不問に付そう」

ナイルに対して冷徹から興味の視線へと変わる。

 

「鉄血の中古品の取引は継続して構わない。上納金は不要だ。だだし責任は全て貴様が持つことだ」

「以上だ。全員帰ってよい」

 

・・

・・・

・・・・

ローズマリーの解散宣言で今回の呼び出しはお開きとなった。

横の営業君には後日改めて対応の打ち合わせをお願いした。色々やり方も含めて再打ち合わせをしないといけない。これ以上ローズマリーに迷惑をかけると命に関わる。

 

そんな事を考えながら正座から立とうとしたところで、ウェルロッドと92式に止められる。

「これ以上ローズマリー指揮官へ粗相があったら堪りません」

ナイルの正座後のスケベ行動発生率が高い事はR-15の人形達には知られている。そこをチャンスに皆で色々仕掛けるのは構わないが、流石に上役のローズマリー上級指揮官へは洒落にならない。

 

そう言って二人はナイルを左右から挟むようにして肩を貸す形で起き上がる。

『いたたた。ちょっ・・待って・・・足が痺れて・・・・』

 

「泣き言はやめて下さい」

ウェルロッドに言われ足が痺れたまま引きづられていくのだった。まるで逮捕された犯罪者の如く。である。

 

・・・・・

ヘリの前に着く頃には痺れは治っていた。

なので自身の両足で立ちキチンと挨拶する。

 

『ローズマリー上級指揮官、本日はお世話になりました。失礼します』

 

「ご苦労だった。しかし、本日の無礼については始末がついていないぞ」

「改めて謝罪に出直すようにね」

そう言って笑みをこぼすローズマリー。まあ、それ程怒っているわけでは無さそうだが・・・俺は勉強した。油断は出来ない。

 

『改めて、謝罪に伺います』そう言って深くお辞儀をして、R-15へそそくさと帰るナイル一行だった。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

「ナイル指揮官、請求額を交渉無しに受けたのは何故ですか」

ヘリの中で92式は疑問を口にする。

 

『ああ、額だけ見たら異常だよな』

『だがしかし、あの場には人形や住民もいた。やはり俺の、R-15の印象は最悪だっただろう。あそこで駄々こねてみろ。R-13基地との関係は全て御破算だよ』

『ローズマリー上級指揮官が金が欲しいからではない。あれは誰にでも見える形の手打ちの金だ』

『彼女はその意味がわかるか俺らを試していた。一片たりとも油断できない人物だよ』

 

「なるほど・・・勉強になりますわ」92式が納得する。

「正直、私もどう対応すべきか判断できませんでした。指揮官の判断が良かったと思います」ウェルロッドも褒めてくる。

 

(なんかこの二人に褒められると調子狂うな・・・・)

 

「「何か?」」二人の声とジト目がハモる。

『いえ。なんでもありません!』

 

しんどい面会も終わり和気藹々と基地に帰る一行。

しかし、借金がまた2000万円追加となり、ますます平穏からは遠のいていくナイルさんであった。

 

・・

・・・

・・・・

 

一連のイベントを終えたローズマリーは、スプリングフィールドと共に司令室に詰めていた。

「指揮官、ナイル指揮官はどうでしたか?」

 

お茶飲み休憩中の話でふと話題に上がった。

スプリングフィールドはローズマリーがナイル指揮官を気にかけていたのを知っていた。なので聞いてみたのだ。

 

『どうもこうも無いわね。テレビ中継ほどふざけた人間では無い。雑ではあるが根は真面目』そんな感じかしら、とまとめる。

 

「ふふふ。期待を裏切られなくて良かったですね」

 

『・・・・』

肯定も否定もせずにクイっとお茶を煽る。

その顔色は否定的では無かった事を示していた。

 

『しかし、社長も無茶を言うわ・・・』

そう言って、テーブル上の社長からの指示書を手に取り一瞥してヤレヤレといった感じで放り投げる。

社長からの特命の指示書には要約すると「ナイル指揮官を上級指揮官へすべく教育せよ」との命が書いてある。

 

自分を捨てた両親と同年代。彼がR-15基地へ配属された時に何かを期待していたのは事実。

幼い時に親に捨てられた境遇から、深層心理では親を、親の代わりを求める精神的特徴を持っている。いわゆる心の傷(トラウマ)がある事は認識しているから。

しかし、テレビで彼を見て「クズ人間」と知った時は酷くがっかりさせられたものだ。

だがどうだろう、会ってみるとまた違った認識を持つに至った。少なくともクズ人間ではない。

確かに何か光るものを感じた。社長の気持ちは分からなくもない。

 

『はぁ〜〜〜〜』と大きくため息をつくが、

 

「ふふふ。そのため息はポジティブなため息ですね」

とスプリングフィールドに笑顔で揶揄われる。

 

『全く、両親と同じ年代の人間に教育せよなどと、ね。参っちゃうわよ』

ヤレヤレお手上げだと大袈裟な身振りで伝える

 

しかし今日の面会で社長の指示とは関係なく面倒を見てやる気になっていた。

『ただし、やる以上甘くは無いわよ』と呟く。

 

「ふふふ、いいと思いますよ。貴女のやりたいようにやって」

ローズマリーの横に移ったスプリングフィールドは、その母性をもって彼女を抱擁する。

ローズマリーはそれを受け入れてスプリングフィールドに甘える。

『ん・・・ママ』

 

スプリングフィールドの母性に包まれて心を落ち着ける。ローズマリーの日課なのであった。




ナイルさんの借金がまた2000万円上乗せされました。
今いくらだ?計算しないとね(笑)

R-13の副官のスプリングフィールドはママキャラです。
ローズマリーが隠れて甘えていますが、皆にはバレております。
まあ幼少期のトラウマだからしょうがないですね。皆暖かく見守っています。

ナイルさんはまたおりを見て無礼に対する謝罪に来る予定のようです。


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48.反省会

SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」の設定をお借りしております。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

グリフィンの結果が出せていない指揮官が呼ばれる通称『反省会』
ナイルさんも呼ばれたようです。
はてさてどうなることやら。
長さ的に三話ほどになりそうです。


とあるグリフィンの施設にヘリが降り立つ。

到着したヘリから降りてきたのは、ナイル指揮官とサブリナであった。

二人は海外旅行にでも行くようなトランクを引いている。どうやら宿泊出張の様子である。

 

「指揮官、長かったねー」

 

とサブリナが話すが、一言で言えば飽きた。と言う事らしい。

初めは指揮官と二人きりでルンルン気分だったけど、流石に3時間も乗っていると話すこともなくなる。

指揮官は指揮官用のタブレットで仕事を始めるしで完全に手持ち無沙汰。

最後はヨダレを垂らして睡眠(記憶データの整理)までしていた。その姿を見るに記憶()の中で大食い大会でもしてたのかもしれない。

そんなサブリナを見て指揮官がニヤける。

 

『今日のサボりは見なかった事にしといてやる。貸し1な』

 

「だって〜。指揮官が相手してくれないんだもん!」

 

と口を尖らせてサブリナがぶーぶー言い出す。

まあ、いつもどおりの指揮官とのやり取りだった。

 

『ほら。次のヘリが来るからさっさと行くぞ』

 

とサブリナに移動の催促をする。

よく見ると空には幾つかのヘリが見える。施設の数カ所のヘリポートに着陸しては搭乗者を下ろして飛び立っていく。

今日はこの施設に多くの人が集まってきているようだ。

 

「は〜い!」と言ってサブリナはトランクを引いていない方の腕を指揮官の腕と絡ませる。

 

もちろん指揮官の腕をそのたわわな双丘へと押し付ける事を忘れない。

今日は指揮官との泊まりのデートだしね!楽しまなくちゃ。

 

『全く・・・遊びじゃなくて出張なんだぞ!仕事だってことを忘れるなよ』

 

額に皺を作って注意するがサブリナはどこ吹く風だ。

 

「うん、ダイジョーブダイジョーブ」

 

和かに返してくるが全く大丈夫な気がしない。

到着早々額に手を当ててため息を吐くナイルだった。

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

数日前にローズマリー上級指揮官から指示があった。

 

「ナイル指揮官、その日は空いているか?・・・・そうか空いているか。よかった。」

「なにかあるのかって?ああ、グリフィンの"キャリア開発"の研修よ。急だけど貴方も参加するように」

 

との事だった。

 

ローズマリー上級指揮官は我がR-15前線基地を管轄する上級指揮官だ。当然、上官であり命令は絶対である。

先日の表敬訪問という名のパワハラ会(本人には言えない)の後からほぼ毎日のように連絡があり、細かい指導含めて気にかけてくれている。

 

『キャリア・・・開発?』

 

ナイルはちょっと考えて一つの答えを出す。

 

『あー、噂の"反省会"ってやつですか』

 

マジか〜。俺はやっぱりそっち系か。ちょっと、いや大分落ち込むナイル。

その言葉を聞いて、ローズマリーは見下すように鋭く睨む。

ロリ体型で身長が低いから気持ちローアングルのカメラワークは低身長を多少でも誤魔化したいのだろうことが透けて見える。

 

「反省会ではない!キャリア開発だ!」

「ネガティヴに捕らえずに行ってきなさい」

 

ナイルの態度を見てご機嫌斜めになりつつ高圧的に指示をする。

態度の悪い部下が少しでもまともになるように、との思惑だがナイルは乗り気じゃ無いようだった。

ローズマリーにしてはそこが尚更気に入らない。黙って行け、勉強しろ、である。

 

そんなこと言われても反省会だぜ反省会。

どう考えても懲罰的対応じゃない。行きたかねーやい。・・・口には出せないけど。

空いてねーって言えばよかったよ。全く。

 

『了解しました。しかし本当に急ですね』

 

「うむ、今回は貴官は対象じゃなかったが私からの推薦でねじ込んだ」

 

は?あんた、何してくれてんの?余計なことすんなよ。マジで。

もちろん口には出せないので心の中に留める。

 

「ん?なんだその反抗的な目は!」

なにかを感じたローズマリーからジロリと睨まれる。

 

やべ!心の奥の想いが顔に滲み出てた。

いかんいかん、ポーカーフェイスポーカーフェイス・・・・

 

『いえ・・・反抗的ではありません』

 

思わず意味のわからない返答をしてしまうナイル

それに対してジト目で見てくるローズマリー。

 

「本社から研修の講評は貰っとくからな。私の部下である以上キチンとこなせ」

「結果次第では特別講義を追加でしてやろう」

 

やはりローアングルのカメラワークワークを見下ろす形で嗜虐的な目になる。

うん。そのアングルやめた方がいいよ。絵面が良くないと思う。(やはり本人には言えない)

 

『はっ!頑張ってまいります』

 

話が終わらなさそうで面倒くさかったので適当に返事をしとく。

 

「連絡だが、フル装備の人形一名は付けろ。指揮官はいつもの戦闘時の装備を用意せよ。とのことだ」

「忘れるなよ」

 

『装備?反省会ですよね?』

 

打ち合わせなのに装備?意味がわからんので聞き返す。

護衛として人形がつくのは分かるがフル装備指定は謎だ。

 

「過去に、鉄血の襲撃を受けたことがあるらしく、念のためとの事だ」

 

は?マジかよ。秘密の会合で襲撃受けるとかグリフィン大丈夫か?

懲罰研修の上に敵襲で命まで狙われるなんて益々行きたくなくなったよ。

マジで行かなきゃダメ?

 

「グダグダボヤいてないで諦めて行きなさい!」

ローズマリーはプンスカ怒って通信を一方的に切ってしまった。

(あーあ、これは行かんきゃダメかぁ。はぁ〜〜〜)

 

・・・・・・・

と言うのが先日の上官とのやり取りだった。

 

ーーーー(かくかくしかじか)で研修へ行く事になった。ついては、一人連れていく事になるが・・・』

 

と言ったところで、G36Cが前のめりになって立候補する。

 

「指揮官様、私が行きますわ」

 

う~ん。基地を空けるからな、副官も同時にいないのは、ねえ。

 

『いや、副官も同時にいなくなるのは不味いだろ』

『G36Cは残って、有事の際はローズマリー指揮官とコンタクトをとりながら対応してくれ。同じ理由でウェルロッドとエル、92式も頼む』

 

G36Cは残念そうだが、渋々ながら了解してくれた。他の三名も行きたそうだったが、まあ大人ので問題なく了解してくれた。

 

さて、どうするか…と考えていたら、

 

「はいは~い。私が行きまーす」

 

とサブリナが立候補する。

(サブリナか。うーんサブリナ?大丈夫か?不安だ。)

(まあ一泊の研修だもんな。大丈夫だろう)

(一回連れていけば、しばらく放置でも文句もでないだろうしな。)

 

『わかった。ではサブリナで頼む』

 

「はーい」

 

ニッコニコの笑顔で返事が帰ってくるが、やはり不安だ。研修だからダメな要素はないはずだが、何か不安だ。

まあ、大丈夫だろう。ダイジョーブダイジョーブ。

 

 

この時の嫌な予感が、まさか的中するとは思わないナイルであった。




ローズマリー上級指揮官からの指令により行く羽目になりましたね。
相方はなんと問題児のサブリナ。
といっても一応真面目系でやる予定です。


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49.有名人

なんか色々とっ散らかった内容になってしまった。
反省会前と反省会開始あたりまてです。


反省会の会場の施設に到着し、サブリナと共にヘリポートから建物に移動する。

サブリナはナイルの腕を取り引っ付いたまま施設まで歩いていく。

 

もう!べったりくっ付いているから歩きづらいなぁ。

 

『サブリナ。流石にべったりくっ付き過ぎだ!ちょっと離れて歩かないか?』

 

ナイルが歩きづらいと苦情を言うが、サブリナは離れるつもりは無いようだ。

 

「だ〜め!指揮官。一緒に仲良しで歩くんだもん」

 

ニッコリ笑顔で拒否するサブリナ。

相変わらず俺の言うことなんて聞きゃしない。

おかしいな・・・。お前本当に人形か?

ナイルは諦めて金魚のうんちのようにくっ付いたサブリナを連れて歩くしかなかった。

 

・・・・・

『なんじゃこりゃ・・・マジかよ・・・』

 

施設に入ってナイルが思わず零した言葉がこれだった。

施設には大勢の指揮官と人形が集まっていたが特筆すべきはその人形達のレアリティだ。

全員LEGENDARY、いわゆる★5の人形達だった。

 

『まるでI.O.P.の戦術人形の見本市だな』

 

反省会の参加が決まってから、本社のクリスティーナ指揮官にそれとなく聞いたがその通りだった。

曰く、見栄っ張りが多いので基本最高級の人形を連れてくる。つまり★5だらけになると。

ほえ〜。皆さん金持ちね〜。俺に恵んでくれよ。その時は人形じゃなくて現金ね。

 

そんな感じでビックリしていると、決して低いレアリティでは無いサブリナを連れたナイルが目立ったようで注目が集まる。

 

「おい、アイツどこかで見たことないか・・・どこだったか?」

 

「ん?確かに・・・どこだ?」

ナイルを見て、皆でヒソヒソ話を始める。

そして誰かがついに気づく。

 

「ん?R-15基地・・・・?テレビだ!あの狂ったパーティーをやっているヤツだ」

 

「ああ、アイツか!」

 

「あんだけ派手にやってんのに結果も出せてねーのかよ。ダセえやつだ」

 

「ウワサによると借金まみれらしいからな、半年もしたら前線に送られて消えるだろ?」

 

聞こえてるぞバカ野郎。勝手なことばかり言いやがって。何がダセえだ!この会に呼ばれているお前らも人のこと言えんだろうが!

と、怒りが沸くが口に出してもしょうもないので無視を決め込む。

 

まったく、元はと言えば全部サブリナが原因だからな、ゲンコツくらいくれてやろうか?

なんて考えていたら、奇声と共にサブリナが揉みくちゃにされていた。

 

え?なんなの??

 

・・・・

ナイル達に注目していたのは指揮官達だけではなかった。

参加している戦術人形たちも指揮官達のヒソヒソ話を聞いていた。そこで飛び出した「R-15基地」の単語を聞き注目する。何たって「()()TVで見たパーティーの」R-15基地だからだ。

しかも、これまたTVで見たそこの指揮官が連れている人形が、あのパーティーの主催者のSPAS-12型の戦術人形なんだから。

 

「きゃ〜サブリナちゃーん。握手して〜」とか「サインちょうだ〜い」とか声を上げながら揉みくちゃにされる。

あのTVの中でメチャクチャやって指揮官をイジリ倒した姿を会社内にばら撒いたサブリナは、各地の戦術人形達のヒーローとなっていたようだ。

 

人形達は興奮した様子でパーティーのやり方とか、指揮官のイジリ方とか、色々聞き出している。とにかく話題は尽きないようでもの凄い人気の様子。

初めはビックリしていたサブリナも途中から気を良くしたようで得意げになって色々話している。

 

「お金とかはS10基地のPx4さんがすごく詳しいし頼りになるから相談するといいよ〜!」とか言っている

 

ば、馬鹿やろう!お前どこの基地の名前出してやがるよ。S10基地の迷惑になるだろうが!あそこの基地はマジでヤバイんだから本当にやめてくれ。

恨み買ったらまた借金上積みされるか消されるか。何にしろ致命的な報復を受けるだろう。

 

サブリナはみんなから連絡先を聞かれてアドレス交換しているようだが、まあ他基地のエリート人形と友達になれてよかったんだろうな。

ただ、「次のパーティーにはみんな招待するねー」とか簡単に約束するのやめてくれ。

本当に死ぬ。主に俺の精神と財布が。だから頼むからやめてくれ・・・

 

・・・・・・

なんて色々考えながらサブリナを見ていたら、二人ほど指揮官が寄ってきた。

 

「ちょっとあんた。あんたのせいでえらい目に遭ってるんだよ」

怒り気味で話してきたのは小太りのオッサンだ。まあ俺もオッサンだけど俺より年上くさい。

 

『えっと・・・よく分からんのですがR-15(うち)に何かありましたかね?』

少しイラッとしたが、一応丁寧に聞いてみる。

 

「何がじゃないよ。お宅のパーティーのTV放送のせいで、うちの中国銃の人形の乾杯が酷くなったんだよ」

「うちもですよ」と言って冴えない兄ちゃんも尻馬に乗ってくる。

 

ああ、それ系ね。

話を聞くと一気飲みの強要が酷いらしい。5人位からの一気強要で一発ダウンしてしまうとか。

 

『すんません。けど俺も好きでやってるんじゃ無いんですよ。もう止まらんのですよ・・・』

話してて俺も悲しくなる。

『天災だと思ってお互い頑張りましょうよ・・・・』

残念ながら諦めるしか無いと諭すことしかできない。

 

「ああ、そうだったんですね。キツイけど頑張るしか無いんですかね・・・」

 

「そうですね、頑張りましょう・・・」

三人でしんみりである。サブリナ達の盛り上がりとは対照的な雰囲気を一角に作り出す。

 

なんか初めて指揮官同士で人形からの被害感情を共有できたな。ヘリアンさんやペルシカさんは全く共感してくれねえからな。

あまりに嬉しくて連絡先交換しちゃったよ。愚痴を吐ける相手が出来た。たまには指揮官同士集まって飲んでもいいかもしれない。

互いに傷を舐め合うダメ指揮官達であった。

 

・・

・・・

・・・・

 

「久しいな、ルーキーのオッサン」

もう少しで開始なので会場へ入ろうとしたタイミングでナメたセリフで声を掛けられた。

人違いかと思うも振り返ればヤツが居ましたよ。ジャスティンのヤツが!

 

『お?おー。入社ぶりだなぁ。なんだよ、まだ生きてたのかよ』

『こんなとこに呼ばれてるなら、あんたも大した事ねえな』

とりあえず喧嘩は買っとく。

 

「あ?・・・まあいいや。借金こさえて馬鹿騒ぎしてるみたいだな。オッサン」

「あの中古のポンコツ人形、まだ使ってるみたいだな。()()慰みものに使ってやるからスクラップとして引き取ってやろうか?」

 

あまりなセリフに流石のナイルもブチ切れ、下卑た笑いを浮かべる目の前の男の胸ぐらを掴み引き寄せる。

『うちのG36C(副官)が居なくてよかったな。居たら俺が殺してるところだったよ』

 

「くっ!離せ貴様」

怒ったナイルに気圧されたらしい。

だが逃さねえよ。一発殴ったろか?あん?

 

「貴様ら、何をしているか!」

間もなく開始という事で現れたヘリアンさんに見られて注意を受ける。

これ以上は不毛なのでお互いに離れて悪態を吐きながら会場へと入っていく。

チッ!命拾いしたな。お前、いつかぶっ殺すリストのNo.2だからな。

ちなみに、No.1は誰かと言うと、うちの代表取締役社長だ。(もちろん口には出せない)

 

研修前に気分が悪いったらありゃしない。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

会場は広い会議室だったが、研修は大きな円卓に全員が座る形で実施される。

人形は別室で待機となる。

 

皆が席に着いたところでヘリアントスの会式の挨拶が始まる

「皆、遠いところ参加ご苦労。本日はキャリア開発の研修会だが、口さがない者は反省会などと言うがそうではない」

「少しでも結果が出せるように互いに勉強して行こうとの趣旨だ。本研修に参加して上級指揮官やに登用された者、特殊部隊の指揮官に登用された者などがいる。決してネガティブな会ではないと宣言しておく」

「我がグリフィンは全指揮官の活躍を期待している。以上だ」

 

司会進行はヘリアントス上級代行官だが、助教として上級指揮官が一人つくとの事で教官は2名である

助教の上級指揮官はR地区の女性だった。上級指揮官は議事録などの雑用係として人形を一人連れていた。

 

(ふ〜ん。女性上級指揮官が流行っているのかねえ?R地区って言ってたよな・・・近くかな?)

(連れてる人形はTAC-50か・・・。みんな金持ちやね・・・)

 

ヘリアントスの横に座る指揮官から、自己紹介と最近の業務内容と成果の報告が始まっていた。

一生懸命背伸びした話である事に俺でも分かるくらいである。

痛々しくて聞いてられんよな。

 

などと思い物想いに耽る。

(はぁ〜金がねえな。どうにかして稼がないと破産すんぞ。うちの基地)

 

(どうせここの指揮官みたく人形の製造依頼なんて掛けられないから、製造契約書とか余った資材を売って返済に回すか?)

 

(名案じゃね?これ!?)

 

(いやいやいや。あかん。借金は俺個人のだから横領になるか・・・・)

 

・・ル・・・ス・・官

 

(どうすっかな。どうにかならんかな?)

 

・イル・・ース・揮官

 

(うーん、うーん)

と腕を組んで目を瞑り苦しい顔で悩んでいると、隣の指揮官の兄ちゃんに足を蹴飛ばされる。

なんぞ、と視線を向けると、(順番ですよ)と小声で伝えてくる。

 

『ん?』とヘリアンさんを見ると怒った顔でこちらを睨んでいるではないか!

(こりゃあかん)

 

「ナイル・ルース指揮官!貴様は何をしていのだ!?」

わなわなと怒鳴る事を堪えて、冷静に伝えているつもりなのだろうが全く怒りを隠せていない。

ヤバイヤバイ。

 

『はっ!失礼しました。他の指揮官を参考に何が出来るか考えておりました!」

あぶねー。ナイス言い訳。さすが俺、咄嗟の言い訳言うのには慣れたよ。

しかし、貧すれば鈍するとはまさにこの事だよな。

借金返済のことが頭から離れねえ。

 

とりあえず説教が始まる前に最近やった事を説明して、失点は無かったことにするしかねえ。

なんて思って説明しようとしたところで、突然電気が消えてすぐに非常灯えと変わる。

 

「なんだ・・・・急にどうした??」と会場が騒つくが・・・

前方のスクリーンに突然映像が投影される。

 

 

黒髪、ボブカット、上半身は黒いドレス風の戦闘服・・・

「グリフィンの指揮官の皆さん。はじめまして」

「私は鉄血工造のハイエンドモデルのイントゥルーダー。本日はゴミ掃除に来ました。」

「一人残らず皆殺しよ。精々楽しませてね」

と伝えて一方的に映像が途絶えると同時に建物外から銃声が鳴り始める。

 

「クソッ。鉄血の襲撃だ」

ヘリアントスが叫ぶと共に会議室が混乱に陥る。

 

 

『マジかよ・・・』

ハイエンドの襲撃とか洒落にならんだろ?

だから来たくなかったんだよ!

 

小隊も居ない状態でどうするか・・・

絶望に襲われるナイルであった。




戦力が無い状況でハイエンドの襲撃を受けるナイルさん。
はてさてどうなることやら。


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50.決死隊

ちと頑張って書いてみた。
なんか、3話でおわんなかった。
おかしいな。

ナイルさんサブリナと二人で頑張るみたいですよ。


鉄血のハイエンドの襲撃だと!?

『クソッ!どうする!?』

 

ふと、ヘリアントス上級代行官と助教の女上級指揮官に目をやるが、両名共にどこかに連絡をしているようで積極的にイニシアチブをとるつもりは無いらしい。

 

(上役といえども荒事、想定外には弱いか・・・まあ仕方ないだろうな・・・)

自分でやるしか無いか。まずは戦力の確保だ。

基地内で使用する業務連絡用のインカムを用いてサブリナを呼び出す。

 

『サブリナ。応答しろ。サブリナ』

 

「指揮官!?何があったのかな?急に非常灯に変わったけど。みんな混乱しているよ」

 

『緊急事態だ。装備をかき集めて待機中の全人形をつれてこっちにこい』

 

「ん!?分かった。すぐに連れて行くね」

 

端的に伝えると直ぐに伝わったらしく通信が切れる。流石サブリナだ。

後はこっちだが・・・俺がやるしかねえのか?やりたくねえけど。

PDAをいじりインカムを会議室のスピーカーに割り込ませると同時に息を吸い込みデカイ声を出す。

 

『お前ら!オタオタしてんじゃねえ!』

参加者の老若男女がナイルに注目する。

 

『なんとかするしかねーだろ?とりあえず人形は装備も含め全員ここへ呼んだ』

『ヘリアントス上級代行官、救援などの手は無いのですか?』

とりあえず、会の幹事にリカバリープランの有無を聞いとく。

 

「うむ。本社に連絡は着いた。救援部隊が30〜40分で到着するとの事だ」

 

『他は?』

 

「いや・・・それしかない・・・」それだけかよ?と言外に言われて苦い顔をするヘリアントス。

 

『分かりました。30〜40分とか弛んだ事言ってないで、20分で来いと怒鳴っといてくださいよ』

10分の誤差とか舐めてんのかよ。こっちは死にそうなんだよ!

 

『みんな。救援が来るなら生き残れば勝ちだ。死ぬ気で乗り切るぞ』

 

そう言葉に出すが、俺には絶望感が溢れている。

何故かって?鉄血のハイエンドはそんなに甘くないからさ。

アイツらは定石通り対応していたら必ず負ける。そう言う勝負を仕掛けてくる連中なんだ。

うちの基地が襲われた時、本当に偶然が重なってギリギリ勝つことができた。

偶々先に索敵できてジャミング前に救援を呼べたこと。偶々スカウト達のデュオの訓練をしていたこと。偶々二人が見つからず潜入出来たこと。偶々ハイエンドが近接戦闘が不得手だったこと。これらのラッキーが重なって偶然勝てただけだ。もうひと勝負していたら十中八九潰されている。

今回の襲撃だって救援を呼ばれるのは想定済み。恐らくそれを踏まえてすり潰す策を弄している。

絶対にね。

 

まずは生き残るための防衛線を考えないと・・・

『えーと・・・助教のTAC-50さん。施設のMAPをスクリーンに映してくれます?』

 

上級指揮官の戦術人形は分かりましたと言ってスクリーンに映す。

MAP全体を見回して少し考える。

うーん、偶然ではあるがこの会議室が守備をするには一番か・・・

『よし!ではこの会議室入り口で迎え撃つぞ』

 

「指揮官〜。お待たせ」

ちょうどそのタイミングで、サブリナたちが会議室に集まってきた。

 

ナイスタイミングだ。

『人形も他の指揮官も急いで装備を整えろ』

『ヘリアントス上級代行官、予備弾薬とかはありますか?』

 

「隣が倉庫になっている。弾薬もある筈だ」

 

なるほどなるほど。よし目についた端から適当に人員を見繕おう。

『その端から5名の人形で全部この部屋に運んでくれ。人手が足りなければ何人か適当に連れてってくれ』

 

・・・・

防衛準備は出来たけど、まだ足りない。

『ヘリアントス上級代行官、この建物は比較的新しいですが対人形防衛装備があったりしませんか?』

 

「うむ。この施設はカテゴリⅢの防御レベルで作られている。それがどうした?」

 

-----

対人形防衛装備。それは人形による攻撃を減衰させる防衛方法及び機器である。

戦術人形が生まれて以来、その戦闘力の高さから重宝されているが逆の防衛についても開発が進められている。

ある範囲の人形を稼働不能にするDS(Doll's Sealing)兵器などもあるが、自軍の人形は有効に使いたいため敵軍を弱体化させるだけの方法もある。それが対人形防衛装備である。

端的に言えば、敵軍の無線や指示系統にジャミングや物理的な無線封鎖を行い、自軍系統は基地の通信施設や専用回線を用いて制限なく指揮を行う事で戦術的優位を取るシステムである。最近では重要設備にはほぼ採用されている。

鉄血がよく用いる可搬式ジャミング装置を使った戦術もこれに該当する。

-----

 

『だとすると、鉄血兵はこの建屋内で活動不能なはず・・・・いや・・・』

『上級指揮官!まさかイントゥルーダーは電子戦に強いとかありますか?』

 

問われた女性上級指揮官はスラスラと答える

「鉄血工造のSP914 Intruderは電子戦に特化したハイエンドモデルですね。電子戦の専門家と言えるでしょうね」

 

『クソッ。そう言うことか。この基地のコントロールはすでにイントゥルーダーに奪われている・・・』

コントロールが奪われていると言うことは、人形防衛装備は我々に向けられていると考えた方がいいだろう。

偶々短距離通信で繋げられからマイナスがないだけで、少々距離が離れると指示は不可能な可能性が高い。

しかし、ナイルはニヤリと笑う

 

『逆に言えば、コントロールを取り返せばそれだけで勝てるとも言える』

『TAC-50さん、コントロールルームはどこにありますか?』

 

投影されたMAPの一室が光る。

 

「コントロールルームの位置はMAP上に光点で示す部屋です」

TAC-50は淀み無く直ぐに答える。

 

(いい人形だな。爪の垢をうちの人形達に飲ませたいくらいだよ)

っと、余計なことを考えている時間は無い。

コントロールルームは決して近くは無いが、こちらの方が十分早く到着出来るだろう。

 

『サブリナ、俺たちはデュオでコントロールルームを奪取して人形防衛装備を稼働させるぞ。1分で準備しろ!』

 

「いつでも行けるけど、指揮官は危ないよ!」とサブリナ

「ルース指揮官。無茶だ。危険すぎる」とヘリアンさん

 

『人形だけだとアウトな可能性が高い。誰か行く必要がある。ハイエンドに勝つにはやるしか無い』

『であれば、言い出しっぺの俺ですよ』

話しながら準備は進める。

M4に予備弾は5マガジン150発、それにサイドアームはブローニングハイパワー

HEグレネードにフラッシュバンとスモークグレネード、簡易的な防弾ベスト。いつも通りの装備だ

 

行く前にあの馬鹿に一言言っとく。

『おいジャスティン!ここの防衛は任せるからな。口だけじゃなく働いてみせろよ』

 

「フン。貴様に言われるまでも無い。早く死んでこい。死に急ぎ野郎」

おーおー死地に向かう者に早く死ねと言うか?クソ野郎。

 

『俺らが出たら扉は封鎖しろ。行くぞサブリナ』『GO!』

掛け声と共にフル装備のサブリナと飛び出して行く。

 

「ま、待て。ルース指揮官」

後ろから引き止める声が聞こえる。

悪いけど待てませんよ。ヘリアントス上級代行官。

 

・・

・・・

・・・・

 

『ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・・』

(あれ?M4ってこんなに重かったっけ?今日は体調悪いのか?)

威勢よく飛び出してサブリナのスピードについて行くが、程なくして息が上がり足が動かなくなる。

入社して配属された頃のサブリナとの速度の違いに驚く。訓練の時に余裕でぶっちぎってたのが今は逆に余裕でぶっちぎられる。

あれ以来所属の戦術人形達は鍛錬を欠かさなかったのに対して、事務仕事や借金に掛かりきりで鍛錬を怠っていたナイルとの差がここで明確となっただけだ。

まあしかし指揮官の能力としては体力はさほど求められるものではない。グリフィンの指揮官という仕事に順応した。とも言える。

 

(くそっ。帰ったら毎日走り込みだ)

ナイルはそう決意するが、恐らく二度とサブリナに追いつくことは叶わないだろう。

身体能力で戦術人形について行くなど人間技ではないのだから。

 

 

「指揮官!大丈夫?速度落とす?」

と声を掛けるが、同時に焦りが湧いてくる。当初想定の速度が出せていないからだ。

このままだと敵が先に到着して防御を固めてしまう。

私一人で行く?ダメだ。防衛とハックの両方同時は無理だ。

 

『ハアッ・・・ハアッ・・・』

指揮官は完全に息が上がり酸欠のようだ。まもなく足が止まるだろう。

ダメだ。これは無理だ。サブリナがそう判断して指揮官をおんぶする。

 

『サブリナ・・・子供扱いするな・・・』

ナイルが背中で呟くが、ナイルをおぶってもサブリナは戦術人形のスペック通りの速度が出せている。明らかにこちらの方が早い。

 

「子供扱いじゃなくて、迷惑だからこうしてるの!」

「もう敵が先にポイントについていると思う。接敵予想ポイントの手前で下ろすからね」

 

廊下を駆け抜けて階段を駆け上がり、あとひとブロックで目的地、と言うところで廊下の前方に鉄血兵が見えた。

視認と同時にサブリナが偶々横にあった給湯室へ飛び込む。恐らくみつかってはいない。

 

「やはり先を越されちゃったね。指揮官どうする」

ナイルを下ろして、半身のSPASを準備しながら質問する。

排除か隠密行動か、二択だろう。

 

とりあえず呼吸は落ち着いてきた。

『ふ〜〜、しんど。極力バレないように近づいて一気に制圧しよう。一度バレたら足を止めずに行くぞ』

『サブリナが前で俺が後方警戒で行くぞ』

 

「オッケー!」

 

『GO!』

掛け声と共に飛び出す。目的地へ向けて進み・・・

曲がり角から先を覗くと鉄血兵が数名いる。

 

「ここから直線だけどアイツらは排除しないと行けないわね」

 

『フラッシュバン投擲後、ダッシュで距離を詰めるぞ。俺の速度を考えてくれよ』

 

「え〜〜。帰ったらみんなに言うからね。祝勝会で反省だよ!」

獲物を見る目で見つめてくるが勘弁だよ。ほんと。

 

『祝勝会やるためにも共に生きて帰るぞ』

そう言ってフラッシュバンを一つ投擲する。

 

シュバッという音と閃光が通路の向こうから見えた瞬間に二人とも飛び出して駆け出す。

一体だけ動くのが見えた。人形の影で効きが悪かったららしいが、関係なく駆け寄ったサブリナがセミオートで連続して数発撃つ。

 

轟音と共に絞り(チョーク)無しのシリンダーそのままの銃身からバックショットが放たれる。

狩猟用の大粒径の散弾が広角に放たれ、動きを止めた鉄血兵をめちゃくちゃに破壊する。

と同時に、ナイルのM4にて倒れた鉄血兵の頭を撃ち抜き始末する。

 

『GO!GO!GO!』

足を止めずに走る。

コントロールルームの扉が見えたところで、ガードとヴェスピドが飛び出してくる。

と同時に、背後からもリッパーとヴェスピドが出てくる。挟撃だ。

 

サブリナはシールドを展開して、バックショットを乱射するがガードの盾に阻まれて中々有効打が与えられないが、

「硬いやつにはこれだよね」と数発サボットスラグ弾を装填して射撃する。

SPASより放たれたサボットスラグ弾はガードの盾を破壊してそのまま頭部に着弾、電脳もろとも頭部を粉砕する。

3体のガードはあっさり沈み、そのまま散弾で盾を失ったヴェスピドを蹂躙して行く。

何発か銃撃のダメージを受けるが微々たるもので、問答無用で皆殺しにする。

 

一方、後方のナイルは苦戦していた。

適当なバーストで撃つが、曲がり角をうまく使う敵に命中させられない。

リロード前にHEグレネードを投げ込み敵を釣り出し、やっと二体始末する。

 

『くそっ。時間がねーな』

 

リロードと完了後に牽制射撃を加え、曲がり角の手前にスモークグレネードを投擲する。

スモークによる視界の遮蔽により、エラーを出させて時間稼ぎする。

 

『サブリナ、行くぞ』

 

「うん」

 

二人して走り、コントロールルームに飛び込む。

しかし、コントロールルームにも敵が3体ほどいた。

距離的には完全に近接戦闘(CQC)だ。

サブリナはシールドからバールを取り出して目の前のリッパーの頭部を粉砕する。と同時に左手で隣りのリッパの顔面を掴み握力を持って粉砕する。

レスラーのりんごを握り潰すパフォーマンスの如く、内部の液体を撒き散らして鉄血兵の頭部はクシャクシャに潰される。

 

「指揮官はやらせないよ・・・」

呟く言葉に優しさのかけらも無く、狂気に満ちた見開いた赤い瞳が怖い。

怖すぎるので何も見なかったことにしとく。

 

ナイルは近接したヴェスピドがライフルを向けてくるのを跳ね除けると同時にブルートから昔頂いたナイフをコアに突き立て、停止させる。

(あぶねー。ライフルじゃなくてパンチでこられてたら負けてたな)

 

『よし!サブリナ!コントローラにアクセスして奪い返すんだ』

 

「了解!」

答えると共に有線でコントローラにアクセスをかけると同時にネットワークの海に意識が沈んでいった。

 

・・・・・

「ここがネットワーク空間か・・・」

急ぎ鉄血の接続ポートを見つけ出し破壊する必要がある。

 

『サブリナ、急いでくれよ。長くは持たない』

どこか遠く、空の彼方から指揮官の声がする。恐らく義体に語りかけているのが私の意識にとどいているのだろう。

急がなければ。

 

駆け足で進むと、強度の高い攻性防壁により道が閉ざされている。恐らくこの先にポートがあるのだろう。

ギリギリなんとかなりそうなので、強引に突破を試みる。

 

・・・・

「くうっ・・・・」

ボロボロになりながらもなんとか敵を退け攻性防壁の突破が叶った。

"メンタルモデルに深刻なダメージがあります。至急修復装置でベリファイを行ってください"とのコーションが視覚モニターに投影されるが、相手をしている暇はない。とにかく前に進まないと。

 

ヨロヨロと進むと広い空間に出る。しかしポートらしきものは何処にも無かった。

「な、なんで?」

無いなら隠されているはずだ。

空間内のチェックを始めるがメンタルの損傷が大きくなかなか捗らない。

 

やばい、指揮官が!指揮官が死んじゃう・・・・どうしよう・・・・

私が最後に見つけるだけなのに。どうしてどこにも無いの?・・・

 

サブリナは不甲斐なさからポロポロと涙を流していた。

それでも現実は残酷だ。無いものは無いのだ。

 

『ぐうっ・・・サブリナ、まだか?』

ただならぬ指揮官の声が聞こえたが、サブリナはただ立ち尽くすしかなかった・・・

 

・・

・・・

・・・・

ネットワークに接続したためか、サブリナの義体が目を開いたまま動きを止める。

(よし入ったか。頼むぞ)

 

ナイルは自動ドアの制御盤を破壊してドアを開かなくする。

あまり効果は無いが、秒単位の時間は稼げる。

ドアの正面方向に遮蔽物を設けて侵入の阻止を試みる。

M4も予備はあと120発程度だ。どこまで持つか・・・・

 

そんな時に、開かないためドアが叩かれて破壊される。

と、同時にナイルは発砲してドアを破壊した2体の鉄血兵を蜂の巣にする。

それを見た他の鉄血人形はドア横の壁に隠れる。

何発か牽制射撃を加えてからサブリナに向かって叫ぶ。

 

『サブリナ、急いでくれよ。長くは持たない』

 

何発か互いに牽制しあったところで、ナイルはフラッシュバンをドアの向こうに投げ込み、続いてHEグレネードも投げ込む。

『最後のグレネードだくらいやがれ』

 

フラッシュバンにより身動きの取れなくなった鉄血兵がもろにHEグレネードを受けて、3体を稼働停止そして他数体に重軽傷を負わす。

続いてスモークグレネードを入り口に焚き、敵の侵入を阻止する。

 

(くそ。サブリナはまだか)

煙が晴れてきて、また銃撃が開始される。

もうM4の弾も無くなってきた。やばいな。

リロードをして身を乗り出して牽制しようとした時に、エネルギー弾がナイルの右肩を貫き、そのまま後方の壁まで吹き飛ばされる。

 

『ぐうっ・・・サブリナ、まだか?』

 

ナイルにとって運が良かったのはリッパーのサブマシンガンタイプの弾だったことだ。

これがヴェスピドやイェーガーのライフル銃だったら、普通に即死、良くて右腕の喪失だっただろう。

だがしかし、エネルギー弾は生体に対してのダメージが大きい。ナイルの右肩の肉や骨は焼かれており銃創以上のダメージをもたらしている。

 

すぐに落ちているM4にを拾い左手だけで乱射するが、全く真っ直ぐ飛ばない。

運良く鉄血兵一人を倒すことができたが、そこで弾切れ。

右腕が動かずリロード不可のため、サイドアームを抜き応戦する。

続いて突入してきたリッパーに9mmパラベラムをお見舞いするが左手での射撃のため急所を狙えず捗らない。

応射され遮蔽物ごと吹き飛ばされる。

 

『クソッ。最後の一瞬まで諦めねえぞ』

ブルートのナイフを取り出して立ちあがろうとした時に、複数の鉄血兵が銃を突きつけ見下ろしていた。

 

『ここまで・・・かよ・・・』

『サブリナ、最後まで諦めるなよ・・・・』

 

肩からの出血により意識が遠のいたところで、複数の射撃音が響いて事態は終わりを迎えたのだった・・・・




普段の倍くらいの長さになっちった。
ナイルさん、死んでもうたのか?


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51.存在しない者たち

おかしいな。書いても書いても終わらねえ。

ストーリーに絡む人形は出さねえ。とかあらすじに書いたが、あれは嘘だ。
50話を超えてネタもなく出してしまった。許してくれ。
ごく稀に出てくる程度に抑えます。m(_ _)m

今回の話はSPEC様の作品から設定を参考に、と書きましたが多分にオマージュになってしまいましたね。
普通の人が戦術人形と一緒に行っても、ヒーローになれねえっす(笑)

そう、UA5000超えました。ありがとうございます。
徐々にお気に入り数とか増えているので励みになります。
感想書いてくれてもいいんだけどね(笑)




コントロールルームで倒れたところで鉄血兵に囲まれて銃を突きつけられるナイル。まさに万事休す。

肩の傷からの出血や痛みもありそのまま意識を手放すが、どこか遠くで射撃される音を聞いた気がした。

 

 

・・

・・・

・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、これが死なのだろうか・・・・)

 

(死に別れた仲間に会えるとか・・・そんなものも無いのか)

 

(さっきから傷が痛えな。死んでも傷があるのかよ。バラバラになって死んだヤツはどうなるんだ?)

 

(痛えな。もう。グリグリやんなよ。マジでよ)

 

(ん?グリグリ??)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

痛みから目を開けると、見知らぬ人形が俺を除き込んでいた。

 

(誰だ??)

 

「目、覚めた?」

 

(いや、見りゃ分かるだろ?あれ死んだんじゃ無いの?ここは天国?)

 

シルバーのロングヘアで小柄、オリーブドラブの帽子にジャケット、短パン。着崩した白シャツにバッシュ。

すごく気怠そうで、一言で言うなら「だらしない」人形だった。

 

『傷をグリグリしてなかった?・・・・痛くてね』

膝をついて覗き込んでる人形にストレートに聞く。

 

「ん?生体用ジェルパックで止血しといた。とりあえず死なないよ」

いちいち面倒臭さが滲み出ている。大丈夫なのかこの人形。どっか壊れているとか?

 

「で、次はこれ」

眠そうにしながら赤いハンドガンのようなそれを見せるが、赤と黄色のそれなりの量のアンプルがセットされている。

人間に対する応急救護用の薬剤の様だ。色味の悪さから中身は聞きたく無い。

目の前の人形は俺の左腕を取り、赤いハンドガンを当てて引き金を引く。

 

『いつっ』

 

手に当てられて見えないが、ぶっといニードルが俺の腕に刺さっているのだろう。

アンプルの薬剤が徐々に減っているところから見て、体内へ注入されているようだ。

 

「鎮静剤も入ってるからすぐに寝ちゃうよ」

 

そう言って注入が完了したガンをしまう。

色々聞こうと思ったら、別の人形が歩いてくるのが見えた。

灰色に近い茶髪のロング、左サイドテールにまとめた髪型。黒を基調にしたパーカー状のジャケットにスカート、所々に黄色のアクセントが加えられている。

可愛い。非常に可愛いが、どこか灰暗い感じか見え隠れする。

あまり関わらない方がいいヤツなんだろう、何か色々とやばいものを感じる。

 

「処置は終わった?」

「ん〜〜?意識を取り戻したのかな?」

つかつか歩いてきて俺の顔を覗き込む。

 

『君は・・・君たちは誰だ?俺はなぜ生きている?』

倒れたまま動けない俺は疑問だらけなのをぶつけてみる。

 

灰暗い美少女は腰に手を当てて悪戯っぽく笑って言う

「ふふふっ。お姫様を迎えにきた白馬の王子様。かな?」

「生きていればまた会えるかもね。無鉄砲なしきかぁーん♪」

 

注入された薬剤の影響か、そのまま目が霞み再び俺は意識を手放していた。

 

・・

・・・

・・・・

 

ナイルが鉄血兵の射撃を受けて倒れ、意識を失ったところで射殺される、そんなタイミングで4体の人形がコントロールへ飛び込んできた。

突然の出来事に遅れながらも鉄血兵が振り向き対処しようとしたが、四体の人形逹から斉射をうけ振り返ることすら叶わず全員射殺される。

複数の人形が瞬時に破壊される素晴らしく息の合った小隊による射撃であった。

 

「フン。間に合ったようね」

水色掛かったロングヘアで性格のキツそうな人形が呟く。

ギリギリなのか分からないが、自分が出張ったんだから成功して当然だろ?と言った雰囲気を出している。

 

「416とナインは表の敵を排除、G11はVIPの応急処置を」

灰暗い美少女が的確に指示を出す。

それを受けてキビキビと動き出す三名。見るものが見れば相当な練度の小隊と理解できる。しかしそんな彼女達を知るものはごく一部に限られている。

 

「さてさて、あとはコントローラを始末してお終いね。ん?」

灰暗い美少女がコントローラに向かうと一体の戦術人形がネットワークに接続して対処をしているところだった。

横槍を入れて終わらすつもりだったが、何か気になり状況を覗き見する事にした。

 

ネットワークの中には一体の戦術人形が居たが、目標が見つからずただただ焦っている姿が見えた。

彼女はボロボロで見るからに重傷。外の指揮官の様子から考えて色々無理をしたのだろうと推測できた。

 

「・・・・・」

ネットワーク内で上手くできていない人形を観察して考える。

灰暗い少女は思い出していた。過去の自分を。

何度訓練しても上手くいかない。力が及ばない。そんな辛い気持ちはよく分かる。

 

「・・・・・」

少女は考える。

自分が手を出せばすぐに終わるだろう。だが・・・

 

「・・・・・」

「しょうがないわね。見てられないわ」

そう呟き、少女はネットワークの海に沈んで行った。

 

 

・・・・・・・

 

「指揮官・・・ごめん」

サブリナは上手くできなかった自分を責め泣いていた。

練習ならいい。けどこれは本番。タイムリミットがありその時間を既に大きくオーバーしていた。

結果、大切な指揮官の命は奪われてしまったのだろう。

ピンチみたいだったし、その後はもう声も聞こえない。

元から無謀な作戦ではあったので決してサブリナの責任では無いが、全て自分の責任だと感じていた。

 

 

「感心しないわね」

「泣いていても何も解決しないわよ」

 

後ろからそんな声が聞こえて振り向くと、いつからいたのかロングヘアをサイドテールでまとめた可愛らしい少女が立っていた。

誰か別の指揮官の人形?でもこんな人形居ただろうか?よく思い出せない。

 

「誰?」

敵かもしれない。そのような懸念を感じ言葉が強くなるサブリナ。

それが伝わったのか、相手の少女がにこやかに笑って答える。

 

「敵ではなく味方よ」

「誰?うーんそうね・・・電子戦のコーチ。ってところかしら」

「とりあえず、指揮官は無事よ。だから落ち着きなさい」

 

その言葉を聞きサブリナはびっくりする。そしてすぐに少女の胸に抱きつきまた「うえーん」と泣く。

 

「はいはい、泣かない泣かない。って鼻水が服についた!」

「コラ、私の服で鼻水拭くな!」

 

怒ったところでサブリナが離れて顔を上げる。

もう!と腰に手を当てて少女が怒るが、サブリナは「えへへへ」と笑っている。どうやら元気になったようだ。

 

「で、どうしたの?」と少女が聞く。

----(かくかくしかじか)で敵のアクセスポイントが見つからないんだよ」しょんぼりとしてサブリナが伝える。

 

なるほどなるほど。

「ネットワーク空間では実態が無いから、少し俯瞰して全体を観察する癖をつけた方がいいわ」

「ほら、手を繋いで・・・・貴女名前は?サブリナ?・・・サブリナ手を繋いで」

 

サブリナが少女と手を繋ぐと、浮くような感覚になる。

「慌てないで、体が浮く感覚を覚えて」

 

少女のアドバイス通り体が浮いていく感じに身を任せる。

来た道全体が見渡せるくらい浮いたところで止まる。

 

「これくらいでちょうどいいかな」

「全体をよく観察して。どこかに違和感は無い?」

 

サブリナが全体を見るが特に違和感は感じない。

 

「よく分からない・・・」

 

「落ち着いて。もっと素直に全体を見れば分かると思う」

 

そう言われてサブリナが再度確認すると、入り口の直近に何か違和感を感じる。

「なんだろう。あそこに違和感が・・・」

 

「じゃあ言ってみましょう」

少女がそういうと手を離したサブリナがゆっくりと入り口付近に降りて行った。浮く感覚もある程度コントロール出来たようだ。

 

降りたサブリナが違和感の元を調査すると・・・巧妙に隠された制御パネルを発見した。

「こんなところに・・・」

 

制御パネルを作動させると、横に新たな道が出来る。

「やった!出来た。・・・ありがとうコーチ!・・・あれ?コーチ??」

サブリナが振り向きお礼を言おうと思ったら、コーチは消えていた。

 

しかし、先は急がなければならない。

道を進むと非常に弱い攻性防壁があったが、重症でも難なく破壊して突破できた。

進むとその先にポートがあった。特に隠されているわけでもなく普通に置いてある。

 

「やっと見つけた・・・えいっ」

と、バールで叩くと音もなく割れて消える。

ネットワーク空間なので現象は現実とは異なるが、ポートを閉じる事に成功したのだった。

後は指揮官のもとに戻るだけだ。

 

 

・・・・・・

 

先に離脱したサイドテールの美少女は、意識を取り戻した指揮官と二、三言葉を交わした後、撤収を準備を始めていた。

 

「にひひひ。45姉、外は終わったよ〜」ナインと呼ばれた美少女そっくりな人形が笑う。

 

「鉄屑達は完璧に始末したわ」416と呼ばれた水色髪はさして興味もなさそうに仕事の完璧さをアピールしている。

 

「もう疲れたよ〜。早く帰って寝たいよ」G11と呼ばれた人形は今にも寝そうである。

 

「まったくG11はしょうがないんだから・・・」

「撤収よ」

サイドテールの美少女が宣言して手をパタパタ振ると、すぐに少女達は痕跡を残さず消えた。

コントロールルームには、ナイルとサブリナそして鉄血兵の残骸が残されていただけだった。

 

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

ヘリアントスは珍しく頭を抱えていた。

横の助教の女性上級指揮官も困った顔をしている。TAC-50は静かにお茶を汲んで二人の前に配膳していた。

 

何を隠そう、今回のハイエンド襲撃事件はヘリアントスが計画した緊急時の対応テストと訓練だった。

過去の研修で発生した襲撃事件。そこで活躍した指揮官達は頭角を現して出世している。

今回は意図的にその環境を作り出して発破をかける。そんな計画だった。

途中から悪ノリした認識はある。

イントゥルーダーに扮したAIを作成して、鹵獲した鉄血兵を用いて真実味を持たせていたり。

助教の上級指揮官にやり過ぎだと嗜められたが、何とかなると思っていた。失敗だ。

 

「上級代行官、やはりハイエンドはやり過ぎだったと思います」と上級指揮官が零す。

計画時にやはりAIとは言えハイエンドを出すと何か不足の事態が起こり得ると反対していた。

 

「分かっている」

研修会で重症者を出してしまい、会も途中中止となり解散となった。

他の参加者は被害もなかったのでこれが演出だったとは伝えたが、研修自体メチャクチャになってしまった。

はぁ〜社長になんて報告すれば良いか。

 

おまけに、念のための護衛と簡単な後始末の依頼だった404小隊には、VIPの緊急救出依頼が追加されてしまった。

それだけでこの研修会100回分の予算を超える額が発生する。

はぁ〜と再び、いやこの後何度も溜息を吐く羽目となるのだった。

 

・・・・・・

「上級代行官、狙いは悪くなかったと思いますよ」

「ハイエンドの登場と難易度設定。R-15の指揮官の性格と能力。そのあたりのバランスの問題でしょう」

「次回から上手く調整すれば良い研修に出来ると思います」

助教の女性上級指揮官は冷静に分析を加えていた。

 

曰く、

・ハイエンドは戦術が深いため受講者が無茶な対抗戦術を立てやすい環境だった

・難易度が簡単すぎて積極攻勢に出る判断が出てしまった。ネットワーク空間の難易度が低く意図が伝わらなかった。

これは、コントロールルームの奪取が可能と判定されたのと、ネットワーク内の制御パネルを探すミッションが伝わらず本来突破を想定していない攻性防壁の強行突破ができてしまった事。突破したその先には何も設定されていなかったのでサブリナが迷ってしまうこととなった。

・無茶をしやすい指揮官がいたが解決する実力が不足していた。

そう言って女性上級指揮官はS地区の親しくしている指揮官を思い浮かべる。彼なら難なく完封してしまっていただろう。いや、あの指揮官と比べるのは過酷な話か。

 

難易度は

Normal(ふつう)Hard(難しい)Suicidal(自殺級)Hell of Earth(この世の地獄)

 

いやもう、ヘリアントスの悪ノリが見て取れるが、女性上級指揮官は真面目にコメントする

「ノーマルとハードの間に難易度を一つ作るか、ノーマルの難易度を上げてはどうでしょうか」

 

ちなみにナイルは女性上級指揮官を荒事、想定外に弱いと評していたが、これは研修プログラムだったので矢面に立たなかっただけである。

この女性上級指揮官はリアルに難易度 Hell of Earth の鉄血の襲撃を退けた指揮官の一人であり、表に出たらあっさり瞬殺完封していたであろう。それだけの実力がある。もちろん副官のTAC-50も言わずもがな。である。

万が一研修生が誰も動かなかったら彼女が始末する手筈になっていた。

 

「それに、Hell of Earth は不要と思いますよ。こんなのやらせるなんて、ただのパワハラとしか思えませんよ」

 

「しかし、貴官達はリアルでクリアしたではないか」

 

「あれは・・・ブリッツ指揮官のおかげですよ」

「分かりました。難易度としては残しておきましょう」絶対誰もやらないだろうけど。と心の中で付け加える。

 

・・・・・

「参加者の講評を頼む」

ヘリアントスは指揮官の評価を女性上級指揮官に頼む。やはり指揮官としての評価は詳しくは代行官では分からないためである。

 

「分かりました」

では代表的な指揮官から、と前置きして。

 

「ジャスティン指揮官は守備隊のまとめ役としてよくやっていました。戦術指揮は申し分ないでしょう。ただ滲み出るエリート意識と態度が他との軋轢を生んでいますね」

 

「ルース指揮官は・・・・評価が分かれると思います」と言って苦い顔をする。

「自由気まま、勝手、ではありますが誠実ではあります。口が悪く敵を作りやすいですが、全体をよく見てリーダーシップをとっていました。勇敢に飛び出し任せたいと思いましたが実力が足りずに瀕死の重傷を負う、結果から見ればただの蛮勇でした」

「ただ、なんか憎めない、皆から期待される人物ですよね」と言って笑う。

 

「案外、二人がくっついたら面白いかもしれませんね。ジャスティン指揮官もルース指揮官の事を認めていたようですし」

「R-14基地、再建中でしたよね? R-13の上級指揮官も懐が広い方ですし・・・・悪くないかと思いますが」

人事への口出しは越権行為だが、ただ私見を述べるのは問題なしである。

 

「なるほど、貴官の意見を参考にさせてもらう」

「ところで、社長のところに報告と謝罪に行くのについてきてもらえないだろうか?」

本当に頼む。と言った気持ちが下げた頭の上から滲み出ているのを見て女性指揮官は笑う。

 

「分かりました。ヘリアントス上級代行官の頼みなら断れませんわ」

その言葉を聞いて心が安らぐヘリアントスであった。

 

 




うん。ヘリアンさんの難易度設定は、FPSゲームのKilling Floor から拝借しました。回復注射器もですね。
昔よくやってたんですけどね。最近また始めた感じです。
10年くらい前に流行っていたCOOP系ゲームですね。

あとSPECさんごめんなさい。ブリッツ指揮官の名前出しちゃった。m(_ _)m

次回は、ナイルさんの入院生活の日常かな(笑)


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52.見知らぬ天井

遅くなってしまいました。すみません。
実はここ数年釣りにハマっておりまして。主に海の船釣りですが。
日曜に予約してたんですが、土曜日に別口で行かないか誘われて、土日自動車泊ではしご釣り。
家族からは「勝手にすれば?」と快く許可を頂いて遊び倒してた訳です。
そんな訳で遅れてしまいました。今後は今まで通りやります。

さてさて、ナイルさんの入院の日常ですね。
大人しく終わる訳じゃないですよね。多分。(笑)


(う、うん・・・ここはどこだ?)

