剣は魔法より強し (孤独なバカ)
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プロローグ

とある昼休み。俺はいつも通りと言うべきか友達である桐ヶ谷直葉と一緒に昼食をとっていた

 

「……はぁ」

「何黄昏てるのよ」

「ん…ってブラコンシルフじゃねーか」

「…ふん」

「いっつ」

 

俺は今普通に学校復帰を果たし普通なら入るはずだった臨時支援学校ではなくてキリトの妹が居る高校へと進学していた

というのもリアルで既にキリトたちと交流があるのと俺一人だけ置いてけぼりの可能性があったので普通の学校に通いたいと菊岡さんに頼んだのがきっかけなのだが

 

「…本当ゲームと変わらないんだね」

「何がだよ」

「女性にも関わらずそうやって誰にも関わらずいけずなところ」

「今じゃゲームとリアルの違いって余り分かりにくいしなぁ」

 

俺はあまりリアルでもゲームでも性格は変わっていない

人をからかったり下ネタを心を許している人には結構言うタイプなのだ

それにSAO事件と呼ばれる事件に巻き込まれたこともありリアルとゲームの違いがつきにくくなっている

 

「はぁ、臨時支援学校にした方が良かったんじゃない?元不良さん」

「うっせ。ブラコン」

 

と軽口を叩く。するとクラスのトップカーストたちが話している

 

「ところできになったんだが桐ヶ谷さんは八重樫さんに勝てるのか?俺は来月の交流戦大将ぼぼ確定したけど」

「……無理かな。交流戦には出れるとは思うけど…ってハルマ、天之河くんに勝ったの?」

「勝ったぞ。剣道始めてだったけど結構面白いなぁ。剣術はアインクラッド流だから誰も掴みづらいんだろうなぁ」

「お兄ちゃんといい、普通に強いよね」

「ソロだったからだろ。ソロじゃなければ全部一人でやらなくていいんだから」

 

あの事件以降俺は正式に剣道をやり始めたのだ。一応県有数の実力高であるのだが、まぁ毎日のように死とやりとりしてた俺にとっては正直手応えはなかった

 

「キリトもやればいいのに。あいつまた体重減ってただろ?またVRMMOで長時間潜ってたみたいだし」

「それをいうならキングさんも前に夜中耐久配信してなかった?参加型で」

「リーファが来るとは思わなかったけど。一応これでもゲーム内で本当に王様って言われるくらいに強いし」

「お兄ちゃん、寂しがってたよ。最近GGOにインしてる時が多いから付き合い少ないから」

「……今度付き合うっていっておいて」

「もう」

 

と飯を食べながら話している時だった

急に白い光が真下から発光し俺は固まる

光は幾何学模様の魔法陣を形成し俺を含め桐ヶ谷さんも固まる

 

「皆逃げて」

 

と先生の声が聞こえたが既に遅かった。光はクラスメイト全員を包み込み俺を含め全員を巻き込む

そして俺はただため息を吐かざるを得なかった

また面倒ごとに巻き込まれたんだと事件に巻き込まれたのだと



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恐怖

光が収まるクラスから騒めきが生まれる

ざわざわと騒ぐクラスメイトとともに俺は桐ヶ谷さんがいることに少しだけ安心する

 

「大丈夫か?」

「う、うん」

「……ここは?転移結晶みたいな感じがしたんだけど、教室ではないつーか」

 

縦横十メートルもある大きな壁画にどこか白作りの光沢を使った建築物の中にいる

また、三十人近い人々が、まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好でいるのだ

 

「まるで異世界みたいだな」

 

俺がポツリと呟く。でもどこか嫌な予感はしている

桐ヶ谷さんが軽く震えているので俺は軽く手を握ってやる。いつも悪口を言い合っているが大事な友達だ

すると一人の老人が前にでる。およそ80代くらいだろうか?覇気が強い老人が一歩前に出て説明し始めた

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

と薄気味悪い笑顔で俺たちを迎えた

 

 

「春馬君」

「ん?」

「あの、恥ずかしいから離してもらえないかなって」

「大丈夫なのか?」

「うん。ありがとう気を使ってもらっちゃって」

 

大広間に入ってからも俺は桐ヶ谷さんの手を握っていた。顔が少し赤いが震えは消えているので大丈夫だろう

俺は手を離すとそのまま桐ヶ谷さんの隣に座る。桐ヶ谷さんの隣には桐ヶ谷さんの友達が座っている

……レコンは巻き込まれなかったか

 

俺は一息安心する。俺の友達の一人だ

とある事件から仲良くなったのだが……運よく巻き込まれなかったらしい

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

と説明し始めるイシュタルの話をまとめると

この世界は思った通り異世界で魔法と剣のファンタジーに似ている

そして人種は三つに別れており人間族、魔人族、亜人族に別れているがそのうち人間族と魔人族とは何百年も戦争が続いている

最初は人間族は数、魔人族は質で均衡を保っていたが魔人族が魔物の使役をできるようになってから数のアドバンテージが消え滅びの危機があるってことになったのだ

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〞です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〞を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〞の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

イシュタルは説明をし始めるが俺はどこか違和感を覚えていた

明らかに情報が少なすぎるのだ。戦争になった理由、戦争の目的。正直いうなれば聞いた限りではなんで戦争をしているんだと突っ込みたい

それに戦争をするにしたって俺以外が戦争に参加できるのか考えれば、明らかにNoだろう

VRMMOが普及しているが人を殺すというのは明らかベクトルが違う

 

大事な人や自分を殺される恐怖

 

それが分かっているのか疑問に思わざるを得ない

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

すると一人が立ち上がる。よく生徒と間違えられるが社会科担当の畑山先生だ。よく愛ちゃんって呼ばれている

多分だけど畑山先生は戦争の意味を分かっているのだ。だからこうやって止めようとしている

でも恐らくそう簡単にはいかないだろう

 

「お気持ちはお察しします。しかし......あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタル

を見やる

 

「ふ、不可能って......ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「SAO事件と同じだよ。元々還すつもりがないんだ」

 

俺はそう告げるとクラスメイトが俺の方に視点を向ける

 

「どういうことですか?」

「例えば戻る方法があったとしよう。でも自分の世界が危機ならば相手は俺たちの事情を知ったこっちゃないだろ?自分たちが生き残るために俺たちを呼び出したんだ。それで還す方法を知っておいたなら先生は教えるか?」

「……それは」

「教えないだろ?まぁそれが当たり前だろうよ。というよりもそんな簡単なことならSAO事件だって起こるはずがなかったんだからな」

 

俺は言い切るとクラスメイトは黙ってしまう

実際理解したくないと思いながらも正論に座り込んでしまう

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで......」

 

うん。いい調子だ。戦争について反対的な意見を出すことで数名が犠牲になれば戦争に参加しないでいい人も出てくるはず

俺は少し微笑む。上手くいけば戦争に参加させないようにすることも可能だ

まぁそんな簡単に行くはずもないのだけど最低でも戦争に行きたくないと抱かせればそれだけで十分だ

未だパニックが収まらない中、立ち上がりテーブルをバンッと叩く音が聞こえる。その音にビクッとなり注目する生徒達。叩いたのは天之河というトップカーストの一人で俺が来るまで県内では負け知らずの男子生徒だったはずだ。天之河全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始める

 


「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

俺は舌打ちをしてしまう

本当に苛つくんだよ。その甘ったるい思考

戦争の意味を戦うという意味を理解しているのか

 

『生きて!!キング!!』

 

俺のパーティーメンバーが死んだ時を思い出す

転移結晶で俺が強制的に転移を強要されたとき、俺は無力感に襲われた

遠くで仲間が死んでいるにも関わらず俺だけは生き残って

殺したかった。でも殺す勇気も力もなかった

だから俺は頼むしかなかったのだ。ギルドハウスも、プレイヤーハウスも売りその時オークションに出ていた回廊結晶を購入し、最前線で土下座をし続けた

情けなくとも何度も無視し続けられたけど夕刻になって一人のプレイヤーが話しかけてくれた

でも、一人の先輩が助けてくれたんだ

俺は英雄ではない。ヒーローでもない

だからこそ逃げない

 

「俺は反対だな」

 

俺の言葉と同時に立ち上がるとクラス中から俺は関係がない

 

「…力があるからこそ人を救わないといけないなんて間違えているだろ?人を殺したこともない人間が戦争に参加しても意味ないよ。どうせ殺す前に立ち竦んで死ぬだけか、自暴自棄になって死ぬ恐怖でその後後遺症に悩まされるだけだ。壊れて、怯えて本質も何もできない俺たちに何ができるんだ?」

「…なっそれならこの世界の人たちがどうなってもいいっていうのか!!」

「あぁ。どうだっていいね」

 

俺の言葉に全員が絶句したようにしている。だって本当にどうでもいいし

 

「言っとくけど俺らは拉致られた状況だぞそんな簡単な話じゃない。自分たちの安全も、報酬も何も言われてないのに勝手に世界を救えとか身勝手すぎるだろ」

「…そ、そうですよ!!」

 

畑山先生はどうやらこっち側らしい。俺は少しだけ使えるかもなと内心微笑みながら

 

「それに人の命も殺したことのないてめぇらが戦争に行っても役立たずなんだよ。殺すという意味をちゃんと理解してるか?戦争って意味を理解しているのか?……これはゲームなんかじゃない現実なんだ」

「そんなの分かっている。でも俺は困っている人を見捨てることはできない」

 

俺は呆れてしまう。本当に分かっているのかツッコミたくなるがもう言っても無駄だと判断するしかないだろう

 

「あっそ。俺は戦争に参加しないから」

 

