ガンダムSEEDが始まらない。 (捻れ骨子)
しおりを挟む

1・そもそも俺がいるはずない

なんかできました。



 ある日、親父殿から呼び出しを受けた。

 この忙しいのに何用だと顔を出してみれば、待ち構えていたのは親父殿とその側近、そして――

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今日からこの子はお前の妹だ」

 

 威厳のある態度と声で宣う親父殿。それに対して俺は。

 自分から見て丁度いい位置に親父の股間があったので、アッパー気味に拳を叩き込んでやった。

 

「隠し子とはいい度胸だクソ親父グラァ! これか!? この股間にぶら下がってるブツがハッスルしたのか!? もぐか!?」

 

 ごっ! ごっ! ごっ! ごっ! (←なんかを打撃する音)

 

「おうふおうふおうふおうふあおぅ!」

「おやめください! おやめください! 若様! おやめください! あーっ! おやめください若様! あーっ! 若様! 若様! 若様やめ! あーっ若様! おやめくださいあーっ! やめーっ! 若様やめーっ! おやめください! おやめ様! あーっ! 若様! おやめください! おやめください! 若ください! あーっ!! 若様あ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 C.E.70年、遺伝子を調整された人類【コーディネーター】が住まうコロニー群【プラント】と、地球の主要国家が立ち上げた共同体【地球連合】の間に発生した戦争は、農業用プラント・ユニウスセブンに核ミサイルが撃ち込まれた事件、通称【血のバレンタイン】により激化。物量で勝る地球連合軍の勝利で終わると予想されていた戦争は、地球上に打ち込まれたニュートロンジャマーの効果と、投入された新兵器MSの戦果によって膠着状態に陥っていた。

 ……なんてSEEDを見ていた人ならよく分かる状況になって11か月。俺は自分の執務室で通信回線を開き、報告を受けていた。

 

「例の船と艦載機が完成したようだ。最終調整の後、連合に引き渡される手はずになっている」

 

 相手は長い黒髪の女性、【ロンド・ミナ・サハク】。我が国【オーブ連合首長国】が所有する宇宙ステーション、【アメノミハシラ】を任せている人物だ。

 

「いよいよか。【ザフト】の動きは?」

「様子を窺っているようではあるな。だが確証には至ってはいないのだろう。周辺宙域を哨戒しているだけで、具体的な行動は起こしていないようだ」

「情報をばらまいた甲斐があったか。だが連合が下手な動きをすれば察知される恐れもある。引き続き警戒してくれ」

「言われるまでもない。……だがよかったのか?【クーロンズロック】は貴様の手札だったろうに」

 

 ミナの問いに、俺は肩をすくめてみせる。

 

「構わんよ。いずれは切らなきゃならん札だ。それにヘリオポリスあたりの民間コロニー使って余計な火種作るよりはマシさ」

 

 そのためにわざわざ偽名使って商会立ち上げて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてものを用意したんだ。使ってもらわにゃむしろ困る。

 これから先の展開を考えると、連合にもプラントにも付け入る隙を与えたくはない。そのために色々と準備はさせてもらった。細工は流々、あとは仕上げをご覧じろと言ったところだ。

 

「貴様がそれでいいというのなら、遠慮なく使わせてもらおう。……それと我々の『人形』も仕上がった。【ギナ】が早速受け取りに向かったぞ」

「アメノミハシラに搬入されるまで待てなかったのか。気持ちは分かるが」

 

 外見は格好を付けながらも内心ウッキウキでクーロンズロック――俺の商会が所有する技術開発衛星に向かったであろうミナの双子の弟、【ロンド・ギナ・サハク】の様子を想像して苦笑する。あいつ一見己の能力を過信してる俺様だが、その実態はさいきょーロボで俺TUEEEE!がしたいだけのアホの子好き者じゃないかと俺は疑いを持っている。ま、俺自身もそういう気があるから人のことは言えないが。

 俺の考えを読んだのか、画面向こうのミナは微妙に渋い顔だ。

 

「男というのはどいつもこいつも……まあいい。それで02と03のテストを任せる者だが、選別が終わった。今データを送る」

「……ほう」

 

 送られてきたデータファイルに目を通す。なるほど、これも『歴史の修正力』と言うヤツか? そうなる可能性も考慮して人選には口添えしていたが、うまく出来すぎている感がある。

 

「ジャンク屋【ロウ・ギュール】に傭兵部隊【サーペントテール】の【叢雲 劾】か。……叢雲の方は聞いたことがある。凄腕らしいな。ジャンク屋の方は……【エリカ・シモンズ】辺りの推薦か?」

「ああ。ヤツの旧知がそのジャンク屋と連んでいるらしい。信用は出来ないが信頼は出来る、だそうだ」

「きちんと仕事を果たしてくれるなら文句は言わんよ。場合によっては多少の機密漏洩もやむを得まい。彼らに任せる方向で調整を頼む」

 

 我が国にとってもMSの開発は急務だ。原作同様に連合の要請を受け入れたのは、彼らの技術を盗用する必要性があると()()判断したからである。まあ中立がどうのこうのという問題があったために、()()()に開発拠点を用意させてもらったわけだが。

 ともかく裏で連合と手を結びMS開発をしているが、それだけでは足りない。MS戦闘のノウハウは全く0に近いのだ。できるだけ早急にデータを収集する必要があった。ゆえに戦闘経験の豊富な傭兵と、宇宙での活動の経験が豊富なジャンク屋にテストを受け持ってもらうことにした。彼らには報酬として機体をそのまま譲渡し、我が商会にてアフターケアを受け持つという条件で交渉させている。原作通りの乗り手に渡るのであれば上等。彼らが最初から協力的であるのならば、開発もはかどるはずだ。

 

「04と05は手はず通りに本国へ送る。調整はモルゲンレーテ本社に任せてよいのだな?」

「地上での運用ノウハウも必要だからな。量産機の生産体制が整うまでにOSも仕上げておきたい。それまで連合には頑張ってもらわにゃならん」

 

 悪いが連合、プラント共に勢力を削り合ってもらう必要がある。連合へのてこ入れはそのためだ。そして同時に原作みたくこっちに飛び火されるのを防がなければならない。加えて言えば()()()()()()()()()()()()を蓄えておかなければ。

 これはアニメでもゲームでもない。()()()()()()()()だ。ある程度原作の状況に沿わせてもらうが、そのままの運命に流されてたまるか。オーブの理念? 画に描いた餅を前によだれ垂らす趣味はない。

 

「本国の防衛設備も順調に整いつつある。アメノミハシラの方はどうだ?」

「貴様の注文した設備はすでにテスト段階にある。正直あのような物は私の趣味ではないのだがな」

「有効性は理解しているだろう? 核兵器よりはクリーンで、しかもシンプルかつ低コストときている。備えておいて損はないさ。……正直俺は本国よりも、アメノミハシラを含む宇宙施設の方が重要だと考えている。だからお前たちに任せたんだ」

「ふん、寝首をかかれても知らんぞ?」

「そんときは俺に見る目がなかったってことさ、()()()()()()()殿()。首は狙ってくれてもいいが、期待した分はやってくれよ?」

「精々貴様の期待以上の成果を出してやるさ()()()()()殿()。……報告は以上だ。次は連合へ譲渡がすんだ辺りで連絡する」

「ああ、ご苦労だった」

 

 通信を終え、俺は一息吐く。やっと原作前夜と言うところまで来た。ここまでも結構綱渡りだったが、ここから先の道も険しい。一歩間違えれば原作通りの展開か、ややもすればもっと悪い方向に転がる可能性もある。

 だがやらなければこの国は焦土と化す。愛国心というわけではないが、そういうのは御免被る。使える手段は出し惜しみなく……。

 などと考えていたら、突然部屋のドアがどばたーんと開かれた。

 そこからすごい勢いで飛び込んできて、俺の机をどがんと叩くのは。

 

「兄様! 連合のMS開発に手を貸しているというのは本当か!?」

 

 柳眉を逆立てた金髪の少女。俺の義妹、【カガリ・ユラ・アスハ】だった。

 ……色々と教育したはずなんだがなあ、なんで原作通りの性格に育ってんの。これも歴史の修正力かあ? などと考えながら俺は応えてやる。

 

「どこで聞きつけた話だそれは。そういう要請があったのは確かだが、()()()()()受領していない。自国のMSは開発しているがね」

 

 嘘は言っていない。連合のMSとそれを運用する艦の開発を受け持っているのは多国籍企業である俺の商会だ。例えその開発部門が()()()我が国の国営企業(モルゲンレーテ)()()()であったとしてもだ。

 俺の言葉に、カガリは疑いの眼差しを向ける。

 

「MSの開発!? そんなものがなぜ必要なんだ!」

「いるに決まっているだろう。ニュートロンジャマーの環境下で、MSは有用な兵器だ。現状で我が国が持つ戦力では、それに対抗するのは難しい」

「そんな! 中立国であるオーブが下手に軍備を拡大すれば!」

「中立国だから銃口を向けられない、とでも? 無差別にニュートロンジャマーをばらまいたザフトも、躍起になって戦線を拡大し続けている連合も、信用などならん」

 

 実際原作では双方から踏みにじられたからな。こいつは俺の本音だ。

 

「もちろん俺だってやりたくてやってるわけじゃない。双方に停戦し交渉するよう働きかけてもいる。だがどちらも聞く耳持たずで、最近はこちらを邪魔に思っている様子もある。最悪の事態を避けるためにも、準備はしておかねばならんのだ」

 

 口だけじゃなく、実際双方の穏健派に使者を送り交渉はしている。だが芳しくないのが現状だ。我が国オーブを眠れる獅子と評する者もあるが、実情は精々動物園のライオンだろう。その言葉は中々聞き入れられるものではなかった。

 

「それは、そうなのかも知れないが……」

 

 カガリの勢いが萎える。後先考えない直情派だが、全くの馬鹿ではないから理解はしているのだろう。納得は出来ていないようだが。

 

「オーブの理念。他国を侵略せず、また侵略を許さない。崇高なものだが、それを他の国が聞いてくれるかどうかは別問題だ。圧倒的な暴力に理念だけで太刀打ちはできん。不本意であっても力を備えなければ、言葉すら通じないんだよ」

 

 別に崇高とか思っちゃいないが、うちの一部はそのお題目を念仏のように唱え、()()している節がある。親父とか。建前でその理念を持ち出して説得しなきゃならないのが面倒なところだ。まだ野心を持つギナやミナの方が話が通じる。

 ふむ……時系列的にも、そろそろ()()()か? 俺はかねてから考えていたことを口にした。

 

「とはいえ、お前には口で言っても納得できるものではないだろう。だから()()()()()()()。我が国のPKO活動、それに参加しろ。一兵卒としてな」

「はあ!?」

 

 血のバレンタインからこっち、俺は我が国の軍を連合、プラントの勢力を問わず平和維持活動のため派遣するよう動いていた。当然打算ありまくりの行動だ。各所に貸しを作るという思惑もあるが、我が国の軍人に現状を見せつける必要があると考えてのことだ。何しろうちの軍部、親父のシンパ――()()()()()()()()()()()()()()が多い。それを改めさせるには今世界がどうなっているのかを目の当たりにさせるのが一番手っ取り早い。そういうことだ。

 もちろん()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ギナやミナ、【ユウナ】にもやってもらったことだ。そして()()()()な。戦場の空気を味わうことは、これから先の為になる。そこから世界を見てみろ」

 

 我が儘を押し通して戦争の間近に赴いたかいはあったと思う。それを氏族の後継者たちにも押しつけたが俺は謝らない。実際奴らも何かしら影響は受けたようだ。良い方か悪い方かまだ判別はつかんがね。

 俺の言葉にカガリは戸惑った様子だ。

 

「兄様が時々姿を消すのはそういうわけだったのか……。だがサハクの姉弟はともかく、ユウナもなのか? 確かに最近ではあちこち飛び回って忙しそうだが」

「最初はめちゃくちゃ嫌がっていたがな。ああ見えて一皮むけているぞ? 『婚約者』にだけいい顔をさせておくのも面白くはなかろう」

「む、確かにそうかも」

 

 俺が姿を消すのは商会関係のこととかあるからなんだけどね。とまあそれはさておき、PKOにぶち込んだおかげか、カガリの婚約者であるユウナ――【ユウナ・ロマ・セイラン】もなかなかに『使える』ようになった。ややもすれば原作のような無様を曝す羽目になるかもしれないから油断は出来ないが、俺や周囲が生きて目を光らせているうちは早々へまはすまい。……と思いたい。

 

「……分かった。兄様の言うとおり戦場に行ってみる。私に何が出来るか分からないけれど」

「それを見つけるのも経験のうちだ。何か一つでもお前の糧になれればと、願っているよ」

 

 いやホントにね。糧にしてねマジで。部屋を去るカガリを見送りながら、俺はそう願わずにはいられなかった。

 ともかくこれで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そもヘリオポリスでガンダム作ってないから介入しようもないのだが、念には念をだ。あいつも原作ではそれなりのキーマン。下手をすればどのような影響を与えてくるか分かったものではない。だからある程度()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まったく、これではまるで()()()()だよ」

 

 自嘲するが今更だ。親父の股間を殴打している最中に()()()()()()()()から十うん年、最悪の状況を回避するために走り続けてきた。下手をすればザフトや【ブルーコスモス】の連中よりもあくどいことをやってきた自覚はある。

 だがそれでも、俺は俺なりにベストではないかも知れないがベターな結果を求めてきた。そしてそれはこれまでのところ大体上手くいっている。問題はここからだ。原作のままであれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。物語の中でならともかく、現実でそんなことになれば待つのは悲劇だと断言してもいい。

 それよりも何よりも、俺自身が平穏な生活を送るためにこの世界の不安要素は叩き潰しておく必要がある。あるいは取り込んでしまうか。ともかく何もしないまま原作展開で翻弄されてたまるものか。世界平和のために鬼畜外道にでも何でもなってやろうではないかこんちくしょう!

 ……などと改めて決意する俺の名は【リョウガ・クラ・アスハ】。オーブ首長代表【ウズミ・ナラ・アスハ】の実子という、『存在しないはずの人間』として生まれた、転生者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラ紹介

 

 

 リョウガ・クラ・アスハ

 

 

【挿絵表示】

 

 (阿井 上夫様からいただいたイラストです)

 

 SEEDの世界でウズミの実子という、あり得ない存在に転生した男。SEED原作時では26歳。

 突然赤ん坊のカガリを連れてきて妹だと宣ったウズミに対し、カチキレて股間を殴打している最中に前世を思い出した。前世ではオタでブラック企業のリーマン。結構有能だったがクソみたいな社長とクソみたいな上司にパワハラを受け続けほとんど家にも帰れない寝てないの状況の中、ついにぶちキレ二人を原形留めないまでにボコり、その最中あまりの環境の悪さに加え興奮しすぎたせいで脳の血管が切れ、そのままご臨終していつの間にか転生してた。

 転生後は原作の展開を思い出し、このままでは俺の未来が大ピンチと奮起。財テクで資産を増やし身分を偽って己の手足となる組織を立ち上げ修正力など知るかとばかりに介入を続け現在に至る。原作でサハク家がやっていた後ろ暗いこととか、大概こいつの指示で路線変更されることとなった。

 やたらとご都合主義に見える成功振りだが、これは原作の知識があったのと、一度死んだせいかニュータイプじみた勘の良さが発露したため。前世で培った経験を元にした財政管理、経営ノウハウ、プレゼンテーションスキルなども相まって、天才的な経営者に見える。その才能を持ってウズミの補佐官に収まり、彼の立場を事実上乗っ取りつつある。

 ブラック感覚が中々抜けず、働きすぎだと周囲からは言われるが、本人いわく「5時間寝られるならブラックじゃない!」とのこと。また血管キレるぞ。

 ウズミとか氏族のおっさん連中は大概こいつに股間を強襲された経験があり、どことなく遠慮している節がある。睨まれると股間を押さえ腰が引けるところまでがデフォ。

 【オーブの龍】、【真の支配者】、【股間クラッシャー】などと称される、黒幕系オリキャラ主人公。ただし隙があったらMSに乗る気満々。

 

 

 




 ガンダムSEEDの新作、だと……?
 HG、でるよね?(ニチャァ) そこだけが重要捻れ骨子です。

 いや新作が出来るからって訳じゃありませんが、なんか思いついてしまったので書いてみました。冒頭から困りますお客様のコピペ改編とか何やってるんでしょうね自分。
 ともかくそれなりの立ち居位置から黒幕的に原作に介入していく系の主人公の話です。なにメインの主役機がストライクからアストレイになるだけさHAHAHAHA。それは冗談として初っぱなから原作主人公を関わらせないためだけに、開発拠点を用意するというお大尽アタックをぶちかましてきやがりました。戦争は数と金だよ兄貴。メインの敵はザフトじゃなく盟主王とかの辺りじゃないでしょうか。金のないヤツは敵にすらなりません。
 まあ思いつきですから続くかどうか分からない……うんなんか毎度のパターンだぞこれ。連載増やしてどうするんだ俺自重しろ。出来るんならこんなことにはなってないですが。

 ともかく続くかも知れませんし一発で終わるかも知れません。そこはまあ、未来の自分に期待してと言うことで。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2・根回しとかも怠らない

続き、できちゃった。




 

 

 

 書類が山積みとなっているわけではないが仕事は山積みとなっている俺の執務室に、またしても来客があった。

 

「いやあ参ったよ~。穏健派でアレなら、タカ派の連中ってどんだけ言葉が通じないものなんだろうね」

 

 一見ヘラヘラとした様子で言うのは、ユウナ・ロマ・セイラン。現在特使として連合とザフト関連を飛び回っている。その合間に一旦帰国したのだ。

 

「そういった輩なら、「特使?では死ね」とかいきなり言い出すんじゃねえの?」

「怖いこと言わないでよ。戦場でもないのに命の危険にさらされるのはごめんだよ」

 

 そう言いながら肩をすくめる姿には余裕が窺える。この男原作では役に立たないボンボンだったが、泣きわめくところをケツをけりつけ、軍の教練に叩き込んでからPKOに送り出してやったら、肝の据わった人間になって帰ってきた。最低でも銃口を向けられたらおびえはすれども、みっともなく泣きわめくような真似はしない。

 そんな彼を俺は交渉役として特使に任じた。理由は二つ。一つはこの男人当たりが良く、交渉ごとに向いていたこと。もう一つは五大氏族に次ぐ家柄で、それなりの立場として権威を背負えることだ。事実この仕事はユウナに向いていたようで、彼は頭角を現しつつある。

 ……が、そんな彼をしても、この戦争における交渉は難航していた。

 

「どっちも結局、「相手が先に頭を下げなければ身内を説得できない」って言ってるんだよねえ。気持ちは分かるけどさ、そこは折れるとこでしょ」

 

 肩を落としてため息を吐くユウナ。双方相手に譲歩を求め、自分から折れる気はないと言うことだ。言ってることが譲歩か全面降伏かで、タカ派とまるで同じである。

 ……ま、予想できたことだがね。

 

「穏健派は穏健派で戦後を有利に、とか考えてるって訳か。時代が進んでも人間何も変わらんな」

 

 連合は再構築戦争から何一つ学んじゃいないし、ザフトは自身の能力を過信して調子に乗っている。ええからお前ら戦争やめーや! 連合はプラントの独立認めてプラントは理事国に借金と賠償金ローンで払えや!! と喚き散らしながら関係者の股間を襲撃してやりたい衝動に駆られるが、そいつはとりあえず頭の隅に押し込んでおく。

 

「だが交渉は続けにゃいかん。戦いが長引けば双方疲弊もしてくるし、特にザフトは自給自足に限界がある。手を差し伸べ続けたらすがりつきたくもなってくるだろうさ」

「わっるいこと考えてるねえ」

「そりゃそうさ。生き馬の目を抜く世の中で善人なんぞ食い物にされるだけだろ」

 

 ついでに言えば戦争をおっぱじめるのはいつだって自分を善人と信じているヤツだ。欲望を善意と正義で押し隠し突き進んでいく。俺みたいな『悪人』にとっては非常に迷惑千万である。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ともかくお前さんにとってはやりがいのない仕事だろうが、しばらくは頼む」

 

 そう言ってユウナに頭を下げる。苦労はさせている自覚はあるが、今のところ給与と誠意しか与えられる物がない。まあ頭を下げるのはただ。対費用効果は高いしな。

 俺の態度にユウナは眉を動かし、言葉を返す。

 

「分かってるよ、必要なことだってね。……僕も長々と戦争続けられちゃあ気が滅入る」

 

 言葉は軽いが、世界を回っているうちに色々なものが見えたのだろう。俺が裏でやっていることをある程度察していながらも、口を挟まないくらいには清濁併せのむ度量もついてきた。やはり経験は人間を成長させるものだ。

 ……と、そこでユウナは表情をいたずらげな物に変える。

 

「ところで話は変わるけど、カガリをPKOに押し込んだって?」

「聞いたか。あれもそろそろ頃合いだと思ってな。……行く先はアフリカだ」

「ザフトの勢力圏かい!? それ大丈夫なの!?」

 

 流石に驚いたかユウナが声を上げる。うん、大丈夫だ問題ない。

 

「あの辺りはむしろザフトの勢力下に入ったおかげで、治安が向上してるからな。たしかにブルコスのアホどもとか現地の抵抗勢力とかがあるが、昔よりは遙かにマシだ」

 

 虎さん……【アンドリュー・バルトフェルド】が仕切ってるからね。彼はどこか厭世観を漂わせているが、ザフトの中では良識派だ。原作でも支配地域は一応秩序ある環境を整えていた。この世界では俺の商会を通じて接触を図ってみたが、ほぼ原作通りのやり手だと見て取った。関わって損はない。

 

「それにな、あいつにはザフトの現状ってヤツも見せておきたい。地球側から見ているだけじゃ分からない現実ってものをな」

「……スパルタなんだかシスコンなんだか」

 

 ユウナが呆れたように頭をかく。はっはっは、アレ相手にシスコンだと? ねえわ。(真顔)将来的にはいい女になるかもだが、手のかかる妹以上の感情は持てん。

 それはともかく今口にした建前以外にも目論見はある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それを試しておきたい。

 原作では親父の伝を使って、カガリは現地のゲリラと合流しアンドリューと対峙していた。それとは違う形で双方を接触させるとどうなるのか。そのまま原作とは違う方向になるのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()。その結果によって今後の舵取りも変わってくる。

 見極めねばならない。この世界が神の手によって作られた地獄なのか、それとも人の手による地獄なのか。いずれにせよ現実だ。立ち向かい方が変わるだけだが。

 

「【キサカ】と何人かを付けてる。優しい方だろ。ともかく、あいつが何か一つでも学んでくれれば御の字さ」

「できればもう少し大人しくなってくれると、僕としてはありがたいんだけどねえ……」

「上手く手綱を取ることだな『義弟』殿。あれももう少し修行すればいい女になる」

「だといいけど」

 

 今のユウナなら、上手いことカガリを操縦することが出来るんじゃないかね。正直どっかのおでこ広くて優柔不断なイケメンよりはマシだと思う。

 その後、これからの方針をいくつか相談し、ユウナは再び発った。まだあいつにはしばらく忙しく働いてもらわなければならないが、これも(俺のために)世界平和を築く道行きだ。頑張っていただきたい。

 彼が去ったしばらく後、俺はまたまた来客を迎えていた。

 

「珍しいな()()。あんたがこっちに顔を出すとは」

「未だに私をそう呼ぶか。律儀というか何というか」

 

 訪れた人物は【コトー・サハク】。サハク姉弟の養父で、代々オーブにおいて軍事部門を影で担ってきた、五大氏族サハク家の当主である。

 己の商会を作り上げるに当たり、俺は汚れ仕事の手管を学び、裏のコネを作り上げるため、コトーに頭を下げて教授してくれるよう頼み込んだ。対立しているアスハ家の嫡男である俺の行動に面食らったようだが、すぐさま己の益になると見たのだろう、渋々ながらも引き受けてくれた。

 そのときから俺は彼を師匠と呼び、一目置いている。

 

「それで、話ってのは何だ? ……ああ人払いはしてる。何でも遠慮なく言ってくれ」

 

 俺の言葉に、コトーはソファーに深々と身を沈め、重く口を開いた。

 

「……どうやら【一族】が、お前に目を付けたようだ」

「あんたが前に言っていた連中か。人類の管理者と自称しているって言う」

 

 原作の外伝に登場した、所謂秘密結社。古くから存在すると言うかの組織、その目的は人類の存続。そのためには時には戦争すら誘発し、人口の削減なども行ってきた。今の戦争にも介入していたはずだ。

 それなりに派手に動けばいずれ関わってくると思ったが、早速目を付けたか。手ずから入れたコーヒーをコトーの前に置きつつ、俺は対面のソファーに座る。

 

「連中の邪魔をした覚えはないんだがね」

「お前の商会が軍需産業に参入したことで、影響力が拡大したのを懸念しているのだろう。今のところはまだ様子見と言ったところだな」

「流石に偽名と偽の出自を複数用意したくらいじゃ誤魔化せんか。だが軍需産業に参入しようとしてるのはうちだけじゃないだろうに」

()()()()()()()()()()()ということだ。創設から十年かそこらで連合の新兵器開発に関わるなど、異例だろう」

「モルゲンレーテとあちこちから人引っ張ってきたからなんだがね。それに(オーブ)の紐付きでもある。……それだけだと俺に目を付ける理由が弱いような気がするな」

 

 実は分かってるんだけどね。連中どうにも『個人の影響力』ってのを重視している節があると思う。最近のオーブの路線変更は、俺がやらかしたからだと調べがついているんだろう。あるいはひょっとしたら向こうに()()()()()()が存在するのかも知れないが、そこはまだ未知数だ。

 

「いずれにせよ周辺には気を付けなきゃいかんと言うことか。用心しておくには越したことはない相手だろう」

 

 原作通りであったら割とあっさり壊滅する末路を迎えるのだが、油断は出来ない。とはいってもこっちの邪魔をしない限りは積極的に動くつもりもなかった。奴らに構っているよりも実際ドンパチやってる連中の対処が先だ。優先順位は低い。

 

「そこまで分かっているのならばいい。……こちらからも人を回すか?」

「気遣いはありがたいが、そっちはそっちの仕事に専念してくれ。俺一人にかまけているわけにもいかんさ」

「お前はもう少し自分が重要な人物だと自覚していた方がいいぞ? まあお前の勘働きならそう心配することもないだろうが」

 

 コトーが呆れたように言う。これでも原作キャラよりは無茶してないぞ? 俺よりマルキオ導師の方がとんでもねえと思う。何回か会ったことあるけどあの人パねェわ。全部は認められないが、人として尊敬は出来る。

 

「勘頼りの人間一人いなくなった程度で瓦解するならそれまでってことよ。……さて、折角来たんだ、時間はあるんだろう? 俺も一息入れたかったことだし、一局打ってくかい?」

 

 そう言いながら席を立ち、備え付けの棚から碁盤を取り出す。前世ではちょっと囓った程度だったが、今じゃそこそこの腕になったと自負している。呆れ果てたと言うような表情のコトーは、諦めたかのように一息吐いた。

 

「……一局だけだぞ。時間があるとは言え、儂もそれほど暇ではない」

「分かってるさ。……今日は勝たせてもらうぜ?」

 

 いくつかの碁石を握り込み、じゃらりと音を響かせる。対してコトーは悠々と不敵な笑みを見せた。

 

「言うわ若造が。そうそう容易くいくとは思わんことだ」

 

 なんだかんだ言って、しがらみのない純粋な勝負事には目を輝かせる。このおっさんのこういうところを、俺は気に入ってるんだ。

 ぱちん、と、碁盤に石を打つ音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 適当な設定

 

 

 クーロン商会

 

 謎の投資家【フェイ・クーロン】が築き上げた多国籍複合企業。

 商会と銘打っているが、その実様々な事業に着手している。モルゲンレーテと同等の技術力を持ち、国家規模の資金力とコネクションを持つその正体は一体何なんだー。(棒)

 主な商売相手はジャンク屋組合だが、「金さえ払えばどなたでもお客様」と言うスタンス。オーブの仲介にて連合のMSと新型艦の開発を請け負ったり、マルキオ導師を介してプラントに対し食料などの物資を売りつけたりしている。

 あちこちから人材を集めており、その中にはヴァレリオなんちゃらさんとか、セレーネなんちゃらさんとかがいるらしい。で、兵器だけじゃなく、小型核融合炉やヴォワチュール・リュミエールなどの新技術も開発している。その結果というわけではないが、本来ジャンク屋の重機開発部門がやるはずの業務や、シビリアンアストレイや各装備品などアストレイ関係の技術を一手に引き受けることとなる。

 拠点として、掘削の終わった資源衛星を買い取りいくつかより合わせた開発基地クーロンズロックや、ジャンク屋組合に先んじて建造されたメガフロート【クーロンズポート】などを所有する。そのどれもが各国家の権力範囲外に存在するため、法の目を逃れているようだ。

 なお最近はフェイ・クーロンの名代として【ロン・ヤア】と名乗る青年が姿を現し運営を行っている。フェイの後継者とも言われるその青年は何者なのか?(白々)

 ……うん、

 フェイ・クーロン→フェイク、(ロン)

 ロン・ヤア→龍牙(リョウガ)

 ってことだよ言わせんな。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ……なんかやたらと人気でたのに驚いていたら、いつの間にやら続きが出来ていた。
 何を言ってるのか分からないというか何言ってんだこいつといった感じだろうが、俺だってなんでこんなことになったのか分からねえよ!(逆ギレ)自分のやった事ながら異常な事態に戦々恐々としてます捻れ骨子です。

 はいそんなわけで続きが出来ました早ええよ!? うん書けるかなーと思ってキーボード叩いてたらあっさりと。構想も何もないノープランだったのに。短いとは言え面妖な。
 それはともかく前回から一歩も部屋から出てないぞこの主人公。あれか、この話シチュエーションコメディなのか。楽かも知れないこの形。
 それはそれとして主人公、セイラン家とかサハク家とかと仲いいようです。多分親父さんの理念とそりが合わないせいでしょう、独自の方策で動いている模様。なおコトーのおぢさんは、リョウガから股間への強襲を受けていない数少ないおっさんだったりします。実の父より扱い良いぞおい。

 さてこの後もこの調子で続くのか。それともあっさりと力尽きるのか。それは未来の自分に託すことにしまして、今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3・アクシデントに狼狽えない

やっちゃった。


 緊急の報告が入った。それはいい、よくあることだ。

 内容が酷かった。それも割と頻繁にある。

 だから俺は、深々とため息をつくだけにしてやった。

 

「……クーロンズロックから【ハガクレ】でアメノミハシラに向かってたら、ザフトの襲撃受けたので、返り討ちにした、ってことかい」

「良い実戦テストになったわ。貴様にとってもザフトに物申すきっかけとなったろう」

 

 画面向こうでドヤ顔になって言うのは、ロンド・ギナ・サハク。ちなみにハガクレは、俺が商会に設計させた『オーブ版ミネルバ』とでも言うべき、大気圏突入能力と飛行能力を持つ万能強襲揚陸艦だ。P-01――【アストレイゴールドフレーム】と共にギナへ引き渡す手はずとなっていたが、まさかこんなことになろうとは予想もしていなかった。

 しかし何が起こったかは推測できる。

 

「大方ザフトの連中がハガクレを()()()()()()()()()()()襲ってきたってところか。どうせオーブの船だと主張しても聞く耳持たなかったんだろう?」

「ジャンク屋と傭兵の船が追従していたのだがな。欺瞞と思われたようだ」

「となるとジャンク屋と傭兵も参戦したって事だな? 戦闘データが収集できたのは幸いだったと思っておくさ」

「ふん、箸にも棒にもかからない連中だと思っていたが、中々にやる。それは置いておいて、ザフトの兵を幾人か捕虜にした。……聞いて驚け。一人は()()()()()()()()()()()()()だ。その他にも()()()()()()()()()()()()を捕らえてある」

 

 よりにもよって【()()()()()】かい! 叫び出したいのを堪えて、俺はギナに言う。

 

「……詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここから他者視点

 

 クーロンズロック。いくつかの資源衛星をつなぎ合わせ構築されたそれは、クーロン商会の開発拠点として位置づけられている。

 そこに降り立ったギナは、出迎えた人物に対して横柄な態度で言う。

 

「随分と貧相な出迎えだ。貴様一人とはな」

「申し訳ございません。何分皆多忙なものでして」

 

 気を悪くした風でもなく頭を下げたのは、銀色の髪を一本の三つ編みに纏めたスーツ姿の女性。

 【チヒロ・サウザンリバー】。クーロン商会会長の片腕とも言われ、辣腕を振るう幹部の一人である。彼女は営業スマイルを浮かべたまま、ギナに語りかける。

 

「ご不満でしたら案内と説明役として、技術開発部から誰か呼びますが……」

 

 途端にギナが渋い顔になる。

 

「連中を呼んだら日が暮れるまで技術解説を始めるわ。嫌がらせか」

「予定を繰り上げまくって直接品を受け取りに訪れるよりは嫌がらせでないと思いますが」

「む……」

 

 間髪入れずに返されて言葉に詰まるギナ。浮かれて気が逸っていると自覚があるので返す言葉もないと言ったところだ。

 誤魔化すようにコホンと咳払い。そうしてからギナはチヒロに問うた。

 

「まあそれはそれとして、新型艦はどうなっている?」

「はい、乗員はシミュレーションエンジンによる訓練課程を修了。実働可能な域に達しています。艤装は全てフルコンディションに。武器弾薬、その他の物資は中期航海レベルで搭載しています。アメノミハシラまでのテスト航海中に色々試させるのがよろしいかと」

「ほう? すぐにでも戦場に行けそうな様子ではないか」

「物資の重量、消耗の度合いなども必要なデータですので。それに万が一と言うこともございます」

「ここを窺っているザフトの連中か。入れ替わり立ち替わりでご苦労なことだ」

 

 クーロンズロックの索敵範囲ぎりぎり、哨戒の名目で監視しているザフト艦の姿が幾度か確認されている。

 連合がオーブに対し、MSとそれを運用するための艦の開発に協力するよう要求したという情報は、スパイによってザフトの知るところとなった。それを予測していたリョウガが前もって立ち上げていたクーロン商会にて開発を請け負うことによって、オーブが直接連合と裏取引をすることは防がれたのだが、その際同時にザフトへと欺瞞情報を流していた。

 連合の施設を含む複数箇所、そのどこで開発を行っているのか虚実織り交ぜた情報を流し、精度を落としたのだ。これによりザフトは監視の目を分散させねばならなくなり、徒労を強いられている。一定の周期ごとに監視を交代させているようだが、時間がたてば焦れてもくるだろう。

 ふむ、とギナは考える。

 

(あわよくば早速実戦でのテストも可能か?)

 

 自身もMS操縦の訓練は受けているし、新型艦には鹵獲したジンを改装したものが運用試験のため何機か積載されるはずだ。一当てするくらいならやってやれないことはないと算盤を弾く。

 

(あくまであわよくば、というところか。ザフトがよほど阿呆であれば、だな)

 

 大した期待も出来ないかと気持ちを切り替えるギナ。

 

「まあいい、向こうから手を出してこない限りは放置だ。……それで連合の艦は計画通りか?」

「ええ、向こうの技術者はあまり乗り気ではないようでしたが、こちらに累が及ぶ可能性があると押し通しました。月までは()()()()を着ていってもらいますよ」

「結構。我々としてもまだここ(クーロンズロック)を失うわけにはいかん。隠蔽は抜かるなよ」

「心得て。……ではMS工房の方へ向かいましょうか。シモンズ主任がそろそろしびれを切らすかも知れません」

「ふん、そうだな。では向かうとするか」

 

 気取っているが内心スキップしそうになるほど浮かれているギナは、態度だけは堂々とチヒロの後に続く。

 ややあって。

 

「……なるほど、これが【アストレイ】か」

 

 ハンガーに立つ機体を見上げ、ギナが呟くように言う。

 特殊なコーティングによって金色となったフレームに、純白の装甲。オーブ軍試作MS、【MBF-P01・アストレイゴールドフレーム】。一部のフレームがむき出しとなった無骨な姿を見せるそれに、ギナの目は釘付けとなっている。

 

「実際に見てみると、圧倒されるものだな。しかし、ふむ……気に入った」

「それは何より。今主任から説明が……あら?」

 

 不意に騒がしい声が響き、チヒロはそちらの方を向く。すると技術主任であるエリカに促され、ハンガーに現れる幾人かの姿があった。その中の一人が立ち並ぶアストレイの姿を確認した途端、駆けだした。

 

「すっげえ! これがオーブのMSか!」

 

 髪を逆立てた頭部にバンダナを巻いたその青年は、囓りつくようにアストレイの2番機【レッドフレーム】を見て回る。

 

「構造からすると、SWR(スペースワークローダー、大型宇宙作業機)の設計を流用したのか。肩や背中、足についてるのは増加パーツだな。もしかして、こいつ状況によって仕様を変えられるのか?」

「ちょっと【ロウ】! 失礼でしょ!」

 

 興奮している青年を、仲間らしい女性が怒鳴りつける。その様子を見てギナは眉を顰めた。

 

「騒がしい男だ。まるでオモチャを目にした子供だな」

 

 自分自身のことは棚に上げてそう言う。対して青年は、なんだこいつと言いたげ目を向けてきた。

 

「あん? なんだよ偉そうな兄ちゃんだな」

「ローウ! なに言ってんのこの人本当に偉いのよ!? ニュース見てないの!?」

 

 女性が青ざめながら喚くという器用な真似をしてみせる。ギナはふん、と鼻を鳴らしてから言った。

 

「オーブ()()()()()()、ロンド・ギナ・サハク()()だ。……察するに貴様らが我らの依頼を受けるジャンク屋だな?」

 

 ギナの言葉に流石の青年も腰が引けたようだ。

 

「お、おう、ホントにおえらいさんだったんだ。……えーと、ジャンク屋の【ロウ・ギュール】っす。騒がしくしてすまんかったです」

 

 一応の謝罪をしてみせる青年――ロウ。所詮はジャンク屋、礼儀もなっていないなと内心で評価を下げるギナは、()()()()()()()に目線を向けた。

 

「それでそちらが、傭兵のサーペントテールか」

 

 目線を向けた先にいた男性2人。その片方、薄い色のサングラスをかけた男がギナに向かって敬礼する。

 

「サーペントテール代表、【叢雲 劾】です。よろしく」

 

 短い言葉。一応敬語を使っているが、向けられるその視線はギナを値踏みしているようだ。こちらも一癖ありそうだなとギナは見て取る。

 予定を繰り上げたギナと同時に2人の男が訪れていた。これは偶然であるが、この場にリョウガがいたならばこう言うだろう。

 

「ご都合主義か!?」

 

 と。

 まあそれはそれとして。

 

「丁度揃ったようなので、纏めて説明させていただきます。よろしいですね閣下」

「構わん。任せる」

 

 モルゲンレーテから出向しているという体でMSと新型艦の開発に関わっていたエリカ・シモンズが、立ち並ぶアストレイの説明を始める。

 

「MBF-Pシリーズ、アストレイ。先ほどロウ君が指摘したとおりクーロン商会でライセンス生産をしているSWRから設計を引き継いでいます。機体のパーツもいくつか共用しており、整備性の向上を図っています。

 機体の基礎フレームにはオーブから技術供給された発泡金属を使用。これによりジンより軽量となりましたが、胸部コクピット周辺のバイタルエリアには耐熱コーティングを施した複合装甲のスペースドアーマーが採用されており、サバイバビリティを高めています」

 

 かつ、かつ、とゆっくり歩みながら、エリカは説明を続ける。

 

「使用されているOSは、これもSWRの制御OSから発展したもので、恐らくは連合のMSと共通のものとなります。G.U.N.D.A.M.(General Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver Synthesis System)、これを使われる機体は【ガンダム】とでも称されるようになるのでしょうね」

 

 さしずめこの機体はガンダム・アストレイと言ったところでしょうかと冗談めかして言う。彼女の言葉の裏には連合のMSの開発に手を貸しているという事実が匂わされていたが、誰もそれに口を挟まない。

 

「このOSはナチュラルの使用を前提としたものです。SWRの操作に慣れているであろうロウ君ならば、割とすぐに使いこなせるかも知れません」

「おう、確かにクーロン商会(ここ)のSWRにゃ慣れてる。あれのおかげで俺達の仕事も随分楽になった」

 

 宇宙空間での作業効率を上げるためと、リョウガの肝いりで開発させられたSWR。もちろんMS開発を見越して、そのための経験とデータの蓄積、OSの開発を進めるためであった。そのおかげでアストレイは機体も中身も原作以上の完成度となっているが、この場の面々は知る由もない。

 

「この3機はそれぞれ多少仕様が異なります。P01ゴールドフレームはフレームにコーティングを施し耐久性の向上を図りました。P02レッドフレームはSWRから引き継いだ各種作業用制御プログラムを追加。SWRと同等以上の作業効率を発揮できるものと期待しています」

「そいつはありがたいが……軍用なんだろ? これ」

 

 ロウの疑問にエリカは答える。

 

「軍の仕事は戦闘だけではありませんから。その辺りのデータ収集もロウ君には期待していると言うことです。……それに、会長はいずれ民生用にMSを生産すると言うことも考えているようでして。これから先、SWRはMSに取って代わられるだろうと」

 

 その言葉に、ギナはふん、と鼻を鳴らす。

 

(リョウガめ、どこまで先を見通していることやら)

 

 オーブの龍などと呼ばれ始めているリョウガは、ともかく先手先手を打って事態に備えている。技術開発を推し進め、ギナたちを表舞台に引っ張り出し、オーブの国力を向上させてきた。加えてサハク家が行ってきた後ろ暗いことを、商会を設立し多くを引き受けるという真似までやってのける。その度量はギナをしても推し量れていない。

 ……本人必死こいているだけなのだがそれはさておき。

 

「最後にP03【ブルーフレーム】。これは純粋に戦闘用の調整がなされています。反応速度、瞬間最大出力は3機中最高。その代わり操作性がややシビアになりましたが、無調整のジンよりは扱いやすいはずです」

「……実際に使ってみないと何とも言えないな」

 

 鋭い眼差しをブルーフレームに向ける劾。彼は感情を動かすことなく、ただ機体の値踏みをしているようだ。それに気を悪くすることなく、エリカは続ける。

 

「このように3機の仕様は違いますが、現在は共通の増加パーツ【空間機動パッケージ】が備えられています。これは宇宙空間での機動力を上げるためのもので、操縦感覚はSWRやMAに近いものとなります。まずはこれで機体の扱いに慣れていただければ」

 

 これも原作にはなかったものである。アストレイは様々なオプションが考えられていたが、そのほとんどが実用化されなかった。こちらでは最初からいくつかのオプションが開発されているらしい。

 

「概要は以上となります。ご質問は?」

「大体分かった。詳しい資料はくれるんだろ? 後はこっちで何とかするさ。……で、ホントにこいつ貰っちまっていいんだな?」

 

 ロウの言葉に応えるのは、エリカではなくチヒロ。

 

「ええ、契約を結んでいただければ快くお譲りいたしますとも。……ただし逐一のデータ提出だけは怠らないようにお願いします。そのために連絡役を派遣し、最新の量子通信機をお渡しするのですから」

 

 オーブとクーロン商会はニュートロンジャマーの猛威を予想したかのように、量子通信やレーザー通信、核融合炉の開発を進めていた。(もちろんリョウガの仕業である) そういった技術に関して他の勢力より一歩先を行っている。とはいえ長距離用の量子通信機は、まだ軍でも採用が始まったばかりのものだ。それを預けるだけの期待をしていると知れる。

 

「それに万が一そちらから一方的に契約を破棄するようなことがあれば……覚悟してくださいね?」

 

 にっこりと笑ってのたまうチヒロ。

 この女もしかしたらやべえ人間じゃ。彼女の笑顔には全員にそう思わせるだけの、説得力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諸々の契約などを終え、アストレイはそれぞれに譲渡される運びとなった。そして同時にハガクレの出港準備が進められる。

 そうしながら、ギナはロウと劾にある依頼をしていた。

 

「アメノミハシラまで随伴して欲しい? なんでまた」

 

 ロウの問いに、ギナは偉そうな態度のまま応える。

 

「こちらは新造艦なのでな。念を入れてチェックをしているが万が一と言うこともある。修理の腕を持つジャンク屋と護衛の傭兵がいれば心強い、ということだ」

 

 本来であれば随伴のための艦船があるはずだったが、ギナが予定を繰り上げたことによってスケジュールが合わなくなったのだ。そのことをおくびにも出さないのは流石と言うべきか。

 そして、ギナにはもう一つ理由がある。

 

「加えて言えば、()()()()()()()()()()()()()()。航行中にテストを兼ねて模擬戦でもして貰おうと、そういうことだ」

 

 機密兵器を預けるからには相応の技量があると証明して見せろと、そう挑戦的に告げた。 ロウはにやりと笑い。劾はサングラスを指で押し上げる。

 

「なるほど、おもしれえ。……その話、乗ったぜ」

「クライアントの要望であれば応えよう。その分のギャラは期待しても?」

「当然だとも。私を満足させろよ?」

 

 こうして、オーブの新造艦ハガクレは、ジャンク屋と傭兵を伴って出港する。

 で、当然こうなった。

 

「ザフト艦戦闘加速! 間もなく戦闘域に入ります!」

 

 オペレーターが声を張り上げた。ハガクレが出港して間もなく、クーロンズロックを監視していたザフト艦2隻がハガクレを追跡し、そして加速を始めたのだ。

 艦長を務めるオーブ宇宙軍の少佐が、問いを放つ。

 

「こちらからの通信は?」

「応答ありません! あ、今ザフト艦よりレーダー照射を受けています!」

「無警告で戦闘を始める気か! ザフトめ、新造艦だからと言って確認もしないとは、功を焦ったな」

 

 どうする、振り切れるかと一瞬判断を迷う艦長。そこでゲストシートに座っていたギナが立つ。

 

「こうも上手いこと運ぶとはな。……迎撃する、MSを出すぞ。私のアストレイもな」

「は!? で、ですが閣下、まだ艤装の実射テストも済ませておりません! それに中立国である我らが反撃を行えば……」

「どうせいずれはやらなければならないことだ。それに聞く耳を持たず一方的に仕掛けてきたのは向こう。火の粉は払わねばな」

 

 あ、この人やらかす気だ。ブリッジの要員は一瞬で何かを諦めた。

 

「追い払えば御の字だ。新造艦を沈めるわけにはいかん。……艦の指揮は任せる」

「……了解いたしました。ご武運を」

 

 がっかりとした様子でため息を吐く艦長を背に、ギナはブリッジを去る。誰も心配していないのは信用されているからか、止めても無駄だと思われているからか。

 ともかくギナは早速格納庫に向かい、ゴールドフレームに乗り込む。そうしながら矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 

「ザフト艦がMSを出したらこちらも出る。貴官らは艦の防衛に努めよ」

「はっ。……ですが閣下、パイロットスーツを使われた方が」

「時間がない。それにこれは生きて帰るという験担ぎのようなものだと思っておけ」

「はっ、差し出がましいことをいたしました」

「良い。……ロウ・ギュール、叢雲 劾、聞こえているな?」

「応とも! こっちはいつでも良いぜ!」

「こちらも準備は出来ている」

「結構。予定とは大分変わったが、これも良いテストになる。貴様らの技量見せて貰うぞ」

 

 もうやる気満々で準備を整えているギナ。都合の良いように状況が転んでウッキウキであった。

 

「閣下! ザフト艦が威嚇射撃を開始しました! 同時にMSも発艦したようです!」

「ふん、ザフトの兵は自分たち以外は全て敵とでも思っているようだな。……こちらも随時発艦する。各員は訓練の成果を存分に発揮せよ!」

『了解!』

 

 ゴールドフレームがカタパルトに足を乗せる。ハッチが開き、無限の宇宙が姿を現した。

 シグナルが、全て青に染められる。

 

「ロンド・ギナ・サハク、アストレイゴールドフレーム出るぞ!」

 

 カタパルトにて矢のような勢いで打ち出されたゴールドフレームは、漆黒の宇宙へと舞う。

 

「さあ試させて貰うぞ。我が軍のMSがどれほどのものなのかをな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラ紹介

 

 

 チヒロ・サウザンリバー

 

 クーロン商会幹部。実は元々サハク家の派閥の人間であり、リョウガに引き抜かれた。サハク家の人間とも顔見知りである。

 商才があったようで、商会の仕事を始めてからめきめきと頭角を現した。今では経理面で商会をぐるんぐるん回している。

 モデルは予想してると思うが、某アイドルでマスターなところのちっひ。大体二次創作あたりのいい性格な感じ。

 なおリョウガ曰く、「例の彼女に似てるんで引き抜いてみたら大当たりだった」とのこと。貴様Pか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メカ紹介

 

 

 ハガクレ級1番艦ハガクレ

 

 クーロン商会に発注し建造されたオーブの最新鋭艦、ハガクレ級のネームシップ。

 作中で言っているとおりミネルバのパクリ。違いは船体が白っぽいところとブリッジの形状、そしてインパルス専用のカタパルトデッキがないところ。あとはミネルバとほぼ同じ。

 なんで大天使じゃなくてこっちの方を採用したのかというと、こっちの方が無理なく飛びそうだから。

 なお同型艦の建造が進められている模様。

 

 

 

 

 

 

 アストレイこの話バージョン

 

 多分この話で主役になるMS。外観は原作と大差ないが、コクピットは胸部に変更されており、ハッチは胸元となっている。そして胸部の装甲は強化され、サバイバビリティは桁違いに向上した。その他には機体各所にオプションラッチが追加され、各種装備をマウントできる。ストライクパッケージを共用できるが、どちらかと言えばF90に近い。

 機体そのものも、ハードソフト両方で原作を上回る性能を誇る。これはリョウガが事前に原型となる大型作業機械を開発させていたためで、これによりアストレイは完成度を高められた。

 しかし原作でもそうだが、軍用OSを他の国に発注するとか大丈夫か? わるいおぢさんに目を付けられるぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ……なんかUAカウンターが見たこともない数字たたき出してるんですけどー!?
 SEED人気に便乗したつもりはなかったんですがまさかここまでとは。そりゃリハクもびっくりさHAHAHAHAHA。本人が一番驚いている捻れ骨子です。

 はいさらに続きが出来ちまいました。で、書いてる最中に気がついたんですが、俺この話連載前提で書いてるよ! と言うことで連載にしました。ノープランでどこまで行けるんでしょうか。
 しかしなんですな、このままだとギナさんが主役になってしまう。最低でも戦闘シーンは彼の担当になってしまいそうな予感がひしひしとします。どうすんだ主人公。部屋から出ろよ主人公!
 まあ彼らがどうなるかは筆の向くままですね。はっきり言ってSEEDが単にアストレイにすり替わるだけのような気がしますが、とりあえずはこのまま突き進むことにします。

 では今回はこの辺で。次回もよろしゅうに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4・かかってくるなら容赦しない

 調子に乗って増量中。
 そして今回推奨戦闘BGM 、Gジェネのアストレイ系戦闘BGMで。



 

 

 ※またもや他者視点

 

 クーロンズロックの索敵範囲ぎりぎりの距離。そこから監視の目を向ける2隻の艦がある。

 ナスカ級高速駆逐艦【ヴェサリウス】、ローラシア級フリゲート【ガモフ】。同じ隊に属する2隻は、2日ほど前に先任と交代しクーロンズロックの監視任務に当たっていた。

 

「まだ動きはないか」

 

 ヴェサリウスのブリッジで、ザフトの上級士官に当たる白い制服を纏った男が言う。その言葉に黒い制服を纏った人物、ヴェサリウス艦長【フレデリック・アデス】は応える。

 

「パッシブレーダーと長距離望遠しか使えないところがネックですな。四六時中気を張っていなければなりません」

「仕方があるまい。ドローンの類いは接近した途端に対空レーザーで撃ち落とされる。まるで要塞だよ」

 

 肩をすくめる白服の男。肩の辺りまで伸ばした癖のある金髪に、なぜか口元を露出した仮面を被ったその男は、この部隊の指揮官【ラウ・ル・クルーゼ】である。

 

「あれでは人員を潜入させることもできん。遠間から見張るぐらいしか手はない」

「どの道クーロン商会の施設に対して、下手なことは出来ませんがね」

「全く厄介な連中だよ。プラントに恩を売りつけた上で、連合などとも商売する。呆れた節操のなさだ」

 

 大体お前らのせいだよ、と遠くで誰かが文句を言っているような気がするが、ここで気づくものは誰もいない。

 

「しかし連合の兵器を開発しているのであれば、奴らの艦船が寄港しそうなものですが……一向にそのような様子はありませんな」

「民間の船をチャーターするか偽装するか、それくらいはしてのけるだろう。新造艦、しかも機密兵器を搭載した船を、単艦で行動させると言うことはありえん」

 

 連合はやっちゃうんだなあそれが。もちろん神の視点を持たないクルーゼらには分かるはずもないが。

 

オーブのコロニー(ヘリオポリス)、連合の施設。当たらせたが今のところは空振りだ。ここもそうでないことを祈りたいところだが……」

「艦長、目標より出航する船があります。数は3。うち一つは見たことのないタイプです」

「なに? ……モニターに出せ」

 

 オペレーターの報告に、アデスが指示を飛ばす。すぐさまモニターに映ったのは望遠カメラからの映像。大気のない状態なので、船影はくっきりと見える。

 

「先頭の船、確かに見たことのないものだ。砲台を備えているところからすると、戦闘艦に間違いない。これは当たりか?」

「航行シグナルから、あの船の船籍は分かるか?」

「確認します。……先頭のものはオーブ船籍。その他はジャンク屋組合と、民間のもののようです」

 

 ふむと考え込むクルーゼに、アデスは意見を述べた。

 

「偽装であれば商会の船籍なのではないでしょうか。あれは外れなのでは」

「……いや、追うぞ。当然向こうもこちらがそう読んでいると考えた、そういう可能性もある。監視されている状況下だ、私ならそういう裏をかくからな」

 

 それが適当にでっち上げた理屈に聞こえて、アデスは少し眉を顰めた。()()()()()()なのだが、これまで直感や機転で成果を上げてきた上司の言葉はむげに出来ない。

 

「仮にオーブの船であったとしても無視はできんさ。国防委員長はかの国の軍備拡大を懸念している。いずれ中立宣言を破棄し、敵に回るのではないか、とな。危険を冒してでも彼らの戦力を測っておくべきではないか?」

「そうなると本来の目的を逸脱することになります。火中の栗にしても、いささか火遊びが過ぎるかと」

「責任は私が取る。なに、深追いはせんよ。逃げるようなら逃してやるさ」

 

 そう嘯いて指示を出す。一通りの命を下し、後をアデスに任せてからクルーゼはMS隊の指揮を執るために身を翻した。

 ブリッジを出たクルーゼの口元には、薄い笑みが浮かんでいる。

 

(オーブの船だったとしても、新型艦ならその能力は連合のものに準じているはずだ。戦闘データは無駄にはなるまい。それにオーブを戦争に巻き込むいい理由となる。……このことで私が処罰を受けることになっても、戦争の火種は拡大する。どうせ()()()()()、惜しむものでもない)

 

 まるでやけっぱちになったような思考だが、彼はやけっぱちに()()()のではない。

 最初から人類を滅亡させる勢いでやけっぱちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が悪かったのかと言えば、多分運とか巡り合わせとか、そういう物だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にわかに活気づくMS格納庫。居並ぶザフト製MS【ジン】が、出撃の準備を整えている。

 

「ようやく出番か、待ちくたびれたぜ!」

 

 そう言いながらコクピットに飛び込むのは、褐色の肌に金髪の少年、【ディアッカ・エルスマン】。シートベルトを締めるのもそこそこに、機体を立ち上げていく。

 

「潜入工作をしないですんだのは良かったですが、結局戦闘になるんですね」

 

 同じように機体を立ち上げながら愚痴るように呟くのは、幼げな容貌の少年【ニコル・アマルフィ】。

 

「こっちはマシンガンと重斬剣でいい! 対艦装備はガモフのチームに任せろ!」

 

 がなるように整備兵に指示を出す銀髪の少年、【イザーク・ジュール】。

 

「ナチュラルの新型艦が、どれだけのもんよってね」

 

 皮肉げな言葉を放ち発進準備を整えるオレンジの髪の青年は、【ラスティ・マッケンジー】。

 

「ちっ、やはりノーマルじゃ反応が鈍いか。無理を言ってでもチューンナップしとくんだったぜ」

 

 眉を顰めセッティングに文句を言う青年は【ミゲル・アイマン】。

 そして、緊張した面持ちで各部をチェックする黒髪の少年。

 

「連合の新型艦。ここで沈めておかなければ、後々プラントの災いになる」

 

 【アスラン・ザラ】というその少年は、強い眼差しを虚空に向けていた。

 以上がクルーゼの部下、ヴェサリウスのMS部隊がメンバーである。全員が【赤服】と呼ばれるエリートで、ミゲルに至っては【黄昏の魔弾】などという二つ名のついたエースだ。彼は専用機としてカスタムしたジンを与えられていたが、以前の作戦で損傷を受けてしまい、現在はノーマルのジンに乗り換えている。

 ここでアスランの台詞におや? と思われた方もいるだろうが、実のところ彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。クルーゼ曰く「真実を聞かされていなければ、万が一の時に言い訳もできるだろう? 彼らは私に命じられたとおりのことをやってのけただけなのだから」とのことだが、内心では血気に逸る若者たちが、()()()()事を期待していたりする。汚いさすがクルーゼ汚い。

 そんなわけで彼らは実情を知らないまま戦場に赴く。まあ「新型艦を襲撃する」といった感じで嘘は言われていないのだが、詐欺に遭っているようなものだ。

 かてて加えて待ち構えているのも、詐欺というかとんでも枠なのを彼らは知らない。

 

「各機に通達。目標の艦が逃亡を選択した場合、深追いはするな。足の速さが分からない以上無茶はできん。反撃してきた場合は交戦を許可する。その場合敵もMSを出してくる可能性がある。対MS戦闘もありえるぞ。データの収集を優先しろ」

「はっ、ナチュラルのMSなんぞ所詮猿まねだろ?」

 

 クルーゼの指示を受け、ラスティなどは鼻で笑う。彼ほどあからさまでなくとも隊全体、いやザフトそのものが同様の油断をしているだろう。そのツケはすぐにも巡ってくることとなる。

 ヴェサリウスとガモフが威嚇射撃を開始した。当てるためのものではない、相手の足を鈍らせるためのものだ。船足に自信があり、なおかつ機密を重視するのであれば、随伴している船を犠牲にしてでも逃亡を選択するだろう。そうでなければ。

 

「目標、3隻とも速度を落としました。相対速度合います、交戦の意思あり!」

「MS隊を出せ! 目標の戦力は未知数だ。迂闊に距離を詰めるなよ!」

 

 2隻の艦から次々とMSが発艦する。その最後に発つのはジンと違い銀色に塗装された機体。主にザフトの指揮官が用いるMS、【シグー】。それを駆るのは隊長たるクルーゼだ。

 

「さて、船の数なら向こうが上だがMSはどうか。ただ出すだけでは良い的にしかならんぞ?」

 

 何かの対策がなければ、ナチュラルが駆るMSはザフトのMSに勝てないだろう。()()()()()()()()()()()()()()。クルーゼはそれを確信している。

 であるならば()()()()()()()()。それが戦いをさらに凄惨なものにするものであれば良いと、クルーゼは神ではない何かに祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「砲雷撃戦用意! MSは閣下たちに任せるか、対空を自動でやらせろ! でかものは当たらん! 主砲およびミサイルは敵艦に集中させろ! 当てなくて良い、回避させれば十分だ!」

 

 ハガクレが砲火を放ち、その間を縫うように3機のMSが駆ける。先頭を行くゴールドフレームから、ギナの指示が飛んだ。

 

「可能な限りコクピットは避けろ。下手に殺しまくれば後で言い訳がきかん」

 

 それにロウが応えた。

 

「言われるまでもねえ。俺はジャンク屋だ、殺しは仕事じゃねえよ」

「格好付けてる余裕はないぞロウ」

「ん? 誰の声だ? まさか2人乗り(タンデム)というわけではあるまいな」

 

 割って入った声に訝しがるギナ。

 

「ああ、こいつは【ハチ】。俺の相棒で、サポートAIさ。機体制御の補佐をさせてる」

「よろしく頼むぞ准将閣下」

「何とも珍妙な。……まあいい、使えるというのであれば成果で示せ。それが我らの流儀だ」

 

 交わされる会話に、劾がふっ、と小さな笑みを浮かべた。

 

「……甘いことだ。だがクライアントの要望なら応えねばな」

 

 轟。三体のMSが散開する。それぞれが、それぞれの戦いを繰り広げるために。

 ギナは真っ直ぐに正面から敵に突っ込む。

 

「馬鹿が! ナチュラルのMS風情がよ!」

 

 丁度正面に位置していたラスティは、マシンガンを構える。ギナは悠々とトリガーを引いた。

 線条が奔り、ラスティのジンは右肩を打ち抜かれて腕そのものを引きちぎられた。

 

「な、なあっ!?」

「ビーム兵器だと!? MSが片手で運用できるものを実用化しているのか!」

 

 衝撃で吹き飛ばされるラスティの機体。さしものクルーゼも驚愕の声を上げた。

 アストレイの基本武装はビームライフルとビームサーベルである。同時期に開発された連合のガンダム系と同じものであるが、この時期のザフトではまだ小型化できていない。その事実にクルーゼは顔をしかめる。

 

「優位に溺れたザフトの怠慢がこのような結果か。ならば是が非でもデータは持って帰らねばな。……ラスティ、下がれ! これは私が相手をする!」

 

 部下を下がらせ前に出る。ビーム兵器の存在に目を奪われそうだが、一撃で敵機の戦闘力を奪う技量も並大抵ではない。一瞬にて彼はそれを見て取ったのだ。

 加えてMSが携行出来るサイズのビーム兵器。その存在は、クルーゼからしても見逃せるものではない。これが実用化され大量に戦場へと投入されれば、戦局にも影響を及ぼす。連合が息を吹き返すのは大歓迎だが、一方的な展開になるのは困るのだ。可能な限りのデータを収集し、ザフトでも小型化したビーム兵器を実用化して貰わねばならない。そういった思惑があった。

 そのようなことを気にもしないだろうギナは、強敵の予感に頬を緩ませた。

 

「隊長機か。楽しませてくれような!」

 

 稲妻のような機動でシグーに挑みかかる。それを受けて立つクルーゼもまた、常識外の機動で相対する。

 図らずも一騎打ちの形となった2機。それを尻目にして一直線にハガクレへと向かう者たちがいた。

 

「あの艦は下面の武装がない! 下に潜り込んでぶっ放せ!」

 

 ガモフから出撃した4機のジンである。彼らは対艦装備、大型のミサイルを両腕に2基ずつ備えた兵装だった。味方機が正面戦闘を受け持っている隙に目標に痛打を与える。そのような思惑を持って駆けたのだが。

 線条が、奔る。

 正確無比なビームの射撃が、備えていたミサイルの弾頭を打ち抜く。

 爆発。対艦兵器であるミサイルの爆発に飲み込まれ、4機はあちこち引きちぎられながら吹き飛ぶ。

 

「言われたとおり()()()()()()外した。運が良ければ生き残れるだろう」

 

 それを成したのは劾のブルーフレーム。他の2機よりピーキーな機体を難なく使いこなした劾は、大した感慨もなく呟いた。

 

「なるほど、確かにジンに比べて扱いやすい。……む、新手か」

 

 3点バーストによる射撃を回避するブルーフレーム。マシンガンを放ったのはミゲルのジン。彼はそのままブルーフレームへと挑みかかった。

 

「ディアッカ! ニコル! お前たちはやられた連中の救助に向かえ! 俺はこいつを抑える!」

 

 機体は明らかにジンを上回る性能を持ち、そして乗り手も相当の腕があると見た。エリートとは言え経験の浅いディアッカたちには荷が重いと判断。危険を冒して矢面に立つしかないと覚悟を決める。

 ビームと弾丸が交錯し、2機のMSは舞い踊る。その最中、双方は対峙している相手が何者か気づく。

 

「この機動! こいつ、まさか叢雲 劾か!」

「黄昏の魔弾か。やはりあのとき仕留めておくべきだった」

 

 2人はかつて戦ったことがある。その際にミゲルは機体を損傷し、劾も相応のダメージを受けた。相打ちという形であったが、どうやらその続きを行うこととなったようだ。

 金と青の機体は壮絶な戦いを繰り広げている。そして赤の機体はと言うと。

 

「こいつぅ! ふざけているのか!」

「イザーク! 落ちつけ!」

 

 激昂してマシンガンを撃ちまくるイザーク。その射撃を、レッドフレームはなんだか妙な動きで回避していた。

 横に回転したり縦に宙返りをして見せたり、手足を振り回しながらなんだか無茶苦茶な動きをしているように見える。イザークからするとそれが馬鹿にされているように感じられたのだ。

 いきり立つイザークを宥めながら、アスランは疑問を浮かべる。

 

(なんなんだあの動きは。機体の作動を戦闘中に確かめているというのか? それにしても複雑に動かしすぎている)

 

 試すにしてもあそこまで派手に振り回す必要はない。相手が何を考えているのか分からなくて、アスランは戸惑っていた。

 で、その相対している方はと言うと。

 

「おっし、()()()()()()

「相手はだいぶ頭に血が上っているぞロウ。そろそろ突っ込んで来るかも知れない」

「分かってるさ。回避のサポート頼むぜハチ!」

 

 どう、とスロットルを開ける。ロウがやっていたのは機体の特性を掴むこと。MSという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを試していたのである。

 通常の操縦だけでは分からない動きの癖や特徴、OSがどのように四肢を動かしそれがどのようなモーメントを生むのか。そういった事を確認し、感覚を掴む。実戦中にやることではないが、ロウは説明書を流し読みしてから実際に動かして性能を把握するタイプだ。それがどこであろうと、やるべきと判断したときにはやる。

 突然動きを変えた相手に、イザークとアスランは虚を突かれる。だが、流石に赤服(エリート)と言うべきか。

 

「こっ、のおお!!」

 

 咄嗟に、左腰に備えられた剣、重斬剣を逆手に引き抜くイザーク。不意を打たれたお返しとばかりに振るわれた剣は、しかし空を切る。

 レッドフレームは接近してから、突如肩を中心軸とした縦回転で攻撃を回避したのだ。そして、そのついでとばかりに踵落としのような形でイザークのジンの左肩を蹴り付けた。

 

「ぐうあっ!?」

「させない!」

 

 イザークのフォローに回ったアスランの銃撃も旋回しつつかわされる。そうしながらロウは軽口を叩いた。

 

「今のはヤバかったな。だが早々当たってやれるかよ」

 

 ロウはナチュラルの民間人であるが、ジャンク屋として生きてきた中、同業者や荒くれ者と諍いがあったり、ザフトくずれの海賊もどきと立ち回った経験がある。その上で基本能力はともかく、勝負勘とくそ度胸、機転と発想力は図抜けた人間だ。機体の性能とハチのサポートも加えれば、総合的にコーディネーターに勝るとも劣らない。基本真面目なイザークやアスランにとって、実は相性の悪い相手であった。

 たった3機、その上初陣のMSがザフトの部隊を翻弄している。その事実にアデスは戦慄した。

 

「これほどのものとは。連合のものでも、オーブのものであったとしても、脅威には違いない。クルーゼ隊長の判断は正解であったと言うことか」

 

 あるいはクルーゼ隊の壊滅を引き換えにしてでも持ち帰らなければならない()()なのではないか。彼はそのように思い始めていた。

 と、そこでオペレーターから新たな報告が入った。

 

「レーダーに感! 新たな船影が2! 船籍は……オーブです!」

「なに! 増援か!?」

 

 現れたのはオーブ宇宙軍所属の宇宙戦艦。イズモ級ネームシップ【イズモ】と、2番艦【クサナギ】。イズモの艦長【ソガ】二佐は、ギナに回線をつないだ。

 

「サハク閣下! お迎えに上がりました! 無理をなさらず至急後退を!」

「おう、来たかソガ。良いところであるが潮時か」

 

 同行は出来なかったが、スケジュールの調整が出来たら後発で迎えに来るよう指示を出しておいたのだ。このタイミングは偶然であるが、都合は良い。

 増援が現れたことを確認したクルーゼは、忌々しげに舌を打つ。

 

「ちぃ、ここまでか。……総員、撤退するぞ!」

 

 増援の2隻から威嚇射撃が始まる。恐らくは警告も放たれているはずだ。これ以上は言い訳が効かない。クルーゼは信号弾を打ち上げ後退を始めた。

 信号弾を見たミゲルは、安堵と共に機体を翻す。

 

「九死に一生ってところか。()()()()()()()とはいえ、長々と引き延ばされていたらヤバかった」

 

 もっと良い機体であれば違っていたものを。ほぞをかむ思いであったが、今は生き延びられたことをよしとする。半壊した味方機を曳航するディアッカとニコルに合流し、彼らを護衛しながら撤退する。

 それを劾は追わない。

 

「ここでカタを付けても良かったが、要望に背いてまでのことではない、か」

 

 今回はあくまで火の粉を払っただけ。敵を殲滅するのが目的ではない。それを十分に理解している劾は追撃を行わなかったのだ。

 

「こいつの性能のおかげで優位に立てた。良い機体だ」

 

 劾は微かに、満足げな笑みを浮かべた。

 そして。

 

「撤退だと!? ならばせめて一撃!」

「止せイザーク!」

 

 完全に頭に血が上っているイザークが、レッドフレームに襲いかかる。それを止めようとしたアスランだったが。

 突然の衝撃が、彼の意識を刈り取る。ロックオンなしで無作為に放たれていた威嚇射撃の一つが、偶然アスランの機体に直撃したのだ。イザークの行動に気を取られていたのと、ロックオン警報が発せられなかったという状況が、この結果を導いた。

 

「アスラン!?」

 

 流石のイザークも一瞬気を取られた。

 ついでに機体の操作を僅かに誤った。

 

「あ」

 

 ごがん、と衝撃が奔り、イザークもまた意識を飛ばされる。ジンの頭部に放つはずだったレッドフレームの蹴りが、操作を誤り機体の挙動が変わったことによって、コクピット周辺に直撃したのだ。

 コックピットハッチを歪ませて吹っ飛ぶイザークのジン。くるくる回りながらあらぬ方向にすっ飛んでいくそれを見て、ロウは慌てた。

 

「うっわ、やっちまった。……死んでねえよな? 無事でいてくれよ?」

 

 これで死んでしまったりしたら後味が悪いと、彼は吹き飛ばされたジンを追う。

 こうして、クルーゼ隊にとって一方的に不幸だった戦闘は終わりを告げた。

 這々の体で撤退したクルーゼ隊の面々が、アスランとイザークの未帰還に気づくのはしばらく経ってから後のこと。その頃にはすでに、オーブの船は追跡不可能な距離に至っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※リョウガ視点

 

「……なるほどな、話は分かった。それで捕虜となった2人は?」

「士官待遇で軟禁してある。話を聞いたが、こちらがオーブ所属であるとは聞かされていなかったようだ」

 

 ギナの答えを聞き、考える。本気で誤認したのか、それとも分かっててわざとやったのか。

 ……後者だな間違いなく。()()クルーゼだ、戦争が拡大するチャンスがあればやらかすに決まっている。彼の生い立ちには同情するところもあるが、巻き込まれた方はたまったものではない。アスランとイザークという、原作でも重要な人物の身柄を確保できたのは幸運とも言えるが……。

 ともかく、これからどうするかだ。

 

「彼らの身柄は慎重に扱わねばいかん。……俺がアメノミハシラに直接引き取りに行く。こっちで何とかしよう」

「ふむ、確かに下手を打てば政治的な問題になるな。任せる」

「それはそれとして、お前後で股間な」

「ちょっと待てぃ!」

 

 唐突に放たれた俺の言葉に、ギナは慌てた。

 

「今回のことは不可抗力だ! むしろよくぞ生きて捕らえたものと褒められても良いくらいだぞ!?」

「そっちじゃねえよむしろそのことは良くやったよ! 問題は指揮官のお前が真っ先に戦闘に飛び出してるってとこだよ! 万が一があったらお前の名声上げてゆくゆくは国の重職押しつけてやろうって言う俺の計画がパーじゃねえか!」

「なにさらっと空恐ろしいことを宣っている!?」

「というわけで嫌でも反省させてやるから覚悟しておけ」

「ちょ、待て……」

 

 返事を待たずに通信を切る。そうしてから俺は、ふう、と息を吐いて椅子に体重を預けた。

 ギナには誤魔化したが、イザークはともかくアスランを捕らえてしまったことは幸運であると同時に非常に面倒だ。何が面倒かって、父親が現国防委員長【パトリック・ザラ】だってところである。

 原作で彼は、嫁さんが農業用プラントコロニー【ユニウスセブン】ごと喪われてしまったが為に、連合、いや地球のナチュラル全てを激しく憎悪していた。この世界でもその辺りの展開は同じなので、恐らく思考は似たようなものだろう。そして彼はやらかすときには過激にやらかす、ナチュラル絶対殺すマンあるいはナチュラルスレイヤー=サンである。正直関わり合いになりたくない。

 つまりアスランの存在は政治的に有効なカード……と見せかけた地雷である。下手な交渉材料にすれば、パトリックの癇に障るどころか確実にこっちを敵視する。かといって何の条件もなく解放しても疑われるだけだろう。どう扱えば良いか、さじ加減が難しい。

 ……まあまだ死んでないだけマシだ。今回アスランが死んでたとしたら、パトリックはガチギレて、ザフトの切り札たる超大型ガンマ線レーザー砲【ジェネシス】を真っ先にオーブ本国に向かってぶち込みかねない。そういう意味では不幸中の幸いであろう。

 さてどうしたものか。図らずも手に入ったカードの使い道に関して、俺は思考を巡らせる。

 そんな俺の元に新たな問題が飛び込んできたのは、しばらくしてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 第六章ではムチプリになった大人エロいモーさんがでてくると信じてたのに、信じてたのに!
 いや待てまだ慌てる時間じゃないと希望を捨てない捻れ骨子です。

 はい今回ザフト側の事情と戦闘って言う流れ~。捕虜になったのはアスラン君とイザーク君でした。あなたたち騙されちゃったのよぉ! って感じで真実聞かされてません。クルーゼだったら絶対こうするよなあ、と言う考えでこうなりましたがいかがだったでしょうか。
 そしてアスランの扱いに悩むリョウガさん。パトリックのキャラ知ってたら明らかな地雷だと思います。返すにしても留めおくにしても下手な扱いは出来ませんからね。ホントどうしたものでしょう。イザークのところも結構危険牌ですが、アスランに比べたら遙かにマシじゃないでしょうか。

 そんなこんなで今回はこの辺で。さあてどんだけUVカウンター回るかなあはははは(おめめぐるぐる)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・あの人は、今

前回の続きと思ったか?
残念だったな!


 

 

 

 

 ヘリオポリス。L3宙域に存在するオーブ所属のコロニーが一つである。

 基本的に資源衛星と接続した生産拠点であり、同時に工業カレッジなどが存在し民間人も10万単位で居住し生活している。

 その中の一角。オープンカフェで携帯端末を弄っている少年の姿があった。

 彼の端末では、プログラムコードが踊る端で小さな画面が展開し、ニュースが報じられている。

 

『……現在ザフト軍は東アジア共和国の南部で戦線を拡大し、これによる影響を懸念したオーブ政府は……』

 

 少年はそのニュースを耳にしながらため息を吐く。今起こっている戦争は、終わる様子を見せない。自国の政府は危機感を募らせ、双方に停戦を呼びかけると同時に軍備の拡大を図っている。いつまで平和に暮らしていけるのか、少年は漠然とした不安を抱いていた。

 

(アスラン……君は今頃どうしているんだろうな)

 

 肩にとまっている鳥形ペットロボットの頭をなでながら、少年は思いをはせた。このペットロボット【トリィ】は、プラントに居を移した友人から餞別として贈られたものだ。連絡を付ける伝もない友人の安否も気になり、憂鬱さが増す。

 と、そこで少年に声がかかった。

 

「よっ、【キラ】。こんなところにいたのか」

 

 振り返ればそこには3人の少年少女たち。【トール・ケーニヒ】、【ミリアリア・ハウ】、【カズイ・バスカーク】。少年の友人たちである。その中の一人トールが、少年に語りかけた。

 

「まーた教授になんか頼まれてたわけ? バイト代出るからって引き受けすぎだろ」

「でもなんか困ってたから。それにもう終わるし」

 

 会話の最中、トールは端末のモニターに目を向ける。

 

「お、ニュースか。……大分戦線も広がったなあ。結構本国に近づいてる」

「ちょっと、怖いこと言わないでよ。お父さんとお母さん本国にいるんだからね?」

 

 興味本位のようなトールに対し、ミリアリアが咎めるように言う。

 

「本国もMSの開発を進めてるって噂だし、そう心配することもないだろ。大体うち(オーブ)は中立国だぜ?」

「……でもさ、リョウガ様はタカ派だって聞くし、ひょっとしたら中立宣言破棄して参戦しちゃうかも」

 

 眉を顰めてカズイが言う。確かに現首長代表の息子であり、次期首長代表の最有力候補であるリョウガ・クラ・アスハは、過激とも言える言動でメディアを賑わせている。この戦争は他人事ではなく、すぐ側に迫った危機なのだと、彼は常に訴え続けていた。その思想こそ危機感を煽るものだという声もあったが。

 

「なさげな話だぜそれ。あの人前々からナチュラルもコーディ(コーディネーター)も変わらないって主張だろ? よっぽどのことがない限り連合にもザフトにも肩入れすることないんじゃないか?」

 

 多くの国民がトールと意見を同じくしている。プラントへの核攻撃(血のバレンタイン)にも地球に対するNJばらまき(エイプリールフール・クライシス)にも非難声明を出し、双方に人道的支援以外は断固拒否するという姿勢を(表向き)貫いてきた。その一方でNJにて被害を受けた地域には軍を派遣して災害救助や復興支援に当たらせ、オーブが開発したNJ下でも使える通信技術や発電用大型核融合炉の技術などを無償で提供したりしている。そういった行動は国民の支持を集めていた。

 そしてナチュラル、コーディネーターの区別を鼻で笑うような言動も国民には受けが良い。どこかの意地の悪いマスコミのインタビューに答えて曰く。

 

「コーディネーターは優れた資質を持って生まれることが出来ると言うだけで、超人でも化け物でもないだろう。そういう与太話は彼らが目からビームのひとつも出してから言いたまえ」

 

 と、このように宣った。ザフト、連合双方に対する皮肉を込めたこの言葉は、一時流行語にすらなったという。実際天才的な手腕で国力を向上させ続けている彼はナチュラルであり、コーディネーターをも上回る結果をたたき出しているためか、ぐうの音も出なかった。

(なお底意地の悪いマスコミは、後日公安に徹底した調べを受け、国外の青き清浄な何ちゃらを謳う団体と不適切な繋がりがあったため摘発された)

 皮肉めいているが全く差別も偏見もない姿勢は、プラントに住む人間のような選民意識を持たないオーブのコーディネーターたち(オーブはコーディネーターを受け入れている数少ない国である)にはありがたい話であった。贔屓もされないが差別もされない、肩の力を抜いた生き方が出来ると益々支持を受けることになる。

 ……すっかり本来の首長代表であるウズミの影が薄いがそれはさておき。

 

「ま、国のことは偉い人に任せてればいいのさ。……そんなことより、聞いたぜキラぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()んだってぇ?」

「ちょっと!? 誰から聞いたの!? ……ミリアリア?」

 

 茶化すように言うトール。その隣でふっふーんと胸を張るミリアリア。ジャーナリスト志望の彼女は時折どこからともなく情報を得てくるがそれはさておいて、少年――キラにそのような話があったのは事実である。クーロン商会がネット上で行ったチャレンジイベント――ハッキングスキルやES技能を競わせるような競技会じみたもの。人材発掘のため賞金も出して行われたそれで、キラは上位の成績をたたき出したのだった。

 単なるお遊びのつもりであったその成績からスカウトされるなどとは夢にも思わなかったキラは、返事を保留して迷いまくっていたわけだが。

 

「あれは一応って感じで声かけられただけだよ。ちょっとハッキングが上手いだけで即採用とかあるわけないでしょ」

「でもチャンスだぜ? このご時世、飛ぶ鳥落とす勢いで成長続けてる大企業じゃんか。ダメ元で話聞いてみる価値はあるかもよ?」

「けどさ、あの企業悪い噂もあるじゃないか。連合とザフト両方と裏取引してるとか、軍需産業に参入するとか」

 

 不安げな表情でカズイが口を挟む。悲観主義者なのか、彼はこのような発言も多い。短所にも思えるが用心深いとも言える。まあクーロン商会に関してはほぼ事実だが。

 

「んなこと言い出したらきりがないぜ? このご時世戦争に関わらない多国籍企業なんてあるもんか。【アズラエルグループ】なんか【大西洋連邦】とズブズブだろ」

「そりゃそうかも知れないけど」

 

 なぜかキラ本人よりも乗り気なトールと、消極的に反論するカズイとの会話は続く。置いてけぼりにされた当の本人は、肩をすくめるミリアリアと視線を交わしてからため息を吐いた。

 正直、興味はあった。だが何というか、踏ん切りがつかない。世界の情勢になんとなく不安を感じているというのもある。友人がいて、居心地の良いこのコロニーを離れがたいというのもある。そして……密かに淡い想いを抱いている少女の存在に、後ろ髪を引かれてもいる。

 ……まあその少女は友人の婚約者なので叶わぬ想いと分かっちゃいるのだが。

 ともかく、新たな世界に足を踏み出すことを、キラ――【キラ・ヤマト】は躊躇っていた。何かやりたいことがあるでもなし、成したい志があるわけでもない。ちょっとコーディネーターで素質があるだけの少年。その未来は定まっていなかった。

 今は、まだ。

 

 

 

 

 ちなみに、商会が行ったイベントに関してリョウガは全くのノータッチである。このことがどのような結果を導き出すのか、当然彼が知るはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、クーロン商会で製造されていた連合の新型艦とMSであるが。

 実はハガクレが出航するちょっと前に、すでに発っていたりする。

 

「本当にバレないものだな」

「左様ですな。ザフトの艦は全くの無反応。偽装は上手くいったようです」

 

 艦長と副長が言葉を交わす。それを耳にしながらCIC総括を務める【ナタル・バジルール】少尉は、密かに眉を顰めた。

 

(全く、このような()()()()()()()()が上手くいくなど……)

 

 納得いかない。ものすごく納得いかない。生真面目な彼女は現在艦に施された細工に、嫌悪感じみた苛立ちを抱いていた。

 彼女が苛立っている理由は、現在の艦――アークエンジェル級1番艦【アークエンジェル】の姿にある。なにしろその姿はどう見ても、使い古したウォータータンカー――水資源を輸送する大型輸送船のものであったからだ。

 真新しい船体の外側を丸ごと中古のタンカーから剥ぎ取った外装で覆う。このアイディアは建造を受け持ったクーロン商会から強引に押しつけられたものだ。担当した技術士官と窓口のお偉い方は渋ったが、商会の銀髪三つ編み幹部はニコニコとした態度のままでこうのたまったという。

 

「引き渡して出港した途端に撃沈されました、では話にならないのですよ。護衛の戦力もろくによこさない状態で、産毛の生えたばかりのひよっこが血に飢えた猛禽に太刀打ちできるとでも?」

 

 この期に及んで派閥争いなどというくだらないものの為に足を引っ張り合っている連合に対する皮肉も込めた言葉であった。本来の話であればどこぞのエンデュミオンの鷹さんが護衛として派遣されるはずであったが、状況が変わりついでに連合軍内部の足の引っ張り合いも様相を変えたようで、それはキャンセルされてしまったようだ。

 そして艦を動かすためのスタッフと、トップガンとは名ばかりのひよっこだけをよこされることとなって、鬼とも悪魔とも呼ばれた女性は静かにキレた。おどれら舐めとんのかい、と。

 で、この有様である。新造艦をそのまま出すから狙われるのであって、別な姿にしてしまえばバレにくいじゃない。ついでに船籍も適当な船会社にしてしまえばまず露見することはあるまい、と。その上で商会の子会社である、警備会社とは名ばかりの傭兵派遣組織【CSS(クーロンセキュリティシステム)】から護衛の人材とMAを貸し出す念の入れようであった。

 実際ザフトの監視は見事に騙されたようなので、偽装に関しては誰も文句は言えない。言えないのだが。

 

「無事に月にたどり着ければ、【ハルバートン提督】の面目も立つ。そこから実績を積めば大艦巨砲主義の阿呆どもも目が覚めるであろうよ」

「兵士の損失を数字でしか見ないお偉方は、物量だけで勝てると思っておられますからな。願わくば我らが戦況打開のきっかけとなれれば良いのですが」  

 

 艦長と副長はそのようなことを言っているが、()()()()()()()()()()。ナタルは苛立ちとともに不安を抱いている。

 エイプリールフール・クライシスによる深刻な電力不足と情報インフラの壊滅的な被害は、オーブからの技術提供により快方に向かっている。しかしそれが巡って連合軍に幾ばくかの余裕を生み、派閥争いが活発化してこのざまだ。大体オーブの仲介でクーロン商会にMSとそれを運用する艦の開発を頼らなければ、未だ連合軍はMSの開発に手間取っていたことだろう。虎の威を借りる狐、とまでは言わないが、自力でここまで立て直したのではないのだ。胸を張って威張れることではない。

 そしてその事実に対し、()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな感覚を覚える。はっきりとしたものではない、勘のようなものだ。しかしそのような不確かなものを頼る気質ではないナタルは、口を噤んでしまうしかなかった。

 彼女はまだ若く、その視野は『真面目な軍人』のものでしかない。故に全てを見通せるようなセンスは未だ持ち得ていないのだ。現時点では軍隊というシステムのパーツに過ぎないナタルは、悶々とした思いを抱きながらも己の職務を忠実に果たしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルのMS格納庫。そこは実戦さながらの熱気に包まれていた。

 

「【ストライク】の換装システムは一通りの作動チェックを済ませたら後回しだ! 艦の艤装の方に人を回せ!」

 

 整備主任である【コジロー・マードック】曹長が声を張り上げ指示を飛ばす。整備員たちが走り回る中、格納庫のハンガーでたたずむ5体のMS周りでも各種作業が進んでいる。

 灰色に統一された機体の一つ、GAT-X105ストライクのコクピットが開き、中から担当のパイロット候補が顔を出した。

 

「【ラミアス】大尉、シミュレーション№5から8までを終了いたしました。確認をお願いします」

「了解しました。少尉はこちらでチェックリストに記入してから休息を」

 

 パイロットの少尉を促すのは、黒髪をなびかせるツナギ姿の女性。【マリュー・ラミアス】大尉。アークエンジェルと連合MSであるXナンバーの開発に携わった技術士官である。

 コクピット周辺や内部に取り付く作業員たちに指示を出してから、マリューはチェックシートの記入を終えドリンクチューブを口にしている少尉に語りかけた。

 

「どうです少尉、ストライクの様子は」

「実働しているわけではないのでまだ何とも。……ですが以前訓練で使った鹵獲ジンに比べれば、格段に扱いやすいと感じます」

 

 ザフト製のMSはコーディネーターにしか扱えないと言われているが、動かすだけならナチュラルにも出来る。ただとてもではないが戦闘に使えるような動きは出来ない。連合軍も色々試行錯誤してみたが、結局ハードもソフトもそのままコピーしただけでは使い物にならないと判明しただけだった。

 ゆえに1からMSを開発する流れとなったのだが、その開発は難航した。そこで白羽の矢が立ったのが高い技術力を持つオーブである。しかしオーブは中立であることを理由にその依頼を拒否。代わりに自国の製品をライセンス生産している多国籍企業、クーロン商会を推薦したのだ。

 オーブのモルゲンレーテと互角以上の技術力を持つ商会の協力で、MSとそれを運用する新型艦の開発は成った。しかし。

 

「これのOS、G.U.N.D.A.M.でしたか。素晴らしいものですね」

「……ええ、そうね」

 

 ストライクを見る少尉の言葉に、少し複雑な表情となるマリュー。GXシリーズの制御OSは、ほぼ完全にクーロン商会製であった。SWRなどの作業機械を開発した実績があるとはいえ、システム周りだけに関して言えば連合の技術を上回っていると言うことである。バーターとして小型化高出力化したバッテリーと、省電力高効率の駆動システムの技術を提供したが、もしかしたらそのようなものがなくとも自力でMSを開発できたのではないだろうか。技術屋の端くれとしては、敗北感のようなものを感じずにはいられない。

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()、それも気がかりだ。一応クーロンズロックではアークエンジェルとXナンバーの開発に携わっていた区画は独立して隔離されており、人の出入りも厳しく制限されていた。だが商会の手のひらの中であったことには違いなく、()()()()()手段などいくらでもある。かの施設を発つ前に、関係部署のデータや記録は破棄され、自分もそれを確認したが、どこまで信用できるか分かったものではない。

 

(気にしすぎ、であればいいのだけれど)

 

 クーロン商会には色々と後ろ暗い噂もある。アークエンジェルの護衛を買って出たCSSは最たるものだ。かの組織は警備会社と名乗っているが、その実態は傭兵派遣組織であるともっぱらの噂だ。多くの傭兵に仕事を仲介し、その範囲は連合はおろかザフトも含まれていると言われている。

 現在彼らは艤装された外殻の前方、空いたスペースに簡単な居住区画と整備施設をこしらえ、数機のMAと共に待機している。トラブルを防ぐためという理由でアークエンジェルのクルーとは最小限の接触しかしていないが、そういった行動もまた不気味さのようなものが感じられた。

 

(……無事に月までたどり着けるのかしら)

 

 今のところ何の問題もなく上手くいっている。だがマリューは、何かそこはかとない不安を覚えずにはいられなかった。

 だが彼女の不安とは裏腹に、アークエンジェルは何のトラブルもなく月の連合基地までたどり着くこととなる。

 マリューが感じた不安は何だったのか、それが判明するのはもう少し先のことになる……かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L5宙域。地球から遠く離れたそこに、砂時計を思わせる形状の天秤型コロニーが整然と配置されている。

 プラント。元は地球からの出資によって作られた生産拠点であったが、現在その住民のほとんどを占めるコーディネーターに占拠され、独立のために出資者――理事国であった国が纏まった地球連合と戦争を行っている真っ最中であった。

 その首都である【アプリリウス市】。いくつかのコロニーで構成されたその中央。代表評議会議事堂が置かれたアプリリウスワンの評議会議長官邸にて、2人の男女が言葉を交わしている。

 

「アスランが、行方不明に?」

 

 驚いた表情を見せるのは、桃色の髪の少女【ラクス・クライン】。その対面に座った人物は、重々しく頷いてみせた。

 

「そうだ。連合の新型艦と思われる船を攻撃した際、反撃を受けて帰還できなかったらしい。……だが、その船はどうやらオーブのものだったようだ」

 

 その人物は【シーゲル・クライン】。ラクスの父で、現在最高評議会議長を務める人物だ。その表情は苦悩に満ちている。

 

「今はまだ評議会内で話は止まっている。そしてオーブからもまだ何の反応もない。だがかの国が動かないはずはないし、事が露見すればプラントの民も動揺するだろう。誤認だという話だが、頭を下げてすむ問題ではないのだ。相当の賠償やペナルティを覚悟しなければならないだろうな」

 

 MIA(行方不明)になったアスランは、国防委員長【パトリック・ザラ】の息子であり、同時にラクスの婚約者であった。そんな重要人物をパイロットにして前線に出して良いのか、とは思うがプラントの軍事組織ザフトは万年人材不足である。どんな立場の人間であろうと自ら望んで門を叩いた以上、受け入れざるを得ないという事情があった。

 要するに襲撃した相手がどうだとか言う以前に、プラントの内情的にも大問題である。その上で襲った相手が中立の、しかもやたらとヤバげな人間が音頭をとってる国だ。事が表沙汰になったら混乱ではすまない。そしてオーブが中立宣言をかなぐり捨てて敵に回ったりしたら勝算はゼロに近くなるだろう。戦力的な問題だけではない。中立国であるオーブは民間企業などを仲介してプラントに便宜を図ってきた。その支援がなくなればどれほどの損失か。地球からの輸入がなくなるだけでプラントは干上がるのだ。もちろん全てがいきなり敵に回り即座に干上がるというわけではないが、かの国を敵に回すことだけは避けねばならないのに。

 

「マルキオ導師を仲介に、オーブに接触を試みているが向こうがどう出るか。アスランの安否も気がかりだが、今は下手な動きが出来ん。お前が向かうはずだった()()()()()()()()()()()()()()()()()。……気を揉むだろうが、今は大人しく待っていてくれ」

「分かりました、お父様」

 

 気を落としたような様子で返事をするラクス。その様子を見ながら、シーゲルは内心で思い悩み続けている。

 今回の事件は評議会で押さえられているが、その評議会自体が混乱している状況だ。息子が行方不明になったパトリックは色々な意味で激怒し、同じく息子が行方不明になった【エザリア・ジュール】議員は卒倒して病院に担ぎ込まれ、他の議員は意見が割れまくっていた。

 タカ派の中でもパトリックを含む急先鋒の連中は、それ見たことかオーブは危険だと息巻いて、穏健派の中でも状況を理解しているものは即土下座かましに行くべきだと主張し、互いがお前分かってねえのかと喧々囂々にやり合っている。残りはあっちについたりこっちを宥めたりと右往左往していた。こんな状況でのんきに追悼式典などやってはいられない。

 ともかくシーゲルは諸々の意見を余所に、オーブに五体投地で許しを得ることを前提に動いている。彼は最高評議会議長という国の頂点であるが、今の今まで自分の思ったとおりに人や国が動いた事など一度もない。敵も味方も人の話を聞きゃしないのだから。自分に出来ることと言えば関係各所に頭を下げまくることだけだ。

 誰か代わってくれないかなあとは思うが、下手な人間にこの立場を譲ったら状況は坂道を転がるように悪化するだろう。それを考えると容易に退陣も出来なかった。今日もシーゲルの頭と胃は痛み続ける。

 そして、対面のラクスであるが。

 

(覚悟はしていたつもり、だったのですけれどね)

 

 沈痛な表情の下で思う。アスランが行方不明になったことがショックだったのではない。逆で()()()()()()()()()()()()()()()()()が衝撃だったのだ。

 アスランと自分は親が決めた婚約者同士である。アスランは自分を大切に扱ってくれて、自分も相応に心を開いていたと思う。愛していた、恋心を抱いていたとまでは言わない。しかし互いを尊重し、プラントの未来を築く間柄になれると思っていた。その片翼とも言える相手が失われれば、相当に動揺するはずなのに。

 まるで()()()()()と、そう諦めてしまったかのような。喪失感だけがある。時間がたてば違うのかも知れなかったが、これ以上の感情を抱く自分というものが見えてこない。存外薄情な人間だったのか自分は。それとも戦争というものが自分から感情を奪い取ってしまったのか。

 

(この戦争で家族を失った人たちは、このような気持ちなのでしょうか。……いえ、違いますね)

 

 例えばパトリックは妻を失ってから常に怒りと憎悪を抱いている。多くのザフト兵たちは同様に連合に対して憎悪を募らせている。それは理解できるのだが、同じような感情を持つことは出来なかった。それが何を意味するのか、ラクスにはまだ分からない。

 

(こんな私が、何を成すことが出来るというのでしょうか。ただ民を慰撫し、兵を鼓舞し続ける。それで良いのでしょうか)

 

 プラントのシンボルであり、希代の歌姫と呼ばれる彼女もまた、ただ一人の少女に過ぎなかった。そんな自分が何をすれば良いのか。ラクスは考え続ける。

 

 

 

 

 

 で、彼女は諸々のフラグがポッキリ折れてしまったわけだが、もちろんそんなことに気づくはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうでも良い設定

 

 

 CSS(クーロンセキュリティシステム)

 

 クーロン商会の子会社にして、警備関係を一手に担う警備会社……と言うことになっている組織。

 しかしその実態は実質上ロン・ヤア(リョウガ)の私兵であり、傭兵に依頼を仲介する傭兵派遣組織でもある。

 所謂ギルド的な側面があり、登録した傭兵に適切な仕事を割り振るオフィスとしても活動している。その仕事は信用第一。最低でも自ら傭兵に「騙して悪いが」系の依頼はしないし、依頼者がそのようなことをすれば制裁するくらいにはしっかりしてるようだ。

 新興の組織ではあるが、その姿勢から傭兵たちからの信用は高まりつつあり、サーペントテールなどの有名な傭兵も登録者として名を連ねている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 エクリプスガンダムは2機あるそうですが……多分1機は強奪されるか裏切るかするんだぜ。そして魔改造されるんだぜ。(偏見)
 HG出たらオリジナルも魔改造も買うだろ常識的に考えて。捻れ骨子です。

 はいそんなわけで今回は閑話という名の番外編。本編放っておいてなにやってんだという意見もあるでしょうが私は謝らない。ともかく本来の主人公たちが現在どうしているかというお話でした。
 キラ君とかアークエンジェルクルーとかモブ扱いになりつつありますが、本編に絡む理由がなければこんな物ではないでしょうか。キラ君なんかはクルーゼさんに引きずり出されそうな気もしますが、クルーゼさん自体が今そんな状況じゃありませんからねえ。ちょっと行く先が怪しいかも知れませんけど、多分彼はしばらく平穏なままです。
 そしてラクス嬢は漂流フラグそのものがたたき折られちゃったよ。いやあ、あのやらかしはこれくらいの影響は出るでしょう。市民は訝しがるでしょうが、上の方はそれどころじゃないでしょうし。シーゲルさんがんばえ。(他人事)

 そう言ったわけで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5・人脈は、作っておいて損はない

 

 

 

 さて、いつものごとく俺の執務室。

 その床に、俺は正座していた。

 

「で、どういうことなのか説明しろ」

 

 多分ものすごく目つきの悪くなった状態の俺に問われるのは、頭にたんこぶ作って(俺が拳骨落とした)同じように正座したカガリ。萎縮した感じで、か細く答えを返してくる。

 

「その、向こうについてしばらくしたら、父様の知り合いだって言うゲリラのリーダーから連絡があって……話を聞いたら、ザフトに土地を占拠されてて、圧政を強いられてるって言うから……」

「言うから?」

「ザフトの指揮官に、食ってかかってしまいました」

 

 つまり原作でも出てきたレジスタンス、【夜明けの砂漠】のリーダー【サイーブ・アシュマン】の話を聞き、アンドリュー・バルトフェルドに喧嘩腰で噛み付いたということだ。ふむ、と頷いてから、俺はカガリの隣で背筋伸ばして正座している男にも問うた。

 

「そんで、これは拙いと、慌ててこいつ国に送り返したわけだな?」

「はっ、小官らの不注意でした。処罰はいかようにも」

 

 【レドニル・キサカ】一佐。オーブの軍人だが、出身地は今回カガリを送り込んだ辺りで、土地勘があるから案内を兼ねてカガリにつけた。恐らくはカガリの行動にも関与していたのだろう。

 まったく……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「気持ちは理解できる。キサカ、貴官もだ。故郷が占拠されて、良い気分がするものではあるまい」

「はい、いいえ。小官はオーブの軍人です。そうである以上、個人的な感情に流されるのは不適切かと」

「そういうことにしておこう。ともかく感情的には理解できるが、自分たちの立場を忘れたのが問題だ。我々はあくまで戦災に対する救助、復興支援を目的として軍を送り込んでいる。見逃せなかったからと現地勢力のどこか一つ所に肩入れするのは、よろしいことじゃない」

 

 現状はあくまで中立という立場からの介入だ。そして原作みたいにカガリがゲリラに参加していたりすれば、本来大問題である。何かをするとしても、()()()()()()()()()()()

 

「問題を感じたというのであれば、最低でも本国に連絡を取り、指示を仰ぐべきだった。感情にまかせて行動すれば自分の身だけではない、派遣した軍全員、下手をすれば現地の人間にも累が及んだ可能性があっただろう。……即座にお前を国に送り返した軍の司令官に感謝するんだな」

 

 これで問題を起こした兵を更迭するという形に出来たのはファインプレーだった。幸いバルトフェルドの方も大きな問題にするつもりはないようで、現地のオーブ軍に対し何かアクションを起こす様子はない。

 しかしこのままで済ますというわけにも行かないだろう。

 

「まあこちらにもザフトと繋ぎを取らなきゃならない理由がある。今回のことは俺が何とかしよう」

「に、兄様? いいのか?」

「妹がやらかしたことを兄が補うのは当然だろう。その代わりに、だ」

 

 ぱちん、と指を鳴らす。さすれば執務室のドアがばあんと開いた。

 現れたのはカガリ付きの侍女である【マーナ】を筆頭にした侍女一個小隊。

 

「え゛?」

「お前にはしばらく礼儀作法とか叩き込んでやる。これまでサボってた分しっかり学んで貰うぞ」

「い、いや、兄様、ちょっと待って……」

 

 有無を言わさず侍女たちがカガリの肩を掴む。足がしびれてるカガリは逃げられない。何のために正座させてたと思っているんだ。

 

「ま、まて、マーナ! 話せば分かる!」

「カガリ様、その言い訳は聞き飽きました。これからみっちりったっぷりと淑女としての教育を受けていただきますからね」

「ちょ、離せ! やめろ淑女教育なんて嫌だあ! 兄様の鬼畜ー!」

 

 そのままずるずると連れ去られていくカガリ。心の中でドナドナを奏でつつ見送ってやった俺は、気を取り直して考え始める。

 いやいやアスランとイザークを捕らえちまったと思ったら、間髪入れずにこの騒ぎとは。だがこれで、()()()()()()()()()()()()()()()()と判明した。想定外のことは起こるが、それも原作……いや、()()()()()()()()()()()()()()()とは違う流れが生じているからだ。この先の流れは完全には予想がつかないが、()()()()()()()()()()()()()()。最低でもオーブという国をなんとか護ることが出来る目処はついた。果てしなく面倒な道のりだろうが。

 それに……()()()()()()()()()()()()()()()()。上手くすれば今後のための布石を打つことも可能となる。細心の注意を払う必要はあるがね。

 俺は次なる行動の算段を考え始めた。

 

「で、キサカ。貴官はそこでしばらく正座な」

「アッ、ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけでやってきましたアメノミハシラ。

 ……なんかひっさしぶりに執務室の外に出た気がするなあ。

 

「そんで、ギナはどこよ」

「いきなりそっちか」

 

 俺の言葉に呆れたような態度で言うミナ。彼女は鼻を鳴らして答える。

 

「新造艦で帰還したと思ったら、すぐさま傭兵とジャンク屋引き連れて試験航海とか言って出かけたぞ」

「あのやろう、逃げたな」

 

 流石にまた股間を攻撃されたらたまらないと思ったのだろう。ガキのころ、コトーに師事してから何かと絡んでくるので揉んでやったら、股間襲撃がトラウマになってしまったようだ。身体的スペックはあいつの方が上だが、俺は前世でクソ二人を動かなくなるまでしばき回した影響かどうにも凶暴性が増し、さらに兵士に混ざって軍隊流の戦闘訓練も受け続けてきた。その上で卑怯な手段を堂々と使うからな。高性能とはいえ慢心しまくりだったかつてのギナでは、分が悪かった。

 まあ今じゃ真面目にやり合ったらどうなるか分からんがね。

 

「帰ってきたら鼻毛毟っちゃる」

「地味に痛そうなのはやめて差し上げろ。精々額に肉と書いてやる程度にしてやれ」

「……お前自分と同じ顔なのに勇気あんな」

「区別がついて丁度良かろう」

 

 いやその立派な胸部装甲で区別つかないはないだろう。と思ったがセクハラ扱いされるのはなんなので黙っておく。

 まあそれは置いておいて。

 

「冗談はここまでにして本題に入ろう。例の二人は?」

「士官用の個室を貸しておいた。捕虜用ではなく我が軍のな」

「上出来。流石に気が利く」

「むしろ爆弾を扱う心持ちだったわ。ザフトの連中よほど人手不足か」

「国力じゃ連合に比べりゃ象と蟻さ。手段が卑怯すぎるが、それで五分以上まで持って行けたのは大したものだとも言えるがね」

「だが長続きはせん、か」

「当然。そこを理解しているかどうかが今後の分かれ道になるだろうな。誰にとっても」

 

 俺達は歩きながら言葉を交わす。ややあって目的地にたどり着いた。ドアの両側に立つ2人の警備兵が敬礼し、俺達もそれに応える。

 

「今はここで2人揃って待たせてある。中にも警備の者はいるが、油断するなよ?」

「肝に銘じておくさ」

 

 ドアがスライドし、俺は室内に足を踏み入れる。

 

「待たせてしまったようですまないね。初めましてと言っておこう」

 

 小さな会議室のような部屋。その四隅にはサブマシンガン提げた兵が佇み、中にはテーブルと、その向こうに座する2人の少年の姿がある。

 アスラン・ザラとイザーク・ジュール。ふむ、アニメではなく実際の人間として相対してみても、なかなかの美少年ぶりじゃないか。なんかぽかんと間抜けな顔になっているが。

 

「……オーブの、龍……」

 

 間抜けな顔のまま、アスランが唖然とした声で言う。次の瞬間、少年2人は揃って椅子を蹴倒して直立不動となり、めっちゃ緊張した表情で、びしすと敬礼して見せた。

 

「じ、自分はザフト、ラウ・ル・クルーゼ隊所属、アスラン・ザラであります!」

「同じくラウ・ル・クルーゼ隊所属、イザーク・ジュールであります!」

 

 ……いやさ、有名人って自覚はあるし、悪名轟いてるって知ってるよ? けどここまでビビることないんじゃない? 特にイザークさ、君そんなキャラちゃうやん? 思わず言いたくなったがそこは堪えて、俺はよそ行きの態度で2人に語りかける。

 

「そう緊張せずに楽にしてくれたまえ。……その様子ならもう知っていると思うが、リョウガ・クラ・アスハだ。オーブ代表首長補佐官なんてものを務めている」

 

 2人に椅子を勧めてから、俺も用意された席に座る。とりあえず座ったものの、2人はガッチガチに緊張したままだ。別にとって食いはせんのだが、この子ら一体俺にどんなイメージを抱いているのか。

 

「ふむ、そんなに怖がられるようなことをした記憶は……ないでもないが、プラントに直接何かをしでかした事はないはずなんだがね?」

 

 むしろプラントには裏で協力してきたぞ? 打算ありまくりだったが。

 と、そこで意を決した表情となったようなイザークが、口を開いた。

 

「し、失礼ですが、発言をよろしいでしょうか!」

「イザーク!」

「構わんよ。何かね?」

 

 小さく咎めるアスランを手で制して、俺は促す。

 

「はっ! ありがとうございます! ……恐れながら、国際問題になるような事を自分たちは行いました。そのことで軍事裁判などの処分を受けるのであれば納得が出来ますが、()()()()()()()()()()であるリョウガ・クラ・アスハ氏直々に面談を受ける理由が、分かりかねます」

 

 ……ああ、なるほど! この子ら俺という存在自体にビビっていたのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にビビっていたのか! 直情的だと思っていたが、イザーク結構考えてんな。前もって説明された事実を理解しているようだし。

 それはそれとして実質上の首相とか言い過ぎだとは思うが、俺が直々に出てくるのはそれなりの理由がある。

 

「プラント国防委員長の息子と、最高評議会議員の息子。相対するにはそれなりの立場の人間が必要だと思わんかね?」

「じ、自分は母とは!」

「関係ない、と言いたいだろうが、政治はそれを許してくれん。君たちを無下に扱うことは出来んのだ。納得は出来なくても理解はして欲しい」

 

 反論しようとしたイザークを押さえ込む。必要なのは()()()()()()()()()()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()だ。単なる手札として使うつもりはない。

 気持ち的には2人の身柄と引き換えに、クルーゼを主犯としてこちらに引き渡せと交渉したいところだが、原作では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という大罪犯した2人に何の処分も下さなかったザフトを、俺は欠片も信用していないのだ。流石に目の前の2人を見捨てるとまでは思わないが、そのような交渉は難航する。間違いなく。

 

「ともかく報告書は見させて貰った。君たちは()()()()()()()()()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういうことになっている」

「っ!? それは!」

「そういう形で納めたいのだよ、アスラン・ザラ君。君の父君、そしてエザリア・ジュール議員はタカ派だと聞く。そして現状のプラントは彼らが主流派だ。下手なことをすれば彼らは我が国を敵と見なすだろう。だがこちらはプラントを敵に回すつもりはないのだ。事が波風立たないように収まるのであれば、それに越したことはない」

 

 嘘だがな。いざとなったらプラントを敵に回すプランの3つや4つはある。願わくばそれを使う羽目にならないようにとは思っているが、それだけだ。

 納得いかないような表情で黙り込む2人。自分たちが置かれた立場と心情に折り合いがつかないのだろう。気持ちは分かる。しかし悪いが()()()()()()()()()()ぞ。

 

「……とは言っても、君たちを素直に帰すと言うわけにも行かない」

「? それはなぜかと、聞いても?」

 

 俺の言葉に、アスランが問うてくる。頷いて俺は答えを返した。

 

「我が国にもうるさいのがいる、と言うことさ。死者も出ず被害もほぼなかったとは言え、我が国の船が襲撃されたのは事実だ。国防の観点から見ても捨て置けぬ、などと言う者もある」 

 

 いやおらんけど。つーか黙らすけど。詐欺師になった心持ちで、俺は話を続けた。

 

「そういった者を納得させるためにも、君たちには()()()()()()()()()でザフトに戻って貰うことになる。まずは……」

 

 そこで俺は、にやりと笑った。

 

「地上へ、降りて貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人との面談と、これからの説明を済ませ、俺は部屋を後にしミナとともに歩む。

 

「思った以上に大人しかったが、何をやった?」

「ギナが懇切丁寧に状況を説明してやっただけさ。銀髪の小僧は威勢が良かったようだが、流石に理解してからは青くなっていたぞ」

 

 なるほど、ギナは良い仕事をしたようだな。

 ……いぢるのは勘弁してやるか。

 

「そういうお前も今回は随分と控えめだな。私はてっきりあの二人を丸め込んで、引き込むのかと思っていたが」

「時期尚早だよ。あいつらはまだまだ若い、もちっと熟成せにゃ色々と使い物にならん」

「お前の判断基準はよく分からんな」

 

 大体原作知識と勘だよ、と言う事実は言わないでおく。それはまあ半分冗談として、今あの二人を口説き落とす気にはなれない。特にアスランは無理矢理仲間に引き入れても、後で裏切る可能性がある。そういった場合、裏切られた勢力は大概酷い目に遭っているからな。験を担ぐわけではないが、味方に引き入れるのであれば自らそう望んだ場合だけだ。そのときになって考えるというレベルだろう。今は2人の心に楔を打つ程度でよかろうさ。

 

「それはそれとして、あの2人をどこへ連れて行く気だ? マルキオ導師に任せるとでも?」

「いや、別口だ。行く先は――」

 

 目的地を告げたら、ミナは少し眉を寄せた。

 

「並の人間なら気が狂ったかと疑うところだが、お前のことだ、何か考えがあるのだろう?」

「もちろん。()()()()()()()()()()。精々利用させて貰うさ」

 

 にやりと笑う俺に対し、ミナは渋い表情になる。

 

「……時々思うが、お前実はアスハではなく、うちの養父(コトー)の隠し子とかじゃあるまいな?」

「褒め言葉と受け取っておくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、準備を整えた俺は、幾人かを伴って地上に降りる。

 

「あなたが頭おかしいのは分かっていますけど、今回はまた格別に頭おかしい事考えましたわね」

 

 呆れ果てたと言った様子で毒舌かましてくるのは、妙に色っぽいスーツを身に纏った淡い金髪の女性。【リシッツァ・コチャンスキー】。商会の幹部の一人で、CSSの代表を任せている人物だ。

 今回引き連れてきたのは彼女と配下の猛者たち。彼女自身もかなりの修羅場をくぐっている強者だ。まあ出番はないと思うが、念のため、な。

 

「まともな手段じゃ簡単に状況は打開できん。何しろ世界は戦争中だ、多少狂ってる方が通りが良いだろうよ」

「開き直りじゃなくてガチで言ってますわねこの人。平時だったら病院行きですわよ?」

 

 まあ自分がアレでナニなのは自覚している。アレでナニで突き進まなかったらお先真っ暗なんでな。しかもこの後平穏は続かないと来ている。前世もそうだったが今回も人生クソゲーだ。

 と、不意にリシッツァが俺の前に回り込み、上目遣いで顔をのぞき込んでくる。

 

「命がけで思い切ったことをするのであれば、思い残しの無いようにしたいとは思いません? ほら丁度目の前にいつでも手を出して良い美女とかいるんですけれど」

 

 半分くらい露出した胸を強調するようにしながら言う。それに対して俺は、ものすごく冷めた視線を向けてやった。

 

「極上のフルコースに見えて実は毒入り、なんてものに手を出す気になれるかい」

 

 この女ことあるごとに俺を誘惑してくる。()()()()()()()()()()()()が、なんかプライドに障るのだろう。半分意地になってる部分もあるのだろうが、俺は知ってるんだぞ?

