俺ガイル~別れ、そして出会い~君の一番星に【城廻めぐり編】 完 (慢次郎)
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プロローグ編
プロローグー幼なじみ


プロローグです。


ーー4・05・比企谷家ー八幡の部屋。

 

春、新学期と言えば、心を踊らせる人は多いだろう。中には出会いを求める人もいるだろう。

 

しかしこの人物は違う。春が来ようが夏が来ようが秋が来ようが、ずっと冬のままで止まってしまっている。

 

そう2年前の12月30日からずっと。

 

比企谷八幡は、ずっと時が止まっている。

 

喪った悲しみをいつまでも引きずっている。

 

最愛の恋人、雪柳綾音を喪ってずっと…。

 

 

 

ーー2年前ー12月30日ー某◯火葬場

 

クリスマスが過ぎて、もうすぐ年が変わる前の年の瀬、1人の女の子がこの世を去った。享年15。若年性の癌で亡くなる。

 

比企谷八幡は、恋人である雪柳綾音の葬儀、火葬場へとやって来ている。もちろん、八幡だけではなく、彼と綾音の共通の幼なじみの雅史、3年3組のクラスメイト、綾音の親友達も多数来ていた。

 

火葬場の外は、悲しみを代弁するかのように降っている。綾音の両親は、気丈にしているが、いつ泣き崩れるかわからない状態である。

 

今は、火葬する前の最期の場面に立ち会っている。

 

綾音の両親は、自分達が声をかけた後、八幡に声をかけるように言った。

 

八幡は、棺の中で眠る綾音を見ていた。彼女は、死に化粧で綺麗になっていた。綾音の髪の毛は抗ガン剤で抜け落ちている。そんな頭を撫でながら、すると涙が両目から零れ落ちる。綾音の表情は満足感で溢れているのだ。

 

今までの綾音と過ごした日々が走馬灯のように流れてくる。

 

初めて会ったのは、幼稚園入る前に、雪柳家が比企谷家の隣に引っ越してきた。親同士がすぐに仲良くなって、八幡と綾音は出会った。

 

幼稚園に入園してしばらくして、高山家が比企谷家の前に引っ越してきた。そして八幡や綾音の通う幼稚園に転入してきた。

 

八幡、綾音、雅史は、この時からずっと一緒にいたのだ。小学も同じクラスになったのが、3回もあるような奇跡みたいな事もあった。

 

そんな小学校も月日共に流れ中学になる。雅史は、イケメンになり綾音は美少女に成長したのだった。八幡は普通に成長した。

 

中学になると、雅史はサッカー部に入り、綾音はバスケ部に入る。八幡も雅史に誘われる形でサッカー部に入った。

 

部活に励みながら、勉学に勤しんでいた。八幡も綾音、雅史以外のクラスメイトの友達もでき、綾音も緑子と七海と親友が出来ていた。雅史もたくさんの友達を作った。綾音の活躍により総武中のバスケ部は、ぐんぐんと成績を上げ、サッカー部も八幡、雅史コンビの活躍により弱小を返上し始めた。

 

中2になり綾音、雅史と同じクラスになった。3人とも小学何年ぶりかと喜んでいた。

 

だが病は綾音の身体を蝕み始めていた。

 

中2の修学旅行中に綾音は、倒れる。八幡と雅史、緑子、七海の同じ班であったため、病院へ連れて行った。担当の医者からは、ただの疲労が原因と言われた。綾音の事は、学年主任と担任の教師には八幡が説明をした。

 

 

そして八幡が付きっきりで綾音の看病をやったのだ。雅史、緑子、七海も観光をせず綾音の側にいたのだった。

 

綾音は、八幡達に観光してていいと言ったが、八幡が

 

「綾音、お前だけを置いてはいけない。俺達だけで楽しめるわけがないだろ」

 

八幡が言ったセリフを雅史が続けて

 

「八幡の言う通りさ。綾音のいない観光なんてつまらないね」

 

「雅史、お前…イケメン面でそれを言うなよな…」

 

「僕がイケメン?イケメンは八幡の方だろ?」

 

「はぁ~?雅史さん…目は大丈夫ですか?」

 

すると緑子や七海がクスクスと笑いだして、

 

「八幡君は自覚が無いの?女子の間でキャーキャー言われてるよ?」

 

「もちろん、雅史君のファンクラブはあるけど、八幡君のもありますよ」

 

「俺に?それって雅史にキャーキャー言ってるだけじゃないのか?」

 

「八幡、何で君は自分を卑下するんだ?」

 

「雅史が前に出るのが良いんだよ」

 

「僕は万人じゃない、綾音の事も八幡が一番最初に気づいて適切な処置をしたじゃないか」

 

「それは、たまたま知っていた知識が役に立っただけだ」

 

「そうだよ、八幡君、カッコ良かったよ!」

 

緑子は、八幡にそう言い、七海も

 

「だよ!あの時の八幡君、カッコ良かったし頼りになるって思ったよ」

 

「茶化すなよ…俺は当然の事をしただけだ」

 

そんな感じで八幡達が楽しく話してる姿を見て、綾音は微笑んでいた。綾音は自分が八幡に好意を持ってる事を自覚した。

 

しかし夏のバスケ部の大会の予選のために練習中に再び綾音は倒れる。仲間達が先生を呼び、すぐに救急車で運ばれる。

 

八幡、雅史、緑子、七海は、部活を切り上げて急いで綾音が運ばれた総合病院へ向かう。

 

運ばれた綾音は、人工呼吸器をつけており意識もなく、とても話せる状態ではなかった。綾音の両親は、医者から何かを聞いてるようだ。おそらくは、綾音の容態の事を説明受けてるのだろう。八幡はそう思った。

 

八幡達は、病院の消灯時間ギリギリまでいたが、綾音の両親に帰るように言われた。

 

八幡は、綾音の病状を聞いた。すると母親は、涙を流し始め、父親から病状の説明を受ける。

 

若年性の癌であることを宣告されたと。

 

余命は、半年だと宣告されたと。

 

それを聞いた八幡は、膝から崩れ落ちる。雅史は崩れ落ちた八幡を気遣う。緑子と七海は、互いに見合って泣き出してしまう。

 

「…綾音があと半年しか生きられない……」

 

八幡は、自分の中の何かが変化し始めていた。

 

八幡、雅史、緑子、七海の4人は、綾音がいつでも戻って来れるようにやり始めた。

 

綾音の意識が回復したのは、倒れたから3日後だった。

 

八幡は、それから綾音の世話をすることに。だからサッカー部を辞めた。

 

部長も副部長は、反対しなかった。八幡の真剣な表情でわかったのだ。

 

八幡は、綾音の世話をしに行くのだと。

 

綾音も八幡の力を借りて、学校に復帰するために治療とリハビリをしていた。

 

 

 

そして、季節が夏から秋の風景が目立つようになり、綾音は学校へ復帰した。

 

ちょうど、文化祭の準備をしている最中に綾音は復帰したのだ。ただ以前よりも痩せていることは明白だった。

 

綾音はクラスでも文化祭の準備をやろうとするから、緑子や七海は簡単な仕事を任せることに。クラスメイトも気を使って綾音には無理をさせないようにしていた。

 

雅史の提案で、八幡と綾音は、2人の作業を任せることした。雅史は、綾音が八幡を八幡が綾音を好きだということをしっかりいて、クラスメイトにも了承を得ていたのだ。

 

綾音は、そんな雅史や緑子、七海に感謝していたのだ。彼女は、この文化祭で自分の気持ちを八幡に告白するつもりなのだ。

 

綾音は自分の命があまりないことを悟っていた。そして八幡達が自分に気をつけていることが重りと感じていた。

 

 

そんな感じで文化祭当日になり、八幡と綾音は色んなところを回った。

 

体育館では、生徒会主催告の歌って告白するイベントが行っていた。すでに5組のカップルが誕生した。

 

綾音は、すっとその主催のイベントへ出る。

 

そして歌で八幡に告白する。八幡は綾音のサプライズの告白に驚く。八幡は全身から綾音の思いを感じ取った。どこかに八幡は、自分何かがと卑下していたから。でも雅史や緑子や七海に背中を押してくれた。だから八幡は、彼女に恥をかかせる訳にはいかないと思い、綾音の元へ行く。

 

みんなから見られながら、八幡は綾音の告白をoKする。そしてみんなから祝福された。

 

見事、中2の文化祭で八幡は、綾音という美少女を彼女にすることになった。

 

 




雪柳綾音ー黒髪ロングの美少女。八幡と幼なじみです。中2の文化祭で綾音の告白により付き合うようになる。

高山雅史ー茶色の髪でイケメン。勉強も出来て、スポーツも得意。八幡と幼なじみ。八幡の事を大事にしている。


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プロローグー2人の時間。

プロローグ第2話です。


それから時間が許す限り八幡は、綾音と一緒にいた。勉強も遊ぶときも共に。

 

八幡は、少しでも多くの思い出を作るため、出掛けたりした。ネズミランドに行ったり、近くの公園なんかでもデートを繰り返した。

 

余命半年と言われていたが、その半年を乗り越えていた。医者からの話だが、綾音が八幡への思いが生きる力を与えるのではないかと言われた。

 

正月の初詣は、振り袖を着た綾音と共に明治神宮に行ったのだ。雅史や緑子や七海を誘ったのだが、2人の邪魔はしたくはないと断れた。八幡も綾音もそんなに気を使わなくても言いと言った。

 

八幡はそのときの願いは、1日でも多く綾音と一緒にいたいと願っていた。

 

綾音も同じ事を願っていた。また来年、八幡と初詣が行けるようにと。

 

2月のバレンタインには、綾音からの手作りチョコをもらった。義理チョコを緑子や七海からももらった。綾音達以外の女子から結構な数をもらった。八幡自身、自分の人生で最多記録じゃね、と驚いていた。

 

雅史は、相変わらず沢山のチョコをもらっている。去年までの八幡なら羨ましがっていたが、今年は最高のチョコをもらっているからそれだけで嬉しいのだ。

 

3月はホワイトデーがあり、八幡は綾音に対して、小遣いを貯めて購入した髪飾りをプレゼントした。

 

「わぁ~私が欲しかった髪飾り!」

 

「前に2人で商店街を歩いていた時、綾音がその髪飾りを欲しそうにしてたから、ホワイトデーのプレゼントにしようと思ったんだ」

 

「八幡、ありがとう。とっても嬉しいわ」

 

綾音はその髪飾りを髪につけてくれた。綾音の黒髪と髪飾りがマッチしていた。

 

「綾音、よく似合ってるよ」

 

八幡は照れながらそう言って、横に視線をそらす。

 

「本当なら綾音の誕生日にプレゼントしたかったけどな」

 

「ふふっ、八幡、本当にありがとう。それじゃあ、私は、八幡の誕生日に欲しいものをプレゼントするわ」

 

「俺の欲しいもの?それは…綾音、お前さ…」

 

「え、ええっ!そういうのは、高校生になってからで…そ、その」

 

「ぶぶっ、冗談だよ、冗談。綾音、本当にとるんじゃねーよ」

 

「冗談?」

 

「冗談だよ。そういうのはちゃんと責任が取れるようになってからさ。それに綾音にもらえるプレゼントは何でも嬉しいから」

 

「八幡…うん、楽しみにしていてね」

 

 

桜が満開に咲いている桜道を歩きながら、高校進学の話をしている。綾音も倒れた直後は進路の事は、考えれなかったが今ではちゃんと高校進学の事も考えている。

 

「私ね、海浜総合高校に行くことを決めたから」

 

「海浜総合高校か…綾音なら絶対に行けるさ。俺が保証する!」

 

海浜総合高校は、県内有数の進学校であり、もちろんトップクラスの学校である。

 

「八幡は高校はどこに行くのか決めたの?」

 

「当たり前だろ、綾音と同じ海浜総合高校だよ。俺はお前と共に歩むと決めたからな」

 

八幡は、綾音と共に勉強をしていたため、いつの間にか学年トップ争いを繰り広げるようになっていた。

 

「八幡…ふふっ、あの八幡がくさいセリフを平気で言えるようになったのね」

 

「う、うるさい。別に似合ってないのはわかってるから」

 

「ううん、似合ってるよ…八幡」

 

八幡は綾音を抱き締める。ふと抱き締めたくなったのだ。時々不安にかられることがある。目の前の綾音がいなくなる夢を見たりする。

 

「は、八幡!?どうしたの?」

 

「綾音、俺は絶対に離さない。たとえ何があろうとも」

 

「八幡…」

 

2人で抱き合っていると、回りからクスクスと聞こえる。大胆とか、青春とか、若いな~などと言われた。恥ずかしくなった2人は、そそくさと通りすぎた。

 

そして中3になり、同じクラスになった八幡達4人。おそらく先生達が配慮してくれたのだろう。

 

だが綾音が毎日登校出来たのは、4月、5月のゴールデンウィーク明けまでだった。中頃から休みがちになった。八幡は休みがちの綾音のため授業のノートを綺麗にとった。

 

6月のある日、綾音が階段から転落して、総合病院に運ばれた。

 

八幡はすぐに総合病院に駆けつける。八幡が駆けつけた時は、綾音も意識があり、両親も安堵している。

 

「綾音、ごめん」

 

「何で、八幡が謝るの?」

 

「俺は…必ず綾音を守るとか言ったのに…俺は…」

 

「八幡もそんな悲しい顔しないの。ただふらっとして階段から転げ落ちただけだから」

 

「…綾音、俺は…」

 

八幡は、綾音を抱き締める。

 

「は、八幡!?ちょっと…」

 

「本当に心配したんだぞ。俺は、俺はお前に何かあったら…」

 

八幡は、涙を流していた。そんな姿を見た綾音は、八幡の頭を撫でた。

 

「うっうっ……」

 

「よしよし」

 

そんな2人の姿を見た両親は、そっと部屋から出たのであった。



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プロローグー最愛の恋人の死。

プロローグ3話です。


しかし綾音の病状はどんどん悪くなっていく。確実に病魔が彼女の身体を蝕んでいく。

 

八幡は、今まで以上に綾音に付きっきりになった。季節は暑い真っ盛りだが、八幡にしたら、どうでも良かった。綾音が少しでも良くなるようにと必死に頑張っている。

 

勉学と綾音の看病の両立をやっているが、雅史達から見れば、無理をしているのは明白だった。そんな姿を見て痛々しかった。

 

だから雅史は、親友代表として八幡に

 

「八幡、お前は無理をしすぎてる!このままだとお前まで病気になって倒れるぞ!」

 

「…無理がなんだ!俺は…俺はこんなことしかできない。綾音が苦しんでいるのに、見守る事しかできない。彼氏なのに何もしてあげられない…」

 

八幡は崩れ落ちるように泣き出した。そんな姿を見て雅史は、そっと胸を貸した。八幡にとって素を見せられる数少ない男の幼なじみで親友である。雅史にそう言われ肩肘の力を少し抜いた。

 

 

世間が夏休みになって浮かれた時期になっても八幡は、病院にあった。

 

綾音が病気ではなく、健康体であったのなら、万々歳だっただろう。海や映画館などでデートをして、リア充満喫してるだろう。しかし現実は、病院の病室の中。ロマンもへったくりも無いが、八幡はそれでも満足なのだ。

 

綾音の話せて、彼女の笑顔を見るのが、何よりも嬉しいのだから。

 

八幡の中3の夏は、ほとんど綾音の病室で過ごした。その間も綾音の身体は、どんどんと痩せていく。

 

 

そして、2学期に入り、体育祭が終わり、文化祭の準備も始まる。

 

八幡はクラスの文化祭実行員になった。普段の彼ならやるはずがないのだが、綾音のためにクラスでやれないかと、立候補したのだ。クラスのみんなも八幡の真剣な言葉で納得し決まったのだ。ちなみに女子の文化祭実行員は、綾音の親友の緑子である。

 

八幡と緑子は、真剣に文化祭準備に取り組む。八幡の的確な指示により、クラス全体が一体感を生み出していた。

 

クラスの出し物は、執事メイド喫茶店である。

 

喫茶店は、色々こだわったかいもあり、売り上げが1位をとったのである。執事のエースの雅史、メイドのエースの緑子であった。八幡も執事として雅史に負けないぐらいにやっていたのだ。

 

 

ちなみに綾音のメイド服も作ってあり、八幡が病室で彼女に着てもらったのだった。綾音は、八幡の執事姿を見たいと言われ、恥ずかしながら着たのであった。

 

 

 

文化祭も終わり、季節も秋から冬に変わっていく。だが綾音の容態は、悪化の一途を辿る。

 

抗がん剤のおかけで、綾音の綺麗な黒髪は抜け落ち、頭には被り物を被っていた。身体も痩せており、バスケをしていた頃の面影はない。

 

八幡は、それでも綾音を献身的に支えていた。彼女は1人で立つことも出来なくなり、病院内の中庭を車椅子で散歩デートをやっていた。

 

「綾音、寒いけど大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫」

 

「なんだ?元気がないな?いつもなら、綾音が俺を励ましてくれたじゃないか?」

 

「そうだね」

 

冬の曇り空の下、中庭の木々から枯れ葉が1枚風に揺られて綾音の足下に落ちてきた。

 

「私の命もこの枯れ葉のように散っていくんだろうな」

 

「綾音…」

 

「八幡、私がいなくなったら…どうする?」

 

「俺は、綾音を失ったら…泣く…泣き崩れと思う…立ち直れないかもしれない」

 

「八幡…」

 

綾音は、八幡がそう言ってた事に胸が苦しくなった。彼女は彼が不器用だから、自分が亡くなった後、塞ぎこんでしまうのではないかと。新しい彼女を作らずに、自分の事を思い続けるだろうと。

 

だから綾音はまだ元気な内に、雅史、緑子、七海にとある事を頼んでいた。(この事は、2年後のクリスマス会で明らかになる)

 

 

そして八幡達は高校受験のための勉強で忙しい中、八幡は綾音の眠る病室にいた。八幡にとっては受験勉強どこではなかった。綾音の命が今年もつかわからないと両親から言われたからだ。

 

八幡は、商店街の駄菓子屋で、買ったおもちゃの指輪を2つ買っていた。それは綾音にあることを言うためだ。そう決意し

 

八幡の気配に気づいた綾音は目を覚ます。

 

「あ…れ…八幡…いたんだ…」

 

「綾音、結婚しよう!」

 

「え…?…結婚!?…八幡…何を言ってるの?」

 

八幡は、おもちゃの指輪を取り出し、綾音の薬指にはめた。

 

「八幡…この指輪は…駄菓子屋の…」

 

「おもちゃの指輪で悪い。本物の指輪なんて中学生じゃ買えないからな。本物の指輪は大人なってプレゼントする!」

 

「ううん…ありがとう、八幡…」

 

綾音は、こんな状態の自分に結婚しようと言って、指輪をくれた八幡に嬉しくて涙を流した。八幡はもう一度さっきの言葉を言う。

 

「綾音、結婚しよう!」

 

「はい!」

 

その話を聞いた雅史、緑子、七海は、クラスを巻き込んだ、小さな結婚式を開こうと決めたのだ。担任、手芸部、バスケ部の仲間達、綾音の両親、綾音の妹の綾香、八幡の両親、八幡の妹の小町も巻き込んだものになった。

 

もちろん法律上、八幡と綾音は結婚は出来ない。だが、綾音の命が残り少ないのをわかった上で八幡が考え出したものであった。綾音と過ごした思い出を1つでも多く作るため、綾音のウェディング姿を彼女の両親に見せたかったからだ。

 

手芸部は、頼みを引き受けてくれた。主に2年と1年だったが。

 

12月24日、クリスマスイブにささやかな結婚式を開いた。もちろん病院の教会でだが。話を聞いた神父も協力してくれた。

 

何故か、綾音のウェディングドレス以外に、八幡のタキシードまで作っていた。

 

手芸部曰く、花嫁に恥をかかせないためにだと言うことらしい。何故か映研まで来ていて、式を録画している。

 

そして八幡と綾音の模擬結婚式が始まる。

 

本物の結婚式みたいな感じで始まり、最後の神父からの誓いの言葉を言われる。

 

「 新郎、八幡、新婦、綾音を妻とし、一生涯愛する事を誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

「 新婦、綾音、新郎、八幡を夫して生涯愛する事を誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

「それでは、指輪の交換を」

 

八幡は綾音の薬指に指輪をはめた。綾音は八幡の薬指に指をはめた。まあおもちゃの指輪だが。

 

「それでは、誓いのキスを」

 

八幡は、誓いのキスをするため、ベールをあげる。そして綾音の唇にキスをした。

 

八幡は目の前の綾音が愛しくてたまらなかった。なんで綾音が苦しまなくてはならないのか。綾音の病気を自分が変わってあげたいとも考えてたこともあった。だが今は愛しくてたまらない。1日でも長く綾音とそう遂げたかった。

 

そして模擬結婚式は、無事に終わった。綾音の両親、八幡の両親、小町、雅史、緑子、七海、クラスメイト、協力してくださった方々は、祝福の拍手が鳴り響いたのだった。

 

 

弱々しくも元気な綾音を見るのは、これが最期だった。25日の夜に綾音は、容態が悪化、そのまま意識が無く、眠っている状態であった。

 

26日、27日と病院に泊まり込みで綾音の側にいた八幡。人工呼吸器の音だけが、ただ響いている。八幡は綾音の手を握ってひたすら堪えている。

 

雅史、緑子、七海も交代で、八幡を見ていた。見るに耐えれないからだ。緑子、七海も本当は泣きたい。だが自分達は必死に我慢している。もちろん雅史だって我慢している。

 

そして綾音の瞳がちょっと開いた。そして最後の力を振り絞りながら綾音は唇を動かした。

 

「……雅史……緑子……七海、今まであり…がと…う」

 

「…綾音、ありがとうって…悲しい事を言わないでくれ!」

 

「ありがとうって、私達はこれからも親友でしょ!」

 

「綾音、それじゃあ、最後の別れみたいじゃん、わたしは、綾音ともっと話したいよ!」

 

「ふふっ、3人…共…ありがとう。八幡を…頼むは…ね…。…彼は…不器用…だから…」

 

「…八幡のことは…」

 

「…私達が」

 

「…見るから安心して」

 

「…うん、…頼んだ…から…ね。お父さ…ん、お母さ…ん…先立つこと…を許して…下さい……親不幸の…娘…で…ごめん…なさい。綾香、ごめんね、こんなお姉ちゃんで…」

 

その言葉を聞いた綾音の両親と綾香は、嗚咽をならした。そして綾音が最期の力を振り絞り

 

「……ハァ…ハァ…は、八幡…」

 

「綾音、なんだ?」

 

「ハァ…ハァ…は、八幡…こん…な…私を…好きなって…くれて…ありがとう…」

 

「なに言ってるんだ。俺の方こそ、こんな俺を好きって言ってくれた…ことがどんだけ嬉しかったか…」

 

「…ハァ…ハァ…ハァ…は、八幡……どこ?」

 

八幡は、綾音の手をぎゅっと握る。

 

「俺は綾音の側から離れない。ここにいるから、だから……」

 

八幡は今にも泣きそうになるが、ぐぅっと堪えている。だが言葉が出てこない。

 

「……八幡……こんな私を好きに…なってくれて…愛してくれて…妻にしてくれ…てありがとう……」

 

人工呼吸器の心臓の鼓動が止まったことを意味をする音が鳴り響いた。

 

八幡は、人目を気にすることなく、大声で泣いた。雅史も、声を殺して泣き、緑子と七海は、互いに支え合って泣いた。両親も綾香も涙を流して泣いたのだった。余命半年と言われたのが、ここまで生きられたのだから。

 

雪柳綾音…12月28日・22:46分・ご臨終。享年15

 

12月29日ーお通夜

 

12月30日ーお葬式

 

八幡達には、暗くて寒い年の瀬になってしまったのである。




神父の言葉は略しました。長いバージョンもありますけどね。



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プロローグー寒い年の瀬。

プロローグー4話です。


 

それから八幡は、一生分の涙を流したんじゃないかぐらい泣いた。

 

綾音の両親は、お通夜、お葬式の準備のことで葬儀社と話し合いに入る。

 

部外者の八幡達は一旦帰路につく。

 

八幡は、雅史と緑子に支えられながら自宅に連れて帰らせた。

 

29日のお通夜は、夕方からあることが、昼間、雪柳家から比企谷家に連絡があった。

 

「八幡、綾音ちゃんのお母さんから今日の18:00からお通夜があるって連絡が来たわ」

 

「うん、わかった」

 

「八幡、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。妻の綾音を最期まで見届けるのが夫としての役目だろ」

 

「八幡、貴方…」

 

八幡は母親の前で、気丈に振る舞っているようにしているが、母親はそれがわかっているから、彼の頭を撫でた。

 

「やる気のなかった貴方が、ここまでやれたのは、綾音ちゃんのおかげかね」

 

「……」

 

「ほらっ、しゃっきとしなさい。綾音ちゃんが悲しむでしょ!夫なら元気に送るんでしょうが」

 

母親にカツを入れられた八幡は、夕方のお通夜に行くために準備をすることに。

 

 

直ぐに雅史、緑子、七海と会い綾音のお通夜が開かれる斎場に向かう。

 

斎場に来た八幡は、雪柳家の取り決められた場所に行く。

 

そこには、綾音の写真がいっぱい飾られていた。八幡にとっての思い入れの写真が沢山張られれていた。

 

八幡は、目尻が熱くなるのをわかった。写真の中には、24日にみんなでやった模擬結婚式のもあった。

 

そこに写る綾音は、幸せそうな表情をしている。

 

八幡達は棺のまで来て、中で眠る綾音を見た。死に化粧で綺麗になった彼女を見て

 

「八幡、綾音、幸せいっぱいな表情だな」

 

「綾音、八幡に出逢えて幸せいっぱいだって言ってたからね」

 

「そうだね、正直羨ましかったよ~」

 

「ああ、俺も綾音と出逢えて、良かったし…嬉しかった…」

 

八幡は、棺の中で眠る綾音に微笑んだ。

 

 

お通夜は、しめやかに行われた。ずっとすすり泣きする声や嗚咽を漏らす音も響いた。

 

そんなお通夜の間、小雪が舞っていた。

 

 

翌日のお葬式もお通夜以上に人々がやって来ている。綾音の部活の先輩、後輩、他クラスの友達がやって来ている。小学校の時の担任も来ていて、綾音の両親と話している。

 

雅史も小学校以来の友達と話している。七海もクラスメイト達と話している。

 

八幡は、式場の椅子に座り元気なくどこかを見ていた。すると背中をバシッと叩かれた。

 

「八幡、元気のない背中だよ!」

 

「緑子か…俺は元気なくて結構」

 

「八幡、目の下にクマができてるよ…」

 

「わかってるよ、小町や雅史に言われたからな」

 

八幡は、頬っぺたを指でかいた。

 

「緑子、お前はあいつらと話さなくても良いのか?」

 

「話したよ。一段落話したから、八幡と話してるんだよ」

 

「そうか。ただ俺なんかと話しても面白くないぞ」

 

緑子は、八幡の唇に人差し指を伸ばした。

 

「それ、八幡の悪いとこだよ!直ぐに自分を卑下するんだから」

 

「……」

 

緑子は、八幡の唇から人差し指を話すと

 

「あのね、八幡は…こんなときに聞くのは不謹慎だけど、八幡は…新しい彼女作ったりする?」

 

「彼女は、綾音だけだ。もう作るつもりもない。綾音だけを思ってこれから先も生きていく」

 

「そ、そうなんだね…」

 

緑子は悲しそうな表情を浮かべたが、八幡はそれを気にできるほど余裕がない。緑子は、八幡の事が好きなのだ。

 

八幡は覚えてはいないが、緑子が不良男子達に絡まれていた時に、誰も助けてくれなかったけど、八幡は不器用なりに助けに入ったのだ。

 

それから八幡に好意を寄せたが、親友である綾音も彼を好きだと知って、思いを封じていた。綾音も八幡も互いに好き同士だと知ってからは、さらに封じ込めのだ。ただいつの間にか思い詰めた表情をしていたようで

 

「どうした、緑子?体調でも悪いのか?」

 

「ううん、大丈夫だよ…」

 

「そうか?」

 

しばらく八幡と緑子は、しゃべっていた。

 

そしてお葬式が始まった。八幡はずっと俯いていた。顔をあげることはできないのだ。顔をあげると涙が零れそうになってるから。緑子と話してる時には、悲しさを紛らわせたが、綾音の写真や映像が流れてくるから、自然と涙がが出る。八幡はハンカチを取り出して涙を拭う。

 

式場での言葉なんか覚えていない。ただひたすら綾音のことしか考えてなかったからだ。

 

式が終わり、火葬場への移動中も雅史に支えながら火葬場へ向かう。

 

火葬場で最期の言葉をかけてくださいと、関係者から言われた。綾音の両親が、声をかけている。2分3分と話しかけた後、両親が八幡に声を掛けさせてもらった。

 

八幡は最期の言葉を綾音にかけた。

 

「綾音、こんな俺を好きなってくれて、本当にありがとう。俺は綾音を好きになれて嬉しかった…。いずれ俺もそっちへ行くから、待っててくれ…」

 

八幡は、まわりに聞こえないように小声で

 

【「俺はもう誰も好きにならない。彼女は綾音だけだ、妻は綾音だけだ…」】

 

八幡が話しかけ終えると、出棺の時が来る。

 

そして出棺されていく。それを見届ける八幡達。

 

そして火葬が終わり、綾音の遺骨を集めて骨壺に入れていく。八幡は両親の計らいで、一番綾音の遺骨を入れてもらえた。彼は遠慮したが、彼らは八幡の事も息子のように思っているからだ。

 

綾音の指輪と髪飾りは棺に入れた。本物は入れられないから、玩具の指輪と髪飾りを入れた。(八幡が小学生の頃に綾音に祭りの屋台で買ってあげた指輪と髪飾り)

 

綾音は宝物だと言っていたから、入れてあげたのだ。

 

綾音の遺骨を拾い終えた八幡達は、学校関係者やクラスメイト達はここで解散となる。

 

八幡、雅史、緑子、七海は、綾音の両親と共に檀家であるお寺へ向かう。

 

この日はそれで終わりを迎えた。

 



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プロローグー季節は流れ、八幡達は高校生になる。

プロローグー5話です。


ーー

 

綾音のお葬式が終わり、大晦日、正月とイベントが来るが、八幡には関係がなかった。正月の初詣は、雅史と緑子と七海が誘いに来たから、八幡は渋々と出かけた。

 

綾音の家の前を通ると自然と涙が出てくる。今までなら、綾音が2階の窓から八幡を呼び止めていた。ふとその窓を見る。そこには、もう綾音の姿は無い。

 

綾音ももうこの世にいないのだ。

 

八幡も気持ちではわかってはいる。しかし心が綾音を求めている。

 

心にぽっかりと開いた穴…。八幡は虚無感に襲われていた。何かしようとしても、力が入らないのだ。

 

家族で正月のお祝いをしているのに全然嬉しくないのだ。親からお年玉をもらっても嬉しくないのだ。気持ちが向上しないのだ。

 

だから小町は、幼なじみの雅史に連絡したのだ。

 

【このままだとお兄ちゃんが壊れちゃうと】

 

そんな願いを聞いた雅史は、緑子と七海を呼び八幡を初詣に連れ出した。

 

八幡は、雅史や緑子、七海に感謝をしている。こんな自分の事を面倒見てくれてありがとう、と。すると雅史は

 

「親友だから当たり前だろ。八幡は俺の大事な最初の親友だ。その親友が悲しんでいるんだから、それが支えるのが親友ってものだろ?」

 

「雅史……な、泣かせるようなこというなよ」

 

「俺は当たり前の事を言っただけだ」

 

「男同士の友情っていいなぁ、ねえ七海?」

 

「そうだよねぇ…」

 

こんな感じで、初詣のイベントをこなしていった。

 

冬休みが終わると八幡達は、高校受験のためだけに学校のために学校に来るだけだ。

 

雅史、緑子、七海は、3人共に海浜総合高校に受験をすることを決めている。総武中学からは、大体が海浜総合高校へ進学する。

 

八幡も海浜総合高校を受験すると思われたが、担任の中村先生に呼ばれた。中村先生は、生徒にフレンドリーで気さくに相談にのってくれる。

 

「先生、俺は海浜総合高校には行きません」

 

「は、八幡、それは本当か!?」

 

「はい、綾音が亡くなってからずっと考えてました。綾音と共に海浜総合高校へ行く事を決めてましたが、彼女のいない海浜総合高校は…辛いです」

 

「八幡、…お前は、学年1位で海浜総合高校からもお前は来ると思われているんだぞ?」

 

「学年1位…それは学年1位だった綾音がいなくなって取った成績です。俺は万年2位の男ですよ」

 

「はぁ~なんでお前は、そうやって自分を卑下する?」

 

「俺は、そんなに凄いわけじゃないですよ。凄いのは雅史みたいなヤツを言うんです」

 

「自信を持て、八幡!お前は自分に対する自信が無い!ちゃんと胸を張れ!」

 

「自信って…俺には自信なんか…」

 

「お前は、学校一の美少女だった雪柳綾音の彼氏だったろ?その時誰か反対するヤツがいたか?」

 

「………!!」

 

綾音からのサプライズ告白(歌に載せた告白)を受けて八幡が承諾した時、体育館にいた人間は、皆が拍手し祝福したのだ。総武中学での八幡の評価は高いものだったのだった。

 

「わかったか、八幡…」

 

「反対する人間はいませんでした」

 

「で、海浜総合高校に行かずにどこに行く?今からでは選ぶほど無いぞ?」

 

「総武高校で良いです」

 

「総武高校!?お前の成績なら余裕があると思うが、本当に総武に行くのか?」

 

「ええ、構いません」

 

中村先生は、まだ何か言いたそうだったが、最後には八幡の背中を押してくれたのだ。中村先生にもわかったのだ、八幡が必死に綾音の死を乗り越えようとしていることを。

 

それは、雅史達、八幡の両親にも伝わり、みんな承諾したのだった。

 

 

その後、雅史、緑子、七海は海浜総合高校へ合格し八幡は総武高校合格をもらった。

 

卒業式もつづかなく行われ、それぞれの旅立ちが始まろうとしている。

 

 

 

八幡は雅史達と写真を撮っている。八幡はクラスメイトに引っ張りだこになり、写真を撮っている。

 

それだけではなく、後輩女子達から告白を受けることに。最初は、雅史にするんだろうと、八幡は思っていたが、自分だと分かり驚いている。

 

だが告白は全て断った。八幡は、綾音以外に彼女にするつもりはない。そう誓っているから。

 

緑子は、八幡のそんな様子を見て、彼への思いをそっと心の隅にしまった。

 

雅史も告白されたが、断っている。理由は、八幡が彼女を作らないから、自分も作られないって言っているようだ。

 

そうして、総武中学を卒業した。

 

 

そして八幡は、春休みの間、綾音と歩いた道々を歩いていた。中3の春休みは、綾音と2人で桜並木道を歩いたことを思い出していた。

 

「…あれから1年も経つんだな。早いものだよ、なあ綾音?」

 

問いが返ってくる分けでもないが、八幡は独り言を言っていた。

 

「俺は海浜総合高校じゃなく、総武高校で何とか頑張っていくから…俺を見守ってくれよ…綾音…」

 

八幡は、桜並木道を歩くカップルを見て、自分みたいになるなよ、と思った。

 

散歩をしている時、黒髪の巨乳の女性とすれ違う。

 

「この辺りであんな巨乳女子…見なかったが、引っ越してきたのか?まあいいか…俺には関係ないしな」

 

そんな事を言いながら散歩したのだった。

 

 

春休み中、昼間は外を散歩し、夜に勉強をやって過ごしたのだった。後は、雅史、緑子、七海とは、グループチャットで会話をしていたぐらいか。

 

そして総武高校への入学式の日を迎え、八幡は綾音の家の方を見る。ポケットから綾音の遺骨が入ったビンを取り出す。

 

このビンに入った綾音の遺骨は、彼女の両親が八幡にあげたものだ。

 

これは、2月の法事の際に八幡は彼女の両親からもらった。もらった直後は、大切に閉まっていたのだが、今はポケットに入れている。

 

「さて、俺は入学式に行くぞ。綾音、ちゃんと見守ってくれよな」

 

八幡がそう言うと、鳥が鳴いた。八幡は綾音が返事したように聞こえた。

 

八幡は、いつもよりも早く、自転車で登校する。総武中学に行ってる時間よりも早く出た。

 

登校している最中に、犬を散歩させていた女の子から犬のリードが離れていた。そして運悪く向こうからリムジンが走って来る。

 

「ちっ、このままではまずい!あの犬はリムジンにひかれる!ならば!」

 

八幡は、自転車から降り、犬の方へ走る。何も考えずに己の身体が勝手に動いた。

 

そして八幡とリムジンがぶつかる。八幡の総武高校のデビューはお預けになった。

 




アンチ奉仕部に進むか、原作通りに進んでいくかのアンケートは、今週中まで。後はヒロインを決めたいかな。


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第1章ー出会い編
第1章ー第1話ー高校2年生の始まり、これから運命は動き出す。


プロローグが終わり、ここから本編が始まりです。


ーー

 

八幡の意識が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。しかもすでに夕方になっていた。八幡は、自分の目で確認し、右足を骨折していることがわかる。

 

「…俺は…確かあの犬を助けて…そのまま…病院に…あ…入学式…」

 

八幡は今まで経験をしたことがない事を経験をしてしまった。

 

入学式を出席しないという事を。例え今まであったとしても、雅史や綾音経由で情報を得ることが出来るが、今はそれがない。何せ総武高校に来た総武中の人間はいないのだから。ふと自分用に当てられた棚には、母親、雅史達がお見舞いに来ていたようだ。着替え等、果物が置かれている。

 

「入学式早々、みんには心配させてしまったな…」

 

棚に携帯が置かれている。もちろん八幡のものだ。彼は、携帯を取り雅史達に連絡をするため、グループチャットに書き込む。

 

【雅史、緑子、七海、すまない。入学式早々事故った】

 

【八幡、大丈夫か? 右足の骨折だけだと聞いたが、他に痛いところは無いか?】

 

【他にはねーよ】

 

【犬を守るために、身を呈したって聞いたよ、そういうところ八幡らしくて良いけど、無茶ばかりしないで】

 

【八幡、緑子、泣かせちゃダメだよ。八幡が事故にあって怪我したって聞いた時、ショックのあまり、倒れそうになったんだからね】

 

【そうなのか、緑子?】

 

【う、うん…】

 

【緑子、心配かけてすまなかった】

 

【八幡、本当に総武で良かったのか?海浜なら、俺達でフォロー出来たのに】

 

雅史がそんな事を言ってきた。右足の骨折だから、手を骨折するよりも入院も苦労することも増える。その事を心配して言ってくれた言葉なんだろう。でも八幡は

 

【雅史、ありがとうよ。俺のことより自分達の高校生生活を楽しめばいい】

 

【俺達は、お前が笑っていられるような環境になれば、自分達も青春するさ】

 

【雅史、お前サッカー部に入るんだろ?頑張れよ!俺も陰ながら応援するから】

 

【サッカーは頑張るよ。八幡も総武で青春を謳歌しろよ、中学の分まで】

 

【雅史、わかったよ。緑子も七海も中学と同じ部活に入るのか?】

 

【そうよ、私は水泳部】

 

【私は、テニス部に入るよ】

 

【中学の時と同じか】

 

【そういう八幡は何か入るの?】

 

【まだわからない。俺…まだ学校すら行ってないから…】

 

【八幡は、まず骨折を治すこと。それからだな】

 

【雅史君の言うとおり、骨折を治してね】

 

【完治したら、また遊ぼうね、八幡!】

 

【ああ!】

 

そんな感じに入院初日は終わっていく。入学式早々に事故に合うなんて、普通は合わないだろう。

 

入院2日目には、1ーA組 担任の末広 温子がやってきた。短髪ボブヘアスタイルで格好は派手ではない服装である。八幡の人となりは、総武中の担任である中村から聞いたようだ。

 

そしてあることを言われたのだ。

 

【比企谷君、死に急ぐようなことはしてはダメです。自分を軽んじて、人助けとかおこがましいだけです。そんなことしても誰も嬉しくない、むしろ亡くなった恋人さんが悲しみます】

 

八幡の心に担任の末広の言葉は刺さった。中学の担任である中村からも言われてだが、末広の言葉はぐぅって刺さる何かがあるのだ。

 

【わかってます…海浜に言った友人達もそう言われてますから】

 

【比企谷君、何かあればすぐに相談に乗るからね】

 

そう言って担任の末広は帰っていった。それから、担任の末広は学校の資料やクラスの事がかかれたプリントを持って来てくれた。

 

3週間の入院生活にピリオドを打ち、松葉づえで総武高校初登校した。しかし八幡のクラスの1ーAは、彼の方を一瞬見たが、すぐに自分達のグループの人間と話していた。

 

八幡はすぐに自分の机を探す。担任の末広から聞いていた席に座る。

 

クラスの視線は、八幡の方を見ている。

 

あんなヤツいたっけ?とか。

 

入学式早々に事故にあったマヌケとか。

 

女子にいたっては、キモイとか、目が腐ってるとか言われている。八幡は心の中で

 

【これでいい。俺は地味で目立たなく平和に暮らせるならそれでいいか。俺にキャーキャー言っていた総武中学がおかしかったんだ】

 

総武中学時代、八幡がモテていたなんて、このクラスの人間は思わないだろう。誰か知ってる人間がいたとしても、誰もが信じないだろう。

 

 

こんな感じで、八幡の高校1年はただ地味で目立たないボッチで過ごして行った。それでも、雅史達とは、グループチャットや直接会ったりしていたが。でも雅史達には、本当のことは言っていない。本当の事を言えば、雅史達が心配してしまうからだ。雅史達には、ちゃんと青春を謳歌してほしいと願っているから。

 

 

再び季節は春へとなり、八幡達は高校2年に進級し2ーF組とクラス替えになり、末広先生は、海浜総合高校へ転勤となった。末広先生は誰からも人気が高かったから。だから海浜総合高校から引き抜かれたんだろう。

 

2年生になってもボッチ生活は変わらない。八幡に近づいてくる人間はいなかった。彼もそれを甘んじて受け入れたからだ。

 

心から許せる人間ならいいが、うわべだけの関係なんか煩わしいだけだろう。

 

そんな中、国語の教科担任の平塚静が高校生活を振り返ってという作文を書けと言って来たのだ。

 

八幡はまためんどくさい事を言う教科担任だと思った。

 

高校生活を振りかえる?