失ってからじゃ遅いのだ。もう会えることもない友達を失うことなんて

そんな険悪な雰囲気の中最初の会合は終わりを迎えるのであった



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ステータス

翌日から早速訓練と座学が始まった

戦争に参加する生徒も参加しない生徒も最初の座学に参加しておいたほうがいいとのことなので俺も参加しているが視線は決していいものではない

だけどそれは俺には関係がないので俺はそのまま無視している

話しかけたいのか桐ヶ谷さんは少しだけそわそわしているようだったが

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る俺達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始める

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

なるほどなぁ。戦争に参加しないとしても必要なものだから呼ばれたのか

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

なるほどなぁと思いながら俺も血を垂らしてみる

すると一瞬魔法陣が淡く光ると俺はステータスを見る

 

三上春馬17歳 男 レベル:1

天職:救世主

筋力:50

体力:40

耐性:50

敏捷:50

魔力:10

魔耐:50

技能:剣術・接続・言語理解

 

なんか訳わからないスキルが一つあるんだけど

 

「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初に〝レベル〟があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

つまり100まで到達した人間はいるということになる。ワンチャンなんらかの条件でレベル上限がなくなることもありそうだが

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合」

「ねぇ。三上くん」

「ん?」

 

説明途中であったのだが桐ヶ谷さんが俺をツンツンと叩き話しかける

 

「私の天職が風精霊剣士なんだけど?私風精霊じゃないと思うんだけど」

 

すると俺はその話を聞いてすぐに思い浮かぶことがあった

 

「……俺も良くわからない技能があるんだけど、接続ってもしかして桐ヶ谷さんにもある?」

「う、うん!!でも……それって」

「多分だけどゲーム世界に接続ってことだと思う。……一応変化してみる?」

「何があるかわからないからいいんじゃないかな多分あの言葉だよね?」

「多分な」

 

俺は軽く声を出す。桐ヶ谷さんも同時に声を合わせ

 

「「リンクスタート」」

 

みんなの視線がなんだと俺と桐ヶ谷さんに視線が集まるところが見られた瞬間白い光が二人を包む

桐ヶ谷さんは短髪の髪の毛が伸び身長も高くなってまるで本物のエルフのような姿になる

背中には羽が生え綺麗な金髪が特徴的だ

 

「あっ。やっぱりリーファだな。顔は桐ヶ谷さんぽいけど」

「三上くんは、服装が変わったのと大きな片手剣があるけどそんなに変わってない?」

「ん?」

 

俺の姿は見えないけど、背中に少しだけ違和感がある

羽はなさそうだからふと自分の服と剣を見ると

 

「……」

 

目を疑った。いや疑わないとおかしいのだ

黄緑色がモチーフとなった軽防具に黒と赤の混じり合った大きな片手剣

 

「なんで?」

 

俺がSAOにいた時の服装がという記憶の中にとあることを思い出す

いつもの通りに手を動かすとともにスキルウインドウを見る

片手剣技能や索敵、軽装備スキルはMAX他のスキルも軒並みコンプリート間近のものばかり、ステータスも見慣れたものより一レベ多いがそれでもこのステータスはSAOのKINGのものだ

 

「……まじでゲームの世界と接続したっぽいな。異変はさっき傷つけたての出血が治ってないくらいか」

「えっとつまり?」

「痛みも出血もあるけど、俺はレベル表示はあるけどHPバーもある。これって俺たちがKINGとリーファになるってことじゃないか?」

「多分リアルの姿になるのはログアウトボタンを押せばいいってことかな?」

「だと思う。まぁ俺は戦闘するとなればこっちになりそうだな……一応こっちは二年半使ってたアバターだから」

「それって」

 

色々答えるとクラスメイトがポカーンと口を開けている

そういえば今ステータス紹介中だっけ?と思い出した

 

「あはは。目立っちゃったね」

「俺は昨日から目立っていただろ。リーファはいいのか?」

「私も堅苦しいのは嫌だから。でもこれでしがらみが多くなるのは嫌だな」

「いや。元からお前は視線集めてただろ。アスナや八重樫、白崎ほどじゃないけどかなり見られてるからな……まぁどことは言わないけど」

「キングくん。さいて〜」

 

すると如何にも怒ってますって言いたげな顔に俺は笑ってしまう

それを見てリーファも同じだったらしい。俺に少しだけ笑顔を見せてくる

そうだ。こういうのだ

いつもこんな感じで冒険に出るのだ

 

「ってアイテムボックス文字化けしてる。システム的にバグが起こると致命的らしいから捨てた方がいいってユイちゃんが言ってたらしい」

「私も。武器と装備は化けてないけど」

「俺もだ。結晶系は全滅してる。ポーションも……使い物にならないか。せめて転移結晶か毒ポーションあたりが使えればな。……はぁ。せめて記録保存結晶くらいは残して欲しかったなぁ」

 

と他の生徒もいるにも関わず俺とリーファはそんなことも気にせずにずっと話続けていたのに気づくのは結局講義を終わる時まで

話は途切れることはなかった




接続でよかったのかわかりませんが今はゲーム世界と接続することなんで接続としました
それとところどころSAOのサーバーとALOのサーバーで違うところがあるのでその違いも書いていく予定です
アンケートはひっくりかえらないのでユウキは生存ルートになります
誤字脱字を指摘してくれた人ありがとうございます。直しておきます


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戦う理由

キンっと金属の接触音が聞こえる

明らかに戦闘音を放っているのは

 

「甘い!!」

「あめぇのはそっちだよ」

「えっ。きゃあ!!」

 

一瞬の隙を誘い桐ヶ谷さんの腹に峰打ちで剣を叩き込む

お腹を押さえ涙目になる桐ヶ谷さんに俺ははっとしてしまう

 

「い、痛い」

「……ってわりぃ。結構本気で叩き込んだ」

「ううん。いいんだけど……やっぱりお兄ちゃんもアスナさんもそうだけど剣を持つとやっぱりちょっと怖いや」

「……まぁ殺し合いをしてた訳だしな」

「……やっぱり気にしてるの?」

「しないはずがないだろ」

 

俺はSAOにいた時に仲間を殺されたこともオレンジプレイヤーを殺したこともあるのだ

人を殺す、殺される

その事をクラスメイトは何も分かっていないのだ

桐ヶ谷さんも少しだけ曇ったようにしてる

それは数日前初めて魔物を殺したときから曇りが見られるようになった

人を斬ったことだってあるはずなのに肉を斬る感触が忘れられない

それでもやらないといけないのだ

大事な人を守る為に

 

そういえば大事な話があるって聞いているので行かないといけないか

 

「ん。ほれ」

「ありがとう」

「んじゃ行くか」

 

と俺と桐ヶ谷さんは歩き始め、訓練所へ向かうのであった

 

 

俺たちは初めて王宮から出て演習のためオルクスの大迷宮の付近にあるホルアドという街にきていた

どうやら明日にはダンジョン攻略に向かうことになる

その日の夜俺は一人で噴水の前で俺は剣を構える

 

白いエフェクトが剣を包みシステムアシストと自分が同じように振ることで威力と速さを増減できる

俺は動きを合わせ剣ソードスキルを発動していく

スキル硬直はもちろんあるが、それでも威力はあの時と同じならかなりの威力があがる

そして俺は大きく息を吸うとそして連続でソードスキルを放つ

 

片手剣だけではない。俺は体術スキルも持っているので忘れないように繰り返していく

今のところクールタイムも変わっていないはずだし、せめて桐ヶ谷さんのことを守れるくらいには強くなりたい

強くなって、恩を返したいのだ

そして最後の最後で一番の大技と呼べるノヴァ・アセンションを放つと俺は小さくふぅと息を吸うと

 

「……」

「…は?」

 

何故かジッと同級生が俺を見ている

そして剣を振り下ろし鞘に入れても俺の方を見ているので話すつもりはなかったがさすがにここまで反応がないと不思議に思ったので俺はため息を吐く

 

「……何してんだ。八重樫」

「…えっ?」

 

俺はその人物に呆れながらも話しかける

八重樫雫、八重樫道場の一人娘で、県大会から全国大会で桐ヶ谷さんが一度も勝ったことのない相手である

学校の二大美人と呼ばれている中で女子からもすごく人気の女子。実際俺自身唯一リア充グループで話せる人である

 

「…いや、深夜に三上くんの姿が見えたから。少し付いてきたのよ。そしたら剣を振り始めたから」

「話すタイミングを失ったってわけか。……索敵と隠密スキル発動してなかったのが災いだったか」

 

最悪だ。ソードスキルについては出来るだけ秘密にしておきたかったのに…

 

「……話すタイミングがなかったわけではないのだけど。ただ少しだけ見とれていたのよ」

「ん?」

「すごく綺麗だったから」

 

綺麗ってもしかしてエフェクトとかの話か?

 

「ソードスキルのことか?」

「違うわ。普通に振っている時の剣筋が綺麗なのよ。無駄がなくて効率的といえばいいかしら」

「……そうなのか?自分では自分の剣筋みたことがないんだけど」

「えぇ。私から見たらの話だけど」

 

そうなのかな?嘘はついてなさそうだけど

基本的に自己流なんだけどそこまで剣筋がいいのは自分で見たことがないからわからない

 

「んで用件は?」

「いえ。何もないわよ。ただ男子とはいえ一人で知らない街を徘徊してたら道が分からなくになる可能性だってあるでしょ?それにこの街も決してあなたにとっては安全ではないから」

「…嘘は言ってないか。てっきり戦争に参加しろとか天之河に言われてきたのかと思ってた」

「そんなこと言う訳ないでしょ?あなたSAOサバイバーなんだから」

 

俺は驚いたように八重樫の方を見ると八重樫は呆れたようにしている

 

「あなたね。ソードスキルと呼ばれるスキルが入ったゲームはSAOと先日のアップデートで追加された元SAOサーバーのALOくらいでしょ?それにあなたは二年半使っていたアバターって言っていたから」

「よく覚えてんな。まぁ隠す気はなかったけど」

 

実際隠さなくてもいいと思っていたからな。どうせソードスキルを使う時にはバレるとは思っていたけど

つーか詳しいな。もしかして八重樫もALOプレイヤーなのか?

