おっぱいはせいぎ (黒マメファナ)
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第1話:その男、巨乳好きにて

地の文は頭空っぽにして書いてるので頭を空っぽにして読んでくれ。いやなんなら会話文もそんなに頭使ってない。


 女性の部位のどこが好きかと問われるとオレは即座に、脊髄反射で答えようおっぱいが好きだと。おっぱい好きと言っても世の中にはたくさんいるが俺は大きいのが好きだ。キリンさんよりも象さんの方が好きな理論だ。ごめん自分で言っててよくわからなくなってきた。とにかく俺がいいたいのは。

 ──大きなおっぱいは素晴らしいぞルークってことだ。誰だルーク。そんな暗黒面もとい巨乳面に堕とされて久しい俺ではあるが、最近は素晴らしいおっぱい、もとい出逢い(おっぱい)に恵まれていると思うんだけどどうだいワトソンくん。

 

「……ひとつだけさ、文句言っていい?」

「どうぞ」

「なんで私にその話するの!」

「俺のフェチズムを知ってるのが親友のお前だけだから」

「親友! えへへ……じゃなくって!」

 

 何を怒ることがあるマイベストフレンド。確かにキミは女性だけど気にする必要はない。だって俺、お前に欲情しようがないし。そもそもまな板に欲情するような性癖拗らせた男でもないしな! 

 

「ヘンタイ! ヒトの胸見ながらそんなことまっすぐ言わないでよ!」

「俺は山があるほうが好きだな、人生もおっぱいも」

「わた、私だって……こう、瑠唯さんみたいに……」

「そこで八潮嬢と自分を比べるの……悲しくね?」

 

 うるさいなぁとまた怒られてしまう。そんな自分のスタイルにコンプレックスのある幼馴染であり親友でもある二葉つくしだけれど、現実は見た方がいいと思う。だってちょいちょい小学生に間違われるし下手するとこうやって一緒に出掛けると俺が変な目で見られかねないし。俺ロリコンじゃないんだけど、ロリ巨乳は好きだよ。

 

「いやでも、こう見えて俺はお前に感謝してるんだよ」

「そっ、そう……?」

「だって、最近はいっつも考えるんだよ。ウチの知り合いと瑠唯さん、どっちのがでかいのか……ってな」

 

 知り合い、ゲーム仲間の知り合いに好みドンピシャのおっぱいさんがいらっしゃるんですけど、八潮嬢の八潮っぱい様を初めて見た時、どうして五体投地しなかったのかと疑問に思うレベルだもん。あとはましろちゃんなぁ、あの幼さでサイズ通りの服着るとヘソチラしかねないのマジでヤバいんだよな。

 

「……なんでそんなこと知ってるの?」

「え、だって俺結構ましろちゃんとデートしてるし」

「デッ! え、それって付き合ってて……?」

「はぁ? バカ野郎イエスおっぱいノータッチの原則を忘れたのか!」

 

 知らないよそんなの! とすかさず返されてしまう。言ってなかったっけ。まぁいいでしょう。とりあえずこう、普段頭の中でセクハラ発言乱発の変態クソ野郎な俺なんだけどさ。ほらそれを外に出したら犯罪なわけじゃん? だからこそ普段の行動はあくまで紳士に。優しく接することが基本なのだよ。実際ましろちゃんも一緒に見に行くヒトがいないって悩んでたから荷物持ちとして手を挙げたにすぎないしな。

 

「なにそれ、男のヒトって……その、胸が好きなら……触りたいんじゃないの?」

「触れるならな。俺にそんな能力はない!」

「言い切るね!」

 

 そりゃね、こちとら高校二年生になっても未だカノジョナシのサブカルボーイの童貞ッスよ。触りたいと触れるは別なんだよバーロー! 自己評価として顔は悪くない、服のセンスも悪くないって服を自作すらしてるゲーム友達からも褒められた。というか対女性のコミュニケーションを完璧に頭にたたき込んだ結果! 結果だよ!

 ──変態隠しすぎて俺、どうやって踏み込めばいいのかわかんなくなっちまったよ。

 

「……ええ~」

「ドン引くなよ親友!」

「今すっごくやめたくなったんだけど! その称号返上していいかな!」

「やだ! なく!」

「それはやめて!」

 

 男ですら俺の性癖? というか熱いおっぱいへの愛を語ったら友達いなくなることなんてわかり切ってんだよ、そのリビドーを解放するためにはある程度慣れてリアクションがツッコミに回ってるつくししかいねぇんだよぉ。

 

「透子ちゃんなら、案外面白がりそうだけど」

「あの子は言いふらすからNGで」

「ああーうん、すっごく納得した」

 

 その点つくしは口こそそんなに堅くないけど自分が言ってて恥ずかしいことだから言えないっていう完璧な布陣なんだよ。ただし桐ヶ谷嬢は別、あの子はゲラゲラ笑いながらモニカに言いふらすから。俺の癒しのおっぱい倉田ましろと神のおっぱいを持つ八潮瑠唯とのかかわりは残しておかないと死んでしまう。

 

「すっごい贅沢なこと言ってるよね」

「触れない分、数で満足するんだよ」

「下ネタ禁止」

「そういう意味じゃねぇよ!」

 

 いやそういう意味で満足したことがないかと問われると俺は今すぐここから走り出して一生家から出たくなくなるけど。

 ──それはさておき、マジな話するとさ……それまで妄想の中でしかなかった理想のサイズのおっぱいを持った美少女が最近俺の周囲で現象として頻発していて、叫ばずにいられなかったんだよ。

 

「そんなに?」

「えっとな、行きつけの喫茶店のバイトの子でしょ、そこの常連さん、あとゲーム友達とかそれこそ瑠唯ちゃんましろちゃんとか」

「そっか? 確かに急に増えたね?」

「あとこの間なんかましろちゃんと一緒にバッタリあった知り合いのツインテの子とか、たまにイベントに行くアイドルバンドのドラマーの子とか」

「う、うん……ホント、飽和してるね」

「そうなんだよ!」

 

 しかも贅沢言わなければもっと美乳美少女いっぱいいるんだよ! 頭がどうにかなりそうなんだよ! いやそもそもつくしだってそのロリっぽさがなければ美少女って括りには入るしな。

 

「そ、そう? ありがと……」

「まぁロリで貧乳じゃどうしても犯罪臭するけどな」

「ふん」

「いってぇ! おま、スネ蹴んなよ!」

 

 そこで頬を膨らませて拗ねられてしまわれたので、お嬢様を宥めながらその日は解散となった。ところでさっきの支払い幾ら出せばいい? と問いかけると大丈夫だよとあっけらかんとした表情で言われてしまった。

 

「今のところ、パパの経営してる店だから割引してもらったんだ」

「あ……そう」

「今月のお小遣いもらったし、さっきの欲望駄々洩れの前に色々話も聞いてもらったし」

 

 ほとんど流して相槌ばっかだった気がするんだけど、あれでいいのか。でもまぁ、つくしは頑張り屋だってのはみんな知ってるんだから、愚痴とか溜め込まずにな。溜め込むとロクでもないのは俺がその身を以て現在進行形で経験してることだしな。

 

「一緒にしないで?」

「デスヨネー」

「私の悩みは健全なの!」

「そうだな、俺より数百倍は健全だ」

 

 つくしはいいね、青春の悩みだ。高校生になって、背伸びしようと頑張って……背は伸びないし胸は成長しないけど。頑張ってるんだから。俺の青春の悩みがあまりにもアレすぎて申し訳なくなってくるよ。

 

「私しか頼れないって言うなら、しょうがない、でしょ?」

「……あはは、頼りにしてるよ」

「やった」

 

 こうやって頼られてること、必要とされていることに笑顔を向ける彼女を見ると一緒にいられるのは似たもの同士だからなんだろうなぁと思う。頼られたいし、誰かを頼るところを見せたくない。だから俺もつくしもこうして仲良く、それこそ付き合ってるのかと邪推されるくらいに仲は良いけど、お互いに恋愛感情にはならない。そもそもつくしも俺も恋愛的なものにアレルギーがあるからな。そこも似たもの同士ってことなんだろう。

 

「じゃ、また」

「おう、早く夜道が平気になれるようにな」

「うるさいなぁ」

 

 そう軽口を交わして、俺はまたなと手を振った。しっかりものの委員長を見送っていく。反転し、俺は自宅に戻り烏の行水で済ませて、素早くパソコンを起動し、ゲームを始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトル詐欺? いや次からはちゃんと出てくるから! ちっさいのじゃなくておっきいのでるから!


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第2話:貧乳が悪というわけではない

胸囲の格差社会


 ゲームにおっぱいは関係ない。そう思うかもしれないけれどそんなことはない。まずアバターをかわいくすれば妄想や装備によってはおっぱいが大きくなる、素晴らしい! ナチュラルに女の子アバターにしがちだけどネカマまではしない。だって作り上げた女の子を妄想の中で動かすことはありでも演じるのはキツいからね!

 ──と、そんなリビドーを放出している場合ではない。インしたらまず通話アプリを開いてチャットを送信する。どうやらいつも一緒にプレイするフレンドさん方は既にボイスチャットを始めているようで挨拶をしてからマイク付きヘッドホンで会話を始める。

 

「あ、きたきた!」

「お、おつかれ……様です」

「お疲れさまー」

 

 元気な感じの明るい声と淑やかな感じの静かな声が聞こえる。女子、そう二人ともネカマじゃなくてリアル女子なんだ。住みも近く……ってかオフ会もした仲でもある。後一人いて、後の一人はコソっと独りでプレイしてることが多い印象がある。なんか本人的には自分がゲームにハマっているという現実が受け入れられないらしい。なんだそれ。

 

「今日は何時くらいまで予定?」

「……ドロップ、するまで」

「ん?」

「レアドロ、するまで……です」

 

 それってデスマでは? ドロ確率どんくらいよと訊ねると無言が返ってきた。俺らが検証班になるの? マジで? そう言うと攻略サイトに情報を送っている魔法使い、りんりんはいいですねと微笑み交じりの声で返事をされてしまった。

 

「あこたちも手伝うよ!」

「……ありがとう」

 

 おいこら、そこでしれっと俺を巻き込むなロリガール。おっとりうふふなりんりん、もとい白金燐子さんは三人なら日が昇るまでには終わりますよきっと、とか言い出した。そのタイミングでメッセージが飛んでくる。

 

『sayo:ちゃんと寝なさい』

 

 紗夜さんちっすちっす。ログインされているんならボイチャ入ればいいのにと思っていたらあこちゃんがまんま同じことを言った。今日は仲間がほしい燐子さんも加わってごねたので折れてボイチャが四人に増えた。

 

「……どうも」

「紗夜さんども」

「フン」

「氷川、さん……来てくれて、嬉しいです」

「別に、私がいれば寝る時間が早くなるのなら、それに越したことはないでしょう?」

 

 あれー俺に対する風当たり強くなーい? そんな文句の一つや二つや三つは出したくなるところだけど、紗夜さんが俺に対してトゲトゲしいのはオフ会からずっとそうどころかオフ会前のボイチャの時点で黒一点なこともあってこんな感じだから馴れちゃった。人間馴れって怖いね、罵倒しても気持ちよくはならなかったけど泣かずには済んでるんだからね。

 

「白金さん。この男にセクハラはされましたか? されたならすぐ相談してください。すぐさま警察に突き出すので」

「え、ええっと……大丈夫、ですよ?」

 

 してませーん。しませーん。燐子さんとは確かに積極的に距離詰めてってるしこの間はオススメのゲームでもしませんかって別ゲーまで誘われているんで! ただし燐子さんからは男のヒトなんだけど怖くないですって言われました、意識はされてないですね! ないていいかな! 

 

「白金さんは騙されています。この男は最低のゲス野郎ですよ!」

「そうなの?」

「違う? のかな?」

 

 そこで言い淀んでしまうのは仕方ない。紗夜さんは俺のおっぱい愛に気づいているフシがあるがあこちゃんと燐子さんは気づいてないから。紗夜さんから見たら身体(おっぱい)目当てのゲスが正体隠して友人に近づいているという、地獄だね、俺も傍から見たら紗夜さん側だよ。燐子さんの神聖なるおっぱいを汚らわしい目で見んじゃねーよゲス野郎が! 

 

「あなたは、私に何を言ったか覚えていないんですか?」

「……え、ゴメンナサイ覚えてないです」

 

 すみません宗教上の理由で貧乳さんは記憶から消滅するようにできているんです。いやそれでも失礼なことを言った覚えはない。ないはず。だって紗夜さんは確かに俺に対してアタリはキツいし俺としてもあんまり仲良くなりたくない部類の人間だったけど、それ以上に大事なゲーム友達なんで。

 

「……ゲーム友達、ですか」

「紗夜さん?」

「なんでもないです」

「……氷川、さん」

「リアルの話は忘れます。ここはゲームの世界ですから」

 

 それっきり、紗夜さんは本当にゲームの話だけをしていった。なんとか日付が変わって一時間ほどでミッション完了し、なんか解散した後、紗夜さんから個人チャットで明日時間ありますか? と送られてきた。ごめんなさい明日は燐子さんとあこちゃんとでコンセプトカフェに行くのでと断っておいて、返事を見ずにベッドに寝転んだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 いくら紗夜さんが超絶美人と言っても俺の性癖基準でいくとむすっとされるとマイナス10点、腕を組んで胸が協調されないマイナス200点くらいかな。ちなみに100点満点の評価だけど。そんな俺基準マイナスぶっちぎりの氷川紗夜さんですが。

 

「……なんですか」

「いや、なーんでいるのかなぁと」

「いけませんか。私だってゲームユーザーですよ」

「そうですけど」

「……二人とも、その……ケンカは……」

 

 と、そこで仲裁に立ったのは美人で表情はまだ若干緊張気味だけどきっと走るとすごいことになるだろうなぁ、いや走ったらカタチが崩れたりブラのホックが壊れたり色々問題が起きそうだからそのままで拝ませてほしい。そんな究極のプラス1000点のおっぱいを持つ白金燐子さんだった。今日もゴシックな服装を盛り上げるナイスおっぱいです本当にありがとうございました。

 

「いやいや、ケンカってわけじゃないから大丈夫ですよ」

「そ、そう……ですか?」

「はい、ね、紗夜さん?」

「空気を悪化させるつもりはありません」

「……なら、よかった、です」

 

 うーん守りたいこの笑顔。友達と友達が仲良くなってくれて嬉しいみたいな顔である。まぁほら、俺としては申し訳ないけど貧乳さんはNGなのでアレですが、燐子さんという神が宿るほどのおっぱいが拝めるならなんでもします。鉄砲玉として命を散らす覚悟もありますよ! 

 

「遅れてごめんなさい! って紗夜さん! やっぱり来てくれたんですね! あんなに興味ありませんって言ってたのに~!」

「う、宇田川さん」

「あ、あこちゃん……それは」

「あこちゃん、紗夜さんはそもそもゲーム好きだって思われるの恥ずかしいんだから」

「あっ、そうですよね!」

「そっ、そんな……はぁ、もうそれでいいです」

 

 それよりも早く行きますよと照れ交じりながらも率先するところあたり、やっぱり紗夜さんはゲーム好きなんだなぁと思う。ちょっとだけ燐子さんが残念なような、そうでもないような表情をしていた気がするけど、どうかしたのだろうか? 

 

「燐子さん、どうしました?」

「えっ? い、いえ……あの」

「はい」

「……氷川さんの、こと、どう思いますか?」

 

 どうって貧乳さん、というのは口に出すわけにはいかないので損しがちでマジメなヒトという第二印象を伝えていく。もっと楽しいって気持ちに素直になれれば、紗夜さんはもっと素敵なヒトになれる気がするよ。なんていうか、笑っていれば美人みたいな感じ。

 

「……なるほど」

「ところで燐子さんは生徒会大丈夫ですか? また外に持ちだせるもんあったら手伝いますけど」

「い、いえ……わたしは」

「──そうしてあげてください」

 

 チラっとコッチを伺いながら紗夜さんからも言われてしまう。今年から生徒会長になった白金さんだけど、雑務が多いのに全部丁寧に独りで終わらせようとするらしい。ダメですよ、みんな忙しいと思うってのはわかりますけど、燐子さんだって十分忙しい部類なんですから。そう言うとちょっと戸惑ってから、じゃあと恥ずかしそうに頼まれてしまった。いやいや、燐子さんと会う口実になるんでコッチはバッチコーイって感じですよ。

 

「よかったね、りんりん!」

「う、うん……でも」

「どうかしましたか?」

「いえ……」

「ねね、夏休みになったらあことも遊んでね!」

「もちろん」

「やり!」

 

 女子三人に男子一人というなんともまぁよくよく考えると居心地が悪いように思う組み合わせだけど、俺はこの関係、意外に居心地がよくて困っている。

 ──ところで気づいたんだけど燐子さんの神々しいおっぱいで目が限界だと思ったら紗夜さんのなだらかな川を見ると安らいで無限機関になるんだこれ。そう考えると少しだけ貧乳さんも目に収める価値を見出したとても有意義な一日だった。

 

 

 

 

 

 




でもやっぱり大きい方がすきです()


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第3話:男はそのサガに抗えない

揺れるものを見るとついそっちを見るのが男、わかります


 行きつけの喫茶店の名前は羽沢珈琲店という。コーヒーの美味しさもさることながら、店員さんが可愛らしいのが特徴だ。特に、看板娘の方ではなくバイトの北欧系美少女が素晴らしい美乳さんなのだ。身長が高くスラリとしているせいで見た目はそうでもないのがちょいマイナスなんだけど。コーヒーを頼むとフェアリースマイルで持ってきてくれるんだよ、しかもだよ。

 

「いつもありがとうございます!」

 

 ──なんて言われちゃえば、デレっとしてしまうのが悲しい男のサガってもんよ。そんなイヴちゃん、若宮イヴちゃんはアイドルでもある。ちなみに同グループで一番おっぱいの大きな大和麻弥さん推しなんですごめんなさい。

 

「あー、ボッチですか〜?」

 

 まぁ推しとかは置いといて、そんな癒しタイムを邪魔するものは一体……とチラっと目線をあげるとそこは宇宙が広がっていた。前のめりでたゆんと揺れる双丘がぶら下がって、変な声が出そうなのを必死に抑えた。前のめりはやめて、前のめりになっちゃう! 

 

「暇を持て余したから癒しタイムなんだよ」

「つまりボッチじゃん?」

「そういうひまりこそどうなんですかね?」

「私は暇だから誰かいるかなって思ってさ!」

 

 つまりボッチじゃんと突っ込むと上原ひまりはえへっと誤魔化すように笑ってきた。うーん百億万点! 森羅万象全てにおいて無敵の笑顔です。あと今日もありがたやありがたや。サイズでこそ燐子さんや瑠唯さんには劣るけれど彼女の最大の特徴は元気っ子ってところだ。何がって動きが激しいから揺れる揺れる。アクティブなおっぱいは目に毒だけど浄化される程の破壊力だと言っても過言じゃない。

 

「じゃあ相席もーらいっ!」

「暇つぶししろって?」

「もちろん! あ、私チーズケーキ食べたい!」

「……あ?」

 

 いいじゃ〜んと甘え上手なところを見せてくるひまりに思わずサイフの紐が緩くなりかける。強烈なんだよな、しかもちょっと覗き込んでくる感じだから、特に今日は胸元緩いんだけど! やばい、谷間見えてるから! 

 

「……目線」

「うわ、ごめん」

「あーあ、燐子さんとかましろちゃんに言っちゃおうかな〜」

「わかりました、脅しはやめて」

 

 ホント男の子なんだからと呆れられる。男は揺れるものに弱い習性があるんだよひまり。いやそんな開き直った言い方しないけど。チーズケーキとアイスティーという余計な出費をして、満足げな笑顔が見られたからオッケー、なのかな? ああいやひまりの場合はちょっとムカっとするな。

 

「……そういえばさ」

「ん?」

「結局さ、誰と付き合ってるの?」

 

 ──思わずコーヒー吹き出すところだった。ちょ、何言っちゃってんの? 付き合ってるって、誰とも付き合ってないからな! そもそもナイスなおっぱいはイエスおっぱいノータッチの原則がとか言ってる俺が付き合えるわけ。

 

「へぇ、誰かと付き合ってて待ち合わせなのかなーって」

「だったらひまりを向かいに置いて目線下に置いた俺って一体なんなんだよ」

「だから訊いてみた」

 

 残念なことに本当に暇人なんですわ。こうやってひまりが話しかけてくれなかったらぼーっとスマホ眺めてイヴちゃんに癒される時間を過ごす予定だったからな。その点暇人仲間アンド間近で常に癒しオーラ全開のひまりがいてくれるのはありがたいというか心のオアシス充填される。

 

「……バイトが忙しいの?」

「まぁ」

 

 そんな休む暇がない! ってほどじゃないんだけどな。だけどいつもパタパタしてるのは確かなんだよ。何せオープンしたてのスタジオだからね。予約制とはいえ土日はもう一人か二人スタッフ増やせやって思うんだ。

 

「そっかー、お友達価格とかないの?」

「社割はあるよ」

「え、じゃあ空いてる!?」

 

 今の説明聴いてました? 聴いてませんね知ってた。じゃないとそのセリフは出ないはずだからね。そういうとなーんだと前のめりから元に戻る。ごちそうさまです。それとなく脳内メモリに焼き付けましたとも。

 

「もうすぐ夏休みじゃん?」

「だね。だからどこのスタジオも全然空きがないって言うんでしょ?」

「え、大正解! なんで!?」

「ひまりはとことんまで俺の話聴いてないな?」

 

 そういうとそーだった〜と何がツボに入ったのかわからないけどケラケラと明るく笑い出した。そんな風にひまりと、ひまりの神おっぱいに癒されているとイヴちゃんがチーズケーキを持ってきながらついでにおかわりいかがですかーとやってきた。

 

「あ、じゃあもらおうかな」

「私も」

「ハイッ! それにしても、お二人はとっても仲良しです!」

「そうかな?」

「メオトですね!」

「イヴちゃん意味わかって言ってる?」

 

 とっても仲良しということですよねと言われて、ひまりが顔を真っ赤にしながらイヴちゃんに耳打ちしていく。しばらくして真の意味を理解したイヴちゃんが銀髪を揺らしながら、そうだったんですね! とちょっとだけ困ったように、苦笑いをした。

 

「……まぁ、そんなことだろうと思ったけど!」

「そんなに怒ることか? 悪気があるわけじゃないのに」

「怒ってないけど」

 

 そう言ってる語調が若干怒り気味な感じするんだけど。ところで実は愚痴りたいこととかあったんじゃなかったの? ひまりに問うとストローから口を離して、なんだったっけとか言い出した。ないならいいけど。

 

「ううん、忘れちゃった」

「そんなテキトーな」

 

 そのくらい小さなことだったとひまりは決して小さくないおっぱいを揺らして、そんなおっぱいが一瞬気にならないくらいの笑顔を咲かせた。なんか、そうスッキリしたような顔されても……まぁ本人がいいならいいか。俺としてはこの短い間だけで過剰供給気味だったし。欲張らない、拝めるだけで十分よ。

 

「さーて、食べたらかーえろ!」

「本当に何しにきたんだよ」

「言ったじゃん、暇つぶしだよ〜♪」

 

 結局そのままひまりはチーズケーキを美味しそうに頬張っ手から颯爽と、本当に一銭たりとも払うことなくいい笑顔で帰っていった。いやちょっと待てや、おかわりのお代くらい払ってけよ、と思ったけど引き留める間もなかった。

 

「ありがとうございましたっ! また来てくださいね!」

 

 ──まぁ、まぁ許してやろう! イヴちゃんの笑顔とエプロンを持ち上げるおっぱいに免じてなぁ! あとやっぱり俺の方がごちそうさまって感じだよ! なんだかんだで出費は嵩んだもののとても癒されたこともあってホクホク顔で帰ってくることができた。

 けど寝る前にメッセージにひまりからあんまり女の子の胸とか見てたら燐子さんとかましろちゃんに嫌われるからね! と余計なお世話が届けられていた。そんなの言われるまでもないけど、指摘されたからにはちょっと気をつけよう。それ以外にも前述の二人やつくしに返事をしながら中学の時との差に思わず笑いが出てしまう。

 

「うーん、ないものねだりをしたくなってしまうな」

 

 なんだか最近はおっぱいの供給よりも一緒に需要を感じる男友達の方が欲しい。ただこの現状を一度クラスの大きい方が好き派は意気投合どころか敵認定されてしまった。解せぬ、俺は自慢したいんじゃなくて鼻息を荒くする仲間が欲しいだけなんだけどなぁ。実はそれが本当の癒しを求めにきた理由だったりする。こんなくだらない愚痴というかためいきを処理するためにイヴちゃんに癒しを求めたなんて本人どころか周囲にもいえないんだけど。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていると、さっきおやすみと送ったはずのましろちゃんから追加の連絡が来ていた。中身を確認するとバイト終わったら会えませんかということだった。確かに明日は夕方には帰る予定だったけど、どうしたんだろう? と思ってとりあえずどうしたの? ということだけ訊ねた。

 

『透子ちゃんがここのイタリアンが美味しいよ』

『ってオススメしてくれたから』

『あとあと、カラオケも行きたいなぁって!』

『どうですか?』

『あ! でも迷惑だったら』

『別の日に』

 

 リンクと一緒に怒涛の勢いでフキダシが下へと流れていく。特に予定もないしなんなら夜中にいつものゲームメンツでレイドやる予定だったし俺はそれまでの暇つぶしも兼ねるしと考えていいよ、とだけ返した。そうすると感謝の言葉とおやすみなさいという言葉が流れてくる。ところで顔文字だろうが絵文字だろうがスタンプだろうが男子にハートマークついたやつ送ると勘違いするやついるから気をつけたほうがいいと思う。そういうのはカレシにしような、そんなくだらないことは送らないようにしてスタンプを返して俺は眠りについた。

 




次回は倉田さんだよ!
なにやら既に不穏な空気が……


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第4話:ビッグセブンの白き天使

今回はましろちゃん!


 最近出逢った神の如く素敵なおっぱいをお持ちの子は全員で七人いる。これを七天の聖杯、カップオブセラフと呼ぶかビッグセブンと呼ぶか、俺は真剣に、そりゃあもう真剣に悩んだ。そして、悩みに悩んだ末に大パイ巨峰主義という非常に頭の悪い名前を閃いたことで後者に落ち着いた。なんて脳ミソの無駄遣いなんだ。

 そんなビッグセブンの大天使こと倉田ましろちゃんは七人の中では大きさこそ六番目と他のメンバーに劣るがそのDPS、瞬間火力はひまりのそれを凌駕する。

 

「お、おつかれ様っ! あのね、コンビニでお茶買ってきといたよ」

「ありがとう、助かるよ」

「うん、よかったぁ」

 

 それは圧倒的距離の近さ、これがガチ恋距離か、なんて言いたくなるほどである。しかも顔もバチクソにいい。ひまりと脳内バトルをさせると持続性のあるひまりか、はたまた瞬間火力のましろちゃんか、なんて熱戦確実である。

 

「開いてる?」

「え、あ!」

 

 まぁましろちゃんのサイフから出たものだしいっかと冷たいお茶を煽る。最後の方ちょい忙しかったから助かるー! 熱された身体に染み渡るー! 美少女が奢ってくれたお茶うめー! と喉を鳴らすとましろちゃんがあわあわと慌てだした、どうしたの? 

 

「そ、それ……間違えてて、わたしの分で」

「……それで開いてたのか、いいって気にしないから」

「そう……あっ! そうだよね! わたしと先輩の仲、だもんね!」

「ん? そうだね?」

 

 と思ったら急に笑顔になられるのはちょい困惑するけど。俺は間接キスなんて気にするほどのことじゃないし……なんて言ってみるけどそりゃましろちゃんが気にしないならそれ以上なにか言う必要ないからね。どうやら本当に全然気にしてないようで、キモがられなくてよかった。ここで嫌がられてたら死んじゃう。

 

「ましろちゃんは練習だった?」

「うん」

「この間のライブ、スゲーよかったよ。カッコよかった」

「ほんと? じゃあいっぱい練習した甲斐もあった、かな?」

 

 なんというかしっぽが見える。ぶんぶん振られてる。なんでこんなめちゃくちゃに懐かれてるのかはマジで不明なんだよね。最初なんかモニカの中でも距離あるなぁと思ってたのに三ヶ月ちょいでコレだもん。肝心のイタリアンの店なんだけど、透子ちゃんのオススメっていうからゲテモノか、はたまた金持ち御用達かと警戒したものの、フツーにオープンしたての人気店的なやつで安心した。

 

「──それでね、そのぬいぐるみを、こう、ぎゅってして寝るとすごくいい感じなんだよ」

「そっか、なんか想像できるなぁ」

 

 うん、かわいいんだけどエアとはいえ実演されると、腕と腕にぎゅっと挟まれて盛り上がる一部分がですね……ごちそうさまです! まだパスタ残ってるけどごちそうさまです! 眼福すぎて心の中で二礼二拍手一礼して拝んでいるとちょっと恥ずかしそうに笑った。

 

「せ、先輩をぎゅっと、しても……寝れそう」

「俺? いやサイズ的に抱き枕になるのましろちゃんの方でしょ」

 

 ましろちゃんが150センチ代だとすると身長差三十近いし。

 ──ううん、それにしてもましろちゃんサイズで柔らかさそのままの抱き枕か……安眠できるか? いや無理じゃね? だって、ねぇ? 

 

「あ、でも……先輩と一緒に寝るってことなんだもんね……ドキドキしちゃうな」

 

 頬を赤らめて恥じらうましろちゃんだけど、これは違うんです。決して邪な目で見ていません。信じてくれよ! そもそも一緒に寝ることを妄想した時点で俺はギルティなんだろう。イエスおっぱいノータッチを忘れてはいけない。それがたとえ距離感がほぼゼロのましろちゃんであっても変わることはない。

 

「そういえば、すっかり暗くなりかけてるけどこの後カラオケって、門限とか大丈夫なの?」

「大丈夫、先輩に送ってもらうからって言ったら許してくれたよ」

 

 ご飯が終わってカラオケ店に向かう頃には既に星空が頭上でまたたいていた。そう信頼されてしまうとこっちもお任せあれ、とナイト様気分になってしまうわけで。まぁましろちゃんがお姫様だとしたら王子様でもナイト様でもなく、俺は農民くらいなんだろう。それでもましろちゃんのおっぱいが豊かに育つためにせっせと働いてしまうのだろう。おっぱいのために働くって……なんかいいね。

 

「どうかしたの?」

「いや! いや、なんでもないよ」

 

 よくわからない方向に妄想を繰り広げていると、こちらをのぞき込むようにしてましろちゃんに心配されてしまった。まさかあなたのおっぱいを育てるための農家になることを熟考していたなんてバレたらドン引きされること間違いなしだ。そもそも俺は一般的にドン引きされるほどおっぱいアイシテルからな!

 

「元気ないなら、無理しないでね?」

「無理じゃないよ、ましろちゃんの生歌楽しみにしてる」

「そう? えへへ……じゃあ行こ!」

 

 すごく自然な動作で手を握られて、小さくて柔らかな感触と一緒に小走りのましろちゃんに引っ張られる。元気でかわいくて、癒されるのはそうなんだけど、手汗とか汚くないかなと気になってしまうから、やっぱりノータッチの原則は大事だと思った。

 

「おお~流石」

「昔からね、カラオケの採点だといい点取れるんだよ」

 

 そしてちょっと狭い部屋に収められて数分後のこと、あっさりと九十点代を連発するましろちゃんに向けて拍手をしていくと肩が触れそうな距離にストンと座って天使の微笑みを、浄化の光を向けてくる。うーん、かわいい、まっしろ! やっぱりましろって名前だけにその微笑みにも驚きの白さがあった。

 

「歌は好きだったから、ストレス発散にもなるし」

「それがモニカのボーカルに繋がるんだな、上手だと友達にも人気だったんじゃない?」

「……えと、ヒトカラで」

「……あ、ごめん」

「……あはは」

 

 ──と思ったら地雷を踏み抜いたせいで即座に堕天してしまわれた。自嘲気味の笑みがすごく寒々しくて、俺はなんとかしなきゃという思いを抱く。この子はご機嫌になる時以外だと、不安になると俺に触れようとしたがる。他人の体温や鼓動が安心するのかな、前に遊びに行った時はフェスに出るためのちょっと大きめのライブの前で、手を繋ぐとすっごく落ち着てくれたから。

 

「先輩?」

「カラオケなら、誘ってくれれば付き合うよ。暇なら、だけど」

「……うん、ありがと」

 

 手を握ってあげるとすごく安心したような笑顔をする。これがまた、えげつないくらいかわいいんだよな。これが隠れガチ恋量産女子の破壊力なんだろうか。なんでこの子がモテないのか理解できない。女子校だけど、中学からチヤホヤとか当たり前にされてそうなのに。すると、中学の時はもっと地味だったからと笑う。

 

「高校デビューだったんだ」

「うん、化粧とかは……あんまり上手にできないから、ほとんどしてないけど」

 

 それでこのかわいさなんだからビジュアルはバッチリ高校デビュー成功だと思うし、人間関係的にもモニカのみんながいるんだから成功じゃないかな。

 ──きっと成人して同窓会とか行くとみんなびっくりするんだろうな、ましろちゃんのかわいさに震えること間違いなし。いやまだ伸びしろがあると想像すると俺がそもそも震えそう。

 

「今日はありがとうございました!」

「こちらこそ、ましろちゃんのソロライブすごくよかった」

「うん、わたしも楽しかった……おやすみ、先輩」

「おやすみ」

 

 手を振って家の中に入っていくまで見送る。あーあー天使です。これは大天使すぎますね。そんなまっしろ無垢で、故に俺みたいな超弩級の変態に懐いてしまった彼女に嫌われるのが怖いと思う自分と、俺みたいな変態とは縁を切ってほしいと思う気持ちが混在する。いい子すぎるのに自己評価が低すぎるのがどうもな。ただ、きっとこんな風に誰かを誘ってご飯や趣味を曝け出せるヒトは数えるほどしかいないんだとしたら、俺の優先順位が下がるくらいまでは、いいかと自分の家までの道をのんびりと歩いていった。

 

 

 

 




ラブコメ雰囲気が出てていいわね……ガチ恋距離を軽率にとってくる倉田さんはかわいいなぁ






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第5話:無表情な常連さん

 知り合いの中でツートップのビックなおっぱいを持ち、白金燐子さんと双璧を成す存在、それがバンドにおいて異色とも言え、またモニカというバンドの色を支える役目をはたしているのがバイオリン担当の八潮瑠唯さんだ。彼女は年下なので法則にしたがうと本来は瑠唯ちゃんって呼ぶところなんだろうけど、雰囲気が年下どころか同じ年にも見えないのでさん付けになる。

 

「いらっしゃいませ」

「すみません」

「瑠唯さん? 予約してた?」

 

 そんな瑠唯さん、実は俺のバイト先にちょくちょく顔を出してくれる常連さんでもある。予約はしたりしてなかったりとまちまちのため訊ねると首を横に振るわれた。腕を組むと腕に乗るような感覚になるのがかなりアレだなぁと思いながらも、バイト中のためそんな煩悩を奥底に眠らせて接客していく。

 

「今日、練習している時に少し気になることがあって……」

「あー、もうすぐ休憩だから待ってて」

「わかりました」

 

 瑠唯さんは俺のことをガールズバンドオタクだと思っているらしく、いやまぁ正しいんだろうけど。でも彼女自身は元々クラシック畑というかそもそも音楽を捨てようとして捨てられなくて、その先を見定めるためにモニカの一員になっているみたいなところあるし。ストイックさの塊ではあるんだけど専門外だったため、知り合った俺に相談してくるようだ。まぁ、そもそもガールズバンドについてってあのメンバーがわかるのかと言われると微妙だしな。

 

「……うーん確かに、妙に落ち着いてる感じというか」

「それじゃあ、ここは編曲した方がいいのでしょうか」

「いやぁ、作曲まで行くと完っ全に素人になっちゃうからな」

「そうでしたね、この質問は無駄でした」

「う、うん……ソウダネ」

 

 ダネダネ、概ね同意するけど不思議だね、なんか文句言いたくなるよダネフシャ! そんなつるのむちを伸ばしながら微妙な顔をしていると瑠唯さんは至って表情を変えることはなく首を傾げてきた。

 

「どうかしましたか?」

「いや……なんでも」

「そうですか」

 

 冷たいんだよなぁ! 対応が塩対応というか、つくし曰く誰にだってそうらしいしなんなら話しかける意味があると思われてるだけ優しいらしいけど、ビッグセブンが誇る凍土の女王による視線のれいとうビームは俺には効果抜群です。

 

「ああ、だったらパフォーマンスが取り入れられる曲調とかどうかな? ホラ、こんな感じで」

「この映像は?」

「えっとプロのライブ映像だよ」

 

 クラシックと違ってバンドのライブといえば聴かせるだけでなくアゲるとかノせるという要素も必要だということでお気に入りのバンドの映像を見せていく。結局さ、技術がどうのとかそういうのがわからんヒトもライブには来るわけだからさ。そうじゃなくても伝わる音楽ってのがバンドには求められると俺は思うんだよな。実際俺だって雰囲気でしか音楽を掴んでないわけだから。

 

「雰囲気で音楽を」

「だからこそ声を出したり手を挙げるんだよ」

「倉田さんみたいな感じかしら」

「ましろちゃん?」

 

 ましろちゃんは音を景色で表現することがあるらしい。瑠唯さんにはそういう感覚がイマイチわかんないということも。そういう感性みたいなのって個々人の問題だからなぁ。俺はなんとなーくだけど音は色なんだよな。ほら音色って言葉もあるし音を表現する慣用句は色が用いられることってあるじゃん? 

 

「黄色い声援」

「それそれ」

「青色吐息」

「うんうん」

 

 そういう具体例を用いることでようやく納得いったという顔をする。まぁ瑠唯さんはそういうところがカタいって言われるんだろうね、おっぱいは確実に柔らかそうだけど。作曲をこれからも担当していくんだったらポップやロックな表現も積極的に取り入れていくべきじゃないかな。

 

「参考になりました」

「素人目線でごめんね」

「いえ、別に私が玄人なわけではありませんから、それに」

「ん?」

「貴重な休憩時間を使わせてしまって、すみません」

「いや、それはいいんだよ」

 

 ふるふると首を横に振るけど、本当に休憩時間なんてぼーっとするくらいしか普段やることないし。それを瑠唯さんとのおしゃべりに費やせたんだからむしろラッキーすぎるというかね。ぶっちゃけ休憩時間っておっぱい妄想してるくらいだしマジモンが見れたってのは癒しですよ癒し。

 

「ひとまずは既存曲のバイオリンアレンジから始めようと思います」

「理解するためにはなぞること、か」

「ええ、その方が効率的ですから」

 

 効率的か。学ぶの語源は真似をするということらしいし確かに理解するためには演奏をしてみるってのはいいのかも。最後にそんな会話をして、瑠唯さんは軽く頭を下げてから去っていった。

 

「カノジョ、帰っちゃったの?」

「違いますって」

 

 店長がからかうように訊ねてくるけど、あんな美人でおっぱいのおっきな子がカノジョだったら俺はたぶん多幸感で死にますね。というか今でも話しかけられるとややドキドキするっていうのに。初対面の時なんか過呼吸になるかと思ったし。

 

「お疲れ様っす」

「お疲れー」

 

 伸びをしてタイムカードを切りながら店長に声かけてバイト先を後にする。欠伸をして今日の夜メシどうしようかと考えていると、お疲れ様ですと声を掛けられ振り返る。

 そこには二時間前に帰ったはずの瑠唯さんとポツポツ会話をする燐子さんがいた。びっくらぽんである。どう見ても社交的じゃない知り合い同士が知り合いなのだから。

 

「二人は小さい頃に……なるほど、じゃなくてなんでここに?」

「……わたしは、その……通りかかって」

「瑠唯さんは?」

「桐ヶ谷さんと二葉さんが、お礼として今晩の食費を出すのはどうかと提案されていたので」

「なるほどね」

 

 それでお金を出そうとした瑠唯さんに、それよりも一緒に食べた方が効率よくない? と提案する。せっかくご飯食べるなら複数人の方が楽しいのは事実だし、燐子さんもどうと訊ねると少し考えるような顔をしてから頷いた。

 ──それにしても、こう、並ぶと……デカすぎるだろ。ビッグセブンのツートップを同時に視界に収めるというインパクトに俺は慄いていた。

 

「あなたがそう言うなら……」

「じゃあ決まりね、何かリクエストは?」

「……わたしは、特に」

「私も、あまり味が濃すぎるものでなければ」

 

 結局色々言ったけれど、安価でメニューの多いファミレスと決まった。瑠唯さんはお金持ちだからこういうの大丈夫かなと思ったけれど意外なことに行ったことがある店だと言われてちょっとほっとした。よかったよかった。

 

「お金持ちか、と問われるとそうなのかもしれないけれど、それは両親のことであって私が決してその財産のプラスになっているわけではないわ。それこそ、桐ケ谷さんや広町さんなら別でしょうけれど」

「あの二人ってなんか自分で稼いでるのか」

「ええ、聞いた話だけれど」

 

 透子ちゃんは服飾ブランド持ちの現役女子高生デザイナーで、七深ちゃんも芸術分野で突出した才能を持ってる……なるほど。そういやモニカの衣装は二人が作ってるって話あったなぁとつくしとの会話を思い出していると燐子さんがジャンルは違うけれど憧れだと口にした。

 

「燐子さんもブランド立ち上げてみたらどうかな?」

「わ、わたしが……? そ、そんな……」

「でもあこちゃんと自分の服って手づくりなんでしょ?」

「あと、Roseliaの衣装もそうだと伺っていますが」

「そ、それはそうなんですけど……!」

 

 燐子さん、すっごくわかりやすい具合にオーバーヒートしてしまったようで、しばらくフォローしてゲームの話をしながら瑠唯さんも会話に参加させていった。それにしても隣の席に座るとボリュームがすごい。注文取りにきた女性店員さんもすごい見てたのをついつい見返してしまった。わかる、見ちゃうよねという視線が伝わったのかはわからないけれどちょっとこっちを見てから去っていった。

 

「……今の女性が好みなのですか?」

「な、なんの話!?」

「随分熱烈な視線を送っていましたから」

 

 いなくなって少ししてから瑠唯さんに突っ込まれて思わず吹き出しそうになってしまう。いやいやそうじゃないから! 確かにちょいかわいいなぁとは思ったけど、目の前の顔面偏差値に比べるとすごいことになってるからね! 

 

「……いけません、見とれるのは……だめ、です」

「え、ええっと……?」

 

 そんな弁解をしようとかしまいか悩んでいると燐子さんがやや頬を膨らませて、えっと怒ってる? なんで? 困惑してしまうけれど、とりあえずごめんなさいと謝罪しておく。なんで怒られたんだろうか、わからん。

 結局それ以降は三人で音楽の話で盛り上がりながら時間を過ごしていった。うーん、見比べたら最近の悩みが解決するかと思ったけど、服越しじゃわからん! どっちが大きいんや! 俺は頭の中そんなんばっかりでしたが。

 

 

 

 

 

 




現在登場中のビッグセブン
燐子、瑠唯、ひまり、???、???、ましろ、イヴ

いやタグ見ればネタバレになるんだけどさ。あと二人で世界観というか主人公とヒロインズの関係性を書ききれるかなぁ。あと主人公くんの名前が決まったので、それが終わったら登場するかと思います。


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第6話:そこかしこに癒しがいるせいで

お前(の周囲の女性環境がある種)精神状態おかしいよ


 燐子さんは近くにある花咲川女子学園の生徒会長さんだ。引っ込み思案な自分を変えるために前の会長からバトンを受け取った彼女は、だけどその仕事の多さに目を回しながら頑張っている。そのせいでゲームにログインできないという愚痴をあこちゃんが俺に教えてくれたことで、学校の外に持ち出せるものはなるべく手伝いたいと提案したのが、オフ会というカタチ以外で顔を合わせることが多くなった原因だったと記憶している。

 

「あ、ありがとうございます……助かりました」

「いえ、これくらいなら」

 

 こんな風に燐子さんは毎回毎回頭を下げてくれるけど、実際生徒会の仕事で持ち出せるものなんて一割にも満たないだろう。それを少し手伝ったところで気休めか、自己満足の範囲でしかないことなんてわかってる。それを利用して、俺がおっぱいを眺めたいだけってのも、もちろん自覚してる。それに関してはバレなきゃなんでもいい。おっぱいは俺にとっての行動理念だからな!

 ──と、そこに羽沢珈琲店の扉を開けお客さんが来店する。イヴちゃんがすかさずそんな知り合いでもある彼女に反応し、まるで大型犬が如く向かっていった。

 

「アリサさん! いらっしゃいませ!」

「おわ、イ、イヴ! くっつこうとするな!」

「おひとりなんて珍しいですね! ささ、こちらの席へどうぞ」

「あー悪い、一人じゃなくて白金先輩は……って、あ……ども」

 

 瞬間で借りてきた猫状態になる金髪ロールツインテールの彼女、これまたおっぱいが大きくて、確か俺の知り合いであるビッグセブンの中で一番身長が低いんじゃなかったかな? なんかましろちゃんより低いイメージはあった。そんなビッグセブンのツンデレ枠こと、俺にはデレがない市ヶ谷有咲に手を挙げて挨拶していく。

 

「市ヶ谷さん……来てくれてありがとう、ございます……」

「いや、そんくらいはいいですけど」

「気まずいなら、俺はいなくなるよ」

「あ……えと」

 

 否定されない、悲しいなぁ。そうなんだよね、有咲、ましろに紹介されたポピパのキーボード担当なんだけど、最初は仲良くしようと思ったし割と仲良くなったんだけど、なんか一ヶ月くらい経ったら妙に風向きが怪しくなってしまって、なんとかしたいなぁと思っていることでもある。ただ、有咲そのものに拒否られたら俺は涙を流しながら退席するしかないわけで。

 

「なにしたの?」

「なんもしてねぇ」

「嘘じゃん。それであんな露骨に避けられることなくない?」

「……わかんねぇから泣いてるんだよなぁ」

 

 帰ろうかとも思ったけれど、ちょうどそこにいたひまりに慰めてもらっていた。ため息吐きながらたゆんたゆんと、じゃなくてなでなでと机に突っ伏した俺を癒してくれる。ただ言葉は攻撃してきているためひまりの顔は見れないんだけど。

 

「いやマジで心当たりないんだよなぁ」

「ん~、私がそれとなく聞いてあげよっか? そんなに普段話す子じゃないけど」

「いいの?」

「……タダじゃ、ないよ?」

 

 うーわ、うーわまたそうやってたかろうとする。この間だって紅茶とチーズケーキにおかわりまで頼んでバックレやがって! と言いたいがどうせそうやって怒るとじゃあ自分で解決すればーと捨てられることになるのでおかわりはなしだからなと釘を刺すことしかできなかった。

 

「わかってるって」

「ホントにわかってんのかよ……」

 

 なんというか、ひまりはましろちゃんのようなガチ恋距離、ではないんだけど下手すると幼馴染で俺としてはベストフレンドと呼んで過言ではないつくし並みに居心地のいい相手だと思う。ただまぁ、ほらつくしは唯一無二の要素として俺の性癖を知ってるってところがあるから? まぁ完全に比べることはできないわけだけど。

 

「つか今日はまたなんで一人なの?」

「今日はつぐんちに泊る予定なんだ~、女子会だよ~」

「つぐ……えっと羽沢さんだっけ」

「もー! ほんっと、名前覚えるの遅いんだから!」

 

 あれですね、羽沢つぐみさん。ここの看板娘、かわいいけど胸部は慎ましやか、説明以上。というわけで川が流れてるメンバーで明確に名前を把握してる女子なんて絶壁のつくしを除くと紗夜さんとあこちゃんくらいだよ。

 

「んで、お泊りだからその時間をここで潰してると」

「うん」

「つまり」

「うん」

「暇人か」

「……うん? もしかして今どっちが立場上かわかってない?」

 

 ナチュラルな脅迫はNGでお願いします。奢るって言ってるんだからその上下関係解消されてもいいはずなんですがねぇ! 結局、奢らされて羽沢さんが声を掛けたタイミングで放り出されてしまった。やっぱりあいつ全然優しくない! 一瞬でも優しい、嬉しいってなった自分を殴りたくなった。

 

「あ、あの……さ」

「有咲?」

 

 一人に戻った状態でもう帰ろうかと凹んでいると、どうやら確認が終わったらしい有咲に話しかけられた。気まずくなって以来の会話にちょっとテンションを上げながらどうしたのと問いかけると、何かを言おうか言うまいか悩みながらも、再度口からきちんと言葉を発した。

 

「上原さんと、付き合ってる?」

「へ? いや、付き合ってないけど」

「だ、だよな……悪い、でもカノジョっているよな?」

「え? い、いないんだけど……」

 

 なんでいる前提で問いかけられたの俺? いつだって俺の隣はフリーだしなんなら今なら相席までフリーなんだけど。こんな悲しいカノジョ持ちとかおる? おるわけなくないか? そう思うんだけど、どうやらその解答が有咲にとっては予想外のことだったらしく、じゃ、じゃあと質問を重ねていく。

 

「倉田さん、とか」

「ただの友達だよ」

「……どういうことだ?」

 

 いやこっちがどういうことだってばよ。俺は生まれてこのかたそういった特別な関係になった女性はおりませんが。そして現時点ほしいかと言われれば眺めてる方が好きなのでいりませぬし俺の性癖についてこれる女性がいるわけもないと諦めてるので。

 

「白金先輩と?」

「訊いてみ、爆速で否定するから」

 

 それね、前に松原さんって子に問われたことがあってその時にマジで爆速否定したんだよ。いやそんな超高速で否定しなくても、と悲しい気分になりつつも確かに事実として付き合ってないから俺からも口添えはしたけどね。

 

「なんか……もしかして複雑なのか?」

「人間関係がってこと?」

 

 有咲ちゃんに頷かれるけど、そんな複雑な人間関係してるっけ? えっと幼馴染がつくしで、つくしの友達ってことで知り合ったモニカ関連、そのモニカの中で一緒に出掛けるくらい仲のいいましろちゃんから紹介されたのがポピパ。んでゲーム仲間が燐子さん、あこちゃん紗夜さんの三人で、そのうちあこちゃんのお姉さんの幼馴染ということでひまりと知り合った。くらいじゃね? あとは近くの喫茶店のここで知り合いになったイヴちゃんくらいなんだけど。

 

「あーもう、わっかんねぇ! 悪い、変なこと聞いて」

「なんか変な噂でも流れてる……?」

「具体的には?」

「何股、とか」

「自覚はあったのか」

「なんか紗夜さんに怒られた記憶がうっすら」

 

 あの慎ましやかでけれど厳しい激流の川のようなおっぱいと精神を持つ紗夜さんから、女性関係がルーズすぎませんかと怒られたんだよ。その当時も、正直今ですら俺はあんまり納得はしてないけど、みんなから誰かと付き合ってるの? と問われまくった以上そういうことなんだろうと思い始めてる。

 

「いや、なんつーか……お前、気を付けた方がいいかもな」

「気を付けた方がって、どういうこと」

「自己評価、低すぎてもいいことなんてなんもねーってこと」

 

 有咲の言葉には確かな重みがある気がして、俺は気を付けるとゆっくり頷いた。自己評価が低い、か。でも自己評価ってどうやって上げたらいいのかなんてわかったもんじゃないし、そもそも俺は評価されるほどの人間かどうかって問題に直面しちゃうんだよなぁ。

 

「ま、知らない関係じゃねーし、私も手伝えるなら……手伝うけど」

「ん、まぁなんかあったらお願いする」

「おう」

 

 ああ、ツンデレしてくれると有咲だなぁと思う。もう敢えてやってくれるんじゃないかなみたいな安堵感だ。なにせくるくると指で縦ロールいじりながら肘を反対の手で支えるもんだから服が……浮いてた服が腕に押されて、双丘がその真の力の一旦を解放する。もうその時点で俺は吹き飛ばされかねない威力だ。なによりかわいいんだよなぁ有咲は。

 

「それじゃあ、お疲れ様です燐子さん」

「……はい、ありがとうございました」

「暇ならまた駆けつけますんで」

「いつも……ごめん、なさい」

「いや、手伝わないとむしろ俺が紗夜さんに怒られちゃいますから」

「……そう、ですよね……ふふ」

 

 最後にそんな会話をしながら俺は燐子さんをおうちまで無事送り届けてミッションを完遂した。さてさて、明日は早起きしなきゃならないからな。なにせ明日はパスパレのイベントの日だから! ビッグセブン最後の一人は、そのグループの俺の推しだからな! 

 

 




というわけで次回、最後のおっぱいが登場します。


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第7話:イベントに行けば巨乳が見れる世界線

ラストは麻弥ちゃんだ!


 今、流行のガールズバンドをおっかけるようになってから変わったことといえば、アイドルのイベントに行くようになったことが挙げられる。そう、バンドとアイドルの融合であるパスパレのイベントに。最初はイヴちゃんがいるからってふらふらとやってきた俺だけど、そのイベントで全く別のヒトに釣られてしまった。

 

「楽しみだね、ましろちゃん」

「う、うん……でも、やっぱり男のヒトが多い、ね」

 

 ──普段ならここでひゃっほい! おっぱいだおっぱい! って勝手にテンションがあげられる場所なんだけど、今回はその限りではなかった。俺の隣にいるのはオタ友……ではなく。いたらめっちゃ嬉しいんだけど、そうじゃなくて幼馴染でありベストフレンドのつくし。こいつは俺がパスパレの推しもその理由も全部知ってるんだけど、俺のシャツを掴むもう一人がなぁ。

 

「大丈夫ましろちゃん?」

「う、うん……大丈夫じゃないかも」

「つくしは日傘、ヒトに当たらんようにな」

「わかってるよ!」

 

 なんでか知らないけどましろちゃんがついてくることになった。いや確かにイベントのことを知ってはいたし、つくしはアイドルとかかわいい感じのが好きなタイプだから去年から偶に一緒に行ってたんだけど。

 

「わたしも、一緒に行きたい。だめ、かな?」

「ダメってわけじゃないけど」

「なら」

 

 なら連れてってという言葉を否定することはできず、結局こうしてアイドルのイベントに彼女を引っ張り回すことになっていた。状況を頭悪くまとめるとおっぱい眺めるために出掛けたらなんとおっぱいがついてきた、みたいな。わかりやすくないな、うん。

 

「これって、どういうイベントなの?」

「握手会だよ」

「握手? ヒーローショーみたいな?」

 

 なるほど、ましろちゃん的には握手する相手がヒーローなんだね。そんな小さな発見している間につくしが、ちゃんと説明してくれた。まぁヒーローショーみたいに並んで有名人に握手してもらうみたいな感じでは間違ってないけど、まぁ確かにイヴちゃんとか、羽沢珈琲店の常連さんである松原さんのお友達である白鷺さんと握手するのかと言われるとアレなんだけどね。

 

「あ、どもッス、フヘヘ……」

「麻弥さん、今日のミニライブのドラムもアガりました!」

「そ、そうですか? いやぁ、今回はですね~」

 

 とりあえず最初にミニライブがあって、チケット一枚でその後各メンバーと握手することができる。ましろちゃんに使う? と一枚手渡したけど、彩ちゃんのところに行ってるかな。というか一人で行けるのか、それがめちゃくちゃ心配なんだけど。ちょっとそっちに意識のリソースを割きながら、麻弥さんと会話すると時間ですと言われる。

 

「はっ! またジブンばっかりしゃべってしまって……すみません」

「そんなこと、楽しかったし参考になりました!」

 

 いやぁ、アツく語る麻弥さんはやっぱりいいな。なによりおっぱい、ですね。おっぱいが素晴らしいんですよ。アツく語るとちょっと距離が近くなるからやっぱり目線がどうしても胸元に吸われる。ブラックホールの如く光すらも吸い込むような無限の領域だよ。

 

「あ、先輩! いた!」

「よかった、無事握手できた?」

「うん! 彩さんすっごく驚いてたけど嬉しそうだった!」

 

 ましろちゃんはパっと笑顔で俺に向かってかけてくるのがかわいいんだよなぁ。因みにだけどつくしも彩ちゃん推しらしい。なんでも同じバンドのリーダーとしての心構えが、とかリーダー繋がりで親近感? リスペクト? みたいなのがあるっぽい。そんなこと言うとひまりもそうなんだから話聞いてやって。

 

「ミニライブも、すごかったなぁ」

「バンドとして?」

「うん、たった二曲でお客さんをあんなに盛り上げちゃうんだもん!」

 

 なんだかこういうましろちゃんも珍しいけどかわいらしくていいと思う。というかましろちゃんもオタク気質なんだなぁと思う瞬間だよね。いいと思う、透子ちゃんみたいなのは苦手なんだよな。それにしても元気なましろちゃんはたゆんたゆんしていていいと思う! ううん最高! ありがとう! 

 

「つくしもおかえり」

「久しぶりのイベントだからちょっと緊張しちゃった」

「それじゃあとりあえずお昼にしよっか」

 

 そんな風に順調にイベントでまた少し回って、帰りは三人の意見を合わせて家の近くにあるファミレスに行くことになった。わいわいしゃべりながら食べていると、相席よろしいですかと問われて見上げるとそこには恥ずかしそうに笑う麻弥さんの姿があった。

 

「麻弥さん、お疲れ様です」

「ッス、お二人も来てくれてありがとうございます」

「いえいえ! 楽しかったし、ね? ましろちゃん」

「う、うん……お話は緊張したけど、楽しかったです」

 

 そんな二人の言葉に麻弥さんは本当に嬉しそうに目を細めて恐縮ですと頭を下げた。ところで今日はおひとりなんですか? そもそもイベント後にこのファミレス来るのは本当に稀ですよね。

 

「あーいや、今日は、さっきの握手会の話、したりないなぁ……なんて思っちゃいまして」

「それで?」

「いっつも二葉さんと帰りはここにいるらしいというのは、知っていたので」

 

 麻弥さんとはプライベート? での知り合いでもあるんだよね。そもそも、パスパレって羽沢珈琲店の出没率が高いからたぶんあんまり会話したことないのってそれこそ彩ちゃんくらいじゃないかな。それでも連絡してくれれば教えたのに、と言うと会えなかったらそれまでなのでと困り気味の笑いをされてしまった。

 

「麻弥さんなら大歓迎ですよ、な、つくし」

「うん、もちろん! またいっぱいドラムの話聞きたいです!」

「そういうことなら……フヘヘ」

 

 そりゃ、麻弥さんがつくしと楽しそうに話しているのを横から眺めるなんて、なんてご褒美なんでしょ状態だからね。特に向かいに麻弥さんがいる状況がベストだと思う。ただ今はましろちゃんがいるから隣なのが惜しい。横目に眺めるだけにとどめておこう。

 

「麻弥さんと、仲良しなんだね」

「ん? 仲良し、うんたぶん」

「ふぅん」

 

 ドリンクバーを取りに行くとましろちゃんが追いかけてきて、ちょっと不満そうな声を出していた。なんだろう、もしかしてアイドル興味あったのに今まで誘われなくて、その上でプライベートの繋がりもってたから不満なのかな。

 

「今日さ」

「ん?」

「……カラオケ行きたい」

「えっと、じゃあ二人にも訊いてくるよ」

「……うん」

 

 頷きつつ、ましろちゃんは俺から離れることはない。えっと、マジでどうしたんだろうか。なんだかんださっきまですっごく元気そうだったのに。もしかして、やっぱり麻弥さんがいると人見知りを発動しちゃうんだろうか。だとすると、カラオケ行きたいというのはあんまり緊張しちゃわずにいられる場所に行きたいってことでもあるんだろう。おっけーおっけー理解した。

 

「……わかった」

「先輩……」

「でもカラオケはまた今度な」

「……そっか」

 

 その代わりに話したいことあったら今夜は幾らでも付き合うよと伝えるとようやくましろちゃんに笑顔が戻ってきた。うーん、つくしに相談したら絶対に甘やかしすぎって言われるんだよな、オカンかよというツッコミはさておき。戻ってつくしに事情を説明してそれとなく席を変わってもらった。

 

「いや、それにしても麻弥さんの演奏はカッコいいですけど、機材とかも関わってるんですよね?」

「いやぁ、どーしても裏方だった頃の血が騒ぐという感じッス」

 

 そこからは麻弥さんと向かいになって、ましろちゃんに若干くっつかれながら会話を続けていた。そのせいで麻弥さんにはちょっと不思議な顔をされてしまったけど。ごめんね、正直人見知りだったのすっかり忘れてたから。そういう罪悪感もあって甘やかしてしまうんだよな。つくしからはいっつも甘くするとダメ、月ノ森生としても、人間としても、って口酸っぱく、やっぱりオカンの如く言われてる。ただお前が独り立ちしてるとは絶対に認めないけどな。

 

「それじゃあ、今日はお疲れ様でした!」

「はい! お休みなさい、倉田さんも」

「は、はい……おやすみなさい」

「麻弥さん、またドラムの話したいです」

「おお、いいっスね! 語り合いましょう!」

 

 そんな感じで麻弥さんと別れて、深夜になるまでましろちゃんと電話をした時に、半分寝ぼけた声で先輩の周りは女の子が多すぎるよと文句のような、そんな言葉に俺は確かになと頷いた。

 ──燐子さん、瑠唯さん、ひまり、有咲、麻弥さんにましろちゃんにイヴちゃん。俺が去年から出逢い続けてきた大きなおっぱいを持つ七人の天使たち……一部例外もいますが、俺の性癖にとっての大正義を体現する美少女たちと、その他性癖は外すけど美人ぞろいの知り合いたち。ただホントに誰かと付き合うだなんて俺は考えてなくて、ガールズバンドとして応援したり、会話をしておっぱいを眺めてるだけでマジで幸せだから。

 

 




この物語は全員が絶妙にすれ違っていますが、噛み合ってるヒトもいるのでその子とは仲良し、みたいな感じです。


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第8話:小さくてもでっかい

 開幕から叫ぶぞおっぱい! そんなハイテンションな始まりだけど残念ながら今日はおっぱい関係ない。ノーおっぱい。前だったらおっぱいがない、おっぱいどこって迷えるおっぱい星人と化した俺なんだけど、前に言った通り最近飽和状態なので偶にはこういう日もあっていいよなと思うようになった。休肝日てきな、未成年だけど。そんな休胸日を迎えた……きゅうきょうびって造語、語感悪いから二度と使わないとして、たまには山ばかりでなくなだからな平野を眺める日にしようと俺は目の前の平原を見つめた。

 

「殴っていい?」

「待てつくし、フォークはだめ、ナイフもだめだからな」

 

 ナイフとフォークで生物に立ち向かうのは某グルメマンガだけでお腹いっぱいだよ、グルメマンガだけに。

 ──とまぁ、そんなくだらないやり取りをするのはやっぱりベストフレンドにして隣に並ぶと兄妹か犯罪を疑われる二葉つくしちゃんでーす、どんどんぱふぱふ~、ぱふぱふできないけど。

 

大輔(だいすけ)!」

「はいはい」

「もう、今日はおっぱ……んん! 胸の話は禁止!」

「え、そうすると俺は天気の話しかできないんだけど」

「どんだけ会話のバリエーション胸に偏ってるの!」

 

 どんだけって、つくしがイベントストーリーで月ノ森生として~って言いだすくらいの割合かな。そう考えると相当だな。ヤバいな。で、えっと……おっぱいの話題禁止なんだっけ、えーとえーと。

 

「……今日はいい天気ですね」

「ホントに天気の話するの!?」

「ちなみに俺は夏の雨が好きだよ」

「そ、そうなんだ……なんで?」

「服が透けるから」

「ヘンタイ!」

 

 夏ってほら、基本生地が薄いじゃん? 通り雨とかで濡れるじゃん? 透けるじゃん? なんならカラダのラインに張り付いておっぱいのカタチがくっきりじゃん? だからもっとじゃんじゃん降ってほしい、できれば俺がビッグセブンと会ってる時に。今はだめ。

 

「結局また胸の話してる……」

「いやホント、口に出せるのつくししかいないから……」

「じゃあ普段天気の話ばっかりしてるの……?」

 

 それはない。なんだかんだ相槌でやり過ごしてるさ! とか言いつつ燐子さんならゲーム、瑠唯さんはバンド関係、ひまりはなんか色々あったこととかってそのヒトと会話する専用デッキが存在するから。それが通用しないのマジでましろちゃんくらい。

 

「……ましろちゃんかぁ」

「どうかした?」

「ううん」

 

 首を横に振られるけど、いやそのリアクションはなんにもない感じじゃないでしょ。あの子のメンタルマジで赤ちゃん並みだから心配になるが、俺ができることなんてほんの僅かでしかないし、あの子俺ができることなら速攻で電凸してくるし。

 

「大輔はさ」

「うん」

「ましろちゃんのこと、どう思ってるの?」

「どうって、おっぱい」

「……サイテー」

 

 サイテーだろうとなんだろうと俺が対女性にどう思ってるかなんて突き詰めるとイエスおっぱいかノーおっぱいの二択だよ。必死に隠してるからバレてないだけで、本当に最低で嫌だって思えばつくしがバラせばいいんだよ。そういう意味も込めて俺はつくしにだけは隠すことなく伝えてるつもりなんだけどな。

 

「相手が自分のことをどう思ってる、とかは?」

「考えてどうすんのさ。もしかしてあの子、俺に気があるんじゃね? って恋愛脳になっとけばいいのか?」

「……ごめん」

 

 いや謝られるほど怒ってはねぇけど。つかさ、女性は視線に敏感だって言うじゃん? 俺がどんだけおっぱいに執着してるかどうかまではわかんないだろうけど、たぶんみんな俺がそのヒトのどこを見てるかなんて気づいてるよ。つくしだって気づくわけだし。

 

「……そだね、今も見てるでしょ」

「おう、相変わらずなだらかな平原だなと」

「バカ」

 

 とまぁそんな常に視線がおっぱいな男、誰が好むかよって話なんだよ。たとえ態度が紳士でも、いや態度が紳士だからこそ、その視線が気になるもんだと俺は思うよ。こいつむっつりじゃんかみたいな。実際はもっとオープンにおっぱいって叫びたいけど。

 

「あーあ、つくしが巨乳だったらなぁ」

「好きになってた?」

「いやそこまでは……わからんけど」

「なにそれ、付き合えたら触り放題なのに」

「イエスおっぱいノータッチで」

「変なの」

 

 なんというか、つくしとは長く一緒に居て好きって感情なんて湧かなくなったよ。それこそ昔は結婚とか囃し立てられたけど、つくしが選んだ男がいつか俺の前に現れてコイツとはもう話さないでください的な嫉妬を向けられたいと思うようん。当て馬になりたい。

 

「私は……」

「ん?」

「逆は、ちょっと泣いちゃうかも」

「おやぁ、つくしはもう大人なのに幼馴染離れができないのかな?」

「……できないよ。私のダメなところ、大輔が全部知ってくれてるから、強がっていられるんだもん」

 

 ちょっと下を向かれてしまった。ごめんって、そんないじめるつもりじゃなかったんだよ。つくしが自分のことをダメだってちゃんと言葉にできる相手が俺だけっていうのは、ホントにそうなんだろうな。気づかれても違うとしか言えない弱い自分ときちんと向き合えるのが。相変わらず重い信頼だ。ある種恋愛感情よりもずっと重いものを背負わせようとしてくる。まぁそれは俺も同罪だけど。

 

「あーあ、私も、大輔がもっとカッコよくて胸の話ばっかりしないヒトだったらなぁ」

「だったら好きになってたか?」

「うん。でもそうなったらもうそれは大輔じゃないけどね」

 

 確かにな。俺が表裏のないマジもんの紳士でおっぱいに対する情熱なんてなかったら、それはもう俺というアイデンティティの崩壊を意味してるからな。俺はおっぱいの情熱を諦められないし、おっぱいへの愛を諦められない。でも、逆を言えばそれが宗山(そうやま)大輔ってヒトリの人間を構成してるってことだもんな。

 

「セクハラがアイデンティティっていうのもどうかと思うけど」

「つくしにしかしないし」

「私にもしないでね!?」

 

 訴えてやるんだからと怒られて、笑いながら謝って、それがいつものやり取りすぎて安心する。こういうところは俺もまだまだ幼馴染離れができてねぇなって思う。それこそおっぱいはないけど、つくしは一緒にいて飽きないやつだ。バイト先で瑠唯さんと話して、羽沢珈琲店でイヴちゃん、ひまりや時々麻弥さんや有咲と会って、ましろちゃんや燐子さんたちと出掛ける日々、目のやり場に困るそんな日々を支えるのはやっぱり、目のやり場に困らない大切な幼馴染の存在はでかいよな。小さいのに。

 

「なんか、今余計な一言付け加えなかった?」

「小さいのに」

「そ、そのうち……でっかくなるかもしれないじゃん」

 

 いやおっぱいに手を当てて怒ってるところ申し訳ないんだけど今回ばかりは身長の話をしてたよ。ホントそのロリコン先生が大興奮しそうな幼馴染を持ってしまったせいで、マジで偶に周囲の目線が痛いんですよ。そのうち通報されそう。

 

「うぅ……高校生になっても、この扱い」

「子ども料金で電車乗れるもんなお前」

「うるさいなぁ!」

 

 いいことじゃん半額だよ半額。あとお前、身分証明書は常にサイフに入れておけよ。絶対に職質されるからな。そう言うと大輔も絶対職質されるから一緒にサイフから出せるようにしとかないとね! と煽られた。俺は既に訊ねられるんでサイフに入ってます~。

 

「それじゃ……あ、そうだ」

「ん?」

 

 帰り道に家の前で別れる寸前、つくしが思い出したかのように笑顔で来週のバイトのことを訊ねてきた。おう、来週はガッツリ入ってるけど、つかお前は俺の予定知ってるだろうが。そう返すとつくしは嬉しそうな顔で遊びに行くからねと言い出した。練習しにこい、遊びに来るな。

 

「モニカで予約したから!」

「……毎度」

「じゃーね!」

 

 いい笑顔で手を振るつくしを見送りながら俺はため息を吐いた。いやいいんだよ、つくしと瑠唯さんとましろちゃんはね、いいんだよ。おっぱいって興奮できるし。ただ問題は残りの二人なんだよなぁ。そう思いながら来週のバイトが少し億劫になった瞬間だった。とりあえず明日はひまりに振り回されるからそのこと考えよっと。

 

 




つくし相手だと発言がヤバくなる主人公、ついに名前が登場しました。
宗山大輔(そうやまだいすけ)くんですどうぞよろしく。


おっぱいはせいぎヒロイン図鑑(略称おっぱいヒロイン図鑑)
№01幼馴染イズベストフレンド:二葉つくし
 おっぱいはない、ない(無慈悲)。彼女にとって彼は幼馴染以外のなにものでもなく、それ以外にはなりたくない。だが幼馴染離れができないため、時折重いカノジョみたいなことを言い出す。


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第9話:大輪のひまわり

相変わらず頭を使わずに文章書いてます。


 待ち合わせとかって割とドキドキしてしまう感じだ。そりゃ相手が男とかつくしとかだったらな、なんかドキドキするの違うだろってなるけど。そうじゃなくて女子との待ち合わせ、二人で出掛ける実質デートみたいなノリだとさ、そういう関係じゃなかったり自分にそういう気持ちが全くなかったりしても、なんかドキドキするんだよなぁ。

 

「おーい!」

 

 そんなおっぱいって言うことすらも忘れた俺の耳に飛び込んできたのは元気な声、そして元気いっぱいな笑顔、さらに──元気に跳ねる、おっぱい! ああおっぱい! ばいんばいんですよ! おっぱいって言うこと忘れてたのにあっという間に俺の思考の宇宙をおっぱいで埋め尽くすスペースコロナモードおっぱいの破壊力を慈悲なくかましてくるのは、上原ひまりだ。

 

「早いね~、待った?」

「えっと、今来たとこ?」

「うん満点!」

 

 なんか採点されてた。でもましろちゃんにこういう時はどんだけ待ってても今来たとこって言った方が印象いいんだよと教えてもらってなかったら爆死していただろう。フツーに十分くらい前からいるし。そういう意味の満点なんだろう、よかった女子共通認識で。

 

「さて、デートだよデート」

「……え?」

「どしたの?」

「え、いやデートって」

 

 デートって言われるとどういうことってなっちゃう脳内お花畑はこちらです。というかデートのつもりだったの? と問うとひまりはケロっとした顔でこの状況は誰がどう見てもデートでしょと言われてしまった。え、えぇ……それでいいのか。

 

「いいも悪いも、こうやって成立してるんだから……もしかして意識しちゃう?」

「いや全然」

「……なんだ、つまんなーい」

 

 いやいやつまんないじゃなくて、どういう反応すればセーフだったんでしょうか? え、もしかしてそこで意識しちゃう! って言ったらどういう反応してくれるの? え、もうわかんないいきなり思考回路が熱暴走起こしてるよ!

 

「確かに、今日あっついね~」

「か、からかってる?」

「ん? うん」

 

 うんじゃないが。そうやっていたいけな青少年の心を弄ぶんだ! あっついねーとか言いながら胸元をパタパタするんじゃありません! ああいけません、おっぱい、おっぱいです!

 ──本格的にオーバーヒートし始めてしまったため、急いで移動することになった。夏本番となった熱気と湿度は、熱暴走を起こすには充分すぎる条件だ。

 

「で、で?」

「……なに」

 

 涼しい電車内に入ってすぐ、隣に座ったひまりがこっちに体重をかけてくる。近い近い、事故が起きますからやめてください。主におっぱい関連の事故が! 柔らか! 待って、触りたくないのに! 違うんです、不可抗力なんですぅ! 

 

「大輔って誰が好きなのっ?」

「……誰って」

「候補は~ましろちゃん? と~燐子さんと~あと、つくしちゃん、だっけ?」

「恋バナしたいの?」

「うんっ」

 

 そんな元気な声で何を言い出すのかと思えば恋バナ……そう言われても残念ながら俺は片思いもしてないよ? おっぱいには永遠の片思いしてるけど。でも片思いでいいんだ、この想いが届くことがないからこそ、俺の中でのおっぱいというものはひどく神聖化されていくものだからね。

 

「誰も違うんだ」

「おう、露骨に残念そうな顔するな」

「いや、残念って言うか……いやまぁ残念か」

 

 待って待って、その場合の残念って意味が変わってくるのでは? なんか残念な要素あったと問うとあったよと苦笑い気味に答えられた。しかもほぼ即座に。いやまぁ残念系男子であることは割と自覚してるところだけど。頭の中ではおっぱいおっぱい連呼するおっぱいを愛する星の住人だし。

 

「私から見たらみんなワンチャンありそうだけどな~」

「すっげー無責任なワンチャンだな」

「あは、そうかも」

 

 ため息が出そうになる。客観的なワンチャンほど無責任なことはないでしょ。もしかしたら合ってるかもって言いたいとこだけどそのワンチャンの中につくしが入ってる時点でもう信用ゼロだよ。それにましろちゃんも燐子さんも超弩級おっぱいなだけじゃなくて超弩級の美人さんなんだよな。それに対して好きになってくれてるかも! って感じるの失礼すぎでは? 釣り合いって知ってる? 