 

振り替えれるようなイベントなんか起こしていない。クラスの人間達は、グループに分かれて書き始めている。

 

何を書こうか迷ってある時、クラスの女子に

 

「ちょっとどいて、邪魔」

 

八幡は自分の席で考えていただけなのにどけと言われた。邪魔にならないように、八幡は、クラスの窓際の端に机をづらした。

 

「はぁ~何を書けばいいんだよ…」

 

雅史達に話せば、手伝ってくれるだろう。それでは、雅史達に迷惑だし、なんせ彼らの青春の時代を潰させるわけにはいかない。

 

八幡は、自分の高校生活の始まりは、とある事故から始まった。そんなことを書きはじめてたのだった。

 



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第1章ー第2話ー平塚先生に呼び出される。

第1章ー2話です。


ーー

 

八幡は、自分の高校デビューはとある事故から始まったと書き始めた。

 

入学式当日、前には言っていなかったが、実は総武高校の入学式に行く前に、綾音の墓参りをやってから行っている。

 

そしてあの事故に遭遇しているのだ。自分は無事ではなかったが、あの助けた犬は、無傷だったようだから、それだけは良かったと思っている。

 

しかし後が続かない。頭に何も思い付かない。退院後は、学校生活はボッチの生活を送りましたとか、書くのかと自問自答を繰り返して作文を書いた。中学時代のなら書けるのになと考えていた。

 

しかしその日の昼休み早々に平塚先生から呼び出しをくらう。

 

【2ーF組 比企谷八幡、至急職員室へ来るように】

 

「呼び出しか、大方あの作文の事だよな」

 

八幡が席を立つと、クスクスと女子の笑い声と悪口が聞こえてくる。

 

「あいつ、なに呼び出されてるんだろうね」

 

「なんかしたんじゃないの?」

 

「犯罪とか?」

 

「キャーそんなの嫌よね」

 

八幡はため息を吐きながら教室を出る。職員室へ歩きながら自分自身で。

 

【キモイとか、目障りとかならまだしも、犯罪者呼ばわりされる日が来るとはな】

 

女子のネットワークは、凄いものである。他のクラスだというのに八幡の事を白い目で見てくるし文句を言ってくる。

 

そそくさと職員室へ向かう。

 

 

八幡が、職員室の扉を開けると、平塚先生が手を振る。

 

「比企谷、こっちだ」

 

八幡は、平塚先生の机の真正面へやって来た。先生の机の上には、自分の書いた作文があった。

 

「比企谷、私が呼び出した理由はわかるな?」

 

「その作文に不備があったと?」

 

「私が授業で出した課題は何だったかな?」

 

「高校生活を振り返ってというテーマでしたが」

 

「そうだな、それなら何故君は、高校生活の初めの入学式の登校時しかないんだ?何故、それから白紙なんだ?」

 

「はぁ~、俺…そんな立派な高校生活を送ってないので、原稿用紙何枚も書けませんよ」

 

はぁ~と平塚先生はため息を吐きながら、八幡を紙束で頭を叩かれる。そして平塚先生が真面目な表情で八幡に聞く。

 

「1つ聞く。比企谷、お前はそんな感じであと2年も過ごすのか?」

 

「そうですね、地味で目立たなくしていれば、いいかなって」

 

「灰色の人生でも送るつもりなのか?」

 

「それで、構いませんよ」

 

八幡は、綾音が生きていて海浜総合高校だったら薔薇色の青春生活を夢見ただろう。でも綾音もいないし、海浜総合高校でもなんでもない総武高校である。平塚先生は、今度はこんなことも聞いてきた。

 

「はぁ~全く君と言うヤツは…で、友達とかいないのか?」

 

「友達はいませんね。入学式から3週間の入院生活がブランクとなり、今まで尾を引いてるんですけどね」

 

「ブランクね…それと部活はやってなかったよな?」

 

「友達もいないのに部活とかやるわけがないでしょう」

 

「そうか!友達はいないか!私の見立て通りだな。君の腐った目を見ればそれくらいすぐにわかったぞ!」

 

八幡は総武高校にはいないのであって、海浜総合高校には親友がいるんだよ、と思っているが、言うつもりもない。

 

八幡はここに雅史や緑子や七海がいなくて良かったと思っている。彼らは八幡の容姿に対して文句を言う人間を許さない。平塚先生は、1人でにうんうんと納得顔で八幡の顔を遠目で遠慮がちに見ている。去年の担任の末広先生とは真逆の位置にいる教師だと八幡は納得した。

 

「彼女とか、いるのか?」

 

「今は…()()いませんよ」

 

八幡はポケットの中の綾音の遺骨の入った小びんを握る。

 

「そうか、いないか!」

 

平塚先生は、八幡に対して憐れんだ目で見ている。八幡はそんな目を見て、何だか気持ちが悪く感じた。

 

平塚先生は、ため息混じりに煙草を吸いながら

 

「よし、こうしよう、レポートは書き直せ」

 

「本当に?」

 

「当たり前だ」

 

結局八幡は、平塚先生により作文の書き直しを言い渡された。

 

八幡は今度は何を書こうか迷っているときに平塚先生がこういってくる。

 

「君には奉仕活動を命ずる。君に拒否権はない」

 

「はぁ~!?」

 

八幡のこのはぁ~!?は、本当に心の中からの声だった。八幡も平塚先生に問う。

 

「奉仕活動?一体なんの?」

 

平塚先生は、時計を見て

 

「放課後にもう一度私のところに来い。良いな、比企谷?」

 

八幡に鋭い視線で見ながら言った平塚先生。その目は逃げたらわかってるよな、的な感じで見ていたのだ。

 

「……わかりました、そんな目で見ないでください。放課後、絶対に来ます」

 

「ああ、必ずくるように」

 

話はここで一旦終わりを迎えた。平塚先生に礼をしてから、職員室を後にした。終わってから家へ直行が出来なくなってしまった。

 



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第1章ー第3話ー緑子とクラス委員長。

第1章ー3話です。


ーー

 

職員室からクラスへ戻る時にスマホのバイブがなったので、人気のないところに来てから確かめる。グループチャットからだ。

 

「うん?雅史からか。何だろ?」

 

【八幡、八幡が大好きだった、ラノベが発売されてたから買っておいたよ】

 

【お!忘れた。サンキュー雅史。って今日は昼間に帰れるのか?】

 

【ああ、海浜はね。総武は?】

 

【ちゃんと午後の授業もあるんだわ】

 

【そうか、購入したラノベは、おばさんに渡しとくよ】

 

【ああ、そうしてくれ。代金は後で渡すからな】

 

【ああ、それじゃあな、八幡】

 

【こっちこそ、ありがとな】

 

雅史とのやり取りを終了した八幡は、スマホをポケットにしまおうとしたら、緑子達から連絡がくる。

 

【やっほー、八幡…元気してた?】

 

【緑子、テンション高いな?】

 

【八幡、緑子がテンション高いのは、水泳部の副部長に就任したからだよね】

 

【緑子が!って言っても順当って気もするが】

 

緑子は中学時代は水泳部の部長も務めている。だから順当だと八幡も言ったのだ。

 

【水泳を頑張れるのも、八幡のおかげだから。八幡のあの言葉が、私を奮い立たせてくれたから。あの言葉がなかったら今の私はないと思う】

 

【バカ言え。それはお前の実力だ。俺のおかげではない】

 

【ううん、八幡のおかげだよ】

 

【まあ…緑子がそこまで言うなら…】

 

緑子に対しての言葉。まだ綾音と付き合う前に、不良から助けただけではなく、緑子のプライベートの問題を片付けたことがあるのだ。綾音からも頼まれたから、緑子の問題を解決するために走り回った経験がある。

 

その時に、そっと緑子の背中を押す言葉を言った。

 

【緑子、無理をする必要はないぞ。泣きたい時は泣いても良いんだ。お前、ずっと我慢してるだろ?胸なら貸すぜ。まあこんなこと、雅史みたいなヤツに言われたいだろうけど、ごめんな】

 

【ううん、ありがとう、八幡!】

 

緑子は、八幡の胸の中で大声で泣きじゃくった。八幡は緑子の頭を撫でたのだった。

 

【緑子、お前の側には俺がいる。だから前だけを向いて走れ】

 

緑子は、この言葉で己を奮い立たせている。

 

親友の綾音のために諦めた恋。

 

自分の心の中に封じた思い。

 

八幡と離れて気付かされる彼の大きさ。

 

まだ八幡の隣の並び立つ資格がないと臆病になっている自分。

 

そんなことを考えていたら八幡が

 

【緑子、さっきから黙りこんだままだが、大丈夫か?】

 

【大丈夫だよ!八幡、私頑張るから!】

 

【お、おう】

 

【それじゃあね、八幡。私も頑張るからね】

 

【おう…】

 

そう言ってグループチャットを終えた。八幡はスマホの時間を見る。

 

「昼飯食う時間…あるかね…」

 

八幡はそう言うと教室へ戻ることにした。

 

クラスに戻ったらさっさと昼ごはんを食べることにした。クラスの人間達は、なんでアイツ今頃弁当食べてるんだ、みたいな視線を醸し出している。

 

八幡はそんな視線を無視しながら昼ごはんの弁当を食べた。

 

午後の授業も乗り越えた。後は帰るだけとはならないのが今日である。

 

昼休みに平塚先生から放課後に来いと言われている以上は、行かないといけないだろう。八幡はため息を吐いた。

 

HRも終わり、重い腰を上げ再び職員室へ行くために教室出る。職員室へ歩き出した直後誰かかに空き教室へ連れ込まれた。

 

八幡はついに自分はボコられるのかと覚悟を決めた。しかしそんなことは無かった。そこにいたのは、同じクラスの学級委員長である吹寄制理である。黒髪ロングで巨乳で人望がある。今は胸の下で腕を組んでいる。総武高校の美少女の1人と言われていてスクールカースト最上位である。そんな吹寄が八幡を空き教室に連れ込んだのは、理由がある。

 

「ふ、吹寄さん?何かご用ですか?…あ、平塚先生から俺が逃げないように命じられて?」

 

「平塚先生に、貴方を逃げないように命じられて?何、わけのわからない事を言ってるのかしら?」

 

吹寄は、キリッとした目で八幡を睨む。

 

「…ち、違うのか?じゃあ何故、俺をこんな空き教室に?」

 

「貴方に訊きたいことがあるからよ」

 

「訊きたいこと?そんなの教室で訊けばいいだろ?」

 

「教室では訊きにくいことだからよ」

 

吹寄はそう言ってため息を吐く。そして八幡を見据えて

 

「貴方、総武中出身よね?」

 

「出身中学は総武中だが、それがどうかしたのか?」

 

「海浜に行った親友達や後輩達が、総武中の色男が総武高校にいるってね?比企谷、その人を知らない?」

 

「し、知らないな…俺、ボッチの1人だぞ。そんな色男なんか知らないな」

 

八幡は、総武高校で手に入れた平穏を失いたくない。吹寄は総武中だったのか?

 

いや違う。同級生や後輩と言っているから、本人ではないだろう。

 

同級生なら、雅史達の話からわかってくるかもしれない。

 

後輩達も八幡に告白した女子達がいる。その辺りから話がもれるのかも知れない。ここは逃げて平塚先生のところまで、行くしかないと八幡は決める。

 

「俺、そんなリア充に知り合いはいない…。吹寄、平塚先生に呼ばれてるし、行くな」

 

八幡はそそくさと空き教室から出ていく。

 

吹寄は八幡が去って行った後、スマホを取り出し画像を映し出す。そこには海浜総合高校の去年の文化祭の有志によるバンドに飛び入り参加して、緑子とデュエットして歌う八幡の姿があった。

 

「彼があの色男で間違いないわね。しかし海浜総合高校と総武高校で、彼の評価が天と地の差…総武高校では偽りの仮面を付けている?それとも最愛の恋人を失ったから?」

 

吹寄はスマホをしまい、ため息を吐きながら

 

「まあ、同じクラスだし、そのうちわかっていくかもしれないわね」

 

吹寄はそんなことを言ってから空き教室から出ていく。

 




とある魔術の禁書目録より吹寄を出してみました。


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第1章ー第4話ー奉仕部。

第1章ー4話です。


ーー

 

吹寄から逃げるように出てきた八幡は、正直焦っていた。

 

「吹寄のヤツ、海浜に知り合いがいるのかよ…まさか去年の海浜の文化祭の画像を持ってるとはな…」

 

あのクラス委員長である吹寄が、クラス中に言いふらす可能性があるのだが、八幡はそれはないと思った。

 

あの吹寄をしばらく見ていて、人の嫌がることはしない。だが間違っていることには、ちゃんと指摘するタイプだ。そういう彼女だから八幡の事を言うとは考えにくいと思った。吹寄が八幡の容姿をどうのこうのとは、言っているところは聞いたことがない。彼女が見えないところで言っている可能性もあるのだが。

 

窓から見える空は、すでに夕日が西の方に沈み始めている。グラウンドからは、サッカー部の練習している掛声が聞こえてくる。

 

「サッカーか……。綾音がああなる前まで、雅史とやってたな」

 

八幡は、中2の夏にサッカー部を辞めている。サッカー部の部長も副部長も他のメンバー達も、八幡の人の良さを理解していて、彼女の元に行けと背中を押したのだ。

 

八幡も申し訳ないと思っていた。なんせ夏の大会の前だったからだ。

 

「……今さらサッカーなんかやってもな……」

 

サッカー部の練習風景を尻目に職員室へ急ぐ。

 

 

職員室に到着し、扉を開けて中に入る。するとすぐに平塚先生がやって来て

 

「ぼさっとするな、比企谷、私についてくるんだ」

 

「ついて行くって…どこに行くんですか?」

 

「ついてくればわかる」

 

一体、どこに連れて行くつもりなのか。全く見当がつかない八幡。

 

どうやら特別棟の方に連れていかれてるのは、周りの景色でわかることだ。

 

この辺りにカップルがたむろしていることは、1年の時から把握済みである。

 

1年時に教室にいても退屈だったため、学校中の校舎を探検していたのだ。

 

そんなことを考えていると特別棟の空き教室のような場所に連れてこられた。

 

「ついたぞ」

 

「ついたって、ここ空き教室じゃないですか?何の冗談でしょうか?」

 

平塚先生は、八幡の問いには答えず教室の扉をあける。

 

その教室の端っこには、机と椅子が無造作に積み上げられている。倉庫としても使われているのだろう。他の教室と違うのは、そこまで何も特殊な内装は何もない。普通の教室とたいして変わらない教室。

 

だがそこが異様な感じに見えるのは、1人の女子生徒が、夕陽の光を浴びながら本を読んでいるからである。その姿が神秘的にも見えた。

 

それが八幡の目には、錯覚を起こす。最愛の恋人、綾音の姿に見えたのだ。

 

「…綾音?」

 

小さな声で言った。平塚先生は何か言ったか、と言ったが八幡は答えなかった。

 

 

彼女の方が来訪者に気づいたのか、本に栞を挟み顔を上げた。

 

「平塚先生、入るときはノックを、とお願いしていたはずですが」

 

端正な顔立ち。流れる黒髪。八幡のクラスのほとんどの女子が霞むぐらいの美少女である。

 

 

正気に戻った八幡は、綾音がいるわけがないと気を強く持った。正面にいる女子生徒は、綾音とは違うとすぐにわかった。雰囲気、オーラなどが全く違う。

 

それに綾音は、八幡に対していつも優しい眼差しで見ていたのだから。

 

だが目の前の女子生徒が八幡に向ける眼差しは、氷のような瞳。優しさとは真逆である。彼女の名前は、雪ノ下雪乃。八幡と同じ2年生でクラスは、2ーJ組。学年トップ争い上位者、八幡と何度も定期、実力テストでやりあっている。初めて八幡は、雪ノ下雪乃を見る。あれがいつも自分と争うライバルなのかと。

 

「ノックしても君は返事をした試しがないじゃないか」

 

「返事する間もなく、先生が入って来るんですよ」

 

平塚先生の言葉に、雪乃は不満げな視線を送る。

 

「それで、その目の腐った人は何ですか?」

 

「入部希望者の比企谷八幡だ」

 

「2ーF組、比企谷八幡です」

 

八幡は、軽く会釈をする。そして入部って何ってなる。平塚先生が八幡の疑問に答え始める。

 

「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口応えは認めない。しばらく頭を冷やせ。反省をしろ」

 

平塚先生は、八幡に全ての反する行動を封じる。彼は無茶苦茶な教師だと思いながら、黙って聞く。

 

「というわけで、見ればわかると思うが、彼は中々根性が腐っている。そのせいでいつも孤独な憐れむべき奴だ」

 

八幡は、あんたに根性が腐ってるとか、言われたくないと。孤独は好きで孤独になってるのだから口を出さないで欲しいと考えている。

 

「人との付き合い方を学ばせてやれば少しはまともになるだろう。こいつをおいてやってくれるか。彼のひねくれた孤独体質の更正が私の依頼だ」

 

平塚先生が雪乃に向き合って言うと、彼女が物騒な物言いで言った。

 

「それなら、平塚先生が殴るなり蹴るなりして躾ればいいと思います」

 

八幡は、ぎょっとする。雪乃は暴力容認派なのかと。平塚先生もため息を吐きながら

 

「私だってできることならそうしたいが、最近は小うるさくてな。肉体への暴力は許されていないんだ」

 

八幡は更に平塚先生の言葉にぎょっとして後ろに後ずさる感じになった。肉体の暴力はやらないが、精神にへの攻撃は許されてるみたいに言ってることに。

 

「お断りします。その男の下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じます」

 

雪乃は、別に乱れていない襟元を掻き合わせるようにして、八幡を睨み付ける。

 

八幡は、ため息を吐く。そして

 

「誰が、お前の胸なんか見るかよ。自意識過剰か?」

 

雪乃は、八幡にそう言われ更に睨み付ける。八幡も睨み返す。

 

なんせ、言われのない事を言われて正直に腹が立っているのもあるが。

 

「比企谷、君には異論反論抗議質問口応えは許さないと言ったが?」

 

「くっ…脅迫ですか?」

 

「脅迫ではない。君の事を思っての事だ。従ってくれ」

 

「…まぁ、先生からの依頼であれば無碍にはできませんし……。承りました」

 

雪乃はほっとうに鬱陶しそうに嫌そうに言うと平塚先生は満足そうに微笑む。

 

「そうか。なら、後のことは頼む」

 

それだけ平塚先生は、言うとそのまま帰って行く。ぽつんと残される八幡。

 

綾音が入院していた時に同じ状況になった事は多々ある。

 

彼女の寝顔を見るだけでも心は安らげた。そんな時間は、あっという間に過ぎて行った。

 

だが今の状況は、ただ重苦しいだけだ。時計の秒針の音だけが、教室に鳴り響く。ずっと立っていた八幡に対して

 

「そんなところに立ってないで座ったら?気持ち悪いのだけど」

 

「ああ、わかった」

 

八幡は、雪乃にそう言われ、空いている椅子に座る。雪乃の気持ち悪いから座れ、にイラッとしたが、気にせずに平然とする。

 

雪乃は、八幡に気にすることもなく黙々と本を読んでいる。何を読んでるのかはわからないが、八幡には興味がない。

 

外の方へ向いて時間を潰そうとする。しかし時間がそう過ぎるものではなく、雪乃の方へ向いた。彼女は視線に感じなのか

 

「な、何か?」

 

「ああ、悪いな。どうしようかと思っていただけだ」

 

「何が?」

 

「大した説明がないままここに連れて来られたものだからな」

 

八幡がそう言うと、雪乃は舌打ちみたいなことして、勢いよく本を閉じる。そして虫ケラのように見て睨んだきた。

 

「…そうね、ではゲームをしましょう」

 

「ゲームだと?」

 

「そう、ここが何部か当てるゲーム。さてここは何部でしょう?」

 

八幡は、何部なのか当てるために教室中を見渡した。部活と言っても雪乃以外のメンバーがいない。

 

「部員って他にはいないのか?」

 

「いないわ」

 

雪乃以外にメンバーがいないとなると部として認められるわけがない。良くて同好会とまりだろう。八幡は、ヒントも無しで考えている。考えられるのは、1つしかない。

 

「文芸部か?」

 

「へぇー。その心は?」

 

雪乃はいくらか興味深げに問い返してくる。

 

「特殊な環境、特別な機器を必要とせず、人数がいなくても廃部にはならない。つまり部費が必要ない部活。加えてあんたは本を読んでいる。答えは1つしかない。答えは文芸部じゃないのか?」

 

「……ハズレ」

 

「違うのか?じゃあ何部だよ、ここは?」

 

「では、最大のヒント。私がここでこうしていることが活動内容よ」

 

雪乃から出されたヒント。だが、それは何一つ答えに結び付かない。文芸部じゃなければ、図書部?

 

図書部なら図書館か図書室だなと八幡は思っている。だからこれも違うということになる。

 

私以外部員がいない部活。

 

幽霊部員が多く存在する部活。八幡は冗談気味に

 

「まさか、オカルト研究部とか?」

 

「ハズレ。……はっ、幽霊なんていない。馬鹿馬鹿しい」

 

八幡は頭の知識を総集めだが、全くわからない。文芸部、図書部でなければ、何の文科系の部活?

 

ふと平塚先生が何か言ってなかったか?

 

平塚先生が八幡の更正させるために雪乃に依頼を出した。

 

依頼をこなす。

 

ここで、八幡は何か閃く。

 

「もしかして、何でも屋か?」

 

「違うわ。まあ惜しいところまではきたわね」

 

「じゃあ、何なんだ?」

 

「比企谷君、女子と話したのは、何年ぶり?」

 

「女子と?さっきも話したが?」

 

「平塚先生は、省いて」

 

八幡は、どうせ女子と話したことのない陰キャとでも思ってるんだろう、と思っている。

 

「さっき、女子のクラス委員長と話したよ」

 

「業務連絡とかじゃくて、ちゃんと話したのは何時?」

 

雪乃もしつこく八幡に聞き続ける。緑子、七海とグループチャット以外で話したのは、春休みに綾音の墓参りの時に話した。それから数えると

 

「…約1ヶ月ぶりかな」

 

八幡がそう言うと、雪乃がニコッて笑い彼の前で高らかに宣言する。

 

「…そう。持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には、女子との会話を。困っている人に救いの手を差しのべる。この部の活動よ」

 

いつの間にやら雪乃は立ちあがり、自然、視線は八幡を見下ろす形になっている。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

とても歓迎されていないことを肌で感じる八幡であった。

 




アンケート調査の結果が出ました。修学旅行の後のストーリーで、アンチ奉仕部ルートと原作ルートのどっちが良いかでしたが、アンチ奉仕部ルートが勝ちました。

皆様、アンケート調査に協力してもらいありがとうございました。


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第1章ー第5話ー雪ノ下雪乃。

第1章ー5話です。


ーー

 

八幡が、平塚先生に雪乃のところに連れて行かれた同時刻、吹寄の姿は水泳部にあった。

 

総武高校水泳部。千葉県内で海浜総合高校と総武高校と二大名門と言われるほどの強豪である。水泳部の練習設備は、他の部活動よりは優遇されている。

 

秋の新人戦では、海浜総合高校に接戦に持ち込んだが、海浜総合高校の水泳部副部長の緑子と吹寄との一騎打ちで少しの差で総武が負けた。

 

今は夏の大会に向けての練習をしている。吹寄も去年の3年生の引退により副部長に就任している。

 

吹寄の心は、打倒海浜総合高校!

 

打倒 山岸緑子!

 

と燃えていた。紺を基調にして、赤のラインが入った競泳水着姿の吹寄は、女子部員を集めた。山本部長は副部長の吹寄に女子水泳部の指揮を任せている。

 

「夏の大会は、海浜総合高校から優勝旗を取り返すわよ!」

 

「「はい!」」

 

「目指すのは優勝!だけど無茶な練習は駄目。準備運動もちゃんとする。怪我をしてしまったらそれまでだからね」

 

「「はい!」」

 

「以上、各自練習を始めて!」

 

女子部員達は、各自の練習を始める前に準備運動を始めた。すると吹寄に山本部長が話しかける。

 

「制理、張り切るのは構わないけど、貴女が倒れたら意味が無いわよ」

 

「わかってます、部長」

 

「海浜の高橋に負けたのは、悔しいだろうけど、詰めすぎるのは良くないからね」

 

「はい」

 

吹寄は、去年の雪辱を晴らしたい。そんな中に、海浜総合高校に行った中学時代の水泳部の仲間が送ってきた画像。

 

八幡と緑子が海浜総合高校の文化祭にてデュエットして歌っている画像。

 

そこに写る八幡と緑子の表情を見て、互いに信頼している感じに見えるのだ。八幡の表情も総武高校で見せているものとは、別人のようなオーラを感じる。

 

「ただならぬ関係?」

 

「うん?どうした、制理?」

 

「いえ、何でもありません」

 

そう言うと吹寄は、準備運動をやってからプールへ向かった。彼女の心は、打倒海浜総合、打倒 山岸緑子であった。

 

ーー

 

一方奉仕部の方は、まだ八幡と雪乃の討論が行われていた。

 

宮沢賢治、よだかの星から2人はヒートアップしている。

 

「でも、『よだかの星』は貴方にとってもお似合いよね。よだかの容姿とか」

 

「お前、俺の顔面が不自由だと言ってるのか?」

 

「そんなこと言えないわ。真実は時に人を傷つけるから…」

 

「言えない?全然言ってるぞ、お前」

 

すると雪乃は、深刻な顔をして八幡の肩をポンと叩いた。

 

「真実から目を背けてはいけないわ。現実を、そして鏡を見て」

 

八幡は、今まで言われたことのない事をズバズバと言われる。キモい、腐り目とは総武高校に入った時から言われてるが、雪乃が言ってるのは初めてだ。

 

綾音、雅史、緑子、七海、中学の担任の中村先生、高校1年の担任だった末広先生は、【八幡はもっと自身を持て!】、【自分を卑下しないで!】

 

と言われて来たのだ。いや八幡の表情で救われたと言ってくれた綾音まで、馬鹿にされた感じがしたのだ。それは、八幡にとって超えてはならないラインなのだ。

 

「馬鹿にするなよ!人の欠点ばかりを言うヤツが、人を救う?笑わせるなよ」

 

「何?文句でもあるのかしら?貴方のように腐った魚のような目をしていれば必然、印象は悪くなるわ。目鼻立ちなどのパーツうんぬんじゃなく、貴方は表情が醜い。心根が相当歪んでいる証拠ね。両親が可哀想に」

 

「俺の事を侮辱するのは良い!だけど俺の両親を侮辱するのは許さないぞ!」

 

八幡は頭の中が怒りで満ちていくのが分かる。目の前の女に何を言っても無駄だと彼は悟る。ただ雪乃を睨み付けたまま、時間が過ぎる。

 

「…さて、これで人との会話コミュニケーションは完了ね。私のような女の子と会話ができたなら、たいていの人間とは会話ができるはずよ」

 

「はぁ~お前に指南されなくても女子と会話は出来るんだよ!あえて俺は話さないだけだ!」

 

「虚言は辞めた方が、良いわよ。虚しくなるだけだから」

 

「何だと!」

 

「…これでは先生の依頼を解決できていない。もっと根本的なところをどうにかしないと……。例えば貴方学校を辞めるとか?」

 

「はぁ~、俺に人生を詰めと言ってるのか?」

 

「そこまで言ってないわ」

 

「言ってるだろうが!」

 

「うざ…」

 

八幡と雪乃と言い合いの中、ドアを荒々しく無遠慮な音が響いた。

 

「雪ノ下、邪魔するぞ」

 

「平塚先生、ノックをお願いします」

 

「悪い、悪い。まぁ気にせず続けてくれ。様子を見に寄っただけなのでな」

 

ため息交りの雪乃に鷹揚に微笑みかけると、平塚先生は教室の壁に寄りかかった。そして八幡と雪乃を交互に見る。

 

「仲がよさそうで結構なことだ」

 

どこが仲が良いんだ?こんな状況を見てどこをどう思うのか、意味がわからないと八幡はそっぽを向く。

 

「比企谷もこの調子でひねくれた根性と腐った目の矯正に努めたまえ。では私は戻る。君達も下校時間までに帰りたまえ」

 

「下校時刻までに帰りますよ。雪ノ下と一緒にいれば勘違いされかねないので」

 

「比企谷君、それはこちらの台詞よ」

 

「大体、俺は非行少年か?更正など矯正などと」

 

八幡がそう言うと平塚先生は、ふむ、と言って顎に手をやってしばし考え始める。

 

「雪ノ下はちゃんと説明していなかったか。この部の目的は、端的に言ってしまえば、自己変革を促し、悩みを解決することだ。私が改革か必要だと判断した生徒をここへ導くことにしている。精神と時の部屋だと思ってもらえればいい。それとも少女革命…」

 

「……例えがアニメや漫画なんですか。別に嫌いじゃないですが……」

 

「何か失礼な事を言わなかったか?」

 

「は?何も言ってませんが?」

 

とんでもなく冷ややかな視線で射殺されかれない目で見られたので、一歩下がった。

 

「雪ノ下、どうやら比企谷の更正にはてこずっているようだな」

 

「本人が問題を自覚していないせいです」

 

平塚先生の苦い顔に雪乃は冷然と答えた。八幡は、何故自分がこんなことを言われ続けなければならないのか、アホらしくなっていた。

 

八幡はふと夕陽の方を見る。夕陽の見ながら、あのときの事を思い出していた。

 

綾音の告白を受け入れて、ちょっと経ったとある日の学校からの帰り道。綾音と一緒に帰っていた時、総武中じゃない他校の女子生徒の集団とすれ違った時、その集団に八幡は笑われたことがあったのだ。

 

八幡は、自分が侮辱さるれるのは許せるが、綾音までが馬鹿にされたのだ。

 

悔しかった。

 

申し訳なかった。

 

自分なんかが彼氏でごめんと。

 

だけど綾音は、そんなことを気にしていなかった。

 

【あんな連中の言うことなんか気にしない。八幡の良さを何も知らないくせに。人を見た目でしか判断出来ない可哀想な人達】

 

【綾音……】

 

【私の彼氏を馬鹿にするなって!】

 

【……】

 

【八幡は、私が辛く絶望的な感じになった時、ずっと私を励ましてくれて、胸を貸して泣かせてくれた。それに勇気や希望も持たせてくれたもの】

 

綾音が情緒不安定だった時に、八幡が何も言わずに抱き締めていた。何も言わずに綾音の愚痴も黙って聞いていた。

 

綾音も次第に八幡の偉大さに惹かれていったのだ。普段はやる気が無いようにしてるけど、いざと言うときにやってくれるからだ。それは綾音、緑子、七海だけではなく、雅史もわかっている。

 

そんなことを八幡が思い出していると、平塚先生が

 

「比企谷、人が話している時に寝てるんじゃない!」

 

「寝てませんが!ただ過去を思い出していただけですが?」

 

「ほぉ~灰色の過去をか?」

 

「灰色の過去って…馬鹿にしないでもらえますか」

 

「幻想を抱いてるなんて、可哀想な人。貴方は変わらないと、社会的にまずいレベルよ」

 

「はぁ!何がまずいレベルだ?」

 

「傍から見れば、貴方の人間性は余人に比べて著しく劣っていると思うのだけど。自分を変えたいと思わないの?向上心が皆無なのかしら」

 

八幡に向上心や変わろうとする気持ちが無いわけではない。綾音を失ってから、心に大きく開いた穴が、向上心や前に進もうとする気持ちを鈍らせているのだ。

 

八幡の心は、2年前の12月30日で止まっているのだから。

 

それに雪乃や平塚先生に言われなくても、八幡自身が一番わかっている。

 

いつまでも綾音のことを引きずってても仕方がない。

 

雅史や緑子、七海からは、新しい彼女を作れば、綾音を失った傷も忘れられるし、綾音自身もそれを望んでいると。

 

そんなことはわかっているのだ。いつまでも八幡がウジウジしてれば、綾音も安心して眠れないってことも。

 

怖いのだ。八幡は、新しい道を歩み出して、綾音を忘れていくのが怖いのだ。

 

綾音が生きた証を失いそうでそれも怖いのだ。

 

「お前の言うとおりに変わらないといけないのはわかっている!わかっているが、変わるのが怖いんだよ!」

 

「何?怖いって…」

 

「いや、何でもない」

 

それから押し問答が繰り返されたが、らちがあかないから、平塚先生が何かを言い出した。

 

「それではこうしよう。これから君達の下に悩める子羊を導く。彼らを君達なりに救ってみたまえ。そしてお互いの正しさを存分に証明するがいい!どちらが人に奉仕できるか!ガン…」

 

平塚先生がガンダムファイトと叫んだ。アニメの掛け声をしきりなしにしゃべっていると言うより叫んでいる。

 

「平塚先生、年がいにもなくはしゃぐのはやめてください。ひどくみっともないです」

 

雪乃が氷柱のように冷えきった鋭い言葉を投げる。すると平塚先生もクールダウンしたのか、一瞬羞恥に顔を染めてから取り繕うように咳払いをした。

 

「と、とにかくっ!自らの正義を証明するのは己の行動のみ!勝負しろと言ったら勝負しろ。君達に拒否権はない」

 

八幡と雪乃は呆れ返るしかなかった。

 



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第1章ー第6話ー友と後輩。

第1章ー6話です。


ーー

 

平塚先生はそれだけを言うと、スタスタと帰って行った。

 

残された八幡と雪乃。雪乃は、八幡に気にも掛けずに黙々と本を読んでいる。

 

八幡は、小さくため息を吐いて、時間を見る。

 

すると下校時刻の最終のチャイムがなり、雪乃はそそくさに帰り支度を済ませて、挨拶も無しに教室から去っていく。

 

「挨拶も無しかよ」

 

八幡は、大きなため息を吐いて、帰り支度をしてから教室から出た。

 

完全下校時刻が近づいてきているから、校内に生徒はほとんど残っていない。

 

シーンと静まり返っている校内を歩いていく八幡。

 

「ったく…面倒な事に巻き込まれたぜ」

 

平塚先生の高校生活を振り返ってという作文から始まった、奉仕部事件。

 

平塚先生に呼び出され、文句を言われ、放課後にとある教室に連れていかれて、雪乃と出会う。

 

その雪乃は、綾音と容姿が似ていたから驚く八幡だったが、似ていたのは容姿だけで、性格は全く似てなかった。

 

八幡曰く、胸も綾音とは全然違う。綾音は、巨乳とは言わないが、同級生の中では大きかった、と。

 

雪乃は、罵詈雑言を八幡に浴びせていたが、八幡も応戦したが、膠着状態になり、再び平塚先生がやって来た。

 

何しにやって来たのかと八幡は思ったが、平塚先生の口から出た言葉は、

 

困ってる人を何人救えるかというものだった。それも雪乃と対決する勝負と来た。

 

平塚先生は、付け加えて逃げ出したら進級不可、留年にするとか言ってきた。

 

ため息ばかりを吐きながら自転車置き場までやって来た八幡は、自分の自転車にまたがると自宅へ帰ろうとすると、2人の男子生徒達に声掛けられる。1人はチャラチャラした茶髪で肩にヘッドフォンをつけていて、もう1人金髪で強面な感じな男子生徒である。

 

「オッス、八幡!今帰りか?」

 

「八幡センパイ!お久しぶりです!」

 

「陽介に完二か、久しぶりだな。完二は総武を受けてたのか…それに陽介、お前関東を離れるんじゃなかったのか?」

 

「一度は離れたさ。でもお前の事が心配で戻って来たんだよ」

 

「オレは、八幡センパイについていく事を決めてますので」

 

花村陽介、八幡の雅史以外の親友であり、親がとあるショッピングモールの副支店長であり色々あったが、八幡と出会い考え方を変えた。とある先輩に告白するが、フラレた。フラレた陽介が泣き出した時、八幡は自分の胸を貸している。陽介は借りだと思っており、八幡に借りを返そうとしている。高2の春、父親が総武支店長になるのをきっかけに、総武高校へ編入した。

 

巽完二、高1年生。巽染め物屋の息子。地元では不良だと言われているが、実は不良ではなく母親孝行な息子である。ただ見た目が不良っぽいからすぐに不良達やグレーな連中もやって来ていた。

 

とある時、完二はグレーな連中に呼び出され、1人リンチされていた時、八幡が救いに来てくれた。それから八幡を兄貴分と慕うようになった。

 

陽介、完二も八幡と綾音が恋人同士になった時も、祝福している。特に完二は自分の事のように、泣いて喜んだのだ。

 

あの八幡と綾音の模擬結婚式の際、完二は商店街、陽介はショッピングモールを説得、協力を取り付けた裏話がある。

 

「陽介、完二……」

 

「な、なんだ、八幡、泣くほど嬉しかったのか!?」

 

「八幡センパイ、オレの胸ならいくらでも貸しまっスよ!」

 

「泣いてないし…借りねーよ」

 

八幡は、内心泣きたかったかもしれない。雪乃の罵詈雑言、平塚先生の無茶苦茶な要求…犯罪者でもないのに更正などと言われたこと。

 

だが泣きたかった気持ちをぐぅっと堪えた。

 

ここで泣いたら、陽介達が雅史、緑子、七海に報告する可能性がある。そんなことになれば、雅史達海浜総合高校が総武高校に乗り込んで来かねない。

 

海浜総合高校には、八幡のファン、慕う人間達が集まっている。

 

それは八幡も知っているから、堪えたのだ。

 

「と、とにかく帰るぞ」

 

「そーだな」

 

「はい!」

 

3人は、太陽が沈み暗くなった通学路を自転車で走行する。

 

「なあ、八幡?」

 

「なんだ、陽介?」

 

「総武ってお前に辛口だな」

 

「そうっスね。それはオレも気になってました」

 

「総武高校がちゃんとした俺の評価だ」

 

「そうか?総武中ではあのイケメンの雅史よりもお前の方が女子に人気あっただろ?」

 

「総武中の女子の目が、俺をイケメンフィルターで見てたんだよ」

 

「センパイ!センパイは、漢の中の漢でス!あの時、オレの事を身体張って救ってくれたじゃないっスか!」

 

「だな。俺なんかあんなこと真似できねーよ。八幡、お前は男も惚れさせるヤツなんだからよ!もっと自身を持てよ!」

 

「お前達…」

 

八幡は、陽介や完二が励ましてくれたおかけで、雪乃、平塚先生から言われた事を忘れることが出来た。

 

久しぶりに陽介、完二と帰れて八幡の気分はマイナスからプラスになっていた。

 

夜、グループチャットにて、陽介は2ーC組、完二は1ーEとクラスがわかったのだった。




P4(ペルソナ4)より花村陽介、巽完二を登場させました。八幡の雅史以外の総武中出身の親友と後輩ですね。

アンチルートに入ると、間違いなく文化祭等で格好いい八幡を描くのは難しくなるだろうし、ヒロインも限られてくるだろう。

原作ルートもみたい方もいるみたいだしな。文化祭を分岐点にして、八幡覚醒ルートかアンチルートに分けた方が良いのかな。


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第1章ー第7話ー忌々しい事件とお姉さん。

第1章7話です。


ーー

 

奉仕部に入れられた翌日、八幡は寝坊し大幅に時間が遅れている。いつもは早い時間に家を出るのだが、昨日の奉仕部のせいで疲れていたようだ。それで寝坊してしまい、通勤通学で人が増える時間に行かなくてはならなくなった。

 

雪乃や平塚先生のせいで寝坊したようなものだと思いながら、自転車で総武高校へ向かう。

 

とある交差点で信号機待ちをしていたら、海浜総合高校へ向かう女子生徒が3人、向こう側の歩道を歩いている。

 

すると、風が一瞬、強い風が吹き抜けた。海浜の女子生徒3人のスカートも捲れる。悲鳴みたいな声をあげて、慌ててスカートをおさえる。

 

八幡は、信号機が赤から青に変わったため、自転車を走らせる。

 

「青、黄色、赤…って信号機かっての」

 

海浜の女子生徒3人の下着の色を小声で呟きながら総武高校へ向かう。

 

総武高校へ向かいながらもさっきの出来事を考えていた。

 

「そう言えば、綾音達が3人でジャレあってた時、凄いことになってたよな」

 

綾音がまだ元気だった頃、八幡の家で遊びに来てた時の話だ。綾音、緑子、七海の3人がふざけて遊んでいたとき、3人のスカートが捲り上がっていて、下着が丸見えになっていたのを八幡が見たのだ。

 

というか八幡は、明らかに自分自身に見せてると思ったからだ。雅史や他の男の親友(陽介、完二、その他)がいるときは、ちゃんとガードしてたり、パンツ系を履いたりしてるが、八幡だけの時は、ガードも緩いし、スカート系ばかりな感じだった。

 

「はぁ~、あれは俺に見せるための策略だったわけだが」

 

そんな考えながら自転車をこいで総武高校へ向かった。

 

 

2ーF組の教室に入ると、いつものように何組のグループがたむろしている。八幡はすぐに席に座り、教科書類を鞄から机の方へ入れる。

 

特にすぐ近くのグループがとてもうるさいから、耳に栓をはめてから寝ることに。

 

八幡が遅刻ギリギリに登校してきたから、結局寝ることもできずに授業となった。

 

 

八幡は、授業中も奉仕部の事が気になっていた。平塚先生からの圧で無視することも出来ずに、昼休みの昼食も味がしなかった。

 

そして再び奉仕部へ連れてこられた。サボれば、雪乃との勝負は、八幡の不戦敗となり、進級が不可能になるとか言われているから拒否権すらないのだ。

 

奉仕部の教室の中に入ると、昨日と同じ格好で本を読んでいる。八幡は雪乃に挨拶をした。だが

 

「………」

 

雪乃からシカトされ、ため息混じりで空いている椅子に座った。空いている椅子は、昨日のだった。

 

「雪ノ下さん、こんにちは」

 

八幡は普通に敬語を使って雪乃に挨拶をした。半分は嫌みに言ってやりたかったが、雪乃の笑顔返しにはちょっと驚いた。

 

「こんにちは。もう来ないと思ったわ」

 

「好きで来た訳じゃない。逃げたら俺が不戦敗とか進級不可能とか言われたから来ただけだ」

 

やはり笑顔の裏はそんなことだと、ため息を吐いた。雪乃はなんの悪びれもなく平然と本を読んでいる。全く八幡には興味はないという姿勢を貫いてるようだ。そして雪乃は、八幡の方を向くと

 

「あれだけこっぴどく言われたら普通は二度と来ないと思うのだけど?まさかマゾヒスト?」

 

「誰がマゾヒストだ!」

 

「じゃあ、ストーカー?」

 

「はぁ!?なんで俺がお前のストーカーにならなくてはならない?」

 

「違うの?」

 

雪乃がしれっと小首を捻ってきょとんとした表情を作った。

 

八幡は、そんな表情は正直してほしくはない。

 

綾音と容姿だけは似ている分、一瞬ドキッとして、心臓に悪いのだ。

 

だが、ストーカーの単語で、昔のことを思い出した。それも腸が煮えたぎる人物。

 

綾音をつけ回すストーカーの事を。

 

あれは中2の春先の頃。

 

あの犯罪者が、綾音に対して罪を犯した。

 

八幡にとって憎たらしい人物。

 

 

天之河光輝。いかにもキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人と言われていた。

 

サラサラの茶髪と優しげな瞳、180㎝近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にも優しく、正義感も強い。(思い込みが激しい)

 

総武中の西隣の中学である総武西中に通っていて、小学校の頃から全国的に有名な八重樫道場に通っていた。総武西中では、そのルックスによりかなりの人気ものであり、美少女の幼なじみを2人連れているとも言われていた。

 

 

そんな美少女の幼なじみがいるにも構わず、綾音にちょっかいをかけてきた。綾音は、春先にスポーツ少女特集というニュースで取り上げられた。そのニュースを見て、天乃河光輝は近づいてきたのだ。

 

光輝はわけのわからない理由で、八幡に因縁をつけてきた。

 

八幡が綾音や緑子、七海を連れていた事に腹を立てたのだ。

 

八幡のような人間が、美少女を連れているのはおかしいと。自分みたいなイケメンである自分こそ相応しいと言ってのけた。

 

八幡は、雅史や陽介とは、正反対の自意識過剰のイケメン野郎だと思った。

 

雅史や陽介、完二、他の男子達の協力のもと、綾音達を守ることに成功していた。

 

 

 

だがあろうことか光輝は、夜に雪柳家に侵入し、綾音を襲った。

 

綾音の悲鳴で、八幡は、彼女を救うために自分ちの塀から雪柳家の2階部分に移り、綾音の部屋へ飛び移った。

 

変質者の如く襲う光輝を八幡は殴り倒した。

 

騒ぎを聞き駆けつけた綾音の両親に警察に通報を頼んだ八幡。

 

光輝は、あの有名な八重樫道場の優秀な人間。まともに戦えば、八幡の敗北は必至。

 

怯える綾音を見た八幡は、彼女を絶対に守る意思を固める。

 

光輝は、八幡に殴りかかった。だが八幡には、光輝のパンチの軌道が見える。

 

それもそのはずだ。完二を守るため、不良やケンカ屋達と戦ってたのだから。光輝のパンチなんて、不良達のパンチ以下だと、光輝に攻勢をかけた。

 

いくら試合や練習で強かろうと、実戦で戦った八幡の敵ではなかった。

 

 

光輝を倒した八幡は、怯える綾音を抱き締めた。この頃からだ、八幡が綾音を意識し始めのは。光輝は、駆けつけた警察に連行された。

 

 

その後、天之河光輝(中3で15歳)はいろんな罪で警察に逮捕されるはずだった。天之河の親や協力者は、息子の罪を揉み消そうとした。天之河の父親は、市議会議員の重鎮で、経済界にもパイプがあり、雪柳家に被害届を取り下げろと言って来た。

 

逆に八幡を暴行罪で訴えると言って来た。

 

八幡も綾音も困り果ててた時に、総武高校の制服を着たお姉さんに話しかけられた。

 

2人は、その総武高校の制服を着たお姉さんに洗いざらい話したのだ。するとお姉さんが

 

【私が、君達2人を救ってあげる】

 

【え?】

 

【お姉さん、俺達を救うって…どうやって?】

 

【お姉さんに任せなさい】

 

 

 

その後、天之河光輝は、逮捕される。父親の様々な疑惑が明るみに出た。

 

そして天之河家の築いてきたものが、一気に崩れ去ることになった。




今回は、ありふれた職業で世界最強から、天乃河光輝を登場させました。彼は思い込みや周りがちやほやするから、あんなのを生み出した。雅史、葉山とは、また違うタイプのイケメンキャラを出したかったのもありましたが。

この事件をきっかけに八幡が綾音の対しての気持ちに気がつきます。

八幡と綾音を救ってくれたお姉さんは、後々に出てくるあの人です。


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第1章ー第8話ー雪ノ下雪乃と。

第1章8話です。


ーー

 

天之河光輝が実名で報道されることは無かった。

 

未成年であるため、少年Aと報道された。だが、地元では実名報道が無くても噂話で広がっていった。

 

疑惑だらけの天之河父も逮捕される。天之河親子が逮捕されて、いもずる式にもみ消した犯罪が出てきたのである。

 

光輝は、綾音以外にも多数の女の子に手を出していたようだ。

 

天之河父は、所属政党から除名され、市議会で辞職勧告決議案が全会一致で採択され、議員を辞職する道しかなかった。雪ノ下議員と高梨議員(七海父)が共闘し天之河議員を追い詰めた。

 

逮捕された光輝は、取り調べでもおかしなことばかりを話すため、弁護士から精神鑑定を受けるように依頼される。

 

精神鑑定で精神に異常があると判断され、千葉の少年刑務所から、京都の医療少年院に移送される。

 

しかし、後に天之河は八幡達の前に現れる。八幡を殺すために。京都がポイントか。

 

天之河夫妻は離婚し、光輝の母と妹は、母親の実家(宮城県仙台市)に帰って行った。母親は、被害者遺族に慰謝料を払う事を申し出た。被害者遺族は、妻と光輝の妹からは、慰謝料は取らないと。そう決めていた。被害者遺族の弁護団は団長は葉山父だった。

 

悪いのは、天之河父と光輝であると。彼らから慰謝料をもらうとした。被害者遺族は、あの妻と光輝の妹は、同じく被害者だと。

 

天之河父は、亭主関白で妻に暴力を奮っていたようだ。息子の光輝は、母親ではなく父親に味方していたようだ。

 

 

全てが終わった後、お姉さんに八幡と綾音はお礼を言った。

 

【お姉さん、ありがとうございます】

 

【良いよ、お礼なんて】

 

【お姉さん、貴女は俺達の命の恩人です。本当にありがとうございました】

 

八幡と綾音は、頭を深く下げた。2人共にお姉さんに感謝しているのだ。

 

【まだ俺達、お姉さんにお礼出来るほどの立場にありません。いつか、将来、必ずお姉さんにお礼をいたします。必ず立派になって必ず】

 

【ふふっ、キミ、言うね。お姉さん、生意気なこと言うヤツは嫌いだぞ】

 

【生意気で構いません。受けた恩は、必ず返すのが礼儀だと、母さんから教わりましたから】

 

【受けた恩は必ず返すか…ふふっ、いつかお姉さんが困った時、2人に頼もうかな】

 

【「はい!必ず受けた恩は返します!」】

 

八幡と綾音は、同時にそう言った。するとお姉さんが

 

【ふふっ、本当に妬けちゃうぐらい羨ましいな~流石、恋人同士ってことかな】

 

【こ、恋人同士じゃないですよ!】

 

【え、ええ、私達、幼なじみってだけですよ】

 

【八幡君、綾音さんをほっといたら、他の男に取られるぞ!】

 

【なっ!?】

 

【綾音さん、八幡君みたいな男の子は他にいないよ。ここまで尽くしてくれる男の子は見たことないかな。八幡君がフリーだったら、お姉さんが取っちゃうぞ?】

 

【さ、させませんよ】

 

【なんてね、綾音さん、冗談よ。だってお姉さんが入る隙なんて無いもの。おっと時間が来たわね。それじゃお姉さんは、帰るけど、2人共、お幸せに~】

 

そう言って去っていくお姉さんに八幡は最後に

 

【お姉さん、お名前は?】

 

【そう言えば、お姉さん名乗って無かったな~名前は、ユキノシタハルノ、ユキノシタハルノよ】

 

【ユキノシタハルノ】

 

八幡は、机でアゴを強打した。どうやら思い出しの途中で眠っていたようだ。しかしアゴをさすりながら雪乃を見ると、蔑んだ目で八幡を見ている。

 

 

「比企谷君、人が話してる時に寝るなんて、最低ね」

 

「わ、悪い」

 

「謝ってすんだら警察は入らないわ」

 

八幡は、過去の夢を見るなんて久しぶりだから、ちょっとは驚いたが何であの夢を見たのだろうと考えた。

 

八幡はあのお姉さんはどうしてるのだろうと考えた。

 

自分達が高校2年生になってるから、おそらく大学生かなと思った。

 

お姉さんの名前は、彼女が言ったとおりになら

 

【ユキノシタハルノ】

 

【ユキノシタ、雪ノ下?】

 

【まさかな】

 

八幡は、心の中で呟きながら、目の前の雪乃を見る。あんな優しいハルノさんが、こんな冷血女の一族ではないと無いと思った。ただ苗字が一緒なだけだと考えた。

 

「何?貴方に見つめられると、とても気持ち悪いのだけど?やめてもらえる?」

 

綾音とも違うし、ハルノとも違うとため息を吐く。

 

「私の事が好きなの?ちょっとごめんなさい、貴方とは付き合えないわ」

 

雪乃は別段意外そうな顔もせずに、平素と変わらない冷たい表情で言う。

 

雪乃が綾音の容姿と似ているから、余計に腹が立つ。もし雪乃が綾音に似てなければ、腹は立たないだろう。

 

「雪ノ下、お前は異常だ。俺が何故、お前に告白しなきゃならないんだ?」

 

「違うのかしら?貴方からは、私に対する欲望のオーラが見えるから」

 

「んなわけがあるか!」

 

「そうかしら?」

 

八幡と雪乃はしばらく押し問答を繰り返したが、2人共に落ち着きを取り戻し

 

「一応聞くけど、雪ノ下、お前友達いるのか?」

 

「そうね、まずどこからどこまでか友達なのか定義してもらって良いかしら?」

 

「友達の定義?そんなのは、苦楽を共に過ごし乗り越えた友達…本気でモノを言える友とか…」

 

「ふーん、貴方こそ友達はいるのかしら?」

 

「いるわ!最高の友がな」

 

八幡の脳裏に雅史、緑子、七海、陽介、完二の顔が浮かんだ。苦楽を共に乗り越えた友。そして最高の妻の綾音の顔が脳裏に浮かぶ。

 

「妄想や幻想のお友達かしら?だとしたら気持ち悪いわよ!」

 

「お前は、どうしてもぼっちにしたいようだな?」

 

「そうね、貴方みたいな人に、友達がいる方がおかしいし。

 

「お前と一緒にするな」

 

八幡は雪乃にそう言った。すると雪乃がまた語りだした。

 

八幡に対して人に好かれたことが無いだろうと言ってきた。

 

