俺と愛バのマイソロジー (きさまさき)
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はじまり

 ウマ娘 

 人間を超える優れた身体能力を持ち、ウマ耳と尻尾に美しい容姿を標準装備して誕生する彼女たち。

 競技レース、ライブ開催、モデル活動等は全て大盛況。

その存在に世界は熱狂する。

 

 

ウマ娘と結婚したい。幼少より何度も口にした強き願い。

 

「そんなにウマ娘が好きなら、トレーナーを目指してみる?」

 

 母さんのこの一言が人生の転機となった。

 

「トレーナーて何?」

「頑張ってるウマ娘さんたちを、応援する仕事よ」

「トレーナーになれば、ウマ娘さんと結婚できるの?」

「そこは本人の努力次第。夢に向かって一緒に頑張れば自然と仲良くなれるはずよ」

「俺トレーナーになる!」

「あらあら気の早い。でも、最近急に結婚結婚言い出したのはどうしてなの?」

「うまぴょい」

「は?」

「うまぴょいがしたいんです」

「ちょっと何で敬語なの」

「うまぴょいがしたいんですよおおおおおおおおおお!」

「何回も言わないで叫ばないで!うちの大事な息子にうまぴょいを教えたバカは誰よー!」

  

 翌日、俺に"うまぴょい"と言う魅惑の単語を教えてくれた、お隣のお兄さんは、母の手で畑に埋められちょっとした事件となった。

 

 それから俺の目標はこんな感じになった。

 

 トレーナーになる→運命の出会い→トレーニング深まる絆→レース優勝!感動の涙と熱い抱擁

 →うまぴょい→結婚 (なるはやでうまぴょい達成!結婚は二の次)

 

 完璧な人生設計だと、そう考えていた時期がありました。

 正直、人生舐めてました。

 

「トレーナー狭き門すぎだろ、ホント辛い」

 

 高校卒業後の進路は迷わずトレーナー養成機関を目指したが、落ちた。

 見事に全部落ちた。

 

「まさか全部落ちるとはな・・・はは、はははは、はぁ~」

 

 全国のトレーナー養成機関でそれなりの実績ある学舎をいくつか選んで受験したが、結果はこの始末。

 適性検査の段階で試験官に「むりー」「お帰り下さい」「勘弁して」「こっち来んな」と言われた。

 流石に参ったね。そして酷く傷ついた!

 

 したがって、情けないことに、現在の俺はトレーナー浪人をしている。

 

 母からは「家で農業でもやれば?やる気があれば、いつでも帰って来ていいのよ」と言われている。

 ありがてぇありがてぇ。

 農業開始→ニンジン栽培→ウマ娘を釣る→うまぴょい 

 この流れは最終手段なので、今のところは保留にしている。

 

 諦めの悪い俺は次回のトレ養成機関編入試験に向けて、日々の研鑽とバイトをこなす毎日である。

 

 本日のバイト終了!お疲れしたぁー。

 日課のウマ娘とイチャラブ新婚生活を妄想しながら帰宅中。

 

 そして、あいつらを見つけた。いや、見つかったのか。

 

 「「どうか私たちを誘拐してください!!!」」

 

 その日運命に出会う・・・やかましいわ。

  



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ふぁーすとこんたくと

 

 
 


「ヤベっ、降ってきた」

 

 帰宅中突然の雨、そんな日に限って傘がないあるある。

 降水確率10%で降るのやめてくれませんかね。

  

 雨を避けるため、帰宅ルートを変更する。

 いつもは通らない地下道を選択した。

 

「ここ、不気味だから苦手なんだよな」

 

 点滅する切れかけた蛍光灯、意味不明な落書き、生ぬるい風、なんか臭うし。

 全てがその何というか、出そうじゃんアレが。

 別にビビッてねーし。

 

 若干小走りになりながら家路を急ぐと、前方から何かが接近して来るのに気が付いた。

 

 二人の子供?

 衣服の感じから両方とも、小さな女の子だ。

 大きいスーツケースをガラコロと、音を立てながら牽引している。

 

 うわーますます雰囲気出してきたー。

 双子のアレ?ホラー映画でよく見ますよねー。

 べっ、別に恐くねーし。

 

 近づくにつれ女の子たちの全貌が露になる。

 ちょいちょいちょい、なんで二人ともずぶ濡れなの!俯いて無言ヤメロ!なんか喋れ!

 来てるこっち来てる!

 いや、別にビビッてねー...嘘ですビビッてます。助けてー母さん!

 なんかドキドキしてきたわ、これが恋?

 

 いきなり飛びかかって来たら、マジでどうしようと心配していたが。

 何事もなくあっさり横を通過しようとする二人。

 へへっ、脅かしやがって。

 ホッと一安心すると同時、すれ違いざまに二人の顔をチラ見で確認。

 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「なあ、大丈夫か?」

 

 よせばいいのに、声をかけてしまった。

 ピタっと二人の足が止まる。

 そして振り返る。

 

「大丈夫って」 

「私達の事、ですか」

「いや、お前ら以外誰がいるんだよ」

 

 思わず声をかけた理由は二人の状態・・・これはヒドイ。

 全身ずぶ濡れの衣服だけでなく、顔やあちこちに泥がついて汚れている。

 目元が少し腫れていることから、泣いてたのかもしれない。

 おまけに転んだのか、膝や手にスリ傷があり出血した跡がある。何故か鼻も赤い。

 二人が持つスーツケースは、少女の体には不釣り合いで大きい。

 こんな重そうなの、よく運べたな。

 

「もう一回聞くぞ、大丈夫か?」

 

 再び問いかける。

 しばし沈黙。

 すると髪の長い方の女子がプルプル震えながら呟く。

 

「...じゃない]

「ん?何だって」

「大丈夫じゃないです!!」

 

 いきなり叫ばれてビックリする。

 ええー、最近の子ってば、こんなにもキレやすいの?怖っ!

 

「見てわからないんですか!?こんなに濡れて泥だらけで、ケガもしているんですよ!大丈夫な訳ないじゃないですか!!」

「ちょっと、ダイヤちゃん落ち着いて」

 

「落ち着ける訳ないです!家出初日に迷子からの集中豪雨!滑って転んでご覧のありさまですよ!!!」

「ダイヤちゃん、顔から行ってたもんね」

「そうだよ顔面からですよ!あー!まだ痛ったいし!私じゃなかったら確実に鼻もげてた!」

「その時、服を引っ張って私も道連れにしたよね」

「顔面無事だったからいいじゃない!ホントごめんなさい許して!」

 

 ロングヘア―の方がキレながらまくし立て、黒髪の方がなんとか落ち着かせようとしている。

 うるせえ!マジうるせぇ!

 なんだか元気そうじゃん。早まったかなと少し後悔する。

 

「大体、都会の人は冷たいです。こんなに悲惨な状態の女児二人を放置とか、見て見ぬふりしてサイテーですよ!」

「泣き出したダイヤちゃんが震脚で地面割ったりするから、皆ドン引きしてただけじゃ」

「家出は無謀でしたかね・・・」

「"今日は家出するにはいい日だ"とか言い出して、私を巻き込んだのダイヤちゃんだよね」

「キタちゃんだって"わー家出なんて初めて楽しそー"てノリノリだった癖に」

「記憶にないな!」

「あ、コイツ!?」

 

 責任を押し付けあってケンカを始める二人。

 俺を置いてけぼり、もう帰ってもいいよね。

 

「二人とも元気そうで安心したぜ。じゃあな、気を付けて帰れよ」

 

 よし早く帰ろう。帰って忘れよう。

 

「待ってよ!」

「待って下さい!」

 

 瞬間、風が駆け抜けた。

 先程まで後ろで言い合いをしていた二人が、今俺の正面にいる。

 な、瞬間移動だと!?いや違う、物凄い速度で俺の正面に回り込んだのだ。

 

「お兄さん、心配して声をかけてくれたんだよね」

「あなたは優しい人なんですね。私にはわかります」

「そんなあなたに、大事な大事なお願いがあるよ」

「重要事項を説明します。ちゃんと聞いて下さいね」

 

 あー聞きたくない。

 

 「「いくよ、せーの」」

 

 せーのじゃねえよ。

 

 「「どうか私達を誘拐してください!!!」」

 

 ハモんなや、息ぴったりか!あらやだ、二人ともお辞儀の角度超キレイ。

 

 

 瞬間移動と見間違うほどの、爆発的な脚力。

 子供の体躯で大型スーツケースを苦も無く持てる膂力。

 頭のおかしい言動、垣間見える凶暴性。

 下げた頭にはピコピコ動く獣の耳がついている。

 ファサファサと無意識に揺れるしっぽも確認した。

 そして何より、この俺がわざわざ声をかけてしまった事。

 ここから導き出される結論は・・・。

 

「もしもし?警察ですか?不審者二名と遭遇して困って・・・ちょ、お前ら離せ、やめっ、やめろーー!!!」

 

 俺のスマホを奪い通報を阻止しようと、飛びかかってくる二人。

 こいつら人間じゃねぇ!!!

 

 人々はその存在を「ウマ娘」と呼んだ。

 

 

 これが俺たちのファーストコンタクト。

 

 



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おもちかえり

 ウマ幼女二名と格闘する事になった。

 いきなり襲って来るとは、とんでもねぇ奴らだ!

 

「ぜー、はぁー……つ、疲れた」

「ううー、負けちゃった」

「酷いです!虐待です!この犯罪者!訴えて勝ちますよ!」

 

 かなり激しく抵抗されたが、奴らの尻尾を何とか掴むことに成功した。

 それで、大人しくなるかと思いきや、ギャーギャー文句を言ってくる。

 一応、動きは止まったので、負けを認めているとは思うんだけどな。

 

「まさか負けるなんて……パパにも負けたことないのに」

「卑怯です!ウマ娘の弱点を的確についてくるなんて、この鬼畜!」

 

 自分たちの尻尾を握りしめる俺を、恨めしそうに見ながら二人は悪態をつく。

 さっきから、ロングヘアーの方がうるさい。

 

「黙れ、これ以上暴れるなら引きちぎるぞ」

「ひぃ!」

「なんて事言うんですか!それだけは勘弁して下さい!お願いします!!」

 

 やっと戦意喪失したらしいので、尻尾をリリースしてやる。

 

「とりあえず通報するぞ、警察に保護してもらって家に帰りな」

「警察のご厄介になるのはちょっと、都合が悪いといいますか……」

「両親に迷惑をかけたくないよ」

 

 アホか、家出してる時点で親には十分すぎる迷惑と心配をかけてるんだよ。

 こいつら何か訳ありか、めんどくせ。

 

「うー、まだ帰れないのに」

「そうですそうです!訳ありめんどくさい奴らなんです。だから見逃してください」

 

 ナチュラルに心を読むな。 あー、もうしょうがねえなぁ。

 ここでこいつらを見捨てたら未来の嫁ウマに申し訳ない。

 何より、母の教えに背く事になる。

 

 母さんはまだガキだった俺にウマ娘のことを教えてくれた。

 それを思い出してみる。

 

『ウマ娘は人間に比べ、遥かに強靭な肉体を持ってるわ。でもね、心は普通の女の子とかわらない。臆病で繊細で面倒で、とっても弱いの。つまり、豆腐メンタルなのよ』

『豆腐?』

『そう豆腐みたいに脆いの。だからね、もしウマ娘が困っていたら、怖がらずに助けてあげて…優しい男はモテるわよ』

『わかった!困ってるウマ娘さんを助ける。そして、うまぴょいしてもらう!』

『最後のが余計だったけど、まあいいわ、約束よ』

『母さんも豆腐なの?』

『私?私はそうねー‥‥‥こんにゃくかしら』

  

 回想終了。

 うちの母さんメンタルぷるぷるじゃないか。

 

「わかった。とりあえずついて来い。お前たちの処遇は、俺の家に着いてから考えよう」

「「えぇ!?」」

 

 家に来いと言ったのが相当以外だったらしく、声をあげる二人。

 発言した俺自身もビックリしている。

 見ず知らずの幼女をテイクアウトするという、犯罪まがいの事を実行しようとしているのだから。

 どうした俺?なんか変だぞ、仏様ムーブかまし過ぎではありませんかね。

 

「え、えっと、いいんですか?」

「本当に?ホントにホント?」

「無理にとは言わない、嫌なら他をあたれ」

「そ、そんなことないよ」

「是非、お願いします」

 

 俺について来ることを了承する二人。

 表情がコロコロ変わって飽きませんな。

 

「やったねダイヤちゃん!私たちお持ち帰りされるよ」

「こ、これがお持ち帰り////流石は大人の男ですね・・・ゴクリッ」

「お持ち帰り言うな!これはだな、一時的な保護だよ保護」

 

 断じて誘拐ではない、俺は善意で人助けしようとしているだけ。

 この二人に運命的なものを感じているわけじゃないんだからね!!

 

「さっさと行くぞ」と歩き出そうとする俺。

 

「ちょっと待ってよ」

「お世話になる前に、これだけは言わせてください」

「何だよ、俺の気が変わらないうちに行こうぜ」

 

「「お兄さん」」

 

 心底嬉しそうな顔をする二人。

 

「「ありがとう!!」」

 

 笑顔が眩しいー!!!

 悔しいが、ちょっと見とれてしまったぞ。

 大丈夫大丈夫大丈夫!いくらウマ娘好きの俺でも、こんな子供に手は出さんよ。

 やましい気持ちは無い!!‥‥‥はずだったんだけどな~。

 



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ひめい

 帰宅中に二人のウマ娘が仲間になった。

 

 今更ながら、自分が取り返しのつかない選択をしたのではと、心配になってくる。

 いやいや、人助けをしているだけだ。

 だから、大丈夫大丈夫……大丈夫だよね!逮捕されたりしないよね?ねぇ!

 

 地下道から出ると雨の勢いは弱まっていた。

 今がチャンス!本格的に降る前に家までダッシュじゃ!

 

「と思ったけど、急用を思い出したからコンビ二に寄らせてくれ」

「そんなこと言って、逃げ出すつもりじゃないでしょうね?」

「逃げる気なら無言でダッシュしてるわ。本当に急用なんだよ」

「どんな用なのか教えてほしいな」

「大がしたい」

「ダイ?大冒険でもするの」

「物凄くウンコがしたい!家までもちそうにない!言わせんな恥ずかしい!」

「「一刻も早く行ってください!!」」

 

 最寄りのコンビニまでレッツらゴー!

 やる気のなさそうな店員に一言断りを入れてからトイレに籠る。

 待っている間、ウマ娘たちは店内で時間を潰しているそうだ。

 さて、本当の用事を済ませよう。

 

 スマホを手に取りある人物へと電話をかける。

 幸い相手は数コールで応答した。

 

「あなたから電話してくるとは、何かありましたか?」

「すまん、厄介事だ」

「こんな時間にわざわざ私を頼ってくる、トラブルの内容は‥‥‥ウマ娘絡みですね」

「察しが良くて助かるよ。シュウ」

 

 通話相手の男の名前は、白川愁(シラカワシュウ)

 実家のお隣に住んでいた幼馴染で、年上の兄貴分的存在。

 今も昔も、困った事があればまずこの男に相談するのが一番だ。

 

「トラブルの内容を詳しく聞かせて下さい」

「実はだな・・・」

 

 シュウは熱狂的なウマ娘信奉者であり、各種団体の代表理事を務めるウマ娘ガチ勢だ。

 俺がウマ娘好きになったのも、ウマ娘への愛を熱弁するシュウの影響を受けたことが大きい。

 もちろん『うまぴょい』について教えてくれたのもシュウだ。

 兄であり師匠でもある彼を、なんだかんだで尊敬している。

 

「な、なんですってーーー!美少女ウマ娘二名を絶賛お持ち帰り中ですと!‥‥‥うらやまけしからん!!」

「言うと思った。それで、そいつら家出して来たとか抜かすんだ」

「ほう?さらに詳しく」

 

 シュウはイケメン、高学歴、高収入、複数の企業経営者であり、あらゆる学問に精通する天才科学者でもある。あるのだが。

 その高スペックをウマ娘への愛に使つことを生きがいとしてる節がある。

 ハイスペックなウマ娘推し活お兄さんだ!

 ウマ娘が絡むと途端な奇行へ走るので、残念なイケメンともっぱら評判である。

 

 故郷のド田舎にいた頃は、自身が運営するウマ娘ファンクラブを宗教団体に昇華させようとしたり『うまぴょい』布教活動などで多くの女性陣(俺の母さんや村中のウマ娘を含む)を敵に回し度々教育的指導(リンチ)を受けていた。

 ボロボロにされた翌日には「まあ、私にとってはご褒美みたいな物です。フフッ」と半裸でピンピンしていた。

 なんて凄い漢だ。少年だった俺はその時、心底そう思った。

 

「とりあえず、ウマ娘好きの同志たちに情報提供を呼び掛けてみます」

「助かる」

「それにしても、ふーむ」

「何か気になる事でも?」

「いえ、ウマ娘の子供が二人も行方不明になっているにしては、少々静かすぎではと思いまして」

「どういう事だ」

緘口令(かんこうれい)が敷かれているのかもしれません」

「つまり?」

「あなたと一緒にいるその二人、身分の高い家の子ではないかと」

「まじかー」

「まじです」

「ヤバいかな?」

「ヤバいですね」

 

 しばし沈黙する俺とシュウ。

 あいつらやっぱり厄介な存在だった。

 

「ともかく、相手を下手に刺激しないように」

「もうリアルファイトした後ですけどね!」

「手遅れでしたか。ならば、これからの紳士的対応で挽回してください」

「紳士ねぇ」

「権力者の娘を怒らせた場合、身の安全は保障しかねます」

「サイアク」

「自暴自棄にならず乗り切って下さい、何か進展があれば連絡します。ご武運を」

「了解。サンキューな」

 

 通話を終えてトイレから出る。

 店内に二人は見当たらない、商品を物色するのに飽きたのか外で俺を待っているようだ。

 トイレ借りただけなのもアレなので、いくつか商品を購入してから店を出る。

 

「おまたせ」

「ほら、ちゃんと来た。ここで待っていて正解」

「何の話だ?」

「いえ。トイレタイムが長いので、下水道から逃走を図ったのかと」

「せめて窓からと言え!」

 

 汚物と一緒に流されて下水道へ、そこから華麗なる逃走をする俺!

 できるわけないだろ!仮にできたとしても、実行してたまるか!

 

「アホなこと言ってないで、コレ使え」

「ほぇ?」

「これは?」

 

 今しがたコンビニで購入したタオルを二人に投げてやる。

 この雨の中、顔面から転んだと言っていたのを思い出したから買っておいた。

 頭と顔ぐらい拭けよ。女の子なんだから、そういうの気にしなさい。

 

「お、お金、お金払います!」

「そんなのいい、早く拭け」

「えっと、あ、ありがとう////」

「どういたしまして」

「本当にありがとうございます‥‥‥優しい人////」

 

 二人が顔を拭くのを待ってから、家へ向けて歩き出す。

 濡れている身体と衣服は、家へ到着するまで我慢してもらおう。

 

 コンビニで買った無地のタオルを大事そうにしている二人。

 使い終わったので回収しようとしたが「これはもう私たちのものです!」と拒否された。

 まあ、いいけどさぁ。タオルもらって嬉しいお年頃なのかい?

 

 こいつらが良家出身?

 シュウとの会話を思い出し二人の顔を見る。

 目が合うと何故か嬉しそうな顔をする二人。なにわろとんねん。

 

「そうだ!自己紹介まだだったね」

「そうでした。ちゃんと名前を呼んで欲しいです」

「・・・・」

「じゃあまず私から、私はねキ」

「必要ない」

 

 名前を言いかけた黒髪を遮る。

 

「えー、なんで?」

「お名前は結構でございます」

「ショック!丁寧に断られた!」

「傷付きました。理由を説明してください」

「お前達とは今だけの、一時的な付き合いだ。明日中には必ず親元に帰ってもらう」

「「・・・・」」

「俺はお前たちの事情に深入りするつもりはない。だから、名前も知りたくない」

 

 今から家に連れ帰ろうとしているのに、何言ってんだとコイツと思いますよね。

 ワイトもそう思います。

 

「後腐れのない関係の方がお互い都合がいいだろ?分かってくれるな」

 

 個人情報は大事よ。見ず知らずの他人に教えちゃダメぜったい!

 シュウの推測が当たっていた場合、こいつらの実家に目を付けられるのもダメぜったい!!!

 

「でも…‥‥」

「それだとフェアじゃないです」

 

 フェアじゃない?何その発言すげー嫌な予感がする。

 

「私たちだけお兄さんのことを知っているのは、ズルいかなって」

「住所、氏名、年齢、生年月日、本籍もバッチリ確認済みです」

 

 変だな、暑くもないのに汗かいてきちゃった。

 

「君たち大人をからかうのはよしなさい。そんな嘘には騙され…‥‥」

「嘘じゃないもん」

「信用されてませんね、私は悲しいですよ‥‥‥マサキさん」

 

 変だな、今度は寒くもないのに震えてきちゃた。

 

「マサキさん。いい名前だね」

「・・・・・」

「あれ?反応がない。読み方合ってますよね、安藤正樹(アンドウマサキ)さん」

「・・・い」

「「い??」」

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 自分の本名が聞こえた瞬間、俺は本気の悲鳴を上げた。

 

 



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あだなをつけよう

 身バレした。

 

 安藤正樹(アンドウマサキ)と言います。どうぞよろしくお願い致します。

 

 俺の悲鳴が夜空に響き渡った後。

 

「びっくりした。急にどうしたの?発作?安心して私たちがついてるよ!」

「何か怖いものでも見たんですか?大丈夫です。何があっても、あなたを守り抜いてみせましょう!」

 

 頼もしい事言ってくれるじゃないの、元凶はお前らだけど!

 

「どこで俺の事を知った!吐け!」

 

 まさか心が読める系の能力者か?

 

「そんな能力ありませんよ。ちょっと察しが良いだけの、普通のウマ娘です」

 

 今、まさに心を読まれたんだが。

 

「マサキさんは表情や仕草によく出ますからね。分かりやすいです」

 

 このメンタリスト怖い。

 チート読心能力じゃないとすると、俺の情報はどこから漏れたんだ?

 

「はいこれ。返すね」

 

 黒髪が何か手渡してくる。

 これは俺の財布と免許証‥‥‥うぇ!?

 コンビニではスマホを使ったコード決済をしたので、なくなっていることに気が付かなかった。

 

「いつ盗んだ」

「マサキさんに尻尾を握られる、少し前かな」

「フッ、久しぶりに見ましたよ。キタちゃんの早業」

「えへへーー」

 

 えへへーーじゃないが。スリだぞ!立派な犯罪だぞ!

 あの格闘の最中に盗まれただと‥‥‥全然わからなかった。

 改めて、こいつら人間じゃねぇ!!!

 

「お嬢さんたち、ちょっとよろしいですか?」

「何?お金には手をつけてないよ」

「免許証を拝見したかっただけですので、各種カード類も全て無事です」

 

 財布の中身が無事な事にちょっと安心する。

 

「俺の個人情報なんですが、忘れて頂けるとありがたい‥‥‥」

「「無理!」」

 

 即答かよ。

 

「恩人の名前を忘れるなんてとんでもない」

「私は免許証番号12桁も暗記済みです。絶対に忘れません」

 

 もうだめだぁ、おしまいだぁ。

 

「なので観念して、私たちの名前も聞いて覚えて呼んでください」

「うんうん。楽になっちゃおうよ」

 

 こいつらの名前を認識したらいよいよ詰みだな。

 

 【フリーターの青年、ウマ娘の少女を誘拐!身代金目的の犯行か?】

 なんてタイトルのニュースが世間を騒がせ、この二人の実家から訴えられて多額の損害賠償請求、それだけでは終わらず、社会的にも物理的にも抹殺されるのだ!

 

 知らない!知らないのです!

 この子たちが良家のご息女だなんて知らなかったんですぅ!

 突発的な犯行と、計画的な犯行では罪の重さが違うよね?知らんけど。

 誘拐の罪状は確定したので、如何に刑を軽くできるか考え始めました。

 あきらめんなよ!!

 

「あだ名」

「「???」」

「あだ名で、勘弁してもらえませんか?」

「私たちにニックネームを付けるから、本名はいらないってこと?」

「どんだけ名前知りたくないんですか!そんなに拒否されるとヘコみますよ」

 

 二人は少し考えた後、口を開く。

 

「仕方がないです。愛称を付けることで、今は妥協しましょう」

「どうせなら、可愛いのをお願いね」

「ありがとうございます」

 

 やった!本名判明をスルー出来たぞ。

 

 よしよし、二人が気に入るスペシャルな名前を考えてやらないとな。

 うーん……ウマ娘…‥‥仲間に‥‥‥モンスター‥‥‥仲間モンスター‥‥‥子まだ子供…‥‥。

 

「あの、大丈夫ですか?不穏な事考えてません?」

「期待してるよー。ワクワク」

 

 よし!決めた。

 大好きなゲームにあやかって、素敵な名前を選んだぞ。

 

「ゲレゲレかボロンゴだな‥‥」

「「!!!???」」

 

 俺の呟きに反応して二人が騒ぎ始めた。

 

「ちょっと待って下さい!それ天空の花嫁が考えたやつですよね!絶対嫌ですよ!」

「やだーかわいくないよー」

「そんな事言うなよゲレゲレ。ビアンカが悲しむだろ」

「私がゲレゲレで決定!?やめてくださいーー!!」

「キラーパンサーじゃないよ、ウマ娘だよ!」

 

 どうやらお気に召さなかったようだ。

 プックルとチロルにした方が良かったかな?

 仕方がない、あいつらの名前を今こそ使わせてもらうぜ。

 

「じゃあ、黒髪のお前がクロ。ロングヘアーのお前はシロだ」

「クロ」

「シロ‥‥‥ですか」

「ダメか?」

「クロかぁ。うん、私の本名に近いし全然OKだよ」

「良かったですね、クロちゃん。私にシロは全然関係ないですが」

「じゃあ、お前はやっぱりゲレゲレ…」

「シロがいいです!シロってあだ名最高です!」

「決まりだね」

 

 シンプルかつ安直なので嫌がるかと思ったが、これで決まりそうだ。

 

「因みに由来と言いますか、元ネタを教えて欲しいのですが?」

「私も知りたい」

 

 ふぅ、あいつらの事を語る日が来るとはな。

 

「クロとシロはな。俺が昔飼っていた‥‥‥」

「猫ちゃんですか?」

「違う。裏山で捕まえた二匹のカナブンだ」

「「カナブン!?!?」」

「ああ、あいつら冬は越せなかったな、本当に残念だった」

「何しんみりしてるんですか!」

「今頃、天国で二匹仲良く飛んでいるだろうな」

「カ、カナブン‥‥‥」

 

 人が切ない気分に浸っていると、シロが騒ぎ出しクロがなんか落ち込んでいる。

 もうわがままだなー。

 

「何を考えているんですか!女の子に死んだカナブンの名前を付けるなんて!どうかしてますよ!!」

「なんだと!先代のクロシロに謝れ!」

「私たちと、全国のクロちゃんシロちゃんに謝るのが先じゃないですかね」

「カナブンって、あのウンコ転がすヤツ?」

「それはフンコロガシです!」

「古代エジプトではスカラベと呼ばれ、神聖な昆虫とされていたんだぞ。うん、フンコロガシもアリだな」

「「ないよ!?絶対ないよ!!」」

「フンコとロガシで分けるから、好きな方を選んでくれ」

「私はロガシがいい!よろしくね、シロ改めフン子ちゃんw」

「やめろぉ!フン子は死んでもやめろぉ!

 

 少し揉めたが、黒髪の子をクロ、ロングヘアーの子をシロと呼ぶことになった。

 

 見ているか天国の先代たちよ、二代目が誕生したぞ。

 



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ぷろじぇくと

 ウマ娘二人のあだ名を決めました。

 黒髪がクロ、ロングヘアーがシロです。

 

 あだ名を決めた後、好きな”打ち切り漫画”について話しなが歩く。

 そうだね、やっぱり"斬"は外せないよね。

 

 重そうなスーツケースは俺が持ってやろうとしたが、断られた。

 人間より力持ちな彼女たちには、余計なお世話だったか。

 

 そんなこんなでやっと我が家に到着。

 

「着いたぞ」

「おー、なんか思っていたのと違う」

「結構良いマンションじゃないですか。生意気ですねー」

 

 貧乏男の一人暮らし、ボロアパートでも想像していたのだろか。

 期待を裏切ってゴメンね。

 生意気とか、お前が言うな。

 

 エレベーターで5階の501号室へ。

 

「よし。早く入れ、ご近所に見られる前に早く!」

 

 夜中に女児二人も部屋に連れ込む男。

 俺だったら通報しちゃうね。

 

「「おじゃましまーす」」

 

 とりあえず風呂の準備をして、二人の服も洗濯しないとな。

 ああ、そのタオルも寄こしなさい。

 

「荷物置いたらまず風呂に入れ、着替えは持っているのか?」

「あるよー準備万端」

「こんな事もあろうかと、替えの下着等は抜かりなく用意してます」

 

 だったら傘とタオルも準備しておくべきだったな。

 スーツケースのロックを解除する二人。

 指紋認証かハイテクですね。

 

「えーと、あったあった下着はこれとこれで」

「ケースの中身を整理した方がいいですね、すみません、お部屋を少々散らかします」

「かまわんよ」

 

 何が入っているのだろう?

 失礼かと思ったが中身を見てしま……うぇぇーーーー!!!

 

 衣類、通帳、カード類、札束、札束、札束、金塊、札束、札束、札束、札束、金塊、札束‥‥‥‥。

 

 はい、アウト―!

 もう無理、もうヤダ、しゅーーーりょおーーーーー!!!

 オワタオワタ、俺の人生詰みです。

 

「終わりじゃないです」

「私たちの冒険はそう‥‥‥」

「「ここから始まるんです!!!」」キリッ!

 

 凄くムカついたので、クロシロのウマ耳を乱暴に引っ張ってやった。

 

「あだだだだだだだだ!!」

「すみません!なんかキメ顔でいい事言ってみたかったんです!アーーーッ!」

 

 涙目の二人を解放する。

 

「ううー、耳引っ張るとかないよー」

「ねえ、もげてない?私の耳もげてない?ちゃんとある?」

 

 お互いのウマ耳を確認しあうアホ二人。

 

「‥‥‥やめだ」

「え?」

「もう知らん!!どうにでもなーれー!あはははは!」

「ひぇ、マサキさんが壊れた」

 

 机の上に置かれたチラシを手に取り電話を掛ける俺。

 

「まさか、通報する気ですか?」

「やめてー」

 

 違う。

 

「あ、もしもしウマウマピザですか?デリバリーお願いします」

「「ピザ!!!??」」

「えーと、4種類のチーズのやつと‥‥‥でサイズは‥‥‥」

「いきなりどうしたの?」

「ええ、それで後は‥‥‥ちょっと待って下さい。おい、お前らも好きなの選べ」

「いいの!」

「言いましたね。Lサイズでメガ盛りチーズまみれのやつが食べたいです!」

 

 注文を終える。

 わかるわかる、ピザ頼むとテンション上がるよね。

 

「お言葉に甘えましたけど、なぜ急にピザ?」

「腹ペコなの?」

「今のうちに、好きなもの食べておこうと思ってな」

「どういうこと?」

「刑務所の食事にピザがあるかわからないしな」

「「・・・・・」」

「ピザなんて久しぶりだぜ。まさかこれが最後の晩餐ってやつか、はは‥‥‥」

「ちょっと、やめてくださいよ」

「元気出していこう」

「母さん本当にごめんな。あなたの息子で最高に幸せだったよ」

「「・・・・・」」

「シュウにも迷惑かけちまうな……すまねぇ、世話になってばかりだったな」

 

 【女児二名を誘拐した男の部屋には大量の札束と金塊が!?】

 こんなんもう、犯罪者以外の何物でもない。

 俺に不利な物的証拠が揃いまくっている!あー、最悪最悪!!

 

「俺の夢『うまぴょい計画』もここで終わりか」

「「うwwwまwwwぴょいwww計画wwww」」

 

 あ?何笑ってんだコラ。計画が破綻した元凶はお前らだぞ!

 

「うまぴょい計画!何と言うパワーワードwwwそれをウマ娘の、私たちみたいな子供の前で言う男wwwあははははははwwww!!」

「成人してるよねww私より10年は長生きしてるよねwwそれなのにw」

「計画の詳細をお聞きしてもww私ならプププww再建案を提示wwできwwやっぱ無理ですぅww」

「二十歳過ぎてコレはwwクソワロwwいやいやww可愛いねww」

 

 そうか、そうかそうか、お前ら二人で俺をバカにするんだね。

 逮捕寸前の俺に鞭打つような真似をして楽しいか?

 なめんなよ。俺はフェミニストではない、いざとなれば女でもグーパンを決める覚悟のある男だ。

 今回の攻撃はコレだぁ!!

 

メイオウ攻撃!!」⊃天⊂

「出たーゼオライマーwww!いだい!いだい!wwwあはwあははははwww!」

 

 近くにいたクロの頭を引き寄せ、両拳でグリグの刑を執行する。

 こいつめ!チリ一つ残さず消滅させてやろうか?

 

「もうやめて!www木原マサキさん?wwwそれ以上は、クロちゃんの次元連結システムが持ちませんwww」

 

 俺は木原じゃなくて安藤じゃ!間違えんなボケ!!

 あんな外道科学者と一緒にすんな!俺がそんな悪人に見えるか?

 

「落ち着こう!一旦落ち着きましょう!今、全員が変なテンションになってますよww」

「あははwwwおなかくるしーww」

「けっ、もうどーでもいいーよー」

「すっかりやさぐれちゃったね」

「諦めたらそこで終了ですよ、マサキさん」

「笑えよ」

「もう笑ったよ?」

「この惨めな俺を笑えって言ってんだよーーー!」

「これは重症ですね」

「家出娘を保護した優しい男の正体は~、なんと!ロリ強盗犯を誘拐した大バカ野郎でしたってか!!ふざけんな!」

 

 そう、俺は理解してしまった。

 この二人はウマ娘。その身体能力は子供と言えど侮れない。

 二人は銀行か現金輸送車を襲い、逃げていたところを俺にばったり出くわしたのだ。

 そして、俺に罪を着せて万々歳!という筋書きなんですね。わかります!わかりたくなかった!

 

「強盗なんかしてませんよ。誤解ですって、ちゃんと説明しますから‥‥‥ああ、泣かないで下さい」

「よしよし。大丈夫、大丈夫だよ、何も心配ないからね」

「ヒック……うぇ……もう……ヤダ‥‥‥なんでこんな……うおおおんんんん」(´Д⊂グスン

 

 泣いた。今後の自分を悲観してむせび泣いた。子供の前で情けないとか、どうでもよかった。

 余りにも哀れだったのか、クロとシロが二人がかりで抱きしめて、撫でてくれた。

 いい匂いがした。

 

 クロシロによしよしされる事数分・・・。

 

「落ち着いた?」

「すまねぇ、情けない所を見せたな」

「お気になさらず。人は誰しも泣きたい時がありますよ」

 

 逮捕されるかどうかはもう知らん!

 どうにも出来ないことを悩んでも仕方ない、考えるのはやめて流れに身を任せることにする。

 今やるべきは‥‥‥

 

「頼んだピザが届く前に風呂入って来い、服は洗濯しておいてやるよ」

「お風呂!やった」

「いい加減さっぱりしたかったので、望む所です」

「使い方は分かるか?」

 

 一応、風呂場の使い方をレクチャーしておく。

 水回りは常日頃から綺麗にしておく質なので、急遽女児二人を入れても安心だ。

 

「二人でお風呂なんて久しぶりー」

「そうですね。今日は狭いので暴れないでくださいよ」

 

 狭いって言うな。

 やっぱりこいつらお嬢なのか?

 

「マサキさんも一緒に入る?」

「私は三人でもどんとこいですよ。どうします?」

「いえ、私は遠慮しておきます」

「あの、冷静に断られると虚しいので、少しは照れて下さい!」

「缶詰工場、ソイレントシステム‥‥‥」

 

 風呂に入ったクロシロ、濡れた衣服とタオルは洗濯する。乾燥までやってくれる、ドラム式洗濯機サイコー!

 脱衣所にパジャマ代わりのシャツ(俺の)を置いておく。

 クロシロにはぶかぶかのサイズ、二人曰く「だがそれがいい!」らしい。

 

「ほほう、マサキさんが毎日裸体をさらけ出す現場はここですか、その‥‥‥ムラムラしますね」

「温度の設定はこれでいいかな、シャワーはここを」

「ちょ、いきなりこっちに向けな‥‥‥ギャーーー!目がぁ!目がぁ~~!」

 

 あいつら、一々やかましいな。

 疲れるしトラブルだらけ、多分この先も碌な事にならないはずだ。

 

 それなのに、クロとシロのことは嫌いじゃないわ!

 参ったな、どうしよう。この短い間に情が移ってしまってる。

 別れの時はきっとすぐに来る。それなのに、二人と一緒にいたいだなんて……やめよ、これ以上は自分がキモいわ。

 風呂場は相変わらず騒がしい。

 

「やりましたよマサキさん!バストサイズは私の方が上です!」

「い、今だけだもん数年後は私が勝つよ!」

「そうですか~。私の未来予測によれば、クロちゃん"B85"私"B87"でやっぱり私の勝ちですね!」

「へー、そうなんだ。じゃあ、今のうちに削っておこうねっ!!」

「ぎゃーーー!やめて!取れる取れちゃう!ごめんなさいごめんなさい!!ウマ娘の乳首って再生するんですかぁ!?誰か教えてーーー!!!」

 

 やっぱり、早く帰ってほしいかも。

 

 



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かわいいはせいぎ

 クロとシロに出会ってからというもの、犯罪係数を着実に積み上げてしまっている。

 俺の未来はどうなってしまうのだろう?

 

 二人が風呂に入っている間に、奴らの荷物を改めて確認する。

 

「金の延棒‥‥‥本物かこれ?」

 

 札束は帯つきが100万としてえーと、あらー30束以上あるのね、ざっと3000万オーバー!?

 金塊の相場は分からないけど、本物ならかなりの値打があるだろう。

 通帳はどうだ‥‥‥はい、数字の桁がおかしいですね。

 この黒いカード何だ?アレか、何でも買える魔法のカードか。

 

 ヤベェよ。今ここに警察が踏み込んだら一発でアウトだよ。

 

 ニューステロップはこんな感じか。

【誘拐に成功したクズ!人質の女児二名を風呂に入れお楽しみを画策!】

 若しくはこうだ。

【ウマ娘の子供を洗脳し強盗をさせる鬼畜外道現る!極刑を望む声多数!】

 

 おごごご、なんか胃がキリキリして来た。

 ダメダメ、弱気になったらダメよ。

 まだこの状況をひっくり返すいい手立てが‥‥‥希望はまだあるはず。

 

「上がったよー」

「お先です。ふぅ、いいお湯でした」

 

 クロシロの入浴が終わったようだ。

 

「おい、ちゃんと拭いとけよ」

 

 風呂上がりの二人を捕まえて、タオルで頭をわしゃわゃ拭いてやる。

 

「わぷ、えへへーわしゃわしゃー」

「強引ですね////もっと優しくして下さい////」

 

 二人の寝巻は俺の私服を貸した。

 クロはTシャツをシロはワイシャツを選んだ。

 下着姿の上に羽織っただけの姿だ。ズボン?もちろんはいてないよ。

 

「シャツありがとうね。ぶかぶかだー」

「どうですかこの格好?生足ですよ!ブラチラですよ!私には萌え袖も付いてます」

 

 うん、シュウが見たら卒倒するね。

 

 俺か?俺は別に何とも‥‥‥クソっ!可愛い!はい、俺の負け―。

 あー、これは卑怯だわー。殺しに来てるわー。

 風呂上がりのウマ娘女児!メンズのだぼだぼぶかぶかシャツ装備中だぞ。

 何?どんだけ男殺したいの、この生き物は!

 目の保養になるぜ!ありがとうございます!!!

 

「ピザまだ?」

「ああ。まだみてーだし、俺も入ってくるわ」

「女性が入浴した直後の風呂へ突撃する。そんなあなたでも私は受け入れます」

「シロ」

「何ですか?告白する気なら、もっと好感度上をげてからにしましょう」

「その‥‥‥乳首は無事か?」

「再生したかどうかは、数年後に直接確かめてくださると幸いです」

「そうか‥‥‥お大事に」

「悪いのはシロちゃんだよー」

 

 風呂に入る俺。そして上がる俺。

 

「はやーい!」

「カラスの行水ですか?ちゃんと洗った方がいいですよ」

 

 男の風呂なんてこんなもんだろ、シャワーだけで済ませたし。

 

「エロ本とかは、机の引き出し二段目奥の参考書の下にまとめてある」

「なんで探す楽しみを奪うんですか!男の部屋でする必須イベント『エロ本探し』期待してたのに!」

「それでキョロキョロしてたんだね、シロちゃん」

 

 クローゼットの奥からドライヤーと、ウマ娘用のブラシセットを取り出す。

 俺は自然乾燥派なので、偶にしか使わないドライヤー。

 ブラシセットは未来の愛バ用に購入したとっておきで、結構お高いブランド製の物だ。

 母さんやシュウも、これなら間違いないと太鼓判を押してくれた一品。

 まさか、コレをこいつらに使うことになるとは。

 

「おいシロ、こっちに来い」

「まだ隠されたエロ本があるのですか?」

「ちげーよ。お前髪乾かしてないだろ?気が付かなくて悪かったな。ブラッシングもしてやるから来いよ」

「え、いやいや、いいですよ。そこまでして頂くわけには‥‥‥」

「いいから来いよ」

 

 遠慮するシロを無理やり俺の前に座らせる。

 タオルで髪の水分を取り、ドライヤーで丁寧に乾かしてゆく。

 亜麻色の長い髪は手触りよくサラサラで天然の光沢を持っている。美しいな。

 途中、背筋を伸ばして無言のまま固まる、シロが気になった。

 まさかこいつ、緊張してんのか。

 

「どうした?急に大人しくなって」

「いや~、父以外の男性にこんなに良くしてもらうの初めてで////えっと、その、ガラにもなく緊張してます////」

「何だよそれ」

「シロちゃん照れすぎ~キンモーwww」

「うるさいです」

 

 ドライヤーはこんなもんでいいだろう。今度はブラシを手に取る。

 ウマ娘たちは皆、ブラッシングというものを大切にしている。

 髪の毛の他にウマ耳と尻尾の毛もあるし、人間にはないチャームポイントだから大事なのだ。

 デリケートかつ、自身の品格や生活態度が出る部位なので、毎日のお手入れは欠かせません。

 その大事な所を握りしめたり、乱暴に引っ張た奴がいるって?ついカッとなってやった、後悔はしてない。

 ブラッシングは基本自分でやるのだが、仲間同士でやる事で絆が深まるんだそうだ。

 トレーナーが担当バにブラッシングしているところは、良い信頼関係を築けている証でもある。

 ウマ娘にモテる為にブラッシングテクニックをマスターするのは基本中の基本!ここテストに出まーす。

 

「あ~マサキさん上手です。癖になったらどうするんですか?いいですよ、もっとやってください!!」

「シロちゃんいいなー」

 

 壊れ物を扱うように、丁寧に丁寧に心を込めてブラシをかける。

 耳や尻尾も部位に合わせてやり方や力加減を変え、必要なら専用のオイルで毛先の修復と艶出しも行う。

 ついでにマッサージと簡単な健康チェックする。これでもトレーナー志望だからな、一通りのやり方は熟知している。

 リラックスして身を預けてくるシロに苦笑しながら、優しく頭を撫でてやる。

 雨の中、顔面から転倒したらしいが大丈夫みたいだな。

 流石ウマ娘、この子の体躯は見た目以上に強靭に出来ている。

 よし!こんなもんかな。

 

「ありがとうございます。最高に幸せでした」

「おう。お疲れさん」

「次私!私もやって!!」

 

 シロからクロに交代。

 シロより短く肩口で切り揃えられた、きれいな黒髪。

 濡羽色と言うのかな?艶やかな黒髪はそれだけで美しい!!!失礼興奮しました。

 同じように丁寧に乾燥とブラッシングをしてゆく。

 クロは時折こちらを振り返っては笑顔を浮かべ、尻尾も落ち着きなく動かしている。

 ならばと、こちらもやや強めにマッサージしたり頭を撫でたりすると、そのたびに「きゃー」と嬉しそうに笑う。

 性格の違いが出てるな、クロはちょっと乱暴にされるのが好みらしい。

 

 しばらくして、クロのブラッシングも完了した。我ながら中々の仕事ぶりだと思う。

 

「ありがとう。とっても気持ち良かったよー」

「満足したみたいだな」

「私たちを手玉に取るなんて、やりますね~マサキさん」

 

 ふぅ、ウマ娘の子供にブラッシングできる機会など滅多にないから、勉強になったぜ。

 

 手入れを済ませ、綺麗になった二人が目の前にいる。

 俺はこの時やっと、本当のクロとシロをしっかり見ることが出来た。

 

「サッパリして、お手入れもしていただいました。後は、空腹が満たされれば完璧ですね」

「ピザ遅くない?そろそろ来てもいいと思うけど」

「今の内に大事なことを済ませておきましょう」

「そうだね。完全にタイミングを逃したよねー。よーし!やりますか」

 

 ここで唐突に二人のウマ娘をを分析してみようと思う。

 俺の審美眼(しんびがん)よ、その力を今こそ示すがいい!!

 

【クロ】

 推定年齢10歳前後。

 肩口で切り揃えた美しい黒髪に前髪の一房に白のメッシュが入っている。

 小ぶりのウマ耳、長めの尻尾がせわしなく動き、常に周囲を警戒しているかのよう。

 笑顔を絶やさない愛嬌のある整った顔立ち。

 意思の強さと、人懐っこさを感じさせる澄んだ緋色の瞳。

 暴力性と黒い内面がチラチラ見え隠れする時もあるが、基本はいい子なウマ娘。

 ちょっとアホだ。

 

【シロ】

 こちらも10歳前後だと思う。

 腰まで伸びた長い亜麻色の髪、額にかかる前髪の中央にひし形の白メッシュ。

 やや大きいウマ耳に、髪同様に美しい尻尾は緩やかで落ち着いた余裕のある動きをする。

 黙っていれば、ある種の儚さと気品を感じさせる深窓の令嬢そのものだ。

 全てを見通すかのような知性を感じさせる、深い琥珀色の瞳。

 感情表現が豊かでよく笑いよく泣く。残念な方向に大人びているが、おもしれーウマ娘。

 かなりアホだ。

 

 如何ですかな?俺の見立てはこんな感じです。二人とも‥か、か、か‥‥‥

 可愛いィィーーーー!!!超カワイイぃぃーーーー!!!

 いや、性格はアレだったり闇を感じる部分もあるけどさぁ。

 ほら、俺って元々ウマ娘大好き男なんですよ。

 二人にハートを撃ち抜かれても仕方がないってことよ!おわかりかな諸君?

 え?何?ロリコンだと?この俺が、まっさかぁー!そんな事ある訳‥‥‥

 ロリコンで何が悪いか!!

 好きなモノを好きと言えない、そんな世の中は間違ってると思いますね!

 あのさぁ、わっかんねぇかなー!さっきのブラッシング中なんてマジ凄いのよ。

 こうね、もう甘えてくるわけよ!こっちに体重預けて微笑んでくれるのよ!

 髪の毛サラッサラのフワッフワッで体温高めであったけーしやわらけーし、もう大変よ!

 体は小っちゃくて細くて、肌綺麗だし、なんかすげぇいい匂いするし!!

 撫でてやると、ものすっっごく喜ぶの!あー、クソ可愛いぃぃ!

 尊い、尊すぎて尊死するわ!!!あばばばばばばばば!!げぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!

 

 ハアハア‥‥‥ゲホッ、ゲホ‥‥‥ハアハア‥‥‥

 すまない取り乱しました。大変申し訳ないと思っている。

 キモチワルイだと?おいおい、よしてくれよwwこの程度で何言ってんの?

 俺の幼馴染、シュウなんかもっと凄いからね!あのイケメン中身ドロッドロ!だからね。

「私の縮退砲(チ〇コ)がずきゅん!ばきゅん!走り出し~♪」と歌っちゃうような男だからな。

 メッチャ笑ったわ!一緒に歌ったわ!女性陣にドン引きされて吊るされたわ!

 学生時代の良い思い出だ。

 

 話が逸れた。

 とにかく!俺は確かにキモイかもしれないけど、上には上がいるってことよ。

 口に出して無いから、セーフだよセーフ!!

 心の中で存分にハッチャケておけば、普段は紳士でいられるから、今だけはキモイ俺を許してくれ。

 俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!ウマ娘が、ロリが可愛過ぎるのが悪いんや‥‥‥だから俺は悪くねぇ!!

 

「はっ!俺は何を‥‥‥」

「大丈夫ですか?私たちを視姦した直後に意識を失いましたけど」

「ずっとブツブツ言ってたけど、戻って来れて良かったね」

「どのくらいたった」

「10秒くらいだよ」

「縮退砲って何ですか?私、気になります!」

「とても危険な物さ」

「教えてくれないんだ、下品で面白そうだったのに残念」

「忘れた方がいい」

「「はーい」」

 

 クロシロすまない、こんな俺を許してくれ。

 シュウ‥‥‥いつかまた一緒に歌おうぜ、替え歌の新作待ってます。

 

「ピザが到着する前に、野暮用を済ませてしまいますよ」

「よーし、頑張るぞー」

「いったい何が始まるんです?」

「自己紹介ですよ。やはり、ちゃんと名前を聞いて頂きたく思います」

「今度こそだね」

「もう、好きにしてくれ」

 

 ロリに興奮するあまり、心のエネルギーを使い過ぎて抵抗する気も起きない。

 この二人の本名か‥‥‥ウンコタレゾウとかハナクソマルメルだったらどうしようww

 笑い死にするからやめてね。

 

 



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やっといえた

 クロ、シロと名付けた二人がきちんと自己紹介したいらしい。

 

「では始めます。準備はいいですかクロちゃん」

「うん。打ち合わせ通りにやってやんよ」

 

 いつの間にかリハーサルもバッチリらしい。

 では、聞かせてもらおうかお前たちの本当の名前とやらを!

 

「座りますね」

「せいざー」

 

 部屋のフローリングには通販で購入したイ草マットが敷いてある。

 少々厚みのあるマットなので正座した足にも優しいはずだ。

 慣れた感じで正座するクロとシロ、背筋がキッチリ伸びた佇まいは礼儀作法の教育を受けているが感じられる。

 釣られて俺も正座しちゃう、足が痺れる前にちゃっちゃとお願いします。

 目をつむり深呼吸、再び開眼した二人の身に纏う空気が変わる。

 顔つきも大人びた気品と風格を備えた堂々としたものになった。

 なんだか俺の方が緊張して来た。

 

「「アンドウマサキ様」」

「まずは、あなた様に感謝を」

「この度は私たちを助けていただき、誠にありがとうございます」

「この御恩は一生忘れません、いつか必ずお返しします」

 

 様付けキターー!!

 失礼、大分年下の女子からの様付けにちょっと興奮しちゃった。

 

 二人とも仰々しいわよ、もっとフランクに接してくれていいのよ。

 クロの敬語はとっても新鮮!

 

「これまでの非礼の数々をどうかお許しください」

「あなた様のご厚意に甘えてしまい無礼を働いた事、深くお詫び申し上げます」

「今後もご迷惑をお掛けする事かと存じますが、何卒宜しくお願い致します」

 

 ん?今後って何よ?

 「これからも迷惑かけるけどごめーんね!」て事なの?

 やだホントやめて。

 

「大変申し遅れましたが、今こそ私たちの真名を解禁致します」

 

 わお、真名(しんめい)とか言い出したよ。

 何?本名バレたら弱点が露呈する程の有名人なの?

 君らの正体サーヴァントなの?クラスはウマだけにライダーですか?

 クロシロが頷き合い、最初にクロが続いてシロが自身の名を告げる。

 この瞬間を待っていたんだ!

 

「私はキタ‥‥‥キタサンブラック」

 

「私はサトノ‥‥‥サトノダイヤモンド」

 

「「この名とこの命、髪の毛一本から血の一滴に至るまで全てをあなた様に捧げます」」

「「どうか、末永くよろしくお願いします」」

 

 三つ指をついて頭を下げるクロシロ、お辞儀が堂に入ってるな。

 えー、クロがキタサンブラックで、シロがサトノダイヤモンドね了解了解。

 ウマ娘の名前はどの子もスーパーロボットみたいで、かっけーな!!

 それよりさあ「血の一滴~」のあたりの文言…‥重いよ!重すぎる!!

 もっと自分を大事にしなさいよ、簡単に捧げちゃダメなんだからね!

 なるほどはるほど、これが俗にいう愛が重馬場ですか!

 

「ちょ、長い長い!もう頭を上げてくれ!」

 

 いつまでやってんのよ。そのまま寝たりしないでよね。

 ゆっくりと頭を上げる二人。

 その顔は元の愛らしい美小女に戻っていた。

 

「どうでしたか?即席だったのでグダグダしゃちゃいましたかね」

「堅苦しいの疲れるよねー」

「いやいや、大したもんだ。なんか二人とも立派だった」

「褒められた、嬉しい!」

「はい、頑張った甲斐がありました」

 

 チビ二人がビシッと挨拶してくれたのだ、俺もしっかりしないとな。

 行くぜ、俺のターン!

 

「キタサンブラック」

「はい!」

「サトノダイヤモンド」

「はい」

「もう知っているだろが、改めて言わせてくれ」

「「はい」」

「俺の名はアンドウマサキ」

 

 そう、俺はアンドウマサキ、トレーナーを目指しているただの人間さ。

 皆さん俺が主人公ですよ!メタいですか?そうですか。

 

「お前たちを出会って…なんだまあ、割と楽しんでいる自分がいる」

 

 

 

 短い間かもしれないけど、二人ともよろしく頼む」

 

 こんなんでどうでしょう?

 

「拍手ー」

「ぱちぱちぱち」

 

 小さな手で拍手する二人。

 照れる/////

 

「ようやく正式なご挨拶ができました。ところでマサキさん」

「何だ?」

「あー言っちゃうんだ」

「今まで空気を読んでましたが、もう我慢できません」

「うんうん。そろそろ限界」

「・・・・」

「もっと早くにお伝えすべきでした」

「タイミングが難しいよね」

「何だよ、もったいつけずに言ってくれよ」

「一緒に言おうよ」

「二人の力を合わせればどんな困難も乗り越えられる、やりますよクロちゃん!」

「おっけーシロちゃん!」

 

 本日、何度目かわからないが・・・スゴク・・・イヤナヨカンガシマス。

 

「「マサキさん」」

 

 こいつらがステレオで話すのトラウマになりそう。

 

「「鼻毛が出てますよ!!!」」

  

 恥ずかしい!!!!!!!!

 

 

 しばらくして・・・・。

 

 

 出てたわ!めっちゃピョロピョロしてたわ!鼻毛神拳の伝承者になるところだったわ!

 ボーボボのものまね、シュウがめちゃくちゃ上手いんだよなぁ。

 

「いつからよ」

「ん?」

「いつから気づいていたのよ!言いなさい!!」

「テンパるとオネエになりますよね。キモかわいいー」

「マサキさんがお風呂から上がった時からかな」

「鼻毛出しながら優しくブラッシングしてくれましたね///」

 

 結構前じゃねーか。

 ブラッシング中、俺に向けてくれた笑顔はいったい何・・・。

 

「ヒドイじゃない!そうやってずっと笑い者にしていたのね!」

「何度も言おうとしたよ」

「絆が深まっている最中に"鼻毛"で水を差したくなかったんですよ!」

「せめて真名解禁の前には言ってほしかった・・・・」

「あの時が一番大変だったねー、頑張った私」

「こっちがマジモードになっているのに、目の前にいる男性の鼻毛ピョロピョロwwww」

「絶対に笑ってはいけないウマ娘www始まったwww」

 

 笑ってんじゃねーか!

 クロシロあうとー。

 その尻、思いっきり蹴り上げてやろうか?

 

「信じない!もう誰も信じない!」

「過去を悔いても何も変わりませんよ?機嫌直してください」

「世界は残酷なんだよー、いえーがー」

 

 クソがっ!

 この鼻毛どもめ一本残らず駆逐してやる!!!

 鼻毛の永久脱毛とかできるのかしら?ちょっと怖いし痛そうなのでやめとこ。

 

「よし!切り替えて行くぞ!もう終わった事だしな」

「立ち直りが早い所も好きですよ」

「お腹減ったー」

「そろそろ来てもいいころなんだが・・・」

 

 その時ちょうど「ピンポーン!」とインターホンが鳴った。

 キタキタキタキタピザが来た!

 オートロックを解除、配達員の到着を待つ再びインターホンが鳴る。

 

「出てくるなよ」

「「ラジャー!」」

 

 聞き分けの良い二人を残し玄関へ向かう。

 

「お待たせしました。ウマウマピザです」

「ああ、ご苦労さん。お代はこれで・・・」

 

 キャッシュレス決済便利。

 お、よく見ればこの配達員さんウマ娘だ。

 

「いいマンションにお住みですね、一人暮らしですか?」

「え、あ、そ、そうです。一人ですよ、はは・・・」

 

 話しかけられると思ってなかったのでどもる。

 コミュ障かっ!

 

「お一人でこんなに頼むなんてピザお好きなんですね」

「そうなんですよ、今日はお腹が空いていて・・・」

「あ、もしかして今彼女さんが来てますか?」

「いえ、今はフリーなんで・・・・・」

 

 何?この人何?決済終わってるんだからピザ置いて帰ってよ。

 それとも最近のデリバリーはボッチ用に"配達員さんと雑談できるサービス"でもあるの。

 クロシロの靴を隠しておいて正解だったな。

 女児用の靴二足も発見されたらもれなく無料で通報サービスされる所だった、セーフ。

 

「変ですね?女の子の匂いがしたので、てっきり誰か連れ込んでるのかと思ったのですが」

「・・・・」

「ごめんなさい、ウマ娘は嗅覚が鋭いので余計な詮索しちゃいました」

「・・・・」

「きっと私の気のせいですね。では、こちら注文の品になります。ありがとうございました」

 

 ピザを受け取る、扉が閉まる。

 こえーよ!超こえーよ!なんなの?本当になんなの?

 セーフか今のセーフか?大丈夫、落ち着け。

 まだ慌てるような時間じゃないよね。

 きっとそうあれだ、俺に一目惚れして彼女がいるかどうか、つい聞いちゃったんだよ。

 そう思ったらなんかドキドキしてきた、ピザまた頼もうかな。

 

「ピザが来たぞー」

「「いえーい!」」

 

 部屋に戻りピザをテーブルに並べる。

 さあ、宴の始まりじゃー。

 

 



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あれがない

 ピザが来た。

 

 

 Lサイズピザ三枚、贅沢に一人一枚づつ食べますよ。

 え?クロシロには多すぎるだって?これだから素人は困る。

 ウマ娘の食欲なめんなよ!ほっとくとボテ腹になるまで食い続ける個体もいるらしいぞ。

 一応クロシロに確認したら「「余裕!」」だそうだ。

 手を拭いて、飲み物を用意して。

 

「「「いただきます!!!」」」

 

 容器のフタを開けるとチーズとその他もろもろのいい匂いが食欲を誘う。

 事前にカットされている1ピースを手に取って、よっと、口に運ぶ。

 うん!久しぶりに食べたが美味いね、クロシロもホクホク顔だ。

 うんうん、たくさんお食べ。

 

「ねえねえ私、マサキさんとシロちゃんの分も食べてみたい」

「お、いいですね皆でシェアしましょう。いろんな味が食べられて幸せです」

「かまわんよ」

 

 いいねー団欒だねー。

 最近、ボッチめしばかりなのでこういうの嬉しい。

 

「親の目を盗んでジャンキーな物を食べる背徳感!たまりませんね」

「たまにはいいよねー」

「すみません、飲料もジャンキーな奴ありませんかコーラとか炭酸がベストです」

「私この麦茶でいいー」

 

 残念ながらシロが期待するような飲料は家にない、炭酸苦手なんです!

 そうだ!今日はまだ"いつものやつ"を飲んでいなかったな、クロシロにも振舞ってやろう。

 シェイカーにミネラルウォーターと例の粉末を入れよーく振って混ぜる。

 三人分用意できたぞ、こいつを空になったクロシロのコップに適量注いで、自分はシェイカーから直で飲みます。

 

「なにこれー?あおじる?」

「コーラを頼んで青汁出されるとは思いませんでした」 

「ピザだけだと栄養偏るからな、遠慮せず飲んでくれ」 

「「・・・・」」

「確かに警戒する気持ちも分かる、最初は俺も意識が飛びかけたしな・・・」

「でも今じゃ毎日飲んでるぞ、その名もクスハ汁!」

「「クスハ汁?」」

 

 飲むのを躊躇する二人。

 俺は自分の分を一気に飲み干す、ぷはー!不味い!!これこれ~こいつが癖になるんだよ。

 

「まずいって言った!」

「これ人類が飲んでいい色と臭いじゃないですよ!あ、なんか謎の固形物が浮いてる・・・」

「好き嫌いは良くないぞ、ためらうな一気にいけ!」

「わたしのんでみるー」

「流石クロちゃん怖いもの知らず」

 

 クロはじめてのクスハ汁。

 一気にいけと言ったのに、チビチビ味わって飲んでるよ。

 大丈夫か?無理すんなよー。

 あ、全部飲んだ偉いぞクロ。

 

「ほんとにまずいー!でも、もう一杯!」

「私の分をあげますよ。さ、グイっといっちゃってください」

「・・・クロ」

「はい!」

「え?どうして私を羽交い絞めにするんですか?」

 

 俺の意図を汲み取り即座に行動するクロ。

 俺はクスハ汁入りのコップを持ってシロに近づく。

 

「ちょっと、やめてくださいよ!二人がかりなんて卑怯・・・いやっ、やめ・・・ダメー!クスハ汁は嫌ああー!うぇ・・・クサっ!くっっっさっ!!よくこんなの飲めましたね」

「「お前も飲むんだ」」

 

 抵抗するシロにクスハ汁を飲ませた後。

 ピザを美味しく完食!三人で食後のまったりタイム。

 

「ゲロマズでしたけど、心なしか体がポカポカしてきました。」

「そっこーせいありだね」

「気力が最初から150になってる感じがするよな」

「体には良いのでしょうね。二度と飲みたくありませんが」

「私もいらない」

 

 汁友を増やすのに失敗した残念。

 まあ、こいつの良さはお子様には分からんよ。

 

 そんじゃまあ、ずっと保留にしてきた本題を聞こうじゃないの・・・

 

「よーし、もういいだろ話してもらおうか」

「何をですか?」

「とぼけるな、お前たちが家出してきた理由だよ」

「ついに来たね、この時が」

「私たち三人が出会うきっかけとなった全ての元凶、その真実が今!明かされる!!!」

「無駄に壮大な感じにするな、はよしろ」

 

 クロシロは事件?の発端を話し始めた。

 

「私たちの家はそれなりの力を有しておりまして、力の象徴と呼ぶべき物・・・うーんと、家宝?みたいな物があるのです」

「いろいろあるよ、よくわからないものがたくさん」

「そのうちの一つをですね・・・なくしてしまったんです」

「ごめんね、私がアレで遊びたいなんて言ったから・・・」

「クロちゃんのせいじゃないですよ!私もアレには興味がありましたし、勝手に持ち出したのは私です」

「すぐにママや皆に知らせたんだけど・・・」

「時すでに遅し、アレの行方は今もわかりません」

 

 家宝を紛失したのか、あちゃー。

 

「大騒ぎになって、たくさん怒られたよ」

「アレの捜索に私たちも参加したかったのですが、父たちに止められてしまいました」

「[お前たちが動くと余計にややこしくなる、頼むから大人しくしてて!

ホントに頼むから!!!]だってさ」

「今のもしかして父のものまねですか?うーん似てない!中年の哀愁が足りません」

「シロちゃんの[必死かよwwウケるwww]発言で道元(ドウゲン)パパもっと怒ったよねー、あと泣いてた」

「それで家に軟禁されてしまいました、本当に大人げない人ですよ」

 

 ママにパパね・・・二人の親らしき人物が話に出てきた。

 シロェ・・・お前って奴は本当に・・・。

 

「自分のやらかした不始末ですから、何としても自力で解決したかったんです」

「だからね、なんとか家を抜け出して来たんだよ」

「その際に少々活動資金を金庫から持ち出しました。あーまた怒られますねコレ」

「武器庫は監視の目が厳しくて断念したよ」

「軟禁生活も三日目に入りいい加減退屈でした、我慢の限界だったんですよ」

「三日経っても見つける事ができないママたちも悪い」

「そうです!不甲斐ない大人たちのせいで私たちが出張る事になったんですよ、まったくもう!」

 

 あのお宝セットは金庫から拝借してきたと・・・窃盗罪て身内でも成立するのでは・・・・武器庫?何でもありかお前らの家。

 おい、何逆切れしてんの?もっと親御さんたち労わってあげて!

 

「家を出た後はご存じの通り、雨で滑って転んであなたに会ってテイクアウトされて風呂入ってピザ食べましたね。大冒険です」

「そう?ほとんど何もしてないような・・・ま、いっか」

「事情は分かった。で、これからどうするんだ」

「気は進みませんが、二人ではどうにも無謀なのでやはり家に帰るべきですねトホホ」

「しょうがないよね。また怒られるかな」

 

 家に帰る事にしたらしい。

 よし、これで一安心!明日二人を送り出せば任務完了!犯罪者ルート消滅しまーす!成し遂げたぜ!!!

 親御さんも心配しているだろうしそれがいい。

 これにて事件解決!その後はこいつらの家の問題だ。

 家宝、早く見つかるといいですね。他人事ですが何か?

 

「申し訳ないのですが、今晩は泊めてくださいね」

「おとまりおとまり」

「元々そのつもりだ、心配すんな」

「その優しさにキュンキュンします」

「拾ってくれたのがマサキさんでよかったー、ありがとう」

「なあ、聞いてもいいか・・・家宝だっけ・・・アレって言ってるけど何?」

「アレはアレですよ」

「アレだねー」

「言いたくないのか?」

「知らない方がいいと思います。一応、門外不出秘蔵の一品ですから」

「大人はみんな[ヤベェよ、こいつぁヤベェよ」て言ってた」

 

 触らぬ神に祟りなし、これ以上の詮索はやめておこう。

 

 



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さといも

 アレをなくしたらしい。

 

 

 家出の理由は探し物。

 実家は良家。

 軍資金は勝手に拝借。

 やっぱり無理だったので明日には家に帰り素直に怒られるつもり。

 アレってなんやねん?

 

「キタサンブラック、サトノダイヤモンド」

「急に真名を呼ばれるとびっくりしますね~」

「なになに」

「今更なんだが呼び方、クロシロでよかったのか?」

「私は元々、ママにクロって呼ばれているから全然違和感ないよー」

「本当に今更ですね、既に私はあなたのシロです無問題!」

「最初はキタちゃんダイヤちゃん呼びだったな」

「よく覚えてますね、もう登録済みなので、今また変更されると混乱してしまいます」

「登録?」

「この反応、まさか・・・ご存じないのですか?」

「あのね、人間がウマ娘に名前を付けるのは「あなたと契約したい」って事なんだよ」

「そうです。ウマ娘側が提案された名前を了承した時点で契約完了となります」

 

 聞いとらん。

 俺ってば何を契約したの・・・・。

 

「ウマ娘たちには一般常識の古くからある風習です。昨今はだいぶ形骸化してますが"サトノ家"では今も大事にしてますよ」

「ママから[名前を付けられそうになったらマジで注意しろよっ☆]て何度も何度も聞かされて育ったよ」

「クロちゃんのママは旦那様から名前をプレゼントされて結婚!憧れますね」

「離婚しちゃったけどねー」

「契約の内容を聞かせてくれませんか?」

「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。えーと、三国志の"桃園の誓い"がしっくりきますかね」

「死ぬときは一緒だよ」

 

 気づいたら運命共同体になっていた。

 

「契約のかいじょ・・・・」

「「できません!!!」」

 

 ですよねー、うん知ってた。

 この子達てばアタシの何を気に入ってるの?怖いじゃないの・・・。

 

「トレーナーと担当バの関係みたいなもんか?」

「そうそう、そんなに難しく考えないでねー」

「まあ、まだ仮契約ですから・・・一晩お世話になる私たちなりの"けじめ"と言うやつですよ」

「そうか、なんかゴメン・・・知らなかったとはいえ、カナブンの名を継がせてしまって・・・」

「もういいのですよ、そのような事を言っては先代たちが悲しみます」

「二代目として頑張るよー」

 

 見てるか初代クロシロ、お前たちの後継者はこんなにもいいやつらだぜ。

 次は君だ・・・・。

 

「さあ、絆ゲージを上げるためにもっとコミュニケーションしましょう!」

「めざせ友情トレーニング!」

「じゃあ、また名前の事なんだが周囲の人、学校の友達にはなんて呼ばれていたんだ?」

「私はキタちゃん、クロちゃんがやっぱり多いかな「ブラック」呼びは少数派」

「私はダイヤでしょうか、まあそれ以上呼びようがないですよね」

「何言ってるのシロちゃん?あるじゃない学校中に広まった例のあだ名前」

「その話やめましょうよ・・・トラウマなんですから」

「ねー、マサキさん当ててみてシロちゃんのあだ名~」

「唐突にクイズ来たな、それってすぐ連想できるもんなの?」

「うん簡単」

「やめましょう、やめましょうや・・・」

「サトノダイヤモンド・・・サトノ・・ダイヤモ・・サト・・イヤモン・・・サトイモ?」

「!?」

「ぷっ!wwwあはははははwww!そうだよねwww!やっぱり思いつくよね!正解wwww!あははっwwwwサトイモwwwwイモってwwwwあははははwwww」

「こらっ!笑いすぎですよクロちゃん!だいたい教室で私をサトイモ呼ばわりしたのはあなたでしょうが!!」

「先にシロちゃんが私に腹黒とか言うからだよー」

「あれからクラス中、気づけば学校中の生徒や教師までも私のことをサトイモサトイモと・・・」

「愛されてるねー」

「だな、かわいい響きじゃないかサトイモって」

「嬉しくないです・・・その無邪気さが、私にどれだけストレスを与えていたか・・・」

「子供って結構容赦ないからねー、大人の先生たちもちょっと悪ノリがすぎたんだよ」

「大変だったな、よしよし」

「う~、マサキさんもっと慰めてください」

 

 昔を思い出し落ち込むシロの頭を撫でてやる。

 こちらに頭を押し付け"もっとして"とせがむシロ・・・あらカワイイじゃないの。

 些細なことからいじめに発展するパターンだな、きっと悪気はないのだろう・・・。

 だが悪気がなくとも傷付く人はいるのだ、誰かいじるときは皆注意してね。

 後はアレだ好きな子をわざとからかってしまうやつかもな。

 シロはウマ娘でもあるし、同世代の中でもかなりカワイイ部類に入るのだろう。

 そんな子の気を引きたい仲良くなりたいで、ついやっちゃうんだ!的なね。

 

「で、後に今もなお語られる事件が起こるの」

「・・・・・」

「サトイモ事変」

「サトイモ事変とな!?」

 

 あ、クロの回想入りまーす。

 

【半年ほど前クロ視点】

 

 サトイモが学校中に広まって数日、ダイヤちゃんは目に見えて元気がなくなった。

 最初は言われるたびに訂正したり反抗していたけど、あまりにもしつこいので、放っておくことにしたみたい。

 反応が悪くなったダイヤちゃんを余計にいじったりする輩もいるので、まだこの件は沈静化しそうにない。

 私は知っている。ダイヤちゃんがこのまま黙っているウマ娘ではない事を、ウマ耳の角度と尻尾の動きは沈んでいるようでひどくイラついている。淀んだ瞳の奥では「今に見てろぶち殺してやる」という意思の炎が燻っている。

 ああ、この爆弾はいつ起爆するのだろうか・・・その時が楽しみでしょうがない。

 

 

 今日は半月に一度の全校集会。

 全校生徒の前で違和感のあるヅラを被った校長が、ありがたいどーでもいい話をする。

 苦行でしかない、誰得?

 うちの学校は一応私立の名門進学校。

 生徒は人間、ウマ娘問わず権力者や金持ちのボンボンが大多数を占める。

 集会も体育館やグラウンドではなく専用の講堂を使って行う。

 全生徒、教師その他もろもろを収容できる広さがあり、趣味の悪い美術品が多数展示されている。

 シャンデリアとか必要か?無駄な金使って本当にバカみたい。

 周囲の柱や壁、あらゆる所に謎の装飾が施され「この建物全てが価値ある物なんですよ~ドヤァ」と訴えかけてくる、マジうぜぇ。

 そんな居心地の悪い空間で苦行の始まりを待っていると、ついにサトイモが動いた。

 

「キタちゃん・・・私いままで頑張ったよね」

「どうしたのダイヤちゃん?」

「もう、ゴールしても・・・いいよね」

「どこに?もう集会はじまっちゃうよ」

「いくぜ!今がその時だ!!!」

 

 ダイヤちゃんが顔を上げる、目はいつになくギラついて凶悪な笑みを顔に浮かべる。

 

「ちょ!ダイヤちゃんww顔!www顔がwwチェンゲのww流竜馬wwwみたいwwwww」

「教えてやるよ!サトノ家とウマ娘の恐ろしさをなぁ!!!!」

 

 人混みをかき分け飛び出して行く姿を見送る。

 どうやら私の親友はゲッター線に侵されてしまったようだ。

 いいね!いい仕上がり具合だそのまま征け!!!

 

 講堂の中央には校長お気に入りの石膏像があり、この建物の主として君臨していた。

 仮面をつけた下半身まる出し男、通称「フル・フロンタル像」その頭が少女の飛び蹴りで爆散した!!

 静まり返る場内、しばし間をおいて・・・

 祭りがはじまった。

 

「え!?」

「何!いったい何が・・・」

「きゃー!!!」

「┌(┌^o^)┐タイサァ……」

「サトイモ・・・?」

「サトイモだ!」

「サトイモが乱心したぞー!!!」

「いやー!助けてだれかー!」

「みんな落ち着け・・うお、こっちに来やがった」

「逃げろ皆にげるんだよぉおぉぉぉおぉ!」

「囲め!相手は1人この人数でかかればウマ娘と言えど・・うぼあー!!!」

 

 阿鼻叫喚とはこの事か。

 勇敢にも現場の指揮を取ろうとした上級生を片手で投げ飛ばすサトイモ・・・無慈悲!

 私はそれを受け止めて、気絶した彼を安全圏に寝かせる。

 流石に死傷者を出すわけにはいかない。

 フォローはしてやる、だからもっと私を楽しませろサトイモ!

 

 壁に穴をあけ、床を蹴り砕き、値打ち物であろう展示品を悉く破壊してゆく。

 生徒、教師関係なくの抵抗する者は身ぐるみを剥がされた。何やってんのwwww

 「もうやめてー!」と泣き叫ぶ校長のヅラを奪い、逃げようとする教頭のヅラも奪い取る。

 最後に死んだフリをキメている担任のヅラをぶんどってまとめて踏みつぶす。

 

「「「あ゛ーーー!!!」」」

 

 相棒(ヅラ)を踏まれた三人は泡を吹いて崩れ落ちる。なんでだよwww

 てか教頭と担任もヅラだったのかよ!よく気づいたなwww

 

 なかなかに酷い現場になったが死人はゼロ、ケガ人は・・・気絶した人と逃げようとして自ら転倒した数人ぐらいか?命に別条はないからセーフ!これだけの人数でほぼ損害なし?なんだかんだで手加減してるんだねー。

 私フォロー頑張った!戦意喪失した人たちの保護と避難誘導、吹っ飛ばされた人を安全にキャッチしたりとかね。

 手伝ってくれたウマ娘その他友人たちに感謝!私の親友がすまんな。

 

 しばらくして。

 半壊した講堂、教師と全校生徒の半数が気絶もしくは半裸な状況下で、何処からかマイクを取り出すサトイモ。

 普段とは違うドスの利いた声で言葉を発する。

 

「たった今、この瞬間から私の事をサトイモと侮辱するやつは・・・消す」

「・・・・・・・・・」

「ウマ娘の力で物理的に消されたいか、サトノ家の力で社会的に消されたいかは選ばせてやる」

「・・・・・・・・・」

「わかったか?」

「・・・・・・・・・」

「返事ぐらいしろやぁああああああ!!!カスどもがぁああああああああああ!!!!!!!!!!」

「「「「「はい!わかりました!!!(だから殺さないで!!!)」」」」」

 

 生き残った全員が発する必死の返事(命乞い)聞いてマイクを投げ捨てるダイヤちゃん。

 さっきから私もサトイモ言い過ぎたねゴメン。

 楽しくなってくると、どうにも抑えられないんだ悪い癖・・・。

 

 その日から数日は臨時休校となったが、学校は何事もなかったかのように再開した。

 おそらくはサトノ家の力が働いたのだろう、ダイヤちゃんも元に戻ったみたい。

 講堂は更地になり、ヅラ三兄弟は隠すことをやめ眩しく輝いている。

 サトイモという言葉は現在でもブロックワードとなり、新入生には注意喚起がなされる事となった。

 

 お祭りが終わってしまうと寂しい・・・。

 機会があれば是非また味わいたいものだ。

 期待してるねダイヤちゃん。

 

 クロ回想終わり。

 

 【現在マサキのマンション】

 

「ひでぇ話だ・・・」

「・・・私も余裕がなかったものでして・・・反省してます」

「あー楽しかったなー」

 

 



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よるかいわ

 嫌な事件だったね。

 

 

 サトイモ事変の経緯を聞いた。

 当時を思い出しクロはニコニコ顔、シロは凹んでいた。

 あちゃークロは愉悦部員だったか。

 

「あの後も大変でしたよ。友人はごっそり減るし、サトイモの次は「ダイヤ様」になって腫物扱い・・・ハァ~…私は何処で間違えたのでしょう」

 

 自業自得とはいえちょっと同情する。

 

「親衛隊が誕生してたよね」

「"ダイヤ様親衛隊"ですか・・・あの人たち、靴を舐めようとしてくるんですよ・・・ホントやめてほしい」

「さらに親衛隊に対抗して、謎の人物「ノワール」がレジスタンス"黒の騎士団"を立ち上げたんだよね」

「おかげで今の学校は、二大勢力がしのぎを削る紛争地域と化しました。」

 

 エライ事になってるじゃん!事後処理が全然できてない。

 でも・・・シロには悪いがちょっと楽しそう!

 

「親衛隊に「ダイヤ様」呼びで崇拝されるシロちゃん・・・素敵だよ」

「嬉しくねーです。隊員の殆どがドⅯなんですよ。しかも、最高幹部の三人が校長たち"ヅラ三兄弟"・・・泣けるぜ」

 

 やばwww面白いwww

 

「黒の騎士団からは「クレイジーダイヤモンド」と言われ、恐れられてるシロちゃんも・・・素敵だよ///」

「ちょ!それは初耳なんですが!誰だ私をスタンドにした犯人は!!!」

「それも私だ」

「!?・・・いい加減にしてください!クロちゃん楽しんでるでしょ!元凶はまたあなたですか!!!」

「ごめんごめんwwwでも信じて本当に私は味方だよ?」

「それにしても「ノワール」の正体は誰なんでしょうか?・・・わかり次第抹殺してやります!」

「それも私だあぁああああああああああ!!」

「やっぱてめぇかよ!ブラァァァッッックゥゥッゥウウ!!!!」

 

 叫び声を上げ飛び掛かるシロ、笑いながら迎え撃つクロ。

 こらこら、近所迷惑でしょーが静かにしなさい。

 暴れんな、暴れんなよ・・・やめてー!賃貸物件なのよ退去命令出されちゃう!!

 

「今日こそ決着をつけてやりますよ!キタサンブラック!」

「サポカのイラストちゃんと見ろよ、もう勝負ついてるからwww」

「あれは最終的に私が勝利してるらしいですよ?」

「・・・なん・・・だと・・・」

「どちらのサポカも優秀なので皆さん完凸までお願いします!」

「お願い~(課金してね!)」

 

 時折、意味不明な言い争いをしながら喧嘩する二人を放置して、寝床の準備を始める。

 止めなくていいのかって?声量もギリギリ抑えているみたいなので、まあ大丈夫でしょ。

 流石に部屋を壊しそうになったら全力で止めます、止められるかな?自信ない。

 床にすのこマットをセット、その上に布団を敷く。

 布団派の俺が洋室で寝るために辿り着いた結論です、もっといいアイデアがあれば教えてね。

 

「おーい、今日はもう寝ようぜ」

「ハアハア・・・クロちゃんのせいで無駄に疲れました、もう休んだ方がいいですね」

「布団1つ?何処で寝たらいいの?」

「お前たちがその布団を二人で使えよ、俺は適当に床で寝るわ」

「家主を差し置いて布団を占拠するなど・・いえ、ありがたく使わせていただきます」

「いつもと違うお布団・・・なんか楽しいねこういうの」

 

 いつも俺が使っている布団へ横になる二人。

 

「ふわ~、なんか布団に入ったら途端に眠たくなってきました・・・」

「わたしも・・・そろそろ・・・落ちる・・ね・・・」

「ああ、おやすみ。しっかり寝ろよ」

「「おやすみなさい・・・」」

 

 またひと悶着あるかと思ったが、疲れていたのだろう直ぐに寝息を立て始めた。

 こういう所はやっぱり子供だな、それにしても・・・寝顔天使すぎじゃね?めっちゃカワイイ!

 おっと、寝る前に興奮しすぎてしまう所だったぜ。

 電気を消して床に寝転がる、ちょっと硬いけど一晩ぐらい耐えてみせろ俺のボディ。

 明日は無事にクロシロが家に帰れますように、俺も無事に平穏な生活に戻れますように・・・。

 そんな願い事をしている時、マナーモードのスマホが震えた・・・。

 

「起きてましたか?」

「ちょうど寝る所だったが問題ないぜ」

 

 二人を起こさないように、明かりの落ちた部屋を移動。

 物置と化した隣の空き部屋の床に座り通話を続ける。

 

「その後、何か聞き出せましたか?」

「ああ、真名に家出の理由も判明した」

 

 二人の真名がキタサンブラックとサトノダイヤモンドである事、家宝を探すため家を飛び出してきた事を伝える。

 

「よりにもよって"サトノ"ですか」

「なんかマズいのか?」

「サトノ家はウマ娘界の"武"を司る者たちです」

「武?」

「ウマ娘絡みの事件や武力衝突が起きた場合、その解決に動くのがサトノです」

「・・・・・」

「ウマ娘が持つ純粋な"戦闘能力"によって社会的地位を確立している一派ですね」

「それって、マフィアとかギャング的なやつか?」

「むしろそういった非合法組織を取り締まるというか、殲滅する側です」

「じゃあ安心だな、悪い奴らじゃないんだろ?」

「はい。ですが世間の評判はあまりよろしくないようで」

「なんでだよ」

「一応、事件の解決に尽力してはくれるのですが、それ以上に事件を起こす側なんですよね」

「あーなんかわかる」

「話が余計にややこしくなったり、むしろ被害が増えたり、無駄に何かを破壊したり、その他いろいろ、やらかし報告が上がっています」

 

 なんだろう、シロを見てると・・・すげー納得する。

 

「「また、サトノか・・・」は警察関係者の間で頻出するセリフですね」

「シロの家らしいと言えばらしいな」

「ダイヤモンドはその家のご令嬢あまり深く関わると・・・どうなるかわかりますね?」

「もう手遅れな気もする・・・ははは」

 

 やはりシロの家はヤバかった。

 じゃあクロは・・・・。

 

「ブラック嬢はおそらくサトノ家の配下、雇われの身なのではないでしょうか」

「親がサトノ家で働いていたりするのかな?」

「もしくは彼女自身が、直接召し抱えられているの可能性があります」

 

 シロがクロの上司って事か・・・そうは見えない。

 

「良家では同じ年頃の子供を一緒に育て、生涯の盟友や右腕にするのはよくある話です」

「そういうのもんかね」

 

 サトノ家に力があるのはわかった。

 では何故・・・

 

「本気になれば速攻で連れ戻されてもおかしくないのに、二人とも初対面の男の部屋でグッスリだよ」

「二人の捜索より優先すべき事があるのでは・・・例の家宝とやらが気になりますね」

「何なんだろうな本当に?子供二人より優先するって余程凄い物なんだな」

「ウマ娘の幼女二人より価値あるものなどあるんですかね?私には理解不能ですよ」

「まあ、お前はそうだろうな」

 

 俺の知り得た情報を話し終えて、明日の動きを考える。

 結論、明日も気を抜かず引き続き頑張れとの事・・・出たとこ勝負じゃねぇか。

 

「二人の事情について分かったので一歩前進としましょう。マサキ・・・ここからが本題です、心して聞いてください」

 

 シュウの真剣な声色に気を引き締める俺。

 

「・・・寝顔」

「何?」

「お二人の寝顔を見ましたか?」

「ああ、すげーカワイイぜ。いま俺の部屋に天使が二人仲良く寝てるんだ・・・それがどうした?」

「画像撮って送ってくれませんか?」

「結局シュウの頭は通常運転かよ!真剣に聞こうとして損したわ!!」

「ウマ娘に関して私はいつも真剣ですよ、それより画像ですよ画像!動画でも可!言い値で買いますから!お願いします!!お願いします!!!!」

「必死すぎてちょい引くわ!だめだめ盗撮になっちゃうだろ?二人が許可したら別だけど」

「こういう時、急に真面目になるあなたに失望しました」

「いや、気持ちはわかるよ?でもここは耐えてくれないか」

「うごごごごごぉ・・・それでも私は・・・わたしはぁ・・・・」

「"ネオさん"に言いつけるぞ」

「ぐっ!卑怯ですよ、ふざけた話の途中で母の名前を出すなんて!」

「ふざけている自覚はあるんだ」

 

 ネオさんとはシュウの実母で、俺の母さんと大変仲の良いママさんである。

 俺も子供の時からとても可愛がってもらったので、二人目の母親みたいな存在。

 元気にしてるかな~。

 

「ふう、母の名前を聞いたら萎えてしましました」

「萎えたとか言うな!冗談抜きでネオさんに殺されるぞ」

「仕方ないですね、今回は諦めます。だがいつの日か必ず!!」

「その情熱には素直に感心する」

「寝息の録音は可能ですか?」

「諦めたと思ったら急に何言ってんの?ホントにすげーなお前って奴は」

「可能ですか?」

「いや、やらないし・・・寝息の録音なんてどうするんだよ?」

「もちろん私のウマ娘コレクションアーカイブに永久保存します」

「・・・・・」

「あとは毎晩就寝時に聞きながら眠る事によって、疑似的に私は添い寝されている事に・・・フフッ、今から楽しみでしょうがありませんよ」

「きっついわー・・・・もう切るぞ」

「くっ!お二人を独り占めした事、いつか後悔させてあげますから。あと母にはくれぐれもご内密に・・・頼みましたよ」

「おやすみー」

「ええ、おやすみなさい。良い夢を」

 

 通話を終えて元いた部屋に戻る。

 眠る二人の頭を一撫でして横になる、シュウほどではないが二人の存在はちょっとだけ俺の癒しになった・・・のか?

 シロクロの穏やかな寝息を聞きながら俺の意識は落ちて行った。

 

 



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わかれのまえに

 シュウはいつも通りだった。

 

 

 翌朝、硬い床の上で寝たにしてはグッスリ眠れたようだ。

 ゆっくりと目を開けると・・・俺の首筋に顔を近づけるクロシロの姿があった。

 とっさに二人の顔面にアイアンクロ―。

 

「おはよう、何してんだ二人とも?」

「はよー、朝から凄い握力だね。あはは、私の顔変形しそう」

「おはようございます、無防備な男性の寝顔を見てムラムラしただけ・・・割れちゃう!顔洗う前に、顔割れちゃいます!!」

 

 アホ二人の顔面から手を離し起床する。

 朝の身支度を整え中、洗面所は三人いるので仲良く順番に使用。

 途中、俺の着替えを二人ともガン見してきたが無視した。

 まだ頭が働いていないので、怒ったりツッコミ入れるのめんどくさい。

 クロシロは着ているシャツを脱ぎ捨て、新しい装いに着替え始める・・・俺の目の前で。

 ほーん、いいから続けたまえ。

 こちらもガン見しなければ不作法と言うもの。

 

「今日は動きやすい服装がいいかも知れませんね、念のため」

「だねー。常在戦場~」

 

 クロは昨日と同じく短パンスタイル。

 シロは・・・ああ、レギンス(短いからスパッツ?よく知らん)履いてからのスカートなのね。

 見せてもかまわんということですか?

 レースに出場するウマ娘も見せパン?スタイルだよな・・・いいね!好き!!

 

「朝めしどうする?俺はいつも食べないか、クスハ汁だけなんだが」

「朝からあの汁はちょっと・・・」

「できれば軽く何か食べたいですね。今はパンの気分です」

「了解。ちょっと待ってろよ」

 

 牛乳、卵、砂糖を混ぜた液体に食パン入れしっかり浸す。

 お好みでシナモンパウダーやバニラエッセンスを加えてもいい感じ。

 熱したフライパンにバターを入れて、食パンを焼く。

 途中ひっくり返して両面焼けたら完成、生クリームやメープルシロップなんかを添えると見栄えが良い。

 家にはハチミツしかないのでこれでいいよね。

 料理をしている間、クロシロは興味深そうにこちらを見ていた

 

「殿方が自分のために料理してくれる・・・幸せです////」

「いい匂い~美味しそう!ねえ、早く食べよう」

 

 簡単なものだが二人は気に入ってくれたようだ。

 「美味い!」と言って追加した分もペロッと食べてくれた。

 作ったかいがありましたな。

 

「お前らは料理とかしないのか?」

「うーん、興味なかったし、お腹に入れば何でもやいいと思ってたから」

「家はお手伝いさんが全てやってくれますし・・・やっぱ料理できる女の方がいいですかね?」

「まあ男でも女でも、できるに越したことはないと思うぜ」

「そっかぁ、チャレンジしてみようかな」

「花嫁修業の一環と思えば・・・検討してみます」

 

 俺もそんなに得意じゃないが、最低限の家事スキルは習得済みだ。

 一人暮らしだと否が応でもそうなります。

 朝食後、俺が後片付けをしてる間にシロクロは荷物をまとめる。

 そうか帰ってしまうんだな・・・うん、やっぱ寂しいわ。

 

「マサキさん、迷惑料としてこちらを受け取ってもらえませんか?」

 

 そう言って札束をの一つを渡そうとするシロ。

 

「いや、受け取れねえよ!金額多すぎて怖いわっ!」

「遠慮しなくていいと思うよ、それぐらいお世話になったし、とっても感謝してるんだ」

「流石に現金は露骨すぎましたか?ですが、サトノ家の者として受けた恩を返さなというわけには・・・」

「いいって、ウマ娘をお泊りさせるなんて貴重な体験できたしな」

「でも・・・」

「それにな金を受け取ってしまうと、仕事だから報酬目当てでやったみたいになる。そういう風にしたくないんだよ」

「?」

「俺は昨日、幸運にも友人になることができた、ウマ娘をただ泊めただけ。友人だから何も問題ない」

「・・・・」

「仕事だからでなく、友人のよしみでやった事だ。そこに損得勘定なんかなくて・・・えーと、ただ俺がお前たちと一緒にいたかったからそうしただけ・・・なっ、これでいいだろ?」

 

 二人の頭を撫でながら俺は本心を語る。

 そうだ、大変だったけど凄く有意義な時間だった。

 ウマ娘の子供とこんなバカ騒ぎをして笑い合う事ができた。

 それはウマ娘の好きの一人として間違いなく幸福な時間・・・あ、シュウが血の涙を流す幻影が見えた。

 

「いいね、やっぱり・・・あなたはとてもいい人間」

「マサキさん大好きです~」

 

 抱きついてきた二人が俺の体に頬ずりをする。

 全身で嬉しさを表現しながら甘えてくる二人に苦笑して、しばらくその頭を撫で続けた。

 これもまた幸福な時間。

 あ、二人とも尻尾・・・尻尾がペシペシ当たって・・・イタッ!ちょ痛いって・・・これもうただの鞭じゃん。

 

 クロシロは家に帰る前に、町を一周したいと言い出した。

 わざわざ家出までしてきたので、今日こそは真面目にアレを探してから帰宅したいらしい。

 

「ねえ、探し物マサキさんも手伝ってくれないかな」

「わがままですよね。でも、ギリギリまで一緒にいたいんです・・・お願いできませんか?」

 

 上目づかいでそんなお願いされたら断れません。

 しょうがねぇなぁ、今日はバイトもないし二人の希望に答えることにした。

 

「やった!ありがとう、よーし頑張るぞー」

「ふふっ、これでアレも見つかったようなものですね」

「俺がいても役に立てるとは思えないが、いいのか?」

「いてくれるだけで十分だよ」

「私たちの任務はあなたと一緒にいる事です。アレの捜索はそのおまけですね」

 

 本来の目的を見失うなよー。

 それにしてもやけに一緒にいたがるな・・・まあ悪い気はしないけど。

  

 三人で家を出て町を巡る。

 スーツケースはとりあえず俺の家に置いておく。

 またここに戻って来るのは面倒ではと思ったが、クロシロは「今日は身軽でいたい」との事なので二人がいいならと置いてきた。

 最低限の荷物が入るボディバックを装備して移動する。

 そういえば二人はスマホを持っていなかった、位置情報を追跡されないように実家に置いて来たらしい。

 

「アレの詳細を教えてくれないから、何を探せばいいのか全くわからん!」

「近くにあれば嫌でも気づくから大丈夫だよ」

「探し物はこちらに任せて、私たちとのデートを楽しんでください」

「やっぱり目的見失ってるよね?」

 

 それからは何と言うか本当にただの"お出かけ"みたいになった。

 歩きながら色々な話をする。

 どんな食べものが好きかに始まり、趣味、家族の事・・・等々、話題は尽きなかった。

 

「え、マジで?そんなに早く知ってるのか!」

「"うまぴょい"でしょ?知らなかったら昨日、あんなに笑ってないよ」

「女の子は精神が早熟だとは聞いていたが・・・え~ちょっとショック」

「だいたい世の男性は女性に夢見すぎなんですよ」

「そうだねシロちゃんの中身・・・腐海そのものだもんね」

「うるさいです、聖杯の泥よりヒドイあなたよりマシです」

「どっちもどっちだな。結論![中等部のウマ娘は既に"うまぴょい"を知っているのが普通]でいいんだな」

「ええ、むしろ中等部で知らない子は・・・相当ピュアか、相当バカかですね」

 

 そうか・・・トレーナーになってやりたかった事。

 純真無垢なウマ娘に「ねぇトレーナー、うまぴょいって何の事?私に教えてくれる?」からの~"うまぴょい"の実現は難しいかもな・・・やっぱつれぇわ・・・。

 

「ピュアじゃなくてゴメンね。でも、うまぴょいするだけならきっと大丈夫だよ」

「あなたの願いを叶えてくれるウマ娘が二人います。中身に難ありですが」

 

 自分で難ありって言うなよ。

 俺の未来を案じてくれてる二人に感謝する、こんな子供に気を遣わせて情けねぇ。

 クロシロも何年かしたら・・・いい男つかまえてイチャコラするのか・・・お幸せに!

 

「ありがとな。でも気遣い無用だぜ、自力でなんとか頑張ってみる」

「こっちがいいよって言ってるのに、変な所で真面目だね」

「悔しいですが今はまだ、子供にしか思われてないって事ですよねー。数年後はマジで覚悟してくださいね!」

 

 途中で休憩を挟みつつ捜索する、気づけば夕方を過ぎあたりは暗くなり始めた。

 そろそろだな・・・俺のスマホをシロに渡し、親にまず無事を伝える事、そして迎えに来てもらえと言う。

 素直に従ったシロは少し離れて電話をかけ始める。

 その間、クロは俺の手を握って少し寂しそうな顔をした。

 

 

 サトノ家の迎えが来る事となった。

 指定場所は俺の家から少し離れた波止場、スーツケースを回収して待ち合わせ場所に向かう。

 大型クレーンや多数の貨物コンテナが積み重なって少し潮の匂いがする。

 後ろ暗い連中が取引するような、いかにもな場所だった。

 

「結局見つからなかったな、力になれなくてすまない」

「そんなことありません。昨日も今日も十分、力になってくださいました」

「うん。昼間の行動も無駄じゃない・・・全てに意味はあるんだよ」

  

 いよいよお別れの時が近づく・・・ああ、なんか凄く名残惜しい。

 たった二日の付き合いなのに、本当に随分と絆されてしまったな。

 何か言わないと・・・えーと・・・。

 

「なあ、最後に俺に何かして欲しい事はないか?もちろんできる範囲でだぞ」

「むしろ私たちがマサキさんに、何か恩返ししたいんだけど」

「お金も受け取ってもらえませんでしたし・・・本当にお人好しですね」

「いいから何かないか?もう本当に最後だぞ!俺がここまで言う事はたぶん二度とねぇぞ」

「そうだね・・・」

「そこまで言ってくださるのでしたら・・・」

 

 クロシロがアイコンタクトして頷き合う。

 あれ?この感じ・・・もしかして・・・俺、また早まった?

 いや、二人とは今日でお別れだ、最後の思い出としてこいつらの希望は叶えてやりたい。

 何をお願いされるのかな・・・最後に握手?それともハグかな、キスは・・・ねーよ!あってもほっぺにチューぐらいだろ。

 よし!覚悟を決めたどんと来いやぁー!

 

 「「マサキさん」」

 

 来た!しかも二人同時発言・・・ラーミアの卵守ってる巫女さん、思い出すのは俺だけか?

 

 「血が滴るほど強く・・・」

 「傷跡が残るほど思い切り・・・」

 

 この時俺はすっかり忘れていた、二人がただのウマ娘ではない事を・・・。

 

「「あなたの首筋を本気で噛ませてくれませんか?」」

 

 俺ってほんとバカ・・・。

 

 



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にくたいげんご

「「あなたの首筋を本気で噛ませてくれませんか?」」

 

 二人に言われた事がすぐに理解できなかった。

 

「噛む?かむって・・・口で歯で?」

「そうだよ」

「こう・・・ガブっといきます!」

「痛いじゃん・・・」

「優しくするから大丈夫、すぐ終わるよ・・・たぶん」

「手加減しますから心配しないでください」

「血が滴る、傷跡が残る、本気でって言ったよね?」

「「・・・・」」

 

 無言になるな!こいつら本当に油断ならねぇ。

 ウマ娘じゃなくて吸血鬼だったの?

 

「あの・・・どうして距離をとるのかな?」

「身の危険を感じたからな」

「私たちあんなに一緒だったじゃないですか、気持ち通じ合ってましたよね?」

「そうだな、あの頃の気持ちのままでお別れできたら・・・いい思い出だったろうな・・・」

「「・・・・」」

 

 二人から距離をとる。

 物理的にも精神的にも二人から離れていく俺。

 にじり寄ってくるクロシロ・・・。

 

「おい!それ以上近づくな!俺は今から家に帰って、一人になった寂しさを感じながら黄昏るんだ!」

「記念、そうだ私たちと過ごした記念に一生消えない傷ができたと思えば・・・どうかな?」

「そんな記念嫌すぎるわ!それと今、一生消えないと言ったかコラ!」

「減るもんじゃないし、いいじゃないですか」

「減るわ!お前らに対する好感度なんか今まさにゴリゴリ減ってるわ!」

「好感度が0なら気にする事もないか・・・よし!力づくで行こう」

「合意の上が良かったのですが仕方ないですね、覚悟はいいですか?」

「本性表しやがったなこの駄バどもがあぁああああ!!!」

 

 強行手段に出ようとするクロシロ。

 なんでこうなるかな!二人の動きに注意をはらいつつ会話をする。

 

「朝のアレも噛みつく寸前だったのかよ」

「寝込みを襲う罪悪感で流石に躊躇していた所、起きてしまったものでして」

「あの時、一思いにやっておけばよかったね」

 

 先に動いたのはやはりクロ、こちらに突っ込んでくる。

 クロの動きの逆、または空いた隙をカバーするようにシロは立ち回る。

 子供とは言えウマ娘、それもコンビネーションに慣れた二人・・・流石にキツイ。

 しかも、昨日尻尾を掴まれた事を警戒してか最初から油断はなし。

 

 下がっても仕方がないのでこっちも攻める、攻撃は最大の防御!

 クロに合わせて突っ込むと見せかけてのシロ狙い、尻尾を掴もうとする仕草にフェイントも入れてっと。

 何度か攻防が続くがやはり手強い、二人がかなり手加減しているのがわかる・・・こっちは余裕がないっていうのに・・・これが根本的な種族差か。

 時間が経てば俺は負けるだろう。せめて、それまでにいろいろ聞かせてもらおうか!

 それに、こんな風に誰かと手合わせするのは久しぶり・・・あ、昨日やり合ったばかりですね。

 シュウはあまり組手とかしてくれないからなー、母さんとネオさんに会いたくなった・・・突然のホームシック!

 あれ?何だか楽しくなってきたぞ。今、脳内麻薬ドバドバ出てるわー。

 

「あは!やっぱりいい動きするね。それに楽しくなってきてるでしょ?わかるよ、だって私も今すっごく楽しいもん。あはははははは!さあ、もっと遊んでよ!」

「あーあ、うちのバーサーカーを刺激しちゃいましたよ。ねえ、ケガしないうちにやめません?それとさっきから、私の顔面ばっかり狙うのもやめません?」

「そっちは遊びでもこっちは必死だ!余裕なんかない、耳、尻尾、顔面、その他全てダメージが入りそうなら容赦なく狙わせてもらう」

「うんうん。カワイイ女の子の外見ってだけで油断したり、いらない気遣いする人多いんだよねー。それってさ身の程知らずすぎて本当に冷めちゃうんだ・・・。でも、マサキさんは全力で答えてくれる・・・最高に嬉しいよ!」

「なんかクロのテンションが危なくなってきてるぞ」

「血に飢えた獣の前に餌ぶら下げて飛び出すからですよ・・・て、あぶなっ!クロちゃん今、私ごとマサキさんを攻撃しましたね!」

 

 クロの動きにやっと慣れはじめたと思ったら、今度はシロが前に出るクロがカバーに回る。

 こいつら嫌なタイミングでスイッチしやがって・・・。

 シロはの攻撃はクロほどの鋭さはない、単純なスピードやパワーはクロが上。

 だけどこいつの動き本当に嫌らしい!今ここに攻撃されたら嫌だ、こう動かれてはマズいと思った所をピンポイントで狙ってくる。

 ブラフやフェイント、駆け引きもうまい、威力に劣る分からめ手が得意なタイプか?

 素手で助かった。こいつが何かしらの武器や罠を使いだしたら、手が付けられなくなると予想。

 何度か打ち合った後、再び距離をとる。フゥー、ちょっと休憩させてお願いだから!

 

「拳で語るのもいいが、もう隠していること全部話せ!ここまで来たら秘密がどうこう言うレベルじゃねーぞ!」

「暴力沙汰になりましたからね(今更)、いいですよ遊んでくれたお礼に情報開示しましょう」

「どこから聞きたい?」

「最初から全部」

 

 いいかげん秘密主義に付き合うのもうんざりだ。

 

「私たちが家を出た理由は探し物、でも探し物は一つじゃなかったんだよ」

「一つはなくした家宝、もう一つは私たちの"操者"になってくれる人間です」

「操者(そうしゃ)?」

「パートナー、盟友、相棒、伴侶・・・今風に言うならトレーナーもそうだね」

「とある事情で早く操者を決めろとうるさいんですよね、この年でもうお見合いみたいな事させられましたよ」

「どの人も何ていうかビビッと来ないんだよねー、あーこの人じゃ私を抑えるのは無理だーてわかっちゃう」

「まさに人生の今後を左右する運命の相手ですからね~、ただ待ってるだけなのも癪ですし」

「ねー。自分で「この人だ!」て見つけてこそだよねー」

「おそらくですが、簡単に家出できた事と一日自由に過ごせたのは、父たちがあえてそのようにしてくれたのでしょうね」

「でもたった一日で見つかるわけない・・・もし出会えたならそれこそ運命」

「それが俺だってか?・・・んなアホな」

 

 操者として二人に見初められたらしい。

 

「なんで俺?ただお前たちに親切にしたってだけじゃないだろ」

「優しいだけの男なら吐いて捨てるほどいますよ、もちろん打算的な観点からもあなたを評価しています」

「親切にしてくれたのは素直に嬉しかったけどね」

「マサキさん、あなた"覇気"の質も量も凄まじいです。しかも、その覇気を周囲にまき散らしています。もうダダ漏れです、大洪水ですよ」

「こんな異常な量と濃度の覇気を出してる人間、はじめて見たよホントびっくり」

「・・・・」

 

 "覇気"(はき)生命体が持つ生体エネルギー。

 ウマ娘は生まれつき覇気の量とコントロールに優れており、人間以上の身体能力もその恩恵。

 人間の中には覇気に恵まれた者もいて、ウマ娘と同等かそれ以上の力を発揮する可能性があるらしい。

 全部、母さんやシュウからの受け売り。

 俺は自分の覇気を感じた事はないし、凄いとか言われてもピンと来ない。

 

「ご自身の覇気を認識していない・・・いや、できないようにされている・・・」

「本当に何も気づいてない、何かおかしな事はなかった?例えば・・・ウマ娘からドン引きされたりとか」

「トレーナー養成校の適正試験で何回も落ちたのは・・・・」

「その状態で受験しに行ったんですか?私が試験監督なら速攻でお帰りいただきますよ!」

「あちゃ~、やっちゃたね。試験会場ざわついてたでしょ?」

 

 受験失敗の理由ここで判明した。

 

「トレーナー適性検査では覇気もチェックされてますよ。トレーナーになる人の覇気は一般人より上です」

「強い覇気を持つ人はとっても魅力的なんだよ、特にウマ娘は覇気の強さを重視して人を見てるね」

 

 どう見てもキモオタな奴がウマ娘にはモテたという話・・・作り話じゃなかったのかよ。

 ウマ娘にとって覇気の強い人間は是非とも欲しい人材なのだが、強すぎる人間はお断りらしい。

 何故か?それは争いの火種になるから、強力すぎる覇気にあてられたウマ娘の暴走で多くの大事件が起こったらしい。

 一人の人間を取り合って殺し合いからの、一族郎党を巻き込んだ戦争にまで発展したケースもあるとか。

 

「普通マサキさんみたいな人は保護されて監視下に置かれるはずだけど・・・」

「きっと、ご家族にウマ娘の裏事情に詳しい方がいるのでしょうね。初対面で私たちの尻尾を掴めた、手加減しているとはいえ二対一でやり合ってまだ立っている・・・普通じゃないです」

「訓練受けてるよね?対ウマ娘を想定したやつ。それとも、ウマ娘が先生だったのかな」

 

 母さんとネオさん、ついでにシュウ・・・三人とも、どういうことなの。

 こういう事態を予測していたのか?もう!後で問いただしてやるんだから!待ってなさいよ!!!ホントにもう!!!

 

「それでもお前たちは俺を操者に選んだ、なんでさっ!」

「これでも私たち結構というか、かなり強力で優秀なウマ娘だ思うんだよね」

「ソシャゲで言う所の限定SSRですよ、良かったですねマサキさん!」

「操者候補としてパパやママが選んだ人も、とっても優秀で覇気も強力だったけど・・・」

「ダメです!全然ダメ!足りないんですよ、あれっぽちの覇気じゃ満足できません!容姿、性格、家柄、財力、経歴等がどんなに優秀でも無理!無理なんです」

「覇気が合わない人と契約しても、不幸になるだけだし」

「人間とウマ娘が契約をかわし"操者と愛バ”の関係になると、お互いの覇気が両者を循環します」

「相性が良ければ二人ともパワーアップ!操者も愛バもメチャクチャ強くなるし、その他にも特典がいっぱい」

「逆に相性が悪ければ二人とも弱体化、契約しない方がマシ・・・一方の覇気に引っ張られ、肉体と精神に深刻なダメージが残る場合もあります」

 

 深刻なダメージ・・・おい、待てやコラ!

 聞いてよ、せめて「同意しますか?」て聞いてよ!同意してたまるか。

 

「相性のチェックは完了済み、安心だね」

「仮契約・・・名前つけてくれましたよね?その時点でちょっとだけ覇気の循環が始まるんです、それで不快だったり嫌な感じがしたら・・・ご縁がなかったという事です」

「先代がカナブンでも名前を受け入れたのは・・・俺にはその、ご縁があったと?」

「気に入らない人間のシャツを着たり、ブラッシングさせたりはしないよ。後はわかるね」

 

 覇気やら操者やら何だかめんどくさくなってきた。

 要約、俺は覇気が強い→クロシロは強い覇気の人間を操者にしたい→選んだのは俺だった→噛ませろ!

 

「説明も済んだ事ですし、さあ本契約と参りましょうか」

「ガブっといちゃおー」

「お前たちの事情は分かった。で、操者になって俺になんかメリットあるの?」

「?・・・えっと、何度も言ってるのですが、伝わってないのでしょうか?」

「全てを捧げるって言ったよ・・・鼻毛出してたじゃん」

「ズッ友でいてくれるって事?」

「それ以上」

「また一緒に遊んだり、お泊りしたり?」

「当然」

「俺がトレーナーになったら?」

「トレーニングでも何でもやります。あなたに優勝カップの山をプレゼントします」

「風呂・・・」

「次からは一緒に入ろうね」

「寝る時は・・・」

「川の字の真ん中にしてあげます。腕枕の準備はいいですか」

「・・・・・・」

 

 え、ちょっと、まて、まてまてまて・・・・えー、いや嬉しいよ!嬉しいけどね!ひゃっほーい!!

 冷静になれ・・・いい所だけで判断するな・・・何かしらのデメリットが必ずあるはず。

 座ろう、一旦座って落ち着いてからよく考えて・・・。

 

「それだけでいいの?もっとしたい事あるんじゃない」

「肝心な所でヘタレますね。マサキさんの最重要目標・・・例のやつですよ」

「それって"うま"で始まって"ぴょい"で終わるやつですか」

「全部言っちゃってますけど、それで合ってます」

「期待には応えるよ」

 

 ・・・ガタッ。

 座ってられるかぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!

 いいの?ホントにいいの?マジで?本気にするよ。

 これで"嘘ぴょーい"とか抜かしたら、刺し違えてでもお前らをコロス!

 

「疑ってますねぇ~。"お前を殺す”あなたが言うと生存フラグでは?声的に」

「あと一押しかな?かなり揺れてるし」

 

 ああああ・・・俺が・・・クロとシロと・・・まさか・・・そんな・・・。

 

「お願いします。きっと後悔はさせません」

「私たちが愛バになるよ。ずっと一緒だよ」

「・・・・・」

「操者になってくれたら・・・私たちのこと・・・」

 

 いつの間にか接近していたクロシロ。

 二人は蠱惑的に微笑んで、トドメの一言を告げた

 

「「好きにしてもいいんですよ//////」」

 

 殺されたのは俺でした。

 

「クロシロ」

「「はい!」」

「優しくしてね////」

 

 上着を脱いで二人に首筋を晒す・・・しっかり噛めよ!

 

 



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じゃまもの

 クロシロの操者になる覚悟完了!!!

 

「優しくしてね/////」

 

 首筋を晒して無抵抗になった事をアピールする。

 

「やっと素直になってくれたね」

「人間素直が一番ですよ。欲望に忠実なのは美徳です」

 

 抵抗をやめた俺を見て、二人は安心した表情を浮かべる。

 クロは俺の体をペタペタ触り「痛くない?」と聞きながら戦闘ダメージをチェックしているみたいだ。

 攻撃してきた相手に心配されとる。

 俺も一応二人の状態を見てみるが、うん無傷だよね。

 俺の攻撃なんざ全く効いてない・・・悔しいです!!!

 

「今から首を噛まれるのか・・・何で首噛みが本契約なんだ?」

「ウマ娘が人間から血液と覇気を摂取して、操者情報を完全登録する必要があるんです」

「首は人体の中でも血と覇気の流れが多い部位だからね。あと単純に噛みつきやすそうなのはやっぱ首!と言う意見が多いかな」

 

 「脇の下を噛ませて!」とかじゃなくて良かった。

 あんまり痛くないといいんだけどな。

 二人が本気なら頸動脈ごと噛みちぎられるんじゃ・・・怖くなってきた。

 

「本気でと言いましたけど、もちろん手加減はしますからね」

「ただ私たちも初めてだから、上手にできるかな?」

「今まで操者になった人は、この契約方法について何か言ってないのか」

「そうですね・・・「痛すぎて気が狂うかと思った」「死んだお爺さんが川の向こうに見えた」なんて言ってたような」

「契約中に失神する人は少なくないみたいだね」

「あらやだこわい」

 

 覚悟完了したのに、また怖気づいてしまう俺。

 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ・・・シンジ君・・・俺に勇気を分けてくれ!

 

「考えてもしょうがねぇ、さあ一思いにやってくれ!」

「いいんだね・・・よし」

「では・・・いきます・・・」

 

 ゴクリ・・・。

 俺だけでなくクロシロも緊張を隠し切れない。

 噛みやすいように身を屈めてやる、なんだか二人の前に跪いているみたい。

 ムードもへったくれもないが、今から行うのは俺たち三人にとって大事な・・・神聖な儀式のようだと思った。

 肩に小さな手がかかり、二人の整った顔が近づく・・・いや、マジでカワイイなこいつら。

 そうしてしばらく見つめ合う。

 

「・・・・」

「・・・・////」

「・・・・////」

 

 おい、早くしろよ!

 

「ちょ、ちょっと待ってください!えーと、あはは~なんだかダメですね。テンパってますね私、こんなに緊張するなんて・・・ごめんなさい、いよいよだと思ったらその・・・あ~ダメだ・・・しっかりしないといけないのに」

「すぅ~ハァ~・・・落ち着け私、大丈夫私ならできる私ならできる私ならできる。ねぇ、相談なんだけどまた今度にしない?今日はもう帰って寝て、また明日考えようよ・・・ダメ?」

「なんでお前らがビビッてるんだよ!!いいからはよこいやぁー!」

「運命のターニングポイントですよ、命が人生がかかってるんですよ!そんなに簡単に決めていいんですか!?」

「かまわん!やれ!!」

「うっわ、今の即答・・・超カッコイイ!////」

 

 今さらっと命がかかってると抜かしたな。

 いいさ、もう俺は選んだんだぜ!後は選んだ答えを正解にするだけだ。

 だから早くして!本当はビビッてるの!心臓が破裂しそうなの!

 

「すみませんでした。もう大丈夫です」

「今度こそ・・・やるよ」

「ああ、やってくれ」

 

 そうして、やっと二人の唇が俺の首筋に触れようとした瞬間・・・・そいつは現れた。

 上空から落下してきたそれは、大きな音を立て着地し立ち上がる。

 人でもウマ娘でもない異形の存在に契約の儀式は中断した。

 

「・・・おい」

「・・・なんで今・・・」

「いい所だったのに・・・」

 

 契約前だと言うのにこの時、俺たちの心は完全にシンクロした。

 

「「「空気読めやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」」」

 

 

 AM(アーマードモジュール)

 今の世の中に当たり前に存在する、多目的サポートロボット。

 警備任務、災害救助、医療、介護現場等、様々な状況で活躍する機械人形。

 シュウの会社でも開発してたな・・・。

 悪事を働いたウマ娘を鎮圧する手段としてもよく投入される。

 

「AM?いや、こんなモデル見たことねぇ・・・」

 

 でかい!通常の人型AMの大きさが1.5m~1.8mなのに対し、こいつはどう見ても3mはある。

 全身を黒と赤の攻撃的な外殻に身を包んだ鎧武者。足は鋭利で凶悪な形状の爪、腕には肉弾戦を想定した手甲。

 頭部に生えた角、特徴的な白いたてがみをなびかせこちらを見ている。

 見ている?なぜだろう、無機質な瞳が意思を持って俺を見ているような・・・。

 

「まったく、このタイミングで出てくるとは・・・いや、このタイミングだからですか」

「我慢できなくなったんだねー。私たちに取られちゃうのがそんなに嫌?」

「・・・知り合いか?」

「アレですよアレ。今日、散々探し回ったでしょう」

「これで探し物は二つとも見つかったね、ミッションコンプリート!」

「アレ・・・家宝のアレ・・・あれが」

 

 いやいやいや!簡単になくしたとか言うから、手のひらサイズの物かと思ってたわ!

 動いてるじゃん、ロボじゃん、しかもあの形状・・・戦闘用じゃね?

 なくしたのではなく、逃がしたのでは・・・・。

 

「勝手に動き出した理由は・・・やっぱり私たちと一緒なんですね」

「操者が欲しいんだよね。でも、この人はダメだよ」

「説明!説明求む!あれは、あいつは何だ?」

 

 なんかこっちに来ようとしてない?いやっ!こないでーあっちいって!!

 

「何処かの遺跡から発掘したロストテクノロジーの塊を、現代の技術で弄り回して復元、完成させた化物だってママが言ってた」

「サトノ家が秘蔵する対騎神戦闘用人型自立起動兵器・・・"羅刹機"アルクオンです」

「へー、羅刹機(らせつき)アルクオンね・・・・て、うおっ!」

 

 アルクオンと言われた巨体がいきなり突っ込んで来た。

 クロシロに引っ張られてその場を離脱、こいつ大きさとスピードが合ってねぇぞ。

 それより今俺を狙ったよね、真っ直ぐこっちに来たよね。

 

「なんで俺を狙うんですかね?知ってる人は挙手!そしてすぐ吐け!」

「はい!アルクオンは自身の駆動燃料として大量の覇気を必要とする・・・だったかな」

「そのために潤沢な覇気を持つ人間を求めます、まるでウマ娘が操者に焦がれるかのように」

「覇気ならお前らだってあるじゃん、なぜ人間限定?」

「元々ウマ娘の力を危惧した人間が作り上げた物らしくて、人間の覇気しか受け付けないんですよコレ」

「アルクオンにとってマサキさんは極上の餌、とっても美味しそうに見えてるはずだね」

「いやー!!!・・・待てよ・・・それなら俺が覇気を補給してやれば大人しくなるのでは?」

「やめた方がいいと思いますよ。初回の起動実験で高位操者数十人の覇気を吸い取り、病院送りにしています」

「お腹ペコペコのアルクオンに覇気を吸われたら・・・たぶん干物になって死んじゃうよ」

「きゃあぁあああああああああ!!!もういやぁー!!!」

 

 こいつらに出会ってから悲鳴上げすぎじゃない?のど飴が欲しくなるわ!

 こんなヤベェ奴をどうしてなくし・・・いや逃がしたか是非聞きたいね。

 

「私はこの子と一回やり合ってみたかったんだよ、それでシロちゃんに協力して外に運んだの」

「主犯はお前かシロ、なぜこいつを野に解き放った」

「いや~、アルクオンの後をつければ強力な操者候補に会えるかな~と思いつきまして」

「で結局見失ったと」

「だって急に動いたと思ったらクロちゃんと私、地面に叩き伏せられたんですよ!」

「凄いよね。あっという間、まさに秒殺されちゃった」

「うげ、そんなに強いのか」

「一応エネルギー切れ寸前のはずなんですけど、今は予備バッテリーで動いているようなものですし」

「騎神と戦闘するのが存在意義なら・・・まあ、あの強さは当然かな」

 

 騎神(きしん)・・・その言葉どこかで・・・。

 

「起動実験は失敗続きでアルクオンはずっと眠っていたんです。それが最近になって突然動きだし、外に出ようとするから厳重に封印されました」

「人に危害を加える気は無いみたいだったよ、今と違ってね」

「私はピンときましたよ!「はは~ん、こいつ操者を見つけたな」てね」

「シロちゃんの"アルクオンを泳がせて操者を発見!横取り計画"に私は利用されたんだね」

「マサキさんに直接出会ったのは私たちです!横取りではない・・・ですよね?」

 

 クロシロ、そしてアルクオンも俺を探しに来たのか・・・モテモテじゃん俺!喜んでいいの?

 でもそうなると今回の厄介事の発端は俺になるのか?本当に知らなかったんです!無知は罪ですか?

 

「どうする?どうしらたいい。交渉は・・・できそうにないな」

「アルクオンを倒す、その後私たちは契約してハッピーエンドが理想なんですが」

「倒すのは無理か?」

「私たち二人じゃ勝てないですね。だとすると・・・後は向こうがエネルギー切れするまで逃げ回って、時間稼ぎするしか」

「私がやるよ。元々この子とタイマンするのが目的だったし、いいよね」

「まさかクロ一人でやるつもりか?」

「心配しないで時間稼ぎするだけだよ。でもチャンスがあれば・・・倒してしまってもかまわんのだろう?」

「クロちゃん、危なくなったらすぐに逃げてください。死ぬことは許しません、これは命令です」

「了解だよ。マサキさんの事お願いね」

 

 アルクオンと一人対峙するクロ。

 大丈夫か?[ここは俺に任せて先に行け]は有名な死亡フラグだぞ。

 

「離れましょうマサキさん。ここにいてはクロちゃんの邪魔になります」

「わかった、無茶すんなよクロ・・・」

「操者を守るために無茶するのは、愛バにとって誉れですよ」

 

 覇気を感じられない俺でもわかる。

 クロが先程とは比較にならないほどの力を練り上げているのが。

 呼吸を整え、集中、全身に覇気を巡らせて準備完了。

 

「君には無意味な事かも知れないけど仕来りだからね。一応、名乗らせてもらうよ」

 

 構え、そして雄々しく名乗り上げる。

 

「サトノ家従者部隊13番"ダイヤ様専属"(仮) 烈級騎神 キタサンブラック行くよ!!!」

 

 人を超えた存在がぶつかり合う。

 クロの無事を祈りながらシロと共にその場を離れる。

 

「(仮)てヒドっ・・・クロちゃんあの時の誓い・・・忘れてないですよね」

 

 なんかシロがショックを受けている。

 アルクオン、俺たちの会話中はじっとしてたな。クロが名乗るまで待機してたし・・・・。

 あいつ空気読めるんじゃねーか!!!!

 



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きしん

「サトノ家従者部隊13番"ダイヤ様専属"(仮) 烈級騎神 キタサンブラック行くよ!!!」

 

 クロの名乗りを聞いて過去の記憶が蘇る。

 

 

【十数年前シラカワ邸】

 

 この日俺はシュウの家に託児されていた。

 母さんが仕事の都合で数日家を空ける事になったからだ。

 その間、俺の面倒をお隣のネオさんが快く引き受けてくれたのだった。

 田舎には似つかわしくないお洒落なデザインの邸宅。そのリビングでシュウはウマ娘関係の雑誌を熱心に読み、俺はテーブルに広げた昆虫図鑑を見ていた。

 

「ねぇ、マサ君。ちょっと今からお勉強しよっか」

 

 そう言ってネオさんは大きな本とノートを持ってきた。

 ソファに座っている俺をひょいと持ち上げると、自分の膝に座らる。

 母さんではない女性の匂いと温かさに包まれてちょっと緊張する。

 そんなネオさんについてちょっと紹介。

 

 白河音緒(シラカワネオ)

 

 シュウの実母、俺の母さんのマブダチ。

 鮮やかな紫紺の髪と金色の瞳を持つ優しいママさん。

 実年齢よりかなり若く・・・いや幼く見える外見は、美女と言うより美少女。

 この人からあの高身長イケメンが産まれたのが本当に謎だ。

 初対面の人は大抵「これが経産婦だと・・・」と戦慄する。

 母さんに負けないぐらい甘やかしてくれるこの人が、俺は大好きだった。

 

「えー、勉強きらーい」

「そんな事言わないで、ほーら一緒に賢くなろう?」

「やだ!カナブンの生態について研究中だから忙しいの」

「ウマ娘に関するお勉強なんだけどな~」

「すぐに始めましょう。ネオ先生とお呼びすればいいですか」

「マサ君は本当にウマ娘が大好きね」

 

 本とノートを開いて勉強を始める。

 幼い俺に本の内容は難しすぎたが、ネオさんが子供でもわかるよう噛み砕いて要約する。

 ウマ娘と人間の歴史や風習、文化の違い等々・・・俺の興味が薄れないように工夫して教えてくれた。

 

「覇気については知ってる?」

「ハキ?何それー?」

「あれ、うーんこれはあえて教えてないのかな・・・」

「?」

「覇気についてはまた今度にしましょう。じゃあ、騎人(きじん)と騎神(きしん)について、これは教えてもいいわよね」

「キジン?キシン?」

 

 ウマ娘と言う名称が一般的になったのは40年ほど前から、それまでは人と違う耳と尻尾を持つ彼女たちは騎人と呼ばれていた。

 騎人からウマ娘へ呼称を変える事により[人間の敵では無い][畏怖ではなく羨望するべき存在]を大々的にアピール、現に名称変更後から各メディアへの進出が激増し今に至る。

 

「ウマ娘さんはキジンて呼ばれていたんだね」

「そうよ、今でも騎人と呼んでる人もいるの」

「ふーん」

 

 ウマ娘は生来の高い闘争本能と強靭な肉体を持つ。

 その本能を受け入れ、己の才能に驕ることなく修練を積み上げた者たち。

 人を超え神に至るがごときその偉業を讃えて、一定の武を修めたウマ娘は名を授かる。

 それが騎神。

 

「頑張ったウマ娘さんがキシンになるんだね」

「騎神はとっても強いから敵に回しちゃダメ。騎神を名乗るウマ娘とは特に仲良くしてね」

「はい。ウマ娘さんと仲良くする、そして"うまぴょい"もする」

「よしよし、いい子ね。でも、うまぴょいはあまり連呼しないでね」

 

 俺の頭を優しく撫でながらネオさんが褒めてくれる。

 ここでずっと雑誌を読みふけっていたシュウが口を開いた。

 

「実の息子の前でイチャイチャと・・・まさか母親を寝取られるとは思いませんでした。マサキ、そんなあなたにはマザーファッカーの称号を与えましょう」

 

 瞬間、俺を抱えていたネオさんが消えシュウの眼前に瞬間移動。

 強烈なビンタをする。

 

「ありがとうございます!!!」

 

 吹っ飛びながら、何故かお礼を言うシュウ。

 意味が分からない。

 

「もう!シュウ君、お勉強の邪魔しないで。あとこれ以上マサ君に、変な言葉吹き込むのもやめて」

「フフッ、母の愛が痛いですね・・・」

 

 ネオさんが戻ってきてまた膝に乗せてくれる。

 

「ごめんね。うちのシュウ君ホントにおバカで困っちゃうわ」

「シュウ面白いから好きだよー」

「マサキ・・・////後で、私のウマ娘秘蔵コレクションを一緒に見ましょう」

「良かったわね、マサ君がいい子で」

 

 勉強再開。

 

「騎神なんだけど、強さに応じて級位が設定されているの」

「きゅうい?」

「どの位強いかの目安になる称号ね。下から烈級、轟級、超級、天級の4つあるのよ」

「れつ、ごう、ちょう、てん」

「そうそう。級位については、えーとあったこのページね」

 

 本を広げてこちらに見せてくる。

 

 烈級 ヤバい!

 轟級 町がヤバい!!

 超級 国がヤバい!!!

 天級 世界がヤバい!!!!

 

「ヤバいばっかりでよくわかんない」

「何よこれ?大体あってるけども・・・」

「私ならこのように例えますね。ちょっと失礼」

 

 シュウがノートに何やら書き込んでゆく。

 

 烈級 ゴリラ×10

 轟級 ゴリラ×1000

 超級 キングコング

 天級 キングコングの大群

 

「なんでゴリラなの?」

「ダメですか?力の象徴としてゴリラは有効だと思ったのですが」

「ゴリラ呼ばわりはちょっと・・・勘弁して。私ならこうするかな」

 

 今度はネオさんが例をノートに書く。

 

 烈級 ゲッターロボ

 轟級 ゲッターロボG

 超級 真ゲッターロボ

 天級 ゲッターエンペラー

 

「虚無るの?」

「天級の存在は宇宙の危機なのでは?ちょっと動いただけで、惑星吹き飛ばさないでください」

「ダメ?ゲッター好きなのに・・・」

「ネオさんはロボット大好きだよねー」

「いいかげん、積みプラモとロボフィギュアの山を片付けて欲しいのですが・・・」

「う・・・どれもカッコイイんだから・・・しょうがないじゃない」

 

 ネオさん・・・ロボット好きすぎて、一部屋をロボ玩具で埋め尽くしているのは皆知ってる。

 この人の布教活動で俺とシュウもそれなりのロボ好き。

 

 

 殆どの騎神は烈級止まり。※けっして烈級が弱い訳ではなく轟級以上が規格外なだけ

 轟級になれるのは厳しい修練を積み上げた少数精鋭。

 超級に至るのは更なる修練を積み天賦の才を開花させたごく一部の者のみ。

 天級は世界にたった数人の生ける伝説。あまりに荒唐無稽な武勇伝が多くその存在自体を疑う者、ただの都市伝説だと考察する者が後を絶たない。

 

「後は・・・騎神が本気で戦う時、お互いに名乗りを上げるわ」

「自己紹介するの?」

「"今からあなたの事をボコボコにしますけど、いいですよね!"と言う宣言ですよ」

「自分の所属、級位、真名この三つを言うのが基本かしら?多少のアレンジが入る事もあるけど」

「おおー、ケンカの前のアイサツは大事。かっこいいね!」

「そんな場面に遭遇しないのが一番なんだけど、もしも騎神の名乗りを聞いたら絶対に近づいちゃダメよ」

「はーい」

 

 騎人、騎神、級位、名乗りの意味をこの時教えてもらっていたんだ・・・。

 

「今日はこんな所かしら、何か質問はあるかな?」

「"うまぴょい計画"の成功率を上げる方法があれば是非聞きたいですね」

「シュウ君・・・私に"目だ!耳だ!鼻だ!"って言わせないでね」

「やめてください!死んでしまします!!」

 

 ネオさんにメンチを切られ自室へ退散するシュウ。

 

「しつもーん!」

「はい。何かな?私が答えられる事にしてね、シュウ君みたいなのダメよ」

「母さんとネオさんは何級なの?」

「ふふっ、それは秘密よ」

「えー、じゃあヒント!ヒントちょうだい」

「ヒントね・・・"惑星吹き飛ばさないよう気を付けてる"なんてね」

 

 結局、はぐらかされてしまったが・・・今思うとこれって・・・ハハ、まさかな。

 母さんとネオさんがゲッペラー・・・ないないそれはない!!!

 グレンラガンぐらいでしょたぶん?あ、天元突破はやめてください!!!!

 

 

【現在 クロVSアルクオン 戦闘開始直後】

 

 戦場に背を向けてシロと共に逃走中。

 ああ~クロが心配だ。

 

「烈級騎神、クロは騎神だったのか」

「おや、覇気については無知だったのに級位と騎神についてはご存じでしたか」

「烈級・・・ゴリラ10頭分なら・・・行けるか?」

「ゴリラ?」

「何でもない、クロは大丈夫かなって」

「電池切れ寸前の癖にアルクオンはおそらく轟級クラス、今のクロちゃんでは・・・」

 

 背後から戦場の激しさを物語る轟音が響く。

 貨物コンテナが崩れる、大型クレーンがへし折れる、地面が爆散する、破壊音破壊音破壊音!