 

「…でも、凄いわね、あなたSAOを生き抜いたって」

「そうでもねぇよ。元々俺もなんども死にかけたし」

「それでも生きているじゃない。……そういえばあったわね。話したいこと」

「謝るなよ」

 

俺は呆れたようにしてしまう。すると八重樫はキョトンとしている

 

「お前が謝ることじゃないんだよ。お前の幼馴染が言い出したことだけでお前が発言したわけじゃない。だからお前が謝ったところで筋違いだし俺にとって天之河に対する印象もこれから起こることについても変わることはないんだよ。戦争に巻き込まれて死の恐怖に死ぬ直前になってから絶望し死ぬか大怪我を負う……それがこれから起こる現実だよ」

「……随分知っているような雰囲気ね」

「俺だってSAO事件が起こった時怯えて最初は何もできなかったし、油断してPK集団に俺以外のパーティーメンバーが全滅させられたこともあったからな」

「えっ?」

 

八重樫は明らかに動揺する。事実それは俺以外の全員が死んだことに対する動揺だろう

 

「……忘れもしないさ。2回目の二月三日に俺は小規模ギルドのリーダーをやっていたんだよ。五人だけの質素なギルドだったけど、それでも年齢差もなくフレンドリーなギルドだった」

 

実際俺が一番年下だったと思う。時々社会人トークで納得している人と高校生だったというギルメンがいたからだ

一緒に飯を食べにいったり、色々なイベントを他ギルドとやったりしていたしな

 

「でも、交流会で準備している時だったよ。……俺たちはオレンジギルド、……って分からないか。SAOは他の人をPKや詐欺行為をした後にネームプレートがオレンジ色になるんだよ。だから犯罪者プレイヤーをオレンジプレイヤーっていうんだ。そして犯罪者ギルドを、オレンジギルド、より犯罪性が強いものをレッドギルドって呼んでいたんだ。……モンスターが滅多に出ないところを見つけて。……それで少し肉があったからそのままバーベキューすることになったんだよ」

 

八重樫はただジッと聞いている。本当なら聞きたくない話だろう

八重樫の手が震えている。悪意がある人なんて思いたくないだろう

 

「その途中だった。みんなある程度満腹感が生まれて、盛り上がっていた中15人のオレンジギルドが襲ってきたんだよ。俺たちは油断もしてたこともあって全員鞘に剣をしまってたからすぐに壊滅状態……俺らみたいな小規模なパーティーには結晶アイテムはかなり貴重で転移結晶なんて1パーティーに一つ二つしかないのが当たり前だった。本当は俺が生き残るつもりじゃなかったんだけど…俺に転移結晶を使った」

 

転移結晶は簡単に見つからなく高価だから持っていた人が使うっていうルールだった。基本的にドロップは自分のもの。そうしないとトラブルになりやすいと俺が言ったことにより出来たルールを唯一破ったのだ

 

「…だから俺だけは生き残って全滅は免れた。何度も殺したいって、俺だって死にたいって思ったけど…最期の遺言が生きろって……俺を最期まで想ってくれて」

 

本当に嬉しかったのだ

だから復讐の道に落ちなかった

だけど、どうしても許せなくてキリトさんを頼ったみたいなことを伝えていく

 

「これが俺のギルドの結末だよ」

「……何で?」

「ん?」

「何でそんなことがあって貴方は戦っていられるの?」

 

怯えたように俺を見る八重樫に俺は苦笑してしまう

つい話過ぎたらしいこんなに話したのは第二回BOB以来か

 

「……目の前で誰かが死ぬのが嫌なんだよ」

「えっ?」

「俺はあの世界でレッドプレイヤーを討伐したこともあったし最終的に茅場明彦をキリトさんとアスナさんと共に倒したんだよ。リアルでも少し前に須郷って言う奴がSAO帰還者を幽閉してた事件だってあっただろ?それに死銃事件だってそう……その時のキリトさんの顔や帰還者を待ち続けてる人達を見て思うんだよ。俺はゲームが好きでやってるけどそれでもそのゲームで誰かが傷つくことがあってはならないって」

 

誰かが悲しむところなんて俺は見たくない。人はやがて死ぬのが当たり前だ。いつかは朽ちて死んでいく

そんなことはエゴってことを分かっている

 

「本当は何かを殺すために剣なんか握りたくない。そんなの当たり前なんだ。ゲームじゃないんだし斬ればたとえ魔物であっても生き物が死ぬんだ。でも握らないと桐ヶ谷さんが死ぬかもしれない。他の誰かが死ぬかもしれない。だから握らないといけない。俺は人を殺した罪があるから、人に助けてもらったからその恩を返していかないといけない。例え俺自身が嫌われてもな」

 

それは決意だ。俺は救ってもらった分だけの命を返していくこと、そして俺が殺した人間の分まで助けることがが俺の生きる理由なのだから

 

「……これが俺が戦う理由。失いたくない物を守るために俺は戦う。この世界で大切な人ができたなら俺はその人のために戦うよ。でも…今はこの世界のことを許せそうにないから」

「……そう。……羨ましいわね」

「ん?」

「それほど直葉のことを大事にしてるのでしょ?だから直葉が羨ましいわ」

「どこがだよ。汚れた、いや血だらけの手の俺から守らたい思うやつなんていないだろ」

「あら、強い人から守られるって女の子は憧れるものよ」

 

強いか。俺は強くなっているのだろうか?

あの当時よりも、大事な人たちを、仲間を守れるだろうか

目の前の少女も、桐ヶ谷さんも

 

「あんまり期待はするなよ」

「へ?」

「んじゃまた明日」

 

俺は小さく手を振り俺は自分の部屋に戻る

少しもやもやした思いがが残るものであった



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地獄への入り道

オルクスの大迷宮と呼ばれる大迷宮を探索すること数時間俺たちは無事20層へと到達していた

少しだけ休憩時間を使い息を休めていると俺は

 

「そういや、リーファで結局潜ることにしたんだな」

「えっ?うん。ちょっとこっちの方がまだ気が楽だから」

 

俺はオルクスの大迷宮を潜りながらリーファと話す

俺はほとんどこの階層ではソードスキルを使うことなく倒すことができるし、それはコンビを組んでいる桐ヶ谷さんにスイッチしなくても敵を蹴散らしていった

正直な話余裕があるので桐ヶ谷さんに気になったことを聞いてみたらすぐに答えてくれた

 

「生身で動物を殺せっていうより、いつも魔物をゲーム内で殺しているアバターの方が楽なのかな?」

「そうかもしれないけど、やっぱり私にはないけど。春樹くんのHPバーが見れるのが」

「……一応戦闘時ヒーリングが10秒で987あるからよほどの限りこの階層ではイエローになる可能性は低いと思うけどな」

 

実際圧倒的格差がある

俺のSTRは250、AGIは220なので普通のステータスとは違うのだ

ついでにこの世界の10はSAOでの1と同じ判定だ

すなわち俺の筋力が2500俊敏に関してはDEXとの関係性も見て考えるつもりだ

HRは38299 攻撃力がとあるスキルの影響もあり450 防御は320 回避は690となっている

AGIよりSTRが高いけど、それは指輪の影響が多くSTRを50近く上げられることができるが、AGIを20下げるアイテムをつけているからであるからだ

 

「…でも魔法は使えないんでしょ?」

「使えないのがSAOの仕様だからな。まぁ教会になんと言われようが全く気にならないけど」

「まぁ、強いのは知っているけど、OSS使えるの?」

「……ライジングスターは一応使えた。威力が範囲攻撃とはいえちょっと馬鹿げていたから」

「9連撃だったよね?よく作れたね」

「ん?八重樫が剣道で素振りしてたのを見よう見まねで覚えたやつを改良しただけ」

「…リアルでも結構スペック高いよね。キングくん」

 

そうかな?と首を傾げていると一瞬八重樫が俺の方を見る

あれ?一瞬寂しそうな顔をしていたが俺は少しだけ違和感を覚える

それから少し経ち、休憩が終わると索敵技能が反応する

 

「…四体か」

「えっ?」

「……多分勇者パーティーだと思うけど抜く準備しとけよ」

「それキングくんがいうと卑猥に感じるんだけど……」

 

俺はその言葉に正直返す余裕はない。息を吐き戦闘準備を始める

桐ヶ谷さんは息を呑み、そして戦闘準備に入る

先頭を行く天之河達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

右に二体左に二体か

俺は軽く観察を続ける

そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ

腕に力がある分攻撃を受けたら多少なりはダメージが入るだろう

足場が悪いから持久戦に持ち込むのがセオリーだけど足場の関係上それが難しい

しかし勇者パーティーの人壁を抜けられないらしく膠着状態が続く

ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸う。即ち大きな声で敵を怯ませようとしているのだろう

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

当たり前だけど対処方法を知らないと避けられないんだよなぁ

仕方がないか

後衛に向けてモンスターが投げられる

一度詠唱をしていた魔法を放とうとしたがなぜかひるんでしまう後衛陣

俺は地を蹴ると一気に距離を詰める

足場が悪い中でも関係ない

ただ殺すだけだ

 

「えっ?」

 

脳を働かせ距離を詰めると俺は斬りふせる

 

「…何してんの?」

 

ため息を吐くと足を止めそしてもう一度息を整え前方へかけてく

そして八重樫の前にいた奴を斬りふせる

 

「えっ?」

 

斬り伏せた後もう一体をリーファが器用に捌く

そしてもう一体というところで

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」


メルド団長の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろす

 

「……あいつ何考えてんだ?」

「どういうことだ?」

「崩落する可能性があるのに足場が悪い中で広範囲、高威力の技なんて使う必要なんてないってこと」

 