「はぁ?何で俺が人に好かれた事が無い?バカを言うなよ?中学時代は、モテモテだったぞ?」

 

八幡のこの発言は、雪乃の表情が一瞬、フリーズしそして笑いだした。

 

「クスクス…面白い冗談を言うわね、比企谷君」

 

「……お前、信じてないだろ?」

 

「信じられるはず無いでしょ。もしそれが本当だとしたら、奉仕部に連れて来られるはずがないでしょ?」

 

雪乃は、八幡に親友や女子に気に入られてるならば、この奉仕部に来ることはないと言ってきた。

 

八幡は、本気を出す事が出来ない。本気を出そうとしても、綾音を失って心に大きな穴が空いて、喪失感がずっと彼を支配しているのだ。

 

目の前の雪乃に、大切な人を喪った悲しみがわからないだろうと、言ってやりたい気持ちになったが、八幡はやめた。言っても仕方がない。

 

一方の雪乃は、八幡の事を気にする事もなく自身の自慢話ばかりを続けた。

 

自分は、可愛かったから、色んな男子に告白された。

 

それが原因で女子の敵を作りまくった。

 

それでいじめられるようになった。

 

八幡は、当たり前だなと思った。何故なら綾音とは真逆の立ち位置なのだから。

 

雪乃が女子達に嫌われてるのに対し綾音は女子にも人気があった。

 

綾音も男子にも人気があったし告白もされていた。でも全部断っていた。

 

八幡は、雪乃の育って環境を聞いて、自分達がいかに恵まれた環境にいたのを痛感する。だからと言って、罵詈雑言を言っていいわけがないのだから。

 

雪乃も綾音達と出会っていたのなら、こんなのにならなかったのかもしれない。

 

八幡自身も綾音もお節介な人間だから、必ず…

 

雪乃は自慢話が終わると、窓の外を見てたが、八幡の方を向く。

 

「でも、それも仕方がないと思うわ。人はみな完璧ではないわ。弱くて、心が醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とそうする。不思議なことに優れた人間ほど生きづらいのよ、この世界は。そんなのおかしいじゃない。だから変えるのよ、人ごと、この世界を」

 

「……考えが斜め上に行き過ぎだろ!」

 

「そうかしら?」

 

八幡はふと綾音が言っていた事を思い出した。

 

【私は、恵まれてると思うんだ】

 

【恵まれてる?どうしてそう思うんだ?】

 

【私、ほら小学生の頃、美少女とか男子達に人気があったでしょ?】

 

【あったな】

 

【それで女子にいじめられてたでしょ?私が泣いていた時、八幡と雅史が怒ったでしょ】

 

【…そんなこともあったな】

 

【八幡のあの言葉、今でも覚えてる。綾音が美少女だからって、僻むなよ。悔しかったら、お前達も美少女と呼ばれるように努力しろよ。あ、努力だけでは、なれないか。綾音は、内面も美少女だからな、って】

 

【は、恥ずかしいな。ガキの頃のセリフは】

 

【……私は、私みたいにいじめられてる人達を救いたい。八幡が私を救ってくれたように、だから間違ったこの世界を変えるために…そんな職業に就きたいかな】

 

【凄いな…綾音は。俺なんか将来のことなんてまだ】

 

 

綾音も世界を変えたいと言っていた。弱者を守るために…。

 

【俺は、どうしたいのか?平塚先生の言うとおりに灰色生活を続けるのか。それとも、綾音の意思を…志を継ぐべきなのか…。まだわからない…俺が何がしたいのか…】

 

八幡が悩んでいるときに、綾音の声が聞こえる。

 

【八幡、悩んで良いんだよ。焦る必要はないのだから。ゆっくり歩んで行けば必ず…】

 

 

「綾音!」

 

八幡が突然声を発したので、雪乃はビックリしている。

 

「何?私がしゃべってるのに?」

 

「いや、なんでもない」

 

「まあ、貴方にわかってもらう必要はないけれど」

 

「お前の考え方を賛同するわけじゃない。ただ…」

 

「だから、貴方に賛同されなくても構わないのだけど」

 

「お、おい!」

 

八幡は、ほんの少し前に出た。雪乃のあのセリフで進めたのは、癪だか。

 

綾音の意思を継ぐかどうかは、歩みを進めたから決めることにしたのだった。




天之河光輝は、後々に現れます。京都がヒントでしょうか。

七海の父は、県会議員で、有力な議員の1人。雪ノ下議員とは、ライバル関係であるが、天之河事件では共闘した。

前より雑になったかと思いますが、忙しい中で書いてますので、ご了承下さいませ。



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第1章ー第9話ーもう1人の幼なじみ。

第1章ー9話です。


ーー

 

下校時刻のチャイムがなり、雪乃は読んでいた本を鞄にしまうと、八幡の方を見て

 

「それじゃあ、比企谷君」

 

それだけ言うと、教室から出ていく。八幡はため息を吐きながら、夕陽を見ながら

 

「はぁ~無視された初日よりもマシになったか」

 

八幡も帰る身支度をしてから、教室から出た。

 

相変わらず、特別棟の方は静まり返っている。

 

「さっさと帰るとするか」

 

自転車に乗ってそそくさに帰る。

 

 

 

自宅まで帰って来た八幡は、綾音の家の方を見る。するとそこには綾音の妹の綾香がいた。彼女は洗濯物を取り込んでる最中だった。実はこれまでも見かけた時は、彼女に声を掛けたが、無視されていた。彼女も綾音を喪って、八幡の事を嫌ってるのではないかとも思っていた。

 

彼女の名前は、雪柳綾香、綾音の1つ下の妹。小さい頃は、綾音と一緒に遊んでいたが、高学年になると、八幡の妹の小町と遊ぶ事が多くなった。それでも綾香は、姉である綾音が大好きで、八幡の事もお兄ちゃんと言って慕っていた。

 

綾音が倒れた後も八幡が来れない時は、必ず看病に来ていた。八幡と付き合うと知った時も心から喜んだ。

 

だけど、綾香の心の中で何かが生まれたのも同時だった。

 

そして綾音を喪って悲しむ八幡の姿を見て、自分が何とかしなくてはと思った。

 

自分が八幡を支えるんだと。

 

中学3年になってからは、八幡とほとんど会話せずに、勉強やスポーツに勤しんだ。自分にカツを入れるため、あえて八幡を無視していたのだ。

 

そして八幡がいる総武高校へと。八幡には内緒で。

 

八幡は、上から下へ綾香を見る。彼女は、今年で高校1年生である。綾香の容姿は、黒髪でセミロングで、身体も随分と成長している。当然胸だって成長していて、もしかすると綾音よりも大きくなっている。八幡は、戸惑いながらも

 

「綾香、久しぶりだな、元気にしてたか?綾音の葬式以来、あまり見なかったからな。それにそれから綾香に無視されてたし」

 

「八幡お兄ちゃん、お久しぶりです。それと今までごめんなさい」

 

綾香は、八幡に対して深々と頭を下げた。

 

「綾香…そうか、もう嫌われたかと思った」

 

「ううん、八幡お兄ちゃんを嫌ったりしないよ。私、総武高校に入ったよ」

 

「そうか。今さらだけど、おめでとうな」

 

「ありがとう」

 

「でも、お前って海浜総合高校に行ったんじゃ?」

 

「違うよ、私は八幡お兄ちゃんを追って…」

 

小さな声でそんなことを言った。

 

「うん?なんだ、綾香?」

 

「な、なんでもない」

 

綾香は顔を赤くして、家の方へ入っていく。そんな彼女を見ていて

 

「綾香、元気になって良かった」

 

そう言ってから自分の家に入ったのだった。

 

 

八幡は、寝る前にチャットを確認する。すると雅史からのチャットだった。

 

【八幡、話があるんだが、今良いかな?】

 

【別に構わないが?】

 

【八幡、綾香ちゃんと話したんだな?】

 

【うん?何で知ってんだ?】

 

【まあ、綾香ちゃんから色々と相談受けていたからな。八幡が綾香ちゃんの事を嫌ってるかもって】

 

【嫌ってるわけない。むしろ俺が綾香から無視されてたし…】

 

【それには、色々と原因があるのだが、綾香ちゃん、まあ、ちゃんとお前と話せて良かった、俺も安心したよ】

 

【まさか、総武高校に来てるとは思わなかったけど。綾音が行きたかった海浜に行くとばかりに】

 

【八幡…彼女は……。おっとこれ以上は綾香ちゃんに失礼か。緑子や七海、綾香ちゃんが可哀想だな】

 

【綾香はともかく、緑子や七海の気持ちは…わかってる……だけどその思いには答えられない…俺は綾音しか…】

 

【八幡…今でも、綾音が好きで愛してるのはわかっている。でも…もう先に進んでも良いと思う。綾音だって…】

 

【わかっている!わかってるけど…】

 

【八幡、怖がるな、側には俺や緑子、七海、陽介、完二や小町ちゃん、綾香ちゃん、他の人達がちゃんとついている】

 

【雅史、…ありがとう。励ましてくれて…】

 

【ああ、当たり前だろ親友なんだから】

 

八幡は、雅史に励まされた。雪乃のあのセリフと雅史の言葉に少し心が動かされたのだ。

 

雅史とのチャットを終えて、八幡は綾音の写真を見る。

 

その写真は、綾音だけが写っているものである。もちろん写真を撮ったのは、八幡である。綾音が優しい表情で写っているのだ。

 

「綾音、俺は……」

 

八幡は、とある歌を歌い出した。

 

今は、悲しい時、苦しい時に歌っているのだ。己を奮い立たせている。以前は、不安な綾音のために歌っていたのだ。ギターも陽介に習って覚えて、人に聴かせられるまで上手くなった。

 

全て綾音のために頑張って来た八幡。

 

だから今度は、何のために頑張っていくのかわからない八幡。

 

今の八幡は、暗闇の中に1人でいるようなものだ。

 

綾音という一番星が消えて光を失い、大きな穴が空いた八幡の心。

 

そんな歌声を聴いて、小町や綾香は涙を流した。

 

そんな悲しみの時間も過ぎていく。

 

運命も少しずつ動いていく。それが幸せなのか、不幸に動いていくのかは、誰にもわからない。

 

それは、運命のサイコロさえもわからない。




ちょっと初期設定を変えました。綾音に1つ下の妹を追加しました。

綾香は、ちょっとヤンデレ感があるかも。小町とは親友同士。

八幡が歌い出した歌は、GReeeeNの【星影のエール】ですね。八幡が入院している綾音のためにずっと歌っていたんですね。


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第1章ー第10話ー由比ヶ浜結衣来訪。

第1章ー10話です。


ーー

 

綾香と話してから、毎回毎回と朝の登校時に家に突撃してくるようになった。何故なら八幡と一緒に学校に行くためだ。

 

母さんは、いいじゃないの、と言い

 

父さんは、雪柳さんから頼まれてるから、良いだろと言った。

 

小町にいたっては

 

【綾香がお兄ちゃんのお嫁さんになってくれたら嬉しいな~】

 

と言ったのだ。

 

【そう簡単にはいかないだろ。綾香は綾音の妹だ。小町と同じでもう1人の妹みたいなものだ。恋愛感情なんか抱けるわけがない】

 

八幡はそう思ってるが、当の本人の綾香はそう思ってはいない。すでに恋愛感情が生まれてるのだから。

 

八幡もそんな綾香に気づいてないわけではない。だから時間をずらして登校したりしているが、綾香に見つかる感じである。

 

 

疲れて教室の自分の机に座っていたら、吹寄学級委員長が

 

「3限目、4限目の家庭科の時間は、調理実習ですので、家庭科室へ移動してください。ちゃんと班分けやってると思うから、班ごとに分かれ下さい」

 

吹寄から家庭科の事を聞くまで忘れていた八幡。

 

「な、なんだと…」

 

家庭科の調理実習の班決め、総武高校に来てから一番苦痛の時間になっている。ボッチは、人数が足りない班に強制加入させられる。

 

人数の足りない班がたとえ女子の班だとしても強制加入。しかし女子からは相手にされないので、苦痛の時間が伸びただけ。

 

家庭科の調理実習の時間が来るたびに、苦痛の時間という処刑がやって来る。

 

2年になってからの最初の調理実習だが、ボッチなのは、1年時と変わるわけがない。

 

中学時代は、雅史や陽介達と組んですぐに班は決まっていたが。またサボろうと考えた八幡だが、吹寄が近付いてきて

 

「サボったら許さないわよ?」

 

「な、なぁ!?」

 

「家庭科の鶴見先生から言われたの。比企谷君を逃がさないでって」

 

「あの…1人で調理実習をしろと?」

 

「1人で調理実習をするわけないでしょ。班ごとに分かれてやるのよ」

 

「だから、どこの班にも所属していない俺は、1人で調理実習ってことになるだろ?」

 

八幡は、別に1人で調理実習をやっても良いのだ。確かに苦痛で退屈な時間だったかもしれない。それは何もしないで、時間の経過を過ぎるのを待っていただけだ。

 

だが1人で調理実習をした方が他人を気にせずに出来るのである。

 

八幡は料理は得意な方だ。母親と一緒に作っていたからである。

 

綾音と一緒に料理を作りたかったから、覚えたという方が本音かもしれない。

 

吹寄が困った表情をして

 

「貴方、男子のグループに誰も入れてもらえなかったの?」

 

「ああ、誰もボッチは入れてくれないのさ」

 

「あのね、胸を張って言う言葉じゃ無いでしょ?」

 

「別にいいだろ、そんなのこと…」

 

吹寄は頭を抱えながらため息を吐く。そして

 

「仕方がない、比企谷君、貴方は私の班に入りなさい」

 

 

 

 

そして家庭科の時間になり、調理実習が始まろうとしていた。家庭科室は、ちゃんと綺麗に片付けられて、掃除がちゃんと行き届いている。

 

そんな八幡は、吹寄班にいた。彼は思う。他の女子の班の連中が笑っているのが聞こえる。

 

1つめは、葉山隼人の取り巻きの女子達。

 

2つめは、相模南のグループ。

 

3つめは、相原聖司のグループ(葉山達とは違うリア充グループ)

 

その他諸々のグループがある。

 

吹寄班だって、吹寄以外の女子達だって何か言いたそうにしている。

 

「吹寄さん、やはり俺は場違いじゃ?」

 

「場違いだろうが、貴方をサボらせるわけには、いかないの」

 

「はぁ~、女子の視線が痛いですが?」

 

「我慢しなさい」

 

そして八幡は、吹寄班で片隅で調理実習に加わる。作る物はカレーだった。

 

調理実習の定番料理であろう。ただ吹寄班の女子は、吹寄以外は料理をしたことがないのかって酷かった。だから八幡が、ついつい手を貸してしまう。

 

料理が上手くなりたいと緑子や七海や小町、綾香にせがまれて、教えていたこともある。

 

吹寄班の女子も最初こそ、嫌々聞いてたり、従ってたが、しまいに吹寄班の女子達が自ら聞くようになった。

 

そして出来上がりは、吹寄班が一番良くできたのだった。

 

影の主役は、八幡だと吹寄班の女子はそう思うのだった。吹寄からは感謝されたのだった。

 

午後、現国の授業は油断ならない。平塚先生が八幡ばかりを当ててくる。

 

だが八幡が正解ばかり答えるから、平塚先生として面白くないのだ。

 

だから現国の授業が終わり、八幡に

 

「放課後は、例の場所に行くように」

 

平塚先生は、八幡を睨んでいた。一瞬怯んだが

 

「わかりました、サボりませんし帰りませんよ」

 

八幡も綾香の事があるから、早くは帰れないと思っている。朝同様に綾香が追っかけ来るからである。ただ帰るだけなら良いのだが、くっついてくるから変な噂になりかねないからだ。だから時間をずらして、綾香を先に帰らせているのだ。

 

嫌々ながらも奉仕部のある特別棟の教室までやって来た。

 

「こんにちは、雪ノ下」

 

「比企谷君、こんにちは」

 

相変わらずの雪乃は、本を読んでいる。八幡は、綾音からもらった本を読むことにした。

 

今までは、ページを進めることも怖かった。だが今は、少しずつだが読めるようになったのだ。

 

だが、奉仕部はずだが、文芸部のようになっている。

 

八幡は、人助けはどうなったのかとも思ったが、気にせずに本を読むことにした。

 

そんな中、奉仕部の教室の扉がノックされた。

 

「どうぞ、開いてますよ」

 

雪乃は、ページを繰る手を止めて几帳面に栞を挟み込むと、扉に向かって声をかけた。からりと戸が引かれて、ちょこっとだけ隙間が開いた。そこから身を滑り込ませようにして彼女は入ってきた。まるで誰かに見られるのを嫌うのかのような動きだ。

 

肩までのピンク髪に緩くウェーブを当てて、歩くたびにそれが揺れる。探るようにして動く視線は落ち着かず、八幡と目が合うと、ひっと小さく悲鳴を上げた。

 

「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!?」

 

「はぁ?ここにいるもなにも、俺はここの部員だからな。つーか、ヒッキーって俺の事か?」

 

八幡は、ヒッキーと言った女子生徒を見る。 彼女は今時の女子高生って感じの方に値する。八幡が良く知ってる緑子達とは違うタイプの方だ。

 

スカートの丈が標準より短く、ボタンが3つほど開けられてれたブラウス、覗いた胸元に光るネックレス、ハートのチャイと学校の校則を無視した格好である。

 

八幡は記憶の中から、葉山グループにいるピンクの髪の女子生徒だろうと思う。

 

つまりリア充のグループだと八幡は認識した。

 

「由比ヶ浜だっけ?ま、とにかく座って」

 

八幡は、さっと椅子を出して彼女に座るように促す。

 

「あ、ありがと」

 

結衣は戸惑いながらも、勧められるままに椅子にちょこんと座る。正面に座っている雪乃が目線彼女に合わせた。

 

「由比ヶ浜結衣さんね」

 

「ヒッキーはともかく、あ、あたしの事を知ってるんだ」

 

「お前、良く違うクラスの人間の名前がわかるんだな」

 

「そんなことはないわ、貴方の名前は、私とトップ争いしてなかったなら知らないままだったし」

 

「そうかよ」

 

つまり雪乃は、八幡が自分のライバルでなければ、興味もない存在だと言っているようなものだ。八幡も平塚先生に連れて来られなければ、雪乃に興味もなかっただろう。

 

「アハハ、なんか楽しそうな部活だね」

 

結衣がなんかキラキラした表情で雪乃を見ている。

 

「はぁ~別に愉快な部活ではないのだけど。むしろその勘違いがひどく不愉快だわ」

 

雪乃も冷ややかな視線を送っている。それを受けて結衣は、アワアワ慌てながら両手をブンブンと振る。

 

「あ、いや何て言うか凄く自然だなって思っただけだからっ!ほら、そのー、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。ちゃんと喋るし…あ、今日の調理実習の時、委員長達と喋ってた…」

 

「まあ、吹寄達のグループに当てられたからな。喋らないわけにはいかないだろ」

 

「そう言えば、由比ヶ浜さんもF組だったわね」

 

「お前、いつも葉山達のグループにいるよな」

 

「まあ、そうだけど、ヒッキーに文句言われる筋合いはないし」

 

「そうだな。同じクラスで話すこともないしな」

 

「そんなんだから、ヒッキー、クラスに友達いないんじゃないの?なんか気持ち悪いし」

 

「気持ち悪くてごめんな。顔面はこんなんだから悪かったな。お前らのグループからすれば、俺みたいなのは汚物なんだろうがな」

 

八幡は、言いたいことを言ってしまった。結衣はちょっと落ち込んだ感じで

 

「あ、あたしはそこまで言ってないし」

 

「お前達みたいな女子は、表で味方のふりして、影で笑って貶しているだろ?」

 

「な、なんでそんなこと…そんなことやってないし」

 

「嘘はつかない方がいい。さっきも俺の悪口を言ったじゃないか?なあビッチ?」

 

「嘘なんか言ってないし。あれは悪口じゃないし…それにビッチ何よ!あたしはそれに処…」

 

八幡は、はぁ~とため息を吐いた。結衣が処女だろうが、非処女だろうか興味はないのだから。そこに雪乃も爆弾発言をする。

 

「別に恥ずかしいことではないでしょう。この歳でヴァージンなんて、おかしくないわよね、童谷君?」

 

「雪ノ下、人の名前を下ネタに被せるな!」

 

「あ、ごめんなさい、貴方から童貞臭がするもの」

 

「雪ノ下!下ネタはやめろ」

 

「ヒッキーがあたしにビッチって言ったし、人の事をビッチとか呼んで、ヒッキーってマジで気持ち悪いし童貞だし」

 

「気持ち悪いとか、ヒッキーとか、童貞とか、関係ないだろ…このビッチが!」

 

「あたしは、ど、童貞とか言ってないし!ビッチとか言うなし、マジでウザイしマジでキモい。本当に死ねば?」

 

八幡は、スタスタと歩き窓を開ける。そして身を乗り出す。

 

「お前、俺がここから飛び降りたらどうする?責任取れるのか?自分が言った言葉の責任が取れるのかと聞いてるんだ」

 

結衣は青ざめた表情で下を向いている。八幡はすぐに身を直してから元の位置に戻る。雪乃はため息を吐きながら

 

「……なんでこんな話になったのかしら……。由比ヶ浜さん、貴女何か依頼があるから来たのではないのかしら?」

 

「あ、そうだった。あのさ、平塚先生から聞いたんだけど、ここって、生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」

 

「まさか、由比ヶ浜の依頼が一番手になるとはな」

 

「由比ヶ浜さん、ちょっと違うかしら。あくまでも奉仕部は手助けをするだけ。願いが叶うかどうかは貴女次第」

 

雪乃の言葉は、冷たく突き放した感じだった。

 

「どう違うの?」

 

怪訝そうな表情で結衣が問う。八幡も雪乃の言ったことを理解した。あくまでもヒントを与えるだけ、あとは本人次第。八幡がやって来た事とは違う。どっちかと言えば、餌を与え、方法も教える方になるだろう。

 

「飢えた人に魚を与えるか、魚の取り方を教えるかの違いよ。ボランティアとは本来そうした方法論を与えるものであって結果のみを与えるものではないわ。自立を促す、というのが一番近いのかもしれない」

 

雪乃の言ったことは、学校教育のお手本みたいなものである。

 

簡単に言ってしまえば、迷える子羊ための部活、迷ってる生徒がいれば、ヒントを与えて自立を助ける部活ってことになる。

 

「な、なんかすごいねっ!」

 

結衣はほえーっと目から鱗で納得しましたという表情をしている。何の科学的根拠も無いが、結衣みたいな巨乳な女の子は、詐欺まがいなことに騙されるんじゃないかと、八幡は思ってしまった。

 

かたや塗り壁みたいな胸の持ち主で、知名明晰にして怜悧極まる雪乃。相変わらず冷たい微笑みを浮かべていた。




ようやく結衣が出てきました。

結衣だけがおバカな子ですね。八幡と雪乃はトップ争いですから。


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第1章ー第11話ー乙女心とクッキー。

第1章11話です。


ーーー

 

結衣は、勇気を振り絞って言ってきた。

 

「あ、あのあの、あのね、クッキーを…」

 

言いかけて八幡の顔をちらっと見る。八幡もああそうかと思い、廊下へ向かう。

 

「比企谷君、空気が読めるのね」

 

「あのな、俺はこの空気が読めないほどバカじゃねぇよ。何か飲み物でも買ってくるわ」

 

「ごめんなさいね、私は【野菜生活100%いちごヨーグルトミックス】でいいわ」

 

「わかった」

 

八幡はそう言って廊下へ出る。廊下を歩きながら

 

「特別棟の1階には自動販売機はあったはず」

 

廊下を歩きながら何かを思い出していた。

 

「そう言えば、綾音のために病院の自販機に何回往復したかね…」

 

八幡が好きな飲み物、MAXコーヒー、だがもう飲んでいない。綾音が亡くなってから、一度も飲んでいない。いや飲んでいないのではない。飲めなくなったのだ。

 

MAXコーヒーは、八幡と綾音が共に好きだったのだ。

 

だが今の八幡は、飲めない。飲むと胸が苦しくなり、目から涙がこぼれてしまう。

 

だから、甘くないブラックコーヒーか、緑茶を飲んでいる。

 

1階の購買部の横にある自販機の前まで来た。この自販機には、おかしな紙カップに詰まった謎のジュースがある。

 

イチゴおでん

 

ヤシのみサイダー

 

学◯都◯の自販機のヤツかと、八幡はツッコミたくなる。

 

しばらく、自販機に売られている商品を品定めをしていると、突然視界が手の感触共に暗くなり

 

「だーれだ?」

 

「はぁ~、あのな綾香だろ?」

 

「正解、なんでわかったの?」

 

「この学校で俺に目隠ししてくる女子なんて、お前しかいないって」

 

八幡にそんなことをする女子なんか、総武高校内では、皆無だろう。何故綾香がこんな人気の無い特別棟にいるのか疑問であった。

 

「何で、こんな人気の無い特別棟に?」

 

「八幡お兄ちゃんの姿が見えたから、来ただけです。それに元気の無さそうに見えたから」

 

「まあ、俺に元気の無い事が分かる女はお前だけかも」

 

「……それは嬉しいですけど、それでも…」

 

「それでも、何だ?」

 

「八幡お兄ちゃん、大丈夫?まだお姉ちゃんの事を?」

 

「まあな。綾音の事をどうしても思い出してしまう…。好きだったMAXコーヒーも飲めない…」

 

「MAXコーヒー、お姉ちゃんも好きだったな…。八幡お兄ちゃんとの思い出の味って言ってましたし」

 

「そうか、アハハ、アイツらしいな。思い出の味か……」

 

「八幡お兄ちゃん、私がその悲しみを埋めてあげるよ」

 

「馬鹿!そんな生意気言うヤツに育てたつもりはないぞ」

 

「私は…!」

 

八幡は、自販機に500円を入れて、野菜生活、カフェオレを購入し、自分の分のお茶、そして、綾香の分のカフェオレを購入して、渡す。

 

「ほらっ、綾香の好きなカフェオレだ」

 

「あ、ありがとう、八幡お兄ちゃん!って緑茶はお兄ちゃんの分で後の2本、野菜生活とカフェオレって誰の?」

 

「1つは、部活の部員に分、後は依頼者の分だな」

 

「女?」

 

「す、鋭いな。まあ、そうだな」

 

「危険……」

 

「はぁ?危険?馬鹿、そんなことはない。アイツらは、俺の事を嫌っているからな」

 

「じぃ~」

 

八幡は、綾香のそれを見ると、綾音に似ている。やはり姉妹だと思った。ジト目をする反応とか似ているなと。すると綾香を探している人物が現れる。

 

「雪柳さん、こんなとこにいた!」

 

「ごめんなさい、ちょっと喉が渇いて」

 

「そうだったんだ。あ、比企谷君じゃないの。雪柳さんと話したんだ」

 

八幡と綾香に話しかけたのは、吹寄だった。

 

「まあな」

 

「2人ってどんな関係?」

 

「こいび…!」

 

綾香が何を言わんとしてたから、口を塞いで

 

「ただの幼なじみだよ」

 

「ふーん~」

 

「疑われてる?」

 

「別に?」

 

「はちまんおにいちゃん、手をどけて!」

 

「すまん」

 

八幡は綾香の口から手を放す。一方、吹寄は綾香を水泳部に勧誘しているらしい。ただ綾香は、1年生の中で人気があるようで、どの部活も狙ってるらしい。

 

それと、1年生の間では、綾香は男女共に人気がある。だからこその競争なんだろう。

 

「それではいきましょう、雪柳さん」

 

「じゃあ、また後でね、八幡お兄ちゃん!」

 

そう言うと吹寄と綾香は、特別棟から出ていった。

 

「綾香のヤツ、昔は地味目だったけど、1年のアイドル的存在か…」

 

八幡は、立派に育ったと感心しつつ、1年のアイドル的存在には、不安感もある。つまりは、変な男がつかないか不安でもあるが、綾香自身は八幡にしか興味がないからどうなることか。

 

「さてと、俺も戻るとするか」

 

八幡は、奉仕部のある教室へ戻る。

 

 

奉仕部の扉を開けると、雪乃が

 

「遅い、寄り道谷君は、どこを寄り道してたのかしら?」

 

雪乃はそう言って野菜生活をひったくって、ストローを刺すと飲み始める。八幡は貶す事はできても、礼の1つも言えないのかと思った。

 

残った飲み物でカフェオレと緑茶で、カフェオレが誰のものなのか、結衣は気づいて

 

「はい」

 

結衣はそう言ってポシェットみたいな小銭入れから100円玉を取り出す。

 

「別に入らない。俺の奢りだ」

 

八幡は、結衣の100円玉を受け取らず、カフェオレを両手に乗せる。

 

「あ、ありがとう」

 

結衣は小さな声でお礼を言って、嬉しそうにカフェオレを両手で持ってはにかんでいた。

 

八幡は本題に入るために雪乃に話しかける。

 

「ところで、雪ノ下、話は終わったのか?」

 

「ええ、貴方がいないおかけで、スムーズに話が進んだわ。ありがとう」

 

「それは良かったな。で、何をするんだ?」

 

「家庭科室へ行くわ」

 

「あ、そう家庭科室にね」

 

「もちろん、比企谷君も来るのよ」

 

「家庭科室?」

 

八幡は、本日2回目の家庭科室に行かされることに。

 

本日は家庭科室の確率が高いのか。

 

何故だろう?

 

ただ誰も答えてくれるわけはない。

 

八幡は、家庭科室で何をするのか聞いてみる。

 

「家庭科室で何をするんだ?調理実習でもやるのか?」

 

「調理実習じゃないわ。クッキーを焼くのよ」

 

「クッキーか…。まあ妥当かな」

 

「由比ヶ浜さんは、手作りクッキーを食べてほしい人がいるのそうよ。でも、自信がないから手伝って欲しい、というのが彼女のお願いよ」

 

「なるほどな」

 

「う……、そ、それはその……、あんまり知られたくないし、こういうことしての知られたら多分馬鹿にされるし、こういうマジっぽい雰囲気、友達とは合わない、から」

 

由比ヶ浜は、視線を泳がしながら答えた。ふっ、と小さくため息をついてしまった。

 

八幡は、結衣がどこの男子にクッキーをプレゼントしたい。だが内輪の連中には知られたくはない。

 

「つまり、お前は、その相手の為にクッキーを作りたいんだな?」

 

「うん」

 

「まあ、男子ってもんは女子から貰うものは、嬉しいものさ」

 

「本当に?」

 

「ああ…」

 

結衣は、パッと笑顔になった。

 

「俺達は、由比ヶ浜を手伝うって形でいいんだよな?」

 

「ええ、そうよ。私達はあくまでも手助けをするだけだから」

 

「ああ」

 

八幡、雪乃、結衣の3人はクッキーを作るため家庭科室へ向かった。




今回はクッキー作りですね。

綾香は、1年生の中でいろはと二大美少女と格付けていきますね。


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第1章ー第12話ー由比ヶ浜の腕前は?

第1章12話です。


ーー奉仕部→家庭科室

 

八幡達は、家庭科室へ到着するとすぐに室内へ入る。

 

八幡自身は苦笑いするしかなかった。

 

「本日2回目の家庭科室だ…」

 

八幡はそう言って家庭科室へ入る。雪乃と結衣も続けて入り、クッキーを作るために準備を開始する。

 

 

そしていつしかバニラエッセンスの甘い匂いに包まれた家庭科室。

 

だが結衣は、まともに料理をしたことがないことが露呈する。

 

まず、エプロンすら着れなかった。

 

雪乃は、八幡を舌打ちをした。おそらく八幡も料理をしたこともないと思っていたのだろう。綺麗にエプロンを着こなしていたわけだから、文句を言えなかった。

 

「まだ着れないの?あの男はさっさと着てるのに貴女は着れないのかしら?もう、私が結んであげるから、こっちに来なさい」

 

呆れた表情で雪乃は、ちょいちょいと結衣を手招きする。

 

「い、いいのかな?」

 

「いいから、やってもらえ」

 

「早く!」

 

雪乃と結衣のそんな姿を見て、昔の事を思い出す。

 

八幡と綾音が、お菓子作りをしていた時に小町と綾香が自分達も手伝いたいと言い出したことがあった。

 

小町と綾香が、今の結衣のようなことをしていた。

 

小町のエプロンを綾音が、綾香のエプロンを八幡がちゃんと着せていた。

 

そんな風景が八幡の脳裏に浮かんでいた。

 

「なんか、雪ノ下さん、お姉ちゃんみたいだね」

 

「私の妹がこんなに出来が悪いわけがないけれどね」

 

ため息を吐いて憮然とした表情の雪乃だが、案外と結衣の例えは間違ってはいないだろう。これはこれでありだと八幡は思った。

 

すると結衣が八幡に話しかける。

 

「あ、あのさ、ヒッキー…」

 

「なんだ?」

 

「か、家庭的な女の子ってどう思う?」

 

「家庭的な女の子か。まあ男子にとっては、惹かれる魅力の1つだろうな」

 

「それは、ヒッキーも?」

 

「まあな。まあ俺の場合は、女の子だけにはさせないがな」

 

「…そっか……。だから委員長達は、ヒッキーの見方が変わったんだ…」

 

結衣は、後半の言葉は小さく聞こえないように言った。

 

「…?」

 

「よし!やるぞ!」

 

結衣は気合いを入れて、ブラウスの袖をまくり、卵を割りって、かき混ぜる。小麦粉を入れ、さらに砂糖、バター、バニラエッセンスなどの材料を入れる。

 

だが八幡は、結衣のやって事は、はっきり言えば、食材達が泣いている。それだけ酷いのだ。気合いを入れたが、はっきり空回りしている。

 

まず溶き卵、殻が入っている。

 

続いて小麦粉、ダマになっている。

 

更にバター、固体のまま。

 

砂糖は塩にすり替わっている。

 

バニラエッセンスは、とぼとぼと入っている。

 

牛乳は、タプタプしている。

 

雪乃は、顔を真っ青にして額を押さえている。八幡も真っ青状態だ。

 

八幡の心の中で、小町、綾香以下の料理スキルだと刻まれた。

 

結衣はそれでも気も止めず、次はインスタントコーヒーを取り出した。

 

八幡と雪乃は、言葉を失いなんと声を掛ければ良いのかわからなかった。

 

結衣がやってるのは、すでにクッキーを作ってるのか、何かの科学実験をしてるのかわからなくなっている。

 

八幡は、ここまで料理センスがない女子は初めて見た。今まで女子にも料理を教えてきたが、結衣ほどの独創的は女子は初めて見たのだ。

 

出来上がったクッキー?は、真っ黒なホットケーキみたいなものがあった。匂いからしてヤバイものなのは、八幡も雪乃も本能的に感じ取った。

 

「な、なんで?」

 

結衣が愕然とした表情で、物体Xを見つめている。

 

「はぁ~理解できないわ。どうやったらあれだけミスを重ねる事が出来るのかしら」

 

「……ああ、同じく同感だぜ」

 

八幡と雪乃は、結衣に聞こえないように言った。結衣は物体Xを皿に盛り付ける。

 

「み、見た目はアレだけど、食べてみないとわからないよね!」

 

「そうね、ちょっど味見してくれる人もいることだし」

 

「それって、俺の事か?」

 

「貴方、以外いないでしょ?」

 

八幡は、目の前の物体Xを見る。小町や綾香、緑子、七海の失敗したヤツを思い出す。

 

その時も小町や綾香、緑子、七海の失敗した物体を悲しませないように食べた事がある。

 

その後、腹を下して大変だった。

 

母親から言われた事を思い出す。

 

【女の子に恥をかかすな】

 

「…くっ…さて食べるとするか…」

 

震える手で、物体Xが乗ってる皿を引き寄せる。結衣を見ると、期待と不安が混じってる表情をしている。

 

「比企谷君、貴方だけに試食をお願いしたわけで、処理をお願いしたわけではないもの。それに、彼女のお願いを受けたのは私よ?責任くらいとるわ」

 

「いや、何だかんだで協力したわけだしな」

 

「何が問題なのか把握しなければ、正しい対処は出来ないのだし、知るためには、危険を冒すのも致し方がないのよ」

 

八幡と雪乃が見る物体Xは、鉄鉱石と言ってもおかしくないぐらい、黒々している。そして2人は、物体Xの一部をつまみ上げる。

 

「む、無理はしなくていいぞ、雪ノ下?」

 

「比企谷君こそ、無理をしなくても構わないわよ?」

 

「…別に無理をしてないぞ。雪ノ下こそ涙目じゃないか?」

 

そんな押し問答をしばらく続けて、八幡と雪乃は、物体Xを口に放り込んだ。

 

八幡と雪乃は、頭の上に星マークが出ることになった。



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第1章ー第13話ー八幡対結衣。①

第1章13話です。


ーー

 

八幡と雪乃は、何とか食べきることが出来た。

 

最後は、己の本能との戦いだっただろう。

 

いっそ、漫画のように倒れたいと思ったほどのものだったのだ。

 

「………ケホケホ…苦いよ、不味いよ~」

 

涙を流しながらボリボリと音を立てながら齧る結衣。雪乃がすぐさまティーカップを渡した。

 

「なるべく噛まずに流し込んでしまった方がいいわ。舌には触れないように気をつけて。劇薬みたいなものだから」

 

八幡は、もう少しオブラートに包めよ、と思いつつ、実際はそんなものだと思っていた。

 

こぽこぽとケトルからお湯を注ぎ、雪乃が紅茶を淹れてくれた。

 

それぞれのノルマは達成して、紅茶で口直しをやる。ようやくひと心地ついてため息が漏れた。

 

何か一戦交えてきたような疲れが、ずんっと出てきた。何とも言えない気持ちだけが、八幡と雪乃を支配している。その弛緩した空気を引き締めるように雪乃が口を開いた。

 

「さて、じゃあどうすればより良くなるか考えましょう」

 

「練習あるのみだと思うが?」

 

「まあ、それが一番だろうけれど」

 

「何でもそうだろ?練習して、練習して上手くなるものだろ?努力して上手くなるしか解決策は思い付かん」

 

「そうね、それしかないでしょうね。由比ヶ浜さん、貴女、さっき才能が無いって言ったわね?」

 

「え、あ、うん」

 

「その認識を改めなさい。最低限度の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格は無いわ。成功できない人間は、成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ」

 

由比ヶ浜は言葉に詰まる。ここまで直接的にぶつかれた経験は無いだろう。その顔には戸惑いと恐怖がある。それをごまかすために結衣のへらっ笑顔を作った。

 

「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。やっぱりこういうの合ってないんだよ、きっと」

 

へへっと結衣のはにかみ笑いが消えそうになったとき、カタッとカップが置かれる音がした。

 

 

それはとても物静かで小さな音でしかないのに、透き通った氷のような音色だった。有無を言わず音の主へと視線が引き寄せる。そこには冴え冴えとした怜悧な雰囲気を放つ、雪乃。

 

「……その周囲に合わせようとするのやめてもらえるかしら?ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

 

雪乃は、鋭い口調で結衣に言った。ハッキリと嫌悪感が出ていて、八幡も軽くびびった。

 

「………」

 

結衣は、雪乃の迫力に押されて黙り込む。俯いて表情は上手く読み取れないが、スカートの裾をぎゅっと握りしめる手が彼女の心を表していた。

 

結衣は、コミュニケーション能力が高い方だろう。クラスのカースト最上位のグループ、葉山グループに所属してる。

 

しかし逆を言ってしまえば、人に迎合することがうまい。つまり孤独というリスクをさけるってことだろう。自己を貫く勇気はないと言うことにもなる。

 

一方で雪乃は、それこそ我が道を行くタイプ。その突破力は証明されている。1人であることを誇りに思っている。

 

雪乃と結衣は、全く違うタイプの女の子なのだから。

 

パワーバランスで言えば、雪乃が強い。当たり前だが。結衣の目が潤っていた。

 

「か、……」

 

「かっこいい…」

 

「え…?」

 

「は?」

 

八幡と雪乃は、一瞬頭が点になった。一体何を言ってるのかわからなかった。

 

「建前とか全然言わないんだ…。何て言うのかかっこいい…」

 

「な、何を言ってるのかしら……?話聞いてた?私、これでも結構きついことを言ったつもりだったのだけれど」

 

「ううん!そんなことない。あ、いや確かに言葉は酷かったし、ぶっちゃけ引いたけど……でも、本音って感じがするの。ヒッキーと話しているときも、酷いことばかり言い合ってるけど、ちゃんと話している。あたし、人に合わせてばっかだったから、こういうの初めてで……」

 

「なるほどな」

 

八幡は、そう言った。過去にそんなヤツがいたなと頭に浮かんだ。結衣は真剣な表情で

 

「ごめん、次はちゃんとやる」

 

謝ってから真っ直ぐに雪乃を見つめ返す。予想外の事態に雪乃は声を失った。

 

八幡もそんな経験がある。1年後輩の完二だ。彼とは色々あったが、その結果完二に好かれるようになった。

 

【八幡センパイから、頂いた恩は、一生忘れません】

 

【八幡センパイの背中はオレが守るッス】

 

そんな事を考えていたら、雪乃と結衣はもう一度作ることを決めた。

 

雪乃が手本を見せるために、クッキーを作り出す。

 

八幡は、雪乃がちゃんと教科書通りにやってることがわかる。

 

彼も母親や教科書を見ながらクッキーの作り方を覚えてた口だ。

 

その後クッキーは出来上り、3人で雪乃の作ったクッキーを食べる。

 

結衣が作ったクッキーと比べるのもおかしいが、クッキーとはこういうものであると感じだろう。

 

結衣が、雪乃のように作れるのか、不安のようだが、彼女はマニュアルとおりにやれば、上手くできると言った。

 

そうして結衣は、リベンジをすることに。

 

だが、クッキーの出来は、先程よりかはマシにはなっている。

 

だが、雪乃も結衣も肩を落としている。

 

雪乃の教えは、できる側の人間の解釈。出来ない人間の事をわかってやるわけではない。

 

「なんで、上手くいかないのかな?言われたとおりにやっているのに」

 

結衣は最初から美味いクッキーを作ろうとしている。そこが間違いなのだ。

 

やったこともない人間が、いきなり美味いクッキーを作れるほど甘くはない。

 

「由比ヶ浜、お前はバカか?」

 

「バ、バカ!?ヒッキーに言われたくないし!」

 

「まあ、聞けよ。なんでお前は、いきなり美味いクッキーを作ろうと思ってる?」

 

「不味いクッキーよりも、美味いクッキーの方が貰う方が良いでしょ?」

 

八幡は、はぁ~とため息を吐く。

 

「お前は、男心がわかってない」

 

「し、仕方がないでしょ!付き合ったことなんてないんだから!そ、そりゃ友達には、つ、付き合ってる子とか結構いるけど……そう子達に合わせていたらこうなってたし」

 

「別に由比ヶ浜さんの下半身事情はどうでもいいのだけど、結局、比企谷君は何が言いたいの?」

 

「今度は俺がやる。雪ノ下と由比ヶ浜に俺流のクッキーを食べさせてやる。10分時間をくれ」

 

「何ですって!!!…。上等じゃない。楽しみにしてるわ!」

 

結衣は、自分のクッキーを否定された感じになったんだろう。彼女は、雪乃を連れて出ていく。

 

「さてと…始めるとするか…。八幡キッチンを…」




葉山と三浦のテニスコートをかけての戦いはどうしようかな。

原作とおりに、八幡の相手は、結衣→雪乃になるのか。

それとも、騒ぎを聞き付けて、綾香の参戦。


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第1章ー第14話ー八幡対結衣。② 勝負の行方。

第1章ー14話です。


ーー家庭科室。

 

八幡は、結衣が作ったクッキーが載った皿を持って来る。

 

「由比ヶ浜、いきなり上手く作る必要はないんだ。男子ってのは、自分のために作ってくれる女子の手料理ってのは嬉しいんだよ。それが美味いだろうが、不味いだろうがな」

 

時間が無い八幡は、急いでクッキー作りを開始する。

 

 

10分が経過し雪乃と結衣が入ってくる。

 

「10分しかないから、急いで作ったから、不恰好なヤツもあるかもな」

 

雪乃と結衣は、とある皿にクッキーが載っている。八幡の作ったクッキーからは、美味しそうな匂いが漂ってくる。結衣が驚いて

 

「これって、本当にヒッキーが作ったの?」

 

「当たり前だ!他に誰かいたか?」

 

「比企谷君、嘘はいけないわ」

 

「…あのな、俺の他に誰がいるんだ?」

 

雪乃と結衣は、互いに見合ってから、クッキーをつまみ、口に入れる。

 

2人は言葉を失う。旨くて声が出ないのだ。どうことみたいな表情で食べている。

 

そして、皿をあったクッキーを全て平らげてしまう。

 

「どうだ?旨かっただろ?」

 

「ええ、何故貴方にこんなクッキーを作れるのかわからないわね」

 

「素直に旨かったとしか言えない」

 

八幡は、クッキー10個のうち5個が結衣の作ったクッキーの改良版である。後の5個は八幡が作ったものである。その事を結衣に伝える。すると彼女は、間抜けた声を上げる。目も点になり口を大きく開いている。

 

「え?え?」

 

「結衣は、目をぱちくりさせながら、八幡と雪乃を交互に見つめる。何が起こったのかさっぱり把握できていないようだ。

 

「比企谷君、よくわからないのだけど。今の茶番になんの意味があったのかしら?」

 

雪乃が怪訝そうな表情で八幡を見ている。

 

「要するに愛情ってヤツだよ。愛情は、料理する上に必要なんだけどな。それにお前達は、ハードルを上げすぎた。男ってのは馬鹿だからな。女の子が、自分のために手作りクッキーを作ってくれた、それだけでも、舞い上がるものだ。美味い方が良いと思うが、不器用にカッコ悪いクッキーの方が男はときめくな」

 

「悪い方が良いの?」

 

「そうだな」

 

八幡は、中学時代のクラスメイト達のことを思い出していた。

 

誰と誰が付き合うとか、別れたとかの話をしていたことを思い出していた。

 

八幡が綾音と付き合うことになった時、クラスの男子達が、祝杯を上げてくれた。

 

あの頃は、今のようにクラスの陰キャボッチではなく、クラスの中心でもあった。

 

そう今の葉山のポジションであった。

 

八幡は、昔の記憶から導き出した答えは…。

 

「つまり、男心を揺らせればいい。貴方のために一生懸命に作りましたって感があった方が好感度は上がる」

 

「ヒッキーも揺れるの?」

 

「………俺は…………まあ、俺も頑張りは認めるし…揺れるのかもな……」

 

綾音も最初は下手な料理を作って来た。八幡は、悶絶しながらも食べ続けていた。でも八幡のアドバイスでめきめきと料理の腕を上げていったのだ。結衣は何やらニヤニヤしながら帰り支度をしている。

 

「うん?もう帰るのか?」

 

八幡の問いに結衣は、鞄を持って教室のドアの前に立つ。そんな彼女に雪乃は、

 

「由比ヶ浜さん、依頼はどうするの?」

 

「あれは、もういいや!今度は自分のやり方でやってみる。ありがとうね、雪ノ下さん」

 

雪乃にそう言った結衣は笑っていた。

 

「また明日ね、ばいばい」

 

手を振って今度こそ帰って行った。

 

「……本当に良かったのかしら?」

 

雪乃がドアの方を見つめたまま呟きを漏らす。

 

「私は自分を高められるなら限界まで挑戦するべきだと思うの。それが最終的には、由比ヶ浜さんのためになるから」

 

「まあ、その通りだな」

 

八幡も綾音にふさわしい男になるため、努力をやって来た。己の限界を目指してやって来たのだ。

 

全ては綾音のためにと、一生懸命努力をしたのだから。

 

だが、努力が必ずしも報われる訳ではない。

 

報われるのは、ほんの一部の人間だけ。

 