 

「そんなに自分下げなくてよくない?」

「第一俺のことが好きかも、って思うこと自体罪じゃね?」

「罪って……そこまで?」

「じゃあ仮にひまりに対して思ってるって言ったら?」

「ギルティ、釣り合いって知ってる?」

 

 ほら見たことか! だから言ったじゃないか! そう叫びたい気分だったけど電車内なのでごまかしておく。あんまりにも素早いギルティ判定に俺のおっぱい世界が終わりを告げようとしていたじゃないか。もう誰にも止められずに降る雨は涙の音色だよこんちくしょう! 

 

「まぁまぁ、冗談だって~」

「じゃあ付き合ってよ」

「え、ごめんなさい」

「……お前さぁ」

「えーだってさ、私のこと好き! って言ってカッコよく口説いてくれるなら、そりゃちょっとはきゅんとくるけど、その死んだ目で言われてもなぁ」

 

 ひまりはあれなんだな、こう少女マンガちっくというか、とりあえず王子様キャラが好きなのは伝わったよ。やめてよね、俺がそんなことしたらキモすぎて誰も勝てるわけないじゃないか。まだ俺がそれをするには時代がついてきてないよ。早すぎるよ。

 

「んー、なんとなくわかったかも」

「なにが」

「大輔って、あんまり女の子に好かれるのも好きになるのも嬉しくないんだなぁってこと」

「そういう結論になる?」

「だって、ほら今、嬉しそうじゃないから」

 

 指摘されてぐっと言葉に詰まる。確かに、好きとか好きじゃないとか、そういうのはあんまり好ましい話題じゃない。俺はおっぱいしか愛さないから。そのためのおっぱいのことだけ考えていたいからね。そう、俺にとっての正義はあくまでおっぱいであって、俺の感情とか他の人の感情なんて二の次三の次ってやつだ。

 

「まぁ、だから私はこうやって気軽にデートしよって誘えるんだけどさ」

「そういうこと」

「だって、一人とかじゃすぐナンパされるんだもん。みんななんでもないようにしながら私の胸チラチラ見てさ」

「あ……ソウデスカ」

「もうそれだったらいっそ大輔くらいガッツリ目線来た方が好きかなって」

「……ごめん」

 

 ガッツリ見てました、ハイごめんなさいと俺は土下座せん勢いで謝罪をするが、ひまりは一瞬だけ怒ったような仕草をしてから、またいつもの笑顔に戻った。てっきり幻滅されると思ってたのに、驚いて、思わず顔を逸らしてしまう。

 

「だーかーらぁ、大輔のは平気なんだってば」

「いや、そんなワケ」

「見られた私がいいって言ってるのに」

「それでも」

「しつこい、いいって言ったらいいの、わかった?」

 

 食い下がろうとしたらむしろそのことで怒られてしまった。いやでも、おっぱい見てたこと知られてて許されることってある? しかもつくしみたいなノリじゃなくてガッツリ好みのおっぱいで拝んでる立場なのに? そんなミラクルも起き放題な祭り開催されてましたっけ? 

 

「大輔は、なんていうかえっちな目じゃないから」

「……俺だってエロい妄想くらいするよ」

 

 挟んでほしいとか顔埋めたいとか、そういう最低な妄想はするよ。たぶん18歳になって高校卒業したらそういうお店で巨乳な子を選んでローションマッサージとかしてほしいとすら思ってるよ。性欲魔人だよ。第一男が女の子のおっぱい眺めて考えることなんてそんなもんでしょ、みんな変わんないよ。

 

「じゃあ正直に言って何考えて私の胸見てるの?」

「えーっと……ありがとうございます、一生拝みます……ってな感じ」

「……ふふっ、あははは、じゃあ拝んでよし! 特別に許してあげよう!」

「え、まじ?」

「マジマジ、あ、上からはダメね、あんまり上からだとブラ見えちゃうから」

 

 ──どこまで本気でどこまで冗談なのかわからない。ドヤ顔でたゆんとおっぱいを揺らすビッグセブンの元気娘はその勝手な名称通り明るい顔で笑うだけだった。だからあのですがひまりさんや、身長差的に上から覗けないと結局拝めないんです! とは言えなかった。いやいや、これで見たらホントに見るなんて最低って言われるに違いないでしょ。そう思うことでしか、俺はひまりの言ってることが理解できなかった。

 




おっぱいヒロイン図鑑№06
ビッグセブンの元気娘:上原ひまり
 羽沢珈琲店の常連同士として知り合い、あこに仲介してもらったデカーイ! な友達。おそらくつくしを除くと一番フレンドリーなのも彼女だったりする。
 彼女にとって彼は数少ない異性友達。恋愛感情を問われると笑いながら否定する。ましろ、燐子、つくしが彼のことを好きだと考えており、このまま宙ぶらりんよりは誰かと付き合ったら、とアドバイスする立場。

結論:脈、ナシ(笑)


次回もそんな脈ナシヒロインとのデート回の続きです。


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第10話:なんてお得な荷物持ち

そもそもひまりとデートの時点でお得が天元突破してるのでは? ボブは


 電車から降りた俺とひまりはさっそくという感じでショッピングを楽しんでいく。いや楽しんでるのはひまりか。俺は連れ回されて感想言って荷物持つだけの便利な置物状態なんだけど、笑顔とおっぱいのファッションショー見れるだけ役得だろう。そういえばあとナンパ防止があったね、ガタイのいいお兄さんに声掛けられてたらどうしようとちょっとビビってる。

 

「あ、水着も選ぼうかな、去年とはまた違った雰囲気がいいし!」

「去年はどんなのだったの?」

「水玉ピンクのセパレートでかわいいやつ!」

「なるほど~」

 

 やっぱひまりの元気さとかキラキラ感を出すのはセパレート一択だよなぁ。逆に燐子さんとかイヴちゃんとか、お腹隠れてるのに妙にセクシーな感じ出してほしいと思わなくはない。特にイヴちゃんモデル体型……ってかモデルだし。

 

「いくつか試着しよっかな」

「ん? ちょっと待ってひまり」

「はいはい、なに?」

「それもファッションショーするの?」

「うん、だって外から見てもらった方が確実じゃん?」

 

 いや、じゃん? じゃないが。よく考えてほしいんだよそれ。俺男なんですけど、そんな下着同然の露出を男に見せる気なんですか? ホントはそれに追加してひまりのおっぱいが露わになるとどういう反応していいかわからなくなってショートするかもというのがある。

 

「見せる気……って、プールとか海行ったら見られちゃうじゃん」

「あ、そっか……ってそうじゃなくない?」

「いーの! 荷物持ちが文句言わなーい!」

「……へい」

 

 しまった、怒らせちゃったかなとチラリとひまりのおっぱい……じゃなくて顔を伺うけど、当の本人は全然気にしていないようにカラリとじゃあこっちこっちと女性経験ナシ系男子には下着ショップの次くらいに居心地の悪い空間に連れ込まれた。いや女性下着ショップは正直居心地が悪いというかもはや男子禁制の聖域として規定すべきだと思う。正直あそこでカノジョにどれがいいと思う? と聞かれるとかいう展開になる未来がどうしても思い浮かばないもん。

 

「どれがいいと思う?」

「あのさぁ」

「えっ、なに?」

「……いや、なんでもない」

 

 そんないい笑顔で露出的にはあんまり変わらないものを選ばされると思考がマジメになっちゃうでしょ。ちなみにひまりはやっぱりポップカラーの方が映えると思う。なんか落ち着いたシックなのよりはちょっとかわいげのあって遊び心というかこう運動的なイメージが付きまとうやつ。

 

「そ、そっかぁ」

「去年の水着はどうやって決めたの?」

「それはリサさん、えっと学校の先輩と」

「Roseliaの今井リサさんか」

「そうそう」

 

 話したことはないけど自分ガールズバンドオタクやらしてもらってる上にRoseliaは五分の三がゲーム友達なので。あこちゃんの姉ちゃんが今井リサさんの後輩でその姉ちゃんがひまりの幼馴染五人組バンド、Afterglowのドラムの宇田川巴さんだってことらしいので予想はつく。それになんかあこちゃんが去年海にどうとか~って言ってたし。

 

「そっかぁ、顔広いね大輔」

「……世間が狭いだけじゃね?」

「あはは、確かに!」

 

 ひまりと俺の知り合いの知り合い関係の話でいくとひまりのバイト先にいる知り合いで丸山彩ちゃんはパスパレのボーカルだし、花音さんはハロハピのドラムで同じく羽沢珈琲店の常連なので知り合いでしかも燐子さんと紗夜さんの学校のクラスメイトでもある。それとさっき言ってたあこちゃんの姉ちゃんでひまりの幼馴染が巴さんだし。最近で言うと有咲とイヴちゃんが知り合いってか仲良しだったってことかな。

 

「大輔の知り合いさ」

「うん」

「──おっぱい大きい子多いよね」

 

 そんな人間関係の話をしていると、鋭いというかまぁ当然そういう感想になるだろうなみたいな指摘をされた。いや俺も思ってる。多少は交友関係限定してる感はあるけど、それにしたってなにせ俺名称にビッグセブンなるものが存在するからね。

 

「やっぱそーゆーシュミだから?」

「それは……否定はできないけど、俺が集めたみたいな言い方は」

「わかってるって! 紗夜さんとかいるもんね」

 

 ちょっと、いやちょっとじゃないな大分内心焦っております。てぇへんだ状態です。ただ、ひまりは気にしてないというかちょっと冗談めいた口調で言われただけっぽいことを察知した。まじで、というかサラっと性癖バレてね? 

 

「あの、ひまり……さっきの」

「ん~? 気にしてないよ、電車でも言ったけど、大輔の視線は平気だから」

「平気って」

「おっきいの、好きなの?」

 

 そんなこと言いながらなんとひまりが寄せて上げてくるせいで自然とその胸に視線が吸い寄せられていってしまった。すごい、これが視線誘導(ミスディレクション)ってやつか。これを応用すると手品ができるってことはひまりはもしかして手品師かバスケ選手のどちらかの才能があるんじゃないだろうか。そしてそれはまさしく雄弁な沈黙と言えるだろう。

 

「そっか」

「い、いやでも……ひまりのを見てヌきたいとかじゃなくて」

「はいはい、動揺しない方がカッコいいよ~?」

 

 からかわれて、でも俺はうまく言葉が出なくて。ミスにミスを重ねて、ヌきたいとかそういう野暮な言葉をみすみす口から送りだしてしまう。二回アウト一つ自責点四で爆発炎上ノックアウト状態だ。

 

「なんか、大輔ってめんどくさ、って感じだね」

「めんどくさい……?」

「そんなんじゃ疲れちゃうでしょ! それよりも眼福! とか言っちゃったほうがよくない? 私はそっちのが断然いいと思うよ!」

 

 最後に、これも大輔限定だけどね! と笑顔で付け加えられ、俺は言葉が出なかった。そんな風にカレシでもないのにセクハラ発言を許してくれるなんて、甘すぎるだろうと言いたい気持ちでいっぱいになるのに、そんな否定すらも言葉にできない。

 

「なんで」

「なんていうんだろ、こう、私とデートしててワンチャンあるかも! とか、ここまで許してくれたんだから押せばヤれるかも! みたいな雰囲気出さないヘタレだから」

「ヘタレって」

「ほら、距離取った」

 

 ほぼ無意識だったけど、一歩踏み込まれた分俺は一歩下がっていた。それを信頼の証とするにはあまりに拙く細い糸だと思うんだけど、どうやら神様仏様ひまり様は、その細い糸のような信頼を俺の頭上に垂らしてくれるらしい。きっとここで俺が本性を出せばあっという間に切れる細い糸を。

 

「俺はそんなできた人間じゃないよ」

「できた人間はヘタレじゃないよ」

「……そういう揚げ足取り」

「いいから、水着選んでよ。じゃなきゃもうおっぱい見る度変態って叫んでやるんだから」

「そういう言い方もずるくない?」

「ずるくてもいいもーん」

 

 そうやってわがままめいた口調で、ひまりは俺に幾つかの水着を選ばせてきた。もう最後の方はヤケになって似合う、かわいい! と半ば褒め殺す形で試着して揺れるおっぱいを眼福だと脳内保存激写状態だった。開き直って、まぁそりゃそれでも誰かに向けるみたいなおっぱいトークシリーズは発揮できないけど、開き直るとなんだか少し肩の荷が軽くなった気がした。まぁその分ひまりの荷物が重くなるんだけど。

 

「とーちゃーく!」

 

 精神的にも物理的にも振り回されて、すっかり夜になった頃、俺は上原家の前にいた。そこでいくつか荷物を手渡しているとひまりはすごく、なんだかすごく意地の悪い、ニヤっとした笑顔で俺を見上げてきた。

 

「ここまで私に付き合ってくれた大輔にはご褒美を授けよう!」

「……な、なにを」

「はい、画像送信したよ!」

 

 が、画像送信!? と素っ頓狂な声を上げそうになってスマホのメッセージ通知を見ると、確かに上原ひまりさんから画像が送信されました、と履歴がついていた。え、このシチュで画像と言ったら……ご褒美の画像、も、もしかしておっぱい関連? さっきの試着を自撮りしてた、とか? そう思って恐る恐る、ひまりに開いていいか確認してタップした。すると。

 ──そこには八月のカレンダーと、ひまりの予定らしきものが詰まっていた。

 

「……え、これって?」

「この中で大輔の都合がつけば、プールデートしてしんぜよう」

「はい?」

「そしたら水着見放題だよ~? それじゃ、またね!」

 

 呆ける俺にひまりはイタズラが成功した子どものような笑顔で手を振って、家の中に入っていってしまった。水着見放題ってそんな……そんなご褒美を俺がもらってもいいものなのか? 思わぬおっぱいからのおっぱい供給に、俺はただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

 




ひまりの好感度割と高めだけどこれで脈ナシなのであとはお察しかと思います。次は誰かなぁ、というか引っ張らずにましろ(withモニカ)だと思います。


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第11話:まっしろな想い

この作品におおよそふさわしくないタイトルを書いてしまった。


 よろしくお願いしますと明るい声が響く、カウンターに向かうとそこには見慣れた五人がそれぞれ楽器を持って俺に向かってそれぞれの反応を示していた。

 瑠唯さんは無表情、いつも通りおっぱいが素敵です。そしてその隣には金髪ギャルだけど呉服屋の令嬢というキャラ盛りの激しい現代っ子桐ケ谷透子ちゃん。

 

「ちょっす! よろしくですっ!」

 

 なんというかノリが軽い。まぁそれだったら元気がいいんだねってところで済むんだけど。軽すぎて、なんなら口も軽いらしく俺としては苦手な部類だ。おっぱいは大きめなんだけどさ。続いてキョロキョロと興味深そうに見渡しているのは広町七深ちゃん。これまたおっぱいが……というかつくし以外みんな発育いいっすねホントに。そんな風に考えてるとつくしに睨まれた。仕事中なんで控えろってね、わかってますって。

 

「透子ちゃん、一応相手は店員さんなんだよ?」

「いやいや、でも知り合いじゃん!」

「桐ヶ谷さんにオンとオフの話をするのは無駄じゃないかしら?」

「ちょ、それどーゆーイミ?」

 

 わいわいと案内した部屋に入っていく。これがバンドとはいえ月ノ森という伝統と確かな歴史を持つお嬢様学校の出身生っていうんだから、恐ろしいことだ。みんながみんなあらあらうふふでごきげんようって挨拶するわけじゃないんだなぁって。

 

「……月ノ森、挨拶ごきげんようだよ」

「マジ?」

「うん、最初わたしもびっくりした」

 

 予想より予想通りの校風だった。それなのに透子ちゃんみたいなのが誕生するのもまたすごいと思うよ。確かましろちゃん以外はみんな幼稚舎から月ノ森って話でしょ。

 ──じゃなくて、休憩中なのはいいけどこんなところで店員さんと駄弁ってていいのましろちゃん? 

 

「暇そうだから」

「こっから忙しくなるけどね」

「なら忙しくなるまで、いいでしょ?」

 

 そう言われるとダメなわけではないのでダメとは言えなくなってしまう。なによりいいよって言うとありがとって笑顔になる。これがまたあどけなくてめっちゃ守りたくなってしまう。ごめんなましろちゃん、俺キミのことおっぱいランキング六位みたいな扱いしてるんだ……ところで結局結論つかないんだけど世界おっぱいランキング一位、おっぱい王は燐子さんと瑠唯さんどっちだ。

 

「あの、あのさ」

「ん?」

「もう来週には夏休みでしょ?」

「だね」

「わたしね、どこかにお出掛けしたいなぁって」

 

 泊まりでもいいな、とキラキラしてるとこ悪いんだけど、お泊りって誰と? え、俺? マジ? なんの冗談です? 驚いてるとましろちゃんは何故かめちゃくちゃ怒ったような顔でいいじゃん、たまにはいつもの場所以外に行きたいじゃん、せっかくの長期休暇なんだしとやや早口でまくしたてられた。

 

「あんまり遠いとこは止めるし、お金なら……わたしもなんとかするから」

「待って待って、待て」

「はい」

 

 暴走状態だなと判断し声を掛けるとピタリと止まる。わんこなんだよなぁ思わずよしよししてやりたくなるくらいにわんこなんだよなぁ。そんなステイ状態だがゴールドに輝く笑顔を見せられてちょっと揺らぐけど、ここでよしってすると待機状態から即座にシャトル発射状態になるからもうダメ。この子マジでわんこ、わんこなのか? 今俺の頭の中になんか違う動物が紛れ込んでる気がした。じゃじゃ馬?

 

「その話さ、んーまたゆっくりしようよ、電話でもいいけど」

「う、うん」

「冷静になって、一緒に考えない?」

「だっ、だよね……じゃあ、今度のデ……お出掛けで」

 

 確かにいつもの本屋とか行けば旅行雑誌あるもんな。そういうので下調べってのは確かに大事なんだろう。あーでもその場面を想像するとちょっと恥ずかしい気分もする。いやこういうましろちゃんがお出掛けって呼称してるコレも完全にデートなんですけど、お泊りデートになるとまた意味が違ってくるしそのための計画を練るデートというのは、また違った印象があるな。

 

「あ、そうだ先輩」

「なに?」

「バイト終わった後、ちょっと時間もらっていい?」

「どうしたの?」

「えっとね、プレゼント……したいものがあって」

 

 プレゼント、プレゼントねぇ……なんかあったっけ? 俺の誕生日は八月一日なんだけど。えっと、と困惑してるけどましろちゃんはほわほわした顔でいいもの見つけたからと説明してくれた。あーなるほど、なにか俺が喜びそうなものを見つけたからそれを気まぐれでくれるって話ね、完全に理解した。んな感じで腕組みしたり顔を脳内でしているとおーいとのんびりな声がしてましろちゃんが返事をした。

 

「きゅーけー終わりだよシロちゃん」

「うん、今行くね! それじゃあ、お仕事頑張ってね」

「そっちも練習頑張って」

「うん!」

 

 はぁ、ヤバ……なにあの癒しの大天使、七深ちゃんの呼びかけに笑顔で応えて一瞬こっち向いてなんだかそれとはまた別種の笑顔で手を振ってくれる。これがあれかてぇてぇってやつなのか。麻弥さんに送るレスとはまた違うオタク感を醸し出していたところでピークがやってきて俺はましろちゃんの言葉通りお仕事を頑張ることになった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 最初は公園で待つとか言ってたからさすがに危ないだろってことで店長に相談したらましろちゃんを裏に通してくれた。めっちゃ優しいし気が利くイケメン店長さんなんだけど恋バナ好きなのが玉に瑕ってやつだ。別の女とか言わないで、瑠唯さんもましろちゃんも俺の女じゃないです。二股じゃねぇっつってんだろ。

 

「あ、お疲れ様」

「うん、ごめんね待たせて」

「大丈夫、帰ろ」

 

 ああでもバイト終わって疲れた~って事務所行ったらましろちゃんいるのいいかもしれん。精神安定的にとても素晴らしいものではなかろうか。そんなヒーリングスポットとなって椅子にちょこんと座るましろちゃんはちょっと居心地が悪そうだったけど、俺を見つけるなりほっとしたような笑顔を浮かべた。

 

「手……」

「いいよ」

「えへへ、ありがと」

 

 人見知りなぁ、直してほしいだなんて俺が思うのはおこがましいことなんだろう。そもそも直してほしい、って言葉自体が俺とましろちゃんの関係に特別なナニカをつけたがってるだけな感じがする。好みのおっぱいを持つビッグセブンの中で唯一、俺が気軽に触れてしまう存在、そして放っておけなくてなんとかしてあげたいと思ってしまう。

 ──直してほしいだなんて、カレシ面もいいところだ。腕組み後方待機勢でもないクセに、前方でレスもらいまくってるのにな。

 

「そういえば、プレゼントってなに?」

「あ、えっとね、これなんだ」

「ディスク?」

「うん」

 

 それを何気なく受け取って……ってこれ、俺の好きな女性シンガーの限定版のカバーアルバムじゃん! ネットショップだとプレミアついてて手が届かなかったのに、どうして? 問いかけるとはにかみながら買取ショップで安く売ってたから買っちゃったと教えてくれた。言ってくれれば自分で買ったのに! でもましろちゃんは慌てたように首を横に振った。

 

「それじゃあ意味ないよ、わたしがプレゼントしたかったんだもん」

「でも」

「いつも一緒にいてくれるお礼、だよ?」

 

 いい子すぎるんだよなぁましろちゃん。俺の好きなアーティスト覚えてて、偶々とはいえ見つけて、俺のためにって自分のサイフを開く。マジで悪い男に騙されないか心配してきた。そもそも俺がいい男ではないけど。でも、やっぱり申し訳なさが勝ってしまうんだよなぁ。

 

「あ、じゃ、じゃあさ」

「ん?」

「次の……お出掛けの時、何か買ってほしいな」

「それでいいの?」

「うん、プレゼントを贈り合うのってなんだか……っぽい、でしょ?」

 

 確かに、プレゼントって一方通行じゃなくて相互であるべきものだもんな。そんな風に俺は納得してじゃあまたねとましろちゃんを家まで送っていった。

 ──そうして手を振ってくるりとドアを開けてからまた手を振る彼女に懐かれているというお得さを、改めて感じてしまった俺だった。

 

 

 

 




おっぱいヒロイン図鑑は次回の後編にて。今回は番外編で
EX№08ギャル系正当派お嬢様インフルエンサー:桐ケ谷透子
 属性盛りすぎ定期。おっぱいは大きく準ビッグセブンクラスとなっている。準メンバーの中では七深と合わせて関わる方。彼の人間関係を面白おかしく眺めている。

EX№09のんびりほんわか不思議系女子:広町七深
 なんでも天才ちゃんらしいことはモニカメンバーから訊いている。が、彼の前でそのぶっ飛び具合を見せないのでそうなんだぁくらいにしか思われてない。よかったね、擬態できてるよナナミン! ナナミンもまた一級おっぱい師のパワーを持ってる(ビッグセブンは特級)

※準ビッグセブン:現在名前が登場しているものを含めると上記二人と花音とリサの二人。ちゃんと七人いる。


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第12話:あざといはかわいいから結局好き

某主人公がよく他作品とクロスオーバーしてる人気ラノベのヒロインの中だとミタケランと声帯が同じ飲料水の名前の子がすきです。


 ましろちゃんとの距離はどんどん縮まっている。これだけの情報だとなんだかとってもいいことのように感じるのが言葉の不思議ってやつだ。簡潔に伝えすぎるのもやっぱり問題なんだな、なんて頭のよさそうなこと考えてしまった。はい、おっぱい。これこそ上がったIQを下げるために編み出された俺のムテキの呪文ってやつだ。

 

「京都……いいなぁ」

「夏の京都か」

 

 確かクソ暑いんだっけ。俺はまだ大丈夫かもしれんけどましろちゃんとか絶対日焼けすると真っ赤になるタイプじゃん。隣で旅行雑誌を真剣な顔で立ち読みしてる横顔と、その肌の透き通るような白さと、なにより横から見ると主張の激しいおっぱいを眺めながらそう思っていた。ところで今日のワンピースは爽やか清楚感がして、それなのに一部の主張がとってもすごいのがギャップで素晴らしいと思います。

 

「やっぱり夏だと、涼しいところがいい?」

「まぁ、そりゃそうだけど」

 

 でもこの温度湿度マシマシの二郎系もかくやというこの国において夏に涼しいところってなんだよってなるんだけど。そうすると北海道? と首を傾げてくる。確かに北国みたいなイメージあるし避暑地の代表だけど札幌って八月前半は三十度フツーに越えるらしいよ。

 

「そ、そうなんだ……じゃあ軽井沢?」

「セレブの発想だね」

 

 流石月ノ森生なんてからかってみると広町家はそっちに別荘持ってるらしい。マジで異次元の会話だなこれ。そういえばつくしんちの別荘がどこだったかな、飛騨あたりに確かあったはず。なんか子どもの頃に一緒に連れてってもらった記憶があるよ。

 

「そっか、先輩もお金持ちなんだっけ」

「俺んちは別に、母さんが社長令嬢だったってくらいだし」

 

 でも母さんはセレブな世界よりも大好きなヒトとのロマンスを選んで一般人になった。その会社の現社長であるおじさん、つまり母さんの弟は音楽好きで、俺はその影響で気に入られてお小遣いとかもらってライブとか行ってるけどさ。結局父さんはなんの変哲もない会社員だし母さんは元箱入りお嬢の専業主婦だよ。

 

「そっか」

「なんか面白いことあった?」

 

 にやけてる感じがしたから訊ねてみるけどましろちゃんはううんと首を横に振って、それからまたちょっと笑みを浮かべて、先輩の話が聴けてよかった、なんて変なことを言い出した。なにそれ。

 

「先輩、全然自分のこと教えてくれないから」

「そうだっけ?」

「そう! 気付いたらわたしばっかりお話してて、先輩なんて相槌打ってること多いもん。それ言うと急に天気の話をし始めるし」

「う、ごめん」

 

 しょうがない、おっぱいと天気以外の話題を持ってないんだから。ちなむと軽井沢はイメージないかもしれないけど夏は雨が多いんだよね。そんなくだらない天気の話にましろちゃんはわかりやすく頬を膨らませた。

 

「……んっ、それよりさ、お泊りなら温泉とかいいよね」

「温泉ね、どこがいいの?」

「箱根とか草津とか?」

「わおセレブ」

 

 そこの二か所も避暑地かつ別荘地的な意味合いがあるんだよな、まぁ一般人も入れるような温泉付き旅館なんて当たり前にあるんだけど。さっきの話の続きだとこういうリアクションが正解なんだろう。うんうん、ましろちゃんも月ノ森の空気に染まってきてるようでなによりだよ。

 

「じゃあそういう温泉宿とかにしとく?」

「うん、和風なのもいいよね」

「だね」

 

 そこまで言って、ふと、本当にふとしたことなんだけどこれデート予定なんですよね? え、ましろちゃんとおんなじ部屋で寝るの俺? いや間違いを起こさない自信はあるんだけど、それって逆に不健全なんじゃと思わなくもない男子高校生なのです。風が、じゃなくて俺の心臓が騒がしいよ。

 

「じゃあ、ちょっと探してみるね」

「うん、よろしくお願いします」

 

 ホントに、ましろちゃんとは距離が近くなった。というか人見知りでおどおどしてる印象が強かったはずなのに、いつの間にか顔を見るなり笑顔になって、時々曇った表情になるけど手を握ってあげると嬉しそうに笑ったり、甘えるような仕草をしてみたり。果てはお泊りデートがしたい、だなんて。

 ──まるで恋人同士みたいだ。そんな自惚れた言葉、俺にはとても口には出せないけど。

 

「あの、さ」

「なに?」

「さっきの、泊まりがいいって……同じ部屋でも、いいの?」

「……うん、平気」

 

 何が平気なのだろう。世間一般的にはもはやその解答が平気じゃないよ。だけどましろちゃんは俺の手を握ってきて、だってもっと近くにいたいからなんて言い出す。ましろちゃんにとって俺はどういう風に見えてるのだろう。ちょっと恥ずかしそうに、だけど透き通るような瞳は確かに俺を見ているはずなんだけど。

 

「先輩はわたしに怖いこと絶対しないって、大事にしてくれてるって知ってるから」

「それは言い過ぎだよ」

「ふふ、わかってるよ」

 

 かわいい、かわいいんだけどましろちゃんの言葉は時々、俺には難しすぎる気がする。ところで、プレゼントって何がいいの? と訊ねるとなんと女性向けのアクセサリーショップに連れていかれてしまった。あれだ、なんだか結局居心地が悪くなりそうだ。

 

「わたし、あんまりこういうのつけないから……でも、やっぱり透子ちゃんとかキラキラしてて憧れてて」

「うん」

「……だから、先輩に選んでほしい」

 

 自分の指と指を絡めて、恥ずかしそうに、だけどはにかんでそうおねだりされたあとにダメかな、とでも言うような上目遣い、もうこれわざとやってんだろ。ビッグセブンの癒し大天使、あざとパワーまで持っていたとは……あざと枠ひまりだけだと思ってたのに。そしてなにより男は、特に俺はそういうあざとさに耐性がないのである。

 

「でも、アレルギーとか大丈夫?」

「アレルギー?」

「うん、今までネックレスとか付けたことないんでしょ?」

 

 首を傾げられてから不思議そうに頷かれ、ちょっと苦笑いをしてしまった。肌が弱い人がずっと金属系のアクセサリーをするとかぶれたりしちゃうんだよね。昔、ってほど昔じゃないけど中学の時につくしのやつ、ネックレスがほしいほしいって言って誕生日に買わされたことがあって、超ご機嫌になったのはいいんだけど、その後で赤くなって痒くなったーって大騒ぎでさ。

 

「つ、つくしちゃんに……プレゼントで」

「うん、だから気を付けて、痒いなぁとか思ったら外すことをオススメするよ」

「……わかった」

 

 それ以来二度と着けてないだろうからなあいつ。無駄になっちゃうとなんか勿体ないしなぁ。そういうのがなければと思ったんだけど、どうやらましろちゃんはマジで金属アレルギーのことすら知らなかったようで、四つ葉のクローバーがあしらわれた金色の小さな髪留めを買ってあげることにした。

 

「えへへ……♪」

「喜んでくれてよかった」

 

 ニコニコ笑顔のましろちゃんにちょっとだけほっとする。でも何か不満だったのか、不安だったのか、帰りはずっと手を繋いだままだった。ちょっと手汗が気になっちゃうし、実はニコニコ顔なのに不安で泣きそうだったらどうしようとドキドキしてる。

 

「楽しみだなぁ」

「夏休み?」

「うん、先輩といっぱい過ごして、バンドいっぱい練習して、ライブして……高校生の夏休みは急にいっぱいいっぱいやることができちゃった!」

 

 中学までは、という野暮な質問はしなかったしできるわけもなかった。彼女の過去にこうやって手を繋いであげる友達はいたんだろうか、彼女の背中を押してあげる仲間はいたんだろうか。いなかったから、こうやって今純粋無垢な子どものように俺の手を握ってキレイな笑顔を咲かせるのだろうか。

 

「先輩」

「ん?」

「楽しい夏休みにしようね」

「うん、きっとなるよ」

 

 ましろちゃんには友達がいて、仲間がいて、きっとこれからもバンドを通してたくさんの人と知り合って、仲良くなって世界が広がっていく。ましろちゃんはそのための翼を持ってると思うよ……なんて、クサいしカッコつけすぎてて口には出せないんだけど。

 ──ただ、流石に冷静になってヤバいだろと思ったのでお泊りデートについては帰って即座につくしと相談することにした。当然返ってきたのはなんでノリ気なの! というお説教でした。だって、温泉で風呂上り浴衣おっぱいだと思ったら拒否するより身体が動いてたんだ! 見たいよ! そういうイベントならではの特殊おっぱい見たいんだよ! 熱弁したけどつくしの言葉は常に冷や水のように冷たかった。

 

 

 

 




ましろの発言に違和感があったことと思います。あとがきで公開することをお許しください。だってバラす場所ないもん!
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№09ビッグセブンの放っておけない癒し系:倉田ましろ
 大輔がお嬢様学校のレベルたけぇ……と思い知った(つくしを除く)原因の子。脱ぐとたぶんもっとすごいことをまだ彼は知らない。
 彼女にとって彼はカレシだと思っている。何回もデートしてるし、手も繋ぐ、触れ合う関係はもう恋人以外の何物でもないと信じて疑っていない。そんな(倒錯)大本命でもある。

ましろ的にはおっぱい大輔はカレシなのであれだけ積極的なのです。言われてみると最初からカノジョヅラしてるでしょ?


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第13話:静謐なる後輩

瑠唯さん、高校一年生でバンドリ的にも後輩なんすよ。


 なんでも、自宅用の乾燥機が存在する家は珍しいのだとか。昔俺んちにやってきた友人がそう言っていた。あの時は友達いたんだよなぁ……なんて悲しい思い出も同時に振り返りながら、回る乾燥機を見つめながらシャワーの音が止まったタイミングで浴室にいる()()()声を掛けた。

 

「ごめん、貸せるの俺の着替えしかないけど……」

「……いえ、用意していただけるだけありがたいので」

 

 素っ気なく返され、そしてまたシャワーの音が洗面所に広がっていく。

 ──えっと、なんでこういう状況になったんだっけ。やべ、なんか一度に色々ありすぎて混乱してきた。シルエットとかそういうものは見ないようにリビングに戻りながら、流石に冷房にさらされたせいか俺はくしゃみをひとつ零しながら今日のことを整理する。

 そう、今日の前半はフツーだった。朝からあちーとか言いながらバイト先まで歩いて、んでそう彼女、現在俺んちでシャワーを浴びている八潮瑠唯さんがバイト先に来たところまではいつも通りだったんだよな。

 

「また、休憩中いいですか?」

「うん、今日はヒトいるから」

「では……また」

 

 うーんチョークールだね。表情ほぼ動かないもんな、瑠唯さん。ただあのクールビューティーに休憩中のお誘いを受けたということでバイトの後輩にスゲーっす! と声を掛けられた。うん、いい子なんだけどすごくにじみ出る野球部感……丸坊主だからかな。

 

「センパイってオタクで陰キャかと思ったらあんなエロいお姉さんと……!」

「おい口には気をつけろ後輩。オタクで陰キャなのはあってるけど、そのエロいお姉さんお前と同い年だからな」

「マジっすか!? ヤベー」

 

 せやな、俺もそう思うわ。俺もあのお姉さんヤベーって思うもん。あとそんな欲望に塗れた顔をするなよ後輩、瑠唯さんとはなんもねぇ、というか誰ともなんもねぇよ。つか、俺が誰かとなんとかなると思うなよお前の言う通りこちとらオタクで陰キャだからな。

 

「毎度毎度すみません」

「いいんだよ、日課と化してきたから」

「日課でも、あなたの時間を奪っていることには変わらないので」

「別に、休憩中なんてぶっちゃけ暇だし」

 

 前にも言った気がするけど、なんならこうやって瑠唯さんとおしゃべりできることが既に休憩以上の休憩タイムなんだよな。関係ないけど瑠唯さんとご休憩って言うとなんだかいかがわしく聞こえてしまうのが思春期のお耳である。

 

「……私は暇つぶし相手と」

「そこまで言ってなくね?」

「冗談ですよ」

 

 え、びっくりしたぁ……今冗談って言いました? しかもちょっと口許隠しながらクスリと笑った? え、笑い方えっろ、じゃなくてそもそも瑠唯さんが笑った? そんな驚きに口を大きく開けていると、今度はやや険のある声を出されてしまった。

 

「なにか?」

「いっ、いや……なんもない」

「私だって……笑う時くらいはありますよ」

 

 ごめんなさいと素直に頭を下げる。そうだよな、瑠唯さんだって人間だ。ましろちゃんやつくしとの話でよく透子ちゃんにロボットと称されてるらしいけど、そのバイオリンの音はとても機械的からは程遠いし、少なくとも音楽に対する姿勢には情熱がある。それに、まだ彼女は十代の女の子だ。俺とはひとつしか違わないけど、逆に言うとひとつ下の同年代なんだよな。

 

「やはり」

「ん?」

「……愛想というものは、必要でしょうか」

 

 それはなんだか、()()()()()質問のように感じた。自分はそう思わないけど、他者はどう思っているのかとかを気にしてる感じだ。それがらしくない、っていうクソみたいに主観的な、関係の浅い俺のようなやつが語っていいのかもわからない言葉の正体なのかもしれない。

 

「俺の持論ってか、くだらない擁護? 否定したくないっていう主観の話なんですけど」

「はい」

「瑠唯さんは、誰かになる必要はないんじゃないかなって思うよ」

 

 愛想が必要かもしれないって考えた原因がもしも、よく笑ったり表情がコロコロ変わる瑠唯さん以外のモニカの四人のことなのだとしたら、そこに迎合して誰かの真似をするのは、アイデンティティ的にどうなのって思っちゃうんだよね。瑠唯さんはクールで表情が変わらなくて、でも努力家で演奏は情熱があって、みたいなところが瑠唯さんなんじゃないかなって……こんなのよく思われたいと考えてる下心みたいな感想だけど。

 

「あるのですか?」

「ん? 下心?」

「はい、そう言うってことは」

「下心なんて……」

 

 それこそ下心があるなら透子ちゃんやましろちゃんでしょ。特にましろちゃんなんて騙されやすそうだし。俺は純粋におっぱいのためだけに行動してるので! やっぱり下心だったわ。うん言い訳の余地ねぇな、ただ瑠唯さんのおっぱいが燐子さんとどっちがデカいんだ!? と日夜考えて答えを探すために関わってると言っても過言ではないからね。

 

「いや、まぁないとは言わないな」

「……そうですか」

「引いた?」

「いえ、あなたの視線は、時折……下に行くので」

 

 うぐっ、は、反省します。というかやっぱりわかっちゃうもんなんですね、ひまりとかつくしには散々言われてるけど、やっぱり神おっぱいを眺めるには適切な距離があると感じる今日この頃だ。最近ちょい近すぎてバレテーラ状態ですね。

 

「ただ下心、性欲という観点から言うと否定できます。それに男女問わずに動くものを無意識に追いかける習性はあると言いますし、少し頻度は気になりますが」

「……ごめんなさい」

「別に……咎める意図はありませんから」

 

 とは言うけどさぁ、俺としては隠しきってるぜドヤ! みたいなところあったんだよなぁ。隠しきってるからビッグセブンの方々と仲良しだぜ、みたいなマウントも無意識に取ってたわけだよ。それがバレてるなら話は変わってくるじゃん。あーもういたたまれない、流石に今日は切り上げて、そう思って立ち上がったが瑠唯さんはやはり何も言わない。

 

「……ごめん」

 

 あーあ、早くもビッグセブンの一角が崩れてしまった。これでたぶんもうお近づきになることはないんだろうな。なによりあの無表情がな、俺の罪悪感とか色々なものを刺しに来てるんだよな。さっきの質問じゃないけど、愛想が絶対必要! とか言うつもりはやっぱりないけど、レスポンスがわかりやすい方がおしゃべりがしやすいってのは確かにあるんだよなぁ。

 

「早かったっすね! 先輩って早漏なんすか!」

「後輩、次デカい声で下品なこと言ったら店長に言いつけるからな」

 

 ヤってねぇよ。つか誰が楽しくてバイト先の休憩中にヤるんですかね。防音だもんねってバカかおい。はぁ……まぁでもらしくないシリアス雰囲気をブチ壊してくれたことだけは感謝しておこう。あれだな、バイト中はちょっと思考もマジメになっちゃうせいかな、まだ休憩あるしおっぱいに想いを馳せよう。こういう時の大正義こそおっぱいだ。

 

「……ん、瑠唯さんから?」

 

 心を落ち着けるためおっぱい系配信者とかいう業の深いものを閲覧し始めてちょっとしてから瑠唯さんからメッセージが届いた。なんだろうと再生を途中で止めて確認すると、そこには待っていますからという文字が無機質に並んでいた。どうして? と返事をすると既読になったままそれ以上の言葉は来なかった。代わりに電話が来て意味がわからず焦りつつもタップすると、そこから吐息が漏れた。えっど、江戸時代とは……ってこのテンプレはいいか。

 ──その瞬間、音が爆発した。これはモニカの曲、確かその始まりの曲である『Daylight –デイライト-』のバイオリンパートだった。

 

「すげ……」

 

 瑠唯さんは何を伝えたいのか、何を言いたいのか、うまく表情にできないぶんこうやって素直になれるところを考えたのかな。その音は、伝えたかったものが伝わらなかった苛立ちなのか、それとも俺が勝手にどっかに言ってしまったことへの怒りなのか。いつもよりも荒くて、でもところどころに泣きそうなくらいの音が詰まっていた。

 

「……話をする。今日の終わりでいいなら」

 

 メッセージに送ったその返事はまた無機質なわかりました、という一言だけだったけれど。

 ──それにしても、あーもったいな! ここでライブカメラにできればなぁ! 今日の瑠唯さんのカッコならワンチャン揺れてたかな? いやでもバイオリンの構えだとあんま揺れないのか? そういうのをじっくり観察したかったなぁと思ったので残りの休憩時間は再びおっぱい配信者見てました。デカイおっぱいはいいぞルーク! 

 

 




この作品、主人公と距離の近い順で投稿されてるのでプロローグがつくし、次がひまり、ましろとなっているわけです。
――つまり、つまるところというわけで次回に、続きます!


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第14話:コメディ展開にならない相手

瑠唯さんは基本的に雰囲気違っていいと思います


 ちょっと片付けとか受付でゴタついて、終わりが二十分ほど遅れたのにも関わらず、瑠唯さんはお店の前で優雅に待ってくれていた。瑠唯さんは身長が高いからそれほど見上げるまでもない十センチほどを僅かに視線で合わせて、それからまるで台本をそのままなぞるような口調で随分と遅くなりましたねとトゲを刺された。

 

「ごめん、受付が混んでて」

「そのようですね、三十分ほどヒトの出入りが激しかったようですから」

 

 チクチクと、とは思うけどまぁそれでちょっと外に出て忙しいから待っててと言えなかった俺にも落ち度がないわけではない。その隙や他のヒトに無理やり押し付けて帰るって選択ももちろんあっただろうし。そうしなかったのは俺の怠慢だ……ってもうバイト終わったんだった。マジメモード終わり! おっぱい! 瑠唯さんは腕を組むのがデフォというかクセのようなので強調されてイイネ! 

 

「ふぅ、それで」

「さっきの話が中途半端だったので、そのままで帰るのはのちに支障が出ます」

 

 中途半端というかほとんど雑談だった気がする。そういうのは効率が悪くない? と思うけど、訊きたいことがあったんだからそっちを今日消化したいってハラなんだろうね。じゃあついでにメシでもどう? とちょっとだけ意識しちゃうような誘いをするといいですねとなんともまぁあっさりと承諾されてしまった。場所は、まぁ近いところファミレスでもと誘い、そして歩いている途中だった。ポツポツとし出したと思った次の瞬間、バケツをひっくり返したような、目の前が煙るほどの雨が降り始めた。

 

「うげ、マジで?」

「……予報にはありませんでしたね」

「って、それより楽器ヤバい! とりあえず近場……俺んちに!」

「……はい」

 

 ちょうど近くに俺んちあったから助かったけど、服はずぶ濡れ……ということで、長い長い回想でしたとさ。現在目の前にはおそらくノーブラノーパンで俺のロングパーカーと、ちょい暑いだろうけどスウェットを装備してコーヒーを飲んでいた。つか母さんいねーと思ったら友達と泊まりだと。クソったれが。

 

「そ、そういえば」

「はい」

「電話越しの演奏、よかったよ」

「よかった、ですか……調和も何もかもを度外視してしまったのですが」

「やっぱりさ、俺は音楽に感情が乗ってる方が好きだよ」

 

 とりあえず気まずいので俺から言いたかったことを消化していく瑠唯さんはそういうのを苦手にしてるかもしれないけど、気持ちの乗った演奏ってのはやっぱりその気持ちをちゃんと音でオーディエンスに伝えてくれるものだと思うんだ。音程とか、技術とかだけが音楽じゃない、少なくとも現代音楽はそうだって思うよ。

 

「あなたは」

「ん?」

「あなたには、少し興味があります」

「へ?」

 

 ちょっと待って前のめりにならないで前のめりに……ってこのネタ前にやったな。でもいつもよりもぷるんと揺らされると、ドキっとしてしまう。そういや前にひまりが羽沢珈琲店の二人席で独りだれてるところを目撃した時に、おっぱいが重いからクセで机に乗せるのがフツーだと言い張ってたな。あれはよかった、じゃなくて瑠唯さんもするのかな、なんかしそうにないぞひまり。

 

「私から見てあなたには才能がある。音楽に携わるものとしての才能が」

「……買い被りだよ」

「その目と耳があるのに?」

「だからそれが」

 

 真剣な目だった。瑠唯さん相手におちゃらけたおっぱいトークもできやしないし、こんなテンプレのラブコメ展開なのにひまりやましろちゃんのような感じに持っていくこともできやしない。マジメで真摯な目が、紳士とか言いつつただ逃げ続けてるだけの俺にシリアス展開を突き付けてくる。いいじゃんそんな過去とかどうだって、俺はおっぱいはせいぎってふざけた主義の男で、宗山大輔なんて名前もロクに呼ばれることのない、ただおっぱいおっぱいって女性の一部分に興奮して喚き散らす愉快で不愉快な存在、それでいいじゃんか。

 

「何か理由があるのではないのですか?」

「ねぇよ」

「は?」

「ねーって、んなもんどこにも。俺はステージ立つほどの努力をしてない、それだけ」

 

 才能、あったかもしれない。もしかしたら、努力を重ねればステージに立つ側だったのかもしれない。だけど俺にはその努力をしてこなかった、いや、そういうモノに触れようとすら思わなかった。大した理由じゃない、ただなんとなく、なんとなくそういう生き方をしてこなかっただけ。親に反対されたワケでもそれが原因でトラウマがあるわけでもなんでもない。なんとなくだ。それ以上の理由はないよ。

 

「俺の人生なんてつまんないもんだよ。とてもベストセラーには、それどころかネットに上げたとしても反応がもらえそうなものじゃないよ」

「……なんとなくで、諦められるものなの?」

「大半の人間は、そうでしょ」

 

 ガールズバンドってジャンルにのめり込み、その一瞬の煌めきがいつかの自分のためになるって全てを掛けてる瑠唯さんたち、みんなには到底想像もできないだろうけど。大半の人間はこの瞬間が将来にどうつながるかなんてものを考えて生きてるわけじゃない。俺だっておっぱいが好きって個性だけど、これが将来になるかなんて思うわけないじゃん。行きつく先は性犯罪者か? 

 

「……私は、音楽を一度見限った立場だわ」

「見限った?」

「ええ、この世界は一番ではないと価値がない。そう信じて生きてきた私にとって、なまじ才能があったとしても、一位にはなれなかった音楽に、意味なんてない。そう思っていたわ」

「でも今は」

「ええ今は、価値とか意味とか、それを越えたものを探している。人生で言うならきっと回り道なのでしょうけれど」

 

 その言葉で瑠唯さんがどうして俺を気にしているのかがわかった気がした。どうして音楽を諦めたのかって訊いたのもそれか。なんとなくどころか具体的な理由があっても自分は諦められなかったから。でも、俺はその問いかけに納得させるような答えを持ってない。

 

「なんとなくだから……ですか」

「そもそも諦めるとかじゃなくて挑戦してないってだけ」

「挑戦、していない」

 

 チャレンジ精神大事っていうけどさ、そういう人生を変えるほどのチャレンジってやっぱ尻込みするわけじゃん。だからテキトーにガールズバンドのオタクやって、それ関連でバイトして、趣味の範囲で終わらせる。そういうくだらないモブの生き方をしてるだけなわけよ。

 

「それこそ、人間関係だって」

「人間関係?」

「……あーえっと」

 

 やっべ口滑った。シリアスだからって俺がべらべらと語りすぎるのはよくないことだとは思ってたけど人間関係の話なんて瑠唯さんが把握してるわけねーじゃん。いやぁでもこれ嘘は通じなさそうだし言えよってオーラ感じるなぁ、むしろオーラぶつけてきてる。気当たりを感じられるとは俺も戦士になったのかもしれない。

 

「毎度言われるんだよなぁ、誰々と付き合ってるの? みたいなこと」

「倉田さんと付き合っているのでしょう?」

「……はい出た」

 

 はいはい出たましろちゃんね、今何票持ってるんだろう。強いのがひまりとましろちゃん、次点でつくし大穴が燐子さんってとこかな。そんな反応をすると瑠唯さんのリアクションが一瞬固まった。どうやらマジで付き合ってると思っていたらしい。付き合ってるわけ、そもそもそうしたら瑠唯さんをお食事に誘った挙句雨にかこつけて家に上げる俺、浮気者すぎんか? 

 

「確かに、軽率には違いありませんね」

「でしょう!」

「……よかった」

 

 椅子に背中を預けてほっとされる。揺れる、揺れるけどこれはなんか見ちゃいけない気がする。なにせあの下は生おっぱいかと思うと喉が鳴ってしまうよゴクリ。まぁ確かにバンド仲間のカレシの家に上がって薄着とかなんて言ったらいいのかわからんくなるだろうしな。

 

「サイト見たら通り雨だって、乾燥機終わって止んだらまたメシでもどう?」

「……そうですか、ええ、いいですね」

 

 ほっとしたせいで腹減ってたことを思い出しそう提案すると、瑠唯さんはいつもの無表情で頷いてくれた。だからたぶん、いや絶対に気のせいだとは思うんだけど。

 ──まさかね、実際に雨が止んで乾燥機が終わった音を聴いて取りにいくその横顔が、とっても不満げだったなんてきっと角度の問題だったんだろうね。

 




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№08ビッグセブンの静かなる令嬢:八潮瑠唯
 どちらがでかいんだ……と燐子の不動の一位を揺らすほどのボリュームを持つビッグセブンの二番手(暫定順位)。バイト先に一番足を運ぶのは彼女でもある。
 彼女にとって彼はつくしの幼馴染の一つ上でありガールズバンドのオタクもやっていることもあり、同時に居心地のいい相手でもある。

結論:おや、おやおやぁ~? もしかすると、もしかするかもしれませんよ(名探偵)

ということで、次回はまた別のヒトの回で!


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第15話:オフ会四人のデコボコ具合

ウイイイイイイイッッッッス。どうも、大輔でーす。
まぁ今日はオフ会、当日ですけども。
えーとですね、まぁ集合場所の、えー羽沢珈琲店に行ってきたんですけども。

ゼロ人にはなりません(先回り)


 すっかり馴染となったオフ会、いつもお相手方がRoseliaやら生徒会やらで忙しいため中々開催されることはないが、ついに夏休みに突入したこともあり、一学期お疲れ様という意味も込めて羽沢珈琲店へとやってきた。

 

「あー! そうさんはやーい!」

「ん? 今来たとこだよ」

「お~、デートっぽい言い回し!」

 

 まずやってきたのは一番ご近所さんのあこちゃん。俺はそれより早く来た理由は愚痴っぽいおっぱいに呼び出されていたためだ。しかもそれだけで帰りやがった。しかもなーにが大輔にはご褒美でしょ、だ。奢らされたら一緒じゃい! ごちそうさまでした! 

 

「いらっしゃいませ、あこちゃん」

「うん! あ、そうさんも一緒で、あと紗夜さんとりんりんも来るから!」

「わかった、じゃあ宗山さんも」

「ごめんね羽沢さん」

「いえ! ひまりちゃんの愚痴聞いてもらってるだけありがたいので!」

 

 というのは羽沢某さん。えっと、やばまたひまりに名前覚えてないって怒られる。そう思っていたらつぐちん! とメニュー片手に元気な声がしたおかげでつぐみちゃんだったと思い出した。サンキューあこちゃん。またひとつひまりに脅される要素が減ったぜ。

 

「あこちゃんに……宗山さん、おはやいですね……」

「おはよう燐子さん」

 

 あこちゃんとゲームの話に盛り上がっていると日傘を畳みながら微笑むおっぱいお嬢様がにっこりと微笑んだ。め、女神だ……夏場において不釣り合いなほどの白さと、漆のようなツヤのある黒髪、そしておっぱい、あとおっぱい! 最後にやっぱりおっぱい! この前の瑠唯さんによる我が家突撃事件で観察してて気づいたんだけどサイズは瑠唯さんの方がおっきいけど身長とかの問題で見た目は燐子さんのがでかい。なにがってでかい。いや瑠唯さんの時にはこんなにひゃっほいできなかったからはっちゃけさせてもらうわ。でっか。

 

「おはようございます、私が最後ですか」

「あ、おはよーっす紗夜さん」

「……ええ、今日も相変わらずでなによりです宗山さん」

 

 そしてその後すぐにやってきたのはぺったん川、じゃなくて氷川紗夜さん。いやね、脚もスラってしてるし色白だけど健康そうながら細くそして素敵な指をお持ちの美人系ギタリストさんなんだけど、一部がなぁ……これでおっぱいが目測スリーサイズ上だったらな。間違いなく惚れてたよ。

 

「──と、いうことでみんな集まったところで、一学期お疲れ~」

「お疲れ様でーっす!」

「ふふ、はい……お疲れ様、あこちゃん」

「まだまだ生徒会の仕事は残っていますけれどね」

 

 紗夜さんが余計なことを言ったのはスルーしておいてグラスを合わせる。打ち上げのノリをこんなまだ朝からしていいのだろうか。暑くなる前に集まりたいというのは燐子さんの提案だったし、確かにと思ったから俺もみんなも賛成したけどいきなり乾杯から入るのか。

 

「Roseliaも夏休みプール行くんですか」

「ええ、なぜか」

「えー! 楽しみですよ! ね、りんりん!」

「う、うん……楽しみ、だね」

 

 Afterglowはそれで悩みに悩んで新しいのまで買ったくせにやっぱり去年の水着にするとかふざけたことを抜かしたおっぱいがいたな。あのグループは幼馴染だし別に不思議なことじゃないと思うんだけど、Roseliaはこうなんかもっとストイックなメンツだと思ってた。少なくとも紗夜さんはそう言ってた。

 

「でも、確かに友希那さんって、そういうのにいいよって言うヒトじゃないんですよ~」

「何か心境の変化があった、とか?」

「……どう、なんでしょうね……」

 

 このオフ会、前も言ったけどゲーム友達全員バンドメンバーなせいで現在ガールズバンドの中でも屈指の人気を誇るRoseliaの事情にも詳しくなってしまう。そろそろバンギャにキレられそう。ロゼのバンギャとパスパレのヲタは怒らせるとヤバいってえろい人が言ってた。誤字じゃないよ。

 

「そだ! そうさんも来る?」

「いやRoseliaに混ざるのは、オフ会ならまだしも」

「オフ会でもダメですっ!」

 

 紗夜さんが顔を真っ赤にしながら否定するからびっくりしてしまう。そんな否定すること? そう思うと、今度はちょっとバツの悪そうな顔をしながら、俺を睨んできた。なんすか。俺なんか言いましたか? 

 

「……宗山さん」

「はい?」

 

 なんか燐子さんは燐子さんで察しろよみたいな目線を向けられ……てから素早く目を逸らされた。視線を合わせるのが苦手な燐子さんらしいリアクションだけど、あこちゃん助けて。なんかこの二人にわけのわからない挟まれかたしてる。挟まれるなら燐子さんのおっぱいとおっぱいの間がいい! 

 

「あ! 紗夜さん恥ずかしいんですか!?」

「……当たり前でしょう」

「わ、わたしも流石に……恥ずかしいよ、あこちゃん……」

「えー! あこはぜーんぜん、へーきだよ!」

 

 あこちゃん羞恥心はどこへ? あこちゃんって高一で比べるのなんかアレだけど瑠唯さんと同じ年なんだよな、こうなるとつくしやましろちゃんと、って言ったほうがまだ若干マイルドか。発育の方もつくしといい勝負だし、前途多難だなあこちゃん。逆に俺としてはロリッ子として関われてるからいいんだけど。

 

「とにかく! 私はそもそも男性とプールなど!」

「でもみんなで行っても男のヒトいるよ?」

「……それはっ、そう、ですが……」

 

 なに論破されてんの紗夜さん。というかそうだった、一応ここのメンツにはあこちゃん以外には男性として認知されてるんだった。流石にね、瑠唯さんはわからんけどましろちゃんとかひまりとかは距離近すぎて男性扱いされてるかビミョーだもんな。

 ──それにしても燐子さんの水着か、ひまりが去年の燐子さんはスゴかった! って自慢げに言ってくるから気になってはいる。ひまりがスゴいって言うんだからな。相当なんだろう。羨ましい。

 

「はぁ……」

 

 そんなひまりへの恨みをぐぬぬしていたら隣の氷川さんにため息を吐かれた。なんすか、なんすかその冷たい視線は。わかってますよ、それに俺は案外夏休みの予定詰まってるんでこれ以上プールとか行くと破産しちゃうんだよな。なるべくパトロンたるおじさんには頼らないって決めてる……と言いつつ流石に今回はましろちゃんのご要望に応えるとそれ以外に一切交際費使えなくなるからと相談した後だったりする。ただおじさん、女は金掛かるんだから気にすんな、青春しろ若人とバーコード決済のギフトで一ヶ月の給料の倍くらいのお金をもらった。シャッチョサン怖い。もうスマホ落とせない。

 

「ふふ……」

「なぜ白金さんは、そんなに嬉しそうなんですか」

「いえ……いつも宗山さんと氷川さんは、仲がよさそうだなぁ……と」

「ありえませんね」

 

 そう即座に否定されるのも悲しいんだけど紗夜さん。そう抗議すると、またもやジロリと睨まれてため息交じりの紗夜さんに対して燐子さんが楽しそうに笑う。なんか最近こういう状況多いんだけど誰か解説しておくれ、あとがきとかでいいから。

 

「じゃ、またねそうさん!」

「うん、またゲームで」

「ククク、次にまみえる時は……えーっと、この、闇の女王のぉ~シモベとして、えーっとぉ」

「頼りにしてるよ、闇の女王さま」

「……うんっ!」

 

 ブレないのはあこちゃんだけなんだよなぁ。後の二人はなんか俺に含みがある気がしてならなくて、俺はちょっとだけ疲れてため息を吐きながら部屋まで戻ってベッドダイブする。スマホを手に取ると三つのメッセージが来てた。ひとつはグループ全体にまたオフ会したい! というあこちゃんからのメッセージ。そしてもう二人は紗夜さんと燐子さんから。

 

『明日のお昼、お話しておきたいことがあるのですが』

『宗山さんは明日のお夕飯ってもう決めてあるでしょうか? よければ少しお話がてら、ちょっと恥ずかしいんですが……お二人でお食事とかどうですか? 場所はリンクも貼っておきますね!』

 

 無機質で淡泊な感じなのが紗夜さん、本人印象とめちゃくちゃ違うのが燐子さんだ。しかも燐子さん若干押しも強い。既にリンク送られていえ結構ですって言える? 言えんくない? というか示し合わせたように昼と夜分けられるとなんかのドッキリかもしれんって警戒してしまうんだけど。続いて二人してこの内容は他の二人には秘密ということでという言葉が添えられていた。仲良しかあんたら。ただ昼夜どっちも暇してた俺はまぁいっかと安直にダブルブッキングをかますことにした。

 




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№03元気いっぱい中二病:宇田川あこ
 おっぱいはないロリ枠(モニカと同世代)。ロリは概念。彼女にとって彼はゲーム友達でありお兄ちゃん的存在。リサ姉の男版? 最近は紗夜さん、りんりん四人含めて一緒に過ごすことが増えて嬉しいらしい。

EX№03羽沢珈琲店の看板娘:羽沢つぐみ
 視界に入らない(おっぱいがない)看板娘。なんなら名前も割とうろ覚えだがひまりに怒られるため、ちぃ覚えた。因みにつぐみはちゃんと認知してるしひまりちゃんと仲良しだなぁと生暖かい目で見てることも多い。

平和だなぁこの子ら。さて、次回は紗夜さん燐子さんのダブルブッキング回です。ドロドロが始まるわけではないのでご安心を。


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第16話:延長オフ会、昼の部はぺったんこ

超絶失礼なタイトルだけどわかりやすい。紗夜のBはbeautifulのBですよ!


 お昼ちょっと前、いつもの羽沢珈琲店とは違うけれどおしゃれな感じのカフェ&レストランの前で俺は氷川紗夜さんと列の最前に並んでいた。今日の紗夜さん、暑いんだろうなぁとは思いつつも露出少なめキッチリカッチリ服装で、安心感があるね。

 

「二名でお待ちのソウヤマ様~」

「……俺の名前で予約したんですか?」

「ええ、なにか?」

「別に、なんもないっすけど」

 

 ヒカワ様の方が文字数少ないし絶対呼びやすいじゃん。そんなことを思ったけど言葉にする前に紗夜さんはスタスタとスタッフさんについていってしまうので慌てて追いかける。そのまま前にいた紗夜さんが奥の席、俺が手前の席に座りメニューを見る。思ったよりガッツリ目のもあるけど、夜はなんかレストラン的なヤツだったから軽めにしとこ。

 

「……さて、何から話すべきでしょうか」

 

 メニューが決まり注文し、そしてちょっぱやで飲み物がそれぞれの前に置かれたタイミングで紗夜さんが口を開いた。そ、そうだった。お昼食べながらとはいえ呼び出しなんだよな。ちょっとした緊張感で俺は背筋が伸びる。うーん、穏やかな川だ。和むというか無理におっぱい! ってテンション上げずに済むのはある意味アドかもしれない。

 

「あなた、自分の視線が気づかれてないと思っているのですか?」

「……ハイ」

 

 あ、これガチ説教だ。まるで某幽霊バトルマンガの敵キャラみたいなセリフが紗夜さんから飛び出してきてさっきとは別の意味で背中が伸びる。というか紗夜さん、そのくだり、短い間につくし、ひまり、瑠唯さんでやってるんです。そうするとましろちゃんだけ気づいて……いやんなワケないよな。流石のましろちゃんでもそのくらいは意識してくれないとマジで悪い男に騙されるからな。男なんてみんなおっぱい目当てのクズばかりだ、特に俺は。

 

「白金さんは気づいている素振りがない……などと言いませんよね?」

「むしろ燐子さんは視線に敏感だ、みたいなことをあこちゃんから」

 

 これ二ヶ月くらい前の会話ね。俺それ知った瞬間ヒエって声に出そうになったもん。ただなんにも言われないし怖がられてるとかそういう感じもないからまぁいいやって放置しちゃいましたごめんなさい。放置するのはゲームとプレイの時だけにします。

 

「まぁ確かに白金さんから、それが嫌だと相談されたわけではありませんが」

「……紗夜さんからしたら不快だと」

「そもそもの話です。比べられて愉快だと思いますか?」

「申し訳ありませんでした。スイーツでもなんでも好きなものを食べてくださいホントマジでごめんなさい」

 

 ──悪い、俺死んだわ!

 マジ土下座したい。いや今すぐ許されるなら地面に頭付けて紗夜さんに謝罪した上で死にたい。比べました、マジで見比べてボリューミーに胸やけしたからあっさり氷川でとか考えてました。失礼すぎてることは承知だけどやめられないし止まらなかったよ。

 

「謝意がお金とは」

「命でも」

「……そこまでは言ってません」

 

 生きていいって! 俺、生きたい! まだ生きてたい! そんな生きる喜びを感じていると紗夜さんがコホンと咳払いをして厳しい顔ながら、あなたはそうやって視線がふらふらするから現状維持しかできないのです、と説教された。え、なんの説教? なんのこと? 

 

「なんのことって……あなたと白金さんの進展です」

「はい? ちょ、ちょっと待って」

「なんですか」

 

 進展ってなに? つか最初から紗夜さんの思ってること言ってもらっていい? たぶん致命的な勘違いあると思うから。そう言うとそんなはずは、みたいな顔をした後にゆっくりと自分の思考回路を机に並べてくれた。

 

「あなたは胸が、それもより丸みがありふくよかな胸が好き、ですね」

「……はい、バレてんのか」

「見比べた際の反応で」

 

 この時点で汗ダッラダラです。おっぱいのない女の子におおきいおっぱいが好きなのバレる恐怖ってなんでしょうね、しかも相手は永久凍結使いの氷川紗夜さんだ。俺嫌われてるっぽいし、さらに友達の燐子さんがそういう目で見られてるって知った場合の紗夜さんは本来なら即死刑と言い放ってもおかしくない。だけど、次からの言葉が俺の口を大きく開けさせることになった。

 

「そんな理由で、とは思いますが幸い白金さんも嫌悪しているわけではなさそうですし、あなたも……別にそれほど性格に問題があるというわけではありませんから。アプローチというものをしてもいいのでは、と言いたくて呼び出したのです」

「そういうことですか~」

「ええ、それでどうしてアプローチされないのですか?」

「まずね……うん、俺別に大きいおっぱいが好きでも燐子さんが好きなわけじゃねぇンだ」

 

 付き合ってる? じゃなくて好きなんでしょ? はよ付き合え、は初めてのパターンだなぁ。まさか紗夜さん公認だなんて嬉しい限りだけど、すいません恋愛感情ないんです。ただ俺は大きいおっぱいを拝んでありがたやって感謝を捧げてるだけなんです。邪な心はあるけど付き合っておっぱいをどうこうしたいとかはねぇんスわ。

 

「え、でも……好みだと」

「性癖と女性の好みは違うんですよ紗夜さん」

「……わからないわ」

 

 そも自分の女性の好み把握してないけどね俺。でも付き合いたい、好きって思った子はいなくてもヤバ、おっぱい! はいるってだけです。たとえそれで紗夜さんにあなたの言う大きなおっぱいが好きと私が言う大きなおっぱいが好き、そこになんの違いもありはしないでしょうと言われても大きな声で違うのだ! って言うしかないのだ! だーいすきなのはあくまでおっぱいであっておっぱいをぶら下げた女の子ではないのだ。

 

「理解してほしい、とは思いませんがとりあえず俺が燐子さんのことを好きはないです」

「ないなら二度と白金さんの胸を見ないでください」

「それは無理です」

「なぜですか?」

「そこにおっぱいがあるからです」

 

 ヒトは山を登らずにはいられない、なぜならそこに山があるから。揺れたり震えたりしたら視線が吸われるのは自明の理なのです。というわけなんですがなんでプール反対してたかは理解しました。俺が紗夜さん燐子さんを交互に見て癒しを得ようとする卑しい視線が嫌だから、ですね。

 

「そうです」

「だったらあこちゃんにうまく説得しといてくださいよ」

「……ですね」

 

 まぁ、まぁまぁ紗夜さんの言いたいこともわからなくないよ。プールの話じゃなくて、俺が大きいおっぱいを持ってる女の子が好きじゃないのって疑問の話ね。そこまで女性の特徴的な一部分に情熱を持ちながらどうして、そういった恋愛感情が湧かないの? ってことですもんね。

 

「じゃあ逆に紗夜さんに小さなおっぱいが好きですってヒトが告白してきたらどう思いますか」

「小さいと思った時点でその男性の目を潰します」

「怖すぎんだろ」

 

 思わず敬語忘れてツッコミ入れてしまった。えっとじゃあ紗夜さんのおっぱいがおっきくてそれで好きなんですって告白されたらどう思いますって質問の方が望んだイエスノーが訊けるんだろうか。

 

「……気持ち悪い、でしょうか、率直な感想で」

「うん、それでいいと思います」

「そしてその例えも不快です」

「コンプレックス傷つけてごめんなさい」

「いえ、そうではなく……私は、私という人格を好きになってほしい。そう、思ってしまうから」

 

 私という人格を好きになってほしい、か。つまり内面とか色々なものを含めて氷川紗夜って一人の女の子として好きになってほしいってことか。じゃあやっぱり俺と紗夜さんが恋愛関係で理解し合えることなんてないんだろうね。

 

「私は、私の全てが嫌いだった。だけど今は……好きになりたいから、好きって言ってほしい。そんな子どものわがままに過ぎないわ」

「俺は……どうなんでしょうね。俺を好きになるようなヒトは好きじゃない、みたいなとこあります」

「……コンプレックスの塊で自己評価が低いから」

「バレます?」

「似たヒトを知っているから」

 

 あーあ、にしても紗夜さんズルいや。俺の性癖知っといてその顔できるんだもん。昼ごはんを食べながら、そして後からご飯中にするお話ではありませんでしたねと言った紗夜さんに俺はそうやって文句が言えてしまうくらいに、彼女の笑みは優しい光を帯びていた。

 

 

 

 




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№07冷たい川の流れる風紀委員:氷川紗夜
 アイスリバーさんの名前の如く激流のまないたさん。ゲーム仲間として途中参戦してきており、トゲトゲしい言葉が多い。
 彼女にとって彼は最初こそ警戒すべき相手だったが、今ではすっかり牙を抜いている(つもり、本人的には)。彼のおっぱいに関する性癖を女性の好みと勘違いしている。性格によっぽどの難があるわけではないので親切心で燐子との関係を取り持ってあげようとしていた。だが勘違いだった模様。

結論:たぶん脈ナシ。でも別に嫌いじゃないわ!状態、どっちだよ!


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第17話:延長オフ会、夜の部はでっかい

でっかい(語彙力)


 紗夜さんと別れすっかり日も暮れた頃、いつものファミレスとは違うちょっとおしゃれな感じのレストランに俺は白金燐子さんとやってきてきた。今日の燐子さん、いつもながらゴシックな露出少なめ服装で、ちょっと暑くないのかなと心配になるけど、割と薄手っぽいのが一瞬ライトに照らされておっぱいラインを確認したから安心だった。やっぱデカすぎんだろ。

 ──にしてもダブルブッキングでも昼夜で完全に分けてれば案外イケるもんだな。今度からそうしようかな。

 

「八潮さんに……おすすめされたお店、なんですが」

「瑠唯さんが」

 

 はい、と微笑む黒髪清楚系のおっぱいお嬢様。八潮っぱいさんがねぇ、確かに似合う。なんならもっと高層ビルとかの上の方のレストランいても違和感ない風体をしていらっしゃる。でもあのヒト濃い味のものは苦手なんだけど唯一明確に好きな食べ物が白玉ぜんざいなんだよなぁ、案外かわいくて庶民的だ。と思ったらメニューに白玉ぜんざいを発見してなるほどねぇと納得しました。レストランに白玉ぜんざいて。

 

「それで……今日、宗山さんを……お誘いした理由なのですが」

「あ、何かありましたか?」

 

 そうだったそうだった。紗夜さん同様に燐子さんも話があるってことで放課後屋上的なノリでシャレオツレストランにいるんだった。いや屋上なら告白かな? ってなるけどレストランだともはや一足飛んでプロポーズでは? そんなバカみたいなツッコミをしたくなるけどいやそもそも告白じゃねぇから。

 

「わ、わたし……実は、宗山さんの……その目線、というか、えっと」

「あ、もういいですなんにも言わなくていいので許してくださいごめんなさい通報しないで」

 

 デジャヴなんだよなぁ! 視線に気づいてる同盟怖すぎんか? そんな風に謝ると、燐子さんはえっ、とあせあせ左右に視線がゆらゆら風に吹かれてしまっていた。そんなゲスの極み俺に対して何を遠慮することあるんだろう。

 

「通報……えっ、な、なんの話ですか……?」

「ん?」

「わ、わたしは……別に、そんな……咎める、つもりじゃ……だから、えっと……」

 

 ああ、なんか涙目になっておろおろし始めてしまった。こういう時どうすればいいんだあこちゃん、助けて闇の女王。実は燐子さんとこうやってちゃんと向かい合って二人きりでしゃべる機会って皆無なんだよね! だからこそ俺もやや緊張気味にけれど落ち着いて言葉を燐子さんの言葉を反芻し、質問していく。

 

「燐子さんは、俺の視線に気づいている……んですよね?」

「は、はい……」

 

 背中に冷たい汗が流れるような感覚がした。なーにが嫌悪しているわけではなさそうで、キリッだ。こうやって口に出されてる時点でアウトだアウト。よかったね紗夜さん少なくとも燐子さんとしても俺とラブコメする気はないみたいですよ。

 

「で、それで? それとなくグループから抜けた方がいいです?」

「いえあの……イヤ、じゃないです……から」

 

 え? なんだって? イヤじゃない? パードゥン? 疑問符が四連鎖のアイスストームだよ紗夜さん! 脳内紗夜さんに話しかけるとめちゃくちゃうざがられた。嫌じゃない、まぁ確かにひまりには断言されたことだけど、え、女の子っておっぱい見られたら嫌なもんじゃないの? 

 

「む、むしろ……今日は、応援、したくて」

「おう、えん?」

「はい……っ!」

 

 燐子さんが、がんばれがんばれってしてくれるの? それはもうおっぱい関係なくえっちだからやめた方がよくない? 一応俺おっぱいにだけ真摯なキャラ貫いてるんだけど流石にそれはえっちな気分になるよ?

 ──じゃなくて、そうじゃない。はい思考回路をピンク色からフラットに戻せ。えっと、応援ってどういうこと? 俺が思ってる内容だと応援って単語は少なくとも出てこない。何かが食い違ってる? 