呆れてしまい俺は頭を抱える。正直なところこのままでは結構まずいんだけど

当然のごとくメルド団長からげんこつをくらい怒られている

その時、ふと勇者パーティーの一人が崩れた壁の方に視線を向けた。


「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

おそらく宝石の一種だろうと思いながら大半の確率でトラップだろうと思っていた俺は見るだけならと周囲の警戒を索敵スキルを使い行う

 

「本当素敵ね」

「まぁ、宝石の一種ぽいしな。でも触るなよ。多分トラップだし」

「やっぱり?」

「あぁ、流石に露骨過ぎる」

 

リーファもこれには苦笑している

実際ALOにもトラップがあるのですぐにわかるだろう

ふと俺は見ていた矢先一人のクラスメイトが壁をよじ登っているのが見えた

 

「あれ?安全確認取れたのか?」

「…そうじゃないかな?珍しいね。春樹くんが予想を外すなんて」

「うーん。最近GGOばっかりだったから感覚ズレてるのかな?」

 

首を傾げる俺はその姿を見ていた時だった

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

「なっ!」

 

単独行動かよと息を呑む

俺は急いで床を見て投げられるものを探すが何もない

その瞬間にクラスメイトがグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる

俺だけなら逃げられるけど…桐ヶ谷さんや八重樫は無理だろうな

 

部屋の中に光が満ち、俺は視界を奪われると同時に一瞬浮遊してそして着地する

すると俺の索敵技能に多くの反応があるのを見て確信する

モンスターハウスか

俺は剣を抜いていた事もあり、すぐに警戒し始める

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

と声を掛けるが既に時遅し少し経つとスケルトン型の魔物と俺は少しだけ息を呑んでしまう

HPバーが四列ある魔物。即ちフロアボス的存在に俺はあまりいい状態とは言えないことを察する

 

「ベヒモス」

 

そのネーム名を呟くとそしてすぐに咆哮がなるのだった



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運命の分岐点

咆哮後俺は周囲を見渡す

現在の状況はかなりひどいものと言っていいだろう。実際戦えそうな人は数人しかいない

……やるしかないか

俺は剣を振りかざしトラウムソルジャーへ突っ込みはせずとりあえず、安全地帯の生成をするために前線を作ろうとする

理由はなるべく一方に戦力を偏らせないのと囲まれないようにするためだ

俺はともかくとくにクラスメイトは錯乱状態

そして何よりも

 

「……」

 

後ろで恐怖で腰が抜け震えている桐ヶ谷さんが見えたからだ

初めて訪れる死の恐怖に声も出せないのか座り込み戦闘ができるどころか、恐慌状態から抜け出せる見込みもない

悪態をつきながら目の前の敵を斬り伏せていく

恐らく、俺は時間をかければベヒモスもろとも全滅させることは可能だ

でもどれだけの犠牲者が出るかは分からない

だから動けないのだ。全滅させようにもそれで人が桐ヶ谷さん死んだら元も子もない

 

「……クッソ!」

 

特にソードスキル系統が使えないのが特に痛い。ソードスキルは発動した直後に硬直が生まれ後ろに通してしまう

俺が得意なのは攻めであり、防御技術においては攻略組でも下位まで落ちる

GGO以来の防御戦に悪戦苦闘するなか俺は前線保持しかできなかった

俺の周辺には何十のトラウムソルジャーが命を狙ってくる

 誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる

悪態を付く暇もなく俺はただ目の前の敵を殺していく

さすがに全てをさばくことはできないので致命傷になるものだけさばいてダメージが少しずつ入っていくがそこは戦闘時回復で回復できるが精神的疲労は大きい

結果的にいくらチートがあろうと守ることに関しては俺のチートが役に立たないことなんてわかってはいたつもりだった

わかっているつもりだった。でも分かってはいなかった

どれだけあろうが俺一人じゃ限界はあるんだ

片手剣を振るうがそれでも防戦一方でよくならない

心が折れかかる。でも後ろを見ると嫌でも視線に入る

……やるしかない

分かっている。もう理屈だけじゃない

最初はずっと一人だった少女を同情して俺は無理を言って桐ヶ谷さんの学校に入った

一人で寂しそうで、疎外感を覚えていた少女を一人だけにしたくなかった

キリトさんに恩を返したかったこともあるのだが

俺がALOでSAOのアバターを使ってないこともこれが原因だ

同学年で、そして同じ剣道部に入った俺を疑問に思っただろう

リアルとゲームをあまり変えないようになったのもこれが原因だ

SAOは何かと必死だった。冗談なんていう暇があれば訓練していたし、よくキリトさんも不安そうにしていた

だから楽しみたかったのだ

俺にとってリアルは地獄なのだから

……でも、本当にリーファと、桐ヶ谷さんといられるときは楽しかった

気がきくし、何かと理由をつけて弁当を作ってきてくれたこともあった

ゲームでもリアルでも、恐らく一番長い時を過ごしたのだ

だから絶対にここだけは通させない

これまでも、これからもずっと一緒にいて欲しい相棒を

守るのだ。この少女が愛する人の元に戻るまで

力が溢れてくる。多分この想いは叶うことはないとしてもこの命を使ってでも守ってみせる

だから一匹たりとも通させはしない

何体殺しただろうか。百を殺したあたりから数を数えるのをやめたのだが

既に息がバラバラになる

しかし嫌というほど魔物は湧き、俺の目の前には既に次の敵が迫ってきていた

汗をぬぐい次の敵を捉えようとすると

すると隣から素早く走り、切り捨てる影が見える

 

「…ごめんなさい待たせたわね」

「……他のところは大丈夫なのかよ。八重樫」

「えぇ。…直葉を守っていたのね。さっきからそっちに敵が集まっているのが見えたから救援に来たのだけど…必要なかったかしら」

「いや。……八重樫、撃ち漏らしだけ頼めるか?こっからは俺が押し切るから桐ヶ谷さんを頼みたい」

「……押し切る?」

「あぁ……ちょっとストレス溜まっていたからな、発散させてもらうぞ。……血を吸え」

 

すると剣から手のひらに軽く棘みたいなものが絡むと同時にちくっと痛みが走る

俺はニヤリと笑うとガイコツ野郎に突っ込むと多少のダメージを受けつつもエフェクトを発動させる

前方宙返りから逆手に持った剣を突き下ろすと赤黒い衝撃波が生まれる

全方位重範囲ソードスキルライトニング・フォール

 

一撃で倒れていく中で俺は小さな硬直が生まれしばらく動けなくなるがその周辺には死体の山が転がっている

前は空いたそれなら全力で押し切るだけだ

攻めに入ると後ろを気にせず俺は突っ込み暴れ続ける。前線もろとも吹き飛ばし。少々撃ち漏らしても八重樫が打ち取ってくれるだろう

 

「ほい。到着」

 

そして数分も立たずに俺は階段への道を作り出していた

 

「……あなた、何その威力」

「ん?これでも攻略組にいたからな。これくらいは普通にできるぞ」

「普通できないわよ」

 

突っ込まれても関係ない。俺は苦笑する

 

「道はできたからあとは包囲殲滅って言いたいけど俺がやったほうが早そうだし、暴れてもいいか?」

「もう驚かないけど……なるべく後衛職がたくさんいるところからしてくれないかしら」

「あぁ。さってと……」

 

散々桐ヶ谷さんを怖がらせたんだ

一匹だって残ると思うなよ

それから先はただ切って敵を殲滅するだけの簡単な仕事だ

どうやら前線も復活したらしく綺麗に前線を押し上げている

既に挟撃を取っているのですぐに包囲網を突破し安全地帯への道を確保する

 

「皆、待って!南雲くんを助けなきゃ!南雲くんがたった一人であの怪物を抑えてるの!」

 

南雲?ふとベヒモスの方を見ると一人の男子生徒が抑えているのを見える

土でベヒモスを固定している姿に俺は驚いてしまう

そういえば南雲は生産職の錬成師だった少年だ。でも足止めは完璧にできている

倒さなくてもなんとかなりそうだし、俺も桐ヶ谷さんの元に向かうか

俺は戦線離脱し桐ヶ谷さんの元に向かう

 

「大丈夫か?」

「えっ?う、うん」

「そっか。……立てるか?」

 

俺は軽く手を差し出す。するとコクリと頷き俺の手を取ると俺は軽く引き上げる

すると桐ヶ谷さんは立ち上がり少しだけ目を伏せると俺は軽く苦笑してしまう

 

「気にすんなよ。死にかけたんだ。桐ヶ谷さんが悪いわけじゃない」

「……でも、私何も。それに三上くん、私がいなかったら……」

「ん?まず桐ヶ谷さんがいなければここまで必死に戦ってねぇよ」

 

俺は小さく苦笑いしてしまう

 

「俺はこの世界なんてどうでもいいんだよ。ただ、大切な人を守りたいだけなんだ。それだけ。俺には世界を救う力はないからな。目の前にある大事な人を守るために戦っているだけ。世界なんて大きなものはいらない。俺は友達がいてくれたらそれだけでいいんだから」

 

 

そして軽く頭を叩く。桐ヶ谷さんはポカーンとしていたが

 

「……ほら、帰ろうぜ。まずはそれからだ、南雲が来る前に」

 

と俺がふと南雲の方向を見た時だった

無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げた

 

「……っ南雲!!避けろ!!!」

 

俺は大声で叫ぶ!!すると南雲も気づいていたのか瞬時に避けようとする

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑る南雲の眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ

……くそっ行くしかないか

 

「八重樫、リーファを頼む!!」

「えっ」

 

俺はベヒモスに向かって走っていく。このままじゃ何人かに確実にトラウマが残ることになる

地を蹴り全速力で走ると俺はベヒモスに接近する

ベヒモスは熱を持っているだろう赤色に光った角を南雲に突進してくる

シンプルに光が集まり俺もソードスキルを発動させ、シンプルなホリゾンタルでベヒモスのツノとぶつかる

勢いを乗せた攻撃を弾くと小さな硬直が生まれるがベヒモスもはじき返された衝撃で動けなくなる

 