 

「そもそういう台詞は、仲間内で()()()()お前(リシッツァ)()()()()()()()()()()()()をやめてから言え」

 

 言いながら周囲の連中に視線を巡らせば、全員が視線をそらしやがる。まったく、チヒロを胴元に変な賭けしやがってこいつら。余計に手を出す気になれんわ。

 当の本人は悪びれる風もなく、いたずらげにウィンクして見せた。

 

「ちょっとした人生のスパイスですわよ?」

「香辛料効き過ぎてるわ」

 

 退屈はしないで良い、と言えるほど大物じゃねえんだよ俺は。まあ気が楽になっている部分があるのは認めるけどな。今のも俺の緊張を解す為っていう理由もあるのだろう。多分。

 

「ともかくそれは横に置いておくとしてだ、多分相手は一筋縄じゃ行かない。心しておけよ?」

「お任せくださいませ。給料分の仕事はいたしますとも」

「結構。それじゃ、行ってみようか」

 

 俺は整髪料を付けた髪をなでつけ、眼鏡をかける。

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お初に。()()()()()()()()()()。席を設けていただいたことに感謝をいたしますよ。()()()()()()()()()()()()()()殿()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラ紹介

 

 

 リシッツァ・コチャンスキー

 

 クーロン商会の暴力装置CSSの代表を務める女性。

 その名前から分かるだろうが、ユーラシア連邦の出身。そしてコーディネーター。実は元々連邦のイリーガルな工作員であり、かつてリョウガの命を狙ったが返り討ちに遭い、そしてスカウトされたという異例の経歴を持つ。

 リョウガに対して気のある風を装うが、半分は意地とネタらしい。しかしもう半分は……?

 なおチヒロとは普段結構仲が良いが、時々仲が悪くなる、らしい。

 名前のリシッツァは、ロシア語で狐という意味。偽名バリバリだな。モデルは某FGOのTV・コヤンスカヤ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あそこまでキット出すんなら、ショートアニメじゃないほうがよくない? 色々事情があることは分かりますが。リアルが売れてないのも分かりますが。
 だから新作作った方が売れるってばよものに寄るけど。捻れ骨子です。

 はい問題発生&悪巧みの回。カガリだったらやる。俺はそう信じている。そしてリョウガさんなら逆手に取って利用する。そんな感じでこんな展開に。バルトフェルトさんは逃げた方がよさげです。
 アスランとイザークの扱いがあっさり目ですが、下手な利用の仕方をすると痛い目に遭いそうなので、リョウガさんはあまりペナルティ考えずに返す方向のようです。その分誰かが苦労するかも知れませんが彼は謝らない。だってあいつら抱え込んで苦労したくないもの。
 そして意外に面白いキャラになりつつあるサハク姉弟。多分子供の頃からリョウガに付き合っていくうちに丸くなったんでしょう。きっと。
 そういやリョウガの外観について言及していませんでしたが、某BLEACHの藍染 惣右介あたりをイメージで。ただし髪を下ろしてるときが目つき悪くて、セットすると眼鏡という感じで。つまり全体的に胡散臭い。声は速水さんか小杉さんを希望。

 とにもかくにも次回はバルトフェルトさんが犠牲者。(酷)逃げてー。
 つー事で今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6・良心の呵責とか、そんなもんはない

 はいここ独自設定とか入りまーす。



 ザフト北アフリカ駐留軍司令部官舎。

 親プラントの立場を取る【アフリカ共同体】の領土内にあるそこは、地元のホテルを接収したものらしく、結構豪華な作りをしている。その一室で俺は司令官であるアンドリュー・バルトフェルドと対峙していた。

 

「噂のロン・ヤア氏が面会したいと申し出てきたのには面食らったが……いやはや、()()()驚かせて貰ったよ」

 

 テーブルを挟んで座るバルトフェルドの表情は、苦笑。うんまあ、バレるわな。こんな変装なんぞ知ってる人間には丸わかりだ。たまに気づかない人間もいるけど。うちの妹とか。

 まあ俺も正体を隠すためにやってるわけじゃない。そも(ロン・ヤア)が人前に出るのは、()()()()()()()()()()()()だけだ。バルトフェルドとはこれから長い付き合いをする可能性があるし、少々腹を割って話をしておきたい。そんな理由もあった。

 

「世の中には似た人間が三人はいるそうで。そう思っていただければ」

「そういうことにしておこう。……コーヒーはお好きかな?」

「そうですね、泥のように濃く、苦いものが」

「随分と変わった好みだ」

 

 微妙に困ったような表情となるバルトフェルド。背後でリシッツァが呆れたように息を吐く気配がするが、まあいつものことだ。

 ややあって、俺の前にことりとマグカップが置かれる。置いたのはバルトフェルドの側近にして愛人(?)【アイシャ】と呼ばれる女性だ。にっこり笑う彼女に礼を言い、俺は淹れ立てのコーヒーを口にする。

 ……うん、良い具合に濃く、そして苦い。一発で俺好みのコーヒーを淹れるとは、なかなかやるな。

 

「え、それ平気なんだ……」

 

 なんかアイシャが驚いた顔で小さく呟いている。なるほど、別な意味(ちょっとしたおちゃめ)で狙ってたのか。だが生憎ガチ好みなんだよ。目が覚めるしな。

 

「アイシャ? ……いや何か、すまないね」

 

 ちょっとアイシャに目線を向けてから、バルトフェルドが詫びを入れた。俺は軽くかぶりを振ってみせる。

 

「丁度いい塩梅ですよ。お世辞抜きでね。……コーヒーはこうでなければいけない。人生においては苦く苦しいことを飲み込まなければならないときがある。それを実感できますので」

 

 格好を付けたが大した意味は無い。いやホント好みなんだけど、こういうの淹れると周りがうるさいからなあ、カフェイン取り過ぎとか。普段はごく普通の淹れ方だぞ? たまにしかやらないからいいだろうに。

 ……それはそれとして、軽いジャブはこの辺にしておこう。

 

「では本題と行きましょう。……リシッツァ君、例のものを」

「はい、こちらです」

 

 リシッツァが渡してきたものを受け取り、バルトフェルドの前に差し出す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お確かめください」

「う、うむ、拝見しよう」

 

 何でこんな回りくどいことしてんのこの人。そう言いたげな表情で、バルトフェルドは親書を受け取り開封する。

 そして目を通していくうちに、その眉が顰められた。

 

「……この間の件に関する謝罪は分かる。だが、保護したザフト兵2人の身柄を引き渡す、というのは?」

 

 やはり聞いていなかったようだな。バルトフェルドの態度に、そう確信する。俺が親書にしたためたのは、「うちの兵がえらいすまんかった、そこはマジ謝る。それはそれとしてザフト兵保護したから身柄引き渡すわ(要約)」という内容だ。アスランたちのことを耳にしていれば、何らかの取引を持ち込まれていると判断できるであろうが、どうやら彼は何も聞かされていない。まあ事が事だ、箝口令くらいは敷いているだろう。

 俺は再びコーヒーを口にしてから、言葉を放つ。

 

「こちらでオーブの人間が問題を起こしたのとほぼ同時に、宇宙でオーブの艦とザフトの艦が少々トラブルを起こしたようでして、その際ザフトのパイロット2名がオーブに保護されたらしいですよ」

「……その、問題を起こしたザフトの部隊は?」

「クルーゼ隊と言うそうです」

「よりにもよって、ヤツか……」

 

 バルトフェルドが渋い顔つきになる。原作でもクルーゼに不信感を持っていたからな。こう言う反応になるだろう。

 

「それで、あなたは自分に何を期待している?」

 

 鋭い眼差しで問うてくるバルトフェルド。俺はすまして答えてやった。

 

「私は商人ですので、よりよい取引が出来れば、と。……オーブの思惑としては、手柄のチャンスを上げるから、こちらのやらかしをチャラにしてくれ、と言ったところでしょうね」

「……やはり俺に食ってかかってきたのは、オーブの要人、その関係者か。……恐らくは首長代表の娘、カガリ・ユラ・アスハ嬢」

「ご想像にお任せしますよ」

 

 当然のように気づいていたな。彼がその気になれば、カガリのやらかしはオーブに難癖を付ける材料となる。幸いにして本人に事を荒立てる気はなかったようだが、情勢が変わればどうなるか分かったもんじゃない。故に恩を押しつけようというわけだ。

 

「あなたがオーブと交渉し、2人の身柄を引き取った。そういうことにすれば、上の覚えをめでたく出来るのでは?」

 

 俺の言葉に対し、渋い顔のままのバルトフェルド。

 

「正直気に入らない手段だな。……それに、自分に恩を売ることでオーブになんのメリットが?」

「ザフトを敵に回したくないので、交渉の窓口を増やしたい。……と言う推測では納得できませんか?」

「出来ないね。オーブは、いや、リョウガ・クラ・アスハという人間は、それほど手ぬるいものじゃないだろう」

 

 ……いいね、やはり分かっている。それこそこう言う人間を敵に回したくない。だから直接()()()()()()()のだ。

 

「ではまず一つ伺いたい。ラウ・ル・クルーゼという人物、簡単に敵を誤認するような男でしょうか?」

「……その様子だと、クルーゼ隊が有無を言わさず一方的に仕掛けてきた、と言うところか」

「その上で、部下たちは何も聞かされていなかったようですよ」

「ならばほぼ間違いなく、オーブのものと知りつつ仕掛けたんだろう。……あなたは、いやオーブは彼を警戒しているのか?」

「正確に言えば()()()()()()でしょうね。そもそもこの戦争、()()()()()()()()()()()()かと。血のバレンタインしかり、エイプリールフール・クライシスしかり」

 

 さて、()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()のですよ。無警告で理事国の財産たるプラントに核を打ち込んだり、無差別に被害を及ぼすほどのNJを打ち込んだり。再構築戦争のような混乱時でもないのに、あまりにも後先考えていないように見える」

 

 核打ち込んだのはブルコス派の暴走だろうし、NJは戦力差をひっくり返す為のものだろうがな。しかしものは言い様。裏があると思わせれば、いくらでも疑いが出てくるものだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように思えるのですよ。そういう目線で見ると、『ラウ・ル・クルーゼの行動は、オーブを戦いに巻き込もうとした策略』……と考えるのは、うがち過ぎでしょうか」

 

 バルトフェルドは押し黙る。まあ策略は策略だ。ただしクルーゼ個人のものだが。しかし胡散臭くは思っていても、クルーゼの背後を知らないバルトフェルドには、そこまで分からない。

 ややあって、彼は口を開いた。

 

「なにか裏がある、と?」

「確証は何もありませんね。しかし最低でもラウ・ル・クルーゼは疑わしい。オーブではそう考えているようです」

 

 食いついてきたな。さて、上手く釣り上げられるかどうか。

 

「なるほど、自分にヤツを探る獅子身中の虫となって欲しい、といったところか」

「願わくば、と言ったところでしょう。お引き受けにならなくとも、保護された2人の身柄を引き渡さない、などということはしますまい」

 

 皮肉めいた台詞を受け流しながら言葉を返す。

 

「それにあなたも、()()()()()()()()()()()()()は御免被るでしょう? この辺りの統治にも苦労なさっているようだし、余計な横槍は入れて貰いたくない。違いますか?」

 

 バルトフェルド隊は、()()()()()()()()()()()()()この辺りを実効支配している。共同体はプラントが理事国に回していた分の輸出と引き換えに、ザフトの駐留とマスドライバーの占拠を許したのだ。だがそれに不満を持つ現地のレジスタンスや、ブルーコスモス派のテロリストへの対処に苦心しているのは、原作にもあった通りだ。特にレジスタンスに対しては()()()()()()()()()()だろう。()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 原作では本拠地に襲撃をかけるような対処をしていたが、あれはアークエンジェルというイレギュラーが舞い込んだからこそ。元々レジスタンスが支配下の町に物資補給の買い付けをしても見逃していたくらいだ。そのようなことがなければ取るに足らない……とまで言わないが、積極的に殲滅する気も無いだろう。

 そういったことを置いても、この戦争自体に何やら不穏な空気がある。しかも前から不審に思っていた人物が関わってる可能性があると聞いて、黙っていられる人物だろうか。それが出来るなら、ラクス嬢の口車に乗ったりはしないと思うが、ね。

 

「……そうか、下手をすればザフト、プラントへの内政干渉という話になるから、あなたはこのような形で話を持ち込んだのか」

 

 そういうわけだ。リョウガ・クラ・アスハとして直接この取引を行うのは少々問題となる。だから表面上だけでもクーロン商会というクッションを入れた、と言う形にした。まあパフォーマンスでしかないとも言えるし、なんなら本当に商会の人間に任せても良かったのだが、俺自身がアンドリュー・バルトフェルドという人間を見極めたい、という思いもある。だからこんな面倒なことをしてみたのだ。

 俺は再びコーヒーを口にしてから、話を続ける。

 

「この戦争が馬鹿げている、とまでは言いますまい。だがもし何らかの企みによって引き起こされたものであるならば……それは命をかけているものに対する冒涜でしょう」

 

 自分のことだがよく臆面も無く言ったものだ。俺自身が一番命を冒涜しているかも知れんというのに。何しろ己の都合のために本来の流れをしっちゃかめっちゃかにする気満々だ。今のところ自国の被害は最小限ですんでいるが、それで良いというわけでもないし、これからしっぺ返しがないとも限らない。

 だが都合の良い未来を切り開くためならば、逃げも隠れもするし、嘘もついて見せよう。

 

「あなたは……この戦争を終わらせたい。そう思っていると?」

「商人としての意見ですが、戦争をしている状態よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですよ。戦争中は兵器と消耗品しか売れませんが、それなりの緊張感を保っている状態ならば、それに加えて色々なものが売れる。流通も安定しますし、安心して商売が出来るというものです。オーブとしても似たようなものでしょう」

 

 これは俺の持論だ。基本戦争は()()()()()()()。単に物質的なものだけではなく()()()。将来的な消費者になるであろう人間を減らすと言うことは、最終的に先細りを意味する。軍需産業――兵器の商売など、所詮は局所的なもの。一時的には儲けられても安定した商売とはなり得ない。

 あんなのは緊張感を保った状態で()()()()()()()()()()のが一番良いのだ。適度に趣味と実益を兼ねた開発とか無駄に出来る環境であれば最高だろう。

 ……ふむ、その辺見据えた新たな商売でも考えてみるか。などという俺の思考など知るよしもないバルトフェルドは、難しい顔で考え込んでいる。

 

「……俗物だな」

「情の分からぬ人でなしという自覚はありますよ」

 

 俺はオーブの民以外の人間を()()()()()。あるいは原作知識を持って無理をすれば、血のバレンタインを止められたかも知れないし、エイプリールフール・クライシスは起こらなかったかも知れない。だがそれは無理と無茶を重ねた上で、全てが都合良くいったらの話だ。そこまでする勇気は無かったし、それが出来ると思うほど己の才に自惚れてもいない。人でなしここに極まれり、だ。

 

「人でなしは人でなしなりに、思うところがあると言うことです。今回はあなたと接触する理由があり、そして恩を売りつける材料があった。言わば機を見た投資ですよ」

 

 押し黙るバルトフェルド。ややあって彼は口を開いた。

 

「……正直なところ、やはりあなたは気に食わない。あるいはこの場でけりを付けた方が良いのかもと、思うほどに」

 

 その言葉にぴくりとリシッツァが反応しようとして、俺はそれを手で留めた。

 

「しかしいかなる理由があったとしても、戦いを終わらせたいという意思には賛同できる。そして、背後で何かが蠢いているとすれば、こちらとしても面白くないのは確かだ」

 

 ふう、と疲れたような息を吐くバルトフェルド。原作で彼は、戦いはどちらかが滅ぶまでは終わらないと、そのようなことをキラに言っていたが、俺はそれが本心だとは思えなかった。

 終わりの見えない戦い。そしてキラのような少年と戦わなければいけない葛藤。複雑な内心の思いを押し隠した言葉が、ああいうものだったのでは。キラに対して敵として立ちはだかるための、()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思えてならない。

 果たして彼の判断は――

 

「いいだろう。あなたの話に乗ってみるとするさ。クルーゼの背後関係を洗えば良いのだろう?」

「やっていただけますか。感謝いたします」

「自分はこういうことが得手では無い。何も出てこなくても、恨まないで欲しいな」

「取り越し苦労であるならば、それに越したことはありませんよ。何があろうと無かろうと、ご一報いただければ、それで十分」

 

 あるけどな確実に。クルーゼの思惑はともかく、ヤツの裏は色々と黒い。多分某ロン毛の将来的に議長になりそうな男が色々と協力しているのだろうが、出自を誤魔化していること自体が疑念となる。上手くすればヤツが連合に伝があることも突き止められるかもだが、そこはバルトフェルドの腕の見せ所だろう。そして。

 

「その結果、()()()()()()()()()()()()()()()()はお好きになさればよろしいかと」

 

 本命はこっちだ。クルーゼを調べる過程で、バルトフェルドは様々なことを知るだろう。そこから彼がどう判断しどう行動するか。最低でも従順な兵のままではいられまい。

 ザフトに対する内部疾患、とまでは言わないが、喉に刺さる小骨くらいにはなって貰おう。万が一敵に回るようであれば、それまでだ。強敵になってしまうだろうがね。

 

「やはり食えない男だ、あなたは」

 

 苦笑しながらそう言いつつ、バルトフェルドは右手を差し出す。俺もまた手を差し出し、握手を交わした。

 そうして細かい話を詰め、大体纏まった辺りで俺は切り出す。

 

「そうそう、サービスというわけではありませんが、一つ()()()をさせていただきたい。よろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドン引きしましたわ。向こうの秘書さん(アイシャ)も似たような顔してましたわよ」

「彼女も中々肝は据わっていたがな」

 

 車で移動しつつ、俺とリシッツァは言葉を交わす。

 浮世離れした雰囲気のアイシャが「えぇ~?」とでも言いたげな表情になるのは中々見物だった。彼女としては、あの『いたずら』で俺の反応と度量を見る――俺という人間を()()()()腹づもりだったのだろうが、まだまだ詰めが甘い。()()()()()()()で眉を顰めるようじゃな。

 いやこっちも原作知識というチートがあるからこそなんで、偉そうには言えんのだが。

 

「でも彼女の気持ちは分かりますわ。()()()()()をして、何の意味がありますの?」

「売れるときに恩を売っておくのさ。折角縁があったんだ、貸しを作っておくのは何かの役に立つかも知れない。それに……」

 

 俺はにやりと笑ってみせる。

 

「上手くいかなかったところで、俺に、()()()()()()()()。こっちは努力したと言い訳できるしな」

 

 その言葉に、リシッツァは複雑な表情となった。

 

「……私も自分はろくでなしだという自覚はありますけれど、あなたには負けますわ」

「褒め言葉と受け取っておくよ」

 

 そんな俺達を乗せて車が向かう先は、()()()()()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現地のオーブ軍から前もって話を通していたこともあって、俺達はすんなりと目的の人物に会うことが出来た。

 

「悪いね。こっちも色々と事情があるのさ」

「オーブの重鎮が直接訪れたとなれば色々騒ぎになるだろう。その辺は理解している」

 

 面会すると同時に俺が変装を解いて相対するのは、サイーブ・アシュマン。この地で最大のレジスタンスである明けの砂漠を率いるリーダーだ。

 一体何の用事だと、彼の目は語っていた。多分親父殿の周辺から色々と聞き及んでいるのだろう。粗暴に見えるが元大学教授で、親父殿とは所謂同じ釜の飯を食った仲だ。相応の知性と見識を持っている。

 先手はサイーブが打ってきた。

 

「恐らくは先立って私がカガリ嬢を焚き付けた件だろう。あれは私の独断だ。町のものには……」

「おっと、俺はそれを咎める気は無いよ」

 

 サイーブの言葉を制する。いや本当に咎める気は無いんだ。何しろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな。むしろ感謝する気持ちすらある。

 そういった本心を押し隠して、俺は言う。

 

「故郷が占領されて、そして打開する有効な手立ても見つからない。そんな状況で利用できそうなものが現れたとなれば、不本意であろうとも利用しようとするさ。気持ちは十分に分かる」

 

 俺の言葉にサイーブは少し言葉に詰まったようだ。それはそうだろう、『お前たちじゃ逆立ちしてもバルトフェルド隊には勝てない』と言ってやったようなものなのだから。事実だと理解しているから、反論も出来ない。

 

「だがね、オーブとしてはあんたらに加勢するわけにもいかん。()()殿()()()()だけでもギリギリなんだ。下手をすればいたずらに戦火を広げる事にもなりかねない」

 

 原作でカガリが明けの砂漠に参加できた理由。それは親父殿がサイーブに請われて何らかの支援をしていたからだと踏んでいたが、実際調べてみれば全く予想通りで、親父殿は己の私財を投じて遠回しに明けの砂漠へ援助していた。

 親父殿としては旧友に対する情もあっただろうし、ザフトに対して牽制も出来ると考えてのことなのだろうが、まったく()()()

 

「つまり君は、我々に釘を刺しに来たと言うことか」

 

 親父殿の支援以外には何もしてやらない、そう告げに来たと判断したのだろう。サイーブは苦々しく言う。おいおい、()()()()して貰っちゃ困るぜ? 

 

「そう結論づける前に聞かせて欲しい。……この先、もしもザフトを追い出せたとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「む……それは無論、我らが故郷を取り戻した暁には、正当で公平な治政を……」

「そう簡単にはいかない、と断言させて貰おう」

「……なぜだ」

 

 話の腰を折られたあげく物言いを付けられて、サイーブは機嫌を損ねたようだが構わない。俺は話を続けた。

 

「よく考えてくれ。アフリカ共同体は()()()()()()()()()()()?」

「それは、ザフトが供する資源と技術に目がくらんだから――」

「だけじゃない。共同体には()()()()()()があるだろう?」

「足らないもの? 確かに資源や何やら、そういったものは多いが……」

()()だよ。他国と事を構える戦力が足りん」

 

 元々アフリカ共同体には連合の軍が駐留していたが、ザフトに蹴散らかされ敗退した。そこで共同体は手のひらを返し親プラントに鞍替えしたわけだが、そこには自国の戦力が心許ないという理由もある。

 サイーブは元大学教授だけあって地頭は悪くないが、そこら辺の要素には疎い部分があるのだろう。俺の言葉に眉を顰め、疑念の視線を向けている。

 

「しかしザフトを追い出せば、連合が戻ってくるだろう?」

「戻ってくるだろうな。そのとき()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「っ!」

 

 原作でもザフト駐留軍の主軸であるバルトフェルト隊が壊滅した後、連合軍は反攻作戦を行いザフト駐留軍は敗退。共同体は事実上解体された。仮にサイーブの目論見が上手くいったとしても、同じ事が起こる可能性は高い。

 

「そんな、連合がそこまで……」

「連中プラントに恨み骨髄だぞ? 甘く見ちゃいけない。ちょっと風見鶏したつもりでも、容赦なんぞするもんかね。ろくな戦力の無い共同体なんぞあっという間に踏み潰されるだろうよ」

 

 まあレジスタンス連中はある程度目こぼしされるかも知れんが、待っているのはボロボロになった国土だ。今まで以上の苦労をすることになるだろうな。

 それ以前にザフトを追い出すことが出来たとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がね。何しろ戦力と金のなる木を引っこ抜かれたようなものだ。レジスタンスに対してどう行動するか目に見えている。……とまあそこまでは武士の情けで言わないでおいてやるか。

 話を聞いたサイーブは、がっくりと肩を落とし絶望したような表情となる。

 

「我々の、我々のやってきたことは無駄だったというのか……」

 

 いや無駄というか、ちょっとやり方が拙い。やるんだったら情報集めに徹してザフトの隙を窺い、連合を介入させる手引きをするくらいはせにゃ。援助があるからつっても、戦力差ははっきりしてんだから真っ正面から挑みかかってどうすんだっての。

 その辺の本音は置いておくとして、俺は軽く鼻を鳴らした。

 

「とは言っても、俺はあんたを絶望へとたたき込みに来たわけじゃない。現状を理解して貰った上で、一つ提案があるのさ」

 

 その言葉に、はっと顔を上げるサイーブ。いやそんなに期待すんなて。蜘蛛の糸とは言い切れない提案なんだから。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……は?」

 

 唖然とした表情になるサイーブ。部屋の外で微かに響く、がたりという音。俺は()()()()()()()()()()続ける。

 

「オーブ軍を立ち会いにした、対話の席を設ける用意がある。向こうさんは戦況が膠着状態であるうちなら、いつでも話を聞くとのことだ」

「まて! それは我々に降伏しろということか!?」

 

 泡を食った様子で言うサイーブ。だから慌てなさんなって。

 

「そういうことじゃないよ。この話が気に食わないであれば蹴っても構わない。あくまで余計なお節介。()()()()()()()()()()()()()だ。戦い続けるのか、それ以外を模索するのかをな」

 

 そう簡単に納得出来るものではないだろう。だから無理強いなどしない。

 

「話し合ったところで決裂し、相容れないと再確認する羽目になるかも知れん。蓋を開けてみなければどう転がるか分からない話さ。だが戦い続けるのとは別な道が開ける可能性もある」

 

 むう、と考え込むサイーブ。今までの話、そしてこれから先がどうなるか。頭の中で算盤を弾いているようだ。

 こんなところ、かね。

 

「あんた一人で決められることでもあるまい。よくよく相談して、決まったらオーブ軍に連絡を入れてくれ」

 

 そう言って席を立つ。サイーブは「ちょ、待った……」と押しとどめそうだが、構わず退室しようと背を向けた。

 そこから首の上だけ振り返って、俺は最後に言い残す。

 

「そうそう、もしも二進も三進もいかなくなったとき……例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんかには、クーロン商会に声をかけると良い。必ず力になるよう言い含めておく」

 

 そして今度こそ俺は部屋を後にする。歩きながら眼鏡をかけ、髪を整える最中にも、周囲からガタガタという音が響き、警戒した視線が向けられるのを感じる。それらを無視する形で俺は建物を出て、待っていた車に乗り込んだ。

 走り出す車の中、俺とサイーブの会話を盗聴してたリシッツァが、疑念の眼差しを向ける。

 

「……何を企んでらっしゃいますの?」

「そりゃ普通に色々とだが」

「そうじゃなくて、サイーブ氏にはもっとふっかけるかと思いましたのよ? ただ機会をくれてやるだけで、恩を売ったとも言えないでしょうあれでは」

 

 まあ、そう見えるだろうな。だって今回()()()()()()()()()()()()()()()()もの。

 

「これで連中がバルトフェルド隊と和解すれば治安も向上する。そうでなくとも動きが鈍れば御の字。最悪何も変わらなければ、交渉する気も無い無法者だと理由を付けて遠慮無く叩き潰せる。()()()()()()()()?」

()()()()()()()()()()()()()ということですの!?」

 

 そういうことだ。レジスタンスやテロに悩まされている一番の被害者は、実のところ共同体の政府である。ここでレジスタンス最大の組織である明けの砂漠を押さえられればどれだけ楽になるか。とはいえそういった一連の状況も、オーブ自体にはあまり関係ない話ではあるが。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()からなあ。言わば恩返しってところよ」

 

 くつくつと笑う。え? どういうことかって?

 

 はい先ず、NJで混乱した上にザフトが降りてきて連合が敗退したアフリカ共同体における株価が急降下します。

     ↓

 そこら関連の株を買いあさります。(もちろん足はつかないように細工してます)

     ↓

 バルトフェルドさんが尽力して治安が向上した辺りで、オーブの軍を送り込み治安維持と戦災復興のために働かせます。

     ↓

 国が安定します。

     ↓

 株価が上がります。

     ↓

 ええ感じで上がりきったところで売り払います。

     ↓

 ね? 簡単でしょ?

 

(※なおこの男、他にもNJで被害を受けたところで同じようなことをやっている)

 

 ……あれ? なんか異次元の怪物を見るような目で見られてんだけど。

 

「うんあなた私なんか足下にも及ばない、ぐうの音も出ないド畜生ですわ」

「なにゆえ」

 

 この程度などほんの初歩だろうに。つか原作知識なかったらこんなに上手くいくかい。

 まあそれはともかくとして、これでバルトフェルドとサイーブに繋がりが出来た。この縁は後々の役に立つかも知れないものだ。上手く話が転がってくれれば良いのだが。

 俺は内心の期待をおくびにも出すことなく、なんか妙に腰の引けているリシッツァ相手の会話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このすぐ後に、アスランとイザークはバルトフェルド隊へと引き渡される。

 そして俺と、オーブという国を取り巻く状況は、次の段階へと進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バゲ子お前、ダ●ゼンガーやったんかい! 
 前々からスパロボ好きなヤツ関わってるだろと思っていましたが、これはもう確定やろ。分かる人にしか分からない確信を得た捻れ骨子です。

 はい龍虎相対す……だけで終わると思ったか! なんかサイーブさんも口説いてるお話です。
 なんでサイーブさんまでと思われるでしょうが、リョウガさん意外に己の立場捨ててレジスタンス活動している彼の気概を買っているかも知れません。
 なおバルドフェルドさんがわりとざっくばらんだったのは、リョウガがそう扱って欲しいと理解したから。サイーブさんと相対するときに素のキャラだったのは、親父の息子であることを前面に押し出したほうが交渉しやすいだろうという算段からです。効果があったのかどうかは分かりませんが。
 あとリョウガさんコーヒーの趣味だけはとことん悪い設定です。絶対虎さんとは相容れないでしょうそこだけは。つーか大概の人間とは相容れない。
 そしてアフリカ共同体周りは原作を元にした独自設定と言うことにしておいてください。つーか原作と違いや矛盾があるところは全部独自設定。いいね?(暴論)

 さてとりあえず問題児2人の押しつけは終わったことですし、これから先はどうなることやら。
 次回をお楽しみに今回は幕です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7・忙しすぎて暇が無い

 
また独自設定だヨ~。



 はいはい俺の執務室執務室。

 

「……なんで正座なのだ」

「説教するからに決まってるだろ」

 

 帰ってきて早速、俺は再び床に正座で膝をつき合わせていた。

 その相手は親父殿。つまりオーブの国主、代表首長ウズミ・ナラ・アスハその人である。

 

「……サイーブのことか。言い訳は、せん」

「言い訳はせんでもいいが反省はしろ。中途半端な手出しすんな」

 

 なんか疲れたように言う親父殿の言葉をぶった切る。情にしても策にしても隙が多いわあんなん。

 

「万が一の時には()()()()()()()()()()()()()()()とか考えてたんだろうが、1人だけ一抜けさせるか。最後まで苦労して貰うぞ」

「いや別に楽になりたいとか思っていたわけではないのだが……」

「だまらっしゃい。大体やるんだったらレジスタンス同士の連携を強めるように動いて波状攻撃で休ませないとか、共同体の弱み握って政治的に締め上げるとか、そういうのをやれ」

「お前そういうところだぞ」

 

 正座しながら微妙に引く親父殿。まったく、友人を見捨てられないのとザフトの侵攻に危機感を抱いていたのは知っているが、こっちに話を通しておけっつーの。場合によっては融通を利かすつーのに。

 まあ親父殿カリスマはあるが、政治的駆け引きにはあんまり強くないからな。平時だったら十分名君と言えるだけの指導力を持つが、こう言う生き馬の目を抜く状況だとその頑固さも相まって、どうにも動きが悪くなる。

 サイーブについては個人的な感情だからと言う理由もあって裏でこそこそ動いていたようだが、そこを上手く広げて国の利益に持っていくようにせんかい。下手すりゃ単に代表首長の座を追われるだけになっちまうぞ。誰がそんな楽をさせるか。

 ともあれ、それだけの理由でわざわざ正座させたりなんかはしない。

 

「まあアフリカの方は何とかしておいた。悪いが親父殿の援助にも細工させて貰ったぞ。簡単にばれたら困るからな」

「……あれは大分遠回しに迂回したルートで行っていたはずだが」

「分かるものが見たら分かるつーの。……で、それはひとまず片がついたとしよう。本題はこっからだ」

 

 俺は深々とため息を吐いた。

 

「親父殿、()()()()()()()()()()()?」

「む、むう……」

 

 単刀直入に言った俺の言葉に、親父殿は視線をそらした。俺に知られている時点で誤魔化しようがないと分かってるのだろう。分かってるんならやんなきゃ良いのに。俺は傍らから取り出した資料を見ながら言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()M()S()()()()()()だっけか? なんでそれを個人資産で、しかもこそこそやる。その上よく見てみりゃ、装甲周りだけでアストレイの20倍くらいコストがかかる換算じゃないか。なにこの【ヤタノカガミ】ってシステム。フラッグシップにしても豪勢すぎるわ」

 

 そう、DESTINYに登場したMS【アカツキ】の開発計画である。ストライクの設計データを流用したそれは、この時期には開発に着手していたはずだと思って調べたら案の定だ。秘匿工廠ならバレないと思っていたのかねこの親父殿は。

 俺の言葉に気圧されながらも、親父殿は言い訳じみた反論を始めた。

 

「いずれ必要になるものだと私は考えた。この先MSの開発競争は激しさを増し、所謂ハイローミックスの流れが生じるだろう。各勢力のハイに位置するものに対抗できる存在は必須だ。いざというときにそれがないでは話になるまい」

「だったらこそこそやらんとちゃんと話通せ。議会で認められりゃ予算も通るわい」

「……ヤタノカガミをはじめとする技術は、オーブにとって切り札となり得るものだ。可能な限り秘匿しておくべきだろう」

 

 この親父殿、さては俺を含めた身内も信用してねえな? まあ俺も強引に国の戦力強化を進めてるから、危惧を抱いているんだろう。だがな、()()()()()()()をしてるんじゃないよ。

 

()()()()()()()()()()()()()()。今は他にない技術でも、人間似たようなことを考える。すぐさま別の技術に取って代わられるだろうさ。後生大事に技術抱え込んで、いざ使おうとしたら時代遅れでしたなんて、しゃれにもならんだろうが」

「う、ぬう……」

 

 技術は競ってこそ伸びる。抱え込んで進化しなかったら、待っているのはガラパゴスだ。親父殿は妙なところで日本人気質なのかも知れない。

 

「ともかくこいつは次期MSの開発計画に放り込んでおくぞ。システムのコスト削減を図るなり流用するなりすれば、使えるところがあるだろう」

「う、うむ。……なんかわし、どんどん立場がなくなっていくような……」

「ブツブツ言ってないで次の仕事のこと考えろ。新規防衛計画発表の草案、上がってきてるぞ」

 

 俺は別な資料を親父殿に手渡す。こっちはやっと形になったものだ。ここまで持って来るのに苦労したよ。

 資料に目を通した親父殿は渋い顔だ。どうにもまだ納得しきっていない部分があるらしい。

 

「……正直な意見を言わせて貰えば、この【タメトモ】というレールガン砲台は不要に思えるのだが」

 

 防衛計画の一つ。鎌倉武士の中でも秀でた弓の使い手である源 為朝の名を冠したそれは、全長200m、口径1m強に達する巨大なレールガンである。これをオーブの首都があるオノゴロ島を中心にして諸島3カ所に設置し、オーブ領海全てをカバーできる防衛陣を構成すると言う趣旨なのだが、確かに性能だけ考えればオーバースペックにも思えるだろう。

 なにしろ推定される射程を考えると、地球全土に届くどころか、容易く衛星軌道を抜ける。そして弾頭の種類にもよるが、戦略核並みの破壊力を出すことも可能だ。

 つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()兵器である。実際は相対速度の関係で十分対処できるだけの時間がかかるが、プラントを狙えると()()()()事は出来る。

 

「『見せ札』は派手な方が良いのさ。そもこいつはマスドライバーの技術を応用したもので、さほどコストはかからない上に()()()()()()()()()()()()()()。うちが考えなくてもすぐさまどこでも思いつく程度のものだよ」

 

 そう、こいつは()()()()()()()()()()()。原作を知っている人間であれば、()()()()は容易く思いつくだろうが、今のところはまだ見せ札だ。使()()()()()に間に合えばいい。ひとまずこれに注視してもらい、『本当の本命』から目をそらせる。俺の思惑はそのようなものだった。

 

「予算は湯水のように……とは言わないが、これくらいの『はったり』をかませる余裕はある。打てる手段は全部打っておくべきだろう?」

 

 タメトモはどっちかと言えばびっくりドッキリメカ系列だ。見た目は派手だが連合各国が抱える数多の核弾頭に比べれば大人しい類いだろう。NJの影響で核弾頭は現在使用できない状態だが、そう遠くない未来問題は解決する可能性が高い。今のうちに対抗『出来そうに見える』用意はしておく。

 この先戦況が俺の理想通りに転がる――連合とザフトが休戦するように持って行ければ良いが、そうでなかった場合、連合かザフトかどちらか一方が勝利を収めてしまうと、次はオーブが狙われる可能性がある。

 何しろうちは()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。連合、特にその中核となっている【大西洋連邦】はブルーコスモスに牛耳られている国。オーブの存在が目障りになるだろう。ザフトはザフトでタカ派のやつらは()()()()()()()()()()()()()()()()()と見なす確率が高い。そうでなくとも、あいつらの理性など俺は爪の先ほども信用していないのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()のは必要だった。

 親父殿もそれは分かっているのだろう。いや分かっていたから原作では不本意ながらも軍備を整えた。結局それは色々と不足して国が焼かれる結果となったが、この世界では()()()()見せよう。蹂躙なんぞされてたまるものかよ。

 とりあえず(色々やったから)金はある。経済力の恐ろしさ見せてやるわ。

 

「……お前の言いたいことも分かるし、必要なことだと理解も出来る。だが何というか、石橋を踏み潰して渡っていくような不安感があるぞ」

「無事に渡れりゃなんだって一緒だろう。国護るためならいくらでも踏み潰してやるわい」

「お前そういうところだぞ、本当」

 

 親父殿は心底疲れたという顔で、深々とため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もちろん俺は真っ当な防衛計画も考えている。その進行状況を確認するため、俺はモルゲンレーテ本社工廠を訪れていた。

 

「生産のペースは予定通り。今月中には陸海空三軍に大隊規模で配備することが出来るでしょう」

 

 担当者の言葉に頷いてみせる。俺達の前で整然と並んでいるのは、レッドフレームに近い色合いのアストレイ。

 【MBF-M1量産型アストレイ】。型式番号こそ原作のM1アストレイと同じだが、その実少々異なっている。

 この機体、プロトタイプであるP0シリーズとほぼ同じというか、()()()()()()()()()()。フレーム構造はある程度簡略化されているものの、その代わり強度と整備性は向上し、そしてP0シリーズではむき出しだったフレーム部分にも装甲が追加されている。もちろんコクピット周りはP0同様耐ビームコーティングを施した複合装甲。ダメージコントロールではP0よりも上だ。そしてP0からオプション交換機能は継承しており、あらゆる環境下での作戦行動を可能とする。

 原作ではセンサー類とか色々とダウングレードされていたようだが、その辺りも手抜かり無く、むしろ一部のものはより高性能なものを搭載している。そういった強化や機体自体が重くなったこともあって活動時間は短くなったが、それはオプションに搭載されるバッテリーや、増槽の燃料電池などで十二分に補えるようにしてある。

 そして、P0シリーズからのことだが()()()()()()()()()()となっている。つまりP01ゴールドフレームに備えられていた連合の武器が使える共通プラグが標準装備と言うことだ。わざわざ規格を分ける必要性を感じなかったからこうさせた。これにより連合製の武器を使用することが可能となり、同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。商売がはかどるな。

 そういった諸々含めて基本性能はジンどころかシグーをも上回るものとなった。当然この先出てくるであろう連合の【ダガー】系列よりも上だ。試作品より弱い量産機とかない……なくない? と設計に口出ししてこのようにさせた。なに金はある。本来のM1より少々コストがかさむが、それでも原作より数は揃えられるぞ。

 

「各種オプションのテストもP04とP05をベッドにして順調にこなしております。最優先である【F装備】はほぼ全てのタスクが終了。順次パイロットの完熟に入ります。【M装備】もじきに。少々特殊なものですのでパイロットが慣れるのに時間がかかると思われましたが、意外に使いこなせるものが多いようで」

 

 原作では人手に渡ったり魔改造されたりしたP04【グリーンフレーム】とP05【グレイフレーム】だが、こちらでは各種装備のテストベッドとして使われている。多分実戦に出ることはあるまい。

 ともかくアストレイの生産と配備は予定通りだ。なんだかんだ言ってこれから先MSは主力となる。連合に先んじて使い物になるようにしておくのは必要だから金突っ込んだぞ。

 

「その分【R装備】は後手となりますが……よろしいので?」

「オーブは海洋国家だ。防衛に徹しようと思ったら海上でけりを付けなければならない。本土でR装備の出番があるとすれば、それはもう負けと同意だよ。万が一のための備えくらいに思ってくれれば良い。陸軍にとっては貧乏くじだろうが」

「承知いたしました。では次いで生産される分の配備は予定通りに」

 

 量産型アストレイの強みは、全軍で機体を共用できるというところだ。装備の換装とOSの調整でどの状況でも運用可能。ぶっちゃけストライクと同様マルチロールを目指したわけだが、オーブのように兵力が限られている国では有効である。訓練次第で機体と共に()()()()()()()()()()()からな。その分兵には負担がかかってしまうが。

 まあそこは今後の課題だ。今は予測される危機に対処することを優先するしかない。金で何とかするにも限度はあるのだし。

 細かい課題はあれど、本土の軍備は整いつつある。宇宙の方もアメノミハシラとクーロンズロックで、艦とMSの生産を進めており、程なく予定通りの数が揃うだろう。そしてできうる限りのカードも用意した。……けどここまでやってもこの世界、油断ならんのだよなあ。一応大西洋連邦が()()()()()()()()()()()()手は打ったが、あいつらどんな難癖付けてくるか分かったもんじゃない。

 現時点の大西洋連邦でもっとも注意すべきはブルーコスモス、その盟主【ムルタ・アズラエル】。原作のキーマンであり、色々な意味で非常に面倒くさい人物である。大西洋連邦にパイプを持つ師匠(コトー)やミナギナ姉弟の話によれば、慇懃に見えて尊大。会話では常にそれとなくマウント取ろうとする、大体原作通りの人格らしい。そこら辺は善人に変更してくれても良かったんじゃないですか神様。

 とまあ聞いてもくれない天に文句を言ったところで仕方が無い。ともかく彼は原作通りの思考と判断で動くと見て良いだろう。そのままであればオーブのマスドライバーとモルゲンレーテの技術を狙い、艦隊引き連れて襲いに来る。が、オーブがそう簡単に攻略できないとすれば。そして()()()()()()()()()()()()()。オーブへの侵略そのものがなくなる……といいなあ。

 う~ん、なんだかんだと理由を付けて、やっぱり侵略しに来る気がする。敵であるコーディネーターを匿っているとか、理由付けられるしなあ。こっちからすれば理由になってない理由でも、向こうの中で筋が通れば無理を通すかも知れない。やっぱ徹底的に対策とっておかないと。

 

「製品の質を落とさぬよう徹底させてくれ。機体は修理できてもパイロットはそうはいかん。安全第一、だ」

「心得て。我らの戦場、勤め上げてご覧に入れましょう」

 

 担当者は胸を張って応える。頼もしいことだ。

 では、俺は()()()()で戦うことにするかね。もちろん策謀不意打ち騙し討ち、何でもアリアリルール無用でな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、オーブは世界に向けて正式に軍備を拡大することを発表した。

 内容は正式採用された量産型アストレイの生産と配備。艦隊をMS対応にするための改装。防衛のための大型レールガン施設タメトモの建造。そして宇宙軍の拡大と再編成についてである。

 クーロン商会が設計しオーブでライセンス生産される形になったアストレイは、陸海空三軍に、最低でも大隊規模で配備され、特に海軍は空母などをMSが運用できるように改装し領海内での戦闘に備えている。タメトモの建造にはしばらく時間がかかるが、完成すれば外敵は簡単に領海内へ侵入できなくなるだろう。

 宇宙軍はMSを生産し配備するのは当然として、基本アメノミハシラに駐留していた10隻規模の艦隊を最大40隻まで増やし、ヘリオポリスなどにあるL3宙域に新たに基地を配置。増加したうち10隻程度の艦とMS部隊を駐留させ該当宙域の防衛に努める。これに合わせ宇宙軍総司令官であるギナは、艦隊司令の兼任を止め総司令官一本に集中。階級を一時少将に昇進させ、艦隊の数が揃えば再び昇進、中将とする予定だ。同時に彼の下に改めて艦隊司令などを複数配することになる。彼らはこれからのオーブ防衛の要。故にもっとも力を入れていた。

 公表された内容だけでも各所に与える衝撃は大きいものだろう。連合とザフトの戦争が続く中、あちこちで様々な憶測が飛び交うに違いない。

 精々踊ってくれれば良い。当然ながら防衛計画として公表していない用意もある。そしてそれすらも()()()()()()()()()

 理想的な戦争とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと俺は信じる。仮想敵は全てアレでナニなのしかいないが、倒せない相手ではない、はずだ。【カーボンヒューマン】とかいうゾンビじみた技術もあるが、それは当面無視するとして。

 ともかく軍備が整う裏で、俺は勝つための土台を作り上げる。あるいは徒労になるかも知れない。だが必要なことだと信じて。

 ……とりあえずあと5徹くらいはいけんだろ。視界の端にピンクのゾウさんが見えるまでは大丈夫いけるいける。

 

 

 

 

 

(※このあとリョウガは強制的にベッドへ叩き込まれた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけのメカ設定

 

 

 タメトモ

 

 オーブ防衛計画の一つ。アホみたいに馬鹿でっかいレールガン。お大尽アタック1号。

 あっさりと砲弾が大気圏離脱するくらいの威力を持つため、事実上射程距離は無限。アメノミハシラやその他軌道衛星とリンクが出来るので命中精度も高い。

 モデルはもちろんエスコンのストーンヘンジレールガン。これだけで何を目的としているか分かる人には分かると思われ。

 

 

 

 

 

 

 量産型アストレイ

 

 立場的にはM1アストレイだが、最早別物。基本はP0シリーズを踏襲し、その上で装甲とかセンサー類とかの性能向上を図っている。ぶっちゃけメタルなアーマーな方のドラグーン。お大尽アタック2号。     

 正直後発の連合、ザフトの量産機より性能は上。PS装甲のないウィンダムと考えてくれれば良い。その分コストはかかるが、原作より遙かに余裕のある予算によって相当の数が生産されることになる。

 この世界で世間一般的にはこの機体がアストレイと呼ばれ、P0シリーズはプロトアストレイ、またはオリジナルアストレイと称される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 楽天で頼んだものがまだ来ねえ。
 ふざくんなホントに泣くぞ!? キャンセルしてアマで頼み直して確実に来るかも分からんからしばらく待つけど! ちょっとイラっとしてる捻れ骨子です。

 はいリョウガさんが裏でこそこそしてる話~。大体趣味だよ。もう分かる人には分かる伏線張っていますが、そこまで至るのにはどれ位かかるやら。たどり着くまで書けるのが早いか筆者が力尽きるのは早いか。止まるんじゃねえぞって倒れちゃダメですかねダメですかそうですか。
 とにもかくにもリョウガさんはしばらくこそこそ動く予定です。バトルシーンが皆無に近いですが本当にガンダムの2次創作なのかこれは。そしてこれから先バトルシーンはあるのか。ある意味新機軸かも知れませんな。(反省の色無し)

 まあそんな感じで、今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・ひがいしゃのかい

 

 

 プラント某所。

 査問会や何やらでこのところ缶詰に近かったクルーゼは、ある人物の前に立っていた。

 

「隊長から外ししばらくの謹慎、その後は国防委員会の預かりとする。それが貴様に下された処分だ」

 

 不機嫌な様子で言うのはパトリック・ザラ。国防委員長で実質的なザフトのトップである。

 

「オーブに感謝するのだな。奴らが自分たちの失態を理由に、ペナルティもなくアスランたちをアンドリュー・バルトフェルドへと託した。そのおかげで貴様の首は皮一枚でつながったぞ」

「申し開きもありません。己の未熟を恥じるばかりです」

 

 忌々しそうに言うパトリックに対し、殊勝な態度を装って頭を下げるクルーゼ。

 

「……貴様が持ち帰った交戦データは確かに価値のあるものだった。今技研で解析を行っている。これで我が方のビーム兵器開発も進もう」

 

 ビーム兵器の小型化という技術においてザフトは連合やオーブに一歩遅れていたが、クルーゼが持ち帰ったデータを解析し、急ピッチで開発が進んでいた。当然アストレイとハガクレそのもののデータも解析、研究に回している。そこら辺は流石に理事国の技術開発と生産を担っていただけはあった。

 

「その功績を差し引いても、これだけの処分があった。そのことをゆめゆめ忘れるなよ」

「はっ、肝に銘じます」

 

 正直パトリックとしては、目の前の男にもオーブにもはらわたが煮えくり返るような思いであった。クルーゼは半ばわざとオーブの新型艦を襲い、息子たちを危機に陥れた。そしてオーブはザフトと連合の双方にいい顔をしながら、その裏で自国の戦力を充実させていた。どちらも癪に障るどころではない。

 しかしクルーゼの功績は無視できない。今回のことだけでなく今までの積み重ねだ。この男はザフトの創生期から戦果を上げ続け、英雄視されている部分もある。簡単に処分するわけにはいかないというのがザフト上層部の総意であり、その技量はまだ利用価値がある。忌々しいが今しばらくは飼っておかねばならないだろう。

 そしてオーブだが、危険視はしていても未だ中立を謳っており、プラントにも便宜を図っているとなればそう容易く手出しは出来ない。例え公表された軍備増強計画が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()としてもだ。パトリックとしては早々に対策を練っておく必要があると考えているのだが、シーゲルを筆頭とする穏健派は難色を示している。かの国を刺激するのはプラントにも不利となる、と。

 この状況――()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが、リョウガの策のうちであるのだが、もちろんパトリックは気づいていない。 対ザフトを意識した防衛計画だと()()()()()()()()()事を含めて。

 

「アスランとイザーク・ジュールはしばらくアンドリュー・バルトフェルドに預けておくことにした。中立国の船を襲撃し、その上返り討ちにあったなど、不名誉極まりないことだからな。ほとぼりが冷めるまで帰還させるわけにも行くまい」

「私のミスで彼らには苦労させることになってしまいました。申し訳なく思います」

 

 心にもないことを言いながら、クルーゼは考える。

 

(存外に軽い処罰だったな。それと引き換え、と言うわけではないが、オーブを巻き込むことは出来なかったか)

 

 アスランが死んでいれば話は違ったものをと、空恐ろしい思いすら抱く。オーブは思った以上に冷静で狡猾だ。理由にもならない理由、あるいは()()()()()()()()こちらに譲歩して見せたのかも知れない。今はまだザフトを敵に回すときではないと判断したのか、それとも敵としてみていないのか。

 クルーゼとしては面白くない展開である。誰も彼もが理性を失っていき、泥沼の殺し合いとなってくれるのが彼の望むところだ。そんな中、冷静さを保ち冷水をぶっかけてくるような行動を取るオーブの存在は邪魔であった。

 加えてかの国はこちらが手出しをしにくいような選択をしてくる。アスランたちの処遇しかり、今回の防衛計画しかり。恐らくは連合に対しても同様であろう。()()()()()()()()()()()()()()()、そんな不気味さがある。

 

(その中核となっているのはリョウガ・クラ・アスハ。かの人物を謀殺できれば良いのだが……ままならないものだ)

 

 裏の伝を使ってかの人物の情報を集めてみれば、すでにいくつかの勢力が彼の謀殺を図っていたという。その全てを退け、あるいは懐柔するという事をやってのけているようだ。今更自分の策略ごときでは始末できまいと、クルーゼは判断していた。

 だが()()だ。幸いにして自分は大した処分を受けないようだし、動きようはある。虎視眈々とオーブを――リョウガを陥れる策略を練りながら、パトリックの言葉に耳を傾ける。

 

「……以上だ。一息ついたら貴様には存分に働いて貰う。下がってよろしい」

「はっ! 寛大な処置に感謝いたします」

 

 心の中で舌を出すクルーゼには分からない。リョウガという最低最悪の相手に自分が――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という状況がどういうことか。

 我知らず底なし沼に踏み込んだことを知らない男は、沈みゆく己を自覚しないまま踊り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント某所の繁華街。その一角にあるオープンカフェで、ディアッカはドリンク付属のストローを咥え、ぴこぴことふるって見せた。

 

「休暇という名で体良く干されてるよなあこれ」

「不謹慎ですよディアッカ。アスランとイザークは無事だったから良かったものの、本来は国際問題になっていたんですから」

 

 ディアッカの言葉を咎めるのは、同じテーブルで同席しているニコル。双方ともに私服姿だ。

 彼らは先の騒ぎの後、部隊の解散と再編成までの休暇を申し渡され暇を持て余していた。件の襲撃が失敗に終わり、2人の仲間が未帰還のまま這々の体で帰還した彼らを待っていたのは、襲撃した相手がオーブの船であったという事実と、尋問じみた査問会であった。

 何が何だか分からないうちに嵐のような時間は過ぎ、結果部隊は解散、隊長であるクルーゼはその地位を追われ、自分たちは休暇の名目でしばらく放り出された。ザフトの中にとどまっていれば居心地が悪いだろうという配慮なのかも知れないが、正直こうして時間を持て余しているのも腰の据わりが悪い。親は無事に帰ってきたことを喜んでくれたが、まかり間違えば自分たちがアスランのような目に遭っていたかも知れないと思うと、何とも申し訳ない気分になる。

 結局、自宅にも居場所がないような気になってぶらぶら外に出かけてみれば、同じように暇を持て余している仲間と偶然出会ってしまった。で、流れでなんとなく2人で連んでいるわけである。

 

「一応箝口令が敷かれているわけですから、余所でべらべらしゃべったりしないで下さいね」

「わーってるよ。周りに人がいないことは確認してるさ。……にしても、オーブも太っ腹というか、随分とあっさりあいつらを解放したもんだ」

「ザフトと問題を起こしたくなかったから、だと思いますけどね。相手取るにしても、準備が整っていないと」

「それとも俺達(ザフト)なんざ相手にもならない、とか思ってるかもよ?」

「……笑えない話ですよね、それ」

 

 アスランたちが地上のザフト軍に引き渡されたという話は、彼らも聞き及んでいた。ほぼペナルティもなしにそれを行ったオーブに、余裕のようなものを感じる。

 実際オーブはプラントに便宜を図り、ザフトを支える一因となっていた。だが裏を返せば彼らにそっぽを向かれたら、その分ザフトの勢力が弱まると言うことである。ましてやディアッカたちから見ても脅威に映る軍備拡大を行っているかの国が敵に回ったりすれば……。

 面白くない想像が脳裏をよぎり、2人は黙り込む。

 と、そこへ。

 

「よう、お前たちも暇してたのか」

 

 いきなり声をかけられ、そちらを見てみれば、そこにいたのは自分たちと同じように私服姿のミゲルであった。彼は軽く手を上げて「ここ、いいか?」とか言いながら返事を待たずに2人のテーブルに相席する。

 

「おねーさん、アイスコーヒー頼むね。……しっかし平日の昼間とは言え、随分と寂しいもんだなここいら辺りも」

 

 ウェイトレスに注文してから周囲を見るミゲル。確かに周囲は繁華街とは思えないくらい閑散としたものだ。人影はまばらで、シャッターを閉めている店もちらほらある。

 

「戦争が長引いてるせいか、どうにも余裕がないねえ。……おっと、上層部批判はまずいか?」

「聞かなかったことにしますよ。……ミゲルも時間を持て余しているようで」

「何もする気が起きなくてな。どうにも居心地が悪いもんさ。お前らもそうだろ?」

「分かるのかよ」

「顔に書いてあるぜ。納得いってない、ってな」

 

 運ばれてきたアイスコーヒーに口を付け、ミゲルは一息吐く。

 

「ザフトに入るときに色々と覚悟はしていたつもりだったが……今回みたいなのは予想外だよ。俺達ももう少し注意しとくべきだったな」

「……そうかも知れません。作戦中に相手が本当にオーブの船だったと気づいていれば、状況は違うものになっていたかも」

 

 ミゲルの言葉に少し沈み込むニコル。自分たちがもっと状況を見ていれば、そう考える部分も確かにある。隊長の言葉を信じ、目標から発せられてる信号や国籍マークは偽装だと思い込んだ結果がこれだ。

 そして彼らの部隊は解散となったが、隊員たちには降格などの処分は下されていない。政治的な配慮とか色々あるのだろうが、それがまた居心地の悪さに拍車をかけていた。

 

「そりゃそうかも知れないけどよ、たらればを考え出したらきりが無いぜ? 失態だと思うんなら、これから先どう挽回するかを考えた方が建設的じゃねえの?」

 

 肩をすくめて言うディアッカ。前向きな言葉だが、自分に言い聞かせているという面もあった。彼も思うところがないわけではないのだから。

 

 ミゲルは、少し遠い目をして見せた。

 

「今回のことは隊長を含む部隊の全員が油断していたから起こったこと……と思いたいが」

「? 何か気になることでも?」

 

 含むような物言い。訝しげにニコルは尋ねる。

 

「気になることって言うか、なあ。……クルーゼ隊長は、()()()()()()()()()()()()()()()()()、って思ってな」

 

 その台詞に、ディアッカは眉を寄せた。

 

「おいまさか……隊長は()()()()()()って言うんじゃないだろうな」 

()()()()()()、って話さ。そもそもどうにも今回の顛末、おかしなところが多いと思わないか? 隊長と俺達に対する緩い処分。オーブの反応。何よりお前ら……お偉方の子息が揃っているクルーゼ隊が監視しているタイミングで動きがあった。できすぎてると思うのは穿ち過ぎかね」

 

 タイミングは偶然の産物で、後はそれぞれの陣営の都合なのだが、ディアッカもニコルも、もちろんミゲルだって分かるはずもない。分からないからこそ、()()()()()()()()

 

「言われてみれば……」

「確かにおかしいと思えます」

 

 不安と疑念が場を支配する。しばしの静寂の後、ミゲルはぽつりと呟くように言った。

 

「……色々と考えなきゃいけないかも知れないな、俺達も」

 

 重い空気の中、からんとグラスの氷が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北アフリカザフト駐留地。

 赤道に近い位置での太陽光に辟易しながら、道を歩く2人のザフト兵がいる。

 

「気象コントロールがないってのは、こんなにつらいものだったんだな……」

「1日中重力かかりっぱなしっていうのも、しばらく無かったしな。地球で苦戦する意味がやっと分かった」

 

 野戦服を着込んでいる2人は、アスランとイザーク。かれらはバルトフェルド隊預かりとなった後、補充兵の扱いで現地の任務に従事していた。

 働かざるもの食うべからず、と言うわけではないが、ザフトはどこでも人手不足だ。自分たちを客人扱いしておく余裕などない……というのは分かる。

 しかしMSパイロットどころか、様々な用事を押しつけられる小間使い扱いされるのはどうなのか。なんか納得がいかない。

 ともかく現在彼らは駐留軍支配下の町を、徒歩でパトロールしている最中だった。こういった任務は多くの兵が持ち回りでやっている。預けられたばかりで乗るMSもない(あっても地上での運用訓練漬けになるだろうが)アスランたちは、自然とこういった役目に割り当てられることが多くなっていた。

 最初のうちは慣れない任務と環境にヒーヒー言っていたものだが、流石にエリートと言うべきか、しばらくしたら何とか形にはなってきた。それでも灼熱の太陽の下で歩き回るのは、相当に体力を消費する。1日が終われば疲労困憊で、ベッドに倒れ込むように眠りにつくというのも珍しくない。

 まあおかげで余計なことを考えずにすむ。自分たちの置かれた状況、プラントに帰ろうにも帰れず、しばらくほとぼりを冷ませと放り出された。あるいは帰還しても誤認で中立国の船を襲ったあげく返り討ちになったなどと知れ渡れば、肩身の狭い思いだけではすまないだろう。もしかしたらバルトフェルドはそういったことで思い悩まないよう気を回しているのかも知れない。

 

「……色々な人に気を遣わせているなあ、俺達」

「やってしまったことを考えれば、寛大すぎると言っても良い。本来ならば銃殺刑でもおかしくはない」

 

 間抜けを曝して意識を失い、気がつけば捕らえられていた。最初イザークは連合などに屈するかと気炎を吐いていたが、事実を知らされ流石に青くなった。その上で国家のトップとも言える人物が直接面談だ。肝を冷やしたどころではない。

 とんでもない経験だったが、これがもし単なる一般兵の立場であったら無事で済んだだろうか。最悪プラントは自分たちを切り捨て、オーブの手によって人知れず葬られると言うことになっていてもおかしくない。結局は親の七光りで助かったに過ぎないのだ、自分たちは。アスランも、そして己の能力に自信を持っていたイザークも、それを理解できるようになっていた。

 

「赤服を戴いたこの俺が、今じゃプラントの厄介者か。……笑える話だ」

 

 力なく笑むイザーク。死んでいた方がマシだったとは言わないが、ほとぼりが冷めるまで帰ってくるなと言う扱いを受けたのは、結構堪えている。山ほど高いプライドをへし折られる形になった彼は、微妙にやさぐれていた。

 そんなイザークを見るアスランの表情は複雑なものだ。

 この戦争で母を失い、それを成した連合を憎み、プラントの未来を背負って戦うつもりだった。しかし何も成さないどころか、自分たちのやったことがプラントの足を引っ張った。父は失望しただろうか。不甲斐ないと嘆いているのだろうか。婚約者であるラクスに、そしてその父であり評議会議長であるシーゲルに顔向けも出来ない。穴があったら入りたいとはこのことだろう。

 いっそ罪に問われた方が楽だった。だが現状はそれすらも許してくれない。状況と政治に踊らされる駒でしかないのかと、己の無力を噛みしめているのが今のアスランだ。イザークの気持ちは痛いほど分かる。

 それでも、ここで落ち込んだところで何かが解決するわけではないと、真面目に考えるのが彼であった。

 

「……今は一つ一つ与えられたことをやるしかないさ。せめて世話になっているバルトフェルド隊長の恩に報いる位はしておこう」

「分かっている。落ち込んでいても仕方が無いくらいはな」

 

 やさぐれていても、サボタージュなど思いつきもしないイザークは気を取り直す。2人はパトロールを続けようとした。

 そこで、騒がしい声が響く。

 

「あー! おかっぱのにーちゃんだー!」

「いたぞー! とつげきしろー!」

 

 わいわいがやがやと騒ぎながら駆け寄ってくるのは近隣の子供たち。ここしばらくテロやレジスタンスとの戦闘が下火になったため、彼らのような子供を含め一般市民は出歩くようになった。噂ではザフト駐留軍がレジスタンスと和平を模索しているとのことで、恐らくはその関係で襲撃が控えられたのだろう。町は活気を取り戻しつつある。

 まあそれはそれとして。

 

「きょうこそビームだせビーム!」

「そらとべよーこーでぃーだろー」

「あかふくもちっていったら、なんかおいしそうななまえだよな」

「そーだなんかおやつだせー」

「ええい貴様ら寄るな集るなくっつくな! コーディネーターをなんだと思ってるんだ!」

 

 なぜか子供たちになつかれ纏わり付かれるイザーク。多分からかうと一々反応するから子供たちが面白がっているのだろう。

 その様子を少し離れた位置で見ながらため息を吐くアスラン。そうしながらこっそりと手に持つサブマシンガンのセーフティを外して周囲を警戒している。子供たちに邪心があるかも知れないという疑いは未だにあった。そうでなくともこの状況を利用しようとするものがいるかも知れない。そういった用心は常にしておけとバルトフェルドから言い含められているということもある。根っから真面目なアスランは、それに反発する気も無かった。

 からかわれながらも、いいか知らない人について行ったりするんじゃないぞと言い含めているイザーク。なんだかんだで邪険にする気は無いようだ。自分が注意を引きつけてアスランに警戒させておくという意図もあったが、あるいはこれが彼の本性であったりするのかも知れない。

 

「じゃーなーにーちゃん! つぎはビームだせるようにしゅぎょーしてこいよー」

「しても出せるか! ……ったく、早く家に帰れ」

 

 しばらくして飽きた子供たちが去り、イザークはしかめっ面でそれを見送った。

 

「お疲れ様。随分となつかれたな」

「全く子供は遠慮が無い。俺に構って何が面白いんだか」

 

 鼻を鳴らすイザーク。一々反応するからじゃないかなあとアスランは思ったが、言わないくらいの情けはあった。

 

「あいつらはコーディネーターやらなにやらお構いなしだな」

 

 イザークの言葉に、何とも気まずげな思いを抱くアスラン。子供たちにとっては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。精々怖くて迷惑なこと、位の認識でしかないのかも知れない。プラントの都合も、連合の意思も、彼らには遠い世界の話だ。

 ()()()()()()なのだ自分たちは。そこにコーディネーターだからナチュラルだからと言う区別はない。誰がやったかではなく()()()()()()()()。結果が同じなら何だって一緒だろう。

 イザークも同じなのか、どこか遠い目をしてぽつりと呟く。

 

「……何なんだろうな、コーディネーターとは」

 

 昼下がりの町中に、その言葉は染み入っていくようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいつもこいつも好き勝手して!」

 

 どん! とマホガニーのデスクに拳をたたきつけるのは、反コーディネーター団体ブルーコスモスの盟主にして国防産業連合理事、ムルタ・アズラエル。彼は自室にて己の仕事やその他のことを確認していたのだが。

 

「なんで勝手にテロを起こす! 反撃作戦の前に警戒を強めてどうするんだ!」

 

 彼が憤っているのは、ブルーコスモス過激派の行動についてだ。彼らはザフトの支配地域にて、()()()()()()()()()()()()()テロ行為を頻繁に起こしている。同じブルーコスモスといえど、規模の大きい組織の宿命でいくつかの派閥に分かれている。アズラエル自身もどちらかと言えば過激派だが、不用意なテロ行為などは容認できないたちだ。やるのならば最大限の効率を求める。散発的なテロなど人材と資源の無駄遣いとすら思っていた。

 ともかく()()()()()過激派の先走り早●野郎どもが勝手した尻拭いをやらなきゃいけなくなったわけだが、今回は相手が悪い。相手というか()()()()()()()()()()

 連中がちょっかいを出したのはアフリカ共同体。いずれ兵力を送り込む必要がある場所だが、アズラエルはそのために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが中途半端にテロ行為を行った連中のおかげで、彼らは()()()()()()()()()()()()()()()。何しろ協力関係も何もなく勝手に要人を狙ったり無差別テロを行っていたりしたのだ。レジスタンス関係者が被害を受けたこともある。また連中は一々ご丁寧にも「青き清浄なる世界のためにー」とか自己紹介しながらやらかしてくれたもので、誤魔化しも出来なかった。

 そのおかげでブルーコスモスは、ザフトだけでなく()()()()()警戒され、排斥され始めた。加えてその隙を突いた形でオーブと繋がりのあるクーロン商会の介入を許してしまった。こうなると共同体は国力と戦力を向上させ、ザフトと連動することによって攻略の難易度が跳ね上がるだろう。とんでもない大損だ。

 幸いにしてと言うか、まだ連合が所持するマスドライバーは()()()()()()()()()。しかしこれまで理事国が独占していたプラントの恩恵を受けようと、複数の国が親プラントに鞍替えし、彼らに協力している。アフリカ共同体ほどではないが、それらの国も着々と国力と戦力を向上させつつあった。そのほとんどにクーロン商会の影がある。

 

「くそ、面倒な連中だ。……だが排除するのも問題か」

 

 クーロン商会。【東アジア共和国】出身と言われる謎の投資家フェイ・クーロンが創設した新興の企業。宇宙を中心として活動していた彼らは、その実オーブの息がかかった者達であるとアズラエルは睨んでいる。かの国の動きと連動した様子を見せ、戦争で生じた経済的、政治的な隙を突いて介入し、利益を上げていた。連合勢力内でも()()()()()()()()()()相当のシェアを得ている。

 目障りではある。が、彼らのおかげで経済が持ち直したという事実もあった。オーブが軍を送り物資や技術支援を行った地域で事業を展開し、経済産業を活発化させる。そのおかげで助かったという部分は多分にあった。

 何より彼らは()()()()()()()()()()()()。現在連合が所有する数少ないマスドライバーを何とか守れているのも、彼らの援助があってのことだ。クーロン商会がなければ、戦況は現在より悪くなっていたことは間違いない。そういう意味でも手出ししにくい存在である。資本家の中には、かの商会の後ろ盾と思われるオーブに資産を移し始めている者も少なくない。

 これはプラントへの対処で躍起になっていた己のミスでもあると、アズラエルは歯噛みする。かの企業は決して味方とは思えないが、さりとて敵に回して排斥するには影響が大きくなりすぎていた。臍をかんでいるのは自分だけではあるまい。

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「アフリカ共同体、いやN()J()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これも厄介だが……」

 

 大幅に株価の下がった地域で株を買いあさり、そして経済が回復して株価が上がったところで売り払い()()()もの。まるで未来を予測したかのような手並みだったが、それを成したものの正体はつかめていない。無数のダミー企業を窓口とし、そしていくつものサーバーを経由して株式に介入し利益をかっさらい、そして潮が引くようにダミー窓口を消し去りながら去っていった。追跡しても捕捉できたのは末端だけ。株式市場からかっさらわれた莫大な資金はどこへ消えたのか、とんと見当もつかない。

 あるいはクーロン商会の別働隊かとも思われたが、彼らの動きとは連動しているようでしていないという微妙な関係にあった。正直クーロン商会の手によるものか疑わしい。あるいはクーロン商会と関係があるように見せかけた、何者かなのか。

 まさか()()()それを成したから商会と微妙に動きが合っていなかったのだとは、さすがのアズラエルも気づかない。いいようにどっかの誰かさんに踊らされていた。

 

「ともかくかの介入者は経済が安定してから動きがない。動くとすれば戦況が大きく動いたとき、か。……クーロン商会も軍需産業へと参入し、その力を利用してオーブは軍事力を拡大させ、最早乗っ取りも難しい。サハク家やセイラン家から情報も得ているが、介入は難しいだろうな……」

 

 頭の痛いことばかりだ。ただでさえプラントの阿呆どもが好き勝手やっているというのに、次々と対処せねばならない事柄が押し寄せてくる。アズラエルは現在の地位に就いたことを若干後悔し始めていた。

 家に帰れるのは一体いつになるだろう。実は妻子を持つ夫でありパパであるアズラエルは、死んだ魚のような目でため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 連休も休みがなさそう。むしろ連休邪魔。
 オリンピックやっても良いけど変なところ休みにすんな。こっちゃ稼ぎ時なんだよ!
 多分お盆も同じ事言ってる捻れ骨子です。

 はい閑話2回目です。誰かさんの被害を受けた人たちの話~。ひがいしゃのかい、と言うことで会と回をかけております。誰が上手いことを言えと(ry
 狂うぜさんは大体自業自得です。そしてクルーゼ隊は巻き添えです。あるいはアスランたちは原作よりマシ……と思わせといてもっと酷い目に遭うかも知れず。まあ最低でもニコル君はことあるごとに死亡シーン流されることはないんじゃねえですかね。(適当)
 そして登場しました盟主王。彼は多分ひたすら可哀想です。もしかしたら原作の方がマシになるかも知れません。
 なお経済周りとかクーロン商会の動きとか、その辺りは適当です。現実でこんなに上手くいくわけないじゃない。ないじゃない。
 ……あの世界では分からんけどなー。

 と言うことで今回はこの辺りで。次回をお楽しみにー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8・縁はおろそかには出来ない


 今回原作キャラの魔改造があります。



 

 

 

 

 なんか一週間くらい寝てた様な気がするが、おかげさまですっきり快調だ。

 色々周りから怒られたけどな! ……うむむ、どうにも前世からの習慣が抜けん。迷惑をかけるというのは分かっているんだが、働いてないと不安なんでなあ、特にこの世界では。

 ……うーん、世界が平和になるか、俺が倒れるのが先か、チキンレースじみてきたぞう。

 

「だから仕事を周りに振りなさいと」

 

 俺の隣を歩くチヒロが呆れた様子で言う。うん、至極ごもっともな意見なんだけどな。

 

()()()()()()()()()。自業自得だがやることが多すぎる。しかもやってもやってもきりが無いと来た。最低でも戦争が一区切りつくまでは油断もできん」

 

 地雷を撤去しながら爆弾の解体をやってるような気分だ。今のところ上手くいっていても、一つのミスが大惨事を起こしかねない。全部放り投げて逃げ出したところで安全になる保証などあるもんか。まだ立ち向かった方が安心できる。

 暗躍しなきゃ良いじゃんと言う意見もあろうが、正攻法だけでどうにかなるようであれば苦労はしない。俺がここまでやって何とかオーブへの侵攻を防げるかどうかってくらいだからな。いくら資金が豊富で人材も集めたとは言え、やれることには限度がある。スーパーマンじゃないんだ、一足飛びに全てを解決する方法なんてない。

 

「実際商会の運営は、お前さんにほぼ任せきりだろう。それだけじゃなくミナやギナ、リシッツァや氏族連中にも働いて貰っている。それでも十分とは言いがたいのが今の世界だ。嫌でも俺自身が動かにゃならんのさ」

 

 原作における親父殿の気持ちも分からないではない。だがあのやり方では結局国を焼く羽目になった。そうさせまいと思ったら、後ろ暗く汚い手段を使い、身を削ってでも動く必要があった。それだけのことだ。

 俺の言葉を聞いて、「この人は本当に」とか何とかブチブチ呟くチヒロ。悪いと思うがこれは譲れない。愛国心などないと思っていた俺だが、焼かせてなるかと思うくらいには執着があったらしい。なら自分が出来ることは全てやっておく。後で後悔しないために。

 そういうのは前世で十分懲りたしな。

 

「ま、戦争が落ち着けば、休む暇も出来るだろうさ。そのためにも今は働いとくぞ」

「絶対嘘だこの人戦争が終わっても働き続けるわ賭けてもいい」

「何小声で不穏な台詞を言っているか。流石にすること無けりゃ俺だって休みたいわい」

「いーえリョウガ様みたいなタイプは働いていないと落ち着かないマグロみたいな生態の生き物です。なんだかんだ言って働こうとするに決まってます」

 

 どきっぱりと断言しやがって。……まあ自分でもそうじゃないかなあと薄々思ってるけど、改めて他人に指摘されると腹立つな。

 

「くっそ覚えてろよ。絶対カウチでごろ寝しながら映画でも見つつピザを暴食してビールを痛飲して、挙げ句に泥のように爆睡してやるから覚悟しやがれ」

「どういう負け惜しみですか」

 

 とか何とか会話しながら、俺達は目的地にたどり着く。

 オーブ領内の諸島の一つ。そこにある小さな孤児院で、目的の人物は俺達を出迎えた。

 盲目であるその人物が言葉を発する。

 

「お待ちしておりましたリョウガ殿、チヒロ嬢」

 

 穏やかな様相で頭を下げるマルキオ導師に、俺達も礼を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リョウガ様リョウガ様ー! 少し背が伸びましたよー!」

「おー、確かにちょこっとでかくなったな」

「どんだけ頑張ってもビーム出ないんだよ。俺コーディネーターじゃないのかも」

「そういう頑張りはやめとけ。つーか俺が言ったのそういう意味じゃないから」

「今日こそあたしを嫁にしてもらう! せれぶなまだむにさせやがりください!」

「はっはっは、俺の嫁になりたくば、俺より稼いで俺に楽をさせろください。……いやホントに楽させて頼む」

「じゃああれか、となりのねーちゃんとか好みか」

「考えさせて」

「ノータイムかつガチ表情で言うかこの男」

 

 纏わり付くお子様たちの相手を一通りこなしてから、俺は導師との会談に挑む。

 

「いつもいつもすみません。あの子たちはあなたが来るとはしゃぐのですよ」

「構いませんよ。子供はあれくらいで良い。自分のような人間が気晴らしになるのであれば、相手をした甲斐があったというものです」

 

 チヒロよ、誰この人というような目線を向けるな。俺だって敬意を向ける人間くらいいるわい。

 マルキオ導師は軽く頭を下げる。

 

「痛み入ります。……ご面倒ついで、と言うわけではありませんが、今回はリョウガ殿にご助力願いたく連絡を取った次第です」

「……察するに、ジャンク屋組合関連の話でしょうか」

「話が早くて助かります。まずはこちらの資料をご覧ください」

 

 導師が差し出した資料に目を通す。ふむ……()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これに助力しろと?」

 

 アストレイ原作の話に出てきた、マスドライバーを有するメガフロートの建設計画。クーロンズポートという同様の施設が存在している現状では、不要に思えるものだが。

 

「はい。現在各国家所有のマスドライバーはザフトと連合の取り合いで、民間人は使用できないか、法外な使用料を取られるという状況です。数少ない例外はオーブのものとクーロンズポートですが、それも利用者が集中し列を連ねている様相。……それにリョウガ殿は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのでは?」

 

 流石に読まれているか。導師の推測通りで、オーブのマスドライバー――と言うかマスドライバーを理由にオーブ自体が狙われるようであれば、クーロンズポート自体をくれてやる事も考えていた。かの施設はそのために作ったと言っても良い。自国以外のマスドライバー使用料でがっぽがっぽと考えていたのも事実だが。

 ここまでの話で分かるだろうが、俺は導師にクーロン商会の事実を明かしている。この人に関しては、その方が都合が良いからだ。まあそれはさておいて。

 

「否定はしませんよ。前にも言いましたが、自分の基本方針は先ずオーブという国を守ること。クーロンズポートもそのための手段の一つです。……ですがそうしてしまうと益々マスドライバーの使用が制限されていくことになる。組合としては死活問題になると言うことですね?」

「ええ、その通りです。もちろんリョウガ殿の方針を咎めているのではありません。必要なことだから行ったのでしょう? それを止める権利など我々にはありません。ですが組合としては移動が制限されるままというのは困りますので、独自にマスドライバー施設を建造し、共有したいと」

 

 概ね予想通りの理由だ。今はまだ余裕があるが、将来的には不安があると組合の上層部は判断したのだろう。原作ではオーブが落とされてからギガフロートは建造されたようだが、この時期に計画が立ち上がっていてもおかしくはない。

 そして()()()()()()()()導師を通じて、クーロンズポートを建造した経験のあるうちの商会に助力を求めてきた、と言うことか。妥当な判断だ。

 

「我々としても組合が勢いをなくすのは困る事です。協力できることがあればいたしましょう」

 

 これは本音だ。ジャンク屋組合は一部国家にも匹敵するような勢力を持ち、犯罪の温床になっている部分も確かにある。しかし()()()()()()()()。再構築戦争前から地球圏全体で放置され続け、未だ新しく生み出される破棄物やデブリ。それらを処理していくためには、国家の手は足らなすぎる。国家という枠が手を出せる範囲を狭めてしまうからだ。 ゆえに国家という枠から外れた者たちが、そういう物を片づける役割を担うのは当然の流れと言えた。もちろん国からの保証などなく、己の技量だけで数多の勢力と渡り合っていかなければならない。その上命がけの仕事も少なくなく、海賊などから狙われることも多々ある。世間では彼らを底辺と見るものも多く、足下を見て取引する悪徳な者もかなりいる。

 そういった仕事に手を出すのは物好きか、『訳あり』だ。国家という枠に居場所がなくなった者、表世界を見限った者、後ろ暗い者、様々な人間がジャンク屋として身を立てている。そういった人間がジャンク屋業に汗を流して働いてくれるからこそ、破棄物やデブリの処理は進み、地球近海や航路の安全は保たれるのだ。おろそかにしていいものではない。

 マルキオ導師は俺と同じようなことを考えた上で、さらなる思惑を持ってジャンク屋組合の創設に尽力した。国家という後ろ盾のあった俺なんかより、1から人を集めて説き伏せて、一大組織を築き上げたこの人の方が、よっぽどとんでもないと思う。

 そんなとんでもない人物から頭を下げられる。原作知識を元にやらかしまくった立場としては、ちょっと複雑な気分だ。

 

「感謝を。あなたの技量であれば、この程度の計画など乗っ取ることも出来たでしょうに」

「今でさえ泣き言を言いたいのに、これ以上の荷物を背負い込む事などしたくもありませんよ。オーブという国一つで精一杯ですから」

 

 割と本音な俺の言葉に、導師はふふ、と小さく笑って見せた。

 

「やはりあなたも【SEEDを持つ者】だと、そう感じます。その行動と結果でそれを示していると、私は思うのです」

「自分の都合の良いように状況を回しているだけなんですけどねえ」

 

 導師と相容れないところって言うか、買い被りすぎと感じるのがこういうところだ。

 原作にも出てきたSEEDを持つ者という概念。導師の提唱するそれは、どうにも()()()()()()()()()()()

 SEEDと呼ばれる能力、『優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子(Superior Evolutionary Element Destined-facto)』はこの世界でも学会で発表されている。が、導師はそれについて、単に能力的なものを意味しているのではない、と言う。

 『現状を打破する意思、行動。それに伴う結果。それを導き出す因子、あるいは運命を引き寄せる何か』。遺伝子によるものではない、潜在的な能力ではない、人が持つ可能性。導師はSEEDをそういう物だと捉えている。そしてそれを引き出せる人間、最先端に、最前線に立ち人々を導ける者がSEEDを持つ者だと、そのような思想があった。

 

「導くというのは、何も人の上に立つことを示しているのではありません。何らかの働きで人々の心に訴える。死に物狂いで未来を切り開く。未来のために行動し、希望を見せること。多くの人を揺り動かす何かを示す、そういったものだと考えています」

 

 以前俺がSEEDのことを問うたとき、導師はそう答えた。そして俺もまたSEEDを持つ1人だと持ち上げてくる。

 ……種割れした覚えないしなあ。大体俺のやってることは原作知識というズルを使った卑怯極まりない手段だ。人を導けるようなものとは、とてもじゃないが思えない。

 ともかく、導師の考えは原作とは微妙に違い、そしてそれを()()()()()()()()()()()()()()()()

 これも詭弁の一つだと、導師はそう宣っている。己の信仰、理念すらも人々に説くための道具であり武器なのだと。

 

「私は語ることしか能の無い坊主崩れでしかありません。ですから思想を、思考を研ぎ澄ませ、人々に納得して貰うだけの言葉を投げかけられるように努めてきました。信仰も理念も、言ってみれば話の引き出しに過ぎない。詐欺師のような物ですよ」

 

 あるいは信仰に酔わないように自制しているのかも知れない。導師の言葉には己に言い聞かせているような理性が垣間見えた。

 言い方は悪いが口車だけでジャンク屋組合を築き上げ、プラントにも地球にも多くの賛同者を得ているのは伊達ではない。この人は()()()()()()()()()だ。その善意と信念だけで人々を動かす。この人自身がSEEDを持つ者と言うに相応しいのではないだろうか。

 と、そんなことを言ってみれば。

 

「そうであれば良いと思いますし、そうなりたいとも思います。まだまだ道半ばというか、先は見えませんけれどね」

 

 臆面もなくそう答える。いやはや、大した人物だ。信奉者が多いのも分かる。やってることはとてつもないが、穏やかに気負い無く等身大。俺には真似できない在り方だ。

 ゆえに俺は導師に敬意を表する。まあ持ち上げてくるのは勘弁して欲しいが。

 

「ともかく、設計はこちらに任せて貰いましょう。実際の建造は組合を主軸として行う形で?」

「そうしていただけると助かります。組合としては建造のノウハウを蓄積したいと考えておりますから」

「いずれは第2、第3のマスドライバーをと?」

「この戦争とマスドライバーが自由に使えない状況が続けば、と言ったところでしょうね。それでも合わせて数基の建造にとどまるでしょう。あまり多くあっても管理と維持費で干上がってしまうでしょうから」

「そうなれば本末転倒。なるほど。……よろしい、大体のお話は分かりました。チヒロ君?」

「はい、今の話を元に、当商会からの条件を纏めた物です。ご確認を」

 

 俺達の話を聞きつつ文章を作成していたチヒロが、音声データとして編成した要求書の草稿を、タブレットごと提出する。

 導師はそれを受け取りながら言う。

 

「流石に早い。良い人材に恵まれましたね」

「全くです。自分にはできすぎた配下ですよ」

 

 俺はそう答えるが、チヒロは心にもないことをと言いたげなジト目を向けてくる。

 結構本気なんだがな~。チヒロだけではない。リシッツァや商会の面々、ギナとミナをはじめとする氏族や名家、そして親父殿。いずれかがいなければ、あるいは協力を得られなければ、俺の企みは成り立っていない。皆のおかげで今の俺はある。

 ……こんなことを口にすれば、今度は何企んでんだという目で見られるので言わんが。自業自得だってのは分かってるよ。

 と、要求書の内容を一通り聞いた導師が、問いを投げかけてきた。

 

「随分と組合に有利な要求ですが、これでよろしいのですか?」

「ええ、実は組合に()()()()()を依頼したいと考えておりましてね。それを快く引き受けて貰うためのサービスも兼ねてます」

「ほう、大口の仕事ですか。よろしければどのような物か聞かせていただいても?」

 

 導師の言葉に、俺はいたずらげな笑みを持って答える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この仕事を任せたいと思っています」

 

 さあて、俺のお大尽アタックはここからが本番だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 職場でも家庭菜園でもダニががががが。
 家庭菜園はともかく職場は金がねえんだよ! 湧いてくんな! といったところでダニさんは聞いてくれません。いっそ焼き討ちしてえと切に願う(危険思想)捻れ骨子です。

 はいマルキオ導師登場の回~。見ての通りうちの導師は魔改造されております。まあちょろっと違う程度ですが。
 具体的に言うと、ただ善人なのではなく己の信仰をも道具として利用する強かな人物としています。これくらいの癖が無きゃ海千山千のジャンク屋や関係者を説き伏せたり出来ないでしょうし、リョウガさんも敬意を表したりしないでしょう。そう考えてこんな感じに。
 そしてSEEDに対する考え方も違います。多分この話のマルキオ導師が原作のSEED発動を見たら、心眼センサーフルオープンを見せつけられた感だと思います。

「これがSEEDなのですね! 導師!」
「……ちょっと違うんじゃないかなあ」(困惑)

 ってな具合でしょうか。まあ盲目なんで見えませんけど。
 そしてリョウガさんまたなんか企んでいるようです。それが日の目を見るのは果たしていつになるのか。そも日の目を見る機会があるのか。

 そういったところで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9・自重とかする気も無い

 

 

 

 

 ホントに暇がねえなあ。などと内心で愚痴っている俺は、現在クーロンズロックに赴いていた。

 一応ここに来るときはロン・ヤアとして変装しているが、はっきり言って商会の人間にはほとんどバレてるし、関係の深い人間にもバレてる。

 が、数少ないが()()というものはあるもので。

 

「あんたがロン・ヤアか。俺はロウ・ギュール。商会には色々と世話になっている。よろしく頼むぜ」

「……ええ、こちらこそよしなに」

 

 固い握手を交わすロウは、全くもって気がついていない様子だ。

 同席している彼の仲間は、「すみませんこの人こういう人なんです」とでも言いたげな視線を向けて来るが、うん分かってたさ。逆になんかこっちが気まずくなるわ。

 まあバラしたらバラしたで、「へえ!? そうだったんだ!?」とか言う感じでしゃらっと流されそうな気がする。それはそれでむなしいので黙っておこう。

 まあそれはいい。ともかく今回ロウと面会したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えてのことである。

 彼が商会と契約してからまだ三ヶ月と経たないのだが……なんか彼のレッドフレームは、すでに色々とおかしな事になっている。具体的には日本刀っぽい得物が二ふり腰に提がってたり、鎧っぽい外装パーツが追加されていたり。

 これ【戦国アストレイ】じゃねえか!? いやそのまんまじゃないけれど、なんか雰囲気がそっくりだ。ロウの元に預けた連絡員である【ジュリ・ウー・ニェン】からの報告は聞いていたが、すでにここまで魔改造が進んでるとは思わなかったぞ。

 で、聞いてみたらば。

 