 ほんまえらいこっちゃで・・・。

 

「このまま逃げてるだけでいいのか?何かできる事は」

「クロちゃんには申し訳ないですが、先に私だけでも契約を済ませましょう」

「この状況でか?」

「この状況だからです。契約完了すればマサキさんの覇気が私に流れ込んで来ます。」

「それでどうなる」

「契約直後の操者は覇気の殆どを愛バに持って行かれますから、アルクオンの興味対象外になるでしょう」

「俺の覇気残量が少なければ、あいつは襲って来ないか・・・」

 

 そんなので上手くいくかわからんが、できる事は全部試してみるか。

 そう思った瞬間。

 

「ごめんシロちゃん!!!そっち行ったーーーー!!!!!」

 

 クロの叫び声が聞こえると同時、アルクオンがこちらへ迫る。

 初撃を辛うじて躱す俺たちだが、止まることなく追撃をかけてくる。

 こいつ今度はシロを狙って・・・。

 

「地獄耳ですか?それとも本能?どちらにしろ[どけ!こいつは俺の獲物だぞ!!]と言いたいのですね」

「おい、シロ」

「どうやら私をご指名みたいなので、出来るだけ引き離します。その間にクロちゃんと合流してください」

 

 俺から離れて行くシロ、それを追うアルクオン。

 ああ~今度はシロが。

 

「マサキさん」

「クロ!良かったぶじ・・・」

 

 振り返った俺が見たのは、全身ボロボロになったクロ。

 あの野郎!!!!コロス!!!

 一気に頭に血が昇る、愛バになる予定の少女を傷つけられ怒りが抑えられない。

 

「えへへ、ゴメンね。やっぱあの子強いや・・・私ってまだまだ弱い」

「そんなことない、お前は立派な騎神だよ」

「騎神?そっか、知ってるんだね・・・名乗り上げてこのザマ・・・ホント恥ずかしいな」

「お前が体張ってくれたから、俺はまだ干物にならずに生きてるぞ」

「じゃあ頑張って良かったかな、よし!落ち込むの終了。私まだまだ戦えるよ」

 

 所々衣服が破れ全身に傷を負ってなお、戦意を失ってないことに安堵。

 100%元気とは言えないが、何とか軽傷で済んでいるようだ。

 血が出ている箇所をハンカチで拭ってやり、乱れた髪を手櫛で整えてやる。

 

「ん、ありがと」

「どうする?シロは一人づつでも先に契約した方がいいと言ってたが」

「私と戦闘中だったのに、いきなりそっちに行ったんだよね。マサキさん傍にいる契約しそうなウマ娘を優先的に潰したくなったって事かな?」

「だとしたら、今クロと契約しようとすると、またこっちに戻ってくるのか?」

「わかんないけど、私契約はやっぱり三人でしたいな。シロちゃんも一緒にね」

「ああ、そうだな。とりあえずシロのところに行くぞ」

「うん。ちょっ・・・アレは!」

 

 シロと遠くに行ったはずのアルクオンが大きく振りかぶって何かをこっちに投擲する。

 何を投げて?・・・てシロじゃねぇか!

 慌ててシロを受け止めるクロ、俺も二人の衝撃を逃がすように支える。

 ハンター×ハンターのドッヂボール回みたいになっとる。

 

「ナイスキャッチですよ二人とも!」

「ボールになった気分はどう?」

「最悪です。ゲロ吐きそう」

「吐くのは後にしろ、来るぞ!」

 

 どうやら三人まとめて一網打尽を選択したらしいな。

 俺を庇うように前へ出るクロシロ、マジでどうすんだこの状況。

 こんな事ならさっさと二人に首でも何でも噛ませてやれば良かった。

 今でも十分カワイイけど二人の成長した姿が見たかったな・・・・。

 

 真っ直ぐ加速して突撃してくるアルクオン。

 距離数メートルまで迫ったその巨体が突然、蹴り飛ばされた!!

 

「「「!?」」」

 

 蹴り飛ばされた・・・そうクロでシロでも俺でもない、更なる乱入者によって。

 吹っ飛ばされたアルクオンは貨物コンテナに直撃、崩壊する瓦礫の下敷きとなった。

 

「保護対象を確認、危険因子の一時排除完了」

 

 機械のようでありながら、透き通る声を発する乱入者。

 声も出せず唖然とする俺たち。

 よーし、こんな時は目で会話するんだ!アイコンタクトってやつ。

 

 (また知り合いか?)

 首を振るクロシロ。

 (そちらの関係者では?)

 俺も首を振る。

 (この人ウマ娘だ!しかもメッチャ強い!)

 

「「「誰!?」」」

 



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けいやく

 新たな乱入者に助けられたようです

 

 

 ホンマに誰やねん君?

 クロシロも知らないならサトノ家のお迎えではないらしい。

 こいつも俺の覇気目当てだったらどうしよう、三つ巴とかマジ勘弁して。

 

「すみません。どこのどなた様でしょうか?」

「強いね、所属はどこ?操者はいるの?」

 

 恐いもの知らずの二人が話しかける。

 

「秘匿事項ですので所属とマスターの有無はお答えできません」

 

 特徴ある喋り方・・・美少女アンドロイドか?そういうキャラ付け嫌いじゃないわ!

 こういう無機質クール系は中身クッソいい子で決まりだな。

 ウマ娘、年はクロシロよりもちょい上ぐらいか?

 青い瞳と無表情かつ美しい顔立ちがより機械的に見える。

 SFチックな銀色のパーツをあしらった衣装、所々光っててカッコイイ!

 

「なんかKOS-MOSみたいな人だね」

「「それな!」」

 

 三人とも同じ事を考えていた。

 「私は人間ではありません、ただの兵器です」とか言いそう。

 このコスモス(仮名)なんかどこかで・・・・昨日会ってる・・・ウマ娘・・・。

 

「あー、昨日のピザ配達員!」

「そうです。昨日ぶりですね」

「随分とキャラが違う」

「こちらが通常モードになります。あの時はピザ屋のバイトになりきる事が任務でした」

「任務とは?」

「ある方の命により、あなたたちの動向を監視しておりました」

「サトノ家か?」

「違います。敵ではない事は保証します」

 

 信用していいのか?悪い子には見えないけど。

 

「助けてくれたのは事実です。信用していいのでは」

「秘密が多いのは気になるけどね」

「そうだな。危ない所を救って頂き大変ありがとうございます!!ほら、二人ともお礼をしなさいな」

「「ありがとうございます」」

「ご丁寧にどうも。任務ですのでお気になさらず」

 

 お礼を言うと少し微笑んでくれた。

 うん、やっぱりええ子やね。

 

「お名前をお伺いしても?」

「ブルボンです。好きに読んでくださって結構です。」

「ブルボン?・・・私ルマンド大好き―」

「バームロール食いてぇ」

「アルフォートも忘れないでください」

「あの、お菓子メーカーではありません」

 

 なんか小腹がすいていきたな。

 その時、瓦礫の山に埋もれた奴が動き出した。

 タフだね~、あれだけ派手に吹っ飛ばされてもまだ動くのかよ。

 

「対象の再起動を確認。この場は私が引き受けます、あなた方は契約完了を急いでください」

「ボンさん、アンタってやつは・・・」

「「ボンさんwww」」

「ボンさんは結構強いので心配無用です。さあ、行ってください」」

「「あっさり受け入れた!?」」

 

 立ち上がるアルクオン、向かい合うボンさん。

 

「訳あって所属は言えません 轟級騎神 ミホノブルボン戦闘開始!!!」 

 

  

 人外の戦闘が開始された隙をついて俺たちは移動、ちょっとは落ち着ける場所はないもんかね。

 

「聞いたか?轟級だってよ、もうボンさんが何とかしてくれそうじゃない?」

「だといいんですけど・・・」

「最初のクリティカルは、あくまで不意打ちだったから成功したみたいだよ」

「初撃でだいぶ覇気を消費したようですし、真っ向勝負で勝つのは厳しいかと」

「そんな・・・ボンさん!」

「彼女の犠牲を無駄にしないためにも契約を完了しましょう」

「犠牲っておま・・・」

「契約完了したら、最悪マサキさんだけは助かる可能性が・・・いや絶体助けるよ」

 

 俺だけってなんだよ・・・そんなこと言うな!全員無事帰還するぞ。

 ボンさんも無理なら逃げてくれよ。

 

 少し開けた場所に到着。

 海が見渡せる公園と言ったところか、円形の広場に石で出来たベンチと謎のオブジェ。

 広場の中心がライトで照らされ、そこだけ小さな劇場のように感じた。

 

「この辺でいいでしょう」

「うん。さっきの場所よりムードあるね」

 

 俺の手を引いて誘導する二人。

 おいおい、真ん中にでやるのか?観客はいないが、ちょっと恥ずかしいじゃないの。

 

「緊急事態ですが、最終確認です。本当に契約してもいいのですね」

「最後通告、もう後戻りできないよ」

「お前たちには色々やられたが、決めるのは・・・決めたのは俺だ」

「「・・・・」」

「キタサンブラック、サトノダイヤモンド。俺をお前たちの操者にしてくれ!」

 

 これもうだだの告白じゃね。

 

「「はい」」

 

 二人の前に屈んで準備をする。

 俺の手は二人の背中に、二人の手は俺の背中に回される。

 三人で抱き合っている状態・・・やっぱり緊張する。

 

「始まってしまえば、途中で止める事はできません」

「止める気もないから、頑張って耐えてね」

「ああ、よろしく頼む」

「今度の今度こそ・・・いきます・・・」

「お願い上手くいって・・・」

 

 そうして契約の儀式が始まった。

 

「ぐっ!・・・・」

 

 首筋に鋭い痛みが走る。

 痛ってー!でもこれならなんとか我慢できそう・・・そう思えたのはこの時まで。

 次の瞬間、痛覚を持って生まれた事を激しく後悔した。

 

 あがぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 痛い!痛い!痛い!いたいいたいいたいたいたいたいたいイタイタイタイタイイタイタ!!!!

 

 痛いなんてもんじゃない!何だこれ!何がどうなって、いっってぇーー!

 おい、クロシロもう止めてくれ!無理だ、これ以上はくそっ!あああああああああああ!!!!

 

 声も出せないほどの痛みから逃れたい一心で、暴れようとするが動かない。

 クロシロが俺を逃がさないようにガッチリ捕まえているからだ。

 

「・・・・ぷはっ////」

「・・・・はぁ////」

 

 口を離す二人。

 終わりか?「てめぇこの野郎!超痛てぇじゃねぇか!ふざけんな!」と抗議しようとした・・・。

 二人の様子がおかしい。

 頬は上気して、瞳は潤んでいる。口から漏れる吐息が妙に艶っぽい。

 首から口を離すときは糸も引いていたような・・・・・。

 なんかエロい!エッッッッッロ!!!!俺の愛バ超エロくねぇ?

 この年で出していいエロさじゃない!!末恐ろしい・・・ちょっと楽しみ。

 

「痛ければ叫ぶといいよ、少しは楽になるから」

「私たちの体に爪を立ててもかまいません、だから・・・どうか・・・」

 

 再び噛みつく二人。

 やめてくれ!という事もできず、また激痛が走る。

 痛い、どうして俺がこんな目に?いたい、涙が溢れてくる。イタイ、叫びたくても声を出す余裕もない。

 二人の肩に背中に俺の指が食い込むが気にしていられない。

 噛まれている所が焼けるように熱い、灼熱の痛みが首から全身へ広がる。

 これは二人の覇気?痛みと言う異物が体中を侵して行く。

 

 ・・・・ペロッ。

 口を付けたまま、俺の血を舐め取る二人。時折、吸い付いて吸血される。

 今度は俺の奥から何かが出ていく、全身から首そして二人へと・・・・。

 吸われているのは血液だけではなく覇気もらしい。これが覇気の循環・・・・。

 

 あまりの痛みと強烈な脱力感。

 ああ、俺は今クロとシロに食われているんだ・・・命を。

 朦朧とする意識のなか幻聴なのか声が聞こえる。

 

 ごめんね・・・いたいよね・・・

 

 おこってる・・・かなしんでる・・・こうかいしてる・・・

 

 (・・・・)

 

 でも・・・

 

 こわがらないで・・・にげないで・・・きらいにならないで・・・

 

 (・・・・)

 

 どうかお願い・・・受け入れて!

 

 (・・・・)

 

 「「私たちの全てをあげる」」

 

 だから・・・

 

 「「あなたの全てをください!!」」

 

 (いいぜ・・・全部持ってけ!)

 

 ここで俺の意識は途絶える。

 永遠に感じた地獄の果ては、意外にも穏やかだった。

 

 

【契約後クロシロ】

 

「よく頑張ったね。よしよし・・・ありがとう」

「お疲れ様でした。これにて契約完了となります・・・て聞こえてませんか」

 

 儀式を乗り越え気絶した操者を近くのベンチへ寝かせる。

 操者・・・やっと手に入れた私たちの・・・。

 ここまでの道のりを思うと感慨深いが、まだやるべき事がある。

 

「体の方はどうですか?行けそうですか」

「覇気を補給してもらったから、なんとかなりそう」

「同じくです。しかし反動が怖いですね・・・」

「そうだね。覇気の循環に慣れないうちはいつ来てもおかしくないから」

「よし!手早くあいつを倒してしまいましょう。ブルボンさんと合流しますよ」

「了解。三人でリンチだね」

 

 眠っている操者に自分たちの上着をかける。

 小さいが何もないよりはマシだろう。

 そして操者の頬に口づけをする。

 

「行ってきます。マサキさん」

「必ず勝ってみせるから、待っててね」

 

 戦場へ戻る。

 目を覚ました彼は褒めてくれるだろうか。

 

 



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ははなるかぜ

 夢を見ていた。

 俺がアンドウマサキとなった日の夢。

 

 

【十数年前】

 

「喜べマサキ、お前の引き取り先が決まったぞ!」

「おー」

「何だ反応薄いな、お前の家族になってくれる人たちがいるんだぞ」

「お世話になりました」

「はっはっは!気が早いな、迎えが来るのは一週間後だ」

 

 とある町にある施設、身寄りのない子供たちを育てていた孤児院は閉園が決まっていた。

 施設の老朽化に加えて昨今の財政難による補助金の打ち切り、さらに園長自身も老朽化したためだ。

 血のつながらない兄弟姉妹たちはそれぞれの進路や引き取り先を見つけ、俺が最後の一人だった。

 

「ふー、これでやっと肩の荷がおりたわい」

「おつかれさま園長、よき余生を」

「余生て・・・。そうだな、最近流行りのレースとやらでものんびり見物するかのう」

「で、新しく暮らす所は大丈夫?いじめ、虐待、育児放棄は勘弁だよ!訴えて勝つよ」

「安心せい、お前が行く所はなんと・・・・あの・・・・有名な・・・・」

「溜めるのやめてはよいえ」

「メジロ家じゃよ、メ・ジ・ロ・家!聞いた事ぐらいあるじゃろ」

「マジかよ!勝ち組ルート入ったコレ」

 

 メジロ家 多くの優秀な人財を世に送り出す名門中の名門

 政財界に強い影響力を持ち、様々な分野でその名を轟かせる、まさに名家である。

 一族にはウマ娘も多く競技レースやメディア部門への進出も破竹の勢いで結果を残している。

 

「あーそっか、ウマ娘・・・うーやっぱりいるよね・・・」

「何じゃ?まだ怖いのかウマ娘が」

「そりゃ怖いよ、何度も襲撃されたんだから・・・」

「メジロ家にはその事も話してある。向こうはお前さんを丁重に扱うことを誓ってくれたぞ」

「じゃあ安心なのかな・・・」

「ウマ娘に慣れるリハビリだと思って行って来い。あんなに可愛い娘たちを怖がるなんて、人生損するぞ」

「だよねー、わかってるんだけどねー」

 

 ウマ娘が嫌いなんじゃない、むしろ大好き、でもそれ以上に怖いのだ。

 俺は物心つく頃から何故かウマ娘に絡まれる事が多かった。

 大人のウマ娘には何度も誘拐されそうになった、目の前で急に暴れ出す者もいた。

 子供のウマ娘は俺と取り合って体を引っ張る、脱臼しました。

 そんなことが相次いだので、園長たちは俺をウマ娘から守るため苦労していた。

 懲りずにウマ娘の誘いにホイホイついて行く、俺にも原因があったが・・・。

 あの時の我を忘れたような目をしたウマ娘・・・恐怖の対象になるのは当然だった。

 いや、好きなのよ。基本カワイイし耳と尻尾もええやん。

 

 メジロ家へ行くことが決まってから数日。

 園長との別れを惜しみつつ荷造り、元々私物が少ないので直ぐに終わった。

 施設の取り壊しも決まり、本日の園長は工事関係者との打ち合わせで留守にしていた。

 子供一人残して不用心だと思ったが、自分がメジロ家へもらわれる事は周知の事実である。

 俺に何かあればメジロ家を敵に回す事になるので、まあ安全だろうとの事。

 

「今日は風が騒がしいな」

 

 縁側に座り日光浴。特に何をするわけでもなくボーっと庭を眺めて、キザったらしいセリフを言ってみる。

 もうすぐここも無くなるのかー。今までお世話になりました。

 そんな事を考えていると・・・爽やかな風が吹いた。

 

「御免くださーい、誰かいませんかー」

 

 玄関先に人の姿、お客さんかな?

 訪問者は女性だったので一応警戒する。

 園長たちとの約束、女を見たら耳と尻尾を確認しろ。ウマ耳と尻尾があれば距離をとり隠れるか逃げろ。

 ウマ耳と尻尾は・・・うん、無いみたいだ。

 近づいて声をかける。

 

「何かご用ですか?園長は留守だよ」

 

 俺に気づいた女性がこちらを向く。うわっ・・・・思わず声が出そうになる。

 その女性がメチャクチャ美人だったからだ。こんな美人が実在していいのか・・・。

 

「そう、大人はいないのね。うーん、どうしよう」

「お姉さん、すっごいお綺麗ですね!」

「?ああ、ありがとう・・・て、あら・・・あらあらあら」

 

 お姉さんが俺に近づいて来る、この人ただ美人なだけじゃなく仕草や雰囲気がとても可愛らしい。

 

「ごめん、ちょっと動かないでね~」

「照れる////]

 

 俺の顔を両手で挟み見つめてくる。

 その後、俺の周囲をぐるっと回り何かをチェック。

 頭を撫でたり、体を触ったり、匂いを嗅いだり・・・やだホント照れちゃう。

 

「妙な気配を感じて来てみたら・・・あなただったのね。この覇気・・・よく今まで無事で」

「?」

「自覚なしか、いずれは対処すべきなんだろうけど・・・」

 

 何かを呟きながら考え事を始めるお姉さん。本当に綺麗な人。

 太陽の光を反射して輝く白銀の長い髪、何処か無邪気さを感じさせる翡翠色の瞳。

 すらりと伸びた手足に日焼けなど縁のない白い肌、ジーンズにシャツの活動的な服装も似合っている。

 年は10代後半?女子高生と言う奴だろうか。

 ちょっとした表情や仕草すらも人に好感を与える、魅力溢れる女性。

 

「ねぇ、もし良かったら私とお話しない?あなたのことが知りたいな」

「おはなし、いいよー」

 

 園長が帰って来るまでお姉さんとお話する事にした。美人の誘いは罠でも乗れ!

 初対面の人に無警戒すぎだと思うが、この人は信用してもいいと俺は確信していた。

 

 いろいろな話をする。

 お姉さんはどんなにくだらない事でも真剣に聞いてくれた。

 気づけば自分の事をたくさん話した。

 孤児である事、ここがもうすぐ無くなる事、ウマ娘が怖い事、引き取り先が決まっている事。

 

「へー、メジロ家がねぇ」

「うん。今から期待と不安でドキドキ」

「将来有望な操者候補を今のうちに確保という訳か・・・メジロのばば様が考えそうな事ね」

 

 俺の話を聞きながら、何かを思案するお姉さん。

 

「マサキという名前は園長さんが付けてくれたのね、いい名前ね」

「わりと気に入っている。お姉さんは何て名前?」

「私?えーと、とりあえず安藤(アンドウ)で」

「アンドウさんだね。了解!」

 

 何か今適当に考えたような名前しかも名字のみ、本名は知られたくないのかな?

 

「ウマ娘の事嫌い?」

「好きだよ、でもちょっと怖い」

「話によると大分酷い目にあってるのに、それでもウマ娘の事を好きだと言ってくれるの?」

「うーんと、たぶん向こうも何か事情があったんだよ。それか俺が何か気に障る事しちゃったのかも」

「あなたは何も悪くない。自分より他人を心配できるその心はとても尊いわ」

「怖がってばかりじゃダメなんだけど、あーメジロ家の皆と仲良くできるかな・・・」

「・・・・」

 

 楽しい時はあっという間。

 園長が帰って来た、だいぶ時間が経過したようだ。

 残念だけどこの辺でお開きかな。

 

「ねぇ、ウマ娘の事好き?」

「うん大好き!」

「ウマ娘が今後もあなたに迷惑をかけたとしても?また怖い目にあうかもよ?」

「その時は・・・そんな時が来ても大丈夫なように強くなる頑張る!」

「ウマ娘はとっても強いよ、人間じゃかて・・・・」

「知ってる!それでも強くなる。怖いのも治して、仲良くなって・・・いつか結婚するんだ!」

「結婚したいんだ・・・・ぷっ、あははははは!そうかそうか・・・そう言ってくれるんだね」

「笑われた!不愉快だわ・・・」

「ごめんごめん。いや~、こういう子がいるなら世の中まだまだ捨てたもんじゃないわね」

 

 俺の頭を何度も撫でるアンドウさん。

 笑われたのは心外だが、バカにしたわけじゃないみたい。

 そうして俺の目をジッと見る、澄んだ翡翠の瞳に吸い込まれそう。

 

「よし決めた!あなたの事、気に入ったわ。今日はありがとう」

「あ、どういたしまして」

「それじゃあまたね」

 

 帰り際に園長と少し会話してアンドウさんは帰って行った。

 またねと言われたが、たぶんもう会うことはないだろう。

 最後にここでの良い思い出が増えたなと思った一日だった。

 もしも次があるならば是非本名を知りたい。

 

 数日後、今日はいよいよ俺が旅立つ日。

 園長はちょっと泣いていた、もらい泣きしそうになった。

 園長と今までの住居に感謝を述べて出発、メジロ家との待ち合わせは近くの公園。

 ついて来られるとまた泣きそうになるので、園長とは施設の玄関まででお別れ。

 行ってきます。

 

 公園にはウマ娘の始祖である三女神像があり、待ち合わせ場所の目印とした。

 黒塗りの高級車や黒服の登場を期待したが見当たらない。

 三女神の前には誰も・・・いた、一人女性が佇んでいる。

 え、なんで・・・あの人が。

 

「あ、来た来た!時間ぴったりね」

「アンドウさん?なんでここに?」

「あなたを迎えに来たのよ」

「メジロ家の人だったの」

「いいえ。でも園長さんとメジロ家にはちゃんと話をつけてきたから大丈夫よ」

「ええー、園長・・・サプライズなの」

「えーとマサキは私の事・・・嫌?」

「そんな事あり得ない、アンドウさん好きだよ」

「良かった。今からあなたは安藤正樹(アンドウマサキ)よ!はい決定~」

「アンドウマサキ」

「そうよ。そして私は安藤佐為(アンドウサイ)よろしくね」

 

 アンドウマサキ・・・それが俺の名前。

 アンドウサイ・・・この人サイって言うんだ、もしかして囲碁が得意だったりしない?

 

「それじゃあ行こうか。今から一緒に暮らす所は田舎だけど、とっても良い所よ」

「田舎でスローライフか~いいね」

「ウマ娘もいっぱいいるわよ、強くなって皆と仲良くなりましょうね」

「頑張るよ。でも不安もある」

「何?心配事、言ってみて。家族に遠慮しちゃだめよ」

 

 家族・・・この人が家族・・・嬉しい。

 

「今までウマ娘の事を避けてきたから、ちゃんと意思疎通ができるか不安」

「そんな、大丈夫よ何とかなるわ」

「どうしよう・・・キョドたり、ドモったりして「あいつキモくね」とか言われたら凹む。コミュ障が憎い」

「心配しすぎよ・・・・だって、ほら・・・」

 

 風が吹き抜けた。

 

「もう私とちゃんとコミュニケーション取れてるんだから大丈夫」

「・・・ウマ耳・・・尻尾・・・ウマ娘」

 

 いつの間にか耳と尻尾をはやしたサイさん。

 髪と同じ美しい白銀の毛並み、耳と尻尾がこの人の正体を現している。

 

「普段は覇気のコントロールも兼ねて隠しているんだけど、特別よ」

「・・・・ふつくしい」

「ありがとう。どう?私は怖いかな?」

「全然、凄い・・・ウマ娘が俺の家族に・・・感動した!泣いていい?」

「これくらいで泣かないでよ。今から一緒にたくさん笑ったり泣いたりしましょうね」

「うん。もちろんさぁ」

「この調子でどんどん他のウマ娘とも仲良くなれるはずよ」

「希望がわいた」

 

 家族ができた、ウマ娘と仲良くなれた。

 一挙両得なサイさん。

 

「そうそう家族になるんだから、真名もちゃんと教えないとね」

「しんめい?」

「本当の名前よ。堅苦しいから普段はサイで通しているわ」

「おしえておしえて」

「コホン・・・よく聞いて覚えてね」

 

 この日、告げられた名前と、とびきりの笑顔を俺は生涯忘れない。

 

「私の名前は・・・"サイバスター"・・・今日からあなたのお母さんになるウマ娘よ」

 

 

 



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いかりのひ

 母さんと出会った日の夢。

 幸せな記憶から目覚める。

 

「ううん・・・ここは」

 

 石造りのベンチに寝かされていたようだ。

 体の上に上着が2着?これはあいつらの・・・・。

 

「はっ!クロシロ何処だ!」

 

 今までの経緯を思い出す。

 契約は完了したのか?首に痛みがある・・・何とかなったんだよな。

 二人がいない、アルクオンとボンさんの所に行ったのか。

 俺も追いかけないと・・・。

 

「うおっ、何じゃあこりゃー!」

 

 今、気づいたがなんだコレ?俺の体から何か出ている・・・幻想的でキレイね。

 緑色の発行物体が周囲を舞っている、あれだガンダム00のGN粒子みたい。

 手足を振ってみる。うん、やっぱり俺から出てる。

 

「もしかしてこれが覇気?こんな風に見えてたのか・・・」

 

 適正検査で落ちて当然だわ。

 こんなピカピカした人間イヤですよね・・・。

 ちょっと出すぎじゃない?調節できないもんかね、ふんぬばらっ!

 

「お、できるできる!そうそうもうちょい少な目で・・・」

 

 蛇口を閉めるイメージで覇気の放出量を減らす事に成功。なんだ簡単じゃん。

 よーし今度は強くしてみよう、イメージだイメージしろ!

 えーと蛇口を緩めて繋いだホースの先端をつまんでと・・・。

 

「きゃあー!ダメダメダメ出すぎ出すぎだから!」

 

 周囲が一気に明るくなってビックリした。

 やりすぎた気を付けよう、練習が必要だな。

 覇気を出したり引っ込めたりを繰り返す。

 ほうほう、ここはこうしてと・・・ああこうなるのね・・・おけおけ。

 手や足、体の一ヶ所に集める事もできる。うん、やっぱりイメージが大事。

 足の裏に集中させた状態を維持、ジャーンプ・・・ひゃっ!高い!

 その後いろいろ試した、身体能力向上と覇気の存在をハッキリ認識できるようになったみたい。

 これが契約後の特典ですか・・・ちょっと地味。

 そうだ!一応あれも試してみるか。

 今ならやれそうな気がする。

 

「かぁ~めぇ~はぁ~めぇ~はぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」

 

 ・・・・カシャ。

 うん?今なんかシャッター音が聞こえたような・・・・。

 やっぱり出ないか~、もしかしたらと思ったけど出ないか~残念!

 念のためもう一度やってみるか。

 

「かぁ~めぇ~はっ!?・・・なん・・・で・・・おまえが」

「・・・・」

 

 ここでやっと気づいた。

 俺にスマホを向けている、よく知る男の存在に。

 

「どうしたのですか?私に構わず続けてください」

「何時からいたんだよ、シュウ!」

「何じゃこりゃー!のあたりからですかね」

「いるんなら言えよ!」

 

 なんでここに?それよりこいつ撮影したのか。

 

「おい消せ!今すぐ俺の"かめはめ波"を消せ!」

「今ちょうど母に画像を送ったところです」

「ちょっとぉぉぉおおおおお!!!何してくれてんのぉぉぉおおおおおお!!!!」

「おや、早速返事がきましたよ。「ウマスタグラムに載せてもいいかな?マサ君」ですって」

「ネオさんんん!!!やめてぇーーー!!!!SNSって怖いのよ!!!」

 

 もうだめだぁ、ネオさんから母さんへは確実に流失するね!恥ずかしい!

 

「おめでとうございます。操者となり愛バ・・・騎神を手に入れましたね」

「いろいろ聞きたい事があるが、こっちの状況は把握しているんだな」

「ええ、それなりには」

「すぐにクロシロの所に向かう。お前も付いて来るか?」

「今のあなたが行った所で、足手まといなのでは?」

「わかってる、それでもあいつらだけ戦わせるわけには」

「そうですか・・・それ」

「ちょ、何しやがる!」

 

 拳を振るってきたシュウ、しっかりガードする。

 見ればシュウの体からも覇気が出ている。こいつ覇気を乗せたパンチをしたのかよ。

 

「体はちゃんと動くようで何より、覇気も感じられてますね」

「おかげさまでな。母さんたちとの"遊び"は訓練だったみたいだし」

「久しぶりに相手をしましょう、もちろん覇気を制御しながらです」

 

 いきなり開始された格闘戦。

 体に覇気を纏い互いに身体能力を強化して、激しい攻防が始まる。

 わかってる、これも訓練なんだろ。

 短い時間で俺に覇気を使った戦い方をレクチャーするつもりかよ、ありがてぇ。

 でも、かめはめ波をネオさんに送ったのは許さないので、ちょっと本気で相手する。

 

「常に覇気を全身に巡らせる事を意識しなさい。攻撃防御インパクトの瞬間、各部位に覇気を集中します」

「こうか?殴る時は手に、走る時は足に・・・」

「それを考えずに当たり前のように行うのです。呼吸や心臓を動かすのに考えていないように」

 

 殴る、蹴る、跳ぶ、走る、守る、俺たちの息が合ってきたのか円舞ように攻撃と防御が噛み合っていく。

 久しぶりでも忘れていない、ガキの頃から何度も組み合った相手。

 母さんとネオさんの教え、一緒に切磋琢磨したシュウが俺という人間を形作っている。

 何度か攻防を続け、覇気の制御と体術のカンを取り戻した所で終了。

 10分にも満たない時間だが濃密な訓練だったと思う。

 

「こんな所ですか・・・付け焼き刃ですがね」

「もういいのか?」

「まだアルクオンは停止していません。向こうはまだ戦闘中ですよ」

「そうだな、完璧になるまで訓練してる暇はないか」

「では行きなさい、くれぐれも油断なさらず」

「お前は来ないのかよ」

「もしもの場合に備えて増援の手配をしておきますよ、先に行ってください」

「わかった。助かったぜ」

「お礼はあなたの愛バの写真でいいですよ」

「考えておく」

 

 シュウと別れ覇気がぶつかり合う戦場へ向かう。

 待ってろよクロシロ!あ、ボンさんも。

 

「やれやれ、行きましたか・・・」

 

 マサキの姿が見えなくなった後、その場に膝をつく。

 先程の訓練でシュウの覇気は限界寸前まで消費された。

 上手くごまかせたが、何度かこちらのガードをすり抜けてダメージをもらっていた。

 予想の遥か上の覇気に完全に飲まれた。

 

「わかったつもりでいましたが・・・とんでもない覇気ですね」

 

 全身に纏った覇気による強化補正が桁違いだ。

 一撃一撃の威力と体の頑強さ、素手でも並みのウマ娘など敵ではないだろう。

 あの力は騎神クラス・・・今後の修練しだいでは操者という枠に収まらない可能性もある。

 

「ふむ。私も一から鍛え直しですね」

 

 まだ弟分に情けない姿を見せるわけにはいかない、兄貴分としてのプライドがある。

 母たちに折檻されている姿はノーカンだ。

 

「あなたがウマ娘と紡ぐ物語はここからが本番です。期待してますよマサキ」

 

 

【騎神三人VSアルクオン】

 

「本当に何なんですかこいつ!あーくそっ!」

「わっ!とと、今のは危なかったね」

「バッドステータス「焦燥」を確認。三人でリンチするはずが、逆に追い込まれています」

 

 騎神三人は防戦一方を強いられてた。

 クロシロがブルボンに合流した直後、アルクオンの動きが変わった。

 ブルボンとクロを薙ぎ払い、シロをその剛拳で吹き飛ばす。

 これまで以上の猛攻に感情がないはずの機体から、明確な怒りと殺意を感じる。

 

「いっ・・・たいなぁ!もう!まだ私名乗ってないのに!ずるいです!私にもカッコよく名乗らせて!」

「アルクオンがマジギレしてるんだけど」

「覇気出力30%上昇を確認、なおも上昇中・・・この状況マズいです」

「あれ?加勢に来たのはずなのに足引っ張ってる」

「マサキさんを私たちに取られて"激おこぷんぷん丸"なんですね、わかります」

「無事契約完了したようですね。おめでとうございます」

「ありがとう。えへへ照れるね////」

「ありがとうございます。いや~いいもんですね愛バになるって////」

 

 幸せな空気をぶち壊すようにアルクオンが迫る。

 三人で即席のフォーメーションを組んで対処するが、その悉くが通用しない。

 アルクオンの攻撃一つ一つがこちらの覇気と命を削りに来る。

 

「がぁぁ!パワーが違い過ぎる!」

「つ、強い!強過ぎるぅ!」

「バッドステータス「島田兵」を確認。二人ともまだ戦えますか?」

「実は先程の一撃で折れてませんが、右腕が上がりません・・・ヒビ入ったかも」

「大丈夫?私は契約前から足がプルプル痙攣してた、タイマンの傷が今になって」

「奇遇ですね。最初の不意打ち時、利き足をやってしまったブルボンです」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「「「ヤベェ!!!」」」

 

 騎神三人の優位性が負傷者三人という不利な状況になっていた。

 まともに攻撃を受ける事は即戦闘不能を意味する。

 回避に専念し逃げ回るだけの時間が続く、「この屈辱忘れはせんぞ!」と三人は思った。

 

「エネルギー切れは?どうしてあの子はまだ動けるの?」

「気付きませんか、あいつ攻撃するたびにこっちの覇気をぶんどってますよ」

「なにそれずるい!ウマ娘の覇気は受付ないはずじゃ」

「戦闘継続時間の延長を可能とする特殊機構。その際、覇気を吸収する対象は問わないと推測」

「本当は人間の覇気が食べたいけど、ウマ娘の覇気も我慢すれば食べれるって事か」

「嫌々食べないでくださいよ、失礼な!」

 

 エネルギー切れはしない、こちらは負傷中、戦闘力は向こうが上・・・。

 これは詰んだか、いやまだだ、考えろ何かないか、何か。

 

 その時、離れた場所から強い覇気の噴出を感じた。

 自分たちだけでなく、アルクオンもそれに注意をはらい動きを止める。

 あそこはさっきまでいた公園、契約の場所、この力強くも優しい輝きの覇気は・・・。

 

「・・・・っ」

「・・・マサキさん」

 

 目覚めたのだ彼が、私たちの大事な操者が。

 アルクオンが騎神たちを無視し移動を開始しようとする。

 何処へ?決まっている。当初の目的である最高のご馳走の所へだ。

 

「「行かせるかぁあああ!!!」」

 

 痛む体を気にしていられない、全力でこいつを止める。

 操者を狙う相手に愛バの本能である感情が爆発する。

 

 おい!何をしに行こうとした?お前ごときがあの人に触れようとするな!

 あの人は私たちのものだ!覇気の一欠けらすらくれてやらない!ふざけるな!!!

 

 アルクオンの体にしがみつき引きずり倒す。

 爆発した感情が覇気を一瞬だが増幅させパワーが上回った結果だ。

 そのまま自分たちごと押さえつけ固定する。逃がさない!

 

「ブルボンさん!!」

「やってください!!」

 

 二人の意図を理解した三人目の騎神は既に上空へ跳躍済み。

 

「了解。全力で行きます!究極ブルボンキック!!!」

「「技名ダサっ!!!」」

 

 地面に縫い付けられたアルクオンの胸部へ、騎神の脚力に膨大な覇気を乗せた一撃が炸裂する。

 その衝撃は固定をしているクロシロにも伝わり、地面に大きなひび割れとクレーターを創った。

 堪らずアルクオンの装甲が弾け飛ぶ、むき出しとなった体の中心、核に当たる部位に追撃をしようとするが。

 

「うそ!」

「・・・こいつ!」

 

 アルクオンが跳ね起きる、しがみついたクロシロを物ともせず。

 そしてその剛脚をブルボンにお見舞いする。

 

「っ!?」

 

 最初のお返しとばかりに放たれた蹴りを、まともに受けたブルボンは吹き飛ぶ。

 受け身を取る事もかなわず、海上に放り出され沈んでいく。

 

「いけない!シロちゃん!」

「・・・・ちいっ!」

 

 シロを振りほどき、まだ腕にくっついているクロを地面に叩きつける。

 

「がはっ!」

 

 何度も何度も何度も、邪魔者の反応が消えるまで続けられた。

 意識を失ったクロを無造作に投げ捨てる。

 

「クロちゃん!起きてくださいクロ!起きろ!キタサンブラック!!」

 

 クロに呼び掛けながら救出を試みる。

 三対一でも勝てない相手、だけど相棒を捨てて逃げる事はできない。

 海に落ちたブルボンも心配だ。

 何よりここでこいつを止めないと・・・。

 

「操者のために命をかける、愛バ冥利につきますね」

 

 諦めてたまるか。

 

 

【マサキ】

 

 おーおー、なんか派手にやってる。

 衝撃と轟音が響く、見えるようになった覇気がバチバチ飛び交っているのがわかる。

 急がないとな、母さんのとの追いかけっこ思い出す。

 風のように軽やかに走る姿、きっとこんな感じで覇気を足に。

 地面を蹴るときに覇気を使い、一歩の距離を伸ばす。コツをつかんでそのまま加速。

 跳ねるように走り抜ける、最高速を上げていく。

 

「クロ、シロ、ボンさん」

 

 まだ三人の覇気を感じる。感じるのだが・・・酷く弱っている。

 そして最初にボンさん、次にクロの覇気が小さくなった。消えてないよな?嫌だ!

 「チャドの霊圧が・・・消えた?」みたいにな事はマジで勘弁してくれ。

 不安に駆り立てられさらに速度を上げる。

 落ち着け、アルクオンを前に冷静さを失ってはいけない。

 覇気を使った本気の戦闘、俺の初陣。勝利条件は全員が生き残る事。

 向こうが格上だ、無理に倒さなくていい。サトノ家やシュウの増援が来るまで生き残る。

 とにかく冷静にクールになれマサキ!・・・見えた!

 

 俺、参上!

 

 ボンさんがいない。

 クロが倒れ伏している・・・動かない。

 そしてシロが・・・首を締め上げられもがいていた。

 

「あ゛!?」

 

 キレるという言葉を今はじめて理解した。

 

 覚えていない、どうやって移動したのか。

 覚えていない、アルクオンの片腕を根元から粉砕した。

 覚えていない、シロを救出して腕に抱えていた。

 

 本当に覚えていない、ただ冷静とは真逆の感情が俺を突き動かしただけ。

 あーちくしょう!やったな、やってくれたな!上等だ!

 逃げる?増援を待つ?嫌だね!こいつはここで潰す!!!

 ごめん!母さん、ネオさん、シュウ、無理だった、我慢できなかった。

 初陣なのに命のやり取りなんてしたことも、覚悟もないのに。

 俺は今から命をかけてこいつを倒す!!!

 こんな時三人は「行って来い!」て言ってくれるよな。

 名乗りなんて上げない、ただ衝動のままに宣戦布告する。

 

「おい!なに人の愛バ勝手にボコってんだ」

 

 俺史上最大のガンを飛ばして告げる。

 

「解体するぞ!コノヤロウ」

 

 

 



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とどろき、はかいせしもの

「解体するぞ!コノヤロウ」

 

 アルクオンの片腕を勢いでぶっ壊した。

 さて、ここからどうするか。

 アルクオンの判断は早い、残った腕をこちらに振るう。

 シロを抱えて緊急回避する。

 というかシロ息してるよね?大丈夫だよね?ねえ!

 

「かはっ・・・けほっ、けほ・・・」

 

 良かった、生きてた。

 まだむせているシロをしっかり抱き寄せて、背中をさすってやる。

 

「マサキさん・・・クロちゃんとブルボンさんが」

「わかってる。無理に喋るな」

 

 クロの所まで下がる。

 

「クロ!」

 

 覇気の残量が少ない・・・ならば、俺の覇気を分け与えるのみ。

 契約を結んだ者同士だ、それぐらいできるだろ。

 やり方?知らん!回復魔法を使うイメージ・・・ホイミ?ケアル?どっちが良い!

 シロを降ろしてから、クロをギュと抱きしめる。

 頼む、目を開けろ。お前はこの程度で終わるウマ娘じゃないだろ。

 自分の覇気出力をあげる、光の粒子が俺からクロへ伝わって行く。

 シロが息をのむ、そしてクロが意識を取り戻した。

 

「あはは、幻覚かなマサキさんが見える・・・」

「俺は本物だ。また酷くやられたな」

 

 これで二人は大丈夫、ボンさんは・・・。

 ああ、そういう事かボンさんはお前の・・・そっちは任せるぜ。

 

「ボンさんも無事みたいだぞ、二人ともよく生きてたな、偉いぞ!」

「「・・・っ!」」

 

 泣きそうになって抱きついて来る二人。

 少し離れていただけなのに、やっと再会できたみたいだ。

 頭を頬を擦りつけてくる、そうすることで自分の存在を俺に刻むかのよう。

 もう歯形がバッチリ刻まれているけどね!

 ウマ娘というか二人の愛情表現はいつも全力だな。だから尻尾痛いって!

 二人の頭を撫でながらアルクオンを見据える。まだこっちに来ない。

 そうだよな・・・お前本当は、空気が読めるんだよな・・・少し待ってろ。

 

「落ち着いたか?まだ終わってねえから、このくらいでな」

「うん。ぐすっ、マサキさん・・・」

「う~・・・はい。ひっく、大丈夫でず」

「あーあー、もう二人とも鼻水が・・・ほれ」

 

 こんなこともあろうかと、ハンカチとポケットティッシュは常備しておいて損はないね。

 涙と鼻水を拭いてやる。はい、キレイになった。女の子はいかなる時もキレイにね。

 三人でアルクオンに向かい合う。

 

「でどうよ?結局こいつどうやったら倒せるんだ」

「相手の覇気を吸収する芸を使いだしました。最初に会った時とは別物です」

「それよりあの子の腕・・・誰がやったの?」

「俺だ、気づいたらぶっ壊してた」

「うそ・・・私の操者凄すぎ////」

「私たちのですよ!!その調子で残りの手足も、もぎ取れますか?」

「無理だな。もう俺は警戒されてるみたいだし、どうやったか覚えてねぇんだ」

「私を救うために、無我夢中だったんですね////」

「私たちをね!!独り占めはダメだよ」

「そっちこそ、独り占め狙ってるんじゃないですか?」

「・・・・」

「沈黙は肯定とみなしますよ、腹黒」

「うるせーよサトイモ」

「あ!」(やんのかゴラ!)

「お!」(やったらぁこいや!)

「なんでお前らが一触即発になってんの?」

 

 ねえ?今それどころじゃないのわかってる?

 アルクオンさんもいつまでも待っては・・・くれませんよねー。

 咄嗟にクロシロを両脇に抱えて跳ぶ。

 俺たちがいた場所に剛脚が死線を描く、竜巻旋風脚?そんな芸当もありかよ。

 

「マサキさん、持ち方が雑です」

「仕方ないだろ、二人いるんだから」

「じゃあこうすれば・・・よいしょ」

「よせ!首にしがみつくな。締まる」

「では、私は正面からいきます」

 

 背中にクロ、胸元にシロが抱きついた。

 何これ?こんなボディパーツ嫌だわ。

 この鎧は生きてるんだぜ・・・てアホか!!!

 

「いいね、ずっとくっついていたい」

「もう離しませんよ。まさに一心同体」

 

 しかも呪われていた。

 もういい、このままやってやんよ!

 女児二人を体に装備して戦う男・・・ひでぇ絵面だ。

 

「やるぞ!いいなお前ら!」

「ホントにこのまま戦うの?楽しそう!」

「やはり私たちの操者は、ひと味違いますね!ぶっ飛んでます」

 

 こっちから攻める!アルクオンに接近して覇気を纏った拳を叩きつける。

 片腕なのを感じさせない動きで反応され防御される。

 こちらを捕まえようをして、アルクオンが腕を伸ばす。

 右腕を掴まれた。

 

「ぐっ!しまった」

 

 覇気を持って行かれる、こうやって接触した相手から吸収するのか。

 やばい、このままじゃ・・・・なんてな!

 掴まれた右腕はそのままに、アルクオンの片腕を俺からも掴んで動きを封じる。

 これで俺もお前も動けない。だが忘れんなよ、これはタイマンじゃない。

 三対一なんだぜ。

 

「おらぁ!」

 

 無防備になったアルクオンの顔面に拳が突き刺さる。いいのが入ったな!

 やったのは俺のボディパーツ(前)のシロだ。

 俺から距離を取ろうとするアルクオン、残念!逃がしません。

 その間もシロは連撃を叩き込む。

 

「散々舐めたマネしてくれましたね。もっと苦しめ、このポンコツがぁぁああ!!!」

「いいよ、シロちゃん!もっとやれ!」

 

 顔面に亀裂が入る。効いてる効いてる。

 押さえつけるもそろそろ限界か・・・。

 耳元でクロが囁く。

 

「離れて!来るよ」

「シロ戻れ!」

「はい」

 

 自身が一方的に殴られる事に、痺れを切らしたアルクオン。

 奴の動きにいち早く気づいたクロに従いシロを回収、バックステップ。

 アルクオンの攻撃が空振りに終わる。ざまぁ!

 

 追撃に来るアルクオン。

 やっぱり子供とはいえ、二人も貼り付けていたら動きが鈍るな。

 胸元シロ、背中クロ、二人の鼓動を感じる・・・大丈夫、俺たちは今、三位一体だ!

 

 アルクオンが肉薄する直前に、シロを空中に放り投げる。

 身軽になった俺は激しい攻防を開始する。

 殴打と蹴りの嵐、一撃が重たいな!ちくしょうめ!

 俺とアルクオン、渾身の力を乗せた蹴りがぶつかり合い、周囲に衝撃が迸る。

 いってぇぇええー!覇気が無かったら、下半身を丸ごと持って行かれる威力だわ。

 その一瞬を逃さない!

 

「せいやっ!」

 

 アルクオンに強烈な蹴りが直撃する。またしても顔面、弱っている所を狙うのは常道です。

 俺のボディパーツ(後)のクロが放った一撃。

 俺の背中に張り付いてから、ずっと溜めていた覇気を蹴りに乗せぶちかます。

 

「そらよっ!」

 

 続けて俺も攻撃。

 脆そうな関節部付近を狙ったつもりが、男なら絶対に攻撃されたくない所にヒットした。

 なんかゴメン。

 

 俺とクロの連撃でグラつく巨体、仰向けに倒れそうになるアルクオン。

 そこへ・・・。

 

「くたばれぇぇええええ!!!」

 

 上空から飛来したシロが顔面を踏みつぶし、その頭部を地面にめり込ませた。

 しゃあ!決まった!今のいい感じだったな。

 二人がどう動くのか、俺がどう動くのか全てわかり合っていた。

 これが操者と騎神の絆というやつか。

 二人がまたしがみついて来る、いや、もういいって。

 

「私たち、完全にマサキさんの無線誘導兵器だったね」

「ファンネル・・・ビット・・・いえ、ハイファミリアと名付けましょう」

「いつまでしがみついてんの?もう降りなさいな」

「えー、まだいいじゃん」

「ふざけて引っ付いてるだけじゃないですよ、ほら覇気を見てください」

 

 クロシロの覇気が増加している。

 あれだけ戦ってなぜ増えている?それになんか二人とも血色がいい。

 

「マサキさんのそばにいるとね、とっても元気になるんだ」

「あなたの膨大な覇気が騎神に癒しをもたらす・・・愛バである私たちは、特にその影響が大きいようですね」

「いてくれるだけで、パーティー全員が毎ターン回復するやつ」

「とんでもないパッシブスキルですよ。さすがマサキさん」

 

 いつの間にか全体オートリジェネを習得していた。

 俺の近くにいれば回復するのか、なら好きにさせてやろう。

 よいしょっと。クロを右手でシロを左手でホールド、二人を抱っこする。

 小さい、軽い・・・この体のどこにあんな力が・・・。

 二人の重みと温かさを感じながら、アルクオンを見る。動くなよ、もう止まってろ。

 立つなよ、立つなよ、立つな・・・。

 ちょっ!耳に息を吹きかけるな!・・・二人同時はだめー!ゾクゾクしちゃうのー!

 

「終わったのかな?」

「顔面は完全に破壊しましたが、やつの核はまだ生きてます」

「今のうちにトドメを差すのが正解か」

 

 露出した胸部の中心にある玉?たぶんアレが心臓部である核。

 アレさえ破壊すれば・・・・。

 おや?アルクオンの様子が・・・。

 

「なあ、なんかあいつの核が点滅してるんだが」

「残りの覇気を集中してるね、周囲からも可能な限り覇気を集めてる」

「嫌な予感がするな、点滅の感覚、覇気の脈動・・・まさか」

「カウントダウンですね。負けたロボットの最後の悪あがき、お約束です」

「自爆かよ!」

 

 やらせるか!

 クロシロをアルクオンに投げつける、酷い扱いだが許せ!

 投げられた二人は核に攻撃を仕掛けようとして、横から飛んできた物体に阻まれた。

 

「「なっ!」」

 

 あれは、俺がもぎ取ったアルクオンの腕?遠隔操作だと!

 覇気で分離した自分の腕をコントロールして攻撃、何でもありか!

 

「このアルクオン凄いよ!さすがサトノ家の家宝!」

「ディアナがそんなに好きかぁーーー!!!」

「ターンXやめろ!」

 

 シュウはギンガナムのものまねも得意だったな。

 二人が腕に阻まれている間に立ち上がる本体、カウントダウンは継続中。

 じゃあ俺がやるしかない!

 一直線に突っ込んでくるアルクオン、迎撃準備て・・・は?

 俺に殴りかかろうとしたのはフェイント、片腕で俺をハグするアルクオン。

 こんなやつに抱きつかれても嬉しくない!何が目的・・・。

 

「離れてください!マサキさんそいつは」

「道連れ!道連れにするつもりだよ!」

 

 え?うそ・・・俺ごと自爆する気?

 砕けてウォーズマンの素顔みたいになった顔面が、笑った気がした。

 いやぁぁぁあああああぁああああああああ!!!!!!!

 

「HA☆NA☆SE!!」

「マサキさん!くそっ、腕だけの分際で」

「あーもう邪魔すんな!」

 

 遠隔操作の片腕一本のみでクロシロを押さえ込み、本体は俺に組ついて自爆。

 なんてこった!

 

「離せ!離せってんだよぉ!クロシロお前たちはここから離脱しろ!!」

「そんな!置いていけません」

「嫌!」

「自爆した時の威力がわからん!もしかしたら俺だけなら耐えれるかも」

「無茶です!アルクオンの覇気残量と、今マサキさんから吸収した分があれば、この近辺は吹き飛びます!」

「やだ!やだよ!ぜったいや!」

 

 あーやっぱり、こいつらは俺を置いて逃げる選択はしないか・・・嬉しいねぇ。

 このままじゃ三人ともお陀仏だ、自爆を止める方法・・・こいつを破壊する方法。

 外側の堅牢な装甲と覇気に阻まれてダメージが通りにくい。

 核がむき出しなのは相手も承知、核を覇気の外殻で何重にもコーティングしてやがる。

 外からの攻撃はダメ・・・だったら内部から・・・。

 南斗聖拳・・・北斗神拳・・・内部破壊・・・。あー思いついたわ。

 後は俺の覇気量がどれくらいあるかだな・・・よし蛇口を緩めるぞ!

 

「マサキさん!?覇気が・・・」

「え・・・何これ・・・どんどん上がっていく」

「ふー、やっと楽になった・・・今までずっと閉めていたからな」

「閉めていた?何を・・・まさか今までずっと、覇気を出さないようにしてたんですか?」

「あれで?いや大量に出てたじゃん!・・・」

「まだ全然出してねぇよ、おかげでさっきから暴発しそうでな、クシャミみたいに」

「「・・・・」」

 

 そうだずっと体の奥がムズムズしてたんだよ。

 早く出せ!もっと暴れさせろ!何年待ったと思っている!ああ、うるさいうるさい。

 望み通り出してやるよ、だからちゃんと仕事してね。

 

「さあ!出てこいやぁ!俺の覇気ども!!!」

 

 オォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

 光の奔流、あふれ出した覇気の輝きが周囲を埋め尽くす。

 夜中だというのに昼間以上の眩しさ、その中心にいるのは・・・本当に人間なのか?

 自分たちの操者がまともではない事を改めて理解するクロシロ。

 

「お前さぁ、腹が減っていたんだよな?だったら存分に味わえ!」

 

 アルクオンに向けて覇気を送り込む。

 どんどん食えや!

 

「おかわりもいいぞ!」

 

 さらに覇気を送り込む、まだだ!まだまだまだまだまだまだまだ!!!!!

 どうした?何遠慮しているんだ、これが欲しかったんだろ?

 俺の愛バを傷つけて、無理を悟れば自爆する覚悟があるほど望んだものだぞ!

 ・・・ピシッ!核に亀裂が入る。

 おや?なに離れようとしてるんだ自爆するんだろ?

 心中までしようとした俺とお前の仲じゃないか、今更水臭いぞ!

 前菜はここまで、メインディッシュは今からだぞ。

 

「なんだお前、全身ヒビだらけじゃん」

「・・・・」

「もう食えないってか?はぁー知らないのかよ、出された食事を残すのは失礼なんだぞ」

「・・・・」

「だんまりか・・・もしもクロシロより先にお前に会っていたら、お前の操者になれたのかな」

「・・・・」

「考えても仕方がないか、とにかく俺はあいつらと行く。お前はもう休め」

「・・・・」

「最後に食事を残そうをするお前に、この言葉を送る」

 

「お残しは許しまへんでっ!!!!!!!!!!!!」

 

 思いっきり覇気を流し込む。

 アルクオンの核、全身に亀裂が入り体が崩れていく。

 そして点滅を繰り返していた核は砕け散り、溜め込んだ覇気は霧散し俺の覇気に吸収された。

 アルクオンだった物が停止する・・・一人の人間と残骸を残して。

 

 ふぃー何とかなった。完全勝利!初陣にしては上出来だよな。

 あ、でも・・・まだ・・・。

 

「「マサキさん」」

 

 クロシロが俺に駆け寄って来る、遠隔操作腕も停止したようだ。

 

「ステイ!ちょっと待って、まだ近づくな!」

 

 二人を手で制してストップをかける。

 まだこっちに来ちゃダメだ。

 

「どうしたんですか?まだアルクオンが・・・」

「体大丈夫?もしかして覇気が無くなった?」

 

 大人しくその場で待機し、心配そうにこちらを伺う二人。

 

「違う違う。ちょっとクシャミが・・・あーダメだもう一回全部出すわ」

「クシャミ?」

「まさか・・・まだ覇気を出し切ってない!どんだけ!」

「よーし、一気に出すぞ。お前らちょっと離れてろ」

 

 やっとスッキリできる。待たせたな!

 そして体の奥から湧き上がる力の全てを開放する。

 全力全開!!!せーのっ!!!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 

 天に向かって吠える。もはや人間のそれではなく獣の咆哮!

 覇気が空気が爆発する光の粒子が周辺のみならず、遠く離れた町の隅々まで拡散する。

 衝撃はないが覇気の波が体を通過するたびに魂が震える。

 天に昇る光、雲を貫通し夜空をの星々をも照らす。

 ビッグバン・・・新たな宇宙の誕生を告げるかのような光景。

 

「「・・・・」」

 

 操者を見守る幼き二人の騎神。

 もう声すら出ない、想像を絶する光景にただただ立ち尽くす。

 ・・・ああ・・・この人はどこまで・・・。

 やっとのことで口を開く、その声は抑えられない歓喜に満ちていた。

 

「はは・・・は・・・あははははははは!!!最高!うん!ホントに最高だよ!!!」

「見てくださいクロちゃん!!あれが、あの人が私たちの操者です!!!!!」

 

 



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いっぽうそのころ

 いやぁ・・・アルクオンは強敵でしたね。

 

 

【シュウ】マサキがクロシロと合流後

 

「ただいま戻りました、マスター」

「お帰りなさい。あーあー、ずぶ濡れじゃないですか」

「はい。夜の海水浴は無謀であると理解しました」

「足も痛めているようですね。ちょっと待ってくださいよっと」

 

 帰還してきた愛バ、ブルボンにタオルを渡す。

 こんなこともあろうかと、備えあれば患いなしだ。

 負傷した足に手を当てて、覇気によるヒーリングを行う。

 愛バへの覇気の補給と、ケガの治療は操者の基本スキルだ。

 

「戦闘が開始された模様です、私は加勢しなくていいのでしょうか」

「あなたは十分に戦いました。後はマサキたちに任せましょう」

「了解。マスターと共に待機して戦況を見守ります」

 

 今日がマサキの初陣。先ずはお手並み拝見と思っていたのだが・・・。

 ・・・は?まてまてまて、いったい何をしてる。我が目を疑う光景が展開される。

 

 遠目でもわかる、なんだあの戦い方は!

 

 操者は後方に位置し、戦況を分析して作戦指示を出しながら、覇気の供給とサポートに徹する。

 騎神は前に出て操者を守り、指示を忠実に遂行しながら戦う。これが普通。

 

 だがあの三人は違う・・・。

 

 操者が一番前に出ようとする、騎神へ攻撃が行かないように受け止める。騎神はそれを止めない。

 覇気を湯水のように垂れ流し、必滅の一撃を連続で繰り出す。

 羅刹機でなければ最初の一撃で終わっていただろう。

 そもそも対騎神用兵器と素手で殴り合いをしている人間・・・訳がわからない。

 作戦も何もあったもんじゃない、あれはアドリブだ。

 その場の勢いと流れで決めたやり方を、瞬時に全員が共有する。

 覇気の供給と回復はしていない・・・違う、常にやっているだと!本人は気づいてないし。

 戦いながら範囲内の騎神を複数同時にサポート、ありえない。

 

 二人の騎神もおかしい。

 見た感じ10歳前後、あの年であれだけの技量と度胸をもつ騎神はそういない。

 操者の凶暴すぎる覇気を受け入れる優れた資質、並みの騎神はあの覇気に耐えられない。

 操者に二人で抱きついた時は、気でも狂ったのかと思った。

 そのふざけた行動すらも、理にかなった結果をはじき出す。

 密着することで自身の回復を早め、操者を守りつつ、連携攻撃を可能とした。

 全て考えての行動?・・・いや、ただ甘えたいだけか・・・戦闘中にやるな。

 操者を守りながら、任せられる所は任せる。完全に自分たちと同等の戦力として組み込む。

 

 各々が自身の判断でメチャクチャな攻撃をする。

 まるで三人で戦果を競い合うような戦い。

 それが見事に噛み合い絶大な威力を生み出す。

 相手は堪ったものではないだろう、気づいた時には奇行種たちによって、追い詰められているのだから。

 アホだ!アホすぎる。

 あまりにも異常、あまりにも規格外・・・だがしかし。

 

「強いですね。私と三人で戦った時の何倍もいい動きです」

「水を得た魚・・・操者を得た騎神ですか」

 

 あの三人は強い、それは紛れもない事実である。

 これが契約直後のチームだと言うのだから恐ろしい。

 しばらくして戦況に変化が訪れる。

 

「覇気の収束を確認。アルクオン、憧れの自爆シーケンスに入りました。」

「そんなものに憧れないように、自爆なんて許可しませんよ」

「了解。マスターに大切にされていると認識。ボンさん思わずニッコリです」

「ボンさん?」

「あだ名をつけていただきました。気に入っております」

「人の愛バに何やっているんですか、マサキ」

「ボンさんの継続使用許可を申請します。それともマスターがつけてくださいますか?」

「私がですか?・・・"もりそば"か"うおのめ"なんてどうで・・・」

「ボンさんでお願いします!以降新たな呼称を付与することは断固拒否します!」

「被せ気味に即答されてしまいました・・・ションボリです」

 

 ネーミングセンスが終わっていた。

 向こうでは、マサキが自爆しそうなアルクオンに組みつかれて。

 おや、流石にピンチですか?

 

「危険度上昇中。非常にマズい状況だと判断します。よろしいのですか?」

「ええ、我々はこのまま観戦します」

「マサキさんはマスターのご友人、兄弟も同然だと伺ったのですが」

「そうです大事な家族ですよ。しかし、手は出しません」

「理由を求めます。なぜですか?」

「この程度の試練をクリアできないようでは、来たるべき激動の時代を生き残れませんよ」

「無理なら一層の事ここで果てろと?・・・鬼ですかアンタは」

「アンタって・・・まあ見ていなさい、私の弟分は伊達じゃありませんから」

 

 覇気を送り込み内部崩壊を狙ったマサキ。

 成功したようだ、アルクオンが崩れ落ちる。

 勝った、三対一とはいえ人間が羅刹機に・・・。

 

「戦闘終了を確認。お見事ですね」

「理論上可能とはいえ過剰供給で内部崩壊させるとは・・・底が見えませんね」

 

 マサキの勝利を見届けて、一安心する。

 今回の事件を関係各所に報告しなければ、事後処理が大変ですね。

 母たちにも連絡を取らないと・・・。

 今後の方針を検討している最中・・・それは起こった。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 

 獣の咆哮が響き渡った。

 覇気の爆発が起こる、空が大地が光に埋め尽くされた。

 

「超特大の覇気を確認!総量計測不能!・・・信じられません」

「まったく、本当にあなたと言う人は・・・」

「教えて下さいマスター、彼は何なのですか?」

「間違いなく人間ですよ、ちょっと変わってますが」

「ちょっと?」

  

 天に立ち昇る光の柱を見ながら呟く。

 

「その光はあなたに更なる困難をもたらす危うい力です。ですが、人とウマ娘の未来を照らす希望の光でもあります」

「全てはあなた次第です。・・・それにしても」

 

 ああ・・・。

 

「なんと美しい・・・」

 

 覇気を感じられる者は、皆揃ってある予兆を感じた。それは新たな時代の幕開け。

 

 この日、日本いや世界中のウマ娘の尻尾が数分間ピーンとなった。

 

 

【同時刻・日本各所】

 

 マサキが盛大なクシャミ(覇気全力開放)をした時。

 力の強弱に関わらず操者とウマ娘たちは皆戦慄した。

 中でも特に強い反応を示した者たちがいる。

 既に騎神である者、力を自覚してない者、己の使命を知らぬ者、どうでもいい者・・・・。

 反応は様々、焦燥、恐怖、不安、歓喜、困惑・・・。

 

「お母ちゃ~ん!い、今なんか凄いのが・・・」

 

「いったい何?・・・この景色の果てはどんなに・・・」

 

「え、おばあ様はこの狂った覇気の持ち主をご存じなのですか?」

 

「何だよ今の!う~カイチョ~、ボク怖いよ~」

 

「覇気に悪意は感じない。せっかく思いついたギャグは忘れてしまったがな!」

 

「お、お、おう?な~んか面白れぇ奴がいるな」

 

「誰?・・・お兄様?」

 

「日本に戻ったかいがありました~。ふぅ、お茶が美味しい」

 

「とっても、とぉ~ってもイイ覇気デース」

 

「どんな策や仕掛けも通じそうにないな~。それにしても大物だ」

 

「私は1番になるの・・・なによ、怖くなんかないってば!」

 

「くぅ~すっげぇイカした覇気じゃねえか!燃えるぜ」

 

「わかっちゃった!この人バビューンて飛んでいっちゃう」

 

「あらあら、甘やかしてあげたいですね~」

 

「随分イキのいいモルモットがいるな」

 

「腹が減った」「お兄ちゃん?」「がんどうじだぁぁあああ!」「顔でかいからや!」「別に」

 

「ワォ!」「マッスル!」「バクシーン!」「チョベリグね」「タイマンしてぇ」

 

「主演は譲らないよ」「この渇き・・・こいつなら」「やる気が下がった」「ファンの気配」

 

「わ~凄い凄い」「シラオキ様お救いください」「あ~庶民の私にはキッツイなコレ」

 

「お~ほっほっ、ゲホッ!ゴホッ!・・・ゲフンゲフン!一流の覇気?」

 

「驚愕ッ!この覇気はいったい・・・」

 

「ようこそ!お待ちしておりました。未来を紡ぐ新たな操者の誕生を歓迎いたします」

 

 

【シュウ】

 

 覇気の流失が収まった後。

 サトノ家のものであろう多数の車両が現れ、マサキたち三人と羅刹機の残骸を回収していった。

 

「ふむ、今夜はこれにて一件落着ですね。帰りましょうか」

「はい。バッドステータス「空腹」を感知。晩御飯を所望します」

「はいはい。何が食べたいですか?」

「マスターの手料理なら何でも来いです」

「いいですよ。あなたも手伝ってくださいね」

「私は玉子焼きしか作れませんが善処します」

「昨日のあれは玉子焼きでしたか・・・ダークマターかと思いました」

 

 最近、一緒に暮らし始めた愛バとの関係はすこぶる良好だ。

 

「あの三人を見て、マスターと初めて会った日の事を思い出しました」

「真っ昼間から行き倒れを発見するとは、思ってもみませんでしたよ」

「その節は本当にありがとうございました。前日の過食が原因で消化不良を起こしていましたもので」

「いくらウマ娘でも食べ過ぎはいけませんよ」

「了解。マスターに優しく介抱して頂いたメモリーは永久保存です。忘れません」

「私も覚えていますよ。出会って5分のウマ娘に、ゲロぶっかけられた超レア体験を!」

「それは忘れてください!!!」

 

 ゲロはともかく、自分たちの出会いはよくある話だ。

 出会って、何度か一緒に行動して、仲良くなって、契約して今に至る。

 まあ、詳しく語ると本当に濃ゆいイベントだらけだった気がする。

 多かれ少なかれ、人間とウマ娘の日常はドタバタするものだと思う。

 マサキも僅か2日でこのありさま、今後も楽しく苦労するだろう。

 

「マサキたちを見て思いついた事があります」

「なんでしょうか?」

「ブルボン、あなたさえよければ、もう一人騎神と契約したいのですが?」

「バッドステータス「憤怒」。浮気宣言ですか?」

「気を悪くしないでください。あ、私の関節はその方向にはむり・・・それいじょうはいけない」

「明確な理由の説明をお願いします。返答次第では「暴走」もやむを得ません」

「マサキが覇気を開放できたのは、契約によって封印の扉が解除されたのではないかと」

「それで」

「私も体の奥でずっと何か・・・つっかえている気がするんですよ」

「それで」

「あなたと契約した時、私の覇気封印の扉が半分だけ開いたと仮定します」

「それで」

「もう半分を開けて全力を出すための鍵、もう一人の騎神が必要です。理解しましたか?」

「つまり私だけでは満足できないので、もう一人女を囲いたいと・・・」

「だいたいあってます」

「・・・戦力強化のためなら仕方ありません」

「わかってくれましたか。そろそろアームロックを解除してください!」

「騎神追加の件、了解しました。ですが条件があります」

「条件?」

「候補は私の検索にヒットするそれなりの力をもつ者に限定、契約時には私も立ち会います」

「いいでしょう。他には」

「私とのスキンシップを増加する事と、実家に来て父に会ってください」

「あなたの御父上にですか・・・ただの挨拶ですよね?深い意味はないですよね」

「はい。結婚を前提にお付き合いしていると、宣言してくださるだけで結構です」

「おや?変ですね、愛バが嫁にクラスチェンジしそうです」

「こういう事は早い方が良いと、お義母様もおっしゃってましたよ」

「お義母様?・・・まさか私の母に会ったんですか!」

「はい。先日、ご実家に挨拶して参りました。とても可愛らしい方ですね」

「フフッ、異常なスピードで外堀が埋まって行く、怖いですね」

「連絡先も交換済み毎日マスターの話題で盛り上がってます。嫁姑問題はクリアですね」

 

 ブルボンの行動力と母の間違った包容力に頭を抱える。

 

「その話はやめましょう。騎神候補の件ですが」

「検索条件を指定してください、ご希望をどうぞ」

 

 二人目の騎神・・・どんな娘がいいでしょうか?趣味全開でも許してくれますか?

 うーんと、そうですね。

 

「自己肯定感が低く自信喪失気味。健気な頑張り屋さんで、守ってあげたくなるような儚さと可憐さを備える。本気になった時は誰よりも男前!カッコカワイイの融合。自分の事を兄と慕ってくれる妹属性。この条件でお願いします」

「細かすぎる条件に引きましたが・・・データベース検索開始・・・一名ヒットしました」

「!?自分で言っておいてなんですが、いるんですか!そんなあざと・・・夢みたいな娘が」

「実在しております。マスターが好きな二次元の存在ではありません」

「言ってみるもんですね。年甲斐もなくワクワクしてきました」

「私をないがしろにすると、マスター特攻モード「ヤンデレ」を発動しますので、注意してください」

「そんなことしませんよ、まだ死にたくないですし」

「ところで、マスターはメカクレ女子はお好きですか?」

「フフッ、大好物ですよ!それが何か?」

「いえ、騎神候補には期待していいですよ。是非彼女のお兄様になってあげてください」

 

 そうして二人は家路に着く。

 二人にもう一人の仲間が加わるのは、そう遠くない未来。

 ちなみにダークマターを食した二人はお腹を壊した。

 

【サイとネオ】

 

 シュウが帰宅した頃。

 とある村の邸宅の玄関扉をガンガン叩く女性がいた。

 

「ネオ~、ネオってばぁ~開けてよぉ~」

「こんな時間に何よ、いくら田舎でも近所迷惑よ」

「ちょっと、晩酌に付き合ってよ~。今夜は一人でいたくない」

「サイさん・・・あなた酔ってるわね。もう弱いくせに何やってるのよ」

「うるさいな。私っだって飲みたくなる事もあるのよ・・・ゔぇっぷ」

「ちょっと!ここで吐かないでよ!あー世話が焼ける」

 

 少し前に大規模な覇気の放出を確認した。

 おそらく、いや確実にマサキだ。

 あの覇気量は封印が解除された結果。つまりマサキが誰かと契約した証だった。

 いつかこんな日が来るのはわかっていたが、大事な一人息子を取られた気がして荒れているのだろう。

 

「うう~マサキ・・・マサキがぁ~」

「はいはい。ゲロ吐いて少しは楽になったでしょ?マサ君にそんな醜態見せられないわよ」

「なによ、随分余裕じゃない。シュウだっていつかは契約するのよ、その時アンタ平静でいられる?」

「どうするも何も、この間シュウ君の愛バが挨拶に来たわよ」

「うそ!そんな楽しそうなイベントに何で呼ばないのよ、薄情者!」

「私たち二人で出迎えたりしたら、向こうが卒倒するかと思って配慮したのよ」

「で、どんな子だった」

「ちょっと表情が硬いけど、とってもいい子よ。今じゃ頻繁に連絡取り合ってるわ」

「なんだもっとドロドロした嫁姑戦争見たかったのに」

「そんな事しないわよ。私を何だと思ってるの」

「20年前、人間とウマ娘の連合軍を恐怖のどん底に陥れた、最凶最悪の騎神かしら」

「そうだけど!そうなんだけど!もう・・・黒歴史やめてよ」

「あ~どんな子と契約したんだろう・・・礼儀を知らないクソガキだったらマジで潰す!」

「今からケンカ腰でどうするの、大丈夫マサ君が選んだならきっといい子よ」

「だといいけど・・・マサキはロリコンの気があるから若い子だと予測するわ」

「愛息子をロリコン呼ばわり・・・まあブルボンちゃんも中学生ぐらいだったし」

「ならマサキの愛バは小学生それも良家のお嬢様ね!」

「・・・・」

「・・・・」

「サイさんのカンはよく当たるのよね・・・ロリコンでも暖かく見守りましょうね」

「中学生だって十分ロリコンじゃないの!何自分の息子はセーフみたいな顔してるの!」

 

 こうして夜が更けていく。

 息子たちの成長を喜び、親離れしていくことに少しの寂しさを感じた。

 夜空を見上げて思う。

 私たちは母として何が会っても子供たちの味方になると、たとえロリコンでも。

 

「シュウ君、マサ君・・・二人ともしっかりね。あなた達の行く先に幸多からん事を」

「行きなさい二人とも。他の誰でもない自分のために、新しい時代はすぐそこよ」

 

 

 



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おもい

「あースッキリした」

 

 眠っていた覇気を開放をました。

 出すもの出してスッキリ!う~ん体が軽くなった気がするぞ。

 

「終わったの?もう近づいても平気?」

「まだ漏れてますよ。元栓はしっかり閉めてくださいね」

 

 覇気のコントロールもスムーズにできるようになったみたいだ。

 言われた通りに元栓を閉める。うんOK!

 ボンさんは・・・ええと・・・あ、いた!シュウも一緒か。

 感度も良好、少し離れた相手の覇気も感知できるぞ。これは便利!

 

「ねえ、まだ?もう待てないよ」

「マサキさん、受け入れ準備をお願いします」

 

 クロシロがウズウズしながら俺を待っている。

 はいはい。ちょっと待ってね。

 覇気の調整はこんな感じでいいか・・・よし。

 待たせたな。

 両手を広げてバッチコーイの体勢をとる。

 

「よし、おいで!」

「「・・・・っ」」

 

 クロシロが胸に飛び込んでくる。

 がはっ!鳩尾に入った・・・いいタックルだ。

 なんとか二人を受け止める。

 

「勝った!勝ったよ!もう最高!あはははは!」

「やりましたね!私たちは最高のチームです!」

「よーしよしよしよし!うんうん頑張ったな」

 

 興奮気味な二人をあやしていく。

 大型犬にするような感じで思いっきり撫でまわす。

 そのたびに二人は気持ちよさそうに目を細める。

 尻尾をブンブン振り回し、体を俺に擦りつけるのも忘れない。

 良かった・・・全員生き残った、アルクオンも撃破した。ミッションコンプリート!

 

「ホント生きてて良かった。俺、今なんかすっげー幸せ」

「私も!」

「同じくです」

 

 しばらく三人で勝利の喜びを分かち合った。

 

「ブルボンさんは何処へ行ったのでしょうか?」

「派手にぶっ飛んだけど、生きてるよね」

「心配ない、どうやら俺の知り合いが操者みたいだし、あいつに任せとけば安心だ」

「やっぱり操者いたんだ・・・また会えるかな」

「次はもっと穏やかな状況でお会いしたいですね」

「必ず会えるさ、俺のサイドエフェクトがそう言っている」

「なんでワートリ?」

「言ってみたかっただけだ」

「集団戦闘の面白さがわかる良い漫画ですよね」

 

 シュウとボンさんも合流できたみたいだし・・・帰るか。

 うん?車が何台か近づいて来る、二人のお迎えが来たようだ。

 

「あ、来たみたい」

「なんかタイミングが・・・さては、"私たちVSアルクオン"を観戦してましたね」

 

 戦闘中もずっと何処かで待機していたのか、なによちょっとぐらい手伝いなさいよ!

 俺たちの前に大きな車が何台も停車する。ハマーというやつか?でっけぇ四駆だな。

 ゾロゾロと黒服が降車する。人間とウマ娘の混成部隊かな。

 

「じゃあ、俺は帰るわ。また今度会おうぜ」

「そっか、帰っちゃうんだ・・・」

「すぐにでも会いに行きます。私たちの絆は永遠ですから」

 

 今日は一旦解散!

 二人とはまた後日再開を約束してその場を後にする。ふー疲れたから今日はグッスリ眠れそう。

 と思っていら黒服に囲まれた。え、何この雰囲気・・・。

 

「何やってるの皆!その人は敵じゃない恩人だよ!」

「誰の命令ですか!父?・・・あのマダオめぇええええええ!!!」

 

 包囲陣を狭めて来る黒服部隊・・・仕方ないここは覇気を使ってでも・・・アレ?

 ダメだ覇気が使えない。どういうことだってばよ。

 

「覇気を無力化させる結界術式!これの準備で到着が遅れたんですね」

「これ・・・ママの得意技だ!ちくしょうー!」

 

 覇気が使えない?じゃあこの物量には敵いませんね・・・もうめんどくさいな~。

 帰って寝たいのに・・・あー眠たくなってきた・・・いいや寝よ。

 

「ちょ、どうして横になるの?捕まっちゃうよ!」

「あーもうどうでもいいよ、俺もう寝るからさ」

「寝るってここでですか?この状況で」

「どうせアレだろ、今からお前らの親の前に引きずり出されるんだろ?そういうイベントだろ」

「そうだけど・・・」

「抵抗するのもめんどくせぇ。好きにしろよ・・・もう疲れたからねるわ、あ、運ぶとき注意してね」

「その体勢で家まで行くんですか?」

「そうだよ。車はでかいし黒服さんもこれだけいれば、俺一人ぐらい運べるよね?それぐらいやれよ」

  

 クロシロだけでなく周りの黒服も困惑している。知った事か!

 

「ねえ、何してんの行くんでしょ?サトノ家。早く運べよ・・・ほらはよしろ」

「出会ってから何度も驚きましたが、これはまた・・・ある意味大物ですね」

「ホント飽きない人だね」

「早くしろよ、はーやーくー・・・あーダメだ、ふぁ・・・ねみぃ・・・」

「おねむだね・・・うんいいよ。そのまま寝ちゃって」

「はぁー、皆申し訳ないですがマサキさんを運んでください。くれぐれも丁重に扱うように、次期頭首からの厳命です」

 

 目を開けていられない・・・パトラッシュ・・・僕はもう疲れたよ・・・・。

 体が持ち上げられる感覚、黒服さんたちが数人で運んでくれるようだ。よしなに。

 ・・・・ゴンッ!

 痛ッ・・・頭に衝撃が・・・でも・・・いいや・・・ね・・・む・・・・。

 

「コラ!今落としましたね。98番と147番はトイレ掃除一週間の刑です!」

「起きないね。あ、たんこぶできてる」

 

 こうして俺は運搬された。

 母さん・・・覇気って・・・何なのさ・・・。

 

 夢の中で過去の記憶を思い出す。

 クロシロと出会ってから記憶の扉が開いたみたいだ、まるで二人の存在が鍵であるかのように。

 

【十数年前マサキ】

 

 俺と母さんが一緒に暮らし始めてしばらく経過した。

 この村はたしかにウマ娘が多い、なんでもここは"訳ありウマ娘の駆け込み寺"状態の村らしい。

 もちろん人間もいる。住民の3分の1が人間、3分の2がウマ娘と言った具合。

 最初は戸惑ったが皆とても良くしてくれたので、毎日快適に過ごしている。

 お隣の白河家とは特に仲良くしている。

 両家とも母子家庭だが、母さんたちがパワフルなので父親のいない寂しさを感じる事はない。

 まあ俺は元々施設育ちだし、シュウが何かと構ってくれたので問題なかった。

 ある日、俺は母さんと庭に出ていた。

 

「マサキ、今からあなたに封印を施すわ」

「ふういん?何を」

「ああ、見えていないのよね。ちょっと待ってよ・・・はい、これでどう?」

 

 俺の目を母さんが手で目隠しする。

 数秒後に目隠しが外されて目を開けると、キラキラ輝く光の粒が見えるようになった。

 

「うわ!何コレ?蛍?こんな昼間から」

「違うわ、それはあなたが出している力よ」

「うそん・・・いつもこんなキラキラ出してたの?恥ずかしい」

「安心して、普通の人間には見えないし、ウマ娘も見ようと意識しなければ見る事ができないわ」

「ハンター×ハンターの念みたいな感じ?」

「その認識で大丈夫よ。あなたはそのキラキラがちょっと多いから封印するの」

「なんで?何か不都合でも?」

「このままじゃ、一生ウマ娘にモテないか、変なのにモテすぎて困る人生の二択ね」

「緊急事態じゃないですか!やだー!何とかしてくださいよー」

「はいはい。私に任せなさい、すぐに終わらせるからね」

「信じてますよ母上!"風の騎神"は伊達じゃない所を見せてください!」

「その二つ名・・・バラしたのはネオね・・・"闇の騎神"め」

 

 母さんが俺の心臓近くに手を当てて何かを呟く。

 すると胸の奥がポカポカしてきた。じんわりと温かさが全身へと広がって行く。

 俺が出しているらしいキラキラが強くなってきた。

 

「母さんキラキラが増えたよ。これでいいの?」

「ええ。これであとは、ここをこうして・・・・と・・・・あれ」

「あれ?」

「いや、えーとちょっと待って、これは・・・え・・・うそ・・・やば」

 

 今、やばいって言った!

 キラキラの量がどんどん増していき庭を埋め尽くす。

 

「母さん!これ大丈夫?大丈夫じゃないよね!」

「見積もりが甘かったか、予想以上の覇気・・・これ私一人じゃ無理ね・・・ゴメン!」

「ゴメン!?どうするの?どうなるの!」

「私と家が"粉砕!玉砕!大喝采!"するわね。いや~まいったまいった」

「言ってる場合か!」

「こうなったら・・・ネオいるんでしょ!ちょっと出てきて手伝ってよ!」

 

 大声でお隣に呼び掛ける母さん。

 しかし、ネオさんは現れなかった。

 プラモ作りとアニメ(ロボもの)鑑賞中のネオさんは集中して周りが見えなくなる。

 もしも今、その最中ならば母さんの声は届かないだろう。

 光がドンドン強くなる。これ半端ないって!

 

「ちょ抑えが効かな・・・ネオー!ネオってば!このっ"暗黒大魔王""闇大帝""ダークプリズン"えーとそれから」

「何今の!ネオさんの二つ名?闇属性!超かっけー!」

「聞こえてるんでしょ!いいから出てきなさいよぉー!"ネオグランゾン"!!!」

「さっきからうるさいわね!真名呼ぶのやめてよ・・・可愛くないから嫌いなのに」

「ネオさん!こんにちは」

「あらマサ君、こんにちは今日はいい天気ね」

「それよりこっち!こっち見て!私今この子の覇気で爆散しそうなの!ヘルプ!ヘルプミー!」

「何やってるのよ・・・安心して、サイさんが爆散しても、マサ君はうちの次男として立派に育てるわ」

「勝手に殺すな!息子を取るな!いいから助けろやぁああああああああ!!!」

「はいはい」

 

 ネオさんが家の庭にやって来た。空間の裂け目から・・・。

 空間転移?ワープしたように見えたのは、たぶん気のせいだろう。

 母さんの手に重ねるように手を置いて、ネオさんが何かを呟く。

 金色の瞳に紫紺の輝きが宿る・・・ネオさん本気モードの証。

 しばらくしてキラキラが収る。

 母さんの目隠し(2回目)によってキラキラが見えなくなった。

 

「見えなくなった。消えたの?」

「消えた訳じゃないわ。あなたの中にしっかり収納しただけ」

「いつかマサ君が契約した時、キラキラはまた出てくるし、見えるようになるわ」

「そんなに抑えていられるの?何年保証?」

「10年は保証するわ。でもそれ以上はマサ君の成長に合わせて漏れ出してくるかも」

「この強大な覇気に飲まれない、騎神が誕生する事を祈るしかないわね」

「そうね。シュウ君にも手伝ってもらいましょうか」

「迷惑かけるわね」

「今更よ・・・それに最初に迷惑かけたのは私だしね」

「私の"コスモノヴァ"くらって涙目になってた、あなたが懐かしいわね」

「む。今ならあの時よりも強化された"縮退砲"見せてあげられるけどね!」

「遠慮するわ・・・疲れるし」

「そう残念ね。シュウ君から「こんなものポンポン撃つようなら親子の縁を切ります!」と言われた一品なのに」

「試し撃ちしたの?ばかじゃないの!・・・その場所どこ?今度私も連れて行ってよ!」

「サイさんも欲求不満なのね、たまには必殺技を撃ってスッキリした方がいいわよ」

「一応、国というか世界と約束しちゃってるから・・・まっ、たまにはいいか!」

「今度、皆でお出掛けした時にでも撃ち合いしましょう」

「そうと決まれば、この世から消えても良い地域を調べておかなきゃね」

 

 母たちが不穏な会話を繰り広げている。

 その光景をおれはボーっと眺めていた。

 本当はいけない事かも知れない、でもいつかは聞いておかないと・・・。

 幼い俺は勇気を出して二人に踏み込む。

 

「ねえ!ちょっと嫌な事聞いていい?」

「何?嫌な事?」

「サイさんだけじゃなくて私も?いいわよ言ってみて」

「・・・父親がいないのはなんでですかねぇ」

「・・・・」

「・・・・」

 

 二人が固まる、俺も固まる。

 言うんじゃなかったと後悔した。

 

「あーそこ突っ込んじゃうかぁ~、意外と早く来たわね」

「シュウ君は知ってるし・・・マサ君にも話さないとね」

「ゴメン言いたくないなら無理しないで。この話は忘れてください!」

「そうじゃないの、言わなかったこっちが悪いんだから」

「うん。いい機会だから聞いてくれるかな」

 

 別に父親が恋しいとかじゃない。

 ただ知りたいのだ。

 

「よし!私からいくわね」

「母さん・・・うん。お願いします」

「私ね・・・生まれつき子供ができない体なの」

「・・・・」

「先天性のものでね、まあ女としていろいろ凹んだわ。だからかな若い頃から無茶して戦って戦いまくって、気が付いたら騎神の英雄に祭り上げられてた。」

「男の人に興味がない訳じゃなかった、ただ最初は良くてもね・・・そのうち私に誰もついて来られなくなる。いつも振られてばっかりよ「君は俺にはもったいない」「高すぎる所にいる君に手を伸ばせない」だってさ。敬って欲しいわけでも、見上げて欲しいわけでもない。ただ一緒にいてくれるだけで良かったのに。」

 

 重っ・・・。

 横目でネオさん見る。

 (相変わらず重いわね・・・マサ君、大丈夫?ちゃんと聞いてあげてね)

 (ネオさん・・・うん頑張る)

 

「戦いも男も、もうなんか全部嫌になっちゃってね。しばらく日本中あてもなく放浪してたの」

「そんな時、あなたに会ったのよマサキ」

「・・・俺?」

「そうよ。あなたは私の夢を叶えてくれた。最高の夢をね。」

「ゆめ?」

「私の夢はただ一つ"母親になりたい"よ」

「あなたが望むなら父親を用意してあげたいけど・・・私はもう男はいいや、息子がいるだけで十分満足よ」

「父親?何それ美味しいの?・・・そんなもんいらん!母さんがいればいい!」

「ふふっ、ありがとう。大好きよ」

 

 夢を叶えてもらったのは俺だ。 

 施設育ちの俺の夢は"家族が欲しい"だった見事に叶えてくれた・・・感謝しかない。

 母さんに抱きついて、思いっきり甘える。そんな俺の頭を優しく撫でる母さん。

 俺も将来家族ができた時に誰かの頭を、こんな風に撫でてやれるだろうか・・・。

 

「ぐすっ、サイさん、マサ君よかったわね本当に・・・」

「何泣いてんのよ、次あなたの番よ」

「私のは、そんなに大した話じゃないわ。楽にしてね」

 

 ネオさんのターン

 

「シュウ君の父親ね・・・逃げちゃったの」

 

 逃げた?

 

「私の実家は裕福でね、小さい頃から蝶よ花よと育てられたわ」

「それで誕生したのが世間知らずのバカな小娘ならぬウマ娘だったてわけ」

「悪い男に騙されてね・・・散々が貢いだけど、結局遊ばれていただけってオチよ」

「あの時の私に"ディストリオンブレイク"かましてやりたい・・・」

 

 これはこれで重い!ヘヴィだぜ。

 横目で母さんを見る。

 (ねぇ、これ止めなくていいの?ネオさん目が死んでるんだけど)

 (シッ!耐えるのよ。今刺激したら・・・この宇宙から存在を消されるわ!)

 

「シュウ君を身ごもっているのがわかって、家を勘当されてね・・・キツかったな~」

「産まれてからも最初は全然愛情が持てなくてね、本当に最低だよね」

「男はとっくの昔に逃げちゃって、唯一頼れたのは実家に使用人として出入りしていた老夫婦だけだった」

「シュウ君をその人たちに丸投げしてね、連日憂さ晴らしを続けたわ」

 

 憂さ晴らし?いったいなにを・・・。

 

 その当時、対立する二つの組織があった。

 人間至上主義を掲げる"DC"(ディバインクルセイダーズ)

 人間とウマ娘の融和を掲げる連合組織"アンティラス隊"

 その争いに単独で武力介入し、双方に多大な被害をもたらした騎神がいたとか・・・。

 

「自分一人が世の中の不幸を全部背負った気になって・・・みっともないよね本当に」

「そうして暴れて暴れて、調子に乗っていたら・・・サイさんにボコられちゃった」

 

 ここで母さん登場。

 

「あの説教は効いたわ「アンタ!子供ほったらかして何やってんの?」「戦う相手も場所もここじゃない!逃げるな!」「私が欲しくてしょうがないもの持ってるくせに!不幸ぶってんじゃねーよクソガキが!」だったかしら」

「やめてー!恥ずかしい!そんな事いったかな」

「その後はサイさんに協力しながら育児に奔走したわね、シュウ君には苦労かけたわ」

「それで私も男性はもうこりごりって訳なのよ、シュウ君がいるしマサ君も来てくれたからね」

「シュウは父親について何て言ってるの?」

「「興味ないね」てクラウドみたいな冷めた反応だったわね」

 

 シュウも俺と同じく父親と言う存在を必要と思ってないのだろう。

 でもな・・・うーん。

 

「はい。これで私たちの話はお終い。恥ずかしいから秘密にしてよ」

「変な話聞かせて悪かったわね・・・ちゃんと聞いてくれてありがとう」

「・・・・うん」

「どうしたの重すぎて気分悪くなった?」

「違うよ・・・ただ、勿体ないなと思って・・・」

「勿体ない?何が」

「母さんとネオさんの事だよ。二人ともこんなに美人でカワイイのに、もう男の人要らないって。これは世の男たちにとって大損失だよ!もったいねー!」

「・・・・」

「・・・・」

「二人とも父親がどうとかじゃなくて、好きな人ができたら教えてね。俺を幸せにしてくれたように・・・ふたりには幸せになってほしい。その時は全力で応援するよ。これはシュウも同じ気持ちだと思う・・・。えっと・・・ごめんなさい、ガキの癖に生意気言って・・・おわっ!」

 

 母さんに持ち上げられ抱きしめられる。くっ苦しい!

 さらにネオさんも抱きついてきて頭を撫でくり回される。

 ぐあっ!このサンドウィッチ・・・嬉しいけどキツイ!

 母さん!緩めて!「ジーグブリーカー死ねぇ!」みたいになる!

 

「バカね・・・そんな事言われたら余計に男なんて要らなくなるじゃない・・・」

「ホントにいい子・・・私たちは果報者ねサイさん・・・後でシュウ君もハグしてあげないと」

「え、二人ともなんでちょっと泣いてるの?俺何かやっちゃいました?」

 

 二人を泣かせてしまって狼狽える俺。

 人は嬉しい時も涙を流す事を知った。

 

「"風の騎神"サイバスター"はどんな時も味方よ」

「"闇の騎神"ネオグランゾン"もあなた達を見守ってるわ」

 

 途中で様子を見に来たシュウもこのサンドウィッチに巻き込まれた。

 母さんたちはツヤツヤしていた。俺とシュウはムチ打ちと腰痛になった。

 

 母は偉大なり。

 

 

 



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まだお

 サイバスターとネオグランゾン。

 優しくも頼もしい母たちに育てられた俺は幸せだ。

 

 ピクニックと称して明らかに日本ではない場所に行った時。

 俺とシュウ以上に、はしゃいだ母たちが見せてくれたのは・・・。

 理不尽と言う名の暴力だった。

 

 やめてください!世界が!世界そのものがぁー!

 俺とシュウの声は二人が満足するまで届かなかった。

 

 そうして夢から醒める。

 

 

 目を開ける、目に映るのは知らない天井だった。

 

「うんぁ・・・よく寝た。ここはどこよ?」

 

 ベッドに寝かされていたようだ。見たことのない部屋。

 白い壁にいくつかのモニター、近未来的デザインでカッコイイな。

 

「うわ!服が・・・こんなの着てたか?」

 

 服装が変わっている。

 何だこれ、黒い袴?・・・わかった!あれだ死覇装(しはくしょう)。

 「BLEACH」で死神が着ていたやつに似てる。

 護廷十三隊にスカウトされた記憶はないんですが、カッコいいので許す。

 でもあれだ・・・寝ている間に誰かが着替えさせたって事だよな。

 やだ////下着も新品みたい.。誰よ!私を辱めたのは!

 

 その時、室内のモニターに電源が入った。

 陰でよく見えないが男が映し出される。

 

「起きたか」

「あの・・・ここは何処でしょうか?そしてあなたは?」

「知りたければそこを出て、真っ直ぐ進んだ先の部屋まで来い。待っているぞ」

 

 一方的に切れちゃった。仕方ない行ってみますかね。

 横にスライドするドアの開き方もSFチック。

 長い廊下を歩いて目的地であろう場所に到着する。

 ここまで誰にも会ってないのだが・・・無人という事はないよな。

 大扉の前で深呼吸、よし!。

 

「し、失礼しま~す・・・」

「来たか」

 

 薄暗くて広い部屋だった。

 奥に長い執務机があり、手を口元で組んで座るサングラスをかけた男がいた。

 「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ!」と言いそうな威圧感のある男だ。

 

「お前か、娘と契約した人間は」

「娘?シロクロ・・・いや、ブラックさんとダイヤモンドさんの事ですか?」

「そうだ。私の名は里野道元(サトノドウゲン)サトノ家の現頭首だ」

「安藤正樹です。よろしくお願いします」

 

 サトノドウゲン・・・クロとシロの父親。

 ちょっと怖い。だって威圧感凄いんだもんこの人。

 

「どちらとだ?」

「?」

「どちらと契約したか聞いている」

「えっと、二人共です」

「何?二人同時だと!」

「ひぃ!そうです。ごめんなさい」

「証を見せろ。歯形があるだろう」

「はい。これです」

 

 首筋を見せる。

 そこには小さな歯形が2つしっかり残っていた。

 あ、なんかプルプル震え出した。怒った?

 大事な娘を二人同時に奪った事になるんだからそりゃそうか・・・。

 よくも娘を!という事ですね・・・殴られるのかな?嫌だな~。

 歯を食いしばった方がいいのかなと考えていると、パパさんが動いた、来るか。

 

「よくやった!しかも二人同時!ありがとうありがとう!」

「え、は、いや、ど、どうも」

「大丈夫だった?かなり痛かっただろ」

「いえ、大丈夫です」

 

 先程までの威圧感ある雰囲気は崩れ去り、急に親しみある"おっちゃん"になった。

 

「驚かせてすまない、こちらも君を警戒していたんだ。何せあの娘たちが自ら選んだ人間だからね」

「はあ。先程までとキャラが違いますね」

「そうそう。こっちもビビッてたからさぁ、エヴァの碇ゲンドウを参考にしてみたんだ」

 

 ゲンドウとドウゲン名前もなんか似てるだろ?と笑って答える。

 

「もういいよ。みんな~出ておいで。あ、お茶とお菓子もよろしく!」 

 

 パパさんがそう言った瞬間、部屋の照明が明るくなり、そこかしこから人が湧いて出てきた。

 みんな黒のスーツもしくは俺と同じ黒袴姿、人間にウマ娘、年齢性別様々だ。

 その内の二人に「頭は大丈夫でしたか?」と心配しているのかバカにしているのかよくわからん質問をされた。

 一応、「大丈夫です」と答えると安心したようで「トイレ掃除の続きがありますので」と言って去って行った。

 何だったの?

 

 あっという間に部屋の模様替え完了。

 部屋の中央に畳のスペースができ、ちゃぶ台と座布団にお茶とお菓子が用意された。

 

「遠慮しなくていいよ。さあ」

「いただきます」

 

 お腹が空いていたので遠慮なくいただく。

 あーお茶のいい香り。うん、煎餅も美味しい。

 

「マサキ君だったね。食べながらでいいから聞かせてくれないか。娘たちと出会いどう過ごしたのか」

「はい。俺も聞きたいことがあるんで、情報交換しましょう」

 

 クロシロとの出会いからアルクオン撃破までをかいつまんで話していく。

 名前を付けた事、ピザを食べた事、お泊りした事、何度か戦闘したことも・・・。

 話している間、パパさんは驚いたり関心したりしていた。

 

 俺からも質問をした。

 どうやらあれから二日ほど経過したらしい、あれから48時間以上寝ていたのか。

 そりゃ腹も減るわ!トイレにも行きたくなったので、中座して一旦トイレタイム。

 アルクオンの残骸は回収されたが復元するのは難しいらしい。

 家宝をぶっ壊してすみませんと謝ったが、「いいよいいよ」と言われた。

 なんでも扱いに困っていたらしく、解体する手間が省けて良かったとの事。

 

「ここは・・・サトノ家でいいんですよね」

「ああ、一応ね。後で展望デッキに出てみるといい、風が気持ちいいよ」

 

 展望?そんな高い所にあるのかこの屋敷は、流石名家だな。

 

「俺が着ていた服は何処に?それとこの袴は?」

「娘たちが喜々として着替えさせていたよ。元々着ていた服は、二人が回収したよ」

 

 あいつら・・・下着もかよ!全部見られちゃった////

 俺の服をどうするつもりだ・・・。

 

「あの、娘さんたちはどういうご関係なんですか?姉妹には見えないのですが」

「硬い硬い。さっきから言ってるだろう、もっとフランクに行こうよ」

「では、あなたの事をパパさん。娘さんたちをクロシロと呼んでもいいですか?」

「かまわんよ。で二人の事だったね」

「実の娘はダイヤの方でね、ブラックは再婚相手の連れ子なんだ」

「うお・・・なんかすみません。家庭の事情に首突っ込んで」

「私の前妻は家を出て行ってしまってね。今の妻も元旦那とは離婚したようだよ」

「そうすか・・・大変でしたね」

「いやいや、家族のおかげで楽しく過ごせているよ。写真みる?これが今の妻だよ」

 

 パパさん自慢の現妻を見せたいのだろう。

 端末に表示された女性・・・あれ・・・この人何処かで・・・。

 

「気づいたかい。そうタレントの佐藤心(サトウシン)だよ。美人だろ」

 

 佐藤心(サトウシン)

 元アイドルで現在はバラエティー、ドラマ、ニュース等様々な場面で活躍するマルチタレント

 ここ数年の好感度ランキング不動の1位を独占する超売れっ子だ。

 バラエティーでは芸人殺しと言われるほどのキレのあるボケと返しを披露し、彼女がひな壇にいるだけで視聴率が跳ね上がるのだそうだ。

 映画やドラマでは主役から脇役までどんな役もこなせる名女優。

 政治経済から国際問題、ウマ娘に関する情勢にも詳しく。解説役から司会進行までこなす。

 人当たりもよくスタッフからの評判も良い。

 なによりアイドル時代からほぼ変わらない、その美貌が絶大な人気を後押しする。

 

 俺もこの人が出演する番組ウマトークが大好きだ。

 "アイドル時代イケてないグループだった芸人"はまさに神回だった。

 先輩アイドル、ウサミンとの掛け合いは腹筋持っていかれるほど笑った。

 芸人枠で呼ばれて出てくるのも好感が持てる。仕事を選ばない姿勢がプロだな。

 

 そういえば母さんが「ハートちゃんも立派になったわね~」とか言っていたような。

 

「この人が、芸能人がクロの母親・・・」

「そうだよ。しかも彼女はウマ娘!これは内緒にしてね」

「マジっすか!耳と尻尾は・・・あ、そうか高位の騎神なら造作もないって母さんが」

 

 耳と尻尾を隠して生きているウマ娘は意外と多いのかもしれない・・・。

 

「なんで隠すんだろう?やっぱり日々の修練のため?」

「デビューした時の何だったかな・・・346プロダクションとの契約がどうとか、まあ大人の事情だよ」

「シンさんの周りの人は知っていると?」

「そうだね。少なくとも業界関係者は知っているんじゃないか」

 

 母さんたちみたいに、覇気のコントロールと抑制のためじゃないのか。

 

「今日は仕事で不在だけど、その内紹介するよ」

「是非お願いします。楽しみだな」

 

 いろいろ話をして一段落。

 

「クロシロは今どこに?」

「二人には家出の罰として外壁の掃除をさせているよ。君が起きたと知ればきっとここへ・・・」

 

 外壁?

 ちょうど部屋の出入り口が騒がしくなった。なんか揉めてる。

 

「どきなさい!次期頭首の命令ですよ。ここにいるのはわかってるんです!」

「開けて~パパ!マサキさんいるんでしょ。中に入れてよ」

「警備任務ご苦労様です。でも顔覚えましたからね。次のボーナス査定覚悟してください」

「開けるよ!ドア壊してもいいの?」

 

 来たな。

 やれやれといった感じでパパさんが指示を出す。

 

「いいよ。通してあげて、またドアを壊されたら堪らん」

 

 ドアが開いて二人が入室した。

 二人とも白いワンピースを着用して肩と足を出している。 

 シンプルな装いだが、いいね!避暑地にいる令嬢という雰囲気だ。はいカワイイ!

 その格好で掃除したの?服が汚れてないから一旦着替えたのかな。

 

「「マサキさん!」」

 

 助走なしでジャンプして俺の近くに着地する。天井が高くて良かったな。

 

「二人ともお行儀が悪い!」

「そうだぞ。パンツ見えちゃうからやめなさい」

「見せパンだからいいんです」

「そもそも他の人には見せる気ないし」

 

 座布団に座る俺の両サイドに座って体をくっつけてくる二人。

 尻尾が体に巻き付いて来るんだが・・・。ファッサファサやぞ!

 

「やっと起きてくれたね。心配したよ」

「お目覚めの瞬間に立ち会えなくて残念です。ご気分はどうですか?」

「心配かけたみたいだな。この通り体調はいいぞ」

 

 二人の頭を撫でる。

 母さんやネオさんにしてもらったように優しく出来ているだろうか?

 

「いやはや、話を聞いても半信半疑だったが・・・君凄いね」

「何の事でしょう?」

「二人がこんなに懐いているは異常事態だよ」

「初日からこんな感じだったよな?」

「そうだね~あ、撫でるのやめないで」

「マサキさんは大変なものを盗んでいきました。それは私たちの心です」

「本当にお見事だね、前世は魔物使いだったりしない?」

 

 パパさんの感心具合が凄い。

 

「何、お前たち普段は人見知りなの?」

「そんなことないよ」

「ええ、得に問題ありません」

「そうかい?興味のない人物、特に人間の男に対してはゴミを見る目してたよね」

「・・・・それは」

「・・・・ええと」

「せっかく用意した操者候補も全員追い返すし、「触んな」「失せろ」「カス」「キモっ」他にもいろいろ言ってマインドクラッシュしていたね。何人か泣いていたよ」

「だって・・・嫌だったんだもん」

「下心満載のガチクズもいましたよ。二人きりになった途端、触ろうとしてくる輩もいましたし」

「は?そんなふざけた野郎がいるのか!どいつだ!鼻フックデストロイヤーの刑に処す!」

「そんなに怒ってくれるんだね・・・えへへ、嬉しいな」

「心配しないでください。ゴミクズに関わったらマサキさんが穢れます」

「まあ人間というか男を基本的に下等生物だと思っているよ、二人とも」

「そ、そうか・・・ゴメンな・・・下等生物が操者なんて嫌だよな・・・はは」

「そんな事ない!マサキさんは特別、特別なんだよ!」

「マサキさんの前で恥かかすな!・・・違うんです!父の発言は冗談ですよ!ね!ね!!」

「過激エピソードはまだまだあるよ、この前は肩がぶつかったチャラ男の股間を・・・・」

「パパ?黙らないとそのグラサン、顔面ごと叩き壊すよ!」

「もう喋るな!まるでダメなおっさん略してマダオ!」

「ひどい!グラサンだけは助けてあげて!」

 

 マダオ呼ばわりはいいのか?

 

「なあ?二人は姉妹なんだよな」

「戸籍上はそうなるのでしょうね、ですがどっちが姉で妹かは意識した事ないですね」

「私が従者部隊入りして、しばらくしてからパパとママくっついたからね」

「部下で友達で姉妹か・・・どんな関係でも仲が良ければいいか」

「まあ、そういう事です。父とハートさんが、ややこしくした犯人です」

「名前もキタサンを貫くつもりだよ、ウマ娘の名前はわりと自由!がこの世界の常識」

「どんな形でも家族がいるっていいもんだよ、マダオと呼ばれてもね」

「そうですね。わかります・・・凄く」

 

 家族のありがたさはよく理解しているつもりだ。

 

「そうだ!マサキ君のご家族にも挨拶しないといけないな」

「うちは母子家庭なんで家族は母1人です」

「マサキさんのママ?会ってみたいな~」

「お義母様ですか、今のうちに良妻アピールしなくては!」

 

 クロシロを母さん紹介するのか・・・ごめんなさいロリコンな俺を許して。

 

「俺の母さんウマ娘なんだぜ、クロシロの事も理解があると信じたい」

「うちのママと一緒だね、もしかして知り合いだったりなんて」

「やはり身内にウマ娘がいましたか。それもなかなかの実力者ですね・・・」

「ますますご挨拶をしなければ、名前を伺ってもいいかい」

「母さんの名前は安藤佐為。真名はサイバスターです」

 

 母さんの名前を出した途端三人の動きがピタッと止まった。

 そして・・・爆笑された。

 

「「「ぷっ・・・あははっはははははははは!!!!」」」

 

 なぜ笑う?また鼻毛!?は・・・出てない。

 

「ははは・・・いや~急に冗談言うからびっくりしたよ」

「ウマ娘ジョークまで理解しているなんて流石です。でも・・・ふふっ」

「いや見事な不意打だね。まさかその名前を聞くとは思わなかった」

「いや、冗談なんかじゃないっスよ!サイバスターの・・・母のどこが面白いんですか?」

「もういいって、マサキさんがボケもできる事はわかったよ」

「ジョークも嗜む良き操者ですね。でもその名前は不用意に使わない方がいいですよ」

「私はなんと本人に会った事があるんだ、あの生きる伝説にね」

「だから、嘘でも冗談でも・・・」

「"天級騎神サイバスター"はウマ娘なら誰でも知ってるスーパーヒーローだよ!武勇伝の数々は私も大好き!」

「この世界のバランスブレイカー、そんな簡単に会えるわけないですよ。マサキさんたらお茶目」

「今でも彼女のファンや信奉者は多い、その名前を悪用すればどんな制裁があることやら・・・気を付けたまえ」

「ああもう!写真あるんでこれ見てくださいよ、ほら!」

 

 スマホは・・・あった。袴の内ポケットに入っていた。

 母さんが写っている写真を選択して三人に見せる。

 

「どれどれ・・・うわっ美人!しかもメッチャかわいい!」

「本当にお義母様?若すぎませんか?写真からでも伝わるキラキラ感。素敵です」

「・・・・・」

「これで信じてくれました?」

「・・・・他にも写真はあるかい」

「ええ、これとか、ああこれもそうです」

 

 パパさんが他の写真も見ていく。

 

「この銀髪の美しい女性が・・・君のお母さま・・・」

「そうです」

「じゃあ、隣にいる紫髪の小柄な美人は・・・」

「お隣に住んでいるネオさん。ウマ娘で真名はネオグランゾンです」

「そうか・・・そうか、そうか」

「パパどうしたの?汗すごいよ?」

「うお!こっちも凄く美人・・・中学生ですかね。え、一児の母・・・ご冗談を」

「ダイヤ、ブラック。集合!」

「なんですか急に」

「なになに」

 

 パパさんが二人を招集してスクラムを組んだ。

 三人で何か話し合っているがよく聞こえない。

 

「・・・から・・・本物・・・」

「うそ・・・じゃ・・・死・・・・」

「・・・やば・・・終・・・にげ・・・」

「あの~どうかしました?」

 

 相談が終わったのかこちらを向く三人。

 首からギギギと音がしたようなぎこちなさ。

 顔色が悪いけど大丈夫?

 

「ダイヤ、ブラック準備はいいか。今こそサトノ家の奥義を見せるとき」

「ええ、完璧にやり遂げてみせます。命の瀬戸際ですから」

「タイミング合わせてね。じゃあ行くよ!」

 

 「とう!」と言って大ジャンプする三人。

 いくら広くても室内だよ。サトノ家ではこれが普通なのか?

 

 そうして披露された奥義とやらは・・・。

 

「「「すみませんでしたぁ!!!!」」」

 

 親子三人の絆を感じる美しい土下座だった。

 マジで何やってんの?

 

 



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わがや

 トリプルジャンピング土下座した親子三人。

 

 

「何?何やってるの!頭を上げて!」

「この度は誠に申し訳ございません」

「サトノ家一同、伏してお詫び申し上げます」

「どうか・・・どうか命だけはご容赦ください」

 

 頭を上げようとしない三人。

 途中で黒服さん達も加わりとんでもない光景が広がる。

 数十人が一斉に土下座してる・・・大迫力!・・・やめてったら!

 

「本当にやめて!よくわかんないけど、いいから、もういいから!」

「そういう訳には・・・腹を切れと言うなら頭首の私が・・・」

「いい加減にして!それなら・・・こうしてやる!」

 

 土下座を止めない連中に対して俺が繰り出したのは・・・。

 土下寝である。

 うつ伏せの姿勢をとり、上半身も地べたに付けることにより"土下座以上に頭を下げている"ことを示す技法。

 正式な謝罪方法ではないのでリアルに実践するのはやめましょう。

 

「土下座やめてください!お願いします!おねがいしますぅううううう!!!」

「・・・なん・・・だと・・・」

「どげね!・・・これが・・・どげね」

「くっ・・・何という圧・・・」

 

 勝った! 俺とブラックとダイヤモンド 完   うそです!

 

 土下寝が効いたのか皆頭を上げてくれた。

 良かった。全裸Ver.は使わなくて済んだぜ。

 黒服さんが一礼して解散していった。

 

 母さんが強いのは知っていたけど、ここまで恐れられる存在だとは・・・。

 とにかく母さんがサトノ家に危害を加えない事、もしそうなっても全力で止める事を約束した。

 とっても素敵な自慢の母親なのよ?

 いかに良い人なのか力説しまくった。

 まだビビッていたけど一応納得してもらった。

 

「憧れの天級騎神が、マサキさんママ・・・ゴクリ」

「あわわ・・・お義母様のご機嫌は絶対に損ねてはいけませんね」

「はわわ・・・サイ先輩のご子息がうちの娘と・・・はわわ」

 

 パパさんの"はわわ"がなんかカワイイので和んだ。

 

「母さん・・・やっぱり凄い人だったんだな・・・天級か・・・薄々気づいてたわ」

「DC戦争を終結させた英雄だからね。当時、下っ端だった私もお世話になったよ」

「命が保証されたら安心した。会うの楽しみだな~」

「ウマ娘の頂点である天級の筆頭ですからね、まさしく神ですよ神!」

「あーその、俺は母さんと血が繋がってないんで、血統を気にしていたら・・・ゴメン」

「何を言っているんだい?そこは重要じゃないだろう」

「神が人間をわざわざ育てたんですよ!それは神に選ばれる何かがあった証拠」

「やっぱりマサキさんは凄い!愛バの私たちも鼻が高い」

「そうか・・・それならいいのかな」

 

 血筋よりも強い絆で繋がっていると自負してます。

 

「サイ先輩だけでも驚いたが・・・ネオグランゾン・・・彼女もいるなんて」

「二人の天級騎神の戦いは戦場の地形を悉く崩壊させたとか」

「最終的に協力してDCを倒す展開が最高なんだよ!ライバル二人の共闘マジ燃える!」

「戦後は引退して育児に専念すると聞いていたが・・・家が隣だとは」

「ネオさんもすげー優しくて、いいママさんなんだけどなー」

「ふむ。これはサトノ家にとってはピンチではなく、チャンスか・・・」

「パパ何か企んでる?マサキさんを傷つけたら、許さないよ」

「あれですよ、天級騎神とのコネクションができてウハウハ!とか考えてますね」

「母さんたちは権力闘争に興味ないからなー、期待しないほうがいいと思う」

「はっはっは!今、君がここにいる時点で私の目的は達成されてるよ」

「?」

「くくっ・・・あの妖怪ババアの悔しそうな顔が目に浮かぶ」

「悪い顔してる」

「汚い大人の姿を見せないでください、私たちの教育に悪いです」

「恨みじゃー!家を追い詰めた報いじゃー!げははははは!」

「おい、パパさんが誰かを呪いはじめたぞ。ほっといていいのか?」

「いいよ。いつもの発作でしょ」

「マサキさん、家を案内しますよ。父は放置して行きましょう」

「わかった。パパさん、ちょっとお家見学ツアーに行ってきます」

「ああ、行っておいで。二人とも案内よろしく」

 

 二人に案内されて室内を回る。

 広い、広すぎる!いったい何階建てなんだ。

 

「実は俺、方向音痴なんだ。ここで迷子になったら元の部屋に帰れる自信ない」

「そうなんだ。じゃあ手を繋ごう」

「しっかりエスコートしますからね。安心してください」

 

 頼もしい二人に手を引かれて歩く。

 歩いている途中で沢山の黒服さんとすれ違う、作業着を着た人たちもいる。

 何だかこの家・・・普通じゃない!

 何処かしこも近未来的な造りで使用人の人数と部屋数が多すぎる。

 格納庫、食堂、大浴場、機関室、訓練場、売店、武器庫、医務室、資料室、研究室・・・その他もろもろ。

 ブリッジもあった・・・ブリッジ?それ必要か?

 窓から見える景色もおかしい、青空に白い雲・・・だから何階建てやねん!

 最後に屋上に行くらしい。展望デッキだったか。

 

「今日は天気もいいし、景色も最高だよ」

「お気に入りの場所ですよ、マサキさんも喜んでいただけるかと」

「なあ、この家変じゃない?こんだけ広いのに庭が無いのはなんで?」

「ネタばらしはもうすぐだよ」

「到着しましたよ。さあ、行きましょう」

 

 エレベーターの扉が開く。

 風が気持ちいい、太陽が眩しい、360°広がる青空、白い雲海。

 

「おお!すっげー!本当にすげーよ、なんかすごすぎて、すごくすごいわ!」

「くすくす・・・はしゃぐマサキさんカワイイ」

「語彙力が低下するほど喜んでくださって、案内したかいがありますね」

 

 テンションの上がった俺は両手を広げて走り出す。⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン

 ひゃつはー気持ちいい!やっと開放感のある場所に出れた喜び。

 ドッグランの犬状態。後ろから二人も追いかけてくる。

 

「あははは。まてまてー」

「意味もなく走り出す。ウマ娘的にはとても好感が持てますよ」

「ひゅー!この空は俺のもんじゃあー!」

 

 しばらく走ってこの空間を堪能した。

 もうわかる、ここはだたの家じゃない。船だそれも空飛ぶ船。

 

「改めて、マサキさん、ようこそわが家へ」

「この船は、サトノ家そのもの・・・ヒリュウ級汎用戦闘母艦"ヒリュウ改"です」

「戦艦キター!」

 

 何と戦う気なの?外宇宙探査や地球脱出でもするつもりか?

 カッコいいから何でもいいか。

 

「いいな~ずっとここにで暮らしていたのか?」

「前はちゃんとしたお家があったよ。引っ越したのは最近かな」

「元々家はよく思われてなかったですからね。アルクオン紛失の責任追及をきっかけに、制圧されてしまいました」

「え、俺たちのせい・・・。制圧?誰に?家を取られたのか?」

「アルクオンの件がなくても、いずれはこうなってたよ、気にしたら負け」

「立て続けに不祥事を起こすサトノ家が、目障りで仕方がなかったんですよ"あの家"は」

 

 敵体勢力でもいるのかな。

 組織が大きくなればいろいろあるんだろう。

 それより、こんなヤバいものが堂々と飛行して問題なかろうか。

 

「政府のお偉方との話はついてますから、ギリギリ大丈夫ですよ」

「えっとね、ミラージュコロイドとハイパージャマ―があるから簡単には見つからないって技術部が話してた」

「実用化しちゃったかー。そんなオーバーテクノロジー使っていいのかね」

「うちなんてカワイイもんですよ。向こうはトロニウムを独占しちゃってますから」

「トロニウム?」

「とんでもない力を生み出す米粒サイズの物質だよ。うちにもあればもっと戦力増強できたはず」

「なにがSRX計画ですか!T-LINKシステムも元々うちの研究データパクったくせに!」

「ATX計画もうちに押し付けた感じだし。貧乏くじだよ本当に」

「何?なんたら計画・・・話についていけない」

 

 

 ・騎神の戦力強化計画について

 

 元来素手での戦闘を行う騎神に武具を装備させる事で、自身の級位以上の戦闘を可能にさせる案。

 装備は騎神の覇気と膂力に耐えうる物質で生成される事が最低条件で、莫大な労力と予算が必要。

 操者用の装備や各種サポートアイテム、無人機、AMや羅刹機も同時並行で開発。

 

 

 ・SRX計画

 

 国家予算並みの潤沢な資金と、各研究機関からのデータを元に最新技術を導入して主導される。

 トロニウムの兵器転用も実現。

 T-LINKシステムによる騎神と操者および各装備の連携機構、戦術リンクを開発。

 装備の量産化を目的とし、誰が使用しても安定した力を発揮できる事が方針。

 次世代の騎神に装備の試験運用をさせる等、人材の発掘と育成にも積極的。

 天級騎神にも本計画への協力要請中。

 政府からの期待も大きい一大プロジェクト。

 

 

 ・ATX計画

 

 当初の予定にはなかったプランB的扱いの計画。

 SRX計画でお蔵入りとなった副産物や欠陥品を「これまだ使えるんじゃね?」と言う勿体ない精神で改修して運用。

 既存の概念にとらわれない馬鹿げた発想による"魔改造"で使い手を選ぶ装備が爆誕中。

 予算、人材、プランの賛同者、その他もろもろが圧倒的に不足している。

 出所不明の謎テクノロジーが多数集まるが実用化は難航中。

 量産化は最初から考えておらず、ピーキーな性能をあえて追及。

 それ故に使用者と装備の相性が良い場合は多大な戦果を上げる・・・といいな。

 政府関係者のコメント「ま、頑張ってねww期待してないけどwww」

 今に見てろよコノヤロウ。

 

 

「で、ダメな方の計画をサトノ家でやっていると」

「ダメな方って言わないでくださいよ。実用化しようと皆頑張っているんですから」

「どうかな?どれも不安要素ありすぎて、誰もテスターやってくれなし」

「結局は私とクロちゃんがやるしかないんですよね・・・はぁ~頑丈すぎるこの体がたまに嫌になる」

「あんまり危ない事しないでくれよ。操者用の装備なら俺も協力するぞ」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」

「ターミナス・エナジー、シュンパティア、サイトロンシステム、次はどの実験に駆り出されることやら」

「くそっ!ブラックホールエンジンの事故さえなければ、こんな扱いされなかったのに」

「"凶鳥"のロールアウト寸前で起こったあの事故、なんか腑に落ちないんだよね」

 

 強化計画かぁ・・・。

 騎神の戦闘が装備の良し悪しで左右される時代が来たのかね。

 俺も何か得物を使ったほうがいいのかな?

 

 三人で気持ちの良い風を感じながら駄弁っていると。

 艦内放送でパパさんの声が聞こえてきた。

 

「乗組員の皆ご苦労様。交代しながら順次休憩に入ってね。・・・三人とも戻っておいでお昼にしよう」

 

 元の部屋に戻ってランチタイム。

 クロシロが先導してくれなければ迷子になってたわ。

 俺、クロ、シロ、パパさんでお昼ご飯を食べる。

 出てきたのはカツカレーだった。ルーが黒っぽくてドロっとしてる、金沢カレーと言うやつか。

 美味い!ココイチもいいけどゴーゴーカレーも好き。

 

「この艦、今どの辺りを飛んでます?」

「地図で見ると・・・北米かな」

 

 気が付いたら出国していた。

 

「ヒリュウを動かしたのは久しぶりだったから、皆の訓練も兼ねて空のクルージングさ」

「日本にはいつ帰るんですかね」

「節約のんびり運航モードでも、明後日には到着予定だよ。家まで送って行こう」

「家までって・・・戦艦で帰宅したら近隣住民パニックですよ」

「そこは私たちが学校に遅刻しそうになった時の要領でクリアできます」

「嫌な予感がするが、一応聞いておこう」

「あのね、学校の上空まで行ったら、そこから投下してもらうんだよ」

「スカイダイビング?」

「パラシュートは無しです。ウマ娘の身体能力と覇気で着地の衝撃を緩和します」

「学校の屋上クレーターだらけで、七不思議の1つにカウントされちゃった」

 

 こいつら俺をマンションの屋上に投下する気か?

 いくら覇気が使えるようになったとはいえ無茶させるな。

 

「あの別の場所に送ってもらう事ってできますか」

「ああ、希望があれば言ってみたまえ」

「報告も兼ねて実家に帰りたいんです。〇県のラ・ギアスまでお願いします」

「何ですかそこ、本当に日本ですか?地底世界の間違いじゃ」

「変な名前なのは村民全員が承知してる。慣れたら気にならん」

「村名なんだ・・・なんでそんな名前に?」

「ずっと昔に村を開拓した初代村長が重度の中二病でな。ダンバインのバイストンウェルに対抗して考えたらしい、早すぎた異世界への憧れだな」

「わかった。それまでは艦内でゆっくり過ごしてくれ、部屋も用意させよう」

「すみません。お世話になります」

「ねぇ、マサキさんのママに会える?」

「もちろん。クロシロの事を紹介するつもりだぞ」

「お義母様ですか・・・緊張しますが、ご挨拶はバッチリ決めなくては」

「私もサトノ家を代表して挨拶させてもらうよ、サイ先輩とは久しぶりの再会だ」

 

 今後の方針が決まった。

 明後日には実家に帰って母さんに愛バを紹介!

 どう見ても小学生・・・若すぎるか?

 いや大丈夫、クロもシロのいい子だから!そこは見逃して!

 

 それからは充実した艦内生活が始まった。

 

 開発中の装備を見学したり、迷子になったり、大浴場にクロシロが乱入したり

 布団に潜り込んで来たので動じずにそのまま三人で寝たり、パパさんのサングラスが割れたり

 甲板ではしゃぎ過ぎて空中に放り出されたり、クロの部屋でゲームしたり、迷子になったり

 シロの部屋で俺の下着を回収したり、訓練場で模擬戦したり、酔ったパパさんを介抱したり

 グラサンが本体だったり、うっかり主砲を発射しそうになったり、土下寝したり

 黒服さんが謀反を企てたり、クロシロの写真をシュウに送ったり、迷子になったり

 シュウからボンさんと"知らないウマ娘"の写真をもらったり、誰よこの子カワイイじゃない!

 

 そんなこんなで無事に実家へ到着したら良かったですね。

 

「これより艦隊戦を開始する。いざとなったら本艦をぶつけてあいつらを道連れじゃー!」

 

 聞いてねぇぞコラ。

 

 

 



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はがねのたま

 戦艦での生活をエンジョイした。

 

 

 今日の午後には実家のあるラ・ギアス村に到着するはず。

 母さんにどうやってクロシロを紹介しようかな。

 家にお持ち帰りしたら懐かれてしまってね、戦ったり、契約したり、大変だったんだ。

 これでいけるか?

 

「ここでしたか、見つかって良かったです」

「すぐ迷子になるんだから、はぐれたらダメだよ」

 

 現在位置はヒリュウの甲板、眺めの良い展望デッキである。

 迷子になったらとりあえず、上を目指して迎えを待つのが一番だと気づいた結果だ。

 本日もいい天気。流れる雲と青い空を見ながら、故郷に思いを馳せていると迎えが来た。

 

「まだ若いのですから、徘徊から遭難のコンボは勘弁して下さいよ」

「最悪要介護になっても、ちゃんとお世話するね」

 

 愛バって介護もしてくれるんだ。

 二人が俺の正面に来て両手を広げる。何?何期待してんの?

 はいはい。わかりましたよっと。

 二人の意図を汲んで抱っこしてやる。二人同時抱っこ慣れてきたわ。

 何処か満足気な二人、君ら本当に甘えん坊だよね。嬉しいけどさ。

 三人とも特に何も喋らずただ広がる青空を見る。

 気持ちが通じ合っているのか無言が全然嫌じゃない、むしろ心地いい。

 例えば二人をうっかりここから落としたら、どうなるか想像してみる。

 ほら、しがみついてきた。俺の考えが伝わったようだ。

 なんと尻尾が俺の胴体に巻き付いて命綱に!?そんな使い方できるんだ。

 抱っこしたまま甲板をウロウロ、多少の移動は問題なし。

 軽く走ってみる。二人とも小さいし軽いので、思いのほか安定して走れる。

 女児を抱えて走る練習、役に立つのかこれ?

 

 抱っこ状態でしばらく戯れていると、ふと何かの気配を感じた。

 ん?何だ・・・目を凝らして気配の出所を見つめる。

 クロシロも気づいたようだ。黒い点?がだんだん大きくなって・・・。

 飛行機?鳥?なんか違うぞ。

 

「あー、マサキ君、ブラック、ダイヤ、すぐにブリッジまで来てくれ」

 

 パパさんのアナウンスが入る。

 三人で頷き合いブリッジへ向かう。クロシロ、ナビよろしく。

 

「パパさん何かあったんですか?」

「ああ、来てくれたか・・・て、うおっ!娘が抱っこされている」

 

 そんなに驚く事か?ああ、二人は俺以外には当たりがキツイんだったか。

 

「本当にデレすぎだぞ二人とも、今度パパもしてあげるね」

「遠慮します」

「結構です」

「即答!パパ泣きそう」

「至福の時間を邪魔してまで呼びつけた理由を話してください」

「くだらない事だったら怒るよ」

「わりと緊急事態だよ。こちらに接近する飛翔体を確認した」

「さっきの気配と点か」

「お、気づいていたのか。あれは船だよヒリュウと同じね」

「同じ・・・向こうも戦艦・・・」

「シロガネはないか、クロガネ?まさかハガネ!」

「そのまさかだ"ハガネ"我らの宿敵"メジロ家"のお出ましだ」

 

 スペースノア級万能戦闘母艦弐番艦 "ハガネ"

 ヒリュウ同様、各種超技術を組み込んだ万能戦艦。

 DC戦争では操者と騎神たちの母艦となり多大な貢献を果たした。

 トロニウムを使用した重金属粒子砲を装備し、同型艦の中でも最大級の火力を誇る。

 DCの残党や要注意団体の牽制と捕縛、SRX計画の兵装開発と運用を主として行っている。

 現在はメジロ家が所有し、その威光は誰もが知る所である。

 

「日本に戻って早々に遭遇するとは、待ち伏せされていたか」

「どうするの。先制攻撃する?」

「相手の出方しだいですね。単純な戦闘力はヒリュウよりハガネが上ですし」

「メジロ家の戦艦・・・仲が悪いのか?」

「向こうからしてみれば、サトノ家は目の上のたんこぶだからね」

「地上にあるお家を制圧したのもメジロの連中だよ」

「うちからあれだけ力を奪っておいて、まだ仕掛けてくるなんて。相当嫌われてますね」

 

 近づいて来た巨大なシルエットがモニターに映し出される。

 上下対象のデザインに茶色の艦体色。艦首に何だろう?珠?が二つある。

 向こうから通信が入ったようだ。

 パパさんが許可を出すと別のモニターに椅子に座った人物が映し出される。

 陰になってて顔が良く見えないな。

 

「久しぶりですね。サトノ家頭首、サトノドウゲン」

「これはこれは、メジロ家頭首直々のお出迎えとは・・・ばば様」

 

 メジロ家の頭首だってよ、大物が出てきたな。

 

「これでも多忙の身ですよ。今日はあなた達に用があって出向きました。」

「へぇーサトノ家を取り潰そうとした事、謝ってくれるんですかねぇ」

「謝るつもりはありません。そうされるだけの事をあなた達がしてきた結果ですから」

「散々、無理難題を押し付けて、邪魔になったら捨てるとか汚い流石メジロ汚い!」

「あなたに汚い呼ばわりされる筋合いはありません。本題に入っても?」

「ちっ、さっさ言え。こっちは客人がいるんだ、メジロを相手にする暇はない」

「その客人をこっちに引き渡して頂きましょか」

「あ゛」

「「「!?」」」

 

 頭首同士でギスギスした会話をしていると、こちらへ飛び火した。

 客人って俺の事ですよね。(/ω\)イヤン

 クロシロがギュッと抱きついて来る。不安か?俺もだ!

 

「何を言い出すかと思えば、ついにボケたか」

「まだもうろくしてはいません。引き渡す気はあるのですか?」

「客人が誰か知っての発言か?少しは考えて喋れ」

「先日、超特大の覇気が観測されました。その発生源でしょう、存じています」

「ふん、残念だったな。彼はもう契約済み、うちの娘たちの操者だ」

「ならば、余計にそちらに置いておく訳には参りません。その力はあなた達の手に余る」

「人を利用価値のみで判断する・・・相変わらずだなババア」

「操者に危害を加えるつもりはありません。むしろ丁重に扱わせて頂きます」

「全てはメジロ家の栄光と繁栄のためにか、あー嫌だ虫唾がはしる」

「これ以上の問答は必要ないですね。それで返答は」

「嫌に決まってんだろ!ばぁ~か、あんまなめんな!」

 

 パパさんが中指を立てて心底バカにした顔をする。

 うわ、メチャクチャ腹立つ顔してる。

 クロシロがよくやった!と感心している。

 大丈夫か、この親子。

 

「やはりこうなりましたか。準備が整い次第、攻撃を開始します。よろしいですね」

「よろしくねぇーわ!最初からそのつもりだったくせに、白々しい」

「戦闘に参加したくない者やお客人には退艦をおすすめします」

「余計なお世話だ。うちの乗組員がこの程度で逃げるか、むしろ楽しむね」

「そうですか。では良き戦にしましょう」

 

 通信が終わる。 

 今から戦闘が始まるの?日本に帰って早々にコレかい!