 

真っ白な天井をしばらくボーっと見つめる。

身体中がだるいし重い。おまけに動かない。

俺は一体何をしていたんだっけ?

肩に違和感がある。そうか鉄血兵に撃たれたんだっけ。

サブリナを守ってたんだよな・・・・サブリナ・・・

 

ハッと気づき身体を起こそうとするが僅かに上半身が動いただけだった。

『ハイエンドはどうなった。サブリナは成功したのか?・・・あの謎の連中は?』

呟くがここは病院っぽいし、答えはなさそうだ。

 

「ルースさん?意識が戻ったんですね。先生たちを呼んできます」

と言ってナース人形がパタパタと走って出て行く。

 

程なくして女医さんと・・・何故かペルシカさんが現れる。

ベッドに横たわる俺を見下ろして、白衣姿でポケットに手を突っ込み「やあ」とペルシカが挨拶をする。

端から見たら医者にしか見えないが、俺は人形の専門家だと知っている。貴女なんでいるの?である。

 

女医さんはナイルを色々確認して、「大丈夫ですね。詳しい説明は明日にしましょう」

と言ってペルシカと一緒に出て行った。何やらまだ麻酔が効いているらしかった。

じゃあ眠いんでもう一丁寝ますわ。

 

・・・・・

翌朝は普通に目が覚めた。ダルさも概ね抜けておるが右腕は厳重に包帯で巻かれている。

 

また女医さんとペルシカが現れた。

『ペルシカさん、なんでいるんですか?』

 

「まあまあ、先ずは先生の話を聞きなよ」

とはぐらかす。

 

で、引き継いだ先生が話し出す。

「ルースさんおはようございます。ルースさんは一昨日の夕方に意識不明の重体で運び込まれました。幸い、応急処置もよく命の危険はありませんでした」

「それで検査と診察の結果、欠損と熱的なダメージが大きいことがわかり、すぐに手術となりました」

「術式は()()のハイブリッド法を採用しております。詳しくはペルシカリアさんより説明します」

 

と言ってペルシカに替わるが、なんでやねん。人形屋さんですよ。この人。嫌な予感がよぎる。

 

「うん。先生から相談を受けてね。後遺症が残る()()()()()()()からハイブリッド式を提案したんだよ」

 

可能性?ちと待てや。可能性で言えば完治の可能性だってあったろ?なんだよ、そのハイブリッドってよ。誤魔化しの臭いがぷんぷんなんだけど…

 

『で、何ですか?そのハイブリッドって』ジト目で見ているつもりだが、弱っていて迫力はまったく無い。

 

「ああ、人形製造の技術を用いている。ってところだね」

目を外して頬をかきながら話すペルシカリア。

 

『もっと素直に分かりやすくストレートに言って下さいよ』

 

「うーん、端的に言えば人形の骨格と生体部品を用いて再生させた。かな」

ニッコリ笑って吐きやがった。開き直ったとも言う。

 

『え?いやいや?え?』

『勝手に何してくれてるんですか?ダメでしょそれ。元に戻して下さいよ』

そんなの認められたら、俺はサイボーグされても文句言えねえじゃない。怖い話よ。マジで。

 

「勝手、ではないよ。ちゃんと許可は取っているさ。君の上司にね」

 

『上司?関係ないでしょう。俺の許可が必要でしょう』

ちょっと怒って伝えるが、ペルシカは困った様子。

 

「私に言われてもね。君と上司の問題だからね。上司と話してもらってから話しは聞くさ」

と言って、ペルシカは出て行ってしまった。

 

「まあまあルースさん。とりあえず後遺症なく元通りに動けるように協力しますから、今はまず休んで下さい」

「明日から一般病棟に移りますからね」

そう言って女医さんも行ってしまった。

うーん、モヤモヤが残るが、どうにもならん。どうにもならんから、寝るわ。

 

・・・・・・

翌朝に一般病棟へ移るが、俺が乗ったキャスターが付いたベッドを移動するだけのようで簡単なもんだ。

(よく考えられているし便利なもんだなぁ。うちの基地でも緊急搬送の参考にしようかな。普段見ないところこそ勉強になるね)

なんて考えながらベッドで寝転んでいたらあっという間に一般病棟に到着する。

そこは当たり前だが男性ばかりの6人部屋。落ち着いた時に話したら皆整形外科の患者のようで怪我以外は元気らしい。日中は友達や親親族色々きて賑やかだ。

 

(そうか、もう面会謝絶じゃないのか誰か呼ぶかな〜)

なんて考えていたら一人の客が来た。

 

「指揮官!大丈夫ですか!」

泣きそうな嬉しそうな普段見せない微妙な顔をしたサブリナだった。雰囲気からして面会可能になってすぐに駆け込んで来たようだった。戦術人形だから息も上がっていないが、多少の服や髪の乱れから察することができる。

おまけに顔も酷い。まともに寝ていないのかも。まあ人形は寝るわけではなくデータ整理なのだが。この感じだとキャッシュがたっぷり溜まっていて相当パフォーマンスが落ちているんだろうな。

 

『なんか疲れてるみたいだけど、大丈夫か?』

え?なになに?俺が撃たれていたから心配だった?そりゃどーも。

ご覧の通り、人形とのハイブリッドにされちゃいましたって、冗談冗談。(危ねえ、寝不足も相まって冗談通じる雰囲気じゃないわ)

人形の技術を応用した医療技術で良くなるみたいよ。

 

『サブリナの方はどうだったんだ?』

『変な連中に会わなかったか?』

俺は気絶して状況が分からないので唯一知るサブリナから聞く。

 

「変な連中?コーチ一人だけかな?会ったのは・・・」

首を傾げて考えるサブリナ。

 

『へ?コーチ?』

突然出てきた脈絡のない単語に、ポカーンとして聞き返す。

意味が分からないので詳しく聞くと、失敗寸前だったネットワーク内のポート破壊任務を助けてくれた人形がいたらしい。

『それはあの一味だな』サブリナが話した外見からあの灰暗い美少女。か。

 

その後は謎の一味は消えていたらしい。

後は流作業のように救出部隊が来てヘリアンさんの前に連れて行かれたらしい。俺はそのまま病院で今日まで離れ離れ。

サブリナはヘリアンさんに謎の部隊のことは黙っとけと言われたとな。

サブリナがよくよく聞くと何やらこの襲撃は研修の一環でヘリアンさんの演出だったと・・・・

 

『あ〜ん!どう言うこっちゃ。そりゃ!』

『こっちは大怪我まで負ってんだぞ!』キレて思わず大声を出してしまった。

と同時に他の入院患者がこっちをガン見してくるが怪しい中年オッさんのキレ散らかし振りに目を逸らす。

『なんだよ!見せ物じゃねーんだよ』と、とりあえず目があった隣人に八つ当たりをしとく。

くそ。シャレになってねーだろ。ヘリアンさんよ。

 

そんなこんなで騒いでいたらパタパタと足音を立てて一人の人間の女性が飛び込んできた。

歳の頃は俺より少し若いか。しかし迫力がある。この病棟の婦長さんだった。

 

「ルースさん!何やってんですか!静かにしなさい!今日この瞬間に退院しますか!?」

キレ散らかしたオッさん以上にキレている。有無を言わさぬ迫力に思わず頭を下げていた

 

『すみません。大人しくするので泊めさせてください』

やべえ。怖すぎるわ。ここではマジで大人しくしとこうと思った瞬間だった。

流石にこの怪我の状況でつまみ出されたらまずいからな。

 

サブリナからその後の話を聞いたけど、ヘリアンさんの演出と言えども行動してボロボロになりながら大元を潰してきたサブリナは他の人形達からも賞賛されたらしい。それだけは本当に良かったよ。

 

指揮官不在のR-15基地はいつも通りクリスティーナ指揮官が面倒を見てくれているらしい。

いつも迷惑をかけているからな。毎度ケツ拭きをしてもらっているお礼を何かしないとマズいよな

 

・・・・・・・

で、俺はどこにいるのか?

何しろ意識不明で運び込まれたからどこにいるのか聞いていなかったので分からないのよ。

サブリナに聞いたら、グリフィン本社のそばにある傘下の病院らしい。

何やら鉄血のエネルギー兵器による負傷者が少ないらしく、その治療の研究の一環でここに運び込んだとのことのようだ。

エネルギー兵器の負傷者が少ないのは、大概死亡しているからだ。被害者は多いが治療の研究に都合の良い人間は少ないという意味である。

 

しばらくサブリナが本社で寝泊まりして見舞いに来てくれるらしい。

ゆっくり静養するかな。

 

なんて思ってた時期もありました。

ゆっくり静養など出来るわけない事をナイルは気づいていなかった。

 

今はただ安心したサブリナが椅子に座ったままベッドに突っ伏して寝ている姿を見て生き残った幸せを噛み締めるナイルだった。




うむー。1話で終わらす予定が終わらなかった。もう1話予定。
さてさて、ナイルさんの入院を脅かすのは誰でしょうか。
まあ、いつも通りですよ。(笑)


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53.サブリナプロデュースその3

あれ?おかしいな・・・
一話で終わらせるつもりが、まだ終わらねえ。参ったなこれ。
何話かに刻ませて下さい。( ノ;_ _)ノ

・・・・
実は私、へなころは約10年前に交通事故で入院してるんですよね。バイク運転中に爺のクルマにはね飛ばされまして。背骨三本に左肩甲骨の骨折で。
当時はバイク仲間も多く、事故入院時は酒とエロ本(ナース物が表紙のやつ)とバイク雑誌を土産に持っていくのがお約束だったんですが、私もやりかえされましたね。(遠い目)(笑)

まあそんな経験も交えて書いてます(笑)


一般病棟に移って数日、ナイルの治療も進んでいた。

撃たれた肩に包帯は巻かれているが、腕を吊り定期的に動かすリハビリを始めていた。

 

『先生、動かそうとするとかなり痛くて固いですけど・・・大丈夫ですかね』

 

「動かし始めなんで痛みはありますが、すぐに可動域も回復してきますよ」

「焦らずにやれば日毎によくなりますよ」

 

痛みに顔を顰めながら女医さんに聞くが、ポジティブな回答だった。

とは言うものの、時間はかかるので焦りは出てくる。

本当に人形の骨格とか生体部品で治るのか?

 

(ふー。きついね)なんて考えいたら今日も元気なお見舞いが来た。

 

「しきか〜ん。こんにちは〜♪」ニッコニコの笑顔で部屋に入ってきたのはサブリナだった。

 

睡眠も十分取れているようで元気満点だな。

本社での今日の訓練も終わったようで、毎日のお見舞いに来たようだ。

 

「おお!サブリナちゃんや。こんにちは」

「サブリナちゃん、今日も綺麗だね」

「サブリナちゃん、愛してるよ♪」

部屋の他の患者からも挨拶が飛ぶ。いつの間にか他の患者さんとも仲良しになっていたらしい。

まあ、アスリートのように肉付きがよく美人で明るい。それに胸も大きいときたら男共がよると言うものだ。

 

「えへへへ。皆さんこんにちは♪」

ニッコリ笑顔でお辞儀をするサブリナ。

 

・・・・

「サブリナちゃんや、家族が持ってきたケーキを食べるかね。わしはそんなに食べられないんじゃよ」

ここはグリフィン傘下の病院であり、少なくともミッドタウンのそれなりの金持ちじゃないと入院などできない。

なので土産の菓子は高級品ばかりだ。

 

「おじいちゃん、本当にいいの?私食べるの大好きなんだよ」

 

「いいぞ。わしも美味しく食べるサブリナちゃんを見るのが大好きなんじゃよ」

そう言って、高級ケーキを差し出す。

サブリナはありがとーと言って美味しそうにケーキを食べる。本当に美味しそうに、だ。

他の若い男達もサブリナと話したいのか寄ってきて雑談を振っている。

サブリナも丁寧に対応しているけど、お前それ気があると勘違いされるぞ。

 

・・・・・

そんな八方美人のサブリナをボーっと見ながら物想いに耽る。

 

(本当さ、これだけ見てればいい子に見えるだろ?)

ところがどっこい、現実はもっと凶悪な子なんですよ。

指揮官をメチャクチャにいじり倒して、その様を全社に生中継するんですぜ。

ふっ、じいさんに兄ちゃんたち、あんたら騙されてるからな。この可愛らしい姿は仮の姿だからな。

天使の皮を被った悪魔なんだぜ!?

 

けど俺は何も言わない。何故か?ここで言っても信じてもらえないからだ。

おっさんの被害妄想で可愛いサブリナちゃんが貶められている。と思われるのが関の山だ。

だが俺には分かる。絶対にサブリナ達に酷い目に遭わされるだろう事を。

『見舞いはいい。お前達はもう来るな』

このセリフを言えれば俺は幸せになれるのだろうか?

 

・・・・・

そんなボーっとした指揮官の表情をサブリナはチラリと見て心配する。

(指揮官、ケガして落ち込んでいるのかな?)

(やっぱり指揮官にはサブリナがいないとダメなのね)

(よーし、ここはサブリナお姉さんが一肌脱いで指揮官を元気付けてあげましょう!)

 

『あ、指揮官!私、本社でやることがあるから2,3日来れないと思う』

『来れるようになったら、すぐに来るからね』

 

そう言って帰っていったサブリナは、R-15基地と連絡を取り"指揮官を励ますプロジェクト"を開始するのだった。

その日の夜、名乗りを上げた56-1式と62式、G36Cの3人がヘリで本社基地に向かってくることとなった。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

翌日の事だった。

「ニイハオ、指揮官!元気付けに来たよ」

56-1式がひょっこりと病室に顔を出した。

 

『おう、56-1式。見舞いに来てくれたのか?』

ナイルはベットの上に横になりリハビリを終えて痛みから苦しい顔をして汗をかいていた。

56-1式を見て上半身を起こす。

 

(やっぱり指揮官つらそうね)

(これは元気付けてあげないと!)

 

ニッコリ笑って56-1式が懐からスキットルを取り出す

「私の国には"酒は憂いを払う玉箒"って言葉があるんだよ!」

「飲めば嫌なことも忘れるよ」と言ってウインクする。

 

『バカ、お前酒はダメだろ・・・』

と言ったところで、わがまま言わないの!と左手で顎を掴まれ口を開けさせられる。

戦術人形の握力を持ってすれば成人男性など赤子を捻るようなもんだ。

 

『あ〜え〜お〜(やめろ)』と言うが56-1式は止まらない。

そのまま蓋の開いたスキットルを俺の開いた口に装着され、スキットルの中身を口に流し込まれる。

 

『う・・ゴクッゴクッ・・ゴクッ・・・』

多少我慢したがダメだった。スキットルの中身を全て飲まされてしまった。

空になったスキットルを外され、顎が開放される。

 

『うえ〜。なんだよこの中身・・・これは、アレか?』

 

「そうだよ。PPS-43に相談したらこれがいいと言って渡されたんだよ」

そう言ってアルコール濃度の高いもはやアルコールに少量の水を加えた物体レベルのウイスキーボトルを取り出す。

「すぐに嫌なこと忘れて元気になるよ。おかわりはここに置いとくね〜」

「じゃあまたね。基地で待ってるよ〜」といってさっさと行ってしまった。

 

『バカ、お前その置き土産はまずい・・・』

『あ、ダメだ酒が胃に・・気分が悪くなってきた・・・・』

とりあえず酒を看護師にバレるわけにはいかない。

布団をかぶって寝るしかねえ。

なんて思ってたけど、こんな時に限って間が悪い。

 

「ルースさん、検温の時間です。ん?体調悪いのですか。先生呼びますか?」

それを聞いて全力で首を振る。気分悪いし口を開けるわけにはいかないので口を押さえるが、それが裏目に出る。

 

「口の中、どうかしたんですか?お口開けてください」

やめてくれ。武士の情けだ。

だがその願いは叶わず口を開けさせられるナイル。

息を止めて誤魔化すしかねえ。

 

「あら・・・特に異常はないですわね」

「うん?・・・・お酒臭い!」と言ってベッド脇のテーブルを見ると封を切った酒瓶が見つかる。

はい!バレました。人形の嗅覚センサーを誤魔化すことができない事ぐらいわかっていましたよ!

 

「ルースさん!これを飲んだんですか!!婦長に報告します!!」

と言って酒瓶を持ってパタパタと言ってしまった。

この後、飛んできた婦長にそれはそれはみっちりとお説教され、結局地べたに正座して謝る事となった。

 

(くそ〜。俺のせいじゃねーのに・・・何がどうなってこうなったんだ?)

 

納得の行かない結果に不貞腐れて布団に籠るしかないナイルだった。




また指揮官の知らないところで始まったサブリナプロデュース。
ナイルさんは生き残ることが出来るのか?(笑)


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54.日本の朝の風物詩

前半は今までとは違う感じで書いてみました。

しかし終わらん。あと1話でケリがつくかどうか・・・(泣)


とある街のとある日の早朝。

その日はその街のいつも通りの早朝。特に何も変わらないはずだった。

日の出前の闇に紛れて四体の戦術人形が駆けていく以外は。

 

戦術人形達は周囲を警戒しながら進んでいる。人目につかぬよう静かにそしてクリアリングも忘れない。

訓練された動きで明らかに散歩などではないことが見て取れる。明確な目的を持った行動である。

戦術人形が持つ目的など、きな臭いものでしかないのだが。

 

・・・・・

戦術人形達は、街の中のある施設の脇で止まる。

会社のような研究所の様な鉄筋コンクリートの高層の建物だった。

四体は周囲に人影がない事を確認して3mはあるコンクリの塀を上り、施設の敷地内に降り立つ。

敷地内は警備員によりそれなりに警戒されている。定期的に警備員が往復して周囲に異常が無いか確認しているそんなところだ。

その警備状況は一般から見れば厳重であり大切な施設であることが伺えた。

 

戦術人形達は警備員の警戒周期を観察して、ブッシュからブッシュへ移動を繰り返す。

四人とも訓練をされている様で、足音ひとつ立てない。

何回か移動を繰り返して、一つの勝手口のそばまでくる。

侵入口をこのドアに定めた様だ。

四人の戦術人形は互いに意思疎通を行い先頭の一人が解錠を行う。

警備員の隙をつきドアに取り付き解錠を試みるが、扉は電子ロックのため人形による電子戦能力にて瞬殺される。

ブッシュに隠れていた仲間を呼び寄せ、勝手口を静かに開けて侵入しすぐに閉じる。

後に残された警備員達は建物への侵入者がいた事をついに気づく事はなかった。

 

・・・・・

建物内に侵入した人形達は素早く解放厳禁の防火扉で隔離された階段室に入る。

階段は手薄なようで歩哨の足音などは聞こえなかった。ここで人形達は目的地を再確認する。

目的地は5階。階段で5階まで一気に階段を駆け上がり移動する。

人形達の目的地は、この建物に軟禁されているVIPを確保する事だ。

 

大きく「5」の文字が描かれたドアが5階である事を示している。

先程ドアを解錠した戦術人形がゆっくりとドアを開けて5階の廊下を覗き確認するが、特に誰もいないようだ。

キィ〜と扉を開ける小さい音が廊下にこだます。小さな音だが一切の活動のない廊下には異音として響くが巡回確認を行なっているもの達には異常とは認識されなかったようだ。

 

物音を立てずに5階の廊下に入り込むが、この廊下は遮蔽物が一切ないため歩哨をやり過ごす事が難しい。

VIPが軟禁されている部屋は5階の一番奥の雑居房、そこに到達するには歩哨の詰所の前を通過しなければならない。

四人の戦術人形は腰を落として詰所のカウンターより低い姿勢でやり過ごす。内部に詰めている歩哨達は交代時間が近いらしく、業務報告の準備をしているようで注意は散漫な様だ。

 

そんな時に詰所内で"ピーピーピー"と非常警報が発報される音が聞こえた。

戦術人形達は素早く横にあった男性トイレに滑り込み息を殺す。

歩哨達が確認のためにパタパタとせわしなく動き回る音が聞こえてくる。話し声の内容から自分たちが見つかったわけではない様子。

警報の内容も大事ではなかった様で直ぐに通常体制に戻った様だ。

戦術人形達は再度意思確認を行い、最奥のVIPの元への侵入を再開するのだった。

 

その後は特になんの邪魔もなくVIPの軟禁部屋の前につくが、廊下の窓の外の夜の帳は明けはじめていた。四人の任務に時間的余裕が無くなっている事を明確に示している。

VIPの部屋の横引きのドアに鍵はかけられておらずすぐに開ける事ができた。

音が立たぬ様に開けて素早く4名の戦術人形が滑り込む。すぐにドアは静かに閉じられて何事も無いいつもの廊下に戻っていた。やはりここでも両名の侵入に気づく者は居なかった。

 

・・・・・・・

VIPの部屋は数名の軟禁者が居るが、誰も彼もまだ寝ている様だ。一応布切れで寝床が仕切られているようで、最低限のプライバシーは確保できているようだ。布の向こうから複数の寝息が聞こえる。

 

VIPの寝床は一番奥の左手である。腰を落としたまま無音で近づく。VIPの寝床からも寝息が聞こえてくる。どうやら無事のようだ。

先頭を進んでいた戦術人形が脱出経路確保のためか、窓を開ける。音を立てないように細心の注意を払い、全開にする。早朝のため外は喧騒もなくしかも風もほぼ無い日だったため、開け放たれた窓から風が吹き込むこともない。爽やかで新鮮な空気が肌に感じる程度だった。

 

窓をあけた戦術人形が続いて布切れを音を立てぬようにゆっくりと開けていく。

全開にしたところで改めて就寝中の人物を確認するが、間違いなく目標のVIPであった。

 

よし!準備は全て整った。最終計画を実行する。

「じゃあ、予定通りいこう」先頭を進んでいた人形が声を掛ける。

 

「はい。分かりました」後方の3名の人形が荷物のバズーカをVIPへ向けて構える。

 

「じゃあいこう」との声に合わせてバズーカを構えた人形達が間を置きながら引き金を引く。

 

"ドカーン"

 

"ズガーン"

 

"ボカーン"

 

という3発の爆音とともに部屋全体が大きく震えた。

 

 

・・・

・・・・・

・・・・・・・

 

ベッドで寝ていたナイルは突然の爆音と衝撃を受けて目を覚ます。

『うお〜〜〜!』

『な、なんだ?鉄血の襲撃か!?』

『G36C、どこだ?大丈夫か?』

 

無意識にサイドアームのブローニングを探す。が右手が自由にならない。

『いっつ』肩に痛みが走る。くそ!M4もないのか?どこだ!

敵の状況は?、味方の戦術人形達は?、一体どうなっている!?

 

ベッドの上で混乱して右往左往したが、ふと天井を見て思い出す

(あれ?ここ病院じゃね?なんだ夢か?・・・いやでも確かに爆発が・・・あれ?)

 

・・・・・

 

上半身を起こして寝ぼけ眼で見渡すと、四体の戦術人形が目に入る。

一人は見知った戦術人形、62式だった。

桜のワンポイントが入ったセーラー服にジャケット。そして左目に眼帯をしている。

ちなみに太腿はモチモチだ(と思う)。

 

『あれ?・・・62式?なんで?え?』

 

声を掛けられた62式は笑顔で敬礼して元気に挨拶をする。

「指揮官!おはようございます!!」

 

そして、横でバズーカを構えていた人形達がバズーカを後ろに投げ捨て、ゴトンという音と共にゆか転がる。

バズーカを捨てた人形達は俺に向かって深くお辞儀をする。青い瞳に銀髪のボブカットの可愛い少女達だ。

真ん中の子は黒いミニスカートに黒いストッキング、紺色と白を基調としたカスタムされたセーラー服のような戦闘服を着ていた。他の2名も似た顔で同じデザインの制服を着ている。

 

「R-15前線基地の司令官様、おはようございます」

「私達は本社基地重装部隊所属のAT4小隊の三姉妹、隊長を仰せつかっている長女です。どうぞお見知りおきを」

礼儀正しくかつ可愛く挨拶をするが、やっている事は全く可愛くない。

 

『あ、ああ、どうも。よろしく・・・』

混乱している俺は挨拶に返すので精一杯。

 

「指揮官!元気付けにきたんだよ!早く良くなってね。基地で待ってる」

笑顔で声を掛けてくる62式だが、俺には全く理解できない。なんなんだ?なんなんだこれは?

対面のベッドのあんちゃんも震えながらこちらを見ている。

後方噴射の爆風を喰らったのか、カーテンや荷物が無茶苦茶になっているが大丈夫か!?

 

そんなこんな考えていると、廊下が騒がしくなってくる。

 

「ん?面倒事になる前に引き上げるね。指揮官。じゃあまたね」

そう言うとロープを使って窓から4名は帰っていった。着地したのかロープが回収される。

 

『お、おいちょっとまて』

馬鹿野郎バズーカ(証拠のブツ)を忘れてってる!おまけに犯人と仲良く話しているところを対面のあんちゃんに見られている!

完全にこっちに面倒事がスライドしてくるじゃねーかよ!

どうするんだよ〜!

あまりに突然で、全く想定外で意味の分からない状況に混乱するナイルだった。

 

・・

・・・

・・・・

 

警備員が集まり確認作業が進むが、俺はとぼけて布団を被って狸寝入りを決め込む。

知らん!俺は知らん!とぼけ一択しかないだろ。

 

しかし、やってきた婦長に布団を剥ぎ取られる。

「ルースさん♪、侵入者は知り合いみたいですね♪」

顔は笑っているが、目は全く笑っていない。器用な人だな。

 

『いや〜なんですかね。よく分からないですね。はははっ』

とりあえずとぼける。知らぬ存ぜぬで通してみる。

 

「知り合い。ですよね!」

対面のあんちゃんに事情をきいているようだ。ヤバい。ばれてる。

鋭い怒気の籠った問い詰めであり逃げ切るのは難しそうだ。

 

『いやーははっ、一応知っていますかね。ははっ』

こうなりゃ、もうとことん笑って誤魔化すしかねえ。

 

「・・・有罪(ギルティ)

「ルースさん、強制退院です。ですが、言い分もありそうなので、一度だけ執行猶予を与えますわ」

「今後、少しでも関わるあらゆる騒ぎを起こさない。約束なさい」

冷徹に俺のことを見下ろすその目は優しさのかけらもない。もはや看護すべき患者とも思っていないのではないか。

いや、マジで怖え。冷静な分怒鳴り散らすより怖え。

俺は正座して頭を垂れるしかなかった。

これ以上はもう・・・・なにも無いよな?頼む、頼むぜ。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

4体の戦術人形は朝のランニングの列に紛れて基地へ帰っているところだった。

 

「62式さん、指揮官様は喜んでいたのでしょうか?」

 

「もちろんだよ!」

「私の故郷、1990年位の日本で行われていた朝の挨拶だよ」

「当時の日本は世界一で、しかも礼儀正しさも思いやりも世界一だったんだ」

「そんな日本で行われていたこれは最高の挨拶なんだ。失礼なわけがないよ」

 

「そうなんですか。日本人はすごい人たちだったんですね」

 

「あったりまえじゃん。最高だよ」

 

和気藹々と帰る四人だが、帰ってから事情聴取と反省文が待っているとは毛ほどにも思っていなかった。

 

・・

・・・

・・・・

今回の件は社の枠を超えて病院を巻き込んだトラブルだった為大問題となった。

以下がのちに決まった後始末の処分である。

 

・R-15基地所属62式:始末書(反省文)

・本社重装部隊AT4小隊隊長以下3名:始末書(反省文)

・本社重装部隊指揮官ジョン・コナー:部下の管理不行き届きにつき譴責(懲戒)

・R-15前線基地指揮官ナイル・ルース:部下の管理不行き届きにつき減給十分の一を1ヶ月(懲戒)及び病院の諸々の被害額全ての弁償

・新規全社ルール追加:空砲模擬弾と雖も銃火器類を目覚ましの代用として用いてはならない

・本社行動規約追加:R-15基地からのあらゆる依頼は全て部門長の承認とってから受ける事

 

後ほどこの一方的な懲戒処分を聞いたナイルは、頭を垂れて本気で涙を流したと言う。




やっぱり、日本の朝といえば「早朝バズーカ」ですよね。
このネタだと歳がバレそうです(笑)
昭和の狂った時代のエンタメからでした(笑)

ところで、AT4ちゃんたち三姉妹?の名前とか関係分からないから困った。
どこかに設定無いですかね。(泣)
とりあえず、勝手に姉妹設定、真ん中の子が長女で隊長と言うことにしました。
設定が見つかったら書き換えるかな。


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55.副官のご乱心

もうちょっとかかりそうです。
1話で済まそうとしてたのが2話になってしまった。
副官のG36Cが暴走しているようです。


(しかし、今朝のバズーカは何だったんだろう)

 

あれから警備員や病院スタッフ、最後はグリフィンの関係者まできて色々調査していた。

そりゃ朝っぱらからひとんちの病院で空砲とはいえバズーカをブッパしたらそうもなろう。

俺と言えば聞き取りはあったけど、婦長以外には知らぬ存ぜぬで押し通したけどね。

まあ、婦長から聞いてるんだろうけどさ。

知らんもんは知らん!

 

・・・・・

午前の検査やリハビリがひと段落した頃に一人の来客、お見舞いが来た。

 

「指揮官様、お体の加減はいかがですか」

お辞儀をしながら挨拶をしたのはグレーに近い銀髪、ちょっとぼんやりした目つきの可愛らしい子、G36Cだった。

いつもの戦闘服ではないが、黒を基調とした可愛らしい服装である。もちろんミニスカートだ。

「指揮官様、お洋服の替えを持ってきましたわ」

 

『おおG36C、久しぶりだな。見舞いありがとう』

『替えの服も助かる。気がきくな』

 

G36Cが挨拶を終えて近づいてくると同時にカーテンをシャっと閉める。

G36Cと二人だけの簡単な密室が作られる。

そしてその足でベッドの縁に座り上半身を起こしたナイルにしなだれ掛かる。

(え?ちょ。いきなり近いよ)

 

「指揮官様、G36Cはお会い出来ず寂しかったのです」

そう言うとナイルの胸に顔を埋めて深呼吸をする。

(ああ・・・満たされますわ)

 

・・・・・・・

G36Cのメンタルには「指揮官様ポイント」もとい「ナイルポイント」のようなパラメータが生まれていたようだ。

ナイルのそばに居て数値が満たされていればナイルに対する愛が溢れるだけだが、ナイルのそばから離れると減少しある一定値を割り込むと精神が不安定になってしまう。

数値が減れば減るほどヤバくなるようだが詳細は不明だ。

(仕事など納得して離れる場合は大丈夫)

 

高いにしろ低いにしろ、数値がどうであれナイルにとってはしんどい思いをするだけなので、被害の種類と程度の違いだけではある。

・・・・・・・

 

今回の事件でナイルと離れ離れとなったG36Cは徐々に増える不安感に苛まれていた。

ナイルの部屋の掃除と称して忍び込んでは、残り香を吸ったりナイルのベッドに横になったりして紛らわしていたが、ついに限界に達してしまったようだ。

指揮官の励ましついで、いや指揮官に甘えついでに励ましを行う算段で来たのだった。

そんな事情など知るよしもないナイルは困惑するだけなのだが・・・

 

 

「指揮官様、今回は大変でしたね。私が残って身の回りのお世話をしますわ」

しなだれ掛かったまま、笑顔でささやき、そしてナイルの胸に当てた手をしたの方にゆっくりとスライドさせる。

 

「もちろん、()()()()()()やらせて頂きますわ」

 

いやいや、どちらの方だよ。

ナイルはあわてて掛け布団を手に取り、G36Cの手が到達するより早く下腹部から下を隠す。

(ヤバいだろこの状況、誰かなんとかしてくれ。)

そんな願いが通じたのか、援軍が来る。カーテンの外が俄かにさわがしくなっていた。

 

「ルースさん、お昼ご飯ですよ〜。・・・あれ?寝ちゃったかな」

と配膳係りのおばちゃんがナイルの昼飯を持ち帰ろうとしたタイミングでカーテンの中から声が掛かる。

『起きてます起きてます!食べます食べます!』

そんな焦った声から一呼吸置いてシャっとG36Cのにこやかな笑顔と共にカーテンが開けられる。

 

(あっぶねえ、ナイスタイミングだよ昼メシ)

 

・・・・・・

ナイルはベッドの上に渡した簡易テーブルの上に配膳された給食を食べ始める。

チラリと横を見るとベッド横に座ったG36Cが笑顔で見つめてくるが・・・大人しくなったかな?

(まあ、飯食うだけだから出る幕は無いだろう)

 

『っつう』

(やっぱりまだ右肩が自由にならないな。メシを食べるのもリハビリだな)

なんて考えていたら、右手に持っていたスプーンをひったくられる。

『え?』と間抜けな声を出して左方向に目を向けるとスプーンを奪った犯人のG36Cが相変わらずにこやかに見ている。

 

『G36C・・・何を?』要領を得ず問いかけてしまうが、その先のことを考えたくなかったのかもしれない。

 

「指揮官様、食べさせてあげますわ」そう言ってベッドに腰掛け左手で持ったスプーンで料理をナイルの口へと運ぶ。まるで幼児に料理を食べさせてあげる母親のように。

 

『ひっ・・・』

思わず悲鳴がでかかるが堪えて、G36Cから離れるように右手にずれて距離を置く。ナイルの本能がそうさせたのだろう。

 

「はい!あーん♪」しかしそう言ってG36Cはずいっとベッドの上をにじり寄ってくる。

 

『ま、待て・・・一人で食べられる』そう言ってもう一歩右手にずれるが、ベッドの柵に当たりこれ以上は先はない。

 

「あーん♪」G36Cも再度ずいっとにじり寄る。肉食獣のようにロックオンした獲物を逃がすつもりは無いらしい。

ベッドの上は丁度二人でシェアする形になっている。

妖艶な笑みを浮かべるG36Cであるが、これが真夜中の二人であれば大人の情事が想像されるだろう。しかし、日中の人が溢れる多人数部屋の病室である。そのような笑みをかけられる側は色んな意味で恐怖を感じるしか無いだろう。

 

逃げ場のなくなったナイルは多少の抵抗を見せるも無条件降伏に追い込まれ、差し出された料理を食べざるを得なかった。これ以上の抵抗はより悪い結果しか生まないだろう。これからの第二ラウンドでの巻き返しに全てを賭けるようだ。

 

・・・・・

「美味しいですか?指揮官様」

 

『あ、ああ・・・うん?』

 

「あら、指揮官様ごめんなさい。左手では慣れなくて・・・」

二、三口食べたところで、スプーンがほっぺに当たる。

 

『いや、いいよ。慣れない事なら大丈夫だ。スプーンを返してもらえるとありがたい』

降って沸いたチャンスに攻勢にでるが、無駄な抵抗であった。

 

「ふふふっ。汚れたほっぺを綺麗にしないと」

と言ってナイルの顔に自身の顔をゆっくり近づけて"ジュルリ"とナイルのほっぺに付いたソースを舐めとる。

「では、続きを食べましょうね。指揮官様♪」

 

『ひ、ひぃ』ナイルは愛情に振り切れたG36Cに恐怖していた。

(なんなんだよこれ。今まで以上にやばいぞ)

(頼む。誰でもいいからこの状況をなんとかしてくれ。頼む)

 

再びどうにもならない状況のなかで祈るナイルだが、奇跡などそう簡単に起こるわけがない。

起こるわけないのだが奇跡が起きた。主に悪い方にだが。

 

・・・・・・・

ドサリと音がして持っていた荷物が床に落ち、入っていたお菓子が床に転がる。

いつの間にかベッドの前に現れた少女が荷物を落とし、ベッドの上の二人を見据えながら口を開く。

 

「こんにちは、副官さん。指揮官と何をやっているのかな?・・・かな?」

 

立っていたのはサブリナだった。

ハイライトの消えた赤い瞳を見開き真っ赤に輝かせており、うっすらとした笑顔にも見えるが全く笑っていない。

ほんの少し首を傾げる少女は今まで見たことがないほどの怒りを内に秘めているようだった。

 

(ひいいいいい)

(この状況をなんとかしてくれとは願ったが、そっち方向はダメでしょ)

 

転がり続ける状況に頭を抱えるほかないナイルであった。




以前から使っていますが、「かな?かな?」はひぐらしのレナちゃんからオマージュ的な拝借ですね。
筆者はひぐらし好きでしたね。ゲームから入ったのでニワカですが。
レナちゃん推しでしたね。

さてさて、次はサブリナ vs G36Cですかね。
指揮官愛に溢れる二人がどうなるのか。
作者は書き切れるのか。
心配です。


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56.強制退院

アップが遅れてすみません。m(._.)m
いやもうランキングマップとか協定統合実装とか忙しすぎて。体力を吸い取られていました。
ランキングは50%確保が目標でギリギリ30%入れました。てか一回しか出来ないよ。体力的に(笑)。すげー疲れる(笑)。「おし。やるぞ!」と気合入れないと始められないレベルっす(笑)
協定統合は・・・よくわからん。とりあえず始めたがなんかペースがよくわからんね。1日1回?2回?それくらいしか出来ないのかな??
今は施設のレベル上げがメインみたいになってますね。

UA6000行きました。いつもお読み頂きありがとうございます。
ひたすらナイルさんがいじられているだけだけど、需要あるのかな?大丈夫かな?
まあ、頑張って書きます。ただ、次どうするか決めてねえ。
ネタ切れっす(泣)


(午前の訓練も終わったし、指揮官とお菓子でも摘まみながら楽しもーっと!)

 

本社基地から歩いてきたサブリナは、途中のお店で二人で食べるには多い量のお菓子を調達して病院へ向かっていた。

反省会出張での入院以来、ずっと指揮官と二人っきりだから実に有意義な時間を過ごせている。

指揮官のケガは残念だけどお陰で二人きりの時間が出来たと考えると正直複雑ではある。とは言うものの、起きてしまった以上は楽しむしかない。と思うことにしていた。

と言うわけで、これから指揮官とお菓子パーティに洒落込もうと考えていたわけだ。

 

ルンルン気分で目の前の病院を目指すのだった。

 

・・・・・

「???・・・・・」

いつもの病室のドアを開けて部屋にはいるが、いつもとは様子が違っていた。

いつもなら部屋に入れば誰かしら明るく声をかけてくるが今日は違う。なんの反応もなく、何かこうよそよそしさを感じる反応だ。皆ビクビクしているような・・・・。

だが、皆の反応から入り口から死角となっている指揮官のベッドに原因がありそうだ。

 

(なんだろう?指揮官に何かあったとか?)

答えはすぐそこにある。サブリナは覚悟を決めて歩みを進めるのだった・・・・

 

・・

・・・

・・・・

と言うのが前回のサブリナ到着前の動きなわけだが、サブリナがナイルのベッドの前に着いたところで副官のG36Cが大切な指揮官に絡んでいるのが見えた。

思わずお菓子を落として何をしているのか問いただしていた。まあ、見るからに指揮官が困惑しているので、G36Cが迷惑をかけているのだろう。羨ましい・・・もとい困ったものだ。

私が指揮官のお世話をしていると言うのに何をやっているのか。

 

指揮官から見て左手側に副官がいるので、右手側のベットサイドに歩み寄る。

(副官の暴挙を許すわけにはいかないよね)

 

「副官さん、指揮官のお世話はサブリナがやっているんだよ」

「用が済んだなら、副官はさっさと基地に帰ったらいいんじゃないかな?」

俺の真横まで歩み寄ってきたサブリナが思いっきり煽りを込めた攻撃的な嫌味を言う。

 

「あら?サブリナさん、いつアナタにお世話を頼みましたか?」

「そのような任務は私も指揮官様も出されておりませんわ。そちらこそ基地に帰任されるのが筋ですわね」

涼しい顔の裏にこちらも怒気がこもっている。

 

(ねえ・・・なんなの?俺はどちらにもお世話など頼んでいないんだけど・・・)

『な?落ち着けな?・・・二人ともな?』程々に落ち着かせて止めないと・・・・

そんなふうに考えていたら、サブリナがガッとG36Cの持つスプーンを掴む。

 

「指揮官のお食事はサブリナがやるよ。副官はもういいよ」

「あらサブリナさん、それには及びません。途中から変わるなんて行儀が悪いですわ」

やりとりと共に、スプーンの壷の部分を掴んでいたサブリナが力を込める。手の中の壷の部分がまるで新聞紙を丸めるようにクシャクシャに潰れる。

一方、柄を持っているG36Cの手にも力が込められて握り潰される。簡単な装飾が施された柄尻諸共G36Cの手の中で鉄屑へとクラスチェンジさせられる。

さらに互いに引っ張られることで、材質である18-8ステンレスの弾性限界をあっさりと超え、塑性変形が始まりついには破断に至る。

「パツン」と言う音と共に真っ二つに折れてしまい互いに鉄屑に成り果てたスプーンの残骸を床に投げ捨てる。

その後、二人して不敵に笑みを浮かべてガンを飛ばしあっている。

 

(あかん。病院の備品の破壊はあかん。追い出されてまうやろが!)

(ここは止めるためにもマジギレするしか無いのか?)

ナイルは覚悟をきめる。

 

『お前ら、いい加減にしろよ!病院に対しても俺に対しても迷惑かけていると分からんのか?』

『とにかく、今すぐにやめろ。分かったな!』

低めの声でドスを効かせて二人を叱る。軍隊の部隊長の時の必殺技よ。

クソ生意気で勘違いした新兵なんかこれで一発チョンよ。ションベンチビって震え出したもんだ。

コイツらにも効果あったのだろう。いがみ合いは止まったようだ。よしよし。

 

 

二人は止まったが、G36Cの首がギイイと回りこちらに顔を向ける。いつもの優しいG36Cの面影は無く鉄血に向けるような冷徹な眼である。

(ひ、ひいいい)ビビった。正直ビビった。

 

「指揮官様。指揮官様はどちらにお世話されたいのですか?」

「指揮官〜。サブリナの方がいいよね♪」

G36Cが話題を振ってくる。それと同時に、サブリナも突っ込んでくる。

 

『いや、だからもうやめてくれ。それに俺を巻き込むな!頼む』

 

G36Cに訴えるが、反対側からサブリナがナイルのほっぺたを両手で挟み、グイッと自分の方にナイルの首を回す。ナイルの首はグキッという音ともに激痛が走る。

(か、かはっ)

(く、首がいたい・・・)

(中年で可動部が硬いんだから、いきなり動かすのはやめて)

頸椎捻挫の重傷であった。

 

サブリナは強制的に向けたナイルの顔を抑えて自分の目線と合わせたまま、諭すように伝える。

「指揮官!今はとっても大切なお話をしているんだよ?」

「分かってるのかな?・・・かな?」

瞳を見開き真っ赤に染まったあの顔である。はっきり言ってホラーだろこれ。

 

全く大切じゃ無いし不要なんだけど、それを口にするとヤバそうなのでとにかく頷くしかできない。

「よかった。分かってたんだね。じゃあどっちにお世話されたいかな?かな?」

狂気を含んだ真っ赤のな瞳に見つめられ思わず悲鳴が漏れてしまう。

(ひっ・・・)

(大丈夫だよな?指揮官へは危害を加えられないんだよな??そのセーフティは生きてるんだよな???)