八幡は、自分の努力が報われたのは、綾音のおかげだと思っている。

 

「世の中って不条理だよな…」

 

「そうね」

 

かくして、由比ヶ浜結衣の依頼の件は終わりを迎えた。

 



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第1章ー第15話ー綾香の居候。

第1章ー15話です。


ーー

 

「比企谷君、戸締まりよろしく」

 

「ああ」

 

雪乃はそう言うと、奉仕部の教室から出ていった。

 

「雪ノ下は、相変わらずだな…」

 

それでも少しずつ変わってきてると思う八幡。

 

ほんの少し。

 

ほんのちょっと。

 

それでも歩み出したことには変わらない。

 

八幡と雪乃の奉仕部の始まりでもあった。

 

 

 

ーーー

 

八幡は、自転車で自宅に帰って来ると、玄関には、何故か制服にエプロンをつけた綾香がいた。それも昭和の奥さんが夫を出迎えた格好で

 

「八幡お兄ちゃん、お帰りなさい」

 

「ち、ちょ…俺…無意識に雪柳家に?」

 

八幡は、家の表札を改めて確かめる。

 

しかし

 

表札には【比企谷】と明記されている。

 

「俺の家だ…じゃなくてなんで綾香がうちにいるんだ?」

 

すると小町が玄関の方に首を出して

 

「お兄ちゃん、綾香、しばらく小町達と住むことになったよ」

 

「はぁ?それはどういう意味だ?」

 

「綾香のお父さんのお仕事の関係で、関西に行かなくてはならなくなったから、お母さんもついていくって」

 

「おじさんとおばさんが、関西に…。綾香も行くんじゃ?」

 

「八幡、リビングまで来てね、みんなで話すから」

 

「八幡お兄ちゃん、全てを話すから、まずは手を洗ってね」

 

八幡の母親と綾香は、リビングの方へ行く。1人取り残された八幡は

 

「…一体どういうこと?」

 

八幡は言われたとおりに手を洗ってからリビングに行く。するとそこには、父親、母親、小町、綾香の4人が既に座っている。

 

「オレから話す。八幡、綾香さんを家で預かることになった。雪柳さん夫妻は、仕事の関係で関西に転勤となったんだ。綾香さんは、ここから離れたくないと言ったみたいだ。雪柳さん達も綾香さんの気持ちも考えて、家で預かってもらえないかと頼まれたんだ」

 

「それで引き受けたと?」

 

「そうだ」

 

「綾香は両親と行きたくなかったのか?」

 

「もちろん行きたい気持ちもあったよ。でも八幡お兄ちゃん、小町から離れたくなかった…お姉ちゃんの思い出が沢山あるここから離れたくなかった」

 

綾香はポロポロと涙を流し始めた。そんな姿を見て、八幡も小町も涙が自然と出てくる。

 

「綾香…!小町も離れたくないよ~」

 

「小町…」

 

八幡は、小町と綾香の頭を撫でた。昔から2人が泣き出したりすると、八幡がよく頭を撫でていたのだ。

 

学校で奉仕部で、雪乃や結衣によって疲れ果てた身体だが、綾香や小町の事を考えれば、疲れなんか関係なかった。2人とも嬉しそうにしている。

 

「八幡、綾香さんを頼むぞ」

 

「八幡、綾香さんを頼むわね。私達にとっても娘みたいなものだからね」

 

八幡は、綾香の事を任された。綾音と綾香の両親は、八幡の事を実の息子のように接してくれていた。綾音が亡くなった後も普通に接してくれていたのだ。だから綾香の事を任されたのだ。

 

「おじさんとおばさんが言うのなら、仕方がない」

 

「ありがとう、八幡お兄ちゃん!」

 

綾香は八幡にくっついた。

 

「全く、お前は昔から変わらないな~」

 

「変わったよ、ちゃんと成長したから」

 

「綾香、お兄ちゃんは、小町だって大好きだよ!1人で取らないで!」

 

そんな光景を見て、両親は微笑ましく笑ってるだけだ。八幡も嫌ではないから、なすがままになっていた。

 

そして、母親と綾香が作った夜ご飯を食べた後、自室に戻った八幡は、雅史、緑子、七海のグループチャットでその事を話していた。

 

【そうか、おじさんとおばさんが、関西にな。俺のお袋も事前に知ってたみたいだ】

 

【ああ、俺の両親もそんな感じだった。本当は、春前に転勤の事はわかってたみたいだが、綾香が総武高校に受験するって、言い張ったみたい】

 

【綾香ちゃん、八幡の力になりたいって言ってたからな】

 

【それは、小町からも両親に聞いた。って緑子も七海も会話に入ってこないな?】

 

【……綾香ちゃん、八幡の家に居候するってことだよね?】

 

【どうなのかな、八幡?】

 

八幡は、緑子と七海からの嫉妬染みた言葉に引きながらも

 

【あ、綾香は妹、小町と一緒で妹的存在だ!】

 

【綾音の妹であって、八幡の妹じゃないでしょ?八幡は妹と思っていても、綾香ちゃんはそう思ってないから!私だって!】

 

【緑子、お前…そんな積極的だったか?】

 

【 緑子も私も綾音の手前、自分の気持ちを押さえていたの。でも…綾香ちゃんが、その均衡を破った…だから】

 

【七海?雅史…なんとかしてくれ!】

 

【俺にはどうすることも。2人とも八幡を好きだからね。綾香ちゃんに取られたくないんだよ】

 

【だから、俺は誰とも付き合わないって!】

 

【はぁ~八幡、今年こそ歩み出してくれると思ってるぞ!】

 

八幡は雅史が今年を強調したのは、今年は綾音が亡くなって2年、3回忌の年である。

 

だから12月の3回忌までに、彼女を作れという雅史なりの思いやりだ。八幡がいつまでも綾音の事を引きずっていれば、彼女も安らかに眠れないって言われたこともある。

 

【明日にも、総武高校前で待ってようかな?】

 

【緑子さん、やめて!総武高校が混乱しちゃうから】

 

【私も総武高校に突撃しちゃおうかしら】

 

【七海さんもやめて!同じく総武高校が大変なことになるから!】

 

緑子は、海浜の水泳部のエース、七海は、テニス部のエース。千葉県内でも注目されている。もちろん雅史もサッカー部のエース。そんな2人が総武高校に来たら、大変なことになる。

 

八幡はこのあと、緑子と七海を宥めてグループチャットは終わった。小町から、お風呂に入ってよし、と号令が出たから

 

「さてと、風呂に入って寝るか」

 

今日は色々あって、風呂から上がってきたらそのまま寝落ちしそうと八幡は思った。

 

八幡は、着替え等を持って風呂場へ。

 

八幡は着替えたのを洗濯機で洗うために、自分のヤツを色物に分けていると、小町と綾香の洗濯物が別にされていて、なんか目に入るようなところに置かれている。

 

「はぁ~、小町の下着とか見てもなんにも思わんし、綾香のヤツも何も思わんだろ!」

 

綾香の下着が何故か、隠しもせず堂々と一番上にある。青とピンクの下着である。

 

「綾香のヤツ…恥じらいを持ってほしい…」

 

そして八幡は風呂に入った。そして湯船に浸かりながら

 

「ふぅ…緑子も七海もそして綾香も…綾音の手前…身を引いていた…。でもその綾音はいない…だから……。でも俺はどうする?彼女達の思いを受け入れる事ができるのか?」

 

わからない、彼女達の思いを受け入れる事が本当にできるのか、彼にはわからない。

 

八幡の心から綾音に対する気持ちが消える訳がない。無くなるわけがない。

 

綾音の気持ちを抱いたまま、他の女の子を好きになって思うことが、できるのか。

 

その人を愛せるのか、わからない。

 

「…綾音、俺はどうしたらいい?」

 

その問いに誰も答えてくれるものはいない。

 

ただ静寂の時間だけが過ぎていく。

 

だが八幡の周りは、止まっていた時間が動き出す。

 

綾香が八幡の自宅に居候というイベントが、静寂だった時を動かすことに。




綾音の死後、八幡を思ってた人間は、抜けがけをしないという同盟を結んだが、綾香の居候で同盟は崩れた。

それは、総武高校の隠れ八幡ファンにも変化と動きを与えるように。男子も女子も。


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第1章ー第16話ー葉山グループ。

第1章16話です。今日は昼投稿です。


ーーー

 

綾香が比企谷家に居候し始めて1週間が過ぎた。

 

最初は戸惑う事もあったが、徐々に慣れていった。それだけではなく、結衣がクッキーの件の翌日に、彼女は八幡にお礼を持ってきた。

 

学校でも陽介と完二が、休み時間に八幡のクラス、2ーF組に来るようになった。

 

昼御飯も今までなら1人ボッチ飯を食べてたが、今では陽介と完二の3人で食べている。もちろん八幡のお気に入りの場所で。それは特別棟の非常階段の中間にある踊り場みたいな場所である。

 

最初、2ーF組のクラスメイトは、八幡に親しく話す陽介、完二を不思議そうに見ていた。クラスメイトは、八幡とほとんど話したことがない。

 

陽介と完二は、葉山と戸部とは話している。サッカー部の部員同士ってのはあるが。葉山や戸部が陽介達に話を八幡の話をしているようには見えなかった。

 

ただ、葉山がたまに八幡を見ていることがあるが、八幡は気にも止めていないし、興味がないからである。

 

実際に中学1年生の時、八幡や雅史達の総武中学と葉山が通っていた総武東と夏の大会で、決勝で戦っている。

 

スコアは、【総武中】3ー1【総武東中】

 

得点→八幡1、雅史2、

 

彼らは、1年生でレギュラーを張っていて、八幡も雅史も将来の総武のWエースと言われていた実力だったのだ。葉山も1年生として、途中から出場して八幡達と対戦している。

 

その時、葉山は八幡や雅史とはレベルが違うと痛感した。

 

八幡を中心に総武中学のサッカーはなっている。

 

いつしか総武中の指し手の八幡、雅史は、総武中の虎と呼ばれるようになる。

 

全国大会では、3位であった。

 

それから葉山は、打倒総武中学、打倒八幡、雅史を掲げてきた。

 

だが中2年の夏の大会には、総武中学に八幡の名前は無かった。

 

風の噂で、八幡はサッカー部を辞めたと流れてきた。

 

総武中学の人間の噂話も葉山は聞いた。八幡がサッカー部を辞めた理由もそれで聞いたのだ。

 

【八幡は、病魔に犯された大事な幼なじみの為に、大好きなサッカーを辞めて、看病に専任している】と。

 

 

葉山は真相を確かめたくて、一度総武中学の付近に行った事がある。

 

そして彼女を献身して支えてる八幡を見たのだ。

 

そして葉山は考えた。自分も大切な人間が病魔に犯されて、大事なサッカーが辞めれるのか?と。

 

あんな風に献身的に支えられるのか。

 

あんな風に笑顔でいられるのか。

 

葉山はわからなかった。

 

葉山は、八幡の事を頭の片隅に置いて、サッカーに情熱を注いだ。

 

中学時代には、結局雅史達には勝てなかった。

 

葉山は、総武高校に入学し、高校でもサッカー部に入った。1年からレギュラーを取り、次期エースの名乗りを上げた。

 

高1年の夏は、雅史率いる海浜と対戦する前に総武高校は敗北。千葉県代表として、海浜が出場している。

 

高校2年になると、同じクラスに比企谷八幡がいたのだ。だが中学時代の八幡の雰囲気ではなかったから、別人だと思ったが、本人だった。転入してきた花村陽介、1年の巽完二が入った。

 

葉山は、本気で国立を目指す事を考えている。

 

【もし、サッカー部に比企谷が入ってくれれば…】

 

葉山は、そんな風に八幡を見ていた。

 

 

そんな、雨のが降っている日の4時間目の後、昼休みの時間なったが、昼御飯を食べに例の場所には、行かない。

 

当たり前だろう、八幡も濡れながら食べる趣味はない。仕方ないので教室で食べることに。陽介は、クラスの連中と食べると連絡があったし、完二は昼休み中に何かを完成させなければならないようだ。

 

久しぶりの1人メシを楽しむことにする八幡。厳密に言えば、聞いただから1人メシではないが。

 

だが後ろの葉山グループがうるさい。前にも説明をしたが、結衣もこのグループ。

 

「いやー今日は無理そうかな。部活があるから」

 

「別に1日くらいよくない?今日ね、とある店が安いんだよ。あーし、チョコとショコラのタブルが食べたい」

 

「それどっちもチョコじゃん」

 

「えぇー。ぜんぜん違うし。超お腹減ったし」

 

今答えたのが、葉山の相方の三浦優美子。金髪縦ロールに肩まで見える勢いで、着崩した制服。スカートも標準よりもかなり短い。三浦の顔立ちは綺麗で整っている。

 

八幡は、葉山と三浦は付き合ってるかと思っていたが、そうでもないようだ。三浦は葉山に好意があるようだが、葉山がその気がないように見える。

 

「悪いけど、今日はパスな。サッカー部の仲間達も必死に練習してるんだ」

 

葉山が仕切り直しにそう言った。三浦はきょとんとしている。すると傍らの金髪こと、戸部が髪を掻き上げ、声高く宣言をした。

 

「俺ら、今年はマジで国立狙ってるから打倒、海浜って」

 

国立、八幡にとっても馴染みの単語である。彼も一度は、仲間と共に目指した事もある。もちろん雅史達は、国立に立ってる。

 

八幡がサッカーの事を思い出していたら、三浦と結衣が何か言っていた。

 

「それじゃあ、わかんないから。言いたい事があんならはっきり言いなさいよ。あーしら、友達じゃん。そういうさー、隠し事?とかよくなくない?」

 

結衣はしゅんと俯いてしまう。三浦が言ってることは、字面こそ美しいが、その実、仲間意識の強要でしかない。友達だから、仲間だから、だから何でも言ってもいいし、何もしてもいい。三浦はそう言っている。

 

そして、その言葉の裏には

 

【それが出来ないなら仲間ではない。したがって敵である】

 

という意図が隠然と込められている。こんなのは胸糞悪いだけ。

 

八幡は、昔、綾音がそうやってイジメられたことを思い出す。

 

異端審問、魔女裁判みたいなのは許せない、拳を静かに握る。結衣は、ただ謝るだけ。だか三浦は攻勢をかけてくる。

 

「だーかーらー、ごめんじゃなくて。何か言いたい事があるんでしょ?」

 

八幡は机をバシッと叩くと結衣の前に立った。

 

「はぁ~何なの、アンタ?」

 

「さっきから聞いてるけど、由比ヶ浜が怯えてるの分かんないのか!」

 

「ヒッキー……」

 

「アンタに関係ないしょ?あーしらの問題に口を出さないでくれない?」

 

「俺は、昔からお前みたいな、クラスのボスザルみたいなのは、嫌いなんだよ!」

 

「ぼ、ボスザル……陰キャのぼっちの分際で、あーしらに口を出すなし!」

 

八幡と三浦が言い合っていると葉山が中に入ってきた。

 

「優美子!それぐらいにしろ。お前の発言が酷いだろ!」

 

「隼人、でも…」

 

「比企谷、済まない」

 

「謝るなら、由比ヶ浜に謝りな」

 

八幡はそう言って自分の机に座る。葉山は三浦を連れて、どこかに出る。葉山の取り巻きは、葉山と三浦について行った。結衣は八幡のところへ来る。

 

「ヒッキー…あ、あの…ありがとう」

 

「別にお前の為にやったわけじゃない。ああ言うのが嫌いなだけだ。それにお前、どこかに行くのじゃないのか?」

 

「あ、うん、ゆきのんと待ち合わせてるんだった。それじゃあね、ヒッキー」

 

結衣は、そう言うと教室から出ていった。

 

クラスにやっと平穏が戻り、八幡も綾香が作った弁当を食べることにした。




この話の葉山は、八幡の事をヒキガヤとちゃんと呼びます。


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第1章ー第17話ー綾香の決意と奉仕部に次なる依頼主。

第1章ー17話です。


ーー

 

あの後、結衣と三浦は和解した。葉山や周りの人間達が説得したようだ。

 

三浦は、結衣に本当の事を言って欲しかったようだ。

 

こうして、昼休みは過ぎていった。

 

 

その日の奉仕部には、結衣の姿があった。彼女は暇だからここにいると言った。

 

そしてこの日の奉仕部は、なぜたが千葉県クイズをして過ごした。

 

 

そして翌日、八幡は、綾香と昼休みに話していた。もちろん彼の好きな非常階段のとある場所で。

 

「で、話とはなんだ?家で言えば良いじゃないか?」

 

「家じゃ嫌。誰にも聞かれたくないから」

 

「聞かれたくないって……。話してみろ」

 

「あのね、八幡お兄ちゃん、私、2年の田中先輩に告白されたの」

 

「告白!?ふーん、まあ、お前人気があるからな」

 

八幡は別に驚きはない。いつかはそんな日が来るとは思っていたが、ついに来たかくらいな感じである。兄として妹を取られたくはない気持ちもあるが。2年の田中先輩こと、田中智春は、野球部の次期エースであり、クラスは2ーD組である。女子にも人気がある。

 

「返事はどうした?」

 

「すぐに断ったの」

 

「即答…かよ…可哀想なヤツだな」

 

「だって、私は八幡お兄ちゃんを思ってるの…昔からずっと」

 

「綾香…」

 

綾香は苦笑いをしながら八幡を見ている。そんな表情を見ていると、彼は胸が痛い。

 

「八幡お兄ちゃんの心の中には、綾音お姉ちゃんがいる。だけど私はもう綾音お姉ちゃんには負けない。八幡お兄ちゃんを絶対綾音お姉ちゃんから、私に振り向かせて見せるから!」

 

綾香はそう言い張った。姉綾音に対する宣戦布告である。綾香の表情には、昔の弱々しかった時の感じはない。1人の女性の表情である。

 

「綾香…お前…」

 

「綾音お姉ちゃんだけじゃない、緑子さん、七海さんにも負けない!」

 

そう言って、綾香は八幡に背を向ける。そんな時、強風が吹き彼女のスカートが巻き上げられる。綾香は慌ててスカートを押さえる。そして

 

「八幡お兄ちゃん、見た?」

 

「う、うん…」

 

「今日の履いてるパンツは、安物だから見られたくなかったな~今度は八幡お兄ちゃんの好みのヤツを…」

 

「綾香、そう言うことはいいから」

 

「楽しみにね~」

 

綾香はそう言うと、非常階段から校舎の中に入って行った。

 

「全く生意気な…。安物の白ね…」

 

しばらく海の方から吹く潮風を浴びていた。

 

午後の授業は、綾香の言葉が頭の中を駆け巡っていた。八幡は頭を振り、邪念を払い、授業に集中することした。

 

 

 

そして放課後になり、一息をついてから奉仕部のある教室に向かうと雪乃と結衣が、教室の扉の前で立ち尽くしている。

 

八幡は何をしてるのかと思いながらちょっと様子を見ながら近づく。すると教室の扉を少し開けて中を覗いている。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、何してんの?」

 

「ひゃうっ!」

 

可愛らしい悲鳴と同時にびくびくびくぅっ!と2人の身体が跳ねる。

 

「比企谷君……。びっくりした」

 

「悪い、びっくりさせるつもりじゃなかったんだがな…と言うか何で、部室に入らないんだ?」

 

「部室に不審人物がいんの!」

 

「不審人物…!?」

 

学校に不審人物がいることは、あり得ないことではない。八幡は、握り拳を作りながら、中に入ろうとする。

 

「俺が中の様子を見てくる。雪ノ下と由比ヶ浜はここで待ってろ」

 

八幡は、扉を慎重に開けてから中に入る。中に入った途端、吹き抜ける潮風。この海辺に立つ学校特有の風向きで教室内のプリントを撒き散らす。それはちょうど手品でマジシャンが使うシルクハットから幾羽もの白い鳩が飛び交う様子に似ていた。その白い世界の中に1人、佇む男がいる。

 

「クククッ、まさかこんなところで、出会うとは驚きだぞ、総武中の伝説の色男、比企谷八幡よ!」

 

葉山隼人に次いで、再び過去の八幡を知る人物が現れたのだった。




今日も昼投稿です。

葉山は、いいキャラにしたいな。

材木座義輝の設定を変えてます。中学時代は、八幡達と同じ中学出身。

材木座は、中学時代から陰キャぼっちだったが、八幡の事を知っている。八幡の活躍は、陰キャの人間達に勇気と希望を与えたと、陰キャ界隈では神のようになってるとか(材木座談話)


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第1章ー第18話ー材木座義輝。

第1章18話です。


ーー奉仕部

 

「お、お前は、材木座義輝!」

 

「我の事を覚えてくれたようだな。流石、色男だけの事はあるな」

 

八幡は、無言で材木座に近付き、窓際まで連れていく。そして

 

「材木座、あいつらの前で…いや総武高校内で色男とかで俺を呼ぶな!」

 

「何故だ?色男は貶し単語では無いぞ?」

 

「いいか、材木座、総武高校では、陰キャのぼっち、キモいヤツで名が通っているんだ。だから色男とかで呼ぶなよ」

 

材木座は、腕を組みながら少し考える。

 

「貴様が陰キャのぼっち?キモいヤツ?あんな彼女がいたのに?笑わせるな、貴様がそれだったら、我はどうなる?道端の虫ケラか?生ゴミか?」

 

「別にそこまで、言ってないだろ。それと綾音の事は…言うなよ、絶対!」

 

八幡と材木座が押し問答をしていると、雪乃と結衣が変な物を見るような感じで、見てきた。

 

「随分と仲が良いのね?」

 

「まあ、体育ととかで一緒にコンビを組んでるけどな」

 

雪乃と結衣は、冷ややかな目で見てくる。

 

「八幡、貴様の一番星は輝いているか?今も輝いているか?」

 

「材木座、おまっ!」

 

「我だけではない。お主を思っている者達は、みんな心を痛めている。どうすれば、お前の心の闇を照らせるのか、とな」

 

雪乃と結衣の表情が、蔑んだ目となっている。そんな目で八幡と材木座を見てる。

 

「材木座、ちょっと黙ってろ。雪ノ下、由比ヶ浜、こいつは材木座義輝、中学が同じ出身だ」

 

雪乃は、材木座を上から下まで見て、八幡を見てため息を吐いて

 

「類は友を呼ぶってやつね」

 

材木座は、八幡に小さな声で

 

「八幡よ、あの彼女…綾音嬢に似てるが、性格が違ってキツイな…」

 

「まあな。それは言えてるが……」

 

「貴方達、何か失礼な事を考えてるのかしら?」

 

「はぁ~考えてるわけねーだろ」

 

「何でもいいのだけど、そのお友達、貴方に用があるんじゃないの?」

 

「…で、用件は何なんだ?」

 

「時に八幡よ。奉仕部とはここで良いのか?」

 

「ええ、ここが奉仕部よ」

 

八幡の変わりに雪乃が話した。材木座は、一瞬雪乃の方を見てから、再び八幡を見てくる。

 

「そ、そうであったか。平塚教諭に助言頂いたとおりならば八幡、お主は我の願いを叶える義務があるわけだな?ふっ、八幡…お主は中学の時から変わっておらぬ」

 

不気味に笑う、材木座。彼がこういうのにもわけがある。中学時代に八幡と綾音によって救われたことがあるのだ。

 

材木座は、アニメや漫画が好きで、中学時代イジメられたことがある。それを八幡と綾音でイジメていた連中を片付けたことがあり、それからの付き合い。助けてもらった時、まだ2人は付き合ってなかったが。

 

八幡と綾音は、それから材木座の書いた小説を読んでいた。まあ最初は、読んでいても楽しいものではなかった。だが書いてるうちに徐々に上手くはなっていた。

 

だが綾音が入院するようになってから、一度も材木座は書いた小説を持って来ることはなかった。

 

雅史や陽介の話だと、綾音と一緒にいる八幡の邪魔はしたくないと言ったそうだ。

 

気を使わなくてもいいと八幡は思ったし綾音も材木座の小説は読みたいって言っていたからだ。

 

「あ、剣豪将軍ってペンネームで小説を書いてるのか?」

 

「モチのロンだ。剣豪将軍はお気に入りだからな」

 

剣豪将軍…これは、綾音から付けてもらった名前だ。材木座がペンネームで悩んでいた時に室町幕府の13代将軍足利義輝と材木座義輝をかけて生み出した名前だ。

 

材木座に合わせて、中二病的に付けたと後で八幡に話している。

 

「なるほど、まだ中二病って事か…」

 

「ちゅーに病?」

 

雪乃が首を傾げながら八幡を見る。

 

「知らないんだな、雪ノ下」

 

「中二病って病気なの?」

 

「病気じゃないんだが、男子のほとんどがそれを発病する。邪眼とか、俺の父親は魔族とかな…」

 

八幡は、アニメや漫画の主人公みたいな格好をして、中二病の説明を行う。雪乃は途中でわかったようだが、結衣はわからないみたいな表情をしている。八幡は昔に言っていた八幡菩薩の諸々を言ってしまい、雪乃と結衣に気持ち悪いモノを見るような目で見られる。

 

「コホン、で、材木座、奉仕部にお前が来たって事は、いつぞやの小説でも読んで欲しいとかか?」

 

「我が友、八幡よ。よく分かってくれた。ああ、あんな事があって小説を書くのを辞めようかとも思ったのだが、彼女の思いは書いて欲しいと言われたんでな、書いたと言うわけだ!」

 

材木座は、八幡の両手に原稿用紙を渡される。感慨深げに呟く材木座を完全に無視して結衣は八幡の手の中にある原稿用紙に視線をやる。

 

「これ、何?」

 

「小説の原稿だな…タイトルは幼なじみね…。中二病だらけの小説より、ラブコメに変えたのか?」

 

「御明察痛み入る。如何にもそれはライトノベルの…ラブコメの原稿だ。とある新人賞に応募しようかと思っているが、生憎友達がいないので感想が聞けぬ、読んでくれ」

 

「…まあ、俺は良いが、雪ノ下や由比ヶ浜にも見せるのか?」

 

「ああ、女性の意見も聞きたいので、お願いする」

 

雪乃は、材木座の首根っこを掴む。

 

「人が話すときは、相手の目を見て話なさい。それが礼儀でしょ?」

 

「……そ、それは」

 

「雪ノ下、許してやれ。こいつは、女子との会話は慣れてない…。しかしこの原稿は…今から読むのはキツイな」

 

結局、材木座の小説の原稿は、各々が持って帰って読むことになった。

 

 

だが八幡は、読み出して驚く。材木座が書いた小説は、八幡と綾音の物語だったのだ。名前こそ八幡が、一八になって、綾音が綾奈に変えてるだけで、ほぼ、八幡と綾音が生きてきた証が書かれていた。

 

八幡は、涙を浮かべながら材木座の小説を読んでいた。

 

「材木座のヤツ…何が幼なじみだよ、人の恋愛をラブコメにしやがって……」

 

休憩に入った八幡は、自分の部屋の窓を開け、空を眺める。

 

「…だが…雪ノ下と由比ヶ浜がなんて思うか…。まあ俺が題材ってことには気づかないだろうが…」

 

再び材木座の小説を読み始めた。そして夜も更けていく。




材木座の【彼女の思いは書いてほしい】って言ってる彼女は綾音の事です。

綾音は、材木座にもし自分が死んで八幡が落ち込んでいたら、貴方の小説で彼を元気付けて欲しいと頼まれたからである。

材木座は、心を打たれていた。彼女は死の淵に立たされているのに、それでも八幡の事を心配してることに。

だから、中二病の小説を捨てでも綾音の生き様を書きたかった。


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第1章ー第19話ー酷評と悲しみ。

第1章19話です。


ーーー

 

八幡は、最後まで読んで寝ることにした。

 

「材木座、お前…俺が言ったことを…こと細かく覚えていやがって…。恥ずかしいじゃねーか!」

 

材木座がストーカーか盗聴でもしてない限りは分からないような台詞がたくさん出てくるのに驚きだ。

 

「飛躍したのもあるが、俺が綾音に言ったあんな台詞までを…」

 

身体中が真っ赤になりながらも読んだ。そして最後の辺り

 

「何で、俺があの時…卒業式の日の帰りに告白してきた女の子を振った時の台詞まであるんだよ…」

 

材木座が書いたこのラブコメを雪乃や結衣はどのように受け止めるのだろうか。

 

八幡は、忘れていた台詞を思い出され、恥ずかしくなりながら眠りにつくのであった。

 

 

 

ーーー

 

八幡は、結局あまり眠れなかった。材木座の小説のおかけで眠れなかったのだ。

 

「ふぅっ、一気に読みすぎたかな…」

 

少しずつ読むことも考えたが、雪乃辺りは全部読んで来そうな感じもしたので、全部読んだのだ。

 

「まあ、材木座の得意な中二病バトルを辞めてまで、綾音の事を書いてくれたのには感謝だな」

 

そんな感謝の気持ちで学校に向かった八幡であった。

 

だが今日の授業は眠さとの戦いを繰り広げた八幡は、奉仕部へ向かおうとすると結衣に話しかけられる。

 

「ち、ちょっと待つ、待つ!」

 

「今日、ヒッキーって眠そうじゃない?」

 

「まあな、小説を遅くまで読んでたからな。お前も小説を読んでるわりには、元気いっぱいだな?」

 

「え?」

 

結衣は、目を合わせずに視線を反らす。

 

つまり小説を読んでいないことが確定してしまった。慌てて読んだ程で話すがバレバレである。

 

八幡と結衣は、そんな感じの会話をしながら奉仕部へ向かう。

 

奉仕部の扉を開けると、雪乃がうつらうちらと寝息を立てて寝ていた。

 

一瞬、ドキッとしてしまう八幡。人の気配に気づいた雪乃は目を覚ます。

 

「驚いた、貴方の顔を見ると一発で目が覚めるのね」

 

八幡は、一瞬でもドキッとしたことを後悔した。目の前の女は綾音と違って、冷たい冷酷なヤツだと、改めて思った。

 

雪乃は、くあっと子猫のような欠伸をすると、両手を上に上げて伸びをする。

 

雪乃の態度で、八幡は材木座の小説の評価がわかったのだ。

 

つまらないものだと。

 

結衣も読んでないのを推測しても、面白くないと分かる。

 

「雪ノ下は、最後まで読んだのか?」

 

「ええ、徹夜なんて久しぶりにしたわ。私、ライトノベルのラブコメとか全然読んだことないし、好きになれないわ。作者の妄想が酷いわね」

 

「あー、あたしも無理無理…」

 

結衣は、薄っぺらい鞄から、材木座の小説が書いてある原稿用紙を取り出して、嫌そうに見ている。

 

「…雪ノ下、由比ヶ浜には…この小説が合わなかったって事か?」

 

「比企谷君は、その内容が良かったのかしら?そんな妄想染みた小説が…」

 

妄想

 

雪ノ下や由比ヶ浜からすれば、八幡のような人間が活躍するのは妄想にしかならないのかもしれない。

 

綾音のような女の子は、作者が生み出した存在…

 

雅史や葉山のようなイケメンが活躍するのが良しされる。

 

八幡は、綾音との思い出が貶されたようで、怒りが込み上げてくる。そんな時、材木座が扉を開けて入ってくる。

 

「我の小説をケチつけるのは、いくらでもつけるがいい!だが、モデルの2人を愚弄するのは、我は許さない!」

 

材木座のオーラに押された雪乃だったが、すぐに

 

「か、感想を聞きに来たのかしら?」

 

「そのつもりで参上した。だが…聞くまでもなく答えが出ていたようだな」

 

「そうね、つまらなかった、読むのも苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」

 

「やはり、一八や綾奈みたいな人間はいないと…そういうことか?」

 

「ええ、そうね。貴方の妄想で書いたものでしょう?ラブコメというより、貴方の妄想を垂れ流して書いたものとしか解釈するしかないわね」

 

八幡は怒りが込み上げてきているが、材木座が首を振った。

 

「最期にヒロインが死ぬ必要があったのかしら?ラブコメなら、ハッピーエンドにするべきじゃないかしら?」

 

綾音には生きてて欲しい。

 

綾音に生きてて欲しかった。彼女の笑顔をもっと見たかった。

 

神様、何故綾音の寿命はたったの15年だったのか。

 

なんで自分ではなく、綾音が死ななければならないのか…。

 

頭の中、心の中が怒りよりも否定された悲しみの方が勝ってしまう。なんか気持ちも悪くなってきた。

 

「わ、悪い、今日は帰らせてもらうわ」

 

「八幡…」

 

「ヒッキー…?」

 

「比企谷君……」

 

八幡は、心のどこかで雪ノ下、由比ヶ浜がアレを否定してくることは、わかっていた。

 

だが面と向かって、否定されるとダメージがデカイ。わかっていてもダメージをもらってしまった。

 

八幡は、雨が振りだしていたが、そんな中を自転車でかける。そんな八幡を水泳部で練習する綾香が目撃する。

 

「八幡お兄ちゃん?…あの表情って…」

 

綾香は、八幡の表情を見てただ事ではないと思った。だから

 

「吹寄先輩、すいません、ちょっと体調が悪く…早退しても良いですか?」

 

「綾香さん…比企谷君ね…」

 

どうやらさっきの八幡を吹寄も目撃したようだ。

 

「吹寄先輩…」

 

「行きなさい、綾香さん。比企谷君を任せたわよ!」

 

「はい、ありがとうございます、先輩!」

 

綾香は急いで女子更衣室に駆け込んだ。

 

 

夕方の雨が強まる中、綾音の墓がある場所まで無意識に来ていた。

 

目から熱いものが流れている。そんな事も気にせずに雨に濡れることも構わずに、綾音の墓の前に座り込んだ。

 

言葉は無い。言葉が発しようにも出てこない。

 

八幡は、ただ雨に打たれるながら綾音の墓を見ていた。そんな時誰かに話しかけられた。

 

「こんなところに傘もささずにいちゃ風邪をひくよ」

 

「……え?」

 

八幡は、傘を差し出された方を見る。そこには、肩まであるミディアムヘアーは前髪がピンで留められ、つるりとした綺麗なおでこがいつもならきらりとしているが雨で今はそれがない。制服はあくまでも校則通りに着こなしているが、ワンポイントであしらわれた襟章や手首に嵌められたカラフルなヘアゴムが可愛らしさを感じさせる。その女子生徒は、八幡を優しげに細められた瞳で見ている。

 

八幡はこの女子生徒を知っている。

 

以前、天之河事件の時にユキノシタハルノと一緒にいたことを思い出す。

 

名前は城廻めぐり。今は総武高校生徒会長でもあり、八幡が1年の時からちょくちょくと世話を焼いてくれた数少ない人間である。

 

「城廻先輩…!?先輩が何でここに?」

 

「生徒会室から青ざめた表情の貴方を見て、生徒会室を飛び出しちゃた」

 

「……なにやってるんですか?生徒会長としての……」

 

めぐりは、八幡をそっと抱き締めた。めぐりも濡れことを気にせずに。

 

「八幡君、無理をしないでも良いんだよ。思いっきり泣いてもいいんだよ、わたしが胸を貸すからね?」

 

「城廻先輩……!!!」

 

八幡は、そう言われて我慢していたものが、一気に出てきて大声で泣いた。雨が八幡の声を打ち消すかのように降ってきた。

 

雨が八幡の心を映してるかのものだった。

 

後に綾香、綾香から連絡を受けた緑子、七海、雅史が駆けつけたのだった。




ここで、城廻めぐり先輩の登場です。八幡とめぐり先輩は、過去の天之河事件の時にハルノと一緒に会っています。それだけではなく、総武中の文化祭にも行っている。文化祭での八幡の熱意と指導力に驚いた事もあった。ハルノも八幡のそんなところは認めている。



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第1章ー第20話ー思い出。

第1章20話です


ーーー

 

綾香達が綾音のお墓の前に到着したときには、八幡はめぐりの胸の中で気を失っていた。

 

このあと、七海が自分のところの運転手を呼ぼうとした時、陽乃まで駆けつけてきた。

 

陽乃も八幡が青ざめた表情で自転車に乗っていたのをリムジンの中から見たようだ。

 

陽乃は、雨で濡れた八幡とめぐりを自分が乗って来たリムジンで送り届ける事を言う。

 

綾香達は自転車で来ているし、八幡の自転車も持って帰らないとと言い、綾音のお墓がある霊園で別れた。

 

綾香達は、八幡の自転車を持って帰りながら帰宅するのであった。

 

綾香は、八幡が何故そうなったかを調べたいが、緑子達に止められたので、今日は引き返すことにしたのだ。

 

陽乃によって運ばれた八幡は、自室のベッドで眠っている。

 

陽乃は、八幡の両親には、綾音のお墓の前で、落ち込んで座り込んでいたと説明した。八幡の両親は、天乃河事件の時に顔を会わせているので、信じてくれたのだ。小町もそのことを聞いていた。

 

 

一方八幡は、夢を見ていた。

 

真っ暗な暗闇の中で、1人取り残されてた感じである。

 

「なんだ、ここは……?」

 

八幡は、キョロキョロして周りを見渡しても真っ暗なだけで何もない。彼は座り込んで、ため息を吐く。

 

「こんな夢を見るとはな……。城廻先輩の胸で泣いて…そのまま眠ったって事か」

 

雪乃や結衣に否定されてだけで、ここまで落ち込むとはなと、自分でも思ってしまった。

 

「俺のことは、何を言われようが我慢できる。だが綾音の事を否定したことは、どうしても許せなかった」

 

材木座が、あのとき制止してくれなければ、キレていたかもしれない。

 

「材木座や城廻先輩には悪いことしたな…」

 

明日、謝罪をしないといけないと考えた八幡は、雪乃や結衣はどうするかと思った。

 

「雪ノ下や由比ヶ浜にとっては、俺と綾音の物語は、作者の妄想としか思えないだろうな…正直言えば、俺自身も驚いているんだから。幼なじみじゃなければ、話すことすら無かっただろうし…」

 

雪柳綾音、総武中一の美少女と言われるほどの女の子であった。

 

小学、中学も自分の事を陰キャと思っていた八幡だった。

 

だから綾音の事を高嶺の花だから、自分は興味がないと思い込んでいた。

 

だが天之河事件で、綾音を守って、己の気持ちに気がついた。

 

気がついたが逆に怖くなった事もあった。

 

綾音が優しいのは、幼なじみのよしみで仲良くしてるだけだと、思い込んだ事もあった。

 

だが綾音が倒れ入院することになって、彼女に対する思いは、八幡の心の中いっぱいになっていた。

 

あの文化祭で、八幡は告白することを決めた。例えフラれることになっても、後悔だけはしたくなかった。

 

だが八幡よりも先に、綾音が告白してきた。それも歌に乗せて八幡に思いを届けてきた。

 

八幡は、驚いた。綾音から告白してきたことに。

 

何故自分に?雅史や他のイケメン達ばかりだと思っていたからだ。八幡の心配は杞憂だったのだ。

 

綾音は、八幡が助けてくれたあの日から、八幡しか目に入っていなかったのだから。

 

すると一瞬眩い光に一面が覆われたかと思えたが、すぐに暗くなる。いや正式には、八幡の周りは輝きに満ちていた。そして、そこには綾音の姿があった。

 

「あ、綾音なのか?俺はまだ綾音の事を思ってるんだな。夢にまで見るとはな」

 

【「八幡、元気出して。あの2人に馬鹿にされようが、貶されようが、私は気にしないよ。貴方は、かけがえのない時間を私にくれた。それだけでも私は幸せだったから。だから私に気にせずに八幡が幸せになってね。それが私の幸せでもあるから。それに貴方を好きになってる女の子は側にいるんだから、気づいてあげなさいね」】

 

「綾音、俺は…!!」

 

八幡は、ばあっと目を開けて飛び起きる。

 

すでに夜になっており、そんなに寝ていたのかと頷く八幡。だが側を見てみると、綾香と小町が寝息を立てて寝ていた。

 

「小町、綾香…。俺はまた2人に心配させたのか……いや綾音にも心配かけてしまった…」

 

八幡は、自分の側にあったスマホを見る。すると、雅史達だけではなく、陽介、完二や海浜に行った同級生からも心配なメールやチャットが届いていた。それだけじゃなく、陽乃さんや城廻先輩からもチャットが来ていた。

 

「俺を好きになってる女の子は、側にいるか……綾音のやつ…」

 

八幡はそう言って、小町と綾香の頭を撫でた。

 

しばらく撫でていた八幡のスマホに着信がなる。相手は材木座だった。

 

「もしもし、材木座、なんだ?こんな時間に?」

 

【八右衛門、元気になったか?綾音嬢のお墓で倒れたって聞いたから心配していたんだぞ】

 

「倒れたって大げさだな、誰がそんなことを?」

 

【海浜高校の同級生経由で、我は知ったが?】

 

「そうか……あ、あの、その、材木座、悪かったな、あのまま奉仕部の教室を出てよ。その、雪ノ下や由比ヶ浜はあの後どうだった?」

 

【雪ノ下嬢はいつも通りな感じで、帰って行った。由比ヶ浜嬢は、何か気にしていた感じがしたな…まあ我にはわからないが…。八幡よ、本当に済まなかった。綾音嬢との物語を貶されてしまって、申し訳ないと言うか…】

 

「材木座、気にすんな。それに夢で綾音からも励まされたからな」

 

【そうか…綾音嬢が…八幡よ、本当に愛されてるんだな…】

 

「アハハ、当たり前だろ、綾音は世界で一番の俺の妻だからな」

 

【八幡、全く妬けてくる話だ。で、明日はこれそうなのか?】

 

「当たり前だろ。陰キャが欠席したら存在を忘れられる…だろ?」

 

【陰キャは、存在を忘れられる。だが八幡、お前は違うだろ?】

 

「総武高校においては、陰キャだぞ、俺は」

 

【陰キャ、仮面を被った偽りの八幡…我にはそうしか見えないが】

 

「別にいいだろ、それと、小説のことは気にするなよ、また書いてあいつらに認めさせてやれ!」

 

【ああ、何度でも挑戦するさ、夢のためにな!】

 

八幡と材木座は、そう言って会話を終えた。

 

「……ありがとな、みんな」

 

その後、八幡は、小町と綾香を起こして、自分の部屋へ戻させた。2人共、不満げで戻って行ったが、これ以上入らせるわけにはいかなかった。

 

「風邪をひかせるわけには、いかないしな」

 

今日の事は忘れた方がいい、明日は何も無かったようにした方がいい、と八幡は考え判断した。




今日は、夜投稿です。

今回の話は何回か書き直しました。ブチ切れて選択もありましたが、止めました。ここではまだ切れるとこでは無いなと。

文化祭の前の千葉村が、やはりターニングポイントかもしれませんし、ルートが分かれるかも。ルートによってヒロインも変わります。


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第1章ー第21話ー彼女達の思い。

第1章21話です。


ーー比企谷家・綾香の部屋

 

綾香は、八幡から自分の部屋に戻るように言われ自室へ戻って来た。

 

八幡から以前、平塚先生により、奉仕部に入れられたと聞いていた。

 

「奉仕部…って一体何なの?」

 

綾香は、パソコンで総武高校の情報を調べる。入学時のパンフレットでも良かっただが、今は手元にパンフレットが無いから、パソコンで見る。運動系、文化系の部活動を見たが、奉仕部はどこにも記載されていない。

 

「…何で記載されてないの?」

 

総武高校の部活動紹介を隅々まで見たが、何も載っていないのだ。

 

「八幡お兄ちゃん、まさかブラックな部活に入れられたんじゃ…」

 

ブラックな部活、そんなものが総武高校にあるのかにわかに信じがたいが、綾香は、調べなければという衝動にかられていた。

 

「明日、ちょっと調べてみようっと」

 

綾香は、そう決意してから眠ることにした。

 

 

翌日綾香と小町は、八幡にくっついていた。

 

「小町に綾香、あまりくっつかれると、朝飯も食えないんだが?」

 

「小町が食べさせてあげるね」

 

「小町、私が八幡お兄ちゃんに食べさせてあげるんだから」

 

「お、おう…ありがとう…って俺は食べさせてもらうほど、怪我も病気もしてないぞ」

 

八幡がそんなことを言えば、母親が

 

「八幡、無理はしなくて良いからね。だから、綾香ちゃんや小町に食べさせてもらいなさい」

 

「はぁ?俺は病人じゃねーよ。母さんも何を言い出すんだよ…」

 

そんな会話をしながら、母親と小町、綾香との朝ご飯を食べた。

 

食べながら昔の事を思い出していた。

 

綾音が1人で食事が出来なくなった時に、八幡が食べさせていた。彼女は、八幡にそこまでしてもらうつもりは無かった。だが八幡は、

 

【何を言ってるんだよ?彼氏…恋人として当然だろ。俺は、これからずっと綾音と寄り添うつもりなんだから。一生お前といるし離れるつもりはない】

 

この台詞を聞いた綾音は、大粒の涙を流した。本当に八幡を好きなって良かったと。彼を愛せて幸せだと。

 

 

八幡は、雅史達とサッカーで国立に出るという夢があった。だが綾音のためにサッカー部を辞め、夢を諦めた。夢は雅史に託して。

 

彼にとって、綾音とのあの時間は幸せな時間だったのは間違いはないのだ。それが、普通の恋人同士がやるデートとかほとんどやれなかったが、病院の近所や屋上、中庭を散歩して過ごした時間は、綾音にとってかけがえのない時間だったのだから。

 

 

 

思い出に浸っていたら、すでに登校時間になっていて、八幡は学校に行くことにした。すると綾香と小町がやってきて

 

「八幡お兄ちゃん、一緒に行こう」

 

「お兄ちゃん、昨日、雅史さん達が自転車持って来てくれたよ」

 

「ああ、雅史達には迷惑をかけたな」

 

綾音の墓がある霊園から、雅史達が八幡の自転車を持って来てくれた。その事は、雅史がチャットで教えてくれた。八幡は雅史にお礼を言い感謝したのだった。

 

小町は、八幡の自転車の後ろに股がる。そして彼にしがみつく。

 

「あ、あの小町さん?こっちはお兄さんの自転車ですよ?」

 

「いいの。こうしないと、お兄ちゃんがどっか行っちゃいそうで、小町、怖いんだ」

 

綾香も横からしがみついてきた。

 

「…八幡お兄ちゃん、いなくならないで」

 

「…小町、綾香…」

 

八幡は、そんな2人を見て、何をやってるんだと自分の中で、自分にカツを入れた。綾音を失って悲しいのは、自分だけではない。小町や綾香も十分に悲しいのだ。悲しいのに、八幡を元気をつけるために、元気を振る舞ってる。

 

「小町、綾香、俺はいなくならない。それに、俺が不甲斐ないと、綾音が安心して眠れないだろ」

 

「お兄ちゃん…」

 

「八幡お兄ちゃん…」

 

八幡は、小町と綾香の温もりを感じて、己の気持ちを奮い立てさせた。

 

綾音にこれ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。

 

これ以上、小町や綾香にも心配や迷惑をかけるわけにはいかない。

 

少しずつでもいい、一歩ずつ前に進もう、それが彼女達のためになるのだから。

 

 

いつまでもそうやっていた3人だったが、母親に怒られて、学校へ向かうことした。

 

怒られはしたが、そういうことさえも心地よく思えるようになった八幡であった。

 

 

小町と綾香は、八幡の背中を押した。

 

 

そんな姿を遠くで見ていた人物達がいた。雅史、緑子、七海である。3人も八幡が心配で比企谷家の近くまで来ていたのだ。

 

「八幡、元気になったんだな」

 

「今回は、小町ちゃんと綾香ちゃんのおかげかな」

 

「そうだね、まあ綾香ちゃんには塩を送った形になったけどね」

 

仲良く登校する3人を見届けながら、雅史達も自分達の学校へ向かうことした。

 

 

 

雅史達だけではなく、比企谷家の近くに黒いリムジンが止まっていた。

 