 

「あの……わたしが、言っちゃって、いいのか……わからない、けれど」

「はい」

「……氷川、さんも、嫌っては、ないと……思いますから」

「紗夜さん?」

 

 ここで紗夜さんが出てくるとは……うぅんなんだ。なんなんだろう。視線、紗夜さん、燐子さんのリアクションはいっつも、そうだ燐子さん、いっつも俺がおっぱいに視線を向けて、紗夜さんに睨まれてって流れでいっつもこのヒト、にこにこ笑ってたような。

 

「お二人は、ちゃんと……両想い、だと思います、から」

「あー言いたいことってそういう」

「あ……はい、もしかしたら、こっそりお付き合いしてるのかな……とも思っていて、余計なお世話、だったらどうしよう……と思ってなかなか、言い出せなくて」

 

 つまりこのおっぱいビッグセブンのトップに君臨される彼女はなんと俺と紗夜さんが両片思いもしくはお付き合いをしていて隠している状態だ、と思っていたらしい。視線、とは紗夜さんを見ていたことであって、よく目線で会話してるのが燐子さんにはロマンスに見えたらしい。ごめん、フツーに燐子さんのおっぱい見て怒られてただけです。

 

「ち、違うんですか……?」

「うん、紗夜さんにも俺にもその気持ちはない、ってのは確認済みですよ」

「そ、そんな……ご、ごごごごめんなさい」

 

 そんな守備表示にしたら一度だけ戦闘で破壊されない感じの焦り方で謝られても。どうやら俺は周囲に常に誤解されて生きてる人種らしいからそろそろ慣れてきたよ。それにしてもこの二人は特に面白い誤解でなんと、紗夜さんは燐子さんと付き合う話を、燐子さんは紗夜さんと付き合う話を聞かされたのだ。目線と言葉が剣のような紗夜さんとおっぱい装甲が盾のような燐子さん、バージョン違いで差異がある的な。

 

「二人は、いっつもお互いに言いたいこと、いっぱい言えてて……なんだか、羨ましくって。それで、勝手に……」

「言いたいこと、言えてて……ですか」

 

 違うよ燐子さん。俺が言いたいことを本当に言えるのはつくしだけだ。お昼にバレたばっかりの紗夜さんにだって俺の本当の言葉、本当の気持ち悪さを伝えることはできっこない。だって俺にとってはおっぱいが全てて、それ以外なんて本当にどーだっていいんだよ。

 

「ご、ごめんなさい……だから、プールのことで、もしかしたら……って」

「あーっと、紗夜さんはただ単純に嫌がってただけですよ」

「……そうなんですね」

「燐子さん的にも、流石に俺が近くにいるのに水着はハズいでしょ?」

「……まぁ」

 

 でしょうね。恥ずかしがらないほうがおかしいんだよあこちゃんにひまり。いやひまりは結局俺のこと男扱いっていうか体のいいボディガード的な感じなんだろうけど。燐子さんもナンパとかには気を付けてくださいね。

 

「ナンパ、ですか」

「プールは露出の解放感のまま欲望丸出しで、特に燐子さんみたいな美人でおとなしそうな子は狙われやすいんですから」

「……びじん、で……は、はい」

 

 まぁたぶん派手な見た目は派手な見た目でワンチャンビッチじゃねみたいな勢いで声掛けるんだろうけど、その点紗夜さんはナンパされても目潰しで逃げれそうだから安心してる。もしくはあこちゃん付きでロリコンがいなけりゃ退治できるでしょ。親子って言われた時の反応が気になるところではある。

 

「おいしかったです、教えてくださってありがとうございました」

「いえ……あの、誤解してた、こと……」

「はい、もちろん秘密にしておきますよ」

「よ、よかった……それから、また……」

「はい?」

「……二学期も、夏休みも、たくさん……遊んでくださいね」

 

 そう笑う燐子さんは、いつものおっとりな感じはあったけれど清楚というか、なんだか小さな子どものように感じた。ゲーム仲間ですからもちろん、夏休み暇さえあればインして狩りでもなんでも付き合います。そんな意味を込めて俺は元気よく返事をして、自分の家への道を歩いて帰った。

 




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№02ビッグセブンのおっとり清楚:白金燐子
 大輔が初めて出逢った神のおっぱいを持つ(のちのビッグセブン)ひとりにしてひとりめ。彼女にとって彼はゲーム友達であり、またバンド仲間でもある紗夜との関係を微笑ましく思い、また両片思いだと考え、慣れないながらもひそかに応援していた。勘違いでした。自分というのは考えておらず、そもそも男性と一対一はまだ苦手。

結論:現状脈ナシ。悲しきかな紗夜さんより好感度自体は低めなのである。憐れ。


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第18話:ドルオタでも推しはおっぱい基準

しょーがねーだろ、おっぱいなんだから。


 俺はおっぱい大好きおっぱい星人とガールズバンドのオタクとしての側面以外にもう一つの側面を持っている。それは、パスパレのドルオタという側面である。なんでこういう趣味になるのかってそもそもドルオタになったのはパスパレがガールズバンドだからなので他のアイドルに対して興味はない。けどおっぱいが大きいと見ちゃう、みたいな。

 

「誰への言い訳?」

「つくし?」

「なんで今更私に言い訳する必要があるの……?」

 

 というわけで七月末のイベントにやってきた俺と、いつも通り一人だと不安になってしまうため俺がいないとどうしようもない幼馴染のつくしちゃんです。前回はましろちゃんがいたせいでひゃっほいできなかったけど、今日はコイツしかいないから全力でおっぱいって叫んでも問題ないぜおっぱ──

 

「──バカじゃないの!?」

「おっぱいです」

「大輔……最近言えないストレス溜まりすぎじゃない?」

 

 それはそう。なんなら限界だとつくしに電話しておっぱいおっぱい天気の話挟んでおっぱいって究極の下世話な幼馴染といちゃいちゃラブコメ展開していたんだけど、最近その電話、どこぞのわんこましろちゃんに取られてるんだよなぁ。

 

「そうだよね、なんかいっつもましろちゃんと電話してない?」

「ええはい、これによりわたくしがおっぱい、と思った数と実際に発言した回数の割合が実に先月に比べて10ポイント以上下降していると研究で明らかになっております」

「……頭よさそうな言い方すれば賢いワケじゃないよ」

「確かに~!」

「だからって急にバカにならないで!」

 

 いや、つくしとしゃべんのチョー楽しい。何がって言葉選ばなくていいのがチョー楽しい。気の置けない会話ってこういうことを言うんじゃないかな。そんなぺったんこ幼馴染とのいちゃらぶ展開は置いといて大きなおっぱい鑑賞に、じゃなくて全体握手会と参りましょうね~。

 

「いちゃらぶしてないし」

「周囲から見ればしてるんだよなぁこれ」

「……小学生の時はあんなに嫌がってたのに」

「嘘だ、お前のが嫌がってたし」

「お互い様でしょ!」

 

 そりゃ嫌がるでしょ。つか小学生の学習塾のノリなぁ、懐かしい。あれはお嬢しかいなかった初等部に通ってたつくしにはちょっとしたショックだったんだ、ってはい、昔話終わりー、アイドルに集中したいので……って言っても今日はつくしと並ぶのか。なんか萎えるな。

 

「な、なんで」

「いや、ねぇ?」

 

 いつもは個別だから俺は麻弥さん、時々イヴちゃん。つくしは彩ちゃんと千聖さん。推しが被ってねぇからなんか不思議な気分になるんだよな。とか言いつつ、アイドルに迎えられるとそんなのも気にならなくなるんだけど。

 

「おお、今日も来てくれたんですね! って、今日はあんまり語れませんが……」

「確かに、流れとかありますもんね」

「そういえば今日も二葉さんと一緒にいらっしゃってるんですね」

「え、まぁいつもですし」

 

 そんな短い会話をしていても早く行けよみたいな視線を感じるんだからなんだかすごく勿体ない。ところでつくしのことを話そうとしていたような。そっか、麻弥さんは普段つくしが会いに来ないからいるのかいないのかわかんない時あるのか。いっつも二人なんですよーとは言ってあった気がするけど。

 

「あ、ダイスケさん! いつもありがとうございます!」

「……んっと?」

「え、あ……すみません、いつものクセで……」

 

 その隣にいたイヴちゃんからは羽沢珈琲店のテンプレ文言をいただいて思わず固まってしまった。当の本人は思わず言っちゃった的なノリでテヘペロってしてくれるから許したってなるんだけど、だけど~宗山後ろ後ろって言われそうなくらいの視線が刺さった。イヴ担怖い。ロゼのバンギャとパスパレのガチヲタを怒らせるとヤバい。きっと呪われる。

 

「ふふ、災難でしたね」

「笑わないでください」

 

 ジロジロ見てる暇あったらイヴちゃん見てろやクソオタクがよ、と悪態を心の中でつぶやくと目の前にはちんまりと小柄でありながら大人っぽさを持っている美女に、くすくすと上品に笑われてちょっとむっとした。そして彼女はにっこり笑顔のまま小さな声で俺に囁いた。

 

「ざまぁみなさい」

「……性格悪いっすね」

「あら、性根が腐ってるのはあなたでしょう?」

 

 ──そう、どーでもいいんだけどこの小柄美女の白鷺千聖さんにはめちゃくちゃ嫌われている。なんでかって? それはあれだ。彼女の親友さんのおっぱいを見てたからである。当たり前だよなぁ。

 

「このイベントに来てイヴちゃんや麻弥ちゃんに劣情を抱くのはいいけれどプライベートなら容赦なく通報させてもらうわね」

「ちっうっせーな、気をつけま~す」

 

 そう言って素早く去っていく。触らぬ千聖さんに祟りなし。あ、握手しちまった、やっべ祟られる。ただ、本当に千聖さんには近づきたくないので何言われてもスルーしておく。そもそもおっぱいないから興味もないのだ! それで言うとその隣にいる知り合いとおっぱいと性格以外がそっくりの彼女の方が興味あるのだ! 

 

「あー、ソーヤマさんじゃん、久しぶり~」

「確かに久しぶりですね」

「ねね、最近おねーちゃんがお昼にこそこそでかけてったんだけど、知らない?」

「こそこそ出掛けてた、だと知らないです」

 

 彼女は氷川日菜さん。見た目が紗夜さんそっくりの双子の妹ちゃん。おっぱいは割とおっきくていいな感があるんだけど、俺が紗夜さんと知り合いだと知ると一に挨拶二におねーちゃん三四におねーちゃん五におねーちゃんの狂気のシスコンなので性格的には苦手だったりする。遠くでおっぱいだけ眺めていたい。ところで紗夜さん、お昼というワードに引っかかるものはカフェに出掛けた話だけどこそこそかどうかはわからないから知らないんだよな。フツーに帰ってったし。

 

「そっか、じゃね~」

「はい」

 

 よかった握手会なので比較的あっさり抜け出せた。やっぱり全体握手会に参加するのはリスキーすぎる。というかリアル知り合いじゃないのって最後に待ってる彩ちゃんくらいなんだよなぁ。彼女はひまりのバイト先にいるとかで、いやアイドルがファストフード店で働いてるってなによとは思うけど。ただ、ひまりと一緒にプライベートで会った時になぁ。

 

「あ、キミがひまりちゃんの言ってた人なんだ!」

「え……ひまり?」

 

 そんなことを言われて以来、ひまりの話に出てくるもの同士という扱いでしかない。というか彩ちゃんに俺の話してるのかひまり、と思わず信じられないものを見るような顔をしてしまったね。当のひまりは首を傾げるだけだった。かわいいけど! 

 

「いつもありがとうございますっ」

「いつもつくしがお世話になってます」

「えっ、いやいや、いつもキラキラの応援もらってるから」

 

 そう、あとつくしが地味に花見かなんかでプライベートのパスパレと話をする機会があったとかで、その際に俺の存在も語ったらしい。それで知り合いの知り合いってことでなんか偶に会う知り合いのご近所さんみたいなリアクションが取られる。

 

「はぁ、たまには全員とちょっとずつお話できる握手会もいいね!」

「……俺は苦手なヒトいるからな」

「そういうのダメだよ! プロでもただの女の子なんだから」

 

 いや一方的に悪意持たれてるんだよなぁ。それも自業自得といえばその通りなんだけど。いいんだよそれは。そもそも俺は別に悪意があっておっぱいを狙ってるわけじゃなくてただ単におっぱいを拝みたいだけなんだよ。イエスおっぱいノータッチ! 

 

「またそれ?」

「大事なこと、おっぱいに対して真摯であれ!」

「恥ずかしいからやめて」

 

 怒られた。けど俺に天気以外の話をさせてくれる幼馴染はやっぱりベストフレンドなんだよなぁ! そしてそのまま今日は夜から泊まりがけでバンドの練習があるとつくしと別れた俺は独りになった寂しさと、なによりさっきまで言えたおっぱいおっぱいが言えないのがちょっと口寂しくてテキトーな喫茶店のコーヒーを頼もうと何名様ですか? と言われて数を示そうとすると二人っスと声がして慌てて振り返った。

 

「フヘヘ、おじゃまします、大輔さん」

「……お疲れ様です、麻弥さん」

 

 そこに現れたのは変装アイテムで顔を隠した麻弥さんだった。まさか飛び入りとはタイミングいいですね、と思わず微笑んだ。捨てるおっぱいあれば拾うおっぱいあり。いや捨てるおっぱいに対して拾ったおっぱいサイズ違いすぎてやべーけどな! 

 

 

 




おっぱいヒロイン図鑑
EX№05パスパレのボーカルさん:丸山彩
 なんの捻りもない覚え方である。ひまりのバイト先メンバーであり、イヴ麻弥と仲が良かったため割と認知されている。アイドルに認知はヲタカチキレでは。つくしの推しでもあるためその幼馴染としての認識。

EX№06おねーちゃんラブのアイドル:氷川日菜
 羽丘の生徒会長という覚え方をしていたが紗夜の妹という面が強い。二言目にはおねーちゃんであり次にはおねーちゃん。むしろ彼的には姉より好感度高め、おっぱいの差が全ての差である。

今日は毎回の如くサブキャラで。千聖さんはまた羽沢珈琲店の時に紹介したいと思います。


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第19話:推しはオタク仲間でおっぱい

推しを邪な目で見る男、大輔


 麻弥さんと意気投合というか、今みたいに握手会に行っても楽しそうにおしゃべりをしてくれるようになったのは、彼女が偶々俺のバイト先にやってきたことが原因だった。機材の調子が悪くてどうしようと店長が頭を捻っていたところに颯爽と現れ、そして工具を楽しそうに使って修理してしまったというエピソードだった。

 

「あれ、いつもイベント来てくださってる方っスよね……?」

「ど、どうも」

 

 それが何度か握手会に参加し、そしてその癒しの神おっぱいを拝んでいる存在だった大和麻弥さんが身近な神おっぱいとなった瞬間でもあった。以来、イベント終わりになると連絡をくれたり、一緒にご飯を食べたりとアイドル相手なのかと疑う日々があったんだよな。あったんだよなっていうか現状そうなってるとも言うけど。

 

「いやぁ、実はここのブレンド、アイスでもすごくおいしいってちょっとした話題のお店で……こっそり狙ってたんです」

「て、テキトーに入っただけなのに」

「一人で入る勇気がなくてどうしようと思っていたところに宗山さんがいてくださって助かりました、フヘヘ……」

 

 渡りに舟でしたと恥ずかしそうに笑う麻弥さんは続けて何にしますかと訊ねてくる。いやこの状況で選ばれるのはアイスコーヒーでしょうよ。確かにメニューには暑い夏にぴったりのイチオシ商品として大々的に紹介されてて、ってクッソお高いですね! 価格三千円ブルーアイズマウンテンじゃん。そこまで高くないけど。

 

「ジブンはあのバンドはもうちょっとベースの音量を上げたほうがいいと思うんです!」

「あー、あの子マジでやってること地味に変態チックですよね」

「そう! サラっと目立たないところで、新曲のライブ映像見ました!?」

「俺現地行きましたよ」

「はぁ~! 羨ましいっス!」

 

 アイドルとする会話じゃない。うん絶対アイドルとする会話じゃないただの同ジャンルについてうるさいオタク同士の会話だ。まぁ麻弥さんはホラ、お仕事忙しいからね。でもこの瑠唯さんと語り合うのとは違う雰囲気のあるバンド関係のトークは違った楽しみがある。

 

「音響とかが残念だと突入したくなるんスよねぇ……」

「そ、そうですか」

「いやそうじゃないでしょ! みたいな!」

 

 ただ麻弥さんキラキラ笑顔なんだよなぁ。フツーにおっぱい以前に顔がいい。おっぱいもいい、最強すぎんか? こうしてすっかり言葉までオタクモードになっている自分がいて、麻弥さんもオタクモード全開で、いや同じジャンルの通がもう一人いるという安心感はすごい。できたらこれをおっぱい方面にも一人ほしいところだ。

 

「わ、ホントにおいしいっスよコレ」

「ほんとだ、なんというか、コクがある?」

「冷たいものって味覚が鈍くなる、って話は聞いたことありますが」

 

 そうなんだ、と頷くと麻弥さんはちょっと自慢気に味覚についての知識を披露してくれる。博識麻弥さんの登場だ。そもそも一般の想像するアイスコーヒーって苦くて味がしないみたいな感じあるよね。でもこれはそれがない。かと言って酸味も控えめだしで値段にも納得の高級感まであるよ。

 

「これを……安く作る方法はないものでしょうか」

「相当気に入りました?」

「ええとても。ジブンはあんまり高級品とか、そういうの胃もたれしてしまう気がして苦手なんスけど……これはジブンの中にあったイメージの革命です!」

 

 ちょろっと調べてみるとどうやらアイスには深煎りの方がいいらしい。この辺りはイヴちゃんも働いてる羽沢珈琲店のえーっと、そうそうつぐみちゃんね。あの子やそのお父さんに訊ねてみるのもアリじゃないかな。

 

「いいっスね……って、宗山さんって確か常連さんでしたよね?」

「俺ですか? まぁ暇な時はだいたいあそこにいますね」

 

 癒し空間なんだよな、またの名をおっぱい特異点ともいう。ほぼほぼひまりの暇潰し相手させられてることの方が多いけど。それもまたおっぱい特異点のパワーである。そんなくだらないことを考えているとちょっとだけ困ったように、ですよねと呟いた。

 ──そうなんだよね、麻弥さんの住んでる範囲的に高校がひまりたちと同じってことも考慮すると結構近いところだと思うんだけど羽沢珈琲店で麻弥さんに会ったことは一度もないんだよな。え? もしかして俺避けられてる? 

 

「え、ええっと……実は」

「避けてる……んですか」

 

 かなりショッキングな事実に気づいてしまった。なんだろう俺、麻弥さんに避けられるようなことしたんだろうか。心当たりはないことはない。そもそもひまり理論でいくと麻弥さんも俺の視線に気づいてるという事実があれば避けられることは本来ならなんら不思議ではない。なんなら現状の意味がわからなくなるだけで。

 

「ああいや! 別に宗山さんと顔を合わせたくないとか嫌ってるとかじゃないんです!」

「……え?」

「むしろ宗山さんとは、そのオタク仲間のような親近感を覚えますし……その、ジブンなんかを最初の頃から応援してくださっているので」

「えっと、じゃあどうして?」

「ジブンのプライベートってガサツすぎて、今はほら、お仕事終わりでメイクもしてますし髪も、こういってはなんですがキマってるので」

 

 だけど、完全プライベートだと化粧道具なんてほぼ持ち合わせてないためすっぴんだし髪もきっちり整えるわけじゃない。そんな女子力がない状態なんだと麻弥さんは明かしてくれた。えっと、つまりプライベートで会いたくなかった理由って? 

 

「宗山さんに、普段のジブンを見て幻滅されるのが……怖くて」

「そうだったんですね」

 

 正直、俺はメイクがうんぬんとかおしゃれがどうとかはよくわからない部類の人間だし。そもそも仕事終わりである麻弥さんの私服のセンスが悪いかどうかって訊ねられたらかわいいと思いますよって答える人間だ。そもそもダサいなぁと思っても否定はしたくないし。

 

「そういえば麻弥さんは自分に自信を持てないって言ってましたよね」

「そ、そうなんです」

 

 なんかのラジオか番組か何かの時にそう言っているのを聞いた気がした。フツー自分に多少なりとも自信があるからこそアイドルやってんだろって思いがちなんだけど麻弥さん、元は裏方でパスパレのドラムが決まるまでのサポートメンバーだったんだよね。だったのに結局見つからずじまいで正規メンバーになったって経緯だもんな。結成秘話かなんかで見た。

 

「はい、だから最初はホントにジブンなんかがアイドルなんて……って、流石にお仕事の時はアイドルとしての心構えみたいなのはできてきたんスけど、プライベートとなるとやっぱり自信が」

「あはは、プライベートに自信が持てるヒトなんていませんって」

 

 プライベートの自分に自信を持てるヒトなんて全体の何割いるんだろうか。少なくともつくしも俺も、俺の知り合いもプライベートの自分に自信満々で生きてるヒトなんて見たことがない。それこそ同じアイドルの白鷺千聖さんとか、なーんにも考えてなさそうな氷川日菜さんとそのお友達のめんどくさお嬢様とかは別だけど。

 

「俺なんて、ただガールズバンドおっかけてるだけのクソオタっすよ? それで自信満々になるわけないじゃないですか」

「宗山さん」

 

 しかもおっぱい狂いときたもんだから最低辺のゴミもいいとこだ。ただ近づいていいおっぱいと近づくとヤベーおっぱいがいることには気づいてる。日菜さんとか弦巻嬢とかは間違いなく近づいてはいけないおっぱい。あと番犬がうるさいから花音さんもだめ。

 

「まぁ、なんですかね。次からは羽沢珈琲店で会ったらのんびりトークでもしましょ。俺は麻弥さんなら大歓迎なんで!」

「……フヘヘ、それならお言葉に甘えて」

 

 そのタイミングでカラン、とアイスコーヒーの氷が溶けた音がした。それにしてもこのお店、今度誰かコーヒー党のヒトに教えたいくらいの感動だったな。コーヒー党、コーヒー党……うーんビッグセブンは瑠唯さんが紅茶、燐子さんおっぱ、じゃなくてミルク、ひまりがカフェオレ、ましろちゃんはオレンジかアップルジュース、イヴちゃん緑茶か抹茶、んで有咲が不明ってところか。誰もおらんのよな。

 そうすると必然、一緒に行く相手は麻弥さんだけになる。向こうのお仕事忙しいし値段がアレなのでまぁ、それでバランス取れてるってことにしておくか。

 

 




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№05ビッグセブンのフヘヘな機材オタク:大和麻弥
 上から呼んでも下から呼んでもやまとまや、上から見ても下から覗いても大ボリュームのおっぱい(最低)。アイドルという関連からイヴとのコンビも多く拝む対象。
 彼女にとって彼はいつもイベントに来てくれて話が通じるオタ仲間っぽさがある。一方プライベートで会いすぎるともしかしたらジブンの女子力のなさに幻滅されそうで避ける傾向にあった。なのでプライベートの関わりは少なめだった。

結論:脈ある……??? いかんせんお互い自己評価が低いためアレな模様。

次回はイヴちゃんの出番ですよ!ブシドー!


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第20話:銀髪フェアリーは笑顔が素敵

――もちろんおっぱいもな。


 若宮イヴちゃんは俺にとってアイドルというより先に羽沢珈琲店のおっぱいの大きな妖精というイメージが先行する。一応ビッグセブンの中では目測によると最弱、第七位にありながらそのスラリとした長い脚、元モデルという経歴がうかがえるバランスのいいスタイル、なにより北欧系の妖しくもかわいらしいフェイスが魅力の女の子だ。

 

「いらっしゃいませ、ソウヤマさん! いつもありがとうございます!」

「えっと、今日は一人なんでテキトーな席に」

「ハイ! ではこちらへどうぞ」

 

 ああかわいい。元気だしかわいいしおっぱいおっきいしいい匂いしそう。変態になってしまう。これが若宮担当オタクがヤバくなる原因なのか。そんな風に気持ち悪い顔面を晒しながら歩いていると、後ろから声が掛けられた。

 

「はぁ、来ないと思ったら」

「……ち、千聖ちゃん」

「ども、今日もデートっすか?」

 

 トゲトゲしいのはおっぱいの小さな千聖さん。それをやんわりと咎めようとしてくれてるのがおっぱいの大きな花音さん。おっぱいの大きさで性格の柔らかさが変わるのかもしれない。嘘だな瑠唯さんはトゲの方が多いわ。羽沢珈琲店常連にはおなじみのてぇてぇ百合カップルだ。いやてぇてくもねぇわ。だって片っぽ俺を警戒してくるもん。そんな百合の間に入る不届きものにさせられた俺はなるべく顔を合わせようとせず会話をしていく。

 

「行きましょうか、花音」

「……もう、千聖ちゃん」

「でも」

「気にしすぎだってば」

 

 なんでこんなに好みのおっぱいでない千聖さんに嫌われてるかというと、俺が一時期花音さんに声をかけまくったからだ。羽沢珈琲店の常連さんになったのは燐子さんとあこちゃんにお誘いを受けてそこでイヴちゃんに出逢ったからなんだけど。当時は燐子さん、麻弥さん、イヴちゃんに並ぶおっぱい四天王の一人だったのが花音さんなんだ。現状は飽和しすぎてスタメンからベンチ入りになってしまったものの、そんな花音さんとイヴちゃんに会いに行くために通って隙あらばおしゃべりをしていたら、小さな番犬に蛇蝎の如く嫌われてしまったのだった。

 

「花音に一瞬でも下心を持って近づいた輩をそう易々と許すわけないでしょう」

 

 とまぁ簡潔に表すと千聖さんの言葉そのまんまです。その後すぐにひまりと会って、学年が上がって怒濤のように理想値オーバーを頻発されたことと千聖さんのこの態度で優先順位を下げてる。でも久しぶりに見ると柔らかそう……いかんいかん、さらに松原花音さんの恐ろしいところは甘い声とふわふわおっとり態度のせいでダイブトゥおっぱいしてバッチリカイガンしたくなるところなんだよな。イエスおっぱいノータッチの原則を心に誓った原因でもある。

 

「最近はイヴちゃん目当てだし」

「千聖さんはヤキモチ妬きですね」

「……気に食わない言い方ね」

 

 知りませーん。千聖さんがどんだけ女囲ってレズ世界を作り出してるかは存じ上げませんが俺はイヴちゃんのおっぱいと接客見て癒されに来てるんです~。俺のスーパー癒しタイムを邪魔しないでくださ~い。

 

「ソウヤマさんはチサトさんとケンカしているのですか?」

「……ケンカってか仲良くなれないってだけ」

 

 まぁ俺のこのおっぱいは正義ってスタンスが気に入らないヒトの方が多いでしょ、下世話だし最低だしで女の敵もいいところだ。それだったらたぶん女好きのチャラいし浮気性だけど顔と性格のいいイケメンの方が数億倍マシでしょ。そもそも顔と性格がいいんだから浮気できるほど女寄ってくるんだし。

 

「いけません」

 

 仲良くなれない、知り合いと知り合いの剣呑な関係を知ったイヴちゃんは俺の席にアイスコーヒーを置きながらちょっと怒ったような顔をした。いけませんって言われてもと困った顔をするとブシの世は情けです! と言われた。なんか混ざってね? 

 

「お二人はお二人のことを勘違いしているだけですっ! 二人ともイイヒトです!」

「え、えーっとイヴちゃん落ち着こうか」

 

 それと俺がイイヒトかどうかは判断が分かれるところだと思う。知り合いに訊いたらほぼノーって言われる人間よ俺。ただ、イヴちゃんは俺と千聖さんという常連同士でありまた知り合い同士でもある二人が険悪ムードをかましたことが本気でイヤだったらしく、仲直りを強要された。

 

「イヴちゃんこの場合そういう修復の仕方はできないと思う……っていないし」

「その意見には賛成せざるを得ないわね。話し合いでなんとかなるのならとっくに一緒にお茶を飲む関係だわ、私たち」

「いやそれはないですね」

 

 俺、千聖さんにミリもミクロンも興味ないんで。そりゃ花音さんの付属品だったのでこんにちはと爽やかに声を掛けてきた相手ではあるけど。それは花音さんいるからだし。これが紗夜さんみたいにまだちょい牙の中に優しさがあるとか、それこそ俺の変態性余すところなく知ってるつくしとかじゃない限り対面で貧乳さんと語り合うことはないよ。ロリっ子あこちゃんは別、別枠。あれにサイズとか関係ないから。

 

「……行くわよ花音」

「あっ、ふえぇ……えっと、えっと、それじゃあね」

「はい、また」

 

 結局千聖さんが耐えかねて、耐えかねてというか花音さんを守るために立ち上がり羽沢珈琲店から去っていった。後味悪いなぁホント。かと言って親友をそういう目で見て、後輩であり同じアイドル仲間をそういう目で見て、なんならもうひとりのアイドル仲間までそういう目で見ている。許せる相手じゃないってのは、たぶん立場が逆でもそうだからそれに対してなんだあいつとか、俺が貶すことなんてできっこない。

 

「そうですか、残念です」

「ごめんイヴちゃん」

「いえ……宗山さんは、とっても優しくてイイヒトなのに、どうして」

 

 自分にとってはイイヒトだったとしてもみんながみんなにとってそうとは限らない、って言ってもきっとイヴちゃんには通じないんだろうな。とことんまで他者の悪意なんかには疎そうな子だもんなぁ。ピュアホワイトなのはいいことなんだろうけど、こう時折困ったことになるのが現実なんだなぁと嫌な気持ちになってしまう。

 

「ところでイヴちゃん休憩中とはいえ俺と一緒でよかった?」

「あ、えっと……ヒマリさんに悪いでしょうか」

「ひまり?」

「ツグミさんが、あんまり近づくとヒマリさんガヤキモチを妬いてしまうかも、と。お二人はやっぱりそういう関係だったんですね」

 

 羽沢さーん? どうしてそんな話をイヴちゃんにしちゃったんですか? マジメにやってきたからですか? あのぺったんこ、幼馴染相手なんだから付き合ってるの? とか訊いとけよ。ちゃんと否定してくれるからな! 

 

「いや、ひまりは友達、というか恋人とかいないし」

「え、ええ? でもデートとかもされているって」

「ひまり……」

 

 なんでそういうことばっかりはしゃべるクセに肝心なこと言わないのあいつ。匂わせ、匂わせなんですか! いや俺と匂わせてもロクなことにはならんだろ。ただ言う必要がないだけだな。おかげでこんな勘違い生まれてんだよなぁ。

 

「俺に付き合ってるヒトはいないよ。もし疑問ならひまりに訊ねてみて」

「は、はい!」

 

 俺が主張してるだけだったらホラ、まだ隠してるとかそういうワケのわからん勘違いが生まれるかもしれないけど、ひまりからも俺からもあっさり否定すればきっとこの誤解もなんとかなるだろう。いやそれにしてもどんだけ誤解受けてんだ俺。やっぱ女性陣との距離見直すか? いやでもそれだとおっぱいが……ああちくしょうなんてジレンマだ。

 

「あ、大輔!」

「ようひまり」

「今日はイヴちゃんと? 相変わらず女癖が悪いねぇ」

「失礼な言い方するな」

 

 そんなことを言っているとひまりがやってきて俺に絡んでくるのを、イヴちゃんは少しだけ微笑ましいような、そんなキラキラしたいつものピュアホワイトな笑みを向けてくれて、俺もまたよかったと安堵の笑顔をすることができた。いつものイヴちゃんのスマイルは格別だからな。だから、うんだからひまり、俺の女癖が悪いとかいう吹聴をするな! 待って、お願いしますから情報を捻じ曲げるのだけはやめてぇ! 

 




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№04ビッグセブンのシルバーフェアリー:若宮イヴ
 ブシドー! なビッグセブンの末妹(サイズ的な意味合いで)。行きつけの羽沢珈琲店で働いているほか、アイドルイベントでアイドルとしても活動している会いにいけるおっぱい。
 ただし彼女にとって彼は常連さん。それ以上もそれ以下もない。

EX№01ふえぇ系常連仲間:松原花音
 元おっぱい四天王で結構なおっぱいパワーを持つ迷子癖ありのおっとり子さん。ひまりとバイト先が同じという関係でちょっと仲良くなったらなんか忠犬が噛みついてくる困った状況に陥ってる。忠犬がいないと多少話す間柄。

EX№02シャイニング腹黒忠犬:白鷺千聖
 ないよぉ、おっぱいない(けど毒武器というか毒は吐く)よぉ! 花音ガチ勢、てぇてくない百合(てぇてぇを見せてくれないから)。パスパレのイベントに来てることも知られているが全力で避けている。推しは推しとして見てるし推してないしおっぱいはない(二回目)

結論:若宮脈ナシ。エキストラに脈を持たせるのはない。以上


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第21話:あれ俺の交友関係ってヤバイ?

何を今更


 もうすぐ八月、つまり誕生日が近いためお祝いしてもらったバイトの帰り、偶々花咲川の近くを通った時のことだった。まだまだ暑いその空気の中でちょっとした日陰で涼んでいる花音さんを見つけて、声を掛けようとしてから一瞬固まった。番犬いらっしゃると声を掛けただけでバウバウ吠えられるので勘弁してほしい。

 

「あ、宗山さんこんにちは」

「どうも」

「バイト帰りですか?」

 

 そんな逡巡してる間に気づかれ先制で挨拶されてしまった。どうやらいないのかな? まぁ彼女おっぱいよろしくぽわぽわしてるから千聖さんいてもフツーに話掛けてくるんだけど。そんな警戒網を張っていると千聖ちゃんならいませんよと笑われてしまった。

 

「……誰待ちですか?」

「別の知り合いですよ」

「なら安心した」

 

 お、濁された。千聖さんじゃなくてこの雰囲気だともしや……と邪推してしまう。なんか友達は友達、後輩なら後輩って言う。じゃあ知り合いってなんの時に使うかって、恋人を誤魔化してる時に使いたいって心理が働くらしい。そうだよな、俺も知り合いって紹介するヒトおらんもんな、あははは。

 

「──校門前に長時間男性がいると問題になるのでなるべくなら羽沢珈琲店くらいで待ち合わせてほしいところですが」

「あ、紗夜ちゃん」

「問題になるんスか」

「夏休みで生徒が少ないとはいえ女子校ですよ、ここ」

 

 そんな邪推に妄想を重ねて失礼なことを考えていると氷の風紀委員、氷川ぺったんこ紗夜ちゃんさんがやってきた。つか紗夜ちゃん……ちゃん付けで呼ばれてるんですね紗夜さん。目線で送るといつも通り睨まれた。ごめんなさい。

 

「私、美咲ちゃん待ちなんだぁ」

「そうですか、ならこの不審者は?」

「バイト帰りで通りかかっただけ」

「知り合いだから声掛けたんだ……ごめんね?」

 

 どうやらミサキちゃんという子を待っていたらしい。それがレズカップルなのかはわからないけど花音さんはどうやらカレシじゃなくても知り合いという単語を放つ匂わせの天才だったらしい。いいな、花音さんに知り合いだよって紹介されて匂わせたい。やっぱいいやあのシャイニングぺったんわんこにヒートエンドされたくない。

 

「花音さん、ごめんお待たせしました」

 

 とか言ってる間にどうやら花音さんの待ち人がやってきたらしい。黒髪ボブでピンクの髪留めつけた、ちょっと飾り気がないのにかわいいというか美人というか、雰囲気も相まって俺の中で花音さんのカノジョ説が浮かび上がってきた。ただそうすると千聖さんとのドロドロが頭の中で妄想されるのはやっぱりてぇてくないな。

 

「大丈夫、宗山さんが話相手になってくれたから」

「宗山さん? えっとこっちの?」

「うん、知り合い」

「……知り合い」

 

 ちょっとミサキちゃんさんが訝しむような視線を送ってきた。はい、匂わせ成功! 千聖さんいなかったら存分にしてくださいありがとうございます! 紗夜さんが苗字通り氷のような視線を向けてきてる気がするけど紗夜さんは割と優しいのでこういう時何も言わずに後で怒られるの知ってるからね! 後でならいくらでも土下座するぜ!

 

「いつも花音さんがお世話になっています、奥沢美咲です」

「いえいえ、こちらこそ宗山大輔です」

 

 そんな事務的な会話をしていると続いてあれ奥沢さんまだ帰ってなかったの、ともう一人、ビッグおっぱいの金髪縦ロールツインテちゃんがひょっこり対仲良しモードの口調で話しかけ、そしてそのメンバーを見てびびったような顔をした。

 

「お疲れ有咲、生徒会?」

「お、おう……なんだこのメンツ」

「そうだった、もう行かないと」

「そうだね、それじゃあまたね……」

 

 市ヶ谷有咲が発した言葉でスマホを確認した美咲ちゃんが花音さんを連れて行った。残ったのは俺とたぶん燐子さん待ちの紗夜さんと、ちょっと疲れた顔した有咲の三人。まぁこのメンツなら大丈夫……えっと俺がおっぱいに視線が吸い寄せられなかったら大丈夫でしょう。紗夜さん既に睨んできてるし。

 

「相変わらず女性関係ルーズですね……まさか市ヶ谷さんとまで知り合いだったなんて」

「う……たまたまですよ、ね有咲」

「ま、まぁ……成り行きというか、倉田さんが」

 

 あ、それ以上はまずいと思ったけど紗夜さん眉を持ち上げて反応されていらっしゃった。紗夜さんは現時点で俺の性癖である巨乳好き、大きいおっぱいへの愛情を向けている知り合いが燐子さん、ひまり、イヴちゃん、たぶん麻弥さんで、あと花音さんで、その状態でもルーズだって怒られてるのに。もうだめだ……おしまいだ。

 

「なるほど、Morfonicaですか」

「……なんスか」

「言いたいこと、わかるのでは?」

 

 ええとってもわかります、やったね以心伝心。うれしくないやい。でも紗夜さんだってモニカメンバーの憐れなベストフレンド以外はおっぱいが大きいことなんて知っているに決まってる。いやまじ、全部キセキというか偶然の出会いなんですよ。ホント信じて。俺おっぱい目当てにナンパするような男じゃないから。

 

「なんか……紗夜先輩と宗山さんって、結構仲いい? 感じなんですね」

「まぁゲーム友達だし」

「宗山さんっ」

「ゲーム?」

「ぼ、ボードゲームです。羽沢珈琲店で偶々、偶然です!」

 

 あれ、もしかして紗夜さんってロゼ以外にネトゲ廃に足を突っ込みかけてること言ってない? いや家族であるおねーちゃんラブの妹さんにはバレてるのかもしれないけど、もしかして他のヒトには隠してる? と思って紗夜さんに目を向けたら黙ってろとでも言いたげな視線を合わせられた。目と目が合う瞬間にしゃべったら殺されると気づいたのはちーちゃん、じゃなくて千聖さん以来だった。

 

 

 

 


 

 

 

「──いや、それにしてもマジで宗山さん、人間関係複雑なんだな」

 

 あの後すぐ燐子さんと合流し名残惜しくもおっぱいにサヨナラバイバイした俺はおっぱいと旅に、じゃなくて帰路についていた。あの二人はあそこからバンドの練習あるらしい、鉄人かよ。複雑かと言われても全然複雑じゃないよ。知り合いがこの近辺に多いってだけで。

 

「けど、ほぼ女子じゃんか」

「女子校近いし」

「じゃなくて、つか何回か会ってるけど全部別のヒトだし」

 

 あれ、もしかしてまだ俺股掛けクソ野郎だと思われてる? 確かに初対面ましろでその次はひまり、燐子さん、今回は紗夜さんに花音さんだもんな。言われてもしゃーなしとも思うけど別にいっつもラブラブな雰囲気とか形成してなくない? それだったらたぶんお前ハーレムラブコメ系の世界に巻き込まれてるよって忠告するけど。

 

「いや、みんなと仲いいし」

「……有咲が内弁慶なだけでは」

「う、うるさいな! 私だって……ちょっとくらいは」

 

 俺の知ってる有咲はなんだかんだ友達いっぱいいるイメージだけどね。イヴちゃんも俺が有咲と知り合ってるって知ってから高確率で有咲の話してくるし。バンド仲間とも仲良さそうだし。やまぶきベーカリーで会うあの子も結構有咲の話振ってくるよ。

 

「沙綾んちにも行くのか」

「ひまりに付き添って時々ね」

「そういやそんなこと言ってたな……だから私が混乱したわけだけど」

「それ詳しく」

「ん? だって倉田さんと付き合ってるのに上原さんとデートして、んで燐子先輩の手伝いしてイヴ……はまぁ誰にもあんな感じだけど、紗夜さんとも」

「スゲー勘違いだな」

 

 合ってるけどね、ましろちゃんと付き合ってるって部分以外ほぼ事実だけど男女関係があるからそうなってるんじゃなくてフツーに燐子さんはネトゲのオフ会で知り合ってあこちゃんを挟んでれば会話できる程度だし、ひまりは俺のことボディガード扱いだし、紗夜さんはむしろ俺のこと嫌いじゃないかなってくらいだし。

 

「いや、あの態度は嫌ってねーだろ」

「そう?」

 

 まぁ嫌われる態度ってのを知ってるから、そう考えると確かに紗夜さんは優しいというか友達として接してくれてるところはある。大きいおっぱいに視線を注ぎすぎるクセがなければって言われたしな。もうそこが俺のアイデンティティの九割九分九厘だからそれをダメ出しされたら代走要員がホームラン王と打点で比べられてるようなもんだけど。

 

「んじゃ、またな」

「おう、香澄ちゃんにもよろしく」

「言っとく」

 

 誤解はあんまりなんとかなってる感じはないけど、まぁ前の近づかんどこみたいなオーラは感じなくなったのがいい兆候だな。ただそう一歩引いたところから見るとやっぱり俺って女癖が悪いということになるんだろうか。別に誰が好きとかないし身体的な接触とかないんだけどなぁ。俺はちょっとまた認識を改めることにした。

 




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№10ビッグセブンのツンデレ縦ロール:市ヶ谷有咲
 ビッグセブンという単語が生まれた直接の原因。それは二大巨乳には追い付かないもののひまりと同格の強者のおっぱいだった。
 彼女にとって彼はましろにカレシだと紹介されている。だが沙綾からはひまりと仲がいいことを伝えられ、妙に生徒会メンバーとの仲がいいことも知ったため警戒してはいるが一応いいヒト扱い。訊いただけ偉い。

結論:大輔の女癖が悪い。脈以前の問題。

これでメインメンバー全員の図鑑が解放されましたただエキストラは№12までいるんだよなぁ……


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第22話:始まる狂乱の旅行

混沌は楽しいぞい


 俺が神と崇めるおっぱいを持つ七人の天使、それには及ばないものの眼福クラスであるおっぱいを持つヒトが七人いる。それの筆頭が花音さんだ。昔は四天王の一角なのに落ちてしまったけれど、これはサイズ以上に関わり方が難しいんだよなぁ。そんな七人の知り合いの中で最も俺がめんどくさい、関わりたくないと思ってる人物がいる。

 

「先輩とここ来るの久しぶりだね」

「だね」

「……ふふ」

 

 向かいで期間限定のレモネードをおいしそうに飲みながら微笑むましろちゃんの顔がやけにこう、緩んでいる。会ったばかりの四月なんて常に緊張した顔をしていた彼女だけど、五月、六月と過ごしていくうちに緩んだ表情を見せてくれるようになった。だけど最近は特に、なんというか油断というか隙を見せてくることが多くなったような気がする。つかぶっちゃけにやけてる。

 

「なに?」

「え、えっと……似合ってるなぁと思って」

 

 ましろちゃんの視線の先には誕生日プレゼントとしてくれたネックレスがあった。ありがたいけど割とかわいいしそんなにやけられると似合わないかと思っちゃうじゃん。似合ってるのににやけるってどうなの? ましろちゃんが嘘ついてるようにはとても見えないけど。

 

「似合ってる?」

「うん」

 

 どうしようましろちゃんの感性が不安になってきた。いやでもこの間の謎プレゼントの時もすごく嬉しそうだったし、なんなら受け取った時の照れ照れましろちゃんがかわいくて悶えそうになったので許せてしまうな。守ってあげたいおっぱい、じゃなくて笑顔。

 そんな客観視したら完全に初々しさ全開カップルみたいな会話をしてる俺とましろちゃんに、だがそんな空気をぶち壊す乱入者が現れた。

 

「あら、ましろ! と……大輔! こんにちは!」

「こ、こんにちは……えっと、こころさん」

「ええ!」

「……どうも、こころさん」

 

 この元気が余りに余ってしょうがないからと他人を巻き込んでくる乱入者こそが、通称準ビッグセブンの一角でもあり、俺がたぶん唯一明確に遠くから拝んでるだけでよかったなと関わったことを後悔する人物、迷惑お嬢様、弦巻こころだった。

 

「あーこころちゃんこっちこっち~」

「日菜! お待たせしたわね!」

「いーよー」

 

 手を挙げた先には同じく、だが姉とは違い準ビッグセブンの一角を務めている氷川日菜さんがいた。このエネルギー有り余っておっぱいにいったとしか思えないコンビ、苦手だ。日菜さん単品ならまだしも揃うと関わり合いになりたくないって気持ちの方が強くなる。おっぱいは揺れる度にガン見したくなる。元気いいからぷるんぷるん揺れるんだよなぁ。でっか。

 

「む」

「ん?」

「……むん」

「おお?」

 

 そんな揺れる金髪おっぱいを眺めているとましろちゃんが膨らんだ。ついでにちょっと前に出てきたせいでおっぱいが机の上に乗った。

 ──くっ、目を逸らせない。流石はビッグセブン……準クラスとは一線画すおっぱいパワーだ。

 

「よし」

「……な、なにが?」

「先輩、あっちばっかり見てるんだもん」

 

 拗ねたような口調のましろちゃん。え、つまりましろちゃんの方ガン見してもいいってこと? というかましろちゃんって俺の性癖知ってたっけ? まぁいいや、許可もらえるなら近くの神クラスのおっぱいを拝んでおこう、ありがたやありがたや。

 

「そういえばさ」

「うん」

「やっぱり、二人で泊まりはだめだって」

「だ、だろうね」

「──瑠唯さんが」

 

 親じゃないんかーい! とツッコミを入れておく。倉田両親は共働きでしかも結構いそがしいのか知らないけどあんまりましろちゃんに干渉というか関心を示しているようには感じない。門限はあるけど門限までに誰もいないこともあって、それどころか連絡すれば事情によっては遅れてもいいのだとか。よくグレないねましろちゃん。つか瑠唯さんの懸念も当たり前なんだよな、幾ら俺が知り合いとはいえ男と二人きりで旅行ってそれはもうえっちだ。事実がなくてもえっちなのでダメだと思う。俺もさっさと断れってつくしに口を酸っぱくされていたところだ。

 

「でも、どうしてもって言ったの」

「そ、そうか」

「それでね、透子ちゃんにどうしたらいいって訊いたんだ」

「おう」

「そしたら──モニカで合宿して、そこに宗山さん、先輩がいるってことならって」

 

 なるほどなぁ。そういう屁理屈ならいいのか、というか男女比トントンのデートより男女比1:5の方がやばくね? というかそっちできゃっきゃ女子会、こっちでボッチ会になるくらいなら俺は……と思ったけどましろちゃんと二人きり同室は危険だった。どっちも地獄かここは。

 

「え、っとね……お部屋とか、だからこっちに任せてもらっても、いいかな?」

「うん、確かに人数増えるならお任せしとく」

「よかった、温泉も楽しみだね」

 

 前の電話で箱根の方がいいねって話になったんだけど、人数増えるならそっちで仕切ってくれるらしい。いや楽できるし情報はましろちゃんかつくしに訊けば一発だからラインも繋がってるしでいいですね。よかったよかった。

 

「あら、モニカで温泉に行くのね!」

「おわ、ってこころさん」

「いいわね、あたしたちも一緒したいわ!」

「え」

「ちょ」

 

 俺とましろちゃんが驚きと制止をする暇もなく、こころさんは早速と言った感じで透子に連絡してくるわね! と光の速さでいなくなってしまった。いや、あの一応主催者俺たちなんだけど。はぁ……やっぱ苦手だなあの子。

 

「うぅ、やっぱり苦手だなぁ……」

「なんか陽キャの極致みたいなヤツだしな」

「うん、透子ちゃんとか、リサさんとかもそうなんだけど……こころさんとか、日菜さんも割と」

「わかる」

 

 あの子らには他人との線引きってもんがないからね。踏み越えられたくないラインが見えないし、逆に踏み越えられたくないラインが存在しない。それでいうとまだ透子ちゃんやリサさんはそのラインを見極める目を持ってるからなぁ。

 

「どんまーい」

「あ……っえと?」

「ひまり、いたのか」

「うん」

 

 ましろちゃん誰だっけみたいな顔してる気がする。Afterglowのリーダーさんだよ。思い出したようで壁越しに乗り出したひまりのおっぱいに目線が向いた。行くよな、俺なんてもうガン見状態だもん。やっぱおっぱいはスゲーや。

 

「あのノリだとこころん、私たち全員に声掛けるだろうね」

「……え」

「大輔ハーレムじゃん、よかったね」

「ふざけんな」

 

 いやマジでふざけてるでしょ。その繋がりっていうと確かポピパ、パスパレ、アフグロ、ロゼ、ハロハピ……はそもそもこころさんのバンドだし、モニカが全員いて、それくらい? と言うと多分RASにも声掛けるよとか言い出した。マジ? RAS? あの子RASとも知り合いなの? 

 

「うん」

「顔広いなオイ」

「えっと……RASさん? って確か、私たちと同時期に出来たバンドですよね」

「そそ」

 

 新進気鋭で全身全霊の音楽を魅せてくれるガールズバンドグループRAISE_A_SUILENを略してRAS。マジかーあのヒトら来るのそれはそれで楽しみだからついでにライブとかしてくんねぇかな。そんな風に考えているとましろちゃんがすごい勢いで拗ね始めてしまい、ひまりがふぅん、と面白いものを見つけたような顔をした。

 

「で、私リーダーだけど断った方がいい?」

「いや……知らんヒト大量に来るならひまりがいてくれると助かる」

「りょーかい、ってことだから……()()()()

「あ……はい」

 

 なんでごめんね? と思った頃にはするりとお会計をしていた。なんだったんだ一体。そしてましろちゃんはそれからずっと何か考え事をしているような雰囲気で、ちょっと楽しくない感じで別れてしまった。ずっと、帰るまでずっと繋がれていた手が今日はすごく弱々しくて、デートのはずが、俺と一緒にいるはずの時間がというショックが伝わってくる気がした。

 




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EX№07呼ばれて飛び出てマネーパワー:弦巻こころ
 ヤベーヤツ。以上。おっぱいは大きく準ビッグセブンクラスだがやることなすことぶっ飛びすぎてるため積極的にかかわるのをやめた。でも夏になったら否が応でも関わるハメになる。なにせこの辺の友達同士の繋がりが強いから。去年も色々巻き込まれている。

さぁさ……あれ、これシリアスないって言ったよね??????


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第23話:どういうハーレム展開ですか?

どうしてこうなったシリーズ!!!


 つくしから連絡が来きたのはそれから数日後だった。参加するのはポピパから香澄ちゃんと有咲。パスパレからイヴちゃん、麻弥さん、日菜さん……ほっ。アフグロからひまりだけ、なんかごめん。ロゼ全員……全員!? 湊友希那くるの!? ハロハピ全員、まぁこれは予想通りだけどミッシェルさん来るの? ましろちゃんとかつくしがミッシェルさんがどうのって言ってるんだけど俺中のヒト知らないんだよな。どんなヒトだろ。RASも全員、ヤバ限界オタクになりそう。総勢俺入れて二十七名の旅行となった。修学旅行かよ。

 

「これ、ヤバいよつくし」

「だね」

「何がって……」

「うん」

「ビッグセブン全員いる」

「……大輔」

 

 いやまぁね、俺がいるの知ってるのはモニカとひまりくらいなんだから俺目当てじゃないってわかってるけどさ! 燐子さん、有咲、麻弥さんイヴちゃんまで来るなんて予想外なんだよ! 俺だって興奮してる! ビッグセブン全員の風呂上り見れるかも! 俺今のところその実績解放してるの七分の一だもん! 

 

「……え、まさかましろちゃんともう?」

「は? なんでましろちゃんなんだよ。もうってなんだよ」

「違うの?」

「ちげーよ」

 

 瑠唯さんだよ瑠唯さん。この間雨に降られた話しただろう。あれは……あれはヤバかった。もしあれが残り六人見れると思うと……いかん興奮しすぎて鼻血出そう。そんな俺に冷ややかな視線を送るつくしにしょうがないだろう、と俺は力説する。ちなみに既に夜なので現在つくしの部屋にいる。あ、おばさんお茶ありっす。

 

「うま」

「……なんでママってば、お客様用の高いの出すかな」

「なんだ、不満か」

「大輔なんて水道水で充分だよ!」

 

 それはヒドくね、せめてお前んちのウォーターサーバーくらい使わせてくれよ! 抗議するが現実はおいしい冷茶なので俺の勝ちである。確かに久しぶりに来たとはいえ昔なんてめちゃくちゃ入り浸ってたのにな。理由は単純、コイツんちの方が俺んちより広くてデカいテレビがあったから。ゲーム機持ってきて野球しようぜ! のノリでゲームしようぜ! ってやってたからな。

 

「それより費用はどんなん? 団体割とか使えそう?」

「それがタダで貸し切りだって」

「なんで?」

 

 いやホントなんで? 貸し切りはまぁ多少予想はしてたけどタダてどういうこと? そう訊ねると透子ちゃんとこころさんが共謀してより面白い方に転がそうとしたらしい。なにその最低最悪のダイスロール。クリティカルしたの? 

 

「透子ちゃんが貸し切りにしようって言いだして」

「うん」

「弦巻さんがこの人数だと移動が大変だってことでバスを買い取って」

「買い取って……おう」

「ここまではまだ常識の範囲内なんだけど」

「どこがだよ」

 

 おいお嬢、テメーさては富裕層側だな? つか桐ケ谷弦巻ほど資産ないじゃんお前んち。それでもバスくらい買えるもんと反論された。バスはくらいって形容するもんじゃねぇよ。

 ──それはさておき、まだひと悶着あったのか。

 

「ましろちゃんが指した旅館そのものを買い取るとか、改造するとか、めちゃくちゃで」

「……ついていけねぇ」

「結局最後は七深ちゃんと瑠唯さんの提案で新しい温泉宿作ることに落ち着いたよ」

 

 ごめん、なんて? 金持ち怖くね? ましろちゃんがさぞ青い顔していたでしょう。絶対後で電話来るな。慰めとこ。ただ流石に旅館を作るほど自由にできるお金は透子ちゃんにはなかったようでこころさん頼りになったと。俺女だらけのバスに乗るの?

 

「うん、でも大丈夫、席は決まったんだ」

「どれどれ」

「大輔は一番前だよ」

 

 俺はそう言われてつくしのスマホの画面をのぞき込む。もしかして前、はないけど後左右女の子のおっぱいハーレム状態になっちゃうのでは? ビッグセブン全員いるしね。そんな期待とイエスおっぱいノータッチという原則がもしかして隣によっては崩れ去ってしまうかもなんてちょっとの危機感を覚えながら確認し──俺はキレた。

 

 

 

 

 

パレオCHU²和奏 
大和若宮奥沢こころ
氷川(日)広町透子倉田
戸山市ヶ谷松原上原
朝日佐藤白金八潮
今井友希那氷川(紗)宇田川
はぐみ薫くん二葉宗山

 

 

 

 

 

 イジメじゃねぇか! なんでだ! なんでこの状況でどこ見渡してもおっぱいがないんだ! バカじゃねぇの!? おっぱい俺が見えないところに固まってんのなに? なんなの? いったい誰だよこんな席順考えた悪魔はよぉ! 

 

「私と紗夜さん」

「悪魔どもめ!」

 

 つくしは味方だと思ったのに! 嘆くがそもそもおっぱいに関してつくしが味方なワケがなかったし紗夜さんはいつもの紗夜さんだ。慈悲なし。勘違い直さなきゃワンチャン燐子さんの隣にいけたかもしれねぇ……正直なのが仇になったぜ。

 

「いいもん……風呂上りのおっぱい堪能するもん」

「もん、はキモイでしょ」

 

 うるさい悪魔め! ビッグセブン全員集合どころか準ビッグセブンも全員揃ってる状態、そうまさに俺にとってのおっぱいハーレムという究極完全体にもなれるこのシチュエーションなんだぞ!? 移動中のおっぱいすら期待しちゃいけないってどういうことなの!? 

 

「ん? というか奥沢さんいるんだ……付き添い?」

「ミッシェルさんだよ?」

「……え、そうなの?」

「うん」

 

 え、あのちょいイケメンなような美人なような感じのあの子がミッシェルなの!? キグルミモードと雰囲気全然ちげー、絶対言われないとわかんねぇやつじゃん。うわそれよりマジで湊友希那の名前あるよ。サインとかしてくれるんかな。

 ──ちょっと冷静になって見渡すと1:1が1:5になったと思ったら1:26て。頭がイカれてるとしか思わん。しかもそのうちの14人が俺のおっぱい大きい基準を満たしてることが確定。実に半分以上である。

 

「なのに隣は……このベストフレンドだけか」

「親友なら喜びなさいよ」

「ぺったんこ」

「流石にキレていいよねこれ」

「すんません」

 

 後ろを覗こうもんなら紗夜さんの制裁間違いなしだし、隣はかわいいとか美人というよりはカッコいいが先に出てきてしかもおっぱいない瀬田さんだしコロッケ屋のスポーツ少女はつくしよりはあるけど紗夜さんといい勝負だし。湊友希那は個人的にファンだけどおっぱいはファンじゃない。ホントにただただガールズバンドのオタクとして琴線に触れた珍しいヒトだ。そも俺ロゼとパスパレのオタだし。

 

「あ、大輔の部屋だけどさ」

「うん、いやもう期待してない」

「当たり前のように一人なんだけど露天風呂付きなんだって」

「……俺はそっちで我慢しろってか」

「まぁ、うん」

 

 そりゃ人数比的に男湯と女湯分ける必要ないもんな。俺だけ露天風呂付きの豪華な部屋の代わりに大浴場はなしか。あれ……これましろちゃんとのお泊りデートだったよな。おかしいな。なんでこんなましろちゃんと話す機会もなさそうなん? 

 

「……大輔って、ましろちゃんと付き合ってる?」

「なんでお前までそういうワケのわからんこと訊いてくるかな」

「でも、お泊りデートって、それもうカレカノじゃん」

 

 いやまぁ……確かにね。そうなんだけど、ましろちゃんのお願いに耐えられないんだよな。もしかしたらましろちゃんは夏休みの思い出的なサムシングがほしかったのかもしれない。そういうことならむしろ喜んでるかな? でも、人見知りだからなぁ。絶対まだ人見知り発動する相手とかいるだろうしなんならこころさんにしてたよ。

 

「……大輔」

「ん?」

「ごめん、大輔……どっか遠くに行きそうな顔してた」

 

 そう言ってつくしは、まるでましろちゃんのように下を向きながら俺に近づいてきた。珍しい、超絶珍しい現象だ。いやまぁ甘えたがりなのは知ってるけど、いつもは俺にだってしっかりものであろうとするつくしがなぁ。

 

「だめだなぁ、全然、幼馴染離れできてないね」

「つくしだしな」

「もう、どういう意味?」

「まんまの意味だよ。むかーしから子どもっぽいんだからお前は」

 

 小さい頃のように頭を撫でてやると、つくしは唇を尖らせてやめてと怒ってきた。昔はスゲー喜んでたんだけど、やっぱつくしだって成長してるよ。だって初等部の頃のつくしは俺のことがあまりに好きすぎたからな。

 

「しょーがないじゃん……初恋だったんだもん」

「俺に初恋ねぇ、バカだなぁ」

「うるさいなぁ」

「ん? っていうと俺もバカか」

「知ってる」

「両想いだな」

「キモ」

 

 キモはやめろって。そんな風にじゃれあってから、俺はおばさんにお茶ごちでしたと一言伝えてから引き留められて夜ご飯を一緒に食べて帰った。食べ盛りだから助かった、あとで母さんのメシも食おうっと。そんなお得感を味わいながら俺はほんの二百メートルほどのめちゃくちゃ近い自分の家までの道を歩いていった。

 

 

 




おっぱいヒロイン図鑑(裏):好感度順
№05幼馴染離れができない:二葉つくし
 恋人云々にするにはあまりにセクハラが激しい。つんつるてん。そりゃ初恋相手は身近な異性なため彼だがそれは幼少期の話、現在は恋をするよりも自分が一人前になることを考えている。だがやっぱり大輔がいないとヘラっちゃう。ここ一年ほどで急激に周囲に女性が増えてリソースが割かれている現状はやっぱり面白くない。なによりましろに煽られるのがもっとも面白くない。

ましろのライバル(勘違い)のつくしちゃんです! ただ大輔と付き合うならマジでただの障碍物でもある。そしてこの幼馴染よりも好感度高いのが四人もいる事実。


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第24話:おっぱい多いのにおっぱい不足しそう

前回のあらすじ、前後左右におっぱいなし、以上!


 予定としては現地に到着してホテルに荷物を置いた後自由時間、昼メシ自由、そのあと夕ご飯が旅館で出るのでその前に集合ということになった。約3500文字ぶりに言わせてもらうけど修学旅行かよ。おかしいね、二学期になったら修学旅行あるはずなんだけど。

 

「つくし」

「なに」

「お前は楽しそうでいいな」

「大輔も楽しみなよ」

「おっぱ……い、ないのに?」

 

 いつもの軽口が出て後ろに鬼がいることを忘れていた。恐る恐る見たらあこちゃんとさらに後ろの燐子さんとスマホゲームしていらっしゃった。すっかりゲームにのめりこんでますね紗夜さん。隣は北沢はぐみちゃんがはしゃいでて、その後ろでは腕組んで寝てるのかイヤホンつけた湊友希那がリサさんにクッキー餌付けされてた。寝てないんかい。俺の中のロゼのイメージボロボロなんだけど。

 

「ふふ、いつものノリでしゃべったらヤバいから、たまには私相手にもソレ以外のこと話してくれる?」

「……天気いいな、こういう時にマジで避暑地は助かるね」

「だと思った」

 

 うるせー俺は天気とおっぱいのことしかしゃべれないの! じゃあなんだ、お前にオタトークしてついていけんのかよ、まったく。そんなことなら麻弥さんの隣がよかったぜ。いやおっぱい近いと死んじゃう。無理尊いって言って昇天しそう。

 

「大輔は旅館着いたら引きこもるの?」

「なーんで引きこもる前提なんだよ」

「じゃあボッチ観光?」

 

 俺を独り寂しい男にするのやめてもらえます? こちとらモテモテなんでひまりからはどーせボッチなんだから一緒に回る? って声掛けてもらったし紗夜さんにもあなたは放っておくと特定の胸部を持つ方のストーカーになりかねないのでいかがですかって誘われてるし、麻弥さんにもお暇でしょうからよければどうですかって誘われてるっつーの! なんで誰も俺がボッチであることは否定してくんねぇんだろうな。

 

「ふ、ふーん」

「つくしはモニカで回るんだろ?」

「ん、でも……大輔が寂しいなら、私はどっちでもいいけど?」

「友達んとこ行ってこいよ」

 

 チームオフ会か麻弥さんとデートかひまりとデートかの三択あるし。そりゃ俺だって誰にも誘われてなかったらマイベストフレンドつくしに泣きつくけど。まぁまぁ、えっとただましろちゃんのフォローだけよろしく。最近ずーっとおんなじ文句言われてるから。

 

「私が?」

「頼りにしてるよ、つくし」

「……便利使いだなぁ」

 

 とかなんとかいいながら嬉しそうにしやがって。そんな会話してから数分後、前日のあれこれを気にしすぎたつくしはすうすう寝息を立てだした。しょうがねぇ幼馴染だことで。そんな風にため息を吐くとスマホが震えて紗夜さんから連絡が……て紗夜さん? 

 

『随分仲が良さそうですね』

『そりゃあ、幼馴染ですから』

 

 大多数の人、というかほとんどのヒトが俺のことは知っていても俺とつくしが普段どういう感じなのかは知らないのか。知ってるのは麻弥さんとイヴちゃんくらいで。だから幼馴染、と単純に言っても仲が良すぎではありませんかとメッセージが飛んでくる。

 

「んー? そうかな?」

 

 俺は他の幼馴染がいるわけじゃないし、物心ついた時から隣にいるしなんなら高校生になるまで学校以外はずっと一緒だったし。ちっちゃな頃はつくしは今よりもっと俺のことが好きで、しょっちゅう大輔はどうしようもない男だから私が結婚してあげるって……なんかムカついてきた。なんで昔それで俺もつくしの旦那さんになるって思ったんだろうな、意味不明だ。

 

『だからまぁ、仲はいいっスけどそれ以上はないですよ』

『今の説明でどうしてその結論が信じてもらえると思ったのですか?』

 

 え、だって今のつくしは俺の変態性を理解してくれるベストフレンドだ。恋愛感情的な好きだったあの頃から、俺とつくしはお互いにお互い誰にも言えない秘密というか明かしたくない痛みを覆い隠しあうために利用し合ってるだけだし。そこに恋愛感情なんてない。そもそもロリっ子ぺったんこをカノジョにするのは流石に嫌だよ。せめておっぱいないならないなりにキレイ系お姉さんがいい。

 

「……なによ」

「なんです?」

「なんでもないです、後ろを向かないでください」

 

 怒られた、理不尽だよくすん。まぁいいや、つくしが寝たなら気晴らしにいつものおっぱい系配信者見ておっぱい見れない欲求満たすから。そんな風にイヤホンを取り出して残りの時間を癒されて過ごしていた。やっぱり大きなおっぱいはいいものだなぁ兄弟と叫びたくなる。叫んだら黒歴史だね。でも後ろには実物で大きいおっぱいの子がいっぱいいて我が世の春だと思えるね。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 お昼前に到着し、俺は自分の部屋を見渡した。うーんフツーに広い。何人部屋だよ、これを独りぼっちで寝るの悲しくね? そんな嘆きを呟きたくなる。ちなみにデートはひまりに頼むことにした。オフ会はなにやら日菜さんがついてきそうな匂いが、麻弥さんはマスキングが誘ってたので。ところでRASってサインもらえたりすんのかな? 

 

「おー、広いね大輔の部屋!」

「な、マジで無駄」

「露天風呂もあるーすごーい」

「まぁ大浴場使えないんだけどね俺」

 

 言ってて悲しくなる。個室露天風呂付きとか豪華なご褒美にもほどがあるだろ! って言いたくなるけどところがどっこい、要するにそこで我慢してねってことでもある。男一人の修学旅行とかイジメだろもうこれ。

 

「どんまい、寂しいなら私が一緒に寝てあげよっか?」

「是非」

「やだ」

 

 嫌なんかい! とツッコミ入れると当たり前でしょと明るく笑われた。そりゃそうか、男女だもんな。俺にそういう気持ちがなくて向こうにそういう気持ちがなくても、同じ部屋なんて危険なことをすべきではない。そう、年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりするのは危険なことなんだ。そう考えると俺スゲーヤバい計画立ててたんだなぁ。

 

「元々ましろちゃんと大輔のデートだったんだっけ?」

「……今考えるとなんで拒否らなかったのか不思議に思ってきたけどそうだな」

「ましろちゃんがゴリ押したからじゃないの? 大輔押しに弱いし」

 

 わかってるなら押してこないでくださる? 結局今日デートして来週ナイトプール行くとか言い出しやがって。ナイトプールって響きがもうなんだか俺には健全なソレには感じなくてしょうがないのに。それをひまりと……おっぱいガン見し放題? 

 

「あーあと大輔には、コレ、があったね~」

「……なんか最近知られてきてるのが悲しいね」

「あはは」

 

 胸を寄せて上げられて思わずガン見してしまって自己嫌悪に陥った。まさか俺ってハニトラにめっぽう弱いのでは? イエスおっぱいノータッチとか言いつつおっぱい関連の色仕掛けにコロリされちゃう人種では? 

 

「でしょ、気づかない間にましろちゃんに篭絡されちゃった、とか?」

「いやまさかぁ……ましろちゃんだよ?」

「私あんま絡みないけど」

 

 そうだった。えっとましろちゃんはその名前通りピュアで幼い感じの笑みがかわいらしい精神力赤ちゃんの神おっぱいさんです。物理的距離感が近いのはひまりと似てるんだけどひまりのはちゃんと線引きがされてある感じがするんだけど、ましろちゃんはもうそのまま。感情そのままに激突してくる感じ。

 

「はは~ん」

「何かわかるのか?」

「全然!」

 

 はぁつっかえ。じゃあなんでわかりみ~みてーなドヤ顔したんだコイツは。つかお前いつまで俺の部屋にいるんだよ他のメンバーは……と思ったらアフグロさんリーダーしか参加してなかったんだった。そうかお前ボッチだったな。

 

「ボッチじゃないし誘われてたし~」

「じゃあそっち行けよ」

「いいんだ、じゃ」

「待ってくださいごめんなさい置いていかないで」

 

 情けないヤツ! と罵られそうな感じだ。人類はおっぱいに対してもっと贖罪した方がいいと思うんだけど。意味不明なこと言ってるな俺。ただまぁなんだ、お茶でも飲んでゆっくり話でもしようや。茶菓子もあげるから。

 

「そうそう、お風呂入る前に卓球しない?」

「卓球、俺ちょっとうまいよ」

「私テニス部だもん!」

 

 テニスとテーブルテニスは結構違いあると思う。それに俺なんて中学生の時卓球部部長まで務めたんだから、なんくるないさー。

 まぁ高校入ってから帰宅部なんでアレだし卓球部マジメに活動してたかっていうと首を全力で横に振りますが。なんくるなくなかった。

 

「じゃあ私に勝ったらさ」

「……ゴクリ」

「大輔が考えてるようなことは絶対ないけど」

「おう」

「おもしろーいネタ持ってるから、私が情報提供者になってあげる!」

 

 ほ、ほほう。面白いネタ、なんだろうと期待に胸を膨らませつつ、俺はお茶菓子を食べ終わったひまりと一緒に観光に繰り出すことにした。観光というよりはその辺散歩してメシ食ってみたいな感じなんだけど。

 




おっぱいヒロイン図鑑(裏)
№06もう、しょうがないなぁ:上原ひまり
 呼ばれて飛び出てハクションひまえもん。脈ナシの理由は女癖が悪いからであり、そうじゃなかったら№03くらいにいるはずだった。お前が悪いのだジョジョとはいえ女癖が悪いもあながち間違いではないながら真実でもないので困った評価ではある。ただデートするなら大輔だし、誰かと付き合わなくちゃいけないなら大輔、くらいの距離の近さはある。距離だけならましろ以上だし。


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第25話:メッキは汚いものをキレイに見せる

悪い……我慢できなかった……!



 部屋に戻って俺は息を吐く。汗掻いたしとっとと温泉に漬かりたいと俺は個室の露天風呂に向かっていく。

 ──それにしても、卓球勝負はヤバかった。なにがって揺れる。マジで揺れる。スマッシュ打つたびにたゆんと揺れて俺を惑わせてくるもんだからデュースにまで持ち込まれて大変だった。

 

「あー、強いじゃん大輔!」

「いや、ひまりに追い込まれてる時点で弱いって」

 

 元部長なのにな。そりゃあ手加減はもちろんした。じゃないと面白くも揺れるおっぱいも見れないし。だけど最後の一点取った時なんて本気だったよ。でもひまりはその答えが何か不満だったようで、もうと膨れていた。

 

「じゃあ勝った報酬をあげないと」

「情報提供、だっけ?」

「……まぁ大輔にとっていいこと、とは言ってないけど!」

 

 え、それもう詐欺の手口じゃない? 卑怯じゃんそれ! そう抗議するも知りませーんと笑ってからひまりは少し時間を置いて、大輔はホントに恋人作らないの? と俺に問いかけてきた。恋人って作るものだったのか、あれか水がどんだけで炭素とアンモニアと石灰と……ってやつ。無から恋人は作らないし特定の誰かと付き合うつもりもないよ。

 

「うん、だけど今この旅行に来てるヒトの中に大輔が今、本気で好きだーって言ったら応えてくれる、カノジョになってくれるヒトが二人、頑張っていけば付き合えるヒトが二人いるよ」

「……なんだそれ」

 

 具体的でちょっと怖いこと言うなよ。そんな風に困ってみせるがひまりはホントホントと笑みを向けてくるだけ。まるでギャルゲの親友ポジみたいな詳しさで、万が一俺が主人公って言ってもそういうのつくしの役目じゃねと思ってしまう。

 

「信じられないと思うけど、事実なんだよ」

「そっか」

 

 嘘とか冗談の類であってほしいと思ったよ。恋愛ってなに、ラブコメ展開には憧れないこともないけど誰かと付き合って、誰かの傍に立ってることが想像つかなさすぎて。もし告白されたとしても、そんなの全部断るに決まってる。俺にとって大事なものはおっぱいであってやっぱり誰かと付き合うことじゃない。

 

「まぁ、大輔ならそう言うと思った」

「……ごめん」

「ううん、私は大輔のこと好きだもん」

「え、ちょ」

「あはは、違う違う! 四人の中のヒトリってわけじゃないよ!」

 

 このタイミングで好きって言うの狙ってんだろと思ったらやっぱり狙っていたようでからかわれたらしい。ひまりはそういうやつだ。お気楽っぽいけど相手のことちゃんと見ていて、それでしょうがないなぁって顔で俺に寄り添ってくれる。

 

「俺も、ひまりのこと好きだな」

「えー、カレシにするのはなぁ、浮気癖なかったらもうワンチャンあったかも……なんて!」

「ったく」

「でも味方でいてあげるよ。女癖悪いのは直したほうがいいけど!」

「俺の女癖が、悪いか」

 

 ひまりはじゃないとこの状況は生まれなかったよと文句を言われて、俺は俯いた。誰かとは教えてくれなくて、教えると俺があまりにヒドイ態度をとるからと断られてしまった。俺の味方じゃないのかよ、と思ったらそれを読んだ上でそれは大輔を不幸にするからねとカッコいいことを言って別れた。

 

「誰だよ……」

 

 いや一人はなんとなく察した。流石の自己評価ゴミクズの俺でもね、この中にあなたのことを好きな女の子がいますって言われれば即座に好感度順くらいには並べられるんだよ。その中で一人、ひまりの勘違いがなければ一人は確実な子がいるんだよな。

 ──思えば、最初から色々とおかしい言動はあった。やたらと距離が近いし、仲良しアピールしたがるし、何より顕著だったのは今回の旅行だ。

 

「あ、お帰り、お風呂どうだった?」

「めちゃよかった、つか大浴場じゃないから使いたい放題なのはいいな」

「確かにね、わたしたちは時間で分けたほうがいいってなったよ」

「マジで修学旅行みたいだな」

「ね、わたしも入っちゃおうかな……?」

「いいんじゃ……ん?」

 

 待て、なんかいるな? サラっと会話したけどなんか部屋に荷物が増えてて……って荷物!? しかもこの荷物ってましろちゃんの? 待って俺今ましろちゃんと会話して、と思ったら向こうからひろーいと声が……あ、手遅れだった。

 

『もしもーし、どしたの大輔? 大浴場の時間割なら教えないよ』

「そこは教えろよベストフレンド! じゃなくて、ましろちゃんこっちにいるんだけど」

『え? さっきお土産見に行くって言って……あ、荷物ない!』

『ふーすけどしたの?』

『電話? 宗山さんから?』

 

 なにしてんのアンタら全員そろって。いや荷物持ってステルスこいたましろちゃんがすごいのか? いやいや待てって、そりゃね、昨日までの俺ならパニックにはなっただろうけどお風呂上がりのましろちゃんの白ふわおっぱいをゆっくり眺めながら事情を訊けばいっかーとでも言うところなんだろうけど。ひまりのおかげでよくないことだけは判明してんだよなぁ! なーにが俺が今、本気で好きだーって告白すればカノジョになってくれる、だ! 既成事実作りに来てるだろあの子! 

 

『もしもし』

「あ、瑠唯さん。悪いけどましろちゃん回収に来てくれると嬉しい」

『……倉田さんは、とっくに手遅れよ』

 

 諦めんなよ! どうしてそこで諦めるんだよ! と熱くなったところで瑠唯さんから冷静沈着の冷や水を浴びせてくるような言葉が俺の胸を刺した。曰く、ましろちゃんに瑠唯さんは以前どういう関係なの? 問いかけたことがあるらしい。ちょうど瑠唯さんが俺んちで服を乾かした次の日だ。

 

『そこで彼女、先輩は恋人なんだよって言い切ったわ』

「……は?」

『私も混乱したわ、あなたも倉田さんも嘘を吐いていなかったから』

 

 想像のナナメ上どころか真上を突き抜けるような衝撃の事実が瑠唯さんから告げられた。だからあの後バイト先に来た時に本当に付き合っていないのね? とかいうことを聞いたんだね。瑠唯さんそん時に教えてくれよ。無理か、というかたぶんましろちゃんと付き合ってるんだよね的な発言を各所から訊ねられた理由も今はっきりわかったわ。

 

『……ひとまず、ご飯の時間までは耐えてることね』

「無茶言ったね?」

 

 る、瑠唯さーん! そう言って瑠唯さんはフェードアウトしてそういうことだからとつくしの声が続いて電話が切れた。クソ、後で絶対瑠唯さんの風呂上りおっぱいを眺めに眺めてやる! こうなったらセクハラだこのやろう! いつもしてるぞこのやろう! 