「南雲、お前階段まで逃げ切れるか?」

「……ちょっと厳しいかな?」

 

恐らく軽く脳にショックがあり返事もするのも厳しいだろう

 

「……オッケ。それなら俺がこいつを殺すか。血を吸え。剣よ」

 

最初からフルで行く

感じる二回目のエクストラスキルの反応に俺は軽く血を剣に奪われているのを感じる

そして突進を仕掛けてくるベヒモスを冷静に剣で弾くと横からの攻撃を入れていく

多少のダメージが入るのは仕方ない

それに元々スキルでHPも減っていたほうが俺には都合がいい

南雲が地道に減らしていたのかHPバーは半分以下になっている

 

八重樫も使わせてもらうぞ

赤色のエフェクトが俺を包むと同時に俺はラスト奥義を放つ

HP全乗せの俺が出せる最大奥義の技

八重樫が時々個別で振っていた剣技に加え斜め上に四度切り上げるとそして後方宙返りでもう一撃そして最後一撃をベヒモスに突き刺す

上方単体ソードスキル

 

スターライジング

 

するとソードスキルを終えた瞬間俺はかなりの脱力感とめまいに覆われる

だけどしっかりと確認する

ベヒモスのHPゲージがなくなっていることを

俺は立ち上がることも難しく前方に倒れてしまうと異変が起こった

ベヒモスが前方に倒れたところを中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる

あっこれ死んだ

俺は動けない体をふらふらとさまよっている

からだが重く動けそうにない

……まぁ自分の守りたいものは守れたからいいや

これで南雲が逃げ切れたらいい。やっと俺もあの人たちのところに行けるのだから

壊れていく橋が俺に接近してくる

俺は目を閉じ流れるときに流れを任せようとした時

 

「錬成」

 

と小さな声が聞こえる。そして声が聞こえる

 

「ありがとう。ボクのことを助けてくれて」

 

その声を聞こえた途端バラバラと音が聞こえてくる

俺は意識を保つのが難しくなり、そのまま暗闇に落ちていった



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春馬と詩乃

直葉side

 

「三上くん!!」

 

私は静止を振り払って崩壊する直前の橋先に向かう

既にボロボロな体を持ち上げると顔が青く、脈が動きが遅くなっている

HPバーを見るとレッドゾーンギリギリにまで体力が減っている

急いで回復魔法を唱えても回復速度が明らかに遅い

 

「何で!」

「直葉、おそらく彼は貧血状態になってるのよ」

「えっ?」

「三上くんとすれ違った時に血を吸えって…三上くんは多分HPと引き換えに自分のステータスを上げるスキルか、剣を使ってたんじゃないかしら。この世界にはHPがないから血を代償にして南雲くんを救おうとしたんじゃないかしら」

 

八重樫さんが私の近くに来ている。その後ろには白崎さんも付いてきていた

 

「それじゃあ、三上くんは?」

「血液生成剤を飲ませてあげて。いつ起きるかわからないけど…ショックで多分寝込んでいるだけだと思うわ。昨日少しだけ話したのだけど…三上くんはSAOでパーティーメンバーを失ったらしいから同じ状況に陥ってショックを受けているのよ」

 

八重樫さんがどうして知ってるの?と聞きたかったが、今は三上くんに血液生成剤を口に入れる

だけど起きる気配はしないで意識も失ったままだ

 

「とりあえず上層に上がりましょう。……このままだったら崩壊するわ。香織も、直葉も…ショックを受けているのは分かるけど…でも私たちは何もできなかったのだから」

「…うん」

「…」

 

私は頷く。そういえば私は三上くんのことを知らないことの方が多い

キングくんはお兄ちゃんと仲が良くて、少し怖いし、意地悪で変態だけど、心配症で、ムードメイカーで、面倒見がよくて、頼りになって

嫌なところも多いけどそれでもアスナさんと一緒にいたときからずっとパートナーだと思っていた

でも、リアルの三上くんは?

家族が何人いるのか?何が好きなのか?休日や配信がないときは何をしているのか?

私は何も知らない

知ってるとしてもリアルでKINGとして活動している三上くんだ

三上くんを背負うと小さいながらずっしりとした重さが伝わってくる

泣きそうになるがそれでも今は地上に戻るための足を進み始めた

 

春馬side

 

身体が重い

俺は暗闇から目が覚めるとすーすーと耳元で声がする

 

「……」

 

起きあがろうとするが何かに身動きが防がれている

 

「……ん」

 

焦点が合わず、俺は軽くじっと今の状況について確認する

すると俺の目の前には俺の右手を枕代わりとして熟睡している桐ヶ谷さんの姿がいた

 

「……」

 

そういやオルクスの大迷宮に演習に行った時、クラスメイトがトラップにハマって

 

「……」

 

そっか。また守れなかったのか。しかもまた庇われて奈落に落ちたのだ

……覚悟をしてたんだけどなぁ

全員を救えないってことも

俺は小さくため息を吐く。塞がってない方の手で撫でる。体温が伝わり少しだけぬくもりを感じる

俺のエクストラスキル復讐剣

自身の体力と同じ追加ダメージを与えるってものであり、俺がキリトさんと分かれた時に手に入れたエクストラスキルである

とりあえず、このままじゃ風邪ひくし布団を被せようか

するとコンコンとノックの音が聞こえる

 

「スグ。キングは起きたかしら?」

「……えっ?」

 

すると聞こえるはずのない声が聞こえてくる

何でここに?と俺は反応が出来ずにただ呆然としてしまう

 

「スグ入るわよ」

「……何でここに?」

 

俺は呆然とその姿を見て呆気に取られる

別の学校の制服を着たショートカットのメガネをかけた少女は俺の方を見ると少しだけ困ったようにしている

 

「何でシノンが?」

「……久しぶりね。キング。こんなところで会いたくなかったけど…」

「……こっちのセリフだよ。……菊岡さんまた何かしたのか?」

 

俺は少しだけ地球にいる食えない男を思い出す

この少女は朝田詩乃。俺がやっているゲームGGOでシノンというプレイヤーで入っていて俺とコンビを組んで様々な大会を食い荒らしている

キンシノって名前で同人誌を書かれるほど有名で何かとそれを見つけては俺を発砲してくるのだ

そして一番この世界に来てほしくなかった一人でもある

その言葉に呆れるようにしているシノン

 

「……やっぱりあの人と交流があったの?」

「あいにくお得意様なもんで。結構バイトの報酬もいいしな」

「……はぁ…その答えはNOよ。あの人は全く関係ない。ただ、……気づいたら私はこの服装で王宮にいたのよ。私と後もう一人、同じ地球から呼び出されてる」

「……もう一人?」

「えぇ。でも、地球にいた時は病気にかかっていたらしいんだけど……どうやらこっちでは回復魔法があるらしいから先に治療してから合流ってことになっているらしいわ?その人曰く勇者パーティーに役立たずが二人いるからって」

「まぁ、俺と……南雲のことだろうな」

「あなたが?冗談言っているのかしら」

「冗談も何も本当だよ。俺魔法使えないし、この世界では魔法を使えない人間は人間扱いされてないんだよ」

 

実際そうだ。それに俺は教会と対立しているしな

 

「それで?もう一人は?」

「…奈落に落ちた」

「えっ?」

「……救援に行ったけど間に合わなかったというよりも助けられたかな。元々クラスメイトの一人がトラップにかかって」

 

と事の顛末を話し始める。しばらく話し続けると暗い顔をする

 

「そう。……それでこれからは?」

「リーファの回復を見ることかな?ここでリタイヤってこともあるけど……正直リーファは教会から神聖視させているだけあって王宮から少し離したい。これからリタイヤするクラスメイトもいるだろうしメンタルケアが優先になると思う。リーファ結構傷つけたぽいし」

「あなた少しは自分のことを考えて行動しなさいよ。 HPがレッドになっていたらしいわ。リーファも私も心配するのだから」

「善処するけど、多分できないだろうな。体が勝手に動いてしまうから」

「…はぁ、ここまでくると病気ね」

「俺もそう思うよ」

 

苦笑してしまう。実際俺は体が動いてしまうのは事実

今回も体が勝手に動いてしまったのだ。代償も何も気にせず

 

「でも、私もリーファもあなたが傷つくこと悲しむことだけは覚えておいて」

「了解」

 

俺は小さく笑顔を作る

今度いつ危機に陥るのかよく分からないけど、ただその心だけでも嬉しかった



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心配していた女性たち

「うにゅ」

 

数時間が経ち俺はのんびりと今後のことを考えていると熟睡していた桐ヶ谷さんがようやく起きたらしい

 

「……」

「おはよう桐ヶ谷さん」

「……へ?」

 

すると俺に気づいたらしい桐ヶ谷さんが俺の方を見た後すぐに顔を真っ赤にさせる

 

「あ、あの、わ、わたし」

「……落ち着けよ。看病してくれてたんだろ?」

「……」

 

俺は軽く手を握っているので桐ヶ谷さんは逃げられないようにしてある。テンパると顔を真っ赤にして逃亡するってキリトさんに聞いているのと手を外したくなかったので握られていた手はそのままにしてあったのだ

 

「ありがとうな、看病してくれて」

「…ううん。こっちも助けてくれてありがとう」

「…動けなくなったことは気にするなよ。パニックになったり、動けなくなるのは通常の反応なんだ。だからほんの数人しか動けなかっただろ?つーか死銃事件でもシノンも命を狙われていることを知って動けなくなってたし普通なら死にかけて怖がらない人間はいないんだよ……」

 

そう誰もが恐怖を抱えているのだ。当然俺にだって怖いことがある

 