「ああ、デブリ内で活動するのには素のままだと防御力が低いんで、空間機動パッケージに増加装甲を追加してみた。それだけだと重くなるから、パワーパックとスラスター、それに補助アクチュエーターを内装してる」

 

 原作にはなかった装備を元に開発したようだ。元ネタがあるとどんどん物作っていくなこの男。

 報告に寄れば、ロウ一行は原作にあったイベントや、()()()()()()()()()()()をすでにいくつかこなしていた。刀の製法学んだりとか。原作にないパーツ作ったりとか。その過程で彼はいくつかの技術を開発したり手に入れたりしている。そういった技術の入手、またはパテントとして契約する。それが今回の目的だ。

 これはアストレイの話で生じる技術を入手すると同時に、()()()()()()()()()()()()()()と言う意味もある。彼らは必要不可欠な組織だが、原作を見ると結構やりたい放題している部分もある。あまりにもやりたい放題が過ぎると連合やプラントに敵視され、戦争が終われば潰しにかかると言うことにもなりかねない。

 そうなると俺も困る。彼らには色々と働いて貰わなければならないのだから。ゆえに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことにした。

 メインとなるのはジャンク屋界隈で流通するMSや武器の開発、販売。その辺りをほぼ独占状態にまで持っていく。独占禁止法? なあに子会社やダミー会社をいくつか設立して業務を回せばいけるいける。と、それはともかく、鍵となるのはロウの技術だ。彼は己の作った物や手に入れた物を惜しげも無く開示し、そのことがジャンク屋連中の武装化に拍車をかけたところもある。主にアストレイ流行らせたせいで。

 だから彼が持つ技術をこっちで抱え込む。アストレイ関係も商会でガッチガチにパテント握ることによって、コピー品の横行を防ぐ。もちろん民間に売り出すが、基本性能はM1以下にデチューン。戦闘用に改装するためのパーツや武器、OSなどはかなりの割高にして販売する予定だ。連合との共通プラグ? もちろんオミットするよ。使いたきゃオプションで買ってね。すごく高いけど。

 ここまでしてもジャンク屋という存在は、自分で勝手に魔改造してオラつきかねないが、原作ほどにアストレイが湧いて出るほどにはなるまい。あと武器とかMSとか高値で買うよ。独自に流通させても良いけど、そういう人間は商会からの扱いが悪くなるかもね? いや知らんけど。

 とまあこんなことを考えているのだが、実はこれ、マルキオ導師や一部の組合幹部と協議した上で行おうとしていることだったりする。

 協議した幹部としては、ある程度独立独歩の姿勢は保ちたいが、下手に国家から睨まれるのは避けたいという思考からだ。そしてマルキオ導師は、組合――ジャンク屋という存在を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という考えがあった。

 彼が俺より深く考えていた部分だ。ジャンク屋という存在は国家に属する恩恵を一切受けられないが、前歴など一切問われない。組合に登録すればいかなる人物でもジャンク屋でございと名乗ることが出来る。そういった環境を整えることによって、国家や組織に爪弾きにされたり居場所がなくなった人間にも、参入しやすい物にしようとしていたのだ。

 もちろん後ろ暗いどころか犯罪歴のある者に悪用され、犯罪の温床になるといった部分もある。組合にも独自のルールがあり、あくどい者は処罰されたりするが、どうしても手の回らないところがあり、ある程度目を瞑る必要もあった。

 だからと言って各勢力から余計に目を付けられるような真似をする必要は無い。導師など悪影響を危惧している面々からすれば、俺の申し出は渡りに船と言ったところだろう。言い方は悪いがクーロン商会を利用して、目を付けられる要因を分散しようと言うことだ。

 双方にとってWin-Winの取引と言って良いだろう。組合のMS関係を独占することによって商会()も儲けられるし。MSのレストアとか売買で商売しようとしていた連中? 知らんなあ。

 そう言ったわけで俺はジャンク屋業界に介入することにした。この先のことを考えると、この業界に影響力を持っておくことは役に立つ。ロウたちが起こす事件が何らかの形でこちらに飛び火することもあるのだ。用心しておくに越したことはない。

 とはいえロウを縛り付ける気も無かった。彼は自由奔放でバイタリティあふれるのが持ち味であり、だからこそ様々な事件や障害を乗り越えられたのだ。ぶっちゃけ放っておけば勝手に色々と解決してくれる可能性が高い。

 しかし世の中何があるか分からない物だ。大丈夫だろうと放っておいたらあっさりとロウが死んでしまうことだってあり得る。ゆえに彼とは協力関係を強め、あるいは彼がいなくなった場合でも対応できる策を取っておく。そのためにロウから可能な限りの技術を搾り取っておく……というのが()()だ。

 

「良いのかよ、俺の作ったもんって、大体急場しのぎのでっち上げだぜ? 商品にはなんねえだろ」

「現場での創意工夫とは、これで馬鹿に出来ない物でしてね。例えば武器の接続プラグにエネルギーを逆流させて攻撃に転用するなんてアイディア、工房じゃ逆立ちしても出てこないものです。その一つ一つが次の開発へとつながる。我々にとっては千金の価値がある物ですよ」

「そんなもんかね」

 

 俺の言葉にロウは眉を寄せる。普通だったらそこまで金を出してというものではないが、あんた普通じゃないからな? あんたがパチったり作り上げるもんって、大概とんでもないからな? そうは思ったが言わないでおく。

 代わりにこう言う。

 

「それに……私も魔改造というヤツは大好きでしてね」

 

 その台詞に、ロウはおお! と目を見開いた。

 

「分かるのか、あんたにも」

「ええ。分かりますとも男として。あなたの持つ物は商人としてだけではなく、1人のロマンを解する人間として実に興味深い。相当の対価を支払っても良いと思うくらいに」

 

 うん、正直に言おう。こっちが本音だ。つーか本命だ。

 ロウが生み出した数々の技術や武器。ロマンの塊とも言えるそれらを手中にしたいという欲が俺にもあった。もちろん前述したこともちゃんと真面目に考えている。考えた上で趣味にも走る。

 ……たまには良いじゃないか俺が趣味に走ったって。何も専用機を作ろうとか考えているわけじゃない。カスタムくらいは許されても良いと思うんだ。

 

「残念なことに私自身はメカニックの才能などこれっぽっちもありませんでしたが、アイディアだけなら売るほどある。我が商会の技術者たちはそれをかなり再現してくれましたが……あなたならそれらを超えた物が生み出せると直感しました。私に出来なかったことをやってくれるだろう人間がいる。投資するのに迷う理由はありますまい」

 

 直感って言うか事実だけどな。まかり間違って死んだりしないうちに、ロウにはバンバントンデモ技術を開発して貰おう。俺は満足、商会は技術を得て儲かる。誰も損することのない素晴らしい交渉じゃないか。なんかロウの仲間は残念な物を見るような視線を投げかけてきてるが些細なことだ。ロウ本人は上機嫌だし。

 

「そこまで俺をかってくれるってのはむずがゆいねえ。……まあ他にも色々と思いついたもんはあるんだけどさ」

「是非拝見したい。何なら資金は出しますからすぐさまどんどん作ってくだされば」

「食いつき凄っ!? いやまだアイディアだけで具体的な図面とか全然出来てねえよ落ちつけ」

 

 俺は落ち着いてる。単にこの機を逃すまいとしているだけだ。

 と、そこでドガンと扉を開けて部屋に乱入してくる人物が。

 

「名代ー! 出来たよ出来ましたよ出来たのだよ! やはり私の才能は素晴らしい! この感動を是非とも共に分かち合い勝利の美酒に酔いしれようじゃございませんかー!」

「良いところで邪魔しないように」

 

 俺はちょっと青筋立てながら、部屋に飛び込んできたそいつの股間に一撃食らわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどくない!? いきなり股間とか酷くない!?」

「ああでもしないとあなた止まらないでしょうが。何回このやりとりやったと思ってるんですか」

 

 股ぐら押さえながら俺に文句を付けてくる人物。一見容姿端麗だが全体的に残念な空気を纏っているこの男の名は【ヴァレリオ・ヴァレリ】。そう、知っている人は知っていると思うが、アストレイの話の中でロウを一方的にライバル視していた人物である。

 原作では己の才能を世に誇示するためにプラントを出奔し、暗黒メガコーポ【アクタイオン・インダストリー】の技術主任に収まっていたはずの人物なのだが、なんでかクーロン商会(うち)の人材募集に自らを売り込んできた。

 人格的に問題はあるし全体的に残念な人物だが、その技術力は図抜けている。そして原作でやらかしたようなことを防ぐ意味もあって採用したのだが……こんな性格だったかこの男? 残念ぶりが加速しているんだが。

 残念ついでにこいつ、俺の正体に全く気づいていないと来ている。いや変装したら口調とか変えてるけどさ、普通気づくだろ。まあ他人のことなどどうでも良いから気にしないだけなのかも知れないけど。

 ともかく、人が交渉してる最中に何の用だと問うてみれば。

 

「前に言っていただろう、()()が仕上がったのだよ! 我ながら完璧な仕事だと自負しているっ! 客人がいるのであれば丁度都合が良い、是非とも共に見て貰おうじゃないか!」

 

 マジか。この短期間で()()()()()()をやってのけただと? しばらく大人しくさせるつもりで振った仕事なんだが……ふむ。

 ちらりと視線を向けてみれば、なんのこっちゃと言わんばかりの表情をしたロウたち一行。それを見て俺は一瞬考える。

 ……そうだな、()()()()()()()()()()()()()。俺は半分愉快犯的な心持ちで彼らに声をかけた。

 で。

 

「なぜ我々も呼び出されるのか」

「むしろ何でここにいるんですかあなたたち」

 

 ヴァレリオの後をついて行くメンバーが増えていた。ミナギナ姉弟に叢雲 劾だ。

 劾はブルーフレームのデータを提出するために寄った(彼も色々とイベントをこなしているようだ)らしいが、ミナギナは何でいるのか。つーか仕事はどうしたお前ら。

 俺のジト目に、二人はどことなく視線をそらして言う。

 

「うむ、ロウ・ギュールと共に刀の製法覚えたり色々したし、折角だからゴールドフレームの改良をしようと思ってな」

「私が自分の機体がないというのもなんだし、改めて作って貰おうかと」

「何やってるんですかギナ。そして実は羨ましかったんですかミナ」

 

 いつの間にかギナはロウのイベントにちょこちょこと付き合っていたらしい。何やってんのホント。そしてそんなギナを見てたら自分もMSが欲しくなったらしいミナ。人があちこち飛び回って忙しいというのにこいつらは。

 まあこいつらが忙しくなるときは国がピンチと言うことだから、余裕があるのは良いことなのだが。基本的な仕事はちゃんとこなしているようだしな。(※注 リョウガ視点で基本的な仕事。つまり普通に忙しい)

 

「それにしても……貴様が敬語で喋るのは違和感がありまくるな」

「全くだ。何というかこう、不気味というか怖気が走るというか」

「ここではこういうキャラで通しているんです。慣れてください」

 

 そんな俺達の会話を聞いているはずだが、一歩後ろを歩む劾は眉の一つも動かさない。色々と理解しているはずだろうに、大した度胸だ。彼の仲間やロウの仲間は全力で聞いていないふりをしている。まあ普通こういう反応だわな。俺達の目の前で言葉を交わしているヴァレリオとロウの方がおかしいんだから。

 

「素晴らしいアイディアだ! ナチュラルというのが惜しいな!」

「ばっかおめえよく考えて見ろ、コーディーの技術作ったのはナチュラルだぞ? 発想力と技術で劣るわけないだろうが」

「っ! ……そう言われれば、そうか。うむ、私もまだまだ未熟と言わざるを得ない」

「あんたが開発した物は、あんたがコーディだったからじゃねえ。()()()()()()生み出せた物だ。それは誇るべきところだろ」

「痛み入る。……ところでこういうアイディアがあるのだがな」

「……おお、そいつは面白れぇ! じゃあこういうのはどうよ」

「なんと! これは趣味的だが、だがそれが良い!」

 

 タブレット見せ合いしながら熱く言葉を交わしてる二人は、なんかやたらと仲が良くなっているようだ。原作とは違う出会い方だったとは言え、意気投合するの早すぎない? まあ俺にとっては都合が良いけどさ。

 とか何とかやっているうちに、目的の開発区画へとたどり着く。

 この区画はヴァレリオをはじめとする奇人変人たちの『魔窟』と言っても良い。可能な限りの予算を突っ込み、俺のアイディアを含めた様々な技術を開発させている。タメトモを設計させたところ、と言えば大体のアレっぷりが分かるのではないだろうか。

 その搬入口シャッターを前に、むふんとヴァレリオは胸を張る。

 

「さてお立ち会い! これよりお目にかけるは私が一月ほど寝る間も惜しんで作り上げた一品! 刮目してご覧じろ!」

 

 そう宣って、彼は壁面のカードリーダーのスリットにカードを通す。

 がごん、と重々しい音を立ててシャッターが開いていく。その奥、開発区画のハンガーに居並ぶのは5体のMS。その姿を見たミナギナは呆れたような声を出す。

 

「お前、ホントお前」

「何をしているのだまったく……」

 

 まあ、二人が呆れるのも無理はない。居並んでいるのは【ストライク】、【デュエル】、【バスター】、【ブリッツ】、【イージス】。初期GAT-Xシリーズ()()()()()()()5体だったのだから。

 

「私もまさか一月で組み上がるとは思わなかったのですけれどね」

 

 こうもあっさりやってのけられるとなんか色々と悟ったような気分になる。技術力高すぎだろうち。

 同行してきたロウや劾もしばし言葉を失っていた。

 

「……こいつは、確か連合の!?」

「データを破棄していなかったのか」

 

 二人の言葉に、ヴァレリオはふふんと鼻を鳴らす。

 

「確かにこれらは連合の試作機に見えるだろう。……しかしきちんとデータは全て破棄したし、パーツの一つも残っていなかったとも」

「は? じゃあどうやって作ったんだよ」

 

 ロウの問いにヴァレリオは大いばりで答える。

 

()()()()()!」

「はあ!?」

 

 これだよ。この残念イケメン、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。確かに天才肌な部分はあったが、ここまでだったかと首をひねらざるを得ない。

 

「まあ303……イージス以外はアストレイのフレームを流用しているがね。イージスもSWRから設計を組み直している。中身は別物だよ」

 

 つまりGAT-Xのガワを被ったアストレイに近い。だから短期間で済んだとヴァレリオは言うが、それでも十分おかしい。

 

「苦労したのはPS装甲の再現だが、この私の手にかかれば造作も無いこと! 正直電力の消費から考えて割に合わないような気がするがそこは習作ということで目を瞑ろう! ブリッツの【ミラージュコロイド】だってちゃんと備えているぞう! まあこれは以前からあった技術なのでちょっと改良しただけなのだがね!」

「おいこの兄ちゃんめっちゃ機密喋ってないか」

 

 最早呆れを通り越してげんなりしているロウの言葉に、俺はすまして答えてやる。

 

「うちの機密じゃなくて連合の機密なのでセーフです」

「セーフじゃないが」

「むしろスリーアウトだろう」

 

 ミナギナがツッコミ入れるが今更だ。予定は早すぎるが、もとよりこうするつもりだった。

 別に趣味でこんな事をさせたわけじゃない。これらはある企みのために必要なことだ。

 何を企んでるかって? まあ簡単に言うと。

 【()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 盆前後が一番忙しいってどういうことなの……(白目)
 まあどっちみちこんな状況で帰省なんぞ出来はしないのですがね。親戚の子らに一方的にお小遣い渡すイベントもないから財布に優しいしね。
 人生とは虚しさを抱えて生きる物です捻れ骨子です。

 はあい大分遅れましたが更新です。前回から引き続きジャンク屋対策~と見せかけて残念イケメンのエントリーだ! いや出したかったんですよヴァレリオさん。キャラがおかしな事になってますが原作よりちょっとはっちゃけてるだけだから俺的にはセーフ。
 そしてやっちゃいました原作主役機のコピー。ホント自重しねえなうちの主役。そしてまたなにやら企んでるようですよ。ヴァレリオさんもこっちにいることだしアクタイオン社大ピンチかも知れません。彼らに明日はあるのか。

 そんなこんなで、多分次回も遅れるんじゃないかな~と戦々恐々としつつ、今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10・偶然ですむはずがない

 

 

 

 アクタイオン・プロジェクト。後の世で連合軍の特殊部隊が、アクタイオン・インダストリーを中核とした複数の企業に技術協力を受け推進するエースパイロット用MS開発計画である。

 横取りとは言っても、そっくりそのまま成り代わるという事じゃない。俺はこの計画を先取りし、連合軍特殊部隊【ファントムペイン】とアクタイオンの動きを牽制、あるいは向こうの計画そのものを叩き潰す算段であった。

 本来この計画に関わるはずだったヴァレリオがうちにいることで、すでに台無しになっているような気がするが、ともかくアクタイオン・プロジェクトで開発されるはずだった技術をこっちで先に作り上げ、実用化したりパテントとったりすることで向こうの開発を邪魔しまくる。何せファントムペインはDESTINYとかで散々引っかき回してくれる組織だし、アクタイオンはアクタイオンで色々とやらかしてくれるやつらだ。国的にも企業的にも敵となることは確実だし、先手を打たせて貰う。

 それ以外にもこの5機を作った理由はあるがね。

 

「ともかく、これらの機体は連合の最先端技術を当商会で再現した物です。これを研究、検証し当商会の技術力を向上させる。その手伝いをあなた方にはお願いしたい」

 

 つまり原作ガンダムの技術とロウの技術&発想力、劾の経験と技量をミックスして悪魔的発展を遂げさせようと考えたわけだ。

 アクタイオン・プロジェクトやメタルなビルドじゃすまさない、その先を行く物。最先端の先を行き技術的優位を取る。そして技術開発競争を促す。

 ……で、それを見せ札にして()()()()()()()()()()()()()()()。何しろ連合もザフトもそういうところは躍起になるからなあ。勝手にジャブジャブ金突っ込んでくれる。ロウとヴァレリオという異次元殺法コンビだけでもアホみたいな技術発展してくれるのは間違いない。全力疾走どころかロケットでかっとんでいくこいつらに追いつき追い越そうとするため、各勢力はどれだけ力を注ぎ込むことやら。そしてどれだけ足下がお留守になるやら。

 気がついたら民需の多くがうちの手による物になっていたとか、最高やん?

 まあまだ今の時点では捕らぬ狸のなんとやら。まずは商会の技術力の向上だ。そのためにはロウの協力は必須だし、劾の協力も仰ぎたい。上手いこと乗ってくれれば良いのだが。

 

「つまりこれのテストパイロットでもしろと言うことか? あるいは模擬戦の相手を努めろと」

 

 サングラスを指で押し上げつつ劾が問う。

 

「そうですね。叢雲氏にはそういったパイロットとして各種のテストを、ギュール氏はヴァレリオ君と協力して機体の機能や性能の向上、各種装備の開発に従事していただきたいと思っています。もちろんお二方にも都合があるでしょうから、手の空いたときで構いません。いかがでしょうか?」

「あ~、この機体を貸してくれるわけじゃないんだ」

 

 俺の言葉に、ロウがいささか残念そうな様子で言う。俺は頷いて返した。

 

「流石にこれらを表沙汰にするわけにはいきませんのでね。まあいずれ連合内、ザフトにかかわらず情報は漏れるでしょうが、そのときにはもっと先にたどり着いておきたいと思っています」

 

 元祖ガンダムども(GAT-X)は月の連合基地に運び込まれ、そこでテストなどを行っているようだが、月にはうちを含めた各方面のスパイがうじゃうじゃいる。ザフトやうちだけでなく、同じ連合であるユーラシアや東アジアなども暗躍しているようだ。彼らとて一枚岩ではなく、大西洋連邦主導のG計画の情報を欲していた。

 原作でもユーラシア連邦とアクタイオン社はG計画やザフトの技術を流用して、【ハイペリオン】というMSを開発している。で、時期的にはもう開発が大詰めを迎えている頃だ。つまりすでに()()()()()()()()()()()()()()。程なくXシリーズの情報はあちこちに出回るだろう。その頃ならうちがGAT-Xをコピったという情報が漏れても構わない。すでに()()()()()()()()()()()になっているだろうから。

 

「まあ流石にこれそのものと言うわけにはいきませんが、得られたデータを元に製造する予定の機体や装備を報酬として譲渡することも考えています。それ以外にも成果に応じて報酬には色を付けるつもりですが、いかがでしょうか?」

「本当か!? そりゃ良い条件だが……」

「以前から思っていたが、随分と気前が良い。俺達をかっているにしてもな」

 

 うれしいが戸惑っているロウと、若干疑っている眼差しを向ける劾。ふむ、サービスしすぎたかね? 理由ならあるけど。

 

「それだけあなた方には()()()()()と、そういうことです。当商会でも情報の漏洩には気を遣っていますが、それでも嗅ぎつける者はいる。そして外部の協力者であるあなた方なら()()()()()()()()()()()()。そう考える者もいるでしょう。危険手当というわけですよ」

 

 そういうわけだ。ただでさえこの二人の周りにはトラブルがつきまとう。こちらで抱え込むつもりはないが、手助けくらいはしておいても罰は当たるまい。サービス良くしておいてこちらの好感度も上げておけば、そうそう敵に回ることもないしな。

 

「そういうことならありがたく受け取っておくぜ」

「納得できる理由ではある。了承した」

 

 素直に受け取るロウと、まだ微妙に疑っている様子の劾。この辺りは双方の性格がよくでている。

 

「あとミナとギナ、折角ですから二人にも手伝って貰いますよ。丁度機体の強化と新規の機体を望んでいるようですし、GAT-Xの技術をフィードバックさせるテストベッドには都合が良いですから」

「ほう、分かっているではないか」

「我々もモルモットに使おうとはいい度胸だが、その分期待はさせてくれような?」

 

 そろってにやりと笑う姉弟。まあ【(アマツ)】かそれに匹敵する物は開発しておきたいし、あまりやって欲しくはないがこいつらうちのエース候補だしな。前線には出したくないのだが、いざというときはそうもいっていられない。本人たちも機体も強化できるんならできるだけしておかないとな。

 この一連の流れを見て、ヴァレリオはなんかうんうん頷いている。

 

「素晴らしい。全くもって素晴らしい。この私が高みに登るための実験体……こほんモルモット……ごほんごほん協力者としてこれほどの人間がそろうとは。これは私も張り切って……と、失礼」

 

 ぴりりとヴァレリオの懐から呼び出し音が鳴る。一言断ってから格納庫の端に移動した彼は、端末を取り出してこそこそ会話を始める。

 

「私だ。いま良いところ……なに!? それは本当かね!? 分かった、すぐに行く。絶対に引くんじゃないぞ!」

 

 途中からいきなり声を荒げたヴァレリオは、真剣な顔で俺に言う。

 

「すまない名代! ちょっと緊急の要件が入った! 後は任せる!」

 

 言うだけ言って、彼はものすごい速度で格納庫を去った。唖然とした顔で皆が見送る中、俺の脳裏に何やらきゅぴんと働く感覚があった。

 厄介ごと、いや、()()()()()()()()()()()()()()()。そのようなものか、これは。

 種割れの感覚とは違うであろう、もっとささやかな、電光のような何か。俺はこの勘働きに幾度か助けられている。よく分からん何かだが、まさかニュータイプ技能でもあるまい。

 それはともかくとして、ヴァレリオが向かった先に何かがあることは間違いない。彼が説明とか放り出すくらいだからよほどのことだと思うが……。

 ふむ。

 俺は好奇心が鎌首をもたげるのを止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼び出したチヒロに後を任せ、俺が向かったのは企画開発部。工房が魔窟であるとするならば、ここは魔界と言って差し支えないだろう。そこでは現在、3つの勢力が睨み合っていた。

 一つは重機およびMS開発部門。筆頭であるヴァレリオがなんか変なポーズで立ち、ゴゴゴゴゴという効果音を背負っている……ように見える。

 二つ目がシステムエンジニアリング・OS開発部門。その責任者である【ジャン・キャリー】が眼鏡を押し上げつつ、ドドドドドという効果音を背負っているように見える。

 そして最後が深宇宙探索および次世代推進機関開発部門。そのチームリーダーである【セレーネ・マクグリフ】が腕組みしてズズズズズという効果音を背負っている。

 うん、なんかここに居てはおかしい人間がいるように見えるが、スカウトしたり【D.S.S.D】を実質上買い取ったりしてたら集まっちゃった。おかげで特許とかの収入がすごいことになったけど、まあそれは良い。

 さてこの3部門、別に仲は悪くなかったはずなのだが、一体何事……と思ってたら、原因は彼らが睨み合ってる中央に居た。

 椅子に座り、所在なさげにオロオロしてる少年。ふむ、三次元になってもはっきりと誰か分かるその人物は、間違いなくキラ・ヤマト。本来の主人公様である。

 ……なんでここにいんの。

 

「どういうことだか、説明してもらえますかね?」

 

 緊迫した空気の中、俺は傍らのエリカに尋ねた。

 彼女は頭痛を堪えるような表情で答える。

 

「以前人材発掘のために行われたネット上のイベントで、優秀な成績を収めた子が企業見学に訪れたのですけれど……どの部門を見学するかで、対立が起こりまして」

「順番に全部見せれば良いでしょうに、何やってんですか」

「よっぽど優秀だったらしくて、それぞれが是非とも引き入れたいと全力でアピールする姿勢でして。むしろこの時点でよそにやってたまるかと言う勢いです」

 

 そりゃまあ確かに優秀だからなあこの子。その能力を知ってりゃ引き入れたいと思うわな。

 ちなみに俺は積極的にキラを引き入れるつもりはなかった。前にも言ったかも知れないが、彼ら――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。まあ胴体着陸とか強行着陸とかになるかも知れないが、墜落じゃなきゃそれで良い。

 ……話がそれた。ともかく主人公だからと言う理由でキラを戦いに引きずり込むつもりはないと言うことだ。そもこの少年は気質が戦いに向いていない。無理矢理原作通りの展開にさせたところで上手くいく保証など何もないし、大体原作の状況だって綱渡りじゃすまない奇跡の連続だ。なぞったところであっさりキラが死んでしまいましたとかいう事になってしまったらしゃれにもならん。

 それに無理矢理戦いに参加させたりしたら、下手をするとこっちの敵に回ってしまう可能性だってある。最悪主人公力が炸裂して俺が危険にさらされるだろう。本末転倒どころじゃない。

 味方に引き込むのであれば、本人が望んだときだけ。彼らに対してはそういうスタンスを取る。だから積極的なスカウトはしない。今にもやんのかコラとか上等だコラとか言い出しそうな連中の間に、パンパンと手を叩きながら俺は割って入った。

 

「はいはいそこまで。その子怖がってるじゃないですか。何威嚇し合ってるんですあなたたち」

 

 俺の言葉にセレーネとジャンははたと我を取り戻すが、ヴァレリオだけはむふんとドヤ顔だ。

 

「何を言っているのかね名代! 彼ほどの才能を持つ人間ならば是非とも引き入れたいと思うのが人の業! 私はそれに従っているだけに過ぎん!」

 

 どこぞのラスボスみたいなことを言い出しましたよこの人。

 

「何しろこの少年、私が全力で作ったMSの伝達制御機構に関する問題を解いたどころか改良点まで指摘してきたのだからね! 今すぐにでもスカウトしたいくらいだ!」

「待ちなさいあなたそれ社外秘でしょう」

 

 何やってんの。ホントなにやってんの。そんな目でヴァレリオを見てみれば……なぜかジャンとセレーネがふい、と視線をそらした。

 

「……あなたたちはなにをやったんです?」

「ちょ、ちょっとG.U.N.D.A.Mの構成と、セキュリティのハッキングについての問題を……」

「電磁推進機関を用いた軌道計算に関する問題を出しただけですよ。ええ」

「全部社外秘じゃないですか」

 

 こいつらは。……たぶんキラがすらすら問題を解いたので興が乗って、思わず自分のところの難しいヤツ出してしまったんだろうが、限度ちゅーもんがあるだろう。

 キラが小さく「なんか難しいと思ってたら……」とか呟いているのを聞かなかったことにして、俺はため息を吐き彼に向き直った。

 

「当商会の社員が申し訳ない。代わって謝罪します」

「い、いえその、大丈夫ですから。……それでその、あなたは」

「……おっと、申しおくれましたね。当商会の会長名代を務めております、ロン・ヤアと申します」

「あ、はい。初めまして、キラ・ヤマトです。……どっかで見たような

 

 うっかりロン・ヤアとしての姿をキラの前にさらしてしまったが、どうやら彼ははっきりとは気がついていないようだ。一応、セーフか。ギリアウトのような気もするけど。

 

「って会長名代!? それって事実上のトップじゃ……」

「たまたまこちらに顔を出していた物で。気になさらないでください」

「は、はあ」

 

 色々と衝撃が強すぎて感覚が麻痺しているのだろう。まあ原作よりはマシだと思って欲しい。

 

「では、あなたの案内は私がすることにしましょう。まあ他に適切な人間がいないからですが」

「「「え~! 名代ずるい~!」」」

 

 俺が宣言した途端、とたんにIQが下がったような台詞を放つ部門代表3人。女子高生かこいつら。ヴァレリオなんかずびしと指を突きつけて言いがかりをつけてくる。

 

「そうやって優秀な人間を手元で囲い込もうというのだろう!? 私は知っているんだぞこの前ドラマで見た!」

「あなたたちに任せると不安だからでしょうが。むしろドン引きされて逃げられそうです。当たり障りのない案内が出来る人間は今手が離せませんし」

 

 本来ならエリカ辺りに案内させたいところだが、彼女は急ピッチで進むアストレイの生産でてんてこ舞いだし、もう一人の適任者であるチヒロはロウたちの相手を代わって貰っている。他に任せられそうなのは今出払っているし、消去法で俺しかいなかった。

 俺の傍らに居るエリカは、「確かにそれしかなさそうですね」と諦めたかのように言った。あんたもかまいたかったんかい。

 とにもかくにも、俺はキラを引き連れて各所を案内して回ることと相成った。

 緊張しながら歩くキラを隣に俺は考える。果たしてこの状況は偶然なのだろうかと。

 

(……いや、そうとも言い切れんな)

 

 運命のような物、あるいはその効果なのかも知れないが、それ以前にこの状況は()()()()()()()()()()()()()()()()とも考えられる。

 原作にはなかったクーロン商会とひょんな事から関わり合いを持ち、その上でヘリオポリスの崩壊などなく学生生活を続けていた。将来的なことを考えれば、そろそろ就職かアカデミーに残って研究を続けるか、選択肢が浮かんでいることだろう。関わり合いを持つ企業から誘いを受ければ、見学の一つもしてみようかとも思うはずだ。

 結局、()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか言い様がない。自業自得、因果応報。この世界の中心から遠ざける気もなかったが、結局彼は俺というイレギュラーと関わることになってしまった。皮肉な物だ。

 こうなったら仕方がない。まずは商会がどういう物か見て貰うとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 施設内を見て回りながら、俺とキラは言葉を交わす。

 商会の概要。事業の内容。各部署の説明。それらを語る合間にキラから色々と聞き出す。

 家族のこと、アカデミーでの生活。将来の展望。そして、戦争に関すること。

 話してみて感じたが、やはりこの子、戦いには向いていない。今の戦争を憂う様子はあるが、それをどうにかしようという気概がないのだ。いやありすぎても困るのだが。

 だが当たり前と言えば当たり前なのだ。原作の状況がおかしかったのであって、今のこの子にぽんと銃を渡したりしたら狼狽えるだけだろう。戦いに使わない状況でMS動かして良いって言われたら、目ェキラッキラさせて喜ぶだろうけどな。

 スカウトするにしても、いきなり兵器開発系はないなと算段する。となればセレーネのところが妥当なのだが……彼女は彼女でなんかぶっ飛んだ性格だ。原作あんなんじゃなかったような気がするんだがなあ。ちょっと躊躇する。

 まあそれはそれとして、ついでだからロウや劾、ミナギナにも会わせてやった。どうやらロウやミナギナにも気に入られたようで、彼らから冗談半分で誘いを受け、キラはあわあわしてた。おいやめろ。別の物語が始まっちゃうからやめろ。

 とか何とかしているうちに案内を終え、キラの去る時間が来る。

 

「どうでしたか、我が商会は」

「思ったより色々なことをやっているんで驚きました。軍需産業を始めたって聞いていたから、もっと兵器の開発とかに重点を置いている物かと」

 

 大分慣れてきたようで、意外に遠慮のないことを言うキラ。

 

「商品の一つに過ぎませんからね、兵器という物は。人が生きるためにはもっと大切な物がいくつもある。そっちの方が儲けられますから」

 

 すまして答えてやった。彼がこの商会で何をどう見て、そして俺の言葉に何を感じるのか。どう捉えたにしろ判断するのは本人だ。俺は無理に誘導することはしない。

 どういう道を選ぶのかはキラ次第だ。敵に回らなきゃ良いとは思うが、この先何がどう転ぶかは分からない。それでも彼自身に選択させる方がいいと、俺は感じていた。ま、いつもの勘だがな。

 

「ですが君の言ったとおり、この商会は兵器も扱っています。それはつまり間接的に戦争と関わる可能性があると言うこと。それをよく考えて、道を選ぶがよろしいでしょう」

「他の皆さんとは違って、ヤアさんは是非ともと誘わないんですね」

「うちに来てくれるのでしたら、自分で選んで貰った方が快く仕事をして貰えそうですからね。願わくば縁があれば良いのですが、それは君次第でしょう」

 

 俺は手を差し出し、キラと握手を交わす。

 

「どのような選択をするにしても、後悔のない道が選べることを願っていますよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 こうして、俺はキラと別れた。

 この邂逅が未来にどのような影響を及ぼすのかはまだ分からない。

 しかし、何か一歩踏み出せたことは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ファイザーよこせええええええ。(怨霊風味)
 何で地域の予防委接種の予定が延びてんだよ打たせろよ! 俺にヤクを打たせろよおおおお!(問題発言)
 戦々恐々としている捻れ骨子です。

 はいすいません更新が遅れております。多分しばらくペースダウンですファッキン。仕事増えたんなら金よこせよ。(荒んだ目)
 まあそれはそれとして、アクタイオンプロジェクト横取りからのキラ君登場。おまけに二人ほど見たことがあるような人物がいますが。煌めく凶星「J」? 知らない子ですね。
 で、無理矢理勧誘とかしないで普通に案内してます。勢いよすぎてドン引きされたら逆効果だと直感したようですリョウガさん。
 はいなんかニュータイプ技能っぽいのに覚醒してます。人の考えとか死人の声とか聞こえないので多分違うんじゃね? と本人思っていますが。多分いっぺん死んで転生したせいで霊的ななんかが強化されてんでしょう。(適当)
 ともかくキラ君との邂逅でこの話はどのような方向に進むのか。もちろんノープランだぞ期待すんな。

 と言ったところで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・ユウナお兄さんとカガリちゃんの始まらないバージョンCE世界説明教室


今回の話はふわっふわでガバガバな設定しかありません。この話を読む者、全ての希望を捨てよ。くらいの感覚でどうぞ。




 

 

 オーブ政府専用機の機内で、カガリはもぞりと身じろぎする。

 

「どうにも慣れないな、こんな格好は」

 

 そういう彼女の服装は、タイトスカートのスーツである。まだ幼げな雰囲気を残す彼女には、なるほど不似合いに見えた。

 

「着続ければ似合うようになるさ。これからはそういう格好をすることも多くなる。今のうちになれておけば良いんじゃないかな」

 

 隣の席に座るユウナはそう言う。礼儀作法の『特訓』をひとまず終えたカガリは、ユウナの補佐として彼の外交に同行することとなった。

 リョウガの指示であるが、その際彼はカガリに言い聞かせている。

 

「いいか、何があろうと()()()()()。どんなに不愉快であろうと、どんなに認められないことであろうともだ」

 

 短気なのを自覚しろと、リョウガはそう重ねて言った。自覚しているつもりであったが、周囲の全員から「自覚しているだけで直す気全くないだろう」と散々言われ、カガリはちょっと凹んだ。

 ともかくさんざっぱらあちこちから余計なことすんなと念を押され、送り出された。そこまで信用ないのかと言いたいところだが、流石の彼女もアフリカでやらかしたという自覚はあるので、ぐうの音も出ない。黙ってリョウガの指示に従うしかなかった。

 

「リョウガだって心配なんだよ。アフリカでは運が良かった。場合によってはいきなり撃たれることだってある」

 

 そうやって宥めたユウナを、カガリはジト目で見る。

 

「経験がありそうな台詞だな」

「銃を向けられたことはあるよ。いやぁ、生きた心地がしなかったねえ」

 

 軽薄な笑みを見せるユウナを見て、話半分に聞いておこうと思うカガリ。なおユウナは一片の嘘も言っていない。

 

「流石にそこまでとは言わないけれど、色々な国を見て色々な経験を積むことは糧になる。しっかり学ぶんだね」

「分かっている。……しかしどうにもこういうのは息が詰まるな」

 

 通常の旅客機に比べて十分なスペースのある政府専用機だが、閉鎖空間であることには違いがない。あまりこういうところが好きではないカガリは居心地が悪そうだ。

 

「こういうのも慣れだけどね。……そうだ、気晴らしにちょっと国際情勢のおさらいをしておこうか」

 

 良いことを思いついたと言わんばかりのユウナ。カガリは渋面となる。

 

「いくらなんでも現状が分からないほど阿呆じゃないぞ私は」

「まあまあ、顧みることは大切だよ。世界を巡る中で視点を変えてみれば、新しく見えてくるものもある」

 

 憮然とするカガリを宥め、ユウナは話し始める。

 

「では先ず根本的なところから。現在コズミック・イラと呼ばれるこの時代が生じるきっかけとなったのは何だと思う?」

「それはもちろん【再構築戦争】だろう」

 

 かつて西暦と呼ばれた時代、その末期。各地で民族紛争や宗教紛争が激化し、なおかつ石油資源の枯渇や環境汚染の深刻化、世界不況が起こり、結果世界は戦乱の渦に叩き込まれた。

 大国で次世代国主の席を争う内乱。それに乗じた侵略。それらをどう対処するかでもめ、内戦状態に陥る別の大国……などなど、てんやわんやですったもんだの挙げ句、最終的には核まで使用する騒ぎとなり、泥沼の戦いはぐっだぐっだになりつつも何とか終焉を迎えた。

 その戦い、第三次世界大戦とも呼ばれるそれは、世界を改めたと言うことで再構築戦争と呼ばれるようになった。

 

「その戦いの結果、世界は旧大国を中核としてブロック化し、現在の国家群が生まれた。オーブもそのときに建国され、現在に至る。……でよかったよな?」

「その通り。現在世界は11の国に分かたれているわけだ。その上でプラントという新たな勢力が生じて、現在戦争真っ只中というわけだね。……ではそのプラントを作り上げた理事国、それぞれの成り立ちと現状は?」

「理事国……大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国の3つだな? まずは大西洋連邦か。旧アメリカを中核に、カナダ、イギリス、アイスランド、アイルランドが合併して出来た国家で……」

 

 この世界で再構築戦争勃発の時、他国に介入するか否かで内戦状態に陥ったのがアメリカだ。元々エネルギー問題や人種問題で治安がどん底まで悪化していた上、二大政党の仲が今にも殺し合い始めるんじゃねーかっていうくらい険悪になっていた。そして世界に戦乱が広まり始めたとき、それぞれの支持者などが暴動を開始。それは一向に収まらず州兵まで出動する騒ぎとなって、あれよあれよという間に全国に広まった。

 もちろんとてもじゃないが他国に手を出している余裕などなく、やっと自国の火消しが終わったと思ったら他国は併合を始め、自国は焼け野原。これはいかんと周辺国に併合しいへんと持ちかけたら、乗ってきたのは完全に情勢に乗り遅れたカナダと、これまたいろんな問題で満身創痍のイギリスなどであった。

 こうしてガッタガタのアメリカを中心に結成された大西洋連邦は、何とか経済政治を立て直し……プラントとの戦争でまたガッタガタになった。

 

うち(オーブ)の支援がなかったら割とヤバかった、っていうのが私の私見だ。次はユーラシア連邦。ロシアとEUが併合した国だな」

 

 あちこちで内乱や紛争が起こり始めたとき、ちゃーんすとばかりにはっちゃけたのがロシアだ。当時の首相が超タカ派で領土的野心を抱いていたこともあって、周辺国家に向け武力を伴った介入を始めたのだ。この時主に被害を受けたのが日本と東欧諸国である。日本はろくに反抗も出来ず北海道を占拠され、東欧諸国も抵抗むなしく陥落した。

 ……が、そこでロシアも息切れする。元々ロシアもエネルギー問題などを抱えており、それを解決するための出兵であったが、エネルギーや資源の問題を抱えているのはどこも一緒であった。はっきり言って領土を奪った分丸々大赤字に近い状況に陥ってしまう。

 やべえ下手したらうちでも内乱とか起こっちゃう、と困ったロシアに声をかけたのがEUである。うちと組んだら貿易の販路とか広がるし、経済も安定するよ。などと甘い言葉にふらふら乗っかったのが運の尽き。言葉巧みに良いようなことを言っておいて、実は借金だらけであったEUの負債を丸々抱え込んでしまう羽目になった。まあ確かに経済は安定したが。低い方で。

 こうして半ば自業自得でボロボロになったロシアと、それにたかりまくる気満々だったEUは併合。つぎはぎだらけの国家が誕生することとなる。

 もちろんプラントとの戦争でガッタガタだ。

 

「こっちもうちの支援がなかったら餓死者が倍じゃすまなかったんじゃないか? ……それはともかくとして、最後は東アジア共和国か。ここはなあ……」

「リョウガが「どうしてこうなった」って頭抱えている時点で推して知るべし、だからねえ」

 

 思わずユウナが口を挟む。リョウガをして現場猫感を出さざるを得なくなったかの国の現状は、簡単に言えば()()()()()()()()()である。

 何でそうなったのか箇条書きにすると。

 

 

 

 1・中国で国家主席が亡くなり、その後釜を巡って党内で争いが生じる。元々危ういところでバランスを取っていた状態で生じた争いは歯止めがきかず、ついには軍閥同士が激突する内乱状態へと突入する。

 

           ↓

 

 2・それを好機とみたロシアが中国を含む周辺国へ武力介入を開始、中国では敵味方がごっちゃごちゃであったためろくな効果がなかったが、日本は押し切られ北海道を放棄。そのことに関し日本国内の大陸派政党とマスコミは政府を激しく攻撃。無茶苦茶な国際情勢に翻弄され追い込まれた与党がカチ切れ、警視庁と公安関係、自衛隊を抱き込み、大陸派とマスコミ、ついでにその他諸々を徹底的に叩く方針へと舵を取る。

 

           ↓

 

 3・そうこうしている間に、中国国内に潜んでいた民主派が蜂起。軍閥の一部と民主化した方が儲けられるとみた一部の富裕層、独立の機会を窺っていた台湾の後押しを得て、内乱していた旧政権を追い落としにかかる。内ゲバで疲弊していた旧政権はこれに抵抗できず追いやられ始めた。

 

           ↓

 

 4・最終的に自暴自棄になった旧政権派は中央アジアで核使ったりして悪あがきしたが、各個撃破され敗退。これにより民主政権が一応樹立する……はずだったが、国内はボロボロ。また民主派には政治的ノウハウも少なくいきなり窮地に追い込まれる。

 

           ↓

 

 5・ほぼ同時に日本も国内の膿を片づけたり追い出したりしたが、やっぱり国内はボロボロ。とくに北海道の件もあって軍事的に相当の被害が生じることとなった。

 

           ↓

 

 6・気がついたら他国は併合し国力を回復させつつあった。

 中「……手を組まね?」

 日「……そうしよっか」

 こうして中国・日本・台湾、おまけで朝鮮半島を含んだ共和国が誕生する。その際極端から極端に走る日本の習性と、過去の政権の残滓を粉砕する中国の習性が悪魔合体し、「アカはくたばれ、あとロシア殴る」という右より国家になってしまった。

 

 

 ……っていう過程で、詳細な設定がないから筆者が好き勝手やった国が成立してしまったわけだ。

 なおこの国家が誕生する過程で一番苦労したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。何しろ仮想敵だった中国が内乱起こしてすわ実戦かと思ったら母国が内乱状態になって指揮系統がめちゃくちゃになるわ、軒下借りてた日本にロシア軍が攻め込んでくるわ日本自体もわやくちゃになるわ、どさくさに紛れて北朝鮮が韓国に攻め入ろうとしてそれを食い止めなきゃならなくなるわ、なぜか攻め込まれた韓国が日本に軍を差し向けようとしたのでそれを殴って止めなきゃならなくなるわ。ともかく八面六臂の獅子奮迅で彼らは頑張った。彼らの存在がなければ東アジア共和国という国はなり立っていなかったかも知れない。

 だが大体の騒動が片付いたとき、彼らは母国から非難される。曰く国家の危機の時に何油売っとんねん、と。

 彼らは激怒した。満身創痍になりながらも役目を果たした挙げ句がこれか。殴っ血kill、と母国へ殴り込まんばかりの彼らを成立したばかりの共和国は必死で宥め、すったもんだの挙げ句彼らの一部は共和国へ亡命。装備の何割かは米国改め大西洋連邦から払い下げるという形で共和国に譲渡。と言う形で決着がついた。この裏には()()()()()()()()()があったらしい。

 で、当然現在共和国も戦争でガッタガタである。

 

「……全面的にガッタガタのところしかないな!」

「一部の例外を除いて世界規模でガッタガタだよ。で、一部の例外が我が国というわけなんだが」

 

 運が良かったよね実際と、ユウナは一瞬遠い目になる。再構築戦争のどさくさに紛れる形で建国されたオーブだが、それから現在まで奇跡のような綱渡りをこなしつつ発展してきた。

 大国が混乱の渦に叩き込まれる中、危機感を覚えたソロモン諸島周辺でも統一国家を樹立しようとする動きが持ち上がった。しかし元々小規模な民族、国家が集ったところで他の勢力と渡り合えるのかという不安がある。

 その不安はひょんな事から解決へと向かう。大国から戦乱や事変から逃れるために、移住を希望する者たちが押し寄せてきたのだ。その中でも特に多かったのが日本から疎開してきた者たち。国が圧政とも思えるような方向に舵を取り、どんどん右側に傾いていくことに危機感を覚え国を脱した彼らは、私財を差し出すのと引き合えに受け入れを願った。

 彼らがもたらした財を元手に、諸島は賭に出る。火山帯であることを利用した地熱発電を建造しエネルギー問題の解決を図り、国家としての体制を整えた。そして各国の混乱の隙を突き、建国に持ち込んだのだ。

 どさくさ紛れに成立した国家は、なぜか旧日本の文化の影響を受けまくり(第二公用語が日本語になったり)、専守防衛平和主義を謳いつつあちこちにいい顔したりおべっか使ったりして、隙間産業的に世間の荒波を乗り越えていく。

 そして、プラントとの戦争が、オーブという国の優位を決定づけた。

 その要因は大まかに二つあると、ユウナは思っている。一つは地力発電をはじめとしたオーブのエネルギーインフラが、ニュートロンジャマーの影響をほぼ受けなかったこと。もう一つがリョウガという希代の『大悪党』がこの時代で辣腕を振るっていたことだ。

 エイプリルフール・クライシスの前からプラントと理事国の対立に危機感を抱いていたリョウガが先手先手を打ち、後ろ暗い手段に手を染めてまで資金を集め、オーブという国を護るために尽くしたからこそ今がある。最初は反発していた派閥の者も、損得勘定でリョウガについた者も、その采配は本物だと認めざるを得ない実績をたたき出してきた。今ではむしろ追い落としたりしてフリーにしてしまう方が危険だから、何としてでも国に縛り付けておくべきだという意見で一致しているほどだ。

 ともかく運が良かった。()()()()

 

「この世界情勢の中、我が国は中立という建前の下国力を維持することに力を尽くしてきた」

「建前って、お前な」

「大事なことだよ? 我が国が()()()()()()()()()()()()()ってことは、そろそろ理解できているよね」

「う、むう……」

 

 カガリが唸る。礼儀作法と同時に国際情勢と国の現状を改めて叩き込まれた彼女は、納得いかないまでも国の在り方にある程度の理解を得ていた。

 

「正直我が国が結構腹黒くて詐欺師じみてることにちょっとショックを隠せないんだが」

「そうでなきゃ生き残れなかったからね。そしてこれからも危ない橋をいくつも渡る必要がある」

 

 僅かにユウナの眼差しが真剣な物になった。それに気づいているのかいないのか、カガリは眉を顰める。

 

「戦争が続く限りは、か」

「この戦争はもうプラントと連合だけのものじゃない。第四次世界大戦と言っても差し支えないものだ。誰も彼もが必死で、そしてそれ故に手段を選ばないところも出てくる。核然り、NJしかり」

「……NJの投下を連合、理事国だけに留めておいたら世界中を巻き込むこともなかったかも知れないのに、なんでザフトは過剰なまでにばらまいたんだろう」

 

 カガリの言葉にユウナは肩をすくめた。

 

「そりゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()からでしょ」

「世界中を敵に回すような行為をしてか?」

「理事国を完全に麻痺させる必要があったんだよ。何しろ国力だけで考えてもざっと100対1くらいだ。それをひっくり返すには中途半端なやり方じゃ足らない。理事国が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事も考えられただろうし、結局優位を保とうと思ったら地球全土を麻痺させるしかなかった。僕はそう睨んでいるよ」

 

 ()()もの死者を出すこととなった暴挙。だがそれは、ザフトにとっても苦肉の策だったとユウナは言う。

 

「事実現在の戦況は五分五分に近いだろう? 本来の国力差ならここまでは持って行けなかった。MSと言う新兵器があったとしてもね。そしてこれからはその優位をいつまで保てるかわからない」

「連合が、MSの開発に着手したからか」

「そういうことさ。戦況は大きく変わる。そして()()()()()()()()()()()()()だろうね」

 

 連合が戦力的に持ち直し余力が出来れば、必ず内部で勢力争いが始まると、リョウガは断言している。何しろ元々連合を形成する三国は仲が悪かった。その成り立ちから考えれば当然のことであるが、それでも各国の穏健派が協力し合い、なんとか共同で出資を募ってプラントを建造する事業を行うくらいには安定していた。

 それがプラントの独立騒ぎで、全部ご破算である。共同事業の音頭を取っていた穏健派はそのほとんどが失脚か、勢力を大幅に減じていた。現在連合内の三国で政権を牛耳っているのはほとんどタカ派と言っても過言ではない。今は対プラント、ザフトへの対処で連合という体制を取っているが、そんな状況の中でもマウントの取り合いや足の引っ張り合いがあるのだ。余裕が出来ればどうなるか、火を見るより明らかだとリョウガは言う。

 もっともリョウガは()()()()()()()()。連合に対して支援を行ったり、クーロン商会を通じて暗躍していたりするのはそういった思惑があった。プラントを含んだ各勢力の対立を煽り、その隙を突いて経済的、政治的に美味しいところをかっさらっていく。そうしてオーブと敵対しにくいような土壌を作りつつあった。一歩間違えば連合とザフト双方を敵に回してしまう危険もあったが、絶妙な立ち回りでそれを避けている。

 全ては連合、ザフトの双方を疲弊させ、戦いを鎮静化させるため。さじ加減を間違えれば双方を追い込み、暴走させる危険もあったが、何もしなければしないで戦況は泥沼と化す。戦いを軟着陸させるためには危ない橋を渡るしかなかった。それを理解させられたがゆえに、オーブはリョウガの采配の元、一丸となって奔走しているのだ。

 

(リョウガが居なければ、こうも上手くいっていなかっただろうな)

 

 そもリョウガという存在がなければ、オーブの氏族は纏まることはなかっただろうとユウナは推測している。元々代表首長ウズミの派閥と他の氏族は対立関係にあった。その溝を埋めたのがリョウガだ。実績をたたき出し、双方の派閥をなだめすかし、あるいは頭を下げ、時には拳で語り合い、ついでに股間を襲撃したりしながら、歩み寄りを促した。ユウナなんかはそれに巻き込まれて結構酷い目に遭ったりもしたが、そのおかげで随分と心身共に鍛えられた。

 とにかくリョウガは人をやる気にさせるのが上手い。賞賛すべきところはするし、それ相応の見返りも惜しみなく与える。裏を押しつけられ野心をくすぶらせていたサハク家を表に引きずり出して、相当の地位を与え腹心にしてしまったのが良い例だ。ユウナだって尻を蹴飛ばされながらも、結果を出せばそれなりに報われその気にさせられて、今ではオーブ外交の顔だ。一昔前であったらば考えられなかったことである。

 

(けどそれ故に、今リョウガが居なくなれば瓦解する危険もある)

 

 精力的な働きを見せるリョウガだが、色々と一人で背負い込みすぎである。まあ本人もその辺は問題だと考えているようで、仕事を割り振ったり投げたりしているが、それでも全然負担は減っていないのが実情だ。

 今彼が倒れたりしてしまえば、折角纏まった国がまた割れてしまうかも知れない。そういう危機感は常にあった。しかしリョウガのやることを完全に補える人材はまだ育っていない。はっきり言ってカリスマはともかく発想と指導力、そして行動力はウズミをも上回る。彼に比肩する人材を育てるにはとてつもない労力が必要になるだろう。そうでなくとも彼の負担を一部なりとも肩代わりできる人材は必要であった。

 

(急務ではある。だけど急いても良い結果が出るわけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。腰を据えて、今は出来ることをやらなきゃね)

 

 焦ってはいけないと、ユウナは自分を戒めている。己がリョウガの役目を肩代わりできるというほど自惚れてはいない。世界を見せられた、そして様々な人間を見てきた彼は身の程という物を知っていた。

 今すぐ状況を変えるほどの力を持つ者は、自分を含めて誰も居ない。しかし一つでも、少しでも、やれることはあるのだ。石を積み上げるように事をこなし、そして次世代をになう人材を育てる。そうすることでこの戦争を、その先の時代を生き抜かなければならないという意思があった。

 そのためにも。ユウナは意味ありげな視線をカガリに向ける。

 

「……結局は妥協点を見いだせないから……ってなんだよその視線は」

「ちゃんと勉強しているようだなって安心してたのさ」

 

 訝しげな顔になるカガリ。まだまだだなあとユウナは内心ため息をついた。

 リョウガをしてどうしたもんだかと言わしめるカガリ。能力がないわけじゃない、ただその気質が問題だった。ある程度成長するのを待って自分たちと同じように軍に放り込んでみたらばいきなりやらかした。再教育を施したがどこまで身にしみているのか疑問だ。

 だからといってリョウガは見捨てない。「気質はともかく阿呆じゃないんだ。逆に言えば気質さえ何とかすれば使えるってことさ」などと嘯くが、それでなぜ自分にお鉢が回ってくるのか。

 

(婚約者だからですよね~)

 

 別に嫌いじゃないが、なんで親は婚約を結んだりしたのか。ちょっと恨むがまあ仕方がない。リョウガに恩を売りつける意味でも、しっかりと仕込まねば。

 責任感というか、世話のかかる生徒を押しつけられた教師の心持ちで、ユウナは話を続けた。

 

「それじゃあ今度は他の国のことだね。丁度今向かっているスカンジナビアから行こうか」

「まだやるのか。……仕方がないな、【スカンジナビア王国】は、その名の通りスカンジナビア半島にある国家で形成された……」

 

 2人を乗せた専用機は、一路北欧へと向かう。

 外交という名の戦い。ユウナの戦場にて、カガリは何を見て、何を学ぶのか。

 そしてどうなるかは、まだ見えてこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 とりあえず一回目の予防接種はしゅーりょー。2回目の時は夏休みも取るから準備はオッケー。
 3日しかねえけどな! そしてすでに秋だけどな! 休めるだけマシですが捻れ骨子です。

 はいなんか設定話。この話の世界がどういうことになっているのかという説明です。読んでいただいたら分かりますが、原作とはかなり違う部分も多いです。そして書き切らなかった部分も多々。
 正直今回難産だったんですよう(泣き言)もうちょっとスマートに説明できたら良かったんですが、自分ではこれが精一杯です。まあなんとなくこう言う世界だという雰囲気がふんわりと分かっていただければ。自分でやっておきながらガバガバですが。
 ともかく全部説明しきったわけではありませんので、こう言う話はまたあるかと。そして先伸ばしになる更新。神よ私に執筆速度をくださいダメですかそうですか。

 ともかく今回はこんなところで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11・前進することを諦めない

 

 

 オーブ議事堂。その円卓を備えた会議室で、五大氏族を含めた氏族首長が勢揃いしていた。

 議長席に座る親父殿が、よく通る声で言う。

 

「それでは補佐官、説明を頼む」

「は。……では皆、手元の資料を見て欲しい」

 

 俺の言葉に従い、一同は資料を手に取る。この会議は忌憚なく意見を述べるためという名目で、上下の関係なくざっくばらんに発言出来るようになっている。俺が普段通りなのはそのせいだ。

 

「資料にあるとおり我が国の技術開発目標の一つ、小型核融合炉の開発に目処がついた。現在クーロン商会にて試作を始めている。今月中には形になる予定だ」

 

 ほう、と幾人かが声を漏らした。期待と不安の視線が向けられる中、今回の議題の一つ、M()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の開発状況の説明に入る。

 実のところ炉心自体の小型化には成功していたんだ。だが発生するエネルギーを電力に変換する発電機構と、炉の熱を処理する冷却システムの小型化に難航していた。このままだと、例え無理矢理MSに積み込んだとしても、発電冷却の機構をでっかい背負い物にするか、あるいは機体そのものを大型化するしかない。……それはそれでロマンだが、そこまでするメリットはないだろう。それに元々M()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな。そういう意味では最低限の目的は果たしていると言えば果たしているのだが。

 しかし今回、意外な方向から技術的ブレイクスルーがもたらされ、さらなるコンパクト化を可能とする目処が立ったのだ。その要因となったのがP()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 PS装甲――フェイズシフト装甲は、装甲に用いられる金属の分子構造レベルで相転移を起こし、電力の消費と引き換えに物理衝撃を無効化する。物理エネルギーを変換して消し去っているのだ。これを応用すれば、刀剣などの攻撃力を向上させることも可能で、ただ防御だけに限定された技術ではない。

 ヴァレリオを筆頭とする商会の変態ども技術者たちはこの技術に目を付け、その派生を研究した。結果分子レベルのエネルギー変換の応用技術を生み出すことに成功する。ようするに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えたのだ。

 結果生み出されたのが、炉心の熱エネルギーを直接電力に変換できるシステムである。分子レベルの熱発電機と言っても良い。これを炉心外殻に組み込むことで、複雑なウォーターバイパスやタービンを備える必要がなくなったのだ。しかしまだ、発生する莫大な熱と放射線をどうするかという問題は残っていた。

 そこで今度はヤタノカガミの出番である。この装甲、ナノスケールのビーム回折格子層と超微細プラズマ臨界制御層から構成されているという、よく分からんがスゴイ装甲だ。

 まあぶっちゃけると、()()()()()()()()。それを応用したら()()()()()()()()()()()()()()()()ことが分かった。

 核融合炉の熱と放射線を封じ込めるには、うってつけだった。

 こうして、CEが誇る謎技術をアレでナニな連中がいぢくり回した結果、主要部分が2メートル四方にすっぽり収まる小型核融合炉の開発に目処がついちゃったわけである。

 ……自分でやらせておいてなんだが無茶苦茶だなおい。一部の氏族首長も眉唾物だと言わんばかりの表情だ。

 

「冗談……ではなさそうだな」

 

 1人がそう言う。俺は頷いて見せた。

 

「ここまでの開発が進むとは私も思っていなかったが、紛れもなく事実だ。……この技術のおかげで、【コミティスプロジェクト】が繰り上がることになる」

 

 ギリシャ語で彗星を意味する言葉を冠する計画。それは()()()()()()()()()()()()()計画だ。小型核融合炉は、その核となる。

 単純に今までの動力と積み替えると言うことではない。まあ俺の前世たる世界で、原子力空母は大体10万㎾のくらいの原子炉を2基くらい積んでいた。この世界でも艦船は(宇宙艦を含めて)それくらいの動力を搭載している。比して今回の小型核融合炉は、設計上で1万㎾前後。とてもじゃないがそのまま積み替えても、出力不足どころの騒ぎではない。

 ではどうするのかと言えば。

 

「この核融合炉をコアとした()()()()()()()()()。肝心の推進器たる【ヴォワチュール・リュミエール】の開発はスケジュール通りだ。しかしその前身たる電磁推進器はもうテスト段階に入っている。当面はこれで各種実証試験を行う予定だ」

 

 俺がD.S.S.Dを手中に収めた理由がこれである。かの機関が開発している光波推進システム、ヴォワチュール・リュミエール。これと小型核融合炉を組み合わせ()()()()()()()()()()()()()()()()というのが、コミティスプロジェクトの一つであった。

 元々のヴォワチュール・リュミエールは、太陽光や外部からのレーザー、荷電粒子などをエネルギー転換して推進力とする、()()()()()()()()()()()である。そして本体に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これを応用したのがDESTINYに出てきた【デスティニーガンダム】であり【ストライクフリーダムガンダム】だ。かの2体は核動力を搭載することによってヴォワチュール・リュミエールを外部からのエネルギー供給なしで(厳密にはデスティニーはちょっと違うが)運用することを可能とした。つまり同等以上の動力を用意すれば、組み合わせて大出力のエンジンとすることが出来ると判断したわけである。

 このアイディアはD.S.S.D開発主任であるセレーネが、技術的に問題なしと太鼓判を押している。クーロン商会に組み込まれる形となった彼女らは、現在全力でヴォワチュール・リュミエールエンジンの開発に取り組んでいた。程なく形になってくるだろう。

 俺の話を聞いた首長たちは考え込んだり頷いたりと様々な反応だ。

 

「まるでSFだな。これが実用化すれば、宇宙船舶は推進剤のくびきから解き放たれることになる。そうなれば宇宙でのイニシアチブを我々が握ることも可能となる、か」

 

 1人が思案しながら言う。それに対して親父殿が厳かに答える。

 

「そうだ。プラントと連合が削り合っている隙に、我が国は()()()()の下地を整える。大国に飲み込まれないためにも、一歩先へ進ませて貰おう」

 

 オーブは経済的にはともかく、地理的には小国である。もちろん国土を広げるなどの野心は持たないが、四方は海で攻め込まれれば弱い。山ほど防衛計画を考えても、隙を見せれば突き崩せる物だ。

 だから宇宙(そら)()()()()。プラントと理事国の関係が悪化する前から、オーブは独自に宇宙開発を推し進めていた。それこそ俺が生まれる前からだ。

 地上で国土の拡張など望めないが、宇宙なら切り取り放題だ。しかも先住民とか居ないからそういったトラブルとか起こらないぜヒャッハー! ……などと先人たちが考えたのかどうかは知らないが、ともかく国家事業としてかなりのリソースを注いでいるのは確かだ。なにしろ他の勢力に先駆けて軌道エレベーターの建造手前まで至っているのだから。 しかしそれも戦争が起こったせいで中断と路線変更を余儀なくされた。まずは生存戦略を立てること、そして可能であれば戦争の終結に力を尽くすこと。そういった方面にリソースを振りわけなければならない。宇宙開発は軍事に転用される部分が多くなり、本来の『開拓』は後回しにされることとなった。

 宇宙開発の遅れは、オーブの停滞を意味する。しかし今起こっている戦争を放置するわけにもいかない。ジレンマである。それを解決する一助とすべく俺が立ち上げた一つがコミティスプロジェクトだ。

 この計画は、()()()()()()()()()()()()()()()()事を目的としている。共用が可能な技術を開発することによって、二律背反を解消しようとしているわけだ。言ってみれば一石二鳥を狙っているわけだが、普通に技術開発してても軍事利用できるものはいくらでもある。某ガンマ線レーザー発振設備とかな。だからかわりかしすんなりと、この計画は議会を通った。

 まあまだ核融合炉開発の目処が立っただけだ。問題はいくらでもある。そも現時点で試算された小型核融合炉一基のお値段は、初期GAT-X 5種一揃いと大体同じだ。PS装甲とかヤタノカガミとかの技術をぶっ込んだんだから当然というか、むしろ安く上がっているんだが、だからといってそうポンポン生産できる物でもない。金があるとは言え物には限度という物がある。開発が進めばコストも下がってくるだろうけど、それにはしばらく時間がかかる。

 

「……など、まだ幾ばくかの問題点はある。この辺りはクーロン商会の技術陣と、宇宙開発局の手腕にかかっている。期待させて貰おう」

「ここまでお膳立てを整えて貰っておいて、大した成果も上げられないなど言わせんよ。鋭意努力するよう、開発局局長には言い含めておくさ」

 

 俺の言葉に師匠(コトー)が答えた。これまでコミティスプロジェクトも俺の主導でやってきたが、ここから先は商会と宇宙開発局(サハク家)に丸投げする気満々だ。

 十分な下地は作った。後は俺でなくとも続きは出来るはず。と言うかして貰わないと困る。いい加減でかい仕事を受け持って貰わないと体がいくつあっても足らないんだ。寝ないで仕事してるとあちこちから止められるしな。

 それはさておき、大がかりな計画と宇宙開発局、宇宙軍という重要な組織をサハク家預かりにすることに難色を示す者もいる。今まで裏の仕事に携わってきた実績とイメージがまだ根深いと言うことだが、これはこの先の働きで払拭して貰うしかない。

 ……ゆくゆくはミナあたりに代表首長やってもらえねーかなーとか個人的には考えているが、まだそう言う流れを作るのは難しいか。俺を代表首長に推す声も多いが、むしろ俺としては今のように動きやすい立場で裏から国に関わる方が性に合っていると思っている。どうにもままならない物だ。

 ……ユウナ辺りでも良いから、代表首長やってくんねーかな。

 そんな俺の本音は置いておこう。会議は次の話題に移っている。

 

「……このように税収は増加傾向にある。多くの企業や資本家が当国に拠点を移したのが要因だな。この傾向はしばらく続くと思われるが楽観視はできん。逆にこの好景気が、他国に目を付けられるとやっかいだ。かといって軍備にだけ金を突っ込むわけにもいかん。そのことは理解されていると思うが」

 

 そのように報告するのは【ウナト・エマ・セイラン】。経済産業関係を任せている、ユウナの親父さんだ。

 原作では宰相の地位にあり、オーブを実質的に支配していた野心家だが、たった2年でマスドライバーとモルゲンレーテ本社を失ったオーブを立て直したという『実績』がある。それに目を付けた俺が推して、彼は今の立場にあった。実際国の経済関係は彼に任せてから好調を保っている。もちろん状況が有利に働いたというのもあるが、それを差し引いてもウナトはよく働いてくれていた。

 彼の言葉に俺は頷く。

 

「もちろんだとも。連合が軍備拡大に躍起になっている隙を突いて、各国に経済的な『侵略』を行っているが、そっちも好調だ。流石に民間のシェアを全て奪うというわけにはいかんが、軍需産業の足を引っ張るくらいはできるさ」

 

 オーブを目の敵にしているのは、主に軍需産業複合体【ロゴス】や、国防産業連合理事でありブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルなどだ。まあ最近アズラエルはどうにも様子がおかしいようだが、立場的にはまだ敵意を持っているとみた方が良いだろう。言ってみれば経済的に一人勝ちをしているオーブが気に食わない。俺達にも美味しいところをしゃぶらせろというところか。国の中枢にも影響力を持つ彼らとのパイプがあるウナトとしては、危惧を覚えているのだろう。

 その不安は当然のことだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこに偏っているように見えるCEの世界がおかしいのであって、経済的な割合はその他の物が圧倒的に多いのだ。そっち方面の影響力を強めていけば、ボディーブローのように効いてくる。

 ……それでも油断ならんのがこの世界なんだがね。

 

「軍事的なことを言えば、現在予算範囲内で予定通りに事は進んでいる。連合がこっちに目を向ける前には準備は整う。ザフトと睨み合っている状態で、早々我が国に手も出せんさ。出せたとしても情報戦とちょっとした嫌がらせ程度だろう。早期の大規模侵攻でもない限り、この国は落とせん」

 

 皆の不安を払拭するためにも、あえて強気で言い放つ。やれるだけのことはやるし、原作でオーブに差し向けられた戦力ならば十分に対処できるだけの物は揃える。……とはいえ自分でフラグ立ててしまったような言い様になってしまったが。

 そんな俺の言葉でも、ウナトは一応の安心を得たのだろう。少しだけ表情を和らげた。

 

「ならば良し、と言うことにしておこう。……国債の値も上がっており、各方面からは追加の要望もある。が、現状では早々外に買わせるわけにもいくまい。制限するよう国会に働きかけるが良いな?」

「皆、異論はないか? ……ないようだな。ならばこの件はあなたに預ける。良いように回してくれ」

「承知」

 

 オーブの国債は何割かが氏族の手にあり、それ以外は国内と海外の投機ファンドに購入されていた。まあその投機ファンドに購入されたものはかなりの割合で俺に把握されてるけど。つーかぶっちゃけ俺の手による物だけど。以前アフリカとかでやった復興バブルの金をロンダリングさせる必要もあったしな。

 経済的なマッチポンプは基本。いいね? 

 ともかくオーブの技術開発と経済は順調。大体予定通りに事は進んでいる。とはいえ国だけ順調でも、戦争が終わるわけじゃない。

 一歩一歩、少しずつ、根回ししながら進めていくしかない。この戦い、そしてその先に待ち受ける戦い。それらを生き抜くために。

 俺の思惑だけじゃなく、各氏族の思惑もあり、それをすりあわせつつ国の行く先を舵取っていく。平穏という目的地はまだ見えない。

 たとえ平穏を手に入れたとしても、それは仮初めの物になるかも知れない。だが、それでも。

 カウチでごろ寝しながら映画でも見つつピザを暴食してビールを痛飲して、挙げ句に泥のように爆睡するためには何だってやってやる。

(↑働き過ぎで変な方向にガンギマってる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氏族会議を終えた後、俺は普段の仕事に戻った。そして職務に就いている最中にある知らせが届く。

 

「アークエンジェルが、地球に向かう、か」

「はっ、プトレマイオス基地でのデータ取りを終え、地球での運用テストを行うためと推測されます」

 

 報告するのは軍情報部の士官だ。リシッツァを筆頭とするCSSの猛者を教官役に鍛え上げた情報部は、かなりのレベルに仕上がった。もたらされる情報の信用度は高い。

 まあそれ以前に予想されたことではある。

 

「となると、基本的なテストとデータ取りは終わったと言うことだな。程なく連合製MSの生産が開始されるだろう。……大西洋連邦の企業の動きは?」

「各地の工廠に多量の物資が納入されたのを確認しています。生産体制はすでに整っている物かと。逆にコロニーなどでの生産は控え気味のようですが」

「ふむ」

 

 生産拠点は地上をメインに、ということか。確かにコロニー群だとザフトの襲撃に遭う可能性があるからな。地上で生産した物を艦艇などと纏めて宇宙に上げる腹づもりなのだろう。現時点で連合にはまだパナマとカオシュン、そしてジブラルタルのマスドライバーが残っている。原作とは違い月の基地が干上がりそうになっている、などという状況ではなかった。それでも大分苦労はしているようだが。

 折角自力で戦力を宇宙に上げる余裕を()()()()()()のだ。出来ればそれを最大活用し同時に死守し、オーブに目を向けている暇なんぞなくなってしまえば良いのだが。

 ……うまくいかねーだろーなー。余裕出来て内ゲバ始めても先ず間違いなくこっちに絡んでくるだろうし。準備はしているとは言っても気が重い。

 ま、それはともかくとしてアークエンジェルだ。地球に向かうのはただ地上で実戦テストを行うだけではない。()()()()()()()、その実証を兼ねているとみた。

 不思議に思ったことはないだろうか。アークエンジェルはMS母艦として()()()()()()と。

 戦艦以上の火力を備え、大気圏突入能力を持ち、おまけに大気圏内での飛行も可能と来た。その性能ゆえにMSの搭載数は10機前後と少なめな弊害もあるが、実験的な要素があるとは言え機能を詰め込みすぎだ。

 ガンダムシリーズの母艦ってそういう物じゃないと言ってしまえばそれまでだが、実際このような設計になっている以上、目的がある。

 はいここで考えてみましょう。衛星軌道上からでっかい大砲ついた戦艦(MSの護衛付き)が空飛んで強襲してきます。

 ……どれだけ脅威かおわかりだろうか。大気圏内で陽電子砲を使うと云々? そんなこと気にするヤツは最初からこんな戦艦設計しない。そう、アークエンジェル――強襲機動特装艦とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと俺は断言する。ぶっちゃけ()西()()()()()()()()()()()()()()()()ためのものだ。

 敵陣要点にピンポイントで戦力を叩き込む。そういった戦術を前提にしたものだと俺は思っている。核が使えない、あるいは使うわけには行かない状況下では有効な戦術ではなかろうか。同じようなことを考えたザフトは後にミネルバでその設計思想を丸パクリし、さらに俺が丸パクリしたわけだが、それも俺自身が使える戦術だと判断したからだ。

 果たしてその戦術が有効なのか、大西洋連邦は確信には至っていても、実証がない状態なのだろう。だからこそのアークエンジェルだ。MSの実戦テストと纏めてやってしまおうという考えとみた。

 要はこの先の大西洋連邦の戦術ドクトリンを左右することになるかも知れない存在なのだ。その行く末は注視しておく必要があると俺は考えている。

 ……別に隙があったらガンダムごとパクれないかな~、なんて考えていないぞ。本当だぞ。

 

「恐らくアラスカを含む西海岸のどこかを拠点にするつもりだろうな。CSSからも人員を出す。協力して洗い出せ」

「はっ!」

 

 指示を出して情報部の士官を下がらせる。アークエンジェルの行方についてはひとまずこれで良かろう。

 ハルバートン提督が生きてるから、原作みたくアラスカごとどーん! っていうことはないと思いたいが、何をどうとち狂うか分からん連中(ブルコス)がおるからなあ。連中の台頭は俺も困るし、手助けできるところはしときますかね、と。

 とか何とかやってたら、別な方向から新たな知らせが入った。それは。

 

「……ふん、動いたか。ラウ・ル・クルーゼ」

 

 クーロン商会を通じアンドリュー・バルトフェルドからもたらされた、ラウ・ル・クルーゼの動向だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 コロナ2回目無事しゅーりょー。
 そして寝込む。
 幸い1日で何とか回復しましたが。脅されていたよりマシな状況でほっとしている捻れ骨子です。

 はい副反応とは関係なく遅い更新ですすまぬ。リョウガさん真面目に仕事をする&オーブの企みが一部明かされるの巻。小型核融合炉の前振りがここで拾われました。え?小型すぎないと思われる方も居るでしょうが、創作物によってはパワードスーツクラスの物に搭載されるんだ核融合炉。2メートル四方ならいけるいける。
 そして勝手にアークエンジェルの設計思想を考えてみるテスト。アレ絶対そう言うこと考えてるでしょ。でなきゃあんなコストかかる船作らないでしょうし。戦後はお金なかったんやろうなあ、と。
 さて最後辺り狂うぜサンが何やら動きを見せたようですが、はたしてどうなりますやら。

 そういったところで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12・油断も隙もありゃしない。

 

 

 

 画像を含んだデータが知らしめていたのは、密かにプラントを発つクルーゼの姿だった。

 隊長を降ろされ謹慎していたが、どうやら国防委員から密命を受けたらしい、とのこと。いつもの仮面ではなくサングラスをかけ私服という、お前変装舐めてんのかと言いたくなるような格好で宇宙港のロビーを歩む姿が画像の中にある。

 

「目的地は……コペルニクスか」

 

 月面都市で唯一自由中立都市を名乗り、限定されているとは言えプラント、連合の区別なく受け入れている場所だ。なんでかって? 中立国(おれら)()()()()()()()()()()()()だよ。

 原作ではどうだったか知らないが、この世界でのコペルニクスはオーブを中心とした中立国が出資して建造された月面都市だ。ゆえに中立とすることが出来たわけだ。おかげでプラントと連合の交渉の場となったのだが……所謂【コペルニクスの悲劇】事件が起こり、国連事務総長を筆頭とした地球側代表は軒並みお陀仏。国連という枠組みは破壊され、開戦のきっかけとなった。

 その後コペルニクスは、顔に泥を塗られてかちキレた中立国連中の肝いりで警備体制が見直され、現在は月面で一番安全な都市とすら評されている。何しろPMCや警備会社の看板下げた各国の軍や情報機関が駐留しているのだ。(もちろん音頭を取っているのはCSSである)最早軍事施設並みと言っても良い。

 そういった経緯からテロリスト絶許と言った姿勢であるが、諜報関係は逆に緩い。プラント連合の区別なく民間人を受け入れているという体制もあるが、()()()()()()()()()という部分もあった。

 中立の立場である我々としても情報源となるからだ。元々コペルニクスは他の都市に比べ娯楽の施設も多い。お忍びで軍人や要人が訪れることも少なくないし、情報戦の舞台とするにはおあつらえ向きである。そう言ったわけで今日もコペルニクスは各勢力の諜報員たちが裏で跋扈していたりするのだ。

 そこに密命を帯びたクルーゼ。何も起こらないはずはなく。

 

「連合の情報を受け取る、と考えて間違いはないか。だが『手土産』はどうするつもりだ」

 

 恐らく入手するのは連合のガンダムとこれからの戦略の情報。それと交換に連合側へ渡す情報があるはずだ。ザフトの戦略は当然として、もう一つ二つは何かがあると思う。

 切り札たるガンマ線レーザー砲【ジェネシス】ではあるまい。あれは戦乱を望むクルーゼにとっても秘匿しておきたい情報だろう。他には【ニュートロンジャマーキャンセラー】なども考えられる。その名の通りNJの効果を打ち消すシステムだが、時期尚早……というか()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれはニコルの父親、【ユーリ・アマルフィ】が開発した物だが、原作ではニコルが戦死したおかげで彼がパトリックの派閥につき、開発を急いだという経緯があったはずだ。現時点ではまだニコルは戦死しておらず、そして高効率の発電施設があるおかげでプラントにエネルギーの問題はあまりなかった。そして地球の方もオーブの働きによってエネルギー問題は何とか解決の方向に向かいつつあり、ユーリが中立派で良心的であったとしてもNJCの開発を急ぐ理由はない。こちらも考慮から除外して良さそうだ。

 ただでさえ原作とは大幅に戦略が変わっているはず。原作では地球上のマスドライバーのほとんどを占拠するため計画された【オペレーションウロボロス】は、パナマを残してあと一歩と言うところまで来ており、それを逆手にとってパナマを狙うと見せかけ連合軍統合最高司令部が存在するアラスカに奇襲をかけるという、【オペレーションスピットブレイク】が敢行されたが、情報のリークによりザフト軍は大半が基地ごと吹っ飛ばされるという目に遭った。

 しかしこの世界だとマスドライバーはまだ複数残っており、その攻略にザフトは手間取っている。原作のような真似をするには、まだ条件が整っていない。らちがあかないとアラスカを狙うことも考えられるが、それは連合も予測しているだろう。不意打ちは難しい。

 俺ならばいくつか打つ手を考えるが……パトリックがそこまで考えるかどうか。まあ最悪の状況は想定している。出来れば無駄になってほしいものだ。

 

「可能であればクルーゼの持つ情報がどのような物か確かめたいが。いやそれより始末したいが」

 

 いくらヤツがアレでナニな人物であったとしても、尻尾も出さないうちから始末するのは難しい。事故を装ってとも考えたが、あれでヤツは超人的な勘と戦闘能力の持ち主だ。下手に手を出せば対処した人間が返り討ちだろう。余計な人材の損失をさせるわけにはいかん。

 

「となると、ヤツと、ヤツに接触した人間を追わせるしかないか。尻尾は……出さないだろうなあ」

 

 何とも歯がゆいが、下手に手を出せない以上監視に留めるしかあるまい。まったく、MS に乗っていなくても鬱陶しい男だ。

 などと俺がクルーゼに注視していたのが悪かったのか、()()()()()()()()()が起こることになろうとは、この時の俺は予想もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※はい他者視点ですよ~

 

 

 待機を命じられていた元クルーゼ隊の面々は、アプリリウス市にあるザフト統合司令本部に出頭を命じられた。

 

「いよいよ年貢の納め時、ってヤツかぁ?」

「縁起でもないことを言わないでくださいよ」

 

 赤服を纏ったディアッカとニコルは揃って現れた。ディアッカは気楽な調子……というか開き直った感がある。ニコルは普通に緊張しているようだ。

 

「よう、遅かったな」

「ラスティ、先に来てたんですか」

 

 エントランスで2人を出迎えたのはラスティだ。ニコルの言葉に、彼は頭をかきながら答える。

 

「まあ俺は親父と折り合いが悪いんでな。とっとと家出るに越したことはないのさ」

「……気持ちは分かりますけれど」

 

 色々と事情があって、ラスティは自分の父親と微妙な関係となっている。ファミリーネームが違う、と言えば大体察してもらえるのではないだろうか。

 そこら辺をつついて蛇を出す気はないディアッカは、話を変えることにした。

 

「ミゲルはまだ来てないのか?」

「ああ、俺と同じくらいに来たんだが、野暮用があるとか」

「そうなんですか……」

 

 ニコルは少しだけ眉を寄せる。以前町で出会ったとき、ミゲルは何やら現状に思うところがあったようだが、まさか何かを探っているのでは。そのような不安があった。

 ニコルの不安を理解しているディアッカは、ミゲルを探しに行くかどうか迷う。しかし彼が行動を起こす前に。

 

「おう、みんな揃ったか」

 

 当のミゲルがのんきに現れた。ニコルはほっとした様子を見せたが、今度はディアッカが眉を寄せる。

 

「どこで油売ってきたんだよ」

 

 厳しい目線を向けられてもなお、ミゲルは飄々とした様子で。

 

「ちょいと知り合いのところに顔を出してたんだ。なかなか会いに行く暇もないんでな」

「そういやあんた顔広かったな」

 

 ラスティがそう言う。ザフトに入る以前から、ミゲルは個人的なチームを作り様々な業種の人間と交流していた。そのおかげで彼は結構多彩なコネを持っている。そういったコネの一つに挨拶にでも行ったのだろうとラスティは納得した。

 ディアッカは益々渋い表情となる。それとなくミゲルと距離を詰め、小声で問うた。

 

「おい、大丈夫なんだろうな?」

 

 それに同じく小声で答えるミゲル。

 

「ただの挨拶さ、何もしちゃいないよ。()()な」

 

 それはこれから何かをやると言うことじゃないだろうか。ディアッカの不安は増した。

 と、そこで集まった面子に声をかけてくる人物がいた。

 

「全員揃っていたか」

「アデス副長!?」

 

 現れたのはクルーゼの副官であったアデスだ。慌てて敬礼を行う青年たちに対し、「楽にしろ」と軽く手で制する。

 

「揃っているなら丁度良い。諸君らの処遇が決まった。辞令と共に次の任務が言い渡される」

「次の任務……ですか」

 

 皆を代表するかのようにミゲルが言う。

 

「そうだ。詳しくはこれから聞かされるだろう」

 

 ついてこいと、アデスは素っ気なく身を翻す。どうにも様子がおかしいなと顔を見合わせながら、4人はアデスの後をついて行った。

 果たして通された部屋で待っていたのは。

 

「お前らが噂のやらかしルーキーか。思ったよりも普通だな」

 

 いきなりざっくばらんな言葉をかけてくる青年。赤服を纏ったその青年は、不敵な笑みを見せていた。

 その姿を見た瞬間、ミゲルが目を見開きわなわなと震え出す。

 

「は、【ハイネ・ヴェステンフルス】!? 本物かよ!」

 

 ミゲルの言葉に残りの面子も驚きを見せる。

 

「え!? 【燈色の烈火(イグナイテッド)】!?」 

「地球降下作戦のエースじゃないか!」

「どうしてここに……あっ……」

 

 ニコルが何かに感付いた。それを見て取ったハイネはにやりと笑みを浮かべる。

 

「今日から()()()()()()()()()ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく頼むぜ」

「「「隊長!?」」」

 

 ニコル以外が驚きの声を上げ、アデスが密かにため息を吐く。

 

「そう言うことだ。諸君らは本日よりヴェステンフルス隊として再編成される。以後彼の指示に従い、任務に当たれ」

 

 ハイネはまだ二十歳そこそこと言った若さであるが、クルーゼに勝るとも劣らないエースである。立場的には隊長を務めてもおかしくはなかった。

 しかしそうだとしても突然の話だ。再編成されるのはまだ良い、月軌道の戦線でドンパチやってるはずのエースを連れ戻して自分たちの隊長に据えるというのはどういうことなのか。それが分からない。彼を隊長に据えるのであれば、それこそ前線の猛者たちを集めて編成した方が戦力として確実な物となるし、宣伝にもなる。言っては何だが一度失態を犯した兵の隊長を務めさせるには、勿体ないとも思えた。

 そんな戸惑いが顔に出ていたのか、ハイネはふふんと鼻を鳴らす。

 

「どうした、俺が隊長になるのが不服か?」

「いや不服どころか願ったり叶ったりというか個人的には大歓迎ですけど!? むしろ光栄すぎて尻込みするっつーか、なあ!?」

 

 テンパった様子で周囲に同意を求めるミゲル。彼は新兵時代からハイネのファンであり、彼をリスペクトするあまり機体のパーソナルカラーを同じオレンジにするほどであった。

 そんなミゲルの様子に、ハイネは苦笑する。

 

「黄昏の魔弾にそこまで崇められると、なんかこそばゆいもんだな」

「へ? お、俺を知って……?」

「そりゃあの叢雲 劾と互角にやり合ったってんだ。前線でも名が響くってもんさ」

 

 どうでも良いがこの2人、声がそっくりで喋ってる分にはどっちがどっちだか分かりゃしない。

 それはさておき、ハイネの言葉にミゲルは恐縮しているようだった。

 

「いやありゃあ、結局ヤツに出し抜かれちまったし、再戦でも勝負付けられなかったんで大したことは……」

「あの男と2回もやり合って五体満足ってだけで、十分だろう。他にもMA8機とか墜としてるじゃないか」

「MA30機以上に戦艦2隻の人に言われても……」

「あ、この間MA40になった」

「前線のエースパねえ」

 

 なんか話が盛り上がりだした。アデスがコホンと咳払いしてそれを無理矢理止めたが。

 

「ともかく、任務が言い渡されると同時に、諸君らには新たな機体が配備される。引き続き小官が副長と諸君らの母艦の艦長を兼任する事となった。汚名返上の機会と思って誠心誠意努めて欲しい」

 

 やっぱり何か変だ。ニコルは改めて思う。

 アデスはどちらかと言えば堅物で、私情をあまり挟まない人物である。しかし今の彼は何というか……。

 

(諦観? 投げやり? 疲れているような、呆れているような)

 

 勘弁してくださいとでも言いたげな雰囲気があるように思える。アデスは肝の据わった人間だ。よほどの事がなければこんな風にはならないだろう。

 多分今度の任務に関わることだとニコルは推測した。つまり自分たちはアデスをしてげんなりするような任務に就かなければならないわけで。

 

(嫌な予感しかしないんですけど)

 

 アデスの気持ちが感染したかのように気持ちが沈むニコル。そんな彼を置いておいて話は進む。

 

「……ん~、もうそろそろのはずなんだが」

 

 ハイネがそう呟くと、計ったかのように呼び出しがかかった。

 呼び出された一行が向かった先に待っていたのは。

 

「よくきた。貴官らの復帰を歓迎する」

 

 国防委員長パトリック・ザラその人であった。ミゲル、ラスティ、ディアッカの3人はいきなりのことに身を凍らせているが、ハイネは涼しい顔で、ニコルは何かもう全てを諦めていた。

 国防委員長直々の任務。それが何を意味するか。嫌な予感どころではなかった。

 ニコルの心情を知ってか知らずか、パトリックは仏頂面で話を続ける。

 

「貴官らには特別な任務について貰う。ある人物の護衛任務だ。……入ってきたまえ」

「はい、ただいま」

 

 パトリックに促され姿を現したのは。

 

「ご存じかと思いますが改めて。ラクス・クラインです」

 

 優雅に礼をする少女。ミゲル以下3人は真っ白になっていた。作画的に。ニコルは「ああやっぱりか」といった顔で遠い目をしている。先に聞いていだだろうアデスも同様の表情だ。平気なのはハイネだけだ。あるいは平気なふりをしているだけなのかも知れなかったが。

 こうして、ヴェステンフルス隊は任務に赴くこととなる。

 その行く先は、地球。

 何かが起こるのは確定的であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なぜかいきなり自室の電波状況が悪化。Wi-Fi入れてみました。
 5G当てになんねえな捻れ骨子です。

 はいリョウガさんの知らん間に進む事態、そしてハイネさん登場の巻。中の人的にもミゲルとキャラ被りますが私は謝らない。もうこの頃にはエースだったようですし、隊長職についてもおかしくはなかろうと。
 あとハイネさんの二つ名は適当です。正式な物はあったかも知れませんが大体ノリでこんな感じに。
 そしていよいよラクスが動きました。果たして彼女の思惑は、そしてなぜ地球に向かうこととなったのか。その辺りは次回以降となるでしょう。
 ……捻れのやることだから多分ろくでもない展開だぞ。

 そんなこんなで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13・開き直った女ほど怖い物はない。

 

 

 

 

 

 オーブ軍司令本部。

 スタッフがせわしなく動き、緊張感がそこはかとなく漂う中、俺は参謀長官と言葉を交わしていた。

 

「冗談のような展開ですな」

「俺もこんなんなるとは思わなかったわ」

 

 正面のモニターには、防空システムのレーダーの映像。そこには落下の軌道が『二つ』描かれている。

 

「落下予想位置は我が国の領内でほぼ確定か。……救助の手はずは?」

「すでに救援部隊を編成し、該当の海域へと向かわせています」

「よろしい。連合、ザフトの双方が手出しをする前に救助。クーロンズポートに放り込む」

「本土だと介入の口実になるから、ですな?」

「その通りだ。現状生半可な戦力なら何とかなるが、連合ザフトの双方が同時に本腰を入れたら流石に面倒なことになる。今はまだうちの本気を見せるわけにはいかん」

「心得て。……まあそれ以前に無事で済めばよろしいのですが」

「砕け散ってしまえ、とは言えんなあ。軌道から見れば何とかこなしているようだが」

 

 全く面倒なことになった。なんでまた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 俺は苦虫を噛み潰す心境で、事の推移を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点ですだよ

 

 

 

 時間はしばし遡る。

 衝撃の任務が言い渡された後、ヴェステンフルス隊は新たな機体を受領するために、軍部の工廠へ赴いていた。

 

「これは……ジンの改装型に、シグー? それと見たことのない機体が……」

 

 ハンガーに並ぶ機体を見上げて、ディアッカが声を漏らす。

 数種類の機体。3機はジンを改装した物……機動力を向上させた【ジン・ハイマニューバ】2機と、追加装甲を纏った【ジン・アサルトシュラウド】1機だ。

 そして指揮官機であるシグーだが、これも追加装甲(アサルトシュラウド)を纏っている。【シグー・アサルト】。スラスターユニットやスタビライザーを追加しているおかげで、重装甲ながらもノーマルより機動性、運動性は上がっている。その分エース並みの技量を必要とする機体であった。

 最後はディアッカたちも見たことのない機体だ。ジンやシグーの発展系に見える。

 

「こいつは【ゲイツ】。ビーム兵器の運用を前提とした、次期主力予定の先行生産型だ」

「ビーム兵器!? ザフトも小型化に成功したのか!」

 

 ハイネの言葉に驚いたような声を上げるラスティ。これまでは小型化に難航しているという話しか耳にしたことがなかったのだ。

 

「お前さんらが持って帰ったオーブ機のデータが役に立ったらしいぜ。……もっともまだオーブほど小型化は出来てないが」

 

 言いながらハイネは視線を別な方向に向ける。そこには壁面に固定され整備を受けている武器の姿があった。

 試作ビームライフル。ゲイツの全高に匹敵する長さを持つそれは、確かにアストレイの物と比べればかなりの大きさだ。

 

「こいつが隊長の機体ってわけか」

「いや、こいつはミゲルに任せる」

「はァ!?」

 

 ハイネの言葉に、当のミゲルが驚く。

 

「最新鋭機だろ? 何で俺に!?」

「お前さんが隊の中で一番射撃の腕が良いからさ。それに俺はどっちかって言うと接近戦の方が得手だ。下手すりゃ戦ってる最中長物(ライフル)捨てるって事もやりかねない。そうなったら技研に締め上げられちまうよ」

 

 冗談めかしているが、これはハイネが考えた末の判断だった。自身の適正と気性を客観的に見て、現在のゲイツを扱うには不向きだと見て取ったのだ。そういった判断をできる人間は中々いない。

 さすがは名だたるエースと言うことかと、ニコルは内心で感嘆している。クルーゼとは違ったタイプの人間だった。どちらが優れているというわけではないが、中々出来ない判断をさらりと下せる。自分たちのようなひよっこなど到底及ばない人物だと、感じ入っていた。

 

「ハイマニューバはラスティとニコル、アサルトシュラウドはディアッカだ。俺はシグー・アサルトを使う。シミュレーターで機体になれておけ。……これだけの機体が回された意味、理解してくれよ?」

「「「「……了解」」」」

 

 神妙な顔つきで敬礼するヴェステンフルス隊の面々。

 ハイネが匂わせたこと。その意味が分からない隊員たちではない。

 ただの姫様の護衛ではない。プラントのこれからを左右するかも知れない任務。彼らはそれに挑まんとしていた。

 

「あとさ、折角だから部隊のカラーをオレンジで統一しねえ?」

「おー! それいいな賛成!」

「「「いやそれはちょっと」」」

 

 プラントのこれからを左右するかも知れない任務に挑まんとしているのだ。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出立の用意を調え、ラクスは息を吐いた。

 

「ここまでは何とか上手くいきました。問題はこの先ですね……」

 

 彼女が地球に赴く理由。表面上は地球上に展開しているザフト部隊に対する慰問である。しかしその実態は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()であった。これはラクス本人がシーゲルとパトリックに申し出たものだ。

 以前ユニウスセブンの追悼式典が中止されてから、ラクスは自分に何が出来るのか考え、密かに情報を集め、信頼できる人間に相談した。

 その中の一人が、マルキオ導師であった。ラクスとは慈善事業などを通じて交流があるのだが、導師は彼女に自分の思惑の多くを告げていた。()()()()S()E()E()D()()()()()()()()()()()()便()()()()()()()()()()

 導師なりの期待の表れであった。彼はこれぞと見込んだ人物に嘘偽りなく思想と理念を語る。賛同者や協力者になって欲しいのではない。己の考えを聞いて貰い、そして考えて欲しいのだ。自分に何が出来るのか、自分がどうしたいのか。

 誰かに言われたからではない。己が決め、やり抜く意思。見込んだ人間にそういった物を持って欲しいという想いがある。()()()()()()()()()()()。己の考えが絶対的な物ではないと認識し、良き方向に世界を導けるのであれば、別な考え別の手段でも構わないとマルキオ導師は考える。だから嘘偽りなくさらけ出す。ラクスもそういった人間の一人であった。

 ラクスからの相談を受け、導師は微笑みを浮かべたまま応えた。

 

「戦いの中で己が出来ること、ですか。……()()()()()()()()()()

 

 意外な言葉であった。

 

「今までと同じく慰撫の活動を続け、少しずつ影響を与えていく。あるいは思い切って政治の世界に飛び込み、国政に関わっていく。その他にもあなたの立場であれば、色々と取れる手段はあるでしょう」

 

 その言葉に軽い失望のようなものを覚えるラクス。言っていることは正しいが、彼女の求めているのはそういった答えではなかった。だからと言ってどのような言葉が欲しかったのか、自分でも分からないけれど。

 もやりとした何かを心に感じる少女に対し、導師は続けた。

 

「しかしそれらが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は別の話です」

 

 はっと、ラクスは顔を上げる。導師は微笑みのまま。

 

「脇目を振らずに最善を求めるのであれば、先に言ったような手段で突き進むのもよろしい。ですが人間は心の生き物。義務感や責任感だけで突き進んでも良い結果が得られるとは限りません。ましてや迷いがあるのであれば、道が歪むこともあり得る」

 

 きっとラクスは大きな物を背負って進んでいける人間だと、導師はそのように見ている。だが義務感だけで事を運べばそれは人形と変わらない。クライン派の中には彼女のネームバリューを政治的に利用したい者もいるという話も耳にした。そういった人間に祭り上げられて進んでいくことは良いことなのか。そこに彼女の意思はあるのか。そういった懸念もあった。

 先にも言ったが導師が望むのは己で考え、己で決め、やり抜く意思を持つ者だ。そう、例えば――

 

「私はある人物を知っています。その人は己を悪人と嘯き、事実後ろ暗い手段に手を染めてもいます。ですがその人の行動は、己の国を、そして結果的に世界を良い方向に導いているように見える。彼の原動力は己が平和な世界で怠惰を享受したいと、そういった極ささやかな望みです。それだけで世界を相手に足掻き続けている」

 

 その人物が誰なのか、ラクスも思い当たった。

 

「リョウガ・クラ・アスハ。彼ですね?」

「ええ。国家元首の子であり、その条件を存分に利用できる立場にある。……誰かに似ていると思いませんか?」

「わたくしに、彼のようになれ、と?」

「そこまでは言いませんし、彼のような真似は然う然う出来る物ではありません。ですがその生き様から、何かを学べるのではないでしょうか」

 

 導師の言葉に、ラクスは考え込む。

 

「彼だけではありません。多くの人間が、『それぞれの良き方向』を目指して舵を取り、進んでいます。その中には決して世界のためにはならないものもある。あるいは善意からであっても良き結果を生むとは限らないものもある。多くの思惑が今の世界を形作り、蠢いています」

 

 それらを見て、知り、学ぶ。今のラクスに必要なのはそのようなことではないかと、導師は助言した。

 

「その上で選択し、決め、進む。そうして向かうのが良き方向であることを、私は願っていますよ」

 

 得心があった。今のラクスはプラントから見た情報、知識しか持っていない。マルキオ導師などから得た情報もあるが、それとて人の又聞きだ。己の目で見て感じ取ったものではない。

 自分自身が感じ取り、そこから考え、選択し、決める。そのためにはどうすれば良いのか。ラクスは思案の末、まず父であるシーゲルと話して説き伏せ、彼と共にパトリックの元を訪れた。

 

「わたくしを特使として地球へ派遣してはどうでしょうか」

 

 渋い顔のシーゲルを伴ったラクスの言葉に、パトリックは面食らった。何を言い出すのだこの娘はといった呆れのような気持ちも湧いてくる。

 しかし静かながらも熱意を持って語るラクスの様子に、興味を引かれていった。

 

「現在戦況は膠着状態にあり、予断を許さないことは分かっています。そんな中、プラントに助力している国家群も不安を覚えているのではないでしょうか。プラント評議会理事長の娘が特使として訪れた、となればその不安を和らげる一助になるかと考えました」

 

 意外にしっかりとした考えを持っていると、パトリックは少しだけラクスの評価を上げる。もちろん彼女の言っているのは『言い訳』だ。パトリックがどのような考えを好むか、彼女なりに推測した末の言葉である。

 そして彼女はさらに畳みかけた。

 

「……正直なところアスランのことも気にかかる、という面もあります。彼も立場ある人間でありながら戦場に身を投じました。色々と不運もありましたが、生き抜き苦労を重ねていると聞いています。そんな彼の帰りをただ待つだけの者がパートナーとして相応しいと思えないのです」

 

 少し目を伏せ、婚約者の身を案じる少女を演じる。女優もかくやというその様子に、パトリックも少し態度を和らげた。

 

「だがいきなり君を特使に、というのは唐突すぎる話だ。それに特使にするにも理由が要る」

「わたくしであれば、各地に慰問という名目を使うことが出来ます。それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()かも知れませんわ」

「……なんと?」

 

 パトリックは軽く目を見開く。自分を囮にしてそれを利用しろと、そう言っているも同然であったからだ。

 見誤っていたのかも知れない、目の前の少女を。心根の優しい人物だと思っていた。だが今の彼女には、何らかの覚悟が見て取れる。プラントの現状を理解し、そのために身を捧げようとでも言うのか。パトリックはシーゲルの方に目を向けた。

 

「お前は許したのか、シーゲル」

「……止めたのだがな。アスランが苦心しているときにプラントでぬくぬくなどしていられるかと言われれば、強くも言えん」

 