「八幡君、元気が無かったらお姉さんが抱き締めてあげたのに、妹さん達に一本取られたかな。それにしても、八幡君があんなになった原因が、雪乃ちゃんにあったとはね…」

 

陽乃は、自分の情報網を使い、情報収集をやった。そして材木座に行き着き、彼から話を聞いた。

 

八幡と綾音の物語の小説を否定されたことを聞いた。

 

「雪乃ちゃんが小説だと思って否定したかもしれないけど…でも本当なんだよ、八幡君と綾音ちゃんのとても甘く…切なくて悲しい物語…」

 

陽乃は、いずれ介入するつもりでいる。それがいつになるかはわからないが。

 

そしてしばらくして、リムジンは走り去った。

 

 

 

また違う場所から、めぐりも八幡の様子を見ていた。やはり昨日、めぐりの胸で泣きじゃくった彼の様子を見に来たのだ。

 

「良かった、八幡君…元気になったみたい」

 

めぐりは、良かったと安心しつつ、また八幡が泣きたくなったら、胸を貸そうと思った。彼女にとって気になる男子になっていたのだった。

 

 

 

そしてもう1人、海浜総合高校の制服を着た女子高生がいた。制服を着崩し、パーマでくしゅくしゅっとした黒髪を手櫛ですいている。

 

折本かおり、八幡達と同じ総武中出身であり、綾音、緑子、七海以外の女の子の親友である。彼女は、あの文化祭の際に八幡に告白して、フラれている。

 

一度は、綾音に敗北したが、彼女の死後、落ち込んだ八幡の事を心配している。彼の事が心配で、海浜総合高校受験を辞めて、総武高校へ行くと言ったこともある。

 

だが八幡は、【自分のために自身の将来を潰すな、かおりはかおりの決めた道を進め】

 

と言われたのだ。だから海浜総合高校を受験したのだ。

 

今回、海浜総合高校内の総武中ネットワークによって、八幡の件を知ったのだ。

 

「八幡、あんたの隣は、あたしじゃダメなのかな…」

 

かおりは、そんなことを思いながら、海浜総合高校へと歩いていく。




すいません、リアルが忙しく投稿が土曜日になってしまいました。

ルートが分かれ、奉仕部共通ルートなら雪乃、結衣を含めたみんながヒロイン候補。

アンチルートは、海浜総合高校ヒロインがメイン。


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第1章ー第22話ー綾音の月命日と八幡の決意表明。

第1章22話です。


ーー

 

あれからしばらく経ち、4月28日の綾音の月命日を総武中のメンバーやめぐりや陽乃が、比企谷家に集まり、彼女の冥福を祈った。材木座は、家の都合で欠席。

 

海浜総合高校に行ったメンバー達の現状報告や世間話をやっていた。八幡はサッカー部(海浜、総武)のメンバーと話していた。

 

「八幡、大丈夫か?倒れたって聞いたから、俺、あの時サッカーの練習のところじゃなかったからな」

 

「済まないな、康」

 

「雅史に行かせたから良かっただろ?オレ達がぞろぞろ行くわけには行かないだ」

 

先に話したのが、一条康。黒髪のルックス、頭脳良しのイケメン。もう1人が長瀬大輔。スポーツ系イケメン。海浜総合高校のサッカー部の3英雄である。

 

「そっちは良いさ。俺達、総武組はあとから知ったからな」

 

「八幡センパイ、今は大丈夫っスか?」

 

「今は大丈夫だ。本当に心配してくれて、ありがとうな」

 

「陽介、完二、お前達も総武のサッカー部に入ったんだろ?」

 

「まあな、完二とここにはいないけど、葉山と戸部もいる。チームも打倒海浜ってやってる」

 

「総武のエース葉山隼人…」

 

雅史が葉山の名前を上げた。陽介も

 

「総武のエースだぞ、葉山は」

 

「それは俺も知っている。中学からずっと戦っているからな。と言うかお前達も戦ってたよな?」

 

ここにいるメンバーは、葉山隼人率いる総武東中と八幡も含めて戦っているのだが。

 

「俺は、あまり記憶に無いな…」

 

「八幡は1回しか対戦がないからね。その1回も僅かだったわけだしね」

 

雅史の話に陽介があることを話す。

 

「でもよ、今では八幡と葉山は、一緒のクラスじゃねーか」

 

陽介がそう言った途端に雅史達が驚き出す。

 

「八幡、マジかよ。葉山と話したのか?」

 

「いや、あまり無いな」

 

「葉山と陽介と完二、そして八幡が総武サッカー部にいてくれれば、オレ達と面白い戦いをやれると思うけどな」

 

「康、大輔…バカ言え…俺は中学レベルで止まっている。例えサッカー部に入ったとして、陽介達の足を引っ張るだけだ」

 

「そうか、俺や完二は、八幡が入ってくれるだけで嬉しいけどね」

 

「バカ言え。俺は奉仕部に入ってるから無理だな」

 

【「奉仕部?」】

 

みんなが口を揃えてそう言った。綾香は口をキリッとして、陽乃は、難しい表情をする。

 

すると緑子と七海、綾香、かおりも会話に入ってくる。

 

「八幡、奉仕部って何なの!」

 

「そうよ、教えてね、八幡?」

 

「八幡お兄ちゃん、教えて!奉仕部って何なの!」

 

「綾香ちゃん…気合い入ってるね」

 

「お前達…はぁ~奉仕部ってのは簡単に言ってしまえば、魚の取り方を教えてやるみたいか。つまり…迷える羊をちゃんと導いて自立させるって事かな」

 

八幡がそう噛み砕いて説明した。雅史達はへぇーって頷いていた。説明を聞いたかおりが

 

「それって、八幡が中学んときにやってたやつと同じじゃん?」

 

「かおり、俺がやってたのとは違う。奉仕部は転んでも、起き方を教えるが、手は差しのべない。俺は、起き方と同時に手を差しのべるやり方だな」

 

雅史や康や大輔、陽介、完二が八幡の手を握る。そして感謝の言葉を述べる。

 

自分達は、そんな八幡に救われてきたと。世界中が八幡の敵になろうが、自分達は八幡の味方だと。

 

彼は、何だか材木座が言いそうなセリフだなと思った。

 

すると、緑子、七海、綾香、小町、かおりが八幡の背中に手を置く。

 

自分達女子も八幡によって救われた。だからいつまでも八幡の味方だと。

 

そしてめぐりと陽乃も八幡の味方だと言った。

 

「みんな、ありがとう。俺は果報者だ」

 

雪乃や結衣、総武高校の連中が否定しようが、こうやって八幡を友と言ってくれる人間がいる。それだけでも八幡にとっては、嬉しいのだから。

 

その後、雅史達に材木座が書いた小説を見せてほしいと言われたから、見せることにした。

 

みんな、真剣な眼差しで読んでいる。雪乃からはは苦痛と共に気持ち悪いとか言われ、結衣に至っては、読んですらいなかった。でも緑子達は、真剣に読んでいる。めぐりと陽乃も読んでいる。

 

彼女達は、八幡と綾音の甘くて切なく悲しい物語だとわかっているから。読み終えたみんなに八幡は話しかける。

 

「どうだった?奉仕部のメンバーには、全否定されたけど?」

 

綾香と緑子がすぐに反論した。

 

「全否定って…その2人は頭は大丈夫なの!」

 

「夢物語みたいに思えるけど、実際に八幡と綾音が綴ってきた思い出をそこまで言うなんて…」

 

「八幡や綾音を気持ち悪いって言われて、私も怒りがこみ上げてきたかな」

 

「綾香、緑子、七海…」

 

「そうだよ、親友を馬鹿にされて、怒らない親友なんていないでしょ!」

 

「かおり…」

 

「八幡と綾音ちゃん、総武中のみんなが認めたカップルだったからな」

 

「八幡センパイの幸せは、自分の幸せでもあったっス」

 

「俺も八幡と綾音の恋のキューピッドを買って出たかいがあったなと今でも思えるからね」

 

「まあ、あたしは八幡にフラれたけどね」

 

「まあ、折本、フラれても八幡の側にいるのは、大したもんだとオレは思うぜ」

 

「大輔、お前…それは言ってはダメだろ?」

 

大輔が言った言葉に康が止めに入る。止められた彼は

 

「康、何でだ?」

 

「大輔、デリカシーが無いだろ」

 

「一条君、長瀬君、それって中学の時だし、今は気にしていないよ。だって今はみんな、横一線って感じだし…。綾香ちゃんが、ちょっとリードしてるみたいだけど、それってまだセーフティーリードでもないでしょ?ならあたしにもチャンスはあるわ!」

 

かおりが宣言すると綾香や緑子と七海が立ちあがり

 

「私は負けるつもりはありませんから。八幡お兄ちゃんは、私が振り向かせて見せます!」

 

「綾香ちゃん、私も負けないわよ!」

 

「綾音には八幡を取られちゃったけど、私は、緑子にも綾香ちゃんに負けないんだから!」

 

綾香、緑子、七海、かおりが名乗りをあげる中、みぐりと陽乃も

 

「これって、八幡君の彼女に立候補の宣言みたいなものなのよね?」

 

「はいはい~お姉さんも立候補しちゃおうかな?」

 

八幡は慌てて

 

「陽乃さん、からかわないで下さい。城廻先輩も…ってみんなに告白されても、今はその思いに答えることができない。でも、みんな、今年だけ時間をくれないか?」

 

八幡は頭を下げた。今年だけ、時間をくれと言ったのだ。

 

今年は綾音の3回忌であり、気持ちの整理と区切り、そして新たなスタートをきると八幡は決意したからである。

 

「これが、今の俺の精一杯の答えさ」

 

これで、八幡はもう逃げることや避けることは出来なくなった。

 

証人は、雅史、康、大輔、陽介、完二、の男衆と妹の小町と母親という鉄壁布陣に八幡も退路は無いと覚悟と決意をしたのだった。

 

 

そして春先の4月も過ぎていく~




P4から一条康と長瀬大輔を出しました。ちょっと設定は変えてますが。この2人も総武中のサッカー部で、八幡、雅史、陽介、完二、康、大輔で中2の途中まで戦っていた。

海老名さん、上のメンバーと葉山、戸塚を加えたBLを考えそうだな。あ、出血多量死してしまう。

それにしても、雪乃、結衣と、恋仲になるのは難しいかな。


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第1章ー第23話ー葉山グループの亀裂。

第1章23話です。


ーー

 

5月に入ってから、4月よりも温度も上がり、暑くなってきている。

 

4月28日に八幡と綾香達女子は、互いに決意表明をした。

 

海浜組の緑子と七海は、総武高校の水泳部、テニス部に練習試合とかを組むように部の監督や顧問に交渉中とか。

 

海浜組サッカー部の雅史達も総武高校のサッカー部に練習試合をと交渉中。かおりは生徒会で、総武高校生徒会と交流を深めるために奮闘中。

 

総武組サッカー部の陽介と完二も葉山を説得している。

 

 

総武組の綾香とめぐりは、今まで以上に話してくるようになった。

 

ただ奉仕部は、今までと変わらないが。

 

雪乃は相変わらずで、結衣も相変わらずではあるが、たまに八幡を見て、申し訳ないようにしている。

 

そんな中、体育の授業が行われていた。総武高校の体育は、月日が変わるとやる球技も変わる。

 

体育の授業は、3クラス合同であり、男子総合60名である。先月はバスケット、野球で、今月の球技は、サッカーとテニスである。八幡は、すぐにテニスを選んだ。何故かサッカーの方が選んだ人数が多かったから、すんなりと決まった。じゃんけんに負けた人間がテニスの方へくる。ちなみに材木座はサッカーに組み込まれているし、陽介もサッカーのようだ。

 

八幡は、サッカーにしても良かったのだが、葉山の活躍を邪魔したくはなかった。

 

だが葉山はサッカーではなくテニスにいたのだ。

 

「ったく、お前はサッカーをしてろよ」

 

そんなことを小声で言った。そんな時材木座が

 

「済まぬな、八幡。我はサッカーになってしまった。こっちには陽介がいてなんとかなるが、八幡は大丈夫なのか?」

 

「気にするな、材木座。テニスは最悪壁打ちで1人でプレイできるからな。それに七海の練習にずいぶんと付き合った経験もあるし」

 

「そうか…。本当に済まない」

 

そう材木座は言うとサッカーの集まりの方へ行ってしまった。

 

テニスの方の集まりも授業が始まる。準備運動をきちんとやってから、体育教師の厚木から一通りのレクチャーを受けた。

 

「うし、じゃあ、お前ら打ってみろや。2人1組で端と端に散れ」

 

厚木がそう言うと、テニスの集まりの男子達が、ペアを組んでコートの端と端へと移動した。

 

あっという間に八幡がポツンの残った。

 

「まあ、こうなるわな…」

 

その光景を見た陽介と材木座が手招きをしている。つまりどさくさに紛れてサッカーに組み込むつもりのようだ。

 

だが八幡は、手でジェスチャーを送る。

 

【俺は、テニスで構わないさ。壁打ちでもしてるからよ】

 

陽介と材木座は、それを見てため息を吐いてサッカーの集まりの方へ行った。

 

別にペアなんか組まなくても、この体育の時間を潰せれば良いのだから。それがもってこいが、壁打ちなんだと八幡は言う。

 

テニスなら、七海とペアを組んだり、ずっと練習してたのだから。

 

八幡は、ラケットとテニスボールを持って、壁打ちを始める。

 

体育教師の厚木は何か言いたそうな感じだが八幡は無視を決めてるので、それ以上は言ってこなかった。

 

1人でテニスの壁打ち練習をしていると、葉山グループ(6人【4+2】)が何やら騒いでいる。どうやら2人は他クラスの人間のようである。

 

「あいつら、全員がテニスかよ…。ずっと一緒にいたいのかよ…」

 

群れることに文句は無い八幡だが、いつも一緒って言うのもおかしいだろ、と思いつつ、壁打ちをスピードを上げて練習する。

 

練習をしていると、葉山の打球を打ち損ねた戸部が突然

 

「うおーっ!やっべー葉山くんの今の球、マジやべーって。曲がった?曲がったくね?今の」

 

「いや!打球が偶然スライスしただけだよ。悪い、ミスった」

 

片手を挙げてそう謝る葉山の声を掻き消すように戸部はオーバアクションで返す。

 

「マッジかよ!スライスとか【魔球】じゃん。マジぱないわ。葉山くん超ぱないわ」

 

「やっぱそうか」

 

調子を会わせるかのようにして楽しげに笑う葉山。すると葉山達の横で打っていた2人組が声をかけてきた。

 

「葉山くん、テニスも上手いじゃん。さっきのスライス?あれ俺にも教えてよ」

 

金髪の戸部と大体いる大和と大岡である。

 

「…うるさくなったな…」

 

八幡は、葉山達から距離を取ろうと歩き出したら、戸部の打った打球が八幡に向かってくる。スライスどこの話ではない。

 

八幡は、とっさに左手にラケットを持っていたから、戸部が打ってきた打球をそのまま打ち返した。

 

戸部は動けずテニスボールはコートにバウンドして、そのまま金網のフェンスに辺り彼の足元まで転がってきた。八幡はイラッとしたが、笑顔で

 

「人に向けて打ってはいけないって教わらなかったのかな?」

 

戸部は、そこに八幡がいることに驚いている。大岡や大和、他クラスの山本と田中も驚いている。

 

「えっ!?ヒキタニ君、そんなとこにいたんだべ?」

 

「ああ、最初から居たんですが?」

 

すると他クラスの山本と田中がゲラゲラと笑いだして

 

「ヒキタニって存在感が無いからな。存在してます、生きてますか?」

 

「陰キャやネクラの分際で、隼人の邪魔するなよな!」

 

八幡は、イラッとはしてるが、己の事だから我慢ができる。すると戸部が

 

「山本くん、田中くん、それは違うしょ。ヒキタニ君は、俺の打った打球が危なかったから、注意をしただけっしょ」

 

「戸部、何、ヒキタニの方を持ってんだ?そんなヤツの方持ったって何の得にはならないだろ?」

 

「陰キャのヒキタニ、隼人の邪魔をするって意味がわからないのか?陰キャは日陰でも歩いてろ!」

 

すると葉山がやってきて喋り出す。

 

「比企谷、彼は陰キャでもネクラでもないよ。田中、山本、君は彼の何を知ってるだい?」

 

葉山にそう言われ、田中と山本は、周りから孤立する形になる。葉山と戸部、大岡、大和、田中、山本の間に傷が入り始めたのだった。

 

葉山が八幡に近づいてきて頭を下げた。

 

「比企谷、済まない。山本や田中がそのあんな事を言って」

 

「別に気にしていない。言われなれてるからな」

 

「反論しないのか?」

 

「反論?俺が反論したところで、あの2人の言う方を信用するだろう」

 

八幡は、そのまま壁打ちをするために戻る。葉山は何か言いたそうにしていたが、何も言わなかった。

 

こうして体育の時間は終わったのだった。




すいません、日曜日から体調を崩しまして、執筆、投稿が出来ませんでした。

葉山グループの男子、葉山、戸部、大岡、大和、山本、田中。もちろん、後ろの2人はオリキャラです。まあ原作ではモブキャラなんで名前を与えてみました。

山本、田中はもちろんアンチ八幡。大岡と大和も山本達寄りになっていきます。


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第1章ー第24話ー体育の後の話。

第1章24話です。


ーー

 

体育のいざこざはあったものの、普通に時間は流れ、八幡は陽介と完二の3人でいつも昼飯を食べる場所とは違う2箇所目で今日は食べている。

 

特別棟の1階、保健室横、購買の斜め後ろってとこになる。位置関係で言えば、ちょうどテニスコートを眺める形になる。

 

いつものように、綾香が作った弁当を広げて食べ始める。陽介と完二は、購買で買ったパンとおにぎりを食べ始める。食べてる最中陽介が

 

「すまん、八幡、体育の時間に庇ってやれなくて」

 

「何で陽介が謝る?」

 

「山本と田中が“陰キャの分際”とか“生きてて恥ずかしい”とか言ってたみたいだよな?」

 

「八幡センパイに陰キャとか生きてて恥ずかしいとか…言った輩がいるんスか…そいつらシメましょうか?」

 

「完二、お前はお母さんに迷惑をかけないんだろ?こんなことで問題を起こしてどうするんだ?」

 

「しかし、八幡センパイ!」

 

「もし、何かあれば俺達に言えよな、すぐに駆けつけるからな。それにお前に何かあったら、綾香ちゃん達になんて言われるか…」

 

「何かあったらな」

 

「ああ、マジで言ってくれよ…綾香ちゃんや山岸(緑子)達にドヤされるから」

 

「わかってるよ」

 

八幡は、苦笑いをしながら弁当を食べる。

 

「それにしても、あの葉山の取り巻き…葉山自身や戸部はそんなやつじゃないんだか、どうも山本や田中が何か言ってる感じかするんだよな」

 

「陽介センパイ、その連中にお灸を…」

 

「完二、別にそんなことをしなくてもいい。奴等なんかほっとけばいいだけだ」

 

「しかしっ!」

 

「八幡、1つ言っとく事があったな」

 

陽介が真剣な眼差しで八幡を見てから話し出す。総武高校と海浜総合とのサッカーの強化試合、練習試合の交渉のために海浜総合高校を訪れて交渉しに行ったのだ。

 

「雅史のヤツ、葉山と友達になったぜ」

 

「マジか。まあそうだよな、次期サッカー部のエース同士で次期部長だから話は合うか…いいじゃねーかよ」

 

そう言いながら八幡は、弁当のご飯をパクパクと食べる。

 

「まあ、聞けって八幡。葉山の方から雅史に話しかけたんだよ」

 

「葉山から?」

 

「どうやら、葉山のヤツ、お前のことを雅史から聞き出したいようだったしな」

 

「俺の事を?なんで葉山のヤツ…」

 

八幡も葉山が時々見て来ているのは、気づいている。だが面と向かって何で見てるんだとは、聞きづらい。

 

「陽介、完二、お前達も何か話したのか?」

 

「まあな。いつの間にか総武中OB、OGまで話に入ってきてな、盛り上がったわけだ」

 

「八幡センパイの事を、葉山センパイには、素直な気持ちで話したッス」

 

「そうか……。で葉山は、なんて返したんだ?」

 

「葉山は、何も言わずに真剣に聞いていた」

 

「葉山センパイ、一度八幡センパイと綾音センパイを見た事あると言ってたッスね。車椅子を押す八幡センパイとそれを幸せそうに見ていた綾音センパイだったと…」

 

「そうか」

 

八幡は、そう言うと視線をテニスコートの方へ向ける。いつも昼休みの間は、女子テニス部の女子達が、自主練習をしてるようで、いつも壁に向かい、打っては返ってくる球をかいがくしく追い、また打ち返してくる。

 

風がひゅうッと八幡の髪を揺らす。風向きが変わったのだ。

 

その日の天候にもよるが、臨海部に位置するこの学校はお昼を境に風の方向が変わる。朝方は海から吹き付ける潮風が、まるでもといた場所へ帰るように陸側へ吹く。

 

八幡は風を読むのは、得意である。サッカーの試合においても、風の流れは試合そのものに有利、不利に働く。全ての流れをコントロールし完全に味方の流れに変えてしまう。かつての総武中がそうだったように。指し手の八幡がコントロールしてるかのように。

 

指し手の八幡だけいても試合は勝てない。彼の意思を読み取り、行動できる人物が必要である。

 

それが雅史達総武中のメンバーであった。

 

八幡達は、昼御飯を食べ終えて、心地よい風に吹かれてウトウトしていたら、訪問者によって眠りを奪われる。

 

「あれっ?ヒッキーじゃん?」

 

「比企谷君、そこで食べてたんだ」

 

訪問者は、2ーF組の由比ヶ浜結衣と同じく同じクラスの学級委員長の吹寄制理である。そんな2人がこんなとこに来るんだという疑問がある。

 

「私は、雪ノ下さんと話していたわ。そこに結衣がやってきたわけ」

 

「うん、ゆきのんと話がしたくて、クラスに行ったら、せいりんとゆきのんが話してたし…というか、ヒッキーが誰かといるし!」

 

「花村君と巽君ね、私は結衣と比企谷君と同じクラスの吹寄制理ね」

 

「俺は、花村陽介、よろしく、吹寄さん、由比ヶ浜さん!」

 

「吹寄センパイ、由比ヶ浜センパイ、1年の巽完二ッス」

 

この邂逅が、2ーF内、はたまた総武高校内の八幡の立ち位置が変わり始めることになる。




この後、戸塚と出会い、戸塚のテニスの練習に付き合いそして葉山、三浦とのテニス対決に。


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第1章ー第25話ー戸塚彩加。

第1章25話です。


ーー

 

穏やかな風に吹かれた昼休みの時間、八幡達と吹寄と由比ヶ浜は話していた。

 

「俺達、普通に会話してたが、吹寄と由比ヶ浜は、雪ノ下と話して何かあったからここに来たんじゃないのか?」

 

すると、吹寄と結衣があっと思い出したように

 

「あ、ゆきのんとのゲームでジャン負けしてー、罰ゲームってやつ?それで負けた人がジュースを買ってくるって」

 

「…それ、吹寄さんもやったんですか?」

 

「私も雪ノ下さんに負けたわね」

 

「……雪ノ下、えげつない女…」

 

八幡は、自分達クラスの委員長までパシりに使うとは、どんだけのヤツだと思ってしまった。ただ吹寄も気にしてはいないみたいだから、それ以上はなにも言わなかった。

 

「ゆきのん、最初は自分の糧は自分で手に入れるわ。【そんな行為でささやかな征服感を満たして何が嬉しいの?】とか言って渋ってたんだけどね」

 

「まあ、あいつらしい答えじゃないか」

 

「そこに結衣が、雪ノ下さんを挑発するような事をを言ったから、彼女のスイッチが入ったみたい」

 

雪乃は、クールな女子だが、勝負事は熱くなりやすい。つまり負けず嫌いな性格も含まれているようだ。陽介と完二は、ポカンと聞いている。

 

「でさ、ゆきのん勝った瞬間、無言で小さくガッツポーズしてて、もうなんかすっごい可愛かった」

 

「あ、左様ですか…って前々からやってたんじゃないのか?」

 

「うん、前にちょっとね」

 

「私は初めてだからね」

 

でも吹寄の表情も結衣と同じく何だか嬉しそうだ。

 

「それじゃあ、比企谷君、花村君、巽君、私と結衣は行くね」

 

「ヒッキー、それに、また後でね。花村君、巽君、じゃあね」

 

吹寄と結衣は、雪乃から頼まれていたモノを買うために八幡達の場所から離れていく。

 

2人が行った後に陽介と完二が

 

「八幡、あの2人の胸…マスクメロンが4つじゃねーか」

 

「ま、マスクメロン!?」

 

「か、完二…お前、鼻血出すなよ……って陽介、お前もそんなことを言ってんじゃねーよ」

 

「八幡は、良いよ。綾香ちゃんや山岸達に頼んだら見せてくれるんじゃねぇ?」

 

「そんなわけないだろ!」

 

八幡はため息を吐く。八幡も男だから吹寄や結衣の胸に目が行くのは否定はしない。だが陽介のように堂々と言うのはどうなんだと思う。

 

すると、ジャージを着た誰かに話しかけられた。

 

「陽介君と完二君と、あれ、比企谷くん?」

 

「なんだ、戸塚じゃねーか。今から練習か?」

 

「戸塚センパイ、昼休みだけの練習ってキツイッスね」

 

「内の男子テニス部は弱小部だから。どうしても女子テニス部に優先度があるんだ」

 

総武高校のテニス部は、女子テニス部の方が好成績を残して、男子テニス部は、弱小部なので、練習時間も女子の方が好条件の恩恵を受けている。

 

「比企谷くん、テニスうまいよね」

 

「まあね、とある幼なじみの練習に付き合ったら上手くなってたんだよ」

 

「それって、海浜総合高校の高梨さん?」

 

戸塚はそう言いながら、八幡の顔を覗き込んできた。その表情が女の子のように見えたので、ある意味ドキッとした。

 

「……!と、戸塚、えっと七海を知ってるのか?」

 

「うん、知ってるよ。海浜総合高校に練習試合に女子テニス部合同で行ったことがあるんだ。その際に高梨さんと話をする機会があったんだ。そのときに比企谷くんの事を聞いたんだよ」

 

「そうなんだな」

 

「比企谷くん、総武中の色男って呼ばれてたんだね」

 

「そんなことまで、聞いたのか…」

 

「うん、そうだね」

 

「まあ、総武高校では、そんなこと聞かないけどな」

 

「比企谷くんは、十分に目立ってるよ」

 

「……ぼっちの陰キャの俺が?」

 

「本当にそうなら、陽介くんや完二くんとも高梨さんとも友達じゃないんじゃ?」

 

「全く、そうだよな~」

 

「八幡センパイは、もっと自信を持って欲しいッス」

 

「自信…ね…」

 

八幡達はそんな話をしていると、学校内にチャイムが鳴り響く。最初のチャイムは、昼休みが後5分で終わるという予鈴である。

 

「さて、教室へ戻るか、戸塚?」

 

「うん、比企谷くん」

 

「陽介、完二、また後でな」

 

「おう!八幡、戸塚!」

 

「八幡センパイ、戸塚センパイ、それでは」

 

八幡達は、それぞれの教室へ戻って行く。

 

 

一方校舎裏では、不良とまではいえない生徒達が集まっていた。

 

「近頃、パンチラスポットが全て封じられていないか?」

 

先にこんな事を言い出したのは、このグループのリーダー的存在の沢田孝。3年生。容姿は、中の上でロン毛スタイル。モデルになるならば、最遊記の沙悟浄みたいな感じ。

 

「仕方がないですよ、それ内のクラスの吹寄が、生徒会長に申告したみたいですし…」

 

こいつは、八幡や吹寄達と一緒のクラスの松野安史。クラスでは、葉山グループの次のグループである相原グループにいる。一見は眼鏡をかけておりオタクっぽい。

 

「あ~あ、アイツ言いそうだよな。俺達の楽しみを奪うなって!」

 

こいつは、八幡達の隣のクラスの山形謙介。ザ、スポーツマンのような容姿で、水泳部に所属している。あと2人いるのだが、今回は来ていない。

 

何か閃いた沢田が松野に

 

「サッカー部のイケメン葉山なら、見せてもらえそうだよな?」

 

「いやいや、いくら葉山だからって、それを言ったらヤバいっしょ?」

 

「そうですよ、沢田先輩、夢見すぎですよ…?」

 

「やはりダメか……」

 

そして予鈴のチャイムが鳴り

 

「さて、教室に戻るとするかな」

 

「かったり~授業を受けるか」

 

「そうだな」

 

沢田、松野、山形は、それぞれの教室へ戻って行くのであった。




戸塚彩加、トツカエルがやっと登場。

戸塚のテニスが上手くなりたいという依頼に雪乃はとんでもないこと言う。しかし八幡は、そんな雪乃の提案に真っ向から反対する。八幡は戸塚の腕を上げるために特訓を開始する。

後半に出てきた方々は、まあそういう事ですね。


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第1章ー第26話ー総武高校の闇。

第1章26話です。


ーー校舎裏

 

夕陽が西に傾きかけた頃、校舎裏では、昼休みに集まっていたメンバーが集まっていた。

 

校舎裏、ここには、普通の生徒達は来ないし、生徒会の人間、教師も来ないから、総武高校の掃溜めとも言われいる。

 

不良グループの沢田達は、ここを根城としているのだ。

 

昼休みに来ていた沢田、松野、山形の他にあの時に来てなかった2人、森屋と南部がやって来て、もう1人を連れていた。

 

連れてきた人間は、森崎弥太郎。2年生である。クラスは、2ーE組。彼は不良ではなく、影の薄い陰キャラであるが。森屋が森崎を前につきだして言う。

 

「こいつ、誰も来ない校舎裏のトイレで、自慰行為をしてたんだぜ」

 

「自慰行為ってマジでか?」

 

松野が呆れたようにしゃべった。リーダーの沢田が

 

「自慰行為をすることは、悪くはないが?」

 

「いやいや、学校で自慰行為ってどうなんだ?俺ならしないぞ」

 

「このハンカチの匂いを嗅いでやっていたな」

 

南部は、ハンカチを森崎の身体に投げつけた。

 

「……ほらっ、そのハンカチは誰のだ?」

 

「……ふ、吹寄のハンカチです…」

 

森崎は、弱々しい声でそう言った。南部は

 

「どこで、その吹寄のハンカチを拾ったんだ?」

 

「……2ーF組のくつ箱のところで、吹寄さんの制服から落ちたけど、彼女が落としたことに気がつかなかったから拾いました」

 

「それで…なるほど」

 

山形はそれを聞いてわかったようだ。森屋や南部は

 

「2ーF組、吹寄制理。雪ノ下や三浦と並ぶ2年生の中の美少女…。誰もが憧れる女の子達だな」

 

「あの…ぼ、僕は帰っても良いですか?」

 

「誰が帰っても良いと言ったか?お前が吹寄のハンカチで自慰行為をしていたと、学校内でばらすぞ?」

 

森崎の問いに森屋が反論した。すぐに森崎は黙りこんでしまう。南部も

 

「吹寄のせいで、俺達の楽しみスポットを失ったんだ。お前、俺達が何を言いたいかわかるよな?」

 

森屋と南部と山形に囲まれて、怯えている森崎。

 

「わ、わかりません」

 

「つまり、なんだ…吹寄のパンチラでも撮ってこい!」

 

「え?僕は同じクラスではないし、それって犯罪なんじゃ?」

 

「……ハンカチ窃盗だって、犯罪だろ?」

 

「くっ…!!」

 

「わかったのなら、俺達の言うことを聞け!言いな、森崎?」

 

「はい、わかりました……」

 

「松野、お前は吹寄と同じクラスなんだからさ、森崎としゃべって…こいつに仕事させろ…それと例のヤツを渡せ」

 

「……盗撮をか?ったく…仕方がないな……」

 

松野は森崎に消ゴムのような小型カメラを渡す。

 

「それは消ゴム型のカメラだ。使い方はわかるよな?」

 

「はい、何とか…」

 

「そうかい…。沢田先輩よろしいですか?」

 

「ああ、構わない。森崎とか言ったか?」

 

「はい、森崎弥太郎です」

 

「お前の働き…期待しているぞ!」

 

その後、吹寄制理だけではなく、同じクラスの三浦優美子、由比ヶ浜結衣、相模南、同じく2年の雪ノ下雪乃、3年の城廻めぐり、1年の雪柳綾香、一色いろはと追加されたのだった。




今回は、オリジナル回で、悪役の方々です。アンチサイドに入ったら、八幡を潰しにかかりますね。

アンチサイドではない方なら、こいつらが八幡によって一網打尽にされますが。


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第1章ー第27話ー戸塚とテニスと練習と。

第1章27話です。


ーーー

 

それから何日か経った体育の時間、再びテニスで汗を流すべくいつものポジションに行く事にする。次の授業からは、試合形式になるので、1人で練習するのも今回で最後になる。だから念入りに練習をしようと、いつものポジションに移動しようとしたら、ちょんちょんと右肩をつつかれた。こんな事するヤツは、誰だと思いながら振り向く。すると右頬にぷすっと指が刺さった。

 

「あはっ、ひっかかった!」

 

「と、戸塚じゃないか…。練習しに行かなくて良いのか?」

 

「うん。今日さ、いつもペア組んでる子がお休みなんだ。だから…良かったらぼくと、やらない?」

 

「戸塚が良いなら、俺は構わないぞ」

 

八幡は、壁に今までありがとう、と、お礼を言って、戸塚とテニスの練習に入る。

 

八幡と戸塚は、ラリー練習に入り、たんたんと続く。

 

戸塚は仮にもテニス部。八幡は、七海の練習に付き合って上手くなってしまった。

 

「本当に比企谷くん、テニス上手いよね?」

 

距離があるため、戸塚の声は間延びで八幡に聞こえる。

 

「まあ、七海とテニス練習してたから、自然と上手くなったんだよ」

 

「高梨さん、比企谷くんが練習に付き合ってくれたおかげだって、言ってたから」

 

「と、戸塚、あまり大きな声で言わないでくれ。あまり聞かれたくないからさ」

 

「……あ、ごめん…比企谷くんは静かに過ごしたいんだよね?」

 

戸塚は、ラリーを続けながらそう言ってきた。

 

「それも七海から聞いたのか?」

 

「うん…」

 

八幡はラリーを一端止めて休憩に入る。戸塚が疲れだしたので止めたという方が正しいだろう。

 

八幡は邪魔にならないところに座る。隣に戸塚も座る。

 

「お疲れ様、比企谷くん」

 

「そっちもな」

 

「比企谷くん、ちょっと相談があるんだけど?」

 

「相談…か…話なら聞いてもいいが?」

 

「うん。うちの男子テニス部のことなんだけど、すっごく弱いでしょ?それに女子に比べて人数も少ないし、今度の大会で3年生が抜けたら、もっと弱くなると思う。1年生は、高校から始めた人が多いし、まだ慣れてないし。それにぼくらが弱いせいで、モチベーションが上がらないみたいなんだ。人が少ないと自然とレギュラーだし」

 

「まあ、そうだろうな。レギュラー争いとか関係ないだろうし」

 

八幡も中学のサッカー部で、先輩達とレギュラー争いを繰り広げた。そして練習試合や強化試合で、活躍し大会前にはレギュラーを掴んでいた。雅史やみんなと勝ち続けたいと八幡は思っていた。

 

強い部活は、人数も多くレギュラー争いも激しい。弱い部活は、人数が少なくレギュラー争いもほとんどない。だからチーム内の競争力も無くなっていく。

 

大した気持ちもなく大会で出場でき、負けたとしても大会に出れただけで満足してしまう。そうして負のサイクルがグルグル回る。

 

「それで、比企谷くんさえ良ければ、テニス部に入ってくれないかな?」

 

「俺がテニス部に?」

 

「駄目かな?」

 

「………」

 

八幡はあくまでも平穏に暮らしたいと思っている。しかしあの決意表明の日から平穏な時間は確実に無くなっていくことがわかっている。

 

部活勧誘は、戸塚のテニス部が初めてではない。サッカー部の陽介達も一度勧誘したことがある。だが断った。

 

あとバスケット部からも勧誘があった。バスケット部部長は、総武中バスケット部の部長でもあった人だ。八幡は、バスケットも出来る方だ。

 

綾音と一緒に練習に付き合っていたこともあり、上出来になっていたのだ。

 

「俺は元サッカー部だぞ。テニスはマジで素人程度でしかないぞ?」

 

「比企谷くん、そんなことない。教え方上手いって、高梨さん言ってたし、比企谷くんと一緒ならぼくもっと頑張れると思うし、あの…変な意味じゃなくて、もっとぼく、テニスが強くなりたいから」

 

「……戸塚…お前…。入ってやりたいのは、山々なんだが、今はもう奉仕部に入ってるから無理なんだわ」

 

「奉仕部?」

 

「迷える子羊を自立を促す…部活か」

 

「迷える子羊を自立を促す部活?……うん…わかった」

 

戸塚は、そう言うと何かを決意した表情をしていた。八幡は声をかけようとも思ったがやめた。これからは戸塚自身の問題である。

 

 

放課後、八幡は奉仕部の部室にいた。そこで雪乃に相談をしたのだが、拒否の連続だった。

 

奉仕部で男子テニス部の練習を手伝うって名目で、依頼にしようと考えたのだが、雪乃によって拒否。

 

八幡は自らをカンフル剤の役目を担うつもりで言ったのが、雪乃には

 

「貴方に集団行動が出来ると思っているの?貴方みたいな生き物、受け入れてもらえるはずがないでしょう?」

 

八幡は心の中で、雅史や陽介達、バスケット部の部長の顔が浮かび、謝ってしまった。

 

雪乃いわく、自分のような生き物は、受け入れてもらえるはずがない、と言われたのだった。

 

「お前…俺をなめてんのか?」

 

「貴方を舐める?おぞましいことを言わないでくれるかしら?鳥肌が出てくるわ」

 

「……お前、まだそんなことを言うのか」

 

「もっとも貴方という共通の敵を得て一致団結することもあるかもしれないわね。けれど排除するために努力するだけで、それが自身の向上に向けられることは無いの。だから解決にはならないわ。ソースは、私」

 

「なるほど、お前の過去話ってことか」

 

「ええ。私、中学の時海外からこっちへ戻って来たの。当然転入という形になるのだけど、そのクラスの女子、いえ学校中の女子は、私を排除しようと躍起になったわ。誰1人として私に負けないように努力をした人間はいなかった。……あの低能ども……」

 

八幡は、何故か雪乃の背後からどす黒い炎みたいなのが見えている。地雷源を踏んだんじゃないかと思えるようなものだった。

 

「まあ、お前の容姿ならそうなるんじゃないか。排除したがるクラスのボスザルがよ…」

 

「……確かにいたわね、そういうボスザル的存在が…。そのボスザルとその子分達と比較して私の顔立ちはやはりずば抜けていたといっていいし、そこで卑屈になるほど精神はやわてでないから、ある意味当然の帰結といってもいいでしょう。とはいえ、山下さんや島村さんもかわいいほうではあったのよ?」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「彼女達は男子からの人気もそれなりにあったようだし。けれど顔だけの話であって、学力、スポーツ、芸術、さらに礼儀作法や精神性においてやはり私の足元にも及ばないレベルにいたことは間違いがわないわ。逆立ちしたって勝てないのなら、相手の足を引っ張って引きずり倒す方へ注力するのは仕方がない事よね」

 

八幡は、雪乃の自画自賛の言葉をずっと聞いていた。いやここまで自分を自画自賛で褒めれる事の偉大さに驚いているのだから。

 

綾音がそうだった事を思い出していた。彼女も八幡や雅史、緑子や七海がいなかったら、雪乃のようになってしまったのだろうか?

 

綾音をとことん慕っていた妹の綾香がいなかったら、彼女はどんなだっただろうか?

 

そんなことを考えていた八幡に雪乃は

 

「何を黙ってるのかしら?まさか嫌らしいことでも考えてるのかしら?穢らわしい」

 

「何で俺がお前なんかで…ってか戸塚をどうにか強くしてやりたいんだよ!」

 

「貴方が誰かを心配するなんてね、珍しいこともあるのね」

 

「珍しい?バカを言え。これでも中学の時は、悩み相談なら八幡に聞けって言われてた事もあるぞ」

 

「へぇー…貴方がね。妄想か何か?まあ、私は、恋愛相談をされたけどね」

 

「ふーん」

 

「っといっても、女子の恋愛相談って基本的には牽制のために行われるものよね」

 

「ああ、そうみたいだな、男子と違っな」

 

「何で貴方が知ってるのかしら?」

 

綾音は、八幡に告白する前に、親友である緑子、七海に相談する前に雅史や康に相談している。雅史や康にアドバイスをもらったとか後から知った八幡だった。

 

綾音は、緑子も七海も八幡が好きなことを知っていたからこそ、そうしたんだろうと八幡は考えている。

 

小町からも聞いたことがあるのだ。

 

【女子の友情は、簡単に壊れるって知ってる?例えば、同じ男子を好きなったりしたら……】

 

あの時の小町の表情は忘れない。あどけない表情の彼女だが、それを言った後の小町は、怖い女の表情をしていたのだから。

 

世の中の男子が抱いているような女子の幻想は、八幡にはとっくに無い、幻殺されているのだ。

 

「要するに何でもかんでも聞いて上げて、力を貸すばかりが良いとは限らないという事ね。昔から言うでしょう?【獅子は我が子を千尋の谷に突き落として殺す】って」

 

「殺すな!意味を変えるな!正しくは【獅子は我が子を狩るのにも全力を尽くす】っての」

 

雪乃は、フンと向こうを向いた。八幡はため息を吐いてから

 

「なら、雪ノ下が監督だとしよう。選手達にどんな練習を課す?」

 

雪乃は不意にそんなことを言われ、目をはちぱちと大きく瞬かせながら、そうね、と思案顔になる。

 

「全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かな」

 

雪乃は、微笑み混じりでそう言った。八幡は背筋に寒気を覚えたのは、言うまでもなかった。

 

雪ノ下雪乃監督…いや雪の女王の方が似合うだろうか。

 

八幡と雪乃のこんな会話が行われいた時、奉仕部の扉が勢いよく開けられた。

 

「やっはろー」

 

雪乃とは対象的に結衣は、お気楽そうな挨拶をしてきた。その背後には力なく深刻そうな顔をした人物とちょっと怒った表情で胸の下で腕を組んでいる人物がいる。

 

1人は戸塚彩加、もう1人は吹寄制理である。




本日2回目の昼投稿です。

それにしても良いタイトルが思い付かなかった。

トツカエルは、総武中関係者以外の最初の友達になっていきますね。

後、吹寄が奉仕部にやって来ましたが、一体何の用で来たのでしょうか。


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第1章ー第28話ーそれぞれの依頼。

第1章28話です。


ーー2ーF組

 

森崎は、松野に呼び出されて2ーF組に来ていた。松野の教室の廊下側の窓際の席である。

 

「来たな、森崎」

 

「な、何でしょうか、松野さん?」

 

松野は、森崎を自分の席の隣に座らせると、耳もとで呟いた。

 

「吹寄はわかるな?」

 

「はい、わかります」

 

「あれが、ピンク髪が由比ヶ浜、金髪が三浦、ボブヘアーが相模だ。分かるか?」

 

「はい、わかりました」

 

松野からそう言われ返事を繰り返した。

 

「あの件はお前が撮ることだな。俺からは、手助けしかできないからな」

 

松野が森崎と話していると、葉山グループの大岡と大和が話かけてきた。

 

「あれ?松野君何を話してるん?」

 

「うん?なんだ大岡か。普通にコイツと世間話をしているだけだよ」

 

「ふーん」

 

「それよりか、なあ、松野…竿はあるか?」

 

大和は、松野に竿はあるかと尋ねた。すると松野は、大和に茶封筒を渡す。彼は森崎がいるのを気にしている。

 

「森崎の事を気にしているのかい?安心して、彼は味方だから」

 

「そうか…」

 

大和が懐にしまった茶封筒に興味があるようで

 

「大和、その茶封筒は何?」

 

「何でも良いだろう」

 

「例の噂の?」

 

「大岡、君にも特別に…茶封筒を…但し、ここで開けるな、いいな?」

 

「わかった」

 

大岡も懐に茶封筒をしまった。大和は、松野に5000円を払っている。大和は松野達グループから、隠し撮り、つまり盗撮写真を購入している。葉山グループにいるのも、葉山狙いで集まってくる女子を狙ってる付しもある。

 

大岡もそんな考えで、近づいてる付しもあり、野球をしながら虎視眈々と狙っている。

 

大岡と大和がいなくなった後に松野は森崎に

 

「いいか、大和は、うちのお得意さんだ。あいつは必ず買ってくれる。大岡は様子見だな」

 

「葉山にチクられるんじゃ?」

 

「それは無い。あの2人葉山のいないところでは、ろくなことをしてないからな」

 

「え?」

 

「まあ、ここでする話ではないな、忘れてくれ」

 

松野の話はそこで終わり、森崎は自分のクラスへ戻ったのだった。

 

これは、吹寄と戸塚が奉仕部に来る前の何日か前の話だった。

 

 

 

ーーー奉仕部

 

「比企谷くん、ここが奉仕部なんだね」

 

「戸塚、やっぱり来たんだな」

 

「比企谷君、私もいるんだけど?」

 

「吹寄、何でお前もいるのか?」

 

「私は、いちゃいけないのかしら?」

 

「ほらほら、せいりんもさいちゃんも依頼人さんだからね」

 

結衣は、何故たが自慢気に言った。

 

「やー、ほらっなんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だからちょっとは働こうと思ってたわけ。そしたらせいりんとさいちゃんが悩んでる風だったから連れて来たの」

 

「由比ヶ浜さん、貴女」

 

「ゆきのん、お礼とかそういうのは全然良いから。部員として当たり前のことをしただけだから」

 

「由比ヶ浜さん、別に貴女は部員ではないのだけど」

 

「ち、違うんだっ!?」

 

結衣はすでに奉仕部に入ってるかのような会話だったが、まだ入部もしていなかった。

 

「ええ、正式に入部届けをもらってないし、顧問の承認もないから部員では無いわ」

 

雪乃は無駄にルールに幻格だった。

 

「書くよ、入部届けくらい何枚でも書くよっ!仲間に入れてよっ!」

 

ほとんど涙目になりながら結衣はルールリーフに丸っこい字でニュウブトドケと書いていた。

 

「で、戸塚彩加君、吹寄制理さん、何かご用かしら?」

 

かりかりと入部届けを書いている結衣をよそに、雪乃は、戸塚と吹寄に目を向けた。吹寄は、戸塚に最初に言っていいと促した。促された戸塚は、緊張しながらも答える。

 

「あ、あの……、テニスを強く、してくれる、んだよ、ね?」

 

最初こそ雪乃の方を見ながら言っていたが、語尾に向かうにつれて戸塚の視線は、八幡に向いていた。

 

「……戸塚、俺はなんとかしてあげたいが…」

 

「由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのか知らないけれど、奉仕部は便利屋じゃないわ。貴方の手伝いをし自立を促すだけ。強くなるもならないも貴方次第よ」

 

「そ、そうなんだね。最初に比企谷くんが言ったとおりなんだね」

 

「まあな、それで吹寄はまさか水泳部を強くしてとかじゃないよな?」

 

今まで黙っていた吹寄が、八幡に問われてしゃべり始める。

 

「違うわね。私からの依頼は、生徒会と平塚先生からの依頼でもあるわ」

 

吹寄にそう言われ、正面へ向き直し

 

「生徒会と平塚先生から?それでどのようなご用件でしょうか?」

 

「以前話していた、ハンカチもそうだけれども、特定の女子の持ち物が無くなってるのよ。結衣もお気に入りのハンカチが無くなったって言ってたでしょ?」

 