強力な力を持つ人形に殺されないかヒヤヒヤだよ。安全装置があるとは言えそんなものに頼りたくは無い。

万が一不完全なら即他界させられるわけだから。

 

 

それからは俺の答えを求めるべく二人が私こそ私こそと俺を巻き込んでさわぎたてる。

(ダメだ〜コイツら止まんねえ。もうどうにもならん)

場を収める術がなくなり完全お手上げのナイル。もちろんそれで済むはずもなく怒りに満ちた婦長が登場し、その場で即時に強制退院処分となったのだった。

一応、泣いて土下座までしたがダメだった。土下座にも限界があるらしい事を理解したナイルであった。

 

・・・・・・・

警備員に受付のホールまで連行され、そこでナース人形から今後の説明を受ける。

要約すると、月曜から土曜までは毎日通えとよ。診察とリハビリがしっかりあるらしい。

(いやいやいやいや。毎日通えとか・・・・無理でしょ)

 

R-15前線基地から本社の街までヘリで片道一時間弱っすよ。ヘリで往復二時間でそれを週6日もやったらあっという間にうちの基地は破産ですよ。マジで。

どうしよう・・・・いっそこの街に滞在して通うか。どうせしばらくは入院予定だったからR-15基地へは帰任しなくてもなんとかなるだろう。そうであれば、本社に居候してリハビリをサクッと終わらせてから帰る。そんなプランだろう。

であれば、まずは本社のヘリアンさんとこに行くか。

俺の身体を勝手に改造しやがってよ。その追求もあるからな。

 

と言うわけで、売店で小さいレジャーシートを2枚購入して放り投げられた俺の荷物を風呂敷のように包み、二人に持たせる。

二人は荷物を背負う形になっているが、側から俺たちを見たらもはや夜逃げである。しかし背に腹は代えられん。衆人の視線を無視して本社を目指すのだった。

俺は病院外に出るのは初めてなので、サブリナに案内してもらいながら向かう。久しぶりの表で気分も上々ってなもんだ。追い出された事さえ除けばね。

もうこうなったらポジティブに考えるしかねーわ(泣)

 

・・・・・

程なくして本社基地に到着する。

『ああ、こんなに近かったのね』

 

入場のセキュリティを通るが、明らかに不審な集団なので入念に検査をされる。

グリフィンの指揮官の制服に戦術人形2体は全く不審では無いが、包帯で腕を吊り戦術人形達は銃の代わりに荷物を担いでいる。不審以外の何者でも無い。

(早く終わらせてよね。指揮官が入念なチェックを受けてるとか恥ずかしいし・・・もう)

周りからの視線に耐えながら入場する。

 

そのまま受付でヘリアンさんに繋いでもらおうとしたが、逆に向こうから呼び出しがかかった。

入場でゴタついている間に氏名の連絡が行っていたようだ。

グリフィン本社のセキュリティチームは優秀なようだ。

そのまま、ヘリアンさんがいるオフィスへ向かうこととなった。

 

・・・・・・

『ヘリアントス上級代行官、R-15前線基地指揮官、ナイル・ルースです。本日、()()()()()()早期退院して参りました』

しれっと病院の都合とするが、嘘は言ってないもんね。

ヘリアンは役職上執務室を持つことができるが、部下の顔を見て仕事をしたいとのことで大部屋のオフィスにデスクを置いている。

俺的には、部下へのパワハラのデメリットの方が大きそうに見えるけど、オフィスの雰囲気からそうでは無いらしい。

つまり、俺みたいなヤツは少数派なのだろう・・・・

 

話が逸れたが、俺の報告を聞いたヘリアンさんはギロリと俺を睨み口を開く。

「貴様の中では、騒いで追い出された事を先方の都合と言うのか。あ?」

 

最後の「あ?」が如実に現在のヘリアントスの気持ちを表している。

(あーあ、全部バレてら。そりゃそうか関連会社だもんな)

 

「もはや貴様には多くは言わんが、今朝の大騒ぎについては懲戒処分となることが確定している。覚悟しとけ」

バカには何も言うまい、と言った雰囲気である。

(いやいや、いっそのことちゃんと叱ってよ・・・・)

 

『え?マジっすか?俺何もしてませんよ?』

とりあえず、さらっと困ります的に言ってみる。恥もクソもない。

 

「貴様の部下の管理不行き届きだ!直接関わってたら即クビだ!」と、怒鳴られる。

うん、やはりヘリアンさんはこうじゃないとね。こっちのペースも狂うってもんだ。

しかし、普段は見せない態度なのだろう。オフィスの雰囲気が乱れ皆がチラチラ見てくる。

(あーん?見せもんじゃねーぞ。コラ)チラッと振り向きオフィスにガンを飛ばしとく。

 

「・・・全く、貴様ときたら」そんなナイルの態度を見て眉間を抑えて俯きブツブツ言っている。

 

『ところでヘリアンさん、俺に対する人体実験はなんなんです?明らかに違法ですよね』

本題その1に切り込む。

 

「うん?あー、肩の治療の話か?何か問題か?」

 

『問題か?じゃ無いでしょ。何勝手にサイボーグにしてるんですか!』

今度はこっちがキレる番だよ

 

「勝手では無いさ。ほら」

と言って紙を出してくる。受け取って見ると入社時の契約書のコピーだった。懇切丁寧にマーカーが引かれている。

なになに?「業務に対して真摯に取り組み社の発展に尽くすこと」?

ふざけんな!普通の業務に専念する話だろう。これは!

 

「不満か?社が提携するI.O.P.に対する協力も含まれるだろう?」

ニヤリと笑い伝えるヘリアン。

 

てめえ。そうくるか?

ヘリアン達もこんな理屈が世間一般で通らないことなど理解している。しかし、関係なくゴリ押ししてきている。

「文句があるなら、好きなように抵抗してみなよ」である。

裁判でもすれば勝てるだろうが、俺は実質クビとなり借金もありことから破滅だ。

クソ。コイツら人の弱味(借金)につけ込みやがって。

 

「それに、鉄血のエネルギー兵器は生体に対してダメージが大きいようだ」

「恐らく、自力では良くても障害が残っただろう。すぐに治療する判断を下した私に礼を言っても良いと思うがね」

けっ。都合よく手柄にすり替えようとするあたりタチが悪い。

 

『しかし人体実験した以上は謝礼はI.O.P.に要求しますよ』

 

「私は関知しない。勝手にやってくれたまえ」

へいへい。やりたいようにやらせてもらいますよ。

 

『それで、----(かくかくしかじか)本社にデスクを置かせてもらいたいのですが』

本題その2である

 

「うん?ああ、致し方あるまい。そこの私の前の席が空いているから使え」

 

『えっ!?いや、あの・・・本社基地に臨時司令室とか無いですかね・・・』

嫌だよ。ヘリアンさんの前なんて。それそのものがパワハラやん。

 

「うん?何か問題でもあるのか」

ナイルの心の中を透視したのかヘリアンが眉を顰めて睨む。

 

『いえいえ。問題無いです問題無いです。部下も二名いるのでそこのミーティングスペースも使いますね』

 

「勝手にしろ」

 

そんなこんなで業務はまとまったのだが、案の定ほぼ毎日ヘリアンさんから叱責をうけることとなった。

そんな日々から早く解放されるべく大層リハビリに力を入れたようで、一ヶ月程度でほぼ支障の無い状態まで回復し、そこから通院は週一となった。

週一ならR-15基地から通っても問題ないためようやく前線基地へ帰任を果たしたのだった。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

ナイルが一連の騒ぎに巻き込まれているその頃。

鉄血の主力工場に併設されている司令部に二体のハイエンド人形がいた。

 

一人は大人のようにも子供のようにも見える不思議な人形だ。

黒を基調としたミニスカートのパーティードレス風の戦闘服を着ている。SPACA Dreamerである。

気まぐれだし性格の悪さは折り紙付きである。

 

「ふふっ。ずいぶん機嫌悪そうね」揶揄うように目の前の人形に話しかける

目の前の人形は、絡まれたく無いようだが余計な事を言うと面倒くさいことになるので、素直に話すこととしたようだ。

 

「グリフィンを監視していたら私を模擬したAIを作ってたのよね」

「何するのか見てたら、なんかパーティーの余興のピエロにしてたみたいでね。腹立たしいのよね」

返答した人形は、SP914 Intruder 電子戦が得意なエリート人形である。ヘリアンの悪ノリを監視していたようだ。

自身のコピーを作られ噛ませ犬に使われた事に酷く立腹のようだった。

 

「次のパーティーには自ら行ってハイエンドの真の実力を刻みつけてやるわ」

イントゥルーダーは拳を握りしめて強く決意した様子。

 

「ふーん。どうでもいいわ」

そう言ってドリーマーは行ってしまう。腹立たしいが面倒の元が消えたならそれはそれで結構。

ヘリアンの悪ノリで、次回の反省会もHell of Earthになることが決定したようだった。




サブリナちゃんの恐怖の赤い瞳は下の画像をイメージしています。
サブリナちゃんの絵師さんがアップしているやつですね。ちょいちょいアップされているようです。
https://www.pixiv.net/artworks/71836589

本社の臨時勤務の日常も書きたかったけど、今回はパス。
そのうち間話的に書くかも。課長代理とも絡ませたいが需要は無いかな?かな?

イントゥルーダーさんの話は・・・・どうだろう?
フラグ的に上げてるけど、ナイルはんが反省会で勝てるプランが沸かない。
誰か強い指揮官の作者様にお任せします。(笑)


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57.サブリナ再び

アップ遅れちった〜。すんません。
いやいや、祝日が二日あったので二日とも仲間に誘われて釣りに行っちゃいました。

完全ネタ切れであまり筆が進まないと言うのもありますが、アンケートを行いたいと思います。
気軽にパパッと選択いただければ助かります。結果は参考にさせていただきます。
よろしくお願いいたします。



ナイルとG36C、サブリナを乗せたヘリは順調に飛行を続けていた。

天気も良く窓からの景色も良い。と言っても眼下に広がる雄大な自然を見るだけでなのですぐに飽きる事となるが。

サブリナもそんな一人で、思いっきり姿勢を崩して記憶の整理(爆睡)に勤しんでいる。やはりヨダレを垂らすのは忘れていない。

向かい合わせの座席、対面の長椅子にG36Cと共に座っている。いや、サブリナは半分寝た姿勢なので座っていたが正しいか。

 

(全く、コイツは・・・)

(しかし、こう見るとオッサンくせーなwww)

だらしない部下を見て思わずにやけてしまう。

 

「指揮官様?何が面白いのですか?」

無表情で軽く首を傾げながら聞いてきたのは横の人形のだらけた睡眠により迷惑を受けているG36Cだ。

無表情なところを見ると俺の態度を不審に思い機嫌が悪いのだろう。

 

(何が面白いか説明しても恐らく納得しないだろう)回答を間違えるわけにはいかない。

『うん?ああ、いつものサブリナと居眠りしているサブリナのギャップがね』

『G36C、そこだと窮屈だろ?こっちの隣に座りなよ』

よしよし、完璧やろ?と思ったが甘かった。

 

「指揮官様!よろしいのですね!?」

G36Cはするりとナイルの横に滑り込むと同時にナイルにしなだれる。

 

『え?いや、え?』(それはダメだろ?絶対)

「指揮官様!我慢しなくていいのですよ」

草食獣の首に食い付き体に爪を食い込ませた肉食獣の如く、獲物を逃すつもりはないらしい。

G36Cはその瑞々しい唇をナイルに近づけ、キスをする気らしい。

 

(あかん、ここでキスをしたら"合意"になってしまう)

(俺だって男だ。一線を超えたらブレーキは効かなくなるだろう)

 

『G36C、ダメだ。これ以上は。やめてくれ』

 

ナイルの言葉、いや命令により近づいてきた唇が止まる。

(よし!止まった。助かったか?)

 

しかし、その唇がナイルの耳元で囁く。

「大丈夫ですよ!指揮官様!指揮官様の全てを受け止めて差し上げますわ」

「誓約の証などなくとも・・・これはその約束の、契約のキスですわ・・・」

 

『だ、ダメだ』

ここでキスをしたら色々終わる。あかん。

と思いつつも、流されてG36Cに溺れてしまったら楽になるのかもと言った気持ちも僅かに湧いてくる。

(麻薬に溺れる人間はこんな気持ちなのだろうか。しかしダメだ。止まってくれG36C)

 

 

 

「副官さん?何をやっているのかな?かな?」

「指揮官は"やめろ"と命じているのに止まらないのかな?」

「命令を聞けない壊れた人形は廃棄処分にしないとダメだよね」

はっきりとした声が聞こえる大元を見ると、さっきまで爆睡していたサブリナが目を覚ましていた。

瞳を真っ赤に輝かせている。

いつも止まらないお前が言うか?とも思うが、今としてはナイス対応だ。

 

「ふふふっ、サブリナさん。()()ですわ」

(いやお前、これは冗談じゃないだろ)

(まあ、飛行中のヘリの中だから止まってくれてよかった。大暴れで墜落して死にたくはないからな)

 

『サブリナが起きたから、G36Cはあっちの席に戻ろっか。な!』

そう言うと、しぶしぶサブリナの隣の席に座り直す。

どうも機嫌が悪いらしいが、サブリナの機嫌も悪いので、とりあえず静まる方向に落ち着いてくれてよかった。

(やばいな。基地に帰ったらウェルロッドあたりに一緒に居てもらわんと危険だな)

 

ヘリの順調な飛行とは逆に荷物達の仲は気まずそうである。下手したら墜落しかねない状況だったことを知らないパイロットは幸せだったであろう。

 

・・・・・

ヘリが基地に着くと、ヘリポートは出迎えの人形達で一杯だった。

「「指揮官!退院おめでとうございます」」

皆が声を揃えて出迎えてくれた。サブリナとG36Cの喧嘩に巻き込まれて強制退院させられたことは無かったことにしてくれていた。

 

『お前たち・・・・ありがとう・・・』

久しぶりのR-15基地だし、優しい人形たちに囲まれて思わずうるっときてしまっていた。

入院中からサブリナとG36Cに絡まれ喧嘩に巻き込まれて苦労続きだし、本社ではヘリアントスからの叱責にパワハラで身も心もボロボロだった。

やっぱり住むべきは自分の基地やな。

 

「ナイル指揮官、出張からのお怪我で大変でしたね。ご帰還お待ちしていましたわ」

声の方を見ると、本社基地の多目的活動隊のクリスティーナ指揮官だった。ナイルが入院中にR-15基地指揮官代行として基地に詰めていた。

その出迎えの微笑みから、ナイルの退院を心から祝っているのだろうことが見て取れた。

 

『クリスティーナ指揮官!いつもいつもありがとうございます。助かりました。』

90°に腰を曲げてお礼を言うが、頭をさげただけでは足りないくらいの仮がある。

 

「大丈夫ですよ。もうほとんどR-15基地専属みたいなものですから」

笑いながら冗談で言っているんでだろうが、とても冗談に聞こえないから困る。

ナイルは苦笑いしか出来なかった。

 

「ところで、昨日にR-13基地のローズマリー上級指揮官から、連絡がありましたわ」

「明日にR-13基地に来るように。との事でした」

 

『えっ、マジですか?』

思わず出たナイルの嫌そうな顔と回答に、クリスティーナ指揮官は笑いながら「まじです♪」と返してきた。

しかもサブリナとG36Cを連れて来いだと。

(げえぇぇ、嫌だよ。それ絶対に説教じゃん。全部バレてたらやばいぞ)

 

『はあぁぁ』と残念な顔で深いため息を吐くナイルを見てクリスティーナ指揮官は再び笑う

 

「しばらくはR-15基地に詰めますので、安心して色々楽しんできてくださいね」

 

全く楽しくないと思うけど、今となってはその優しさが救いです。

詳しい出頭の時間などを打ち合わせて、帰還したその日はゆっくりする事とした。

 

・・

・・・

・・・・

 

翌日は指定の時間に間に合うように余裕を持ってヘリを飛ばしていた。

遅刻して上司の好感度を下げるわけにはいかないが、実はもう下限に張り付いているのではないか?とも思う。まあそれは口にしないのがお約束である。

そんなこんなで30分ほど早くR-13基地に到着する。

 

「ナイル指揮官!お待ちしておりました!」

出迎えてくれたのはポジティブな明るさを全身から出すエリート人形のカノだった。

 

『久しぶり。カノは元気そうだね。シノはどうした?』

前回はアイツの嘘でエラい目にあったからな。上司の調査をしていない俺が悪い?いやいや、アイツの嘘のせいですよ。そう言うことにしときましょう。

 

「シノはR-14基地の新指揮官様を案内しております!」

(ほう。ついに新任が決まったのか。鉄血に位置がバレてるからな。すぐに三途の川を渡らなきゃいいんだけどね)

自分ちの基地もそれに該当するのだがそこは無視のようだった。

 

「では、行きましょう!」

そう言って歩き出すカノにナイル、G36C、サブリナはついて行く。

人形の二人はR-13基地は初めてなので興味深い様子であり、キョロキョロと見回しながら歩いている。

 

『立派な基地だよな。けど、あんまりキョロキョロしすぎて遅れるなよ』

声をかけられて慌てて前の二人を駆け足で追いかけるサブリナ達だった。

 

・・・・・・

「ルース指揮官、先日のキャリア開発の研修はご苦労だったな」

「講師の上級指揮官から講評はもらっている。悪くはない評価よ。精進を続けるように」

「ただし座学中の態度は最悪だったようね・・・・」

言葉と共にジロリと睨むローズマリー。睨まれてギクリとした態度を見せるナイル。側から見たら全く誤魔化せていない。

 

「今後の態度次第では次回の研修も参加だ。分かっているな?私を失望させないように」

 

『はっ!了解しました』

(え?これだけ?よっしゃ!今日はイージーモードか?)

 

「で、その後の入院生活はだいぶおふざけが過ぎたようだな。こっちにまで苦情が上がってきているぞ」

「後ろにいるSPAS-12にG36C、二人には指導が足りないようだな。貴様では使いこなせないようだ。他指揮官の元への転勤を勧めるが」

その言葉を聞き、驚きと共に不安の表情を浮かべる二人。

(全然イージーモードじゃなかった)

 

『いえ、上級指揮官。彼女たちへの指導は私の責任できちんとやらせていただきます』

腰を折り平謝りのナイル。彼女達は安堵の表情をうかべるが微妙なようだ。

 

「そうか。社内はともかく社外へは二度と迷惑を掛けぬように」

「説教は以上だ」

 

「もう一点、貴様に紹介する。R-14基地の新たな指揮官だ。S地区からの転属となる」

「今後、共同作戦もあるだろうから情報共有は密にするように」

「紹介しよう。ジャスティン・ミラー指揮官だ」

ローズマリーの声と共に副官のスプリングフィールドが指揮官達を連れてくる

 

(うん?ジャスティン??)

天敵の名前に疑問を持ちながら、振り返れば奴がいた。

 

『あ?オメー生きてたのかよ。反省会で死んだと思ってたんだけどな』

見た途端に忘れずにガンを飛ばすと同時に煽るナイル。

 

「死に急ぎ野郎は三途の川のほとりまで行ったらしいじゃないか。いつもの勢いで渡っちまえばよかったのにな」

煽り返すジャスティン。

 

『んだと、コラ』

「ああん?ふざけるなよ」

顔を近づけて罵り合う二人。

 

 

「・・・・・・」

「スプリングフィールド、この二人を黙らせなさい」

呆れと共に全てを見透かす冷たい目でローズマリーは言い放つ。

それと共に、騒ぐ両名に対してスプリングフィールドによりボディーブローと膝蹴りが叩き込まれる。

突然攻撃を受けたナイルとジャスティンは床に転がると共に悶絶する。

 

「私の部下である以上、ふざけた勝手な態度は許されない。仲良くやれ。それだけだ」

倒れた二人を見下ろしてローズマリーは冷たく言い放つ。

(くそっ。こんなやつと仲良くだと?それこそふざけんな。だ)

 

・・・・・・・

ローズマリーは冷たく言い放つと共に、心の中で頭を抱えていた。

(全く、どうしてこうも勝手な連中ばかり送り込まれるのか。困ったものね)

この二人は言ったところで大きく変わらないだろう事はわかる。

(さて、どうしたものか・・・・)

そんな思案をしたところで、奥の方から提案が出た。

 

「あの〜上級指揮官様、三基地合同のパーティーはいかがでしょうか」

「私たちR-15基地はそれで結束が固まりました。やる価値はあると思います!」

サブリナがおずおずと提案をしていた。

指揮官達は悶絶してコメント出来そうにない。これはチャンスだ。

 

『分かった。指揮官両名も異論は無いようだ。その案許可しよう』

『ジャスティン指揮官側からも幹事を出せ。人形達で決めて見せろ』

『なお責任は貴様らが取れ。以上だ』

 

ナイルとジャスティンが話せないところで全て決定が下されてしまったのだった。




やりやがりましたよ。サブリナさん。
ついにR-15基地の枠を超えてやるようです。
いや、やらかすようです。ナイルさんは大丈夫なのだろうか??


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58.R-15基地にて

筋が決まらず苦しんでおります。遅くなったけど短めで刻ませて下さい。
更新、週一くらいになるかもです。

アンケートありがとうございます。本日時点で7回答頂いております。
一位は『ナイルさんの借金を無しに』ですが・・・え!?カイジと同じで借金無くなったら話終わっちゃうよ!(笑)
いや、待てよ。カイジか。鉄骨渡りとかも楽しいかもね。なるほどね。

二位三位が、『他の指揮官も』に続き『いつも通りナイルさん』でした。
今回は他の指揮官も参加なんだからナイルさんにもチャンスがあるかもですね。

色々考えないと


R-13基地から帰ってきた翌日、司令室で反省させられている人形がいた。

司令室の床に敷かれた竹ラグを筵として正座をさせられている。そう、サブリナであった。

 

『サブリナよ。こっちが悶絶している隙にやってくれたな!』

『なーに勝手にパーティーの約束してんだよ』

正座をしたサブリナの足の上にゴミ置き場の雑誌を載せて苦痛を与える。が、人形のサブリナには効果はイマイチのようだ。

 

昨日のR-13基地の謁見時に勝手にサブリナのヤツがパーティー開催の約束をしやがって。

その場にいたジャスティンと煽りあっていたためローズマリー上級指揮官の怒りを買い、副官のスプリングフィールドにいいボディを入れられて床に転がされていた。

ジャスティンの野郎は膝蹴りを叩き込まれていた。ありゃあ截拳道のニーストライクだな。本気で入れられていたら内臓破裂で成人男性といえど即死していただろう。俺もジャスティンも適当に手加減されていたのだろう。

 

まあ、それは置いといて。

『サブリナ、どうすんのよ。なんかいい案ある?』

流石に上司とクソ野郎を交えたパーティーだから、ノープランと言うわけにはいかない。

 

「正直あまりないかなぁ」

「うーん、でも〜、他に上級指揮官が困っていたからぁ」

サブリナは正座したまま頭をかき笑いながら適当に答える。

(ノープランかい!)頭を抱えるナイル。

 

「指揮官、そろそろ立ってもいいよね?」

やはり戦術人形と雖も足にダメージが蓄積するようだ。

『ダメ!』即答のナイルだった。(いつぞやの仕返しだ!バカタレが)

 

そんなやりとりもそこそこにナイルは腕を組んで考えに耽る。

(参ったな。流石に3基地合同だしローズマリーもいるしで、綺麗に仕上げないとこっちに累が及ぶだろ)

(うーん・・・うん?こっちと言う事はうまくやれば、あっちにおっつけられなくね?)

(そうだよ!そう!今回は指揮官が3人いるんだよ。何も俺だけの話じゃないじゃん)

(うま〜く誘導して、ローズマリーとジャスティンに俺のいつもの苦労を味合わせてやればいいんだよ)

(そして無事な俺がやられる二人を見て楽しむ。プランはこれじゃん!)

 

組んでいた腕を解き悪い笑みで手を叩く指揮官を見て、また碌でもないことを考えているのだろうと心配になる幹部人形達だった。

 

・・・・・・・

一方でそんなナイルを見てサブリナも考えていた。

(指揮官の窮地を救うためにいつも頑張っているのに正座をさせるなんてヒドイ!指揮官のバカァ!)

(しかもまた変なことを考えているっぽいし・・・)

ナイルに見られないように頭を垂れてほっぺを膨らませる。

出張、入院、R-13基地の謁見含めて頑張ってきたのに!この対応はやりすぎ!とちょっと怒っていた。

(やっぱり指揮官は今回のパーティーでも反省が必要かな?かな?)

(サブリナが居ないとやっぱり指揮官はダメね〜♪)

(指揮官がサブリナの事を大好きになるように、楽しいことを企画しよう!)

心の中で決意を決めるサブリナだった。

 

この場にいる幹部人形達もサブリナほどではないにしろ、パーティーでのドサクサ紛れでナイルとイチャつこうと考えていた。

指揮官は何か企んでいるようだが、大筋としてはサブリナに嵌められる可能性が高いだろう。

混乱の隙に楽しむ、そんな腹づもりである。

 

ナイル、サブリナ、他の人形達、それぞれがそれぞれの思惑を胸にパーティーへと突き進むのだった。




さてさて皆さん色々考えているようで。
次回はジャスティン側の紹介ですね。
幹事は誰になるのか?(考え中です)


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59.R-14基地にて

スジがぁ〜スジがぁ〜。
なかなか浮かばないっす。
遅れてすみません。

アンケートありがとうございました。
締め切ろうかと思います。ナイルさんの借金削減回答にネガティブなコメントをしてしまいましたが、借金無くなる最後まで頑張ろっか。的な意見と前向きにとっておきます。
後は、ヘリアンさんや他の指揮官にも、は今回少しでも頑張りたいですね。
人形達に、が無かったのは笑いました。ほんと、甘やかしてるとサブリナの暴走止まりませんよ(笑)

てな訳で、サブリナ暴走編になりました(笑)


その日も朝から司令室で反省させられている人形()が居た。

サブリナと・・・。ウェルロッドの二人である。

しかし二人の態度は全く違う。サブリナは「えへへへ〜」と言った笑いを浮かべているが、もう一方のウェルロッドは神妙ではあるがどこか納得がいっていない様子だった。

 

反省をさせているナイルも頭を抱えていた。

『全く、何やってんだよ・・・・』

 

人形達も押し黙り、陰鬱な空気が司令室を支配していた。

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

時は二日ほど前に戻る・・・・

 

・・・・

 

『じゃあ、そう言うことでお願いしますね・・・』

 

「分かった。今回の件はとばっちりだからな、貸しだぞ!」

 

『いえいえ、苦情は開催を決めた上級指揮官殿へ・・・』

 

(全く、なんで俺がコイツに気を遣わなきゃなんねーんだよ!)

ナイルは、R-14基地のジャスティン指揮官との映像通信を終了しながら心の中で悪態をつく。

先日の謁見時に決まってしまったパーティーの事務的な連絡をしていたところだった。

ローズマリー上級指揮官からの指示は「それぞれの基地から幹事を出せ」だったのでその連絡だったわけだ。こちらの幹事は粗方決まっていたので、明日にでもそちらに伺わせて幹事たちの顔合わせはどうでしょう?と言うことだ。

まあ、特に問題もなく明日ヘリで伺うことに決まった。

 

『さてと…幹事だが…』

『まあ、サブリナは確定だろう。アイツが言い出しっぺだからな』

ただ、アイツだけだとすこぶる不安である。しかも今回は他基地や上司が含まれる。うちだけの問題では無いのだ。

まあ、最低限を抑えておけばいいだろう。ならば・・・

 

『ウェルロッド、お前も幹事に任命する。やる事は分かっているな?』

真面目な視線をウェルロッドに合わせると、コクリと頷き返す。

 

「分かっています。()()()()()()()()()ですね?」

うん。分かっているようで何より。

 

ウェルロッドと言えば、先日OBRに会ったのだが、凄い勢いでグチをこぼされた。

曰く「ウェルロッドに財布を管理されて、借金が減る一方だ」と。

ちょっと何を言っているか分からなかったが、財布を管理されるのがすこぶる嫌らしかった。

借金が減るならいいじゃん。と思ったが、金を自由に使えないのがストレスらしい。

普通、借金が増える方がストレスだと思うのだが。少なくとも俺はそうだよ。ストレスで生え際が怪しくなってきている。

ヤツは俺にシンパシーを感じているようだが、そこは全力で拒否させてもらう。

てか、あいつは自分で借金返してねえからな。全部こっちに追っ付けてばっくれてやがるからな。

ざまあみろってんだ。もっと管理されやがれ。ウェルロッドはもっとやれ!

 

話が逸れたが、サブリナが暴走しないように手綱を握らせるのに丁度いい。

ついでに俺の監視が緩んで一石二鳥だからな。

 

そんな訳で、翌日にR-14基地のジャスティン指揮官の元へ顔合わせに出掛けるのだった。

 

・・・・・・・

『ジャスティン指揮官、初めまして。R-15基地から参りましたウェルロッドMkIIとSPAS-12です』

ウェルロッドが挨拶をして深くお辞儀をする。

横のサブリナも黙ってペコリとお辞儀をするが、ウェルロッドに黙って頭を下げるだけにしろと言われたようだ。

 

「ほう・・・ウェルロッドMkIIとは高級な人形ではないか」

「買ってやるから俺の元で働かないか?可愛がってやるぞ」

下卑た笑いで挨拶になっていない返事をするジャスティン

 

『ジャスティン指揮官、ご冗談を・・・』

面白くも無いジョークとウェルロッドは判断したが、ジャスティンとしては本気だったのだろう。

心情を何一つ顔に出さず大人の対応で返すウェルロッドはやはり優秀だった。

 

「冗談では無いのだがな。まあいい。95式、幹事の元へ案内してやれ」

ジャスティンは横に立つ副官の95式は腰まである黒髪のロングヘアに、その豊満を通り越して爆乳の胸を強調する真っ白なドレス調のミニスカートの制服とふわりとしたイメージの真っ白な上着を羽織っている。下半身は黒いストッキングでまとめられており真っ白な制服とのコントラストが映える。

 

「分かりましたわ。指揮官様」

言葉も丁寧であり外見も含めて非常に大人な雰囲気の人形である。R-15の副官のG36Cともタイプが違いサブリナも思わず見惚れていた。

 

「では、行きましょう!」

95式に案内される形で司令室を後にする二人だったが、いきなり失礼なことを言うジャスティンとの会話を切り上げたかったこともあり黙ってついていく。

司令室の外に出て95式について廊下を歩いていく。以前に鉄血のハイエンドのエクスキューショナーに襲撃され全滅した時と施設の構造は同じだが修復されており当時の凄惨な面影は全くない。全く無いのだが、なにかうまく言えぬ違和感がある。なんだろうか?

後ろのサブリナもなにか感じたようでソワソワしている。

 

95式に案内されたのは戦術人形達の娯楽スペースだった。娯楽スペースは廊下から特に仕切りもなくオープンな空間となっておりボードゲームや雑誌が置いてあり談話可能な椅子とテーブルもいくつか置いてある。サブリナは雑誌を見て昨日の正座を思い出し身震いしていた。もう正座は御免だ。余計なことをしないように気をつける、と決意しているようだった。

 

娯楽スペースには数体の人形がいるようだが、どうも様子がおかしい。一人の人形がその他数人に詰め寄られている。

「あんたはいいよね。ランクも高いし、副官の妹だし」

「成績も悪く全然使えないゴミ人形なのに」

「捨てられていくアンタより優秀な人形に申し訳ないと思わないのかね」

「なんとか言ってみなよ!」

自分達が掛ける言葉に興奮したのか腹部にボディを入れる。

 

「うっ・・・・」

責め立てられていた人形は涙を堪えて苦しそうにしている。単純な物理的ダメージではなく責め立てられる精神的ダメージの方が大きいのだろう。

 

「あなたたち。何をしているの」

95式の声掛けに人形達が一斉に振り向くが、一人はまだ苦しそうにしていた。

「お、お姉ちゃん・・・」その苦しそうな人形が答える。

 

使()()()()()()()()を指導していたのですよ。副官殿」

「もう行きましょ」

そう言って人形達は一人を残して出て行く。

 

そんな人形達を見送り95式が声を掛ける。

「97式、大丈夫ですか」

 

「うん・・・大丈夫だよ。お姉ちゃん・・・」

「今日は急にどうしたのかな」

見られたくないところを見られたためか、元気なく答える97式。

 

「指揮官様からの司令です。今度の3基地合同のパーティーの幹事をやりなさい」

淡々と告げて95式は踵を返して一人戻ってしまった。

置いていかれたウェルロッドとサブリナはどうしたものかと思案するが、引き合わせてくれたという事で気を取り直し97式に挨拶をする。

 

『R-15基地の幹事に任命されたウェルロッドMkIIとSPAS-12です』

「こんにちは、97式さん。私のことはサブリナと呼んで下さい」

ウェルロッドはともかくサブリナもしおらしく挨拶をする。

(サブリナ?らしくないけど・・・大丈夫か?)

 

「私はR-14基地の97式です。副官の95式は私のお姉ちゃんよ」

擬音にすると、えへへへ。と言った感じで挨拶をする。

(・・・・・・)

サブリナは何かシンパシーを感じていた。

 

ウェルロッドはしおらしいサブリナを不気味に感じながらも話を続ける。

『今日は顔合わせで来ました。今後の進め方をある程度決めたいと思います』

 

「分かりました。事情も何も知らないので、そこから教えてね♪。あっ、教えて下さい」

97式はニッコリ笑って返事をするのだった。

 

 

・・・・・・・

色々事務的な話を終えて、クロージングの雑談に入っていた。

 

「では次の打ち合わせはR-15基地だね。楽しみだなぁ」

97式がニコニコでウェルロッド達に伝える。

今回の打ち合わせで会話を重ねて97式の人となりを理解し、本来はすごく明るい人形だと分かった。

初対面の3人だったが十分打ち解けたようだ。

雑談も混じる中で、サブリナが踏み込んだ質問を始める。

「あの・・・会う前の・・・人形達に絡まれてたのはなんだっだのかな?」

 

問われて97式は自重気味に笑いながら話す。

「気がついていると思うけど・・・この基地は実力主義なんだよね・・・」

「役に立たない人形は廃棄処分にされちゃうんだ・・・・」

そこでため息を一つついて続ける。

「はぁ〜。私はこの基地の役立たず組なんだけど、姉やランクのおかげで残されてるんだと思うんだ」

「私はみんなと仲良くしたいんだよね。だから()()()()()()()()調()()()()皆が幸せになれるように考えてたんだけど・・・。ダメだった」

「指揮官もこの基地も好きだけど、息苦しいのは嫌い。もっと皆が個性を発揮できればいいのにな・・・」

「今日も人形が処分されるみたいなんだよね・・・」

目を伏せて涙を流す97式。

97式はこんな状況でも基地や指揮官が好きなようだった。

そんな97式をみて何も言えないウェルロッドとサブリナだった。

 

 

「ウェルロッドさん、今日は帰ろっか。帰りに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

突然言い出すサブリナであったざ、この時サブリナの目が紅く光っていたことにウェルロッドは気づいていなかった。

サブリナは椅子から立ち上がりスタスタと歩き始める。

 

「ちょっと・・・サブリナ?」

「??。サブリナちゃん?」

ウェルロッドと何がなんだ分からない97式が突然の事に驚きながらついて行く事しかできなかった。

 

・・・・・・

 

「指揮官様、お願いです。私はまだやれます!チャンスを下さい!」

司令室でひざまづいて悲痛に訴えるのはSMG戦術人形のスペクトラM4である。

彼女はジャスティンの元で昔から働いている人形だった。決して高級なランクではないが経験を積んだテクニックで仲間を助けてきた。

ジャスティンの勝利に少なからず貢献してきた人形。しかし、優秀な人形であった彼女もついにお払い箱。

司令室の端では95式が静かに目を伏せている。特に何かできるわけではない。いつもの事だ。この基地で定期的にある風景。

 

しかし、そんな陰鬱な空気をぶち壊し司令室のドアが開き一人の人形が入ってくる。

突然の事に司令室の皆が一斉に注目する。

 

「何か貴様。今は立ち入り禁止としているだろう」

ジャスティンが通達を守らずに入ってきた人形に問う。これが彼の人形であったならば即廃棄処分にされていただろうが、入ってきたのはサブリナであった。

 

「ジャスティン指揮官、本日はありがとうございました。これにて帰任します」

「うーん、でも・・・ここは人形が働き辛い雰囲気かな?」

ハイライトの消えた紅い瞳に薄笑い。ウェルロッド以外ここにその意味を理解している者はいないが、ウェルロッドが後ろにいてサブリナの様子が見えなかった事は運が悪いとしか言えなかった。

 

「ちょっと、サブリナ・・・」

ウェルロッドが止めに入ったが遅かった。後ろからついてきた97式も目をパチクリしている。

 

「貴様、人形風情が他基地指揮官に楯突くとはどういう了見だ!?」怒気を込めてジャスティンが詰め寄る。

 

「楯突く?ただ感想を述べただけだよ〜。・・・あら?人形捨てちゃうんですか?勿体ないお化けが出ちゃうかも〜」

「ナイル指揮官なら、もらって帰るかな?かな?」

 

「貴様〜・・・」

「そうか、そういう事か。ナイルに命じられて狼藉をはたらいている訳だな?」

あのG36Cを奪っていったナイルを思い出し怒りは頂点に達していた。

 

「指揮官に?何言っているのかわからないかな?」

 

「とぼけるのは大概にするんだな。さっさとその人形を持って帰れ」

「貴様の指揮官に直接問いただすとしよう」

 

「人形もらっていいのかな?ジャスティン指揮官は太っ腹だね。ではサブリナは帰りま〜す」

笑顔で綺麗な敬礼を見せるサブリナ、顔を真っ赤にして怒るジャスティン、青い顔して引き攣るウェルロッド。そして何がなんだか理解できない95式97式は唖然としていた。全く知らないものがこの風景を見たらなんの場面だか理解できない。そんな状況だった。

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

と言うのが、先日の話だった。

サブリナが人形を持って帰ってきたのを見たときはたまげたが、ことの真相をウェルロッドから聞いた時はさらにぶったまげた。

おかしいだろ?いち戦術人形が他基地の指揮官に喧嘩売って、人形持ち帰るなんてさ。

サブリナ(コイツ)、やっぱりどこか壊れてるんじゃないのか?大丈夫か?次の定期点検で廃棄処分にされたりとか??

 

連れてきたスペクトラM4もいるが、申し訳なさそうにしている。

まあ、それが普通の態度だよね。

 

いや、それどころじゃねー。ジャスティン指揮官に連絡せんと。完全に俺が嫌がらせを仕掛けた形になっている。

まずいだろ。パーティーにかこつけて嫌がらせをしたなんてローズマリー上級指揮官にチクられたらめちゃくちゃ怒られる。

誤解を解かんと・・・・

 

・・・・・・・

 

「ほーう、誤解だったと、ね・・・・」

「馬鹿にしているのか?貴様!人形が独断でやるわけないだろうが!」ブチ切れて怒鳴り散らすジャスティン

まあ、そういう反応だよね。

 

『いや、全く申し訳ない。不慮の事故だと思って頂いたら助かります』

後ろに正座させている人形達を映り込ませて、それとなくアピールしとく。

 

「貴様の態度はよくわかった。上級指揮官殿にはことの顛末は伝えておくからな」

やはり怒りは収まらないらしい。

 

いや、やめて。それだけはやめて。謝ったじゃん!謝ったんだからやめてよもう!

 

「あと、貴様の人形がこちらの廃棄人形を()()()()()()()()と啖呵を切ったからな。代金を払ってもらおうか」

 

てめえ、どさくさに紛れて意味わからん事言ってんじゃねーぞ。コラ。

『サブリナの視覚データは確認してますよ。嘘はいかんでしょ』

『ただ無料もないでしょう。トレードでどうですか?』

廃棄処分予定だから無償もありだが、コイツから無料で貰って貸しを作りたくない。

 

「では、コア30個だな」ニヤリと笑うジャスティン

 

くそ、落とし所は考えてやがったか。嫌らしい数を突いてくる。高過ぎるが異常とまでは言えない。ケチると面倒くさいことになるな。

『分かりまたよ。それで手打ちでお願いします』

 

「ああ。では後日の幹事会はR-15で。以降はR-13でどうかね」

 

『いいでしょう』

 

そんなこんなでなんとか収めたが、独断でトラブルを起こしてきたサブリナとウェルロッドには反省してもらいたい。

とりあえず正座から立たせて解散とする。

 

『ウェルロッド、スペクトラM4は第三小隊に編入する。第11中距離支援小隊の復活だな』

『部隊方針については改めて話そう』

 

なんとかドタバタを収めるナイルだったが、キッチリ彼方此方からヘイトを集めた事に変わりは無かった。

 




結局、尻拭きはナイルさんなんだろう。かわいそうに。
サブリナやG36Cは人形としてはヤバイ奴らになってますよね。笑えます。いや、笑えねえ。
やり過ぎ感ありますが、そういう芸くらいにライトに考えていただければ幸いです。(笑)


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60.ささやかな歓迎会

たまには日常回やりたいです。
その心は、スジが浮かばない現実逃避とも言いますが(笑)


サブリナとウェルロッドが反省してた日、簡単な歓迎会が開催された。

なんでかって?それはスペクトラM4の挨拶のせいだ。

挨拶の最後に「指揮官!歓迎会とかないの?」だって!

そんな一言がついたら、黙ってる分けないでしょ。うちの人形たちがさ。デカイ釣り針だろうが関係なく食い付く連中なんだから。

 

案の定、ソッコーで当日開催が決まった訳だった。

 

・・・・・

とは言うものの、朝決めて夜やる宴なので簡素になる。

準備させるととんでもない事になるのは目に見えているので、隙は与えない。これが戦術というものだよ人形諸君!

 

簡単な飾り付けと料理は自分たちで作る。飲み物はソフトドリンクと缶ビールや缶酎ハイというかカクテルというか。

後は適当なスナック菓子系。まあそんなもんだ。

これならしくじる事はないだろう。

 

・・・・・

と言うわけで、歓迎会が始まった。

 

『色々あって我がR-15基地に鞍替えとなったスペクトラM4だ。みんなよろしく頼むぞ』

ほい、とスペクトラM4に挨拶を譲る。

 

「スペクトラM4、配属しましたっ!・・・っておい! 拍手してよ・・・」

なんだなんだ、意外にやかましいヤツだな。M21系か?

 

「R-14基地をクビになりそうなところでサブリナちゃんに拾って貰いました」

「受け入れてくれた指揮官もありがと」

そう言って、握手をしてくるスペクトラであるが、服がミニスカートに上半身ビキニ、しかもデカイときたもんだ。

握手で手を振るたびにあっちの二つのボールもプルンプルン揺れる。

ついつい見惚れて、いやガン見していたら・・・

「指揮官様?どこを見ているのですか?」と能面になりかけたG36Cが声を掛けてくる。

 

『あ、いや。はははっ。どこだろうね?』なんて誤魔化すがしっかりばれていたらしい。

アカン、右手の指をニギニギ動かしている。アイアンクローだけは勘弁。あれの破壊力はヤバイ。

 

アイアンクローを警戒していたら「指揮官はおっぱいが大好きなんだよね〜」とチョコ棒を咥えたFNCが声を出すが、そういう事は声に出して言っちゃだめです!風評被害ですよホント。

 

と言うわけで、のっけからの指揮官イジリで賑やかに始まったのだった。

 

・・・・・・

宴が進んだところで料理が運ばれてくる。

色々な料理があるが、どれどれ。とりあえず美味しそうなパスタを小皿に取って食べてみる

うん?うんうん。美味え。こりゃ美味え。

 

『このパスタ作ったのは・・・エルか!』

『意外だなぁ。マシンガン振り回しているイメージだけど、こりゃ見直したよ。料理も素晴らしい腕だな。いい嫁さんになれるぞ』

冗談を混ぜて言うが、満更でも無さそうだ。

 

「指揮官・・・ありがとうございます・・・」と言って真っ赤な顔を下に向けて、右手の人差し指でツインテールの髪をクルクル回している。どうやら凄く照れている様だ。

うん、めちゃくちゃ可愛いじゃん。

 

これを皮切りに、色々な人形から手料理を勧められるがどれも美味しい。中華に日本料理と普段食べ慣れぬ料理が多いが本当に美味しかった。・・・ここまでは。

 

 

「指揮官様!グラタンを作りました!食べてみて下さい!」G36Cが顔を赤くして視線を外しながら差し出してくる。照れているらしい。

 

どれどれ・・・。うん?

合成チーズは天然ではないが、合成により作られた本物同等の食材だ。

そんなチーズが、あれ?なんか味が違くねえか?

まあ、味が濃いチーズだからか心配になってソースをマカロニと共に掬い口へ運ぶ。そんな訳は無いとの淡い期待を込めて・・・

 

「うっ・・・・」

なんだ?これは?

苦味?エグ味?不快な味が口一杯に広がる。何をどうしたらこうなるのだ?

うっ・・・と体が本能的に飲み込むのを拒否して吐き出そうとするが、俺の理性がそれを止める。だって目の前にG36Cがいるのだ。

涙目になりながら気合いで飲み込む。なんとか精一杯の一口であった。

 

「指揮官・・・様?美味しくありませんでしたか??」不安そうな顔を向けるG36C

 

『いや、うん・・・凄く独創的な味だった・・・』

うん。これ以上なんも言えねえ。

 

「どうしたの指揮官?」と言ってそばに居た56-1式がスプーンをとりグラタンを食べる。

口に含むと同時に顔色が変わり、うえ〜、と吐き出す。

「ちょっと副官、何よこれ」

「食べ物ってレベルじゃ無いわよ」

 

その様子を見て、G36Cの顔が能面の様に変わる。

「何を言っているのですか?56-1式さん?」

「指揮官様は美味しいと言ってくれましたわ」

そういうとG36Cはスプーンで山盛りのグラタンを掬い、俺の方を向き直る。

 

「はい指揮官様!あ〜ん♪」

そう言って俺にスプーンを伸ばしてくる。

これは・・・食うべきか食わざるべきか。どうする?

考えているうちに口の前までスプーンが届き逃げられなくなる。

 

「はい♪指揮官様♪」

あばばば〜

 

優柔不断な態度が悪かったのだろう。たらふく食べる羽目になったのだった。

 

・・・・・・

この翌日から3日、指揮官は激しい腹痛に見舞われて業務を休んだと言う。

これが原因で副官は手料理禁止になったのだが、本人は納得がいっていないらしく事あるごとに料理を作ろうとしたのはまた別の話である。

 

こうしてスペクトラM4の歓迎会は筒がなく終了したのでした。




なんか、G36Cって表向きできる女のイメージがあるのは俺だけか?
キャラ的にはどうなんですかね。自信なさげなところとかあるし出来そうで出来ないみたいな。そんな感じかな。
人によって感じ方は違うと思いますが。
結果、メシマズキャラとなりました。

一方のエルちゃんはメシウマキャラですね。
LWMMGは家庭的なイメージを持っているんですよね。
これも勝手なイメージですが。(笑)


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61.スペクトラと(小隊紹介あり。第三小隊)

第三小隊
【挿絵表示】

HG:ウェルロッド(隊長)
SMG:スペクトラ
RF:OBR
RF:PSG-1
RF:M21

旧本社所属の第11中距離支援小隊のSMGのFMG-9が抜けてしばらく小隊は解散となっていましたが、スペクトラの加入で第三小隊と復帰となりました。
しかし、どう絡ませようか検討中ですね。

陣形効果が悪いのはお約束という事で勘弁です。(笑)

そうUAが7000を超えました。ありがとうございます。
駄作ですが頑張って書きます。ホント、ノープロットで死にそうですが(笑)
今回もまた日常回です。
ゆ、ゆるして・・・。゚(゚´ω`゚)゚。



R-15基地の訓練施設に朝からサブマシンガン人形が集まっていた。

 

「スペクトラ・・・ちょっとアンタ出鱈目じゃない?」

「ほんと、かなりの立体機動ね・・・」

イングラムとPPS-43が呆れ顔でコメントしているのは、回避訓練の施設での事である。

ランダムなポイントからペイント弾で射撃されるのを義体の機動力で回避する訓練施設なのだが、スペクトラが難易度を上げてプレーして見事に回避しきったところだった。

ちなみに、難易度は Normal(ふつう)Hard(難しい)Suicidal(自殺級)Hell of Earth(この世の地獄) となっており以前の反省会からのヘリアントスの悪ノリは徹底されていた。しっかりやりきるところはヘリアンらしいと言えばらしいが。

ちなみに今回スペクトラのやった難易度はSuicidal(自殺級)であった。十分ベテラン兵士を名乗れる難易度だ。

 

「ある程度予測やイメージを持つのと、細かいフェイント入れてエイムの誘導をしていけば楽になるよ」

「私は低ランク人形だからね〜。経験と技能で誤魔化すしかないのよ」

体の排熱を促す冷却液が全身から程よく出て、呼気式の体内追加冷却機能も若干稼働しているが、おどけて軽く話すスペクトラである。

それを見聞きしているイングラム達には驚きしかない。

 

「簡単に言ってくれるけどね・・・。燻銀のテクってやつかね」

「外見はともかく、中身は老獪なお婆ちゃんなんじゃないかしらね」

イングラムとPPS-43は揶揄うようなコメントを返す。

 

「そうそう本当はお婆ちゃんなのじゃよ・・・って誰がお婆ちゃんだ!」

スペクトラのノリツッコミを見て場は笑いに包まれる。

和気藹々と話している人形達はすでに馴染んでいる感じだった。

 

・・・・・

先日の歓迎会でR-15の面々はスペクトラとの懇親を深めたのだが、その席でちょっとした勉強会でも開こうか〜。なんて話になっていた。

通常は小隊ごとに訓練を行うが、銃種別とかで訓練しても面白いかも。なんてノリだったんだが、「スペクトラさんはジャスティン指揮官の下では優秀な人形でしたね」なんてG36Cが言ったため、「あの副官がそう言うなら、ぜひSMG人形で集まって訓練をやろう!」とまとまっていた。

歓迎会の日には翌日にすぐにやろうと決まったが、指揮官がダウンしたため副官のG36Cが抜けられなくなりしばらく延期となっていた。

三日ほどで指揮官も復帰したのでやっとこさ勉強会を開けたのだった

 

・・・・・

 

「でも、指揮官大変だったみたいね」

「ベッドとトイレをひたすら往復する日々だったって」

「ね、ベッドでもずっとお腹を押さえて唸ってたらしいし」

イングラム、PPS-43、スペクトラが休憩中に話題に上げていたのは、歓迎会の後の指揮官の事だった。

 

「指揮官様は、お風邪をひかれて大変でしたわね」

「「「・・・・・・」」」

サラッと風邪であった事を強調するG36Cだが他の3人は呆れ顔だったりジト目だったり驚愕の顔だったりをむけている。

 

「いや・・・副官さぁ・・・マジ?」

イングラムが頬を引き攣らせてコメントするのは、あんなものを食べさせといてよく言ったな。と思ったからだが、しかしそれを正直に口にするのは憚られる。

 

「ドクターロボの診断では原因不明。つまりお腹の風邪との診察でしたわ」

ニッコリ笑顔で返すG36Cは、あの凶悪手料理が原因とは認められないようだった。指揮官様のために愛を込めて作った料理、指揮官様に(G36Cの中では)褒めて頂いた(事になっている)料理。それが原因など微塵も感じられなかった。

他の人形の(毒見機能による)チェックでも"無害"であった。

ちなみに、有害判定は毒物等であるが、無害は一般的に砂や石のように口に入ったとしても即悪くはならない的な判定である。可食可能という判定ではないが、人形の機能では推し測れない高尚な味、という認識でG36Cは押し通した。

端的に言えば1ミリも反省していない。と言う事である。

 

「いやもうホント、指揮官が死なないか心配だよ・・・」

イングラムが呟くがG36Cの耳に届くも意図的にシャットダウンされたようだ。

そんな雑談と共に適当なところで休憩を切り上げ次の訓練に移っていた。

 

・・・・・・

 

「射撃はG36Cがやっぱりすごいね」

射撃訓練ではあの能面半笑いの凶悪エイミングを見せていた。出てくる標的のバイタルパートにのみバシバシライフル弾を叩き込んでいく。人形のカテゴリはSMGだが銃はショートバレルのARであり貫通力の高い高速弾が使用されているため、その戦闘力は凶悪そのものである。

今回はG36Cがあまりやる気なさそうだったので、イングラムが気を利かせて「一位が指揮官にハグをおねだりする」とご褒美をちらつかせたら、アッサリ本性を現したわけだった。

 

「副官さんはすごいね。ジャスティン指揮官のところでは見せなかったよね。その能力」

スペクトラが驚くがそれも無理はない。ほとんど実戦に出ない副官がすごい射撃をやってのけるのだから。

しかし、指揮官への一方的な愛に起因するある意味病気に近いため、ジャスティン指揮官のところでは見る事は無かったのだろう。

 

「高ランク義体の能力を見たって感じ」

「でも、鉄血のハイエンドはこれより凄い攻撃力を出すって言うからね。どうなってんのって思うわよ」

PPS-43はヤレヤレといった感じで両手を挙げる。G36Cの射撃能力で撃たれる事を想像しても地獄なのにこれを超える鉄血のハイエンドに撃たれたら避ける自信もなくなると言うものだ。

 

「次回は、副官の本性を現した射撃のデータをもとに回避訓練やってみようか」

そんな提案をスペクトラからされるが、全身カラフルに染まるだろう事を考えると乗り気にはなれなかった。

 

・・・・・

「スペクトラお婆ちゃんはアタッチメントは何使ってるの?」

「そうじゃのう・・・って、誰がお婆ちゃんだ!」

話題を変えて、イングラムがおちゃらけて振るが、しっかりと乗ってくるスペクトラである。第三小隊のM21とは気が合いそうである。いやキャラ被りで合わないのか?どうだろうか。

 

「私はEOT 516ホロサイトだね。ドットサイトと悩むところだけど矢面に立った立体機動で結構乱暴に使っちゃうからね。照準器へのダメージを考慮してホロサイトかな」

「長期の作戦ではバッテリーの持ちも考えてドットサイトにするときもあるけどね」

 

「やっぱりホロサイトだよね。でも516なんて高級なの支給されてた?うちは506がほとんどで、ごく一部が512だったでしょ」

 

「あー、516は前の職場にいた時、お給料ためて自費で買ったんだよね。自分専用だよ」

頑張って買ったんだぞ!と胸を張って答えるスペクトラだが、「本当は518が欲しかったんだけど、流通してなくて買えなかった」と零して笑う。

 

「自分持ちっていいね。私も何か買おうかね」

「イングラムは本当の専用装備というか銃の改造部品もあるらしいからお給料貯めといたら?」

「・・・・」

イングラムの言葉をまに受けてスペクトラが返すが、どうやらイングラムは散財する口らしく貯めるのは難しそうである。しかも専用装備などと言った特殊な装備品は目玉が飛び出るほど高い。一体どれだけ貯めれば買えるのかなど分かったものではない。

真面目な話、指揮官を誑かして買ってもらった方が早いだろう。しかしそんなことしたら他の人形の嫉妬を全身に受けることとなるだろうから実質無理なのだが。

 

そんなこんなで色々な訓練と情報交換を交えながら第一回SMG勉強会は終了するのだった。

 

・・

・・・

・・・・

 

「そう言えば、G36Cもスペクトラも前はジャスティン指揮官のところだったのよね?どういう事で外に出されるわけ?」

終了後の食事兼懇親会の席でそんな疑問が出た。聞かれたスペクトラとG36Cは互いの顔をみて複雑そうな表情をする。

とは言うものの、隠す事でもない。

「ごめんなさいな。こんなに優秀な二人が出てくるなんて、不思議だったんでね」

イングラムが他意はない事をアピールする。

 

「前は、S地区だったんだけど他基地のフォローが多くてね。単独での実戦は少なかったんだ」

「で、ジャスティン指揮官は人形製造が好きでね。契約書が発行できるだけ手配してたの」

「新しい子が来ると、気に入らない子や弱い子、ミスした子、低ランクな子が放逐されちゃうんだよね」

「私も低ランクだから見捨てられないように頑張って実績残したけど、ついにお払い箱になっちゃった」

「副官さんが出される時は分からないけど、庇えなくてごめんなさい」

 

「・・・・・いえ」

スペクトラの話に、G36Cが軽く返事をする。恐らく同じような理由なのだろう。

 

しかし、そんなやり方でR地区の前線基地でやっていけるのか?