 どうやら押し切られたようだ。そしてアスランのことを出されたら強く言えないのはパトリックも同じだった。

 それにラクスの申し出――彼女を囮にするというアイディアは、正直魅力的であった。ザフトにも()()()()()()()内通者がいると言うことは分かっている。だがその全貌は明らかになっていないため、まだ手を出すには至っていない。今までは泳がしておくしかなかったのだが……確かにラクスほどの人間が動くとなれば、裏切り者どもも何らかの反応を見せるだろう。その機会を逃す手はない。

 国防委員長としての冷徹な判断を内心で行い、パトリックは再び口を開いた。

 で、結果はご覧の通り。ラクスの申し出はほぼ希望通り叶えられ、彼女は地球行きへの切符を掴んだというわけだ。

 

「首尾良く行けば良いのですが、安穏とした道行きにはならないでしょうね」

 

 パトリックを乗せるために、彼の思惑に沿いそうなことを言ってみたが、実際何らかの妨害が入ることは否定できない。それを無事に乗り切っても、地球で海千山千の人物たちと渡り合う必要があるのだ。どれだけのことが出来るのか、無事で済むのか。不安はある。

 だがそれでも行かねばならない。プラントで不安を抱える日々より、前に一歩進むことを選んだのだ。恐れるだけでは何も変わらないと、自分で決めたのだから。

 

「……願わくば、リョウガ氏にもお目にかかれれば良いのですけれど」

 

 今回の外交でリョウガに会う予定はなかった。まずは実績を積むこと。何の力もない小娘と会うほど彼も暇ではあるまい。(実際は申し込まれたら真っ先に会いに行くかも知れないのだが)

 一つ一つ積み上げていこう。余裕はないかも知れないが、焦る必要もない。順序というものが世の中にはあるのだと、ラクスは逸る気持ちを抑え込んでいた。

 そんな彼女の思惑を余所に、リョウガとの対面は意外と早くに叶うこととなる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




妙に忙しい。仕事もプライベートも。
 プライベートは自業自得ですがね、仕事は納得いかねえぞゴラァ。主に金銭的な面で。
 金をよこせば良いって物じゃありませんが、やった分はちゃんと見返り欲しいやってなくても金は欲しい捻れ骨子です。

 はいなんかヤバげな冒頭からラクスがぶっ込み(語弊)の準備始めたところの巻です。
 なんかうちのラクス嬢こんなんなっちゃいました。原作よりはマイルドだと思いたいのですがいかがですかね。彼女の行動により物語がどうなるか。……不安だ。(おい)
 あとハイネと愉快な仲間たちは適度に頑張ると良いさ。真面目にやると酷い目に遭うかも知れないぞう。手遅れかも知れないけど。
 そんなこんなで今回はこの辺りで。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14・嵐の前の静けさと言うしかない

 

 

 

 

 

 クーロンズポートに向かう船の上で、俺は深々とため息をついた。

 

「正直気が重い」

「そこまで警戒する相手ですか? アスラン・ザラと大差はないでしょうに」

 

 俺の身辺警護という名目でCSSの実働部隊を引き連れてきたリシッツァが不思議そうに問うてくる。

 まあ、ラクス・クラインという人間を知らないんならそうなるわな。地球での一般的な彼女の評価は、評議会議長の娘で、民衆に人気の歌姫。程度の物だ。要人ではあるが、俺の立場からすればさほど警戒する人物には見えないだろう。

 だが俺は彼女がどのような人間だか知っている。ザフトの最新鋭MSと最新鋭艦をパクってテロり、それが終わって平穏に暮らしていたら邪魔されたので再びテロって邪魔者を叩き潰した剛の者(偏見入ってます)だ。現時点ではまだそこまでではないかも知れないが、油断できる人間ではない。

 しかしそんなことをリシッツァが知ってるはずもない。だから俺は『現時点での懸念事項』を示す。

 

「プラントでの彼女の人気は絶大な物で、ファンはそれこそ宗教かとも思えるくらい熱狂的だ。しかも人口の結構な割合が彼女のシンパで、それ以外にも議長の娘という立場、見目の良さから人気が高い」

 

 俺は肩を落とすように再びため息を吐いた。

 

「つまり俺が関わった上で彼女になんかあったら、プラントの大部分が敵に回る」

「わお最悪」

 

 リシッツァも言わんとしたことが理解できたようだ。覚醒してなくてもこの有様なんだよなあ。下手すりゃプラントの民がオーブを敵視する羽目になっちまう。俺も関わりたくないんだが、オーブの領海に落ちてきた以上、対処はしなければならない。そしてラクスの相手が務まりそうな人間は、こぞって国から離れていたり手が離せない仕事に就いていたりする。結局俺が行くしかなかったわけで。

 

「仕事減らしたのが裏目に出た。アスラン・ザラといい彼女といい……なんか呪われてんのかな、俺」

「天罰は下りそうな感じですけれど。日頃の行い悪いし」

「地獄行きなのは間違いないがね」

 

 全く、世界はこんなはずじゃなかったことばっかりだ。特にこの世界はろくでもないが、何とかしようとすればするほど問題が湧いて出るのはどういうことなんだろう。とりあえず地獄行くときは閻魔殴る。絶対にだ。

 まあそれはそれとして。

 

「彼女の引き渡しが終わるまで、連合軍を近づけさせるわけにはいかん。警備の方は手抜かりないな?」

「むしろ実戦テストが出来るかもって、海軍の方々が張り切っちゃいまして……偽装母艦とM装備のアストレイ一個中隊がクーロンズポートに出張ってますわ」

「なにやってんの。ホント何やってんの」

 

 配備が始まったばっかりの海戦(M)装備を惜しげもなく投入するとか、大盤振る舞いしすぎだろう。いや、連合もMS投入してくるかも知れないから、用心に越したことはない、か。

 

「……石橋を叩いておく、と言うことにしておこう。何が起こるか分からんしな。……今回の騒動も、突飛なことが原因だったことだし」

 

 俺の言葉に、リシッツァは眉を寄せた。

 

「まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、運命の悪意すら感じる偶然ですものねえ」

 

 話だけ聞いていると何の冗談だと言いたくなるような事態。神はよっぽど俺のことが嫌いらしい。俺だって大っ嫌いだよこの野郎。

 今回の件に関して、ザフトと連合はそれぞれ相手の陰謀だと考えている節がある。俺としてはクルーゼ辺りの策じゃないかと疑っているが。ヤツならラクス嬢の予定を把握していてもおかしくはないし、混乱に拍車をかけるためならば容赦なく策謀に巻き込むだろう。まだそうと決まったわけではないが、可能性として頭の隅に置いておこう。

 

「業腹な事態だが、精々利用させて貰うさ。連合もザフトも新型MSを持ち込んでいるようだしな」

 

 悪いことばかりではなかった。落っこちてきたアークエンジェルは、GAT-Xシリーズの他に【ダガー先行生産型】……所謂【105ダガー】を複数積み込んでいた。どうやら多少の余裕が出来たせいで、簡易量産機である【ストライクダガー】より先に開発されたらしい。ザフトの方もゲイツ先行生産型を持ち込んでいるようだし、双方原作と比べMS開発状況に変更があるらしい。まあ俺がやったことが原因なんだけどな。

 現在双方ともクーロンズポートにて無償の補給整備を受けている(ザフトの降下船は海上航行の能力を持っていなかったので水没しかけ、搭載されていたMSはほぼフルオーバーホールの憂き目に遭っている)が、ついでに取れるだけのデータは取らせて貰う。

 そう思わないとやってられないという本心には気づかなかったふりをして欲しい。

 

「アークエンジェルの連中には少し待って貰うことになる。ザフトと同時に解き放って艦隊が鉢合わせ、なんてことになったら困るからな」

「どの道アークエンジェルは修理せねばなりませんし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようですので、治療も行わねばいけません」

()()()()()()()()とは不運なことだ。そんな中でも大気圏突入をやってのけたとは大した物だがね」

 

 恐らくは咄嗟にナタル・バジルールあたりが指揮を代わり、【アーノルド・ノイマン】が何とかしてのけたのだろう。原作でも大気圏内でアークエンジェルをバレルロールさせるなんて真似をやらかした操舵士だ。無茶をこなした可能性は高い。

 アークエンジェルに関しては、俺が直接関係するところは少ない。原作キャラがどれだけ乗っているか気になるところではあるが、無理に絡まなきゃならん理由もない。

 そんなわけで、ラクス嬢ご一行に集中できるはず……なんだが何が起こるか分からないからな。用心はしておく。

 

「ザフトの連中とアークエンジェルは隔離しているな?」

「もちろん。双方のブロックは離れた位置ですし、出入りも厳しく制限されています。その辺りチヒロは手抜かりありませんわ」

「よろしい。では歌姫のご機嫌伺いに向かうとするか」

 

 鬼が出るか蛇が出るか。後ろ向いて帰りたいのはやまやまだが、ここで逃げるわけにはいかなかった。逃げたら酷いことになる。そんな予感があったから。

 俺は腹を据えて前に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※はいはい他者視点他者視点

 

 

 再び時間は遡る。

 連合軍プトレマイオス基地より発ったアークエンジェルは、一路地球へと向かっていた。

 今回は流石に単艦ではなく、ドレイク級護衛艦が二隻同行している。それでも少ないと言わざるを得ないが。

 

「ハルバートン提督としても忸怩たる思いだろうな」

「最前線に近い月からこれだけの戦力を引き出すのも苦心したでしょう。せめてアークエンジェルの同型艦が建造されていれば。……地球は月がどうなってもいいとでも思っているのでしょうか」

「あながち間違いとも言えないところが困ったところだな」

 

 艦長と副長が揃って渋面となっている。彼らは、いやアークエンジェルのクルー一行は、プトレマイオス基地を起点に艦と搭載MSのテストを繰り返していた。

 テストのタスク自体は順調であったが、彼らを取り巻く環境自体はあまりよいものではなかった。

 大西洋連邦の所有する基地で、構成員もほとんど連邦の人間であるが、内部はいくつかの派閥に分かれていた。主なる派閥はMSの開発を推進するハルバートン提督の物だが、それを邪魔しようとしたり成果をかすめ取ろうとする者がいたりと、中々に殺伐としている部分があったりしたわけで。

 当然すごい横槍が入れられた。テストよりもそちらの対処の方に神経を削られたくらいだ。MP大活躍である。相手はほとんど身内だけど。

 ともかく散々邪魔をされながらも何とかテストをこなし、先行生産型のMSが組み上がってきたところで、地球からの命令である。それがまた無茶振りだった。

 アークエンジェルとXナンバー、そしてダガー先行生産型を地上にてテストする。その通達にハルバートンは難色を示した。

 確かにアークエンジェルは大気圏内での活動も可能な戦艦で、そのテストをしなければいけないのは分かる。ダガーも同様だ。しかしプトレマイオス基地で行わなければならないテストや何やらはまだ全て終了しておらず、運用データも完全ではなかった。加えてXナンバーのうちイージスはほぼ宇宙戦用の機体であり、地上にてテストを行う意味はあまりない。最大の特徴であるMAへの変形機構が無意味になるからだ。シリーズ全てを一切合切地上に降ろす必要はない。そもそもこれまでのデータは全て地球にも送っている。現地の生産能力であれば新たな機体を作り、改めてデータ取りを行うことも出来るはずだ。

 焦りを感じる。膠着状態の戦争。連合内部での諍い。そしてオーブなど中立国の台頭。大西洋連邦のお偉方は危機感を覚えているのだろう。戦力として使えそうならば手元に置いておきたい。そう考えたと邪推できる。

 だからと言って自分たちの足を引っ張らないで貰いたい。やっとMSの運用データも揃いつつあり、実戦配備に向けて本格的なドクトリンを構築している最中なのだ。確かに急がなければならないことだが、ここで一切合切を持って行かれたら、その分開発は遅れる。最終的には自分の足を引っ張ることにもなるのだが、彼らはそれを理解できているのだろうか。

 しかしながら命令を無視するわけにもいかなかった。ここで軍の上層部に睨まれたら、それこそ全てがご破算になる。

 考えた末にハルバートンが下した結論は、苦肉の策……というか()()()()()()()()()()()だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。艦と機体だけにしか注視してないお偉方の思惑の隙を突いた、というところだな」

「経験を持つ人材は、MSよりも貴重ですからな。もっとも我々にとっては貧乏くじですが」

「艦を運用するスタッフはおいそれと用意できんよ。後継がまだ育っていない以上、地球への降下というタスクをこなせるのは我々しかいない。……ま、精々お偉方に高く売りこんでやるさ」

 

 僅かながらも溜飲を下げた感じで、自分を納得させる艦長たち。ハルバートンの計により、MS開発生産、実戦配備の停滞は最小限に抑えられるだろう。これから先月ではダガーの量産と、艦艇をMS運用に対応するための改装が主になり、残された人員は後発の指導に移行する。テストのタスクが取り上げられた分、戦力の充実に回せる余裕が生じたというのは、怪我の功名と言うべきだろうか。

 

「それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()。無事にたどり着けなければ面目も立たん」

「機種転換の訓練漬けにさせていますが……彼は使えますかな?」

「仮にもエースだ。出来ませんとは言わんだろうよ」

 

 そんな会話がブリッジで交わされているのと同時刻。

 

「いえっくしいっ!」

 

 てんてこ舞いの格納庫で、くしゃみの音が響いた。

 その発生源は、どこか軽薄そうな金髪の美青年である。

 

「大尉、風邪ですかい?」

「どっかの美女が噂でもしてるんだろうさ」

 

 整備主任であるコジローの言葉に応えるのは、【ムウ・ラ・フラガ】。皆様ご存じエンデュミオンの鷹さんである。

 プトレマイオス基地でMA隊の隊長を務めていた彼がなぜアークエンジェルに乗っているのかというと、地球までの護衛を命じられたからだ。

 同時に彼はMSの操縦訓練も命じられている。連合を代表するエースである彼が、これから主力となるであろうMSを操れないのは色々と不都合だろう、という上の思惑による物である。本人としては若干不満であるが、命令に逆らうほどでもなかった。

 

「で、どうです。MSにゃあ慣れましたか?」

303(イージス)以外は基本的に同じだからなあ。基礎を覚えりゃ後は一緒さ。まあ俺としちゃ303のMA形態が一番扱いやすいんだが」

 

 なんともない風にコジローと会話しているが、どうやらムウは()()()G()A()T()-()X()()1()0()5()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだ。いくら原作よりOSが扱いやすくなっているとは言え、ちょっとチート過ぎやしないかこの子安。

 

「けどやっぱ俺よりモーガンの旦那のほうが今回の任務向きだよな~。地上は旦那のホームだろうに」

「シュバリエ大尉は虎の子ですからねえ。それに地上のお偉方にはフラガ大尉のほうが受けがいいでしょう」

 

 二人が話題にしているのは【モーガン・シュバリエ】。元ユーラシア連邦の戦車乗りであったが、ザフトの地上軍に手痛い敗北を喫し、MSの必要性を上部に強く訴えた人物である。だが上層部はそんな彼を煙たがり、厄介払いのような形で大西洋連邦に訓練交換士官として押しつけられた。さらには大西洋連邦内での派閥争いの煽りを受け、ハルバートン提督の元に転属させられたという結構不憫な経歴を持っている。

 しかしそこから戦術眼とMSの適正を見いだされ、MS運用の戦術・戦技研究において多大な貢献をすることとなった。加えて特殊な思考制御兵器【ガンバレル】の適性もあると言うことで、MSのエース、教官としても大きく期待されている。ユーラシアや大西洋連邦の高官は、さぞかし臍をかんでいることだろう。

 まあそれはともかくとして。

 

「人気者はつらいねえ。……と、向こうも一区切りついたか」

 

 ムウの視線の先では、ダガーのシミュレーターを終えたパイロットたちがコクピットから出てくるところだった。

 彼らは最初期のテストパイロットではないが、選抜されて訓練を受け、実戦配備レベルにまで仕上がった者たちである。流石に経験の浅い者を送るほどハルバートンも鬼ではなかったようだ。

 ムウは彼らの元に向かう。いや、正確には――

 

「ようラミアス大尉、そっちはどうだい?」

 

 彼が語りかけたのは、艦とMS整備の総責任者として遣わされたマリューだった。

 本来であればハルバートンは彼女も手元に置いておきたかったのだが、アークエンジェルという艦を熟知している彼女は、大気圏突入というミッションには必要な人材だ。何しろ強襲機動特装艦などという面倒な代物である。どのようなアクシデントが起こるか分かった物じゃない。艦の構造から熟知している整備人員は必須であった。

 そんな彼女は。

 

「ああ、フラガ大尉」

 

 ムウに対して塩対応に近い素っ気なさである。彼女は元々MA乗りは好みじゃないと公言している上、ムウの軽いキャラに嫌悪感のようなものを覚えている。状況が違えば話は別だったのだろうが、残念ながら歯車が噛み合わなかったら、このようにもなるものだ。

 

「こちらのタスクは順調です。地球圏に到達する頃には、予定を終えるでしょう」

 

 事務的な言葉だ。ついでとばかりに本来プトレマイオス基地で行うはずだったテストや訓練も無理矢理詰め込まれたスケジュールは過密であったが、それをおくびに出すこともない。

 ムウもそれは理解しているが、あえて指摘することはなかった。

 

「そりゃ何より。……ところで今日の仕事は終わったんだろ? これから一緒に食事でもどう?」

 

 ムウの言葉に対し微かに眉を動かしただけのマリューは、こう応える。

 

「いえ、これからレポートのまとめなどをしなければなりませんので。失礼します」

 

 言うだけ言ってさっさと踵を返す。けんもほろろな態度に、ムウは肩をすくめた。

 

「やれやれ、またフラれたな」

 

 さしてダメージを受けていないような様子に、ダガーのパイロットたちは苦笑を浮かべる。最早いつもの光景だ。

 このように、アークエンジェルの航海は順調な物であった。

 しかしその裏で、アークエンジェルが地球に向かうという情報がザフトに漏洩していたりする。

 同時にラクスが地球に向かうという情報も、クルーゼを通じて連合側に漏れていたりする。

 ここまではよくあることなのだが――

 まさか双方がほぼ同時に地球近海にたどり着き、そしてほぼ同時にそれぞれの勢力の特殊部隊から襲撃を受けることになるとは、当事者たちは予想もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 久々に模型のイベントがあって大はしゃぎ。そしてその後休日に仕事が入ってテンションだだ下がり。
 まあ良くあることなんで気を取り直して生きていたいと思います捻れ骨子です。

 はいアークエンジェル側の事情でした。リョウガさんの介入のせいか、大分状況が変わっているようです。とりあえずマリューさんとムウさんは巻き込まれ……出場決定。彼らがどんな目に遭うのかは次回以降と言うことで。そして次回は久々にバトルな展開になると思います。よくある大気圏突入の話になるはずなんですが……なんだろう、わやくちゃになる予感しかしないぞう。双方何とか地球に降りられるのは確定しているのですが、そこまでに至る道筋がどうなることやら。

 そう言うわけで今回はここまでです。次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15・嫌な予感ほど外れない

 

 

 

 

 ※端っから他者視点いくぜェ

 

 

 プラントを発ったラクス一行は、途中小惑星を加工した前線基地へと立ち寄り、降下輸送船に乗り換え地球へと向かっていた。

 降下輸送船とは、まあ言ってみればでっかいスペースシャトルである。宇宙と地上を行き来し、物資を安定して輸送するための物だ。地上に物資を降ろすだけならHLV(重量物打ち上げロケット。この場合は降下カプセルも兼ねている)と言う物もあるが、一度に輸送できる重量は200トンに満たない。ゆえにできるだけ少ない回数で多くの物資をと考案されたのが降下輸送船であった。

 まあコストとか色々な面でHLVより秀でているかと言えば微妙なところだが、ラクスの護衛であるヴェステンフルス隊の装備と、その他諸々の物資を一気に纏めて運べるというのは確かに便利である。さらに言えば、乗り心地はHLVと比べものにならない。要人を地球へ降ろすのに都合がよいのは間違いなかった。

 

「すまねえな副長、貧乏くじ引かせて」

「これもお役目です。むしろ隊長の方が苦労されるでしょう」

 

 モニター越しに言葉を交わすハイネとアデス。地上に降りるのはヴェステンフルス隊の中でもハイネ直下のMS部隊と整備兵だけで、アデスたちはヴェサリウス、ガモフ共々宇宙に残る。

 ヴェサリウスとガモフは地球近海までの護衛だ。シーゲルら上層部としてはもっと多くの戦力を付けたかっただろうが、予断を許さない状況の中、割ける戦力には限度がある。それに大部隊は目立ち、行動が鈍る。お忍びというわけではないが、わざわざ要人が動くと宣伝してやるいわれもない。最終的にはエースが率いているんだしこのくらいが妥当だろうという結論に落ち着いた。

 

「にしても副長、俺の方が年下なんだから、もっとざっくばらんでいいんだぜ?」

「けじめですので」

 

 気軽な人間関係を好むハイネと、堅物のアデスはそりが合わない……と思わせておいて、結構上手くやっていた。

 これはハイネが軽薄に見えて気配りの利いた人物であることが大きい。有能であるが何を考えているか分からないところがあり、ちょくちょく無茶振りをするクルーゼと比べて、非常に人間が出来ている。アデスからしても仕事がしやすい上司であった。

 ハイネにとってもアデスはできた副官である。実直で堅実。冒険はしないタイプだが、その分定石の行動に関しては非常に優秀だ。そして元々同じ部隊に属していただけあって、赤服の少年たちの扱いを心得ている。自分のサポート役としては上々の人間であった。

 まあ堅物で、どれだけ言っても歳下どころではない若輩者の自分に、慇懃な接し方をしてくるのは玉に瑕であるが。

 

「……まあそれはおいおい解決するとして、そろそろ地球近海だ。ザフトが制空権取ってる空域から地球に降りるが、余計な邪魔が入る可能性はゼロじゃないからな。最後まで油断しないでおこう」

「大気圏突入前、降下軌道付近での戦闘は自殺行為に等しいと思いますが、仕掛けてくる可能性があると?」

「ないとは言えないな。何しろ名高きザフトの歌姫だ。それを仕留める、あるいは手中にする機会ともなれば、かなりの無茶でもやりかねん」

 

 正式な交戦協定などはないが、地球への降下軌道上での戦闘はタブーとされている。当然の話で危険極まりないからだ。メタな話ガンダムではよくやることであるが、本来自殺行為と言っても過言ではない。

 だがハイネはその可能性があると考えていた。連合、特に大西洋連邦を牛耳っているブルーコスモスはまともじゃない。必要とあらばいかなる犠牲を払ってでも目的を果たそうとするだろう。死兵を送り込んでくるくらい平気でやる。

 一応今回の行動は機密であり情報は制限されていた。だがこういうのは漏れる物だ。連合にはこちらの動きが筒抜けと考えていい。

 ここまでの航海で襲撃などがなかったから情報は漏れてない……などと考えられるほどハイネは脳天気ではなかった。()()()()相手が油断したところをつく。そして少しでも船に損傷を与えれば大気圏突入の危険性はぐんと跳ね上がるとなれば、絶好の機会でもある。死兵を送り出すだけの価値はあるだろう。

 

(いざとなれば……覚悟を決める必要があるな)

 

 自分の命を賭けてでも、ラクスは無事地球に送り届けねばならない。普段は軽薄さを装ってはいるが、ハイネはすでに歴戦の戦士であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方アークエンジェルであるが。

 

「ここまでは順調だが……地球に近づいたからといって、安心もできんな」

 

 艦長が呟くように言った言葉に、ナタルは内心で同意した。

 地球近海での勢力圏争いは激しい。双方ともに物資や兵力の輸送路を確保しなければならないのだから当然だ。軌道上での戦闘こそないが、そこに至るまでの航路、空域の取り合いは熾烈である。

 今使っている航路は比較的安全が保たれているが、それでも油断して良い物ではない。地球に近づくにつれNJの妨害も強くなるため、長距離の電磁波レーダーの効きも悪くなり、遠距離の索敵がしにくくなる。頼りになるのは目視とレーザー索敵だ。量子レーダーの開発も進んでいるが、まだ完全に実用化には至っていない。(その分野でトップをひた走っているオーブも、流石にその辺の技術は出し惜しみしていた)

 結果ナタルたちCICのクルーは緊張感とプレッシャーの中で索敵管制をこなしていた。アークエンジェルは月の艦隊と共に幾度か小競り合いに参加したが、本格的な戦闘はまだ未経験だ。当然地球への降下も。

 嫌というほど訓練は積んだし、自分たちならできるという自信もある。だが実際に時が迫ればやはり緊張する物だ。その上でナタルたちは艦の『目』そして『頭脳』として周囲に気を配らなければならない。精神的な負担は相応にある。

 

(降下軌道に乗れば襲撃の心配はないと思うが……それも確信は持てない)

 

 CICの総括として戦術理論を鍛えまくったナタル。その彼女は僅かな危惧を覚えていた。

 この世界では、大気圏突入軌道上での戦闘という物は前例がない。せいぜいがザフトのHLVを迎撃するために連合が攻撃を加えた程度の物だ。(しかもそれはNJの影響もあってほぼ失敗した)

 ザフトもそれは理解しているはずだし、兵の無駄遣いとも言える無謀なミッションを強行する余裕があるとは考えにくい。それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 確かにアークエンジェルは最新鋭の艦だし、試作と先行生産型のMSを積んではいる。だがそのデータは完全では無いにしろ、全て連合の本部に送られ、それを元に大西洋連邦を中心とした各所でMSの生産が始まっている。アークエンジェル自体も同型艦が月と地上で建造されていた。ここでアークエンジェルを墜としたとしても、幾ばくかの影響があるのみで、戦況は大きく変わりはしないだろう。それに狙うのであればこの航海中にいくらでも機会はあった。危険を冒してまで降下軌道上で襲撃する理由はない。

 しかし、それでも。

 

(連合の上層部に揺さぶりをかけるつもりなら、わざわざ呼び寄せたこの船を墜とすのは効果的ではある。それに見合うコストかどうかは別として。大気圏突入寸前を狙えば、確実性は増す)

 

 そもそもが無謀な戦争だ。今更無茶の一つや二つやらかしてもおかしくはない。ザフトにはそう感じさせる『怖さ』がある。

 しばしの思考。そして。

 

「艦長、具申いたしたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 ナタルは席を立ち、声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感は、当たる。これは世界の摂理である。

 ……なんて大げさなことでもないが、大体世の中無常な物で。

 

「索敵班より報告! こちらと接触するコースで船影を確認! 識別信号確認できません!」

「隊長の予想通りとはな。……MS隊を出し、迎撃態勢を取れ! 重力に捕まるなよ!」

 

 ヴェサリウスが正体不明の目標を捉えた。識別信号も出さずに近寄ってくる船など敵以外にないとアデスは判断。即座にMSを出撃させる。

 地球近海での戦闘を考慮して大型のバーニアパックを追加されたジンが発艦し、降下輸送船を護る位置につく。

 そして、謎の船からも艦載機が放たれるが。

 

「この反応。まさか、()()()!?」

 

 近づくにつれそのシルエットもはっきりと見て取れる。それはカラーリングこそザフトの物とは違っていたが、間違いなくジンであった。

 

「鹵獲機! 連合のコーディネーターか!」

 

 連合に組みする、所謂『裏切り者のコーディネーター』が敵だと判断された。事実様々な事情で連合軍に入隊しているコーディネーターはそこそこいる。そういった人間は大概ザフトに対し強い敵意や恨みを抱いている場合が多い。

 しかしながら、今回の場合は少々事情が異なっていた。

 

「目標を捕捉。各機は攻撃に移れ」

『了解』

 

 無機質なやりとりが行われる。それを成したのは白を基調にしたカラーリングのジンを駆る者たち。

 そのパイロットたちは全て、整った容姿に青みがかった銀髪の男性……ぶっちゃけ同じ顔をした連中であった。

 【ソキウスシリーズ】。地球連合軍が秘密裏に生み出した、戦闘用コーディネーターである。

 服従遺伝子を利用した刷り込みによる心理コントロールが施されており、『ナチュラルのためになること』を最優先とした行動を取るように調整されている。だが服従遺伝子による制御という物を信用しきれなかった軍上層部により、ほぼ使い捨てのような形で激戦区に送り込まれたり戦闘訓練のテスト相手として()()されていく現状があった。

 ほとんどの場合薬剤投与などによって自我が抑制されているため、彼らはどのような無茶な命令にも従う。それが自殺行為に等しい物であってもだ。

 今回のようなミッションにはおあつらえ向きの人材であった。

 そのようなこと、ザフトのパイロットたちには分からない。だが機体の動きから、なみなみならない相手であることは予想できる。

 

「各機、連中をこの先に一歩も通すな!」

 

 隊長が吠え、護衛のジンは一斉に敵へと躍りかかった。

 そして同時刻。

 

「目標、真っ直ぐこちらに向かってきます!」

「……バジルール中尉が予測したとおりになったな」

 

 別の軌道から降下体勢に移ろうとしていたアークエンジェルにも、敵が襲いかかってくる。相手の船籍は不明。ただ確実にザフトのものではないことは分かる。

 

「偽装か。それとも傭兵でも雇ったか。……ともかく遠慮無しに来るぞ。【ブルーリーフ】と【アンブレラ】は迎撃態勢に移れ! MAを深入りさせるなよ!」

 

 僚艦に迎撃を命じる艦長。それに応じて僚艦2隻は向きを変えて砲口を目標に向け、MAを出撃させる。アークエンジェルはそのまま降下体勢に――()()()()

 いざというときは降下を中断し離脱を行い、一度近隣の基地へと撤退する。ナタルが具申した策はそのようなものだった。元々上層部から無理矢理下された命である。本来予定されていたより強行軍で、システム的にアクシデントが起こる可能性もあった。その上で、敵襲を受けた状況で無理矢理地球に降下するのは危険ではなかろうかと、ナタルは指摘したのだ。

 そも乗り気ではなかった艦長以下クルーはその意見を取り入れた。折角ここまで『育てた』艦を墜とさせるような真似をしたくはないし、命を賭けてまで無理をする理由もない。敵の襲撃を言い訳に、無謀を回避しようと考えるのは当然のことであった。

 そして降下軌道から外れるのであれば、使()()()()()()()

 

「MS部隊はどうか」

 

 艦長の問いにオペレーターが答える。

 

「エールストライカーを装備した105(ストライク)と、303(イージス)、ダガーも2機は出せます」

「よろしい、303はフラガ大尉に任せろ。出撃可能な機体はスタンバイさせて待機。連中の攻勢が激しいようであれば、出すぞ」

 

 降下しないのであれば、迎撃のためにMSも出せる。もちろん地球に近いので重力に引かれる危険性はあるが、大気圏に突入しながら戦闘をするより遙かにマシだ。

 衛星軌道に乗った状態で戦闘を行い、頃合いを見てスイングバイで軌道を離脱。近隣の連合基地に向かうというのが大まかなプランだった。当然その状態のアークエンジェルも狙われるだろう。そうなれば迎撃は必須である。そしてそのプランはパイロットたちにも通達されていた。

 

「装備の追加は無しか。……できればガンバレルくらいは付けて貰いたかったな」

「無茶言わんでください。105用のストライカーパックだってまだ開発中なんですよ」

 

 MA形態に変形したイージスを調整しながら、ムウとコジローが言葉を交わす。元々MA乗りであるムウにとって、イージスをMS形態で使うメリットはあまりなかった。

 MAとしてもイージスはかなり高い性能を誇る。素の機動性に加え、ビーム兵器を標準装備とし、使用に制限はあるが対艦兵装である大口径ビーム砲【スキュラ】も備えている。ムウが以前使っていた【メビウスゼロ】よりも最大火力は高い。相性は悪くなかった。

 

「カタパルトに上げます! 大尉はスタンバイを」

「できれば出番がないに越したことはないんだが……そうはならないだろうな」

 

 コクピットに潜り込み、ヘルメットのシールドを下げるムウ。パレットに乗せられた機体は、カタパルトデッキへと送られていく。アークエンジェルは着々と迎撃態勢を整えていた。

 そして、それを相手取るのは。

 

「降下をやめた? 頭の切れるのがいるな」

 

 アークエンジェルを目視で捉えられる位置まで距離を詰めた旧式艦、そのブリッジ、艦長席で呟くように言う男。

 【レオンズ・グレイブス】。連合、ザフト双方に兵士を提供する民間軍事企業(PMC)に所属する傭兵で、今回はザフトに雇われて襲撃部隊の指揮を執っていた。

 ナチュラルであるがその能力はザフトの軍人からも一目置かれるものだ。とはいえ危険な任務を押しつけられている時点で、その扱いも分かろう。

 もちろんそれは自身も理解していることで。

 

「前金分の仕事はするか。上手いこと一当て出来れば御の字さね。……MS部隊、深追いはするな。増援が来たら速攻でケツまくるぞ!」

 

 任務達成を半ば諦めた、消極的な指示を下す。レオンズはまだこんなところで死にたくはなかった。

 その指示を受けるMSパイロットの中にも、一癖ある者がいる。

 

「目標捕捉。攻撃に移る」

 

 ソキウス同様の無機質な声で言うのは、仮面を付けた男。

 【スー】と名乗るその男は、レオンズと同じ企業に属する傭兵であった。苦も無くMSを操るところからコーディネーターだと推測されるが、それ以外の経歴は不明。必要最小限の言葉しか口にしないところから『沈黙の仮面』などとも呼ばれている。

 彼の駆るジンは、なぜか重斬剣しか装備していない。スーは接近戦での戦いにこだわりがあり、重火器の使用を嫌う。それがまかり通っているのは、彼が相応の戦果を出しているからだ。傭兵になってまだ日が浅いが、それだけの技量はある。

 

「はっ、逃がすかよ」

「先行くぜ仮面野郎」

 

 血気に逸った僚機が、スーを追い抜いていく。そのことに何の感慨を抱くこともなく、スーはゆっくりとスロットルを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※リョウガ視点

 

 

「なるほど、アークエンジェルとその護衛以外は()()()()だったのか。そりゃ混乱もするわ」

 

 クーロンズポートであちこちから話を聞く合間に、俺はレポートに目を通す。

 今回の件は不幸と偶然の折り重なりだ。タイミングの悪さ、判断の誤り、そういったものが交差してこのようなことになった。まあ多少できすぎの感はあるが、この世界何が起こるか分からない。複数の思惑が絡めばこう言う事もあり得る。

 

「で、アークエンジェルに襲撃をかけてきた連中は取り逃がしたが……ザフト側にきた方は、()()()()()()()、と」

 

 戦闘不能になったジンが何機か軌道を外れ、様子を窺っていたうちの宇宙軍に確保されたようだ。これの詳細はまた後日に聞かねばならないようだな。

 まあ向こうもそう簡単に情報は吐くまい。連合に連絡しても、恐らくとぼけられるだろう。その処遇も考えなければならない。

 ともあれまずは話の続きだ。俺はレポートの閲覧を中断し、これから先の行動を考えながら腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ひっさっしっぶっりにっ! サバゲに行くことになりましたー! 
 と浮かれてるおっさんが、ニタニタしつつエアガンをいぢくりまわしている光景。キモいですね。
 しかし反省などしない捻れ骨子です。

 はい交戦開始……までいってないよ! すいませんすごく長くなりそうなので途中で切りました。次回こそ戦闘シーンになるはずです。ただしカオスだ。
 なんかアストレイから色々引っ張られてきてますが、果たして彼らは活躍するのか否か。それとも出てきただけなのか。
 なお盟主王原作ほどサハクさん家と仲良くないようで、ソウキスの譲渡はなかった模様。その代わりに……?

 とまあヒキ=ジツを使ったところで、今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16・運が悪いとどうしようもない

 今回推奨BGM、カーボーイビバップOP【Tank!】



 

 

 

 ※真面目に他者視点

 

 

 ヴェステンフルス隊とソキウス隊(仮称)との交戦は、ヴェサリウスとガモフが先手を取った。

 

「弾幕を張れ! 相手もコーディネーターだ、簡単にはいかんぞ!」

 

 アデスの指示が飛び、2隻とその周辺に展開したMS部隊は迫る敵へと火力を叩き込んでいく。

 雨霰と降り注ぐ砲火をかいくぐりながら、ソキウスたちの隊長格、【フォー・ソキウス】は淡々と戦況を分析する。

 

「射撃の精度が高い、精鋭部隊だと判断する。現状散発的な攻撃では突破は難しい」

 

 敵と自分たちの技量、武装と選択できる戦術。瞬時にそれを考慮して判断を下す。

 

「各機散開、応戦開始。戦力を分析する」

 

 戦闘用に作られたソキウスシリーズ。感情を喪失してなお、その戦闘適性は並々ならぬ物がある。そのことが上層部の不安を煽り、破棄処分につながったのは皮肉な物であるが、当人たちは現状に対し一顧だにしない。ただ命じられたことを全力で行うだけだ。

 激しく砲火が交わされる。それを背後にした降下船のブリッジでは、ハイネが船長に指示を出していた。

 

「このまま真っ直ぐ加速。ヴェサリウスとガモフが敵を押さえている間に距離を稼ぐんだ」

 

 ヘッドレストを掴んでキャプテンシートにへばりつくような体勢で言うハイネの言葉に、船長は眉を寄せる。

 

「それだと突入の位置が変わります。下手をすれば目標に降下できない危険性が」

「ザフトに友好的な領域に降りられればいい。最低でもオーブの領域ならなんとかなる。船に傷の一つも入れられるような状況の方がよっぽど最悪さ」

 

 あくまで降下を優先させるハイネ。ラクスが地上に降りようとするこの機を外せば()()()()()()()()()()()。そんな予感があったからこそだ。

 そんなハイネの直感など船長には分からない。だがハイネの気配にどこか気圧されて、頷きながら応える。

 

「了解しました。突入角を再計算させます。それでも予定より大幅にずれると思いますが。それと上面に多少の損傷があってもなんとかなります」

「無茶を言うが頼む」

 

 半ば決死隊の心境で、彼らはなすべきをなさんとしていた。

 しかしその進路の先、彼方の軌道上では――

 

「くそ、手練れか! 大尉たちは出せるな?」

「はい、いつでも」

「よし、MS部隊を出せ!」

 

 護衛する艦が押されているとみたアークエンジェルの艦長は、MSにて応戦することを決める。

 

「待ってましたよ、っと。……ムウ・ラ・フラガ、303イージス出る!」

 

 MA形態のイージスが矢のように射出され、それにストライクとダガー2機が続く。

 

「中尉、お前さんのストライクを頭に小隊を組め。俺は連中を引っかき回す。色気を出してスコアを稼ごうとするなよ。アークエンジェルがスイングバイの軌道に乗るまで保たせりゃいい」

「了解。大尉も無理をなさらずに」

「分かってるさ。こんなところで死ぬつもりはないからな!」

 

 ストライクを駆る中尉に指示を出し、ムウはスロットルを開けた。

 イージスのMA形態での速力は、かつての愛機メビウス・ゼロと同等以上だ。実のところ変形システムと機体構造に関しては、オーブから技術をパク……極秘に提供して貰っていた。それによって原作よりも若干性能が向上しているのだが、もちろんこの世界で気づいてる人間はいない。

 ともかく、交戦している真っ只中にムウのイージスは突っ込んでいった。

 

「新手? 今更新型のMAか!?」

 

 量産型のMAメビウスを蹂躙していた傭兵の一人が、接近するイージスを捉えた。

 

「速いが、それだけ……なにっ!?」

 

 閃光が奔る。咄嗟の回避は僅かに間に合わず、傭兵のジンは左足を膝下から抉り取られた。

 

「ビーム兵器、だと!」

 

 牽制射撃を行いながら交代するジン。戦場を縫うように駆けるイージスから、ムウの声が飛ぶ。

 

「メビウス隊、後退して艦の直衛に回れ! ここはエンデュミオンの鷹が引き受ける!」

 

 いける、とムウは手応えを感じていた。シミュレーションやテスト駆動の時より機体のレスポンスがいい。整備班や技術陣が苦労してムウ用にセッティングを行った効果だろう。水を得た魚のごとく、とは言いすぎかも知れないが、手慣れた兵相手と十分に渡り合えるくらいの力はあるようだ。

 と、イージスのセンサーに何かの反応があった。

 

「照準用のレーザー照射? どこから……まさか敵の援軍か!?」

 

 一瞬だけの反応。交戦している相手ではないと感じ取ったムウは、照射が行われたらしい方向をカメラでズームする。

 そこに写し出されたのは、砂粒のように見える小規模の艦隊であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定通りラクスを乗せた降下船とアークエンジェルの大気圏突入が行われていれば、二つの船の軌道は交わることなく、互いの存在に気づくことすらなかったかも知れない。

 しかし降下船は突入の位置を変えるために加速し、アークエンジェルはスイングバイのための軌道に乗ろうとしていた。

 結果互いが予想しなかった形で邂逅する事となる。

 

「連合の新型艦だと!? 増援……にしてはおかしいな」

「ザフトの新手か!」

 

 ハイネの反応とアークエンジェル艦長の反応は微妙に違った。要因は双方の位置関係にある。

 ザフト降下船は、アークエンジェルから見て後方に位置していた。加速した降下船がアークエンジェルに追いついた形である。ハイネから見れば背面を見せた船が増援とは思えなかったし、アークエンジェルから見れば後ろを取られたとも思える状況だ。まあどちらも地球の自転に合わせてコースを取っており大気圏突入を引き延ばしていたのだから、理屈で言えばあり得ない話ではない。

 そういったことを悠長に考える余裕はどちらにもなかった。

 

「交戦している……だがザフトの部隊じゃない。偶発的な戦闘か? くそ、どちらにしろこのままじゃこっちのコースとかち合う」

「向こうも交戦中だと!? ザフト同士でか!? 一体どうなっている!?」

 

 ザフト側は襲ってくるのもジンなので、識別信号を出していない未確認機は全て、ザフトではないと判断できるが、アークエンジェルからすれば自分たち以外は全部ザフト系の艦とジンばかりだ。誰が敵なのか味方なのかさっぱり分からない。とりあえずは自分たちの方に襲いかかってくるのは敵だと断定できるが、後方に現れたのは何者なのか。そしてどうしてザフト同士(?)で交戦しているのか。判断に迷うのも仕方が無かった。

 ザフト側――ハイネは敵味方で迷わなかった。敵側の船と交戦しているからといって、それが味方とは限らない。敵の敵は味方などと言うのんきな思考をハイネは持っていなかった。つまり敵対してくることを前提にしたのだ。

 だからと言って状況は何も好転しないが。

 

(このまま加速を続けていれば正面の連中に追いついちまう。だが減速すれば後ろの送り狼の餌食だ。どうする?)

 

 進むも戻るも難しい。ここに来てハイネは地球への降下を断念せざるを得なかった。

 

「キャプテン、降下は中止だ。この場を離脱する」

「それは理解できますが……加速して振り切るわけにもいきません。減速は論外。離脱のために進路を変更するには推進剤が心許ない。どうされるつもりで?」

 

 船長の言葉に、ハイネは難しい顔で応える。

 

「……進路を変える手が一つある。それはな――」

 

 ハイネの発案に、船長もまた難しい顔になった。

 

「無理か?」

「……いえ、確かに中々やれることではありませんが、言ってみればこの船もウェーブライダー。不可能ではないはずです。やってみましょう」

「そうか、頼む。上手くいったらクルー全員に一杯おごるよ」

「そいつはいい。上等な酒にしてくださいよ。さぞかし美味く呑めそうだ」

 

 船長を含むクルーが不敵に笑みを浮かべた。そうこうしている間にも二つの戦場は徐々に近づきつつある。

 

「ちっ、刃物一本で、なんてでたらめっ!」

「よく反応する。連合に属するコーディネーターか」

 

 ムウのイージスとスーのジンが斬り結んでいた。速度で上回るイージスが一撃離脱を仕掛け、ジンはそれをギリギリで回避し、すれ違いざまでカウンターを狙ってくる。ビームライフルの射撃を紙一重で回避してカウンターを狙うその技量にムウは舌を打ち、スーは正確無比かつ大胆な攻勢を見て、コーディネーターが相手だと誤認する。

 戦いは互角。機体性能と武装でイージスに分があるが、それを互角にまで持っていく技量がスーにはあった。

 

「PS装甲のおかげで直撃喰らっても大したことは無いだろうが」

 

 それでも油断できる相手じゃないとムウは判断する。下手をすれば装甲の隙間に切っ先を叩き込んで来かねない相手だ。攻撃を食らってやるわけには行かない。

 

「ったく、クルーゼ以外にも厄介なのがいるもんだ!」

 

 自分と因縁のある仮面の男を思い返してムウは顔をしかめた。いい調子だと思っていたら何やら新手が現れて、おまけに手強いのが出てきた。なんともついていないというか、自分の人生こんなのばっかりだ。などと嘆いている余裕はない。

 

「強敵を引きつけていると思いたいところだがな」

 

 そんな戦いの様子を、レオンズは見ている。

 

「手こずっているな。……引くか?」

 

 戦況は五分に見える。経験は自分たちの方が積んでいる。しかし新型艦から出てきたMAとMSは高い性能を持ち、そして乗り手は結構やるようだ。特にスーと渡り合っているMAが目立っているが、背中に翼のようなオプションを背負った3機も、機体の性能に頼らず手堅い連携で対処していた。目標の新型艦に有効な攻撃を入れることができない。

 その上で、新手の登場だ。どうやら()()()()()()()ようで、こちらに構う余裕はなさそうだが、その存在は邪魔だ。ザフトの船が襲われているようなので共闘を呼びかける、なんてこともできはしない。こちとら一応極秘の任務に就いている傭兵だ。接触したらろくな事にならないのは分かっている。任務を達成できないのは痛いが、潮時ではないだろうか。

 考えた末、レオンズは指示を出した。

 

「離脱コースを取る。連中の『上』をいって一当てを狙うぞ。上手くいっても行かなくてもそのままとんずらだ。MS部隊にはタイミングを見て撤退するように伝えろ」

 

 衛星軌道を外れるコースを取り位置的にアークエンジェルの上方へと抜け出て、攻撃を仕掛けるという腹づもりであった。そう上手くいくものではないだろうが、当たれば儲けもの程度の事だ。一当て狙うのはついでで、離脱を優先する考えだ。

 アークエンジェルの方はそれを読み取れない。目の前に迫る敵に対処しながら、近づく船を警戒しなければならなかった。

 

「攻撃を受けている側はザフトで間違いなさそうだが、仕掛けている方は所属不明か。こちらに仕掛けてきた連中と同一……でもなさそうだが」

「どこかの非合法部隊なのか、それともザフトの仲間割れなのかも分かりません。スイングバイには早すぎますが、強引に振り切りますか?」

 

 まだ十分な加速度に乗っていないが、機関をフルスロットルで吹かせば十分に軌道を離脱できる。新型艦でそれをやるのはいささか不安だが、いずれは試さねばならないことだ。

 

「……よし、コントロールを操舵へ。ノイマン曹長、いけるな?」

「イエッサー! おまかせください!」

 

 力強く応える操舵手のノイマン。操舵、出力制御など、アークエンジェルを機動させる全てが彼に一任される。その責任は重いが、彼はそれをやってのけるだけの技量があった。

 

「MS部隊に通達。当艦はこれより衛星軌道からの離脱を試みる。各機は現状を放棄し早急に帰還せよ」

了解(アイコピー)、アークエンジェルよりMS隊各機に通達……」

 

 艦長の指示をMS部隊に伝えるオペレーター。そこでさらに新たな動きが生じる。

 

「? 後方の降下船が高度を下げています。大気圏突入を強行するつもりでしょうか」

 

 CICオペレーターの一人がそう報告した。何をするつもりなのか気になるところではあるのだが。

 

「放っておけ。こちらに対して何らかのアクションを起こさない限りは無視だ。誰が敵だか味方だか分からない状態で、余計なことに気取られている暇はない」

 

 あとから現れた連中はこちらに絡んでこない限りは無視すると、艦長は言い放つ。何しろ自分たち以外全部同じMSを使っている。識別信号である程度区別はつくにしても、そもそもが全部味方じゃない。下手を打てばただ単に混乱が増すだけだと判断したのだ。

 手を出してこないのであれば儲けもの。だがいつまで関わらずにおられるかは分からない。離脱を決めたのはそのような不安もあったからだった。

 そしてハイネたちが乗る船が見せた動きとは。

 

「総員耐ショック! 少し荒っぽくなるぞ!」

 

 船長が警告を飛ばす。高度を下げた船は、細かい振動を発するようになった。

 大気圏上層部にて、大気の抵抗力を利用し軌道の変更を行う。ハイネが提案したのはそういう物であった。大気圏突入時にある程度機動できる形状の物、所謂ウェーブライダーの構造と機能を持つ船などにしか使えない手段だ。降下船のクルーもシミュレーションぐらいは経験があるだろうが、実際に行った事のある者はいないだろう。一か八か、と言うほどではないが、多少の危険と困難は伴う。

 

「10度もずれれば接触するコースからは外れる。引き上げのタイミングを誤るなよ」

「イエッサー!」

 

 ご、と船がひときわ大きく揺れる。大気の密度が高くなる領域まで達したのだ。

 降下船は軌道を変更すべく、船体をひねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が悪かったのかと言えば、やはり間とか運とかそういうものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動きを見せた降下船。このままでは任務を果たすことは困難であると、フォーは判断する。

 そして彼は新たな指示を出した。

 

「シックス、サーティーン、前に出る。ナインとトゥエルブ、()()()()()()()

『了解』

 

 指示を下し、自ら攻め入るフォー。それに2機のジンが続く。

 

「強行突破する気か、させん」

 

 ガモフのMS部隊を率いる隊長が、突っ込んでくる3機に攻撃を集中させる。ハイネたちほどでは無いにしろ、彼らも相当の手練れだ。容易く突破させる物かと迎撃を始めた。

 フォーたちはそれを回避――()()()

 

「なにっ!?」

 

 被弾も構わずただ真っ直ぐに突っ込んでくる敵。いや、コクピットや重要な部分は流石に避けているようだ。

 だが何の真似だ。敵の目的はラクスの乗った船で間違いないだろう。だがこの布陣を相手に、強引に突破するのは悪手すぎる。仮に突破できたとしてもラクスが乗る船にダメージを与えられるかどうか。分の悪い賭けどころではない。

 その目論見は、すぐに露見した。

 

「後ろ!? ()()()()()!?」

 

 ある程度距離を詰めたところで、フォーたち3機の影から飛び出す対艦装備の2機。前の3機に攻撃を集中させ、後ろの2機に防衛陣を抜けさせようとしたのだ。

 事実ザフトの兵たちは、一瞬反応が遅れる。その隙を突いて、2機は最大加速。スラスターが焼き切れても構わないという勢いで防衛陣を抜け、対艦ミサイルを構えた。

 

「目標、ロック……」

 

 それでも射程距離はぎりぎり。無理に加速しながらなので照準もブレる。そういった悪条件の中でもナインとトゥエルブは武器をロックオンさせ――

 

「やらせるか!」

 

 引き金を引く瞬間に、護衛のジンから攻撃を受ける。彼らもヴェステンフルス隊に選抜された者たちだ。それくらいはやってのける技量はあった。

 攻撃を受けた衝撃で、2機はあらぬ方向に飛んでいく。そして彼らが放ったミサイルも。 それと前後して。

 

「帰還命令か。だがそう簡単に返してくれるかね」

「帰投しろと。任務を放棄と言うことか」

 

 斬り結んでいる真っ最中のムウとスーに下された指示。帰ってこいと言う指示はいい、だが目の前の敵はそう簡単に背中を向けて良い相手ではなかった。隙を突いて出し抜く必要がある。

 共にこの場を脱することを考えながら、二人は同時に――

 勝負に出た。

 ダメージ覚悟で間合いを詰めるスー。腕の一本や二本はくれてやるつもりであった。対するムウはビームライフルを放たずに、()()()()()()()()()()

 

「可変型だと?」

 

 がばりと四肢だった部分を展開させる砲撃形態。それに流石のスーも驚きの声を上げる。 間髪入れず放たれた対艦ビーム砲【スキュラ】。初見であるはずのそれを、スーは装甲を焦がしつつもかろうじて回避した。

 

「十分!」

 

 大きく体勢を崩したジンの横をすり抜け離脱するイージス。

 

「不覚を取ったが、生きているだけで御の字か」

 

 さして感情を揺るがすこともなく、スーのジンもまた離脱を始めた。

 ところで、ムウがぶっ放したビームもあらぬ方向へ飛んでいった。虚を突くための物だったので、ろくすっぽ狙いも付けていなかったせいだが、それは予想外の結果を生んだ。

 軌道を変えている真っ最中の降下船。偶然その船尾に命中したのだ。

 

「め、メインノズル2番と3番損傷! 推力が低下します!」

 

 船体が揺るがされレッドアラートが響く。クルーは一瞬パニックに陥った。

 

「船体を引き上げることができません! 高度が落ちます!」

「推進剤の供給を切れ! やむを得ん、このまま降下を強行するぞ! よろしいですな隊長!」

「仕方が無い、やってくれ!」

 

 こうして船長の判断で、なし崩し的に降下を始めるザフト船。危険ではあったが、軌道から上に上昇できない以上こうするしかなかった。

 一方アークエンジェルの方も。

 

「……MS隊、帰還……っ! 敵艦からの砲撃! ですが射程外です!」

「あわよくばを狙ったというところだな。向こうも離脱する気か」

 

 MS隊の収納とほぼ同時に放たれる、大幅に狙いがはずれた砲撃。こちらに襲撃をかけてきた艦から放たれた、あまりやる気の無いそれに対して、艦長は行きがけの駄賃程度の物だと判断する。

 これで戦闘も終わりに近づいたか。クルーは内心で胸をなで下ろす。

 その僅かな気の緩みが、()()()()()()()()()

 

「っ! 高熱源反応! ミサイルで――」

 

 予想外の方向から飛来したミサイルに、対処が遅れる。自動制御されてるバルカンファランクスが迎撃を行おうとするが、飛来した4発のうち3発までしか撃ち落とせなかった。

 残り1発は近接雷管を作動させ、ブリッジ直近で炸裂する。

 炸裂した弾頭は無数の散弾を吐き出し、それはブリッジに後方から襲いかかった。

 激しい衝撃に揺さぶられ、側面や天井のモニターや機器が吹き飛び破片が飛び散る。

 怒号や悲鳴が上がる中、咄嗟に己の腕で頭部をかばったナタルが呻くように言う。

 

「クラスタータイプの対艦ショックバスター弾だと!? 条約禁止兵器じゃないか!」

 

 艦の『中身』にダメージを与えることを目的とした特殊弾頭。だがそれは非人道的だという理由で禁じられていたはずだ。しかもその兵器は()()()()()()()()()()()()。つまり放ったのは……。

 

「ぐぅ……」

「艦長!? 副長も! メディックを!」

「……か、構うな。それより状況の把握と索敵を……」

 

 思考が中断される。内部に飛び散った破片によって、艦長を含めた幾人かが負傷した。それによって指揮系統が一時的に低下する。

 さらに運が悪いことは続く物で。

 

「め、メインエンジンの出力低下! ブリッジからのコントロールに支障が出た模様!」

 

 ブリッジにコントロールを集中していたことが徒となり、艦の制御の一部が麻痺してしまったらしい。アークエンジェルは速度を落とし、地球の重力に捕まってしまう。

 迷う余裕もない。最早本能でナタルは声を張り上げる。

 

「耐熱ジェルを展開! 地球に『落ちる』ぞ! 姿勢制御を!」

「やってます! ブリッジ周辺の隔壁を! 何とか地表に降ろして見せます!」

 

 ブリッジでは艦長、副長に次ぐ階級はナタルであった。咄嗟の判断で指示を飛ばしたが、ノイマンはそれより先に行動に移していたようだ。あとで問題になるかも知れない越権の行動であったが、ここで死ぬよりマシである。ともかく今を乗り切らなければ話にならないと、ナタルもノイマンも必死であった。

 こうして、アークエンジェルも致し方なく地球に降りることとなる。

 無理を押してそれをやってのけた二つの船が、同じようにオーブの領海内に落ちたのは、運命の悪戯なのかも知れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※リョウガ視点

 

 

「なるほど、対艦ショックバスター弾。となればザフトの船を狙った連中の所属は、十中八九大西洋の方だな」

「横流しとも考えられますけれど?」

「誰かに冤罪押しつけようとすればその線もありだが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()なんて真似から考えると、連中らしいやり方だと思わないか?」

 

 落ちてきた双方から話を聞く間にも、情報は次々と入ってくる。アークエンジェルが落ちた理由も分かった。そりゃあんなもの至近弾に喰らえば相当なダメージも入るわ。

 アメノミハシラからの情報によれば、救助したのは全く同じ顔のコーディネーター数人で、しかもマインドコントロールらしきものを施されているという。ソキウスなんだろうと原作知識から分かるが、現時点での俺の立場からすれば知るはずのない情報だ。そこいら辺りで口を滑らすつもりはない。

 情報を持ってきたリシッツァは肩をすくめる。

 

「ご丁寧に彼らは必要最小限の情報しか与えられていないようですわ。誰によって育てられたのか、どこで戦闘訓練を受けたのか、全て知らされていない模様です」

「そこで尻尾を掴ませるほど間抜けじゃあるまい。状況証拠、しかも半分は勘だ。連合に物言えるほどじゃないな」

「アークエンジェルのクルー、艦長を筆頭とする幾人かはうっすらと疑っているようですわね」

「内輪もめの犠牲者みたいなもんだからな。ま、そこら辺は帰還してから好きにやってくれればいい」

 

 一通り目を通した資料をしまい、俺は席を立つ。

 

「さて、いよいよ本命だ。鬼が出るか蛇が出るかってところだが」

「見た目美少女しか出てきませんわよ? 今のところただのお嬢様にしか見えないのですけれどねえ」

 

 俺の態度に首を傾げるリシッツァ。鉄火場に関しては恐ろしく勘の働く女傑だが、何の害もないものに関してはごく普通だからな。現段階で俺が何で警戒しまくってるか分からないだろう。

 何もなけりゃあそれに越したことはないんだが……大化けする可能性があるからなあ。下手すりゃ()()()()()()()()()()だ。迂闊なことは言えん……とはいえ、ある程度深い話をすることになってしまうだろうが。

 そう、俺がこれから対話しようとしているのは、ある意味ラスボス。

 ラクス・クラインだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 WA2000がほすい。来年のボーナスで買ってしまいそうな自分がいる。
 サバゲの沼にハマりつつある捻れ骨子ですとりあえず電動ガンは買う。

 さ、だいぶ大幅に更新が遅れてしまいましたすんません。別にサバゲにハマったからではありません。信じれ。
 それはともかくアークエンジェルとラクス様一行落っこちるの巻でした。本当はもう少し混乱するはずだったんですが、ものすごく長くなる上に読んでる方も混乱しそうだったので、大幅に削ってさっぱり風味に。その作業もあって大分遅れました。要修行ですね。

 ともかく長く引っ張りましたが、次回いよいよラクス様とリョウガさんがご対面です。
 果たしてどうなるのか。魔王が覚醒してしまうのか。乞うご期待?

 ……できれば今年中に更新したいなあ……(遠い目) 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17・面倒だからって放り出すわけにもいかない。

 

 

 

 

「お初にお目にかかる。オーブ代表首長補佐官、リョウガ・クラ・アスハだ」

「初めまして。ラクス・クラインと申します」

 

 言葉を交わし、席に着く。俺の傍らには護衛を兼ねてリシッツァが、対面のラクス嬢の傍らには黒服サングラスの護衛官が控えている。

 互いに用心のためだ。最低でも()()ラクス嬢を害する気などこちらにはないが、この対談の結果いかんによっては今後を考えなければならない。控えている二人には『証人』という意味合いもあった。

 この対談で運命が変わる……かどうかは分からないが、今後に一石を投じる重要な局面だ。最低でも俺はそう信じているから内心気合い入りまくりだ。表に出すようなへまはしない……つもりだが、はてさて。

 

「今回のことは不運だったが……体の方は問題ないかね?」

「ええ、おかげさまで。オーブの皆様の救援が手早く、大事ないうちに保護されましたので」

 

 精神的にも身体的にも問題はなさそうだ。軽く微笑しているその腹の底は窺えない。

 この少女は原作でも色々とやらかしてくれたが……あれだけのことをしでかすには、相当のコネクションが必要となる。それを作り上げるためには相当前から準備しておかなければならないはずだが、原作とかなりの相違点が生じているこの世界で、この少女がどこまでやっているのか判断がつかない。そこまで深くプラントに手を伸ばしているわけじゃないからな。

 ……実のところ、俺は原作での彼女の行動を()()()()()()()。やり方は全くもってテロリストだし、上手いこと漁夫の利をかすめ取ったように見える行動だが、彼女らが動かなければ、原作はもっと酷い終わり方をしていただろう。決して手放しでは褒められないし賛同もできないが、ああいう行動をしなければならないほどに()()()()()()()()()()()()()()のは確かだ。

 俺だってある意味原作の彼女らより酷い行動をしている。結果的にマシに見えるだけで、原動力は個人的な都合だ。人のことを頭ごなしに否定できるほど立派なもんじゃない。

 それらを踏まえた上で、目の前の少女が何を考えているのか、これから先どう動くつもりなのか。それを少しでも見極め、己がどう動くべきなのか。世界にとっても俺にとっても、ここが分水嶺になるかも知れなかった。

 

「大事ないとは言え、窮屈なところに軟禁状態でそう気も休まないだろう。すまないが、事故とは言え我が国の領海に許可無く入り込んだ形になってしまった都合上、色々と面倒なのだよ。今しばらく我慢して欲しい」

「心得ておりますわ。むしろご迷惑をおかけした上で、保護していただいているのですから、贅沢なことを言えば罰が当たります」

「痛み入る」

 

 軽く頭を下げる。ラクス嬢一行はザフトのアフリカ方面軍――バルトフェルド隊が引き取る事になった。現在地球でもっとも安定して勢力を維持しており、現地政府との関係も良好。その上抵抗勢力とも和解を模索しており治安も向上しているとなれば、白羽の矢が立つのも当然であろう。ま、俺が少し後押しした(彼らくらい安全なところじゃないと安心して送り出せないとごねた)ってのもあるだろうがね。今頃はラクス嬢を迎え入れるために艦隊が出航しているだろう。

 それはさておいて。

 

「では本題に入ろうか。……まあこれは非公式なもので、表沙汰にはならないから気を楽にして欲しい。一応記録はされるが、それを何かに利用することはないと約束しよう」

「信じましょう。リョウガ・クラ・アスハという人間は、約束を違えないと」

「過分な期待だな。それを裏切らないように努力させて貰う」

 

 事情聴取という名の会談。俺はそれを行おうとしていた。先に宣言したとおり、あくまでこれは互いの腹を探るもの。この会談の内容を何らかの形で利用する気は無い。今後の俺の行動を決めることにはなるだろうが。

 

「早速だが、まずは貴女の目的を聞きたいところだ。少数の護衛だけを引き連れて非公式に地球へと赴いた。多分密使かなにかだとは思うが、いかがか?」

「慧眼ですわね。その通りです、わたくしはプラントに対し友好的な中立国に対する特使として、地球に参りました。表向きは非公式な、各地に対する慰問の名目で」

 

 存外さらりと目的を明かす。あるいは隠しても無駄だと思ったのか、それともまだ隠していることがあるのか。

 ……いかんね、どうにも疑い深くなってしまう。ある意味原作知識が邪魔をするなあこう言う場合。

 

「何を目的とした特使かは……聞かない方が良さそうだな」

「貴国に悪いようにはならない、とだけ申しておきますわ。プラントにとっても命綱の一つ。害するわけにはいきませんもの」

 

 ふむ、気のせいか妙に上機嫌にも見える。表情は微笑のままだが、口調が僅かに明るい。導師を通じて俺の話は聞いているだろうが……彼に何か吹き込まれたか?

 そう思っていたらば。

 

「わたくし個人としては、()()()()()()()()()()()()。怪我の功名というところですわね」

「……私との対面が目的であったと?」

「願わくば、と言ったところだったのですけれど。人生何がどう転ぶか分からない物ですね」

 

 確かに俺は、派手に状況を動かしているという自覚がある。ラクス嬢に目を付けられても致し方ないとは思うが。

 

「随分と思い切ったことを。まさかとは思うが、特使の話は私と対面したいが為に無理矢理ねじ込んだ、とか言う物ではあるまいね?」

「あら、よくお分かりで」

 

 マジかい。いや本音言ってるかどうか分からんが、この子の行動力から考えるとあながち嘘でもないかも知れん。これは益々下手は打てないな。

 

「そこまでして私と話したいことがある、とでも言うのかね」

「ええ、それだけの価値があるとわたくしは思っていますわ」

「買いかぶりではなさそうだ。確かに現状、世界の動きに幾ばくか関わっているという自負はある。私の思惑を知りたいと考えるのは、貴女だけではなかろうさ」

「ご理解いただけたようですわね」

「それで、貴女は私に何を聞きたいのだろうか」

 

 俺の問いに対し、ラクス嬢は微笑のまま――

 目の奥の光だけが変わった。

 

「そうですわね、色々とありますけれど……『ザフトと連合の戦争を終わらせるにはどうすればよいか』、というのはいかがでしょうか」

 

 いきなりぶっ込んでくるなこのお嬢さん。

 

「終わるだけなら簡単だろう。どちらかが負ければいい。だがそれはとても解決と言えるものじゃない。待つのはろくでもない結果だけだ」

 

 こう返す。身も蓋もない言い様だが、もっとも単純な終わり方とはこう言う物だろう。共倒れというオチも考えられるがな。

 

「まあこれは、貴女が求める答えではあるまい。正確には戦争を終わらせるために『我々は』どうすればいいのか。そういったところかな」

「……ええ、そう。そういうことだと思います」

 

 妙に歯切れの悪い答え方だ。この子自身にまだ迷いがあるのか、あるいは考えが完全にまとまっていないのか、そういったところだろうか。

 ただ何かをするべきという意志だけが、見受けられる。

 

「恥ずかしながら、わたくしはたいしたことのできる人間ではありません。プラント評議会の議長の子供、そのような立場をなくせばただの小娘に過ぎない。そういったことも頭をよぎります。そして何かをしなければならないという思いはありますが、どう動くのが最もよい結果につながるのか、それが見えてこないのです」

 

 原作のような経験をしていないせいか、ラクス嬢はまだはっきりとした方針と自信を持っていないようだ。弊害であるともいえるし、俺にとっては都合のよい考えを植え付けるいい機会であるかもしれない。しかし油断をすれば喰われるのはこっちだ。何を語るにしても、慎重にやらなきゃな。

 

「ふむ、私の言動が迷いないように見えたかね?」

「ええ。その上で強い意志を持って事を推し進めているように見えます。そこまで強くモチベーションを保てるのはなぜなのか、お聞かせ願えれば」

「たいした理由じゃないさ。やらなければ国が滅ぶかもしれなかった。それだけだ」

 

 ホント何もしなかったら滅んじゃうからね。難易度ルナティックなんだよこの世界。

 

「私にも迷いはあった。だが世情は待ってくれやしない。迷いなんぞ振り切り、がむしゃらにやるしか道は開けない。それが未だに続いているから、モチベーションを保つしかないということだ。血を吐きながら続けるマラソンのようなものだよ」

「己の身を削ってでも、なさねばならぬと」

「そこまでたいしたものじゃない。ベットする元手が、己の心身一つしかなかったというだけさ。何しろ最初は、オーブという国の中もバラバラだったんだ。それを一つにまとめ上げるところから始めなきゃならなかった。10年かそこらでやっとここまでだよ」

 

 一応一つの国、一つのイデオロギーで固まっている勢力をまとめ上げて対策を練るだけでここまでかかった。世界規模ともなればいかほどの手間になるものか、想像に難くはない。

 

「今の戦争は、これまでの歴史の中であった独立戦争、その延長線上だ。だからといってこれまでのような駆け引きで終わるものではない。双方血を流しすぎた。まともな終結に至らせるためには、これまでにない苦労をする必要があるだろうな」

「理を持って説くことは難しい、と?」

「互いのやらかしで頭に血が上りまくっているからな。しかも間に立つ宗教やなんやの権威ってものがないと来ている。我々中立国の働きかけも、決定打とは言えんだろうさ。それでも粘り強く働きかけなければ、終わるものも終わらない」

「平定には時間がかかるとおっしゃりたいのですね」

「双方を黙らせる武威でもあれば話は別だろうが、オーブにもよそにもそれほどの力はあるまいよ」

 

 横から思いっきりぶん殴ることはできるだろうがな。それで双方に致命打を与えることも不可能じゃないが、そこまでばらすつもりはない。

 

「それに無理矢理殴りつけて戦争を終わらせたところで、遺恨は残るだろう。普通に終わったって残るんだ。納得のいかないまま消化不良で終わらせたところで、恨み辛みが積み重なるだけさ。最低でも双方がある程度の納得いく結果が得られなければ」

 

 実際のところ、俺たち(オーブ)にとっては双方が脅威にならないレベルまで疲弊してくれれば御の字なのだが、この本音も言ってやらない。

 ラクス・クラインという人間を、俺は完全に信用し切れていない。あるいは敵に回るかもしれないという可能性は、常に考慮している。正直キラよりよほど危険な人物だと考えていた。だから全てを明かすことはない。

 

「ではリョウガ様の考える、双方が納得のいく和平条件とはどのようなものでしょう?」

「あくまでオーブから見た都合だが……プラント側は独立と引き換えに、これまでにかかった建造費、維持費と賠償金の支払い。そしてNJの機能停止。連合の方はプラントに与えた損害の賠償と、独立、自治権の容認。それとブルーコスモス過激派のテロリスト認定と国際指名手配。こんなところかな」

「……妥当なところですわね。()()()()()()()()()()()()()()

 

 流石に理解できるか。プラントからすればNJの効果による優位点は是非とも残しておきたいだろう。対策が取られつつあるとは言え、その効果は未だ連合の枷となっている。機能を停止させればプラントは一気に不利な立場となるだろう。独立と引き換えにするにしてもリスクが大きすぎる。

 連合は連合で、過激派とはいえ政治、経済の中枢に入り込んでいるブルーコスモスのメンバーを、そう容易くは切り捨てられまい。できるとすれば穏健派が主流となり、過激派の存在が邪魔と判断されるような状況になれば、だろう。よほどのことがなければ、そんなのはありえないだろうが。

 つまり俺の提示した条件には、双方が絶対に譲れないところが入っている。しかしそこがなければお互いの国民を納得させることは難しいだろう。どっちも国民を煽りまくっての戦争だ。それを鎮めるためには相当の理由が必要となる。原作ではなんかうやむやになった感があるが、だから火種が残りっぱなしだったんじゃなかろうか。

 まあ俺が提示した条件でも火種は残りまくるんですがねー。怨恨なんかは簡単に晴れることはないだろうし、火種を煽るどころか作ることもやりかねない存在(どこぞの一族とか)がおるからな。原作より条件がいい終わり方をしても、絶対原作より状況がよくなることはなく、ほぼ間違いなく次の戦火が巻き起こる。賭けてもいい。

 

「当然だが私もこのような条件で纏まるとは思っていないさ。だからどこかで妥協しなければならない……のだが、まだ双方中立国の言葉を聞き入れる耳を持たない。未だ和平の道は遠いということだ」

 

 俺の言葉にラクス嬢は考え込む。俺のこれまでの言動から、『時間をかけて和平の道を探る方針』だと察したのだろう。実際そのように動いている部分もある。各国にじわりと浸透していく我が国や商会の手を通じ、民衆の間に厭戦感を広げ、政府への圧力を高めていく。そういった手段も取っていた。

 しかしそれでは――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、かな?」

 

 俺の言葉にラクス嬢はピクリと反応する。

 そう、時間をかけて和平の道を模索する、そのような余裕はプラントにない。元々の国力の差を、NJと言う反則技とMSという予想外の兵器でもって優位を確保したが、戦争が予想外に長引き、NJは徐々に対策が取られつつあり、さらにMSが生産され実戦投入も始まったとなれば、程なく優位は覆される。

 プラントの弱体化は俺としても望むところだが、それは同時に連合の弱体化も併せて、と言うのが前提条件だ。一方的に弱体化し滅んで貰うのは困る。ゆえに戦力の調整のためにも助力しているわけだが、それにも限界はあった。

 もっとも、立て直しができてきたことで連合内での対立も激化しつつあるわけだが、そこまでラクス嬢には分かるまい。いずれにせよプラントにさほどの余裕はないのは確かなのだから。

 

「プラントのお偉方も分かっているはずなのだがね。他はともかく停戦の交渉に関しては頑なだ。我々としても手を焼いているところさ」

「……父は停戦も視野に入れていますが、プラントの首脳陣の多くは徹底抗戦を主張し、譲る様子を見せません。父と数少ない穏健派も努力はしているのですが」

「有利な内に手打ち、とは考えられないか。もっとも連合の方だって現状を覆さない限りは聞く耳を持たないだろうな。難しいところだ」

 

 現状の難しさは理解しているだろう。さて、ここからどう判断するラクス嬢。

 

「……他の中立国も、それぞれの思惑があるでしょう。その中で停戦を望んでいるのはどれほどあるのでしょうか」

 

 ふむ、()()()()()

 

「公平な停戦を望んでいるのは、我が国とスカンジナビア王国くらいか。後の中立国は多くがプラント寄りだな。ややもすれば、このまま連合が敗退してくれればその分の利権をかっさらえると考えているところも多いだろう」

 

 うちの場合は公平に弱体化してから停戦して欲しいところだがね。純粋に戦争やめて欲しいのはスカンジナビアくらいだろう。あそこは今でさえユーラシアや大西洋から難民が押し寄せてるんだ。これ以上の面倒は勘弁して欲しいというのが本音じゃないかな。

 それはともかく、俺はラクス嬢の考えが大体読めてきた。

 

「中立国同士の連携を強め、第三勢力として連合とプラントの間に立てる。そう言ったことを考えているのかな?」

「お分かりですか。とは言ってもわたくしもはっきりと考えが纏まっているわけではないのですけれど」

「まあ似たようなことなら私も考えていたからな」

 

 中立国同士の関係を深め、()()()()()()()()()()()。ゆくゆくは第三勢力をと言う考えは俺の中にもあった。あくまで手段の一つ、ではあるが。そのためにユウナにあちこちへと飛び回って貰っていたりするという面もある。

 

「とはいえまだ足並みは揃わない。どこまで協力体制を築けるかは未知数だよ。今のところは連合、プラント双方を留めるだけの勢力は無い」

「……あなたは、随分と先を見て、進んでいらっしゃるのですね」

 

 どことなく気落ちしたようにも見えるラクス嬢の言葉。自分の考える先手先手を行っているように見えるのだろう。

 

「言っただろう、がむしゃらに走り続けるしかないと。貴女より前から走り続けているんだ、先を行くのは当然さ。そして……」

 

 俺は表情を真剣なものに変えた。

 

()()()()()()()()()()()()()()。私でなければできなかったこともあるし、私の立場だからこそ危機に陥ったこともある。誰も彼もが同じようにはできないさ。同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴女の立ち位置だからこそ、見えることもできることもあるのではないかな」

 

 焦ることはないと語外に含め、言う。ぶっちゃけ、俺達の利になるのであれば原作通りの動きをしてくれても構わないんだ。だがその方向に導くのは非常手段としておきたい。状況が制御できなくなるだろうから。

 今は状況を見極め、よく考えて欲しい。そして導き出した結論が俺の害にならないよう、祈りたいところだ。

 俺の言葉に、神妙な表情のラクス嬢は眉を寄せる。

 

「わたくしに、見えることとできること、ですか……」

「そう難しく考えることはない。そうだな、とりあえず」

 

 俺はそこでにやりと笑って見せた。

 

「折角地球に来たんだ。『ここ』からなら、また新たに見えるものがあるかも知れないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 なぜ俺は帰省してんのに仕事してたんだろう。(遠い目)
 盆と正月が忙しいってどういうことなの。どういうことなの。いや今年が特殊だと信じたい捻れ骨子です。

 大変お待たせして申し訳ない。仕事が忙しいから遅れた……わけではありません。リョウガさんとラクス嬢の対話に悩んだ末のことです。
 結果……何の成果も得られませんでした! というのは冗談ですが、原作と違いドラマチックな出会いとか悲劇とか無いんで、ラクス嬢まだ迷いっぱなしな状態です。果たしてここからガンギマリまでもっていけるのか。そもガンギマるのか。原作主人公と出会う様子なんかこれっぽっちもないぞおい。
 結局今回の対話で何がどう決定づけられたわけでもないのですけれど、果たしてこれが今後に影響を与えるのでしょうか。なんかラクス嬢の事ですから予想外の方向にすっ飛んでいくような気がしますが。(偏見)

 それでは今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18・一難去ってまた一難どころじゃない

 さて、俺との会談を終えたラクス嬢は、何事もなく迎えの艦隊と共にクーロンズポートを発った。

 ()()()()

 

「……で、()()()()()()?」

「潜水母艦が3。水中用MAらしきものが6。それを囮にしたらしい潜入工作員が15。といったところですわね」

 

 俺の問いに答えるリシッツァ。それはラクス嬢を保護してからこれまでの間に、クーロンズポートへとちょっかいをかけてきた存在の数だった。

 

「存外少ないな。……捕虜なんかは皆無か」

「ええ、母艦はこぞって撤退。MAは自沈。工作員はご丁寧に全員自決しましたわ。なかにはテルミット爆薬を使った者もいたようで」

「あわよくば巻き添えを狙って、だな。こっちの被害は?」

「負傷者が数人。とはいえほぼ軽傷です。全て水面下で片付けられたので、まずまずの成果かと」

「そうだな。ボーナスと見舞金ははずんでやってくれ」

 

 CSSと、密かに配備していたMS部隊の手によって、不埒者どもは退けられた。しかし。

 

「どうにもぬるい攻め手だ。あるいは本命ではなかったか」

「そうかも知れませんわね。もしかしたら今頃ザフト艦隊が襲われているかも」

「だとしてももう手は出せんし、これ以上は大きなお世話どころではないさ。後は彼らの奮戦に期待しよう」

 

 今回程度で終わるはずがないという予感があった。だがこれくらいは乗り切って欲しいし、乗り切れなければそこまでだ。

 と、リシッツァがどこか咎めるような雰囲気で言う。

 

「彼女らもそうですけれど、ご自身の周りも気を付けてくださいませ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから」

「……一族、か?」

「ええ。装備品は連合のものでしたが、そっちの工作員を装った可能性もあります」

 

 ふむ。そろそろ動き出す頃だと思っていたが。連中の動きは未だ不明な部分が多い。オーブの諜報部とCSSが探っているが、敵も然る者で中々尻尾を掴ませない。

 まあそっちの方は『伝』ができそうだから、もう少ししたら状況が改善するかもだ。それに俺を狙っているのは一カ所や二カ所じゃきかないからな。今更だ。

 リシッツァも分かっているのか、ため息を吐く。

 

CSS(我々)も全力で警護に当たっていますから、後れを取るつもりはございませんけれど。……まあ()()()()()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には釈迦に説法かも知れませんが」

「ふっ、自慢だが軍主催のサバイバル競技会でレコードホルダーになっているのは伊達ではないからな」

 

 生憎忙しい合間を縫って鍛えるのを怠ってはいないし、それで慢心するような事もしない。何せ人生綱渡り。己の肉体や技術だって研ぎ澄ましておかなければ、いつ何時、何があるか分からない……っていうかしょっちゅうあるし。

 

「だからって調子に乗って袖口に銃を仕込もうとかしないでくださいません? なんですのがんかたとかいう怪しい武術流布したりして」

「うむ、半分冗談だったんだが、軍の教練に取り入れようかという動きが出るとか俺も思わなかったわ」

 

 鍛錬ついでに某りべりおんじみた真似をやったりもしたのだが、軍の連中がかなり本気で興味を持つとは。割とこの世界じゃ有効かも知れんけど。MSでやりそうなヤツも何人かいるけど。

 

「まあそれはそれとして。アークエンジェルの方は、やっぱりアレか」

「ええ。大西洋連邦の方はどうにも乗り気ではないようで、護衛艦2隻だけをよこすそうですわ」

 

 ザフトに対して連合――アークエンジェルが所属する大西洋連邦の動きは鈍い。と言うかどうにも内輪もめが酷そうだ。

 元々アークエンジェルとガンダムは、ハルバートン提督の肝いりで開発された物だが、あくまでハルバートン提督の派閥が推進していたと言うだけで、()()()()()()()()。確かに現在MSを推す派閥が最大勢力(ブルーコスモスとかの後押しもある)なんだが、未だ通常戦力だけでザフトを押し切れると豪語する人間もいる。ハルバートンの言っていた、『数字でしかものを見られない人間』だ。例えば「1の戦力を相殺するのに10の戦力が必要ならば、100の戦力をぶつければいい」とか豪語するようなヤツ。またそういう者にもシンパや後援者がいて、それなりの派閥を形成している。そして当然だがハルバートンの派閥とは仲が悪い。

 要は足の引っ張り合いが存在していると言うことだ。前にも言ったが原作よりも余裕ができたせいで、その辺が激化してきたという事情もあった。

 で、とばっちりを食らったのがアークエンジェルである。本来はもっと護衛の船がよこされるはずだったのだろうが、内ゲバの影響でこのざまだ。まあ原作みたくろくな補給もなく単艦でアラスカに来いと言われるよりはマシである。五十歩百歩だけど。

 ザフトもラクス嬢が地球に来たことで警戒態勢を変えなければならないから、アークエンジェルを襲っている余裕なんてないとは思うが、クルーには分かるまい。俺も情報漏らすつもりはないし。

 

「こっちの方も我々が手助けするわけにはいかん。精々よき航海を、と祈るだけさ」

「フラガ大尉がいますから、簡単には沈みませんでしょう。無事にたどり着けるかまでは分かりませんけれど」

 

 肩をすくめるリシッツァ。彼女からすれば、アークエンジェルにはあまり思い入れがないのだろう。どうでもいいとまでは言わないが、沈んでも仕方ないくらいに考えているようだ。

 事実ここでアークエンジェルが沈んでも、大勢に影響はあまりない。原作を見ていた身からすれば少々複雑な気分だが、あの船には()()()()()()()()()()()のだ。何しろ原作ほど波瀾万丈の運命に翻弄されてないからな。せいぜいが新型艦とMSの運用データ収集という意味合いであろう。

 そうなった原因は、巡り巡って俺にある。ちょっとだけ悪いことしたかな~とか考えつつ、俺は思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクス嬢との会談の後しばらくして、今度は医療施設に運び込まれたアークエンジェルの艦長たちと面会する。

 まあほとんど形だけだ。艦長はあわや失明かと言うほどの怪我を負ったし、副長も似たようなものである。どっちかと言えばお見舞いに近い。

 表向きには遭難したアークエンジェルをオーブ領海内で保護し、製造元であるクーロン商会に押しつけた。と言う形だが、実際のところは推して知るべし、だ。彼らのバックであるハルバートン提督とは友好的でありたいし、オーブとしてもそれなりに気を遣う。

 折角生き延びてんだから、役に立って(苦労して)もらわんといかんしな。

 

「しばらくすれば彼らは動けるようになる。それと同時にアークエンジェルもだ。大西洋連邦の返事待ちだな」

「あまりよい返事は聞けそうにありませんけれど」

 

 リシッツァと言葉を交わしながら、俺は自販機コーナーに向かう。俺だって喉くらいは渇くからな。一息つこうというわけだ。

 と、自販機前の談話コーナーに、屯っている男女の姿があった。

 

「あれは……」

 

 ふむ、『実写』にはなっているが、雰囲気はまるでそのままだ。恐らく間違いあるまい。

 知らんふりして立ち去ろうかとも思ったが、彼らの動向も気になる。俺は意を決して声をかけることにした。

 

「失礼。販売機を使いたいのだが、よろしいかな?」

 

 そう言うと、()()はこれは失礼とか言いつつ俺の方を見て――固まった。

 

「りょ、リョウガ・クラ・アスハ……氏!?」

 

 『金髪の男性』が、ちょっと焦ったような声を出す。ここまでくればもう誰だか分かるだろう。

 

「そういう貴官は、()()()()()()()()()()かな? こんなところで何だが、お初にお目にかかる。……リシッツァ君、彼がかのエンデュミオンの鷹だ」

「存じておりますわ。CSSの代表を務めておりますリシッツァ・コチャンスキーと申します。お見知りおきを」

 

 ここで男性――ムウは居住まいを正し、敬礼してみせる。

 

「失礼しました。連合宇宙軍大尉、ムウ・ラ・フラガであります」

 

 そして残りの2人の女性もそれに倣う。

 

「しょ、小官は連合宇宙軍技術大尉、マリュー・ラミアスであります!」

「同じく連合宇宙軍中尉、ナタル・バジルールであります」

 

 そう、原作メイン大人組が勢揃いだった。アークエンジェル落ちてきたんだから、そりゃこの人らと遭遇する可能性はあった。多分艦長の様子を見るのと、今後の方針について話し合っていたのだろう。タイミングがよかったのか悪かったのか。

 

「通りすがっただけだよ、楽にしてくれたまえ。……リシッツァ君、何か飲むかね?」

「それでしたらレモンティーをお願いいたしますわ」

 

 目を丸くする三人の前で、俺は自販機にコインを入れる。程なくして出てきたカップをリシッツァに手渡し、自分はブラックコーヒーを選んでカップを手に取った。

 ……むう、香りは悪くないが、やっぱり薄いな。

 所在なげに手を下ろす三人。なんと言って良い物だか戸惑っているようだ。まあいきなり国の重鎮に出会ったらこうなるのも仕方ないが。

 

「邪魔をして悪かった。アークエンジェルの処遇について艦長殿と話をしに来たところだ。……色々な都合上、大した手助けもできないが、そこは勘弁して貰いたい」

「はっ、お気遣いありがとうございます。ご面倒をかけた上でのご助力、感謝の極みであります」

「まあ個人的にはエンデュミオンの鷹に貸しを作れた、というので御の字だろう。貴官のネームバリューにはそれだけの価値はある」

「……小官は1パイロットに過ぎません。過分な評価かと」

 

 流石に地のキャラではなく、堅い感じで言葉を発するムウ。どうにも本音は聞き出せそうにないが。

 

「そうかね。私は貴官を買っているのだがな。できれば我が軍に引き抜きたいほどには」

「張り子の虎ですよ、小官は。たいそうな二つ名も、敗戦を誤魔化すためのプロパガンダにすぎません」

「だが生き延びた。無難に100の勝利を重ねた兵よりも、惨敗を生き延びた上でまだ立てる兵の方が価値があると、私は考える。実際に矢面に立っている人間からすれば、失礼な話かも知れんがね」

 

 俺の言葉にムウは困ったような表情となる。まあ、俺があえて反応しにくい言葉を選んでいたというのもあるだろう。こんな状況でスカウトじみた真似なんか、普通せんからな。

 む、ナタルが睨むような視線をこちらに向けているな。彼女としては裏でこそこそやっている中立国とは名ばかりの国家の人間が何を言うか、とでも言いたいのだろう。流石にここで食ってかかるほど無謀ではないようだが。

 マリューの方はと言えば、所在なげに視線を彷徨わせているだけだ。原作のように修羅場くぐってないせいか、さほどの度胸はないようだ。いずれにしても彼女らからは有効な情報を聞き出せはしまい。

 ふむ、あまり深入りはできなさそうだ。

 

「ともかく貴官を買っている人間がいる、というのは覚えておいて欲しい。いずれ何かの役に立つかも知れないしな」

「は、心に留め置きます」

「補佐官、そろそろお時間です」

「む、そうか。……では名残惜しいが、この辺りでお暇させていただこう。よき航海を祈っているよ」

「それでは失礼いたします」

 

 飲み干したカップをダストボックスに入れ、敬礼する三人に見送られながら俺達は踵を返し、その場を後にする。

 しばらく歩いて距離を取ってから、リシッツァが口を開く。

 

「もう少し探りを入れるつもりだったのでは?」

「あの様子だと、そう大した話は聞けそうになかったからな。ショートカットの士官を見たろう、警戒心の塊だった」

「それは当然、下手をすれば敵に回すかも知れない相手ですもの。警戒はしますでしょう」

「取り繕うぐらいはして貰わないと。しかしこれで一つ分かったことがある」

「なんですの?」

 

 その問いに、俺はすぴしと人差し指を立ててみせる。

 

「ハルバートン提督周りは、()()()()()()()ってことさ。災難に遭った兵が、あれだけ落ち着いているんだ。統率が取れ秩序が保たれていると言うことだろう」

 

 本来よりも酷い目に遭っていないせいだろうが、荒んだり落ち込んだりしている様子はない。だからと言ってそれがいい方向に向かうとは限らないけれど。

 

「敵に回ったら厄介かも知れんな。だが下手な小細工もできん。そもハルバートン提督は連合じゃ珍しい理性的な人物だ。できれば敵に回したくないもんだ」

「そう思ったようにいかない世の中ですものねえ」

 

 肩をすくめるリシッツァ。全くもってその通りだよ。

 さて、彼らはどのような役割を果たすことになるやら。できれば戦場で相まみえることがなければいいが、何がどう転ぶか分からん。いざというときに、引き金を引くのを躊躇わないくらいの覚悟は決めておこう。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

 敬礼してリョウガを見送ってしばらく。ふう、と息を吐いてムウは力を抜いた。

 

「……ビビったぁ。あんな大物が出てくるとは思わなかったよ」

 

 割と図太い神経をしてるムウだが、さすがにリョウガとの遭遇は予想外であったようだ。事故とは言え領空、領海への侵入だ。取り調べじみた捜査は入ると思っていたが、最後の最後で国の重鎮が出てくるなんて予想がつくものか。

 もっともリョウガからすると、アークエンジェルのクルーとの遭遇は、ラクスとの面会のついでみたいなものであったが、そこまではムウに分かるはずもない。そも彼らは一緒に落ちてきた降下船にラクスが乗っていたなどと欠片も思っていないのだから。

 ムウたちは艦長らの具合を確認し、今後の方針を相談しに来たわけなのだが、それが終わって駄弁っていたらばこれだ。不意打ちというのも過言ではない。

 

「あれがオーブの龍と呼ばれる方なのね。言っては何ですけれど、意外に普通というか……」

 

 驚きはしたものの、気圧された様子のないマリュー。修羅場をくぐっていないせいか、彼女の感性はさほど研ぎ澄まされていないようだ。

 その逆というか、順調に軍人としての鍛練を積んできたナタルはと言うと。

 

「『大人しくする演技』くらいはできるということでしょう。噂が本当であれば……いえ、話半分としても相当の人物ですよ」

 

 その言葉にはどこか刺々しいものがある。ムウは片眉を上げた。

 

「おや、中尉は彼のことがお気に召さないようだな」

「色々と後ろ暗い話のある人物ですから。それに……」

「それに?」

「……いえ、個人的に好きになれない人物だと思っただけです」

 

 言葉を飲み込む。

 はっきり言ってしまえば、ナタルはリョウガの、()()()()()()()()()()()()()()。連合、ザフト双方に助力し、後ろ暗い手段も使っているという。しかしながら方々に恩を売っていて、中々手出しもできないという有様だ。そして驚異的に軍事力を増強させている。あるいは漁夫の利を狙っているのかと、警戒心を抱かずにはいられない。

 軍人として、己に与えられた任務を完遂するのが本分と考えているナタルだが、オーブに関してはどうにも感情的な部分が揺り動かされる。彼らのおかげで今の戦況が成り立っているという事実を踏まえても、嫌悪感じみたものを覚えずにはいられなかった。

 

「珍しいわね。ナタルが他人の事をはっきり嫌うのは」

 

 数少ない女性の士官同士と言うこともあって、マリューとナタルはそれなりに友好的な関係であった。少なくともマリューは呼び捨てにするくらいには心を許している。

 

「私も、人間ですから」

 

 小さく苦笑して言葉を返す。マリューは基本的に善性の人間で、割と感情が顔に出るタイプだ。感性としては普通の人間寄りだが、軍人としてはいささか人が良すぎる。それが好ましいと思う部分もあるが、リョウガのような輩に警戒心を抱かないのはどうにも危うい。なんか騙されそうな気がする。

 

(あのような輩と関わり合いにならなければ良いのだが)

 

 正直自分も関わり合いになりたくないのだが。ナタルは心の中でため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて一方。

 

「海風とはもっと爽やかなものだと思っていましたわ」

「何事も実際体験しないと分からないものさ。俺も海は慣れてないけれどね」

 

 ザフト艦隊旗艦の甲板上で、海風に目を細めるのはラクス。そしてその隣に立っているのはアスランだ。

 アスランからすると、今回のことは色々目まぐるしかった。極秘でラクスが地球に訪れると聞いた後すぐに戦闘に巻き込まれたという報が入り、よりにもよってオーブの領海内に落ちたと聞いたときには卒倒しかけた。幸いにして無事合流することができたが肝を冷やしたどころではない。寿命が縮まった思いであった。

 ラクスの方はと言えば、割とハードな目に遭ったというのにのほほんとしたものだ。気丈に平気なふりをしているのかも知れないが。

 今周囲には人影もなく、二人きりの状態だ。バルトフェルドとハイネが気を遣った結果である。

 

「それにしても、見違えましたわねアスラン」

「バルトフェルド隊長にしごかれてるからな。それに地球は24時間重力がかかりっぱなしだ。鍛えられもするよ」

 

 すっかり日に焼け、どことなく逞しくなったように見えるアスラン。実際にバルトフェルド隊にて鍛練を重ねた彼は、相当に実力も向上していた。

 

「地球に来たのは本意じゃなかったが……今になっていい経験をしたとも思う。プラントからじゃ見えないことも見られたしな」

「色々と出会いもありましたでしょう? 例えば、リョウガ・クラ・アスハ氏とか」

 

 ラクスの言葉にアスランは眉を顰める。

 

「君も彼と会ったのか」

「ええ、お気を使わせてしまったようで。……アスランはあの方をどう感じました?」

「大した人物だよ。俺達を利用しようとすればできただろうに、それをしなかった。良心に従ったのではなく何かの考えがあってのことだろうが、それでもほぼペナルティなしで解き放つなんて中々できることじゃない」

「懐の深い人物……なのでしょうか」

 

 ふと考え込むような様子を見せるラクス。それを見たアスランは問うた。

 

「何か気になることでも?」

「わたくしの気のせいかも知れませんが……リョウガ氏はどうにも、()()()()()()()()()()()()()()()()()のです」

 

 直感か、あるいはラクスもリョウガの腹を探っていたのか。彼女はリョウガの内心を、一部ではあるが察しているようであった。

 

「評議会議長の娘だから、じゃないのか?」

「そうかも知れません。ですがあの方は、そんな立場で人を見るような方でしょうか。わたくしは違うように思うのです」

「それならば余計に分からないな。『ただのラクス・クライン』を、かのオーブの龍が警戒する理由が思い当たらない」

 

 むう、と考え込むアスラン。当然ながらラクスにも分かるはずがなかった。自分のことはマルキオ導師から聞いているだろうが、それが理由とも思えない。

 

(リョウガ氏は、ここ(地球)からならまた新たなものが見えるかも知れないとおっしゃいました。そこに答えがあるのかも知れませんね)

 

 リョウガの考えも、いや何もかも知らないことが多すぎる。まずは見て、知ることから始めていかなければ。

 僅かではあるが、少女は一歩目を踏み出しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※再びリョウガ視点

 

 

「……え~、悪い。もう一回言ってくれるか?」

 

 スカンジナビア王国に滞在しているユウナからの連絡。その中で出た話題に関して、俺は思わず問い直していた。

 

「だよねえ耳を疑うよねえ。僕だって聞き直したさ」

 

 ものすごく疲れた声のユウナ。交渉が芳しくないときとかこんな感じになるが、今回はいつにも増して脱力している感じだ。

 受話器の向こうでため息を吐いて、ユウナは言葉を発する。

 

「信じたくもないだろうけどもう一回言うよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しばしの沈黙。そして俺は口を開く。

 

「誰が」

(リョウガ)が」

「誰と」

「スカンジナビア王族の姫君と」

 

 しばしの沈黙。そして。

 

「はあああああああ!!??」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 水星の魔女、どんな話になるのかな?
 大体格好いいMSが出てきたら許すが鉄血の二の舞はかんべんな。捻れ骨子です。

 はいアークエンジェル周りとラクスその後の話~。……と思わせておいて最後に爆弾投下ァ! うん、原作であんまり絡んでこなかったスカンジナビア王国を巻き込みたかったからこのようなことに。まさかこう来るとは思うまい。俺もこの間まで考えてなかったわ。(無責任)
 もちろんスカンジナビア王国は独自設定という名の魔改造が施されます。中立で王制というだけでどんな国かよく分かりませんでしたからねえ。つまり好き勝手やって良いと言うことだな。(待て)
 最低ででもオリキャラは出るはずです。さあどこから引っ張ってくるのかこうご期待。……って、ホントにガンダムの話なのか、これ?