「あっ…!そうだった!」

 

「特定の女子の持ち物が無くなる?あっ!」

 

雪乃がそう言って八幡を見る。それも蔑んだ目で

 

「雪ノ下、そんな目で俺を見るなよ。何で俺が犯人?何で俺が吹寄や由比ヶ浜のハンカチを盗まなきゃならないんだ?」

 

「だって貴方…」

 

八幡が雪乃に腹を立てていると、吹寄が助け船を出してきた。

 

「比企谷君は、そんなことしないわよ」

 

「吹寄さん、何故言い切れるのかしら?」

 

「ぼ、僕も比企谷くんがそんなことをするなんて思えない!」

 

「戸塚、吹寄…お前ら…」

 

「ゆきのん、あたしもヒッキーはそんなことしないと思う」

 

結衣まで八幡がそんなことしないと言われたため雪乃は

 

「まあ、良いでしょう。吹寄さん、持ち物紛失以外にもあるのでしょう?これだけなら、生徒会や平塚先生がこちらに回す事もないでしょうし」

 

「ええ、こちらが本題よ」

 

吹寄は、本題を話し始めた。それは水泳部を狙った盗撮。

 

2日前にとある水泳部の女子生徒が、女子更衣室に仕掛けられていた小型カメラを発見したらしい。その小型カメラは、女子の着替えが綺麗に映る場所に仕掛けられていたようだ。

 

「せいりんは、大丈夫なの?」

 

「結衣…ありがとうね。……私ののも当然撮られていたわ。学校裏サイトみたいなとこに上がってるって、城廻生徒会長から報告があって」

 

八幡は、自分のスマホからその学校裏サイトなるサイトへ行く。

 

するとそこには、いかにも怪しげな雰囲気のサイトに出た。総武高校裏サイト

 

「な、なんだこれ…」

 

総武高校の女子達の~恥態~

 

と書かれている。戸塚も八幡が見ているサイトを見て、思わず赤くなり目を反らす。

 

「これ…個人でやってるレベルじゃねーぞ!」

 

八幡は、水泳部の盗撮写真を見ていたら、綾香の写真を見つけた。八幡は怒りが込み上げてくるが、冷静に装っていた。吹寄が話し出す。

 

「城廻生徒会長も今回の事を重く見て、校長や教頭に掛け合ったけど、掛け持ってくれなかったそうよ、だから平塚先生に相談したら、奉仕部を紹介されたって。それで、私が忙しい城廻生徒会長の代わりに来たの。まあ、城廻生徒会長は自ら行きたいようだったけど」

 

「吹寄さんの依頼は、生徒会と平塚先生からの依頼でもあるわ。お引き受けするしかないわね」

 

「戸塚の件は?」

 

「貴方が、昼休みに戸塚君を鍛えてあげれば、良いでしょう?」

 

「雪ノ下、それは戸塚の件も引き受けたんだな?」

 

「ええ、私は盗撮の件を片付けるわ」

 

雪乃、結衣、吹寄が盗撮の件で話をしている。

 

八幡と戸塚は、昼休みに行う練習について話を進める。

 

「明日の昼休みから練習をスタートさせるが、良いか?」

 

「はい、お願いします、比企谷くん」

 

こうして奉仕部は、戸塚のテニス強化と盗撮事件の依頼を遂行していくことになった。




吹寄達水泳部の盗撮事件が発覚しました。しかしこの事件は、沢田達グループの犯行ではなく、別の人間の犯行ですかね。

沢田グループの暗号【竿→盗撮写真(パンチラ)】

八幡は、綾香の盗撮写真を撮られてかなりキレてます。

戸塚は、八幡の考えた練習プランをこなしていきますね。


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第1章ー第29話ーテニス勝負、八幡・綾香対葉山・三浦。①

第1章29話です。


ーー

 

奉仕部でみんなと分かれた後、八幡は雪乃を追っかけて盗撮の件の話をした。

 

「待て、雪ノ下、盗撮の件も俺も手伝うぞ」

 

「貴方は、戸塚君の件をやれば良いのよ。盗撮の件は、私がやるわ!」

 

「吹寄も言ってただろ、本来なら自分達の領分を超えてるって!校長や教頭が動かないって嫌な予感がするんだよ」

 

「だからよ、だから私がやるの!私がやらなければならない案件なのよ!」

 

雪乃は、鋭い目つきで八幡を睨む。睨まれた八幡も一瞬怯んでしまった。

 

「…貴方の気持ちだけは、受け取っておきましょう。私だけではなく、吹寄さんと由比ヶ浜さんも時間が許す限り協力してくれるそうだから」

 

そう言って雪乃は、八幡の前から去って行った。

 

「雪ノ下…お前は……」

 

八幡はそう呟いた後、盗撮の件も八幡なりに調べる決意をしたのだった。念のために七海の父親の高梨議員と葉山弁護士にも相談したのだった。何故生徒会が告発した案件を校長、教頭が受理しなかったのか調べてほしいと頼んだのだった。

 

 

ーー昼休み→テニスコート。

 

翌日の昼休みから、戸塚のテニス強化週間として練習を励むことにした。昼休みの時間だけ、コートを使わせてほしいと女子テニス部に頭を下げて許可をもらった。女子テニス部の部員達は、八幡に対して不満や嫌々さを出していたが、副部長と部長が現れた。

 

総武高校の部長、副部長は、総武中のOGであり、七海の先輩でもあり、テニスの大会で好成績を残した実績がある。

 

昼休みだけと言う条件と暇な時に女子テニス部に指導してくれないかと言われ、承諾してしまった。

 

 

さっそく、体操服に着替えた八幡と戸塚は、準備運動を念入りにやり、軽くテニスコート内を走ることから始めた。何でも最初はランニングから始める。

 

身体を暖めた後、2人並んで腕立て伏せを始める。

 

腕立て伏せをしながら戸塚は、八幡を見て笑っている。

 

「戸塚、何で笑ってるんだ?」

 

「こっちの比企谷くんが本当の姿なんだなって見てたんだ」

 

「そうか…」

 

クラスの時には、そう言うことは適当に流していた。別に真剣にやるわけじゃないのだから、適当にやって適当に終わるようにしていただけだ。

 

八幡は、一度受けたものは必ずやり遂げると決めているから、戸塚を上手くさせるために真剣になったのだ。

 

「まだまだ、比企谷くんの足を引っ張るかも知れないけど、僕、頑張るから!」

 

「戸塚、テニスを上手くなりたいんだろ!なら足を引っ張るとか弱音を出すな!絶対に強くなるんだという気持ちが大切なんだから!」

 

「はい!比企谷コーチ!」

 

八幡と戸塚は、こうして二人三脚で頑張って行くことに。

 

 

日が経つにつれ、戸塚はテニスの技術力が良くなってるのがわかるくらい上達していた。途中に材木座、陽介、完二が練習を手伝ってくれるようになり、練習効率を上がり、ラリー方式の練習もできるようになったのも大きかった。

 

材木座は、戸塚が女子だと思ってたようで男と知るとショックを受けていた。

 

今は戸塚と3人は、仲良くなって連絡先を教える仲までなっている。

 

 

今では、昼食ですらテニスコートの隅で4人で食べている。少しでもテニスの練習をする時間を増やしたいためでもある。

 

昼食を食べた後、テニスコートの隅で寝転んでも気持ち良いのだ。そこに心地よい風が吹いたらもっと良いのだが。

 

八幡達には、寝ているような時間は無い。戸塚を早く強くしなければ、ならないのだから。

 

だから厳しくいく八幡。

 

「それじゃあ、ダメだ。脇が甘い!」

 

八幡が返したボールを打ち返そうとした戸塚がずさっと転んだ。

 

「戸塚、大丈夫か?」

 

「いえ、大丈夫だよ、比企谷コーチ!」

 

戸塚は擦りむいた足を撫でながら、濡れたそぼった瞳でにこりと笑い、無事をアピールしてきた。八幡は完二に救急箱をとアピールする。

 

完二がすぐに救急箱を持って来て治療する。

 

「戸塚センパイ、ちょっと無茶なことばかりしてるッスよね?」

 

「ううん、完二くん、無茶とかしてないよ、テニスが上手くなりたいんだ。だから!」

 

戸塚が、完二にそう言って前へ出る。しかし、何だかテニスコートの外が騒がしくなる。

 

その原因は葉山グループとその集団であった。八幡は、葉山グループの登場に舌打ちをした。戸塚は、陽介や完二の後ろに隠れた。材木座も八幡の方へやって来る。八幡が先手を切る。

 

「何のようだ?そんなにぞろぞろと」

 

すると三浦が話し出す。しかし

 

「ね、戸塚、あーしらもここで遊んでも良い?」

 

「三浦さん、ぼくは別に遊んでるわけじゃ、なくて…練習を」

 

「え、えっ何、聞こえないんだけど?」

 

戸塚の小さすぎる抗弁が聞き取れなかったのか、三浦の言葉で戸塚は黙ってしまう。

 

「あのな、戸塚はテニス部の練習をしてるんだよ、分かれよ、三浦!」

 

陽介が大声で三浦に叫ぶ。だが三浦は

 

「あーしは、花村には聞いてないしー戸塚に聞いてるんだけど!」

 

戸塚はそう言われて、なけなしの勇気を振り絞って

 

「れ、練習を…練習をしてるんです」

 

「ふーん、でもさ、部外者が混じってるじゃん。ってことは別に男子テニスだけで、コートを使ってるわけじゃ無いんでしょ?」

 

「そ、それは、そう、だけど」

 

「じゃあ、別にあたしら使っても良くない?ねぇ、どうなの?」

 

「だけど、……」

 

戸塚が八幡に助け船を求めてきた。彼もイライラは沸点に近づきつつあった。

 

「お前らいい加減にしろよ!今の時間は俺達が戸塚の練習に使っている。遊びじゃないんだよ!」

 

八幡のドスの聞いた声で言ったため、三浦は少し押され気味になった。

 

「な…!?」

 

「陰キャの分際で、いい気になるなよ!」

 

「三浦が使わせてほしいと言ってるんだから、お前らはとっととどけよ!」

 

威圧的に言ってきた、葉山グループの田中と山本が八幡の前に現れた。

 

「俺達は、ちゃんと許可をもらって使わせてもらっている!お前達もやりたかったら、女子テニス部に許可をもらえ!」

 

「許可…!?三浦や葉山がいるし、必要ないんだよ!」

 

「あぁ!」

 

無茶苦茶な事を言ってきた田中と山本。八幡の怒りが臨界点を突破も時間の問題かと思えたが、

 

すると葉山がやって来て

 

「ケンカは良くない、そうだ比企谷君、陽介や完二もいるし、ちょうど良いかな。部外者同士で勝負。勝った方が、今後の昼休みにテニスコートを使えるってことで。もちろん戸塚の練習にも付き合う。強いヤツと練習した方が戸塚のためにもなるし。みんな楽しめる」

 

「葉山、お前…」

 

「葉山センパイ…」

 

陽介と完二が葉山に何かジェスチャーで言っている。三浦も

 

「テニス勝負?……なにそれ、超楽しそう!」

 

三浦が炎の女王特有の獰猛な笑みを浮かべている。その瞬間、わっと取り巻きの連中が沸き立った。

 

比企谷、材木座、陽介、完二対葉山グループの構図になっていた。

 

そして今や校庭の端に位置するテニスコートには、人がひしめき合っていた。

 

200人は有に超している人数が集まって来ている。葉山グループはもちろんのこと、どこから話を聞き付けて来たのかそれ以外の連中も多く押し寄せていた。

 

その大半が葉山の友人、及びファンである。2年生が主であるが、中には1年生も交じっており、ちらほらと3年生の姿も見える。

 

「HA・YA・TO!フゥー!HA・YA・TO!フゥー!」

 

ギャラリーの葉山コールの後は、ウェーブが始まった。まるっきりアイドルのコンサートだ。

 

八幡達は完全にアウェイ状態だ。

 

「マジでスゲーな葉山コールにウェーブ!」

 

「陽介センパイ、のまれないようにしないと」

 

「マジですごいよな、葉山は…。あんだけも人間を連れてこれるんだからな…」

 

葉山は早くもコートの中央へ歩み出す。これだけのギャラリーに囲まれてもどこにも怯みはない。この注目には慣れているのだろう。葉山の周りには件の取り巻きだけではなく、他のクラスの女子やら男子やらも集まっている。陽介が不安そうに

 

「総武中OB・OGはどうしたんだよ!」

 

「…表だっては俺を応援できないだろうな、なんと言ってもあの葉山だからな…」

 

「これが、海浜だったら…」

 

「そんなこと言っても仕方がないだろう…」

 

「天国の綾音ちゃん!八幡が葉山と戦うんだが、何せアウェイ感半端ないから力を貸してくれ!」

 

天に祈るようなポーズを取る。完二も同じようにポーズを取る。材木座も中二的に天に祈るようなポーズする。

 

「ってこんなことで綾音に祈るんじゃない!」

 

するとスマホの着信がなる。番号は知らない番号だが出てみる。

 

「もしもし、比企谷君?テニスコートの方がうるさいようだけど、何かあったの?」

 

「雪ノ下、何で俺の番号を?」

 

「平塚先生から聞いたわ、でテニスコートで何があってるの?」

 

「ああ、テニスコートをかけて葉山グループとテニス勝負だよ。それでギャラリーが集まって来たようだな」

 

雪乃の側には結衣もいるのだろう、何か言っているが聞きづらい。

 

「葉山君と……私達もそっちに行くわ」

 

雪乃は、そう言って通話は切れた。再びコートの方を見ると葉山だけではなく三浦もスタンバイしていた。葉山は申し訳ないような表情をしていて、三浦は勝ち誇ったような表情をしている。

 

「あーしら、男女ペアでやるから、そっちも男女ペアにしてくんない?」

 

「な、何だと」

 

「っつっても、ヒキタニくんと組んでくれる子はいんの?とかマジウケる」

 

三浦がゲラゲラゲラと甲高い下品な声で笑うと、ギャラリーにもどっと笑いが巻き起こった。

 

これには、陽介と完二は怒りが沸いてきた。材木座も

 

「これを海浜の八幡を慕う連中が聞いたら…どうなることか」

 

「間違いなく戦争ッスね…オレはあの高飛車女が嫌いッスね」

 

「山岸、高梨…折本…綾香ちゃん、城廻先輩、陽乃さん、八幡のピンチだぜ…」

 

「マジでどうするッスか?高梨先輩を呼ぶんスか?」

 

「呼べるわけが無いだろ!あいつは海浜なんだからな」

 

三浦とギャラリーはまだゲラゲラと笑っていた。上からの目線で八幡に

 

「早くしてくんない?ヒキタニくんが土下座して、ペア組んで下さいって言ったら、誰かが組んでくれるかもよ?」

 

「あまり八幡お兄ちゃんの悪口を言わないで欲しいのだけど?」

 

ギャラリーの中から、そう声が響いた。それはなんと、最愛の恋人の綾音の妹の綾香だった。彼女が通るとギャラリーが2つに割れる。そうしてギャラリーの中でもざわつく。何で八幡にお兄ちゃんって言ってるのか、とか兄妹なのか、とか。何で綾香が、あんな陰キャと仲良くしてるんだという妬み臭もしていた。

 

1年生の中でも綾香は人気がある。だが三浦はそんな綾香に

 

「何なん、アンタ、アンタがヒキタニとペアを組むって?」

 

「ええ、私が八幡お兄ちゃんとペアを組みます!」

 

「綾香、お前…」

 

「私は、八幡お兄ちゃんを侮辱したヤツは許せない!」

 

三浦と綾香のピリピリ感がその場の雰囲気を作り出している。陽介達も一歩引いている感じがした。

 

「制服じゃあれだから、女子テニス部からユニフォーム借りるから、アンタも来れば?」

 

「ええ、そうさせてもらいます」

 

三浦と綾香は、テニスコート脇にある女子テニス部の部室を顎で指した。2人共に部室の方へ行った。葉山が八幡に近づいてきて

 

「済まない、優美子やギャラリーがあんなこと言って」

 

「別に気にはしていない」

 

「あの子、恋人さんの妹さんなんだね、雅史や陽介達に聞いてたんだが、予想以上だったよ」

 

「まあな。正直俺自身も驚いているさ。テニスのルールだが、普通に単純に点取りで構わないな?」

 

「そうしてもらえると、助かる。テニスは素人同然だからね」

 

「わかった」

 

八幡と葉山がそんな会話をしていたら、綾香と三浦がテニスのユニフォームに着替えて戻ってきた。

 

そして、八幡・綾香ペア対葉山・三浦ペアのテニスの戦いが始まろうとしていた。




ついにテニス勝負ですね。雪乃達は、盗撮犯を捕まえるために行動していて、八幡達は戸塚のテニスを上手くために練習に付き合っていた。

テニス勝負の時も盗撮は行われる可能性は高い。


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第1章ー第30話ーテニス勝負の裏側で。

第1章30話です。


ーー奉仕部

 

八幡達が戸塚にテニス練習をしてる頃、雪乃達は、奉仕部で盗撮の件について話し合っていた。

 

雪乃達が聞き取り調査や現場検証(水泳部の部室)を写真やメモの紙が机の上に置かれている。

 

「これ以上は出てこないのかしら?」

 

「うーん、難しいところよね。比企谷君から教えてもらった学校の裏サイト…」

 

「総武高校の女子達の恥態~だったかしら…おぞましいサイトだったわね」

 

「あたし、改めて見たんだけど、あれってどうやって撮ってるの?」

 

「水泳部に有ったカメラは、道具の入った箱の隣に有ったわね。周りに溶け込ます感じで置かれてたし」

 

「そうね、今はカメラ自体も小型化してるし、一見カメラとはわからないものもあるわね」

 

改めて雪乃達は、自分達のあられもない姿を盗撮されていることを思い知らされた。気持ち悪さに怖くなったのも事実である。

 

「学校裏サイトの件は、城廻会長に相談した結果、削除することが決まったわね」

 

「削除はできても、拡散されたものは、残り続けるわ」

 

「うー、それは嫌だな~」

 

「雪ノ下さん、犯人を見つけるまでやり続けるの?」

 

「ええ、犯人を捕まえない限り、盗撮や盗みの数が減らないのよ」

 

吹寄と結衣が顔を合わせて、そして雪乃に言ってきた。

 

「雪ノ下さん、この案件って本来ならもう私達が調べるものじゃないと思うのよ。警察や教育委員会がやるべきだと思うの」

 

「せいりんの言ってるとおりだと思う。ゆきのん、これ以上は……」

 

「確かにそうかもしれないわね。それは自浄能力がある場合ね…。今の総武高校にそれがあるとは思えないわね」

 

「それって、教職員側に盗撮犯の仲間がいるってこと?」

 

「そうなってくるでしょうね。校長や教頭に圧力を加えられるような身分の人間と知り合い…」

 

「そうなってくるとますます私達だけでは…」

 

「吹寄さん、由比ヶ浜さんは下りても良いのよ。これ以上は貴女達に危険な目に合わせられないわ」

 

雪乃が真剣な表情で、吹寄と結衣にそう言ってきた。

 

そんな時、外から葉山コールが聞こえてきたのだ。

 

「ふぇ~!?隼人君コール?どこから?」

 

「校舎の端…テニスコートの方かしら?葉山君がまた何かやってんのかしらね」

 

「テニスコート…あっ!」

 

雪乃は、スマホを取り出して八幡にかけようとしたが、番号を知らない。結衣と吹寄に聞いたが彼女達も知らないようだ。仕方がないので、平塚先生に八幡の番号を教えてもらって、彼のスマホにかける。彼はコール2回で出た。

 

「もしもし、比企谷君?テニスコートの方がうるさいようだけど、何かあったの?」

 

「雪ノ下、何で俺の番号を?」

 

「平塚先生から聞いたわ、でテニスコートで何があってるの?」

 

「ああ、テニスコートをかけて葉山グループとテニス勝負だよ。それでギャラリーが集まって来たようだな」

 

八幡がしゃべっているが、テニスコートのギャラリーの声援がうるさく雪乃にとっては、耳障りほかならない。

 

「はぁ~ヒッキー、隼人君達とテニス勝負?ヒッキーが勝てるわけないでしょ!」

 

結衣が何かまだ言いたそうだが、吹寄に押さえられる。

 

「葉山君と…私達もそっちに行くわ」

 

雪乃は、八幡と通話を終えると、テニスコートへ行こうとする。

 

「雪ノ下さん、私も行くわ」

 

「ゆきのん、あたしも行く!」

 

雪乃、吹寄、結衣は、八幡と葉山グループがいるテニスコートへ行くことになった。

 

 

ーー1年C組教室にて。

 

綾香は、友達と弁当を仲良く食べていた。彼女は5月の中頃には、クラスの女子の中心的になりつつあった。男子にも人気がうなぎ登りになっていた。

 

それで綾香の周りにいる女子生徒達は、総武中からの一緒に来た人間達だ。

 

「それで、比企谷先輩と関係は進んだの?」

 

「…!?、美桜、いきなり聞くの?」

 

いきなり八幡との関係を聞いてきたのが、斎藤美桜。格好は不良のようにしているが、根は優しい女子。

 

「美桜さん、お下品ですわよ。聞くならもうちょっと…綾香さん、処女は比企谷先輩に捧げたのですか?」

 

「ぶっ…!!」

 

こんなことを聞いてきたのは、黒沢静香。容姿や格好からは、お嬢様のように見える。実際にお嬢様だが、発言がとてもお嬢様とは思えない下品発言をする。

 

「静香…お前の方がよっぽど下品じゃないか!」

 

「お下品ですって?それは美桜さん、貴女の頭の中だけでしょ?」

 

「なんだと!」

 

「ハイハイ、美桜も静香もケンカはやめようか。昼食が不味くなるでしょ?ねぇ綾香!」

 

「そうね、瑠璃」

 

「う…」

 

「しゅん…」

 

美桜と静香を大人しくさせた女子は、綾香の小学時代からの親友である。名前は、新山瑠璃。容姿はボブヘアーで、スポーツ少女って感じの女の子で、バスケット部所属。短い時間ではあったが、中学時代綾香の姉である綾音とも一瞬プレイをしていて、八幡からも教えてもらっている。

 

「八幡さん、まだお姉さんの事を思ってるんだよね?」

 

「うん…八幡お兄ちゃんの心は、綾音お姉ちゃんでいっぱい…」

 

「でも…比企谷先輩は、今年1年待ってくれって言ったんでしょ?」

 

「それは…そうだけど…でも…」

 

「ライバルがいらっしゃるみたいだから、やはり処女を…」

 

「静香、お前はうるさいわ!まあ有象無象のライバルなら良いけど、みんなライバルはレベル高しみたいだし、不安になるのはわかるかも」

 

「問題は、そこなんだよね~」

 

まずは、海浜総合高校組の女子達。

 

まずは、山岸緑子。綾音の親友にして、海浜の水泳部のエース。海浜の四大美少女の1人。八幡と並び立つために努力を惜しまない彼女。

 

2人目は、高梨七海。綾音の親友にして、海浜のテニス部のエース。彼女も八幡と並び立つために努力を惜しまない彼女。

 

3人目は、折本かおり。八幡の親友。綾音達以外の八幡の女の子の親友。気さくに八幡と話す中だったが、とある時に己の気持ちに気づいて、中学の文化祭で告白し、フラれる。フラれた後も親友関係は続いている。彼女も八幡の隣に進むために努力をしている。

 

 

総武高校組のライバルは、事実上、城廻めぐり生徒会長だけである。だが城廻めぐりは、小説の件の時、傷ついた八幡を年上の包容力で包み込んだ。

 

彼女は、後々の文化祭実行員や生徒会長選挙に彼に出てもらいたいと思っている。

 

最後は雪ノ下陽乃。彼女は大学生ではあるが、地元とかに影響力がある女性。八幡も綾音を救ってくれた恩義があり、いつかは陽乃に恩義を返したいと思っている。めぐりとは違う女性であるのは違いない。

 

全員綾香にとっては、ラスボス級の難敵ばかりである。

 

綾香の強みなのは、八幡と一緒に暮らしていることと、綾音の妹であることと、彼の妹の小町が、綾香に八幡のお嫁さんになって欲しいと思ってるくらいか。

 

美桜と瑠璃が厳しい戦いだという表情をしている。静香がまたもや

 

「やはり綾香さんが、比企谷先輩を押し倒すとか、全裸で押し倒すとか、夜這いをかけて押し倒すとか!」

 

そんな発言をした静香は、瑠璃に頭を叩かれる。

 

「静香、アンタさっきから押し倒すしかいってないじゃない?」

 

「押し倒すのが一番手っ取り早いでしょ?綾香さんは、処女を捧げ、比企谷先輩から童貞をもらう…私ながら完璧な計画ですわ」

 

「静香、アンタの口からは下品な言葉しか出ないわけ?」

 

「瑠璃さん、貴女も本当は好きなんでしょ、下ネタが?」

 

「静香、下ネタ発言はもうやめようよ、周りの男子も引いてるわよ」

 

美桜が困った表情で、静香と瑠璃を見ている。

 

一方の綾香は、何かを想像をしたようで、顔が赤くなっていた。そこに静香が

 

「おやおや、綾香さんは、比企谷先輩のナニ…を…フガ!」

 

静香は、何かを言おうとしたが、瑠璃に止められた。

 

「静香、それ以上、言うな!」

 

綾香達がこんなことをしていたら、突然テニスコートの方から、葉山コールが巻き起こり、クラスがざわつき始める。

 

そしてクラスの女子達が、葉山がテニス勝負をするみたいな会話が聞こえてくる。

 

「葉山先輩がテニスで勝負するって?」

 

「へぇー葉山先輩が?で、対戦相手は?」

 

「さぁ~知らない人…」

 

「しかし、葉山先輩と対戦する相手も身の程しらずと言うか…この学校の生徒を敵に回す行為だよな」

 

「そうだよね~」

 

慌てて教室へ入ってきた男子生徒が

 

「対戦相手は、確かヒキタニとか言うヤツだって!」

 

それを聞いた綾香は、慌てて立ち上がる。

 

「八幡お兄ちゃんが!?」

 

美桜、静香、瑠璃の3人は顔を見合わせる。

 

「葉山先輩ってサッカー部の…」

 

「葉山隼人、サッカー部の次期部長のエースですわね」

 

「葉山先輩、総武高校では人気があるもんね」

 

綾香は、何かを決意した表情で教室を出てテニスコートを目指す。

 

「私達も行きますか」

 

「そうですわね、比企谷先輩を応援に行きますわよ」

 

「ええ、行きましょう!」

 

美桜、静香、瑠璃も綾香の後を追った。




今回は八幡達テニス勝負の裏側の話ですね。

綾香の親友を出してみました。色々な方々がいます。みんな総武中からの親友ですが。彼女達は、綾香の恋の成就に力を貸してくれます。まあ1人は、下ネタとか下の話ししかしませんが。

三浦優美子は、ワルからデレていく感じにしたかったですね。他のヒロインは、好意度がMAXみたいなものですから、マイナスからのヒロインもいても良いかなと。

葉山は、葉山の意図があるんでしょうね。八幡と正面から戦ってみたいという気持ちもあるでしょう。だから今回のテニス勝負を仕掛けてきたかも。

海浜四大美少女の4人目は、氷川静江。彼女も総武中出身。中3までは、地味地味子と言われてイジメられていたが、八幡達がイジメっ子を退治した。その後八幡や雅史が、緑子達と共に彼女のイメチェンをやって、美少女に生まれ変わった。彼女も色々あるが、後に雅史の彼女になる。


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第1章ー第31話ーテニス勝負の裏側。②

第1章31話です。


ーー奉仕部教室→テニスコート付近。

 

雪乃、結衣、吹寄は、テニスコートの方に来てみたが、凄い人混みで中々近づけない。

 

学校中の生徒達が来てるのではないかというくらいの集まりがこのテニスコートの周りにいるのだ。

 

これは錯覚でもなんでもない、事実である。

 

「葉山君、比企谷君と遊びで勝負するってだけでこれだけの人間を集めるなんて」

 

「隼人君は、学校中に人気あるから…」

 

「それが葉山君の人望のあつさなんだろうけどね」

 

「……それに比べて何もない谷君の声援は無いに等しいわね」

 

結衣と吹寄は顔を合わせながら互いに苦笑いをする。

 

「ゆきのん、何もない谷って、ヒッキーが可哀想だよ」

 

「比企谷君も人望はあるみたいよ」

 

葉山コールのウェーブの中に比企谷コールも上がっている。それも女子達の声援である。

 

「比企谷先輩!綾香!葉山先輩なんか倒せ!」

 

「八幡先輩!雪柳さんやっちゃって下さい!」

 

八幡に声援を送るのは、綾香の親友達だけではない。

 

彼女達は、総武中から彼を追ってやって来たのだ。

 

すると次々と比企谷八幡コールが起こり始める。結衣は以外に八幡のコールが多いのに驚いているが、いやそれ以上に雪柳綾香という固有名詞に大変に驚いている。

 

「ヒッキーのコールがこんなに?って雪柳綾香って誰?」

 

「やはり彼はすごいのよ。総武中の英雄みたいなものだからね。雪柳綾香は、私の水泳部の後輩であり、比企谷君の幼なじみかな」

 

吹寄は、八幡の恋人の妹とは言わなかった。それは自分が言うべきではないと分だからだ。

 

「ヒッキー、幼なじみがいるなんて、話してないし」

 

「ふーん、あの比企谷君に幼なじみがいるなんてね。驚きだわ」

 

戸塚の声で

 

「比企谷、雪柳ペア対 葉山、三浦ペアのテニス勝負を始めたいと思います…では始め!」

 

テニスコートの周りの観衆の歓声が上がる。雪乃と結衣が

 

「混合ダブルスってことね」

 

「隼人君に優美子…ヒッキー達大丈夫かな?」

 

「普通に考えたら勝てないでしょうね」

 

「優美子、中学んときにテニスの県選抜に選ばれているし」

 

吹寄はそれでも希望を捨ててはいなかった。

 

「綾香、中学の時は、バスケ部のキャプテンで、中学の千葉県選抜に選ばれたことあるわよ。それにテニスの腕もかなりのものだったから。それに比企谷君もテニスはかなりの腕だと聞いたことあるわ」

 

ギャラリーの声援が一段と大きくなる。葉山・三浦に先制点が入ったのだ。

 

「0ー15!」

 

「やっぱり、隼人、優美子ペアに勝てるわけないし」

 

「まだわからないわよ、勝負は最後までわからないし」

 

「どうかしらね」

 

雪乃、結衣、吹寄は、人垣をかき分け前の方へ移動した。

 

 

ーー1ーC→テニスコート。

 

綾香達は、テニスコートの場所までやって来たが、すでに葉山のファンの集まりでごちゃごちゃしていた。

 

「凄い人だかりね。これじゃあ近づけないわね」

 

「うーん、人混みをかき分けるしかないんじゃない?」

 

美桜と瑠璃がそう言った。

 

「かき分ける…かき分ける…かき分ける…!」

 

静香がそう言ったが、瑠璃によって頭を叩かれる。

 

「静香、アンタは、ここまで来て下ネタか!」

 

「瑠璃さん、貴女、先ほどから私の頭を叩きものにしてませんか?」

 

「アンタが下ネタばかり言うからよ」

 

綾香達がそう言った時、声援って言うより罵声に近い声が聞こえてきた。

 

「あーしら、男女ペアでやるから、そっちも男女ペアにしてくんない?」

 

「な、何だと」

 

「っつっても、ヒキタニくんと組んでくれる子はいんの?とかマジウケる」

 

三浦がゲラゲラゲラと甲高い下品な声で笑うと、ギャラリーにもどっと笑いが巻き起こった。

 

それを聞いた綾香は、怒りが込み上げてきた。大好きな八幡を馬鹿にされた彼女は、怒りで燃え上がり始めた。親友の美桜、静香、瑠璃も怒っている。

 

「綾香、比企谷先輩の側に行ってあげなさい。今の先輩を助けられるのは、綾香だけだよ」

 

「綾香さん、ドーンっとかまして下さいな!」

 

「綾香、八幡さんと頑張ってね!」

 

美桜、静香、瑠璃の3人は綾香の背中を押した。綾香も背中を押され、ギャラリーの中へ入って行く。ギャラリーは、綾香達の気迫に押され、両サイドに割れる。そして綾香は、八幡のことを侮辱する相手に向かってこう言い放つ。

 

「あまり八幡お兄ちゃんの悪口を言わないで欲しいのだけど?」

 

綾香は、堂々とした態度で、相手の土俵へ上がって行く。

 

自分の姉が愛した八幡を馬鹿にしたこと。

 

自分が尊敬している兄、八幡を侮辱したこと。

 

そして何よりも自分が一番大切な八幡を、人前で傷つけた目の前の敵をぶちのめすために。

 

綾香の眼は、闘志が宿っている。その眼は三浦と葉山を見据えていた。

 

ーーー

 

学校中がテニスコートに釘つけになっているとき、とある人物はテニスコート脇にあるテニス部の女子更衣室のすぐそこにいる。

 

森崎弥太郎である。何故彼がこんなとこにいるのかというと、学校中が比企谷対葉山に目を向けている最中に、どさくさに女子のパンチラ写真でも撮ってこいと言われたからだ。

 

「あの人達も人使いが荒いよ。こんな人がいる時にはリスクが高いのに」

 

森崎は、周りを警戒しながら機会を伺う。すると2人の足音が近づいてくる。まずいと思い森崎は影に隠れる。隠れながら様子を見る。

 

「あれは、2ーF組の三浦優美子と1ーC組の雪柳綾香か…」

 

2人は、テニス部の女子更衣室へ入っていく。森崎は一瞬どうするかと考えたが、女子更衣室へ近づく。真剣モードになり自分自身の気配を消す。

 

葉山コールとそれよりも弱いが比企谷コールが常に上がっている。

 

「コールのおかけで、色々と助かってはいるが…」

 

森崎は中の様子を伺おうとしたが、中が見えるようなとこは無い。中に2人の被写体がいるというのに何も出来ないことに腹を立てていた。

 

時間だけが過ぎていき、三浦と綾香は女子更衣室から出ていく。2人が遠ざかったのを確認すると、森崎は窓を確認する。どこか開いていないか確認する。すると1つだけ窓の鍵が壊れているのか、綺麗に閉まっていない。森崎はそれを無理やり鍵を外し、女子更衣室へ侵入する。

 

「これがテニス部女子更衣室か…」

 

森崎は中を物色するように見渡す。先ほどまで、三浦と綾香がいたのだ。

 

だが長居は出来ない。自分で購入して自分なりにアレンジして作った小型カメラをとある場所に設置してそそくさに退散する森崎。

 

「三浦と雪柳のヤツが綺麗に撮れますように」

 

森崎は、そう言って祈った。彼が密かに女子テニス部の更衣室から脱出してちょっとしてから、学校の放送室から、BGMが流れる。

 

それはテニスコートの方へと。

 

テニスコートの方のギャラリーの一部、比企谷コールを言っていた人間達が歌い出していた。

 

とある女子生徒は、生徒会室で。

 

とある女性は、移動中のリムジンの中で。

 

とある女子生徒達は、離れた海浜総合高校の屋上で。

 

この歌は、綾音が八幡を送り出す時に対に歌ったものである。

 

この歌は彼を奮い立たせるには十分な歌だ。

 

 

八幡の眼には、いつものやる気無しの眼ではなく闘志の炎が宿っていた。

 

かつて指し手の八幡と言われていたあの頃の眼に。




今回も裏側ですね。

綾香がギャラリーの中でも堂々としていたのは、親友の後押しと何より八幡への想いで動いたこともありますが、八幡を侮辱した事が一番許せない感じですね。

BGMを鳴らした放送部は、部長と副部長、部員の大半が総武中出身。総武中の文化祭の時、八幡達のバンド演奏も陰ながら支えていた。

綾音が歌ったのは、篠原涼子さんの【恋しさとせつなさと心強さと】ですね。雅史達からは、八幡応援歌と言われている。

森崎君は、こんな時でもやってますね。


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第1章ー第32話ーテニス勝負、八幡・綾香対葉山・三浦。②

第1章32話です。


ーーーテニスコートにて。

 

「0ー15」

 

戸塚の声がテニスコートに響く。葉山・三浦ペアに先取点が入る。八幡はわざとボールに触れなかった。目配りを事前に綾香と交わして、わざと触れなかった。

 

葉山・三浦コールが鳴り響く。

 

「HA・YA・TO・トゥー HA・YA・TO・トゥー YU・MI・KO・トゥー YU・MI・KO・トゥー~~~」

 

ウェーブ合戦と比企谷コールが鳴り響く中、八幡、綾香ペアと葉山、三浦のラリーが激しく続く。

 

八幡と綾香は、葉山と三浦の動きやクセ等を見るために、わざと向こうが有利にさせているのだ。葉山と三浦はそんなことに気がつくはずもなく、自分達が有利だと勘違いしていく。

 

八幡は綾香を見る。別状彼女のスタミナ切れを気にする必要もなくピンピンとしている。視線を感じたのか綾香は八幡に話しかける。

 

「八幡お兄ちゃん、何?」

 

「まだまだ大丈夫そうだなってな」

 

「私なら心配しないで。水泳部で鍛えてるから。それより八幡お兄ちゃんの方こそ大丈夫なの?」

 

「ふっ、大丈夫だ」

 

と八幡は答えたが、ここ最近身体を鍛えてなかったから、体力が落ちてることには違いない。持久戦に持ち込まれたら、自分達が負けると考えていた。そんな時放送室から、BGMが高々と鳴り始めた。葉山と三浦もいきなりBGMが鳴り始めたからびっくりしている。葉山コールのギャラリーも驚いている。

 

しかし比企谷コールを繰り返していた者達は、歌い出す。もちろん、綾香の親友達も歌い出す。

 

「これって…お姉ちゃんの!」

 

「………あじな事を…ふっ、この歌を聞いたからには、負けられないな」

 

八幡は一瞬眼を瞑り、そして眼を開く。そこには、いつものやる気無しの眼ではなく、炎が宿った眼になっている。そして八幡は、ラケットを2人に向ける。

 

「葉山、三浦、すぐに終わらせてやる」

 

「な、何なの!フン、アンタらが負けてるのがわからないわけ?」

 

「負けは貴女達だよ」

 

「ふざけるなし!」

 

「優美子、待て!」

 

葉山の制止を無視して、三浦はジャンピングサーブを打つ。ボールは八幡の方へ飛んでくる。だが簡単に打ち返す。打ち返されたボールは、葉山の場所へ飛んでいく。

 

葉山は返すのがやっとで綾香に簡単に決められる。

 

「15ー15」

 

八幡と綾香は、ハイタッチをかわす。葉山は、あれが比企谷八幡という人物だと言うことをヒシヒシと感じていた。隣で、息を切らしながらイライラしている三浦。

 

それに比べて、八幡と綾香は、息を切らしていない。それどころか連携力は益々上がっている。八幡の指し手の能力が綾香の能力を引き上げている。

 

葉山コールを上げていた連中の中にも、何か思い出したように

 

「あれってもしかして、総武中の指し手の八幡…じゃないのか?」

 

「なんだ?指し手の八幡って?」

 

「知らないのか?総武中…海浜総合高校では、比企谷八幡の熱狂的なファンが存在すると聞いたことがある」

 

「熱狂的なファン?あの陰キャみたいなヤツが?それって葉山じゃないのか?」

 

「違う…あの眼で思い出した。あの眼は対戦相手を震え上がらせるって…対戦したヤツが言っていた」

 

ギャラリーが段々と騒がしくなる。葉山コールのウェーブが小さくなり、比企谷コールが勢いを増してきた。

 

「…何で、あーしらが陰キャのヒキタニに押されなきゃならないわけ!」

 

「やはり…比企谷は違うな…。流石、あの海浜の女子テニス部のエースを育てただけはある」

 

「海浜のエース?誰だし?」

 

「優美子も中学時代に対戦してるはずだよ。名前は高梨七海さん」

 

「え?えっ!?隼人、それってなんか関係があるわけ?」

 

「彼女を指南したのが比企谷と言われているんだ。つまり俺が言いたいのはわかるよね?」

 

「まさか、あのヒキタニが?」

 

すぐに八幡達からサーブがくる。だが葉山と三浦には反応ができなかった。早くてテニスボールが見えなかった。

 

「30ー15」

 

八幡・綾香ペアにまた点数が入る。流れも完全に彼らに渡してしまった葉山達。

 

「40ー15」

 

次のサーブでもあっさりと決められてしまう。八幡・綾香ペアはすでにマッチポイントで次決めれば勝利である。

 

「八幡お兄ちゃん、サーブを打ってもいい?」

 

「うん?別に構わないが?」

 

「ありがとう、八幡お兄ちゃん」

 

綾香がニヤリと口元が緩んだ。八幡は何をするんだと思ったが、彼女のサーブは、三浦に向かって飛んでいく。だがただ三浦に向かって行くわけではない。ボールはワンバンドとして、あらぬ方向へ跳ねた。それはフェンスの方へ。

 

三浦はフェンス側へボールを見ながら走る。本人は気づいていない。このままではぶつかる。

 

「優美子、下がれ!」

 

葉山がラケットを捨てて、走り出す。

 

一瞬2人が見えなくなる。そして再び2人の姿を見た時には、フェンスに背中をぶつけて、三浦を庇うかのように抱き抱えていた。彼女は赤い顔をしながら控えめに彼の胸元をちんまりと握っている。

 

瞬間、葉山ギャラリーから大歓声と割れんばかりの拍手が送られる。葉山ギャラリー全員総立ちのスタンディングオベーション。

 

葉山は腕の中で縮こまる三浦をよしよししと撫でた。三浦の顔がいっそう赤く染まる。

 

試合は八幡・綾香ペアが勝利した。だが葉山・三浦ペアに完全におかぶを奪われた感じになっている。もちろん比企谷コールはあるものの、テニスコートのフェンスのところでイチャイチャされているからだ。

 

こうして、テニスの勝負は終わりを迎えたのだった。




これでテニス勝負は終わりです。もうちょっと長くしようかとも思いましたが、これで終わりました。八幡・綾香の無双しようかとも思いましけど。

この一件で総武高校での八幡の見方は変わっていきます。後々に比企谷派と呼ばれるようになる方々が、動き回るわけですが。


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第1章ー第33話ーテニス勝負の後。

第1章33話です。


ーーーテニスコート。

 

こうしてテニス勝負は幕を閉じた。テニス勝負は、八幡と綾香が勝った。だが完全勝利とはいかなかった。葉山と三浦のイチャイチャが全てを持っていった。

 

「HA・YA・TO!フゥーHA・YA・TO!フゥー」

 

祝福のファンファーレ代わりに昼休みの終了の前の余鈴が鳴り響く。このままキスして終わりって感じになる。

 

葉山ギャラリーは、娯楽大作映画を見たような、上質な青春ラブコメを読み終えた後のような、奇妙な達成感を一種の脱力感に包まれた。そのままわーしょいと胴上げしながら校舎の方へ消えていった。

 

残ったのは八幡達を応援した者達だった。

 

八幡と綾香の勝利を祝福するための拍手が鳴り響く。先程の葉山ウェーブをかき消すかのように。

 

葉山は三浦の頭を撫でた。八幡も綾香の頭を撫でるつもりで、彼女に近づいた。

 

だが綾香は、撫でられる前に八幡に近づき、彼の唇に自分の唇を重ねた。八幡はその行動に驚き、八幡のファン、綾香の親友達、陽介と完二は、祝福のヒューヒューを送る。戸塚は顔を真っ赤に染め、材木座も祝福を送る。

 

雪乃、結衣はそんな光景をポカーンと見ているだけだった。吹寄は、苦笑いしやがらも祝福していた。

 

後々に雪乃と結衣は、八幡に綾香のことを問い詰めるのだがそれはまた別の話で。

 

 

葉山と三浦は、そんな光景を校舎の窓から見ていた。

 

 

綾香が八幡にキスをしたことは、総武中OB・OGネットワークを通じて、海浜総合高校にいる緑子達、個人的ネットワークを持つ陽乃、自分の目で見ていためぐりに伝わっていった。

 

このテニス勝負を得て、八幡の評価が少しずつ上がり始めることになる。

 

 

そして八幡が部活の勧誘を受け始めていくのであった。

 

ーーー

 

あのテニス勝負からしばらくしてから、森崎は女子テニス部に仕掛けたカメラを回収したのだった。

 

「さてと、撮れているのかな」

 

森崎は回収した小型カメラのデータを見る。そこには女子テニス部の部員の着替えが綺麗に撮れていた。

 

「撮れてる、撮れてる…」

 

森崎は、小型カメラの中のデータとUSBメモリーの中身のデータを自分のパソコンの中にコピーをする。

 

作業をしていくうちに、雪柳綾香と三浦優美子が綺麗に撮れている。

 

「これは、高値で売れるだろうな。まあ値段をつけるのは、自分ではないけど」

 

綾香の下着姿、同じく三浦の下着姿、テニス部のユニフォーム姿、その他諸々のやつなどをおさめたデータは、松野に渡すことに。

 

森崎は、綾香の写真を何枚か自分のものにした。これは報酬のつもりであろう。

 

そして彼女達の写真は、裏で買われるようになる。

 

 

ーーー

 

八幡達のテニス勝負からしばらく経ったとある日、総武高校の夕日に照らされた屋上にて、1人の男と1人の女がいた。

 

「春雪、私、他に好きな人出来たから別れてほしい」

 

「え…?どういうこと?」

 

「どういうこともないわよ。貴方が私なんかと釣り合うわけがないわよね。陰キャの貴方と私が」

 

「そんな……。僕が陰キャラだからって…」

 

男は、屋上の床に崩れていく。

 

「大体、今まで付き合ってもらっただけでもありがたく思いなさい。それと…貴方からもらったプレゼント返すわね」

 

女は男からもらったプレゼントを男に投げつける。

 

「……」

 

「そんな安物のプレゼントで私を満足させようと思ったのでしょうが、お門違いだったわね。それじゃあね…」

 

女はそう言って去っていく。男は屋上に床に涙を流す。

 

「……プレゼントもちゃんとバイトして買ったのに…そんな言い方はないだろうに…」

 

プレゼントが入っている袋が悲しげに太陽に照らされ、風に揺れている。

 

「もう、良いや……。僕は彼女のためにこれまで生きてきたけど…」

 

男は屋上のフェンスまで近づき下を見る。

 

「……ここから飛び降りれば死ねるかな?」

 

男はそんなことを言い出した。彼にはもうこの世に未練はない。だから死にたいしても何の抵抗もないのだ。

 

「……葉山隼人…僕はお前のようなヤツは許さない…」

 

フェンスをよじ登ろうとしたら、誰かに押さえられる。

 

「こんなところで死んだら、一生負け犬なままだぞ!悔しくないのか、諦めるのか?」

 

男を取り押さえたのは、とある女性教師であった。




やっと原作1巻の部分は終わったかな。次回からは、2巻部分からかな。

八幡の評価は、段々と登っていく感じですかね。

綾香は、三浦に対して対抗心もあったでしょうし、何より他のライバルに対してへの牽制な感じもします。

森崎は、綾香の◯◯写真で、自家発電をやり出します。

最後に出てきた男は、新キャラですね。


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第1章ー第34話ーその後の奉仕部。

第1章34話です。


ーーー

 

テニス勝負が終わった直後、雪乃と結衣が八幡に詰め寄った。

 

「比企谷君、この女…雪柳さんとどういう関係なのかしら?」

 

「ヒッキー、雪柳さんと…そのき、キスを…してたし…」

 

綾香は、雪乃と結衣を見て

 

「私は、雪柳綾香と言います。八幡お兄ちゃんの幼なじみです」

 

そう綾香は自己紹介をする。彼女は雪乃、結衣を見て何かを感じたのか、すばずばと言う。

 