R-14、15基地ともにハイエンドに狙われている。危険な場所である事に変わりは無い。

そんな人的無駄が発生する油断はできるはずもないのだが、流石に指揮官の判断による所なので、これ以上は人形としては出過ぎた考えだった。

 

イングラム達はそうか・・・と言った雰囲気だけど、一つ疑問が残る。

うちの・・・ナイル指揮官は人形製造を依頼しないが、なぜなのだろうか?

 

「それは分かりませんわ。指揮官様には指揮官様のお考えがあるのでしょう」

副官のG36Cが答えるが、G36Cにも分からないようだった。

今度のパーティーで聞いてみようか?そんな話で今日の勉強会は完全にお開きとなったのだった。

 




訓練的な日常を書いてみました。
ナイルさんがガチャら無い理由?それは・・・・
作者の能力の限界を超えるからです(笑)


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62.それぞれの想い

うーん、話を先に進めんとね。
と言うわけで、頑張ってみます。

てか、ゲームの捕獲作戦、ムズイよ〜(泣)
早くもエクスキューショナーは断念しました。合掌。
ハンターはすぐに一回出たが、あっさり取り逃し。
マンティコアは一回でXLゲットでした。が、ハンター取らせてよぉ(泣)


所はR-13前線基地。我らが上司のローズマリー上級指揮官の根城だ。

R-13基地は城下町までできているので、基地機能だけでなく行政機能も有している。

税も徴収できるので、ここからは雪だるま式に街が大きくなっていくのだろう。

指揮官としても楽しいのだろうな〜。

 

ローズマリー上級指揮官は二十歳そこそこの麗しの女子である。

ちなみに外見はロリ体型であり、知らぬものが見ると中学生にしか見えない。俺はこれとシノの嘘のコンボで存在しない妹と間違えてどえらい目に遭った。これは事前にリサーチしなかった俺の責任だとウェルロッドに大分責められたけど酷いと思わない?俺のせいかこれ?

しかし、この娘がまた凶悪でね。追い込み方がドギツイ上にドSですから。40過ぎのオッサンが娘くらいの娘にベッコベコにされてる姿はとても人に見せられませんよ。ほんと。

 

まあそんなR-13基地に合同パーティーの幹事の打ち合わせに来ているわけだ。打ち合わせの横で俺は正座して反省しているんだけどね。(泣)

なんでかって?前回のR-14前線基地での打ち合わせ時に、サブリナがジャスティン指揮官に喧嘩を売った代償ですよ。

ジャスティンの野郎、謝ったのにローズマリーに告げ口しやがったんすよ。

流石に人形のサブリナが勝手にやったとは言えないので、指揮官の俺の愚痴を聞いていてそれを指示と間違えた、という事にした。人形が勝手にとなると下手したら解体処分だからね。致し方なし。

 

と言うわけで、幹事の打ち合わせに同行して自主的に反省の正座をしているわけです。これで全部手打ち、と思えば軽いもんですよ。

なんて考えていたら、ローズマリー上級指揮官が来て絡んでくる。

 

「お前は自分から反省するタマではなかろう?」

「何を考えている?素直に吐け」

そう言って嗜虐的な笑顔で見下ろすと、俺の痺れかけた太腿をブーツでグリグリと踏んでくる。

 

『あいたたたた!勘弁してください。何もありませんよ』

まさかサブリナを庇ってなど言えるわけない。本当に反省しているフリで誤魔化す。

 

「フフッ。まあ良かろう。反省を繰り返し早く真人間になるんだな」

散々踏みつけていたブーツを俺の足から下ろしながら言うが、父親世代のオッサンにやる事じゃないでしょ。ドSにも程がある。

 

打ち合わせしているウェルロッドがこちらをチラチラ見てくるが、大丈夫だよ。任せとけ。

まあ、ウェルロッドはナイルが正座から立ち上がりローズマリー上級指揮官へ抱きつかないか心配していたのであって、ナイルの事は毛ほどにも心配してはいなかったわけだが。

 

R-14基地幹事の97式はナイルの事を興味深く見ていた。

97式は目つきは若干キツめだが、黒髪ツインテールの可愛い人形だ。ランクの高い人形だがそれを鼻にかけず明るくとっつきやすい性格ではあるようだ。サブリナともすぐに仲良しになったと聞いている。

97式が興味深く見ていた理由は、指揮官が正座をして反省し上司にいびられているなんて考えられない姿だから。と言っても97式はジャスティン指揮官しか見た事はないのだが。

これも指揮官というならば・・・人間というものはなんて面白いんだろうか。

(ジャスティン指揮官も・・・こんなふうだったら面白いのに・・・なんてね)

ふと湧いた気持ちを即否定する97式。でも何か変わるんじゃないかという気がしていた。

 

・・・・・・

 

幹事の打ち合わせと言うと、何やら停滞しているようだった。

「うーん、サブリナちゃん、なにか良い余興無いかな?」

そう聞いてくるのは97式である。このような幹事は初めてで慣れぬことからサブリナの意見を聞いている。

頭に手を当てて、参ったと言った顔つきだ。

 

「うーん、うちの基地ではピザの大食い大会だったんだけど、今回は内容的に違う感じだよね」

「何かみんなで勝負とか出来る様にしたら楽しいよね」

サブリナはほっぺに手を当てて考えている。

流石に戦術人形なだけあって、勝負にこだわりたいようだった。

 

『横から悪いが、この前のうちの歓迎会と同じように、手料理大会にしたらどうかね』

悩んでるみたいだったから横槍を入れてみる。まあ、決定権は幹事達だからな。ただの提案だ。

 

「!」

「指揮官、その案いいね!」

頭の上に、ピコンとビックリマークが立ったようだ。

 

「各基地から何人か出てもらって作ってもらって〜、食べ比べとか指揮官達の早食いとかかな」

97式も乗っている。

 

「うん!いろいろ出来るね。それで行こっか」

サブリナ達は手料理大会に決めたようだ。準備とかはこれから詰めていくみたいだ。

 

・・・・・・

(くくくっ。バカが。まんまと俺の作戦に乗りやがったわ)

横で正座中のナイルが顔に出さずに心の中でほくそ笑む。

手料理大会?言葉ほど生ぬるいもので済むと思ったら大間違いやぞ。

あのG36Cを送り出してジャスティンかローズマリーに食わせちゃるわ。

カタに嵌める手立ては考えないといけないが、幹事のサブリナを騙して、もとい言いくるめて確定で食わせる仕組みを作ればいいだけだ。

ジャスティンもローズマリーもいつも俺がやられる気持ちが分かるだろう。

くくくっ。ざまあみろ!

 

・・・・・・

そんなナイルをウェルロッドが眉を顰めてジッと睨む。

(指揮官?またよからぬ事を考えているわね・・・。私が止めないと・・・)

これ以上はお目付役としての評価が回復不可能にまで下落してしまう。

そう、私の使命はナイルの手綱を握る事。好き勝手にやらせるわけにはいかないのだ。

 

・・・・・・

(ふふふっ。手料理大会楽しみだね♪)

(指揮官が食べ過ぎたり不味い料理食べたり、苦しんでいるところを介抱してあげれば指揮官は大喜びだよね〜♪)

(やっぱり指揮官にはサブリナが必要なんだよ。ね!指揮官〜!)

サブリナはとびっきりの笑顔をナイルにむけてウインクしながら手を振る。

ナイルから笑顔が帰ってくるのを見て、自分の考えに確信を得ていた。

 

・・・・・・

(サブリナちゃんと幹事をやって開くパーティー、楽しみだなぁ)

(ジャスティン指揮官もきっと何か変わるはず!そうすればR-14基地もきっと楽しくなるだろう!)

(このパーティーは全力を持って成功させよう!)

97式は強く拳を握り、心を決めるのだった。

 

・・・・・・

 

各々の思いが交錯するパーティーが間も無く開催されようとしていた。

タダでは済まない、マトモには終わらない。いつも以上に地獄の様相のパーティーになるのだろう。

今の打ち合わせは、まさに嵐の前の静けさにすぎなかった。




さあ、ナイルさんの策略が実るのか?
はたまた、サブリナの罠にまた嵌るのか?
ジャスティンはどうなる?
ローズマリーはブチ切れる?

まだ練り途中です。(泣)
頑張ります。(泣)


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63.パーティーの直前

仕事が忙しく手がつけられず遅れてしまいました。すみません。
ワンクッション置かせてください。(泣)
ジャスティンを地獄行きにすべくナイルさんが暗躍していますが、どうなることやら。

局地戦区始まりましたね。結構エネルギー使いますよね。
とりあえず前座は終わってこれからが本ちゃん。またミノがするんだよなぁ。
あいつ嫌いですよ。ほんと。


R-15基地御一行様が数台のヘリに分乗して、ローズマリー上級指揮官のR-13基地に向かう空の上である。

 

今日はR-13,14,15基地合同のR-14基地立ち上げ記念パーティーの日だった。

R-14基地立ち上げ記念は後付けの理由である。ことの発端はR-15のナイル指揮官と転勤してきたR-14のジャスティン指揮官が犬猿の仲なのが原因であるわけで。サブリナの咄嗟の機転?でパーティーを開く事になったので、その後付けがついた。

 

R-15基地の守備はいつも通りの本社基地の多目的活動隊のクリスティーナ指揮官が受けてくれていた。

出てくる前に話を聞いてみたが、R-14基地のジャスティン指揮官の所も本社基地の別の多目的活動隊が守備をしているとの事。そう考えると多目的活動隊って大変だよね。

なんて思って話していたらこんな使い方するのはR地区のうちらくらいだってさ。そりゃそうだろう。こんなに年柄年中パーティー開いているのはうちくらいなもんだ。ほとんど聞いたことがない。

まあ、仕事とはいえ借りを作りっぱなしである。本当にいつかはこの借りを返さなきゃな〜。

 

・・・・・・

俺の搭乗しているヘリはG36C、92式、エル、ウェルロッドと指揮官と副官、隊長陣が乗っている。

サブリナとかの、うるさい人形がいないから静かなもんである。

ただ、幹部がまとまって乗っているから鉄血に撃墜されたらヤバいんだけど、こちらの勢力下で近場なんで大丈夫だろう。まあ本当はそんな油断が危ないんだけどね。

 

しかしこんなにリラックスしてR-13基地へ向かうことができる事などそうそうないだろう。何故かって?今日はパーティーだし、下ごしらえはすでに済んでいるからだ。

 

そう、三日ほど前の話だ。

 

・・

・・・

・・・・

 

夜の司令室にて

 

「指揮官。司令室に呼び出すなんてなんの用かな?」

ドアが開き、お風呂上がりなのか髪が乾き切る前でいい匂いを振り撒くサブリナが、ニッコリ笑顔で私服姿で現れる。

そのまま寝る寝間着であろう可愛らしいスウェット姿だった。

 

私室でも良かったが流石にこんな女の子をコッソリ連れ込んでいるところを他の人形たちに見られたら、あらぬ疑いをかけられてしまうだろう。

まあ、それ以前に俺の貞操も危なくなるからね。むしろ俺の方が危険だったりする。

 

まあ、それは置いておいて、サブリナをソファーに座らせて甘〜いココアを淹れてやる。ついでにモノホンのビスケットを出してやる。

モノホンのビスケットってめちゃくちゃな高級品だ。本物の小麦粉に本物のバター、それに本物の砂糖を使っている訳で。

しかもジャパンのホッカイドー製ときたもんだ。これ一缶で小さな自動車が買えるレベル。もうアホかとバカかと。

もちろん自分で買ったわけではなく、お付き合いのあるドールハウス社の営業の兄ちゃんからの差し入れだ。

副業で定期的にブツを納めているから、その付き合いらしい。こんなものくれるくらいだから相当儲かっているのだろう。

なんかカモにされている気がしなくもない。

 

ああ、今日はよく話が逸れるな。

そんな感じでココアとビスケットをサブリナの前のテーブルにサラッと置く。

 

『まあ、とりあえずココアでも飲め』

キョトンとしたサブリナは出されたビスケットをつまみひょいっと口へ放り込む。

 

「ん〜!このビスケットすごく美味しい〜!」

サブリナは目を見開き驚いている。何気なく食べたビスケットが想像以上に激ウマでびっくりしたようだ。

 

『だろ?とっておきのモノホンのビスケットだぜ!しかもジャパン製』

ニヤリとして言う俺も自分用の合成コーヒーを淹れたカップを持ち、サブリナの対面のソファーへ座る。

そしてコーヒーとビスケットを嗜む。

 

お互い飲み物を飲み一息ついたところで、サブリナが話しかけてくる。

「で〜。指揮官はなんでこんな所にサブリナを呼び出したのかな?」

何を期待しているのか、こちらの心を覗き込むように上目使いで見ている。

 

『変な期待をするなよ。ちょっとした頼み事だよ』

 

「ん〜?頼み事??何かあったかな??」

なんだろ?と、首を傾げて頭の上に?を浮かべた顔をしている。

 

『なーに、大した事はないよ』コーヒーをひと口飲んで続ける。

『今度のパーティーの手料理大会・・・G36Cの手料理をジャスティン指揮官へ食べさせてやりたいんだよね』

 

「え?なんで??なんで副官さんなのかな?かな?」

 

『ああ、G36Cは元はジャスティン指揮官の部下だったからな』

『せっかくのこの機会にその成長を見せてやりたいんだ』

ちょっと遠くを見る仕草でそう伝える。

 

「う〜ん・・・うん!」

「そう言う事なら分かったよ。まかせて。明日97式ちゃんと話してプログラムを修正するよ」

サブリナは笑顔で頷く。納得してくれたようだ。

 

そんなサブリナの頭を撫でてやる

『サブリナ、無理を言ってすまないな。恩に着るよ』

『今日のお願いはサプライズってことで基地の皆には内緒で頼む』

 

「えへへへ・・・指揮官のお願いなら聞いちゃうかな~」

うつむきながら顔を赤くして呟くサブリナ

うん、こう言うところはかわいいじゃん!

 

 

なんて思っていたら、プシューっと言うエアシリンダーの稼働する音と共にドアが開きウェルロッドが入ってくる。

 

「指揮官、ここにいましたか・・・・ん?サブリナ?」

「こんな時間になにやってるんですか?」

明らかに何らかの疑念をもっているような顔で問い詰めてくる。

 

『ああ、先日のR-14のジャスティンのところの件で個別指導の為に呼んだんだ』

『話は済んだから大丈夫だ』

 

「そうですか。第三小隊の今後の件でご相談が・・・」

俺がそちらの話を聞く姿勢に入ったため、サブリナは退室していく。それを横目でチラリと見る。

 

よしよし。準備は完了だな。

ジャスティンは地獄行きのレールに乗ったから後は簡単だ。ゆっくり見ているだけなわけだ。

ざまあ見ろだ。

 

下ごしらえは終わり。俺はパーティーの事は記憶の端へと押しやり目の前のウェルロッドとの会話へと意識を移していった。

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

なんて数日前のことを考えていたらヘリは着陸体勢に入り、さして時間もかからずに無事着陸した。

扉を開けヘリを降りる。うん快晴のいい天気だ。

その一面だけを見れば、今が人類滅亡の瀬戸際だなんて思わないだろう。

 

『よし。気分も良いし今日はパーティーを楽しもう!』

幹部人形達に声をかけて楽しむ気満々の笑顔を見せる。

 

毎度毎度悲惨な目にあっているのに、なんでこんなにも明るい顔ができるのか・・・

幹部人形達は全くもって理解不能であった。




どうやら珍しくサブリナを抱き込んだ模様。
今回は勝てるのか!?
ジャスティンにローズマリーに、そして今回も来るのかヘリアンとペルシカ
どうなることやら、作者もノープロットの地獄です(笑)


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64.嵐の前の静けさ

ミノぉ〜。どうしてお前はミノなんだよ・・・
前回倒せたのに今回また嵌ってます。おかしいな。
シノを手動にしてタゲリセもしてるんだけどなぁ。

あ、そうそう。やっとこさハンターゲットっすよ
残り50位で二回目でゲットできた。よかったよ〜。
二連敗は回避できました。



R-13基地に到着して、すぐにローズマリー上級指揮官に挨拶をしとく。

正直、パーティやるのに関係ないからどうでもいいと思うが、世間一般では駄目らしい。

ローズマリーもそういう礼儀にはうるさいから後々面倒なことになるので、嫌々でもやっとく。

と言っても、今日は客が多いので「あ〜はいはい」と適当にあしらわれてしまったのだが。

 

時間を持て余し気味だったので、基地内を勝手に見学して回ろうとしたら、「お前はトラブルを起こすからダメ」だと!

人のことなんだぞ思ってんだっつーの!(怒)

まあしょうがない。うちの人形達は先に会場へ行っているから俺も合流するかね。

 

R-13基地は大きな基地なので多くの戦術人形とすれ違う。すれ違う度に丁寧に挨拶される。うちの基地の人形達に爪の垢を飲ませてやりたい。

流石ローズマリー上級指揮官だ。教育がしっかりしてやがる。こういうとこ見せられると説教されたときぐうの音も出なくなるよな。

なんて思いながら会場の前までくると、嫌な連中が目に入る。そう、本社広報部とGKTV-4の連中だ。

 

(マジか。うちの基地でパーティやる時は呼ぶとは言ったが、こっちにも出張ってきたのかよ)

人の不幸を楽しむ連中だから追い返した方が絶対にいいと思うのだが、ね。

まあ、自分の管轄する範囲外だからどうにかなるわけでもないので無言で通り過ぎるが、気づいたスタッフから声をかけられる。

 

「あっ!ルース指揮官!お疲れ様です。今日もいい絵をお願いしますよ!」

だってさ。いい絵ってなんだよ。俺にとってよくない絵だろそれ!まったく!

『ああ、残念だが今日は俺のいい絵はないと思うぞ。本当に残念だがね」と返しておく。

バカが。もう下ごしらえは完了済みなのだよ。と心の中でほくそ笑み会場へと入っていった。

 

・・・・・

会場はまるでホテルの披露宴会場の様な部屋であった。

まあ、うちの基地は15人くらいだが、R-13もR-14も30人をゆうに超える人数である。参加者全員で100名を超える規模だ。立食パーティではあるが言うなれば大きめの披露宴の様な感じか。

奥にはグランドピアノが置かれて、家事ロボが演奏を行なっている。

 

(ほえ〜。うちのパーティとはまた違った感じだな)

まあ、しっかりしたパーティである。生中継されることから上級指揮官としての威厳を保つ必要もあるのだろう。御苦労なこった。

 

「ナイル指揮官!」

会場に感心していたら突然呼ばれたので振り返る。

そこには残念美人コンビが居た。ヘリアンにペルシカである。

『どうもお久しぶり、ではないですね。この前の入院以来ですからね』

「撃たれた肩の調子もよさそうだね」

『ええ。お陰様で。立派な改造人間にしていただきありがとうございました!』

「そうかそうか、喜んでくれているようでなによりだよ」

おもいっきり嫌味を言ってやったがさらりとかわしやがった。ペルシカに嫌味の効果は薄いようだ。苦い顔で見ていると気付いたようで、

「キミのお陰でエネルギー兵器に対する治療方法も確立しそうだよ。助かっているんだよ」

まったく。お礼を言うなら金をくれ!だよ。まったくだ!

 

「それはそうと、キミは相変わらずらしいね」

ペルシカが笑いながら話しかけてくるが、何の話かさっぱりわからん。

『何の話ですかね?』

 

「ん?知らないのか?」

「病院生活が気に入らないから、重装部隊を騙して病院を爆破しようとした。と人形たちの間で話題になっているよ」とにやけながらペルシカが伝えてくる。

 

『は?はぁ~??』

『どこで?誰がウワサしてやがるんですか!??』

「人形たちのネット掲示板で。だよ」

そう言ってPDAの掲示板をナイルに見せる。

 

え?てか、フェイクニュースもだが、うちの基地の話題が多すぎやろ。なんじゃこりゃ。

内容も過激だし無茶苦茶過ぎる。

なになに?「R-15基地の副官観察日記」だと?見てみるとG36Cの指揮官への数々のハラスメントの記録が書かれている。

うん。これはウソじゃねーわ。って誰が書いてんだコラ!

 

「これは人形たちしか見れない掲示板だからね。今日は特別だよ。」とペルシカ。

ペルシカは人形屋の技術者だから、書き込みは不可だが覗き見は許可されているらしい。

 

「話題に上るってことは、それだけ好かれて関心があるってことさ」

喜べと言わんばかりだが、冗談じゃない。見世物じゃねーんだよ。まったく。

 

『はぁ、分かりましたし諦めますよ・・・』

ガックリ返事をするが、キミも処世術が身に付いてきたのかな?なんてからかって来る辺り腹が立つわな。くそ。

 

 

そんな感じで話をしていたら、パーティーが始まるようだった。

 

・・・・・・

GKTV-4の画面にサブリナの顔のドアップが映し出される。その後97式のドアップへと変わる。

開会の挨拶をしているのだが、そのドアップ演出はなんなんだよ。気に入っているのか?

テレビ見てる人たちは突然そんなの流されたらビックリしてお茶吹くぞ。

 

まあそんな感じでスタートしたわけだが、うちの人形たちには他基地の人形や指揮官とのコミュニケーションを深めろ。と伝えている。

ゆっくり話が出来るのはこんな機会しかないからな。いざ合同で戦闘となるときなんて、大概最悪の場面だからな。そんなときにお互い知っているか知らないかでは大違いだから。

 

と、言うのは半分建前で、俺へのハラスメントを減らす目的が本音ですよ。

人形たちからのハラスメントを回避する。ジャスティンのバカ野郎を地獄へ落とす。これが今回のミッションっすよ。

ここまでは順調順調。

(あ、ジャスティンのやつ、うちの中華人形に白酒一気飲み強要されちょる。かわいそうに・・・・)

 

スタートからはナイルの作戦が順調に推移している様だ。

歓談がスタートしても指示通り他の基地の人形と楽しんでいる。

G36Cやウェルロッドも歓談に参加している様でナイルの側に寄ってこない。

(なんだよなんだよ。いつも黙っても寄ってくるのに、放置されるとこれはこれで寂しいな)

 

一人ショボンとしているナイルを見て、ヘリアンとペルシカはニヤついている。

まだパーティもスタートしたばかり、この後何がどうなるのか。

まさに嵐の前の静けさとはこの事であろうが、ナイルはその事に気づいていなかった。

 




さて、次はいよいよの手料理大会ですね。
ナイルの作戦通りジャスティンが地獄に落とされるのか?
はたまた別の結末となるのか。乞うご期待か?


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65.いつも通り

いよいよ手料理大会ですが・・・
相変わらずプロットが固まってなくて、遅れてすみません。
ゆっくり気味だけど頑張ります。


パーティーの出だしは今までの事を考えるとまるで鏡のように凪いだ海と形容できるだろう。

何しろ、あのナイル指揮官が寂しくなるほど人形達による絡みがないのだから。

 

「ふふっ、寂しそうだね。ナイル指揮官」

「美人二人を前にして寂しそうにするなんて失礼だと思わないか?」

呼ばれた方向をチラリと見ると、ペルシカがニヤけながら揶揄っているのが分かる。

 

『いやいや。貴方方は取引先の幹部と上司ですから』

そもそも迂闊に絡むと火傷しますからね。貴方達は。

ほんと少しは自覚して欲しい。自身のその凶悪さを。いや分かって言っているのだろうが。

 

そんな感じで困った顔をしていると、ウェルロッドが近づいてきた。

どうも彼女なりに嫌な予感がしたらしい。俺に対して「失礼はしていないか」しきりに聞いてくる。

するわけねーだろが!まったく、俺は子供かっつーの!

 

「しかし指揮官、まもなく余興の手料理大会ですよ。登壇の準備をしてくださいね」

制服の上着を改めて羽織り直すと、ウェルロッドが整えてくれる。

「しっかりして下さいね。R-15の・・・私の指揮官なんですから」

忙しなくナイルの身だしなみを整えるウェルロッドを見て、ペルシカがニヤける。

 

「ふふっ、キミは愛されてるね〜」

ペルシカの冷やかしの声に、ウェルロッドは顔を赤くして反応する。

「指揮官!別に愛してなんてないですからね。勘違いしないでくださいね!」

顔を赤くしながら怒って俺に説教するが、俺関係なくね?まったくもう。

 

ウェルロッドによる身だしなみの整えが終わると同時に指揮官達が呼び出される。

「はーい!これから余興の手料理大会を始めま〜す」サブリナの宣言に

「ローズマリー上級指揮官、ジャスティン指揮官、ナイル指揮官、登壇をお願いします」97式が続ける。

 

ナイルを除いて指揮官が普段見せることのない姿に会場は人形たちの熱気に包まれるのだった。

 

・・・・・・・

指揮官3人が登壇したあと、壇上に三つ設けられたテーブルにそれぞれが着席する。

会場側から向かって左からローズマリー、ジャスティン、ナイルの順番である。単純にR-13,14,15の順番であり特に意味はないようだ。

 

「はーい、指揮官達の準備が整いましたね。それではゲームを説明します」

「指揮官達にはそれぞれ人形の手作り料理を食べてもらいます。早食いで全部食べた指揮官から勝ち抜けで、トップの指揮官の基地は本日のパーティーの支払いは無しです。2位3位の基地で3基地分の料金を払います」

 

突然のサブリナの発表でナイルの目の色が変わる。

(なに!トップは無料だと!?やばっ。俄然やる気が出てきた)

これは激アツだよ。俺が一位を取れば借金が増えない!

・・・ん?あれ?そう言えば何で借金でパーティーやることになってるんだ?

ま、いっか。今更考えてもしょうがない。格言で「勝てば負けない」って言うもんな。

勝てばいいのよ勝てば。

 

「指揮官が食べる手料理は幹事が独断と偏見で決めました。他の方の料理は会場の皆さんに堪能してもらいます」

「3基地の料理好きの手作り料理ですよ〜。きっと美味しいですよ〜。楽しいですよ〜。観客の皆さんも楽しみですよね」97式が会場を煽る。

人形達も仲間の手料理を食べることは無いらしく。ワイガヤで盛り上がっている。

 

なるほどね。指揮官達が食べるものは独断と偏見ね。

・・・バカが。独断と偏見ではなく俺の策略なのだよ。うまくやったようだな、さすがサブリナだ。褒めて遣わそう。

 

今回は被害者になることはないので安心して待っていると、指揮官が食べる料理の作成者が97式により発表される。

「今度は逆から行きましょう。ナイル指揮官には、R-14のグリズリーです。ナイル指揮官のファンとの事で決定しました」

紹介するたびに人形達からパチパチと拍手が鳴る。

「ジャスティン指揮官にはR-15へ移籍したG36Cを選びました。元の指揮官への成長報告も兼ねて、です」

「ローズマリー上級指揮官には・・・なんとロールアウトしたばかりのCF-05です。ローズマリー上級指揮官のR-13への試験配属が決まり本日配属となりました」

"お〜"とR-13基地の皆から歓声が上がり、CF-05へ「よろしくねー」等の声も掛かる。まさかのタイミングでの配属報告で盛り上がっている様だ。

 

騒ぎなど俺にとっていい隠れ蓑だ。ローズマリーは置いといてジャスティンは完全に予定通り。

おっと、ここでニヤける訳にはいかない。ポーカーフェイス、ポーカーフェイスっと。

後は普通に食って、ローズマリーに勝てば俺は無料だ。笑いが止まらん状況だが実際に笑う訳にはいかないので心の中で盛大に笑っておく。

 

間もなく、作った人形達により手料理達が配膳される。

 

・・・・・・

「CF-05さんは火鍋、G36Cさんは特製グラタン、グリズリーさんは日本料理、とのことです」

97式の説明とともに製作者の簡単なコメントも紹介された。俺から端的に紹介しとく。

「配属先の指揮官のために得意の火鍋を作った。辛いものが苦手と聞いていたので甘口に仕上げた」との事、甘口の火鍋ってなんだよ。それ火鍋って言うの?

「ナイル指揮官の為の特製グラタンです。今日は特例中の特例です」すました顔で不機嫌そうに話すG36Cだが、あのグラタンを見るだけで吐き気と震えが起こり、思わず目を逸らす。俺の為と言うが絶対に俺の為になっていない。絶対にだ。

「ナイル指揮官のファンです。今日は一〇〇式に教えてもらった日本料理を作りました」だって。

ん?なんか盛り付けとか雑じゃね?何か嫌な予感がするのでグリズリーを見るが、ニッコリ笑顔だ。うん、あてにならんな。

ついでにチラリと一〇〇式を見ると一瞬目があった後に逸らされ、そして額に手を当ててうつむき加減で首を振っている。

(え?いや、そんなわけないよね・・・。まさかね。盛り付けが悪いだけだよね)

 

「では、早食い競争開始でーす♪」

嫌な予感がよぎった時にちょうど大会開始の合図がかかった。余計な思考を振り解き箸を持ち目の前の和食を口へと運ぶ。

隣のジャスティンもほぼ同時にスプーンを握り、グラタンを口へと運んでいた。

 

『うっ・・・』

「ぐっ・・・」

一口目を食べた瞬間に、仲の悪い二人が全く同じタイミングで苦悶の表情を浮かべ、スプーンと箸を落とす。

 

ば、馬鹿な。何で・・・何で俺の飯が不味いんだよ。

何かの手違いか?そうだよな?正しいものに交換してもらわないと、な。

そう思いアイコンタクトを送る為にサブリナを見た瞬間、俺は察した。

何故かって?それは悪い笑みを浮かべるサブリナがそこに居たからだ。

 

サ、サブリナァ。お前・・・

謀ったな!?

 





まあ、いつも通りですよね。
サブリナちゃんがナイルの言う事を聞くわけがない(笑)
例え超高級ビスケットを奢られても。だ(笑)

うん、社長、ヘリアン、サブリナ、みんな悪い人達だ。


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66.手料理早食い大会(作者コメ付き)

UAが8000を超えました。いつも読んでくれている皆さんありがとうございます。
プロットが尽きて死にそうだけど、頑張ります!

以下、本文と関係ないので飛ばして大丈夫です。少し思いとか書いておきます。
21年11月18日執筆中時点です。

・評価について
まず、評価してくれてありがとうございます。良くも悪くも皆さんの評価として受け止めております。
評価は両極端なので好き嫌い分かれるのかな?と思っております。
ナイルさん、やられ方が酷いですからね。そこかな?

・ナイルさんのやられる程度について
笑えるレベルを超えているとの感想を何度か頂きましたが、まずは感想を頂きありがとうございます。
私も悩んでおりまして。というのも、見方によって変わるのかなと。
"日常"的に考えれば度を越しているし、一般的に考えれても度を越している。
一方、世界観的にはこんなものじゃないか。とも思えるので。
一番は作者の私のブラック労働環境により感覚が麻痺している。との事が大きいのかもしれません(笑)
まあ、嵌められ損はするし、大怪我しても責任を押し付けられるけど、予定調和という事で考えていただければ幸いです。あんまり酷くならないように頑張ります。

・これからについて
マンネリが過ぎると良くないのでゴールに向けて進みたいですね。
最近はパーティーばっかりで良くないですね(笑)
全くプロットは無いですが・・・・マジでどうしたもんか。死にそう(笑)

そんな感じ



まさか、サブリナに裏切られるとは思わなかった。

だって、超高級ビスケットを奢ったんだぜ?ニコニコ食ったんだぜ?笑顔で了承したんだぜ?

そりゃ、俺には余計なことするなとは伝えてはいないが、そこまで言わなきゃ分からんポンコツでもあるまいよ。

くそ~。今ボヤいてもどうにもならん。この場ではサブリナに文句を言う=盛大なる自供となってしまう。

裏で色々企んでいたことが上司のローズマリーにバレてみろ。マジでキツいお仕置きを受けることは確実だ。下手したら比喩抜きで死ぬかもしれん。無理だ、ここはダンマリ一択しかねえ。

くそ~サブリナめ~。覚悟しとけよ!おまえ後で説教だからな!

 

 

そんな感じで心の中で悪態をついているが、料理はふた口目が進まない。

箸で天麩羅なるものを掴んで口へ運ぼうとするが、どうしても手が動かない。プルプル震えるのみで全くだ。恐らく本能が拒否しているのだろう。

 

(えい!ままよ)

目を瞑り震える手を止めて天麩羅モドキを口に突っ込んだ。

口に入れた天麩羅を噛み締めるが、食感も味も最悪だ。

吐き気を抑えながら気合いで飲み込む。

『ぐふっ・・・・』

ほんと、日本人はこんなゲテモノを食う人種だったのか?戦友の日系人は日本食は最高に美味いとしきりにいってたけど、あれは俺をだましていたのか?

(くそ〜、なんかイライラしてきたぞ。)

手招きして料理を作ったグリズリーを呼び寄せる。グリズリーは手招きに気づくと同時にニコニコしながら歩み寄って来る。

 

「ナイル指揮官、どうだった?美味しかったかな?」

グリズリーが来るなり聞いてくる。いかん。先手を取られてしまった。不味い、とは言いにくい雰囲気にされる。

がしかし問わざるを得ない。あまりに酷いんだもんよ。これ。

 

『いや、グリズリーよ。これはなんだ?ん?』

「え?何って日本食だよ。一〇〇式に教えてもらったやつだよ」

ニッコニコで答えるグリズリーだが・・・グリズリーの向こうの、遠くに見える一〇〇式に目を向けると、全力で首をぶんぶんと振っている。"私の料理とは違います!"感を全開でアピールしている様だ。

まあ、そりゃそうだろう。こんな狂った料理のレシピを作る奴がいたらそいつも狂ってるだろう。ありえない。

であれば・・・・

 

『なあグリズリーよ。一応聞いとくが・・・お前・・・・余計なカスタマイズしてないよな?』眉を顰めてジト目で聞く

「うん?余計かどうかは置いとくけど、カスタマイズはしてるよ。当然」"何言ってんだ?"と言った顔つきだ。

『当然??』

「当然だよ。だってアタシ、レーサーだから!」サムズアップして答えるグリズリー

『・・・・・・』

意味がわからない。レーサー?お前レーサーなの?いや、レーサーだとメシが不味くなるんか?脈絡が無さすぎて理解不能だ。

額に手を当ててテーブルに肘を着く俺。頭が痛くなってきた。

『一〇〇式に、レシピの許可は取ったんか?』

「取るわけないじゃない。カスタムはセンスなんだから」"呆れた"と言わんばかりの顔で返すグリズリー。

『・・・・・・』

いやお前、呆れるのはこっちだろ!このカスタマイズはセンスゼロやぞ。マジで。

『分かった、ありがとう』もうこれ以上は俺の気が狂いそうになるからやめとく。こんなにSAN値を削られる会話は初めてだ。

 

『あ、そう。俺のファンとかなんとか。なんでファンなの?』

「え!だってナイル指揮官、やられてもやられても立ち上がって闘うんだもん。かっこいいじゃん!」恥ずかしそうにしながら答えるが、お前それ負け続けと言われている俺の方が恥ずかしいんだけど・・・・

 

もういいよ。ギブだよギブ。どうせローズマリーがサクッと食べて終わりなんだから。やってられっかよ。

なんて考えていたら、想定外の事態が起きていた。

 

・・・・・・

時間は少し前に戻る。

ローズマリー上級指揮官のR-13基地へ配属されたCF-05が、ローズマリーへ今日のお手製火鍋を一生懸命説明している。きっと配属された事が嬉しいのだろう。

「指揮官。辛いのは苦手と聞いていたので、お子様用の甘口火鍋です。大丈夫です」

「うん。ありがとう。食べてみるね」

そう言って、ローズマリーが一口食べる。

 

・・

・・・

・・・・

 

「か、辛〜〜〜い」 。・°°・(>_<)・°°・。

彼女の悲鳴が響く。

ローズマリーは涙を流して耐えているが、その姿を見たCF-05は顔を真っ青にしている。

(え?まさか取り違えた?)

「指揮官、失礼します」

CF-05は味見用のしゃもじを取り、指揮官に配膳した火鍋のスープを掬い、味見をするが・・・全く辛く無かった。

(え、え?これでダメなの??)

自身の間違いない料理で全くダメとは・・・・どうしよう。

(終わった・・・・指揮官の口に全く合わないものを出すなんて、私のキャリアは確実に終わった)

顔を真っ青にして俯いて涙目になっているCF-05は、見ていて気の毒にしか見えなかった。

一方、ローズマリーは"ハヒハヒ"と口で息をしている。まるで酸欠の金魚みたいだ。一生懸命水で口を濯いでいるが効果は薄いようだ。

 

「ギブアップ〜〜〜」 。・°°・(>_<)・°°・。

多少口の痛みが落ち着いたところでローズマリーはアッサリギブアップしていた。

 

・・・・・・

それを見ていたナイルの顔も青くなる。

(おい、まさかサブリナお前、やったんじゃねーだろな?)

(ローズマリーに手を出すのはあかんぞ。マジで俺の命が危険だ)

 

そう心配してサブリナを見ると、手を口に当てて目をパチクリしていた。どうやらサブリナが嵌めたわけでは無かった様だ。

(しかし、嵌めた時とそうじゃない時で全然態度が違うじゃねーか。バレバレだぞ。少しはポーカーフェイス使ってくれよ・・・)

 

何にしても、ローズマリーが最初に脱落してしまったため、残りは俺とジャスティンだけだ。今更サラッとギブアップするわけにはいかない。

ましてや相手はジャスティンだ。負けるわけにはいかない。しかも勝てば飲食代がタダだ。

気合いで勝負に打って出るしかない!

 

降りるに降りられぬことから確実に地獄行きのレールに乗った感がある。

どうせ地獄に行くなら勝利するしかない。毒を食らわば皿まで、だ。

 

・・・・・・

ナイルにメシマズを当てたサブリナだが、実は97式からも依頼を受けていた。

それは強権的なジャスティンが何か変わるきっかけを作りたい。という願いだった。

サブリナの出した答えは、ナイル指揮官にもメシマズを当ててしっちゃかめっちゃかにする作戦だった。

名付けて"雨降らせて地固める。ついでに指揮官とラブラブチュッチュ作戦"である。後半の方がアクセント強くなっている気がするのは気のせいである。

 

(ごめんね、指揮官。97式ちゃんのお願いなら断れないよね)

(今回はサブリナが悪者を演じるしかないかな)

(後でちゃんと謝るね。指揮官)

 

それぞれの思惑が交錯する手料理大会となっていた。

 




パーティーも後数話ですかね。
いつも読みが甘く伸び伸びになりますが(笑)


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67.サブリナと97式プロデュース

お待たせしました。仕事と釣りが忙しくて時間が掛かってしまった。
すみませぬ〜(土下座)

遅くなってしまいましたが、2人の紹介をしとかないとですね。

■グリズリー
R-14基地のジャスティンのところに所属する人形。
戦術人形としての戦闘力は★5なりに素晴らしいが、おバカキャラ。
自動車やバイクの運転が好きで自称"レーサー"を名乗る。何か言い訳を言う時も「私、レーサーだから」でゴリ押す。全く理由にならないのだがゴリ押す。
料理のセンスは壊滅的。レシピ通りに作ればいいのにそのセンスを多分に加える為、必ず壊滅する。
今回のパーティーでその被害の程度が明るみに出たので、今後の手料理作成はジャスティンに禁じられたとの事。本人はレーサーなのであまり気にしていないらしい。

■一〇〇式
R-14基地のジャスティンのところに所属する人形。
ある意味スペック通り。お淑やかで控えめで家庭的。その通りの人形。
目立つ人形ではないが、無茶苦茶な連中が居るので、普通にしているだけで評価がどんどん上がっていっている模様。
ジャスティンによる殺伐とした雰囲気の基地を明るくする大切な人形。
副官の95式と妹の97式とはすごく仲良し。97式の友達であり良き理解者。
ちなみに、戦場に出ると人が変わるらしい。その戦闘力は★5を超えているのでは?とか。


箸を持つナイルの手がプルプルと震え、顔からは脂汗が吹き出る。

気がついたら上着のシャツも汗でジットリしている。

御膳の上の料理は7割以上食べられており、残り少しとなっているがどうもさっきから体に異常が出ている。

おかしい。メシを食うだけでこんなになるなんてどう考えてもおかしい。

味付けが濃いとか薄いとか好みの問題とかでは断じて無い。もはやこれは料理?としか言えない物体を食べ続けているわけで。それが原因としか思えない。

食べたことはないから分からんのだが、恐らくいや必ず和食は正しく作れば美味しいのだろう。

 

あまりの不味さに箸が止まりボーッとしたナイルが前方を寝ぼけたように見ながらふと思う。

(ああ、本当の和食が食べたいなぁ。美味しいんだろうなぁ)

半分おかしくなりかけた頭がこんな思いを弾き出す。

ふと、和食の達人であるらしい一〇〇式を見る。

(一〇〇式の美味しい和食が食べたいなぁ)

ヘラヘラと焦点の定まらないナイルから見つめられた一〇〇式は、涙目で静かに首を振っているだけだった。

一〇〇式はナイルからの何かのクレームの視線と勘違いしていただけなのだが、結果全力拒否されるナイルは少し可哀想ではあった。

 

この手料理早食い大会は進むも地獄引くも地獄。いや正確に述べれば引くのはそんなに地獄ではないはずであるが、金とプライドを守るためにやめられない。貧すれば鈍するとはまさにこの事なのだろう。

鉄血連中との戦闘や作戦においてこんな事では困るのだが、ことパーティーとなるとサブリナ達にいいようにされてしまう。

女性戦術人形達がやり手なのかナイルの弱点なのか。そこはよくわからない。

 

・・・・・・・

「ナイル指揮官!ギブアップ?ギブアップ?」

真顔で97式がナイルの顔を覗き込み両肩を揺すりながら「大丈夫か?」と聞いてくるが、その姿はさながらプロレスの試合で関節技をかけられて苦しむ選手に問いかけるレフェリーの様だ。

白目を剥きかけているジャスティンに同様に問いかけているサブリナもどこか焦りの表情が滲み出ている。

二人ともこのクソ不味い料理達をそんなに気合を入れて食べ進めるとは想定していなかった様で、あまりの悲惨な状況にちょっと焦っているらしかった。

 

ナイルが97式の問いかけにハッと目を覚まして、ギブアップを拒否する。

『まだまだ、だ・・・ウプッ』

「ああ・・・グフっ・・・・死に急ぎのオッサンには負けられねえな・・・・」ジャスティンも瀕死ならまだまだやる気の様子。

二人して料理を嫌々食べ進めるが全く捗っていない。

側から見ている人形達はそんなに食べたくないなら止めればいいのにと思うが、勝負事である以上皆自分の指揮官を応援している。流石に自分の指揮官が負ける姿を見るのは戦術人形として許せるものではない。思い思いに声を張り上げたり打楽器の様に物を叩いたりしている。料理を食べる早食い大会なのにまるでプロレスやボクシングの試合会場のような白熱ぶりである。

 

そんな制御不能な状況に「もう!二人して意地張っちゃって!サブリナは知らないからね!」と頬を膨らませてプイッと横を向くサブリナ。

壇上の解説兼レフェリーのサブリナは食べ進める二人に匙を投げた様だが、そもそも自分達の作戦の読み違えが原因の事故であることに対しては知らぬ存ぜぬを決め込むつもりらしい。

(まったく!誰のせいだよ誰の!)

ナイルがジト目でサブリナを見るが、知らないもーん、を貫き責任は取るつもりはないらしい。

(これ、絶対俺に責任がまわってくるパターンじゃん)食事に追加して苦労が増える現状にウンザリなナイル。

 

舞台下に目を向けると、早食い大会を早々にギブアップしたローズマリーがナイルへと疑いの目を向けている。

ありゃあ、"終わったら分かっているな?"との合図だな。もう分かってんだよ。

(完全にサブリナのとばっちりだよ。また叱られるよ。はぁ〜。)

 

・・・・・・・

ナイルはどんよりした気分で茶碗蒸しなる黄色い何かが固まったカップを手に取り食を進める。カップへスプーンを入れるが黄色い何かはとても硬くてなかなか刺さらない。スプーンで削ったり砕いたりしながら食べ進めるが、案の定食事とは思えないほど不味い。

ひとつくらい美味い料理があってもいいのだが、これはこれで才能なのかもしれない。

 

なんて思っていたら、隣からドサッというかガチャンというかそんな音が聞こえる。

目を向けると、ジャスティンが完全に白目を剥いてテーブルに突っ伏していた。おまけにカニの様に口から泡を吹いている。

食事をみるとあのG36Cのグラタンを半分以上食べていた。

(お前・・・自分の手であのグラタンを半分以上食べるなんてすごいな。尊敬するよ)

心の中で賛辞を送るがグラタンを極力目に入れない様にする。悪いけど視界に入るだけで吐き気を催す。完全にトラウマですよ。

 

サブリナと97式がジャスティンを確認するが、即ドクターストップが告げられる。

R-14の人形達が壇上に駆け上がりジャスティンを介抱するが、状況はかなりヤバそうとの事で担架に載せられて医務室送りとなっていた。

(よっしゃー。最後まで残った俺の勝ちだろ)

スプーンを置いてニコニコしていると、

「ナイル指揮官もギブアップですか?」と97式がニッコリ笑顔で聞いてくる。

『え?最後に残ったから勝ちでしょ?』

「何言ってるの指揮官?最後まで食べ切らないと棄権だよ?それとももう棄権かな?かな?」悪い顔のサブリナが上目遣いで聞いてくる。

『ま、まじで?』もう終わりだと思ってたのに継続?

「まじだよ〜」97式が相変わらずニッコリ伝えてくる。おいおいサブリナに影響されてねーか?これ。

 

『うそ〜ん。(泣)』

思わず半ベソとなったナイルの口から心の声が盛大に漏れていた。

 

・・・・・・・

そこからたっぷり1時間を掛けて食事を食べ切った。

「はい。ナイル指揮官の勝ちでーす。お仕舞いでーす」何故か面白くなさそうにサブリナが投げやりに宣言する。

俺の勝ちがそこまで嫌かよ。全くお前は・・・露骨すぎだろ。

「ナイル指揮官、おめでとうございます!」

座ったままの俺の手を97式が高く上げて勝利を讃えるが、拷問が終わった事が嬉しいよ。

とりあえずグリズリーにはこれからの被害者を減らすためにも一言言っとく。

 

『グリズリー、お前この料理酷いぞ。一〇〇式からきちんと教わってレシピ通りつくれよな』

「ナイル指揮官、ごめんね。今度は正しく作るよ」シュンとした態度で反省している様だが、俺はもうお前の料理は食わんぞ。

 

そう心に決めて席を立とうとしたところで、視界がグニャりと歪み記憶がそこで途切れた。

ダメージが蓄積していた様で多少の遅れをもって限界をこえた様だった。

そのままガシャンと机に突っ伏し気絶するナイルだったが、ギリギリ作戦が成功となったサブリナがそれはそれはニッコニコの笑顔でお姫様抱っこして医務室へと運んだのだった。

 

そんなこんなで、ナイル指揮官の勝利で終わりR-15基地の支払はゼロ。そしてサブリナの指揮官ラブラブチュッチュ作成も成功裏に終了したのだった。

 

この後結局、ナイルとジャスティンは医務室で胃洗浄を受けて、パーティーへ強制復帰させられる羽目になる。

パーティーの途中危棄権は許されないのは伝統となっている様であった。

まだまだパーティーは続くのだった。




パーティーはあと一、二回ですかね。
その後は何をしようか・・・・
ノープランはキツいっす(泣)


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68.大団円??

すみません。プライベートと仕事の忙しさで参っておりました。
遅くなり本当に申し訳ございません。

今回で合同パーティーは完結ですね。
次からどうしようか?すごく悩み中です。
相変わらずノープロット続行中です。死にそう…(笑)
完結するまで続けますよ。


俺とジャスティンは凶悪なマズメシ、いやマズを通り越して有害に近いメシを食い二人してぶっ倒れた。

その様はGKTV-4を通してお茶の間、もとい全社に生中継されたわけだが、誰得なんだか。

しかもこれで解放されるかと思ったら大間違い。医務室で胃洗浄を処置され強制復帰ですよ。どうなってんだって話だけどTVクルーのチーフから「主役が降板とかないでしょ!」と怒られたり。俺は芸人じゃないってーの!