 ともかく今回はこの辺で。またの機会をごひいきに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・女たちの事情

 

 

 

 

 オーブ某所。繁華街の一角にあるしゃれたバーに、2人の女性が訪れた。

 

「マティーニを」

「シャンディガフをお願いします」

 

 早速カクテルを注文し、一息つく。運ばれてきたグラスを双方手に取る。

 

「では、お互い今日も一日ご苦労様と言うことで」

「英気を養うとしますか」

 

 リシッツァとチヒロ。2人の女はかちんとグラスをならした。

 この2人、時折こうやって連み、飲みに行ったりしている。仲がいいというか、同病相憐れむ的な仲間意識のようなものがあった。

 もちろん原因は無茶も無茶振りも行う上司である。そして今日の話題も上司に関することであった。

 

「あの方がお見合いとは。……まあむしろ遅すぎた感がありますね」

 

 ふう、と息を吐きながら言うチヒロに、リシッツァが問うた。

 

「そういえば何で今まで浮いた話の一つも無かったのかしら? 引く手数多でしょうに」

「あの方の場合、色々と面倒なんですよ」

 

 他に人がいないせいで多少砕けた物言いになっているリシッツァ。その言葉に眉を顰めるチヒロ。カクテルを一口喉に流し込んでから、彼女は続ける。

 

「国内の場合だと、簡単に言えばパワーバランスの関係ですね。下手なところから嫁貰うと勢力関係がえらいことになります」

「……ああ、なるほど」

 

 僅かに考えてからリシッツァは納得した。五大氏族を中核とした合議制を執っているオーブ。氏族はほぼ王族や貴族の扱いだが、その中には当然のように力関係が存在する。氏族同士の婚姻はそれらを考慮したものになるのが慣例だったのだが。

 カガリとユウナの婚約が分かり易い。この婚約は五大氏族に準ずるセイラン家を()()()()()為の物だ。経済に強いウナト率いるセイラン家を政治中枢に置くために、氏族の頂点たるアスハ家と婚姻関係を結んで後ろ盾とし、立場を向上させる。目に見えた政略であった。

 しかし、これがリョウガだとそう簡単にはいかない。家のこともあるが本人の突出した能力のおかげで、五大氏族はおろかそこそこの氏族と縁を結んでも政治的バランスが崩れる恐れがある。ミナを筆頭として有力氏族には年齢の釣り合う女性はそれなりにいるのだが、誰とくっつけても天秤は大きく傾くのは目に見えている。

 それにリョウガは縁を結んだ家を徹底的に使い回すだろうと誰もが思っていた。ただでさえ目が回るような忙しさだというのにこれ以上面倒を抱えてたまるか、というのが多くの有力者の本心であろう。ゆえに国内で身内をリョウガと婚姻を結ばせようと考える者は、皆無と言って良い。

 

「そして海外の場合ですけれど、これは戦争のおかげで先行きが見通せず、二の足を踏んでいるところが多かったからでしょうね」

 

 リョウガが頭角を現し適齢期に入る頃には、すでに世界情勢が不安定であった。誰が敵となるか味方となるか、各国は探り見極めるのに必死であっただろう。現在戦況は膠着状態となっているが、未だ予断を許さない。他国との関係(特に中立国相手)を深めるには時期尚早とみているところも多い。

 しかしスカンジナビア王国はこのタイミングで動いた。何らかの思惑はあるはずなのだが。

 

「あの方曰く、『スカンジナビア王国がそう出るとは思わなかった』だそうですよ」

「? タイミングはともかく、スカンジナビアが機を見たから動いたのでしょう? 話自体はおかしくないと思うのだけれど」

「あの国はあの国で色々面倒なんですよ。()()()()()()からしてね」

 

スカンジナビア王国。その名の通りスカンジナビア半島のノルウェー、スウェーデン、フィンランドが統一された国家だ。ブロック化した国家群の中で、唯一王制を執っている国だが、それだけではない。

 建国の折、つまり再構築戦争の終盤で、多くの人間がスカンジナビア王国に移住、あるいは亡命した。その何割かは、ヨーロッパ各国の貴族、王族、その血縁者であった。

 多額の資産と共に訪れた彼らを、王国は受け入れた。()()()()()()()()()()()()である。戦争の混乱で、ほとんどの国が政治、経済にダメージを受けた。貴族や王族であってもその地位を維持できるか分からないと考えた彼らは、血族を王政の国へと預け、延命を図ったのである。スカンジナビア王国を『貴族、王族の血統を残す器』としたのだ。

 スカンジナビア王国としてもメリットはあった。彼らを保護しその血脈を保つことで、ヨーロッパ各国に影響を持つ事が出来ると。実際ユーラシア連邦として国は変わったが、貴族や王族は資産家などとして形を変え生き延びる者も多かった。そういったコネクションは王国の力となっている。

 ゆえにスカンジナビア王国の中枢は、血脈という物を重視していた。これは能力重視で、有能な者であれば養子にして後継者にすることも多々あるというオーブ氏族の在り方とは相反する。だから政治的、経済的な繋がりは持っても、婚姻という形で縁を結ぼうなどとは考えないと、リョウガは見ていたのだ。

 

「ユーラシアがスカンジナビアに強く出ようとしないのは、そういった事情があったのね」

 

 何とも言えない表情で呟くリシッツァ。彼女は元ユーラシアの工作員だが、スカンジナビアについては詳しい情報を与えられていなかった。主にオーブや東アジアを中心に活動していたと言う理由もあるだろうが、それにしても情報が制限されているのは妙だと感じてはいた。

 

「にしても、なぜ急に方針を変えたのかしら? 連合に加入するよう迫られているとは聞いてますけど、その関係?」

「……『コーディネーター難民』、じゃないですかね」

 

 チヒロはため息を吐く。連合各国、主に大西洋連邦から中立国に脱しようとするコーディネーターも多い。当然ながら、受け入れ体勢が整っているオーブより地理的に近いスカンジナビアの方が入り込みやすいという事情があった。スカンジナビアの方も一時的にと言う制限はあれど、ある程度の滞在は認めていたはずだ。しかし。

 

「かの国の許容範囲を超えつつある、と?」

「連合内にとどまっているコーディネーターは、むしろ積極的にザフトとの戦争に協力しているようですけれど、()()()()()()にとっては居心地の悪いどころじゃない。迫害対象にすらなっていますからね。そりゃどんどん逃げ出しますとも。で、とりあえずは近場のスカンジナビアに逃げ込んでみたものの……」

「各種手続きやら何やらで足止めを喰らっている、と。スカンジナビアとしては、そういった人間を一気に受け入れて貰いたいから、王族との婚姻による関係強化を図った。考えられる話ではあるわね」

 

 難民の管理には色々と手間がかかる。その上でコーディネーターなんかだと色々面倒が多い。オーブと関係を深め、そういった難民を押しつけてしまおうという腹なのかも知れないと、彼女らは推測した。

 

「まあ最大の問題は……あの方が()()()()()()()()ってことなんですよねえ」

「それが単なる我が儘なら、周りももっとうるさかったでしょうけど」

 

 揃ってため息を吐く。リョウガが結婚したがらないのは、本人曰く「家庭ができると身動きが取りにくくなる」からだそうだ。確かにただでさえ代表首長であるウズミよりも多忙な身だ。所帯なんぞ持ってもそれを顧みる余裕などあるかどうか。利権がらみの政略結婚であれば、なおさらそういったことには気を遣わねばなるまい。とてもじゃないが結婚前と同じように行動はできないだろう。

 それに後継者なら結婚しなくても養子取れば良いじゃない、という気風がオーブにはあった。だから無理に結婚させなくても良いんじゃね? というそこはかとない空気が確かにある。ゆえに周りもそれほど結婚を勧めない。

 

「完全に人任せにすれば、結婚して家庭を持つ余裕もできるでしょうけれど、あの方基本自分の目で現場を確かめたがる人ですから」

「そう言ったところ、(カガリ)様とそっくりね。流石兄妹と言ったところかしら」

 

 むしろカガリがリョウガの影響を受けてああなったのかも知れないと、リシッツァは思う。本人が聞いたら心外だと言いそうであるが。

 

「それ以前にあの方、女性に興味あるのかしら? 結構アプローチしているつもりなんだけど、全く反応されないのはちょっとむかつくのよね」

「本気になったらこっぴどく振るつもりという目論見が見抜かれているからでは」

 

 ちょっと不機嫌そうに言うリシッツァを、ジト目で見ながら言うチヒロ。以前からリシッツァはリョウガにちょっかいをかけているが、まともに恋愛をする気も擦り寄って利を得ようとする気もない。

 意地になっているのでしょうねと、チヒロは判断する。そも出会いからしてリシッツァは振り回されっぱなしだ。ユーラシア連邦のタカ派に命ぜられ、リョウガの暗殺を目論見接近した彼女。当時二十歳そこそこであったリョウガと最初に遭遇したのは、とあるパーティ会場だった。

 富豪の貴婦人を装い、もうこれでもかってくらい色気を前面に押し出した彼女は、会場内で注目の的だった。多くの男性が鼻の下を伸ばしている中、リョウガは平然とした物。まずそこがむかついた。折を見て話しかけてみても当たり障りのない反応で全く手応えがない。ハニトラには自信のあったリシッツァは、内心イラッとしつつも根気よく愛想を振りまくが、のらりくらりと躱される。

 結局そのパーティーではなんの成果も得られず、いたくプライドを傷つけられた彼女は、その後幾度か同じような状況で接触を試みるが全て惨敗。その事実に、本人より先にタカ派の方がしびれを切らして命令を下す。

 工作員による直接的な暗殺。その中の1人として、リシッツァはリョウガが宿泊している施設へと潜入し、襲撃をかけた。

 任務を遂行するのは容易いはずだった。経験を積んだ工作員がフル装備で10人。通常警備の中、1人を暗殺するには十二分。事実何の障害もなく、彼女らはリョウガの寝室周辺にまで到達した……のだが。

 そこで繰り広げられたのは、冗談のような悪夢。たった一人、護衛の者も付けないで歩み出てきたリョウガに、10人は蹂躙された。

 彼の得物は小型のマシンピストル。それをふるって舞うように回避し、的確に当ててくる。彼の銃に装弾されていたのはペイント弾であったが、それは何の救いにもならなかった。襲撃した10人はフル装備。暗視ゴーグルにガスマスクも着用していた。ペイント弾はその視界を一瞬で奪い、ゴーグルは役立たずどころかむしろ目隠し以下の邪魔者に成り下がる。視界を失ったところで間合いを詰められ、何をされたか分からないうちに昏倒させられていく。出来の悪いB級アクション映画のようであった。

 視界を失った途端にゴーグルをむしり取り、反撃を試みたリシッツァはやはり頭一つ飛び抜けた優秀さである。咄嗟に物陰へと転がり込み、持っていた手榴弾を放り投げ……たまではよかった。それが銃撃ではじき返されるなど誰が思うか。

 気を失うだけですんだのは、()()()()()()。気がつけば拘束され、リョウガから直々に……スカウトされる事となる。

 何言ってんだこいつと最初は思ったが、語られる待遇の良さ(主に給与面)に思わず聞き入ってしまう。まあとどめを刺したのは。

 

「断っても良いけど、その場合君らの額に油性マジックで『負け犬』って書いて、首謀者んとこに宅急便で送る」

 

 という本気な目で宣った台詞だった。実際にやるとも思えなかった(今ではマジでやりかねないと思っている)が、任務に失敗した上でおめおめと生きのびた自分たちが無事で済まされるとは考えられない。多分命はないだろう。

 結局のところ、仲間と共にリョウガの申し出を受けるしか、生き延びる道はなかった。新たな戸籍を得て、リシッツァと名乗りだしたのはこの時からだ。男性名にしたのは情報の攪乱が第一の目的。もう一つはリョウガに対するちょっとした嫌がらせだ。まあ後になって実はオネエではないかと思われるデメリットに気づいたが、余計なちょっかいを出してくる人間が減ったと半ば開き直っている。

 リョウガに忠誠など誓っていないが、工作員よりはマシな環境と生活を与えてくれたことには、それなりの感謝を抱いている。それはそれとして、すげなく扱われたことは結構根に持っていた。最初からハニトラだと疑われていたにしても、やにさがる振りぐらいはしても罰は当たるまい。おかげさまでリシッツァのプライドは結構傷ついた。裏切るつもりは今のところないが、落とし前くらいはつけさせて貰う。

 ということでリョウガを堕とし、その上で振る。などと言うことを目論んでいたりするのだが、当然のように上手くいってない。上手くいかないだろう事は本人にも薄々理解できているのだろうが、もうこれは女としての意地。ゆえに彼女は挑み続けている。

 

(今更素直に好意を抱け、と言っても無理っぽいですけどね)

 

 チヒロの見立てでは、リョウガには意外と素直に好意を示した方が効くのではないかと思われる。実際邪気のない子供たちに対しては、人格変わってんじゃねーのってくらい愛想が良い。ロリとかショタとかの疑いもあるが、それだったらもっと積極的に子供と関わろうとするだろう。その線はまずない。

 まあリョウガが周りの女性に対し雑というか男性と同様の扱いをしているのは、ある種の問題児ばかりだからだろう。()()()()()()。あまり女性として意識していないとみた。

 そんなことを考えていたら、リシッツァがこう問うてくる。

 

「私のことはともかくチヒロはどうなの? 中身を考慮に入れなければ、あの方かなり優良物件だと思うのだけれど」

 

 その問いに対する返答は即答で。

 

「ないです。ないって言うか、無理」

 

 恩義は感じているしそれなりの敬意も持っているが、男性として見られるかどうかは別問題だ。むしろあのぶっ飛んだ性格はどん引く要素しかない。

 どん引く要素しかないし、無理ではある。しかし。

 

「……でもあの方に比肩するような男がいないのも、事実なんですよねえ」

 

 へなへなとカウンターに突っ伏すチヒロ。たしかにどん引くような問題児ではあるが、強い意志と行動力、そして結果をたたき出す手腕は目を見張る物がある。甲斐性(金持ってる)という意味では右に出る者などいないだろう。中身知らない人間から見れば歴史に名が残りそうな人物であるし、黙っていれば見栄えも良い。状況が違えば引く手数多であったことは間違いないし、諸々問題が片付けば優良物件ではある。そんな男の側に居続ければ、見る目が肥えてくるのも致し方なかった。

 つまりまあ、そこいらの男など歯牙にもかけられなくなってしまったわけで。チヒロはリシッツァとは別の意味で、リョウガ以外の男性とほぼ縁がなくなっていたりする。

 

「私のような人間を引き上げてくれたことには感謝していますよ? ですがおかげさまで独身まっしぐら見込み全くなしです。ちょっとだけ恨みがましく思っちゃいますよ。ええ」

 

 サハク家の郎党、そこに属する家の出であるチヒロは、サハク一派の裏の資金を管理する仕事に従事していた。それに対して不満があったわけではない。ただ外部に露見してはいけないという緊張感は常にあったし、息が詰まるような閉塞感もあった。それが崩れたのは、リョウガがサハク家に介入し、自分に目を付け抜擢した時からだ。

 「なんか商売が得意そうな顔をしている」などと言う適当な理由で自分を引き抜き、クーロン商会という組織を作り上げるのに協力させたリョウガ。彼の元でも後ろ暗い仕事であることに変わりはなかったが、ただ数字を誤魔化すだけでなく自らも采配を振るい、商会を成長させていく事は実にやりがいがあり、また才覚があったのかめきめきと頭角を現していった。気がつけば商会の幹部となり、リョウガの片腕として広く認知される立場に上り詰めてしまっている。ここまで自分を重用し才能を引き出してくれたことには感謝しているし恩義を感じてもいるのだ。

 いるのだが。

 

「周りからはあの方の近似種と思われているようですし、下手したらお手つき扱いですよ。男なんかだーれも寄りつきゃしないんですよこんちくしょう」

(それ以前に銭ゲバ部分が目立って殿方から引かれているのでは)

 

 思っても口に出さないだけの情けが、リシッツァにはあった。

 ともかくこの二人、見目は極上のくせにリョウガ以外の男っ気が全くない。リョウガに目を付けられたのが運の尽きというか何というか、春はとことん遠いようだ。

 類友と言ってはいけない。いいね?

 

「ともかく今日は飲みましょう。ええ。今日くらいは良いでしょう」

「はいはい、付き合いますとも」

 

【挿絵表示】

 

 

 こうして女たちは杯を呷る。今日も戦い、そして明日も戦い抜かねばならいビジネスウーマン。タフでなければやっていられない彼女たちは、一時の休息を飲み明かすようだ。

 せめて酒飲んでる間くらいは気を休めて欲しい。ホントに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって。

 

「ふふ、どんな反応をしてくれるかしらね」

 

 派手ではないが品の良い家具が揃えられた部屋。キングサイズのベッドに寝転んだ人物が、楽しそうに呟く。

 蜂蜜色の長い髪を持つ、二十歳足らずと見える女性だ。彼女はシーツに身を沈めながら、手にしたタブレットを見ている。

 

「一目惚れ、なんて言っても信じないんだろうな~。いや実際一目惚れじゃないんだけどさ。知れば知るほど惚れ込んじゃうでしょこれ」

 

 画面に映っているのは、リョウガ・クラ・アスハその人。なぜか遠距離からの盗撮っぽい画像だが、目線はしっかりとカメラの方を向いていた。

 

「できれば今回の話、乗り気になってくれると嬉しいんだけど。あなたの好みになれるかな?」

 

 ぴん、と指で画面を弾く女性。どうやらまともな感性ではなさそうだ。

 混乱の中立ち上がったお見合い騒動。一筋縄ではいかないようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 再構築戦争前夜感。
 戦争はフィクションだけで十分なんですけど!? やめてよねホントやめてよね捻れ骨子です。

 はいそんなわけでで更新です。スカンジナビア魔改造&女性幹部2人の事情話でした。うんガバガバでふわっふわな設定なのは分かってる。が、あんな立地で何で中立保ててたのかとか考えたらこんなことに。多分旧EU域に対する影響力が大きいんじゃないかということで。
 そして女性幹部2人。今のところは双方リョウガさんに恋愛感情はないようです。今のところは。お見合い話が何らかの影響を及ぼすのか? そしてお見合い相手もどうやら一癖ありそうですよ。女心なんか欠片も分からない筆者が書いているからどうなるか不明ですが。

 ……この話、女性の読者ってどれくらいおるんやろかとか考えつつ、今回はこの辺で。


2023/07/02
阿井 上夫様からいただいたイラストを挿絵として追加しました。
遅れて申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19・やっぱり一筋縄ではいきそうにない

 

 

 

 

 

 オーブにもたらされた俺の見合い話は、上層部に混乱をもたらした。

 緊急で開かれた首長の会合では、皆が喧々囂々と意見を交わしている。

 

「正気かスカンジナビアは」

「いやリョウガ殿の外面に騙されてるんだろう」

「顔は良いからな顔は」

「だが中身知ったら拒絶じゃすまんぞ。賭けてもいい」

「詐欺罪で訴えられるかもな」

「だがユーラシアにおけるスカンジナビアのコネクションは美味しい」

「……どこまで騙す?」

「最低でも婚礼の時まで保たせられれば、なんとか」

「身内にさえしてしまえば、後はリョウガ殿の手腕か」

「……あれ? スカンジナビア手中にできるんじゃね?」

「最低でも見合い相手の家は取り込むことができよう」

「「「「「よしリョウガ殿、見合い相手コマしてこい」」」」」

「あんたらな」

 

 頭が煮えているのかとんでもない方向に話が突っ走ろうとしていた。俺は額に青筋が浮かんでいるのを自覚しつつ言う。

 

「現実逃避したいんだろうが、そう簡単にいく話じゃなかろう。向こうだってあの立地の中、中立を保ってきた狸だ。十中八九俺がどんな人間か知ってて話を持ち込んできたんだろうさ」

 

 俺もスカンジナビアの正気をちょっと疑ったが、冷静さを取り戻せば、向こうもそれなりの考えがあってのことだと推測できる。

 俺の人格はともかく功績と能力は買っているようだ。その上で『鈴を付けたい』と見える。見合いが上手くいくかどうか以前に、それを口実として俺と親しい間柄を作り、ついでに動向を監視できればと思っているのではないだろうか。あるいは上手くいけば儲けものと考えているかも知れないが。

 

「うちも王制に近いと言えば近い。色々と思うところはあるが妥協してもいい、くらいには危機感を覚えているんだろうさ」

 

 国家の体制よりも現在の危機を乗り切ることを優先とした、そう言う考えかと思える。まあ見合いの相手は王族の『本家』ではなく末端の『分家』に近い血族のようだ。流石に本格的な血縁の繋がりは躊躇したらしい。

 

「俺個人としてはあまり受けたくない話ではあるんだが、さっきも誰かが言ったとおりユーラシアのコネクションに食い込むことができれば旨い話だとも思える。……()()()()()()()()()()()だがな」

 

 俺の言葉に首長連中は眉を顰めた。スカンジナビアが現在向かい合っている危機。そのことを思い出したようだ。

 原作でもスカンジナビアは連合の圧力に屈した。裏ではオーブ……というかラクス一行に協力していたようだが、その動きが大幅に制限されたことには違いない。現状でも彼らが連合に屈すれば、オーブにとって戦力の低下にも等しい。

 だからと言って下手な介入をすれば、連合はそれを口実にオーブへとちょっかいをかけてくる事は目に見えている。今回の見合い話を彼らがどう見るか。そういったことも考慮に入れねばならなかった。

 話を聞いていた親父殿が、ふむと鼻を鳴らす。

 

「簡単に乗っていい話でもないが、突っぱねるというのも上手くはない、か。……して、お相手の姫君はどのような人物なのだ? ユウナ特使」

 

 親父殿に促され、一時帰国しているユウナが応える。

 

「見た目は見目麗しいお嬢様ですよ。内面はその、まあ……大変乗り気だったというところから察して欲しいですね」

 

 困ったような表情で言葉を濁す。ユウナをしてそう言わせると言うことは。

 

「つまり、リョウガと同じような毒劇物か」

「僕の口からはよく言えませんが」

「あんたらな」

 

 自覚はあるが人から指摘されるとむかつくな。それはともかく、どうやらお相手も一筋縄ではいかないようだ。まあ俺との見合いに乗り気という相手だ。まともじゃないとは思うが。

 

「最低でもリョウガの見てくれに騙されるような人間じゃないし……口車も通用するようなタマじゃなさそうですよ。逆に考えれば……というか正直パートナーとして考えたらうってつけかも知れません」

「……それ、リョウガが2人になる、と同義ではないのか?」

 

 親父殿の言葉に、首長連中がびき、と固まる。そしてぎぎぎと軋むような動きで視線をこっちに向けた。

 

「「「「「やめて」」」」」

「あんたらな。ホントにな」

 

 そんなに俺みたいな人間が増殖するのは嫌か。自分で考えても嫌かもしれんとは思うがもう少し取り繕えよ。

 と、そこでため息が一つ。発したのはコトー(師匠)だった。

 

「問題は、あるかも知れん。だがユウナ特使の見立てが確かであれば、使い方を間違えなければ有益な人間だと言うことだ。この話、ある程度は進めておくべきと愚考するが、いかに?」

 

 次いでウナトが口を開く。

 

「こちらとしても有能な人物であれば、欲しい。リョウガ殿を押しつけ……げふんげふん、サポートできるような人材が増えれば、負担も軽くできるだろう」

 

 おいちょっと本音が漏れそうになってたな? とは指摘しない。実際俺も使える人材は欲しい。チヒロやリシッツァ、その他の連中も頑張っているが、やはり負担は大きいのだ。幾ばくかの仕事を押しつけられるのであればと思わなくもない。

 ユウナを困らせるほどの者が無能とも思えんしな。引き入れることができればオーブの力になる。が、俺と比肩するかも知れないほどの毒劇物だ。使いこなせなければ、逆にオーブの害となろう。

 2人の言葉に、一同はむう、と唸って考え込む。

 リスクとメリットを天秤にかけているのだろう。蓋を開けてみなければ分からない部分も多いが……静観だけはできない。仕掛けたヤツ、かなり分かっているな。さすがは生き馬の目を抜く環境の中で生き抜いてきただけはあるか。

 

「……やはり気は進まないが、受けてみるしかないだろうな」

 

 俺の言葉に、一同が再びざわめく。ユウナが肩をすくめながら問うてきた。

 

「腹を決めた?」

 

 それに対して俺はにやりと笑ってみせる。

 

「食うか食われるか、ってところだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やると決まったら、次は情報収集だ。俺は自分の執務室にユウナとカガリを呼び出し話を聞くことにした。

 

「【クリス】のことか? ……う~ん、良い奴だとは思うんだが」

 

 問われて困ったような表情を浮かべるカガリ。クリス――【クリスティーヌ・ティアナ・アストリア】。スカンジナビア王家の末席に属する一族、アストリア家の姫君で、御年18才。俺のお見合い相手(予定)は、どうやらカガリにかなり接近していた様子だ。

 

「随分と親しくなったみたいだな」

「なんかぐいぐい来るタイプで、気がついたら名前呼びする仲になってた。私とは別な意味でお嬢様らしくないというか。……お忍びで買い食いとかにも連れ出されたし」

 

 ふむ、カガリのキャラに引くどころか距離を詰めるか。将を射んとすればと考えたのか、それとも単純に波長が合ったのか。

 ……割と後半もあり得るからこえーわ。知識や技能と人格は一致しないもんだからな。ましてや俺と見合いしようって話に前向きな人間だ。素でカガリと仲良くなってもおかしくはない。しかし。

 

「何か気になることがあると?」

「気になるというか、あいつの周囲がどうにもよそよそしいというか、腫れ物を扱っているような感じを受けた。なんとなく雰囲気的な物なんだけど」

 

 カガリの勘はたまに鋭い。そういえばこいつSEED持ちだったな。となると件の姫君、国元でも持て余されているということか? 益々ただ者じゃない疑惑が膨れ上がってくるんだが。

 

「ユウナ、お前さんから見てどう思った。さっきみたいな誤魔化しはなしだ」

 

 ユウナに話を振って見せたら、彼は小さくため息をついた。

 

「表向きはテンション高くて疲れる。裏はどうにも事情が面倒くさそうで疲れる」

 

 そう言って、懐からメモリーカードを取り出した。

 

「彼女の経歴と、家の周りの事情をこっちで調べさせた。参考にしてよ」

「おう、助かる。……その様子だと、振り回されたか?」

「カガリを出汁に近づいてきて、根掘り葉掘り質問攻めだよ。おまけに買い食いに連れ出されて財布のお役目さ。物怖じしないにもほどがある」

 

 結構辟易したらしい。お忍びとはいえ他国の特使をいいように扱う。図太い神経のようだな。

 と、ユウナが何かを思い出したように口を開く。

 

「そうそう、胸はリョウガ好みで大きめ」

「待てやコラ」

 

 確かに嫌いじゃないが堂々と宣ってないぞ俺は。まずそこで人は見ねえよ。

 

「え? だってチヒロ嬢とリシッツァ嬢侍らしてるじゃん。二人ともご立派じゃん」

 

 心底不思議そうに言うユウナ。こいつ嫌がらせとかじゃなくてマジか。

 

「別に胸の大きさであいつら採用してねえよ。有能なの引っこ抜いたら大盛りだっただけだっつーの。お前ら俺らをどう見てんだ」

「そろそろ爛れた関係に移行するんじゃないかってもっぱらの噂だよ?」

「本人たちの知らない間に外堀埋めようとすんなや」 

 

 締まらねえなおい。最後の最後で抜けた会話を交わす俺らを、カガリが「不潔だ……」とか呟きながらジト目で見てる。まだあいつらと不潔なことしてないし今のところするつもりもないわ畜生。

 ……まあしかし、そういった雰囲気は使()()()か? 俺はお姫様対策として思案を巡らせ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。オーブの某所にて、俺の見合いは密かに執り行われることとなった。

 

「展開早くありません!?」

「かなり無茶言ったら、向こうが全部飲みやがった。件の姫様をガチで押しつけようと考えてるんじゃなかろうな」

 

 うん、時間がないから1週間以内、警備の関係でうち(オーブ)で行いたいとか色々無理難題ふっかけたら、全部了承されたのはどういうことだよ。よほど件の姫様を俺に会わせたいらしい。ホントに持て余し気味なのか、それとも。

 まあいい、時間はなかったがそれなりに用意もした。流石に命の取り合いにはならんだろうが警備にも念を入れさせて貰ったし、大概のことには対処できる。人事は尽くした。さて天命がどう向くやら。

 

「ですが本当によろしいんですの? 我々が同席して」

 

 俺の左隣を歩くリシッツァがそう問うてくる。右側を歩くチヒロも似たような表情だ。そう、俺は相手の出方を見るために、彼女らを見合いに同席させることにした。

 

「構わんさ。俺のことを正しく理解しているのであれば、何らかの思惑があると勘ぐってくれるだろう。色ボケとみるんなら、それまでのことだ」

 

 まあ侮ってくれるようなことはないだろうがな。事前に側近を同席させると通達しているが、俺のこと知っているならこの2人連れてくると予想できるはず。分かった上でどう出るか、だ。

 

「さて鬼が出るか蛇が出るか、ご対面といこうじゃないか」

 

 警備を兼ねた控えの者が恭しく部屋の扉を開け、俺達は中に足を踏み入れた。

 待ち構えていたのは、控えめなドレス姿の女性。ボディーガードらしい黒服を左右に従え、その女性は優雅に一礼した。

 

「お初にお目にかかります。クリスティーヌ・ティアナ・アストリアにございます」

「これはご丁寧に。リョウガ・クラ・アスハと申します。まずはそちらにおかけください」

 

 俺の左右の2人を確認しているはずだが、特に何の反応もなく普通に挨拶を交わす。ここまでは予想の範疇である。

 お気遣いありがたくと返して席に着く女性――クリスティーヌ。確かに見た目は極上だろう。左右の2人と比べ少し幼げに見える容姿は可憐であり、立ち振る舞いに上品さが見て取れる。その見てくれの中に何を秘めているのか、はてさて。

 

「このたびは無理を言って都合を付けていただき、感謝しております」

「こちらこそ無理難題を言って申し訳ない」

 

 互いに頭を下げるところから始まった。そこから当たり障りのない会話。まだジャブの打ち合いですらない。

 ややあって、仕掛けてきたのはクリスティーヌ。

 

「……そちらのお二方のこともよく存じております。リョウガ様の懐刀二人。噂は耳に届いています」

 

 ふむ、そう踏み込んでくるか。俺に答えを返す間を与えずに、クリスティーヌは続けた。

 

「まるで東洋に伝わる将棋という盤上競技の……え~っと確か、金角銀角? でしたか?」

 

 クリスティーヌの言葉に、チヒロとリシッツァが僅かに身じろぐ。条件反射的にツッコミを入れそうになったのだろう。

 

「……ひょっとして金将銀将のことでしょうか」

「そうそう、それです。まるでそのようだと」

 

 素ボケか話のネタか判別つかんな。

 

「優秀な、自慢の両腕ですよ。彼女らがいなければ今の私は成り立っていない」

「まあ、素敵な。こちらは優秀な人材を中々引き抜くことは難しいので、羨ましくも思います」

 

 わざと誤解を生むような発言をしても動じる様子はない、か。かなり正確に俺達の関係性を理解しているようだ。

 ……と思っていたら。

 

「それで結婚後は愛人として収まる方向で? それとも養子縁組という形で家名を同じくする感じでしょうか」

 

 待てや。

 

「……いきなり何のお話でしょうか」

「ああ、申し訳ありません。事を急ぎすぎました」

 

 思わずツッコミ入れそうになるのを何とかこらえ、すっとぼけて見せたら、向こうさん申し訳ないように居住まいを正して言い直す。

 

「手を出していないのなら、今のうちに手を出しておいた方がよろしいかと」

「そうじゃないです」

 

 おい斜め上の方向にぶっ飛ばし始めたぞこの人。左右の二人はツッコミ以前に唖然とした顔をしている。俺だって意識飛ばしかけたわ。

 そんな俺らの様子など知った風ではなく、クリスティーヌは畳みかける。

 

「これは真面目な話です。そちらのお二人が優秀でありリョウガ様の腹心であることは百も承知。ですが人間何がきっかけで心が動かされるか分かりません。生き馬の目を抜く世の中、今の環境が良いからと言って油断はなりません。末永く手元に置いておきたいのであれば今までとは違う絆の形、具体的にはにくよ……こほん、情で縛り付ける、と言うのも有効な手段だと思うのですよ」

 

 肉欲って言いかけたか? 今肉欲って言おうとしたな!? 至極真面目な顔で何言っちゃってんのこの人!? もう俺の頭からはチヒロとリシッツァを出汁にして相手を揺さぶる、なんて策はすぽーんと抜けている。つーかそれどころじゃねえ。

 ああ分かった、なんでユウナが詳しいこと言わない……()()()()のかよ~く理解した。

 素ボケでもわざとやってるにしても、難敵じゃねえかこの女ァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか久しぶりにオリキャラ設定

 

 

 クリスティーヌ・ティアナ・アストリア

 

 スカンジナビア王国王家の末席に位置するアストリア家のお姫様。リョウガのお見合い相手。

 愛らしい容姿をしているが、その中身はご覧の通り。押しが強くぐいぐいと踏み込んでくるタイプで、リョウガをもドン引きさせる言動を取る。これから先どこまで行くか全く方向性が見えない人物。ある種リョウガの天敵。

 外観のモデルはゲーム【プリンセス・コネクト!Re:Dive】の【ペコリーヌ】。もちろん巨乳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最近仕事が増えててんてこ舞い。目も回るような忙しさです。
 しかし給料は増えない。超過勤務手当もらえるだけでありがたい……それは当たり前だよ!
 最近社畜の安寧に毒されつつあるような気がする捻れ骨子です。

 さてやっとの事で更新ですが……どうしてこうなった。いやペコさんモデルのキャラにするつもりではあったんですが、なんでリミッターないのこの人。おかしい筆が滑ったにしても走りすぎだよ。これもワクチンの副反応か。(風評被害)
 冗談はさておき、なんか筆者にもコントロールできなさそうなお姫様が爆誕してしまいました。この先どうなってしまうんでしょうか。オラもう知らね。

 とまあ、かなりの不安感が漂っていますが、今回はこの辺で。
 次回以降ホントどうなってしまうんやろか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20・どうしたもんだかと言わざるを得ない

 

 

 

「……落ち着かれましたか?」

「うう、良い考えだと思ってるんですけどぉ……」

 

 のしかからんばかりの勢いで俺に詰め寄ってきたクリスティーヌを、おつきの黒服と共に何とか宥めた。黒服のサングラスの奥、その瞳は酷く疲れたものだった。そっか~、大体日常茶飯事なんだ。俺は何かを一つ諦める。

 宥められてしょんぼりと肩を落とすクリスティーヌ。だが聞き逃してねえぞ、『思ってる』っつったな? 考え改めてねえな諦めてねえな!? ちっとも油断ならねえぞこの女。

 ……仕方がない、ペース掴むためにも『斬り込む』しかねえか。

 

「そう言う話はひとまずおいておきましょう。……いや、貴女にはもう少し『素』のほうがいいか」

 

 語り口を変える。手を組んだ姿勢で俺は問うた。

 

「単刀直入に聞かせて貰う。この話、()()()()()()()()()()だ?」

 

 睨むように視線を向ける。さすればクリスティーヌは――

 特に動じるでもなく、こてんと首を傾けて、ん~と僅かに考えてから口を開いた。

 

「半々、ってところでしょうか」

「国の思惑と貴女の思惑が合致した、と言ったところかな?」

「そんなところです。もう言うまでもないと思いますけれど、我が国の思惑は生存戦略。現状の血統を重視した国の継続という方針を多少なりとも転換しなければ、今後生き残るのは難しいと判断した派閥があります。その思惑に便乗させて貰った次第で」

 

 大体が俺達の予想したとおりだ。しかしこの子もぶっちゃけるなあ、今回の話を進めたのが『一部の派閥』だって事を隠しもしてない。その通りなのか国がそう思わせたいのか、いや十中八九スカンジナビアも一枚岩ではないと言うことだろう。それをさらりとさらけ出せる。並大抵の胆力じゃない。

 と、クリスティーヌがすぴしと人差し指を立てて、いたずらげな笑みを浮かべた。

 

「ちなみにアストリアという家自体が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったりするんですよね。それをオーブに置いて保険をかけたいと言ったことも考えてますよ」

「……国家機密だろうそれは」

 

 またぶっちゃけたなおい! 彼女が言ってることは、要するに他国の王族の血を取り入れて、万が一の場合その国の血統を主張し介入する用意があると言うことだ。旧EU域で混乱が起こり、主権がぐちゃぐちゃになったときとかな。そのために用意されたのがアストリアという一族と言うことだ。

 普通に言っちゃダメな領域である。スカンジナビア王国の切り札とも言える話なのだから。それをさらけ出したと言うことは、()()()()()()()()()()()()()()()ということだな!? 胆力すげえどころじゃねえぞ!? 

 内心戦慄を覚える俺。クリスティーヌは話を続ける。

 

「つまり国のもう一つの思惑は、『アストリアの人間をオーブに保護して貰う』というものです。一応アストリアもスカンジナビア王家の血統。国に何かあればそれを理由にオーブの助力を願うこともできるだろうと。……まあオーブ自体に影響力を持ちたいという考えもあるんですが」

 

 ……ここまで俺にぶっちゃけることも、スカンジナビアは計算に入れているようだな。単純に持て余しているわけではなく、俺に当てられるだけのアクの強い人間だから、か。

 俺は一息吐いて口を開いた。

 

「抜け目がないな。スカンジナビアという国も、貴女も」

「でなければ生き延びられませんから。……私の事情も、大体分かっているのでしょう?」

「ああ、調べさせて貰った。100年に一度の天才。陳腐だがそうとしか言いようのない経歴だな」

 

 うん、ユウナが調べ上げた彼女の経歴は、簡単に言えばびっくり人間大賞だ。学業、知性に関してはかなり優秀と言った程度だが、そのフィジカルが桁違いだった。数多のスポーツで上位の成績を収め、非公式だがレコードホルダーも一つや二つではない。軍事訓練すらも受け、そして相当な結果を出している。コーディネーターである疑いもあったが、彼女は紛れもないナチュラルだ。

 あるいは彼女に流れる各国の王侯貴族の血が、何らかの形で作用しているのかも知れない。俺のような反則技(転生)とは違う、紛れもない天賦の才。それが表に出ていなかったのは、アストリアという一族があまり表沙汰にしたくない存在だからだ。何らかの功績があっても、それは隠蔽されてしまう。

 そして成績では計れないこの強かさ。なるほど、この子の思惑もなんとなく読めてきた。

 

「貴女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということか」

「そんなところです」

 

 得たりとばかりににっこり笑う。

 

「アストリアはその特異性から、表に出てこられなかった一族です。基本王侯貴族の血筋を収集するために存在し、政にも関わることができなかった。そんな中で、私のような『異物』が出てきたらどうなると思います? 正直、窮屈でしかありませんでした」

 

 色々口を出されたり叩かれたりしたこともあっただろう。アストリアという家、そしてスカンジナビアという国は、クリスティーヌにとって狭すぎたのだ。

 

「飼い殺しのまま一生を終えるなど勘弁。私は常々そう思っていました。アストリアという一族の在り方に不満を覚えていた人たちと接触し、主流派ではない派閥の思惑に便乗したのは、国から解き放たれたかったという、ごく個人的な理由です。……貴方になら、理解してもらえるかと」

 

 俺と違う理由ではあるが、個人的な思惑を元に国を利用したという点では似たようなものだ。確かに理解は出来る。

 ふん、と俺は鼻を鳴らした。

 

 

「国の機密、そして貴女の事情。聞いたからには……と言うことでもないだろう。あくまで私にどうするか判断を委ねるつもりか」

「ええ。お見合いという話よりも、私という人間を受け入れてくれるかどうか。国としてはどういう形にしろ貴方と繋がりを持ち、なおかつ監視しておきたい。そして私は己の才を生かしたい。こちらの事情をお話ししたのは、誠意であり打算でもあるというわけです」

「婚約という形でなくても構わない、ということかね」

「あ、できれば婚約だと嬉しいですが。嫁に行きたいというくらいには好意を抱いてますよ?」

「私の実情をそれなりに知っていてそれが言えるとは、中々図太い」

「そちらの二人を愛人として認めて良いというのもガチです」

「それはいいから」

 

 隙あらばそういう話をねじ込んでこようとするのはやめなさいつーの。何がこの子をそこまでさせるんだ。俺は愛人あてがってなければならないほど股間が緩い男だと思われてんのか?

 しかし……とんちきな面を差し引けば、頭の回転も悪くないし度胸もある。同時に油断のならない人間と言うことでもあるが、スカンジナビアに情報を流す伝と考えれば側に置いておく価値もあるか。

 この子をどう扱うべきか思案し始めたところで、隣のリシッツァがぴくりと反応した。

 

「失礼いたします」

 

 席を離れ、部屋の入り口付近で呟くように襟元のインカムへと語りかける。それから部屋の扉を少し開け、外の護衛と何やら会話を交わした。

 そうしてから彼女は戻ってきて、俺の耳元でささやく。

 

「リョウガ様、()()()に引っかかった獲物がいるそうですわ」

「……ほう?」

 

 俺は僅かな驚きを覚えた。実はこの見合いを行うに当たって、俺は会場となったホテルの警備にわざと『穴』を作らせた。これは見る者が見ればあからさまな罠だと分かる程度のものだ。

 実際このホテルは従業員から何からCSSの者か本格的な訓練を受けた人間で構成されており、本当に罠として機能する。いかにも罠を張っているぞと見せることによって、逆に手出しを躊躇わせるようにしたわけだが……本気でそれに引っかかった馬鹿でも出てきたというのか?

 最低でもオーブ内部の者じゃないな。今のオーブでそう言う馬鹿は勢力を保てない。何か企みがあっても実力行使にでるような間抜けを曝せば早々に潰されると、皆骨身にしみて理解しているからだ。実際やったし。

 であれば外。大西洋辺りか? スカンジナビアとの関係強化に危機感を覚えた一部が動いた可能性はある。ここまであからさまな罠に食いつくような馬鹿をやらかす……かも知れんなあ。何しろこの世界だ。斜め上に最悪な行動を取る輩は枚挙に暇がない。

 そんなことを考えていたら、クリスティーヌが少し眉を寄せてこう尋ねてきた。

 

「もしかして、襲撃でもありました?」

「……なぜそうだと?」

 

 リシッツァの言葉は聞こえなかったはずだ。勘にしても鋭い。何か心当たりでもあるというのか。

 果たしてクリスティーヌは、困ったような表情で応える。

 

「実はですね、こちらに赴く前に、リョウガ様との見合いをやめろ、さもなくば殺す。ってな感じの脅迫電話を受けまして」

「おいちょっと待て」

 

 思わず本気の素でツッコミを入れてしまう俺。

 

「なんでそう言う大事なことを黙ってるかな貴女は」

「こういった脅迫は結構何回も受けてますので。今までは実力行使に及ばないブラフ(はったり)ばっかりでしたから、今回もてっきりその類いかと」

「どういう人生を送って……()()()()()()か」

 

 邪魔に思う人間も多くいた、ということだろう。それをはねのけ己を通してきた人間だから気にも留めなかったと言うことだ。今回はそれが裏目に出たか。

 つまり狙いは彼女と俺。あわよくば双方を一網打尽にできればと考えたらしい。ふん、嘗められたものだ。

 ……丁度良いかもしれんな。このクリスティーヌという女性の肝がどこまで据わっているか、見極めるのに好都合だ。

 

「……リシッツァ。丁重にお出迎えして差し上げるぞ。俺も出る」

「は? いくら何でもふざけてます? わざわざ罠に飛び込んでくるようなボーナスチャンスごほん、木っ端の相手を貴方がする必要もないでしょう」

 

 自分の手柄にしてボーナス狙ってたらしいリシッツァ。気持ちは分かるがな。

 

「たまには動かんと体が鈍る。それに良いストレス解消の相手だ。日頃の鬱憤を晴らさせて貰うさ」

 

 そう言って腕を振るう。さすればかしゃりと小気味良い音を立てて、袖口から小型のフルオートハンドガン(マシンピストル)が飛び出してくる。

 

「あー! 本気でそんな物仕込んでこの人は!」

「リシッツァリシッツァ」

 

 俺に小言を言おうとするリシッツァに、チヒロが声をかけた。

 

「言っても無駄だと思います。それに……我々のお給料、この人が握ってるんですよ?」

「フ●ック! なんて時代かしら!」

 

 何かを諦めたかのようなチヒロの言葉に、口汚く吐き捨てるリシッツァ。いいじゃんかロマンなんだから。

 と、クリスティーヌがくすりと笑う。

 

「いい空気の職場ですね」

「笑顔の絶えないアットホームな職場だよ」

 

 即座にそう返してやれば、チヒロとリシッツァは揃って青筋立てた笑顔になる。

 

「「ええまったく!」」

 

 同時にそう吐き捨てて、まずリシッツァがビジネスバッグからメカニカルな弁当箱のような物を取り出し、がしゃっと変形させる。FPG(フォールディングポケットガン)。折りたたみ式のサブマシンガンだ。なんだかんだ言ってロマン分かってんじゃねえか。

 チヒロの方は、タブレットを取り出しインカムを付けている。

 

「ホテルのメイン電源とダミーは落とされて、ジャミングが展開されています。秘匿回線と各所の隠しカメラ、センサー類は無事。当方の援軍は10分で到着する予定ですね。相手は分隊規模で散開し侵攻。先行している者たちがこちらに向かっています」

「先行の連中とは8階辺りで鉢合わせるか。残りを5階のパーティ会場に誘導するようオペレートを頼む」

 

 言いながら両手の銃のマガジンをイジェクト。普段ならマガジン一つ分は手加減し(ペイント弾使っ)てやるんだが、客人がいる以上サービスはなしだ。2つの銃を右手でひとまとめに持ち、懐から取り出した実弾入りのマガジンを装填。両手持ちに戻してそれぞれ親指をフロントサイト辺りに引っかける形で片手スライド。初弾をチャンバーに送り込む。

 

「クリスティーヌ姫。貴女がたはこちらで待機を――」

「いえ、私たちもお手伝いします」

 

 そう言ってクリスティーヌはばさりとスカートを翻し――

 一瞬の早業で、隠し持っていたらしい銃を引き抜いていた。

 ……ってでかっ! デザートイーグルくらいあるハンドキャノンじゃねえか! 女性が隠し持つようなもんじゃないぞ!?

 目を丸くする俺を見て、お付きの黒服の一人が懐から銃(普通)を取り出しつつ、疲れたような様子で言う。

 

「申し訳ありません。うちの姫は襲撃に対する反撃が過激でして」

「脅迫はブラフって言ってなかったか?」

 

 そう問うてみれば、クリスティーヌはふふんとドヤ顔で言ってのける。

 

「今まで本当に襲撃してきた人は、脅迫なんかしませんでしたから」

「貴女ね、ホントにね」

 

 いろんな意味でなんつータマだ。肝が据わってるどころかガンギマリじゃねーか。

 予定とか調子とか色々狂いまくるなまったく。こうなったらとことん付き合って貰おうか。

 

「ではクリスティーヌ姫。俺とツーマンセルで先行して貰おうか。リシッツァ、そちらの二人と援護を頼む。チヒロは護衛と共に後方からついてこい」

「承知しました。……ふふ、初めての共同作業というわけですね」

「そういうのいいから」

 

 ちょっと肩を落とす俺の後ろで、チヒロとリシッツァが何やらこそこそ話している。

 

「リョウガ様が振り回されるという大変珍しい光景を目にしているわけですが」

「やりますわね。今後の参考になるかしら」

「……あのキャラ、真似できます?」

「今更天真爛漫系のキャラ作りは、こう、きつい物があるかと」

 

 何を言ってんだ本当に。こいつらも調子狂わされてんな。

 ともかく俺達は準備を整え部屋を出る。俺とリシッツァ、護衛に選抜した連中だけでも十分な戦力だが、それにクリスティーヌを加えればどうなるか。未知数ではあるが……悪いことにはならないだろうという予感があった。

 と、隣を歩くクリスティーヌが、俺の顔をのぞき込むように見上げてくる。

 

「? 何か?」

 

 問うてみれば、彼女は意味ありげな笑顔でこう答えた。

 

「さっきまでの紳士的な様子も魅力的でしたけど……今の貴方もワイルドで格好良いですよ」

「……そりゃどうも」

 

 答えに窮して適当に返す俺。本当に、どうしたもんだかなあこの人。

 全く、調子が狂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ちょっと風邪気味になったら、自分の鼻の奥から卵の腐ったような臭いがし始めてダメージ。
 鼻うがい頑張ってます捻れ骨子です。

 はい更新です。さてこのお姫様どういう背景とキャラクターにしようと考えた末、天真爛漫ガンギマリ勢という謎の生き物が爆誕してしまいました。いや原作に沿う形にしようとしたらなぜかこうなったんですおれは悪くねぇ。ほんとこのキャラクター筆者の意思を無視して勝手に動いてる感があります。そりゃリョウガさんも振り回されるよ。
 そして次回はガンアクションになりそうな予感がひしひしと。サバゲの参考にとジョン・ウィックの動画とか見まくってたせいではありません決して。おれは悪くねぇ2。プロットを構築しないで書いているとこういうことになります。良い子も悪い子も真似すんなよ。話がどっちに向かっていくかわかんないから。

 いつになったら本筋の話が進むんだよと自問自答しつつ、今回はこの辺で。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21・とっととカタを付けるに越したことはない


今回推奨BGM、ブラックラグーンOP【MELL Red fraction】



 

 

 

 

 

 非常灯が灯る薄暗い廊下。威風堂々と歩く俺とクリスティーヌを先頭とした集団は、ホテルの8階へと到達した。

 歩きながら俺は、インカムを通じてチヒロに指示を下す。

 

「業務用エレベーターで、7階に()()()()()()()()を届けさせてくれ。『マスターキー』とPDWだ」

「7階? ここではなくて?」

「まずはお客人に前菜をいただいて貰う。そろそろだろ?」

「はい、このままなら前方のT字路で接敵。右側の通路から来ます」

「了解した。……クリスティーヌ姫」

「はい、お任せを。それと呼びやすい呼び方で良いですよ。おすすめはクリスちゃんです」

「……んじゃ姫さんと呼ばせてもらおう。先の通路で鉢合う。右からだ。仕掛けるぞ」

「それはそれで。……了解しました」

 

 クリスティーヌの目が鋭い物となる。俺達は同時に駆けだした。

 駆けながら俺は左の銃をポケットにねじ込み、廊下の途中にある小さな扉を開いた。

 そこから()()()()()()を見て俺が何をするつもりなのか察したのだろう。クリスティーヌが横目でにっと笑みを浮かべる。それだけで十分だった。

 駆ける。迫るT字路。勢いを殺さぬまま、俺は手にしていた()()()をT字路の右側に思いっきり投げ込んだ。

 そしてスライディングしながらT字路に滑り込み、両手の銃を通路の奥に向ける。

 宙を舞う消火器。そしてその先には、中途半端に銃を構えたフル装備の兵士が5人。投げ込まれた消火器と滑り込んだ俺、どちらに対処するべきか一瞬迷ったのだろう。そしてそれは十分な隙になる。

 通路から半身で姿を現したクリスティーヌが、()()()銃をぶっ放す。それは狙い違わず消火器をぶち抜き、猛烈な勢いで消火剤がまき散らかされる。敵兵の姿がかき消され視界が奪われる――寸前で、俺はトリガーを引いた。

 俺の銃に装弾されているのは4.6×30㎜弾。小口径だが貫通力とストッピングパワーに秀で、200メートルほどの距離があってもボディーアーマーを打ち抜く代物だ。それを30発ずつ、全弾叩き込んで、T字路の壁を蹴る。

 消火剤が充満する前に反動を利用し転がりつつ元の通路に戻る。そうしながらマガジンをイジェクトして両手の銃をズボンのベルトに差し込み、取り出したマガジンをグリップに叩き込んで引き抜きリロード。そしてインカムに向かって怒鳴った。

 

「チヒロ! B17の防火シャッターを下ろせ!」

 

 元の通路に戻った俺が体勢を立て直すと同時に目の前のシャッターが降りる。やや間を置いて、シャッターの向こうで、どん、と言う音が微かに響いた。

 

「やはり自爆したか」

 

 動けなくなって手動で行ったか、それとも心臓が止まると同時にペースメーカーか何かと連動したか、いずれにせよ不意打ちを食らった連中は、予想通り自爆という手段に出たらしい。

 銃を袖口に戻す俺に、クリスティーヌが問うてくる。

 

「なぜ敵兵が自爆という手段を取ると?」

「いくら罠に引っかかるアホでも、オーブ国内という敵地でこんなことをやらかせば、無事には帰れないという事くらいは分かってるだろう。彼らは『決死隊』だよ。俺達を始末するためだけの、な」

 

 つまり面倒くさい系のアホである。こういうのをやらかすのはブルコス系か……。

 

()()()()()()と同系列、ですのね?」

 

 リシッツァが言った。そう、以前クーロンズポートに襲撃をかけてきた奴らと同じ勢力。俺はそう睨んでいる。

 

「よほど俺が気に食わんと見える。余所からの客を出迎えてるときに限って現れるなんぞ嫌がらせにしか思えんわ」

「嫌がらせ程度にしか思わないとは、慣れって怖いですわね」

 

 リシッツァはため息を吐く。別に俺も慣れたくはなかったがな。文句は俺を狙うヤツに言って欲しい。

 ともかく俺達は踵を返し、再び非常階段へと向かう。階下に降りながら、俺はクリスティーヌに話しかける。

 

「少し気になったのだが……姫さん、貴女はもしかすると、『ミオスタチン関連筋肉肥大』の体質なのか?」

 

 筋肉の過剰な成長を抑えるミオスタチンというタンパク質、その影響を受けにくい筋細胞を持つか、ミオスタチンの生成量が極端に少ない体質。ものすごく低い確率で生まれる体質だが、筋肉が異常なスピードで成長し、常人よりも高い筋力、身体能力を得ることができる。

 片手でハンドキャノンを容易く扱った様子を見て、それを疑ったのだが……にしては姫さん()()()()。かの体質を持つ人間は筋骨隆々になるはずだが、少々骨太気味に思える程度で普通の範疇だ。むしろスタイル良い方である。

 俺の問いに、クリスティーヌは片目を瞑って応えた。

 

「そのものじゃないですけれど、近い体質ですね」

 

 彼女によると、筋密度と骨密度が常人よりもかなり高い体質らしい。そのおかげで普通の体型に見えながら、かなりの体力腕力を持つに至ったようだ。それこそハンドキャノンを片手で軽く扱えるほどに。

 もちろん欠点はあって。

 

「件の体質に近いだけあって、『燃費』も似たり寄ったりなんですよね。すぐおなかがすいちゃいます」

 

 恥ずかしさを誤魔化すかのように、てへりと笑うクリスティーヌ。なるほど、同じように一長一短と言うことか。

 おれは片眉を上げてこういう。

 

「これが終わったら、満漢全席でもごちそうするよ」

 

 そう言ってみたら、クリスティーヌはぱあ、っと顔を輝かせた。

 

「本当ですか!? わーいリョウガ様大好きー!」

 

 無邪気に喜ぶ姫さん。チョロいというか何というか。こうもなつかれると、やはりどうにも調子が狂うね。

 とか何とかやっているうちに、俺達は7階のスタッフルームにたどり着いた。

 電子ロックが解除されているのを確認し、警戒しながら中に入る。奥にある物資搬入用のエレベーターが丁度ついたようで、警備兵が警戒しつつそれを開ける。

 中に鎮座していたのは、いくつかの銃器と弾薬。警備兵に指示を出し、それを配布させる。

 俺が手にしたのはPDW(パーソナルディフェンスウェポン)――サブマシンガンに近い銃器と、ショートバレル(ソードオフ)ショットガン。PDWの方は俺の持つハンドガンと共通の弾丸を使用するもので、見た目は小さいが十分な威力を持つ。ショットガンは基本12番ゲージの弾丸を3+1発しか装填できないが、追加のマガジンを装着することで12発まで増加することが可能だった。しかもこれはセミオートの機能付き。つまり一々コッキングしなくとも連射することができる。火力も十分。マスターキー(扉壊し)の通称は伊達じゃない。

 コッキングしてチャンバーに弾丸を装填し、セーフティーをかけスリングで肩から下げる。PDWも同様にマガジンを喰わせ手に持った。

 予備マガジンの入ったベストを着け、再び廊下へと出る。リシッツァ以下同様に再武装した警備兵とクリスティーヌ一党を伴い、俺は階下へと向かう。

 

「敵はどうなっている」

「ホールへと追い込まれてます。しかし下手に追い詰めすぎると自爆の可能性もあるので、少々予定より遅れ気味ですが」

「それで良い。下手に被害が出るよりはマシさ」

 

 チヒロにはそう告げるが、早めにけりを付けるに越したことはない。自暴自棄になって自爆特攻なんぞされたらかなわんしな。やるなら一気に、だ。

 

「俺達がホールへとたどり着いたら一気に仕掛ける。追い込みきれなかった連中がいたら、それぞれ現場で対処。まかり間違っても自爆に巻き込まれるような下手をやらないでくれよ?」

 

 手早く済ませるよう指示を出す。ここに襲撃をかけた連中で全部とは限らない。全て終わってほっとしたところで狙撃、なんてことも考えられる。その辺りは増援に対処させることにして、俺達は決着を付けるべく5階のホール――パーティが予定されていた会場へと向かう。

 裏手の業務用通路。そこからアプローチ。微かに響く銃撃音が、交戦中であることを示している。ここからホールにつながる出入り口は、ホール内から確認しにくい上、電子ロックで施錠させている。物理的にぶち破る手間を考えればここは使わないと踏んでいたが、どうやら当たりのようだ。

 

「チヒロ、ホール内の様子は?」

「ほとんどの敵兵が、ホールに追い込まれています。バリケードを構築して時間稼ぎと、脱出経路を探っているようですね。リョウガ様たちがアプローチしようとしているドアには気づいていません」

「ホールの2階席には兵が展開しているな?」

「はい。2個小隊が」

 

 ホールの2階席に見える部分は一見ただの装飾に見えるが、整備用のキャットウォークも兼ねており、狭いながらも人が通ることが可能だ。そこに人員を配し、一気に制圧しようというのが俺の目論見だった。

 そしてそれを確実な物にするために、俺は――

 

「OK、ここから一気にホールの中央を抜ける。俺に注意を向けさせて、全員まとめてカタを付ける」

「また無茶を……止めても無駄でしょうね」

 

 インカムの向こうでチヒロがため息を吐くのが分かる。すまんがこれは性分でな。こんな時に配下だけを危険な目に遭わせるのは、どうにも尻の据わりが悪い。

 

「リシッツァ、ついてきてフォローを頼む。姫さんたちはここで待機……」

「いえ、お供しますよ」

 

 そう言うとは思ったけどさあ。

 

「流石に何の用意もなく中隊規模のど真ん中に突っ込むのはどうかと思うんだが」

 

 一応そう言ってみれば、クリスティーヌはドレスの端をつまんでこう言った。

 

「あ、これ防弾ですから」

「……貴女()か」

 

 もうこの会話で分かったと思うが、俺の着ている服も防弾防刃仕様だったりする。何も考えなしに敵のど真ん中を突っ切ろうとしてたわけじゃない。上からの制圧射撃とリシッツァの援護を合わせれば、ほぼ無事で済ませられるという目算があった。

 まあ姫さんの能力であれば俺についてこられるのは間違いなかろう。運が悪けりゃ国際問題になるわけだが……そんときゃ腹でも切るしかないか。俺は覚悟を決める。

 

「一気に反対側まで抜ける。ドジらないでくれよ?」

「お任せください。ご期待には応えますから」

 

 笑みを交わす。やることが決まれば、最早実行にためらいはない。

 

「カウント入れます。ゼロと同時に総員行動。各自討ち漏らしのないように。10秒前。8、7、6……」

 

 チヒロの声が淡々とカウントダウンを告げ、それがゼロになったとき、 扉のロックが解除された。

 蹴り開けると同時にホールへ飛び込む。中ではバリケードを構築していたり反撃していたりしていた敵兵が、一斉に俺達を認識し攻撃を加えようとするが、飾りのはずの2階席から一斉にこちらの兵が身を乗り出し、制圧射撃を開始した。

 ()()()()()()敵兵だが、反応の遅れた者が撃ち倒され我に返ったか、反撃を行おうとする。その前に俺達はホールの中央を駆け抜けた。

 ばらたたた、と音が響き、弾丸が飛び交う中、右手にPDW、左手にショットガンを持ち、両腕を交差させる形で構え走りながらぶっ放す。4.6㎜弾とショットシェルが吐き出され、応戦しようとした兵を撃ち抜く。俺の隣を駆けるクリスティーヌは大口径の弾丸を撃ち漏らされた兵にぶち込み、後ろをついてくるリシッツァが的確に援護を行う。

 次々と倒れる敵兵。俺達と2階席の連中、そして最初から交戦していた面子の3面から攻撃を受け、反撃もままならない。不意打ちが決まったと言う理由もあるが……。

 微かな違和感が頭の隅をよぎる中、クリスティーヌの銃が弾切れ。スライドが後退した状態で止まる。僅かに身を低くしマガジンをイジェクトする彼女の頭上を掠めるように、ショットガンを横薙ぎにしながらばがんばがんと撃つ。クリスティーヌに隙を見いだし狙いを付けていた敵兵が撃ち倒され、今度は弾切れになったショットガンの死角を埋めるように、銃をリロードしたクリスティーヌが再度銃を撃ち始めた。

 ショットガンのマガジンをイジェクトすると同時に銃本体を軽く上に放り上げる。素早くベストから予備マガジンを取り出し、落ちてくる銃をマガジンで受け止める形で装填、持ち直してリロード。一瞬振り返って撃ち漏らした敵兵に弾丸を浴びせてやる。

 リシッツァもマガジンを交換し、その隙を狙われる。彼女の肩越しにPDWの残弾を全て敵に叩き込んで、マガジンをイジェクト。ショットガンと同じように再装填。めぼしい相手にありったけの弾丸を喰らわせてやった。

 時間にすれば30秒にも満たない。その間に俺たちはホールを駆け抜け、味方の兵が確保した出入り口へとなだれ込む。

 

「良いぞ、閉めろ!」

 

 俺の言葉に応え、兵が手早く分厚いドアを閉める。少し遅れて扉の向こう側で、どどんとんと爆発音が響いた。

 ……やはりどうにも気になるな。俺の中で疑問が膨れ上がるが後回しだ。

 

「リョウガ様、武器をお預かりします」

「おう、すまんな。ありがとう」

 

 弾の切れた銃からマガジンをイジェクトし、残弾がチャンバーに残っていないことを確認してから声をかけてきた兵に渡す。そうしてから俺は隣のクリスティーヌに問うた。

 

「姫さん、怪我はないな?」

「ええ、五体満足ですよ」

「そいつは何より」

 

 そうやって言葉を交わす俺達だったが、ふと横を見れば、なんかリシッツァがこちらにジト目を向けている。

 

「どうかしたか?」

「……いえ、お二人が打ち合わせもろくに無しに、息のぴったり合った行動を取ってらっしゃったので、何か微妙に納得がいかなかっただけですわ」

 

 妬いている……というよりはこの節操無しがと咎められているような感じがする。俺もなんか妙に息が合うとは思ったが、別に悪いことしているわけじゃないんだから、そういう居心地の悪くなる視線はやめて欲しい。

 と、今度はチヒロの声がインカムから響いた。

 

「リョウガ様まだです! そちらに1名……いえ2名!」

 

 言うが早いか通路の先から、人影が飛び出してくる。一人は明らかに敵兵.もう一人はそれに片手で羽交い締めにされ拳銃を突きつけられた、ホテルの従業員の制服を着た女性だった。

 

「動くな! 抵抗すればこの女が……」

 

 敵兵が焦ったような声でがなり立てようとし、それに対して――

 俺は右腕を伸ばしてばしゃりと飛び出したハンドガンを構え、リシッツァはしまいかけていたFPGを瞬時に展開して構え、同時に撃った。

 2()()()()

 兵と同じく胸に銃弾を受けた制服姿の女性は、信じられないと言ったような表情で兵と共に後ろへ倒れる。間髪入れず俺はインカムへと怒鳴った。

 

「シャッターを閉じろ!」

 

 それに応えて通路のシャッターが降りる。そしてお約束のようにシャッター向こうから爆発音が()()()響いた。

 

「総員、残存戦力を確認しろ。まだどこかに潜んでいる可能性がある。そろそろ増援もつくはずだ。協力して当たれ。内外問わず、慎重にな」

「「「「「了解しました!」」」」」

 

 インカム向こう、そして周囲の兵から返事。皆慌ただしく動き始めた。

 

「確認にはしばらくかかるが……ま、これで大方片付いただろう。少し待たせてしまう形になる。すまないな」

「当然ですね。……ところで一つ聞きたいのですが」

「何かな?」

 

 クリスティーヌが問いかけてくる。

 

「なぜ捕らわれているように見えたのが、()()()()()だと見抜けたんですか?」

 

 それに対して俺達は間髪入れずに応えた。

 

「うちのCSSでしごかれた人間に、容易く人質になるような間抜けはおらんよ」

「それにわたくし、警備の者とホテルスタッフ、全員の顔と名前を覚えておりますもの。見間違えはいたしませんわ」

 

 俺とリシッツァの応えに対し、クリスティーヌは目を丸くしてから、くすりと笑みを浮かべた。

 

「なんだかんだ言って、お二人も息ぴったりじゃないですか」

 

 その言葉を聞いたリシッツァは、なんだか複雑な表情になった。

 

「それなりの付き合いですから当然と言えば当然ですけれど、改めて指摘されると微妙な気持ちになりますわね」

「……次の給料、楽しみにしておけよ?」

「わーいリョウガ様と息ぴったりなんて、リシッツァ照れちゃう~♥」

 

 手のひらぐるんぐるんひっくり返して媚びたような様子を見せるリシッツァ。それを見たクリスティーヌはたまらず吹き出す。

 とにもかくにも、こうして一連の事件はひとまずの決着を迎えた。後処理とか色々面倒なことは山盛りだが、命の危機よりマシだろう。多分。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことで、軍幹部候補の長期交換研修として、しばらくこちらにご厄介になることになりましたっ!」

「そーきたかー」

 

 執務室。俺の眼前で軍礼服姿のクリスティーヌが元気よくびしすっ! と敬礼してみせる。有耶無耶になる形であったお見合いの後、彼女はいったん帰国したのだが、すぐさまこんな形でとって返してきた。行動力あり余ってんな。

 どうやら最初からお見合いがポシャったらこうする予定だったらしい。確か軍部の交換研修は前々から計画されていたことだが……さてはかなり前から、この子押しつける算段を巡らせてたなあの国。ある意味警戒度が爆上がりになったぞおい。

 ……とはいえ。

 

「手続きが正式な物である以上、貴女を追い返すわけにもいかんか。……しかも立場上無下にもできん。今回は完全に俺の負けだよ」

「へっへ~、一本取らせていただきました。これからもよろしくお願いしますね」

 

 してやられたことを素直に認めれば、クリスティーヌは茶目っ気たっぷりにウインクしてみせる。やれやれ、これから苦労しそうだよ。

 俺は肩をすくめて席を立つ。

 

「歓迎会代わりだ、約束通り飯をおごろう」

「わーいリョウガ様愛してるー!」

「はいはい、さっさと行くよ」

 

 小躍りするクリスティーヌを促して、俺は繁華街へと繰り出すことにする。そうしながら俺は『懸念事項』について頭の隅で考えを巡らす。

 先の襲撃の時、敵兵は()()()()()()()()()()()()()。クリスティーヌやリシッツァは容赦なく狙ったのに。むしろクリスティーヌより俺を始末する方が、オーブを含む中立国に対するダメージが大きいという自負はある。それをしなかった理由が分からない。

 それに敵兵の自爆。あれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。クーロンズロック――()()()()()()()()()()では、遠慮なく派手な爆発物を使っていたはずだが。まるで()()()()()()()かのようにも思える。

 分からん。目的はともかく俺を狙わない理由が。どの組織がやらかしたにしても、俺という人間は邪魔だろうに。現に今までは積極的に俺を狙っていた。今回の首謀者――大西洋か一族かだろうが、何か方針の転換があったのか。だとすればそれがどのような物か、見当もつかなかった。

 転生してからほぼ初めてだな。こんなわけの分からん事態は。いや姫さんという存在もだいぶわけ分からんが、それはまた別の話として。一度情報を整理し、改めて調べ直す必要があるか。それこそ俺のような存在(転生者)が関わっているのかも知れん。気を引き締め直さないとな。

 まあそれはそれとして。

 そんな財布にダメージがあったわけじゃないが、満漢全席数人分をペロリと平らげたクリスティーヌさん。遠慮なさ過ぎじゃないですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

 暗い部屋の中、モニターの明かりに照らされた人影がある。

 どうやら女性のようだ。彼女は通信越しに何やら会話を交わしている。

 

「……任務は失敗。実行ユニットは全て自己処理。予備ユニットは警戒されたため離脱させました。この件でオーブ国内の『協力者』が公安に検挙されるようです。こちらの手のものは一時撤退を指示しました」

「よろしい。しばらくは様子を見て、オーブへの手出しは控える」

「は。……しかしよろしいのですか? リョウガ・クラ・アスハはこの先我々の障害となるのは明白ですが」

「……彼にはまだ利用価値がある。それよりも彼と接触を図る人間の方が問題だな。特に女性は要警戒対象と見なされる者が多い。以降も警戒を密にし、可能であれば処理せよ」

「は。了承いたしました」

 

 通信が切られる。女の目は、モニターに映る映像を見ていた。

 表示されているのは調査報告。リョウガを中心とした人間関係がそれなりに調べ上げられているものだ。

 しかしよく見れば奇妙な物である。記されているのはリョウガの周りに集う『女性』ばかり。中にはラクス・クラインやクリスティーヌ・ティアナ・アストリアの名もある。

 モニターを見る女の口元から、ぎりぃという歯を噛みしめる音が響いた。それがどのような感情によるものか、余人には分からない。

 あるいは、彼女自身にも分からないのかも知れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ゴールデンウィーク? 仕事だったよ。
 体調が良くなった途端過労で倒れそう。ぜってえ来年は楽できるようにしちゃるふぁっきん。来年も同じような事言ってそうな捻れ骨子です。

 はい更新です。そしてガンアクションと言っておきながらしょぼいシーンに。うん、ガンアクションだけ書いてたら膨大な量になりそうだったんだ。下手するとこの話だけでしばらく引っ張りそうな感じだったので無理矢理縮めました。期待していた人たちには申し訳ない。
 そして居座るクリスティーヌ。彼女の設定はこんなんになりました。これで原典並みのアクションをさせても問題はないぞ。(そうか?)ともかく台風の目となりそうな予感がしますな。つーかこの人のおかげで話がどっちに飛んでいくか分からないんですが。多分プロット作っててもその通りには行かない。(いつも)本当にどうしたもんだか。
 後最後に不穏な空気が流れていますが、果たしてリョウガさんは無事で済むのか主に女性関係。なお相変わらずのノープランでお送りしています。

 そう言ったところで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22・知らない間に話が進んでるじゃない

 

 

 

 

 

 さて、件のお見合い襲撃だが、結構な余波があった。まあ郊外とは言え派手にやらかしたのだ。完全に隠蔽するなど不可能に近い。

 だから()()()()。とは言っても『極秘に訪れたスカンジナビア王国の王族と会談中に、何者かの襲撃を受けた』程度の物だが。この大まかな事実だけを伝え、国は背後関係をあらわにし追求すると息巻いている……ように見せかける。

 実際はまあいつものことかと、皆半ば呆れ返ったり諦観しているわけだが、他国が絡んでいる以上真剣に対処しているという姿勢は必要だった。いや真剣に対処しているんだけど、慣れって怖いよな。

 ともかくそうやって敵対者をあぶり出し叩くという姿勢を見せたらば、真っ先に反応したのはなんとブルーコスモスだった。曰く「うちじゃありません。マジです本当です。なんだったら調査に協力もします」(要約)と、盟主(アズラエル)直々に連絡してきたらしい。最近盟主の動きが大人しい……というか、オーブ関係に手出しを控えているようではあったが、敵に回すと拙いと判断したか? そう見せかけているだけかも知れんので油断はできんけど。

 他にもめぼしい国家や組織が無関係を主張したり、協力を申し出てきた。それらに対応したり根回ししたり後始末したりして、俺はしばらくあちこちを飛び回った。それも一段落し戻ってきたらば。

 

「……なんか随分と愉快なことになったな」

「貴様ほどではないさ」

 

 モニター越しに、俺とギナは苦笑し合う。俺がお見合いとか返り討ちとかしている間に、宇宙でも騒動があったようだ。ギナたちはそれに対処していたらしい。

 

「仕事を邪魔されたミナはお冠だ。あれはコロニー再生資源化計画の要だったからな。アルテミスに殴り込みかねない勢いだった」

 

 何が起こったのかと言えば、うちの宇宙開発局主導で計画していた破棄コロニー解体、資源化の事業。その試験でロウなどのジャンク屋が活動している最中、ユーラシア連邦の試作MS部隊が難癖付けて襲撃をかけてきたのだ。

 コロニーを解体して資材別に分け、太陽光反射炉――特殊合金の鏡を使い、太陽光を利用して資材を溶解しインゴットとする真空溶鉱炉へと運搬する作業を行っている中での襲撃。当然ロウたちジャンク屋は武装していなかったが……作業の指揮を執っていたミナたちと警備に雇われていた劾たちはしっかりと武装していた。ミナにいたっては指揮を執っていたにも関わらず、作らせたばかりのゴールドフレーム2号機(まだ天じゃない)と試作武器を持ち出して暴れたらしい。ホントこの兄妹は。そう言うとこやぞ。

 で、襲撃してきた連中のほとんどがジンだったので容易く蹴散らかされたが、1機だけやたらと強くて堅い機体がいて相当手こずったらしい。

 まあ、いつか関わるかも知れないと予想はしていたが。

 

「【ハイペリオン】、ねえ。アルテミスの傘……光波防御帯シールド、【アルミューレ・リュミエール】をMSに標準装備させるとは、ユーラシアも何考えているんだか」

 

 俺は()()()()()()()()()そうぼやくように言う。そう、襲撃の中核となっていたのは、ユーラシアがアクタイオン社と共同開発したMS、ハイペリオンだった。ぶっちゃけ全身を覆うバリアを展開できる、ガンダムっぽいMSである。確か真っ当な攻撃ではダメージを与えられないはずだが、ギナ曰く。

 

「バッテリー切れになるまで囲ってボコったらしい」

 

 だそうだ。

 確かにミナとロウと劾の3人がいれば、乗り手が『例の彼』だったとしても制圧することはできるだろう。生憎とレッドフレームとブルーフレームは、商会のバックアップにて常にバージョンアップを繰り返している。加えてミナの2号機は最新鋭のバージョンを反映させた物だ。原作よりも性能はかなり上。そうそう遅れは取らない。

 で、撤退すら許さずにふん捕まえたということだった。ナイスというべき……なのかなあ?

 

「で、そいつらを差し向けたのは【アルテミス】の司令官か。早速こちらからユーラシアにきょうは……抗議を入れさせて貰おうか」

「今貴様脅迫と言おうとしただろうそういうとこだぞ」

 

 後に、俺はこのことをネタに、ユーラシア連邦と交渉する気満々で連絡を取ったのだが、襲撃を命じた宇宙要塞アルテミスの司令官、【ガルシア】に全ての責任は被せられ、ユーラシア自体は「アホがやらかしてすまん、けどヤツが勝手にやったことやねん(意訳)」と全力で言い訳してきた。こちらも下手に刺激するつもりはなかったので、多少の()()()()()()()()で勘弁してやった。なおガルシアは行方不明になったらしい。さもありなん。

 まあそれはともかくとしてだ。

 

「それで、ミナはどうしている?」

「ああ、捕らえたハイペリオンのパイロットを直々に尋問している。中々強情なヤツでな、並の相手では口を割りそうにない」

「まあ最新鋭機を預けられている人間だ、そう容易くはなかろうさ」

 

 例の彼ならば、かなり気性の激しい人物だ。原作と幾ばくかの違いはあるかも知れないが、簡単に口を割るとは思えない。まあどうするにしろ、ミナたちにまかせてみるかね。

 

「こちらに被害はなかったようだが、計画はいったん様子を見た方が良さそうだ。また妙な横槍を入れられたらかなわん」

「コロニー解体の方はジャンク屋どもも関わっているから、遅れが出ても進めておく方向になる。残骸は引き取るだけ引き取ってラグランジュポイントの端にでも浮かべておくしかあるまいよ」

「一応哨戒だけはしておいてくれ。すぐさま金になるものではないが資源は資源だ。面倒が増えるが、頼む」

「良かろう。こちらの戦力も整いつつある。慣熟を兼ねて目を光らせておこう」

 

 そして、他にも色々と話を詰めたあと通信を切る。そして一つ息を吐いた。

 大分原作から乖離してきているようだ。この時期に起こることも作られたMSもかなりの違いがある。大筋ではともかく、最低でも外伝に関してはもう原作知識はあまり当てにはならない。まあ本来ハイペリオンと相対するはずだった少年は、遺伝子治療の被検体として商会系列の病院に通院しており、関わるフラグ自体がポッキリ折れてたりするのだが。

 ともかくひょんな事からハイペリオンを入手することができた。これはうれしい誤算である。光波防御システムはこちらでも研究していたが、実物が手に入ったことにより開発は大きく進む。商会のアレな連中に任せたらどうなってしまうかという微妙な不安はあるが……必要な経費とか犠牲とかそういう物だと思って諦めよう。うん。(←さじ投げた)

 まあ今回のことに関しては懸念もある。本来であればハイペリオンはマルキオ導師の指示によりザフトから持ち出された【ドレッドノート】という試作MSと相対するはずだった。だがマルキオ導師はそのような指示を出さず(出す理由がなくなった)、そもドレッドノートが開発されているかどうかも不明だ。多分十中八九開発されているとは思うが、ザフトに人を送り込んでいないからな。そちらの情報はどうしても後手に回る。

 ドレッドノートが外部に持ち出されなかったことがどのような影響を与えるか。かの機体はNJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)――NJの機能を無効化するシステムと核動力の実験機であり、ザフト製ガンダムの原型機とも言える機体だ。あるいはザフトの機体開発が加速度的に進むことになるかも知れない。それで大きく戦況が変わるとも思えないが……何事も世の中には例外があるからな。原作のキラのように。ザフトの動きに注意しておく必要があるだろう。油断ならんのはどこもいっしょだけど。

 しかし一連の流れ、俺はほとんど関与してないなあ。いやだからなんだというわけではないが、気がついたら悪い方向に向かっているというのは勘弁して欲しい。ただでさえ安心できない世界だからか、細かいところが気にかかる。悪い癖だとは思うんだけれどな。

 などと微妙な不安を覚えていたらば、別な方向からも動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「襲撃、ですか」

「ああ。連日とまでは行かないが、行く先々でね」

 

 バルトフェルドからの連絡。俺はそれをロン・ヤアとして受けていた。

 一応盗聴などの対策である。この通信自体、俺は別な場所で受け答えしているように誤魔化していた。インフラ牛耳っているのって便利だよな。

 それはさておき、どうやらラクス嬢一行は行く先々で襲撃を受けているらしい。襲撃自体は予想されたことではある。だが行く先々で執拗に、というのは想定以上だった。ザフト勢力範囲内、中立国内。全くお構いなしの連続は流石に参ったとバルトフェルドはぼやいている。

 

「襲撃者は全てブルーコスモスを自称していた。最低でも青き清浄なる世界といういつものお題目は唱えていたな。そしてほぼ全員が自決している」

「ほぼ? 捕らえられた者もいると言うことですか」

 

 俺の問いに、通信向こうでかぶりを振ったような気配があった。

 

「いや、自爆テロじみた襲撃を見せ札に、狙撃を試みるということが幾度かあった。その狙撃犯は取り逃がしてしまったよ。明らかにプロの仕事だった」

「……妙ですね。いえ本腰を入れてラクス嬢を狙っているというのであれば、おかしな話ではないのですが」

 

 ブルーコスモスの犯行にしては、なにかがこう、引っかかる。自爆テロは毎度のことだが、狙撃などという手を用いたのは初めて聞いた。それをするくらいならMSなどの戦力を送り込むのが彼らのパターンだ。しかしアスランたち赤服を相手にするのは分が悪いと感じたか、それともMSなどの戦力を送り込むことができなかったか。おかしな話ではないような気はするが、どうにもな。

 

「……連合の軍はどういう反応をしていますか?」

「我々が察知できる範囲では、大きな動きはない。そちらで知れる状況と大差はないだろう。もっとも極秘で動いている分は調べきれないがね」

 

 ふむ、ラクス嬢襲撃と呼応している様子はないと言うことか。どうにもこれ――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「やはり貴方もそう思うか」

 

 バルトフェルドも薄々そう感じていたようだ。ラクスという存在が地球にいるという絶好の好機、ブルコスのタカ派ならば、繋がりの深い大西洋連邦の軍を動かすはず。アフリカでやっていたような嫌がらせじみた自爆テロなどで済ますわけがない。

 あるいはラクス嬢を護るのに神経を集中させているところで、ザフト支配域の要所に攻撃を集中させ落とす、くらいのことはやってもおかしくない。俺ならそうする。そういった軍事行動と連動していないというのは、あまりにもお粗末だ。

 下っ端が勝手に動いているのであれば、おかしな話でもないように思えるが、どうにも不自然さが目につく。ブルーコスモスの名を借りた何者かと考えた方がつじつまは合う。となれば誰がそれをやらかしたかということだが……心当たりはあった。

 

「……バルトフェルド殿、貴方は一族という存在を耳にしたことはありますか?」

「一族? いや聞いたことはないが、何者かな?」

「歴史の影に隠れ存続してきた、世界の調律者を自称する勢力……らしいです。冗談のような話ですが、そういった輩が存在するのは確かなようで」

 

 自分で言ってて何だが酷いな。まあこの世界そのものが色々と酷いから、今更一つや二つ酷いのが増えたところで変わりはないけど。

 それは置いといて、俺は一族の仕業であろうと当たりを付けた。というか連合以外の勢力でしつこく彼女を狙うところなど他にはあるまい。なにしろラクス嬢はプラント評議会議長の娘であるが、()()()()()()()()()()()。今のところシーゲルとパトリックは大きく対立しているわけではないし、最低でもプラント内部で彼女を邪魔に思う人間はほぼいないはず。クルーゼあたりが情報をリークしている可能性はあるが。

 で、中立国の多くはザフトを敵に回すつもりはないし、オーブ(うち)は論外。となれば一族くらいしかラクス嬢を狙う勢力はなかった。とはいえこの時点でしつこくラクス嬢の命を狙うのも妙な話ではあるのだけれど、本来の流れと変わったせいで何か影響が出ているのかも知れない。そのあたりも調べておきたいところだ。

 

「にわかには信じがたい話だが、貴方はくだらない嘘を言う人間ではないだろう。一応信じさせて貰う」

「痛み入ります。……とはいえ、我々も一族の全貌を掴んでおりません。オーブにもテロを仕掛けた疑いがあり、目下全力で調査している最中なのですが、逃げ隠れするのは得意なようで」

 

 長きにわたって歴史の影に潜んでいた連中だ。早々簡単に尻尾を出すものではなかった。

 だが、俺もただ手をこまねいていたわけじゃない。

 

「幸いと言って良いのか、一族と関わりのあった人間と接触できそうです。そこから少しでも情報を得られると良いのですが」

 

 蜘蛛の糸はたぐり寄せた。そこからどう転ぶかはまだ分からん。この機会を上手く利用できるかどうかが今後の鍵となる……かも知れん。

 俺の交渉力次第なんだろうがな。上手くいけばいいがはてさて。

 

「お手並み拝見……といきたいところだが、こちらはその情報を待っている余裕はなさそうでね」

「でしょうね。ですから、CSSを通じて信用できる傭兵を斡旋しましょう。流石にただというわけにはいきませんが、勉強はさせていただきます。それと、襲撃者に関しての情報が入れば、随時お知らせするようにいたします」

「……こちらとしても助力を要請するつもりだったが、随分とサービスが良いな?」

「貴方には借りがあります。それにラクス嬢はまだ死んで良い人間じゃない。例え運命がそういう方向に導いても抗うべきかと」

 

 俺的にはまだ利用価値があるしな。おくびにも出したつもりはないが、そのような空気を感じ取ったのだろう。苦笑の気配があった。

 

「そういうことにしておこう。いずれにせよありがたいことだ。礼を言う。お返しというわけではないが、今後もクルーゼに関しては情報を流すようにさせてもらう」

「毎度ごひいきに」

 

 そのあと色々取り決めて穏やかに会話は終わった。ということでラクス嬢のあたりにてこ入れすることになったが……こちらも俺が直接関わることはなさそうだ。うん良いんだけど。問題はないんだけど。

 考えてみればアークエンジェルも放りっぱなしだしなあ。あの艦は大西洋(海の方な)を中心にあちこちこき使われまくっているらしい。本来の運命よりはマシなんだろうが。

 どうにも、物語から置いてかれている感がある。アークエンジェルやキラ君目線からじゃないとこういう物なのかも知れないが、なんだかなあ。

 ……まあ俺の気分の問題だ。切り替えていこう。俺は次なる手を打つため、行動を開始した。

 しばらく後。

 

「このような形で申し訳ない。今はまだ正体を明かすわけには行かなくてね。……とは言っても薄々分かっているだろうとは思うが」

「あらご謙遜。先にこちらを調べ尽くしてから交渉に挑んでらっしゃるのでしょう?」

 

 変声機越しの会話。初っぱなから腹の探り合いをしている相手は、かつて一族の党首候補であった人物。自称紳士のオネエ、【マティアス】だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 エアガンを買いあさりすぎて貯金がMG42の弾丸のように減っていく。
 いい銃を買ったからと言って上手くなるわけではないと分かっちゃいるけどやめられない。反省しろ捻れ骨子です。

 自業自得で金欠に陥りかけているアホのことはさておき更新です。なんかリョウガさんの知らん間に色々進んでいるというお話。うん核融合炉で電力がまかなわれてきたならば、危ない橋を渡ってドレッドノートパクる必要ないよね、ってわけでこんな事に。なお某儚げな美少年は多分このあと出てきません。つーか何人出てこない人間いるかなこの話。
 ともかくリョウガさんがあまり関わらないところでも事態は進んでいると言うことです。当然ですが、全てに手を出すわけには行かないからね。仕方ないね。
 そしてついに自称紳士のオネエさんと接触。果たしてどうなるのか読者の皆さんの予想通りなのか。事の顛末は次回にて。

 それでは今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23・ちょっとこじらせすぎてない?

 

 

 

 

 

 さて今回の交渉だが、俺は一応声を変え、フェイ・クーロンとして対峙している。バルトフェルドと同様に隠蔽工作という意味合いもあるが、謎の投資家の情報を餌に、マティアスを釣り出したようなものだからだ。もっとも向こうも色々調べてるだろうし、こちらの正体が割れているのを前提としてこの席を設けている。裸一貫から一族に匹敵するコネクションを作り出した人物だ。舐めてはいない。

 

「早速ですけど、一族に関する情報が欲しい、とのことでしたわね。その前に一つよろしいかしら」

「ふむ、答えられることであれば」

「では単刀直入に。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ストレートに来たな。予想範囲内だが。

 

「我が手のものが、一族の存在を察知したのが10年近く前だ。それ以降かの組織を危険視し、その動向を追っている」

 

 師匠(コトー)一派の仕事だ。俺が調べさせようとする前に、彼らは一族の存在を探り当てていた。だがそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「我が手のものが優秀だった……というだけではない。どちらかと言えば、かの組織の防諜に『綻び』が生じたおかげだ。そしてそれは組織内で何らかの混乱が起こったせいだとみられている」

 

 師匠やうちの諜報関連、リシッツァなどが分析した上で出した結論である。そしてその要因を、俺は予想できた。

 

「それとほぼ同時に頭角を現し、あっという間に一大勢力を築き上げた人間がいた。私と違い何の後ろ盾もなく、な」

 

 調べればマティアスの事はそれなりに知れる。が、そこから一族との繋がりを見出すのは無理がある。そして俺はその理由を予想できても口にすることはできない。原作知識がありますからと言っても誰が信じるか。

 だからこう言ってやった。

 

()()()()()()

 

 絶句したのだろうか、しばし無言が続く。

 ややあって。

 

「……誤魔化してるとも、真実を言っているとも取れるところが難しいところね」

 

 呆れたような声で言う。やはり俺という人間をよく調べているようだ。勘で乗り切ってきた部分があると知らなければ出ない台詞だからな。

 

「全てを語っても、逆に信用はできまい?」

「お互いに、ね。……いいでしょう。深く聞くのはやめておくわ」

「痛み入る。そちらにも事情があることは重々承知だ。だがそれを踏まえてなお、貴方からの情報が欲しい。手遅れにならないうちにな」

「よほど一族を危険視してらっしゃるようで」

「当然。彼らは我らが拠点に、しかも要人が逗留している時に襲撃を仕掛けてきた。見過ごせるものではなかろう」

 

 クーロンズロック、オーブ。双方の意味を込めて言う。どっちにしても見過ごせないというのは理解できるはずだ。

 

「もっとも、一族からすればこちらの方が危険な存在なのだろうがな」

「その口ぶりからすると、一族の目的もご存じって事?」

「大したことは分かっていない。世界の調律者を気取っているという事くらいか」

「……ちょっと違うのだけれど、まあ大まかにはそんな感じね」

 

 俺はもうちょっと詳しいけどな。そこまで言う必要もない。

 

「彼らの望むやり方と違う方法で、彼らの望む進路と違う方向に舵を取っている。面白くはなかろうさ。……と、そこまでは理解できるのだがな」

「あら? 何か疑問でも?」

「最近の彼らのやり方だ。一方で殺意満々かと思えば、もう一方で妙な気の使い方をしている。ちぐはぐというか、違和感がありすぎるのだ。だから情報を集めたかったという理由もある」

 

 この間の襲撃における疑問点。俺の周囲の人間には手加減をしないが、俺本人は狙おうとしていない。そこのところが理解できなかった。まさか俺を生け捕りにするつもりでもあるまい。そうだとしても理由が分からん。マティアスとの交渉で、何らかのヒントでもつかめれば、そう思っていた。

 いたのだが。

 

「……あ~……」

 

 マティアスはなんというか、色々悟ったような、何かを諦めたような、力の抜けた声を漏らす。

 なんかすごく嫌な予感がするんだけど。

 

「そこ突いちゃうかあ~……いや気づくわよねえ……」

 

 シリアスな空気が、いきなりダメエアーになったような感覚。ものすごく迷っているようなマティアスの声がそれを加速させていた。

 ややあって、マティアスは語り出した。

 

「……大まかにはそちらが予想している通り、一族がそちらのことを危険視して実力行使に出ているようなのだけれど……」

 

 そこから何か、言いにくそうな気配。

 

「………………ここから先はアタシの推論も混ざっているし、とっても馬鹿馬鹿しい話になるのだけれど、それでも聞く?」

 

 超迷うんですけど!? いや迷うけど、答え一つしかないじゃん。

 

「正直聞きたくはないところではある。だが聞かねば対策も取れないだろう。気は進まないだろうが、お願いする」

 

 通信向こうから、微かなため息。そしてマティアスは話を続ける。

 

「現在、一族の党首は【マティス】という女性が務めているわ。彼女はその……アタシの肉親なのよね」

「ふむ」

 

 知ってるけど知らんふり。

 

「だからある程度人となりを知っているのだけれど……あの子の理想の男性像って、基本高性能で頭も切れて経済に強くて戦略眼があって強い意志で困難を乗り越え障害を打倒し戦わせれば一流でついでに美形、って感じなのよね」

「いきなり何を……って、ちょっとおい、まさか……」

 

 そんな漫画みたいな人間、すごく心当たりがあるんだけどなー!?

 俺の推測を裏付けるかのように、開き直った声でマティアスは告げた。

 

「多分()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わあの子」

「マジすか」

 

 完全に取り繕うことを忘れて、俺は思わず呟いていた。

 ……ってことは、今までの襲撃って。

 

「つまりお……リョウガ・クラ・アスハ()の命を狙っていたのではなく、『周辺に近づく女性を排除しようとしていた』ということなのか!?」

「大体そんな感じかと」

 

 ……え”ェ~~~~。内心でそんな声を上げた俺の気持ちは分かってもらえると思う。ダメじゃねえか一族。

 

「もちろんリョウガ・クラ・アスハにはまだ利用価値がある、とか何とか言って指示出してるんでしょう。見事に藪をつついて蛇を出している感じだけど」

 

 そう言ってマティアスは再びため息。

 

「たちの悪いことに、あの子()()()()()()()()()()()()()わよ絶対。自覚してたらもっと過激な行動取ってるもの」

「一体全体どういう人間かね」

「あたしが言うのもなんだけど、すっごく面倒くさい子」

 

 原作そんなんだったかぁ!? ……いや、マティアスに対する感情といい、確かに面倒くさい感じがあったような気はするけど。

 

「でもって指摘したら絶対認めないし逆ギレするわね確実に。そこから先どう行動するかが読めなくて、周囲の人間が気づいても怖くて指摘できないんじゃないかしら」

 

 こじらせすぎてない? 確かに超面倒くさそうなんですけど!? 別な意味で一族の対策が難易度上がってるじゃねえか。

 どないせいっちゅうねん。そう言いたいのをぐっと堪え、俺は口を開く。

 

「……場合によっては話し合いの席を設けるつもりもあったのだが、そのような人物では交渉は危険と言わざるをえんな」

「ややこしい事になるのは目に見えてるわねえ。……で、でもアレよ? 今の話アタシの推論がだいぶ入っているから、実情は違うかも知れないし、ね?」

「実情はもっと酷い可能性もあるわけだが」

「ですよね~」

 

 確かに鵜呑みにするのも危険だが、現状を鑑みた結果マティアスの話が一番ありそうなんだよなあ。俺の勘もそうじゃないかなと言ってる気がするし。

 しかしそうなると、どうしたもんだかホントに。俺に女性が近づくたびに騒動が起こると確約されたようなもんじゃねえか。しかもそれをやらせてる人間は色々こじらせてるときてる。一族と敵対することは覚悟していたが、ちょっとこれはないんじゃない?