「私が、八幡お兄ちゃんとキスをするのに、2人の許可を取る必要があるんですか?」

 

「なっ!?」

 

「はぁ~、なに言ってるし!幼なじみってだけで、キスなんかしないし!ヒッキー、何か言ってよ!」

 

「綾香さん、された俺もびっくりなんですが…!」

 

綾香は小悪魔な表情を浮かべて

 

「八幡お兄ちゃんには、これぐらいしないと、私の優位性が無くなるもの。だからしたの」

 

雪乃は、氷のような表情で、結衣は、よくわからない表情をしている。吹寄は、そんな2人を見て苦笑いしていた。

 

陽介や完二、材木座、戸塚は、アハハと笑いながら関わろうとしない。

 

「そんなことより、さっさとクラスに戻ろうぜ。余鈴もなったんだから、すぐに本鈴がなる。それに俺達は制服に着替えないといけないだろうが!」

 

八幡の一言で、陽介達も綾香も自分達が今、置かれている立場を理解し、慌てて着替える羽目になった。

 

その日の放課後、男子テニス勝負の話を聞き付けてきたテニス部部長が、2ーF組から奉仕部へ向かう八幡のところへやって来た。

 

男子テニス部部長、澤部 彰。3年生。少しでも男子テニス部を強くしようと日々奮闘中である。そんな中、八幡と綾香と葉山と三浦のテニス勝負を聞き付けてきたようだ。

 

「2ーF組の比企谷八幡君だよね?」

 

「はい、そうですけど、何か?」

 

「俺は、男子テニス部の部長をやっている澤部と言うものなんだが、彩加からも話は聞いている。比企谷君、男子テニス部に入ってもらえないだろうか?」

 

なんと男子テニス部の勧誘である。男子テニス部は、ただでさえ弱小なのに自分達まで抜けたら彩加に迷惑がかかると言われた。

 

八幡はテニスは、七海と一緒に練習をしただけである。それでも彼女の技術を上達させるために自らも同じ練習をしていただけだ。そんな自分が男子テニス部に入っても足手まといになると説明した。

 

だが男子テニス部部長は、引き下がらない。

 

「比企谷君、君には才能がある。だからその才能を…」

 

「すいません、澤部部長。いえ、その自分、奉仕部という部活に入ってまして…勧誘はうれしいのですが…」

 

「奉仕部?そんな部活あったかな?」

 

「まあ、知らなくても当然じゃないんでしょうか。部員も俺を含めて3名ですし」

 

「3名の奉仕部…うーん、わかった。君の意見を尊重させてもろうよ」

 

残念な表情をしながら澤部部長は八幡のもとから去っていく。彼もちょっと心が痛いが、今は奉仕部に参加されている以上は、他の部活に入るわけにはいかない。

 

八幡は、去っていく澤部部長に一礼をしてから奉仕部の教室へ向かう。

 

 

 

奉仕部の部室にたどり着いた八幡は、扉を開いて入る。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜はもう来てたのか」

 

雪乃がいつものように本を読んでいたが、八幡の方へ向いて

 

「………キス谷君来たのね」

 

「キス谷君って…俺がキス魔みたいじゃねーか!」

 

「違うのかしら?」

 

「ヒッキー!あの綾香って子、なんで“八幡お兄ちゃん”って言ってるの?実の妹じゃないのに!」

 

「あのな、幼なじみの親友の妹が綾香なんだ。その親友と共に、小さい頃から一緒に育ってきたようなものだ」

 

綾音の部分をあえて親友にすり替えたのは、今、恋人の妹ですとは説明がしずらいのも事実であるから。

 

「親友…まあ貴方にあれだけの親友がいたのは、驚きの連続だったわね。嘘であそこまでの人数はあつまらないだろうし」

 

雪乃は、考え深い感じで言ってくる。結衣はそれでも

 

「それでも…異性の幼なじみであることには変わらないし」

 

結衣がまだ綾香の事を聞いてきそうな感じがした八幡は、話を強引に変えてきた。そう戸塚の依頼の他に盗撮の件についてだ。

 

「盗撮の件だが、あれはどうなった?」

 

「滞りなくやれているわ。比企谷君が心配しなくともね」

 

「あたしとゆきのんとせいりんの3人である程度は調べられたの。ヒッキーが見つけてくれた学校の裏サイトっだっけ……アレの削除依頼は出されたんだ」

 

「なるほど…」

 

「削除依頼は、生徒会が出してくれたわ。まだ犯人は捕まえていないわ」

 

「…で…犯人はわかりそうなのか?」

 

「……そこまではまだ…至らないわ」

 

「そうか……」

 

八幡は腕を組ながら考える。そんな姿を見た雪乃はちょっと笑う。

 

「な、なんだ雪ノ下、なんで笑ってんだよ?」

 

「いえ、別に。ただ、貴方がいつもにまして真剣な表情で考えていたから、つい…」

 

「……真剣な表情って…まあ、いい…。犯人は、必ず総武高校内にいる。それも1人ではないな…複数…校長や教頭にも圧力をかけれるような人物がいる…。そいつを探さないと簡潔しないだろうな」

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、俺も奉仕部の一員だ。受けた依頼は必ずこなすさ」

 

「ヒッキーがやる気出したし」

 

「貴方に言われるほどではないわ。私や由比ヶ浜さん、吹寄さんでこれまでやってきのよ」

 

「わかっている」

 

結衣が笑いながら八幡と雪乃に

 

「これで、なんだか奉仕部らしくなってきたね」

 

「別にこの男がいなくても奉仕部は奉仕部よ」

 

「……はぁ~、相変わらずの毒舌らしさですね」

 

何だかんだで、いつもの日常のように奉仕部の時間は過ぎて行っていった。




これで1巻の話は終わります。

前回で、綾香が一歩リードしましたが、どのヒロインも虎視眈々と狙ってますね。


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第2章ー八幡と依頼
第2章ー35ー第1話ー平塚春雪。


今回から第2章です。

第2章1話です。


ーーー屋上

 

男は、女性教師に押さえられる。自殺しようとしている生徒がいるのだから止めるのが当たり前だ。

 

「こんなところで死んだら、一生負け犬なままだぞ!悔しくないのか、諦めるのか?」

 

「もう疲れたよ……生きるのにも何か…どうでも良くなったし…」

 

「馬鹿を言うな春雪!お前が死んだら姉さんや義兄さんが悲しむぞ!」

 

「静さん、母さんや父さんは…僕なんか大事じゃないよ。優秀な姉さんや妹にしか目はないよ」

 

男の名前は、平塚春雪、高校2年生。総武高校では、陰キャラ側の人間である。容姿はオタクっぽい雰囲気である。オタクっぽい雰囲気ではあるが、過去に3回彼女がいたのだから驚きである。それは中学時代はテニス部に所属していて、好成績を残しているのもあるだろうし、勉学もトップクラスなのだから。だが長続きはしなかった。サッカー部のイケメンこと葉山に取られたからだ。

 

直接葉山に取られたわけではない。サッカー部の活躍もあり、総武東中ではサッカー部が人気が上昇していた。その中で葉山が活躍していたこともあり、葉山人気が上がっていったのだ。

 

総武東中では、サッカー部よりもテニス部が強かったはずだが、あまり見向きもされなくなった。

 

そして4番目の彼女は、高校で初めて出来た彼女だったが、結局は同じような理由で別れることに。春雪の中の何かが切れたのだ。そして音と共に崩れ去っていく。春雪は、高校に入ってイジメられている。それでも彼女のいる手前言わなかった。言って彼女に心配なんかさせたくなかったからだ。

 

間接的にまた葉山に彼女を取られた形になってしまった。

 

だから葉山憎しの憎悪がわき出てきている。しかし一方で諦めた感じもあり、生きる気力も失い自殺も選択肢に入れていた。

 

「スポーツも勉学もいくら頑張っても、父さんや母さんの目には止まらない。学校でも家庭でも居場所の無い僕は…必要の無い人間なんだ。だから…死なせてくれ、静叔母さん…」

 

春雪の叔母である平塚先生は、思い切り彼のほっぺたを叩いて、そして抱き締めた。

 

「この世に死んでいい人間はいない。無駄な命なんか無いんだ。お前が死んで悲しまない人間がいないだと?姉の雪子はどうだ?一番お前を可愛がっていたあいつを悲しませるつもりか!」

 

「…あ…っ…うっ…」

 

春雪は、姉雪子の事を思いだし、涙を流した。彼女は、家族の中でも春雪を可愛がって世話していた。中学時代、彼女にフラレた時も慰めていていたのだ。

 

春雪も雪子が悲しむ姿は見たくないのだ。彼女にはずっと笑っていてもらいたいからだ。

 

「僕は…何て事を…うっ…!」

 

「春雪、我慢する必要は無いぞ。私のここで泣いて良いからな」

 

春雪は平塚先生の胸で大泣きした。今までは泣いてたまるかという気持ちが強かった。だが今日、彼女にフラレたことで、我慢する理由が失った。だから一時は死を選ぼうとした。だが姉雪子の顔が浮かび死ぬ事が怖くなった。しばらく泣いて落ち着きを取り戻した春雪は平塚先生に謝る。

 

「静さん、ごめんなさい」

 

「わかればいい。だがお前の障害となるものを除去しなくてはな。あいつらに頼むことにするか。それと姉貴達に関しては、雪子に言ってもらうとして…」

 

「あ、あいつら?雪子姉さんに言ってもらう?」

 

「な~に、お前のためになるところにだ」

 

春雪はそして平塚先生によってとある教室へ連れていかれる。

 

そこは何と奉仕部であった。平塚先生は、ノックをせずに教室の内部に入る。

 

「平塚先生、入る時には、ノックをしてくださいと何度言えばわかりますか?」

 

「悪い、悪い。緊急の依頼が入ってな。それでついついな」

 

八幡と結衣は、自分達の事をしながら平塚先生の話を聞いている。

 

「入って来なさい、春雪」

 

「はい、静さん」

 

廊下にいた春雪が奉仕部へ入って来た。八幡と結衣もこちらを向く。

 

「雪ノ下、比企谷、由比ヶ浜、揃っているようだな」

 

「平塚先生、彼は依頼者なのですか?」

 

「ああ、私からの依頼だ。彼の名前は平塚春雪、私の甥でもある」

 

「平塚先生、それでその甥の依頼とは何ですか?」

 

「比企谷、先生は嬉しいぞ、やる気をだしてくれることをな」

 

「やるかどうか、まだ判断をしてませんが?」

 

「まあ、そう謙遜しなくてもいい。それでお前達に依頼したいのは、甥の春雪の自立と自信を取り戻してほしいのだ」

 

「自立と自信を回復させる事ですか」

 

雪乃は、春雪を見る。だが彼に睨まれる。

 

「平塚先生、彼は何故睨んでいるんですか?」

 

「アハハ、これには、色々わけがあってな…」

 

平塚先生は、事の経緯を話す。それも春雪が許した範囲で。

 

「なるほど、先程…フラレたから自殺しようとしたと…」

 

「自殺するって、フラレただけで?」

 

「由比ヶ浜、お前な…男にも色々いるんだよ。すぐに乗りかえるヤツもいれば、引きずるタイプも。それに付き合ってたんだろ、それで振り方も…その女…最悪だな」

 

「とにかく、春雪の事は任せたぞ!」

 

そう言って平塚先生は奉仕部の教室から去っていく。

 

「雪ノ下、どうするんだ、この依頼?」

 

「平塚先生から直に頼まれた依頼。やらないわけには、いかないでしょう」

 

「ゆきのん、具体的にどうすれば良いのかな?」

 

雪乃と結衣は、八幡を見ている。つまり助け船を出せみたいな感じである。八幡は、ため息を吐いてから春雪に話しかける。

 

「俺は、2ーF組の比企谷八幡だ。なんだ、よろしくな」

 

「僕は先程叔母から紹介があった、平塚春雪、クラスは、2ーB組…」

 

「私は、雪ノ下雪乃…2ーJ組」

 

「あたしはヒッキーと同じクラスで由比ヶ浜結衣って言います」

 

自己紹介を終えた後、春雪は雪乃や結衣と話していたようだが、言葉に鋭さが混じっているのだ。彼の中に信用しないというのが感じ取れる八幡であった。

 

 

 

奉仕部の活動が終わり、春雪は1人で帰っていく。雪乃と結衣は先に出て、八幡は戸締まりをしてから出る。

 

「……あの平塚の目…あれは…女子を信用していない目…。雪ノ下や由比ヶ浜を見る目と俺を見る目が違う…。さて…どうしたものか…」

 

八幡は、誰もいない黄昏に染まる特別棟の廊下で真剣に考えていた。

 

考えながら歩いていると、めぐりと偶然出会った。

 

「あら?八幡君どうしたの、そんなに真剣な顔で?」

 

「あ、めぐり先輩…今帰りですか?」

 

「うん、生徒会のお仕事をさっき終えて帰るとこだよ」

 

「そうだったんですね」

 

「八幡君、また1人で抱え込んで無いよね?」

 

「……めぐり先輩…にはわかってしまうかな…。今、ある男子生徒の依頼で悩んでいます」

 

「依頼…それって、奉仕部のお仕事なの?」

 

「まあ、そうですね…。平塚先生からの直の依頼だから、やらないわけにはいかないんですよ」

 

「平塚先生から…」

 

八幡とめぐりは、一緒に帰りながら今回の件を話す。

 

「その平塚君の自立と自信を取り戻すのが依頼なの?」

 

「ええ、4回フラレたってのは、どうもあの葉山が関連してるみたいですし」

 

「葉山君が?」

 

「直接じゃないですよ、間接的ですが…。彼女がまあ葉山に夢中になってふったんでしょうが」

 

八幡は、過去に告白してきた女子達の事が頭に浮かんだ。形はどうであれ、ふったのには違いないのだから。

 

「う~ん、そればかりはどうしようもないわね」

 

「これは…ですね。本題はイジメの方ですね」

 

「イジメ!?」

 

めぐりの表情が曇り始めた。当たり前だろう。めぐりは生徒会長であり、そういう問題は早急に対処しなければならない案件である。なのに生徒会にそんな案件は上がって来ていない。八幡に聞くまでわからなかった。人一倍頑張っているめぐりであっても全てをカバーはできない。だから八幡は

 

「めぐり先輩、1人で抱え込まないで下さい。少しは俺を頼って下さい。先輩には恩がありますから」

 

「八幡君……そうね…綾香さんに差をつけられたままでは嫌だしね」

 

「…それは…まあ…」

 

めぐりは、綾香のキス事件を言ってるのだと八幡はすぐにわかった。めぐりは身体を八幡に寄せてきた。

 

「ちょ、ちょっとこれはまずいですよ…誰かに見られたら大変なことになりますよ!」

 

「綾香さんは良くて私はダメなの?」

 

「それは…」

 

めぐりの上目遣いに、八幡はドキッとしてまうが、

 

「ふふっ、イジメの件は生徒会と教職員で何とかやってみせるから」

 

「めぐり先輩、無茶だけはダメですよ。奉仕部としても助力します」

 

「ありがとう、八幡君」

 

八幡とめぐりは、これからの事を話ながら帰っていく。




休みなので、2回目昼投稿です。

今回から第2章に入りました。本来ならチェーンメールの件ですが、その前に平塚君のことですね。まあこの件はすぐには解決はしませんが。

綾香に続いてめぐりが行動を開始した感じになりました。彼女は中学時代に八幡が人助けをしていたことを知っていて、今回もほっとけないんだろうと思ってますね。


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第2章ー36ー第2話ー雅史のおめでた。

第2章2話です。


ーーー総武高校→ジュネス内のサイゼリヤ

 

「それじゃあ、また明日」

 

「ええ、八幡君、また明日ね」

 

とある交差点で八幡とめぐりは分かれる。彼は自転車の速度を少し上げてある場所に向かう。

 

ある場所とは、陽介の父親が支店長を勤めるショッピングモールへ行く。

 

ショッピングモールの名前は、ジュネス。今急速に業績を上げて全国展開を始めているのだ。そのジュネスの中に入っているサイゼリヤに向かう。

 

何故サイゼリヤに向かうのは、親友の雅史から呼び出されたからである。

 

「雅史、大事な話があるとか言ってたけど、なんだろうな」

 

そんなことを考えながら、ジュネスの自転車置き場に自分の自転車を置いて、サイゼリヤを目指す。

 

サイゼリヤジュネス支店に着き店の中に入る。そして雅史を探すがすぐにわかった。正式には雅史と女子生徒が1人いるわけだが。その女子生徒は、氷川静江である。

 

海浜総合高校の四大美少女と呼ばれる1人である。

 

八幡や雅史、緑子達と同じ総武中出身である。

 

静江は中3までは、地味地味子と言われてイジメられていたが、八幡達がイジメっ子を退治した。その後八幡や雅史が、緑子達と共に彼女のイメチェンをやって、美少女に生まれ変わった。

 

総武中卒業式の日に八幡に告白しフラレた1人でもある。

 

「雅史、それと氷川…待たせたか?」

 

「いや、俺達もさっき来たばかりだから、心配はしなくてもいいよ」

 

「八幡くん、お久しぶりだね。卒業式以来会ってなかったね」

 

「そうか雅史、ありがとな。氷川は久しぶりだな。そうだな…卒業式以来だな。で、それで俺に大事な話があるとか?」

 

「ああ」

 

その前にサイゼの店員が注文を取りにきたから、八幡達は飲み物を注文する。

 

「八幡、真面目に聞いてくれ。俺達付き合うことにしたんだ」

 

雅史の言葉に驚きはなかった。大方は、サイゼに入って来たときから予想はついていた。雅史が女子と2人だけという展開はなかったからだ。あったとしても緑子、七海、かおりとぐらいであったからだ。

 

でも今回は違う。雅史の真剣な表情と静江が恥ずかしそうにしているが、幸せオーラも出ているのが表情でわかるのだ。

 

「雅史と氷川が…2人ともおめでとう!お似合いだな」

 

「八幡が…お前がそんなんじゃ付き合う訳にはいかないとも考えたんだ」

 

「はぁ~別に俺なんか気にせず付き合って良かったのに…雅史、お前ってやつは…で、どちらから告白したんだ?」

 

「俺からだよ」

 

「そうか。お前からって初めてじゃねーか」

 

雅史達のサッカー部に静江がマネージャーとして入部してきたことが始まりだった。

 

静江は、高校からは本当に変わりたかったからサッカー部のマネージャーとて入ったのだ。

 

雅史も静江に世話されていくうちに恋愛感情を持つようになった。静江も同じく恋愛感情を持つように。

 

そして雅史の告白により、自分達が両思いだってわかり、付き合うことになった。

 

「私ね、最初は八幡君に認めて欲しくて、海浜サッカー部のマネージャーになったの。でもマネージャーとして活動していくうちに雅史と話していると彼に惹かれていったの」

 

「俺もだ」

 

八幡は、雅史&静江の出来立てのカップルを見ていて、嬉しくもあり羨ましくもあった。

 

「雅史、静江…末長くお幸せにな」

 

「ああ、わかってる」

 

「ありがとう、八幡君もお幸せに」

 

「ああ、ありがとう」

 

八幡は、雅史、静江にとあることを聞いてみた。

 

「2人とも、海浜で盗撮事件とかあるか?」

 

「盗撮事件!?」

 

「え!?」

 

2人は驚いた表情でお互いを見ている。

 

「何で盗撮事件を知っているんだ?」

 

「そうだよ、海浜の事件はまだ表には出ていないよ」

 

「いや…海浜でまさか盗撮事件が起きてるとはな。そっちは解決したのか?」

 

「なんとかね。生徒会、教職員、PTAが協力して最終的には教育委員会、警察まで入って解決したかな。まあ後は七海のお父さんや俺のじっちゃんも介入してくれたしね」

 

「それでも被害を受けた女の子の心の傷は一生消えないもの」

 

静江のその言葉に八幡ははっとさせられる。

 

「さっきの八幡の態度からして、まさか総武高校でも起きているのか?」

 

「まあな。俺はその盗撮事件も調べているんだが、中々な」

 

「……!七海のお父さんが、八幡から相談されている案件があるって言ってたのは!」

 

「盗撮事件のことさ。総武は海浜と違って校長、教頭が動かない」

 

「それってまさか!」

 

静江がすぐにピンときたようだ。

 

「ああ、学校内に権力者と繋がるヤツが関わってるんだろうな」

 

「…悪い方に権力者のヤツがいるのか。それは厄介だな」

 

だからこそ八幡は、めぐりを1人で調査させたくはないのだ。犯人側に教師がいる場合、不良達を使って彼女を襲わないとも限らないのだ。

 

ちなみに海浜の事件解決の立役者は、玉縄副生徒会長である。今回の事件解決で次期生徒会長も決まったようなものだと。

 

「八幡、危ない真似はするなよ。八幡に何かあったら綾音に申し訳ないからな」

 

「わかってる」

 

「八幡君、無茶だけはしないでね。みんなが心配するから」

 

「わかってるから、お前達こそ無茶するなよ」

 

八幡と雅史、静江の3人はしばらくそんな話をしていた。そして30分くらいしてから、サイゼから出てたのであった。




昼投稿です。

実は海浜総合高校でも盗撮事件は起きていたのだ。きっかけは、盗撮をしていた男子生徒を風紀委員が確保してから事件が発覚したのだ。捕まった男子生徒が全てを暴露したのだ。玉縄副生徒会長が生徒会と教職員と何回も話し合い、PTAとの話し合いを重ねていた。

盗撮グループの生徒達は、停学と主犯各の退学が決まった。

総武にいるヤツが、海浜のグループを蜥蜴のしっぽ切りをやった可能性もある。

雅史のじっちゃんは、元財務省官僚の地元選出の国会議員だったが、去年の衆議院議員総選挙で出馬せず引退。じっちゃんの後継は雅史の父の弟…叔父が国会議員となっている。雅史はそれを言いふらす性格ではないため、八幡、綾音、緑子、七海、小町、綾香しか知らない。


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第2章ー37ー第3話ー比企谷家の団欒。

第2章3話です。


ーーー比企谷家

 

夜、八幡、小町、綾香でテレビを観ていた時だ。

 

夜のニュースの一面に海浜総合高校で盗撮事件の事が報道された。もちろん実名、顔写真が乗せられる訳がない。ただわかった事は

 

盗撮グループの人数は、15人。

 

主犯は3年生の3人。

 

2年生の9人。(主犯と同じ立場5人・パシり4人)

 

1年生の3人。(全員パシり)

 

主犯各の8人が逮捕させられ、退学させられる。

 

パシりのこと7人は停学処分となってなったようだ。パシりの4人は自主退学している。これは後々にわかることだが。

 

ニュースを見ていた綾香と小町が嫌な表情をしている。

 

「…盗撮…」

 

綾香は八幡の左手を握ってきた。当たり前だろう。彼女は水泳部の盗撮事件で盗撮されているのだ。だから余計に不安なのだ。一度ネットに出回れば無くすのは不可能に近い。

 

「八幡お兄ちゃん、怖い…」

 

「綾香…ごめんな…俺が不甲斐ないばかりに」

 

「綾香、盗撮されたの?」

 

「小町…うん…」

 

綾香は元気なく頷いた。小町は綾香の頭を撫でた。

 

「俺は、盗撮犯を絶対に捕まえてやる。だから綾香…」

 

八幡はそう言うと、綾香の頭を撫でた。すると彼女は頬を赤らめた。そんな状況を見ている小町は

 

「お兄ちゃんと綾香は、どこまで進展したのかな?風の噂で、小町さ聞いたんだよね。2人がキスまでする仲まで進展したって!」

 

八幡は、小町の発言で吹き出そうになった。綾香の方はますます赤くなっていく。

 

「小町、そんなことどこで聞いたんだ?風の噂ってどこで?」

 

「総武中のネットワークだよ、お兄ちゃん」

 

小町に総武中ネットワークで知ったと言われ、あのときの誰かが話したのかと思うしかなかった。

 

「それにしてもお兄ちゃん、近頃なんかやる気を出したみたいで、妹としては鼻が高いよ。あ、今のはポイント高いよね?」

 

「何のポイントだよ」

 

八幡はそう言いながら、ソファーに座りテレビのチャンネルを変える。

 

「嫌なニュースはあまり観たくないからな。だが観たい番組が無いな。小町、綾香、なんか観たいのがあれば観ていいぞ」

 

「うんじゃーね、アレを観ようっと。綾香も観るよね?」

 

「うん!」

 

小町と綾香は、何やらイケメンが多数登場する番組を見ている。なんだかんだ言っても年頃だと感心しつつ、八幡はソファーから窓際の椅子に座り、外を眺める。

 

外には星空が広がっている。それを眺めていると、母親が話しかけてくる。

 

「何、星空を見てボーッとしてるのよ?」

 

「別に、ちょっと考え事をしてるだけだよ…」

 

「考え事?学校で何かあったの?」

 

「うん…ちょっとね…」

 

「あんた、また他人のために走り回ってるの?」

 

「な、なんでわかるんだ?」

 

「はぁ~、私はあんたと小町の母親よ。何年一緒にいると思ってるのよ!中学時代に綾音ちゃんのために走り回ってた頃の顔をしてるから…ちょっと心配になったのよ」

 

中学3年の時、綾音のためにかなり八幡は無理を押し通していた。何でもかんでも自分1人で抱えてしまって周りに頼らなかった。

 

それで、倒れてしまった。

 

学校の帰り道、八幡は倒れた。それを発見したのは、陽乃とめぐりだった。

 

そして2人によって病院に運ばれた。彼は綾音からも仲間達からも、周りをもっと頼ってくれ、仲間達を信用してくれと言われたのだ。

 

八幡は、はっと気がついたのだ。綾音の件で何でも自分がしないといけないと考えていた自分に気がついたのだ。

 

かつての自分は、周りの仲間達と共にやってきたことに。

 

総武中の体育祭、文化祭を次々と成功させたのだ。体育祭では、体育祭実行委員会の委員長として。文化祭では、文化祭実行委員会の委員長として、仲間達とともに頑張った。八幡が努めたその年が総武中の最高の体育祭、文化祭と呼ばれるようになる。

 

八幡を動かした原動力は、“全て綾音のために”というものであった。

 

みんなも八幡の頑張りに感服しているので、彼を支えようと周りも頑張ったのだ。

 

だから八幡は、1人でやっていたのを悔い、みんなでやることを改めて誓ったのだ。

 

今でもその気持ちは忘れていない。

 

だから

 

「母さん、心配しなくてもいいよ。あの時のようなヘマはしない。他人に頼る時は頼るから。倒れるような事はしない」

 

「八幡、あんた…全く言うようになったんじゃない」

 

「…俺だって、もう止まってるわけにはいかないしな」

 

八幡は、外の星空を見ながらそう言った。綾香達は、もう歩みだしているのに、自分だけが止まっているわけにはいかないのだ。

 

この先に、彼女達に答えを出さないといけないのだから。

 

後悔することだけはしたくない。

 

ちゃんと答えを出すために。

 

前に進むしかないのだから。




今回は、海浜のニュースや家族団欒の回です。次回からは、盗撮の件、春雪の件、そこにチェーンメール問題が出てきますね。


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第2章ー38ー第4話ー将来の事。

第2章4話です。


ーーー総武高校・屋上。

 

5月も中旬から下旬に入り、梅雨入り前のムシムシした暑さに覆われている。

 

今日は、陽介達と昼ごはんをすぐに食べたら、屋上に来ていた。ちょっと考え事をしたかったためでもある。

 

それは、進路についてである。

 

八幡は、大学進学は規定路線である。だがその先はまだ決まってはいない。

 

今は、綾音の夢を継ぐ考えもあるが、本当にそれで良いのかって迷いもある。

 

綾音は八幡のやりたい事をやっていいと夢の中で言われたが、それでも迷いはあるのだ。八幡自身は、まだ何になりたいのか、まだ分からないのだ。

 

だから中学で将来を見据えていた綾音を凄いと思っていた。

 

だから綾音に相応しくなるために必死に頑張った八幡。彼女の隣に立つ男としておかしくないように頑張ったんだ。

 

「まだ…俺は…何をやりたいんだろ」

 

最悪大学に行ってからも将来を考えることはできるが、それで見つかるかどうかわからない。

 

八幡は、職場見学希望調査票を見ながら色々な事を考えていた。すると風が急に強く吹き、その職場見学希望調査票が飛ばされる。

 

「やばっ!」

 

その吹き飛ばされた調査票は、とある女子生徒が見事キャッチする。その女子生徒は、髪が長く背中まで垂れた青みががった黒髪。リボンはしておらず開かれた胸元。余った裾の部分が緩く結びこまれたシャツ、蹴りが鋭そうな長くしなやかな脚。そして、印象的なのがぼんやりと遠くを見つめるような端気のない瞳。泣きぼくろが一層倦怠感を演出していた。同じクラスの川崎沙希である。

 

「これ、あんたの?」

 

「川崎か、ありがとう」

 

「何、ぼさっとしてんのさ」

 

川崎から調査票を受けとる。川崎が屋上のフェンスの方へ行く。彼女は、いつも1人でいる。誰かと一緒にいるのをほとんど見たことがない。好きで1人でいるように見える八幡であった。

 

「川崎っていつも屋上に来るのか?」

 

「別に、気分的に今日は屋上にいたい気分なんだよ。あんたには関係ないでしょ」

 

「まあ、そうだよな」

 

川崎は、1人にさせろ的な感じで八幡を見ている。彼はすぐにそれを理解し屋上から出ることにする。その時、風が吹いて川崎のスカートを巻き上げる。その光景を八幡は見てしまう。

 

「黒のレース、だって?」

 

川崎は、微動だにせずにこう答えた。

 

「バカじゃないの」

 

そう川崎に言われたが、彼女の黒のレースが頭に焼き付いて離れなかった。

 

 

再び八幡は、平塚先生に呼び出されることになる。呼び出されたことはわかっている。5時間目に集めた職場見学希望調査票の事である。見学希望場所を書いていなかったからだ。迷って書く事が出来なかったのだ。

 

ため息を吐きながら職員室へ行こうと思ったら吹寄に呼び止められた。

 

「比企谷君、ちょっといい?」

 

「吹寄?なんだ?」

 

「私が依頼した案件、まだ奉仕部でやってるの?」

 

「そうだな、解決したわけじゃないからな」

 

吹寄は不安そうな表情で見ている。八幡は彼女がそうしてるのはわかっている。このまま調べていたら、自分達に何か良からぬ事が起きるんじゃないかと考えている。

 

ーー2ーF組→特別棟の空き教室。

 

 

話も話だから、教室から場所を変えため、誰も来ない特別棟の空き教室へ入る。

 

「ここなら、誰も来やしないから話せるぞ」

 

「うん、私の依頼のせいで、奉仕部には迷惑をかけて…」

 

「別に吹寄のせいじゃない。悪いのは盗撮犯だろ?」

 

「それはそうなんだけど、雪ノ下さんや結衣が危ないことに巻き込まれるんじゃないかって不安で…」

 

「ああ、俺もそれを危惧してる。だからと言って、雪ノ下が止めるとは思えない」

 

雪乃は負けず嫌いな面があるようで、中々負けを認めない付しもある。だから直接言ったところで、止める選択をする可能性は低い。八幡が言えば間違いなく対抗して意固地になる可能性が高い。

 

ならば、どうするのか。

 

平塚先生に止めるように言ってもらう。

 

平塚先生が依頼を止めるように言う可能性も低い。なんでも生徒間同士で解決させようとしている感じがするからだ。

 

生徒会で頑張っているめぐりにも危険に晒してしまう。

 

総武高校の教職員達に言ってもらうのか?いや教師側に盗撮犯がいる場合は、余計に危険に晒してしまう。

 

ならば、自分自身で盗撮犯を捕まえるか。

 

それも八幡自身に危険が及ぶ可能性は高い。だが彼女達に危険が及ぶよりはマシだと彼は考えた。

 

「比企谷君。本当にごめんね」

 

「いやいや、吹寄のせいじゃないから」

 

「ありがとう、比企谷君。少し気持ちも楽になったわ」

 

「そうか」

 

吹寄は、無理に笑顔を作って空き教室から出ていった。

 

「吹寄、無理をしているよな…」

 

八幡は、窓の方を見て何とかするしかないと思った。

 

しばらくしてから八幡も空き教室から、平塚先生が待つ職員室へ向かう。




今日は、夜遅くに投稿です。

川崎さん初登場です。


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第2章ー39ー第5話ー1枚の盗撮写真。

第2章5話です。


ーーー職員室

 

職員室の一角には応接スペースが設けられている。革張りの黒いソファにガラス天板のテーブルが置かれ、パーテーションで区切られていた。その側に窓があり、そこからは、図書館が見渡せた。

 

開け放たれた窓からうららかな初夏の風が入ってきて、一切れの紙が踊る。

 

「もうすぐ、夏だな…」

 

「何が、もうすぐ夏だ!」

 

そこにパンツスタイルの平塚先生がやってくる。自分の机の椅子に座ると、タバコの箱から一本取り出して口元に持っていきそれを加える。

 

「比企谷、私が何を言いたいのか、わかるな?」

 

「職場見学希望調査票のことですよね、あれではダメですよね?」

 

「わかってるのなら、何故書かない?」

 

「将来…何の職種につきたいとか、まだ正直わからないです」

 

「わからないか…漠然に何になりたいとかないのか?」

 

「…だから…良くわからないんですよ…あの日からずっと…」

 

「…あの日からずっと?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

綾音が亡くなるまでは、彼女の病気を治すために医者という選択肢も入れていた。彼女が元気な頃は、彼女と共に人々の役に立つ職種につきたいと思っていた。

 

だが、綾音が亡くなってから、そういう夢が無くなってしまった。いや抱けなくなってしまったのかもしれない。八幡の中の時間は少しずつ動き出した。でもこういう事は、まだまだだったと言うことだった。

 

「まあ、比企谷、お前は少しは成長しているようだな」

 

「どうも…」

 

「だが、まだまだ成長する必要がある!」

 

「佐用ですか」

 

「それと春雪の件も頼むぞ」

 

「……はい」

 

 

平塚先生の呼び出しの件が終わった八幡は、トボトボ歩きながら奉仕部の教室へ向かう。

 

「……まだ決断できるほどのものじゃねーし…」

 

特別棟の廊下を悩みながら歩いていると、隅の方に1枚の写真らしきものが落ちていた。八幡はそれを拾う。

 

「……これは…盗撮写真…!?」

 

盗撮写真の被写体は、吹寄だった。つまり吹寄のパンチラ写真である。

 

「なんで…吹寄の盗撮写真がこんなところに?」

 

周りを見渡すが誰もいない。誰かが盗撮写真を撮って、落としたのか?

 

「どうする…めぐり先輩に教えるべきか?」

 

そんなことを言っていると、誰かが近づいてくる。八幡は急いで空き教室に逃げ込む。

 

足音からして相手は2人組のようだ。その2人組は何かを探しているようだ。声からして、葉山グループの田中と山本であることがわかった。

 

「あれ?この辺りに落としたはずだが?」

 

「本当か?誰かに拾われたんじゃね?吹寄のパンチラ写真…」

 

「マジかよ…せっかく、今日のオカズにしたかったのによ…!」

 

山本と田中が、その辺りを探しているようだ。

 

「……仕方がない、諦めるか」

 

「諦めるのか?まあ俺は構わないが」

 

山下と田中は、ため息を吐きながら去っていく。八幡はしばらくして、廊下へ顔を出す。

 

「田中と山本か…。まさかあいつらのだったとは…」

 

彼は、スマホを取り出して、とある人物に連絡をかける。

 

「もしもし、八幡先輩どうかされましたか?」

 

「直斗、お前に相談がある。実は…」

 

白鐘直斗、白鐘探偵事務所の探偵である。中学時代にとある事で、協力しているのだ。天之河事件でも協力してもらっている。直斗は八幡達の事件以外にも必ず関わった事件は解決に導いている。

 

今回の事を直斗に相談をする。総武高校の盗撮事件、学校内に盗撮犯の仲間がいることや圧力を加えるヤツがいることを説明したのだ。

 

「……ということだ」

 

「なるほど、総武高校でそんなことが起こっているとは…」

 

「直斗、頼めるか?正直俺達では手に負えない感じがする」

 

「わかりました。他ならぬ八幡先輩からのお願いです」

 

「ありがとう、直斗」

 

「八幡先輩、こちらからも総武高校の教職員の事を調べてみます。それとあまり無茶をしないで下さい」

 

「わかってる」

 

直斗は、総武高校の教職員の事を調べる事を約束した。八幡は、吹寄の盗撮写真を懐にしまうと、生徒会室へ向かう。

 

 

生徒会室の扉を叩く。すると中からめぐりの声が返ってくる。

 

「どうぞ、開いてますよ」

 

「失礼します」

 

八幡は生徒会室へ入った。中ではめぐりが生徒会長としての日誌をつけていた。

 

「八幡君、どうしたのかな?」

 

「ええ、実はこんなものを拾いまして」

 

彼はめぐりに拾った盗撮写真を渡す。

 

「これは吹寄さん…盗撮写真…これをどこで?」

 

「特別棟の廊下ですよ」

 

「特別棟…うーん、あっちの校舎…放課後になれば、確実に人通りは減る…。そこで盗撮写真を売買を?」

 

「その可能性はあります。しかし特別棟にも部活動で使っている教室もあります。奉仕部、遊戯部…その部活の人間と鉢合わせになる可能性もありますから、これも可能性の1つですね」

 

「八幡君の本命はどこなのかな?」

 

「おそらくは、体育館裏、または校舎裏…ってとこでしょうか」

 

八幡は、ぼっち生活を満喫していた頃、学校中を散歩していた。そのときに体育館裏と校舎裏も一通り回ったのだ。悪さをするためなら、この2つの場所は教師からは見つからないだろうと思っていた。

 

「体育館裏、校舎裏…あまり行かないところだよね?」

 

「普通の生徒なら行きませんよ。考えてみれば、不良達のたまり場かもしれないのに」

 

「……そうだよね。これ以上盗撮の被害を出さないためにも…」

 

「めぐり先輩、先走ってはダメ。盗撮犯はどうやら教師側にもいる可能性は高い。いや確実にいます。だから…めぐり先輩に何かあれば…俺は…」

 

「八幡君…キミって人はもう…優しいんだから」

 

「冗談やなんかで言ってません。俺は本気で言ってます」

 

「ありがとう、八幡君」

 

めぐりは、ちょっと赤く頬を染めた。夕陽が差し込んでいるから、八幡は彼女の表情の変化には気づかなかった。

 

吹寄の盗撮写真は、めぐりに預けることにした。八幡は自分が持っていると、別の疑いが掛けられると言って彼女に預けることにした。

 

めぐりとしばらく話してから、奉仕部へ向かうことにした。




これから盗撮事件が動いていきます。

白鐘直斗、ペルソナ4のキャラです。


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第2章ー40ー第6話ー犯行。

第2章6話です。


ーーー校舎裏

 

沢田達は、とある連中達をボコボコにしていた。

 

それは別の盗撮実行グループである。別の盗撮グループ、総武高校の学校裏サイトに盗撮写真を載せていた連中である。人数は5人、リーダーは3年の山下である。

 

沢田達は、自分達の盗撮写真をそのサイトに載せていたことが、商売の邪魔になると判断し、その連中の仲間の1人を捕まえて、白状させた上で、そのグループも潰すつもりだ。森屋と南部が別の盗撮実行グループの連中に

 

「お前達よくも自分達の商売を邪魔をしてくれたな!」

 

「学校裏サイトなんかにのせんじゃねーよ!」

 

南部は、倒れているメンバーの1人の腹を蹴り上げる。蹴り上げられた1人はもがき続ける。松野が南部を勇める。

 

「やめておけ、それ以上やれば面倒ことになるぞ」

 

「ちっ!」

 

南部はその辺りにあったゴミ箱を蹴り飛ばした。山形は南部に対して

 

「そんなにかっかすんなよ、南部」

 

そんな時、別の盗撮実行グループのリーダーである山下が

 

「沢田、てめえらも盗撮してんじゃねーか!」

 

「山下!沢田先輩に何て口の聞き方をしてるんだよ!」

 

南部は再び山下を蹴り上げて吹っ飛ばした。吹き飛ばされた山下は、校舎裏に置かれたごみ箱に突っ込んだ。

 

「山下!お前達!」

 

別の盗撮実行グループの1人が叫ぶ。残りの3人が南部達に立ち向かう。南部は奇襲攻撃を受け地面に倒れる。そこをごみ箱に突っ込んでいた山下が板ぎれを持って南部を突き刺す。

 

突き刺れた南部は、痛みの断末魔を上げる。それを森屋が叫ぶ。

 

「お前ら、自分がやったことわかってるのか!」

 

「わかってるさ、俺達が学校裏サイトの管理者ってわかった時点でお前らは消すように言われているからな」

 

山下が冷酷な表情でそう答える。あまり言葉を発しない沢田がかなり怒っている。

 

「山下!お前が権力者と繋がりがある人間か?」

 

「だとしたらどうする?」

 

何かを決意した沢田は、部下達にこう叫ぶ。

 

「松野、森屋、山形!お前達は南部を連れて逃げろ!」

 

「しかし!」

 

「……ここはリーダーの言う通りに逃げた方が言いかもね」

 

「松野!こんな奴らに背を向ける気かよ!」

 

「逃がすわけが無いでしょう!秘密を知ったからには、死んでもらいます!」

 

「……松野!そいつらを連れて逃げろ!!」

 

沢田は、山下に立ち向かう。山下にたどり着く前に、おもいっきり何かで殴られる。沢田はよろめきながら、学校の塀に倒れかける。暗闇の方から足音をたてながらやってくる。きちっとスーツを着こなし眼鏡をかけている男子教師がやってきた。

 

「山下君、さっさと始末しなさい」

 

「あ、高田先生。申し訳ありませんでした!」

 

山下は頭を下げる。仲間達も頭を下げる。森屋と山形は

 

「高田先生…あんたも盗撮実行グループの仲間だったんだな」

 

「学校の教師が盗撮実行グループの仲間とか終わってんな!」

 

「いきがるなよ、ガキが!」

 

松野は、スマホで万が一のために録音を開始していた。山形と森屋はそれを見られないように盾になっていた。沢田もよろよろながらも高田の前に出る。

 

「何ですか、その反抗的な目は!」

 

沢田は高田の顔面を殴り付けた。彼の右ストレートパンチがもろに顔面に直撃し、後ろへ倒れ込む。高田の鼻と口から血が出ている。

 

「沢田!てめえー誰を殴ったのかわかってんのか!」

 

「高田を殴っただけだ。他に何がある?」

 

「バカか?お前達はもう取り返しがつかないことをやったんだよ!」

 

「取り返しがつかないことだと?」

 

高田が、急に立ち上がって拳銃を取り出す。そして沢田に発砲する。

 

「…がはっ!け、拳銃だと……高田…あんた…まさか……」

 

真っ赤な血を吐いて倒れ込む沢田。森屋と山形は、松野を守るために盾になっているが、拳銃を出されてびびっている。松野は、自分の予備のスマホと森崎にさっきのやつを転送させた。そして電源を落とす。その松野がどうやって拳銃が手に入れたのか問い詰める。

 

「私には、偉い方がついているんだよ。市議会議員?いや違うな…国会議員のとある方が味方なんですよ。それだけはない、闇の組織との繋がりもある。そんな闇から手に入れた拳銃…」

 

「悪党めが…」

 

山形がそう言った。森屋も

 

「俺達なんかよりも、よっぽどの悪党だったようだ」

 

2人は、松野がスマホをどこかの隙間に隠すことを山下達から隠すために山形と森屋はやっている。松野は、山下達にわからないように隠した。

 

「終わりだ、3人共な」

 

校舎裏で3発の発砲音が響いたが、誰も聞くことはなかった。

 

ーー

 

「全員、死にました。で、どうしますか?」

 

山下の問いに高田は

 

「……この時間帯に死体にしたのは、まずかったですね」

 

「埋めますか?」

 

「学校の敷地に埋めるのは反対ですね。万が一他の生徒達や他の教師達に見つかるのは厄介ですので、一時的にそのドラム缶に死体を隠すとしましょう。その後は、私の知り合いの産業廃棄物処理業務を行っている人間に海にでも捨ててもらいましょうかね」

 

「それとこいつらも盗撮をやっていたようです」

 

山下の仲間達が、沢田達のポケットから盗撮写真やスマホに保存されている画像を見せてきた。

 

「なるほど。こいつらは、この写真を売って儲けていたというわけか」

 

高田が持っている盗撮写真は、吹寄、雪乃、結衣、三浦があったのだ。

 

「高田さん、どうしますか?」

 

「これは、私がもらう。いいな?」

 

吹寄達の写真を山下から受け取る高田。その表情はイヤらしく気持ちが悪い。

 

「わかりました」

 

その後、山下達は、死体をドラム缶に片付けた。ばれないように細工までやった。

 

そんなことをやってまで山下と高田は、何かをやろうとしているのだから。

 

沢田達5人は、元々からの不良だったので、学校は対して問題にしなかった。それが失踪したとしても。

 

さすがに失踪は、問題視していた教師達もいたが、高田が不良達の事は切り捨てるのが、総武のためになると言っている。

 

だが、高田の野望は、とある人物達によって潰えることになる。




ついに殺人という行動に出る、高田達のグループ。松野から何かを送られてきた森崎。森崎はそんなものを渡されてどう動くのか。


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第2章ー41ー第7話ー動き出す者達。

第2章7話です。


ーーー2ーF組

 

八幡が、めぐりに盗撮写真を届けて1週間が経ったある日の事である。

 

めぐり達生徒会が、総武の全女子生徒宛にチャットで学校内の盗撮等の注意喚起を行った。

 

スカートの下に短パン、スパッツ、ブルマ等を穿く。

 

生徒会の女子会員達だけで決めた。めぐりは、八幡には事前に相談をしていて、彼もその方が言いと言った。

 

生徒会の喚起があってか、大体の女子生徒達はちゃんと短パン等を穿いていた。

 

八幡が突っ伏して寝たふりをしていると、クラスのカースト最上位の葉山グループの三浦達が何か話している。

 

「はぁ~なんでスカートの下に短パンとか穿かないとダメなわけ?」

 

「それは、パンチラ防止のためだって生徒会は言ってたけど」

 

「まあ、写真とか撮られたらはずかしいし~」

 

「それもそうだけど~それよりも盗撮するようなヤツがこの総武にいるなんてね~」

 

葉山グループの三浦、結衣、海老名がそんな話をしている。クラスの他の女子生徒達、吹寄のグループも話をしている。

 

「盗撮犯、さっさと捕まらないかな」

 

「そうね、城廻生徒会長自ら動いてるんだしすぐに解決するんじゃないかな」

 

「階段とか気を付けないとね」

 

クラスの女子達は、みんな盗撮事件の事を言っている。八幡の狙い通りになっている。今までは、生徒会で止めていたため女子生徒達の被害の連鎖を止めることができなかった。だが注意喚起を出すことによって、女子生徒達を警戒させることができた。次は盗撮犯がどう動くか。

 

直斗が総武高校の教職員を調べてくれて、何か分かれば、次のステップに進める。雪ノ下議員、高梨議員、雅史のじっちゃん達に事情を話し、圧力を加える大物の議員をあぶり出す事が出来る可能性が出てくる。

 

八幡はそんな情報を頭の中で、整理、構築、計算等をやっている。そんな時に彼は背中をトントンと軽く叩かれたので、頭を上げた。

 

「比企谷君、おはよう」

 

「戸塚か、おはようさん」

 

「女子のみんなが、みんなピリピリしてないかな?」

 

「確かにな」

 

「女子の1人に聞いたけど、学内で盗撮事件が起こってるみたいだよ」

 

「そうみたいだな」

 

八幡は、戸塚と話しながら男子達の会話も聞いていたのだ。葉山や戸部の話は、サッカーや世間話をしているようだが、大和と大岡の2人は、同じクラスの松野が休んでいることを気にしている。

 

松野巧、2ーF組、このクラスでは、葉山グループの次のグループ、相原グループに所属している。

 

その相原グループのメンバー達も心配しているようだ。まずリーダーの相原が

 

「巧のヤツ、もう1週間も来ていないな」

 

「巧、グループのチャットにも出ない。ずっと既読にならないよ」

 

「1週間連絡が無いなんて、なんかおかしいと思う」

 

「巧のつるんでいた3年のグループのリーダーの沢田って人も1週間来てないって部活の先輩が言ってた」

 

相原は、トコトコと歩いて吹寄に話しかける。

 

「吹寄、た、松野が来てないけど、何か知らないか?」

 

「松野君?私のとこにも何も来てないわ。私も気になって連絡したんだけど、全然繋がらなくて」

 

「あいつ、たまにサボるクセはあったけど、こんなにサボることなんてなかった!何か事件に巻き込まれたんじゃ!」

 

相原が教室から出ようとしたら、平塚先生がやってきた。

 

「相原、授業が始まる前にどこに行く?」

 

「松野が学校に来てないんですよ!もう1週間も!学校は心配してないのかよ!」

 

「私も心配している。松野だけじゃない、3年の沢田に山形、森屋、南部…もみんな1週間来ていない。保護者からも捜索願いが出されている」

 

「捜索願いって…失踪したってのかよ!」

 

相原は、平塚先生に掴みかかろうとしたため自身のグループの仲間に押さえられている。

 

「校長や教頭が動こうとしない。私達教職員は動けないんだ…」

 

平塚先生は、八幡をチラッと見た。その目はお前達に託したって感じだった。彼は、盗撮事件と松野達の失踪事件と何か関係があるのかと考えた。

 

するとスマホがバイブが鳴った。八幡は、そっと見る。それは直斗からだった。

 

【八幡先輩、授業中だったらすいません。総武高校の教職員の情報が掴めました。チャットじゃちょっと説明できませんので、今日の放課後どこかで会いませんか?】

 

【わかった、ならジュネスのフードコートで会わないか?】

 

【わかりました、ジュネス総武支店のフードコートですね、それでは放課後にて】

 

八幡は、直斗に感謝しつつ、気を引き締めるのだった。

 

ーー??