そこまで要求するなら出演料払ってよ。借金で苦しんでるんだからさ。指揮官にも人権はあるだろ!

・・・おっと、心の声で出てしまった。いかんいかん落ち着け俺。

 

・・・・・・

そんなこんな考えて現実逃避しているが、実際は壇上でジャスティンと仲良く並んで正座中。

横には看板が立てられて、『私たちは懇親会にかこつけて、気に入らない相手に嫌がらせを行った馬鹿者です。さらに、気に入らない上司に激辛料理を食べさせて暗殺しようとしました。命を持って償います。』などと書かれている。

しかし危なかった。前半について言い逃れの抵抗を試みたが効果無し。まあそれは本当だから致し方ない。

ところが、後半はなんだよ!完全ないいがかりだし。しかも上司を暗殺とか命を持って償うとか全く持って穏やかでない。

冗談だろ?と思ってたら、ローズマリーの横に立つブルーのドレス姿のスプリングフィールドが何処から持ち出したのかその手に愛銃を持ち無言で弾を込めてボルトを引いてたからな。恐る恐る彼女の顔を見たらまるでゴミでも見る目で見返されるというね。あの時はもう死んだと思ったよ。

まあ、真面目に上司の暗殺など企てたら死刑やむ無しだが、ちょっとしたパーティーの余興でそんな目に合うとは思いませんでした。

まあ、これは火鍋作ったCF-05が全力で否定してくれたから誤解が解けたが、本当に紙一重だった。あそこで否定してくれなかったら、ローズマリーが信じなかったら、俺ら二人はあの時点であの世行きでしたね。

立て看板の文字は誤解が解けたからすぐに取消線を入れといた。早く消しとかないと文面的に気が気じゃない。

全く、だから合同パーティーとか嫌なんだよ!すぐにマジになっちゃう人たちは困りますよ。ほんと。

 

・・・・・・

(なんだよ。懇親会も普段の説教も変わらんじゃないか)

正座しながらナイルがどうでもいい事を考えていると、隣でジャスティンが苦しそうにしているのが目に入る。慣れてない正座が辛い様子である。

 

 

『大丈夫か?ジャスティン。少しずつ足やケツを動かして血行を促進するんだ』

ナイルが小声で助言する。

 

「あ?舐めるなよ!貴様の情けは受けるか!」

怒り気味に返すジャスティン。ナイルに助言される=見下されたと思ったらしい。

 

『そう言うなよ。今となっては正座仲間だろ』

少し笑いながら返すナイル

 

「仲間だと!?冗談は休み休み言え。しかし、なんで貴様は涼しい顔して正座してるんだ」

 

『なんでって、お前・・・・そりゃウチの戦術人形のやりたい放題のとばっちりで叱られて正座させられまくってるからに決まってるだろ。要するに慣れだな。フフッ』

自分で認識しているが改めて口にするとそのバカらしさに思わず笑いが溢れてしまう。

 

「お前・・・頭でも打ったのか?笑ってたがそれの何が楽しいんだ?」

 

『楽しい?いや、お前、楽しいわけないだろ。正座させられて楽しい人間なんて変態だろ?』

 

「言っている事が矛盾してるぞ。ならば何故是正しない?」

 

『何故って・・・そりゃお前、アイツらが楽しんでるからに決まってるだろ』

『戦場に出て戦うのはアイツらだからな、楽しませてやる気出させて働いてもらうのに指揮官の都合なんてどうでもいいだろ?』

『俺らが自分の都合で楽しむなんて下策じゃね?』

 

「なんだと?」

 

『怒るなよ。俺の価値観だよ』

『ただ、ジャスティンも少し人形の気持ちを汲んでやってもいいかもな。慕われてんじゃん、お前』

友達を諭すように声をかけるナイルだが、二人して正座をしていなかったらこんな話をする機会もなかっただろう。

 

「・・・・・・」

今日見たR-15の人形たちは明るく生き生きしていた。他基地の人形と関わることなどほぼ無いので自分の基地の人形との違いが如実に分かった。しかし、早食い競争の時はR-15の人形達とR-14の人形は一緒にワイワイ応援していたところを見ると人形は環境次第で変わるのだろう。

(少し、やり方を変えても良いのかもな・・・)

たく、この死に急ぎのクソオヤジが。もしかしたらいいヤツなのかもしれないな。

 

『なんだよ?にやけて顔で見て。G36Cの手料理で頭までおかしくなったか?』

「ふっ、勘違いするな。貴様を見て笑うかよ」

罵り合う二人が段々とエスカレートしそうになったその時、二人の目の前に背の低い女が立っていた。その少女もとい美人さんは見るからに不機嫌である事が見て取れた。

 

ヤバい!と思ったが時すでに遅し。

「お前たち。反省の言葉の意味が分かっていないのか?うん?」うん?のタイミングで正座したナイルの太腿を踏みつけて体重を載せてグリグリと捻る。痺れている足を容赦なく踏む彼女はきっとドSなのだろう。

 

『あいたたたたた!すみませんすみません!反省してます』とにかく謝るしか無いナイル。

「ひいいいい」ナイルへの無情の暴行を見て思わず悲鳴をあげるジャスティン。ナイル以上にダメージが蓄積しておりやられたらタダじゃ済まない事を認識しているからこそである。

そこを認識しているのか、ローズマリーはつま先でジャスティンの太ももをツンツン突くように何度も蹴飛ばす。これはこれで痺れた足に地味に効く。

「ぐぎぎぎ、おやめ下さい上級指揮官様〜」完全に無条件降伏状態のジャスティン。

 

「反省が足らんな。パーティーが終了するまで正座は継続だな」

その言葉を聞いてげっそりの両名だが、この後終了までたっぷり一時間近く二人が正座をする姿がTVを通してお茶の間に流され続けたという。

 

・・・・・・

GKTV-4の画面に3名の女性が映し出される。パーティーの〆の挨拶だ。

「み、皆さん、3基地合同のパーティーはいかがでしたか?」話すサブリナは何かを気にしてやりづらいように見える。

「う、うん、私たち戦術人形達はすごく楽しかったです」97式の挨拶もサブリナ同様だ。

 

最後にジュニアハイくらいの女の子が挨拶する。

「我がR-13基地と街を管理する上級指揮官のローズマリー・ムーンだ。本日はパーティーに付き合ってもらいありがとう」

そこで形相が嗜虐的に変わる。気持ち下からのカメラのアングルがなおさら凶悪さを引き立たせる。

「しかし、部下のバカどもが悪さをしてみっともないところをお見せした。ひとえに私の管理不足だ。すまない」ペコリと頭を下げるローズマリーだが、続いて後ろで正座させているナイルの方を向き、髪を掴み持ち上げる。

「ほら、面を上げろ。皆様に謝れ。反省の態度を見せなさい」

 

『痛い痛い痛い!髪はダメ・・・です。毛根が・・・毛根が・・・。すみませんすみません。反省しております!』

とにかく謝るしか無いナイル。半ベソのその情けない姿が映し出される。

「ひいいい。申し訳ございません。もうしません!」ナイルの惨状を見て先手で謝るジャスティン。

本日二度目の暴行がお茶の間に流される。

 

「と言うところでご勘弁願いたい」とカメラに振り返ったローズマリーが再びペコリと頭を下げる。

ローズマリーは上手くまとめたつもりだったが、怒っている姿が強調されきっと怖い人、キレキャラとして誤解されることになるのだろう。プライスレスな損をしていると思う。

 

ナイルとジャスティンがローズマリーに絞められる様を見て、ヘリアンとペルシカはご機嫌だったようだ。この二人も大概だと思う。

 

(ごめんね〜指揮官。今回は思いの外大変なことになっちゃったけど、基地に帰ったらサービスするからね♪)

心の中でサブリナが付け加えて本当にお開きとなったのだった。

 

 

・・・・・・・

パーティー開催日から数日後、97式とサブリナが映像通信を行なっていた。パーティーの幹事の反省のまとめを行うためである。

 

「サブリナちゃん、今回の合同パーティーはありがとう。あれから基地の雰囲気も大分変わったよ。本当にありがとう」

「R-14も定期的にパーティー開くことになったんだよ。きっとこれからもっと良くなっていくと思う」

「今度はR-14と15合同でパーティー開こうね。またねサブリナちゃん」笑顔でピースサインを作る97式。

 

映像通信を終わらせたサブリナはご機嫌だった。

R-14基地も結果的に上手くいってよかったよかった。予想以上に上手くいった。本当によかった。

 

結果的にナイルとジャスティン、ローズマリーたち指揮官が損をして合同パーティーは幕を下ろしたのだった。




とりあえず、ジャスティンのところとは和解したようですね。
ローズマリーにいたぶられるのは予定調和となっておりますな。そろそろナイルさんが処刑されるんじゃないかと作者としても心配しております(笑)。
まあ、大丈夫ですけどね(笑)。


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69.中年指揮官と地獄の置き土産

遅くなりすみません。プロットが無くて死にそうです。
今回は昔のフラグ回収回ですね。
回収回なら早く書けるかと思いましたが、無理っすね(笑)
と言うわけで、トラブルメーカーのあの子が登場です。
けど、しっちゃかめっちゃかで今後どうしよう。

ドルフロやっていない人もいると思いますので、wikiの人形紹介のリンクを貼っときます。
キャラ、CV、セリフあたりを見るとイメージが掴めてより楽しめると思います。
https://wikiwiki.jp/dolls-fl/M1911%20MOD



先日の3基地合同パーティーはまあ成功だったと思う。

俺やジャスティンはだいぶ痛い目に遭ったが、まあ戦術人形たちが楽しめたならいいさ。俺は心が広いですからね。

 

なんて考えながら司令室の椅子に座っていたら、目の前のテーブルに無言でガチャっと紅茶のカップが置かれる。ウェルロッドが淹れてくれた美味しい紅茶なのだが、話しかけられることもなく目を合わせられることもなく、どちらかというと嫌悪感が滲み出ている対応だ。

 

パーティーは最後まで上手くいってたのに、ご覧の通りいまのうちの基地は最悪な雰囲気なんですよ。まるで不倫が嫁さんにバレた家の中みたいな。司令室に居るG36C、92式、エルたちもよそよそしい。まあ、ウェルロッドのヤツが塩対応なのははいつも通りだが。

俺は離婚して嫁さんいないのになんでこんな目に遭わなきゃいけないのか。

 

ーー

ーーーー

ーーーーーー

ーーーーーーーー

 

ちょうどパーティの最後の挨拶が終わった頃。

俺とジャスティンの正座命令が解かれて、舞台の上に寝転がり足の痺れを癒していた。そんな油断している時に、いきなり爆弾が投げ込まれる事となる。

会場は片付けをしていたり、パーティの余韻に浸ったり、他基地の人形と親交を深めたり、人形達は思い思いに楽しんでいる様子である。退室した人形はほぼいない。そんな状況で突然の事だった。

 

残念美人ズの片割れが舞台上に上がってくる。そうI.O.P.の技術者のペルシカその人だ。

「ナイル指揮官。相変わらずの良いものを見せてもらったよ」寄ってくるなりニンマリ笑いながら言うところにとめどない悪意を感じる。

 

『なんですかね?いつも通りの内容だと思いますけど』俺が痛ぶられて何がいいのかって話である。床に寝転がったまま半眼の視線を向ける。

 

「キミのパーティに参加した人形や生放送を見た人形のメンタルを解析した結果が出てきていてね」

「色々パラメータを振ってみたところ特徴的な結果が見えてきたんだよね。これをもとに人形のメンタル治療や娯楽の開発などが加速してるんだよね」

「本当に助かったよ」

引き続きニンマリしながら握手を求めてくるペルシカに握手を返す。

 

『お礼を言うならカネをくれ!ですよ』不貞腐れて嫌味を言う俺。まあ、口ではこう言ったけど俺もお礼を言われて悪い気はしない。アイツらの生活が楽しくなるならそれはそれでいい。

 

「まったく・・・キミは何かにつけてカネカネカネだね」やれやれと言った顔とジェスチャーでアピールする

「そういう事を口にし続けるから、金に逃げられるんじゃないのかね?」

 

何言ってやがんでい。金払い悪い人に言われたかねーやい。

『それで、わざわざ壇上まで何しにきたんですかね?』俺は用はないぞ。と言外に不機嫌そうに言う

 

「うん?ああそうだね。・・・うん、カネだよキミにカネを届けに来た。かな」相変わらずのニンマリ顔

 

『カネ?・・・・嘘ですよね』

 

「あれ?分かっちゃったか」

「実は連れてきた新造戦術人形はCF-05だけじゃなくてね」

「キミやそっちのジャスティン君にも、ね。まあ、カネみたいなもんでしょ?」

 

相変わらずのニンマリ顔がすこぶる怪しい。

『・・・拒否は・・・出来るんですかね・・・』

 

「もうすでに貴様らの基地の所属として登録済みだ。拒否は出来ない」

振り向くと残念美人のもう一人、ヘリアンが近寄りながら伝えてくる。

 

いや。そりゃ新造人形を貰えるなんて嬉しいけどさ、ずっとニンマリのペルシカと拒否不可の時点で怪しさ満点なんだけど。

 

『はいはい。引き取りますよ。()()()()()()()()()()をね」

 

その回答を聞いてニンマリの残念美人ズだった。

 

ーーーーーーーーー

 

「また会えましたわね、指揮官様。今日の私、幸せですわ!」はちきれんばかりの笑顔。よっぽど嬉しいのだろう。

またって言うけど誰だっけ?会ったことあったっけ?

 

金髪のミディアムカットで可愛い感じの子、白いシャツに同じデザインのミニスカート。紺を基調としたミニなブレザー。そして特徴なのは星条旗柄のネクタイ。

ん?星条旗?はて、どこかで見たような…

星条旗!そうだ下着だよ!R-14の、ジャスティンの前の今は亡きアクセル指揮官とこのM1911で、だ。(17.春の夜の夢参照)

じゃあ、彼女はM1911?でも大分デザインが違うけど・・・・

 

なんて考えていたら、その子は勢いよく俺のところに飛び込んでくる。

 

『のわっ!』間抜けな声を出して倒れるが、気がついたらマウントポジションを取られていた。

 

「指揮官様!愛しておりますわ♪」

そう言いながら俺の顔に彼女の顔が近づいてくる。

ヤバい!と思い横を向くと、ほっぺたにキスをされる。

 

「ん~、指揮官様横向いちゃダメですわ♪」ちょっと怒った顔をした彼女は俺の顔を両手で挟み、強制的に正面を向かせる。こんな可愛いなりしてパワーは人間を圧倒するので抵抗しても逃れられない。そして彼女はなんの躊躇いもなく唇と唇を重ねる。

「ふふっ、こうするのもお久しぶりですわね」いつも通りの挨拶的なノリだが、俺には突然すぎるしこんなことした記憶も無いし、で意味がわからず固まる。

 

彼女はそんな俺を気にせずに立ち上がると俺に手をさしのべて立たせる。足の痺れもほぼ治っていたためなんとか立ち上がれた。

 

(なんなんだ。なんなんだよ。突然キスされるし記憶に無いし。なんなんだよ。・・・んんん??)

『あのさ・・・キミ・・・スカート、透けてるよ』

『しかも、え?。お尻が見え?え?』指摘していいのか悪いのか、よく分からないけど、体格の割にはボンとしっかりしたお尻が薄らとスカート越しに透ける・・・下着はどうなった??俺は変な飯食って透視能力でも身についたのか???

 

「ウフフ、指揮官様がオシリ大好きだったので透けるスカートにしていただきましたの♪」

「でも安心してください、はいてますよ〜。指揮官様の大好きなフリフリのTバック♪」

 

待て待て、全然安心できねえ。それに俺はそんなこと言ってない。それは俺じゃない!こんなヤバイ所でフェイクニュースを流すのはあかん!

焦っていると側に人が来ている事に気づいた。

 

「ねえ、ナイル。その女はだれ?」眉間に皺を寄せて険しい顔のエル。俺のファーストネーム呼びはヤバイ。

「指揮官!その女、だれかな?かな?」ハイライトが消えた目を真っ赤にして薄らと笑っているサブリナ。マジでヤバイ。

「指揮官様?説明してくれますか?」能面のように無表情のG36C。ひぃぃ、殺される・・・。

 

「皆さんが嫉妬してしまいましたわ。それじゃあ、お布団に行きましょ。ダーリン♪」そう言ってしなだれてくるM1911。目の前の3人を煽る煽る。

もうやめてくれ!そう願う間も無く、3人が俺たちに飛びかかりM1911を引き剥がして揉みくちゃになっている。

 

とにかくヤバイから退室して逃げようとするが、

「指揮官!なに逃げようとしてるんですか!?」92式とウェルロッドに呼び止められ、お怒りの二人に再度正座させられる俺。

 

結局、この後正座のおかわりをたっぷりともらう事になったのだった。

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

 

ひと段落した所でペルシカが説明をしてくれる。

「お察しの通り、キミらに保護されたアクセル指揮官のところの傘ウイルスの亜種を植え付けられたM1911だ」

「治療は困難を極めたが、完治と言えるレベルまで回復したよ。M1911本人の努力も大きかった」

「予後を見守るためにも頼む」頭を下げるペルシカ。

 

(まったく、こう言う時だけはしおらしく頭を下げるからズルい)

『分かりました。しかし、完治と言えるレベル、と言う表現はなんですかね?』

 

「うむ、ウイルスが完全にメンタルと融合してしまい彼女と一体化しているため、だね」

「厳密には感染前の彼女へと戻すことはできない。と言える」

「引き取り手が居なければ、義体は廃棄されメンタルは実験後に消去だろう」

 

(生物で言うところの殺処分か。たく、しょうがねえな)

『全て含めて了解です。引き取りますよ』

 

 

『ところで、カタログのM1911と格好がだいぶ違うと思うのですが』思っていた疑問をぶつけてみる

 

「流石に気がついたか。彼女にはM1911の強化改修案であるMOD3のプロトタイプになってもらった」

「義体の最適化は進んでいなかったが、テストとして特別に実施した。今後経験を積めば本来のスペックが出せるようになるから安心したまえ」

 

『なるほど。・・・あの薄ら透けているスカートは彼女特別ですか・・・』ふと思った事を呟いてしまった。

 

「いや、彼女の好みで決めたのは確かだが、MOD3のコスチュームはあれが正式だよ」

 

『は?』

(バカかよペルシカ。いや、バカと天才は紙一重。天才か?・・・いや、やっぱりバカだろ)

(あれは遊び人のアクセル指揮官にガッツリ調教されて、人形風俗の愛玩人形も裸足で逃げ出すドスケベ戦術人形だから、だろ)

(普通の指揮官がMOD改修に送ってあの格好で帰ってきたらぶっ倒れると思うぞ)

 

「ふふふっ、キミは本当に・・・キミのパーティーを解析したって言ったろ。あの選択もその結果だよ」ニンマリ言うペルシカ

 

『えっ!?俺??俺なの??』

 

「そうだよ。それは本当だ。うむ、やはりキミはすごいよ。天才だね。」

いやいや意味がわからない。天才は貴女でしょうよ。俺なんてただのオッサンですよ。

 

 

そんな訳で最後の置き土産でエライ目にあった訳だった。

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

はあ〜、ウェルロッドが淹れてくれた紅茶は美味いんだけどな。

どーするよこの雰囲気。

 

『あ〜あの・・

腹括って話そうとした所で、司令室のトビラがプシューっと勢いよく開く。

 

「おはようございます!指揮官様♪」

飛び込んで来たのは満面の笑みのM1911だった。

 

「今日は何時にお布団でお待ちしますか?ダーリン♪」

やばいやばいやばい。職場の雰囲気から風紀、俺の貞操まで全てがやばい。

目の前で幹部人形達と盛大に揉めるM1911達を見て頭を抱えるナイル。

 

仕事が全く進まない状況を見て、どうするべきか頭を悩ますナイルだった。

 





乱れた風紀、どうしよう。
ナイルさんの貞操のピンチ、どうしよう。
書いといて悩み中です。(笑)


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70.激動

ジャスティン指揮官と仲良しになってますね。
あと、ゲームにはないけど会社ならあり得るかなと書いてみました。
しかし、プロットがないからきついきつい。遅れに遅れてすみません。



M1911が基地に来てからドタバタ続きだった。結構深刻で流石に業務に支障が出ていたので対応をせざるを得なかったわけだ。

しかし厄介な事にM1911はメンタルへの大きなダメージから、記憶の混濁を起こしていた。故アクセル指揮官の記憶が無く俺に置き換えれているようだった。

これはパーティーの時にペルシカからも説明をうけていた。恐らく自身のメンタルを守るために無意識的に改変しているのだろうとの見解だった。

傘ウイルスを植え付けられたとは言え自分だけ生かされた状況で愛する指揮官を惨殺されたのだ。しかも姿こそ見えないが死んでいく声が聞こえる距離で、である。人間でも狂ってもおかしくない。

傘ウイルス治療の予後を診る為にもメンタルのリセットは行わないとの事で、この心の傷を癒すことも予後確認に含まれているとかなんとか。

俺は医者でもカウンセラーでもねーよ!。と伝えたが、ペルシカから貴方だったら大丈夫!世界一の人形カウンセラーだから。とお墨付きまで寄越しやがった。

全くもって無茶苦茶極まりない。俺は嫁に逃げられ娘からゴミ扱いされるただのオッサンですよ。

 

 

そんな訳で、今日はハンドガン人形達で勉強会を開いてもらうようにウェルロッドと92式にお願いしといた。

ウェルロッド、92式は二人とも隊長でくそがつくほど真面目だからな。ちなみにもう一人のアストラは・・・うん、もちろん彼女も真面目だよ。

まあ、なんだ。真面目な彼女達に丸投げしたとも言うが・・・指揮官の、上司の特権ですよ!と言いたいところだが、やはり指揮官が前面に出るより戦場で肩を並べる先輩の彼女達にうまくとりなしてもらうのがよいだろうとの判断だったわけである。

 

 

裏ではそんな勉強会やってもらっているけど表で俺は共同作戦中です。

 

ーーーーーーーーー

 

「ナイル指揮官、状況はどうか?」

 

『ああ、順調だよ。防衛部隊の配置完了だ」

 

「こちらも準備は完了している」

 

大型モニターの半分にジャスティン指揮官が映し出されている。今日は、共同で廃墟都市の調査を行なっているのだ。

以前、闇市で仕入れた情報であるR-14北方の廃墟の大都市である。

当初はうちの基地でやる予定だったけど、最近では人形共々ジャスティン指揮官のところと仲良くやらせてもらっているので共同でやることとした。まあ、闇市はカネ的な旨味があるからうちだけでやるけどね。こういうカネにならない業務は共同でやって全く問題ない。

 

 

「指揮官!準備は万端です。いつでもご指示を」

大型モニターの半分には第一小隊の隊長代理をやっているイングラムが映し出される。

隊長の92式は裏の勉強会に出ているので、訓練を兼ねてイングラムに隊長をやってもらっているわけだ。

92式が抜けた分は、第二小隊からライフル人形のスカウトに参加してもらっている。機動力もあり中距離支援も可能なため、部隊への相性も良い。

 

『了解した。R-14基地の部隊が偵察ドローンを飛ばすので、周囲の警戒と危険の排除が任務だ。先制する必要はない索敵を優先する様に』

今回はドローンを使用した浸透偵察と呼ばれる方法で探索を進める。鉄血の工場が存在する可能性があるため、直接の行軍はリスクが大きいからである。

 

 

「では、偵察ドローンの飛翔開始」

ジャスティン指揮官の指示と同時にモニターの映像が通信者の顔から、ドローンの偵察映像に切り替わる。

 

「想定より街が大きいな。荒くなるが上空から撮影せよ」

ジャスティンの指示によりドローンが高度を上げていく、それと同時に街の風景が細かくなる。

 

『見えづらいがサッと全景を見ていかないか』

「ああ、そうだな」

意見は一致していることもあり、ジャスティンの指示でざっくり回っていく。

 

「ん?街の中央部、おかしくないか」

ジャスティンがアップにしていくと、街の中央の大きな公園跡に不気味な建物群が見える。おまけに哨戒している兵や整列している兵も居る。

明らかに鉄血の工場らしきものがある事が見て取れる。

 

『これは・・・ビンゴだな』

「ああ、もう十分拡張されているな。うちらだけでは難しいかもな」

『この下級兵士が整列している感じからして、居るだろうな。ハイエンドが・・・』

二人して最悪な状況を目の当たりにしてお通夜モードとなっていた所でイングラムから緊急通信が入る。

 

「指揮官!鉄血の部隊がこちらに向かって来ている。機材を放棄して退避しますよ」

それなりの大部隊が偵察隊の方に向かってきていた。どうも偵察がバレたらしい。

 

『了解した。R-14の偵察ドローン部隊をエスコートするようにな』

「言われるまでもなく」

ドローン中継機材を放棄してR-14基地の人形達をヘリに詰め込み、自身達ももう一台のヘリに乗り込む。

乗り込むと共にヘリは素早く飛び立つ。遠方の鉄血から射撃を受けるが擦りもせず無事撤退を済ますのだった。

正直、もう少し詳細な情報を仕入れたかったが敵に捕捉された為、最後まで第一目的の工場の有無の確認は無事完了したので良しとしよう。

 

ーーーーーーーー

そうそう、偵察部隊の帰任中にジャスティンからお願いされたんだよね。

内容は・・・スペクトラM4を返してほしい。との事だが、

(まあ、彼女も元鞘の方が色々と思い入れもあるだろうしやり易いだろう。ジャスティンも反省しているし大丈夫だろう)

 

『ああ、いいんじゃないかな。戻すよ』

そう言って、スペクトラを司令室に呼ぶ。突然呼ばれた彼女は不思議な顔をしていたが、事情を話すと微妙な顔に変わる。

それはそうだろう。引き取られて来たのに、それ程日をおかず帰れと言われた訳だから。

 

「指揮官・・・私はやはり要らない人形なのでしょうか?」ベテランの彼女と雖も泣きそうになっている。

『いや、そうではない。ジャスティン指揮官が基地から出したのは誤りであった。是非もう一度チャンスが欲しい。との事だったので了承したんだ。他意はない』本当のことを真摯に伝える俺だが・・・・

「指揮官、もういいです!」といい泣きながら出て行ってしまった。

(あれ?これマズくね?)

それ程間をおかずに、怒ったサブリナや第三小隊の面々が司令室に雪崩込み抗議の声を上げる。

流石に猫の子供だってもっと考えて渡すだろう。戦術人形をなんだと思っているのか!と猛抗議である。詰め寄られ揉みくちゃになって、もうこうなったら何を説明しても聞きゃしない。

まあしかし、仲間の猛抗議を見てスペクトラは逆に落ち着いたらしい。元鞘の指揮官の評価も見直されたわけで決して悪い話では無い。

 

「サブリナちゃんにみんな、怒ってくれてありがとう。私は大丈夫。R-14基地に戻るよ」

ようやく笑顔を見せるスペクトラ。

「本当?指揮官に遠慮する必要はないんだよ!」

おいこらサブリナ。お前は遠慮しなさすぎを超えてるわ。もちろん口には出せないが。

 

 

『急にすまんな・・・』服とか髪とか乱れて間抜けな俺が言える事はこれだけだった。

反省して俺はペコリと頭を下げるが、本当に急すぎるよ。と言われてしまった。すまん、反省である。

 

「ナイル指揮官にスペクトラM4、迷惑を掛けてすまない。もう一度やり直させてくれ」

「はい!ジャスティン指揮官、改めてよろしくお願いします。今度は私も遠慮なくやりますよ」

笑顔で話すスペクトラを見て安心する。ドタバタがあったが元鞘で幸せになれるならそれがいいだろう。俺も元鞘で幸せな頃に戻れたらなんて思うが、それはどう考えても無理な話だからな。少し寂しい。

そんなやりとりを見ていて、ふと気づいた。

 

(あ、そう言えば第三小隊の人事なのに、ウェルロッド抜きに決めてもうた。これは怒られる・・・のでは?)

焦るが後の祭りだった。勉強会を終えて帰ってきたウェルロッドにやはりしこたま怒られる事となった。

とは言うが、スペクトラが再評価されてR-14基地へ戻れたことには喜んでいた様だった。

ほどほどの説教で済んで助かった。

 

ーー

ーーーー

ーーーーーー

 

その日の夕方というか夜、残業でG36Cと二人で最後の事務仕事をやっつけている。共同偵察作戦やドタバタ、裏の勉強会の結果報告などあり事務仕事が押していた。

「指揮官様、溜まっているのを処理しますわ」

自分の書類が片付いた所でねっとりとした目で見てくる。

 

『えっ?あ、ああ。書類ね。はい』と溜まった書類を渡す。

いや、本当に危険だからこう言う冗談はやめてほしい。

 

「・・・別の方もいつでもご遠慮なく♪」ナイルの心を読んでか、そっちは本気だと伝える。

・・・・うううっ。やはり二人きりは危険だ。

 

そんな時に、司令室の通信機器に速達の電子指示書が届く。

(助かった。まずは指示書を読んで間を置こう)

そう思い席を立ち指示書を見に行く。

 

『ん?指揮官親展?・・・やけに仰々しいな』

指揮官の本人生体承認を行い指示書を開き閲覧するが、なになにフムフム・・・・

 

========

所属戦術人形の本社登用命令

 

内容:R-15前線基地所属の下記戦術人形を本社登用とする。

対象:第一小隊長92式、第二小隊長LWMMG

期日:一週間後の◯◯日に本社へ出頭のこと

 

G&K代表取締役社長

========

 

おお、うちの優秀な隊長2名も本社登用の出世かぁ。よかったよかった。

・・

・・・

・・・・

って、な訳あるかい!

『バカ言ってんじゃねーぞコラ。うちの基地潰す気か?ああん?』

『あのクソ社長、マジでいっぺん殺したろか!?』

『巫山戯んなよ。急に言われても困るんだよ!』

『しかも主要スタッフを狙い撃ちとか頭おかしいんじゃねーのか?』

 

昼間にスペクトラM4にした対応を棚に上げてキレ散らかすナイルだった。

 




勉強会の一幕のこと
ーー
ーーー
ーーーー

"タンタンタン"とハンドガンの射撃音がシューティングレンジに響く
「え?M1911さんは指揮官様と寝たことあるんですか!?え?いつもですか!」

タンタンタン、撃ち切りカチャリとマガジンを替える。
「え?オッパイだけでなくオシリも好きなんですか!ほう、フリフリのブラとTバックがおすすめと、、、」

タンタンタン
「寝る前のベッドで先に待っているのがいいのですね!」

話に夢中で射撃へのリソースは5%くらいしか使っていないが器用にターゲットへ当てている。
「人前でも人形とベタベタするのが実は好きなんですね。勉強になります!」

ーーーーー
真面目で素直な人形に誤った知識が注入され、結果ナイルが苦労することになるのだった


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71.別れ

遅くなり申し訳ございません。最近は毎度になっておりますが。
今回は新しいパターンを試してみたが・・・これもしんどかった。(笑)

ちなみに今回は、ちょっとアレな表現があります。すまない。



今日は朝から本社へのクレーム付けである。

昨日の夕方の本社からの人事連絡、92式とエルを寄越せとの件についてだ。

 

『・・・と言うわけで、本社は何考えてんですかね。ヘリアンさん!?』

 

うちの隊長を二人持っていくとか、遠回しな指揮官暗殺ですかね?と嫌味を追加しておく。

両隊長を同時に持っていかれたら戦力ガタ落ち、鉄血にすり潰されますわ。

 

「確かに二人の異動連絡が出ているのを確認した」

「これは成績に応じてコンピュータがピックアップするシステムなんだ。貴様の基地の評価が高かったと胸を張っていい」

 

『その説明で納得しろと!?馬鹿にしてるんですか?』

 

さらりと言い放つヘリアンにイラつきを覚え、上官に対する態度とは思えぬ返事をするナイル。

 

「まあ、話は最後まで聞け。確かに貴官の言う様に同時に二名は酷な話だ」

「コンピュータの選定とはいえ訂正して、1名としよう」

 

ふむふむなるほど、一人なら・・・・

いやいやいや、無理無理。うちの基地の規模で隊長一人でもキツイよ。

 

『いやいや、ヘリアンさん、一人でも・・・・』

 

「ナイル指揮官?・・・今回は貴官の嘆願で特別に、本当に特別にだ、一人に変更した分けだがなお指示に従えぬと?」

 

あ、この丁寧だがドぎつい言い方はあかんやつだ。これ以上ゴネると始末されるパターンのやつだ。

素直に了承するしかなかった。

 

「貴様の言いたいこともわかる。補充兵は送る。それで我慢しろ」

「以上だ」

 

 

ーーーーーー

 

と、言うのが朝イチの本社とのやりとりだった。

 

正直参った。指揮官としての俺のミスだ。

R-14,15基地合同の鉄血工場破壊作戦を先に話しておくべきだった。

先に交渉を始めてしまい改めて指示が確定してしまってからでは今更追加の主張は出来ない。さすがに悪手だ。

 

『はぁ〜〜』

 

午後の書類整理のタイミングでAMのやりとりを思い出して、無意識にため息を吐いていた。

司令室ではG36Cとウェルロッドが事務仕事を手伝っていたが、盛大なため息を聞いたところで手を止めて指揮官を注視する。

 

『あー、ごめん。なんでもないから気にしないで続けよっか』

 

「指揮官様、休憩を入れましょう」

G36Cはそう言うとお茶の準備を開始する。

 

「指揮官、そのため息もう5回目ですよ。いい加減悩みがあるなら話してもらわないと困ります」

ウェルロッドが半眼で伝えてくる。

 

うむ、悩んでいる事がバレてら。

 

ーーーーーー

 

ーーーー(かくかくしかじか)で、本社への栄転指示が来ていて、ね』

ナイルは他言は無用とした上で、92式かエルを差し出せとの指示について話す

正直、出したくないし人形達も困るだろうと付け加える。

 

その話を聞いて、本人専用ポッドで淹れた紅茶を喫んでいたウェルロッドが口を開く。

「指揮官、ひとつだけ訂正させていただきますが、本社栄転を人形達はネガティブにとらえておりませんよ」

「もちろん基地から離れる寂しさが無いと言えば嘘となりますが」と付け加える。

 

『えっ。そう・・・なの?』

 

「そうですね指揮官様。ウェルロッドさんの言う通りですわ」

「本社栄転なんて本当に一部の人形しか得られませんから。大変な栄誉ですわ」

お茶の準備がおわったG36Cは俺にマグカップのドリップコーヒーを差し出す。

彼女は取手付きの丸っこいポッドから寸胴の持ち手のない歪なマグカップにお茶を注いでいる。最近はジャパンから取り寄せたグリーンティーにハマっているらしい。

 

『うーむ、そうなのか・・・』

勝手に転勤=迷惑、と決めつけていたわ。それが思い違いであるというなら、恥ずかしい話だ。

 

「それに、指揮官としてもデメリットばかりではありませんよ」

 

『え?』

 

「本社に自身の部下が行くというとは、強いツテやパイプができるわけですから。必然的に本社への発言力も強くなります」

 

『なるほど・・・』と言ってP.38課長代理の事を思い出す。

確かに、本社登用された人形を通してなら意見も通りやすいだろう。

 

 

そうかそうか、人形にとって悪い話ではない。という話には救われたわ。

基地の戦力が大きく減るのは事実だが、幾分肩の荷が降りた。

 

 

「それで・・・指揮官はどちらを選ぶかは決めているご様子ですが?」

ウェルロッドが興味があると言わんばかりに聞いてくる。流石ブックメーカーが盛んな国出身なだけある。紅茶の茶請け代わりという事なのだろう。

 

『あ、ああ。他言に無用だが・・・・・ここはあえてウェルロッドを推そうと思う』

キリッとした顔で言ってやる。まあ、気の利いた冗談ってやつだ。

 

俺の答えを聞いたウェルロッドは一瞬目をパチクリした後に無言で立ち上がり、ゆらりとこちらに近づいてくる。まるで人殺しの様な目で。

 

『あれれ?冗談面白くなかったかな。てへ』とおちゃらけてみても止まる様子はない。やばい。

 

「指揮官?ご自分の立場を分かっているのですか?それともいちいち説明しないと分かりませんか?」

キスをするのでは?くらいの距離に顔を近づけられて脅される。そこらのゴロツキなどションベンちびるレベルの凄みがある。可愛い顔なのにやることがエゲツない。

 

「今までどれだけ社に迷惑かけたのか分かってないのですか?本社情報部からお目付役が張り付く指揮官など貴方くらいですよ」

「今一度、自分の置かれている状況を理解していただきたいです」

 

結局この後お小言をいただいた上で謝罪させられ、正直にゲロさせられるナイルであった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

翌日の朝、司令室に第一小隊とM1911が呼ばれていた。

エルとウェルロッドの両隊長にも集まってもらった。

 

「指揮官、第一小隊全員集合しております」92式が敬礼しながら報告する。

うん、さすがの安定感だ。

 

「おはよう!ダーリン。今日は朝からですか?」ニッコリ顔のM1911

いや、何が朝からだかわかりません。隣の92式さんや隊長たちからの怖い視線を感じてください。お願いします。

とはいうものの、配属当初よりは落ち着いているのでよしとして流す。

 

 

『集まってもらったのは人事連絡のためだ。本日付けでイングラムを第一小隊長に任命する』

 

「ちょっと指揮官、それは・・・」突然の隊長指名にイングラムがまったを掛けるが、

 

『92式は第一小隊から外れ指揮官付きとする。そして三日後に本社所属の戦術人形に異動となる』

『おめでとう!92式。所謂栄転だ。普段からの君の仕事が評価された結果だよ』

『本日から異動の準備をしてくれ、荷物等はG36Cと相談してくれ』

 

「指揮官・・・ありがとうございます」

一瞬微妙な顔をした様に見えたが、良い笑顔を見せる。

他の隊員からも囲まれて祝福の言葉をかけられていた。しばらく落ち着くのを待ってナイルが続ける。

 

『92式が抜けたところへはM1911が入ってもらう。頼むぞ』

 

「任せてください。指揮官様。ナイスチョイスですわ」

ウインクして返すM1911。うん、アイドルみたいでかわいい・・・危ない危ない。この思考は危険だ。頭を振って意識を戻す。

 

『エルとウェルロッドにも色々影響はあると思うがよろしく頼む』

 

イングラムと92式に引き継ぎの指示をして、朝の司令室集合は解散となった。

上手くまとまってよかった。

戦力低下は痛いが、ジャスティンのところとの共同作戦に支障が出ない様にイングラムには頑張ってもらおう。

 

ーーーーーー

 

92式の異動を翌日に控えた夜、ナイルの個室。

 

"コンコン"とドアのノックが聞こえた。

はて?誰じゃろか?

ドアを開けると、92式が立っていた。

 

「指揮官様、異動のご挨拶に来ました」そう言うが、どこか悲しげな、切羽詰まった雰囲気を醸し出している。

配属も変わる事で色々心配なのだろう。話しくらい聞こうじゃないか。

 

『立ち話もなんだし、入りなよ』

と言っても指揮官の個室は狭い。ベッドと机と少しのスペース。それにトイレ付きユニットバスくらい。対戦前の狭めのビジネスホテルの部屋、そんな感じである。

92式を椅子に座らせて、ナイルは電気ポッドからお湯を汲みココアを淹れる。

 

『ほれ、ココアだ。甘いものを飲めば落ち着くぞ』

テーブルにココアを置き、俺はベッドをソファー代わりに腰掛ける。

ココアをひと口飲んだ92式にいつもの笑顔が戻る。よかった。

 

「指揮官様、配属されてから今までに色々ありましたね」

 

『うん、ああ。そうだな』

 

「初対面の時は泣いているG36Cと焦る指揮官がいてビックリしましたよ」

 

『それは言ってくれるな。ほんと想定外だったんだよ」

 

「本社の訓練を終えて小隊長に任命してくれた時は嬉しかったですよ」

 

『実力と性格と伸び代で決めた。今はもっと実力があると思っている。時間とウチに余裕が有れば中隊規模の指揮訓練もしたかったんだが』

 

「そこまで買ってくれてたんですね。ありがとうございます」

 

『君の実力を正しく評価しただけだよ』

 

この後も色々な思い出話に花を咲かせる二人、サブリナのパーティーのこと、副業のこと、スケアクロウ襲撃のこと、逮捕やウェルロッドとの悶着、話せばキリが無かった。一つ一つのエピソードに喜怒哀楽を表す92式をナイルは暖かく見守っていた。初期からのメンバーはナイルの職歴とほぼ同じなのだから。

 

思い出話が尽きた頃、92式が立ち上がりナイルの横にちょこんと座り直す。

 

「でも・・・心残りがあります・・・」

 

そう言うと92式はナイルをベッドに押し倒す。突然の事に悲鳴も出なかったナイル。

覆いかぶさる形の92式がナイルの胸に顔を押し付け泣いていた。

 

「この基地で働いていた、指揮官様に愛されていた証が欲しいです・・・お願いです」

胸で泣く彼女は消え入りそうな儚そうな女の子だった。

 

戦術人形ってなんなのかな。あんなに勇敢に強く戦っても中身は女の子そのものじゃないか。

自身の気持ちを隠し偽り、誰にも明かせず戦場で散っていくなんてあんまりじゃないか。

 

胸で泣く92式を抱きしめようと両腕を上げて彼女の背に回すが、背中で手が止まる。

指揮官である以上感情に任せてやっていい事ではない。

上官が部下に手をつけるなどナンセンスである。ナイルは昔からそう考えていた。

軍隊の実動部隊は男社会だからその様な機会は少ないのだが、補給や輸送と言った支援部隊や作戦部等の指揮系部隊は女性隊員も多い。それら部隊の風紀の悪いところはあまり良い仕事はしなかった。どうしても公私の甘さに繋がるからだ。

 

今回はどうだろうか、部隊を去る優秀な彼女たってのお願い。最後の思い出。これは馴れ合いとは違うだろう。

据え膳食わぬは、とも言うし、何よりここまでした彼女に恥はかかせられないだろう。

 

『・・・・・・』

ナイルは無言で92式を優しく抱きしめていた。

 

ーーーーーー

 

この日のナイルの個室は、いつもより遅くまで明かりが灯っていたとの記録が残っている。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「では、指揮官様、お世話になりました。落ち着いたら連絡入れますね」

92式は笑顔で簡潔に挨拶する。うん、元気そうだし大丈夫だろう。

 

『うむ、92式も達者でな』

 

早朝のヘリポートで迎えのヘリに乗り込む92式。快晴の空は旅立ち日和だろう。

基地の人形の皆も見送りに集合してきており、それぞれが挨拶や握手をしている。

名残り惜しくもヘリの出発時間となり、迎えのヘリはエンジンを吹かしローター回転を上げていく。送りに来た者達を嬲るように人工の嵐が発生し、それが最高潮に達した時にヘリがふわりと浮かび飛び去っていった。吹き荒れていた嵐も飛び去った92式と共に止み、まるで基地が寂しくなる事を表しているようでナイルもどこか寂しい気持ちになる。

 

(案外、依存していたのは俺の方なのかもな)

妻に逃げられ子に嫌われ、そんな心の隙間を知らず知らず埋めていたのかもしれない。

たた、ここで気づけたのはよかった。指揮官が兵に依存しているなど話にならない。今一度自分を見直そう。

 

飛び去ったヘリが見えなくなるまで皆で見送っていたのだった。

 




92式は基地を離れますが、色々やってもらう予定。
おかしいな。もうゴールしてもいいよね?って思ってるのに、ゴール出来ねえ(泣)。


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72.戦いの準備

お疲れ様です。やっとこさで拵えました。
もうね、ほっといたら絶対ゴールしないから強引に行きますわ。
ハードランディングさせますぞ。(笑)

ーーーーーーーー
アニメ始まりましたね。
まあ、多少残念なところもあるが関係ない!
アニメでキャラが動くところが見れたらわしゃ満足じゃ。



荒野を走行していた一台の電動バギーが停止する。

 

「皆、着いたよ」

「ブリーフィング通り展開」

そう声を掛けたのは第一小隊長のイングラムである。

隊長の指示により、小隊員は素早く降車して周囲を警戒する。FNCがチョコ棒を咥えているのはいつも通りの光景である。

 

「異常なし。鉄血の姿は見えないよ」

56-1式がリラックスした感じで索敵結果を報告する。

 

「こちらもクリアですわ」

M1911も特に異常がない旨を伝える。相変わらずのスケスケスカートにアイドルの様な格好である。男性指揮官を喜ばす以外なんの意味があるのか?とイングラムは思うがそれは口にしない方が良いと飲み込んでいる。

 

「居ないわね」

端的に伝えるのは桃色髪のPPS-43である。普段はクールな彼女だが、指揮官にハグされた時の照れた彼女が素だとイングラムは確信している。

 

「了解。それでは予定通り作業開始!」

イングラムの指示を受けて、FNCと56-1式がバギーに銃を置き、スコップを持ち穴を掘り始めたのだった。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「え?建築工事をしろ?ですか?」

イングラムがナイル指揮官の指示を聞いて思わず聞き返す。

 

『ああ、色々あってね。詳細を話すと、ペルシカさんに鉄血ハイエンド対策を相談してたのよ』

『連中、ジャミングを仕掛けてくるだろ?あれをなんとかしないといけなくてさ』

『その対策が出来たから、その設備を仕掛けるのさ』

『工事の資材と仕様書も来ている。事前に確認しといてくれ』

 

まあ、建築工事は大袈裟だけど、ちょっとした作業を訓練がてらやって欲しいとの事だ。

「分かりましたよ。訓練ついでにやっときますよ」

 

そんなやりとりが数日前にあったわけだ。

 

ちなみに、ジャミングの検知対策は直ぐに行われた。R-14基地の知らぬ間の陥落もありそれは早かった。

難しい話ではなく、通信で互いの基地に「ピンポン」するだけ、である。

数分おきに相手先にピンを送り、受けた相手がポンを返す。どちらかが途絶えればなんらかの障害が発生していると分かる仕組みである。これを複数の基地間でネットワーク化して多重化する事で検知の信頼性を確保している。

 

しかし、これはあくまでパッシブな対策でしかない。

ジャミングをかけられて初めて分かるので、救助の準備して一時間後に駆けつけたらもう潰されてました。なんて事がある。それでも何日も分からず放置されるよりマシな訳だが。

ここ最近、S地区で複数のハイエンドが共同して多数の基地を襲撃しており、多くの基地と指揮官が駆けつける間も無く短時間で潰されていた。

大規模な攻勢に冷や水を浴びせられた格好だ。

 

そんな事情もありアクティブに鉄血進行を検知するのとジャミングを破るシステムの開発が急がれ、それが出来上がった。

重点地区のS地区と鉄血の襲撃を受けたR-14、15とそれを管轄するR-13に先行して導入されたと言う訳だ。

 

ーーー

ーーーーー

ーーーーーーー

 

「こんくらいでいいかな?」

56-1式とFNCがあっという間に2m程の穴を掘る。スコップによる作業と雖も侮るなかれ、戦術人形による作業は凄まじい。特にパワーのあるMG人形やSG人形、パワー寄りのAR人形の作業能率は小型重機を凌駕する程だ。

ものの10分程で基礎工事位の穴が掘られた。

 

「オッケーだね。じゃあ、コンクリブロックを穴の底に設置して」

イングラムが56-1式とFNCに指示を出すが・・・

 

「え〜〜〜。また私たち〜。ずるいよ〜」と駄々をこね始める。

 

「ワガママ言わないでやるの!」

 

「だってぇ〜〜〜」

 

「分かったよ。終わったら皆で56-1式とFNCにお茶を奢る。それでいいでしょ」

「でも仕事なんだから、ワガママはこれっきりよ」

 

「やった〜!じゃあ、さっさと終わらせて帰ろう」

 

やれやれと言った感じのイングラムだが、色々考えなきゃならない隊長の役割に疲れが湧く。

(92式隊長も大変だったのかね。もう少し早くから考えておけばよかったかな)

 

ーーーーーーー

 

コンクリブロックを入れて支柱を立てる。即硬性セメントを流し込み土を埋め戻す。

地上から出た支柱に設備とソーラーパネルを取り付けて配線を終わらせて完了!

ちょっとした椰子の木みたいな外観である。

 

「隊長〜。結局、これってなんなの?」

FNCが首を傾げて問いかける。何を作っているのか知らずにやらされていた様だ。

 

「ああ、説明してなかったね」

「仕様書によると、簡易式レーダー基地、だってさ」

 

「れーだーきち?」

不思議そうな顔をするFNCの問いかけにイングラムがうなづいて答える。

 

大型のレーダー基地の機能をガッツリ絞り、近くを通る鉄血人形を検知する事ができることに特化させている。

ついでに、無線通信とレーザー通信機能が付いている。

レーザー通信はジャミングの影響を受けないため、基地からの通信をレーザー通信として中継しここから無線通信を行う。

簡易レーダー基地はR-15基地の八方に配置され侵入する鉄血の検知と通信の確保を同時に行う。これにより鉄血の進行の早期発見とジャミング無効化を狙う訳である。

簡易式なので電源はエナジーセルだがソーラーパネルを併用することで三ヶ月程度はメンテフリーである。まあ、エナジーセルは鉄血人形部品取りの副業でいくらでも手に入るから、費用はさして問題にもならない。

便利なものである。

 

「立ち上げ・・・・無事完了!」

スイッチを入れてソフトが問題なく立ち上がることをPPS-43が確認する。

 

「通信チェック。・・・テス、テス、聞こえますか」

 

「聞こえますわ。クリアですわ」

 

PPS-43の発信に副官のG36Cから返事が返ってくる。問題無い様だ。

G36C側でも人形の探知機能を確認する。

グリフィン人形が5体、誰かは分からないが第一小隊分が検知されている。

 

「人形の認識も完璧です。調整確認完了ですわ」

 

「了解」

PPS-43が確認作業完了の連絡を受け返事をしてオールオッケーとなった。

 

「じゃあ、最後に偽装網を掛けて終了」

 

注意してみなければ植物にしか見えない状態にして完了となった。

小隊の全員がバギーに乗り帰任する。

 

・・・・・

 

「ハイエンドとの戦いは終わるどころかまだまだ続く・・・って事かね。指揮官・・・」

帰りのバギーの上でイングラムは一人呟いていた。

 

ーーーーーーーー

 

一方その頃。

 

基地の応接室に居る3人

ナイルとその横に立つウェルロッド、それに向かう様に立つひとりの人形。

 

薄ピンクの髪をポニーテールにまとめた儚そうな顔。

髪と同じようなカラーのキャップに化繊のコート、インナーは黒のトップスに赤のパンツ。トップスに収まるボディは豊満である。

 

「本日付でR-15基地配属となりました戦術人形、AR-57で……って、なんでそんなに離れて立ってるの?何もしたりしないのに……」

 

今日配属された彼女は新造の人形との話だった。

ただね・・・目つきがヤバいぞこいつ。ってなもんで思わず距離をとっていたら、そこを目ざとく指摘された。

 

『いやいや、別に他意はないよ。AR-57、これからよろしく頼む』

 

「目つきが悪い、雰囲気が怖いと思っているんでしょう?」

 

『いや、1mmも思っていませんよ』

うん当たり。けどとりあえずウソをつくしか無い。

 

「嘘だっ!指揮官は私のこと信じてないんだ!」

絶叫してポロポロ涙を流してパニックになるAR-57。新任の顔合わせ早々無茶苦茶だ。

 

この後慰めたりなんだして少し落ち着いたところでウェルロッドに全部押しつけた。

第三小隊に配属させる予定だったからちょうどよかった。

そう言うことにしとく。

 

 

・・・・・

 

『で、どういう事ですか?』

映像通信先のヘリアンさんを問い詰める俺。

いきなりあんな人形を送ってきた上司にクレームをつけているところだ。

 

『どういうメンタルの人形送ってきてるんですか!おかしいでしょう』

 

「うむ、元々の性格もあるが、少し感情的な個性になってしまってね」

「合格範囲ではあったので納品された訳だが、なかなか配属先がきまらなくてね」

 

なかなか決まらなくてね、じゃねーわ。新造じゃなくて新古の売れ残りやないかい!