 といっても現状が変わるわけじゃないから仕方がないんだが。どうにか対策を練らなければ。そのためにも、マティアスとは友好な関係を築いておきたいんだけど。

 

「いっそのこと、あの子口説いてくれないかしら」

「無茶言うなし」

 

 マジ声で言うマティアスの様子に、前途多難なことを思い知らされる俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺はマティアスと交渉し、いくつかの契約を結んだ。

 大まかには一族の情報と引き換えに、CSSから身辺警護の人員を提供。場合によっては商会にて彼の身柄を保護するという物だ。元々マティアスは一族から命を狙われやすい立場にあった。一族に匹敵するようなコネクションを作り上げたのも、一族とは違う方法で目的を果たすという理由の他に、自分が暗殺されれば悪意がある者がその後を継いで、世界の脅威となる可能性があるという状況を作り上げるためだった。つまり『まだ死ぬ気はない』と言うことだ。生存率が上がる手段があるのなら、それを利用することも考えるだろう。

 俺としても彼の才能は惜しい。身内に引き入れることはかなわずとも友好的な関係を結べれば、この先を乗り切る力になるだろう。そのためにも一族は何とかしなきゃいかん。

 ……とは言ってもどうしたもんよ。マティスのキャラが完全に予想外だったわ。いや対策はいくつか考えられるんだけど……どれもやりたくねえなあ。こう、なんていうか、精神的にきつい。

 前世では女性と付き合ったこともあったが、あくまで普通の女性だ。こじらせた面倒くさい人間の相手なんぞ経験がない。始末してしまうのが一番確実な方法なんだが、そう簡単に尻尾出す相手でもない……あ、結構頻繁に偽名使って顔出ししてたわ。とは言っても暗殺に対する備えくらいはしているはずだ。本人が目の前に現れたからと言って即どうにかできる物でもない。

 今はマティアスからのものと、師匠やうちの諜報関連から上がってくる情報を照らし合わせ、対策を考えていくしかあるまい。一族ばかり相手をしてるわけにはいかないからな。ホントCEは地獄だぜHAHAHAHAHA。

 笑い事じゃないが。(←自分自身に逆ギレ)

 で、ホントに一族のことをいったん置いておかなきゃならないことが起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 その知らせを聞いて、素っ頓狂な声を上げた俺は悪くないと思う。 

 知らせてきたのはバルトフェルド。火急の用件だと聞いて通信を繋げてみればこれだ。寝耳に水どころではない。

 

「元々連合に情報を流している疑いはあった。連合からも有益な情報を得ていたからダブルスパイのような形で見逃され泳がされていた部分もあったんだが……流石に最重要の機密情報まで流出させようとしたならば、捨て置くわけにもいかなかった。いったんは確保されてプラントに移送しようとしたんだが……何者かの手引きによって逃亡したようだ」

 

 深刻な様子で言うバルトフェルド。俺は深呼吸して心を落ち着かせ、口を開いた。

 

「あまり良くない知らせですね。……しかし、この情報をこちらに渡してよろしかったので?」

「本当は良くないな。箝口令が敷かれている。しかし危ない橋を渡ってでも貴方には知らせておくべきだと判断した。互いに必要な情報だろう」

「双方に累が及ぶ可能性がある、と」

「手引きをした者がいると言うことは、裏がある。そして心当たりはお互いありすぎるくらいだ。協力できるところは協力したいね」

「了承しました。CSSにも情報を共有させます。それと、不確定ではありますが一族に関する情報が……」

 

 互いに情報をやりとりし(マティス関係については流石にぼやかした)、今後の対応を話し合い、通信は終わる。そうして俺は深々と息を吐いた。

 まったく、マティスといいクルーゼといい、こじらせてるやつぁろくなことしねえ。大番狂わせも良いところだ。非常にはた迷惑である。

 おかげさまで、もう原作から乖離しているどころではない。完全に()()()()()()。持ってる知識は参考程度にしかならないと思っていい。ここから先は別世界。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 楽しめるほど余裕はない。だが切羽詰まって焦れば、事をしくじるのは目に見えている。

 俺の転生人生。どうやらここからが本番のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 暑くなってまいりました。筆者は茹で蒸しにされそうですが皆様お元気でしょうか。
 今年は猛暑か熱中症には注意しましょう捻れ骨子です。

 はい更新です。マティアスさんちの妹さんがアレだった話。まあ大体皆さんが予想したとおりです。がっしゃんがっしゃん原作キャラが壊れてますが、姫さんに比べたらマシじゃないかなあと、自分で自分の作品に毒されてます。ダメじゃねえか。
 そしてこいつは予想できなかっただろうクルーゼさん逃亡。そりゃ目を付けられてるのに機密流し続けてたら尻尾掴まれるよ。そんなわけで彼はしばらく退場することに……なるのか? 新しい仮面付けて出てきたりしてな。

 そう言ったところで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・運命のねじ曲がり

 

 

 

 

 

「というわけで、貴様うちの子になれ」

「は?」

 

 偉そうに腕組みして宣うミナの言葉に、少年兵――【カナード・パルス】は目を丸くするしかなかった。

 ユーラシア連邦の特殊部隊に属する彼は、連邦が某企業と協力して開発したMSハイペリオンのテストパイロットとして選ばれ、従事していた。そして実戦テストを兼ねて、怪しい行動をしていると目されたジャンク屋たちの様子を『偵察』しに向かったのだ。(実際は難癖付けに行ったに等しい)

 が、そこでミナを筆頭とするオーブ宇宙開発局の面々が仕切っていたのが運の尽き。同僚諸共叩き伏せられ、捕虜となってしまう。もちろんカナードは全力で抗った。己の技量に絶対的な自信はあったし、アルミューレ・リュミエールで全方位を防御できるハイペリオンなら、負けることはないと信じていた。だが。

 結果はよってたかって袋だたきにあい、機体の動力が落ちたところを捕らえられてしまった。カナード本人の能力は戦闘用コーディネーターである劾をも上回るものだったが、機体の基礎スペックが違いすぎた。当然と言えば当然で、ハイペリオンはまだ完成したばかりの試作品であるが、ミナたちの駆るアストレイはバージョンアップを繰り返し日々性能を向上させている。アルミューレ・リュミエールという無敵バリアがなければ、実のところシグーなどと大して性能の変わらないハイペリオンでは、防御以外は分が悪すぎた。

 そして捕らえられはしたが、肉体的な拷問は一切無く、普通に――目の前の女性にものすごい圧かけられつつ質問を受けるのが普通かどうかはさておいて――尋問を受ける程度で、人道的な捕虜の扱いであった。正直ユーラシアの軍より待遇が良かったほどである。

 そんな中でもカナードは口を割ることはなく、隙を見て逃げ出そうとすら考えていたが……ユーラシアから見捨てられたと聞いて、全てが頓挫した。

 見事なまでの切り捨てである。ミナから許可を出され、様々な手段でユーラシア連邦軍とコンタクトを試みたが、貴様など知らぬ存ぜぬうちの軍にカナード・パルスなる人間は存在しないなどとけんもほろろで、どうやら存在そのものを抹消されているようだった。これには流石のカナードも心が折れ……る前にキレた。ふざけるなと激高し暴れ出す……寸前でミナギナのダブルラリアットにより沈んだ。そして説得(物理)によりやっと大人しくなったのである。

 で、なんやかんやあってから、この先の身の振り方をどうするかという話になったのだが。

 

「いやなんでそうなる」

「何でも何も、貴様行くところ無いだろう」

 

 きっぱりと言うミナに対し、ぐっと言葉に詰まるカナード。確かにユーラシアから放り出された彼には行く当てなど無い。収容所送りかなにかにされるかと思っていたのだが、ミナたちはそのような気はないようだ。

 

「……何が狙いだ」

 

 疑心暗鬼の塊と言っても良いカナードは、睨み付けるような表情で尋ねる。これまでの経験から、ろくでもない扱いをされるのではと警戒しているのだ。

 それはミナも分かっている。

 

「そう警戒するな。単純に有能な人間をスカウトしているだけなのだから」

「俺は敵兵だった人間だぞ。そんな人間を部下にするというのか」

「なに、うちの代表首長補佐官は、自分を殺しに来た工作員を手込め……こほん手玉にとって身内にしたぞ? それに比べれば普通だろう」

 

 普通とは一体。一瞬哲学的な疑問が頭の中をよぎったカナードだった。

 ミナはふん、と鼻を鳴らして話を続ける。

 

「正直うちは人手が足らん。有能な人間ならば喉から手が出るほど欲しい。そして貴様は機体が互角であれば我々を圧せたほどの人間だ。ここで勧誘するのは当然だろう」

「は、どうだか。捨て駒の鉄砲玉にでもするつもりじゃないのか?」

「そんな勿体ないことはせん。相応の身分、待遇、給与は保証してやろう。軍務以外にも能力があるのなら、そちらに回すことも考慮に入れる。最低でも、ユーラシアよりは良い暮らしはできよう」

 

 す、とミナは契約書を差し出す。それを手に取って目を通すカナード。

 読んでみれば、確かに条件は良い。それに変な条件付きとかもなさそうだ。だがどこで引っかけがあるか分からないし、そもこの契約書通りの扱いを本当にしてくれるかどうかも怪しい。疑えばきりが無い。だが元々ユーラシアでもろくな扱いをされてこなかったのだ。騙されたところで大差はあるまい。それに……『己の目的』が果たせればどこでも良いと、そういった思いもある。

 しばらくカナードは考え込み、やや経ってから口を開いた。

 

「……アンタの手下になっても良い。だが条件がある」

「条件? なんだ、言ってみろ」

 

 さてどんな無茶振りが飛び出すかと、半ば面白がりながらミナは促した。カナードは鋭い目つきで応える。

 

「かつてコロニー【メンデル】で生み出された【スーパーコーディネーター】。そいつを探し出して欲しい」

「スーパーコーディネーター? それを探し出してどうするつもりだ」

 

 ミナの言葉に、カナードは地獄の底で煮詰めたような怨念を込めた台詞を放つ。

 

「そいつを倒し乗り越える。俺が本物のスーパーコーディネーターだと、証明するために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっくしょん!」

 

 くしゃみの音が響き渡り、キーボードを叩く手が盛大に滑った。

 

「うわちょっとキラ! それ卒論用のプログラムだろ!」

 

 近場で作業していたトールがくしゃみをした本人――キラに泡を食ったような声で言う。現在彼らは卒論の追い込みの真っ最中であった。

 アカデミーは年数ではなく所得した単位が一定数になると卒業の資格を得ることができる。元々早期に卒業して学術機関か企業の研究職、あるいは開発関係に就職しようと思っていたキラはかなりの単位を取っていたが、クーロン商会からのスカウトを機に残りの単位をすごい勢いで取得し、卒論の制作に入っていた。

 同時に商会へゼミの仲間を推挙しており、色よい返事がもらえたためトールたちも後に続いているわけだ。商会としてはそれほど急かしているわけではなかったのだが、何か思うところがあったのか、キラはこれまでに無くやる気を見せている。

 見せていたのだ。

 

 トールに指摘されたキラは、画面を見て固まっている。

 制作中のコードが、デリートされていた。

 なお徹夜三日目。

 

 ムギャーーーーーーッ!! という化鳥のような悲鳴が上がった。

 カトウゼミは今日も平和である。

 今のところ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、アスランは鉄火場の真っ最中にいた。

 

「ラクス! そのまま身を低くして!」

「はい!」

 

 ラクスを庇いながら物陰に隠れたアスランは、サブマシンガンのマガジンを交換しながら様子を窺う。

 

「連中なりふり構わなくなってきたな。ついに中立国の主要都市にまで」

 

 白昼堂々、市街地ど真ん中のホテル真ん前である。そこから次の目的地に移動しようとしたら襲撃だ。とはいえもう慣れたもので、咄嗟に散開し反撃を行いつつ応援を待つ余裕があった。

 

「隊長! 警察の対テロ部隊が来ます! それまで保たせましょう!」

「了解だ! 聞いたなイザーク、ディアッカ! 無理に攻め入るなよ!」

「「了解!」」

 

 それぞれ柱やテーブルをバリケードにした隊員たちが言葉を交わす。大声で話しているのは敵にも聞かせるためだ。増援があることを知らしめ、心理的に追い込む。もちろんやけになって突っ込んでくる可能性もあるが……。

 

「あ、青き清浄なるぐわっ!」

 

 案の定爆弾抱えて特攻を試みたテロリストが、銃弾を受け倒れ伏す。後方でスナイパーライフルを構えたミゲルの仕事だ。

 

「素直に真っ正面から突っ込んで来たら、餌食だぞう」

 

 言いながら、ボルトを操作し排莢、次弾装填。携行性を重視した折りたたみ式のボルトアクションライフル。旧式の武器だが威力と精度は申し分なく、ミゲルはそれを十二分に扱いこなしていた。

 敵――ブルーコスモス系のテロリスト()()()()者たちは、進退窮まっているようだ。激しい銃撃を浴びせて来るが、それも決定打にはならない。

 そんな中、アスランたちの元にラスティがよってきた。

 

「裏口は確保した。いつでも脱出できるぞ」

「応。隊長に報告してミゲルと裏口を警戒してくれ。特に狙撃ポイントに注意を」

「分かってる。……けどもう必要ないかもな」

 

 顎をしゃくって視線を促す。どうやら地元警察の応援が到着したようだ。十重二十重とホテルを囲み、敵に投降を勧告し始める。

 帰ってきたのは銃声。どうやら最後まで抵抗する気のようだ。

 しかしそれも長くは続かなかった。

 しばらく後、テロリストは全員()()する。

 

「……結局今回も全員お陀仏か。どっから湧いて出てくるんだあいつら」

 

 運ばれていくボディーバックを遠目で見ながら、ラスティがため息交じりに言う。見れば他の隊員たちもげんなりした様子だ。

 

「ともかく送れる人間を送り込んでいるだけ、って感じだな。どうにも雑になってきてる。狙撃や搦め手もしてこないし、敵さんも余裕がなくなってきたか? そう思わせておいて油断を誘う手なのかも知れんが」

 

 安心は全然できんなと、考えながらハイネが言った。行く先々で襲撃に合っていれば対策も練れる。訪問先の国と事前に打ち合わせ、スナイパーなどは重点的に注意を払っていた。だからこそそのような手段は使いにくくなっているはずだ。しかしそれでも襲撃を諦めず、無理矢理に近い形で刺客を送り込んでくる。ここまで来ると何か執念じみた、空恐ろしい物が感じられた。

 

「……やはり、情報が漏れているのでしょうか」

 

 沈んだ顔のニコル。暗にクルーゼのことを言っているようだ。

 クルーゼがザフトから逃亡したという話は、元クルーゼ隊の面子には知らされていた。何らかの接触がある可能性を考慮されたのである。当然ながら寝耳に水だし驚きすぎて全員唖然としたほどだ。

 信じがたい……と言うよりは、「あの人ならやりかねない」というような漠然とした空気があった。ラウ・ル・クルーゼという男は有能だが、どこか得体の知れない部分があったのは確かだ。(主に仮面)ザフトを裏切っていたと言われれば、ああそうだったのかと納得してしまうところがある。

 怒りよりも先に納得が来た彼らは、何とも言えないモヤモヤした気持ちを胸に抱えていた。

 

「漏れているんだろうな。最低でも俺達やバルトフェルド隊ではないことは確かだが、確定は難しい」

 

 ふうむとハイネが考える。ザフトから離れた以上、クルーゼが情報源ではないと考えての発言だった。もちろん彼を庇ってのことではない。彼のことに気を取られすぎて視野が狭くなることを危惧しての物である。

 そういった諸々を受け、アスランは考えていた。

 

(ブルーコスモスに独自の情報網があるのかも知れないな。だが彼らの盟主は我々が指示した襲撃ではないと主張している。表向きそう言っているだけか、それとも組織内に亀裂が入っているのか)

 

 盟主アズラエルは中立国内でのテロ(ラクスが地上に降りていることは公表されていない)を末端の暴走だと主張し、ブルーコスモスのメンバーに冷静さを保つよう訴えていた。これまでとは全く逆の主張であるが、それだけ彼も焦っていると言うことなのかも知れない。

 アスランだけでなく、皆大なり小なり思うところがあるのだろう。全員が眉を寄せ難しい顔をしていた。

 その背後で、ラクスが何やら考え込んでいる。筆者的にはすごく嫌な予感がするのだが、生憎と誰もそれに気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大西洋連邦某所。

 なんか誰かさんとそっくりな、ムギャーーーーーーッ!! という悲鳴が上がっている。

 

「何考えてんだよあいつらァ!! いや何も考えてないな絶対そうだるォ!!」

 

 吠えまくってるのは盟主王ことムルタ・アズラエル。彼はここ最近やたらと増えたブルーコスモス末端の、勝手な行動によって生じた諸々に対処するためてんてこ舞いであった。

 勝手な行動をする末端もそうだが、こんな時に地上に降りてきたラクス・クラインも迷惑だ。(彼は独自の情報網によってラクスのことを知った)あんなん地球にのこのこやってきたら狙われるに決まってるやろ。おかしいんちゃうかと、なんかキャラすら変わって思考している。

 ともかくラクスという大物に釣られたのか、末端の連中は全く統制が取れていない状態で馬鹿みたいに襲撃を繰り返していた。それこそ周りの状況を考えないでだ。そしてラクスが巡っているのはプラント寄りの中立国。

 推して知るべしである。もうあちこちの関係者からクレームや物言い――どころではなく殺害予告じみた脅迫まで受ける始末。その中には同じブルーコスモスのメンバーの物もあった。

 ふざくんな俺が何をしたブルーコスモスの盟主だよ分かってるよ。アズラエルは冷静さを失いつつある。もし彼が冷静さを保ちよくよく調べてみたならば、末端の行動に『不自然さ』を感じたのかも知れないが、今の彼には心の余裕が全くなかった。ゆえに視野も狭まっている。

 

「まったく、【ジブリール】の阿呆も調子に乗って煽りやがる。今それをすれば敵を作るだけだとなぜ分からん!」

 

 ブルーコスモスの幹部が一人、【ロード・ジブリール】。彼は以前からアズラエルを一方的にライバル視し何かと突っかかってきたが、今回の件では出し抜くチャンスだと見たようで、暴走している末端を煽りザフトとそれに協力する中立国にダメージを与えるよう指示を出していた。

 本人が目の前にいたら馬鹿野郎この野郎と殴りかかりたくなるような、考え無しの行動である。不用意な襲撃は返り討ちに遭うどころか、ザフトと中立国の警戒を強め、団結力を強める結果となる。中立国を侮っているジブリールは気にも留めていないようだが、1国1国はともかく、徒党を組まれては切り崩しを図っていた今までの努力が水の泡だ。それを全く理解していない。

 アズラエルはテロを否定しているわけでは無く、やるのであれば効率的に効果的に行うべきだと考えている。しかし今の統率が取れていない状況は、全くもって無駄だと言わざるを得ない。ましてやラクス・クラインなんていう毒劇物、下手に手を出したらザフトが暴走するかも知れないと、少し考えれば分かることだ。手を出すにしても少しは頭を働かせてくれと言いたい。小一時間ほど問いただしたい。やるんだったら確実に効果が出る場面でやれこのばかちんどもが。さっきからこの男内心でキャラクターが崩れっぱなしである。

 それはさておいて、連中のせいで自分が押さえに回ったり中立国に対して弁明に回ったりと、本末転倒状態。穏健派の一部などは鞍替えしたのかと勘違いして擦り寄ってくる有様だ。そういったことにまで対処しなければならないアズラエルはオーバーワークどころではない。ろくに睡眠も取れていなかった。

 加えて、重大な懸念がある。

 

「……ともかく、このままだと僕だけでなく家族にも累が及ぶかも知れないな」

 

 今回のことでアズラエルは目立ちすぎている。その結果先にも言ったがブルーコスモス内部からも命を狙われているような状態で、外部からは言うに及ばず。すぐさまどうにかなるものではないが、いつ自分がテロに遭ってもおかしくはない。

 己一人なら何とか乗り越えられる自信はある。だが家族も護らなければならない身だ。幸いというか身内に関しては情報を公開せずブロックしているので、そう簡単には手出しはできないだろう。しかしそれも完全ではない。

 妻子を護るために、『とてつもなく有効な手段』が一つあった。だが、その手を打つべきか、非常に迷う。

 

「あの男に頭を下げるべきか……うぬぬ、だがしかし……」

 

 頭を抱えて呻く。気に食わない、非常に気に食わない人物を頼りにしなければならない手段だ。だがブルーコスモスも、アズラエルグループすらも信用できない状況で、確実だと言える手段は二つとない。

 ムルタ・アズラエルは悩み続ける。時間の猶予はないと分かってはいるが、悩み続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いずことも知れぬ路地裏。クルーゼはそこを早足で進んでいた。

 

「もうしばらく辛抱していただきたい。じきに目的地へたどり着きますので」

 

 先導しているのは浮浪者のような身なりの男。だがその身のこなしから、高度な訓練を受けている物と見える。

 

(さて、私にどんな利用価値を見いだしたのやら)

 

 ()()()()()()()を気にしながら、男の後を追うクルーゼ。その口元は皮肉げに歪んでいた。

 情報漏洩のスパイ容疑(事実)をかけられ身柄を拘束されそうになっていたクルーゼだが、何の前触れもなく襲撃をかけてきた何者かに救い出される形となった。

 こうなればもうザフトには戻れまい。一応『持病の薬』も持ち歩いているが、それも長くは保たない。しかしここを脱したところで行く当てもない……わけではないが、今度はこの謎の存在に追われる羽目になるだろう。いずれにせよ何か自分に用事があるのだ。それを聞いて見るのも一興だ。開き直りとも取れる余裕が、今のクルーゼにはある。

 しばらく後たどり着いたのは、廃墟のような古いビル。その一室に案内されたクルーゼは、通信機越しに何者かと対話することとなる。

 

「ようこそラウ・ル・クルーゼ。こんなところですまないが、歓迎しよう」

 

 変声器にかけられた声は、男女の区別もつかない。クルーゼは鼻で笑った。

 

「わざわざ連れ出して、私に何のようかな? ダブルスパイの末路などろくなものではないと思うが」

 

 最早捨てる物など何もないクルーゼは堂々とした物。変声器向こうの人間は、特に反応もせず話を続ける。

 

「そう慌てるものではないよ。まずはこれを見て貰おう」

 

 傍らに控えていた浮浪者風の男が、無言でテーブルに何かを置く。パッケージされた薬剤のカプセルだ。それを見たクルーゼの顔色が変わる。

 

「これは……」

「貴方に必要な物だろう。『中身』は間違いなく今持っている物と同じだよ。信用はできないだろうがね」

「なぜ、いやどこでこれを知った」

「貴方のことは調べさせて貰った。『本当の出自』もね。我々はそういった人間に対する知識がある。対処する技術も、ある程度は」

 

 己のことが細大漏らさず知られている。その事実を感じ取ったクルーゼは、僅かに身震いした。

 

「貴方の目的は大体は理解している。それは我々の目的にとっても都合の良い物だ。ゆえに我々は貴方に助力したいと考えた。もちろんただで、と言うわけにはいかないが」

「……私に何を望む」

 

 押し殺した声で問うクルーゼ。それに応える声は、どこか嗤いの雰囲気を漂わせていた。

 

「ナチュラルでありながらザフトのトップエースを張ったその力。その能力を買いたい。()()()()()、それを謳う存在を叩き潰すために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ハードな話かと思わせておいて学園系乙女ゲーム……と思わせておいてやっぱりハードじゃねえか。
 始まる前から波乱だぞとりあえずガンダムファラクト2体は買う捻れ骨子です。

 はい遅れましたが更新。運命がねじ曲がっちゃった人たちの話です。まあ大概の人間は運命ねじ曲がってるんですがそこはそれ。代表してこの人たちと言うことで。どいつもこいつも一波乱も二波乱もありそうです。もちろん筆者はあまり考えてないぞ。どうなるんだ!?(無責任)
 よく考えたら原作本編でガンダム乗るはずの人間、誰もガンダムに乗ってないなムウさん以外。そのムウさんたちも運命ねじ曲がってるはずなんですが、どうしてるんでしょうね。決して忘れてたわけじゃないぞ。
 さ、次からの展開もノープランですが、一体どこに転がっていくのか。次の更新が早いか仕事の忙しさのあまり捻れ骨子が倒れるのが早いか。この話の明日はどっちだ。
 まあ倒れるのはいやなので適度に休み休みやってきますからしばしお待ちを。

 では今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24・これはちょっと予想してない

 

 

 

 

 

 さて、色々ごちゃごちゃあったりしたが、肝心要の戦争の方はどうなっているかというと。

 

「膠着状態から続くなあ。願ったり叶ったり……と言いたいところだが」

「思った以上にザフトが粘って、思った以上に連合がぐだってますわね」

 

 一進一退の五分。戦術ディスプレイに映る戦況は、そのようなものだった。

 主に赤道付近に位置しているマスドライバーの取り合い。それを中核として各所で散発的に戦闘が勃発している。その状況自体は変わらないが、内容が大分変化を見せていた。

 まず連合がMSを量産し実戦に投入し始めた。【GAT-01ストライクダガー】。原作ではストライクの簡易量産型で、ストライカーパックなども運用できず単体の性能はジンを僅かに上回る程度の物だったが、こちらではバックパックにオプションを装備できるなど、正規生産型の【ダガー】に近い性能となっている。しかもアークエンジェルで鍛えられたGUNDAM搭載だ。その性能は推して知るべし……なんだが。

 どうにも劇的に戦況をひっくり返すところまではいかないようだ。

 理由は二つ。主にパナマで生産されているストライクダガー、それが配備され始めたのは、主にパナマとカオシュンとジブラルタル。連合側が保持しているマスドライバーの周辺であった。

 つまり連合は、ザフトを攻めるより現在所有しているマスドライバーの護りを固める事を選択したのである。戦力の消耗を嫌った、と言うよりは確実性を取ったのだろう。

 ()()()()()()()

 ……なんでかアラスカと旧イギリス領と太平洋艦隊にも配備が集中してるんですけどー。

 うん大西洋連邦、思いっきりユーラシアと東アジアに牽制始めてんじゃねえか。早速内ゲバ表面化させてどうすんだよ。

 ともかく防衛中心の戦術と、MS戦力の分散。これが『連合側の』戦況に劇的な変化を生まない原因だ。先に述べた確実性を取った、というのは理由の一つ。余裕ができ、それにより内側の方に目を向けだしたこと。さらには、中立国でブルコスを名乗る連中が好き勝手絶頂したせいで、ザフト勢力圏で活動しにくくなったこと。そういった諸々が原因で攻勢に出にくくなったわけだ。

 特に中立国でブルコスがやらかして、現地の反感食らいまくってるのがでかい。ラクス嬢の行く先行く先、つまりプラントに友好的な中立国でやらかすもんだからさらに倍。該当国はカチキレて、中には中立国の看板下ろしてザフトにつくべしと、議会が紛糾しているところもある。

 ……実のところラクス嬢への襲撃は、こじらせた人がブルコスの下っ端をそそのかしてやらせてる可能性がものすごくある。巡り巡って俺のせいとも言えるわけだが……これ色々な意味で公表できねえよなあ。おかげさまでブルコス内部も色々面倒なことになっているようだ。下手をしたら内部分裂を起こす可能性もあった。

 そのままただ瓦解してくれるんならこっちも楽なんだが、そう上手くはいかないだろうな。つか統制効かなくなって面倒なことになるかも知れん。

 ってな感じで表向き冷静さを保っているように見えてやっぱり連合の方はぐだってるんだが、これでザフトが調子に乗ったりするわけではなさそうだ。

 ザフトの方はザフトの方で、連合側に残ったマスドライバーへの攻勢を抑え、軍を再編成している様子が窺える。

 そもザフトの当初の作戦、【オペレーション・ウロボロス】は、連合側に属する全てのマスドライバーを占拠し、連合の勢力を地球に封じ込める事を目的としていた。原作ではパナマを残してあと一歩と言うところまで迫っていたが、この世界だと3つのマスドライバーを落とせず膠着状態に陥っていた。

 だがこの世界のザフトには余裕がある。うちからの支援、そして連合に反感を持った中立国の協力。何より原作より戦力がある。

 原作ではアークエンジェルとキラ君の大活躍()で、ザフトの戦力の幾ばくかが削られてしまった。その削られたのがよりにもよってバルトフェルト隊などの中核を成す部隊だったからさあ大変。地上戦力に統率力がなくなり、結果ザフトは追い込まれ、パナマへの総攻撃と見せかけたアラスカの連合総司令部を強襲する【オペレーション・スピットブレイク】を発動せざるを得なくなった。

 しかしこっちじゃバルドフェルト隊をはじめとする主戦力は健在。地上戦力はまださほど大きなダメージを受けていない。だったら余計にマスドライバー攻略を急ぎそうじゃないか? と思われるだろうが、ここでクルーゼ――『内通者』の存在が浮かび上がってくる。

 俺にも予想外の退場であったが、そうせざるを得ないほどに彼は情報を流出させすぎた。恐らくは原作より状況が上手くいっていないことに業を煮やし、情報を流しすぎたのだろう。流石に看過できなくなったわけだ。そして彼がどこまで情報を連合側に流したのか、ザフトの方でも把握し切れていないのだろう。ゆえに迂闊な動きができなくなったわけだ。

 余裕があり協力的な勢力も増えたことで、持久戦へと舵を切り始めたのかも知れない。あるいは首脳部の頭が冷えてきたか。ともかくある程度冷静な判断をするようになってきたらしい。

 とまあこんなわけで、膠着状態は続いているというわけだ。このままの状態を維持して、双方がこちらの言葉に耳を傾けてくれれば良いのだが……。

 

「どっかで爆発しそうな気がするなこりゃ」

「嫌なことを言わないでくださいまし……とは言えませんわね」

 

 リシッツァがため息をはく。彼女もどうやら俺と意見を同じくしているようだ。

 この膠着状態は仕方がないという面がある一方で、不満をため込んでいる人間も多いだろう。上層部だけではない、一般市民にもだ。何しろ双方天文学的な被害を被っている上、戦意を煽りまくって戦争に挑んでいる。下手に膠着状態が続けば暴動などが起きる可能性もある(もう起こってるところもあるが)し、大西洋連邦などは選挙にも響くだろう。いつまでも動きを停滞させているわけにはいくまい。

 加えてさっきも言ったが一族(ってかマティス)が裏で糸引いてるテロ。それが中立国を引っかき回している。で、ブルコスの下っ端と過激派の中でもアホな連中はやんややんやと大喝采で、もっとやれと煽りまくっているが、盟主を含む比較的まともな方は土下座行脚だ。この辺も亀裂が入りまくっている。これがこちらに都合のよいものとも言えない。何しろ頭ブルコスだ、どうはっちゃけるか分かりゃしないのだから。

 何よりクルーゼ。あれは単に脱走したのではなく、何者かに手引きされていた。それが事前に根回ししていた協力者なのか、それとも一族などの手による物か。そこまでは判別つかないが、生きているならやらかさないはずがない。絶対に迷惑なことするぞあの男。

 そういった状況を鑑みて、このまま収まりはしないと、俺は確信していた。

 問題は。

 

「どこが破裂するか。だな」

「どこが破裂してもおかしくない、と言うところが悩ましいですわね」

 

 俺とリシッツァ、そして周囲の面子はむう、と唸る。政府高官や軍関係者を集めた戦略会議。その真っ最中の話だった。

 

「どこに問題があるかを考えてたら、問題しかなかったってのは笑えん。俺達(オーブ)が介入してこれだ、しなかったらどうなってたか」

 

 大体原作になっていたわけだがおくびにも出さない。もう原作はたらればの話だ。切り替えていこう。

 

「ともかくだ、現状考えうる最悪の展開というヤツを片っ端から上げていこう。一つ一つ対処を考えていく」

「片っ端から、ですか?」

「ああ、全部だ。今夜は寝かさないゾ♥」

「欠片も心ときめかないお誘いですわね」

 

 げんなりとした表情になるリシッツァ。多分俺も似たような物だ。が、やらなきゃ光明は見えないのだ。最悪の状況を考え、さらにはその斜め上をぶっちぎる現実に対し覚悟を決める。やりたくはないけれどやらなきゃ詰み。俺達は嫌々ながらも今後の展開とその対策を討議し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、本当に予想外の展開から事態は動き出す。

 

「【ジョージ・アルスター】外務次官? ……ああ、そういえば外務省の誰かと縁をつなごうとしていたな」

「宇宙安全保障政策室のアーガイル室長ですね。セイラン家の派閥だと記憶していますが」

 

 突然持ち込まれた話に、俺は半ばすっとぼけながら考えを巡らす。

 ここでジョージ・アルスターの名前が出てくるとは。原作のヒロインが一人、【フレイ・アルスター】の父親であり、親馬鹿こじらせて援軍の艦隊に便乗した挙げ句クルーゼ隊に始末されてしまった人物だ。ヘリオポリスから一連の原作展開がすぽーんと無くなってしまったおかげで、関わることはほとんどないと思っていたが。

 

「ふむ、そんな人間がセイラン家ではなく俺にコンタクトを取ろうとしてきたか。しかも内密にと来た。ろくでもない話の予感がひしひしとするな」

 

 俺の台詞に秘書官(チヒロではなく代表首長補佐官付きの男性)が、すました顔で応える。

 

「日頃の行いでしょう」

「言ってくれる。……ウナトに話は通してあるか?」

「は、ウナト様も寝耳に水の話だったようで。アーガイル室長に確認してみるとのことです」

「となると、『商談』ではないか。パイプすっ飛ばして話を持ち込んでくるってことは、『できうる限り人には聞かせたくない類い』の話だろうな」

「外交関係ではない、と?」

「あるいはたれ込みの類いかも知れん。たしかアルスター氏はブルーコスモスのシンパだったろう。内部で何かあって、情報を手土産にこちらへ擦り寄ろうとしているのかもな」

 

 この話自体が何らかの罠、という可能性もある。ブルーコスモスの過激派から見れば俺は目の上のたんこぶだからな。何とかして排除しようと考えてもおかしくはない。

 嫌な予感は、する。とは言っても危機に陥る類いじゃなくて、面倒くさそうな懸案エアーがばりばりと匂う。しかし面倒くさいことを乗り切らなければ道が切り開けないのがこの世界だ。あえて火中の栗を拾いに行かなければならない時もある。

 これを逃せば、後々もっと面倒なことになる。そう感じた俺はため息をはきながら決断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかります。リョウガ・クラ・アスハ補佐官殿。本日は無理を聞いてくださり、誠にありがたく」

「初めまして、M()r().()()()()()()。正直貴方が直接対話を望むとは思っていなかったよ」

 

 モニター越しに俺と会話をしているのは、金髪のやや童顔な男性。そう、盟主王ことムルタ・アズラエルである。

 アルスター氏がコンタクトを取ってきた理由がこれである。彼を通じてアズラエルは俺に非公式の会談を申し込んできたのだ。いくら何でもこれは予想外。何しろ今アズラエルが俺と対話する理由という物が見えてこないからだ。

 いまブルーコスモスは混乱している。しかしだからと言って我々(オーブ)に助力を請うことはすまい。明確な敵ではないが、コーディネーターを受け入れている我が国をブルーコスモスの多くは潜在的な敵対者と見ているだろう。まあ上の方は利用価値があれば利用するくらいは考えるだろうが、まだ堂々と交渉するほどの関係性はない。原作ではアズラエルとサハク家は結構繋がりが強かったが、こちらではさほどでもないのだし。

 それにサハク家やセイラン家を飛び越して直接俺というのが分からない。原作ほどでは無いにしろ繋がりはあるのだ。そちらから伝を頼ってと言う形でもよかっただろうに。ふむ、よほど余人を関わらせたくないのか、それとも。

 思考を巡らす俺。モニター向こうのアズラエルは神妙な様子で言葉を紡ぐ。

 

「筋を曲げてでも貴方と対話する必要があった。そうご理解いただければ」

「ほう? 理解して事に臨んでいると言うことは、それなりの理由があると見たが」

「はい。すでにブルーコスモスの現状は聞き及んでいるかと思います。信じられないことだと思いますが、今の状態は私の望んだ物ではありません」

「貴方は方々にそう訴えていたが、それは本心である、と?」

「ええ。正直今のブルーコスモス末端は、まるで制御できていない。お恥ずかしいことですが、盟主たる私の言葉も響いていないようなのです。その原因の一つは分かっているのですが」

「……ラクス・クライン。彼女の存在か」

「その通り。わざわざ地球くんだりまでやってきて友好国を巡る、そんなことをやらかしてくれたおかげで、血気に逸る者たちが勇み足を踏み、それに続く物が続発する始末。さらには一部の幹部がそういった者たちを煽って、最早収拾がつかない有様です。私としては不愉快極まりない」

 

 やるんだったら自分の指示の下完璧に、とでも思っているのか。思い通りに事が運ばなくて苛ついているのが言葉の端から見て取れる。

 その血気に逸ってる連中は某面倒くさい女の差し金で踊らされてるんだけどな~、と思っただけで口にはしない。ちょっと盟主王がかわいそうすぎる。まあそれはさておいて、まだ俺に繋ぎを取った理由が見えないな。

 

「貴方の現状は分かった。それに納得がいかないのもな。……しかしなぜ私と相対しようとする? 私に……オーブに助けを求めようとするならば、それは『悪手』だ。ブルーコスモスの盟主としても、大西洋連邦の経済界重鎮としても、国防産業連合理事としても。どの立場においても露見すればただではすむまい」

 

 オーブと大西洋連邦の間柄は表だって敵対関係ではないというだけで、決して味方ではない。むしろ互いに最大限の警戒を抱いている間柄だ。そんな状況で連邦の上層部にも影響を与える人間が周囲を出し抜きオーブに助力を請うような真似をして見ろ、露見すれば蜂の巣をつついたような騒ぎになる。アズラエル自身の立場どころか、命すらも怪しくなるだろう。

 そういった俺の考えを、アズラエルは()()()()()()()()

 

「ええ、()()()()()()()()()()()。むしろ悪手でも打たなければ、この状況を覆すことはできない。そう考えてのことですよ」

「なんと?」

 

 何を考えている? いや、なんとなく読めては来たが、確証がない。僅かに眉を顰めた俺を見て、アズラエルは得たりとばかりににやりと笑う。

 

「今の戦争に我々は勝たねばならない。これは前提条件です。そのためには足下のぐらつきを正さねばならない。ユーラシアや東アジアとの対立、これはまだ許容範囲です。いずれは雌雄を決せねばならない相手。むしろこれを機にイニシアチブを取るよう動けば良い。ですが大西洋連邦内部で足並みが乱れるのは座視できない。下手をすればブルーコスモス排斥の動きすら起こりかねないと私は考えます。盟主としても、それ以外の立場からしても、現状を改善させる必要がある」

「その直接的な手助けを……と言うわけではなさそうだ」

「話が早くて助かります。現状を変えるにしても、中立国の助力を仰ぐのはあり得ない。それを機にブルーコスモスの中央に介入するきっかけを与えてしまいますからね。……私が貴方に望むのは、不介入。最低でもブルーコスモス内の諍いに首を突っ込むなと、そういうことです」

「釘を刺しに来た、ということかね」

 

 それだけではないと分かっていて、俺は言う。さすれば答えは。

 

「もちろんただで、とは申しません。私の勢力の及ぶ範囲で、オーブには手出しをさせないと約束しましょう。もちろん言葉だけでは信用できないでしょうから……」

 

 僅かに勿体ぶって、アズラエルは言葉を紡いだ。

 

「療養の名目で、()()()()()()()()()()()()()。その意図は理解していただけるでしょう?」

 

 なるほど、そう来たか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 リコリコは、良いぞ……っ!
 久しぶりに円盤買いたくなるアニメに出会いました。よし注文だ。
 こうしてまた財布が軽くなる捻れ骨子です。

 はいやっとの事で更新。8月中は死ぬほど忙しかったのでそも文章書いている余裕がありませんでした申し訳ない。最近になって余裕ができたのでサバゲにでも行ってこよう文章書くんと違うんかい。
 それはさておき盟主王との直接対決です。初っぱなから怪しい空気が漂ってますがまだ序の口。次回はとんでもない展開が貴方を待つかも知れませんが保証はできかねます。返品は受け付けておりません。果たして盟主王はどんな無茶振りをするのか。あるいはされるのか。普通の交渉? そんなもんがこの話にあるわけないじゃない。そんな常識的な期待しちゃダメですよ。

 と言ったところで今回はこのあたりで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25・転んでもただでは起きない

 

 

 

 

 

 思い切った判断。そして()()()()()()。そう感じながら俺は話を続けた。

 

「普通に考えれば悲壮なる覚悟を持って、と言ったところだろうが……このご時世だ、『それがどれほどの枷となるか』、信用できかねる。大昔の戦乱の世でも、親子が殺し合うなど珍しくなかったんだ。ましてやこんな世の中ではね」

 

 めっちゃ効果があるんだろうがな! あえて気づかなかったふりをしてやる。こっちとしても簡単に受けていい話じゃないし。

 

「ごもっとも。何の保証も無しに信用しろと言われて、ハイそうですかと頷くのは阿呆のやることです。ですので他に担保を預かっていただきたいと」

「ほう? 何かな」

「私の持つアズラエルグループの株。その半分をオーブに預けようと思います」

 

 なるほどな。目に見える形で己の『力』を差し出そうというわけか。アズラエルグループは彼の一族経営だ。保有する株はかなりの割合になる。つまりグループへの影響力が減少すると言うことだ。もちろんこんなことアズラエルの思いつきでできるわけではない。この対談を行うに当たって準備していたと考えるべきだろう。

 グループだけではない。財力を下地にした各方面への影響力も低下するはず。下手をすれば今の立場を追われる可能性だってある。さらに言えば、益々ブルーコスモスの制御ができなくなるのではと思うが。

 俺の考えを読んだかのように、アズラエルは続ける。

 

「私の行動は、見る者が見れば()()()()()()にも見えるでしょうね。あるいは()()()()()。私が後ろ盾をしていた連中は、さぞかし慌てることでしょうねえ」

 

 底意地の悪い笑み。

 

「当然、押しかけてくるでしょう。どういうことかと問いただしに。そこでぶちかますわけですよ。『何者かの介入があり、ブルーコスモス末端の制御ができなくなっている』と。そして、『その責任を取ることも考えている』とね」

 

 マティスの暗躍に気づいた……わけではなさそうだ。はったりか。恐らくはブルーコスモス内で煽っている連中、ジブリールあたりを生け贄にする腹だろう。同時に今の立場から退くことを匂わせ、支援している者たちの危機感を煽る、と。

 オーブに接近すると思わせるだけで、色々勘ぐる者は出てくるだろう。周囲の判断力を低下させ、状況を自分の思うとおりに動かそうと画策する。ふむ、思った以上に策士だな。

 だが……。

 

「しかしそのやり方では、ブルーコスモスの勢力を低下させることにもなる。貴方も本気で退陣しようというわけではないだろう?」

 

 このやり方だと、ブルーコスモスの内紛は確実に起こる。これを機にアズラエルは自分の意に従わない者を追い落とす、あるいは処理するつもりなんだろうが、その結果ブルーコスモスの勢力は弱まる。これまでと同じような影響力を維持できるとは思えなかった。

 そう考えていたらば。

 

「いえ、退陣は本気で考えています」

「……どういうことだ? ブルーコスモスは貴方の一族が大きく関わっている。政財界にも深く食い込んでいるはず。簡単に立場を捨てられるような物ではあるまい」

 

 嫌になって全部投げ出し妻子と共に隠遁する。そう言ったことをやり出しかねない状況にはあるが、まだその段階ではないだろう。どういうつもりだ?

 

「多少の犠牲を払ってでも組織を整理する必要があるのは当然ですが、その責任を取らねばならない立場に私はいます。状況によっては盟主を退くのも選択肢に入るでしょう。……というのは表向きの理由でしてね」

「ほう?」

「正直、今のブルーコスモスはイメージが悪くなりすぎている。大西洋連邦内ならまだしも、中立国での行いが致命的すぎます。私は中立国自体は取り込むべきだと考えていましたから、むしろ末端の行動は邪魔でしかありません。彼らの行動で中立国に圧力をかけていける、などと考えているのは先の読めない者ですね。どちらにしろ害にしかならない。これらを排除できず組織の立て直しを図れないようなら、一度解体するのも手かと」

「なるほど、()()()()()()()()()()()ことも視野に入れているわけか。使えそうな人間は引き抜いて」

 

 大胆な判断だ。だが分からないでもない。ブルーコスモスのような組織に出資しているような人間は、その組織が使えないと分かった途端距離を置こうとするだろう。そして別によりよい組織があればそれに乗り換えることを躊躇わない。要は何でも良いのだ。それが『都合よく利用でき、かつ己の正義を満足させる物』であれば。

 恐らくはすでに国防企業連合や軍産複合体(ロゴス)には働きかけている。自分の会社(アズラエルグループ)も手を入れ始めているのだろう。ブルーコスモスの矯正ができなければ……と言うつもりらしいな。

 いやはや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、よくもまあここまで大鉈を振るう気になる物だ。いやだからこそか。原作で彼の家族関係ははっきりしなかったが、こっちではかなり状況が違っているらしい。でなければブルーコスモスの盟主という立場を投げ捨てる覚悟など持つものか。こういう部分は好感が持てないでもないがね。演技かも知れないけれど。

 まあ、もうちょっと付き合ってやるか。

 

「そこまで私に明かすのは、少々サービスが過ぎるな。何を期待している?」

「いえいえ、こちらの事情もしっかり説明しておくのは、誠意という物ですよ。先に言ったとおり、私はオーブと敵対する意思は今のところありません。ですのでもしオーブにちょっかいをかける、ブルーコスモスを名乗る者がいるとすれば、それは『名を騙る偽物』でしょう。お好きに処理していただければ」

 

 おいおいぶん投げやがったぞこの男。先に警戒させて、結果的に妻子の周辺の安全を図ろうって腹なんだろうが。 

 

「正直今語った諸々のおかげで、オーブを敵に回している暇はないと言ったところでして。いい加減今の戦争も、落とし所を探る頃合いですし」

「意外だな。貴方はコーディネーターを滅ぼしたいほど憎んでいる物と思ったが」

「ええ、憎んでいますよ。特にプラントのコーディネーターは絶滅してしまえと思うくらいには。……ですがね、それでは()()()()()()()()()()。個人的な感情はともかく、商売人としては許しがたいことです。連中には是が非でも損失を補填してもらわねばなりません。はらわたが煮えくり返るようですが、滅ぼすわけにはいかないのですよ」

 

 ふむ、原作よりはまだ商人としての損得勘定が勝っているということか。プラントの持つ技術力、生産力を丸ごと失うのは大損だという認識があると見た。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()開戦が早まり、我々は後手に回ってきました。もう後れをとるわけにはいかない。そのためにも大西洋連邦内……いえ、連合内の不安要素は排除しておきたいところです」

 

 血のバレンタインは自分の思惑ではなかった、そう主張しているが、それはあまり信用できんな。どちらかといえば、核攻撃でおとなしくなると思ったら手痛い反撃(ニュートロンジャマー)食らわせてきて計算が狂った、といった方がすんなり納得がいく。話半分、と思っておこうか。

 いずれにせよ、これまでとは方針を大幅に変えることには違いなく、そしてそれは全て妻子を守るためであろう。そのためにオーブを利用する腹だ。こちらとしてはアズラエルの弱みを握られるが、妻子に何かあれば即座に敵に回る。この話を受けなくても同じ事。積極的に攻勢に出はしないだろうが、敵になることには違いない。

 さて損か得か。俺の判断は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この話、受けるべきだと俺は思う」

 

 会議の席で、俺はそう主張した。

 ざわつく首長連中と有力氏族当主。驚いている……わけではなく。

 

「今度は何を企んでいる……リョウガ殿が」

「謀る気満々といったところですな……リョウガ殿が」

「大方利用するだけ利用しようという腹なのだろう……リョウガ殿が」

 

 ある意味信頼度高ぇなおい。ちっとは別な方面で訝しがれや。

 愉快な連中の様子を見回してから、親父殿が咳払いを一つ。そして俺に問いかける。

 

「……それで、なぜその判断に至ったのか、理由を聞かせてもらおうか」

「そうだな、ムルタ・アズラエルという人間は信用できんが、この件はきっかけになり得る。オーブが介入するきっかけにな」

 

 アズラエルは言った、落とし所を探る頃合いだと。これは停戦交渉をも視野に入れていると言うことであり、それを俺に伝えたと言うことは、仲介を期待していると言うことだ。アズラエルもブルーコスモス関連に手出しをするなとは言ったが、戦争に関わるなとは言っていない。さらにはブルーコスモスの解体も視野に入れているという話。あれを交渉条件に盛り込んでくることも考えているのだろう。

 もちろんプラントを敵視することをやめるという事じゃない。使いにくくなったブルーコスモスを生け贄に、プラントの油断を誘うという腹だ。後は新設した組織で色々画策するのだろう。一石何鳥にするつもりやら。

 ……ってなことを皆に説明してやる。まあ彼の本心は、妻子を護ることが最優先だなんて言っても余計に信用できないだろうし、それだって俺の勘だ。説得力は無い。

 会談の締めくくりに、俺はこう言った。「己の築いてきた物と、家族を天秤にかけるかね」と。その言葉に、アズラエルはこう答えた。「あなたには、分からないでしょうねえ」と。ふっと気障ったらしい様子で宣った台詞だったが、俺は彼の背後に血涙を流して悔しがる? 顔が見えたような気がした。そこに本心があると俺は感じたが、それが余人に分かるとは思えん。そこら辺はおくびにも出さずに、あくまでオーブの利となる点で説得する。

 

「アズラエルがオーブと接触したという事実。そして保有するグループの株の半分をオーブに移したと言う事実。この二つだけで連合の政財界はてんやわんやになるだろう。表でも裏でも『付け入る隙』が生じる。彼は()()()()()()()()()()()()()()()()。もちろん彼が俺達を謀っているという可能性はある。だが自ら動こうと言うほどの謀りだ、動きは大きいし、嘘があれば必ずぼろが出る。そこに付け入るのは難しくない」

 

 俺がこれまでやらかしてきたことが、ここで説得力を生む。アズラエルが何か仕掛けてきたとしても乗り切れるという説得力が。俺はぐるりと会場を見回した。

 

「リスクはあれど、乗る価値はあると俺は見た。……皆の意見を聞こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、アズラエルの要望は叶えられることとなった。

 上手く利用される形となったわけだが……流石と言うべきか、転んでもただでは起きない類いの人間だったようだ。あくまで自身の本心を隠し、目的を果たすために大胆な手を打つ。そしてそれに複数の意味を持たせるなど、中々できることではない。

 甘く見ていたつもりはないが、思った以上に厄介だな。敵に回すのは上手くないが、さりとて味方にできるかどうか。妻子を出汁にするというのは悪手だな。下手をすれば虎の尻尾を踏みかねない。余計な手出しは無用と、徹底的に周知させておかねば。

 ともかく、アズラエルと繋がりを持つことができた。これをどう生かすか、手腕が問われるところだ。

 面倒が増えただけのような気がするが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。乗り切らなければ明日は来ない。

 さて、どう悪巧むかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 水星の魔女も始まるというのに、ウルズハントはどうなってるんだよ音沙汰無いぞ。
 まさかこのままフェードアウトするんじゃあるまいな。ってSEEDの映画もどうなってんだよ説明しろ苗木ぃ! 唐突に関係ない人に無茶振りする捻れ骨子です。

 はい更新です。今回は盟主王と喋ってるだけ。色々言ってますがこの人妻子のことしか考えてないぞ。下手したら全てなげうってオーブに亡命しかねんのじゃなかろうか。それはそれで面白くなりそうだと筆者のゴーストが囁いていますがどうしよう。
 まあ相変わらずのノープランなのでどう転ぶかは分かりません。コーディネーター嫌いが治っているわけじゃありませんし、ザフトの方もどう反応するやら。
 先行き不透明なまま次回へ続きます。行き先はキーボードに聞いてくんな。(無責任)

 そんなこんなで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26・それはちょっと無茶振りすぎない?

 

 

 

 

 

 さて、アズラエルとの密約は成ったわけだが、すぐさま状況が動くわけではない。こちらとしてはまず彼の妻子の安全が最優先。そのため受け入れの準備に追われている。アズラエルはアズラエルでしばらくは水面下での動きに徹し、派手な行動は控えるようだ。

 当然この件に関しては公表を控えている。とはいえ情報は漏れているだろう。俺もそれを積極的に防ごうとはしていない。オーブ側だけで全てが防げる物でもないし、またこの情報には利用できる部分もある。偽の情報も混ぜれば良い攪乱になるだろう。

 簡単に事は進まないというのは分かっている。今まで戦争を推していた立場の人間が、交渉を視野に入れているというのだ。そうそう信用できるものではないし、影響も大きければそれに付随する諸々の問題も多い。戦争を続けるよりも手間がかかるのは明白だった。

 この機に我が国は中立国との関係を強める。具体的には輸出仕様のアストレイ(シビリアンアストレイに匹敵する物)や武器関係の輸出を開始することになった。元々自国の戦力が不十分で、連合軍が手を引いたからザフト寄りになったという国もある。そういった国々が戦力を欲するのは当然の流れだった。

 それと同時にMSパイロットとしての技術や戦術を学ぶため、軍人の交換研修を進めている。これは前々から計画されていたことだが、クリスティーヌとのお見合い騒動などの影響もあって、他の中立国から次々と要請が入ったのだ。

 技術的なことだけじゃなく、コネ作りと言うことも考えているようだ。中にはあからさまに俺や要人に対するハニトラじみた人選をしているところもあったからな。もちろん却下してやったが。これ以上問題増えてたまるかい。

 とまあオーブを中心とした動きはこのような物だが、問題はプラントだ。積極的な攻勢は控えているが、未だに交渉の窓口を開こうとしない。これに関してはバルトフェルドも頭を抱えているようだ。

 多分向こうは意見が分かれているのだろう。攻勢に出るか、それとも交渉に応じるべきか。まだ攻勢を強めるべきだという意見が強いから、交渉に応じる動きに出られないと見た。

 かといって攻勢に出るのも躊躇われる。本来電撃戦で一気にマスドライバーを制圧するはずが、今の今まで手こずっている。タカ派の中にもそろそろ現実が見えてきている者も出始める頃だ。もたもたしている間にも連合は戦力を整えていくが、かといって今の戦力で攻めきれるかどうか。それにどこまで連合に情報が漏れているか分からず、これまで立てていた計画を練り直さなければならないという状況でもある。攻勢に出たくても出られない、と言うのが正確なところであろうか。

 その代わりといっては何だが、中立国との関係は強まり、戦力的にも物資的にも余裕ができてきている。棚ぼた的な結果であるが、バルトフェルドを筆頭とした現場の穏健派と、ラクス嬢の尽力も大きい。プラント寄りの国家から働きかければ、交渉の席に着こうという方向に流れる可能性もある。

 とはいえこのあたり何の安心もできんのだよなあ。地上から戦力を引き上げてないから、ジェネシスを含む大がかりな作戦はまだ用意できる段階にないのだろう。その分時間をかけて何か画策していないとも限らない。様々な手段で監視させているが、それだけで全てをフォローできるでも無し。

 う~む、プラント内に情報の伝が欲しいところだが。無理はできんか。マルキオ導師の伝はそういった方面ではあまり食い込んでいないからな。精々がプラントの表面的な内情しか分からん。導師はむしろジャンク屋とかの関係で動いて貰う方が良いし、あまり無茶なことは言えん。

 今のところはバルトフェルド頼りだ。彼には負担をかけてしまうが、ザフトで信用できる人間が他にはいない。将来的にはともかく、現在はプラントを丸裸にできるほどの情報を得ることはできなかった。原作知識と先読みで何とか先手を打ててはいるがな。

 ともあれ嘆いていても問題は解決しないし、見えなくとも事態は動く。今はできることをやるしかない。

 やるしかないんだけど。

 

「リョウガ様リョウガ様、MSって面白いですね!」

「……気に入って貰ったようで何よりだよ」

 

 キラッキラした笑顔で楽しそうに報告するのは、姫さん(クリスティーヌ)。MS操縦の訓練を受けたら、相当にお気に召したらしい。

 うん、それはいい、それはいいんだけどさ。

 

 正 直 う ら や ま し い

 

 こちとら仕事に追われてMS操縦関係全く手を出せないんだぞ!? 折角ガンダム世界に生まれてんのにMS動かせてないじゃん。ないじゃん! いや生身の訓練時間減らしたら余裕できるかも知れないけれどなあ、俺の立場でMS操縦する機会ねえだろってことで、後回しに後回しにしてきた。俺の立場で生身の戦闘すんのもどうかと思うが襲ってくる奴らがいるから仕方ないじゃん。そっちの方はやたらと経験値積んだが。

 ……それはともかくとして、姫さん以下交換研修の人員は順調にカリキュラムをこなしている。むしろ姫さんはこなしすぎてるような気がするがそれはいい。この様子なら、MS戦闘に関しては程なく実戦投入レベルに仕上がるだろう。

 この研修を元に、他の中立国に対しての教育プログラムが構築される。輸出されるMSの扱い。それを用いた戦術、戦略の基礎を叩き込むのだ。これからはMSありきの戦場に移り変わっていく。どこもそれに乗り遅れまいと必死になる。中立国の戦力の充実は、寄り多くの戦乱を招く恐れもあったが、中立国が力を持つことはオーブにとって有利に動く。この機会を利用するだけ利用して、後々のためにしなければならない。スカンジナビアとの交換研修はそのための第一歩だった。

 

「レポートは見せて貰った。特に問題はなさそうだな。姫さんの目から見て、研修のメンバーはどうだ?」

「若手の選抜ですからね、飲み込みは良いです。できれば実戦を経験させておきたいところですが」

「CSSの伝で傭兵として戦場に送り込めないでもないが……色々と勘ぐられると厄介だな。精々がジャンク屋関係の小競り合いや、海賊討伐程度だ。それでも実戦には違いないが、経験が積めるかどうか」

 

 うちの軍の特殊作戦群なんかは、こっそり傭兵として各地に派遣していたが、それと同じ事をスカンジナビアの面子にさせるのは流石に無しだ。姫さんなら平気でこなしそうな気はするけれど。

 

「まあ、うちでやれることはやったつもりだ。後はタスクをこなした者から順次本国の人間と交代していくわけだが……姫さんは当面戻る気はないんだろう?」

「ええ、貴方を口説き落とさなければなりませんから」

「それはいいから。つかうちのチヒロとリシッツァに変なこと吹き込むのはやめてくんないかなあ」

「え? 普通に3人で爛れた関係に移行しないかと誘っているだけですよ?」

「普通じゃねえよ」

 

 ホントもうこの子は通常運転だよなあ。(通常運転=リミッターなし)最近チヒロとリシッツァの俺を見る目がおかしいんだけど、洗脳とかされてないよな? 勘弁してくれよマジで。

 

「そこらあたりはホント自重してくださいお願いします。……とまあ俺の本音は置いといて、国元からの情報は何かあるか?」

「そうですね。国ではリョウガ様とアズラエル氏の関係が気になっているようで」

「ほう、目端が利くな」

「積極的に隠す気はなかったのでしょう? それで、そのことに関して何かお手伝いできることがあれば、と言っています。要は『一口かませて頂きたいと』、そう言うことらしいですね」

「ふむ」

 

 スカンジナビアがアズラエルとのことを探り当てるのは想定内。絡んでこようとするのもだ。彼らとしては早々に戦争が終わって欲しいし、その後の政治的イニシアチブも取りたいところだろう。一口噛もうとするのは当然のことだった。

 こちらとしてもスカンジナビアの助力があれば事を運びやすい。プラントに寄った中立国に働きかけるには、オーブ以外の国にも動いて貰う方が良いからな。まずは交換研修を口実に、それぞれの国家と対話を行うか。スカンジナビアからもそう言ったところから働きかけて貰うとしよう。

 ……などと考えて実行し始めたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それはまた、突飛な」

 

 ロン・ヤアとして連絡を受けた俺は、自分の表情が微妙な物になるのを自覚していた。

 

「まあそういう反応になるだろうよね。俺もそうだった」

 

 画面向こうのバルトフェルドと、多分同じ表情になっているのだろう。2人揃って何でこんな顔になっているのかというと……原因は一つしか無いわな。

 

「非公式で()()()()()()()()()()()()()()()()などと言い出すとは。……いや、ラクス嬢らしいと言えば良いのでしょうかね」

 

 これである。あのお姫さん、またとんでもないことを思いつきやがった。ことごとくこっちの予想を外してくるのはもう、ヒロイン補正なんだろうか。その割にはキラ君ガンダムに乗ってないし主人公補正発動している様子はないが。

 とにもかくにも、ラクス嬢はとんでもないことを思いついた。不倶戴天の天敵であるブルーコスモスの人間と直接会談を望むなど、正気の沙汰ではないように見える。だが彼女は物狂いの類いではない。歴とした(最低でも彼女の中で成立している)理由があるはずだ。

 

「彼女は詳しいことを話すため、リョウガ氏との対面を望んでいる。こんな時期に何をと思われるだろうが……」

()()()()()()()()()()でしょうね。戦況は停滞しているが水面下での動きはある。そしていつ状況が破裂するか分からない。手遅れになる前にと言ったところでしょうか」

 

 実際ブルーコスモスと対話する機会があるとすればこの時しかない。末端が暴走し盟主がそれを抑えるなんて状況だ。過激派にとってもそうだが、()()()()()()()()()()である。あわよくば盟主の動きを利用して自分たちの発言力を高める事も狙えるだろうから。プラント首脳部の関係者との対談など、成功させれば得る物は多い。もちろんその分危険性はあるけれど。

 ふむ……アズラエルとの会話に出た、『名を騙る偽物』をつり出す餌にもできるか。無茶振りではあるが、やってやれないことはないな。このラクス嬢の行動が、プラントを動かすきっかけになるかも知れんし。

 安全性と利益を天秤にかける。まず間違いなくマティスは手を出してくるな。もしクルーゼの逐電が彼女の手引きだとしたら、いやそうじゃなくてもヤツが関わってくる可能性はある。名を騙る偽物ことロード・ジブリールを筆頭としたあほども過激派も。場合によってはプラントの連中もか。そういった連中を相手取って、どれだけの効果が見込める? 未知数ではあるが……今までに無い一手であることには違いない。

 脳裏で算盤を弾き、勝算を見出してから、俺は返事を返した。

 

「……分かりました。オーブに渡りを付けましょう。マルキオ導師に立ち会いをお願いしようと思いますが、よろしいか?」

「感謝する。そのように伝えよう。こちらからは何人か護衛を出すことになるが、構うまい?」

「無論です。お互い用心に越したことはありません。石橋を叩くつもりでお願いいたします」

 

 こうして俺は再びラクス嬢と相対することになった。とんでもない無茶振りをされることとなったが……俺にも考えつかなかった一手だ。状況を打開するきっかけに成りそうだという予感がある。あるいは悪手にもなり得る危険性もあるけれど、やってみる価値は十分にあると踏んだ。あとはこれをどう上手い方向に持っていくかだ。

 しかし最近人の提案に乗ってばかりだな。いや、それぞれが考えて行動していると言うことだから悪いことばかりではない。それに俺は原作という筋から離れて状況が動いているという手応えを感じている。やはり世界は『生きて』いるのだ。そこにいる人間の行動で運命は変えられると信じられた。

 ならば悪い方向に向かないよう死力を尽くすまで。俺は決意を改め一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、その前に、アズラエルの妻子の受け入れ準備が整った。意外に早い展開だったが、できるだけ早く安全を確保したいというアズラエルの思惑が働いた結果だ。ホント家族第一主義だなあの男。

 で、彼女らの出迎えは俺が直々に行うことにした。できるだけ余人を関わらせたくなかったし、アズラエルほどの人物が後生大事にしている人間だ。どういった人物か興味もあった。

 

「ようこそオーブへ。大した歓迎もできないが、そういう物だと理解して頂きたい」

「とんでもない。代表首長補佐官直々のお出迎え、痛み入ります」

 

 謙虚な態度で頭を下げるのは、どこか儚げな様相を見せる美女。アズラエルの奥さんだ。

 

「【サリー・アズラエル】と申します。このたびはご面倒をかけることになりますが、よろしくお願いいたします。ほらイリアン、貴女もご挨拶なさい」

 

 奥さん――サリーから促され、おずおずと前に出る幼女。5才くらいか、もじもじと上目遣いにこちらを見るその幼女は、しばらくして意を決したかのように口を開いた。

 

「け、けっこんしてください!」 

 

 ……斜め上の無茶振りが来たぞおい。

 俺はこの時、アズラエルがどういう心境で俺に頭を下げたのか悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラ紹介

 

 

 サリー・アズラエル

 

 アズラエルの奥さん。儚げな印象の美女だが、実はかなり芯のしっかりした人物らしい。

 どうやらほとんどブルーコスモスの思想に染まっていないようだ。アズラエルとは恋愛結婚らしいのでそのあたりに理由があるのかも。

 モデルは某貧乏バイトヒロイン。旋風児の嫁だからね。

 

 

 

 

 

 イリアン・アズラエル。

 

 アズラエルの娘。5歳児。外見は母親似だが中身は……?

 なお名前はギリシャ語のイリアンソス(ひまわり)のもじり。察しろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々の模型イベントでテンションが上がる。
 しかし来年参加できるかは分からない。作ってる間が捻出できるか怪しいから捻れ骨子です。

 はいリョウガさんに対するラクス嬢の無茶振り~……と見せかけて別な方面から無茶振りが殴りかかってくる展開。だからアズにゃん心の中で血涙流してたんだよ。
 思いついたはいいがこの後の展開何も考えてません。いつもだよ。どうせリョウガさんが苦労することになるんです。彼の手腕に期待しましょう。(ここでも無茶ぶる)

 そう言うことで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27・キャラの強い女性しかいない

 

 

 

 

 

「イリアン? いきなり失礼なことをしてはダメと言ったでしょう?」ギリギリギリギリ

「いたいいたいママギブですギブ」

 

 穏やかな笑みを浮かべ額に青筋を立てたサリーさんが、イリアン嬢の頭を掴んで片手で持ち上げていた。意外と力あるなあと、半ば現実逃避しつつ思う。サリーさんの手の下でイリアン嬢の頭が嫌な音を立てているのは聞かなかった方向で。

 え? さっきからなんでさん付けなのかって? だって怖えぇもん。

 

「……大変失礼をいたしました。後できちんとちょうきょ……言い含めておきますので、ご容赦くださいませ」

「ううう……ごめんなさいです」

 

 調教って言おうとしたか今? ともかく神妙な顔で頭を下げるサリーさんと、涙目になりながらそれに渋々倣らうイリアン嬢。うむむ、見た目と違って肝っ玉母ちゃんエアーをビリビリ感じるぞ。さすがは盟主王の嫁と言うことか。

 微妙に戦慄しながら、俺は「……中々個性的なお嬢さんで」と返すしかなかった。さすればサリーさんは、ため息を吐いて困ったような様子で言う。

 

「本当に、どうしてこんな娘になったのやら。なぜか乳幼児の頃から見目麗しい男性に目がなくて……」

 

 どっかの幼稚園児の妹かよ!? 事実はフィクションよりも奇なりって言うけど、奇過ぎるわ。

 

「特にリョウガ様をニュースで見かけてからは、もうぞっこんで……今日も面会させるかどうか悩んだのですけれど、こんな子だと知らしめておいた方が対処しやすいのではと思いまして」

 

 やらかす前提なんだなあ。ともかくアズラエルが心の中で血涙流している理由がよく分かった。問題はあれど可愛い我が娘が、よりにもよって潜在的敵対関係になってる男にご執心ともなれば苦悩するわ。むしろ原作張りにカチキレてもおかしくないだろこれ。

 俺に交渉を持ちかけた鋼の自制心には感服する。そうするのが現在もっとも安全性が高いと分かっていても、中々やれることじゃない。心の中で彼の評価を一つあげて、俺は口を開いた。

 

「まあ、はしかのような物でしょう。そのうち落ち着くと……思いますよ?」

 

 我が事ながら微妙に疑問符を付けた回答である。うん正直歳を取ったからと言ってこの子が落ち着くところが想像できない。むしろはっちゃける姿が目に浮かぶ。

 と、イリアン嬢はぷくーっと頬を膨らませた。

 

「はしかなんかじゃありませんのです! がちらぶですさいおしなのです! わたしはしんけんにけっこんをいたいいたい」

「イリアン?」ギリギリギリギリ

 

 再びのアイアンクロー。ダメだこの娘ちっとも反省がねえ。彼女らの護衛についてきた黒服たちは、何もかもを諦めきったような無表情だった。気持ちは分かる。

 

「本当にもう、いい加減になさい。そんなことではお世話になる以前に追い出されてしまいますよ?」

「ううう……おいだされるのはいやなのです」

 

 頭を押さえて涙目になるイリアン嬢。嫌とは言ったが反省しているとは言っていない。しおらしい様子を見せ、上目遣いで訴える。

 

「ならばせめて、せめてさいんだけでもいただきたいのです」

「サイン?」

「ええ、こちらのほうに」

 

 そう言いつつ肩から下げていたポシェットから一枚の紙を取り出し、こちらに差し出してくる。

 

 

 婚姻届だった。

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 ゴリゴリゴリゴリゴリ。

「いたいたいいたいうめぼしははんそくなのですママ」

 

 やっぱり懲りてなかったか。無言でイリアン嬢を折檻するサリーさんの様子に、俺は深々とため息を吐く。

 やれやれ、また濃っゆいのが関わり合いになったもんだ。そう思うと同時に、俺は『ある懸念』を抱かずにはおられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奥方とお嬢様、特にお嬢様の方を重点的に監視しろと?」

「ああ、表と裏双方でな」

 

 アズラエル夫人&娘を要人警護プログラムに組み込んだ後、俺はリシッツァに指示を出していた。

 二人に対する監視の強化。俺はそれが必要であると感じている。特にイリアン嬢には、だ。

 

「あのお嬢さんは『やらかすタイプ』だ。かつて国家元首の股間を襲撃したどっかのガキと同じくな」

「だとしたら確かに危険ですが……まだ5歳児ですのよ? 大それた事が出来るとは思えませんけれど」

「油断してたら斜め上の方向にかっ飛ぶぞ。ある意味そこいらの大人より注意が必要と思っておいた方が良い」

 

……とかいうのは表向きの理由である。実のところ、俺はイリアン嬢にある疑いを持っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 発想がぶっ飛んでいるので分かりづらいが、彼女はかなり聡明に見える。あるいはそのぶっ飛んだ発想も演技である可能性があった。随分と身体を張った演技ではあるが。

 もしかしたらまだ記憶がちゃんと戻っていない状態なのかも知れない。俺も前世の記憶が戻ったのは10歳かそこらだ。無意識にあのような行動を取っている……だったら元々ぶっ飛んだ人間である可能性もあるんだがそれは置いておいて。

 ともかく俺達2人の共通点は、『原作には登場していない人間』というところだけだ。まだ断定できるようなものではないし、疑念があるというレベルだが、用心に越したことはない。最悪原作知識を総動員して邪魔されたら目も当てられないからな。かといってその立場上簡単に処理できる物でもない。やったらアズラエルが敵に回るどころではすまない。なりふり構わず全力で俺を潰しに来るだろう。ひょっとしたら、彼の変貌もイリアン嬢の思惑による物かも知れない。

 イリアン嬢の行動を制限しつつ、転生者であった場合は何とか説得したい。敵に回すのは最終手段。願わくばそうならないことを祈りたいところだが。

 ……そう考えると姫さんも転生者の可能性があるわけだが……。

 

 

 ね え わ。

 

 

 姫さんが転生者だったら、転生者にしか分からないネタ振ってきて、後でこっそりぶっちゃけるだろう。仮に敵だったとしてもそれを最大限に利用しようとするはずだ。まだ前世を思い出していないと言うことなのかも知れないが、イリアン嬢ほどの危険性を感じない。なぜならば姫さんは()()()()()()()()()()()()。スカンジナビアの動きは原作とほぼ変わっていないし、彼女が動いたのは()()()()()()()()()()()。俺やイリアン嬢のように原作キャラの性格が変わるような行動を取っていない。今のところ問題は……大筋では無いと言っても良いだろう。

 などと考えていたら、リシッツァがジト目でこちらを見ているのに気がついた。

 

「? どうした?」

「いえ……なんかイリアンお嬢様をやけに気にするな~とか思いまして」

「言ったろう、あの子は油断ならん。正直姫さんよりも厄介かも知れん。性格的に」

「ふうん、そうですの。……まさかと思いますけれど、『そういった趣味』がありまして?」

 

 そんな疑いを持たれてるだろうとは思ったけどな。

 

「あるんならもっと前からそっちの方向で動いてたわい。何のための権力者だ」

「権力使う方向性が間違ってますわね。……それはそれとして、クリスティーヌ姫を筆頭とした我々のアプローチに欠片もなびかないのは、ちょっとムカつきましてよ」

「チヒロが時々こっち見ながら「今更コレに粉かけるとか……けれどこのままだと独身お局一直線だし……」とかブツブツ言っているのはアプローチなのか?」

 

 ホントにもーこいつらは。姫さんに変な影響を受けてるんじゃないよ。

 ……まあ本音言うと姫さん含めて、どっちかと言えば好みではあるんだよ。もう少し性格が抑え気味だったらな。手ェだせるもんなら出したいわい。出せる状況じゃねっつの。

 俺は深々とため息を吐いて言う。

 

「そんなに手ェ出して貰いたいわけか? お前さんなら他にもいい男見繕って堕とすのは容易いだろうに」

「わたくしにも意地がありますもの。難攻不落のリョウガ様を堕として溺れさせて壮絶に振るまでは、余所の男に目を向けるなんてとてもとても」

「そこはかとなく本音が漏れてるじゃねえか。そういうとこだぞ」

 

 鼻を鳴らしてから席を立つ。そうしてからリシッツァの元に歩み寄り、顎に指をかけくいっと上げてやった。

 

「まあもしも色々面倒が片付いてしがらみもクソもなくなった上で、それでもまだ手を出して欲しいってんなら……そんときゃ腰が抜けるまで手ェ出してやる」

 

 そう言ってやったら、リシッツァは目を丸くした後にっこり微笑んで。

 

「言質を取った、ということでよろしくて?」

 

 そう言って胸元からマイクロレコーダーを取り出して見せた。

 俺もにやりと笑って。

 

「給料と引き換えで良ければな」

 

 同様にポケットからマイクロレコーダーを取り出してみせる。

 リシッツァはちょっとだけ悔しそうな表情になって言う。

 

「くっ、手強いですわね」

「お互い様だろ。……ちっとは頭が冷えたか?」

「ホント質の悪い男。……まあ給料分の仕事は真面目にやりますわ。奥様とお嬢様についてはお任せを。そちらはそちらでもう一人のお姫様への対処、よろしくお願いいたしますわよ?」

 

 では失礼いたしますわ、そう言い残してリシッツァは颯爽と去る。毒気を抜かれたというか、これ以上妙なアプローチをするつもりはないようだ。今日のところは。

 やれやれ、これで少しは冷静になってくれりゃあいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ちょっとだけ他者視点

 

 

 リョウガの執務室を出たリシッツァは歩む。

 その様子は普段と全く変わりないように見えた。

 彼女はまっしぐらに女子トイレに向かうと個室に入り、ドアをロックして周囲の気配を窺ってから――

 ごっ、ごっ、とショートリーチのボディーブローで壁を殴り始めた。

 

「あんなエロい表情と声で不意打ちとか、卑怯……卑怯すぎる……っ!」

 

 ブツブツ言いながら壁を殴り続ける彼女の表情は、俯き気味なのもあってよく分からない。

 だが、耳は真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

 なお後に似たようなことをやられたチヒロは、真っ赤に染まって「ぴぃやあああああああああ!!」と悲鳴を上げつつ脱兎のごとく逃げ出したそうな。

 姫さん? やった途端にベッドに引きずり込まれるのが目に見えてるから、やるわけないじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※視点戻るよ~

 

 

 さて、そんなこんなで、ラクス嬢と対談する日が来た。

 会談の場所に選んだのはアカツキ島。ここはアスハ家の所有地であり、色々と都合が良い。親父殿はなぜかがっくりしていたけれど些細なことだ。

 見た目には分からないようガッチガチに警備が固められた中、訪れるラクス嬢。

 そして彼女と共に現れるのは、それぞれスーツを着こなしたイケメンどもだった。

 ……護衛って言うよりはアイドルグループにしか見えんなあ。西川声のオレンジ頭を筆頭とした一団は、もちろんアスラン・ザラと愉快な仲間withハイネである。つーか全員無事だった上、ハイネ隊長にしてんだなあ。クルーゼいなくなったからか。

 

「ご無沙汰しております。そちらはお変わりありませんか?」

「おかげさまでね。貴女も無事で何よりだ」

 

 軽く挨拶を交わす。そうしてから後ろの連中にも声をかけた。

 

「イザーク・ジュール君、アスラン・ザラ君、二人も健勝なようだな。……そちらは新しい隊長殿かな?」

「はっ、ハイネ・ヴェステンフルスであります。現在はラクス・クライン嬢の護衛を任されております」

 

 キリッとした様子で敬礼するハイネ。当然原作で見せた人なつっこいような様子はない。俺は「君たちの働きに報いられるような結果を出せるよう、努力させて貰おう」とか何とか適当言って、ラクス嬢を迎える。

 用意された部屋には俺につくCSSの護衛2人と、ラクス嬢の護衛につくハイネとアスラン。(他のメンバーは別室で待機)そして俺とラクス嬢。対面で座り会談が始まる。

 

「さて、ブルーコスモスとの対話をご所望とのことだが……まずはなぜその発想に至ったのか、説明頂きたい」

 

 俺がそう問うと、ラクス嬢は穏やかな笑みでこう答えた。

 

「はい、これまで地球上の各所を巡り活動してきて、プラントにもっとも敵対行動を取ってきたのがブルーコスモスの方々でした。もちろんそう名乗っているだけのいる方もいらっしゃるのでしょうが、彼らならやりかねないと、そう思われているのは間違いないでしょう」

 

 気づいているか。ブルーコスモスを名乗る者の背後に、別の存在があることを。

 

「ともかく、実質的に彼らが連合の中核になっていることは間違いありません。つまり彼らを何らかの形で鎮めることができれば、戦いの収束も見えてくるのではと、わたくしは考えました。もちろんそのためには、プラントも譲歩……いえ、それではすまない物が必要となるでしょう。互いに譲れぬ物はあります。ですがただぶつかり合うだけでは、戦いは終わりません。互いに憎悪しあい思うところはあっても、歩み寄りの可能性を諦めないことは必然となるのではないでしょうか」

 

 ラクス後ろの二人がピクリと反応したが置いておく。ともかく大分理想論に傾いた意見を述べたラクス嬢だが、それだけではない何かを俺は感じていた。

 

「若い意見だ。理想だけでは人は動かせない。それは貴女も分かっているだろう。……()()()()()()()?」

 

 その言葉にラクス嬢は目を丸くしてから、納得したような表情で言葉を放つ。

 

「焦り……そうですね。わたくしは焦っているのだと思います」

 

 続いた台詞は俺の予想通りの物で。

 

「なぜならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 やはりその結論に至ったようだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




時間があっても気力が湧かないと人間何もしないと言うことがよく分かりました。長い休みも考え物ですね。(社畜発想)
 皆さんはこんな大人にならないように注意してください捻れ骨子です。

 さて更新です。正直前半は筆が滑りました。なんなのこの母子。勝手に動きまくるんですけれど。
 だが私は謝らないむしろ助けてください。姫さんと同じエアーがプンプンします。つか某かすがべの園児まんまじゃねーか。なんか重要そうな情報がありましたがキャラで全て流されたような気がします。果たしてイリアン嬢は転生者なのか。それは筆だけが知っている。(つまり考えてない)
 そしてリシッツァさん顎クイ。チョロいように見えますが愛染様似のイケメンが速水声でエロく迫ればああも成ろう。自分は女の子になっちゃう自信があります。(問題発言) 果たして彼女はヒロインレースで勝ち上がることができるのか。(なんか違う)
 で、後はラクス嬢ですが、波乱の会談になりそうな予感が。最低でもまともに終わるとは思えない。だって捻れ骨子の話ぞ? 本人すら行く先が分からないというのに。(問題発言2)

 そう言ったところで今回はこの辺で。
   


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28・君たちの話も聞かないと分からない

 

 

 

 

 

 ラクス嬢の台詞に反応したのは、俺ではなく。

 

「ラクス! それは!」

 

 後ろに控えていたアスランだった。彼は泡を食ったような表情でさらに言いつのろうとするが。

「アスラン、やめろ」

「隊長、ですが! ……あっ」

 

 ハイネに咎められ、ここがどこだか思い出したようだ。「し、失礼いたしました!」と慌てて取り繕うアスランだったが……ふむ。

 

「そうだな……丁度良い。ヴェステンフルス隊長、少し提案があるのだが」

「は、なんでしょうか」

 

 軍人らしい態度は崩していないが、その目には疑念の色がある。まあ、別に大したことを企んでいるわけじゃない。

 ややあって。

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 場所を少々広い部屋に移して、会談は再開される。先ほどと違うのは、ヴェステンフルス隊全員が席に着いていること。彼らはなぜこうなったのかと戸惑っている様子だ。

 俺は口を開く。

 

「さて、君たちを参加させたのは他でもない。()()()()()()()()()()()()()()()()の意見も聞いておきたいと思ったからだ」

 

 その言葉に目を見開くアスランたち。その中でハイネだけが鋭い目を向けてきた。

 

「失礼、質問をよろしいでしょうか」

「良いだろう、何かね?」

「は、それでは……イザークとアスランは分かります。ですがその他のメンバーがそう言った立場の人間だとなぜお分かりに?」

 

 ミゲル(多分)が「いや俺違うんですけど!?」とでも言いたげな顔だったが無視して、俺は答えた。

 

「君たちは自分がもう少し有名人だと自覚していた方が良い。なあ『美少年天才ピアニスト』のニコル・アマルフィ君?」

 

 茶目っ気を乗せた俺の言葉に「……あっ」と何かを思い出したかのような声を上げるニコル。そうなんだよなあ。開戦前にプラントのイメージ戦略として、ネット上で才能のある人間のPVが流されまくっていたわけだが、その中にしっかりとニコルの姿があったりする。本人かわいい系なんで、かなり女性から人気だった。

 

「君の父上が評議会議員であることは知っている。ここまで来れば残りもそうなのではないかと推察できるさ。と言うより集められたのかな? 理由は推して知るべしというところだろう」

 

 最初から全部知ってるけれど、さも推理したような口ぶりで言ってやる。それでハイネは納得したようだ。

 

「慧眼ですね。出過ぎたことを口にしました」

「構わんよ。意見があれば遠慮無く言って欲しい。何しろプラントの未来がかかることになるかも知れない。君たちも他人事ではないだろう」

 

 彼らが望まない限り手出しするつもりはなかったが……今は彼らを巻き込むことがプラントへの切り口になる。そう俺は考えを改めたわけだ。うまくいくかね。

 

「では改めて。ラクス嬢の意見を聞かせていただこうか」

 

 俺が促すと、ラクス嬢は頷いて口を開く。

 

「はい。このままだと()()()()()()()()プラントは滅亡を免れない。わたくしはそう判断いたしました」

 

 ぎょっとした表情になる少年たち。涼しい顔をしているのはハイネだけだ。

 

「ラクス! 何を根拠にそんなことを言う!」

 

 真っ先に声を上げたのはアスラン。イザークも何か言いたげだったが遠慮があったのだろう。僅かに出遅れたようだ。

 感情にまかせた行動だが、俺を含めて誰も咎めない。ラクス嬢などは眉の一つも動かさず、淡々と答えた。

 

「根拠となるのはただ一つ。()()()()()()()()()()()です」

 

 そう、それが最大の問題だ。

 

「現状それを解決する手段はなく、婚姻統制などで少しでも改善しようとしていますが、効果は芳しくありません。それは将来的に人口が先細りになっていくと言うこと。その上戦争で次代を担う若い世代が多く亡くなっています。これだけでも十分危機的状況なのですよ」

「だ、だが、プラントの技術力を持ってすればその問題も解決するはずだ!」

 

 恐らくは自分でも信じ切っていないのだろう。アスランの言葉は揺らいでいるようだった。

 ラクス嬢はそれをあっさりと返す。

 

「それは()()()()()?」

「い、いつとはっきりは言えないが……」

「この問題に関して、わたくしははっきりとした進展を耳にしたことはありません。いつか、必ず。そのような言葉ばかりで具体的な方法、方策などは一向に示されない。進展がないのではと疑うのはおかしい事でしょうか?」

「む、むう……」

 

 ラクス嬢の言葉に、アスランのみならず仲間たちも唸ったり難しい顔をしたりしている。それぞれやはり思うところがあったのだろう。気づいていても指摘するのは怖かった、と言ったところだろうか。

 アスランの反論が止まったと見たラクス嬢は、さらに畳みかける。

 

「今の戦争に敗北すれば、当然これまで以上の圧政をプラントは強いられる。そうなった場合連合がこの問題に目を付けないはずがありません。人口の管理に利用するでしょうね。……たとえ勝利しても、プラントの上層部は出生率改善の方策となるナチュラルの受け入れを、決して認めることはないでしょう。大多数の市民も同様であることは明らか。いずれにせよ戦争の勝敗は問題の解決にはなり得ないのです。劇的な技術か意識の改善が無い限りは」

 

 その言葉に反論の声は生じなかった。容易に想像でき、なおかつ否定できる要素がない。鉛のような空気がザフトの若人たちの間に漂っていた。

 ……助け船、というわけではないが、少し口を挟ませて貰おうか。

 

「その問題についてだが、我が国でも独自に調査を行った事がある。何しろ我が国は他に比べてコーディネーターの人口が多いのでね。やっておくべき事は多かった。……で、その調査過程で色々分かったことがある」

 

 ナチュラルとコーディネーターが共存するオーブ。軋轢を減らすためにも『双方に大した差は無い』という証明が要った。ゆえに協力者を募り色々と調べさせて貰ったわけだが。

 

「結論から言うと、コーディネーターの能力が高いほど、一部の感染症やアレルギーに関わる免疫力などの身体的機能が極端に低くなる傾向にあると言うことが分かった。……その中には、()()()()も含まれる」

 

 実はこの結果、調査グループはある程度予想していたようだ。彼らはコーディネート技術の『ある限界』を仮定しており、その証明のために協力したという経緯がある。そして、それはある程度分析が進んでいる。

 

「今の段階ではまだ仮説を検証している段階だが……その原因については、大方目処が立っている。聞いておくかね?」

「差し支えなければ、ぜひ」

 

 戸惑うアスランたちを尻目に、ラクス嬢が食いついた。まあそう来るだろうなと思いつつ、俺は話を続けた。

 

「原因として考えられているのは、『遺伝子情報の偏り』だ。コーディネーター技術とは遺伝子を効果的に組み換えると言うだけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どこか突出した能力を得るよう手を入れれば……必然的に()()()()()()()()()()()。そう言う理屈らしい」

 

 俺の前世の時代でも遺伝子組み換えという技術はあったが、残念ながらそこまで詳しくはない。しかしながらこの時代のコーディネーター技術という物は()()()()()()()()()()()()()()()ようだ。能力のいかんに関わらず、全体的に生殖能力が低下しているところから、それが窺える。

 ……なんか意図的な物を感じずにはいられないがひとまずおいておこう。ともかく現状では劇的な改善策はないと言っても良い。

 ラクス嬢は、それを理解したようだ。

 

「コーディネーターとしての強さは、生物としての弱さと引き換えにした物。そう言うことですのね」

「それがはっきりするにはまだ膨大な研究、検証が必要となるがね。そのためにもプラントと協力体制を築きたいところだ。それは君たちプラントの民にとっても益となる。そうではないか?」

「わたくし個人としては是非とも……と言いたいところですが」

「そう簡単にはいくまい。何よりプラント上層部がこの事実を認めるとは思えんね」

 

 いくら正確なデータや証明を示しても、虚偽だと取り合わないのが目に見える。それもあって先にラクス嬢たちに話しておこうと思ったわけだ。

 

「出生率の問題を解決するのに手っ取り早いのは、プラントがナチュラルを受け入れることだ。が、ラクス嬢が先に言ったとおり、勝っても負けてもそれが受け入れられるとは思えん」

「随分とプラントのことを気にかけてくださるようで」

「こちらとしてもプラントの技術や宇宙のみで生成可能な素材は惜しい。プラントにはできれば滅んで欲しくないと言うのが本音だ。何とか和平、最低でも停戦に持っていき、徐々にでも意識改革していって欲しいところなんだが」

「『できれば』、ですのね」

「ああ。『できれば』だ」

 

 ラクス嬢は正確に俺の意図を汲んだようだ。つまりぶっちゃけた話、最悪の場合プラントが滅んでしまっても構わないと()()()()考えている。そういう事である。もっともそうなると待っているのは連合三国の潰し合いなので、より酷いことになるのが目に見えているわけで。できれば迎えたくない結末だった。

 望ましいのはプラントも弱体化した状態で国家となり、休戦状態でバランスを保つことなんだが……この世界じゃ絶対上手くいかねえってのは分かってるからなあ。火種はあちこちにありまくりやがるし。いっその事裏で火種を潰しまくる組織でも作っちゃろかい。

 ……おっと、思考がそれた。

 

「まあ要は、君たちにもプラント上層部を説得する一助となって欲しい、と言うことなんだ。とは言っても簡単に納得できる物でもないと思うが、どうかな?」

 

 アスランたちの方を見て言う。戸惑い顔を見合わせる少年たちの中、()()()()違う態度を取る者がいる。

 一人はハイネ。余裕というか、部下の反応とこちらの様子を窺っているようだ。黙って事の成り行きを見守っている。

 そしてもう一人は――

 

「発言を、よろしいでしょうか?」

 

 意を決したように声を上げたのはイザークである。「良いだろう」と俺は彼を促した。

 

「ありがとうございます。……補佐官殿は、プラントをできれば滅ぼしたくないとおっしゃりましたが、それは、同情からの物という意味も含まれているのでしょうか」

 

 ほう、俺がプラントに哀れみのような感情を持っていると、そう思われたか。プライドの高いイザークらしいと言えばらしいのか? そう聞こえたのなら悪いが、生憎そこまで上から目線で考えられんのだよ。

 

「少々誤解させてしまったかも知れないな。先も言ったとおり損得勘定で考えてプラントの存続を望んでいるというのはオーブの多勢だが、私個人としては()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「脅威、ですか?」

 

 目を丸くするイザークに、俺は頷いてみせる。まあこれまでの俺のやり方から考えればにわかには信じられんだろうが。

 

「私がプラントの立場であれば、地球を滅ぼすプランの一つや二つ思いつく。ましてや追い詰められてなりふり構わないとなれば、それこそ死なば諸共と無理を押し通しもするだろう。そうなれば例え止められたとしても甚大な被害は免れん。あるいは本当に人類が滅んでしまうかもな。……そう考えると、とてもではないが滅ぼしてやろうとは思えん。ご機嫌取りとまでは行かないが、友好的な関係を築いておこうと考えるのはおかしな事かね?」

 

 俺がプラントの弱体化を望んでいても滅ぼすことまで考えていないのは、こういう理由である。何しろ原作でもジェネシス作ってブッパしでかした連中だ。あそこまでしなくとも某赤い彗星の真似して隕石をいくつか地球に落とせば事足りる。で、やけになったら絶対やらかすだろあいつら。そういった逆の意味での信頼があった。

 ……って、なに俺の発言に引いてるのこの子ら。

 

「サクッと地球滅ぼすプラン出てくるとか言い出したぞこの人!?」

「そりゃあ、俺達も連合と戦争してるけどさあ、滅ぼすとかそういうのはちょっと……」

「た、タカ派の人たちもそこまで考えません……よねえ?」

「………………ウンチチウエモソンナコトカンガエナイトオモウヨ」

「アスランなんで明後日の方見て棒読みで言うの」

 

 

 なんかごじゃごしゃ失礼なこといってないか? そこまでおかしな事言った覚えはないが。(←後の歴史も知ってるせいか感覚がおかしい)

 どん引いている仲間たちには目もくれず考え込むイザーク。ややあって彼は再び口を開いた。

 

「……自分は、補佐官殿のお考えもある程度理解できます。我々ザフトは今までに無い奇策、新兵器を用いて連合と互角の戦いを繰り広げることができた。それだけでも確かに脅威と捉えることができるでしょう」

 

 感情を抑えたのか、理性的な物言いだ。イザークのキャラからすると、今度は()()()()()ように見える。

 

「しかしながら、その原動力は血のバレンタインとそれ以前から続く圧政に対する憎悪。そして自分たちが滅ぼされるかも知れない、滅ぼされてたまるかという恐怖。それらがモチベーションとなってザフトを、プラントを動かしていると自分は感じました」

 

 あっれぇ? なんかものすごく理性的なキャラになってきてるんですけれど!? アスランたちは唖然として、見守っているハイネは感心したような様子を見せているが、俺は内心驚きまくりなんですけど。(←顔に出さないように努力してるので表面上は変わってない)

 

「自分は地球に来てから様々な経験をさせて貰いました。地球の人間にも、話の分かる者はいる。打算やなにやらもあるでしょうが、和平を模索することも不可能ではないと思います。……ですが、プラントは積もりに積もった憎悪と恐怖を捨て去り戦いをやめることができるのか。自分はそれを危惧します」

 

 ……ああなるほど。原作と違ってストライク(キラ)に憎悪を募らせたまま地球に降りたわけじゃないから、もう少し落ち着いて周りを見ることができるようになって、視野が広がったのか。これはうれしい誤算……になってくれると良いなあ。

 

「ふむ。いざ和平に動き出そうとしても、国民の感情がそれについてくるかどうかは別問題。反対と非難の声は確実に上がり、下手をすればプラントは分裂する。そう見ているのだね?」

「は、その通りです。最低でも自分は、母を説得できる自信がありません」

「なるほどな。……イザーク・ジュール君はこのような意見だが、他の者はどうかね?」

 

 そう他の少年たちに話を振ってみると。

 

「え? うぇっ!? ……あ、その俺、じゃなかった自分の親父、父は急進派ですんで、和平に対してはいい顔しないんじゃないかなと……思います」(←突然話を振られて動揺するディアッカ)

「その、自分のところも無理っぽいです。自分の父は開戦当初からパトリック氏の側近ですんで……」(←気まずそうなラスティ)

「……僕の父はどちらかと言えば穏健派ですが、急進派の意見に同調するところもあります。諸手を挙げて賛成とはいかないでしょうね」(←落ち着いてきたというか開き直り気味のニコル)

「すんません一般人ですホントすんません……」(←すごく肩身の狭いミゲル)

 

 それぞれの意見はこんなところだった。しかし素直に答えるもんだね。まあザフトは正式な軍隊じゃなく義勇兵だから、そう言うところは緩いのだろうが。

 仲間の意見を聞いたアスランは複雑な表情を見せた後、おずおずと口を開く。

 

「自分は……血のバレンタインで、母を失いました。それを忘れることはできない。イザークと共に地球で過ごした間、怒りや憎しみは薄れたと思いますが、心のどこかにこびりついている。父は……いや、あの惨劇で身内を失った者たちも同様に憎しみを抱いている。そして地球の実情を知らない分、彼らの憎悪が薄れることはないと思います」

 

 要するに説得は難しいと、そう考えているようだ。地球に来て、現地人と接触し彼ら自身は大分考え方も変わっているようだが、上層部へ働きかけるのは二の足を踏むところもあるか。

 大方予想通りではあるが、さて。

 

「君たちの意見は分かった。……それを踏まえてラクス嬢。貴女はどうする?」

 

 黙ってアスランたちの意見を聞いていたラクス嬢は穏やかに微笑んだままで。

 

「はい、皆様の話を聞いて、やはりブルーコスモスの方々と話をするべきだと思います。当然これはわたくしの独断となりますが」

 

 やっぱりか。果たしてどういう判断を下したのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ボブ、生きろ。もうお前だけが希望なんだ。
 2期で例のガンダムに乗ってくれることを希望捻れ骨子です。

 はい今年最後の更新です。リョウガさんMCの十代しゃべり場になりましたが、アスランと愉快な仲間たちの変化もそろそろ見せておかないとなあ言うことでこんなことに。
 特にイザーク。なに良い子になってんだよ貴様。(理不尽)まあ原作みたく苛ついてなきゃ単なるツンデレですからねこの子。地球で苦労して丸くなった物と思ってください。
 そしてラクス嬢は揺るがない。はたして捻れ骨子はこのラスボスをどう対処するのか。次回以降の展開をお楽しみに。考えてないけど。(おい)

 そんなこんなで今回はこの辺で。
 皆様、良いお年をお迎えください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29・覆すのは容易くない

 

 

 

 

 

 重い静寂。それを破ったのは、これまで様子見に徹していたハイネだった。

 

「理由を聞かせていただけますか。ラクス『様』」

 

 あえての敬称か。そういう立場の人間だと自覚させるためと見た。果たしてラクス嬢は揺るぐ様子もなく。

 

「わたくしは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あるいは物別れに終わる、互いの憎しみを再確認する。そういった結果もあり得るでしょう。ですが重要なのは互いの考えを知ること。そして『知らしめること』だと思っています」

「ブルーコスモスに、でしょうか」

「それもあります。ブルーコスモスの方にわたくしの考えとプラントの現状を。そしてプラントにはブルーコスモスの考えと、地球の現状を」

 

 馬鹿正直に伝書鳩をやる……つもりではないようだが?

 

「ただ現状を知らしめるだけではありません。今自分たちが立っている世界がどれほど脆い物なのか、プラントに、地球に、()()()()()()()()()()()()()()()。我々がいかに容易く死ぬのか、どれだけ殺してきたのかを。そこから学ばなければならない。学べなければ戦いは終わりません」

 

 ふん、自身がこれまで得た情報を、余すところなくたたきつけるつもりか。プラント首脳部に対しても、だな。だが。

 

「貴女のやり方だと、それこそプラントもブルーコスモスも内紛が起こるぞ? 冷静になる者もいるだろうが、おのれの正義に酔っているものはそう簡単には鎮火せん。むしろ余計に燃えさかる。冷水をかけるつもりなのかも知れんが、火に油を注ぐようなものだ」

 

 口を挟む。そこらあたりをどう考えているか理解しなければ、協力はできんからな。

 

「そこで冷静になれないのであれば、そも国や組織を運営するのに向いていないのではないでしょうか。そのような人間について行くのは考え物だと、わたくしは考えますわ」

「クーデターでも考えている、と?」

 

 俺の問いにぎょっとした表情を見せる少年たち。しかしラクス嬢は首を振った。

 

「いえ。このまま戦いを続けるのは無理があると、訴え続けるのが先決。首脳陣が信用ならぬとなれば、まずは正当な手段で改善を図るべきでしょう。前線の兵にも厭戦感を持ち始めた方は多く、プラント市民も同様です。そのような方々の声を集めれば、無視できないほどの大きさとなる。ぶつかり合う前に言葉を尽くす。時間は無いかも知れませんが、だからと言って対話を諦めたくはないのです」

「いよいよ言葉が通じぬとなれば?」

「そのときは不本意ながら、起つしかないでしょう。どれだけの人間が賛同してくださるかは分かりませんが」

 

 ただきれい事を述べているだけでもない、か。

 

「望んだ立場ではありませんが、それでもわたくしはある程度働きかけを行える立場にあります。それ以前に一人のプラント市民として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取るべきではないかと。動かなければ滅びは必須、となればやれることは全てやっておくべき。そう考えました」

 

 思いつくことを全部やる、そういった覚悟か。原作とは状況が違うが、やはりラクス・クラインということだな。そして原作よりも状況は絶望的ではない。ザフトはまだ戦力を維持しているし、パトリック・ザラもまだあっちに行くほど追い込まれてはいない。ラクス嬢からなら話を持って行ける可能性はある。

 それに……。

 

「その話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう?」

 

 ラクス嬢の自信……というか決断の後押しとなったのはそれだろう。バルトフェルドと対話して口説き落とし、賛同させた。原作でも彼はラクス嬢と行動を共にしたが、似たようなことが起こったようだ。そして現状ではバルトフェルド隊は健在であり、その多くが彼について行くことだろう。あるいは3隻同盟よりも規模の大きい勢力になることもあり得る。

 もしバルトフェルドがラクス嬢の行動に難色を示していたら、全力で止めようとするだろうというところから予測したわけだが、ラクス嬢は少し驚いた様子で応えた。

 

「……よくお分かりですね。ええ、彼はわたくしの話に賛同してくださいました。元から地球での戦いに行き詰まりを感じておられたようです」

「だろうな。バルトフェルド隊長は地球で戦ってきた時間も長く、また現地との融和に尽力してきた人物だ。ザフトの中では戦況を理解している数少ない人間でもある。穏当に戦いを止める手段があれば、協力したいのではないかね」

 

 まあ思うところがなければラクス嬢に賛同はせんわな。ともかくこれでラクス嬢はある程度の後ろ盾を得たことになる。他にはどれほどの後援を得ているかは分からないが、原作並みの勢力はあると見た方が良いな。最低でも時間稼ぎにはなりそうだ。

 と、話を聞いていたハイネが、真剣な表情で口を開く。

 

「……自分はラクス様の判断を尊重し、協力したいと思っています。どれほど力になれるか分かりませんが」

「隊長!?」

 

 驚いてばかりだなアスラン。ここまで来ればハイネがこう言い出すのは予想ができたんじゃないか?(←無茶振り)

 

「自分はザフトの兵です。であるならばラクス様のおっしゃる通り、プラントの益になるよう行動するのが本分。……などと言ってみましたが、戦力があるうちに停戦し、力を蓄えておければという打算もあります。このまま戦いを続けていればプラントが追い込まれるのは明白。それこそ補佐官のおっしゃるように自暴自棄になる可能性だってある。諸共滅びるというのは願い下げですから」

「……隊長、それはプラント上層部に弓引く覚悟があると言うことでしょうか」

 

 イザークが静かに問いかける。ハイネは頷いた。

 

「場合によってはな。お前たちもこのままで良いとは思っていないだろう? ……とはいえこれは無理強いできる類いの話じゃない。賛同できないというのであれば、早急にプラントへ帰還できるよう手配しよう。もちろん身の安全は保証させて貰うし、上層部に報告してくれても構わない。よろしいですねラクス様」

「ええ、賛同していただけないなら敵、と言うわけではありませんから。そもブルーコスモスの方と対面できるかどうかもまだ分からない、霞を掴むような話ですし」

 

 ハイネも思うところがあったのだろう。腹を据えてラクス嬢につくつもりのようだ。さて他の連中はどうするかな?