 

森崎にとってここ1週間は、生きた心地がしなかった。沢田達と全く連絡も取れないし、松野からも連絡が来ない。

 

それだけではない、松野から大量のデータが送られてきた。そのことで話したいのだが、松野自身が学校に来ていないのだ。

 

「どうすれば、良いんだ?」

 

松野から送られてきたデータをどうすれば良いのか迷っている森崎。

 

「松野さん、あんた本当にどこに行ったんだ?こんなもの僕に渡されても困る」

 

森崎は、生徒会室に届けることにした。自身には、もう手が負えないと判断したのだった。

 

森崎は、生徒会の目安箱に生徒会長宛に、USBメモリーが入った封筒を誰もいないときに入れたのだった。




盗撮事件の犯人達が段々と追い込まれていきます。

八幡は、直斗から真実を教えてもらい、めぐりは、森崎の贈り物で、衝撃の真実を知ることになります。そう言えば、雪ノ下雪乃さん出てきませんね…。裏では、陽乃さんが動き出していて、雅史のじっちゃんや地元経済界の協力を取り付けていますね。雅史のじっちゃんの指示で、盟友の国会議員達も密かに調べているようだ。


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第2章ー42ー第8話ー明らかになる事実。

第2章8話です。


ーーー総武高校→ジュネス総武支店・フードコートにて。

 

八幡は、放課後になるとすぐにジュネスへ向かう。途中平塚先生に見つかって、奉仕部は行かないのかと言われたが、盗撮事件の事を調べていると話すと、解放された。ただ平塚先生は、

 

【比企谷、気をつけろ。どうも嫌な予感がする。本来ならこんなことを生徒にさせるのは間違いだ。だが我々教職員は、校長の命令で動けないんだ。わかってくれ】

 

八幡は、校長が教職員に圧力をかけていることがわかった。

 

ジュネス総武支店のフードコートを目指しながら、いろんな事を考えた。

 

校長が教職員に圧力をかけているのではなく、黒幕が校長に圧力をかけ、教職員に圧力をかけている。

 

校長は黒幕のお飾りにしかない。

 

黒幕が総武高校の絶対的支配者ってことである。

 

そんなことを考えながらジュネス総武支店のフードコートへ向かった。

 

ジュネス総武支店のフードコートに向かうと、すでに直斗が来ていた。

 

「すまない、直斗、遅れた」

 

「いえ、先輩、僕も先ほど来ましたので」

 

「…何か飲み物でも買ってくるか?」

 

「あ、はい、お願いします」

 

八幡はフードコートの出店で緑茶を2つ購入して戻ってきて

 

「緑茶で構わないよな?」

 

「はい、構いません」

 

八幡は、緑茶の入ったカップを渡す。2人は同時に緑茶を飲み干す。

 

「コホン、八幡先輩、これから話すのは全て事実です。心して聞いて下さい」

 

「わかった」

 

「それでは…僕がここ1週間調べた結果から話しますが、総武高校の教職員に国会議員と達の悪い暴力団と繋がりがある事が判明しました」

 

「やはりな…」

 

八幡は、足を組み左手を顎に置く。直斗は、タブレットを彼に見せる。

 

そこには、総武高校教諭、高田政孝(32)既婚者であり、教科担当は社会科全般である。

 

高田の表の顔は、教え方が上手い教師あるため、誰もが疑わない。だが裏の顔は、国会議員や達の悪い暴力団と接点がある。この時点ですでに黒である。

 

「そして、これからが総武高校での犯罪の数々ですね」

 

そこには、女子生徒を社会科準備室に連れ込んで、セクハラやパワハラ、強制性交罪に問われるような事をしているようだ。それを男子生徒の手下に撮影させているようだ。そしてそれを学校裏サイトに載せている。他の仲間の男子生徒達には、盗撮をさせて、それも裏サイトに載せている。高田は、口封じのために、弱みを握った女子生徒達を校長や教頭に差し出している。

 

何故、直斗がこんなことを知っているのかと言うと、女子生徒達被害者と秘密裏にコンタクトを取り、話し合ったらしい。告発の為に協力をしてくれたようだ。すでに直斗は、雪ノ下議員、高梨議員、雅史のじっちゃん、陽乃、葉山弁護士も話し合って、彼らも動いてる。

 

つまり高田包囲網は、確実に狭くなって来ているというわけだ。

 

「流石、名探偵白鐘直斗だな」

 

「いえいえ、ここまで話が進められたのは、八幡先輩の人徳の良さと適切の情報分析のおかげでしょうか」

 

「アマチュアの考えだがな」

 

「八幡先輩の情報分析力はプロなみですよ。コホン、すでに警察も高田が雇っていたグレーゾーンの連中を逮捕に動いてます。彼らが自白をしてくれれば、高田逮捕のきっかけになるはずですね」

 

「そうなると、総武高校は全国の注目の的になるな……」

 

「そうなるでしょうね……。マスコミや野次馬が連日のように押し寄せるでしょうね…」

 

そうなると、あることないことをネット世界では言われることになる。

 

総武高校自体が叩かれるのは仕方がない。校長や教頭は、高田という黒幕に屈して、罪もない女子生徒達に手を出しているわけで、教職員も御身大事で告発すらしなかったわけだから。

 

だが被害に女子生徒達は関係ない。いや他の生徒達にまで矛先が向かないとも限らない。

 

それは、生徒会長のめぐりにも矛先が向くかもしれない。

 

それだけは避けなければならないことだ。

 

「…めぐり先輩を矢面に立たせるわけにはいかない。彼女にはヒーローになってもらわないと」

 

「彼女をヒーローに?」

 

「ああ、これから総武高校は地に落ちる。それでも健気に総武高校を立て直しを図る生徒会長としてね」

 

裏の汚いことは、八幡がやるつもりだ。めぐりには、表の事をやってもらうのだ。

 

そんな時、直斗のスマホが鳴った。

 

「八幡先輩、ちょっと失礼します」

 

直斗は、そう言って席を立つ。

 

「はい、白鐘です…はい、はい…何ですって!」

 

直斗の表情が変わる。やはり何か嫌な事があったのか。悔しそうにしている。全て終わったのか、スマホを懐にしまうと、八幡の方を見る。

 

「行方不明の5人が見つかりました」

 

「何だって!」

 

「見つかりましたが、5人共にドラム缶に入れられた状態で見つかりました」

 

直斗の話では、5人を入れたドラム缶を運んでいた産業廃棄物処理をする企業のトラックに載せて運んでいたそうだ。

 

すぐに運転手は、拘束され事情を聞かれた。

 

するととある人物から頼まれたと話したそうだ。

 

【総武高校の高田という教師に頼まれた】と。

 

千葉県警は、その産業廃棄物処理の会社【灘目産業廃棄物処理工業】を家宅捜索に入ってるという。

 

「灘目産業廃棄物処理工業から、高田に繋がる証拠が出れば、確実に逮捕状が取れます!」

 

「高田…全ての黒幕…絶対に捕まえてやる!」

 

八幡は、そう言って口を真一文字に結び、手をぐぅっと握りしめて、そう決意した。




この世界の日本は、現実よりは犯罪率が高いですかね。

ただ、八幡が今経験しているのは、現実かはたまた夢なのか…。


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第2章ー43ー第9話ー最悪の結果、そして……。

第2章9話です。


ーーー総武高校・生徒会室

 

めぐりと生徒会のメンバーは、いつもの業務をやっていた。

 

メンバーの女子生徒の1人が、目安箱の中身を確認していた。

 

「城廻会長、この封筒…会長宛てなんですが、確認致しますか?」

 

「私宛て…?ええ、私が確認するわ」

 

メンバーの女子生徒は、めぐりに封筒を渡す。渡された彼女は、中身を確認する。中身はUSBメモリーが入っていた。

 

「USBメモリー?」

 

「封筒の中身はUSBメモリーなんですか?」

 

「そう…みたいだね。一体誰がこれを?」

 

「それの中身を確認しますか?」

 

「……ええ、確認しましょう」

 

めぐり達確認しようとしたら、吹寄と綾香がやって来た。

 

「城廻会長、首尾はどうですか?」

 

「めぐり先輩、失礼します」

 

「吹寄さんに綾香ちゃん、まだそんなには…」

 

めぐりは2人と喋りながら、USBメモリーの中身を確認する作業に入る。

 

すると盗撮写真が山のように出てくる。総武高校の女子生徒のパンチラ、着替えの写真、カップルの性交為等が入っている。

 

盗撮写真の中には、吹寄のパンチラ、水泳部の更衣室での着替え、綾香のパンチラ、着替え等…水泳部は標的にされている感じが見えるものだった。吹寄と綾香は、表情を強張らせそれを見ている。

 

メンバーの女子生徒の1人が

 

「これって、盗撮犯の仲間が告発するために入れたのでしょうか?」

 

「…うん、どうかな…告発しようとして?」

 

「城廻会長、これをどこで?」

 

「吹寄さん、それが生徒会の目安箱に私宛てに入ってたの。総武高校の生徒の誰かが入れたのは間違いないだろうけど」

 

「めぐり先輩、他に入ってるものは、無いですか?犯人達を示す何か?」

 

「それが…USBメモリー…と…これは何かしら?」

 

音声データの中にプロレスという名称がある。他の名称は、あやしいものばかりだが、プロレスはずいぶんと異彩を放っている。それをクリックしてみると

 

【山下君、さっさと始末しなさい】

 

【あ、高田先生。申し訳ありませんでした!】

 

【高田先生…あんたも盗撮実行グループの仲間だったんだな】

 

【学校の教師が盗撮実行グループの仲間とか終わってんな!】

 

【いきがるなよ、ガキが!】

 

【何ですか、その反抗的な目は!】

 

沢田が高田の顔面を殴り付けた音が聞こえた。そして殴られた高田が倒れ込む音が聞こえてきた。

 

【沢田!てめえー誰を殴ったのかわかってんのか!】

 

【高田を殴っただけだ。他に何がある?】

 

【バカか?お前達はもう取り返しがつかないことをやったんだよ!】

 

【取り返しがつかないことだと?】

 

【…がはっ!け、拳銃だと……高田…あんた…まさか……】

 

ここで録音は終わっている。めぐり達は、表情を強ばらせている。生徒会のメンバー達が

 

「…高田先生が…沢田君達を…?」

 

「高田先生や沢田達が盗撮の犯人なのか!」

 

「だとしたら、これはもう自分達生徒会じゃ…警察に…!」

 

「それ以上、…警察に言われるのは厄介ですね…城廻生徒会長…」

 

高田がそう言いながら、生徒会室へ入ってきた。手下の男子生徒を3人連れて。高田は、たまたま通りかかった女子生徒を人質にして。

 

「城廻生徒会長、さっさとそのUSBメモリーを渡してもらおうか?」

 

「高田先生、卑怯ですよ」

 

「なんとでも言いなさい」

 

「…このUSBメモリーは、その女子生徒を放したら渡します!」

 

めぐりは、そう言って高田を睨む。

 

「……まあ、良いでしょう。女子生徒は解放しよう」

 

高田は人質にされている女子生徒を放す。放された彼女は、めぐりの後ろへ隠れる。めぐりは、USBメモリーを高田へ投げる。

 

「確かに受け取った…」

 

高田はスマホを見て、舌打ちをする。支援をしてくれていた国会議員の秘書が、高田を見捨てる事を伝えてきた。自身の派閥政党から除名されたくないので、高田達を切ることで延命しようとしている。つまり自分が助かるために、高田を警察に売ったというわけになる。

 

「…あのヤロー、自分だけ助かろうと…!くそっ!」

 

「高田先生、観念したらどうですか?」

 

めぐりがそう言うと、高田はニヤリと笑った。そして自分の欲望のために3人の名前を呼ぶ。

 

「そうだ…城廻、雪柳、吹寄…お前達は来るんだ!」

 

「逃げるための人質ですか?それなら綾香ちゃんや吹寄さんじゃなく、私だけを人質にすればいい話です!」

 

「城廻…生徒会長としての責務か?」

 

「そうです…。会長として学校の生徒を守らなければならないのです。私の憧れである人は、そうやってみんなを守っていましたから…」

 

めぐりの憧れである人物、1人は、雪ノ下陽乃である。そしてもう1人は、比企谷八幡である。めぐりは、陽乃のようにはできない。だけど学校を思う気持ち、生徒を思いやる気持ちは、彼女に負けないように頑張っている。

 

「雪ノ下陽乃か…。忌ま忌ましい女だったことは間違いない…。だがお前にあの女の器があるとは思えないな」

 

「そんなこと、高田先生に言われる筋合いは無いですよ!」

 

「城廻!」

 

高田はめぐりの手を掴み、逃げようとする。

 

「お前達、好きにするがいい!オレの逃げる時間を稼げ!」

 

「わかりました」

 

「はい」

 

「はい、わかりました」

 

高田の手下達は、彼の逃走時間を稼ぐために立ち塞がる。

 

高田は、めぐりを連れながら自分の車に逃げるために、学内を走る。

 

学内で立ち塞がる者はいない、悠々と走る高田、無理やり連れながら走るめぐり。

 

そして車に乗せられるめぐり。高田は、自らの高級車を勢いよく走らせる。

 

総武高校前で、騒ぎを嗅ぎ付けた平塚先生が、自分の車で何とかしようとしたが、スピードを出していた高田の高級車に弾き飛ばされた。

 

「ひ、平塚先生!」

 

「平塚!邪魔だ!」

 

そのまま、高田の高級車は走り抜けていく。

 

しばらくするとサイレンを鳴らしながら警察車両が、高田の高級車にピタリとついてくる。

 

「ちぃ、警察ごときがこのオレを捕まえることが出来るかよ!」

 

高田は乱暴に高級車は乗り回しながら、警察車両をかわしながら走り抜けていく。

 

ーー

 

一方の八幡は、綾香からめぐりが高田に連れ去れた事を聞かされ、自転車をとばしている。

 

「高田…!めぐり先輩を…何か先輩にしたら許さないからな!」

 

指し手の能力を使いながら高田の逃走経路を割り出す。全ての可能性から、可能性の低い順に切り捨てていく。

 

「…おそらくは…あそこのとおりで」

 

八幡は自転車を高田が逃げるだろうと予想した方に走らせる。

 

 

サイレンの鳴らすパトカーが近づいてくる。八幡は、高台からそれを見ていた。そして自転車を走らせる。

 

「高田…てめえは、絶対に許さない!」

 

すると高田の高級車と思われる自動車が、パトカーから追われているのがわかる。彼は、自転車を置いて、歩道橋を走って上る。

 

「ここからなら、高田の高級車に飛び移れるはず…めぐり先輩…無事でいてください」

 

高田の高級車とパトカーがサイレンを鳴らしながら歩道橋の方に走ってくる。

 

「1回だけのチャンス…タイミングは……男だろ、八幡!覚悟を決めろ!」

 

八幡は、タイミングよく飛び降り、高田の高級車の天井に張り付いた。

 

彼はかなりのリスクを背負ってまで、こんなことしたのは、めぐりを救い出すという気持ちで動いていたのだろう。

 

かつて綾音を救いたいという気持ちで彼を動かしていたように…

 

だが今回はそれが仇となった…。

 

彼は再び1人で何とかしようとしてしまった。

 

選択肢を間違えた。

 

高田はそんな八幡に牙を向く。

 

「ヒキタニ、まさかお前がこんなことするとはな!葉山辺りならわかるのだが!」

 

「高田!てめえは許さない!めぐり先輩を…」

 

「八幡君、なんでこんな無茶をしたの!」

 

「無茶…こんなのは…好きな女性が危険な目にあってるのに、男が救いに来るのは当たり前でしょ!」

 

「ヒキタニ!引きずり落としてやる!」

 

高田が高級車を蛇行運転をする。それをさせまいとめぐりは、高田を止めさせようする。

 

「うるさい、おとなしくしてろ!」

 

高田は、めぐりを殴りおとなしくさせた。

 

「高田!貴様!よくもめぐり先輩を!」

 

八幡は高田に激怒する。だが彼には高田を攻撃手段がない。高級車の天井である。再び蛇行運転をやりはじめるが、目の前には、対向車の大型ダンプカーが走っている。

 

高田の高級車は、そのまま対向車の大型ダンプカーに突っ込んでしまう。

 

八幡とめぐりは、高田と共に死んでしまった。

 

どこで、選択肢を間違えた。

 

どこで、道を間違えた。

 

高田が殺人事件を起こす前…

 

あの頃…

 

まだ盗撮事件を雪乃や結衣達、みんなで調べていた頃に。

 

ーーー総武高校・屋上

 

八幡は、ガバッと起き上がり周りをキョロキョロしている。すると目の前には、川崎沙希の顔があった。

 

「か、川崎!なんでここに?」

 

「わたしは、ただ昼寝をしにここに来ただけ!そしたらあんたが寝てて、しばらくすると、うなされ始めたから…心配だから、ずっと見てた」

 

「うなされていた?」

 

先程のアレは、現実のようで、夢だったのか?

 

それにしては、生々しい夢だったと頭をさする八幡。

 

「あんた、本当に大丈夫?顔色悪いわよ?保健室行ける?」

 

川崎が顔を近づけてくる。

 

「大丈夫、自分で行けるから」

 

「そう、それとコレ、落としたわよ」

 

川崎から職場見学希望調査票の紙だった。

 

「ありがとう、川崎」

 

「別に、礼を言われることはしてないよ」

 

そう言って川崎は、屋上から出ていく。出ていくざまに、彼女のスカートが風でめくれて、黒のレースのパンツが見えたのだった。

 

「黒のレースのパンツか…コホン、まずは、保健室へ行くか。自分の中にある情報を整理しよう」

 

そう言って八幡は保健室へ向かうことにした。




八幡とめぐりが高田と一緒に死んでしまい、最悪の結果になってしまいました。

そして、将来の夢を考えて屋上で寝転がっていた時にタイプリープした感じになりました。

タグに神様転生を入れていたのは、このためです。八幡は、これから再びどう動くのか。

こちらはめぐり編になっていきます。


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第3章Rー八幡・めぐりの逆襲編
第3章ー44ー第1話ー八幡・めぐり、リトライ。


第3章1話です。


ーー屋上→保健室

 

保健室に向かった八幡は、途中に高田とすれ違う。込み上げてくるものがあったが、すぐに保健室へ入る。

 

保健室の先生が話しかけてくる。

 

「八幡も具合が悪いのかな?」

 

八幡の顔を見て、保健室の先生はそう判断したようだ。彼は保健室の先生を見て、驚いた表情になる。あの夢では、保健室に行かなかったから会ってなかったが、保健室の先生は、なんと従姉の比企谷 香織だった。父親の兄の娘である。容姿は、黒髪ロングの小町を大人っぽくして、巨乳でお色気お姉さんみたいな感じだ。タイトスカートから伸びる生足もエロい。

 

香織は、東京の都立高校の保健室の先生をやっていたはずだが、なぜ総武にいるのか。

 

「し、香織姉さん…なんで総武の保健室に?」

 

「何、言ってるのよ、3日前に前任の保健室の先生が産休に入るから、代理で私が派遣されたのよ!聞いてなかったの?」

 

「聞いてなかった…」

 

3日前、八幡は思い出そうとしてるが中々思い出せない。高田と一緒に死ぬ夢を見ていたせいで覚えていない。

 

「ちゃんとおば様や小町に話したわよ、もちろん学校でも話したし」

 

「……聞いてなかったな…」

 

「まあ、いいわ。気分が悪そうだから、ベッドで寝てていいわ」

 

「すまない、香織姉さん、ベッド借りるわ」

 

「一番窓際は、女子生徒が寝てるから、それ以外なとこでね。担任と平塚先生には、事情を話しとくね」

 

「うん、よろしく頼む」

 

「まあ、ゆっくり休むことね、頑張りすぎよ、八幡」

 

香織はそう言って保健室から出ていく。八幡は、それを見てから窓際の隣のベッドを見る。窓際の方は、カーテンで仕切られており、本当に女子生徒が寝てるのだろう。

 

 

彼自身、さっき高田とすれ違ったため気分が益々悪くなった。

 

八幡は、カーテンの仕切りを完成させると、そそくさとベッドに寝転んだ。

 

寝転んだとしても眠れるはずはない。ずっと夢の事が頭にあるからだ。

 

「あれは…夢か?俺の指し手の能力が見せた未来?」

 

八幡とめぐりと高田は、大型ダンプカーに衝突して死んでしまったあれは、ただの夢なはのか?

 

夢にしては、痛みもリアルだったのだが。

 

天井を向いてそんなことを考えていると、隣から声が聞こえる。

 

「そっちに寝てるの、八幡君かな?」

 

「め、めぐり先輩!?窓際のベッドってめぐり先輩が寝てたんですね!?」

 

八幡は慌てて起き上がる。まさか隣のベッドにめぐり先輩が寝てるとは思っても見なかったからだ。

 

「うん、生徒会室でちょっと寝てたら変な夢を見たの。それで気持ちが悪くなってね、生徒会のメンバーに保健室に行くように言われたの。八幡君も気分が悪いのよね?」

 

「俺も一緒です。将来の事を屋上で考えていたら、いつの間にか寝てて、俺とめぐり先輩が死んでしまう夢を見たんです。それから気分が悪くなったみたいで…」

 

「ふふっ、私達…一緒の夢を見たんだ…何だか不思議だね」

 

めぐりが仕切りのカーテンを開けてきた。だが彼女の表情は辛そうにしているのが、八幡にはわかった。

 

「めぐり先輩、そ、その大丈夫ですか?かなり辛そうですが?」

 

「大丈夫だよ、しばらく寝てたからさっきより大分良くなったから。それよりも八幡君の方が顔色悪いよ」

 

めぐりを元気つけようとしたが、逆に心配をされてしまう。彼女もベッドで横になると再び夢の話を話してきた。

 

「……ねぇ、八幡君、高田先生ってどう思う?」

 

「高田先生…ですか。別に何とも思わないですけど、人気はあるみたいですね」

 

「みんなに良い顔をしてるのが、偽物で裏で盗撮や犯罪をやってるのが本当の顔じゃないのかなって」

 

八幡が見た夢の中の高田は、等しくそれであった。生徒を簡単に殺す、女子生徒達をモノとしか思っていた高田。めぐりも八幡と同じ夢を見ていたのか?

 

「…めぐり先輩は、そんな夢を見たんですね、俺もあの夢を見てから高田先生が側を通っただけで、気分が悪くなったですし」

 

「そうなんだね…あの夢の通りなら、沢田君達や高田先生達は、盗撮事件の犯人達なってしまうよね…」

 

「…確かに…。ただ調べる価値はあると思います」

 

「え?」

 

八幡は、自分の直感を信じることにする。以前もこの直感を信じて、問題を解決したことがある。

 

「めぐり先輩、一緒に調べてみましょう。何かわかるはずです」

 

「そうね、わかったわ。一緒に調べてみましょうか」

 

ベッドでお互いの方を見ながらそう決めたのだ。八幡とめぐりのやり直しの第一歩が始まろうとしていた。




八幡とめぐりのやり直しと高田達への反攻の開始が始まろうとしていた。

新キャラである保健室の先生、比企谷香織。八幡の父親の兄の娘である。東京の都立高校の保健室の先生をしていたが、総武高校の臨時の保健室の先生を募集の求人を見てやって来たのだ。従弟の八幡が通ってるのもプラスに働いた。


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第3章ー45ー第2話ー集まる仲間達。

第3章2話です。


ーーー保健室

 

八幡とめぐりは、昼休みの保健室でそう決めた。

 

一緒にやることを。以前失敗したことを繰り返さないように。

 

そして昼休みの終わるチャイムがなり、めぐりは再び眠ることに。行動開始する前に英気を養うと。

 

彼女に再び仕切りを仕切られてしまった。

 

天井を見ながら考えたが、考えは浮かばない。八幡は制服の上着のポケットからスマホを取り出す。

 

平塚先生に3年の生活指導を急遽やってほしいと連絡をした。盗撮犯が3年の中にいるから厳密にやってほしいと。

 

今は、現国の授業中だから連絡は戻ってこない。

 

後は、探偵である直斗に連絡を入れる。以前よりも連絡するのは早い。

 

「はい、もしもし八幡先輩ですか?」

 

「直斗、いきなりですまない。総武高校の教諭の高田を調べてほしい。それから…」

 

八幡は夢で経験してきたことを直斗に話す。

 

「その高田という総武高校の教諭が、国会議員や暴力団と関わりがあり、【灘目産業廃棄物処理工業】が殺人の処理を担っているというわけですね」

 

「直斗、俺の事を信じられるか?」

 

八幡は、真剣な声で直斗に言った。普通はこんなことを信じてもらえるはずはない。ただの夢物語の幻想に過ぎないと。

 

直斗は、そんな八幡の意思を汲み取って

 

「以前、天之河事件の時も今回のように夢で未来が見えたと八幡先輩は言って、綾音さんを守ったじゃないですか」

 

八幡は、そう言われてはっとする。もしかしたら、あのときの疑問もこれだったのかと。指し手の能力が見せた未来だと。だから天之河の行動が読めたのではないかと。

 

「直斗、すまない」

 

「いえいえ、こちらこそです。八幡先輩からもらった情報は、警察と共有します。警察と共に灘目産業廃棄物処理工業を調べたいと思います。それでは失礼します」

 

直斗は、そう言ってスマホの通話を切った。

 

再び彼は天井を見ながら考える。

 

 

夢の中なら平塚先生に呼び出され、5時間目に集めた職場見学希望調査票の事を聞かれるのだが。それは見学希望場所を書いていなかったからだ。あのときは、迷って書く事が出来なかったのだから。

 

「かと言って今回も書いてはいないんだが…」

 

職場見学希望調査票の紙をポケットから取り出して見た。そこには名前しか記入されていない。

 

職場見学場所は、3つのうちから選ぶものだった。

 

【千葉県庁】

 

【幕張メッセ】

 

【テレビ千葉】

 

どれも八幡にとって、将来は関係無さそうに見えるが。

 

「千葉県庁にでも言ってみるか」

 

そう言って職場見学希望調査票をポケットへしまった。そしてそのまま眠ってしまった。

 

 

八幡が再び目を覚ますと、吹寄と綾香と陽介、完二、材木座、戸塚とそして葉山と戸部がそこにいた。

 

「な、何でお前達がここに?」

 

「八幡お兄ちゃん、本当に心配したんだよ!」

 

「平塚先生と保健室の先生から、比企谷君は具合が悪くなって保健室で寝てるって」

 

「比企谷、昼休みに具合が悪くなったのか?」

 

「綾香、吹寄、葉山…ああそうだな。色々と考えてたんだ」

 

「八幡よ、お主は1人で何かを抱えてるだろ?我らに話しても良いのではないか?」

 

「そうだよ、僕達に話して、比企谷君!」

 

「結衣から聞いたぞ。奉仕部で盗撮犯の犯人を探していると」

 

「何で、八幡…話してくれなかっただよ!」

 

「センパイ、オレ達じゃ頼りないかも知れませんが、頼ってほしッス」

 

「ヒキタニ君、マジハンパないって。1人で調べるよりみんなで調べた方がいいって!」

 

「陽介、完二、葉山…戸部…みんなで調べると言っても…デリケートな問題なんだよ」

 

八幡は、口をぎゅっと締めて下を向く。協力を申し出てくれるのは、ありがたいことだ。だが今度は彼らを危険に晒す可能性もある。

 

だから決断に迷いが出てしまう。するとカーテンの仕切りが開いて、そこからめぐりが

 

「八幡君、みんなの協力を受けましょ。その方が効率があがるし」

 

「めぐり先輩…」

 

すると綾香がめぐり先輩に近づき

 

「城廻先輩も寝てらっしゃったんですね」

 

「綾香ちゃん、私も昼休みに気分が悪くなってね、ここで寝てたんだ」

 

めぐりは、アハハと言いながらそう言った。綾香はそれを見て先を越された感じになって八幡に抱き付く。

 

「私、八幡お兄ちゃんがいなくなる夢を見たんだ…。私がいくら走っても全然追い付かなくて…。私、八幡お兄ちゃんまでいなくなるなんて嫌だよ!」

 

八幡は、綾香の言葉が心に刺さる。大好きな姉、綾音がこの世を去ってしまった。それだけでも、彼女は辛いのに自分もこの世を去ってしまったらどうなるのか。

 

そんなこと想像もしなくない。八幡自身も目から涙が零れる。彼は綾香の頭を撫でた。

 

「ごめんな、綾香。寂しい思いをさせてしまったな。俺はいなくならないから」

 

吹寄やめぐり、陽介、完二、材木座、戸塚、葉山、戸部はそんな光景を見て微笑ましく思えた。

 

そんな話をしていると、平塚先生が保健室へやって来た。

 

「比企谷、3年に対して生活指導をしろってどういう事だ?」

 

平塚先生は、吹寄や綾香、めぐり、陽介達が八幡のベッドのとこに集まっていたから、ビックリしている。

 

「平塚先生、そのままの意味ですよ。3年生に生活指導をしてほしいのです。つまり盗撮犯の主犯が3年にいるからですよ」

 

「ふーむ、比企谷、君はそこまで調べていたのか」

 

「ええ。まあ俺の1人の力じゃないですけどね…」

 

八幡は、めぐりの方を見てそう言った。

 

「そうか、城廻と協力してたわけか…。しかし同じ部員である雪ノ下、由比ヶ浜はどうした?」

 

八幡が言葉に詰まると、吹寄が平塚先生の問いに答える。

 

「雪ノ下さんと結衣は、2人で盗撮事件を調べています」

 

「そうか。事件が事件だけに協力しあった方が良さそうだな。吹寄、2人に連絡できるか?」

 

「2人にですか?はい、わかりました」

 

吹寄は、雪乃と結衣に連絡をする。すぐに2人に連絡はつき、保健室へ来てくれと連絡をした。5分くらいで、雪乃と結衣が保健室へ来た。

 

「吹寄さん、用事って何かしら?」

 

「せいりん、来たよって…ヒッキーに隼人君にみんないるし、平塚先生も」

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、お前達にも協力をしてもらうために呼んだんだ。俺の話を聞いてくれ」

 

八幡は、葉山達に話した事を雪乃と結衣に話した。最初は信じられないと言っていた雪乃もめぐりや葉山や戸部の証言で信じることにした。

 

そして八幡は、みんなを校舎裏へ連れていくことにした。そこが夢で見た悲劇の場所だからだ。

 

 

ーー校舎裏

 

八幡、めぐり、平塚先生、陽介、完二、材木座、戸塚、葉山、戸部、吹寄、綾香、雪乃、結衣の13人が校舎裏へやって来た。八幡が最初に喋り出す。

 

「おそらく、ここが盗撮写真の受け渡し場所だと思う」

 

「比企谷、なるほど、ここなら他人の目を気にせずに取り引きできると言うわけか」

 

「ええ、そうわけです」

 

葉山と戸部は、校舎裏の奥の方を見ている。陽介と完二も学校の塀の方を見ている。材木座と戸塚は、近くの箱とかを見ているようだ。雪乃と結衣は、何か書いてある落書きを見ていて、吹寄と綾香は、近くの溝の辺りを調べている。

 

八幡とめぐりは、自身の夢の記憶を頼りにドラム缶を調べている。平塚先生は、タバコの痕を調べている。

 

材木座と戸塚が箱の中から何かを見つける。

 

「これは何でごさろうか?」

 

「どうしたの?材木座君…これって盗撮写真じゃ…!」

 

「材木座、戸塚、何か見つけたのか?」

 

八幡が材木座と戸塚のところに来る。どうやら女子生徒のパンチラ写真だった。

 

「盗撮写真じゃないか。材木座、戸塚、その箱の中にあったのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「我と戸塚殿とが調べていたのは、あの箱だ」

 

八幡達は、材木座と戸塚が調べていた箱を調べ尽くす。だが全ての箱を調べたが、その1枚しかなかったのだった。




八幡が昼休みに保健室へ行ったことをなぜ陽介達が知ったのは、平塚先生と比企谷香織ら聞いたのだった。葉山と戸部は結衣や陽介達から聞いたからです。
綾香は、昨日の夢が八幡がいなくなる夢を見ていますね。


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第3章ー46ー第3話ー反撃開始へ。

第3章第3話です。


ーー総武高校・校舎裏

 

結局それからも校舎裏を徹底的に調べたが、盗撮写真の1枚だけであった。平塚先生の一声で、一旦は奉仕部の教室へ戻って来た。

 

あのまま、あの校舎裏にいるのは、得策ではないと、平塚先生は考えたからだ。

 

万が一、盗撮犯達が戻ってくる可能性もある。そうなった場合、八幡達に危害が及ぶ可能性は高い。八幡やめぐりは覚悟を決めているとはいえ、先生の立場からは、賛成できないことである。八幡達は話し出す。

 

「この盗撮写真1枚だけだったな」

 

「はい、これだけですね」

 

八幡が代表して喋り出す。平塚先生は、八幡達を見ながら写真を見ている。

 

「犯罪者と犯罪組織が総武高校の内部まで入り込んでいるとはな。これが明るみになれば、総武高校は廃校になる可能性は高い」

 

平塚先生の廃校という言葉に八幡達は驚く。

 

廃校。校長、教頭までが犯罪に手を染めとある教師が暴力団と繋がりを持っている。いや生徒達の中にも犯罪に手を染めている者がいるのだ。

 

世間的にはそんな学校は廃校にするべきだと糾弾されるのは間違いない。

 

総武高校の在校生徒達も世間のバッシングを少なからず受けることになる。

 

八幡達は、総武高校が廃校になっても海浜総合高校からオファーが来るだろう。だがほとんどの生徒達が路頭に迷うことになる。雪乃が重苦しい中、口を開く。

 

「廃校、それは間違いないでしょうね」

 

「ゆきのん、廃校ってあたし達って…どうなるの?」

 

「…全員退学ってことかしら?どこかの学校が拾ってくれれば、転校って形にはなるのかしら」

 

「それって、転校できなければ、俺ら…中卒ってことになるんじゃ…」

 

「最悪そうなるだろうな」

 

陽介の言ったことに平塚先生が答える。そんな話を聞いて、動揺が広がる。当たり前だろう。自分達の将来が岐路に立たされている。もちろん自分達のせいで、立たされているわけではない。一部の連中のせいで、立たされているに過ぎないのだから。すると生徒会長であるめぐりが平塚先生に自分の考えを話し出す。

 

「この一連の不祥事を無かったことにすることが、私達のためでしょうか?」

 

「お前達のためでもあるだろう。世間から後ろ指、白い目で見られて辛い目に合わせる事に教師が耐えられと思うか?」

 

「被害に遭った女子生徒さん達に無かった事にしてほしいと本当に仰有るつもりなのですか?」

 

めぐりは、怒った表情で平塚先生に言っている。

 

「それはだな…」

 

平塚先生が言葉に詰まると八幡がこう話し出した。

 

「平塚先生の言ってることは間違いではないですよ。自分達のこれからを考えての事ですよね。でもあんな連中を野放しにするつもりもないですよ」

 

「比企谷、お前…どうするつもりだ?」

 

「総武高校の闇の犯罪を明るみにするんですよ。それが今まで被害にあった人達に対しての贖罪だと思います」

 

「…比企谷、いやお前達、覚悟の上か?」

 

「はい、私も覚悟の上です。生徒会長として総武高校の犯罪を明るみにしないといけないですから」

 

「八幡が覚悟の上でやるなら、俺と完二は突き進みますよ」

 

「ああ!八幡先輩に助けられた時からテメェの覚悟はできているんで!」

 

八幡の後にめぐり、陽介、完二が決意表明をする。

 

「私も覚悟は出来ています。元はと言えば、私が奉仕部に依頼を持っていったことから始まってるんでしょうから」

 

「私も覚悟はあります。こんな犯罪を隠してはいけないと思いますから」

 

「俺も覚悟を決めました。盗撮犯達をこのまま放置するわけにはいかないでしょう」

 

吹寄、綾香、葉山の順番に決意表明をする。

 

雪乃、結衣、戸部、材木座、戸塚はまだ決意ができないでいる。即答出来ないのは、当たり前である。自分の将来を左右されることになるのだから。だけど雪乃と結衣が

 

「私も賛成です。比企谷君がそこまで言ったのです。それに私も犯人達を許すことはできません」

 

「あたしも決めました。ヒッキーやゆきのんが賛成したから決めたとかではないから。あたし自身の心で決意しましたから」

 

「雪ノ下、由比ヶ浜…」

 

平塚先生は、そんな2人を見る。表情は決意した感じになっていることを確認する。

 

「我も決意した。我の友、八幡が戦おうとしてるのだ。我が戦わないで誰が戦う!」

 

「僕も賛成します!」

 

「隼人くんやヒキタニ君が賛成したんだ。自分も賛成しますよ」

 

材木座、戸塚、戸部も賛成に決意した。ここにいる全員が賛成をしたことになる。

 

「お前達……わかった。教師である私が迷っててどうする。生徒達をより良い道に導くのが教師の役目なのだからな」

 

平塚先生も決意した。そして八幡達の逆襲がここから始まる。



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第3章ー47ー第4話ーあと一歩。

第3章第4話ラストです。


みんなが戦う事を決めた日から、総武高校内の悪党、千葉に暗躍する連中の排除を心がけて生活をすることになる。真実を明らかにすることと普段とおりに生活をする二足のわらじ生活である。

 

そんな八幡達は、協力してくれる大人達のもと着々と犯罪者達を捕まえるために周りの壕を埋めていく作業が続いた。

 

それは何ヵ月もかかり、既に夏を前にした頃までかかった。

 

決行するのは、夏休みに入る前の集会の時を狙ったのだ。

 

総武高校の汚物を排除できる日は、この日しかないと。夏休みに入れば、吊し上げるタイミングが失われてしまう。

 

そして決行日の夏休みに入る前の集会が始まる。八幡達は緊張と不安が入り乱れながらも必死に耐えていた。決行するのは、校長の話が終わるとき、八幡達が壇上に上がる。

 

八幡とめぐりが壇上に上がり、葉山、戸部、材木座、戸塚、陽介、完二、吹寄、綾香、雪乃、結衣、平塚先生、比企谷先生が壇上に行く階段を守る役目である。

 

いよいよ決行の時である。校長が壇上から降りると、八幡とめぐりは素早く自分のクラスのところから壇上へ上がる。それを見た葉山、戸部、材木座、戸塚、陽介、完二、吹寄、綾香、雪乃、結衣、平塚先生、比企谷先生も素早く壇上の回りを守りを固める。密かに八幡達が行動したのを外の待機部隊、探偵の直斗達も確認した。

 

葉山達がそんな行動を取ったため、他の生徒達は何が始まるのか理解出来ていなかった。

 

校長に至ってはこう言った。

 

「何をするのかね?」

 

「今から総武高校の闇の不正な犯罪を暴露するためですよ、校長?」

 

「闇の不正?なんのことかね?」

 

「総武高校の教師の方の中に犯罪者が混ざっているのです」

 

校長の言ったあとに八幡とめぐりがそう言った。犯罪者呼ばわりされた教師達は、反論をしている。自分達がなぜ犯罪者呼ばわりされるのかわからないと。

 

「君達は、自分達の学校の教師を犯罪者呼ばわりとはどういうつもりかね?下手すれば君達は名誉毀損で訴えねばならなくなるのだが?それでも構わないのかね?」

 

「名誉毀損?何を言ってるんですか?逆にあなた方が犯罪者として捕まるんですが?」

 

校長の反論にめぐりはひけを取らない。むしろ押しているすらある。

 

「犯罪者でこの私が捕まる?何を訳のわからないことを?君達は私に恨みでもあるのかね?」

 

「恨みならたくさんありますよ。校長達に圧力をかけ、犯罪を揉み消していた張本人!高田正孝、あんただよ!」

 

高田は驚いた表情をしていて、そして鼻で笑う。

 

「私が犯罪をもみ消した張本人?、何だかわけがわからないんですが?」

 

「…証拠ですか?まあ良いでしょう。そんなに証拠が見たいんですね?」

 

「当たりまえだ!」

 

高田はそう言うとそんなものはないと思っていたのだろうが、体育館のスクリーンに証拠が写し出される。そこには、高田や不良生徒達が写し出される。ただ写し出される訳ではない。

 

「何、これ?」

 

「なんだ、なんだ!」

 

普通の生徒達も騒ぎ始めた。教師達はどうしたらいいかわかっていない。そんな中八幡達は

 

「これは、高田先生が不良生徒達を使い、学校で盗撮写真を売りさばいている証拠です」

 

「私達生徒会に盗撮写真を取られたという相談が寄せられ、教職員に訴え解決を図ろうとしましたが、校長の反対によりそれが叶いませんでした」

 

八幡とめぐりは頭を下げて、生徒達に謝罪する。

 

スクリーンは、新しい証拠の映像も流れる。なぜこんなことができるのかと言うと映像権の映研と放送部を味方につけているのだ。だからこんな無茶もできてしまうのだが。

 

「高田先生と校長達が隠してきたことは、マスコミ各社にも発表する。もちろん警察にもだがな」

 

「警察?世間?馬鹿がお前達。そんなことをすれば、ただではすまんぞ!」

 

「そんなことは百も承知です。私達は覚悟の上でやってるのです。高田先生達の犯罪行為でどれだけの生徒達が泣いてきたことか!」

 

「あんた達には、警察に捕まってもらう!絶対にな!」

 

めぐりや八幡は、高田や校長、不良生徒達を睨みながらそう言った。高田は本性の顔を見せ始めた。

 

「比企谷、城廻、お前達ごときがこの俺やその連中を捕まえることなど、出来やしない!俺の背後には、お前達の想像のつかないお方達がたくさんいるんだ。お前達…雪ノ下や葉山、お前達も簡単に消せるのだぞ」

 

高田は高々と笑いを飛ばす。その笑みは、勝ち誇った表情である。生徒達の中には、怯えてしゃがみ込んでいるものもいる。不良生徒達も高田の笑みに戸惑いが出てくる。

 

「ヤベーぞ高田先生…」

 

「そうだな」

 

八幡とめぐりは、不気味に思いながらも高田を追い詰めようとする。

 

「高田先生、貴方が頼りにしている方々は、貴方を助けてはくれませんよ」

 

「国会議員の方、県会議員の方、その他のみなさん、高田先生を見捨てたようですよ。諦めて自首を私は勧めますが」

 

「……なんだと…そんな…」

 

高田はそれを聞いて膝から崩れ落ちた。頼みの綱から裏切られ捨てられ絶望したような表情である。先程の余裕のある表情ではなかった。

 

「………」

 

「外に警察が来ています。おとなしく警察に自首してください」

 

八幡がそう言うと、大人しく従う姿勢を見せた。

 

「………ちきしょう!ちきしょう!」

 

高田は、その言葉を連発し悔しがった。だがもう逃げ道はもうない。不良達も観念したのか、大人しくしている。

 

「さあ、高田先生、最後は…」

 

八幡がそう言った時、高田は急に

 

「ちきしょう!…なんちゃって…この私が警察ごときに捕まる…捕まえることなど出来ないんだよ…比企谷八幡!お前は大人しくしてれば良いものを…何度私に殺されるのか…」

 

突然高田はおかしな事を言い出した。八幡が高田に何度も殺されたかのような発言だ。八幡自身もわけがわからない表情になる。

 

「高田、あんた追い詰められたから幻想でも抱いてるのか?」

 

「幻想…くっ幻想…ふっ、そうさこの私にしてみれば、この世界も()()()()()がな…!」

 

「幻想…高田先生…貴方は!」

 

「今回は…城廻が相棒だったのか、比企谷…いや()()もか」

 

高田が言っていることを理解する八幡とめぐり。高田も2人と同じようなことを経験してるのではないかと。

 

「比企谷、城廻、お前達のシナリオ通りにしてたまるか!」

 

高田が何かボソボソと言い始めた。すると回りの景色が揺らぎ始める。

 

「…比企谷、城廻、お前達にはこの私を捕まえることなど出来やしない」

 

「なんだと!」

 

「この私は、こんな幻想の世界の世界の人間ではないのだからな!」

 

高田が指をパチッと鳴らす。すると八幡やめぐりの意識が揺らぎ始める。

 

「高田、お前は何をしたんだ!」

 

「私は元の世界に戻るだけだよ、比企谷八幡!追ってくるなら追って来るがいい!追って来れるのならな!」

 

高田は謎の空間に消えていく。そして揺らぎは大きくなる。八幡とめぐりの意識もどんどんと大きくなる。葉山達は動いていない。もちろん周りの生徒達も止まっている。

 

「八幡君!どうやらまた失敗みたいね」

 

「くそっ!やっとここまで来たのに!」

 

世界がどんどんと揺らぎ、そして縮んでいく。

 

「……高田が言っていた幻想…幻想世界って何なんだよ!めぐり先輩!」

 

「八幡君!」

 

めぐりは、八幡に抱きつく。

 

「めぐり先輩…」

 

「また違う世界に行ったとしても私の想いは八幡君に!」

 

「めぐり先輩!俺は……」

 

八幡がめぐりに何か言おとしたが、世界自体がシャットアウトしてしまった。八幡自身の意識も消え失せてしまったのだった。

 

 

 

そして無の世界になった世界に1人の人物が降り立っている。姿形は、人間のように見える。だが人間ではない。頭に天使の輪のようなものが浮いている。

 

「指し手を持つものよ。あれは幻想であって、現実ではない。誰かの夢が現実のようになっていただけである。本物の指し手は、幻想ではなく現実世界に生きている。さあ、手を伸ばして掴み取れ」

 

BAD ENDーTo be continueー




俺ガイル~別れそして出会い~城廻めぐり編が終了です。

to be continue後の世界についてのアンケートを取りますので、宜しくお願いします。


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