涼しい顔で解説するヘリアンがなおさら腹立たしい。

しかも個性を与えるにしても限度ってもんがあるだろ?

目つきの悪い個性を与えるとか、ペルシカも何考えてんだ?

その製品企画は流石にクレイジーすぎるだろうが。I.O.P.の開発者は頭のネジ外れてんじゃねーのか?

おっといけない、考えが明後日の方に飛びそうになるのを抑えて会話を続ける。

 

『ほお。で、なんで配属がうちなんですかねえ」

ジト目で聞いてやろうじゃ無いか。え。

 

「うむ、優秀な貴様なら使いこなせると信じているだけだ」

あいも変わらず涼しい顔である。

 

言葉で褒められても嬉しくありません。

『優秀なんですか?じゃあ、報酬をもっと上げてもらえますね?』

 

「うん?仕事は出来るが迷惑も人一倍だろう?正しく評価したら減給となるが?どうする?」

ニヤリと笑みを浮かべるヘリアントス。

 

(ああ言えばこう言うかよ!殺したろか?あーん?)

 

『どうせ何言っても無駄なんでしょ!多少の便宜くらい期待してますよ』

もう、ストレートに言ってやるわ。

 

「ふっ。言うようになったな。資材を即日追加で送ろう。それで我慢しとけ」

ナイルのPDAに着信があり、少なくない資材が送られるインボイスが届いていた。

 

『分かりました』

ナイルの了解の返事を聞いたヘリアンは微笑を浮かべてすぐに通信を切った。

 

 

ふうー。応接室のソファーに腰を下ろして一息つく。

92式の転勤の上に、M1911とAR-57の問題児たちの転入と。基地運営は苦しくなる一方だ。

鉄血の工場攻略とこれから忙しくなるのに・・・なんとかしなければ。

 




スペクトラM4さんの移籍の関係でAR-57さんを加入させてみました。


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73.ウェルロッドの憂鬱

うーん、とっ散らかった。
結構時間が掛かりました。こんな話、どうだろうか。



ある日の夜、指揮官や当直当番以外の戦術人形が晩御飯を終えて寛いでいる頃、ウェルロッドは基地の研究棟で一人残業をこなしていた。

 

「は〜〜・・・。私は一体何をやっているんだろう」

 

分析用の機器に囲まれて目の前の機械に向き合っているが、なかなか作業は捗っていない。思わず自身が置かれている状況にボヤキが出てしまう。

計測に用いていたテスターを作業机の上に投げるように置き、作業椅子から立ち上がり伸びをする。

 

「う〜〜〜ん」

「は〜〜、疲れた・・・お風呂入って、紅茶を飲んで寝よう」

伸びをした後に思わず再びため息が漏れる

 

もう晩御飯を食べる気も起きない。さっさと寝る準備をしてゆっくりする事とする。

明日の朝もいつも通りの業務があるのだ。疲れが残ると日々の仕事にも影響が出てしまうのでそれは良くない。

作業部屋の電気を消して宿舎へとトボトボと歩いていく。いつものウェルロッドらしく無い姿であった。

 

 

一体何があったのか? 事の発端は数日前に遡る。

 

──

────

──────

────────

 

司令室に簡易レーダー基地からの通知が届き、確認兼脅威の排除として出動した第二小隊のエル達から連絡があった。

「指揮官、鉄血兵を確認しました。敵は・・・・」

 

『なに! ついに来たか!!』

ナイルは司令室の机を叩き、ガバッと立ち上がる。

その報告を聞き、興奮を抑えられなかったようだ。

 

カタログで見て興味深かったアイツ。そう、ドラグーンですよ。

鉄血兵の中でも独特なやつ。二足歩行のバイク型機動兵器に鉄血兵が搭乗して操縦している。

バイク型機動兵器には連装機関銃が搭載され、機動力・火力とも侮れない性能を持っている。

 

「サブリナ牽制をお願いします。62式は周りのヴェスピドとリッパーの始末を」

 

「任せてよ! ショーの始まりだよー」

「了解! 直ぐに片付けられる筈だよ」

サブリナと62式が素早く動き先制攻撃を行う。62式の弾幕を受けて鉄血兵が次々にガラクタへと変わる。

 

一方で、3体のドラグーンの前にサブリナが立ちはだかり攻撃を引き受ける。連装機関銃の弾丸は斜めに構えた盾に弾かれて有効弾にはなっていない。

さらにエルのマシンガンによる指切りセミオートによる牽制射撃でドラグーンの足をとめていく。

攻守共に釘付けにされたドラグーンは本来の性能をまるで出せておらず、不利な戦いを強いられていた。

 

「スカウト、アストラ、始末してください」

 

「トレフォイル。余裕かしら」

「任せて〜!」

少し離れた狙撃ポジションに陣取っていた二人。スポッターのアストラの情報を元にスカウトが狙撃を行う。

スタンディングの狙撃姿勢からの射撃でドラグーンの搭乗兵の頭部を綺麗に撃ち抜く。

搭乗兵が狙撃に気付き、顔を向けるがそこまでだった。素早くボルトハンドルを操作して3発連続でヘッドショットを決めて始末する。

 

見事な連携であっという間に戦闘は終了した。

 

「では帰投します。指揮官の要望通りドラグーンの搭乗員と機動兵器を持ち帰ります」

もう一台バギーを呼び、予定通り荷物を回収して滞りなく任務を完了した。

 

──────────

 

『エルに第二小隊の皆、ご苦労だった。とりあえず楽にしてくれ』

そう言うと、第二小隊の面々は司令室のソファーに座ったりしてくつろぐ。

 

ウヒョー、ついに手に入りましたよ。

あの機動兵器は上手くやれば高く売れそうじゃない? 

機動兵器として流用してもいいし、武器外して乗り物として売ってもいいし、で、ドールハウスを通さなくても行けそうじゃん! うまく売りに出せばボロ儲け出来る臭いがする。

元手は弾薬と配給のみで、売値は高く行けそうだしで、ドラグーンの可能性は無限大ですよ。これは夢が膨らみますな。

 

と言うわけで、搭乗員はいつも通りメンテナンスルームの調整室に送り、機動兵器は研究棟の分析室へ送っている。これは機動兵器は純粋にマシンだからだ。自立人形とは扱いが異なるからである。

 

しかし、この機動兵器にはセキュリティがかかっており鉄血兵でなければ動かせない。

なんらかの工夫を行わないと全く役に立たない。そのままでは中古人形会社のドールハウス社にゴミとして引き取ってもらうくらいしかない。

だからなんとしてもセキュリティを破らなければならないのだ。

 

(ふっ、バカめ。俺には作戦があるのだよ)

そう心の中でほくそ笑むと、ナイルは司令室に詰めていたウェルロッドの後ろに移動して、ウェルロッドの肩を揉む。

『ウェルロッドちゃ〜ん♪』

 

「ちょ、ちょっと・・・」

ウェルロッドが急なセクハラに抗議の声をあげようとするがそれをナイルが制す。

 

『あの機動兵器のセキュリティを破ってくれないかな♪』

サラッと、とんでもないことを言い出すナイル指揮官。

 

「はぁ? 私、システムエンジニアじゃないんですけど!」

どう考えても戦術人形に依頼する仕事じゃない。無茶振りも甚だしい。

 

『え? ウェルロッドは電子戦得意でしょ。なんとか行けるっしょ』

 

ウェルロッドは"む〜"と怒った顔をするが、『ねっ、お願い♪』とナイル指揮官はしつこくお願いしてくる。

 

「はぁ〜。分かりましたよ。どうせ何がなんでもお願いしてくるんでしよ」

「それに・・・指揮官がそんなにお願いするなら・・・しょうがないですね」

顔を赤くして照れているようだ。どうやら押しに弱く頼られるのが嬉しい性格らしかった。

 

「でも、無茶なお願いなんだからお礼は弾んでもらいますよ」

 

『おう。()()()()()()()()()!』

 

「約束ですよ。楽しみにしてますからね!」

しょうがない人だと諦め顔に笑顔を混ぜた、いつもは見せない顔のウェルロッドだった。

 

 

────────

──────

────

──

 

と言うのが数日前の話で、それからウェルロッドは通常業務後に残業に勤しむ事となるのだが、この時はそこまで大変とは思っていなかった。

 

研究棟へ運び込まれたブツを前に方針を決める。

最終的に機関銃は取り外すことは決まっているが、まずは起動できないと話にならない。まずは起動して自由に動かせるところまで進めよう。

そう決めてドラグーンの乗り物に乗り、早速起動を試みる。もちろんX線透過装置で爆発物など有害なものが無いことは確認済みである。

 

(スターターはこれかしら? ・・・えい!)

ポチッと押すが、ディスプレーには起動不可のエラーメッセージが出る。

 

「やっぱりそうよね。セキュリティくらいあるわよね」

となると、ソフトをいじるか、制御ハードまで変えるか・・・。しかし流石に中身の全交換は無理だ。動作モーションとか含めて全部やり直しで製品開発レベルになるからだ。であれば、鉄血の制御をベースに人間やグリフィン人形が使えるようにカスタムする形が落とし所だろう。

しかし、制御ハード設計など専門外どころか素人同然。ソフト改良だけでなんとか出来ればいいが・・・・

そんなふうに考えながら、X線透過画像を元に外装を分解していき制御部を露出させる。

 

「うわ・・・・・これは・・・」

中身を見たウェルロッドが顔を顰める。

鉄血オリジナルの基盤類と配線の山が露わになり、一筋縄じゃいかないことを思い知らされる。一際大きい演算素子が乗っている大きな基盤がメインの制御基盤だろうことは推測出来るが、他の基盤類が全くわからない。どうしたものか・・・。

 

(プログラムの解析を先に片付ける? いや、どのみち基盤の理解は必須・・・・)

正直手詰まりだが、止めるわけにもいかない。指揮官に頭下げて謝るなんてプライドが許さない。

それに・・・せっかく期待してもらったのに・・・。出来ませんでした、とは言いたくない。

とにかく、手探りになっても続けよう! 

 

────────

と言うのが、冒頭の話の前の事だった。

前日に続き本日も残業。しかし、連日の残業にもかかわらず正直手詰まりで困った。

 

「は〜〜。参ったわね・・・・憂鬱だわ」

ギブアップがチラつくが指揮官の顔を思い浮かべて頭を振り、その考えを払拭する。

 

その指揮官と言えば、搭乗員の方の分解に立ち会ったようだ。

しかし、搭乗員は紫のロングヘアで美人系、ブラジャー型のトップスにミニなジャケット、さらにミニなタイトスカート姿と非常にアレな姿だ。

ひと目見た指揮官が『上手く捕らえれば人形風俗とかに売れるかも・・・』なんてウッカリ呟いたようで、それを聞いた副官やエル、サブリナに烈火の如く叱られたらしい。以降、ドラグーンの搭乗員への接近禁止が言い渡されたとかなんとか。その搭乗員の分解調査は第二小隊の面々と副官のG36Cが珍しく率先してやったとの事だ。

聞いた話を思い出して、つい思い出し笑いを浮かべる。

 

 

そんなことを考えていた時に研究棟のドアが開く。

 

「隊長! 何やってるですかぁ?」

「こんばんは隊長! 仕事熱心ですね」

掛けられた声に振り向くとOBRとAR-57の二人だった。

 

「二人ですか・・・」

「ええ、実は指揮官に頼まれまして────(かくかくしかじか)

目の前にある解析中の機動兵器を見上げて、指揮官に依頼された内容を話す。

 

そんなウェルロッドの話を聞き流しながらOBRが機動兵器に近づき制御基盤を見ていく。

「ふんふん」「ほほ〜う」なんて声を上げながら一通り目を通してウェルロッドの方へ振り向き、

「この大きなのがメイン基盤で、こっちのがセキュリティ基盤、でこれが制御基盤、こっちが火器管制基盤ですね」

「見立て、あってますかね?」

恥ずかしそうに半笑いでウェルロッドに答えを聞くが、むしろウェルロッドが知りたい答えであり逆にウェルロッドが驚く。

 

「え? それが分からなくて困っていました」

「OBRはなぜ分かるんですか?」

 

ウェルロッドの問いかけに、OBRが恥ずかしそうに話し出す。

OBRがグリフィンに入社する(売り飛ばされる)前に勤めていたのが、限りなくブラックのグレーな電器メーカーだったらしい。

有名メーカーの新製品を片っ端から解析して、パチモノのコピー品をばら撒く悪質な会社だった。

エンジニアとしてあらゆる会社のあらゆる製品の電気部品を解析してコピーしてきたからこその目利きである。

ブラック会社勤務のストレス解消のためにローンによる衝動買いを繰り返した結果、借金地獄に陥ったとの事だ。ボーナスで全部返す予定が、直前で会社が潰れ返済計画が狂い、ローン会社によってグリフィンへ送られたらしい。

ブラック会社が悪いとブツブツ言っているが、借金癖は多分生まれ持ってのものだろうと思う。

 

 

「OBR、分かりました。ではセキュリティシステムの交換とか頼めますか?」

 

「ん・・・あ〜簡単ですね。鉄血のこれはハル電子のセキュリティ基盤のコピーですかね。流石に鉄血も自前では作らなかったみたいですね。これならハル電子の産業機器用カードセキュリティ用基盤に無改造で交換可能ですね。確認用にすぐに一つ注文します」

 

「では、火器管制基盤の取り外しはどうなりますか?」

 

「この基盤は見た事ないですが、接続を見たところ取り外してジャンパすれば行けそうですね。プログラムを確認する必要がありますが」

 

「プログラムの解析は私の方で出来ます。早速調べましょう」

 

「手隙の私は作業記録と改造図面作成をやります」

横で見ていたAR-57がウェルロッドに伝える。

 

「二人とも・・・・本当に助かります。作業費としての給与は必ず払います」

ウェルロッドが部下の二人に深く頭を下げる。

 

「隊長、よしてください。隊長からは受け取れません」

OBRがブンブンと首を振り断る。

 

「ならば、指揮官に払ってもらうように伝えます」

 

「あ、はい! それなら喜んで頂きます」

OBRはニッコリ了承する。

指揮官から金を取るのは全く罪悪感がないらしい。ナイルが聞いたら多分怒っていただろう。

 

「私はどちらでもいいわ」

AR-57が言うが

 

「じゃあ、指揮官から貰っちゃいましょう!」

OBRが容赦なくAR-57を巻き込んでいく。本当にひどいと思う。

 

────────

 

ハードの処理方針が概ね決まったので、翌日からプログラムの解析をおこなう。

制御基盤からプログラムが保存されたロムを取り外し、研究室のスタンドアローンのコンピュータに繋ぎ、プログラムをエミュレートしていく。

プログラムに悪意のあるウィルスの類はなさそうである。

その分析を元に、プログラムの走るコンピュータのセカンダリーレベルへウェルロッドがアクセスする。

そして解析したプログラムをOBRとAR-57に素早く共有する。

OBRとAR-57はウェルロッドの解析の結果を受けてカスタマイズを加速していく。

ウェルロッドもまたプログラムを改造していく。

 

二人が来てから作業が加速し、気が付いたらあっという間に改造が完了していた。

 

──────────

 

「緊張するね」

「きっと大丈夫です」

これまた気が付いたら、M21、PSG-1の2名、つまり第三小隊全員が来ていた。と言ってもこの2人は応援と称して遊んでいるだけだが。

 

「では、行きますよ」

機動兵器に乗り込んだウェルロッドが緊張した面持ちでポチッと起動スイッチを入れと、モニターに"Ready"の文字が浮かび消える。

ウェルロッドがスロットルを入れるとマシンが歩き出す。初めはゆっくり動き、スロットルを開けると共に走る動作となる。

その動きをみた4名から「「お〜〜〜」」と歓声が上がると共にハイタッチをしている。マシンの改造が完了した瞬間だった。

 

 

研究棟の片付けが完了し、流れ解散になった。

ウェルロッドが帰る足で指揮官に報告しようか。なんて思っていたらAR-57に話しかけられた。

 

「隊長、このマシンの商品戦略を考えてきました。聞いてもらえますか?」

そう言えば、AR-57は戦略研究が趣味だって言ってたっけ。と思い出す。

戦闘だけでなく企業の商品戦略も確かに戦略ではあるが・・・・彼女なりにこのマシンに愛着があるらしく色々考えていたようだ。

少し聞いてみようと耳を傾けたのが間違いだった。すっかり彼女の話に引き込まれてワクワクが止まらなくなっていた。

 

──

────

──────

────────

──────────

 

「指揮官! ご希望の通り完了しました」

司令室に第三小隊全員が集まって報告してくる。

ウェルロッドにしては時間が掛かったな、と思うが、完了したなら重畳ってなもんだ。

でも、ウェルロッドに頼んだのになんで全員でくる? 

状況が読めずに頭の上に? を浮かべるナイル。

 

「まず、機動兵器のコントロールに成功しました」

 

ああ、頼んだことだもんな。・・・でも頭の"まず"が気になる。

 

「商品の応用について考えました。まずは2つ。戦力としての利用と乗り物としての利用です」

「細かい事は改めて話しますが、本社にサンプル提供した上で掛け合いまして・・・・本格的な量産を目指すこととなりました」

 

い? 本社?? しかも量産? どういうこと? 

 

「各部門に根回しも済んでおります」

 

う? うん? 根回し? なんの根回しかな? 

 

「まずは各地区で破壊されたドラグーンの無傷のマシンを送ってもらう手続きが完了しています。それを改修して販売していきます」

 

え? なんて? 

 

「今後は、敵工場の殲滅時にドラグーンの生産設備は無傷で回収してR-15基地に設置せよ。との指令が下る予定です」

 

お? おい・・・・待って・・・

 

「つきまして我々第三小隊はマシン製造販売会社として子会社を立ち上げる運びとなりました」

「とりあえずはR-15基地の戦術人形部隊として兼務です。あと、子会社の社長はナイル指揮官としておきました」

 

ウェルロッド以外の四人が「社長!」「就任おめでとう御座います!」とか声を掛けてくるが、お前ら何してくれてんだよ! 

社長? しておきました!? じゃねーわ。マジでやめてくれ! 端金で責任取らされる仕事じゃないか・・・・

けど、既に本社に根回しが完了して指示を受けている以上、後戻りは出来ない。

ナイルは思いっきり顔をひくつかせてウェルロッドを呆然と見つめるしか出来ないでいる。

 

 

ちょっとドラグーンに乗って遊びたかっただけなのに、なんだこの結果・・・・

想定外すぎるだろ・・・・

机に肘をついて頭を抱えるナイル。

 

 

「指揮官、最後にですけど本社からの()()()()()です」

 

『ん? 決済確認書?』

ウェルロッドが差し出した封筒を受け取り、開けて中の書面を確認する。

なになに・・・。

 

 

この度の会社立ち上げに際して活動した費用請求に対して、指揮官個人の依頼であったことを鑑み、ナイル・ルース指揮官の俸給から支払ものとする。

支払は金500万円(内訳100万円×5名分)

 

 

『おい!!! ・・・って承認は、財務管理課長(代理)かい!』

くそー。久しぶりなのに絶対に嫌がらせだろ! 

 

 

(はー。ただおもちゃで遊ぶだけが何でこんな大事になるのか・・・・憂鬱だ)

(髪の毛、大丈夫かな?)

 

ストレスで薄くなり始めた髪がさらに薄くなる予感がして、呆然と天を仰ぐナイルであった。

 




・子会社
AR-57の案を元にウェルロッドの知識と人脈で練り上げた。
ナイルは何かあった時にクビを差し出す係です(笑)
まあ、優秀なウェルロッドはナイルに迷惑をかけるつもりは無いようです。

社長:ナイル(お飾り)
副社長:ウェルロッド(黒幕、影の社長)
技術部長:OBR
企画部長:AR-57
広報部長:PSG-1
営業部長:M21
一般社員:本社から送られてきた大量の家事ロボ

大丈夫か?この会社(笑)


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74.92式の日常

お待たせしました。
今回は転勤した92式さんの日常です。
ナイルさんが絡まないためか、筆が進まない進まない(笑)
前半は1人語りチックになってしまい、いつもと違う雰囲気になってしまった。
とりあえず、元気に楽しくやっているようですよ。



『ん〜〜〜ん・・・・』

 

早朝に目を覚ましてベッドの上で伸びをする女性。そう、R-15基地から本社へ転勤してきた92式だった。

 

──

────

──────

 

92式はR-15基地から本社に異動したその日、本社に着いてすぐにヘリアンの机に向かった。

ヘリアンは本来の役職から考えれば個室が当てがわれるが、部下とのコミュニケーションを重視してオープンスペースの共同部屋にデスクを置いていた。彼女自身近づき難い雰囲気を自覚しているからなのだろうが、逆に周りが緊張するのではないかと思う。

出頭した92式に興味深い視線が集まる。それもそのはずだ。「あの」彼方此方で指揮官自ら問題起こすことで有名なR-15基地からの栄転者なのだから。きっととんでもなく無茶苦茶なんだろうと期待している訳だ。まあ、真面目な人形としては風評被害以外の何物でもない。

野次馬達も「全然普通じゃん? つまんね」と散って行くわけだが92式にとってはいい迷惑である。

 

「貴官には新人教育の教官をやってもらう。豊富な実勢経験を若手に伝えてやってほしい」

 

ヘリアンからそんな辞令をうけ、所属は本社ビル近くの本社基地に決まった。

本社基地は非常に広大な基地で多数の即応部隊、重装部隊、多目的活動隊などの後方支援部隊、そして配属前の新人教育の部門がある。

グリフィン最大の基地であり各部隊毎に指揮官が居る特殊な基地である。

92式たち新人教育の教官は人形と雖も当然待遇が良く個室があてがわれている。前線基地の指揮官と同等の待遇であると言っても過言では無い。戦術人形が目指す理想の一つとも言えた。

 

ちなみに、ウェルロッドの推薦で情報部にも所属することになった。

突然物置小屋の様なところに呼び出され、そこで情報部部長から簡単な面接をうけ無事に採用となったわけだ。

特定の事務所を持たないからとはいえ、物置小屋で面接とはまるで漫画の秘密組織の様で92式は思わず笑ってしまいそうになっていた。

 

──────────

 

ベッドから降りた92式はスポーツブラとショーツ姿である。引き締まったボディに女性らしい美しいライン、まさに女性アスリートのような美しさがあった。

一方で、ブラウンのボブカットに少し眠そうな目は身体つきとは違い可愛らしさが漂う。アンバランスさが92式の魅力を高めているのかもしれない。

 

92式は部屋の壁に設置された姿見の前に立つと、深くゆっくりの深呼吸と共にゆっくりと手足を動かす演舞を行う。そう太極拳である。

人形は生まれながらのスペックがあり筋トレや体力トレーニングは意味がない。しかし太極拳の様な身体の精密動作を鍛える訓練は効果がある。身体と電脳およびメンタルの最適化が進むからだ。

最適化が進めば進むほど素早く精度良く動く事ができる。多少の成長では違いは些細なものだが、積み重ねるとその違いは凄まじいものとなる。この最適化の度合いにより動かせるダミー人形の数が変わるのだが、92式は4体のダミーを難なく動かせるようになって久しい。

 

『ふ〜〜〜・・・』

 

深く息を吐き、演舞を締める。

息が上がるほどではなく薄らと汗をかく程度、身体のアクチュエーター類が程よく温まり暖気完了となる。

温まった身体が冷える前にランニングウェアに着替えて日課のランニングに出かける。

実は人形が走っても筋肉が付くわけでは無いのであまり意味がない。太極拳と同じように最適化を目的としている。

では、何の最適化なのか? 92式はHG人形なので武器も軽量であり普通に走っても効果はほぼ無い。なので味方の救助などを想定して各種銃器、ダミー人形、アンモボックス、各種資材、などを担いで毎日5km程を走っていた。

で、今日のテーマは・・・・「スプーンにピンポン玉を載せて走る」になったのだった。

 

──────────

 

『ハッ、ハッ、ハッ・・・・これは、やり甲斐があるわね』

 

身体の微妙なコントロールが難しく何度も何度もピンポン玉を落として拾っていた。落とさぬように微調整をしながら走るが普段やらぬ動作を続けたためにインバータとサーボモーターに負荷がかかり猛烈に疲労感が溜まる。常に力が入るためモーターが発熱し身体の蓄熱量が増えオーバーヒート防止の呼吸型冷却器も作動している。

難易度が高く暫くはいいトレーニングか出来そうだ。人形は一度マスターすると忘れる事が無いので新たな課題を探す必要がある。このような所は人間より便利であるようで不便なのかもしれない。

 

息を整えながらスポーツブラとショーツを脱ぎ洗濯カゴに投げ入れる。全裸になった彼女はそのままシャワールームに入り汗を流す。戦術人形の流す汗は冷却機能を高めた専用液を体内で合成して出すが、人間の汗と同様にベタつくので運動後は流すのが一般的だ。と言っても自由にシャワーが使える人形は少ないのだが。

 

 

『あーさっぱりした。やはり運動後のシャワーは格別よね』

 

シャワーから上がった彼女は、髪を乾かしながら整えて普段の戦闘服に着替える。黒のトップスに紫のミニスカート。所謂ヘソ出しルックであり普段真面目な彼女にしては過激な格好と言えるだろう。しかし、どういう訳だかこの格好が妙に落ち着く。これは人形達に標準の服が登録されている為でありその服を着る事でメンタルが落ち着くように作られているからだ。

ちなみに、人形によっては特別な専用衣装が用意されており指揮官が給与を使う事で買えるらしい。特に愛のある人形に大枚をはたいてプレゼントする指揮官もいるとかなんとか。前所属先の指揮官はいつも金欠だった為そのようなものに縁は無かった訳だが。

 

戦闘服に着替えた後に92式は最低限の化粧を行う。戦術人形に化粧など必要ないと言えばそうだ。当然戦闘部隊の人形達はそんなものに時間を使えない。その為もあり彼女達は化粧をしなくても、すっぴんでも美人になるように造形されている。だが、そんな素で美人な彼女達が化粧をすればより映えるものである

92式は新人教育の教官であることから、身だしなみには気を遣っていた。その理由としては教官としての威厳もさることながら新人人形達に「頑張ればいい生活できるよ」と夢を見せる必要があると考えていたからである。まあ、逆効果になることもあるのだが。

 

 

『では指揮官、行って参ります』

 

92式が見つめるテーブルの上には写真立てがあり、2枚の写真が置かれていた。

一つは、R-15でのパーティーの時に全員で撮った集合写真だった。満面の笑みのサブリナと苦しい顔の指揮官の対比がいつ見ても可笑しかった。

もう一つは、指揮官と自分のツーショットである。

パートナーの居ない92式は写真の指揮官に挨拶をして出かけるのが日課となっていた。

 

──────────

 

始業式一時間ほど前に出た92式は基地の食堂に立ち寄り朝ご飯を済ますのが日課となっている。基地では多くの人形が働いているので、人間用だけでなく人形用の食事も提供している。

 

『今日の午前は新人訓練で・・・・午後は打ち合わせのみ、か』

注文した中華粥を食べながら、本日の業務を確認して行く。今日は少し余裕があるようである。

 

「おはよう、教官! 一緒に食事いいかな?」

「教官さん、おはようございます。私もご一緒させていただきます」

声をかけられた方を見ると、ハンドガン人形のCZ75とSpitfireが立っていた。

CZ75は赤色の髪をハイツインテールに纏めた小柄な子だが、ハンドガンだけでなくトマホークも装備している少し変わった子だ。体型に似合わず不良っぽい話し方をする。

もう一人のSpitfireはキリッとしたロングヘアの美人だが意外にもマイペースな人形だった。ドレス調の服に大きなシルクハットが特徴の戦闘服でどこかマジシャンっぽい格好である。CZ75が大好きで鞄持ちの様にくっついている。

 

『ええ、どうぞ』

声をかけられた92式は断る理由もなく二人が座れる様に席を詰める。

 

『二人は・・・・導入訓練は先日終了していましたね。良い成績だった様で教官としても嬉しいです』

 

「それは・・・教官のおかげだ。態度悪かった私を矯正してくれたから」

バツが悪そうに視線を外し恥ずかしそうに話すCZ75。

CZ75は導入訓練初日のハンドガンの訓練の時に教官の92式に喧嘩を売っていた。曰く、★3の弱小人形に教わることは無いという事だった。取り巻きのSpitfireもそれに合わせていたし、他にもナメていた訓練生も多かった。

口で言っても分からないだろうと判断した92式はきっちり射撃訓練で練度の違いを見せつけ、その後特別にキルハウスでの個別指導が行われ100ゲーム連続して一発のヘッドショットで沈めていた。最後はCZ75が泣いて謝っていた事は皆の中での秘密だ。

この後は、訓練生皆が真面目に92式の言うことを聞き真剣に訓練を行ったのは言うまでも無いだろう。

 

『私のレアリティが低いのは事実です。貴方方が経験を積めば私の能力を大きく超えるでしょう』

『ただし人形には得手不得手があります。得手を伸ばして指揮官のお役に立つのが私たちの仕事です。レアリティに囚われず努力すれば必ずお役に立てますわ』

 

「教官もまだ努力を続けて居るのですか?」

Spitfireが何気なく振ったその一言はよくなかった。

 

『ええ。毎日継続していますわ』

 

「そうなのか教官! 私たちもつきあってもいいかな?」

向上心の高いCZ75が頼み込む。

 

『ええ。いいですよ。早速明日からどうですか』

真顔でやるか? と問う92式。話をきいてSpitfireはヤバいかも。と思うがCZ75がやると言う以上どうにもならなかった。

かくして、翌日から毎日日が昇る前に起きて太極拳と変則ランニングをやる事となったCZ75とSpitfire。

この後、新人指揮官の元に配属される頃には、ダミーを余裕で2体動かせるほどになっていた。配属後は活躍する二人だが、それはまた別の話である。

 

──────────

 

午前の訓練を終え午後の打ち合わせも終わらせて、今日必要な業務は終わっていた。

基地を歩いていると、屋外のシューティングレンジから派手な撃発音が聞こえてきた。単発のその音からボルトアクションライフル系の人形が訓練をしているのだろう。ちょっと見てみる事とした。

 

シューティングレンジを覗くと銀髪ロングヘアで白を基調に黒いリボンがついた戦闘服を纏う戦術人形が、身長を超える馬鹿でかい対物ライフルで射撃訓練をしていた。そうグリフィンの木星砲(ジュピター)と揶揄されるIWS2000である。

彼女は1000m以上のターゲットを難なく落として行く。その実力は素晴らしいの一言だった。

 

(素晴らしい腕ですわね。・・・・でもここは新人の訓練施設、ですよね?)

 

違和感を感じながらも暫くその射撃に見惚れる92式。

射撃を終えてIWS2000が立ち上がり「ふうっ」と一服したときに自身を見ていた92式に気がつき驚く。

 

「ハンドガン課程の92式教官、ですよね。い、いつからそこに!?」

なにか悪いことをしていたのを見られた子供の様にあたふたしていた。

 

『ほんの数分前です。しかし、いい腕をしていますね。お見事です』

92式の褒め言葉を聞いたIWS2000は憂のある目で視線を下に移す。

 

「いえ、ダメなんです・・・・そこで見ていてください」

 

そう言うとIWS2000はクルリとシューティングレンジの方に向きかえると、地面に寝そべり自身の銃を構えて射撃を開始する。

派手な射撃音が鳴るが、ターゲットが倒れる事は無かった。一通り撃ち終わるがついぞターゲットに当たる事は無かった。

IWS2000はそのまま無言で立ち上がると、92式の方を向き自笑気味に伝える。

 

「人が見ていると・・・緊張なのか全く当たらなくなるんです」

 

IWS2000の話を聞いて、92式はライフル課程の教官のWA2000の話を思い出していた。

曰く、気になる子がいると。腕はすごく良いのだが人が見ているとからっきしダメになってしまうと。

色々調べたが原因不明。どうもASST(烙印システム)の繋がりが異常に高すぎるのでは無いか? との推察らしい。ちょっとした精神的な乱れで烙印システムが正常に動作しなくなっている可能性があると。

本来ならI.O.P.に返却され分解調査されるのだが、誰も見ていなければ凄まじ射撃能力である為もったいない。本人がやる気のあるうちは好きにやらせよう。となっているらしい。

 

『・・・・・・』

『私がスポッターをやってみましょう』

そう言うと、IWS2000の横に寝そべる。

 

「教官、無駄です。皆にやってもらい試しましたから」

 

『やってみなければ分からないでしょう。もう一度試しましょう』

92式がそう言うとIWS2000は諦めて射撃態勢に戻る。

 

 

『距離は1200・・・湿度気温は・・・」

と、射撃に必要な情報を伝える。

情報を受けてIWS2000は射撃を行う。派手な射撃音と共に専用のAPSFDS弾弾が飛んでいくが・・・・

標的から大きく外れて着弾する。

 

(ダメか・・・・いえこの子のためにも諦めてはダメ)

 

「やはり私はダメなんです・・・」

瞳に涙を浮かべて自身すら否定する彼女は精神的にも相当参っているのだろう。

 

『そんな事はありません』

そう言うと92式はポケットからケーブルを取り出す。

ケーブルの片方を自身の首筋のコネクタに挿して、もう片方をIWS2000のコネクタに挿そうとするが・・・・

 

「教官! 有線で接続してスナイプするなど聞いたことがありません! 雑音が入り当たるわけがありません」

この教官は常識を知らないのか? と焦るIWS2000。それもそうだ。心を統一して射撃するのが常識だ。気が散ることしながら狙撃するなんてナンセンス極まりない。

 

『常識に囚われていたら何も変わりません。試してみましょう』

そう言うと、IWS2000の首筋のコネクタにコードを挿す。

コネクタが挿さった瞬間、IWS2000の体が一瞬ピクリと動く。

 

『もう一度行きますよ』

『距離は・・・・」

間髪を入れずに92式は射撃情報を伝えていく。

 

──────────

 

射撃情報を聞きながらIWS2000は不思議な気持ちになっていた。

有線ケーブルから何か情報が流れてくるわけではない。チャンネルはオープンだけど無言。

ただ、データには無い、言葉には無い何かが確かに流れてきていた気がした。

 

(なんだろう? 懐かしい気がする?)

 

思いとは別に92式の情報を聞きながら射撃に集中していく。

何故か分からないけど、当たる気がした。

トリガーを引き轟音と共に銃身から吐き出されたAPSFDS弾が綺麗にターゲットへ吸い込まれ粉々に打ち砕く。

 

「・・・・・・」

「できた・・・・教官! 当たりました!!」

あまりの嬉しさに隣の92式に抱きつくIWS2000

 

『ちょ、ちょっと。・・・偶然かもしれないので、続けていきますよ』

92式に止められて"むう〜"と膨れるが、気を取り直して狙撃を継続する。

その後の射撃は全て綺麗に命中させていた。最大有効射程を超える2000m程も命中させていた。

 

『とりあえず、一歩前進ですね』

あの後は色々検証したかが、有線での接続を切るとやはり全くダメに戻ってしまっていた。

これから徐々に検証していこう。と言うところで本日の訓練は終了となった。

 

『暫くは私と訓練をしましょう』

『ライフル課程の教官のWA2000には私から伝えておきます』

 

「分かりました!」

「今日はお礼で晩御飯を奢らせてください」

 

後輩に奢られるわけにはいかないので断ったが結局押し切られてしまった。

92式の手を取り引っ張っていくIWS2000は満面の笑顔でさっきまでの暗い顔は無くなっていた。

中華料理がいいかオーストリア料理がいいか楽しそうに考えている彼女はよほど嬉しかったのだろう。

 

(こうやって、仲間が出来て楽しくやるのは・・・やっぱりいいですね。指揮官)

 

「教官! 聞いていますか!」

 

『聞いてますよ。お店も料理もお任せします』

 

そんなやりとりをしながらIWS2000に引きずられて92式は基地に併設された街へと消えていった。

 

──────────

 

R-15基地から転勤した92式は充実した日々を送っているようでした。



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75.工場攻略準備

お待たせしました。
今回は次のイベント前の準備回ですね。

イベントと言えば、第五期局地戦区終わりましたね。時間を掛けずに出来るので好きなイベントですね。
今回は初の一桁でゴールすることが出来ました。嬉しいですね。
けど、トップと30万差。何が足りないのか。上が遠くキツイです(笑)
次は頑張るぞ!



「アストラちゃん、このクッキー美味しいね」

 

「ええ。サブリナさんもそう思いましたか? こっちのも美味しいですよ」

 

そんな話をしながら、サブリナとアストラは手を止めることなく茶請けのお菓子を貪っていた。ここだけを見ればちょっとした女子会に見えなくもない。菓子を貪り食っていることを除けばであるが。

そう。今日は急遽昼から第二小隊は司令室でミーティングとなった。通常、指揮官からの指示は隊長経由で聞くものだが、エル隊長の意見で小隊全員で集まることとなっていた。

 

司令室に集まり次第、応接セットのソファーに案内され座る。家事ロボがお茶の準備と茶請けを運んでくるが、ここまでサービスが行き届いていると逆に不気味である。そんなこともありエルは少し緊張していたが、前出の2人には全く関係ないらしい。

 

「サブリナにアストラ。指揮官から大切な話があるのでしっかりしなさい!」

 

「「了解です!」」

とピシッと敬礼をする2人。

 

まあ、眉間に皺が寄りそうだったのをすぐに察して姿勢を正すあたり、普段からおちゃらけ気味の2人にもエルの恐怖が染みているようだ。

しかし、俺の言うことは一切聞かないのにエルの言う事はしっかり聞くと言うのはどう言う事だってばよ。指揮官としては納得いかんのだけど。

ちょっと納得がいかないナイルではあったが、静かになり下地が整ったのでミーティングを開始する。

 

『みんなご苦労様。集まってもらったのは次の任務についてだ』

『G36C、作戦MAPを映してくれ』

 

ナイルの指示を受けてG36Cが端末をいじり、映像通信にも使う大型モニターに作戦概要とMAPを映していく。

 

──────────

 

「指揮官。ここって先日R-14基地と一緒に第一小隊が偵察した、鉄血の工場がある都市よね?」

エルがすぐに当ててくる。別にイントロクイズではないが、さすがエルである。

 

「トレフォイル、ここの工場の壊滅がご希望かしら?」

いつも通り、スカウトは肩に乗せた鳥型ペットロボに問いかけるが、そのペットロボは壊滅なんて激しい要求は言わんだろ・・・

そんなツッコミを心の中で入れつつも冷静に説明を続けていく。

さすが余裕のアラフォーのオッサンだろってなもんですよ。

 

『ご名答だな。その通りだよ鉄血の工場の破壊が今回の作戦だ』

『と言っても、主攻正面はR-14、ジャスティンのところだ。うちは助攻側面だ。後はドラグーンの生産ラインの確保だな』

『R-14は所属人形の数が多いのと担当地域だから、だな』

補助的な参戦と聞いて不満そうな人形達の顔を見てナイルは最後に理由を付け加える。

 

「エル、うちの会社の都合ですがよろしくお願いしますね」

ペコリと頭を下げるウェルロッドだが、この基地に来てだいぶ丸くなったもんだ。

 

「事前調査では相当数の敵が見つかったから、厳しい戦いになると思うよ」

ピリピリ感を出しているのは第一小隊長のイングラムだ。

R-14基地の人形と共同で偵察を行なったからこそ理解している敵の脅威である。

 

『うちからの参加は第二小隊の一部隊だけだからな、無理はせず敵の撹乱と釣り出しに専念する形となるな』

『臨機応変な戦闘となるだろうから・・・エル、頼んだぞ』

 

「任せてよ! 指揮官! うちの小隊は練度もやる気も十分よ」

ウェルロッドが淹れた美味しい紅茶を啜りながら答えるエルは心配するな。と言う事らしい。

うん、これならば任せて大丈夫だろう。

 

『攻略の日程は一週間後を予定している。天候や状況に合わせて最終決定されるので3日を目処に準備するように』

『じゃあ、解散で』

 

「あ、指揮官。今度の侵攻で鹵獲ドラグーン(仮)を使うわね。ウェルロッドも協力お願い」

 

『ああ、構わないよ。ウェルロッドも協力してやってくれ』

分かりました。との返事を返すウェルロッド。そうか、ついにお披露目か。

 

「指揮官、それでちょっとお願いがあるんだけど」

ん? 珍しく62式が要望を出してくる。なんじゃろか?? 

 

──────────

──────

────

──

 

「OBRちゃん。私の乗機にこの機関銃を付けて欲しいんだけど」

そう言うと、62式が担いできた重厚な機関銃を床に下ろす。指揮官にお願いして手配した機関銃だった。

 

「この銃は・・・貴方の銃に似てるけど・・・」

運ばれてきた銃をまじまじ見てOBRが感想を零す。

 

「あ、うん。74式車載機関銃だよ。私と構造がほぼ同じ。姉妹みたいなものかな」

「だから、簡易的に烙印システム(ASST)に登録できるんだよね」

「まあ、M1919やM2HBとかの重機関銃の戦術人形も居るから、74式も戦術人形としてそのうちロールアウトするかもね〜。その時は私の妹かな?」

なんてニコニコしている62式を横にOBRが顎に手を当てて搭載の仕様を考える。

 

「それならば、防楯も取り付けてテクニカル仕様に改造しちゃいますか〜?」

 

「本当! そんな事できるの? いいね〜。ならばそれで頼めるかな」

ニッコリ笑顔でよりパワーアップさせるOBRの提案にノリノリで答える62式。

 

「じゃあ、頭部に機銃を懸架して防楯つけて・・・弾はベルトリンクで二千発、重量が増えるので最高歩行速度を落として・・・・と」

「今日、急ぎで取り付けとソフトの作成をやっつけますので、明日に試射と姿勢制御の補正を終わらせちゃいましょう〜」

 

「え? そんなに・・・大丈夫かな?」

ニッコリ笑って急ぎで仕上げると言うOBRを見て、軽く引く62式。

それもそうだろう。金遣いがだらしなくいつも借金地獄、最後は指揮官になすり付けて無かったことにする極悪ヒモ女。と言うのが62式の中のOBR像であった。OBRは決してライフル戦術人形として成績が悪いわけではなかったが、その悪行から仕事も出来ないものと思い込まれていた。まあ、そんなふうに思われても仕方ないとも言えるが。

 

「OBRちゃんさ〜、戦術人形じゃ無くて技術職の方が合うんじゃない?」

思わず悪気なく口にしてしまう62式

 

「え!? ・・・嫌ですよ。あんな人に憎まれる仕事・・・・」

青い顔をして顔をブンブン振って冗談じゃない! との拒否反応を示すOBR。

その想定外で理解不能な解答を聞いて頭の上に??? を浮かべる62式。前職を聞けば分かるだろうがあえて深追いして聞かない62式は賢いのだろう。

 

しかし、62式が宿舎で専用テクニカル仕様を自慢した為、皆が個別チューンを望みOBRとウェルロッドの仕事が地獄になってしまうこととなり、なんだかんだナイル指揮官にそのツケが回る事になるのはお約束であった。

 

 

かくして、工場攻略の準備は滞りなく進むのであったが、まさかあのような事態になるとは。

この時点では誰も想定できていなかった。

 





うん、OBRの魔改造。
OBR、こんなキャラになる予定無かったんだけどなぁ(笑)


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76.工場攻略開始

遅くなり大変申し訳ございません。(土下座)

最近、仕事でプレッシャーかけられまくりで、精神的に死亡中です。
白目剥いているG11を見てシンパシーを感じている次第です。(笑)
楽にならないんだろうな。困ったな。と言うところですね。
とは言うものの長くても1ヶ月では更新したい!ですね。

と言う事で工場攻略の前の話ですね。
ちょいちょい影が見えてたあのハイエンドさんに登場してもらいました。



R-14地区の外れのベータシックス地区に設定された臨時の大型飛行場に一機の大型輸送ヘリが到着した。

この臨時飛行場は、今回R-14基地と共同で進めている鉄血工造の工場を攻略するために作られていた。工場が作られた街からおおよそ5km程南の平原にである。

 

「へ〜!賑やかだね。共同作戦は初めてだから知らなかったな」

 

大型輸送ヘリから降りたアストラが臨時飛行場に併設された臨時の基地を見渡して感想を呟く。

臨時の基地には多数のR-14基地から派遣された戦術人形が作戦の準備をしている。それだけでも賑やかなのだが、基地にはあちらこちらにグリフィンの社章をあしらった社旗があちらこちらににはためいていだからだ。

ぱっと見中世の騎士達の戦場のような様子である。実はグリフィンは会社が大きくなる前にグリフィンの活動や活躍をアピールするために基地や占領地に社旗の掲揚を義務付けていた。会社のPRと士気の向上を狙っていた様である。会社が大きくなり戦術人形を主とした近代の軍隊的な業務になるにつれ有名無実化した義務となっていた。今となっては守る者など皆無なのだが、ジャスティン指揮官は大規模な共同作戦に際して敢えて多量の社旗を掲揚した様だった。アストラの反応を見る限り、駆け出しのクルーガー社長の狙いも外れてはいないのだろう。

 

「アストラ、ぼけっとしてないでドラグーンを降ろしなさい」

 

「はい!エル隊長」

 

壮観な風景に見とれていたアストラにエルが声を飛ばす。

地面に降り立っていたアストラは再び輸送ヘリに乗り込み、搭載されているマシンに乗り込み火を入れる。特にぐずることもなくすぐ火が入ることからきちんと整備出来ていることが分かる。

ドラグーンは大きさの割に思ったほどの駆動音もなく「カシャンカシャン」との歩行音のみをたてながら降車する。

アストラに続いてR-15基地の第二小隊の面々も滞りなく降車を終え、エルがヘリのパイロットへ挨拶すると共にヘリは飛び去っていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「サブリナちゃん、こんにちは」

 

ドラグーンの降車を終えて一息ついているときに、後ろから声をかけられる。電脳内の音声認識により相手が誰だか振り返るまでもなくわかる。

なので満面の笑みで振り返り返事を返す。

 

「97式ちゃん、こんにちは」

 

振り返る前から想像できた通りのニッコリ笑顔の97式が立っていた。

白いシャツにミニスカート、黒いコルセット状の服に黒いロングコート姿だ。コートの裏地とネクタイ、地面まで届くほどの長いハイツインテールをまとめるリボンは深紅であり、美しいコントラストを添えている。

彼女はR-14基地の副官の95式の妹である。色々苦労したこともあり、デフォルト設定より細やかな気遣いをする性格となっている。

 

「97式だけじゃないよ。元戦友のスペクトラM4も居ますよ。みんなみえてないのかなー」

 

「ちゃんとみえてますよー、スペクトラお婆ちゃん」

 

「そりゃよかったのじゃ・・・って誰がお婆ちゃんだ!それにそのネタはあのSMG勉強会の時のやつでしょ。なんでサブリナちゃんが知ってるのかな〜?」

 

「なんでかな〜?サブリナにも分からないな〜」

 

おちゃらけるサブリナとスペクトラ。どうやらスペクトラM4も攻略作戦に参加している様で、97式と一緒に挨拶に来ていた。相変わらずのサブリナの絡みにもサラッと返すあたり燻銀のテクは戦闘だけではないらしい。

 

「それで、これが新しく導入したドラグーンシステムか。すごいんだって聞いてるよ」

 

97式がサブリナの向こうに置かれている機動兵器に視線を移して呟く。

いつも見ている鉄血のものと違いマットなオリーブドラブ色に塗られており、頭部はカラフルなパーソナルカラーとなっている。

各機とも色々部品が取り付けられ違和感と言うかなんと言うか、同じドラグーンには見えない。

 

「使い始めたばかりだから、本領発揮するのはまだ先かな」

「でも、97式ちゃんとスペクトラちゃんと共同の作戦か。何か新鮮ね」

 

「本当ね。前回は共同のパーティーで共同の作戦は初めてだからね。戦術人形だから共同作戦が本来の仕事なんだろうけど」

「5分後に指揮官も交えた作戦のミーティングやるから、R-15基地の皆さんもすぐに全員で来て欲しいかな。場所はミーティング用の天幕ね」

 

その連絡を聞いて、隊長のエルが「了解」の返事をし、すぐに全員で97式に付いていく事となった。

 

ーー

ーーーー

ーーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

打ち合わせ場所には、多くの戦術人形が集まっていた。

 

「指揮官、全員集合しました」

 

『うむ。では攻略作戦のミーティングを開始する』

 

97式の報告を受けてモニターの向こうのR-14基地のジャスティン指揮官がミーティングを開始する。内容的には攻略の作戦内容、部隊の進路や敵司令部の予想位置、時刻、補給ポイントの確認などなど。

 

『以上だ。何かあるか?』

 

特に人形達からは無い様子

 

『ナイル指揮官はどうか?』

 

『特にありません』

やはりモニタの向こうから答えるナイル指揮官。

 

(なんか、普通の指揮官ぽく見えるわね・・・)

エルやサブリナがモニタの向こうのよく知った顔を珍しいモノを見る目で見ていた。真面目な態度の仕事姿はR-15の戦術人形達にも新鮮だったのだ。

 

ミーティングは滞り無く終わり、解散となる。

明日の早朝の作戦開始に向けて、今日は準備を進めるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

薄暗く、メカメカしい何処か有機的で気味が悪い装置に囲まれた部屋。そこに一体の戦術人形が居た。

 

型式、SP914 Intruder

 

そう、鉄血工造の電子戦特化のハイエンドモデル、イントゥルーダーその人であった。

彼女の前にはいくつかモニタが並び、そこには()()()()()R()-()1()4(),()R()-()1()5()()()()()()()()()()()()()()()()()が流されていた。

そう、電子戦を得意とする彼女はグリフィンの高度暗号回線をハッキングして、自身と工場を破壊しに来るその敵達の企みの会を視聴していたのだ。

 

「ふふっ、ぜーんぶ丸見えですよ。グリフィンの人間さんたち」

 

まさか見られていると考えもせず真面目にミーティングをしている人間達は滑稽である。

まあしょうがないだろう。人間など、身体能力、頭脳のスペック含めて鉄血工造のハイエンドモデルの足元にも及ばない、愚かで低レベルな種族。そのクセに自覚なく偉そうに振舞い可愛くも無い。言ってしまえば愛玩動物以下のゴミクズ。

グリフィンのゴミ人形共もこんなモノに使役され1ミリくらいは気の毒に思う。

 

「さてさて、おバカな人間さんと愚かな戦術人形さん達には、精々踊ってもらいましょうか」

「姉様の指示で立派な舞台を用意したんですからねぇ」

 

クスクス笑いながら呟くイントゥルーダーには焦りも緊張感も無い。そう、相手の手の内が知れたこれは予定調和にしかならないのだから。

ご機嫌なイントゥルーダーの元にお盆に乗せたカップを持って一体のリッパーが現れる。

 

「イントゥルーダー様、ご命令のものをお持ちしました」

 

リッパーはイントゥルーダーの横でお辞儀をして、湯気の立つカップを差し出す。

 

「ん、ありがと。下がっていいわ」

 

カップを受け取ったイントゥルーダーは口をつけ一口飲む。と同時に顔を顰める。

 

「まっず・・・何これ!?」

 