 

「自分にも協力させてください。最低でもプラントが行った事については我々に責任がある。そしてプラント市民を護る義務もある。ラクス様の判断は、プラントの未来につながると自分は思いますので」

 

 真っ先に決断を下したのはイザークだった。多分すでに腹の中は決まっていたのだろう。そして決めたことは曲げない男だ。ここは予想範囲内。

 

「僕もお手伝いします。地球にも一部ですが僕のピアノを喜んでくれる人たちがいました。そんな人たちと戦いたくない。これは僕の我が儘ですが……それが叶えられるのであれば、賭けてみたいと思うんです」 

 

 続いたのは意外にもニコルだ。本質的には穏やかな人間だからか。どっかの熱気な人じゃないけれど音楽でわかり合うところがあったのかも知れん。

 

「……俺は、いや自分は、ラクス様のやろうとしていることが間違っているとは思いません。ですがプラントに刃を向ける気もない。ブルーコスモスと対話し、その結果を伝えプラント上層部を説得するところまでは協力します。しかし事を荒立てるのであれば、プラントにつきます」

 

 神妙な顔で告げるディアッカ。そして。

 

「自分もディアッカと同じです。確かに和平に向かうのであればそれに越したことはないでしょうけれど、それが無理だからと言って武力に訴えるのも、違うんじゃないかと。……戦争やってて今更何を、と思われるかも知れませんが」

 

 ラスティも同意見のようだ。間違っているからと言って仲間をぶん殴るのは気が引ける、と言うことだな。そういう考え方も理解は出来る。

 

「え~その、自分は会談の様子を見てから決めるって事で、保留で良いですか?」

 

 なんか卑屈になってないか黄昏の魔弾。まあ迷うのも分かるわ。ラクス嬢の行動が正解というわけじゃないからな。やもすれば全てがご破算になる危険だってある。ただ俺を含めてほとんどの人間が止める気はないようだ。

 残るは……。

 

「皆さんのお話は分かりました。もちろん皆さんの為したいようになさってくだされば。上手くいくなどとはとても言えない話なのですし。……それで、アスランはどうなさいます?」

 

 ラクス嬢の問いに、渋い顔をしたままだったアスランは、重々しく口を開いた。

 

「……ラクス。君のやろうとしていることは正しいのかも知れない。だがまかり間違えば、状況は劇的に悪化するだろう。それが分かっているのか?」

「そうであっても賭けなければならない。もうそのような領域に来ているとわたくしは考えています」

 

 どきっぱりと応えるラクス嬢。もうてこでも動かせない意思だ。

 しばらく考え込んでから、アスランは再び口を開く。

 

「……分かった。君に協力しよう。だが……」

 

 ぎっ、と鋭い目をラクス嬢に向ける。

 

「君がプラントに害を為すとなれば、俺が背中から撃つ。そのつもりでいてくれ」

 

 苦渋の上の判断に聞こえるけれど、アスランだからなあ。結局有耶無耶になりそうな気がするんだが、それを口に出さないくらいの分別は俺にもある。

 ため息を吐いて仕方が無いと言った風を装いつつ、俺は言う。

 

「話は纏まったようだな。では私は伝を使ってブルーコスモスに連絡を取ってみよう。だが上手く向こうが話に乗ってくれるか分からない。初手からつまずくかも知れないが、それは覚悟しておいて欲しい」

「無論。こちらは無理を言っている身ですので。お任せいたしますわ」

 

 連絡取るだけならブルコスの盟主に直接取れるんだけどね。だが会談を受けてくれるかどうかは本当に分からん。今のアズラエルなら穏健派に話を通してくれそうな気がするが、やってみなければどう転ぶやら。

 いずれにせよこの行動で状況が大きく動く予感がする。それが吉と出るか凶と出るか。……この世界だからどっちに転んでも『狂』としか出ないような気がせんでもないが、やらないで状況がさらに悪化するよりはマシ……と思いたい。

 俺は一度話を終わらせてからラクス嬢一行を宿泊施設へ送り届けるよう命じ、次の行動へと移った。

 もちろん、アズラエルに連絡を取るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いやもう、驚くやら呆れるやら」

「そうだろうな。私も同じだよ」

 

 一通り話を聞いたアズラエルの反応は、絶句からだった。まあまともな神経をしていれば思いつかない発想である。そうなるのは当然だろう。

 

「テロリストの片棒担ぐ分際で、そう言いたくなるところですが。……ふん、穏健派は食いつくでしょうね。自分たちが戦争を止める一助となった、そういう成果が得られれば、勢力の拡大にもつながる」

 

 歯に衣着せぬ物言いだ。アズラエルの立場からすればこういう意見にもなる。

 

「これが停戦のきっかけになるかどうかは分からんがね。むしろ話がややこしくなることもありうる。まあ穏健派とならば双方戦いを止めたい立場だ。妥協点を見いだせるかも知れんが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 対話の結果を自分の勢力に伝え、そこから説得できるかどうか。何度も言うが内部分裂から内乱ということも考えられる話だ。余計に話がぐだぐだになるかも知れなかった。

 普通に考えれば。

 

「そうですね。会談を行うだけでも穏健派はある程度の勢力拡大が可能……かも知れませんが、今の流れを覆すほどの力は持てないでしょう。ブルーコスモスから離反し、反戦運動と合流すればまだしも芽が……ふむ」

 

 話の途中でアズラエルは何かを考え始めた。この話を利用して上手く立ち回ることを企むとは思っていたが、早速思案しだしたか。

 ややあって、アズラエルはにやりと笑みを浮かべた。

 

「……この話、()()()()()()()()というのはどうでしょうかねぇ」

 

 そう来たか。予想していたパターンの一つだ。

 大体考えていることは分かるが、一応問うてみる。

 

「危険だと思うが、どういうつもりかな?」

「なに、『一石二鳥の策』を考えましてね。場合によっては二鳥にも三鳥にもなりうる」

「……()()()()()()つもりか」

「ご名答。僕の意に反する連中を釣るには丁度良い。当然貴方、いえオーブには多大なるご協力をしていただくことになりますが」

「こちらとしても協力を惜しむつもりはない。対策も考えているしな。……しかし貴方が話に加わると、ブルーコスモスの総意と取られてしまうかも知れんが」

「そう思わせれば都合が良い場合もありますよ。それに、ラクス・クラインという女性。何を考えているか僕も興味がある」

 

 決して好意的なものではない興味だろうな。対談に参加することで色々と仕込む気満々だ。自ら囮になるだけではない、()()()()()()()()()()。その全てを俺に明かすつもりはないだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 二鳥三鳥とはよく言った物だ。恐らくは俺達(オーブ)への対策も考慮に入れている。やはり油断ならん。    

 

「貴方の要望は分かった。場所はこちらで用意させて貰う。それとマルキオ導師を立ち会いに加えさせて貰うが、構わないな?」

「無論構いません。彼は傑物と聞いています。そちらにも興味はある」

「もしかしたら気が合うかも知れんよ。あるいは徹底的にそりが合わないかも知れんが」

「それは楽しみだ、と言っておきましょう」

 

 互いに腹を探り合いながら、話を纏めていく。簡単には覆せない現状を覆す一手。この会談がそうなるとは限らない。だがこの会談自体を利用することはできる。俺はそれを目論んでいるし、アズラエルも同様だ。

 会談を状況打開の場と考えているラクス嬢には悪いが……いや、彼女も中々強かだ、状況が変わればそれに対応して動くだろう。それくらいはやってのける。

 一筋縄ではいかないだろうこの会談が、どのような影響を及ぼすか。俺は様々な展開を予測しながら、対策を練っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 RGのHi-νガンダムを仮組みしてみた。
 もうこれでいいんじゃね? ってなった。いや最近のキットは出来が良いね。とりあえず積みプラが一つ片付いたと言うことで。プライドなんぞ犬に食わせろ捻れ骨子です。

 さあて遅くなりましたが更新です。ほっとくとキャラが勝手にしゃべくりまくろうとするのは何とかなりませんかね。荒ぶる連中を脳内で押さえ込むのに一苦労しました。そのうち乗っ取られるかも知れません。(おいおい)
 そして水星の魔女の話書きたくなる欲が邪魔をします。ボブ活躍させてえ。エラン4号きゅん助けてえ。シャディク曇らせてえ。だがここで負けてしまうとただでさえ進まない話がもっと進まなくなるので必死に堪えてます。止まるんじゃねえぞ。

 ともかくSEED相当の話が終わるまでは何とか頑張りたいと思います。つー事で今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・とらぬたぬきのかわざんよう

 

 

 

 

 

 ムルタ・アズラエルが()()()()()()()()()という情報は、関係各所に密やかに流布していた。

 曰く、妻子をオーブに疎開させた。曰く、資産をオーブに移した。曰く、オーブを通じてプラントに情報を流している。等々。調べればいくつかは事実だと容易に知れるので、何かを企んでいるのは確実だった。

 だからロード・ジブリールは吠える。

 

「貴様が地球を裏切ろうとしていることは明白! 言い逃れは最早できんぞ!」

 

 その言葉をモニター向こうで受けたアズラエルは、いつもの胡散臭い笑顔で答える。

 

「証拠というのもおこがましい言いがかりですねぇ。そも私は最近ブルーコスモスの活動自体を疑問視していると再三訴えているのですが。裏切るも何も勝手な行動をとり続けているのは末端の構成員でしょうに。それがどれだけの損害を出しているのか、知らないとは言わせませんよ」

 

 ネットワークでの会議。ブルーコスモスの幹部と連合の関係者、そしてロゴスの構成員をも参加させたこの会合は、ジブリールが音頭を取って行われた物だ。無論アズラエルをやり玉に挙げ断罪するためである。

 根回しはしていた。多くの参加者は自分に賛同するはずであった。しかしアズラエルはそれを上回る。

 

「戦いを続けることでどれだけの損害が生まれるのか。お送りした資料にはそれが記されています。これは悲観的な予測ではありません。現在までの明確な数字から産出された『事実』です。……その上で制御の効かなくなった末端が好き勝手やってくれた結果、多くの計画や策略が無に帰しました。その損害を加えたらどれほどのものになるか、考えたくもない」

 

 前もって関係各所に対し、自身の訴えと共に無慈悲なまでの損失が記された資料を送りつけていた。利益を甘受させる事を(口)約束したジブリールとは逆のやり方である。関係者たちの危機感を煽ったのだ。

 しかしジブリールは己の優位を疑わない。

 

「それと地球を裏切りプラントにつくのと何の関係がある! 薄汚いコーディネーターに媚びへつらいプライドを売り払った分際で!」

「何か勘違いしているようですが、私はコーディネーターどもの味方になったつもりなどありませんよ。むしろ奴らを憎むからこその行動です。簡単に滅ぼしてなどやる物ですか」

 

 嫌悪感を隠していない言葉。これもアズラエルの本心である。

 

「奴らを滅ぼしたところで損失は帰ってきません。業腹ですが、奴らには償いをして貰わなければならない。最低でも生産力は残し、搾り取れるだけ搾り取らなければ。そのためにはある程度の余力は必要。こちらが有利な条件で停戦に持ち込めるのであれば『あり』ではないでしょうか」

 

 本来であれば完膚なきまでに勝つのがベストと思っているアズラエル。だが状況によっては妥協するくらいの柔軟性があった。対してジブリールにはそれがない。

 

「何を甘いことを! そんなことをすれば奴らはつけあがるだけだ! 隙を窺いこちらの寝首をかく事くらい考えよう! 皆もそう思われるであろう!」

 

 熱弁を振るう。しかし。

 

「だが戦況はさほど好転もしていない。まあザフトも攻めあぐねてはいる。一度停戦し戦力を蓄えることも考慮するべきではないかな?」

「MSは生産できても、それを操る兵の熟練には時間がかかる。戦力を整える手間が必要だ」

「プラントはこれ以上の戦力増強は難しかろう。時間はこちらの味方だよ」

 

 どうにも継戦に乗り気ではなさそうな雰囲気が漂っていた。それもそのはずで、この会合に参加している多くの人物がジブリールに疑いを持っていた。

 原因はアズラエルが配付した資料にある。その中にはある情報が加えられていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う情報だ。嘘ではない。ただし末端が暴走しだしたのが先で、ジブリールはそれを受けて煽りだしたと言うのが正確なところだが。しかしぱっと見はジブリールが首謀者のようにも見える。アズラエルはそれを強調して資料に載せた。それを見た者がどう判断するか。

 混乱を招いておいて何を言うか、そう考える者も出てくるということだ。その上でアズラエルはこう切り出す。

 

「実は現在、オーブを通じてプラントの人間と接触を図れないか打診しているところです。元々戦争の鎮静化を訴えていたオーブは協力的ですし、プラントの穏健派なら乗ってくる可能性も高い。これで和平に持って行けるとは思えませんが、とっかかりになる」

 

 さも自分の主導であるかのように言う。全部が嘘ではないが物は言い様だった。

 

「それは明確な離反ではないか!」

「何をおっしゃいますやら。撃ち合って殴り合うだけが戦争ではありません。交渉もまた駆け引きの一つ。そして口車は私の得手。これは私なりの戦い方ですよ。最終的に勝利を掴むためには、様々な手段を模索していかなければならない。その一手でしかないということです」

「今更和平など! 死んでいった者たちに顔向けができないとは思わないのか!」

 

 ちゃんちゃらおかしいことを、とアズラエルは内心で嘲笑う。自身でも思っていないくせによく口に出せる物だ。まあそれは己も大して変わらないが。

 

「確かに地球の人的被害は座視できる物ではありません。しかるべき報いをという気持ちも分かります。しかし今現在兵士は死に続け、資源は浪費され続けている。無念を晴らす前に我々が力尽きたでは話にならないのですよ。勝つなら効率よく、完璧にです」

 

 実際のところ、アズラエルは基本的にN()J()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分自身と身内、そして商売に関係ない人間などいくら死んでも他人事だ。そも兵器産業を生業とする人間が『些末ごと』なんぞ気にするはずもない。

 彼にとってはこの戦争によりプラントを占拠され商売が無茶苦茶になったことが重要で、コーディネーターに対する私怨は二の次だ。(逆に言えば妻子に被害が及べばそれどころではなくなるが)最優先は妻子で、その次が損失を補填し利益を取り戻すこと。今現在も兵器を売りまくって儲けてはいるが、プラント関係で負った損失を補填できるほどのものではない。結局戦争を続けてもさほど儲けがないと判断したのだ。

 そういった諸々の損得勘定の上でリョウガの話に乗った事をおくびにも出さず、アズラエルは会合に集まった面々に視線を巡らし、問う。

 

「さて皆さん。泥沼の戦いを続けるか、それとも仕切り直すか。どうなさいます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アズラエルめが日和見よって! 今ここでプラントのコーディネーターどもを殲滅しておかねば禍根を残すとなぜ分からん!」

 

 会合が終わった後、自室をめちゃくちゃに荒らしながら、ジブリールは怨嗟の声を上げる。

 プラントとの交渉を試みるというアズラエルの発案は、集った多くの人間から支持された。反発したのはジブリールを含む、少数の過激派急先鋒の連中だけだ。ただ和平を試みると言うだけならここまでではなかっただろうが、プラントに償いをさせるべきと言う発想を盛り込んだアズラエルの言葉は、それなりの説得力を含んでいた。事前にジブリールの『失策』を知らしめていたというのも大きい。

 加えて二人には決定的な差があった。それはアズラエルが『経営者』であるのとは違い、ジブリールは『資本家』であり『出資者』であると言うところだ。

 同じように事前の根回しをした2人だが、ジブリールは不完全な状況証拠でアズラエルをやり玉に挙げることしか考えていなかったのに対し、アズラエルは明確な数値と資料を出して和平という具体的な目標を示しプレゼンを行った。黙っていても金が転がり込んでくる立場で、命じて周りにやらせるのが本分の男と、自ら先陣に立って(立ちすぎかも知れないが)経営を回している男の差。どちらの言葉が説得力があるか言うまでもあるまい。

 当のジブリールはそのようなことに気づいていないようだ。ただひたすらにアズラエルと賛同した多勢に対しての呪詛をがなり立て続ける。

 ややあってやっと落ち着いたのか、肩で息をしながら虚空を睨んだ。

 

「おのれ……このままではすまさん……」

 

 呪い殺さんばかりの目つきで思案する。ややあって、彼は声を張り上げた。

 

「誰ぞ! 車を回せ!」

 

 荒々しい歩調で部屋を出る。この後、ジブリールは同調する者を集め、アズラエルに対抗するべく動き出す。

 だがそれはアズラエルの狙い通りであり――

 ある者たちに筒抜けの行動であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターの明かりだけが灯った暗い部屋。その主は部下からの報告を聞いている。

 

「……報告は以上となります」

「アズラエルがプラントと接触を図ろうとしている、か。にわかには信じがたい話だ。罠かも知れんな」

「我々に対するもの、でしょうか?」

「いや、彼はまだ我々の存在に気づいている様子はない。恐らくはブルーコスモス内の別勢力……ジブリールの一派に対する物だろう」

 

 だが、と続ける。

 

「アズラエルは最近ブルーコスモス末端の行動に手を焼いていた。宗旨替えしてもおかしくはない。我々の策が少し効き過ぎたか」

「介入なさいますか?」

「そうだな、アズラエルの周辺を探れ。それとラクス・クラインの監視を密に」

「アズラエルが接触しようとしているのは、彼女だと?」

「それは不確定だが、ラクス・クラインが話を聞きつければ、介入してこようとするだろう。そうなれば状況を利用できる」

「心得ました。……ではリョウガ・クラ・アスハに関してはいかがいたします?」

 

 ぴくり、と部屋の主は反応した。それは自覚していないことであったが。

 

「ふむ……秘密裏にアズラエルの妻子を匿っているところからすると、一枚かんでいるのは間違いない。だがオーブを監視するのは難しいな。こちらの手のものがほぼ全て排斥されている」

 

 オーブ周りの情報統制はどんどん厳しさを増している。アズラエルの妻子について情報を得られたのは僥倖……とは言えなかった。

 得られた情報は、()()()()()()()()可能性がある。これまでもあったことだ。以前クリスティーヌがオーブを訪れたときに、まんまと一杯食わされた事例が代表的なところだろう。わざと防諜に穴を開け、敵を引きずり込む。その手腕は神がかりと言って良い。

 数度。罠であることを知りつつ威力偵察もかねて戦力を送り込んだが、その全てが壊滅させられた。これ以上直接的に手出しをするのは危険と見る。

 直接的なアプローチがだめであれば、()()()()()()()()()()()()()()()。その判断は至極当然の物であった。

 

「……ブルーコスモスに情報を流す。これまでのような下位組織ではなく、ロード・ジブリールに近しい者にだ」

「アズラエルを排除させようというのですね? 軍も動くと思いますが、プラントとの戦いに影響が出るのでは」

「こちらの手のものに、プラント近海で海賊のまねごとをさせておけ。一時的にでも気を逸らせれば十分だ。ジブリールがアズラエルを排除するまでで良い」

「は、承知いたしました」

 

 その他にも細々とした指示を下し、通信は切られる。

 部屋の主――言うまでも無いが一族の党首マティスは、消えたモニターを睨みながら考えていた。

 どうにも最近一族の活動が上手くいっていない。その原因は分かっている。リョウガ・クラ・アスハという男の存在だ。彼が中心となって動き、それによってこちらの計画がかき乱されていた。

 危険だとは分かっている。だがマティスはリョウガを始末するという決断を下せずにいた。

 なぜ。自問自答するが答えは出ない。それは自分が意識していない感情からの物だったが、指摘されても彼女はそれを認めないだろう。自身の本心に蓋をしたまま、マティスの思考は巡る。

 

「厄介な……やはり『キング』に相応しいと言うことか」

 

 彼女が独自に危険人物をカテゴライズし、トランプのカードに割り当てて示した『イレギュラー13』。リョウガはその中でキングに位置していた。妥当というかさもありなんと言った感じである。

 それはそれとして、マティスは()()()()()()()()()()()()()を思いついていた。

 

「……厄介な男だが、『ヤツの血』、有用だろう」

 

 コーディネーターをも上回る才覚と能力。それを一族に取り込めれば。そう考えたのだ。元々一族は優秀な血筋を取り入れて能力の向上と研鑽を図ってきた存在だ。その集大成とも言えるマティアスが「コーディネーター以上に命を弄んでいる」と自嘲気味に揶揄するところからも、その『手段の選ばなさ』が窺える。

 もちろんまともな手段はおろか、相当イリーガルな手段でも彼の身柄を確保することはかなうまい。大概は返り討ちだ。本人も相当の物だが、周りに集っている人間も優秀な者ばかり。慎重にならざるを得ない。

 だが切り口はあるとマティスは考える。

 

「一枚かんでいるのであれば、ヤツは必ず動く。そして己を餌として罠を張るくらいはやるだろう。……だがヤツとて人間。年がら年中気を張っているはずもない。『事が終わった後』などは油断もする」

 

 そう、マティスは起こるであろう一連の騒動が集結した直後、リョウガの気が緩んだところでその身柄を確保する事を目論んでいた。

 リョウガがジブリール()()()に後れを取るとは思っていない。事実ではあるが、無自覚に贔屓目で見ている感があった。それでいて、自分自身が動けば油断したリョウガを確保できるとたかをくくっている部分もある。要するに、リョウガに関しては冷静な判断が鈍っているようだ。

 まあ確かに、マティスはマティアスに次ぐ一族の最高傑作だ。その能力はリョウガに勝るとも劣らない。状況次第ではリョウガを出し抜くことも可能だったろう。

 マティスの誤算は一つ。

 生憎と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その指示を受けたとき、クルーゼは眉を顰めた。

 

「ムルタ・アズラエル、プラントの交渉人、そしてリョウガ・クラ・アスハを『暗殺』しろと? 随分と贅沢な注文だな」

 

 未だ顔も見せない雇い主。行動に制限はあるものの比較的不自由ない生活を送らせて貰っているが、感謝の念など一片たりとも抱いていないクルーゼは、やや皮肉めいた反応であった。

 

「もちろん君一人というわけではない。中隊規模の手勢を用意した。君にはその指揮を執って貰う」

「中隊規模? その程度の戦力でオーブを相手取れと?」

「まさか。そこまで楽観的にはなれんよ。君たちを連合の秘匿部隊に編入する。そこはブルーコスモスのロード・ジブリールが影響下にあるところだ。……後は分かるな?」

「なるほど、その思惑に便乗する。全ての責任はジブリールにと言うことか」

 

 にやりとした笑みを浮かべるクルーゼ。ジブリールとアズラエルの不仲は意外に知れ渡っている。アズラエルがプラントと何らかの形で関わり合いを持とうとすれば、ジブリールは必ずちょっかいをかけようとするだろう。それを利用して事を為せと言われている。そう得心した。

 

「話が早くて助かる。頃合いが来れば君を招聘させて貰おう。そのときに部下との引き合わせと、君の機体を渡す」

「まともな機体を使わせて貰えるのだろうな? 今更ジンやシグーなどでは役者不足も良いところだ」

「それについては期待して良い。君も気に入るはずだ」

 

 気を持たせるように言った雇い主は、「そうそう」と思い出したかのように付け加える。

 

「任務の最中、あるいはジブリールの策が失敗し撤退を余儀なくされた場合、リョウガ・クラ・アスハの身柄を確保しようとする動きがあるかも知れん。そうなった場合、()()()()()()()()()()も始末して欲しい」

 

 妙な指示だなと、クルーゼは思う。目標の一人であるリョウガを、混乱に乗じて始末しろというのであれば分かる。だがリョウガの身柄を狙う人間を始末しろ、と言うのはいささか不可解だ。

 もしかしたら別系統の人間が介入しようとしているのかも知れない。しかし雇い主はそれを詳しく説明しないだろう。クルーゼはただ短く「了解した」とだけ応えた。

 

(ふん、私を上手く使い潰すつもりだろうが……こちらも状況を利用させて貰おうか)

 

 内心で暗くほくそ笑み、企みを巡らす。

 ラウ・ル・クルーゼは未だ暗き恩讐の炎を燃やし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 薩摩ホグワーツというパワーワード。
 正直ハリポタに限らず薩摩付けるとなんでもパワーワードになる気がする。薩摩水星の魔女とか。チェストスレッタ見たいような見たくないような。
 鎌倉平安源氏でも可捻れ骨子です。

 はいそんなわけで閑話更新。うんみんな分かってると思うけど、こいつら全員酷い目に遭うんだ。特にジブリール覚悟しとけ。お前バックボーン分からねえから筆者に好き勝手されるぞ。しかもノープランだぞ。己のキャラの薄さを恨むが良いわ。
 次回からクライマックスに向かう……感じでしょうか。ですが捻れ骨子のやることだから多分まともには進まない。ってか今まで思い通りに進んでない。終着点が見えんなあ原作のCEもそうだけどさ。

 そんなこんなで若干じゃない不安を抱えつつ、今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30・とんとん拍子にはいかない

 

 

 

 

 

 忙しい。超忙しい。

 言うまでも無いがラクス嬢とブルーコスモス穏健派(アズラエル付き)の会談が決まってしまったからだ。その場を用意する羽目になってしまったので色々と準備しなければならないことが多い。

 加えて各方面への対応だ。情報戦は基本。例え友好的な相手であっても全ての情報を開示するわけには行かないから、扱いは慎重にならざるを得ない。それでいて時間には限りがあるから急ぐ必要もある。つまりてんてこ舞いだ。

 ……で、その上に普段の仕事もしなきゃならないわけで。

 

「終わらないよう仕事がいつまでも終わらないよう……」

「殺して……いっそ殺して……」

 

 目のハイライトが消えて幽鬼のごとき雰囲気を纏った職員たちが這いずるように動き回り仕事をこなしていく。総合庁舎は地獄であった。

 

「その地獄を産みだした人が何言ってやがりますか」

「ここでやっとかないと後に響く。反省はしてるが後悔はしていない」

 

 目の下に隈ができてるチヒロが言って俺が答える。多分俺も目の下に隈ができてるのだろう。まあ寝ないと怒られるから皆よりはマシだ。(←そもそも仕事の速度が速いので他の数倍仕事してる人)

 

「それはそれとして、商会の方は滞りなく。根回しの方は政府のアプローチとあわせると二度手間になりましたが」

 

 中立国や関連勢力に対する根回しを、オーブ本国と商会双方から行う。一見確かに二度手間に思えるが、建前上二つは別の組織であると見せて置かねばならない。理解している者にも()()()()()()()()()()()と匂わせるのも兼ねている。本当に一枚岩ではないのかそれとも、などと考えて貰おう。こう言った細かい仕掛けもやっておくのとおかないのでは違うからな。面倒でも一手間、だ。

 

「よろしい。特にクーロンズポート周辺の情報管制には注意させろ。今回はわざと情報を流出させるのは無しだ」

「まーた悪いこと企んで。今度はなにやらかすつもりですか」

「……壁ドン?」

「いやそっちの方向違くてってかやめてくださいおねがいします」

「冗談だから一瞬で距離取るな」

 

 海老のようにすごい速度で後ずさるチヒロ。単純にからかってるわけじゃない。最近反撃(顎クイ)したら、こいつ所々でポンコツ(具体的には勝手に妄想してイヤンイヤンとかくねる)になるようになってしまったので、こうして時々我に返してやってるわけだ。姫さんにそそのかされたせいもあって意識してるんだろうが、仕事はきちんとして貰わないと困る。

 

「諸々一段落ついたら構ってやるからしゃんとしろしゃんと」

「構って欲しいような言い方ァ!」

「なんだ構って欲しくないのか?」

「いやそういうことじゃなくてですね……なんかどんどん質悪くなってきてませんかこの人」

 

 はっはっはそっち方面で押されてばっかだからいい加減ストレスたまってるぞ俺ァ。……そんな本音はおいといて、冗談抜きでそろそろ女関係のこと真面目に考えんとなあ。いつまでもこのままってわけにもいかん。体面が悪いどころじゃない。

 まあ状況によってはもっと体面が悪くなるんですがねー! まずは姫さんの暴走をなんとかするところからだ。でなきゃマジでハーレム形成することになる。確かにロマンだろうが身が持つかこん畜生。

 それもこれもこれからの困難を片付けてから、だ。

 

「冗談はさておいてだ。今回は姫さんの時みたいな事を起こすわけにはいかん。あん時だって姫さんに戦闘力が無ければ危なかった。そしてラクス嬢とアズラエル氏は戦闘力皆無(のはず)。同じような展開は期待できない上、五体満足で返さにゃならん。絶対に戦闘に巻き込めない」

「下手をすればザフトとブルーコスモスが同時に敵に回りますからねえ。クーロンズポートでの戦闘は避けなければ」

 

 立ち直ったチヒロはそう言うが。

 

「いや戦闘は起こるぞ」

「……は?」

「起こるぞ」

 

 当然の話だ。ジブリールが敵に回るのであれば、ヤツは絶対に過剰なまでの戦力を投入してくる。加えてマティスだ。確かあの女は特殊部隊も率いていたはず。どんな手を使ってでも潜入させようとしてくるだろう。つまりクーロンズポートでの戦闘は前提条件となる。

 

「いやそれ危険でしょう!? ラクス嬢とアズラエル氏巻き込まれること必然でしょう!?」

 

 泡を食ったように言うチヒロ。ふむ、まだまだだな。俺がこういうときにどう考えるか読み切れてないと見える。

 

「なに策はある。要するにだな……」

 

 説明してやった。話を聞くうちにチヒロの目は丸くなり、次いで眉を寄せ、最後には頭痛を堪えるように額に手を当てていた。

 

「……やっぱり貴方大魔王か何かでしょう。何ですかそのえげつない策は」

「はん、人が折角和平の糸口掴もうかってところを邪魔する連中になんぞ手加減してやるものか。遠慮無く全力で叩き潰してやるさ」

「うわあ、なんて言うか、うわあ……」

 

 なぜそこで引く。可愛いもんだぞ俺が企んでる程度の策なんぞ。人類滅亡ビーム(ジェネシス)コーディー絶対殺すビーム(レクイエム)よりかは遙かにまともだろう。

 そう言ったわけで来たる会談に対する方針は決まった。確実に起こるであろう襲撃への対策も含めて。なぜか関係者はほとんどチヒロと同じようにドン引きしていたが。

 しかしこれは序の口、まだ始まったばかりである。いいや()()()()()()()()()。本命である会談までにどれほどのものを積み上げられるか。どれほど強固にできるか。それができて初めてスタート地点に立ったと言える。俺達の戦いはまだこれからだ……で終われたら良いよなあ。現実は非常に厳しい。

 

「あおりを受けて我々もごっつい忙しいんですけれど?」

「すまないと思っている。だが俺は謝らない」(ぺったんぺったんぺったんぺったん)

 

 しばらく後、今度はリシッツァが愚痴ってきた。馬鹿め一蓮托生だ、俺が忙しくなったら君らも忙しくなるわ。つーか逃がさん。

 

「謝らなくても良いですから時間をくださいません事? 1日96時間くらい」

「そんなことができるんなら俺がやってる。……まあそれはさておいてだ、状況はどうなってる?」(ぺったんぺったんぺったんぺったん)

「ご要望通りCSSを通じて傭兵を集めていますけれど、玉石混淆ですわね。ここからまともな人間を選抜するのは手間でしてよ?」

 

 会談に当たってオーブの戦力を回すのにも限界がある。ゆえに傭兵を集め戦力を補強することにしたのだが、リシッツァは不服のようだ。だがね。

 

「いや、選抜する必要は無い。ある程度の実績があるなら多少怪しいところがあっても構わん」(ぺったんぺったんぺったんぺったん)

「は? そんなことしたら不穏分子入りまくりじゃありません事? 情報抜かれるどころか後ろから撃たれますわよ」

「時間が惜しい、数を揃える。……()()()()()()()()()()。信用できる連中以外は当てにはしとらんよ」(ぺったんぺったんぺったんぺったん)

「傭兵を集めること自体が『仕掛け』と言うことですのね? 相変わらず性格の悪い」

 

 肩をすくめるリシッツァ。確かに内側から食い破られる危険性はあるが、それも織り込んでのことだ。もっともめぼしい面子を()()()()()()()ので、対策は取れるんだがな。

 とは言ってもそれで全ての傭兵をマークできるわけでも無し、原作知識に頼りすぎてしっぺ返しを食らうと言うこともあり得る。最悪全ての傭兵が敵に回るくらいのことは想定しておかんと。

 

「ところで……その書類、ちゃんと目を通してますの?」

 

 不意にリシッツァがジト目になって問うてきた。

 

「これもちょっとした速読の応用だ。つかちゃんと理解してないと後が怖い」(ぺったんぺった

んぺったんぺったん)

 

 そう、先ほどから響いてるのは、俺が山積みの書類に片っ端から目を通し、承認印を押している音だ。端から見るとほとんど中身も見ずにぺたぺた判子押しているように見えるだろうが、ちゃんと理解してるぞ。

 

「その証拠にほれ、これを見て見ろ」

 

 全部の書類に判子押してるわけじゃない。却下されるような書類は別口で【棄却ボックス】と書かれた段ボール箱に放り込んでいた。その中から一枚を取りだしてリシッツァに差し出す。訝しがりながらそれを受け取ったリシッツァは目を通し――

 何とも言えない表情になった。

 

「……わたくしの目がおかしくなっていなければ、これ婚姻届に見えるんですけれど。しかもイリアン嬢との」

「ああ、こういうのがあるから油断できん」

「不意打ち過ぎません事!? しかもどうやって紛れ込ませたのか……」

「協力者になりそうなのが一人いるだろうが」

 

 脳裏に浮かぶのは天真爛漫ガンギマリお姫様。リシッツァも同じ人物を思い浮かべたようで、渋い表情になる。

 

「いつの間に繋がりを持ったんでしょうかあの方」

「アズラエル氏の身内にコネ作っておいて損はないと考えたんだろうな。コネの作り方が問題だが」  

 

 まあまかり間違ってこの書類に判子押したところで不受理になるだけなんだが。それが分かってやってるのだろう。イリアン嬢のキャラをよく理解していると見える。

 

「この程度の悪戯は問題にもならん。イリアン嬢に対する適度なご機嫌取りと考えれば妥当なところだろう」

 

 俺に対するアプローチをしたと思ってフンスと胸を張るイリアン嬢の姿が目に見えるようだ。そして背後で煽っている姫さんの姿もな。で、却下されたと知ってイリアン嬢がorzるとこまでセットだ。

 本格的に邪魔にならないと分かっててやるところが質悪いよなあ、あの姫さん。

 

「ともかくこういうのを含めてあほなのは弾いているから安心しろ。最低でも君らに余計な手間は取らせん」

 

 再び書類に判子を押す作業を始める俺。リシッツァは深々とため息を吐いた。

 

「問題ないとおっしゃるのであればそれで。……全然意識していないとかそれはそれでムカつくんですけれどもぉ

 

 後半聞こえてんぞー。つか()()()()()()()言ってるだろ。この間の顎クイからこっち、リシッツァは表面上普段通りだったが、時折こんな風に小声で愚痴って恨みがましい目を向けてくることがある。実害はないので放っているが。

 だから今手を出してる暇とかないつーの。っとにもう、真面目に女性関係考えようとした端からこれだよ。まあ俺に当たってちょっとは溜飲下げられるんならそれで構わんがね。ため込みすぎて爆発するよかマシだ。

 

「諸々終わったら構ってあげるから我慢しなさい」

「構って欲しいような言い方ァ!」

「……チヒロにも同じこと言われたが、流行ってんのかそれ」

「おんなじようにぞんざいに扱ってるからですわきっと!」

「ぞんざいには扱ってないぞ。ぞんざいにとは俺が親父殿に対する時のようなことを言うんだ」

「威張って言える事じゃありませんわよそれ」

 

 処置無しとばかりに再びのため息を吐き出すリシッツァ。愚痴りながらでも良いから今は仕事をして欲しい。ホント頼むから。

 修羅場は続く。果てしない道のようにも思えるが、少しずつでも進んでいることには違いない。書類を片付け、方々に連絡を取り、根回しをして頭を下げてなだめすかして恫喝して時には拳で語り股間を襲撃する。一つ一つ、石を積み上げて城を築くように準備を整え策を練り上げ仕込みをしていく。

 とんとん拍子には行かない。しかし進まねば道は切り開けない物だ。ゆえに俺達は進み続ける。僅かに見える明光を頼りに。

 ……最終回ぽいがまだまだ終わりは見えないんだよちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 またこれから忙しくなる季節がやってまいりました。そして早々にGWの仕事が決定。
 神は死んだむしろ俺がヤりに行く。いやGWでも普通に働いている人はいるんですがそれはそれなんだよわかれよ捻れ骨子です。

 はい愚痴から始まりましたが更新です。今回何やら色々仕込んでる話。何を仕込んでるのかは次回以降に明らかになると思います。まあ前代未聞の会談なんかやるから忙しくなるよね、と。戦争やって無くてもCE地獄じゃねえか。最後の台詞は筆者の魂の叫びでもあったりして。
 いよいよ次回から会談となるわけですが、当然一筋縄では終わりません。一波乱も二波乱もあるはずです。さあ酷い目に遭うのは誰だ。

 そう言ったわけで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31・お出迎えして差し上げようじゃない

 

 

 

 

 

 クーロンズポート。普段は官民問わず――と言うか金を払う者なら大概は使用可能なギガフロート宇宙港は、現在厳しく立ち入りを制限され半ば閉鎖状態となっている。

 ジャンク屋協会のメガフロートが稼働を始めたからできる荒技だ。民間の便は全てそちらで請け負って貰い、公的な物はオーブのマスドライバー(カグヤ)に回して凌ぐ。そこまでして閉鎖した理由はもちろん、ここでラクス嬢とブルーコスモスの会談を行うためである。

 そして、現在クーロンズポートはオーブの領海内にあった。その周囲にはオーブ海軍艦隊が展開していたりする。名目上は大規模演習のためであるが、あからさまに何を目的としているか丸わかりだろう。

 

「ここまでしているのに来ますかねぇ?」

「来るぞ。絶対に自分が勝てるという自信があるからな」

 

 港で海原を見つめる俺の傍らにはチヒロとリシッツァ。揃って『客』が到着するのを待ち構えている。

 アズラエルからの情報によると、ジブリールは軍部の過激派を焚き付け戦力を集めたらしい。後期GAT-Xシリーズはアズラエルの派閥が押さえているが、データを盗み出してコピー品くらいは用意しているだろう。あるいはブーステッドマンをも繰り出してくるかも知れない。自信を持つのも頷ける。

 が、当然こちらもそれくらいは考えていた。

 

「向こうさんの期待通りの展開にはしてやらんさ。……傭兵の配置は?」

「ご要望通りに。海上および海中で戦闘できる方は限られておりますから、ほとんどがポート上で待機しておりますわ」

「よろしい。彼らの出番になったら大詰めだ。かなり派手になることを覚悟しておけ」

 

 クーロンズポートの直衛を任せた傭兵たちに出番があると言うことは、ポート自体が戦場になると言うこと。そしてそれは決定事項だ。

 

「客が到着次第、君たちも配置に付け。状況がパターンGになったら構わず脱出を優先しろ」

「承知しました」

「心得て」

 

 二人がそれぞれ返事をすると同時に港で動きがあった。

 入港してきたのは超伝導推進の潜水艦。お客が到着したようだ。俺達は出迎えるために歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ここから他者視点

 

 

 超高度を飛行する偵察機からの映像。そこにはかなりブレてはいるが、サングラスをかけた金髪の男性の姿があった。

 ついで送られてきた映像には、こちらもサングラスをかけたピンク髪の女性らしい姿が映し出されている。

 間違いないと、ジブリールは確信を得た。

 

「情報の通りか。ふん、油断したな。……予定通りに作戦を開始しろ」

「は、ですが目標はオーブ領海内にあり、付近には演習の名目でオーブ艦隊が展開しておりますが」

「構わん。アズラエルとラクス・クラインさえ始末してしまえばあとは何とでもなる。それにたかだか20隻もない艦隊だ。抵抗してきたとしても突破は容易だろう」

 

 オーブも本格的に連合と事を構えるほど馬鹿ではあるまいとたかをくくっている。それに自分が用意したのは艦だけでも40を超える。MSも集められるだけ集め投入し、その中には水中戦用の物もあった。戦力としては十二分だろう。

 仮に反撃すればすればで、オーブに攻め入る理由となるという考えもあった。自分に同調しない以上、ジブリールにとって中立国は敵でしかない。これを機に目障りなオーブを叩き潰しその技術を手中に……などと、捕らぬ狸のなんとやらを目論んでいた。

 

「さあ、裏切りの始末、付けさせて貰おうか」

 

 モニターの明かりに照らされたジブリールはほくそ笑む。彼は現場に赴かず、己が拠点で高みの見物を決め込んでいた。その自信は揺るぐことはない。

 ……はずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れた連合の艦隊に対し、オーブ軍はまず警告を放つ。

 

「こちらはオーブ海軍。連合艦隊に通告する。貴官らは許可無くオーブ領海内に侵入しようとしている。直ちに進路を変えられたし。指示に従わない場合は領海侵入として対処させて貰う」

 

 割と喧嘩腰である。対する連合艦の反応はというと、これまた喧嘩腰で。

 

「当方は特殊任務遂行を目的として編成された連合艦隊である。そちらの領海にて停泊中の『船舶』クーロンズポートにて、連合の情報漏洩を目的とした会合が行われるとの情報を入手した。当方の目的はその当事者の身柄を確保することである。これは連合軍司令部より下された正式な作戦であり、我々の行動は正当な物だ。邪魔立てをするのであれば実力を持って排除させて貰う」

 

 どう考えても無茶苦茶であった。特殊部隊を一つ二つ投入するのであればともかく、艦隊を展開する必要などあるはずもない。明らかにオーブと一戦交える事を想定している。

 

「クーロンズポートは()()()()()()であり、正規の手続きを経て当海域に停泊している。そしてそこで犯罪行為が行われているというのであれば協力するのはやぶさかではないが、まずはオーブ当局に要請するのが筋であろう。貴官らの行動は明らかに国際法を逸脱している。これ以上の行動を起こすというのであれば、それ相応の代償を支払って貰うことになるだろう」

 

 クーロンズポートのような移動可能なメガフロートは、実のところ船舶扱いである。それぞれ船籍を持っているが、当然のようにクーロンズポートはオーブの船籍であった。こういうときに国が抱え込めるからであるが、最初から無法を為そうとする輩には通用しない。

 

「再度告げる。我々は正規の作戦行動を遂行しており、この行動は正当な物だ。邪魔立てするのであれば実力を行使する」

 言うだけ言って切られる通信。オーブ艦隊司令【トダカ】一佐は苦笑を浮かべた。

 

「こちらも多少煽ったとはいえ、リョウガ様の想定通りの反応をするとは」

「あまり当たって欲しくない想定でしたが、さもありなん、と言ったところでしょうか」

 

 副官である【アマギ】一尉も似たような表情である。彼らを含む軍部は、最初相手は大戦力を展開せず、特殊部隊などを送り込む程度だろうと考えていた。だがリョウガや一部の人間は相当の戦力を送り込んでくると予想しており、それを前提として対策を考え実行に移した。

 結果これである。ご丁寧にリョウガは相手の反応まで予想して見せた。屁理屈こねてごり押ししてくるだろうと。もう苦笑いしか浮かばない。

 

「色々と思うところはあるが……まずはここを凌いでからだ。総員第一種戦闘配備。各MS部隊は発進準備。相手が動いたところで迎撃を開始する」

「了解! 総員第一種戦闘配備! 空戦部隊を順次カタパルトに上げろ! 敵の発砲が確認されるまで出すなよ!」

 

 にわかに動き出す艦隊。空母では艦載機がフライトデッキに上げられていく。

 白と朱色を基調にしたその機体は、【アストレイF装備】。ストライクのエールストライカーを基にしたフライトユニットを装備したものだ。単純に飛行能力であればストライクを上回り、PS装甲がない分稼働時間も長い。量産機として、そして空戦MSとして完成度の高い機体であった。

 今回駆り出されたのは2個中隊24機。現在オーブ海軍はMS搭載に対応するように空母などを改装している最中で、まだ全ての艦がMSを搭載できるわけではない。今回艦隊に加わっている空母は早々に改装の終わった2隻。それぞれが一個中隊12機を積んで今回の戦いに臨んでいた。

 

「初の対MS戦闘になるか。……シミュレーション通りにはいかんだろうな」

 

 デッキに上げられた1番機のパイロットは【ババ】一尉。戦闘機乗りから転向した彼は、いち早くMSの操縦に適応しF装備の開発段階からテストパイロットとして従事していた。プロトアストレイに関わったジャンク屋や傭兵や宇宙軍司令を除けば、もっともアストレイを知り使いこなせるパイロットであろう。

 

「1番機より各機。向こうさんが手を出してきてからの発艦になる。船は回避行動を取るがそれは外れることを保証するものじゃない。流れ弾に当たるなよ」

「「「了解!」」」

 

 小隊の部下が呼応する。ババは機体を歩ませカタパルトに足を乗せた。

 

「リョウガ様も無茶をおっしゃる。……だがこの程度はこなせなくてはな」

 

 アイドリング状態で待機する中、ババは猛る心を抑え時が来るのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕掛けたのは連合艦隊からだ。とは言っても攻撃を始めたわけではない。

 侵攻をする艦隊のど真ん中。そこにいきなり()()()()()()()()()()()()()()()

 

「敵艦隊からの砲撃と判断。総員、迎撃を開始せよ」

 

 慌てず騒がず司令官が指示を下す。当然ながらこれは連合側の仕込みだ。先に攻撃を受けたという体にするため敵の砲撃を装ったのだ。

 連合艦隊が砲撃と共にミサイル群を放つ。同時に空母から艦載機が発艦していく。

 主立った機体はアストレイと同じくフライトユニットを備えたダガー。この世界のダガーは最初から簡易ながらもストライカーシステムに対応しているが、今回用意されたのは急ごしらえのコピー品であった。正規品より性能が落ちるため、機体の装甲を一部外し軽量化を図っているなんて代物だ。

 それらが飛び立ったあとにデッキへ上がってくるのは異形の機体。

 

「……アレは使い物になるのだな?」

「技術屋どもは十分な性能だと太鼓判を押していましたが……所詮は急造です。この作戦が終わるまで保てば良い方でしょう」

 

 司令官と副官が、微妙な表情で言葉を交わす。その機体は何というか、直立して翼の生えたロブスターにも見える外観のゲテモノだった。

 開発コード【リヴァイアサン】。アズラエルの元から流出した後期GAT-Xシリーズのデータを元に急遽開発されたものである。3種の機体の能力を全て兼ね備えた……物を目指したらしいが、TP装甲などのコピーした技術は不完全。出力も不足し全ての機能が中途半端という、試作機の域を出ないものであった。

 が、ダガーを上回る性能があるのは確かだ。ジブリール配下の技術者たちは、実戦でのデータ収集を目的にこの機体の投入をねじ込んだ。必要なデータさえ収集できればあとはどうなっても構わないと言わんばかりに。

 投入されたリヴァイアサンは3機。それを駆るのは――

 

「コーディどもに加担するって言うなら、俺達の敵って事で良いんだよなあ!」

 

 好戦的な笑みを浮かべる、眼鏡をかけた黒人男性。

 

「攻撃してくるのは全部片付けろってさ。派手で良いねえ」

 

 派手なメイクを施した、鋭い目つきの女性。

 

「…………」

 

 そして銀髪の、寡黙な青年。

 この3人はジブリールのてこ入れで新設された秘匿部隊、【ファントムペイン】の隊員である。まだ新兵であるが厳しい訓練を受け選抜された者たちだ。『それなりの成果』は求められているが、海の物とも山の物ともつかない機体でどこまでやれるのか、現場の士官たちはあまり期待はしていないようだ。

 投入された秘匿部隊は彼らだけではない。艦隊の後方、一隻の空母では、少々毛色の違う連中が待機していた。

 

「我々の出番は戦場が混乱してからだ。直接クーロンズポートを襲撃し私以下上陸部隊を送り届ける。そして私たちが目標を討つまでの間、MS部隊は周囲を制圧。離脱までの時間を稼げ。向こうの傭兵に協力者がいる。助力になるだろう」

 

 女性指揮官の声を聞きながら、コクピット内でほくそ笑む男が一人。

 

「ふふ、リョウガ・クラ・アスハの命もついでに狙えるか。彼がいなくなれば、オーブもさぞ混乱することだろう」

 

 長い髪をうなじでくくり、ゴーグル状のサングラスをかけた男。【ネオ・ロアノーク】という偽名を名乗るその男は、ジブリールの『協力者』から推薦され編入してきた人物だった。

 賢明な者にはその正体は明白で、恐らくは指揮を執っている人間にも察せられているだろうが、本人は一向に構わないようだ。あるいは自分の正体が流布し、それを知ったザフトに混乱をもたらすこともできるだろうという思惑もあるのかも知れない。

 そんな彼が乗るのは、PS装甲がオフ状態で灰色の機体。どうやらストライクをベースにした物のようだが、細部が異なり装備もかなり物々しい。

 狂乱の男を乗せた機体が静かに時を待つ間、海上では激戦が繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々にオリ機体設定

 

 

 YMSF-X1リヴァイアサン

 

 劇中で語られているようにアズラエルの元から盗用した後期GAT-Xシリーズのデータを元に製作された機体。

 どうも盗用したデータが部分的だった模様で、それぞれの機体を再現することができず、「だったら混ぜてしまえばいいじゃない」と言う発想で組み上げられた。

 MAとMSの中間的な機体で、一応手足を折りたたみ飛行形態になることもできる。正式な後期GAT-Xシリーズに比べれば中途半端な性能だが、ダガーやジンなどの量産機に比べれば高性能。

 外観はフォビドゥンをほそっこくして翼とカニのハサミのような両腕アーマーと尻尾のようなスタビライザーを付けた感じ。

 後のMAやデストロイの基礎となった……という勝手な設定の機体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 AC6の発売日が決まって狂喜乱舞している今日この頃、皆様いかがお過ごしですか。
 その時期になったら更新が遅れるものと覚悟しておいてください(おい)捻れ骨子です。
 
 はいそんなわけでして更新です。いよいよジブリールの手勢がカチコミかけてきました。どっかで見たような人間や違う人物名乗ってる人が混ざっていますが、活躍できるかどうかは不明。だってリョウガさんが仕掛けてるんやぞ? 絶対悪辣な罠が待ち構えてるわ。
 果たして何人無事で済むのか。そんな不安を抱えつつ今回はこの辺で。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32・まだジャブにもなってない

 

 

 

 

 

 クーロンズポートはただの宇宙港ではなく、交易のハブ拠点でもある。そのため商談や会合を行う施設も充実している。

 その一つ、商会が直営するホテルの会議室を陣取り、俺は全体の指揮を執っていた。

 

「MSは一個大隊規模。大方はそれほどの練度ではないが、突出しているのがいくつか居るな」

「積極的に攻勢に出ているのはその突出しているもので、残りはそうでもありませんな。本命ではないということでしょうか」

「恐らくはな。本命が控えているんだろう。その前にもう一手くらいは打ってくる」

 

 戦術モニターを見ながら参謀本部から借りてきた佐官と言葉を交わす。数で勝る向こうは艦砲を中心に攻め立てているが、MS部隊は一部を除き派手な動きを見せない。機体の性能差が分かっているというのもあるだろうが、今展開している部隊で決着を付けるつもりはないと見て取った。

 となれば……。

 

「そろそろ動くか」

 

 俺が呟くと同時に、オペレーターから声が上がる。

 

「ソナーに感! 敵艦隊方面より複数の物体が接近! 恐らくは水中戦用のMSと思われます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここから他者視点

 

 

 ババが率いる小隊は、奇妙な形状をしたMSらしきもの――リヴァイアサンと交戦していた。

 

「あの図体でよく動く! しかもこちらの攻撃が通りにくいと来ている!」

 

 乱射されるビームの砲火をかいくぐりながら、ババは毒づく。

 量産型アストレイは堅牢な作りでありながら機動性に優れ、連合やザフトの空戦MSと比べても回避能力が非常に高い。加えて現在搭載されている改良型バッテリーは持続力、出力共に初期の物の倍近い性能となっている(主に某残念天才のせい)ため、継続戦闘力も秀でていた。

 そのアストレイをもってしても、リヴァイアサンは強敵であった。鈍重そうに見えるがその動きは存外軽快で、しかも攻撃があまり通用していない。

 実体弾はPS装甲(多分)に弾かれ、ビームも両腕のシールドらしき物にかき消される。何らかの力場が展開しているようだ。

 その上。

 

()()()()()()()だと!? くそ、どういうからくりだ一体!」

 

 放たれたビームをかろうじてシールドで受け流しながら悪態をつくババ。両腕のシールドはビーム砲も兼ねているが、そのビームが時々大きく湾曲してくるという、目を疑うような砲撃をしてくるのだ。

 どうやらシールドの先端、ビーム砲の両側から生えている爪のような突起物が偏向器のような役割を果たしているようだ。確かに予測しにくいビームの軌道は回避しにくいが、逆に狙いも付けにくいだろう。設計者が何を考えているのかちょっと理解に苦しむ。

 それはさておき、ババたちは攻めあぐねていた。そしてそれは相手も同じだ。

 

「くそっ! 何で墜とせない!」

「カトンボが! 鬱陶しいのよォ!」

 

 苛立った仲間の声を聞きつつ、銀髪の男――【スウェン・カル・バヤン】()()は僅かに眉を顰めた。

 たかだか1個小隊に苦戦している。その事実に焦りのようなものを覚えているのだ。その理由は分かっている。彼らが駆るリヴァイアサンは確かにダガーなどよりよほど性能が良い。しかし非常に扱いにくかった。

 元々突貫工事で仕上げられた機体に、これでもかと機能を詰め込んで、さらには活動時間の延長を図るため無理矢理山ほどバッテリーを積み込んだ。おかげでバランスが無茶苦茶である。

 加えてメインの武装が扱いづらい事この上ない。

 この武装はフォビドゥンのエネルギー偏向装甲【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】とそれを応用した高出力ビーム砲【フレスベルグ】を元にしている。本来であればゲシュマイディッヒ・パンツァーは可動シールドと一体化した物で、フレスベルグはバックパック先端部に備えられていた。しかし元の設計のままだと多量に電力を消費するため、そのまま搭載するのは困難だと判断せざるを得なかった。

 で、無茶振りをされた設計者たちは苦肉の策で、「両者を一体化し、攻防一体の武器として再設計する」という形で製作したのだ。

 同じ技術を元としているので一体化自体はそう難しい物ではなかった。だが当然ながら防御と攻撃を同時に行うことはできない。それを補うために両腕装備となったわけだが、内装しているビーム砲はフレスベルグに比べかなり出力が落ちている。

 加えてこのビーム砲、やたらと命中率が悪い。フォビドゥンにはこの偏向機能を使いこなすために専用の射撃管制プログラムが使用されていたが、リヴァイアサンのそれは突貫工事で組まれた急ごしらえの物。試射もろくにしていない未だ開発途中としか言いようのない物である。そりゃ当たるはずもない。

 機体の制御OSこそ非合法に入手した正規のG.U.N.D.A.M.であるが、そもこんな機体で運用するのを前提としていない。その上G.U.N.D.A.M.は正規のシステムと手段を用いなければ詳細な調整ができない代物だ。下手に手を出そうとすれば運用しているハードを巻き込んで自壊するという凶悪なトラップも仕掛けられている。結局は全力で稼働させるのは困難といったレベルで運用せざるを得なかった。もっとも全力で稼働させたらさせたで空中分解する可能性もあったので、結果オーライと言うべきかも知れなかったが。

 ともかくこれがアストレイ一個小隊程度しか相手取れない理由である。いくらコーディネーターに匹敵する能力を持つスウェンたちといえど、全力を出せなければ苦戦もしよう。逆に言えば一般の兵ならこの機体を持て余し、早々に敗退していた恐れもあった。そして彼らがダガーを駆っていたとしてもそれは同じだ。アストレイを上回る性能も無く装甲を削ったダガーでは、リヴァイアサン以上の苦戦になったに違いない。

 事実連合側は倍ほどの機体数を投入したというのに、何とか互角の戦いを繰り広げているという有様だ。中には早々に損傷を受け後退した者もいる。艦隊も同様で、数で上回っていながら攻めあぐねているようだ。

 しかし苦戦しているのはともかく、オーブの戦力を引きつけているのは計画のうちだ。本命は()()()()()()()()

 

(……そろそろ動いているはずだ)

 

 スウェンは、機体のバッテリーと作戦行動時間を推し量りつつ頭の隅で考える。時間的に次の手が打たれている頃合いだった。

 その一手で形勢が変わるのかどうか。どうにも微妙な不安を覚える。顰めた眉を元に戻さぬまま、スウェンは巧みに回避行動を取った。

 その姿に似合わない軽やかな機動で、彼のリヴァイアサンはビームを躱す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海中。連合艦隊から複数の影がクーロンズポートへ向かう。

 連合初の水中用MS【フォビドゥンブルー】……のコピー品である。名前の通りフォビドゥンをベースにした物であるが、実はアズラエルの元で開発されているそれはまだ未完成であり、そこから流出した不完全な設計データを元に作られた代物だ。

 元々ゲシュマイディッヒ・パンツァーを応用して耐圧処理しているという無茶な設計で、バッテリーが切れると圧壊する危険性があるという欠陥があるが、このコピー品はその欠陥をそっくりそのまま受け継いでいる。その上不完全な設計を元にしているため、想定していた性能を満たしていないという残念ぶりだった。

 こんなんばっかりだが、ジブリールの元で開発されている兵器は本人の無茶振りのおかげで開発が難航しており、現状で使える物をそれなりの数で揃えようとすれば、余所から持ってくるか突貫工事で仕上げるしかない。現場は頑張ったのだ。

 そんなぽんこ……がらく……急造品を駆るのは、ブルコスキマった半分決死隊とも言える連中である。

 

「敵艦隊に斬り込むぞ。空の化け物に加担する連中に思い知らせてやれ。青き清浄なる世界のために」

「青き清浄なる世界のために」

 

 自分たちもまた本命ではないと知らぬまま、彼らはオーブ艦隊へと迫る。

 しかし。

 

「ソナーに感!? 潜水艦……いや、違う。なんだこの反応は」

 

 オーブ艦隊周辺から現れた反応に、部隊長は声を荒げる。海中は音響や振動を監視するソナーが索敵の手段として用いられるが、彼らが捉えた反応は今までにないものだった。

 大きさはMSサイズ。しかし反応がおぼろげというか、妙な振動波を発しており、全体像がはっきりとつかめない。モニターの画像はメインカメラからの映像を補正した物で、可視の距離は短く先まで見通せない。モニターに表示されたソナーからの情報が頼りだった。

 

「オーブも水中用MSを開発していたというのか。だがこちらの方が性能は上だ」

 

 展開されたゲシュマイディッヒ・パンツァーは水中での機動性をも確保し、理論上最大で100ノットほどの速度を出すことも可能だ。本来の設計より能力は落ちるとは言え、それに近いレベルで動き回ることができる。水中戦では圧倒的な優位を得ることができるはずだった。

 しかし。

 

「っ!? 向こうも速い! こちらと同等の機体だとでも言うのか!?」

 

 驚愕する隊長。その睨み付ける先、フォビドゥンブルーコピーの群れに相対するのは、蒼を基調としたカラーリングのMS部隊であった。

 アストレイM装備。水中戦用のオプションだ。原作におけるアストレイブルーフレームの【スケイルシステム】。その完成形とも言える。

 形状としては曲線多めの増加装甲を全身に纏っている重装型に見えるが、その装甲表面は無数の鱗のような物で覆われている。この鱗状のパーツを振動させることによって推力を得たり防御に転用することができるという、従来の水中用MSとは設計思想の異なる物だった。これとメイン推力である水中ジェットを組み合わせることによって、水中でも高い機動性を得ている。

 また装甲から生じる振動波は、敵のソナーに対して「ぼやけ」のような反応を生じさせ、索敵を混乱させる効果もあった。副次的な物であるが、この効果のおかげではっきりとした機影を捉えることができず、武装の照準も攪乱させる。水中戦において優位に立つことができた。

 原作のM1アストレイと違い、バイタルパートを含めた機体各部が頑強に作られている量産型アストレイをベースとしたこの機体は、それなりの深度でも活動が可能だ。ゲシュマイディッヒ・パンツァーで無理矢理水圧に耐えているフォビドゥンブルーコピーに比べて、基本性能で勝っている。

 そんな機体を駆る海軍の選抜パイロットたちは、初の対MS戦に際して僅かながら緊張した様子であった。

 

「上の予想通り連合も水中用MSを開発してきたか。楽はさせてくれんようだ」

 

 中隊長が愚痴るように呟く。何事もなければ敵艦隊を引き込んだ上で、M装備の部隊が艦隊を襲撃する予定であった。もっともその可能性は低いとされていたが。

 

「形状に反して速い、速度は互角以上か。PS装甲くらいは備えていそうだな。こちらの武器でダメージが与えられるかどうか不安だが、やるしかあるまい」

 

 撃破や鹵獲を命じられていないのが救いだと、中隊長は苦笑する。今回の任務はあくまで防衛。よほどの性能差でなければ、上手く立ち回れると判断した。

 M装備の武装は6発の魚雷を装填したランチャーと、硬金属製の銛を打ち出すスピアガン。そして格闘戦用のナイフ(アーマーシュナイダー)だ。PS装甲持ちであれば効果は薄いが、当て続ければ電力を消耗させることはできる。流石にバッテリーに負荷がかかれば後退せずにはおられまい。そう算段した中隊長は配下に指示を下し、スロットルを開ける。

 初の水中MS同士の戦闘が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言った戦況を確認して、ネオは不敵に笑む。

 

「上手いこと噛み合ってくれたようだな。そろそろ出番か」

 

 そう言うが早いか出撃の指示が下る。彼は機体をカタパルトデッキに上げた。

 現れるのは濃いグレーの、ストライクによく似た機体。カラーリングはPS装甲がダウンしたままにも見えるが、細部に別の色が現れているところを見ると作動しているようである。

 エールユニットよりもごついフライトユニットと、でかい複合火器に頑丈そうなシールドを備えたその機体は、カタパルトに乗り身構えた。

 

「【ストリームストライク】、ネオ・ロアノーク出るぞ!」

 

 狂気の男を乗せた機体が、大空へ舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリ機体設定

 

 

 アストレイM装備

 

 量産型アストレイに水中用のオプションを施した物。本文で語っているとおりブルーフレームのスケイルシステム、その完成形。

 スケイルシステムを備えた重装甲で全身を覆われており、Gセルフの高トルクパックと似たような外観となっている。この重装甲は水圧に耐えるのと増加のバッテリーを搭載するためで、鈍重そうに見えながら水中での機動性は高い。またスケイルシステムを防御に転用することで、高出力のビームなどにもある程度耐える。加えて本文にも記したが、スケイルシステムが放つ振動波は水中では一種のジャミングとして働き索敵を阻害するため、ステルス性とは別種の隠蔽能力を持つ。霧や霞を発生させて姿を追い隠すような物と考えてくれればいい。

 基本性能は既存の水中用MSどころか完成したフォビドゥンブルーよりも上だが、ビーム兵器を備えておらず火力で連合の機体に劣る……と見せかけているだけで別にビーム兵器が使えないわけではなく、状況によっては普通に装備する。つまり割と強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 修羅場が終わりを見せねーよ。
 これからあと数ヶ月続くのかと思うと宇宙猫になりそうな気がしますが去年よりはマシ。……と自分を誤魔化してみても仕事は減らないんだよなあ捻れ骨子です。

 さ、鬱な気分を吹き飛ばしつつ更新ですが、話進んでねーよ。やっと狂う……げふんげふんネオさん出撃しただけだよ。まあここまで引っ張ってきたM装備は出ましたが。出ただけですが。
 ともかくジブやん&一族(?)は色々ぶっ込んできました。ぽんこつなのがジブやんのところ製でまともなのが一族(?)製だと思ってくれればいいです。だってジブやん無茶振りするから。
 どんな酷い目に遭うかは次回以降。まだ罠のわの字も出てませんしねえ。果たしてどんな仕掛けがありますやら。……次回までに考えつくんやろか。(おい)

 そんなこんなで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33・不意打ちはやめてくんない!?

今回のBGMは言わなくても分かってくれると思う


 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

 発艦したストライクに続くのは、同じようにグレー系で塗装されたダガー。ストリームストライクと同様に、ジブリールの『後援者』から供給された機体だ。その性能は連合で正規採用されている物と同等以上である。

 そして、ストリームストライクも。

 

「OSはオリジナルではなく、シグーのものを改良したのか。だがいい反応だ」

 

 どうやらG.U.N.D.A.M.を入手することはできなかったらしく、ザフトのOSを加工して搭載しているようだ。しかしながらネオは十分な手応えを感じていた。

 

「むしろこちらの方が慣れている」

 

 コーディネーター用のOSだが、ネオにとっては使い慣れた物であった。専用に調整されたこともあって、非常になじむ。後援者の仕事に満足感を覚えつつ、ネオは配下に命じた。

 

「総員聞け。我々は中央を突破し『荷物』を送り届ける。その後は敵の戦力を引きつけるぞ。敵の増援が現れる可能性もある。場合によっては作戦の中断もあり得るので索敵は怠るな」

『了解』

 

 返ってくる返事には、揃って感情という物が乗っていない。訓練が行き届いているのか、それとも何らかの『処置』が施されているのか。どちらにしても、自分の命令に従ってくれるのであれば構わないと、ネオは思う。

 

(まあ、いざというときは私を後ろから躊躇いなく撃つ類いであろうがな)

 

 信用していないしされていない。互いにそういう物だと理解している。元々ネオは世界滅亡させる勢いで無敵の人だ。世の中が自分の思うとおりにめちゃくちゃになってしまえば死んでも構わないと思っているので、今更背中から狙われていようがどうと言うことはなかった。

 

(それよりもリョウガ・クラ・アスハだ。ここで始末を付けられればいいが)

 

 ネオの狙いはそれだ。この世界を大きく動かし、自分の企みを崩してきた男。彼を消すことが自身の目的を果たす事につながると確信している。

 しかし簡単にはいくまい。これまで様々な窮地をくぐり抜けてきた男だ。恐らくはこの場でも十重二十重と策を巡らせているに違いない。場合によってはラクス・クラインやムルタ・アズラエルはおろか、本人ですらも偽者であったと言うこともあり得た。

 もっともその可能性は低いと考える。リョウガ・クラ・アスハという男は、良くも悪くも自分で現場に赴きたがるタイプだ。そして自分自身を餌に罠を仕掛けることを躊躇わない。であれば影武者を用いることはしないだろう。十中八九本人がこの場にいると考えていい。

 

「そこまで届くかな? 私の運と技量が試されるところだ!」

 

 言い放って、ネオはスロットルを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クーロンズポート。数キロ四方の大きさを持つこの海上浮遊施設は、マスドライバーを中核として様々な設備が存在する。

 その中の一つ、船舶が停泊する港に、2機のMSが待機していた。

 

「激しくやり合っているな。押されているのか?」

「……いや。むしろオーブの軍が押している。無理に攻め入ってないからそう見えるだけだ」

 

 一方は白と蒼のMSアストレイブルーフレーム。もう一方は蒼と黒を基調とした機体、量産型アストレイR装備である。

 R装備は陸戦用オプションの一つで、機体各部に増加装甲を施し、増加バッテリーと追加武装のエクステンションを兼ねたバックパックを備える。そして最大の特徴は脚部に地上走行用のローラーを備えているところだ。これにより高速で地上を走行することが可能となり、バクゥに匹敵する機動力を得ている。急行(ラピドリー)を冠したコードを付けられた由縁だ。

 バックパックにミサイルランチャーとビームカノンを増設したその機体を駆るのは、傭兵部隊サーペントテールに所属する【イライジャ・キール】。クーロン商会の伝で、実戦でのデータ収集と引き換えにアストレイを少々安価で入手したのだった。

 コーディネーターであるが身体能力はナチュラルとほぼ変わらないイライジャは、『一般兵がアストレイを運用するデータ』の収集にうってつけだと思われたようだ。本人はそのことに少々複雑な心境であったが、それなりの腕がなければこのようなことを押しつけられはしないだろうと開き直っている。

 そんな彼と会話しているのは、とうぜんブルーフレームに乗った叢雲 劾。彼のブルーフレームも、以前とは少々姿が変わっていた。

 基本的な外装は、別の世界でセカンドと呼ばれた改装型とほぼ同じだ。だが背面にはエールストライカーと同様のフライトユニットを備えており、主兵装はライフル状に仕立てられたガトリングガン、【ハイブリッドガトリング】と腰に下げられた大型のブロードソード【ラミネートブレード】である。

 本来であればフライトユニットとガトリング砲台に変形する大剣【タクティカルアームズ】が主兵装だったのだが、この時点ではまだ完成しておらず、その試作品である2つをテストもかねて運用していた。

 ロウが発案したアストレイ改装計画。それはまだ完全ではなかったが、今回の仕事のために突貫工事で仕上げたのだ。まだ正式に機体の名は決まっていないが、強いて言えばブルーフレームセカンド’(ダッシュ)と言ったところだろうか。ともかくその機体の調整もかねて、劾はこの仕事に赴いている。

 

「どうやら海中でも派手にやり合っているようだ。あの様子からすると、こちらもオーブが有利に見える」

 

 沖合で派手に上がる水柱を見て、劾は水中の戦況も推測している。オーブも連合も水中用のMSを投入すると聞かされていたが、海上に姿を見せない様子を見ると、双方本格的な物を開発したようだ。劾は試作段階のスケイルシステムしか見聞きしていないので、M装備がどれほどのものか知らない。が、クーロン商会のアレだが優秀な開発陣を知っているので、かなり高性能な物だろうと当たりを付けていた。そしてそれは大体正しい。

 戦況は、オーブ軍が連合を押さえ込んで膠着状態に見える。しかしそろそろ新たな動きが生じるようだ。

 

「敵艦隊から新手? 戦場を突っ切ってこっちに向かってくる!」

 

 オーブ軍のレーダーシステムとリンクした索敵管制からそれを読み取ったイライジャが声を上げる。

 

「いよいよ出番か。ここで直接戦闘なんてことになったら大詰めだって話だが」

「……いや、もう一波乱ありそうだ」

 

 劾の眼差しが、鋭く上空に向けられる。

 風切り音。そして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が起こった!?」

 

 思わず声を張り上げるネオ。突撃を敢行しようとした矢先に起こった出来事。敵艦隊からの砲撃……ではない。大破した空母は艦隊の後方に位置しており、オーブ艦隊の攻撃は届かない。よしんば届いたとしても、一撃で空母を大破させるほどの兵器など無かったはず。そして水中では苦戦しているものの、まだ抜かれてはいない。そしてほかに潜水艦や機雷などの反応も見当たらなかった。そも一撃で空母を大破させるような魚雷や機雷などもないが。

 索敵範囲内からの攻撃ではない。であるならば。

 

「上か!」

 

 ネオが上空を睨み付け、それと同時にレーダーに感。

 彼方に生じた点。それは徐々に大きさを増し、翼を持つ何かだと見て取れる。

 ハガクレ級ネームシップハガクレ。アメノミハシラより直接降下してきたそのカタパルトデッキが開放されていく。

 

「閣下、『彼女』を先行させてよろしいので?」

「本人たっての希望だ。無下にするわけにも行くまい」

 

 自機のコクピットで、苦笑しているギナがブリッジからの問いに答える。

 

「それにたまにはリョウガの度肝を抜くのも面白かろうさ」

「承知しました。ご武運を」

 

 言葉を交わすギナの前で、1機のMSがカタパルトから飛び出す。その機体は最大加速で一直線に降下。ビームを連射しネオたちを狙う。   

 

「くうっ! 各機散開しろ!」

 

 増援の登場に、後退を命ずるしかないネオ。急降下してきた機体は、クーロンズポートを護るかのごとく、彼らの前に立ち塞がった。

 白を基調とした機体。背中にはフライトユニットを背負い、腰回りにはスカートのようなスラスターが増設されている。

 アストレイをベースにしたその機体は、右手の武器――ビームライフルと実体剣を組み合わせた武器【シュラークシュヴェールト】を真っ直ぐに敵へと向けた。

 そしてそれを駆る人物――()()()()()()()()は、大音声でこう宣った。

 

 

 

 

 

「我が名は【レーツェル・プリツェスィン】!

 悪を討つ剣なり!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※リョウガ視点

 

 

 ごん、と音が響く。俺が頭をテーブルに打ち付けた音だ。

 即座にがばりと身を起こし、俺は思わず叫ぶ。

 

「なにやってんの!? ホントなにやってんのあのお姫様はァ!?」

 

 予定にないどころじゃねえよ! しばらく関わってこないと思ってたらよりによってこんな場面で介入してきやがった! 本来ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()とハガクレによる奇襲で打撃を与えるつもりだったんだが!? いやそれ自体は予定通りなんですけれど!?

 ああもう混乱している場合じゃねえ! 俺は回線を開いた。

 

「姫さん! あんた何してんだ!? 実戦に出てきていい立場じゃねえだろうが!」

 

 怒鳴るような詰問に対し……ってなんなのあの仮面!? ふって格好付けて笑ってる場合じゃないでしょお!!(←大混乱)

 

「ふ、問われて名乗るのもおこがましいですが、私はレーツェル・プリツェスィン。謎の助っ人です」

「いやそうじゃなくて」

「レーツェル・プリツェスィン。謎の助っ人です」

 

 ……OK話聞く気ねえな? 俺は回線を開き直す。

 

「ギナああああああああ! 何で姫さんぶっ込んで来やがったあああああ!!」

 

 ギナに通信をつなぐと同時に吠える。通信向こうのギナはすました顔で。

 

「まあそう興奮するな。これにはやむにやまれぬ事情がある。いや我々も最初は止めたのだぞ?」

「どういう事情があってこんな爆弾放り込むんだよ!」

「私とミナを含めた、アメノミハシラに駐留しているエース級のパイロット全員に模擬戦で勝ったら言うことを聞いてやると言ったら、ホントに全員を倒したのだよあのお姫様は」

「おいオーブ軍筆頭パイロット。おい」

 

 ギナとミナに勝つだとぉ!? ってかいつの間に何やってやがった。油断も隙もねえなあ!

 あ~もう、あーもう! 俺はがしがしと頭をかきむしってから、深呼吸して口を開く。

 

「言いたいことは色々あるがそれは後だ。ギナ、予定通り引っかき回してやれ。……俺だけ度肝抜かれるのは不公平ってもんだろ」

 

 応えるギナは鼻を鳴らして。

 

「もうすでに我々も度肝を抜かれた後なのだがな。まあいい、精々連合の肝を冷やしてやるさ」

 

 不敵に笑む。それを確認してから再び回線を開き直す。相手は仮面の姫さんだ。

 

「……姫さん、もう多くは言わん」

 

 半分諦めだが、確信もあった。

 この女は、()()

 だから。

 

「信じるぞ」

 

 一言だけ告げてやった。

 さすれば返ってくるのは、仮面越しでも分かる、花もほころぶような笑み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※再び他者視点

 

 

「……任されました」

 

 万感の思いを込めてそれだけ返し、通信を切る。

 だめだ、にやにやが止まらない。クリスげふんげふん謎の助っ人レーツェルは、テンション爆上がり状態であった。

 惚れた男から信を寄せられた。これが奮起せずにいられようか。もう何が来ても負ける気がしない。巨大な要塞とかビーム砲とかずんばらりんとやれちゃいそうな勢いである。

 仮面越しの鋭い眼差しで前を見据える。艦隊に仕掛けられた謎の攻撃と、ハガクレの奇襲によって敵は混乱していた。この好機、逃しては女が廃る。

 

「我がシュラークシュヴェールトの前に潰えなさい!」

 

 白き機体は、勢いよく眼前の敵に挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリ機体紹介

 

 

 ストリームストライク

 

 謎の組織()によって作られ、ネオに提供された機体。

 ジブリールんところのコピー品より完成度が高く、オリジナルのストライクを上回る性能を持つ。OSはザフトのを改良したもので、操作性は悪いが使いこなせれば機体の性能を十分に発揮できる物となっている。

 武装は実体弾のアサルトライフルとビームライフルを組み合わせた複合火器と、大型ビームソードなどを内蔵した複合シールドのみだが、ネオの技量も相まって驚異的な性能を発揮する……はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アストレイR装備

 

 作中にあるとおり量産型アストレイの陸戦用オプションの一つ。(L(ランド)装備でないのはこれ以外にも陸戦用装備があるから)戦場で即座に展開するためのもので、脚部のローラーにより高い機動力を誇る。某ビルドシリーズ外伝のあれを、重装甲にして武装を抑えた感じ。

 なお初期ロットはオーブ軍に配備されており、イライジャに提供されたのはセカンドロット以降の品。つまり実は完成度が上がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アストレイ【ブルームゲシュテーバー】

 

 謎の助っ人()レーツェル・プリツェスィンが駆るアストレイのカスタム機。

 量産型アストレイをカリカリにチューンし、スラスターを増設して機動力を高めている。もちろんまともな人間には扱えないじゃじゃ馬。一応やんごとなき人の乗機なのでPS装甲とビームコーティングなどを追加し防御力も向上しているが、それをいいことに戦場のど真ん中に突っ込む気満々。

 なお機体名はドイツ語で「花吹雪」の意味。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あともうちょっとで仕事に区切りがつくってところで豪雨。
 神はよほど私が嫌いなようだな。などとガンダムの仮面キャラっぽいこと言ってたら雨止んだ。マジか。
 イケボに生まれたい人生だった捻れ骨子です。

 はい更新です。今回も話進んでない……と思わせといて姫さんのエントリーだ! いえね、最近まともに出番がないなあと思ってましたらいつの間にかこんなことに。勢いって怖いですね。二十行前までは姫さん登場予定無かったんだよ。信じれ。
 おかげさまでリョウガさんの計画だけじゃなく筆者の考えていたストーリーもぐしゃぐしゃになりましたわ。マジでこの顛末がどうなるか予測不可能です。どうしよう。(途方暮れ)
 なお姫さん転生者っぽい偽名と台詞ですが、素です。ノリと勢いだけであのキャラクター生み出しました。筆者が。この先どう動かしたもんだか。主役食うって言うか主役じゃねえかコレ。フリーダム登場オマージュっぽいしな。むしろダイゼンガーか。

 そんなこんなで今回はこのあたりで。


2023/07/02追記

阿井 上夫様からいただいた、レーツェル・プリツェスィンのイラストを追加いたしました。ありがとうございます!
パイスーが実に素晴らしいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34・なるように『する』んじゃない

 

 

 

 

 

 ハガクレ――大気圏突入能力と飛行能力を備える特装艦による降下奇襲攻撃。今回はその実証試験を兼ねたものだったが。

 

「予想以上の効果があったな。まあ状況が状況だが」

「相手にも同様の特装艦があれば話は違ったのでしょうな」

 

 参謀と言葉を交わす。モニター向こうの戦況は……はっきり言って一方的だった。

 降下してきたハガクレは海上に降りず、戦場を旋回しながら敵艦隊に攻撃を叩き込んでいる。所謂ガンシップそのままの戦術をとっているわけだが、輸送機に大口径砲を積んだガンシップと違い、戦艦の火力がそのまま叩き込まれるのだ。しかも上空からなので敵艦隊の砲火は届かず、対空ミサイルなどはハガクレの砲火か護衛のMSに撃ち落とされていた。MSによる攻撃も同様である。と言っても姫さんとギナ率いるMS部隊に引っかき回されて、ろくな攻撃もできていないようだったが。

 折角空飛べるんだから、なにも真正面からドンパチしなくていいじゃない、と俺が思いついて発案した戦術だ。マ●ティジ●ックでも似たようなことしてたし、有効じゃないかと思っていたらマジ有効だった。まあこれ、一方的に戦艦が空飛べるから成り立つ戦術であって、アークエンジェルのような同系列の艦が相手に存在すれば対処される程度の物でしかない。その場合降下中に粒子砲ブッパで不意打ち上等になるが。

 ともかく予想以上にこちらの優位で戦況は進んでいる。要因はこっちで想定していたよりも敵の戦力が低かったことと……『アレ』である。

 

「ほぼ一人で中隊規模を押さえ込むとか、どうなってんのあの姫さん」

「見れば向こうもエースクラスなのですがなあ」

 

 参謀と揃って宇宙猫の顔になる俺。うん、すごい大立ち回りしてんだあの姫さん。突出してきたストライクらしきMSと、それが率いるダガーらしきMSの部隊を纏めて相手取ってる。

 一応ハガクレから援護についてきてる小隊がいるが、ホントに援護だけでまともに活躍の場を与えられていなかった。あいつらアメノミハシラ所属のトップガンのはずだよなあ。完全に添え物じゃねえか。

 で、さっきも言ったとおりハガクレとギナたちのおかげで敵艦隊はきりきり舞いだ。指揮官がまともなら作戦失敗と判断して撤退を考え始める頃だぞ。ブルコスキメてる連中だから躍起になってるのだろうが。ともかく敵は完全に押さえ込まれてしまっていた。

 おかげさまで仕込みが大分無駄になりそうなんだよなあ。石橋を叩いて壊すというか、石橋作りすぎてどうしよう感を感じていたそのとき、アメノミハシラから通信が入る。

 

「アメノミハシラ、ミナだ。こちらでも観測しているが、順調なようだな」

「ああ、順調すぎて仕込みが色々と無駄になりそうだよ」

 

 いつもの調子で言うミナに、俺は若干皮肉めいた様子で返す。ホントにもー、何でもかんでも上手くいきゃいいってもんじゃないぞ。

 

「そう言う台詞はあの姫様を止められるようになってから言ってくれ。最低でも我々の手には負えん。……いつかリベンジするが」

「うんそれは正直すまんかった。……まあそれはそれとしてだ、そっちで用意した仕込みは上手くいった。姫さんのおかげで目立たなかったってのはあるが」

「話をそらしたな。まあいい。あの『杖』は想像以上の効果があるのははっきりした。ゆえに取り扱いは慎重にせねばならんだろう」

「分かっている。当面は封印だ。使わなければそれに越したことはない代物だからな」

 

 アメノミハシラに用意した『仕込み』。ハガクレの降下に合わせて試射したそれは、俺からすれば想定通りの効果を示したのだが、ミナとギナはどうやらあまり気に入ってはいないようだった。二人は己の才が十二分に活かせるようなやり方を好む。しかも前線に立ちたがる質だ。遠間から一方的に蹂躙するなんてのは好みではなかろう。

 俺の立場だとそうも言っていられないので用意させたが、うん、ちょっとやり過ぎたかも知れん。タメトモの時点でもう手遅れな気がするがそれはそれだ。無いよりはある方が安心はできるし。

 

「了解した。ブロックごと封印の処理をしておく。できればそのままにしておきたいところだが……む、しばし待て」

 

 何か連絡が入ったらしく、ミナは画面外の誰かと言葉を交わす。マイクから離れたためその内容は聞き取れない。しばらく会話した後彼女は頷き、再びこちらへ向き直る。

 

「予定より少々早いが、『客人』が到着した。準備ができ次第始めるぞ」

「分かった。こっちは精々奴らの目を引きつけておくとしよう。波風立たないよう頼む」

「ふん、それは客人次第だな。まあ殴り合いになったら止めるくらいはするさ」

「煽るなよホント頼むから。あと賭けるのもなしだ」

「周知させておこう」

 

 そこからいくつかやりとりし、通信は切られる。やれやれ、『本命』は無事に成し遂げられそうだ。内容がどうなるかまでは俺達の責任じゃないから知らん(薄情)が、結果次第でこれからどう動くかが変わる。無事に終わってくれりゃいいが。

 ともかくこれからの戦いは蛇足だ。向こうが仕掛けてきたときの用意は万端だったが、この様子だと真正面から押し返してしまうかも知れない。主に獅子奮迅してる姫さんのせいで。

 優勢のまま事を終えられるならそれで良いか。油断はできんが。もう完全に消化試合を見るスタジアムスタッフの心境で、俺は事の推移を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

 ネオは、余裕というものをなくしつつあった。

 

「この私を圧倒する!? 何者だ」

 

 挑みかかってきた白いMS。アストレイの改造機らしいが、恐ろしく手練れだった。

 縦横無尽に(くう)を駆け巡り、四方から強力な打撃や正確な射撃を叩き込んでくる。しかも己だけでなく、配下の機体もあしらいつつだ。向こうも援護に何機か引き連れており、それらもまた腕のいい乗り手であるようだったが支援に徹しており、ほぼ一人で自分たちと渡り合っている。

 明らかに、『己よりも高い技能を持っている人間』。その存在に驚きとも怒りともつかない感情を抱いていた。

 

「私を凌駕する存在など! まさかスーパーコーディネーターか!」

 

 この時点、いやこの時空の中では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。単純に彼と接触しておらず、伝を使ってキラのことを調べていないせいであったが、スーパーコーディネーターの存在自体は知識にある。ゆえにこのような疑いを持ったのだ。

 残念ながら相手はそのような存在ではない。欧州の貴種を寄り合わせた結果生まれた、『天然の怪物』だ。

 

「なかなかやりますね。この私が押し切れないなんて」

 

 ネオと比べ、こちらは幾分余裕がありそうである。技量的なものもあるが、クリス……じゃなかった謎の助っ人レーツェルから見れば、目の前の敵には付け入る隙があった。

 ()()()()()()()()()()()()のである。隊長機であろうストライクの改造機が中核となった部隊だが、その隊長機と配下の者たちの動きが合っていない。いや、配下は隊長機にあわせようとしているのだが、その動きと癖がどうにも機械的なものに見える。それでも並の人間であれば見切るのは容易いことではないが、レーツェルは僅かなタイミングのずれを見出し、そこを突くことができる。むしろ隊長機が秀でた技量を持つからこそ、動きを合わせられないのだろう。この隊長、よほど我の強い人間のようだと、レーツェルは見て取った。

 ともあれほぼ一人で互角の戦いを演じているレーツェルであるが、連携は取れていないとは言っても流石にこの世界で上位に類するパイロットに率いられた部隊だ。いや僅かながらも連携が取れていないからこそ互角に持って行ける。そうでなければ押されていたのは自分であろう。

 一撃離脱を繰り返し、目標の急激な変更やフェイントを織り交ぜて攻める。手の内を読みにくくさせる戦い方で翻弄。無理に仕留めようとはせずとことん隙を突いて相手のリズムを崩す。機動力を高めた機体性能を十全に生かした戦術は、並大抵のものではこなせないものだ。こうでなければネオのような凄腕と渡り合うことはできない。

 だが、そんな彼女にも欠点はある。

 

「あまり粘られても困るので、さっさと下がって欲しいんですけれどね」

 

 苦笑を浮かべるレーツェル。戦闘時間はまだ5分とたっていないが、彼女は時間を気にし始めていた。

 絶大な身体能力と才覚を持っている彼女であるが、それと引き換えに『燃費』が悪いと言うことは前にも語ったとおりだ。

 つまり。

 

 

 

 

 

 <ぐう~>

 

 腹が、減るのである。

 

 

 

 

 

 普通(?)に戦っている分には問題ないのだが、今回のような激戦だとカロリーの消費が半端なものではない。そして空腹が酷くなると、彼女の能力は極端に低減するのだ。

 

「全く、我ながら面倒な体質です!」

 

 言うレーツェルの左手が霞むように消えた。その一瞬の後には封が切られたカロリーバーが握られている。

 それをむぐむぐと頬張りながら、レーツェルは機体を駆り続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()は後退しましたが、この人たちはいつまで粘るつもりなんでしょうかね。おやつにも限りがあるんですけれど」

 

 緊張感はないが、本人なりに危機感を覚え始めている。どちらが先に根を上げるか。この場ではそう言った戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、直近の部下を引き連れて戦場のど真ん中で暴れ回っているギナはというと。

 

「ははははは! どうした、この私と【スサノオ】相手に渡り合える強者はいないのか!」

 

 高らかに吠える彼が駆るのは、アストレイゴールドフレームをベースにした黒い機体。

 【アストレイゴールドフレーム(アマツ)・スサノオ】。本来であれば右腕を失い、そこから他のMSのパーツなどを使い魔改造されるはずだったゴールドフレームだが、この時空では別な意味で魔改造されている。本来備えていたミラージュコロイドやその他特殊装備はほとんど無く、背面には高機動型フライトユニットを背負っていた。読者諸氏の知っている天の特性がほとんど死んでいるじゃないかと思われるであろうが、この機体を設計し改装したのはロウとヴァレリオを筆頭とした頭おかしいロマニストどもである。当然まともな機体のはずがない。

 

「奔れ、【オロチ】!」

 

 左腕に持つ、妙な形の刀剣らしき物が振るわれる。それは中程から先が分離し、ワイヤーのような物を曳いて飛翔した。

 狙われた敵機は回避行動を取る。だが、ワイヤーを曳く切っ先の()()()()()()()()()。予想外の動きは敵機の回避行動を遅らせ、ワイヤーが絡みつき――

 

 ()()()()

 

 誘導式ワイヤーブレード、オロチ。切っ先であるドローンをAI制御し、回避しにくい軌道にて攻撃することを目的とした武器だ。その変幻自在の動きは正しく大蛇を思わせる。

 次々と敵機を切り裂いて、ワイヤーを納め周囲を睥睨するスサノオ。周囲の機体はあらかた片付けた。実に食い足りぬとギナは鼻を鳴らす。

 

「あの姫君は膠着状態のようだが……手助けに行くのも無粋か。そもこの様子なら間もなく撤退を選ぶだろう」

 

 流石に全滅するまで粘るほど敵も阿呆ではあるまいと、ギナは考える。これは別に慢心ではない。戦況はこちらに有利。敵艦隊は4割ほどが大破や轟沈しており、MS部隊も次々と墜としている。よほどの増援でも無い限り勝利は揺るがないと見ていた。

 そして現状で、この艦隊を派遣した勢力が出せる精一杯の戦力だという情報(アズラエル経由)も得ている。増援はまずないと考えていい。

 後は撤退なり降伏なりしてくれればいいだけだ。ギナは傲慢な方だが殺戮を楽しむほど愚かではない。逃げるならとっとと逃げろ負け犬どもと考える程度だった。

 

「そのためにも抵抗する意思を折っておきたいところだが……む?」

 

 戦況を確認していたギナの目に止まった物。それは友軍と交戦している奇妙な形状のMSらしき物。確か戦っているのは空軍のエースであったはずだ。それが苦戦していると言うことは、相当の性能か技量があるという事。

 まあ性能に関してはアレなのだが、技量という点に関しては間違いない。何しろ戦闘用コーディネーターに匹敵するほどの逸材だ。そういう意味でギナの目には狂いがなかった。

 

「……少々『味見』をしても構うまい」 

 

 相手が撤退を選択する前に、強敵と斬り結ぶ。戦闘狂の気もあるギナはそう判断し、機体を奔らせた。

 

「ババ一尉、少々邪魔をするぞ」

 

 最速で割り込み、右腕の武器を振るう。備えられているのはサーベルとライフルが一体化したビーム発信器と電磁射出式パイルバンカーを組み合わせた複合兵器、【アマノサカホコ】。それはババと斬り結んでいたリヴァイアサンに襲いかかる。

 

「っ!?」

 

 狙われた方のパイロット、スウェンは咄嗟に右腕の武装を放棄し後退する。ゲシュマイディッヒ・パンツァーを物ともせず、パイルバンカーが蟹ばさみをぶち抜き、爆発。爆煙の中から無傷で現れたスサノオから、ギナの声が響く。

 

「よくぞ躱した。少しは楽しませてくれそうだな」

 

 強敵だ。本能的にそれを悟ったスウェンは、僅かに眉を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、アメノミハシラでは。

 

「本日この会合を取り仕切らせていただく、ユウナ・ロマ・セイランです。双方にとって実りある物になるよう微力を尽くしますので、どうかよしなに」

 

 一礼するユウナと、その傍らに立つマルキオ導師の前で対峙するは2つ。

 一方は背後に砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドとハイネ・ヴェステンフルスを控えさせたラクス・クライン。

 もう一方は妙に若い護衛を三人侍らせたブルーコスモス穏健派代表……と自称オブサーバーのムルタ・アズラエル。

 世界を揺るがすかも知れない話し合いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……で、クーロンズポート某所では。

 

「……僕いつまでこの格好してなきゃならないんでしょうかぁ……」

 

 ピンクのカツラを被って女装したニコル・アマルフィが滝のような涙を流しており、ヴェステンフルス隊の面子は気の毒そうな(あるいは俺でなくて良かったと言いたげな)表情で、生暖かく見守っていた。

 (なおアズラエルは普通に影武者使った)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリメカ紹介

 

 

 MBF-P01-Re-R アストレイゴールドフレーム天・スサノオ

 

 ゴールドフレームを改装した機体……なのだが、本来の天とはだいぶ違う。まず右腕を喪失しておらず左右対称で、ブリッツの腕を移植することで備えるはずだったミラージュコロイドや武器を持っていない。その代わりというわけではないが装甲とそれに塗布された塗料の効果で高いステルス性を持っており、バックパックはノーマルのアストレイと同じく自在に交換することが可能。原作に近い仕様や全く別な仕様にすることができる。今回は空戦と中近接戦を重視したセッティングとなっており、誘導型ワイヤーブレード【オロチ】や複合兵装【アマノサカホコ】などを装備している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 暑いよ。
 いや文句言ったところで仕方が無いんですが、言わずにゃおられませんて。皆さんも体調には十分お気を付けください捻れ骨子です。

 はいそんなわけで更新です。遅れてすみませんでした。姫さん押さえ込むのに必死で気がついたらこんな時期に……と言うことにしておいてください。実際戦闘シーン書き込みすぎるといつまで経っても終わらなくて泣く泣く削るハメになりました。何しろ本番は戦闘シーンではないので。
 大体はリョウガさんが仕込んだ茶番ですが、本人まだ仕込んでるし企んでそうだぞ。それが生かされるかどうかは全く別問題ですがね。主に姫さんのおかげで。

 さ、次回はなんか胃がギスギスしそうな予感がしますが、果たしてどういう展開になるのか。ってなとこで今回はこれまで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・腹黒盟主とガンギマリ歌姫

 

 

 

 

 

「……そのようなわけで、今回オブザーバーとしてまいりましたムルタ・アズラエルです。よろしく」

「プラントの特使を務めております、ラクス・クラインです。実りある話になることを期待しておりますわ」

 

 笑顔で交わされる挨拶。にこやかにそれを見守るユウナの内心は。

 

(せめて平穏無事に終わってくれないかなあ。無理だよなあ)

 

 波乱の予感に戦々恐々としていた。

 部屋にいる人間は大体笑顔。(穏健派代表の顔が微妙に引きつっているような気はするがそれは良いとして)その裏で緊迫感が半端ない。隣で涼しい顔をしているマルキオ導師はやはり大物だなあと、場違いな感想を抱くユウナであったが、現実逃避していても話は進まない。気は進まないがと、彼は口を開いた。

 

「では、時間も限られておりますので早速始めるといたしましょう。まずはラクス・クライン殿、何やら配付の資料があるそうですが」

「はい。ではまずこちらの資料をご覧ください」

 

 傍らのハイネから受け取ったファイラーから紙の資料を取り出すラクス。そして彼女はそれを自ら目の前の二人に差し出した。何の害もないというアピールのつもりなのかも知れないが大胆なことだと、ユウナは微妙に呆れる。

 アズラエルは平然と、代表は恐る恐るそれを受け取る。ラクスはにっこり笑って

 

「ご安心を。カミソリやガラス繊維は仕込んでいませんわ」

 

 などと宣いやがる。笑えない。

 そんなブラックジョークを受け流して資料に目を通していたアズラエルの眉が、ピクリと動いた。笑顔のままのラクスが話を続ける。

 

「ご覧の通り、この資料は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。予想に関してはいくつかのパターンを考慮いたしましたが、大幅に外れてはいないかと」

 

 唖然とする穏健派代表。対してアズラエルはふむ、と頷いた。

 

「なるほど、かなり精査した物のようですね。なぜならば()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから」

 

 特に驚く様子も見せていない。あるいは表面に表さないだけなのかも知れないが。

 ラクスの笑みは変わらない。だがどこか雰囲気が変わった。

 

「意外でしたよ。ここまでの数値が上がってくるとは」

「もっと楽観的な物、と考えておられましたか?」

「まあ数字だけで止まるような方々でもないでしょうがね、プラントのお偉方は」

 

 皮肉めいたアズラエルの言葉に、ラクスは肩をすくめる。

 

「その通りでしょう。恐らくはプラントのシンクタンクも正確な数字は出せないかと。内心はともかく今の政府の意向に逆らうとは思えませんから」

「ほう? ではこの数値は貴女が独自に算出した物だと?」

「生憎わたくしにはそのような才能はございませんので。中立国の経済研究者の幾人かに依頼いたしまして。その結果をこちらで纏めさせて貰ったものですわ」

 

 中立国にそれなりのコネがあると匂わせる。なるほど、かなり強かな人間だとアズラエルは判断した。

 

「それで、貴女はこれを我々に見せてどうしようと? 先ほどからの語り口を見ると、貴女はプラント上層部と大分考え方が違うようだ。それでは特使として、いかがな物かと思わないでもありませんが」

 

 最早完全に穏健派代表から話の主導権を奪ったアズラエルが、揶揄するような口調で言う。ラクスの方は飄々とした物で。

 

「これはあくまで参考資料に過ぎません。この『事実』を踏まえた上で、どうするべきか、どうなさりたいのか。そう言ったご意見をお伺いしたいと」

 

 そう言ってから「もっとも」と続ける。

 

「これを見せつけたところで、プラントの上層部は早々考えを改めたりしないでしょう。それは重々承知。……ですが、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 この戦争が馬鹿げた物であると理解した上で、それでも続けるという選択肢がとれるのかと突きつける。これはつまり、『お前たちはプラントと同等以上に馬鹿なのか?』と問うているような物だ。それを理解したユウナは背筋に怖気のような物を感じていた。

 

(このお嬢さん怖いよ!? ちょっとガンギマリすぎてない!?)

 

 喧嘩売ってるどころの話じゃない。人によっては即座に交渉決裂しかねない挑発行為だ。つーか身内をこき下ろしすぎである。下手をすれば世界中を敵に回しかねない危険思考と言えた。

 別の世界線(原作)では実際にそれと似たようなことをやらかしたと知る由もないユウナは、余裕ぶった表情を顔に貼り付けるのに全力を尽くすしかなかった。

 果たしてアズラエルは、軽く鼻を鳴らして応える。

 

「中々踏み込んだことをおっしゃる。……ですが、僕を揺るがすには()()()()()()

 

 え? ちょっとこの人何言ってんの、みたいな顔をしている穏健派代表を余所に、アズラエルは続ける。

 

「ここで貴女の挑発に乗って、和平に動くと言うのは簡単だ。ですがそんなお為ごかしで誤魔化される貴女ではないでしょうし、認めたくはないが我々の方にもこの資料を鼻で笑うような人間はいる。何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに頷ける話じゃない。……これ以上の『何か』。プラントも連合側も動かせるだけの理由がなければ、怖くて乗れませんねえ」

 

 挑発し返す。何しろ自分も出して、なおかつ聞く耳を持たれなかった実例がある話だ。動く材料たり得ない。

 まあ当然ながら、ラクスの『爆撃』は、まだここからが本番だ。

 

「なるほど、もう少し踏み入った話をする必要がありますね。……ではこういうのはいかがでしょう。『コーディネーターの欠点』についてのお話なのですが」

 

 思わず吹きそうになるユウナ。おいおいさらにぶっ込んで来やがったぞこのお嬢さん。ちょっとそこの砂漠の虎さん、止めてくんない!? と助けを求めるような視線をバルドフェルドに向けるが、虎さんの方は素知らぬ顔だ。あるいは彼も内部で現実逃避しているのかも知れないけれど。

 アズラエルはと言うと、どうやら少し興味を引かれたようだ。

 

「ほう? どのようなお話で?」

 

 促されたラクスは――

 

「ご存じでしょうが、コーディネーターはその能力と引き換えに生殖能力が低下いたします。そしてそれは世代を重ねるとより顕著に表れるのですが……()()()()()()()()()()()()()?」  

 

 ()()()()()()()()()()

 

「それはやはり、コーディネートという技術が神の摂理に反した物であり、不自然で不完全であると言うことの証明では?」

 

 ここぞとばかりに口を挟む穏健派代表だったが。

 

「ええ、『不自然』なのです」

 

 ラクスの言葉にどういうことだと眉を顰める。

 

「ジョージ・グレンが公表したデータを基に、数多のコーディネーターが生み出され、後の騒乱の原因となったわけですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に、アズラエルがはっと気づいた。

 

「そうか……コーディネイトで施される遺伝子改造は多種多様。だというのに差異はあれども皆一様に生殖能力が低下している。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とみているのですね。貴女は」

 

 得たりとばかりにラクスは頷く。

 

「はい。わたくしは意図的なものだと思います。しかも世代を重ねなければ、その事実が露見しないという巧妙な手口をもって隠蔽されたものだと」

 

 ラクスの言葉を聞いたユウナは、もうどうにでもな~れという心境だった。

 

(リョウガと同じ結論出しちゃってるよこの人! この先どうなってもオラ知らねぇだよ!)