 

「これより艦隊戦を開始する。いざとなったら本艦をぶつけてあいつらを道連れじゃー!」

 

 聞いてねぇぞコラ。

 後、パパさんのテンションがさっきからおかしい。

 

「パパはメジロ家にヘイトが溜っているからね」

「母様・・・元妻との離婚もメジロが悪いって言ってますし」

「今から本当に開戦するのか?俺どうしたらいい」

「マサキ君が戦う必要はない。これはサトノとメジロの戦いだ」

「そうそう。嫌だったら艦から退避してもいいよ」

「向こうもマサキさんを害する事はしないでしょう。安心してください」

「うーん。それでいいのかな」

「ねぇ、従者部隊の人数がかなり減っているみたいだけど、どうしたの?」

「ああ、いない者の内半分はメジロ家に引き抜かれた」

「それヤバくないですか、もう半分は?」

「有給取ってベガスに行ってる。一週間は帰って来ないね」

「は?シングルナンバーもですか?・・・まさか戦闘可能なのは・・・」

「うん。メジロの騎神とAMに正面から戦えるのはブラックとダイヤ、君たちだけだね」

 

 \(^o^)/オワタ

 戦力低下しているのになぜケンカを買った・・・。

 

「ピンチじゃん。でも分の悪い賭けはきらいじゃないよ」

「はぁ~、仕方ないですね。覚悟を決めますか」

「二人だけ行かせられるか、俺も出る」

「まあまあ。今回は私たちに任せてよ・・・アルクオン戦では情けない所見せたし」

「マサキさんの力は存分に見せて頂きました。今度は私たちの番です」

「でも俺は二人の操者だ」

「だからこそ、信じて待つのもありなんじゃないかな」

「・・・・しかし」

「うちの娘は、君の愛バは負けやしないよ」

「マダ・・・父様、"古鉄"と"白騎士"の使用許可をお願いします」

「いいよ。暴れてやりなさい」

「どっち使う?私、古鉄がいい」

「お好きなように。では、行ってきます。マサキさんを頼みますよ」

「クロ、シロ」

 

 ブリッジから出て行こうとする二人を呼び止めて、抱きしめる。

 

「どうしたの?大丈夫だよ」

「必ず帰ってきますからね。ハグはその時にたっぷりしてください」

「俺の覇気を持っていけ。それとくれぐれも気を付けてな」

「「ありがてぇ」」

 

 二人に覇気を補充してやる。

 契約後から俺たちの覇気は常に循環状態にあるが、接触した状態での受け渡しが一番確実。

 二人が出て行った。先に格納庫で装備を受け取るらしい。

 うー心配になってきた。

 パパさんが俺の肩に手を置きサムズアップする。

 そうですよね。信じましょうあいつらを。

 その数分後・・・戦闘が始まった。

 

「前方のハガネに動きあり!ミサイル多数来ます!」

「よっしゃ!迎撃準備。弾幕張っちゃって!」

 

 飛んできたミサイルをヒリュウの機関砲で撃ち落とす。

 撃ち漏らしたものは艦に届かず障壁に阻まれる。お、バリアがあるのか。

 ネオさんが見せてくれた歪曲フィールドに似てる。

 

「重力障壁だよ。あの程度は防いでみせるさ。まあ、それは向こうも同じか」

 

 こちらが撃ち返したミサイルも、ハガネにダメージを与える事はなかったようだ。

 ミサイルや副砲を使った砲撃戦が展開される。

 殲滅が目的ではないので主砲やお互いの切り札は使用しない模様。

 どの攻撃も決定打にかける・・・ハガネが何か射出した。

 AM(アーマードモジュール)リオンシリーズか。

 

「指揮官機のガ―リオンが2体、後はリオンとバレリオンの編成か」

「砲撃戦が膠着すれば、騎神やAMを投入する定石だね」

 

 AMがヒリュウの外壁に取り付こうとする。

 ちょうどその時、クロシロから通信が入る。

 

「準備できたよ。到着次第戦闘に入るね」

「相手はAMですか、アルクオンと比べれば雑魚ですね」

「よーし」

「ではでは」

「「やりますか!」」

 

 甲板にエレベータが到着し扉が開く。

 先行してヒリュウに取り付こうとしたリオンが複数隊同時に薙ぎ払われた。

 光の束がリオンを穿つ。ビーム?覇気をビーム状にして打ち込んだのか。

 

「"オクスタンランチャー"Eモードっと。カタログ上のスペックは出ているようですね」

 

 シロがその体にそぐわない長銃を担いでいる。

 白地に青いラインが入った手甲と足甲を装備している。

 

 パパさんにもらった装備のデータを確認する。

 

 ヴァイスリッター

 専用装備オクスタンランチャーによる砲撃戦を得意とする装備。

 ライフルはビームのEモードと実弾のBモードに撃ち分け可能。

 補助武装として三本のビームソードと三連ビームキャノンを手甲に装備。

 足甲の大型バーニアスラスターが生み出すスピードで戦場を縦横無尽駆ける。

 

 破壊されたリオンの爆発に怯まず、クロが飛び出す。

 バレリオンの砲撃をかいくぐり接近。

 

「打ち抜くよ、止めてみて!」

 

 右手に装着された大型の杭打ち機"リボルビングステーク"を打ち込む。

 回転式の弾倉から薬莢がこぼれ落ち、騎神の膂力に弾丸の威力が乗った破壊をもたらす。

 機体の胴体部に風穴を空けて爆散するバレリオン。

 

 赤を基調し所々白と黒に配色された手甲と足甲。肩部にも装甲が付いている。

 リボルバーを回転させ次弾装填。シロの装備より重量がありそうだ。

 

 アルトアイゼン

 武装は中近距離にまとめ、厚い装甲と突進力を頼りに敵陣中央一点突破を狙った装備。

 杭打ち機リボルビングステークを主武装に射撃用の三連マシンキャノン。

 広範囲に特殊ベアリング弾をばら撒くスクエアクレイモアを肩部装甲に内蔵。

 対ビームコーティングも施され防御面もそこそこ。

 増加した重量を補うため各所のスラスターで無理やり加速を行う。

 

「なんかどっちも長所と短所が顕著ですね」

「そうだね。だけど見てごらん、いい感じだろう」

「ええ、流石俺の愛バたちですよ」

 

 装備が凄いのか、使用者が凄いのか・・・どっちもか。

 二人もイキイキしてるな。

 

「射撃は苦手なんだけど、四の五の言ってられないか」

 

 マシンキャノンで相手を牽制して接近戦を仕掛けるクロ。

 

「あんまり飛びませんけど、威力はありますよ」

 

 実弾に切り替えて装甲の厚い敵を1体づつ確実に潰すシロ。

 

 よしよし。状況に応じて臨機応変に動けている。

 

「勝ったな」

「ああ」

 

 エヴァのゲンドウと冬月みたいなやりとりが自然にできた。

 パパさんと俺のシンクロ率が高まった。

 

 最後に残ったガ―リオン2体をシロが追い込む。

 

「その位置はマズいでしょ。クロちゃん!そっちにパスします」

 

 その先はクロの正面。

 

「逃がさない、クレイモア!」

 

 肩部装甲が開放され中から無数のベアリング弾が吐き出される。

 2体のAMは全身を穴だらけにして機能停止した。

 

「まあ、こんなもんです」

「よし、何とかなったね」

 

 二人でハイタッチするクロシロ。

 30体以上撃墜したのではないか、やりますねぇ。

 無傷で勝利した二人が誇らしい。

 やっぱり俺の愛バは最高だぜ!

 

 一度途切れた通信が再び入る。メジロ家の頭首からだ。

 

「大したものですね。その年でこれ程の戦技、うちの孫たちにも見習わせたいです」

「当たり前だ。うちの娘たちだぞ。それよりもう終わりか」

「ええ、これ以上AMを投入しても焼け石に水ですから」

「ならどうする。降参して道を開けてくれると助かるんだがな」

「降参するのはそちらです」

「何?」

「トロニウムバスターキャノン準備しなさい」

「てめぇ、このババア!反則だろうが、客人ごと吹き飛ばす気か?」

「サトノの手に落ちるなら、それもありですね」

「もうやだ!ホントにこいつ嫌い!」

「そちらにいる操者、大人しく投降しなさい。さもなくば・・・」

 

 何だかヤバそうだ。

 ハガネの艦首についている珠が光り輝き出した。

 

「なあ、ハガネの金玉が光ってるんだけどマズい状況ですかね?」

「ああ、あの金玉は危険だヒリュウを鎮めるだけの威力がある」

 

 クロシロも通信で加わる。

 

「パパ、金玉が光ってるよ何とかして」

「金玉から発射されるトロニウムバスターキャノン・・・厄介な金玉ですね」

「おい、女の子が金玉金玉と連呼するんじゃありません!はしたない」

「だって金玉が付いているのが悪い、あの金玉潰したら何とかなる?」

「金玉までの距離が遠すぎますし、艦首のバリアで守られてます。無敵の金玉ですね」

「どうしてくれんだババア!アンタのせいで娘たちが金玉金玉と」

「今確信しました。サトノ家はやはりウマ娘界の汚点、害悪です」

「「「失礼な!金玉のくせに!」」」

 

 金玉のチャージが進む。ピンチです母さん。

 しゃーないか・・・。

 

「パパさん、クロ、シロ、サトノ家の皆・・・俺投降します」

 

 

 

 



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とうそうちゅう

 金玉砲が怖いので投降する事にした。

 

 

「それでは行ってきます」

「すまないね。君にこんなマネをさせて」

「いえ、気にしないで下さい。後は頼みます」

 

 現在、ヒリュウとハガネは俺の引き渡しのため接舷中。 

 ハガネからヒリュウ甲板上にスロープ状の通路が伸びて向こう行ける状態だ。

 パパさんと黒服さん達に見送られて通路を進む。

 俺の手には荷物がたくさん入る大き目のカバンが二つ、サトノ家のお土産である。

 メジロ家の皆さんもきっと気に入ってくれるはずの自慢の品。

 

 俺がハガネ側へ渡り切った事を確認してヒリュウが離れて行く。

 目の前にあるドアのロックが解除され中から護衛らしきウマ娘が2人現れた。

 

「ようこそ。メジロ家所有のハガネへ」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

「ああ、お世話になります」

 

 一応、歓迎されているみたいだな。

 二人に促され通路を進む。

 

「何処に向かっているんですか?これから俺は何を」

「頭首に謁見していただく前に、あなたを検査させて下さい」

「簡単なメディカルチェックと覇気の検査を受けていだ抱きます」

「はあ、検査ですか」

「形式的なものですご理解ください」

「サトノ家の物に何かされていないとも限りませんし」

 

 検査を行う部屋に到着した。

 

「先程から気になっていましたが、随分と大きなカバンですね」

「サトノ家頭首から迷惑をかけたメジロ家の皆さんへのお詫びの品ですよ」

「怪しいですね。そのカバンもチェックいたします」

「どうぞ」

 

 空港にあるような手荷物検査装置でカバン調べる。

 

「ふむ。このカバンはX線を通さない特殊な素材でできてますね」

「中身を直接確認しても?」

「ええ、"生もの"なので早めにして頂けると幸いです」

「生もの?食料品ですか」

 

 二人のウマ娘が二つのカバンを同時に開けた。

 そして、中の"生もの"と目が合った。

 

「「な!?」」

「せいっ!」

「ふんっ!」

 

 生もの達が一撃で検査をしていた二人を昏倒させた。

 

「ふー、狭かった」

「ガバガバセキュリティーで良かったですね」

「おう、お疲れさん」

 

 カバンに入っていたのは俺の愛バたち、クロとシロだ。

 

 投降する事を決めた時。

 素直に従うのは癪だったので、一矢報いたいと提案してみた。

 これにはパパさん含めサトノ家全員ノリノリで作戦決行。

 カバンの中にクロシロを入れてハガネへ侵入。

 その後、艦内部で可能な限り破壊工作(嫌がらせ)を行い脱出する予定。

 勢いでここまで来ちゃったけど、この作戦も大概無茶だ。

 

「私達の侵入がバレるのも時間の問題です。早速行動開始しましょう」

「装備あんまり持って来れなかったね。マサキさん"亡霊"はどう?」

「今の所大丈夫だ。何とか使いこなしてみせる」

 

 ここに来る前に騎神用の装備"ゲシュペンスト"をレンタルした。

 黒い手甲と足甲で武装もシンプルかつ必要最低限。

 ATX計画では比較的まともな万人向けの仕様。

 三基のプラズマカッターに特殊兵装としてスラッシュリッパ―。

 邪魔くさいのでスプリットミサイルとビームライフルは置いて来た。

 俺に射撃は向いてないと思う。

 装着者の覇気を通わす事でしっかり防具の役目を果たすので十分だ。

 

「俺だけ装備ありで何か悪いな」

「いえいえ。流石に私達のは持ち込めませんし、素手で十分です」

「その代わり、嫌がらせアイテムいくつか持ってきたよ」

 

 小型のバッグに破壊工作用の道具を持ってきたらしい。

 よし!そんじゃまあ行きますか。

 意気揚々とドアを開けて部屋を出ようとしたら、いきなり発砲された。

 

「うお!撃って来やがった。というかもうバレた」

「ちっ、対応が早いですね。腐ってもメジロか」

「ちゃんと実弾だね。こっちが覇気でガードする事がわかってる」

 

 俺、この間まで覇気使えなかったのに・・・。実弾で撃たれた事に少しビビる。

 騎神が当たり前の戦場では実弾も容赦なく飛び交うのね。理解した。

 銃を使っているのは人間か、近接格闘をするのがウマ娘だな。

 

 銃撃が途切れた隙に部屋を飛び出す。

 銃より怖いのはウマ娘だ。戦艦の職員なら全員騎神だと思ったほうがいいな。

 人間は無視してウマ娘に狙いを絞る。

 俺たちの技量と覇気に生半可な騎神は相手にならない。

 手早く何人か無力化して通路を走る。

 追手の人数がどんどん増えてくる。ゾロゾロうぜぇー。

 おや、分かれ道だ。こういう時は

 

「「「こっち!」」」

 

 クロシロが右に、俺は1人で左に曲がる。

 

「「「ちょっ!?」」」

 

 えー?俺たち以心伝心だったじゃん・・・・。

 なぜこのタイミングで意見が分かれる。

 俺の方向音痴は三人の絆より強い呪いのなの?

 別のルートに入った俺たちに追手も分かれて対応する。

 

「仕方ないです!このまま続行!」

「マサキさん!気を付けて!」

「すまん!」

 

 大声で作戦続行を確認して走る。

 クロシロがいないのに無事この艦から脱出できんのか?不安すぎる。

 

 二人と別れてしばらく、俺は袋小路に追い詰められていた。

 ヤバいですね。

 

「もう逃げ場はない。大人しくしろ」

「やはりサトノ家に毒されていたか。かわいそうに・・・」

「あいつらのアホは伝染病と同じだ。なんて恐ろしい」

「向こうに逃げた子供達も相当厄介なアホらしいぞ」

「こいつも何をしでかすかわからん。早く取り押さえろ」

 

 サトノ家嫌われすぎワロタ。

 騎神が数人・・・やるしかないか。頼むぜゲシュペンスト。

 先ずはスラッシュリッパ―を試してみるか

 覇気を全身と装備に通わせ戦闘準備。

 俺の覇気に反応して騎神達が身構える。

 こっちから行くぜ。

 

「切り裂け鋼の戦輪よ!」

 

 ちょっとカッコよく言った瞬間、装備に違和感を感じる。

 どうしたゲシュペンスト?リッパ―出しちゃってよ。

 動かない、それに何か熱くなって、ちょっと焦げ臭いよ・・・え煙が・・・。

 

「なんだこいつ様子がおかしい」

「不用意に接近するな。気を付けろ」

「ハッタリかもしれんが、警戒を怠るな」

「待って!これは俺にも予想外の・・・あ、ヤバそう・・・すみません!これ外すのてつだ・・・」

 

 手伝ってと言い終わる前に、ゲシュペンストは俺ごと爆散した。

 

 

 マサキと別れたクロシロは追手を振り切り、艦内を走っていた。

 

「ねえ、シロちゃん。マサキさんに渡した亡霊、何処から持って来たの?」

「格納庫の隅で埃被っていたやつですが、それが何か」

「最後にメンテナンスしたのいつ?」

「さあ?私は古鉄と白騎士の調整に掛かり切りだったので、半年は放置していたかも」

「マズくない?碌にメンテしてない装備にマサキさんの覇気が通ったら」

「大丈夫ですよ。いくらあの人の覇気が強力でも装備を破壊する程ではな・・・」

 

 ドンッ!と艦内に爆発音らしきものが響き渡った。

 位置はマサキが逃走したであろう方角から聞こえたような・・・。

 

「シロちゃん?」

「だ、大丈夫ですよ。マサキさんを信じましょう。私達は自分の任務に専念するべきです」

「そ、そうだね。うん、マサキさんなら大丈夫」

「怒られる時は一緒ですよ、クロちゃん」

「また耳引っ張られるのかな。スキンシップ禁止とか言われたら、たぶん泣く」

「それは大変困ります。あの人のナデナデ、ハグ、抱っこ、その他が無くなる生活はイヤです」

「もう!ブラッシングしてもらえなくなったら、シロちゃんのせいだからね!」

 

 言い争いをしながら、操者の無事を信じてひた走る二人だった。

 

 

「けほっ!げほ・・・うぁ・・・び、びっくりしたー!」

 

 いきなり四肢に装着した装備が爆発するとか、驚くわ!

 覇気がなかったら木っ端微塵になってたぞ。

 自爆は最終手段でしょーが!なに初手から発動させてんだ。

 こんな欠陥品を寄こしやがって、クロシロは後でおしりペンペンの刑だな。

 

「くっ!いきなり自爆するとは・・・」

「サトノ家やはり侮れ・・・」

「奴は何処だまだここに・・・」

「は?・・・・」

「え、なんで・・・」

「・・・・////」

 

 なんだろう?俺の姿を確認した騎神達が唖然としている。照れてる人もいるし。

 俺が何か・・・あれ?なんで服着て無いんですかねぇ・・・。

 そっかそっか、爆発で服が消し飛んだのね。かろうじてトランクスは残って安心?

 覇気ガード時、服も上手にコーティングできるように修練せねばな。

 現状は把握した。

 いつまでも固まっている訳にはいなかないので、時を動かしますか。

 せーの。

 

「いやぁぁぁあああああああああ!!!変態ウマ娘の集団に犯されるぅぅぅううう!!!」

「「「「「「変態はおまえだぁあぁああああああ!!!」」」」」」

 

 パンツ一丁、略して"パンいち"になって逃走再開。

 武器も無くなったし、精々逃げ回って場を混乱させてやろう。もうやけくそだ!

 でも何だろう、敵陣の中枢で半裸(ほぼ全裸)で走り回るのって、すごく気分がいい。

 いけない事をしている背徳感、バカな事をしている高揚感、多少の羞恥心。

 いろんな感情と開放感でアドレナリンがドバドバだぜ。

 ひゅー体が軽い!もう何も怖くない!!

 

「待てぇー変態!その格好で走り回るなー」

「止めろ!奴を止めるんだ!」

「我々が追い付けない、何なんだあいつのスピードは!」

「おい、パンツがずれそうになってるぞ!出すなよ!ぜったい出すなよ!」

「もうヤダ・・・サトノ家こわい・・・」

「あの有害人間を、お嬢様達には絶対に近づけるな!」

 

 おーおーまだ追ってくるか。この鬼ごっこ超楽しー!ひゃはははははははは!!!

 いかんいかん、興奮して我を忘れてしまった。

 クロシロの破壊工作が終わるまで、こっちに人員を割いてもらわないとな。

 

「タスケテ―!レイパーズに追われてるのー!」

「誰がレイパーだ!この露出魔めが」

「寄ってたかって男を襲うなんて!これがメジロ家のやり方かぁあああああ!!!」

「やめろ!メジロ家を侮辱するな!」

「あの人、さっきから何で被害者ぶっているんですか!行動も思考も狂ってます!」

「あれがサトノだ、覚えておけ。理解しようとするな精神を病むぞ」

「ひぃ!」

「なによ人を異常者みたいに言って!パンツ脱ぐわよ!」

「「「「「「それだけはやめろー!!!!」」」」」」

 

 

 その頃、ハガネのブリッジでは・・・。

 監視カメラから届いた映像がモニターに映し出され、スタッフ一同皆困惑していた。

 ありえない戦闘力で追手を躱し艦内で次々に嫌がらせを行う二人の幼い騎神。

 もっとありえない半裸の人間とメジロ家騎神の鬼ごっこ。

 ハガネが建造されて以来ここまで艦内が混乱したのは初めての事である。

 

「ほう。自らおとりになり愛バ達に注意が行かないように仕向けるとは、できるな」

 

 この艦のトップ、メジロ家頭首ばば様が感心したように言葉を漏らす。

 ブリッジスタッフ達は思った「いや、あいつらそこまで考えてねーと思う!」

 

「しかも自爆して半裸になるとはな、何という決意と覚悟!見事です!」

  

 見事か?自爆も予定外のように見えたが・・・。

 

「我がメジロ家の精鋭達が、ああも翻弄されている。あの男・・・やはり欲しい」

 

 あの変態が欲しいのか?勘弁してくれ。

 ハガネのスタッフ一同のやる気が下がった。

 スタッフの一人がおずおずと発言する。

 

「頭首様はあの男を操者として、メジロ家に向かい入れるおつもりですか?」

「ええ。天級の横やりが無ければ、元々うちの子でしたからね」

「?」

「こちらの話です。そうですね、孫達の誰かと契約してもらえば・・・」

「お、お嬢様方をあの男に本気ですか!」

「もちろん本人達の意思や相性を尊重しますが、あの覇気なら孫も納得するでしょう」

 

 おいおい、冗談じゃねぇぞ!

 お嬢様たちはメジロ家の宝だ、あの聡明で愛らしく才能あふれる彼女達が・・・。

 あの変態と契約するだと・・・絶対に許さねぇ!

 スタッフ一同のやる気が上がった。

 

「警戒レベルの引き上げと、男の方に戦力を増員させますがよろしいですか?」

「ええ。多少手荒になっても構いません。あの三人を捕縛しなさい」

「はっ!」

 

 

「きゃあぁああああああああ!!!レイパーが増えたぁー!!!」

 

 急に追手の人数が増えた。

 今15~20人ぐらいか、ヤバっ、どんどん増えていく。

 しかも、飛び道具が・・・銃弾、ナイフ、手裏剣、弓矢、ブーメラン、ゲイボルク!?

 やだ!追手にランサーが混じってる。兄貴か師匠どっちだ!

 スカサハ師匠のぴっちりスーツエロいよね。

 修業頑張った後のご褒美で、思いっきり甘やかして欲しいんじゃ!

 追手の必死さがさっきと段違いだ。皆目が血走っている。

 そんなに見つめるなよ。興奮しちゃうじゃないか・・・。

 パンいちで興奮するのはマズいか。

 

「あんな奴がお嬢様と、許さない許さない許さない!」

「とにかく捕まえろ!生死は問わん!手が滑ったとでも言えばいいだろ」

「隔壁を降ろせ!逃走ルートを限定して追い詰めろ」

「・・・マズいぞこの先の区画は。はっ!最初からそれが狙いか」

「逃がすな!あいつの存在はメジロ家を破滅に導く!」

 

 これ捕まったら殺されますね。

 初めて乗った艦だし、元々方向音痴なので何処を走っているの全然かわからん!

 そろそろ脱出方法も考えなくては、クロシロは上手くやっているのかな。

 ちょっと休憩もしたいし、次の部屋に飛び込んで身を隠すか・・・。

 加速して追手を引き離す。この角曲がって最初の部屋へとびこめー!

 

「おじゃましまーす!」

「え!」

「きゃっ!」

「な、何?」

「なんですの!?」

 

 先客がいたー!しかも女の子が4人。お、全員ウマ娘じゃんカワイイ!

 はっ!パンいちの俺が女児4人の部屋に突撃・・・殺される理由が増えましたね。

 

「こんな格好ですまない。見るからに怪しいのは自覚している。まずは落ち着いてほしい」

「「「「・・・・」」」」

「実は今、追われていて困っている。ちょっとでいいから匿ってくれないか?」

 

 ダメ元で頼んでみた。

 無理だよなー。俺だったらパンいちが部屋に突入した時点で即悲鳴、即通報するわ。

 こちらを見つめる8つの瞳に警戒の意思を感じる。

 

「最悪だ!この先の部屋はお嬢様方―!」

 

 追手が来やがった!ああもう!こうなったら限界まで徹底抗戦じゃあ!

 この子達を巻き込まないように場所を変えよう。

 

「邪魔して悪かったな。もう行くわ、俺の事は忘れてくれ」

 

 部屋を出て行こうとすると4人の内の1人が近づいて来た。

 そのままジッとこちら見る。

 なんだこの探るような目線、あいつらと初めて会った時のような感覚。

  

「こっちですわ。しばらくここに隠れてください」

 

 俺の手を引いてクローゼットに隠れるように促す。いいの?ありがたいけど。

 

「ちょっ、マックイーン何を!」

「その人を匿うの?正気!」

「ははは、面白そうだから私は賛成」

 

 クローゼットに入って息を潜める。

 追手が来た!ドキドキ・・・スニーキング中のスネークもこんな気分だったのかな。

 ダンボール箱持ってくれば良かった。

 

「はあはあ、お嬢様方・・・ご、ご無事でしたか」

「何ですか?ノックもせずにゾロゾロと、メジロ家の者として礼節には注意しなさい」

「し、失礼しました。ですが、緊急事態ですのでご容赦下さい」

「何かあったのですか?」

「えっと、つかぬ事をお聞きしますが、ここに半裸の変態が来ませんでしたか?」

「半裸の変態?ハガネはいつからそのような下賤の輩の侵入を許すようになったのか」

「申し訳ありません!そいつは変態の癖になかなかの手練れでして」

「言い訳はいいのです。ここは大丈夫ですので、すぐに別区画の捜索に向かいなさい」

「は!何かあれば直ぐにご連絡下さい。では、失礼します」

 

 ふぃー、なんとかなった。

 それにしてもお嬢様ね・・・メジロ家のご令嬢か。

 堂々としてまだ子供なのに風格があるな、シロとはまた違った気品を感じる。

 

「もういいですわよ。変態さん」

「ありがとう助かった」

「とりあえず体を隠して下さる?」

「そこの毛布?を使ってもいいですかな?」

「ええ、構いませんよ」

 

 毛布というよりタオルケットを体に羽織る。

 なんかパンいちにマント装備は変態度数が上がった気がする。

 前をしっかり隠してと、とりあえずこれでなんとか。

 相手は子供だが命の恩人、改めてお礼せねば。

 

「ありがとうございました。おかげで命拾いしました」

「まあ、キレイな土下座ですこと。困った時はお互い様です。お気になさらず」

 

 頭を上げ4人の子供達を見る。

 

「いいのマックイーン。この人危険じゃないの」

 

 活発そうなボーイッシュな子。俺の体をマジマジと見ていた。

 筋肉に興味あるのかな。戸愚呂弟とか好き?

 ちょっとまだ警戒されてる。

 

「うう、用が済んだら早く出ていきなさいよ」

 

 黒髪ロングの子。この子が一番俺を危険視している。

 ちょっと素直じゃなさそうだが、こういう子のデレが見たいね。

 目もあんまり合わせてくれない、男が苦手なのか?

 

「まあまあ。二人ともリラックスしてほら、リラックスー」

 

 親しみやすそうな茶色毛の子。このメンツのムードメーカー的存在か。

 場の空気を読んで二人を落ち着かせようとしている。フォローもうまい。

 俺を見ても微笑んでくれる。ええ子やね。

 

「で、あなたはいったい何者で、どうして追われていましたの?」

 

 俺を匿う決断をした子。

 淡い紫がかった美しい毛並み、威厳と気品のある所作。

 間違いない、この子がリーダーだ。4人の中でもこの子の存在感は一際凄い。

 それと、どことなくシロに似ている・・・。

 

 誤解を解かなければ!

 焦って立ち上がったのでマント(タオルケット)が床に落ちる。

 ついでに唯一残った装備のトランクスもずり落ちそうになった。

 あと数ミリでアウトだったぜ!このまま返答する。

 

「今パンツ脱げそうになってるけど。俺、変態じゃないんだ!信じてくれ!」

「「「「説得力皆無!!!!」」」」

 

 ですよねー。

 失敗したわー。

 

 



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おじょう

 メジロ家のご令嬢と衝撃の出会い。

 

 ずり落ちそうなパンツをしっかり履きなおして、再び土下座。

 露出狂じゃないのです。信じてください。

 このままでは埒が明かないので、一気にまくし立てる。

 サトノ家のヒリュウからここへ来たこと。

 なぜか半裸になってしまい、逃げ続けていたらここにたどり着いたと。

 

「つまりあなたは私達メジロ家の敵という事ですのね」

「敵かぁ・・・一応そうなるのかな」

「はっきりしませんわね。この後はどうするおつもりで」

「さあ?勢いでここまで来ちまった」

「こんな大それた事をしておいて、ノープランですか」

「まあなんとかなるし、なんとかするよ」

「楽観的すぎませんか?サトノは皆こうですの」

「知らん。サトノ家に厄介になって数日だからな」

「お兄さん面白いね。もっとお話しよう」

 

 土下座をした後。

 ふかふかのソファーに案内されそこで尋問と言う名のお話タイム。

 

「えっと君は・・・あ、俺はマサキと言います」

「パーマー、メジロパーマーだよ。よろしくマサキ」

「メジロマックイーンと申します。以後お見知りおきを」

「ああ、よろしくな」

 

 パーマーにマックイーンね。

 愛称パー子にマックで決定。

 

「あなた達もご挨拶したらどうですの?」

「そーだよ。挨拶はした方がいいよ」

「そ、そうだね。メジロライアンです。よろしく」

「・・・ドーベル、メジロドーベルよ」

「ライアンにドーベルだな。よろしくな」

 

 まだ警戒中の二人の名前も判明。大丈夫よ俺無害な紳士よ。

 

「なぜハガネにいるんだ?ここって一応戦艦だよな」

「おばあ様に無理を言って乗艦させていただきましたの」

「前から乗ってみたかったんだよねー、戦闘するとは聞いてなかったけど」

「この辺りの区画が一番安全だとかで、この部屋にいるよう言われました」

「はぁ最悪・・・もう帰りたい」

「その安全な部屋に半裸の男性が飛び込んできましたけど」

「なんかすみません」

「いいよ。この部屋にいるのも飽き飽きしてたからね」

「私達、娯楽に飢えていますの。あなたの来訪を歓迎しますわ」

「随分話のわかるお嬢様だな。ありがとう」

「あ」

 

 しまったぁー!頭を許可なくナデナデしちゃった!

 いつもクロシロにやってるからつい・・・アカンやらかした。

 めっちゃサラサラ!すげー触り心地だ、これがお嬢様の頭髪力かよ!

 クロシロもお嬢でしたね。

 

「す、すまない!いつもの癖でつい」

「い、いえ・・・ちょっとビックリしただけですわ」

「私も撫でていいよーほら」

「いいの!じゃあ遠慮なく」

「わわ、凄いね!気持ちいいよ」

「あの・・・わたくしにも」

 

 マックイーンとパーマーの頭を撫でる。

 ほう。クロシロとはまた違った毛並みですな。これはこれで素晴らしいですぞ。

 お!?・・・何だ・・・これは二人の覇気?

 撫でてると二人の覇気が流れ込んで来た。そして俺の覇気も二人へ。

 今、ちょっとだけ循環したか・・・。

 俺の奥で何かにカチリと・・・二人の覇気がハマった?うんわからん!

 ライアンとドーベルが信じられないと言った顔でこちらを見ている。

 

「ど、どうしちゃったの二人とも。そんなにチョロかった」

「その男に何か・・・されては無いみたいね」

「二人もやってもらいなよ。マジで世界変わるよ」

「これはとても良いものですわ。もっとお願いします」

「そちらの二人もご希望か。いいぜ来いよ」

「えーと」

「わ、私はいいし・・・」

「いいからおいで、別に取って食いやしない」

 

 まだ躊躇している二人も撫でてやる。

 安心させるように丁寧に優しく・・・。

 まただ、俺と二人の覇気が循環する。

 そしてカチリとハマる。どこに?何に?言葉にするのは難しいな。

 

「こんな感じでどうだ?怖くないよー俺無害だよー」

「うん。凄く優しい手つき」

「・・・上手ね」

「ね、言った通りでしょ。はい交代!次私の番」

「ふふっ、すっかり人気者ですわね」

 

 四人を撫で終わってトークタイム。

 会話してみてわかった。このお嬢様達いい子だな。

 こういう子供を育てたメジロ家はやはり名家なのだろう。

 そのまま当たり障りのない会話を続けた。

 庶民をどう思っているの、お嬢様の辛さトップ10、きのこ派?たけのこ派?

 おばあ様=ハマーン説、サトノ家のここが怖い、今期おすすめアニメ見た?

 意外と話題は尽きなかった。

 

「なあ"うまぴょい"って知ってるか?」

 

 発言してから気づく、この質問完全にセクハラですな。

 小学生ぐらいの子にする質問じゃない。俺ってホントばか。

 おや、マック以外の三人が赤面している。そうか・・・。

 

「なぜ私だけ撫でますの?」

「いいんだ。マックは純真なんやなって・・・いつかお前にもわかるさ」

「?その憐れんだ眼差し少々不快ですわ」

 

 会話も一段落、良きコミュニケーションでした。

 そろそろ脱出案を考えなくては、どうしようかな。

 ブリッジを制圧するのは現実的ではないな。護衛もたくさんいるだろうし。

 この艦の出口までのナビも欲しい。クロシロに俺の位置を知らせるには覇気を使うか。

 大体の方針はまとまった。あとは実行あるのみ。

 お嬢様に協力してもらうか・・・してくれるのかな?

 

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」

「いきなり指差しを始めましたわ、いったい何ですの?」

「私達の内から1人選ぼうとしてない」

「な、何する気ですか」

「やっぱり危ない人だったの」

「マック!君に決めた!」

「私にいったい何をさせるおつもりで」

「人質として一緒に来てくれないか?脱出ルートのナビもお願いしたい」

「お~誘拐しちゃうんだね。やるね~」

「流石にそれはマズくない」

「男ってやっぱりクズだわ」

 

 多少打ち解けたとはいえ、敵側の要人だ。協力してくれる可能性は低い。

 それでも、この子ならそんなふざけた頼み事もOKしてくれる気がした。

 母さんが教えてくれた。

 「彼女達の事を信じてあげて。ウマ娘はあなたの信頼にきっと応えるわ」

 そうだった。今の俺がいるのはウマ娘達のおかげだ。

 メジロ家は元々俺を家族として迎えようとしてくた人達だし、信じるんだ。

 

 マックが俺を見つめる。まただ俺の奥底を見透かす様な感覚。

 目をそらさずに見つめ返す。今俺はこの子に試されてる。

 

「メジロマックイーン、俺と一緒に来てくれ」

「ええ、喜んで」

 

 差し出した手を握られる。よっしゃあ!交渉成立。

 

 出発前にお別れしておくか・・・。

 

「ありがとう。短い間だったが世話になったな」

「まあ、適当に頑張ってね。応援してるよ」

「パー子お前がいてくれて助かった。皆を落ち着かせてくれてありがとう」

「パー子?私パー子かぁ・・・うん。元気でね」

 

 パーマーを撫でながら挨拶する。

 この子が場の空気を和らげてくれた。

 もって生まれたムード―メーカー気質、きっとこの先も必要とされる力だ。

 そのうち気の合うパリピの友達とかできそうだ。

 

「ライアン混乱させてすまなかったな。お前は優しいからメジロ家の事も俺の事も考えてくれたんだよな」

「そんな事ないです。あなたが優しい人だってわかってたのに・・・」

「一応、俺は敵だからな攻撃されなかっただけマシだ」

「はい。どうか気を付けて」

 

 次はライアンを撫でる。

 この子は自分達の立場と俺の立場、両方気にして迷っていた。

 優しい子だ。この優しさと信念を貫き通せば大物になるだろう。

 肉体強化頑張ってね。3食プロテインのみはおすすめしないぞ。

 

「ドーベル怖がらせて悪かったな。ただ信じてくれ男は俺みたいな変態ばかりではないと」

「・・・撫でないの?」

「嫌じゃないのか」

「別に、私だけされないのも癪なだけよ」

 

 お許しが出たのでドーベルの頭も撫でさせてもらう。

 この子ずっと俺を警戒してたな、人見知りで少し臆病なのかもしれない。

 そしてそんな自分に自信がないと・・・。大丈夫、お前さんは立派なメジロのお嬢だよ。

 自分の弱さを知ってるお前はどんどん強くなる。自信もってね。

 

「お別れは済みましたか」

「ああ、じゃあ行きますか!」

「頑張ってね~」

「応援してます」

「・・・早く行きなさいよ」

 

 マックと一緒に部屋を出る。

 

「では行ってきます。おばあ様達には上手く誤魔化してくださいな」

「お前らいい女になれよ!縁があったらまた会おうぜ」

 

 マサキとマックイーンが出て行った後。

 残された三人は少しの寂しさを感じていた。急に部屋が広くなった様に感じる。

 

「なんか凄かったね。風・・・いや嵐みたいな人だった」

「不思議だよね。どう見ても怪しい人なのに、気づいたら仲良くおしゃべりしていたし」

「何なのあいつ・・・」

「ドーベルやっぱり無理してた?ごめんね男の人苦手だって知ってたのに」

「男は苦手よ・・・そのはずなんだけど」

「?」

「おかしいの!全然嫌じゃなかった。頭撫でられた時もっとして欲しかった・・・」

「おお、ドーベルが・・・あの男嫌いのドーベルが・・・」

「私達もだけどマックイーンが気に入った人だよ。ただ者じゃないね」

「また会えるかな」

「いい女になれだって・・・」

「・・・ふん」

 

 マックの案内で艦内を移動する。

 

「もう自分が何処にいるのかさっぱりわからん」

「ご心配なく、艦内の地図は頭に入っていますわ」

「頼もしいな。で今は何処に向かっている」

「使用人たちの更衣室ですわ。先ずはあなたの格好を何とかしましょう」

「ご迷惑お掛けします」

 

 更衣室にたどり着いた。

 何でもここは男性用であまり人は来ないらしい。

 艦内使用人の男女比が7:3で女性優位なので仕方がないか。

 

「運がよかったな。一度も誰とも遭遇しなかった」

「警備が手薄な場所と監視カメラの無いルートを選んで移動したつもりですのよ」

「マジか、本当に優秀なんだな」

 

 作業着とスーツがある。

 マックにスーツをおすすめされたのでスーツに決定。

 サイズはえーと、うん大丈夫そうだ。

 よし、着替えますか。

 

「私がいるのに躊躇なく着替え始めましたわね」

「どうせパンいちなんだから今更だろ」

 

 高級そうな黒いスーツを身に着ける。

 スーツ着るのなんて久しぶりだ。おかしくないだろうか。

 なんかこう気が引き締まるよね。

 

「どうかな?これでいい、変な所ない?」

「とってもお似合いですわ。このままメジロ家に就職なさっては」

「ご冗談を・・・」

「ちょっと屈んで下さいな。ネクタイが曲がってます」

「ありがとうな。女の子にネクタイを直してもらう夢が叶った」

「どういたしましてですわ」

 

 何やら部屋の外から人の気配を感じる。

 今部屋から出るのは危険だな。焦らずに休憩タイムとしよう。

 マックが俺に質問してくる。

 

「首筋の傷は歯形・・・あなたは操者で間違いないですわね」

「おう、最近なったばかりだ」

「愛バはサトノ家の子でしょうか」

「そうだぞ。マックよりちょっと下の子が2人な」

「私より年下・・・しかも2人同時・・・ロリコ・・・」

「何とでも言え!ロリコンは覚悟の上だ」

「契約で噛みつくだなんて、サトノは随分と伝統を重んじるのですね」

「ん?本契約では噛みつくんでしょ」

「一昔前まではそうだったらしいですわ。現在、契約で人間に噛みつくウマ娘はほとんどいませんわ」

「えーあんなに痛い思いしたのに・・・」

「その激痛も噛みつき契約が廃れた原因ですわ。痛みに耐えられず契約失敗する事が多々ありまして」

「痛いだけでメリットないんかい」

「そんな事はありませんわ。噛みつきで契約した者は非常に仲が良く、長く連れ添うのが当たり前ですわ」

「それだけ?」

「覇気の交換を傷口から直に行う事で、因子の覚醒を通常より促す事ができるはず」

「因子?何それ?」

「勉強不足ですわよ。因子は親や祖先から受け継いだ潜在能力ですわ」

「つまり~」

「自分以外の覇気で眠っている力を呼び起こす可能性。噛みつき契約ではそれが顕著ですわ」

 

 痛かった分パワーアップするのか。

 もちろん必ず成功するとは限らないし、優秀な因子が眠っているとも限らないらしい。

 まさに因子ガチャである。期待し過ぎるは良くないかも。

 

「人間の魂に覇気の刃を突き立てる事になるので、どの文献や研究でもとにかく"死ぬほど痛いぞ"と言うのが共通の見解だったのですが、本当によく耐えましたわね」

「もう二度と味わいたくない・・・あれはアカン」

「あなたの愛バも相当の覚悟だったと思いますわ。その契約方法はそのうち禁止されるでしょうから」

「禁止されるほど人間には危険なのかよ」

「危険なのはウマ娘の方もです。操者の覇気が体を創り変えた症例もありますし・・・」

「聞いてないんだが」

「覇気の循環は契約した者同士に影響を与え合います。本来はゆっくり時間をかけて慣らしていくはずですが」

 

 話をまとめてみよう。

 

 〇共通

 

 人間とウマ娘が契約する→操者と愛バの関係になる

 覇気の循環が始まる→互いの覇気がそれぞれに影響を及ぼしパワーアップ

 

 〇通常契約

 

 契約方法→接触により一定時間覇気を送り合う→書面による手続きで完了

 

 徐々に体を慣らしながら行うので負担が少ない

 

 〇古式契約(噛みつき)

 

 契約方法

 人間が付けた名前をウマ娘が受け入れる→ウマ娘が人間の覇気と血液を摂取する

 →ウマ娘から人間へ覇気を送り込む→成功すれば覇気循環が始まる

 ※非常に強い痛みを伴うため人間側は相応の覚悟が必要 後遺症が残る可能性あり

 

 互いの覇気が一気に流れ込むため負担が大きい。

 ウマ娘側は人間の覇気に強い影響を受けるため、肉体にも変化が起こる場合あり

 危険を伴う分パワーアップの度合いが通常契約の比ではない。

  

 不確定要素が多く双方にとって危険が大きいため近々禁止される予定。

 この契約方法を実践してくれる人間自体が少ないため、古式契約をした者はウマ娘にとって憧憬の対象である。

 

「あの時は急いでいたから詳細は説明されなかった。かなり危ない橋だったんだな」

「大切にしてあげなさいな。2人とも本気でしょうから」

「本気とは何ぞや」

「あなたが真剣に死ねと言えば、躊躇なく自害するぐらい本気という事ですわ」

「重いなあ」

「それを受け止めるのが男の甲斐性でしてよ」

「そういうもんかね」

「そういうものですわ」

 

 俺はウマ娘好きを自負していたけど、まだまだ知らない事が多いな。

 クロシロにもちゃんと聞いておかないとな。

 あいつら俺の知らないうちに覚悟完了しやがって・・・。

 

 部屋の外ではまだ警備がうろついている。

 何か食べ物を持ってくれば良かったな。腹減って来た。

 

「私こんな物を持ってますわ」

「何それ?」

 

 マックが取り出したのはなんだ・・・黒い飴?

 

「先日頂いたフィンランドのお土産ですわ」

「サルミアッキ」

「そうそれです。食べた事があおりで?」

「ないよ。有名な食べ物らしいがな」

「私も初めてですわ。せっかくですから一緒に食べましょう」

「ありがとう。思ったより黒いな」

 

 初サルミアッキいきます。

 

「「いただきます」」

 

 口に入れた瞬間広がる不可思議な味。

 マックも微妙な顔をしている。

 

「何だろうなコレ、例えるならばえーと」

「同時に言いませんか、この味を一言で表すなら・・・」

「「タイヤ!」」

 

 出会って間もないウマ娘とのシンクロ率は良好だった。

 

 



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ひとじち

 タイヤの味がする飴を食べた。

 

「食べた事はないのですが、この味・・・タイヤとしか言えませんわね」

「どうする、吐き出すか?」

「いえ途中で吐き出すなどはしたないですし」

「勿体ないよな。うん、頑張って完食しよう」

 

 何とか食べきった。

 サルミアッキ・・・ハマる人はハマるらしいが俺には無理だったな。

 

「缶詰にした方がよかったかしら」

「何の事だ?」

「このサルミアッキと一緒に匿名で送られてきた品ですわ」

「匿名?誰からの贈り物かわからんもんを食べたのか」

「危険物ではないとチェックされてから、私のもとに届きますから安心かと」

「缶詰はどこ産だ?」

「スウェーデン産ニシンの塩漬けだったはずですわ」

「それ十分危険物だからね。屋内では絶対開けるなよ」

 

 シュールストレミングはヤバい。

 嗅覚に優れるウマ娘には大ダメージだろう。下手な爆弾よりタチが悪い。

 

「嫌がらせされてるの?メジロ家にケンカを売るとか・・・サトノ家か」

「違いますわ。定期的に私個人を指名して届く贈り物です。サトノ家は関係しておりません」

「送り主の調査はしたのか?」

「それが足取すら全く掴めないのです。"黄金の浮沈艦"様はいったい誰なんでしょう」

「メジロ家が調査しても正体不明とか、受け取り拒否はしないのか」

「次はどんな珍品が届くか楽しみになってきているので、このまま放っておこうかと」

「器が大きいな。今後も開封前にチェックはしてもらえ」

「承知しておりますわ。送り主様にはいつかお礼申し上げたいですわね」

「メジロ家のお嬢様ともなるとファンの1人や2人いて当たり前か」

「ファンなのでしょうか・・・」

 

 送られた珍品を前に困惑する自分を想像してゲラゲラ笑っているのでは?とマックが言う。

 とんだ愉快犯だ。相当暇人なのかな。

 

「今更だけど、こんな俺に協力する気になったのは何でだ?最初も匿ってくれたし」

「格好はアレでしたが、あなたの覇気を見れば悪人でないのはすぐにわかりましたわ」

「覇気を見て人の善悪なんて判断できるもんかね」

「できますわよ。あなたのは特別わかりやすいですから」

「は?どういう事よ」

「覇気はだだの生体エネルギーではありませんわ。そこには感情のエネルギーも合わさりますの」

「やだまた初耳。私ってばホント無知」

「感情エネルギーを読み取る事は、人間には難しいですから無理もありませんわ」

「ウマ娘は覇気で人の心の機微がわかるのか、そんなのズルい」

「大体ですわよだいたい。「ああこの人は私の事を好きなんだな~」とかそんな感じ」

「ひでぇ・・・人間圧倒的不利じゃん」

「人間の感情も成人を迎えると、読みづらくなるのが普通なので、ご安心を」

「俺、今年で成人なんですけど。精神年齢が低いガキって事か」

「精神お子様なのと、覇気の性質と総量が異常に高いことが原因で心を読まれるのでは」

 

 思い当たる節がある。

 シロはよく俺の考えを先読みした。母さんだっていつもそんな感じだったな。

 ずっとサトラレ状態だったのかよ!教えてよ!

 これから覇気コントロールの修練を積めば抑えられるとマックにフォローされた。

 ちくしょう絶対に隠せるようになってやる。

 

「そんで俺を無害な紳士と判断してくれたんだな」

「紳士かどうかは知りませんわ。ただあなたに協力したほうが面白いと思っただけです」

「敵勢力に協力するのが面白いか」

「言ったでしょう娯楽に飢えていると、トラブルと遊ぶ絶好の機会ですわ」

「なかなかいい性格してるな。気に入った」

「お褒め頂き光栄ですわ。私からも聞いてよろしくて」

「質問は答えられる範囲にしてね」

「あの場には私を含め4人いました。どの子もメジロ家の未来を背負う優秀な人財です」

「だろうな」

「なぜ私を選んだのですか?」

「理由は単純、お前が一番強かったからだ」

 

 4人とも並みのウマ娘以上の覇気をもっていた。

 そこはメジロ家の子供なら当然なのだろう。

 なかでもマックの覇気は飛びぬけていた、大部分を隠していたにも関わらず。

 そして俺が部屋に突入した瞬間から全身の力を練り上げて、いつでも開放できるよう準備していた。

 不用意な行動を取れば即刻、俺の首を狩りに来ただろう。

 高い戦闘力に頭の回転も早い、クロシロと戦ってもいい勝負になるのでは。

 

「そんだけ強ければいざって時、最低限自分の身は守れるだろ」

「慧眼ですのね。ですが少々買い被り過ぎますわ、まだまだ修行中の身ですので」

「そのストイックさ痺れるね」

「褒められて悪い気はしません。あら、早速実力を披露できそうですわ」

「え?アレ倒していいの」

 

 目の前に艦内警備用のAMがいる。リオンのカスタマイズ機か。

 武装は・・・制圧用スタンロッドと機銃ぐらいか。艦内で大暴れできないので控えめ。

 

「ここ通らなきゃダメ?迂回ルートは」

「ここが一番安全なルートですわ、AMなど手早く片付けてしまいましょう」

「なんでやる気満々なの?あれ、お宅の備品ですよね」

「訓練以外でAMを合法的に破壊できるチャンスですわ」

「ウマ娘って思考がバーサーカーの子が多すぎない」

「私たちは人間よりも闘争心が高い生物ですから、本能ですのよ本能」

「ならしゃーないか」

「ええ、ではお先に」

 

 正面から突っ込むのかい。早っ!一歩目からそんなに加速するの。

 AMがマックの存在に気付いた時には至近距離まで接近、そのまま頭部を蹴りの一撃でへし折る。

 頭部とメインカメラを破壊されてなお動く腕部を引きちぎり、起動したままのスタンロッドを剥き出しの内部構造へと押し当てる。高圧電流が機体を駆け巡り機能停止になる。

 まさに秒殺、相手の弱点を正確に把握してからの無駄の無い動き。やるじゃない。

 

「ひゅー!カッコイイ抱いて!」

「抱きません。ほら、もう1体来ましたわ。あなたの番ですのよ」

「俺のターン!」

 

 機銃を撃つ隙を与えずに加速!懐奥深くに潜り込む。

 人型の構造ならこんな風にっと、腕をとり相手の重心が動いた瞬間タイミングを合わせて。

 

「そぉい!」

 

 できた!人生初一本背負い。

 受け身も取れず倒れ込んだ機体胸部を覇気を乗せた足で思いっきり踏み砕く。

 まあまあかな。もっと効率よく倒せるように修練あるのみだな。

 

「お見事です。AMや並みの騎神では相手になりませんわね」

「そうか。初陣は数日前だったが、様になっているみたいだな」

「その割には良い動きをされます。日頃から修練を積んでいるのかしら」

「まあ、いろいろあってな」

 

 母さん達にいろいろ仕込まれた結果です。感謝します。

 

「壊して良かったのか、後で怒られたりしない?」

「あなたに脅されて仕方なくやった事にしますので、問題なしです」

「本当にいい性格しているな。こいつめ」

 

 ちょっと乱暴に頭を撫でる。

 嫌がられるかと思ったが、髪をクシャクシャにされてもマックは微笑んでいた。

 

「これについて、忠告をしておきます」

「コレ?頭を撫でる事か」

「はい。女性が頭ナデナデされるのが好きと言うのは、男性の一方的な妄想ですわ」

「すみません!調子にのってました!もうしません!」

 

 クロシロがせがんでくるので気にしてなかったが、撫でるのアウトだったんかい!

 そ、そうだよな。好きでもない男に頭触られるはキモイよな・・・泣きそう。

 落ち込んでいる俺の手を取って自分の頭に乗せるマック。何しとんねん。

 

「私はあなたに撫でられるの好きです。パーマー達もそうですわ」

「ありがとうございます!お嬢様!」

 

 今後は許可を取ってからにしよう。特に初対面の子には注意!

 男の勘違い行動、他にもやらかしてそうで怖い。

 でも、このお嬢様に受け入れてもらった事は素直に嬉しい。

 ホンマにええ子やでメジロ家の未来は安泰やな。

 

 乱れたマックの髪を手櫛で整えて移動を再開する。

 途中で遭遇したAMはマックが率先して(嬉しそうに)破壊していくので楽ちんだった。

 そうして進んだ先で開けた場所に辿り着いた。

 ここは各区画への通路が合流する中継地らしい。だからか、見張りがわんさかいやがる。

 咄嗟に物影へ隠れる。あの人数はヤバいな、頼れるお嬢様に相談してみよう。

 

「マック、何か良い作戦はあるか?」

「正面から正々堂々と突撃するのはどうでしょう」

「そういう脳筋プレイは却下だ。人数差考えろよ、無謀すぎるわ」

「ならば私を利用して頂くしかないですわね」

「お前を警備たちの中心の放り投げて、気を取られている間に俺が無事に突破する」

「スタングレネードみたいな扱いですわ」

「ダメか?」

「ダメですわ。ですが外道な考え方はいいと思います。・・・演技力に自信はありますか」

「何をしたらいい」

 

 作戦を練る。

 お嬢様を誘拐して人質にするクズになりきれとのオーダーだ。

 演技でいいんだよな。最近こんなんばっかりや。

 面接で「特技は?」と聞かれたら「ウマ娘幼女の誘拐です!」言えるか!

 

「お嬢様、ちょっと失礼」

「あら、お姫様抱っこされてしまいました」

「後は打ち合わせ通りにするとして、行きますか」

「ええ。困った時は流れに身を任せましょう」

 

 マックを抱えて移動する。なんか嬉しそうだね君。

 

「随分手慣れてますのね。凄く自然な動きでしたわ」

「抱っこの事か?いつもは2人分だからな任せとけ」

 

 そのまま堂々と広場へ出る。

 

「お仕事ご苦労様でーす。そこを通してくれませんかねぇ」

「貴様は、いたぞー!変態が・・・お、お嬢様!」

「こいつお嬢様を人質に、どこまで腐っているんだ!」

「他のお嬢様方の安否を確認しろ」

「待ってて下さい、すぐにお救いしますから」

 

 俺を包囲してジリジリと迫ってくる。

 マックがいるから不用意には動けないよね。

 

「おいおい、俺はここを通して欲しいだけだぞ」

「皆下がって!下がりなさい、この男は危険です!」

「お嬢様もこう言ってるんだ下手に動くなよ、げへへ」

「私は大丈夫です。他の子たちをお願いしますわ」

「健気な事だ。おい!そこをどきな、言う通りにしないどうなるか・・・」

 

 結構雰囲気出てるんじゃないの、いけますよコレ!

 マックもノリノリだ。耳と尻尾の動きで楽しんでるのがバレバレ。

 笑うな、まだ笑うな・・・。

 

「くっ・・・ご自身より我らや他のお嬢様方の心配を・・・」

「メジロ家の至宝である尊い方をよくも、この外道め!」

「変態!クズ!ゲス野郎!ウマ娘の敵!」

「許さんぞ、生かして帰すな!」

「「「「「「「「コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!」」」」」」」

 

 ヤバい。これだけの人数が一斉に殺気を向けてくるのはかなり来るもんがある。

 足が震えそう、もう中止して土下座した方がいいかも。

 マックが目で「大丈夫、私がついています」と言ってくる。

 賽は投げられたか。えーいままよ。

 

「いいのか?こいつがどうなっても」

「お嬢様に何をするつもりだゲス!」

「そうだな~。まずはこいつに、一般庶民の生活を叩き込んでやるぜ!」

「なっ、メジロ家の尊厳を奪うつもりか」

「庶民に成り下がった後は、イケメンの好青年を紹介して大恋愛させてやるわ!」

「そんなお嬢様・・・」

「そして2人は結ばれ、大勢に祝福されて結婚!仲人はもちろん俺がやる」

「嘘だ・・・そんなの嘘だ・・・」

「子宝にも恵まれて順風満帆な生活を送り、最期は愛する孫たちに看取られる。そうなってもいいのか!」

「ぐ、なんて恐ろしい事を・・・お前は悪魔だ」

「あの、それって私とても幸せになってませんか?」

 

 お嬢様を庶民に堕とす。俺の恐ろしい計画を聞いた奴らは道を譲るしかない。

 メジロ家のお嬢様を崇拝し過ぎるこいつらには大分効いたみたいだ。

 バカで良かった。

 

「覚えていろよ。この借りは必ず返すぞ!」

「お嬢様、必ずお助けしますから辛抱して下さい」

「くそ!こんな奴に」

 

 悔しいでしょうねぇ。俺からのファンサービスは気に入ってもらえたかな。

 ほら、マックも何か言ってやれ。

 

「くれぐれもついて来ないで下さいね。私の身を案じているならなおの事です」

「はーいそこ通りますよー。どいてどいてー」

 

 難関を突破できました。

 

「怖かった~。皆ものすっごい目で睨むんだから」

「いい感じでしたわ。誘拐犯さん」

「お前まで・・・勘弁してくれ」

  

 職業 盗賊(ウマ娘幼女専門) 天職になったらどうすんの!

 

「もう自分で歩けるか?」

「もうしばらく、このままでお願いしますわ」

「イエス、ユア・ハイネス」

 

 お姫様抱っこを継続したまま走る。

 マックに案内されて無事目的地に到着した。

 小型の脱出艇が格納されたドック。ほ~これで逃げるのね。

 すぐそばに管制室があるな。あそこで出入口の開閉やボートの離発着を制御するようだ。

 「ありがとう。もういいですわ」と言うマックを降ろして入室。

 そこでは初老の男性が1人待ち構えていた。

 

「お待ちしておりました。お嬢様」

「ウォルター」

「えっと、この執事さんは」

「申し遅れました。メジロ家の執事長、ウォルター・C・ドルネーズでございます」

「ご丁寧にどうも。安藤正樹です。この艦に殴り込みに来て、そろそろ帰ろうと思ってます」

「バカ正直すぎますわ。ウォルター、ボートの準備は?」

「いつでも発進できます。後はお連れ様の到着を待つだけです」

「いつもながらパーフェクトな仕事ぶりです」

「恐れ入ります」

 

 この執事さんは、マックが産まれるずっと前からメジロ家に仕えている、爺や的存在らしい。

 今回もマックの動きを察知して、俺とここへ来ると予測しいたらしい。超有能!

 覇気が全く感じられないのが逆に怖い、完璧過ぎる制御。絶状態ですねわかります。

 たぶん俺を一瞬でバラバラにできるぐらい強い。この人が追手だと即詰んでたな。

 

「いいんですか?俺はあなた方の敵では」

「私はお嬢様の意思を1番優先しておりますので」

「ウォルターは信用できますわ。いつも私の味方です」

「・・・終盤で裏切ったりしないで下さいよ」

「はて?なんの事ですかな」

「マサキさんと一緒に来られた方は今どちらに」

「すぐ傍まで来ております。追手は上手く撒いているようです」

「あなたの覇気でこちらへ誘導してあげて下さいな」

「覇気を出しちゃっていいんだな」

 

 クロシロ~俺はここにいるぞ~。そろそろ帰るよ~こっちにおいで~。

 愛バの事を考えながら覇気を放出する。これで伝わるのか。

 

「ほう。大したものですな」

「予想の遥か上、数日前の超特大覇気はやっぱりあなたでしたか」

「お、来てる来てる。2人ともこっちに向かってる」

 

 覇気を開放した事で2人の位置が大体わかる。真っ直ぐこっちに来てる。

 

「さあ、ボートに乗ってください。お連れ様が到着しだい発進させます」

「あの、航空機の免許持ってないのですが運転できますかね」

「安心してください。操縦系は全てゲームのコントローラーに仕様変更済みです」

「エースコンバットとかプレイした事ありまして?あんな感じですわ」

「ええーちょっと苦手なジャンルだ」

「搭載されたAIによる自動運転もできます。お嬢様方でも問題ありませんでした」

 

 子供でも運転できたから大丈夫ってか、不安だな。

 先に乗って2人を待つ事にするか。

 その前に・・・。

 

「ここでお別れですわね。短い間でしたが楽しかったですわ」

「本当に世話になったな。ありがとう、お前の事は忘れない」

「そのスーツは差し上げますわ。それからこれも」

「サルミアッキ・・・処分に困ったな。まあ、もらっておくよ。スーツはマジでありがたい」

「少し屈んで下さる」

「ん」

 

 マックの前に屈むと優しく抱きしめられた。

 ウォルターさんがサムズアップしてこちらを見ているで、こちらからも抱きしめる。

 

「知っていましたか、あなたにメジロ家の子になる未来があった事を」

「知ってる。そういう可能性もあったんだよな、でも今の俺も嫌いじゃないぜ」

「どこにいてもあなたはあなたです。いつまでも面白愉快なあなたでいて下さい」

「マックも無病息災でな」

「次に会った時は、もっと遊んで下さいな。約束ですわよ」

「その時は俺の愛バ達も紹介させてもらう。あいつらがいたらもっと面白くなるぞ」

「ふふっ、楽しみにしてます」

 

 最後に耳や頭を一撫でして離れる。名残惜しいが行かなくては。

 ウォルターさんにも一礼して部屋を出る。

 ボートに乗り込むと同時にクロシロがドックに到着。

 

「「マサキさん!!」」

 

 俺たちが搭乗したのを確認して発進ゲートが開く。さあ脱出しますか。

 

 



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ねとられ

 お嬢様の協力で無事ハガネから脱出できました。

 

 

【メジロマックイーン】マサキ脱出後

 

「行ってしまいましたか。なんだか寂しいですわ」

「珍しい事態に直面して、このウォルター、大変驚愕しております」

「何がですか?言いたい事があれば言いなさい」

「お嬢様があのように人と接するのを初めて見ました」

「・・・・」

「お嬢様は何といいますか、もっとこう人間、特に男性には潔癖であったと存じています」

「確かにそうですわ。あの方の前では、おかしくなってしまう」

「ナデナデされるお嬢様、他にも抱っこや自らハグ・・・年甲斐もなくキュンキュンしました」

「変でしょうか?私はメジロ家の者として間違っていますか」

「私は素直なデレデレお嬢様も等しく愛しております。はぁ・・・尊い」

「あなたの忠誠に感謝を、ですがたまに怖くなりますのでほどほどに」

「かしこまりました」

 

 本当におかしい、こんな自分を両親やおばあ様が見たら何と言うだろう。

 あの方といる時は凄く楽しかった。あんな風にはしゃいだのは久しぶりだ。

 だけどあの時のハジけた自分が嫌いではない。

 操者ですか・・・。

 人間をパートナーにするの事を、ちょっと前向きに考えてみようかしら。

 

「私も操者を探すべきかしらね。どう思います」

「やっとその気になられましたか。大変喜ばしい事です、全力で応援します」

「どうしましょう。こちらから探しに行った方が」

「こちらで候補者をリストアップしますので、そちらを確認して頂ければ」

「操者を探す名目で旅に出るチャンスですのに」

「それを実行するのは、今はまだ早いかと」

「おばあ様も簡単にはお許しにならないでしょうからね。前途多難ですわ」

「お嬢様にはきっとお似合いの、優秀な操者が現れますとも」

「そうだといいですわね」

 

 ボートの発信前にこのドックに飛び込んで来た2人。

 あれがあの方の愛バ。サトノ家の令嬢で私よりも年下の騎神。

 間違いなく強者、ですがあの2人・・・大丈夫かしら。

 覇気が随分と歪んでいるように見えたが、操者との相性が良くなかったのだろうか。

 もしくは操者の覇気に押し潰されそうになっているとか。

 考えても詮無き事か・・・マサキさん、注意してあげてくださいね。

 

「それでは、おばあ様にご報告をしましょうか、お説教されますかしら」

「ご頭首様は別にお怒りではないでしょう」

「知ってますわ。今回は私達とマサキさんを邂逅させるのが真の目的でしたから」

「ご存じでしたか、ハガネを動かした甲斐がありましたな」

「人間、操者に対しての壁を取り払って欲しかったのでしょうね。まんまと嵌められましたわ」

「お嬢様達の将来を案じての事です。ご理解ください」

「はいはい。ですが少し困った事になりました」

「何がですかな」

「マサキさんに会ってしまいました。今後どうやっても操者候補を見る目が厳しくなりますわ」

「あの方と同等の逸材・・・確かに困りましたな」

 

 さて、私の操者はどの様な方でしょう、楽しみですわ。

 

 

【マサキ】脱出艇内部

 

 無事に脱出できた事は喜ばしい。だがボート内部は異様な空気だった。

 原因は合流した俺の愛バ達。

 

「・・・・」

「・・・・」

「あの~クロさん、シロさん・・・どうかしましたか?」

 

 さっきから無言なんだけど!

 笑顔で再会していつものように俺に抱きつこうとした二人だったが、途中で動きを止めてそのまま固まってしまった。

 直立不動!何?なんなの?二人がこうなった理由がわからん。

 

「別れた後、何かあったのか?怖い思いしたとか」

「・・・・」

「・・・・」

「本当に何があったんだよ、お前らどうかしてるぜ!」

「どうかしてるのは・・・」

「・・・あなたの方ですよ」

 

 シロが操縦席のスイッチを操作した後、俺の手を引く。

 

「自動操縦にしました、こちらへ来てください」

「何する気だよ」

「いいから来て、ほらここ」

 

 有無を言わさずボートの客席スペースに連行された。

 何が始まるんです?

 

「本気で行きます」

「しっかり受け止めて」

「は?え・・・ごふっ!」

 

 いきなり強烈なタックルをもらった。

 そのまま2人に押し倒される。ガッチリ体をホールドされて起き上がれねぇ。

 

「いってーな!いきなり何するんだ!ちょ・・・」

「ヒドイ!ヒドイ!ヒドイ!こんなのってないよ!」

「何なんですかホントに!あんまりですよ!私達というものがありながら!」

 

 押し倒した俺の体中に、頭を頬を激しく擦り付けるクロシロ。

 今までで最高に激しい、摩擦熱とか心配になるレベルだ、尻尾の鞭もビシッバシッと俺を叩く。

 何事!?なにごと!?

 

「どうしたどうした!?変なものでも食べたのか?」

「ああーもう!せっかく数日かけてマーキングしたのに台無しだよ!」

「1人は特に強い!でもこれは・・・わかった4人?4人もいるのかー!」

「やだー!絶体いやー!しかもメジロ家のメスウマに、そんなのいやぁあああ!!!」

「くっそ!匂いが取れねぇ!何したんですか!ナ二したんですかぁああああ!!!」

「お、落ち着け!」

「これが落ち着いてられますか!上書き、上書きしないと!ああああああ!」

「こんなに早く浮気されるなんて!信じられない!信じたくない!!」

「甘かった、甘かったんですね!もう24時間監視を、いや、いっそのこと監禁するしか」

「思い出させてあげるね。あなたの愛バが誰かって事を!あははははははは!!!」

「ひぇ!ハイライトが消えた!超こえー!!!」

「マサキさんは悪くない。悪いのはメジロのメスウマどもだよね!殺さなきゃ!!!」

「人の男に色目を使う奴らは、滅ぼされても文句言えないですよねぇ!!!」

「やめろ!鎮まれ二人とも!やめろぉおおおお!!!」

 

 暴走するブロリーを止められなかった、パラガスの気持ちがわかった。

 1人用のポッドで脱出したい・・・それ死亡フラグや!

 

「よくわからないけど、ごめん!ごめんなさい!頼むから落ち着いて!お願い!」

「ねぇ!足りないの?こんなに思ってるのに!言って!何でもするから言って!!」

「遊びでやってんじゃねーんですよ!本気なんです!全部全部あげますから!だから!」

「きゃー!服を脱がそうとするな!!そして脱ぐな!!!」

「既成事実!そうだ!もうここで決めちゃおう!これでやっと安心できる!」

「怖がらなくても大丈夫です!すぐに良くしてあげますからね!一緒に溺れましょう!!」

「こいつらアルクオンの時より強い・・・だがな、おらぁ!」

「わっ!」

「きゃ!」

 

 一瞬の隙をついてひっくり返す。

 今度は俺が二人を押し倒す形になる。

 壁ドンならぬ床ドンを決めてやった。ドスを利かした声で囁く。

 

「暴れんな、興奮しすぎだ、うるせぇから少し黙ってろ」

「・・・・」

「・・・・」

「呼吸を整えろ、目のハイライトを戻せ、覇気を出そうとするな」

「・・・・」

「・・・・」

「落ち着いたか・・・もう大丈夫だよな」

「ごめんなさい」

「ショックで我を忘れてしまいました」

「いいさ。ほら、立って。服も元に戻しなさい」

「しないの?」

「しねーわ!そんな空気じゃないだろ。ムードって大事だと思うの」

「こんな形でするのは私達も不本意です。日を改めましょう」

 

 やっと落ち着いてくれた。

 はぁ~どっと疲れた。備え付けのソファーに腰を下ろす。

 小型艇なのに豪華な内装、流石メジロ家の所有物。

 クロシロも向かいの席に座る。

 

「それで、発狂した理由は何よ?正直に言いなさい」

「私達以外の匂いがした、覇気にも何か混じってる・・・年の近いウマ娘、しかも」

「メジロ家の令嬢、つまり敵ですよね。本当に不愉快です」

「マック達の事か、脱出に協力してもらっただけだ、やましい事は無い」

「その割にはしっかりマーキングされてるんだよね。いったい何をしたのかな」

「ナデナデ、抱っこ、ハグはやってますね。おや、ハグは向こうからですか」

 

 見ていたかのように、俺がした行為の数々を当てられる。鋭いってレベルじゃねーぞ。

 流石ウマ娘、俺の覇気と匂いでマック達との接触を感じ取ったか。

 何だコレ、奥さんに浮気がバレた旦那の心境だ。俺、悪くないよね。

 

「知ってる?マーキングはウマ娘が心を許さないと、効き目が悪いんだよ。つまり」

「私達がいない間に、なによその女攻略してるんですか。女たらし!プレイボーイ!」

「そんなつもりは無かった。不快にさせたならごめん。でも、ちょっとキレすぎじゃ・・・」

「キレるよ!キレまくるよ!どんなに悲しくて、不安で、腸煮えくり返ったか」

「あなたは、かけがえのない人なんです。ご自分の価値を理解してください」

「す、すみません」

 

 うーん、相当怒って悲しんでる。悪い事したなぁ・・・。

 

「まだわかりませんか。では、想像してみてください。私達が他の男に撫でられたり、抱っこされてる姿を」

「え?クロとシロが・・・俺じゃない男に・・・」

「そうだよ。しかも、その男の匂いプンプンさせながら平然としてるの。どう思う?」

「チャラ男の香水臭が着いたまま朝帰り・・・明らかに事後・・・俺には見せないメスの顔」

「いや、そこまで細かい設定はいらないですよ。聞こえてます?」

「マサキさん、自分の世界に入り込んじゃった」

 

 うまぴょいしたのか、俺以外の奴と・・・。

 あぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!

 ・・・(´;ω;`)ブワッ

 

「「号泣した!!」」

「い、嫌だ・・・ひっく・・・クロ、シロ・・・俺を捨てないでくれ・・・うう」

「捨てるわけない!そんな事絶対にしない。泣かないで、大丈夫だからね」

「俺が悪かった・・・や、やめてくれ!・・・そんな男になんで・・・」

「戻って来て下さい!それは幻覚です。あなたの愛バはここにいます」

「がはっ!・・・まさかそんな変態プレイを・・・え?ウソ、そんな所にそんなものが・・・」

「ちょっと!今、私達妄想でどんな事されてるの!すげー気になる」

「きっとあれですよ。チャラ男に完全調教されて公開寝取られハードうまぴょい」

「そんな事になってるの!妄想の私・・・何負けてんだ!少しは抗えや!」

「おい!妄想チャラ男!私を調教していいのはマサキさんだけだ!消え失せろ!」

「てめぇえええ!何撮影してんだ!後でコピーさせろや!え?俺も参加していいんですか!」

「ねえ、マサキさんがチャラ男と結託し始めたよ。後、撮影やめて」

「相手がマサキさんのみなら望む所ですが、複数人での行為は嫌ですね」

「これが俺の取り分・・・チャラ男さん・・・いや、兄貴!一生ついていきます!」

「あ~あ、軍門に下っちゃったよ。私達のデビュー作は相当金になったみたいだね」

「どうせなら人気女優ランキングトップを目指しましょう。クロちゃんには負けません」

「その業界で勝負挑まれてもね・・・そろそろ起きようか、マサキさん」

「脳内でどんなに汚されても、あなた一筋ですよ。よしよし」

「すまない・・・クロシロ、俺はクズだ・・・お、すっげープレイ!流石兄貴!」

「「もういいから帰ってこい!!」」

 

 ここ数分間の記憶がない。

 気が付いたら二人によしよしされていた。

 酷く悪い夢を見た気がする。確かとある業界で荒稼ぎしたような・・・うっ、頭が。

 二人にはちゃんと謝らないと「女性がキレている時はだいたい男が悪い」でOK?

 

「キタサンブラック、サトノダイヤモンド、悪かった。許してくれ」

「私達も発狂しちゃってごめんね」

「これからはいつも以上にコミュニケーションとって、意思疎通をはかりましょう」

「そうだな。また俺が何かしたらすぐに教えてくれ」

「自分たちの操者がモテるのは、それだけいい男という事で、嬉しいけど複雑」

「英雄色を好むと言いますし。またこの様な事が起こりそうです・・・悩ましい」

「本当に申し訳ない」

「メタルマンのクソ博士みたいな謝罪だね」

「マジでゴメン・・・」

「後でブラッシングをお願いします。それでチャラにしましょう」

 

 仲直りできました。ブラッシングぐらい毎日でもやってやるぜ。

 

「マサキさんのスーツ姿。カッコイイね!盗んだの?」

「もらったんだよ。あ、そういえばゲシュペンストが爆発して服が吹き飛んだぞ」

「完全に私の落ち度です。ごめんなさい~メンテさぼってました」

「整備不良とマサキさんの凶悪な覇気でボンッ!だね」

「もう、大変だんだぞ。パンいちで鬼ごっこする羽目になるし」

「ちょっと楽しそうなんだけど」

「実際楽しかったわ!妙な高揚感があってな」

「その頃、私達もいろいろやってましたよ」

「そういえば何をやってきたんだ?」

「ハガネの大浴場に"ふえるワカメ"を大量散布してきたよ」

「今頃、地獄のワカメ風呂が完成してますね。ざまぁwww」

「酷すぎる。他には?」

「パパの自作小説「転生したらマダオだった件」を娯楽室に置いて来た」

「自費出版で一冊も売れなかったやつですね。人間、モンスター、あらゆる種族にハブられるマダオの成長物語、私は割と好きでしたが」

「それはパパさんにダメージがいくのでは?ちょっと読みたくなった、電子書籍版ある」

「後はトイレットペーパーを紙やすりにしたり、バーモンドカレーをジャワカレーにしたり」

「偶然発見したシュールストレミングのラベルを、よく見るサバ缶に偽装しておきました」

 

 なかなかエグいイタズラを仕掛けてきたな。シュースト・・・使われたか。

 どうかマック達に被害が及びませんように。

 

「ねぇ・・・さっきからマックて誰?そいつが泥棒猫ならぬ泥棒ウマ?」

「あなたを誑かしたメスウマですか。全員の名前と特徴を教えて下さい」

 

 またハイライトが消えそうになる二人。

 もちろん正直に白状しましたよ。だって愛バが怖いから。

 

「パーマー、ライアン、ドーベル、マックイーン・・・私のキルノートに記録したよ」

「マックイーン・・・あのメジロマックイーンですか。やれやれ」

「知っているのかシロ」

「有名ですよ。最年少で騎神になった天才です、ムカつく」

「最年少記録は私が塗り替えるはずだったのに・・・」

「試験監督を半殺しにして失格にならなければ、クロちゃんがレコードホルダーでしたね」

「だってあいつ、すっっっごく失礼な奴だっんだよ!思い出したら腹が立ってきた」

「開口一番「よう!チビども俺の愛バにしてやろうか?ぎゃははっは!」でしたか」

「は?マジもんのクズじゃねーか。クロよくやった!偉いぞ!」

「褒められた!マサキさん好き!もっと褒めて」

「そのクズはメジロ家とサトノ家の両方に無礼を働いた罪で、地下帝国にて永久強制労働中です」

「ざまぁwww当然の報いだ」

「マサキさんから見てどうですか、メジロの子達は」

「4人とも才能がある。そのうち全員が騎神になるはず。特にマックはヤバい」

「そんなに、私勝てそう?」

「正直わからん。スピード、スタミナ、パワーどれも高スペックだ」

「根性と賢さは?」

「そっちも高い。でまだまだ発展途上だとよ、末恐ろしいわ」

「負けませんよ。だって私はあなたの愛バですからね」

「私も!マサキさんに勝利をプレゼントするよ」

「頼もしいな。二人の成長に期待します。しかぁし!できれば仲良くして欲しいんだわ」

「「ええー」」

「わかるよ、因縁とかいろいろあるんでしょ。でも、とってもいい奴らだったんだ」

「「・・・・」」

「一回腹を割って話してみれば、案外気が合うかもよ。一緒に遊んで見るのもありだな」

「・・・マサキさんが言うなら」

「考えておきます」

「いい子だ。俺の愛バは有能で助かるよ。撫でてもいい?」

「何でいちいち許可を取るの?24時間いつでも触っていいんだよ」

「女がナデナデ好きと言うのは、男の思い込みだってマックが・・・」

「そうですけど、私達には遠慮しないで下さい。ちっ、またマックイーンですか」

「コラコラ、マックは俺に忠告してくれたんだぞ。ありがたい事だよ」

「どうしよう。マサキさんメジロ家に好印象だ・・・」

「別世界なら憧れの存在かもしれませんが、この世界では仇敵認定ですよメジロマックイーン!」

 

 クロシロを撫でるのは、いつでもOKらしい。

 クロが思案し、シロがマックに闘志を燃やしていた。あの、仲良くしてね。

 

「はははははははは!!!いやはや、なんとも愉快な連中じゃのう」

「「「え?」」」

 

 突如、知らない笑い声が聞こえた。

 後部座席に誰かいる。いったい何時からいたんだ。全然気が付かなかった。

 誰?何?どうして・・・。

 脱出後で気が緩んでいたとは言え、俺たち3人が気が付かない事がありえるのか。

 

「そう警戒するな。わしの隠形もまだまだ通用するみたいじゃのう」

 

 覇気は微量、だが騙されるな。強い奴ほど隠すのが上手い。

 小柄な体躯・・・子供?いや、おそらく年上だ。どう見ても中学生ぐらい。

 黒いチャイナドレス風の服に赤いジャケットを羽織っている。

 長い髪はポニーテールにして束ねている。髪色は揺らめく炎のような橙色。

 瞳の色は赤、10代の少女のような顔にニヤニヤとした表情を浮かべこちらを見ている。

 トラブルを起こす度に尻をぶっ叩かれる日常を送ってそう。なぜかそう思った。

 耳、尻尾は無い・・・隠している。

 でも重要なのはそこじゃない。こんな出会いがあるなんて。

 クロシロも気づいたみたいだ。

 

「どうした?緊張しておるのかのう。固まってしもうた」

「の」

「の?」

 

 脳裏に浮かんだ言葉を全力で叫ぶ。

 

「「「のじゃロリ!キターーーーーー!!!」」」

 

 

 



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ほのお

 のじゃロリがあらわれた。

 

「おいおい、のじゃロリだぜ。初めて見たわ」

「絶滅しそうでしないキャラだね」

「まだまだ需要があるのでしょう。マサキさんはどう思います」

「う~ん。嫌いじゃないけど、特別刺さるほどでもないかな」

「のじゃロリはイマイチと、操者の好みを把握するのは愛バとして当然」

「できる限りご希望に沿いますので、何かあれば言って下さいね」

「至れり尽くせりだな。素のお前たちも十分好きだぞ」

「はう・・・不意に好きって言われた・・・超嬉しい////]

「あなたと契約できて幸せです。もっと好きって言って下さい!」

「もう~しょうがねぇなぁ」

「おーい。わしを放置せんでくれー泣くぞ!」

 

 おっと、幸せすぎて三人でイチャコラする所だった。

 

「すみません。どなた様でしょうか?何時からここに?」

「わしの名は、まあ"グラさん"とでも呼んでくれ。ここへはお主と一緒に乗り込んだよ」

「グラさん・・・最初から俺たちの醜態を見ていたのか」

「バッチリな。声をかけるタイミングを完全に失ってしもうたわ」

「そうですか、お見苦しい所を見せてしまいました。忘れて頂けると幸いです」

「ああ、他言はせんよ。した所であのような異常行動、誰も信じてくれまいよ」

「目的は何?メジロ家の刺客?」

「クロちゃん待って。この人激ヤバです」

「わかってるよ。でも、何があってもマサキさんは守る」

「クロ大丈夫だから、この人は敵じゃない」

「マサキさん、一応私達の後ろへ」

 

 クロもシロも必死に俺を守ろうとしてくれる。こんな小さい体で・・・。

 健気な二人に愛しさがこみ上げてくる。抱きしめたいな!クロ!シロ!

 

「血気盛んじゃのう。お主達を害するつもりは毛頭ないから、安心性せい」

「その言葉信じますよ。俺と一緒に乗ったとは?」

「ハガネ艦内を見学しておったら、半裸で走り回るお主を見つけてな、面白そうなので後をつけておった」

「ずっとですか?ほえー気配すら感じなかった。それが隠形とやらですか」

「覇気を活用すれば人の認識から外れる事も可能なのじゃ。燃費はすこぶる悪いがの」

「これほど見事な気配遮断。あなたはいったい何者ですか」

「所属と級位は?耳と尻尾、隠しているけど騎神でしょ」

 

 謎の人物グラさんと会話していると、客席にある大型モニターが起動する。

 映し出されたのはハガネのブリッジ、メジロのばば様か。

 

「そんな所にいたのですね。これからどうされるおつもりですか」

「おお、すまんなばば様。メジロ家ばかりに肩入れするわけにもいかんでの、サトノ家にも寄って行くつもりじゃ」

「人知を超えた力を持ちながらも自由奔放。変わりませんねあなた方は」

「メジロ家の騎神用次期主力装備開発じゃったか、まあ気が向いたら協力させてもらおう」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 グラさんはばば様にお呼ばれしてハガネに乗ったらしい。

 どういう関係なんだこの二人。

 画面越しにばば様が俺を見据える。

 

「あなたがアンドウマサキですね」

「は、はい。俺がマサキです。その・・・艦内をお騒がせしてすみませんでした」

「そして、そこの二人がサトノ家の子供達ですね」

「フゥーーーッ!!!」

「シャァーーー!!!」

「コラ!二人とも威嚇しない!ちゃんとご挨拶して」

「・・・キタサンブラック」

「・・・サトノダイヤモンドです」

「元気があってよろしい事。マサキ、少々お話したいのですが、かまいませんか」

「はい。何でしょうか」

 

 ばば様を威嚇しようとするクロシロを下がらせる。

 ダメよ!メンチを切るのもダメ!ガラが悪い、カワイイ顔が台無しじゃない。

 

「うちの孫に会ったそうですが・・・」

「マック達は俺に脅されて仕方なく協力したんです。悪いのは全て俺ですから」

「別にあの子達を咎めるつもりはありません。短い時間で随分親しくなったのですね」

「立派なお孫さん達です。俺がとても感謝していたと、お伝え下さい」

「承知しました。ところで、孫達の中で気に入った子はいますか」

「どういう事でしょうか」

「あなたが契約してもいいと思えるウマ娘はいましたか」

「え、それは・・・あだだだだ!!クロシロ!痛い!握力がぁー」

 

 繋いだ手を握り潰すほどの力を籠めるクロシロ。

 まだ何も言ってないじゃん。

 

「いててて、俺はこいつらの操者ですから。その質問には答えられません」

「ふふっ、とても大事にされているようで。あなたの愛バは幸せ者ですね」

「最初は戸惑いましたけど、二人に会えて俺も幸せです」

 

 背後のクロシロが俺に額を擦り付ける。嬉しいのはわかったよ。

 だけどそこは俺の尻だ。どこにマーキングしてんだ!やめろ顔を埋めるな!

 やっぱりちょっとアホの子だった。

 

「今の境遇に不満があるようなら、是非ともうちの操者になって欲しかったのですが」

「お心遣いどうもです。ですが俺にはこの子達がいてくれるんで、すみません」

「残念ですが仕方ありません。サトノ家に愛想を尽かした時はうちに来なさい」

「はは、俺が二人に愛想を尽かされないよう頑張りますよ」

 

 えらく過大評価されているな。もしクロシロと出会ってなければ・・・。

 いやいや、俺はこいつらと一緒にいるって決めたんだ。

 

「俺からもいいですか」

「どうぞ、遠慮なく言ってみなさい」

「あの~後ろのスッタフさん達が、随分慌ただしいようですが・・・」

「少々トラブルがありまして、ワカメ風呂やらトイレで出血した者がいるようですね」

「・・・サバの缶詰は絶対に開けないで下さい。本気で危険です」

「わかりました。総員に伝達しておきます」

「それから・・・10年以上前、身寄りのない俺を引き取ろうとしてくれた事、ありがとうございました」

「惜しい事をしたと思っていますよ。サイバスターは良き母となったようですね」

「最高の母親ですよ。感謝してもしきれません」

 

 嫌がらせの成功報告を受けてクロシロが「よし!」とガッツポーズ。ホンマ悪い子やで。

 俺を引き取る前に母さんが話をつけた人とは、ばば様だったみたいだな。

 

「では私はこの辺りで失礼します。」

「はい。いろいろありがとうございました。マック達によろしく」

「うむ。ばば様も息災でな」

「・・・ばいばい」

「・・・さようなら」

 

 通信が終わる。どういう仕組みか知らんが最後まで顔がよく見えなかった。

 シャドーハウスなの?体からすすを出したりしないよな。ほのぼの不穏な世界観がくせになるぞ。

 

「グラさんはこのまま俺たちとサトノ家、ヒリュウに来るって事でOK?」

「OKじゃ。しばしの間よろしく頼むぞ。ドウゲンは元気にしておるかのう」

「父のお知り合いですか?元気過ぎるぐらいですよ、最近腹がプニプニになってますが」

「ママの事は?サトウシン、真名シュガーハートだけど知ってる?」

「ハート?・・・ああ!騎神見習いだったハートか、よう知っとるぞ。懐かしい」

「・・・あの失礼ですがお歳は?」

「わしはアラフォーじゃよ。すまんのオバちゃんで」

 

 ウマ娘の基本能力に容姿端麗と10~20代頃の外見をキープする力がある。

 俺の地元にはウマ娘のロリババアがごろごろいたぜ。この人も例に漏れない。

 自己紹介や俺達の近況を話す、グラさんはすぐに俺たちと打ち解けた。

 この人の雰囲気、とても大きな存在に自身を肯定されているような安心感。

 似ている、母さんやネオさんに。

 

「ほうほう。マサキは操者になったばかりの初心者なんじゃな」

「はい。ここ最近、妙なイベントが立て続けに起こって、気が付いたら操者でした」

「人生の変革が訪れる時は一気に来るもんじゃよ。挫けず精進するのが吉じゃ」

「SRX計画について情報があれば教えていただけませんか?謝礼は父のヘソクリから出します」

「"超闘志"は既に実戦配備中、"Rシリーズ"も近々完成だとか言っておったのう」

「それ以外で新しい動きは?どこかの遺跡荒らしたりしてるでしょ?」

「中国で半生体兵器の残骸を回収、拠点防衛用特型装備ダブルGも開発するらしいぞ」

「そんなホイホイ話していいんですかねぇ」

「別に構わんじゃろ。ばば様も特に口止めしておらんし」

「戦力差が開くばっかり、うちもシラカワ重工に技術協力してもらった方がいいかな」

「シラカワ重工、トップが稀代の天才科学者らしいですね。革新的な超技術を各方面にばら撒く、今一番ヤバい企業ですよ」

「そのトップとやらは超がつくほどのウマ娘フリークじゃぞ。お主らが上目づかいでおねだりすればイチコロじゃて」

 

 シラカワ重工のトップ・・・そいつ知ってるわ、超親しい奴だわ。

 

 

 その頃とある研究室

 

「ぶえっっくしょん!!あ゛~今日は鼻がムズムズしますね」

「マスター、くしゃみがやかましいです。せめて口を手で押さえて下さい」

「鼻水出てるよお兄様。はいティッシュ」

「ありがとう・・・ん。ふぅ、くしゃみは思いっ切りするのに限ります」

「誰かに噂されているのかな」

「フフフ、ウマ娘が私に憧れて「シュウ様ってカッコ良くない?」みたいなトーク中ですかね」

「バッドステータス「自惚れ」を確認。バカな事言ってないで仕事してください」

「今日こそは定時で帰ります!二人とも手伝って下さい」

「学校の宿題しないといけないから、ごめんね」

「やる気が絶不調です。なにかご褒美が無ければ動きません」

「くっ!愛バ達がつめたい。わかりましたよ、夕食は二郎系ラーメン全マシマシでどうですか?」

「「のった!!!」」

   

 

 グラさんと会話も一段落。

 レーダーがヒリュウを確認。もうちょっとで到着します。

 

「ん?何で向こうから近づいて来ない」

「あ、このボートはハガネのだから警戒されているんじゃ」

「通信してみましょう。えーとこのスイッチを・・・ポチッとな」

「・・・応答せんのう」

 

 何かあったのか?

 近づくとモニターにヒリュウの船体が映し出される。

 艦首が展開している。あそこから入って搭載されるのか。

 

「は?何で艦首が・・・開いて」

「なあ、嫌な予感がするんだけど」

「このまま真っ直ぐ行くのヤバくない?操縦をマニュアルに切り替えよう、コントローラーは」

「ん。これの事かの」

「「「え゛」」」

 

 グラさんの手には粉々になったゲームコントローラー・・・この船の操縦桿。

 

「ええー!グラさん何やってんスか!」

「わしじゃない!お主達が暴れ回ってる最中にぶっ壊したではないか」

「「「うそーん」」」

 

 自動操縦でヒリュウめがけてまっしぐら、進路変更はできそうにない。

 ヒリュウの艦首に変化がある、黒いもやもやがだんだん大きく。

 ネオさんが必殺技を撃つ前の溜め動作みたいだ。

 ・・・溜め?ネオさんの技・・・重力操作・・・あっ(察し)。

 

「ヤバいヤバいヤバい!進路変更しないと!私達全滅しちゃう」

「超重力衝撃砲!父様!・・・何やってんだぁあああああ!!!マダオォオオオ!!!」

「ちょ、溜めてる溜めてるためてるぅー!これアカンやつでしゃろ」

「かっかっか!大ピンチじゃのう」

 

 あーもうメチャクチャだよ!

 

「クロ!シロ!来い!」

「何!最期にうまぴょいする?」

「もう時間がありません!マサキさん、そんなに早いんですか?」

「早くねーわ!!いいから来い!」

 

 二人を抱きしめて身を屈める。

 あれが直撃したら無意味かもしれないが0.00001%でもこいつらが生き残る可能性にかける。

 覇気による全力ガード、防げたとしても空中に放り出されてどうする?知るか!

 今思いつくのはこれくらい、それに最期までこいつらの存在を感じていたい。

 二人も俺の行動を察して覇気を高め、俺にギュッとしがみつく。

 

「グラさん、すみません。こいつらを守るため協力してくれませんか」

「ほう。諦めるのか?」

「諦めて無いからお願いしてます。二人はこれからの未来に必要な存在ですから」

「マサキさんもだよ!絶体に生き残ろうね!」

「不思議です。こうしているとあんまり怖くない。マダオは呪い殺します」

「見せつけてくれるのう。わしにはちと眩しすぎるわい、これが若さか・・・」

「さあ、グラさんもスクラムを組んで・・・」

「それには及ばん。わしの炎にかけてお主らを救ってみせよう。ついて来い」

「どこに?て、うわ!」

 

 ボートの甲板上に連れ出される。船体のスピードは緩やかなので外に出ても問題ない。

 肉眼で確認できる。超重力衝撃砲とやらの発射まであと少し。

 

「何する気?超級騎神クラスの技じゃアレは防げないよ」

「もうどうなってもかまいません。マサキさんもっとくっついていいですか?」

「おう、好きにしろ。グラさん・・・あなたは」

「久しぶりの全力じゃあ。そこで見ておれ愛しきヒヨッコどもよ」

 

 グラさんの覇気が膨れ上がるる!束ねた髪にまで覇気が浸透し、炎のように揺らめく。

 漏れだした力が体の至る所から噴出する。まるで火山爆発、周囲一帯に火の粉が舞う。

 凶悪な笑みを浮かべる口元からチロチロと炎が覗く。目の輝きが一層強まる。

 そうして両肩辺りに巨大な火の玉が出現、火球は猛り狂う龍の顎へと変貌を遂げる。

 

「クロ!シロ!全力ガード続行!余波で吹き飛ばされるぞ!」

「超級なんてもんじゃない。まさか・・・焔ビト・・・違うか」

「アチッ、あっつい!焦げてる!私の尻尾焦げてますって!炎炎ノ消防隊すぐに来て―!」

 

 ヒリュウから黒い衝撃が放たれる、俺たちを丸ごと押し潰す絶望的な力の奔流。

 

「天級騎神!炎の"グランヴェール"その程度の力など・・・全て焼き尽くす!!!」

 

 グラさんが叫んだ瞬間、龍の顎から極大の火柱が発射された。

 

 この人あれだ母さんの同類だ。

 



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やくそくだよ

 ヒリュウからの砲撃、グラさんも撃ち返す。

 

【サトノドウゲン】ヒリュウ改ブリッジ 超重力衝撃砲発射の少し前

 

「遅いな・・・あ~心配だ」

「頭首様。今から通信機器のメンテナンスとアップデートを開始します。およそ30分間通信ができなくなります」

「ああ、うん。やっちゃっていいよ」

 

 サトノ家頭首、サトノドウゲンは落ち着きなく室内をうろついていた。

 三人だけを行かしたのは間違いだったか、いや娘達はやってくれる。

 メジロのババアがわざわざハガネを持ち出した理由はわかっている。

 十中八九マサキ君だろうな。

 しかし、彼は娘達の操者だ。もう遅いつーの!ざまぁwww。

 これに関しては本当に大手柄だ、うちの娘達マジで優秀!

 

「あの陰険ババアはどう出る。もし私が逆の立場なら・・・はっ!」

 

 そうだ私ならば、乗り込んで来た操者と愛バまとめて頂く。

 マサキ君は金では動かないかもしれない、だが彼はウマ娘が大好物!

 メジロ家の令嬢を好きにしていいと言われたら、心が揺らぐのでは?

 そして娘達はマサキ君に心酔している。

 彼と離れるぐらいならメジロ家の養子になるとか言い出しかねない。

 しまったぁー!嫌がらせする事ばかりに気を取られすぎた。

 どうしよう!このドウゲン痛恨のミス!

 

「今すぐにハガネへ向かえ!マサキ君と娘が取られちゃう!」

「いきなりどうしたんですか?お嬢達を信じて待つのでは」

「とにかく行って!早く迎えに行かなきゃ」

「待ってください、マダ・・・頭首様。こちらに接近する小型艇があります」

「今、マダオって言いかけたでしょ。まあいい、その船の所属は」

「ハガネの脱出艇ではないかと。やって来た方角も合ってます」

「娘達か?いや、罠の可能性もある」

「通信を入れてみましょうか?あ、無理です。メンテ中でした」

「超重力衝撃砲スタンバイ!」

「は?遂に頭がおかしくなったんですか」

「さっきから失礼だな君。もしあれが爆弾満載の無人艇だったらどうするの?」

「考えすぎでは」

「最悪を想定しての判断だ。通信ができない今、罠かどうかカンで見極める」

「えーやめておいた方が・・・」

「もし誰か乗っていたら、重力砲のチャージに恐れをなして進路を変えるでしょ」

「まあ、そうですね」

「それでもなお、突っ込んで来るようなら無人機で罠決定!でいいじゃん」

「うーん・・・いいのかな」

「もう!君がやらないなら私がやるよ。どいて!その席変わって」

「ちょ、やっぱやめましょうよ。一発撃つのにいくらかかると思ってるんですか」

「こんな時じゃなきゃ撃てないでしょーが。いいから責任は私が取るから」

「あ、まさかただ撃ちたいだけですね。ダメですって!危ないから」

「後はこのスイッチを・・・ええい離せ!ぶっ放したいんじゃー!あっ!」ポチッ

「・・・押した?」

「・・・・/////」コクン

「いや、ダメでしよ!なに頬染めて頷いてんだ!気色わりーわ!」

「キショイは言い過ぎだろ!ほら、カウントダウンはじまるよー」

「もうしらね」

 

 カウントダウンが開始されてワクワクしてきた。

 未だに進路を変えない小型艇はやはり罠だったのだろう。

 フッ、私の目は誤魔化せなかったなババア!

 

「た、大変です!小型艇甲板上に人影が!」

「うっそ!拡大!今すぐ拡大して」

「誰だ?見慣れない少女と・・・あ、いました!お嬢とマサキさん!」

「はぁーーーーー!!!なんじゃそりゃーーーーー!!!どうしようどうしよう・・・え?」

「固まっている場合ですか!現実逃避は後にして下さい」

「・・・・総員、衝撃に備えよ」

「何言ってるんですか!それよりお嬢達を」

「いいから!総員、対ショック閃光防御!Gテリトリー最大展開!外壁近くの区画から退避して、あとは祈れ!」

「わかりましたよ!もうやけくそだ!総員聞こえたな、マダオの指示通り動け!」

「もうマダオでもなんでもいい!天級の攻撃が来るぞ!!!」

 

 カウントダウンが終了し、超重力衝撃砲が発射された。

 

【マサキ】小型艇甲板上

 

 ヒリュウから放たれた黒い重力波、それがこちらに届く直前にグラさんの絶技が発動する。

 巨大な双頭の火炎龍、その顎から吐き出される極大の火柱が一直線に突き進む。

 そして重力と炎、絶大な破壊力同士がぶつかり合う。

 

「うお!ヤッベェぞコレ。クロ!シロ!ちゃんといるか、吹き飛ばされんなよ!」

「いるよ!ねぇ、どうなってるの!熱くて眩しくてガタガタ揺れて、死ぬ時ってこんなに騒がしいの」

「うっひょー!これはえらいことですよ。グラさん!そのまま押し切ってください!」

「今ちょうど拮抗中じゃな。なあ、あの戦艦は撃ち落としてよいのか」

「ダメに決まってるでしょ!何とか重力波だけ相殺できませんか」

「出力調整が難しいのう。お主らちょっとわしの体を支えてくれんか」

「わかりました。あっつい!グラさんの体のどこを持てと?熱すぎて支えるの無理ー!」

「覇気でコーティングしても出来立てのおでんぐらい熱い!」

「おい、グラさんは俺が支える。二人は俺を支えろ」

「「喜んで!!」」

「失礼します。こんな感じでいいですか」

「うむ。では押し返すぞ!」

 

 俺がグラさんの肩に手を置いて体支える。熱いけどまあ耐えられる。

 クロシロは俺の腰辺りにしがみついて安定させる。

 覇気の循環を加速させる。

 俺、クロシロ、そしてグラさんの覇気が俺たちの身を守ると同時に、火力を上乗せさせる。

 

「ほう!主にそんな芸当ができるとは、やるもんじゃのう」

「微力ですが使ってください。代わりにあなたの覇気も利用させてもらう」

「会ったばかりの騎神の覇気をいとも簡単に制御し、全体に最適な量を分配利用するじゃと・・・」

「マサキさん気づいてますか?あなた今とんでもないことをしてますよ」

「しかも、一人は愛バではない上に天級。ぶっつけで完全制御してるのは奇跡だよ」

「できたんだからしょうがねぇだろ!グラさん、いけそうですか」

「これなら余裕じゃ。一気にいくぞい、せーの!」

「「「「ぶち抜けぇーーー!!!!」」」」

 

 威力を増した炎が重力波を飲み込む。

 そのまま黒い波は貫かれて霧散、青空へと消えていく。

 二つの火柱は勢い余ってヒリュウの外壁装甲を掠めて焦がす。

  

 この日、空には炎の軌跡が描かれ、地上はちょっとした騒ぎになった。

 

 

【サイバスター】 同時刻ラ・ギアス

 

「お?」

「ん?」

「サイさん、今のは・・・」

「間違いない、グラの"カロリックスマッシュ"あいつ日本に戻っていたの?」

「まだ距離はあるけど、たぶんここに来るんじゃないの」

「はぁ~どいつもこいつも勝手なんだから」

「この調子で全員集合するかも、同窓会みたいでワクワクするわね」

「無理よガー子とザムがどこにいるか知らないでしょ?行先も告げずに旅立ったアホどもが」

「拗ねないの。「天級は世界の敵にならない限り自由である」あなたが決めた事よ」

「何年も連絡一つ寄こさなかったくせに、今更なによ」

「マサ君が呼んだんじゃない?」

「それしかないわよね。やだなぁ息子にちょっかい出さないで欲しい」

「私達に子供がいるんだから、グラさん達も親になっていたりして」

「ええーグラはともかく、ガー子はダメでしょ。あれに子育ては無理」

「ザムさんは・・・うーん・・・難しいか」

「とりあえず畑仕事終わらして、買い物に行きますか」

「はーい。今日はお酒飲んじゃおうかなー」

 

 

【マサキ】

 

「まあ、こんなもんじゃ」

「思いっきりヒリュウに掠ってますよ。装甲焦げちゃってる」

「アレぐらいなら問題ないでしょう。乗員は肝が冷えたでしょうが」

「凄かったねー。私もいつかできるかな」

「チンパンジーに核兵器の発射ボタンの掃除を任せるぐらい危険なので却下です」

「えー私そんなに危ない奴?」

「クロには大量破壊奥義は似合わないかな、まずは白兵戦の修練をしっかりやろうな」

「わかったよ。マサキさん好みの女に育成してね」

「流石マサキさん・・・クロちゃんの扱いが上手です」

「このままヒリュウに乗り込めばいいんじゃな」

「そうです。なぜ私達を攻撃したのかを聞かないといけませんからね」

「うん。ちょっと許せないかな」

「パパさん。何があったか知りませんが、俺も擁護できそうにないです」

 

 ヒリュウに接舷することができたが、ドアのロックが解除されない。

 

「ただいま帰りました。すみませんドア開けてもらっていいですか」

「パパ~帰ったよ~。早く開けて、は~や~く~」」

「なんで立てこもっているんですか?やましい事でもあるんですか?」

「おーいドウゲン。わしじゃよ、グラじゃ。中に入れてくれんかのう」

 

 無視されているんですけど。カメラでこちらは見えてますよね。

 ヒリュウには200人以上乗員がいるはずなのにこの静けさは何?

 俺はクロシロの耳をニギニギ触っている。適度な弾力と手触りが心地よい。

 イライラが溜ってきた二人を落ち着かせる目的で始めたが、今はただ触りたいだけです。

 最初こそビクッ!と反応した二人だが、今では俺のなすがままだ。

 上手く触ると「・・・あ////」とか「・・・ん////」とか鳴くのが面白い。

 ほらほら、どうした?ここがええのか?この欲しがりさんめ。

 グラさん・・・これはただのスキンシップですよ。ジト目でこっちみんな!

 

「パパさん、早く開けないと二人を解き放ちますよ。これでも抑えているんです」

「・・・・」シーン

「クロシロ・・・やれ!」

「ねぇ!なにシカトしてるの!開けてよ。あけてあけてあけてあけてあけて!あけろっって言ってるだろがぁ!」

「逃げられると思うなよ。地獄の果てまで追い詰めてやるかなら。首洗ってまってろ!」

「埒が明かんのう・・・溶かすか」

 

 クロとシロがドアにヤクザキックをかましながら怒鳴りまくる。

 すげぇ迫力だ、闇金の取り立ても真っ青な地獄絵図。

 この二人さっきまで俺が耳を触ると、カワイイ声で鳴いていたんだぜ。

 それが今じゃ「おらぁ!」「ごらぁ!」「あ゛あ゛!」「おお!?」理性を失ったチンピラやんけ。

 グラさんはドアを高熱で溶かそうとしてるし。

 お、ロックが解除された。遂に観念したか。

 

「やっと開いたか。いけっ!ハイファミリア!!」

「待ってました!」

「私達にお任せ下さい!」

 

 俺の号令によりブリッジ目掛けて猛ダッシュするクロシロ。

 お行きなさい、私のカワイイ愛バ達。あらあら、なんだか心が浄化されていくような。

 

「よいのか。好きにさせて」

「ふふふ・・・ソワカソワカ」

「突然不可解な悟りを開くでないわ!気味が悪い」

「ヒャッハー!狩りの時間だー!サングラスをかけた、髭面の中年を探せ―!」

「娘を超重獄送りにしようとした罪は重いですよ!楽にはコロコロしません」

「娘に殺される知り合いなんぞ見とうないわ。最悪の事態になる前に止めるぞ」

「・・・そのように」(菩薩の様な笑み)

「いったいどうしたんじゃ?なにがお主をそうさせた」

「わかりません。二人が激怒すればするほど、穏やかな気分になる自分がいるのです」

「ふざけておるわけではないのか。急激な覇気制御を行った副作用、まさか人格が狂うとは」

「いかがいたしましょうか。私はこのままでもかまいませんが」

「放っておけばそのうち戻るじゃろう。とにかく二人を追うぞ」

「はい。喜んで!」

「やりづらいのう」

「・・・フフフ」

 

 ブリッジに辿り着くと、簀巻きにされたパパさんが床に転がっていた。

 クロシロが手を下す前に、部下達に取り押さえられたらしい。

 何でもドアをロックしていたのは、娘からの報復を恐れたパパさんだけらしい。

 

「パパ、何か言い残すことはある?」

「ごめんなさい!出来心だったんです!本気で撃つつもりはありませんでしたぁ!」

「せめて私達が帰還してからメンテに入ればよかったですね。後の祭りですが」

「全くもってその通りです!二度とこの様な事は致しません!どうかご慈悲を!」

「何をやっておるんじゃドウゲン・・・情けない」

「グ、グラ先輩!助けて下さい!娘にお仕置きされるー!」

「まあ楽しそう!二人からの折檻、存分に味わって下さいませ」

「マサキ君?薬物投与でもされたのかい、何か良くない者に支配されている!!」

「別側面の人格・・・マサキさんアルターエゴVer.だね」

「なんと穏やかなアルカイックスマイルでしょう。見ているだけで幸福になれます」

「そうかのう、あの微笑みに禍々しい邪悪さを感じるのわしだけか?」

「お褒め頂き光栄です。ではパパ様への罰を考えませんと、何か良い案があれば挙手を!」

「はい!パパのエロゲ用PCのデータを消すのはどうかな」

「やめてー!彼女たちとの思い出が詰まってるのー!」

「キャバクラ嬢に連絡先をしつこく聞いて出禁になった事を、ハートさんにバラす」

「ひぃいいいいい!バツ2になっちゃうー!もう離婚はイヤー!」

「おすすめはファラリスの雄牛とスカフィズムです。お好きな方を選んで下さいませ」

「マ、マサキ君何と言う事を。ブラック、ダイヤ!検索してはいけない!その処刑法はヤバすぎるからぁー!」

 

 結局、俺の人格が戻るまでパパさんのお仕置きについて議論された。

 最終的にヒリュウの乗員200名以上に緊急アンケートを行い、厳正な審査(くじ引き)で刑が確定した。

 今日から一週間パパさんの主食はネコ缶になった。

 

「やったー!ネコ缶大好き―!ひゃっほー!」

「ちっ、思ったより刑が軽くなりましたね。後で反省文と再発防止レポートは提出してくださいよ」

「パパ反省してね。私達死にかけたんだから!」

「猛省しております。本当に申し訳ございません」

「もうそのくらいでいいじゃないか。・・・ふぁぁ・・・眠い」

「ドウゲンよ。いろいろとつもる話があるんじゃがよいかの」

「はい。アレから随分経つのに変わりませんね、先輩方は」

「世辞はいい。わしにも息子がおるでの、お互い老けたもんじゃ」

「老けたって・・・あなたが言うと嫌味でしかない」

「そうかの。これからどこへ向かうつもりじゃ」

「マサキ君の実家へ、サイ先輩と・・・グランゾンがいる所です」

「そいつはいい。二人にも会いたっかたからの。・・・まだ苦手なのかネオの事」

「何回殺されかけたと思ってるんですか。写真見ただけで心臓止まるかと思いましたよ」

「サイにボコられた後、涙目で謝っておったじゃろ。もう許してやれ」

 

 パパさんとグラさんが会話しているのをボーっと聞き流す。

 そうか・・・実家に帰るんだった。

 なんだか酷く眠い、アルクオンを倒した後も睡魔に襲われたっけ・・・。

 

「シロちゃん、マサキさんがおねむだよ」

「またですか。覇気を使った無茶な行動による後遺症ですか・・・後で検査しましょう」

「今日は疲れたろう、三人ともゆっくり休むといい。夕食はどうする」

「お風呂に入ってもう寝ます。ご飯はマサキさんが起きた後でいいです」

「マサキさんお風呂行こう、こっちだよ」

「・・・パパさん、グラさん・・・すみません・・・先に休みます・・・」

「ああ、今日は本当にご苦労だった。ブラック、ダイヤ、彼を頼んだよ」

「しっかりやすむんじゃぞー」

 

 二人に手を引かれて移動する。どこへ・・・ああ風呂か。

 

「ダメですって、服着たまま入るのは。ちゃんと脱いで下さい」

「すまん・・・脱がしてくれ」

「眠すぎて私達の裸に反応すらしないね。お世話はしっかりするよ安心して」

「ああ・・・任せる」

 

 裸にされて大浴場へ、クロシロも裸だが今はどうでもいい眠い。

 椅子に座らされ、全身を丁寧に洗われる。

 

「頭かゆい所ない?して欲しい事があったら言ってね」

「うーんいい体してますね。もうちょっと筋肉がついたら自分を抑える自信がありません」

「・・・ふぁあ」

 

 お湯をかけられても全然目が覚めない。

 

「クロちゃんは背中をお願いします。私は正面を担当しますので」

「はぁああ?ズルくない。私も前側を洗いたいのに」

「マサキさんの"うまだっち"する部分を洗うのは私です。ここは譲れません!」

「このメスウマがぁ・・・いいよ、私はマサキさんが覚醒中にやらしてもらうから」

「その時は選んでもらいましょう。私とクロちゃんどちらで"うまだっち"したいかをねぇ」

「望む所だよ。私とマサキさんが仲良くしているのを見せつけてあげる」

「・・・いいからはよしろ」

 

 体を洗って湯船につかる暖かい・・・余計に眠い。

 

「ここで寝たら溺れるよ!せめて呼吸器は水面から出して」

「私達に寄りかかってください、浮き輪代わりです」

「・・・おう」

「ここで素直になれないメスは「ひゃ!アンタどこ触ってんのー!」なんて言うんでしょうね」

「だねー。本当にバカだと思う。好きな人に触られて嫌がるって何なのホントに?」

「照れが勝ってしまうんでしょうね。一昔前の暴力ヒロインなんて理不尽の塊ですよ」

「照れて好きな男ボコボコにするって、よく考えたら怖いよね。ただのサイコパスじゃん」

「そういうのがカワイイと思う人もいるんですよ。マサキさんはどうですか」

「・・・どうでもいい・・・お前達がいれば・・・」

「ぐっは!今のヤバい、意識が薄れているのに私達の事思ってくれてる~」

「も、もう上がりましょう。このままでは湯船が私の鼻血で赤く染まります」

 

 風呂から出て、体を拭かれて、着替えさせられる。

 どこにでもある浴衣(サトノ家の家紋入り)が寝巻だ。

 完全に介護されているな。お礼を言わないと・・・。

 

「ありがとう・・・」

「いえいえ。操者のお世話ができて愛バ冥利に尽きます」

「ちょっと待っててね。私達もすぐ乾かすから」

「クロちゃん、私の髪と尻尾をお願いします。ブラシはこれを使って下さい」

「ええー自分でやりなよ」

「いいじゃないですか、マサキさんが来る前は二人で代わりばんこしてたでしょ」

「もう、しょうがないな・・・」

「そうそうそんな感じで・・・痛ったい!尻尾の毛がぁー!乱暴にしないで下さいよ!」

「文句が多いな、尻毛抜けたぐらいでガタガタ言わないでよ」

「ウマ娘のトレードマークの1つですよ。もっと丁重に扱って下さい」

「尻毛・・・シリゲとケツゲ・・・どう読むのが正解なんだ・・・」

 

 風呂上がりでサッパリしたのに眠気は酷くなる。ああ、お布団が恋しい。

 二人に誘導されて俺にあてがわれた部屋に到着。

 

「もう無理・・・寝る・・・」

「はいはい。横になりましょうね。位置は・・・そう、そこでいいです」

「うんしょっと。はい、就寝フォーメーション川の字はバッチリだね」

「掛け布団は要らないですかね。タオルケットだけでいいか」

「私達の体温がマサキさんを寝冷えから守るよ」

「・・・限界い・・・おやす・・・み・・・」

「はい。お疲れ様でした、おやすみなさい」

「おやすみー。・・・もう寝ちゃった」

「私達も寝ましょう。リモコンは・・・あった、明かり消しますよ」

「今日もマサキさんに包まれて眠れる・・・マジ幸せ」

「メジロの匂いも大分薄れてきました。またマーキングのやり直しですね」

 

 操者に密着して眠りにつくこの時間、幼い愛バ達は幸せをかみしめる。

 

「ねぇ・・・シロちゃん。体、大丈夫?」

「あなたこそ・・・痛みはありますか」

「ないよ。でも力の制御が上手くいかなくなってきた、力が入り過ぎたり、入らなかったり」

「私もです。感情面も少々情緒不安定になってきてます。少しずつ壊れていってますね」

「これが契約後の反動?聞いていたのと違う」

「マサキさんの覇気は既存の概念にとらわれないほど強力です。その影響をモロに受ける私達はただでは済みません。わかっていたはずなんですが・・・」

「怖いね・・・私達、どうなるの」

「わかりません。ただ私達に何かあれば・・・マサキさんは」

「きっと悲しんでくれるよね、嬉しいな。でも、ずっと泣いてほしくはないかな」

「クロちゃ・・・キタサンブラック、あなたにお願いがあります」

「何?言ってみて、サトノダイヤモンド」

「友として姉妹として同じ男を愛する一人の女としてのお願いです。もし私がいなくなったら・・・マサキさんを頼みます。どうか、この尊い人を支えてあげてください」

「バカな事いわないでよ・・・でも、了解だよ。私がそうなったら時はよろしく・・・」

「約束ですよ・・・」

「うん。必ず・・・」

 

 どちらかは生き残りましょうね・・・。

  

 愛バ達が密かな決意を胸に秘める中、俺はただ深い眠りに落ちていた。

 

 



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じっかへ

 クロシロの体に異変が起きつつある事を、俺はまだ知らない。

 

「ん・・・今、何時だ・・・」

 

 昨日はパパさんの刑が確定した辺りから眠くて仕方がなかった。

 そこからの記憶は曖昧だ。

 クロシロにお世話されながら風呂に入ったんだったな。

 ちくしょう!せっかく混浴したのに記憶があああああ!

 前に突入されたときはタオル巻いていたけど、昨日は裸だったのに。

 脳内に映像が残ってないし!今度お願いしてみようかな・・・。

 

「もうすぐ昼か・・・流石に起きないと」

 

 時刻を確認して体を起こそうとするが・・・あれ。

 クロとシロがいる。いつもなら俺より早く起きて活動しているはずだが。

 昨日は大変だったからな。きっと疲れていたのだろう。

 眠る二人を起こさないように気を付けて拘束を解く。

 冷えないようにタオルケットをかけ直してやるか。相変わらず天使な寝顔。

 本当に良く寝ているな。ちょっと体が動いた程度では起きない。

 朝の身支度を済ませて部屋を出る。クロシロはもう少し寝かせて置こう。

 ブリッジを目指して歩く。方向音痴でも流石に自室とブリッジまでは覚えた。

 

「おはようございます。すみません寝過ごしました」

「おはようグッスリ眠れたかな」

「おはようさん。やっと起きたか寝坊助じゃのう」

 

 パパさんとグラさん、周りのスタッフにも挨拶する。

 

「ブラックとダイヤは、まだ起きてこないのか珍しい」

「思ったよりも疲れていたのかもしれません、俺の部屋でまだ寝ています」

「まだまだ子供じゃからの。しっかり睡眠をとるのは大事じゃて」

 

 結局、二人が起きたのは昼を過ぎてからだった。

 なんだかいつもの元気がないように見える、心配だ。

 昼食後、「ごめん・・・まだ眠い」と言うクロの傍について頭を撫でてやった。

 眠りについたクロを確認する。気が付くとシロがいなかった。

 ブリッジには来ていないとの事、すれ違う乗員に目撃していないか尋ねながら捜索する。

 シロがいたのはヒリュウ甲板展望デッキだった。

 艦首側の転落防止柵にもたれかかりボーっとしている。

 その後ろ姿が何故だか消えてしましそうで、不安になった。

 

「シロ。あんまり身を乗り出すと危ないぞ」

「ああ、マサキさん・・・すみません」

「どうした今日はやけに大人しいな、クロも寝てしまったし」

「少し体が怠いだけです。心配ありません」

「風邪ひいたんじゃないのか?体調が悪いなら無理せず言えよ」

「優しいですね。大丈夫ですって、マサキさんの顔を見てるだけで元気になります」

「そりゃよかったな。そうだ、今日中にはラ・ギアスに到着するらしいぞ」

「おお、遂にお義母様とお会いできますね。・・・私なんかが愛バでいいんでしょうか」

「今更だな、いつも通りのお前でいろよ。母さんもきっとわかってくれる」

「そうですよね、なんか弱気になってました。よし!気合を入れ直さないと」

「うんうん。元気が一番だぞ」

「安心したらお腹が減ってきました。クロちゃんの分もおやつを食べてしまいましょう」

 

 元気を取り戻したシロが走り出す。

 思ったより元気そうでよかった。さっき感じた不安は杞憂だったか。

 

「あ・・・」

「シロ!?」

 

 走り出したシロが転倒する。は?あのシロが何も無い所で理由もなく転倒・・・。

 おかしい、絶対におかしい。

 俺の知らない所で良くない事が進行しているような・・・。

 慌ててシロに駆け寄る。

 

「大丈夫か!やっぱり体調がすぐれないのか?」

「え・・・はは・・・転んじゃいました。らしくないですね」

「ほら、つかまれ」

「一人で立てますよ・・・っ・・・あれ?おかしいな・・・」

「おい!フラフラじゃないが。一体何が、おい!しっかりしろ!」

 

 シロの異常を感じてすぐさま抱っこする。マズい、意識を失った。

 パパさん達の所へ行こうとしたとき、艦内アナウンスが入る。

 

「マサキ君、すぐに戻って来てくれ。ブラックの様子がおかしい」

 

 !?シロだけじゃなくクロまで・・・。

 言い知れぬ不安をかかえたままクロ達の下へ走る。

 腕の中のシロがぐったりしている。

 ・・・大丈夫だよな。なあ?

 

「クロ!無事か」

 

 クロが寝ている部屋に飛び込む。

 パパさんとグラさんに医療スタッフが数名いる。何がどうなってるんだ。

 

「何があったんですか?シロも様子がおかしいんです!」

「何?すぐに検査しよう。皆、ダイヤの事も頼む」

  

 シロをベッドに横たえると、すぐにメディカルチェックが始まる。

 苦しそうな顔をして眠る二人の愛バを俺は見ている事しかできなかった。

 部屋にいても邪魔になるのでパパさん達と外に出る。

 シロが突然転倒し意識を失った事を説明する。

 クロは様子を見に来たグラさんがどうやっても起きないのを確認したらしい。

 

「なんだよコレ・・・二人に何が」

「落ち着け。お主がパニックになっても状況は変わらん」

「先月の身体検査では特に異常はなかった。各数値も正常、病気の兆候など微塵も感じさせない健康体だった」

「昨日の戦闘で多少は覇気を消費したじゃろうが、この様な状態になるとは思えん」

「・・・俺ですか・・・俺が」

「お主の覇気が二人に影響を与えておるのは間違いない。何が起こっておるか、わしにもわからん」

「契約を切れば、そうすれば二人は俺の影響から・・・」

「操者との契約はそう簡単に切れるものではないよ。むしろ今、無理やり解除しようとすれば、それこそ何が起こるか・・・」

「ラ・ギアスにはいつ到着しますか?母さんやネオさんなら、何か知っているかも」

「そうだな。到着を急がせよう」

「俺は知り合いに連絡とってみます」

 

 嫌な汗が出る。指が震える。落ち着け俺・・・。

 こういう時頼りになる奴は1人しかいない。パパさん達から少し離れ電話をかける。

 頼む出てくれよシュウ。

 

「どうしました。また問題発生ですか?」

「すまん緊急事態だ。時間はあるか!」

「ただ事ではなさそうですね。いいでしょう話してみなさい」

「俺の愛バが、クロとシロが急に意識を失って目覚めない。原因不明だ」

「詳しい症状と、何か原因になりそうな要因を思いつく限り言って下さい」

 

 前日は特に異常が見られなかった事、昨日の戦闘や覇気どう使ったかを思い出しながら伝える。

 話していても良くわからない。本当に昨日までは元気に・・・そう見えていた。

 

「契約後の反動が今になって来たのかもしれませんが、昏睡するとは。ふーむ」

「お前でもわからないのか。だったらどうしたら」

「ラ・ギアスに向かっているのですよね。母達に連絡しましたか」

「俺の母さんがスマホを携帯しない人だって知ってるだろ?直接乗り込んだ方が早い」

「うちの母もですよ。ダメもとで連絡をいれておきましょう」

「頼むよシュウ。あいつらに何かあったら俺・・・」

「愛バを思う気持ちは、私も理解しています。あなたまでダメになってはいけません」

「俺はどうしたらいいんだ」

「傍にいてあげなさい。契約者同士の絆はどんな良薬にも勝ります」

「わかった。このまま母さん達に合流する」

「私は各方面から症例や研究データを収集、分析してみます。同士達にも情報提供を頼みましょう」

「よろしく頼む」

「ええ、また連絡します。気をしっかり持つのですよ」

 

 通話を終える。

 メディカルチェックの結果は異状なし。原因は全くもって不明。

 ただ二人の覇気に歪みが発生していると、グラさんは指摘した。

 よく観察すれば、確かに僅かな揺らぎのようなものが見える。

 昨日は感じられなかった。二人が意図的に隠していたのではと推測される。

 俺に心配かけまいと普段通り振舞っていたのか・・・。

 何もできない、二人を心配してオロオロするだけ、なにが操者だよ・・・。

 今この時ほど自分の無力さを痛感した事はない。

 ラ・ギアスに到着するまで二人を見守る事しかできなかった。

 

「よし!準備はよいな。しっかりついて来るんじゃぞ」

「はい。頼りにしています」

「私も後で合流する。娘達を頼んだよ」

「はい。先に行って待ってます」

 

 クロシロが意識を失ってしばらく経過した。

 現在、俺の実家上空をヒリュウは飛んでいる。

 この巨大な船体を停泊させるスペースが付近に無い為、俺とグラさんはここから飛ぶ。

 時間が惜しい。少しでも早く不調の原因が知りたい。

 戦艦を許可なく停泊させるにはいろいろ手続きがいるんだが、今は緊急事態。

 未だに起きないクロシロを俺の体に括り付ける。特殊素材でできた即席の抱っこひもを使用。

 フード付きの上着、騎神用バリアジャケットに身をくるんだ体をしっかり抱きしめる。

 これから人生初のスカイダイビングだ。

 格納庫の出入り口が開く。いよいよか。

 

「目標地点へ到達した。二人とも今だ」

「行くぞ!」

「はい!」

 

 グラさんに続いて空中に身を投げる。パラシュート?んなもんねぇよ!

 一度も使用した事がないパラシュートより覇気制御の着陸かました方がマシと判断。

 おお?早!もう大地が見えてきた。えーと、アレか?あれが俺の実家。

 上空から見た事なんか無いが、たぶん合ってる。隣の豪邸がシラカワ家だよな。

 グラさんにジェスチャーで伝えてみる。どう?伝わった。

 

「あそこでいいんじゃなー!あの庭あたりー!」

「そうですー!畑はやめてくださいー!母さんに怒られますからー!」

 

 もうちょっとだぞクロシロ。二人を支える手に力がこもる。

 

「先に行くー!」

 

 グラさんが地上へ向かって加速。

 先に着地して、後から来る俺の覇気制御をフォローしてくれる手筈。

 実家の庭の中心に着地成功するグラさん、お見事!

 着地の衝撃と炎を纏う覇気で庭が荒れ放題だが仕方がない。

 両手を振って「こっちじゃ!こっち」とグラさんが合図する。

 俺も続くぜ。覇気制御開始、全身とクロシロにもコーティング。最大限衝撃を和らげる!

 行けそうだ。このままグラさんがいる辺りへ・・・は?・・・え・・・ちょ、まて・・・。

 最悪のタイミングで事故が起こる。

 考えてみれば当然の結果、操者と愛バは覇気循環により常時繋がっている。

 愛バに異常事態が起きた場合、それが操者にも起きないはずはないのである。

 

「ざっけんな!くそ!ここまで来て」

 

 あれだけ溢れていた覇気の供給がストップする。

 覇気を製造貯蔵しているタンクに穴を空けられた感じだ。誰がそんな事を・・・。

 蛇口からではなく供給元から直接覇気を食らう存在、決まっている。

 クロとシロだ。

 そんな大量の覇気を使って何をする気だ?それはお前達が望んだ事なのか?

 眠り続ける二人は答えてくれない。

 でもそうか。そんだけ食らうって事はこれからも生きていくためだよな!!

 二人は死んだりしない。それがわかっただけでも十分だ。後は・・・。

 

「こりゃダメかしれねぇな」

 

 もうただの生身じゃん。パラシュートを疎かにした罰やね。

 クロとシロに残った覇気で全力防御。俺が纏う分は無いか、姿勢制御も難しくなって来た。

 このままじゃ、庭じゃなくて家、俺が使っていた部屋あたりに突っ込むな。

 グラさん、すみません。二人を頼みます。背中から落ちれば少しはマシか。

 最後に二人を思いっきり抱きしめる。こいつらは俺の宝物だ。

 

「クロ、シロ、大好きだぞ」

 

 目をつぶり覚悟を決める。

 神様に祈る瞬間ってやつは今だろうな。どうかお願いだ二人を・・・クロシロを守ってくれ。

  

 ん?なんか滞空時間が長いような・・・まだか?ねぇまだ?実家に突っ込む準備できてますよ。

 目をゆっくり開ける。天国じゃないだろうな。

 

「まさか空から帰省してくるとは思わなかったわ」

「・・・・」

「元気にしていた?なによその顔は、おーい私が誰かわかる?」

 

 神様っているんだな。

 誰よりもよく知っている。その声と姿を確認した瞬間、不覚にも泣きそうになった。

 

「・・・ただいま。母さん」

「うん。おかえりなさい。なんで泣きそうなの?」

「嬉しいからだよ」

「そっか。なんで空から?グラがいるのは何で?いろいろ聞きたいんだけど」

「たくさん話したい事があるけど、まずは・・・」

「ん?何を持ってるの。え?子供・・・嘘・・・息子が犯罪者に・・・」

「当然のリアクションだけど!緊急事態だから!この子達を、俺の愛バを助けてくれ!」

「愛バ!?え、あーもう、とにかく家に入りなさい。今降ろすから」

 

 母さんの覇気で編まれた風によって空中に浮かんでいたらしい。

 うちの母はサラッと空を飛びます。

 

「ふぅー。肝が冷えたぞ、急にどうしたんじゃ」

「心配かけました。急に覇気が無くなった・・・いや持っていかれたんで」

「家に来るのはアンタだけかと思ったんだけどね。久しぶりグラ」

「おう。息災でなによりじゃ。サイ」

「こいつらを寝かせてやりたい。母さん、部屋と布団を用意できるか」

「客間を使っていいわよ。布団も予備があるから使って」

「ありがとう。おじゃましまーす」

「実家よ。ただいまで、いいんじゃない」

「じゃまするぞー」

「アンタも来るのね」

「当たり前じゃろうが!」

 

 久しぶりの実家を懐かしむ暇もなく客間へ。

 布団と準備して二人を寝かせる。まだ起きないか・・・。

 

「それで?何があったか説明してもらおうかしら」

「ああ、その前にパパさんとシュウに連絡したい」

「ドウゲンへはわしが連絡しよう。サイ、茶を用意してくれんか」

「図々しいわね。ま、いいけどさ」

 

 シュウとパパさんに連絡して、母さんの入れてくれたお茶を飲んで一息つく。

 最初からかいつまんで説明する。ここ数日の激動を。

 クロシロの出会いに始まり、アルクオン戦、契約した事。

 サトノ家のヒリュウ、メジロ家のハガネ。グラさんの登場、超重力砲。

 そして今日、意識を失った二人をここに連れてきた事。

 まだ一週間たってないんだぜ。イベント濃いすぎるわ!

 母さんは時折、感心したり呆れたりしながら聞いていた。

 グラさん、いつの間にか勝手に煎餅食べてる。どこから持って来た。

 

「そんな事になってたのね。大変だったわねマサ君」

「そうなんですよ・・・ってネオさん!?」

「やっほーマサ君、おかえりなさい。グラさんもお久しぶり」

「おう、久しぶりじゃな。お主、会うたびに若返ってないか」

「そう?自分じゃわからないわ。サイさん、私にもお茶頂戴」

「アンタねぇ・・・せめて玄関から来なさいよ」

「丁度いい。ネオさんにも協力してほしいんです」

「シュウ君から聞いてるわ。愛バがピンチなんですって」

 

 ここまでの経緯を説明し、クロシロの状態を確認してもらう。

 

「天級騎神が三人もいるんだ。何とかなりますよね?」

「級位バレちゃった。まあいつかはそうなると思ったけど」

「今思えば気づかない俺がバカだった」

「幼い頃からこやつらの力を間近で見ておったんじゃ、致し方あるまい」

「この子達ね。あら、とってもカワイイ!しかも若い!サイさんの予想敵中ね」

「よ、良かったわね、マサキ・・・えっと・・・うん、ロリで・・・」

「母さん、引くのは後にして!今は二人を見てあげて」

 

 母さんとネオさんがクロシロの体を調べていく。覇気もチェックしてもらう。

 

「どう?何かわかったら教えて」

「体は正常、問題は覇気の方ね。この歪みは何?ネオはどう思う」

「そうね。いくつなの?10歳ぐらいよね。契約の反動と成長期が重なった?でも・・・」

「原因はマサキの覇気じゃろう。二人が受け止めきれる器ではなかったのかのう」

「まだ若いけど、この二人凄い潜在能力よ。器はかなり高品質だ思うけどね」

「さっき着地寸前に覇気をゴッソリ持っていかれたんだ。それも関係あるのかな」

「自身の覇気が不安定なのに、操者から更に吸収する理由は何」

「こんな症例見た事ないわ。でも応急処置として歪みを緩和させるぐらいは」

 

 ああだこうだと話し合って結論は出なかった。母さん達も知らない何かが起こっているらしい。

 一応、ネオさんが二人の覇気に調整を施したようだ。

 

「力になれなくてゴメンね。シュウ君が何か見つけてくれるといいんだけど」

「こういうのはガー子が詳しいのに、肝心な時にいやしない」

「他にこういう事に詳しい奴どこかにおったかのう」

「ウマ娘に詳しい・・・ウマ娘について徹底的に調査研究した人・・・ビアン博士!」

「ビアン?DC総帥だった、ビアン・ゾルダークの事。確かにあの人なら知ってる可能性も」

「こっちの頼みを聞いてくれるかしら?私達の事今でも目の敵にしてるし」

「命を救ってやった恩を返してもらう、いい機会ではないのか」

「俺ちょっと連絡してみる」

「あれ?なんでマサキが連絡先を知ってるの」

「リューネに頼んでみる。あの人娘には激甘だから」

 

 随分前から連絡していないが大丈夫だろうか?