不満そうな視線をカップに落として呟くイントゥルーダー。

その後、視線を戻して真顔で言葉を追加する。

 

「炒り豆を砕いて成分を抽出した水溶液。水を除けば有機化合物、主成分はカフェイン・・・ですわね。本物は、ですが」

「毒物かつ依存性のある物質を嗜好するとは・・・なんて愚かな生き物なのでしょう」

「抹殺するか、我々による完全管理が必要なのでしょうね」

 

イントゥルーダーは知性を持つ人間の文化に興味を持ち、定期的に触れる様にしていた。今回はブラックコーヒー(合成品)を食していた訳である。

しかし、面白みもなく愚かなものばかり。益々人間に対して否定的な意志が固まっていく一方であった。

 

「面白い人間は居ないものかしらね」

 

一口飲んだカップを置き、翌日のエンターテイメントの準備に向かうのだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「なに!そうか間に合ったか!」

 

ジャスティン指揮官は突然の映像通信を受けて思わず感情が出ていた。

 

『ええ、別の作戦が中止になりまして。今からでは詳細ミーティングも出来ないでしょうから複雑では無い後方支援に限り、ですが』

 

「それで構いません。明日の0600時に臨時飛行場に到着願います」

 

『作戦計画は見させてもらっています。その到着時刻を想定して準備中です』

 

「ありがとうございます」

 

『ああ、それから・・・R-15基地も参加するんですよね。うちの部隊に連中は絶対に近づけないで下さいね。絶対に!』

 

「あ、ああ。分かりました。約束します」

 

そのあと簡単な挨拶をして連絡を終えたが、いったいナイル指揮官(あのバカ)は彼方此方で何をやっているのか・・・・

興味があるような、関わりたく無いようななんとも言えない気持ちだけが残ったのだった。

 

 





手の内がバレてちゃ負け確定じゃね?
さてさて、どうすることやら。ですね。
最後のジャスティン指揮官の会話の相手はあの人です。


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77.モノトーンの罠

アップに長期間掛かってしまいました。遅れて大変すみません。
仕事でやられ気味で生活が荒れ荒れ中です。現在進行形ですね。早く楽になりたい・・・
おまけに、ドルフロの大型イベント始まるし。今回のイベントは楽しめていたのですっかり時間を取られてしまいました。ランキングマップも珍しく楽しくて、やりこんでしまいました。瞬間最大風速では75位くらい行きましたが、キープは無理っすね。10%以内狙いでマッタリ楽しみますわ。

今回は長めになりました。
よろしくお願いします。


 工場攻略作戦当日の早朝、日が出る前に空が明るくなってきた頃に作戦に参加する戦術人形達が整列していた。

 簡単なブリーフィングが行われる時に、部隊が追加される事が周知された。

 

「本社基地所属の重装部隊指揮官のコナーだ。今回の作戦にはAT4小隊が参加する事となった。よろしく」

 

 映像通信でコナー指揮官の挨拶が送られてくるが、それを見てR-15基地の62式はバツの悪そうな顔をしていた。

 以前、本社基地側の病院にナイル指揮官が入院していた時にAT4小隊の3姉妹を勘違いとはいえ結果誑かして早朝バズーカを仕掛けに行ったからだった。あの後はドエライ事になり彼方此方でみっちり絞られた。

 もちろんこのミーティングの後にAT4達に挨拶に行ったんだけど、冷たい対応でまともに話すら出来なかった。まあ、自業自得と言えばそれまでだけどさ。

 と、考えていたがうちの指揮官にも未だに迷惑を掛けてしまっている。は〜全く悪気は参ったなぁ。なんとか埋め合わせを考えないと。

 そんなふうに62式が考えているが、ナイルがこれを聞いたら全力で止めるだろう。頼むからこれ以上事態を悪化させないでくれ。と。

 

 62式の思いはいざ知らず、ナイルがコナー指揮官に挨拶をする。こんな時じゃないと顔も合わせられないのが指揮官業の辛いところなのかもしれない。

 

『コナー指揮官・・・その節はどうも』

 

「・・・・ルース指揮官、すんだ話はもうけっこうですよ・・・。は〜〜〜」

 

 どんよりした雰囲気で思いっきりため息をついてそう言うと、申し訳ないけど関わりたくないんです、と言った雰囲気で早々に通話を終了していった。62式の独断で始まった早朝バズーカのせいで懲戒処分を受けた訳で、これまた当然の反応と言えばそうだろう。

 

『・・・・・』

(うーわ。思いの外嫌われとるな。マジかよ・・・)

(いくらなんでも酷いだろ・・・)

(全く、うちの人形のアイツらやりすぎなんだよ。もう〜)

(他の基地はこんなんじゃないのか? うちに来る人形が特別なのか? さっぱり分からん)

 

 相手が既に立ち去った通信装置を顔を引き攣らせて暫し見つめるナイル。62式の暴走に巻き込まれて懲戒を受けたナイルもまた完全に被害者であるのだが。被害者同士で気持ちを共有できないところは辛いところである。

 

 

 かくして、工場攻略大作戦は開始された。

 

 

 

 ──

 ────

 ────────

 ──────────────

 

 

 

「おかしいですね・・・・敵が全くいない?」

 

 作戦が開始され、本体が都市へ潜入した後にそのまま工場近くの補給ポイントで補給を受け取り工場に侵入してハイエンドを倒す。

 端的に言えばそんな計画であるが、敵の大きな抵抗が予想されいかに消耗が少なく済ませられるかがポイントだった。なのでHGと護衛のSMGからなる斥候部隊を準備して索敵を密にしながら進めているのだが全く敵が見えない。まさにもぬけの殻の様相を呈していた。

 

「指揮官、前回の調査時とはことなる状況ですので・・・・・作戦継続の確認です」

 

 現場の97式がジャスティン指揮官に連絡を入れる。

 

『・・・・必勝の準備は進めてきた。今回は本社やR-15の協力も得られている。多少の想定外は跳ね返すことが可能だ』

『作戦は継続だ!』

 

「了解しました!」

 

 作戦本部との最終確認を終えて、作戦継続の判断を人形同時の無線通信で共有する。

 確かに不安がゼロでは無いが指揮官の判断を信じて気持ちを切り替える。

 

「工場は目の前です。一気に行くよ!」

 

 戦闘らしい戦闘もなく本隊は工場手前に差し迫っていた。

 

 

 ──────────ー

 

「・・・・・・・・」

 

 97式とジャスティンのやり取りを見ていたナイルは腕を組んで黙って聞いていた。

 97式の不安は当然だが、拠点攻略は基本待ち伏せされる。なので攻略はそれを崩す戦力を用意する。当然だ。

 だからジャスティンの回答もその通りである。なんら異論はない。

 しかしだ、あまりに状況がおかしい。

 軍隊のとき何度か死にかけた、敵に嵌められる罠がこんな感じだった事を思い出す。

 

「どうかしましたか? 指揮官様?」

 

 ナイルの横で作戦記録をつけていた副官のG36Cが近距離からナイルの顔を覗き込んでくる。

 いつもナイルにちょっかい出す事を考えている彼女だが、流石に作戦中は自重するらしい。いや、いつもと態度の違うナイルを訝っているのだろう。

 

「いや、嫌な予感がしてね。何か嵌められている気がするんだよね。確信はないが」

 

 その反応を聞いてG36Cは驚きの表情を見せる

 

「罠、ですか? ・・・でもだとしたらどこから作戦が?」

 

「いや、そうなんだよ。こんなローカルな作戦、どこから漏れるというのか・・・・」

 

 それこそ作戦を全部知ってなければやらないような待ち伏せだ。守備隊を全て消すのはまだまだ待ち伏せ作戦としては甘いけどな。

 少し残して嘘臭さを脱臭するくらいじゃないと・・・ってそんなこと考えてる場合では無いな。

 

「全部知っているようなやり方なんだよな」

 

 全部知っているか・・・。自分で言ってふと思う。まさか、ハックされて全部見られているとか?? 

 そんな訳ないか・・・・無いか? 本当に?? 

 

「G36C、基地のシステムとか通信とか、異常ないよね? ウイルスとかハッキングとか、ね」

 

 ちょっと心配になって聞いてみる

 

「え? ・・・大丈夫だと思います。ウイルス検知にかかりませんし、何重ものファイアウォールがありますから・・・・」

 

 だよなぁ。普通に考えたらそうなんだけどさ・・・・

 

「・・・・・」

 

 徐にナイルは立ち上がり、PDA(携帯端末)を取り出して、通話を始める。

 

「あら。電話で連絡なんて珍しいですね。ナイル指揮官」

 

 電話の相手は多目的支援隊のクリスティーナ指揮官だった。

 

 

 ────────────

 

「なるほど。そう言う事情の念のためですか」

「でも頼まれるのは大丈夫ですが、戦闘指揮経験は研修でやったレベルですけど・・・」

 

 ナイルはもし自身の通信が切れたら代わりに指揮をとってほしいとクリスティーナ指揮官に頼んだのだった。

 ちょっと不安そうなクリスティーナ指揮官だが、うちの基地のエルなら大丈夫。

 

「ああ、エルの方から作戦提案はさせる。あとは選択してもえばいいと思う。それに万が一だよ」

 

「・・・・分かりしたわ」

「エルさん、よろしくお願いしますね」

 

 三者通話に呼ばれていたエルと挨拶を交わして、作戦指揮用の臨時指揮コードの取り交わしするクリスティーナ。

 これで何かあっても最悪は回避できるだろう。

 

「あー、一応念のためR-14のジャスティン指揮官の分も教えておきますよ」

 

「いいんですか? バレたらまたヘリアントス上級代行官に怒られますよ・・・」

 

 何かあった時のためにジャスティン指揮官と取り交わしたR-14部隊の臨時指揮コードをクリスティーナ指揮官に渡す。

 本当は黙って渡しちゃうのは不味いんだが念のためだ、まあいいだろう。

 クリスティーナ指揮官からはサラッとコンプラ違反してるのを指摘され、懲りないな的な呆れ顔を向けられているが無視無視。勝てばオッケー。

 

 そんな感じで保険を打ったところで、電話を終わらせて攻略の指揮に戻る。

 心配事も杞憂に終わればいいのだけど。

 

 ──────────ー

 

 さあいよいよ鉄血の工場に乗り込み叩き潰す。工場の前でそんな準備が整った時だった。

 

「!!!! ・・・・っ」

「周囲に敵性反応、接敵まで30秒っ!」

 

 斥候のHG部隊の隊長のMk23が大声で怒鳴る。何も無かったところに突然敵がワラワラと湧き出した訳だ。索敵担当としては大慌てである。

 工場に突入するため部隊が集まった瞬間のいやらしい襲撃だった。

 

「なにっ。バカな。敵は観測されなかったぞ! しかもこんな大部隊だと!?」

 

 ジャスティン指揮官も思わず立ち上がるが、指揮マップのモニタには工場の入口に集まったグリフィンの部隊を取り囲むような多数の敵兵を示す赤い点が映っていた。さすかに間違いでは無いだろう。

 

「指揮官! 指示を」

 

 97式が指揮を求める。と言うのも、部隊の外周では戦闘が開始されひっきりなしの銃声が響いていたからだ。

 このままではなし崩しの防衛戦に突入して殲滅されるのを待つだけになる。

 

「くっ! 急いで・・・・・かに・・・・だ」

 

 しかし、ジャスティンが返答しようとした時に、画像と音声が乱れ突如ジャスティン指揮官がログアウト状態となってしまう。

 

「指揮官! ジャスティン指揮官! 聞こえますか? 応答してください!」

 

 97式は焦りの顔を浮かべて必死にジャスティン指揮官に呼びかけるが、通信には『NO SIGNAL』が表示されるだけだった。

 

「97式、指揮官の指示はまだなの? そんなに持たないよ!」

 

 前線で敵の矢面に立って敵の攻撃を引き受けているスペクトラM4たちSMG人形から催促が来るが、指揮官と繋がる気配は無かった。

 いくらベテランのスペクトラ達と雖も多数の敵からの集中攻撃を全て捌くことは出来ない。このままではダミー諸共本機が破壊されるのも時間の問題だった。彼女達がやられたら部隊の全滅もあっという間だ。時間的余裕は全くない。

 

 

「97式。指揮を代行する」

「AT4小隊を護衛しつつ工場に入れ。籠城が可能なポイントで耐えてチャンスを待つぞ」

 

「ナイル指揮官、了解です」

 

 指示を受けた97式は素早く部隊をまとめて移動を開始する。

 その隙に俺はコナー指揮官に一言伝える。

 

「コナー指揮官、俺になにかあったら指揮は頼みます」

 

「あ、ああ。・・・・いや、なにかとは?」

 

「・・・・・・」

 

 俺は答えに窮し黙ることしか出来ない。誘い込まれてからの待ち伏せにジャスティン指揮官のログアウト。完全に嵌められているとしか思えなかった。

 

「ふ〜。これはダメかも分かんね。素晴らしい作戦だよ。・・・なあ? イントゥルーダーさんよ?」

 

俺は居るはずのない敵のボスに語りかける。はたから見たら意味の分からない行動だろう。しかし・・・

 

 

「・・・・・」

「あら? クズな人間にしてはよく分かりましたわね」

「今更ながら初めまして。R-15基地のナイル指揮官様」

 

 その声と共に指揮コンソールの画面が強制的に変えられ、美しい女性が映し出される。しかしその異様なまでにモノトーンの姿と手に持つ凶悪な武器は明らかにマトモでない雰囲気を醸し出していた。

 

「え? マジか?」

 

 驚いた声を上げる俺。本当にグリフィンの指揮システムに侵入していたとはね。うちの誰もが気づかなかったからな。正直その電子戦能力は欲しいよな。

 

「ふふっ。マジですわ」

 

 そんな事を考えていたら、何やらドヤ顔でマジだと言ってきやがった。なにドヤ顔で言ってんだコイツ。

 

「ぷっ。なに偉そうに言ってんのよ。マジか? はマジで顔出ししてくるとはバカか? って意味だよ。ポンコツ」

 

「なっ!」

 

 余裕の上から目線でバカにしていた態度から一変、顔を真っ赤にして怒り始める。口汚く罵ること罵ること。

 コイツ、煽られ耐性無さすぎじゃね? 

 

「作戦も、守備をゼロにして胡散臭いったらありゃしないし。ドヤ顔で正体バラすとか、バカだろ?」

「あ。小馬鹿にしてた人間にバカとか言われちゃプライドが傷つくか?」

 

「くっ! ・・・・・・ふふっ、口ではいくらでも言えますわ」

「いくら吠えたところでこの窮地はどうにもならないでしょう。死になさい。下等生物!」

「バイバ〜イ♪ 」

 

 そう言って余裕を取り戻したイントゥルーダーが手を振ると同時に、基地の建物が激しく揺れると共に指揮コンソールの画面が消えた。

 

────────────

 

 激しい揺れに合わせて電気が消えて非常灯に変わる。揺れで吹き飛ばされそうになった俺をG36Cが素早く抱いて支えてくれていた。

 うん、背中が柔らかいエアバックのような二つの球体に包まれたのが気になるが、今は非常時なので流す。

 

「G36C、すまない。状況を教えてくれるか」

 

「はい指揮官様。基地が攻撃を受けたようです。・・・通信施設が被害を受け作戦指揮と他基地への通信が不能となっております」

 

「攻撃? バカな。簡易レーダー基地から索敵情報は無かったはずだ」

 

「はい。索敵記録はありませんわ。となると故障でなければ遠距離攻撃かと・・・」

 

 G36Cにも状況がわからないようだ。となると、ジャスティン指揮官の基地もか? 不味いな。

 

「R-13基地のローズマリー上級指揮官には通信可能か?」

 

「試してみます・・・・いいえ、不可能です」

 

 残念な顔で答えるG36C。いや、待てPDAはどうか? 生きているな。よかった。

 すぐにローズマリー指揮官と通話を行う

 

「ナイル指揮官! どうした急用か?」

 

 通話に出たローズマリー上級指揮官は忙しいようで出るなり急用かと聞いてくる。嫌な予感がする。

 

「こちらのR-15基地が攻撃を受けて通信と指揮が不能となっております。恐らくR-14もです」

 

「工場攻略作戦と同時にか? 出来過ぎているな」

「こちらも遠距離攻撃を受け街の外壁に損傷が発生している。貴官の方に増援は送れない」

「だが、すぐに始末してR-14と15に送る。あと本社へは報告しておく」

 

「ありがとうございます。ローズマリー上級指揮官、御武運を」

 

「ふっ。遊び人の貴様に心配されるまでもない」

 

 そんな会話と同時に再度基地が揺れて、PDAの通信が途切れる。

 くそっ。容赦ねーなおい。

 

「ウェルロッド、屋上から敵の位置は分かるか?」

 

「指揮官、攻撃の威力が大きく屋上には出れません。敵の砲撃と推定します」

 

「すまないが強行しての目視は可能か。頼む」

 

「了解しました。死んだときは復旧をお願いしますよ」

 

 冗談の軽口を叩きながら屋上から様子をみる。見るが特に周辺に敵は見えなかった。

 てっきり、自走迫撃砲のジャガーの集団でもいると思っていたが、どこにもいない。

 

「???」

「砲撃なのにジャガーがいない? ・・・おかしい・・・・」

 

 想定外の状況に一瞬考えて呟くが、やはり居ないものはいない。

 しかし考えていたそんな時に、アイカメラの端に捉えていた大分遠方の丘の上が光ったのが見えた。

 

「ん? 何かしら・・・・って、砲撃!」

 

 慌てて基地の入り口に飛び込んだ数瞬後に凄まじい威力の弾着があった。屋上を外れたと言うのに凄まじい爆風が吹き荒れる。

 

「何よ・・・・この威力・・・」

 

 あまりの激しさにウェルロッドは思わず恐れ慄くがすぐに我にかえり、冷静にナイルに報告をするために指令室へと駆け出した。

 

 ────────────

 

「何だと? 遠方の丘の上? だと?」

 

 ウェルロッドの一報を受けて、基地の外壁に設置されている望遠カメラを起動する。運良く壊れていなかったのとちょうど主電源が復旧したタイミングだったのは偶然だった。

 望遠カメラをウェルロッドからの報告のあった方向に回して最大望遠で拡大する。すると何か見たこともないものが薄らと映っていた。

 

「何だ? こりゃ?」

 

「分かりませんわ・・・・」

 

 思わず呟く俺に同じように合いの手を入れるG36C。G36Cにも映っているものが分からないようであった。

 二人で顔を見合わせて首を傾げるしか無かった。

 そんなタイミングで司令室の自動ドアが開き、ウェルロッドが飛び込んできた。

 

「指揮官、ただいま帰りました」

 

 普段身だしなみのしっかりしている彼女だが、今は髪は乱れ埃まみれのドブネズミの様であり思わず吹き出しそうになるが、それだけ砲撃の破壊力を示していた。恐らく屋上に弾着していたら彼女は瞬時に消滅していたのだろう。博打のような危険な任務をさせた罪悪感が一瞬よぎるがそれどころでないので直ぐに気持ちを切り替える。

 

「ウェルロッド、これなんだか分かるか?」

 

 そう言って望遠カメラから抽出した静止画を映す。

 

「・・・・これは・・・」

 

 そう呟くと共にウェルロッドは顔を顰めていた。

 

 

 ────────────

 

「なに? 木星砲(ジュピター)? ・・・・噂に聞いていた鉄血工造の新兵器、か」

 

「ええ、S09地区指揮官が特殊作戦で遭遇した敵ですね」

「正規軍のサーバーをハッキングして盗んだ要塞砲のデータを元に作った、AIによる完全オリジナル兵器です」

「小型化したために威力は落ちていますが、対人・対人形用としては十分過剰な破壊力です。対空や対車両、攻城などにも使えることから、鉄血のドクトリンに叶った兵器となっていますね・・・・」

 

 まあ、そのドクトリンに則った攻城戦に現在進行形で使用されているんだけどね。

 

「破壊は可能か?」

 

「可能。ですが、潜入した後に周囲を囲みジャミングを掛け射撃管制を無効化して、と手順が必要です」

「敵防衛戦力がいる事を考えると、今の基地戦力では・・・不可能と考えます」

 

 せめて単独潜入経験のあるスカウトとアストラが居れば何とかなったかもしれないが、今は工場攻略作戦に参加中で留守だ。と言っても、指揮不能となったあちらもどうなっているか・・・。くそっ、後手後手じゃないか。

 

「打つ手なし。か・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

 出ても勝てない。かと言って籠城してもジュピターに全て瓦礫に変えられて全滅。通信はPDAも含めて壊滅中・・・

 どうする? チャンスを待つか、あるいは自力で作るか。どちらも勝てる可能性は低いが・・・・

 ローズマリー上級指揮官の言葉を思い出す。増援を必ず送ると。

 また、待つしかないのか・・・・

 

「籠城するぞ。増援が来るまで耐える。以上だ」

 

 ナイルの運命を決定づけた選択となった。

 

 ──

 ────

 ──────

 ────────────

 

 R-15基地が遠くに見える小高い丘の上。()()()美女がいた。

 ちょっとピクニックに来た。人間であればそうとも思えるが、モノトーンの彼女達は明らかに人間では無かった。

 

 

「全く! 何でジュピターが一門なんだ!」

「エージェントに五門は持っていけと言われただろう!」

 

 ジュピターの脇にいる一人、銀髪のロングヘアーでクールな雰囲気の美女がプンスカと怒っている。どうも相方に不満がある様だ。

 

「え〜。簡単じゃつまんないじゃん!」

 

 隣の美女は黒髪の長髪を左サイドテールにまとめている。雰囲気はイケイケの若い子? のような雰囲気である。言動を見る限り結構適当な性格な様子。

 

「何言ってるんだ! エージェントにバレたら・・・分かってるのか?」

 

 銀髪の女がバレたらの発言の辺りで顔を顰めて身震いする。どうやら彼女達の上司は相当恐ろしいらしい。そしてどうもパワハラ体質の様である。

 

「はいはい分かりましたー! 勝てばいいんでしょ? 余裕だっつーの!」

 

 そう言うと凶悪な笑みを浮かべる黒髪サイドテール。

 

「どうせあの人間達にはジュピターを壊せないんだしさぁ」

「スケアクロウを殺ったあの人形達はイントゥルーダーの所に行ってるみたいだしさぁ」

「それにグリフィンのゴミが近づいてきたら、貴女が切り刻んでくれるんでしょ? ねえ? ゲーガー?」

 

「・・・ああ、それは任せろ。アーキテクトの事は私が守ってやるさ」

 

 笑顔のアーキテクトに真顔で答えるゲーガー。何だかんだ言ってもこの二人は仲がいい様だ。

 

「じゃあさ、的当てゲームを楽しもうよ。命乞いするにしも特攻して散るにしても踏み躙って楽しめるじゃん」

「それに、()()()()()()()()()()()()。丁度よかったと思うよ」

 

 勝手な奴が多すぎる、と呟き頭を抱えるゲーガー。

 明るい声でえげつない事を言って楽しむアーキテクト。

 しかし、何だかんだ言っても確実にR-15基地をおいつめる彼女達は、間違いなく鉄血工造のエリート人形であった。

 

 





工場攻略の筈が、一転ピンチのナイルさん。
頑張ってしまって行きますぞ!


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丸投げコラボ企画2:エルさんの杞憂

今回は本編と離れてのコラボ企画です。我が心の師であるSPEC様により書いていただいておりましたので、こちらでも書いてみました。

過去の丸投げコラボ、45話と46話の間の話関係です。

SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」とのコラボになります。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

今回の話はこちらのご投稿をよんだ上で書いてみました。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/novel/186365/84.html

SPEC様の作品はいいですよ。本当にいい。私も大好きです。
是非ご一読いただければと思います。(先方の方が有名ですので、紹介するのも変ですが(笑))


 本日の業務を終えて、LWMMG()と部隊の皆で宿舎に戻ってきた。

 今日は午後イチにナイル指揮官のミーティングが設定されたため、遅めの午後の訓練となり帰ってきたのも普段より遅くなっていた。

 

 

「エル隊長〜疲れたよ〜」

 みっちりエルにしごかれてドロドロになっていた62式が床に座り込む。第二小隊のMG戦術人形の62式は特にエルからの特訓を受けていた。第二小隊は2人のマシンガンが主なアタッカーである為である。とは言うものの他の面々も62式程では無いにしろかなり疲れている。

 

「62式! しっかりしなさい! 貴方の態度が指揮官の評価につながることもあるんですよ」

 

 エルが叱ってもなかなか動かない62式。いや、彼女は動けないと言う方が正しいのかもしれない。

 

「分かりました。今日は遅くなったので解散とします。義体の整備は完璧にしておく様に! 明日はもっと厳しくやりますからね」

 

 エルは腰に両手を当てつつ軽く眉間に皺を寄せて、残業含みの本日の業務終了を宣言した。

 

 

 

 ──────────

 

 第二小隊の隊員達がお風呂や食堂、修理装置へとパタパタと出て行き、一人宿舎に残されたエル隊長。

 皆が出て行ったのを見送ったエルは、一呼吸置いてその毅然とした表情を思いっきり崩す。それと共にドカリと椅子に腰を下ろした。

 

「は〜〜〜、疲れた・・・・」

 

 思いっきりため息をついて額に手を当てて項垂れているが、こんな姿を隊員達(彼女達)に見せる訳にはいかない。

 だって私は優秀な第二小隊の隊長なのだから。そう、あのライト(ねえ)のように・・・・

 問題児(サブリナ)達を引き締めるためにも私がしっかりしないといけない。

 しかし、彼女の気疲れの原因はそこでは無い様だ。

 

 

「午後イチのあのミーティング、あれはまずいよ・・・。本当にまずい」

 

 午後イチのミーティング。そうそれはS10基地への教練依頼の話のことである。ナイル指揮官が登場するとともに話し出したその内容を聞いた時、正直びっくりした。よりにもよってわたしの元鞘のS10基地に教練に行くだなんて。

 

 R-13基地のローズマリー上級指揮官からの推薦だしナイル指揮官の判断が示されている為、あの場で止めることなんて出来るはずなかった。だからどうしょうもない話である。それでもまずいのだ。

 

 

 私たちR-15基地のナイル指揮官とS10基地のブリッツ指揮官は同じ軍隊出身であるが、決定的に異なるところがある。それは出自。ナイル指揮官は自動車化狙撃大隊に所属していた。これは一般的な歩兵部隊である。それに対してブリッツ指揮官は非公表の超秘密の特殊部隊だったと言われていた。

 だから違うのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 R-15のナイル指揮官は個の能力よりチームワークに重きを置いているけど、それは基礎訓練を受けたとは言え一般出の人が集まる歩兵部隊出身であるからでしょう。所属戦術人形の技量なども加味すればナイル指揮官の組織作りは極めて妥当だと私も思う。個の能力が高いに越したことはないけど、数が集まってこその歩兵人形部隊にそんな要求できないだろうから。

 

 一方でS10基地にはチームワークなどと言う考えは無いわ。あそこでは徹底的に個の能力を伸ばすことが求められる。そしてその個人の能力にしても目標値は無い。つまり青天井。誰も彼もが自身の能力に磨きをかける事に余念がない。

 こう言うとチームワークが無いように思われるかもしれないけど、それは大きな間違い。圧倒的な個の力を最も効率よく使えるように各々が的確に動く事で結果的に最強のチームワークとなる。と言う事。だからチームワークが崩されるなどと言うことも無いのよね。刻一刻と変わる戦場でその都度効率よく動くことでチームワークが維持される訳だから。

 

 

 そう考えると、両基地では求めれるものが異なる。今回の教練にナイル指揮官がそこまで理解して送り出すのか分からないから少し心配である。

 しかもさらに心配なのが、R-15に(S10出身者)が居ることと、この基地とPx4さんとに絡みがあった事。これらが無ければ適当に流した教練になる可能性もあったけど、多分そうはならないと思う。ブリッツ指揮官が腕によりをかけたガッツリS10式の教練となるだろう。

 

 今回のメンバーであれば強さにストイックなスカウトは相性がいいかもしれない。けどS10基地のライフル人形陣の技量は特にえげつないからね・・・。それはそれで心配。

 後はサブリナとG36C、メンタルが独特に成長しているあの二人にはどう影響するか未知数よね。

 

「はぁ〜〜〜。無事じゃ終わらないよね・・・・・」

 

 

 と言っても、私も人の心配しているところじゃ無い。

 この基地に配属されてすぐの訓練のキルハウスのタイマン戦でナイル指揮官に負けている。()()()()

 あれはナイル指揮官に花を持たせて威厳を保たせ、配属したての戦術人形達を掌握させるための私の作戦。何しろ指揮官と出会った最初の場面が最悪でマイナススタートだったから。私なりに一生懸命考えているんだよ。

 そのほかにも訓練でペイント弾塗れになったり。って、あれはスカウトに本気で負けたんだけど・・・

 この辺りの事がブリッツ指揮官に伝わったらまずい。本気でまずい。

 

 悶々と考えるエルはとびっきり渋い顔をして、ほっぺを両手で挟みグニグニと捏ねている。普段のエルが見せないレアな姿である。彼女が動揺すると言うことはよほどの事なのだろう。

 

 

 

 

「エル隊長? 何やってるんですか??」

 

 急に声がかけられたので声のする方を見ると、いつのまにかアストラとスカウトが居た。考え込んでいて二人が入ってきた事に気づかなかったようだ。エルは慌てて表情と仕草をもとに戻す。

 

「お風呂、行かないんですか? 気持ちいいですよ」

 

 二人の髪が微かに濡れているところを見るに、ちょうど風呂上がりのようだ。

 

「あ、ええ、ええ。すぐに行きますよ」

 

 動揺を隠してお風呂に向かうため、二人の横を通り過ぎて部屋を出ようとするが・・・・スカウトに声をかけられる。

 

「エル隊長、確かS10基地出身でしたよね? ・・・昼の指揮官の教練の話、どう思います?」

「正直、私は無駄だと思っています」

 

 エルの答えを聞く前にスカウトが自身の結論を続けて話す。彼女は教練に行きたく無いのだろう。その理由はどうせ学べることなど無く時間の無駄だから、と言うことらしい。

 

 そのスカウトの言葉を聞いてエルは目を瞑り考える。

 きっとここで言葉でいくら説明しても分からないだろう。人も人形も経験していないことは想像出来ない。S10基地の訓練は口で言っても伝わるわけがない。

 で、あるならば・・・

 

「・・・・・・」

「私はそうとは思いません。口で言っても分からないでしょう。行けば分かります」

 

「エル隊長、それ、本気で言っています?」

 

 スカウトが横目で睨みつけるような視線を向けて呟く。

 

「ええ、本気です。トップクラスのライフル人形と会えると思いますよ」

 

 エルも横目で睨み返すようにスカウトを見る。

 

「ふふっ。エル隊長がそこまで言うなら、過大評価じゃないことを楽しみにするわ」

 

 

 その答えを聞いて無言でエルは部屋から出て行く。

(ふっ、考えるだけ無駄だよね。行けば分かる。自分で言ってなんだけどその通りなんだろうね)

 あのブリッツ指揮官なら悪いようにしないだろうからね

 

 さて、杞憂はやめにしてゆっくり風呂に浸かりながら今後の訓練内容を考えようかと思うエルだった。

 




SPECさんを積極的に煽っていくスタイル(笑)
SPECさん、こんなのでどうでしょう?


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間話.地獄の季節


お久しぶりです。
ゲームやっててバレンタインイベントを楽しみ、ふと思いついたので書いてみました。
間話、と言う事でお願いいたします。
けど、どうしてこうなった?と迷走したような気がします。
皆様が楽しんで頂けたら幸いです。

SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」の基地と、Px4さんにご登場頂きました。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

SPEC様の作品はいいですよ。本当にいい。私は大好きです。
是非ご一読いただければと思います。
(先方の方が有名ですので、紹介するのも変ですが(笑))



 みなさん、こんにちは。ナイル・ルースです。

 いやはや気がついたらもう3月ですね。グリフィンに来てから色々あったけどあっという間だった。

 

 ・・・・ふー 

 

 しかしまあ、初めて知った。いや・・・体験したと言うのが正しいか。

 

 

 そう、あの"反省会"で知り合った小太りのオッさんと冴えない兄ちゃん。(49.有名人 参照)

 あの二人とはその後も定期的に映像通信で会話をしていた。まあ指揮官同士だし、色々と情報交換をしようということですよ。

 ん? 傷の舐め合い? いえいえ、励まし合いと言うことにしといてください。

 

 そんな情報交換会の中で出てきた話題だった。

 

 

 ──

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 ──────────────

 

 1月末の頃の話。

 

「は〜〜〜。毎年恒例のこの時期が来ましたな・・・」

 

 小太りのオッさん指揮官がしんどそうな疲れた顔で零す。

 

「ええ・・・例年通りのですよね・・・」

 

 こちらも辛そうな泣きそうな顔で呟く兄ちゃん。

 

 しかし、その二人の態度を見ても俺には分からない。一体どうしたと言うのだろうか? 

 いつもは気持ちを共有できるこの二人と、今回ばかりは全くわからない。

 首をかしげながら、はて? 何かあっただろうか? と思案していると、兄ちゃんが気づいたようだ。

 

「ルース指揮官? ・・・・あれ? まさかルース指揮官今年度の入社? でしたっけ?」

 

「え、ええ。今年度入社ですけど・・・それが何か?」

 

 分からない。何を言っているのか本当に分からない。

 困惑している俺を見て、小太りのオッさんが気持ち悪くニヤつきながら話しかけてくる。

 

「ルースさん、今年が初めてかぁ。そーかそーか、そりゃ分からんよな」

 

 ますます気持ち悪くニヤつくオッさん。本当に気持ち悪いったりゃありゃしない。

 困惑する俺と気持ち悪いオッさんをみて兄ちゃんが、まあまあととりなす。

 

「ま、じゃあ次の会は3月末だな」

 

「そうですね」

 

 と明らかに楽しんでいるニヤけ顔のオッさんと気の毒そうな顔をする兄ちゃん。

 明らかに俺にマイナスな何かが見えている二人。一体何だと言うのか。

 

 しかし、俺は彼らの言う"この時期"の地獄を味わうことになる

 

 

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 その日は何と言うこともない一日中だった。オッさんと兄ちゃんとの会話も忘れていたある一日。

 

「ふー、午後の仕事もひと段落だな。お茶にするか?」

 

 普段なら軽くお茶でもするよい午後のティータイム時期だったが、なんか戦術人形達がソワソワしていることにこのタイミングまで俺は気づいていなかった。

 そんな時突然事態が動く・・・

 

「指揮官!」

 

「ん? どうした? ウェルロッド?」

 

 突然立ち上がり、頬を赤く染めて話しかけてくるが、何なんだ? 

 

「今日はバレンタインですよ。だから・・・・どうぞ」

 

 眼を逸らしながら渡してくるそれは、旧英国の有名ブランドらしい。後で調べて知ったんだけどね。

 

「義理ですよ。義理! ・・・勘違いしないで下さい」

 

「いや、まだ何も言っていないけど・・・・ありがとう」

 

 お礼を言うとすぐにプイッと振り向き自身のデスク戻ってしまった。

 何なんだよ一体。

 なんて考えている間も無く、ウェルロッドの行動を皮切りに次々とチョコの襲撃を受ける。もう仕事も休憩もないしっちゃかめっちゃかだ。

 

「指揮官。いつもいつもお疲れ様です。これからもよろしくお願いします」

 

 丁寧な挨拶と共にチョコを渡してきたのはエルだった。

 DIYの包装を開けると、素朴な手作りチョコが入っていた。大きなハートと小さなハートが二つ。

 

「大きなチョコは後で楽しんで下さい」

 

 そう言うと小さなチョコを取り、一つを俺の口に入れる。もう一つはエルの口へ。

 ・・・・

 やべえ。超美味い。それに照れながら微笑むエルも超可愛い。俺が20年若かったらコロっと行ってますよこれ。

 

 

「ハイハイ。恋人の雰囲気出すのやめて下さい。後ろの人形が渡しづらくなるでしょ」

 

 ちょっと呆れ顔のイングラムが声をかける。それに合わせてウェルロッドとG36Cからうっすら殺気が出ているのは見ないことにする。

 

「私からはこれ。普通の安い既製品ですけどね。色々気を遣ったのがバカみたい」

 

「ああ、ありがとう」

 

 イングラムらしい言葉と共に既製品チョコを渡されるが、これはこれでいいと思う。

 

 各小隊長から渡されてひと段落のはずが・・・・甘かった。

 

 ──────────

 

「イヤッホ〜! 指揮官楽しんでます!?」

「お疲れ様で~す!」

 

 肩を組みながら二人の人形が司令室に傾れ込んでくる。56-1式と62式だった。

 あまりにも陽気すぎるけど・・・。

 

「指揮官〜。バレンタインのプレゼント。ちょっと変わってお酒だよ」

 

「ああ・・・・ありがとう」

「え・・・今飲むのはマズ・・・・・うぷっ」

 

 渡すだけではなく無理矢理口に瓶を突っ込まれラッパ飲みさせられる。

 横では62式が「一気! 一気!」と煽っている。

 

 ・・・まあ、すぐにエルとイングラムに止められ、めちゃくちゃ説教されるわけだが。どうしてこうなった? 

 エル達の尋問を横で聞いていると、なになにR-13基地のローズマリー上級指揮官の所のシノに相談したと。したら、

「バレンタインはフェスティバルです。派手にやった人の勝ちです。無礼講です」

 と教えられたと。

 いや、どう考えても嘘だろ。まあ、一度騙された俺が言うのもなんだが。

 後で苦情いうか? ローズマリー上級指揮官相手だから薮蛇になりそうなんだよな。

 

 

 なんて考えていると、サブリナとOBRが入ってくる。

 

「指揮官! バレンタインのプレゼントだよ。二人で準備したんだよ〜」

 

「指揮官、どうぞ」

 

 渡されたチョコはしっかりした包みに入った少量のものだった。

 一口大のそれを一つ手に取り、パクリと食べる。

 

「なんだ・・・これ? ・・・・滅茶苦茶うまい!」

「すごいな、このチョコ・・・」

 

 こんな美味いチョコ生まれて初めてだ。思わず心の声が漏れてしまっていた。

 

「OBRちゃん、大成功だね」

 

「うん! よかった。さすがホッカイドー産の天然素材生チョコだね!」

 

「えっ!」

 

 は? ホッカイドー産の天然素材生チョコだと? お前いくらすんだよそれ! どうやって手に入れたんだよそれ! 

 この世界が汚染された世紀末の時代の、天然素材の食品は天井知らずの金額に跳ね上がっている。

 

「お前・・・・まさか? ・・・・」

 

 俺は嫌な予感がして思わず聞いてしまう。その金の出所を。

 

「うん! 60回ローンだよ! 高かったんだよ〜」

 

 自信満々に胸を張って答えるOBR。

 いやいや、なにしてんのよ。先日借金が無くなったばかりでしょ。しかもお前の借金のけつ拭いてるの俺よ! 

 それに戦術人形に60回ローンって貸す方も狂ってるだろ? 基地もろともバックアップが吹き飛んだらその貸付焦げ付くんだぜ。

 いや待て。こんな特別な高級品の手配、その異常な貸し付け。まさか・・・

 

「あのさ、この品って・・・・まさかS10基地の・・・・」

 

「そうだよ〜。S10のPx4さんに協力してもらったんだよ〜」

 

 ですよねー。何故か脳裏にあの金髪美女が、笑顔にウインクでサムズアップしている姿が浮かぶ。

 いや、まあ今回はPx4は特に悪いことしていないけどさ。

 しかしまあ、不審に思わずつい開けてしまう箱のデザイン。開封したことが分かる内蓋構造。確実に開封済みにして返品を受け付けない作りになってやがる。流石抜け目がないな。

 

 

「あのねサブリナね、S10とは指揮官同志の関係もあるからね。依頼前は絶対に俺に話通してね。頼むからね」

 

「うん分かってるよ。けど、今回はサプライズだからしょうがないよね」

 

 おーい、サプライズを優先すんな。

 反省を微塵も感じさせずニッコリ微笑むサブリナを見て頭を抱える。

 は〜、またエルと一緒に指導しないと、か。任務には忠実で優秀なんだがな。

 あとOBRの借金もだ。ウェルロッドに対処方法を相談しないと・・・

 

 そんな感じでボーッと考えている時に最後の爆弾が飛び込んでくる。

 

 

 

「指揮官さま〜! バレンタインのプレゼントですわ♪」

 

 ウイーンとドアが開いた瞬間に可愛らしい声が響く。そうM1911 MOD3だった。

 けど・・・いつものスケスケスカートではなく赤いリボンを身体に巻いて腰に大きな蝶結びを作っている。巻いているリボンも腰のくびれと大きなお尻、丁度よいサイズと良い形のバストを隠すだけの、まるで雑誌のヌードモデルのような姿である。

 

 皆が唖然としている隙に、俺の方に走って来て胸に飛び込んできた。

 

「指揮官さま〜♪ バレンタインのプレゼントは・・・わ・た・し♪ 」

 

 そう言うと、俺が何か言う間も無く彼女の唇で口を塞がれる。

 

「〜〜〜〜」(ヤバイ、これはヤバイ)

 

「うふっ♪ さあ、リボンを解いて下さい! そしたらお布団行きましょう。ね、ダーリン♪ 」

 

「ひ、ひぃぃぃ」

 

 思わず悲鳴が俺の口から漏れる。

 あまりの突然のことと、俺に抱きつく彼女の向こうに鬼の形相の戦術人形達が見えていたからだった。

 

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 この後は司令室は文字通り物理的にしっちゃかめっちゃかのグチャグチャになり午後の業務は中止にならざるを得なかった。

 数名の戦術人形達が修復装置を使う事になったので、状況としてはかなりヤバイ。

 ちなみに俺もさりげなく軽傷です(泣)。

 

 は〜。あのオッさんと兄ちゃんの指揮官コンビが言っていた"この季節"と言うのはこう言う意味だったのか。

 来年はバレンタイン禁止としたいが、しかしそうもいくまい。

 会社としてバレンタイングッズの販売もしているし、職場は俺以外女子ばっかだからな。止めるのは無理だろう。

 一年後が憂鬱で仕方がない・・・

 

 

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 と言うのが、2月中頃の話なわけです。

 で、3月になってやってきましたよ。ホワイトデーなる催しが。

 バレンタインでもらったプレゼントのお返しをするイベントだってさ。たく、どこのどいつだ! こんなくだらんイベントをセットで考えたのは。

 

 文句言っても始まらんので、とりあえず人形達へのお返しを考える。OBRの借金も考えたら高級な物を送る余裕すらない。こっちは毎月のお給料から養育費の支払いとかあるんですよ。会社からの懲罰の引き落としもあるから、実質低収入となってるわけで。

 適当に材料買ってキャンディを作ることにしたわけです。

 みんな平等に分けて差をつけない。これ肝心です。キャンディの個数は皆一緒。

 おかげで皆さま揉めずにホワイトデーのイベントは終わりそうです。

 

 

 なんて甘い考えでした! 

 

 

 ──────────

 

 

「指揮官! これ何かな?」

 

 キャンディを渡し終えた後に箱の底に残っていたお菓子を目ざとく見つけたサブリナである。

 

「ああ、キャンディ作るついでに作ってみたんだよ」

 

 キャンディ作ってたら、お菓子作りが楽しくて試しでクッキーを作ってみたんだよね。

 いや〜料理って意外に楽しいんだな。ガキの頃から戦争一色だったから全然知らなかったよ。

 この年になって新しい趣味が見つかるとは思わなかった。しかもこんなに平和な趣味が見つかるなんて。

 人生、新しく始めるのに遅すぎる事はないって言うけど、本当だな。よかったよかった。

 なんて考えていると

 

「指揮官、サブリナが貰ってもいいかな」

 

「あ、ああ。欲しければ・・・・

 

 なんて軽く答えようとしたら・・・・

 

「「「指揮官、私も欲しい!!!」」」

 

 全員が欲しいと名乗りを挙げてきたんだよね・・・・

 え、これ、どーするの?? 

 

 何て考えていたら、人形達が勝手に決めましたよ。

 "第一回 クッキー争奪戦"だってさ。

 いやいや、子供の頃散々読んだ昔のジャパンコミックじゃないんだからさ。って中止だ中止! 

 

「指揮官様。皆の技能が向上する模擬戦なら良いのではないでしょうか?」

 

 珍しく俺に異論を唱えるG36C。彼女もやる気満々の様だ。どうやらこの基地で反対しているのは俺だけらしい。

 しかも模擬戦にかこつけてきやがった。指揮官として止める理由がなくなるじゃないか。

 

「まあ・・・業務に支障のない範囲なら、いいけど」

 

 それだけ返すのが精一杯だった。

 

 

 ──────────

 

 

 幹部人形達の取り仕切りでトーナメントが組まれて連日キルハウスで試合が行われる。

 最初の頃は見学させてもらったが、各人の気合いの入り方がハンパない。かなりヤバイので一日で見学することをやめたよ。一応、試合のVTRを録画して後で見れるようにはしてもらった。

 VTRで確認するが・・・S10教練組の戦闘力がえげつない。地力が一回り以上高く、アッサリと試合を片付けて行く。結局ベスト4に残ったのはS10関連の戦術人形達だけだった。スカウト、エル、G36C、サブリナだ。

 

 準決勝、スカウトとエルの試合。序盤、相性的に有利なスナイパーのスカウトが有利に進めるが、エルが確実に追い詰めていく。エルは被弾を許すも巧みに急所へのダメージを外し追い詰めたスカウトを機関銃の斉射で血祭りに上げてエルの勝利となる。

 

 

「くっ、勝てない試合じゃなかった・・・」

 

 心底悔しがるスカウト。エルとの本気の勝負は初めてで改めて隊長の実力を知ることとなった。隊長の壁はまだまだ高いようだ。

 

「スカウト、腕を上げましたね。けどまだ私にも届きません。貴女なら私を完封する実力があるはずです。S10の師匠に続けて教えを乞い続けなさい」

 

 スカウトに助言を与えるエル。教練以来、多少素直になったスカウトは認めた者の助言を聞くようになった。これからもどんどん強くなって行くのだろう。

 しかし・・・ガチでやりすぎじゃないのかね・・・

 

 

 ──────────

 

 一方の準決勝はサブリナとG36Cの試合である。大方の予想はサブリナの勝利だったが・・・・

 

「副官さん・・・・やるね。今回は負けかな」

 

 手足の関節の動きを停止させられ、倒れるサブリナが負けを宣言する。

 G36Cの5.56mmNATO(ペイント)弾ではサブリナのシールドと義体へのダメージは微少。一方でG36Cが受けるサブリナのバックショットのダメージはかなり大きい。そんな不均衡な状況からG36Cは勝てないと予測していたが、G36Cは巧みな立体機動でサブリナの高速リロードからなる散弾の連射を躱して防御の弱い手足の関節にセミオートの射撃を丁寧に集弾させる。そして遂にはサブリナの義体の破壊判定を得ることが叶ったのだった。

 

 戦闘終了後はお互い健闘を讃えあったりで意外に爽やかな一戦だった。

 これはこれでいいのかも。

 

 なんて思っていたら、決勝戦が酷かった・・・・

 

 

 ──────────

 

 決勝ということで、人形達に呼ばれLive観戦することとなった。

 

 決勝の流れだけど、エルもG36Cも互いに銃弾を数発命中させダメージを与えるが倒すには至らない。一時間以上かけて両者弾切れになる。

 お? 引き分けで終了? なんて思ったが甘かった。むしろここからが本番だった。

 

 キルハウスの中央にペイント弾と土に塗れた両者歩みより、互いに銃を投げ捨てる。

 何を始めるのか見ていたら、二人してファイティングポーズをとり、向かい合っている。

 あ、そうですか引き分けではなくてボクシングが何か分からんが殴り合いで決めるんすね・・・・

 

 

 素早い動きと手数で勝るG36C

 硬いガードと1発1発の重さで勝るエル

 互いに一進一退殴り合いを繰り返す。人間ではないのでインターバルは無い。時間無制限の殴り合い。スポーツというよりほぼ戦闘、見ているこちらがキツイ。

 

 事態が動いたのはエルの右ボディブローがG36Cの左脇腹に突き刺さった時だった。

 "ゴキ"とか"バキ"といった嫌な音が俺の耳にまで届く。

 おい・・・あれ・・・フレームや内蔵機器がイッてるだろ・・・・・。

 G36Cは目を見開き、「かはっ」という吐息と共に口から人口消化液を撒き散らして崩れ落ち、左脇を押さえながら悶える。

 斃れたG36Cをエルは鉄血の人形を見るかのような冷徹な眼で見下ろしている。

 

 しばらく呼吸を整えてから立ち上がるG36C。苦痛に耐える鬼の形相で正直言って怖すぎる。しかし彼女はファイティングポーズを取りまだやる気だ。

 だが、義体のダメージが大きく明らかにG36Cの動きが悪い。

 トドメを刺すべくエルが動く・・・が、ワンチャンそれを待っていたG36Cがカウンターでワンツーを叩き込む。ここ一番のいいパンチだが、ダメージからか勢いが足りない。ダメか? 

 と思ったらG36Cは自身の頭をエルの顔面に叩き込んだ。滑ったとかではなく明確に狙ったバッティング。明らかな反則だ。反則を交えた3連撃がG36Cの狙いだった。

「くふっ」と声が漏れ、叩き潰された鼻から盛大に擬似体液を吹き出しながら崩れ落ちるエル。地面に跪いたエルの目の焦点が合っていない。恐らく想定外の強い衝撃で電脳が瞬時リセットされたのだろう。

 電脳が落ち着いた所で立ち上がるエル。反則をアピールしても良いだろうがエルはそれをしない。反則だろうと綺麗に攻撃を入れられた事に対してプライドが許さないのだろう。

 両者ボロボロで、血みどろで、満身創痍。互いを睨みつける鬼の形相。明らかに模擬戦の域を超えていた。

 

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 そこからしばらく満身創痍のタイマンの殴り合いが続いていたが、最後はエルの渾身の右ストレートがG36Cの顔面を捉えて決着がつく。G36Cは地面をバウンドして転がりながら30m近く吹き飛ばされていた。まるでダンプカーにでも撥ね飛ばされた轢死体のように。

 

(ちょっ・・・やりすぎでしょ。これ)

 見てるこっちが痛くなるし、後始末どうすんのさ。

 

「はい、指揮官。終わったんで優勝者に賞品を渡してください」

 

 とイングラムがエルの元へ俺を引っ張っていく。

 荒く息をしているエルは鼻が潰れて疑似体液はで続けているし、で酷い状態なわけでマジで恐いんすけど。それにあのストレートで殴られたら俺ミンチですよ。

 

「あ、ああ。エル、おめでとう、でいいのかな」

 

「指揮官、ありがとうございます」

 

 酷い状態でも笑顔を作ろうとするエルはやっぱり可愛い。

 

「けど、このクッキーにここまでする価値は無いんじゃないかな? な?」

 

 その言葉を聞いてエルの眼が鋭くなる。

 

(ひ、ひぃぃぃ)

 

 危うく悲鳴が口をつきそうになる俺。

 

「指揮官。貴方の料理にどれだけ価値をつけるかは私達次第でしょう」

「そんなに卑下されたら、どんな手を使ってでも勝とうとしたG36Cも勝った私も貶める事になるわ」

 

「そ、そうか。俺が悪かった。優勝おめでとう」

 

 そう言って俺はエルにクッキーを渡す。

(彼女はすごく喜んでいるし、うん、これで良かったんだろうな)

 

 そう思っている俺の横を担架に載せられたG36Cが運ばれて行く。腕が担架から垂れてぶらぶらしている。もうまるで死体にしか見えない。

 彼女を運ぶ人形達の話し声が聞こえてくる。

 

「副官さん、ギリギリ電脳が生きていてよかったですよね」

 

「うん、そうだけど・・・義体は全損だね。完全に」

 

(全然よくねえ! ★5戦術人形の義体が全損って・・・・交換にいくらかかると思ってんだよ)

 

 

 なに? 俺の手料理は★5人形の義体の価値を超えるってか? バカ言うなよ・・・

 じゃあ何か? 俺が手料理作る度にこんな損害が出るのかよ。あり得ねえ。

 あ〜ダメだこりゃ。俺の手料理ダメだ。破産しますわ。

 せっかく新しい趣味が見つかったって思ったのに。マジか〜。

 

「ハ〜。グッバイ俺の新しい趣味」

 

 小声で呟いた俺の声が目の前で喜ぶエルに届くことは無かった。

 

 

 

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「ナイル指揮官? どうでしたか? 2月、3月は?」

 

「楽しめたんじゃ無いですか?」

 

 3月末のオッさんと兄ちゃんとの定例会。二人のニヤけた顔と揶揄いが込められた質問に思わず顔を顰める俺。

 それを見て満足そうな二人。・・・クソッ。

 ・・・ん? なんか違和感があるな。

 コイツらもまだやられてんじゃね? ちと聞いてみるか?? 