 

「せ、先輩」

 

 しばらくどうしようどうしようと考えているうちに脱衣所からましろちゃんがやってきた。浴衣姿のましろちゃんになんとかして勘違いを解かないと! という焦りの思考回路がおっぱいで埋め尽くされる。しっとりとした風呂上りの雰囲気に和服ながら湯気が上がりそうなおっぱいの谷間が俺の喉を鳴らした。

 

「あの、ね?」

「な、なんでしょう?」

「……そんな見られると恥ずかしいよ」

 

 さっと胸元を隠され、顔を赤らめられる。普段だったらそこで畳ということもあり素早く土下座するところだけど俺は言葉が出てこない。なんとかしなきゃという気持ちとおっぱいが見たいという欲望に俺の心が半分こ半分このヒートメタルだ。

 

「髪、乾かしてほしくて」

「え、俺?」

「自分だとうまくいかなくてさ……先輩が上手だよってつくしちゃんが言ってたから」

 

 余計なこと教えてんじゃねぇぞつくしぃ! お前ひとりでできるもんロープレどこに置いてきたんだよ! ただ、まぁつくしが一人で上手にできないって泣きついてきてそれを俺がなんとか調べながらキレイにしてやって以来、たまに嫌なことあると、わざわざ俺んちの風呂借りてまで頼んでくるんだからタチ悪いんだよ。

 

「なぁ、ましろちゃん」

「……ん?」

「いや、ましろちゃんって俺のどこが好きになったのかなって」

「えっ……えっと、えっと……全部!」

「全部、か」

 

 自分の全部を好きになってくれる。かわいい子にそんなこと言ってもらえるのはすごく嬉しいことなんだろう。いいところも悪いところもあって、そんな全部を内包して好きだと笑ってくれる。恋をしてくれる。そういうのに心揺らぐことこそがラブコメ展開の本筋なのだろう。

 ──だけど、だけれど、俺はだからこそ言いたい。俺は、ゆっくりと息を吐いた。するとどうだろう、肩越しに見えるおっぱいにも心が湧きたつことなく冷静になっていく。

 

「俺は自分の全部を見せたつもりないけどね」

「……え」

「はい、おしまい」

「あ、うん……ありがと」

 

 全部を見せたことがある人物はこの世界でたった一人、二葉つくしだけだ。つくしだけが俺の全てを知ってる。知った上でつくしは大輔と付き合うことは絶対にありえないと明言してるし、俺もつくしもその気持ちに甘えて今日まで親友としてやってきた。ここに十年以上の重みがあるのに、どうして数ヶ月のましろちゃんが、全部を言い切るのだろう。なんでそんな嬉しそうな顔で俺を好きって笑うのだろう。だから、嫌いだ。

 

「わたし、やっぱり今日ここで寝てもいいかな? ほら前はそういう予定だったから──」

「俺は付き合ったつもりなんてないよ、()()()()

「──っ!」

 

 ほらなひまり、俺が恋愛展開になることはイコールとしてロクな目に遭うわけないじゃないか。だって最初のラブコメが自分と付き合ってると勘違いして部屋までやってくる幼馴染の友達、なんだから。本当に──ロクでもねぇな。

 




おっぱいヒロイン図鑑(裏)
№01私がカノジョだもん!:倉田ましろ
 ある意味裏も表もなく純粋に恋人関係勘違いを幸せいっぱいに堪能しているが、一方で恋人らしいふれあい、実感を欲し始めている。付き合った記念日は五月のGWの時、第11話のプレゼントは彼女なりのサプライズ二ヶ月記念のプレゼントでもある。
 同時に今回の旅行でキスを最低目標に、と考えてあわよくば抱いてもらおうとしていた。ましろ、僕はねとか言ってる場合じゃないぞ

え、ダーク大輔出てきちゃった……どうしよ。これが主流になるようならタイトル分けてコッチ完結にしちゃいます。


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第26話:結局いつもの俺がやめられない

――だからお前はアホなのだ!
って言ってくれる師匠いたらよかったのにね。


 え~? ましろちゃんの勘違いに気づいて事実を突きつけた~? シリアス展開始まった~? シリアスなにそれ俺大輔、ニブいなぁ、俺はおっぱい派だよ! 

 ──ふぅ、揺り戻し完了。ああ、ましろちゃん? さっき泣きながら外出てっちゃったよ。撃退完了。ただしフラグもブチ折りなんならたぶんビッグセブン崩壊しました。悲しいなぁ。

 

「付き合ってたんじゃないの、かぁ」

 

 勘違いのきっかけなんだったんだろ。んーわからん。俺いっつもましろちゃんと出掛けてた時は基本おっぱい! しか脳にデータ入力されてなかったからなぁ。考えても思い出せないってのが本当のことなんだろうけど。というか夕飯の席部屋割ってマ? 俺ボッチじゃん。

 

「なんなら時間ズラしてもらえばよかったな」

 

 みんなわいわいしてるところにボッチメシって寂しすぎん? 賑やかな教室の近くのトイレかよ。いや時間ズラしたとしてもボッチなのは変わりようはないから……いつもと一緒だと思えばいいか。いつもボッチだから関係なし! 悲しいね! 

 

「はぁ~……」

 

 ましろちゃんが俺の視線に気にしない素振りをしていたのも、距離が近くて触れたがっていたのも、全部全部、ましろちゃんにとって俺は特別なヒトだと思ってたから、か。そりゃそうだ、そうでなきゃ俺なんてあの子が耐えられるような性格してないんだし。切り替えて外へ繰り出すとそこでバッタリとおっぱいコンビに出逢った。

 

「あ、宗山さん!」

「香澄ちゃんに有咲も」

「お前もうそのカッコかよ」

「あはは、もうお風呂入っちゃったから」

「えー、宗山さんお部屋に露天風呂あるんですよね! いいないいな!」

 

 有咲と香澄ちゃんのコンビ、ポピパからはこの二人だからなのかそれとも別のアヤシイ関係なのかは知り得ないけど今回ずっとここ二人でいる気がする。そんなことを考えているとさらに後ろからひょっこり小柄で星型シュシュが特徴的なメガネっ子が顔を出した。

 

「ど、どうも」

「ロックさん、初めましてですね。宗山大輔って言います、あの」

「はい?」

「──ファンです」

「ふぇ!?」

 

 その子はRASのギタリスト朝日六花(ロック)さん。見た目は大人しめの女の子だがそのギターテクニックは超一流、クセのある多弦ギター、ストバグを操って背面やら寝てみたりやなんやらとパフォーマンスでも魅せてくれるクレイジーギタリスト。正直惚れた。これがラブなのかもしれないくらいには惚れた。

 

「え、ええ! そ、そそそその……あ、ありがとうございます」

「おい、うちらのロック困らせんなよ」

「ごめん」

「いえ、いえっ……嬉しいんやけど、恥ずかしくて」

「わー、宗山さん熱烈だ~」

 

 茶化されて俺もロックさんも焦ってしまう。ギター持ってない時はかわいらしいって印象の方が強いのはわかってたことだけど、なんというか顔を真っ赤にしてしまわれると申し訳なさが勝っちゃうな。おっぱいなくてよかった。ビッグセブンの有咲はもちろん、香澄ちゃんも準ビッグセブンクラスだからな。

 

「そういえば有咲」

「どうした?」

「誤解、なんとかなりそうだと思う」

「曖昧だなー」

 

 有咲に苦笑いされてしまうが、そもそも香澄ちゃんも有咲も確認してはないけどましろちゃんにカレシだって紹介されてる方なんだろう。全部勘違いだったんだって言いまわるのは大変だしきちんとした形で伝わるわけないからそこまで必死に否定はしないけどさ。でも有咲には事情を説明すべきだとしてロックちゃんや香澄ちゃんがいるとはいえことのあらましと今さっきのことを話した。

 

「そっか、ましろちゃん嬉しそうだったんだけどな~」

「嬉しそう……か、そうかも」

「紹介された時めっちゃニコニコしてたな」

 

 香澄ちゃんがそうそうとちょっとだけ寂しそうな顔で笑った。そう、そうだよな。きっと好きなヒトに想いが伝わるってのは嬉しいことで、幸せなことで。恋をするってそういう素晴らしいことが待ってると思いたくなるのが普通だ。それを俺は目の前にぶら下げて挙句奪い取った。

 

「──だからって、嫌いになってもらうのが正解なんでしょうか」

「ロックさん?」

「ああいえ、えっと……恋愛とか、したことないからあんまりわからないんですけど、好きなものってそう簡単に嫌いになることはないと思うんです」

 

 好きなものは簡単に嫌いならない。俺で言うならおっぱい……じゃなくて音楽か。いやもうここまでくるとおっぱいもなんだけど、口に出せるのが音楽だけだからね。それにみんな共通点に音楽があるし。

 

「それを勝手に嫌いに捻じ曲げてほしいって思うのは……いかんことやって思います」

「ロックすごい! 私もね、ロックの言いたいことわかるな」

「ったく、趣味とか持ってれば誰だって当てはまるっつーの」

「香澄さん……有咲さんも」

 

 ヒトでもモノでも。想いが通じないことは仕方がないことだけど、それを嫌いになってもらおうとするのは賢い選択ではない、とロックさんは締めくくった。わかる、ロックさんの言いたいこと、俺だってよくわかるけど。対象が俺だよ? 四六時中おっぱいのことばっかり考えて、デート中もほぼおっぱいガン見してるようなヤツだよ? 好きなままでいいって言うやつおる?

 

「俺のこと、好きなままでいいって、思わなくない?」

「はぁ? 倉田さんに言われたんじゃねーのかよ」

「……な、なに?」

「さっき自分で言ってたよね~ロック?」

「はい、バッチリ言ってました」

「え、なんか言った?」

「倉田さん、お前が自分のどこが好きか訊いた時になんて言ったんだっけ?」

 

()()、とましろちゃんはあの時嬉しそうに微笑みながら口にした。それが紛れもなく俺が初めて耳にしたましろちゃんからの好意の言葉だった。俺はそれを全部なんて見せたことないって突っぱねたけど。俺のそういう悪いところに気づいていて、おっぱいばっかりガン見してることに気づいていて、それでもって言ってくれたとしたら? 

 

「……いや、ないでしょ」

 

 いやいやよく考えてみてほしい。口には出さないけどさ、おっぱいだよおっぱい! 普段クソみたいに脳死でおっぱいって言いたい人間だし、お風呂とか寝る時につい独り言でおっぱいって呟くような俺がだよ? そんなダメなところも好きなの、キャハっとか言われてそうなんだって納得するわけ! いくらビッグセブンでも言っていいお世辞と悪いお世辞があると思う。

 

「ホントに、宗山さんは自分のこと嫌いだな」

「嫌いだね」

「そうなの? 私は宗山さんのこと好きだよ?」

「……フォローありがと香澄ちゃん」

 

 どうしてもな、俺は俺に対して好意的なヒトが苦手になってしまうんだよな。例外はつくしくらいなもんで。自分に自信がない、とかそういうんじゃなくてもはや自分が嫌いなんだよな。この世で一番嫌いな人間が俺で、だからこそ俺のことを好きだなんて言葉は向けられるべきじゃない、みたいな。

 

「ご飯の時、ボッチにはならねーだろ、少なくとも上原さんとか紗夜先輩とか気にかけてくれるだろうし」

「かな……そういや部屋割ってどうなってるの?」

 

 二十六ってめんどくさい数字だよね、どういう部屋割になってるんだろう。俺が知ってるのはモニカが五人部屋らしいことから最大五人部屋かな? くらいなんだけど。そう言うとバンド全員いるのはバンド単位らしい。

 

「つまり」

「さっき宗山さんが言ってたモニカさん、私たちRAS、Roseliaさん、ハロハピさんは五人ですね」

「あとはパスパレが三人部屋で私たちもひまりちゃんと三人だよ」

 

 なるほどね。バンド単位とあまりって感じか。そう雑にまとめると怒られてしまったけど、三人だから逆に一緒に食べる? と誘ってくれたのはありがたかった。ただまぁ、俺としてはまだちょっと話を聞いてほしいヒトがいるから、そっちと一緒に食べれるかチャレンジしてからにするよと言った。

 

「つまりフラれたら慰めてあげればいいってこと?」

「香澄、言い方」

「そうそう」

「おいノるなよ」

 

 冗談だけどさ。いや俺って一般的にこう見たら女癖の悪いクズなわけじゃん? なんかもう最初からクズ発言した方がいいのかもしれないと思い始めてきた。なーにがおっぱいに真摯だバカ野郎って感じでいいのかもしれない。だって結局、俺の本性なんてみんな気づくんだし。だからって流石に開幕相手にセクハラとかはしないけどさ。結局中途半端な男だからな俺は。

 

 

 




脳死領域が減ってきて執筆に時間が掛かり始めている。
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EX№10お転婆キラキラ流星群:戸山香澄
 あんまり関わりない。けど準ビッグセブンクラスの中でもトップクラスのおっぱいだと一目置いている。ただ距離感がフツーにバグっているためちょっと苦手、残りのポピパのうち二人(りみとたえ)とは一度会ったきりのため番外の番外。


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第27話:転換点に立つ瞬間

ここが運命の分かれ道。


 おっぱい! なーんてふざけるような展開ではなくなってしまって、心苦しいかと思う。でも誰が一番苦しいって俺なんだよね。頭の中お花畑ならぬおっぱい畑と化してる俺の脳みそでシリアスなことやるとそのうち爆発するかもしれない。ところでおっぱい畑って想像すると素晴らしい景色だよね。

 

「おーい、生きてる~?」

「無駄ですね、現実逃避してます」

「あはは……まぁ逃避したくなるくらいショックが大きいのか」

「甘やかすと粘着されますよ。この男はそういう男です」

 

 ──はっ、おっぱいが俺を呼んでる声がする。覚醒するとお、帰ってきたーと軽いノリでコチラに手を振ってくれるおっぱいギャル、金色の口もノリも全部が軽いお嬢の方じゃなくて茶髪でバブみのある今井リサさんだった。

 

「深刻な話の後にそれですか……?」

 

 やべ、そう、あと紗夜さん。おっぱいない、以上……じゃなくてこうやって冷ややかな目と厳しい小言は多いけどなんだかんだで話を聞いてくれる優しいスレンダー系お姉さん。お姉さんって言うと某妹が突撃してくるかもしれないからやめとこ。あのヒト苦手。

 

「で、結局さ、大輔はどうしたいの?」

「どうしたい、とは?」

「アタシは基本ひまりといる大輔しか知らないから、ましろとどういう過ごし方してきたのかとかわかんない、ケドさ」

「はい」

「やっぱりこのまま放っておいていいや、って思える程度の相手じゃないんでしょ?」

 

 ゆっくりと肯定する。放っておいていいと思ってるならこうしてリサさんや紗夜さんに話したりしない。自分のおっぱい性癖を一切合切視線以外隠し通せるくらいには口は堅いというか秘密主義なんだ。ましろちゃんがそれを誰かに相談したとしても素知らぬ顔ができるくらいには最低の秘密主義者だから。

 

「私は、今まで誤解させていたことを即刻謝罪すべきかと」

「でも、それだとましろに現実を突きつけることになるくない?」

「……いずれはお互いにとって不都合であろうと事実と向き合うべきです」

 

 時間があればあるほど、その時間に甘えるのが人間ですからと付け足す。リサさんはその言葉になるほどね~と含みのある笑みを浮かべて、なんだろう紗夜さんの実体験か何かなんだろうか? ちょっとよくわかんないけどやっぱりロゼメンツって案外みんな仲良しだよね。

 

「仲良し……っ、ふふ、あはは」

「今井さん……!」

「やーごめんごめん、外からみるとそうなるのかーと思ってさ」

 

 え、もしかしてギスギスなん? とてもそうは見えないし、なんなら三人ゲーム友達としてオフ会してる時もめちゃくちゃ仲良しだなぁとしか考えてなかった。でも、まぁそうするとやっぱり俺にはバンドとか向いてないかもなぁ。音楽やってこればよかったと後悔したことがないわけじゃないけど。こう誰かと音楽を奏でるっていうと向いてない気がする。

 

「確かに、バンドの意味は束や集団ですからね」

「俺に集団は無理ってこと……無理ですね」

「自分で諦めるんだソレ……」

 

 諦めますね、無理ですね。そこの自己評価は低すぎもなく高すぎもないと思ってる。それ以外はもしかしたら低くしすぎてるのかもしれないけど。

 ──それはさておき、もう一度ちゃんとましろちゃんと話さないといけないということはリサさんも紗夜さんも共通していた。逃げたい、この現実から逃げ出しておっぱいの園へフライウェイしたい。アイキャンフライしておっぱいがいっぱいの青く澄み切ったデイズに戻りたいよ。

 

「ま、なんにせよ逃げちゃダメだよ」

「……はい」

「ついでにこの際、あなたのクセを直してください」

「それは無理です」

 

 クセっていうか性癖ね、濁した表現をされたけど俺は、そうだな俺はこんなことがあってもおっぱいが頭から離れていかないんだよな。うーん業が深いしリサさんのオフショルを上から見た時のおっぱいはしばらく忘れられないし。

 

「私より今井さんの方に視線を向けていましたね」

「ええ、はいまぁ」

 

 リサさんがいなくなったと思った瞬間いつもの説教が始まった。反省する気あるんですかくらいの感じで睨んでくる紗夜さんに対して反省はしてるけど目線が吸い寄せられるんですと言い訳をする最低な俺。それは仕方ないとは思いますがとまさかのフォローが飛んできてびっくりした。

 

「だからと言って、今井さんの胸を上から覗くのはどうかしています」

「すいません」

 

 紗夜さんめっちゃ怒ってらっしゃる。一瞬そんなに怒らなくてもと思ったが、バンド仲間で友達のおっぱいを上から下品な視線で覗く男に怒らないヒトはいないと思う。ごめんなさいつい反応してしまいました。

 

「とにかく、倉田さんには誠心誠意をもって、胸を見ることなく自分の態度を悔い改めることね」

「ですね……あ、えっとあと、気になったこと、ふと気になったこと少し、訊ねてもいいですか?」

「はい」

 

 それはほんの少しの疑問だ。紗夜さんにとって俺は、ひょっとしてとんでもなく厄介であり得ないくらいに不快な性格を持つ人間ではなかろうか。コンプレックスっぽいおっぱいについて隣にいたヒトと比べてくる、そんな人間が俺だ。さぞ、彼女はそれで怒りを抱いてきたことだろう。

 

「そうですね」

「なのに、どうして紗夜さんは……俺に燐子さんへのアプローチをしてもいいって言ったの?」

 

 有咲も言っていたように、決して俺を嫌うような態度を取ってはいない。でも俺は最低の人間だ。特にそれこそ有咲とか燐子さんみたいにおっぱいがあるならマシかもしれないけど、紗夜さんにとっては最悪以外の何者でもないのに。

 

「紗夜さんは俺が嫌いじゃないの?」

「嫌いですよ、あなたのその性癖を駄々洩れにする視線は」

「だけど」

「……やっぱり、覚えてないのね。あなたは私になんて言ったのか」

 

 なんの話? そう言うと初めて会った時の言葉を私は忘れませんよと、それを言い残して去っていった。初めて会った時、初めて会った時……やっべ思い出せない。とりあえずロゼの紗夜さんってゲームとかするんだ! みたいな衝撃が大きかったことくらいしか覚えてない。

 

「あ……えと」

「ま、しろ……ちゃん」

 

 そんなことを考えながらご飯を終えてお土産コーナーぶらぶら……なんでお土産コーナーあるのここ新しく建てたんだよな? そう考えると色んなところにツッコミどころあるな。まぁそれはさておき、ばったりましろちゃんに遭遇してしまったから大変、俺もましろちゃんもテンパってしまった。

 

「ご、ごめんなさい……」

「待って、ましろちゃん」

 

 青い顔で走り去ろうとしたましろちゃんに待ったをかける。常に目線を合わせてくれない彼女はひどく怯えているようで、一番初めの出会いに戻ったような感覚さえある気がする。俺は、ましろちゃんにどう報いればいいかなんてわからない。おっぱいのことしか考えてこなかった俺は、ましろちゃんになんて言ってあげればいいのかなんてわからない。

 

「ごめんって言うのは俺の方だよ」

「……なんで」

「なんでって、ましろちゃんを傷つけて」

「付き合ってないならどうして、わたしを気にしようとするの……?」

 

 ぐっと言葉に詰まる。カレシじゃないけど、俺はましろちゃんと過ごした時間が楽しかったから。そんな軽い感じに言葉が出せればよかったのに。ホントの俺はましろちゃんのおっぱいを眺めたくて、違和感から目を背けてただけだから。

 

「……わたしがつくしちゃんの友達だから?」

「違う」

「モニカだから?」

「それも違う」

 

 じゃあと視線が上を向いた。ちょっと長めの前髪から青い瞳がじっと俺を捉えた。なんて言ったらいいんだろうか。俺には選びようがないような気がする。でも、ここで俺は変わるか、変わらないかの二択を選択できるんじゃないだろうか。

 ──ひとつめは変わること。おっぱいが好きだけじゃなくて、きちんとひまりの言っていた俺のことを好きでいてくれる女の子に向き合おうと努力すること。ふたつめは変わらずに、俺のまま、ただ中途半端に自分から逃げるのはやめること。さぁ、どちらにするべきだろうな。

 




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EX№11世話焼きギャルママ:今井リサ
 たぶんこれ本人の前で言ったら怒られる。準ビッグセブンクラスのおっぱいにギャルとは思えない(桐ケ谷比)包容力とバブみを併せ持つためリサ姉どころかもはやリサママ。でもやっぱりあんまり言うとエンドオブフェニックスされるため黙っていよう。やっぱりママじゃないか。


――というわけでここからは大輔の選択によってラブコメか否かのルートチェンジ、そして心苦しいのですがメインキャラを分けようと思います。もう無理、数多すぎて把握しきれないよ。

変わる→ラブコメルート(メイン:好感度トップ六人)
変わらず→否ラブコメ(メイン:モニカ+ひまり+ちょっとオフ会)
となります。どっちにしようかな。



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第28話:俺が俺らしくあること

好きなものは好きと言える気持ち抱き締めてねぇだろお前は


 ましろちゃんとのシリアスな話し合い、の前にスーパー風呂タイムがあるため一旦中止、取りやめて後で部屋に来てゆっくり話をすることになった。部屋に入れるのなんか緊張しそうだけど、俺はそんなことより休憩室のマッサージチェアにコリを解してもらっていた。

 

「あ、ソウヤマさん!」

「なんだか楽しそうっスね……」

「……桃源郷」

「トーゲンキョー? 」

「どういうことでしょうか?」

 

 もうね、疲れるようなことが多くて多くて、癒しがほしいんだよ。だからマッサージチェアに座ってるんだけど。女の子だらけの旅館にも癒しはあって然るべきでしょ。今の癒しはこのマッサージチェアと麻弥イヴの湯上り浴衣っぱいです。ありがとうございます。元祖癒し枠は流石だぜ。

 

「どうも、前半だったんですね」

「はい、前半はジブンたちパスパレとRoselia、RASでした」

「温泉、とっても気持ちよかったです♪」

 

 よかったね、俺もすごく体力回復状態です。ああビッグセブンの波状攻撃スゲー。しかも俺なんて座ってるせいでいつもより視点低いから迫るおっぱいしてる~これはいいですね。麻弥さんは確かに気持ちよかったっスけど……となにやら苦い顔、どうしたの? 

 

「いえ、チュチュさんが湊さんに突っかかってサウナ、っとこれは騒がしいで済んだのですが、パレオさんが……のぼせてしまって」

「パレオちゃんって……あれ?」

「あれっス」

 

 俺がコレに座るちょっと前にロックちゃんとレイヤさんに運ばれて何故か若干幸せそうに目を回してる黒髪ロングのぺったん……じゃなくて少女がパレオちゃん? 地毛があってウィッグって話マジだったんだ。へぇ、知らなかった。よくよく見るとレイヤさんが黒白ツートンのウィッグを手に持ってた。

 

「何があったの?」

「さ、さぁ……?」

 

 パレオちゃん、実はRASを知る前から姿を目撃はしていた。なにせあの子重度のパスパレヲタらしい。しかも箱推し。だから考えられることといえば推しアイドルと同じお風呂に入ったことだろう。特にイヴちゃんとかガチで裸の付き合いです! とか言ってハグしそう。そんなことされたらヲタは死ぬ。俺は想像しただけで鼻血が出そうだ。いかんいかん。

 

「宗山さん何か飲みます?」

「あーじゃあコーヒーで、テキトーに」

「了解です!」

 

 そう言って二人が仲睦まじく自販機に向かっていくとすれ違いで燐子さんとあこちゃんが休憩室の前を通ってきた。燐子さんはきっと挨拶そこそこでスルーするんだろうなぁと思っていたらあこちゃんが突撃してきた。

 

「あーそうさんおじさんみたい!」

「あ、あこちゃん……」

「……グッジョブあこちゃん」

「なにが?」

「知らなくていいよ」

 

 何がとは言わない、言わないけど真正面からの湯上り浴衣燐子っぱいまで拝めるなんて、今日はやっぱりいい日ってことにしとこ。そんな風に手のひらがドリルのように回転する。というか紗夜さんいなくてよかった。きっと妹に絡まれてるんだろう。いないと燐子さんとのコミュニケーションは円滑じゃないけど、そこはどうでもいい。おっぱい二つさえあればいい。浴衣おっぱい見れるだけラッキーだ。

 

「あこもやりたーい!」

「隣にあるよ」

「りんりんも!」

「え……う、うん」

 

 促されるまま燐子さんが三つあるうちの一番奥、そして俺と燐子さんの間にあこちゃんが座った。聞くところによるとマッサージチェアは痛くて苦手らしい。ああ、肩凝るって話だもんね。持つものには持つものなりの苦労がある。いい格言だね。

 

「……宗山、さん」

「はい?」

「あう……っ、えっと、っん……ひかわ、さんから……ぁん、少しだけ……っ、話は、ぁ、聴いた……んですけど、っぅん」

 

 あー紗夜さん、一応燐子さんも心配はしてましたよみたいなことは言われたけど、たぶんこのヒト俺のことが苦手なのにこうして声を掛けてくれるだけありがたいな。人間関係に恵まれてる、とは別の意味では痛感してたけど、こういう時にも感じるなんてなぁ。感動しそうだ、惜しむらくは燐子さんがマッサージチェアの震動に対してのリアクションがまんま嬌声なことだろうか。下半身に悪い。

 

「あの、このリモコンで弱くできますよ……?」

「あ、だめ──っあ、は、これ……はぁ……ふぅ……」

「り、りんりん、あこが助けてあげるから!」

「イキました?」

「だ、大丈夫……です、弱くなりました……はぁ……」

 

 顔を赤らめて息を荒げてる燐子さん。このヒト実は好感度の話を文字通り度外視したらビッグセブンいち危険な存在じゃなかろうか。ちょっとピンク色の雰囲気になってしまった俺の脳内は新たな麻弥さんのコーヒーが癒してくれた。

 

「おお……これはいいっスね……キクぅ」

「麻弥さん、感想がオッサンですよ」

「はっ……す、すみません。職業柄、腰とか肩は酷使してしまうので……フヘヘ」

 

 アイドルになってからはやっぱり柔軟とかトレーニングあるから大分減った、とはいえドラマーだもんな。同じ格好で座ってるとやっぱり身体固まるしね。にしてもこう座ってるヒトを眺めてるだけでも眼福だ。おお、ハートが震えてる。これが波紋か。

 

「あ、話ぶった切ってごめんなさい、燐子さん」

「……えっと、これから……どうする、んですか?」

「んーどうする、ですか」

 

 更に時間が経ち、あこちゃんがロックちゃんのところに行って仲良く話をし始めたため俺がおっぱい二人に挟まれて会話を続ける。何かあったんですか? という問いかけにどうしようか悩んでからこれは黙ってても意味ないだろ、と思ってそもそもなんで温泉旅行という話があったのかというところから打ち明ける。

 

「な、なるほど……」

「でも……わたしは、怖い、と思います……」

「怖いって、なにがですか?」

 

 燐子さんは俺の立場になって、何もそんな素振りはしてなかった、それどころか明確に何かきっかけがあったわけじゃない、実際にはあったとしても気づいてないのに唐突に自分のカノジョだとみんなに言いふらす相手が二人きりで迫ってくるというシチュエーションは怖いと語った。まぁあくまで俺の主観での話だから、ホントはもっと別の要因があって、客観的に見たら俺は悪魔のような所業をしてきたことにはなるんだろうけど。

 

「確かに……特にジブンや白金さんのような怖がりには、堪らなくホラーなシチュエーションっスよね」

「肯定……できることじゃない、って氷川さんの言葉も……そうなんですけど、わたしは……宗山さんの、気持ちも……わかる、から……」

「燐子さん」

 

 それは慈母の如き言葉だった。最近ちょい厳しい言葉ばっかりだったからこう、フラットな目線ではないとしても、別にそれが何か解決に繋がらないとしても、なんか心がすっきりする感じがした。ホントのところ一人じゃ、ましろちゃんに向き合う勇気なんて出なかったのかもしれないけど。背中を押してもらったような気がした。

 

「……よかったです」

「なにがですか?」

 

 名残惜しくも燐子さんとマッサージチェアにお別れを告げ、麻弥さんと部屋までの道を歩いているとポツリと麻弥さんが呟く。ましろちゃんともしお付き合いしているうえで今の関係は何だかイヤだったとか。

 

「ジブンは、同じ趣味、同好の士なんて言葉がいいなぁなんて思います。だけど、それでもジブンが宗山さんといるせいで宗山さんが軽薄なヒトって思われるのは、イヤなんです」

「俺は……いや俺はたぶん軽薄な男ですよ」

「そんな」

 

 ましろちゃんは付き合ってるつもりだったのに、麻弥さんやオフ会のみんな、瑠唯さんやつくし、ひまりといった女の子に囲まれて鼻の下伸ばしてるんだ。それは軽薄だよね。それに今だって、ましろちゃんにヒドいことを言ったのに、有咲や香澄ちゃん、ロックちゃんにひまり、リサさんや紗夜さん、あこちゃんと燐子さんに麻弥さんとイヴちゃん。ちょっとあの子を突き放してお風呂から出てくるまでにこんだけのヒトとおしゃべりをした。しかも、それがすごく楽しかったんだから。すっかりいつもの調子を取り戻した俺が、批判されないなんてことがあっていいわけがない。シリアス展開ならそういう感じの顔してろってね。

 

「でも、ジブンは」

「はい?」

「そんな軽薄な宗山さんと……仲良くなりたいって思ったんですから」

 

 そうやって恥ずかしそうに笑う麻弥さんは俺のシリアスな感じやその他諸々を吹き飛ばすほどの威力だった。はぁ、そうだった。こうなると思い出すんだけどこの子俺の推しやん、無理やだ尊い、推しが生きてるだけで尊い、推しが武道館行ったら死んでもいい。

 ──そんな推しメンに仲良くなりたい宣言というご褒美をもらって、俺はモニカの風呂上りを待つことにした。部屋で待ってればいいだろって? うるせぇ! 瑠唯さんの風呂上りっぱいが見たいんじゃ俺は! 

 




おっぱいヒロイン図鑑(裏):好感度順
№03オ、オタ仲間……フヘヘ:大和麻弥
 恋愛感情は先に自己評価が低いため後回しにしがちなアイドル。ある意味似たもの同士。趣味が合う、というのはそれまで理解のなかった彼女にとっては恋人よりも大事なものでもあるため、オタクに恋は難しいし相手からの好意も感じられないため今の距離に甘えている。

№09笑顔が素敵な常連さん:若宮イヴ
 そいつあなたのおっぱい目当てですよ、とは口が裂けてもいえないほどピュアスマイルをしてくるため覚醒にバインド耐性を持ってないからバインドされる彼自身も他のビッグセブンとは一歩引いた関係を維持している。そのため、好感度もそれなりに低め、そもそも彼女がみんな大好きというアイドル向けの性格してるから。

№10男のヒト、苦手です:白金燐子
 まさかの最下位、そもそもあこちゃんか紗夜さん、その他おしゃべりできる誰かがいないとまず顔も合わせづらい。なんなら恥ずかしい勘違いしてたこともあって余計に目も合わせづらい上におっぱいへの視線にまで気づいてるとあればヒロイン入りはほぼ無理。こうなったら捨てネコのように拾ってご主人様になるか紗夜さん経由で好感度上げしてFサイズビッチさんに押し倒されるかしか方法がない。積極的なりんりんは幻想ですよ。それが現実である。


ここでおっぱいおっぱい言わないただのつまらん男にならないのが大輔のキモいところである。


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第29話:これが俺の選んだ道なんだ

――これにて、一部完結となります?


 ましろちゃんを待っている間、有咲っぱいを目に焼き付け拝んでいると、後ろから声を掛けられ振り返った。たゆんと揺れるボリュームたっぷりのおっぱい、その谷間がしっとりと濡れていたのに目が離せなくなる。

 

「見過ぎ~」

「……ひまりって美少女だったんだな」

「なにそのリアクション、頭大丈夫?」

 

 大丈夫だから煽ってくんな! 風呂上りのひまりって黙ってるとめちゃ美人だなって思っただけでなんの意図もねぇよ! というかそのおっぱいの谷間見えるのやめん? ビッグセブン第一位の燐子さんですら見えなかったのに、お前そういうとこだからな! 

 

「好きでしょこういうの」

「大好き……じゃなくて」

 

 はっ、反射的に答えてしまった。ひまりがクッソ笑ってるのがムカつく。最近コイツにはセクハラしてもいいんじゃないかと思うくらいにムカつく。ただ強く出れないのもおっぱいが大きいせい。つくしだったら容赦なく攻撃してた。

 

「んで? 香澄ちゃんから訊いたよ~? やらかしたって」

「やらかした」

「まさか教えたら教えたでヒドイことするなんて思わないもん」

 

 うぐ、確かにひまりが教えたのは不意に告白されようもんならめちゃくちゃヒドい言葉を放ちそうだからって理由だったのに結局これだもんな。そのことに関しては素直に謝罪しておく。せっかく教えてくれたのにごめん。

 

「ま、これに懲りたら自分が今モテ期なのを自覚することだね!」

「うす」

 

 やったーとはならないのが悲しいところだが、モテ期ねぇ。おっぱい至上主義の俺に惚れるってことすらありえないと思ってるのに。それもこれも俺の隠し事が上手なのか? え、いやでもほとんどのヒトが目線に気づいてるのにそれはないだろ。わからん。

 

「なんでかなんて正直私もわかんないけど」

「わかんないのか」

「当然でしょ、ひとりひとりにストーリーがあるんだから」

 

 なるほどね。その理屈はよくわかった。そんな話をしていると後ろからちょーっすという軽い挨拶が聞こえてきた。モニカ勢ぞろいである。さすがに壮観なり。なにがとはもちろん言わないけどね。

 

「大輔」

「わかってるって」

「へーひまり先輩と、大輔サンってケッコー仲いいんスね!」

「まぁ、色々あって」

「……色々」

 

 ちょっと反応したのは後ろで不思議そうな顔をしている七深ちゃんに隠れているましろちゃんと瑠唯さんだった。ああ、でっか! おっぱいでっか! じゃなくて、やばい勝手に目線がおっぱいに向かっちゃった! 隣でつくしがゴミを見るような目をしてる! でも無理、見ちゃうもん! そして有咲は惜しくも逃したけど、これでビッグセブンのうち六人の風呂上りっぱいを脳内メモリーに焼き付けることに成功した! これはマイライフ優勝だな! 

 

「ほらシロ、なんか言うことあるんでしょ?」

「い、今じゃない……今じゃないから」

「そーやって先延ばしにすると余計に言いづらくなるっしょ?」

 

 それ俺も言われた。なんなら隣でひまりがうんうん頷いてる。というわけでなんともカオスな感じになってきたなと思っていると有咲が上原さんとひまりを呼びに来たおかげで無事ビッグセブンコンプの実績が解除された。ありがたき。

 

「じゃあ、ちゃんとしなね、大輔!」

「わかってるって……ひまり」

「なに?」

「ありがとな」

 

 ひまりはちょっとだけきょとんとしてからどーいたしまして、と思わずドキっとしてしまいそうなキラキラの笑顔をしながら去っていった。ひまりを見送った俺はよしっと向き合うことにして、ひとまずはましろちゃんの名前を呼ぶ。

 

「……はい」

「ごめん、流石に二人きりにしてもらっていい?」

「手出すとかしないならいいッスよ!」

「しません」

「しないの?」

 

 え? と声を出したのは透子ちゃんだった。流石に友達泣かせたせいか若干トゲトゲしい彼女だったけど、ましろちゃんの意外な言葉に振り返った。もちろん俺もびっくりしてる。七深ちゃんの後ろに半分顔を隠しながら、おずおずとそうだよね……と明らかにしょぼくれている。

 

「カノジョじゃないもんね……わたし」

「手出さないんですか?」

「さっきと言ってることが真逆なんだけど!?」

 

 手のひらドリルを習得してやがった。こ、この金髪ギャル厄介だろ……シロが嫌がってないならどうとか、言い訳を並べてるけど手は出しませんよ? 俺はヘタレで自己評価が低いので、例え好きですと迫られてもそんな短慮起こさないからね。

 

「宗山さん」

「はい、どしたの瑠唯さん?」

「……どうする、つもりですか?」

 

 後でまた来るね、とましろちゃんを見送り部屋に戻ろうとするといつの間にか瑠唯さんがいた。どうするつもり、か。訊ねてきた瑠唯さんの声は普段とは違って揺れているような気がした。だけど俺はもう半ば決めてるようなもんだから、それになんか変なことはやらかさないよとなるべく笑顔を心掛ける。

 

「……決めている、そう」

「心配してくれてありがとう瑠唯さん」

 

 なんだか、瑠唯さんがこんなに感情? わかんないけど揺れてる感じがするのは、ああいやおっぱいのことじゃなくてね。いつも直立不動、って感じの彼女の輪郭がゆらゆらと揺らいでいる気がした。でも、大丈夫。ましろちゃんも俺も破滅に向かうわけじゃない。向かわせない。

 

「それじゃ、また明日」

「ええ、また……また明日」

 

 ところで、手を振り返してくれる瑠唯さんに俺はちょっとびっくりしている。なんかあの通り雨事件以来、瑠唯さんはちょっとかわいくなった。かわいくなった、って言い方はめちゃくちゃおかしい気がするけど。無表情で鉄面皮なのは変わることはないんだけど、ほんの少しだけ、わかりやすくなった。距離が近くなったのだろうか、ううん俺には判別がつかないけど。

 

「お待たせ……先輩」

「うん」

 

 それからちょっとして、ましろちゃんを今度はちゃんと部屋に招き入れていく。というか前はよく部屋に入ってこれたねと訊ねると、ちょっとだけ気まずそうに笑いながらカノジョだからって言ってこころさんから部屋の鍵をもらったらしい。なるほど、なにしてんのあのパツキンお気楽お嬢様。それはまぁ置いといて、沈黙が場を支配する。うーん、堪能する暇なかったから今のうちにましろちゃんの浴衣おっぱい堪能しとこ。こんなんだから女性陣に怒られるんだけど、せっかくだし……ホラ。

 

「それで……えと、あのね……わたし、勘違いしてたみたいで」

「そうみたいだね」

「ごめんなさい、気持ち悪かった……よね」

 

 俺は慌ててそれを否定する。あの時の俺は確かに怖いと思った。どうしてそんな勘違いしてんだよ、とか思って突き放すどころか突き飛ばすくらいの勢いでましろちゃんを泣かせてしまった。それはホント、俺が反省するところだ。

 

「そんな……先輩は」

「そもそも、あれだよな……GWに出掛けた時に、俺告白されてたんだよな」

「……うん」

 

 そのセリフがえっとなんだっけ。詳しいのが思い出せないんだけどなんかそういういい雰囲気っぽいドキっとした言葉があったのは覚えてる。というか有咲とか香澄ちゃんからましろちゃんが二人に語った付き合うきっかけってのを聞かせてもらって思い出したってのが正しい反応だけど。

 

「またこうやって先輩と二人で、お出掛けして……一緒にいたい、そう言ったよ」

「それで、俺は」

「すごく嬉しそうに、もちろんって、手を握ってくれた」

 

 何してんだ過去の俺は! カッコつけてんじゃねぇよホントにさぁ! あれだな、手を差し出されてちょっといい雰囲気だし、言葉を額面通りに受け取って紳士ぶろうと頑張ってたんだな? そうだな? わかった最近ちょっと気を抜いておっぱいおっぱいしてたんだ俺! もうちょっと前はマジで後で脳内メモリー再生してグヘヘしてる上級者だったわ! 

 

「わたし……あの時と、やっぱり気持ちは変わらない。先輩と二人でお出掛けして、一緒にすごして……大輔さんになら、わたし、何されてもいいって……ちょっと怖いし恥ずかしいけど」

「怖いし恥ずかしいけど何されてもいいの?」

「あぅ……えと、やっぱり、ゆっくりがいい」

 

 速攻で発言を撤回するましろちゃんは確かに何も変わらなくて、ましろちゃんは恋人になったから露骨に俺に態度を変えたんだと思ったけど、違うんだな。ましろちゃんは誤解がなくなった今でもちゃんとましろちゃんだ。きっと不安になったり怖いことがあると手を握りたがるだろうし、俺に向ける笑顔なんてなんにも変わらない。そうだよな、付き合う、付き合わないでましろちゃんが劇的に態度を変えることなんてないんだ。それがわかっただけでも、こうやってゆっくり話をした甲斐があったよ。

 

「ましろちゃん、よく聞いてほしい」

「う、うん……」

「俺は──」

 

 それが知れたから、俺は温めておいた言葉をましろちゃんに伝えていく。俺とましろちゃん、そして他のメンバーのこれからのために必要な言葉を。

 ──そう、俺は()()()()()()()()。これからは、中途半端紳士じゃなくて、宗山大輔って男のヒドさやキモさも全部、伝えていく覚悟をしたんだから。

 

 




おっぱいヒロイン図鑑(裏):好感度順
№02関係を明確にするのは効率的?:八潮瑠唯
 まっとうに恋する15歳、同時に隠れツンデレ枠。クーデレとツンデレは同居するのである。あまり第一印象のよくない自分に裏表のないおっぱい目当ての笑顔を向けられ、自分と会話をしてくれる存在に特別感を見出してしてしまった男性耐性ゼロの実は防御力ゼロの乙女チック八潮瑠唯。なおましろとの関係が懸念したものではないことに安堵しつつ付き合うってどうするのと悩み中。恋する乙女に休みはない。

 ――というわけで変わるルート突入となりヒロインが裏おっぱい図鑑の№01~06までのキャラの()()()()()を書いていきます。
 そう、№01ましろ №02瑠唯 №03麻弥 №04?? №05つくし №06ひまりの六名が選抜ということで、これからの投稿は隙間が開くやもしれませんが始まったら一人のルートはノンストップで夢色トレイン走っていきます!


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ましろルート:白の猛攻
第0話:プロローグはシリアスに


そう、シリアスにな!頼むぜぼくたちの大輔!


 俺はおっぱい大好き高校生、宗山(そうやま)大輔(だいすけ)。幼馴染でベストフレンドの二葉つくしと遊園地へ遊びに行って、別に全然黒ずくめではない女性陣が自分の兄妹を探しにいったつくしを追いかけているのを目撃した。

 尾行を見るのに夢中になっていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気付かなかった。まぁその後は身体が縮んで見た目は子ども、頭脳はおっぱい花畑のエロガキになることはなかったんだけど。

 

「……こっち、前話したモニカの子たち」

「く、倉田ましろです」

「ども! 桐ケ谷透子っス! やーさっきはストーカーかと思っちゃって、まぁまぁ気にしないで!」

「それ俺のセリフでは?」

「広町七深です」

「──八潮瑠唯」

 

 デカイおっぱいがドン! 四人! となった俺の衝撃はすごかった。そりゃもう目がおっぱいのカタチになったものだ。その中でうちのベストフレンドと来たら。そんなこと言ったらさすがに怒られるんだけど。

 ──そっから、一番距離が変わったのは、何回も言ったけどましろちゃんだった。最初は話しかけるたびにビクビクしてて、つくしを介して話すことがほとんどだった。だけど、会う回数が多かったこともあって一週間、二週間経つ頃には普通に話せるようになっていた。

 

「ましろちゃん、よく聞いてほしい」

「う、うん……」

 

 それから、もう三ヶ月半が経った。色んなことがあって、そのほとんどが勘違いで埋め尽くされていたこと。そのせいでましろちゃんを悲しませたこと、俺はおっぱいとかビッグセブンがどうのじゃなくて倉田ましろちゃんにその償いをしなくちゃならない。

 

「俺は……ましろちゃんのこと、恋愛的な目で見たことはない」

「……だ、よね」

「どころか、俺は出逢った時からましろちゃんのおっぱいしか見てなかった」

「おっぱ……い」

 

 それはもう劇的に顔が真っ赤に染まっていく。そりゃそうだ、急に恋愛的な目で見たことないって言われたとはいえ、一応まだましろちゃんは俺のことを好きでいてくれてる。変わらないでいてくれてるところに急におっぱいだ。そりゃ恥ずかしいし、なんなら怒られてもしょうがないと思う。

 

「えと、ね? 男のヒトだから、おっ……胸に、目線がいくのは仕方ないのかなって思ってたんだ」

「やっぱり気づいてた」

「ちょっとだけ……他の女の子の胸もよく見てるなぁとは」

 

 油断しすぎなんだよな俺って男は。でも今日、いや今は真剣な話だから。なんとしてでもシリアス展開はシリアスのまま展開していきたい。でもおっぱいは見たい。やばい煩悩が外に追い出しきれてない。

 

「ちょっと待ってましろちゃん」

「え、うん」

 

 息を大きく吸って、吐く。座禅を組まん勢いで心を鎮めていく。ここでおっぱいへの煩悩を退散させる方法はただ一つ。吐き出すことである。ああましろちゃんの湯上り浴衣おっぱい最高だなぁ! しかもこの広いとはいえ座布団に座って対面、しかもサイズが大きかったのかややはだけてる! 待ってインナーの姿が見えないんだけど……あ、なんか肩にピンクのヒモが見える気がする。このシチュエーションたまらん! 脳内カメラマンが全裸で鼻血垂らしてありがとうございます連呼しながら激写してる! ありがとうございます! 

 

「……よし、落ち着いた」

「だ、大丈夫?」

 

 大丈夫。もう大丈夫。幾分か堪能したら満足したので続きが話せます。えっとですね、とりあえず、ましろちゃんは俺のことを勘違いしてる恐れがあるのでそれをなんとかしないと。具体的に言うと幻滅するならしてくれ。自分の名誉のためにわざわざましろちゃんを傷つけるなんてクズの所業じゃなくて、俺が自分を曝け出して自爆すればいい。そのためにセクハラするんだけど、やっぱりクズじゃないか。

 

「これはつくしに言えば正直に肯定してくれると思うんだけど、俺にとってましろちゃんってどんな子なの? って問われるとおっぱいって返すほどおっぱいしか見てなかった」

「……そう、だったんだ」

「でもそれはましろちゃんだけじゃなくて、たぶんましろちゃんがここに来てるメンバーで思いつく限りのおっぱい大きいヒトみんなに思ってる」

「大輔さんは、先輩は大きい方が好きなの?」

「大好き」

 

 まさかの問いかけがきて思わず反射で答えてしまった。違うだろ大輔! このままだと大好きさんになっちゃうじゃないか! ただそれで納得はしたらしい。ひまりとか、有咲とか、麻弥さん推しな理由も羽沢珈琲店に通う理由も、俺の行動原理すべてがおっぱいに通じるからな。

 

「じゃあ……なんで、触ろうとは思わないの?」

「イエスおっぱいノータッチの精神で挑んでいたので。おっぱいは眺めるだけで心の安寧を保てますから」

「なんか、お坊さんみたいな言い方だね」

 

 なにかの宗教と言われたらそれはそうとしか言わない。おっぱい教、教祖宗山大輔みたいな。それはキモいな。でも、ここで驚くことにましろちゃんはクスクス笑いながらそっかぁと息を吐いた。そして、教えてくれてありがとうと優しい顔をしてくれた。

 

「わたしはね、先輩が優しいヒトだなぁと思って、そうしたらいつの間にか好きになってた」

「優しいって」

 

 女性から男性に言われる信用ならない言葉その一、優しいねである。そう褒めるしかないからそう褒める的な、主にアウトオブ眼中にある場合にその利点が真っ先に出てくる。そもそも狙ってる女の子に優しくない男はおそらく少女マンガの世界にしか存在しない。ん? つまり少女マンガの男になればまた別の良さを見てもらえる? ふっ、おもしれー女。

 

「おっぱいが好きなのに、わたしがイヤだなぁって思わないように頑張って、触らないように! って気をつけてくれてるところも、優しいところだよね?」

「いや、それは俺のためであって」

「わたしのためじゃなくても、優しさは優しさだよ」

 

 その優しさヤリ捨てかセフレかの違いみたいなくらいにどっちもどっち感するんだけどね。例えが輪をかけて最低だな、二度と使わないこの例え。とにかく、ましろちゃんが言いたいのは自分が最初に好きだなぁと感じた部分は、変わってないということだった。

 

「触れるなら触りたいでしょ?」

「それはもち、ろんセクハラだから黙秘します」

「そっか」

 

 またくすくすと笑われる。表情が大分柔らかくなった。なんだか変わらない雰囲気になってきたところで、ましろちゃんがんーと腕を組むせいでおっぱいが強調される。考え事はいいんだけど仕草で俺を殺そうとしてこないで。

 

「触る?」

「……え?」

「そ、そもそも……わたしホントは……今日で先輩にハジメテを、って思ってたし」

「は、え待って、待って待ってむりむりむりむり!」

 

 近づいてきた! ぎゃー、いや、いやいやいやいやちょっと待って、お願いだからちょっと待ってほしい! 思考もとっちらかり始めたせいで現状を描写できない! 頼むから落ち着け、そりゃましろちゃんにとっては三ヶ月でカレピとそろそろ進展したいなぁ的なノリだったとかマジで言ってそうな透子ちゃんにえーまだヤってないのおっくれてるーとか煽られたのかもしれへんけど! けどな? 落ち着いてほしいんよ、それはあくまで勘違いだっただけで、俺もましろちゃんもまだ付き()うてへんのよ? ゼロやん? ほなのに、なんで俺は京都弁になってますの? 

 

「そんなに……拒否らなくても、いいのに」

「貞操観念はしいっかりもってな!?」

「なんではんなりしてるの?」

「……わかんない」

 

 はんなり解除、いやぁ危なかった。ましろちゃんが急にこっち来て抱き着こうとしてくるんだもん。ヤバかった、マジでヤバかった。もうちょっとでピー音塗れの展開が巻き起こるところだった。俺の鋼のメンタルがここにきて役に立った。

 

「でも、覚えておいてほしいな」

「な、なにを?」

「わたしが、先輩を好きで、先輩になら……おっぱい触られても平気だよってこと」

「ちょ!」

「ホラ、今日の下着も先輩に褒めてほしくて、選んだんだから」

 

 お、お、おっぱ、おっぱ、ピンク! ピンクのかわいらしいブラジャーが丸見えですよましろさん!?

 そんな波乱の展開と、何かを吹っ切ったましろちゃんが俺のおっぱい脳内を自分一色で埋め尽くすために立ち上がったことで、これからの俺の生活は一変する。

 

「……なんで布団二人分敷いてあんの?」

「そもそもここわたしと先輩の二人部屋予定だし」

「聞いてない」

「言ってないもん」

「そうですね!」

「明日はデートしようね、先輩!」

 

 嫌われてない、変わってない。たったそれだけのことで真実を知ったましろちゃんは、より積極的になった様子だった。これ、待って俺が攻略されるクチなの? とにかくここから始まる物語は、ただひとつだけが確定している。

 ──倉田ましろルートは、俺がひたすら逆セクハラされるようです。助けて。

 

 




お前はなにをしている?
冒頭からふざけっぱなしじゃないか。


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第1話:外された錠

 部屋が広くて助かった。俺はそう言わざるを得ない。あとましろちゃんの寝相が良くて本当によかった。布団を最大限に離して寝ることを提案し、ましろちゃんは最後まで抵抗したけど眠気が勝ったようであやしていたら寝てしまった。なんだかんだ幸せそうな顔してたからおそらく俺の負けだろう。

 

「先輩、逃げないでよ」

「だってましろちゃん、腕に抱き着く気でしょ」

「だめ?」

「そういうのはカレシにしなさい」

「本音は?」

「おっぱい当てられたら何も考えられなくなる」

 

 それから一晩明けて、約束した通りましろちゃんとデートすることになった。今日の予定は夕方に集合、バスで帰るんだったっけ。確認するとましろちゃんがそうだよとスマホを見せてくれる。しれっと手を、前は不安な時にしかしなかった手を繋ごうとしてくるのをやや攻防して諦めた。ただ恋人繋ぎなのは手汗がヤバい。

 

「ひまりさんとは」

「ん?」

「どういうデートしたの?」

 

 どういうというかいつものように興味のあるところあるところに引っ張ってくるからなぁ。とはいえ、朝早く、メシ食ってすぐにバスに揺られ、ましろちゃんとどこかへ向かっているのはあんまり変わらない気がする。どこに向かっているのだろうと考えていると、ましろちゃんが目をキラキラさせながらお楽しみだよ! と言ってきた。かわいい。

 

「先輩」

「ん?」

「先輩は星の王子さまって知ってる?」

「知ってるもなにも」

 

 有名なヤツじゃん。操縦士のぼくと小惑星からやってきた王子さまが色々な星の話をしてくれる的なやつだ。随分子どもの頃に読んだから記憶はあいまいだけど、それがどうかしたの? と問いかけると同時くらいに行先がわかった。

 ──星の王子さまミュージアム。そこがましろちゃんの行きたかった場所なのか。

 

「わたしね、先輩と知り合った時にこの本を思い出したんだ」

「どこに繋がる要素が」

「えーっとね、突然やってきたこととか、色んな話をしてくれるところとか?」

 

 色んな話、というと俺には逆なように感じるよ。ましろちゃんが教えてくれたことで、俺の世界は広がったから。手をしっかり繋いで、なのにいつもとは違ってすごく嬉しそうにましろちゃんは展示のひとつひとつを指さして俺に教えてくれる。そこは星の王子さまの物語と同時に作者の生涯を辿るような道筋になっているらしい。

 

「素敵なところだよね、ロマンチックっていうか、いいなぁ、フランスかぁ……」

「行ってみたい?」

「海外旅行、したことないんだ」

「そっか」

 

 俺はない、とは言えない。なんか小さな頃の写真の中に、確かつくしと二人でエッフェル塔を背景に写ってるのがあったはず。それこそ小学生までは二葉家とは一緒に旅行するくらいの仲で、今では……とはいうけど中学生くらいの頃からただつくしと俺が行かないだけみたいなところがある。

 

「ね、先輩」

「なに?」

「帰りはもっとおっきなバス借りて、自由席なんだって」

「そうなんだ」

 

 よかった、帰りもおっぱいから隔絶された世界だったらどうしようかと悩んでいたところだったんだ。それにましろちゃんがそう言ったということは、次に何を言うかもわかってしまう。ましろちゃんは、ただまっすぐに俺を好きって伝えてくれる子だから。表も裏もなく、打算もなにもなく。

 

「一緒に座ったら……ちょっとくらいおっぱい触ってもいいよ?」

「ノータッチ」

「むぅ……いいのに」

「付き合ってないおっぱいに触れるのはだめ、マジだめ」

「じゃあ付き合おうよ」

「軽くね!?」

 

 おっぱい触るために付き合うのもどうかと思いまーす! というかましろちゃん、どうやら俺への攻め方をわかったようで。何がってビッグセブンたる巨乳を使ってくる。おっぱいで砲撃による物量作戦に作戦司令部は混乱状態であります! 今のましろちゃんは元気ない? おっぱい触る? をガチでやってきそうなのだ。触りません。

 

「だって好きなヒトとか、いないんでしょ?」

「そういない。ましろちゃんも圏外だよ」

「あ、その言い方ヒドいよ先輩、えい」

「やめんか小娘!」

 

 ──思わず悪役みたいなセリフが口から飛び出してしまった。なにせこの小娘、恋人繋ぎでガッチリ状態の手を自分のおっぱいに向かわせやがったからな。慌ててチカラの限り止めたけど、脅しにもなんにでもおっぱい使ってくる! この子さては俺より脳内おっぱい畑でしょ! 

 

「……なんか、そこまで拒否られると余計に触ってほしくなる」

「ましろちゃんってもしかして変態なの?」

「ち、違うもん! たぶん!」

 

 元気よくたぶんって言ったら信憑性が薄れると思うの。それかおっぱい好きに自分のおっぱいを拒否られたから悔しいのかな? いやそれよりもシンプルにましろちゃんの俺への好感度は既に、クソみたいな言い方をするとえっちしてもいいよレベルなので魅力ないって言われてる気がしてムカつくんだろう。

 

「触っていいのに」

「拒否られると触られたくなるの?」

「うん」

「じゃあもしも俺がここで、わーい触るぅ! って迫ったら?」

「周りにバレないようにね?」

「おかしい」

 

 おかしくないよ触っていいんだもんと胸を張られ、たゆんと揺れるおっぱいにぐぬぬしてしまう。くそう、まさか俺がおっぱいに逆セクハラを食らうとは。というかひまりより冗談が混じってない分余計になんというか……いやだめだろみたいなヘタレな倫理観が邪魔してくる。

 ──正直に言うと揉みたい。あの二人部屋の時点で揉みたくて揉みたくて震えた。でもおっぱいを思うほど倫理観のせいで遠く感じてしまう。

 

「もっと、もっと自分を大切にしてほしい」

「先輩に捧げるんだもんね」

「意味が通じてない!」

 

 というかド下ネタ禁止! 不意打ちされると顔赤くなるんだけど! というとましろちゃんも若干赤くなっていた。耳が赤くて、ちょっと繋いだ手に握力が断続的に加えられていく。うわ、やば今めちゃくちゃムラっとした。実際この子開き直ると結構危ないタイプなのでは? でもここでムラっとしたら思うつぼなのが一番ヤバい。雰囲気をピンク色にしてなし崩し的に付き合おうとしてくる。策士かよ。というかせっかく雰囲気のいいところに来たのにまったくおっぱいとましろちゃんばっかりになってしまった時点で、ましろちゃんの勝ちな気がするよ。

 

「わたしね」

「うん」

「先輩のこと、好きじゃなくなっちゃうのかなって思ってた」

 

 お昼も一緒に食べて存分にラブラブなバカップルみたいなやりとりをして、俺とましろちゃんは約束通り隣同士のバスに乗っていた。窓側にいたましろちゃんが、ここぞとばかりに俺の腕にしがみついてくる。でも、それどころじゃないくらい、おっぱいどころじゃないくらいに、ましろちゃんの透き通るような青い瞳に吸い込まれそうになっていた。

 

「勘違いしてて、ヒドいことを言われて、そのまま疎遠になって、いつの間にか先輩を好きだったこと、忘れちゃうのかなって……でも違った」

「嫌いにならないの?」

「わたし、先輩のこと全部好きだもん」

 

 それは、あのヒドいことを言った時に何気なく訊いた、俺のどこが好きなの? という問いかけだった。あの時の俺は自分が自分のイヤなところを見せたこともないのになんでこんな簡単に全部なんて言えるんだ、なんて冷たく言い放ったんだけど。そんなイヤなところもキモいところも知った上で、ましろちゃんは同じことを言ってくる。おんなじように全部が好きと言ってくれる。

 

「……ましろちゃんは、本気なんだな」

「だって、先輩は先輩でしょ? それに、見られて嫌だーなんて一回も言ってないからね」

「確かに」

 

 肩に柔らかいほっぺを擦り付けるように甘えられ、肘辺りに別の柔らかな感触を味わいつつ、俺はましろちゃんの方を見て、いつの間にかうとうとしている姿を見た。はしゃぎまわってたしな、と昨日の寝落ちしそうな彼女を思い出していた。

 

「ましろちゃん」

「ん……せんぱい?」

「ありがとね」

 

 首を捻っていたけど、思考がまとまらないのかとりあえず頷く。そっと髪に触れるとくすぐったそうにしてから、安心したように目を閉じた。

 ──ああもう、完敗だ。勝てるワケがない。俺がノーガード戦法をとってもその上から殴られちゃ勝ち目なんてない。全部が好きと言える彼女の強さに、俺のヘタレチキンなメンタルで敵うわけがなかったんだ。

 

 




止まらないましろちゃんのラッシュに、既に満身創痍の大輔、ガンバレ大輔!


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第2話:プールデートがしたいよ!

したいんだよ!


 酷暑日ってもうなんか名前だけで溶けそうになる。焼けるような炎天下を避けることを忘れたように俺とましろちゃんはパラソルの下でかき氷を食べていた。俺のその視線は、ちょっとましろちゃんに向けては、また逃げてを繰り返す。

 

「……まだ慣れないの?」

「一生慣れない」

 

 そんなましろちゃんはかわいらしくもあり、だがそのスタイルの良さを前面に押し出した青色水玉のセパレートの水着で、下はフリルスカートみたいになっているものだった。今はプールから上がっていることもありおしりまで隠れる白色のロングパーカーみたいなラッシュガードを装備してはいるが。おっぱいなぁ、やっぱその露出度だと谷間がなぁ! 

 

「気になる? ドサクサに紛れてなら触ってもいいよ」

「セクハラ禁止です~」

 

 からかわれるような逆セクハラがいつもの会話となってしまい始めた八月の末頃、察しが悪くてもわかると思うけど俺とましろちゃんはプールにやってきていた。そのプールデートなんだけど、このきっかけがまたすごくましろちゃんのガンガンいこうぜみたいなスタイルなんだよな。

 

「ひまりさんから訊きました」

「なにを?」

「ナイトプール行ったって、二人で」

「……まぁ、約束してたし」

 

 行ったけどマジで何もなかったよ。ナンパ防止なのはそうだったんだけど、うらやまけしからんムフフなイベントも逆になかったよ! そう言うけどましろちゃんは頬を膨らませて不満をアピールしてくる。この子実はまだ俺のことカレシだと思ってない? なんでここでヤキモチ妬けるの? ヤバくない? 

 

「わたしも」

「言うと思った、やだ──」

「──って言うと思ってヒマな時をつくしちゃんに訊いてバッチリだし、なんならプールのチケットももらったから」

「準備万端!」

 

 逃げ道を瞬間的にふさがれたらもうどうしようもないんだよなぁ。俺は諦めてその三日間をましろちゃんのために使うことに……はて、三日間? ちょっと待って、どういうこと? プールなのに日帰りじゃないの? 

 

「一日目の夕方に到着して、ホテルで寝て」

「ホテル」

「翌日の朝イチのプール入って~」

「朝イチ」

「夕方まで遊んで、温泉入ってホテルのディナー食べて寝て、次の日のお昼に帰るの!」

「贅沢ゥ!」

 

 ましろちゃんがあどけない笑顔で言い放った計画に一体いくらお金がかかると思っているんだい! 染まってる! 完全にあの金持ちの集団に染まってるよましろちゃん! 正気に戻って! キミは富裕層側ではないはずだ! 

 

「ホテルもつくしちゃんが取ってくれたし、移動費はママが出してくれるって」

「……おかしくね?」

 

 おかしいとは思う。けどここまで外堀を埋められた俺に敵うはずがなく、結局折れてましろちゃんとのプールデートに来ていた。だが二泊、二泊である。当然部屋が分けられてるわけないし、幸いなのはベッドとベッドの間に隙間があったことだろうか。普通のホテルなので当然ある。一泊目はなんとか先日の技で耐えきった。寝顔見てたらいつの間にか寝落ちして朝起きたら一緒のベッドだった時は飛び上がったけど。

 

「日焼け止めは何回も塗るといいんだよ。ほら」

「ん、背中やってよ先輩」

「お、おう……」

「朝もやったじゃん、慣れようよ~」

 

 いやマジ、マジで慣れない。こんなの一生慣れるわけないじゃん。昨日やらされた髪を乾かすのとはワケが違うんだよ? いやましろちゃんのサラサラ髪に触れるのも若干ドキっとする時あるんだけどさ。

 ──ましろちゃんの背中、しかも素肌に触れてっていうのはなんか違うでしょ。うなじと、そこに結ばれた水着の紐とか、背中どころか腰まで素肌のこの状態とかおっぱいとかおっぱいとかおっぱいとか! 

 

「おっぱいに塗る?」

「塗りません」

 

 谷間に手を入れるの想像しちゃった。イエスおっぱいノータッチ! 俺は絶対にこのおっぱいに触れたりしないぞ! そんな覚悟を決めた俺は無心で塗り終わり、逆にましろちゃんが俺の背中に日焼け止めを塗ってくれる。

 

「……えい」

「ちょ、ましろちゃん? なにしてんの?」

「先輩の背中おっきいから、ぎゅってしたくなっちゃった、えへへ」

 

 背中越しに嬉しそうな声が発されるけど、ましろちゃんのボリュームじゃ当たり前だけどむぎゅっと柔らかい感触を伝えてくるのである。これが同じ人の肌なのかと感動するレベルの柔らかさである。二の腕とおっぱいの柔らかさは一緒っていうけどあれは絶対嘘、こっちのが断然柔らかい。

 

「……じゃなくて、なっちゃったじゃないよ、もう」

「ご、ごめんなさい」

「いや……怒ってるわけじゃなくて」

 

 いや割と怒り気味だった。でもこうやってフォローしてしまうのは、しゅんとされるとどうしても優しくしたくなるという、ましろちゃんのある種の魔性と言うべきものなのかもしれない。

 

「じゃあ、ぎゅってしたい」

「じゃあって」

「怒って、ないんでしょ?」

 

 まるで子どもが抱っこ、と甘えるように両手を広げてくる。あの、ヒトが割と見てるんだけど。言うと関係ないもんと頬を膨らませてきた。それに背中じゃなくて前からなんですか? おっぱいが前からダイレクトアタックしてくるんですか? もうやめて! 上から見える谷間にもう頭がどうにかなりそうなのに?

 

「……俺はましろちゃんのカレシじゃない」

「うん、でも好き」

「うぐ……そんな簡単に好きって言う」

「だって、前は言えなくて……後悔したから」

 

 そんな風に自嘲的に笑うましろちゃんの言葉に、俺は返す言葉がなかった。好きって言えなかったから、三ヶ月も遠回りして、お互い言いたいことなんにも言えずに表面だけの幸せをなぞっていた。おっぱいこそが正義だと信じて疑わない俺と、そんな俺と付き合ってると信じて疑わなかったましろちゃんとの、歪んだ間違いだらけの時間。

 

「ましろちゃん」

「……ほ、ほらっ、プール入ろうよ! ココにいても暑いだけだし!」

「待って」

 

 立ち上がり、空元気を振りまく彼女の手を俺は繋いでいく。流石にハグはできない……人目もあるし。だけど、手を繋ぐくらいなら。あとは、そうだな……流れるプールとか、波の出るプールとかでなら、もう少し距離が近くてもいいかもしれない。

 

「先輩?」

「ごめんね、こんな中途半端な男で」

 

 好きって気持ちを宙ぶらりんにしたまま付き合ってるわけでもなく、こうして誘われるままにデートをしている俺は、やっぱりましろちゃんのキラキラした好きって気持ちを受け取っていいような男じゃない気がする。

 

「そうだよね、先輩はおっぱいが好きって言う割にはわたしが触っていいよ、見ていいよってしても逃げるし」

「セクハラはしない主義だし、逆セクハラされる趣味もない」

「でも、そんな中途半端な先輩が好きなんだもん」

 

 ましろちゃんはすぐそれだ。俺がこれは悪いところだよ、こんなのが俺だよって言うのに。そんな先輩が好きって言葉で返してくるからずるい。彼女に引くって言葉はないのかってくらい、好きというキレイな花束を俺に渡し続けてくるんだよ。

 

「簡単なことだよ」

「簡単か?」

「うん、先輩がこれはなるほどなぁって納得しちゃう言葉」

「え?」

 

 ましろちゃんの精神構造を、しかも俺への好きという猛攻をなるほどなぁって納得する言葉があるんですか! それはぜひとも知りたい。めちゃくちゃ知りたい。浮き輪に乗って、流れるプールに流されるましろちゃんとはぐれないようにと掴まる俺に向かってとびっきりの笑顔を向けてきた。

 

「わたしにとっては先輩が正義だから! 大好きな先輩が傍にいてくれるのが、一番幸せだから!」

「……なるほどなぁ」

 

 俺にとっておっぱいが正義であって、大きなおっぱいが見れるのが一番幸せだったように、ってことか。なるほどなぁって思わず言っちゃったことで、クスクスと笑われてしまう。その笑顔がホントにキラキラしていて、嬉しそうな顔をしていて。

 

「勝てないよ……まったく」

 

 この時に俺は、俺は気づいてしまった。いつの間にか、ましろちゃんのおっぱいだけじゃなくて、人柄にも笑顔にも、なにもかもに惹かれていることに気づいた。

 ──きっと、あの温泉の時からそうだったんだろう。俺は、ましろちゃんが好きだ。どうしようもなく、好きになっていたんだ。

 




というわけで急展開? いやもう最初から好きだっただろオメー。


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第3話:ワンサイドゲームにはさせない

ずっとそうだっただろ


 プールで疲れた身体を温泉で癒すという理屈は結構、いい感じだと思う。なんなら水着のまま入れるお風呂みたいなのがプールの中にもあって、そこで実感した。ましろちゃんと肩をくっつけ合って座るというのは、ちょっと、いやかなり心臓に悪いと思ったけど。肘ちょっとでも出すとふよんと柔らかな感触がして、慌ててひっこめようと思ったらましろちゃんから当ててくるからね。

 

「先輩、肩かして」

「え、ココで?」

「いいから」

 

 挙句は肩に頭が乗ってきて、腕が上部分はおっぱいに下部分は太ももに挟まれてしまった。セクハラです、それも立派なセクハラというか痴漢だ! 押し付け痴漢ですこのヒト! と脳内で取り調べが発生していた。

 

「触っていいよ」

「……ヒトいるからね?」

「そっか」

 

 おっと? なんかあっさり引かれてしまった。でも相変わらずガッチリ柔らか生地のサンドイッチって感じで、もしかしてなんか悲しませるようなことしたかなと首を捻ると、ましろちゃんは頬に一瞬だけ唇を触れさせてきた。

 

「な、ましろ……ちゃん?」

「ごめんなさい……横顔見てたら、我慢できなくて」

 

 ホントに衝動的なものだったようで、甘えるように肩におでこを乗せて表情が見えないようにだけど、まるで叱られたように落ち込んでいた。俺はそんなましろちゃんにダメって言うことなんてできなかった。できるわけない、そんなキラキラなましろちゃんに惹かれてる自分がいるってことに気づいちゃったから。

 

「わたし、先輩くらい我慢できるようになりたいなぁ」

「……どういうこと?」

「だって……触りたいのに触らないんだもん」

 

 触りたいとか言ってないし! ささ、触りたいわけ……あるんだよなぁ。認める、認めるよ。他の子はイエスおっぱいノータッチの原則で拝むだけで済むんだけど、ましろちゃんには誘われてばっかりなせいでその原則で満足できないって本能に忠実な俺がいるのは事実なんだ。だって布一枚ほぼ半裸のましろちゃんが隣で俺の腕を抱き込んでるこの状況で! しかもしかも……俺は自分の気持ちに気づいちゃったんだよなぁ。おっぱいは正義だった俺にとって初めてそうじゃないと思えた女の子が、ましろちゃんだから。

 

「出よっか」

「え、う……うん」

 

 立ち上がって、手を差し伸べる。そしてもう陽が傾き始めていたため、ホテルに戻ることにした。着替えて、ちょっと塩素の残る髪を気にしながら温泉に立ち寄って。今度は別に湯上りに特別な格好じゃなくてただの、だけど足とか腕とかの露出が眩しい夏の私服で。

 そこからホテルまでの道をちょっとだけ無言で俺のサンダルのペタペタという音と、ましろちゃんのヒールサンダルの靴音が重なる音を聴く。

 

「遊んだね」

「遊んだ遊んだ」

「楽しかったね」

「すっごく」

 

 ウォータースライダーはましろちゃんも怖がってたし、遠慮しといたけど、流れるプールも波の出るプールの波打ち際でちょっとやったボール遊びも、楽しかった。この楽しさはきっとましろちゃんとだからで、ドキっとするようなことも、ほっとするようなこともましろちゃんと過ごすからあるんだってわかったから。

 

「先輩は」

「ん?」

「……嫌じゃなかった?」

 

 その問いかけとほぼ同じくらいに鍵が開き、部屋に入っていく。嫌じゃなかった? って訊いちゃうところは、ましろちゃんの後ろ向きなところだよね。俺の前では頑張って前のめりに振り回そうとしてるけど、それはひまりには敵わないと思う。俺との関係の気安い感じはつくしには勝てないし、趣味が合うって話ならオフ会組や麻弥さんが一番だなって思うし、バンドの話なら瑠唯さんとするのが正直一番楽しい。

 

「ましろちゃん」

「……え」

「今なら、いいよ」

 

 ビッグセブンが持つ胸囲の、じゃなくて脅威のおっぱいパワーたちの中でましろちゃんのランキングは六位、水着で思ったけど着やせしてる気がするから実際はもうちょい、麻弥さんとめちゃくちゃいい勝負かもしれない。けど、それでも燐子さんや瑠唯さん、ひまりや有咲には遠く及ばない。

 ──そうだったとしても、触れたいって思ったのは、ましろちゃんだけだから。おっぱいの大きさとかパワーとかなんて関係ない。俺は倉田ましろちゃんが、好きだから。

 

「え、えへへ……ぎゅって、しちゃった」

「お昼はごめんね?」

「ううん、今大丈夫になった」

 

 マジでこの生き物かわいいんだよなぁ。前までの俺ならましろちゃんがどんな思わせぶりな態度を取ってても、いくら好きだなって思っててもこんな行動はできない。自分を好きって言ってもらえるシチュエーションが全然想像できないし、おっぱい大好きなだけの俺に女の子が好意向けるわけないって可能性全部排除してしまうから。だから両想いってわかってる安心感も行動に出てるのかもしれない。

 

「……ね、先輩?」

「なに?」

「ごはんまで、時間あったよね」

 

 そう言われて俺は頷く。現在は四時過ぎたところ、ここから七時のディナーまでは結構時間がある。なんだかお腹もすいちゃったし、こんなんなら一番早い六時でよかったのにとましろちゃんに説明されてる時のことを考えていると、抱き着きながら俯いてるましろちゃんの耳が真っ赤になってるのが見えた。

 

「ましろちゃん?」

「先輩に嫌われたくない……けど、わたしはワガママだから……先輩が、だめって言ったら……我慢するから」

 

 どういうことだろうと思いながらも基本的にましろちゃんにはバカみたいに甘い自信のある俺は隣座ってとベッドに座っていく。二人きりのため別によっぽど恥ずかしいことじゃなきゃ平気なこともあって甘えたいのかな? と俺はそっと彼女の頭に手を置き、お風呂に上がったおかげかサラサラに戻った髪をなでる。

 

「……わたしね、やっぱり先輩が好き」

「うん」

「先輩は、先輩のこと好きじゃないのはわかってるけど……でも、それでもわたしは先輩の傍にいたい。一緒にいて、こうやって……先輩に触れてほしい」

 

 それは、告白だった。色んなことを整理して改めてということなんだろう。青い瞳が、俺を見上げて儚げに揺れながら、それでもはっきりと俺を捉えていた。けど、俺はそんなましろちゃんの言葉の中に嘘があることに気づいていた。だから、いつものように微笑みながらましろちゃんに告げた。

 

「本音は?」

「……ぎゅーだけじゃやだ。おっぱい大好きな先輩だけど、わたしだけを見ててほしいから……恥ずかしいけど、ゆーわくしてる」

「具体的に希望は?」

「えっちなこともしたい」

 

 ドストレート! さっきまでの変化球がなかなかストライク取れなかったせいか剛速球が飛んできた。だけど拙速だよましろちゃん。

 ──せめて外か内の低めとかに寄ってればよかったんだけど、真ん中ちょい高めはね、待たれてたら関係なくスタンドだよ? なんの話だっけ? まぁいいや、表に大量に点を取られてるんだ、俺のソロホーマーくらいじゃ負け試合なのに変わりはないんだけどさ。

 

「えっと、せ……先輩?」

「俺も好きだよ。ましろちゃんのこと」

「あ、う……えへへ、嬉しい」

「両想いだね」

「ね! でも、あれ? 両想いで、このシチュエーションは……えっと、ちょ、ちょっと待って」

「うん」

 

 ドサリと押し倒してあげたせいでどうやら正気に戻ったようだ。よかったよかった。やっぱり覚悟ができてるとか、そういうことがしたいって言っても、こう急に来られると恥ずかしがっちゃうんだなぁと感心していると、ましろちゃんが旅行かばんからかわいらしいポーチを取り出して……タンマ! おかしい! まるで昔の駄菓子のようにミシン目で繋がった個包装のアレをキミが取り出してくるのは絶対におかしい! 