「…それに詩乃も、やっぱり不安はあるらしい。さっき少し話したけど、気づいたらこの世界に来てたって」

「うん、迷宮で演習訓練している時に神の指令が降りたって」

「……これどうなっているんだ?」

 

俺は少しだけ疑問に思うことがあるのだが…それは言葉に出さなかった

 

キュルル

 

「「……」」

 

俺のお腹の音が鳴る。そういえば起きてから何も食べてないや

 

「…まぁ挨拶ついでに少しなんか食べに行くか。桐ヶ谷さんも何か食べるか?」

「うん。いいけど」

「…んじゃ行くか」

 

俺は立ち上がり同時に桐ヶ谷さんも並ぶ

そして食堂に着くまで繋がれた手はお互いに離すことはなかった

 

 

「……あっ。三上くん」

「ん?八重樫?」

「……よかった。目覚めたのね」

 

ちょうど食事を待っていると訓練をしていたのか汗をかいた八重樫と白崎が食堂に来ている

 

「……悪い。助けられなかった」

「…えっ?」

「南雲仲いい方だっただろ?お前ら」

「わたしはそうでもないわよ。ただ香織は中学生の頃から知ってて」

「……そうなんだ」

「…私南雲くんも守るって約束したの。それでも、私は何も出来なかった」

 

白崎は告げ涙を流す

 

「……何かできると思ってたのか?」

「えっ?」

「南雲は錬成師であって戦闘職じゃないんだろ。根本的に俺も含めて戦闘技能がないやつを戦場に出したこと自体が間違ってたんだ。そもそも俺自身聞いてなかったことも、何故か全員が大迷宮に参加することになっていたのも間違えなんだよ」

「……そうね。いつのまにか流されてはいたけど南雲くんは」

「あぁ。まぁベヒモス戦の時はあいつに助けてもらったようなことだけどな。それでもおかしいだろ?こっち側の人間は非戦闘職であるなら戦争に参加しないのに南雲だけは参加するようになったのか。……全部最初の全員が戦争に参加するって流れが悪いんだよ」

「……元々三上くんは戦争には参加するつもりはないって言っていたわよね?もしかして」

「まぁ、こうなることは予想できたからな。元々俺たちは戦争のきっかけも、何が目的でどうやって対抗していたのか?その報酬も何も聞かされてなかったからな。それに、桐ヶ谷さんには人を殺すって経験をさせたくなかったのもあるんだけど」

 

すると八重樫ははぁとため息を吐く

白崎も少しだけ苦い顔をしている

 

「話を続けるぞ?根本的にどんな戦争なのかを理解してなかった。どんな理由で戦争になったのか説明があったならまだ納得はできる。でもな魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していたらそりゃ不自然に感じるだろ。それに戦争をしているんだ。別に当たり前のことだし俺たちにもそれが起こる可能性はあるんだよ」

「……頭が痛いわ。確かに私たちは何も知らないことが多いまま戦争をするように流されたってことね」

「そういうこと。だから俺は恐怖を与えていたんだよ。まぁ多少は効果はあったらしいけど……全て無下にされたけどな」

 

それも最悪の方向に話は進んだ。人を救うばかりで考えていない勇者は自分の身近にいる人たちを、本来の目的を忘れているのだ

まぁ今頃言ったところで後の祭りなのだが

 

「だから誰もが責任を感じる必要があるんだよ。戦争を軽視していた誰もが南雲を奈落に落とした。南雲を落としたのは俺たちの責任ってことを」

「……えぇ」

「まぁその話は置いとくぞ。これ以上誰かを責めても南雲が落ちた事実は変わんないからな」

 

実際その事実は変わらない。俺たちは取り返しのつかないことをしたのは変わらないのだ

 

「…貴方はどうするの?」

「ん〜俺は詩乃と桐ヶ谷さんに合わせようかな?これと言ってやりたいことはないしなぁ。正直なところ俺は八重樫も含めてあまり戦ってほしくないんだよ。まぁ訓練に潜ってたから迷宮に潜るつもりだろうけど」

「…えぇ」

「……まぁ。俺はともかく桐ヶ谷さんは正直限界だろうし俺は少しだけ戦線を離れた方がいいだろ。観光とかしているさ」

「観光って貴方」

「観光もバカに出来ないんだよ。この世界の文化、歴史的背景が見えてくるからな。それに詩乃がこの世界に入った以上は俺は少し真面目に地球への帰還を考えることにしようかな。元々戦争に参加するのを決めたのは俺たちだ。でもその戦争に巻き込むことを考えるとなるべく詩乃が人を殺さないようにしないといけない」

「…そういえば朝田さんと知り合いなのよね?」

「あぁ。俺がGGOでコンビを組んでる少女だよ。大会を優勝するほどの実力で、天職はやっぱりというか狙撃手だったよ」

 

GGOはガンゲイルオンラインの略で日本で唯一プロがいるゲームで俺のメインゲームである

その大会で俺はアメリカサーバーと同時開催されたゲームで第一回BoB優勝を経験し、第二回BoBをシノンと俺と同時優勝。そして団体戦をチームを組んで優勝した実力を持っている

ついでに俺にはスポンサーもついていたが学生と聞いてかなり驚かれたが

 

「……あなたって本当にとんでもない人と友達なのね」

「八重樫さん。とんでもないのは三上くんだから」

「そうなの?」

「その話はいいだろ?まぁ桐ヶ谷さんの傷が癒えるまでは一緒にいようかなって。多分あんまり前線に行ってほしくなさそうだし、少し王都に遊びに行こうかなって」

「それって直葉が傷が癒えたら……あなたはまだ戦うつもりなの?あんな目にあったのに?」

 

八重樫は怯えたようにしている。当たり前だ。俺は一度死にかけている。HPがレッドゾーンになったことも、一週間も気絶してたこともある

それでも俺は逃げるわけにはいかない

 

「八重樫が前線で戦う限りは付き合うさ」

「私?」

「現状お前を理由以外に俺が戦うわけないだろ。まぁ完全に守ることはできないしその

余裕はないけどな。強くもないかもしれないけどそれでも誰かに頼りたいんだろ?単純に心配ってこともあるしな」

「雫ちゃんが?」

「……心配だよ。この世界に入ってからも弱い八重樫を俺は見た事がない。嫌なことを愚痴を吐くこともない。……人は絶対に弱いところがあるはずなのにな」

「……私も見たことないかも」

 

一番仲のいい白崎が言うのであればずっと隠してきたんだろうな

 

「だから危険なんだよ。迷宮の時だって休憩時間中だから話に来てもいいはずなのに八重樫羨ましそうな顔と不機嫌な顔でこっち見てたけど結局話かけなかったしな」

「……」

 

すると八重樫は顔を赤くする。何か隠し事が見つかった子供のような顔をしている

 

「…俺が言うのもおかしい話だけど八重樫ってもう少し我儘になってもいい気がする。俺が見てないところでストレス発散させてるんならいいけど」

「…三上くんは?」

「ん?」

「三上くんはどうなの?怖くないの?」

 

八重樫は不安そうな顔をしている。怖いか

 

「……俺はSAOでよくも悪くもなれたから。フィールドにでて怖いって感情は殆どないかな。……でもあの時も言っただろ。俺は大切な人を失うことが怖い。正直こうやって話すだけでも少しだけホッとするんだよ。まだ生きてるって」

「……」

「俺だけ生きてても意味ないんだよ。そこに桐ヶ谷さんや詩乃、八重樫がいなければ俺は意味がない。多分皆とは違って帰ることやこの世界の事を救うより、生きて帰ることに力を入れてたからな」

「……私も?」

「八重樫もだよ」

 

あの夜中に遠回しながらSOSを出していたと俺は判断している

遠回りながらあの時だけは本当に羨ましそうな顔をしていたし、オルクスの大迷宮では嫉妬もしていた

それだけ八重樫自身が背負ってきたものは、形は違えどとても大きなものだったのだろう

 

「強いかどうかはわからないけど、助けるくらいならできるだろ。それに八重樫も少しだけ我儘を覚えろ。泣きたい時は泣けよ。人前でも、甘えることが出来るのが女の子の特権だろう」

「…そうなの?」

「桐ヶ谷さんにも言えることだけど、男って女性にカッコつけたがるもんなんだよ。極端に強さに憧れて、女性に凄いってカッコいいって言われたいだけに生まれてきたみたいなところがある。だから好きな人の前では強くなるとか言うだろ?男子は単純なんだよ。大事な人の前では強くなる。女子も同じだよ。好きな人や大事な人の為なら頑張れるんだ。オシャレや料理など努力してその男にアピールする。人間って単純なんだよ。好きな人や親友、友達の前なら普段よりも強くなれるし、努力できるんだ」

 

少しだけ苦笑してると全員がきょとんとしてる。まぁわかりづらいか

 

「まぁまとめると、俺は八重樫みたいに可愛い女の子から頼られたいんだよ。それは誰でも同じ。白崎も頼ってもらいたいって思っていると思うぞ。頼られるのが迷惑だなんて思うはずがない。友達や恋人に頼られたら嬉しいと思うから誰でもいいから頼れってことだよ。反対に頼ってもらえなかったらどうして頼ってもらえないんだろうって不安に思うときだってあるんだ」

「…そうなの?」

「言い方はひどかったと思うけど、大体友達の隠し事なんて分かるだろ?八重樫も白崎のことを理解しているように白崎も八重樫のことを理解しているんだよ」

 

白崎は少しだけ苦笑している。多分だけど同じことを思っていたのだろう

時々だけど八重樫から頼ってもらえなくて寂しそうにしてる時だってあるしな

 

「桐ヶ谷さんも同じだよ。まぁまだ八重樫みたいに初手謝罪じゃないだけマシだけど、迷惑かけただなんて俺に関しては思うなよ。もう一年以上ALOでパートナー組んでいるんだ。気を使わないように振るまっているほうが気を使うことになるから」