 うお!ワンコールで出た!

 

「マサキ!いや~久しぶりだね。元気してた?」

「お、おう。突然すまない。親父さんはいるか?」

「親父なら研究室にこもってるよ。今度こそアンタの母さんを倒すロボを造るんだってさ」

「ヴァルシオン。まだ諦めてなかったのか・・・今、電話代われるか」

「ちょっと待ってね。おやじ―!マサキが話したいって」

 

 元気娘は健在か。

 小さい頃、母さんにリベンジをするため定期的に村を訪れる親子がいた。

 父は究極ロボという人型兵器を毎回母さんに破壊されて悔しそうだった。

 その間娘は俺やシュウと一緒に遊んでいた。それがリューネである。

 俺とシュウにとってリューネはたまに遊ぶゲスト的友人だった。いとこみたいな感じか。

 

「・・・なんだ小僧。今忙しい、くだらん用なら切るぞ」

「すみません。少々お聞きしたい事が」

 

 現状を説明する。原因不明の症状で愛バがピンチであると。

 

「それを私に聞いてどうする」

「あなたはウマ娘を危険視するあまり、誰よりも敵であるウマ娘を調査研究したはずだ。何がご存じでは?」

「そうだとして、お前に協力する義理はない」

「そこをなんとか、本当に困ってるんです」

 

 ウマ娘排斥を主導したDCの元総帥は今でもウマ娘嫌いか・・・母さんとは飲みに行くくせに。

 

「マサキ、ちょっと代わって」

 

 母さんにパスする。

 

「OKだって。明日にはここに来てくれるわ」

「早っ!どうやって説得したの」

「ヴァルシオンと戦う事が条件だってさ、前回より強くなってる事を期待するわ」

「前回・・・30体の量産型を"サイフラッシュ"でまとめて消し飛ばしていたわね」

「面白そうじゃのう。わしも参加していい」

 

 再びリューネに代わる。

 

「なんか大変そうだね。それよりおめでとうかな、操者デビューだね」

「本当はトレーナー志望だったんだがな」

「そっか。でもいいな~私も愛バが欲しいよ」

「そのうちひょっこり現れるよ。運命の出会いなんてそんなもんだ」

「運命?フフッ、仲が良いんだね。今度紹介してよ」

「そのうちな。お前はこっちに来ないのか?」

「DC残党の動きがちょっとキナ臭くてさ、親父の後始末も楽じゃないよ」

「そうか。落ち着いたらまた会おうぜ」

「うん。じゃあ明日親父が行くと思うけどよろしくね」

 

 総帥が退いた後も活動を続ける連中もいる。きっと当時の熱を忘れられないのだろう。

 元総帥と娘は自分たちの理念から外れ、ただのチンピラと化した残党を狩る側に回ったがな。

 

「ビアン博士が到着するまでどうしよう」

「マサキは二人を看病していなさい。といっても傍にいるぐらしかできないわね」

「ドウゲンもそのうち来るじゃろ。わしは昼寝でもしていようかのう」

「アンタは破壊した庭を片付けなさい」

「皆のご飯作らなきゃ。今日は人数が多いから頑張るわよ」

 

 今後の動きが決定した。ビアン博士ならどうにかしてくれるか。

 その時、クロシロの体が僅かに動いた。

 

「お、おい。クロ、シロ」

「・・・ん・・・ここどこ」

「・・・ふぁ・・・あれ・・・私」

「起きてくれた。クロシロ!心配したぞ」

「わふっ、えへへ起きてすぐのハグだー」

「え、泣かないでくださいよ。何があったんです?」

「・・・良かった、本当に・・・」

 

 ずっと起きなかったらどうしようかと不安だった。

 このまま何事も無ければいいが。

 

「起きたか。じゃが油断するな。覇気を見る限りまだ完治しておらん」

「応急処置が上手くいったみたいね。やるじゃないネオ」

「あくまで一時的な対処に過ぎないわ。でも良かったわね」

 

 クロシロが母さん達を見て目を丸くする。

 

「マサキさん、グラさんはわかるよ。でこちらの二人は・・・」

「と言うよりここどこですか?え、マサキさんのご実家・・・」

「おうよ。紹介するぞ。こちら母さんとお隣のネオさん、どっちも天級だ」

「初めまして。天級騎神、風のサイバスターよ。よろしくね」

「どうも~。天級騎神、闇のネオグランゾン。仲良くしてね」

 

 あ、クロシロが固まった。尻尾ピーンだ。

 

「天級が三人・・・何この状況・・・天国?地獄?」

「ご実家で爆睡するって・・・何やってんだ私・・・」

「あんまり緊張するな。言っただろう母さん達は善人だよ」

「はうっ!すみません。みっともない姿をお見せして」

「あの、もう手遅れかも知れませんが言わせてください」

 

 焦って服装を整える二人。姿勢を正しキレイな正座をする。

 二人につられて俺たち全員も正座。母さん達が微笑ましいものを見る顔をしている。

 「一番重要な事だけ手早く言いましょう」「そうだね。まだ頭が混乱してるし」

 聞こえてるぞ。

 

「キタサンブラックです」

「サトノダイヤモンドと申します」

「「天級騎神サイバスター様」」

「はい。何でしょう」

 

 一拍おいて深々と頭を下げる。二人とも真剣だ。

 

「「息子さんを、マサキさんを私達にください!!」」

 

 言ったぁー!俺の方が緊張したわ。母さんの返答はいかに。

 

「うん。ダメ!」

 

 クロとシロはそのまま石化して動かなくなった。

 

 



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せんたく

 母さんに「ダメ!」と言われて、クロシロは動かなくなった。

 

 頭を下げたまま固まっている二人。

 

「母さん・・・酷いじゃないの・・・」

「今のは許す流れじゃろう」

「いびり?嫁いびり!もう開始しちゃうのね、引くわー!」

「ちゃんとした理由があるのよ。話を聞いて」

「同居は絶望的か、冠婚葬祭以外の帰省は遠慮するわ。俺はエネ夫にはならん」

「姑の意地悪から奥さんを守ろうとするマサ君。いい男になったわね」

「リアルな将来設計立てとるんじゃな。立派じゃぞ」

「あれ?私、息子に見限られたクソババアになってる」

 

 石化が解けた二人が発言する。

 

「あ、あの私達まだ全然未熟者ですけど。いっぱい努力しますから」

「マサキさんを好きな気持ちは本物です。どうかお許し下さい」

「お前達・・・母さん、あの優しいあなたは、どこへいってしまったんですか」

「息子の幸せを喜べない鬼畜。ああはなるまい」

「失望しました。サイさんのファンやめます」

「ヤベェぞ味方が一人もいねぇ!やめてよ!悪者にしないでよ!」

 

 俺たちから責められた母さんが体育座りでいじけ始めたので、悪ノリ終了。

 

「ダメな理由を話してくれ。婚約は置いといて、愛バとして認めないって事か」

「今のあなた達はとても不安定な状態にあるの。このまま症状が改善されなければ、契約解除も視野に入れた方がいいわ」

「急な契約解除は難しいし、良くないって聞いたんだが」

「ここに天級が三人おる。わしらの力で無理に引き剥がす事も一応できる」

「もちろんリスクはあるわ。解除後のリスクより契約続行のリスクが上と言いたいのね」

「二人の事が嫌いじゃないの。むしろ息子を選んでくれて感謝してる。でも、この先何が起こるかわからない以上、あなた達を認める訳にはいかない」

「そうね。最悪命にかかわるかも知れないし」

「残念じゃが・・・こればっかりはのう」

「命が・・・俺のせいで・・・二人が」

「どうする?早い方がいいかもしれない。決めなさい、今ここで契約解除するか。ビアン博士の到着を待って僅かな希望にかけるかを」

「二人の命には代えられない。契約を解除して・・・」

「「待って!!」」

 

 俺の声を遮るように叫ぶ二人。その表情は真剣かつ必死だ。

 

「それだけは嫌!お願いだから、解除するなんて言わないで!!」

「お願いします!やっと出会えたんです、ずっと待っていたんです。この人しかいないんです!!」

「わかっているのか?お前ら死ぬかも知れないんだぞ!・・・そんなの俺は絶対に嫌だ!」

「十分理解してるよ。でもね、契約解除して生き残っても、死んでいるのと変わらない」

「あなたとの契約には命をかける価値がある。たとえ死んだとしても後悔しません」

「なんで、なんでそんな事言うんだよ!いいじゃないか、契約ぐらい。そうだ、一旦解除して落ち着いたらまた契約し直せばいい」

「それは無理」

「無理?なんで」

「一度契約を解除した人間とウマ娘は、互いの覇気を受け付けなくなるのじゃよ」

「近くにいるだけで体に不調をきたすようになって、酷い時はお互いを認識できなくなるの」

「認識できなるなるとは・・・」

「名前も素性も知らない赤の他人になるって事よ。愛バからモブウマ娘Aになるみたいに」

「これは自己防衛の一種ではないかと考えられているの。自身に害を及ぼす覇気の持ち主を遠ざけるため、記憶を改ざんすらしてしまう体の防衛システム。まだ研究不足だってシュウ君は言ってたかしら」

「お主達は、噛みついて契約したんじゃろ?おそらく解除後の後遺症は酷くなるぞ」

「・・・でも死ぬよりはいい・・・だったら俺は」

 

 二人が俺に縋りついて来る。

 やめろ、そんな顔をするな。俺だって辛いんだ・・・。

 

「嫌だ。いやだいやだいやだ!捨てないで、離さないで、一緒にいてよ!!」

「あなたを忘れるのも、忘れられるのも耐えられません。そうなるぐらいなら・・・死んだほうがマシです」

「でも・・・ああ、くそっ・・・どうしたら」

「ここまで抵抗されては無理じゃろ」

「解除には契約者全員の同意が不可欠でしょ、サイさん」

「わかったわよ。でも本当に危険だと判断したら、無理にでも解除させるわ。覚えておいて」

 

 契約解除は保留となった。

 小さく震えながらしがみついてくる愛バを、俺はただ撫でつづけた。

 

「話はとりあえずこれでお終いね。お腹空いたでしょ、何食べたい?」

「私も手伝うわ。今日は腕を振るっちゃうわよー」

「にんじんのフルコースはやめてくれんかのう。肉が食いたい気分じゃ」

「え?ウマ娘の癖に、にんじん苦手なんですか。珍しい」

「極たまーにいるのよね。人間だってカレー嫌いな人いるじゃない」

「でもこの世界でにんじん嫌いって、結構致命的な気がする」

「別に嫌いではない。ただ、この世から消えて欲しい野菜№1なだけじゃ」

「超嫌いじゃん・・・」

 

 母さん達が料理の準備を始める。

 クロシロは・・・うーん、耳がペタンとしてる。

 元気だしてよ。ずっとこのままでいるわけにもいかないでしょ。

 

「体は大丈夫か、辛いようならまだ寝てろよ」

「・・・一緒にいていい?」

「・・・あの・・・また抱っこしてください」

「わかった・・・でも、その前にトイレに行かせて・・・」

「・・・締まりませんね」

 

 生理現象には勝てなかったよ。

 ずっと行くタイミングがなかったから、ものすごく出したいです(大)。

 ふースッキリした。手を洗って部屋に戻る。

 

「母さん、俺も何か手伝おうか?」

「こっちはいいから、二人についててあげなさいな」

「じゃあ少しこの辺を散歩して来るよ」

「夕飯までには帰ってくるのよ~」

「わしもブラブラしてこようかのう」

「アンタは庭の掃除よ」

「気を付けてねマサ君」

 

 クロシロを抱っこして外に出る。ふぃーこの空気、変わってないな。

 まだ本調子ではない二人を連れて久しぶりの故郷を歩く。

 

「相変わらずド田舎だな。畑と川と山・・・」

「良い所だね。空気が澄んでる気がする」

「なんか虫が多そうですね。カブトムシが簡単に取れそう」

「いるぜ。運が良けりゃ蛍だって見る事ができるぞ」

「マジで。自然豊か~」

「?・・・なんでしょう不自然にえぐれた山の地形・・・まさか」

「そのまさかだ。たまにな母さん達がな・・・察して」

「あれは何?畑に変な穴がある」

「こっちにも妙なものがありますよ。動物園の檻?と看板ですか」

 

 古ぼけた看板には「エサを与えないで下さい。お仕置き中です」とある。

 

「それらは全てとある男のために用意されたものだ」

「いったいこの村に何があったの?気になる」

「閉鎖された村で起こる不可解な事件と民間伝承。伝記ホラーサスペンス始まった」

「そんな大した話じゃねえよ。ひぐらしは鳴きません!」

 

 懐かしい、母さんの目を盗んで何度か脱獄を手伝ったこともあったな。

 もういい加減、檻は片付けましょうや。シュウの他にここに入る奴いないだろ。

 

「おお、川だー!綺麗だね。橋の上から飛び込んでみたい」

「釣りやキャンプも楽しめそうですね」

「いつかやろうぜ。泳ぐのも釣りもキャンプも全部な」

 

 いつか・・・か。

 

「ヒリュウはどこに停泊したんだか。まあ人が住んでいない土地なら一山超えた先にあるか」

「ステルスモードで待機していれば、簡単には見つけられないよ」

「逃げる隠れるふざけるはサトノ家の得意とする所です」

「母さん達がいるから、戦艦程度じゃここの住民は動じないぞ」

 

 道中何度か村民とすれ違う。

 

「まあ、カワイイ子ね。お子さんかしら」

「違います。でも大切な存在です」

「大事にしてあげなさい。きっと素敵な美人になるわよ」

「ですよねー。今もこんなにカワイイですから」

「「・・・・////」」

 

 何照れてんのよ。こっちまで恥ずかしくなるでしょ。

 後、人見知りしなくてもいいのよ。ボンさんやグラさんには普通だったじゃない。

 知らない人が近づくと俺の服をギュッと掴んで緊張する二人。大丈夫大丈夫よ。

 ここに住む者は訳ありのウマ娘が多く、他人の事情には深入りしないのが暗黙の了解だ。 

 俺が幼女二人を抱っこして出歩いても逮捕される事はない。ないよね?

 

「あの建物は何?やたら未来的な造り、警備員までいるよ」

「あの武装ただの警備員じゃないですね。何を想定して配置されているんでしょう」

「あれは大昔からある遺跡らしい。母さんには絶対に近づくなと厳命されている」

「何があるんだろう?あの建物見てると尻尾が逆立つよ」

「噂では異世界への"門"があるらしいぞ。嘘くせ―よな」

「中に入った事は無いのですか?」

「無いな。母さんとネオさんシュウに、ビアン博士はたまに様子を見に行っているらしい」

「隠されると余計気になりますね」

「触らぬ神に祟りなしだよ」

 

 村の散歩コースをゆっくり歩いて行く。

 小さい頃から走り回った道だ。本当に変わらない。

 おや、向こうから車が近づいて来るぞ。

 

「マサキ君!ブラックにダイヤも目が覚めたのか良かった」

「パパ、心配かけてごめんね」

「すっかり元気とはいきませんが、今はなんとか起きていられます」

「そうか無理はしないでくれよ。私はこのままサイさんのお宅に行くがどうする」

「もう少し散歩して帰ります。二人ともそれでいいか?」

「うん。パパ、先に行ってて」

「天級が三人もいる魔窟です。くれぐれも失礼の無いように」

「わかっている。この時のためサングラスを新調した」

「それより、髭を剃ってくださいよ」

「いつもと違いがわかんない」

 

 実家へ向かうパパさんの車を見送って、散歩を再開。

 山の中腹にある神社に行ってみようかな。

 長い階段を登る。自分の足で歩くと言う二人に断りをいれてどんどん登って行く。

 到着したのは古くてこじんまりとしているが、掃除の行き届いた綺麗な境内だった。

 村民が持ち回りで手入れしているのだろう。

 

「手水で手を洗って参拝するぞ。一旦降ろすからな」

「割と信心深いんですね」

「日本人なら当然だ。たまにしか行かないからこそ、本気で参拝するのが礼儀だろ」

「初詣も疎かにしちゃう私は悪い子かな」

「回数や日時は関係ない、ようは気持ちの問題だ。行きたくなったら行くで丁度いいと思うぞ」

 

 手順に従って参拝を行う。

 コラやめなさい!そんなに鳴らさなくてもいいから、鈴が落ちて顔面直撃する天罰が下るぞ。

 やだ、現金が3円しかない!キャッシュレスに頼り過ぎた。賽銭は1人1円づつね。

 神様、二人と会わせてくれてありがとうございます。

 願い事は・・・クロとシロが元気になりますように・・・。

 

「何をお願いしたんですか?」

「それ聞いちゃう?うまぴょい計画の成就を願っておいた」

「うそが下手すぎだね」

「そういうお前達は何を願ったんだ?」

「マサキさんの健康と幸せです」

「私も・・・何が起きても元気でいて欲しいから」

「バカだな。自分の事をお願いしろよ。この神社はご利益あるぞ、俺の願いは叶ったからな」

 

 小さい頃はよくこの神社でお願いしたものだ。

 ウマ娘と仲良くなれますように、いつか最高のパートナーになってくれる奴と会えますように。

 叶ったわ。でもまだこれからなんだよ、ホント頼むぜ神様。

 帰り道の下り階段でこけそうになって焦った。三人で顔面に傷を負う所だったぞ。縁起悪いわ!!

 

 散歩を終えて家に帰った頃には日が暮れていた。

 

「その節は大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」

「いえ、こちらもずっとあなたを誤解していたようだ。頭を上げてください」

「何度目の謝罪じゃコレ?もうええじゃろ、見飽きたわい」

「おかえりなさい。もうすぐご飯だからね」

「どしたの?ネオさんとパパさんの土下座合戦?」

「まあいろいろあるのよ」

「懐かしいですな。"グランワームソード"でしたか、あれが私の股間数センチの所に突き刺さった時のタマヒュンは忘れられません」

「あの・・・本当はまだ怒ってますよね・・・ごめんなさい!!」

「パパ、何があったか知らないけど許してあげて」

「父の股間に何かあったら私の存在が無かった・・・これは怖い!」

「シロ、真面目に考察しない方がいいぞ」

 

 皆で夕飯を頂く。今日は特別にパパさんのネコ缶は免除だ。

 落ち着くわー。久しぶりに母さんのご飯を食べてすごく落ち着いた。

 沖縄にハマっているのか?ゴーヤチャンプルーやラフテーが並ぶ食卓、美味いからいいけど。

 ネオさんが用意したのは、なぜか一本うどんだった。これは京都名物だったか・・・。

 美味っ!統一感の無い料理を平らげて満足しました。

 

 クロシロは夕食後、風呂に入ってすぐ寝てしまった。

 今日のお風呂はクロシロだけで入ってもらった。さすがにね・・・母さんの前では恥ずかしいし!

 パパさんはヒリュウに戻るらしい進展があればすぐこちらに来るとの事。

 娘が心配ではあるが頭首の仕事は忙しいんだろうな。

 眠る二人の傍に布団を敷いて俺も眠りにつく、ビアン博士やシュウが何か打開策を授けてくれる事を願うしかない。

 

 結局、ビアン博士がうちを訪れたのはそれから2日後だった。

 なんでもDC残党に家を襲撃されたらしい。リューネが返り討ちにして警察に引き渡したそうだが。

 到着したビアン博士は余計な時間を食ったと、大層お怒りだった。

 

「ご無沙汰ね。博士」

「ふん。貴様もなサイバスター」

「わしもおるぞ」

「博士。相変わらず悪人面ね」

「天級がこれだけ揃って二人の子供を救えんとはな」

「面目ない」

「耳が痛いわね」

「小僧と患者はどこだ」

「こっちよ」

 

 クロシロが起きている時間がだんだん少なくなってきている。

 今日はまだ目覚めていない・・・。

 

「博士!来てくれてありがとうございます」

「これが小僧の騎神か・・・ペドフィリアめ」

「小僧はやめてくださいよ。ペドもやめろ!!せめてロリで!!」

「お前は正確に言えばアリスコンプレックス、アリコンだ!!」

「ア、アリコン?」

 

 性的興奮を覚える年齢によって呼び方が変わる

 

 12歳~15歳 中学生 ~小学生高学年 ロリコン(ロリータコンプレックス)

 12歳~7歳 小学生高学年 ~低学年 アリコン(アリスコンプレックス)

 7歳~ 小学生低学年~幼女 ハイコン(ハイジコンプレックス)

 ~0歳 幼女~赤ん坊 ベビコン(ベビーコンプレックス)

 

 ペドフィリアは医学用語で複数の13歳以下の幼児・小児に対して継続的に強い性的衝動を覚える。

 ヤベェ奴!!!

 

「わかったか。この小児性愛者!!」

「メッチャ詳しいじゃん・・・流石博士。クソみたいな知識の披露ありがとう」

「患者を診る。邪魔だから向こうへ行ってろ」

「二人に変な事しないでくださいよ」

「お前と一緒にするな!いいから出ていけ」

 

 追い出されちゃった・・・。

 博士は結構な大荷物だった。何度か呼ばれて機器類を部屋に運ぶ、これは準備が大変だったろうな。

 客間は複数の医療機器らしき機械が置かれ、ちょっとした病院さながらになった。

 博士の診察を待つ・・・まだかな・・・まだかな。

 

「こーら、落ち着きなさい。大丈夫、博士はマジもんの天才だから」

「わかってるよ。でも・・・ううー心配だ・・・」

 

 しばらくして博士が部屋から出てくる。

 

「どうでしたか、何かわかりましたか?」

「結論から言おう、このまま何もしなければあの二人は死ぬ」

 

 天才と呼ばれる男の発言は俺を絶望の淵に立たせた。

 

「原因はわかっているだろう?お前の覇気が二人を蝕んでいる」

「・・・やっぱり」

「契約自体はなんとか完了したようだが、あの二人はまだ子供。如何に潜在能力に優れていようとも、お前の異常な覇気を受け止めきれずにいる」

「俺のせいか」

「二人で契約したのは幸運だったな。単独で契約などした日には即、壊れていたぞ」

「危なかった・・・」

「助ける方法は2つ、1つは契約を解除して他人になる事だ。命は助かる」

「もう1つは?」

「騎神二人の内どちらか一方に全覇気を移植して、力の受け皿を数倍以上に強化する方法だ」

「・・・魂継(タマツギ)」

「タマツギ?なんだそれ」

「騎神が自身の力を別の騎神や人間に継承する秘術よ」

「引退する者や自分の死期を悟った者が、子や仲間に後を託す最後の願い」

「そうか、それを行えば確かに・・・じゃがこれは」

「それじゃあ。誰か引退を考えている騎神を探してくればいいのか?」

「そうではない。助けるにはお前の覇気に蝕まれてもなお抵抗を続ける。近しい存在が必要だ」

「・・・何が言いたい」

「もう理解しているだろう。それとも理解したくないのか?」

「・・・俺は」

「現状で魂継を行えば、継承されなかった方は確実に死に至るだろう」

「・・・・」

「選べ!お前の騎神、二人の内どちらを生かして、どちらを殺すかを」

 

 ビアン博士の言葉は今度こそ俺を絶望の渦のなかへ叩き落とした。

 

 



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あいんすと

 クロシロの内どちらか一方しか生き残れない。

 

「選べ!お前の騎神二人の内、どちらを生かして、どちらを殺すかを」

 

 ビアン博士に残酷な選択を突き付けられて、目の前が真っ暗になった。

 あれから医療機器を調整してビアン博士は家を出ていった。

 遺跡の門とやらの調査に行くようだ。そちらが本命だったのかもな。

 しばらくはシラカワ家に滞在するらしい。

 

 どうして、なんで、いやだ・・・。

 考えがまとまらない、博士の言葉が冗談であってくれたらどんなにいいか。

 選ぶ?俺が・・・どちらかが死ぬ・・・俺が殺すのか・・・。

 

 気が付くと母さんに体を支えられていた。立っていられない。

 体に力が入らない、何も考えたくない、頭が痛い、吐き気がする。

 クロとシロの顔を見るのも辛い・・・。

 俺には二人の命を背負う覚悟がない。

 

「母さん・・・契約解除の準備をしてくれ」

「いいのね。二人の意思を裏切る事になるわよ」

「ああ、死んだ方がいいなんて俺には思えない」

「・・・ネオ、グラ、手伝ってくれる」

「わかったわ。急いで準備するわね」

「一応、魂継の準備もしておく。ギリギリまでよく考える事じゃ」

「明日にはできるようにしておくわ。マサキ、後悔しない道を選ぶのよ」

 

 後悔しない道だって・・・どれを選んでも後悔しかないよ。

 なあ、クロ、シロ、俺たち出会わない方が良かったのか。

 

 家にいる事ができない。いたくない。

 傍にいてあげたいのに、二人の近くにいる事に今は耐えられなかった。

 本当に情けない。死にそうになっているのはあいつらなのに。

 俺は自分の弱い心を守るためその場から逃げ出した。

 

 フラフラと家を出て彷徨う。

 三人で散歩した時とは違い足取りは重い・・・。

 ここは、ああ、遺跡か・・・確か今博士が中にいるんだったか。

 !?警備はどこだ・・・人が倒れている。

 異変を感じてすぐさま駆け寄る。

 

「おい!どうした。何があった」

「うう、門から何かが・・・博士が奴を遺跡内部に閉じ込めようと」

「博士は中にいるんだな。母さんに、サイバスターに連絡してくれないか」

「それが、先程から電波障害で通信機器が麻痺してしまっている」

「ばかな・・・ホントだスマホも使えねぇ」

 

 どうなってんだ。

 ああ、もう!それどころじゃないって言うのに!

 

「俺は博士の救助に行く、アンタは付近の住民にこの事を知らせてくれ」

「君一人でか?そんな真似をさせる訳にわ・・・え?」

「俺はサイバスターの息子だ。この覇気を見てもまだ心配か?」

「わかった。博士を頼む。無茶するんじゃないぞ」

「理解が早くて助かる。できれば母さん達を呼んでくれ」

 

 遺跡内部へ突入。

 幸い一本道で、方向音痴の俺でも迷う心配はなさそうだ。

 奥へ奥へと進むと広い空間に出る。

 何だコレ?巨大なリング状の構造物がある。これが門?

 

「博士ー!どこですか!ビアン博士!」

「うるさいぞ。聞こえておるわ」

 

 別の通路から博士がやって来る。

 

「ご無事でしたか。一体何が?」

「悠長に話している暇はない、奴が来るぞ」

「奴って誰ですか」

「知るか!突然クロスゲートが起動したと思ったら、飛び出してきおった」

「クロスゲート・・・門の事ですね」

 

 ガシャン・・・。

 ビアン博士が来た通路から音がする。足音?

 急ぐでもなくだだ悠然と歩く音。ガシャンガシャンと大きな金属が擦れ合うような。

 

「なんだてめぇ!?」

 

 現れたのは西洋のフルプレートアーマーを思わせる巨体。

 紫色の体に角や牙の着いた凶悪な外見、肩関節部には赤い玉のようなものが見える。

 誰かが鎧を着ているのか?だとした身長3メートルクラスの巨人。

 無言のままこちらを見据える。

 アルクオンの時と違って意思疎通ができればいいんだが。

 

「おい、こっちの言葉はわかるか?何者で何が目的か言え!」

「・・・・」

「また無口系かよ!めんどくせぇな」

「お前、なぜそんなに冷静なのだ?相手は未知の存在だぞ」

「最近、羅刹機とやり合ったばかりなんで、耐性ができました」

「ふん。度胸だけは一人前か」

「とりあえず、ここから逃げましょう。母さん達と合流すれば」

「こいつをここから出すわけにはいかん!なんのために足止めしたと思っている」

「ええー、もうここから出して母さんに始末してもらった方が早いって」

「それは最後の手段だ。こいつのサンプルを取りたい、なんとか無力化しろ」

「結局、自分が研究したいだけじゃん。マッドサイエンティストが!」

「マッドは科学者にとって誉め言葉だ。いいからなんとかしなさい博士からのお願い!」

「わかりましたよ。でもこいつ別に襲ってきませんよ」

「そうだな。ついて来いといった私をただ歩いて追跡していただけだ」

「は?外に何人か倒れていたけど」

「こいつが現れた瞬間に逃げ出して、遺跡入り口で死んだフリした連中か?」

「警備員の風上にもおけねぇ。一応、罪悪感で誰が通りかかるまで待っていたんだろうな・・・仕事しろや!」

 

 外にいた人はケガ人ではなくただのゲスだった。せめて母さんに連絡ぐらいして欲しい。

 

「異なる世界・・・力の根源・・・見つけた」

「喋ったー!しゃべりましたよ。博士!聞きましたよね」

「おお、ますます興味が湧いた。なんか他にも話せ!」

「・・・力・・・見極める・・・主・・・」

「ん?どうして右手を振りかぶるんですかね?」

 

 博士を掴んでその場から退避!

 こいつ!いきなり殴りかかってきた。何すんの!やんのかごらぁ!

 

「博士、向こうはやる気です。邪魔なんで下がって」

「言われなくてもそうする。この際生死は問わん奴を止めろ!」

「了解!おい、運が悪かったな。今俺は機嫌が最高に悪い」

 

 これで今だけはクロシロの事を考えずに済む。

 完全に八つ当たり、溜ったフラストレーションの解消に付き合ってもらう!

 

「一気に行くぜ。そらっ!」

 

 さっきの一撃を見る限りアルクオンに比べて遅すぎる。

 懐に飛び込んで打撃を浴びせる。鎧の隙間を縫うように関節部を中心に狙う。

 

「手応えがおかしい?と言うより無い」

 

 中の人が痩せ型なのか?全然当てた感じがしない。関節の赤玉はかてぇ!

 こちらの動きについてこれないのを利用して背後に回る。

 背中を駆け上がり、頭部の兜を両手で掴む。

 

「まずはその面拝ませてもらおうか!そおれぇ、兜ぽーん!」

 

 兜を全力で上に放り投げる。

 中身はなんだ?イケメンなら死ね!

 こういうのには対人恐怖症の美少女が入ってるんだよゲへへ。

 さあ、恥ずかしがらずに見せてごらんなさい。

 兜がカランと音を立て地面に転がる。顔は・・・顔が・・・。

 

「顔がねぇ!何だこいつ!一仕事終えたアンパンマンかよ!」

「中身が無いだと!おい、そこから中を覗いてみろ首だけ引っ込めているんじゃ」

「中も空洞だ!この鎧自体がかってに動いている!アルフォンスだこれー!」

「鋼の錬金術師!こいつは錬金術の失敗作だとでも」

「警戒・・・認識改・・・調査続行」

「ひょ?ぬわー!」

 

 背後の俺を掴んで投げ飛ばす鎧さん。

 頭部を拾って頭に乗せ直す。俺は猫のようにくるっと回って着地。

 鎧が距離を詰めてくる。おほ!早いじゃない。

 

「さっきまでは様子見だったてか、いいぜやったらぁ」

「よし!そいつは今後"アーマー"と呼称しよう」

 

 強烈なタックルをかましてくるアーマー。

 よけると思った?残念受け止めます。舐めんなアルクオンに比べたらお前なんぞ。

 アーマーの両腕が巨大化する。ほう?それで?

 さっきのお返しとばかりに膨れ上がった両腕によるラッシュをこちらに見舞う。

 

「ぐっ!いってーなボケ!俺とラッシュの速さ比べするか!ああん!」

「アリコンの防御力も大したものだ!後でお前のサンプルも取らせろ」

「アリコンって言うな!気が散るからどっか行け変態科学者!」

 

 拳と拳がぶつかり合う!ちょっと痛いけど・・・それだけだ。

 サンドバッグになるのはてめぇだよ。

 俺のラッシュスピードがアーマーを上回る。

 おやおや~体の至る所にひび割れができてますよ?

 

「謝るなら今のうちだぞ!しっかりちゃんと謝って!いいから土下座しなさい!!」

「土下座?・・・理解・・・不能」

「知らないの?後で教えてあげるね!てめぇの意識が残っていればなぁー!ぎゃははははは!」

 

 不利を悟ったのかアーマーが後退する。

 ビビったね。気持ちで負けたら終わりですぞ。

 アーマーの体から腕部が分離してこちらへ飛んでくる。

 

「そういうのもアルクオンがやった後だ。二番煎じ乙でーす」

 

 俺の体を両手で掴んで引き寄せる。それで?

 おお、胴体部分が巨大な口にすっげー牙!アレにパクパクされたら痛いだろうな。

 なので牙に噛まれる前に自分から飛び込みます。

 

「!?・・・意味・・・不明」

 

 中が異空間だったり、消化液で溶かされたらどうしようかな・・・全然平気!ぶかぶかの鎧を装備しただけ。

 

「吐き出そうをしてる?無理でーす。その前に中からパーン!」

 

 覇気の全力開放!アーマーの内部から爆裂させてやった。

 体の各パーツが全て吹き飛ぶ。その内の頭部だけを確保しておく。

 

「こんなもんですよ。博士―!終わったよー」

「・・・お前、本当に人間か?終始アーマーを圧倒していたぞ」

「慣れですよ慣れ!一週間前の俺なら死んでました」

 

 未だに動く腕部分のが近くにあったので踏み潰す。

 

「どうしますこれ?全て粉々にしておきましょうか」

「待て・・・ほうほう。見ろ、自己修復機能があるらしい。核をつぶさない限りこいつは何度でも蘇るぞ」

「核?あの赤い玉かな」

 

 両肩に2つ、内部に1つの計3つあった。えーと、あれだあれだ。

 ふん!もうひとつ、ふん!

 

「最後の1個は残しておこう。おい、聞こえるか?これからお前の処遇を決定する」

 

 赤玉は博士にパスして、頭部を掴んでブンブン揺さぶる。

 

「おら!なんか言え!命乞いをしろ」

「敗北・・・強者・・・服従」

「お、なんだ負けを認めるってか?大人しくできるよな」

「何をする。そいつを自由にするな」

「大丈夫ですよ。なんかコイツ見た目よりいい奴かも」

 

 頭を開放してやると修復された各パーツが寄り集まって人型となる。

 ビアン博士の手から赤玉がフワフワと飛んで鎧の中に収まった。

 

「で?なにお前。どこから来たの」

「異界・・・門・・・脱走」

「異界といったか?ここではない世界からきたのか」

「世界・・・多重・・・無限」

「ほう。異世界はいくつも存在し、その可能性は無限だと!」

「ええ、これで会話できてるの」

 

 意思疎通をわかりやすくするためにジェスチャーやハンドサインを教える。

 頭がいいのね。すぐに覚えてくれた。「はい」なら頷くし「いいえ」なら首を振る。

 サムズアップもできるぜ。やるねー。

 この生命体?アーマーとコミュニケーションを取っていると門に異変が起こる。

 

「博士!なんか輪っかが光ってる!」

「アーマーが出てきた時と一緒だ。また何か来るぞ!」

「追跡者・・・面会・・・拒否」

「会いたくない奴が来るってよ!博士このリング破壊してもいい」

「無理だ。このゲートはサイバスターでも破壊できなかった」

「はいぃ!それは無理だわ!」

 

 リングの内側が水面のように揺らぐ青い光によって輝きを増してゆく。

 

「離れましょう。何かやば・・・」

 

 光が溢れる。うおっ!眩しい!

 光が収まった・・・誰が来たのかなー・・・うわーい団体さんだー!

 囲まれとる。アーマーに似た紫色の装甲を纏った変な奴らがざっとみて50体ぐらい。

 アーマーの同型はいない。

 全身が骨でできたような奴と、植物みたいなウネウネがいる。触手!そういうのもあるのか!

 で・・・そいつらの中心にいる奴、あーアカンこいつはヤバすぎる。

 怨霊や鬼を連想させるような面?で構成された体躯。核には色違いの青い球。

 刺々しい体の周りを鬼面のような物体が浮遊している。血の色をした鬼面の鎧武者か。

 こいつは頭一つ飛びぬけている。指揮官機?

 変な汗が出る。逃げろ殺されるぞと!本能が叫ぶ。

 

「博士。逃げましょう。アレはダメです」

「ふっ、雑魚の私でもわかるぞ。アレが動いた瞬間終わると」

「全力・・・退避・・・推奨」

「アーマーも逃げろって言ってるし、もう家に帰ってもいいよね。母さんの出番だよね」

「熊と遭遇した時の要領でゆっくり後退しろ、決して刺激するな」

 

 こちらに興味を示してはいない。現状の把握に時間がかかっているのか。

 今の内に逃げよう。「プゥ~」空気を読まない音が辺りに響いた。

 

「おい博士・・・誰が方屁しろと言った!」

「緊張して思わずな。許せ!これも生理現象だ!」

「なんで偉そうなんですか!臭っ!腸内環境どうなってんだ!」

「悪臭・・・不快・・・最悪」

「ほら!アーマーも嫌がってる!臭いがわかるのかよ、鼻どこよ!」

「馬鹿者!お前が騒ぐから気づかれたぞ」

「うるせぇ屁こきジジイ!!!」

 

 鬼面野郎がこちらを向く完全にロックオンされた。もうやだ。

 音もたてずに空中に浮遊し、両腕をクロス各部鬼面の目と口に当たる部分が発光する。

 全方位に向けて光の砲撃が行われた。

 

「「「!?」」」

 

 ラ・ギアス村にある謎の遺跡はこの日、内側から弾け飛んだ。

 

「何?今の」

「方角は遺跡の方ね。ビアン博士が何かやらかしたのかも」

「どうするのじゃ。行ってみるか」

「グラは留守番、ここであの子達を守ってあげて、ネオ行くわよ」

「はーい。この感じ・・・うん。力を振るう機会がありそうね」

「喜んでんじゃないわよ」

「す、すみません!こちらにサイバスター様はおられますか?」

「どちら様?今から出かけるんだけど」

「い、遺跡から変な奴が出てきて。博士と息子さんが」

「ネオ行くよ!」

「はい!」

「は?え!」

「う~ん。何が起こっておるんじゃろうな」

 

 一瞬で掻き消えた二人に驚愕するモブ警備員。マサキの愛バは未だに起きない。

 

「ごほっ!げほ。博士!生きてるか」

「何とかな。アーマーが咄嗟に庇ってくれなければ、今頃あの世行きだ」

「助かった。サンキューな」

「礼・・・不要・・・責任」

「ん?あの鬼面野郎は、お前を追いかけて来ただと!」

「それならアーマーが奴らの下に帰れば丸くおさまるのか」

「無理・・・鬼面・・・凶悪」

「無理だってよ!あいつ目についた生き物全部殺すマンだってよ!」

「いつの間にか意思疎通がスムーズに・・・なぜだか考えがわかる不思議だ」

 

 クソがぁ!母さんはまだか・・・。

 ?・・・奴らの数が減ってる50はいたはず・・・あいつらぁ!

 

「博士マズい!あいつら村中に拡散しやがった。このままじゃ皆が危険だ」

「電波障害はまだ収まらんか。ヒリュウや天級に連絡しなければ」

 

 どうする、どうしたら。

 この規模の異変だすぐに母さんが対処するだろう。でも数が多い。

 各個撃破なら少し時間がかかるか、住民の避難や救助を合わせるともっと時間がいる。

 マップ兵器で一層?いや広範囲や敵味方の識別を設定すると威力が下がると聞いた。

 更に厄介なのは・・・。

 

「博士。あの鬼面が現れてから電波障害だけじゃなく、覇気の調整が上手くいきませんヤバいです」

「何だと・・・?クロスゲートが起動したままだ。ゲートを開く動力に覇気を使っているのか」

「何々?わかるように説明して」

「クロスゲートの動力はわかっておらん。アーマーが出てきた時は周囲の電波を、鬼面が出てきた時は覇気を使用したのかもしれん。利用できそうな動力を無差別に選定し周囲からかき集めるだと。なんて迷惑な門だ」

「ちょっと待ってよ・・・この感じ、村中から吸収してるぞ。いくら母さん達でもこれは・・・」

「何がクロスゲートだ!迷惑門に改名してやろうか!あ、最初に名付けたの私だったわ!」

 

 ヤバいぞ、母さん達普段の半分以下ぐらいしか実力出せないんじゃ。

 なぜか俺は平気・・・だけど・・・この村の住民はヘロヘロになっているかもしれない。

 

「博士は大丈夫ですか。まだ立って歩けますか」

「ああ、少々怠いが。平気だ」

「アーマーを連れて逃げてください。途中で住民の避難と母さん達に連絡を、轟級以上の騎神にも協力を仰いでください」

「まさかアレとやる気か?無謀すぎるぞ」

「わかってます。でもあの鬼面野郎はここで食い止めないと被害が増える。なに、母さん達が来るまでの時間稼ぎですよ。さあ、邪魔くさいので行ってください。アーマー博士を頼む」

「依頼・・・了承・・・武運」

「死ぬなよ。アリコン」

 

 博士とアーマーが去って行く。

 あれだけいた骨と触手もどこかへ行った。

 残ったのは俺と鬼面野郎・・・。

 怖い。アルクオンの比ではない恐怖感、首にずっと刃を押し当てられているかのようだ。

 そうだ、あの時は三人だった。今は一人だ。

 

 こいつをここに足止めして母さん達の到着を待つ。

 それだけだ、できるはず。ゲートの覇気吸収をさっさと止める。

 クロシロの覇気は今、不安定なんだ!どんな悪影響があるかわからん!止めなくては。

 クロ、シロ、俺に勇気をくれ。本当は今すぐに逃げ出したいんだ。

 でもお前らのためなら俺はやれる。

 ああ、そうか、悩んでいたのがバカみてぇ。決めたぞ!そのためにも生き残る。

 

「おい!お前は喋れんのか!」

「・・・・」

「無理みたいだな。ちょっと俺と遊んでくれよ!」

 

 先手必勝!全力の覇気を初撃で叩き込む。

 

「衝撃のファーストブリット!」

 

 避ける素振りすら見せねぇ。舐められてますね。

 浮遊する鬼面に受け止められた。まだだ。

 

「撃滅のセカンドブリット!」

 

 こいつも簡単に止められた。それもわかってる。

 鬼面ごと腕をかち上げる。ボディががら空きだぜ。

 

「抹殺のラストブリット!」

 

 胸部の青玉に拳を叩きつける。はは・・ビクともしねぇわ。

 大したダメージを与えられなかった、俺を薙ぎ払おうとする鬼面野郎。

 身を屈めて回りこむ。どいつもこいつもでかいんだよ!何で3メートルクラスばっかやねん。

 背後をとった!回避した動きはそのままに体をひねって回転。本命の回し蹴りを背中に叩き込む。

 

「死にさらせ!!!」

 

 はいクリティカル!背後からモロに蹴りを食らった鬼面・・・ああもう、赤鬼でいいや。

 赤鬼は受け身を取ることなく吹き飛び、地面に体をバウンドさせた。

 どうだ・・・今のは手応えがあった。

 

「立たなくていいぞ。そのまま寝てろ、ダメージは入っていると信じたい」

 

 なぜ自分が倒れているのか理解できないといった感じか。

 ゆっくりと起き上がり俺を見据える。

 左腕の鬼面から何かが出てきた。あれは、刀?

 歩くでもなく走るでもなく地面から僅かに浮いた状態でこちらに接近する。

 歩幅が読めない。フワフワ浮いたかと思えば急加速急制動で刀を振るう。

 遺跡の壁だったものが刀の軌跡に沿って切断された。

 

「なんちゅう切れ味だ。ヤバい、あれはもらえない」

 

 白羽取りなんて芸当ができるはずもなく逃げ回る。

 上空に飛び上がった赤鬼が力を込めて刀を振るった。居合?

 !?間合いなんて関係ない!何かを飛ばした!!

 

「あ・・・!?・・・かはっ」

 

 切られたと思った時には遅かった。

 俺の上半身、肩から斜めに袈裟斬りにされた。

 出血する。斬られた箇所が燃えるよに熱く痛む。やられた。

 剣圧にエネルギーを乗せて離れた相手も攻撃するとか。あーいてぇ。

 覇気で応急処置、止血して。傷口が開かないようにコーティング。

 今、何分たった・・・そんなにもたないぞ。

 

 なんだなぜ来ない・・・赤鬼が俺の背後、遺跡の残骸とゲートの付近に顔を向けている。

 いつの間にかゲートの光が収まっている。覇気吸収はまだ続いているか・・・・ん?

 

「人?なんで・・・」

 

 さっきまで俺たち以外誰もいなかったはずなのに、人が倒れている。

 青い髪をした女の子?格好がおかしい・・・スカートを履いていない。

 赤鬼が女の子に近づこうとする。

 

「その子に近づくな!まだ終わってねぇぞ!」

 

 少女を守るために飛び出す。逃げ遅れた住民か?誰だかわからんがどうでもいい。

 女の子一人助けられないようじゃ、クロシロに顔向けできない。

 邪魔をするなとばかりに刀を向けられる。ここで避けたら後ろの少女が。

 覇気で防御するしか・・・刀の軌道は突き。間に合うか。

 

「・・・・はは・・・くそ・・・超いてぇ」

 

 刀に合わせて全力でガードしたにもかかわらず。覇気の防御膜をあっさり抜かれる。

 吐血する。ああ、これは・・・本当にマズい。

 だって赤鬼の刀が俺の腹部を貫通しているんだから・・・。体から刃が突き出ている。

 赤鬼が刀を引き抜いたと同時。膝から崩れおちる。

 内臓を損傷した。出血も吐血も止まらないさっきの傷も開いたようだ。

 痛いと言うより、寒い・・・体からどんどん命がこぼれていってる。

 ・・・視界が霞んで来やがった。

 もっとみっともなく足掻いてから死ぬもんだと思っていた。寒い、そして静かだ。

 力が入らない、体を動かすことができない。

 正体不明の女の子はどうなった。俺はここで終わるのか。

 母さん・・・クロ、シロ、皆・・・ごめん・・・。

 

「何やってるの?」

 

 誰かの声がする。誰・・・母さんじゃない・・・聞き慣れた美しい声色。

 でも、この人はこんな底冷えのするような殺気を放つ人だったか。

 

「ねぇ、何やってるの!」

 

 赤鬼が後退する。その左腕がミキサーにかけられたかのようにズタボロに潰されている。

 やや離れた位置から聞こえた声は、いつの間にかすぐ傍で聞こえた。

 

「しっかりして。もう大丈夫だからね」

 

 自身が血で汚れる事も厭わず、俺の傷口に手を当てる。

 覇気を供給して傷口を塞いでくれた。

 助かった安心感と、助けられてしまった情けなさと羞恥心。

 

「ネオ・・さん・・・すみません・・・」

「喋らないで、すぐにサイさんも来るからね。本当によく頑張ったわ」

 

 優しい、俺の知ってるネオさん・・・。

 でも違う、その瞳が紫紺の輝きを放っている・・・キレてる?

 赤鬼・・・お前死んだぞ。

 

「あなたがやったの?」

「・・・・」

「口もきけないの?」

「・・・・」

「なんでこんな事したの?」

「・・・・」

「この子が誰かわかってる?あなたが傷つけていいような存在じゃないのよ」

「・・・・」

 

 怖い・・・超怖い・・・母さん!早く来て―!

 

「サイさんが来たらどうせ同じ運命よね。私がやってもいいわよね」

「・・・・」

「生き物なのかな。よくわからない、どうでもいいか・・・」

 

 鳥肌が立つ冗談抜きで漏らしそう。

 いつもと同じ美しい声色で、息を吐くように告げられる死刑宣告。

 

「じゃあ、あなた・・・殺すわね」

 

 この瞬間、ここは戦場ではなく処刑場と化した。

 



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きぼうとぜつぼう

 赤鬼・・・終わったな。

 

「じゃあ、あなた・・・殺すわね」

 

 いつも柔和な笑みを浮かべた優しさの権化であるネオさん。

 母さんと一緒に俺を見守り育ててくれた第二の母。

 

 その母さん2号が放つ殺気で全身が震える。

 殺気を向けられている訳ではなく、俺は助けてもらったというのに。

 この人が怖くて仕方がない。

 突如現れた絶体強者を警戒して赤鬼は動かない。

 

「ふーん。刀を使うのね・・・」

 

 そうつぶやくと同時。

 空中に黒い穴が空く、そこに手を突っ込んで中から巨大な大剣を取り出す。

 "グランワームソード"

 ネオさんが謎空間から取り出す謎の実体剣、布団叩きや、テニスのラケット代わりに使っているのを見たことがある。

 

「お互い剣で勝負しましょうか、いいわよ、そちらからどうぞ」

 

 先に攻撃して来いと相手を挑発する。

 即座に動き出す赤鬼、間合いを詰めることなく刀を振るう。

 俺を袈裟斬りにしたあの剣圧による斬撃か。

 肩に大剣を担いだままのネオさん。

 

「1回目」

 

 いつ動いたか全くわからない。攻撃された本人も理解していないだろう。

 赤鬼が頭から真っ二つにされた。分かたれ右半身と左半身が地面に倒れる。

 

「まだ始まったばかりよ。立ちなさい」

 

 驚異的来な再生能力で体を接合修復し立ち上がる。

 目の前の脅威を振り払らわんと攻撃を仕掛ける。

 

「2回目」

 

 今度は上半身と下半身が分断された。

 すぐさま再生し動き出す。

 

「3回目」

 

 首と四肢が宙を舞った。

 

「4回目」

 

 十文字に切断された。

 

「5回目」

 

 頭部以外の体を細切れにされた。

 

 勝負にすらなっていない、一方的な蹂躙。

 殺す者と殺される者がいるだけの処刑場。事務的に繰り返される惨劇。

 

「どうしたの?再生、遅くなってきてるわ」

「・・・・」

「まだ死なないわよね?この程度で死ねないよね」

「・・・・」

「全力を見せてよ。さあ早くはやくはくはやくはやくはくはくハヤク。さっさとしろゴミクズ」

「・・・ォオォォォォ」

「?」

 

 今まで無言だった赤鬼が声?を発する。

 それに呼応するかのようにクロスゲートが輝き出す。

 また何か来る。

 

「ネオさん!ゲートから何か来ます注意して」

「もうそんなに回復したのね。心配したわよマサ君」

 

 もう別に驚かない。

 俺と倒れていた謎の少女を抱え一瞬で赤鬼とゲートから距離をとる。

 大剣はどこにいったんや。

 

「クロスゲート・・・あそこから出てきたのね」

「はい。ここからかなりの数が村中に拡散しました」

「そっちはサイさんが何とかしてくれるわ」

「そうですか。今度は何が来るってんだよ」

「あのゴミが呼んだのかしら」

「ネオさん、この少女に見覚えは?」

「見ない顔ね、村の住民じゃない事は確かね」

 

 ネオさんも知らない謎の少女。誰だよホントに!

 再びクロスゲートから眩しい光が放たれた。

 

「おいおい冗談じゃねぇぞ・・・」

 

 またしても増援、骨と触手の大群その数は先程の比ではない。

 

「えーと500体ぐらいかしら・・・」

「それと・・・あのデカ物は何ですかね」

 

 骨と触手とアーマーを全部足したような巨体がいる。

 およそ10メートル、右腕が爪、左腕が触手。紫の装甲に角、牙、羽、足はもうなんだよ爪と触手の塊だ。

 全部盛りという奴か、こいつも厄介そうだ。

 

「やっとゲートが閉じたみたいね。体が少し軽くなった気がするわ」

「どうします。こんな大群・・・村存亡の危機では?」

「大丈夫よ、狙いは私みたいだしね」

「俺もやります。ネオさんに頼りきるのは情けない」

「だーめ。マサ君はそこの謎少女Aをお願い。まだ本調子じゃないでしょ」

「・・・わかりました。やっちゃってください!」

「任せて。お掃除は得意なの」

 

 謎少女Aを抱えて退避する。ネオさんの邪魔しちゃいかん。

 

「お待たせ~。ビビッてないでいつでもどうぞ」

 

 赤鬼と全部盛りを含む大群が一斉にネオさんへ襲い掛かる。

 一見すると悪魔の軍勢に襲われる、か弱き少女の絵図だが。

 俺には、魔王を前に恐慌をきたし特攻するしかないあわれな有象無象にしか見えない。

 ネオさんは特に構えるでもなく、鼻歌でも歌うような余裕をもっている。

 右手の人差し指を突き出し、子供がふざけてピストルごっこするような手の形を作る。 

 何それ霊丸?伊達にあの世は見てねぇぞ。

 

「ばん♪」

 

 突如として敵の周囲に出現した穴穴穴!その数は数えるのもバカらしい。

 虚空に現れた穴より高密度の覇気で練り上げられたエネルギー弾の雨が降り注ぐ。

 数、距離、図体の大小関係なくネオさんに敵認定された標的は全てハチの巣された。

 あれだけいた大群が瞬く間に滅ぼされる。

 運良く・・・運悪く生き残ってしまった何体かもズタボロで立っていることさえ不可能。

 赤鬼と全部盛りも体の各所を抉り取られ地に伏している。

 

「ワームスマッシャー・・・エグい技やで」

 

 その昔、村の山に不法投棄を繰り返す悪徳業者のトラック数台を穴だらけにする所を見せてもらった。

 最大65535の目標を同時に攻撃可能と冗談交じりに言っていたが。

 これを見る限りあながち嘘ではないらしい。

 

「ん?もうお終いなの。再生は?・・・まあいいか、そこの大きいの邪魔だから片付けるね」

 

 大剣を使うまでもない。まだ動けない全部盛りに近づいて素手て解体してゆく。

 10メートルの巨体を、身長160cmに満たない小さな体でなぶり殺す。

 角と牙をへし折り、翼をと触手を引きちぎる。首をもぎ取って胴体から核である物体を引きずり出す。

 嫌ー!スプラッター!

 

「これね・・・よいしょっと」

 

 小さな手が力を込めただけで核が砕けちる。

 完全に機能停止した残骸を放り投げて思案する。

 

「残こりカスはどうしよう。一ヶ所に集めてまとめて消し飛ばした方がいいかな。グラさんに焼却処分してもらうのもありか・・・」

「ネオさん!まだ残っている奴がいるから」

「おっと、そうだった。えい」(ワームスマッシャー(小))

 

 軽く指先を振る。虫の息だった連中は正確に核を貫かれ動かなくなった。

 

「残ったのは1つだけ・・・どうするマサ君?」

「いや、もうそいつ瀕死ですよ。放置してもいいのでは」

「それはダメ。このゴミはマサ君を殺そうとした。サイさんの、私の子供をそんな目に合わせた奴を許すわけにはいかない」

 

 ああ、この人は俺のために怒ってくれている。それに私の子供と言ってくれた。

 やっぱりあなたも俺の母親ですよ。シュウ、お互いたまには親孝行しような。

 

「もう十分です。強くて頼れるあなたはカッコいいですけど。いつもの優しいネオさんに戻ってください」

「でも・・・」

「お願いしますよ。ネオ・・・母さん」

「・・・もう1回言ってみて」

「いつもの優しいネオさんに戻ってください?」

「少し先!お願いしますよの後!」

「ネオ母さん?」

「や・・・やった・・・遂に言ってくれた!よっしゃー!サイさんゴメンね!!」

「えっと何が・・・」

 

 抵抗する暇もなく優しく抱きしめられる。

 

「昔ね、マサ君が私の事間違えて母さんて呼んだことがあったのよ。その事をサイさんに報告したらね」

「・・・ネオさんちょっと苦しいです」

「「マサキが私以外を母さん呼びする訳ないじゃない、ボケたの」と言われたの。もうすっごい悔しくて!」

「そういえばそんな事あったような」

「フフッ、後で教えてあげなきゃ。マサ君も証人になってね」

「えー、さっきのは勢いで言ってしまったと言うか・・・恥ずかしいです」

「もう!本当にカワイイんだから。そうだ!今からでも遅くない、サイさんを見限って私の次男に・・・」

「そこまでにしとけよ!ネオグランゾン!!!」

「おわっ!」

「なんだもう来たの」

 

 上空から飛来した覇気弾によって俺たちがいた場所が爆撃された。

 ネオさんはそれを苦も無く回避し、俺は良く知る人物に体を引っ張られた。

 

「母さん。来てくれたんだ」

「全く本当に油断も隙もありゃしない。何度も言ってるけど人の息子を取るな!!」

「私の息子でもあるけどね」

「あぁ!?」(やんのかごらぁ!)

「おぉ!?」(やったらぁこいや!)

「やめてー!二人が戦争したら世界が終わっちゃう!」

 

 この状況、最近クロシロがやったばかりだ。

 なんかクロとシロと、母さんとネオさんがたまにダブって見える。

 

「骨と触手の群れは片付いたの?」

「何とかね。地味に再生能力持ちだから面倒くさかったわ。住民に損害はゼロよ、流石私ね!」

「ビアン博士とクロシロは無事かな?」

「グラが保護しているから大丈夫よ。博士が変な鎧を連れて来たんだけど何だったの?」

「実は・・・かくかくしかじか」

「へぇーそんな事がね。やっぱりあの門、破壊した方がいいんじゃない」

「コスモノヴァと縮退砲の直撃に耐えきったのよ。現状では無理ね」

「ザムなら何か知っているかも、だってあいつも・・・」

「それより赤鬼はどうする?もう戦意喪失してるけど」

「こいつか、カワイイ息子の殺人未遂犯は?」

「そうよ。いっぱい血が出て大変だったんだから!処す!どうやって処分する?」

「そうだった、覇気で治療したとはいえかなり血を失ったわ。あーなんかクラクラしてきた」

「無理せず横になってなさい。その間にこいつを処遇を決める」

「シュウ君の知り合いに人をモルモット呼ばわりする。天才にして変態のウマ娘がいるんだけど。その子に売り飛ばすとかどう?」

「実験に失敗して後処理がもっと面倒になりそうだから却下!」

「ねぇ、なんか赤鬼が小刻みに震えているんだけど。もしかして泣いてる?」

「どちらにせよ生かしておく必要は皆無ね」

「それでこそサイさん!やっておしまい!」

「"カロリックミサイル"(指弾)で少しずつ体を削ってあげる。動くなよじっとしてろ!」

「なんか可哀そうになってきた」

「もう勘弁してあげて欲しいですの」

「「「???」」」

 

 いつの間にか目を覚ました謎少女Aが赤鬼を庇うように立ちふさがる。

 てかあの子浮いてない?ふわふわ浮いてるんだけど。

 赤鬼を庇う所を見るとこいつも門から来た同類だったのか。

 

「気配を全く感じなかったわ。アンタ何者?」

「こことは違う世界から来ましたの」

「やっぱりな」

「はい~。この世界に来る予定はなかったのですが、ちょっと寄り道ですの」

「あなた達の事情はよくわからないけど、さっさと帰ってくれない」

「こちらへ来た目的を果たしてから帰りますの」

「目的?何か悪事でも働くつもり。返答次第ではここで消えてもらうわ」

「おっかないですの」

「ちょ、何?俺を盾にしないで!」

「おい、息子から離れろ消し飛ばすぞ!!!」

 

 謎少女Aが俺に纏わりつく、母さんがガチギレしてる。

 俺の額あたりに指を当ててくる。

 

「ちょっと失礼・・・ふむふむ・・・ウマ娘・・・なるほど、そういう世界ですのね」

「どうした急に?」

「あなたの記憶からこの世界の情報を読み取りましたの。呼んだのは、あなたですのね」

「はい?呼んだ、俺がか?心当たりないし」

「適当な事いってんじゃないわよ。今すぐ帰るか、ここで消えるか決めなさい!」

「何か困ってませんの?私なら救えるかも、どうしますマサキ」

「俺の名前を・・・母さん待って!この子から話を聞きたい」

「ちっ、命拾いしたな」

「ではまず自己紹介を我々はアインスト、種の行く末を見守る存在でした。いろいろあって現在は活動休止中ですの」

「個別の名称は無いのか?不便だろ」

「私はアルフィミィと申しますの。そこで死んだフリするか悩んでる子はぺルゼインですの」

 

 フワフワ浮いてる青い髪の女の子はアルフィミィ。

 下半身の装備忘れてない?ブーメランパンツにスケスケの上着?異世界のセンスか。

 赤鬼、正確に言えばぺルゼイン・リヒカイトと言うらしい。

 ネオさんにビビッて死んだフリする気だったとか、思ったより感情豊かなのか。

 まあ、アレだけやられたらそうなっても仕方がない。

 骨はクノッヘン、触手はグリート、アーマーこと鎧はゲミュート、全部盛りはレジセイア。

 覚える気がないので適当に「へぇー」と流しておく。

 

「俺が呼んだというのはどういう事?」

「私がいた世界にも門がありましたの。ある日、強い思念に呼応して門が起動、同胞の1体が先走って飛び込みましたの」

「アーマーの事か」

「そうですの。「ちょっとコンビニ行ってくる」ぐらいの感覚で転移した、あの子を迎えに来ましたの」

「どいつもこいつもいきなり襲い掛かって来たんだが」

「未知との遭遇とは、まず闘争からですの?」

「知らねえよ。襲われた方は堪ったもんじゃない」

「突然の事で皆混乱してましたの。許してやって欲しいですの」

「こっちも母さん達の手で大分やってしまったが、それでも停戦する気あんの?」

「ご心配なさらず~。私達は個より全を重んじる郡体、同胞たちの死は残念ですが「まあ、そういう事もあるよね。次行ってみよう」ぐらいの感覚ですの」

「生死感の違いが酷い。でもアーマーやミィ、ぺルゼインには個性があるように見えるが」

「ミィ?ああ私の事ですのね。まれに個性を獲得する者、群れを統率するため最初から独自の人格を持っている者がいますの。ぺルゼインや私は後者ですのよ」

「アーマーは突然変異の個性持ちか・・・それで、えーと」

「ねえねぇ、うちの子凄くない?あんな怪しい存在と談笑してるわよ」

「親バカね・・・でもマサ君は昔からコミュ力高かったわ。特に女の子には」

 

 アルフィミィことミィと情報を交換する。

 言動までフワフワしているが頭は良いようだ、思いのほかスムーズに話が進む。

 

「とっても強い力を持ってますのね。どうしても叶えたい願いがあるのでは?強いストレスに晒されたあなたは無意識に門を起動、私達を呼んでしまったですの」

「原因俺!最近多いな・・・願い・・・あいつらを助けてくれるのか?」

「残念ながら万能の神ではありませんの。できる事には限界があり、それに応じた対価も払って頂きますの」

「なんでもいい!二人が助かるなら。異世界の力でもスケスケブーメランでも」

「「スケスケブーメランwww」」

「母さん達!笑っちゃダメよ。スカート履いてないこの子がバカみたいでしょ!」

「むう。いつかこのファッションを宇宙中に流行させてやりますの」

「とりあえず家に来てくれ。見て欲しい奴らがいる、いいよな母さん」

「ええー家に来るのー・・・ご飯どうしよう、この世界のもの食べれる?」

「ええ。嗜好品は大好きですの」

「村の見回りと後片付けをしなくちゃ。マサ君先に帰ってて」

「ぺルゼイン、行きますの」

 

 修復を終えたぺルゼインがミィに従いこちらへ来る。

 俺の目の前で立ち止まる。ジッとこちらを観察するような視線を感じる。

 

「何ガン飛ばしてんの?やる気か!今は勘弁して!お前の方が絶対強いから」

「あらあらあら、マサキに興味があるみたいですの」

「ヒェッ!人外からモテるフェロモン出すぎじゃないの・・・こいつも家に来るのね」

 

 3メートルぐらいあったぺルゼインの身長が2メートル弱ぐらいまで縮む。

 こいつ俺に合わせて体格を調整した・・・それでも190cmはあるんじゃね。

 

「じゃあ行こうか。母さん後よろしく」

「はいはい。すぐ帰るからね。このアインスト?の残骸はどうしたら」

「放っておけばそのうち大地に帰りますの。有害物資無しのクリーンな体組織構成ですの」

「あ、本当だ。もう風化していってる。死体が残らないのね」

 

 奇妙な二人を連れて帰宅する。

 村の景色はいつもと変わらない、ここの住民は異世界から化物が来た程度では慌てないんだな。

 母さんの仕業だろう、所々穿たれた大地と風化してゆくアインストが見えた。

 

「ぺルゼインはそれなりの増援を呼んだみたいですのに、まるで被害が出ていませんの」

「母さん達は正真正銘のチートキャラだ。仕方ないよ」

「良かったですの。ここ以外の場所に出ていたら現地人を殺戮、その後全面戦争の流れでしたの」

「怖いわ!でもそうか・・・この世界的にはかなりの大事だったんだな」

「私がいた世界では戦争になりましたのよ。キョウスケたちのお蔭で私は今も生きてますの」

「・・・ミィの世界は平和じゃないのか」

「次から次へと問題が発生する混沌とした世界ですの。主戦力は巨大ロボですの」

「嘘ッ!マジでか!ネオさんが狂喜乱舞するぞ」

「一種のパラレルワールドですのよ。この世界と存在が近しい人や物もたくさんありますの」

「へぇー、じゃあ別世界の俺もいるのかな」

「あなたは・・・どこかで・・・う~ん。鋼龍戦隊全員の顔を覚えているわけではありませんの」

「ハッキリしないな。向こうの俺も方向音痴なのかね」

 

 ミィがいた世界と俺の世界は似ている所が多いらしい。

 俺の世界には巨大ロボはいない、ミィの世界にはウマ娘がいない。

 ミィの世界ではぺルゼ達は20~40メートルクラスの巨体、レジセイアは100超えだとか。

 この世界に来た時に縮んだとの事、世界の理が働いたとかよくわからん説明をされた。

 帰宅するまでお互いに興味深い会話ができた。ミィは少々変わってるが良い奴だな。

 俺たちの後ろからぺルゼインががついて来る。ずっと見られている感じがして落ち着かない。

 

「おお、帰ったか。何じゃまた妙な連中を連れてからに」

「ただいまです、グラさん。二人は?」

「まだ目覚めぬわ。ビアンもヘンテコな鎧と帰って来ておるぞ」

「お邪魔しますの」

「早速だがクロとシロを診て欲しい。頼めるか」

「お任せくださいですの。ぺルゼインをよろしくお願いしますの」

「えーと、どうしよう。とりあえずこっちに」

「わしは茶でも入れてくるかの」

 

 ミィが二人を診察している最中、おれはぺルゼインと縁側で茶を飲んでいた。

 お茶いる?と聞いたら首を振ったので俺だけ飲んでいる。

 

「ぺルゼって呼んでいい?俺もマサキでいいぜ。見せてもらおうかお前のコミュ力を」

「・・・・」

「なあ、さっきのアレ斬撃飛ばすヤツどうやったの?俺でもできる?」

「・・・・」

「そっか、乗せる覇気を調整すればいけるかもな・・・でも俺、刀剣使うの苦手なんだ」

「・・・・」

「は?嘘!ミィ彼氏いんの?どんな奴よそれ。語尾「これがな」の赤ワカメ?なんだそりゃ」

「・・・・」

「ぎゃはははははは!いやそれはウケる!あー腹いてー!」

「・・・・」

「でさウマ娘は最高なわけよ!聞いてる?今、寝て無かった?」

 

 メッチャ会話弾んだわ!殺し合いした仲なのに。

 会話方法はぺルゼの言いたい事が直接脳内にイメージとして伝わる感じ、テレパシーかな。

 

「随分と楽しそうだな。そいつは敵だったろうに」

「あ、ビアン博士。アーマーも」

「・・・・」

「反省・・・だが・・・後悔」

 

 なんかぺルゼがアーマーを叱っている。

 たぶん「勝手にどこ行ってたの?心配したでしょーが!」「反省してまーす!でも後悔してないっス!」

 

「終わりましたの。あら、ゲミュートここにいましたのね」

「・・・すまんの」

「なんだこの怪しい小娘は!」

 

 なんかアーマーの言語がどんどんおかしくなってきている。

 博士に事情を説明。

 ミィが博士のデコに触れて情報を読み取る。

 

「アインスト、異世界からの来訪者か興味深い。ぜひサンプルを取らせてくれ」

「後にして欲しいですの。それより博士の知識を得た事で原因と解決策が見つかりましたの」

「そいつは重畳!聞かせてくれ!」

「お腹ペコペコ、栄養失調、ご飯が足りませんのよ」

「わかるように説明して!」

「三人の覇気は混ざり合い、次の段階へ上がろうとしてますの。その前準備として愛バは活動時間を極力抑えるようになってますの。あなたがもっと二人に覇気を与えなければ死んでしまいますの」

「何?マサキの覇気過剰供給で体がもたないのでは無かったのか」

「逆ですの覇気が足りないですの」

「そんなはず無い。俺は今この瞬間にもクロシロに覇気を吸い取られている」

 

 そうだ。実家に空中から帰省をした頃から二人が要求する覇気の量が増えた。

 過剰供給はいけないと思って元栓を閉めても無駄だった。貯蔵庫から直に食われている。

 

「お茶碗にご飯は山盛りですの。でもおかずが全然足りませんの」

「何の例えだ?」

「わかったぞ!小僧以外の覇気を必要としておるのだな!それも大量に」

「正解ですの。山盛りご飯を片手に、フルコース、満漢全席、食べ放題をご所望ですの」

「何よそのフードファイターも引く例えは」

「まだわからんのか。お前は雛鳥に餌を運ぶ親鳥役だ。なるべく多くの騎神から覇気を吸収して供給しろ、それで二人は助かる」

「ホントか!それで二人は助かるのか!よっしゃー希望が見えてきた」

「普通は他の騎神から覇気を吸収するなど、そう簡単にできませんのよ」

「俺はできたんだが。マックやグラさんに触れた時の感覚がたぶんそうだろう」

「その後何か異常はありませんでしたの」

「・・・すっごく眠たくなった」

「取り込んだ他者の覇気があなたの覇気に混ざる度、死にかけてる事に気づいてますの?」

「・・・あの眠気・・・下手したら永眠するヤツだったの!」

「次に他の騎神から覇気吸収をしたら命の保証は無いですの」

「/(^o^)\ナンテコッタイ」

「供給元である小僧が死ねば二人も死ぬな」

「なんだよ。方法はあるのに、俺が弱いせいで結局二人は助からないのかよ」

「そこで私の出番ですのよ。あなたの覇気と体を弄って覇気吸収(エネルギードレイン)を完全習得させてあげますの。体に耐性もできて永眠も回避できますの」

「ミィ様ー!あんたならやってくれると信じてた!」

「ふん。私の知識あっての結果だな」

 

 やった!やったぞ!二人は助かる!

 

「ただでは働きませんの。等価交換ですのよ」

「足元見やがって!金ならねーぞ。俺ができる範囲でお願いします!!!」

「この世界にとってアインストの力は奇跡そのもの、奇跡を起こすだけの価値。命の輝きを見せて欲しいですの」

「俺の体が目的か?しょうがねぇ、俺の初うまぴょいはミィにくれてやろう。優しくしてね」

「超いらないですの」

「ならどうしろと」

 

 横に座っていたぺルゼが立ち上がり、俺を見据える。

 

「この子の願いを叶えて欲しいですの。そうすればあなたの願いをかなえますの」

「ぺルゼの願い・・・」

「あなたとの再戦を希望してますの。誰にも邪魔されず、一対一で心ゆくまで殺し合いたいと」

「やっぱりお前脳筋バーサーカーだったか」

 

 こいつは強い、ネオさんがいなければ殺されていた。

 そいつと再戦しろだって?

 もちろんOKだ!それでクロシロが助かる。それにやられっぱなしはムカつく。

 

「いいぜ。そのタイマン買った」

「契約成立ですの。うーんと、3日後ぐらいでいいですの?」

「ああ、正直今すぐじゃなくて助かる」

「ついでに、私達の宿を用意して欲しいですの」

「ちゃっかりしてるな。母さん達に聞いてみる」

「3日後か、それまで小僧の愛馬はもつのか?」

「サービスで二人が寝ている限り、命の別状がないように調整しておきますの」

「ありがとう。本当に助かる」

「再戦であなたが死ねば、全てが無かった事になりますの。奇跡の代償は安くありませんの」

「それでもありがとう。希望は見えた」

「・・・あ、そうですの。重要事項の説明を忘れる所でしたの」

「ちゃんとご飯は用意するから安心しろ」

「そうじゃありませんの。あなたがドレインを習得してからの話ですの」

「おう。騎神に協力を頼めばいいんだよな」

「なるべく級位の高い騎神や今後の成長が期待できる騎神未満のウマ娘からドレインして欲しいですの」

「高い食材と鮮度のいい食材・・・うちの愛バってグルメね」

「その期間は二人から距離をとってくださいですの。あなたが傍に居ては覇気調整の邪魔になりますの」

「そんな・・・あいつらの傍にいられないなんて・・・ちなみにどのくらい?」

「う~んと・・・3年ぐらいですの」

「は?」

「3年間愛バに近づかないで欲しいですの」

「うっそだろぉおおおおおおお!!!!!」

 

 ははは・・・知ってるか?俺は寂し過ぎると死ぬんだぜ・・・orz

 

 



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さいせん

 ぺルゼと再戦が決定。

 ドレイン習得後クロシロに3年間近づくなだとさ。

 

「ただいまー。帰ったわよ、おかえりって言ってよ」

「ただいま。何この空気」

「おかえりじゃ。良い知らせと悪い知らせがある。実はな」

 

 ぺルゼは再戦日まで山に籠って精神統一すると言って出て行った。

 すげぇな武人かよ。

 博士とミィとアーマーは異文化技術交流トーク中だ。

 俺は今クロとシロの寝顔をボーっとして見つめている。

 

「それでマサキはあの状態なのね」

「マサ君、FXで有り金全部溶かした人の顔になってるわ」

「もう見ちゃおられん。何とかしてやってくれ」

「マサキ・・・しっかりしなさい!今は他にやるべき事があるでしょ」

「そうよ。あのゴミにリベンジしないといけないのよ。3日間で何とかしないと」

「無理だ・・・」

「何諦めてんの!それでも私の息子なの!」

「弱気になっちゃだめよ!あ、サイさんマサ君いらないならもらうわね」

「誰がやるか!ねえマサキあなたはできる男よ。きっと勝てるわ」

「3年だぞ・・・それだけあったらクロシロは・・・チャラ男寝取られの悪夢が現実となってもおかしくない」

「ねぇ聞いてる?」

「今からの成長期が幼さと美しさの融合!一番の見所だぞ、それを見逃すなんてとんでもない!」

「マサ君?これはダメね、目がいっちゃってる」

「そもそもクロシロを失った禁断症状に耐えられるのか?へへ、いつの間にかすっかり中毒だぜ」

「勝負の事は全く考えておらんのう」

 

 今日はまだクロとシロは起きてこない。

 二人は成長するために省エネモードになっている。

 俺が覇気を供給してやらないと成長が上手くいかず死に至る。蛹から羽化に失敗した蝶のように。

 それだけは嫌だ!こいつらには生きていて欲しい。

 どちらか一方しか選べないと知った時は本気で悩んだ。でも死にかけてわかったよ。

 俺は欲張りなんだ、どっちかじゃない両方とももらう。俺が欲しいのは二人だ。

 3年も会えないのは辛い。でも二人のためなら・・・我慢できる・・・本気でツラい。

 へこんでる場合かよ!目の前の課題を片付けろ、生半可な気持ちで勝てる相手じゃない。

 

「そうだ3日しかないんだ・・・母さん!」

「急に復活した!何マサキ?」

「ぺルゼに勝ちたい、生き残って二人を救う旅に出るために。俺に稽古をつけてくれ」

「それでこそよ。みっちり鍛えてあげる、懐かしいな昔を思い出す」

「私も協力するわ。何でも教えちゃう」

「わしもおるぞ。天級の叡智と技、可能な限り叩き込んじゃる」

「ありがとう!本当に母さん達の子で良かった」

「こりゃまだ子離れできそうにないわ。嫁いびりはしないけど」

「あーなんだかシュウ君に会いたくなって来た。あとで連絡してみよう」

「ヤンロンは元気にしとるのかのう。父親に似て重度の修業バカに育ってしもうたが」

「アンタの旦那、今何してるの」

「中国で武術の道場を運営しとるよ。アクション映画やスタントマンの指導と監修も手掛けておる」

「あの烈海王みたいな人ね。礼儀正しくていい男よね」

「グラさん、息子がいるんだ。どんな方です?」

「お主よりちぃと年上の故事成語マニアじゃよ。少々生真面目でたまに暑苦しい」

「人間・・・操者ですか」

「まだ契約したとは聞いとらんよ。親のひいき目じゃが覇気は中々のもんじゃ、お主と戦っても負けんじゃろ」

「は?うちの子が負けるだと、ちょっとイラっとしたわ」

「いつかシュウ君も混ぜて競わせてみたいわね」

 

 とりあえず飯だ。しっかり食べて体と気持ちを落ち着ける。

 その日はミィや博士も呼んで賑やかな夕食となった。

 アーマーは部屋の隅っこで動かない、ミィ曰くもう眠ったらしい。食事は要らんのに睡眠は取るのか。

 クロシロは起きて来なかった。

 

「行ってくる。留守番を頼むぞ」

「はい~行ってらっしゃいですの」

「精々気張れよ小僧」

「・・・応援」

 

 翌日から修練開始、博士達は留守番。

 母さん達と村の中心から離れた所にある森の広場に到着する。

 樹齢何年か不明な大木がそびえ立つここは修練場。幼い頃はよくここで遊びと言う名の訓練を受けた。

 母さん達が周囲に結界を張ったとかで、少々無茶をしても流れ弾が村の住民を襲う事は無いんだとか。

 

「早速やるわよ。覇気の制御と応用を中心に教えるでいいのかな」

「それぞれ教えたい事を教えるでいいんじゃない?」

「適性を見てから決めた方がよいじゃろう。短所はある程度まで、長所はできうる限り伸ばす」

 

 教えを乞う身でなんだが、母さん達はあんまり指導者に向いてはいないと思う。

 本人達も自覚しているので俺のために頭を捻ってくれている。

 あれだよ天才や優等生特有の「なぜこんな簡単な事が出来ないの?わからないの?」ってヤツ。凡人のスペックを理解できないんだ。

 結局見よう見真似の模倣と、超手加減模擬戦になったりする。

 

「得物は準備するけど、頼り過ぎないようにね。使い捨てる気でいなさい」

「了解。戦闘の基本は素手での格闘戦だよね。でも、もう一捻りなんか欲しいな」

「相手の意表を突くのも大事か。見て、覇気を使うとこんな事もできるわよ」

「それいい!遠くの物を取るのに超便利じゃん。もっと早く知りたかった」

 

「うんうん。いい感じね、継続時間の延長とONとOFFの切り替えをスムーズにね」

「こんなの常時展開してたらそりゃ強いっスわ。ズルい~ウマ娘ずるいわ~」

「応用だけど轟級以上は当たり前に使ってくる娘が結構いるわよ。さあ頑張って」

 

「そうじゃもっとこう、バーッとやってグワーッとじゃ」

「そんなんでわかるか!あ、できた。意味不明な説明なのに不思議だ!」

「考えるな感じろ!」

「うっす。やってやりますよ」

 

 あっと言う間の3日間、朝起きて修練場へ行きヘロヘロになって帰宅。

 かなり無理な詰込み学習になってしまったが仕方がない。

 明日はいよいよぺルゼとの再戦の日だ。大丈夫・・・やれるだけやった。

 

「明日は頑張って来るぜ。お前達も応援してくれよな」

「「・・・・」」

 

 クロとシロは3日前から起きて来なくなった。

 ミィの処置によって寝ている間は安定しているらしい。

 起きて来ないという事は、活動時間に回す力が無いことの証明だ。

 

「じゃあ、おやすみ・・・」

 

 二人の穏やかな寝顔を確認して部屋を後にする。

 明日に備えて早く寝よう。

 

 翌日。

 再戦の場所はなんと村の中央広場だった。聞いとらん。

 本来は村民の憩いの場として開放される広大な土地は本日、戦場となる。

 

「どういう事?ねぇこれどういう事?」

 

 どうしてこうなった。

 人だ人がいっぱいいる。村民がほぼ全員いるんじゃないか?

 出店や屋台が立ち並び、空中にはカメラを付けたドローンまで飛んでいる。

 ここに来るまでに多くの人から「頑張れよー!」と激励された。

 お祭りじゃんか。うっわ!超大型のモニターまで設置してある。

 

「うちの村ってさ、イベント少ないでしょ。今日の事を村長が嗅ぎ付けてお祭り騒ぎにしちゃったみたい」

「見世物かい!観客に被害が出ても知らねぇぞ」

「そこは私達に任せて安全面には極力配慮するつもりよ。ライブ映像でシュウ君も観戦するって」

「そう言えばシュウの事放置してたわ・・・ライブ?」

「ドローンが飛んでるでしょ。後、カメラマンもベストポジションに待機済みよ」

「ギャラリーがおった方が燃えるじゃろ」

「この空気に飲まれないといいんですがね・・・緊張してきた」

「腹をくくれ小僧。お前の戦闘データはバッチリ記録してやる。逝って来い!」

「・・・勝利・・・期待」

「アーマーありがとう。博士、ビール片手に何言ってんすか、もっとちゃんと応援して!」

「マサキ君、くれぐれも気を付けて。危なくなったら無離せず降参しなさい」

「パパさん・・・すみません。契約を切ればこんな面倒な事にならなかったのに」

「いや、娘達の意思を尊重してくれて感謝する。二人を諦めなかった君に後は任せるよ」

「はい。あいつらに誓って・・・」

 

 母さん達だけじゃない、顔見知りの村民やパパさんヒリュウのスタッフ。

 シュウも自宅で観戦するらしい。こりゃ情けない姿は見せられん。

 会場に集まった人々に向けて村長が注意事項等を説明していく。

 要約「天級がいるから心配ないと思うが、危なくなったら超逃げて!」だった。

 

 ルール説明。

 武器の使用はOKただし広範囲に被害をもたらす武装、技の使用禁止。

 殺し合いと銘打っているが、勝敗が明らかになった場合は天級がストップをかける。

 戦場は村全域だがなるべく広場を中心とする事。建造物の破壊は最小限に抑える事。

 後は勢いとその場の流れで臨機応変に対処せよ。

 

 午前10時前、会場が騒めく・・・来た。ぺルゼとミィだ。

 

「おい、アレとやるのか?いくらサイさんの息子でも」

「騎神じゃない私にもわかる、アレはヤバい」

「マジもんの化物じゃねーか。いいのかよ本当に」

「それよりなんだあのスケスケブーメランはけしからん」

「カメラさん!もっと寄って女の子の方をアップで!」

「マサキさん!俺っス!高校卒業前にあなたに告白した。後輩の保母尾(ホモオ)っス」

「ホモ男・・・お前まだ先輩の事を・・・俺もマサキさんにならうまぴょいされてもいい」

「マサキさん!お母さんを僕に下さい!!」

「て、天級が三人も・・・あ、握手とかお願いしてもいいのかな」

「ネオさんー!結婚してくれー!」

 

 観客のボルテージは最高潮だ。

 何人か良からぬ発言をした者がいるが、聞かなかった事にしよう。

 

「準備はいいですの。こちらはバッチリですのよ」

「ああ、問題ない」

「ではお互いに良き殺し合いを~」

 

 ミィが母さん達のいる所まで下がる。

 応援してくれる人達を目が合う「行って来い!」と背中を押してもう。

 観客の中にクロシロはいない・・・。でも俺は今もあいつらと一緒だちゃんと繋がっている。

 

「今日はよろしく頼む」

「・・・・」

 

 今の・・・お辞儀か・・・ぺルゼが礼をした。俺も釣られて礼を返す。

 騒ついていた観客が静かになる。いよいよだ。

 村長のが開始の宣言をする。

 

「それでは!ガンダムファイトォオオオレディイイイゴオォオオオ!!!」

 

 Gガンダムじゃねぇよ。

 

 開始早々ぺルゼが刀を出現させる。お得意の剣術か・・・付き合うぜ。

 俺は肩に下げた袋から二振りの剣を取り出す。袋はミィが回収すまんな。

 

「ふん。正に付け焼き刃だな、小僧の戦闘スタイルと合っておらん」

「うるさいわね。剣には剣で対抗したいって言うから仕方なくよ」

 

 斬撃飛ばしが来る前に距離を詰めて切り結ぶ。

 鋭い刀の一撃を二本の剣で受け流し、隙あらば攻勢に出る。

 

「ふっ!」

 

 向こうは一本で対処しているのが技量差を感じさせてくれる。

 空いた手でこちらを牽制するのも忘れない。利き手の概念は無いらしい。

 右手左手どちらに持ち替えようとも精度が劣る事は無い。

 一旦下がる。

 

「そらっ!」

 

 右手の剣を投げつける。

 正当な剣術なんぞ学んでません。相手にダメージが入るならどんな使い方でもやってみる。

 簡単に弾かれる宙を舞う剣。その間に接近して左の剣で切りつける。

 避けられた!ならば!

 ジャンプして空中の剣をキャッチ。二振りを合体させて一本の大剣にする。

 

「こいつで・・・どうだ!」

 

 上空から思いっきり叩きつける。覇気もたっぷり乗せてやった。

 刀でガードしたぺルゼは勢いを完全に殺しきれず、衝撃が地面を割り砕く。

 理想なら今ので刀をへし折っておきたかったが・・・。

 

「す、すっげー!何が起こった。早すぎてよくわからん」

「これが人間の動きか・・・天級の子は伊達じゃない」

「マサキさん!最高っス!抱いてください!」

 

 "バニティリッパ―"

 母さんが急遽用意してくれた二振りの剣。

 サトノ家技術部の協力のもと天級の覇気を込めて造られた一品。

 状況に合わせて双剣と二つを合わせた大剣に切り替えられる。

 急ごしらえなので耐久性に難あり。

 

「なんじゃあの脆い剣は!マサキの覇気に全然耐えきれておらん」

「いつまでもつかしら・・・マサ君に下手な武器は邪魔になるだけね」

「わかってるわよ。くっそ!ディスカッターさえあれば」

 

 リッパーは使い捨てだ。気にせずにどんどん仕掛ける。

 ぺルゼと剣戟を再開させる。いかんな、このままじゃ打ち合ってる最中に剣が砕ける。

 よし。剣は捨てよう!慣れない事はするもんじゃない。

 

「ほい!」

 

 双剣をあらぬ方向に投げる。

 「何やってんの!」ギャラリーの皆さんうるさいです。

 懐に潜りこんでのインファイト。距離が近すぎて長い刀は不利じゃね。

 刀を焼失させてぺルゼも肉弾戦に切り替える。そういえば浮遊する鬼面がいない。

 こっちに戦い方を合わせてくれているんだな。何と言うフェアプレー精神。

 俺はいろいろ試してみる派なんです。

 卑怯とか言うなよ、再生能力持ちめ。

 

「こんなのはどうだ」

「!?」

 

 ぺルゼの背後に放り投げてあった双剣が突如動き出しこちらに向かってくる。

 避けようともおれが正面で攻撃を続けているので動けない。

 二本の内一本は操作をミスったので届かず。

 ぺルゼが何とか弾いた一本は上空へ。空中で回転を続ける。

 

「こっちだ」

 

 ちょっとだけバックステップ位置を調整する。

 追撃しようと踏み込んだぺルゼ、そこに切っ先を下に向けたリッパ―急降下。

 ぺルゼの肩に深々と突き刺さる。しゃあ成功!

 怯んだぺルゼの顔面に力を込めた蹴りを見舞う。こいつは痛てぇぞ!

 後方に吹っ飛ぶぺルゼ、観客たちは咄嗟に回避する。

 あ、大き目の民家に突っ込んだ!空き家だからセーフ!と村長が言ってるからセーフ。

 

「今のなんですの?念動力?」

「違うわ、伸ばした覇気で剣をコントロールしたのよ。今は細いロープ状二本が限界、操作も甘いわね」

「最後のはしっかり掴んで目標に命中させたじゃない。一本に集中したのが良かったのね」

「覇気で作られた触手か、物や相手を手繰り寄せたりいろいろ使えそうだな」

「触手はやめて鞭って言ってよ」

 

 起き上がるのを待ってるやる余裕はない。

 土煙を上げる瓦礫に飛び込んで追撃する。

 どこだ・・・どこにいる。あいつ気配遮断もできるのか。

 

「がっ・・・!」

 

 痛っ!いきなりぶん殴られた。攻撃が来た方向は・・・。

 こっちか?あれ?スカった・・・この土煙ほんと邪魔。覇気で吹き飛ばすか!

 やめ、痛い!一瞬でいいから集中させろや!

 

「なんも見えねえ。どうなってんだカメラもっと寄せろ」

「打撃音は聞こえるが、どっちが優勢だ」

「お、出てくるぞ」

 

 やっと出て来れた。散々殴りやがって!

 肩に刺さっていたリッパ―を回収できたので、地面に転がっているもう一本を拾って合体。

 大きく振りかぶって力任せに叩きつける。

 リッパ―が音を立てて砕け散った。

 

「ひゃ!もう壊れた。ちくしょーめ!」

 

 残った柄の部分をぺルゼにぶん投げる。顔に当たったが衣にも介さない。

 そのまま格闘戦にもつれ込む。結局こうなるのね。

 俺の攻撃が1発決まる度にぺルゼから2、3発もらっている。ヤバいこいつ・・・。

 

「お前修錬しただろ!前はこんな動きしてなかったぞ」

「・・・・」

 

 3日修練していたのは俺だけじゃなかった。

 こいつは俺の格闘スタイルから学んで動きを自分なりに構築して来た。

 大した奴だメチャクチャ様になっているじゃない。

 マズい、使うか・・・でもこれは最後の切り札だし。

 俺にはもちろん、クロとシロにも負担がかかる。使いどころを考えないと。

 

「防戦一方じゃねーか!踏ん張れ―!」

「どうするんだ後がないぞ!」

「俺の初めてをあげるっス!だから頑張ってください!」

 

 いらん!!!

 さっきからお前の発言でどんだけやる気が下がっていると思っている!

 ヤバいヤバいヤバい!ぺルゼの勢いに完全に飲まれつつある。

 ホモの発言と焦りで生じた隙を見逃すほど相手は甘くない。

 気が付くと俺の体は地面に叩きつけられていた。

 

「・・・・ぐっ!?」

 

 投げられた?こんな簡単に、すぐに立て直さないと・・・うげっ!

 マウントポジションを取られた。防御するのが精一杯。

 もうボッコボコですわ。立ち上がる事すら許されない。

 あばばばば!!!ああ、殴られ過ぎて腕が痛い!防ぎきれないダメージが体に蓄積していく。

 

「おい・・・止めなくていいのか、死んじまうぞ!」

「何なのアレ、マサキの攻撃が効いてないの?え、再生?ズルい!」

「子供は見ちゃいかん!血が出過ぎだR指定だろコレ」

「マサキさん、お、俺のマサキさんが」

「やだ・・・・ねえ、あの人やられちゃうの」

 

 観客の声も聞こえない、視界も霞んで来やがった。

 立て、立たないと死ぬぞ!

 無謀だったのか、力量は完全に向こうが上、3日でどうにかできる相手じゃない。

 最初からわかっていた、それでも挑んだのは理由があったからだ。

 あいつらと契約を切りたくないんだ。俺のために無茶する二人を助けたいんだ。

 だったら立てよ!

 

 ガードした腕を掴まれて宙吊りにされる。

 ぺルゼは俺から手を離したと同時に体を回転させて強烈な回し蹴りを放った。

 モロに食らって吹き飛ぶ俺。観客の中に突っ込んでしまう。

 マズいぶつかる!子供の姿が見えた気がした、反射的に覇気で姿勢制御とブレーキ。

 ぶつからずに済んだもののうつ伏せに倒れてしまう。

 両手をついて何とか立ち上がろうとするが力が入らない。

 周りの観客は俺を遠巻きにして様子を伺っている。

 何人か騎神がいたはずなのに!ちょっと受け止めるぐらいしてもいいじゃない!

 子供・・・子供は無事か・・・。

 

「ハァハァ・・・すまん。だ、大丈夫か・・・ぐぁ、痛てぇ・・・」

 

 顔が上げられない、息が苦しい、体中が痛い。

 ぺルゼとの実力差に体の前に心が挫けそうだ。

 誰かが俺に近づいて来る・・・さっきの子供か・・・無事で良かった。

 

「ボロボロだね。もうやめた方がいいよ」

「そういう訳にはいかない!負けられない理由があるんだ」

「じゃあ頑張らないといけませんね」

「言われなくてもわかってるよ!ああくそ!」

「どうやったら元気になる?」

「そんなの決まってる。あいつらに会いたい、声が聞きたい、一緒にいたいんだ」

「そんなに大切なんですね。大丈夫、いつもあなたを見てますよ」

「なんでそんな事が言える。あいつらは今も眠ってい・・・へ?」

 

 顔を上げるまで気が付かなかった。

 そこには俺が一番会いたかった奴らがいた事に。

 

「本物か・・・クロ、シロ。何でここに」

「何でかって?そんなの当たり前だよ」

「頑張っている操者を応援しない愛バはいませんよ」

 

 幻覚じゃない。ちゃんと起きて喋っている。

 母さん達を見ると首を振ったので、誰かが連れて来た訳ではない。

 二人とも寝巻のままだ、起きてすぐ家を飛び出して来たのだろう。

 

「バッカだな・・・靴ぐらい履いて来いよ」

「起きたら誰もいなかったんだよ。もうパニックでそれ所じゃなかった」

「やっと見つけたと思ったら変なのと戦ってますし。何がどうなってるんです?」

「いろいろあってな。あいつとタイマン中なのよ」

「タイマンかぁ手を貸したらだめだよね。だったらせめて覇気を使う事を躊躇わないで」

「私達の体を気遣ってますよね。でもここで負けたら意味がないでしょう」

「その通りだな。本当に情けない・・・結局、俺には覚悟が無いんだよ」

 

 手をついたままの姿勢の俺に二人は抱きつく。

 そしていつものように額を頬を俺に擦りつける。

 

「おいやめとけ汚れるぞ。血も付いちまう」

「汚くなんかない。それに情けなくもない」

「こんなになってまで私達を思ってくれる人を、悪く言えませんよ」

「・・・なんだよ」

 

 ヤッベ嬉しくて泣きそうだ!

 俺ってチョロかったんだな。さっきまで挫けそうだったのに今は力が溢れてくる。

 気のせいじゃない。二人が自分の身を顧みず覇気を回してくれているんだ。

 ここまでされてしまったらもうやるしかない!!!

 

「皆の所に行ってろ、俺はやるべき事をやる」

「「はい」」

 

 ぺルゼ、ずっと待っててくれてサンキューな。

 アルクオンといいこいつといい空気読んでくれて本当にありがたい。

 クロとシロが皆と合流したのを確認してぺルゼと向き合う。

 

「母さん!アレを使う!」

「いいわ。見せつけてやりなさい」

 

 回せ回せ回せ・・・制限をかけるな正真正銘の全力全開。

 俺とクロシロの覇気を一つにして練り上げる。

 隠す必要はない、もう抑えていられない。

 

「ネオ、グラ、障壁の強度をあげるわよ」

「はーい。皆さ~ん、もうちょっと下がりましょう危ないから」

「まだ上がるのか・・・修練中も愛バに気を遣っておったんじゃな」

「カメラ!ここからの記録は死んでも撮り逃すな」

「・・・超越者・・・」

「これがマサキ君・・・さっきまでとは別人だ」

「そうですの。もっと魅せてくださいですの。その輝きを」

 

 爆発させる。覇気が髪の毛や四肢を伝わって漏れ出す。

 周囲一帯に光の粒子がまき散らされる。

 その幻想的な光景に観客たちは息を呑み、その現象を引き起こした存在を見る。

 

「・・・綺麗」

「優しくて暖かい光」

「これが全部覇気なの、信じられない」

「み、見える。俺にも見えるぞ!何だよこれ、う、美しい」

「うそ・・・操者でない一般人にもハッキリ見えてるの?」

「突如あらわれた幼女に寝取られてしまった!そ、それでも俺はマサキさんの事が」

「キレ~あの人何?人間・・・嘘だ~人間はこんな事できないよ」

 

 覇気を放出した状態を維持し続ける。

 この状態の俺は冗談抜きで全身凶器(リーサルウェポン)。

 髪や腕、足からドバドバ覇気が出てる。まるで放熱フィンみたい。

 バーストモード、マグナモード、バスターモード、トランザム、好きに読んでくれ。

 後は活動限界時間まで暴れ回るのみ。

 気分が乗ったので名乗ってみよう一回やってみたかった。

 

「俺はブラックとダイヤモンドの操者。アンドウマサキだ!お前を殺す!!!」

 

 倒すの方が良かったかな。う~ん難しい。

 

 



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ろりとやじゅう

 クロシロが駆けつけてくれた。

 

 

 クロシロの顔を見ただけでこんなにも気力が溢れてくる。

 ああ、早く二人を抱っこしたい!撫でまわしたい!それからえーと・・・。

 おっと集中集中、戦いを放棄して悦に浸る所だった。

 

「行くぞぺルゼイン!勝負じゃああああああ!!!」

「・・オォォ」

 

 地面を踏みしめて飛び掛かる。ぺルゼも同じく真っ向から俺に挑んで来る。

 やるぞ!覇気放出はそのまま、光の粒子を纏い攻める。

 

「ああああああ!!!」

 

 自分を奮い立たせるための咆哮!俺がお前を倒すという意思を込めて叫ぶ!

 互いの拳がぶつかる。衝撃が1拍遅れて発生し周囲に拡散する。

 天級が張った障壁で緩和されたものの、観戦者たち全員の体を伝わり響き渡る。

 アルクオン戦は無駄ではなかったな、自分より体格の大きい奴との闘いなんぞに慣れたくなかったが。

 覇気の放出口、手首から肘にかけての強度は信じられないぐらいに上がっている。

 これはもうトンファーを装備しているのと同義。鋭くすることで刃のも形成できそうだ。

 正拳、フック、アッパー、肘打ち、防御隙間を縫うように連撃を繰り出す。

 蹴り技も時折混ぜる。実は蹴りの方が得意なのでこいつでクリティカルを狙って行く。

 

 1発殴られたら数発殴り返せ!ちっ!また防がれた。

 まだ遅い、まだ足りない、もっと早く鋭く。まだまだまだまだ!

 

 人の領域を飛び越えた者同士の戦闘は苛烈を極める。

 体に無数の傷を負いつつも、目に宿る闘志はどちらも枯れる素振りすら見せない。

 覇気と鮮血をまき散らして戦う男と迎え撃つ異世界の異形。

 その二体から誰もが目を離せない。

 こんなに暴力的で衝撃的で残虐的は光景を作り出す存在は、酷く恐ろしくそして・・・

 堪らなく美しかった。

 

「きゃーマサキさん!行けー!殺せぇー!」

「私の操者舐めんなよ鬼面野郎!あ~いいですね、ますます惚れてしまします」

 

 幼い二人の騎神がピョンピョン跳ねながら操者に声援を送る。

 その声に触発されて観客もヒートアップして行く。

 

「素敵よマサ君!さすが私の子!」

「違うわボケ!マサキ!あなたはこの私サイバスターの子供よ!」

「ええのう、若いのう、血が滾るのう」

「いいぞ小僧!もっと暴れろ!人間の力を騎人どもに知らしめろ!」

「きゃ!痛そう。止めなくていいのコレ?マサキ君・・・無茶苦茶だ」

「・・・畏怖・・・羨望」

「フフッ、二人とも楽しそうですの」

 

 応援サンキュー。声援は力になるって本当なんだな。

 クロシロ!寝巻(浴衣)ではしゃぎすぎ!帯が解けて・・・アカン気が散る!

 

 対戦相手に集中だ。ガードされても怯むな、そこから更にコンボを繋げ!

 足の覇気放出口は踵から膝辺りまでこっちの強度もなかなかだぞ。

 少しだけ下がってから助走なしで飛び蹴り、ガードして地面に線を描きながら後ずさるぺルゼ。

 勢いが完全に死ぬ前に両足で踏みつけるように連続で蹴り付ける。

 

「やるじゃねかぁ!ロリコンの癖によぉ!」

「あの2人が愛バなの?犯罪じゃん・・・」

「ウホッ!マサキさん、そんなに俺をムラムラさせてどうする気なんスか!メチャクチャにして欲しいっス!」

「待て!先走り過ぎだホモ男!・・・でも、気持ちは分かるぞ!(*´Д`)ハァハァ」

「皆、あのロリコンがどんだけヤバい奴か理解してるか?ちっ、早すぎる」

「怖い、怖いけど、ダメ!これを見逃すなんてありえない」

「サイさん達に比べればまだ拙いが、この鬼気迫る感じ、魂を揺さぶって来る!」

「操者、騎神を目指す奴らはよく見とけ!こんな光景なかなか立ち会えないぞ」

「す、すげぇ・・・誰か手をかしてくれ・・・こ、腰が・・・」

「行けぇー!ロリコン野郎!」

「負けるなぁー!ロリコン操者!」

「あんなカワイイ娘達が愛バだと!ふざけんな!うらやましいぞペドマサキ!」

 

 キリがないのでロリコンは許そう。

 ペドマサキって言った奴、顔を覚えたからな!ぺドはまだ許せねぇ!。

 

 足の覇気を一気に高めてぺルゼの体を浮かせるほどの蹴り上げを行う。

 浮き上がった自身の体に一瞬反応が遅れたぺルゼに更なる回しの蹴り上げ。

 

 "空円脚"

 グラさんから教わった騎神拳の1つ、まだまだ粗が目立つが形には成った。

 片側に大きくスリットの入った服装で教えてくれた、グラさんの生足が妙にエロかった。

 だって美人なんだもん、どう見ても中高生の外見なんだもん。

 「こんなオバちゃんに反応してくれるんじゃな、憂い奴め」とグラさんは笑ってた。

 母さんとネオさんは「「そっかぁ、私達オバちゃんかぁ・・・」」と遠い目をしていた。

 

 最後に両拳を組み渾身の力で叩きつける。

 ドラゴンボールでたまに見る技、ダブルスレッジハンマーだ!

 凄い勢いで地面に突き刺さるぺルゼ、その際広場のオブジェを巻き込んで破壊し大きな白煙が立ち昇る。

 

「見てシロちゃん!フル・フロンタル像だよ!ここにもあった!」

「誰だ!あの全裸男を量産するバカは!誰得なんですか!あ、股間から爆散した」

「┌(┌^o^)┐タイサァ」

「「今なんかいた!!」」

 

 フゥー・・・今のはさすがに効いただろ。

 白煙が晴れた後に現れたぺルゼは体の各所が砕けて腕もあらぬ方向に曲がっていた。

 まだ負けを認めないか、そもそもこいつ何のエネルギーで動いるんだ?覇気とは違う謎の力か。

 

「・・・アァァァ」

 

 謎の力が膨れ上がるのを感じた、体の損傷が回復していく・・・ああ厄介だ。

 無尽蔵ではないと思うがせっかく与えたダメージを無しにされるのはキツイ。

 もっと体の奥深くを傷つけ回復不能なダメージを与えるにはどうしたら。

 ネオさんに切り刻まれても再生したこいつにはアインストの心臓、核に当たる部分に継続的なダメージを与える必要がある。何かないか。

 

 ヒリュウに滞在していた時、クロシロとこんな会話をした。

 

「何を考えているかですか?」

「ああ、戦闘中にお前達が何を考え意識して動いてるか聞いてみたくてな」

「う~ん、私は特に何も考えてないし決めてないかな。その時々でやりたい様にやってる」

「さすが脳筋ですね。本能で動く癖に良い所突いてくるからバカに出来ませんが」

「それ褒めてるの?」

「シロはどうだ。やっぱり理詰めで動くタイプか」

「私もどちらかと言えば本能で動きたい方ですよ。ただ攻める時の方針があります。」

「それはなんだ、聞かせてくれ」

「自分と相手がやられて1番嫌であろう事を探りながら動く様にしています。相手の立場から見て嫌な所を狙う。自分がされて嫌だった痛かった事をやってやろうとか・・・私ゲスいですね」

「シロちゃん・・・大丈夫?闇深くない?私より先に闇堕ちするの?」

「しませんよ!クロちゃんもしないでくださいよ、あなたの闇堕ちとか勘弁して」

「俺はシロの嫌らしくてねちっこい戦い好きだぜ、何かあったら参考にさせてもらう」

「こんな嫌らしくてねちっこい私ですが、末永くよろしくお願いします」

「本能まる出しの脳筋だよ。見捨てないでね」

「おう、まだ未熟者のヘタレ操者だけどよろしくな」

「「「ぷっ・・・あはははははははは!!!」」」

 

 三人で卑屈になった後、大笑いした思い出。

 基本は本能のまま獣のように動く、そこに一工夫する。

 ぺルゼがされたくない事はなんだ?よくわからん。

 俺がされて嫌だった事・・・アレか?アレをやるのか・・・確かに意外性はバッチリだ。

 本当に獣にならなければできないな。やれるか?

 

 見ている母さんが、皆が、ぺルゼが、クロシロが。

 どうする?次は何をする?もう終わり?やれるよね?もっともっと見せろ魅せてみろ!

 しょーがねーなぁもう!

 嫌と言うほど教えてやるよ、野獣と化したロリコンの恐ろしさをなぁ!

 

「うぉおおおおおお!」

 

「またバカの一つ覚えで突っ込んで行くぞ」

「何度やっても再生しちまう。この勝負先が見えたな」

「まだだ、まだロリコンは諦めてねぇ」

 

 諦める訳ねぇだろ!カワイイ愛バの未来がかかっているだぞ!

 バーストモードの限界時間は?無視だ無視!死ぬ気でもたせろ!

 体全身に覇気を回す、ぺルゼとの距離あと一歩、大地を踏み込む足に力を込めて例のアレを使う。

 

「電磁加速(リニアアクセル)!」

 

 爆発的な加速。ぺルゼの眼前から消え失せ一瞬で背後に回る。

 デビルバットゴーストも真っ青だ。

 

「「「「「「「「なんだ!?あのスピード!!!!」」」」」」」」

 

 がら空きの背後に向かって蹴りつける。そのまま側面に移動わき腹に正拳。さらに加速する。

 頭に肩に背中に腕に足に腹に胸に、限界を超えた急制動急加速を繰り返し攻撃し続ける。

 加速加速加速加速加速!!!ずっと俺のターン状態!あのぺルゼが全くついて来れない。

 

「目で追うのがやっと・・・ついていけないよ、これじゃ置いて行かれちゃう」

「そうやって先に行ってしまうんですね。遠い・・・あなたの背中が遠いです」

 

 信じられないほどの猛攻繰り出す操者に目を見張るクロシロ。

 あなたは本当に強い、私達を必要としないくらいに・・・。

 自分たちのために戦ってくれている。どこまでも強くなってくれる。涙が出るほど嬉しい。

 だけど・・・今の私達は、あなたに相応しいの?隣にいていいの?一緒でいいの?

 強者への階段を駆け上がって行く操者に強い不安を感じる二人だった。

 

「あれは"乱舞の太刀"の真似か?いつのまに教えたんじゃ」

「教えてないわよ。マサキが今勝手に動いてるだけでしょ、やっぱり息子は母親に似るのよねー」

「いいなぁ。シュウ君もブラックホールクラスター撃てるように鍛えようかしら」

 

 唐突ですが、レース中にウマ娘からオーラのようなものが見えた事はないだろうか。

 見えた人は愛バを探す旅に出ましょう。あなたには操者の適正があります。

 そうです、アレは無意識に放出された覇気なのです。

 その時ウマ娘はスキルと呼ばれる能力を発動しています。

 身体能力の向上、持久力の回復、周辺環境への適応、対戦相手に施すデハブ効果等々。

 

 戦闘時の騎神においてもそれは同じ。

 高位の騎神になればなるほど覇気を自在に操り様々な能力を発動させます。

 そのなかで基本中の基本。身体能力強化を私(マサキです)は加速技(アクセル)と命名しました。

 天級騎神達はそういうのを決める事に無関心すぎたので私が決めちゃいました。

 で、この加速技ですがなんと天級の皆さんには属性がある事が判明。

 覇気を自身のイメージで、ある種の元素に定義づけ、より高い力を発揮していたのです。

 いったい何時から?なぜこの様な事に?他の属性はあるのか?どうすれば習得できる?

 インタビューの結果は「えーと、気が付いたらこうなってた」全く参考になりません。

 

 私は切り札としてこの加速技を習得する事を目指しました。

 ビアン博士の協力により、見よう見真似で私が出来たのは、電磁加速(リニアアクセル)。

 覇気を電気圧に変換して地面の蹴る際、電磁力のなんたらがかんたらで・・・もうむりわかんね。

 とにかく今まで以上に速く強く動けるようになったのです。科学的説明は博士に聞いてください。

 更に、禁じられていた覇気吸収をちょこっとだけ(死なない程度)行い天級の属性を分けてもらいました。

 「こんなバカげた事はお前しか思いつかんしできん!」と博士が興奮していました。

 なので私の加速技は自分のオリジナル、電磁加速の他、後3つあります。

 もちろんまだ制御不完全で上手く扱えず全身にも回せません。

 戦闘中に1回発動が限度でしょう。最後の大勝負時まで温存、大切に使いましょう。

 天級から直々に許可をもらったので現時点での加速技の名前一覧を記します。

 水と土は現在行方不明なので事後承諾になります。

 ※あくまでも仮定なので新属性の発見、天級クラスの思いつきにより変更する場合有り。

 

 

 操者   アンドウマサキ ??? 電磁加速(リニアアクセル)

 

 天級騎神 サイバスター   風  風精加速(シルフィードアクセル)

 

 天級騎神 グランヴェール  火  火精加速(サラマンダーアクセル)

 

 天級騎神 ガッデス     水  水精加速(ウンディーネアクセル) 

 

 天級騎神 ザムジード    土  土精加速(ノーマアクセル)

 

 天級騎神 ネオグランゾン  闇  重力加速(グラヴィティアクセル)

 

 

 何で闇精じゃないの?とか、お前の属性わかんないのかよ!等ツッコミどころは多々あります。

 ビアン博士と一緒に足りない頭と中二心をフル回転して名付けました。

 だって母さん達「めんどくせ!」とか言って考えてくれないから!

 文句は天級に言って!もう俺もめんどくさいのよ・・・好きに呼んだらいいと思います。

 

 どうでもいい設定終わり。

 相手の動きを完封したまま、次の段階へ。

 速度をあえて落とし意図的に隙を見せる、ぺルゼが放つ拳を受け流し姿勢を低くする。

 足元を刈り取る下段の大回し蹴り、そこに炎を乗せる!

 

「サラマンダーアクセル!!!」

 

 足払いなどではない、爆炎に包まれた剛脚はぺルゼの両膝を破壊して姿勢維持を困難にさせる。

 

「よっし!おい見たか!わしの炎じゃぞ!」

「「はいはい」」

 

 立っていられないだろう、崩れ落ちる体に更なる一撃をお見舞いする。

 

「グラヴィティアクセル!!!」

 

 俺の左膝に重力球を形成して高速回転、ぺルゼの胸部に膝蹴りを入れる。

 高密度の覇気で形成された重力球は小さいながらも触れた物体を削り取り続ける。

 膝に削岩用のドリルや回転ノコギリでも装着したかのよう、胸部装甲をズタズタにする。

 ちっ!制御が難し過ぎる。大きさ破壊力も想定の半分以下だ・・・要練習。

 

「アレ私の!あの黒いの私があげたんだから!マサ君いいわよー!そのまま殺ってしまえ!」

「「はいはい」」

 

 右腕に力を集中、手首から肘までの覇気の刃を形成、これに風を乗せる!

 ただの刃と言うには大きすぎる暴風で作り上げられたギロチン!

 それを一切の容赦なく相手の頭部に振り下ろす!

 

「シルフィードアクセル!!!」

 

 覇気と暴風が炸裂する。

 先程の2属性攻撃の衝撃も冷めやらぬうちに行われた撃滅の絶技。

 脚を砕かれ、胴体を裂かれ、頭部を破壊されたぺルゼは遂に崩れ落ちる。

 

「ほら!見てよ!あの風は私とあの子の絆そのもの!ヤバい泣きそう、本当に立派になって」

「「はいはい」」

「もっと感動してよ!炎に重力と風それからなんだ電磁?よくわかんないけど、アレ全部叩き込めるヤツ他にいる。いないよね?私の息子だからできた芸当よね!」

「お前達・・・授業参観ではしゃぐバカ親だな」

「ビアン博士、せめて親バカって言って!いいわよ、あの子のためならいくらでもバカになってみせる!」

「でも本当に嬉しいわね。子供の成長を感じられる瞬間は」

「ああ、なんとも誇らしいのう」

 

 うお!もう再生が始まってる。この隙を逃してはダメだ、残った左腕に覇気の鞭を形成。

 属性攻撃はさっきのでネタ切れだ、後は俺とクロシロ分の覇気でやる。

 鞭の長さ強度を上げて拘束に使用する。ぐるぐる巻きにしてやったわ!

 捉えた!ここからだ!

 身動きを封じられたぺルゼの背中に貼り付き狙いを定める。そら首を出せ!

 

「があああああああああああああああああ!!!」

「!?!?!?」

 

 俺の行動にぺルゼは混乱、ギャラリーもドン引きした。

 

「「「「「「「「か、噛みついたぁあああー!」」」」」」」」

 

 人体の中で最も硬い組織は歯だ。

 そこに可能な限りの覇気を集中ぺルゼの首筋に牙を立て噛み千切る!

 うげ!口の中が切れた、味は無いけど無機物であって有機物のような感触がキモい。

 血や体液が出ないというか無いのか、良かった。そんなもん飲みたくない!

 

「ぺっ!」

 

 噛み千切った肉片?を吐き出す。うんクソマズい!

 瞬く間に再生を開始する首筋にもう一度噛みつく。

 

「「「「「「「「またいったぁ!!!」」」」」」」」

 

 普通ならあんなゴツくて硬そうな奴に噛みつこうとは思わないだろう。

 だからこそやる。本能の赴くままに獣になれ。

 これからが本番、噛みついた牙から覇気を相手に流し込む。

 俺とクロとシロ、三人分の覇気を体の奥深くに突き立てる。

 

「オォォオオオオオ!」

 

 ぺルゼが狂った様に暴れ回る。振り解かれないように牙を立てて覇気の注入を続行する。

 痛いよな、わかるぞ。

 俺が人生で最高に痛かったのはあの時、クロシロと契約した時だ。

 

 他者の覇気が直に体内に入ると拒絶反応が起こる。

 自身の覇気中枢にまでそれが侵食すると、想像を絶する痛みが発生する。

 相性がいいはずのクロシロの覇気で俺は気絶するほど苦しんだ。

 碌に相性をチェックしていない、そもそも覇気に体が適応できる存在かどうかもわからない。

 異世界から来た謎の存在にやるのは完全に賭けだったが、この暴れっぷりからして相当効いているな。

 ぺルゼにとって俺達の覇気はもはや猛毒。体を再生する余裕がなくなっているな、いけるぞ!

 

「ひぃ!何なんだアイツ完全に人間やめちまったぞ!」

「化物VS化物だコレ!」

「でも見て!今までで一番苦しんでる。効いてるわ!」

「あんなにヤベェロリコン見た事ねぇ!」

「ああ俺も噛みついて欲しいっス!美味しく喰べてくださいっス!」

「怖ぇ!俺は赤鬼よりロリコンの方がこえーよ!」

 

 ぐ、クソ・・・ぺルゼが暴れまくって集中できない。顎が疲れてきた。

 

「ワイルドになっちゃってまあ」

「・・・うう」

「何を泣いておるんじゃ」

「あんなに可愛かったマサ君がまるで野獣よ。サイさんの凶暴性が移ったのね」

「凶暴性はアンタが上でしょ!私は何もしてない、マサキが自分で強くなったのよ」

 

 おい、もういいだろ!降参しろよ!

 もう限界だろ!俺は限界だよ!倒れろー!

 覇気残量はあと少しだ、このまま最後までぺルゼに注入してやる。

 どっちが先にくたばるかしょう・・・ぶ・・・だ・・・。

 

 いいのか本当に?

 残りの覇気は俺だけのものか?違う、クロとシロからもらったものだ。

 これを消費してしまえばあいつらは・・・。

 

「ダメ!いいからやって!」

「勝って!お願いですから!」

 

 いいわけないだろ・・・何のために、ここまでやったと思ってる!

 

 気が緩んだ、その隙は致命的だ。

 拘束を振り解きぺルゼが背中の俺を片手で鷲掴みにする。

 そのまま投げられ地面に叩きつけられる。

 

「かはっ!・・・あ・・・ぐ」

「・・・・」

 

 全身が痛い覇気を防御に回し分、今ので完全に使い切った。

 後は最低限の生命維持とクロシロの分・・・これは使えない。

 

 ぺルゼが拳を振りかぶりトドメを差そうとする。

 終わりかこんなところで、契約解除は俺が死んだ後も可能なのか聞いておけばよかった。

 母さん達に後は任せるしかない。

 

 クロ、シロ、ごめんな・・・ちゃんと生き残れよ。

 

「・・・おい・・・何のつもりだよ・・・」

 

 ぺルゼがこちらに手を差し伸べている。 

 こいつ・・・本当にどこまでも・・・俺なんかよりよっぽど器が大きい奴だよ。

 トドメを差そうとしたのではない。

 俺の覇気残量を計測してもう勝負はついたと、敗者である俺に手を貸そうとしている。

 騎士道か?武士道か?そんな見た目して紳士か!

 

「お前ホント強ぇな・・・俺の負けだ、降参する」

 

 ぺルゼの手を取って立ち上がらせてもらう。

 ギャラリーの歓声が響き渡る。

 クロとシロが駆け寄ってくる。ああ悔しい情けない。

 

 負けた・・・完敗だ。

 

 



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おやすみ

 負けちゃった。

 

 人々の歓声と拍手が聞こえる。終わった終わってしまった。

 

「よくやった!いい勝負だったぞ!」

「あの赤鬼紳士じゃん!くう~カッコイイじゃねぇか」

「どっちも凄かったわよ!こっち向いてよ、写真撮るから」

「あ~いいもん見たな。さて失神してる奴を運びますか」

「ママ!すごかったね!私も強くなりたい!」

「だったらいっぱい修練して早く騎神にならないとね」

「壊れたのは空き家と、なんだこの像は・・・直さなくていいか」

「素晴らしい戦いでしたマサキさん。早く帰って洗濯したい気分です」

「どうしたんだホモ男?いきなり賢者にな・・・まさかこいつ・・・」

「俺も操者目指そうかな、ロリコン人生も悪くなさそうだし」

 

 疲れた・・・本当に・・・マジで燃え尽きたよ。

 体に軽い衝撃・・・お前らか。

 

「クロ、シロ・・・ごめん本当にごめん」

「凄かったよ。メチャクチャ興奮した!あれが私の操者だって皆に自慢しちゃった」

「最高にカッコ良かったです。超絶惚れ直しましたよ」

 

 だから・・・

 

「「お願い泣かないで」」

 

 泣いてる誰が?俺が?ああこの水は汗じゃなくて涙だったのか。

 

 散々、偉そうな事ぬかした挙句に負けて泣いてる。ダサすぎだろうがよ。

 

「カッコ悪過ぎだよな俺」

「「・・・・」」

「負けて良かったのかも知れない、こんなクソ雑魚がお前たちの操者でいいはずがない」

「「・・・・」」

「そうだ良かったんだこれで・・・良かったんだよ・・・」

「「・・・・」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全然良くない」

「「・・・・」」

「負けて良いはずが無い、お前たちを助けたかったのに、何をやっているんだ俺は・・・」

「自分を責めないで。悪いのは私達だから!マサキさんは精一杯やってくれたよ」

「私達のために覇気を使い切るのを恐れたんですよね。足を引っ張たのはこちらの方です」

「お前達が来てくれなかったら、もっと前にやられていたよ。ごめんね弱くて」

「違う違う。私にもっと覇気があればこんな結果にならなかった」

「二人ともそんな顔をしないでください。私まで泣いてしまいます」

「クロ、シロ・・・契約を解除してくれ。頼む、この通りだ!生きてくれ」

「そんな事言わないで、頭なんか下げないでよ」

「い、嫌だ!捨てないで!捨てないで!!捨てないでよ!!!マサキさん!!!」

 

 二人を泣かせた、最低な男だ。こうならないように頑張ったのに。

 契約解除を頼む俺に震えながらしがみつくクロ。

 シロは激しく取り乱しいつもの冷静さを欠いている。

 

「はーいストップ!もうその辺にしておきなさい」

「・・・母さん」

「誰が悪い訳でもない。やるだけやってそれでも届かなかった。それだけの事よ」

「それだけって」

「立ちなさい。大事なのはこの後どうするかでしょ」

「でも・・・」

「ぺルゼインもマサキもよく頑張りましたの。途中アクセルアクセル連呼するのでモヤモヤしましたの」

「アルフィミィ」

「頑張ったマサキにはご褒美をあげませんと、いつにします」

「ご褒美・・・まさか!覇気吸収を出来るようにしてくれるのか!」

「はい。勝敗はどうあれ最初からそのつもりでしたの」

「ミ、ミィ様ー!アンタ最高だわ!今日からアインスト教の御神体として崇め奉るわ」

「勝手に祀り上げないで欲しいですの」

「すみませんミィ様。本当によろしいのですか?俺はぺルゼに完敗したのに」

「この子も十分満足したみたいですの。命の輝き、しかと見届けましたの」

「殺し合いとか言ってたからてっきり・・・まったくお人が悪い」

「そう言った方が必死になってくれると思ったですの」

「あ゛ありがとう~・・・うう・・・良かったこれで」

「フフッ、泣き虫ですのね」

「・・・・?」

 

 ミィがよしよししてくれる。ぺルゼは泣き続ける俺にちょっと困惑気味。

 やったぞ、クロとシロを救う術である覇気吸収(ENドレイン)を習得させてもらえる。

 

「クロ!シロ!ごめん!何とかなりそうだから契約解除は無しでお願い!」

「・・・ぐすっ」(つд`)

「・・・ううぇ」(;Д;)

「ごめんホントごめん!さっきから謝ってばっかりだ。ほら、よーしよしよし」ヾ(・ω・`) 

「「ぶおぇぼぇぼばぇくぁwせdrftgyふじこlp!!」」

「なんちゅー泣き声だ!そろそろ落ち着こう、皆見てるからね。ね」

 

 変な声を出して泣き続ける二人を必死で慰める。

 最初に泣いたのは俺だけど泣き止んでよ。泣き顔もカワイイとかズルくない。

 

「良かったわね。本当に・・・うう・・・」

「もらい泣きか。年取って涙腺が緩くなったんじゃ・・・がは!」

 

 ネオさんの肘打ちを食らってグラさんがしゃがみ込む。

 

「・・・賞賛」

「アーマーもありがとうな。お前はこれからどうすんのよ」

「・・・思案中」

「そっかよく考えてな」

「博士がいない、どこへ行ったんだ?」

「あの人はさっさとドローンとカメラを回収して行ったわよ。ヒリュウでデータの分析をするんですって」

「博士にも礼を言わないとな」

「それよりいいの?残り時間は大切にね」

「わかってるよ母さん」

 

 そうだな、クロシロが今起きているのは奇跡みたいなもんだ。

 俺のピンチに本能で駆けつけてくれたのだろう。

 

「ミィ様、夜まで待ってくれないか。二人が寝てからにして欲しい」

「かまいません、お待ちしておりますの。それと様付はやめてですの」

「クロ、シロ、今のうちにパパさんに挨拶しておけ・・・わかるよな」

「・・・うん」

「・・・はい」

 

 泣き止んだ二人は俺から離れパパさんの所へ。

 しばらくして戻って来た二人を抱っこして再びパパさんの下へ行く俺。

 

「すみませんパパさん。今日はこのままずっと一緒にいてやりたいんです。いいですか?」

「ああ、二人の好きにさせてやってくれ。頼んだよ」

「はいお任せ下さい。と言うわけだ、どこか行きたい所や、やり残した事があるか?」

「一緒にいてくれたらそれでいいよ」

「私はPCのデータを破壊・・・いえ何でもありません」

 

 皆に挨拶してからその場を後にする。前の時みたいにあてもなくブラブラする。

 二人の重さと体温が心地いい、こいつらを失わずに済んでよかった。

 

「空き家はともかく広場のオブジェを壊したのはマズかったか?」

「フル・フロンタル像だね。学校にもあったんだよ、そんなに人気なのかな」

「あんなもの日本中にあったら嫌ですね。仮面越しでもわかる二ヤついた表情がムカつきます」

「下半身の"うまだっち"部分がやたらリアルで立派なんだよな」

 

「ここが修練場だ。小さい頃から母さん達とよく遊んだ場所だ」

「覇気の残滓が漂ってる。いっぱい修練したんだね」

「よく見ると広域結界が張ってありますよ。流れ弾にも配慮してますね」

「修練が終わった後、あの大木の下でよく昼寝したもんだ」

「そうだ。あのアクセルってやつ凄かった!アレどうやるの、私もできる?」

「母さん達のお蔭だよ。お前達なら俺より上手くできるさ」

「・・・必ず追い付いてみせます。待っててくれますか?」

「俺の方が置いて行かれないか不安なんだがな。望んでくれるならいくらでも待つよ」

 

「うへー遺跡ボロボロだぁ。なのに無傷なあの輪っか何?アレが門なの、ふーん」

「あんまり近づかないで下さい。尻尾の毛がピリピリしてます、触れちゃダメなヤツです」

「ここから出てきたミィが俺達を助けてくれるんだぞ。悪い事ばかりじゃないさ」

「異世界の門かぁ・・・違う世界にも私達いるのかな」

「ミィの世界では俺らしき奴がいるみたいだったな」

「人間タイプとは限りませんよ。私とクロちゃんが四足歩行で走る動物だったらどうします?」

「その時は背中に乗せてくれよ。三人で草原を走り回るんだ」

「それ楽しそう!どっちに乗りたい?なんてね」

「そんな事あるわけないですよね。ははは・・・ないですよね?」

 

 いつもの様にじゃれ合ってバカな話をしていると、あっと言う間に日が暮れた。

 家に帰っても変わらない。とても楽しい時間、幸せだ、ずっとこうしていたい。

 皆でご飯を食べて、風呂に入って、いよいよ就寝の時間となった。

 母さん達は気を利かせて、俺達三人の好きにさせてくれた。ありがとう。

 

「そろそろ寝るか。ごめんなずっと付き合わせて、眠たかったろうに」

「・・・少しでも長く一緒にいたかったから全然いいよ」

「・・・ちょっと怖いです・・・次はいつ起きられるのでしょう」

「心配するな。地球は母さん達が守ってくれるはずだから人類が滅びてる事は無いと思う」

「やだな・・・そんなに長く寝ないといけないの」

「冗談だよ。早く起きて来られるように頑張るよ、信じて待ってろ」

「はい・・・あなたを信じます。だって私達の操者ですから・・・ね」

 

 寝床に着いてから次第にうつらうつらしてきたクロシロ、もう時間が無い。

 

「もっとくっついてもいい?」

「ああ、おいで」

「本当に撫でるの上手ですね。しっかり触ってください・・・忘れないように」

「バカ言うな、死んでも忘れてやらねぇ」

「「あのね・・・」」

「待った。先に言わせてくれ」

「「・・・どうぞ」」

「いつも先に言わせてすまないな。こんな事言うとまたロリコンで超きめぇ奴認定されてしまうかもだけど」

「「・・・言って」」

「俺を見つけてくれてありがとう、今ならわかるずっとお前達を探していた、待っていたんだって」

「「・・・あ」」

「キタサンブラック」

「・・・はい。えへへ・・・」

「サトノダイヤモンド」

「・・・はい。真名呼び・・・ズルいですよ」

「本当の本当に大好きだ。愛してるぞ二人とも」

「「・・・知ってるよ」」

「え?あれ・・・そ、そうかバレバレだったな。もっとこうなんか無いのか!ああくそ!恥ずかしいの俺だけか」

「嬉しい・・・嬉しい・・・嬉しい・・・」

「あなたで良かった・・・違う・・・あなたが良かった、あなたじゃないとダメだった」

 

 二人の意識が薄れかけている。

 もうすぐ長い眠りについてしまう・・・バカ泣くな俺!今日はもうたくさん泣いただろ。

 今生の別れじゃないんだ。すぐ会えるようになるさ、だから我慢するって決めただろが。

 寂しいのは俺だけじゃないんだぞ。操者の俺が二人を不安にさせてどうする。

 

「次に・・・会った時はさ・・・もっと仲良くしてね・・・」

「・・・うまぴょい計画・・・必ず・・・やり遂げましょう」

「こんな時までアホだな。覚悟しろよ、その時は寝かせねぇぞ」

 

 締まらないな本当に、この場面でうまぴょいとか言ってる。

 まあアホな俺達らしくていいか。

 

「「マサキさん」」

 

「・・・なんだ」

 

「「死ぬほど好きです」」

 

「俺もだ」

 

 クロとシロが眠りについた。

 規則正しい呼吸、満足しきったような穏やかな寝顔。

 二人の頭をしばらく撫でて、こぼれ落ちる涙が止まるのを待つ。

 

「ミィいるんだろ。もういいぜ、やってくれ」

 

 部屋の外で待機していたアルフィミィを呼ぶ。

 

「はいですの。これよりあなたの覇気と体を少し弄らせていただきますの。それと愛バのお二人にも、あなたが吸収した覇気を取り込みやすいように調整いたしますの」

「俺はこのままでいいか?」

「はい。朝になれば全て完了してますの」

「わかった・・・くれぐれもよろしく頼む。おやすみなさい」

「アインストを代表して必ず成功させますの。おやすみなさいですの」

 

 頼もしくて優しいミィの声を聞きながら眠りに落ちていった。

 

  

 マサキ達が眠りについた頃。

 世界的シェアを誇る人気動画投稿閲覧サイトUmatubeにある動画が投稿された。

 その動画の再生数は一気に上昇し、あっと言う間にランキング上位に昇りつめた。

 1時間たらずで削除されたがコピーを取られネットの海に広がっていった。

 

 

 内容はとある人間と異形の戦闘。

 大多数の者には映画のPVやフェイク動画の類だと認識された。

 しかし、一部の者達はこの戦闘が作り物ではないと見抜いていた。

 

「この映画いつ公開予定?」「またネタ動画かよもういいって」「キラキラ光ってるの何?」

「黙れよ素人」「なんだと」「これがフェイクに見えている時点で雑魚決定」

「は?何言ってんの」「本物だと思ってるウケるwww」「お前の無知具合になwww」

「本物だと仮定してこいつら何者」「化物と人間だろ多分」「後半見て言えよ人間の動きかコレ」

「あ、もう削除された」「とっくに拡散されとるよ」「まあ面白かったよ」「それより・・・」

 

 [騎神専用の掲示板] 書き込み抜粋

 

「おい見たかアレ」「見た見たヤバいよね」「覇気があんなに視覚化されるとかありえない」

「あの化物AMか?」「それにしては柔軟な動き過ぎる」「正体不明の化物、大丈夫かこの世界」

「それよりあの人間だよ」「アレを人間と言っていいのか」「たぶん操者だと思う」

「途中で急に覚醒したよな」「モザイクかかってたが二人の子供が来てからだな」

「アレが愛バなんじゃね、耳と尻尾があるし」「あんなチビを愛バにするとかどんな変態だよ」

「なあ人間(仮)のモザイク雑すぎない」「目元に黒線のみしかもずれとるwww」

「後半戦のヤバさは異常」「怒涛の連撃凄すぎ超級騎神クラスか」「あの炎とかはどう説明する」

「トリックか天級なら可能」「こいつが天級だとでも」「それはない」「どうみても男じゃん」

「修羅」「は?何」「修羅」「だからなんだよ」「修羅(シュラ)知らねぇのか情弱ども」

「調べてきました」「教えて」「ウマ娘→騎神、人間→修羅、おわかりいただけただろうか」

「人間が修練を積んだら修羅になるってか」「そんな話聞いた事ない」「都市伝説だろ」

「数百年前は結構いたんだと」「かなり数は減ったが生き残りがいるとか」

「修羅>騎神」「マジでヤバくない」「騎神の存在意義があばばば」「この人を操者にしたい」

「やめとけ」「なんでさ」「あの覇気見たろ」「見たよ騎神にとってはいい事じゃん」

「あんなもん循環させられて体が持つとでも」「頑張ればいけるっしょ受け止めます」

「受け止めたが最後、体を弄繰り回されて別の何かに創り変えられる」「ひぃ!やめときます」

「あのチビちゃん達大丈夫なの」「まだ愛バだって確証はないだろ」

「どんな奴でも天級がいれば何とかしてくれるさ」「そうか天級の気まぐれ知らないんだな」

「噂では田舎でスローライフ満喫中とか」「おい天級バカにすんな」「切腹しろ!」

「もしもさ、この修羅(仮)が操者だったら」「愛バが不憫の一言に尽きる」「だなwww」

「その愛バが修羅の覇気に上手い具合に馴染んだ場合はどうなる」「化物が産まれる」

「どういう事?」「常時あの覇気の影響下で生存した騎神は間違いなく化物」

「最近の若い騎神は豊作だよ」「超級がゴロゴロ誕生してもおかしくない時代」

「化物が1匹増えた所で無問題」「だと良いんだがな」「やめろよフラグ立てるなよ」

「もう飽きた」「好きな天級の話しよーぜ」「操者が女性の奴おる?どんな感じよ」

 

 世間に修羅の存在が囁かれるようになるのに時間はかからなかった。

 

 とあるタワマンの一室、この部屋の主がリモート通話をしていた。

 

「やってくれましたね。ビアン博士」

「動画を削除したのはお前か、グランゾンのせがれ」

「どういうつもりです」

「ふん。近年調子に乗っておる騎人どもにはいい薬だ」

「マサキの事を世間にバラすのは早計過ぎませんか」

「遅かれ早かれ小僧の存在は知れ渡るだろ」

「人間を侮る連中に一石投じたつもりですか」

「ちょっと突いてやっただけだ。あの戦いを村民だけの思い出にするのはもったいない」

「まあ、いいでしょう。それでマサキの愛バ達はどうなりました」

「異世界の小娘が上手くやったみたいだ。気になるなら直接見に来い」

「そのうち行かせてもらいますよ。今後の予定は」

「クロスゲートの調査が終わり次第帰るぞ、リューネが待ってる」

「彼女にもお会いしたいですね。機会があれば是非」

「それは娘に聞いてみろ。ところで、お前に預けたダブルGはどうなっている」

「「飽きた!もう知らん」とか言って私に丸投げしたヤツですね」

「些細な事は忘れろ!どうなっているか聞いているんだ」

「1号機と2号機は完成後、無事持ち主が決まりました」

「3号機は?"ジンライ"はどうなった」

「メジロ家に接収されましたよ。最近、暴走事故を起こした挙句ご令嬢1人の手でバラバラに解体されたとか」

「ほう。アレを解体したか、手間が省けた。その後どうなった」

「結局3号機を自立起動兵器にする案は凍結、こちらに返品したいとの事です」

「よしわかった。ジンライのバラバラ遺体は私が回収しに行く、それまで保管しておけ」

「今更何ですか?まさかあなたが3号機を完成させるとでも」

「そのまさかだ。私が直々に手を加えてやる」

「話によると大分損傷が激しいようですよ。いくら博士でも一筋縄では」

「とにかく頼んだぞ!シュウシラカワ」

 

 言うだけ言って一方的に通話を切られる。

 

「珍しいあの博士がやる気になっている。いったい誰のためなのやら」

 

 マサキはピンチを乗り切ったようで何よりだ。

 動画内で凄まじい動きを見せる友人はいったいどこへ向かっているのか。

 今回の騒動ではあまり役に立てなかった、せっかくスタンバっていたのに。

 まさか異世界からの来訪者によって解決をするとは。

 マサキは妙なものに好かれる体質なのだろか、一度調べてみようか。

 

「こちらの案件も進めなくてはいけませんね」

 

 机に散らばる書類の束にはこう書いてあった。

 

 [日本トレーニングセンター学園 第二分校] 

 

 ・操者並びに騎神養成校の設立と開校までの道筋

 ・現トレセン学園からの移籍希望

 ・操者、騎神候補の募集

 ・教職員の選定

 ・SRX計画、ATX計画のテスター要請

 ・特別実習による生徒の派遣

 ・育成目標 次世代の超級以上とその操者

 ・その他・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅー前途多難ですね」

 

 



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たびだち

 愛バ達は長い眠りについた。

 

「・・・朝・・・ミィの処置は成功したのか・・・よっと」

 

 昨夜はミィにおやすみを言ってから即寝落ちしたようだ。

 

「体は・・・特に異常はないな、記憶もバッチリある」

 

 覇気吸収(ENドレイン)はちゃんと習得できたんだろうか。

 穏やかに眠るクロシロを見て安心する。

 

「おはよう・・・今はしっかり眠るんだぞ」

 

 二人の布団をかけ直してやる。

 俺が抜けた事で空いたスペースをちゃんと整えて・・・こんなもんか。

 

「おはよう。起きたのね・・・大丈夫?」

「おはよう母さん。うん問題ないよ」

「どうする、何か食べる?」

「後でいいよ、ミィはいる?」

「ここにいますの。ご気分はどうですの」

「何かが変わったとは思えないんだが、何をどうやった」

「それは企業秘密ですの」

「少し立ち会ったけど、まさかあんな熱いものをねじ込むなんて・・・う」

「え?吐きそうになるほどの光景だったの」

「聞いたら多分後悔しますの」

「気になるけどやめとく」

 

 ミィ達アインストは今日帰ってしまうので是非お見送りをしなければ。

 朝の身支度を整え、母さんとミィ連れ立って家を出る。

 クロスゲートの前ではビアン博士と数名の作業員がいた。

 お、ぺルゼとアーマーもいる。

 

「来たか、ゲートを動かす所をじっくり見せてもらうぞ」

「少しお待ちを。マサキ、ドレインを試してみて欲しいですの」

「ミィが帰る前に問題ないか試運転だな。誰に使ってみればいい」

「最初はもちろん私よ。いいわよね」

 

 母さんが元気よく立候補する。

 

「では手を対象の頭において覇気を吸い取るイメージを~」

「いきますぞ母さん!」

「いつでも来なさい」

「・・・イメージしろ・・・イメージ・・・」

「頑張ってマサキ」

「・・・・」

「・・・・」

「「何も起こらねぇ!!!」

 

 母さんを同時に叫ぶ。

 ダメじゃん!そりゃないぜミィさんよぉ・・・。

 

「そ、そんな目で見ないで欲しいですの。処置は確かに成功しました、後はマサキのやり方が・・・そうですの!もっとお互いにリラックスしてみるといいですの」

「リラックスか・・・母さん、頭撫でてもいい?」

「え?やだ照れる////息子に撫でられるなんて、望む所よ!さあやって!」

「ノリの良いあなたが大好きです。いくよ」

「お、おお~これは・・・クロシロちゃんはいつもこれを味わっていたのねズルい!」

 

 親の頭を撫でるなんて、こっちも照れるぜ。

 うーん母さんの綺麗な銀髪、サラサラして手触り最高やな。

 俺の撫でテクニックの原点は間違いなく母さんだ。

 俺にしてくれた時みたいに上手く出来てますか?イメージ・・・ちょっともらうよ・・・。

 母さんの覇気が手の平から流れ込んでくる、おお!いいぞ良い感じだ。

 相手の頭を撫でながらだと上手くいくんだな、覚えておこう。

 

「できた!今ちょうどドレイン中だよ。母さん異常は無い?」

「うん。遠慮しないでもっとやっちゃって」

「どのくらい吸えばいいの?止めるタイミングがわかんない」

「さぁ?それは私にもわかりませんの」

「このまま吸い続けて俺の体パーンッ!てならない?破裂しない?」

「私の覇気で息子が破裂するなんて絶対嫌よ!ストップ!中止中止よ!」

 

 ドレインを止める、すると今度は俺の覇気が母さんに流れ込んだ。

 

「あれ?マサキ、私に覇気をくれるの?」

「い、いや違うんだ。勝手に」

「ちょっと確認しますの。ほ~これがこうなってあれが・・・わかりましたの」

「今ので!?まあいいや、何が起きたんだ」

「ドレインには相互作用があるみたいですの。覇気を吸い取る事も与える事もできますの」

「今、母さんに流れた分は俺が操作に不慣れだっただけか。大丈夫なのか?俺の覇気って相手に悪影響があるんじゃ」

 

 クロとシロがああなってしまったみたいに。

 今の二人を思い出してちょっと落ち込む。

 

「契約者でなければ大丈夫ですの。あなたの覇気は通常であれば騎神に良い事だらけですの」

「とは言っても過ぎたるは猶及ばざるが如しよ。もらうのもあげるのもほどほどにしておきなさい」

「ちょっと練習した方がいいか。後でネオさんとグラさんにもお願いしてみよう」

「天級からはガッツリ吸収するのをオススメしますの。愛バ達には最高級のご馳走ですの」

「とにかくドレインは使えるんだな。母さん後でもう一度頼むよ」

「はいはい。あ~でもネオ達にもやるの?ちょっと嫉妬するわ」

「今後たくさんの騎神を撫で回す予定の俺を許して!!」

 

 ドレインは吸収だけでなく与える事も可能。

 これなら愛バでない奴にも、今まで以上に効率よく覇気をもらったりあげたりし放題。

 この力でクロとシロを・・・よし頑張るぞー。

 

「もういいか。早くゲートを動かせ」

「はいですの。皆さんお世話になりましたですの」

「本当にありがとう。ミィがいなかったら今頃どうなっていたか」

 

 ミィがゲートに触れるとリングの内側が光り出し水面のように揺らぐ、起動に成功したようだ。

 「アクセル達が帰って来いと言ってますの」と呟くミィ。知り合いかな?