 

「はい、じゃあもう一回!」

「もう一回ってなに……?」

「さっきの、すごいドキドキした! もう一回して?」

「……え」

「だめ?」

 

 どうやら、ストレートだと思ったら同じ軌道のスプリット系だったらしい。ホームランだと思った俺の渾身の一振りはあえなく内野を転がりアウト三つ、ふたたびましろちゃんの猛攻の前にあえなく連打からのホームラン、ここから逆転サヨナラは無理みたいです。だから一言だけ、そりゃヒーローインタビューもできないけど一言だけ、取材に応えておきます。

 ──やっぱり俺にとっておっぱいは神が生み出した芸術品だったよ。人生初の生おっぱいの感触はそりゃあもう、筆舌に尽くしがたいものだった。

 

 

 

 

 

 




こいつら合体したんだ!


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第4話:エピローグはラブラブに

ついに付き合ったお二人さんの最終話。


 こうして急展開ながらも俺とましろちゃんは今度はお互いに勘違いなく恋人同士ということになった。交際ゼロ日であればどうかと思うんだけどね。でもまぁそれは俺たちのペースとしてはベストということで、これでめでたしめでたし。

 ──めでたし、でいいんだよね? ここから夏が終わってしばらくしたら別れそうになってたりして、そこからなんやかんやもうひと悶着ないとちゃんと付き合えないとか、そういうのないよね? 

 

「いや、なんの相談?」

「相談っていうか、順調すぎるというか」

「アタシに言われてもな~」

 

 時は夏も終わり、二学期が始まってしばらくした頃のこと。苦笑いをされてしまうけどしょうがない、リサさんにばったり会ったんだから。あとなんというか変わらない、変化がないのもそういう焦りを後押ししてるのかもしれない。

 

「別れる原因がないんだから、そもそも別れないでしょ」

「そんなもんなんですかね~」

「だからアタシに訊かないでってば」

 

 なんというか、確かに付き合う前までは某日本一高い山の近くにあるジェットコースターや海辺にあるジェットコースターくらいに色々あったと思うけど、今はこう……うーん、刺激がない。ジェットコースターが観覧車になったくらいだ。

 

「んー、ドキドキだけが恋愛じゃないって思うけどな」

「いやでも、マジで付き合う、恋人になるって決めた日くらいまでドッキドキだったんですよ」

 

 でも、朝チュンして至近距離でましろちゃんの笑顔を見た時も、手を繋いだ時も、別れ際に抱き締めた時もキスした時も、その時ほどドキドキしなくなって、最初はそんなもんかなって思ったけど、そこから何度かデートしてもホントにドキドキしなくて。

 

「じゃあましろのこと、好きじゃないの?」

「好きですね」

「……あれこれ、もしかしてアタシ惚気られてる?」

 

 違います、真剣な相談ですよ! と言うけどリサさんもそれ以上はあーはいはいと聞き流してくる。くそう、まともに取り合ってもらえなくなった。そのまま俺はリサさんと別れてうんうん唸りながら帰路についていく。

 

「なに唸ってるの?」

「最近ましろちゃんにドキドキしないって相談だったのに、取り合ってもらえなかった」

「そっかぁ、ドキドキしないの?」

「うん、なんかほっとすることが多いんだよねぇ」

 

 こうやって手を繋いでいても、なんか一緒にいる安心感こそあるけどもう手汗かいちゃうこともないし、笑顔はかわいいなぁって思うけどそれ以上はないし。俺は、もしかしてすごくダメなことをしてるんじゃないだろうかなんて心配がある。

 

「……って、ましろちゃん」

「考え事しながら受け答えしてたよ今」

「マジか」

「ちょっと構ってもらえなくて不満です」

 

 隣にいつの間にかいたのはその恋人の倉田ましろちゃん。付き合った後も変わらず甘えんぼでガンガンいこうぜなスタイルでなんなら逆セクハラも普通にまだしてくる。時と場合を選べば俺としてはおっぱい一生触ってたい部類の人間なのでアレですが。

 

「不満だから、今日は先輩の家がいいな」

「……不満ならしょうがない」

「やった、えへへ」

 

 俺のカノジョかわいすぎん? いかん、こんなメンタルだから惚気とか言われて真剣に取り合ってもらえなくなるんだ。でも自慢したい自分もいる。ましろちゃんはかわいくて、一緒にいると安心して、その安心感が好きだなぁって気持ちになる。

 

「ドキドキしないかぁ」

「ああでも、ドキドキしないけど好きって気持ちは確かだよ」

「うん、わたしもその気持ちはわかるよ。というか普段の先輩にいちいちドキドキしないし」

 

 それ、元気よく言ったら俺へのダメージが入るんだけど。だけど、ましろちゃんは続けて、でも先輩のことが大好きだよと癒しオーラ全開の笑顔ではにかんでくる。ずるいね、相変わらずましろちゃんはずるい。でも恋することに関して俺がましろちゃんに敵うはずがないんだよな。ずっとずっと、俺を追いかけてくれた子なんだから。

 

「でも、ドキドキしなくてよかったって思うこともあるよ?」

「なんで?」

「だって、ドキドキしてたら……デートのたびに大変なことになっちゃうよ」

「……確かに」

 

 そういう意味だとほっと安心する好きでよかったのかなぁとは思う。隣を歩くましろちゃんの一挙手一投足に心臓跳ねてたらそれはもう一種の病気なのかもしれない。元々恋の病だって言うくらいだし、間違ってないかもしれないけど。

 

「じゃあ、ましろちゃんは恋愛にドキドキがいらないって感じ?」

「んー、いらなくはない。ドキドキしたい」

「……俺じゃ、無理だけどね」

 

 やっぱりそういうロマンチックさを求めるものらしい。だけど、まぁ元がおっぱいおっぱい連呼してた変態野郎ですから。そんな俺にロマンなんてものは求めるだけ無駄なんだろうな。まぁかくいう俺もおっぱい以外にはロマンはあんまりわかんないから。

 

「え、無理じゃないよ?」

 

 そんな自嘲的な言葉は、ましろちゃんにあっさりと打ち砕かれる。どういうこと? と首を傾げるとちょっとだけ頬を赤くしながら、今からどうするの? と急に質問を変えて訊ねてくる。今からって、えっといつものパターンだと俺の部屋でイチャイチャして、そのうち自然とそういう感じになって、夜くらいまで寝て泊まるか泊まらないかはその時の気分、みたいな。

 

「それが、どうかした?」

「……えと、先輩に迫られるの、結構ドキドキするっていうか……コーフンする」

「それセクハラじゃね?」

「せ、先輩のセクハラ判定どうなってるの……?」

 

 セクハラって相手が思ったらもうセクハラなんだぞと言うと恥ずかしいこと言わせた先輩の方がセクハラだもんと頬を膨らませてくる。くだらないケンカだ。ホントにくだらない。結局こんなの結論つくわけなくて、なんだかんだでお互いに好きって気持ちに流されちゃうのに。

 

「とにかく! わたしは先輩にドキドキできるから、大丈夫だよってこと!」

「そっか」

 

 そうやって俺をのぞき込むように上目遣いをしてくるましろちゃんの首にほんのわずかにお揃いのネックレスが見えて、当時誰かさんにあげた時は金属アレルギーで着けてくれなかったのが割とショックだったし寂しかったなということを思い出した。

 

「ん?」

「いや……金属アレルギーがなくてよかったなって」

「そだね」

 

 調べたところによると一応、金属アレルギーに対応したアクセサリーがないわけではないらしいのだが、そういうのを調べるのはパッチテストが必要らしいし、そもそも当時はもう、つくしと一緒にいることでもてはやされるのに辟易し始めているのと、年上のおっぱいのおっきな先輩に性癖歪まされてる最中だったから。対策もせずに、結局それっきりだった。

 

「でも着けすぎると痒くなっちゃうこともあるみたいだから、お部屋着いたらなるべく外そうね」

「だね」

「えっちする時も邪魔になる時あるし」

「……往来で」

「誰も聞いてないって」

 

 そうでもないんだって、案外誰か聞いてるもんだよそういうの。でも、これからネックレスじゃなくて指輪ってなった時に痒いから外す、とか言われないようにしないと。ふとした呟きに、ましろちゃんはえっ、と驚きの声を出した。

 

「えっ、てどうした?」

「……それはずるい」

「なにが?」

「今のはドキドキさせるためにわざとでしょ!」

「いやなにが?」

 

 ──原因がさっぱりわからず俺は困惑するしかないところが余計に気に入らなかったようで、ましろちゃんは顔を赤くしながらばか! と家まで走っていく。いや俺の家なんだけど。母さんはどうやら二葉母と出掛けているらしい。必然二人きりなのが、ちょっとだけ恥ずかしいような、母さんに隠れなくていいことを安堵したらいいのか。

 

「ただいまー」

「おじゃまします」

「はいはい、っと、急に来たな」

「今日はいっぱい構ってくれないと離れないから!」

「元気よく宣言するな」

「ほらほら~、先輩の大好きなおっぱい触ってもいいんだよ~?」

「とりあえず部屋行ってから堪能させてもらいます」

「えっち」

 

 誘導尋問では? あれこれ俺が悪いのか? やや納得いかないと思いながらも、俺はましろとドキドキしないんだけど、ちゃんと好きって思える時間を過ごしていく。ドキドキはしないかもしれないけどムラムラは割と頻繁にしてる気がすることを伝えると、ましろちゃんは部屋に入る前と同じことを、俺のベッドの枕に突っ伏しながらつぶやいたのだった。

 

 

 




おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№01わたしが大・大・大せいぎ!:倉田ましろ
 きっかけはただ純粋に優しかったから。本当に男への免疫がなくて、嫌われがちな態度を取っても優しく接してくれる彼が笑ってくれるからと一緒に過ごしていた。本人としてはおっぱいのことしか考えていなかったが。おっぱいへの熱い想いを知ったことでそれを利用して、恥ずかしいとは思いながらも優しいだけの大輔に向かって手を伸ばし続けた故の勝利だった。
 大輔がおっぱい好きということについては、見過ぎなのは気になるものの自分が持つものであるが故に、じゃあそれを武器にすればいいんだというある種の脳筋ゴリ押し。好きなヒトならオールオッケー。おっぱい、やはりおっぱいは全てを解決する(ただし大輔に限る)


というわけで倉田ましろ編完結となります! 次回は№02八潮瑠唯となりますので、また少し時間が空くかもしれませんがよろしくお願いします!


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瑠唯ルート:黒の暗躍
第0話:プロローグは静かに


静謐なるヒロインの登場


 温泉旅館の人気のない閉店した土産屋の前の自販機で買い物をしながら、俺はため息を吐いていた。ましろちゃんに全てを明かしたら何故か迫られて、なんとか逃げ切った……のか? よくわからないまま寝息を立てだした彼女にほっとして、カラカラになった喉を潤しに外に出ていた。

 ──というか帰れるか? いやましろちゃんと同じ部屋で寝るのアリなん? 運びたかったけど流石にそれはそれで触れる勇気がない。それに運んだ先もおっぱいがいっぱいなので精神衛生に悪い。だめ。

 

「はぁ~、マジでどうしよ……」

「宗山さん」

「る、瑠唯さん……どうしたの?」

 

 いっそここで寝落ちしてもいいならいいんじゃないか、なんて考えていたらいつの間にかすぐ隣に瑠唯さんがいた。手には水滴が結露しているお茶の入ったペットボトルを持っていて、同じように自販機を求めてきたのだということは察しがついた。でも、なんか瑠唯さんが寝れないってのは想像つかないな。

 

「そんなこと……私だって、不安があれば眠れなくなります。ストレスは効率的な睡眠の妨げになりますから」

「……あー、モニカって騒がしいから」

「それは……そうですね」

 

 俺もあの中で寝れるかって言われたらおっぱい抜きで寝れないと思う。透子ちゃんと七深ちゃん、つくしの三人でしょ? 絶対騒がしいし。そういう意味ではここは静かだし眠れそう。ホントにここで寝たらダメかな? ほら休憩室の畳とか。そんなくだらないことを思案していると瑠唯さんはそれで、と話題を変えてくる。

 

「倉田さんとは……どうなりましたか?」

「とりあえず、勘違いはなんとかなったかな……余計なこと言うハメになったけど」

「余計なこと?」

「ああいや……えっと」

 

 思わず隠そうとして、言葉を止める。変わるって決めた手前、今まで散々心の中でセクハラしてきた相手には伝えなきゃって思ってる。主にビッグセブンの面々だけど。でもホラましろちゃんとは、流れで言えた。瑠唯さんとこのシチュエーションで言うのはなぁ。

 

「……あ、あれだよ、ほら……前にちょっと話した下心的なやつ」

「視線が下に行く頻度が高いという話ですか?」

「うんまぁ……はいそうです」

 

 その通りです。そもそも視線にはバレてる前提で話さなくちゃいけないことを忘れてた。だからまぁ、そういう意味ではぶっちゃけてしまえるための下地は出来てるのかもしれない。嫌われる覚悟なんてとっくにできてるし。

 

「俺、基本女性に目線を向ける時はほぼおっぱいあるなしで判断してるからさ」

「……そう」

「うん。ましろちゃんと仲良くなったのもそんな理由だよ。おっぱいが大きくて、なんだか懐いてくれてて、そんだけ」

 

 こう口に出すとなんとまぁ浅はかで愚かな男なんだろう。あ、なんかましろちゃんに許してもらってるのが申し訳なくなってきた。自己嫌悪に陥っていると瑠唯さんは何か考えるようにペットボトルの水滴を撫でて、それから少し間をとってから口を開いた。

 

「私の方が」

「ん?」

「私の方が大きいですよ」

「……うん知ってる、じゃなくて」

 

 何言い出したんですかねこのヒト。大きさは知ってるよ、ビッグセブンの中でも燐子さんと並ぶほどのツートップおっぱいの持ち主なんですから。でもなんでそれをわざわざ口にしたの? 大丈夫? 

 

「なるほど、大きければ大きいほどいい、というわけではないのね」

「る、瑠唯さん?」

「少し黙っていてもらえますか?」

「あ、ハイ」

 

 ぶつぶつと何か思考を巡らせてるようだけど、あのぅ、もしかして俺を社会的に制裁するための計画ですか? そりゃね、一定以上の大きさがあるからってのはある。実際ましろちゃんは六位なわけだけどデート頻度は一番上だし、俺個人としての近寄りやすさというか親しさみたいなのは高い方だけど。逆に燐子さんはおっぱいだけならナンバーワンだけど、近づくと怖がられるから。

 

「なら……倉田さんとは、結局、恋人になるのでしょうか?」

「俺にそんなつもりはないよ」

 

 確かにましろちゃんは付き合ったらあの頃のままの懐いてくれるましろちゃんに戻るんだろうとは思う。それは嬉しい。だけど、それよりも俺は日常を愛してるから。こう言っちゃうとホントに最低なんだけど、今のおっぱいに囲まれた生活から離れたくないんだよね。

 

「すると、バイトも?」

「え? もちろん続けるよ。それはホラ、趣味関連だし」

「……そうですか」

 

 すると瑠唯さんはちょっとだけ安堵? なのかわからないけど顔が綻んだような気がした。同時に、ましろちゃんと話し合う前の揺らいでいたような感覚がなくなるような気も。いつもの瑠唯さんに戻っていくような、そんな感じだ。

 

「それなら……また、時間を使ってもらって構いませんか?」

「もちろん! 瑠唯さんなら大歓迎だよ」

 

 休憩中はマジで暇してるから。瑠唯さんと話ができるのは逆にその後バリバリ働けるんだよな。それに偶に終わりまで待っててくれて、一緒にご飯行くのも楽しいし。そりゃこの間みたいに急に雨に降られるのは勘弁してほしいけど。

 

「そうですか?」

「え、そうでしょ? 急に雨、困るじゃん」

「私は……また降ってもいい、そう思いました」

 

 そう言った瑠唯さんの顔を見て、俺はひとつの事実に気が付いた。瑠唯さんが無表情なのは表情を作る意味がないから。わざわざ楽しくないものに微笑んだり、愛想を振りまいたり、そういうのが驚くほどヘタクソだったってだけで。

 ──嬉しい時には笑うヒトだ。薄くだけど口角が上を向いて、淑やかな瑠唯さんらしく、だけどその視線はまるで少女のようなあどけなさがある気がした。

 

「……さて、困っているのでしょう?」

「え?」

「倉田さんと一緒の部屋で寝られないから、ここにいるのですよね?」

「うん、まぁ」

「でしたら、運びますよ……協力はしてもらいますが」

 

 それはありがたい提案だよ。正直なところ困ってたから。いいんだよ、布団離して寝ればね? ただその前に一緒に寝たい云々でわがまま全開されてて、万が一俺の方が遅く起きたらヤバいじゃん。俺だってそのくらいの貞操観念はあるわけよ。

 

「……逆では?」

「ヒトのこと押し倒そうとしてきたんだよ」

「……逆ではなかったですね」

 

 まぁ流石にましろちゃんに筋力で負けるわけないんだけど。こちとらややブラックなバイトで機材とか運んでるんだ。女子には負けない。

 ──それは関係なく、なんとか起こすことなくましろちゃんを部屋まで運ぶことに成功した。ちょっとだけ罪悪感はあったけど、俺は彼女の、どころか女の子の好きを受け止める度胸のないチキンだから、ごめんね。

 

「では、また明日」

「うん」

 

 そう言って俺は瑠唯さんと別れた。明日どうしようかな、とりあえずあこちゃんに連絡してどうにか、湊友希那いてもいいからそっちと合流できませんかと打診しておこう。寝てるかなと思ったらリサさんの端末からあこから返信頼まれたからと返事が来た。

 

『友希那はもう寝てるから、明日の朝訊いてみるね~』

 

 だそうだ。どうやら紗夜さんとあこちゃんはオッケーらしい。燐子さんもあこちゃんがいいなら、らしい。ちょっとほっとした。ましろちゃんが一緒に回りたがってたけど、ごめんねと伝えておこう。この気持ちのままましろちゃんとデートしても、きっとよくないからね。

 

「一応メッセージ送っといて、よし」

 

 こうして翌日はちょっと湊友希那に緊張しながらもこの修学旅行じみたバタバタは終わりを告げた。自分は変わりたかったけど他の関係は変えたくないなんて詭弁でしかないのはわかってたけど、俺はやっぱりこう恋愛よりかはイエスおっぱいノータッチのスタンスを貫きたいから。そういう意味だとましろちゃんの傍は、昨日のノリだとなんだかとっても危険な気がするし。

 

「いらっしゃいませ」

「予約していた八潮です」

「……ついに予約したんですか」

「そっちの方が効率的でしょう?」

 

 静かな()()()をたたえる瑠唯さんに確かにそうだと頷きながらスタジオを指定する。去り際にまた休憩中に待ってます、だなんてラブコールをもらってしまえば後ろのバイトメンツが大盛り上がりするわけで。だから付き合ってねぇっつうの! 下ネタ言ったやつ全員店長にセクハラで訴えてやるからな! 

 ──さて、ここから始まるのは、ビッグセブン随一の静かなるヒロイン八潮瑠唯がその静けさのまま、俺という脆い城塞をあっという間に攻め落とすお話だ。俺はまだ、そもそも瑠唯さんの好意にすら、気づけてはいないけれど。

 




また攻略されるのかお前


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第1話:変わらないと思っているのは

変わってない?うそつけ。


 八月も後半ではあるが変わらない日常が続いている。ちょっとは変化したのかな、わからないけど俺的にはいつも通りおっぱいに五体投地するような日々が続いていた。そう、バイト漬けの日々である。というか後半くらい働かないと九月の給料がしんじゃう。ライブ行けなくなっちゃう。パスパレの円盤も買えなくなっちゃう。

 

「今日もカノジョ、来るってさ」

「カノジョじゃないですって」

 

 何回このやりとりやんねんと関西弁になってしまいそうになる。でも確かに前にも増して頻度が高くなったような気がする。俺としては休憩中におしゃべりする相手と帰りに寄り道一緒にしてくれる相手ができて嬉しいからいいんだけどさ。

 

「って質問ばっかりでさ、最近」

「それは災難ですね」

「他人事だ」

「私に実害がないので」

 

 薄く笑みを浮かべながらそんなことを言われる。実害ならあるでしょ、ここ来るたびに俺との関係を色々と問われるんだから。そういうの迷惑してたらごめんねとバイトのメンバーに変わって謝罪をするといいえ、とどこか楽しそうに首を横に振った。

 

「あなたが謝る必要はないわ」

「そ、そう?」

「迷惑だなんて思ってもいないし」

 

 まぁ瑠唯さんがそう言うのならいいのか? まぁいいや。俺も気にしないようにしようと思ってたところだし。旅行以来、瑠唯さんはこうして予約しては音楽の話以外にも雑談をしていくようになったし、なんならそのまま帰りまで待ってご飯まで一緒する頻度が増えた。

 

「ところで」

「はいはい」

 

 新曲の練習に付き合って、演奏に口を出すことを許可してもらっての一通りの会話の後のことだった。この流れだとご飯だろうか、最近は瑠唯さんの好物である白玉ぜんざいのおいしい店を自然と探すことが増えた。以前燐子さんが瑠唯さんからおすすめされたあのお店が一番多いけど。

 

「明日、アルバイトないのでしょう? 何か予定はありますか?」

「……え、ないけど?」

 

 基本的に俺の休日の過ごし方はおっぱい求めて羽沢珈琲店か家でゴロゴロ、つくしに予定がないと突貫してつくしの家でゲームとかやることが多い。あの家は快適だしガキの頃から自分ちの次に寝泊まりした場所だからなんというか気楽だしな。

 

「なら、少しお付き合いできますか?」

「え、明日?」

「はい、いけませんか?」

 

 慌てたように首を横に振る。瑠唯さんから休日のお誘い!? 珍しいというか初めてのケースなので言葉に詰まってしまった。いやいや、おっぱい大好きな俺がそんなお得な誘いを断るわけないじゃん? しかもお相手はビッグセブン随一のスタイルを持つ瑠唯さんだもん。断れることでもない。

 

「具体的には──」

「ごめん、そろそろ時間だから」

「なら、詳しい話はご飯の時にしましょうか」

「おっけー」

「ではまた」

 

 それにしても、瑠唯さんからのお誘いかぁ。シリアスめに行ったほうがいいんだろうか。最近の会話がなぁ、くっだらないの多いんだよな。そもそもそのくっだらない話ができるくらいまで距離が縮まったんだけど。

 

「あ、おつかれーっす、今日は休憩ギリギリでしたね。トレーニングして長持ちするようになったんすか?」

「ブチ殺すぞ」

 

 端的に中指を立てたい気持ちをぐっとこらえて言葉だけで留めていく。いつものネタじゃないですかーとか言われても、俺からすると瑠唯さんみたいなヒトを捕まえてあろうことかおっぱい狂いの陰キャと付き合うとかそういうコトをしている間柄ってすること自体がもう不敬というか、あっちゃいけない感じがするんだけど。

 

「お疲れ様、コーヒーでよかったかしら?」

「あ、ありがと」

「ええ」

 

 なんだかどんどんと、瑠唯さんが砕けている気がする。時折敬語が消えるんだよなぁ。そしてなによりそういう時は無表情なんかではなくて、クスリと笑っていたり、呆れていたり、色んな感情が見えてくる。今はなんだか楽しそうというか、嬉しそうだ。きっと白玉ぜんざいのことを考えているのだろう。

 ──ところで特に意味があるわけじゃないけど瑠唯さんは肌白いからきっと白玉のようにもちもちでぷるぷるなんだろうなと思う。そういう意味では俺も瑠唯さんの二つの白玉に興味津々なんだけど。サイズ的には白玉というかメロンとかスイカとかに比べるサイズなのはそう。

 

「どうかしましたか?」

「いや……ところで傘持ってきてる?」

「いいえ」

「じゃあ俺んちに荷物置いて、傘貸すよ。ほら」

 

 そう言って雨雲レーダーなるアプリを見せる。八月も後半にさしかかり梅雨は遠く昔のことになったけれど、その代わりにゲリラ豪雨が降ることがある。その予報を細かくしてくれる便利なアプリだ。すると瑠唯さんはでしたら最も効率的な場所がある、と行先を決める。

 

「あなたの家で、というのはどうかしら?」

「俺んちで?」

「ええ……お母さまさえよろしければ、ということになるけど」

「あー今母さんと父さんバカンス行ってるから」

「……バカンス」

 

 金持ちの発言だよな。俺もそう思うんだけど、母さんがお盆周辺は旅行しないと気が済まないタチだから父さんを連れて、流石に国内なんだけど一週間近くいなくなるんだ。まぁうちの父さんも土日だけじゃなくてお盆や正月、GWは休みの優良企業に勤めてるからできることなんだけど。

 

「……そう」

「瑠唯さん?」

「今、最も効率的な時間の使い方を考えているわ」

「お、おう」

 

 もう一度アプリを見せて、瑠唯さんは顎に手を添えて考える。効率的な時間の使い方、ですか。きっと今頃瑠唯さんの頭の中ではシャーロックホームズのように今まで手に入れた情報から最適なものを選んでいるのだろう。そして、閃きの電球を浮かべ、瑠唯さんは雨が降る前にコンビニへ行きましょうと提案した。

 

「着替えを、せめて下着を買いたいわね。この間のように下着をつけずに服を着るという居心地の悪い恰好はしたくないわ」

「なるほど……なんで着替え?」

 

 全然繋がりがわからなくて訊ねると、まるで閃かないワトソンに対して丁寧に解説するように瑠唯さんは指を立てて、コンビニに向かっている道中に説明してくれる。あ、下着選びは流石に俺見ないようにしますね。というかコンビニに瑠唯さんのサイズとかあるのだろうか。

 

「私たちは明日、一緒に出掛けるわね?」

「だね」

「そして今日は夜中まで結構な雨が降るわ」

「みたいだね」

「楽器のこともあるし、これなら泊れば時間効率がいいでしょう?」

「あーなるほ……はい?」

 

 納得しかけたけど、泊まるの? ちょうどご両親もいないから変に気を遣うことも関係を怪しまれることもないしとやや早口に説明してくれるところありがたいけど、泊まるの? え、確かにね? 理には適ってる。止むまで待ったほうがいいってのは確かにそう。だけど、おかしくね? 俺んち俺というおっぱいに対してゴミみたいな視線ぶつけるゴミが一匹ですよ? そこに泊るということは飢えた猛獣の前に生肉抱えて歩き回るようなものじゃね? 

 

「……草食動物は肉を食べないでしょう?」

「それって暗に俺が手を出すような度胸ある男に見えないって言ってる?」

「ええ」

 

 そのくらいのリスクヘッジは計算ずくよと言われてぐぬぬとリアルに声にした。ただ反論もできないため、結局押し切られるカタチで瑠唯さんを家に上げることになった。前回の突発的で一瞬しかなかったのとは違う。というかご飯もうちで食べるってことだよな? うわ、何作ろう。今日は瑠唯さんこなかったら一人でトリカラパーティじゃ! とかおっさんみたいなこと考えてただけなんだけど。

 

「それでいいですよ」

「え、トリカラと中華風スープと米でいいの?」

「サラダはないの?」

「ない」

「……ならコンビニでサラダも買いましょう」

 

 そうして瑠唯さんはアメニティやら泊まるための色々に加えてサラダと烏龍茶を購入し、急ぎましょうかと小走りで俺の家へと向かっていく。

 ──と、とんでもねぇことになった。そんな驚きと仄かな緊張を抱きながら俺は瑠唯さんをやや追いかけるようにして帰路へとつくのだった。

 




恋する乙女のムテキの計画始まろうとしていた!


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第2話:もしも、なんかに意味はない

瑠唯さんの静かなる猛攻!!


 二度目となる瑠唯さんの襲来はとんでもなく突然起こった。いやもう一生ないと思っていたイベントに俺の心臓はドッキドキだよ! しかも、二度目の今回はウチに泊まるだなんて言い出すもんだからもう大変、俺の頭の中は混乱のおっぱいお花畑……はいつも通りか。

 

「おじゃまします」

 

 何が問題っておっぱいなことだよね。むしろそうじゃなかったらここまで心臓が不整脈もかくやということもなかっただろう。それでもまだ平気なのは前回招いたことがあるという実績に他ならない。まぁ前回はお風呂と乾燥機貸しただけ。今回はそれに加えてご飯に泊まりなんだから。

 

「寝る場所なんだけど、俺の部屋でいい? つか俺ソファで寝るからベッド使う?」

「どちらでも大丈夫よ」

「なら」

 

 うわー、うわー、なんか緊張する。誰かを招くって経験もないのにそれが女の子で、しかも瑠唯さんだっていうんだから、ここで緊張しなかったらきっと心臓に毛がフッサフサで将来の心配はしなくてよさそうだ。

 

「んで……っと、ちょい準備するんでくつろいでいて」

「ええ」

「テレビ自由に見ていいよ」

 

 リモコンを手渡すと、瑠唯さんは大丈夫ですよと首を横に振った。スマホを取り出して動画を観ようとするから、よかったらとテレビに繋がるケーブルを見せる。映し出されたそれは色んなライブ映像だった。きっとスマホの中には俺の知ってるものから知らないものまで幅広いガールズバンドの映像があるんだろうなぁ。

 

「熱心というかストイックだね」

「いえ、私は元々こういった音楽形態に疎かったので、その差を埋めなければいけないのですから」

「それをストイックって言うと思うんだけど」

 

 苦笑いしながら、俺は中学生の頃から研究に研究を重ねてたどり着いた、自分の舌に合うおいしいトリカラをすっかり慣れた手際で用意し始めていく。同時にスープを作っていく。中華風スープがあるとないとじゃやっぱ違うんだよな。アレンジで色んなもの掛けたりとかね。あと余ったのは小さく切ってチャーハンに入れるとか。

 

「……中華が好きなの?」

「え? いや、んー、子どもの頃よく外食してたのが中華風のチェーン店でさ」

 

 家でもあの味が食べたい! じゃないけどさ、ああいうのをカッコよく作ってつくしを喜ばせたかったみたいな。そんなくだらなくて、子どもっぽい理由だよ。そう言うと、少しだけ目を伏せながら、そうと呟いた。

 

「やはり、二葉さんはあなたにとって特別な存在なのね」

「特別っていうか……まぁ、確かに特別かもしれないね」

 

 恋愛感情とかはとっくにどこかに置いていってしまったけど。それでも俺にとってつくしは特別なやつではある。なんてったってずっと近くにいた初恋の子であり幼馴染だからね。そんな面白くもない話を瑠唯さんに打ち明けた。

 ──というかこういう気持ちみたいなのを言葉にして聞かせたの、瑠唯さんが初めてかもしれない。

 

「胸が性癖だと自覚したきっかけは?」

「ん? えーいや、覚えてない。少なくとも中学の時から大きいのが好きだった」

 

 なんだろうね、そういうの細かい過去のイベントがあってそういうのをイチイチ振り返れるタイプでもないし、いつの間にかおっぱいが正義になっていて、それとは全く関係のないところでつくしへの恋心は凪いでたんだよな。

 

「すると、ふとした瞬間に波立つことはありそうですね」

「どうだろ」

 

 今じゃベストフレンドであって幼馴染という以外の気持ちはない。変わらなきゃって思った中で、つくしだけは変わらない全ての俺を知ってるやつだから。だから、なんて言ったらいいんだろうな。変わらなくていい場所、みたいな。

 

「……なら、私にも」

「え?」

「隠している気持ちや、言いたいことが……あるのかしら?」

 

 思わず運んできたトリカラのお皿を落としそうになった。えっと、え~まぁ、確かにそういうのはあるよ。隠してるというか嫌われたくなくてメッキを頑張って貼り付けてきた部分が。俺が頑張って女の子に気に入られるムーブをしようとしてる理由とかも、その一部だよね。

 

「そうしたらセクハラしてもいい、じゃないけど、気安い関係になれば多少おっぱい見ても許されるんじゃないかって考えての行動だよ」

「あわよくば見たり触ったりできる、と?」

「ううん、触るのはナシ。それは絶対に守る。気に入られたいとかじゃなくて、見るだけで幸せだから」

 

 故意だろうとそうじゃなかろうと、それは絶対にしたくなかった。イエスおっぱいノータッチの精神ね。あれだけは紳士であろうとしたから、じゃなくてもし俺だったら自分の身体に触れられて仲良かったとしてもどう思うかという話だ。答えは死ねカスだからね。極端な話、嫌われたくないから。というか全部嫌われたくないから。

 

「かと言って誰かに好かれたいわけじゃないんだよね」

「どうして?」

「んー、まぁ例えとして挙げるにしては現実味なさすぎるけどさ、瑠唯さんが俺のこと好きだとするじゃん?」

「……ええ」

 

 そんな間を置いてから頷かないでおくれ。ありえないとは思うよ? でも、だから現実味がなさすぎるからって前置きしたじゃんか。それはまぁ置いといて、続きを話すとするか。俺は気を取り直してそのクソみたいな例え話を続けていく。

 

「そこで俺も好きだーってなって付き合ったとする。すると俺と瑠唯さんは恋人なわけじゃん?」

「そうね、できれば将来まで考えてくれると嬉しいけれど」

「……なんて?」

「なんでもありません」

「そ、そう? まぁいいや、その状態でも俺はやっぱり燐子さんとかましろちゃんのおっぱいに出会うと見たいし、仲良くなりたいって思うわけだよ」

 

 果たしてその時に瑠唯さんはどう思うのか? という話なんだよね。すると瑠唯さんはフツーならば恋人ではない女性の胸部を見る男というのはどちらの目線からしても不快極まりないものですと言い切った。うんうん、俺が言ってほしかった言葉だ。だからこそ、俺は例え誰かを好きになろうとしても、誰かに好きになってもらったとしても、付き合う気がないんだよ。

 

「縛られることを嫌う、と」

「かなり悪く言うと」

 

 な? そもそもそんなことをする男なんて願い下げじゃない? だからこそ俺は若干イケメン寄りで性格も表向きはいいはずなのにいまだにカノジョなし童貞なんだよな。瑠唯さんはなるほど、と納得の顔をしてから、ゆっくりとですがその理論には穴があるわよと指摘してきた。

 

「え、どんな?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そ、んなこという女子いる?」

「好きな男性なら、見られても平気でしょう? そもそも恋人ならば裸だって見る可能性があるのに」

 

 昨今では婚前交渉は別段批難されるものではありませんからと追加され、ちょっと恥ずかしくなる。または気にしないと言われる可能性もないわけではないですよと言われてそれはないでしょと反論する。だが瑠唯さんは涼しい顔で俺の作ったトリカラを丁寧に味わってから息を吐いた。

 

「別にあなたは好みの胸部を持つ女性全てに恋をするような惚れっぽい男性ではないでしょう?」

「……そりゃ、恋愛的な好きとおっぱい好きは別だからね」

「ならいいじゃない。窘めたいなら相手を選ぶことと私なら触ってもいいという許しを使えばあなたも息苦しいとは思わないのではないかしら?」

 

 確かに、と俺はすっかり論破されてしまった。やば、逆転されてしまった。異議あり! と指を突き付けられぐぬぬしたよ。なるほど、と頷きそうになったもん。じゃなくて、そんなレベルファイブな話じゃなくて、そんな器もおっぱいもでかい上に俺のことを好きな女子どこの世界にいるんですかねって話なんですけど。

 

「……わけのわからないことを言いますね」

「俺、そんなこと言った?」

「──あなたと私が恋人同士、という仮定でしょう? 一般論を口にした覚えはありません」

「え?」

「そもそも千差万別、十人十色である恋愛において一般論、というのは少々、ナンセンスでは?」

 

 突如ソロモンに帰ってきたヒトのように四文字熟語を多用された。俺も返しとくか? 焼肉定食! 違うな、話が逸れた。でも、まぁ瑠唯さんの言う通りなのかも。恋愛観はヒトによって違う、か。俺が特殊な方なんだからその理屈は理解しなきゃいけない。

 

「でも、それだと瑠唯さんはそう考えるってことになるけど」

「その認識で相違はないですよ」

「俺のこと好きなの?」

「そうですよ、というかそこは仮定ではなく前提でしょう。そこまで私の考えは入っていませんよ」

「あ、そっか、なんか早とちりしたよ」

「ええ」

 

 あっぶな、なんかワケのわからんこと口走った。ちょっとびっくりしすぎたのかもしれない。瑠唯さんがおいしそうに、これまた意外なことに結構食べてくれてることにほっこりしながらトリカラの話をしようと口を開いて……俺は会話の違和感に気づいた。

 

「……どうかしましたか?」

「え、肯定した?」

「しました」

「……俺のこと好きなの?」

「ええ」

「え!? うそでしょ!?」

 

 ──驚きのあまり近所迷惑レベルの声が出た。よかった、口にもの含んでなくて。だけど流石静謐かついつでも冷静沈着なビューティおっぱいの持ち主。涼し気な顔でここで嘘を吐くメリットもありませんし、会話の効率も悪いですよとスープに頬を緩めていた。なんでそんな落ち着いてるのあなた? そんな温度差で、俺はまさかの瑠唯さんに告白をされてしまったのだった。

 




脳内八潮
(このまま手をこまねいていては二葉さんに取られてしまうとはいえこんな告白の仕方をしてしまうなんて、私はなんて悪手を、ああでも、彼はなんて言ってくれるのかしら? なんだかそわそわして落ち着かないからスープ飲みましょう。あ、おいしい)

恋する乙女に安息はない。

一応更新について活動報告をしたためておりますので、よければそちらもご確認よろしくお願いします。まぁもしかしたら突如毎日更新できなくなるかも! 程度の話ですので。


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第3話:二人きりの攻防

既にフィールドは(ホーム)だけどアウェイ状態


 これは夢なのだろうか。いやそういう願望があったわけじゃないけどさ、現実にしてはありえないことだと咄嗟に頭が判断してしまった。うんこれ夢だわ、たぶん瑠唯さんが家に来たあたりから既に夢に違いない。

 

「現実逃避しないで」

「……いや、だってさ」

 

 告白されたんだよ俺、しかもさっきまでの話の流れでだよ? 現実だと認識できなくて当たり前じゃない? というかなんで瑠唯さんはそんな冷静なの? 俺はもう今疑問符しか語尾につけてないよ?

 

「けれど少し告白を急ぎ過ぎた、と後悔しているわ」

「まぁ、そりゃそうか」

「ええ」

 

 瑠唯さんが冷静なのはなんでかは知らないけど、俺が冷静でいられているのはひまりのおかげかもしれない。結局誰かは教えてくれなかったけど、ナイトプールの時もハッキリとまだ三人、明確に俺のことを好きだって思ってくれてる子がいるって話をされてたから。瑠唯さんなのかという驚きはあったけど。そして、瑠唯さんの後悔は間違いなく俺がさっきまではっきりと誰かと付き合うことは考えられないって言ったからだ。

 

「……好きなヒトに、誰とも付き合うつもりがないとハッキリ言葉にされ、冷静になれというのはヒドいと思いませんか?」

「冷静じゃないの?」

「もちろん」

 

 どこが? どこに冷静じゃない要素あったのか教えてもらっていい? そわそわしてる様子もないし相変わらずのポーカーフェイスだし。あ、もしかして隠してるからなのか。そう考えると瑠唯さんってすごいヒトなんじゃなかろうか。俺には到底真似できない技術だ。

 

「クソみたいなこと訊くね」

「ほんの些細なきっかけではあるけれど、あなたに惹かれたのも事実よ」

「質問を聞いてもらっていい?」

 

 いやまぁなんで好きになったのが俺なんですかって質問だから合ってるけどさ。やったね瑠唯さんと以心伝心だ! これがまたつくしの時よりも嬉しかったりするから厄介なんだよな。俺はちょっと息を吐いて、吸ってと整えてから瑠唯さんに向き合った。

 

「俺は、瑠唯さんと並ぶときっと釣り合ってないって言われるよ」

「そうかしら? もしそうでも私から見れば、幸せだわ」

「……おっぱい、はもう論破されてるんだった」

「そうね」

 

 ぐぬぬ……だからこその否定だったのか、自分が付き合うことが想定にあるからこその発言なんだから。そもそもおっぱいがどうとかってのも全部明かしてるから付き合ってから幻滅するみたいなことないし、俺付き合う前から幻滅されるタイプだからこういう経験もない。

 

「そうね、私生活はきちっとしているし」

「よく性癖さえなんとかなればとはつくしに言われるよ」

「……そう」

 

 ああ、えっと勘違いしないでほしいんだけどつくしがそう言ったの性癖さえなければ付き合ってた的なサムシングじゃなくて、性癖さえなければもうちょっとモテただろうにっていう嘲りの声だから。因みにうるせぇ未だに小学生と間違えられるクセにと返してケンカになった。これを周期的に繰り返してる。最近起こったのは旅行後すぐのことだ。

 

「ごちそうさまでした」

「おそまつさま」

「食事中にごめんなさい、こんな話」

「いや、いいよ。瑠唯さんの気持ち知れたから」

 

 疑問ではあったんだよ。バイト先のやつらにセクハラまがいのことを訊ねられても涼しい顔をして通っていた理由とか、噂になってるのにそれでもかまわないと俺の休憩中の相手をしてくれてた理由とか。

 ──好きなヒトの傍にいたい。そんな、ましろちゃんのようなまっすぐで純粋な恋心をただ表に出さずに実行していただけなんだって気づけたから。

 

「それで……今日はもう、帰ったほうがいいかしら?」

「なんで?」

「なんでって……」

 

 いつからなんだろう。きっと俺がそうなんじゃないかなって思うずっと前から、瑠唯さんは俺を好きでいた。俺が瑠唯さんのおっぱいを崇めて、そのおっぱいを眺めるためという下心で一緒にいる間、瑠唯さんは春風のような乙女心で傍にいてくれた。俺のことを気持ち悪いと謗ることも、咎めることもなく。そんな静かで優しい月の光のような彼女に、俺が返せることと言ったら、それを認めてあげることくらいだろう。

 

「俺、まだ正直、誰かを好きになる気持ちってのがガキの頃で止まってる」

「……二葉さん?」

「そう、初恋以来、ずっと誰かを好きになったことなかったからさ」

 

 いつだって俺にとってはおっぱいが正義だった。おっぱいしか正義じゃなかった。まるで子どもの頃憧れていた日曜朝のヒーローが至極当たり前のように悪に立ち向かう正義であるように。でも、大人になれば見方は変わる。ニチアサヒーローの悪役だって全部が全部ただ悪いことがしたいわけじゃないってこともわかるようになる。

 

「瑠唯さんは、なんか俺に別の正義を見せてくれそうだなって」

「……だから」

「そう、だから……ってすぐ付き合うわけじゃないからね?」

「ええ、でも……泊めてくれるのね?」

「うん。そのつもりだったのにやっぱり帰ってっていうのは薄情でしょ?」

 

 着替えとか買わせちゃったからね。それに、俺にだってメリットづくめだ。まず堂々とおっぱい見ても許されそうなところ。それからおっぱい眺めてても嫌われることがなさそうなところ、さらに言うと……誰かになんか言われることも休憩時間や帰る時間を気にせず瑠唯さんとくだらない話ができることかな? 

 

「じゃあ一緒に寝ますか?」

「それはダメでしょ」

 

 婚前交渉はまぁいいとしても、恋人じゃないのに一緒のベッドに寝るはヤバいでしょ。それに童貞な上にそうなりそうな可能性も皆無な俺の部屋に避妊具なんて便利アイテムがあるわけもないし。

 

「そうだと思って買ってあるわよ」

「はい? いつ?」

「コンビニに売っているわよ、あれ」

 

 いやそれは知ってるよ。こちとら小学生高学年の時からおっぱいは正義のエロガキでしたからね。昔は揉みたい弄りたい吸いたいのゴミだったし。そういう知識もどこからか手に入れてコンビニ行くと挙動不審に探してたもん。

 

「よかったわね」

「何が?」

「子どもの頃夢に見たもの……目の前にあるじゃない」

 

 あるじゃない、じゃないんだよなぁ。瑠唯さんって実は結構……いやこれ以上は言うまい。しかも照れるような素振りもないんだから。そういう意味じゃ瑠唯さんに敵いそうにはない。というかエロガキのエロ妄想を中途半端に大人になった俺に向けられると奇声を発しながらどこにいようと相手を殺しそうになるから。シャイガイなんだ俺は。

 

「もし」

「はい」

「もし……付き合うとするなら、なんかそうすぐにがっつくんじゃなくて、大切にしたい。そう思うけどね」

「あなたらしいわね」

 

 その声はよく考えなくても楽し気に弾んでいた。なんか前提条件を知ると一気に瑠唯さんの解像度があがった気がする。洗い物を手伝ってくれた瑠唯さんに先にお風呂どうぞと示して、俺はゆっくりと息を吐いた。

 

「……あれは破壊力バツグンだな」

 

 ──いやカッコつけたけど瑠唯さんのデレってエグくない? あのいかにも恋愛なんてカロリーの無駄遣い、非効率的よ。社会的にその方が効率的ならお見合いで私に見合ったヒトを決めればいいでしょう、とか言いそうなクールなあの子がだよ? 甘酸っぱい恋をしてる。しかも俺に。こんなの耐えきれる男おるん? 俺が耐えきれてるのは単にましろちゃんのおかげだったりする。あの子の猛攻に耐えただけあって俺の心の要塞は堅牢だ。ただし搦め手に弱いこともバレてるらしいのでこうやって、二人きりなんだよなぁ。

 

「今日これで……明日は、デートになるのか」

 

 こんなことを考えてる時点で、俺は相当瑠唯さんのかわいさにやられている気がする。そしてその前に薄着の瑠唯さんとここから朝まで過ごすって考えるとなんだかすごく、とても不健全な気がしてきた。流石に防御高いカッコだよな? いやあの瑠唯さんだと確証はできないな、と俺は帯を引き締める気持ちで瑠唯さんを待っていた。

 

 

 




もう攻略されかけてるよ大輔! しっかりして大輔!


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第4話:食わず嫌いのオオカミ

どっちが? 大輔がだよ!


 なんというか、なんというか自宅のお風呂入るのに緊張する日が来るとは思わなかった。いつもと変わらないはずの、毎日入って見慣れてる場所なはずなんだけど、瑠唯さんの後ってだけで妙な緊張感があった。

 

「あら、思ったより早かったんですね」

「ま、まぁ……元々だし」

「そう」

 

 ごめんなさい、俺意外と長風呂したい派なんです。なんならつくしと電話しながら半身浴することもあるくらいだし、女子かってツッコミを受けたこともある。だから今日は直近で一番の速度、まさに烏の行水というやつだ。

 

「立ったままでいいのかしら?」

「……あ、あはは、テンパっちゃってて、ごめん」

「いえ、私も、この顔を保つのでいっぱいいっぱいなので」

 

 その顔はいつも通りにしか見えないんだけど、流石は瑠唯さん。ホントにポーカーフェイスさせたらナンバーワンだと思う。気を付けて観察してないと真実の顔は全然わからない。今は、割とドキドキしてるのかな? やや目線が合わない気がした。

 ──それにしても、まぁ俺もね、ついつい目線が下に行くから一緒なんだけどな! 

 

「……薄着すぎじゃないです?」

「私、いつもこれくらいなのだけれど」

 

 そりゃ家ならいいよ? キャミソールと短パンでもさ! 上に羽織ってるとかいいつつ半脱ぎで肩が出ててもね? だけどさ、ここ俺んちであり男はみんな狼という言葉があるように狼を目の前にして肩と胸元オープンはどうなのさ! 

 

「大丈夫よ」

「なにが?」

「一匹狼は親から自立して群れを探しているか、乗っ取られ追い出されたかの二択だもの」

「……ああ、そういう?」

 

 狼は元来五匹とかそのくらいの群れで暮らす生き物だもんねってそうじゃないやい! 肉食動物的な意味だって! そう言うと瑠唯さんは頷きながら、男性は狼かもしれないけれど俺のことは草食動物のようだと形容してきた。

 

「今めっちゃムカっとした」

「したなら……どうやって否定するのかしら?」

「……どうって、どうやるの?」

 

 そう言うと瑠唯さんは無言で避妊具(コンドーム)を持ち出してきた。バカじゃないんですかね。流石に瑠唯さんだってそこまでの覚悟があるわけじゃない……よね? え? あるの? じゃなきゃ買わない? そうですか。

 

「使いますか?」

「俺に覚悟がないからムリだね」

「でしょうね」

 

 そのわかってましたよみたいな顔されるとそれはそれでムカっとするね。いやそんな売り言葉に買い言葉で流されたりしませんけど。身持ちが固いとか責任感が強いとかじゃなくて、単純にその責任を取る覚悟がないだけ。

 ──瑠唯さんと一緒にいるって覚悟がないだけだ。

 

「恋愛に対して、あなたは食わず嫌いをしているのね」

「食わず嫌いって」

「でしょう? 私も、以前は……正直バンドという音楽形態を、軽く見ていた」

 

 よく知りもせずに、イメージだけでクラシカルよりも下に見ていた、という言葉にそっかと頷いた。瑠唯さんは根っからのバイオリン奏者で、本人的にはどうでしょうねと息を吐いていたけれど相当音楽が好きだと思うから。

 

「一度は音楽を捨てた身よ。そこまで……買われるほどのものじゃ」

「でも、捨てきれなかった」

「……それは」

 

 前に言ったけど、俺はそもそも挑戦することすらしなかった。音楽が好きなのに、心のどこかではきっと演奏してみたいと思っていたのに。くだらない自己肯定感に惑わされて挑戦してみることすらせずにいた。恋愛に関してもそうなのかも。別に痛い思いをしたわけじゃない。なんかイヤなことあったの? とましろちゃんにも言われたけど、全然、むしろ俺から勝手に遠ざかっただけだ。

 

「てっきり、胸の関連で女性を傷つけたのかと」

「あー……まぁそれはちょっとやったけど」

「やったのね」

 

 いや大したことじゃないんだよ。ただ小学校高学年から中学の途中までつくしとちょっとだけ気まずかった時期があったってだけ。その時に恋心もどっかに置いてきちゃったんだけど。久しぶりに会ったら全然、なんか好きって気持ちもなかったんだよね。

 

「ボリュームの問題だったのかしら?」

「いや! それはないと思うよ……いやごめんわかんないけど」

 

 何か明確な理由があるってわけじゃないし、そもそも俺、あんまり自分の行動に理由を求められると困っちゃうタイプの人間だし。あれだよ、なんで宿題やらなかったの! って怒られてもなんでだろうなぁって自分で思っちゃうやつだよ。

 

「……わからないわね」

「でしょう? 俺も」

 

 そんなくだらない話をしていると思わず欠伸をしてしまった。なんやかんやと驚くことや感情の動きが忙しなくて疲れたのかもしれない。いやそもそもバイト終わりだし。そろそろ俺としてもおねむの時間なのだ。

 

「……ベッドで寝ていいよ、瑠唯さん」

「あなたは?」

「ここで寝るよ」

 

 たまにソファで寝落ちしてるし、このソファ広いからフツーに寝れるんだよね。いつも使ってる布団とまくらを持ってきて、部屋についてるクーラーは好きに使っていいよと言っておく。なんか、眠くなってきたら落ち着いてきたというか恥じらいとか焦りがなくなったよ。眠気優先、大事。

 

「そういえば、訊ねることがあったのを忘れていました」

「なに?」

「朝はパンとご飯、どちら派ですか?」

「うちはご飯派だね」

 

 時間がない時はパンで済ませようとコンビニでパンとかサンドイッチとか買うこともあるけど、基本は米とみそ汁とサラダと食べてくのがベストだと思ってる。あと卵料理ね。そうペラペラと余計なことまで言うと瑠唯さんはなるほど、と納得したように俺の部屋へと引っ込んでおいた。んー瑠唯さんが俺のベッドで寝るのか……ベッドの下の収納とか触らないよな? 大丈夫だよな? いやまさか瑠唯さんに限って漁るとかないよな? というか仕舞ってあるよな? 

 

「なんか……急に不安になってきた」

 

 とかなんとか言いつつ、スマホでテキトーにSNSを眺めていたらそのままウトウト、眠りについてしまった。それにしても部屋着の瑠唯さん、おっぱいもそうなんだけどやっぱり全体的なプロポーションが良すぎるということに気づいた。薄着だと腰回りとかわかるもんだ。寝落ちしながら考えたことはそんなことだった。

 

「宗山さん」

「……んぁ、るいさん?」

「おはようございます」

 

 ──寝れるかなとか考えてたクセに次に目が覚めた時はすっかり朝で、瑠唯さんが俺をのぞき込むようにして起こしてくれていた。でっか、じゃなくておっぱい、でもなくておはよう。朝からキャミソール越しのおっぱいは眼福ではあるんだけどね、色んな意味で大変なことになっちゃう。

 

「朝ごはんを作りたいのですが」

「あ、ああごめん作るよ」

「いえ、私が」

 

 瑠唯さんが? いや悪いよと遠慮するけど泊めてもらいっぱなしは居心地が悪いからどうしても、とのことでそういうことならと俺が補助する形で台所事情に詳しくない瑠唯さんがご飯を作ることになった。

 

「……あと、すみませんがシャワーを浴びてもいいですか?」

「ん? いいよ。俺もよく朝シャワー浴びるし」

「なら一緒に入りますか?」

「んぐっ……それはよろしくない」

「失礼しました」

 

 一瞬変な想像しちゃったじゃん。ところで遠慮がちに言われたけど寝苦しかったのかな? 汗かいちゃったとかだったらもうちょっと温度下げてもよかったのにと、あくまで涼し気な顔でみそ汁をすする彼女を窺う。

 

「そういえば」

「なに?」

「女性を泊めるのに、枕元にそういう写真集を置くのは」

「──ごめんなさいホント許してわざとじゃないんです」

 

 やっぱり! 昨日の朝に片付けた記憶がなかったんだよな! ちなむ必要もないけどやっぱりおっぱいな写真集で、割とお気に入りだったりする。あれだよ、リアルおっぱいにはセクハラしないけど、結局性癖だからそういうネタもおっぱいなんだよな。

 

「誘っているのですか? 夜這い待ちなのかと思いました」

「そんなつもりじゃないんです勘弁してください」

「冗談ですよ」

 

 冗談なんかい。昨晩のくだりからすると冗談じゃないような感じが……えっとどっちが嘘? 夜這いが嘘なのか夜這いが冗談なのが嘘なのか。そう訊ねると野暮なことは言わないでと微笑まれてしまった。普段は絶対見ることの叶わない瑠唯さんのアルカイックスマイルは、なんかそれだけでそこはかとないエロスを感じてしまったのだった。

 

 




こいつらいつになったらデートするんだよ。つかはよ付き合えや。もうましろちゃんはとっくにエンディングしたのにもう一話引っ張ってんじゃんかよ。

補足すると瑠唯さん、えっちな写真集はちゃんとベッドの下の収納スペースに丁寧に整頓して仕舞いました。ええそれは丁寧に。シャワー浴びたくなるのもわかるほどに。


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第5話:隠してきた想いは止まらない

お前のことが好きだったんだよ!


 デートという言葉に過剰反応してはいるけど、相手が瑠唯さんだということさえ除けば慣れたものだ。ましろちゃんやひまりにちょいちょい振り回されてる俺からすれば、デートはもはや上級者といっても過言だった。ごめんなさいめっちゃ緊張してる。

 

「それで、どこに行くの?」

「……決めていなかったわ」

「はい?」

 

 でもきっちり効率的な瑠唯さんのことだから完璧なデートプランを考えてるに違いない。なんならロマンとかなく欲しいものを淡々と回るだけかもしれない! という甘い考えは出掛ける前に打ち砕かれた。

 

「え、決めてる風じゃなかった?」

「具体的な希望などを、昨日の夜決める予定だったのだけれど」

 

 けれど、告白やらなんやらでバタバタしてたら忘れてしまったと。瑠唯さんはあれなの? 慣れないことに関してはポンコツ発揮するタイプのクールキャラなの? 新たな一面というか、そもそも決めてから誘ったわけじゃないんだという驚きがあるんだけど。

 

「一緒にいたかった」

「ん? え、あ……あー、なるほど?」

「ええ、恥ずかしい話だけれど、一秒でも、少しでも……あなたと過ごす時間がほしくて、無我夢中だったの」

 

 クリティカルヒット! 流石にポーカーフェイスが保てなかったのか俯き気味に目を逸らす瑠唯さんの表情と発言が世の男の七割を魅了したに違いない。こ、ここまで惚れられてるのか、ちょっと実感湧いてなかったけど、恋する乙女って感じだ。

 

「じゃあ……どうする?」

「ここに、いてもいいかしら?」

「え、いや……えっと」

 

 どうしよう、嫌とは言えない日本人どころかきっと断固たる意志を持ってるヒトでも揺らぐような上目遣いを瑠唯さんがしてくるとは思わないじゃん? 瑠唯さんって実は犬系女子だよね。ましろちゃんと同タイプ。あっちは甘えたがりの小型犬って感じだけどこっちは甘え下手だけどじゃれたくてしょうがない大型犬みたさはある。俺は犬派です。

 

「じゃあ、おうちデート、ということで」

 

 瑠唯さんが頷く。なんかもう、雰囲気がかわいらしくなってしまっている。どうやら意中の男性の家で一晩過ごすというのは瑠唯さんのポーカーフェイスを機能不全にしてしまったらしい。なんだその男、罪深いな。罪深すぎて目が乾いてしまうね。クーラーのせいか目をシュコシュコさせていると瑠唯さんはソファに座って、隣に俺を招いてやや首を傾げながら、訊ねてきた。

 

「どうして、許してくれるの?」

「な、なにが?」

「……愛想もよくない、表情の変わらないつまらない女が、あなたの笑顔を独占すること」

 

 いや、俺そんな自分の笑顔に特別な価値見出してないし。しかも瑠唯さんとおしゃべりするの楽しいから笑ってるだけだし、瑠唯さんの第一印象なんて愛想のないヒトとかでも、クールでカッコいいとかでもなくて、でっか! おっぱいでっか! だからね。

 

「それだけで、私は宗山さんのこと、好きになってしまったの」

「あ、アリガト……でいいのかな」

 

 まっすぐってわけじゃない。普段の瑠唯さんの言葉とは思えないくらいに自信のないようにゆらゆらと揺れる感覚の、だけどはっきりと好きと言われてしまって思わず照れてしまう。なんかもう、瑠唯さんはホントに甘酸っぱいくらいの恋をしてるんだなぁって感じてしまう。そしてなにがってその相手が俺なんだよな。

 

「ずっと、倉田さんが羨ましかった、二葉さんが羨ましかった」

「……瑠唯さん?」

「天真爛漫にあなたを振り回せる倉田さんが、幼馴染としてあなたにとって特別な存在である二葉さんが、羨ましかったの」

 

 瑠唯さんはそう言うとソファの上で膝を抱えて丸まってしまった。ホントにいつもの瑠唯さんの面影はどこへやらという状態だけど、それがずっと彼女が仮面の奥に隠し続けた少女の本音だった。

 

「前に、俺に訊ねてきたよね、愛想は必要かって」

「……ええ」

「それって、その方が俺の好みだって思ったってこと?」

 

 無言で頷くことで肯定を示す瑠唯さん。そっか、確かに俺の周囲の女の子は愛嬌があって元気な子が多いもんね、特に瑠唯さんが知ってる俺の知り合いなんて、ましろちゃんとつくしと、ひまりも知ってるかな? あとイヴちゃんだもんな。

 

「俺、ましろちゃんがかわいいなって思うところはたくさんわかるよ」

 

 人見知りなのに懐くと甘えん坊になるところとかね、あとは瑠唯さんも思ってるように感情がストレートに顔に出るところとか? ひまりもそっちのタイプだよね、あれは甘えたがりというかただわがままって場合もあるけど。

 

「そう、よね」

「うん瑠唯さんもね」

「……私?」

「瑠唯さんのいいところ、たくさん知ってるつもりだよ」

 

 音楽に対してものすごくストイックなところとか、クールでポーカーフェイスなところももちろんそうだし、甘いものが好きなところとか、それを食べてる時とかはそんな普段のクールさとはまた違った一面があるのももちろん、そうだと思う。

 ──瑠唯さんを形成している八潮瑠唯というパーソナリティ。それ全部が俺にとっては瑠唯さんのよさだと思ってるよ。

 

「宗山、さん」

「俺が言えたことじゃないとは思うんだけど、瑠唯さんはもっと自分を好きでいいと思うよ」

「……本当に、あなたが言えたことでは、ないわね」

 

 まぁほら、俺はさ。こんな真面目でいい話してる最中も徐々に迫ってくるおっぱいにやや気を取られがちだからさ。我ながらなんてクソ野郎なんだろうな、そんな風に自嘲すると瑠唯さんは少し考え事をしたような仕草をしてから、何を思ったのかソファの上で四つん這いになってこっちに近づいてきた。あ、だめ、見たいけど見てはいけない! こぼれそう! 重力の神秘を感じた! 

 

「る、瑠唯さん?」

「逃げないで」

「逃げるに決まってるよね!」

 

 とはいえ俺のことが好きという気持ちだけで、自己嫌悪を押し殺してここにいる瑠唯さんを強く拒否るとましろちゃんの二の舞になりかねないので、肩を掴んで抑えることしかできない。うわ肩すべすべ! 違う! そう思っていたらするりと黒いキャミソールの肩紐が二の腕のほうへと逃げていって……ッスーやっべ。

 

「……見ましたか?」

「見てない」

「そうよね、くすんだ色だもの」

「いや特にそんなこと、キレイなピンク……とかわかんないですね、ハイ」

 

 なんの色とかは敢えて口にしない。ところでそういう誘導尋問はよくないと思います。しかもリアル先端は初めて目にしてしまったので興奮がすごい。あれだ、俺実は肉食だったわみたいな、こう……しまった、いつもおっぱいのグラビアをオカズにしてる弊害が。

 

「宗山さんって」

「なに」

「私のこと、好き……なのかしら?」

「……え」

「図星ね」

 

 さぁ、なんのことでしょう、とは言えない。いつからという問いにも答えることはない。黙秘権を行使します。俺はあくまでおっぱいが好きな一般的変態だよ。それ以上でもそれ以下でもない俺が瑠唯さんと付き合えるわけないと思ってたし音楽談義をしているだけで充分だったのに過剰供給を受けてるとかないから。

 

「……とんだポーカーフェイスね」

「あはは、瑠唯さんにお墨付きもらうなんて」

「自覚したの、最近なのね」

 

 それも図星です。最近というかマジこの家に泊まるって言われた時くらいからだし。最初はいやいや俺チョロすぎんかとなって否定し続けて夜が明けたわけだけど、瑠唯さんの言葉を聞くたび、瑠唯さんの気持ちを知るたびにその否定の壁が音を立てて崩れていくんだから。でも思えば、本格的に気持ちが向いたのは、旅行終わってちょっとしてからだと思うよ。

 

「でも! でも付き合うとか……その先のこととかは今はナシにしてほしい」

「どうして?」

「いや……ゆっくり考えたいから……いい?」

「いい、けれど……ひとつ条件があるわ」

 

 なに、と訊ねて警戒を緩めた瞬間、俺の言葉と驚きが瑠唯さんの口の中に全部吸い取られていった。それはもう濃厚で頭がくらくらとしそうなくらいだ。再び復活した脳みそがようやく肩を掴んで引きはがすと、瑠唯さんの舌が名残惜しそうに俺から離れていった。

 

「ご両親がバカンスの間、私を泊めること」

「それ、瑠唯さんが決め……ていいですから近づいてこないでください」

 

 脅迫だぞこれ! そんな抗議をしたいけど私は初めてだったのよと言ってきた。俺だって初めてだよこんちくしょう! というか初めてで舌を入れるのやめてくんない!? だけど俺はもう言質を取られてしまった。ここで嘘を吐けばまた襲われる。

 

「なら、買い物ついでに着替えなどの荷物を取りにいきましょう」

「……なんでこんなことに」

「付き合うとか、その先のことはこの間に考えた方が効率いいわよ。二人でゆっくり、将来を考えていきましょうか」

「それって遠まわしに待つつもりはないって言ってる?」

「……さぁ、どうでしょうか?」

 

 そこから瑠唯さんのまっすぐで一途な、なにより好きな人からのラブコールと隙を見せると唇を奪われるという直接的なエロスを浴び続けた俺が瑠唯さんの買ってきた小さな箱の中で個包装になっているアレの表裏を間違えるという珍事を起こすのに一週間という時間はあまりにも長すぎたことを、ここに記しておく。

 ──とっくの昔に俺は負けていて、お互いに明確な言葉にすることなく恋人関係になり、そこからバイト先では知らぬもののいないバカップルと呼ばれるようになるのだった。

 

「いや俺は悪くないね」

「あら、そうかしら?」

「瑠唯はうちのバイト先のことホストかなんかだと思ってない?」

「でも大輔、嬉しそうに入ってくるわ」

「……嬉しいからね」

「私も」

「そっか」

 

 きっと瑠唯はみんなにとって、俺とはあんまり釣り合ってないキレイでクールな女性ってイメージが強いんだろうけど。俺にとってみればちょっと隙を見せると近づいてきて唇奪ってくるし、ポーカーフェイスってなんだっけってなるくらいに、でもやっぱり月光のような優しい笑みをしてくる。そんなかわいくてカッコいい自慢の、俺にとってなによりも優先すべき正義だよ。

 

 

 

 

 

 




おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№02鳴かぬなら鳴かせてみせよう:八潮瑠唯
 クールキャラにみせかけたとんだポンコツ恋愛脳。大輔が好きなのでガールズバンドの楽曲視聴も趣味になったし、おっぱいプリンなるものを調べて自分の型を取ろうとしてつくしに止められるという未来を持つバカップル。シンプルに大輔が絡むと頭が悪い。
 実のところ大輔がおっぱいが好きでよかったと思っている。それだけ夢中になってくれるから。別に他の人を多少見ようが結局は自分のおっぱいに戻ってくるので問題ナシ。恋心を自覚し始めたあたりからカタチを保つ努力も怠らないストイックさもある。


というわけで瑠唯編終了です! お次は№03大和麻弥編です!
推しは推しのまま推したいけどおっぱいは見たい!
これまで通り一日から三日ほど空きますのでご了承くださーい!