「…そっか。じゃあ三上くんって何でシノンさんのことを詩乃って呼んでるの?」

「……最初に聞きたいのはそれかよ」

 

俺は少しだけため息を吐く

もうちょっとSAOのこととか聞きづらい話をされると思っていたのでどう反応すればいいのか分からないのだ

 

「呼びやすいから。あっちもハルって呼んでくるから別にいいかなって」

「…そうなんだ。それじゃあ私も名前で呼んでいい?」

「別にいい。それなら俺もスグって呼んでいいか?和人先輩も桐ヶ谷だから時々使いづらくて」

「それだったら先に言ってくれたらよかったのに」

「いや。スグって和人先輩くらいしか呼ぶ人いないからな。スグって和人先輩に呼んでもらうための特別な名前だと思ってたし、何か同級生で噂されたらスグが嫌がるかなって」

 

こっちだって気を使うんだって。ふざける分にはいいけど応援してたんだからな

 

「噂はされてたと思うけど…私もいいかしら」

「別にいいけど……天之河がいる分どっちにしろ面倒だろうから」

「雫」

「へ?」

「雫って呼んでくれないかしら?……もしかしたらやっかみは受けるかもしれないけど」

 

遠慮がちにいう八重樫に俺は少しだけ苦笑してしまう

本当に甘えられてないんだなって思ってしまう

 

「了解。雫」

「ありがとう。春馬」

 

すると少し嬉しそうに頰を赤く染める雫。少し恥ずかしいのか照れているらしい

 

「……てかとりあえず飯食おうぜ。さすがに腹減った」

「一週間ぶりの食事だからスープとパンだけだけどね」

「それでもご馳走だよ。めちゃくちゃお腹減ってたし」

「そうだね。私も何かもらおうかしら。香織もお願いしたいことがあるんでしょ?」

「…うん。あのね。三上くん……春馬くんは南雲くんが生きていると思う?」

 



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9話

その一言に俺は少しだけ戸惑う。でも白崎は何か思ったのかずっとこちらを見つめてくる

俺はどうしようかと思ったが正直な感想をいうことにした

 

「生きている可能性はかなり低い。落下して奇跡的に生きていたことを仮定しても食料とか水とか色々と問題があるからな」

「……っ!」

「まぁでも、反対に南雲には南雲にしかできないこともあるだろ?錬成は元々武器を作る技能だ……ちゃんと自分の評価を見直せれば戦うことはできると思ってたぞ」

「評価?」

「南雲は俺とは違って純粋なオタクだろ?学校生活はそこまでに好きなことには熱心になる和人先輩みたいなタイプなんだよ。いわゆるクリエイタータイプ。だから錬成師だったんだろうな。自分の好きなものを製造する才能があるから」

 

俺にはできない才能だからな

菊岡さんと和人先輩の話についていけない時があったくらいだし

 

「正直なところ一番危険だったのは勇者の天之河ではなくて俺は畑山先生か南雲だったと思う。先生はいわずもがな。魔法と科学。それが融合して武器を作れば?……どんな武器になったのかよく分からないんだよ。もし火薬があって爆弾や銃を南雲が作れたとしたら?武器だけじゃない。この世界に魔道具を作るための機械を南雲が作れたら?」

「っ!」

「戦争も暮らしも全部変わる。産業革命のチャンスだった。全てをひっくり返す新たな産業の機会をこの王国は失ったんだよ」

 

冷静に考えるとそうだ。南雲を前線に出そうとしたのが王国の誤算だったはずだ

それに戦闘面に関しても教会は手放した

 

「それに気づいているのなら、……生きている可能性は1〜2%くらいはあるんじゃないか?」

「っ」

「あぁ。気づいてなかったのなら死んでいるはずだ。それほどあの迷宮は殺意がたかい。まず客観的に落ちて死んでないか?食料があるのか?安全地帯があるのか。怪我をして回復できる方法があるのか?それを全て合わせてそれくらいの数字だ。……ゼロじゃないだけマシだろ。まぁそれが分かったのなら後はあそこから出ないといけない。ずっと迷宮にいるのはさすがに無理だろうからな」

「……そう。……でもゼロじゃないんだね」

「あぁ。奇跡が積み重なってやっとって感じか。まぁ、元の性格でいられる可能性は低いだろう。たった一人で全て敵の世界で生きないといけないってどれだけ辛いのかなんて俺ですら分からないからな。白崎の思っている南雲じゃない可能性が高いだろ。それに」

 

俺は一言どうするか迷ってしまう

でも、少しだけ危険が振り返る可能性を踏まえて、言うべきだろう

 

 

「それに?」

「……俺たちのことを敵だと思っているかもな。あいつ多分殺されたから」

「…えっ?」

「殺された?」

「火の球がわずかに軌道がずれたからな。意図的である可能性が高い。元々クラス全員集まったらオレンジになってないか見ようとしてたからな」

 

俺は客観的に告げると信じられないのか俺を見る三人

 

「…冗談ではないのね?」

「あぁ。俺が気づいたのも偶然だったからな。だから俺も南雲のことをすぐにベヒモスの突進に間に合えた」

「あなたって魔法は使えなかったわよね?」

「リンクを解けば魔法自体は使えるけど……俺リアルでも剣使った方が強いし適正回復だぞ?」

「火は?」

「南雲と同じくらい」

 

大きな魔法陣がなければ小さな火種もつかない

まぁ魔法を使うくらいだったら問題はないのだか

剣で戦った方が数千倍強い

 

「へぇ〜。それじゃあ師匠って剣特化の脳筋なんだ」

「言い方は悪いけどその通り…」

 

と俺が言おうと思った矢先その答えを答える前に絶対にありえない声に俺はその声の主を見る

小さな少女で車椅子に乗った青みかかった紺色の髪の少女が小さく笑顔でこっちを見ていた

 

「やっほー師匠!!」

「……ユウキ!?」

「師匠こそ。こっちの世界に来てたんだ♪」

「……いや、なんで?」

「……やっぱりあんたの知り合いだったのね。あんたキリトのこと言えないと思うけど」

 

ジト目で見ていく詩乃に俺はそれどころではない

ユウキがこの場所に居られることが奇跡に近いのだ

 

「…お前大丈夫なのか?」

「うん。ウイルス自体は既に消滅状態だから。でも一年間ずっとゲーム内にいたわけだからリハビリは必要だけど」

「……なるほど、確かに地球じゃあ治らない病気でもこっちの世界じゃ治る可能性はあるのか」

「あの?ユウキさんでしたっけ?三上くんとどういう関係なんですか?」

 

直葉が不思議と思ったのか俺との関係を聞いてくる

ん〜答えるのは難しいけど

俺はユウキの顔を見ると一回だけ頷く

俺は小さく息を呑むとそして話し始める

 

「元々VR技術はゲームではなくて医療機関の特に終末期医療として期待されてきたっていえば分かるか?」

「終末期医療?」

「あぁ。……ユウキはその被験者で、俺はその支援者なんだよ」

「……えっと?」

「……そういうことね。あなたが医療用語に詳しいのかって思っていたけど……」

 

詩乃は理解できたらしい。まぁ俺が医療機関を結構詩乃に進めていたのもあるのだが

 

「あぁ。菊岡さんの依頼をほとんど受ける代わりに俺が自衛官及び治験に立ち会わせてもらってる。まぁその一つに詩乃が受けた精神ケア医療も含まれているわけ」

「あんた前にキリトにトラブルを持ってこないためって言っていたけど」

「それも本当だよ。というよりそっちがメイン。菊岡さんキリトのことを利用しようとしてたから俺の方に向けただけだし」

「限度があるわよ。まったく。ゲームといいあんたは危険な橋を渡りすぎなのよ。心配する立場になりなさい」

 

詩乃が呆れたようにしているけど俺はまったく気にしない

それを切り捨ててまでも俺はキリトさんに恩を返せていないのだ

 

「あの、二人とも」

「…悪いな。まぁ簡単にいうめうならばHIVで……ユウキは余命宣言を受けていたんだ」

「っ!」

「まぁ、だからこそ観察しながら治療を続けたわけなんだけど……」

「うん。今は体が弱いから動けないけどリハビリを頑張れば生身でも動けるようになるって」

「悪いな。南雲の話からそれちまって」

「ううん。それが当たり前だと思うから。それに南雲くんとあまり関係なかったし」

 

白崎の言葉には苦笑してしまう。事実その通りだからだ

俺にとって南雲は赤の他人であるので本当に大事な人の方が優先するのだ

 

「そうだな。まぁでも、言葉には嘘はないから。助かるにしろ全て運任せだしな」

「運任せって無責任ね」

「あんな。無能って言われていたとおり戦闘面では明らかにクラス最弱のやつが生き残る可能性はかなり低いだろ?」

「あはは。でも、それが本当なら助けに行きたいけど」

「それだけの実力を持っていたらな。人を殺すこともできるのは俺くらいだろ?」

「……やっぱり殺すことは確定なのかしら」

「殺さないとこの世界では生き残れないさ。ただでさえクラスの中に裏切り者が一人いる可能性がある以上な。…もしそいつらがスグや詩乃、ユウキ、一番狙われる可能性の高い雫を狙うなら俺は容赦なく…そいつを殺す」

 

絶対の覚悟を持っている

例え裏切って人を殺している以上俺はオレンジプレイヤーと同じだ

生憎キリトさんも俺も単純にそいつを許すわけにはいかないのだ

 

「……はぁ。キングって本当に過保護よね」

「…詩乃?」

「どうせあんたのことだから人を殺したことのある自分が殺すべきって考えているんでしょ?」

「……まぁな」

「それなら私が殺してもいいんじゃない?私だって人を一人殺しているんだから」

「いや、お前ってトラウマ植え付けられていたじゃんか。もう一度ぶり返す気か?」

「……あんたがやっても同じよ。シノンと私にとってキングとハルには命を救われているのよ」

 