 

 混乱しながら匙投げてる。以前リョウガにコーディネーターに関する危惧を概要のさわりだけ聞いていたが、ラクスの言ってることはほぼそれと同様の内容であった。はっきり言って今の世の中が根底からひっくり返るような話で、さすがのリョウガも全容を語るのは躊躇われるほどのものだ。それをぶっこんでくるこのお嬢さん怖いもの知らずか。いやそこまで言わなきゃ動かせないからってのはわかるけど。

 現実逃避どころじゃないユウナの心境なんぞ置きっぱなしにして、話は進む。

 

「そしてさらに不可解な点ですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを探り出そうという動きすらない、いえ、あったのかもしれませんが全く表ざたになっていないというのは、不自然にもほどがある。そう思うのですが、いかがでしょう?」

「なるほど。コーディネーターに関する一連の流れ。いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、貴女はそう言いたいわけですね?」

「机上の空論ではありますが。ですがそう考えれば辻褄の合うことも多いかと」

 

 ふむ、とアズラエルは顎に手を当てて考える。ただの小娘ではないだろうと考えていたが、なるほど予想以上に『難敵』だ。こちらの予想以上で、しかも否定しにくい話をぶち込んでくる。並大抵の人間であればそのショッキングな内容にのまれて同調してしまうかもしれない。

 実際大事である。隣の穏健派代表などは今にも意識を飛ばしてしまいそうだ。そしてアズラエル本人からしても座視できることではない。もしこれまでのことが何者かによる策略であるとするならば、『腑に落ちる』ことも多々あった。例えば血のバレンタインの件。あれは自分の指示ではなかったが、()()()()()()()()()()()()()という部分に関しては、曖昧なところが多い。これまでは過激派に煽られた現場の暴走とみていたが、今の話を聞けば見方が変わってくる。それだけではなくすべての流れが疑わしく思えてしまう。

 アズラエルもラクスも知らないことであったが、事実裏で一族という存在が状況を動かしている部分もあった。だがそれはすべてではない。彼らは発生した状況をうまく利用する術に長けてはいるが、すべての火種を生み出したわけではなかった。彼らの手の届かなかった部分はあるし、あるいは彼ら自身も利用されているのかもしれない。

 それはともかく、グレートプレーヤーの自覚があるアズラエルとしては、実に面白くない話であった。世界を手玉に取っているつもりが逆に踊らされていたなど、腹が煮えくり返るでは済まない。だからと言ってはいそうですかとラクスの話に乗るのもためらわれた。彼女がコーディネーターだからではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ラクスの推測をプラント上層部が知れば揺れる。そりゃもう震度なんぼやってくらい大騒ぎになることは間違いない。そしてラクスはその状況を十分に利用できるだろう。その上で自分たちが同調するとなれば、これはもうラクスの掌の上で転がされているようなものである。イニシアチブが自分以外のものに握られているというのは、個人的なプライドが許さなかった。

 だが、ラクスの仮説は()()()()()()()。真偽はどうでもいい。この泥沼の戦いから目をそらせる何か、自分たちとコーディネーター以外の『戦争の原因を押し付けられる存在』を作り出せる可能性があった。一歩間違えればただの陰謀論だが、陰謀論なんぞ自分は頭がいいと思い込んでる連中ほど引っ掛かりやすい物だ。ブルーコスモスの多勢、そしてプラントの首脳陣なんか大概は引っかかる。賭けてもいい。

 ラクス自身もそれがわかっている。わかっていてこの話を持ち掛けた。油断のならない人間だ。さて目の前の女からどう主導権を奪うか。アズラエルは思考を巡らせる。

 

「実に興味深い話です。……ですが、『確証』がない。心当たりが多々あるという状況証拠だけで、裏で糸を引いている何者かが存在するという証拠がありません。動くにはどうにも心もとない」

 

 わざとらしく肩をすくめてやれやれとかぶりを振って見せた。安い挑発だ。この程度でラクスを揺るがせるなどとは思っていない。情報を引き出せるだけ引き出す。その駆け引きの一手だ。

少しずつ揺るがして……などと考えていたアズラエルだがーー

 

「ええ、ですので……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ラクスはまた斜め上の方向にぶっこんで来た。

 

「「……………は?」」

 

 アズラエルと穏健派代表は間の抜けた声を出した。出すしかなかった。

 ラクスの背後に佇むバルドフェルドとハイネは動じていない。事前に聞かされていたのか、それともなんかこう色々と諦めているのか。聞かされて色々と諦めたのかもしれないが。

 なおアズラエルの後ろの三人はというと。

 

(なんか難しい話してんなー)

(たいしょーがなんとかするんでしょ)

(きょうみなーい)

 

 ってな風にマイペースだった。強い。

 ともかく呆気にとられるアズラエルだったが、はたと我を取り戻しラクスに問う。

 

「それは我々に危ない橋を渡れと言っているも同然のことだと理解していますか? もしも貴女がおっしゃるような存在があるとなれば、それは我々のような人間にも感付かれることのない、深淵に居る。手を突っ込めば火傷ではすまないでしょう」

 

 言い訳である。実際の所アズラエルは話の主導権を握りたかっただけで、事実を調べる必要は無いと考えていた。この件は『匂わせるだけ』で疑心暗鬼を生める。現状でも十分駆け引きの材料となるのだ。

 そして言ってること自体は嘘でもない。そのような存在があれば根っこは相当深く各所に食い込んでいるだろう。ただでさえ不安定な状況の中、下手をすれば自分たちの足下すら崩れるような真似は避けるべきだと、アズラエルは考える。

 対するラクスは。

 

「もちろん私たちも可能な限り手を尽くすつもりですが、残念ながら地球では伝がなさ過ぎます。それに……これを利用して()()()調()()()()()のでは?」

 

 微笑みながらとんでもないことを言う。つまりこの件を調べるという建前で自分に都合のいい情報を集めるよう動いてもかまわないし、その逆で他の情報を集めると見せかけて裏の存在を調べてもいい。 そう告げているのだ。

 

「そこまで考えなくとも、この会合でこの先のことが決まるわけではないのですから、何かの機会、とっかかりと割り切る考え方もあると思いますわ。わたくしといたしましてはムルタ・アズラエルという人物を見知っただけでも十分な収穫かと」

 

 言ってくれる。こちらを揺るがすだけ揺るがしておいてのうのうと。そう思わないでもなかったが、分が悪いと認めざるを得ない。こちらが拒否しにくいように追い込んでくる。突っぱねればいいのだが、この会合はプラントとの『蜘蛛の糸』だ。簡単に手放すような真似をするわけには行かない。その上相手の提案は魅力的だった。身内であれば容易く乗ってしまうだろうと思わせるくらいに。

 さてどう切り返すかと思っていたらば、意外な方向から声が上がった。

 

「失礼。発言してもよろしいですかな?」

 

 発したのはマルキオ導師。何のつもりかと訝しがりつつも、時間稼ぎにはなるかと考えて先を促す。

 

「その調査の話、私の方でも手伝えると思います。いかがでしょう?」

 

 意外な申し出だった。仲介役に徹するかと思っていたら、ここで口を挟むとは。以前からプラントとも交流があると調べはついていたが、ラクス・クラインと共謀でもしているのだろうか。そのような疑いが胸中に浮かぶ。

 見ればラクスも驚いたような表情をしているが、それが本心かどうか。疑念を持つアズラエルの視線に気づいた風もなく(盲目なので当然だが)導師は続けた。

 

「私にはアズラエル氏にもラクス嬢にもない伝があります。それこそジャンク屋関係ならお二人の手の届かないところまで調べることも可能でしょう。それぞれが調べたことを照らし合わせる、あるいは都合のいいように話をすりあわせるのもよろしいですが、第三者の視点から見た物も何らかの使い道があるのではなかろうかと」

 

 差し出がましいことですがと話を締めくくるが、そういえばこの人物はただの宗教家崩れではなかったなと思い直す。ナチュラル、コーディネーター……どころか国家人種を問わず信奉者を持つ、新たな宗教界のカリスマだ。既存の宗教が権威を失う中、その勢力を伸ばしつつも決して派手に表に立たない、時流を読める宗教家というある意味厄介な存在であった。利用するつもりが利用されると言うことにもあり得る、油断のならない相手だ。

 

(やれやれ、まだ『前哨戦』だというのに、どうにも骨が折れそうだ)

 

 一癖も二癖もありそうな者たち。それと相対しながら内心苦笑するアズラエル。

 久しくなかった感覚に戦きとも何ともつかない感情が揺さぶられている。

 こと対人の交渉においては相手を手玉に取る事が多かったアズラエルは、互角以上の交渉相手と巡り会うことはまれである。ここ最近ではリョウガくらいであった。その彼と相対したときでもこのような感覚を味わったことはない。

 これまでとは違うアプローチが必要になるかも知れないと、彼は覚悟を改めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ルビコンではアツさが増しておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。わたくしは落下で死んだり砲撃で死んだりブレードで切られて死んだりしております死にすぎ。
 最初のヘリで心折りに来るとはさすがフロムだ勘弁してもらえませんかね捻れ骨子です。

 さ、AC沼にはまりつつも何とか更新です。今回は交渉中な2人の話。ネチャァとした話しぶりのアズにゃんをのらりくらりと翻弄する歌姫さん。やたらと深みにはまっていくンですがどうなるんでしょうね。SEEDの闇に突っ込んで大丈夫なのか捻れ骨子。うん自分でも大丈夫じゃないような気がするし話のコントロールができなくなりそうな気もするが何とかなる。きっと。
 なおこの話は、今度の劇場版を一切合切無視します。だってどう考えても整合性取れないもの。ただでさえ本編から大幅にずれまくってんのに。種本編の終わりすら見えてないんだぞこちとら。
 そんなわけでノープランのまま進みます。そしてルビコンでの戦いに没頭しない限りはいつも通りの更新のはずです。無理かも知れない。(諦め早い)

 こんなところで今回はこの辺でお開き。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35・何一つ問題は片付いてない

 

 

 

 ※リョウガ視点

 

 

 戦闘は、そろそろ終盤にさしかかかっている。

 敵MS部隊のバッテリーと推進剤が尽き始めたのだ。こちらのアストレイシリーズは基本増加バッテリーと増槽を備え、長期戦にも対応できるようになっている。おまけに艦隊にはほとんど損害がないため、補給に戻ることも可能だ。

 対して敵は空母を含む艦艇をかなり損失し、そろそろ半数以下になろうとしている。撤退不可能になってやけになられたら困るから、わざと空母などをいくつか残しているんだが、いい加減潮時と考えられるかどうか。

 

「逃げる艦を追うつもりはないが、追撃を恐れているのかもしれんな」

「あるいは頭に血が上って撤退命令どころではないとか」

「ありそうで困る」

 

 どうせ向こうの艦隊指揮官はバリバリのブルコス過激派だろう。連中揃いも揃ってプライド高くて他者を見下しているからな。なめてかかってたオーブにしてやられて躍起になっているはず。冷静さを失っているのは十分に考えられた。となれば生半可なことでは退くまい。それこそ指揮官本人がくたばるまで戦い続けるやも知れぬ。

 ああいうのが戦いをやめる理由はそう多くない。

 

「想定以上に一方的だからなあ。おかげで仕込みがほとんどパーだ。やり過ぎたかもしれん」

「他国に対する牽制となる……には少々派手に過ぎましたな。むしろ警戒が増すのではと愚考いたします」

「全くもってその通りさ。まあ上の動き次第じゃ、こっちにかまけている余裕はなくなるだろうが」

 

 そう言葉を交わしている中、通信機のコール音が響いた。

 

「私だ。……ああ、上手くいったか。ならばそろそろ幕だな」

「また策謀ですか?」

「まあな。……状況は分かった。引き続き工作と情報の監視を頼む」

 

 通信を終える。相手は裏方で動いているリシッツァだった。内容はなんと言うことはない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ。

 タネを明かせばわざと作った諜報の穴、そこにリシッツァの手のものを食い込ませた。諜報という物は何も自分たちの人員だけでやるものではない。『外注』も当然ある。正規の(と言うのも変だが)諜報は全て目をつけられていると悟った連合側も、そう言った手段を利用しようとし、それをこっちがさらに利用してやったというわけだ。

 まあ正確な情報は流してやってる。大概どうでもいいものではあるが。今回も嘘は言っていない。ただ本当はどこに居るか知らせてないだけで。

 このまま戦いを続けていれば単なる大損。それが理解できないようなら本当に壊滅だ。はてさてどうなるか。

 ややあって。

 

「撤退信号を確認。敵艦隊、後退を開始する模様です」

 

 ようやく動きがあった。敵艦隊が信号弾を上げ、後退する様子を見せたのだ。

 

「さてこのまま素直に帰ってくれればいいが。……各セクション、警戒を怠るな。国元に帰還するまで油断はできんぞ」

 

 帰還しても油断はできないんだけどな~。しかし配下にまで常時警戒を強いるわけには行かない。人材を使い潰すつもりはないからな。適度に交代させながら働いて貰おう。

 それはそれとして、この後色々奔走せんといかんなあ。今回のことで各方面に色々と無茶をさせた。特に()()()()()()()()()()所には俺が直接頭下げに行っておこう。関係を悪化させたくはないし。頭を下げるのは無料(ただ)だ。大した労力でもない。

 ……しかし、結局の所ブルコス過激派(ジブリールんとこ)の戦力を少々削っただけで、進展があったわけじゃないんだよなあ。いや会談が無事に終わりゃ一歩前進と言った所なんだが、多分()()()()()()()()()()()()()んじゃなかろうか。それを上手く利用すれば戦争を有耶無耶にできるかも知れんけど、上手く生かせるには並々ならぬ労力が必要になる。このままの状態よりはマシになる……かも知れないっていう蜘蛛の糸より頼りない、希望というには問題のありすぎる状況になるだろう。

 何で分かるかって? ()()()()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()。何しろヒントは山とある。多分ラクス嬢からぶっ込むだろうとは思うが、どっちが話持ち込んでもおかしくないと思ってるぞ俺ァ。

 平穏無事は遠いなあ。俺は心の中で深々とため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ 他者視点

 

 

 信号弾が上がったことを確認し、交戦中のネオは舌を打った。

 

「ちっ、頃合いか。何もさせてもらえずにっ!」

 

 荷物――恐らくは特殊工作部隊をクーロンズポートに送り込むのが、彼らの第一の使命であった。だがそれはふざけた乱入者により阻まれ、個人的な目標であったリョウガ・クラ・アスハの殺害は成すどころか近づくことさえできてない。多くの難関をかいくぐり生き抜いてきた身からしても、中々にない敗北だと感じていた。

 策謀で敗れ、戦闘でも押されている。やはり他人任せの策など上手くいくはずもないと、心の中で吐き捨てる。

 自分の策がたまたま上手くいっただけと言う事実を棚上げし、次からは自分で動かなければなどと考えている。リョウガにメタ張られている時点で上手くいくはずがないとは気づいていない。

 

「その前に、ここを生き延びねばな!」

 

 眼前の敵に攻撃を加えようとして――たたらを踏む。

 

「!?」

 

 敵が後退したのだ。そのまま距離を取った敵機は、右手の武器を下ろし、「行けよ」とでも言いたげに顎をしゃくる動作をした。

 

「……私を見逃すとでも言うのか」

 

 ぎり、とネオが歯噛みする。周囲の配下は撤退信号が上がるやいなや、牽制の攻撃を放ちながら撤退を開始していた。やはりいざというときはネオの指揮に従う気が無いと言うことだがそれはいい。ともかく情けをかけられたことに屈辱を感じていた。

 しかしここで躍起になれるほど冷静さを捨ててはいない。僚機がいても五分だったのだ。1対1(サシ)であれば不利であるという判断くらいはできる。

 再び舌を打ち、機体を翻す。背後から追撃の様子はない。そのことにまた苛つきを覚えた。

 

「……この屈辱、忘れんぞ」

 

 悔しげな呟き。彼の雪辱が果たされるか、それはこの先の運命がどう転ぶかによって決まるだろう。

 見通しは非常に暗いと言わざるを得ない。

 一方見逃した方である仮面の助っ人()であるが。

 

「やっと退いてくれましたか。おやつが切れる前に終わって何よりです」

 

 ふう、とため息をはいてサラミソーセージの封を切る。それをむぐむぐと頬張りながら、レーツェルは呟く。

 

「次に相まみえる時があるかはわかりませんが……楽はできないでしょうねえ」

 

 刃を交えて感じたことだが、あの灰色の機体を駆っていた人物には、なにか怨念じみたものがあったような気がする。ああいう人間は視野が広いようで狭く、うまくいかなくなるとなりふり構わなくなることが多い。多分この敗退で自分の望むことをあきらめることはないだろう。

 

「確実に討てればそれでよかったんですけれど。私の技量では取り逃がしていたでしょう」

 

 ()()()()()()()。そう感じた。最後の最後で逃げられると、そんな予感がしたのだ。だからあえて逃がした。確実に『狩れる』機会を得るまで待とうと。

 勘である。確証はない。ここでけりをつけておいたほうが良かったかもという感覚もある。だが下手を打てばもっと大きな災いとなるという予感のほうが勝った。だから逃すという判断を下したのだ。

 

「……もっと強くならないといけませんね」

 

 人一人が強くなったところでできることはたかが知れている。だが強くなることで確実になせることはあるのだ。

 一人の男の意志を貫かせ、守るために。まだ少女の面影を持つ女は決意を改め。

 サラミソーセージを嚙みちぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ギナを相手取っていたスウェンたちであるが。

 

「撤退信号!? ふざけんな! まだこいつを殺ってないのに!」

 

 信号弾が上がるのを見た女性パイロット――【ミューディー・ホルクロフト】がヒステリックな声を上げる。彼女やスウェンを含むファントムペインの何割かは強化措置を受けていない素のナチュラルであった。しかし通常の軍人を上回る過酷な訓練や洗脳教育によって、コーディネーターと同等以上の能力を持つに至っている。

 その代わりといっては何だが思考などに偏りを持ち、局所では精神的なもろさを発現する者も多い。ミューディーもそのような部分があった。

 

「コーディネーターのくせに! とっとと死んじゃえよォ!」

 

 敵はコーディネーターだと決めつけて(実際そうであるが)両腕のビームを乱射する。放たれたビームはそも真っ直ぐ飛ばず、でたらめな軌道を描いてギナのスサノオを襲う。だがそれを難なく回避しながら、スサノオはミューディーの懐へ飛び込んだ。

 

「お帰り願おうか。それとも黄泉路への旅立ちがお好みかな?」

 

 ギナの言葉。それと共にアマノサカホコ(パイルバンカー)が叩き込まれようとして――

 

「ミューディー!」

 

 スウェンの機体に蹴り飛ばされて、難を逃れる。

 

「おいおい乱暴だな!?」

「普通の手段では間に合わん。悠長なことをさせてくれる相手でもない」

 

 咎めるように言うもう1人、黒人の青年【シャムス・コーザ】に素っ気なく返し、スウェンは改めて言い直す。

 

「撤退だ。この状況では仕切り直さなければ、コーディネーターを殺せない」

 

 スウェン本人はコーディネーターに対する敵意などほとんど無いが、同僚たちは『教育』の成果により憎悪を滾らせている。こういう言い方でもしなければ引かないという判断からの言葉だった。

 

「……ちっ、そう言うことなら仕方ないか」

「アタシはまだっ! こいつをっ!」

 

 シャムスは不承不承ながら指示に従おうとするが、ミューディーは機体を立て直して戦いを続けようとする。心の中でため息を吐き出すような気持ちになりながら、スウェンはシャムスに指示を飛ばす。

 

「シャムス」

「あいよっ!」

 

 左右からミューディーの機体に組み付き、そのまま離脱を図る2人。

 

「このっ! 離せっ!」

「はいはい大人しくしてくれ」

「こちらファントムペイン01。帰投する」

 

 ジタバタ暴れるミューディーの機体を引きずるようにして、3機は去って行く。それを見送ったギナは、ふ、と呼気を漏らした。

 

「いまいち不完全燃焼ではあるが、やむかたないか。……総員、深追いはするな。撤退する艦隊は放置し、洋上に逃れた者たちを救助してやれ」

 

 残るは後始末。こちらに損害はほとんど無かったが、敵味方区別無く救助を必要とする者はいる。

 分け隔て無く手を差し伸べるのは勝者の義務だ。それに追い打ちをかけるよりよほど有意義であろう。ギナは逃れる敵艦隊に脇目も振らず、てきぱきと指示を飛ばす。

 

「……ま、後の政治や何やらはリョウガの仕事だ」

 

 完全に他人事で、そう呟くギナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連合(というか大西洋連邦)のクーロンズポート襲撃は、壮絶に大失敗で終わった。

 関係各所は喧々囂々。特に大西洋連邦内部とブルーコスモスは阿鼻叫喚である。軍部は責任の押し付け合いとなり、政府は反戦派の突き上げとオーブからの猛抗議によっててんやわんや。勝手な行動を取ったと言うことで、同じ連合であるユーラシア連邦と東アジア共和国からの突き上げも激しい物となった。

 ジブリールは言うに及ばず。ブルーコスモス内部から非難され、ロゴスメンバーからも厳しい言葉をかけられる。急速に求心力を失う中足掻いているようだが、その立場は悪くなる一方であった。

 こうして大西洋連邦は混乱し、オーブとプラントは幾ばくかの余裕を得た……

 かに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※リョウガ視点

 

 

 後始末と土下座行脚が一息ついた後、俺はユウナから報告を受けていた。

 

「……大丈夫か?」

「……死にそうだよ」

 

 精根尽き果てたというか、雰囲気的に干からびてるユウナの姿。うん、正直すまんかった。流石にあの2人相手は荷がかちすぎたか。

 

「すまんな。お前以外にあの場を任せられる人間がいなかったんだ。首長連中は今手が離せんし、下手な人間だと話がこじれてたかも知れん」

「分かってるよ、分かってるんだけどね……」

 

 そこでユウナはがばっと身を起こして吠えた。

 

「なんなのあの子!? ガンギマリすぎてない!?」

「だから言っただろうが一筋縄じゃすまないどころじゃないって」

「ああすまなかったよすまないどころじゃなかったよ。まさかリョウガの近似種だとは思わなかった」

「まてコラ」

 

 俺はあそこまでガンギマって無いぞ多分。

 

「自覚がないのってたち悪いよ?」

「失礼な。ただ平穏な生活を求めているだけだというのに」

「その平穏を求めるために石橋を叩いて壊してトラップだらけの鉄橋を作るってのはどうなんだろうね」

 

 言うようになったなこの野郎。……ま、この分なら少しは気が晴れたか。

 

「それで、報告書は読んだが実際の所手応えはどうだ」

「切り替え早いね。とりあえず物別れには終わらなかった、ってところかな」

 

 居住まいを正し、ユウナは真面目な顔で報告する。

 

「大筋はラクス嬢の提唱した『仮説』。まずはそれを双方ともに調べていく方向で話が進んだよ。あの仮説がどういう扱いになるかは、この先次第だねえ」

「毒劇物だ。そう簡単に切り札にはできんよ」

「良くて詐欺師扱い。悪けりゃ抹殺されるかもだからね。状況証拠だけじゃカードには弱いか。……でもあの2人ブタ札をジョーカーに見せかけるくらいはしそうだよ」

「できるだろうな。が、容易くはやらんだろ。確たる物がなければ後が続かん」

 

 結局の所、新たな問題が生じたけどそれはそれとして、それぞれの勢力で和平の動きを加速させる方向で動こうって感じで纏まったようだ。大体はラクス嬢の筋書き通りだろうが、アズラエルも『無理難題』をふっかけラクス嬢に圧力をかけている。流石転んでもただでは起きない男だ。恐らくは件の仮説も自分に有利なように利用するだろう。

 

「まあこれで時間は稼げるだろうが……結局何一つ問題は解決してないんだよなあ」

「密談の仲介はしたじゃない。それに襲撃を返り討ちにしたのは大西洋連邦にとって結構な痛手だと思うよ?」

「密談の方は種を蒔いただけで、芽が出るかどうかはまだ分かりゃしないさ。仮説の件も、あるいは余計な火種を投じてしまっただけかもしれん。返り討ちの件は……」

 

 俺はため息を一つ。

 

「黒幕があれで諦めるような人間だったら楽なんだが、多分めちゃくちゃ逆恨みしてるぞ。賭けてもいいが絶対虎視眈々と復讐の機会を狙っている」

 

 思い当たる人間がどいつもこいつもそんなキャラだからなあ。大人しく負けを認めるようなら原作ああなってないわ。

 ……しかしそれにしても、やはりアズラエルはどうにも()()()()()。原作よりも損得勘定を重視し、個人的な恨みを抑え込んでいるような……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感じを受ける。原作でも使えるのならばコーディネーターも使うという面はあったが、こっちほど柔軟な考え方はできなかったはずだが。

 妻子を持つとこうも違うというのか。あの娘さんなら毒気も抜かれるとは思う――

 

「……そうか。もしかしたらそう言うことなのかもしれんな」

「ん? どうかした?」

「大したことじゃない。アズラエル氏の態度が軟化した理由を考えてただけさ」

 

 俺の呟きに反応したユウナに、そう言って誤魔化す。まあそっちの方は置いておいて、大西洋連邦とその他諸々を注視しておかにゃならん。必ず動きがあるだろうからな。

 ……とか思ってたら、早速動きやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

 オーブの国際空港に、一人の人物が降り立った。

 サングラスをかけた女性。その人物はただ歩いているように見えて、サングラスの下で周囲に鋭い視線を飛ばしていた。

 

(追っ手も監視も無し。当然か、正規の手段で入国したただのジャーナリストを警戒する必要など無いからな)

 

 彼女のパスポートの名義は【ローラ・ロッテ】。フリーのジャーナリスト……ということになっている。

 はいもう皆さん分かると思いますが。

 マティスさんがオーブにINしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ルビコンでコーラル漬け。
 とりあえず1週目はクリアしました。ごすずんアンタ聖人か。余韻も覚めやらぬまま2週目中です捻れ骨子です。

 はいそういうわけで予言通り遅れましたすんません。ド下手くそでも頑張ればクリアできるゲームバランスで素晴らしいですねいや違った。あっさり返り討ちが終わって次の段階へと言うところです。マティスさんが直接乗り込んできましたがなんか策があるんですかね。まさかノリと勢いでという筆者みたいな真似をしてくるはずはないと思うのですが。(ぴこん)
 会談がどうなったのかはぼかしてありますが、そのあたり徐々に話へと影響してくるはずです。決して筆者が収拾付けられなかったわけじゃありません。(目そらし)まあ突飛な展開になるかも知れませんがこれも全部乾巧ってヤツのせいですいわれ無き冤罪がたっくんを襲う嘘です。
 はたして急転直下となるのか、それともマティスさんのポンが炸裂するのか。次回以降をお楽しみに。

 では今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36・ちょっと展開急すぎない?

 

 

 

 

 

 マティスの身柄が確保された。

 うん何を言っているのか分からないと思うが俺にも分からん。警戒している中、単身で乗り込んでくるとか何考えてんだ。

 

「ホント、我が身内ながらなりふり構わないというか。あんなアホの子じゃなかったはずなんだけどねえ……」

 

 ため息混じりに言うのは、ソファーで優雅に紅茶を傾けていたマティアス。なんで彼がここにいるかというと、拠点をオーブに移したからだ。

 一族対策のため、いくつかの拠点を渡り歩く形だったマティアスだが、オーブがかなり本気で一族の対策を考え、おまけに自分と協力体制を築こうとしている事実を踏まえ、だったらオーブにいた方が安全じゃないと方針を変えたのだ。もちろん俺の正体は明かしてある(ってか前から感付いていた)ので、こうやって直接会うこともしてる。

 今回はクーロンズポートでマティスのカウンターとして出張ってくれていたわけだが、結局出番なしでくたびれもうけさせてしまった。当然俺が頭を下げた一人でもある。

 で、頭下げた端から()()()()()()()()()()()()()ってのはどういうことだよ。

 

「アタシもこんなんなるとは思ってなかったわよ。ともかく事の成り行きは大体こんな感じね。……はい回想シーン、ほわんほわんほわんほわんほわ~ん」

「自分で言うのか、それ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

 マティアスはオーブ内のホテルにしばらく滞在していた。

 拠点をオーブに移しはしたが、まだ全ての環境が整っていない。そのためリョウガの用意したホテルで待機している状態だ。

 

(彼も気を遣いすぎよねえ。半分はアタシが望んだことなのに)

 

 ラウンジでくつろぎながら、マティアスはなんとなく考え事をしている。

 先だってのクーロンズポート攻防戦において、彼は潜入してくる可能性が高いと目されていたマティスと相対するため現地に赴いていた。リョウガからの頼みと言うこともあったが、何より自分が望んだのだ。決着を付けられるのであれば早いほうがいいと。

 結局は無駄骨に終わってしまったわけだが、まあこういうこともある。マティアスはさほど気にしていなかったが、リョウガはわざわざ彼に頭を下げに来た。律儀というか何というか、やらかしが酷くとも信用されているのはこういう所かも知れない。

 まあ付き合ってて退屈はしない人間よねえと、面白がっている風のマティアス。お互いに損得勘定で付き合っている相手だが、それなりに腹を割って話せる人間はそういない。結構貴重な知人となったリョウガに多少の手助けをしてやろうと思うくらいには、情が出てきたマティアスだった。

 

(……さて、のんびりしたいのはやまやまだけど、少しは野暮用を片付けないとね)

 

 席を立つマティアス。拠点を移すのに際して、準備することは山とあった。大方は配下に任せ片付きつつあるが、それでも自分でやらなければならないことは多々ある。また今のうちに先立って用意しておかなければならないこともあった。季候のいいオーブでのんびりできるのは随分と先のことになりそうだと苦笑しながら、部屋に戻るためにロビーへと足を踏み入れる。

 そこでチェックインを終えたらしい客の一人と目が合った。

 

「「あ」」

 

 思わず双方間抜けな声を上げて固まる。それもそのはずで、目が合った相手はキャリーバッグを転がしていたマティスだったからだ。

 鉛のような沈黙。雰囲気的に二人の間を風が吹きすさんでいったかのようだ。

 ややあって。

 

「……なぜここにいる」

 

 真剣な表情を取り繕ったマティスが問うてくる。この流れでシリアスするのぉと、内心げんなりしたマティアスであったが、表面上には出さずに軽い態度で返す。

 

「なぜって滞在してたからよ。ちょっと早めのバカンスってところね」

「これを偶然だと宣うか。何を企んでいる……と言ったところで素直に答えるはずもないか」

 

 ふん、と鼻を鳴らす。マティスにとって兄であるマティアスは、色々な意味で裏切り者であり不倶戴天の敵であった。しかし心の奥底では憎みきれないという非常に複雑な関係だ。色々とこじらせているとも言う。

 しかしながら、現在彼女には優先するべき物があった。ぶっちゃけリョウガ以外は些末ごとと思っている節がある。本人が自覚しているかどうかは分からないが。

 ゆえに。

 

「……ここは見逃そう。私の邪魔にならない程度に好きにするがいい」

 

 本人は鷹揚と思っている態度で言い放つ。言うように本人は見逃したつもりなのだろう。なんて言ったら良いのかしらと、少々気まずい思いでマティアスは応える。

 

「あ~、まあ、アタシはいいんだけどね。……『周り』がそれじゃ収まらないのよ」

 

 さて、件の攻防戦が収まっても、年がら年中気を張っているリョウガは欠片も油断をしていなかった。当然ながら要人の周囲には気を配っている。

 つまりは、だ。

 

『ガシャガシャガシャガシャガシャッ!』

 

 ロビーやラウンジに屯している客や従業員、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう、彼らはマティアスを警護するためのシークレットサービスである。マティアスをキーマンの一人だと認識しているリョウガは、これでもかと人員をつぎ込んでいた。

 あまりにもあんまりな状況に、マティスは唖然とする。マティアスもどこか引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

「うん、これはどう考えても過剰よねえ」

 

 問答無用の詰み。再び鉛のような重い空気が流れる。

 ややあって、そろ~っと両手が挙げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※リョウガ視点に戻るよ

 

 

「ほわんほわんほわんほわんほわぁ~ん。……というわけよ。正直ちょっとやり過ぎだと思うんだけど」

 

 咎めるようなマティアスの言葉に応えてやる。

 

「それだけの重要人物なんだよ、アンタは。下手するとうちの親父殿よりもな」

「もうちょっとお父さん大事にしてあげなさいよ。それはそれとして、これからあの子をどうするつもり?」

 

 マティアスの問い。その答え如何によっては敵に回る可能性もあるだろう。しかし嘘をつくつもりもない。この場合にはそれが誠意だと俺は信じる。

 

「しばらくは軟禁状態だ。困ったことに彼女の名義、ローラ・ロッテは()()()()()()()()()()()()()()()。国家機密漏洩の疑いで」

 

 マティスの表向きの顔。実はそれも結構な容疑がかかっていた。何しろ彼女が出没したあたりには様々な機密情報が流出した形跡があり、何かしらの諍いが起こっている。はっきりとした容疑が固まっているわけではなかったが、勘働きの良い者は薄々疑ってかかっていた。俺がそれを知ったのはつい最近である。

 

「アンタと話をしてから調べてみて分かったことだ。彼女も欺瞞工作をしていたようだが、うちの連中の勘が上回ったようだな。諜報部は拷問も辞さない構えだったが、頭を下げて止めて貰ってる」

 

 元々知ってたけれども、マティアスからローラの名を聞いて調べてみたらうちの諜報部にめっちゃ目ェ付けられてんじゃん。しょっ引こうとした連中に土下座らなかったらマジで拷問コースだったかも知れん。俺が頭を下げたことでめちゃくちゃ恐縮してビビりまくった諜報部の連中には二重で悪いことをしてしまったかもしれんが、放っておくと目の前の御仁がどう動くか分からんからな。完全に情を断ち切っているわけでもないだろうし。

 

「今のところは手荒なまねをするつもりはないが、状況によって扱いは変わるだろう。特にこれから一族とやらがどう動くかによってな」

「確かに、党首が捕らえられたとなったら動かざるを得ないでしょうね。下手をすれば全面戦争よ? ……って言いたいところだけれど」

 

 マティスが率いている一族。普通に考えれば党首がこちらの手中に落ちているのだ。奪還などを考えないはずはない。だが、マティアスは何か懸念があるようだ。そして()()()()()()()()()()()()()

 そんなことなど欠片も表に出さず、俺は「何か?」と問いを投げかけた。

 

「ここ最近の一族、どうにも妙なのよね。いやあの子がポンコツになってるってのが最大の要因かも知れないけれど、それにしたってあの子を()()()()()()()()()()のよ。いくら党首の影響力が絶大だといっても、単独で行動させるってのはおかしいわ」

 

 後で配下と合流する予定だったのかも知れないけれど、とマティアスは結ぶ。実際原作でもマティスはジャーナリストとしてそれなりに痕跡を残しており、裏では自ら特殊部隊を率いるようなこともしていた。組織の長としては確かにフットワークが軽いが、それは俺やマティアスも人に言えた義理じゃない。そのあたりは何とでもなる。

 が、原作ではマティスが消えた途端、一族は瓦解している。特撮の悪役組織じゃあるまいし、ボスが消えたら即解体というのは極端すぎる。しかし逆に考えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことではなかろうか。

 大方実は一枚岩じゃなかったとか、理由はあるだろう。今はその予想をおいといて、マティアスに対応する。

 

「……となると、この後の行動がどうなるか、だな。彼女を救出する方向に動くのか、それとも……」

「見捨てる、あるいは一族の機密が漏洩するのを防ぐために……」

 

 そこまで言ってマティアスは、指で自分の首をかっ切る仕草をした。まあ、普通に考えればそうなる。

 

「マティスの身柄が確保されたのは、連中も知るところだろうな。表裏で警戒はさせているが、出し抜く手段くらいはあるだろう?」

 

 しれっととぼけて俺は言う。

 

「……アタシが頭目だったら、いくつか思いつくわね。今の一族がどれほどできるか分からないけれど」

「破廉恥だと思われるかもしれんが、一つ頼まれてくれないだろうか」

「みなまで言わなくて良いわよ。一族対策に協力しろってことよね? もちろんOKよ」

「即断か。気前がいいな」

「これはアタシ自身の身を守るためでもあるわ。それに、アナタに貸しを作っておくのも悪くないし」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクするマティアス。打算はあるだろうが。

 

「精々利子を付けて返せるように努力するさ」

 

 互いに苦笑。こうして俺達は共同戦線を続行する運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一族が内部分裂したわ」

「……マジか」 

 

 そして何もしないうちに片がついた。

 唖然とした顔を繕って……いやあながち演技でもなく俺は応える。うすうすそうなるんじゃなかろうかな~って思ってたけど、展開が早すぎませんかねえ!?

 

「うちの連中にめぼしいところ張らしてたんだけどね~。なんかそれぞれがあの子そっちのけでばらばらに動き出しちゃって。なんか内部抗争始めたところもあるみたい。こっちに手を出すどころじゃないわねこれ」

 

 元々一族とは敵対しており、命を狙われていたがゆえに、マティアスは一族の情報を可能な限り集めていた。そんな彼が言うことだ、まず間違いなく一族は空中分解している。

 う~む、内部分裂自体は予想通りなんだけど。一族の瓦解自体は原作通りの展開だし。しかし展開が早すぎる。捕らえられているとは言えまだマティスは無事なんだから、奪還なり何なりアクション起こさずに、原作みたく速攻で瓦解というのはおかしいと思う。

 ともかく原作知識を余所においといて、俺はマティアスに問うた。

 

「党首の存在を放っておいて内部分裂? 彼女を捕らえて一月も経っていないぞ。元々権力争いとかあったのか?」

「そういうわけじゃないのよ。ほら、一族の様子がおかしいって言ったじゃない。あれどうも()()()()()()()()()()()()っていう理由もあったみたいね。前にあちこちで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() おかげで資金源が大打撃食らっちゃったらしくてね。そこに来てあの子が捕らえられちゃって指揮系統が混乱しちゃったでしょ? そこで意見や考え方が割れて、物の見事にぐっだぐだよ」

 

 ……あっるぇ? どっかで聞いたような話なんだけど。思ったより連合の財界にダメージ与えてねえなあ(注・リョウガ主観)と思ってたら、そっちに影響与えてたんかい。

 これは流石に予想外。まあマティスの身柄確保からの流れが全部そうなんだが、うれしい誤算とは言えんなあ。

 

「……これってひょっとすると、状況が落ち着いたら分裂した派閥のそれぞれが人類の管理を名目にして、好き勝手に動いたりせんか?」

「………………あ”」

 

 マティアスも気づいたようだ。そも一族は世界各所に分散している。分裂してそれぞれ勝手に動き出したら、とてもじゃないが手を回せん。対処療法しか打つ手がなくなるわ。

 つーかこれ、外伝のカーボンヒューマン騒動とか前倒しにならんか? まだ戦争の行く末も定まってないのに益々混乱するじゃねえかクソが。

 マティスがいない今のうちに各個撃破……といけばいいが、生憎はっきりとした敵対行動を取ってもいないのに、こっちから手を出すわけにはいかん。……いや待てよ?

 

「……さっきの話から考えるに、経済的な打撃を与える方向なら弱体化を狙えるか?」

「なんか邪悪な顔になってるわよアナタ!?」

 

 なぜどん引くかマティアスさんよ。このくらいなら普通だろう普通。

 ともかく改めて一族残党に対する方策は決まった。資金源をそぎ落とし、実力行使に出るならモグラたたきだ。もちろん油断はできないが、優先順位はかなり下がることとなる。各勢力にかなり食い込んでいるだろうから、完全な殲滅は難しいだろうし、いきなりわけの分からんびっくりドッキリ技術持ち出してくる可能性はある。だが組織としての規模は分裂して小さくなっているだろう。脅威度は低い……といいなあ。

 結局地雷が増えただけのような気がするが、前向きに考えんとやってられん。マティアスも動きやすくなったし、どうにかしてみせるさ。

 ……どうにかなるといいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全ミッションクリア~。そして対戦にハマりつつある。
 勝率3割ってところですが、まだアセンが煮詰まらない。対戦相手は当たるのに自分で使うと当たらない武器の多いこと多いこと捻れ骨子です。

 さて愚痴はさておき、一族編開始! そして終了! なお話。まさかナレ死するとは誰も思うまい。俺も思わなかったわ。当初は引っ張ろうかと思ったんですが、また延々と長くなりそうだったので手短にしようとしたらこの有様だよ。多分今後はひょっこり思い出したかのように一族残党の技術が出てくる……かも知れません。最低でも考えていた分は出てくると思います。ただしナレ死するかもですが。

 いい加減この戦争も終わりに向かうのか。それとも変な方向に向かうのか。期待せずに次回を待て。ってなところで今回はここまで。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・たぶんこりてないひとたち

 

 

 

 

 

 軟禁されている部屋の中。マティスは暇を持て余していた。暇を持て余していたと言うよりは――

 

「……おかしい」

 

 ()()()()()()()()と言うのが正解だろうか。

 身柄を拘束されたとき、彼女は弁護士を呼ぶように要請し、後は黙秘を貫いた。だが弁護士とは連絡がつかないと一方的に告げられ、後は尋問されることもなく軟禁状態に置かれた。当然ながら私物は全て没収されている。

 そこまでは良い、想定の範囲内だ。ネットやTVは使うことを許可されているが、入力はできないようにされているため外部との連絡を取ることは不可能。これもまた想定内だ。

 そもそもの計画ではジャーナリストとしてオーブで実績を作ると同時に、一族の者を手引きして国内に橋頭堡を築く。その上で取材などを名目にリョウガとの接触を試みる……と言った予定だった。その際何らかのミス、あるいはそれ以外の事情で身柄を拘束されることも想定していた。そのためにいくつものプランを用意していたのだが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分の手の者が動けば、TVやネットでそれが分かるようなアクションを取るよう指示を出していた。だがそれと分かるような情報は欠片も出てこない。オーブ当局による情報規制も疑ったが、一族の行動を把握しているはずは……。

 

「いや、(マティアス)がいたか……」

 

 実の兄であるマティアス。彼から情報の提供を受けて対処した可能性があると思い当たった。であればあの過剰なまでに用意周到なリョウガ・クラ・アスハが、その采配を振るったのだろう。用意したプランは全て潰されたと考えた方がいい。

 だが、そこまでされたとなれば一族も反応する。曲がりなりにも自分(マティス)は党首だ。権力を集中させワンマン体制を作り上げたが、逆に言えば自分がいないと一族は成り立たない。奪還のための動きは必ず生じるはずだ。

 

「今は待つ、か」

 

 一族が動くことを信じ、マティスは虎視眈々と機会を窺う。

 なお一族が空中分解してると知って愕然とするまであと1週間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、作戦が失敗し尻尾を巻いて逃げ帰ったネオことクルーゼ。さぞかし苛ついていると思いきや。

 

「ブルーコスモス過激派の勢いは落ちたか。世間では盟主が穏健派に鞍替えし、時勢が変わると見ているようだが、まあ事はそう容易くは運ばないだろうな」

 

 なんかニュース見ながらくつろいでいた。

 随分と余裕である。もしかしたら一周回って開き直りすぎたのかも知れないと思われたが。

 傍らのタブレット端末が、受信音を奏でる。クルーゼはそれを手に取った。相手はいつもの顔を見せないスポンサーであった。

 

「やあ、加減はどうかな?」

「すこぶる順調だとも。気分も悪くない。……まさかこのように穏やかな気分になるとはね」

 

 完全にリラックスした様子で応えるクルーゼ。実際彼はサングラスに緩い格好というバカンスモードだった。

 何でこんなにユルいことになっているのか。しばらく彼らの会話に耳を傾けてみよう。

 

「休暇だとでも思いたまえ。どの道しばらくは我々も身動きが取れない」

「随分と忙しそうだな。何の力にもなれなくてすまなく思うよ。私は戦うことしか能が無い男なのでね」

「ご謙遜を。戦いの才能だけで白服は着られまい。……まあそれはいい、本題に入ろう。()()()()()()()()()()()

「……いよいよか」

 

 クルーゼの笑みが深まる。

 

「こちらから提案しておいてなんだが、良いのだね?」

「もちろんだ。むしろ感謝しているよ。最初は今更と思っていたが……しかし気が変わった。私はどうやら生き汚いようだ」

「以前も言ったが、実験的要素もある。そういう意味でも君を自由にさせるわけにはいかなくなるが」

「構わんよ。今更ザフトには戻れんし、かといって連合につく気もない。それにあなたたちと連む方が面白そうだ」

 

 本心を語っているのかどうなのかは分からない。だが表面上、クルーゼは心底楽しそうであった。正直不気味ですらある。

 

「首尾良く施術が成功した暁には、あなた方に全面協力すると約束しよう。どの道上手くいかなければ死ぬだけさ。気楽な物だよ」

「全力は尽くさせて貰う。……正直使える戦力は喉から手が出るほど欲しい。君を失いたくはないのだよ」

「信じるさ。後がないのは私も同じだ」

「痛み入る。……では詳しい日時と流れ、注意点などを纏めて送る。目を通しておいてくれ」

 

 その後いくつか言葉を交わして、通信は終わった。会話を終えてからもクルーゼの機嫌は上々のようで、くつくつと笑い声すらこぼしている。

 

「……ひょんなことから()()()()()()()()を得ようとはな。人生何が起こるか分からない物だ」

 

 どうやらクルーゼは後援者の手引きで何らかの手術を受けるようで、それは彼の延命のための物のようだ。

 クルーゼはある人物の『不完全なクローン』である。急速に成長するよう『加工』され、それがゆえにテロメアの寿命が短く、現在急速に老化しつつあった。だが彼の出自を知っているらしい後援者は、延命の手段があると持ちかけてきたのだ。

 本来であればもう少しクルーゼが『使えるか』確かめてから話を持ちかけようとしていたようだが、どうやら彼らの組織自体に何らかの致命的なことが起こり、戦力を含む勢力が激減したらしい。ゆえに予定を繰り上げ、クルーゼを本格的に取り込むため、延命の用意があると明かした。

 今更とも思ったし、眉唾物の話であるとも思った。だが詳しいことを聞きだしてみれば興味が湧いた。不完全なクローン技術に代わる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。本当であればとてつもないことだ。使いようによっては擬似的な不老不死すらも可能になるかも知れない。

 話の全てを信用したわけではないが、どの道放っておいても長くない命だ。それにこのままでは己が企んだことも上手くいきそうにない。まあとんでもない方向に突っ走っていく可能性が大きいわけだが、どうせならば自分の手で状況を引っかき回し、その行く末を見てみたいという欲がある。そのために寿命を伸ばせるのであれば、そう考え直した。開き直ったというか、生き延びることに前向きになったようだ。その原動力はろくでもない物であったが。

 そうなると現金なもので、多少浮かれたような気分になっている。これまでも開き直ってはいたが、苦しみの中いつ果てるとも分からないという状況にやはりストレスを感じていたのだろう。全てが取り払われたわけではないが、気持ち的にはかなり楽になっている。

 後援者の裏切り……と言う面に関しては、実のところあまり心配はしていない。先も言ったとおり、彼らの勢力は減じている。使える駒は喉から手が出るほど欲しいだろう。先のことは分からないが、現状ではまだ自分を切り捨てる事は考えていまい。『首輪』くらいは付けられるだろうが、その程度なら許容範囲だ。

 精神的に余裕ができてくれば、色々と思うところはある。世界に対する復讐的な気持ちは変わらないが、それ以外のことも視野に入れられるようになって来た。

 

「そうだな、件の技術。その存在を機会があれば()()に教えてやってもいいか。上手くいけば後援者との接点も作れよう。彼らにとっても悪くない話となる」

 

 何やら新たな企み的なことも考え出したようだ。明るく楽しく生きる方じゃなく、ヤバそうな方ヤバそうな方に舵を取るのは、最早習性と言えるかも知れない。

 とにもかくにも、クルーゼはしばし活動を控え、地下に潜ることとなる。その再起の時は、いつになるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロード・ジブリールは憤っていた。まあその要因の大体が自業自得による物なのだが、本人は欠片も理解していない。

 

「おのれアズラエル! 裏切り者の分際でよくも臆面無く謀ってくれた! それにオーブめ! たかだか小国家風情がこの私にたてつくとは!」

 

 先のクーロンズポート襲撃にて、散々戦力を磨り潰された挙げ句、とんでもない無駄足だったと理解して彼は怒り狂った。おまけにアズラエルが意気揚々と引き上げてきて、『ある程度の成果があった』と報告までした物だからさらに倍。アズラエル本人は「まだとっかかりにもなりませんよ」などと謙遜していたが、ブルーコスモスの人間としては初の交渉であり、また今後の展開も見込めると言うことで、穏健派をはじめとした多くの人間からは好意的に受け止められていた。ブルーコスモスだけでなくロゴスの中でも、利に聡い者はアズラエルの派閥に鞍替えすることを考慮しているようだ。

 面白くないどころじゃない展開だった。どいつもこいつも日和見で、誇りの欠片もない。コーディネーターごときになぜ妥協せねばならないのか。地球が一つになれば連中など一掃できるというのになぜそれが理解できない! そう思考し言葉に出しついでに周囲の物に八つ当たる。

 ジブリールに誇りなんて物があるのかどうかはさておいて、いくら憤ろうが彼は()()()()()()。己の動かせる戦力は結構な損失を被っており、また軍内部からも相当な突き上げを喰らったことで、再編成し動かせるようになるまでしばらくの時間がかかる。それ以前に相当な金をかけたにもかかわらず何の成果も上げられなかったので丸々大損だ。資金的にも相当なダメージを受けているので、これもまた回復に時間がかかる。

 さらには支援をしていた後援者の一部と連絡が取れなくなっていた。先の戦いで一部の戦力を提供したのは彼らであるが、その戦力は引き上げられており弱体化の要因の一つとなっている。早々に見切りを付けて手を引いたのかも知れない。風見鶏どもがと、また一つジブリールはへそを曲げた。

 もちろん一部の後援者とやらは一族の手のもので、連絡が途絶えたのは内部分裂でゴタゴタしているからなのだが、そんなことをジブリールが知るよしもない。いずれにせよ彼には時間が必要であった。

 もっとも時間があったからといって立ち直れるかは別問題だが。

 

「何とかして損失を取り戻さなければ……こんな時にどいつもこいつも役に立たん!」

 

 役に立たないのではなく、そっぽを向かれ始めているのであった。沈没する船から逃げ出すネズミのように、ジブリールの周囲から人は距離を取り始めていた。結構長く彼に仕えていた者すら職を辞したりしている。残るのは彼と同様に時流の読めない者か、前任者ほどの技能や才能を持っていない者たちばかりだ。

 周囲の人間の質は落ちる一方で、それがまたジブリールを苛立たせる。負のスパイラル一直線である。彼に与する派閥の人間も同様で、ブルーコスモス過激派は段々と追い込まれつつあった。

 まだ一般人のブルーコスモス支持者はいるだろう……と思われるかも知れないが、実はそう簡単にはいかない。

 エイプリルフール・クライシスの後、被害を受けた国や人々は憤り、ブルーコスモスはそれを煽って戦意を高めた。そこまではいい。だがブルーコスモスは戦争に駆り立てるだけで、アズラエルや穏健派などの一部の例外を除いては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そりゃあ国や関係各位は尽力したが、ブルーコスモスの多くは煽るだけである。加えてオーブを中心とした中立国が支援をガンガンと行って、ついでに情報を流布させた物だからさあ大変。ブルーコスモスの信用はがた落ちになっていく。

 ここで注目すべきは、オーブは表向き『連合とプラントの双方を非難した』ことだ。中立だから当然と言えば当然だが、リョウガは血のバレンタインとエイプリルフール・クライシスの情報を多く流布させた。その上で「ビームも出せないようなのを新人類とか化け物とかプークスクス」(意訳)と煽ったりしたわけである。プラントはともかく、地球側は自業自得どころか、多くの国は巻き込まれただけと言っても過言ではなかった。で、実情を知ってしまえば、かなりの民衆が「どっちもどっちやないかい。両方とも大概にせえよ」ってな気持ちになっても致し方あるまい。

 そしてザフトは占領した地域、プラントよりの国家と協力関係を結ぶ。まあ多くは地球のナチュラルを見下していたりもするが、損得勘定で付き合う以上あまりあからさまな真似はできなかったし、中にはバルドフェルドのように地域との融和に尽力する者もいたりした。『何もしないで煽るだけのブルーコスモスよりはマシ』。該当地域ではそう言った空気も出てくる。

 結果、民衆の中でブルーコスモスを支持する者は、原作に比べ驚くほど少ない。そしてその少ない狂信者とも言うべき人間たちは、すぐテロに奔ったり自爆したりするものだから、すごい勢いで数は減っていくわブルーコスモスの悪評を高めるわで、実は足を引っ張りまくっている。そりゃアズラエルもキレる。キレて見限ろうとする。

 そんなわけで、ブルーコスモス過激派は実際風前の灯火まっしぐらだったりした。

 

「絶対にこのままではすまさん……必ず私を虚仮にした連中に鉄槌を下してくれる!」

 

 そんな事実を理解したくないのか見たくないのか、ジブリールは気炎を上げ続ける。

 どう考えても詰みつつある彼の明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の娘、正気か?」

「……最近いまいち自信が無い」 

 

 そんな言葉を交わすのは、プラント国防委員長パトリック・ザラと、プラント評議会議長シーゲル・クライン。彼らはクライン邸にて密かに会合していた。

 話題はラクスの行動。シーゲルとパトリックのみに伝えられた()()()()()()()()()との会談。その事後報告は2人の度肝を抜いた。何やらかしてくれちゃってんのと普通は思う。2人も思った。流石にこれをすぐさま表沙汰にするわけにもいかず、頭を抱えつつこうして話し合っている。

 

「勝手なことを……と言いたいところだが、彼女に全権を与えたのは我々2人だ。それにオーブの介入があったと言う事実を無視するわけにもいかん」

「意外に冷静だな。もっと憤慨する物と思っていたが」

 

 シーゲルの言葉に、パトリックは不服そうに鼻を鳴らす。

 

「ふん、機嫌は損ねているさ。だがそうも言っておれんだろう。ラクス嬢の話が本当であれば、向こうはある程度の妥協も考えている。あるいは屋台骨が揺るがされているのかもしれん」

「そこにつけ込める、かも知れないと言うことか。だがそのように誘導されている可能性もある」

「油断のならぬ相手というのは重々承知している。だが、このままではらちがあかぬと言うことはお前も理解しているだろう」

 

 渋面ではあるが、随分と理性的な台詞である。原作とは大分違うようだが、それも当然かも知れない。

 何しろ原作では息子がやらかしたり、その婚約者がやらかしたり、無敵の人が暗躍したり、作戦が失敗したり、機密情報が流出したりと散々で追い込まれていたが、そのほとんどがない。

 アスランがオーブに捕らえられるというハプニングこそあったものの、彼自身は何の問題も起こしておらずラクスに振り回されていて、パトリックの胃にダメージを与えていない。戦況も膠着状態であるが、原作ほど戦力は減じておらず――何しろバルドフェルド隊を筆頭とする主戦力は健在な上、オペレーション・スピットブレイクをやってないので地上の戦力はかなり保持している――中立国との関係も良好になりつつあり、支援もあってプラント内には多少の余力が生じていた。『いくつかの問題』はまだ残っているものの、まだ追い込まれるほどではなく、精神的にも余裕がある。

 ……こうなると大体の問題の起点となっていたアークエンジェルって、相当に疫病神だったんじゃなかろうかと思える。まあ当の足つきは現在大西洋辺りをたらい回しにされているようなので、関わり合いになる予定は今のところ無い。

 ともかく原作ほどにパトリックは苛ついていなかった。怒りと憎悪が収まったわけではない。ただ余裕が出てきたことで『頭が冷えてきた』らしい。

 

「私が言うことではないが、プラント市民を煽り戦意高揚を図ったことで戦時以外のことがおろそかになりつつある。圧倒的に人手が足らん。かといって交渉しようにも落とし所が難題だ。生半可な妥協では市民は納得せんだろうし、今の状況を優位だと勘違いしている者もいる。()()()()()()()()()()()()()()だというのにな」

「……NJ(ニュートロン・ジャマー)()()()()()()()()。あれほどの被害になるとはな」

 

 シーゲルが重々しくため息を吐く。無責任な話ではあるが、彼は地球が受ける被害をもっと軽く見ていた。なぜならばN()J()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 そもなんであれほどNJをばらまいたのかと言えば、戦略的に地球全土を麻痺させる必要があったのと、かなりの数が迎撃されると想定していたからだ。連合関係を麻痺させるのであれば、現状の2割もあれば事足りた。そも敵対してるプラントからの飛来物である。NJのようなものでなくともミサイルの類いだと疑って迎撃しようとするはずだろう……という目論見があった。

 実際は思った以上に迎撃態勢が整っておらず、大被害を与えてしまったわけだ。プラント側が連合を過大評価していたのと、連合がプラントを寡兵だと舐めきっていたという、不幸どころか天災級の行き違いであった。

 これによりシーゲルは二重の意味で頭を抱えることになる。想定以上の被害を与えたことにより地球の敵意は増大し、プラントには「連合恐るるに足らず」と言った空気が流れるようになってしまった。パトリックを中心としたタカ派はそれに乗じて戦意を煽りまくり戦争を推し進めたわけだが、ここに来てその『反動』が露わになった。

 『人手が不足してきている』という単純ながら根本的な問題である。そもパトリックも電撃戦で連合を下す短期決戦を想定していた。だがオペレーション・ウロボロスは未だ成されておらず、現状を維持するためにも戦力を引き上げることができない。物資が何とか回っても人がいなければ生産も何もかもが後手に回る。そして市民の多くが戦争に傾注していく物だから軍事にばかり人手が回るという状況だ。流石のパトリックも問題視し始めているが、煽りまくった立場であるためそう簡単に意見を翻すことはできなかった。

 今すぐではないがいずれ破綻する。それはパトリックも望むところではない。だからこそ二人して頭を抱えているわけだ。

 

「NJを停止させるわけにはいかん。あれがあってこそ互角に戦況を維持しているのだ。だが交渉するのであれば、あれの即時停止を連合は求めてくるに違いない。それを呑むとなれば……『別の切り札』が必要になる」

「【ジェネシス】か。だがあれはまだ()()()()()()()()()のだろう?」

「うむ。情報の漏洩があることを鑑みて開発は慎重に進めているが、逆にそれが仇となって進まん。かといって無理に穏健派を取り入れれば反発を招く。危険を冒すわけにもいくまい」

 

 どうもザフトの切り札たる兵器は、開発が遅れているようだ。原作との剥離が、このあたりにも影響を与えていそうである。

 

「であればまだ交渉の材料は心許ない、か。そも砲艦外交などやりたくはないが」

「無い袖は振れんよ。技術や素材は友好的な中立国に提供するので手一杯だ。それに中立国は中立国。いつ手のひらを返されるか分からん。オーブなどは仮想敵国と考えておくべきだろう」

「強く否定もできん。現にプラントへの対抗策を立てているからな。……加えてこちらには出生率の問題などもある。体外受精を推奨し、受精卵分割による妊娠率向上などを模索しているが、はっきりとした数値の向上は見られていない」

「腰を据えてかからねばならない話だ。かといって悠長に構えているわけにもいかん。場合によってはクローン技術の研究を加速させることも考慮に入れておかねば」

「やむをえん、か」

 

 頭を悩ませながらも、シーゲルは内心安堵していた。パトリックは十分に落ち着きを取り戻し、地球側との交渉にも前向きな姿勢を示している。良い兆候だ。前途は多難だが、このまま和平にまで持って行ければと、淡い希望を抱いていた。

 しかしパトリックの方はと言えば。

 

(このまま無闇に消費していくわけにはいかん。何とかして力を蓄え、討って出る機を掴まなければ)

 

 そう、パトリックはナチュラルを叩き潰す事を諦めたわけではなかった。今は雌伏の時と判断しただけである。

 未だ狂気には犯されていない。しかしそれ故冷静に冷徹に、確実にナチュラルへと痛打を与えるべく、彼は画策していた。

 内心で決定的な齟齬を抱え、表面上は協力し合って事を成そうとするトップ2人。これがプラントの運命をどのように導くのか、まだ定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 自分で自分にクリスマスプレゼントを買う! こんな空しいことがあるか!
 いいんだよ好きな物が買えるんだから。ガスブロライフルは最高だぜヒャッハー! ……さて、AC6のランクマッチで負けたり負けたりしてくるか(現実逃避)捻れ骨子です。

 はい大分遅れて申し分かりません更新です。もう題名そのまんまですね。特にクルーゼさん、なんかいい空気吸ってるぞおい。彼の後援者についてはおぼろげながら見えてきたと思いますが、多分皆さんの予想通りです。じゃあなんでマティスさんの命狙ってる様子を見せていたのか。それは多分未来の自分が考えてくれるでしょう。(無責任)
 その他の人たちも色々ありそうですが、果たして物語はどうなっていくのか。それは来年を待て! と言うことで今年はこれが最後の更新となります。

 本年も大変お世話になりました。皆様良いお年をお迎えください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37・問題が減らない

 

 

 

 

 

 どうやらやっとプラントが重い腰を上げたようだ。

 友好的中立国を通した非公式の接触。まだ交渉とかそういう段階ではなく手探り――情報収集と言ったところか。悠長なことをと思う者もいるだろうが、これまで散々あったんだ。慎重にもなるだろうし用心深くも疑い深くもなる。

 この様子だと、ラクス嬢も流石にコーディネーター関連の話をぶっちゃけたわけではなさそうだな。だったらもっとてんやわんやしているだろう。時間をかけて……と言うわけにはいかないが、焦らず機を見て情報を小出しにしていくつもりと見た。何しろプラントの首脳陣は、自分たちが仕組まれた存在である可能性など認めがたいだろうからな。ある意味他人事であるアズラエルとは根本が違っている。慎重であるに越したことはない。

 このまま交渉に持って行ければいいが、欠片も油断ならん。プラントも地球も爆弾と地雷がそこらに埋まっているし、一族は崩壊したとはいえその残党は雲隠れ。とりあえずめぼしい所に経済的な攻勢をかけているが、どこまで効果があるか分からん。仮にも長い歴史のある存在。俺が手出しできない財源がいくつかあってもおかしくはなかろう。

 色々と用意がいる。と、その前に。

 

「いい加減、会わなきゃならんだろうなあ」

 

 ため息と共に呟く。これまで中々時間が取れなかったが、先延ばしにするにしても限界がある。情報部にも悪いしな。

 

「それに、聞き出しておきたいこともある」

 

 決意を固めるためにも口に出し、タブレットを取った。そしてある人物に連絡を取る。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。いずれにせよろくな展開にはならないだろうなあと予感しつつ、俺は席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「直接会うのは初めてだな。リョウガ・クラ・アスハだ」

 

 対面に座る人物は、睨み付けるような表情で俺と相対している。そして。

 

「立ち会いをさせて貰うわ。文句は……無いわよねえ?」

 

 俺の傍らにはマティアスの姿。苦笑しているが、本人複雑な思いだろう。そう、俺が相対しているのは一族の『元』党首、マティスだった。

 彼女と直接対峙することに周囲はいい顔をしなかった。当然のことだと思うがしかし、他の人間が尋問しても口を割らないだろう。もっとも俺が尋問を行うことで余計にこじれる可能性もあるのだが、状況を進める一手として、そして『世界の裏側を暴き出す』きっかけになるやも知れない。やらないという選択肢はとれなかった。

 一応腕利きの護衛官が後ろに控えているし、俺も服の下は本気武装なので大事には至らないと思う。油断はならんけど。

 

「さて、素直に喋ってくれるとは思わないが、貴女には色々と聞きたいことがある。……その前に、言いたいことがあれば聞こうか」

 

 通常であれば容易く揺さぶりをかけられる人物ではないが、今の彼女は足下が崩れ去った状態だ。精神的に弱っているだろう。そこに付け入ることは不可能ではないと見る。

 油断ならないことには変わりないけど。

 ともかく俺の言葉に対して、マティスは睨み付けるような表情のまま、唸るように言葉を発した。

 

「……私をどうするつもりだ」

「貴女の対応にもよるな。もっともこちらとしては無体なことをするつもりはない。最低でも捕虜としての権利は守ると約束しよう」

 

 情報部としてはスパイ扱いで人権も取り上げたい所だったろうが、この扱いは何とか飲ませた。場合によっては味方に引き入れることも考えているからな。本当に無体な扱いはできん。

 さてどう出るかと考えていたら、マティスはこう出た。

 

「白々しい……どうせ私を慰み者にし、肉欲で縛って己がハーレムの一員に仕立て上げようとしているのだろう。分かっているぞ」

 

 ぎ、と俺の身体が傾いだ。そ~くるか~。

 

「……そういうのも含めて無体なことはしないと言っているんだが」

「最初はそう言って騙すのだろう。身体は汚されても心までは思い通りになると思うなよ。……はっ! まさか身内(マティアス)が見ている目の前でだとう!? な、何という破廉恥な!」

 

 あんなことからそんなことまで!? ああ! などと言いながらくねくねもだえ始めるマティス。俺は深々とため息をついた。

 

「……身体張ってるところ悪いが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ぴたりとマティスの動きが止まる。そして居住まいを正し再び睨むような目つきとなった。

 

「……この程度では動揺もせんか」

 

 そう、今の会話()()()()()()()と俺は見破っていた。半分ってところがミソだ。一族が分解したショックか怠惰な生活に浸りすぎたせいか、この女ポンコツオーラが増大してやがる。

 が、流石生き馬の目を抜く世界で生きてきたのは伊達ではない。半分ポンコツに侵食されつつも、捕らわれの身かつ先行きが分からぬこの状況で、『次の身の振り方』を考えていたようだ。何で分かるのかって? 彼女の立場でこの状況で取れる手段ってのは限られてくるからだよ!

 

「ペースを崩そうというのは交渉手段の一つだからな。私の周囲を知っているのであれば、そう言ったやり方を選んでも不思議じゃない」

 

 主にどっかの姫さんとか姫さんとか姫さんとかのせいだ。端から見れば俺との距離はものすごく近しいだろう。恥も外聞も捨てる気ならば、そのようなキャラで迫って来てもおかしくはない。そして今のマティスはそれができると言うことだ。

 だがそう簡単には通じないと理解したようで、普通の態度で話を進める。

 

「言いたいことは山とあるが、それは後回しにさせて貰う。……単刀直入に聞こう。私に何を望む? 情報を引き出すだけではあるまい」

 

 まあ分かるわな。彼女自身も『売り時』は考えているだろうし。

 

「こちらの条件と貴女の要望のすり合わせができるのであれば、()()()()()()()()()。もっとも一族関係からは基本手を引いて貰うし、一生監視付きの生活を覚悟してもらわねばならんがな」

 

 隠すことなく言う。仮にも一族を率いていた人間だ。その才能が失われるのは惜しい。毒劇物ではある。だがこの先はまだまだ面倒ごとが待ち構えている。彼女の才能はそれを切り抜ける力となるはずだ。

 ……ぶっちゃけ俺の苦労を少しでも肩代わりする生け贄が欲しいんだよ! マティスなら能力的には十二分というか、俺に匹敵するかも知れない。性格的なことや色々なしがらみがクリアされれば、即戦力になるのは間違いない。

 逃がさへんでぇぐへへへへ……と内心思っても俺は悪くない。悪いのはこの世界だ。(←かなりマジ)

 そして多分、マティス自身も自分を売り込もうと考えているはずだ。何しろ一族は瓦解しているし、下手をすれば残党から邪魔者として命を狙われかねない。身の安全を図るためにもこちらの庇護下に置かれようと画策していたのだろう。まあ初っぱなからあの言動は、不意を打つにしてもアレではあったが。油断を誘うつもりだったと好意的に解釈しておこうお互いのために。

 さてマティスの反応はというと。

 

「……随分と破格な待遇だな。確かに私は相当優秀だという自覚はある。だがそれを差し引いても、身内に引き入れるデメリットは多い。どちらかと言えば、『その男』を引き込んだ方が良いのではないか?」

 

 マティスが指すのは傍らのマティアス。うん、確かに能力的にはマティスと同等かそれ以上なんだけどね。

 答えはマティアス本人が肩をすくめながら出す。

 

「アタシは自前の勢力持ってるから。今それをやめるわけにはいかないし、とてもじゃないけど二足のわらじ履いている暇なんて無いわよ」

 

 なにしろマティアスいなくなったら暴走しかねない勢力だもんなあ。彼がそういう風に作り上げたってのもあるけれど、いきなり解体というわけにはいかないだろう。一族じゃあるまいし。

 未だ残党から命を狙われる可能性がある以上、彼自身の安全のためにもしばらく組織は維持していく必要がある。協力関係にはなれるが本格的に引き込むのは当面難しい。

 

「そう言うことだ。だが同等の能力を持つ人間が、フリーで目の前にいる。諸々の問題に目を瞑れば、スカウトしたくもなるだろう」

「いけしゃあしゃあと……私がフリーになったのはそちらのせいだと思うのだがな」

 

 俺達だけのせいじゃないと思うぞ~、組織ちゃんとしてなかったからじゃないかなって。

 まあそれは棚に上げておこう。まだスカウトできると決まったわけじゃないからな。

 

「邪魔であれば対策をする。そちらの組織も散々やって来たことだと思うが、まあそれはいい。……本題に入ろう。先にも言ったが少々聞きたいことがある。スカウトの話はそれ次第だな」

「ふん、素直に応えなければ……ということか」

「精々一生自由がなくなる程度さ。で、聞きたいことと言うのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ」

 

 『覚えている前世の記憶』では、そこら辺はっきりしていなかった。しかし『例の件』に関して一番の容疑者は一族であろう。それができるだけの技術、財力があり、()()()()()()()()()()()()()。それ以外の誰が……と言いたいところだが、この世界どんな裏が後から出てくるか分かったもんじゃないからな。一族であればそれでよし。でなければまた1からと言う面倒なことになる。

 ……面倒なことになる予感がすごくするなあ。

 といった俺の内心はさておいて、少し考えるそぶりを見せていたマティスが口を開く。

 

「ふむ、なるほど。党首を継げなかったその男の知識は不完全だったと言うことか」

「まあね。引き継ぐべき全ての情報、知識をアタシは得ていない。一族の全てを把握しているとしたら、党首であった者だけよ」

 

 そう言うことだ。まあマティアスも隠していることの一つや二つはあるだろうが、無理矢理それを引き出そうとして敵に回すつもりはない。

 

「買い被ってくれるな。私とて一族の全てを把握していたわけではない。でなければ捕らえられた程度で空中分解などする物か。……それにコーディネーター問題などと、ある種『一族のタブー』を突いてくれる」

「タブー? 語れないと言うことか?」

 

 俺の問いにマティスはかぶりを振る。

 

「いや、もう一族と言うしがらみがないのだから、意味のないものだろう。……確かに一族は、コーディネーターを生み出すことに関わっていたらしい。だが、()()()()()()()()()()()

「ほう? 貴女が知らないと言うことが、タブーにつながるというわけか?」

 

 マティスは一族の権限を自身に一点集約し、組織を掌握していた。その彼女が全てを知らないと断言する。何かあるのは間違いない。

 

「そうだな、少し長い話になる。事の起こりは四代前の党首のころだ」

 

 マティスの話によると、今から百年以上も前に一族で遺伝子デザインの研究は始まったという。元々一族は優秀な遺伝子を取り入れ選抜し、脈々とそれを続けてきた経緯がある。その中で、もっと効率よく優秀な能力を『生産』できないかと考えた人間が出てきたわけだ。

 色々物議はあったようだが元々倫理観がどっかずれてるような連中だ。いくつかのセクションでその研究は行われ、その一つは外部の機関と共同で行い、そして……コーディネート技術の基礎となる物にまで至ったようだ。

 だが()()()()()()()。どういうわけだか研究は打ち切られ担当のセクションは閉鎖された。そこで何があったのかは一切不明。党首が強権を振るい、詮索など全くさせなかったらしい。

 その後の展開、コーディネート技術の開発からジョージ・グレンの暴露、そして技術の拡散、コロニーメンデルの事件を経て一連の騒動。それらに関して裏で一族が関わっていたのか、それとも技術が流出したのか、四代前の党首、そしてその意を受け継いだ先々代、先代当主は一切明らかにしなかったという。

 

「私が党首を受け継いだ時には、全ての情報、資料は闇に葬られ、あるいは散逸していた。歴代が何を考え……いや、一族に何があったのか、なぜコーディネート技術の研究を打ち切った、あるいは闇に沈めたのか。一切合切が不明だ。もっともコーディネーターにまつわる一連の事件、騒動は十二分に利用させて貰ったがな」

 

 自嘲気味に言い放つマティス。ふうむ、彼女は真実を全て話しているとは限らないが、俺の勘は最低でも嘘をついてはいないと訴えている。

 とはいえ素直に信じてやると態度に出すわけにもいかんか。

 

「それがタブーとなった理由か。……にわかには信じがたい話だが、我々にはその真偽を確かめるすべはない。何しろ肝心の一族が崩壊しているのだから」

「まあそうだろう。私とて他人から聞けば眉につばを塗る。いずれにせよ私の口からはこれ以上のことは言えん。推論や適度な作り話ならいくらでもできるが?」

「いや、これ以上は聞かんよ。重要な件ではあるが、何よりも優先的に真相を探らねばならないというわけではない。地道に調査を続けるさ」

 

 何が起こったのかは気になる。当時の党首の癇に障ったか、内部分裂でも起こしたか。当人も先々代、先代の党首も亡くなっている(マティアスから聞いた)以上、真相は闇の中だ。

 コーディネーターに関しては振り出しに戻ったか。簡単にいくとは思っていなかったが、全く問題解決の糸口はつかめんなあ。下手をすると一族の残党と共にコーディネーターに類する物やその発展系の技術が拡散してるぞこれ。むしろ問題が増えてんじゃねえか。

 まあその辺りは今更だ。切り替えていこう。

 

「さて、他にも色々聞きたいことはある。素直に協力してくれれば処遇も考えるが、いかがかな?」

 

 情報収集とマティスの人となりを知るため、俺は対話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとまず話は終わった。

 マティスの話を精査するため色々と調べる必要はあるが、大まかに予想通りの展開だ。またあちこちに頭を下げにゃいかんけれど、マティスは俺の下につくことになるだろう。

 

「やたらとストレートに事を運んだけれど、いいの? あの子絶対一族の復興とか考えてるわよ?」

 

 そう、マティスは素直にこちらへ協力しているが、腹に一物あることは間違いない。俺の庇護の元、何かを企む。そのために殊勝な態度を装っているのだ。

 だが……。

 

「『あの状況』で出来るものならやってみるがいいさ。って所だよ」

 

 そう言って、俺は()()()()()()()()()()()()()()()を説明してやる。

 

「……えっげつないわねえ」

「俺が意図しないでもそうなる。つーか俺でも止められん」

 

 正直頭が痛くなりそうだが、有効な対策には違いない。ただし別な意味で予想外の事故が起こる可能性は高いんだけど。

 止めるよりは突っ走らせた方が結果的に被害が少なくなる。その少ない被害は俺に向くんだろうが背に腹は代えられん。最悪の事態よりは遙かにマシだろう。

 何を突っ走らせるのかって? そりゃもちろん――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※他者視点

 

 

「貴女も愛人にならないか」

「何言ってんのこの人」

 

 マティスに面会(奇襲)しに来たのが誰か、もう言うまでもあるまい。

 こうして、マティスはギャグ落ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 SEEDの映画が公開されましたが、それよりも勇気爆発の方が気になりすぎる。なんなんだよアレ。なんなんだよホント(褒め言葉)
 同じように世界は大変なはずなのにどこで差が生まれたのか捻れ骨子です。

 はい更新です。今回はマティスさんと質疑応答しているだけ。なお作中の一族とコーディネーターの関係性についてはオリジナル。実際どうなっていたのかはぼかしてあります。このまま誤魔化すもヨシ後で話を盛るもヨシよかあねえよ。
 そしてマティスが味方になりそうな流れですが題名通り問題は減ってませんねある意味増えてる。うんあの人関わったらたいがいギャグになるわ。今回も気がついたら介入してきたので筆者はもう諦めています。少しじゃないどころのコメディになってきているような気がしますがタグ変えた方がいいのだろうか。

 そんな感じで今回はここまで。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38・そろそろ腹を決める頃かも知れない

 

 

 

 

 

 結局、マティスは俺が側近の一人として迎え入れることになった。

 多くの反応は「ああ、またか」といったものだ。例外として情報部が「勘弁してください。ホント勘弁してください」と泣きついてきたくらいか。彼らにはすまないことをしたが、有能な人材には代えられない。ちょっと給料に色を付けておくか。

 そしてマティアスは「じゃ、この子のことよろしくね」と、自分の仕事に戻っていった。オーブに拠点を移し、分散したこともあって一族の脅威は減ったが、彼の仕事が減るわけではない。むしろ長々と引き留めてしまった。これからしばらく色々忙しいだろう。

 で、肝心のマティスはと言うと。

 

「……貴方は実のところ頭のいいアホだろう」

「自覚はあるが性分でな」

 

 とりあえず俺の執務室で仕事の補佐を行うこととなった。

 監視の意味もある。俺の側なら下手なことはできまいという、満場一致の意見であった。押しつけたのか押しつけられたのかは微妙なところだ。それに俺の仕事の効率を上げるためには、彼女くらいの能力でないとついて行けないという事情もある。

 国家機密めっちゃ見られると思うけれども大丈夫? と言う意見もあるだろう。場合によっては何か細工をされるかもしれないと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()心配したかも知れんが、その心配はあまりない。

 なぜなら彼女は()()()()()()()()()()()()だからだ。これから俺に取り入るにしても何にしても、まずは信用されないと話にならない。だから迂闊な真似はできないし、小細工をしようとしても一発でばれる体勢は整えている。それを誤魔化すことも可能であろうが、俺から不評を受けることはまず間違いないのでまずやらない。そう言ったわけでとりあえずの信用はできると言うことだ。欠片も油断はならんが。

 加えて。

 

「……さて、このあたりで一息入れようか」

「うん、これ一人でやる量の仕事ではないな。私もそれなりに忙しくしていたが、これほどではなかった。貴方は他の人間に仕事を振ることを覚えた方がいい」

 

 休憩しようと声をかければ、マティスは仏頂面でこう小言を言ってくる。彼女は俺の仕事っぷりがあまり気に入らないようで、こういう不服をよくこぼす。うん、そうなんだけどな。

 

「前にも誰かに言ったような気がするが、仕事を振ってこれだよ。……それに俺に回ってくる多くは俺が始めたことばかりだ。責任者としてできるだけ関わっておきたいのさ」

 

 そう返すとマティスは「気持ちは分かるが……」と複雑な表情だ。思うにこの人、根が真面目なんだろう。そも一族自体が人類のためというお題目で活動していたのだ。色々と問題はありすぎるが、真剣に人類の未来を案じていた者も多かったんじゃなかろうか。

 まあそれはそれとして。

 

「それに俺が忙しくしている理由の幾ばくかは、一族が関わっていると思うんだが」

 

 ごふっ、とマティスが(雰囲気的に)吐血した。全部が全部じゃないけれど、世界がこうなった原因のいくらかは一族が関わっている。もしかしたらコーディネーター関係の深いところもだ。その責任を少しでも彼女に取らせたいという、意趣返し的な思いもあった。

 

「いやこちらとしては目的を果たすためにしかしオーブ目線で見れば迷惑なのは確定的に明らか……」

 

 なんかショックを受けた様子でブツブツ言い出すマティス。 党首やってるときも相手の状況とか心理とか読んでたんだろうが、実際立場を変えてみると見え方が変わってくる物ではある。そこで考え込むところが真面目なんだよなあ。

 と、そこに。

 コンコンしぱたーん! と、ノック直後に返事を待たず執務室のドアが開いた。

 

「マティスさ~ん! 休憩ですよね女子会しましょう!」

 

 怒濤の勢いでマティスに迫りくるのは、いうまでも無く姫さんだった。

 自分の目的にマティスを巻き込む気満々である。その目的とはもちろん俺を囲い込むこと。そのために()()()()()が、選ぶ手段はたいがいろくなものではない。ハーレム建造とか。そしてそのメンバーとしてマティスに白羽の矢を立てたらしい。

 マティスとしてはドン引きだ。この件に関しては、もう完全に理解できない生き物に振り回されるかわいそうな人でしかない。まあこれも彼女が悪事を働けない一因となっているので、潔く諦めて貰おう。

 決して人身御供にしたわけではない。ないったらない。

 

「い、いや私はまだ仕事が残って……」

「大丈夫です天井のシミを数えていたらすぐに終わりますから初夜のように! 初夜のように!」

「どういう例えだそれに何で2回言ったってちょっとまて抱え込むな持ち運ぶなああああああ!」

 

 どたどたどたばたん! と、嵐のような勢いでマティスを抱え込んだ姫さんは去って行った。うむ、順調にギャグ落ちしているようで何よりだ。(←現実逃避)

 

「……よろしいので?」

 

 すっかり影が薄いが同室で仕事をしていた側近(男性)が問うてくる。

 

「なんだかんだ言って、彼女(マティス)は溜め込んでいる。良い気晴らしにはなるだろう」

「良い気晴らしですむのでしょうか? クリスティーヌ姫は取り込む気満々ですが」

「そのあたりは、()()()()()()()()()()さ」

 

 ぴた、と側近の動きが止まった。俺の言葉の意味が分かったのだろう。そして彼は――

 電光の速度で席を立ち部屋を横断すると、ドアを開け放ってこう吠えた。

 

「大穴ーーー! 若様が彼女ら纏めて面倒を見るってーーーー!!」

「待てや」

 

 部屋の外でどすんばたんどかんという音が響く中、俺はため息を吐いた。

 いや()()()()()()()()が。皆染まってきたなあ。

 

「で、どういうおつもりですかそこんとこを詳しく話していただきたい配当に影響が出ますので!」

 

 再び電光の勢いで戻ってきた側近が詰め寄って問う。君ね。ホントにね。

 呆れながらも俺は説明してやることにする。

 

「……そろそろスカンジナビアとの連携を強める必要があるからな。連合、ザフトの双方が動き出し、それは良くも悪くも現状を大きく変えるだろう。それに対抗するにはオーブ単体では限界がある。中立国を纏めるためにも関係強化は必要だ」

 

 つまり姫さんとの婚姻は絶対条件に近い物になってきたわけだ。いつまでも中途半端な状態にしてはおけなかった。

 

「……で、あの姫さんが目を付けたあいつらを引き込まないわけがない。その中でもマティスは下手な動きを封じる意味でも身内に引き込んでおくべきだと俺は思う。油断のならない人間ではあるが、毒も転じれば薬だ。姫さんの無茶振りと俺の手腕で、上手いように転がしてみせるさ」

 

 俺だけだったら凄まじい腹の探り合いで疲れるだろうが、姫さんが加わることでマティスもそう言った余裕は激減する。別の意味で疲れるだろうがマシだろう。

 まあ姫さんは姫さんで『思惑』はあるだろうが、それでこちらの不利になることはなかろう。ぶっ飛んでいるがその辺はわきまえている。

 で、加えてだ。

 

「それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に、側近はしばし考え込んで。

 

「無理ですな」

 

 断言した。うん俺もそう思うわ。今更あいつら放流できないし、かといってこのままなあなあにしておくのも収まりが悪い。結局多少外聞がアレでも纏めて面倒見た方が良かろうと言うことだ。

 正直今でもハーレムじみたことには抵抗がある。が、俺の心境や外聞は置いといて囲っておいた方が利がある。であればこの際恥も外聞も無しだこの野郎馬鹿野郎俺はやるぞ。(←多少ヤケ気味)

 ……とまあ俺の本音はまた棚に上げといて、と。

 

「まあ他はともかく、姫さんとの婚姻は派手に宣伝せにゃならん。()()()()()な」

「またなんか企んでますね?」

「応とも。親父殿や首長連中と話を詰めにゃならんが」

 

 ヤケになったからではないが、この状況は色々と利用ができる。精々派手にやらせて貰う。やるのは世界の命運を賭けた大博打。胴元はもちろん俺だ。

 改めて覚悟を決めろ、リョウガ・クラ・アスハ。このふざけた世界を徹底的にぶち壊すために。

 

「それで、アズラエル氏のお嬢さんは?」

「流石に二回り近く歳離れた相手に手は出せんわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水面下での和平の動きは加速していく。

 オーブの思惑として、先ずは停戦まで持っていきたいところだ。もちろん連合、ザフト共に戦意を抑え込むことは容易くない。これまで行ってきたことで大西洋連邦以外の国家や、ザフト地上軍などは大分軟化してきてはいるが、それでも決定打とはなりにくいものだ。

 アズラエル氏やラクス嬢も動いているようだが、目立った変化はまだ現れていない。双方ともに煽るだけ煽りまくったからな。手こずるのは止む形無しか。

 となれば、俺達が動くしかない。いや前々から動いてきたけれど。

 先ずは中立国への働きかけ。スカンジナビアとの関係強化はその理由付けになる。もっとも姫さんとの婚姻はまだ正式なものとはせず、噂話程度に留めるが。

 ちょうど情報のコントロールによさげな伝もできたしなあ。()()()()()()()()()()()

 そんで本人に頼み込むついでに俺の企みを聞かせてやることにした。マティスは最初恨みがましいというか妬ましい視線で俺を見ていたが、話を聞くうちに真顔になり、最後にはちょっと青ざめてこう言った。

 

「貴方は悪魔か」

「とうの昔に高値で押し売りしてるよ魂なんざ」

 

 かの一族の元党首をしてそう言わせるならば、仕掛けとしては十二分だろう。とは言ってもすぐに最悪の状況に転がり落ちるのがこの世界だ。まだまだ世に現れていない危険思想の人間や勢力は山とある。そう言った連中にも目を光らせておかねばならない。超えても超えても山しかないこの状況だが、やらねば先に進まない。

 幸いというか、連合の中でも風向きが変わりつつある。主にユーラシアと東アジアの方で。

 ユーラシアはスカンジナビアからの働きかけが効いてきた。以前も説明したが、スカンジナビアはユーロエリアへの影響力が強い。その上でオーブとの関係、中立国の勢力強化を匂わせ、停戦に向けた方向へ舵を切った方が得策だと訴え続けた。事実スカンジナビアとオーブ、そしてプラントと友好的な中立国は力を増してきたのは事実だ。NJに加えて戦争で疲弊してきたユーラシアには無視できないだろう。

 加えて大西洋連邦との関係性も徐々に悪化しつつある。大西洋を本拠地とするブルーコスモス過激派のおかげでテロは頻発しているし、あからさまに戦力を自分たちに向けて準備している。背中にナイフを隠して握手するにも限度という物があった。いっそプラントではなく大西洋を敵にした方が国は纏まるのではないか。そういう笑えない話もちらほら出ているようだ。

 で、東アジアであるが、そもそもここは戦争に消極的で、専守防衛に近い状況であった。NJ打ち込まれてマスドライバーが狙われたからこそ反撃したが、連合の中で最後の最後まで武力行使を躊躇っていたようだ。

 理由は簡単なことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()。これにつきる。何しろあの国の中核となっている中国エリアは、真っ赤っかを纏った独裁政権をひっくり返し民主化したような所だ。未だに内部に火種を抱えているし、それに伴う面倒は多い。(実はエリア間の移動は、再構築戦争以前よりも厳しい)

 その分日本エリアで最先端技術を開発し、中国、台湾エリアで廉価版を大量生産するという悪魔合体した強みがあるわけだが、ともかく爆弾を抱えた状態で戦争はしたくないというのが彼らの思惑だった。で、嫌々開戦となって蓋を開けてみれば、ザフトとの戦闘での被害よりもブルーコスモス過激派と、それに便乗した国内の運動家を自称するテロリストどもが与えた被害の方が大きいという、思った以上の酷いことが起こっていたりする。

 そりゃプラントよりブルコスの方を敵視するだろうよ。その上で元々交流があったオーブから再三話を持ちかけられれば、心も動くという物だ。

 そう言ったわけで、実は連合は瓦解寸前まで来ていた。大体肝心の大西洋連邦だって、アズラエルを中心に停戦に向けた根回しを始める者が増え、プラント殲滅を謳い文句に戦争継続を煽るタカ派過激派は徐々に追いやられ始めている。今停戦に向けて動かなきゃいつ動くよって状況だ。そりゃ動くよ。

 だからと言って全てがすぐさま切り替えられるわけではないが。先も言ったとおりまだ決定打となり得る物はないし、人々の戦意、怨念もそう簡単に収まる物ではあるまい。

 それはプラントも同じ事で、しかもこっちにはラクス嬢とバルトフェルド氏、マルキオ導師しか伝がないと来ている。友好的な中立国からの働きかけとラクス嬢の内部工作でどこまで動かせるか。連合共々不確定な要素はまだまだ多い。

 だから()()()()()()()()()()()()()()。意識の誘導だな。これからやろうとするのはその仕込みだ。

 姫さんとの関係を噂として流すと同時に、『ある情報』を広める。これはフェイクではない。そろそろ本格的に動かそうとしていた話だ。中立国同士の連携を強めようとする一方でオーブが裏で何やら画策していると察すれば、各勢力共に注視せずにはいられまい。

 その上でさらに虚実入り交じった情報を流す。本命を隠すためではない。むしろ()()()()()()()()()()()()()()()()。そこまでたどり着いて『こちら側』になるかならないか。それで対処が決まる。

 まあアズラエル氏は商人だ。思うところがあっても商機とあらばこちらにつくだろう。ラクス嬢もほぼ間違いなくこちらに来る。今の戦争に楔をぶち込むような真似は、彼女からしても都合がいい。自然と彼らにつく勢力は、こちら側になると思って良いだろう。

 残るは二の足を踏む者と様子を窺う者、そして敵に回る者だ。戦争を差し置いて何をと憤慨する者もいるだろう。俺から言わせればそろそろ幕を引くべきだと思うんだがね。事実そう思って動いている者は俺以外にもいるわけだし。

 ともかく俺の策で()()()()()()()。これで全ての決着を付ける……というわけにはいかないが、オーブと敵対しようとする者の勢力を大きく削ぐことはできるだろう。火種は消えなくとも、容易くオーブやその友好国に手出しできないようになれば御の字だ。

 さあ、乗って賭けて貰うぞ。嫌でもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




車買い換えたら~、一週間でフロントガラスに飛び石だよ!
しかも丸ごと交換とかね。もうね。お祓いとか行くべきかもしれん捻れ骨子です。

はい更新です。そしてリョウガさんが色々覚悟キメる回です。うん正直、ハーレムルート以外にねえよなこの先。さすがにヒマワリちゃんを加える気はなさげですが。まあリョウガさんより若くてイケメンなのこの世界にいくらでもいるからなあ。犠牲者候補には事欠きません。
そして何やらまた画策している模様。果たして何を企んでいるやら。

ところで映画の敵は読心能力や闇堕ち能力(違)を持っているそうですが、リョウガさんに向けた場合……。
・相手に対し複数の対処を同時に思考し処理する上、前世からブラック労働という闇にどっぷり浸かってますが何か。
ってな具合で通用しない気がするがするんんでしょうがどうよ。
姫さん? 本能と勢いだけで全部ぶっ飛ばすんじゃね?

と言ったところで今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39・伊達や酔狂で金貯めてたわけじゃない

 

 

 

 

 

 一月経った。

 うん、皆順調に踊ってんなあ。ちょっとどん引くくらい。

 すっごく姫さんとの関係でマスコミ大騒ぎなんだけど。情報流すの手伝ったマティスが「えぇ~」って顔してんだけど。各国で世紀の大恋愛とか結婚まで秒読みとか言う文字が画面や紙面で躍りまくってやがる。なんで全体的に一面飾る扱いなんだよ自分とこの情勢とかもうちょっと取り扱えよ。慶事に飢えてたにしろやりすぎだろ。

 まあそんな中でも気づいてるヤツは気づいてるんだけどな。アズラエル氏やラクス嬢なんかは「おめでとうございます。で、今度は何を企んでるんですか(意訳)」とかいう感じで連絡よこしてきたし。順調と言えば順調、なんだけどなあ。

 

「一部は我々のことを取り上げて、三つ股野郎とかハーレム首長誕生とかネガキャンやってるところもあるようですが」

「大体がジブリール氏を含む潜在的敵対勢力の傘下ですわね。マティスさんの事を嗅ぎつけてない時点で物が知れますわ」

「スカンジナビアの王族としては重婚オッケーどころか推奨なので欠片もダメージがないどころかむしろ自慢です」

 

 呆れたような様子のチヒロにリシッツァ。そしてえへんと胸を張る姫さん。彼女らとマティス、そして俺はアスハ邸の談話室で新聞雑誌やネットを見ながら会話していた。

 例の話を詰めるためである。発起人の姫さんは当然超乗り気で、チヒロとリシッツァはもう諦めてる。あとはマティスを説得するだけなのだが。

 

「いや貴女たちはちょっと本気で考え直すべきではないのか正味な話」

 

 真剣な顔で姫さんたちを説得にかかっていた。気持ちは分かる。許されるのであれば俺もすぐさま取りやめたい。だがそう言うわけにはいかないのもまた事実。特に(マティス)は放流なんかできないからな。逃がさんぞお前だけは仕事的にも。

 

「生憎と姫さんとの婚姻は決定事項だし、チヒロとリシッツァは今更俺の元から離すわけにはいかん。機密とか詰め込みまくってるしな。……まあ貴女にとっては不承不承だろうが、悪い話でもない」

「事実上の重婚のどこが悪い話ではないというのか」

 

 ジト目で睨んでくるマティス。カガリも似たような反応だったなあと思いながら、俺はおためごかしで言いくるめることにした。

 

「俺の庇護下にあるというだけで、オーブ内で手を出してくる人間はおらんよ。それだけでも安全性は随分と違うだろう。加えて考えようによっては『貴女の本懐』に近いこともできるのではないかね」

「私の本懐、だと?」

「『一族の使命』だよ。人類の繁栄のため、世界を裏で牛耳り色々画策してきたと聞いている。俺は基本オーブの平穏と繁栄だけを望んでいるが……それを果たすためには世界が繁栄し平穏でなければならないとも思っている。方向性は違うが、人類の繁栄を望んでいるのは同じだ。互いにすり合わせや妥協も考えられるだろうし、俺と貴女が組めばまた違うやり方も見えてくる。自慢ではないが、財力では一族に勝るとも劣らないと自負しているぞ? 組む気には、なれんかね?」

 

 とは言ってもすでに大分協力して貰っている状況ではあるが。それに彼女だけ放っておいて姫さんたちを囲むと言うわけにもいかん。絶対すねる(自覚無しに)し嫉妬で何かやらかしかねない。だったら一緒くたに囲った方がまだマシだろう。

 後は彼女がそういう環境を割り切って飲み込めるか、なんだが。

 

「そ、そういう言い方は卑怯……いやしかし卑怯なことは私も散々やったし妥協点を探るのはいやではないというかやぶさかではないというか……」

 

 また句読点なくブツブツ言い出したよこの人。どんどん面白キャラへの道を転がり落ちてんなあ。

 このままでは話が進まない。気は進まないが俺はマティスに近寄り――

 顎に指をかけこちらを向かせる、所謂『顎クイ』をやった。

 突然のことに「ほうぁ!?」と妙な叫び声を上げるマティスだが、俺は構わずにその瞳をのぞき込むように目を合わせる。

 

「……無理強いはしない。だが、貴女が手を貸してくれたら助かる」

 

 ただそれだけを言ってみた。果たしてどんな反応が返ってくるか。マティスは――

 みるみる顔を真っ赤にして、「ぴひー」という小さな悲鳴を漏らしながら、湯気噴いて白目剥いてぶっ倒れた。

 

「…………初心すぎない?」

 

 流石にこれは予想外だったわ。免疫なさ過ぎだろ。

 

「あのエロい顔とエロい声で迫られたら、たいがいの人間はああなると思いますけど」

「この男本能的に女墜とす手管冴え渡ってますわね」

「2番! 私2番でお願いします!」

 

 君らな。……まあいい、この様子ならしばらくならせば説得できるんじゃなかろうか。あくまで説得だからな、説得。

 

 

 

 

 

 この後、マティスが何度も意識飛ばしたり泡食ったり逃げだそうとしたりしたが……。

 彼女は、墜ちた。

 ……説得だからな? いいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とか何とかやってたら、なんか閣議で変な法案が通った。

 ()()()()()()である。

 

「おい、あんたら。おい」

 

 俺がジト目で議席を見渡せば、首長どもも議員連中も一斉に視線をそらしやがった。人がちょっと議会から離れている内に何やらかしてやがりますか。

 

「大体お前のせいだぞリョウガ。自業自得だ」

 

 なんか久しぶりに会ったような気がする親父殿が、眉間に皺を寄せながら言った。親父殿はどうも不承不承のようだが、他の連中はノリノリだな? 師匠(コトー)とかウナトとかも向こう側らしい。

 

「スカンジナビア王国の風潮に合わせるということさ。まあ特例だ。今のところお前さん以外の人間に適用させるつもりはない」

「左様。これから先、場合によってはスカンジナビアの王族、貴族とこちらの氏族とで婚姻関係を結ぶことが増えるかも知れぬ。その上で一挙に数人押しつけられると言うこともあり得る。その試しもかねておりますので」

 

 もっともらしい理屈を上げているがそれだけか? そんな視線を向けてみれば、親父殿がため息をついて口を開いた。

 

「後は将来的なお前の『後釜』、だ。後継者は育てておかねばならん。お前の血を引いたからと言って優秀な人間になるとは限らないが、あれだけの面子が揃っていれば可能性も上がるだろう。……お前は自分が未だ替えの効かない人間だというのを少しは自覚していた方が良い」

 

 耳の痛い話来たぞおい。皆揃ってうんうん頷いてんじゃないよ。

 まあその、すごく振り回してるってのは俺も自覚はあるんだが、やんないとお先真っ暗なんでなあ。そして終わりが見えないと来ている。止まるわけには行かない血を吐くマラソンを続ける必要があった。

 ……それを考えると、確かに子供作って将来的な後継者として育てるってのはアリなんだよなあ。効率的なことを考えると重婚が表立ってできるというのはメリットではある。感情的なことはこの際置いて、流れには乗っておくか。

 俺は根負けした様子を見せて両手を挙げる。

 

「……分かった分かった。ここで俺一人が意地を張っても仕方がない。皆の思惑に乗ってみるさ」

 

 ほっとしたような空気が流れる。また俺が屁理屈をこねて抵抗するのではないかと思っていたのだろう。一方的に不利益を被るんならそうしたかもしれんがね。感情的なことを抜かせば得ではある。追い込まれているような気がせんでもないが。

 その代わりと言っては何だが。

 

「で、それはそれとして、()()()()についてなんだが」

「「「「「ぎく」」」」」

「ノリいいなあんたら」

 

 一斉に視線をそらしやがって。別に悪いこと企んでるわけじゃないっつーのに。一気にダメな空気が漂ってる中、親父殿が恐る恐る言葉を発した。

 

「その、正直空気読めてないかな~って、おとーさん思うんだけどな?」

「なんでキャラ崩壊するか親父殿。別に俺も伊達や酔狂や嫌がらせでこの時期にこんなことを言いだしたんじゃないわい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思ったからこそだ」

 

 俺の策。それはこの時期からやっておかないと()()()()()()()()()()。どうせ問題になることが分かっているんだから、早めに対策しておくと言うことだ。もっともそれが分かっているのは俺だけだし、手を打てるのも俺だけだ。しくじったらさらに状況が混乱する可能性もあるが、やらなきゃやらないでもっと悪化する可能性がある。()()()()()()()()()に丸投げしても良いんだが、原作と流れが変わっている以上確実性を取りたい。

 この世界ホント、いつ世界が滅びてもおかしくない危機がゴロゴロ転がってるんだもんなあ。手が抜けるんなら俺も抜きたいわい。

 

「確かに時期は時期だし、()()()()()が友好的かどうかも分からん。だがそれは逆に機を窺っている可能性があるとも言えるし、交流を試みればそれを探ることができる。何より()()()()()()()()()()を果たす一手だろう。連合とザフトが揺らいでいる今なら先手を打てるし、逆に双方へ働きかけるきっかけにもなり得る」

「……うむ、そこまでは分からんでもない」

 

 親父殿はまた深々とため息を吐いた。吐いてから肩を落として言う。

 

「で、なんでそこから『ついでに不穏分子をあぶり出す』って発想になるの」

「やるんなら一石二鳥どころか群れごとだ。それにどうせ仕込まなくても不穏分子はちょっかいかけてくるぞ確実に。だったら罠仕掛けておいた方が合理的だろうが」

 

 間髪入れずにどきっぱりと答えてやった。ふん、まだまだ俺という人間の見積もりが甘いな。使えるんなら自分自身も的にするってのは分かってただろうが。

 こいつはも~、ホントにも~、ってな雰囲気が漂う。まあごり押してるのはこっちだ、気持ちは分かる。

 だから()()は用意しておいた。

 

「とはいえ国家主導でやるのは不安がある、と言う話も分かる。そこでクーロン商会の資金や人材、設備を使うという方針も考えた。なんなら俺の個人資産から持ち出ししても良い。なに金ならあるしなくなりゃ稼ぎゃいい」

「「「「「それはやめて!」」」」」

 

 何で一斉に止めに入るか。

 

「お前、国というリミッターなくなったら何しでかすか分かったものではないだろうが。せめて目の届くところでやれ」

「国に迷惑をかけるつもりはないぞ? 余所は知らんが」

「なお悪いわ」

 

 ちっ、さっきのは訂正だ。流石に親だから俺のことがよく分かってる。国の主導から離れたのを良いことに()()()()()()()()()()だってのを読んだか。独自に事を進めるのはやめておいた方が良さそうだな。国を敵に回すつもりはないんだし。

 とにもかくにも、何とか俺の策を飲ませることには成功した。

 お大尽アタック大盤振る舞いといこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺が巡らせた策だが、その本筋は気づく人間が見れば気づく。先も言ったとおりアズラエル氏やラクス嬢などは早々に感付いて連絡を入れてきた。

 しかし実際に接触してきた一番乗りは、意外な人物であった。

 

「随分と思い切った決断だと思います。ある意味世界を敵に回す可能性もありますが……恐らくそれも考慮に入れているのでしょう?」

 

 真っ先に俺と面会することを求めてきたのは、マルキオ導師だった。よく考えれば当然だわな。基本オーブ国内に居を構えてて、こちらからも情報を流しているわけだし。

 

「今でも世界の一部からは目の敵にされていますのでね。何のことはない……とまでは言いませんが、覚悟の上です」

「それ以上に、戦いが沈静化する、あるいは方向性が変わるだけでも多くの人間が救われることでしょう。それが貴方の狙いでなかったとしても」

 

 相変わらず持ち上げてくるなあ。結果的に戦争が沈静化するかもってだけで、そこまで考えちゃあいない。

 

「金で横槍を入れると言うだけですよ。もちろん人が救われるのならそれに越したことはありませんが。……こちらとしても、近々導師と話し合う必要がありました。ジャンク屋協会に協力を要請することになりそうなのでね」

「無論私個人としては協力を惜しみません。協会に働きかけるようにしましょう。……ですがそれだけでは手が足りないのでは? 中立国からも協力を募るつもりですか?」

 

 導師が問う。全くもってその通りで、オーブやジャンク屋協会だけでは少々手が足りない。中立国に協力を仰ぎたいのはやまやまだが、彼らは彼らで混み入っているため、さほど多くの力を割けないだろう。と言うことで。

 

「もちろんそうするつもりですが、向こうもそれほど多くの余力はありません。ですから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これには流石の導師も驚いた様子を見せた。

 

「ロゴスですか。しかし彼らはブルーコスモスの後援者では?」

「ええ。ですが()()()()()()()()()

 

 勘違いしている人間は多いし、デスティニーでは議長がそう思わせるように誘導していたが、ロゴスは()()()()()()()()()()()。軍事企業の互助会のような存在だ。

 なぜかこの世界では軍事産業の影響力が大きいが、彼らの多くは兵器ばかりを作っている企業ではなく、大体は重工業などを主な生業とする。そちらの方は俺にとって利用価値があった。

 そしてデスティニーではジブリール側についていたように見える彼らだが、実際の所はジブリールの言動にドン引き及び腰であったし、消極的であった。ロン毛議長が悪の組織指定したおかげで逃げ回る羽目になっていたが、そうでなければどこかでジブリールを切り捨てていた可能性すらある。

 加えてこの世界じゃ、俺のお大尽アタックとアズラエル氏の行動で大分揺るがされている。ブルコスのスポンサーを降りようかという話も出ているようだ。それをやってしまったら今度はテロの標的が自分たちに向きかねないので慎重にはなるだろうが、風向きは悪くない。

 ……と、このような話を大雑把に導師へと伝えてみる。さすれば彼は目から鱗が落ちたと言った様子で言う。

 

「……なるほど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけですね。これは確かに、貴方にしかできない方法だ」

「そんなところです。ブルーコスモスの行動は、消耗を促す物ばかり。それが回り回って経済を活性化させるのであればロゴスも支援を惜しまないでしょうが、アズラエル氏すらコントロールできなくなった組織は、ほとんどただのテロリスト集団と化しています。軍部に食い込んでいるのがなおさら悪い。コントロールのできない軍事力など、野盗以下でしょう。経済的にも状況的にも、支援するには限度という物がある」

 

 だが先も言ったとおり、下手なことをすればブルーコスモスがさらに暴走し、ロゴスそのものが危機に陥る可能性がある。しかし……()()()()()()()()()()()であれば? 利敵行為では無いと言い訳ができるよなあ。

 

「戦争という行為から注意をそらし、なおかつ経済の活性化を計る。加えて地球圏、プラントをも巻き込む大事業とすることを目指す、というわけですか。いやはやスケールの大きい」

「そのくらいでなければ楔を打ち込むことはできないでしょう。戦力ではなく経済で殴りつける。これが私の戦い方です」

 

 このために金を稼いでいたんだ。CEと言う理不尽な世界に対する、俺なりの抵抗である。こんな形でブラック企業の経験が生きるとは思わなかったが。

 原作と比べオーブの戦力は向上しているが、だからと言って真正面からザフトと連合を敵に回せるほどの力はないし、俺も国もそんなことをやらかすつもりはない。だから経済力で殴らせてもらう。

 俺の話に導師は深く頷く。

 

「お話は、よく分かりました。成されようとすることの利点、そして危険性を熟知し、覚悟の上で行おうというのです。これ以上私の口から何かを言うのは蛇足ですし野暮でしょう。……それに今回貴方を訪ねたのは、もう一つ提案がありまして」

「はて、なんでしょう?」

 

 心当たりは色々あるが、さてどれが来たのか。そらっとぼける俺の問いに対し、導師はくすりと微笑を浮かべ言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バーンブレイバーン無事終了おめでたい。いやあスポンサーとスタッフと監督が好き勝手絶頂やらかしまくったアニメでしたな良いゾもっとやれ。こういう勢いのあるロボット物で良いんだよもっと作れや捻れ骨子です。

 はいリョウガさんがマティスさんを「この女、墜ちたっ!」するのと、なんか企んで金突っ込んでる回です。うんそれ以上言う事ねえや。女は口説いて味方に引き入れ、悪の組織()は札束で頬を叩いて味方に引き入れる。こう書くと最低な人間ですが、何一つ間違っていませんね。
 果たしてこの金持ってる最低野郎(ボトムズ)はこの世界をどのような方向に導くのか。そしてみんな分かってるとは思うけど死んだはずのジョージ・グレンと会うとはどういうことなのか。特に風雲急は告げないけれど斜め上をかっ飛んでいくこの話の明日はどっちだ。

 ……筆者が手綱取れていないという事実には気づかなかったことにして欲しい。と言ったところで今回はここまで。  


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。