 

「ぺルゼイン、お前と戦った事は忘れない、俺もっと強くなるから」

「・・・・」

「ああ、俺も寂しいよ。元気でな、ありがとう」

 

 拳で語り合った強敵(とも)とハグする。

 負けたけどあの戦いは大きな経験になった。今は感謝しかない。

 

「ん?え・・・ここに残りたいんですの」

 

 ずっと空気だったアーマーがミィと何やら話している。

 

「あなた一人ぐらいでしたらこの世界に影響は・・・でも」

「どうした?なに揉めているんだ」

「この子、ゲミュートが、この世界に残りたいとわがままを言ってますの」

「へぇー。そりゃまたどうして」

「・・・道見つけた・・・ここがいい」

「この世界であなた方の行く末を見守ることが、自分の生きる道だと言ってますの」

「いいんじゃない。好きにさせてあげたら」

「ご迷惑ではありませんの」

「うちで面倒みてあげるわよ。もちろん畑仕事ぐらいは手伝ってもらうわよ」

「・・・よっしゃ!・・・感謝」

「今よっしゃて言った。母さんが良いんなら、俺も賛成だ」

「・・・わかりました、この子をよろしくですの。ゲミュートあまりハメを外してはいけませんの」

「・・・善処する」

 

 ゲミュートことアーマーはここに残る事決定。

 なんかぺルゼに小言を言われてペコペコしている。

 あいつアインストの中でもはっちゃけた奴なんだろうな。

 

 最後にミィと握手と思ったら、思いっきりハグされた。

 うほ!いい匂い。

 

「ダメよ!彼氏さんに悪いわ!でもありがとうございます」

「フフッ、あなた達の幸せを別の世界から願っていますの」

「本当にありがとう。元気でな」

「じゃあね。気を付けて帰るのよ」

「ふん達者でな」

 

 そうしてアルフィミィとぺルゼインはゲートをくぐり消えていった。

 ちゃんと元の世界に帰れますように。

 異世界の来訪者達よありがとう。

 

「さあ帰って早速準備じゃ!明日には出発するぞ。母さん、アーマー帰ろう」

「はーい。それじゃあね博士」

「・・・帰宅了解」

「明日か、落ち着きのない奴だ」

 

 博士と別れて帰宅後。

 ネオさんとグラさんにもドレインを試してコツを掴んだ。

 天級の三人からはかなりガッツリ吸い取ったのだが、三人ともピンピンしていた流石や。

 

 これからの旅に必要な物を選んでカバンに積める。

 荷物がかさばりますな異世界系小説によくあるアイテムボックスが欲しい。

 

「これを持っていきなさい」

「なにこれ?腕輪?」

「私達が丹精込めて作ったお守りよ。マサ君にぴったりだわ」

「その腕輪に覇気を流してみるのじゃ」

 

 腕に装着してちょっとだけ覇気を流してみる。

 すると天級三人の覇気が腕輪から凄い勢いで溢れ出した。

 

「おわ!し、しずまれ・・・と・・・ヤバい。これをどうしろと」

「今みたいにそれで威嚇してやれば、大抵のウマ娘や操者はブルって逃げ出すわ」

「身分を証明したり、(脅して)協力を仰ぐ事もできるはず。困った事があれば使ってね」

「悪い事には使うんじゃないぞ。信じとるからのう」

「ありがてぇ、大事にするよ。ところでこの腕輪の材料は何?」

 

 三色の繊維で編み込まれた腕輪、この繊維はなにかの毛?・・・はっ!まさか。

 

「いやーいつも隠しているからさあ。久しぶりにブラシかけるとゴッソリ抜けちゃって」

「毛!?材料は尻尾の毛なのコレ!怖っ!」

「私達の毛で出来たアイテムなんて入手難易度SSSの超激レアよ。聖遺物だと思ってね」

「呪物の間違いじゃないの?なんか変な怨念込めてないよね」

「心配せんでもええぞ。一度装備すると天級以外には外せなくなるだけじゃ」

「やっぱり呪われてるじゃん。やだ本当に外れない!」

 

 旅立つ子に呪われた装備をプレゼントする母達であった。

 

 母さん達と今後の計画を話し合ったりしているとすぐに夜になった。

 クロシロが寝ている客間はビアン博士の手によって大病院のICUに変貌を遂げている。

 その部屋で今夜も二人の様子を見る。今すぐにでも起きてきそうなんだがな。

 寝顔・・・写真撮っておこう。昨日起きている内に撮影した分も合わせて宝物だ。

 スマホが鳴る、シュウだ。

 

「悪いな。厄介事が続いて碌に連絡できなかった」

「かまいませんよ。愛バのピンチだったのですからね」

「一応こっちは何とか落ち着いたわ。明日ここを出発する」

「母や博士から話は伺っております。せっかく故郷に帰ったと言うのに忙しいですね」

「また今度ゆっくりさせてもらうよ」

「少ないですが軍資金をあなたの口座に振り込んでおきました」

「マジで助かる。移動しながらどうやって稼ぐか悩んでいたんだ」

「たまに労働するのも結構ですが。質の良い覇気を持つウマ娘を探すのに集中してください」

「わかった。そうするよ」

「途中でうちにも寄ってください。ブルボンともう一人があなたを待っています」

「何から何までありがとな」

 

 資金問題はクリア。

 やっぱり頼れるのは金持ちの兄貴分だぜ。

 俺が不在の間にクロシロの様子も見に来てくれるらしいのでマジで感謝する。

 その後、いくつか話をして電話を終えた。

 明日に備え今日は早めに寝よう。クロシロおやすみ。

 

 翌朝、天気は快晴!旅立つには良い日だ。

 

「小僧こいつをくれてやる」

 

 家を訪れたビアン博士がスタイリッシュなデザインの眼鏡をくれた。

 早速かけてみる。ほーんいいじゃないのちょっとは知的に見えるかな

 度が入ってないので特に物が見えやすくなったという事は無い。

 

「どう?似合うかな」

「メガネ男子(゚∀゚)キタコレ!!写真撮らせてねマサ君」

「賢さが5ぐらいは上がったかのう」

「博士の事だからただの眼鏡じゃないわよね」

「よくわかったな。そいつの名は"ウマウタ―"騎神のステータスを暴く優れものだ」

「スカウターのパクリですね。使用方法は」

「調べたいウマ娘を見ながら右横にあるスイッチを押してみろ」

「とりあえず母さんで試してみますか、ポチっと」

 

 

 サイバスター 『天』

 

 スピード∞ スタミナ∞ パワー∞ 根性∞ 賢さ∞

 

 

「ちょwwwなんか凄いけどヒドイwww∞(無限)てなにさ」

「そんなにおかしいの?ショックなんだけど」

「それはあくまでも試作品。今後はスキルや使用する技すら見破れる物を作る」

「プライバシーの侵害じゃろそれ。そんなもん市場にばら撒くでないぞ」

「商品化した場合は制限をかけるに気まっているだろ。私を誰だと思っている」

「売る気満々じゃねぇか」

「マサ君私にもやってみてくれる」

「ネオさん。じゃあいきますよ」

 

 

 ネオグランゾン 『天』

 

 スピード∞ スタミナ∞ パワー∞ 根性∞ 賢さ∞

 

 

「一緒やwwwもう笑うしかないwww」

「本来なら∞の所にSS~Gまでのアルファベットでランクが表示される」

 

 ちなみにグラさんも∞だらけだった。

 

「スマホを貸せ、私が開発したアプリ"騎神レーダー"を仕込んでやる」

「レーダー?それなら俺も一応使えるよ」

「マサキ、あなたが自分で広範囲をサーチすると間違いなく警戒される」

「マサ君の覇気に恐れを無して逃げたり隠れたりしちゃうわね」

「そういうのはもう少し覇気制御に慣れてからするんじゃな」

「了解。そのアプリがあれば簡単に騎神が見つかるのか?」

「もちろんと言いたいが、こいつはすこぶる精度が悪くてな。騎神が本気で覇気を隠匿している場合はまったく反応しない」

「あらら、そんなうまい話はなかったか」

「手がかりが無い時はウマウタ―とレーダーを使ってみろ、気休め程度にはなるだろう。だが覚えておけ、基本はお前自身で良質な覇気の持ち主を探せ」

「なんとかなるわよ。強い覇気を持つ者同士は惹かれ合う運命だから」

「スタンド使いかよ・・・」

 

 道具に頼り過ぎるのは良くないと道具を用意した博士が教えてくれました。

 そうだな。大事な事は直感で決めるで間違いないだろう。

 クロとシロがアルクオンより早く俺を見つけたのも惹かれ会った結果だと思うし。

 

「最終確認よ。これからのあなたがやるべき事を言ってみて」

「おうよ。俺はこれから・・・・」

 

 〇旅のしおり

 

 目的 愛バ達二名を昏睡状態から救う ※俺の武者修行を兼ねる

 

 やることリスト

 

 ・多くの騎神または騎神候補から良質な覇気を提供してもらう

  ※強い因子を厳選するためにも手あたり次第はNG

   自分がピンときた相手からドレインする事、直感を信じろ

 

 ・愛バ達に覇気を供給する(オートで行われるため特に何かする必要なし)

 

 ・天級騎神ガッデスとザムジードの捜索

  ※両者からの覇気提供は愛バの覚醒に大きく影響すると判断

   可能であれば両者から知識と技術学ぶ

 

 ・愛バ達から長期間物理的に距離をとり二人の覇気調整を邪魔しない

  ※3年間を推奨。辛すぎる。

   愛バロスによる禁断症状が出る恐れあり

 

 ・むやみに覇気を開放しない事

  

 

「こんな所かな」

「天級、ガー子とザム吉に会ったら限界まで覇気を絞り取りなさい。私が許可する」

「その二人に何か恨みでもあるの?」

「ザム吉にはないわよ、ガー子は・・・早く借金返して欲しいわね」

「行方不明の天級騎神、俺に見つけられるか」

「私達が直接行くと気取られて逃走されるのがオチなのよ。マサキだからこそ見つけられると信じてるわ」

「日本中を隅々まで探がせば見つかるじゃろ」

「長い旅になりそうね」

 

 やる事は決まった、準備も完了。

 

「行ってくるよクロ、シロ」

 

 辛い・・・こいつらに当分会えないなんて・・・。

 

「アーマー俺がいない間二人を頼む、守ってやってくれ」

「・・・最重要任務了解」

「お前も元気でな」

 

 我が家の新しい一員となったアーマーに二人の守護を頼む。

 母さんがいれば十分だけど見守る人数は多くても困らないだろう。

 

「迎えに来たよマサキ君」

「パパさん・・・今、行きます」

 

 最後に二人を一撫でして家を後にする。

 穏やかな寝顔だ・・・絶対に忘れない。

 

「もう行くよ、クロとシロを頼むね母さん」

「任せてなさい。あなたは自分のなすべき事に集中しなさい」

「気を付けてねマサ君。シュウ君がサポートしてくれるからきっと大丈夫よ」

「朗報を期待しておるぞ。良い旅をな」

「ありがとう・・・行ってきます」

 

 母さん達に見送られ迎えの車に乗り込む。

 まずはヒリュウへ行く。

 

「いつまでたっても子離れできん奴らだ」

「ビアン博士、いたんですか」

「ヒリュウで家まで送れ、問題ないなサトノ家頭首」

「ええ、かまいませんよ。娘が世話になりましたからね」

 

 俺達が到着後すぐにヒリュウは発艦した。

 

「まずはどこを目指そうか?宛はあるのかい」

「正直どこから探せばいいのか見当もつきません。どうせ日本中巡るのなら北から攻めてみようかと」

「北か、北海道でいいかい」

「はい。それでお願いします」

「進路はきまったな。操舵手に伝えておくよ」

 

 乗艦してすぐ博士は睡眠不足なのか割り当てられた部屋で爆睡中。

 俺は今、最初にパパさんと会った畳のある部屋にいた。

 姿勢を正して座りパパさんと向かい合う。

 

「もっと早くにこうすべきでした」

「改まってどうしたんだい」

「サトノ家頭首、サトノドウゲン。娘さん達を俺に下さい」

「・・・本当に君は気持ちのいい男だな」

 

 「少し聞いてくれるかい」とパパさんが言った。

 

「ブラックとダイヤが君を連れて来た時は驚いたよ。まさか本当に操者を見つけてくるとは、そしてあんなに心を許しているなんて。夢でも見ているんじゃないかと思ったよ」

「そ、そんなにですか」

「親の贔屓目かもしれないが二人は本当に優秀でね。突発的にとんでもない行動をする事もあるが、自分の力と立場をよく理解していた」

「わかります」

「大人顔負けで何でも卒なくこなす良く出来た子供、出来過ぎたが故にどこか冷めたような、いつも退屈そうな顔をしていたよ」

「・・・・」

「それがどうだ。君の前ではあんなに笑って泣いて・・・二人にとって君がどんなに大切か伝わったよ」

「・・・光栄です」

「互いに離婚を経験し今も仕事にかまけて娘達に寂しい思いをさせた。償いというわけではないが、親である私ができる事は二人の意思を尊重し見守ってやることだけだ」

 

「サトノ家頭首として一人の父親としてお願いする」

 

「どうか娘達をもらってやってくれないか」

 

 頭を下げてお願いされる。その姿からは娘を思う気持ちが痛いほど伝わった。

 

「最初に自分で下さいと言っておいてなんですが、俺も二人の意思を第一に考えたい。もし目覚めた二人が俺を必要としない時、他に好きな奴ができた時は潔く身を引くつもりです」

「そんな事ありえないと思うがね」

「あいつらはまだ若いですから、俺一人に縛り付けて可能性を狭める必要はありません」

「君以上の人材が今後現れる保証は無いよ」

「だとしてもです。俺は二人に出会えて本当に良かったと思っています。あいつらには幸せになって欲しいんですよ」

「・・・まったく、君には敵わないな」

「目覚めた二人にちゃんと聞いてみるつもりです。今でも俺が必要かと」

「二人が君と共にある事を望んだ場合は?」

「その時は・・・パパさんが泣いても返しませんよ」

「それでいい」

 

 待ってろよクロシロ。

 



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きたのだいち

 旅の始まり。

 

「またか、またやるのか」

「すまないね。グランヴェールがつけた傷が今になって響くとは」

「おい、目標地点まであと少しだ覚悟を決めろ」

「わかった!わかりましたよ!飛べばいいんでしょ飛べば!」

 

 故郷のラ・ギアスを後にしてしばらく。

 順調に航行を続けていたヒリュウに突然のトラブル。

 どうやらグラさんの攻撃は外部装甲を焦がしただけでは飽き足らず、強大すぎる覇気が内部の機器をいくつか破損させていたみたいだ。

 それで海に突っ込む事になったのだが、俺を途中で降ろすらしい。

 正確に言えば着陸できる場所を探してる場合じゃないので、お前だけここから飛び降りろだ。

 

「今回はパラシュート絶対持っていくからな」

「もう時間が無いぞ。準備はいいか小僧」

「全然良くありませんが!パパさん、ビアン博士お世話になりました!」

「ああ、君の帰りを娘達と待っているよ」

「ほら!さっさと行け!GOGOGOGO!!!」

「うるせぇ!行くぞ!アイ・キャン・フラーイ!」

 

 さようならヒリュウまた逢う日まで。

 

 スカイダイビング2回目。

 今回はクロシロもいないし体の自由はきく、パラシュートもバッチリだ。

 ちょっとは余裕があるかもな、おーもう大地が見えてきた。

 パラシュートを開くタイミングっていつなんだろう?

 確か早すぎても遅すぎてもダメだったような・・・もうちょっとだけ待つか。

 ・・・・も、もういいかな。ヤベェ緊張する。これかこれを引っ張れば。

 ふん!あれ?ふんふんふんふんぬわぁああああ・・・・。

 おい、いい加減にしろよ。開かねぇよ!パラシュート不発ってどういう事だよ。

 まったくヒリュウは安全管理がなっとらん!

 今すぐ装備の点検その他について徹底的に見直すべきだ!

 

「むやみに覇気を開放するなって言われても、な!」

 

 全身のコーティングを開始、耐久性をあげる。

 しまったパラシュートがあると思っていたから突っ込む場所を考慮していなかった。

 ええと、あそこでいいや。後は衝撃に備えよー。

 て・・・待て待て待て!誰かいるぞ、こんな山奥に!

 このままじゃちょうどあの人?に衝突する!空中での進路変更なんて習ってねえよ!

 気づけ!気づいてくれ!ダメか。

 今日の天気は晴れときどき俺ですけど何か?言ってる場合か。

 距離が迫る、はい時間切れ!

 

「初日で使うとはな・・・シルフィードアクセル!!!」

 

 1日1回が限度のアクセル(風)を早速使用してしまった。

 片足から疾風を発生させて無理やり位置をずらす。

 衝突するはずだった人間を飛び越えて地面に突っ込む。

 地面にキスする直前、その人物と目が合った気がした。

 

「あわ・・・あわわ・・・」

「ぐへぇ・・・大地の味がする。ぺっぺっ!あ~なんとかなった」

「人?・・・は!そ、そうだ大丈夫ですか!生きてますか」

「そっちこそな。お騒がせしてすまない、どうも怪しい者です」

「正直だべこの人!その見るからに怪しいあなたはいったい・・・」

「俺か?俺は愛バを救うため旅の第一歩を踏み出した男だ」

「へぇーそんなんですか。へぇー」

「あ、信じてないね。その目やめなさい興奮するから」

「変な人・・・でも地面に激突してこんなに元気って普通じゃない」

「えーとお嬢さん。この辺に人が集まる所はないかな?」

「ここは集落からも離れた山奥ですよ。近くにあるのは私とお母ちゃんの家だけです」

「そうか・・・なあ良ければ君の家に案内し・・・」

「・・・あげません」

「はい?」

「案内してあげません!!!」

 

 目を見開いて「あげません!」と言い放つと同時に脱兎のごとく駆けだす少女。

 そう少女・・・風になびく耳と尻尾、気づくのが遅れた。

 第一ウマ娘発見!

 

「待てこら!逃がすか!」

「ちょ、ついて来ないで下さい!」

「こんな山奥に人間を放置して逃げるとか、とんでもない奴だな!」

「こんな山奥で子供を追いかけ回すあなたの方が、とんでもないです!!」

 

 うっそだろ?この子速い!

 覇気を制限しているとは言え、メジロ家の使用人を撒いた俺の足でもやっとだ。

 

「なんでそんなに速いんですか!?本当に人間ですか!」

「こっちのセリフじゃ!お前騎神か?級位を吐け!」

「きしん?何ですかそれ」

「知らねぇのかよ!じゃあ他のウマ娘に比べてどうだ?お前かなり強いだろ」

「・・・いませんよ」

「あ゛なんだって?」

「私の周りにウマ娘はいません。だから比べようがないんです」

「そ、そうか・・・ウマ娘じゃなくてボッチ娘だったか」

「今バカにしましたね。いいんです!私にはお母ちゃんや集落の皆がいるから」

「わかったわかったから、そろそろ止まれ!疲れてきた・・・げほ、うおぇ」

「仕方ないですね。大丈夫ですか?幼女追跡男さん」

「変な名前をつけるな!あ~空から落ちて急に走ったからマジしんどい」

「あの~もしかして、私にぶつからないように避けてくれました?」

「今頃気づいたか!感謝しろよ!ボッチ娘」

「ボッチて言うな!空から落ちてきたあなたも悪いですからね」

 

 なんだ・・・この撃てば響くような感覚は。

 まるであいつらがいるみたいだ。

 初日なのにもうクロとシロが恋しくなるじゃねぇかよ。

 

「え、なに泣きそうになってるんですか?情緒不安定?」

「はぁ?泣いてねぇわ!とりあえずこの山に放置されると困るんだ。助けてください!」

「はぁ~仕方無いですね。こっちですよ、ついてきてください」

「あ、ありがとう。感謝する・・・えーと」

「人に名前を聞くときは、まずどうするんでしたっけ?」

「俺の名前はアンドウマサキだ。コンゴトモヨロシク」

「はい、よくできました。マサキさんでいいですね」

「おうよ。で君の名は?」

「ただの田舎ボッチ娘ですが何か?」

「意外と根に持つタイプだったか。ごめんなさい!許して!この通りです!」

「そんな簡単に土下座しないでくださいよ!ああもう!」

 

「私の名前はスぺシャルウィークです!ほら、もう立ってください」

 

 これが旅の始まり・・・。

 記念すべきENドレイン第1号となるウマ娘との出会いだった。

 

「スペシャルウィークか・・・スぺスぺスぺ・・・・」

「あ、なんか嫌な予感がします」

「なあ、ペスって呼んでいい?」

「ほら来た!ぺスって・・・そんな弱そうな犬みたいな名前」

「じゃあペスト」

「黒死病は絶対にヤメロ!!!なんでネズミが媒介する伝染病の名前つけんるですか!!!」

「博識なのね。冗談だよ、特別週間さん?」

「マジで張り倒しますよ。スぺです。スぺ!皆そう呼びますから」

「ペスとあんまり変わらないじゃん」

「北海道の山は寒いですよ、気を付けて野宿してくださいね。じゃあ私はこれで」

「すみません!調子乗ってました!どうかお助け下さい!スぺ様!」

「はぁ~ホント何なのこの人」

 

 怒られちゃった。

 何かこのやり取りがたまらなく懐かしくて調子に乗ってしまった。

 本当に懐かしい、つい最近の事なのにな。あいつらと過ごした時間はそれほど濃かった。

 

 森をかき分けながら進む事しばらく。

 一見の民家にたどり着いた。古いけどよく手入れの行き届いた暖かみのある住まい。

 

「ただいまーお母ちゃん。今帰ったよー」

「お帰り・・・その男は誰だい?」

「初めまして。私の名はアンドウマサキ。空から落ちて来て娘さんを追いかけ回した男です」

「スぺ!危ないから家に入ってな。それから警察に連絡だ」

「もう!正直に言ったのにこれだよ!」

「お母ちゃん。その人頭は残念だけど困っているみたいだから、話だけでも聞いてあげて」

「・・・妙な真似したら叩き出すよ」

「望む所です。その時は尻を思いっきりぶっ叩く権利をあげます!」

「「大丈夫かこいつ?」」

 

 スぺのお宅訪問。

 ほほ~う綺麗に片付いていますな。妙に落ち着くわ~この家。

 

「お茶入れますね。えーと急須はこれかな」

「ちょっと人の家でなに勝手にお茶入れてるんですか。あ、茶葉はそこの戸棚です」

「お母さんも飲むでしょ。まあ座って待ってなさいな」

「ここまで堂々とされると逆に清々しいね」

 

 3人分お茶を入れてちゃぶ台に置く。

 お茶を飲みながら俺がどうして空から落ちて来たのか事情を説明した。

 

「へぇー愛バとやらを救うための旅に出たのかい。へぇー」

「娘さんと同じリアクションどうも。本当なんですって!」

「ウマ娘のええと覇気?が必要なんですね」

「そう!だから騎神・・・強いウマ娘を探して協力してもらいたいんです」

「そうは言ってもねぇ。騎神の知り合いなんていないよ」

「集落にウマ娘はいないんですよね?」

「ああそうさ。ここいらで探すよりもう少し都会に出た方がいい」

「そっかぁ。・・・わかりました。あの最寄りで駅などがあれば教えてくれませんか?」

「ここからだとかなり距離があるよ。それでもいいのかい」

「大丈夫です。脚力には自信があるんで」

 

 駅までの道を聞くことができた。

 よし!早速出発だ!

 

「ありがとうございます。では俺は行きます!お邪魔しましたぁー」

「あ・・・行っちゃった」

「変わった奴だね。スぺ、あんまり変なもの拾ってきちゃダメだよ」

「はーい」

 

 数時間後

 

「あ」

「あ」

「なぜだ・・・俺は駅に向かったはず。どうして戻ってきてしまったんだ?教えてくれスぺ!」

「知りませんよ!なんで・・・というか何があったんです?服がボロボロですけど」

「ああ、聞いてくれ。確かに駅に向かったのに、森の中をずっと彷徨うわ、熊に遭遇するわ、崖から落ちるわ、とにかく大変だったんだ」

「ほぼ一本道なのになんで迷うんですか。おや・・・血の臭いがしますね」

「熊が余りにしつこいから、思わず殺っちゃったぞ」

「なんてこと・・・死体の場所を教えて下さい。やった!熊鍋なんて久しぶり!」

「逞しい!ところでスぺさん、お母さまは?」

「お母ちゃんは集落の会合へ行ったので留守ですよ」

「ええー、もう一回道聞こうと思ったのに」

「地図ありますか?私が教えてあげますよ」

「スぺ、お前は出来る奴だと思っていたぜ。お願いします」

「はいはい。よく聞いてくださいね。えーと現在位置がここですから・・・」

 

 スぺに懇切丁寧に教えてもらって再出発、今度こそ!

 スぺの奴「もう戻ってくるなよ」みたいな顔してたな。

 

 数時間後

 

「あ」

「あ」

「なんでだぁあああああああ!!!」

「叫びたいのは私ですよ!わざとやってるでしょ!ねぇ!そうなんでしょ!」

「何が悲しゅうて数時間森を彷徨って元の場所に戻る遊びを2回もやるんだよ!わざとじゃねーよ!」

「マサキさん、あなた方向音痴ですね。重度のいや末期の!」

「べべべ、別にほ、方向音痴なんかじゃありませんのことよ」

「嘘下手すぎ!そうだスマホあるなら地図アプリでナビしてもらえば」

「フッ、とっくの昔に試したさ。それでも無理なんだよ!ちなみに今は人生の方向音痴でもある」

「もうやだ、今すぐ病院に行ってください!頭の!」

「辿り着ければな」

「うるせぇよ!もう一回教えます。ラストチャンスですからね」

「ありがとう!なぁ熊どうした?」

「もう解体済みですよ。あなたが死体の場所を覚えていれば、もっと早く完了してました」

「あの、服に血が飛び散ってかなりグロい絵面になってますよ」

「生き物を解体したんですよ?血がつくのは当たり前でしょ」

「こ、これが山育ちか・・・」ゴクリ

 

 俺も田舎に住んでいたがここまでワイルドな子は初めて見た。

 血が付着した衣服を着ていても、生まれ持った容姿でちょっと綺麗というかカッコよく見える。

 ふむ。戦場を駆け抜ける殺戮幼女か・・・クロとシロも似合いそうな・・・ていかんいかん。

 ダメだ隙あらばあいつらの事を考えてしまう。

 せっかくスぺが道を教えてくれるのに頭に入らない。

 

「聞いてるんですか?やる気がないなら永遠に森を彷徨ってくださいね」

「す、すみません。どうか見捨てないで」

「待ちな!」

「お、お母さま・・・」

「今日はもう止めておくんだね。もうすっかり夜だし、泊まっていきな。明日車で送って行ってやるよ」

「ありがたい申し出ですが。いいんですか?こんなヤバい男を泊めるなんて!」

「自分で言ってりゃ世話ないね。どうせ道を教えた所で数時間後また戻って来るんだろ」

「・・・てへっ」

「スぺ、アンタの部屋に泊めてやりな。布団は用意してやるから」

「お母ちゃん!なに血迷っているの!娘が襲われてもいいの!」

「わかっておくれよスぺ。お母ちゃんだってこの男に襲われたくないの」

「う~ん失礼な親子だな~」

「だからってこの人と同じ部屋で寝る意味がわからない!」

「あんたはウマ娘、とっても強い子だ。いざとなれば自分の身は守れる。私はか弱い人間なんだよ」

「天国のお母ちゃん1号に報告してやる!2号は私を生贄にしたって」

「頑張るんだよスぺ。信じているからね」

「ねぇ風呂沸かしてもいい?早く入りたいんだけど」

「もう疲れた。好きにしてください」

 

 お泊り決定。

 お世話になる身なので家事のお手伝いはしっかりやる。

 お風呂を洗って沸かす、夕飯の調理を手伝う。スぺの部屋に布団を持ち込む。

 テレビを見て和んでいると一番風呂に入っていいとお声がかかったので遠慮なく入る。

 ふぃー、思ったより大きめの風呂だな、あ~今日の疲れが取れていく~・・・。

 

「いいお湯でしたわ~」

「前を隠せ前を!羞恥心をどこに忘れてきたんですか」

「大自然に囲まれて少々解放的になっています。ご理解ください」

「理解できるか!着替えは無いんですか?」

「そこのでかいカバンの中だよ。ちょっと通りますよ」

「私は今何を見せられているんだろう。お母ちゃん・・・ガン見しすぎだよ」

 

 カバンから下着を取り出して履く。もうパンいちでもいいじゃない。ダメ?

 スぺが俺の首をチラチラ見ている。お母さまは俺の"うまだっち"をガン見していた。

 

「その傷なんですか?毒虫にでも噛まれたんですか?」

「毒虫はヒドイ!これはな、とってもカワイイ生き物に噛まれた記念なんだよ」

「カワイイ生き物?ダイオウグソクムシに噛まれたんですか、本当に変わっていますね」

「カワイイ生き物のチョイスが・・・いやよく見たらグソクムシ可愛いかも」

 

 その日の夕食は謎の獣肉がメインのジビエ料理だった。

 少々癖があるが美味い。こんなの食って育ったらそりゃワイルドになるわ。

 驚いたのはスぺの食事量だ・・・山盛りのご飯、リアルで初めて見た。

 確かにウマ娘は健啖家が多いがこいつは余りにも・・・。

 じっと見つめる俺におかずを取られると思ったスぺが「あげません!」と叫んだ。

 持ちネタなのかな。

 

 夕食後スぺが入浴中にお母さまとトークタイム。

 お母さまの本名は禁足事項なのだとか。察しろ!!!

 

「失礼ですが、スぺはあなたの実子では無いのでは?」

「わかるのかい。そうさあの子は私の親友の忘れ形見だよ」

「やっぱり。スぺの覇気とあなたの覇気でも質が違いすぎる」

「あの子の本当の親は騎神だったのさ。私は操者でもないただの人間」

「スぺを騎神にするつもりは無いんですか?」

「正直、あの子に危険な真似はして欲しくなくてね。だがいい機会かも知れない」

「いい機会?」

「アンタがここに現れたのも何かの縁だろう。親友との約束を果たす時がきたのかもね」

「どんな約束か聞いてもいいですか?」

「スぺを立派なウマ娘に育ててくれってさ。騎神じゃなくてもそれは出来ると思っていたが、血は争えないね。あの子はとっても強い、本当ならこんな山奥にいて良い逸材じゃないんだよ」

 

 今まで他のウマ娘と関わっていない癖に、あの身のこなし。

 我流や人間のお母さまとの訓練のみでアレならどんだけ才能を秘めているのやら。

 夕食中にウマウタ―でスキャンしたら級位の欄に『烈』が点滅。

 少なくとも烈級の実力はある。覇気も奥底に眠っているだけでかなりの・・・おや。

 

「そうだ!これはチャンスだ!お母さま、娘さんの覇気を頂きたいのですが」

「あの子が許可すればいいんじゃないのかい。そうだアンタ、スぺに教えてやってくれよ」

「教える?いや俺に教えらえる様な事は無いですよ!まだまだ修行中の身ですし」

「スぺはわたしの我儘で騎神や覇気についての情報をほとんど知らない。少しでいいんだアンタから教えてやって欲しい」

「俺もつい最近まで無知な一般人でした。そんな奴でよければ」

「ああそれでかまわないよ。そうだな駅まで送るのは3日後でどうだい。それまでの宿は提供しよう」

「交渉成立です。よろしくお願いします」

「二人とも・・・いつの間に仲良くなったの」

「お、スぺ上がったかい。いいか今日からこの人はアンタの先生だよ」

「は?意味がわからない」

「騎神になるんだよスぺ」

「どうも先生になったマサキです」

「ああ、私の平和な日常が崩れ去って行く」

 

 お母さまの許可を頂いたのでちょっとだけ滞在する事に。

 今夜からスぺの部屋で寝泊まりします。

 

「変な事したら問答無用で反撃しますからね。私、熊ぐらいなら楽勝ですから」

「フッ、それが脅しになっていると思っている内は、まだまだだな」

「はいはい。一応信じてますからね、田舎娘の信頼を裏切る鬼畜でない事を願います」

「何から教えたらいいかな。今まで教えてもらうばっかだから難しいな」

「明日からにしません?自慢じゃないですけど私あんまり頭よくないです」

「俺もだ、だから悩んでいる。う~んどうしたら」

「もう寝ましょうよ。今日は空から落ちて来た妙な人間を拾ったせいで疲れているんです」

「マジでごめん!うん寝よう。おやすみ~」

「おやすみなさい。いびきかかないでくださいよ」

「へーい」

 

 旅の1日目はこんな感じ。

 夢の中でならあいつらに会ってもいいよな。

 

 

 緊張して眠れない。

 だって今日知り合ったばかりの男がすぐ隣で寝ているんだよ。

 いったいお母ちゃんは何を考えているの。

 ああダメだ。喉が渇いて来た、何が飲みに行こう。

 寝る前にあまり水分を取るのはどうかと思ったが今日ぐらいはいいだろ。

 マサキを起こさないようにそぉーと布団から抜け出す。

 よしよし!起きて来ないでよめんどくさいから。

 

「・・・・クロ、シロ」

 

 不意に聞こえた呟き、何だ寝言か。

 

「!?」

 

 初めて見る男の寝顔、そこに一滴の涙が流れるのを見てしまった。

 泣いてる、なんで?悲しい夢でも見たの。

 なにか自分が見てはいけない物を見てしまった気がして、そっとその場を離れた。

 

「おや、眠れないのかいスぺ」

「うん。隣にあの人がいるからね」

「そうか。あいつはもう寝たのかい」

「もうグッスリだよ。初対面の女の子の部屋で爆睡してる」

「あはは。良かったじゃないか襲われる心配はなさそうだね」

「お母ちゃん。何であの人を私に関わらせようとするの」

「・・・似てるんだよアンタの実親に」

「ちょっとやめてよね。どこがどう似てるの、怒るよ」

「姿強いて言えばあの目だ。あれは大切な何かのために自分を犠牲にできる奴の目だよ」

「天国のお母ちゃんがそうだったの」

「ああ、病弱な癖に騎神になってのもそう。周囲の反対を押し切ってアンタを産んだのもそうだよ」

「そうなんだ・・・あの人にもあるんだね。大切なもの」

「誰にだってあるさ、さあもう寝な。明日も早いよ」

 

 冷蔵庫から取り出した麦茶を一杯だけ飲んで部屋に戻ろうとする。

 ふと気になったので聞いてみた。

 

「あの人ね・・・寝ながら泣いてたの、なんでなのかな」

「さぁね。夢の中で大切な何かを思い出したのかもね」

 

 その涙は嬉しいから?それとも悲しいから?

 出来の悪い頭で考えても答えは出なかった。

 

 



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しっぽおに

 スぺの家に滞在する事になりました。

 

「起きて、起きてください」

「あ~うるせぇぞクロまだ寝かせて。シロいるんだろ一緒に2度寝しようぜ」

「誰と間違えているんですか。私はスぺです」

「え、はっ!ここは・・・そうか夢だったか」

「起きましたね。さっさと顔を洗って下さい」

「うぃ~す」

 

 準備の良い俺はお泊りセットも用意してます。

 歯ブラシ貸して?とか流石に言いたくないよ。

 朝の身支度をさっと済ませてと。

 

「おはよう。起きたばかりで悪いが出かけるよ」

「おはようございます。何処へ?」

「ついてくればわかるさ」

 

 時間は早朝5時前だ。朝早いと空気が澄んでいるような気がするのは俺だけか。

 お母さまの車で連れて来られた場所は巨大な農場。

 既に何人か作業に取り掛かっている人達もいる。

 

「朝飯前に悪いね。まずはこの畑を耕すのを手伝ってもらおうか」

「全然かまいませんよ。実家でもよくやっていたんで」

 

 母さんは一人で広大な土地を全て管理していたからな。

 俺もたまに手伝ったが作業のスピードが全然違った。

 

「お母ちゃん。私はいつものでいい?」

「ああ、スぺはそっち側を頼むよ。後マサキの面倒を見てやってくれ」

「仕方ないなあ。ほら、行きましょう」

「うっす。よろしくお願いします」

 

 ウマ娘は・・・スぺのみか。

 広い畑を農機具を使って耕す人々。俺とスぺの前には荒れた土地が広がっていた。

 

「あら、畑手伝わなくていいの?」

「そっちはお母ちゃん達に任せましょう。私達はここを耕します」

「機械を使わずにか、骨が折れそうだ」

「ちょっとやってみますね」

 

 スぺの体には不釣り合いなほど大型のクワを持って荒れ地を耕していく。

 無意識でやっているのか?覇気をしっかりクワに通して使っている。

 一定のリズムでテンポよく均等な感覚を空けてどんどん耕していく。

 早い、耕運機なんかより全然早いわ。

 

「こんな感じでお願いします。最初は無理しないで丁寧にやっていきましょう」

「了解。よーしやりますか」

 

 今の俺なら素手でも出来そうだが、スぺに倣ってちゃんとクワを使おう。

 

「よっと、ほいっと、こんな感じか?」

「おお、いいですいいです。なんだ上手いじゃないですか」

 

 久しぶりだけどちょこっとだけ経験者だからな。

 しかし、これは意外と修練になるぞ。

 決められた量の覇気を効率よく得物に浸透させて使いこなす。

 クワを振り下ろす動作は体幹を鍛えるのにも良さそうだ。

 自分にあったルールを設定して作業すればどんな仕事も修練に早変わりだ。

 

「調子に乗ると腰にきそうだな。後でストレッチしておこう」

「さあ、どんどん行きますよ」

 

 二人でやると思ったよりも早く片付いた。

 お母さま達は俺とスぺの働きっぷりに感心していた。

 

 朝食がわりのおにぎりを頂いてから作業再開。

 スぺの分が笑えるほどでかかったので写真を撮った。

 

 お昼、一旦帰宅して昼食を食べる。

 俺は朝あんまり食べない派なので昼は少なめにした。

 そんな俺をスぺは信じられないといった顔で見ていた。

 信じられないのはお前の食欲だよ。この家のエンゲル係数ヤバいだろ。

 

 お母さまはまた農場に戻るらしい。

 俺とスぺは早速授業開始じゃ。

 滞在中はは早朝~昼まで農作業、昼~夜までスぺと修練のスケジュールになるかな。

 こんな山奥では子供の人数が少ないのでスぺは月に2、3回各集落の子供を纏めた学校もどきに参加するのみだとの事。そこにもウマ娘はいないらしい。

 

「じゃあ始めるぞ。まずは座学からだ、えーとまずは騎神とはなんぞやから」

「先生!それは体を動かしながらやった方がいいと思います」

「スぺさん。まだ開始1分ですよ、ちょっとは話聞いてよ」

「最初が肝心だと思うんです。だから今からは体育にしましょう」

「こいつ体育や図工以外は寝てるタイプだ。厄介な」

「ねぇいいでしょ。先生ったら~」

「仕方ない。今日だけだぞ、で何がしたい」

「昨日の追いかけっこ楽しかったから、マサキさんと勝負したいな」

「ほう。ならばウマ娘ならば誰もが経験する遊び、尻尾鬼をやろうか」

「しっぽおに!なにそれ私やった事ないよ」

「これは本来ウマ娘通しでやる遊びだ。ルールは簡単、鬼役と逃げる役を決める。制限時間内に相手のしっぽを掴めば鬼に得点が入る、何度か交互にやって特典が多ければ勝ちだ」

「でもマサキさん尻尾ないよ。ズボンはぎ取ったらいいの」

「やめてよね!尻尾が無い人間はこうするんだ」

 

 長めのタオルを腰に括り付けて尻尾の代わりとする。

 母さん達とよく遊んだっけか。メッチャ手加減されてたけど楽しかった。

 この遊びは地方でちょっとづつルールが違ったりするらしいが、基本は一緒。

 走る、相手を追いかける、掴まれないように避ける等々。

 楽しく遊びながらウマ娘の体を鍛えるのに絶好の遊びなのだ。

 ルールを厳しく設定すれば騎神の修練にもなります。

 ウマ娘の本能を刺激する定番の遊戯、それが尻尾鬼。

 

「最初はどっちが鬼をやる」

「私!私がやりたいです」

「OK。1ラウンド制限時間は5分だ」

「うん。いつでもいいよ」

 

 スマホのアラームをセットしてと。

 音量は最大まで上げておこうか。

 

「じゃあ、開始だ!」

「・・・ふっ!」

 

 開始の宣言と同時に突っ込んで来るスぺ。愚直なまでに真っ直ぐだな。

 ヒョイっと躱す。

 すぐさま次の攻撃に移るスぺ。

 

「尻尾以外にタッチしてもノーカンだからな」

「わかってますよ!」

「そうだ、どんどん来い」

「ちょこまかと・・・」

 

 アラームが鳴る。

 スぺの攻撃を全て躱した俺。うん動きは悪くないな。

 

「ハア・・ハア・・・次は私が逃げる番ですね」

「そうだな。フィールドを広く使って逃げ回るか、鬼の動きに注意して避けまくる(接近戦)戦法、どちらを選ぶのかは自由だ」

「森をフル活用すれば地の利は私にありますが、接近戦で行こうかな。カバディみたいで楽しいし」

「よっし。2ラウンド目行くぞ」

「はい。お願いします」

 

 俺の攻撃!スぺは体全体を上手に使って避けまくる。

 さすがは野生児、アクロバティックな動きでこちらを翻弄する。

 

「良い感じだぞ。そのまま動き続けろ」

「はい!・・・わわ」

「こっちをよく観察しろ、視線、筋肉の動き、覇気の流れ、相手の動きを予測するんだ。ほいキャッチ!」

「あ!なんで?・・・ハメましたね」

「簡単な視線誘導に引っかかったな。そういう読み合いも覚えて行かないとな」

「悔しい!もう一本お願いします」

「やる気があって大変よろしい。じゃあ今度は・・・」

 

 その後は一層やる気を出したスぺと楽しく遊んだ。

 途中で俺も本気になってしまうぐらい熱中した。楽しい、本当に楽しい。

 いつかあいつらとも尻尾鬼が出来たらいいな。

 

「誰かと本気で遊ぶのってこんなに楽しいんですね。知らなかったな」

「同年代の子供と遊んだ事は無いのか」

「人間の子供と遊ぶ機会はありましたよ。でも今日みたいに手加減抜きで遊んだのは初めてです」

「それで普段は単独で野山を駆け巡っていたと」

「今じゃこの山で最強の生物は私だと思いますよ」

「世界は広いぞ、お前より強い奴はたくさんいるからな」

「そっか、そうですよね。私以外のウマ娘・・・会いたいな」

 

 いずれは他のウマ娘と切磋琢磨した方がスぺのためになるか。

 

 尻尾鬼の後は騎神や級位の説明をした。

 頭が悪いと自称していたがもの覚えは俺よりマシだった。

 

「今からお前の覇気を開放してみる。覚悟はいいか」

「えっと、大丈夫なんでしょうね。誰かの覇気を開放した経験は?」

「今日が初めてだ。おい!逃げるなよ~危険と判断したらすぐ止めるから。お願い試させて」

「試す!?私を実験台にする気ですか、拒否します」

「覇気の開放が出来たら今よりもっと強くなるぞ」

「・・・・」

「騎神になる第一歩だよ~。お願い!ちょっとだけだから、痛くしないから」

「・・・信じますよ。やってください」

「ありがとうな。ではでは、リラックスして~」

 

 スぺの頭に手を置いて集中、覇気をゆっくり流していく。

 元々吸収より供給の方が得意なんだよな俺。

 

「・・・ん。なんか来てます」

「痛かったら右手を上げてください」

「歯医者か!私虫歯ゼロですよエッヘン!」

「そりゃ良かったな。続けるぞ」

 

 ちょっとづつ、ちょっとづつ・・・。

 これかな?覇気の中枢に到達したようだ。

 大事なのはイメージ、俺の覇気が鍵だ。覇気が渦巻いている部屋のロックを解除していく。

 ・・・カチリ。と音が聞こえた気がした。

 

「成功したか?て、うおっ!」

「な、なんです!なんなんですコレ!あわわわっ!」

 

 突然スぺの体から覇気が溢れ出す。

 長い間せき止められていた分が一気に出た感じか。

 

「落ち着いて。ゆっくり呼吸をするんだヒッ・ヒッ・フーてな具合に」

「今ラマーズ法は必要ありませんよ。待ってください、制御してみせます」

「ゆっくりでいいからな。いいぞ、とっても上手よ」

 

 スぺはすぐにコツを掴んだようだ。ありゃ?俺より全然上手いよこの子。

 そのまま覇気を出し入れしたり、体に纏ってみたり。

 その場で垂直にジャンプ。おお、高い高い。

 

「凄いです!コレ!見てくださいよ。体が軽い、うう~我慢できません!ちょっと行ってきます!」

「どこに?あ、ちょっと待って」

 

 全身に覇気をみなぎらせて走り出すスぺ。

 草原を駆け抜けそのまま森へ突っ込んで行く。

 元気だねー。追いかけた方がいいのか?森の木々が倒れる音がするし。

 あ、帰ってきた。

 

「はぁー最高ですよ。心も体も開放された気分で・・・ととと」

「いきなり無茶すんな。ケガでもしたら大変でしょうが」

「この通りピンピンしてますよ。心配性ですね・・・あれ」

 

 少しふらついたスぺを受け止める。

 

「今日はもう帰ろうぜ、暗くなるとお母ちゃんが心配するぞ。おいどうした?」

「・・・あの、体が動きません」

「どれどれ・・・心配ないよ。覇気はちゃんと全身に流れている。今は体に馴染んでいってる最中だろう」

「しばらくこのままですか、困りました。家まで運んでくれてもいいんですよ」

「はいはい」

 

 スぺを抱っこして帰宅する。

 

「そっちじゃない!本当に方向感覚が狂っていますね」

「ごめんなさい!ナビをお願いします」

 

 今更だが一人旅で方向音痴は致命的ではないだろうか?訓練して治るのもんなのかコレ?

 

「・・・微かに残るこの匂いは」

「え、臭かった?ゴメン・・・しばらく無呼吸で我慢してくれ」

「窒息しろと!?悪臭じゃなくて、なんだろうマサキさん以外の匂い?」

「それは俺の愛バ達だよ。よく抱っこしてやったんだ」

「なんか申し訳ないですね。匂いが主張してますよ、ここは私の場所だよって」

「ははは・・・あいつららしいな。後で土下座だな」

「主従関係どうなっているんですか?」

「主従なんて意識した事ないさ、あいつらとは対等でいたい」

「怒られるの私なんですからね。申し開きはしっかりお願いしますよ」

 

 いっぱいマーキングしていたもんな。もう俺の体に染みついているのかもしれない。

 

 今日の夕食は・・・出たよ、これが熊肉か・・・。

 

「処理が遅れたのでちょっと臭みがあるかも、いけそうですか?」

「全然いける。初めて食べたけど、あれだな滋養強壮に良さそう」

「どんどん食べな。なかなかの大物だったからね、スぺがいても余りあるさ」

「こっちもどうぞ。このにんじんはお母ちゃんの農場で取れたんですよ」

 

 熊鍋もにんじんも美味かった。

 今日は初めて覇気を開放して疲れたのかスぺはグッスリだった。

 

 滞在2日目

 

 今日からは覇気を使いながら修練をこなしていく。

 

「この森は私の庭です。追いつけますか?」

「くっそ!木から木へ飛び移りながら・・・猿かよ!お待ち!この野生児め・・・げ!?」

「そこ脆くなっているから注意です」

「遅いわ!落ちてから言うな」

「降参ですか?今日は10分でしたよね」

「残りまだ3分もあるわ!絶対捕まえる」

 

 覇気の使用を覚えてからスぺの動きが明らかに良くなった。

 元々の身体能力、大自然で鍛えられた身のこなし、そこに覇気が加わった。

 才能溢れる子の成長を間地かで見れるのはいい経験だ。こっちも頑張らないとって思う。

 

「マサキさん。本当はもっと覇気出せますよね、ちょっと全力出してみてください」

「疲れるから嫌ですー。それよりも集中なさいな」

「はい。せいっ!と、まさか人を殴る練習をするとは」

「熊は散々殴り飛ばして来たんだろ?今更何よ」

「あれは一種の生存競争ですよ。対人戦闘かぁ、必要な技能なんだよね。よし!いきますよー」

「その意気だ。ちょ、やめなさい!俺の"うまだっち"を狙うのやめなさい!」

「あいての急所を狙うのなんて当り前じゃないですか」

 

 躊躇なく股間を蹴り上げようとする野生児、恐ろしい子。

 

 この修練はスぺだけじゃなくて俺の分も兼ねている。

 現在、俺の覇気はスぺと同程度の出力に抑えぎみ。

 スぺのレベルに合わせつつ覇気制御の修業にもなってお得だ。

 出力を抑えた分、真剣にやらないとあっさりスぺに負けるなんて事もありえるから気は抜けない。

 

 3日目

 

 スぺが体調を崩した。少し熱っぽいらしい。

 本来であれば今日駅まで送って行ってもらう予定だったが、覇気を開放した弊害かもしれないので無理を言って滞在期間を延長させてもらった。

 翌日にはすっかり元気になっていたので一安心。

 

 5日目

 

 昨日は大事をとって休んだので今日から修練再開。

 

 組手が良い感じになってきた。飲み込みが早いし、教えられた事をしっかりものにできるセンスもある。

 

「その覇気で鞭を作るヤツ私もやってみたいです。んん~、ダメです全然出ません」

「まずは身体強化をしっかり出来るようになってからだ。焦っちゃだーめ」

「はーい。今日は何をして遊びますか」

「そうだねぇ。何がいいかねぇ・・・熊でも狩るか」

「熊もいいですけど、最近畑を荒らす猪が多いんです。猪狩り競争なんてどうですか」

 

「やった!掴めました、尻尾じゃなくてタオル!」

「やるじゃないの!俺も嬉しいぞ。・・・ちょっと休憩するか」

「お話の続きを聞かせてください。シュウさんはあの後どうなっちゃったの」

「檻から脱走したシュウは村の男連中にうまぴょいの布教を・・・」

「うまぴょい?」

「お母ちゃんに聞いてみな」

 

 6日目

 

「尻尾鬼って人間には不利だよな」

「タオルを尻尾みたいに動かせないからですか?」

「そうだよ。さっき掴もうとした直前で尻尾が俺の手を払いのけたんだ!卑怯じゃね」

「意識してやったんじゃないですよ。尻尾が勝手に動いたんです」

「ホントかよ「触んな!!」という明確な意志を感じたんだが」

「気のせいですよ気のせい」

 

「きゃー!なによアレ!ここの生態系どうなってんの?」

「ちょっと変わってますが熊ですよ。この山の主で私のライバルです」

「熊な訳ねーだろ!アレはゴリラだよ!それにしてもでかいな、突然変異か?」

「今の私ならば・・・勝負です!ゴリさん」

「ゴリって言っちゃってるじゃん!認めろよあれはゴリラだ、ゴ・リ・ラ!」

「鳴き声を聞きいてから判断して下さいよ。ちゃんと熊ですから」

「クマ―!」(心底人をバカにした顔をするゴリラ(仮))

「うっわ!めっちゃ腹立つ!スぺやっておしまい!」

 

 7日目

 

「覇気の制御は俺より上手いぐらいだ。うん、もう大丈夫だな」

「・・・はい」

「体も丈夫だしセンスもある。このまま修練を続ければきっと騎神になれるさ」

「・・・はい」

「今日はやけに大人しいな?どうした元気出して行こうぜ」

「明日、家を出ていくって・・・」

「旅の途中なんでな、いつまでも世話になる訳にはいかんよ。なんだ寂しいのか?」

「はい、寂しいです」

「おお、素直に言われると照れる」

「とっても楽しかった。こんなに付きっきりで遊んでくれた人は始めてです」

「一応、修練だったんだがな。心配しなくても、スぺならそのうち友達たくさんできるぞ」

「そうだといいですけどね」

 

「おっと、忘れる所だった。スぺお前の覇気を分けてくれないか?」

「授業料代わりにどうぞ。悪用はしないでくださいよ」

「ありがとう。では早速いただくぞ」

「なんで撫でるんですか?」

「こうすると上手くいくんだよ。嫌だったか?」

「嫌な訳ないですよ。さあやって下さい」

 

 ありがとなスぺ・・・。

 集中してと、お、来たぞ来たぞ。特に問題なく成功した。

 ん?この感じメジロのお嬢様達を撫でた時みたいだ。

 俺の奥底でパズルのピースがハマった気がした。ちゃんとクロとシロに届いたかな?

 

「もう終わりですか?成功したんですよね」

「ああ、良い感じだと思う。体は大丈夫か?気分が悪くなったりとかは無いか?」

「全然平気ですよ。・・・これで終わっちゃいましたね」

「どうする。帰る前にもう一回尻尾鬼する?して欲しい事があれば言ってみて」

「じゃあ、マサキさんの全力が見たいです」

「・・・あんま期待すんなよ。ちょっと見せるだけ、特別よ」

「はい」

 

 他ならぬ恩人の頼みだ、ちょっとぐらいいいよな。

 制限解除!漏れ出す覇気、光の粒子が周囲に拡散する。

 母さん達からもらった"天級の腕輪"(命名俺)はしっかり意識して覇気を流さないと反応しないのでセーフ。

 

「これでいいかな。そんな大したもんじゃないだろ」

「うわぁ。すごくキレイ・・・これが全部覇気なんだ」

「もういいか?」

「ちょっとそこの大岩を殴ってくれませんか?威力が見たいです」

「必要な分はみせたということだ、これ以上は見せぬ」

「そんな~」

 

 いつの日か騎神になったら見せてやるよ。

 

 夕食後、お母さまとスぺに話しておきたいことがあった。

 

「スぺ、トレセン学園を目指してみないか?」

「日本ウマ娘トレーニングセンター学園ですよね、そこに行けば強くなれますか?」

「日本中から強いウマ娘が集まってくるはずだぞ。ウマ娘の友達もたくさん出来る」

「でも私はレース選手になる気は・・・」

「トレセン学園はレースの選手を育てるだけじゃない、来年度から正式に騎神育成コースが設立されるんだと」

 

 これはサトノ家やシュウから聞いて最近知った事だ。

 ウマ娘の犯罪者や違法なAM、野良騎神と操者が起こす事件に対処するため遂に解禁されたのだ。

 俺も[ウマ娘=レース]だと思っていたから、知らない人は騎神なにそれ美味しいの?状態だろうな。

 でもこれからの時代、騎神と操者はどんどん表舞台に進出するだろう。

 

「どうでしょうお母さま、スぺにその気があれば進路として考えてみてください」

「ありがとよ。この子の将来を考えてくれて、よく話し合って決めるよ」

「そうしてください。スぺ、全てはお前次第だからな」

「はい・・・トレセン学園かぁ」

 

 その日の夜は遅くまでスぺと話をした。

 山での生活、どんな食べものが収穫できるか、あのゴリラは何だったのか。

 俺の村の話とかいろいろ。母さん達とクロシロの詳細は伏せておいたけど。

 

 翌日、車で最寄り駅まで送ってもらった。

 

「なんだかんだで1週間ありがとうございました。この御恩は忘れません」

「こちらこそ。賑やかで楽しかったよ」

「あの!私、きっと立派な騎神になってみせますから。約束します」

「ああ、スぺならなれるさ。もし騎神になったら操者を探してみるのもいいかもな」

「操者ですか、操者・・・」

「契約するしないは本人の自由だ。いい奴に巡り合えるといいな、応援してる」

 

 電車がやって来る。一両しかないのね。

 

「ありがとう元気でな!」

「はい。絶対、ぜーったいにまた会いましょうね」

「気を付けて行くんだよ。方向音痴!」

 

 スペシャルウィークいい子だったな。

  

 さあ、この調子で行きますか。

 

 



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きょうそう

 スペシャルウィークから覇気をもらった。

 

 スぺとお母さまの家を後にして数日が経過した。

 あれから何度かウマ娘に遭遇したが、どうにもピンと来ない。

 クロにシロ、母さん達やメジロ家のマック達。

 俺が出会って来たウマ娘は皆レベルが高かったのだと思い知った。

 

「贅沢なのはわかっているけど直感を信じよう。ドレインはこれだ!と思った相手にする」

 

 焦ってはいけない、大丈夫ちゃんと巡り合えるはず。

 どこかにいませんか!

 

 ・急募 強い覇気を持ったウマ娘・報酬 俺ができる範囲でお願いします

 

 いっそのこと求人広告を載せた方がいいのでは?なんて考えも浮かんだ。

 

 知らない街を歩くのは新鮮だ。観光旅行ではないけど、旅の思い出としていつか話のネタになるだろう。

 こんな事があった、こんな場所に行ったんだぞとあいつらに聞かせてやりたい。

 ホテルに泊まらなくても今の時代、ネカフェ等に寝泊まりすればお金は節約できる。

 短期間なら野宿する覚悟だってあるし、シャワーや風呂のみを利用できる施設だってある。

 

 そういえばシュウからの軍資金を確認していなかったな。

 ATMを探して、あったあった。口座残高を確認・・・ふぁ!8桁ある!マジか・・・。

 これはシュウに大きな借りができてしまったな。

 キャッシュレス決済が主流になって来ているとはいえ、多少の現金は必要だろう。

 とりあえず数万円を下ろして財布に入れる。

 

 この時、多過ぎる残高を見て同様していたのか油断した。

 

「っ!」

「は?・・・え・・・ええー!」

 

 え、取られた?俺の財布が。誰に?走って逃走する後姿が見える。

 今時ひったくりかよ!高齢者を狙う卑劣な犯罪だと思っていたが・・・。

 

「そうかそうか。俺はそこいらの爺ちゃん婆ちゃん並みに狙いやすかったか」

 

 ははは・・・。いやーまいったまいった。もうだいぶ距離を離されたなー。

 その場で軽くストレッチをする。

 事件の目撃者であろう人達が俺に声をかけてくる。あ~お気遣いなく。

 

「なんと不運な!いいのですか追いかけなくて」

「ワタシが行きまマース!今ならまだ間にあ・・・」

 

 3、2、1、ゼロ!

 

「舐めやがってぇえええええ!!!待てごらぁああああああ!!!」

「ひぃ!」

「ワッツ!?」

 

 ちょっとだけ覇気を開放して駆け出す。

 犯人は・・・ほう・・・ウマ娘か。しかし容赦はせんぞ!

 まさか追い付いてくるとは思っていなかったのだろう、俺のプレッシャーを感じて振り返った犯人は驚愕の表情を浮かべて加速する。

 素人にしては中々の脚なのに、こんな使い方をするとはな残念だよ。

 逃走劇の最中、通行人が俺を見て唖然としている。俺を気にしたら負けですぞ!

 

「な、なんなんだお前!人間の癖に」

「ただでは済まさんぞ!その耳と尻尾、引きちぎってやろか!ああん!」

「くそ!ヤバい奴に手を出しちまった」

「さあ、お前の罪を数えろ!」

 

 こんな街中でアクセルは使えないし、必要ない。

 おいおい、犯人の奴だいぶテンパってるな。さっきから同じ所を周回しているじゃねぇか。

 終わりにしよう。

 

「逃がすかぁあああ!!!」

「ぎゃーごめんなさいごめんなさい!」

 

 取り押さえる事に成功!しかし俺の気が済まないので私刑を執行する。

 

「どうだ!反省しろや!このバカウマがぁ!」

「いだだだだ!!!反省した!しましたから!もうやめてー!」

 

 プロレス技ロメロ・スペシャルを決めて反省させる。

 この技はヒリュウにいた時、クロがシロにかましていたのを見た。

 どちらが俺の掛け布団になるかでケンカしたんだったか。シロは白目むきかけていたな。

 野次馬が集まり楽しくなってきた。俺が更なる技をかけようとした所でパトカー到着。

 なぜか俺が加害者扱いされた。違うんです!被害者は俺です!聞けよ!

 犯人が泣き叫んでいたので余計に俺の心証が悪かったみたいだ。

 公務執行妨害を恐れた俺は大人しく署に連行。

 事情を説明して調書を取られやっとの事で解放された。

 お巡りさんに無茶しないようにと注意されちゃたじゃんよ。

 犯人はひったくりの常習犯で遊ぶ金欲しさに犯行を繰り返していたらしい。

 やむにやまれぬ事情で生きるため仕方なく行ったとかなら、同情の余地はあったのにな。

 人間だろうとウマ娘だろうと悪い奴は悪い!反省してください。

 戻って来た財布の中身を確認してカバンにしまう。もう取られたりしない!

 

「あ、あの」

「ん?」

 

 警察署を出て少し歩いた所で見知らぬウマ娘に話しかけられた。

 さっき犯行にあったばかりなのでちょっと警戒、カバンをしっかり持って油断はしない。

 

「突然すみません。ひったくりにあった人ですよね」

「そうですけど何か?お金は絶対に・・・あげません!!!」

 

 スぺみたいにやってみた。

 

「べ、別にお金を取ろうだなんて思っていません」

「では何の御用でしょうかお嬢さん」

 

 長い髪に緑のイヤーカバーをつけた、スラっとした細く長い手足のウマ娘。

 おっと美人さんですね。

 内気な性格なのか勇気を出して俺に声をかけてきた模様。

 

「私、犯人に気づいて追いかけていたんです。そうしたらあなたが物凄いスピードで」

「そうなんだ、ありがとうな。お陰様で財布は無事だよ」

「それは良かったです。それで、えっと、あなたは人間ですよね?」

「実は俺ウマ娘なんだ、耳と尻尾は覇気で隠している」

「え!?あ、そ、そうなんですか・・・」

「嘘ですけど」

「な!なんで嘘つくんですか」

「今は話を聞きたくないの!長いこと拘束されて腹減っているんだよ!俺は今すぐランチが食べたいの!」

「お店に案内したら話を聞いてくれますか?」

「食べながらで良いんならな」

 

 ごはんおかわり自由な某定食チェーンで遅めのお昼。

 せっかくだから3回はおかわりしたい。

 

「それであなたは私をあっさり抜いて、犯人を取り押さえたんです」

「みそ汁、豚汁にした方が良かったかな。お、この漬物意外と美味しい」

「聞いてます?おかわりするなら私の分もお願いします」

「自分でやれよ。中盛?」

「大盛りでお願いします」

 

 やはりウマ娘、それなりに食べるんだね。

 

「私スピードには自信があったんですよ。それなのに人間のあなたに負けてしまって」

「プライドが傷付いたから俺をボコりたいと・・・なんて奴だ」

「違います!ウマ娘をなんだと思っているんですか」

「美人でカワイイけど人間以上の戦闘能力と高い闘争心を持ち好戦的かつ脳筋だろ」

「違うと言いたいですけど、だいたい合ってます」

「その持て余した力を俺にぶつけて"逆うまぴょい"ですか。最近の子はけしからんな」

「昼間から公衆の面前でなんて発言を・・・。私はただ、あなたに併走して欲しいんです」

「併走?一緒に走るだけでいいのか」

「はい。あなたと一緒に走る事で、なにか新しい景色が見えそうな気がするんです」

「ほーん。よくわからんが・・・いいよ、それぐらいならお安い御用だ」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます。声をかけて良かったぁ・・・」

「で?見返りを要求してもいいのかね」

「ごめんなさい。体だけは許して、まだ契約前なんです。始めては操者にあげるって」

「ごめん。俺にも愛バがって・・・なにお互いに拒否しあってんだよ」

「知りませんよ。愛バ?・・・あなた操者なんですか?」

「そういう君は騎神みたいだな。どれどれ」

「やだ、その舐め回すような視線。悔しいでも・・・」

 

 ウマウタ―起動。

 お、轟級じゃんか覇気も必要最低限にしている所をみると制御も完璧。

 よしよし当たりを引いたようだな。

 

「単刀直入にお願いする。君の覇気を分けてくれないか?」

「私の覇気をですか、なにか訳ありのようですね」

「実は・・・」

 

 かくかくしかじか説明中。

 

「愛バを救う旅だなんて・・・見直しましたよ。私の覇気で良ければ使って下さい」

「ありがとう、君ならそう言ってくれると信じてた」

 

 新たな協力者を得られたぞ。

 

「俺はアンドウマサキ。これでも操者です」

「轟級騎神サイレンススズカ。よろしくお願いしますね」

 

 

 次の日の朝、公園で待ち合わせをした。

 

「時間ぴったりですね。すっぽかされたらどうしようかと思いました」

「ここで寝たからな。あ~体がバッキバキだわ」

「お金はあるんですよね。ちゃんとした宿泊施設に泊まってください」

「野宿の厳しさを体験してみたかったんだよ。シャワーは後で浴びてるから安心して」

「家に泊めてあげたいんですが、両親がいますので」

「わかってるよ。若い娘さんが男を家に連れ込むなんて良くないからな」

「でもマサキさん、許可さえあれば遠慮なく泊まりそう」

 

 見てきたような事を仰る。当たっているけどね。

 

「じゃあ、朝は軽くランニングからでいいかススズ」

「はい。行きましょう・・・ススズ?」

「ダメだった?サイレンスがいいかな」

「スズカと呼んで下さい」

「わかったよスズカ」

 

 沈黙とか言わないで良かった。

 

 二人並んで走る。俺達の他にも朝のウォーキングやランニングをしている人がチラホラ。

 川沿いに長いランニングコースが整備されている。

 

「この辺はウマ娘が多いですからね。多少本気を出しても皆気にしませんよ」

「川を挟んだ向こう側のコースに人がほとんどいないのは何でだ?」

「見ていればわかりますよ。ほら、あそこの人達がやりそうです」

「おお覇気を使って走っている!こんな街中でいいのかよ」

「あのコースでは騎神が全力を出しても良いんです。衝突事故を恐れて覇気を使えない人はまず近寄りません」

「この街は随分騎神に配慮されているんだな。地域によって騎神や操者の認知度落差が激しいな」

「騎神やそれに近い力を持つ存在はどこにだっていますよ。ただ知ろうとしない、存在を認めたく無いから気づこうともしないだけです」

「せやな。俺も最近まで知らない世界だったし」

「ちょっとペースを上げましょうか」

「了解。・・・道はこのまま真っ直ぐで良いんだよな」

「そうです・・・よ!」

「何?横に並んで走ればいいじゃん。ちょっと前に出るのは何故?いちいち抜かさないでくれる」

「私はいつだって先頭の景色が見たいんです。あなたを先導する必要もありますし」

「そう言われると邪魔したくなるな!」

「まだウォーミングアップですよ。でもお付き合いします!」

 

 その後は抜いたり抜き返したり、互いに先頭を取り合って併走と言うより競争になった。

 抜き去る時にドヤ顔をすると、スズカがムキになって抜き返すのが微笑ましい。

 走るのはウマ娘の本能。何も考えずにただひたすら前へ!

 

「ハアハア・・・軽くのつもりが結構遠くまで来てしまいましたね」

「ふぅ・・・その割には嬉しそうだな」

「誰かと走るなんて本当に久しぶりで、楽し過ぎました」

「帰りも勝負するか?」

「良いんですか!是非お願いします」

 

 折り返してまた競争しながらスタート地点の公園へ帰る。

 日中は学校があるので続きは夕方以降となった。

 

 スズカが学校に行っている間、単身修練をする。

 1人でも出来る事はたくさんある。

 仮想敵をイメージしてのエア戦闘。覇気の鞭を限界まで伸ばしたり。まあいろいろよ。

 感謝の正拳突きが音速を超えるにはまだ修業が足りない。頑張るぞー。

 公園にある遊具の天辺で深い瞑想をしていたら子供達に邪魔されて、結局一緒に遊んだ。

 

 騎神を効率よく探す方法も考える。あっちから来てもらう事は出来ないか?

 スズカは俺の走りを見て来てくれたんだよな。

 もしかして力を隠し過ぎるのも良くないのでは?

 俺の覇気を感じてなお、ビビらずに興味を持ってくれる奴の方が強いはずだよな。

 

「ばいばい、変なお兄ちゃん」

「ほっほっほ。気を付けてかえるんじゃぞー」

 

 日が暮れて来たので子供達は帰っていった。

 

「随分楽しそうでしたね」

「なんじゃいスズカ、おったのなら声ぐらいかけんかバカ者」

「邪魔しちゃ悪いかなと思いまして。そのキャラ付けなんですか?」

「子供らを見ておるとな自分が老いた事を実感したんじゃよ。気づいたら、わしは村長になっておった」

「薄々気づいていましたけど、精神に異常をきたしていますね」

「言うようになったな、こやつめ。それで、あなたは誰ですか?」

 

 スズカは1人ではなかった。

 

「スズカからユーのお話を聞いてきちゃいマシタ!」

 

 ウマ娘、覇気の感じからして騎神か。

 とても人懐っこそうな子だ、言葉の感じから海外出身なのかな。

 女の子にしては高めの身長、やや落ち着きのない耳と尻尾。

 醸し出す雰囲気からも伝わる活発な性格。

 そして・・・立派なスタイル、特にお胸がね。

 

「すみません。学校で話したらどうしても会いたいと言い出して、ご迷惑でしたか」

「私は一向にかまわん。ナイスバディですね」

「フフッ、サンキュー。あなたも素直なナイスガイですね」

「アンドウマサキだ」

「タイキシャトル言いますデス。よろしくのハグをしまショウ」

 

 おっと熱烈なハグをされてしまいましたよ。

 ああここが天国か、俺は今ドラクエでいう所のぱふぱふ状態なのでは。

 顔に素晴らしい感触が・・・しばらくこうしていたい。

 

「こらタイキ、もうその辺にしておきましょうね」

「オウ!ソーリーね。大丈夫でしたか」

「延長をお願いしたい所だ問題ない」

 

 スズカとタイキは学校のクラスメイト。

 タイキは検定試験を受けていないのでまだ騎神ではないとの事。

 実力は十分だと思う・・・ウマウタ―は『烈』以上『轟』未満といった所か。

 うん、この子にも声をかけてみよう。

 

「会ったばかりなんだけど、君の覇気が欲しいんだけど。いいかな?」

「オッケー!事情は聞いてマス。その代わり、ワタシとも遊んでクダサイ!」

「いいぜ。交渉成立だな。ありがとうスズカ」

「いえいえ。それなりの覇気を持った友人を紹介できたようで安心しました」

「まずは何をしようか?この時間だと騎神用のコースが空いてるな」

「2000m走で勝負しませんか?もう今日は楽しみでずっとウズウズしてました」

「ワォ!それいいいいです。負けませんヨ!」

「その前に、二人の覇気をチェックさせてね」

 

 スズカとタイキに許可をもらって覇気チェック。

 ウマウタ―より直接触れた方が確実なのです。頭に手を置いて・・・ほうほう。

 これで二人の覇気量に合わせられる。タイキの方が量は上、質はスズカかな。

 それにしても、二人が横に並ぶとね・・・格差がね。

 

「スズカ・・・俺はお前の脚がエロキレイで好きだぜ。もっと自信をもってね」

「ありがとうございます?・・・今、憐れみましたか・・・どこを見ての発言ですか」

「タイキ、俺もタイキって呼んでいいよね。君は自分のボディが男を殺す凶器だと気づこうね」

「ハイ!マサキさん。凶器?」

「おい!こっちを見ろ!失礼ですよ!大丈夫、私はまだ中学生なんだ・・・」

 

 ブツブツ独り言を呟き始めたスズカをなだめてコースへ向かう。

 近くにいたおじさんにちょっと協力してもらおう。

 

「今から俺達競争するんで、スタートの宣言をお願いしてもいいですか?」

「良いですよ。準備はいいですか」

 

 スズカとタイキを見る。お目がギラギラしてきたな。

 頷く二人、俺も集中しないと。

 

「では、よーい・・・スタァアアアトゥオオオオオオッハッッ!!!」

「!!」

「!!」

「!?」

 

 しまった!スタートの発音が気になって出遅れたwww。おじさんメッチャいい顔www。

 速ぇー!だけど簡単に負けてやらない!

 差が縮まらない、二人ともしっかり覇気を足に乗せて走っている。

 手強い!

 

 (追って来てる、でもこの勝負もらいました)

 (最初の出遅れ痛かったデスネ。このままスズカを捉えマス!)

 

 とか思っているんだろな。

 今の覇気でも使えるか試してみよう。

 残りちょっと・・・仕掛ける!

 

「リニアアクセル!!!」

「「え?」」

 

 二人をぶっちぎってそのままゴール。地面をズサーっと滑りながら停止。

 できた、覇気を制限しても十分使える。

 発動するタイミングが少しずれた、まだまだだな。

 

「うっし!俺の勝ちだ」

「「・・・・」」

 

 おや?二人ともどうしたんですかな。

 

「最後の加速・・・何なんですか・・・」

「グレイトォ!ナイスランでしたね。負けるとは思いませんデシタ」

「お褒め頂きありがとう。ちょっとした覇気の応用だ、二人が速いからつい出ちゃった」

「フフフ・・・ああ、やっぱり私の目に狂いはなかった。さあ、もう一回勝負です。時間の許す限り付き合ってもらいます」

「オゥ!スズカ燃えていますネ!ワタシもお願いシマス!」

 

 スズカの闘争心に火を着けてしまったようだ。

 タイキも笑顔だが目にマジだ。

 そうだこれがウマ娘、これが騎神。闘争本能の塊が美少女の形をとった存在。

 

「うん。どんどん走ろう!次も負けないぞ」

 

 その日は3人で何度も競争し合った。

 最初こそ勝てたものの油断をしなくなった二人は本当に強かった。

 途中から俺のアクセルを真似る様な動きを見せ、通算成績で1番がスズカ2番タイキ。

 俺はアクセルの発動が不発に終わってしまう事もあり3番・・・負けてんじゃん!

 疲れた体をクールダウンするためにビリの俺が全員分のドリンクを購入。

 近くのベンチに並んで座る。

 なんか人が多いな、こっちをチラチラ見ているし。

 俺達がさっきまで使っていたコースには別のウマ娘が列を作りこぞって競争している。

 

「はいドリンクサービスだ!いやー負けた負けた!」

「ありがとうございます。・・・熱々のコーンポタージュを渡してくる意味がわかりませんが」

「それは俺のだった。二人には冷えたポカリだよ」

「私アクエリアス派なんですけど。まあいいです頂きます」

「サンキュー!マサキさん。う~キンキンに冷えてマスネ」

 

 コンポタのコーンが出てこないので苦労するのはいつもの事だった。

 

「夜なのにこんなに賑わっているんだな」

「たぶん私達のせいではないかと」

「スズカは有名人ですカラネ。ギャラリーが集まるのも当然デス」

 

 スズカはこの街では有名な騎神で名が知れ渡っているんだと。

 若くして轟級の資格を得て、高校はトレセン学園の推薦をもらっているのだとか。

 そりゃこんだけの才能をほっとく奴はいないよな。

 

「タイキ、あなたも十分有名人よ。自覚していないのね」

「二人の姿を見て人が集まり、それに触発されて皆競争しているのか。うんうんいいね!青春だね」

「はぁ~皆が注目しているのはマサキさん、あなたですよ」

「ビリの俺がなんでさ」

「人間の男性が私達と競争している時点でおかしいんですよ」

「マサキさん。あなたはいったい何者デスカ」

「俺は俺ですけど・・・。それよりお前達、覇気の使い方途中で変えたろ。そこから全く勝てなくなった」

「あなたの末脚を参考にしてみただけですよ。凄いですね、まるで足の裏を爆発させたみたい」

「どこで教えてもらったんデスカ?ワタシにもっと見せてクダサイ」

「まあ二人にならいいか。あれはアクセルっつてな・・・」

 

 二人の門限ギリギリまで語り合った。

 覇気の制御方法、おすすめの自主トレ、学校生活の様子や他に有望な騎神はいないかとか。

 実に有意義な時間だった。特に覇気を使う者同士のあるあるは共感する事が多かった。

 

「実はワタシ、マサキさんが財布取られた現場にイマシタ」

「お、そうなん。あの時は頭に血が昇って周りが見えてなかった。ごめんな」

「イイエ。追いかける事が出来なくてソーリーね。それより、もう一人あの場にいたんデス。彼女にも協力してもらったらハッピーです」

「という事はそいつもウマ娘か?どんな奴だ」

「ンン~と、学校でみたような・・・ソウデス、変わったキャットを背負ってマシタ」

「猫を背負ったウマ娘ですか・・・その子、私の知り合いだと思うので、明日声をかけてみます」

「助かるよ、是非紹介してくれ」

 

 二人が紹介してくれるならそれなりの覇気の持ち主だな。

 いいぞいいぞ、そうやってどんどんご縁が繋がっていくんやね。

 

 明日も朝と夕に会う事を約束して別れた。

 さて、今日はどこで寝ようかな。

 

 



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しんろ

 スズカとタイキに協力してもらえる事になった。

 

「ぎゃあああああ!!!ひ、人が倒れてるー!!」

「んあ・・・うるせぇな・・・静かにしろよ。近所迷惑だろ」

 

 朝はやかましい叫び声で起こされた。

 昨日はスズカとタイキを別れた後、今日の寝床を探して彷徨い歩いた。

 そうして行き着いたのが綺麗に整備された神社だった。

 夜なので人はおらず少々不気味だったが一応参拝。

 ちょっと休憩のつもりで神社の階段に腰かけていたら、そのまま眠っていたらしい。

 その後、階段の1番下まで落ちていたようだ。

 ケガが無くて良かったけど、なぜ起きない俺。

 

「お、お怪我はないですか。神社の階段で死ぬなんて縁起が悪すぎますよ」

「骨折はしてないし大丈夫だ。俺って頑丈なのよ」

「私はこの神社を管理している家の者ですが、どうしてこんなことに」

「お騒がせしました。実はうっかり眠ってしまったようで」

「うっかりの度合いがヒドイですね。おやおや~あなた昨日も不運に見舞われていた方では?良かったらお祓いしていかれませんか?お安くしておきますよ」

「ええー金とるのかよ」

「無理にとは言いませんよ。神様に対する感謝をお金と言うわかりやすい価値でお支払いして頂くシステム。効率的だと思いません?」

「せっかくだけど遠慮しておく、参拝は昨夜したしな。階段から寝たまま落ちても無傷なのはご利益あったみたいだ」

「おおそうでしたか。シラオキ様はいつもあなたを見守っていますよ。あ、おみくじ引きますか?」

「もう、商魂逞しいんだから!わかったよ1回引かせてもらう」

「ありがとうございます。こちらをどうぞ」

 

 手を入れる穴がぽっかり空いた箱をどこからともなく持ち出す少女。

 この子ウマ娘だよ。

 目の輝きがヤバい、シラオキ様とやらについて語る時は特にヤバい。

 あの・・・頭に達磨がついてますよ?

 極上の笑顔でおみくじを進められたので仕方なく引いてみる。

 

「なにも書いてない・・・はずれ?」

「ふっふっふ。このおみくじは少し変わっていましてね。覇気を流してみてください」

「凄い!数字がが浮かび上がってくる」

「一定以上覇気がある人にはこちらのおみくじをおすすめしています」

「なんか凝ってるね。えーとなになに・・・9646」

「9646番ですね。えーと・・・ありました、こちらをお渡しします」

「これ最初から番号のくじだけ引けばいいじゃん。いちいち覇気で数字をあぶり出す意味は何?」

「1度工程を挟む事で特別な感じがするでしょ。演出ですよ演出」

 

 受け取ったおみくじを開封。

 中吉か、大吉より謙虚で俺は好きだぜ。

 待ち人・・・必ず来たるだってさ・・・これだけでも満足だ。

 探し物・・・困難だが見つかる。後はまあまあ・・・ん?水難だと。水に注意しろ?

 

「どうでした。どんな結果でもポジティブに考えて行動する事が大事ですよ」

「ありがとう前向きになった気がする。んじゃ俺はこれで」

「はい。今日もあなたに幸運が訪れますように」

 

 神社の管理者であるウマ娘と別れて公園へ向かう。

 あの子騎神だったのかな?まあ、ご縁があればまた会えるでしょ。

 

 公園へはスズカが先に来ていた。

 

「昨日はどこに泊まったんですか?」

「神社」

「罰当たりですね。時間が勿体ないから早速行きましょう」

 

 ランニングというより競争、揺れる尻尾を追いかける。

 今日は昨日とは違い街中を走る。道がわからんな!1人なら確実に迷う。

 スズカは最初から俺を突き放してくるので必死でついていく。

 

「ペースが昨日より速いよ。もっと楽に行きましょうや」

「私、小さい頃から競争ではずっと先頭だったんですよ。ついたあだ名は逃亡者」

「やだこの子スピードに取り付かれてる!待って、置いていかないで!1人にされたら迷子になっちゃう」

「ほら頑張って下さい。追跡者さん」

 

 追跡者ってなんだよ。バイオのネメシスみたいにねちっこく追い回してやろか。

 まあウマ娘を追いかけるのは嫌じゃありませんけどね。

 ゴールする直前で抜いてやったら「ちっ!」と舌打ちされた。黒いよスズカさん。

 

 スズカが学校へ行っている間は公園で修練。

 ジャングルジムの天辺でグラさんから教わった騎神拳の型を反復練習。

 足場が不安定なので何度か落ちそうになった。これも修練です。

 

「そんちょー!」

「ふぉふぉふぉ。良く来たのう」

 

 昼過ぎ昨日遊んだ子供達がまた来襲したので一緒に遊ぶ。

 今日はちょっと真面目に実際に使える受け身の取り方とか遊びながら教えてみる。

 大きなケガなどせずスクスク成長するんじゃぞ。

 しばらくして、子供達の輪から離れた場所でニコニコ笑っている子を見つける。

 なんか気になるな、ウマ娘みたいだしこの子は皆の中でも特に利発そうだ。

 ちょっと声をかけてみようかな。

 

「相談なんじゃが、ウマ娘を集めるにはどうしたら良いかのう」

「どうしたんです村長?ウマ娘ハーレムでも目指しているの?」

「それいいな!じゃなくて、いろいろあってウマ娘の協力が必要なのよ」

「ふ~ん。だったら村長が遊んであげたらいいと思う」

「そんなんでいいの?いや、スぺやスズカ達にもそんな感じだな」

「村長の覇気、とっても優しくて暖かいの。だから一緒に遊んでみたいんだよ」

「なんと君は俺の覇気に惹かれて来たと?」

「他の皆は覇気なんて感じられなくても村長が良い人だって知ってるよ。私は覇気を辿って村長を見つけただけ」

 

 これは・・・いってもいいかな?

 

「俺の名前はアンドウマサキだ。お名前を聞かせてくれる?」

「フラワー・・・ニシノフラワー」

 

 フラワーと名乗ったウマ娘に許可をもらって覇気をチェック。

 この子クロやシロよりも年下に見えるが覇気の隠蔽が上手すぎる。なんちゅー才能か。

 ウマウタ―は低いステータスを表示しているが、直接頭に触れるとそれが間違いだとわかる。

 ビアン博士、ウマウタ―がもう当てにならないッスよ。

 どうしよう、あいつらより若い子の覇気・・・俺の直感は「行け!」と言っている。

 覇気提供の交渉・・・あっさりOKをもらう。

 見返りは「今日もいっぱい遊んでください」だった。喜んで―!

 

 夕方、フラワーの親御さんが迎えに来たので覇気提供の事情説明。

 どう見ても不審者な俺だが、娘の信じた人なら良いでしょうという返事をもらってドレイン。

 よしよしちゃんと出来た。

 「またどこかで会いましょう」と言うフラワーに別れを告げる。

 

 思わぬ収穫だったな。

 俺の覇気を餌にして向こうから来てもらう案は使えるっと、覚えておこう。

 

「と言う事があった。やったぜ」

「一歩間違えば犯罪ですよ。このロリコン!」

「今更その程度の罵倒で怯むとでも。ああそうさ!俺はロリコンだよ!正確にはアリコンだよ!」

「開き直りマシタ。堂々とし過ぎてマス」

「叫ばないで下さいよ。こっちまで恥ずかしい」

「それよりも、また会ったな・・・おみくじウマ娘。今朝はどうもアンドウマサキです」

「マチカネフクキタルです。ご縁があったようですねマサキさん」

 

 学校が終わった騎神達と合流した。

 スズカの知り合いはフクキタルだったのでビックリした。

 ついてる!ついてるぞ!この調子で騎神連鎖していって。

 

「それで、覇気の方は頂いても?」

「スズカさんから聞いておりますよ。私ので良ければ遠慮なくどうぞ」

「ありがとう!・・・これで4人分ゲットだ」

 

 なんとなくだがそろそろ別の場所に移動した方がいいかもな。

 

「この街から出ようとしてますね。なら今日はいっぱい走りましょう」

 

 騎神用コースにて俺とスズカ、タイキにフクキタルを混ぜた4人で何度も走った。

 「いや無理ですって!」とか言ってたフクキタルが何度か1位をかっさらっていくので油断できん。

 昨日より更に増えたギャラリーに見守られながらレースを繰り返す。

 ちょっと飽きてきた頃に尻尾鬼を提案したら、ハイレベルな模擬戦闘に突入した。

 やば・・・こいつら強い。いいね!そうこなくっちゃ!

 

 最終的にはスズカ達と見物していたウマ娘および人間を含む30人オーバーの鬼ごっこになった。

 なんでだよ!なんで俺が1人でこの人数を追いかけ回すんだよ。やけくそで頑張った!

 昨日スタートの合図出してくれたおじさんが最後まで逃げ切った。お前何者だよ!

 もう尻尾関係ない集団鬼ごっこがメチャクチャ楽しくて夢中になって遊んだ。

 酒なんて飲んで無いのに空気に酔っている感じ、集団だるまさんが転んだも大好評の内に終わった。

 遊び疲れて皆解散。名前すら知らない参加者達に手を振って別れを告げる。

 

「メッチャ盛り上がったな。もう最後の方カオスだったけど」

「こんなに楽しいの久しぶり。マサキさんのお蔭ですよ」

「みーんなハッピーでシタ!もちろんワタシモ」

「ぜぇ・・・はぁ・・・皆元気過ぎですよ・・・今日はグッスリ眠れそうです」

「あの~皆さん、覇気を頂いてもよろしいですか?」

「約束でしたからね。どうぞ・・・どのようにして吸収するんですか?」

「頭を出してくれ。今から撫で回すからグヘへ」

「言い方がキモイです」

 

 スズカの頭を丁寧に撫でる。サラサラの髪が手触り最高なんじゃ。

 そのままリラックスしてね。はい来ましたよ~・・・もうちょっといっとくか。

 

「はい終了。どうだ、体に異常はないか?」

「はい大丈夫みたいです。なんだか不思議な感じ」

「これをやると俺の覇気がちょっとだけ流れ込むんだけど大丈夫みたいだな」

「愛バでもない騎神に覇気を譲渡するのは難しいと聞きますが、そんな事もやってのけるんですね」

「キモイかもしれないが我慢してね。さあ、次行くぞー!」

 

 タイキとフクキタルにもドレインをする。

 こらタイキ動かないの!じっとしてそうそのまま・・・うっし!成功。

 フクキタルは吸ってる最中ずっと「あ゛あ゛あ゛あ゛」と唸っていた。知らね。

 

「なんか私だけゴッソリ持っていかれた気がするんですけど」

「気のせいだ、ちょっと力加減ミスったとかじゃない」

「マサキさん、すっごく撫でるの上手デス。テクニシャン!」

「そのうち遠距離からでも撫でれるようになるつもりだ」

 

 指先を艶めかしく動かしてみる。

 

「才能の無駄づかいですね。その手つきヤメロ!」

「本当に助かったよ三人ともありがとうな」

「これからどうしマス?」

「旅を続けるさ・・・そうだな、占いとかできるかフクキタル」

「その言葉を待っていましたよ。お任せ下さい、超得意分野です」

 

 どこからともなく取り出した水晶玉に手をかざしてブツブツ呟きだすフクキタル。

 

「むむむ・・・今すぐにここを出発した方が良い。何かがあなたに迫っています」

「それは俺のファンとかじゃ」

「ご対面した瞬間に戦闘になると出ています」

「めんどくせ!逃げるわ、次はどこに行ったらいい」

「このまま南下して次の街へ行って下さい。新しい出会いがあるでしょう」

「わかった。それじゃあ・・・」

「待って下さい・・・ラッキーアイテムはウマ娘の耳飾りです」

「そんなもの持ってない」

「仕方ないですね、コレをあげますよ」

「スズカさんのイヤーカバー・・・オークションに出品したらいくらになるんでしょうか」

「スズカはファンが多いデスカラ。本物だと証明できれば即ソールドアウトね」

「売ったりなんかしないよ・・・たぶん」

「あれ・・・私早まったかな」

「とにかくありがとう。もう返さない!もらっておくよ・・・生耳カワイイ!」

「なまみみ?ジロジロ見ないで下さい、視線がやらしい」

 

 これシュウなら高値で買いそうだ・・・いやもっと他にいい使いみちがあるかも。

 

「マサキさん、そろそろストーカー(仮)がここに来ます」

「おう今度こそ行くよ」

 

 なにやらストーキングされているらしいので急いでこの場を離れる事にする。

 覇気を開放!3日に1回ぐらいはやっておかないと、いざと言う時に困るからな。

 腕と脚から溢れる覇気、周囲に粒子をまき散らすのも見慣れた光景。

 

「それがあなたの本当の姿」

「ワォ!」

「あわわわ。シラオキ様もドン引きしてます」

 

 とりあえず線路沿いに移動すれば迷わなくて済むか、ある程度距離を稼いだら電車に乗ろう。

 

「じゃあな!皆元気でやれよ」

 

 アクセル発動、開放された覇気に身を任せて走り出す。

 次はどんな奴と会えるのかな。

 

 

「とんでもない御仁でしたね。あの人、少し前の尻[尾ピーン事件]の元凶では」

「ソウデス!思い出しましたあの時の感じと一緒デス」

「そうかもね」

 

 このまま周囲の期待に流されて騎神としてやっていく事に悩んでいた自分。

 そんな時現れた騎神と対等かそれ以上の力を持つ人間。

 最初は人間に負けた事で傷付いたプライドの意趣返しをしようと思った。

 気づいたら本気で遊んでいた。今日なんて本当に嘘みたい。

 ウマ娘も人間も関係なくあんなに大勢で笑って騒いで・・・。

 常に先頭を走り1人で見る景色が最高だと思っていた。自分はずっと孤高だとそうあるべきだと。

 

「皆で見る景色も良いものね。・・・決めたわ」

「どうしマシタ急に?」

「私強い騎神になる。誰もが笑って最高の景色を望める世界を作って守るの」

「素晴らしい目標が出来ましたね。これからの進路はやはり」

「うん。トレセン学園・・・」

「イイデスネ!ワタシも行きたいデス!強いコが全国から集まるのデショウ」

「おやおや、二人ともやる気になって。私はどうしましょうかね~占ってみましょうか」

 

 三人が進路について思いを巡らせているとその人物は現れた。

 

「覇気の反応はこの辺りからしたはず・・・君たちでは無いな」

 

 マサキより年上の男性、顔はまあイケメンの部類だろう。

 中国武術を学んで者が身に纏う様な赤い武道着を着た鋭い覇気を放つ男。

 三人の騎神は理解する「これがマサキのストーカー!」だと。

 

「突然すまない。先程まで凶悪な覇気を出す人物がここにいなかったか?」

「・・・////」

「スズカ?」

「もうここにはいませんよ。その人がどうかしたんですか?」

「奴は異常だ、いずれ世に災いをもたらす可能性がある」

「そんなに悪い人には見えませんでしたよ」

「百聞は一見に如かずだ。僕自らの手で見極めないと気が済まない」

「スズカ!どうしたんですかスズカ!」

「どっちに行った知っているなら教えてくれないか?」

「う~ん。彼とは一緒に遊んだ仲なんですが・・・」

「あの人はここから南下して次の街に行くそうですよ」

「「スズカ!!」」

「ほう。すると駅向かったか・・・感謝する」

「あ、あの!あなたは操者ですか!ここにフリーの騎神がいるんで良かったら契約しませんか」

「「本気か!!」」

「いや僕は操者では無いよ。いずれは契約したいと思っているが・・・ふむ。君は凄い素質を秘めているな」

「そうなんです!私メッチャ有能な騎神です!えっと・・・どこを噛んだらいいですか?」

「「正気か!!」」

「ははは!面白い子だな。だがいきなり古式契約を申し込むのは良くないぞ」

「はう・・・す、すみません、焦ってしまいました////]

「だが君の気持は伝わった。まずはそうだな・・・トレセン学園に入って修練を積む事だ」

「はい!絶対に入学してみせます!だから契約を」

「操者を選ぶのは良く考えてからにした方が良い。いつの日か力をつけた君が再び僕の前に立った時、契約するかを考えよう。先を急ぐ身なんでね・・・さらばだ!」

 

 マサキを追ってその男は姿を消した。

 

「・・・決めた。私、トレセン学園に入る」

「それさっきも聞きマシタ」

「そしてあの方の愛バになるの!フフフ・・・これから忙しくなるわ」

「あちゃ~一目惚れってヤツですか、随分熱い男でしたね・・・あんなのがタイプだったとは」

「あんなのって言わないでよ!しまった!お名前を聞いておけばよかった私のバカ!」

「マサキさんが風だとしたらあの男は炎ですね。燃えるストーカーwww」

「あのストーカーさん。全く隙が無かったとってもストロングデスネ、マサキさん大丈夫でショウカ」

「ああ私もストーキングされたい・・・逃げる私を情熱的に追いかけて・・・グフフ」

 ((こいつはもうダメだな))

 

 新たな夢を獲得した友人がちょっと残念になった事を感じるタイキとフクキタルだった。

 

 



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ままさん

 スズカ達と別れて2日経過した。

 俺をストーキングしている奴がいるらしいので覇気を極力絞って行動中。

 今いる街は結構な大都市、人混みに紛れていれば大丈夫だろう。

 ストーカーか、嫌だな会いたくないな。

 

「おーいそこの好青年!」

「いきなり襲って来ない事を祈ろう。さて騎神はいるかな~」

「聞こえてないの?こっちこっちだよー」

「そろそろ定期連絡した方が・・・いやダメだこっちからは極力連絡しない。あいつらに会いたくなっちまうからな」

「おい!無視すんな☆今こっち見たろ!」

「うるさいな。全力でスルーしているんだから諦めてくれませんかね」

「やっぱり気づいていたね。もう意地悪だぞ☆」

「交番ってここから近いのかな。逃げ込む準備だけはしておこう」

「待って!私は君の味方!味方だからな」

「俺を田舎者だってバカにしてます?こっちも暇じゃないんですよ、怪しいビジネスの勧誘なら他を当たって下さい」

「そんなんじゃないからね。落ち着こうマサキ君☆」

「俺の名前を知ってる・・・アンタかストーカーめ!仕方がない・・・殺るか」

「人を殺す覚悟早っ!ちょ、ちょっと待って!やめてよ覇気を練らないで!私はママなの」

「は?何言ってんだ。俺の母さんはアンタじゃない。頭の病気か・・・どうする救急車呼ぼうか?」

「流石はパイセンの息子さん、一筋縄ではいかない。私はブラックとダイヤの母親。君の愛バ、クロちゃんとシロちゃんのママだぞ☆」

「へぇー・・・え!?」

 

 変装のつもりなのか大き目のサングラスを外したその顔はテレビで良く見る人気芸能人。

 佐藤心(サトウシン)その人だった。

 

「とりあえず。車に乗っちゃって、ドライブデートとしゃれこもうぜ☆」

「え、は、はい」

 

 高そうなセダンタイプの車に乗り込む。

 運転席に座ったサトウシンは慣れた手つきで車を発進させた。

 

「初めましてだね。知っているかもしれないけど一応自己紹介、私はサトウシン真名はシュガーハートだぞ☆」

「アンドウマサキです。この度は娘さん達に大変申し訳ない事を」

「あはは硬い硬いぞ。もっと気軽にお話しよーぜ、ハートって呼んでね☆」

「よろしくお願いします。ハートさん」

「君の事はパパや娘ちゃん達から聞いてるよ。パパはともかくあの子達が惚れた男、ママは気になって1日8時間ぐらいしか眠れなかった☆」

「普通に適正な睡眠時間ですね。二人には会いましたか」

「うん、爆睡中だったよ。枕元で焼肉パーティーやっても起きないから、こりゃマジだと思ったね」

「なにやってるんですか・・・二人は俺が責任を持って起こしますので、信じて頂けませんか」」

「うちの家族は皆君を信じてるから安心したまえ。今日、君を見つけたのは本当に偶然、直接君とお話出来てハートは嬉しいぞ☆」

 

 テレビに出演している時を変わらぬテンションで話すハートさん。

 この人も騎神だったよな、それにしては覇気が弱すぎないか。

 

「あの、騎神なんですよね?」

「そうは見えないって言いたいんだね。だよね~私の覇気、全然大したことないからね~」

「一般人並みの覇気・・・でも耳と尻尾は綺麗に隠している」

「そこに全力を使っちゃてるからな!これでも昔は超級一歩手前までは行きそうだったんだぞ☆」

「いったいあなたに何が・・・更年期障害ですか?」

「ウマ娘には更年期なんて無い!と思いたい。こんなに弱体化したのはクロちゃんを産んだからだね」

「クロがハートさんの覇気を奪ったとでも」

「そうなんだよ、もうゴッソリもっていかれちゃってね。シロちゃんもそうだよ、実母は人間で優秀な操者候補だったらしいけど、出産を機にその道は断たれたと聞いたぞ☆」

「生まれた時、そして今の状態・・・二人は何になろうとしているんだか」

「あの子達の真意は本人達にしかわからんさ。きっかけは君、だけど選んだのはあの子達。気に病んじゃダメだぞ☆」

「ハートさん、俺は二人の操者として合格でしょうか」

「それを決めるのは私じゃないぞ。まあ、あの懐きっぷりを聞かされたら「もう好きにしてくれ」て感じ」

「パパさんにも言われましたよ」

 

 俺に会う前のクロとシロの事は全然知らないな。

 せっかくハートさんがいるんだから普段の二人の様子を聞いてみた。

 

「クロちゃんは明るく元気で素直な子。シロちゃんは物腰柔らかで気品のある賢い子」

「しかしその実態は?」

「クロは凶暴な所があるね、人や物に対して自分が勝てるか、壊せるかどうかで判断する癖がある。初対面のシロにケンカを売ってサトノ家の屋敷を半壊させた事もあるんだぞ。戦うのと壊すのが大好き!うちの子ヤッベ!」

「知ってますか?子供がおかしくなる原因はほとんど親のせいですよ」

「シロは未だに私をママと呼んでくれない・・・マジで凹むぜ☆」

「スルーしたな。きっと照れているんですよ、あいつ変な所で遠慮するから」

「シロは丁寧に接する相手ほど壁を作っている「私が礼儀正しい内に失せろよ」て警告しているのかも。出来過ぎた頭でいったい何を考えているのやら、判断基準は興味が「ある」か「ない」か。忘れた頃に大きなトラブルを起こすサトノ家の爆弾。めんどくさがりでぐーたら、迷ったら面白い方を選ぶ。この子もヤバいな」

「流石ですねハートさん。よくわかってらっしゃる」

「これでも母親ですから。その問題児がね~君にはデレデレだなんて、ママ嫉妬しちゃうぞ☆」

「なんでこんなに好かれているのか俺も不思議ですよ。覇気が強いだけじゃ説明つかない」

「誰かを好きになるのに理由なんてないぞ。二人とも君を見てビビッと来たんだよビビッとね」

 

 クロシロから好意を寄せられているのは素直に嬉しい。

 初対面の時はどうやって警察にパスするか悩んだものだ、今は二人に会いたくてしょうがない。

 

「本性はアレだけど、才色兼備な二人はまあモテたね。幼少期から男女問わず告られていたぞ」

「・・・・ソウデスカ」

「おや~嫉妬してるんだね。安心しな、二人とも速攻で断っていたから」

「デスヨネ・・・ハハ」

 

 くっそ!もう済んだ事なのになんかイラッとした。独占欲発動!!

 

「とにかく、私のカワイイ娘達をコンゴトモヨロシクって事で頼むぞ☆」

「はい、こちらこそです。」

「上手くいけば君は私の息子に・・・まさかパイセンと親戚になるとは、人生わからんね」

「パイセン・・・母さんと知り合いなんですね」

「おうよ。私がガキンチョだった頃にお世話になってね、サイバスターは今も昔も憧れの先輩なのさ」

「母さん、テレビ見て応援していましたよ。落とし穴に落ちる瞬間何度もリピートしてました」

「あのドッキリ企画は二度とやりたくない、絶叫マシンと猛獣ハンターはまだイケるぞ☆」

 

 一般人並みに弱体化したのならバラエティーのリアクションも本気なんだな。

 仕事を選ばない女、佐藤心・・・プロ意識半端ねぇ。

 芸能人だけど親しみやすい雰囲気で楽しく話せるな。

 娘の操者が気になるのかいろいろ聞かれる。俺もクロシロやパパさんの事とか聞いてみる。

 

「そこでねパパは言ってくれたのさ、家族にならないかって!」

「ひゅー!パパさん、ロマンティックやん!お互いバツイチ同士のじれったい感じがたまらんな!ドラマ化しろ」

「照れるぜ。この話すると娘達が、もの凄く嫌そうな顔をするんだぞ☆」

 

 話が弾んでいる間に車はどんどん進む。

 ビルが多くなってきた都会だ。未だにでかいビルをつい見上げてしまう俺でした。

 

「どこに向かっているんですか?俺は騎神を探さないといけないので」

「わかってる、実は君に会わせたい子がいるんだよ」

「覇気をくれそうな子ですか?」

「それは君次第、私の見立てではいけそうなんだ」

「やってやりますよ!俺はこの旅でウマ娘ナデナデマイスターの称号を得るつもりです」

「あははは!頼もしいね、でもほどほどにな、娘に怒られるのは勘弁だぞ☆」

 

 ついた場所はどこかのスタジオ、ちゃんと入場規制がかけられている。

 今の俺は芸能人サトウシンの付き人と言う設定です。緊張しますね。

 

「みんなーお疲れー!どう撮影上手くいってる」

「あ、シンさん。今日はオフじゃなかったんですか」

「近くに寄ったからご挨拶だぞ。これ差し入れね、皆で食べて」

「いつもありがとうございます。えっと、こちらの方は」

「初めまして新しくサトウシンの付き人になりました、アンドウマサキです。以後お見知りおきを」

「今日は彼と一緒に少し見学させてもらってもいいかな」

「どうぞどうぞ。シンさんの付き人かぁ、君うらやましいな」

 

 今日はファッション雑誌の撮影を行っているらしい。

 カメラマンとモデル・・・美男美女ばっかりで気後れしそう。

 皆真剣にお仕事中なのでハートさんと大人しく見学する。

 

「で、どの子なんです?」

「今ちょうど撮影中の・・・ほら、あの子」

「どれどれ、おお、なんつーかオーラ?が凄いなモデルオーラ」

「あの子の勢いは凄いわよ。まだ若いのにモデル業界では注目度№1のウマ娘、う~んクールビューティー」

 

 カメラマンの注文に的確に答え望んだ表情とポーズを決めるウマ娘が目に入った。

 まだ子供だけどプロだ。この場の誰よりも存在感が凄い。

 カメラのフラッシュを浴びてキラキラと輝く艶やかな黄金の毛並み。

 モデルに相応しいスタイルと端正な顔立ちはウマ娘のなかでも突出している。

 

 さっきから、俺を見ていたイケメンモデルが取り巻きとひそひそ話してる。

 俺は自分に向けられた悪口はしっかり聞き取り決して忘れない。

「誰だよあのダセェ奴・・・シンさんの付き人?嘘だろ、ないわーwww」だとよ。

 

「なんだてめぇ・・・あのイケメン俺を鼻で笑いやがった。不可視の覇気鞭でズボンをずり下げてやろうか」

「おい、騒ぎを起こすのは勘弁しろ。あいつはスタッフから嫌われている、そのうち干される予定だぞ☆」

「ざまぁwww」

「それよりターゲットが休憩に入ったぞ。行くなら今だ」

「都合よく1人になったな・・・行ってきます」

「よし!スマートに決めてこいよ」

 

 ハートさんに見送られてターゲットの下に向かう。

 

「すみません。ここ座っていいですか?」

「・・・アタシの席じゃないし、好きにしたら」

「失礼します・・・さっきの撮影見てたよ、なんか凄かったな」

「・・・どうも」

「やっぱアレだな。キラキラしてるんだよな。別世界を垣間見た気分だぜ」

「・・・はぁ」

「・・・・」

 

 やだ!会話してくれない、する気が無い!

 スマホずっと弄って「アンタに興味ないですよウザいからどっか行け」アピール!!

 あががが、俺の繊細なメンタルが削られていく。

 ダメだ、クロシロに出会って勘違いしていた。

 思い出せ、俺は別にモテ男ではない!今まで出会ったウマ娘が皆優しくしてくれただけだった。

 そうだ、モデル相手にどーでもいい世間話なんぞ響くわけが無い!

 用件だけさっさと言ってしまえ。

 

「すまない、少しで良いから話を聞いてくれ。実はお願いがあるんだ」

「・・・ハァ~」

「何よそのため息。まだ内容を話してないじゃない」

「仕事の依頼?それとも引き抜きの話?悪いけど半年先までスケジュールは埋まってる。今の事務所を辞めるつもりは無い。それ以外の交渉は事務所に直接連絡してくれる」

「違いますけど、個人的なお願いですけど」

「なに?アタシのファンか何か、応援どうも・・・これでいい?」

「今日初めて見たし、名前すら知らんし」

「どうせアンタも私の外見に釣られて声をかけて来たんでしょ。写真はNGだから。今休憩中なの1人にしてくれる。あんまりしつこいと大声出すよ」

「確かにお前の見てくれはいいがな、俺が釣られたの覇気だ」

「覇気?・・・私、騎神じゃないんだけど」

「え・・・マジで言ってる・・・調べてみるか」

「ちょっと、何する気?近づかないで!」

「大人しくろ!言う事を聞かないと、お前に襲われたって騒ぐぞ!」

「は?逆でしょ普通は」

「わかってないな、力に勝るウマ娘が人間の男を襲った・・・完璧な演技とシナリオでお前を痴女レイパーに仕立て上げる事など造作もないぞ」

「こいつ、イカれてやがる。今の発言は全ウマ娘を敵に回したよ」

「何とでも言え!大切な奴らを助けるためなら俺はクズになってもかまわない。あ、俺の身内に天級いるから争うつもりなら覚悟しろよ」

「そんなハッタリ・・・目がマジだ。ああもう好きにしなよ」

「それでいいのよ。怖がらせてゴメンね。本気じゃないから冗談だから安心して」

 

 大人しくなったウマ娘の頭に手を当てて・・・ふむふむ。

 

「なんだよ良い覇気持ってんじゃんか。それ欲しいからちょっと分けてくれよ」

「いきなり何を・・・私の覇気なんてもらってどうする気」

「俺の愛バがピンチなんだわ。そいつらを助けるためなるべく多くの覇気を集めている最中だ」

「だからって私のは」

「お前の覇気が必要だ。ちゃんと修練をして鍛えられたお前の覇気が」

「修錬なんかしてないし」

「嘘をつくな、いろんな奴らの覇気をチェックしたから分かる。お前はもう騎神になってもおかしくない実力がある。そのために修練したんだぞって覇気が言ってるわ」

「わかるんだ・・・アンタはキレイな私じゃなくて、みっともなく足掻いてる私の覇気が必要なの?」

「キレイと言うよりカワイイかな。とにかくお前の良質な覇気が必要なの!ちょっとだけ、痛くしないからお願いします」

「・・・カワイイか、久しぶりに言われたな。最近はキレイばかっりだったし」

「ダメ?」

「・・・変な奴・・・いいよ持って行って」

「ありがとう。では、さっそく・・・」

「おい!お前そこで何をしている!」

 

 覇気をドレインしようとした所で邪魔が入る。何奴!

 さっきの干され予定のイケメン君じゃないかね。

 

「大丈夫だったかシチーちゃん!こいつに変な事されなかったかい」

「シチー?」

「ゴールドシチー、私の名前」

「俺はマサキだ。よろしくなシチー」

「無視すんなよ!なんなんだよお前は」

「シチーさんに仕事の依頼をしていただけですよ?あなたこそなんなのなの?」

「俺はシチーちゃんの・・・そう彼氏だよ彼氏」

「だそうですよ、マジか?」

「ないわー100%嘘」

「wwwだってよwww振られてるwwwイケメンがwww」

「ぷwww」

「こらこらシチーさんwww振ったあなたが吹き出しては失礼でしょwww」

「ごめんwww」

「あらやだ笑顔メッチャカワイイ!写真NGだったか・・・こっそり後で撮ってもいい」

「ええ~どうしようかなwww」

「だから無視すんなよ!」

「「誰?」」

「なっ・・・コケにしやがって」

 

 イケメンが1人で真っ赤になっている。

 シチーを俺から颯爽と助けて好感度をゲット作戦失敗ですか。

 人のフラグへし折るの超楽しー!まあ俺を不審者として扱ったのは悪手だったな。 

 

「シチーに用があるなら早くしてくれ。俺の用事がまだ済んでいないんだ」

「私に何か用ですか?」

「俺はただシチーちゃんが心配で、そうだこの後一緒に食事でもどうかな」

「あ、結構です」

「塩対応www」

「どうするマサキここでやる。それとも場所を変えようか」

「イケメンさんが固まってるぞ。先にフォローしておけ」

「あなた他のモデルの子にも声をかけてますよね。評判悪いですよ、少しは自重して下さい」

「くそっ!うるせぇな。ちょっと顔が良いからって調子に乗りやがって」

「頭に特大のブーメランが刺さってますよイケメンさんwww」

「さっきからウザいんだよ!お前さえいなければ」

「マサキは関係ないじゃん。アンタに何を言われてもアタシは誘いには乗らない」

「いいのかそんな態度で、この業界に居られなくしてやる」

「・・・なん・・・だと・・・」(あんまり興味ないけどノってみたマサキ)

「そんな・・・」(空気よんだシチー)

「今更気づいても遅いぜ。俺のパパは業界では名の知れたブランドのオーナーだ。その息子である俺がウマ娘に襲われたとなれば、お前もお前の所属する事務所もヤバいだろうな」

 

 おっと・・・脅しのネタが被った。シチーが凄い目でこっちを見てる。

 秘技!目で会話。

 (アンタと同じ事言ってるよ)

 (こんな三下とネタ被りするなんて一生の不覚!)

 (でどうすんの?私が黙ってこのクズの言いなりになればいいの)

 (まさか!演技とシナリオは準備してある。後は空気呼んで協力してちょうだいな)

 (・・・しょうがない付き合ってあげる)

 

「お前の事は前から狙っていたんだ。今日から俺の女にしてやる、精々楽しませろよ」

「い、嫌!私の体が目当てなんて!助けてシチー!ホモに犯される!!!」

「お前じゃねぇよ!バカは引っ込んでろ!」

「よしよし怖かったねマサキ。イケメンさん・・・私は同性愛にも理解があるつもりですが、無理やりは」

「違うわ!俺が狙っていたのはシチーお前だよ」

「騙されるな、一種のカモフラージュだ。好きな女がいるアピールを事前にしておくことで、ホモである事を隠し続ける・・・プロだな。シチーはデコイとして使われたんだよ!」

「もう自分を偽るのはやめなよ。そうだここにいる全ての人にカミングアウトしたらいいじゃん」

「恐ろしい事を言うな!俺はホモじゃない!普通に女が好きなんだよ」

「「わかってる、わかってるよ」」

「微塵もわかってねぇだろうが!もういい!てめぇぶっ飛ばしてやる」

 

 変なフォームで襲い掛かってきたイケメン改めホモ。

 ぐるぐるパンチ?実際にやられるとビックリするな・・・。

 俺の頬にホモの手が触れる直前に自ら後方へ吹っ飛ぶ。テーブルやイスを巻き込んで盛大に転がる。

 

「びひゃぁああああああああああああああうぇあぼあぇあ!!!!」

「は?え・・・は?」

「マサキ!?ちょっとやり過ぎじゃないですか!このホモ野郎!」

「ち、違う!俺じゃないこいつが勝手に」

「どうした!なんの騒ぎだ・・・これは」

「ちょっと私の付き人に何してくれてんだ☆」

「ああ、付き人さんが倒れてる!」

 

 いい感じに人が集まって来たな。

 ハートさんがなにやってんの?と目で言ってくる。

 (これもクロとシロのためです!)

 (おk!存分にやれい!)

 

「酷い・・・ヒドイわ・・・そんなに私の体が欲しいのホモさん!!!」

「一体何があったんだ、ホモ?」

「実は・・・かくかくしかじかホモで」

「「「な、なんだってー!イケメン君が実はホモで付き人君を襲っただと!」」」

「はい、私が全てを目撃しました。嫌がるマサキに力づくで"うまぴょい"しようとしたんです」

「シチーが見てる方が興奮するって言ってました。ホモの上級者です・・・怖かったよー」

「おい!大事な付き人に暴行働いてただで済むと思うなよ☆」

「違う・・・違うんだ・・・」

「警察呼んだ方が良いのでは?」

「う、うむ。マサキ君だったね・・・それでいいかい」

「待って下さい。ここで警察を呼んでしまっては皆さんのお仕事に支障がでます。俺なら大丈夫ですから・・・ははは」

「しかし・・・」

「お願いします!皆さんの頑張りを無駄にしたくないんです。モデル、カメラマンその他のスッタフさんが一生懸命だったのは今日見学してハッキリ伝わりました。それに・・・ホモさんに更生の機会をあげたいんです」

「ど、土下座までするのか・・・君って奴は」

「私達のためにここまで・・・」

 

 (どうよ!決まっただろwww)

 (こんなに悪い奴初めてだよwwwウケるwww)

 (おや、いつの間に仲良くなったのかな君たち)

 

 結局、今この場で警察を呼ばれる事は無かった。

 ホモは最後まで否認をしていたが、モデル業界から追放処分となった。

 なんでも余罪が多数あり、セクハラ、パワハラから暴行未遂まで親の権力を振りかざして好き放題していたらしい。警察のお世話になる事は確定。

 俺が手を下すまでもなく近々被害者達から訴えられるのだとか。

 ガチクズだったか、ホモの十字架を一生背負って反省しろ!

 

「じゃあ始めるよ。楽にしてね」

「ん。・・・なんか手つきがやらしい」

「我慢して!別に興奮してないから!金髪ふつくしい!とか思ってないから!」

 

 シチーからドレイン完了。良い覇気を頂きました。

 

「終わったの?」

「ああ、無事完了だ。特に問題ないだろ」

「うん。大丈夫・・・でもwwwあははwwwダメwww思い出したらwww」

「クールなイメージだったが結構笑い上戸なんだな」

「誰のせいよwww」

「今度は笑ってる写真も撮ってもらえ、絶対仕事増えるぞ」

「これ以上仕事増えたら過労死するよ。でもまあ考えとく」

「騎神の修練も続けるんだろ。二足の草鞋は大変だな」

「・・・無理かなやっぱり・・・どっちもなんて」

「いいんじゃね?人生短いんだ、やりたい事はやっとけよ。騎神のモデルなんて超カッコイイ」

「アタシそんなに器用じゃないんだけど、まあやれる所までやってみるよ」

「陰ながら応援してる・・・じゃあシンさんを待てせてるんで」

「うん。元気でねマサキ」

「ありがとうな。ゴールドシチー」

 

 シチーとスタジオの皆さんに挨拶をしてハートさんが待っている車へ乗り込む。

 

「流石娘ちゃん達の操者だ。あの気難しいシチーちゃんをあっさり攻略」

「ホモが良い仕事してくれましたね。ちょっとやり過ぎましたが」

「全然良いぞって。スタッフさんも空気読んでノッてくれたみたいだしね」

「やっぱりバレてましたか」

「でも誰もあいつを庇わなかったでしょ。相当嫌われていたんだろうぜ」

「日頃の行いって大事ね。俺も気を付けよう。・・・ハートさんの覇気はドレインしちゃダメですか?」

「おいおい、私の覇気はもうへなちょこだって知ってるだろ。そんなのあげったて」

「ちょっとだけでもくれませんか?あなたはクロとシロの母親だ、その人の覇気ならきっと二人も喜ぶと思うんです」

「そうかな、そうなのかな・・・よっし!このシュガーハートも覇気を提供しよう。死なない程度にお願いね☆」

 

 その後、ハートさんからもドレイン完了。

 クロ、シロ、お前達のママさんからの覇気だ、皆待っているぞ・・・。

 

 ハートさんの車に乗って駅まで送ってもらった。

 また必ず再会する事を約束して別れた。やっぱり母は偉大である、良い人だったな。

 

 駅校内の広告にクールな決め顔をしたシチーの写真があった。

 スマホに表示された写真の彼女とは全然違う・・・知ってるかあの子メッチャ笑うんだぜ。

 




マサキ カシューナッツなら無限に食える。

ハート ゆでピーナッツが晩酌のお供。

シチー 最近までピスタチオを殻ごと食べていた。


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がくえん

 ハートさんと別れて数日経過。

 俺はついに憧れの場所へ辿り着いた。

 

「ここが日本ウマ娘トレーニングセンター学園」

 

 トレーナー志望だった俺のが目指した夢の場所。

 ここであんな事やこんな事がしたいと何度妄想した事やら。

 

「いるでしょ騎神!いないはずが無い!ここならまさに入れ食い状態」

 

 事情を話せばきっと中に入れてくれるはず・・・・・・・・・・ならよかったですね。

 

「君もしつこいな。ダメだと言っているだろう」

「無茶なお願いなのはわかっています。俺の愛バがピンチなんですよ、どうか責任者の方に話を」

「ハァ~多いんだよね、あの手この手でなんとか学園に侵入しようとする輩」

「嘘はついていません。本当にウマ娘達に力を貸して欲しいだけなんです」

「悪い事は言わない諦めるんだ。ここを突破出来たところで大ケガをするだけだ」

 

 守衛のウマ娘、おそらく騎神のお姉さんはこちらに言い聞かせるように話す。

 この人は俺を軽蔑するより、心配をしてくれている。

 

「無許可でこの学園に侵入した者には武力行使をしても良いとされている。前回の不審者は生徒に捕まった挙句、身ぐるみを剥がされて警察署の玄関口に捨てられていた」

「・・・ひぇ」

「犯人の男は熱狂的なウマ娘ファンだったが、精神を病んでしまってな。ウマ娘はおろか人間の女性が近づくと発狂するようになり、今も閉鎖病棟にいるらしい」

「なにがあったんや・・・」

「わかってくれ。ここはレースやライブで世間を魅了する存在ばかりではない、力を持て余した本物の化物たちの巣窟なんだ」

「ウマ娘のあなたがそれを言っちゃて良いんですか?」

「これ以上哀れな犠牲者を見たくないだけだよ。それでも侵入を試みるバカは後を絶たないがね」

 

 お前はそうなるなよと暗に言われているな。

 

「合法的に学園に入る方法はないですかね」

「学園祭等のイベント時には一般公開される。後はここの教職員となって働くか、理事長達の客人になるかだ」

 

 あんまり門の前でウロウロしていると通報されそうなのでその場を後にする。

 

 母さん達の名前を出す、力づくで無理やり突破、どちらにしろ騒ぎになってしまうな。

 それよりもこの学園全体を大きなドーム状の覇気が覆っているのが気になる。

 おそらくこの覇気に引っかかると騎神が飛んで来る。それにしてもなんて高密度の覇気だ。

 複数の騎神が協力して発生させているんだと思うが、もしこれを1人の騎神がやっているとしたら・・・。

 むりー!今の俺じゃ勝てない近づくなと本能が警告している。

 

「と言う訳なんよ。何とかしてよシュウえもん~」

「私は便利道具を出すネコ型ロボではありませんよ」

「そんな事言わないで。トレセン学園に出資しているんだろ?ちょっと上の人と話をつけてくれよ」

「今、学園はちょうど改革の時期で大変なんですが」

「騎神を本格的に育成する方向になるんだっけか、その件にお前も関わっているんだろう。だったら」

「今の理事長は頭の固い方でしてね。騎神育成プランには反対、発案者の私を目の敵にしています。私の紹介する人物を学園に入れるとは思えません」

「そんな~ここなら一気にドレイン祭りだと思ったのに」

「学園に所属しているからと言って、あなたのお眼鏡に叶う覇気を持ったウマ娘とは限りませんよ。これまで通り地道に探すのが一番効率が良いと思いますが」

「学園の結界らしきものを維持している騎神がいるはずなんだが、そいつなら間違いなくドレイン候補だ」

「その騎神との接触は避けた方が良いでしょう。戦闘になった場合のリスクが高すぎます」

「ですよね~。学園に出入りする生徒に声をかけるしかないか」

「不用意に声をかけてはいけません。まずは遠くから観察して気に入った子を尾行、接近して覇気をチェック、その後交渉するんです」

「どう見ても不審者そのものになるな。今更か・・・」

「長居すると学園に気取られます。成果のあるなしに関わらず1週間以内にその場から移動した方が良いでしょう」

 

 困ったときのシュウえもん、今回はお手上げらしい。

 覇気で騎神を釣りつつ、学園の生徒をチェックする事に決定。

 

「あいつらの事、何か聞いているか」

「自分で確かめたらどうですか」

「それは我慢だ、どんなに寂しくても俺からは極力連絡しない。旅の初日にそう誓ったんだ」

「やせ我慢ですね。特に変わりはないみたいですよ、母達がしっかり面倒をみているので問題ないです」

「そうか、それだけ聞ければ満足だ」

 

 お礼を言って通話を終える。

 我慢した分、再会した時の喜びが増えるってもんですよ。待ってろよクロシロ!