その言葉の重さは俺にしか理解できない

死銃事件の被害者である詩乃は第二回KoBに参加して、メインターゲットになっていたのだ

ゲームで殺されたら死亡する。そしてリアルでも、詩乃は友達だと思っていた男子に殺されかけている

 

「……私はあの時からずっとあなたの隣で歩んできた。ずっとALOでもGGOでもあなたの後ろを守ってきた。そんな人がもしハルならハルが先にトリガーを引くとは思わないかしら?」

「まぁ分かるけど」

「それに別にこの世界で絶対に人を殺すことになるのは分かっているわよ。そしてもしその時最初にトリガーを引くのはハルってこともね。でも、それではハルは絶対に壊れてしまう」

「それは絶対にないな。スグと詩乃がいればな」

「えっ?」

 

スグは呼ばれることを想定しなかったのかスグが驚く

でも事実だろう

 

「つーか、元々俺のことを一番分かっているのはスグだろ。今は俺が死にかけたことと死の恐怖から怯えて分からなくなっているだけだしな。元々アスナとキリト以外に一番付き合い長いんだぞ?リアルでもゲームでも。例えば俺の好きな食べ物は?スグ?」

「えっ?ケーキ」

「嫌いな食べ物」

「麻婆春雨だったはず」

「苦手な人」

「天之河くん」

「……こういうことだよ。言っとくけど俺のリアルのことを知っている人はほとんどいない。つーかリアルでも俺は基本的にゲームのことしか話さないからな。ユウキがいっていたけど俺もVRMMO、即ちバーチャルに生きているって言っても過言ではない。俺にとってリアルってそこまでいい思い出がないからな」

 

だから俺自体部活動関連に参加している以外はほとんどVRに潜っているのだ

リアル関連の話をするのは俺にとってある種一歩進んでいるって言ってもいい

 

「…まぁ、この二人がいれば畜生には落ちることがないしな。ユウキと雫は守る対象だし、大切な奴らがいるからこそ俺はいきるんだよ。まぁこれから南雲を探しにいくにしろ俺のすることは変わらない。このメンバーで地球に戻ることだろ」

「まぁ、そうだけど」

「……まぁ、白崎も考えとけ。本当に大事なものを守るってことは何か大切なものを失う可能性があるってことを。それと恋愛でも関係なく現実があるってことをな」

 

俺は答えると白崎は少しだけ首を頷く

南雲が生きている可能性はかなり低いので一応覚悟はしておいた方がいい

それが例え望まない結論としても



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10話

「詩乃もユウキもやっぱりあったか」

「う、うん。でもやっぱり師匠強いね」

「強すぎるのはあんたたちよ。私なんか一本も取れなかったじゃない」

「直葉?私がおかしいのかしら?」

「……雫がおかしいわけじゃないよ。ただあの三人は次元が違うんだよ。特に春馬くんは」

 

呆れたような雫とスグに俺はため息を吐く

接続は結局詩乃とユウキにもあったので少しばかり打ち合っていた

接続した姿はお互いにALOと同じシノンはケットシー、ユウキはインプである

ついでに元々精神体で動くためユウキが接続状態では歩くことは可能なので

 

「失礼だなぁ。俺は普通だろ?」

「アバター状態の二人を相手してでしょ?なんで張り合えるどころか優勢なのよ!!」

「ん?だってこいつらどころか俺は基本的に相手の行動パターンを読むからな。視線や思考、口の動きから相手が何をするのかある程度分かるからな。それに弓や魔法もシノンのライフルよりは遅いから流石にある程度は捌ける」

「その分擦り傷は多いけどね。治療終わったけど……本当に大丈夫なの?」

「大丈夫」

「本当に強いんだね。三上くん」

「……一応プロゲーマーだからな。それにこいつらは強いからこそ読みやすい。特にシノンは嫌なところをほぼ確実に射抜いてくるからな」

 

ほぼ百発百中と言っていいほどの矢の精度は相変わらずと言っていいほど馬鹿げている

絶対の信頼があるからこそ読みやすいのだ

 

「褒められているのか褒められてないのか分からないのだけど」

「褒めてるさ。GGOで日本で俺と互角で戦えるのは間違えなくシノンだけだからな。それにシノンと1on1では流石に相性は悪いだろ。スナイパーだからな」

「まぁ狙撃位置をバレているし射程も短いのだけど、至近距離から矢を斬れるのはあなたくらいでしょ」

「キリトも同じことできるぞ」

「あのゲーム馬鹿なら確かにできそうだけど」

 

ため息を吐く詩乃に俺は苦笑してしまう

というよりも弾丸でも斬っていたのは言うまでもない

するとカツカツと音が聞こえてくる

 

「あれ?香織と雫こんなところにいたのか?」

「…光輝?」

「…光輝くん?」

「あぁ、来週からまたオルクス大迷宮の訓練を再開するらしい。だから雫と香織にも伝えておこうと思って…って桐ヶ谷さんとそこの二人は?」

「……えっと?誰?」

「天之河光輝。リアルの剣道でボコボコにしてから俺を敵視してくる奴だよ」

「…事実だと思うのだけど言い方」

「まぁ、春馬くん天之河くんのこと今でも結構怒っているから」

「まぁ師匠の名前を呼んでなかったから仲がいいわけではなさそうだけど……師匠剣道やってたんだ」

「えぇ、普通に都大会突破するくらいの実力はあるわよ。見様見真似で八重樫流も覚えるくらいにはね」

 

雫の言葉に詩乃とユウキはへぇ〜と感心したようにしている

 

「んで?女性陣になんか用か?用事なら俺は席を外すが」

「あぁ。その2人が新しく入ってきた人だろう?今後のことについて話したくてね」

「了解。まぁ詩乃、ユウキは戦争に参加するかってことだろ?」

「私はするつもりないけど…」

「えっ?」

「私はこの世界のいいなりになる必要はないから」

 

実際詩乃はかなりの現実的な人だ。煽れば結構乗るのだがそれでもリスクマネジメントは俺よりも断然優れている

 

「ユウキは?」

「僕は師匠といたいかなぁ。リハビリもあるし」

「俺も王宮から出るけどな。まぁ迷宮には行かないけど」

「行かないのね」

「俺は南雲が生きているとした場合迷宮から出たことが条件だと思うからな。だからこそ外で探す方が効率的だからな」

「……そっか。じゃあ私は潜るよ。一応南雲くんがオルクスの大迷宮にこもっている可能性があるし、今は南雲くんを守れる強さが欲しいから」

 

白崎はそして決意する。南雲が生きていると思って、その判断を下した

確かにオルクスの大迷宮に潜るのはいいけど

 

「雫は?」

「私は……」

 

そして一度だけ白崎の方を見ると一度うなづいて笑う白崎

俺は少しだけどういう意味かを理解して苦笑してしまう

 

「…キリトもそうだけど、ハルも普通に女タラシよね?」

「否定はしないけど。否定できないけど、今回は仕方なくね?この中で現実を見れていたのが俺と八重樫しかいなかったんだから」

「自覚あるのがキリトとは違うところだけど、…本当にこの男性陣は」

「……まぁ、多分何度同じ場面があっても俺は同じことを言ってるだろうな。てか、俺の性格に関しては詩乃が一番知ってるだろ?」

「……あんたがふざけてないってこと時点でどれだけ余裕がないことも分かっているけど。シズ達と同じ気持ちを持っている私としては複雑だけど」

「……それを言われるとぐうの音もでないんだが」

 

いつのまにか近づいてきている詩乃に言い返せることは少ない。俺自身二人が来たので精神的には楽になったが未だに状況は変わっていないのだ

俺に好きな人だっていることは詩乃も知っている。だけども諦めずに攻めてきていることも、その好意に断りきれない俺は凄く最低な行為をしてることだって理解しているのだ

 

「…分かっているわよ。そんな顔しなくても。…ハルのそういうところが貴方の長所なんだから」

「……女たらしが長所って言われても」

「貴方は普段と戦闘時のギャップが激しいのよ。二重人格って疑うくらい剣を持つと変わるから」

「…お二人さん?私たちのこと忘れてない?」

 

するとジト目で俺の方を見るスグに俺は苦笑してしまう

 

「悪い悪い。ゆうてさそっちはそっちで入れそうにないじゃん」

「……たしかにそうだけど」

「なんか揉めてない?」

「八重樫さんが抜けるって言ってから天之河くんがただこねてるから」

「……流石に入れないだろ。元々雫には雫のグループがあるわけだし、それに雫が決めたんだ。俺には見てることしかできないよ。助けることはできるだろうけど、元々雫は白崎の南雲探しを手伝う予定だったはずだし、こう言ったことは言葉にしないと伝わらない」

「師匠なら剣で語ればいいのにって思ってそうだけどね」

「……お前もだろ?ユウキ」

 

俺は少しだけ溜め息を吐く

ユウキの意見はそれでいて正しい

 

「言葉だけじゃ伝わらないことだってあるから。自分がどれだけ本気なのかとかね」

「俺やユウキは剣だもんな。スグも和人先輩との仲直り方法も剣だったよな?」

「二人と一緒にしないでよ」

「…でも、言葉だけじゃ伝わらないことは絶対にあるだろ。実力行使でも叶えたいものがあるのならなんでも使って叶えようとする。反対に言葉じゃないと絶対に伝わらないことだってある。どれだけ信用してようとも言葉がないのに伝わることはないだろ。喧嘩するのは悪いことじゃない。自分の意思を伝えられる一番簡単な方法だろうしな」

 

俺はそうやって勇者パーティーのことを見る

その喧嘩した先がどうなるのか

俺は少しだけ楽しみにその喧嘩が終わるまでじっとそのグループを眺めていた



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