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麻弥ルート:緑の進撃
第0話:プロローグは変わらずに


え、お前変わるってゆーたやんけ。なにしてん


 ドタバタした旅行は、けれど振り返ってみれば何事もなく終えることができた。色々あったけど、まるでそんなことがなかったかのように、日常へと戻っていった。というわけでこれからも俺のおっぱい大好きな日常をよろしくな。

 

「──どうしたんですか宗山さん、遠くを見つめて」

「いや……ひどい夏休みだったなぁと」

「そうですか? ジブンはとっても楽しかったですけど」

 

 あの旅行を楽しかったって言える麻弥さんスゲーんじゃなくて俺がよくわからん渦中にいただけか。ましろちゃんとはあれからちょっとデートしたけど、流石に付き合うつもりもないのに長々と放置したら申し訳ないからと距離を置き気味だった。すまねぇ嬢ちゃん、でもこれは俺がおっぱい生活をエンジョイするためにはしょうがないんだ。

 

「いやあの後もひまりに振り回されるわ、後日改めて誘われたお泊りデートを断ったせいで透子ちゃんと色々あるわつくしの両親に突如海外まで拉致られるわでドタバタだったんですって」

「それは、ひどい夏休みでしたね」

 

 そんなこんなで夏休み最終日、俺は麻弥さんと秘密のカフェに来ていた。いや秘密のカフェというか、あれね、アイスコーヒーがおいしいお店ってやつ。麻弥さんと俺の二人で会う時はって決めてる場所でもあった。三回目だけど。

 

「そういや、サマーフェスお疲れでした」

「ありがとうございました」

「楽しかったです」

 

 サマーフェスは俺の夏休みの貴重な思い出となるでしょう。基本出場者のはずのひまりと興味があってきたらしい瑠唯さんに挟まれてご満悦な一日でした。視覚も聴覚も満足させられるなんて素晴らしいフェスだね。

 

「あ、ああ……ひまりさんにカレシ疑惑がどうとかってそれでしたか」

「ひまり怒ってましたよ」

 

 カレシじゃないし! そういうの勘違いで騒ぐのが一番イヤ! とは本人から。もう俺は誰がカノジョとかそういう噂みたいなのに疲れてどうでもいい。やっぱ恋愛ってクソだわという感情にまで発展しそうなんだけど。

 

「恋愛……ですか」

「麻弥さんは、恋とかします?」

「じ、ジブンですか? い、いやそれはもう全然で……」

 

 それに事務所に怒られちゃいますからと付け加えられ、そっかぁと納得しながらグラスのアイスコーヒーを飲み干す。麻弥さんはアイドルとしては推し! なんだけどこう、プライベートの麻弥さんだとオタ仲間というか、そういう仲間意識みたいなのを感じてしまう。それがいいことなのかはわからないけど。

 

「俺、ひまりが言うにはモテてるらしいです」

「自慢ですか?」

「まさか……なんでなんだろうなぁって思ってるだけです」

 

 モテることが自慢になるわけがない。むしろ応えられないせいでバッドステータスなんじゃないかって思うレベルだ。相手にばかり心を砕かせてしまっているという後ろめたさみたいなものまで感じてしまって、やっぱり恋愛ってクソだなとなるわけです。

 

「でも、ジブンはその……時々なんですけど、握手会でお相手の話をされるファンがいるんですけど」

 

 そんなヒトがいるんだ。俺にはわからない感覚だけど、日常のことを話す時に恋人や、時には結婚相手のことが出てくるらしい。麻弥さんはそのヒトたちが楽しそうにパートナーのことを話すたびに、素敵だなと思っていたと微笑みながら話してくれた。

 

「だから、ジブンが恋するとかはよくわからないですけど……恋愛がクソっていうのは思えない。むしろ、若干憧れもあったりして……フヘヘ」

 

 いつもの照れ笑いをする麻弥さんに、俺はそういう考えかぁと感心させられてしまった。俺は惚気られるとむかっ腹が立つんだ、どうしようもなくなぁ! ってメンタルなんでね。シンプルに心が狭いのはわかってるけどね。ムカっとするのは事実だしそもそも惚気られることが少ないからいいかなと思ってる。

 

「宗山さんって恋人いらっしゃるイメージがありました」

「俺が? ないない、ないですって」

 

 超高速否定をすると麻弥さんは性格として問題はないと思うんですけどと言われる。あるんだなぁこれが。性格がゴミだから誰も周囲にいないのだ。言ってて悲しくなるからやっぱり黙っておこう。そもそも、まぁなんだ。どこがゴミかっておっぱいおっぱいうるさいことなんだよな。

 

「俺は、モテるとかカノジョがどうのよりも、オタ仲間とこうやってのんびりオタ会話してる方が楽ですけどね」

「オタ仲間」

「あ、あーすいません。オタ仲間は言い過ぎでしたね」

 

 いえいえと否定してもらうけど、申し訳なさすぎる。仮にも相手はアイドル、芸能人で俺はその推しで……ん? 推しに個人的に会ってるのはセーフなのか? わからんくなってきた。ナシだとは思うけど、うーん別の側面の知り合いでもあるしなぁ。

 

「いえ、宗山さんに仲間と呼んでもらえるのは嬉しいことなので」

「嬉しい、ですか?」

「はい! ほら宗山さんって、なんというかその、ジブンに距離があるじゃないですか」

 

 距離がある。それはそうだろうアイドル相手だしという以前にたぶんそれはましろちゃんにも思われていたしひまりにも言われたことがある気がする。目の前で揺れるおっぱいのためを思うと踏み込むべきじゃないみたいな、そんなよくわからない壁を作っているからなんだろうな。

 ──でも、そのせいでましろちゃんを傷つけて、怒られたんだ。麻弥さんが踏み込んでいくことを望むなら、俺は。

 

「俺は、俺は……なんて言ったらいいのかな。なんというか、隠し事? みたいなこと、してるからですかね」

「隠し事?」

「言わなきゃ、変わらなきゃって思ってるんですけど」

 

 思ってはみたものの、結局俺はおっぱい大好きで影でコソコソそれを拝んでる変態という自分を変えることなんてできなくて、とりあえずちゃんと打ち明けようと思っていても、もう知ってるようなもののましろちゃんやひまりくらいにしか打ち明けられずにこのザマだ。誰か今俺を笑ったか。

 

「……変わるって、大変なことですよね」

「まぁ」

「ジブンも、アイドルとしてのジブンが信じられないって思うこともたくさんありますから」

「……麻弥さんはもう十分すぎるくらいにアイドルですよ」

「どうでしょう、少なくとも、千聖さんにこの状況を見られたらプロ意識が足りないーって怒られそうっスね」

 

 フヘヘと笑う麻弥さん。対して俺はあーいたなぁ白鷺千聖さんとかいう人、というくらいのテンションだった。いやさすがにパスパレのベースで小柄で笑顔が素敵な子ってのは知ってるよ。それって表向きの話ですよね? 本来の白鷺さんはもっとドライな性格で、花音さんの親友というか番犬なだけで。

 

「まぁでも! 宗山さんには普段、こうやって眼鏡かけている時くらいは、アイドルじゃなくてオタ仲間でいられたらとは思っちゃいますけど……なんて」

「それでいいなら、俺も麻弥さんとオタトークできるの楽しいですからね」

 

 ダメなんだろうけど、こういうのは芸能人としてはダメダメなんだろうけど。麻弥さんはすごく楽しそうで、嬉しそうで。俺も同じ気持ちになった。だけど、結局きっかけがおっぱいだったことを言えずじまいでその日は解散してしまった。

 

「……なんとかならないかなぁって」

『うーん、先輩は、麻弥さんともっと仲良くなりたいって思ってるんだよね?』

「おっぱい関係なく思ってる」

『たぶんその一言は余計だけど』

 

 その日の夜、ましろちゃんから電話が来て、どうしても声が聴きたいと甘えられてなし崩しに電話をしてしまっているついでの愚痴をこぼした。きっかけはどうであれ、今は楽器の話やバンドの話を理解してくれるオタ仲間として仲良くなりたい。本気でそう思ってるから。

 

『別に、わたしはいいと思うけどな』

「それはましろちゃんだからでしょ」

『うん、わたしだからだしそれが先輩だから』

 

 ──全部が好きと言い切った子の言葉なだけはある。触らせてって言ったら触らせてくれそうまである。そんなクソみたいなセクハラ絶対しないけど。だけど俺は、俺という気持ちを改めてましろちゃんにもらって、ありがとうと言うとデートしてくれたらいいよと即座に返事をされ、改めてましろちゃんの甘え上手さを知った気がした。

 

「俺、ちゃんと変われるのかな」

『変わっていってるよ先輩は』

 

 そんな後輩に慰められている俺を待ち受けているのは、今まで逃げてきた恋愛関係に至る道だ。同じように逃げて、関わらないように、関係ないと目を背けてきたもの同士が立場とかそんな障碍はまるでなんにもないかのようにポンと飛び越える物語だ。

 

 

 

 

 




というわけで始まりました麻弥編!
今回は似た者同士的な? 感じなので割とわちゃわちゃで終わると思う(毎回)
アイドルと付き合うための障碍うんぬんは今回ないです。推しパンで散々やったからね。仕方ないね。


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第1話:彼女へ、彼女から

ちょっとまじめ回。


 アイドルは実のところあんまりいい思いはなかった。確かに歌って踊れるってのはすごいなぁとは思うけど、そういうのに特化したアイドルでもない限りお世辞にも歌がうまいと思ったことはないし、コンテンツの売り方にも疑問が残るものばっかりで、まぁなんだろう。ありていに言えば俺の好きなバンドよりも歌もパフォーマンスも下手なのにこっちの方が人気コンテンツなのに納得がいかないってやつだろうか。だからつくしが最初にパスパレを教えてくれた時、俺は苦い顔をした。

 

「アイドルバンド?」

「そそ! ほら、大輔が言ってたじゃん。ガールズバンドが流行りだーって」

「けどアイドルかぁ……んー」

「ほら見てみて、かわいくない?」

 

 そうやって見せてくれるのは丸山彩ちゃん。ふわふわそうなクセっ毛をツインテールにした笑顔の素敵な子だなとは思った。アイドルってやっぱり笑顔がいいんだよな、この男を騙せそうな……じゃなくて作ってるとは思えないほどの自然なスマイルだよね。ただ別に音楽に笑顔を求めていない俺は、メンバーの姿を見ていく。

 

「……それで、ど、どうかな? 今度近くの野外ステージで演奏するんだって!」

「行くか」

「でも大輔はやっぱりアイドルは……え? いいの?」

「当然だろ、つくしはそういうとこ慣れてないんだし」

「本音は?」

「この子、おっぱい大きい」

「バカ!」

 

 俺が指したのは、まぁお察しかと思うけど大和麻弥さん。明らかにサイズが違う。イヴちゃんにも反応してたし日菜さんにも反応してたけどやっぱり麻弥さんだけ俺のセンサーはダンチで反応したのだった。そんなクソみたいな下心でステージ見に行って、すっかりオタクに成り果てたのが現在というわけだ。

 

「今日はありがとう先輩! わたし一人だったら絶対迷子になってたよ」

「いやましろちゃん一人でアキバは絶対やめた方がいい、危険すぎるから」

 

 そんなわけで夏休みが終わり始業式のまま帰った俺とましろちゃんは制服のまま集合してアキバデートとしゃれこんでいた。いや普通のカップルはアキバでデートはしない。なんでもましろちゃんが中学の時からハマっていた乙女ゲーの続編が出たとかで、予約していたのを取りに行きたかったのだそうだ。

 

「えへへ……よかった」

 

 袋をぎゅっと抱き込むましろちゃんは控えめに言ってかわいいがすぎる。きっと攻略されるイケメンたちも庇護欲がそそられること間違いなしだろう。

 ちなみにこのタイトル、なんの偶然か知らないが中学時代のつくしも買っていて攻略できないと手伝わされたものだ。なんで俺がイケメン攻略せないけないんだよ。まったく、主人公が巨乳じゃなきゃ絶対やってなかった。あとつくしは単純にゲームが下手っぴ。マジメ気取りでデートを断り続ければそうもなる。

 

「はぁー、満足したしこの後、ちょっとお茶していかない?」

「いいよ」

「やった、先輩の奢りだね♪」

 

 いや奢りとは言ってないけどねという言葉はどうやら聞こえていないようで、ちょっとだけ前を歩く。ましろちゃんとの関係は変わってないようで、でも確かに変わっていた。もう彼女が不安だろうとそうでなかろうと手を握ることはなくなった。でも、こうして一緒に歩いてしまうのは、その気もないのに悪いことをしている気がする。かといって、俺にはどうすることもできないんだけど。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

 

 そのままやってきたのはいつもの羽沢珈琲店だった。今日は知り合いもいないことをちょっと確認し、羽沢さんに二人ですと伝えて席に案内してもらった。そのまま気ままに駄弁っていると、いらっしゃいませと声が掛けられて俺の視界に麻弥さんが入ってきた。

 

「あ……宗山さん」

「麻弥さんこんにちは」

「あ、えと、こんにちは!」

「ああ、ハイ……こんにちは、ましろさん」

 

 挨拶をすると、ちょっと変な顔をされた。どうしたんだろうか、と思ったけどそういえば羽沢珈琲店で会うのはなんだか気まずい、みたいなこと言ってたからな。気軽に挨拶したのはまずかったのかもしれないと思ってましろちゃんに向き直る。

 

「お、お二人は……付き合ってるの、でしょうか?」

「えっ、違います」

「……付き合ってる、ふふ」

 

 いやニコニコしてないで否定しなさいよ。まぁ確かにまだ好きだと思ってくれてるんだろう状況でデートまでしちゃってる俺は確かに否定しちゃうのも悪いのかもしれないけど。でも付き合ってはないです。そこはちゃんと事実として認めようよ。

 

「……仲良くなりたいんじゃなかったの?」

「いやでも、ほら、ここで絡んだら芸能人に絡む変なやつじゃん」

 

 いなくなった後にましろちゃんにそう言われた。そうするとなんかため息をつかれてしまった。ましろちゃんがすっかり対人関係上級者みたいな顔で、ともすればひまりのような感じでいい? と咳払いの後にお説教が始まった。

 

「先に挨拶してきたのは麻弥さんなんだよ? その時点でちゃんと対応してきてほしいに決まってるじゃん」

「決まってるのか……?」

「決まってるの!」

 

 はい、と頷く。ましろちゃんの理論からいくと俺はそれを無視したヒドイ男、ということになるようだ。でも俺だったら麻弥さんが男と二人で座ってたら声掛けないと思う。そっとおっぱい眺めて終わり……だよな。まぁ男と二人ってのが想像できないけど。

 

「だから確認したんじゃないの?」

「付き合ってるかって?」

「うん」

 

 邪魔したら悪いって思ってたんだよと教えてくれたましろちゃんに、俺はうーんと頬杖を突く。それだとなんかまるで……そう、まるで麻弥さんが俺のこと、気にしてるって感じにならない? そんなことある? 

 

「ひまりさんに言われたんじゃないの? 先輩のこと好きなヒトは四人いるって」

「え、あれましろちゃんのことを気づかせるように言ったテキトーじゃないの?」

「わたしは本気だと思うけどなぁ」

 

 ましろちゃんと、あと誰と誰と誰よ。というか四人同時は完全にモテ期とかいうレベルじゃなくない? ギャルゲーかよ。ましろちゃんは確証があるわけじゃないけど、と指を三つまで折った。まじ? 

 

「好きだろうなぁって人は、わたし含めて三人わかるよ」

「……冗談でしょ」

「じゃあいないよ、わたしだけだよ……って言ったら、納得して、付き合ってくれる?」

 

 それは、と一歩引いてしまう。それが如何にましろちゃんの心を傷つけてしまう行為なのかなんてわかってるはずなのに。でも、ましろちゃんはそんな俺の内心を読み取って、大丈夫だよと微笑んでくれる。

 

「いいの、わたしは……悲しいけど、納得はしてるから」

「ましろちゃん」

「それよりも、わたしだって勇気出して、先輩に好きだよって言えたんだから……先輩も、勇気出さなきゃ」

「別に俺は麻弥さんが好きなわけじゃ……」

「そうじゃなくて、言いたいこと、言わなきゃいけないこと、ちゃんと言葉にしなきゃ」

 

 でも、俺が隠してることなんて……おっぱいだよ? 今の今まで我慢してたからこの際言うと麻弥さんだって思った時もおっぱい見てたし、なんなら今日はましろちゃんのおっぱいと顔、どっちの方をよく見てたんだろうって考えるレベルなのに。

 

「見ていいよ?」

「よくないでしょ」

「なんなら触られても、場所が大丈夫なら平気だよ」

「そういう言い方は確実によくないね」

 

 逆セクハラ禁止です! というかましろちゃんと俺の関係に限定して言うならこの状態が普通のセクハラなんだけどね! でもましろちゃんはちょっとおっぱいを強調しながら、別にわたしは幻滅とかしないよと言ってくる。

 

「それは……どうなの」

「麻弥さんだって、見られてることくらい気づいてるよ……たぶん」

「……だよな」

 

 それでもデートしてくれるってことはそれだけ気にしてないってことじゃんと押し切られる。そもそもましろちゃん曰く視線が気になるなら離れるらしい。それくらいわかりやすいのか、ちょっとショックなんだ。

 

「ほらほら、行っておいでよ」

「でも、ましろちゃん」

「……フられたんだから、一人にさせてよ」

 

 胸が痛くなる。やっぱり平気なんかじゃないのに、どうして恋をするんだろう。どうして誰かを好きになっちゃうんだろう。しかも性格も容姿も完璧なイケメンでもない、乙女ゲームの攻略対象のような男にはたぶん三回くらい転生しても無理そうな俺に。だから傷つくんだ、ざまぁみろ……だなんて言えない。でも、俺はましろちゃんから背を向けた。

 

「──麻弥さん」

「そ、宗山さん?」

「すみません急に声かけて……」

 

 ごめんね、ましろちゃん。俺がもしも、ここでそれも恋って気持ちなのかなんて言えたら、もっとましろちゃんに対して素直な気持ちを持てたら。結末は全く別だったのかもしれない。もしかしたら……なんてことを考えて、それじゃあまたましろちゃんに失礼だと頭を切り替えることにした。

 




ましろ! お前こんなところに出てきて! ましろ編終わったんだからひっこんでなさい!


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第2話:パンドラの箱

開け放たれる災厄――!

内容はいつも通りです


 ましろちゃん相手には冗談だと思ってた、なんて言ってみたけど実のところ、そんなにひまりの言葉を疑ったことはなかった。確かにひまりはよく冗談を言って振り回してはくるけど、少なくともあの状況では本当なんだってこともなんとなくわかってた。でも俺は冗談だって都合よく解釈している。

 ──だってさ、俺だよ? おっぱいがあればいい、おっぱいが正義だなんて女性に対してウルトラ失礼な宗山大輔のことを、今すぐ付き合いたいと思ってるくらい好きな子が二人、今すぐってわけじゃない事情があるけど想ってくれてる子が二人いるという事実に、俺が耐えられるはずないじゃんか。

 

「その……よかったんですか?」

「はい、って言っていいかわかんないんですけど」

 

 麻弥さんと相席になり、気まずい沈黙が流れる。いつもならここでオタトークに花が咲くところなんだけど、さっきのシチュエーションからそれはちょっと無理がある。というか元来麻弥さんも俺もそこまでおしゃべり好きじゃないんだから当然黙っちゃうんだよな。

 

「いい子っスよね」

「ましろちゃん?」

「ええ、はい……ジブンにはない、こう輝きというか、彩さんに感じたものと違うけど似たようなものを感じます」

「それは」

「ああいう子を素直、と言うんだろうなぁと」

 

 確かにましろちゃんは素直な子だ。不満があると顔に出るし嬉しいことがあると顔に出る。よくもまぁ三ヶ月も気づかなかったなと今では思う程度に、俺のことが好きって気持ちも顔に出る。それに比べればきっと、麻弥さんなんてひねくれものに入っちゃうんだろう。

 

「ジブンは、今まで諦めてきたことが多すぎて、何をどう言ったらいいのか……わかんなくなってしまったので」

 

 かわいい女の子、そんな姿への憧れ、でも麻弥さんはそれをいつしか諦めて自分には似合わない、相応しくないと遠ざけてきた。それはアイドルになってかわいいと周囲に褒められても変わることはない。

 

「化粧とか、こうスカートとか……アイドルとしては二つともよく使っているのですが、プライベートでは未だに、試す勇気もなくて」

「なんで、ですか?」

「なんで……っスか? うーん、だいたいそういうのってきっかけは()()()()()の場合が多いんじゃないでしょうか。ジブンもそうですし」

 

 だよな、と俺は小さく息を吐いた。挑戦する理由がきっかけ、挑戦しない理由はきっかけのない、なんとなくだ。音楽が好きで、バンドが好きだけど楽器を勧められて断るのに理由を探すけど、結局はなんとなく。それが普通だ。人間なんでも挑戦できるヒトなんていやしないんだから。

 

「失敗、したくないんスよね」

「確かに」

「怖いんスよ。ドラムは失敗、というかちょっとミスっても平気で、じゃあ次はとか思うのに、やってないことは失敗が怖くてしょうがない、変なハナシですけど」

 

 まるで滑りやすい緻密なガラス細工を持たされるような気分だ。触ってみなと言われて、手に持った瞬間、それがただの破片となって床に散らばるという恐怖に怯えて首を横に振るだけ。もしくは、それを見て失望する誰かを見たくないだけ。

 

「端的に言うと自分に自信がない、ですよね」

「ええハイ、そういうことになりますね」

 

 やってみなきゃわからないって言葉もある。そりゃあ、砕けたガラス細工を見て相手にごめんと明るく言えるヒトならいいかもしれない。でも俺や麻弥さんは割ったらきっと二度とその相手の顔なんて見れもしない。罪悪感でどうにかなりそうになる。次は割らないようにするからなんて、口が割けても言えない。

 

「──でも、俺は……そんな自分はやめられないけど、変わりたい。そう思ってます」

「それは、すごいことですよ……だってジブンは、今の矛盾したこの気持ちに負けそうになっていますから」

 

 矛盾した気持ち? と首を傾げると麻弥さんはハッとしてから、気まずそうに目線を逸らした。え、また俺なにかしちゃいましたか? チート能力もなければ入学試験で壁を壊してもいないけど。壁は壊したらやっちゃってるだろ。

 

「ああいえ! 宗山さんは、別に何も……」

「いやそれ逆に気になりますよ」

「ええと……その」

 

 今度は俯いてしまった、でっか、じゃなくていかん今はマジメになるところだった。今までシリアス風モノローグを貫いてきたのにここに来て崩れてきちゃったよ。よし、修正完了です。さぁこい、何を言われてもマジメに対応してやるぜ! 

 

「どんなことでも言ってください。俺と麻弥さんの仲じゃないですか!」

 

 推しって以上に今みたいに二人で話せるオタ仲間、言うならもう俺の認識としては実は麻弥さんはつくし並みのベストフレンドになれるんじゃなかろうかみたいな勢いがある。そう思って麻弥さんの悩みを取り除いてあげようと言葉を掛けた。すると、麻弥さんはおっぱいの上で手を組んだ。

 

「……胸が」

「おっぱ……胸が?」

「胸が苦しいんです、上原さんや倉田さんと一緒にいる、それどころか、二葉さんと一緒にいる姿を見るだけで」

「……え」

 

 それって何かの病気……じゃなくて、えっとなに? おっぱいが苦しいってサイズの小さい下着つけてるとかそういう? ヤバい、脳が現実逃避し始めた。取り除いてあげようと藪をつついて蛇が出てきてしまった。

 

「友達とか、オタ仲間とかそうやってジブンの中で線を作っても、ダメなんです……嫉妬してしまうジブンがいるんです」

 

 嫉妬! 嫉妬なんですか! ごめんなさい胸がって言った時点でおっぱいのことしか頭になかった俺を許してくれる優しいとかいうレベルじゃない子はこの世界にはいますでしょうか。ましろちゃんはダメ、あの子はそれでセクハラしてくるから。

 

「って、え? 嫉妬って……」

「いつから、なのかわからないんですけど……イベント終わりに一緒にご飯を食べる仲になった頃にはきっと、隣で楽しそうに話す二葉さんに羨ましいと思っていました」

「そう、ですか」

「ジブンと話している時より……倉田さんの方がずっと笑顔が多い気がして、仲良さそうで、そんな風にモヤモヤするジブンが、嫌で」

 

 ──今すぐってわけじゃない事情があるけど想ってくれる子がいるんだよ。そうひまりが言っていたのは、でもやっぱり本当のことだったらしい。その一人が彼女だったんだ。麻弥さんは、ずっと前から。

 

「でも、もうごまかせないので……聞くだけ聞いてください」

「はい」

「ジブンは、ジブンは……っそ、宗山さんが……好き、です。もうジブンは、この気持ちに嘘が吐けなくなってしまいました……ごめんなさい」

 

 謝られるのは、困ってしまう。好きって気持ちを向けられるのも。だって、俺はここでハイなんて軽く言えるようなやつじゃない。確かに麻弥さんのこと、嫌いじゃないし推しだしでこのまま応えたらきっと、毎日が楽しくなる気がする。でも、それじゃあダメなんじゃないの? と思う気持ちもある。

 

「……俺、今日ってかついさっき、ましろちゃんに告白されました」

「そ、そう、ですか……それは」

「断って、たぶんあの子、泣きながら帰ったんだと思います。我慢できるほど意地っ張りじゃないから、きっと大泣きしながら、家に」

 

 ズキリと胸が痛む。できれば、ましろちゃんの泣き顔は見たくなかった。泣かせといて言うことじゃないけど、泣かせたくないって思ってた。そんなましろちゃんをフって、麻弥さんの告白にじゃあわかりましたなんて言いたくない。それに、麻弥さんにはまだ、俺がなんで麻弥さん推しになったかも、言ってないのに。

 ──だったらホラ、俺がやることと言ったら一つだ。俺は、俺はいつだってきっとおっぱいが正義だから。

 

「ごめんなさい」

「──っ、そ、うですよね……」

「俺、麻弥さんのおっぱいしか見てませんでした」

「……え?」

「麻弥さんの大きなおっぱいが好きで、そんなおっぱいを拝みたくて推しになったし近づきました。他の女の子も、全部、全部そうなんです」

 

 そう、麻弥さんが線を引けなくなったのなら、俺から線を引けばいい。俺はおっぱいが大好きなゴミ男で、ましろちゃんも麻弥さんも、所詮はおっぱいしか見てこなかったカス野郎だから。好かれて誰かと付き合うことが、許されるはずないでしょ。

 




こじれる


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第3話:踏み込む勇気、信じる勇気

 まさかの告白、まさかの相手ということで焦りはしたけど、俺はそれを冷静に断ることができた。これにて一件落着、ではないかもしれないしスマートなやり方とは言えないけど、これでいいのだ! と俺は自信満々だった。

 

「いいわけないでしょバカ、ホントにおっぱいのことしか考えてないんだから」

「……究極にディスってくるね」

 

 事実だけど。ひまりは怒り気味にまたそういうことするんだからと俺にトゲトゲしい言葉をぶつけてくる。何がダメだったのだろうか、まさか告白されたら応えろとか言うつもりないよね? そもそもましろちゃんの時点でカスとか言わないよな? 

 

「それは言わないけど、ホラ付き合うかどうかは勝手じゃん?」

「じゃあなにがダメなの」

「断り方」

「どういうこと?」

 

 あれ以上に上手に断る方法、全然知らないんだけど。困っているとひまりはドでかいため息を吐いてきた。ひど、わざわざこれ見よがしにため息吐くの? 幸せ逃げるよ? そう言うとさらにため息吐いてくるもんだから流石にムカっとする。

 

「揉んでやる」

「できるもんならやってみなよ」

「ごめんなさい」

「わかればよろしい」

 

 負けた。俺はなんてクソザコなんだろう。というかこういうセクハラを嫌がるもんじゃないの? 俺の常識がおかしいの? やっぱり常識なんて子どものころに集めた偏見のコレクションでしかないってコトなの? 

 

「まぁ大輔の常識はおかしいよ、うん」

「嘘だッ!」

 

 俺は常識人として過ごしてきて……はいねぇや。いっつも頭の中おっぱいおっぱいでいっぱいだった。おっぱいでいっぱい、なんて三点のギャグで笑いそうになる自分が嫌だった。もちろん百点満点中の三点である。

 

「大輔さ、なんでそんなビビってるの?」

「ビビッて……る?」

「怖かったんでしょ? 麻弥さんと関係が変わるのが」

「……別に」

 

 怖かったとかそういうのじゃなくて、単純に嫌だったんだよ。何がって言われるとアレだけど自分と付き合う麻弥さんが嫌だった? なんて言ったらいい? 言葉をごちゃごちゃ並べているとひまりがわかったわかった、と頷いてくれる。

 

「恋愛なんてない、でも一緒にいて楽しいって思ったヒトから急に好きって言われて、それは違うって思っちゃったんだ」

「……まぁ、そんな感じ」

 

 もっと言うなら麻弥さんが恋するならいいんだよ。でも、恋する相手は選んでほしいっていうか、もっといいヒトなんてそれこそ芸能界に幾らでもいるじゃん? イケメンで性格までイケメンでどうしようもなくイケメンなヤツとか、語彙力ないな。

 

「大輔じゃダメなの?」

「どこにイケメン要素が?」

「顔?」

「顔で人間選ばれちゃダメでしょ」

 

 するとまぁ大輔はそこそこだけどねと鼻で笑ってきた。でも、人間は中身でしょ。身なりとか整えるのは失礼にならないようにってだけだし、中身がクソゴミの俺が顔のレベルどころか中身のレベルも高い女の子に好きになってもらうのはそれこそ世間に対して失礼だと思う。

 

「じゃあ、私が好きって言いだしても?」

「そりゃもちろん」

「ふぅん……かわいいとは思ってくれてるんだ?」

 

 何言ってるのかわからないけど、ひまりはかわいいでしょ。何かとオシャレなところもちょっとドジなところも、なんならヒトのこと振り回してる時の楽しそうな顔も全部かわいいよ。というかおっぱいだけでここまで仲良くなろうとは思わないよ。人間中身だもん。

 

「それが私に言えてなんで麻弥さんとかましろちゃんには言えないの?」

「だって、それが別に好きって気持ちなわけじゃないから」

「そんなの、二人もわかると思うけど」

 

 そう? 俺だったら勘違いしちゃうよ。そんな褒められちゃったら俺のこと好きなのかもトゥンクしちゃう。だからこそなんだけど。でもさ、それとは別にやっぱり俺があの子たちやひまりと一緒にいる時に一番考えてることがおっぱいだから、それはちゃんと嫌われるべきだと思ってる。

 

「なんで」

「気持ち悪くない?」

「相手によるでしょ」

「相手によってはいいの?」

「まだそれわかってないの?」

 

 なんで今めちゃくちゃバカにされたの? 嘘でしょ? と思ったけどそれをわかることが本当に変わることだよとひまりに指摘され、項垂れた。こんな気持ち悪い性癖を拗らせといて自己肯定感を見直せって言われても困るって。

 

「あれでしょ、好きなヒトになら……って言うんでしょ」

「まぁましろちゃんとかはそうじゃないの?」

「ひまりは?」

「前に言ったよ。覚えてないならいいけど」

 

 そんな会話をして、もう一度ちゃんと麻弥さんとお話をしてこいと檄を飛ばされて俺はトボトボと道を歩いていた。すると、前から宗山さん、と声を掛けられて顔を見上げた。そこにはお仕事帰りなのか、ちょっと化粧と変装をした麻弥さんにバッタリと遭遇してしまったのだった。

 

「あ、麻弥さん。えっと……すいません、それじゃあ」

「待って、待ってください宗山さん!」

「嫌です!」

「嫌なんスか!?」

 

 けれど面白そうとか言うクソみたいな理由で、隣にいた氷川日菜さんにあっという間に追いつかれ捕縛され、そのまま近くのファミレスに連行されることになった。フツーに全力疾走したのに追いつかれたんだけどあの子の運動神経どうなってるの? 天才ちゃんヤバすぎでしょ。

 

「……あれから、ずっと考えました。考えたんですけど」

「考えて、それで?」

「ジブンの気持ちに嘘はないし、宗山さんの言葉が本当だったとしても、ジブンは変わりません」

 

 さっきひまりにブン殴られた言葉がそのままマイルドに、麻弥さんの口から放たれる。日菜さんは面白そうな気配を察知したものの空気を読んで今おねーちゃんさんを呼んでいるらしい。空気読めたのか、あの天災ちゃん。

 

「その……宗山さんは、おっ……胸に興味があったのは、視線でなんとなく気づいていましたから」

「……非常に申し訳ない気持ちでいっぱいですけど土下座で許してくれますか?」

「い、いえっ、そういう謝罪とかは求めてないっスから!」

 

 このやり取りも何回目なんだろうな。そのくらいに俺はヒトのおっぱい眺めてる最低な日常を送っていたし、それと同じくらいみんなわかってて見逃してくれてたんだもんな。死にたい。マジで泳がされていたって事実が恥ずかしすぎて死にたい。

 

「それに、ジブンは宗山さんの言いたいこと、なんとなくわかります」

「……えっと?」

「きっとジブンも、例えばここで宗山さんに好きだと言われても……断ってしまうくらいにジブンに魅力があるだなんて、思えないんスよ」

 

 それは、確かに言いたいことがわかるわけだ、と納得した。やっぱりオタ仲間でオタトークができる割と陰キャコミュ障みがあるだけに俺と麻弥さんは思考回路が似るのかもしれない。違うとすればそれは、諦めるだけ諦めてなにも得ていないのか、アイドルになって諦めたものと向き合おうとしてるかくらいか。麻弥さんのおっぱいくらいでっかい違いだけど。

 

「でも、ジブンはジブンの感性でジブンを語るのをやめようと思うんです」

「それは……つまり」

「はい。誰かの感性を信じる。だから……誰かがジブンを好きだと言ってくれるなら、その相手のことを信じて、ありがとうと言える人間になりたいです」

 

 誰かの感性を信じる。それは、まさに俺が変わりたかったものの先にあるのかもしれないと感じた。俺も、いつかはそうなれるのだろうか、麻弥さんのように。告白されて、おっぱいが好きなクソ野郎だからやめといた方がいいだなんて無駄な断り方をしなくても、いいのだろうか? 

 

「だから……今は無理でも、信じてほしいんです。ジブンの感性を……なんて。ジブンで信じれてないのに言える話じゃないっスね……フヘヘ」

 

 ──なにより、オタ仲間だからなんて理由をつけずに麻弥さんと一緒に笑える日が来るのなら。他の誰でもない、麻弥さんの感性なら信用してもいいかもしれない。俺はまずはそう思うことにしようと決めた。

 

 




次で終わりかな?


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第4話:甘々ウィンターデイズ

まず言います。終わりませんでした。


 季節が流れた。コートとマフラーのこの時期はあんまり好きじゃない。寒いのが苦手というのももちろんあるけど、やっぱりおっぱいが見えないのが問題だと思う。そりゃ俺の好みの女性は多少厚着をしたくらいじゃ負けないおっぱいを持ってるし、セーター越しの強調されるおっぱいを見るのが一種楽しみではあるけど、道行くおっぱいを観察する機会が減るのはよくない。

 

「ダメなんですか?」

「いや麻弥さんは別、あったかくしてくれないとダメです、というかマフラーは?」

 

 そんな俺の力説をやや苦笑い気味に反応してくれるのは大和麻弥さん。あの告白以来、別にいいよとか言ってないけどやや恋人気味の距離感で一緒に過ごす間柄になっていた。観察するのにマフラーやコートでラインが隠れるのはよくないけど寒そうな恰好をされるのはもっとダメです。

 

「いやぁ、元々あんまり得意じゃなくて」

「今日は一段と寒いんですから、貸しますよ」

「え、いやいや悪いですよ」

「問答無用です!」

「そんなイヴさんみたいな!」

 

 遠慮する麻弥さんに言葉通り問答無用でマフラーを巻いていく。なんならニットもと言うがそれは全力で拒否されてしまった。似合わないって言うけど絶対そんなことないと思うけどな。

 

「手袋もしてないし」

「フヘヘ……」

「カイロ、予備あるから使って」

「あ、ありがとうございます……あったか」

 

 一緒に過ごしていて気づいたけど、自己申告で想像していた数倍、麻弥さんは自分に対してテキトーでガサツだ。千聖さんもそれに関してはあなたがなんとかしてあげるべきよ、とか抜かしてきた。おい番犬、松原花音さん以外はどうでもいいのか。

 

「あ、あの……寒くないですか?」

「平気だ──っしょい!」

 

 いきなりくしゃみが出た。さっきまでぬくぬくの首元だったのに急に吹きっさらしになったんだから当然である。風邪をひきやすい要因は温度差だからね。

 俺の様子を見た麻弥さんは慌てたようにマフラーを返そうとするけどそれはダメですと突っぱねた。

 

「でも」

「でもって心配してくれるなら自分のマフラーを持ってきてもらえると嬉しいですね」

「うっ……おっしゃる通りっス」

 

 ということで買い物リストにマフラーや手袋を加えていく。まだまだこれから寒くなるんだから買っておいた方がいい。そう言うと麻弥さんはそうっスねと笑って俺のコートのポケットに手を入れてきた。

 

「コッチの方があったかいっスね……フヘヘ」

 

 あったかいどころか顔が熱くなりそうで、チラリと麻弥さんを見ると麻弥さんもちょっと照れ臭そうに笑っていて、俺もつられて笑ってしまう。こんな風に、いつの間にか俺と麻弥さんは誰もがはよ付き合えよと言わんばかりの空気を形成するようになっていた。お相手アイドルですけどと思ったり思わなかったりしたけど、そこはあんまり問題じゃないらしい。

 

「でも手袋は買いますからね」

「はい、了解っス」

 

 こうやってデートしてる時は自分でも甘ったるい雰囲気だなと思うんだけど、俺と麻弥さんが顔を突き合わせれば話す内容は全然前と変わらないし、俺はいまだにおっぱいへの執着を忘れられない。麻弥さんと一緒にいても、おっぱいの大きな子には反応するし、なんなら麻弥さんのおっぱいに夢中だ。

 

「ジブンは見過ぎなければいいんですけど」

「すいません、気をつけます」

「そう言って何ヶ月経ったんですかね」

「……だって」

 

 苦笑いされてしまうけど、だって俺は結局、おっぱい好きな自分に正直になってしまうのよ。それは俺にとってのアイデンティティだからね! そう言うと麻弥さんはため息ひとつ零して、ジブンに向かってアイデンティティはずるいっスとむくれた。え、なに今のかわいい。

 

「きゅ、急にそういうのは反則っス、イエロー二回で退場っス!」

「ファールは五回で退場ですよ」

「競技が違いますよそれ!」

 

 そもイエローのないファールもあるけどねとは口には出さないでおく。そんな甘々な雰囲気を醸し出しながら麻弥さんにマフラーと手袋を買って、けど麻弥さんはそのマフラーを俺に手渡して、手袋の右手だけを装着した。それを察して俺も右手の手袋を外すくらいのデリカシーは、残念ながら身についてしまったよ。

 

「フヘヘ……」

「嬉しそう」

「だって、アイドルになって……正直こんな風に好きなヒトとイルミネーションの中を歩けるなんて、夢にも思いませんでしたから」

「麻弥さんも反則」

「四回までなら、セーフなんスよね?」

 

 ずる、麻弥さんも充分ずるいって。そんなクリスマスの浮かれた雰囲気の中で、俺は麻弥さんと浮かれていく。恋人でもないのに、もう気分は恋人同然だ。でも、そんな俺のブレーキになっているのは、こういう一緒にいる状況だから好きになったんじゃないかってことだった。隣にいる子なら、誰でもよかったんじゃないかって葛藤みたいなもの。

 

「宗山さん」

「ん?」

「今日は……もう少しだけ、くっついてもいいでしょうか?」

「ど、どうぞ」

「で、では……失礼します」

 

 肘に柔らかな感触があり俺の頭は一瞬で赤と緑のクリスマスカラーからいつものおっぱい真っピンクに早変わり、なんて素敵なスプリングデイズみたいな。まだ春には早すぎる気もするけど。でも、俺と麻弥さんの浮かれ具合はまだまだ加速していく。なにせ俺と麻弥さんのクリスマスはここからが本番だからね。あ、変な意味じゃないよ。

 

「予約したケーキ、楽しみっスね」

「でも、ホントに俺んちでよかったの? ほら、ここはビシっとディナーとか」

「……高級なものは、その」

「そうだった」

 

 なにせデート先にラーメン食べに行くレベルだからな、このカップル。麻弥さんはカジュアルな店じゃないと味がわからないと目を回すので。駅ビル上階のレストランとかは一度も行ったことはなかった。なんなら瑠唯さんとは行ったことあるけど。あのヒトのフォーマルな格好はセレブのそれだった、うん。

 

「それで結局、八潮さんは諦めた……でいいんスか?」

「ちゃんとフったはフった……はず」

「不安な語尾っスね……」

 

 いやだって、あの熱烈なラブコールにタジタジだったんだから。そう言うとまた麻弥さんはちょっと不満げな顔をした。かわいい、ヤキモチ麻弥さんめちゃかわいい。もうこのヒト俺の嫁でいい? いいよね? いかん、最近麻弥推しの厄介さが加速してガチ恋勢にパワーアップしてしまったからね。いやマジの意味のガチ恋。言葉にはできないけど愛してると言っても過言ではない。

 

「俺には、麻弥さんがいるからって」

「そ、そう……っスか……フヘヘ」

 

 甘々、空気中に砂糖が含まれているんじゃないかという感じだ。ケーキ屋さんで予約したケーキを受け取って……めっちゃ忙しそうで申し訳なくなりながらもおっぱいのおっきなお姉さんに丁寧にありがとうございますと受け取っておいた。

 

「また色目使ってましたね」

「その言い方は絶対におかしい」

「すぐ、胸が大きいと愛想がよくなりますからね」

「それはそう」

 

 認めるんスか! と怒られる。しょうがない、それは事実なので認めることしかできない。でも今では一番のおっぱいも麻弥さんですとも。それはそれで変な雰囲気になるので言いませんが。変な雰囲気ってそういう雰囲気のことだよって注釈はいいか。

 

「ふぅ……やっぱ家はいいっスね」

「俺んちだけど」

「いいじゃないっスか! もう慣れましたし」

「まぁ……確かに?」

 

 麻弥さんはちょいちょい家に来るようになった。いやいい雰囲気にはならないんだよ。なにせ普段はつくしも来るからね。曰く付き合う前から二人きりは不健全! だそうだ。確かに、正論だわ。

 ──とはいえそんな健全キャラのつくしちゃんも流石の今日は邪魔する気にはなれなかったらしくモニカのクリスマスライブのリハの真っ最中で、そのまま某夢の国の最上級ホテルでクリパするらしい。セレブはクソ、はっきりわかんだね。

 

「それじゃ準備しようか」

「了解っス!」

 

 でも、俺はこっちのクリスマスパーティーの方が幸せな感じがしてしまうのは、やっぱり隣にいるヒトのおかげなんだろうなと思う。ところでやっぱり巨乳にセーターは正義だなと思ったので素直にそれを口にしてソファにあったクッションを投げつけられた。解せん。

 

 

 

 




瑠唯「告白カットされた私の方が解せないわ」

というわけで終わらなかったので次回がエピローグとなります。またお泊りかよ!


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第5話:エピローグは実質の関係で

前回のあらすじ:あれから――数ヶ月。


 クリスマスといえば七面鳥だけど、実際に買うと高いので気分を味わうためにお得意のトリカラである。白髪白髭白スーツのおじさんが目印のフライドチキン専門店という手もあったけど、繁忙期ということもあり予約で長蛇の列が並ぶらしくそういった準備のない俺は諦めることにした。でも鶏肉も品薄だから笑うけど。みんな考えることは同じなのかもしれない。

 

「お、おお……! おいしそうです!」

「俺がヒトに振る舞える数少ない料理だし」

 

 冬らしくコーンポタージュにチキンライスも作って、ちょっとだけクリスマスっぽさを演出していく。当の麻弥さんは野菜スティックだからあんまり変わらないのはそうなんだけどね。でも、なんかこういうのもいいなと思えるのは隣に飾らない彼女がいるからなのかもしれない。それかおっぱいか。

 

「おいしい、おいしいけど……ケーキも入るかどうか心配っスね」

「確かに、小さいけどホール買っちゃったんだよな」

 

 テンションのままホールケーキを買ったことを多少後悔するけど、でも麻弥さんも手が止まることがなくて、嬉しくなってしまう。そのままあっという間に食べ終わり、ケーキの前にお風呂に入ってきてくださいと洗い物をする間に麻弥さんを洗面所に押し込んだ。

 

「……これ、どうなるんだ」

 

 一応、あからさまな両想いなんだけども。それこそましろちゃんの時みたいに好きです付き合いませんかって手順は踏んでないんだよね。だから俺としては恋人らしい感じでいいのか、それともオタ仲間って体裁を貫いた方がいいのかわからない時がある。テンション上がっちゃうとめちゃくちゃいちゃついてしまうらしいので、自覚ないけど。もう付き合ってるでよくない? というのはひまりの言葉だった。

 ──これがフツーの泊まりとか招いたとかなら全然耐えきれるし迷いなく麻弥さんを部屋に送ってソファで爆睡できる自信があるんだけど。なぜなら今日はクリスマスイヴ、本来は生誕を祝いながら家族で過ごす日なのにこの国は冒涜的なことに恋人と乳繰り合う日となってしまっている。所謂、性の六時間とやらは田舎のラブホも満室になるのだとか。クソだろこの国。

 

「はぁ……一応、買ってはみたんだよな、自意識過剰なような気もするけど」

「何をっスか?」

「おうふ……あれだよ、イイ感じのアクセサリー」

「いいじゃないっスか。素材はいいんですし」

「麻弥さんにその褒め方されるのはなぁ……」

「なんスか」

「いや」

 

 アクセサリーじゃなくて見た目キャラメルかなんかの箱っぽい百分の一の数字が2とか1とかのアレね。これもスーパーアドバイザーひまりの言葉なんだけど、両想いである以上間違いは起こりえると考えるべきだと。なにせしかも性の六時間とやらにガッツリ一緒にいるわけだし。

 

「……ふ、フヘヘ」

「どうしたの?」

「なんかいいなぁと思いまして、こういうの、こういうフツーの幸せがあるなんて」

 

 お風呂上りで隣にくっついてきて、シャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。俺はそんな麻弥さんの肩を、ちょっと迷ってから抱き寄せるようにした。ああもう、なんかラブコメだなぁ。

 

「宗山さん」

「ん?」

 

 見つめ合い、雰囲気的にロマンティックな感じになったなぁと流れのまま、()()()かの唇を重ねた。つくしの目を盗むようにしてちゅっちゅしてたからな、言い方は悪いけど。いやホント、秘密の恋はヒトの心を余計に燃え上がらせちゃうんだよなってのはよくわかった。つまりこの恋を成就させたのもまたつくしてわけだ。怒られそうだから黙っとこ。

 

「宗山さんは、ジブンのこと、どう……思ってるんですか?」

「好きです」

「……フヘヘ」

「チョロい自覚はあります。でも傍でこんなにかわいい麻弥さんを見ちゃったら……もう俺は突っぱねることなんてできません」

「優しいっスね」

「いや、ヒドいですよ。未だにおっぱいには浮気性なんだから」

 

 確かに、と笑われたからでも、と言い訳を重ねようとしたけど、重ねられたのは唇だけだった。千聖さんにはどこまで行ったの? と訊ねられたことがあった。つい最近のことだけど、ごまかしても優れた観察眼で見抜いてくるので正直に話したんだよな。結構いちゃいちゃしてますって。キスと触るくらいは済ませてしまっているのだ。ホントなんで付き合ってるのかどうかわかんないってなってるんだろうな。

 

「ジブンは、恋人だと思ってました」

「やっぱり?」

「宗山さんは……違ったんスか?」

 

 違ったといえば違ったけど、どういう関係なの? と知らないヒトに問われたら恋人ですって答える間柄でしたね。そう言うといつものとは違う、ふふふという笑い方で麻弥さんはまたキスをねだってくる。踏み込まなかった一線を越えるように、だから俺からも一歩踏み越えていく。

 

「……やっぱり宗山さん、おっぱい好きっスよね」

「そりゃ、俺にとってはおっぱいが正義だったからね」

「ふふ、じゃあ今は?」

「麻弥さんのおっぱいが正義かな」

「おっぱいだけっスか?」

 

 麻弥さんはもう正義とか悪とか超越してるので。そんなくだらない二元論にあっては麻弥さんに失礼なので。麻弥さんはそうだな、俺が信じるただ一つの概念というか、なんというか。そう、救いだったよ。麻弥さんは俺にとってのメシア。麻弥さんのおっぱいは正義だけど、麻弥さんは俺が俺に掛けた呪縛から解き放ってくれた救いの主だよ。

 

「ジブンにとって宗山さんは、ジブンに素直になれた、そういう意味ではジブンも救いでいいのかもしれないっス」

 

 俺と麻弥さんは似たもの同士だった。自分に自信がないから自分の好意とか自分に向けられる好意が信じられなくて、でも信じようと思うことがあったから前に進んで、こうやって今では迷いなく触れることができる。触れていいんだと信じることができるから。

 

「あ、でも……麻弥さんちょっと待って」

「なんスか? この盛り上がった状況で……」

「いや、ケーキどうしよ」

「……後でいいっスよ」

「クリスマスケーキなのに」

「さっきのご飯でお腹いっぱいなんですよ」

 

 確かにそれじゃあ後でってなるのかと納得すると首に麻弥さんの腕が俺を引き寄せていく。そのまま俺がシーツと一緒に麻弥さんを覆い隠すように、真っ暗な世界で手探りにお互いを信じて触れ合っていく。

 

「……だから」

「だから?」

「ほら……運動になるらしいっスよ」

「これでお腹を空かせようってこと?」

 

 そうっスと笑ったのがわかった。でも俺はわかってたし麻弥さんも薄々は気づいてたと思うんだよね。この状況でふぅ終わった、ケーキ食べよってなるわけないじゃんってさ。どうせ疲れてそのまま朝が来て、冷蔵庫に冷えたままの早めにお召し上がりくださいと記された箱に向かって朝食べるかどうか迷うという一幕があるに違いないと。だから本当は麻弥さんより前にケーキを召し上がるべきだったと思うんですよ、という言葉に返ってくるのは恥ずかしそうな顔とクッションなんだろうなって。

 

「……言った通りになったっスね」

「規定事項でしょ、六時間あるんだから夜中だよ夜中」

「でも、止めてって言って、止まれたんスか?」

「麻弥さんこそ」

「フヘヘ……どうでしょう?」

 

 翌日の朝ごはんとなったクリスマスケーキを消化するために、俺と麻弥さんは運動、ではなく出掛けることにした。モニカのクリスマスライブに向かい、出演者のつくしに洗いざらい話してこれからはついてくるなよと念押ししなきゃいけないからな。

 

「ジブン、あんまりロングでもスカート履かないんスけど」

「だね」

「これから、宗山さんと会う時は……挑戦してみようと思います」

「心境の変化だね」

「ハイ、最悪脱がずにでき──」

「──やめない? そういう話やめようね?」

 

 余談にもほどがあるんだけど瑠唯さんがそうやって言ってたらしい。脱がす回数が少ないから効率的じゃないですかじゃねぇんだよ! あの子実は割とアレだよねということに気づかされた頃にはすっかり麻弥さんは瑠唯さん直伝のムード作りを習得してしまった後だった。

 ──まぁでも、そんな麻弥さんも俺にとっては気持ちを預けて、預けてもらうことに対して疑うことなんて二度としない。麻弥さんのことを、俺は信頼して、信頼してもらっているから。




おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№03二人で進むカップル道!大和麻弥
 自分に自信がなかったからオタ仲間と胡麻化していたけどあふれる想いは彼女を乙女にしました。あとアイドル活動を通して認められることへの嬉しさみたいなのを感じていたのでそれを大輔に伝えることで無事に押し切った。まさに進撃のドラマー。ちなみに呼び方はあと数年は変わることはない。
 おっぱいが好きは好きでいいし目でおっかけるのもセーフだけど対応が露骨に変わるのだけはムカつくこともある。そうだから女癖が悪く見えるんスよ。


というわけで麻弥編完結でございます。
次回「№04」のキャラは当日公開するのでよろしくお願いします! もうバレてるような気がするけどね。


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紗夜ルート:青の連撃
第0話:プロローグは幼馴染と


待たせたな!(段ボールから姿を現しながら)


 俺の日常は再び構築された。だけど俺は旅行終わりにあることを決めた。それは勇気ある一歩であり、俺にとってそれは我が身の一部を切り取るような辛く苦しい決断でもあった。

 ──って言ったらつくしにガチで呆れられたんだけど。

 

「俺、おっぱい断ちしようと思う」

「禁煙的なノリだね」

「それは、どういう意味で?」

 

 もちろん続かなさそうって意味だよと笑顔で言いながら羽沢珈琲店のオレンジジュースを飲む幼馴染に俺はキレちまった。うちに屋上はない。でも、なんでおっぱい断ちなんて言い出したの? と問われるとそりゃあ、と旅行で自分がやってきたことのツケを払わされたからだよ。

 

「人間関係の話になる以上、おっぱいおっぱい言うわけにはいかないでしょ」

「しかも男女関係ね」

「そう……ん?」

 

 なんか言い方おかしくない? そう問いかけるとつくしはきょとんとした表情でましろちゃんと付き合うんでしょ? なんてことを言い出してきた。いやいや、そんなわけないじゃん、なんで付き合うって話になったの? 

 

「え、二人で一晩明かしたから」

「明かしてないよ」

「そうなの?」

 

 そうなの。ましろちゃんは最後の最後まで抵抗したんだけどあやしてたらそのまま布団でぐっすり。俺ははだける浴衣なんかにどぎまぎしつつ外で一晩明かしたんだから。寝てなかったんだよな。

 

「そんなの……言ってくれれば、話し相手になったのに」

「つくしはその時点で寝てたって瑠唯さんに聞いたけど」

「う……」

 

 んでそのまま星を観てた紗夜さん日菜さん、こころさんと合流して事情を話したことも相まって急遽新しい部屋を用意してもらったという流れだった。そして翌日はRoseliaに合流させてもらったんだけど。

 

「なるほど、で?」

 

 色々あって、帰りのバスでは隣が紗夜さんだったじゃん? その時にましろちゃんのことはちゃんと断っておきたいって話をしたんだよね。その時にやっぱりちゃんと自分の悪いところを直すべきって言われて、ああそうだなぁと思ったんだよ。

 

「それで」

「そう、おっぱい断ち」

「無理でしょ」

「ちょっとは信用するもんじゃないの!?」

 

 その宣言で信用するヒトは大輔のことちゃんと見てない証拠だよと笑われる。つまりちゃんとわかってるやつからすると、俺はおっぱい断ちができるような人間じゃないって思われてるってこと? そんなはずはない。

 

「──残念ながら、事実ですよ」

「こんにちは紗夜さん」

「こんにちは宗山さん」

 

 噂? をしていたらなんとやら、その話をしていた本人でもある氷川紗夜さんが羽沢珈琲店にやってきた。相変わらずクールな表情となだらかな川だ、と考えていると睨まれる。ここまでテンプレ、ここからもテンプレ。

 

「ほら、なんにも変わってないじゃない」

「言われてるよ大輔」

「これから変わるんで」

 

 言うものの紗夜さんは腕を組んで首を左右に振って否定してきた。ひど、おっぱいおっかけるような人間関係の構築はこれからやめようと思うって言った時にはそうね、それなら私も幾分か手伝ってあげられますねと笑ってくれたのに! 

 

「それとこれは別です」

「どういうこと?」

「……わからないならいいわ」

 

 そっぽを向いて紗夜さんはやや怒ったような足取りで。俺は原因がわかるのかとつくしに視線を送るけど、幼馴染はなんにも考えてないような顔で同じように首を捻ってきた。わかんないんかい。つっかえ。

 

「でも大輔が胸のことを好きじゃなくなるとかありえないのは確かだよ」

「それは俺も思ってるよ」

「え?」

「そもそも別に嫌いになろうとか性癖を今からなんとかできるわけないだろ」

 

 人間関係におっぱい持ち込むのやめようぜって話であってベッドの下にある紳士の本棚の中身に興味を無くせって話じゃないんだよな。そんなことできるだなんてイチミリも思ってないし。ただ、その性癖基準で生きるからこうなるんだってことだし。

 

「それも、できるの?」

「わかんね」

「もう、テキトーだなぁ」

 

 おっぱい断ちというのはビッグセブンを始めとした俺の偏った人間の見方を是正するための作戦だ。無理って言うな。俺だって……俺だっておっぱいばっかで人間見てるわけじゃないんだからな。

 

「えっ、それは嘘じゃん」

「おっぱいで関わる人間選んでたらとっくの昔に幼馴染やめてるっての」

「……む」

「事実としてお前におっぱいはない。一緒に歩いてたら補導されかねねぇ程度にロリ体型のつんつるてんなんだから」

「一言多い!」

 

 俺、お前を送ってった後にポリスメンに声掛けられたことだってあるんだぞこのやろう! そのカミングアウトにさすがのつくしも俯いてそんな、と絶望していた。ちなみにそんな体験なんてしたことないし嘘だから安心していいぞ。

 

「息を吐くように嘘吐かないでくれる?」

「実際はショッピングモールでお前のトイレ待ってる間に店の私服警備のヒトに声掛けられただけ」

「まったくまた嘘ばっかり」

「……嘘だったらよかったな」

 

 これは事実。さっきまで一緒にいた子は妹さん? と声を掛けられてなんのことだと思ってただの近所に住んでる子ですけどとかいう誤解される発言をしたことで問題になりかけた。そんなこともあろうかと二葉つくしのプロフィールと保護者の連絡先は暗記しているのでセーフだったけど。

 

「ああ、なんか大輔が話してるなーと思ったら」

「まぁ気にするな、お前は悪くないよ」

「ここでそのフォローは逆効果だよ?」

「知ってる」

「バカ!」

「知ってる」

 

 とにかく、とにかくだ。おっぱいで関わる人間を決めてるわけじゃないんだよ俺はさ。じゃなかったらつくしや紗夜さんなんて関わるはずがない。ただの大きさには興味ありません。ビッグセブン、準ビッグセブンクラスのおっぱいがいたら私に紹介しなさい以上で終わりだよ。そんな憤慨されるような驚愕の性格した覚えはない。

 

「大輔は」

「……ん?」

「もう、誰かを好きにはならないの?」

「なんだよ藪から棒に」

 

 帰り道、つくしはそんなことを訊いてくる。誰かをって俺が好きになったのつくしだけだからまるで恋多き男性のように言われるのは癪なんだよな。そんな抗議を言うとホラいたじゃんと指摘される。

 

「……あ?」

「おっぱいが大きな先輩」

「あーおっぱいしか見てなかったから性格とかは」

「そうなの?」

 

 確かにそんな先輩もいたけど、そのヒトのせいで確かにいたいけな男子だった俺はおっぱい大好き変態に成り下がったけど。疎遠になった原因はそっちじゃなくて一緒にいる度に夫婦だなんだと噂されたことなんだよな。そういうのが恥ずかしくなってしまう時期に、何度否定しても同じ話をされれば、距離を取りたくもなる。

 

「実際に好きでも言われれば否定したくなるんだよなぁ」

「確かに」

「でも、そのせいでつくしにヒドいこと言ったのは今でも悪かったと思ってる、ごめんな」

「気にしてないよ」

「それは嘘だろ」

「今は気にしてないもん」

 

 じゃあ当時はだなんて訊ねるまでもないことだろうな。あの頃のつくしにとって俺って存在は幼馴染とか初恋とかとはまた別に、大きな心の支えというか、日常の一部だったのに。俺がそれを勝手に壊して、挙句背を向けた。それを、俺は今でも後悔してるよ。

 

「そっか、じゃあさ」

「ん?」

「……そういう大輔の優しいところ、紗夜先輩にも見せてあげたらいいんじゃないかな」

「紗夜さんに?」

「うん」

 

 俺の前に出てきたつくしの言葉の意図がわからずに首を捻る。そもそも優しいって言われるとむず痒いけど。するとつくしは紗夜先輩はたぶん大輔のこと、おっぱいが大好きなだけの最低男ってだけだと思ってるんじゃない? と言ってきた。あってるあってる。間違ってないよ。

 

「それだけじゃないよ、大輔は。というかそれだけのヒトに初恋なんてしないよ」

「どうだか」

「もう!」

 

 傍にいる男なんて俺しかいなかったからな、そうなるのはある種必然だった。そうは思うけどつくしにとっての宗山大輔は、確かにおっぱい大好き変態ってだけじゃないんだろう。そもそもじゃなきゃこうして疎遠だった過去を忘れるくらいの仲の良さになったりはしないよな。

 

「私はほら、大輔のことなんでも知ってるから」

「だな」

「大輔はもうちょっとでいいから他のヒトにも、紗夜先輩にもそういうところ見せていけたら、変わったってことになるんじゃないかなーって」

「お前天才か?」

「ふふーん!」

 

 なるほどな、そうすれば紗夜さんも認めてくれるし俺もおっぱいだけじゃない人間関係が構築できる、最高! ってことだな。ありがとうつくし、と最高で天才な幼馴染でありベストフレンドを送って、俺はちょっとだけ来た道を戻っていく。ほんの数百メートル、車を準備するよりも歩いた方が早くなるその数百メートルを戻り、俺は自宅のベッドにダイブした。

 ──変われるのなら、変わりたい。おっぱいが正義ってだけじゃない自分に。そのための光明を、かつて恋をしていた彼女に教えてもらい、早速とばかりにあこちゃんからのオフ会の誘いをオッケーしたのだった。

 




さぁさぁ、次のヒロインの登場だ! 本格的にルートになるのは次回からです。もちろん大トリの予定のつくしちゃんではないです!


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第1話:最大の避暑地はやっぱりお部屋

クーラーかけてれば涼しいもんな!



 夏休み最後のオフ会は夏らしいところがいい、とはあこちゃんのセリフだった。ゲームをしながら、ボイスチャットでそれぞれオフ会の予定を詰めていく。地味な周回だからこそできる会話だなと思ったのは内緒である。

 

「宇田川さんはどこか希望あるんですか?」

「海!」

「……プール、行ったばっかりだよ、あこちゃん」

 

 そういえばRoseliaでプール行ったんだっけ。でもその時に俺はダメだと紗夜さんに拒否られたばっかりだからなぁと成り行きを見守っている。あと別に海とかは何回行っても楽しいってタイプなのでいいけど。

 

「もし海だとして、宗山さんは準備、できているのですか?」

「え、うん」

 

 なにせひまりの男避けにナイトプール行ったからね。そんなことを言うとあこちゃんがイマドキっぽい! と反応を示し、燐子さんにはカップルで行くものじゃないんですかと訊ねられた。

 

「まぁ、友達同士ってのもありましたけど、ひまりはカレシも一緒に行ってくれる友達もいなかったみたいで」

「ひーちゃんに友達いないは嘘だよ」

「確かに、上原さんは友達が多いイメージですね」

 

 そんなこと俺に言われても。友達と行けよと言ったらみんなに断られたんだもんって泣きつかれたんだからしょうがないじゃん。俺はヒマだったし見返りとしておっぱい見放題なんなら多少なら触ってもいいよとまで言われたら断れないじゃん。これは墓までもってく秘密だからいいとして。

 

「ひーちゃんって、そうさんとかなり仲良しですよね!」

「いつも……一緒に、いるイメージは、ありますね」

「まぁ、私はどういう関係か知っていますから、とやかく言うつもりはありませんが」

 

 まぁね、ひまりは紗夜さんと同じように俺のおっぱい性癖を知ってる一人だから、どうしても仲良くなりがちというか旅行が終わって変わろうって後にも関わりやすいやつではあるから。でもどうやらあれでも関係を疑われているらしい。どうしたらいいんだ俺は。

 

「あーでも、夏っぽいところでオフ会したい!」

「涼めるところがいいのは確かですね、暑いところは苦手なので」

「わたしも……そっちのほうが、ありがたい、かな……」

 

 確かに、俺も望んで暑い場所に行きたくない。そもそも温泉旅行も避暑が目的だったし実際暑さからは多少遠ざかったせいで家帰った夜は廊下の暑さにどうにかなるかと思ったレベルだし。

 

「何かありませんか、宗山さん」

「俺に訊くんですか」

「別荘は?」

「ねぇよ」

 

 思わずため口で返してしまった。うちのことお金持ちだと思ってた? 残念! うちは母がお嬢様なだけの中流階級です~! なんなら白金家と宇田川家の方がたぶんお金持ちです~! そうやって煽るとわたしの両親にあるか訊ねてみますと言い出した。ほら見ろお金持ちじゃないか! 

 

「りんりんの部屋広いよ」

「そうなんだね」

「だってピアノドーン! で、画面三つでっかいのあるからね!」

 

 そういうあこちゃんちもドラムを叩くスペースがちゃんとあるらしい。うちはそんな広くないし多分紗夜さんもリアクション的にそれほどめちゃくちゃ広い! って部屋ではないと思われる。

 

「やっぱり、近くにはないから、泊まりなら……って」

「泊まりならあるのね」

 

 やがて戻ってきた燐子さんの言葉に紗夜さんがちょっとトーンを落としてツッコミを入れていた。先を越されてしまった。小さな山の中腹にあるコテージでなんでも近くに流れる川は流れが穏やかだから川遊びもできるのだとか。その一言にあこちゃんが行きたい! と画面の向こうで目を輝かせる姿が想像できた。

 

「また……水着ですか」

「いいじゃないですか! 紗夜さんの水着! そうさんも見たいよね?」

「まってあこちゃん、それはなんて答えても怒られるやつだよ」

 

 それにしても燐子さんの水着か……揺れるのかな。ついつい真剣にそんなことを考えてしまっていた自分がいて、首を横に振った。いかんいかん、変わるんだろ宗山大輔! そのお前が燐子さんの水着を妄想しててどうする! 

 

「な、なにか想像していませんか宗山さん?」

「……別に、なにも」

「まったく……」

 

 ほら見ろ怒られちゃったじゃないか! 理不尽なことをあこちゃんにぶつけたい気持ちになったがそれは抑えておくとして。夏の合宿オフ会の目的として、顔を合わせてレイドイベントをすること。あと川遊びとかバーベキューをして親睦を深めることが挙げられた。川遊びやバーベキューはシンプルにあこちゃんのやりたいことでもあったけど。

 

「基本的な……用品等は、こちらで用意、するので……」

「私たちは衣服などの泊まり用具一式ですね」

「あと水着!」

「キャンプで汚れるといけないので……そちらの、配慮もお願い、します」

「ジャージとかでいいかな」

「いいと思いますよ」

 

 我ながらなんて忙しい夏休みなんだろうか。でもきっとこういう慌ただしくて楽しい夏休みは今年だけなんだろうという思いもある。何せ俺は変わらなきゃいけないから。変わる前に燐子さんの水着が拝めるというのは神、ひいては紗夜さんの慈悲によるものなのだろう。ダイナマイトボリュームのおっぱいが揺れるのが最後に見られるなら、安いものだろうな。

 

「ん?」

 

 それじゃあと解散になり、風呂上りに俺はスマホに着信が来てることに気付いた。つくしか、それともましろちゃん……と考えてあの子はもうないんだろうと思いなおす。じゃあつくしかと折り返そうと中身を見ると、意外すぎる名前、白金燐子という名前が刻まれていた。

 

「……あ」

「もしもし?」

「……もし、もし……あの、急に、かけてごめんなさい」

「いえ、お風呂だったので」

 

 これが風呂前につくしから連絡あったり、前までならましろちゃんが電話したいって言いだすからと防水ケースに入れたスマホを風呂に持ち込んでそこで半身浴しながら長電話というのもたまにやっていたが、手放していたのが原因で長く気づけなかった。謝りながらも、どうしたんですか? と珍しいなんてものじゃない電話相手に訊ねた。

 

「あ、あの……きゅ、急なお願い……なんですけど」

「はい」

「オフ会、前に……二人で、出かけることって……できますか……?」

「なんだ、そういうことなら、いいですよもちろん……ん?」

 

 ん? 今このヒトなんつった? オフ会前に出かけることってできるか? うんできる、でも確かに俺は()()という単語を聞き逃さなかった。わざわざ二人で? しかも俺のことってか男性が割と苦手な燐子さんと? 

 

「えと、なんというか、俺からいうのはおかしい気もするが、大丈夫です?」

「は、はい……たぶん」

 

 多分じゃダメでしょう燐子さん。とは言うが、燐子さんとしてはどうしても俺に二人で会いたいという意図があるらしい。マジか、ここで燐子さんとのデートイベントとか、フラグ管理どうやったんだろう、周回プレイでじっくりおっぱい眺めたいから調べて攻略サイトに載っけときたいな。

 

「では、明後日の……朝に」

「はい」

「おやすみなさい……」

「おやすみなさい」

 

 電話を切って、ベッドに放り投げて、長い長い息を吐く。おお神よ、また俺なにかしちゃいましたか? これは祝福か試練か転生特典のどれ? 俺そんな敬虔な信徒として神に仕えたつもりはないよ。たぶん前世でも。

 ──とりあえず枕に思いっきり叫び声をぶつけて近所迷惑にならないように吐き出してからひまりに電話して相談することにした。返事は変わるんじゃなかったの? という至極全うな正論だった。正論で殴るのは反則だって言ってるじゃんか。

 

「ここで男性の目線に耐性のない燐子さん相手におっぱい大好きしたら大輔のこと罵ってあげるね」

「……どうぞ」

「諦めるの早すぎだよ、変態」

「既に罵ってるじゃないか!」

 

 私は別におっぱい大好きな大輔のまま関わってもいいって思ってるから耐えきれたらデートしてあげるねとご褒美の約束をして、俺は燐子さんとのデートに臨むことになった。ところでひまりはそれでいいのかなとたまに思うんだけど、本人はいいって言うんだよなぁ。よくわからんけど、おっぱいはほしい。まだ何にも変われない俺はそう思ってしまうのだった。

 

 

 




――燐子、動きます。


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第2話:動き出したビッグワン

足りてなかったから差し込み投稿します、すまん。


 燐子さんとデート……でいいのか? 燐子さんに二人で出掛けられませんかとかいうとんでもなく予想外の提案になんだかんだ色んなおっぱいとデートしてる俺であっても緊張を隠せずに駅の改札の前で待っていた。

 

「あ……お待たせ、しました……」

「いえ、今来たとこですよ」

「……は、はい」

 

 正しくは十分以上前には着いてたけど今涼んでたコンビニから出てこの改札真正面の場所まで来たところである。嘘はついてない。でも燐子さんにこの常套句はダメだったようで若干引き気味だった。まずったかもしれん。

 

「いえ、あの……やっぱり、慣れて……いるのだな、と」

「え?」

「デート慣れ、しているので……」

 

 デート慣れ? ひょっとしてひまりとつくしにダメ出しをされ続けた結果、常にデートの待ち合わせに点数を付けられることになった俺のことを言ってるのだろうか。認識の相違がすごいな。そんな特にひまりによる厳しい精密採点デラックスのおかげで燐子さんの服装や髪型をまじまじと見てしまう。いや髪型も服装も特段オフ会で見かけるものと変わってないんだけど、やっぱこれをお嬢様っていうんだよなぁと感心してしまう。

 

「あ、えっと……その、あんまり……見られると……恥ずかしい、です……」

「ああすいません。今日のコーデも上品で見惚れてました」

「……そういうのも、恥ずかしいので……だめです」

 

 だめだったらしい。服装は褒めろがうちの上官の絶対命令なんだけど。というか女子は褒めろが上官の教えなんだけど、恥ずかしがりで引っ込み思案な燐子さんには逆効果らしい。割と性格が似てる感じのするましろちゃんはめちゃくちゃ喜んでたんだけどあれは、あれは好感度の問題だなたぶん。

 

「じゃあ行きましょうか」

「は、はい……」

 

 俺のことどころかそもそも対人ダメダメが基本の燐子さんの緊張を解すために共通の話題であるゲームの話をしながらショッピングモールへと向かっていく。いつものデートよりも腕一本分距離を開けて、そして未だ読めてない燐子さんの真意を推し量る意味もこめて。

 

「今度の……オフ会で、着ていく服を……用意できていなくて」

「オフ会で?」

「はい……バーベキューをするのに、こういう……服では、いけませんから……」

 

 なるほど、確かにひらひらゴシックでバーベキューは危ない。わんちゃん燃える。それに川遊びをするために濡れてもいい服の下に水着を来る、という紗夜さんが水着を俺に見られたくないがために立てた作戦のために、ややシンプルな水着を買いたいとのことだった。

 

「で、それを一緒に選ぶ相手が、俺なんですか?」

「……せっかくなので、男性の意見も……と思って」

 

 ちょっと目が泳いだからまだ別の目的がある気はするんだけど、そこはいいや。燐子さんがわざわざ対面で話すのが苦手な俺をサシで指名してきた理由なんて、会話してればわかることだろうし。

 

「燐子さんって普段は自作? してるんだよね、あこちゃんが言ってたけど」

「は、はい……ですが、今回は、あまり時間が……なかったので、それに」

「それに?」

「……スキニーや、ジーパンが、わたしに似合うとは、どうしても思わないので……」

 

 わかる。燐子さんはスカート一択な感じする。おっぱいが大きいからあんまりシャツ的なのも持っていないらしい。おっぱいが大きいは勝手予測しましたごめんなさい。そんな風に服を選んで、昼ご飯をどうですかとお店に入る。

 

「……あの」

「はい」

「えっと……氷川さん、の……ことで」

 

 注文し終わって数分後、やや視線が俺から見て左下に泳いでいた燐子さんが口を開いた。──やっぱりなと言うべきか、燐子さんが口にした名前は氷川紗夜さんのことで、最近の紗夜さんのことについて色々訊ねられた。と言っても俺、旅行以来会ってないんですけどね。

 

「あれ……そう、なんですか……?」

「会ってないというか、羽沢珈琲店でばったり会ったきりというか」

「なんだか……宗山、さんに対して……その、最近変わったなとか、思いますか?」

 

 よくわからない質問に俺は首を傾げてそれから横に振る。別に紗夜さんに何か違いがあるかと言われたらそれは感じない。燐子さんは俺の答えにちょっとだけ俯いて、そうですか……と息を吐いた。何かあったのかな? 

 

「いえ……ですが、氷川さんが……前までの、氷川さんなら……宗山さんと、一緒のコテージに、泊まることを許可……しないから」

「そう言われるとそうですね。旅行が直前にあったので全然違和感なかったです」

 

 なんという叙述トリック。叙述トリックって一度使ってみたかっただけだから絶対意味違うけどもう一回くらい使っておくか。なんという叙述トリック。そもそも川遊びで濡れてもいい服をとは言ったがそもそも俺がいるから水は禁止と言わないのも夏休み前とは違うところだね。

 

「……だから」

「付き合ってはないよ」

「あ……ですよね……」

「両片想いもね」

「はい……」

 

 なんでそこで残念そうな顔をするのかはわからんが、そうくると思ったぜ。安心してよ燐子さん。そもそも紗夜さんが俺をってそれはない。むしろ紗夜さんは俺のことを絶対に敵視してるからね。

 

「……そう、なんでしょうか?」

「うーん、最近はなんとなく更生しろって監視してくる立場的な」

「更生……?」

「あー燐子さんも、薄々気付いてるだろうけど、俺の性癖の話だよ」

「あ……」

 

 そうやってちょっとおっぱいを隠されると余計に見ちゃうからやめてほしい。そもそも燐子さんがコンプレックスらしいというのはひまりから散々怒られてることだから。それでも見ちゃうのが俺の悲しい性なんだけどさ。

 

「でも、宗山さんは……なんというか、優しい? 穏やかな、目で見るので……」

「それは単純に燐子さんのおっぱいに宿る神を拝んでるだけですね」

「……え」

 

 しまったつい。いやだって燐子さんは俺が出会ったビッグセブンの中で更に四天王に数えるべきパーフェクトおっぱいさんだからね。瑠唯さん、ひまり、有咲、燐子さんの四人。特に瑠唯さんと燐子さんは俺の中でトップオブトップ、双璧でありどちらもビッグセブンというかドレッドノートおっぱいというか。

 

「神……そ、そう……だったんですね……」

「いやすいません。今まで無許可で拝んでしまって、えっとお布施いります?」

「ええ……? い、いりません……! べ、別に……少し、なら、宗山さんなら……気になりません……から」

 

 俺は少しじゃないんだよなぁと思うけど。とにかく、そんなこんなで俺のこの性格が紗夜さんにはどうしても自分の胸囲としても敵対者なので。好かれているというより嫌われてる方に天秤が傾いてるとは思ってるけど。

 

「そう……ですか……えと、じゃあ……」

「はい?」

「わたしは……次のオフ会、男性に、宗山さんに……その、胸を……見られても、気にしないように、して……します」

「は、はぁ」

「……なので、代わりに……その、オフ会中に……氷川さんのこと……もっと、知ってあげて、ください……」

「知る?」

「はい……わたしが、あなたのことを……知らないように、あなたも、氷川さんのことを……誤解して、いますから」

 

 そんな難しい条件を出されて、俺はちょっとだけ悩んでからおっぱいのためだと思ってわかりましたと頷いた。頷いた時点で、もう俺は紗夜さんと向き合う資格すらないような気がするけど。

 ──結局、俺はおっぱいありきで動いてるんだもんなぁ。どうしようもない男だって呆れられることはあっても、好かれることはないでしょ。

 

「では……その、また……オフ会で」

「はい」

 

 送っていきますと言ったけどそれも断られてしまった。ひまり教官、お前の作戦、燐子さんには全部逆効果だったよ。二度とその口で上官名乗んじゃねぇ。

 ──ところでさ、ずっとスルーしてたんだけどこれ何泊するの? え、合宿ってなんです燐子さん? もちろんイベント中はずっとです、と笑顔で言われて、やっぱりりんりんさんは怖いなぁと思った俺でした。どうやら夏休みラストイベントはパソコンさんとイチャラブのようです。

 




もしや燐子編か? というミスリードを誘いたかったのに抜けてたせいで台無しに。だから正直なくても話は成り立つ。


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第3話:せせらぎと涼風

ついに始まるオフ会合宿!


 のどかな景色、小鳥のさえずりが涼しさを運んでくるような朝の空気に俺は息を吐き出す。そしてそんなテラスのてすりに腰掛け、俺はこの美しい景色に連れてきてくれた燐子さんや、それを立案してくれたあこちゃんや紗夜さんの方を向いた。

 

「……あなたたちは、なぜここに来て徹夜(オール)でゲームをするのですか」

「だってぇ~、レアドロップが、レア装備がぁ~」

「……ふふ、うふふふふ……」

 

 まるで美しい景色や小鳥の歌うような声とは正反対の死屍累々、亡者のうめき声である。止めるものがいないとこうなるのは世の必然か。というかここで残りの夏休みをみんなで過ごす合宿というのは笑える話で……あの、キミたちRoseliaはどうしたん? 

 

「Roseliaは、今井さんと湊さんが海外旅行をするので自主練習となりました」

「新婚旅行?」

「家族旅行……ですよ?」

 

 あれね、俺とつくしの家で一緒に行ってたやつね。なんでも新しい音楽を見つけてくるわだそうで。バンドの練習だけじゃなくて個人で技を磨く期間も確かに必要ですからね、と紗夜さんは補足してくれた。個人で技を磨く期間なのに、この二人はこんなんなのですが。

 

「仕方ありませんね、ベッドに行ってもらってお昼ご飯の時間になったら起こしましょうか」

「ですね、じゃあ燐子さんの方よろしくです」

 

 そういいながら小柄なあこちゃんを抱えていく、ちょっとずるいみたいな顔してるところ悪いけど燐子さん抱えるのは俺にはできません。おっぱいへの意識がすごいことになるからね。そう思っていたら紗夜さんもしばらくじっと燐子さんのおっぱいに視線を向けていた。なにしてんの。

 

「いえ……なんでも」

 

 そう言って二人を部屋に押し込めて、俺は紗夜さんと朝ごはんを食べ始めた。いいんですかね、と問うと徹夜したほうが悪いのよとばっさり切り落とされていた。紗夜さんは眠いからってとっとと寝たもんね。

 

「まったく、いくら解放されたといっても節度ある生活はしてもらわないと困るわね」

「まぁまぁ、あこちゃんたちも楽しそうだったし」

「私だって、その楽しいに水を差したくて差してるわけじゃないわよ」

「そんな怒らないでくださいよ。ほら、終わったら外でも散歩行きましょうよ」

「……そうね、朝のうちなら涼しそう」

 

 なにせクーラーいらずな感じだもんな。開けっ放しの窓から爽やかな風が入り込んでくる。ところで朝ご飯おいしいですね、というとそう? と首を傾げた。普段は朝が弱いから作らないこともありそれほど自信がないらしい。自信なくてこれですか。

 

「それにしても、不思議な感じがしますね」

「なにがですか?」

「あなたと朝ご飯を食べて、片付けて散歩に行こうとすることが、ですよ」

「合宿ですから」

 

 この空気のいい場所でゲーム合宿で引きこもるのはほら、もったいないし。そこには紗夜さんも同意だったようで行きましょうかと食器を食洗器にかけて、出かける準備をしていく。散歩でもって言ったけど見方によっては立派な紗夜さんとのデートである。本人も意識はしていないんだろうけど。

 

「ところで」

「はい?」

「変わるメドは立ちましたか?」

「あー、えっと」

「……そんなことだろうと思ったわ」

 

 突如切り出された話題に反応できずにいるとため息をつかれてしまった。嘘ついてもまぁ、さっきの燐子さんのくだりでバレてるんですけど。やっぱりね、自分の性癖だから変わろう変わろうとしても目線が吸い寄せられちゃうんだよなぁ。

 

「でも、そうですね……努力は認めますよ」

「え?」

「変わろうともがいていることが伝わるということです」

 

 伝わっているのか……なんか諦め気味なんだけど。そう思いながら歩いていると川に通じる場所にやってきた。燐子さんの言っていた通り浅めで澄んだ水が穏やかに流れていた。手ですくうと夏だということを忘れるほどに冷たくて気持ちいい。

 

「これは確かに、川遊びがしたくなるのも頷けますね」

「あこちゃんとかすっごく喜びそう」

「ですね……ふふ」

 

 どうでもいいことかもしれないけどなんだかここに来て、紗夜さんの笑顔が多い気がするなぁと微笑む顔を見て思った。やっぱり紗夜さんも都会で心が荒むのだろうか。俺は基本おっぱいがあれば都会だろうが田舎だろうが癒しは得られるけど。

 

「さて、一旦帰りましょうか」

「そうですね、遊ぶならみんなで、ですよね」

「燐子さんの胸が見たいからでは?」

「違います」

 

 確かにやっぱり燐子さんの水着は見たいか見たくないかで言ったら見たいよ! 当たり前でしょ、だって燐子さんだよ? たわわなおっぱいはもちろんのこと、黒髪ロングと日差しに弱そうな白い肌のコントラスト、深窓の令嬢のような日陰と微笑みが似合う清楚系が水を掛けられる様! 変なスイッチ入ること間違いなしでしょう! 