 今更ですが俺不審者になります。

 

「あの子は・・・違うな。向こうの子も違う・・・」

 

 俺が今いる場所はとあるビルの屋上、トレセン学園の正門が見え覇気がギリギリ感じられる距離にある。絶好の監視スポット。急遽用意した双眼鏡を手にして学園の生徒を物色する。

 この距離だと覇気がほとんど感じられない、逆に言えばこの距離で反応があれば相当な覇気だとわかる。

 隠されていたらどうにもならないが、この際それは除外しよう。

 

「お、ランニングから帰って来たな。どれどれ、うは!なんか汗ばんでて色っぽいんですけど!」

「目の付け所がいいね。あれ見て学園から出てきたジャージの子!うひょー!お胸がたわわすぎ!」

「マジかよ!あれで今から走るの?おっぱいがブルンブルンして邪魔じゃねぇのか」

「ハァハァ・・・やっぱりトレセン学園は最高!ああ~捗る!捗ってしまう!」

「わかる!わかるぞ!理解者よ!・・・・・・もういいだろ姿をみせろ」

「意外と冷静なんだ。はい、これで見えるでしょ」

 

 ウマ娘の監視に夢中になっていた俺のすぐ隣に姿を現す謎の人物。

 

「なんだウマ娘じゃんか。いいのかハァハァ言う方で、お前はされる方だろ?」

「同族に尊みを感じてもいいじゃない。私はただ可愛らしい彼女達を愛でていたいだけなの」

「なんて澄み切った目をしてやがる。そしてシュウと似たような言動を」

「シュウ様をご存じで、あなたも我が同志だね」

「同志ねぇ・・・まっいいか。操者やってるアンドウマサキだ、お前は」

「アグネスデジタル、一応騎神。級位はまだ取ってない」

 

 アグネスデジタルと名乗ったウマ娘。

 小柄な体躯、頭に大きなリボン、ピンク色の柔らかそうな毛並み。

 美少女なんだが同族を思い「でゅふふふふ」とニヤける彼女は少々残念臭がする。

 

「覇気が感じられないどころか姿が見えないとはな、どんなトリックだ」

「隠形だよ。短時間だけど覇気を纏って隠れているだけ、ステルス迷彩だね」

「大した精度だ、声を出さなきゃ気づかなかったぞ」

 

 グラさんが使っていた技かな。

 まだ若いのに実力はそれなり、そして同族ヲタクか。

 

「ここは私のお気に入り監視スポット、あなたもウマ娘ちゃん達を見てハアハアしたかったんだよね」

「俺の目的は別にあるんだけど。もしかして邪魔だったか」

「気にしないで同志を邪険にはしないよ。この場所を見つけたあなたはかなりの手練れだね」

「不審者スキルを褒められた。・・・これも何かの縁だよな、ちょっと失礼」

「お、なになに・・・私じゃなくて愛でるなら他の子を」

 

 頭にタッチして覇気チェック。うん、良い覇気だこれなら問題ない。

 

「単刀直入に言う、お前の覇気が欲しいんだ。話を聞いてくれるか」

「訳ありなの?いいよ聞かせて」

 

 俺の事情を説明中。

 

「愛バを救うための旅。なんと重大な使命を背負った男か、マジ尊敬します」

「頼む協力してくれないか」

「両親から覇気の取り扱は慎重にと言われてるからな・・・私をその気にさせるネタある?」

「これを見てくれ二人の写真だ。どうだ!メッチャ可愛くない?」

「ぐっは!ヤバいこれはヤバい!なにこの尊さ!もしかしてこの二人はそういうご関係・・・」

「どうかな、仲はいいと思うぞ。風呂は二人で入る」

「あ・・・あ・・・それじゃやっぱり・・・」

「あ、俺も一緒に入っているから風呂は三人だわ。体洗ってくれるぞ」

「ちっくしょー!うらやましいうらやましいうらやましい!なんで私が操者じゃないんだ!」

「落ち着けよ。お前はウマ娘だ、友達を誘って一緒に入浴すればいいだけだろ」

「そうでした。いずれはトレセン学園の大浴場でウマ娘ハーレムをこの目に焼き付ける!」

「その願いきっと叶うさ!応援するぞ!!」

「ありがとう!もう一声なにか!なにか私を興奮させるものを!」

 

 交渉成立寸前、こいつを落とすトドメの一撃は・・・。

 

「サイレンススズカって知ってる?」

「超好きだよ!轟級騎神の中でも推しの子だね。ミホノブルボンも捨てがたいけどさ」

 

 スズカ有名なんだな、そしてボンさんも。元気にしてるかな。

 

「ここにスズカのイヤーカバーがあるんだが」

「よーし!持っていけ!私の覇気を限界までくれてやる!だからそのお宝をゆずって下さい!」

「いいの?偽物だったらどうする」

「このデジタルの目は誤魔化されんぞ!それは間違いなく本物、スズカさんの高貴な残り香を感じる」

「そ、そうか・・・はいこれ」

「ありがとうありがとう!デュフフフフフフフフ、あ~ヤベェよだれが溢れちまう」

 

 ごめんスズカ・・・変態に渡しちゃった。

 

「いきますぞ!デジタル殿!」

「しゃあー!バッチコーイ!」

 

 ノリノリで覇気を提供してくれるデジタル。

 すっごい楽にドレイン出来ました。提供側がやる気だといつもよりスムーズになるっと。

 

「デジタル殿は十分カワイイんだから、自家発電したらどう?自分を見て興奮すんの・・・キモいな」

「私はナルシストじゃないからね。自分以外のウマ娘が対象なのだよ」

「そうかい。話は変わるけど学園の結界を作っている騎神と交渉したいんだがどう思う」

「それは絶対にやめておくんだ、アレはどうにもならない」

「その口ぶり、直接会った事があるのか」

「フフフ、数ヶ月前の事だよ。ついに我慢の限界を迎えた私はトレセン学園の侵入に成功した」

「なんと!」

「数多の守衛を撒き、セキュリティをかいくぐった私を待っていたのは・・・緑の悪魔だった」

「緑の悪魔?」

「今思い出しても鳥肌が立つよ。柔和な笑みでこちらを見る緑色の事務員、言葉を交わした訳でも、拳を交えた訳でもないのに。気づいたら私は全力で逃走していた」

「結界の維持はその人が」

「そうだと思うよ。彼女は私がウマ娘だから見逃したんだ、向こうがその気なら即殲滅!だったはず」

「そんなヤバい奴がいるのか・・・流石トレセン学園」

「騎神だとしたら間違いなく超級以上、もしかしてあれが天級?」

「それは絶対にない」

「断言したね。まるで天級騎神を知ってるみたい」

 

 お宝を手に入れたデジタルはニヤニヤしながらどこかへ行った。

 

 学園の監視を一旦中断して街をブラついてみる。

 こうやって歩いていると向こうから来るんですよ、たぶん。

 ふと空を見上げると何かが飛んでいた。

 

「紙飛行機か・・・子供の頃に作って飛ばしたっけ」

 

 母さんが作った奴は障害物を貫通しながら半日以上飛行していたな。

 あれは覇気でズルをしていたんだろう。

 まったく紙飛行機に覇気を乗せるなんて・・・あれ?

 

「あの紙飛行機にも覇気を感じる。誰かが意図的に覇気を乗せている?作った奴は騎神か!」

 

 慌てて飛行機を追いかける。それにしても良く飛ぶな。

 どこから飛んできた?作った奴は?とにかくアレを追いかけて回収してみよう。

 順調に飛行を続けていた飛行機だったが、大きな街路樹に引っかかって停止した。

 アレぐらいなら助走をつけてジャンプすれば届く、覇気はちょこっとだけ開放!

 いくぜ!うおおおおお!大ジャーンプ!!!

 よしいける!これなら手が届いく・・・ぞ?

 

「邪魔だよ」

「は!ぐぇ」

 

 飛行機にてが届きそうになった瞬間、背中を誰かに踏みつけられた。

 

「俺を踏み台にしたぁ!!!」

 

 誰やねん!思いっきりふみつけやがって!背中に靴跡残ってないかコレ。

 何とか姿勢を制御して着地。

 

「良かった~ちゃんと回収できたよ。マヤノの奴、飛ばし過ぎだよ」

「おいコラ!人を踏みつけて謝罪の一言もないのか」

「ん?ああ、ごめんごめん。まさか人間があんなにジャンプできるとは思わなかったよ」

「なぜ俺を踏んだのよ」

「君がこの飛行機を取っちゃうと思ったからつい」

「その飛行機を先に見つけたのは俺だ、渡してもらおうか」

「これは僕の友達が作ったんだよ。君の物じゃないよね」

「作った奴を知っているのか?そいつの所に案内してくれないか、是非会いたいんだ」

「会ってどうする気」

「えっと、頭を撫で回して覇気を吸収します」

「変態じゃないか!君みたいな奴をマヤノ会わせられないよ」

「変態はさっき俺が会ったウマ娘だな。あいつに比べれば俺なんてまだまだ未熟よ」

「とにかく!僕はもう行くよ。迷惑な行動は控えるように!親切な僕からの忠告だよ」

「逃がすと思うか」

「僕とやる気?ウマ娘を甘く見ない方がいいよ」

「勝負だ、尻尾鬼で勝負しろや!」

「あのねぇ僕たちは物心つく頃から尻尾鬼で遊んでいるんだよ。それじゃ勝負になんないよ」

「ハンデだよハンデ。まさかウマ娘が人間の俺に負けたりしませんよねぇ?」

「あー今バカにしたな!いいよ勝負しよう、後悔させてあげる」

 

 紙飛行機を追っていたら見知らぬウマ娘と勝負する事に。

 

 元気が有り余った活発そうな外見、自分の力に相当自身があるんだな。

 前髪の一房に白メッシュが入り、後ろ髪を束ねたポニーテールが特徴的。

 ・・・クロ?瞳の奥で燻る闘争心に似たものを感じた気がする。

 違うなクロはもっとこう・・・笑いながら相手を殴り続ける感じ・・・狂戦士でも好き!

 

 車や歩行者にぶつかったら危険なので場所を変える。

 オフィス街にある噴水広場、今日は平日なので人はまばらだった。

 安全を考慮して周囲の人に状況説明、快く場所を空けてくれたので感謝します。

 学園が近いせいかウマ娘の身体能力に皆理解があるのだろう。

 

「俺が鬼だ。鬼に尻尾を掴まれると死ぬ!」

「なんだよそれ無駄に怖いよ!」

「お前のライフは5つ、5回尻尾を掴まれると将来ハゲます」

「嫌だよ!変な呪いを付与しようとするな」

「では始めるよ~・・・・・・お前を殺す!」

 

 目の前のウマ娘、クソガキ(仮)に飛び掛かる。

 クロシロより年上みたいだがうちの子のほうが大人びてるわよ!

 俺の動きに即座に対応、流れる様な脚運びで綺麗に躱してみせるガキ。

 変わった脚の使い方だ、こいつなりの独自の歩法か。

 

「どう?ついて来れないでしょ」

「やるなクソガキ!生意気言うだけあるじゃないの」

「クソガキって言うなよ!僕は帝王様だぞ!」

「なにが帝王じゃボケ!マジンガーZEROぶつけるぞ!」

「ぴぇ!よくわかんないけどそれはやめて!」

「ほい!1回目っと」

「あ!」

 

 なかなかの身体能力だが対処できる範囲だ。

 スぺやスズカ達と遊んだ事は無駄じゃない、どんな変わった脚運びをしようとも摑まえる!

 1回目は油断したのだろう2回目以降はガキも気合を入れてきた、それでも俺は勝つ!

 

「帝王様・・・もう4回死んでますよwwwプークスクスwww」

「クッソォ!なんでだよー!なんで掴まっちゃうんだよ」

「俺の方が強いからじゃねwww」

「うるさいな!そもそも君は人間なの?実はウマ娘だったなんてことは」

「仕方ないな人間だって証拠を見せるから、ちょっとその辺の物影に行こうか」

「どこへ連れ込んで何を見せる気だよ!やめろ!チャックに手をかけるな!」

「わがままだな~。俺は正真正銘人間の男だよ、まあ操者ですがね」

「操者?それなら覇気が強い理由に・・・いや、やっぱりおかしいよ!変だよ!」

「変じゃないよ~連れて来てないけど愛バだっているんだし」

「そんなに動ける操者なんて普通じゃないって言ってるんだよ」

「シュウにリューネに村の男衆・・・俺の知り合いにはこれぐらいできる人間いっぱいいるよ」

「僕ヤバい人に関わっちゃったのかな・・・」

「どうすんの?もうやめる?瀕死の帝王様www」

「・・・ゴメンね、君を甘く見ていた」

「お、やけに素直になったじゃない」

「ここからは本気でやるよ。でないと君には勝てないから!」

 

 お!向こうから突っ込んで来た。

 この尻尾鬼には制限時間を設定していない。

 鬼である俺は尻尾を5回掴めば勝ち。

 帝王様は俺が諦めるまで逃げ続けるか、俺を戦闘不能にすれば勝ち。

 そうだよ最初から俺をボコりに来ればいいんだよ。

 

「やっと来たか!見せてもらおうか帝王の力ってヤツを!」

「たぁあああ!!!」

 

 帝王様と俺、覇気を開放した二人の攻防が始まり周囲の人がギョっとする。

 ちょうどお昼時になったのか噴水広場は多くの人が行きかう、そして皆足を止めてその光景を見た。

 

「いいね!いいよ!やるじゃんか!ガードした所がクッソ痛てぇわ!」

「随分余裕だね!反撃してもいいんだよ!そらっ!」

「させる気ない癖によく言うわ!マジで強かったんだな、甘く見てたのは俺の方か」

 

 広場を中心にでたらめな動きで飛び回る。二人の動きは段々と苛烈になっていった。

 トレセン学園が近い事もありウマ娘の非常識さを知っている人々は慌てない。

 お弁当を食べながら見物する者も大勢いる。ウマ娘の子供と、あれは人間?なのか。

 

 移動を繰り返していると人にぶつかりそうになることもある。

 俺への攻撃をミスった帝王様が人にぶつかる直前に投げ飛ばし広場中央へ戻す。

 

「おい!今のは危ねぇぞ!見物客と建物への被害は抑えろ」

「ご、ごめん。ああもう!もっと広い場所にすれば良かった」

「はは!お前今楽しいだろ!俺はすっげー楽しいぞ」

「悔しいけど楽しいよ!何もかもどうでもいい!今は君とずっと遊びたいよ!」

「やっぱお前クロに似てるわ!」

 

 闘争心に火がついた二人は止まらない。

 

「名前教えてよ!僕はテイオー!トウカイテイオーだよ!」

「蹴り飛ばされながら自己紹介されたの初めて!アンドウマサキだ!」

「マサキ!悪いんだけどそろそろ潰れてくれる!」

「トウカイさん!それはできぬ!」

「できればテイオーって呼んで!」

「かしこまり!」

 

 こいつもまた才能の塊か、クロやシロにマックやスぺ、スズカに皆。

 全員でバトルロワイアルさせたらさぞ面白かろうな!

 シュウも言っていたが次世代の騎神達は結構な粒ぞろいですな。

 

 独特の脚運びでこちらを追い込むテイオー。

 大技来るか・・・なんだか焦ってる?それに脚の動きにキレが無くなって・・・。

 

「これで決めるよ!せぇえええいい!!」

「ちょ、待て!」

 

 覇気を脚に乗せ全力を込めた蹴り、確かにこれは大技だ。

 自身のスペックを度外視したな。

 覇気開放えーと30%ぐらいで・・・アクセル。

 

「もう終わりだ。じっとしてろ」

「え・・・なにが・・・」

 

 テイオーの蹴りを受け流してそのまま加速する。

 渾身の力を込めた一撃をあっさりいなされたテイオーに隙が生まれた所で、お姫様抱っこ!

 そのまま人混みを抜けて移動する。

 

「暴れるなよ尻尾は掴んだからな、俺の勝ちだ」

「僕負けたんだ・・・で、なんで抱っこされてるのかな」

「ちょっと移動する。衆人環視の前では恥ずかしいし」

「な、なにする気!まさかハゲる呪いの執行!や、やだ!やめて」

「呪いをかける方法なんぞ知らん!ちょっと脱いでもらうだけさ」

「ひぃ!まさか・・・うまぴょい!負けたらうまぴょいなの!」

「え?うまぴょいしてもいいの!すげぇなコレが帝王の覚悟・・・しかと受け止めた!」

「受け止めないで!そんな覚悟微塵も無いから!ごめんなさいごめんなさい!」

 

 ギャーギャー騒ぎながらウマ娘を抱えて消えていく謎の男に周囲は唖然とする。

 その背中を見つめる人物達がいた事にマサキは気づかなかった。

 1人は熱き闘志を秘めた武人風の男、残りの2人は年若いウマ娘。

 

「見つけたぞ・・・学園から近いな、やはりあいつの狙いはウマ娘か」

 

「聞きしに勝る破天荒な方ね。ああ管理して差し上げたいです」

「トイレに行く時間まで管理するのはやり過ぎだからね。それより彼は私のファンになるべき」

「売れない地下アイドルは諦めて本業に専念してくださいね」

「アイドルじゃないよ、ウマドル!ウマドルが本業なの!」

「ハァ~なんであなたがシングルナンバーになれたんですか、理解に苦しみます」

「副業がてらにやってたら出世しちゃった」

「追いかけますよ。もう少し様子を見ましょう」

「は~い。お仕事お仕事」

 




マサキ  マザコン、ロリコンと言われても全く動じない

デジタル 変態は誉め言葉だ

テイオー 湿度?しっとり?僕には関係ない言葉だね


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じゅうしゃたち

 テイオーを抱えて移動する。

 

「どこか座れる所がないかな~と」

「もう少し行けば大きな運動場があるんだ、そこならベンチぐらいあるよ」

 

 オフィス街から離れた所にある立派な運動場。

 一般開放されており、トレセン学園のイベント広場になったりもするそうだ。

 

「そこに座って靴を脱げ、生足を見せろ」

「足フェチだったの。足はウマ娘の命だよ、丁重にあつかってね」

 

 素直に靴と靴下を脱いで素足になるテイオー。

 

「触るぞ・・・ほう、ちゃんと鍛えてますね」

「触り方やらしくない?も、もういいだろ」

「待て、ここは痛いか、じゃあここは・・・ふむふむ」

「何を調べているのさ、もしかして君トレーナーだったりする?」

「そうなるつもりが気づけば操者さ」

 

 トレーナー教本で学んだ知識を頼りに足を調べていく。

 さらに覇気を使えるようになったのでその流れも見ておく。

 

「お前、最後の一撃放つ時に随分無茶したな。足に負担がかかり過ぎだ」

「気づかれてたか。こんなのよくあることさ直ぐに回復するし」

「普段からオーバーワーク気味じゃないのか?しっかり休まないと、良い修練はできんぞ」

「う、うるさいな。僕には目指す目標が、どうしても追いつきたい人がいるんだ」

「そのためだったら無茶すると」

「そうだよ。僕は弱い、無茶でも何でもしなきゃ強くなれないんだ!」

「まあ落ち着けよ。才能はあるし覇気も強い、ちゃんと手順を踏めば自然と強くなる」

「でも・・・僕は早く一人前に、あの人に認めて欲しいんだ」

「強さを求める事を否定はしない。でも焦って体を壊したら元も子もない、それであの人とやらは喜んでくれるのか?」

「・・・・」

「俺の愛バな、ずっと寝てるんだ」

「え?」

「俺と契約してあいつらの体はおかしくなった。でも契約解除は死んでも嫌なんだと」

「・・・・」

「今よりもっと強くなって俺と一緒にいるために眠ってしまった」

「・・・・」

「そこまでされて嬉しいけど、あいつらが今の状態になった事は凄く嫌で悲しいんだ」

「・・・・」

「つまりだな、えーと。お前が頑張り過ぎて悲しむ奴がいるって事をわかって欲しいんだ。ごめんな個人的な話をして」

「いいよ僕こそごめん。心配してくれたのに」

 

 無茶するテイオーを見ていたらクロとシロを思い出してしまった。

 あいつら多分最初からわかってたんだろうな、黙って無茶すんなよバカ。

 

「高いポテンシャルにフィジカルがついていけてない。今は休息も大事にしてしっかり土台となる体作りに専念するのが良いと思う。理解したか?」

「あの人と同じ事を言うんだね。わかったよ、もう無茶はしない約束する」

「よしよし良い子だな。これはサービスだ」

「え、うわ、なにこれ」

 

 手の平に覇気を集めて痛めた箇所に優しく当てる。

 覇気によるヒーリング、本来は契約した愛バにやるものらしいが俺の覇気は相手を選ばない。これまで出会ったウマ娘に試した結果、愛バでなくても効果は十分ある。

 

「少しは楽になっただろ。ここもやっとくか」

「すごい、契約してもない相手に覇気をあげたり治療したりするのは難しいんだよ。これなら一流の治療師にだってなれるはず」

「俺の覇気は特殊なんだと、そのせいで愛バには苦労をかけているがな」

 

 テイオーに治療を施した、これで大丈夫だろう。

 

「治療してやった事の見返りじゃないが、俺の頼みを聞いてくれないか」

「もしかして、君の愛バの事」

「そうだ実はな・・・かくかくしかじかで、覇気が欲しい」

「しょうがないこの帝王様が力を貸そうじゃないか」

「ありがとう帝王様!恩に着る」

「えへへ、特別だからね」

 

 テイオーの覇気なら間違いなくドレインしていいだろう、拳で語って理解しました。

 優しく頭を撫でながら覇気を吸収する。

 この瞬間はいつもちょっと緊張そしてちょっと嬉しい、俺に心を許してくれた証拠だからな。皆の信頼が力となってきっとクロとシロに届くはず。

 

「終わったぞ。よーしこれで目的達成だ」

「君の目的って僕の覇気だっけ?何か忘れているような」

「あー!こんな所にいた!もう、帰って来ないから心配したんだよ」

「マヤノ」

「どちら様?」

 

 ぷんすか怒りながら近づいて来るウマ娘。

 テイオーも小柄だがこの子は更にちっこいな。

 明るい性格を感じさせるオレンジ色の美しい毛並み。

 わかるぞ、この子は好奇心旺盛かつ甘えんぼ、小悪魔的な魅力がある。

 見た目に反して頭は切れる様だな、俺の存在を認識した瞬間に覇気の精度を上げたのが証拠。

 

「警戒しないでいいよ。俺はテイオーの友達だ」

「何のこと?マヤ別に警戒なんてしてないよ」

 

 しらばっくれるちっこいの。一応警戒は解いてくれたみたい。

 

「そうだ!マヤノの飛行機をかけて戦ったんだった」

「そうそう。忘れていたわ」

「テイオーちゃん、この人にケガさせちゃったの?警察・・・行こっか」

「確かに勝負はしたけどケガなんてさせて無いよ!負けたのは僕だし」

「は?テイオーちゃんが負けた。なんの勝負で?尻尾鬼!うそ・・・」

 

 当初の目的である紙飛行機は白熱する尻尾鬼の最中に紛失してしまった。

 俺をまじまじと見つめていたちっこいのが近づく。

 

「お兄さん、ちょっと屈んで」

「なんだよ。紙飛行機はどっかいっちまったぞ」

 

 敵意は感じないので素直に屈む。

 俺の体をペタペタ触り匂いを嗅いだり、目をじっと見つめてくる。

 母さんと初めて会った時もこんな事されたな。

 

「あの、そろそろいいかな。あんまり見つめられると興奮する」

「マヤわかっちゃった!お兄さん[尻尾ピーン事件]の犯人だね」

「なにその事件?知らね」

「それ本当なの。確かにマサキは強いけど、流石にあの覇気大爆発の原因だとは思えないよ」

「わかってないなーテイオーちゃんは、お兄さんの中には覇気がばびゅーんて駆け巡っているの。マヤ達なんて簡単に吹き飛ばせるぐらいの覇気がね」

 

 見抜かれた!いいセンスだなこの子。

 開放前の俺を見て実力を察知したか、やりおるわ。

 

「紙飛行機を折って覇気を乗せたのはお前だな」

「そうだよー。ほらテイオーちゃんマヤの言った通りになったでしょ」

「そうだね。君が正しかったよ」

「なんの話?」

「飛行機にはマヤがいる場所の地図を描いていたの。私の覇気に気付いた人に遊んでもらおうと思って」

「そんな暇人いる訳ないって、僕は飛行機を追いかけたんだ」

「俺が飛行機を取ったらダメだったわけ?」

「あの時はマサキがこんなに強いとは思わなかったんだよ。ごめんね」

「マヤの遊びに付き合わせて一般人に迷惑かけちゃダメだってテイオーちゃんが」

「テイオーお前、一般人だと思った俺のケンカを買った癖に・・・」

 

 まんまと釣られたわけだ。でも釣られて良かったテイオーとこの子にも会えた。

 

「俺はアンドウマサキだ。いきなりだがお前の覇気が欲しい」

「マヤノトップガンだよ。テイオーちゃんと遊んだんだよね、だったらマヤとも遊んでくれるよねマサキちゃん」

「覇気をくれるなら付き合うぞ」

「アイ・コピー。何して遊ぼっか!ワクワクするな~」

「アイ?なんだって」

「了解っていう意味らしいよ。マヤノの口癖」

 

 マヤノトップガンに付き合って遊んだ。

 いろいろやりましたよいろいろ。ショットガンタッチ、瓦割、タイヤ引き・・・?

 

「なあなあ、これって遊び?ただのトレーニングじゃんか」

「遊びながら鍛えられるのって効率いいよね」

「ボールはまあわかる。でも瓦とタイヤはどこから持って来た、タイヤでかすぎじゃね」

「これはトレセン学園でも採用されている由緒正しいトレーニング方なんだよ」

 

 本当かよ?タイヤの保管場所どこだよ。

 

「もうじき日が暮れるぞ、もう帰った方がいい」

「今日はありがとう。はい、マヤの覇気をあげちゃうよー」

 

 ぐぐっと頭を突き出してくるマヤからドレインする。

 良い覇気を頂きました。これで終了だが、頭から手を離そうとした俺の手をマヤが掴んで離さない。

 どうしたのかな?

 

「ねぇマサキちゃんの覇気をもらっていい?」

「俺のは自動で少しだけ移ったはずだが」

「わかってるよ。でももう少しだけお願い」

「さっき話したろ、俺の覇気は愛バをあんな目にあわせた。過剰摂取は禁物だ」

「それは愛バだったからだと思うよ。ちょっとだけ、無理はしないから」

「だーめ!」

「マサキちゃんのケチ~」

「わかってくれよ。俺のせいでお前まで眠ってしまったら・・・」

「あう。ごめんマヤわがままだったね。もう覇気はいらないから、泣かないで」

「別に、泣いてないし」

「あははは、マサキちゃん泣き虫だ」

「ねぇなんか長くない?僕の目の前でなにイチャついているのさ」

 

 テイオーがこちらをジト目で見ている。やましい事はありませんぞ!

 マヤさんや上目遣いでお願いするのは反則ですよ。大抵の事ならOKしそうになるからね。

 

「じゃあそろそろ帰ろうかな。大丈夫マサキ?」

「マヤ達もう少し一緒にいようか?」

「ありがとうな、でも問題ないよ。ほら親が心配するぞ、帰りなさいな」

「気を付けてね」

「またね、マサキちゃん」

 

 気を遣わせてしまったな。最近のチビ達はどうしてこう良い子なんや、嬉し泣きするわ!

 

「いるんだろ出て来いよ。そこにいるのはわかっている」

 

 俺を監視していた人物がいるであろう方向に向かって声をかける。

 

「あの・・・こっちです」

「そっちじゃないよ、こっち!こっちだってば」

 

 全然違った!恥ずかしい!!!

 俺が声をかけた反対側の物影から2人が姿を現す。

 

「すみません、カッコよく決められない質なんです。本当にお恥ずかしいです」

「お気になさらず。気配に気づいていただけでも大したものですから」

「そうだよ気にしちゃダメ。次は頑張ろう」

 

 慰められちゃった。索敵能力の低さが恨めしい!鍛えて何とかなるもんかね。

 

 黒を基調とした服装の2人組。

 所々、蛍光色の模様やロゴが入ったとっても厨二心をくすぐる格好だ。

 カッコカワイイくて大変よろしい。もとは同一の規格だった服を各々でカスタムしたのかな。

 どこかで見たような・・・黒服、俺やあいつらも着たことがある特注品。

 ローマ字?でカッコよく描かれた文字は、SA・TO・NO

 

「サトノ家の関係者か?」

「お初にお目にかかります。サトノ家従者部隊6番エイシンフラッシュと申します」

「同じく、サトノ家従者部隊7番スマートファルコンだよ~」

「敵?味方?どっち」

「サトノ家は概ねあなたの味方ですよ」

「そうそう。そんなに身構えないで欲しいな」

 

 覇気を巡らすのを止めたりしない。だってこいつらやる気だからな。

 

「ふーん・・・でもアンタらは俺の敵か」

「シングルナンバーは各個人の自由行動と命令拒否権が認められています」

「サトノ家の敵にはならない限りは、だけどね」

「頭首様、奥方様、お嬢様はあなたを大層気にいっておられます。しかし、私共従者部隊は迷っております」

「ブラック様とダイヤ様を昏睡状態にした元凶だって反感をもっている子もいる訳ですよ」

「俺にどうしろと」

「今からでも遅くはありません。身を引いていただ・・・」

「断る!!!」

「悪いようにはしないよ、あなたばっかりつらい目にあわなくったて」

「断るっつってんだろうが!!!」

「交渉決裂ですね。これ以上は時間の無駄です。ファルコン覚悟を決めなさい」

「やだなぁ、お嬢様達絶対恨むだろうな~」

「パパさんやハートさんはこの事知ってるのか?」

「もちろんです頭首様は「好きにすれば、君達程度じゃマサキ君は止められない」と」

「ハート様は「あはははは!冗談きついよ?あなた達マジで殺されるぞ☆」って言ってたね」

「パパさんもハートさんも煽り過ぎ!」

「部隊を代表して私達2人が来ました。どうか納得させてください」

「負けたら強制的に契約解除してもらうよ。弱い人にはお嬢様を任せられないから」

「うわーい!やる気満々だー。お腹空いたのに・・・夕食までに終わるのかコレ」

 

 二対一かやるしかない!

 都合よく人払いも出来ているし、場所の広さも十分。

 なにが来るかわからん、ちょっと距離をとる

 

「じゃあいくね。そーれ!」

「!?」

 

 離れた位置からの正拳?何の真似・・・がっ!胸に衝撃が突き刺さる。

 殴られた?数メートル先から?

 

「お嬢様はブーストナックルなんて呼んでたかな。ちょっとだけ遠くを殴れるの」

 

 不可視の覇気で殴られたのか、なんでだ全然見えねぇし感じられなかった。

 

「あ、私にも見えないからね。さあ!どんどん行くよ」

 

 技を出した本人にも知覚出来ないとは。

 カンで回避し続ける俺のすぐそばを衝撃が連続で走り抜ける。見えないのつらい!

 

「これも差し上げます!」

 

 フラッシュが何かを投擲した。

 これは不可視ではないちゃんと見える。細いワイヤーがついた円盤上の物体。

 ちっ!なんちゅー複雑な軌道、覇気で動きを操作しているのかよ。

 円盤には細かい刃がついており接触した対象を切り刻むってか、冗談じゃない!

 

「見事な回避行動ですが、私のチャクラムシューターからは逃げられません」

「これ対人じゃなくて対AM用の武装だろ!あー削られる!回転が止まらねぇ」

 

 俺を捉えたチャクラムの回転がガードした上から覇気コーティングをガリガリ削る。

 円盤を破壊する事も考えたがある程度こちらを攻めると、すぐにフラッシュの下へ戻っていく。

 ちょっとづつこちらを消耗させる気か。

 

「はいこっち!」

「普通に殴っても強いのね!」

「ふっ!」

「ああ!また円盤が来ちゃう!」

 

 この2人の強さは本物だ。

 テイオーとマヤを帰した事を少しだけ後悔する。せめて1対1ならば・・・。

 こんな時あいつらがいれば、クロ、シロお前達に会いたいよ。

 戦いは数だというのはマジです。次に強敵と対峙する事があれば素直に誰かを頼ろう。

 中距離は相手の間合いだ、接近戦を仕掛けてるしかない。

 だけど向こうもそれを理解してコンビネーションで間合いを詰めさせてくれない。

 

「このまま続けても結果は見えています」

「あなたのためでもあるんだよ。お嬢様は目覚める、あなたは責任から解放される、サトノ家はこれまで通り安泰。これでいいじゃん!」」

「クロシロとの繋がりは俺の生存に必要不可欠だ。俺の生きがいを、あいつらを奪うな」

「カッコイイね。でもさ言うだけなら誰でも出来るよ」

「報告書は読ませて頂きましたが、過大評価だったようですね」

 

 フラッシュがどこからともなく取り出した書類を確認しながら告げる。

 

「脱走したアルクオンの討伐。これはお嬢様達と謎の騎神が協力して対処、あなたはその場に居合わせただけ」

「メジロ家のハガネに対峙した際の戦闘はお嬢様達がAMを破壊。潜入した時も破壊工作をしたのはお嬢様、あなたは逃げ回っていただけ」

 

 あれー?俺の活躍が全然記録されてないよ。

 

「ラ・ギアスへはお嬢様達を危険に晒すとわかっていながらパラシュート無しのスカイダイビング」

 

 合ってるけど緊急事態やったんやで。

 

「謎の敵とあなたが死闘を繰り広げたとありますが、天級騎神が3名もいたのですよね。彼女達の手柄を横取りしたのでは?」

 

 おい!それは俺にもぺルゼにも失礼だろうが、誓って母さん達は手を出していない。

 

「あなたは確かに強い、でもあなたより優れた操者はたくさんいるんですよ」

 

 そりゃそうだろうな。

 別に俺が世界最強の操者だなんて思ってねぇよ。

 

「契約解除に同意して頂けませんか。あなたを必要とする騎神は必ずいますから」

「それはクロとシロだ」

「従者部隊から選んでくれても・・・そうだな私が契約してあげてもいいかな」

「遠慮する」

「私でも構いませんよ?あなたなら是非お願いしたいです」

「俺が欲しいのはあいつらだ」

「振られちゃったかー。お嬢様達、愛されてるなー」

「妬けますね。少しだけ羨ましいです。こんな事なら早くお嬢様達を彼に会わすべきでした」

「彼?」

「従者部隊が推薦する操者候補だよ。これがまた凄いの、文句なしの優良物件」

「彼ならばお嬢様達もきっとお気に召した事でしょう。アルクオンの脱走さえなければ」

 

 俺以外の操者・・・本来クロとシロの操者になるべき奴がいた・・・だと。

 

「契約解除後はあなたの記憶をお嬢様達は失うでしょう。その後、彼に契約してもらえば万事解決です」

「そいつの情報は」

「教えていいのかな・・・いいか、あなたじゃどうやっても彼には勝てないし」

「ホワン・ヤンロン。天級騎神グランヴェールの一人息子で中国武術ならびに騎神拳の達人。トレセン学園にて騎神育成の指導教官を務める若き秀才。轟級騎神を遥かに超える覇気を持ち、契約を望む騎神が後を絶たないとか」

「ホワン・ヤンロン・・・グラさんの息子・・・」

「イケメンだよねー。ああ、ファル子のファンになってもらいたい」

「見せろ」

「あ!」

 

 ファルコンが持っていた写真を取り上げて確認する。

 精悍な顔つきの男だな・・・こいつはむっつりスケベだ、そうに違いない。

 そうでなければ何らかの特殊性癖を抱えているはず。

 だってあのシュウでさえウマ娘狂いなんだぞ。

 放置プレイが好きとか女装癖があるとかお婆ちゃんのシワに興奮するとかしてるはずだ。

 トレセン学園の教官だとぉー!契約してくれってモテモテだとぉ!

 ああああああ!!!妬ましい妬ましいネタマシイ!!嫉妬マスクに変身しそう。

 こいつがこんな奴が、クロとシロを、俺の大事なあいつらを・・・。写真を握りつぶす。

 グラさんごめん。

 敵だ敵だ敵だ敵敵敵敵!見敵必殺!見敵必殺!サーチアンドデストロイ!!!

 

「・・・させるか」

「ん?」

「離れなさい!ファルコン!様子がおかしい!」

「させるかぁああああああああああくぁwせdrftgyhyふじこ!!!!!」

「ひぇえええ!」

「あ、ありえない」

 

 どうしても我慢できん!一気にバーストモードに突入。

 おかしいな、今日は周囲に覇気が拡散しない。

 体の各部位からは放出されているが、光の粒子散布に勢いがない。

 おそらくこの運動場全体になんらかの仕掛けがしてある。

 覇気を周囲に漏らさないような結界発生装置とかな、流石トレセン学園のお膝元。

 

 ヤンロンその名前覚えたぞ、クロとシロには絶対に会わせない!

 もし俺を差し置いて契約なんぞしようとしてみろ、どんな手を使ってでも必ず殺す。

 今までの人生でこんなに敵意と殺意を抱いたことがあったろうか?アルクオンの時より酷い。

 取られる、あいつらを取られる、それだけは絶対に阻止しなければ。

 

 仇敵について考えていると、不可視の拳と刃付きの円盤が俺を襲う。 

 開放状態になった俺は避けもしない、そんな事よりヤンロンをどう処理するか考えるのが先。

 

「なんで!さっきまではダメージ入っていたのに!に、逃げた方がいいかも」

「この状態でこの人を野放しにはできません!なんとか取り押さえ・・・」

「おい、こいつの居場所を知っているのか?」

 

 円盤がくそウザいので握りつぶしてやった。なんだ、こんなオモチャに手こずっていたのかバカみてぇ。

 豹変した俺を前に2人は立ち尽くしている。

 

「こいつはどこにいる?」

「ファルコン!」

「うん!」

「答える気がないなら・・・マジで潰すぞ」

「「!?」」

 

 なにかしようとした2人の顔面を掴んで地面に叩きつける。クレーターが出来たが知った事か。

 一旦意識を狩り取るか、その後で尋問すればいい。

 顔を掴んだのはマズかったか?なるべく傷つけずに無力化するにはどうしたら。

 もう2、3回叩きつけるか・・・それともこのまま・・・。

 

「ひっく、えぐ、やめて・・・殺さないで」

「ファルコン・・・先に仕掛けたのはこちらです。敗者の末路は決まっています」

「止めようって言ったのに・・・フラッシュの口車に乗った自分がバカだった」

「な!人のせいにしないでください!あなたもこの計画にはノリノリだった癖に」

「まだトップウマドルになっていないのに、ごめんねファンの皆、ファル子はここで終わりみたい」

「予想外の結末、相手の力量を読み間違えた私のミスです。でもお嬢様達の目に狂いはなかった。私達が敗れたと知れば他の従者達も文句は言わないでしょう」

 

 あーなんか勝手に終わりを悟った奴ら見てたら冷めた。

 頭に血が昇り過ぎた反省しよ。敵とはいえ女の子の顔面つかんでなにやってんだ・・・。

 こんなんじゃクロとシロに顔向けできない。落ち着け、ヤンロンの事は今は考えない。

 

「やり過ぎた・・・悪かったな2人とも」

「「え?」」

「もうやめよう。腹も減ったしな・・・手離すぞ暴れるなよ」

 

 顔から手を離す、ヤバいどっちも涙目・・・いや泣いてる!俺が泣かした!

 ハンカチは・・・あった。近くに放り投げていたカバンからタオルも取り出す。

 呆けたような顔する2人の涙を拭って、ほら立ちなさいな、手を引いて立たせる。

 えっと傷は、後頭部思いっきりぶつけたよな、骨は折れてない。擦り傷等は後にしよう。

 

「じっとしてろよ。大丈夫、怖くないからな」

 

 自分たちに死の覚悟をさせた男から治療など嫌だろうが我慢してね。

 頭を撫でながら後頭部を中心にヒーリングしてやる。

 良く鍛えているみたいなので思ったよりも軽傷だ、日頃の修練は大事よ。

 

「あ、あの」

「えっと」

「まだだ。動かないで、ごめんな・・・お前達が悪い訳じゃないのに。許してくれ」

「「は、はい////」」

 

 頭は大丈夫だな。後は目立った大きな損傷は無し、残り手足の擦過傷をヒーリング。

 やけに大人しくなったな。もっと抵抗されると思ったが・・・まあいいか。

 

「はい終了。もしまだ痛い所があったらすぐに医者にかかれよ。おれは治療の専門家じゃないからな」

 

 なんかさっきから動かない2人の服装を直して、埃を払ってやる。

 顔をもう一度拭いて、よし綺麗になったぞ。

 

「どうした?なんで金縛り状態?もう動いても大丈夫よ」

「「はい」」

「・・・これからどうしようかな。なあ、お前達は・・・うお!」

 

 一瞬目を離したすきに2人が土下座しとる!土下座マイスターの俺も唸る完璧な姿勢。

 

「なにやってんの!俺もだけど、サトノ家は皆土下座のプロなのか」

「アンドウマサキ様、あなたのお力とその寛大な御心、誠に感服いたしました」

「私達の完敗です。数々のご無礼をお許しください」

「ああコレはクロとシロもやってましたね。うん懐かしい」

「今この時を持ちまして、あなたを我らの主として認めます」

「サトノ家一同、あなた様に二度と逆らう事はないと誓います」

「ほら来たよ・・・本当に俺の言う事聞くの?」

「「はい」」

「パパさんやハートさん、クロシロの命令はどうするんだ」

「シングルナンバーの権限によって私はマサキ様の命を優先いたします」

「私も同じくあなたの命令を最優先で実行します」

「だったらまずは顔を上げて立とうか、そして仰々しい敬語はやめろ」

「「はい」」

「よし立ったな!簡単に忠誠を誓うな自分を大事にしろ。誰の命令でも嫌だったら拒否しろ」

「「はい」」

「本当にわかってんのか?ああメンドくせーなー。とりあえずメシ行くぞメシ!お腹空いた」

「「はい」」

「シンクロ返事やめてくんない」

「お疲れではないですか?私が運んで差し上げましょうか」

「お前におんぶ又は抱っこされて飲食店に入れと、恥ずかし過ぎるわ」

「あなただけのウマドルになってあげてもいいよ。ずっと見ててね」

「ウマドルってそもそも何?」

 

 妙に懐かれたな。まあ敵対するよりマシか。

 

「運動場のクレーターどうしよう」

「ご心配なく、サトノ家の事後処理係が一切の痕跡を残さず処理します」

「便利ね、助かるわ」

「マサキ様、私のことはファル子って呼んでね」

「様付はやめろ、ファルコン」

「ファル子だよ。もう意地悪なんだから」

「そっちはフラッシュでいいか」

「はい、ご自由にお呼びください。マサキ・・・さん」

「なに食べようかなー。2人は何が食べたい?俺に任せるは無しでな」

「私はジャンキーなものが食べたいよ!から揚げとか」

「私はそうですね、黒ビー・・・ゲフンゲフン!サラダとかあっさりしたものを所望します。アルコールなんて飲んだ事ありませんとも!」

 

 戦闘をした直後とは思えない雰囲気。

 仲の良い友人達にしか見えない俺達三人は夜の街へ消えていった。

 




マサキ   スパロボ1週目は女主人公でプレイ

テイオー  マジンガーとゲッターを見ると震えが止まらない

マヤ    飛行形体になれない奴は2軍

フラッシュ 敵の命中率は0%じゃないと安心できない

ファルコン 勇者シリーズの参戦は遅すぎたと思う


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あくむ

 これは夢、きっと夢だ。

 それでもあいつらに会えるなら夢でもかまわない。

 

「「マサキさん」」

「ああクロ!シロ!良かった起きたんだな」

「「あなたのお蔭です」」

「そうかそうか。お前達も頑張ったな。そうだ今まで寝ていた分、いっぱいわがままを聞いてやる。何かして欲しい事は無いか?」

「じゃあお願いがあるよ」

「あなたにしか出来ない事です」

「うんうん。遠慮せずに言ってみろ」

「「契約を解除して下さい」」

「え?ちょっと、待って、もうその必要はないんだ。これからはそんな事をしなくてもずっと」

「本来の操者が待っているのごめんね」

「私達の事は忘れてください」

「何を言っているんだ・・・嘘だろ・・・ドッキリか何かだよな」

 

「ここにいたか、ブラック!ダイヤ!」

 

 誰だ?この男は誰だ?どうして二人の名前を呼ぶ。

 

「待て!行くなクロ!シロ!」

「僕の愛バを妙な名前で呼ばないでもらおうか」

「てめぇのじゃねえよ!そいつらは俺の」

「もう行こうよヤンロン。あの人なんか気持ち悪い」

「ヤンロンさん帰ったらいっぱい撫でて下さいね」

「ああもちろんだ。そこのお前!二度と僕たちに近づくな!精々1人寂しく"そろぴょい"でもしてろ!」

「「「あははははははははははwwwwww」」」

「そ、そんな・・・俺は・・・なんのために・・・」

 

 去って行く3人、追いかける事すらできない。

 なんでだよ。クロ、シロ、あんな男が良かったのか・・・。

 そうだあの男、知ってるぞ、お前を知ってるぞ、ヤンロン。

 よし!殺そう!

 

「ぶっ殺してやるぞ!!!ヤンロォオオオオオオンンンンン!!!」

「「きゃ!!」」

 

 きゃ?って何よ、なぜ俺のお布団が声を出す。

 さっきのは夢?最悪過ぎる!人生№1の悪夢だ!内容をハッキリ覚えている。 

 2人が奴に見せたメスの顔、そして野郎がこちらを見下すニヤけ面。

 あームカムカする。もう一度寝直すかクソが!!

 

「いたたた、もう急に叫ばないでよ。ベッドから落ちちゃった」

「大丈夫ですか?随分うなされていましたが?」

「誰?そしてここはどこ?」

「覚えていないのですか?それはいけません、ささ、もう一度寝てください」

「ぐっすり眠れば元気になるからねー」

「ベッドが1つしかないぞ、俺はどこで寝ればいい」

「え?今まで一緒に寝ていたじゃないですか」

「ん?何?嫌ならファル子、床でいいよ」

「女を床で寝かせるわけにいくか、ああ~ダメだ思考が纏まらん」

「だから早く寝ましょう。まだ深夜ですよ」

「明日また元気に活動するためにも、今は寝た方がいいよ」

「いや、しかしだね」

「「ほら、来てください」」

「はい!失礼します!」

 

 横になると両側からサンドされる。何このサービス!金払っていい!

 ちょっと思い出してきた・・・・。

 黒髪の礼儀正しい方がエイシンフラッシュ。生真面目な秀才タイプそして妙にエロい。

 ウマドルがどうとか言う方がスマートファルコン。仕草がいちいちあざといな君は、もっとやれ。

 なんかよくわからんけど2人のお蔭ですぐまた眠りに落ちそうだ。

 悪夢で負った心の傷が癒えていく。

 やわらけぇ・・・あったけぇ・・・ふぁーいい匂いがする。

 ごめんクロシロ今は許して・・・。

 

 翌朝

 

「申し訳ない!二人を肉布団にして眠るなどと、大それた事をしでかしました!反省してます!」

「なぜ謝るのか理解できません。私がしたくてしたんです」

「命令なんてされてないからね。あ、命令してくれてもいいよ」

「あの~夕食の後から記憶が無いのですが」

「お酒など召し上がっていないのに、相当ショックを受けたのですね」

「ずっと殺す殺すって呟いていたからね。誰かを憎むのは疲れるもんだよ」

 

 覚えているのは3人で居酒屋に行ってご飯を食べた所まで。

 俺は下戸なので酒は飲まないが飲み屋の飯って美味いよね。

 

 ヤンロンへの憎しみが限界突破した俺は呪詛の言葉を吐き続けた後、気を失ったらしい。

 みっともない姿をお見せしましたね。

 

「ここはどこよ?」

「サトノ家が所有する宿泊施設の1つですよ。こういった拠点になる場所は全国各所にあります」

「ここまで連れて来てくれたのか、お手数をおかけしました」

 

 今日の行動開始じゃ!さっさと準備してここを出よう。

 身に覚えのないパジャマを着ている俺・・・こいつら勝手に着替えさせたな。

 

「俺の服はどこに・・・」

「こちらをご用意しました。サイズもバッチリだと思います」

 

 サトノ家のユニフォームか。あ、着替えは自分で出来ますから。

 

「良くお似合いですよ。そのうちマサキさん専用のカスタマイズを施した物も用意させますね」

「ただの服じゃないんだよ。耐衝撃、対刃、対弾はもちろん覇気を通しやすい特殊繊維で出来ていて、技の発動を邪魔しない。季節や任務、個人的趣味にを対応した数多くのバリエーションがあるのから要望があれば言ってね」

 

 用意してもらったのはフード付きのパーカーをはじめ、若々しいカジュアルなコーデのセット。

 ズボンとブーツもお揃いでいい感じ、所々蛍光ブルーの配色がカッコイイじゃないの。

 

 準備を整えて部屋を後にする。

 寂れたホテルの一室みたいだな、1階受付に職員らしきおじさんを発見。

 

「昨日はお楽しみでしたね」

「そのセリフを言われる日が来るとはな」

「チェックアウトをなさる方には、このセリフを言うのがお約束でございます」

「俺達はお楽しみはしてないけどね」

「なんと!・・・添い寝止まりですか。本番でヘタレましたかな、それとも不能でしたか」

「失礼な!ちなみにホモでもないからね」

「美女2人を侍らせて何もしないとか、それでも男ですかお客様」

「おいおい、この2人まだ未成年だろ。そういう関係でもないし・・・・ねぇ」

「私は別にかまいませんよ。お望みとあらばいつでも」

「ファル子もあなただったらいいかな」

「女にここまで言わせておいて貴様ぁ!・・・・ちっ、またのお越しをお待ちしております」

 

 なんだあのおやじは!無駄に疲れたわ。

 舌打ちされた挙句に憎しみの籠った目で睨まれたし。

 ここってあれだ大人のお店が立ち並ぶピンク通りだわ、夜になると大層賑やかになるんだろ。

 真っ昼間から何やってんだろうか、人目に付く前に素早く移動しよう。

 

「それでは会議を始めます。皆さんよろしいですか」

「朝からカフェでダベるのって凄い贅沢だよな、何頼もうか」

「モーニングあるよ。でもでもこっちのピザトーストも捨てがたい」

「食べながらでいいから聞いて下さい。私はミックスサンドとアイスコーヒーたっぷりサイズで」

「フラッシュは計画立てたり作戦会議するのが趣味なんだよ。付き合ってあげて」

「夏休みの計画、結局上手くいかないんだよな。考えている時が一番楽しいし」

「「わかる~」」

 

 注文した品をつまみながら会議、今後の作戦をねる。

 

「どうやったらヤンロンを消せるの?」

「従者部隊と頭首様への報告は済んでおります。お嬢様達の操者はマサキさんに満場一致で決定です」

「だからもうヤンロンを目の敵にしなくていいんだよ」

「従者部隊の連中は俺の事嫌いじゃなかったのかよ」

「私達をいとも簡単に制圧したお手並み、昨日の報告にてしっかりお伝えしました。さらに頭首様があなたと異世界から異形の戦闘記録映像をサトノ家全職員に公開しました」

「反対していた皆土下座したみたいだよ。どうか殺さないで下さいだって」

「そんなに怖がらなくても・・・」(´・ω・`)

「まあ仮にマサキさんを契約解除させた場合は、お嬢様達の手によってサトノ家は滅んでいたでしょうね」

「だよねーやっと見つけた唯一無二の存在を引き剥がしたとなれば殺されちゃうよねー」

「それがわかっていてなぜ俺を試した」

「皆それぞれサトノ家には恩があります。主に恨まれようと最善を模索して行動するのが我らの務めですので」

「それで滅んだら意味ないだろ」

「そうだね。だから今回はマサキが強くて助かったよ」

 

 お仕事ご苦労様です。皆クロシロの事を思ってやった事なんだよな。

 これでサトノ家は全面的に味方になってくれたから良しとするか。

 

「で、どうやったらヤンロンを消せるの?」

「お話がループしていますね。そんなに彼が憎いですか?」

「夢の内容が決定打だな。あいつの存在は俺の幸せを脅かす、なんとかしないと」

「相当怖い夢を見たんだね。でも無益な殺生は感心しないよ」

「わかってるよ。でもあいつ夢で俺にそろぴょいマイスターになれって見下しやがった、あのニヤけ面!」

「ひっどい内容だな。夢だよ夢、マサキが気にしすぎなんだって」

「そうですよマサキさん。もし赤の他人が「夢でお前に殴られたから殴らせろ!」と言ってきたらどうします」

「頭おかしい奴は返り討ちにする」

「その頭おかしい奴になってますからね。早まらないで下さいよ」

「わかった・・・我慢する」

「よしよし良い子だね。心配しなくてもお嬢様達はマサキを裏切らないよ」

「はい。今なら確信をもって言えます。あなた達の絆は決して切れはしないと」

 

 奴の事はもう忘れよう。

 どうせ特殊性癖を抱えながら中途半端なハーレム作って生活習慣病とかで苦しんで死ぬ事だろう。

 俺は健康に気を付けて末永くクロシロとイチャついて最期まで幸せに暮らすんだ。

 

「じゃあ次、トレセン学園に侵入は可能か否か」

「「否で」」

「即答ですかい。考える余地も無し?」

「学園を覆う結界を見ましたか?あれはサトノ家はおろかメジロ家でも手を出しません」

「理事長の一族のがとんでもない人材を抱え込んだ噂は本当だったみたいだね」

「騎神?それとも操者なのか?デジタル殿は緑の悪魔と呼んでいたが」

「詳細は不明です。アレと単独で対峙するには超級騎神以上が望ましいでしょう」

「2人の級位は?」

「「轟級」」

「超級騎神はどれくらいの数がいる?」

「騎神の数が多いとされる日本でも20人前後ではないかと」

「その20人に会って協力してもらうのは無理だよな」

「ご存じかと思いますが超級以上の騎神は自身の力を隠す傾向にあります。不用意に力を振るって社会的制裁を受ける事を嫌っておりますから」

「まず見つける事が難しいか・・・母さん達も村の外では比較的大人しくしていたしな」

「マサキを含む複数人の騎神で攻めるのはどう?」

「十分な修練を積んだ愛バならともかく急ごしらえのパーティーでは攻略不可でしょう」

「今更だが俺は結構好き放題やってるがいいのかな」

「愛バ抜きで高い戦闘力を有する操者は極わずかですから、今の所は見逃されるでしょう。法整備等もまだ先の話でしょうし」

 

 轟級騎神以上の戦力を持つ人間、シュウやリューネぐらいか。

 2人も忙しそうだし危ない事に巻き込みたくないな。

 会議のは行き詰まり、注文した品も綺麗に食べ終えた頃。

 2人のスマホからけたたましい音が鳴り響いた。

 

「緊急招集?」

「従者部隊1~50番まですぐに帰って来いだって」

「何事?」

「政府から公式な依頼が入ったようです。ノイエDCに不穏な動きがみられるため先制攻撃で拠点を潰すそうです」

「メジロ家との共同戦線だって、こりゃ競争になるね」

「ノイエDCとはなんぞ?」

「ビアン・ゾルダークが提唱した理念を曲解し、新たな人間至上主義を掲げてテロ活動を行う迷惑集団です」

「潰しても潰しても湧いて来るんだよね。ゴキブリと一緒だよ」

「それと最近はウマ娘至上主義の要注意団体もいるそうです。どちらも人間とウマ娘の共存関係を揺るがす危険思想を持つ世を乱す存在」

「マサキも注意してね、関わったらダメだよ。ほとんどの人間とウマ娘は仲良くしたい人達だって事を忘れないで」

「そういう教育は母さん達から嫌と言うほど聞かされてる。ウマ娘好きの俺とそのふざけた奴らが相容れる事はない」

「申し訳ありません。マサキさんの旅にお力添えしたかったのですが」

「いいよ。仕事はしっかりやらないとな、サトノ家の皆によろしく」

「ごめんね。あ、そうだ!覇気をまだあげてなかったよね。どうかな私達の覇気は必要?」

「おお、願ってもない事だ。是非ください!」

 

 会計を済ませて店外へ。

 ちょっと人目につかない場所へ移動してドレイン開始。

 サトノ家のウマ娘全員からドレインすればいいのではだと?

 それは最初に考えたけどヒリュウにいた時はどの子もピンと来ませんでした。

 俺は直感を信じている。従者部隊の内この2人が俺の所に派遣されたのは偶然ではないのかも。

 強い覇気や相性の良い覇気を持つ者は惹かれあう運命なんよ。

 

「昨日は手荒な真似をして悪かったな。任務頑張って、ケガなんてするんじゃないぞ」

「ご心配頂きありがとうございます。もう少し撫でてもらっていいですか」

「あ~これは癖になるね。お嬢様達が虜になるわけだ」

 

 これは俺の持論だがウマ娘ってどの子も甘えんぼなんだよな。

 心を許した相手にはデレまくるんだよ、最高じゃないか!!!

 

「ほい、終了だ」

「宿泊施設に話をつけてます。しばらくの間、自由に使えるように手配しておきました」

「ありがてぇ」

「任務もこれで頑張れるよ!次はお嬢様達を含むサトノ家の皆でパーティーでもしようね」

「楽しみにしてる」

「では、私達はこれで」

「ああ、行って来い!気を付けてな、パパさん達によろしく」

「「はい!」」

 

 おお、速い速い。もう見えなくなった。

 しかし迷惑集団か・・・関わりたくねぇな。

 

「昨日はお楽しみでしたね」

「誰だ!そのセリフ今日は2回目だぞ!」

「私だよ同志マサキ」

「デジタル殿!脅かすなよ」

「も~マサキってば~。あんな可愛いウマ娘ちゃん達とモーニングなんてうらやましい!」

「今日も元気だな」

「ふぅ~ん、へぇ~、ほぉ~う」

「な、なんだよ」

「やりますな~。私以外のウマ娘ちゃんの匂いがするよ、さっき別れた2人とも違う」

「お前達の嗅覚どうなってんの?そんなんじゃ臭くて日常生活困難だろ」

「フフフ、私達の感覚器官は不利益な情報をある程度遮断できるんだよ。悪臭対策はバッチリ。そして人物を判断する匂いは嗅覚のみならず覇気の残滓を感じて判断している」

「とりあえず感覚が優れているって事はわかった。覇気を含めた残り香ね・・・」

「だいぶ薄れているけどマサキには愛バの匂いを確かに感じるよ。愛されてるね~」

「あいつら暇さえあればマーキングしていたからな」

「取られたくなかったんだろね。そして自分のものだって自慢したかったんだよ。健気すぎる!」

 

 離れたからこそわかる。あいつらがどんなに俺を思っていてくれたのか。

 起きたらまたマーキングされるのか、存分にやらせてやろうじゃないか。

 

「この後のご予定は?」

「もう次の街へ移動しようかなと」

「ええートレセン学園の侵入は諦めるの」

「デジタル殿が言ったんですよ。緑の悪魔がいるんでしょ、そんなんいちいち相手してらんねぇ」

「マサキの話を聞いて思ったんだけどさ。直感を信じているんだよね」

「ああ、今までのドレインは俺がいいなと思った相手にしてきた」

「この街に来てからあの結界を発生させている人物がずっと気になってるよね」

「そ、それはそうだな」

「愛バは強大な覇気を必要としているよね。つまりは」

「行くしかないのですか・・・」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

「待っているのがただの虎ならどんなに楽か」

「キングギドラが待っていると思った方がいいね」

「映画まだ見て無いのに・・・死にたくない」

「戦うと決まった訳じゃない、何とか接触して交渉するんだよ」

「でも学園には入れない」

「そんなあなたに朗報です。明日はなんとトレセン学園のオープンキャンパスが開催されます」

「ほう。詳しく」

「もちろん入場制限はある。しかしご近所の入学希望者と来年度の入学と編入予定者は入れる」

「俺は入れないじゃん」

「ここからだよ。付き添いで保護者1名の入場もOKなんだ」

「なん・・・だと・・・」

 

 これはいけそうか・・・。ちょっと希望が見えてきた。

 

「マサキがやる事は決まったね。オープンキャンパスに行くつもりのウマ娘にお願いする。付き添いとして連れてってもらうんだよ」

「そのプラン採用します!流石デジタル殿」

「喜ぶのはまだ早いよ。明日までに都合よくオープンキャンパスに行くウマ娘が見つかるか、そもそも見ず知らずの男を保護者として連れていくウマ娘なんているのか」

「そこなんだよなーそんな奴いるか、でもこのプランしかな・・・デジタル殿は行かないのか?」

「マサキ、申し訳ないが私の付き添いは母がやると言って聞かなくてね。これでも箱入り娘なんだ」

「謝る必要はないよ。ここまでの道を示してくれただけでも感謝する」

「明日は学園で会えるといいね。同志マサキに三女神様のご加護がありますようになんてね」

 

 デジタルと別れて街中を歩いているとトレセン学園の生徒がビラを配っているのが見える。

 一枚もらったので内容を確認。

 オープンキャンパスの告知か、近所に住むウマ娘に少しでも興味を持って欲しいんだな。

 

 トレセン学園の監視スポットであるビルの屋上へ辿り着く。

 もう生徒の監視はしない、ターゲットは学園内にいるであろう結界の発生源のみ。

 先程もらったチラシをなんなく紙飛行機にしてみた。

 マヤはこれで俺を釣り上げたんだよな・・・俺も覇気を込めてみよう。

 誰か、俺をオープンキャンパスに連れて行って下さい!

 

「そりゃ!」

 

 紙飛行機を飛ばす。

 風に煽られてひらひらと空を舞う飛行機。意外と飛ぶな、すぐ落下するかと思ったが。

 

「今日はいい天気だな。ちょっと寝不足だし・・・少し寝よう・・・」

 

 果報は寝て待てとも言うし。

 ちょっとだけ、起きたらすぐにオーキャンに行くウマ娘を探そう。

 今度見る夢は悪夢じゃないといいな。そうだろうクロ、シロ。

 

「起きてー起きてよー」

「やめろクロ!そいつもう息してない・・・」

「なんか変な夢見てるね」

「シロよくやったぞ。まさかヤンロンをクロスゲートに放り込むとは」

「夢の中で誰かをこの世界から消し去ったみたい」

「これでもう・・・後は俺達3人で・・・・んあ?」

 

 夢か、今回の夢は最高だった!まさか2人がヤンロンを裏切って始末するとは。

 前回の夢は全て奴を罠にハメる演技だったとはな、流石俺の愛バ達だ!

 死体の処理まで完璧!完全犯罪成立!

 

「と言う最高の夢から目覚めさせたのはお前達か、テイオー、マヤ」

「愛バと殺人事件を犯したのが最高の夢?どうかしてるよ」

「面白いねーマサキちゃんは」

「なんでここに来た。よく俺を見つけたな」

「これを見つけたからね」

 

 そう言ってテイオーが取り出したのは俺が飛ばした紙飛行機。

 

「地図は書いてないはずだが」

「覇気はマサキちゃんのだってすぐわかったよ。後は飛んで来た方角、風向きで大体の目星をつけて、はい!見事発見だよ」

「すげぇなお前ら」

 

 労いの意味を込めて2人の頭を撫でてやる。

 ちょっとだけわしゃわしゃ、気持ちよさそうにしてくれるので俺も嬉しい。

 

「あれから大丈夫だった?」

「ああ戦闘になったが、和解したぞ。今ではもう味方だ」

「やっぱり戦ったんだ。いいなーマヤ達も一緒がよかったな」

「相手は一応プロだぞ。遊び半分で勝てるほど甘くない」

「じゃあ、マサキは僕らが負けると思うんだ」

 

 正直昨夜にテイオーとマヤがいればかなり楽だったはずだ。

 この2人のスペックはそれほどまでに高い。

 ちょっと修練を積めばフラッシュやファルコンにも簡単には負けないと思う。

 

「カッコつけずに素直にお前らを頼れば良かったよ。たぶん俺達3人なら負けはしない」

「お、マヤ達褒められてる。もっと褒めてー」

「はいはい」

 

 甘えんぼさんめ。よしよし。

 

「学園に入ったらもっと強くなれるよ。今から楽しみだな~」

「・・・お前達、もしかして明日のオープンキャンパス行くつもりか?」

「そうだよ。待ちに待った学園見学のチャンスだよワクワク」

「誰と行くか決めているか」

「パパとママはお仕事だからテイオーちゃんと2人で行くつもりだったよ」

「僕もマヤノと一緒にいけばいいと思ってたから付き添いはなしかな」

「俺、ちょっと興味あるんだが2人の保護者としてついて行ってもいいか?」

「え、一緒に来てくれるの。やったー!いいよねテイオーちゃん」

「仕方ないな~また遊んでくれるならいいよ。帝王様に感謝するのだぞ」

「よっしゃー!持つべきものはウマ娘の友達だ!2人ともありがとう!お前ら最高だ!」

「きゃ!あははは。良かったねーマサキちゃん」

「お、落ちる!ここビル屋上だよ!嬉しいのはわかったからはしゃぎ過ぎないで!」

 

 嬉しさのあまり二人を抱っこして屋上を走り回る。

 これで学園に入る事ができるぞ。さてさて、待っているのはどんな人物か。

 平和的解決を望みます。どうかバーサーカーじゃありませんように・・・無理か。

 




マサキ   スタバは未だに緊張する

フラッシュ コメダ珈琲派 フードメニューのボリュームが好き

ファルコン フラペチーノの新作は必ずチェック

デジタル  ノートPCを持ち込んで意識高い系を演出する

テイオー  ドトールとタリーズの違いがイマイチわからない

マヤ    皆の前では甘いカフェオレ、1人の時はブラック無糖


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おーきゃん

 今日はトレセン学園のオープンキャンパス開催日。

 

「昨日はお楽しみでしたね」

「1人で泊ったんだけど」

「お部屋に準備させて頂いたブツはお気に召しませんでしたか?」

「あれはアンタの仕業か」

「そろぴょい用にエロ動画専門チャンネル(有料)を視聴可能な大画面TVから多種多様な性癖に合わせた書籍、薄い本。VRゴーグルも完備しておきました」

「俺が泊った部屋、凄い事になってるからね。そういう専門店みたいな品揃えだからね」

 

 サトノ家に用意してもらった宿泊施設。

 フロントにいる通称"お楽しみおやじ"が妙な気を利かせてくれた。

 なかなかのラインナップだったので怒鳴ったりはしません。

 このおやじの目利きは本物だ。どこで買えるのか教えてもらおう。

 

「チェックアウトいいですか」

「あ、すみません。お先にどうぞ」

 

 おやじとこだわりの薄い本について語り合っていると、他の宿泊客であろう男性2名がフロントに現れた。おっと邪魔だったか。

 

「昨日はお楽しみでしたね」

 

 ちょwww何を言い出してんだwwwこのおやじwww。

 

「いえ・・・////」

「ポッ・・・////」

 

 え?・・・なんてこったこの2人・・・できているのだと!!

 少し照れながら満更でもない表情を浮かべた男たちは会計をすませ、手を繋いで出て行った。

 

「ほぇ~たまげたな~」

「あのお客様達はカモフラのためなのか、わざわざ1人1部屋をご利用くださいました」

「バレてんじゃんか・・・どう見ても厳格な中年上司と若手の新入社員だったのに」

「あれは若者の方が攻めですな!」

「聞きたくない!!!朝から脳みそが腐るわ!!」

 

 やだー!腐男子になっちゃうー!

 

「本日中にBLものをご用意してお部屋にお持ち致します」

「いらん気遣いをするな!俺はノーマルだ!」

「ロリコンの癖にwwwノーマルとかwwwウケるwww」

「ぶっ殺すぞてめぇ!なんで知ってるんだよ!」

「サトノ家一同は皆存じておりますので」

「なら仕方ないね!クソが!」

 

 ロリコンと言われも動じないと言ったな・・・あれは嘘だ!

 

「じゃあ行ってくる。スーツありがとう」

「今日は保護者役をなさるとの事でしたね。お持ち帰りを期待しております」

「したことはあるけど!今日はしないよ!」

 

 気持ちの悪い笑顔で送り出された。

 用意してもらったスーツもサトノ家の特注品。いざという時の戦闘にも十分耐えれる強度と防御性能もある優れもの。ちょっと話しただけで速攻で用意してくれた。

 あのおやじなんだかんだで有能。

 

「あー来た来た!こっちこっちだよーマサキちゃん」

「悪い、遅れたか?」

「僕たちが先に来てただけで、まだ10分前だよ」

 

 学園の正門前では既にテイオーとマヤが待っていた。

 人が多いな、たくさんのウマ娘とその保護者でごった返している。

 

「服装自由だっていったのにスーツ着てる~」

「似合ってるね。大人って感じだ」

「一応保護者ですからビシッと決めないとな。今日はよろしくな」

「「こちらこそよろしくね」」

 

 入場が開始されたので3人で列に並ぶ。

 

「今日は例の結界が見当たらない、ターゲットがいないなんて事はないよな」

「警備員や生徒に混ざっているかもね。相手の特徴は?」

「唯一の目撃者のデジタル殿によると、緑色の服を着た女性だそうだ」

「いるかな~。どこかな~」

「せっかくのオープンキャンパスなんだ、お前達はしっかり学園内を見学しておけよ。俺の事は気にするな」

「えー手伝うよ。水臭いな~」

「そうだよ。マサキちゃんが警戒するその人に会ってみたい」

「学園に入れただけでも十分協力してもらったよ。ここからは俺の仕事だ」

「「ブーブー」」

「ふくれっ面してもだーめ。力を借りたいときはお願いするからな」

 

 受付をすませて、ついに憧れた場所に入場。

 先日見かけた守衛さんはいなかったので止められる事はなかった。

 

「ついに来たぞトレセン学園に!あーなんか匂いが違う」

「各種施設の見学や展示物の紹介、模擬レースや騎神の模擬戦闘もやるんだって」

「どこから回ろうかな。わくわく」

 

 肩っ苦しい挨拶は抜き、入場した者は渡されたパンフレットを見ながら学園内を巡るらしいな。

 しばらく人混みの流れに沿って歩いた所で教室棟が見えて来た。

 そろそろいいか。

 

「ここからは別行動だ。じゃあ楽しんで来いよ」

「何かあったらこの帝王様を呼ぶんだぞ」

「マサキちゃんの覇気は覚えたからね。すぐに駆け付けるよ」

「ありがてぇ。なんて良い子達なの」

 

 頼もしい仲間と別れて単独行動。

 こちらマサキ、任務を開始します。

 

「・・・いない」

 

 早速行き詰った。

 大きな覇気の持ち主を探そうと試みるが・・・こりゃ大変だわ。

 放出する覇気を絞って隠されたらマジでわかんねぇな。

 俺の探知能力では姿がはっきりと確認できる距離まで近づかないと見つけられない。

 それっぽい人物に近づいてみるが今の所ハズレばっかりだ。

 

「ここにも・・・4羽目セット」

 

 手あたり次第に近寄って覇気をチェックするのと並行して、餌をばら撒いておく。

 昨日の紙飛行機で思いついた釣りの方法だ。

 折り紙で作った鶴に覇気を込めて学園内に設置していく。

 この折り鶴に気付いて俺の所まで来てくれるといいだが。

 テイオーとマヤには事前に伝えてあるので釣れるならあの2人以外。

 デジタルは空気を読んでスルーしてくれるだろう。

 誰が釣れるかわからないが、この餌に気付いて俺を追ってくる奴はドレイン候補だな。

 

 綺麗に掃除が行き届いた広場に到着。

 噴水の中央に三女神の像があり学園をやさしい顔で見守っている。

 そういえば孤児院を出た後、母さんが三女神の下で俺を待っていた。

 女神様・・・今回も、これからも良き出会いをお願いします。

 

「にょわ!」

「お!?」

 

 考え事をして歩いていたら誰かがぶつかって来た。

 

「陳謝ッ!ケガはないか」

「そっちこそ。大丈夫か?」

「この通りピンピンしている。私の前方不注意だった、すまない」

「俺も考え事をしていたからな。お互いさまって事で」

 

 身なりのいい格好をした子供だな。クロやシロと同じぐらいか?

 白い帽子とワンピースに青い上着。

 清楚なお嬢様風の服装だが着ている本人のパワフルさを隠しきれていない。

 手に持った扇子に文字が浮かんだ様な気がしたが、最近のオモチャはすげーな。

 

「君はオープンキャンパスに来られた保護者の方か」

「親戚の子の付き添いでな。今はちょっと別行動中だ」

「歓迎ッ!ようこそトレセン学園に。私はこの学園を運営している一族の端くれだ」

「若いのにしっかりしているな・・・もしかして迷子か?」

「否定ッ!迷子ではない。今の私は逃亡者だ」

「ふーんそうなんだ。じゃあ俺はこれで・・・」

「何から逃げて来たか聞かないのか?」

「事情を聞いたら嫌なイベントが発生しそうなんで遠慮します」

「多くの厄介事に見舞われてきたのだな。あ、待って」

「やーめーろーよーしがみつくな!今はやる事があるの!遊び相手なら他を当たってくれよ」

「薄情ッ!同じ操者のよしみではないか、ちょっとそこいらでお茶でも」

「今、同じ操者って言ったか・・・まさかお前、操者なのか」

「肯定ッ!証拠ならあるぞ。これを見てくれ」

 

 首に巻いたスカーフを外して俺に首筋を見せる。

 そこにあった傷跡は。

 

「歯形だと・・・1つだけだがクロシロのより大きい。お前、その年で自分よりでかい騎神と契約したな」

「うむ。死ぬかと思ったぞ!」

 

 騎神が人間に噛みついて行う古式契約をやる事自体が時代遅れだと聞いた。

 それをやるようなバカは俺ぐらいだと思っていたのに。

 あの激痛に耐えたのか、こんなに小さいのによくぞ・・・しかも自分より年上に噛まれた模様。

 なんか泣けてきた。

 

「俺はアンドウマサキだ。さぞ痛かっただろう・・・俺も痛かった」(´;ω;`)ブワッ

「秋川やよい(アキカワヤヨイ)だ。うう・・・やっとこの痛みを理解してくれる人に会えた」

 

 人目もはばからずヒシッと抱き合う俺達。

 やましい気持ちなど一切ない。

 よくあの地獄から生還したとお互いを讃え合ってのハグだ。

 

「痛かった!痛かったよー!がっちり捕まれて一切抵抗できなかった!」

「よしよし、怖かったな。マジで食い殺されると思ったよな。年上の騎神に噛まれたのか、酷い!」

「すぐ終わるって、優しくするって言ったのに!嘘つき!たづなの嘘つき!」

「俺の騎神は年下だからまだマシだった。ほら見てみろ、ここに2つあるじゃろ」

「ふたつ・・・え、2人同時・・・ひ、酷すぎる!年下とか関係ない!2人分の覇気が体を蹂躙したのだろう!そっちの方が遥かに危険だ!もうヤダ!私が理事長になったら絶対禁止する!」

「そうして!絶体そうして!この悲劇を繰り返してはいけない!」

 

 ちょっとだけ愛バへの恨み言を吐きながら、俺達はしばらく泣いた。

 

「( ´Д`)=3 フゥ取り乱して済まなかったなマサキ君」

「かまわんよ。それにしても未来の理事長様が俺と同じ苦痛を味わったとはな」

「秋川の家は代々多くの操者を生み出した家系だが、近年では恵まれた覇気を持つ人材が減っている。なんの因果か私の覇気は周囲の期待を背負う程にはあったそうだ」

「お家の権力闘争に利用されて不満はないのか」

「トレセン学園の改革には必要な手順である。予想外に痛すぎたけど」

「現理事長から学園の運営権を奪うか。もうクーデターじゃん」

「私が彼女と契約できた段階でこちらの勝利は確定したも同然。数年後は私が理事長だ」

「トレセン学園を牛耳る秋川家を揺らがすほどの力を持った騎神。学園の結界も彼女が」

「うむ。今日は園内の仕事が山積みなのであちらこちらを奔走している。広域結界はお休みにしておいた」

「実は今日その人に会いに来たんだよ。理事長(仮)と一緒にいたら会えるのか?」

「オープンキャンパスが終わった後で良いなら紹介しよう」

「是非お願いします。なんとかなるもんだな」

「彼女の代わりとして私の監視・・・じゃなくて護衛を任された者から逃げるのに協力してくれ」

「紹介してくれるならいいけど。逃げて来たんだよな、心配されているんじゃないの」

「悪い奴ではないのだが、自分にも他人にも厳しい奴でな。一緒にいると、どうにも肩がこってしょうがない」

「やがて自分の城になる学園を自由に見て回りたいと。わかった、お供しましょう」

「感謝ッ!では行こうかマサキ」

「はーい。ところで理事長・・・やよいでいいよな。やよいは俺の折り鶴を辿って来たのか」

「折り鶴?そのような物は見ておらん。マサキと会ったのは偶然、ぶつかった時に複数の覇気を感じた気がしたのでカマをかけたらやはり操者だっただけ」

「折り鶴の撒き餌は失敗か・・・」

 

「ここにいましたか、やよい様」

 

 学園を見て回ろうとする俺たちに声がかけられる。

 

「さっそく迎えが来たみたいです・・・よ・・・!?」

「追いついて来たか、護衛はもう結構だ。今からこの男と一緒に学園を巡る」

「・・・あ・・・あ」

「わがままを仰らないで下さい。今日1日彼女からあなたの任されたのは僕です」

「融通の利かない奴だな。今日ぐらい羽を伸ばしても良いではないか!」

「あなたはいつも伸び伸びされていると思うのですが」

「マサキ君からも何か言ってくれたまえ・・・どうしたマサキ君?」

「・・・お・・・あ」

 

 ファルコンから奪った写真で見た顔。

 夢の中で俺に最大級の屈辱を味合わせたその顔。

 なんで今遭遇するんだよ・・・あ、手に持っているのは俺が作った折り鶴やんけ。

 とんでもない奴を釣ってしもうた。

 

「ホワン・ヤンロン」

「どうして僕の名前を知っている・・・お前は!?」

「意外ッ!2人は知り合いだったのか」

「やよい様!すぐそいつから離れろ、その男は危険だ」

「フッ、何を言ってるかわかりませんな。今日は親戚の付き添いで学園に来た人畜無害な男ですが何か?」

「とぼけるのはよせ。お前の事は調べがついているぞウマ娘の敵め!」

「なんだと!俺は自他共に認めるウマ娘ラブ勢だぞ」

「ヤンロン、マサキ君が危険人物だと言うのならその根拠を説明しろ」

 

 こいつと争う理由は無いので、なるべく穏便に済まそうと感情を抑える。

 一方的な悪感情だとわかっている。でも・・・殴りてぇな。

 

「その男は数か月前に発生した超特大覇気の大量流失[尻尾ピーン事件]に関わっている」

「驚愕ッ!その覇気は私も直に感じたぞ!」

「なにを企んでいるのか知らんが、再びそれを起こそうとしている。そうだろう」

「知らね」♪~(´ε` )

 

 前半は正解、後半は間違い。

 

「僕なりに事件の犯人を追っていた所、妙な噂を聞いた。なんでもウマ娘にいかがわしい行為を強要し、覇気を奪っていく変態が出没すると」

 

 おい!誰だ!話を捻じ曲げた奴は!

 失敗したなぁ、スぺと別れた後やけくそでいろんなウマ娘に声をかけたのが良くなかったか。

 あの時はちょっと焦っていたんだが、ドレイン候補に会えないばかりか変な噂を流された。

 

「強い覇気を持つ人間を追いかけると、この噂にぶつかる。なにを企んでいる?どうやって覇気を集めた?全て聞かせてもらおうか」

「本当なのかマサキ君。私には君が悪人だとは思えない」

「覇気を集めているのは本当だ。だが俺の愛バに誓って悪事を働くつもりは毛頭ない」

「信用ッ!私は君を信じる。同じ痛みを知った操者として」

「やよい!お前なら信じてくれると思ったぞ」

「僕はまだお前を信用してはいないぞ」

「本当に頑固な男だな。私が信じると言っているんだ。この場は引いてくれ」

「未来の理事長は俺の味方ですぞ。下がり給えヤンロン君」

「ぐっ!調子に乗って」

 

 やよいが味方になってくれたので穏便に済みそうだ。

 良かった面倒事にならなくて。もう帰って!俺の前から消えて!

 

「僕はお前の力を見極めなくてはならん!勝負だ!」

「コイントスでいいよね。俺表、そーれ!」

「待て!勝負の内容を勝手に決めるな」

「表だな。マサキ君の勝ち」

「はい終了!解散!」

「そのコインを見せろ・・・両面とも同じ絵柄ではないか!ふざけるな!」

「「ちっ!めんどくせぇな」」

「やよい様!その男に毒され過ぎです!」

「オーキャン中でしょうが、ここで戦って皆さんに迷惑かかったらどうすんの?」

「問題ない。指導教官のヤンロンだ、危険人物を発見した。周囲の人払いを、それと騎神用グラウンドの使用許可を」

 

 通信機のような物に指示を出すヤンロン。

 どこからともなく現れた警備員や風紀委員の腕章をつけたウマ娘が上手い事人を誘導していく。

 これでいいだろ?みたいな顔するな。こっちはちっとも良くないんじゃよ。

 

「やよいさんや。すまないがお主の愛バに今すぐ会わせてくれんか?もう用事を済ませて帰りたいんじゃ」

「え、いいのか勝負はしなくて」

「あいつメッチャ強いでしょ。俺は覇気を集めるのが目的であって、手強い相手と限界バトルする気はないんで」

「逃げるのか?それでも操者か」

「逃げますけど、愛バがいてもいなくても逃げますけど」

「助っ人を何人連れて来てもかまわないぞ。仮にも操者ならウマ娘の1人や2人使役できるだろう」

「使役って言い方好きじゃない。一緒に戦ってくれる奴らは対等なんで」

「殊勝な考えだな。だがお前が操者では愛バが不憫でならない」

 

 こいつ露骨な挑発をしてきやがる。

 お、落ち着こう。怒っちゃダメよ。クールにこの場を去るんだ。

 

「勝手に憐れんでろ、俺はあいつらと相思相愛なんで!石波ラブラブ天驚拳打てるぐらいの仲なんで!」

「お前程度の操者で満足しているようでは、愛バも大したことはないな」

「あ゛」

「愚将の下には愚兵しか集まらんとは、まさにお前の事だな」

「あ゛あ゛」

「ヤンロンそこまでにしておけ!言い過ぎだぞ!」

 

 わかっている。これは挑発なんだ。

 ヤンロンは何としてでも俺と戦いたいらしい、普段なら絶対にこんな事を言う奴じゃないはず。

 あのグラさんの息子で多くの騎神から契約を申し込まれるほどに慕われている。

 悪い奴じゃないの知ってるよ。だから・・・それ以上言うな。

 

「契約を解除してやったらどうだ。なんだったら、僕が愛バを譲り受けてもいい。その方が・・・」

「もういい」

 

 はいダメ―アウト―!悪夢の再現を彷彿とさせる発言頂きました。

 俺の万能地雷グレイモヤを思いっきり踏んだな。

 

「やよい、ちょっと離れてろ」

「気を付けろ、あいつは轟級騎神よりも強い」

「知ってる。でも関係ない」

「ようやく、やる気になったか」

「俺を挑発するために言ったのはわかっている。それがお前の本心じゃない事も。だが一度口から出た言葉は戻らない」

「後でいくらでも謝罪しよう。僕に勝てたらな」

「助っ人呼んでも良いんだよな」

「持てる全てを使ってかかってこい。そうじゃないと勝負にならない」

「言うねー・・・後悔するぞ」

「させてみろ」

 

 覇気を開放、むやみに全力開放で突っ込む訳にはいかない。

 伸ばす広げる、頼もしい仲間に伝わるように。

 流石だ、もう近くまで来てるな・・・結局頼ってしまった。後でなにか奢ろう。

 ふぅー・・・。

 

「リニアアクセル!!!」

「こい!」

 

 スピードで翻弄してやる。

 俺1人でもやれるところまで追い込む。

 

「なかなかのスピードだが・・・全部見えているぞ」

「っ!?」

 

 ヤバいこいつマジでこちらの動きに対応してくる。

 俺の拳も蹴りも全てが受け止められ受け流され、ダメじゃん鉄壁じゃん!

 

「こちらからも行くぞ!」

「いやっ!こっち来んな!」

 

 流れる様な体術、グラさんが見せてくれた動きの騎神拳と中国武術の合わせ技。

 早い上にしっかり覇気が乗っているので威力も高い、回避が間に合わん!

 防御した箇所から衝撃が伝わる。

 これは俺1人では最初から無理ゲーでしたね。

 

「どうした、威勢がいいのは最初だけか」

「待っているのです」

「何をだ、言っておくが隙を見せるつもりはない。チャンスを待ってばかりでは」

「隙は作るもんだよ、こんな風にな!」

「バカな!その炎は」

「サラマンダーアクセル!!」

 

 絶対動揺すると思った、だってお前の母さんからもらった炎だからな!

 両腕に発現した炎の刃をぶちかます。切れ味より炎の大きさと密度を優先。

 胸部と左腕に炎の斬撃によるダメージ、ヤンロンの服をちょっとだけ焦がしてやった。

 

「どこでその炎を?」

「ヒ・ミ・ツ☆」

「答えてもらおうか!事と次第では・・・」

「いいのか?隙だらけだぞ」

「何!?ぐぁ!」

 

 炎を見て動揺したヤンロンの背後から迫る2体の獣。

 最高速を維持したままその背中を蹴り飛ばす。容赦ないね~。

 こちらに吹っ飛んで来た物体(ヤンロン)をサッと避けて、出迎えてやる。

 

「お待たせ!ちょっと遅刻したかな」

「いいや、グットタイミングだ」

「あちゃ~大丈夫かなあの人、死んでないよね」

「あの程度じゃ死なないから安心しろ」

 

 容姿端麗、天真爛漫、純真無垢、小柄な体躯に美しい毛並み。

 その体に不釣り合いな戦闘能力を秘めた生物。

 今日俺と一緒に学園にやって来た2人のウマ娘が駆け付けてくれた。

 

「助かったぜ、テイオー、マヤ、でもまだ気を抜かないで。ここからよ」

「本当だ!もう立ち上がってる。モロに入ったと思ったけど」

「こんな時でもわかっちゃった。マヤ達本気でやらないと負けちゃう」

 

 ダメージはゼロではないはず。

 しかし、今ので向こうに火が付いたのを感じる。イラっとしたわね。

 ウマ娘の子供に蹴り飛ばされるなんて、シュウなら「ありがとうございます!」と叫ぶぞ。

 

「それがマサキ君の愛バか?」

「やよいさんや、危ないから離れていなさい。愛バじゃない友達だよ」

「マサキ、このまま3対1で良いんだよね」

「テイオーちゃん、向こうが格上だよ3人でもちょっと苦しいかも」

「助っ人は大歓迎だとよ。お望み通り囲んでやろうぜ」

「「おっけー!」」

 

 ああーヤダヤダ、俺達を見ても戦意が衰えるどころかやる気になっているな。

 

「四面楚歌、いいだろう。背後から奇襲をまともに受けるなど何年ぶりか・・・」

「こんどは正面から蹴られるかもよ」

「やれるものならやってみろ・・・フレイムカッター!!!」

「「「「ひゃーすっげー!」」」」

 

 手で何かの印を結んだと思ったら炎で出来た剣を顕現させた。

 カッコイイ!でもあんなんで切られたら死ぬわ!

 

「これを対人戦で使うことになるとは、お前達も全力で来い!」

「ヤバいな、俺のサラマンダーアクセルはもう鎮火しちまったし」

「アレ防御した所で焼きつくされて死ぬよね」

「マヤ達の覇気じゃ耐えるのは無理ー」

 

 やよいは流石に避難した。

 どうしよう俺はともかく2人は当たったら即終了じゃん。

 俺の覇気をこいつらに回す?

 複数人の覇気を循環させれば相乗効果により、足し算ではなく掛け算で覇気を増やせる。

 でも・・・。

 

「迷ってる?出来る事があるならやろうよ」

「きっとマヤ達を心配してるんだよね」

「方法はあるけど、俺の事情に付き合わせてお前達にリスクを負わせる訳には」

「「マサキ」」

 

 なんだよ。そんな目で見るな、まるであいつらと一緒じゃないか。

 俺を信じきった澄んだ瞳。ダメだ俺は怖いんだ、また俺のせいで誰かが・・・。

 

「「信じて!!」」

 

 私達は覚悟を決めたぞ後はお前だけだ、自分たちを舐めるな、お前の愛バではないけれど、友達を助けるぐらいはやってみせる。さあ!!さっさと寄こせ!!

 

「お前ら、目で物を言い過ぎだぞ・・・」

「「早くして!!」」

 

 ああもう!負けた負けましたよ!

 クロ、シロ!どうかバカな俺達を見守ってくれ。

 

「トウカイテイオー!マヤノトップガン!今だけでいい!俺の愛バになれ!ユー・コピー!!!」

「「アイ・コピー!!!」」

 

 即席のチーム編成だが不思議と不安はない。

 テイオーとマヤの未来の操者さん、これはノーカンですから!許してください!

 クロ、シロ!浮気じゃないから!俺はいつだって本気・・・マジでごめん。

 




マサキ  高校の卒業式で後輩(男)から告白されて吐きそうになった。
     というより吐いた。

おやじ  実は妻子持ち。
     若気の至りで№1ホストまで登り詰めた事もあるので経験豊富。

テイオー 同性からよく告られる。
     思春期を迎えた男友達が最近遊んでくれないのでショック。

マヤ   あざとい仕草と思わせぶりな言動で人心を弄ぶ。
     多くの男子を勘違いさせてきた悪魔。告白はバッサリ断る。

やよい  お家の事情で恋愛どころではない、まだ早い!
     近づく男は全て愛バが排除する。

ヤンロン リアルな鈍感難聴系モテ男。
     恋愛する暇があるなら修練したい、でもこういう奴がアッサリ結婚する。



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あまかける

 即席チーム結成。

 

「今から覇気を循環させるぞ。覚悟はいいな」

「大丈夫、僕達ならやれる」

「やっちゃっていいよー」

 

 ドレインを使用可能になってからわかった事がある。

 契約をしていない相手にも覇気を回せる事、それは相手に触れていなくても可能。

 範囲や距離は今後検証するとして、俺が見える範囲にいてくれるなら問題ない。

 覇気の無線通信、5Gの時代が俺にも来ました。

 

 接続開始、同調、統合、分配、循環、制御、限界値設定。

 

 1度でもドレインをした相手は俺の覇気中枢に情報が記録されスムーズに覇気を受け渡せる。

 クロとシロ程ではないが、テイオーとマヤも十分相性がいい。

 さっそく循環が・・・おや2人の見た目に変化が。

 髪と尻尾から覇気の粒子が溢れ出す。

 煌めき揺らめく光がまだ幼さの残る彼女たちを美しい戦闘生命へと変貌させる。

 

「テイオーちゃん、体からGN粒子が漏れてるよ!いつからソレスタルビーイングに入ったの」

「マヤノの方こそどえらい事になってるからね。僕が僕達がガンダムだ!」

「落ち着け!それ多分俺の覇気のせいだ。キラキラしてるだけで害はない・・・はず」

 

 ほほう。今の俺が覇気を回すと騎神は太陽炉搭載型になりますと。

 俺の覇気もいろいろ変化してきているんだな。

 

「準備はいいか、行くぞ」

 

 待ってもらってすんません。

 ヤンロンが炎の剣を構えてこちらを見据える。いやー怖いっスわー。

 

「来るぞ、相手は1人だがメッチャ強いから気を抜くな」

「僕はエクシアみたいに攻めようかな。接近してボコボコにする」

「それじゃあマヤはキュリオスだね。スピードで翻弄、隙あらば噛み千切る」

「よしそれでいけ!俺は・・・狙い撃つぜ////」

「「ここまで来て照れちゃダメ!!」」

 

 テーマカラーがぴったり合ってるテイオーとマヤ。

 俺は遠距離苦手なんで狙い撃てませんけどね。

 

「っ!」

「うわっ!あっつい!」

 

 振り下ろされた炎剣を慌てて避ける。かすっただけなのに熱い!

 

「いくよ!はぁあああ!」

「こっちも!」

「万死に値する!」

 

 右からテイオーが、左からマヤが攻め立てる!

 そして正面担当はこの俺だ!

 

「渇ッ!」

「「「んなアホな!!!」」」

 

 おいおいおいおい!3対1だぞ!?

 覇気循環で能力を強化した俺達を相手に全く怯まない。

 三方向からの攻撃を受けきったのみならず、気合の一喝で吹っ飛ばされただと。

 ( ´ー`)フゥー...これはアカンで・・・あっちのペースなのが気に入らん。

 

「ヤバい!逃げるよ!テイオー、マヤついておいで」

「予想以上に強かった。退却~」

「あははは!逃げろ逃げろ~」

「待て!あっさり敵前逃亡するな!さっきまでの覚醒シーンはなんだった!」

「きゃー!タスケテー!変な男が熱々の棒(フレイムカッター)を突っ込もうとしてくるの!いやー!」

「「やばwww言い方www」」

「おいバカやめろ!名誉棄損で訴えるぞ!」

 

 ただ逃げるのは癪なので、ヤンロンのメンタルを削る悲鳴を上げながら走る。

 精神攻撃は基本。

 

 人をかき分けて走る珍妙な集団を人々は見た。

 先頭を走るのはバカな発言を繰り返し悲鳴を上げる変な男。

 その後を追いかける2人の子供、不思議な光を纏ったウマ娘、あれは一体。

 それを追いかける炎の棒?を持った男、先頭のバカ相手に律儀にツッコミを入れている。

 

 学内の生徒や、オーキャンに来た人々は何が起きているのかわからない。

 ただわかるのは、彼らがとんでもないスピードで走り抜けたという事だけ。

 人間、いやウマ娘ですら唖然とするスピードと迫力。

 これだけの人混みで誰かにぶつかる素振りすらない。

 それどころか「すみません!」「ちょっと通りますよ」と謝りながらどんどん進んでいく。

 

 ここで学園全体にアナウンスが入る。

 今からグラウンドにて模擬戦闘風の演劇が開催されます。

 演出にはトレセン学園が誇る最先端技術を使った特殊効果満載でお送りします。

 まるで人間が騎神を圧倒するかのような動きを見せますが全てトリックです。

 ご興味のある方は係員の誘導に従い適度な距離をとってご観覧ください。

 なおこの演劇の余波でケガ、死亡にいたった場合は全て自己責任とさせて頂きます。

 

 さっきのアレらは演劇の登場人物なのか?

 どうしよう、気になるけど最後の自己責任って・・・。

 珍集団が気になったり、怖いもの見たさの好奇心を持った人々はグラウンドへ移動した。

 

「今の放送、グラウンドでやれってか?どっちだ」

「こっちだ僕について来い!・・・まさか今まで適当に逃げていたとは!ふざけすぎだ!」

「とあるウマ娘は俺の事を末期の方向音痴だと診断した」

「「どうして先頭を走った!!」」

「怒らないで!俺の愛バになったなら俺を全肯定してよ!」

「「甘えるな!!」」

「ふぇぇ・・・クロ、シロ!レンタル愛バが怖いよー」

 

 クロとシロなら絶対俺を甘やかしてくれるのにー。

 

「いいから行くよ。僕の優しさに感謝してよね」

「マサキちゃんの愛バも楽じゃないよ。ほら、行こう」

 

 なんだかんだで手を引いてくれる2人・・・自分もっと甘えていいっスか。

 年下にバブみを感じて幸せな俺です。

 

 グラウンドへ到着。

 

「着いたぞ。さあ覚悟をきめ・・・」

「「「うぉらぁ!!!」」」

「くっ!お前達はどこまで」

 

 不意打ち失敗!卑怯ではない!俺達は必死なのだ。

 そうそうこの感覚だ。次に誰がどう動くかなんとなくわかる。

 3人同時に殴りかかったので流石のヤンロンも防御態勢に。

 

「そのレーバテインしまえよ!正々堂々素手でかかってこんかい」

「フレイムカッターだ!正々堂々!?お前が一番言ってはならん言葉だ」

「押さえるよ!マヤノ」

「うん!任せて」

 

 ちっこい二人がヤンロンの胴体にしがみついた。移動を封じる。

 攻撃しようとする俺に向けてヤンロンが炎剣を振り下ろす。

 

「このっ!」

「真剣白刃取り成功した!ぎゃあああああつぃいいいいい!!!」

「「おバカ!!」」

「グラヴィティアクセル!!!」

「何っ!」

 

 手の平が焼けたじゃないか!

 痛む両掌に重力場を発生させ燃える刀身を折り砕く。

 覇気で出来た刀身すらも破壊するネオさんの力。制御が難しい分、頼もしい!

 折れた部分を中心に炎剣の全てが黒い力場に吸い込まれ消滅する。

 

「「よっしゃー!!」」

「これでも・・・くらいなさい!!」

「な゛」

 

 額に覇気集中させて頭突きをかましてやる。俺も痛いったい!

 ヤンロンが多々羅を踏む。テイオー!マヤ!離れろ!

 2人が俺の意図を察知して離れた所で覇気鞭、強度を限界まで上げた覇気の縄で縛り上げる。

 

「俺の愛バが世話になったな!バインド状態の貴様をなぶり殺しにしてやる」

「なんの話だ!僕はお前の愛バの顔すら知らない」

「夢で見たんだよゴラァ!」

「「理不尽過ぎる!!」」

 

 接近して殴りかかる俺の攻撃を躱し続けるヤンロン。上半身縛られてその動きか!

 くそ、全身をぐるぐる巻きにすれば良かった。

 

「夢での僕は相当お前を怒らせたんだな」

「そろぴょいしろって言いやがってぇええええええ!!!!」

「「そろwwwぴょいwww」」

「笑ってないで手伝え!レンタル期間は終わってねぇぞ!チビ助ども!」

「「ぺっ!!」」

「あ、こいつらやる気を無くしやがった!クロシロ!やっぱり俺にはお前達が必要!!」

「やかましいぞ!こんな拘束など・・・おおおおお」

「ひぃ!その強度を引きちぎるとか!お願いします、手伝って!」

「「追加料金になります」」

「足元見やがってぇええええ!!えーと学園の近くにあったアレでどう?はちみつが入ったドリンクが・・・」

「「ご命令を!マイマスター!!」」

「くっそチョロい!でもカワイイ!」

「手足をもいで首をねじ切ればいいんだね!」

「内臓引きずり出しちゃうよー!」

「きゃー!グロい殺し方提案して来た!それでいいかなヤンロン?」

「いいわけないだろぉ!お前といると頭がおかしくなりそうだ!」

「良く言われる////」

「「「照れるとこじゃねーよ」」」

 

 やるぞジェットストリームアタック(三人でリンチします)

 

「よし!まずはズボンを脱がせるぞ!」

「「了解!!」」

「何が了解だ!くそ離せ!」

「学園の正門前に吊るしてやるよ!下半身丸出しでなぁ!げひゃひゃひゃひゃ!!!」

「「主の命令だから仕方ないね」」

「狂っている!お前達全員賢さをどこへ置いて来た!バカタレどもめ」

「言われてるぞ、テイオー、マヤ」

「「お前もな!!」」

「いい加減に・・・しろぉおおお!!!」

「戻っておいで!ズボンはもういいから!」

 

 テイオーとマヤを回収して離れる。

 おおっとついにブチギレましたか。

 

「ふぅふぅ・・・疲れた。追い込まれた?この僕がか、なんたる失態」

 

 (テイオー、マヤ、次がラストアタックだ)

 (早かったね。もっといけると思ったんだけど)

 (体、限界だろ。すまないな無理させて)

 (わかっちゃうよね。繋がっているんだから)

 (次で決める。最後まで頼らせてくれ)

 ((なんでもするよ、言ってみて))

 (今なんでもって言ったな・・・じゃあさ)

 

「認めるしかないのか、お前はバカだ」

「ストレートな物言いに傷付きました」

「バカだが強い。ふざけた行動の全てが敵を追い込む布石になっている」

「偶然じゃね」

「長年連れ添った操者と愛バの様な動き、騎神の力を引き出す事にかけては一流だ」

「俺じゃなくてこの2人を褒めてあげて」

「お前を挑発した事の非礼は詫びよう。これで最後だ、いくぞマサキ!」

「やっと名前を呼んだな。受けて立つぞヤンロン!俺達が勝つ」

 

 ヤンロンが覇気を練り上げる出現するのは巨大な火球が2つ。

 あの技は、間違いない!

 

「テイオー、マヤ、俺の後ろに下がれ。何があっても作戦通りだ」

「「うん」」

 

 火球が龍の顎へと変貌を遂げる、更に高まる覇気。

 全てを焼き尽くし極大の破壊をもたらすその技の名は・・・。

 

「受けよ!カロリックスマッシュ!!!!」

「やっぱりかぁー!」

「「ヤッベ!!」」

 

 学園内で出していい技じゃないだろ!?

 バカか!俺達の背後には・・・あるぇー誰もいませんね。避難しっかり完了しとる。

 気が付くのが遅れたが、ドーム状の覇気結界が復活している?

 いや、グラウンドにいる俺達の戦闘領域のみをカバーしている。

 やよいの愛バが近くにいるな。そいつがいるからこその必殺技か。

 人と建物の被害は気にしなくて良い、お膳立ては整った。

 

 覇気フィールド最大展開!リニアアクセルの力を全身に回す。

 発射された灼熱の火柱が俺達を襲う。

 

「あっち!あっついって!あ゛ああああああああああああああああああ!!!」

「「っ!?」」

「おい!出て・・・来るな・・・よぉ・・・ぐ」

 

 全身を熱波が焦がす。覇気が無かったらとっくの昔に蒸発しているぞ。

 あつい!きつい!つらい!流石グラさんの息子。

 俺を盾にしているテイオーとマヤを庇いながら、1歩ずつ進む。

 1人じゃなくて良かった。1人ならこんな事絶対やらない。

 進む、進む、進め。わかっているな、後ろにいるんだぞ、俺のバカに付き合ったバカな子達が。

 愛バは操者を守る?そんな事誰が決めた。操者が愛バを守ってもいいだろ。

 支えてくれてる。今もずっと繋がっている。俺1人じゃ無理でも信じてくれる奴らがいる。

 

「耐えている!?ありえない!もう降参しろ!そのままでは焼け死んでしまうぞ」

 

 お優しい事で、この攻撃に怯んで降参すると思っていたのか。

 もしくは意識を失った時点で勝負は終了、救助が入る手はずになっているんだろう。

 やよいの愛バ、トレセン学園の虎の子がいればフォローもバッチリてか。

 最悪死にはしない。

 

 近づく、あとちょっと、痛覚が麻痺してきたな。

 もう少し待て!お前らの・・・俺の切り札の出番はまだ先だ。

 自分でも不思議だ、なんでこの炎に耐えれる?俺の覇気・・・だけじゃないな。

 知ってる。この覇気はクロ、シロ、母さん達、スぺ、スズカ、皆、アインストの力。

 これまで出会った皆の力が少しづつ少しづつ俺を変えている。

 クロ、シロだけじゃない。俺も先へ進む!進化する。

 

「ゴールだ・・な・・・」

「・・・マサキ・・・お前は何者だ」

 

 ヤンロンの目の前、その距離あと1歩。体はボロボロ煙が出ている。

 大技の反動か、それとも目の前の化物に対する畏怖か、ヤンロンは動けない。

 さあフィナーレだ。

 

「シルフィードアクセル!!!」

「ぐぁああ!!!」

 

 焦げた腕に力をこめて渾身のボディブロウ!

 インパクトの瞬間に相手を押し出すように、天高くそのまま拳を突き上げる。

 上空に吹っ飛ばしてやった。まだだ、ここで終われば猫のように着地されてしまう。

 だから、空の上で決める!

 よく我慢したな。俺が焼かれている時、何度も前に出ようとしてくれたな。

 もういいよ・・・さあ出番だ。

 

「飛べ!テイオー!マヤ!」

「「うん!!」」

 

 俺の背後から躍り出た2人が溜めに溜めた覇気を脚に集中させて上空をに跳びあがる。

 空中に放り出され姿勢制御もままならないヤンロンに追撃を加えるために。

 

「「たぁああああああああああ!!!!」」

 

 逃げ場のない完璧な追撃、しかし相手も人の領域を超えた超越者。

 2人の攻撃が当たる直前、即座に意識を取り戻し攻撃を防いで見せた。

 これでお終い。後は自由落下に身を任せて着地すればよい。

 俺達は全員よく頑張った、最善を尽くした。

 ヤンロンは胸中で賛辞を贈る「見事だ」よくぞここまで。

 

 誰もが思ったこれでこの戦いは終わりだと・・・俺たち以外はな!!!

 

「マヤノ!!!遅れるな!!!」

「そっちこそ!!!ついて来い!!!テイオーちゃん!!!」

「なんだと!?」

 

 信じられない光景。

 空を飛んでいる?いや、空を駆けている!まさかの空中戦!

 自由落下など許さないその前にお前を潰す!!!

 

 縦横無尽に空を駆け怒涛の連撃を繰り出す2人。

 翼を得た獣達は止まらない。

 毛先から光の粒子をまき散らし空を舞う騎神達。

 空に描かれるその軌跡は見るものをすべからく驚嘆させた。

 

 本能の赴くまま無茶苦茶な起動を描き攻撃を繰り返すテイオー。

 その間を縫うように正確無比な一撃を叩き込むマヤ。

 

 あれはいつだったか。

 もっと幼い頃、2人が決めた掛け声、こんな感じで言えば「いち、にの、さん」だってカッコイイよねー。

 マサキの覇気循環がもたらした影響か、過去の記憶と今がリンクする。

 いけるよね、私たちならやれる!

 

 それは、大空を翔る鳥のようだった。

 完璧なコンビネーションを繰り出す二羽の番。

 

 ぶっつけだけど、必殺技だ!!!

 

「アインス!!!」

 

「ツヴァイ!!!」

 

「ドライ!!!」

 

 決める!これが僕の私の全力全開!!!

 

「「ツインバード!!!ストラァアアアイク!!!」

 

 これ以上ないタイミングで放たれる2人の絶技がヤンロンの体に深々と突き刺さる。

 

 ぐうの音も出ないとはこの事か・・・。

 空中でリンチされるとは考えてもみなかった、僕の想像力の斜め上を行った彼女達の勝ちだ。

 それを可能としたのは、地上からこちらを見上げるあの男か。

 目が合う、バカがボロボロの癖に腹の立つ笑顔を浮かべて何かを叫んでいる。

 

「どうだ!その子達は!ウマ娘は最高だろ!」

 

 ああ、それについては全く同感だ。

 

 

「わ、わ、ちょっとタンマ!」

「もう!世話が焼けるんだから!」

 

 力を使い果たしたのか、突如失速するテイオーをキャッチしてゆくっりと下降しているマヤ

 

「どこを掴んでいるのさ!そこは足だよ!逆さま!逆さまだから!」

「うるさいなぁ~。マヤも限界なんだから静かにしてよ」

 

 

「うっし!キャッチした!セーフ!」

 

 落下してきたヤンロンを何とかキャッチ成功!

 あの2人を人殺しにしてはいけませんからね。

 

「余計な事を、放っておいても僕は着地ぐらいできた」

「せっかく助けてやったのになによ!お礼ぐらいいいなさいよ!」

「助かった感謝するぞバカ」

「マサキですけど!バカだけど言われるとムカつくからやめてね」

 

 助けるんじゃなかった。

 俺にはこんな奴よりキャッチしたい奴らがいるのに。

 

 降りて来たな。

 

「よくやった!最高にカッコよかったぞ!ほらこっち来い!」

「マサキ!見た、見たよね!この帝王様の力を!」

「マヤこんなに気持ちいい戦い初めて!もっともーっと飛びたい」

「本当に頑張ったな!撫でさせろ!頬ずりさせろ!ハグしてやる!」

「「ぎゃー!変態だー!!」」

「もう好きに呼べや!ほーらよしよしよしよし!!!」

「「「あはははははははははははは!!!」」」

 

 嫌がる素振りは全くない。

 俺もテイオーもマヤも全身で喜びを表現して互いを労う。

 これだコレ、一仕事終えた後のスキンシップが堪らんのですよ!!

 見てるかクロ、シロ。またお前達ともこうなりたいぜ。

 

 マサキ達の戦いの一部始終を見届けた者達は皆騒然としていた。

 演劇だと聞いていた。今のがトリック?本当にそうか?

 覇気を感じられる者もそうでない者も、興奮冷めやらない。

 魂が震えた。彼らの必死さが熱が、思いが、強者への憧れが全身を満たしている。

 凄い物を見た、良い物を見せてもらった。それでいい。

 笑いながらじゃれ合う人間とウマ娘・・・ああ、いいなぁ。

 トレセン学園の理念の1つ、人とウマ娘の共存繁栄の形が今ここにあった。

 

 その後、この戦いに触発されたのかトレセン学園は騎神育成に力を入れる方向にシフトする事になる。

 

「ああ~今頃ダメージが・・・痛いよ~」

「マサキちゃん所々焦げてる。大丈夫?」

「人に無茶するなって言ってた癖に、自分はするんだから」

 

 俺の回復力ならすぐ治るだろ。それよりこのスーツがすげぇよ。

 俺の普段着だったら燃え尽きて全裸になる所だったぜ。

 サトノ家の服は最高だな、今度いろいろ頼んでみよう。

 

「俺よりお前らだよ。もう覇気の循環は切ったぞ、問題ないか?」

「うん。ちょっと怠いけど大丈夫そう」

「疲れたけど、眠たくはないよ。心配ないない」

「そうか良かった。でも今日は安静にしておけよ、よしヒーリングしてやるからな」

 

 酷使したであろう体に治療を施してやる。

 結構覇気を使った俺だけど、もう復活してきている。

 ほぼ無尽蔵ともいえる俺の覇気、出所は一体どうなってんのかね。

 

「また飛びたいな~。飛べるかな」

「すっごい気持ち良かったよね。今度はゆっくり空を散歩したい」

 

 シルフィードアクセル、母さんの力、覇気を風に変えて従える加速技。

 母さんはこの力で苦も無く空を飛ぶが、いつかは俺も出来るかなぐらいには考えていた。

 ヤンロンに空中でトドメを差すのは作戦通り。

 でも追撃が防がれた後の2人の行動は完全にアドリブ、あんなに自由に空を飛ぶとは予想外すぎた。

 多分俺が万全の状態でもあんなに空を飛べないだろう、精々2段ジャンプ止まり。

 

「マサキの力は凄いね。空を飛ばしてくれるなんて思いもしなかった」

「本当だよ。もしかしてマサキちゃんも空を飛べるの?」

「それなんだがな・・・お前らどうやって飛んだ」

「「え?」」

「確かに俺は飛べと言った。だがそれは最初の追撃までの話だ、その後空中戦を繰り広げろとは言ってない」

「だったらどういう・・・」

「マヤわかんない」

「きっかけは俺の覇気だったかもしれない。でも飛んだのはお前達の実力・・・才能なのかな」

「だったらマヤ達」

「確証はないが、これからもっと修練を積めば、俺がいなくても自由に空を飛べる日が来るのかも」

「・・・・」

「・・・・」

「あくまでその可能性があるってだけだから、期待しない方が良いと思う」

「それでもいいよ!」

「強くなれば空を飛べる可能性がある!」

「お、おい限りなく低い可能性だぞ」

「今日の事は一生忘れない。またやりたい事が増えた」

「絶対にもう一度。あはは、今わかっちゃった。この日のために来てくれたんだね」

「なんだか知らんが頑張れよ。夢が広がるのはいい事だ」

「愛バに悪いかな、でもちょっとぐらいはいいよね」

「マサキちゃん、えへへ~」

「お、どうしたどうした甘えんぼさんめ」

 

 2人がこちらにじゃれついてくる。

 クロ、シロに遠慮してかちょっとだけ軽めのマーキング。

 いつか出会う操者には本気のマーキングをしてやれ。

 この子達を大事にしてくれる、いい操者が見つかりますように。本気でそう思った。

 

「もういいか。話がしたい」

 

 ヤンロンが近づいて来たのでじゃれ合い終了。堪能した。

 

「改めて自己紹介だ。僕の名はホワン・ヤンロン。トレセン学園の指導教官にして、天級騎神グランヴェールの息子だ」

「アンドウマサキだ。ブラックとダイヤの操者で、天級騎神サイバスターの息子っス」

「「「!???」」」

「ちょ、ちょっとまってグランヴェールとサイバスター・・・息子?」

「・・・マヤもうわかんない・・・からかってる?」

「サイバスター?母上と同じ天級の・・・いやまさかそんな」

「母さん達の名前出すといつもこれだよ。お互い苦労するな」

「この落ち着き様、本当なのか?何か証明できるものは」

 

 証明できるもの・・・あるじゃない母さん達からもらった呪いの腕輪が。

 

「これでどうかな、母さん達、天級3人が作った腕輪だ」

「な、な、なんて物を身に着けているんだよ。本物だったら国宝、いや人類の宝だよ」

「3色の腕輪?手作りなのそれ、う~ん特に力は感じないけど」

「この繊維・・・まさか」

「お気づきになりました?そうです尻尾の毛です。3人分の」

「「「・・・・・・キモ」」」

「そうだけど!泣いちゃうから!母さん達あれで結構泣き虫だから!しかも外れないのよコレ!」

「「「・・・・・・怖っ」」」

「ええい。俺が泣きたくなってきた!見てろよこいつに意識して覇気を通すとだな」

 

 腕輪に覇気を集中させる。暴発を防ぐために結構集中してやらないとダメなんだこれがな。

 戦闘中に急にボン!てなったら困るからね。

 はいキター!腕輪から強大すぎる覇気が漏れ出す。

 

「あわわわあわあわ!もうわけわかんないよー!」

「すっごい!なんてキレイな覇気・・・これが騎神の頂点」

「はぁ・・・本物だ。どうやら母上と会ったみたいだな・・・息災だったか?」

「メッチャ元気だった。カロリックスマッシュだったか、グラさんのはもっと凄かったぞ」

「そうか・・ならいい」

「直接会えばいいのに、まだ俺の故郷にいるかもよ」

「考えておく・・・っ!?危ない下がれ!!!」

「うわっ!」

「きゃ!」

「なんで!」

 

 突如天空から飛来して大地に突き刺さる物体。

 なんだコレ?刀か?でかすぎる!極太の刀身にスラスターの様な機器が取り付けられた凶悪な得物。

 どこから、誰がこんなものを投げた。

 突き刺さったのは俺がさっきまでいた場所。尻餅をついた俺の股間近くに刀身が・・・。

 

「あ、危なねぇだろうが!もうちょっとで一生うまぴょいできなくなる所だったぞ!」

「あら、残念です。去勢されれば、少しはまともになるかと思ったのですが」

「おっそろしい事を抜かしよる!」

 

 その人物はただゆっくりとこちらに近づいて来た。

 

「は、駿川女史・・・」

「ヤンロンの知り合いか?おい、どうした」

「これは・・・その・・・事情がありまして」

「お任せした職務を放棄していいほどの事情ですか?私の操者を1人にしましたね」

「いえ!そのようなつもりはぁああああああああああ!!!」

「ヤ、ヤンローン!!!」

 

 ヤンロン本日2回目の打ち上げ。

 現れた女の蹴りで宙を舞う、いつ移動した?全然見えねぇ。蹴った瞬間もわからない。

 きりもみ上に吹き飛んだヤンロンはべちゃっと地面に墜落して動かなくなった。

 生きてんの?ねぇ首から落ちたけど生きてんの?

 あ、救護班らしき生徒が回収していった。

 

「マサキ・・・」

「マサキちゃん・・・」

「大丈夫・・・お前達に手は出させない」

 

 テイオーとマヤが震えている。

 消耗していたとはいえ、あのヤンロンを一撃ノックアウトしただと。

 2人を背中に庇い相手を見る。

 

 緑色の帽子に上着、タイトスカートと黄色いネクタイを身に着けた美しい女性。

 仕事の出来る秘書さんって所か・・・普段は優しく微笑んでいるんだろう。

 今は全然笑ってないけどね!目線だけで殺されそうだけどね!

 

「面倒な事をしてくれましたね。私の仕事を増やすなんていい度胸です」

「あの~何か気に障りましたでしょうか」

「今一番頭に来てるのはあなたの存在です」

 

 おう!ご立腹だ。ヤバい超怖い!

 

「たづな!早まるな!マサキ君は私の友人だぞ!」

「・・・マサキ?マサキ・・・これがあのマサキ」

「そ、そうです。アンドウマサキです」

 

 やよいが血相を変えてこちらにやって来る。

 もう確定だ、この人がやよいの愛バ、トレセン学園の最大戦力。

 

「だとしたらさっきのアレは天級の覇気、この子がなぜここにいる、先輩達は何を考えて、大量流失した覇気はこの子の、だとしたら私のやるべき事は、また手の平で転がされるの、ああまた仕事が増えるじゃない、しかし今更、まだ取り戻せる、ばば様はこの事を」

 

 (急にブツブツ言い始めたよ。今の内に逃げようマサキこの人ヤンロンの数倍危険だ)

 (物音を立てずに速やかに移動するよ。刺激しちゃダメ)

 (待って!この人に用があるんだ)

 

 逃げようとする2人を制して話かけてみる。

 さっきから俺の頭にある警報がガンガン鳴ってるけど我慢。

 

「ちょっといいですか?俺はあなたを探していたんです」

「探していた?私を」

「そうです。あなたの覇気を頂きたいのです、実は俺の愛バ」

「覚えてはいないか・・・そうねあなたは小さかったものね」

「えっと聞いてます?俺の愛バが今大ピンチでしてね」

「興味ないです。それより全力、見せてくださいます?」

「急に何を」

「覇気が欲しいんですよね?全力で私を殴ってみてください」

「ドMですか?」

「いいからお願いします。私を納得させる攻撃を見せてくれたら覇気をあげます」

「・・・あなた相手では手加減できませんよ」

「いらない心配ですね。ほら避けませんからどうぞ」

 

 なにを怖がっている相手はスタイルのいい美人のお姉さんだぞ。

 全力で、全力を見せないと!この人がガッカリしてしまう。なぜかそれは嫌だった。

 

 覇気の全力開放!粒子散布もいい感じ。

 リニアアクセルで突っ込み思いっきり殴りつける。

 どうだ!俺はあの時とは違うんだ!・・・・・・あの時ってなんだ?

 

「ハァ~・・・・」

 

 深いため息。

 確かに今出せる全力で殴りに行った。手加減などしてはいない。

 だと言うのに、目の前の女性が片手で俺の拳を止めていた。

 やよいはやれやれと首を振り、テイオーとマヤは目を見開いている。

 

「ガッカリです。つまらない男に成長しましたね」

 

 動かねぇ。この人の華奢な細腕からは信じられない程の力で握られている俺の拳。

 

「当たるまで待つつもりでしたが、あまりに見苦しいので止めてしまいました」

「ぐっ・・・クソなんで!」

「覇気をただ垂れ流しにしているだけ、まるでなってはいません。それでよく私の前に立てましたね」

「・・・・ぐぬぬぬぬ」

「情けない・・・でもこれは私の責任でもありますね」

「何を言って」

「天級にあなたを任せるべきではなかった。私にあなたを育てる覚悟があれば」

「だから何を!・・・か・・・は・・・」

「マサキ!」

「マサキちゃん!」

 

 腹パンされた・・・それだけで・・・全身が揺れた・・・意識が・・・くそ。

 あーあー、またガッカリさせちゃった・・・約束したのに。

 テイオー、マヤ、すまん・・・なんとか・・・にげ・・・。

 

「また人の心配?その気質は変わってないんだね。本当にバカな子」

 

 優しく受け止められた?・・・なんで?・・・腹パンされたのに。

 アンタ誰だよ・・・知ってる・・・懐かしい匂い・・・この人は・・・ミ・・ノ・・ル?

 

 




マサキ  愛バの写真を眺めるのが日課

ヤンロン 瞑想が日課

やよい  権力闘争が日課

テイオー はちみーが日課

マヤ   人間観察が日課

たづな  サンドバッグ(不審者)を痛めつけるのが日課


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だんじょん

 ヤンロン戦の後、腹パン食らって気絶。

 

 

「ごめ・・・ちゃん・・・いられ・・・の」

 

「あ・・・と・・・ヒトに・・・だよ」

 

 そこにいるのは誰?何を言っている?待って・・・置いて行かないで。

 

 

「頭いてぇ・・・」

 

 夢をみたような気がするが・・・。

 

「あれからどうなった」

 

 どうやらベッドに寝かされていたようだ。

 ここはどこだ?サトノ家のホテルじゃないな、エログッズが見当たらないし。

 ・・・あ~お腹空いたな・・・。

 

「起きたか」

「ヤンロン!生きていたか」

 

 部屋にヤンロンが入って来た。無事だったんかいワレ。

 

「母上との修練以外で死を覚悟したのは久しぶりだ」

「首が変な方向に曲がってなかった?」

「トレセン学園には優秀な治療師がいる。それに天級血縁は伊達ではないさ」

「そうか、俺に腹パンかましてくれた女は?テイオーとマヤは?」

「説明は後だ、まずは食事にしよう」

 

 ヤンロンに連れて来られた食堂。テーブルの上に色とりどりの料理が並ぶ。

 うわーい中華だ!メッチャ美味しそう。

 

「薬膳だ。体力の回復には持ってこいだぞ」

「早く食べようぜ!もう我慢できん」

 

「「いただきます」」

 

 ああ美味いな。体に栄養が染み渡っていく。

 よく噛んで食べないと消化に悪いのはわかっているけど箸が止まりません。

 

「美味すぎる!リアクションで服を脱いだ方がいい?」

「脱ぐな!そうか腕を振るった甲斐があったな」

「・・・お前が作ったのか!すげーレシピを教えてくれ!」

「機会があればな」

 

 イケメンの上に料理まで出来るとは、これができる男か。

 

「俺の仲間は?」

「やよい様が責任をもって家に帰した。ずっとお前の事を心配していたぞ」

「良かった後でお礼をしないとな。ここはどこだ?」

「トレセン学園内の教職員寮だ。ここに住んでいるのは僕と後もう1人」

 

「私だけですね」

 

「きゃー!腹パンマン!いやー!」

「マンではありません。それを言うならウーマンです」

「今はやめて!ご飯食べたばっかりなのー!せっかくヤンロンが作ってくれたのー!」

「駿川女史、マサキが怯えています。威嚇するのはやめて頂きたい」

「威嚇なんてしていませんが。相席よろしいですか?」

「・・・・ご勘弁を」(((((((( ;゚Д゚))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル

「追加の料理を作ってきます。少々お待ちを」

「ひぇ!1人にしないで」

「すぐそこにいる。何かあっても・・・呼ぶな」

「このひとでなし!」

 

 広々とした対面キッチンで料理を作るヤンロン。

 こっちが見えている癖に目を合わせようとしない。覚えてなさいよ!

 

「どうしたんですか?気にせず食べて下さい。冷めてしましますよ」

「あの・・・ずっと見られていると食べにくいっス」

 

 なにが楽しいのかニコニコと笑いながらこちらを見つめる腹パンマン。

 

「・・・あ、あう」

「フフッ」

「そんなに面白いですか?俺の顔が」

「ええ、とっても。見ていて飽きません」

「あ、そうですか・・・もうお腹いっぱいなので失礼します!では俺はこれで」

「追加の料理をお持ちしました」

 

 おい!邪魔すんな。今、俺の逃走を阻止しただろ!

 

「しっかり食べないと強くなれませんよ。さあ一緒に食べましょう」

「え、えっと・・・」

「座って下さい、ね」

「アッハイ」

「ごゆっくりどうぞ。僕は修練の時間なのでこれにて」

「はい。後片付けはやっておきます」

 

 ヤンロンの奴ったら!逃げたわね!

 美人のお姉さんと食事、本当なら嬉しいイベントなのに!蛇に睨まれた蛙ですよ。

 

「マサキ・・・アンドウマサキさんでよろしかったでしょうか」

「ひゃ、ひゃい!アンドウマサキとは俺の事です」

「緊張しなくても大丈夫ですよ。別に取って食ったりはしません」

「初対面で腹パンされましたけど?」

「すみません。あの時は少し腹が立ちましたので」

「な、何にでしょうか」

「私自身の至らなさにでしょうか」

「???」

「こちらの話です、あなたは悪くないですよ」

「は、はぁ」

 

 怖い人のはず・・・なんだけど。

 この人には俺の全てを許容してくれる様な安心感を感じる。恐怖も感じるけど。

 

「ごちそうさまでした。ヤンロンさん、また腕を上げましたね。お店で出せるレベルですよ」

「確かに美味かったですね。男として嫉妬してしまいます」

 

 洗い物ぐらいはやると立候補したのだが、やんわりお断りされた。

 でも食い下がって一緒にやるのを許可してもらった。

 家事を人任せにするのって嫌なんだよ。

 

「~♪」

「ごきげんですね。なにか楽しい事でも」

「今とっても楽しいですから」

「???」

「~♪」

 

 洗い物が好きなのか?

 何気ない日常の一コマ、気の置けない人と家事をやるのが幸せ。

 どうしてそんな事を思った?この人とは昨日会ったばかりだろう・・・なんか変だぞ俺。

 洗い物をが終わった、これからどうしよう。ヤンロンを探してみるか。

 

「少しお散歩しましょうか、夜のトレセン学園も乙なものですよ」

「はい、お供します」

 

 すっかり暗くなっている。

 夜の学園散歩、トレセン学園の広大な敷地を巡る。

 教室棟、生徒寮、教職員寮、研究棟、部室等、グラウンド、レース場・・・その他。

 広大な敷地内に人の気配が沢山ある。

 自主トレをしている子もいるので、まだ消灯時間は先のようだ。

 

「自己紹介が遅れましたね。トレセン学園理事長秘書、駿川たづな(ハヤカワタヅナ)です」

「アンドウマサキです。たづな?」

「はい、たづなとお呼び下さい」

 

 たづな?・・・この人の名前、本当に?

 人の名前にケチをつける気は無いけど、この人はそんな名前ではな・・・。

 

「どうされました?」

「ちょっと違和感が・・・いえ、なんでもないです」

「ならいいですけど。マサキさん・・・まだ私の覇気が欲しいですか?」

「もちろんです!たづなさんの覇気はきっと」

「愛バの糧になるですか・・・そんなに多くの覇気を食らった騎神は、どんな化物になるんでしょうね」

「知っていたんですか?」

「あなたが寝ている間に、お母様からお聞きしました。サイバスターとはちょとした知り合いですので」

「母さんの知り合い、なら話が早い。是非ご協力をお願いします」

「その前に質問させてください、返答次第では覇気の提供はできません」

「う、わかりました。」

 

 母さんの知り合いなら快く引き受けてくれると思ったが、甘かった。

 人助けのためだからと皆が協力してくれるわけではない。

 助けてもらって当然というのは傲慢だろう。

 わかっていた。でもここで諦める訳にはいかない。

 直感が告げる、この人の覇気は絶対ゲットしろと。

 腹パンマン・・・じゃない、たづなさんが真剣な目でこちらに問いかける。

 

「ウマ娘の事が好きですか?」

「今更なにを仰るのやら、好きじゃないと今の境遇になってませんよ」

「本当に?ウマ娘のせいで人生を振り回されているのに、彼女達に関わらなければもっと平穏に暮らせたと思いませんか?」

「思いません。彼女達がいてくれるから俺は幸せなんです」

「本当のご両親がウマ娘のせいで亡くなったと聞いてもですか」

 

 本当の両親?俺の何を知っているんだ。

 ドッキリ?俺を試すための揺さぶりか?わからないこの人の事がわからない。

 

「それでも俺はウマ娘達に感謝しています。顔も知らない両親よりも、今の母さんや愛バ達を愛してますんで」

「・・・バカな子」

 

 少し寂しそうな顔をするたづなさん。

 

「これからもっと大変な目に合うとしても」

「上等ですよ!全部乗り越えてやりましょう」

「いつか必ず後悔します」

「そんなもん感じる暇もないぐらい幸せになってやりますよ」

「まともなヒトに戻れなくなりますよ」

「ロリコンだの覇気が異常だの既に手遅れです」

「ヒトの道を外れた生き物はヒトと一緒にいられない」

「じゃあ一緒にいてくれる奇特な奴らを探しにいきますか・・・割といるな」

「・・・強情ですね、誰に似たのやら。考え過ぎた私がバカみたいじゃないですか」

「心配してれたんですね。大丈夫ですよ、ヤバい時はすぐ誰かを巻き込むんで!寂しい時は皆を道連れにしてやりますよ」

「本当にこの子は・・・いいでしょう。私も巻き込まれてあげます」

「おお、それでは」

「明日から私と修練ですね」

「ん?なぜそうなるのです?覇気くださいよ」

「あげますよ、その前にあなたを鍛え直してあげます」

「なんでそうなる」

「私の覇気を弱い人に託そうとは思いませんから」

「そんな~・・・手取り足取りやさしくしてくれますよね」

「は?1ヶ月地獄のスパルタコースに決まっているでしょ」

「いやー!お家帰る!」

「わがままですね・・・ゆるゆる3日コースもありますけど」

「それがいい!ゆるいの大好き!」

「ただし今後、全ての覇気は尻から出る」

「みっちり1ヵ月よろしくお願いします!!!」

 

 尻から出るってなんやねん。

 ただでさえ覇気が噴出する俺がそんな事になってみろ、戦闘中尻からキラキラを漏らし続ける男。

 ・・・相手の意表はつけるかも・・・バカな考えはやめろ。

 

「学園関係者や理事長の許可は既にとってあります。寝泊まりは職員寮の空き部屋を使って下さい」

「はい、よろしくお願いします。トホホ」

「広域結界の維持なんて退屈なだけですからね。明日から楽しみです」

「学園のお仕事はどうされますのん?」

「もちろんあなたにも手伝ってもらいます。手早く終わらせて修練時間を確保しましょう」

 

 お散歩を終えて寮に帰宅する。

 立派な寮なのにここで暮らしているのは2人、今日からは3人か。

 

「1階に浴場がありますからご自由に入浴してください。結構広々として快適ですよ」

「ありがたや~。たづなさんからお先にどうぞ」

「一緒に入りましょうか」

「是非お願いします!!!」

「冗談です」

「今あなたは男心を弄びました。謝罪を要求します」

「修練を頑張ったら1回ぐらいご一緒してもいいですよ」

「そいつは楽しみですな。その時はバスタオルは無しでお願いします」

「エロガキのまま大人になってしまいましたね」

 

 たづなさん、ちょいちょい昔の俺を知っているような発言をして気になるんだが・・・。

 でも踏み込むのが怖い。向こうから教えてくれるのを待った方がいいか。

 

「まだ書類仕事が残っているので、今日の所はお先にどうぞ」

「ではお言葉に甘えて、お風呂―!」

「着替えぐらい持っていきましょうね」

 

 今日から寝床を移るので、お風呂の前にサトノ家のホテルに連絡しておこう。

 

「あ、俺です俺」

「詐欺には屈しませんぞ!どうされましたかマサキ様」

「実はね・・・かくかくしかじか」

「承知致しました。お荷物は明日そちらへお届けします」

「何から何まですまんね」

「本日、お楽しみなのはガチムチの男性カップルが・・・」

 

 また脳が腐りそうになったのでガチャ切りしてやった。ホモ御用達のホテルかよ!