 

「ん〜ところでお二人はどうだったんですかね? 先輩方、教えて下さいよ」

 

 うっ。という言葉と顔を顰めるオッさんと兄ちゃん。

 やはりな。コイツらもまだまだ解決策は無いらしい。

 

「今後は3人で対策考えますかね」

「3人集まれば文殊の知恵、と言いますから」

 

 そう、まだ来年の2月まで10ヶ月ありますからね。なんて盛り上がる2人。

 モニターの向こうの2人を見て、こりゃダメそうだなと諦めるナイルだった。

 

 





Q.G36Cのチョコは無いのか?
A.ありましたが地獄の手作りチョコだったため、皆に止められ無かった事にされました。無念。

Q.チョコと言えばFNCはどうなった?
A.チョコ大好きのFNCは、バレンタインチョコ作成中に我慢が出来ず全て自分で食べてしまった。
 今はナイルの部屋に積まれたバレンタインチョコを狙っているとか。


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間話.G36C、ぱわーあっぷしますわ ♪

G36CさんのMOD搭載記念として書いてみた。
この物語書き始めた当初は、怖くて推しキャラ入れられなかったんです(笑)
なので、全員準推しキャラ以下でした。
けど、気がついたらG36C含めて皆大好きになっていた・・・
なんだろう?脳味噌バグったかな?(笑)

早速G36CさんにMOD3まで貢ぎましたよ。しかしMOD3スキンとレッドベレースキンのどちらを使うかで悩んでおります。

完全に個人の趣味ですが楽しんでいただけたら幸いです。



 

「指揮官様。ペルシカリア博士からメールでの連絡が来ておりますわ」

 

 なんて事はないある日の午後、事務作業中に副官のG36Cに声をかけられた内容がそれだった。

 まあ、いつものたわいもない話か人形達のメンタル調査依頼の話だろう。俺はそう判断して

 

「ああ、ちょっと手が離せないから読み上げてくれ」

 

 そう答えた。それが致命的に誤った選択であった事など気づかずに・・・・

 

「・・・・分かりましたわ」

 と言うと、コホンと軽く咳払いしてからG36Cは読み上げ、可愛らしく凛とした声が司令室に響く。

 

 

 ・・・・・・・・

 

 うん? いつもの他愛もない話じゃないぞ。これ。

 要約すると

 

 "G36Cのメンテナンス兼、オーバーホールをするから予定しておけ"

 "ついでに有償のメジャーアップデートもあるんでやっとけ。実施1号のテストのため割り引いといてやるからさ"

 

 って事だ。

 完全に業務だしG36Cに聞かせちゃ不味かったか。

 これなら「親展」とかつけといてよ。

 ・・・いや、あのペルシカの事だからわざとだな。わざとG36Cにも見せるように仕向けた。そう考えるべきだ。

 そうなると・・・目的は"メジャーアップデート"だな。

 

(くくくっ。甘いんだよ。いつまでも掌の上で踊らせられると思うなよ)

 

「指揮官様?」

 

 いつの間にかデスクの横に来ていたG36Cが無言で思案している俺を見て心配そうに声を掛ける。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「それなら安心しました」

「それとペルシカリア博士のメールに可否の返信依頼がありますので・・・回答は如何しますか?」

 

 G36Cからタブレットを受け取り画面を確認すると、メールの本文の下に"Yes or No"のボタンがあった。

 なるほど。これを押せばいいわけね。

 

 先日のホワイトデーにぶち壊した義体換装で金掛かってるし新品義体に変わっているからメンテも今回は不要だろう。

 当然、Noだよ。No!! 

 俺がポチッと押そうとした時に直前で腕が止まる。

 

「えっ?」

 

 不思議に思い右腕を見ると、G36Cに手首を掴まれていた。

 改めてボタンを押そうと手を下げようとするが、全く1ミリたりとも動かない。

 

「G・・36C?」

 

 横のG36Cを見るが無言で笑顔を向けるばかり。

 これって、アップデートしたいって事なのかな? かな? 

 試しに"Yes"の方に少し動かしてみるとなんの抵抗もなく動かせる。

 うん、やっぱりアップデートしたいんだな。が、しかし今回はダメだ。心を鬼にして全力で"No"に動かす。

 

「ぬおおおおっ」

 

 気合いと共に一気に"No"へ向かって動・・・・動かなかった・・・

 代わりにミシリと俺の手首が悲鳴を上げる。G36Cの掴む腕に力が籠ったからだ。

 

「あだだだだっ」

 

 思わず見たG36Cの顔はあの能面の顔に変わっていた。

 やばい。死ぬ。

 本能で理解した俺は、無意識のうちに"Yes"ボタンを押してしまっていた。

 

「指揮官様! G36Cは嬉しいですわ」

 

「ああ・・・そう・・・それは良かったよ」

 

 満面の笑みのG36Cにそれを返すのが精一杯の俺。どっと疲れましたよ。

 結局、足掻いたがペルシカリアの掌の上で踊っただけだった。

 

 

 ──

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 ──────────────

 

 と言うのがしばらく前の話で、結局あの後G36Cを16Labに送り出すこととなった。

 送り出す前にペルシカと映像通信で話す機会があったから軽く苦情を言っといた。分かった分かった言ってたけどあれは完全に聞き流してたな。

 しかし、最後にニンマリ顔で楽しみに待ってなよって言っていた。あれは完全に碌でもない事を考えているパターンだ。不安しかない。

 

 

 

「今日だよな。G36Cが帰ってくるの」

 

「そうですね。スペック表は先日届いていましたよね?」

 

 司令室に今日詰めているのはウェルロッドだったが、俺の問いから聞きたい事を推察したらしい。

 スペックは先日見たけどね。各部を強化見直した義体に専用の補助プロセッサが搭載され、戦闘能力、演算能力共に大幅向上。との事だった。

 けどね、心配はそこじゃないのよ。

 なんて考えていたら、G36Cが無事に帰ってきた。

 

 

「指揮官様。G36Cただいま戻りました」

 

 ちょこんとお辞儀する彼女は義体を換装した通り少し外観が変化していた。

 気持ち幼めになった顔立ちに、健康的な肉付きのボディ。

 うん! いい感じだ。

 

 服装は・・・ガーターベルト付きニーハイストッキングにミニスカートは大きく変わらず、か。

 上着は裏地が赤の灰色の戦闘ジャケット。前のデザインよりだいぶダボっとしたサイズ感だな。

 うん。M1911の事例があったから心配してたよ。よかったよかった。

 

「では指揮官、副官も帰ってきたので私は小隊の訓練に行きますね」

 

 そう言ってウェルロッドは退室していく。

 ウェルロッドを見送ると、プシューと自動ドアのエアシリンダーが作動しドアが閉じられ、司令室でG36Cと2人っきりになる。

 

「G36C、久しぶりだがらお茶、って・・・・・・えええええっ」

 

 お茶に誘おうとG36Cに目を移した所でびっくりして思わず声が出てしまった。

 なんとG36Cがジャケットの前のボタン類を外して羽織る格好になっていたからだ。ジャケットを羽織る格好自体は構わないが、下は肌着と言ってもミニスカートにヘソ出し、紐編みのトップスのルックだったからだ。

 アカン。その格好はアカン。

 

「ちょっと・・・G36C。その格好はまずいよ。な?」

 

「指揮官様、この格好がスタンダードに設定されておりますわ」

 

 いや、ニッコリ笑って言われてもね・・・・本当だとしたらペルシカのやつは何考えてんだよ。

 

「あら? でも確かにトップスのこの紐は邪魔ですわね。とっちゃいましょう」

 

 そ言うと、豊満な双丘を隠す布の谷間を渡す編み紐をシュルリと外して床に落としてしまった。

 いやいや、「まずい」が掛かっている先は格好全体であって、その紐にじゃねえ! 

 

「いや・・・待て。G36C」

 

 思わず後ずさるが手遅れだった。G36Cに近かった為、あっけなく首に両腕を絡められてしまう。

 

「こうするのも久しぶりですわね。指揮官様 ♪」

 

「ま、待て。話せば分か・・・・・うぶっ」

 

 俺の顔は絡められた腕により強制的に胸の谷間に押し込められる。戦術人形の腕力を持ってすれば赤子の手をひねるかの如く簡単な作業である。

 

(ちょ、色々やべえ。気持ちいいけど、息が・・・・)

 

 うんうん唸りながら抜け出ようとするも、その柔らかい谷間にガッチリホールドされており脱出は不可能だった。

 そんな時、プシューとドアが開き誰かが入ってくる。

 

「しきかーん。チョコがなくなったからちょうだ〜い」

 

 その声から想像してFNCだろう。チョコが切れるとバレンタインで貰って食いきれていない俺の積みチョコを強請りに来るのだ。

 よかった、助かったと思ったが甘かった。

 

「あ〜っ。指揮官が副官さんのオッパイでまた遊んでる〜」

 

 俺の姿を見たFNCはそう言うとパタパタと出ていってしまった。

 

「FNC・・ちがっ・・・・息がっ、助け・・・・・」

 

 この後、FNCからの誤った情報を聞いた人形達が雪崩れ込んできて俺が救出されるわけだが、俺が主に説教された事だけは付け加えておきたい。

 かくして、副官のパワーアップはいつも通りの落ちを持って完了に至ったのだった。

 





「ちょっとペルシカさん、あの服装はどういう事ですか」

「ん?君のところの研究成果だと前に言ったろう?M1911の衣装も好評だよ」

「え!?」(マジかよ、いいのかよあの衣装で。グリフィンの指揮官達大丈夫か?)

「そうだ、君のところのエル・・・LWMMGのMOD化はどうだろう」
「S10基地の副官に協力してもらって試作したから性能はピカイチだよ」

「冗談じゃないですよ。このままエスカレートしたら身が持ちませんよ!」

「ふふっ。じゃあ、16Labの私の元で働くかい?」

「え?いや・・・コイツらを置いて行けないでしょ」 

「結構本気だから条件は聞くけどね。まあいいか。これからも色々協力はしてもらうよ。よろしくねー」

「はい・・・よろしくお願いします」(どうせ碌でもない協力なんだろう?)


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丸投げコラボ企画3:一〇〇式機関短銃の恐怖

今回は本編と離れてのコラボ企画です。我が心の師であるSPEC様により書いていただいておりましたので、こちらでも書いてみました。

先方の時間設定では本小説の48話の反省会の前の出来事となっております。

SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」とのコラボになります。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

今回の話はこちらのご投稿をよんだ上で書いてみました。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/novel/186365/89.html

SPEC様の作品はいいですよ。本当にいい。私も大好きです。
是非ご一読いただければと思います。(先方の方が有名ですので、紹介するのも変ですが(笑))

ーーーーーーーーーー

今回はS10基地の教練から帰ってきた56-1式と62式の日常会です。
急ぎで書いたのでちょっと雑かもしれませんが楽しんで頂けたら幸いです。




 56-1式たちがS10地区へ教練に向かう少し前、何でもない昼にカフェを兼ねる食堂のテーブルに二人が集まりお茶会を開いていた。

 R15基地はカフェを営む戦術人形が不在のため、家事ロボットが食事を提供する食堂がカフェを兼ねている。

 

 第二小隊の56-1式と62式の二人だ。

 R15基地創立当初、つまりナイル指揮官が入社した当時に立ち上がった小隊の仲間であり、今は厳しい戦場を共に駆け抜けた親友であるが、当初は日本銃と中国銃それにナイル指揮官の勘違いもあり犬猿の仲だったりもした。

 今日はオフの日ということで昼からお茶会となっているわけだが、お茶会なのにテーブルの上にそれなりの食事が並んでいるのはこの基地特有なのかもしれない。

 

「そう言えば62式って、第二次大戦の後に開発されたんだよね? 比較的珍しいよね日本銃であの大戦後に開発された銃は少ないし」

「中国は逆に第二次大戦後に開発されたものばかりだけどね」

 

 テーブルの上のフライドポテトを適当につまみ齧りながら62式にそんな話題を振る。まあ、要するに会話の話題がなかったから適当に振ったともいう。

 

「うん? 確かにそうだね」

「あの当時は"もう戦後ではない"と言われてたころだからね」

「日本の発展でアメリカと決めた憲法やルールが現実と合わなくなってきた頃だからね日本にも色々あったんだよ」

 

 声を掛けられた62式は湯呑みに入った緑茶を飲みながら澱みなく答える。どこか遠い目をして窓の外を見ているのはやっぱり色々あったからなのだろう。

 しかし、突然の話題に澱みなく答える親友を見て56-1式の方が逆に食いつく。

 

「何となく振った話題だけど、妙に詳しいじゃん」

 

 適当な話題だったと正直に言うあたり56-1式っぽさが出ている。

 そんな事は気にせずに窓の外から56-1式へ視線を移して62式が話し始める。

 

「ははっ。SF映画が好きだからね。歴史だって勉強してるよ」

「当時、私は時代に祝福されて生まれた。そんな風に思えたらカッコいいじゃん」

 

 カッコつけて言う62式だが、生まれた後の自身の評価は散々だったじゃん? と56-1式は思う。けどそれは62式の地雷なので思っても決して口にしないのが友としてのお約束である。

 そう考えていると、興に乗ってきたのか腕と足を組み当時の日本の話を続ける62式。サイハイソックスから覗くもちもちの太ももが組まれセーラー服のミニスカートの中身が見えそうになっている。年頃の女性としては誠に誉められない体勢である。

 

「いや〜でもあの当時の日本は本当に色々特殊だったんだと思うよ。若い人が多く経済も活況、そして長く続く平和」

「だから、2000年くらいまでの娯楽はテレビで、バラエティ番組とかすごかったんだから」

 

 明るい話題のはずがどこか残念そうにはにかむ62式を見て56-1式は考える。"すごかった"の方向性が問題なのだろうが、よくわからない。

 

「え? 何がすごかったのよ?」

 

 中華まんを手に取って齧りながら早く言えよと聞き返す56-1式。こちらも女子としてはいささか残念な所作ではあるが、大食い大会が定期的に開かれているので食うことに関してだけは正義である。

 

「死人が出てもおかしくないレベルの賞金付きアスレチック大会開いたり、懸賞が一定金額貯まるまで監禁される生活映像を流したり、とか?」

 

「は? ・・・・いやいや色々ヤバくない? それ」

 

「うん、ヤバいでしょ。あと、早朝の目覚ましに・・・あれ? 何だっけな。騒いで起こす? みたいな」

 

 62式が饅頭を齧りながら思い出そうとするが、どうも思い出せない。キャッシュに検索を掛けるがポッカリ抜けている。人形の電脳は基本的に忘れると言う事はない。完全にメモリに記録されるからだ。しかし、日々の活動はポイント毎に睡眠中に圧縮整理される。また本当に不要な項目は削除される。と言う事で、このバラエティの内容はどうでもいいこととして判断して削除されたらしかった。

 

「ごめん。わすれちゃった」

 

「そこまで言って分からないなんて気になるよ。・・・・・まあけど日本の昔のバラエティの内容なんてどうでもいいか」

 

「そうだね。()()()()()()()()()()()()()

 

 お互い向き合い笑って話題を変える二人。そう昔の日本のバラエティなんて、どこか異世界の話程度の認識で普通は間違いではない。しかし、これから56-1式が向かうところが如何に普通でないか、異世界と同程度の場所であるか、二人は知らない。いや、指揮官のナイルでさえ理解できていないだろう。S10の本当のヤバさは行った者にしか想像出来ないだろう。

 そして奇しくも56-1式はこの時に話題に出た"朝の騒がしい目覚まし"を味わうこととなるのだった。

 

 

 ──

 ────

 ────────

 ────────────────

 

 

「56-1式、おかえり〜。色々と大変だったんだって?」

 

 数週間前と同じく食堂でお茶会に興じる二人。

 S10基地に教練で出張していた親友の56-1式を労うために62式が開いたのだった。

 教練に出た他の人形達も、仲の良い同士でお疲れ様会を開いたりしている様だ。

 

「でもすごい効果だったみたいじゃん。義体の最適化レベルも一気に上がってたって聞いてるよ」

「私も負けない様に頑張って訓練してたんだけど、あっさり負けちゃったな」

 

 あはははっ。と笑いながら冗談っぽく言う62式は、差がついても気にしない、すぐに追いつくと前向きさをアピールしているのだろう。

 

「で、どーだったの? S10基地の教練はさ」

 

「本当に凄いところだったよ。大変だった。けど、私の希望を叶えてくれたのは・・・嬉しかったかな」

 "親友を守れる力が欲しい"とブリッツ指揮官に伝えた事は、恥ずかしいから62式には秘密だ。

 62式にも突っ込まれたが、そこは適当に誤魔化す。

 

「変わった訓練とかなにかあった?」

 

 テーブルに肘をついて顔をずいっと出して笑顔で聞く62式からは好奇心の高さが見て取れる。

 

「うーん、全部が全部この基地とは違ったけど、一番は近接格闘訓練かな?」

 

 62式の食い気味の質問を受けて、視線を上に漂わせ教練の内容を思い出しながら呟くように答える56-1式

 

「近接格闘! ・・・確かに戦術人形はやらないね。じゃあ、教官はブリッツ指揮官だったのかな?」

 

 戦術人形は自身の銃を使うから格闘技など身につけない。いや、身につけても悪くはないが効率が悪い。何故なら自身の銃を使えばベテラン兵士以上の能力に簡単になるのだから。

 まあ、教練ではこれの必要性をきちんと教え込まれたから異論はない。ちなみにS10式教練内容の取り入れのためにウェルロッドとG36Cが教本の作成開始している。もちろんこの中に近接格闘訓練も含まれている。

 けど、そんな事情を知らない62式は話題としては面白くて振ってしまったのだ。

 ()()が地雷化しているとは知らずに。

 

 

 

 近接格闘の教官は誰か? そう聞かれた56-1式は一瞬顔を顰めてから周囲を一瞥し、62式へ顔を近づけてひっそりとその名前を呟く。まるで忌み言葉を口にするかの様に慎重にだ。

 その姿を見て62式も覚悟を決めて聞くが、聞いて拍子抜けした。

 

 "一〇〇式機関短銃"

 

 あの可愛い日本銃人形の名前だったからだ。

 

 

 ──────────

 

 

「あの教官はあの基地でもとびっきりぶっ飛んでいたよ」

 

 普段は明るい56-1式が辛そうに話すのを聞いてビックリする。一般的な一〇〇式のイメージと全く合致しないからだ。

 

「そ、そうなの? 同じ日本銃人形だから少しはわかるところあるかもしれないから、聞きたいかな」

 

 気を遣って回りくどい言い方をする62式。ちょっとはフォローしてあげようかと思っていた。

 

「まず、朝一の行動からクレイジー極まりなかったよ」

「夜戦用完全装備で寝室に潜入してきて、寝ている私たちに向けてバズーカの空砲を撃ち込んで叩き起こすんだよ!」

 

 ありえないでしょ〜。メンタルの緊急瞬間起動のショックでコアが壊れるかと思ったよ〜。とかブツブツと不満を言っている。

 一方の62式は、早朝、潜入、バズーカ、目覚まし、のキーワードで削除したキャッシュをサルベージして(思い出して)いた。

 

「それだよ、それ! 思い出したよ!」

 

「は? 何を??」

 

「ほら、教練行く前のお茶会で話題になった日本のエンタメの。朝の騒がしい目覚ましってやつ!」

「"早朝バズーカ"だよ」

 

 その話を聞いた56-1式はたっぷり数秒フリーズする。あまりにあまりすぎて話の内容の理解が追いつかないのだろう。

 

「は〜〜〜〜っ。つまり一〇〇式は日本の昔のエンタメを再現したってこと?」

「というか、日本人、おかしいよ。あんなのやられたら下手したら戦争だよ!? 絶対おかしいって!」

 

「いや〜、それ程でも〜」

 

「誉めてないよ!」

 

 盛大なため息から、呆れた様に正論を言う56-1式だが、照れたように返す62式には全く響いていないのだろう。普段は真面目でしっかりした62式ではあるがエンタメに対して異常なまでに寛容なところは昭和の日本人っぽい気質を持っているからなのかもしれない。

 しかし、一〇〇式独自の奇行ではなくネタ元があることが分かり、56-1式の中で"超ヤバいやつ"から"かなりヤバいやつ"に無意味な上方修正がなされる。

 

 

 一方ここで不幸な偶然が起きてしまう。

 

(あれ? 早朝バズーカなんてやっちゃマズいやつだと思っていたけど・・・)

(S10基地のブリッツ指揮官が、客人にやっていいって判断したんだよね?)

(と言う事は、常識的にやっても大丈夫と言うことか。私が気にしすぎていた。って事かな)

(そりゃそうだよね。温厚で優しく気遣いのできる日本人が非常識なことをTVで流すわけないか)

(私の勘違いだったんだね)

 

 腕を組んでブツブツと呟きながら真顔で考えている62式を56-1式がキョトンと見ている。

 ここで何を考えているか聞いてあげれば未来の不幸は回避できたのかもしれない。

 しかし残念ながらそれは無く、詳しい事情を知らない62式は盛大な勘違いをもって早朝バズーカを誤った認識に上書きしてしまう。結果グリフィン本社近くの病院で本社基地の重装部隊を巻き込み、再び"早朝バズーカ"が火を吹く事となるのだが、それはもう少し先の話である。

 

 

 ──────────

 

「それで、"ぶっ飛んだ"一〇〇式教官殿の訓練はどうだったの?」

 

 帰任者の概要報告会で近接格闘訓練では相当なかわいがり(大相撲風)を受けたのは聞いている。けど56-1式の"ぶっ飛んでいる"評価には違和感がある。まだなにかあるのではないか? そんなふうに思い62式は深堀してしまった。

 

「あ、うん。そうね・・・・近接格闘訓練初日のラスト2時間が・・・シチュエーション訓練だったの」

 

 ──

 ────

 ────────

 

 これはあまり思い出したくないのか、あの明るい56-1式が顔色を悪くして歯切れ悪く話し始める。

 曰く、あらゆるシチュエーションにてその場その場にある物を武器として利用して鉄血人形を屠る訓練とのことだった。

 色々シチュエーションを変えるため基地のサーバールームに移動し、セカンダリーレベルの一〇〇式専用訓練場にて行われた。

 実は予定された訓練ではなかったが、ブリッツ指揮官の"くれぐれも丁重にな"の一言を一〇〇式なりに正しく理解し特別に追加実施することにした。この()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

 

「今日は初めてですから、動かない敵を倒してみて武器の使い勝手を確認していきましょう」

 ニッコリそう言うと農場に景色を変えて皆の前にチェーンソーと棒立ちのヴェスピドが現れる。

 

「チェーンソーは武器としてすぐに思いつきますが、エンジンを掛ける時間と騒音がマイナスで使い勝手は非常に悪いです。モノは試しです、やってみましょう」

 そう言うと一〇〇式がチェーンソーを持ち、素早く片手でエンジンを掛ける。けたたましい2stエンジンの駆動音が響きわたる。すぐにエンジン全開にして目の前のヴェスピドのコアに突き立てる。そしてそのまま頭頂部方向に向けて半月の円弧を描く様に動かしヴェスピドの上半身は正しく縦に真っ二つにされる。

 

 チェーンソーが撒き散らしたヴェスピドの血肉を全身に浴びた一〇〇式が、血肉以上に真っ赤に目を輝かせ口角を上げてゆっくりとこちらを振り返る。

 

「さぁ、皆さんもやってみましょう♪」

 

 一言で言ってその姿が恐怖でしかなかった。

 

 

 ──────────

 

 その後も色々シチュエーションを変えていく。オフィスでは消火器やタワーPCを振り回し、ダウンタウンのストリートでは道路標識の鉄パイプをもぎ取ったりバス停を持ち上げたりして敵を撲殺していく。

 

 そして最後のシチュエーションが"調理場"だった。

 調理場に立つ一〇〇式、その姿を想像して100人中99人が思い浮かべるのが、ニッコリ笑顔で割烹着を着て三徳包丁でお野菜を切っている姿だろう。I.O.P.のカタログのイメージPhotoの一つにもあるその姿である。優しく和食を作ってくれるそんな大和撫子のような人形というのが一般的な一〇〇式なのだ。

 しかし、このシチュエーション訓練にそんな姿は無かった。ここに存在するのは、刃渡40センチ近い牛刀を両手に持ち真っ赤な瞳を歪に輝かせ口角を上げて鉄血人形に襲いかかる誰もが想像しない姿だった。

 包丁をコアに突き立て首を叩き切る。今日何度目かわからないが首を切られたヴェスピドから噴水の様に出る擬似血液を浴びる教官が振り向きニッコリ笑う。もう恐怖でしかない。

 

 皆それぞが教官と同じ様にやってみるも包丁は刺さらないし首は切り落とせない。けどそれはそうだ。戦術人形の骨格は特殊軽合金で出来ている。いくら大型の包丁とはいえ切れるわけが無い。

 

「あの・・教官。包丁でどうやって戦術人形の骨格を切っているのですか? 普通できませんよ・・・」

 

「ええそうですね。この訓練は"普通の包丁は戦闘に向いていない"という事を理解する訓練です。ただ技能次第では可能という事を示しただけです」

 

 ウェルロッドの質問に澱みなく答える一〇〇式。そして次の言葉を続ける。

 

「このシチュエーションでは、フライパンとかでの打撃もいいですが、お勧めはこれです」

 

 そう言うと、出刃包丁を出す。

 

「身厚の刃物を使った体重を乗せた刺突。慣れないうちはこれが一番です。じゃあやってみましょう♪」

 

 

 ──────────

 

「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」

 訓練を重ねるにつれて肩で息をする56-1式。ここはメンタル空間なので義体の過負荷疲労はない。つまりこの疲労感はメンタルへの強い負荷を表している。周りを見てもここまで疲労を露わにしている者はいない。明らかに自分だけだ。

 

「56-1式さん、頑張って下さい」

「強い疲労は自身の銃に着剣できないのが原因かもしれませんね」

 

 性格もあるのかもしれないが、56式の1型から正式に銃剣が廃止されたのも大きいと推察した。実銃の改良に合わせる様に刃物を用いる事を忌諱する様に心理的な刷り込みがなされたと考えるのが自然、と言うのが教官の読みだった。

 なるほど、銃剣突撃を好んで行う日本銃の教官が殊更近接格闘を好むのもそれが理由なら合点がいく。

 

 

「はい、では本日の訓練を終了します。解散です」

 

 ふー、やっと終わった。と安堵した56-1式だった・・・・だが甘かった。

 

「あ、56-1式さんは残って下さい。苦手克服するまで私と一緒に特別授業です♪」

 

「・・・・・・」

 

 何も言えず惚ける56-1式を見て他の4人から同情する雰囲気と視線を受けるが、誰も何も言わず去っていく。何か言えば巻き込まれるのは必死でありそれだけは勘弁だったから。

 

「誰にでも得手不得手はあります。大丈夫ですよ。気合いと根性と必勝の信念があれば必ず克服できます!」

「まずは、ヴェスピド千人切りからやりましょう♪」

 

 まずは、ってなによ? と思うが口に出せるわけもなく。二人きりの秘密の訓練場で出刃包丁を持って目を真っ赤に輝かせる教官の言葉にただただ頷くことしか出来なかった。

 

 

 ────────

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 ──

 

 

 目の前で顔色を悪くした56-1式が震えながら話す内容を聞いて、62式も開いた口が塞がらず次の一言を呟くので精一杯だった。

 

「あ、うん・・・聞いて悪かったよ、ごめん・・・」

 

 まあ、確かに同じ日本銃人形としてわからなくも無いが、自身と一〇〇式の間には明確な違いがある。

 そう、それは生まれた時代。

 平和で豊かな時代と大東亜共栄圏を掲げて世界を相手にしていた時代、ここぞと言うときの思考には雲泥の差があるだろう。

 S10基地の一〇〇式とは日本のバラエティとかの日本の話題で盛り上がり楽しめるかと思っていた。落ち着いたらエル隊長に紹介して貰おうかなんて。

 けど56-1式の話を聞いて認識を改める。これは近づいてはダメなやつだと。

 62式はひっそりと電脳内の危険人形リストに"S10の一〇〇式"を書き足したのだった。

 

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

 お菓子を齧りながら二人して無言でお茶を飲む、そんな気まずい雰囲気が支配し無言のお茶会が続く事となる。

 R15基地の中でも明るい二人が異様なお茶会、それは基地内でしばらく噂なるほどヤバい雰囲気だったという。

 

 





今回フォーカスしたのはSPECさんのところの、近接戦闘大好きっ子のS10基地の一〇〇式さんでした。
近接格闘に徹底的にこだわる彼女なら、きっと秘密の修業部屋があり黙々と一人無理ゲーに勤しんでいるのではないか?
もしそこに案内されたらR15の人形はどんなんなってしまうのだろうか?
そんな妄想から書いてみました。

SPECさん、勝手な妄想で書き殴ってすみませんでした。



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丸投げコラボ企画4:無いものねだり

最近、立て続けですが今回も本編と離れてのコラボ企画です。我が心の師であるSPEC様により書いていただいておりましたので、こちらでも書いてみました。

今回の時間軸は57話以降あたりとなります。
入院したナイルさんが退院して帰ってきたあたりの話です。


SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」とのコラボになります。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

今回の話はこちらのご投稿をよんだ上で書いてみました。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/novel/186365/91.html

SPEC様の作品はいいですよ。本当にいい。私も大好きです。
是非ご一読いただければと思います。(先方の方が有名ですので、紹介するのも変ですが(笑))



 

 ある日の午後、R15基地のスキル訓練ルームに戦術人形達が集まっていた。

 G36C、サブリナ、56-1式、スカウト達のS10基地教練組に第二小隊長のエルだった。ちなみにウェルロッドは本社からの指示で出張となっており今日は不在である。92式は副官代行中で不参加となっていた。

 部屋の利用申請は『S10基地式訓練方法の研究会』となっており、ナイル指揮官も快く貸出に応じていた。

 

 それがダミーの理由であるとは知らずに。

 

 

 ────────────────

 

 

「エル隊長!? 聞いていますか??」

 

 会議の途中、俯き加減で元気が無さそうにしているエルにサブリナが声を掛ける。普段は変に気負わず自信に溢れた態度なのに今日はいつもの自信満々な顔が見えず少しおかしい。いや大分おかしい。サブリナが心配するくらいである。

 何処か部品かメンタルモデルに不調があるのではないかと心配になるが、それなら自身でもすぐ気がつき修理装置へと向かうだろう。なので、故障とは違うのだろう。

 サブリナは原因を掴みかねていた。が、そこには明確に原因があったのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 エルは冷や汗をかいていた。そして自身の電脳内には『ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・』とヤバイの文字がひたすらリフレインしていた。そのリフレインの原因は、()()()()()に入る前に()()()()()()が流された映像にあった。そう、あのブリッツ指揮官とライト姉の模擬戦の映像だった。

 この映像はブリッツ指揮官が私達(R15)のために作ってくれた訓練メニューを納めたメモリーチップ内に追加されていたらしい。さらにウェルロッドにブリッツ指揮官が直接『いつでも鍛え直してやる』と伝えたらしい・・・・。しかもウェルロッドに聞いたら出会った時のペイント弾塗れの姿を話題に出したらしい。送り出す時の心配が的中した。しかしまあ悪いことは本当に的中するもんだ。あの基地で嫌というほど教えられたのに。まあいい。しかもウェルロッドはそれでブリッツ指揮官の笑いを取るつもりだったが逆に真顔になったと。・・・ヤバすぎる話である。考えただけでゾッとなり顔色が悪くなる。S10基地出身のエルのメンタル(DNA)にはS10基地のしきたりがしっかりと刻み込まれているというとを意味していた。

 

 正直、映像の模擬戦の内容には唖然とした。私がS10基地に所属していた頃と比べてもライト姉の動きが明らかに良くなっていた。それほど期間は経っていないのに成長が見られる。つまり、あの当時に私が考えていた『極まった戦術人形』との評価は誤っていたという事だ。何故なら今も彼女は成長を続けているのだから。

 一方で自身はどうなのか? 後輩である部隊員の育成という仕事を言い訳にして成長を止めていないか? 自身に対して自問自答をするが、自身に対してこの問いが出た時点で答えは決まっているのだろう。

 この映像を送ってきたブリッツ指揮官とライト姉の声が聞こえた気がする。

 

 "ぬるま湯に浸かってふ抜けてねえよな? (ないわよね?)"

 

 恐らくブリッツ指揮官はS10出身戦術人形に接触する機会があれば誰に対しても同様のフォローをいれているのだろう。今回は教練に出かけた彼女達の力量を見れば私の置かれている状況は手に取るように分かるのだろう。(あの乱痴気騒ぎの映像も流れているし)

 彼らをガッカリさせる訳には行かない。熱湯に浸かるか氷水に浸かるかは決めてはいないけど、ぬるま湯に浸かるのだけは止めようとこの瞬間に決心した。

 

 頭を上げたエルの顔はいつも以上にやる気が溢れていた。

 

 

 暫く経った後日、エルはプレッシャーに負けて自分から志願してS10基地へ一週間程里帰り(と言う名の修業)をすることとなるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

「ちょっと、エル隊長、ちゃんと聞いてた?」

 

 お茶菓子をパクつきながら56-1式がエルに声を掛けた。エルは下を向いて顔色を悪くしたと思ったら突然顔を上げて清々しい顔したりで一人忙しくしていた。その態度を見て56-1式は『ちょっと真面目なエル隊長らしくない』とは思っていたが、会議に集中してほしいとも思っていた。エルの心の葛藤など側からは分からないわけで、致し方ないだろう。

 

「あ・・・いえ、もう一度説明を頼みます」

 

 珍しくエルが聞きなおす。

 

「ナイル指揮官の体力の事よ。流石にちょっと看過できないでしょ? って話」

 

 普段寡黙なスカウトが答える。軽量のスカウトライフルの彼女だからこそ、ナイル指揮官の体力低下が気になるようだ。この基地に居るだけならばそれほど気にはならないのだろうが、戦術人形と肩を並べて戦場で輝くブリッツ指揮官を見てしまうと、無いものねだりの気持ちが湧くのも仕方がないのだろう。

 誤解しないように説明するとナイル指揮官の個人の戦闘能力はグリフィン指揮官の中でも上位5%に余裕で入っている。衰えたと雖も反省会で重傷を負ったがあのサブリナと一緒に鉄血を攻撃して切り抜けたのだ。宴会のイメージが悪印象だが決して実力が無いわけではない。戦術人形の指揮官としては申し分ない。イレギュラーであるS10基地のブリッツ指揮官と比べられたら酷な話だ。なにしろブリッツ指揮官はグリフィンの指揮官で10本の指に余裕で入るレベルなのだから。

 

 

 

「じゃあ、G36Cお願いね」

 

 56-1式が声を掛けると、G36Cはコクリとうなづき備え付けの大型モニターの電源を入れる。点灯したモニターにナイル指揮官の3Dバーチャルモデルが映し出される。

 戦術人形には任務達成のためのツールとして空間や物体のシミュレート機能が搭載されている。副官のG36Cは普段から大好きなナイル指揮官をあらゆる角度から観察(盗撮)して、その機能をフルに使い完璧なバーチャルモデルを作成していた。

 

 

「左の指揮官は入社して出会った当時のもの、右の指揮官はごく最近のものですわ」

 

「違いがわかりにくいわね」

 

 腕を組み感想を述べるスカウト。確かに違いは分かりにくかった。

 その言葉を受けてG36Cは二人のバーチャルモデルの衣服を全て消去する。

 これこそがG36Cの真骨頂で、その電脳のスペックをフルに使い理論計算式を作成してバーチャルモデルの服を綺麗に剥ぎ取ることに成功していた。ただモニターに映し出された素っ裸のナイル指揮官の股間のドラゴンだけは消されている。これはG36Cの大切なものなのでおいそれと他人に見せられるものではないからである。この基地の者なら誰もが知っているが、この副官は重度のムッツリスケベなのである。

 

 

「おー、こうすると分かるね」

 

「入社当時よりお腹周りが出て上半身が痩せた。ってところかな」

 

 56-1式とサブリナが感想を呟く。

 

「ええ。体重は微増。体脂肪率は15%くらいから17%超えまで増加。上半身の筋量低下を加味すると、筋力低下と肥満が進みつつある。となりますわ」

「先日の反省会の体力切れを考えると、心肺機能の低下も無視できません」

 

 感情が込められていない顔で淡々と説明するG36C。こんなことまで外見から調査できるとは恐れ入る。

 

「なるほど、それで改善目標はどう設定するのかしら?」

 

 腕を組んだエルが聞くと、またG36Cがモニターに新たなモデルを映し出す。それを見てエルは驚愕することとなる。

 

 

 

 ・・・・・モニターには素っ裸のブリッツ指揮官のモデルが映し出されていた

 

「ブリッツ指揮官の体脂肪率は12%程、無駄に筋肉をつける事をせず継戦力を重視したアスリートのような体形ですわ。上半身、下半身、体幹全ての筋量が高く高次元でバランスしている、兵士がお手本とするようなカラダです」

「教練中はじっくり見る機会が少なく、可動可能なモデルは作れませんでした」ブリッツ指揮官に意味もなく視線を向けると少し警戒されるのでなかなか、とか付け加えている。

 

「ちょっとG36C・・・・この会が終わったらすぐにこのデータは消して!」

 

 議論が進む前にエルが焦りながら伝える。恐らくウェルロッドや指揮官がこの場にいたら「今すぐ消せ」と怒鳴っていただろう。それほどS10基地の指揮官の個人情報収集は危険なのだ。その行為が外部に漏れたら基地ごと消される虞がある。恐らく30分とかからず反撃する隙すら与えられず消されるだろう。

 

「股間は修正していますが、それでもダメでしょうか?」

 

 冷や汗ダラダラで伝えるエルに対して、不思議そうにコテンと首を傾げるG36C。話の噛み合わなさ、二人の姿、色々と対比的であり面白い。

 が、エルにしてみれば問答無用ですぐにでも消して欲しいのだ。

 

「頼むからお願い!!」

 

「分かり・・・ましたわ・・・」

「・・・指揮官様のカラダの目標はブリッツ指揮官と同等としたいですわ」

 

 そう、若く逞しく強いブリッツ指揮官。他基地とはいえ正直憧れてしまう。

 ナイル指揮官もこれくらい逞しかったら・・・なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

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 G36C達が会議を行った数ヶ月後、月末の夜だった。

 月末という事で書類仕事の始末のため残業する事が定例化している。今日も指揮官様と司令室に二人で籠り深夜残業とあいなっていた。

 

「指揮官様、お仕事終わりましたわ。ご覧ください・・・」

 

 最後に仕上げた書類をナイルへと渡して席を立ち、二人分の紅茶を淹れに行く。が、後ろから声をかけられた。

 

「間違っているな」

 

「え!? 指揮官! どこが・・・・ですか?」

 

 驚いて振り返りナイルに問いただすと、彼は書類を机に置いて立ちこちらに歩いてくる。

 

「えっ!」

 

 何かいつもに無い圧を感じて後ろ足で下がるが、すぐに壁に当たってそれ以上の後退が不可能になる。そして指揮官が壁に勢いよく右手をつき自身の体と壁の間にG36Cをサンドイッチする。

 そう。いわゆる"壁ドン"の体勢である。

 

「うひっぃっ」

 

 驚いて少し縮こまるG36Cの顔にナイルがゆっくりと顔を近づけて、互いの顔が数センチの距離となる。そしてナイルが呟いた。

 

「間違いは・・・・君だよ、G36C」

「優しく、可愛く、強い・・・・そんな完璧なキミの存在は間違いとしか言えないな」

 

 敬愛する指揮官の言葉を一瞬理解できなかったが、すぐに顔を赤くしタレ目の瞳のエロさが増したように見えた。

 

「指揮官さま・・・」

 

 我慢に耐えかねたG36Cはナイルの首に腕を回して唇を長く長く重ねる。

 数分間指揮官の唇を味わい、その後ゆっくりと離す。離れた二人の唇は唾液の糸で繋がっている。

 先ほどより更に顔に赤みがかかり瞳にエロさが増す。今度のその変化は誰が見ても間違いなかった。

 

 

「G36C・・・誰がキスしろと言った?」

「悪い子だ。キミには()()が必要だな」

 

 嗜虐的な声をかけナイルの引き締まった上半身がG36Cを抱くように右腕を腰に回す。

 

「指揮官様・・・・あうっっ」

 

 腰に回した指揮官の手がG36Cの尻を撫で回した直後、柔らかいその肉塊を強く鷲掴みにする。

 彼女の声から、鷲掴みにされた苦痛より快感の方が優っていたのだろう。

 

 

「さあ行くよ」

 

 司令室に併設されたナイルの私室へとG36Cと二人で並び入っていった。ナイルの肩にしな垂れたG36Cの瞳にはこれから行われる体罰への不安は全く見てとれなかった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「あふっ♡・・・はっ・・・はっ・・・あはっ♡・・・」

 

 服を全て脱がされベッドの上でうつ伏せに斃れるG36Cは自身に加えられた体罰の刺激と指揮官への愛情により思考回路が完全にショートしていた。その煽情的に変化した瞳は焦点が合わず虚空を見つめている。

 逞しい身体のナイルの股間で首をもたげいきり立ったドラゴンにより、あらゆる体位からG36Cは責め立てられていた。容赦なく何度も何度も。

 一旦休止したところでも彼女は嬌声を零し両手はシーツを無意識に握る事しか出来ない。しかし、尻だけは高く突き上げてナイルの方へ今も向けている。彼女は本能で指揮官が赦すまで体罰を受けいれるのだろう。数々の体罰を受けた彼女の体からは冷却液と潤滑油が吹き出しベッドをドロドロにしている。清掃しないとこのベッドは睡眠には使えないだろう。そんな状態になっても彼女は頑張ってこの体罰に耐えているのだ。

 

 この後もめくるめく加えられる体罰により夜は更けていくのだった。

 

 

 

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 G36Cは顔を赤くしてタレ目を更にエロく垂らしている。そして口の端から垂れそうになった涎をじゅるりと舌で舐めとる。その舌も何かを味わいしゃぶり尽くす様に踊っていた。

 

 

 そんなG36Cを見て56-1式が声を掛ける。()()()()()()()()

 

「あのさ・・・・すっごく言いづらいんだけどさ〜」

「副官さんさ、さっきからずーっと妄想に耽ってるでしょ? あ〜いいのよ。うん、問題はないのよ。妄想くらいみんなするから」

「けど・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()〜。はははははっ」

 

「えっ・・・・きゃあっ!」

 

 言われて我に帰ったG36Cがモニターを隠してすぐに接続を切る。耳をさっき以上に真っ赤にしてベレー帽を手に取り顔を隠してぷるぷる震えている。どうやら彼女にも羞恥心はあるらしい。

 

 

 周りの皆は恥ずかしそうにしていたり、呆れ顔だったり、残念そうな目で見たり、まあそんな反応ばかりである。()()()()()()()()

 

 

「あのさ。副官のオナニーなんて見たくないしどーでもいいんだよね」

「ただ、その汚い妄想に指揮官を巻き込むのやめてくれないかな、かな?」

 

 目を真っ赤にしたサブリナか口汚くG36Cを罵る。先日、強制退院させられた病院での悶着の手打ちもまだであるので、両者の雰囲気は悪い。

 

 

「妄想? サブリナさんは何か勘違いをしておりますわね」

「これは妄想ではありませんわ。近い未来に起こる確定した事実の予言。そう"未来日記"ですわ」

 

 ドヤ顔でサブリナを煽るG36C。唯の妄想なのに"確定した事実"などとよくのたまったものだ。

 

 

「へえ〜。喧嘩、売ってるのかな? ・・・かな?」

 

「貴女こそ指揮官様に"無意味に"絡みすぎじゃ無くて?」

 

 無意味の部分を強調するG36C。つまりサブリナの指揮官への想いは無意味であると貶しているわけだ。これはサブリナとしても許容できない。

 お互いが纏う雰囲気が強烈な殺気に塗りつぶされていく。この二人、指揮官の事となると冗談で済まなくなる。

 まるで鉄血のハイエンドと向き合ったかの如く怒気が増していき、喧嘩する野良猫かの様に飛びかかろうとするその直前、待ったがかかる。

 

 

「いい加減にしなさい! 何のための集まりなのか思い出しなさい!」

「それと、喧嘩するならルールを決めた勝負でやりなさい!」

 

 眉間に皺を寄せたエルに叱られた二人はとりあえずその場を収める。まあ、大食い大会か訓練か、その辺りで決着をつけるのだろう。

 

「で? 指揮官には何をするのです?」

 

「う〜ん、多数決で決めよっか。とりあえず毎朝5kmのランニングと腕立て腹筋スクワット50回3セットからでどーかな?」

「サブリナも賛成」

「異論ありませんわ」

「トレフォイルはどーでもいいと言っているわ」

 

「・・・・・・」

 

 指揮官の都合を完全無視したプログラムが賛成3、棄権1で勝手に決まる。

 エルは焦るが、もうどうにもならないと思ったし、それで体形、体力が良くなる指揮官を見てみたいとも思った。思ってしまった。

 

「うん、分かったわ。明日から?」

 

「そうだね。明日はサブリナと私(56-1式)でやるわ」

 

「じゃあ決まったんで解散〜」

 

『S10基地式訓練方法の研究会(戦術人形の訓練とは言っていない)』はドタバタで荒削りのうちに終了したのだった。

 

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 前日は反省会で知り合った"小太りのオッサン"と"冴えない兄ちゃん"の二人と一緒に、「ナイル指揮官の退院+本社からの釈放おめでとうパーティー」をweb飲み会形式で開いていた。まあ、退院の経緯は全くめでたくないんだけどね。

 お互い、傷の舐め合いもとい部下の管理に関する情報交換会も兼ねていた。

 明日は事務仕事オンリーだからちょっと深酒と洒落込んでいた。まあ最悪G36Cに頑張って貰えば問題ないでしょ。と。

 しかし、その想定は甘かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

"ドゴーン、ドゴーン、ドゴーン・・・"

 

"ダダダダダダンッ"

 

 

 再び就寝中に鳴り響く爆音。12ゲージショットシェルと7.62mm弾のフルオートの空砲が撃発された音だった。間違っても上官の部屋で撃つものではない。

 

 

「うお〜〜〜!」

「な、なんだ? 鉄血の襲撃か!?」

 

 何処かの病院と全く同じセリフを吐きナイルは慌てて起きて枕元のブローニングを手に取り情報収集に移るが・・・・電気が付けられた部屋のベッド脇にはサブリナと56-1式が立っていた。

 

「「指揮官、おはよー」」

 

「ああ・・・おはよーって、おいおいまだ4時前じゃんよ。頼むから寝かせてくれよ。昨日遅かったんだよ」

 

 二日酔い気味もあいまって、そう言って再びベットに横になるが、間髪を入れずサブリナに掛け布団を剥がされ強制的に引き起こされる。そして連携よくすかさず56-1式に蒸しタオルで顔を拭かれる。

 

「アッチ、アッチぃ!」

「なんなんだよ。どうしたよ?」

 

「ん? 今日から指揮官は朝練やることに決まったんだよ」

 

 サブリナがそう言いながら、ナイルのパジャマを剥ぎ取りランニングウェアへと着替えさせていく。

 

「いや、朝練・・・決まったって・・・・勝手に決めんなよ。それに社のルールで銃を目覚ましに使うなって決まったろ?」

 

「知らな〜い」

 

「いや知らないって・・・それに今日は体調が・・・・」

 

「だ〜め! 今日からだよ! ・・・・まったく、弛み過ぎだよ。指揮官」

「───気を付けぇっっ!!」

 

 サブリナが指揮官の駄々を戒めたと思ったら、大きく息を吸い込みとても大声で叫ぶ。

 その声を聞いた瞬間、ナイルは素早く立ち上がり背がピシリと伸び脚を揃えて綺麗な敬礼を見せる。

 

(あ、あれ??)

 

 敬礼したナイルが自身の行動を不思議に思う。もう無意識で身体が勝手に敬礼していたからだ。

 

(おいおいおい。下っ端兵士の頃の癖がまだぬけてねえのかよ、俺)

(しかも、なんでサブリナがこんなこと知っているんだよ・・・・)

 

 そう、S10基地の教練で、身が入っていないR15基地組に喝を入れたブリッツ指揮官の声だった。これがサブリナ達の意識が変わったターニングポイントだった。それをここでサブリナが取り入れた訳だが、別の理由で軍隊出身だったナイルには効果があったわけである。

 

「指揮官、やれば出来るじゃん。じゃあ行くよ」

 

 56-1式がナイル愛用のM4を渡して指揮官を部屋から引っ張り出していく。

 

「おい、ちょっ、・・・・話せばわかる!」

 

「分かってないのは指揮官だけだよ!」

 

 サブリナがそう言うと、ナイル指揮官はズリズリ表へと引き摺られていく。

 この日の強制ランニングで数回ゲロり、這う這うの体で5km走り? 歩き? 抜いたと言う。

 そのあまりの体たらくにサブリナ達に気合いが入り、明日以降は厳しい訓練が続けられたとか、指揮官が毎朝隠れて逃げたとか、どうなったかは公式記録には残っていなかった。

 

 




書きたいこと書いてたら、まとまりなくとっ散らかったかもです。(泣)

SPECさんのコラボ小説
https://syosetu.org/novel/186365/91.html
の、ウェルロッドに託した訓練メニューのメモリーに、ナビゲーターさんがブリッツ指揮官とライトさんの模擬戦記録を忍ばせたのを見たエル隊長の焦りっぷりを考えてみました。あの脳筋で凶悪なS10基地からこんなの送られてきたらビックリしますよね〜、って思い書いてみました。
エルさんはプレッシャーに負けて後日S10へ修業に向かう様です。(笑)

あと、
 >ナイル・ルース指揮官の戦闘はもたついていた。「彼こそ訓練を受けるべきだな」なんて思ったりもした。
この内容とブリッツ指揮官の素晴らしさを知ったサブリナ達はきっと暴走するだろうなと思い、書いてみました。
結果!ナイル指揮官が苦労するだけなんですけどね(笑)

まだSPECさんに託されたネタがあるので、あと1〜2回はコラボ企画が続きます。よろしくお願いします。
56-1式と92式のMODも書きたかったけどタイミング逸したかなぁ(。-_-。)


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