 

「……なるほど、事実なのね」

「なんの話です?」

「あなたは性癖を抜きとするとお嬢様然とした静かでお淑やかな女性か、スラっとして凛とした大人な女性か懐いてくれるかわいらしい女の子が好みという話よ」

「……それを、どこで?」

 

 それあれだ。おっぱいを抜きにして眺めていたい、もしくは関わっていたい女性の基準みたいなやつだ。特に前述の二つが好みで、なんでかっていうと俺みたいなおっぱい大好き変態野郎には一生縁がないからである。縁がないと思っていたんだけどね。

 

「やっぱり、忘れているわね」

「まって、俺紗夜さんにそれ教えてたっけ? いつ?」

「忘れているならいいわよ」

 

 そっぽを向かれてごめんと謝るがいいんですと立ち上がってまたコテージへと戻っていく。ああ、眉間に皺が寄ってしまった。やばいな、この合宿中にちゃんと思い出しとかないといけない。そんな気がする。そうやってうんうん唸っていると、紗夜さんがこっちから視線を逸らしたまま訊ねてきた。

 

「……どちらが好みなんですか?」

「え?」

「お淑やかなお嬢様と、その……スラっとした女性の」

「どっちか……?」

 

 やば、そんなこと考えたことがないな。おっぱいを抜きにして好みのタイプがどっちか、だよな。わかりやすい話でいくとお淑やかなお嬢様タイプが燐子さんでスラっとした大人なタイプが紗夜さんだな。すると、うーん。

 

「後者、ですかね」

「ほぼ差はないけれど、ですか?」

「いやまぁ、今まで考えたこともなかったので。でも、紗夜さんみたいにスラっとした女性をカッコいいって思う気持ちはありますね」

「……そう」

 

 それこそ、俺つくしと知り合いだからお嬢様タイプいっぱい見てきたんだよな。そうすると純粋にカッコいいヒトってのはぐっとくるというか、そもそもなんかそのカッコよさに惚れて紗夜さんと一緒にいる感じはあるんだよな。

 

「そういうことを言ってしまうのね」

「嘘ついてもすぐバレそうなので」

「それで正直になってしまうところは……好きですよ」

 

 そのセリフに俺は肩を跳ねさせてしまった。好きって単語に過剰反応するのはカッコ悪いな、えっと取り繕う……のはもう無理っぽい。紗夜さんがこっちを見てちょっと微笑んできてる。小馬鹿にしてるような感じだ。

 

「紗夜さん」

「ふふ、すみません……少しデリカシーがありませんでしたね」

「ホントに」

 

 ましろちゃんの一件以来、ちょっとそういうのは敏感なんだから。でも紗夜さんは微笑みを崩すことなく、燐子さんとあこちゃんがダラダラとするリビングに入っていった。

 ──俺の方を振り返った紗夜さんはまるで妹のかわいらしい感じの笑顔を浮かべていたような気がしていた。

 

「紗夜さん、どーしたんですか~? なんか嬉しそう?」

「……ふふ」

「べ、別に……そんなことないですよ」

 

 あこちゃんが覗き込むようにして、燐子さんが何かを察したように微笑みを浮かべていた。紗夜さんが恥ずかしそうにしている。俺はそんな三人のやり取りをぼーっと眺めながら、さっきの紗夜さんの笑顔の意味を考えるのだった。

 




おっ?


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第4話:あの子の素顔

投稿遅くなった。


 準備をしてから昼に起きた二人を連れて、紗夜さんと再び川にやってきた。その涼やかで穏やかな流れにまっさきに反応を見せたのはやはり、というべきか概念的ロリっ子のあこちゃんだった。目を輝かせて、サンダルそのままに清流に足を突っ込んだ。

 

「すっごー! 冷た~い!」

 

 そして俺たちを呼びながらはしゃぐ顔はまさにロリ。あれが瑠唯さんと同じ年にはとても見えない。二人並んだら何歳差に見えるかとても気になるところである。そもそも燐子さんと並んでる時点で年齢差をとても感じるというのに。体型以上に言動がね。

 

「ひゃ……あ、でも……気持ちいい……ね」

「でしょう!」

 

 でもそんな風にはしゃいでる二人を見るのも悪くないけど、やっぱり涼し気ってだけだからここに立ってるのは暑い、というか立ってるだけでじんわりと汗ばんでくる。ここすっごく暑いよ! って妖精さんのありがたい忠告が聞こえてきた。

 

「わ、やったなりんりん!」

 

 足を川に浸して涼んでいると水の掛け合いっこというてぇてぇな空間が生まれていた。てぇてぇのはいいんだけど二人とも服そのままにびちょびちょになってしまわれて……燐子さんなんて元のワンピースが白色だからスケスケです。なんか、いけない気分になっちゃいます! 

 

「下……水着ですから、大丈夫、ですよ?」

「そういう問題じゃ……いやそういう問題なのか」

 

 水着って服の下に着けてたらほぼ下着だよね。しかもセパレートなんてご着用されていましたらそういう目で見れちゃうのはもう生理現象というべき状態である。ああ、後ろの紗夜さんの視線が痛い。

 

「……はぁ」

「が、ガチのため息はやめてください」

 

 だけど紗夜さんは俺に対して何かを言うことなく、あこちゃんや燐子さんに持ってきていた水鉄砲を手渡していく。うう、また怒らせちゃったかな、と落ち込んでいると宗山さん、と声をかけられ顔を上げた。

 ──そこにはいたずらっ子のような顔で俺に向かって水鉄砲を構える紗夜さんの姿があり、次の瞬間には銃口から水が噴射された。

 

「うわっ! さ、紗夜さん!」

「油断しているからよ」

「油断って」

 

 そんな問答なんてお構いなしに紗夜さんは俺に水鉄砲を向けてきて、あっという間に服を濡らされる。俺だって準備の時に下は水着にしてきたけどさ。咄嗟に手元にあった水鉄砲で対抗していく。

 

「きゃ!」

 

 俺の適当に撃ったはずの水鉄砲は紗夜さんの胸元にクリティカルヒット、シャツが肌に貼り付いて上半身のラインが露わになっていく。それが恥ずかしかったのか、紗夜さんはムキになった表情で俺に銃撃戦を仕掛けてきた。

 

「さ、紗夜さん!」

「いいじゃない、どうせ洗濯するのだから」

「そういう問題じゃ……ちょっと目のやり場がないんですよ!」

「ふふ、私の胸じゃ興奮しないんじゃないんですか?」

 

 いやいや、そういう問題じゃないでしょう。そう言いながら、俺と紗夜さんは更に燐子さんとあこちゃんを交えて夕方までひたすらに川遊びに興じていった。そりゃあもう、みんなずぶ濡れでコテージに戻るくらいには。

 

「はぁ……疲れた」

「お疲れ様です」

「紗夜さん、お風呂は?」

「先にあの二人に行かせたわ、あの二人なんて思いっきり水に漬かっていたから」

「確かに」

 

 お疲れ様ですって、俺は主に紗夜さんの相手をしていて疲れたんですけどね。そう唇を尖らせるとごめんなさいと笑いながら、紗夜さんはソファのすぐ隣にやってきた。

 ──なんだろう、ううん、なんかドキっとしてしまった。さっきまでの水遊びで身体のラインが濡れ透けたせいだろうか。まさか濡れ透け性癖がこんなところで暴発するとは思わなかった。なんで好きかっていうとそりゃもう、燐子さん見てりゃわかるでしょ。おっぱいでっかい子の濡れ透けはそれだけの価値があるんだよ。でも、まぁ今回はめちゃくちゃ紗夜さんにドキドキしてるわけだけど。

 

「どうだったかしら?」

「なにが」

「目線、わからないわけがないって言ったでしょう?」

「……紗夜さんって案外いじめっ子?」

「どうかしら? あなた相手だけかも」

 

 まさかの展開だよ、俺としては。だって燐子さんのぴっちりラインが目の前にあったのに、目が離せなかったのは紗夜さんのぴっちりラインだったんだから。そりゃ、基本的にあこちゃんと遊んでいたからね、それもあるんだけど。

 

「そう、そうなのね」

「……こんなバカ正直に話していいのかわかんないんだけど」

「普通はセクハラでしょうね」

「だよな」

 

 ちょっと落ち込んでしまうけれど、私は別にセクハラだなんて思ってないわよと微笑まれる。セクハラは相手がセクハラだと思うことで初めてセクハラとなる。とすれば、ちゃんとセーフっぽい? でも嫌がってる風じゃないからちょっとだけほっとしてる。

 

「ってか、俺今気づいたんだけど」

「何?」

「時々、敬語じゃなくなってるような気がするん……ですけど」

「いいわよ、私はあなたの年上だけど、先輩になった覚えはないから」

「いいの?」

「そっちの方が、フランクな方が私は嬉しいから」

 

 はにかんだ。え、マジ? なんか紗夜さんに最近はよく違う笑いの種類を向けられることが多くなった気がする。はにかみとか、いたずらっ子みたいなやつとか、そういうの。前はツンとしてるイメージが強かったのに。今ではすっかり優しいお姉さんみたいな印象が根付いている。あこちゃんが紗夜さんは優しいんですよ! と言っていた意味がわかったよ。そして、失礼な話なんだけどあの透けた胸元見た時に、思い出したことがあるんだよね。

 

「あら、なにを?」

「笑顔が怖いです紗夜さん」

「こう見えて、割とコンプレックスなのよ? 妹と比べても小さいし」

 

 ごめん、と謝りながらでもおっぱいに関することじゃないんだよとフォローする。今回のはそれよりはるかにマトモなことで、重要なことだから。

 ──でもその時の俺は、ただ気に入られたいだけで、燐子さんのおっぱいを眺めたいが故の嘘つきだったから。紗夜さんのことを傷つけることも厭わないクズだったから。

 

「ということは、思い出したのね」

「うん……まぁ」

 

 俺は、紗夜さんと仲良くなった辺りの時に探るような顔で、口調であなたはどういう女性が好みなの? って言われたことがあった。まだ俺が燐子さんのことが好きだと思っていたころの話だったね。

 

「あなたは白金さんのような女性が好きなの?」

「ええ、っと好きっていうとスレンダーな感じの女性の方がいいかも」

「……そ、そうなのね」

 

 そう、それをずっと紗夜さんはずっと覚えていたから。俺の言動をずっと許していたんだよな。いや許してはいなかったのか。でも、紗夜さんは俺がおっぱいは別だって知ったからこそ、こうして一緒にいてくれたんだ。

 

「それはそうよ……私は、宗山さん、あなたのことが好きなのだから」

「う……マジで?」

「ええ、マジよ」

 

 そう言うと紗夜さんは俺の唇を華麗に奪ってみせた。それはもう鮮やかな手際で。まるで恋愛上級者みたいな手際すぎて一瞬このヒト慣れてるんじゃないかって思ってしまった。そんな目で見ていると紗夜さんは耳まで真っ赤になっていた。

 

「初恋ですよ」

「……俺でいいんですか?」

「二葉さんにも同じこと言うの?」

 

 ドキっとした。それは、確かに昔、俺がつくしに向けていたものや逆につくしに向けられていたものと同じ気持ちだった。

 ──ひまりの言っていた俺のことが好きな四人の人物のましろちゃん以外の一人が紗夜さんだったなんて、全然思いつきもしなかったけれど。

 

 

 




投稿ミスってたんで一時間ズレました。すまんご。
――というわけで、今回は紗夜さん編でした。


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第5話:友人として、仲間として

燐子さん回です。


 紗夜さんの言葉、告白に俺は少し言葉を失う。何か言うべきか、そう悩んでいるとあこちゃんと燐子さんが戻ってきたようで、紗夜さんはちょっと離れていく。その頬は赤く染まっていて、あこちゃんが不思議そうに訊ねてきた。

 

「紗夜さん? どうしたんですか?」

「いえ、なんでもないわ」

 

 そのタイミングで俺はお風呂先にもらうねと立ち上がった。三十六計逃げるに如かず。圧倒的に不利な状況でどうしようもなさそうな時は逃げるに限る。孫氏もきっとこういうシチュエーションを想定していたに違いない。

 

「……宗山、さん」

「あれ、燐子さん?」

「少し、いいですか?」

 

 お風呂上り、あこちゃんがお昼寝タイム……いやもう夕方だけど、疲れたのかソファですやすや寝ているところで、それを見守っていた燐子さんが俺に用事があるとかで部屋に招く。どうしよう、お風呂上りの燐子さんは約二週間ぶり二回目だが、寝間着ということもありまた別のドキドキ感がある。というか緩めのワンピースタイプなのにおっぱいでっか。

 

「紗夜さんと……何かありましたか?」

「あ、えっと……何かあったというか、なんというか……」

「……以前、相談した……内容の続き、ですね」

 

 ──なんで、と言いそうになって思い出した。そうだった。燐子さんは前に俺と紗夜さんが両片想いでやきもきしているのではないか、と思って二人で話をしてくれてたんだった。俺が否定したことで話は終わっちゃったんだけど、あの時の燐子さんの言葉は半分だけ当たってたってことだもんね。

 

「紗夜さんは……やっぱり、宗山、さんのこと……」

「みたい、告白されちゃったよ」

「……嬉しくは、ないんですか?」

 

 嬉しいかどうかでいったら、どうなんだろう。紗夜さんが俺を? って戸惑いの方が大きいかもしれない。嫌われてるとは思ってないけどいい印象を持ってないとは思ってたのに。まさかの逆だなんてね。

 

「えっと……氷川さんは、前からきっと……気になっていたのだと、思います」

「なんだろうね」

 

 どういうきっかけだったんだろうとか、そういうのはよくわかんないけど。だからこそ燐子さんは俺との距離感を見て、両片想いだって勘違いしたんだろうし。燐子さんはその言葉に頷いて、それから少し困った顔をした。

 

「……宗山さんは、どうしたいんですか……?」

「どうしたいって言われると困りますね」

 

 好きって言われて悪い気はしない。それはましろちゃんの時にも思ったことではあるけど。悪い気はしないけど、困ってしまうんだよね。どうして、って燐子さんに訊ねられるけど、俺は苦笑するしかない。

 

「嬉しいとか、やったって気持ちよりどうして俺なんだろうってなるんですよ」

「……なるほど、自分に自信が、ないから……ですね」

「それです」

 

 わかりますと燐子さんはゆっくり頷いた。そっか、燐子さんも引っ込み思案で人見知りだから自己肯定感が低いんだっけ。俺からすると燐子さんは魅力的にすぎて話しかけにくいまであるんだけど。たぶん同じゲームやってなかったら遠巻きに見守るだけのおっぱいさんだったに違いない。実際Roselia知ったばかりの頃はそうだった。

 

「わたし、から見ると……お似合い、という感じがします」

「……お似合い、って恋愛的に?」

「いえ……全体的に」

 

 全体的ってめっちゃふわっとした言葉に思わず首を傾げる。燐子さんは慌てたように矢継ぎ早に、というにはつっかえつっかえだけど会話のテンポが見ていて微笑ましくなるような二人だと、まるでその場面を思い出しているように柔らかく笑った。

 

「そうですか?」

「はい……紗夜さんも、宗山さん相手、だと……嬉しそうに会話をするので」

「そうなのかな」

 

 あ、でも燐子さんと話す時の紗夜さんは柔らかくて、あこちゃんと話す時は優しさが増してるような感じはする。オフ会メンバーの中で言うと俺に対しての切れ味は増すばかりだからなぁと言うと、それが気を許してる証拠ではと燐子さんは主張する。

 

「気を許すと切れ味が上がるのか、武器か何かですかあのヒト」

「ふふ……使い手と心を通わせると、威力が、上がる……みたいなニュアンス……ですね」

「いや、ですねじゃないです」

 

 ボケだから、乗らないでください。というか今更だけど燐子さん、俺と二人でおしゃべりしてて平気なんですね。そう言うと苦手だったらコテージで合宿なんてできませんよと微笑まれた。どういうこと? 

 

「それも、氷川さんが……宗山さんは、胸が好き……ではあるんですけど、決してそれで、わたしにいやらしい目をするような、ヒトじゃないって……」

「それで、いいって思ったんですか?」

「はい……」

「それだけで、合宿を?」

「夏休みが、終わる前に……氷川さんと、宗山さんが……うまくいくといいな、と思ったのも……あります」

 

 どうやら、あこちゃんが夏休み中に夏休みらしいオフ会がしたいという願いは知っていたからこそ、それを利用するかたちで燐子さんは紗夜さんのために、そして紗夜さんは燐子さんのねらいを知った上で俺との距離を詰めるためにこの合宿を計画したらしい。

 ──あれ、もしかして俺、紗夜さんの罠に嵌まってるという見方もできるのでは? 

 

「そう、ですね……流石、策士で……戦士です」

「後方支援で黒幕の燐子さんらしい言い方ですね」

「……氷川さんが、誰かを好きになる……というのが、嬉しかったので」

 

 そのまま、燐子さんは紗夜さんのことを教えてくれる。燐子さんが知る紗夜さんの過去というか、どうやってRoseliaとしてここまでやってきたかを。前は妹の影を振り払うため、妹から逃げるためにギターを始めて、そして技術を磨いた先で湊友希那に見初められた。未来でRoseliaと呼ばれるバンドに必要なギタリストだと確信されたらしい。

 

「……でも、その根っこにあるのは……暗い感情でした」

「だよね、日菜さん、妹を否定することでギターやってたんだから」

 

 燐子さんは頷いて、でもそれが自分の音を好きになりたいという想いを持って自分の音を奏でるためにギターを弾いていきたいと前向きなものに変わっていった。そうして、Roseliaのギタリスト氷川紗夜は形成されていった。

 

「……そっか、自分の音を好きになりたい。自分を肯定していきたい、か」

「はい」

 

 だから変わるってことに優しい目をするようになったのかもしれない。紗夜さんはそういう自己肯定をする先輩的な立ち位置で俺に話しかけてくれて、そして余計なものがいっぱいついた、その根っこにある俺のことをちゃんと見てくれた。

 

「紗夜さん……」

「やっぱり……本当はもう……答えは出ていたのでは、ありませんか?」

 

 その言葉に……俺は頷いた。紗夜さんの想いを受け取って、そして燐子さんの話を聞いているうちに腹は決まった、と思う。うん、確証はないしここでそうしようと思ってもいざ紗夜さんの言葉を聞いてどうなるかなんてわかんないんだよな。

 

「……宗山さん」

「さ、紗夜さん?」

「お風呂あがって……入ってもよろしいでしょうか」

 

 話がひと段落ついてそのまま談話していると、コンコンコンと扉を叩かれる。はいはい、と扉を開けると微笑みを浮かべて、それから……奥にいる燐子さんを見て何故か目がすっと細まった。なんで、なんで怒ったの? 

 

「白金さんが……どうして宗山さんの部屋に?」

「あ、あの氷川さん……違うんです」

「何が、違うのですか?」

「いやホントに違うんだよ紗夜さん」

「──やっぱり、何も変わらないのね。あなたは、自分の性癖に正直になってしまうのでしょう?」

 

 そう言って悲しい目をする紗夜さんに言い訳ができるはずもなく、俺は閉められた扉を見守ることしかできずにいた。

 ──え、これもうハッピーエンドで終わるんじゃないの? なんでまだ波乱起こるの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ザ、勘違い再び。その流れは共通ルートでやりましたよね?


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第6話:エピローグはネタばらし

これで終わりってマ?


 結局、あの後は紗夜さんから何かリアクションがあるわけではなく、非常に気まずい雰囲気で夕ご飯を囲んでしまった。おかげであこちゃんがすごく寂しそうで、ごめんねと謝っておいた。

 

「ちゃんと、紗夜さんと仲直りしてね!」

 

 ちょっと頬を膨らませたあこちゃんにそう言われて俺は苦笑しながら頷いた。燐子さんは自分にも責任があるのだから一緒に謝りに行きますと言ってくれたんだけど、たぶんこのパターンはまた俺と燐子さんが並んでたらこじれる気がするんだよね。

 

「やっぱり……アレ、なのでしょうか」

「いや確定だってほどそこまで自惚れられませんけど」

 

 それこそ掛けてないないけどエア眼鏡のブリッジを持ち上げて、これだとカッコよく正解を導ければいいんだけどね。俺は見たいものだけ見て信じたいものだけ信じてるし周囲に流されて考えることをやめた怠惰で愚かな人類だからね、仕方ないね。

 

「怒らせた紗夜さんを宥めるとか仲直りとか、そういうカッコいい男にはなれないから」

 

 ちょーっとモテただけで、別に俺は主人公タイプじゃない。むしろモブだよモブ。役柄で言うとたぶん男性Dくらい。ちょっとおっぱいが好きってだけの個性しかなくて、優しい嘘の音色で泣かせることもできないし、惚れられた責任を取って幸せを探してあげることもできないし、ましてや惚れてくれた女全部俺が愛してやるなんて気概も甲斐性もないし、個性の中に紗夜さんに誇ることもできない。俺が選べるのは、紗夜さんに誠心誠意、ちゃんと謝ってから説明することしかできないんだよ。

 

「紗夜さん」

「……宗山さん、どうかしましたか。白金さんとはもういいのですか?」

「うん、話は紗夜さんが入ってきた時点で終わってたから」

「そう」

 

 ノックをして部屋に入ってしまった紗夜さんと扉越しに会話をする。近づけば声が通るこの薄いドア一枚隔てて、そのまま思ったままの言葉をごめんと一緒に紗夜さんに向けていく。それはもう、必死に。

 

「何を言われても……あなたは前科が多すぎます」

「前科、か」

「そうです。事ある度に私と白金さんの胸を見比べて、言葉ではなく視線で、最低です」

「だよね……ごめん、浮かれてたのかも、俺は」

「浮かれて……え?」

 

 そうなんだよ。そもそも好きって言われて舞い上がったところアレなんだけど、俺って基本紗夜さんに対しての扱いがヒドいんだよ。というかよくよく考えたら好みのおっぱいさんじゃないからとか言って対応が雑なのは、ゴミなんだよな。ましろちゃんの一件と連続しちゃったせいで、というか最近おっぱいさん方の俺に対する評価が好意的なせいで忘れてたんだよな。

 

「俺、女の子のことおっぱいでしか見てなかったから」

「でしょうね」

「誰かに好かれるような性格じゃないし」

「そうね」

「……だから、ましろちゃんの時も、今も、本当は嬉しかった」

 

 ましろちゃんはおっぱいしか見てなかった俺の目をまっすぐ見て、泣きそうな顔で好きだよと言ってくれたことも、紗夜さんが俺はおっぱいしか見てないわけじゃないと微笑んでくれたことも。確かにどうして俺なんだろうと思ったり、結局おっぱいばっかりな男よりそうじゃない男の方がいいじゃんと思ったりする。けど、やっぱり嬉しいものは嬉しいよ。

 

「でも、俺はそんな紗夜さんの想いを踏みにじったし、もっと言うならましろちゃんの気持ちも」

「……宗山さん」

「ましろちゃん、きっと泣いたんだろうなって考えると……もっとなんかあったのかなって思っちゃうんだよね」

 

 でも情に厚いとかそんなんじゃない。つくしとバカみたいなこと言い合って、ましろちゃんやひまりに振り回されて、瑠唯さんがバイトに来てくれて、オフ会を定期的にして、麻弥さんとカフェに集まっておしゃべりして、イヴちゃんや有咲に会いに羽沢珈琲店に行く。そんな日常が、ゆっくりと崩壊していくおっぱいに囲まれた日常を、惜しいと思っただけ。

 

「……私の早とちりだ、とか言わないんですか?」

「そう思う?」

「ええ、冷静に考えて隠れて付き合ってもいない限り、私に告白されて白金さんと密会する理由は告白されたことを相談した、くらいしか思いつかないもの」

「うん、紗夜さんの言う通りなんだけどね」

 

 なんだけど、あそこでお風呂上りの燐子さんに興奮してたのも事実だし、燐子さんと仲良くなれて嬉しいって思ったのも事実。だからわざわざ紗夜さんに誤解だ! なんて言い訳する余地はないんだよ。だっておっぱい好きだし。たぶん燐子さんに確認すれば一発なんだけど視線が下に行く頻度高かったと思うよ。

 

「どうして、そういう言い方をするのよ」

「どうしてって、俺は事実を」

「あなたが私の本心を知りたくて白金さんに相談した。それを私は早とちりした。それが事実でしょう! それを捻じ曲げてまで、自分を貶める必要なんて、ないじゃない」

「俺は変わらないし、変われないから」

 

 今回のことでよくよく思い知ったよ。人間そう簡単に変われないなんてのはよく言われるけど、その通りだった。

 ──俺は変われない。これからもずっとおっぱい大好きだし、おっぱいの大きな女の子に対してだけ関わり方違うし、関わろうとする。傍にいたら紗夜さんをきっと傷つけることになるんだから。

 

「どんだけ変わろうと思っても燐子さんのおっぱいが好きで、紗夜さんのおっぱいは何も感じない。見比べちゃうし、最低なことばっかり考えてるから」

 

 そんな男を好きにならないでほしい。俺は紗夜さんって人間の在り方が好きだから。スポットライトを浴びてその中でカッコいいギターをかき鳴らす、真面目でストイックな委員長タイプの紗夜さん。そのカッコよさに、俺は憧れたんだから。

 

「そんなカッコいい紗夜さんが俺みたいなクズを好きになるなんて、ダメだよ」

「嫌よ」

「え」

 

 扉が開け放たれ、俺は紗夜さんに引きずり込まれる。ちょ、待ってこのヒト腕細いのにめっちゃ力強いな! そのまま俺は紗夜さんの部屋に押し込まれ、なんと抱き着かれた。え、ええ……どういう状況? なんかこう、良い感じにさよならしてみたいな展開を予想していた身としては困惑しかないんだけど。

 

「私は、バスの中で確かに言いましたね、悪いところは直すべきだと」

「言われたし、そうしようと思ったけど」

「違うわよ、あなたこそ、早とちりしています」

 

 え、と声が出るが、紗夜さんは離れてくれないどころか押し倒してこんばかりに抱擁の力を強めていく。あの、あのあの苦しいんでちょっと力抜いてもらえます? そうするとこういうのを人にしたのは初めてなのでとちょっと赤面された。は、なにこのヒトってかわいい系もできるの?

 

「……じゃなくて、早とちりって」

「あなたの直すべき悪いところは、どこだと思いますか?」

「おっぱい大好き変態なところ」

「違います」

「は?」

 

 え、違うの? 俺紗夜さんに言われたから直そうと思って頑張ってきたのに? でも紗夜さん俺がおっぱい基準で人間関係形成するのやめないとですねって言ったらそうですねって返事したじゃん! 

 

「胸で仲良くする人間を選んでいけないのは当然では?」

「……確かに」

「そもそも、それはもうできていますよね? 現に私がいるのですから」

「確かに」

 

 ついでに言うとつくしもな。あれ、もしかして俺とんでもない勘違いと早とちりでここ最近を過ごしてきた? そう訊ねるとええと頷き、紗夜さんはあなたの直した方がいいところはズバリとキリっとした声で俺の肩に頭を預けながら教えてくれた。器用ですね、顔はめっちゃ緩みまくってるのに。

 

「いざという時に、どうせ自分だしと思うことです」

「……そっちか」

「ええ、だから残念ながら変わっていないのは事実です」

 

 合宿中に少しは改善してると思って告白したのに、と鋭い声を出されて俺はごめんと紗夜さんの頭を撫でた。もうこのヒト離れる気はなさそうなので諦めの境地である。人間慣れが肝心って言うからね。シリアスもなんもねぇよこれ。

 

「ヒトに好きって言われた時に、なんで自分なんかが、と言わないで」

「言うよ、俺はおっぱいが正義なのに」

「いいのよ、別に正義がなんであっても。その正義に対してまっすぐであってほしいわ。ブレないあなたの方が好きよ」

「俺、ブレッブレですよ」

「なら私と燐子さんのどっちの胸が好きですか?」

「燐子さん」

 

 ほら、とついに柔らかい声になる。そこでブレないのはどうなんだ、って思うけど。でも、俺はキャラブレは起こしてないのか? わからん。とにかく紗夜さんが言う、直した方がいい悪いところとは根本で自分の気持ちを信じてあげられないところ、らしい。好きって言ってもらえて嬉しいなら、嬉しいって言ってほしい、らしい。

 

「あはは……そんな風に絆されたら、雑に紗夜さんのこと好きになっちゃうよ」

「両想いね」

「それでいいのか」

「ええ、その雑なきっかけを本物にすればいいだけなのだもの」

 

 紗夜さんは強かで、美しくて。なのに今腕の中にいるのは幸せそうに微笑むかわいらしい生き物と化した紗夜さんだった。そのまま、というかくっつかれたままで逃げられるわけもなく何度もキスを繰り返され、俺はゆっくりと頷くしかなかった。

 

「わかった……わかりました。そもそも……最初から紗夜さんのこと好きというか、人間として憧れだったし」

「ありがとう」

「ただ、ホントに俺の正義は変わらないからね」

「ええ、ヤキモチは妬くだけにしてあげるわね」

 

 そんな風にいたずらっぽく微笑むクールビューティーのかわいい一面に既にやられかけてる俺だけど、それでもおっぱいより紗夜さんを優先するようになるのには時間がかかることになる。いくら付き合っても、貧乳派にはならなかった。

 ──けど、俺にとって紗夜さんは何よりも優先して一緒にいたいヒトになる。それはまた、別の話だけれど。その時に紗夜さんは笑ってくれるんだから。

 

「変われたじゃない、私のおかげかしら?」

「そりゃそうでしょ。むしろ変えられたって方が正しい言い方だからね」

 

 紗夜さんの好き好きラブ攻撃連打によって雨垂れ岩を穿つが如く、俺はゆっくりと自己肯定感を変えられていくことになる。好きって言われたらありがとうって微笑むことができる性格イケメンになるまでそれはボコボコにラッシュされる。

 ──中身は、まだまだずっとおっぱいは正義のままなんだけどね。

 

 

 

 




おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№04そもそも胸で勝負してないから:氷川紗夜
 貧乳で例外一人を除くヒロイン。人間性でWRYYYYと殴り続けたある種正統派ヒロイン。付き合うと全肯定大輔botと化する。うんうん、それもまた大輔よね。自分の自己肯定は別の話。うちはうち、よそはよそ。
 例の如く別に性癖ならいいじゃないと思ってる。けどやっぱりコンプレックスではあるので度が過ぎると後で一定時間離れなくなる。構われたいとやってくる姿はまさに大型犬のようだと大輔は感じている。

というわけで色々ありましたが無事紗夜さん編完結しました。
ここからは夏休み終了時点で脈のなかった二人に焦点を当てたいと思います。
まずは上原ひまり編!


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ひまりルート:桃色の衝撃
第0話:プロローグ脈ナシから


最難関? なひまりだよ


 俺を大輔、とフランクに名前を呼んでくる人は家族を除けばほとんどいなくなる。基本的には宗山さんとか宗山くん。あだ名でそうさんとかそうくんくらい? 大ちゃんとか番長とか呼ばれた記憶はない。番長って言われるようなリーゼントしてないし。

 

「大輔」

「よう、どうしたのひまり」

 

 そんな俺のことを最初から大輔って呼ぶメンバーか宗山さんで止まってる人の多い中で上原ひまりだけは初期が宗山くん。そのあと呼びにくいからって大輔くんって呼ばれるようになって今ではすっかり呼び捨てが耳に馴染むという王道っぽいけど特殊な変遷を持つ人物だった。

 

「大輔こそ、どうしたのこんなところで」

「俺はましろちゃんを寝かして、どうしようかなぁって思ってるところ」

「そっか」

 

 さっきもチラリと見た浴衣姿で風呂上りですみたいな感じに髪がぺったんこになったひまりがお土産屋の前のベンチでぼーっとしてる俺に声を掛けてきた。ひまりは俺の答えにちょっとだけ悲し気な笑みを浮かべて俺の隣に座って、何故か俺に向かって頭ポンポンをしてきた。立場逆じゃね? 

 

「ほら、よく頑張りましたーてきな?」

「なんだそれ」

「だって、ちゃんとフる気になったんでしょ?」

 

 ちゃんとってなんだよと言うと、向き合う覚悟ができたって顔してたからさと笑われて、別にそうでもないと笑う。覚悟なんてできてないよ、今だってひまりの谷間凝視しちゃってたし、ましろちゃんのことも結局おっぱいとしか見れないから断ろうって思ってるくらいだしさ。

 

「大輔は、私のおっぱい好き?」

「そりゃあもう」

「ふーん」

 

 そこで即答できる程度には好きだよ。おっぱいのランク付けをしてビッグセブンなんて単語を作り出して崇める程度にはね。だけど、それは人間としてじゃなくておっぱいが好きだっただけ、いざ付き合うなんて話になるとビッグセブンがそういう対象になることはないんだから。

 

「誰かと恋したい、とかないの?」

「ないない。考えたこともないよ」

 

 付き合ってる疑惑が出るほど仲がいい子と言えば、さっき告白されたましろちゃんに幼馴染でありベストフレンドのつくし、そして隣で微笑むひまりの三人だ。だけど、ひまりはお互いにないと思ってるし、つくしは初恋同士ではあるがあくまでベストフレンド。ましろちゃんのことも、かわいい後輩ではあったけど決して、好きになってもらうほどになにかをした覚えはないんだよな。

 

「そう? 大輔って充分、女誑ししてると思うよ」

「え、例えば?」

「デートの雰囲気作りがいい」

「無意識」

 

 そうなんだと驚かれる。え、もしかして俺、無意識の領域でひまりとのデートで雰囲気づくりしてたの? そう訊ねると頷かれた。解せない。俺はただおっぱい性癖がある以上それ以外では紳士であろうとしているだけ……なのが問題なのかなるほど。

 

「雰囲気作りって具体的に、なに?」

「会話のレスポンスが上手とか、えっと服とか褒めてくれるとか、映画の時は苦手だって言ってた恋愛ものなのに感想ちゃんと言ってくれたし」

「……それだけ?」

「それだけのことができないヒト、いるもんだよ?」

 

 いるもんなのかぁ、そっかぁ。その後も出てくる出てくるひまりとのデートの行動の加点ポイントがわんさかですよ。マジで? 俺そんなモテたくてポイント稼いでたわけじゃないし。ただおっぱいに課金してただけで。

 

「大輔がそのスタンスで許されてきたのは、単にそういうフォローがちゃんとしてるからだよ」

「なるほど?」

「というか私、前に言ったし」

 

 言ったっけ? と思っていたらあれだ。ひまりに最初にバレた時のことだ。俺はバレた瞬間に土下座モードに入ってたけど、確かあの時笑い飛ばして、じゃあよし! って言ってくれたんだっけ。あれは、不快じゃないからって。エロい目じゃないから。

 

「思い出した?」

「うん、けどなんでってのは」

「あーそれ? 大輔はホントになんだろう、見れて嬉しい! で止まってるからかな」

 

 基本的に下心でおっぱい見てる時は揉みたいとか挟みたいとか、口にするのも憚られる欲望を目線で駄々洩れにしてると口にした。いや憚れよ。それに俺だってエロい妄想ぐらいはするよ、男だもん。

 

「そりゃあね、私だってすることあるし」

「……なんてリアクションしたらいいのかわかんないんだけど」

「あはは、ごめんごめん」

 

 からかって遊んでるだろお前。そういう視線を送るとその通りと笑ってくる。やっぱお前クソ、ホントお前だけはマジで許さない。いっつもそうだよな、ひまりは俺の純情を弄んでくる悪魔みたいな奴だ。小悪魔だ。

 

「ほら、今度手ブラの写メあげるから許して?」

「許した……なんて言うとでも思ったか!」

「許してるねぇ」

 

 その手に釣られる俺ではない! で、いつくれる? できれば部屋に飾って毎日感謝の土下座一万回してくるから。そのうち陽が暮れる前に終わると思う。あれ、おかしいね何の話だっけ? 問いかけると大輔が寝るとこないって話だよと言われた。ああそうだった、どうしようね。

 

「さっきこころんと日菜先輩が屋上で天体観測するって言ってたから頼めば部屋もらえるんじゃない?」

「ワンチャン訊いてみるか」

「じゃあ私が遊びに行ってあげるね」

「寝かせて?」

「今夜は寝かさないよ~」

 

 なんの冗談ですかねと笑ったけどこころさんに頼んで部屋を開けてもらったらホントにずっと部屋にいやがった。絶対許せない。なにより眠いとか言って人の布団で寝だすのがタチ悪いんだよな。クソ、手ブラ写メさえなければ許さなかったのに! 

 

「まぁまぁ、二日も私が面倒見てあげるんだから、感謝してよ?」

「ありがとう」

「ふっふっふ、もっと褒めろ褒めろ~」

「神様おっぱい様ひまり様~」

「おっぱいは余計だから」

 

 ですよね知ってた。ただ結局ひまりに頼りっぱなしな自分がちょっと嫌だなと思って俺は帰りのバスでゆっくりと言葉を選びながら隣に座るひまりにこれからのことを相談していく。具体的に変わるとはどういうことなのかと。

 

「別に、私はそういうのどーでもいいと思うけどね」

「どうでもいいか?」

「だって大輔、どうせおっぱい好きなの変えられないじゃん」

「確かに」

「即答するんだ」

 

 それは自分でもそう思っちゃうのよ。変わんねぇんだろうなってさ。ただ、その中でじゃあおっぱいありきの人間関係がいいのかっていうとよくはないんだけどさ。

 ──でもよくよく考えると、そう思うには手遅れがすぎるんだよな。

 

「まぁ、確かに?」

「でしょ」

「じゃあ、どうするの?」

「ビッグセブンから増やさない」

 

 現状控えまでは存在するから、あとは二軍を作るかどうかって話なんだよな。そういうのをやめようってことで。今ある人間関係を大切にしたい。そりゃましろちゃん始め俺の知らない三人の好きな人ってのは丁重にお断りするとしても、つくしやひまり、オフ会やその他の日常を大切にしたいよねってことだ。

 

「そっか」

「だからナイトプールとやらも付き合うよ」

「あ、それ朝とナイトプールにしていい?」

「朝も?」

「ほら、どうせ大輔のことだからナイトプールじゃあんまり水着見れないじゃん、詐欺だ! って騒ぎかねないし」

 

 そんなこと……いやありそう。めっちゃありそう。そもそも試着した自慢の水着見たくて結構アレめなデートの誘いに乗ったわけだし。朝のプールも楽しみたい。でもどうやって? そう訊ねるとじゃじゃーんと何かのメッセージを見せてきた。

 

「なに……えっと、透子ちゃん? え、二泊三日!?」

「そ、めっちゃ安くなるんでどうですかって。ベッド別で」

「そんなんアリ?」

「え、もう同じ部屋で一泊した仲じゃーん!」

 

 というわけで新幹線と電車とバスを駆使して地方にあるプールと隣接の高級ホテルに二泊三日豪華ディナーとモーニング一食付きの贅沢旅行が始まることになった。まぁ、相手はひまりだし、多少は大丈夫でしょう。なんならおっぱい見放題だぜひゃっはーな気分でいいんだよな。そうすると楽しみだって思えるから不思議だ、ひまりマジック。

 




きっかけはやっぱ劇的にならないとね!


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第1話:矛盾した関係

正直ひまりの内面が一番の伏線的なやつだと思ってる。特になにも考えてないけど。


 ビッグセブンの中で一番気安いのはもちろんひまりだと思う。前から俺の性癖、おっぱいへの並々ならぬ、って自分で言うのもアレだけど、取り敢えず恐らく男性の平均よりも相当におっぱいが好きってことを知って、それでも冗談まじりに友達をやってくれるやつだから。とはいえ、ひまりとは突発的に会わなければ基本デートしてることが多いこともあり、友達というには二人で出掛ける先はかなり勘違いされがちな場所ばっかりだけど。

 

「もしもし」

「もっしも~し! 来週暇?」

「急になに?」

「映画さ、カップル割引がある日に行きたいな~って」

 

 ──例を挙げるとこんな感じ。見たい恋愛映画が割引なんだけどカップル限定だからと俺を誘ってくる。ついでにおいしいスイーツのお店だとか、買い物の荷物持ちも手伝う。代わりに服を見てくれたりましろちゃんやつくしが喜びそうな場所を教えてくれたりしていた。言わば人間関係の相談役的な立ち位置。あとファストフードにたまに寄るとクーポンで割引できる時はしてくれる。そうやって利益を享受し合う関係だった。

 

「本物のカップルとか考えないの?」

「ないない! いいなぁってヒトもいないし」

「どういう人がいいなぁってなるんだよ」

「ん~、こうさ見た目及第点で中身がおっけーくらいじゃないとなぁ」

「具体的なラインは?」

「まぁどっちも大輔くらい」

 

 つまりどういうことだよ、と呟くと大輔がギリギリセーフ? と言ってきて流石に勘違いしそうになったこともある。ただ、知り合いの中で一番恋人にしたいのは俺で、一番距離が近いのは俺、及第点の最低ラインも俺だけど脈ナシという、俺はわけがわからないよと目が真ん丸無表情のマスコットめいた地球外生命体になった気分だよ。

 

「おっはよ~、まった?」

「今来たとこ」

「うんうん、もうちょっと嬉しそうにしてくれたら満点だった」

「採点基準むずくなってね?」

「そういうものでしょ?」

 

 いやでしょとか言われましても。ただひまりはなんかバカンスに行く前の芸能人みたいなサングラスにヒールのサンダル、水色ストライプに腰に巻かれたベルト代わりの黄色い布がアクセントとなっているワンピース。涼し気で、またおしゃれな感じがひまりらしいというかなんというか。というか腰を絞るからおっぱいが強調されてて俺としてはしょっぱなから眼福です。

 

「ふふん、お気にのやつだからね!」

 

 胸を張らないで、揺れてるから。そう言うともっと見てもいいよほらほら~とからかってくる。ひまりの絡みは旅行でされたましろちゃんの逆セクハラよりもひどいものがある。あのね、周囲のヒトも見てるから。すげ……でっか……みたいな視線浴びてるよ? 

 

「……恥ずかしいね」

「俺はいいのか」

「大輔は慣れた横からおっぱい見てくるなって思うとむしろ安心する」

「バカなの?」

「なんで今罵倒されたの私?」

 

 そんなことはどうだっていいんだよと新幹線に乗り込む。曰くひまりは新幹線にはほとんど乗ったことがないらしく流れていく景色にはやーいとか言ってはしゃいでいた。子どもみたいですね。

 

「なんで大輔は慣れてるの?」

「おじさんに時々連れられて土日で美味しいもの食べに行くとか、二葉家と旅行する時とか乗ってたんだよね」

「お金持ちっぽい発言、じゃあじゃあ、飛行機も?」

「そりゃね」

 

 海外旅行だって片手じゃ数え切れないくらい行ってるからね。何回か言ってるけど二葉家が仲良くしてくれてその甘い汁をつくし経由で吸ってただけであって、俺んちがセレブってわけじゃない。まぁそのセレブ生活が甘すぎて二葉家に入り浸ってた時期もあるんだけど。

 

「えー、私の家だったらじゃあ二葉家の子になりなさい! とか怒られてる気がする」

「はは、うちの母さんはその言葉を真に受けたクチだからな」

 

 箱入りで、でも外の世界を知りたかった母は家を飛び出して今の父とほぼ駆け落ちみたいな感じで結婚して即座に俺を妊娠したらしいし。じいちゃん、父方の祖父が父さんと一緒に直接謝りに行ったり、それこそ仲を知っていた二葉家が手を回してくれたりと色んなことが大変だった時期だよと父さんに話してもらったよ。

 

「恋って……やっぱりそんな劇的なものなんだね」

「なんだろうね」

「ましろちゃんも……他の子もそうだったんだろうね」

 

 他の子、そういやひまりは後三人、俺のことを好きな子が旅行に来てるって話してたよな。あれって結局誰だったんだ? 訊ねるとひまりは露骨に嫌そうな顔をしてくる。そういうのに気付けないタチなのにそんなつもりもないんだからさ、教えてくれないと同じこと繰り返すじゃんか。

 

「確かに……んーじゃあしょうがないなぁ」

 

 そう言って俺は、ましろちゃんの他に瑠唯さん、麻弥さん、紗夜さんが俺のことを好きだったという事実を知った。うっそだぁとは思うけど、ひまりがそこで意味不明な嘘を吐くメリットないしなぁ。そこで実は私でした~とか言われたほうが嘘っぽいし。

 

「これ聞いても、やっぱりだめ?」

「うん、みんな結局俺がおっぱいおっぱいして知り合った人ばっかだし」

 

 紗夜さんはないけど、他三人はおっぱいが大きいから関わってただけ。紗夜さんに至ってはもっと最悪で、燐子さんがおっぱいでかくてその友達だから関わってただけだし。そりゃ、俺の性癖を知っても色々と話を聞いてくれたことは感謝してるけど、俺のことを好きだったからと言われると……いや紗夜さんのことおっぱい関連で下げてばっかだったんでとしか言いようがない。申し訳なさすぎるんだよな。

 

「もったいないなぁ。私としてはましろちゃんか瑠唯ちゃんはすごいラブを感じてるよ」

「……瑠唯さんは、バイト先に来るから」

「会いたいんだろうね」

 

 しれーっとした顔で意見を参考にしたいのでとか言ってやってくるクセに実はめちゃくちゃ乙女な理由で俺のバイト先に足を運んでたことになるもんな瑠唯さん。嫌かどうかって言われたらなんかかわいいじゃんってなるけど。ましろちゃんに至っては俺が四人って言われて唯一察した人物だから割愛。

「大輔はさ」

「ん?」

「幸せになりたくないの?」

「……なにその質問、怖いよ」

 

 だけどひまりの目は冗談の色を感じなくて、誰と付き合っても正直ちゃんと幸せになれる気がするよと、例えおっぱいが好きで好きでしょうがないんだって言っても、付き合えるからこそ好きでいてくれてるんだと思うよとひまりは言った。

 

「どうなんだろうね」

「ほんとはね、私と遊んでる暇があるなら恋愛してきなさいって言いたかったけど」

 

 けど、あまりに俺にそのつもりがなさそうだったから、だったらせめて自分だけはそんな関係とか何も考えずに、それこそおっぱいこそが唯一至高の正義だと掲げたまま、楽しい思い出を作れるようにとナイトプールだけの予定を変更したのだと教えてくれた。

 

「俺さ……旅行の間とかその後とか色々、なんというか理想の恋愛みたいなのを考えてたんだよ」

「どんなのだった?」

「見た目より中身派なんだけど」

「大輔がそれ言うとめっちゃ嘘っぽい」

 

 確かにね! 俺も普段おっぱいおっぱい言ってるクセに性格の方が重要とか言うなって自分に思うもんな。でも、見た目より中身、じゃなきゃつくしに初恋はできないでしょ。いや発育する前からの恋ではあるんだけどさ。

 

「あれなんだよ、中身と見た目が七三の割合てきな」

「びみょー」

「確かに」

 

 性格は、くだらないことで笑ってくれる人がいい。俺のおふざけにも笑ってツッコミをしてくれるような、なんならおっぱい弄りに笑ってくれるのが一番嬉しいっつうか安心するっていうか。もちろん実は傷つくとかだったらダメだけど。あとはやっぱ見た目? スラっと系のお姉さんか元気なおっぱいさんか、おっぱいでっかいおっとり系の三択。

 

「ほぼおっぱいだね」

「そうそう」

「で、具体的には?」

「……いや理想だから」

 

 とはいえ性格に一番近いのはつくしかな、次点がひまり。見た目は紗夜さんひまりかましろちゃん、燐子さん花音さんあたり。リサさんも正直あり。するとどっちにも私がいるじゃんとからかうように笑われた。

 

「なに大輔、もしかして私のこと大好きなの?」

「いやお前もね」

「私は大輔のこと好きだよ?」

「そういうのはいいから」

 

 そういうところが割と嫌いと言い放つとひまりはごめんねと言いながら俺の腕に抱き着いてきた。そういうところだぞこのやろう! ただやっぱり、ひまりとのデートは気を遣う割合が少ないのはなんというか、ほっとするんだよなぁ。




ひまりにとって大輔()()()()男はアリで大輔はナシ
大輔にとってひまり()()()()女はアリでひまりはアリかナシかで言われたらアリ

みたいな関係。


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第2話:作られた紳士

お前は作られた紳士なんだよぉ!(地球外生命体並感)


 チェックインを済ませて荷物を置いて、まずはいつものようにショッピングに付き合わされる。付き合わされるというか、荷物持ちなのはまぁそうなんだけど、割とこういうのは嫌いじゃない。色んなものを見て楽しそうな相手を見るのは好きだし、またひまりならおっぱい見れるし。一番の目的はおっぱいだし。

 

「じゃあ下着も選んでもらっちゃおうかな」

「それは勘弁してください」

「なんで? おっぱい見れるよ?」

「試着する気なの!?」

 

 えーいつもそうやって選んでるよ~と言われるとそりゃそうなんだけどそれを俺に見せるのはヤバくない? 俺は生おっぱいももちろん好きだが基本そんなものを実物で見る機会はない。故に着衣時のおっぱいそしてブラチラに性癖が特化してるから。なにがってモロは脳みそが追いつかなくなって死ぬ。

 

「ま、冗談だけど」

「じゃなかったら俺が逃げてる」

「まぁ、代わりに水着見せてあげるからさ」

 

 そうだった。というか冷静になると下着とセパレートの水着って実は露出度に大差ないよね。でもどっちがエロスなのかというと断然下着なのはなんでだろう? 普段は見えないというのはやっぱり大事なのかもしれない。ほらやっぱりおっぱいも普段見えないところ、下乳とか見えるとドキってするわけだし。

 

「あとさ」

「なに?」

「ナンパされないようにってのはわかってるよね?」

「元々そういう約束でしょ?」

 

 ひまりが俺との距離を近づけるのはほぼ、ナンパ避けが目的だったりする。あとはからかいなんだけど。ひまりはスタイルはいいしかわいい、故にちょっと目を離すとすぐナンパが寄ってくる。普段は友人のイケメンとか赤メッシュとか見た目ちょい近寄りにくそうなのがいるからいいけど、こういう場になると間違いなく光に群がる虫が如く男が寄ってくる。だから勘違いされてもひまりはこういうデートには俺を連れ回すことが多い。

 

「ちょっと、大輔? 次はあっち行くよ!」

「ん、おっけ」

「れっつごー! 頼んだよ荷物持ち!」

「おい」

 

 まぁ便利遣いされる見返りが多少の目線を気にしないって部分なんだけど。そんな感じで俺とひまりはお互いがお互いの存在で得をしている。だから表面上は付き合ってるレベルで仲良く見えるんだろう。

 

「いやぁ買ったねぇ」

「これ、どうやって持って帰るのさ」

「ふっふっふ~、ホテルにはねぇ荷物を家に送ってくれるサービスもあるんだよ!」

「そうなのか」

 

 透子ちゃんに確認したんだと珍しくぬかりのなさそうなひまりに感心する。あの、流石に重いんだけど。近くにあるのがアウトレットモールだから、余計に買い物が多い。あと靴がキツイ。つかよくこんなに買うよな、値段もアウトレットだから安くなってるとはいえブランドものまであるのに。

 

「んで、こんなに買ってメシ代とか明日の色々のお金は大丈夫なの?」

「……あ」

「あってなにさ、まさか……」

「……てへっ☆」

 

 ごめん前言撤回、ぬかりまくってたよ。どうやら今回のためのお金をほぼ使い果たしてしまったらしい。スマホでちゃりんちゃりん払ってると思ってたら画面には既に四桁の一番前が1となっていた。

 

「……はぁ」

「ご、ごめん……銀行、あれば下ろせるから」

「いやいいよ。ご飯代とかは俺が出すから」

「い、いいの!?」

 

 おじさんに感謝するしかない。ただ月のバイト代よりくれるのは勘弁して、俺これでも高校生で、ほぼ最低賃金よりちょっと多いくらいの時給でしか働いてないのよ。なのにこんくらいだろとか言って十万円ポンとくれるのはやめてほしかった。いや受け取ったものを突っ返すのは失礼だから言わないけどね。かわいい甥っ子のためだからと笑うイケ叔父は割と俺に甘いんだよなぁ。

 

「ありがとね、絶対に後でお礼するから!」

「いいよ」

「よくない、もらいっぱなしはイヤだし」

 

 言い出したら聞かないような雰囲気なんだけど。別に見返りじゃないけど既にこっちはそれだけのメリットもらってるしなぁ。水着とか、泊まりとかディナーとか。そりゃひまりが費用を負担したわけじゃないけど、そうやって色んな事を考えてくれたのはひまりだし。

 

「紳士ぶってる」

「それはいつものことだし」

 

 中身はおっぱい大好きカス野郎なんでやっぱり態度くらいは紳士でいないとさ。ひまりにそう言うけどそうじゃなくて、と頬を膨らませてきた。なに、かわいいからやめてくださいそういうの。

 

「かわ……そういう素直なとこは変態っぽい」

「なんで!」

「本質が変態だから?」

 

 変態じゃないやい! いやおっぱい大好きなのを公言するのは変態だけどさ! まぁそれはそれとして、思わずかわいいなぁと思ってしまうんだからしょうがない。それとももしかして自分のかわいさ自覚してないのでは? 

 

「それ……自覚できるのは、こうもっと薫先輩みたいなヒトじゃないと」

「それもそっか」

 

 でも俺からするとひまりはとびきりかわいいから大丈夫だよ。そういうとひまりはちょろっと照れたような顔で口にしなくていいのと怒られてしまった。そのままホテルに頼んで荷物を送ってもらう手続きをして部屋に戻っていった。

 

「……本当に大輔ってさ」

「ん?」

「なんで、誰とも付き合わないの?」

 

 枕を抱えながらポツリと呟いたその言葉に、俺は振り返った。別に、誰かと付き合いたいわけじゃないけど。ひまりはそれが不満だったのか不思議だったのか。どういう意図なんだろうと首を傾げると、ゆっくりとひまりは言葉にした。

 

「私は大輔なら絶対に、幸せになると思ってる、だけど……」

「買い被りでしょ」

「そんなことないよ。大輔のこと、私は……つくしちゃんほどじゃないけど、知ってるつもりだから」

 

 だからこそ、ひまりは俺に今のままじゃない。自分を想ってくれる人のために自分を蔑ろにするのはやめてほしいと思ってくれた。でも俺はそれが一番疑問なんだよな。なんでそんなに、そんな風に俺を気に掛けてくれるのか。

 

「大輔がバカだから」

「……おい」

「だってバカじゃん。すぐ紳士ぶって、気付かないフリして、最後には誰もいなくなってもいいとか思ってるから」

「いやそれは思ってない。断じて」

 

 ひまりとこうやって遊べなくなるのは悲しい。いやカレシができたら別だけどさ。それとおんなじようにオフ会で四人集まれなくなるのも嫌だし、幼馴染の縁が切れるのは嫌だ。おっぱいが正義だから、おっぱいしか勝たんとか言ってるけどさ、そんなクソみたいな言葉のおかげでできた縁は、大切にしたいんだよ。それがましろちゃんでも、瑠唯さんでも、麻弥さんでも紗夜さんでも……もちろん、ひまりだって。

 

「また紳士ぶる」

「悪いけどこれは本心だ。ひまりのおかげで、気付けた」

「なんもしてないし」

 

 なんで拗ねぎみなんだよと頭を掻く。でもこうやって誰かと過ごす楽しさとか、誰かのことを考えるのが自然になったのはひまりのおかげだよ。ほら、最初にショッピングに付き合えって言われた時、ひまりは俺にめちゃくちゃダメ出ししたじゃん? 覚えてないか? 

 

「した、服も褒めない。待った? って聞いたらフツーとかつまんないこと言ってくる。歩幅も合わせない。最低だったよ」

「……そんなにダメダメだったっけ?」

「……ふふっ、覚えてないの、そっちじゃん」

「まぁ、そんな時に比べればほら、いい男になっただろ?」

「全然」

「おい」

 

 まだまだだよバーカと言われ、俺はでも、ひまりがまた笑顔になってくれたことにほっとした。同時に、俺は少しだけ自分の内にあった気持ちを知ることができた。

 ──もちろん、ベッドは別々だったしおやすみと離れて寝たけれど、ごめんやっぱ隣でひまりの寝息が聞こえるのは精神衛生によくないのであまり眠れなかった。やっぱましろちゃんと同じ部屋でうっかり寝ようとしなくてよかったと思いました。

 

 

 

 

 

 




ひまりと大輔の関係、ここまでやってやっと進展しそうになるという。


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第3話:違和感なくカップルできてるのか

プール編開幕!


 朝から炎天下のなか、オープン前に並ぶといいことがある。それは鬱陶しい場所取りやら着替えのロッカーが空いてないだとか、色んなことを考えなくていいところだと思う。まぁ俺とひまりの場合は昼食ったら撤退するんだけど。

 

「お待たせ~」

「いや待ってな……い」

「ん? どうしたの?」

 

 でっか……いやそれよりも、ピンク色の水玉がかわいらしいセパレートの水着姿のひまりは、まぁ確かに放っておいたら正しく誘蛾灯一直線って感じの破壊力だった。ハート型のサングラスを頭に乗せてラッシュガードを着て、膨らませた浮き輪を手にした美少女がそこにいた。

 

「いや、シンプルに似合ってるなと」

「ホント? ありがと、ってかさ、スライダー乗ろうよ!」

「いきなり? 浮き輪持ってんのに……?」

「いきなりだからいいんじゃん」

「……いや、なんか同じこと考えてるやついっぱいいるっぽいよ」

 

 指を差すと既に長蛇の列、荷物を置いてダッシュしても水に入るのは何十分後なんだろうかというような列にひまりはじゃあいいやとケロっとして流れるプールを指差した。あっちってこと? それより日焼け止めは塗らないと知らんからな。

 

「でも背中届かないし」

「……俺が塗るよ」

「え~、大輔に触られるのかぁ」

「嫌ならいいけど」

「冗談、冗談」

 

 そう言ってとりあえずその辺の空いてる日陰に座ってひまりがラッシュガードを脱ぐ。なんかもう、脱ぐっていう動作だけでエロい感じするよな。実際道行く男どもがチラチラとこっち見てくる。まぁでっかいし見たくなる気持ちはすっげーよくわかるんだけどな。

 

「紐とかうっかり解かないでね、大変なことになるから」

「わかってるよ」

「ひゃん! いきなり冷たいじゃんバカ!」

 

 ぎゃーぎゃー言い合いながら、でもきっちり塗りこんでいく。腰辺りもと言われた時は流石に頭の中で般若心経を唱えるハメになったけど。あれ調べるとお釈迦様に対して挨拶、というか作法的な側面のあるお経らしいから心を鎮めるために呼ぶなって怒られそうだなって後で思った。

 

「ほら大輔、私が変なとこ流されないように操作しといてよ~」

「……はいはい」

 

 そしてやっぱりひまりはひまりである。すぐヒトのこと振り回してくる。まぁいいんだけどさ。浮き輪にお尻をすっぽり嵌めて優雅な時間をお過ごしなんだけど、いや水浸かれよ。俺なんかさっきからお前をヒトにぶつからないようにって泳がされまくってるんだけど。

 ──でもまぁ周囲を伺うとそんな感じでいちゃいちゃしてるカップルも結構いるな。

 

「わ……」

「どうしたのひまり」

「……今ちゅーしてた」

「ここで?」

「うん」

 

 どうやらひまりも別のカップルがいちゃいちゃしている現場を目撃したようだ。というかカップル多いね、やっぱこんな朝早くからと市民プールじゃないテーマパークみたいなところに来るのは男女ばっかりか。あ、今の子おっぱい大きいな。そう思って流し見していたら上からジロリとひまりに睨まれる。

 

「……大輔?」

「なに?」

「今女の子のおっぱい見てたでしょ」

「見てたね」

「それは浮気だよ大輔」

「付き合ってないのに?」

 

 付き合ってなくても浮気らしい。意味がわからないんだけど。でも見るなら私のを見ろというなんか妙に男前なことを言われてしまい思わず頷きそうになる。いやひまりのは常に見せられてるような状況だから。

 

「常にとか言わないで」

「じゃあ常に見ないから余所見する」

「屁理屈、マイナス点」

「鬼教官!」

 

 そう言うとひまりはおどけて、上官の言うことは絶対だよとか言い出してきた。パワハラしていいと思うなよ鬼! 悪魔! ひまり! でも大輔と呼ばれて上を見た時の至近距離に迫った水滴纏うおっぱいは一生の宝だと思う。

 

「にしてもちょっと出るだけでクソあちー、飲みもん買ってくる」

「あ、うん」

「すぐ戻ってくるから」

「私もコーラね」

「はいよ」

 

 どうやら奢られて申し訳ないって思うのはやめたらしい。まぁこっちも毎回それされると楽しくなくなるから。でも、なんというか俺はよく平静を保っていられるな、と自分に関心していた。なんでって、いつもよりもまったく隠れてないおっぱいを間近で見続けてるんだからな。本来なら鼻血流して医務室送りになっても仕方ないくらいだ。

 

「ねね、じゃあナイトプール俺と一緒に行こうよ」

「ずりー、俺も俺も!」

 

 ──って、ジュース買って戻ってくるだけでこれかい。ひまりが見た目も言動も明らかにウェイ系です、みたいな男性三人に囲まれていた。どうやら自分たちは近くに住んでるからナイトプール行ってそのままうち泊まらない? てきな流れらしい。よくひまりが他の人は私のおっぱいを見ると下心出してくるからって言ってて俺と何が違うんだと思ってたけどこれは違うわ。

 

「あの、私、連れと来ててちょっとジュース買いに行ってるだけだし……ホテルも取ってるし」

「え、じゃあ部屋番教えてよ、迎えに行くからさ」

 

 なるほど、そこらの男はひまりのおっぱいを見ると下半身に直結するらしい。下半身に直結ってなんだか語感がエロいな。じゃなくて、というかお前ら、実はひまりの話聞いてないだろ。それとも連れも女だと判断して5Pですか。多人数プレイは見てて好みじゃないんだよな。

 

「あ、大輔」

「ひまり、知り合い?」

「そんなわけないでしょ」

「あちゃ、連れって男か」

 

 お、くるか? こういう場合カレシがやってきたら男はどうなるのか、寝取り展開的なものになるのか。身構えてると誘ってごめんねとあっさりいなくなった。まったくとひまりも呆れ気味なだけで……あんまりピンチじゃなかった? 

 

「大体のナンパってそうだよ。それ以上強引になったら犯罪でしょ」

「それもそっか」

 

 一応ああいう手合いもほとんどは善良な一般市民だしな。というかやっぱり俺が男除けになってるかどうかは疑問になるな。結局ちょっと離れるとひまりは男に囲まれるわけだし。ショックを受けてると何言ってるの? とコーラを煽りながら言われた。

 

「大輔がいたからあんなにあっさり引いたんじゃん」

「そうなの?」

「ああいうのは独り身でプール来てる若い子はみんなナンパ待ちに見える特殊な目を持ってるだけだから」

「なにそのあこちゃん的な」

 

 特殊な目ってなんかの能力者かよ。カップル、家族連れのレジャー施設に女だけで来てると全てヤレそうに視える魔眼持ちって嫌だなその魔眼。だからあんなにすぐ離れていったのは俺のお陰だと言われる。ナイトプールもこんな感じなのか、大変だな。

 

「……傍から見たら、俺とひまりもカップルに見えるんだな、やっぱり」

「こういうところに男女で来てたらなんでもカップルだよ」

「実際は違っても?」

「そりゃそうでしょ」

 

 そう考えると、実はカップルじゃない男女はどれくらいいたのだろうと考える。道行く仲の良さそうな二人組だけど、実は……ってあれは思いっきりいちゃついてた。なんなら男側しれっと腰触ってるし。

 

「まーた、おっぱい見てるの?」

「いや、カップルに俺らとおんなじようなのいるかなって」

「見てわかったらカップルじゃなくない?」

 

 確かに。なるほどと感心しているとひまりがこっちに寄ってきて防水加工シートに入れたスマホを取り出して自撮りをし始める。それ、俺も入ってない? そう訊ねると顔は入ってないよと言われた。いや身体は入ってるんじゃん。

 

「これインスタにあげとこ」

「え……まじ?」

「大輔もピースしてよ」

「やだよ」

 

 なんだよ、今までは写真撮る時は俺が影でも入ってるとどいてと言ってたクセに。どうやらプールだとどうしても誰と来たのかという話題になるからもう予めネタばらしをしてしまおうという作戦らしい。でもピースはしないからな。

 

「ん! ありがと大輔!」

 

 後でこっそり確認したら、加工され、顔が映ってない俺とくっついてキメ顔するひまりの写真と共にコメントとしてプールデート! 照れやでポーズ取ってくれないケド、とハート乱舞の絵文字が添えられていた。なるほど、バズるためなら匂わせ炎上も辞さない構えか、あんまり褒められた手法じゃないと思うけど。実際アフグロファンからカレシへのコメントも大量に寄せられていた。残念、男除けでカレシじゃないです。

 

「さ、お昼までスライダー乗ろうよ! ほらほら早く!」

「はいはい、引っ張らないでよひまり」

 

 なんだかご機嫌になったひまりに振り回されて、そこからお腹ペコペコになるまでひまりと炎天下のプールを楽しんだ。それにしてもやっぱひまりは動く度に弾むし揺れるしで、なんというか、ヤバいですねって感じだったな。

 




この二人は相性がいい(意味深)


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第4話:疑惑のナイト

 遊びまくって昼ごはんを食べて、んでホテルに戻ってきた。なんか短いと思ってたんだけど思ったよりも身体が重い感じがする。そんなことを考えているとひまりがじゃーんとまたもや露出の多い格好で登場なされた。

 

「……なんで水着?」

「反応薄いよ! どうせナイトプールじゃあんまり柄とか見えなかった~って大輔が嘆くのはわかってるからここで着替えてみせたんだよ」

「なるほど」

 

 そんな風に笑うひまりの水着は王道のビキニとは違ってオフショルなんだけど、前が、なんて言ったらいいんだろう開いてる? 紐と紐の隙間から谷間が見えるセクシーな感じになっている。下もショーツタイプなんだけど横のラインがチラ見できるのがセクシーポイントだ。要するに攻めの姿勢が見える。

 

「……え、どうしたのひまり」

「その反応は傷つく」

「ごめん、でも思ったより攻めててびっくりしちゃった」

 

 ひまりはナイトプールだからね、と意味不明なことを言い出して思わず首を捻る。そこから理不尽なことに怒られ、とにかく見えにくいから思い切ってセクシーにいけるんじゃね? という感じらしいことはわかった。

 

「そっかぁ、セクシーかぁ」

「自分で選んだんじゃん」

「大輔と一緒に選んだやつだし」

 

 そういえば……そんなことあったな。あれ、でもあの時選んだのとは違うやつじゃん。俺は運動的というか遊び心がみたいなこと言った気がするんだけど。そういうとひまりはナイトプールだもんとまた言ってきた。

 

「その後聞いたもーん」

「何を」

「大輔はどういうのが好き? ってさ」

「オフショルが結構好きです」

「ほら!」

 

 ほら、じゃなくて。でも水着じゃなくてもオフショル好きなんだよね、肩だしがセクシーだなってなるしおっぱいなくても体型カバーでかわいい感じに纏まるし、おっぱいのでかい子が着るとそれは凶器と化す。つまり花音さんは凶器的。

 

「というか俺の好みで決めたの?」

「え、うん」

「なんで?」

「なんでって、大輔とプールに行くために買ったんだし」

 

 そんなこと言われるとガラにもなくドキっとしてしまう。もしかして俺、からかわれてる? そう思うけどひまりはそっかぁ、と嬉しそうにその上に服を着始めた。それで下着を忘れるとかいう子どもみたいなミスやらかさないでよと言うとわかってるよとむっとするところもまたちょっと意識してしまう自分がいた。

 

「つか……やば、眠い。ちょっと寝ていい?」

「いいよ、まだ時間あるし」

 

 遊びまくったせいか、瞼が重くなってきた。意識が徐々に眠りと覚醒を繰り返し、遠くなっていくところでなにやら音がした気がするけど、俺はそれが気になるよりも睡眠欲を優先することにした。長く水に浸かっていたせいか身体の浮遊感が少しだけ心地よくて。

 

「おーい、おーい大輔~」

「……んぁ、ひまり……」

「そろそろ行くよ」

 

 ひまりに揺すられ目が覚めるとすでに陽は傾き始めていたようで、やっと起きたとあきれ顔された。どうやら結構な時間寝てたらしい。少し不満げなひまりに、欠伸をしながらもごめんと謝罪する。

 

「なんで」

「なんでって、すっかり熟睡して放っておいたから?」

「……なに、カレシを放置したカノジョみたいな」

 

 似たようなもんだろと息を吐く。この状況だともはやカノジョじゃないからとか関係なくない? だって暇してるのに隣でぐーすか寝てたんだから。だからそんなイヤそうな顔をしないで、地味に傷ついてるから。

 

「イヤそうな顔じゃない」

「……そう?」

「うん、ほら行こうよ」

「おう」

 

 そう言ってひまりは笑顔で俺を引っ張ってくるけど、でも昼のような元気がなくて、ちょっと心配だ。はぁ、めっちゃやらかした。俺が逆の立場だったらイヤっていうか、なんというか寂しい気持ちになる。話し相手もいない状態で、せっかくレジャーに来てるのにスマホばっかり触るのは、やっぱり退屈だし。

 

「じゃあ、さ」

「ん?」

「そこまで言うなら、私を楽しませてくれるんだよね? 仮カレシくん?」

「仮カレシって」

 

 なにその語呂の悪い単語、ひまりの造語だろ。そういうといいの、と俺の腕を抱き込んでくる。下が水着なこともあって、ワイヤーみたいな硬さがなくて柔らかな感触がダイレクトに伝わってきた。

 

「なっ……にして」

「ほら、こんなんで動揺しないの」

「……お前、遊んでるだろ」

「退屈させた分、なんでしょ?」

 

 こいつ、わざとしょんぼりしたフリしてたのかってほど切り替えが早いな。いや切り替えが早いのは割といつものことだけど。

 ──そんなひまりに連れられてナイトプールという昼間よりもますますリア充の空間となった場所へと向かう。

 

「なんか、こんな感じなのか……」

「私も来たのは初めてだけど」

 

 そう言いながら、ぴったりくっついてくるひまり。なんというか、距離近くない? 俺はそんなものに耐性なんてないんだけど! そう言うとひまりは冗談めいた顔でましろちゃんとかで慣れてるでしょ? とまたさりげなく腕におっぱいを押し付けてくる。

 

「ちょ、ひまり……」

「いいからいいから」

「よくないよ?」

 

 俺がめっちゃおっぱいに反応してるのにも関わらずひまりは全然気にした様子がないどころかますます寄ってくる。なんなんこの子。

 とりあえずどう楽しむのかと訪ねると雰囲気を楽しむと言われて首を傾げた。フインキ。

 

「こういうの借りて、のんびりするんだよ」

「なるほど……ライトのついたフロートか」

 

 貝殻型がいいとのことなのでそれを借りて二人で並んで座る。これ、なんか小さくない? そう思うけど肩がくっつくレベルなら大丈夫だよとまたスマホを取り出してカメラを向けてきた。

 

「自撮り好きだね」

「そりゃあね、こういうのは映えを狙うのが当然」

「ん……ちょっと待って」

「なに?」

 

 俺はその起動されたカメラロールの中に、穏やかな顔で寝ている自分を見つける。それ、さっき昼寝したやつ? なに撮ってんの? 問い詰めようとするとさらに横にひまりの自撮りが出てきた。俺の寝顔と一緒に写ってるし。

 

「え、えーっとこれはぁ」

「……SNSに顔上げてないよな」

「顔はね」

「加工して顔隠しては?」

「……えっと」

 

 お前さぁというと、いいじゃんと頬を膨らませてきた。はいはいあざといあざとい。ちなみにひまりの投稿を見て、さらに目を白黒してしまう。

 ──なんか、なんかカレシ扱いじゃない? これはどういうことなん? 

 

「……そのまんまだよ」

「まんまって?」

「カレシだから」

「は?」

 

 意味がわからないと目を白黒させていると、ひまりは今度は肩に頭を乗せてまた自撮りをした。そしてその画面をホーム画面に戻すと、なんとそこには俺との自撮り、顔が隠れてない自撮りになっていた。

 ──どういうこと? そう問いかけた俺の顔を見るひまりは暗がりの中でわずかな微笑みを浮かべていた。

 



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第5話:エピローグの点数は

 いつだったか、前にひまりと会っている時につくしがうちの母親の伝言を届けに羽沢珈琲店を訪れた時のことだった。仲良く話をしている俺とひまりを見て、つくしが超絶早とちりをしたんだよな。それを宥めた後で、チラリと恋人の話をした。

 

「……大輔はないね」

「ないのか」

「いやだって、ん~、だって大輔だしなぁ」

「どういうことだよ」

 

 なんかカレシにするって感じじゃないんだよね、とかひまりは俺を見てそう言う。別に俺だってカレシにしたいとか言われても断るつもりだったし、俺はそっかと話を流していた。ただ、ひまりは続けた。

 

「ただ、大輔がどーしても私といたいって言うなら、考えるけど!」

「なんで上からなんだよ」

「……私は、正直そういうのわかんないし」

 

 わかんないって言うところが、俺と一緒だなと思った。だから俺はひまりと一緒にいた。その時間が思いの他楽しくて、いつの間にか、その時間を失いたくないって思ってしまったんだ。だから、俺は誰かと付き合うってことを考えなかった。もし誰かと付き合わなくちゃいけないんだったら、きちんとひまりにフられて、この関係を終わらせてからじゃないと。そう思うようになってた。

 

「私も」

「……え?」

「大輔がモテてたのはわかってた。だから、誰かを選ぶかを見届けようと思ってたんだ」

「そっか」

「それで、誰も選ばない時は……その時は私がって」

 

 だから、カレシなのか。というかひまり、もしかして最初から? そう言うと最初からじゃないよと身体をくっつけてくる。きっかけは夏休みに入ったくらいの時のことだったらしい。友達との恋バナで自分の理想の男性像みたいな話をしてた時らしい。

 

「それが、俺だったの?」

「まぁねって、大輔本人に言われるとムカつくね」

「なんで」

「だって、それまでないって言ってたのに……しかも大輔だよ」

「それがわかんない」

 

 でも今は好きなんだもんと唇を尖らせる。なにそれかわいいって言ったじゃん。というかそれに怒ってたのも不意打ちで照れてたのか。というかどんどん身体を寄せてくる。足をパタパタとして水を跳ねさせながら、というか肘に当たってるおっぱい、じゃなくて左胸からちょっとだけ早い鼓動を感じた。

 

「私ね、大輔のこといつの間にか好きになってた。一緒にいてくれることが、すっごく嬉しいって思うようになってた」

「……俺も、おんなじだよ」

 

 そう、この気持ちは好きって気持ちだ。たぶんひまりもそれに気付いてたんだと思う。だからこそこうやって泊まりってことにして、一緒にいる時間を増やしたってことか。

 

「ん、そういうこと! 気付いたの、旅館の時だけど」

「俺は自分で自分に気付いてなかったよ」

 

 でも、今はあの時一緒にいてくれて嬉しかったのは事実だし。そうなると結構前からなんだな俺も。自分では気付かなかったけど。そう考えるとうーん、今の状況確かにドキドキするんだけど。

 

「なんかすごく……なんかなし崩しだけど、付き合う?」

「いいのかな、こんなので」

「いいんじゃない?」

 

 そんな軽くていいのか。でも、こうなった以上はもうぐだるだけだからまぁ、いっか。頷くとひまりは満面の笑みでやったとかわいらしく喜んだ。ちょ、抱き着かないでもらえます? ここがプールで自分が水着だってこと忘れてない? 