 

 与えられた部屋はちょとした着替えも完備してあった。

 ヤンロンやたづなさんが用意してくれたのだろう、今日からお世話になります。

 さあ、一風呂浴びて早く寝るぞー。

 浴場に到着、服を脱いでと、いざ!

 

「ん?なんだ、お前も風呂か。せっかくだ背中を流してやろう」

「ガチムチですね////」

「・・・?」

 

 先客のヤンロン(ガチムチ)と入浴した。ウホッ!いい体してるじゃないの!

 ヤバいな、今度はだづなさんと入浴しないと性的思考がおかしくなるで!!!

 クロとシロはまた一緒に入ってくれるかな。期待しておこう。

 

 翌日、早朝からお仕事開始。

 たづなさんのお仕事は現理事長の秘書、園内のパトロール、やよいのお守、各種事務仕事、結界の維持、その他もろもろ業務は多岐に渡る。今日は一緒に行動してお手伝いをする。

 

「たづな君、そちらが新しい職員かね」

「本日から、秘書見習いとして雇用したアンドウマサキです」

「よろしくお願いします」

「君が連れて来た人材なら間違いないだろう。頑張ってくれたまえ」

 

 現理事長は温厚そうな初老の男性だった。

 この人から理事長の座を奪うのかやよいさんよ。

 

「決して悪い方ではないのですが、少々保守的な考えをお持ちでして、学園の改革には難色を示しています」

「だよなー。無駄に偉そうじゃないのが良い人の証だ」

 

 書類仕事は大変です。事務員さんが面倒な手続きをしてくれるから世の中が回ります。

 あ~デスクワークって思ったよりキツイな。

 

「たづなさん、資料ここに置いておきます」

「ありがとうございます。次はこれとこれのコピーと、メールの返信をお願いします」

「うっす・・・お、電話や・・・はい、お電話ありがとうございます。はい、はい、今変わります」

 

「すれ違う生徒の視線が痛いです。たづなさん、俺ってそんなに変ですか」

「ここでは若い男性は注目されますから。男性トレーナーやヤンロンさんは皆人気者ですよ」

「俺がそうなるとは限りませんよね。知ってますよ、クロとシロが例外だって・・・俺は調子に乗ったらアカンのや」

「卑屈にならなくても大丈夫ですよ。マサキさんは・・・その、か、かわいいですから」

「・・・かわいいは褒め言葉ですか?それとも褒める所が無いブサメンに適当言いましたか」

「褒めてますよ。拗ねないでください」

 

「みつけたぞ!やよい!勝負じゃぁー!」

「にょわー!いきなり何をする!」

「マサキさん!ステイ!一体どうしたんですか?」

「え、だってやよいも操者でしょ。俺と殴り合いぐらいできるよね?」

「できるか!自分が普通じゃない事を自覚しろ、殆どの操者は肉弾戦などせんわ!」

「じゃあ今からたっぷり鍛えないとな」

「え・・・」

「私の操者なんですから、いずれは顔面でドリアンかち割るぐらいはやらせますよ」

「拒否ッ!絶対やらないからな」

「流石だな、次期理事長は覚悟が違うぜ。まずは3日コースからだな」

「ええ、3日でゆるりと鍛え上げましょう」

「勝手に話を進めるな!どうしたたづな!マサキ君が来てからおかしいぞ」

「「この尻から覇気が・・・」」

「人の尻を見て何を思った!たづなが!たづなが壊れてしまった」

「私は元々壊れていますよ」

「俺は壊れていても好きです」

「あらあら、なら問題ないですね」

「なんだこいつらヤベェ」

 

「今日はこれぐらいでしょうか」

「これが例の広域結界ですか。この街に来た時から気になってました」

「極力薄めたつもりなんですが、ちょっと覇気がわかる程度の人間には知覚できないはずなんですよ」

「俺とたづなさんの覇気、相性がいいのかもなんて・・・すんません調子に乗りました」

「・・・いえ」

「あの、もしかしてなんか知ってます。例えば・・・俺の・・・」

「あーなんか不審者が侵入した気配がします。行きますよマサキさん!お仕事です」

「露骨にはぐらかした!絶対なにか隠しているよこの人!」

 

「お前だったのかデジタル」

「同士マサキ、昨日は大活躍だったね。無事でなによりだ」

「マサキさんこの不審者とお知り合いですか」

「ええ、まあ、この子からも覇気をもらったんですよ」

「へぇー、あなた前にもお会いしましたよね」

「な、なんの事でしょう」

「素直に吐いた方がいい、今なら気絶するまで殴るぐらいで許してくれるさ」

「マサキ!いつからこの悪魔の手先になったのさ」

「悪いなデジタル、今の俺はだづなさん直属の部下だ。長い物には巻かれるのが賢い生き方だぞ」

「そういう事です。覚悟はいいですか」

「くっ!殺せ」

「たづなさん、こいつの処遇は俺に任せてくれませんか」

「・・・いいでしょう。この変態ウマ娘を調教してやりなさい」

「へへ、覚悟するんだな。俺の命令に逆らえないようにしてやる」

「くそ!このデジタルどんな辱めを受けようとも、心までは屈しない」

「・・・テイオーとマヤにマーキングされたスーツ、まだ洗ってなかったな」

「らめぇええ!洗っちゃらめぇー!く、ください!この憐れなメスウマにくだしゃい!」

「そんなに欲しいのか、だったら忠誠を誓ってもらおう」

「誓います!絶対服従です!だからどうかお慈悲を」

「よし!今からお前は俺の右腕だ。働き次第で褒美をとらす」

「は!何なりとお申し付けください。マサキ様」

「見事な手並みですね。早速奴隷をゲットしましたか」

 

「おらキリキリ働け」

「花壇の整備か。秘書じゃなくて用務員だね」

「こういうのも下っ端の仕事さ。あ、スコップ取って」

「はい。だづなさんかぁ・・・う~ん」

「何よ、デジタルの守備範囲外か?」

「そんなことないよ・・・ないけど・・・闇が深そう」

「おい、滅多なことを言うな。後が怖い」

「マサキ、だづなさんと何かあった?」

「昨日腹パンされた」

「見てたからそれは知ってる。そうじゃなくて・・・うまぴょいした?」

「ぶっ!何を言い出すのかね!お風呂一緒に入るのが先でしょうが!」

「その反応はしてないね。近づいて改めて見るとさ、マサキとたづなさん・・・似てる」

「そうか?気のせいだろ」

「覇気の性質、呼吸と間の取り方、匂い、ちょっとした仕草、なんか似てるんだよね。うまぴょいまでした仲ならそれもあり得るかなと思ったんだけど」

「昨日が初対面の・・・はずだけど」

「デュフフフフ!私気になります」

「あんまり踏み込んで逆鱗に触れるなよ。さあ、たづなさんが帰って来るまでに終わらすぞ」

 

 本日の業務終了。奴隷1号(デジタル)を解放。

 デジタルはまた明日以降も来てお手伝いしてくれるとの事です。

 

「お疲れさまでした。それではこれから楽しい修練の時間です。お昼は食べましたか?」

「はい。学園の食堂が職員も利用可能で良かったですよ。にんじんハンバーグ美味し!」

「夕食はヤンロンさんが用意してくれるそうですよ。頑張ってお腹を空かせましょう」

「やったぜ!今日のメニューはなんだろなー・・・それでここはどこですか」

「旧校舎、騎神以外は立ち入り禁止の閉鎖区画です」

「ここで修練するんですか?確かに人はいないし他の建物からは離れていますが」

「とりあえず中に入りましょうか」

 

 夕方の旧校舎、夜になるともっと不気味になるであろう建物。

 入口の扉には大型の錠前が設置してある。

 たづなさんが鍵を取り出してロックを解除する。

 覇気を感じる扉、この扉一般人では開けられないと見た。

 

「お、お邪魔します・・・!?たづなさん、今のは」

「気づきましたか。この旧校舎の中は一種の異界と化しています。ダンジョンと言った方がいいかしら」

「ダ、ダンジョン。なんですかその冒険心をくすぐるワードは」

 

 侵入した瞬間に空気が変わったのを確かに感じた。

 旧校舎の中と外では違う理が働いているような、違う世界に来てしまった気分だ。

 

「もうすでにおかしいですね。建物は4階建てだったのに階段は地下へ続く目の前のヤツのみ。教室はおろかここ1階には階段以外は何もないじゃないですか」

「ダンジョンの入り口へようこそ。さあ行きますよ」

 

 階段を下りる。

 明かりはあるので暗くはない、等間隔に謎の照明が配置されている。

 到着したのはまさにダンジョン、石造りの壁、迷路のように入り組んだ通路、「押して」と言わんばかりのスイッチ、向こうに見えるのは・・・宝箱!オラわくわくしてきたぞ!

 

「ひゅー!RPG好きの俺は今感動しています。謎解きは任せてください」

「このダンジョンのギミックは大方解明したので、ヒントぐらいは教えてあげます」

 

 たづなさんとダンジョンを進む。

 梯子を登ったり、大きなブロックを動かしたり・・・実際やるとめんどくさいな。

 俺の操作でゲームの主人公達はいつもこんな面倒な事を・・・パズル何回も失敗してゴメン。

 

「宝箱!開けていい!もう限界だ開けるね!」

「待ってください、罠が」

「ぎゃー!」

「言わんこっちゃないですね」

 

 開けた瞬間爆発しやがった!俺じゃなきゃ上半身が無くなる所でした。

 

「まだ地下1階だろうが!トラップ仕掛けるの早いわ!」

「このダンジョンにある宝箱は50%の確率で罠です」

「早く言ってよ!ちなみに何が入ってたりするんですか」

「にんじん1本ですかね。薬草の代わりではないかと」

「いらねー!危険を冒してにんじん1本はねぇよ!」

「そうですか、意外と美味しかったですよ」

 

 食ったのか、誰が何の目的で用意したかわからん謎のにんじんを食ったのか。

 

「エンカウントしませんね。ここにモンスターは出ないんですか」

「ご心配なくそろそろ来ますよ」

「なにが・・・お?」

 

 いるわ、通路の奥になんかいる。

 

「ここから本番ですね。私は極力手出しはしませんので1人で片付けてください」

「よし!いっちゃいますよ!スライムかゴブリンか?おらーかかってこいや―!」

 

 通路の奥へ進撃、敵の姿を捉える。

 骨、触手・・・なんか見た事ある奴らだ。

 

「アインスト!アインストがなぜここに!」

「彼らの名前を知っているんですか?私はゴミ1号、ゴミ2号と呼んでましたが」

「ミィ達みたいな意思は感じない・・・やってもいいんだよな」

「向こうは既に戦闘態勢ですよ。ケガしたくないならやりなさい」

「お前らに恨みはないが!覚悟しなはれ!」

 

 覇気開放!戦闘開始!

 まずは1匹!骨の胸部を貫く!手の平を鋭い槍のようにイメージして強度をあげて放つ貫手。

 触手は遠距離からビーム撃ってくるからな、触手の軌道を読み絡め取られないよう回避。

 脚に覇気を集中!蹴りの動きに合わせて弧を描く覇気の斬撃を飛ばす!

 命中した。これなら多少離れている相手にも攻撃できる。怯んだ所で接近その核を拳で砕く。

 今日は単身でできる攻撃方法をどんどん試していこう。

 少しづでもパワーアップしていかないとな。

 まだまだこんなんじゃ足りない!もっともっと!

 

 たづなさん本当に手伝ってくれないんスね。

 

 アインストとエンカウントしながらダンジョンを進む。

 一戦ごとに反省点を改善策を考えて、次は何を試そうか。

 

「ふー、今何階ですか」

「地下3階ですね。ここまでいいペースで来てますよ」

「どうも。アインストは死んだら砂状になって風化するんですが、ここにいる奴らは光になって消えますね」

「ここを調査した研究員が言うには、敵性体アインストは本物ではなく、このダンジョンが記録したデータを再現しているのではないかと」

「立体映像だって?ちゃんと実態がありましたよ」

「ですが倒した後は光となって霧散します。ここは異界、外界の常識が通用しないダンジョン。謎パワーで謎現象が起きてもなんらおかしくありません」

「OK、考えるのはやめましょう」

「はい。どうして異界化したのかは不明ですが、ここはよい修練場です」

 

 ここに出現する敵は旧校舎の外に出る事はないのだが、放っておくとダンジョン中を埋め尽くす程湧いてキモいので半月に1度たづなさんや有志の騎神達が掃除するらしい。

 

 その後も特に苦戦する事は無く地下5階に到着した。

 今までとは違い広い空間。ここは・・・来るのか、来ちゃうのか。

 

「どう見てもボス部屋ですね。セーブポイントはどこにありますか?」

「セーブポイントなんてありませんよ。でもボスはいます」

「しゃあー!気合入れていきますよ」

「はい。本日の仕上げです。頑張りましょうね」

 

 そう言って俺と向かい合うたづなさん。

 ここまであえてスルーしてきた巨大な刀を構える。穏やかじゃないですね。

 

「あの、どうして構えるのでしょうか?今からボス戦ですよね」

「ここのボスは先月討伐済みです。復活までおよそ3ヶ月程かかります」

「ではボスと言うのは・・・まさか!」

「はい。私がボスの代わりです♪」

「\(^o^)/オワタ」

 

 怖い、たづなさんに比べたらアインストなんて、ただのカカシですな。

 深呼吸・・・深呼吸だ。これは修練、修練なんだ。

 いくらたづなさんでもそれは理解しているはず。

 

「それでは参ります。どうか死なないでくださいね」

「あ、コレは気を抜いたら即死するヤツだ」

 

 始まる修練、たづなさんとマンツーマンで稽古をつけてもらう。

 ほぼ一方的にボコられただけだったけど。

 ボコボコ→気絶→起きる→ボコボコ→気絶→起きるの繰り返し。

 5分以上寝てるとたたき起こされる。手加減されてこのザマです。

 巨大な刀の銘は"零式斬艦刀"切れ味がどうこうじゃなくて大きさと重量が頭おかしいし。

 峰内と称してぶつけてくるのホントやめて!刀じゃなくて鈍器だよ。

 この鈍器を平然と振り回すたづなさんが一番頭おかしい。

 この御方は本当にウマ娘か?ゴリラの化身、ゴリ娘じゃないよね。

 

「今、最高に失礼な事を考えましたね?」

「ち、違います!「メスゴリラ怖いですね」なんて思ってません!」

「ほう、私がゴリラなら、あなたのお母様はなんなのでしょうね」(#^ω^)ピキピキ

「自分の事を子猫だと思っているゴジラです」

「プッ!あははははははは!言い得て妙です。さすが息子ですね、よくわかっている」

「母さんに言わないでくださいよ。マジで怒られますから」

「はいはい。では、ゴリ娘の力を思い知らせてあげますね」

「すみません許してください。美人が台無しですぞ」

 

 ボッコボコやぞ!もう無理ー。初日からこんなんで大丈夫か。

 クロ、シロ・・・俺はもうダメかもしれない。

 

「ただいま帰りました」

「・・・あ゛あ゛」

「お帰りなさい駿川女史、そのボロ雑巾は?」

「マサキさんです。少し前からずっとこの状態で困ってしまいます」

 

 片手で担いでいたボロ雑巾(マサキ)を床に置くだづな。

 

「これはヒドイ!初日からやり過ぎでは?」

「少々熱くなってしまいました。簡単にへし折ってしまわないように注意しないと、反省しています」

「・・・あ゛あ゛」

「さあ、マサキさん。お風呂に入りましょう。早速ご一緒してあげますね」

「・・・あ゛あ゛」

 

 止める間もなくマサキを引きずって浴場へ向かうたづな。

 ・・・いいのか?いや、僕では彼女を止められない。

 

「浮かれているのか?あの駿川女史が・・・マサキいったい何をした」

 

「はーい、こっちですよ。綺麗にしましょうね」

「・・・あ゛あ゛」

「歯形が2つですか、愛バはどんな子達なんでしょうね。」

「・・・あ゛あ゛」

「あんなに小さかったのに、大きくなっちゃって・・・」

 

 虫の息状態のマサキが意識を取り戻したのは翌日の事だった。

 

 



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ぼすせん

 トレセン学園にて修練の日々。

 

 あれから毎日ダンジョンに潜っている。

 日中はたづなさんのお仕事を手伝い、夕方からダンジョンへ。

 どんなに疲れても母さんも認めた頑丈な俺の体、翌日には回復する。

 

 ダンジョン道中のアインストはウォーミングアップ。

 5階層ごとに現れる広大な空間にて行われるボス戦が本番。

 ボスはたづなさんです。

 

 今日の俺はデジタルに謝らなくてはならない。

 

「すまん!褒美は無しだ。よって奴隷契約は解除、どこへなりとも行くがいい」

「そんな、ここまで酷使しておいてそりゃないよ!」

「酷使って、ちょっとお手伝いしてもらっただけじゃん」

「どうしてだ、私のマーキングスーツはどこへやった」

「お前のじゃないし、クリーニングしちゃったのよ。たづなさんがね、気を利かせてくれたの」

「よ、余計な事を!だったらたづなさんの服をもらって来てよ」

「俺は自殺志願者じゃない。諦めろ!」

「いやだ!なんの成果もなく引く事などできぬぅ!」

「まあまあ、ブツより本物の方がいいだろう。しばし待っておれ」

「その物言い、期待してもいいの?」

「ほら、おいでなすったぞ」

 

「マサキ!」

「マサキちゃん」

 

 俺の姿を見つけるなり元気のいいタックルをかましてくる2人。

 しっかり受け止めてやる。

 1週間ぶりの再会だな、テイオー、マヤ。

 

「2人とも元気だったか。お礼も言えずに悪かったな」

「お礼なんていいよ。それより良かった無事で」

「心配したよ~。あの人にやられちゃったのかと思った」

 

 よしよし、2人とも元気いっぱいだ。

 体調を聞いたが特に問題ないらしい、良かった俺の覇気による副作用はないようだ。

 

「学園の治療師がしっかりチェックしてくれたからね。問題ないない、あの戦いの後からむしろとっても調子が良いんだ」

「そうだよ。見ててね・・・それ!」

 

 軽くジャンプしたマヤ、そしておよそ10秒間、空中にフワフワと浮かんだ!?

 副作用ありましたね。

 

「ホバリング?した・・・だと」

「滞空時間はマヤノの勝ちだけど空中ダッシュは僕の方が上手い。あの時みたいに自由には飛べないけど」

「むふふ~。これからドンドン時間を伸ばしてみせるよ」

「ははは、やっぱりお前ら最高だな」

 

 新たな能力に目覚め始める騎神。2人の成長に一役買ったのはわしの覇気じゃぞ!誇らしいのう。

 しばし談笑・・・おっと放置する所だった。

 

「デジタル、こちらはテイオーとマヤ、ヤンロン戦で一緒に戦った仲間だ」

「君も覇気をあげたの?僕はトウカイテイオーよろしくね」

「マヤノトップガンだよー。あなたも騎神?」

「アグネスデジタルです。はい、騎神です」

 

 (*´Д`)ハァハァする対象を目の前に緊張するデジタル。よし、手を貸してやろう。

 

「テイオー、マヤ。こいつお前達を仲良くなりたいんだってさ。友達になった記念で写真撮ってやる。デジタルを両サイドからサンドしろ」

「「は~い」」

「ま、待ってマサキ!そんな事されたら私・・・あ~!!!!!しゅき・・・」

 

 真ん中の変態が昇天しているが構わずシャッターを押す。

 うんうん。どこから見ても仲の良いウマ娘3人だ。

 

 たづなさんから午前中はお休みをもらったので、今日はこの3人と遊ぼう。

 

 約束していた、はちみつ入りのドリンクを奢ってやる。

 う~ん濃厚な味わい、90%はちみつだ原液そのものだ。皆が美味そうに飲むのでいいいか。

 

 テイオーはエアダッシュ、マヤはホバリングが得意、フット―パーツ装備したのかな。

 ロックマンXは2が一番好き。

 

 テイオーとマヤは無邪気で距離感が近いスキンシップを好む傾向がある。

 その度にデジタルが昇天、とりあえず涎を拭け!

 

 無邪気でいいわね、若さが眩しいよ。3人に付き合ってしばらく遊んだ。

 

 楽しい時間は過ぎ去るのが本当に早い。

 またいつか再会を誓いあってお別れする。

 

「お前達に会えて良かったよ。立派な騎神になるんだぞ」

「絶対、絶対にまた会おうね。帝王様との約束だよ」

「次はマサキちゃんの愛バも一緒だね。皆まとめてマヤにムチューにさせちゃうから」

「その日が本当に楽しみだ、お前達の更なる成長と幸せを祈っているよ」

「「うん!」」

「はう・・・素直過ぎて尊い」

 

 元気に走り去って行くテイオーとマヤ、次も笑顔で会えるよな。

 

「これで満足か?デジタル」

「ありがとうマサキ、今日この日を私は忘れない。やっぱりウマ娘ちゃん達は最高にして至高。トレセン学園・・・待っていろ必ず辿り着く」

「ほどほどにな。奴隷契約も今日まででいいぜ、捗り過ぎて修錬を怠るなよ」

「こらから先どんな事があっても、私はマサキを応援するよ。愛バをしっかり助けるんだね」

「ああ、俺の愛バを見たら昇天不可避だぞ」

 

 さらばだ頼もしき戦友達よ。

 

 学園に戻って・・・さあ、修練再開です。

 今日も手酷くやられました。

 

「今日は気絶しませんでしたね」

「毎日気絶するのは遠慮したいので、あー運んでもらってすみません」

「いえいえ。大した手間ではありません」

 

 ダンジョンからの修練帰り。

 気絶こそしなかったものの体が動かない。よって今の俺はなんと。

 

「すみません。おんぶしてもらって・・・お恥ずかしいッス////」

「好きでやっている事ですから、気になさらず」

 

 体格差がある俺をものともせずおんぶしてくれたたづなさん。

 は、恥ずかしい!これが羞恥プレイですか。

 おんぶするのに邪魔なので斬艦刀は地下20階に置いておきました。

 

「今日は遅くなりましたから誰とも会いませんよ」

「こんな姿見られたら、クロとシロになんて言えば・・・」

「そんなに嫌ですか?でもやめません。これは私の特権ですから」

「嬉しそうッスね」

「嬉しいですからね」

「・・・・」

「・・・・」

 

 もう開き直っておんぶを楽しむ事にした。いい匂いがします。

 この年で女性におんぶされるってなかなか貴重な体験だ。

 なんか落ち着く、この人に触れているとすごく安心する。

 母さんとはまたベクトルの違う包容力。

 最初こそ恐怖が勝ったが、何日も一緒にいるとわかる。

 この人は俺をとても気にかけてくれている。それこそ自身の操者であるやよい並みに。

 

「たづなさん・・・俺の産みの親だったりします?」

「そんなに老けて見えますか?20歳の息子をもった覚えはありません」

「違うか~。なんか他人の気がしないんですよ」

「・・・私は駿川たづな。ただのトレセン学園秘書兼雑用係、そして秋川やよいの騎神です」

「今はそれでいいです。母親は除外となると・・・・お姉ちゃん?」

「!?」

「いったぁーい!急に落とさないでくださいよ!尻がぁー!」

「すみません!だってだって」

「だづなさん!血が!鼻血が出てます!」

「え、あ、本当だ」

「まさかさっきのダンジョンでケガでもしたんですか?」

「ち、違います・・・あなたが変な事を言うから・・・」

 

 しまったな、鼻血を出すほどのケガに気付いてあげられなかった。

 もう体は動く、今度は俺の番だ!

 たづなさんに背を向けてしゃがむ。

 

「ここからは俺がおんぶします。さあ早く乗って!」

「本当に大したこと無いですから、平気ですから」

「いいから!乗ってください。言う事聞かないと、たづなさんに襲われたって、やよいに泣きつきますよ」

「操者をだしにされては従うしかありませんね・・・失礼します」

 

 よし、おんぶ成功。

 結構着痩せするタイプか、背中がに当たる感触がとっても幸せです。

 

「たづなさん。できればもっとギューとした方が安定します」

「あなたの頭は万年発情期ですか?」

「男として当然の反応ですよ」

「変態、ドスケベ、エロ、色魔、性欲魔人、種ウマ、ぺドフィリア」

「酷い言われようだ。種ウマ?」

「その昔、多くのウマ娘と所帯をもった伝説的なスケベ男の異名です」

「種ウマねぇ・・・。俺はペドなんでたづなさんは守備範囲外です。安心しておぱーいを「当ててんのよ」してください」

「守備範囲外?それはそれでムカつきますね」

「首を絞めたらアカン!」

 

 観念したのかたづなさんが力を抜いて体重を預けてきた。

 あったかい、この人をおんぶできて嬉しい。

 もうすぐ寮に着いてしまう・・・もうちょっとだけこのまま。

 

「だづなさん・・・少し遠回りしてもいいですか」

「・・・仕方ないですね。ちょっとだけですよ」

 

 沈黙すらも心地よい。

 一緒にいられる、それだけでいい、それがどんなに大切か知っている。

 やっぱりこの人は俺の・・・。

 

 修練の日々は続く。

 

「できた!俺の炒飯試作16号どうですか師匠?」

「具材の切り方、火加減はいい。もう少し鍋振りのスピードをあげろ、味は・・・まあ、これなら合格だ」

「よっし!やっと合格した。俺もたーべよっと!・・・美味い、自画自賛だけど美味い」

「男2人で料理教室ですか?私も味見したいです・・・やよい、お行儀が悪いですよ」

「美味ッ!おかわりをくれマサキ君」

「は~い、たーんとお食べ!ちゃんと座って食べなさい。たづなさんもどうぞ」

「いだだきます。フフッ、なんかいいですねこういうの・・・ずっと憧れていました」

「家族の団欒、だづなさんがパパ、ヤンロンがオカン、俺が子供、やよいがペットですね」

「ペット!?」

「誰がオカンだ!」

「私は一家の大黒柱、責任重大ですね」

「これを食べたらダンジョンへ行きますか。今日は地下25階まで踏破する」

「忘れ物は無いか?ハンカチ、ティッシュは持ったか。夕飯までには帰ってくるんだぞ」

「「「やっぱりオカンじゃないか」」」

 

 

「ぐぬぬぬ、あー鬱陶しい!いい加減、寝てろ!・・・はぁ手強かった」

「次が来ます。休んでいる暇はないですよ」

 

 現在ダンジョン地下22階、進む度に強くなる敵。

 

「さっきの連中、明らかに連携してきましたよ。知恵もつけてきたか厄介な」

「各個体の総合能力が上昇しています。気を抜かないで」

「うわー、また赤カブトがいる。あいつ嫌い」

 

 骨=クノッヘン、触手=グリード、鎧=ゲミュート、全部盛り=レジセイア

 そして21階から現れた、見た事がない新種。

 右腕から突き出た短剣、左腕の機関砲、両肩から特殊な弾丸(機雷?地雷?)をばら撒く。

 赤と黒の装甲、角の生えた頭部がちょっとカッコイイ。

 こいつの特徴・・・クロが装備していたアルトアイゼンに似ている。

 アルフィミィはこの世界と存在が近い人や物があると言っていた。

 異世界のアルトアイゼンをアインストがコピーしたものなのかも。

 新種、赤カブト=アイゼンに決定。

 短剣と機関砲でチクチク、隙あらば仲間ごと特殊弾でぶっ飛ばそうとしてくる危険な奴。

 

「流石に数が多過ぎる!たづなさんヘルプです!」

「仕方ない、アイゼンは私が消します」

「すみません、お任せしま・・・ああ触手が絡みついて!バカどこ触っているんだ!そういうのは俺じゃなくて、だづなさん!変わってください!いやー触手いやー!」

「あらあら大変。動画を撮ってあなたの愛バやお母様にお伝えしなくては」

「やめてー!くっそ!離せ、お前らそれでも触手か?たづなさんを狙えってんだよ!一部始終終わるまで待っててやるから!じっくり見物させてもらうから!」

「ドスケベが!もうここに置いて帰りましょうか」

「すみません、欲望に忠実な俺を許して!ヘルプミー!あっーーー!」

「やれやれ」

 

 地下25階。

 

「やらせはせん!やらせはせんぞー!」

「気合だけはいっちょ前ですね。よいしょっと!」

「重い!・・・リニアアクセル!」

「スピードもまあそれなり、そこ!」

「げっ!あっぶない!なぁ!」

「蹴り技主体の方がマサキさんには合ってるか。腕は必殺の蹴りを入れる補助に固定してみても面白いかも」

「考え事ですか?余裕ですね!シルフィード」

「天級の覇気を使った技・・・威力は高いが制御が困難、回数制限も痛い」

「アクセ・・・げふっ!」

 

 斬艦刀を軽く振っただけのはず、高速で接近する俺を正確に捉え薙ぎ払う。

 いだだだだだあ。ゴロゴロ地面を転がりつつなんとか体勢を立て直す。

 

「マサキさん、天級の属性はしばらく封印です。まずはあなた自身の覇気から生じる力を伸ばしましょう」

「はい!正直俺も母さん達に頼り過ぎだろうと思ってました。そして!使いにくい!」

「最後の切り札としては有効です。油断した相手にまとめて叩き込む使い方をオススメします」

「リニアアクセル、これを瞬時に発動、常時展開できるのが理想か」

「そうです。こんな風に・・・ね」

 

 たづなさんの足元に小さな放電が起こった。その場から掻き消えて、俺の目の前に。

 

「私にもできました。今ので良かったですか?」

「か、簡単にパクられるとは・・・才能の差が・・・凹みます」

「こんなやり方があったんですね。私もまだまだ未熟です」

「嫌だな、もしかしてこの技はちょっと見たら誰でもラーニング可能なんでしょうか?」

「それは不可能でしょうね。覇気の資質が近・・・なんでもないです」

「覇気の性質がなんですか!たづなさんあなたは俺の・・・」

「続けましょう。リニアアクセルを展開したままで、かかってきなさい!」

「ああじれったい!もう全部吐き出しましょうよ!」

 

 たづなさんは結局、今日も口を割らなかった。

 早く別の言い方で呼びたいんだけど!思いっきり甘えたいんだけど!

 どんな理由があるにせよ、もうこれはたづなさんも意地になっているんだろう。

 おそらく母さんは事情を知っている。でもこの人から直に聞きたい。

 待ちますよ、俺はいつでもカミングアウトばっちこいです。

 

 本日のやよいとたづなさんは秋川本家へ。

 修練はヤンロンとやる事にする。

 

「どんな感じ?いけそう?」

「ああわかるぞ。お前の覇気を確かに感じる」

「ウマ娘相手じゃなくても覇気の受け渡しは可能、じゃあ今度は吸い取ってみるか」

「一気にやるなよ。徐々にだ」

 

 ENドレインの精度が上がってきている。

 いろんな奴から覇気を吸収する事で俺も変わってきています。

 接触してない状態でも可能、ウマ娘じゃなくてもOK。

 効果範囲と許容人数もこの旅でちょっとづつ強化されていく。

 

「出でよ!」

「おお成功した」

 

 ヤンロンの手から覇気が迸る。現れたのは炎ではなく小さな雷。多分俺の覇気です。

 

「実戦に使用できるほどのものではないが、他の属性を使えるのは新鮮だ」

「そもそも属性があるのが異例なんだって、ビアン博士が頭抱えていた」

「ビアン・ゾルダーク、DCの元総帥か。妙な知り合いがいるな」

「頑固で気難しいマッドサイエンティストだけど面白い人だよ。愛娘がいて、超強い」

「それは会うのが楽しみだ。近々、2人揃ってトレセン学園に来るらしい」

「マジか、見つかる前に移動したいな」

「む。雷が消えたか、お前の○○アクセルのように1度使用したらその後も使える。と言う訳ではないようだ」

「母さんの風、ネオさんの重力、グラさんの炎、俺の覇気中枢に記録されたらしい」

「意味がわからん。規格外なお前のだからこそなせる芸当か」

 

「どうした!それでお終いか!」

「まだだ!もう一本お願いします!」

「その意気だ!来い!」

 

 トレセン学園にも休日はある。

 生徒たちは遊びに行ったり、自主トレしたり、思い思いの過ごし方をする。

 良く晴れた日のグラウンド、自主トレを行うウマ娘たち。

 そして組手を行う男たち。

 

「捕まえた!この・・・ひょ?」

「次に繋がる動作が遅い!最適な行動を瞬時に選択しろ、思考と行動のずれを限りなくゼロにするのが目標だ」

「やると思った時には既にやっているだな」

「そうだ、判断の遅れが敗北をいう結果を産む」

 

 お昼。今日はグラウンドから少し離れた所にあるテラスでいただきます。

 ヤンロンの奴ったら、生徒から弁当もらってるー!このリア充がぁ!

 いいんだ俺にはクロとシロがいるんだ。

 あいつら俺が適当に作ったものを「美味い美味い」って食べてくれたよな・・・会いたい。

 持参のおにぎりを食べながらスマホを弄る、クロとシロの写真は俺の癒しだ。

 

「また写真を見ているのか」

「飽きる事などない。この画像だけで飯が美味くなる」

 

 ヤンロンとやよいにはクロとシロの事は説明してある。

 2人とも本気で心配してくれた。いい奴らだ。

 

「目覚めさせるには、多くの騎神たちの覇気、なるべく良質かつ強力な覇気が必要か」

「そうなんだよ。この学園にならと思ったんだけど、今の所だづなさん以外はピンとこない」

「間が悪かったな、今ちょうど交換留学に行っている生徒たちがいるんだが、これがとんでもない実力者だ」

「なんてこった、みすみすチャンスを逃がした・・・だと」

「皇帝、女帝、影を恐れぬ怪物、この3人は超級騎神になるのがほぼ確定だ」

「いつ帰って来る?」

「半年後だな。ドレインするのは諦めた方がいい」

「そんな優秀な奴らと会えなかったのは俺の運が悪いせいか」

「いない者の事を気にしても仕方がないだろう。出会えなかったのはお前のせいではない」

「ご縁がなかったか、もったいない!」

「お前の今後だが・・・残りの天級騎神を探した方がいい」

「水のガッデス、土のザムジード。写真1つ残して無いんだぜ。本当に見つかるか?」

「5人中3人とは既に会えている。残りの2人とも必ず会える、そう信じて進むしかない」

「そうだな。頑張るしかないってか」

 

 強い覇気同士は惹かれあう、信じるしかないか。

 

 ついにこの日が来た。

 ダンジョン地下30階、最下層到達。

 

「おめでとうございます。ここが終点です」

「すっっっごい!見たことある物がありますね。見たくなかった」

 

 なんでここに迷惑門、クロスゲートがあるんだよ!

 

「機能を停止してから随分時が経ちました。旧校舎が異界化した原因はこのゲートから漏れた力のせいでしょう」

「俺の故郷にあったヤツは今でも生きている」

「あなたの故郷にあるのは偶然ではありません。ゲートを監視するために天級が移り住んだのしょう」

 

 遺跡のゲート→ド田舎村誕生→ゲート発見→母さんが移住→天級がいるなら私も住むで(人口増加)

 →癖のある住人が集う→今に至る

 

「ここのゲートには変わった噂があります。その昔、まだゲートが動いていたとき、3人の騎神がこのダンジョンに挑んだそうです」

「なんか始まった」

「3人はとてつもない力で一気に最下層まで攻略。そして地上の人が待ちわびる中、帰還した3人は奇妙な生物を連れて戻った」

「・・・異世界からの来訪者!」

「人かどうかはわかりません。ただ、記録によると人語を解する無機物と有機物を合わせたような存在だと」

「意思のあるアインスト、ミィの同類か」

「あくまで噂ですよ。マサキさん、このゲートは無限の可能性と危険性を秘めています。注意してくださいね」

「わかりました。でもこのゲートから出てきた存在に俺は助けられましたよ」

「奇遇ですね、私もですよ」

「???」

 

 このゲートには今後も注意だ。

 

「さあ、総仕上げです。今日はとことんやりましょう」

「俺もそのつもりです。あなたをビックリさせてやります」

「言いましたね。見せてください、あなたの力を」

「今度こそ!」

 

 初手から全力!この人に対して遠慮する必要は一切ない。

 覇気開放、粒子散布、電磁加速展開、行く!

 たづなさんはただ斬艦刀を正面に構えるのみ。

 下手に踏み込むと一撃でやられてしまう。マジで怖い、でもビビるな行け!

 

「せいっ!」

「ふっ!」

 

 振り下ろされる刀、そこで終わらず回避した俺の動きを追う。

 超重量の刀から繰り出される破滅の斬撃。当たったらアウト。

 地下30階の壁や床が音を立てて崩れ去る。

 

「地下でそんなに暴れて大丈夫ですか?落盤からの生き埋めは嫌ですよ」

「ご心配なく。1度このフロアをまとめて吹き飛ばそうとしたことがあるのですが、どんなに破壊してもこの空間は復元されます」

 

 実験済みか。

 たづなさん本体を攻撃するにはあの刀が邪魔!こいつで封じられるか。

 覇気でできた鞭を伸ばす、刃の部分は避けて柄のあたりを絡めとる。

 離してもらいましょうか、そのデカ物をねぇ!

 

「覇気の鞭ですか、それでここからどうします」

「こいつで・・・ふんぬぅ~・・・・全然動かねぇ!ダメだこりゃ」

「そぉーれ!」

「ああー逆にこっちが引っ張られるー!」

 

 解除!パワーSSSかよ!そう、たづなさんの恐ろしい所はこの斬艦刀じゃない。

 もっとシンプルな強さ、ただ単純にこの人は力が強い!!!

 パワー勝負なら母さんとだってやり合えるレベルだ。

 こちらを紙のように引き裂く力に覇気が上乗せされる、考えただけでもゾッとする。

 

「その刀、もしかしてわざと使っています?素手にならないために」

「そんな事はありません。まあ、徒手空拳も得意ですが」

 

 何とか後ろに回り込みたいが、隙が無いですよねー。

 

「いきますよ・・・斬艦刀・疾風迅雷!!!」

 

 真横に構えた刀、覇気が乗っているせいかより大きく見える。

 右手で刀身の峰を支えこちらに突っ込んで来る。

 刀のスラスター部分から覇気が噴出。加速力を上げていく。

 咄嗟の判断、床を踏み砕き、その破片を前方へ蹴り上げる。

 覇気の斬撃つき、目くらましと攻撃を兼ねた攻撃。

 

「それで止められるとでも」

「思ってませんよ!」

 

 全てをものともせず進撃してくる。回避できただけマシ。

 フロアの壁にぶつかる寸前に体を大きく捻り、覇気の乗った刀をこちらに投擲する。

 俺の胴体を分断するのに十分すぎる破壊力を秘めた死のブーメラン。

 

「大車輪なんてどうでしょうか」

「使い方!ワイルドすぎだろ!」

「徒手空拳になりましたよ。拳と脚で語り合いですね」

「やばっ」

 

 リニアアクセル!完全にものにされましたね。なんなら俺より上手いぐらいだ。

 たづなさんの蹴りがこちらを痛めつける。ストッキングエロいなーとか言ってる場合じゃない!

 格闘技量はヤンロンの上だが、あり余る力が技量差を完全に無意味にする。

 重たい、とにかく一撃一撃が重い。ガードした所が痺れる。

 アルクオンやぺルゼインの一撃を遥かにしのぐ、もうどうしろと・・・。

 

「このまま終わってしまうんですか?」

「まだですよ!俺はまだ!」

「なら超えないと、待ってる人たちがいるんでしょう」

「そうですよ!必ずもう一度取り戻す!」

 

 気持ちはまだ負けてない。

 いける、もうちょっとでなにかが変わりそう。そうだ次へ進むんだ。

 

 斬艦刀を拾うだづなさん、大きく上段に構える。あれはマジで殺しに来るぞ。

 

「さあ耐えてみなさい!斬艦刀・疾風怒濤!!!」

 

 耐える?バカを言うな、あんなものまともに食らったら一刀両断どころか体が消し飛ぶ。

 でもやる気になっていらっしゃる。

 

 膨れ上がる覇気、振り下ろされる超重量の刀、真っ直ぐこちらを見据える瞳。

 スラスターから大出量の覇気が漏れる。斬撃の威力と速度を上げる。

 

 死ぬ。

 

 これは躱せない、だったらどうする。止める?これを止める・・・。

 覇気を全部回しても無理だ。今の俺じゃ無理だ。

 俺だけの覇気ではこれは・・・。

 

 なあ、クロ、シロ、皆・・・使ってもいいか?

 せっかく集めた覇気、俺もちょっとだけ味見してもいいか?

 俺の中では皆から集めた覇気、今も眠るクロとシロの覇気が混在している。

 

 心臓の鼓動が聞こえる。俺のだけじゃない、クロとシロの鼓動。

 重なる、混ざる、そして生まれ変わる。

 

 いいんだな、ああそうだ、どんなに離れていてもずっと一緒だ。

 

 斬艦刀がぶつかる。ああ本当に重たいな。

 

「・・・超えましたか」

 

 バチバチッと体を駆け巡る雷。

 振り降ろされた刀はクロスした俺の両腕がバッチリ受け止めていた。

 

「無傷で受け止めるとは、それが本来の覇気ですか」

「・・・わかりません。今、始めて見たんですから」

 

 漂う粒子はそのまま、手足から噴出する覇気がいつもと違う。

 腕と脚から漏れる覇気の形状は雷、全身を回る覇気が放電現象を引き起こす。

 雷、俺にも属性が宿った。眩く輝き弾ける雷光。

 

「俺の愛バが引き出してくれましたよ!あなたに負けるなってねぇ!」

「互いに影響を与え合い強くなる。理想の関係ですね、あなたたちは」

 

 たづなさん、待たせてごめんなさい。

 

「プラズマビュート!逃がすな!」

「っ!」

 

 両腕から発生させた雷光の鞭!たづなさんが持つ斬艦刀をキャッチ。

 引き寄せる。今度は絶対に力負けしない!

 

「くっ!覇気の性質変化だけじゃない、基礎能力そのものが跳ね上がった!」

「そのデカ物もらいます!」

 

 巨大な刀身を包み込む雷光、力自慢のだづなさんの手から無理やりもぎ取る。

 確かに力は強い、けどこの刀はやっぱりあなたには不釣り合いだ。特に柄の部分がでかすぎ!

 引き寄せた勢いはそのまま、脚に覇気と集中、蹴り砕く!!!

 

「カウンター・ブレイク!!!」

 

 零式斬艦刀、爆殺!

 

 たづなさん、なに喜んでいるんですか?

 もうちょっと付き合ってください。

 

「いきます!必殺のコンビネーション」

 

 高速移動で接近、だからなんで嬉しそうなんですか!

 

「せいっ!」

 

 左回し蹴り!

 

「はあっ!」

 

 右後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす!

 

「飛べぇ!」

 

 リニアアクセル最大出力!先回りしての蹴り上げ!俺もジャンプする。

 

「決めるぞ!」

 

 両足から噴出する覇気をで真横に加速!

 

「レイジング!」

 

 覇気は雷光となって更なる加速。

 その飛び蹴りは稲妻、相手を粉砕せんと迸る。

 一切手加減なしの全力!これが今できる俺の全て。

 

「ストラァァァイク!!!」

 

 避けもしないたづなさん。大きな衝撃と音を立てて壁にぶち当たる。

 最後まで笑っていたな。

 

 

 雷が消える、し、しんどい、もう限界だ。

 女性相手にここまでやったのは初めてだが果たして。

 

「はぁ、はぁ・・・たづなさん、生きてますよね?・・・たづ」

 

 パチパチパチと場違いな音が聞こえる。

 拍手しながら現れたたづなさん、口元から血が出ている。やり過ぎた?

 

「よくできました。ええ、本当によくできました!」

 

 心底嬉しそうに褒めてくれる。なんか怖い。

 

「こんなに痛い思いをしたのは久しぶりです。肋骨が折れたかもしれません」

 

 口元の血を拭う。痛がっているようには見えない。

 

「期待に応えてくれた、成長を実感できた。流石です、それでこそ私の」

 

 私のなんですか?言えよ。

 

「あなたに敬意と感謝を、頑張ったご褒美に見せてあげますね」

「その姿は」

 

 帽子を脱ぎ捨てる。空気が変わる。現れるのは美しい毛並みの耳と尻尾。

 知ってる。成長したその姿、俺を見る眼差しはあの時と変わらない。

 

「トレセン学園次期理事長、秋川やよいの愛バ」

 

「"超級騎神"トキノミノル」

 

「覚えていますか?マサキ?」

 

 そうだミノルだった。

 

「この姿になったら1度出してしまわないと・・・ちょっと失礼」

 

 記憶の整理がまだ不完全なのに、なにをする気ですか?

 待って!せめて俺が避難してからに・・・。

 

「くしゅん!」

 

 可愛らしいくしゃみによって放たれたのは破壊の力。

 その時、地下30階フロア全体が光に包まれ爆散崩壊した。

 

 豪快ですね。

 



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みのる

「~~♪」

 

 トレセン学園旧校舎、ダンジョンと化した地下30階。

 美しく優しい音色の歌声が響く。

 

「~~♪」

 

 崩壊したフロアは修復が完了しつつある。

 まるで映像を巻き戻すかのように壊れた床や壁が元通りになっていく。

 フロア中央に2人の人影。

 1人は男、気絶したままのマサキ。

 もう1人はウマ娘、たづな・・・真名トキノミノル。

 普段は隠している耳と尻尾を晒し、マサキに膝枕をしている。

 

「~~♪」

 

 この歌はマサキのために歌われる子守唄。

 愛おしそうに頭を撫でながら歌い続ける。

 

 本当に人生なにが起こるかわからない。

 この子とまたこうして触れ合えるとは思わなかった。

 

 たづなは思う、全てが終わって始まったあの時の事を。

 

【ミノル】20年前

 

 その日の帰り道は酷く憂鬱だった。

 自分の横を歩く父の顔を見る事が出来ない。

 父は先程まで私の代わりに謝罪していた。

 そうさせたのは私、大好きな父に嫌われてしまったかもしれない。

 どうしてこんな事に。

 

 友達にケガをさせてしまった。

 いつも私をからかってくる、やんちゃな男の子。

 「やめて」と何度も言ったのにやめてくれなかった。

 今日は耳を引っ張られ、つい相手を突き飛ばしてしまった。

 力を入れたつもりはない、ほんのちょっと軽く押しただけ。

 それなのに・・・。

 男の子は大きく吹き飛び、痛そうに呻いている。

 騒然のとする周囲、悲鳴が上がる。

 なにが起こった?これは私がやったの?違う、私はただやめてほしくて。

 

 こうして父が学校に呼ばれた。

 男の子は幸い軽傷。彼の親もまともな人で「うちの悪ガキがすみません」と父と謝罪合戦をしていた。

 仲の良い友人たちは言う、悪いのはあいつだから気にしないでと。

 気にしないなんて無理だ、男の子と友人たちの私を見る目が恐怖に染まったのを見たから。

 なにがいけなかったのだろう、私はみんなとは違う。

 ウマ耳と尻尾のある子供なんてここでは私だけだ、人と違う事が酷く怖い。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「もう謝らなくてもいいよ。皆、理解してくれている」

「ケガをさせちゃった・・・私、やっぱり変だよ・・・」

「ミノルは普通の人とは違う力をもって生まれたんだ。わかるね」

「いらない、この耳も尻尾も力もいらない。ねぇ、どうして私は、私だけが違うの?」

「似ているように見えて皆それぞれ違うのが命だよ。ミノルはちょっとそれが顕著なだけさ」

「・・・」

 

 父は人間、母も人間、でも私はウマ娘。

 違いを怖がる私に父は言う。違うのは悪いことではないと。

 

「よく聞くんだミノル。力を持つ者には責任がある」

「せきにん」

「そうだ、自分自身のためだけに力を振るってはいけない、誰かを悲しませるような使い方をしてはいけない」

「うん」

「責任を放棄して力を使った者はヒトではなくなってしまう」

 

 父がここで言うヒトとは人間単体を差す言葉ではなく。

 人間とウマ娘、正常な倫理観を持つ人型生命体全般を意味している事は理解できた。

 

「ヒトでなくなったらどうなるの?」

「ヒトでなくなった者はヒトと一緒にいられなくなる。それはとても苦しくて悲しい事なんだ」

 

 一緒にいられない、1人になってしまう・・・いやだ、そんなのはいやだ。

 

「力を使った後もヒトでいられるか、よく考えて行動しなさい。いいね、父さんとの約束だ」

「うん、約束する」

 

 大きな手で私を頭を撫でてくれる父。その優しい顔が大好きだった。

 

「反省するのはここまでだ。実はいいニュースがある!」

「急にテンションが上がった」

「上がりもするさ、ミノルはお姉ちゃんになるんだからな」

「お姉ちゃん・・・私が」

「そうだ、家族が増えるんだよ。男の子、弟ができたんだ」

「弟、私の弟」

 

 ここ最近、両親の様子がおかしかったのはこれか。

 な、なんてことをしてくれたのでしょう・・・お父さん、お母さん、やるじゃないの。

 

「しゃあー!私!おねえちゃんだー!」

「そうだ!お姉ちゃんだぞ!」

「ロールアウトするのはいつですか、名前は!」

「はっはっは!気が早いぞ、もう少し待ちなさい。名前はそうだな、ミノルが考えてみるかい」

「セフィロス!セフィロスがいい!将来は天才美剣士」

「う~ん、ジェノバ細胞を宿した奴はちょっと嫌かな」

「ストロングゼロ」

「アルコール度数が高そうだね」

「ユニコーンガンダムペルフェクティビリティ・ディバイン・デストロイモード(ブルーフレーム)」

「長い長い!」

 

 それから毎日、弟の名前を考えて過ごした。早く会いたいな。

 

 それからしばらく。

 

「ねぇ!触っていい?触らせてよ!どけ!私がお姉ちゃんだぞ!」

「こ~ら、落ち着きなさい。赤ちゃんがビックリしちゃうでしょ」

 

 今日はあいにくの雨、母が赤ちゃんと一緒に病院から帰ってきた。

 待ちわびたぞ!この時をな。

 

「うわ~小っちゃい、カワイイ!あ、こっち見たよ。どうもあなたの姉です!」

「フフッ、テンション高いわね」

「ずっと待っていたからね。ミノル、ちゃんと名前は考えてきたかい」

「もちろんですとも!悩みに悩んで10個に絞り込みました。この中から選んで」

 

 父と母にメモ用紙を渡す。そこに書いてある名前は私が考えた力作ばかりだ。

 母を待っている間、家から出たり入ったりを繰り返したので少々濡れてしまったが。

 

「どれどれ・・・マ・・・サ・・・キ」

「マサキ。うん、いい名前ね!今日からあなたはマサキよ」

「あれ?もっと奇抜な名前を考えていたと思ったが・・・思いとどまってくれたか」

「ちょ、ちょっと待って!もっとスペシャルなヤツがあったはず」

 

 父からメモを奪い取り確認。

 しまったぁー!雨でほとんどの文字が消えてしまっている。水性ペンのバカ!

 生き残った文字がマ・サ・キだっただけじゃん!

 

「やり直しを要求します。もう一度チャンスを!」

「ええーダメよ。この子も気に入ってるもん、ねーマサキ」

「ミノル、諦めなさい。母さんは言い出したら聞かない」

「な、なんてこどだ」

 

 せっかくもらった命名権を台無しにしてしまった。

 ベビーベッドに寝かされた弟はポカンとした顔でこちらを見ている。

 ごめん、お姉ちゃんしくじった。最高の名前を付けてあげたかったのに。

 弟に向けて指を伸ばしてみる。

 

「決定だってさ・・・この名前でいいの?マサキ」

 

 小さな手が私の指をしっかり握ってくる。ふぁーー!なんだこの生物は!カワイイ!

 そしてマサキと呼んだ瞬間、確かにこちらを見て微笑んだ。

 

 ズッッッキューーン!!!

 

 ぐ、ぐはぁああああああ!!!完全にハートを打ち抜かれたぁ!!!大丈夫!致命傷だ!

 やだ!私の弟かわいすぎぃ!!!!

 

「ハァハァ、恐ろしい子。この私をここまで追い詰めるとは、へへ、ウェヘヘッヘ」

「ミノル・・・鼻血を拭きなさい。はい、ティッシュ」

「すみません。取り乱しました」鼻に詰め物装備

「鼻血がでるほど興奮しないでよ。変なお姉ちゃんだねーマサキ」

「これは鼻血ではない、弟を思う姉の力・・・姉力が溢れただけ」

「「(我が娘ながら)何言ってんだコイツ」」

 

 その日から私はマサキにべったりだった。可愛すぎる弟が悪い。

 

 優しい父がいて母がいて、私とマサキがいる。

 仲睦まじい最高の家族。ずっと永遠にこの幸せが続くものだと信じて疑わなかった。

 知らなかったんだ。

 この幸せは、ほんのわずかの悪意であっという間に壊れてしまうものだなんて。

 

 アースクレイドル。

 それが私たち家族が住む町、正確には町ではなく、地下に建造ざれた大規模シェルターのプロトタイプ。

 地球に深刻な災害が起きた場合、地上の環境や情勢が安定するまで長期間大人数を生存させるための箱庭。

 小さな町だが学校や病院、市役所をはじめ各主要施設は揃っており、生活に不満は無い。

 住民はシェルター生活を送るモデルケースとして集められのだが、あまり気にしてはいない。

 「あ、そう。ここってシェルターだったの?」と言う意見が大半。

 町の半分を占める近未来的な巨大研究施設、住民のほとんどは医者、学者、研究者とインテリ揃い。

 

 学校帰り友人たちと別れて今日も父と母の職場に向かう。

 テスラ・ライヒ研究所アースクレイドル支部。ここで父と母は研究者として働いていた。

 

「来たよー!マサキ!マサキはどこ?」

「は~い。静かにしてね、皆お仕事中だから」

 

 託児所も完備された働きやすい環境。将来は私もここに就職したい。

 顔なじみの研究員と挨拶を交わしながら託児所へ。

 保育士さんからマサキを受け取る。今日も我が弟はカワイイ。

 小さい子が抱っこするのは危なっかしいですと?

 舐めないで、こちとらパワー特化型のウマ娘やぞ!弟を落とすなんてありえない。

 誤って潰したら?・・・そ、そんな怖いこと、子供の私に言うあなたは嫌いです。

 

「マサキ~お姉ちゃんだよ~」

「ミノルちゃん今日もブラコン全開ね」

「いつも弟をありがとうございます。あーあー学校なんか行かずに私もここに通いたい」

「それはダメよ。将来はお父さんたちと研究したいんでしょ?勉強は頑張らないと」

「私の二つ名知ってます?脳筋ですよ!名付け親は速攻で泣かしましたけど」

「力の振るい方!お父さんにまた怒られるわよ」

「さーせん」

 

 ケガをさせてしまった男の子、今では私の立派な舎弟だ。

 まさかガキ大将を超えて番長に昇格するとは思わなかった。いいのか、私まだ5歳だぞ。

 力はセーブしているつもり、誰かがいじめられたり、困っている人がいたら躊躇なく使う。

 お父さんには呆れられたけど、お母さんは注意しつつ褒めてくれた。

 

 お父さんたちが専ら研究しているのはへんてこな輪っかだ。

 ここにクレイドルを建造する前から存在していた物体で、研究者は門だと言っていた。

 父が興奮しながらよく話してくれた。

 

「クロスゲートは異世界への扉だ。こことは違う世界には無限の可能性が広がっている」

「またその話~。耳にタコができます」

「異世界との交流!考えただけでもワクワクしないか?」

「起動に成功してから言ってよ。頑丈なだけでうんともすんとも反応しないんでしょ」

「これからだよ!いろんなエネルギーを試したけどやっぱり覇気に反応するみたいなんだ」

「それで私を利用するのは勘弁してほしい」

「クレイドルにはウマ娘が少ないんだよ。ミノルほどの覇気をもった人材は他にいないんだ、頼む!お父さんを助けると思って!」

「娘を人体実験する外道な父がいますよ。何とか言って下さいお母さん」

「ん?ミノルちゃん・・・あなたならできる。母さん信じているから」

「味方がいません。グレてやる!マサキを連れて家出してやる!」

 

 父曰くゲートの向こうは、まさに無限のフロンティアだそうだ。

 友好的な知的生命体がいればいいですね、侵略者だったらどうする気なんでしょう。

 

 マサキを連れて父と母が待つ研究室へ。

 この研究所ではマサキはちょっとしたアイドル扱い、ちょっと前までは私がその役だった。

 弟にアイドルの座を奪われた!仕方ないね!カワイイからね!

 私は弟を一流のアイドルにするべく、プロデューサーになったほうがいいかもしれない。

 

「あ、いたいた、見てごらんマサキ。あれが仕事中毒の両親だよ」

「きゃっ、きゃっ」

 

 強化ガラスを挟んだ向こう、両親と複数の研究者の姿が見える。

 こちらに気付いた。笑顔で手を振る両親。

 母の顔を見たのはこの時が最後だった。

 

「え!?」

 

 轟音!強い衝撃!体が飛ばされる。一体何が?

 頭が痛い、耳がキーンとする。マサキ!?マサキはどこ?なにが起こったの。

 

 後でわかったことだが、研究所だけでなくクレイドル各所に設置された爆弾が起爆し町は一瞬でパニックに陥っていた。

 

 炎、爆発、瓦礫、人が倒れている。悲鳴、叫び、怒号、ここだけじゃない、町が私たちの町が攻撃されている。

 

「マサキ!お父さん!お母さん!どこなの!」

 

 いない見当たらない。自分の体から血がでている、痛い。探さなきゃ、探さないと。

 

「ミノル!こっちだ」

「お父さん!」

 

 父を見つけた。負傷したのか白衣が血に染まっている。

 

「お父さんマサキが!お母さんは!?」

「マサキは無事だ」

「ああ良かった、ごめんねマサキ、手を離してごめんね」

 

 私とは違う方向に飛ばされたマサキは奇跡的に無傷、頑丈な子で良かった。

 

「お母さんは?」

「ミノル、マサキを連れてすぐここから避難するんだ」

「お母さんはどこ!お父さんは一緒に行かないの」

「お母さんはもう・・・父さんにはまだやる事がある、行きなさい、さあ早く!」

 

 私は脳筋なんて言われているが、精神の早熟さに定評があるウマ娘。

 母がもうこの世にはいない事を理解してしまった。

 さっきまでそこにいたんだよ。笑って手を振ってくれたのに。

 

 悲しむ暇すらない、誰かがここへ近づいてくる。

 ウマ娘の聴力が危険を察知して警報をならす。銃声が聞こえる。

 複数人、武装した連中。何かを探してここに来る。

 

「ちっ!嗅ぎ付けてきたか。ミノル、避難するのは後だ、マサキとここに隠れていなさい。なにが会っても出て来てはダメだ」

「で、でもお父さんは」

「大丈夫だ、父さんがなんとかする。お前達はここにいなさい」

 

 父が私たちをロッカーに押し込む。

 以前かくれんぼした時に使った場所だ。ロッカーの隙間から外のようすが辛うじて見える。

 誰かがやってくる。特殊部隊?銃火器を携帯した。複数人が部屋に入ってくる。

 父と部隊のリーダーらしき男が揉めている。お父さんどうか無事でいて。

 

「娘をどこへやった!教えれば苦しまずに殺してやる」

「外道の飼い犬ごときに教えると思うか!・・・がっ!」

 

 父が殴られた。悲鳴を上げそうになる口を必死で押さえる。

 

「もう一度聞くパーフェクトはどこだ?あれは組織の大事な武器になる」

「パーフェクトではない!娘の名前はトキノミノル!お前たちのオモチャじゃないぞ」

「娘1人を手放せば、今頃なに不自由ない生活が送れたものを・・・バカな奴だ」

「バカはお前たちだ!金をやるから娘を寄こせだと!ふざけるのも大概にしろ!こんな所まで追って来て、もう娘に構うな!あの子はただのウマ娘だぞ」

「ただのウマ娘?そうじゃないのは親のお前がよく知っているだろう。生まれながらにして覇気係数が轟級騎神以上、組織が付けたコードネームはパーフェクト。天級騎神の卵なんだよ!お前の娘はな!」

 

 パーフェクト?天級騎神?知らない単語が聞こえる。卵?なんのことだ?

 

「あの子は騎神にはならない。家族思いの優しい子なんだ」

「それは今後の教育しだいでどうとでもなる。さあ、パーフェクトの居場所を言え!」

「あの子はトキノミノルだ!」

「こいつっ!抵抗するなぁ!」

「ぐっ!ミノル忘れるな!お前は父さんと母さんの大事な娘、マサキのお姉ちゃん!お前はヒトなんだ!バケモノになってはいけない!」

「ちっ!もういい殺せ」

 

 パンッ、パンッと渇いた銃声が響く。私が見ている前で父が動かなくなった。

 あ、あああ、ああああ。

 

「お、お父さんっ!!!」

「いたぞ!パーフェクトだ!取り押さえろ」

「いや!お父さん!お父さん!」

「暴れるな!こいつ!」

「離して!離せぇ!」

「おい、こいつ何か持っているぞ。赤ん坊?」

 

 なんで?どうして?こんなヒドイことをするの?

 嫌だ、助けて、誰か、助けてよ!

 

 (・・・呼んだか・・・)

 

「だれ・・・」

「なんだこれは!なにが起こっている」

「わかりません。このリング状の物体が急に光って」

「うわっ!」

 

 クロスゲート、父と母が何をしても起動しなかった門が動き出す。

 リングの内側が水面のような光沢を放ち中から何かが現れる。

 誰?あなたは誰?

 

「あ、悪魔!」

「撃て!そいつは研究所の新兵器かもしれん!」

「ダメだ!弾が弾かれる!な、なんて大きさだ!」

「退避―!退避しろ!」

「・・・かみさま?」

 

 多分、神様ではないだろう。

 爆発により半壊した研究所に佇む、ゲートから現れたその異様。

 全長20メートルを超える巨躯。黒と金の装甲、翼を広げたその姿は悪魔そのもの。

 ロボット?金属の光沢を放ちながらもどこか生物的なフォルム。

 助けてくれた?この悪魔が?

 武装集団は悪魔を警戒して距離をとる。眼前に残されたのは私とマサキだけ。

 

「今の俺は・・・”そちら”へは行けない・・・。因子が足りない・・・」

「え?何を言って」

 

 頭に響く声、若い男のものだろうか。見れば悪魔の体が消えかかっている。

 

「無理をした・・・この世界では・・・存在が許されない」

 

「聞こえているか・・・少女よ・・・その赤子を守れ」

 

「そいつの・・・心臓・・・ディーン・レヴ・・・」

 

 消えていく悪魔が何か言っている。不思議と怖くはない。

 むしろその眼差しはこちらを心配しているように感じる。

 

 見ている。私を・・・違う、悪魔が見ているのはマサキだ。

 

 悪魔がこちらに巨大な手を伸ばす。ダメ!連れて行かないで!大事な弟なの!

 大きな指先が触れるかと思われた瞬間、その姿が光となって消える。

 悪魔だった光はゲートに吸い込まれていく。

 そのさなか光の一部がマサキの中に入ったように見えた。

 

 静まり返る。

 瓦礫と化した研究室は悪魔の登場でますます崩壊が進んだ。

 今のは何だったのだろう?どうでもいい、今は逃げなくちゃ!

 

「おっと待ちな!逃がさねぇよ」

「奴はどこへ消えた?」

「ホログラムかなんかだろう、脅かしやがって」

「目的は達成した。メジロ家が来る前に片付けるぞ」

「いやっ!」

 

 悪魔の脅威が去った直後、逃げ出す間もなく捕まり、マサキを取り上げられた。

 私はこんな奴らに・・・お父さん、お母さん。

 

「赤ん坊はどうします」

「人間には用はない、必要なのはパーフェクトだけだ。処分しろ」

「やめて!マサキ!マサキ!」

「うるさい!お前の親もこの赤ん坊も、お前のせいで死ぬんだ!」

「わ、私の・・・」

「そうだ、お前さえいなければ町も家族も誰も死んだりしなかった」

「違う、違う、私はそんなこと」

「理解しろバケモノ、恨むんなら自分の存在を恨むんだな」

「バケモノ」

「もういい、やれ!」

 

 マサキに銃口が向けられる。

 やめて!やめて!やめて!弟なの!もうたった1人の家族なの!やめて!やめて!やめろぉ!

 

 誓った。あなたを見たとき、指を握られたとき、笑ってくれたとき。

 絶対に守ってみせると。だって私はお姉ちゃんなんだから。

 守る、殺させはしない、何を引き換えにしても、例え自分が自分でなくなってしまっても!

 

 ・・・プツンッと頭の奥で何かが切れる音がした。

 

「ヒトでなくなった者はヒトと一緒にいられなくなる。それはとても苦しくて悲しい事なんだ」

 

「力を使った後もヒトでいられるか、よく考えて行動しなさい。いいね、父さんとの約束だ」

 

 ごめんなさいお父さん・・・約束守れなかった。

 

「・・・・るな」

「あ?なにを」

 

「その子に、弟にさわるなぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!」

 

 グチュ・・・。

 目の前、部隊の指揮をとっていたであろう男から湿ったような音がする。

 右手に纏わりつく不快な感触。ボタボタと流れ落ちる血液。

 自分の体にも飛び散った、気持ち悪い、キモチワルイ。

 

 私の手が男の体を貫通し、その心臓を握りつぶしていた。

 

「う、うわぁああああ!!!」

「ななんだコイツ!撃て」

「バカ!こいつは生け捕りにしないと」

「そんな事言ってる場合か・・・ぎゃ!」

 

 うるさいな、まだ1人殺しただけだろう?ああ、今ので2人目か。

 顔面が陥没して脳まで破壊された肉塊が崩れ落ちる。

 武装集団は恐慌状態に陥る。

 銃を乱射する者、我先に逃げ出す者、命乞いをする者、なにをしても結果は同じ。

 全員殺すんだから関係ない。

 

「待ってくれ!俺はただ命令されただけで」

「助けて!助けて!」

「来るな!来るなぁー!」

「こんなはずじゃなかった。し、しにたくな」

 

 何を言っているのかわからない。

 殺したくせにお父さんをお母さんを町の人を殺したくせに。

 お前達はヒトじゃないヒトじゃない奴はバケモノに殺されるんだよ。

 

 自分とマサキだけ。

 後はみんなみんな殺した。

 町が燃えている。研究所もそこかしこから煙が上がる。

 もう終わった・・・あまりにあっけない。

 こんなゴミが、私に傷1つ付けられないようなゴミが、家族を皆を・・・。

 

 赤ん坊の泣き声・・・聞こえる・・・マサキ!

 

「ああ、マサキ!もう大丈夫だよ。終わったの」

 

 おかしい、いつもならすぐに泣き止んでくれる、いい子なのに。

 

「泣かないでマサキ。大丈夫大丈夫だから、お姉ちゃんここにいる・・・よ」

 

 赤い、私が触ったら、マサキが赤くなった。

 なにこれ?・・・血?

 

「ひぃ!?」

 

 瓦礫の中、強化ガラスの残骸に反射して映った人影に戦慄する。

 バケモノだ血まみれのバケモノ。赤ん坊を抱いて驚いた表情を浮かべるバケモノ。

 

 トキノミノルという名前のバケモノがそこにいた。

 

「あ、あああ、これ・・・わた・・・し」

 

 今更、震えが止まらない。

 殺した、殺してしまった、いっぱい殺した、全部自分がやった。

 

 マサキが泣き止むはずがない。バケモノに抱かれてしまっているのだから。

 

「ごめん、ごめんなさい、マサキ、ごめんなさい」

 

 血濡れのバケモノが赤ん坊を抱きしめる。

 それでも私は、ずっとマサキを離すことができなかった。ごめんなさい。

 

 私は・・・ヒトではなくなった。

 

 

「避難民の誘導と救助を最優先!研究所に増員を寄こせ」

「敵残存戦力はいかがいたしましょうか」

「慈悲などいらん!罪なき者を傷つけメジロ家にケンカを売ったバカには地獄が相応しい。見つけ次第殺せ」

「「「「「「はっ!」」」」」

 

 アースクレイドルが武装集団に襲撃された。

 その一報は瞬く間に伝わり、メジロ家の機動部隊が鎮圧と救助に派遣された。

 

「くそ、酷いありさまだ。連中の狙いは何だったのでしょうか?」

「クレイドルではゲートの研究をしていた。そのデータを欲した何者か・・・あるいは」

「しかし、これほどの被害を出してまで欲しいものとは」

「リスクに見合うだけのリターン・・・メジロ家を敵に回してもいいと思えるものか」

「隊長!生存者を発見しました」

「わかったすぐに行く」

 

 その部屋は赤だった。

 部屋全体に血が飛び散り、人間だった物言わぬ肉がそこらじゅうに転がっている。

 いったい何があったというのか。

 

 部屋の隅、何かを抱えて泣きじゃくる子供がいる。

 ウマ娘・・・しかし、この子は血を浴び過ぎている。

 

「隊長、離れてください・・・この惨状を作り出したのはおそらく」

「わかっている。いいから武器を下ろせ」

 

 強い覇気を感じる。自分は操者ではないが覇気を使う事に長けている。

 今回の事件を起こしたバカが求めたのはこの子だ。

 

「私はメジロ家機動部隊、隊長のウォルターと言うものだ。君を助けに来た」

「・・・・」

「ここにいてはいけない。私と共に来るんだ」

「・・・・この子を」

「?」

「この子をお願いします」

 

 血まみれの少女が抱えていたものが赤ん坊だったことに驚く。

 少女が震える手で差し出した赤ん坊を受け取る。良かった、生きている。

 すぐに医療班が到着し赤ん坊に適切な処置を施していく。

 

「よく無事だったな。あの子は君が助けたんだ、さあ一緒に来なさい」

「・・・私は行けません」

「悪いようにはしない。ご家族もきっと心配している」

「家族はあの子だけです。両親はここにいます」

「なら、なおさらだ。君たちを責任もって保護しよう」

「一緒にいられない、私はもうヒトじゃないから」

「何を言っているんだ。おい、撤収だ!誰かタオルを持ってきてくれ」

 

 抵抗する力もないのか虚ろな表情を浮かべる少女。

 ウォルターは血濡れの彼女をタオルで拭ってやる。

 このような少女になんという酷なことを。

 この仕事をしていると時たま思う。

 神などという都合のいい救いをもたらす存在はいないと。

 

 

 クレイドルから出て連れてこられたのは大型の建造物を造るドックのような場所だった。

 どこをどう移動したのかは覚えていない。

 両親が無くなり、住処を失った。その重苦しい事実が私から思考を奪う。

 代わるがわる訪れる人たち、事情聴取、身体検査、こちらを心配して声をかける大人。

 あいまいな反応しかできない。無気力が体を支配している。

 あの子は、マサキは無事だろうか・・・今の私が会いたいなどと言ってもいいのだろうか。

 

 何日経ったのだろう。

 昨日のことだった気がするし、もうずいぶん昔のような気もする。

 

「気分は・・・いいわけないか」

「ウォルターさん。また来たんですか」

「君の身柄は私に一任されている。保護者として面会に来るのは当然だ」

「あの子はどうなりましたか?」

「元気過ぎるぐらいだ。毎日たっぷりミルクを飲んでたっぷり寝ている。メイドたちがこぞって世話をやりたがって大騒ぎだ。君の弟の愛嬌は万人を魅了しているよ」

「あの子は本当にカワイイですから当然です」

「会いにいかないのか?」

「どの面下げて・・・あの子から故郷と両親を奪ったのは私なんですよ」

「何度も言うが君のせいじゃない。責められるべきは、君を利用しようとした愚か者たちだ」

「それでも・・・私はヒトじゃないですから」

 

 父が言った言葉は呪いのように纏わりつく。

 

「それでこの後どうしたい」

「どうでもいいです。もう私にはあの子しか・・・いえ、あの子もいなくなる。1人になる」

「ダメだな、そのままでは野垂れ死んでしまうぞ」

「そうでしょうね。私の命はここで消えたほうがいい」

 

 無気力な私の胸倉をウォルターさんが掴む。

 

「ガキが!甘ったれるなよ!消えたほうがいいだと、命を捨ててお前たちを守ろうとした両親に恥ずかしいとは思わんのか!」

「もうどうすれば、これ以上なにをすれば、知ってるなら教えてよ!!!!」

「いいだろう、どうせ捨てる命ならもらってやる。お前はメジロ家の起動部隊に入れ」

「そこでなにをすれば」

「決まっている!ヒトでなくなったなどというガキには相応しい仕事がまってるぞ!お前はバケモノらしく暴れるだけでいい、得意だろ?」

「最悪・・・最悪だ、結局あなたも私の力目当て・・・フフフッ、アハハハハハハハハ!!!傑作、本当に傑作ですよ。あークソ!クソクソクソクソクソクソクソッ!世の中マジでクソだ!」

「上層部はお前の力を欲している。野に放つ位なら処分しろとまでいう輩もいる。起動部隊に入れば衣食住の他、望むものはできる限り提供しよう」

「いいでしょう。条件が二つありますけど」

「言ってみろ」

「あの子を信頼できる施設に預けたい。私からは遠ざけてほしい」

「それぐらいなら容易い。もう一つは」

「仕事の内容・・・それって悪い奴を殺せる?」

「もちろんだ。奴らは潰しても潰しても湧いてくるぞ、満足するまで殺し尽くせ」

「契約成立ですね」

 

 メジロ家で仕事をすることになった。

 久しぶりに会う弟は無邪気に愛想を振りまいている。

 この間、私のせいで怖い思いをしたというのに、抱き上げた腕の中でスヤスヤと眠ってしまった。

 なんというか大物になる予感がする。少しは警戒心とかを養うんだぞ。

 あたたかい、心地よい重さ、この温もりを手放すなど考えられなかったというのに。

 今日、私はこの子とお別れする。

 

 孤児院、ここがマサキの新しい家。

 ウォルターさんが選んだのは、都市部から離れた場所にある、初老の男性が園長を務める施設だった。

 微弱な覇気を通してわかる、この人はとてもいいヒトだと。

 ここなら、ここでならきっとマサキはよい子に育つだろう。

 

 園長さんに挨拶をして手続きを行う。

 書類等の雑務は全てメジロ家がやってくれた。

 もう、行かなくては、腕の中で眠る弟の頭に優しく触れる。

 

「ごめんね、お姉ちゃん一緒にいられないの」

 

「あなたはちゃんとしたヒトになるんだよ」

 

 園長さんに向き直りマサキを手渡す。

 

「その子の名前はマサキ。私がこの世に存在する理由の全て。どうか、よろしくお願いします」

 

 涙が溢れてくる、お父さん、お母さん、これでいいんだよね。

 マサキは幸せになるべきなんだよね。

 

「確かにお預かりした。アンタの覚悟とメジロ家に誓ってこの子を立派に育ててみせよう」

 

 もう一度深く礼をして、その場を後にする。

 振り返るな、あの子にとってこれが最良なんだ。

 私が寂しいとかそんな感情はどうでもいい、マサキが幸せならそれでいい。

 ウォルターさんが待っている車に乗り、乱暴にドアを閉める。

 

「もういいのか?」

「行ってください・・・」

「今ならまだ間に合うぞ。一緒に暮らせるよう進言してもいい」

「いいから!!!行って!!!」

 

 車が発信する。離れる、離れていってしまう。

 自分の目からとめどなく溢れる涙が鬱陶しい、どんなにくいしばっても止まらない。

 

「泣きすぎだ、バカ者」

「泣いてなんかいません、これは汗です。バケモノはヒトみたいに泣かないんです」

「だったら汗を拭け、車が汚れる」

「こんな時ぐらい気をつかってくださいよ!!う、うわぁあああああマサキマサキマサキーー!!!!」

「めんどくさいな」

 

 大好きな弟へ。

 私はあなたのお姉ちゃんでいられなくなりました。

 恨んでくれて構いません、あなたを置いていくことに、許しを請うこともしません。

 あなたはあなたのまま立派なヒトになってください。

 それだけが私の願いです。

 

 これかも私は生きる。生きてあの子が住むこの世界を守る。

 そのためならいくらでも殺そう、何度でも血まみれになろう。

 私たちのような思いをする人がいなくなるように。

 

 私の名前はトキノミノル、全ての悪を断つ剣となるウマ娘。

 

 



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たづな

 メジロ家に雇われてからしばらく経った。

 悪は次から次へと湧いて出る。倒しても潰しても殺しても、消えない。

 憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものだ。

 悪を断つ剣が眠りにつく日はいつになることやら。

  

「師匠、今日も悪をなぶり殺す技を教えて下さい」

「たづな・・・前にもいったじゃろうが、抜き身の刀はすぐに折れてしまうぞ」

「そんなに鋭利じゃないです。私もかなり丸くなりました」

「心配しておるのじゃぞ、お前さんはもっとゆとりをもつべきだ」

「うるさいジジイだな・・・特養に放り込みますよ」

「だずな!!!」

「はいはい、すみません。修練しましょうそうしましょう」

「まったくお前という奴は」

 

 このジジイじゃなかった、素敵なお爺様はリシュウ・トウゴウ。私の師匠なのです。

 薩摩示現流と呼ばれる剣技の達人で師範号を持ち。

 剣技は常人の域を超えており、仕込み杖でリアルに銃弾を弾く。

 テスラ・ライヒ研究所に技術顧問として在籍し、剣撃モーションデータの作成とそれに対応した剣の開発を担当するスーパーおじいちゃん。

 斬艦刀というバカみたいな大きさの刀造りに今は夢中になっているらしい。

 私のシシオウブレードもこのジジイが造った。

 ウォルターに紹介されてからというもの、私はジジイから剣技を学んだ。

 力任せに振り回すばかりの私に掃除、座禅、滝行、写経など精神修練を課してくる。

 出家する気はないです。でも修業僧たちとした山籠もりは楽しかった。

 

「ウォルターの奴め、とんでもない娘を押し付けたもんじゃ」

「師匠、斬艦刀完成したら私に下さいね」

「お前さんには過ぎた得物じゃわい」

「殺してでもうばいとる」

「舐めるなよ小娘!その性根を叩き直してやるわ」

「丸腰の10歳児に襲い掛かるジジイ・・・これは酷い」

「こんな奴、弟子にするんじゃなかったわい」

「後悔先に立たずwww」

「やかましい!」

 

 師匠がいい感じにハッスルしたので修練開始。

 最初はお互い徒手空拳、途中から屋敷にあった得物で切り結ぶ。

 あ、折れた。どんな業物でも私が使えばすぐにこうなる。

 シシオウブレードもマメに手入れしないと同じ運命。

 お気に入りの刀を折られてますますハッスルする師匠。

 本気で怒ってしまいましたか・・・。楽しくなってきましたね!

 

 はは・・・本当にお強いですね・・・容赦ない所が素敵です。

 もうボッコボコですよ・・・やってくれましたね師匠・・・今度、盆栽を破壊してあげます。

 

「反省したか?」

「申し訳ありませんでした師匠。これからは心を入れ替えて・・・ざっけんな!ジジイ!ちょっと強いからっていい気になるなよ!」

「よし尻尾を出せ、切り落としてやる!」

「それだけはご勘弁を、口が滑っただけです。あなたの前では正直でいたい弟子でした」

「もう少し大人しい子になってくれんと、こっちの身が持たん」

「私が乱暴者なのは師匠の教えの賜物です」

「なんでちょっとわしのせいにしてんの!?」

「興奮しないでください。また血圧が上がりますよ」

「こいつは・・・たづな、電話が鳴っとるぞ」

「はいはい、ちょっとお待ちを・・・・・・ええ、はい、師匠の所です。はい、はい、わかりました」

「仕事か?」

「そのようです。つかの間の休日も終わりですか」

「剣は抜かずに済めば無事太平・・・」

「抜いたからには一刀両断でしょ。わかってますよ」

「まだ時間があるじゃろう、屋敷の片付けをしてから行け」

「すぐ迎えが来るので無理です。では師匠、またお会いしましょう」

「あ、こりゃ!やれやれ、台風のような子じゃ」

 

 師匠の屋敷から脱出。

 片付けなんてやりたくない。

 メジロ家でメイドの真似事をしたとき「お願いだからなにもするな!」と泣かれたんだぞ。

 家庭的なスキルは弟と一緒になくしてしまった。

 

 エンジン音が近づいてくる。迎えがきたようだ。

 大排気量の大型バイクが私の横に停車した。

 ライダースーツを身に纏った長身の男がヘルメットを脱ぐ。

 金髪ロン毛、少女漫画に出てくる貴族の美男子。キザな物言いや仕草も様になるイケメン。

 

「トロンべよ。今日も元気そうでなによりだ」

「出たな!トロンべ狂い」

 

 エルザム・V・ブランシュタイン。

 元DCの凄腕特殊戦闘員。どんな武装も人並み以上に使いこなし、銃火器の腕前は超一流。

 負けはしたものの、単身で天級騎神とやりあったとの噂もある。

 現在はメジロ家の起動部隊から派生した特殊戦技教導隊所属、私の同僚だ。

 一見、完璧超人にも見えるこの男には困った癖があった。

 

「任務だぞトロンべ。さあ、トロンべに乗り給え」

「たづなです。バイクもトロンべなんですね・・・頭痛い」

「乗ったな、では駆け抜けろトロンべよ!」

 

 トロンべ狂い。コレさえなければと皆さんおっしゃいます。

 この男は黒髪のウマ娘と黒い乗り物(バイク、自動車、航空機、その他)をなぜかトロンべと呼ぶ。

 数か月前の任務時、部隊のメンバーが奇跡的に全員黒髪のウマ娘だったことがあった。

 作戦立案中からトロンべがゲシュタルト崩壊を起こし、連絡系統が混乱したため部隊編成をやり直したのは今でも語り草だ。

 

「だづな?トロンべはミノルではなかったのか」

「この間、ばば様から名前をいただきました。これからは駿川たづなでお願いします」

「了解したぞトロンべよ」

「全然わかってないですね」

 

 騎神にとって真名を隠し別の名を名乗るということは複数の意味がある。

 操者となる人間が仮契約を申し込むため、本来の名を伏せる事で力をセーブするため。

 名前をつけた人や組織の命令に従うという騎神から意思表示。

 

 メジロ家のご頭首ばば様よりこの名前を授かりました。

 まあ、雇い主でもあり私の恩人でもあるので了承するのは構いません。

 トキノミノルの名は大事な所で披露しましょうか。

 駿川たづな(ハヤカワタヅナ)として心機一転頑張ります。

 

 メジロ家機動部隊大7支部。私の寝床、任務次第でどうせすぐ引越する。

 そこから輸送機に乗って指定された作戦地帯に向かう。

 部隊員から渡されたタブレットにウォルターが映る。別の場所から私たちに指示を出すのだろう。

 

「ウォルターさん本日のゴミはどんな様子でしょう?」

「少々でかい群れだ。お前が追っている例の奴で間違いない」

「それを聞いて俄然やる気でました」

「エルザムは地上に展開済みの部隊と合流してゴミを一ヶ所に纏めろ」

「承知した」

「たづなはいつもやつだ」

「それしかありませんね、乗り心地は改善してくれましたか?」

「贅沢を言うな、設備改善の予算が欲しければもっと働け。以上だ検討を祈る」

 

 通信が切れた。酔い止め持ってくれば良かった。

 仕事の前にお菓子を少々・・・うまーい!\(^_^)/リンゴのタルトしかも手作り!

 料理とお菓子作り等、調理全般が得意なエルザム。また腕を上げたな。

 メジロ家のお抱えシェフも唸るその手腕!流石です。

 私も含めこの男に機動部隊全員が餌付けされている。

 

「隊長、もうすぐ到着しますよ。お菓子食べるのは帰ってからにしてください」

「この間みたいに舐めプして、尻尾の毛を切られたりしないでくださいよ隊長」

「はい隊長、この発信機は壊さないように、隊長の位置を特定するものですからね」

 

 隊長・・・この呼び方は慣れない。

 

「皆さん・・・10歳児に隊長は務まりませんと何度もいいましたよね」

「そんなことはないぞトロンべ隊長。あなたは立派な戦士だ」

「そうですよ隊長!」

「隊長!今日もカワイイ!」

「隊長!踏んでください!見下した目で罵ってください!」

「落ち着け!それは協定違反とみなすぞ!ミノル改め、たづなファンクラブから抹消されたいのか!」

「「「「「「「「隊長!!隊長!!隊長!!!」」」」」」」」

「鎮まれ!こんな狭い所で暴れるな!あ、私の食べかけを奪い合うのはやめて!」

 

 元気良すぎる男女の声。こいつら全員年上なんです。

 くじ引き決めたのではなく、私が隊長になったのは仕組まれたことだったと最近知った。

 

 働き始めた頃はみんな私を怖がった。

 戦場で暴れ回る私に味方すら恐怖を抱き、どこにいてもいつも1人。

 家族を失って自暴自棄になり、他者を拒絶し心を閉ざしていた私にも原因があるのはわかっている。

 ウォルターさんや一部の物好きな人たちが私を気にかけてくれなければ、ボッチ街道まっしぐらだったことだろう。

 成り行きで隊長になってしまったこの部隊は、私のことを好きだと言う物好きばかり。 

 要は変人の集まり・・・ありがたいことです。

 部隊員以外のメジロ家の方々も私に対する接し方が変わってきたように感じます。

 私も少しは丸くなるってもんですよ。めざせコミュ障改善!トラウマを乗り越えろ。

 

 戦場は膠着状態が続いていた。

 とある組織の秘密基地、メジロ家に発見され起動部隊を送られたものの。

 戦闘用AMや非合法な各種兵器類、多数の構成員による物量で激しく抵抗する。

 ここにきてメジロ家の部隊が後退、籠城を決め込む構えをとる悪党は歓声をあげる。

 

「ざまあみやがれ!見ろメジロ家の犬どもが尻尾を巻いて逃げていくぞ!」

「はっはー!この基地の戦力を甘く見やがったな!」

「ここが簡単に落とせるわけないだろうがバカめ!」

「悔しかったら天級騎神でも連れてくるんだな!まあ無理だろうがな」

「よし、お前ら必要なブツだけ詰め込んで脱出の準備だ」

 

 メジロ家の起動部隊は退けた。 

 後は準備が整い次第こことはおさらばだ。

 

「口ほどにもなかったな、正直ガッカリしたぜ」

「ヤバさで言えばサトノ家の方が上だな。低級の騎神しか揃えられないようじゃダメだ」

「気に入らないな」

 

 男たちがメジロ家に思い思いの悪態をついているなか、威圧感のある声が響く。

 ウマ娘だ、にじみ出る殺気と覇気を隠そうともしない。

 その立ち振る舞いや顔つきから多くの戦場を渡り歩いた猛者だとわかる。

 

「本当にこの程度か?聞いていた話と違うぞ」

「先生のことを知ってあいつらビビったんじゃないですか?」

「先生はやめろ、私はただの傭兵だ。戦場と金がありゃあ満足さ」

「アンタは俺たちの切り札だ、頼んだぜ騎神のねーちゃん」

「報酬分は働くさ・・・どうしたメジロ家、来いよ!いるんだろ!私を楽しませてくれよ」

 

 メジロ家機動部隊陣地

 

「こちらエルザム、舞台は整った。さあ主役の登場だ!今こそトロン・・・」ガチャ切り

「隊長聞きました?」

「はーい。やっちゃってください」

「どうかご武運を!あ、ゲロはもう吐かないでくださいね」

「善処します。カウント合わせ・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0!行ってきます!」

「発射!!!」

 

 悪党サイド

 

「先生!何かがこっちに向かってきます!」

「ミサイル?特殊徹甲弾の類か、まあいい、撃ち落としてやる!」

 

 騎神の両腕から放たれる覇気弾!通常のミサイル兵器であれば今ので無力化されただろう。

 命中する。しかし、その弾頭は少しグラついただけで真っ直ぐこちらに突き進む。

 

「ちっ!対覇気用の防御装甲!お前ら下がっていろ!突っ込んで来るぞ」

「なんだって!おい爆発したらどうなるんだよ!」

「狼狽えるな!私の後ろにいれば問題ない!フィールドぐらい張れる」

「流石先生だ!」

 

 激しい音と衝撃、多くの人員とAMたちが配備された広場の中心に弾頭が突き刺さる。

 爆発は特に起こる様子はない・・・。

 遠巻きに見ていた構成員たちは首を傾げる。警戒をしたまま武器を構え近づこうとした。

 

「ウェエエエ、何回やっても慣れません。ウプ・・・ギモヂワルイ」

 

 弾頭の中から口を押えた少女が出てくる。

 場違いな光景に周囲は怪訝な顔をするが、傭兵の騎神だけは警戒心を上げる。

 

「マサキ、お姉ちゃんに力を貸して戦場のど真ん中で吐きたくは・・・オロロロロロ~」

 

 こちらを無視して少女はゲロをする。

 しばらくえずいた後、汚れた口元を拭いて用意していたボトルから水分補給。

 

「何者だ!」

「動くな!動けば射殺する」

「いい、お前らは下がれ」

「しかし先生」

「下がれと言ったんだ!死にたいなら別だがな」

 

 少女の格好は白を基調とし蛍光色のロゴや模様が入った戦闘服。

 ローマ字で描かれたオシャレなデザインの文字はME・ZI・RO

 短パンにポケットが沢山ついたアーミーベスト、ノースリーブのインナー。荷物が入るボディバック。

 そして体に不釣り合いな大きさの刀を背負っている。明らかに異質。

 

「お前は人間じゃない、騎神だな?」

「え、はい。一応騎神です・・・あなたもですか?」

「そうさ、ここの奴らに金で雇われた傭兵崩れだよ」

「あーあー、警告~警告します!皆さんよく聞いてください~」

「なんの真似だ?」

「1度しかいいません。すぐに武装を解除して投稿してください」

「おい」

「これはお願いではなく命令です。後ちょっとだけ待ちます」

 

 シーンとなる周囲そして。

 失笑と共に下衆な笑みを浮かべてヤジを飛ばす。

 

「おいおいおい!メジロ家は本当にどうしちまったんだwww」

「こんなガキを単身送り込んで何ができるってwww」

「かわいそうになぁwwwメジロ家に利用された騎神の末路だwww」

「ガキが戦死するまで奮闘したという実績が欲しいのか?いいスケープゴートだな」

「「「「「「「ぎゃははっはっはははははっはははは!!!」」」」」」」

「単身で送り込まれる騎神のガキ・・・まさか・・・こいつ」

 

 はい!いつものパターンです!

 精々笑ってろ、そうやってこちらを舐めてくれれば仕事がしやすい。

 

「もういいですね・・・ではでは~・・・お?」

「だりゃぁああ!!!」

 

 唯一油断してなかった騎神が殴りかかってきた。おう!これはこれは。

 

「おい!バカども、気を抜いてんじゃねぇ!こいつはメジロ家の"暴君"だ!」

「その呼び方嫌いです」

 

 悪党どもに広まってしまった教導隊員の二つ名。

 ウォルターさん"死神"エルザム"黒旋風"だったかな。

 そして私は"暴君"・・・完全に日頃のおこないのせいですね。

 

「タイラント?あれが・・・」

「教導隊の使用する悪夢の生体兵器」

「メジロ家が封印を解いた破壊神」

「私はどこにでもいる10歳のウマ娘なのですが」

「そんなわけ、ないだろうがぁ!!!」

「おっとっと」

「なにをやっている!さっさと攻撃しろ!死にたいのか!」

 

「私の名前は駿川たづな悪を断つ剣です!」

 

 まずは雑魚を減らしましょうか。

 向かってくる騎神、モブ子でいいか。モブ子を躱して近くにいるAMの体を無造作に引きちぎる。

 驚いてる場合か?AMの一部を投げつけ怯んだ人間たち、抜刀!駆け抜ける!

 3人分の胴体が上下に分かたれた。どんどん行きます。

 

「攻撃!攻撃するんだ!」

「速すぎる!当たらない、AMを全て動かせ!」

「や、やられる。増援を呼ぶんだ!」

「ひぃこっちにき・・・あ・・・」

 

 何か言ってた奴の首が飛ぶ。

 うるさい!こいつら悪党は最期までうるさい。何もせず静かにしていれば殺さないのに。

 AMはあらかた片付けたか、えーと後は。

 

「調子に乗るなよ!暴君!」

「結構強い?めんどくさい」

「噂は聞いてるよ!これだから戦場はいい!たまに掘出し物とやり合える」

「はぁ・・・」

「どうした!私を楽しませろよ!」

「はぁ・・・」

「俺達には先生がついてるぞ!やれ!タイラントを殺せー!」

「はぁ」

 

 温度差を感じて欲しいです。

 私は別に熱くなってないし、むしろ冷めてるし。帰っておやつ食べたい。

 

「暴君、級位はどのくらいだ」

「級位?ああ・・・烈級です」

「試験監督の目は腐ってるね。お前はどう見ても轟級だろう」

「よくわかりません」

「だが残念だったね、私は超級騎神だよ」

「それって凄いんですか?」

「はっ!見せてやるよ絶対的な力の差を!ふぅぅぅ・・・はぁぁぁああああああ!!!」

「おわっと!?」

 

 始めて見た、ビーム?口からビーム吐いたよモブ子!ゲロビですね。

 こ、これが超級騎神の力?

 吹き飛ぶ、建物の壁を何枚も突き破っても止まらない体。

 正直感心した。覇気弾ではなく光線?熱線?にして打ち込むとは、口からなのは趣味だろうか?

 

「や、やったぞ!先生がやってくれた!」

「あれが超級騎神の力か、凄まじい・・・基地の建物が倒壊したぞ」

「タイラントの奴もただではすむまい」

「蒸発したんじゃねぇの!案外あっけなかったな」

「フフッ轟級ごときで私の前に立つからだ。相手が悪かったね」

「一応死体を確認するぞ、もし生きていたら鉛玉でハチの巣にしてやる」

 

 聞こえてますよ。

 思ったより飛ばされたな・・・数が多いしめんどくさくなってきた。

 さっきの真似してみよう、確かこうやって。

 覇気を練る、集中、口から吐き出すイメージ、ゴジラの放射能熱線が理想だ。 

 もっともっともっと、上がってきたぞーーー!

 範囲は広く、威力は高く、まとめて消し飛ばすとしよう。

 仮想砲身固定!名前は・・・ハイパーブラスターなんちゃって。

 師匠なら超絶熱線砲とか言いそう。

 

「すぅぅぅうううう!!!・・・・」

 

 ヤッッベ!くしゃみでそう!

 

「へ、はっ、はっくしゅん!!!!」

 

 発射!

 前方の広範囲を高威力のビームが薙ぎ払う。

 私が突っ込んで壊した建物、AM、輸送機、たぶん人、モブ子、その他もろもろ全てが光を食らう。

 壊れる、吹き飛ぶ、消滅、死。

 最後の引き金がくしゃみだった事など知る由もなく消し飛ばされる。

 

「うっくしゅ、ぶえっくしゅ、あー鼻水・・・花粉症?そんな訳ないか」

 

 勢い余って耳と尻尾が出ちゃった。

 普段は覇気の制御を兼ねて隠しています。

 覇気を溜めすぎるのも考え物だ、定期的に出さないと、ほら、こうなりますよね。

 予想よりでかいのが発射されたな。さて、モブ子はっと。

 

「生きてましたか。偉そうに級位を名乗るだけはありますね」

「ふ、ふざけんな・・・轟級ですらない・・・お前も超級かよ」

「知りませんよ。試験会場出禁になったんですから」

 

 騎神に級位がある事すら知らなかった。

 エルザムに連れられてこの前始めて試験を受けた。

 めんどくさいので参加者全員を殴って気絶させたら「級位はやるから帰ってくれ!」と泣かれた。

 烈級は合格しました。けど試験にはもう行くなとメジロ家からのお達しです。

 轟級以上の資格認定はウォルターさんや覇気に詳しいメジロ家上層部が直々にしてくれるそうです。

 今後に期待しましょう。

 

「あなたは超級内ランキング何位ですか?」

「は?知るかよ!だが超級とやり合って負けた事は無い」

「天級とは?」

「あいつらはもう騎神じゃない、人の形をした超規模の自然災害だよ!挑む事すらバカバカしい」

 

 天級>>>超えられない壁>>>超級ですか。

 

 超級を何人倒しても天級に届くとは限りませんね。

 

「随分疲弊してますが、まだやりますか?お仲間は・・・もういませんね」

「お前が消し飛ばしたからな、真名を名乗れ!」

「ん?その必要を感じませんけど」

「どこまでバカにするんだ!私は超級騎神・・・」

 

「パ、パーフェクト!!!」

 

 騒ぎを聞きつけ飛び出して来たのだろう。

 仕立ての良いスーツを着て金のアクセサリーをしたマフィアのドンっぽい奴がいる。

 資料で見た人相の悪い顔の男、今は私を見て青ざめている。

 このバカげた組織のトップ。

 

 それより、そんなことより、今この男は何と言った、私を何と呼んだ。

 見つけたぞ!5年ぶりだ!ようやくだ、こいつが、元凶か!!!

 

「引っ込んでろバカ!出てくるんじゃない!さあやるぞ暴君!わたし・・・」

「くそ邪魔」

「へ・・・あ・・・」

 

 超級(笑)ぎゃーぎゃーやかましいので黙らせる。頭を三分割したのでもう静かになるだろう。

 

「ひぃ!ひぃいいいいいいい!!!」

 

 逃げるなよ。わざわざ会いに来てやったんだぞ、歓迎しろよ。

 5年前はあんなに私を欲したじゃないか!忘れたのか?忘れさせるものか!!!

 

 復讐は何も生まないだと、わかってないな復讐は何かを生むためにするんじゃない。 

 復讐すらできないようでは前に進めないからやるのだ。

 これはやったことへの清算、けじめだよ。大人なんだから当然わかるよね。

 

 

「なんだ、まだ殺してなかったのか」

「来たんですかウォルターさん」

「が・・・げふ・・・」

「喋ってもらわなければならない事がありますからね」

 

 アースクレイドル襲撃事件。

 複数の組織の思惑が絡んだこの事件を起こした悪をずっと探していた。

 丁寧に1つづつ潰していく。

 クレイドルの技術を狙った奴、メジロ家への意趣返し、クレイドルの支配を望んだ奴。

 そして私を狙った奴、皆殺しにしてやった。

 あの時、家族を殺した武装集団を派遣したのは目の前のこいつ。

 

「結局お前は私の力じゃなくて、私を別の所に売った金が欲しかったんだな」

「そ、そうだ!あいつら目玉が飛び出るほどの大金を用意したんだ。あれだけの金を見せられたら誰だってやったはずだ!」

「それで、買取業者はどこのどいつだ」

「し、知らねぇ。だがあれはDCじゃない、奴らの大半はウマ娘だったんだ!」

「ウマ娘が同族を買うだと?」

「天級の卵を集めるとしきりに言っていたんだ!それ以外は知らねぇ!」

 

 嘘は言ってない。

 顔面を手加減しながらボコボコにしてやっただけでベラベラよく喋る。

 金のため・・・こいつの遊ぶ金欲しさに・・・クズが!

 

「もういい帰る」

「いいのか?両親の仇だぞ」

「組織は潰した、仲間は誰1人残っていない。こいつはもう終わり」

「甘いなゴミ掃除は徹底してやれと教えただろう」

「後は任せます」

 

 くだらない、こんなくだらないことで人は誰かを不幸にする。

 

 私と弟を襲った悲劇、それよりも酷い現場をいくつも見た。

 家族を友を夢を失い泣き叫ぶ人々、それを糧に欲望を叶える悪党ども。

 世界はマジで残酷だ。

 

 これで私のけじめは一段落。

 その奥に潜む闇はまだ遠い、これからも悪を断つ剣は必要だ。

 帰ろう・・・帰って、また鍛え上げるのだ、己という最強の剣を。

 

「くそがぁ!!くたばりやがれぇえええ!!!」

 

 ゴミのトップが最後の意地を見せた。

 背中を見せた私に隠し持っていた銃を向ける。

 

「・・・え」

「こんな奴連れてかえりたくない、ここで処分しよう」

「う、腕がぁああああああ!!!」

 

 ウォルターさんの鋼糸が銃を持った腕を切断した。

 オリハルコニウム製のワイヤーを使った曲弦糸、お見事です。

 

 腕を失って喚き散らすゴミになにかの液体をかける。

 咥えていた葉巻を手に持ち、投げつける。

 

「汚物は消毒するに限る」

「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」

 

 火だるまになったゴミは少し暴れた後動かなくなった。

 肉の焼ける不快な臭いを残して

 

 あーあー今夜はステーキの気分だったのに・・・エルザムにメニューを変えてもらおう。

 

 

 更に時間は経過する。

 弟を孤児院に預けて10年の月日が経った。

 

 あれからも私はいろいろ頑張った。

 超級騎神の資格も取ったし、家事だってするようになった。

 師匠とは今に修練を続けている。最近は落ち着いてきたと褒められる。

 ウォルターさんが教導隊を辞めた、なんとメジロ家の執事になった!

 執事服www似合わねーwww。耳を切断されそうになったので土下座した。

 エルザムがどっかに行った。美食とトロンべを求める探求の旅に出るのだとか。

 勝手にやってろ。

 

 15歳になった私にはめんどうな試練が待っていた。

 最近、よくない視線を感じる。これは私を慕う部下たちから向けられるものに似ている。

 何と言いますか、下心丸出しの視線。私を女としてみてるのか?

 交際や結婚を申し込む輩もいる。女性からもくるから困ったものだ。

 そして厄介なのが愛バとして契約して欲しいというもの。

 戦力の更なる増強のためメジロ家でも推奨している契約・・・お断りします。

 

 私は1人で暴れるのが性に合っている。

 サポートは大歓迎だが誰かが隣に立つのは邪魔でしかない。

 それこそウォルターさんがやエルザムぐらいの実力がなければ無理無謀。

 男女交際も操者と愛バの契約もいらないっス。

 そうだな。今の仕事を辞めて金持ちの秘書でもする、その後なら考えてもいい。

 悪を断つ剣は一生継続する所存です。

 

「ラ・ギアスですか?」

「そうです。そこにいる天級騎神に会って来てほしいのです」

「ばば様直々の命令なら私に拒否権はないです。しかし、なぜ私なのでしょうか?使者として適任な人材は他にもいるでしょうに」

「メジロ家の騎神で天級に最も近いのはあなただと思っていますよ。舐められないように最大戦力を投入するのは当たり前でしょう」

「買い被り過ぎですよ、私クラスの騎神はこれからどんどん誕生します。新しいメジロを担うお嬢様たちがその証拠です。かなりの才能を秘めているとお聞きしましたが」

「あの子たちがものになるには十数年かかります。今はあなたがたよりですよ」

「わかりました。私はなにをすれば?ご挨拶だけでいいですか?」

「あなたには伏せていましたが5年前、天級の1人が養子を迎えました。その子の様子を探ってほしいのです。問題があればメジロ家で引き取ります」

「ばば様が気にする子供、よほどの覇気の持ち主なんでしょうね」

「出発は明日です。準備を怠らないように、あなた1人ですからね」

「まあ、ゾロゾロ行っても迷惑でしょうし」

「あなたにとっても無関係ではありませんよ。これがその養子に関する資料です」

「???」

 

 最後にニヤニヤしたばば様。怪しいないったい何を企んでいるのやら。

 天級騎神かぁどんな人なんだろう・・・私より弱かったらブチギレるかもしれない。 

 逆恨みだが天級の存在が私の運命を狂わせたとも言える。

 わかってる悪いのは力を悪用しようとした奴らだ、天級騎神は善人だと聞いている。

 私情は捨てよう。任務に集中するべきだ。

 

 私室に戻りちょっと休憩。ばば様との謁見は気疲れする。

 冷蔵庫からお気に入りのカフェオレ(コーヒー牛乳激甘)取り出す。

 渡された資料をめくりながらカフェオレを口に含む。

 

「ブッゥゥゥウウウウウウウウーーー!!!!!」 

 

 勢いよく全部吐いた!!!!

 

「うぇ、ゲホゲホ・・・ガホ・・・そ、そんなことって・・・ばば様、アンタって人はぁ!!!」

 

 カフェオレまみれになった資料に記された情報を今一度確認する。

 間違いない、あの孤児院。

 写真・・・5年前のあの子の写真・・・大きくなって。

 お父さん?いや、お母さんに似ているか、髪の色なんてそのまんまじゃないか。

 名前を確認・・・やっぱりそうだ。

 

 10年経った、この写真よりも成長していることだろう。

 いいのかな会っても、怖がられたりしないだろうか?

 これは仕事なんだから仕方がないよね。

 私情を捨てると決めたばかりなのに大丈夫か。

 

 これは仕事仕事仕事任務任務任務。

 天級の力と育児をその目でしっかり確認しなければ!

 今まで受けた任務史上最重要案件だ!

 この任務は絶対にやり遂げてみせます!!!

 

「待っててねマサキ」

 

 私の名前は駿川たづな、真名トキノミノル。

 

 悪を断つ剣はちょっとお休み。1人のお姉ちゃんに戻ります。

 



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おとうと

 メジロ家の使者として天級騎神が住まう村、ラ・ギアスに到着した。

 澄んだ空気、豊かな自然、ここならマサキものびのび育ったことだろう。

 運転手にお礼を言って下車する。

 目の前に広がるのは畑や田んぼ、そして田舎には似つかわしくない建造物の数々。

 

「なんといいますか、カオスな村ですね」

 

 山奥の寂れた農村をイメージしていたが全然違った。

 整備された広い道、現代風のデザイン住宅、有名私立にも劣らない設備の学校、大病院、ビルまである。

 しっかり区分けされた別の土地では畑や田んぼ等、のどかな風景がが広がっている。

 村の入り口から見て右側が都会、左側が田舎、ちぐはぐな風景が無理やり融合したかのようだ。

 これはもう村ではないだろう。天級の住処は伊達じゃない。

 

「そしてこれですよ」

 

 私でもよく注視しないとわからないほど薄めてあるが、確かにそこにある。

 村全体を覆う超広域結界、村を出入りする者の覇気をチェックしているのだろう。

 悪意のある者がこの網にかかった場合は考えるまでもない。

 いいなコレ、教えてもらおうかな。

 

「大丈夫、私は使者として来たんだから」

 

 身なりを正して深呼吸。いざ・・・結界をくぐっても特に何も起こらない。

 これで私の覇気は感知されたはずなんだけど。許可されたってことでいいよね。

 

 そこかしこから多くの覇気を感じる。

 住民たちから感じる覇気は外界に住む一般人とは比べ物にならないほど高い。

 さっきすれ違った老夫婦は無級の騎神ぐらいなら簡単に制圧できる力を秘めていた、何者だよ。

 この村の異常性をはっきり認識する。

 天級がいるはずなのに強大な覇気らしきものは一切感じない。

 完璧な隠蔽、力を制御してこそ実力者だ。

 

 はやる気持ちが歩く速度を上げる。しばらくして、見つけた・・・この家だ。

 表札の名前は安藤(アンドウ)ここにマサキが。

 インターホンを押す手が震える。どんな顔して会えばいいのか今もわからない。

 姉だと名乗り出るつもりはない、ただ成長した弟を見て安心したい。

 ・・・反応がない、家の中から気配を感じない。留守なのかな。

 

「その家には今誰もいないわよ」

「!?」

「驚かせてごめんなさい。ちょっと気になったものだから」

 

 背後から声をかけられて背筋がゾッとする。

 振り向けば中高生ぐらいに見える小柄な女性がいた。

 私がこの距離まで接近されて気が付かっただと・・・。

 顔には見覚えがある。資料に添付されていた重要人物の写真。

 

「天級騎神ネオグランゾン様だとお見受けします。私はメジロ家の使者としてサイバスター様にお会いしたくて参上した者です」

「そうです私がネオグランゾンです!ネオって呼んでね」

「はやか・・・いえ、トキノミノルと申します。それでサイバスター様は?」

「マサ君を連れて遊びに行っちゃたわ」

「どこへ行ったかご存じでしょうか?」

「いつもの遊び場、修練場じゃないかしら。追いかけるの?場所はここから・・・」

 

 この村では真名を名乗ることにしよう。弟には真名を知ってほしいし。

 修練場の場所を丁寧に教えてもらった。

 ネオグランゾン、危険度SSSの人物のはずが凄く親切な方だった。

 

「運悪く会えなかったらここに戻っておいで、私の家で待っているといいわ」

「ありがとうございます。ネオ様は聞いていた話と随分印象が違います」

「様はやめて~。うう、どうせ酷い事いっぱい言われているのね。若気の至り!自業自得!!」

「ではネオさんで、最凶がこんなに可愛らしいと知ったら世間は大騒ぎになりますね」

「よく言われる・・・私そんなに子供っぽいかな・・・シュウ君にも舐められてるし」

 

 急に凹みだした。フォローした方がいいのかコレ。

 サイバスターがいるであろう修練場に向かう。気を付けてね~と見送るネオさん。

 超フレンドリー!

 

 山を少し登って開けた場所に出る。

 最初に感じたのは爽やかな風と覇気の残滓、ここで何度も修練をしたのだろう。

 広がる草原、青い空、この場所はとても気分がいい。

 中央にそびえる大木の根元に誰かがいる。その人物を見て思わず声が出た。

 

「あ・・・」

 

 木にもたれかかるようにして眠っている少年がいる。

 穏やかな寝顔、それは昔に見た両親がうたた寝しているときの顔にそっくりだった。

 どちらかと言えば母に似ている。

 

 いた・・・。すぐさま駆け寄りたい気持ちを抑えゆっくりと近づいていく。

 こんなに近く、10年前に手放した、あの子がそこにいるんだ。

 もうすぐ手が届く、吸い寄せられるようにその顔を触ろうとした。

 

「誰?うちの子になんか用?」

 

 また背後をとられた!振り向かなくてもわかる背後にいるのは間違いない。

 警告の意味を込めて覇気を向けられる。それだけでもう冷や汗が出てくる。

「うちの子に何かしてみろ、ぶち殺すぞ!」という意味ですね、わかります。

 内心の動揺を抑え込み相手に向き直る。

 天級騎神サイバスターがそこにいた。

 

「初めましてサイバスター様、私メジロ家より使者として参りました。トキノミノルと申します」

「メジロ家の?ああそうか、私が育児放棄してないか調査に来たのね」

「ぶっちゃけ言えばその通りです。気まぐれや遊びで引き取られた子供がいては一大事ですから」

「む。私なりに頑張ってお母さんしてるわよ、そりゃあたまには上手くいかない事もあるかもだけど」

「この子にも聞いてみないと詳細不明ですね。本音では嫌々ここにいるかもしれませんから」

「いちいち棘があるわね、ミノルちゃんだっけ、あなたマサキの何なの?」

「子供の身を案じるメジロ家の一職員です。他意はありません」

「本当にぃ~。随分とマサキにご執心みたいじゃない」

「・・・・」

「・・・・」

 

 一触即発になりました。あれぇー?こんなはずでは・・・。

 嫉妬なんでしょうか?サイバスター相手に何やってんだ私!やめとけ!殺されるぞ!

 

「う・・・ふわぁぁぁ・・・ん?・・・どしたの母さん・・・おお?おおおお!!」

 

 マサキが起きてしまったようだ。

 ああ、マサキあいたかっ・・・。

 

「美人でカワイイお姉さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!」

 

 は?なんだこの子のテンションは。

 私の全身を舐め回すような目で見ている。なんか思っていたのと違う。

 

「大変だ母さん!ついに俺は願望実現能力を獲得したみたいだ」

「落ち着きなさい!いつも以上に意味不明な言動はやめて」

「なあお姉さんや、あなたは俺が妄想の極致で現実世界に降臨させたんやろ!そうだと言ってくれ!」

「どんな教育をしているんですか?問題ありとして報告します」

「待って!この子、最初からこんな感じだから!私のせいじゃないから!」

「グヘヘ、あの胸も尻も俺のもんじゃー!」

 

 カワイイ赤ん坊だったマサキは立派なエロガキに成長していた。なんてことだ!

 

「いや、ちょっと、纏わりつかないで、どこを触ろうとしてるんですか!」

「きゃー!母さん助けてー!あははははははは!!!」

「すみません!うちの子本当にバカですみません。そこまでよマサキ!このお姉ちゃんはあなたが具現化して生まれた存在ではないわ!」

「マジかー!うん知ってた!」

 

 こんな再会になるとは、性格は誰に似たんだか。

 もっとこう感動的なものを想像していたのに全部ぶっ飛んだ。

 

「初めましてお姉さん、俺はアンドウマサキ。そしてこちらは母のサイです。村で1番ヤバい親子とは俺達のことです」」

「ど、どうも」

「バカねマサキ、お姉さん引いてるじゃないの。1番ヤバいのはシラカワ親子よ」

「お姉さんのお名前は?」

「トキノミノル。メジロ家からあなたの様子を見てくるように言われて来ました」

「ミノル?ミノル・・・初めてあった気がしない、これは運命だね。もう一緒にお風呂入るしかない」

「本当にごめんね。マサキったらカワイイ子をみるとすぐ発情するの」

「あ、あはははは・・・マジでどうしてこうなった」

 

 お父さんお母さん、マサキは元気だったよ。変な子になってしまったけど。

 

「とりあえず家に来るでしょ」

「ええ、是非ともお邪魔させていただきます」

「おお!お客様だ。俺が先導しますんで、ついてきてちょーだい」

「急に走ると危ないわよ」

「大丈夫でっうわったぁ!」

 

 危ない!

 注意されたそばから転倒しそうになるマサキの手を掴む。

 

「慣れた道だからといって油断しない方がいいですよ」

「ありがとう。ミノルさんを見たらなんかテンションが上がっちゃった」

「・・・危なっかしいので手を繋いであげます」

「マジでか!手汗が過剰に出ても離さないでください」

「そんなの気にしませんよ。ほら」

「失礼します・・・ん?んんん?」

「どうかしましたか?」

「おかしい、もっとドキドキムラムラするかと思ったのに、妙な安心感が勝る」

「そ、そうですか」

「実は男とかそういうオチはやめ・・・あだだだだだ!潰れる!俺の手が粉々になっちゃうのー!」

「しっかり握っておきますね。転んでケガでもしたら大変ですから」

「今まさに!複雑骨折の危機!あーー!!!」

「絶妙な力加減でマサキを折檻している。やるわねミノルちゃん」

 

 3人で下山して先程の家に帰って来た。

 タイミングよく隣の邸宅から誰かが出てくる。

 ネオさんと、私と同年代ぐらいの人間の男。

 

「シュウーーー!」

「マサキ―――!」 

 

 私の手を離してマサキが男に駆け寄る。

 

「流派東方不敗は!」(拳を突きつける)

「王者の風よ!」(鉢巻を締める)

「全新!!」(猛烈なラッシュ)

「系裂!!」(それを裁く)

「「天破侠乱!!」」(ラッシュの打ち合い→拳が激突)

「「見よ!東方は紅く燃えている!!!!」」(背景が燃える)

 

 急に殴り合ったかと思えば変なポーズを決めたバカ2人、ドヤ顔がくっそウザったい。

 

「腕を上げましたね」

「今のは過去最高に決まったな」

「シュウ君、Gガンダムごっこするなら私もまぜてよ」

「シュウ!ネオさん!修練場でお姉さんを拾った!」

 

 拾ったって言うな。

 

「ミノルちゃん、どうやら無事に会えたようね」

「どれどれ・・・ほう、これはこれは。グッジョブですよマサキ」

「その反応!ミノルさんはウマ娘なのか」

「ええ、そうですが」

 

 バカ2人がガッツポーズしている。

 大体わかってきたマサキがバカになった一因はこの男だ。

 

「写真を何枚か撮らせてもらえませんか?耳と尻尾も出していただけると尚良し」

「拒否します。ネオさん、私を視姦中のこの男は?」

「どこに出しても恥ずかしい私の息子よ」

「シラカワシュウです。その汚物を見る視線、ご褒美ですか?」

「マサキ、この人とは遊んじゃダメ」

「ミノルさんの頼みでもそれは無理、シュウ超おもしれーもん」

「そっか、代わりに私が遊んであげようと思ったのに」

「シュウ、今までありがとう」

「マサキ!鮮やかすぎる裏切りに感服します」

「おーい、みんなーおやつにしましょう」

「「「はーい」」」

「凄い所で育ったな」

 

 サイバスターとマサキの家、安藤さんのお宅訪問。 

 お茶菓子を持ち寄ってのまったりタイム。

 マサキとシュウは葦毛か栗毛かで激しい討論を繰り広げている。放っておこう。

 家族ぐるみの付き合いがあるらしく、シラカワ親子も我が家のごとくリラックス。

 

「それで、ミノルちゃんは今からどうするの?」

「しばらくこの村に滞在してお子さんの・・・マサキの様子を観察させていただきます」

「我が家に問題などあろうはずがないわ。ばば様にサイバスターは良き母親だと報告してね」

「サイさんが母親失格ならマサ君の親権はどうなるの?私立候補してもいい」

「アンタに親権やるぐらいなら、グラやザムにお願いするわよ!ガー子は論外!!!」

 

 私の弟を天級が欲しがっている、少しだけ鼻が高い。

 仲良く会話を続ける2人の天級騎神。

 騎神の頂点、この人たちの力を皆が恐れ敬い、利用しようと企んだ。

 しかし天級たちは良くも悪くも自分の生活にしか興味がない。

 子を育て、家族との時間を大事にし、自らの幸福を追求する。

 力を持つ者としての自覚がないなどと言う人もいるが、私にはその生き方がたまらなく眩しい。

 強く生まれたから強く生きろというのは違うと思う。

 自身が強かろうが弱かろうが、生き方はそれぞれが自分んで選んだ道をいけばいい。

 私だって最初は騎神になるつもりはなかった、でも今の自分を後悔してはいない。

 これは自分が決めた事だ、あの子を手放したのもそれが最良だと思ったから。

 そのはずなのに・・・。

 

「サイバスター様」

「サイでいいってば、何?」

「今夜、お時間いただけないでしょうか?」

「・・・それで気がすむのなら、いいわ付き合ってあげる」

「2人とも戻らなかったらマサ君はうちの子ね」

「「それはない!!」」

「しょぼーん(´・ω・`)」

 

 これは八つ当たりじゃなくてけじめだと思いたい。

 

 夜、再び訪れた修練場。

 私とサイさんの2人きり。

 街灯などないので本来真っ暗なはずだが、手練場の周囲を光球がプカプカ浮いて照らしているので明るい。

 サイさんが覇気で作り出した照明、なんでもありだな。

 外部に余波が漏れないようにしっかり結界も張ったようだ。

 

「本当にやるのね?」

「はい。お願いします」

「何のために?」

「この先も生きていくために」

「じゃあしょうがないか」

「お手数をおかけします」

「いいのよ。最近は挑戦者もめっきり減って退屈していたからね」

「・・・いきます」

「お手柔らかにね」

 

 ばば様、こうなる事も織り込み済みですか?

 さあ、天級騎神!見せてよ!悪党が欲しがった、私の人生を狂わしたその力を!

 

 まあ、結果はわかりますよね。

 

「ごめん刀折っちゃった」

「いえ・・・はぁはぁ・・・お気になされず・・・げほっ」

「いや~久しぶりにいいのもらった。痛たたたた」

「何を・・・おしゃるのやら・・・こっちは・・・満身創痍・・・」

「膂力だけならかなりいい線いってるわよ。こっちの障壁、貫通したじゃない」

「それを・・・やるのに・・・どれだけ・・・もう・・・無理」

「あ、気絶しちゃったか・・・この子が教導隊の暴君、次世代の騎神か」

 

 仰向けに倒れ伏し気絶したミノルを見てサイバスターは思案する。

 上着をボロボロにされた、刀を折ってからも戦意がまったく衰えないのは素直に感心した。

 防御を貫通してまともに殴られたのは久しぶりだ。

 彼女のような存在は今後も生まれるだろうか。

 

「あと10年ぐらいかな?その頃にはきちゃうかも、新しい子が」

 

 できればその子たちはよき操者に恵まれますように。

 一緒に笑って泣いてバカをやってくれる最高のパートナーが。

 

 予想通り負けてちょっとだけ気絶していた。

 師匠、シシオウブレード折れました。これで28本目です。

 強かった、これで手加減マシマシなのだからもう笑うしかない。

 私が天球の卵?どんだけ見る目がないんだよ!

 私ごときが届く領域じゃないよ、宇宙の法則がみだれた結果、間違って生まれた人たちだよ。

 

「もう気は済んだ」

「はい、悪党が狙った力は決して制御できるものではないと確信しました」

「そう。聞いてもいい?」

「私で答えられることなら」

「昼間も聞いたけど、あなたとマサキの関係は何?」

「・・・・」

「全部吐いちゃいなさい。天級騎神からの勅命よ」

「そう言われては仕方ありません」

 

 気が付くと全部喋っていた。

 ウォルターさんやばば様以外は知らない私の過去、マサキの姉であること。

 ずっと戦ってきた殺してきたこと。全部全部吐き出した。

 サイさんはただ黙って聞いてくれた。ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 

「そう、大変だったわね」

「はい、大変でした」

「マサキに言った方がいい?」

「それはやめてください」

「いつかバレるわよ。あの子は変な所でカンがいいから」

「今はまだ混乱させたくない、それに・・・私、怖いです」

「拒絶されると思ってる?それはないと思うけどな」

「私はあの子を捨てました。あの子のためだと、自分といてはいけないと」

「最良の選択だったんでしょ」

「自分の事で余裕がなかった、あの子が邪魔だった。だから言い訳をしたんです」

「・・・・」

「それなのに、母親のあなたに嫉妬した。本当は私がそこにいたのにって・・・なんて醜いの」

 

 マサキは今、幸せなのだろう。

 私がいなくても立派に成長していく。

 母親もこの通りいい人だ。とても良い環境で平和に暮らせている。

 

「サイさん・・・マサキといて幸せですか?」

「ええ、あの子がいないのなんて考えられないくらいよ」

「それを聞ければ十分です」

 

 まだ体は痛いけど姿勢を正して向き直り、正座をして頭を下げる。

 

「天級騎神サイバスター、どうかこれからもマサキをよろしくお願いします」

 

 実の姉として精一杯頭を下げる。10年前に園長さんにした時のように。

 

「マサキがバカなのはミノルちゃん、あなたに似たのね」

「え?ちょっと」

「いいからじっとしてなさい」

 

 突然の事で頭が真っ白になる。

 なぜ私はこの人に抱きしめられているのだろう。

 どうして頭を撫でるのだろう。

 お父さんをお母さん以外で私にこんな事をした人は初めてだった。

 

「あの、やめてください」

「泣いてもいいのよ」

「泣きませんよ、なんの真似ですか急に」

「はぁ~やっぱりバカだったわね」

「だから何を」

「ずっと頑張ってきたのね。たくさん無茶をしたんでしょ、その度にずっと耐えて我慢して、自分を殺してきた」

「・・・違う」

「ウォルターはこんなことしてくれないだろうし。メジロ家は何やってんだか」

「・・・・」

「ミノルちゃんはもっと泣くべきよ、苦しい、辛い、悲しい、助けてって叫んだ方がいい」

「泣いたって何もかわりません。叫んでも誰も来ません」

「あなたの過去が、周りが、なによりあなた自身がそれを許さなかった」

「・・・・」

「ありがとうミノルちゃん。あなたが頑張ってくれたから、マサキも私もとても幸せよ。あなたが戦った事で救われた人は確かにいるの。もう自分を許してもいい頃だと思う」

「そんなこと・・・言わないで・・・ください」

「今がチャンスよ!私以外誰もいないし、泣くぞ すぐ泣くぞ 絶対泣くぞ ほら泣くぞ」

「ジェクトやめろ!大っ嫌いだ!」

「それでいいのよ」

 

 久しぶりに心の底から泣いた。

 スッキリしたけどこれは私の黒歴史として封印。天級は精神攻撃も上手だった。

 

 肩を貸してもらって帰宅。

 やっと回復してきた所で風呂に入れとのこと。

 全て身から出た錆なんだけど今日は肉体的にも精神的にも疲れた。

 お風呂に入ってゆっくりしよう。

 

「あ・・・」

「ほえ・・・」

 

 いないと思ったらここにいたのか。湯船につかっているマサキと目が合った。

 

 

「きゃぁぁぁあああああ!!!ち、痴女が出たぁー!てミノルさん!?」

「あ、ごめんなさい。失礼しますね」

「ちょっとぉー!なんで普通に入ってくるの?母さんー!ミノルさんが乱心したぁー!」

「近所迷惑よマサキ。静かにしなさい」

「この状況見て!おかしい!俺が入ってるの知ってたよね」

「まあまあ、せっかくなんで一緒に入りましょうよ」

「マサキも昼間、一緒に入るって言ってたじゃないの」

「言った、言いました!でも心の準備とかありましてね。不意打ちは卑怯です!」

「エロい癖に肝心なところでヘタレる。その程度でうまぴょいできると思うなよ!!!」

「痛い所を突かれた!!!」

「もういいですか?カゼひきたくないんですけど」

「どうぞ、俺上がりますんで」

「背中流してあげますよ」

「あの、離してくれます。背中はもう洗ったんで結構です」

「じゃあ私の背中を流してください」

「母さん!」

「ごゆっくり!」

「あの母さんが許可しただと・・・ミノルさんアンタはいったい」

「いいから入りましょう、ね」

「はい////」

 

 気を利かせてくれたのか姉弟水入らずで入浴できました。

 世間一般ではこの年で姉と風呂に入るのはアウトなのでしょうか?まあ良しとしましょう。

 入浴中マサキはずっと般若心経を唱えていた。変な子だな。

 

「なんかすっごい罪悪感、いや禁忌を犯した背徳感か?地球のみんなすまない、俺、今日会ったお姉さんと風呂入っちまったよ」

「大げさなんですから。文句がある奴は私がマリアナ海溝に沈めるので問題ないです」

「ミノルさんならできそう・・・それより大丈夫?」

「何がですか?」

「ケガしてたから、母さんが何かした?」

「ちょっと稽古をつけてもらっただけですよ」

「母さん無茶するから適当な所で逃げた方がいいよ」

「フフッ今度はそうしますね」

 

 村に滞在中はサイさんの所でお世話になった。

 最初マサキは照れていたが、そのうち慣れて私によく懐いてくれた。

 10年分の別れを取り戻すように弟と過ごす。

 

 夢のような時間でした。

 

「お姉ちゃん!今日は何して遊ぶ?」

「そうね。お肉が食べたいから山で狩りでもしましょうか」

「この前、狩り過ぎたから山の生態系が落ち着くまで待ったほうがいいってシュウが言ってた」

「そうか・・・川で狩るか」

「ガチンコ漁だね!川の生態系\(^o^)/オワタ」

 

「とりゃあ!」

「はい、全然ダメ」

「ぐは!アカンで、この人スパルタや」

「覇気を封印するなんて、サイさん甘いですよ。せめて護身術ぐらいは覚えてもらわないと」

「お姉ちゃん?」

「あ、なんでもないです。さあどんどんいきましょう!」

「えー強くなる意味ってあるの?俺はどうせ人間だしウマ娘には勝てない」

「そんな事言わないで、人間だって強いに越したことはないのよ。勝てなくても負けないようにしないと」

「・・・耳と尻尾が見たい」

「え、うーん・・・・・・これでいい」

「やる気が出た。尻尾鬼しようよ」

「尻尾鬼かぁ、私、実は数回しかやったことがないの」

「ほほう。それなら俺でもいけますかね」

「できるものならやってみて」

「言ったな!その尻尾で書初めをしてやる!」

 

「あーあーなぜ俺はこんなに弱いのだろう、ガッカリしたでしょ?母さんはあんなに強いのにって」

「自棄になったらダメ。日々反省して積み重ねるしかないのよ」

「モチベーションが上がらん。あの母親と比較されるのホント勘弁して」

「その程度で凹んでいるのにはガッカリね」

「えーやだーお姉ちゃんもそんな事言うのかー」

「じゃあ私ガッカリさせないような、強い男になってね」

「・・・ご褒美」

「思いっきりハグしてあげる」

「それいつもやってるじゃん・・・俺からしてもいい?」

「強くなったらね」

「忘れんなよ、いつの日か必ず」

 

「ナニコレ?」

「ダークマターかな」

「どうして野菜炒めが暗黒物質に錬成されたんですかねぇ」

「さあ?普段料理しないし」

「ミノルちゃんの食生活が気になるわね」

「こんな事言ってますが母さんも最初は錬金術師だったね」

「私はダークマターなんて錬成してない!できたのはオリハルコンよ!」

「「それもどうかと思う」」

 

「・・・お姉ちゃんzzz」

「寝ちゃったか、今日もいっぱい遊んだもんね」

「ミノルちゃん鼻血拭いて」

「すみません。ここに来てから再発したみたいです」

「持病なの?」

「ええ、弟が愛し過ぎて姉力が溢れるのです」

「ちょっと何言ってんのかわかんない」

「写真撮らないと、ああ、もうストレージがマサキの写真でパンクしそう、フフフフ私の弟・・・」

「おっと末期のブラコンだったか」

 

 お父さんお母さん見てますか?私、生きていてよかった。

 

「もう帰っちゃうの?」

「ええ、名残惜しいけどね」

「ミノルちゃん。家に来る気はない?」

「とても魅力的なお誘いですが、私は自分の道を行きますから」

「そう(定期的にマサキの写真や動画は送ってあげるわ☆)」

「はい(頼みましたよ)」

「お姉ちゃん」

「マサキ、元気でね。あなたが元気なら私はとっても嬉しいのだから」

「うん・・・よいしょ」

 

 まだ私の方が身長は高い、その内に抜かされてしまうだろうけど。

 ちょっと背伸びをしたマサキが私の頭に触れて撫でる。

 

「どうしたの急に?」

「いつも撫でてもらっていたからお返し~。よしよし、ミノルお姉ちゃんはいっぱい頑張った。これからはお姉ちゃんも幸せになるんだよ」

 

 マサキには過去を話してはいないのに。

 この子は私が訳ありだと見抜いていたようだ。

 まるで、死んだ両親がこの子に乗り移ったかのように頭を撫でられる。

 

「マサキ!!!」

「お姉ちゃん!!!背骨がぁぁぁああああ!!!ジーグブリーカーやめてー!!!」

 

 号泣した。ここに来てから泣いてばっかだ。

 お父さんとお母さんの魂はちゃんとこの子にも受け継がれてる。

 今理解した。きっと私はそのことを確認したくて会いに来たのだ。

 

「ううう、ぐず・・・ミノルちゃん。よがっだわねぇええええ」

「サイさん。鼻水がどえらい事に」

「もう2人ともティッシュ!ティッシュあるから使って」

「「ずみばぜん」」

 

「じゃあね、マサキ。いい男になるんだよ」

「うん!お姉ちゃん!今度会った時もお風呂ご一緒してねー」

 

 10年前は泣いてお別れした。

 今度は笑顔でお別れできた。

 

 メジロ家に戻って報告した。

 ばば様は何があったのかわかっているようでニヤニヤしていた。この妖怪め。

 更なる恩義を感じたので仕事は継続して頑張った。

 

 20歳になった。もう大人ですよ大人。

 サイさんからはマサキの経過報告を今も受け取っている。毎月の楽しみですよ。

 苦手だった料理もマシになってきた。

 実験台にした同僚や部下には感謝しないと、原因不明の腹痛でチームが活動不能になった時は本当にすまんかった。

 

 機動部隊および教導隊で十分な功績を上げた私は後続に席を譲る事にした。

 早期退職になるのかな。同僚や部下たちには随分惜しまれたけど。

 天下りで流れ着いた先は秋川家。ここは優秀な操者を輩出する銘家らしい。

 礼儀作法や事務処理は苦手だったがなんとか克服。

 秘書としての仕事を手に入れた。学園を運営しているのでそこの理事長つきとなった。

 操者を生み出す家の者が騎神を生み出す学園を運営しているんだなぁ。

 一応秘書なのだが有事の際には私の力を宛てにしているのかも、生徒の反乱とかやめてね。

 サイさんとネオさんから教えてもらった広域結界の使用にも慣れた。

 精度や範囲は劣化したものの学園の敷地ぐらいならなんとかなる。

 

 秋川家で働くようになってから契約の申し込みをする者が増えた。

 私と契約することで戦力とメジロ家の後ろ盾を手にしたいのが見え見えアウト―!