 

「んー? 忘れてないよ? ほら」

 

 控えめに示されたところを見ると、僅かに見えるところで男が女を後ろからカップルが見えた。うわ、キスしてるどころか男の手が思いっきりおっぱい揉んでるし、下に……は見ない方がいいな。こんなところでなにしてんのホテル行けよって思うんだけど。そのカップルだけじゃなくて至るところでいちゃいちゃしていらっしゃる。夜目遠目笠の内とはよく言ったもんだね。

 

「あ……あれは見なかったようにしよ」

「だ、だな」

 

 あれと比べればめっちゃひまりのアプローチは健全なのかもしれない。でもひまり曰く、こういう開放感もカップルには必要なものなのかもしれないとか。開放しすぎでは。あんなのはほとんどいないとは言うけどさ。

 

「で、でも……大輔もさ」

「うん?」

「触りたかったら触って、いいからね?」

「は?」

「ほら……おっぱい、好きでしょ?」

 

 は? 大好きですけど? そんな風に恥じらい交じりに強調されたら視線が吸い寄せられるくらいには好きですけど? でも急にそうやって煽られると、困ってしまうしあのカップルに引っ張られるのはよくないと思うよ。

 

「じゃあ……」

「ん?」

「もっと、いちゃいちゃしたい」

「……それくらいなら」

 

 慣れないことだけど、こういう時ひまりが喜びそうなことを考えて腰に手を回して抱き寄せる。なんか、なんというか、この慣れないリア充の空間が、水着姿のひまりとすぐ近くにいるこの景色が、キラキラと輝いてみえる気がした。

 

「……何点?」

「ん? 当然、満点だよ」

「よかった」

「なになに~? カレシになったら急に強気じゃん」

 

 そうじゃなくて今まで遠慮してただけなんだけどね。遠慮というか自分なんかがこれ以上ひまりとの関係を疑われるのがよくないって勝手に考えてただけだけど。というかなんかそっちだってカノジョになったら急に採点甘々になるじゃん。

 

「自分に自信のないだめだめな大輔の採点と、大好きなヒトへの採点は違うからね」

「大好き……そっか」

「うん」

 

 そんなこんなで急にリア充めいて甘々なナイトプールを楽しんだ後、ディナーに舌鼓を打つ。そのままお風呂に入って、一足先に部屋に戻ってから気づいた。

 ──あれ、このままここで泊まるの? 大丈夫? ひまりと?

 

「え、恋人だしいいじゃん」

「よくなくない?」

 

 むしろ恋人だとよくない気がするよひまり。ほら、今までそういう関係じゃないからって踏み越えずにいられた言い訳が使えなくなるわけだし。ちなみに俺、そういう言い訳ないと我慢できる自信はないよ。しかもプールでああいうの見ちゃったら尚更なんだけど。

 

「……もう、紳士な大輔はどこ行っちゃったの?」

「エセなので」

「私は……ちょっとくらいは覚悟してる、けど」

 

 はいダウト。確実にそれは嘘でしょ。とはいえホントに手を出すわけにはいかないため、適度に話をした後、ひまりのベッドとは顔の向きを反対にして目を閉じた。最初は寝れるかと心配していた俺だったけど、結局疲れていたのか意識がゆらゆらと朧げになっていった。だからこそ、翌朝になって俺は絶叫するハメになったのだった。

 

「なん……なにしてんのお前!」

「ん……朝から、うるさい」

「いやうるさいじゃなくて」

 

 目が覚めたら眼前にすやすや穏やかな寝顔を晒す美少女がいたら誰だって絶叫すると思います。なんでお前、俺の腕の中におさまってるのか小一時間ほど問い詰めていい? というかこれでもかってくらいおっぱい押し付けられててよく今まで寝てたな俺! 

 

「小一時間はだめ……朝ご飯食べれない」

「そうですね!」

「おはよ、大輔」

 

 今更になってやや甘い声で朝の挨拶をしてくれるひまり。俺もだけどヒトのベッドに入り込んで勝手に抱き枕になってきた彼女もぐっすりだったようで、欠伸を一つして起き上がった。だがまだ眠いようでこっちに身体を預けて大輔~とかわいらしく甘えてくる始末である。急に距離縮めてくるとこっちもどうしていいのかわからなくなるんだけど。急展開すぎん? 

 

「ごめん、迷惑だった?」

「いやそうは言ってないけど」

「じゃあ、甘えていい?」

「……言葉にされると恥ずかしいので嫌だ」

 

 迷惑じゃないし素直にかわいいなこの生物って思うけどやっぱり、甘えていい? と言われるのは顔が赤くなってしまいそうだから拒否っておく。するとひまりはそっか、と笑って俺の手を握ってくる。昨日から唐突に始まったラブコメのせいでこっちは何をどうしたらいいのかわかんない。これ、俺がおっぱいおっぱい興奮するだけのギャグのはずだよね? 

 

「じゃあ今、なんでもしていいよって私が言ったら、おっぱい触る?」

「いや……どっちかっていうと」

 

 俺にとっておっぱいは正義かもしれない。ひまりのおっぱいはそれこそ俺にとっての正義であるのかも。谷間を見るどころか生のおっぱい見てもいい触ってもいい、なんて甘言に俺はくらくらしてしまうくらいだ。だけど、と俺はあのナイトプールで本当にしたかったことをさせてもらうことにした。肩に頭を乗せたひまりの方に顔を向けて、ひまりもそれを嬉しそうに受け入れてくれた。

 

「……ん、満点」

「おっぱい触ったらどうなってたんだろうね」

「さぁね? でも私は大輔に甘々採点しかしないから、全部満点だよ」

「それは甘やかしすぎ」

 

 ひまりは甘い。甘えるのも上手で甘やかしてくるのはあからさま。だからきっとまたみんなに目撃されることがあれば今度こそ誤解ではなく、ああこいつら付き合ってるんだなって認識されるんだろう。でも、そんな人目なんて気にしないひまりに俺が点数を付けることがあるとするなら、まぁきっと、満点以外はないだろうというのは確信できた。




ひまり「で? 何点だった?」
ましろ「うっ……悔しい、くそぉ……ひゃく……」
ひまり「そりゃどうも」

おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№04:ラブコメ係数100点!上原ひまり
 隠れてない隠れヒロイン。どのルートでもなんだかんだナイトプール行って頑張れと負けヒロインを繰り返していた。今回は脈ナシから脈アリへの劇的な変貌を遂げたキャラであるが故に開き直ってめちゃくちゃラブコメしまくる。二人の相性は見ればわかる。
 おっぱい好きなのは公言してほしくない。だが自分のは見て欲しい。付き合った後なら下心で見られても平気である。


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つくしルート:幼馴染はせいぎ
第0話:プロローグは雨の日常にて


大トリは近くて遠い幼馴染です。


 女性の部位のどこが好きかと問われるとオレは即座に、脊髄反射で答えようおっぱいが好きだと。おっぱい好きと言っても世の中にはたくさんいるが俺は大きいのが好きだ。キリンさんよりも象さんの方が好きな理論だ。ごめん自分で言っててよくわからなくなってきた。とにかく俺がいいたいのは。

 ──大きなおっぱいは素晴らしいぞルークってことだ。誰だルーク。そんな暗黒面もとい巨乳面に堕とされて久しい俺ではあるが、最近は色々ありすぎて安易にそうも言ってられなくなってきてるんだけどワトソンくん、真剣にどうしたらいいと思う? 

 

「……ひとつだけさ、文句言っていい?」

「どうぞ」

「最初のくだりいる?」

「いるだろ親友よ」

「親友! えへへ……じゃなくって!」

 

 何を怒ることがあるマイベストフレンド。俺が気軽に話ができるのはやっぱりお前だけなんだよ。そう言うと彼女、二葉つくしは調子いいこと言ってとため息を吐いた。うーん、今日も相変わらずまな板のフレンズやってるな。

 

「じゃあそういうことで」

「あーちょっと待ってお願いですから!」

「真剣な相談じゃなかったら本当に怒るから」

 

 真剣な相談ではあるんだよ。ほら、前に話したじゃん、ましろちゃんに告られた話。GWの時なんだけど映画の帰り道にめっちゃそれっぽいこと言ってたってやつ。そういうとつくしはそれねとため息をついた。

 

「ましろちゃん、落ち込んでた。返事がないって」

「一ヶ月くらい待たせちゃってるんだよな……」

「それはよくない。ちゃんと話すべきだと私は思います」

 

 だよなぁ、としとしと雨降りの外を眺めて俺はゆっくりと頷いた。ずるずると先延ばしにしてしまい、ついに六月に入ってしまったところで、梅雨前線は数百メートルの距離でも億劫になりかねない雨を降らせていた。

 

「なんで付き合うとか付き合わないとか、そういうの決めれないの?」

「バカやろう、人生初の告白だぞ……簡単に断ったらこの先どうやってカノジョ作ればいいんだよ」

「大輔には一生無理」

「お前!」

 

 ただならどうして付き合わないのかと言われたら当然、俺がおっぱいを愛しすぎているからである。ましろちゃんのことなんてぶっちゃけおっぱい大きくて目の保養くらいにしか思ってない。そもそも好きなものとか、趣味とかもよく知らん。俺はガールズバンドのオタクやりながらおっぱい追いかけてるだけのクソ野郎なんだよな。

 

「最低だね」

「言うな、知ってる」

「ほら、他にも仲がいい人が」

「俺の知り合いほとんどおっぱい基準だからな」

 

 そうじゃないのはオフ会についてくる氷川ぺったんこさんと一生に何度もないくらいの良縁だと思ってる最高のフレンドぺったんこ二葉つくしくらいだからな。それ以外はおっぱいがでっかければ仲良くなるしでかくなけりゃそれっきりみたいな感じだし。

 

「もしかして大輔は私のこと嫌いなの?」

「んなわけ」

「……そういうとこがダメなんじゃないかな?」

「どこだよ」

 

 女性関係がルーズなところだよ、と言われてあまりにもそれが存在しない記憶すぎて首を捻ってしまう。女性関係が……ルーズ? ごめん一体誰の話してる? 宗山大輔? もしかして同姓同名の別人のことじゃなくて? 

 

「私の幼馴染に宗山大輔は一人しかいないけど」

「だよな……俺が女性関係にルーズなの?」

「ほら、いっぱいいるじゃん」

 

 身の回りで特段と仲のいい女性、つくしでしょ、ましろちゃん、ひまり……んーあと一応オフ会メンツ? そんなもんじゃない? そう言うとそうするとファミレス一緒になる麻弥さんと常連さんだからイヴちゃんもそうだよと補足してくれたなるほど。

 

「その中で大輔がデートしたことあるのがましろちゃんとひまりさんでしょ」

「あとつくしな」

「イチイチ言わなくていい」

 

 事実は正しく精査するべきだぞつくし。ひまりやましろちゃんのアレがデートならつくしとなんて毎週くらいの勢いでしてるよ。だがそれは不都合な事実だったようでつくしは顔を真っ赤にしてバカ! と大きな声を出してきた。うるさい、下の階に響くでしょうが。

 

「ママは買い物行ったよ、さっき」

「雨の中をか? 手伝わなくてよかったかな」

「いいんじゃない? 必要だったら呼ぶでしょ」

 

 二葉母は中学三年間くらい疎遠だったこともあって去年入り浸っても嬉しそうにお茶とかお茶菓子とか出してくれてはいるが、やはりなんというか勝手知ったる相手ということもあり、偶に重い荷物とかがあると手伝うこともある。ほぼ第二の母親みたいなもんだ。

 

「とにかく! 話が逸れたけど、大輔はそういう思わせぶりというか、胸があれば誰にでも優しくするのやめないとまたましろちゃんみたいなことになるよ?」

「そう……なのかなぁ」

 

 俺にとっての女性の扱いの基準はつくしなんだよな。つくしが一番ひどい扱いをしてる。発言の際にはなーんにも考えちゃいないし、興味ない映画は徹底して後でつくしの聞き役になるだけだし、なんなら服にはダメ出しすることの方が多いし。

 

「……よく私怒ってないよね」

「まぁお前だって俺が恋愛映画に興味ないの知ってるし、一時期似合う服も選んでたの俺だったし」

「確かに」

 

 大人っぽいファッション雑誌買うお前が悪い。つんつるてんの小学生体型のお前にはそれに似合う格好ってのがあるってのに無視しようとするお前が悪い。それに恋愛映画についてはもう興味もないの知ってるのにそれでもボッチ映画館が嫌だってだけで連れてかれてるし。つかそろそろバンド繋がりでその友達くらいできただろ。

 

「う……だって、大輔はなんにも考えなくても誘いやすいし」

「同レベルじゃん」

「うるさいなぁ、ずっと一緒なんだもん……しょうがないじゃん」

 

 そう、しょうがない。俺とつくしがこんな性欲爆発しかねないうら若き年齢になっても兄妹みたいな距離感でいられるのは、俺とつくしがしょうがないやつだから。

 俺は、つくしにしか自分のフェチズム、おっぱいのことを打ち明けられてない。つくしは俺にしか甘えん坊でどうしようもない依存しがちなところを見せられない。そういうしょうがないところが、俺とつくしを付き合ってると疑われるほど仲のいい幼馴染という関係に括っていた。

 

「……初恋なんだけどね」

「それ、私もなんだけど」

「はぁ……しょうがない、ちゃんと話合うよ」

「ん……私もいた方がいい?」

「いや、後で電話する。つくしがいるとましろちゃんも変に暴走するかもだし」

 

 わかったとつくしは立ち上がってお茶のお代わりをくれる。この香りはなんとなく落ち着いてしまう。なんか超高級ブランドの茶葉だった気がしなくもないけど、俺にとっては二葉家でよく出てくる馴染みの紅茶でしかない。つかゲームしようぜゲーム。

 

「ゲーム……あそういえば、今度の秋に」

「……もう二度とお前の代わりに攻略なんてしてやんないからな」

 

 あの乙女ゲーはヒロインのおっぱいが大きくなかったら頑張れなかった。だけどあれで納得できなかったのはヒロインの名前を変えられるところで二葉つくしになっていたところである。現実見ろよこのすってんてんと何度思ったことか。あとつくしはもっと夢見がちで積極性はない。甘えん坊なのはそう。

 

「ゲームより借りてきた映画観ないと、返却期限が近いよ」

「なんで俺がいないと見れないんだよ、ホラーじゃないのに」

「ホラーは大輔が一緒でもムリ」

 

 はいはい、と俺はつくしに促されるままリビングのソファでダラダラと映画を観ることになった。最近バイトが連勤だったせいか途中で寝落ちしてしまって、気付いたらつくしと肩を寄せ合って寝ているところを二葉母に激写されていた。なんでそんな嬉しそうな顔で写真撮ってるんですかと言ったら小さい頃の旅行帰りの構図と同じだったから思わず撮ってしまったらしい。寝顔は昔から変わんないねぇとニマニマされたのだった。

 

 

 

 

 




時系列が六月に戻っていて完全イフになっています。大きな転換点としては一度目のましろの告白に気付いているという点です。


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第1話:始まらない物語

 もうすぐ夏休みがやってくる、というところで俺は自分のスマホにあるメッセージを眺めてため息を吐いてしまった。独り身で友達も少ない俺にとって夏休みは暇、というわけではない。むしろその逆だった。友達は少ないと思うけど。

 ──ましろちゃんからはよかったら花火大会の日に出掛けませんかという誘い、ひまりはナイトプールに行きたい、オフ会メンバーのグループチャットでも合宿するかという話題が盛り上がっている状態だった。

 

「いいことじゃん充実してて」

「あのな、そのメンツのほとんど女子なんだけど」

「水着に浴衣、ほら大輔なんて大喜びで胸ばっかり見るでしょ?」

「浴衣はおっぱいあると映えないんだよ」

 

 いやそっち? と呆れ声を出してるところ悪いけど俺はおっぱい好きだけどいやったぜ、おっぱいありがとうございます! って本人には口が割けても言えないの知ってるクセにそういうこと言うの? というか困ってるんだから助けろよ親友! 

 

「しかも前半なんてマジのカレカノで行くようなデート先指定してきてるんだぞ! 俺はどうしたらいいんだよ!」

「付き合わないの?」

「その話、先月に終わっただろ……」

 

 結局ましろちゃんと話して、俺は付き合うとかそういう目でましろちゃんを見てなかったんだごめんと絶妙におっぱいのことを避けて断ったら、どうやら妹的なサムシングだと想ったらしくより好意が直接的になってきた。おかげでタチが悪い。ひまりはひまりでヤバいところをデート先に指定しやがって。ナイトプールってなんだ。

 

「しかもひまりと紗夜さんには俺の性癖バレるし」

「……バレたのに、デートなの?」

「わからん。それは俺も気になってる」

 

 水着だぞ水着、そんなの俺が谷間覗きたくなるに決まってるよな。その辺わかってるはずなのにひまりはいいよとか意味深なこと言い出すし。なんなら最近は紗夜さんにも性癖ヤバいこと相談すると割と優しく接してくれるし。

 

「大輔のフェチなんて……言ったらみんなドン引きするもんだと思ってたよ」

「実際今までそうだったろ」

 

 確かにとつくしは苦笑いをする。俺がおっぱいは正義とか言い出すようになったのは小学校高学年になった頃だ。近所にいた年上の中学生にしておっぱいが出来上がってたヒトに性癖を歪められたのが原因だった。それを知った女子は相当俺をキモいバイキンのように扱ってきたなぁ。お前らみたいな貧相な絶壁に興味はねぇって思ってた気がする。

 

「確か塾の子が言ってた気がする……エロ本の読んで興奮してたって」

「青年誌だったけどな」

 

 ヤングなんたらとかのグラビアに興奮してたんだよ。断じてエロではない。繰り返すが断じてエロではない。興奮してたけど。

 けどその噂が広まって、俺はどんどんと孤独な中学時代を歩むハメになったのは事実である。今となってはどうだっていい。

 

「そういうのってやっぱ、蔑まれるべきだよな」

「私がまだ幼馴染やってるの、初恋だったからだし」

「……だよなぁ」

 

 つくしは初恋で、相当な信頼を築いていたからこそ中学三年間の疎遠だけで済んでた。けど今になってなんか受け入れられるとそれはそれで居心地は悪いんだよな。ひまりなんか被害者とも言える人物なのに、気にしないってと笑うだけ。

 

「でもそっか……大輔、隠さなくてよくなってきてるんだね」

「……まぁそう言われれば」

「そっか」

 

 困惑を露わにしてるとつくしが少しだけ小さな声で呟いた。つくしは俺には甘えがちだけどやっぱり根本は誰かに頼られたい、誰かに必要とされたいという依存で出来上がってる。久しぶりに会ってそれはより顕著になっていることはすぐにわかった。だから、今の状況はつくしの視点で言うなら、自分のお株を誰かに取られるってことになる。それは、確かに寂しいよな。

 

「けど、セクハラはよくないから。これからもおっぱいへの情熱を語る相手はつくしだけだな」

「私に対してもセクハラなんだけど」

「でさ、ナイトプールの前にって水着の試着見せられてさ……これがまたエグいのよ」

「だからぁ」

 

 画像も持ってるというか押し付けられて消してたら怒られるらしいので未だに持ってるんだけど見せるとつくしは文句言いながらすごいねと感心してた。そうなんだよ。これとナイトプールはヤバいと思うんだ。

 

「モテモテだね大輔」

「嬉しくない」

 

 なんというか若干紗夜さんの目も怪しいと思う時あるしひまりとましろちゃん、あと地味に瑠唯さんがくるんだよなぁ。そう言うと目を真ん丸にしてきた。わかる、俺もそう思うんだけど瑠唯さんのラブコメの波動あるんだよな。

 

「ってか瑠唯さんといつの間に仲良く?」

「バイト先にたまたま来てから常連なの。しかも俺を指名してきて二人きりで音楽の話から雑談までなんでもござれよ」

 

 休憩中だし暇潰しになるのは幸いだけど瑠唯さんの目が段々ヤバくなってる。絶対ヤバい。捕食者の視線には敏感なんだ。どっかのおっぱい先輩のせいでな。

 ──そのおっぱい先輩、中身がとんだビッチだったからなぁ。まぁあの年で女の身体に目覚めたらそうなるのも無理はないのかもしれない。中高生の男子なんて万年発情期のウサギさんよ。おっぱいがぴょんぴょんしてるんじゃ~って飛びつく憐れな生き物だよ。

 

「はぁ……モテたくねぇ」

「普段おっぱいおっぱいうるさいクセに」

「おっぱいとモテるのは別物なんだよなぁ」

 

 俺はおっぱいの奴隷だけど恋に焦がれる憐れな生き物にはなりたくないんだよ。それに人間中身が肝心ってのはおっぱい先輩で痛いほどわかってるつもりだ。そういう意味ではトキメキはないかもだけどつくしの方が数億倍マシ。

 

「……その言い方は最低」

「つくしの性格は許容範囲内」

「それも嫌なんだけどっ」

「つくしが幼馴染で本当によかった」

「……許した」

 

 わーい、俺の幼馴染はこんなにもチョロいんだ。チョロいと言えば多分だけどましろちゃんも相当そっちの部類に入ると思う。違いとしてはおっぱいくらいか。後かわいらしい。つくしにかわいげがないかと言われたらあるとは思うよ。

 

「ところでさつくし」

「ん?」

「そろそろ帰んないで大丈夫か?」

「大丈夫、大輔んちにいるって伝えてるし」

 

 なるほどな。二葉家は門限とか決めてるけどこれがまた割と娘に甘いのでガバガバだったりする。連絡すればオッケー、俺んちならオッケー、事情があればオッケーって、そのうちカレシとえっちしてくるから遅くなるねって連絡されますよと冗談めいて二葉父に言ったらめちゃくちゃ怒られた。お前が守れってんな無茶な。

 

「大輔、大輔」

「なに」

「私がご飯作ってあげる! 何がいい?」

「いや俺が作るから座ってろ。頼むから包丁を持つな台所に立つな」

「なんで!」

 

 なんで? お前が悪戯の神に愛されてるからだよ。砂糖と塩を間違えるを地でやるからだよ。オムライス作ってあげようと思ったのにってしかもお前が食べたいだけじゃねぇか! 怒涛のツッコミをしてしょうがねぇと冷蔵庫を開けて……そしてため息を吐いて時計を見た。大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない。

 

「材料ない」

「え……」

「から買いに行くぞ」

「う、うん」

 

 そう言って俺は歩いていけるスーパーまで向かっていく。財布係はつくしだ。そもそもつくしちゃんのお小遣いは交通系IC上限までと決まっている。下手にバイトサボった時の俺よりも多いしなんなら追加のお小遣いも時折もらえるというシステムなのだ。金持ちは悪ってはっきりわかんだね。その上大抵の飲食店は大幅割引してもらえるんだから理不尽の極みである。格差社会はクソ。

 

「あの、大輔……」

「お菓子は一つな」

「ち、違うもん!」

 

 とか言いつつお菓子買ってご機嫌になってしまうあたりつくしは変わらずチョロくてお子様なのだ。ただメシの前に食うなよ。あと無理に袋開けたら中身飛び散るから気をつけろよ。そんな矢継ぎ早の言葉につくしは頬を膨らませるのだった。わかってないから言ってるんだけどなこっちはさ。




まだ何も始まっていないのである。


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第2話:距離感に拘っております

そんな素材に拘ってる料理屋みたいな。


 夏休み初日、バイトが夕方から入っているため適度に時間を潰してついでにクーラー代を節約しようということで俺は羽沢珈琲店にやってきた。来るまでに暑いもんだから後悔しかけたけど。看板娘のつぐみちゃんに挨拶をしておひとり寂しいすみっコぐらしをして過ごしているところだった。

 

「どうして、そこまでつくしちゃんに拘るの?」

「……え」

 

 ましろちゃんがやってきて、しばらくしてからの言葉。原因は言わずもがな花火大会の誘いを断ったことにある。俺はましろちゃんのカレシじゃないから、行くなら友達でとハッキリ断ったのだが、どうやらそれがかなりショックだったらしい。いやだからってつくしに拘ってるとかそういうのは一切ないわけだけど。

 

「その日、つくしちゃんが予定があるから……って」

「いやそれ俺関係ないんだけど」

「……本当?」

 

 本当、これはマジ。そもそもつくしに予定があるイコール俺と予定があるに変換するのはいくらなんでもつくしに失礼だと思う。いや割と俺とモニカ以外と予定立てれたんだ成長したなとか思っちゃったけどね。

 

「わたし、つくしちゃんとデートするからフられたのかと思っちゃった」

「俺、そんなにつくしに拘ってる?」

「……気付いて、ないんだ?」

 

 そんなマジびっくり、みたいな表情をしないでおくれ。でもましろちゃんにとってはやっぱり恋における障碍だと思っているようで、しきりにつくしとの関係を訊ねてくる。その中でどうしてそこまでつくしちゃんの傍にいようとするの? というものがあった。

 

「どうして……か」

「先輩は、おっぱいの大きな子が好きなんでしょ? わたしみたいな」

「その自信をもっと他で付けたらいいと思います」

 

 スルーしきれなかった余計な一言にツッコミを入れて、マジメに考えることにする。俺がつくしの傍にいようとするのは、なんというか反動みたいなもんなんだよな。まだガキだったころ、一緒の塾がいいと泣きわめくつくしを迎えに行って一緒に通っていたんだが、小学生はそれを見るとケッコンという単語が頭に浮かんだ瞬間口に出てしまうらしく。まぁそういうのを恥ずかしいと捉えるのもまた、子どもなんだよな。

 

「それで」

「まぁ、突っぱねたんだよ」

 

 でも当時つくしのことが好きって思ってたのもまた事実で、塾じゃないところだと仲良くしてたままだったから、それはいいんだけど。なんというか妹を放って遊びに行くような感覚だ。甘えん坊で、俺以外とは上手く話せてなかった上に何かあるたびに恥ずかしいことのように俺との関係を笑われるつくしは相当ストレスだったみたいだ。

 

「塾行きたくないとまで言い出してさ。それを見て、俺はつくしから離れようと思った。まぁ後でお互い初恋だって知ったんだけどさ」

「……惚気?」

 

 違うって。んで、俺が中学上がったのをきっかけにお互い塾辞めて、そこから去年になるまで、具体的に言うと俺の高校入学祝いに二葉家とうちで遊びに行くまで疎遠だった。その時に塾に行きたくないって言葉の正体はもっと誰かに何か言われない場所で俺と一緒にいたいってことだったらしい。かわいいやつだ、とちょっとだけ思った。

 

「そっか……先輩は、つくしちゃんを守ってあげたかったんだ」

「そうかも。ヒーロー気取りにしてはキャラがアレだけど」

「そんなことないよ」

 

 そんなことあるんだよなぁ。でも、つくしは俺の初恋のヒトで、いつも俺の後ろをついてきて、大輔大輔って懐いてくれるのが愛おしかったのかもしれない。うーん、昔から呼び捨てだったところを考えると少なくともつくしは俺のことを兄的な目では見てなかったんじゃなかろうか。そうだな、昔からあいつ偉そうだったわ。

 

「じゃあ今とあんまり変わんないの?」

「変わんないな、少なくとも俺から見てつくしの成長は止まってるね」

「──大輔?」

 

 調子に乗ってましろちゃんに色んなことを話していたら、鬼の形相をした幼馴染でベストフレンドなつくしちゃんが仁王立ちしていた。心なしかツインテが下から風を送られたようにたなびいているように見える。バトルものによくありがちなやつだ。

 

「わ、私だって……ちょっとくらいは成長してるもん」

「内面の話だからな」

「内面はもっとだもん!」

 

 いや外見上もそんなに成長してる印象ないけどな。身長はそりゃ伸びたけど途中で止まったし、おっぱいは言わずもがなだし、小学生に間違われるし。制服着てようやく中学生ですか? って訊ねられるレベルなの自覚してほしい。お前と一緒に恋愛映画観に行くと十中八九変な目で見られるんだからな。

 

「確かに、並んでたら先輩がロリコンに見えちゃうよね」

「どういう意味!?」

「まんまだろ、ちんちくりん」

 

 ましろちゃんに悪意はない。あるのはおっぱいだ。ついでに言うとこれは言ったらまずいかなというブレーキもない。それでも透子ちゃんよりはマシだけどな、ましろちゃんはうっかりしゃべらすと考えてることが出るだけだ。失言が多いともいう。

 

「そんなに怒るなよ」

「……大輔が暇だって言うから、構ってあげようと思ったのに」

「そうだったな、なんか頼むか?」

「ん」

 

 なーにが構ってあげよう、だ。大輔が行くなら私もって構われに来たクセに、とは言わない。友達の前でそういうことは言わないであげるのが幼馴染なりの優しさだ。つくしはオレンジジュースと言いかけて、チラリとましろちゃんを見てからコーヒーとか言い出す。ブラックは絶対やめとけよ。

 

「なんで、私だってブラックくらい飲めるもん」

「……いやつくしちゃん、絶対やめたほうがいいよ」

 

 ましろちゃん、ブラック被害者の会の仲間を募る顔である。俺の前で見栄を張ろうとしてブラックコーヒー飲んで以来、冬にはミルクティー、温かくなるとオレンジジュースだからな。なんかひまりから聴いた話によると今現在、笑顔全開で働いてるつぐみちゃんもブラックコーヒーは飲めないらしいし、別に背伸びする必要はないと思うけどな。

 

「そうそう、先輩がブラック飲めないくらいでバカにしたりしないし」

 

 それはそうなんだけど、そもそも見栄を張る相手は考えてくれ。こちとら何度一緒にメシ食ったかわかんない幼馴染だぞ。お前の舌と好物くらい把握してるっての。んで、スイーツでも頼むか? 奢ってやるよ。

 

「いいの?」

「怒らせたからな、お詫びはする」

「モノで釣るの?」

「精神的より物質的な方がいいだろ」

 

 じゃあ、と本当に遠慮なく結構値段がするようなパフェとましろちゃんと同じオレンジジュースを注文していくつくし。出費としては苦い顔をしたくなるがまぁ、メシ屋関係は基本つくしの奢りだしな。これくらいは、と思いつくしの隣でメニューをじっと見つめるましろちゃんに声を掛けた。

 

「ましろちゃんは何にするの?」

「え、わ、わたし……? い、いいの?」

「いいよ、大輔だもん」

「どういう意味だよ」

「この場面で私だけにしか奢らないとか、そういうことできないから」

 

 その通り。ましてや食べたそうな顔してるましろちゃんを見て見ぬフリができるほど器用な性格してないし。その恋愛感情には応えられないとしても、先輩と甘えてくるかわいい後輩にいいカッコしたいって思うのが俺だしな。

 

「じゃあ……ショートケーキ」

「わかった、つぐみちゃんそれも追加で、あとお代わり」

「はいっ! いつもありがとうございます!」

 

 なんかそのやり取りを見守っていたつぐみちゃんにいつもの二割増しのシャイニングスマイルをされ、俺はなんかご機嫌だったね? とましろちゃんに訊ねる。ましろちゃんはそうでしたか? と首を傾げた。気付かなかったならいいけど。んでつくしにもついでに訊ねたらなんでだろうねと首を傾げた。つっかえねぇなお前。

 

「私ばっかりひどい扱いする」

「ましろちゃんにひどい扱いするわけにはいかないだろ」

「私にはいいの!?」

 

 俺とつくしのやり取りを見ていたましろちゃんは、帰り際、二人になった時に羨ましいなと呟いた。多分つくしちゃんは逆のことを考えてると思うんじゃないかなという言葉はちょっとわかんないけどさ。

 ──ついでにつくしにはちゃんと花火デートしてきなさいというありがたいお説教をもらってしまった。泣かせたくないからって逃げるなってさ。まともなこといいやがって。




そのドキドキのましろちゃん勝負どころである花火大会ですが、特につくしに関係ないのでカットします。仕方ないね。
まぁ雨降るわけでもゲロ吐いて救急車で運ばれるわけでもないのでね。


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第3話:台風の目

 俺はとんだクズ野郎だ。心に決めた相手がいるわけでもないのにましろちゃんを泣かせた。花火大会の日、雨は降らなかったけど、あの子の泣き顔で俺の心は土砂降り状態だった。何回も、電話をしようとしては断念して翌朝を迎えてもまだ雨は止んでなかった。

 

「大輔の気にしすぎだよ」

「そんな風に……」

「付き合う気がないのに、そこで保留にした方が、ましろちゃんは泣くに泣けなかったと思うよ」

 

 そんな風に割り切れるわけがない。そんなシリアスな俺の言葉につくしはあくまで優しい言葉を掛けてくる。その気がないからってフるのも結構キツいんだな、と思ったけど、知らないヒトならアレだけど、相手はましろちゃんだ。傍にいるのがただ純粋に楽しくて、笑顔を咲かせる姿が眩しくて、あんな風に涙でぐしゃぐしゃになるのを見たくはなかったよ。

 

「……そっか」

「なんだよ」

「いや、前はましろちゃんのこと、おっぱいとしか見てない、とか言ってたのになって」

「そう言えば、そうだな」

 

 頭を撫でられて、言われて気付いた。いつの間にかましろちゃんの前でおっぱいおっぱいってならなくなってた。というか誰に対しても。いや残りのビッグセブンだと燐子さん瑠唯さん相手は若干やるけど。ビッグセブンって言い方もなんかGWくらいまでだったな。

 

「誰、そのビッグセブンって」

「燐子さん、瑠唯さん、ひまり、有咲、麻弥さん、ましろちゃん、イヴちゃん」

「……清々しいクズだね」

「俺もそう思う」

 

 S級おっぱいたちの出会いはそれまでの俺を変革してしまったようだ。きっとあの二つの乳房から溢れる未知の粒子が俺に影響を与えたに違いない。じゃなくて、つかシリアスどっか行くの早いんだよ。

 

「それで? 今は?」

「なんか、その個人と会話したり、デートしたりを楽しんでたね」

 

 それまでは理想の大きさのおっぱいって道行く一期一会のものだったり、店員さんだから遠巻きに眺めるものだった。だからおっぱいしか見てこなかった。でもビッグセブンとの出会いはそれ以上の関りを引き出さなくちゃいけなくなった。燐子さんとはゲームの話を、瑠唯さんとは音楽の話、ひまりやましろちゃん、有咲なんかは近況とか色々あったこと、麻弥さんはオタトークで、イヴちゃんは羽沢珈琲店での話がほとんど。そうやってパーソナリティーに触れてきた。

 

「そっか……俺が特別だって思ったのは、おっぱいだからじゃないのか」

「そうじゃなきゃ、私は違うでしょ」

「そうだよな、そうじゃなきゃ紗夜さんとかあこちゃんは違うもんな」

「怒っていいところ、これ?」

 

 わざとだよ怒るなベストフレンド。そう、つくしが代表だよな、おっぱいないどころか俺が興奮するフェチズムの対極に位置するであろう小学生ボディのつくし。余計な一言は付け加えなくていいと怒られた。怒るなよベストフレンド。でも、ほらやっぱり幼馴染でベストフレンド、俺にとって世界中で誰よりも信頼に値する人物だ。

 

「世界中で……って恥ずかしいこと言うなぁ」

「事実なんだからしょうがないだろ」

 

 俺にとって二葉つくしってやつは、そんだけ大事な存在なんだよ。恥ずかしいことも打ち明けられるくらいなんだから。だからこんなフッたことを後悔しているなんてくだらない相談ができるんだけど。

 

「私はぜったいにフォローしないからね」

「それでいいよ」

 

 正直なところ、話を訊いてくれただけでもめちゃくちゃ感謝してる。そりゃもう頭が上がらないくらいに感謝してるよ。これ言うと嘘っぽいから言わないけど。ただ、ただ絶対にこれはましろちゃんに言っちゃまずいなってことも、つくしになら言える。つくしなら黙って聞いていてくれる。

 

「……なんで、俺なんだろうな」

「うん」

「結局、ほら個人を見るようになったって言っても顔よりおっぱい見てるわけじゃん」「うん」

「なのにさ、それでもいいよ……見ていいよだって、意味わかんねぇ」

「不快だったら、近寄ってなんていかないよ」

 

 それも言われたよ。でもましろちゃんに相応しい男になんてなれっこない。それこそつくしがやってたような乙女ゲーの攻略対象みたいなイケメンには逆立ちしたって、いやきっと三回か四回転生して善行積んでも無理そうなくらいだ。そんな俺に向かってましろちゃんは目に光をいっぱいに溜めて、好きですって間違えようのない告白をしてきたんだ。あんな子が、俺みたいなキモいやつに。そうやって自虐を繰り返しているとつくしは首を横に振った。

 

「大輔はさ」

「ん?」

「キモくなんてない……カッコいいよ」

「なんだそれ」

「だって……大輔は私の前を歩いてくれたから」

 

 ──昔からチビで泣き虫で甘えん坊だったつくし。そんなつくしが俺の後ろをくっついてくるようになった一番のきっかけは下の子ができたことだ。当然親は構ってあげる子育てのリソースを下の子に割く。すると、お姉ちゃんになったつくしとしては両親を突如現れた子に盗られた、みたいな感覚になる。それを知った俺は、つくしの手を引いて色んなところに連れていった。まだまだ箱入りっぽかったつくしを日暮れ、どろんこになるまで。

 

「怒られたっけ」

「俺がな」

「ふふっ……でも、覚えてる。私がもっとってわがまま言ったこと、全部言わずに怒られてたこと」

「そうだったか?」

 

 俺は自分がそんな殊勝で優しい性格だったとは思ってないんだが。でもつくし曰くそうだったらしい。まぁそんなことはいいか。今ではすっかり、見た目の方はアレで……んーまぁ中身も若干アレだが、つくしも立派なレディになってしまった。少なくともうずくまる俺の前に立って手を差し伸べてくるくらいには、大人になった。

 

「それにしても、私も大輔からおっぱい以外の話が聞きたいなぁ」

「今日の天気?」

「それは間に合ってる」

 

 この間は、あああれだ、ゲリラ豪雨ってエロいよねって話だったな。短い間に突然の大雨、当然制服なんかだと濡れるし透ける。するとどうなるかっておっぱいライン丸見えのなんなら下着の色までわかっちゃう恐れがあるという代物だ。あれをエロい以外の感想では処理しきれない、ふぅ。

 

「最っ低」

「冗談だよ」

「でも思ってることでしょ?」

「え、当たり前」

「それを私に延々と語ってくる大輔の心理がわかんないよっ!」

 

 わからないだと? 長年一緒にいてわからない? おいおいつくしちゃんともあろうものが俺の心理についてわからないことがあるだって? 面白い冗談じゃねぇか。じゃあ逆に訊くけどゲリラ豪雨の濡れ透けのエロさを延々とつくしに語る心理ってなんだと思う? 

 

「なんにも考えてない。思ったことストレート」

「正解! 五千兆点!」

「うるさいバカ!」

 

 バカはないだろバカは。だけど何も考えずにしゃべってることを仮にバカだと呼称するなら俺はバカということになる。こんなに話逸れるとシリアスだった前半はなんだったのかってクレームが起きそうだな。

 

「吹っ切れた?」

「いや、全然だな……けど、つくしがいると笑っていられるから、それでいいかなって」

「そっか」

 

 きっと、これからも俺はましろちゃんに出会ったら話かけてしまう。未練があるからな、フった方なのに未練があるってのもおかしな話だが。泣かせたから、気まずくなりたくない。前みたいに先輩と明るく笑う彼女が見たいと思ってしまう。

 ──それは、まだ告白されてない他の子にも同じ気持ちだ。告白するにしてもしないにしても、俺にとってはこの日常が頭がおかしくなるくらいに幸せなんだから。

 

「そうだ。今度モニカで一泊二日で合宿する計画立ててるんだけどさ」

「おう、いいじゃんどこ?」

「軽井沢、だっけ」

「……ただの避暑じゃね、それだと」

「大輔も招待してあげよっか? もちろん、部屋は別だけど!」

「んじゃあありがたくってことでいいのか?」

 

 そんでもってその日常の一番中心にあるのは、間違いなくつくしとこうやって過ごす日々だった。色んなことがあって、色んなことがあったからこそベストフレンドってカタチで幼馴染って線を越えて一緒にいる。そんなつくしに俺はそっと心の中でありがとうと感謝を込めて……料理を張り切ってミスったのに怒号を飛ばした。マジで砂糖と塩を間違えるなって言ってんだろうが! ちゃんとラベル貼ってあっただろうが! 

 




波瀾というか色んなものに振り回される大輔の日常はまさしく台風のようで、その中心にあるのは幼馴染とのなんの気も遣わない会話だったとさ。
つくしちゃん、女子力はそれなり。レシピとか頭に入ってるけどポカやらかして大変なことになるので家事ができない。残念


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第4話:幼馴染の本音

修正力によって結局モニカとは一緒にいる大輔くんの夏休み


 七深ちゃん曰く親のアトリエと言う名の別荘で、周囲に建物がなくここ数年は使ってないということもあり透子ちゃんと瑠唯さんが提案し私財を投入し、バンド練習ができるようにリフォームしたもの、それが今回の合宿場なのだとか。ただ機材とかにそこまで詳しくないお嬢の集まりであるため、瑠唯さんがそれならと練習スタジオでバイトしてる俺の名前を挙げ、ましろちゃんが食いついたと。

 

「……バイト代取っていい?」

「宿泊費」

「ごめんなさい、誠心誠意ボランティア精神でやらせていただきます」

 

 よろしいとリーダーつくしは満足気だ。ムカつくから透子ちゃんにこの間の砂糖と塩を間違えた事件の話をリークしてやったところ、透子ちゃんはしばらくつくしの顔を見るたびに笑っていた。それはいくらなんでも笑い過ぎじゃね? 

 

「いやいや、あれは笑うっしょ! つーか大輔サンいてくれんのマジ助かる! あたしらじゃ絶対なんか破壊するね!」

「そうね」

「そうね、じゃないんだよなぁ」

 

 瑠唯さん冷静に頷かないで。バイトとは違ってなんかないと呼ばれないからのんびりとした時間を過ごさせてもらってる。なんならちょい散歩に行ってみたりして、結局のところ日本の夏だから暑いことには変わりないけど、こうベタっとした風じゃないのは好印象だ。ここに住みたい。

 

「あ、そーだ、宗山さ~ん」

「なに?」

「夕飯、注文しといたから、受け取っといてくださいね~」

「注文?」

 

 なんだろう、ピザとか? そんな疑問を解決してくれたのは大量の肉と野菜を配達員のお兄さんから受け取った時だった。ば、バーベキューセット。しかも高級肉だ。なにこのセレブ、めっちゃ腹立つな。いや俺も食えるから役得レベルなんだけど。ただし俺はバイトもといボランティア要員なので、炭火の準備もさせられる。バカみたいに広い庭に置いて、テーブルと椅子を出して、これは流石に瑠唯さんやましろちゃんが手伝ってくれたけど。

 

「先輩にばっかりやらせるのは嫌だし……一緒にいたいし」

 

 本音が漏れてるのは気にしないでおく。フったとはいえ、気まずくなりたくないという俺のわがままのせいでまだまだ、ましろちゃんはこんなノリだ。そこに瑠唯さんまで加わるとなると面白いことが起きるんだから大変だ。

 

「二葉さんが手伝いにこないのは意外ね」

「あいつは俺に触るな近寄るなって言われて落ち込んでるところ」

「……過保護ね」

「そう思わせてやらかすのがウチのつくしちゃんのすごいところなんだよ」

 

 特に火の近くなんてダメに決まってんだろ下手すると火事になりそうだ。ドジっ子の領域越えてるんだからなあいつ。

 ──そんな雑談交じりで炭火の準備ができたところで俺と透子ちゃんが焼く係になる。まぁ女子力高いし手際はいいからね、透子ちゃん。

 

「野菜はいらん! 肉だ! 肉をよこせー!」

「……炭酸だよね、飲ませたの」

「うん、そうだったと思うけど」

 

 ただしノリに酔ってる。それを瑠唯さんが野菜も食べないと栄養効率がよくないわよと透子ちゃんとましろちゃんの皿にピーマンやらナスやらを乗せていく。ましろちゃんの箸が止まっていて、まぁドンマイ。

 

「せ、せんぱーい……食べて」

「たまねぎと交換」

「焼いた、たまねぎ……」

 

 焼いたたまねぎもダメなんかい。キノコもダメだし、そうなると本当にキャベツくらいしか食べれる野菜がないんだよな。諦めたようにましろちゃんはキャベツをもしゃもしゃとウサギみ溢れる姿で食べていた。ふと、隣を見るとつくしはピーマンを見栄で食べようとして固まっていた。お前も緑黄色野菜食えないんだから無理するなよ。

 

「ほら、たまねぎ食え」

「……大輔が苦手なだけじゃん」

 

 ピーマンを奪い取ってたまねぎを押し付ける。うるせぇ、ピーマンもナスも食べれるんだからいいだろ。それに食べれないわけじゃなくてハズレ引いた時の辛い感じが嫌いなだけなの。メインは肉だし、ところでめちゃくちゃ高級そうな肉なんだけど、これ金とか大丈夫なのかと訊ねると偶にはパーっとやんないと! と酔っ払いが言い出した。透子ちゃんのポケットマネーなん? 

 

「あとは、あれ! グッズとかの売上!」

「幾らか売れていたものね」

 

 グッズやらは透子ちゃんと七深ちゃんで手作りしているらしい。まぁ透子ちゃんなんて個人のブランドまで持ってるわけだし、アクセとかの小物……ってあれがハンドメイドってマジですか? 俺も持ってるけど。

 

「言ってなかったっけ?」

「と、というか……先輩わたしたちのグッズ買ってたんだ」

 

 そりゃ俺はガールズバンドのオタクなので。それにしてもマジかぁという感じである。そりゃそうだよな、プロじゃないアマチュアのバンドでグッズ制作とかしてくれる事務所なんているわけないもんな。全然その辺りのこと頭から抜け落ちてたよ。完成度ヤバすぎでは。

 

「シャツとかね、七深に案もらってんだよ、な!」

「う、うん~あ、でも~これくらいフツー、だよね?」

 

 そういえばロゼも燐子さんが担当してるからこそ、アマチュアであのレベルの衣装の完成度を誇ってるし、フツーあんなに統一感ある衣装をアマチュアが持ってるわけないもんな。なんか俺の頭の中に何バンドかアマチュアなのに衣装とかグッズの完成度がすごいのが通り過ぎてったけど、特殊なんだもんな。パスパレに慣れ過ぎてて忘れてた。

 

「まぁ懐石のフルコースとかだともっと掛かるから、こんなのミクロンミクロン!」

 

 話のスケールがミクロンじゃないのはツッコんでいいやつ? 一般的な高校生は合宿で料亭行きませんよ? 人数分払うって意味だもんなあれ。やっぱ金持ちは悪。義賊さんこいつらですよ。

 

「ふぅ、食った食った……どうしたんシロ?」

「星、キレイだなぁって」

 

 すっかりみんな腹も膨れ、火が消えかけていた頃、ましろちゃんの言葉に促されるように見上げると、濃紺の夜空を埋め尽くさんばかりに星が瞬いていた。一瞬、言葉を奪われるような輝きの後、つくしが俺の肩に頭を乗せてきた。

 

「眠い?」

「ううん、なんか……昔のことを思い出して」

 

 昔、というと天体観測をした時のことだろうか。天の川が見たいと言ったつくしのために二葉家にくっついて俺も観に行ったやつだったな。確かに、あの時とシチュエーションは似てるな。山の上にあったコテージの庭の芝生に寝転んで、二人で流れ星を見つけようって躍起になったっけ。

 

「あの時、確かお前寝落ちしたよな」

「そうだっけ?」

「そうだった。俺が部屋まで運んだんだからな」

 

 背中に背負って、あんときはまだそういう羞恥とかなかったどころか泊まり先になると絶対に俺と一緒に寝たがってた甘えん坊をベッドに寝かせて、結局流れ星を見つけることができずじまいだったな。

 

「じゃあ、今日もやる? 見つけるまで」

「流星群の時にな」

「そんなのすぐじゃん」

「すぐでいいんだよ、バカ」

 

 すぐじゃダメだよ、とつくしは星を見ながら、すぐじゃダメ、ゆっくり二人で探すからいいんだよ、と笑って俺の言葉を否定した。珍しく昔みたいに甘えてくるつくしに、俺はその頭を撫でながら一言だけ言ってやった。

 

「みんな見てるけどな」

「……え」

「つくしちゃん……ずるい」

「幼馴染は思い出で勝負するものなのね」

「ふーすけやるじゃ~ん♪」

「つーちゃん、だいたんだ~」

 

 暗がりでもわかる。なにせつくしは幼馴染でベストフレンドなんだからな。今、こいつは顔を真っ赤にして俯いてぷるぷるしてる。そのうち爆発して、俺に向かって知ってるなら早く言ってよ! 大輔のバカ! と罵りながら部屋に逃げ帰るんだよ。

 

「知ってるなら早く言ってよ! 大輔のバカ!」

 

 ──な? これが二葉つくしってやつなんだよ。んで、ああいうことやっといて後で俺にグチグチ文句言ってくるまでがテンプレ、それをごめんなって甘やかして寝落ちしたあいつを部屋まで運ぶのもテンプレ、ここまでがテンプレでここからもテンプレ幼馴染なんだよなぁ、なんせつくしだから。でもまぁ、そんなところもかわいいやつだって許せるのは、やっぱり俺もつくしに相当甘いんだろうな。いいんだけどさ。

 

 

 

 

 

 




ラブラブなのか……実はお前ら。


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第5話:エピローグは二人で始まる

これにてグランドフィナーレです。


 合宿は順調に進み、俺の暇な時間も順調に進んでいく。時折、休憩時間になるとましろちゃんが全力で甘えに来たり、瑠唯さんが静かにグイグイ攻めて来たりと退屈はしなかったけどさ。しかも言わばあの二人は恋のライバル同士なのに共謀までしてくるんだから恐ろしい利害の一致もあったものだ。そんな合宿から帰って、俺は自分の部屋につくしを招いていた。二葉家が合宿の期間を間違えて絶賛ウチの両親と海外旅行中らしく、家の鍵が開いてなかったのだとか。いや合鍵……はお前無くすからってもらってないんだっけ。

 

「はぁ……大輔呼んどいてよかった」

「ホントにな」

 

 不幸中の幸いなのは俺がいること。いや俺が呼ばれてなくても連絡くれたら同じ状況にはなると思うけどな。着替えも、向こうで洗濯したおかげであるしな。こういう悪運のいいところはなんというかつくしらしい。そんな緊張感のないピンチを切り抜けて、俺とつくしは合宿の出来事を振り返っていた。

 

「モテモテだったね、大輔」

「……そうだな」

 

 なんか最近は嬉しいと思えるようになったよ。もうあの二人になんで俺なんだよなんて言っても無駄だってことくらいわかるから、受け入れたらなんだかんだ嬉しいってのも変かもしれないけど、悪くない、って思うようになった。

 

「贅沢言ってるねぇ」

「マジでな」

 

 けどましろちゃんは泣かせたし、瑠唯さんもたまに寂しそうな顔をする。あの二人の気持ちのどちらにも応えられないってのは結局、嫌だなって思ってしまうんだけど。そんなこと言うとつくしにだったらどっちかと付き合えば? と軽く言われた。

 

「そう簡単に……」

「簡単じゃん。だって今の大輔、それも悪くないって思ってるクセに」

 

 なんでお前はそう的確にヒトの内心を読んでくるかね、とため息を吐くと幼馴染でベストフレンドだからと笑ってみせた。まぁ俺がつくしの考えてることがわかるように逆もまたって感じか。こいつにそんな察しがつくかはさておき。

 

「そうだな、悪くない……毎日楽しそうだしな」

 

 ましろちゃんは、きっと今よりもますます甘えん坊になって、けど幸せそうに笑ってくれるんだろうな。毎日を大事に過ごしてくれそうだ。

 瑠唯さんは、どうなるんだろうな。けどあの調子だとましろちゃんと似たような感じになりそうだ。それがわかりやすいかわかりにくいかの違いってだけで。

 

「大輔は、どっちと付き合うか決めたの?」

「決めてたらこんなこと言う前に俺から一緒にいてくれって言ってるよ」

「そっか、それもそうだね」

 

 これまでの俺と言ったらヒトを想うって気持ちがガキの頃、つくしにしていた初恋からちっとも成長してなかった。それをましろちゃんや瑠唯さんと関わることでイヤってほど思い知らされたんだよな。やっぱり俺はおっぱいしか考えてなかったよ。

 

「なぁつくし」

「ん?」

 

 ちょいちょい、とつくしに手招きする。ベッドの上にやってきてなに? と首を傾げたつくしの肩を抱いて、俺は自分の方へと抱き寄せていく。途端につくしは顔が真っ赤になって、俺を突き飛ばしてきた。痛いんだけど。

 

「な、なに……急になにしてんの!?」

「いや、やっぱお前が近くに来てもドキドキしないなぁと思って」

「私はいきなりすぎてドッキドキだけどね!」

 

 まぁそれはすまん。けど、ましろちゃんや瑠唯さんだったら多分俺、一緒の部屋にいるのも緊張しすぎて変な挙動してそう。あと目が合わせられなくておっぱい見てそう。けど相手がつくしなので別にそんなことなんもない。なんなら天体観測中にヒトの肩に頭乗せたと思ったら膝枕ですやすや寝息立てやがってな。

 

「あれは、なんか本当に昔に戻ったみたいで……つい」

「つい、で運ばされる俺の身にもなってくれ」

 

 この時ばかりはロリ体型でよかったと思ったよ。軽くてひょいと抱えれたからな。けど、まぁそうだな。昔の気持ちを思い出したってんなら俺もそうだったのかもしれないな。甘えたがりのつくしをしょっちゅう甘やかしてたあの頃の気持ちをさ。

 

「……なに」

「つくしは今……ああいや、こういうのはズルいやり方だな」

「大輔?」

 

 息を吸って吐く。こんな逃げ方してたら、脈がないって知りながらもめちゃくちゃアタックしてくれてたましろちゃんや瑠唯さんに申し訳ないからな。だから、まずは俺が言いたいことを言っていくことから始めるべきだ。

 

「俺はつくしが──」

「──好きだよ」

 

 起き上がって言おうとした言葉がつくしの口から発せられる。それだけじゃない、驚く俺の唇が、つくしの唇に塞がれていた。数秒の静寂、それを破ったのは耳どころか首まで真っ赤にした幼馴染でベストフレンド()()()つくしだ。

 

「やった……先に言ってやったもんね」

「おまえ……」

「私も、あの日に思い出して、ああそっかぁって思ったんだ。大輔のこと、ちゃんと好きなんだなぁって」

「お前さぁ、俺のセリフ全部奪ってくのやめてくんない?」

「唇も、奪ったよ?」

 

 なんだよそのドヤ顔、まさかの伏兵の奇襲によって主導権がつくしに奪われてしまった。あとついでに唇も。ファーストキス奪われたんだけど! そう言うとベタだけどファーストキスじゃないよとつくしはまだドヤ顔してくる。

 

「あれだろ、子どもの頃にしたって話だろ」

「したじゃん、大輔が」

「お前からだったろ」

「それは違う、大輔が急に、こう……なんか恥ずかしくなってきた」

 

 なんだお前、情緒不安定やめろ。俺の記憶だと甘えたがりでなんかあるとハグしたがってたつくしに奪われた記憶がふと蘇ったんだが、どうやらつくしによるとそれより前に俺が寝かけてるつくしの頭を撫でながらキスしてきたらしい。ダウト、第一小学生か下手すると園に通ってるような年齢の俺がそんなイケメンムーブかませるわけないだろ。

 

「それに」

「それに?」

「ガキの頃はノーカンだろ」

「じゃあ……今が?」

「やっぱガキの頃数えていいよ」

「どっち?」

 

 いやまぁ、どの道相手はつくしなんだけどさ。こう気のもちようというかなんか違うんだよ、具体的な言葉は一切出てこないんだけど! だがつくしはそれがなんだか面白かったようで、じゃあさと顔を近づけてくる。

 

「大輔からも、してくれる?」

「……つくしのクセに」

 

 途中から成長が止まったせいで、俺ばっかりでかくなってすっかり開いた身長差を埋めるように背筋を伸ばして、つくしはほんのりと桜色の頬で、昔とは全然違う甘え方をしてくる。さっきはドキドキしないとか言ったけど、こうなると話は別だ。けど、俺のプライドとしてつくしにイジられるネタを作るのは絶対に嫌なんだよな。

 

「ん……っは、な、長いって」

「そうか?」

「そうだよ、もうちょっと短めじゃ、ちょ……え、大輔?」

 

 けど、そんなプライドをあっさり塗りつぶしていったのが、ムードというやつだった。あれだ、両親はいない部屋のベッドの上に二人きりなんだからな。何も起こらないはずもなくってやつだ。前に瑠唯さんから没収したアレがあるからとは言って流されたつくしだったが、賢者タイムに入ったことでたっぷり怒られることになった。

 

「そ、そういうのは……せめて高校卒業してから!」

「一回やったら二回も三回も一緒じゃね?」

「大輔!」

「ハイ、すんません」

 

 反省はしてない。健全な男子高校生が十年以上積み重ねた恋心だぞ、しかも二人きりになれる確率が高いのに卒業までって我慢できるワケないじゃん。それに一度流された以上、これからも同じ手を使えばなんだかんだ言いながら流されてくれるはずだし。

 

「……ってこと考えてるでしょ」

「流石愛しのつくしちゃん、百億点!」

「この前より下がってる!」

「そっち?」

 

 冷静になるとよくもまぁロリ体型のつくしに欲情できるもんだと感心したくなる自分もいるが、そもそもつくしを愛してるってだけで別にロリを愛してるわけじゃないので、俺のフェチはこれからもおっぱいになるわけなんだけど。

 ──まぁそれ以前に、長年恋してきた元幼馴染は正義ってとこかな。家族公認すぎるところだけは、もしかしたらなんとかしなきゃいけないのかもしれないけど。

 




おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№06:幼馴染で、初恋なんだから! 二葉つくし
 結局お互いきっかけを忘れてただけで想いの火は燻ってたとさ。なんだかんだで一緒にいるから表面の関係はあんまり変わらない。そもそも前からいちゃついてたし。ただ、何の話かはわからないけど四度目からは制止を諦め、七度目はつくしから誘っちゃう。何の話かはわからないけど。
 正直別になんの性癖持ってても大輔だしで全て片付く。大輔だし性癖と私は別という謎の自信、ただし浮気されないかは常に気にしてる。ましるい、お前らのことやぞ。


これにて、これにて本当の本当に終了となります。
たくさんのご愛顧、そして長々とした個別ルートにお付き合いいただき、ありがとうございました。また、どこかでお会いしましょう。
――黒マ×ファナ


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後日談:モテる男のホワイトデー

 女性の部位のどこが好きかと問われると俺は即座に、脊髄反射で答えよう──おっぱいが好きだと。

 だが世の中には一口に「おっぱい好き」と言っても千差万別だ。その中でも俺はおそらくオーソドックスであろう大きいおっぱいが好きなタイプだ。言うならば人気投票で上位のキャラクターが好きなミーハーの中に異彩を放つ変態ってところか。よくわからない例えな気がしなくもない。

 ──とにかく、俺は大きいおっぱいが好きだ。大きいおっぱいこそ正義だ。その辺は周知されるべきだと俺は感じている。そう、もう一度言おう、俺にとってあくまで大きいおっぱいこそが至高にして正義なのだ。そこのところは忘れないでもらいたい。そして決して誤解のないようにお願いしたい。小さいおっぱいに興味のクソもない、俺にとっては大きなおっぱいが正義なのだ。

 

 

 


 

 

 

 三月十四日は世間的で言うところの「ホワイトデー」だ。なにやらホワイトと言うといかがわしい妄想もしてしまいがちだ。特に乳白色という単語に俺は底知れない卑猥ポイントがあると思ってる。声に出して読みたい色だと思うよ乳白色。

 ──いきなり脱線したけど、まるっと一月前、閏年でなければきっかり四週間前、バレンタインデーで女性から男性に、まぁなんでもいいけどとにかくチョコをもらった人にとってはそれをお返ししなければならない日となる。モテない男性諸氏においては関係のない話だろうけど。

 

「まだか? 今出た、からもう二十分だけど」

 

 そんな素敵でもあり、もらいすぎた人には財布の心配をする日の前の休日、俺はスマホを耳に当てながらそわそわしていた。

 原因は言うまでもなく待ち合わせ相手が予定時間の三十分後になっても姿を現さないことだ。いやマジでなにしてんの。

 連絡は寝坊した、忘れ物した、と続いて、現在返信は返ってきていない。恐らくショートカットしようとして迷子か何かでパニクってる最中だろう。本当に凡ミスの女神様に愛されてる。嫌な女神だなおい。

 

「お、おっ、おまたせ!」

「ん、迷子か?」

「う、うん……道、間違えてパニクっちゃって」

 

 ──だから迎えに行くって言ったんだよバカ、と文句を言おうとして振り返ると、そこには誰か知らん美人さんがいた。思わず固まってしまった。

 お察しの通り今日はデートの待ち合わせである。デート相手は言わずもがな幼馴染であり元は大親友(ベストフレンド)でもあり、現状の関係は恋人ということになる二葉つくしだ。そしてつくしちゃんといえば見た目も子ども中身も子どもの年齢詐称のつんつるてんなんだよ。俺は愛しのマイハニーがこれまで一度だって高校生ですねと言われたことがないことを知っている。

 

「だか……え、誰キミ」

「ひど! う、そ、そんなに怒ってる……?」

「い、いや……あの、いや怒ってはない。うん」

 

 きっと同じバンドでファッションリーダーどころか自分のブランドのプロデュースもしてるで有能ギャル系お嬢様の桐ヶ谷透子ちゃんが入れ知恵どころかフルプロデュースしたんだろう、ということは一目でわかった。

 だけどそれでも、例えそれをわかっていても息を呑むほど、今日のつくしはかわいかったし美人だった。いやマジでつくしちゃんは最高にかわいいのは俺にとっては空気は窒素が大部分を占めてるくらいに当然のことなんだけどさ。そうじゃないんだよ。

 

「あ、あー……えっと、変じゃ、なかった?」

「全然、びっくりしただけ……ギャグじゃなくて、マジで」

「そ、そっか」

 

 恥ずかしそうにヘアアイロンで巻いたんだろう降ろした髪をくるくると指先で遊ばせる。ちゃんと付き合い初めて半年くらい経ったけど、ここまでファッションで本気を出してきたのは初めての経験だった。いや今日クリスマスじゃなくてホワイトデーっすよつくしちゃん。

 

「だ、だって……クリスマスの時、ダメ出しされたし」

「したね」

「背伸びしすぎって……それが悔しくて」

「それで透子ちゃんに?」

 

 頷くつくしと俺の間に妙な空気が流れ始める。いつもはワンピースとか、割と子どもっぽい格好してること多くて、ツインテも相まって子どもっぽさ全開だったのに。

 しかもちょっと近づけばすぐわかるけど化粧もしっかりしてる。今回は百点どころじゃない点数してる。

 

「はぁ……」

「な、なんでため息」

「そういうの、もっとしっかりしたデートの時にしてくれ」

 

 そんな気合全開のつくしちゃんのデートコーデとは裏腹に今日はデート未満のおでかけなのだ。目的は買い物であり、しかも内容も前述のホワイトデーのお返しを買いに行くだけだ。そして買いに行かなきゃなとボヤいたら何故かデートすることになってた。つくしにもあげるんだけど、一応は。

 

「大輔はこういう時は見張ってないと浮気するかもしれないし」

「なんだそれ」

「いいから!」

「まぁいいや、行くか」

「うん!」

 

 見慣れたはずの笑顔も、いつの間にか繋ぎ慣れた手も、俺の心を揺さぶった。

 ──ホワイトデーだけの予定だったけど、普通にデートでもいいか。今日のつくしは俺にそう思わせるには充分すぎる破壊力が出ていた。今日のつくしちゃんはパワーが違うぜ。

 

「大輔は、誰にあげるの?」

「正確には誰に返すの、だな」

「そういう誤魔化しいいから」

「えーっとだな」

 

 頭に思い浮かべていく。まずは隣にいるつくし。こっちは恋人だし現状一緒にいるので食べたいものをあげようと思う。後はモニカの残り四人、うち二人が本命チョコとのたまってきた。後はひまり、有咲、ゲーム友達の紗夜さん燐子さんとあこちゃん。羽沢珈琲店関係でつぐみちゃんとイヴちゃん。麻弥さんだな。さりげにビッグセブンからコンプしてたりする。

 後は花音さんやらこころやら、リサさんやら羽沢珈琲店で会った人総勢五人くらいからもらったよ。

 

「うわ」

「うわって言うのやめて」

「多いね」

「本当に」

 

 数自慢とか学校でやってたけど、俺は自分のクラスじゃゼロで通ってる。実際は余裕の二桁である。バレンタイン当時は内心で余裕ぶちかますことができたし羽沢珈琲店通っててよかったと心から感謝したよ。

 それが今、財布にダイレクトアタックしてくるのが問題なんだよ。俺のライフはもうゼロなんだよ。

 

「本命はどうするの?」

「一つはいいとして二つなぁ」

「誰?」

「……は?」

「え、なんでめっちゃバカにしてきたの?」

「誰って、お前だよ二葉つくし」

 

 お前が三つ目の本命チョコなんだよ! と言うと今明かされる衝撃の真実を突きつけられたかのようにつくしは驚いていた。いや、まさか義理チョコだったの? それはそれで恋人から義理チョコもらうのなんかショックなんだけど。

 そう言うと、つくしは苦い顔でそれを肯定してきた。え、マジで義理なんですか? 

 

「なんか大輔には毎年上げてるから、流れで」

「マジで義理かい!」

「いや、まぁ……ウン」

「そこは嘘でも今年からは本命だからとかロマンあふれる言い回しを求めてたよ」

「私に?」

「ああ……ごめん」

「謝らないでよ!」

 

 まぁつくしだし。事実ロマンの欠片もないし。幼馴染でベストフレンドだったお前に正直なところなーんにもラブコメは期待しちゃいない。このデートだって、手を繋いでいることと、俺の意識の中の他にはなにひとつだって俺とつくしは変わってない。初恋で、幼馴染で、隠してることなんてない息抜き的な存在、それがつくしだ。

 

「ところでさ──大輔?」

「あ?」

「また通行人見てたでしょ」

「ああ、うん。おっきかった」

「もう!」

「で、なに?」

「その、ビッグセブン? から本命もらった感想は?」

「え、えーっと、困った」

「困ったんだ」

 

 そりゃ困るさ。それが既に恋人でさ、おっぱいの型取って作りましたなんて言ったら興奮のあまり食べるのに下半身が大変なことになるかもしれないけど。大きいおっぱいなのと恋愛対象なの、知ってるってか現状実感してるでしょうがつんつるてん。

 それにそんなつんつるてん、じゃなくてつくしと付き合ってるの知ってて本命チョコってのはまさに私は諦めないって宣言でもあるわけでしょ? あんまりつくしを不安にさせるのはよくないしな。

 

「俺がバカみたいにおっぱいおっぱい言ってるのも、ましろちゃんと瑠唯さんがビッグセブンなのも、知ってるだろ」

「そうだけど」

「──俺は、つくしのカレシだからな。つくしが安心して好きって思ってくれないと、困るんだよ」

「ふ、ふーん、そっか……そっか」

「なんだよ」

「なんでもないっ」

 

 上機嫌になってるとこ悪いが、お前付き合ってるの知られた上で俺に本命チョコ渡してくるってそれマジで舐められてるよ。つくし相手ならバトっても勝てるだろうって思われてそうだよな、特に瑠唯さん辺りに。

 まぁ口には出さずに、ホワイトデーのためのちょっと高そうなお菓子のコーナーにたどり着く。

 

「わぁ、かわいい……!」

 

 色んなチョコやらクッキーやらのラッピングや箱を見ておめめをキラキラさせるつくしちゃん。おまかわ。

 じゃなくて、つくしばっかり見てるとなんにも進まん。だけど今日のつくしはプロのマジシャン並に俺の視線誘導が上手だ。ついついつくしの横顔や後ろ姿を目で追いかけてしまう。おかげで多分おっぱい四回くらい逃してる気がする。

 

「大輔は何を買うか候補は?」

「今ぶっちぎり一位がつくしちゃんのお持ち帰りかな」

「……変態」

「そのつもりはなかったけど気が変わってきた」

「えっち」

 

 こう、なんていうかつくしが頬をちょっと染めて恥ずかしそうなえっち、って声には何か下半身とか性欲とか劣情に作用する成分が含まれてるよな。全部同じか。

 何ヶ月かは嫌がるつくしを絆して流して宥めて押し倒してたけどクリスマス辺りについに自分からもえっちな顔で誘ってくるようになってたりする。でもめっちゃ恥ずかしがるんだよ。かわいいでしょうちのつくしちゃん。

 

「誰に向けて自慢してるの? ってか誰であっても恥ずかしいからやめてよ!」

「つくしと付き合ってない世界線の俺」

「危ないやつだよ!?」

 

 諦めようつくし、俺は危ない変態なんだ。とまぁイチャイチャしてないでちゃちゃっと買うものを決めていく。このしっとりクッキーいいな。特にしっとりって単語にそこはかとないエロスを感じるよ。

 ──隣からの視線が痛いのでこれ以上はやめておこう。

 

「あとはキャラメルとか、マカロン……たっか、まぁいいやマカロンと」

「紅茶とかもいいかもね」

「いいなそれ、花音さんとか珈琲店メンツはそれにしよ」

「紗夜さんもそれでいいと思うよ」

「だなぁ」

 

 なんだかんだでつくしいてくれて助かってる部分はやっぱアドバイスくれるところだよな。ブランドメーカーの紅茶の葉のセット、マカロン、高級キャラメル、バウムクーヘン、平均値は目指せ二千円である。それでも二桁いるから二万どころか三万とか余裕でぶっとぶんだけど。こういう時化粧品とかを贈る文化もあるらしいが俺には無理である。

 

「つくしくらいだよな」

「隣にいるからね、でも私も透子ちゃんいないとわかんないよ?」

「つくしだなぁ」

「どういう意味!」

 

 結局つくしを除いて総額が四捨五入したら四万に到達した。店員さんも驚き顔だ。俺もびっくりしてたけどな。バイト学生にはツラすぎる出費だよ、また今月もつくしちゃんのヒモ生活か、悲しいな。

 して、最後に残ったつくしちゃんの番だけど、何がいいとか決めたんだろうか。

 

「うん、決めた」

「なに?」

「──大輔」

「ん?」

 

 名前を呼ばれて手を繋ぐつくしを見ると、つくしはほっぺどころか耳まで真っ赤になっていた。

 でも、それでもつくしは俺をまっすぐ見つめて、間違いなく、聞き間違いも言い間違いもなく確実にその一言を口にした。

 

「大輔の時間がほしい」

「……は、具体的には?」

「春休みになったら、デートしよ。クリスマスのリベンジで、今度はもっと大輔にかわいいって言われる服で来るから」

「襲ってもいい?」

「いいわけあるかっ」

 

 どうやらつくしはどんどん、いい女になってしまっているようだ。それが嬉しくもあり、寂しくもある。同時に、俺もちゃんとつくしの成長に応えられる男でありたいと思う。幼馴染で、初恋だからつくしのハートを射止めたんじゃなくて、ちゃんと、二葉つくしのカレシとしてつくしが惚れてくれる男に。

 

「温泉宿とかいいかもな、泊まりになるし俺の金じゃ無理だからあんまりお返しにはならんかもしれないけど」

「……どんな部屋でも一緒には入らないからね」

「え、だめなんですか!?」

「なんでそこでめちゃくちゃびっくりできるの!?」

「そういう意味のホワイトデーかと」

「変態! ってか大輔付き合ってから下ネタ多すぎ!」

「そりゃ、つくし相手だからな」

 

 手を引っ張り、引き寄せたタイミングで手を放して腰を抱きながら身を屈めて唇を奪ってやった。身長差がかなりあるから横からというより上からになるけど、つくしはどうやらその上からのキスに弱いらしい。二度目を迫ると拒否しきれずに唇が合わさる。お菓子コーナーで人目にはあんまりつかないけど、ちょっと強引すぎたかな。怒られると思って身構えていると、おや、勢いが弱く潤んだ目でつくしは熱っぽい息を吐いていた。

 

「……家、さ」

「ん?」

「誰も、いない?」

「残念ながら今日はいる」

「い、いるのに……ああいうキスするの、バカじゃん」

「そんなムラムラつくしちゃんにはいいお知らせがあるよ」

「……言い方」

 

 そう言って俺は二葉母からもらったとあるカードキーを見せる。セレブ界隈に足を突っ込んでいる二葉家は別荘こそないが、俺がつくしには内緒で正式に両親にお付き合いしてること、結構真剣に将来まで考えてることを伝えていた。そしたら正月に一緒に旅行した際にこんなものをもらっていたのだった。それはなんと、俺とつくしんちから徒歩三分、駅から徒歩八分ほどのところにある高級マンションの三部屋ブチ抜きの鍵だった。

 

「な、なにそれ」

「若くて健全な俺たちのためにだってさ」

「……ママってば」

 

 家だと親がどうのって言って無理な時もある、でも高校生だからホテルは無理だってなるだろう俺たちの背中を押してくれる素敵な鍵だ。これまでは使う機会ないし、なるべくあるって思うのはやめとこうと思ってたもんだけど、つくしの反応見て俺も我慢できそうになかったからな。

 

「行くだろ?」

「……うん」

「そうこなくちゃ」

 

 なーんて余裕ぶっこいてチャラ男みたいなテンションを出している俺ですが、完璧に虚勢である。というか今日のつくしのかわいさが限界を越えていらっしゃっている。そういう意味だとマジで透子ちゃんナイスすぎる。でもキスと誰にも確実に邪魔されない空間に行くって事実にこっちのドキドキがヤバすぎて頭おかしくなりそうだ。

 

「顔あっつ……大輔のばか」

 

 こんなつくしのテンションで俺が我慢できる可能性なんて万が一にもありませんねええ。そしてつくしちゃんは俺がムラムラするポイントをよく抑えているので、まぁ結論何が起きるかっていうと初利用で初お泊りになりましたとさ。

 ──これ、いつでも使えるの絶対バグってるのでなるべく使わないようにしようとつくしと二人で話し合って決めた原因になったのが、その日のことでしたとさ。おしまい。

 

 

 

 

 

 



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