 興味ないのでスルー。笑顔で躱すのは慣れている。

 しつこい奴はちょっと殺気を向けて脅せば黙る。根性無しは去れ!

 

「発見ッ!お前が幻の騎神だな?」

「幻じゃないです。私は実在してます。お嬢さんはどなたですか?」

「うむ!私は秋川やよいだ。是非私と契約してほしい」

「お断りします」

「辛辣ッ!待ってくれ、覇気を見るだけでも」

 

 理事長秘書として忙しくしていたある日。

 不遜な態度の小さいのが話しかけてきた。

 私と契約したいだと・・・ご冗談・・・いやまて・・・この子の覇気は。

 

「どうだ!落ちぶれぎみの秋川にしてはなかなかだろう」

「落ちぶれぎみwwwあなたは確かに大した覇気です、今後の伸びしろも十分ある」

「なら契約をお願いしたい!」

「どうして私を欲するか聞かせてください」

 

 天級騎神や私の力を金や兵器としか考えていない奴に力は貸せない。

 

「傾聴ッ!私はこのトレセン学園を変えたい。世は正しい心と力をもった騎神を求めている。私はここの理事長になって世の礎となる騎神を育成するのだ」

「最終的にあなたが目指す世界は?」

「人間もウマ娘も誰もが当たり前の幸せを手にできる世界」

「理想論ですね。まるで現実が見えていない、所詮は子供の絵空事」

「その絵空事を叶えるには、世界の理不尽を叩き潰すお前の力が必要なのだ!頼む!」

 

 とても綺麗な澄んだ目をしている。

 世界が綺麗な事ばかりではないのを理解して尚それに抗うつもりか。

 あーあーここら辺が潮時か、勧誘がウザくなってきたしちょうどいいか

 それじゃあこの子に失礼だな。

 あなた思いは私の心を揺さぶりましたよ。激甘な理想が特にいい。

 恥ずかしげもなくそんなことを語るバカに付き合うのも悪くないと思ってしまった時点で負けだ。

 

「駿川たづなです。真名はトキノミノル」

「再び名乗ろう、秋川やよいだ」

 

 後はそうだな、私をものにできる運と覚悟を見せてくれ。

 

「わかりました。いいでしょう、結びますその契約を」

「なんと!良かった。ではすぐに書類を用意する、覇気の循環は握手でいいか?」

「は?何を言ってるんですか。首を出せ首を」

「にょわー!ちょ、何をするー!」

「申し込んだのはそちらです。逃げる事は許しません」

「一体何を」

「今からあなたの首を噛みます。運が悪ければ激痛でショック死することもあるので、頑張りましょうね」

「ひぇ!そ、そんな方法聞いておらんぞ!待て!心の準備が」

「大丈夫、優しくしますから、どうせすぐ終わりますよ。えーとこの辺でいいのかな、初めてなんで動脈を噛み千切ったらごめんなさい」

「絶望ッ!いやー!し、死にたくない!離せー!」

「いただきまーす」

「あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 秋川やよいという操者を得た、これで私も愛バですよ。

 

 マサキはどんな大人になったのかな。

 都会に出たという話はサイさんから聞いた。

 毎月の楽しみが無くなって、今のあなたがどんな姿をしているかわからない。

 私のことを覚えていなくてもいい、どこへ行っても元気なあなたでいてね。

  

 もし次に会えたら、うんと甘やかしてあげようかな。

 感情制御が上手くいかず、腹パンをお見舞いしたらどうしよう・・・。

 まっさかぁーwwwそんな訳ないない。

 

 

 ・・・やっちまったorz

 

 

 



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まゆ

 たづなさんは俺の姉さんでした。

 

「長い間黙っていてごめんなさい。信じてくれなくてもいい、ただあなたには聞いてほしかった」

「信じますよ、話してくれてありがとうございます。赤ちゃんだったとはいえご迷惑をおかけしました。それと、子供のとき会っていたのにすぐ思い出せなくてすみません」

「いいのよ・・・あなたはたった1人のかけがえのない家族。なんでも言って、姉としてあなたの願いは叶えてあげたい」

「じゃあとりあえす鼻血拭いてもらえます?」

「おっと私としたことが」

「俺の顔にポタポタ落ちてたから、起きたら鼻血ブースケに膝枕されててビックリした」

「鼻血ブースケ?お姉ちゃんでお願いします」

「たづなさんティッシュあるんで使ってください」

「他人行儀で傷付いた、しばらく凹むので放っておいて」

「今までたづなさんでやってきたのに、急にはちょっと・・・照れる」

「照れた顔もカワイイ」

「やだ重度のブラコン」

「末期よ」

「余計悪い、今までのクールなたづなさんはどこへ行ったんですか?」

「クール?あなたと会った瞬間から私の脳内は花畑どころか樹海」

「斬艦刀投げた上に腹パンした癖に!」

「そのことはマジでごめん!もうあれよ頭の中が大混乱しちゃって、つい」

「つい、であれはない!失望しましたよハヤカワさん」

「やめて!どんどん呼び方が遠くなっていく」

 

 たづなさん、こんな面白い人(ブラコン)だったのか。

 

「真面目な話です、実の両親のお墓はあるのでしょうか?」

「クレイドルはあの事件の後放棄されたの。犠牲者はメジロ家によって手厚く葬儀が行われてお墓もちゃんとある」

「ありがたいことです。ばば様やマックにはお礼を言わないと」

「墓参りか・・・親不孝だけど、もう当分行ってないな。余計に寂しくなるからかな、どうにも足が向かなくて」

「クロシロの件が片付いたら一緒に行くよ・・・ね、姉さん」

「くっ!こんないい子に育って・・・お父さんお母さん見てる」

「鼻血を出す娘の姿を披露するのはやめてあげて」

 

 顔も知らない実の両親様、姉が鼻血ブースケで困っています。

 産んでくれてありがとう。俺は今日も元気です。

 

「たづなさん。お約束の覇気をいただきましょうか」

「何?聞こえんなぁ」

「お姉ちゃん覇気ちょーだい」

「好きなだけもっていって!あなたのためなら死ねる(ガチ)」

「今後、姉呼びは控えましょうか」

「やる気が下がった」

「それたぶん別の人の持ち芸。いつも呼んでいたら、ずるずる甘えてしまいそうなので我慢します」

「たまには呼んでよ、絶対よ!」

 

 姉さんの頭に手を乗せる。

 過去や自分の思いを吐き出してスッキリしたのかずっとニコニコやんけ。

 正直、俺はまだ混乱している。

 実の両親ことは覚えていないし、壮絶な過去になんと言えばいいかわからない。

 ただ・・・。

 

「あなたが姉で嬉しいです」

「私もあなたが弟で良かった」

 

 姉さんの頭を撫でる。

 これまでの苦労を労うように、ありったけの感謝を込めて。

 この人は1人でずっと頑張ってくれた尊敬すべき最高の姉だ。

 

 覇気が流れ込む・・・すっげ!母さんたち以来の超高品質!

 パワー☆☆☆因子は確実にある。

 アルフィミィは俺の覇気を白米に例えていたな。

 今クロシロの食卓には巨大な骨付き肉(マンガ肉)が登場したことだろう。

 

「お腹が空いたんですか?」

「少し」

「帰ったら何か作ってあげますね」

 

 飯のことを考えているのが伝わった。さすが姉弟!

 勝手な妄想だが多分こんな感じ、最近白米が続いたので狂喜乱舞しているクロシロ。

 奪い合うように肉にかぶりつく2人、待たせたなしっかりお食べ。

 

「何かおかしいことでも」

「愛バたちが姉さんの覇気を豪快に食らっている姿が目に浮かんだんで」

「おかわりもありますよ」

「じゃあ、もう少しだけ」

 

 これならきっとあいつらも・・・?

 

「う、ぐぐぐ」

「マサキ?どうしたの?」

「なんだこれ痛っ!」」

「しっかりして!」

「痛ってぇ・・・あいつらに噛まれた所が」

 

 契約時の傷跡、クロシロに噛まれた所が焼けるように熱く痛みが発生する。

 焼きごてを当てられ痛みってこんな感じか?

 あいつらに何かあったのか?脂汗をかきながら荒い呼吸を繰り返す。

 心配そうにこちらを見る姉さん。

 

「どうしたらいい?人口呼吸いる?」

「いらない!いだだだだだ、なんかだんだん痛くなってきた」

「そう言う時は我慢せず、絶叫するのがオススメ」

「そうなの?よっしやってみる」

 

「何やってんだ!クロォ!シロォ!痛い!!!痛てぇだろうがぁ!!!!」

 

 

【サイ】同時刻ラ・ギアス

 

「終了」

「あら凄いじゃない。その図体で手先も器用なのね」

「恐悦至極」

 

 マサキの実家、今夜の夕食である餃子を包むサイとこの家のペットと化したアーマー。

 ごつい見た目に反してこの子は好奇心旺盛で働き者だ。

 素直で頭もいいし、戦闘力もそれなり、家の番犬として非常に重宝している。

 アインストか・・・ザム吉は知ってんのかな?この子のこと。

 

「今帰ったぞー、お客人じゃよサイ」

「おかえりグラ・・・ああ、帰って来たのねシュウ」

「お久しぶりですねサイ、母が見当たらないのですがご存じですか?」

「マサキの愛バにべったりよ。女の子も欲しかったーとか言ってしょっちゅう添い寝してる」

「困った母で申し訳ない」

「ご自慢の愛バたちはどうしたの?」

「留守番ですよ、説得するのに苦労しました」

「おお、今日は餃子か。本場の味を知るわしに対する挑戦じゃな」

「まだ皮と具があるから残りはお願いするわ」

「任された。ヤンロンが幼い時よう作ったのう」

「ほう。あなたが例のアインストですか」

「こっち見んな」

「初対面なのにこの扱い」

 

 グランヴェールはラ・ギアスに移住することを決めた。

 近々旦那もこちらへ来る予定、夫婦円満でなによりだ。

 残りの天級、あいつらもさっさと来ればいいのに。

 

 マサキは上手くやっているのかしら。

 少し前ミノルちゃんが切れ気味で電話してきたwww姉弟仲良くねwww。

 

「「「「!?」」」」

 

 何?今の・・・みんなも感じたようね。

 

「ちょ、ちょっとー!サイさん!みんなー!クロちゃんとシロちゃんがー!」

 

 慌てたネオの声が聞こえる。全員で急いで客間に・・・て。

 

「なんてこと!」

「ほう」

「なんじゃこれは?結晶?」

「データ検索、該当なし」

「ヤバそうね総員退避ー!」

 

 全員で家の外に退避。

 メリメリと音を立て家が軋む。

 寝ていた2人、周りの医療機器を巻き込んでどんどん大きくなる謎の鉱石?

 なんだアレ?宝石みたいに綺麗、でも大きすぎ~家壊し過ぎ~。

 

「まだ大きくなっている。ネオ、何をしたのか言いなさい?」

「何もしてないわよ。あ、シュウ君、お帰り」

「説明を求めますマイマザー」

「え、えっとね」

 

 マサキの愛バ、クロとシロから覇気が溢れ出したと思ったらそれが突如結晶化。

 その結晶は2人の体を包むだけでは飽き足らず、融合肥大化したとのこと。

 蛍光色の淡いエメラルドグリーン、マサキが出す覇気の色をした巨大な結晶体。

 

「止まったみたいじゃのう」

「一部屋丸ごと埋まったわ、これ知ってる!蒼穹のファフナーで見た」

「2名の生体反応確認」

「反応はあるのね。姿が全然見えないから焦ったー。でこれは何かしら出番よ天才君?」

「さっぱりわかりません。しかし、実に興味深いですね。すぐビアン博士に連絡しないと」

「あなたはそこにいますか」

「フェストゥムやめろ!!!」

 

 家が大変なことになった、片付けるのめんどくさーい。

 マサキ、これはあなたがやったの?もう家を壊すのやめてください。

 

 シュウが結晶体を調べるている間。

 ビアン博士やサトノ家のご両親にも連絡した。

 マサキに連絡するのはインテリたちの調査が終わってからにしよう。

 

 結晶体に触れてみる。

 高密度の覇気が結晶化した事例はあるが、ここまで巨大なものは見たことがない。

 透明感のある美しい緑色、内部に2人がいるはずだが姿が見えない・・・まさか溶けた?

 

「愛バが無機物になったなんて、マサキにどう説明したらいいのよ」

「知らなかったわ。最近の子は成長期に結晶化するのね」

「そんな訳あるか」

「シュウ君なにか分かった?」

「ビアン博士と私の見解は概ね一緒でした。これは繭ですよ」

「繭か、おったのう巨大蛾の癖に星の守護者をやっとる奴が」

「モスラ」

「蛾に例えるのは酷い」

「彼女たちはただの成長では満足しない、自身を進化させようとしている。おそらくマサキが協力な覇気のドレインに成功したのでしょう。これは進化に必要な工程だと考えます」

 

 ミノルちゃんだ。彼女の覇気がこの現象のトリガー。

 それにしてもこの現象は異常事態だ。ビアン博士は仕事を切り上げて飛んで来そうな勢いだし。

 ここがラ・ギアスでよかった、外界で繭なんかになったら変態研究者たちの玩具コースだ。

 

「悩んでも仕方ないじゃろ、とりあえず飯にせんか」

「客間以外無事」

「覇気結晶に進化の繭、マサキは私を飽きさせませんね」

「心配だわ、クロちゃんシロちゃん・・・ちゃんと人型に進化してね」

「そうね、キモグロイ見た目のクリーチャーになったら攻撃してしまいそう」

 

 

【???】

 

「たりない」「たりません」

「おなかがすいた」「おなかがすきました」

「まだかな」「まちましょう」

 

「きたよ」「きましたね」

「おいしい」「うまーい」

「これなら」「いけそうです」

 

「もうちょっと」「あとすこし」

 

「もっとほしい」「がまん」

「はらへった」「たべたばかりでしょ」

「ああああああ」「うるせぇ」

 

「それもちょうだい」「だれがやるか」

「ころしてでも」「こいつまじさいあく」

 

(何やってんだ!クロォ!シロォ!)

 

「!?!?!?」「!?!?!?」

「きこえた」「はっきりと」

「おこられた」「だれのせいだと」

 

「やるか」「やりますか」

「ねててもいいよ」「ごじょうだんを」

「じゃあおさきに」「まてやこら」

 

 

【マサキ】トレセン学園

 

 姉さんから覇気をもらってから2日経過。

 新技の無茶な動きを可能にするため、体の動かし方をヤンロンと姉さんにみっちり仕込んでもらう。

 意外だったのがやよいの覇気制御が俺よりも全然上手かったことだ。さすが姉の操者。

 制御のコツは大変参考になった、教え方もわかりやすい。理事長じゃなくて教師やったらいいのに。

 ドレイン後の痛みは何だったのか・・・実家からの連絡でそれは判明した。

 

「おごごごごご」

「だづな、マサキ君はどうした」

「愛バがとんでもない姿になったそうですよ」

「僕も母上から動画が送られて来ました。ご覧になりますか」

「奇妙ッ!これは・・・何だ?」

「私に聞かれましても。マサキ、気をしっかり持って、お姉ちゃんがついてるからね」

「うわーん!クロとシロが!あんなに柔らかいロリボディが、硬ったそうなキラキラの石に!」

「よしよし。大丈夫大丈夫だからね、私の覇気のせいじゃないと信じたい!」

「2人とも距離が近くないか?」

「僕もそう思ってました。ダンジョンで何があったのです」

「姉でした」

「弟なんですよ」

「「はい?」」

「俺たち姉弟なんです」

「疑うんならDNA鑑定してやりますよ」

「「マジか!」」

「「マジです」」

 

 俺たちの事情を説明。やよいもヤンロンもいい奴なので超速理解。

 姉との再会冷めやらぬ内に愛バに異常事態。

 シュウ曰く、これは必要な過程なので問題ないから旅を続けろとのこと。

 あの柔らかすべすべボディを絶対取り戻す!

 

「姉さん!やよい!ヤンロン!お世話になりました。俺、覇気集めを続けないと」

「焦る気持ちはわかるけど、宛はあるの」

「ない!でもじっとしてられない」

「無策で飛び出しても、いい結果にはならないわ」

「でも!」

「急いては事を仕損じる。マサキここは駿川女史に従ったほうがいい」

「うむ。今日の所は姉弟でゆっくり過ごすがいい。積もる話もあるだろう」

「わかりました」

「よし!今日の夕飯は豪勢にいこう。みんな手伝ってくれ」

「「「おー!!!」」」

 

 姉弟の再会と俺の旅立ちを祝してちょっと豪華な夕食。

 みんなで料理するのくっそ楽しかった。

 姉さんがいて友達がいてご飯が美味くてとっても幸せ。

 

 翌朝、実の姉に起こされるのはいいものです。

 ベッドごとひっくり返されるとは思わなかったけど。

 

 本日の業務開始。

 お世話になった学園、仕事は最後まで丁寧に。

 お昼、俺の業務は本日昼まで。

 現理事長にご挨拶してから短期秘書は終了。

 

「ありがとうヤンロン。いろいろ迷惑かけてすまなかったな」

「僕もお前のことを誤解していた。頑張れよ1人の友として応援している」

「操者になったら愛バ自慢大会しようぜ」

「操者になるか、お前を見ているとそれも悪くはないと思ったよ」

 

「やよい、姉さんを頼む。立派な理事長になって俺を雇ってね」

「承諾ッ!たづなの操者として精進しよう。マサキ君ならいつでも歓迎だ」

「修練3日コースはやめとけ、尻がえらいことになるぞ」

「なんの話だ」

 

「姉さん。ゆっくりできなくてごめん」

「いいよ、生きてさえいればまた会えるから」

 

 姉さんが俺の頭を引き寄せ互いのおでこをくっける。

 

「無茶をするなとは言わないけど自分を大事にすること」

「わかった」

「サイさんや愛バたち、天国の両親や私を悲しませるようなことをしてはダメよ」

「もちろん」

「あなたはヒトに・・・いいえ、どんなあなたでも私はずっと家族だからね」

「今までもこれからも、姉さんは姉さんです。自慢してやりますよ俺には最高の姉がいるって」

 

 最後にみんなにハグします。

 ヤンロン・・・照れんなよ、こっちまで恥ずかしい////

やよい、噛みつき契約禁止令の件は任せた。

 姉さん、鼻血我慢してるの?もう最初から詰め物したらどうかな。

 

 昨夜、就寝前にシュウから新たな道しるべがあった。

 目指すはテスラ・ライヒ研究所。そこにいる騎神が俺を待っていると。

 

「みんなありがとう、行ってきます」

「激励ッ!頑張ってな」

「武運長久を」

「・・・行っちゃった」

「よいのか、ついて行かなくても」

「いいんです。弟の邪魔はしたくありませんから。それに私の操者はここにいます」

「そうか・・・いい年して泣きすぎ・・・ごめんなさい!生意気言ってごめんなさい!もげる!首がもげるー!」

「口のきき方がなっていません。そんなんじゃ早死にしますよ」

 

 お父さんお母さん見てる。これからも私たち姉弟を見守っていてね。

 

 マサキが去った後、トレセン学園に黒塗りの高級車がやって来た。

 スムーズな動きで来客用の駐車場へ。運転席から執事服を着た男性が降りてくる。

 

「久しぶりだな。ようやく弟と向き合えたか」

「おかげさまでね。あなたがわざわざ来るなんて、何かありました?」

「お前の弟に用があってな。今どこにいる」

「残念でした。さっきここを出発しましたよ」

「入れ違いになったか、まあいい、お前に渡すものがある受け取れ」

 

 後部座席から取り出したブツを私に渡してくる。

 大きくて頑丈そうな黒いケースこいつは。

 

「リシュウから預かった、これでダメならもう知らんと嘆いていたぞ」

「師匠の新作・・・へぇ、シラカワ重工も協力したんですか」

 

 ケースのロックを解除。中に入っていたのは一振り日本刀。

 これを造るのにどれだけのテクノロジーと金がつぎ込まれたのか。

 ついでに師匠の情熱も。

 

「参式斬艦刀、ゾル・オルハルコニウムによる刀身の形状変化ですか。すごっ!」

「ダイナミックゼネラルガーディアン通称ダブルGの武装1号機だ」

 

 クレイドル襲撃事件を重くみた連中が拠点防衛用の特殊武装開発に着手した。

 単独で戦況を覆すことを目的とした専用武装。

 その名はダイナミックゼネラルガーディアン、通称ダブルGと呼称した。

 装備者に求めるスペックが高すぎて開発は難航。

 計画の立案者であった人物が途中で飽きたので計画は頓挫したはず。

 完成品がここあるのでなんとかなったみたいだ。

 

「ビアン博士でしたっけ。使い手に絶望して3号機はロボにしたとか」

「あの博士はには困ったものだ、装備者を部品として見ている」

「本当にこれをいただいても?返しませんよ」

「お前以外にこれを使えるバカに心当たりが無い」

「ならば遠慮なく」

「とにかく渡したからな。弟はどこへ向かった」

「テスラ研を目指すそうですよ」

「今なら追いつけるか、では私は行くぞ・・・あの暴君がまさか秘書とはなwww」

「笑うな!さっさと行けクソ執事!マサキによろしく!」

 

 高級車が学園を出て行った。

 まったく!昔、執事服を笑ったことを根に持っていたか。

 

 ダイナミックゼネラルガーディアンか・・・あの時この力あれば。

 両親を失った日の後悔と無力さは一生忘れることはないだろ。

 それでも私は生きていく、愛する人たちがいるこの世界で。

 

「ふむ・・・ちょっとだけならいいですよね」

 

 受け取った参式斬艦刀を抜刀、ほう・・・綺麗な刀身ですこと。

 悪を断つ剣として、新しい得物には早急に慣れておくべきだ。

 師匠の新作、早く試し斬りしてぇ!

 

「形状変化ですか、伸びたりするんでしょうか?」

 

 前の相棒、零式は巨大な出刃包丁だったが、この参式は普通の日本刀と変わらない大きさ。

 刀を構えて何度か振ってみて、その内にちょっとした演武に。いい感じに馴染む。

 覇気を通しても問題なし。投擲技、大車輪をする素振りをみせると形状が変わった。

 ククリナイフというやつに似ている。曲線のある刀身がブーメランみたいで投げに適している。

 後は、斬艦刀と豪語するなら大きな相手も叩き斬るほどの長さと大きさが必要だ。

 ここでやめておけばよかった、調子に乗りすぎた。

 

「13kmや。なんて・・・どわっ!」

 

 刀の鍔が展開したと思ったら、みるみる巨大な刀身が形づくられた。

 巨大な刀身は職員寮、マサキが滞在していた部屋を貫通して破壊した。

 あっぶねぇ!最愛の弟が出発した後で良かった。

 

「ちょ、やりすぎです!もういいから元に戻って!」

 

 やってしまった・・・始末書で済むのかなコレ。

 

 

 テスラ・ライヒ研究所を目指す。

 方向音痴は自覚しているので地図アプリをなんども確認。

 ちょっと距離があるな、徒歩でもいいけど素直の電車に乗ることにした。

 最寄り駅に到着した所でロータリーに停車する高級者が目に留まる。

 お高そうな車だこと、おや?あの人は。

 

「お久しぶりでございます。マサキ様」

「メジロ家の・・・確かウォルターさんでしたか」

「はい。あなた様に折り入ってお願いしたいことがあります」

「俺の状況をわかった上での頼みですか?」

「さようでございます。このお話はマサキ様にとっても有意義だと思います」

「テスラ研に行かないといけないのですが」

「お送りいたします。ご依頼したい件の関係者もそこにおられます故」

「あなたが直接動く・・・お嬢様絡みですか?もしかしてマックたちに何か」

「それは道中でお話いたします。さあ、乗ってください」

「失礼します。おお高級車は内装も綺麗だ」

 

 ウォルターさんの運転でテスラ研に向かうことになった。

 丁寧な物腰と礼儀作法、年齢を感じさせない確かな実力。

 この人みたいなカッコイイ年の取り方をしたいもんだ。

 

「姉弟の再会はいかがでしたかな」

「そっか、あなたは姉さんの知り合いでしたね。もう大満足ですよ」

「それは喜ばしいことです。あいつもこれで肩の荷が下りたことでしょう」

「メジロ家の方々に改めてお礼を言わせてください。俺たち姉弟を助けてくれてありがとうございました」

「本当に好青年ですな。皆があなたに助力するのも頷ける」

 

 メジロ家にいたことろの姉さんの話、いつか聞いてみたいな。

 

「それで、依頼の詳細は」

「はい。テスラ研でお嬢様に会っていただきたいのです」

「マックたちにですか?」

「マックイーン様、パーマー様、ライアン様、ドーベル様の他にもう1人おられるのですよ」

「なんですと」

「その方は現在、引きこも・・・入院中でございます」

「聞こえましたよ、引きこもりですって?俺に引き出し屋をやれと」

「マックイーン様たちと瞬時に打ち解けたあなたなら適任だと」

「そういうのは専門業者にお願いした方がいいですよ。デリケートな時期の女の子でしょ、俺はバカなので何をするかわかりませんよ?」

「頭首様より許可もいただいております。マサキ様のなさることに口は出しません。もちろん覇気をドレインして下さっても結構です」

「ばば様公認か・・・よろしいお受けしましょう。ドレインできるなら願ったりですし」

「あなたならばそう言ってくださると信じておりました」

「ターゲットのお名前は?」

「メジロアルダン様、騎神の力を暴走させハガネの同型艦シロガネを単独で沈めたお嬢様です」

「後半の情報、聞きたくなかった」

 

 超パワーお姉ちゃんの次は戦艦撃沈お嬢様かよ。

 



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ぱずる

 テスラ・ライヒ研究所日本支部。

 主要な建造物から離れた場所に位置する特別収容隔離施設。

 ここで1人のウマ娘のが暮らしている。

 一通りの家具家電がそろったこじんまりとした部屋。

 女の子らしい小物類などはなく、ゲーム機、コミック、雑誌、パソコン等の娯楽アイテムがきちんと整理整頓されている。

 部屋の主である少女はこの部屋にはミスマッチの天蓋付き高級ベッドの上に転がっていた。

 

「いけない、もうこんな時間」

 

 備え付けのデジタル時計の時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。

 少女は読んでいた本を閉じる。

 窓の無い部屋、ここにいると時間の感覚が麻痺してしまう。

 

「おや、まだ起きていたのかいお姫様」

 

 部屋の各所に設置してある監視カメラとスピーカ。

 スピーカーから女性研究員の声が響く。

 

「ええ、面白いマンガを一気読みしていましたから」

「ゴールデンカムイか、ラッコ鍋回でカフェがコーヒーを吹いていたな」

「リスの脳みそってどんな味がするんでしょうか、気になります」

「チチタプを用意するのはちょっと無理かな。他にリクエストはあるかい」

「台湾唐揚げ、ダージーパイが食べたいです」

「それなら用意できる。最近、食堂に腕のいいコックが入ったからね」

「ダメ元で言ったリクエストが通りました。今から楽しみです」

「すまないね、こんなところにいつまでも閉じ込めてしまって」

「私が望んだことですから。強化ガラス製のスケルトンハウスじゃないだけマシですよ」

「不定期で起こる君の覇気暴走、テスラ研の技術をもってしても制御困難だ。しかし、希望が見つかったよ」

「それは妹たちが話してくれたあの方のことでしょうか」

「騎神の覇気を集めて旅する奇妙な男。彼は不思議な力で人間もウマ娘も関係なく覇気のやり取りが可能らしい。しかもその精度が桁外れだと聞いている」

「大変愉快な方と伺っております。生きているうちにお会いしたいものです」

「彼はこちらに向かっているそうだよ」

「まあ、それはそれは」

 

 彼が自分を救ってくれるのかはわからない。

 それでも、残された時間を有意義にしてくれる存在なら大歓迎だ。

 

「安全装置は機能していますか?」

「ちゃんと機能している問題ないよ」

「なら安心ですね。シロガネの二の舞は嫌ですから」

「達観しているね。君の潔さはどこからくるのか知りたいものだ」

「諦めてはいません。自害していないのがその証拠、私はまだ生きていたいんです」

「ならば結構。もう休みたまえ、自堕落な生活も過ぎれば毒となるからね」

「わかりました。おやすみなさいタキオン教授」

「ああ、おやすみアルダン君」

 

 

 テスラ・ライヒ研究所に到着した。

 世界中に支部があるオーバーテクノロジーの総合研究機関、その日本支部。

 研究部門は多岐にわたり、天才たちがひしめく魔境。

 あのビアン博士が設立したんだからさもありなん。シュウもここに出入りしているし。

 

「押し付ける形になってしまい、申し訳ございません」

「急なお仕事が入ったなら仕方ないですよ」

「お嬢様のこと、何卒よろしくお願い致します」

「ご期待に沿えるよう頑張ってみます」

 

 ウォルターさんが乗った車が研究所敷地内から出ていくのを見送る。

 1人になってしまった。俺が来る話はしてあるので問題ないらしいが。

 さすが世界有数の研究所だな広いわー敷地面積どんだけだよ。

 

 何棟かある建物のうち一番大きくて目立つやつに決めた。とりあえずあそこに入ってみよう。

 機密情報の漏洩防止のためか厳重な警備をしている。

 受付で話をして、まずは荷物のチェックを受ける。リング状の機械に通される俺のカバン。

 警報ブザーがなった。

 

「危険物の持ち込みは禁止されています。手荷物を直接確認させてください」

「いいですよ」

「何ですかコレ?何かの残骸」

「もとは零式斬艦刀だったものです。とある人物から返却しといてくれと預かりました」

「斬艦刀?困りますよ、壊れてますけどこれは立派な凶器です」

「じゃあその辺のゴミ箱に捨てます。燃えないゴミでいいですか」

「良くないですよ。一旦お預かりしますので、あなたはそちらで身体検査を受けてください」

 

 素直に従って全身をスキャンするゲートをくぐる。

 また警報ブザーがなった。なんか警備員の見る目がキツくなった気がする。

 

「危険物なんて持ってませんよ」

「ちょっと失礼」

 

 手に持った探知機のような検査道具を俺の全身にかざしていく警備員。

 腕に装着された腕輪に反応して警報を鳴らす。

 それに反応しちゃうかー。

 

「あの、その腕輪はなんですか?異様な覇気が検出されるのですが」

「これは母からもらった大事なお守りです」

「外してもらっていいですか」

「無理です、外れないんです」

「そんな訳ないでしょ!早く外してください」

「だから無理だって・・・やめてください!いたた」

「なんだ本当に外れない。体に縫い付けているとか」

「呪われているのです。母は祝福と豪語しましたが」

「やっぱり怪しいですね!こちら正面ゲート、不審者を発見した応援を要請する」

「やめましょうよ。大事にしないで!」

 

 入口で揉めていると、影が俺たちの方に向かって来た。

 ゆらりと音もなく近づいて来たのは、黒いウマ娘だった。

 

「騒がしいですね、どうしました?」

「あ、カフェさん。怪し過ぎる男がいたものでして」

「門前払いする気か?メジロ家とサトノ家、さらに母さんたちがブチギレるぞ!親の七光りとコネが俺の最強武器です」

「メジロ家とサトノ家はともかく、母さんたちってなんだ!」

「SCPオブジェクトクラスKeter(ケテル)なママさんたちです」

「ふざけるな!まとめて収容してやろうか!」

「絶対無理www」

「舐めやがって、黙らせてやる」

「黙るのはあなたたちです。Dクラス職員になりたいのですか」

「それだけはやめてください!」

「この人の事は私が責任を持ちます。あなたたちは持ち場に戻りなさい」

「「は、はいっ」」

 

 ほえ~警備員がビビッて逃げちゃったよ。若いのに大したものね。

 

「・・・アンドウマサキさん?」

「そうです。助かったよ、えーと」

「マンハッタンカフェです。カフェとお呼びください」

 

 カフェと名乗ったウマ娘。

 白衣を着ているから研究者なのだろうか、彼女からは微かにコーヒーのいい匂いがする。

 闇に溶け込んでしましそうな黒い毛並み。頭頂部のアホ毛が色違いでカワイイ。

 影を纏った不思議な雰囲気の子だな。金色の瞳は見えてはいけないものすら捉えそう。

 

「メジロ家から俺のことを聞いているの?」

「いいえ、あの子が教えてくれましたから」

「あの子?」

「お気になさらず。私、その・・・見える人なんで」

「え?・・・あー、そういう感じのキャラですか」

「フフッ、お姉さん・・・鼻血出し過ぎなんですね」

「何で知ってる!誰から聞いた!」

「あなたの実のご両親」

「マジで!そこにおったんかい!無事姉さんと会えました、超ありがとうって伝えて!」

「見ていらしたようですよ・・・あ、今向こう側へお帰りになりました」

「成仏してください!カフェさんや、アンタ本物だな」

「すんなり受け入れてくれる人は稀です。大抵は気味悪がられますから」

「是非お友達になって!その個性は面白い」

「変わってますね。私で良ければ・・・」

 

 幽霊見える子が友達とか凄くね?皆に自慢しよう。

 ここに来た目的と経緯をカフェに話す。

 覇気を集めていること、ここの騎神にも協力してほしいこと、メジロ家のお嬢様のこと。

 

「マサキさんのご用件については私の同僚が詳しいはず・・・つきました。カフェです、お客様ですよ」

「待っていたよ、そちらが新しいモルモット君かな」

「初対面の相手をげっ歯類呼ばわり・・・その耳をドラえもんとお揃いにしてやろか!」

「モルモットではないです。こちらがアンドウマサキさんですよ」

「知っているとも、よく来てくれたね。私はアグネスタキオン、ここで自由な研究者ライフを満喫しているウマ娘さ」

 

 散らかった研究室の主、ダボダボの白衣を着た怪しい目つきのウマ娘。

 無造作に切り揃えられた茶色の毛並み。

 目を見ればわかる、こいつ研究のためなら何をしてもいいと思っているタイプだ。

 ビアン博士の同類 マッドですよマッド!

 アグネス?・・・デジタルの親戚か?変態科学者決定!

 

「俺のことはシュウやメジロ家から聞いているな」

「もちろんだとも。覇気の提供は私とそこのカフェがするよ、見返りとして君のデータを取らせてほしい、ビアン博士との約束でもあるからね」

「俺を研究したいってか?望む所よ、1回本格的に自分を調べてほしかった」

「協力的で嬉しいね。君たちは本当に素晴らしいよ!私の脳細胞が徹底的に調査しろとうるさいぐらいだ」

「君たち・・・ね。俺の愛バのことも知ってるな」

「結晶体についてはシュウとビアン博士に任せるよ。私は君自身の研究とお姫様の件に集中するさ」

「そうだった。会わせてくれるか、そのお姫様に」

「案内しよう。カフェ留守を頼むよ」

「はい。行ってらっしゃい」

 

 タキオンに続いて進む。

 別の研究棟に向かうのか主要施設からどんどん離れていく。

 

「随分遠くまで行くんだな」

「気休めだが物理的距離をとっている。いざという時の被害が少ないと思ってね」

「物騒なことを、そんなに危ない奴か」

「姫自身は大人しくて可愛らしいウマ娘だよ。問題は覇気の方だ」

「姫ね・・・」

「メジロ家からやって来た呪われたお姫様だよ」

 

 その呪いを解除するのが仕事なんです。

 しばらく歩くと到着した。隔離施設・・・warningっていっぱい書かれてるよ。

 何重にもロックされた扉を開けて中に入る。一見普通の倉庫だが中央に四角い立方体がある。

 

「ここで姫が暮らしている」

「窓の無い部屋、というよりシェルターに近いな」

「守っているのは内側ではなく外側だけどね」

「ちょっと会うのが怖くなってきた」

「姫が首に巻いているチョーカーには細工がしてある。頭を吹き飛ばすシンプルな小型爆弾だ」

「酷い扱いだ」

「姫自身が望んだことさ。研究所が丸ごと吹き飛ぶか、姫1人の頭が吹き飛ぶか。考える余地もない」

 

 もしもの時は頭パーンの覚悟完了したウマ娘か・・・屈強な体格の漢女(おとめ)かもしれない。

 メジロ家のお嬢様ならきっとカワイイよね!とか安易に考えてたわ。

 今度こそゴリ娘来ちゃったらどうすんだ。

 

「起きているかい姫」

「姫はやめてください。タキオンさん」

 

 部屋の入口付近に取り付けられたコンソールにマイクとスピーカーがある。

 そこから中にいるであろう姫の声がする。

 声を聞く限りゴリラではなさそうだ。

 

「お客さんだよ。入室を許可してくれないか」

「外からのやり取りではいけませんか?」

「直接会って話がしたいそうだ」

「その方は私に接近する危険性を認識されていますか」

「もちろんだ。君がちょっと暴れたぐらいじゃビクともしない人間さ」

「人間?わざわざ私に会いに来る人間」

「お待ちかねの人物だよ。ロックを解除する、入るのは彼1人だけだ」

「え、ちょっとお待ちになって。どうしましょう、何も準備していない」

 

 部屋の中からドタバタと焦った音がする。

 突然の来客であるある。ラフ過ぎる部屋着と散らかった部屋に慌てるんだよな。

 タキオンは構わずコンソールを操作、ガコンと重たい金属音がして扉が開く。

 

「君が入ったらまたロックする。中の様子は見ているから安心したまえ」

「行ってくる」

 

 慎重に入室します。

 焦らずゆっくり、ちょっとづつ・・・洗面所、トイレ、風呂場、冷蔵庫、電子レンジ、キッチンはないか。

 1人暮らしのワンルームマンションだこれ。あのドアと開けると遂にご対面ですか。

 ゴリラはやめてゴリラはやめて!

 

「お邪魔しま~す」

「は、はい。いらっしゃいませ」

「よっしゃ!ゴリラ回避!さらに~単発お嬢様ガチャ大当たりを引いた!!!」

「ガチャ?」

「何でもないですよSSRさん。ウォルターさんから依頼されたものです!アンドウマサキと言います」

「メジロアルダンと申します」

「やってくれたなメジロ家・・・ホントめっちゃカワイイですね!」

「あ、ありがとうございます////」

「操者やっています。俺の愛バたちもくっそカワイイです」

「まあ、それは良かったですね」」

「仲良くお話しするのを希望します」

「私もです。さあ、こちらへどうぞ」

 

 天蓋付きのベッドに腰かけるのは美しいウマ娘。隣をポンポンと叩いて座るように促してくる。

 さすがメジロブランドは期待を裏切らない!

 透き通るような青みがかった毛並み。日に当たっていないのか美白すぎる肌。

 儚さと、優しさと、思慮深さをもった深窓の令嬢。これがお嬢様の完成形だと言われても納得。

 着ているのはフード付きのもこもこパジャマ(ウマ耳用の穴あり)なんだこの格好は俺を萌え殺す気か?

 何を着ても似合うのズルい!それにお嬢様オーラが隠しきれてませんよ。

  

 隣に座って向かい合う。なんかベッドの上で男女がこうしていると・・・ムラムラします。

 

「首に巻いているそれ、爆弾ってマジ?」

「はい、私だけを殺してくれる安全装置です」

「どうしてそうなってしまったのか話してくれるか」

「その前に・・・私が怖くありませんか?」

「全然」

「またいつ覇気が暴走するかわかりません」

「なんとかする」

「度胸がおありなのですね。それともただの楽天家なのかしら」

「ビビりランキング上位の怖がりだと自負している。まあ、身内にヤバい人たちいるから平気だ、最近1人増えたし」

「わかりました。お話させていただきます」

 

【メジロアルダン】

 

 メジロアルダンそれが私の名前。

 メジロ家の未来を担う者として周囲の期待を一身に背負って生まれたのがこの私。

 恵まれた容姿と明晰な頭脳、高い覇気係数には皆が満足した。

 優しい心と品格を兼ね備えていると褒められもした。

 でも、私には欠陥があった。

 覇気の制御ができない、不安定な癖に強力すぎる覇気は度々問題を起こした。

 急に暴れ出す力は周囲の物を壊し、私自身の体も傷つけた。

 たくさん物を壊したその度に屋敷を何度も移った、たくさんの人に迷惑をかけた。

 欠陥品の私を見捨てなかった一族皆には本当に感謝している。

 

 10歳を過ぎた頃には覇気が落ち着いてきた、いや慣れたと言った方が正しい。

 上がった下がったり、いつ来るかわからない波を受け流すことができるようになった。

 私の覇気は狂っている、それが当たり前だと思う事にした。

 体を鍛えるのはやめた、人と接するのも極力控えた、部屋にお気に入りのものは置かない。

 壊してしまうのは私だけでいい・・・。

 

 親戚に妹みたいな子たちがいる。

 マックイーン、パーマー、ライアン、ドーベル。

 欠陥品の私よりも遥かに優秀な完成品。これでメジロ家も安泰、私は最初からいらなかった。

 

 どこで自分の存在を知ったのか、彼女たちは私に会いに来るようになった。

 使用人が迂闊にも私の名を漏らしたのだと言う、それでわざわざ探したというから驚いた。

 私の危険性を知って尚、慕ってくれる可愛い妹分たち。

 彼女たちのおかげで私の生活は充実した。両親や使用人たちも我がことのように喜んでくれた。

 

 最近よく笑うようになったと言われた。

 外出する頻度も増えたし、少し明るくなったかなと自分でも思う。

 だから勘違いをしていた、自分が正常になったなんてことはなかったのに。

 

 ある日、メジロ家の執事長ウォルターに連れられて機動部隊第7支部の視察に行った。

 ウォルターは幼い頃から私を気遣ってくれる優しい人。

 仕事の合間を縫ってよく私を外に誘ってくれた。今日は彼の古巣でもある機動部隊基地。

 見慣れない施設はどれも新鮮で楽しかった、起動部隊の方たちも気さくな人ばかり。

 軍事基地とは思えないほど綺麗な建物、私の視察に合わせて掃除したのかしら。

 それでも隠しきれていない傷や汚れはある。

 大きな爪で引っ掻いたような壁の傷、赤黒い何かのシミ、猛獣が暴れ回ったような傷だらけの部屋。

 

「先程から目にするアレらは何ですか?」

「以前ここには暴君と呼ばれる殺戮ゴリラがおりました。この基地の見苦しい傷は全てそいつの仕業です」

「そんな個性的な人材がメジロ家に、是非お会いしたいわ」

「お嬢様の頼みでもそれはオススメいたしません、脳筋がうつります」

「残念です」

 

 スペースノア級万能戦闘母艦の壱番艦シロガネ。

 DC戦争初期、冥の騎神の襲撃により艦首を丸ごとえぐり取られるように破壊された。

 後に修復され現在は、弐番艦のハガネと共にメジロ家の権威と力の象徴たる戦艦である。

 

 視察の最後に基地内ドックに停泊しているシロガネの艦内を案内してもらう。

 私が騎神を目指していたなら、この艦で生活することもあったのだろうか。

 艦内研究室で凄いものを見つけた。黒いロボット?

 ガッチリとした大きな体、日本とを模した刀を背負い、全身を包む赤いマントがオシャレだ。

 モデルにしたのは忍者か、ホログラム式のコンソールに表示された名前は。

 

「ダイナミック・・・ゼネラル・・・ガーディアン?」

「人類の守護者、ダブルG3号機"ジンライ"ですな。シロガネに回されていたとは」

「この忍者ロボさんは動くのでしょうか?」

「起動テストは済んでいるようです。実戦配備のため待機しているのでしょう」

「ロボットさん。あなたは人を守るために生まれたのよ、お仕事頑張ってくださいね」

 

 黒いロボット、ジンライの冷たい体躯に触れて声をかける。

 意思のないはずの瞳が「任せろ」とでも言いたげな顔をしていた。

 

 シロガネ艦橋中央の休憩室。

 軽食を取りに行っているウォルターを待つ間、手持無沙汰になって行きかう人々をボーっと見ていた。

 そんな時、白衣を着た研究者が紙の資料を床にぶちまける場面に遭遇した。

 

「ああ!ちょ、もうヤダ私ったら」

「大丈夫ですか?お手伝いします」

 

 慌てて資料を拾う彼女を手伝う。メガネをかけたほんわかした雰囲気の女性だ。

 全て拾い終えるとペコペコと頭を下げてお礼を言ってくる。

 

「あ、ありがとう。本当に助かっちゃたわ、私った昔からドジで」

「お気になさらず。困った時はお互い様ですから」

「あなた優しくてとってもいい子ね」

「えっと・・・」

 

 自然な動きで頭を撫でられてしまった。 

 両親以外でこんな風にされた経験がなかったので焦ったが、悪い気はしなかった。

 「またね」と言ってその場を去って行く女性研究員。

 その後すぐウォルターが戻って来た。

 

「何かありましたかお嬢様?」

「ちょっと人助けをしただけです」

「さようでございましたか。こちらに軽食をご用意いたしました、どうぞお召し上がりください」

「これがファストフード?実物を初めて見ました」

 

 ハンバーガーを食べたことがないと言ったらビックリされるのだそうだ。

 妹たちにも1回は経験した方がいいと言われたのでチャレンジしてみる。

 ハンバーガーを手に取り口に運ぼうとして・・・そのまま握りつぶしてしまった。

 

「あ」

「お嬢様!?」

 

 体いうことを利かない。手に自然と力が入る。

 これは、マズい。しばらく安静だったから完全に油断した。

 覇気が体の中で激しく脈打っている、暴発寸前だ。

 その場にうずくまり、必死に抑え込もうとするが焼け石に水状態。

 脂汗が額に浮かぶ、ダメ!やめて!ここには人がたくさんいるの。

 私の暴走は意識を失って気が付いたら病院のベッドがいつものパターン。

 覚えていないがめちゃくちゃに暴れ回るらしい、その姿は狂った獣のようだとか。

 このままではいつ正気を失うかわからない。

 

「ウォルター!艦内の皆さんを避難させて!1人残らず!」

「かしこまりました」

 

 こういう時の判断が早いのもウォルターを信頼している理由だ。

 

「基地にいる機動部隊は武装状態で待機。暴走した私が艦内を出た場合は構わず攻撃しなさい」

「他にご用命は?」

「さっそくですがジンライの起動を!彼に私を止めてもらいます!」

 

 避難民を連れて走り去るウォルター。

 無人となった休憩室、自身の体を抱くようにして耐える。

 艦内放送が総員に避難を呼びかける。

 まだか・・・お願い早く来て・・・これ以上は。

 どれくらい経ったのだろう、5分か10分か?もう無理だ。

 体から覇気が溢れ出す、これは過去最高に狂った量と密度、どれほどの被害が出るのか。

 

 意識が薄れてい直前にそれは来てくれた。

 壁をぶち抜き現れたのは黒い体に赤いマント背負った日本刀。

 間に合ってくれた。

 ごめんなさい。あなたの最初の敵に私はなってしまった。

 

「ターゲット発見、任務達成条件を再確認」

 

 喋れるのね・・・優秀なAIを搭載しているみたいで好都合だ。

 

「命令ですジンライ!この艦内から私を出さないで!暴走が収まるまで私の動きを止めなさい!」

「了解」

「人命に被害が及ぶと判断した場合、迷わず私を殺しなさい!」

「了解、任務ターゲットの無力化。人命を最優先」

 

 それでいい。最後になるかもしれないのでちゃんと名乗っておこうかな。

 

「お願いしますよ・・・メジロ家元頭首候補、メジロアルダン」

「ダイナミックゼネラルガーディアン3号機ジンライ、参る」

 

 私の意識がハッキリしていたのはここまで。後はずっとぼんやりしている。

 シロガネの艦内はどこもかしこも酷いありさま、動力炉に致命的な損傷を負ったようで艦は轟沈認定。

 ウォルターに聞いた話と艦内カメラの映像からわかったことは。

 ジンライは最期まで己の任務を全うしたということだ。

 私を殺すチャンスは何度もあったはずなのになぜそうしなかった。

 人命にターゲットの命をカウントしたのではないかと後で聞いた。

 機械である彼が何を考えていたかはわからない、私を救おうとしてくれたの?

 発見された私は彼のマントにくるまれていた。

 その周辺にはバラバラに引き裂かれた黒い体躯が散らばっていた。

 私が彼を引き裂いた。

 

 被害は戦艦シロガネとダブルGジンライのみ。

 人的被害は私が軽傷を負っただけ。

 もしシロガネが航行中だったら、ジンライがいなかったら、家族が妹たちがいたら、誰かを殺してしまったら。

 目覚めてからずっと考え震えた、自分が心底怖くなった。

 

 そうして私はここに来た。

 テスラ研なら私を治してくれるかも、それが叶わないならどうか私を。

 

 あれから両親の面会すら断っている。

 そんな中、妹の1人が無茶を言って押しかけて来た。

 マックイーン、この子は見かけによらず大胆なことをしでかす。

 私の現状と首に巻いたチョーカーを見ると悲しそうな顔をしたが、すぐに話題を変えた。

 何でもハガネに乗った際、とても面白い人間に会ったと興奮気味に話していた。

 人間のしかも男性の話をするなんて妹も大きくなったものだと思った。

 下着姿で現れたこと、妹たち全員から気に入られ頭を撫でた、マックイーンを人質にして脱出。

 あまりに破天荒な話だけど・・・本当に楽しそう・・・なんて羨ましいのだろう。

 

「アルダンもその場にいれば良かったですのに」

「殿方にお会いするのは緊張しますわ。本当に愉快な人ですのね」

「ええ、根拠はありませんが、あの方でしたら・・・きっとあなたを救ってくれる、なんて思ってしまいます」

「お会いしたいですね」

「会えます」

「断言したわね」

「あの方があなたを見逃すはずありませんもの」

 

 この子がここまで信用する人間か・・・どんな人だろう。

 筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だったらどうしよう。

 

【マサキ】

 

「マッチョをご所望でしたか」

「そこは話していないのですが」

「察しました」

「素敵な感性をお持ちですのね」

「今暴走したらどうなる?またバーサーク状態?」

「シミュレーションによると、次に暴走するようなことがあれば溢れ出た覇気が全て壊してしまうと」

「爆弾か」

 

 事情はわかった。

 

「大変だったな。とにかく今は会えて嬉しいよ」

「私もあなたにお会いしたかったです。ウォルターやマックイーンに感謝ですね」

「ジンライか・・・マジかっけーな。黄金の魂を持ったロボだ」

「彼の遺体はここに運び込まれています。さぞかし無念だったでしょう」

「そんなことはない。ちゃんと任務完遂できて満足だろう」

「そうだといいのですが、もっと活躍させてあげたかったです」

 

 話を聞いてちょっと引っかかる部分があった。

 

「シロガネで暴走する前に頭を撫でられたって言ったな」

「はい。ほんわかした雰囲気の女性研究員さんにです」

「その人はアルダンがお嬢様って知らなかったと?」

「そうみたいでしたね」

「執事を連れた明らかにお嬢様風の子、周りの人間もずっと敬語の子供相手にいきなり頭を撫でるか?俺じゃあるまいし」

「あまりに自然な動きでしたので、警戒する暇もありませんでした」

「末端の研究員でもそこはメジロ家の戦艦内だぞ、視察に来たお嬢様のことを知らないなんてミスありえるか」

 

 疑えば疑うほど怪しい。

 タイミングが良すぎる。ウォルターさんが離れる瞬間を待っていたみたいじゃないか。

 

「その研究員・・・怪しい」

「やっぱりそうなでしょうか」

「ウォルターさんの見解は」

「その女性については調査中とのことです。シロガネの搭乗員に該当する人物はおりませんでした」

「もうそいつが何かやったで決定じゃん」

 

 あーやだやだ。人を不幸にして何か企んでるバカの気配がする。

 俺も話をしないと。

 

「今度は俺の話を聞いてくれ。愛バたちが・・・かくかくしかじか」

「まあ!愛バが昏睡状態から無機物にクラスチェンジしたのですか」

「そうなんたよ。その状態異常を回復させるために覇気を集めている、お願いします覇気をください!」

「こんな私の覇気で良ければいくらでも」

「いいのか?暴走については今の所何もしてやれないのに」

「私に会いに来てくださった、それだけで嬉しいのです」

 

 なんとかしてやりたい。俺に何ができる?

 とりあえずドレインをやっときますか。

 

「覇気を先にいただくよ。俺も頭撫でる方式なんだが、大丈夫かな?」

「優しくしてくださいね」

「頑張る」

 

 アルダンの頭に触れる。高貴なお嬢様の撫で心地は最高です。

 よし、このままドレインを・・・?

 ちょっと待て、今までにない感覚がある。もうちょっと探ってみるか。

 

「ごめん。このままもうちょっと調べていいか?」

「お任せします」

「異常があったらすぐ言うんだぞ」

 

 アルダンの覇気中枢がおかしい。

 イメージとしては立体パズルがバラバラで完成していない状態。

 それどころか全然違うピースを無理やりはめ込んだ形跡がある。

 これは・・・直せるか?

 間違ったピースを俺の覇気で外す・・・成功。

 外した途端消滅しやがった、これはアルダンの覇気じゃない、俺のでもない。

 脳裏に浮かんだのはアルダンの頭を撫でたという女研究員。

 細工したな、この子を故意に暴走させたな。許せん!

 

「マ、マサキさん!ダメ!」

「何?ちょ・・うおっ!」

 

 偽のピースを外したと思ったらアルダンの覇気が激しく脈打ちだした。

 ヤバい!これが暴走ってヤツか。

 やられたな、パズルを完成させようとすると起爆する仕掛けかよ。

 

「離れて!逃げてください!部屋から出て」

「嫌だね!おいていけるか!」

 

 部屋の様子をずっと見ていたのだろうタキオンの声がスピーカーから聞こえる。

 

「モルモット君すぐにそこから退避だ。姫の暴走がこのまま進むようなら処理しなければならない」

「待て!今パズルをやってんの!集中させて!」

「今回の暴走は今までの比ではない。このままでは研究所の敷地面積が全て更地になってしまう」

「待と言ってるだろうが」

「もういいですから逃げて」

「あー、先にもらうよ!」

「え、何を・・・きゃっ!」

 

 バーストモード起動。

 この状態でドレインするのは初めて、あっという間に部屋中が光の粒子で埋め尽くされる。

 優しくしてやりたいが今は非常時だ我慢してくれよ。

 吸い取るぞ!クロシロ!今送ってやるからな、食らいつくせ!

 暴走して溢れる覇気を吸収する。おお、凄い量だな。

 落ち着いてきたぞ、バーストモードはまだ継続してと。

 

「タキオン!アルダンの覇気はどうなった」

「信じられない、一旦落ち着いたよ。だがすぐにでも暴走しそうだ」

「アルダンは大丈夫か?」

「何をしたんですか、あなたは一体」

「このままパズルを完成させる!覇気の数値は見えているか?ヤバそうなら俺ごとやれ!どうせこの部屋にも自爆装置ぐらいあるんだろ!」

「パズル?何のことかわからないが、こうなっては君にかけるしかない。姫を頼む」

 

 パズル再開・・・のんびりしている時間はないぞ。

 まずは邪魔な偽ピースを全部外す。その度に覇気が暴走しかける。

 ドレインとパズルの繰り返し・・・焦るなよ、大丈夫なんとかなる。

 アクション映画で見たことがある。時限爆弾の解体しているみたいだ。

 

「なんで?どうしてそこまで」

「人生こういうこともある」

「私のせいで・・・ごめんなさいごめんなさい」

「謝らなくていい、好きでやってることだから。泣くな!泣かないでー!」

 

 偽ピース全部とれた!

 後はパズルを完成せれば・・・。

 

「頼みがある!体を支えてくれないか?」

「えっと、こうでしょうか」

「もっと密着して!全力で抱きついて、そう!ああいい感じに当たってます」

「こんなときに何を!マサキさん、あなた・・・震えていますか?」

「言っただろ、俺はビビりなんだよ。死の千年パズルやらされてるんだぞ!まさにデスゲーム!」

「一緒に死んでくれますか?」

「そうならないように必死だ!何かやる気の上がることを言ってくれ!」

「生き残ったら私を好きにしていいです」

「うっひょー!マジで!・・・ゲフンゲフン!光栄だけど遠慮します、愛バとメジロ家に申し訳ないですから」

「モルモット君の覇気出力が上昇した。こうかはばつぐんだ」

「黙ってろ!変態科学者!」

 

 アルダンも満更でもない顔をするな!

 怒られるわ!違うんだクロシロこれはただのジョークですよ。

 

 こいつはここで、こっちのはそこ。

 もうちょっとだ、頑張れ俺。

 

「マサキさん。また来そうです」

「さっきから何度も吸っているが大丈夫か?干からびたりしないでくれよ」

「気にせずどんどん吸ってください。ミイラになっても恨んだりしません」

 

 目の前で美少女がミイラになるとか超嫌なんですけど。

 

「まだ出力が上がる!?ただのモルモットではないな君は」

「マサキさんの覇気が変わった、何でしょうこれは電気?」

「あー雷が出ちゃったか、頑張るとそうなるんだよね。大丈夫?ビリビリしてない?」

「平気です。不思議、触れても全然痛くない。それどころか私を包んで守ってくれている」

「覇気が属性を持っただと!それではまるで天級騎神」

 

 姉さんと旧校舎ダンジョンで決闘して以来できるようになった。

 覇気開放の第2段階。溢れる覇気の形状が半分ぐらい雷へと変化する。

 覇気噴出口は腕と脚の他、背中の肩甲骨辺りからも出るようになる。 

 自由に飛べはしないけど雷の翼が生えたみたいだ。

 

「モルモット君!いやカピバラに昇格だ!必ず生還したまえ、君を調査できないなどあってはならない!」

「げっ歯類から離れろ」

「怖いくらい綺麗・・・」

 

 見苦しい姿で悪いなアルダン、俺は体から雷出しちゃう系のカピバラだ。

 ドレインと並行してパズルを完成させる。

 これが最後のピース!はまったぞ、やりました!

 これで覇気中枢は正常に機能するはず・・・ておいおいおいおい!

 全ての回路が正常に繋がったことでアルダン本来の覇気が溢れてくる。

 これ暴走しとるのと変わらん!むしろもっと酷い。

 

「マサキさん!」

「心配するな。経験上、1回出してスッキリした方がいい」

「でも!そんなことしたら」

「構わず全部出してしまえ。その覇気、俺と愛バたちが食らってやる」

「あなたを信じます」

 

 もう撫でるぐらいじゃ間に合わんな。

 そもそもドレインする際にリラックスしてもらえばいいだけで、体が接触していれば可能なんだよ。

 

「お嬢様、お願いがあります」

「急にかしこまってどうされたのです。何でも言ってください」

「抱きしめてもいいですか?」

「はい。喜んで」

 

「今更ですね」と微笑んだアルダンを抱きしめる。

 彼女の覇気が爆発したのに合わせて全力のENドレイン!間に合ったよな・・・。

 

 この日、テスラ研日本支部全体が地震ではない揺れを観測した。

 一瞬の出来事だったので気づいたものは少なかったが、データには謎の振動が発生した証拠がハッキリ残った。

 

 特別収容隔離施設に駆け付けたタキオンとカフェ。

 彼女たちが見たものは、内側から超常の力で破壊された部屋の残骸と。

 気を失った男を優しく抱きとめる美しいウマ娘の姿だった。

 

「大丈夫かい姫?」

「私・・・救われてしましました」

「そうだね」

「今日会ったばかりなのに、研究所の人たちがどんなに頑張ってもダメだったのに、こんなにアッサリ」

「危機一髪でしたよ。全然アッサリではありません」

 

 どれほどの偉業をやってのけたのか、わかってないだろうこのカピバラは。

 姫にもたれかかったまま、だらしない顔でグースカ寝ている。

 

「メディカルチェックをしよう。君が本当に救われたのか確認したい」

「アルダンさん、代わります。マサキさんをこちらへ」

 

 カフェがマサキを受け取ろうとするのを姫が制する。

 

「もう少し・・・このままでいさせてください」

 



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しゅうよういはん

【???】

 

「きたきた」「まってました」

「たいりょー」「すごいです」

「ごちそう」「ありがてぇ」

 

「いただきます」

 

「???」「???」

「なんか」「おいしいけど」

「よろこべない」「くやしい」

「むかつく」「いらっとします」

「たべるけど」「たべますけど」

「おいしいね」「たしかに」

 

「わかったぞ」「どうしたきゅうに」

「なんてことだ」「おいなにがあった」

「やつらだ」「なに」

「きづけよ」「まさか」

「おそかった」「あとのまつり」

「ぜんぶたべた」「たべましたね」

  

「「おろろろろろろろろろ」」

 

「だめだ」「げろできない」

「そもそも」「からだがない」

「そとがきになる」「あのひとのそばに」

「いるね」「いますね」

 

「「めじろが」」

 

「またきた」「おなじやつか」

「たべる」「たべますよ」

「くつじょく」「たえろ」

「でもおいしい」「それはどうかん」

 

「「おかわり」」

 

【マサキ】

 

 変な夢を見た。 

 アルダンの覇気をブーブー文句言いながら食べるクロとシロ。

 好き嫌いは良くない、つべこべ言わず食え。

 それにしても・・・体が無いか・・・。

 

「夢で互いの過去を見た例もありますし、愛バの状況が伝わったのかもしれませんね」

「俺とあいつらが繋がっている証拠だな」

「カピバラ君、もう一度頼むよ」

「はーい。カフェいいか?」

「はい。お願いします」

 

 ドレインしている最中のデータを取らせてほしい。

 タキオンに頼まれたので素直に協力している。ドレイン相手はカフェだ。

 これで3回目、負担にならないように注意しながらドレインする。

 級位は取ってないらしいがこの感じだと轟級かな。

 ウマウタ―?そんなものもありましたね・・・姉さんとの戦闘中に大破したわ!

 自分で見た方が早いからね。ウマウタ―とはなんだったのか・・・。

 

「黒髪ロングはいいものだ」

「本人を前に何を口走っているんですか」

「あの子はどうしてる?」

「マサキさんの隣でウンウン頷いています」

「あの子も同意見じゃん」

 

 ただ撫でるのも芸が無いな、長い前髪を掻き上げておでこを見てやる。

 抵抗はされない、困ったような顔で微笑するカフェ。

 なんだそのレアな表情はカワイイじゃないの。もっと見せろ。

 

「イチャつくのはその辺にしたまえ。今度は覇気を流してみようか」

「覇気の循環・・・本当にいいんだな?」

「実験に志願したのは私自身ですから」

「無理はしない、ちょっとでも違和感あったら即終了だ。それでいいな」

「もし私が爆散したら、あの子と一緒に取り憑いてあげます」

「速攻でお祓いしてもらうわ!実家が神社のウマ娘が知り合いにいるからな」

 

 フクキタルに頼んだら変なお守り売りつけられて終わりかもな。

 接続開始・・・おk、相性はいいみたいだ・・・。

 

「どうかな?」

「凄いです、私の体から覇気が溢れてきます」

「キラキラ散布も順調だな。痛みとかは無いか?」

「大丈夫です。温かい・・・不思議な高揚感があります。今なら何でもできそう」

「ンンンンンンンッ!最高じゃないか!もっと見せておくれ!さあさあさあ!」

「マッドサイエンティストがラリってきたぞ」

「いつものことです。放っておきましょう」

 

 俺とカフェがいる実験室の外、ガラス越しに興奮する変態がいる。

 放置しておこう。

 出力を更に上げる。徐々にだ、ゆっくりゆっくり、カフェの覇気に上手いこと混ぜるように。

 成功だ、バーストモードの操者と騎神の完成!

 テイオーとマヤに接続した時よりずっと深く繋がった。

 

「ここまでやったのは初めてだ。何度も聞くが大丈夫か?」

「体に異常はありません。しかし、精神面で少々問題が」

「気分が悪いのか?俺の覇気キモい?」

「何と言いますか、凄く力を振るってみたい、壊したい、暴れたい、タキオンさんをぶん殴りたい」

「最後のは私怨だね。なるほど・・・戦意高揚、破壊衝動、万能感。カピバラ君の覇気はウマ娘にとって危ないお薬と同義なのか」

「中毒になられても困る。この辺りで止めておこうぜ」

「待ちたまえ。最後に軽く模擬戦をしようじゃないか。今、標的を投入する」

 

 実験室奥のシャッター解放され中からロボットが出てくる。

 

「AMじゃない?特機ってヤツか」

「そうだ、物量や生産コストに優れたAMと違い、明確な敵を想定して作られた特殊起動兵器。スーパーロボットというやつだね」

「グルガスト弐式。超闘士グルンガストの量産試作機ですか」

「強そうじゃん。こいつは何を仮想敵としているんだ?」

「メジロ家にいた教導隊メンバーの1人、タイラントだよ」

「タイラント?暴君か、なぜだろう他人の気がしない」

「AIが間に合わなかったので今回は私が遠隔操作するよ」

 

 タキオンがコントローラーらしきものを操作するとグルンガストが巨体に似合わないスムーズな動きをみせる。

 コントローラーがどうみてもニンテンドースイッチなんだよな・・・。

 

「タキオンさんが操作する?つまりこの弐式はタキオンさんそのものですね・・・フフッ」

「そうだとも、さあ手加減はいらないよかかって」

「ふんっ!!!」

「ああー!」

「おっと、顔面がいきなり潰れたぞ」

 

 最後まで話を聞かずにカフェが弐式の頭部に攻撃を仕掛けた。

 俺いらないね、壁際に退避しておこう。

 

「まだだ!メインカメラがやられたぐらいで」

「よくも!食後のコーヒーを醤油にすり替えられた恨み!」

 

 いやwww気づけよwwwウマ娘の嗅覚優秀設定どこにいったwww

 

「だいだい君はコーヒー飲みすぎなんだよ!たまにはお茶が飲みたい」

「だったら自分で入れろ!」

「飲食物の準備は人にやらすと誓って生きているんだ」

「迷惑な誓約だ」

「さあ弐式よ!そのカフェイン中毒者を懲らしめてやれ」

「マサキさん、手を出さないでください。こいつは私が破壊してやる」

「あ、うん。頑張ってね」

 

 カフェが弐式の首をもぎ取ろうとした所でタキオンの泣きが入った。

 これ以上壊されると予算がどうとか言ってた。

 今日の実験は終了。まだ仕事がある2人と別れ研究所内の食堂へ向かう。

 今日は何を食べようかな~ここの料理はどれもメッチャ美味しいのよ。

 ピーク時は過ぎているので人は少ない、落ち着いて食べれそうだ。

 

「レーツェルさん。今日のオススメは?」

「姫の要望で今週は台湾フェアだ。小籠包と魯肉飯(ルーローハン)のセットがオススメだぞ」

「じゃあそれでお願いします」

「承知した。しばし待つがいい」

 

 ここの飯が美味いのはこの人の料理スキルが並外れているからだろう。

 おまけに現場を仕切る能力とカリスマ性もある。スタッフに的確な指示を出し、自らも手を止めない。

 厨房全体のレベルが上がって、ここで働くみんなは大満足だ。

 

 レーツェル・ファインシュメッカー(訳・謎の食通)

 変なサングラスをかけた金髪お兄さんおそらく偽名。

 自称、流浪の料理人だが、身のこなしと覇気を見る限りただ者じゃない。

 料理が美味すぎたので上半身脱衣をしたら仲良くなった。

 俺でもできる簡単な料理を教えてくれるナイスガイ。ちなみにカフェの操者だ。

 

「お待たせした。ちょうど私も休憩時間だ、相席よろしいかな?」

「大歓迎っス。一緒に食べましょう」

 

 トレーに乗った料理を受け取る。

 レーツェルさんが座ったのを確認して2人で「いただきます」をする。

 

「ああ美味めぇ!今日も最高ですよ」

「そんなに喜んでもらえると料理人冥利に尽きる」

「知り合いの男連中はどうしてこう料理スキル高いんだか」

 

 母さんたちには悪いがシュウの料理は美味い。

 姉さんに悪いがヤンロンの料理もくっそ美味かった。

 俺もクロとシロに美味い物を食べさせてやりてぇ、覇気(今の2人の飯)集め頑張ろう。

 

「本当に美味そうに食べる。トロンべそっくりだな」

「トロンべ?カフェのことですか」

 

 この人、カフェのことをトロンべって言うのよ。

 言われた本人はちょっと嫌そうな顔をしたのが気になる。

 

「そうではない、姉君のミノ・・・たづなのことだ」

「姉さんの知り合いでしたか!もう早く言ってくださいよ」

「すまない、ウォルターから話は聞いていた。本来は君と接触する予定はなかったのでね」

 

 姉さんとウォルターさんとの繋がり、この人メジロ家の関係者か。

 

「トロンべも私が作った菓子を美味い美味いと食べていた。その時だけは年相応の可憐な少女だったよ」

「姉さんは今も美人でカワイイです」

「フッ、そうだな」

 

 あらあら~なんだこの感じ。姉さんとレーツェルさん何かあったの?

 きゃー身内の恋愛事情とか!すっげー気になるんですけど!

 義兄さんって呼んだ方がいいの?気が早いか。

 

「アンドウマサキ、君に感謝する。姫を、メジロアルダンを救ってくれてありがとう」

「料理人はカモフラですか、本当はアルダンの監視役?」

「メジロ家には何年か世話になったことがあってね、そのツテで仕事を頼まれた。もしアルダンが人に危害を加えそうになったら私に始末してくれと」

「依頼主はアルダン本人ですね」

「ご名答。しかし、アルダンの暴走は気が狂い暴れるのではなく、自身が爆弾となってしまうものに変化した。せめて彼女の最期は見届けようとここにいたのだが、君が来てその日の内に解決した」

「結構危ない橋だったみたいですけどね」

「君は彼女だけでなく、彼女に生きて欲しいと願う全ての人を救った。誇るがいい、トロンべもきっと褒めてくれるだろう」

「たまたまここに来て、無茶苦茶やっただけですよ。今までアルダンを支えてくれた人たちこそ褒められるべき」

「トロンべが君のことを生きがいだと言った意味がよくわかった」

 

 食後に少し談笑してから厨房に入れてもらう。

 余った食パンをつかってラスクを作る。

 ハチミツ多め、水飴、グラニュー糖、水少々を鍋に煮込む。

 ダイスカットした食パン一斤をオーブンで軽く焼いて、鍋にドーン。

 じっくり絡めたら再びオーブンへ、焼き目が付いたらオーブンから出して冷やすと完成。

 シュウが昔作ってくれたの覚えていた。おやつにしよう。

 

 レーツェルさんと別れて、いつもの場所に向かう。

 

 工事中の特別収容隔離施設を通り過ぎ、広い屋外試験場に到着。

 テスラ研で開発した起動兵器や騎神の武装テスト等を行う場所だ。

 

「やってるな。相手はランドリオンか」

 

 3体の地上戦用AMに囲まれているのは、動きやすいスポーツウェアを来たウマ娘。

 パーカーのフードを被ったその表情は見えないがきっと笑っているだろう。

 テスト開始の合図。

 3体が下半身のキャタピラを巧みに動かし高速移動。連携を取ってターゲットを襲う。

 フゥ―っと軽く息を吐いたウマ娘の姿が消える。

 狙いを定めた真ん中の1体に肉薄し、センサー類が集中している頭部を破壊する。

 頭や首は急所だからね・・・知り合いが首狩り族ばっかりで怖い。

 そこから両拳を合わせて雷の鞭を展開。

 背後から迫る相手を絡め取り引き寄せ、勢いのまま蹴り砕く。

 

「プラズマビュート!?俺より全然上手いじゃねーか」

 

 最後の1体は移動しながら砲撃戦をするそうだ。

 レールガンを乱射するが、全く当たらない。AM以上の機動力をもって弾丸を躱しつつ迫る。

 ゼロ距離、真っ向からの連撃で完膚なきまでに相手を沈める。

 何発は入った?装甲が原型を留めていないし・・・。テスト終了文句なしの完全勝利。

 これで修練を長年サボっていたというのだから恐ろしい。

 

 よし!と小さくガッツポーズしてフードを脱ぐウマ娘。

 青みがかった毛並み、運動して少し赤くなった顔、その仕草の全てに周囲が見惚れてしまう。

 AMを回収する作業員やデータを検証する研究員にペコペコ頭を下げている。

 こっちに気づいた。

 物凄い勢いでこっちに来る。焦らなくてもいいのに。

 

「お疲れ~調子良さそうだなアルダン」

「見ていらしたんですか?恥ずかしい////]

「カッコよかったぞ。AMがちょっとかわいそうだったが」

「タキオン教授に模擬戦を頼んだのですが、断られてしまったので。あの子たちは代役です」

「タキオンは逃げて正解だ。並みの騎神は相手にならんよ」

「マサキさん、またお相手してくれますか?」

「3日前のこと覚えてる?お互いヒートアップして収容隔離施設破壊しちゃったよね」

「タキオンさんwww膝から崩れ落ちてましたねwww」

「笑い事じゃないよ。あそこには組み上げ予定のPT用パーツが保管してあったんだと」

「そんなの知りませんよ。私という爆弾と一緒の建物に置いた時点で消失決定です」

「キャラちょっと変わったか?」

「変わったとしたらあなたのせいですね。今の私はお嫌いですか?」

「超好き」

「ならこのままいきますね」

 

 アルダンのパズルを完成させ限界までドレインをした。

 俺はそのまま気絶、覇気の余波で部屋は吹き飛び、収容施設内部がちょっと壊れた。

 結果アルダンの覇気は安定してメディカルチェックも異常なし。

 彼女の救出は見事成功した。爆弾チョーカーはもういらない。

 

 袋に包んだラスクと水筒を手渡す。

 

「さっき作ったラスクと、レールツェルさんからドリンクの差し入れ」

「まあ!ありがとうございます。クスハ汁(上級者用)運動後はこれがいいのです」

「ラスクは俺が作った。小腹がすいたら食べて」

「あなたが作った?永久保存加工をして家宝にします」

「食品だから食べてくれない。保存とかされると引く」

「大事に食べますね」

 

 覇気が安定し引きこもりを終えた彼女はみるみる明るくなりましたとさ。

 もう本当に元気過ぎるぐらい。

 迷惑をかけたとたくさんの人いお礼を言い、自分にも仕事をくれと研究所のテスターを引き受けたりしている。

 先程の模擬戦やデータ収集もよくやっている。頭もいいので研究員としても働けるとタキオンが言ってた。

 良かったな、本当に良かった。彼女は本来の姿を取り戻したのだ。

 明確に変わった所もあるけど。

 整った顔立ちの左頬、よく見ると薄っすら切り傷ができていた。

 俺が気絶した直後、溢れた覇気の余波が自らを傷つけたらしい。

 本当によく見ないとわからない程度の傷だが、このお嬢様に残していいのだろうか?

 

「その傷いいのか?テスラ研の技術なら消すことは造作もないらしいぞ」

「いいんです。これはあの日を忘れないために残します」

 

 ストライクガンダムに復讐を誓ったイザークさんみたい。

 

「それに、お揃いですからね」

「お、おう」

 

 俺の左頬にも似たような傷がある。あの時の余波はついでに俺も傷つけてた。

 そっと俺の傷に触れるアルダン。やめなはれ心臓がトゥンクしちゃうから。

 

「マサキさんは消さないんですか?」

「傷は男の勲章ですから」

「私はあなたの愛バではありません。だけど、たまには思い出してください。約束ですよ」

「おk約束する」

 

 誰か―!ここにすんごい良ウマ娘がいますよー!

 イケメン!全てのスペックが限界突破したイケメン!操者になってあげてー!

 あ、イケジョでも全然良いです。

 

「雷上手く使いこなしているな」

「ごめんなさい。そのせいであなたは」

「気にするな。きっとその力は君にプレゼントするためのものだったんだよ。よく似合ってるしな」

「あなたにいただいたこの力、決して無駄にはしません」

「気負わないでいい、じゃんじゃん有効利用してやれ」

 

 パズルを完成させた時、覇気中枢を安定させるために俺の覇気を注ぎ込んだ。

 接着剤代わりのつもりだったが、思いのほかアルダンの覇気に馴染んでしまい。

 雷はアルダンに吸い取られました。

 今のアルダンは本来の高い覇気加えて雷属性を纏うようになった。

 俺の雷は減少、プラズマビュート1本をちょっと伸ばすのが限界。

 アルダンに雷を8割方持っていかれたが後悔はしてない。彼女なら上手く使ってくれる。

 姉さん怒るかな?レイジングストライクまたやるのは無理かも。

 

 アルダンのことは一件落着、ウォルターさんのからの依頼を無事達成。 

 後でタキオンの覇気をドレインしておかないと、そろそろ旅を再開してもいいかもな。

 

「マサキさん。明日お時間をいただけませんか?」

「おや、何かあるの」

「サプライズです」

「サプライズって言っちゃたよ」

 

 お嬢様が嬉しそうなので明日を楽しみにしておこう。

 

 2人で研究室に戻るとカフェがタキオンを絞め落とそうとしていた。

 あーあー、完全に首をロックしちゃってるよ。

 アルダンと一緒に引き剥がす。

 

「何があった?」

「今度は墨汁とすり替えたんです!こいつには臨死体験を経験させてやります!」

「カフェイン中毒者はキレやすくて困るね」

「タキオン教授反省してください。カフェさんがかわいそうです」

「ちょっと飲んじゃいましたよ・・・ウェ」

 

 だからwww気づけよwww

 

「アルダン、水筒の残りはあるか?」

「半分以上残ってますよ、どうぞ」

「2人共、その変態科学者を逃がすな」

「「了解」」

「ちょっと何をする気だい!やめないか!その液体は!?ウボェ、なんだこの不快すぎる臭いは」

「毎日、研究でお疲れでしょう?効果抜群の健康飲料です。はい、あーん」

「ちょ、やめ!それを近づけるな!2人とも離せ!はな・・・あああああああああああああ!!!!」

 

 クスハ汁(上級者用)は素人にはキツかったか。

 カフェの希望通り、タキオンは臨死体験をした。その間に無理やりドレインしておいた。

 意識が無い状態ではやはり効果が弱い。

 起きたタキオンに改めてドレイン、クスハ汁に怯える彼女をたっぷり撫でまわした。

 

 翌日。

 

「まだだ!まだ終わらんよ!」

「逆境でも諦めない殿方は素敵です。だらかもっと追い詰めてあげます、こんな風に」

「ちっ!」

「カピバラ君!動きが鈍っているぞ!第3倉庫から退避したまえ、そこは足場が悪すぎる」

「研究所敷地内は全て有効範囲です。一応観客にはケガをさせないようにお願いします」

「「了解」」

「ふむ。トロンべはどちらが勝つと思う」

「アルダンさんでしょうか。彼女のスペックは日を追うごとに上昇しています。信じられないスピードで本来の彼女に、それ以上の何かになろうとしていますから」

「マサキは新たな獣を世に解き放ったか」

「彼にドレインされたウマ娘はリミッターが外れるとでも?でしたら私も含めて、とんでもないことになりますよ」

「限界を超えた騎神が集う時代が来るか・・・頼もしいな」

「カビパラ君ってば!気合がたりないぞ何やってんのー!私の研究予算をかけているんだ、負けたらダメだ!マジで頑張って!お願いしますぅ!」

「あなたという人は」

 

 爆弾と恐れられ奇跡の生還を果たしたお姫様とそれを救った変な人間。

 人々は驚き喜び姫の無事と人間の活躍を讃えた。

 しかし、俺とアルダンがヤベェ奴というのは、すぐにテスラ研中に知れ渡った。

 テスト、実験、修練、じゃれ合い、発作、まあいろいろやっちゃたよ。

 視認できる異常な覇気粒子をまき散らしながら動き回る2人。

 今じゃすっかりテスラ研の収容違反認定ですよ。

 

 俺達が今やっているのはみんな大好き尻尾鬼。

 暴走するのを恐れて今までやったことがないと言った。アルダンに催促されて始めたんだが。

 

「まさかここまで激しくなるとは!」

「あら、後悔してますか?」

「全然!超楽しい!」

「私もですよ。さあもっともっと狂い合いましょう」

「ウマ娘基本バーサーカー説!正しかったんや!」

 

 もうこれ尻尾鬼じゃないよ。ただの戦闘、相手をぶちのめすが勝利条件。

 観客が多いな。白衣を着たままの研究員や作業員、警備員、一般来訪者、その他大勢。

 連日やっていたら観戦人数が増えた。どっちが勝つかギャンブルしている奴らもいる。

 仕事しろや!

 

 アルダンは雷を纏い操る。攻撃に防御に移動に青白い稲妻が弾ける度に歓声が上がる。

 雷をこの子にあげて良かったのかしら?鬼に金棒じゃなくて鬼にバズーカーだよ。

 覇気の出力はまだ俺が勝っている!全力開放!

 

「「「「「「「「出たぁー!バーストモード!!!!!」」」」」」」」

 

 ノリノリの観客に応えてやろう。

 アルダンそんなに目をギラギラさせるなよ。悔し泣きさせてやりたくなるだろが!

 

「そんなに見つめないでください。泣かせたくなります」

「同じこと考えてるー!」

「私に勝てたらマーキングしていいですよ」

「するか!クロシロに殺されるわ!」

「私が勝ったら一生取れないマーキングをします」

「それも殺されちゃう!!」

 

 ヤッベ!命がかかってきた。

 建物の屋根や屋上を駆け抜け外壁を蹴り、移動しながらの戦闘。

 敷地内からは出たらダメなんだよな、研究所入口の駐車場方面に出たぞ。

 耳に装着したマイク内蔵無線イヤホンよりタキオンから連絡が入る。

 

「車が侵入してくる。くれぐれも被害を出さないように」

「「了解」」

 

 アルダンの攻撃を捌きながら近くの建物屋上へ。

 SUV型の高級車、中が広そう頑丈な見た目がカッコイイ。

 

「よそ見してはダメです」

「すまぬ」

「今は私だけに集中してほしいです」

「そうしないと」

「すぐに終わってしまいますよ?」

 

 プラズマビュート2連!完全にものにしてる。

 避ける!って、そんなに伸びるのかよ!片足を掴まれた。

 引き寄せずそのまま振り回すことにしたらしい、ちょいちょいちょい!なぜ車の方に投げた。

 SUVから誰かが降りてくる。

 

「ウォルターさあぁぁぁん!」

 

 脚に絡みついた雷鞭を引きちぎり体勢を立て直し着地。ズサァーと靴底が地面をこすってやっと停止。

 ぶつかる所だった。

 

「マサキ様。本日もお元気でなによりでございます」

「すみません俺やってしまいました!封印解いたばかりか強化しちゃった」

「まあ!ウォルター。お久しぶり」

「もう追いついてきた!車の中身をしっかり守ってください!」

「かしこまりました。お二人とも存分にお楽しみください」

「察しが良すぎるのは相変わらずですね」

 

 ウォルターさんは申し訳ないが後回し。

 アルダンに集中、これは遊びだ、だけど真剣だ。

 母さんが言ってた。どんなことでも真剣にやればそれだけの結果が返ってくると。

 小さい頃からそうだ俺は尻尾鬼の時はいつだって本気。

 勝ち負けじゃない全力で遊べなかった時の自分が嫌なだけ。

 長いこと引きこもってたんだもんな、ずっと遊びたかったの我慢してたんだろう。

 それに付き合ってやりたい。この強い相手に勝ちたい!

 

「ブラックとダイヤの操者、現カピバラのアンドウマサキ」

「元メジロ家頭首候補、現テスラ研被験体№555メジロアルダン」

「「ぶちのめす!!」」

 

 永遠にも感じられた攻防。

 ずっとこうしていたい、けど決着の時は訪れる。

 言い訳はしない。確かに全力で頑張った。

 姉さんの時だって最後はくしゃみ一発で意識を刈り取られた。

 眠れる騎神、起こしたのは俺。

 助けたお姫様は獣になって人間を襲いましたってか。

 俺は地面に頭押さえつけられ、完全に動きを封じられた。

 

「強すぎじゃね」

「負けたらダメですよ。あなたがこの程度のはずがない」

「タキオンの奴、俺にかけてやんのwwwあいつ今頃焼き土下座の準備してるぞwww」

「酷いですね。あなたの勝利を信じてましたのに」

「サプライズはアレらのことか?」

「はい。直接見てもらうのが1番だと思ったので」

「いきなりカッコ悪所を見せちゃった」

「降参しますか?少し消化不良気味です」

「・・・なあ、アルダン」

「何ですか?」

「お前雷どうした」

「え?は、あれ?」

「かかったなぁ!詰めが甘いんじゃよ!おひめさまぁー!!!」

「そんな!きゃっ!」

「うっし!形勢逆転!」

「力が出ない!?まさかENドレイン」

 

 ちょっとづつ俺も進化してるのだよ。

 接触さえしていれば相手の覇気を吸収することが可能。

 俺を組み敷いている時間が長すぎた。

 会話をせずに10カウント取ったので私の勝ちと宣言すれば良かったのに。

 意識を完全に失わない限り最後まで何をするかわからん、それが俺です。

 ひっくり返して押さえつける。

 押し倒した感じになっているのは不可抗力です。

 アルダン、その期待を込めた視線をやめなさい!何もしませんから!

 

「タキオン~。見てるか?カウント取って」

「見えているとも良くやった!スリー、ツー、ワン、ゼロ!しゅーりょーう!カピバラ君の勝ちー!」

 

 撮影用のドローンと敷地内の至る所にあるカメラを駆使して生中継してたからな。

 研究所のそこかしこから歓声、悲鳴、怒号が聞こえる。知らね。

 

「油断大敵ですね」

「負けたのに嬉しそう。はい、立ってくださいよお嬢様」

「野外で初体験するかと思って期待しました////」

「何言ってんの!生中継されてるの知ってるだろ!ウォルターさんもいるんだぞ!」

「見せつけてやる気なのかと////」

「ヤダもう!シロもそうだったけどお嬢様ってドスケベなのか?」

「次の世代に優秀な遺伝子を残そうとするのは本能です」

「もっともらしいことをぬかしよる」

 

 エロいお嬢様を立たせる。

 お互いの損傷をチェック。出血はなし打ち身は少々、吸い取った覇気をアルダンにリリースする。

 ヒーリングもできるので俺が攻撃した箇所に手当してやる。

 

「私もそういうのができたらいいのに」

「これは操者の特権だからな。治療師も人間の方が多いんだろ」

「ヒーリングはウマ娘より人間の使い手が優れています。ですが例外もあることをお忘れなく」

「ウマ娘でも規格外の回復能力もちがいるのか」

「水の天級騎神がそうだったような」

「そうなのか!その人の覇気ならクロシロの体を元に戻せるかもな」

 

 ホントどこにおるんや?

 アルダンにヒーリングをけていると車からゾロゾロ人が降りてくる。

 ああ、やっぱりお前たちか。

 

「まったく再会してすぐこれですか」

「前にもまして面白いね~」

「お久しぶりです」

「やっぱあなた変」

「よお、元気にしていたか。マック、パーマー、ライアン、ドーベル。また会ったな」

 

 意外と早い再会だったな。

 ドレインするためにもう1度会えたらいいなと思っていたからちょうどいい。

 こいつらの頭を撫でたとき俺の覇気中枢に何かがハマる気がした。

 今思えばあれは無意識にドレインした覇気が俺の体に吸収されたサインだったんだな。

 

「ウォルターさん。ご依頼の件はこれでよろしかったでしょうか」

「見事なお手並み感服いたしました。メジロ家を代表してお礼申し上げます」

「こちらこそ感謝を。アルダンは最高のお嬢様でしたよ」

「やはりマックイーン様たちの目に狂いはなかった。あなたこそ真の操者です」

「やめてください持ち上げすぎです」

 

 向こうではアルダンたちが喋っている。

 

「みんな来てくれてありがとう。心配かけましたわね」

「姉さんもう大丈夫なの?」

「マサキさんのおかげでこの通り。力が有り余って仕方がないくらいです」

「何年もどうすることもできなかったのに」

「それを短期間で解決しちゃうとかやるね~」

「正確には出会って1時間たってないぐらいで解決しました」

「1時間!?マサキさんならと思いましたが、これは私も想定外のスピード解決ですわ」

「みんなマサキさんが今困っているのは知ってるかしら?」

「ウォルターから聞きました」

「愛バがピンチ」

「石になったとか」

「意味わかんない」

「あなたたちの覇気が必要なの。協力してくれるわよね」

「私は最初からそのつもりでしたわ」

「まあ適当にやっちゃてよ」

「姉さんの恩人なら喜んで」

「仕方ないわね」

「みんなありがとう。マサキさん!OK出ました!さあこの子たちを絞り上げてください!」

「「「「え!?ちょ」」」」

「まってましたぁー!覚悟しろ!思う存分撫でまわしてやるからな」

「まさか逃げたりしませんよね?」

 

 アルダンが展開したプラズマビュートが4人を拘束する。

 

「ウォルターさん?」

「ばば様もGOサインを出しております。今回の報酬としてお嬢様方の覇気を提供します」

「お許し出ちゃったね。ヒャッハー!メジロパーティーの開催じゃぁー!」

「「「「いやぁぁぁあああああああああ!!!!」」」」

 

 ( ´Д`)=3 フゥ大漁でござったな。

 ドレインを思う存分堪能したので満足です。これからも姉妹仲良くするんじゃぞ。

 

「凄い光景だな。メジロ家の至宝たちが手玉に取られているぞ」

「エルザムか。今回は流石のお前も出番がなかったな」

「今はただの料理人で通っている。トロンべの弟は伊達ではなかったというだけだ」

「気になるなら会いに行け」

「そのうちな」

「面倒な。老兵からの忠告だ、つまらん後悔だけはするな」

「肝に銘じておくよ」

 

【???】

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

「なんでなんでなんで」「これはひどい」

「こおひいのつぎが」「かったいれーしょん」

「そしてなんと」「まさかまさかの」

 

「めじろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 

「たいりょうだよ」「ふるこーすでしたね」

「なにやってるの」「なにやったらこうなるの」

「ありえないありえない」「こんなことあってはならない」

「いやだいやだいやだ」「ゆるせないゆるせない」

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

「もうがまんできん」「なにをするきですか」

「ここからでる」「やめとけ」

「それでいいの」「よくはない」

「とめないで」「とめねーよ」

「・・・・」「どうしたさっさといけ」

「とめてよ」「めんどくせー」

「いまでてもからだない」「しねんたいのままさまよってろ」

「わたしがでたらみちづれ」「まじやめろよ」

 

「はぁ・・・・・・」

 

「どうするのこれ」「たべますよ」

「どうせこんなもの」「くっそまずいにきまって」

「・・・・・」「・・・・・」

 

「うめぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええ」

 

「くやしいでもおいしい」「やってくれたなほんとうに」

「たべてやる」「むさぼってくれるわ」

 

「てんきゅうのやつさいこう」「おかあさまのやつさいこう」

「このあいだのにく」「あれもすごかった」

「でもやっぱりいちばんは」「きまっています」

 

「あのひとのはきがいちばん」

 

「きづいてる」「びりびりがきえたな」

「そうだねでも」「しつがあがってきた」               

「どんどんつよくなるよ」「さすがわたしの」

「わたしたちのね」「はいはい」

「うれしいね」「がんばってくれてます」

「もっとたべるぞ」「くってくいまくって」

 

「もういちどかならず」

 

 



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でりばりー

 メジロパーティーを堪能した。

 そのせいか愛バたちが発狂したような気がする。

 

「あいつらメジロ家を敵視し過ぎだ」

 

 タキオン、カフェ、アルダン、マック、パーマー、ライアン、ドーベル。

 テスラ研ではたくさんドレインできて満足です。

  

 研究所内を見学することにしたメジロ家御一行様と別れ、自室にて休憩中。

 テスラ研、タキオンの実験室横にある会議室兼物置。ここを俺の自室として使用している。

 U字型の長机に12脚の椅子と有機EL大型ディスプレイを備えた部屋。

 用途不明の機械類には「さわるな!」と張り紙されている。部屋の隅っこの簡易マットレスが俺の寝床。

 しっかり換気と掃除をしたので室内は清潔で思いのほか快適。

 今では用も無いのにみんな集まってくるたまり場と化している。

 

 次はどう動くべきか。自宅マンションに一旦帰ってみようか、冷蔵庫の中身が全滅していることだろうし。

 スマホから着信音が鳴る。誰だ?知らない番号、いつもなら無視するがなんとなく出てみる。

 

「突然のお電話失礼いたします。アンドウマサキさんの携帯端末で相違ないでしょうか?」

「はい、俺がアンドウマサキです。どなた様?」

「本人を確認。お久しぶりですマサキさん。ミホノブルボンです」

「おお!ボンさん。久しぶり~元気にしてたか?アルクオンのときは世話になったな、お礼を言う前に別れたから心配だったんだぞ」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。マスターから私のことは聞いてらっしゃいますか」

「もちろん。シュウの愛バなんだろう、2人の仲はどこまで進展してる?」

「外堀を埋め逃げ道を塞ぐ作戦を継続中です。結婚までのルートは確定したも同然かと」

「やりますねー!末永くお幸せに!」

「ありがとうございます。もう1人と相談しながら今後も頑張ります」

 

 シュウの愛バも2人か、写真でチラッと見たがどんな子だろう。

 

「マサキさん。今の現在位置はどちらでしょう?」

「テスラ・ライヒ研究所日本支部だけど」

「やはりマスターの予測は完璧でした。今ちょうどそちらへ向かっております、よろしければお会いしませんか」

「会いたい!是非お会いしましょうや」

「では、もうしばらくお待ちください」

「道中焦らずゆっくり気を付けてね。待ってるからな」

 

 ボンさんが来てくれる。本当にシュウには足を向けて寝れない。

 ただ待ってるだけじゃ落ち着かないな。

 おもてなしの準備でもするか、お菓子や飲み物はレーツェルさんに頼んでみるか。

 この部屋も軽く掃除しておこう。

 

「ご機嫌だねカピバラ君。何かいいことでもあったのかい」

「ノックぐらいしろや。女の子が今から来るんだよ、電話してすぐ会えるなんて俺はついてるな」

「電話で女性を呼んだのか。確かにここは自由に使ってくれと言ったが、ハメを外し過ぎじゃないかい」

「すまんの。でもこれはチャンスなんだ。できることは確実にやっておきたいんだ頼むよ」

「なんでメジロ家大集合した今日にするかなぁ・・・男性の衝動については理解してやりたいがね」

「???、マックたちにも紹介するか。みんなで仲良く遊ぶのもいいかもな」

「なんてことを言うんだ君は!みんなでするだと!正気なのか!」

「寂しいならお前も混ぜてやるよ。カフェにも聞いてみるか」

「これは去勢手術が必要かな。だが面白いwww早くみんなに知らせないとwww」

「何か誤解してない?話が噛み合ってない気が・・・あ、行っちゃった」

 

 ニヤニヤしながら走り去るタキオン。何だったんだ?

 お掃除終了。そろそろいいかな、1階の正面玄関口まで迎えに行こう。

 ちょうど検査が終了してゲートを通過した所に出くわす。

 

「おーいボンさん。こっちこっち」

「わざわざお出迎えありがとうございます」

「その節は俺たちを助けてくれてありがとう。今日も来てくれてありがとうだ」

「マスターのご友人は私の友人ですから、困った時はお互い様です」

 

 ちょっとサイズの大きい上着とパーカー、青地に水色の線模様が入ったスパッツ。

 私服かわええ!好き!

 やったぜ!もう1人いる。ボンさんの背に隠れるようにしてこちらを伺う小柄なウマ娘。

 

「それで、そちらのお嬢さんが」

「ライスさん。ご挨拶を」

「は、はいぃ!ライスシャワーです」

 

 なんだこのカワイイ生き物は。

 ガッチガチに緊張なされている。人見知りする子なのかな。

 美しい漆黒の毛並みに大きめの耳、長い前髪で右目が隠れている。メカクレ女子きた!

 主張し過ぎない程度の落ち着いた色合いの服装。裕福なお嬢様っぽい。

 今日は本物のお嬢様がいるけど負けてないね。

 怖がらせないように目線を合わせて優しく声をかける。

 

「アンドウマサキだ。緊張しなくていいよ、ほら、怖くないだろ?」

「はい・・・あったかくて優しい覇気。お兄さまの言ってた通りの人」

 

 ウマ娘、特に騎神は覇気から得られる情報に敏感だ。

 こちらの意思を伝えるのには言葉や態度よりも覇気に思いを乗せてやる方が有効な場合がある。

 思った通りライスは俺の覇気を読み取り少し緊張を解いてくれた。

 いける!と思ったので手を差し伸べてみる。小さな手で握り返してくれた、握手成功。

 顔を見て笑いかけると、ライスも微笑んでくれた。

 

「流石です。出会って5分以内にライスさんを落としました」

「ブルボンさん!失礼なこと言わないで、私そんなにチョロくないよ」

「仲が良くて結構。とりあえず移動しようぜ、ついてきなされ」

 

 シュウめ、なかなかいい趣味している。

 カワイイし実力も確かな2人を揃えたな。

 握手した時にわかったが、ライスシャワー強くね。

 潜在能力の桁がぶっ飛んでるぞ!今後の修練次第では大化けするかも。

 今まで出会った奴ら、これから出会う奴ら。

 みんな俺をもっとビックリさせておくれ、もちろんクロとシロにも期待大。

 

「シュウはまだラ・ギアスか。ごめんな2人とも、俺の愛バ(結晶体)に付きっきりにさせて」

「謝らないでください。マサキさんに覇気を提供した後、我々もラ・ギアスに向かいますので」

「それがいい。操者と愛バは一緒にいるべきだ。うん、そうだよな・・・」

「マサキさん・・・大丈夫だよ。愛バに操者の思いは必ず届くの、だからきっと」

「ありがとう。元気出していかないとな。2人とも覇気の提供をよろしく頼む」

「はい。重要任務として認識します」

「ライスも頑張るね」

 

 談笑しながら自室である会議室に到着。

 扉を開けるとなぜかみんないる。タキオンとカフェ、ウォルターさん、レーツェルさん、メジロのお嬢様ズ。

 妙な圧にライスがビビったので背後に庇う。俺もボンさんも頭に???だ。

 

「勢揃いして何してんの?」

「マサキさん、その方たちが電話1本で呼び寄せた」

「アルダン顔怖いぞ。そうだ俺のためにわざわざ来てくれたんだ。どうだカワイイだろ?」

「少し幻滅しました。あの子も中指を立てて睨んでますよ」

「待つのだトロンべよ。若い男としてはむしろ健全だ」

「マサキさん嘘だと言ってくださいまし」

「しょーがないよね。男の子だもん」

「うーん理解してあげた方がいいのかな」

「最低!不潔!女の敵!」

 

 やれやれといった表情のウォルターさんに視線を送る。

 

 (どういうことですか?)

 (皆様、なにか勘違いをなされているご様子)

 (なにもしてないのですが)

 (存じております。ですがお嬢様たちの誤解を解くのは少々面倒かと)

  

 この状況を作り出したのは犯人は。

 

「お前か変態科学者。みんなに何を吹き込んだ言え!」

「私は真実を述べただけさ。カピバラ君がデリバリーヘルスを頼んだと」

「ブッ!?」

「???」

「ふぁー!?」

 

 俺驚愕!ボンさんよくわかってない!ライス変な悲鳴www。

 

「ふざけんなぁ!ここに俺がデリヘル呼んだってか!バカじゃねぇの!」

「バカは君だろこのエロカピバラが!」

「この反応・・・マサキさんは無実?」

「ああなんてことでしょう。私たちが来た日にそのような暴挙に出るなんて」

「見られると興奮するとか?」

「わわ、そんな」

「男って!男って!」

「弟がこのザマではトロンべは切腹するかもしれん」

 

 ダメだ、反論するとそれ以上の罵声を浴びせられる。カフェは違和感に気づき始めているみたいだか。

 ここでアルダンが机をバンッ!と叩き壊す。壊しちゃったよ、ひび割れぐらいにしとけよ。

 

「どうしてなんですか」

「ア、アルダン?」

「どうして!そんな売女なんかにー!!!」

「「売女!?」」

「勘違いだ!2人に失礼過ぎだろ!」

「言ってくださればいつでもお相手しましたのに!!恩人の頼みとあればうまぴょいの1度や2度はやってみせます!むしろ望む所です!!!」

「おーい、その辺にしとけ。正気に戻った時に苦しむのはお前やぞ」

「殿方の性衝動を甘く見た私にも落ち度があります。メジロ家の名にかけてあなたを正しい道に戻してあげますからね」

「全力でコースアウトしているお前が言うな」

「というわけで、皆さん申し訳ないのですが。マサキさんと2人っきりにさせてください」

「ヤダ!この子結構バカだったのね」

「30分・・・いや1時間ください。頑張りましょうねマサキさん////」

「頑張らねーよバーカ」

「お待ちになってください!」

「そうだマック言ってやれ!このドスケベに言ってやって!!」

「後学のために私も参加してよろしいでしょうか」

「お前もかよぉ!お嬢様こんなんバッカやんけ!」

「マックイーン、あなたならそう言ってくれると思いました。3人で頑張りましょう」

「はい。マサキさんよろしくお願いします////」

「おい、パー子何とかしろ」

「あー聞こえない聞こえない」

「ライアン」

「ふ、2人ともまだ早いよそんな・・・あわわわわ」

「ドーベル」

「そうやって私も手籠めにする気ね!やれるもんならやってみなさいよ!このクズ!////」

 

 もう収集がつかねぇ。

 アルダンとマックはもうダメだぁ。

 パー子は無関係だと自己防衛に入った。ライアンは純真すぎてパニック。

 ドーベル・・・君、喜んでない?実はノリノリだろ。

 

 (メジロ家の未来大丈夫っスか?)

 (お嬢様たちの幸せが私どもの幸せでございます)

 (それなら仕方ないって顔するのやめてくれませんか)

 

 メジロ家とサトノ家が張り合う理由がわかった。

 こいつら根っ子の部分のキチガイっぷりがそっくりだ。似た者同士、同族嫌悪。

 こういう無法地帯を創り出す能力がどちらの家にも備わっているから質が悪い。

 笑うしかねぇwww

 

「皆さん落ち着いてください。マサキさんは悪くありません」

「ボンさん!弁護を頼むよ」

「マサキさんに体を許す(ドレインされる)ことを決めたのは私の意思であって強制ではありません」

「言い方ぁ!!!」

「私の初めて(ドレイン)を捧げるために参上したのです」

「ねぇワザと言ってる?そんなに俺を追い詰めたいの」

「ライスも頑張るよ。お兄さまが言ってたの、マサキさんは経験豊富なテクニシャンだって。今までたくさんの騎神の初めてをもらってきたんだよ」

「お願いもう黙ってくれる」

 

 援護射撃してくれるのかと思ったのに背中を撃たれた。

 シュウには後で鬼クレームを入れます。

 言葉って難しいよね。表現方法ミスっただけでご覧のありさまだよ。

 

「随分と面白いことをほざきますね。詳しくお聞きしたいです」(#^ω^)ピキピキ

「アルダン雷出すのやめーや」

「か、雷。それはダメです。尻尾、尻尾を取られてしまう」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

「しっかりしてブルボンさん。取られるのは尻尾じゃなくて命になりそうだよ」

 

 プルプル震えてるボンさんに庇護欲が刺激されます。

 雷苦手なのか悪いことしたな。

 ボンさんとライスを下がらせる。2人を庇う俺を見てアルダンがキレそうになってる。

 困ったときは親の七光りで行こうか。

  

「みんなー注目!今から天級騎神の覇気を見せるよ~しかも3人分!」

「カピバラ君・・・ついに頭が」

「酷いですタキオンさん!マサキさんの食事に何か盛りましたね!」

「これはいけない!私が一生お傍で看病しないと!」

「メジロ家には優秀なカウンセラーもおります。サトノ家のことはもう忘れてうちで暮らしましょう」

「あはははwww天www級wwww」

「笑っちゃダメだよパーマー、心の病気は大変なんだから」

「こうなってしまうと哀れね」

 

 こいつら舐めやがって!ばば様から何も聞いてないのか?

 状況を察したウォルターさんとレーツェルさんはさり気なく壁際に移動。

 ボンさんとライスもちょっと後退。知ってるのはこれだけか。

 天級の腕輪に覇気を通す。輝き溢れ出すのはこの世の理を超えた規格外の覇気。

 俺をメンヘラ認定した連中が固まる。頭が高けぇーんだよ控えおろう。

 よーし静かになったな。

 

「やっと落ち着いたか。ボンさん、ライス、適当に座ってくつろいでよ。レーツェルさんお茶とお菓子の準備を手伝ってくれますか?」

「承知した」

「お手伝いします」

「ラ、ライスも」

「お客さんなのにすまんな。じゃあ一緒に行こう」

 

 食堂へ向かう途中、会議室から「今のなんですのー!」とマックが叫んでいるのが聞こえた。

 説明はウォルターさんがしてくれるだろう。

 精神が早熟で大人びだウマ娘は多いけど、小中学生相手に下ネタで揉めるの成人としてどうなん。

 

 ・・・・・・

 

「はい終了。ありがとうボンさん。みんな拍手―!」

「お役に立てれば幸いです」

 

 ボンさんの覇気ゲット。

 周囲からパチパチパチと拍手されて少し照れるボンさん。

 デリヘル疑惑が払拭された後、みんなでティータイム。

 一息ついた所で自己紹介とドレインを並行して行っている最中。

 

「次行ってみよう!おいでなさい」

「は、はい!」

 

 俺の前にびくびくしながらやって来るメカクレ女子。

 会議室に集まった皆の視線に晒され緊張しているな。頑張ってみんな味方よ。

 

「お兄さま、シラカワシュウの愛バ。烈級騎神ライスシャワーでしゅ!あ」

「ちょっと噛んだけど可愛いので許しましゅ!」

「ライスさんファイトでしゅ!」

「ひぃぃー!やめてくださいー!」

 

 ボンさんと2人で弄ったら泣きそうになったのでこれ以上はいけない!

 

「ライスシャワー?その風貌・・・あなたがあの凶鳥ですの?」

「ほう。良きトロンべかと思えばそういうことか」

「えっと・・・」

「何?何のこと?」

「後ほど説明します。無暗に吹聴するのは控えていただきたいのですが」

「バニシングトルーパーには御三家だけじゃなくテスラ研も関わっている。ここにいる全員は賢い選択ができる者ばかりだ、安心したまえ」

 

 訳ありですか?ここはライスが話してくれるまで待つのが吉とみた。

 バニシングトルーパーは初耳、凶鳥ってのはどこかで聞いたような。

 それと・・・。

 

「今、御三家って言った?もう1つヤバい一族がいるだと!・・・やめてよね」

「彼女らはメジロ家やサトノ家ほど目立った動きはしていない」

「おこぼれや漁夫の利を狙っている感はある、したたかな連中ってイメージ」

「メジロ家には全然劣る、けどその力はスルーしていい物じゃなし、独自の戦力やテクノロジーも侮れない」

「メジロ家とサトノ家が衰退、もしくは共倒れするのを待っておるやもしれません」

「第三勢力(゚∀゚)キタコレ!!」 

「あの人たち、変わった神様にお祈りしてる」

「宗教やってんのか?三女神信仰?」

「それとは別の神です。アレをを神と言っていいのわかりかねますが」

「パーマー、あなは次期頭首に会ったことがありましたわね」

「モーちゃんのこと?一緒にサッカーやったな~。リフティングがすっごく上手だったよ」

「もういいでしょ、ライスのドレイン始めるよ~」

「お、お願いします」

 

 気にはなるが後だ後、ドレインをしっかりしないとね。

 ライスの緊張をほぐすために頭を優しく撫でる。俺の撫でスキルもレベルがどんどんあがるぜ。

 

「毎回アレやらないとダメなのかな?」

「本人の趣味でしょ、いやらしい」

 

 外野うるさい、そうだよ!役得だよ!

 

 順調にドレインできてる。覇気の質もいいしクロシロも喜ぶだろう。

 ちょっと気になったので右目にかかった前髪を掻き上げてみる。

 ひょっ!あ・・・なんてことだ・・・。

 瞳の色が右と左で違う、その特徴に本当なら大喜びする所なのだが。

 ライスにだけ意志が伝わるように目線会話。

 

 (オッドアイ・・・)

 (義眼なんです・・・ごめんなさい見苦しいよね)

 (そんなわけあるか!すっごく綺麗でカッコイイ!好き!・・・ってごめん、茶化していい訳ないよな)

 (お兄さまが造ってくれた宝物なの。前よりずっと良く見えるし、ライスこの右目が好きだよ)

 (シュウは良い仕事をしたな。冗談抜きで本当に綺麗だ似合ってる)

 (ありがとう。マサキさんはとっても優しいね)

 (ビームもしくはレーザーが出たりする?)

 (さあ?どうかな)

 (え、え?どっちよ?超見てぇ!)

 

 左目は淡い紫色、右目の義眼は綺麗な黄金色。これモデルしたのネオさんの目やん。

 あー確かにライスとネオさん纏う覇気とかが似ているかも。

 子供の頃のネオさんってこんな感じだったのかもな。

 シュウめ!かつて俺をマザコン呼ばわりした癖に!お前も大概じゃねーか。

 ライス連れて行ったらネオさん絶対喜ぶわー目に浮かぶわー。

 

「無事完了!よく頑張りました。みんな拍手」

「良かったぁ~。ちゃんとやれたよ」

「ライスさんお疲れさまでした」

 

 ドレイン完了。

 ちょっと休憩しよ、このコーヒーはカフェが入れたな香りが違う!

 

「いい香り~そして美味い。コンビニコーヒーで満足してたのに、舌が肥えちゃう」

「トロンべのオリジナルブレンドだ。褒めてやってくれ」

「褒めても何も出ません。おかわりありますよマサキさん」

「もらう~カフェ好き」

「はいはい」

 

 カフェが入れたコーヒーが美味かったから契約したと言ったレーツェルさん。

 最初冗談かと思ったがこのできばえなら納得してしまうかも。

 この2人の距離感、嫌いじゃないわ。俺とクロシロはべったりしたい派ですけどね。

 結構いろんな子に好き好き言ってしまってすまんな・・・軽く躱されるとなんかゾクゾクします。

 

「おーいアルダン、いつまでそうしてるんだ」

「ころして・・・ころして・・・」

「ダメみたいだね」

「戦犯のお前はもう立ち直ったんだ」

「私は最初からカピバラ君を信じていたよ」( ー`дー´)キリッ

「どの口が言うのか」

 

 興奮して醜態を晒したアルダンは正気に戻ってからずっとあのままだ。

 部屋の隅で体育座りをして顔を伏せている。ブツブツ不穏な言葉を呟いている姿に悲哀を感じる。

 羞恥心で死にそうになってるな。精神耐性持ちなのかマックはケロッとしている。

 俺を追い詰めた元凶のタキオンは全く気にしていないのが腹立つ!

 クスハ汁(死んでも健康になりたい狂人用)をいつか飲ます!!!

 

「コーヒー飲む?紅茶の方がいいかな」

「・・・ちがうんです・・・ちがうんです・・・」

「レーツェルさんが作ったお菓子もあるよ」

「嫌いになりました?」

「そんなことない。ドスケベお嬢様いいと思います」

「ドスケベって言わないでください~」

「もうバレちゃってるから大丈夫。ほら見てごらん、みんなの生温かい眼差しを」

「憐れみと蔑みを感じます・・・妹たちの前で私はなんてことを」

「俺の愛バたちもちょっとおバカでスケベなんだ。それでもカワイイと思ってるぞ」

「私のこともそう思ってくれます?」

「ああ、ドスケベかわいいぞ」

「だからやめてくださいってば!!!」

「アルダンあなたがどんなにドスケベでも、大事なメジロ家の家族ですわ」

「欲求不満だったからしょうがないよドスケベなのはwww」

「そうだよ姉さん!ドスケベでもいいって私の上腕二頭筋も言ってる」

「姉さんは姉さんよ、例えマサキがちょっと引くぐらいドスケベでも」

「生まれて初めてあなたたちにムカつきました。特にマックイーン!あなたにだけは言われたくない!」

「「「「なんで!?」」」」

 

 仲がいいな、クロとシロもアホなことで度々ケンカしていた。微笑ましい。

 

「たまには姉妹ゲンカも必要かもな」

「マサキ様・・・改めて感謝いたします。お嬢様たちがあのような姿を誰が想像できたでしょう」

「なんかすみません。俺のバカがうつりましたかね」

「私を含めお嬢様たちを慕う者は大勢います。ですが我々ではあの笑顔は引き出せなかった。あなただからできた」

「アルダンは不気味な笑みを浮かべて、他の4人は引きつってますけど?」

「それでもいいのです。もっといろんな喜怒哀楽を体験していただきたい、その1つ1つがお嬢様たちの成長に繋がるのですから」

「そういうもんですか」

 

 男はちょっとバカぐらいがいいって母さんが言ってた。

 女だってそうだと俺は思う。クロシロのおバカな所も大好きだからな。

 たまにやり過ぎて大変な目に合うけど。

 

 アルダンも復帰したのでここからは。

 

「質問タイム!御三家とは何ぞや!教えてくれる人挙手!」

「はい!」

「アルダンさんどうぞ!」

「御三家とはメジロ家、サトノ家、ファイン家の3つの指します」

「ファイン家?聞いたことがない俺はダメな子ですか」

「そんなことありません。ファイン家は表舞台に出るのを嫌がる傾向にある一族だったのですから」

「だった?」

「数年前から動きが活発になっております。こちらに干渉する気はないようなので放置しておりますが」

 

 アルダンとウォルターさんが答えてくれる。

 マックたちも頷いているのでその通りなんだろう。勉強になるな。

 

「現状の力関係はどんな感じ?」

「メジロ家>>>サトノ家>>>ファイン家>>>その他有象無象、でしょうか」

「自惚れではなく総合能力ではメジロ家の1人勝ちです」

「しかし~」

「サトノ家は最近勢力が衰えております。ファイン家がそこにつけ込み第2位の座を奪うと予測している者もおります」

「次期頭首が無機物、パパさんとママさんも娘たちが心配だろうし、求心力が無くなって力の拡大どころじゃない。詰んだか・・・俺のせいだぁー!」

「それは違います。あなたがいなければ今頃サトノ家はメジロ家に吸収合併されていますわ」

「そうだよ。マサキを手に入れたことで首の皮一枚繋がった感じなの」

「あなたがサトノ家の子たちと契約した。これは御三家を揺るがす大事件だったのですよ」

「覇気の大量放出で尻尾がピーンとしてから、どれだけの人員があなたを探したことか」

「すでに手遅れだったけどね~。ファイン家もきっと悔しがってるよ」

 

 俺の知らない所で事が進んでいる・・・恐ろしや~。

 

「ファイン家は要注意か?」

「正直わかりません。向こうの考えが読めない、敵味方の判断を下すのは早計かと」

「わかった。直接会った時に考える。メジロ家とサトノ家は今後も争ったりするのか?」

「今はサトノ家の子たちがあの状態ですから。あなたのこともありますし、武力衝突等、過激な行動には出ないと誓いましょう」

「ケンカ友達、良きライバルって感じだからね。消えてもらうのもそれはそれで困る」

「吸収合併しても完全にお取り潰しとはならないでしょう」

 

 器が広い!少しは見習ってもいいんじゃないのかい、クロシロよ。

 ファイン家のことは心の片隅に記憶、メジロVSサトノは今のとこ休戦。

 

「次!えーといいのかな・・・凶鳥と言うのは・・・」

「ライスさん・・・」

「いいんだよブルボンさん」

「言いたくないなら無理すんなよ」

「知らないのはカピバラ君だけだよ」

「うそ!みんな知ってるの?俺だけ仲間外れはいやー!」

「ヒュッケバインのこと、ちゃんと話すから安心してね」

 

 PT(パーソナルトルーパー)AMとは別規格のフレームで組み上げられた起動兵器。

 AMは無人機が主流、リオンシリーズやビアン博士のヴァルシオンがコレ。

 PTはパワードスーツタイプの有人機が主流、ゲシュペンスト、シュッツバルト、ビルトシリーズがあるのよ。

 両方とも騎神の武装に転化流用可能。

 

 ロボ、パワードスーツ、武器ってな感じ。

 

 武器の使い手がいねぇ、これ騎神でも無理だろ、人命を気にしたくない→ロボにしますか。

 人間に装着させたい、一般人でも騎神に勝ちたい、→パワードスーツ。

 ロボが壊れた、作るのめんどい→そうだ武器にしよう。

 

 ヒュッケバイン

 ゲシュペンストに代わる新たな主力PTとして期待されていた本機。

 新技術ブラックホールエンジンを採用し、起動実験はAIを組み込んだ無人機仕様で行われた

 しかし、起動実験の最中に暴走事故を引き起こし実験施設を巻き込んで消滅。

 生存者は開発者の博士とその場に居合わせた少女2名、合計わずか3名の大惨事となった。

 

「生存者の1人がライスなの。右目はその時の事故で・・・」

「それだけではありません。当時の人々は事故の責任と怒りの矛先を生存者に向けた」

「まったく嘆かわしいことだよ。ハミル博士やライス君たちは最後まで人員の避難と暴走を止めるために尽力したというのに」

「消滅事故を起こしたヒュッケバインはバニシングトルーパーと呼ばれるようになり、後続機や量産機もあるにはあるがイマイチ人気がない。サトノ家は好んで使っているみたいだが」

「ヒュッケの別名が凶鳥ってのもマズかったよね。不吉の象徴だって言われちゃってさ」

「凶鳥が生存者を揶揄する言葉として定着したのは誠に遺憾です」

「申し訳ございませんライスさん。あなたのお気持ちを考えずに私は」

「気にしないでマックイーンさん。今では結構気に入っているんだから」

 

 祝福の名ライスシャワーと名付けられた少女は、不幸を呼ぶ凶鳥として蔑まれた。

 

「え・・・マサキさん?」

「よしよしヾ(・ω・`)」

「どうしたの?」

 

 最悪で怖くて苦しい目にたくさんあってきたのだろう。

 この子の苦労を思うだけで何もしてやれない、泣きそう。

 聡いライスには俺の感情が覇気から伝わったことだろう・・・本当に頑張ったな泣いてもいいのよ。

 

「ライスいっぱい泣いたよ。もう大丈夫だから、ライスを必要としてくれる人たちがいるってわかっているから」

「ならば良し!困ったことがあればシュウに全てぶつけろ、アイツならなんとかしてくれる」

「お兄さまと同じことを言うんだね」

「シュウがダメそうなら俺でもいいぞ」

「ありがとう。えへへ、マサキさんはもう1人のお兄さまだね」

「お兄さま!?なんという心地良い響きだ・・・これが妹属性のパワーか」

「カピバラお兄ちゃん!人体実験に付き合って!ご飯毎日作って食べさせて!!」

「雑草でも食ってろ」

「最近のカピバラ君は余りに反抗的だと思わないかいカフェ?」

「自業自得です」

「ンンンンンンンンンンンッ!ダメかぁ~!」

 

 変態がウザかったのでライスを見て心を浄化しよう。

 

 ブラックホールエンジンに欠陥があったかどうかは現在も調査中。

 ただエンジンの素体となった物質は外部から持ち込まれ出所不明、事故の直前にファイン家から中止要請が入る。事故の規模に対し死者行方不明者数が少な過ぎる(それでも三桁弱)など人為的なものを感じるのだとか。

 

 これもう母さんたちに出てきてもらった方がいいのではなかろうか。

 姉さんのこと、アルダンのこと、ライスのこと、何かが蠢いてやがるのですかねぇ。

 どこの誰だか知らんけど、俺の前に現れてみろ母さんに言いつけてやる(これが最適解)

 

 



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りゅうこ

【???】

 

( ´Д`)=3 フゥ ゲップ(*´3`)-з

 

「めじろざんまい」「たべつくしてやりました」

「おいしかったね」「・・・そうですね」

「いつかおれいしないと」「きかいがあれば」

「なかよくする?」「かんがえておきます」

            

「したがこえた」「ぐるめきどりか」

「でざーとだべたい」「むちゃいわないでください」

「つぎがたのしみ」「きたいしておきますか」

 

「なんかきたよ」「このはきどこかで」

「ぼんさん!」「そうそうぶるぼんさん」

「まだくるよ」「ありがたいことです」

「ぼんさんのおかしのあじする」「あまーい!こっちのはどうかな」   

「ぱんのあじがするはくまい?」「なんだこれwwwでもすきかも」      

 

「はやくでたい」「あいたいです」

「いっぱいまーきんぐして」「めちゃくちゃあまえたいです」

「ひとりじめ・・・」「わたしだけのものに・・・」

「・・・・」「・・・・」

「あ?だーとにうめるぞこら!」「せんそうするか?お?」

          

 ( っ・∀・)≡⊃ ゚∀゚)・∵.

 

【テスラ研会議室】

 

「カピバラ君はここを出たらどうするつもりだい」

「とりあえず、自宅に一度戻ってみるつもりだ」

「ついででいいから一つ頼まれごとをしてくれないかい?」

「金ならかさねーぞ」

「君に集るほど落ちぶれてないよ。話だけでもきいてくれ」

 

 会議室兼自室にて皆の話が終わった後、駄弁っているとタキオンが話しかけてきた。

 ウマ娘たちは仲良く談笑中。ウォルターさんとレーツェルさんも積もる話があるようだ。

 タキオンの頼み・・・怪しい薬品の取引して来いとかじゃないよな。

 

「私個人ではなくテスラ研からの依頼と思ってくれていい」

「まあ世話にはなったしな。いいよ、言ってみな」

 

 タキオンがリモコンを操作して備え付けの大画面に何かの画像を映す。

 

「まずはこいつを見てくれどう思う?」

「すごく大きいです」

「やらないか?」

「やらないぞ」

「「アッーwww!!」」

「そこのバカ2人、ガチホモごっこはやめなさい」

 

 カフェに怒られちゃった。

 とりあえずタキオンとハイタッチ。

 

「これは何だ?何かの残骸?」

「テスラ研中国支部で回収された古代兵器だよ」

「骨?と機械と・・・ごめんよくわからん。これのどこが兵器だよ」

「それが回収された直後の画像、そしてこれが1ヵ月後だ」

「うぉ!こいつは・・・龍と虎か」

 

 1枚目は化石みたいに朽ち果てた骨と機械っぽい何か。

 2枚目は青い体をもつ翼の生えた龍、白い体に鋭い爪と牙の虎。

 

「1ヵ月前はガラクタ同然だった彼らは、周囲の機械部品と覇気を吸収し自己再生したのさ」

「なにそれ凄い、まるで生きているみたいだ」

「みたいじゃない、彼らは生きているよ。調査した者の話では個別の意識や感情を持っている素振りすら見せたとか」

「体躯を構成する2割以上が生体部品の半生体兵器。こちらへ移送されるはずだったのでは?」

「おや報告書を読んで無いのかいカフェ。その予定は無期限延期されたよ」

「また報告書に飲み物こぼして捨てたんでしょ。重要書類はちゃんと回してくださいよ」

「そ、そんなこともあったような。まあとにかくこの2体が中国支部から脱走してね」

「アカンやろ。それはいつの話だ」

「3ヵ月以上前の話だ。脱走してから中国各地で目撃情報が相次いでしまって向こうはてんてこ舞いだよ」

「それを俺にどうしろと」

「まあ待ちたまえ、次はこの映像だ」

 

 映し出されたのは1ヵ月前のニュース。

 とある国の豪華客船が日本近海で沈没する事故があったのだが、乗員乗客の全員が奇跡的に無事だったのだ。

 このニュースが何か?まさか船を襲ったのか。

 

「救助された者の話では皆を救ったのは龍と虎だったそうだよ」

「すごくいい奴らだった」

「龍は人をその背に乗せて陸地まで飛び、虎は船に残った人を避難させたそうだ。全員助かるまで何度も何度も繰り返してな」

「いい話じゃない」

「この2体のすごい所は人語を理解し、優先順位をつけ子供と老人から救出、ケガ人には覇気のヒーリングまで施したそうだ」

「とっても優秀で感心するわ、でもそんないい奴らがなぜ脱走を?」

「この2体は自立起動兵器だが駆動燃料に覇気を必要とする。ここで質問だ!君が戦った羅刹機と君の愛バたちはなぜサトノ家を脱走したのかな?」

「俺を探して・・・こいつらも同じか!」

 

 この龍と虎は自分の主人を探しているのか、自分好みの覇気を持っている何者かを。

 

「日本に上陸したまでは確認した。その後の消息は不明だ」

「それを俺の覇気で釣れってか?」

「どこにいるかわかるだけでもいい、もしかしたらもう自分のパートナーを見つけているかもしれないし」

「わかった。見つけたら連絡するでいいな」

「助かるよ。話ができるようならこちらに来てくれるよう説得してみてくれ」

「生体兵器の説得か、また妙な案件を」

「もちろん覇気の回収をを優先してくれてかまわない。ついでだよついで」

「了解~」

 

 強い覇気を持っている奴を探している俺と目的が被ってる。

 なんとなくシンパシーを感じてしまった。

 

 次の目的

 自宅マンションを目指して移動。道中で覇気が回収できる相手を探す。

 龍と虎を見つけたらテスラ研に連絡。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 皆でいるのも楽しいがやるべき事がある。別れの時は必然的に訪れる。

 テスラ研の正門前、まずはウォルターさんとアルダンを除いたお嬢様ズがお帰りになるそうだ。

 

「また会えて嬉しかったぞ。今度はお互いもっと成長してからだな」

「ご期待に沿えるよう努力いたしますわ」

「次はもっと遊ぼうね~約束」

「筋肉は裏切りません。筋トレちゃんとしてくださいよ」

「精々気を付けることね。アンタは変なのに好かれるみたいだから」

「もう!お前たちったら!」

 

 全員まとめてハグしやる。全然嫌がられないそれだけで嬉しいです!

 

「この度の件、メジロ家一同そしてばば様もお喜びになるでしょう。更なるご活躍をお祈りしております」

「ウォルターさんもお元気で」

 

 車が見えなくなるまで手を振って見送った。またな~。

 そして・・・

 

「タキオン、世話になったな。実験し過ぎて心まで失うなよ」

「その忠告はありがたく受け取っておくよ。何かあったら力になろう連絡待ってるよ」

「カフェ、美味いコーヒーありがとうな。また会おう、あの子にもよろしく」

「はい。お元気で」

「レーツェルさん、今度また何かレシピを教えて下さい。それと姉さんによろしく」

「くれぐれも用心することだ。トロンべに心配かけてはいけないぞ」

「アルダン」

「・・・っ!」

「ぐぇ!」

 

 いきなり抱きつかれたので嬉しいそして苦しい!またブリーカーかよ!

 

「良かったのか,メジロ家に戻らなくて」

「妹たちとウォルターに直接、ばば様や両親には連絡しました。私は自分の生き方を見つけましたから」

「これからはもっと人生楽しめよ。もったいないからな」

「本当なら私もついて行きたいです。でも邪魔はしたくありません」

「これは俺の使命だからな。まあ見てろ、絶対にあいつらを取り戻す」

「その子たちを紹介してくださいね。約束ですよ」

「おう約束だ」

「マサキさん・・・私の命の恩人」

「そんな大層なもんじゃない」

「助けてくれてありがとう」

「こちらこそ、お前を助けることができて嬉しいよ」

 

 最高に眩しい笑顔のアルダンを見れて良かった。

 「この力大事にしますね」と言って雷を手の平に出現させるアルダン。

 完全に制御してるし、もうお前のものだよそれは。

 

「じゃあ行こうか。ボンさん、ライス」

「了解しました」

「はい。みんなありがとう、またね」

 

 みんなに見送られてテスラ研を後にする。アルダンちょっと泣いてたな。

 お別れタイムはまだ続く、駅まではあっと言う間だ。

 

「シュウによろしくな。後、母さんたちとクロとシロにも」

「はい。マスター及びご家族の方々に会えるのが楽しみです」

「ちょっと緊張しちゃうかも。しっかりしないとダメだよね」

「母さんたちはぶっ飛んでるがいい人だから心配ない」

「マサキさん。お気を付けて、何かトラブルの気配がします」

「やめろよ。ボンさんに言われると怖いよ」

「でも本当に注意してね。マサキさんは誰に狙われてもおかしくないから」

「ライスまで・・・」

 

 電車に乗った2人を駅のホームで見送る。

 さあ、また1人だ、寂しいです!

 

 クロ、シロ、お前たちに会いたいよ。

 

【テスラ研】マサキが去ってしばらく

 

「創設者が久しぶりに来てやったというのに出迎えも無しか」

「これはこれはビアン博士、ラ・ギアスに向かったのでは?」

「必要な機材を取りに寄っただけだ。小僧と入れ違いになるとはな」

「おやカピバラ君にご用がおありで?」

「カピバラなんぞ知らん!ダブルGの3号機、あれを小僧用に調整してやろと思ったが・・・興が醒めたな」

「カピバラ君と姫の戦闘記録ならありますよ」

「わかったぞ!カピバラとは小僧のことだな」

「おっそwww」

「姫とはメジロの爆弾娘か?ふん、小僧が役に立ったか」

「はい。見事に私を救ってくださいました」

 

 タキオンとビアンがいる研究室にアルダンが入って来た。

 そんな彼女を見てビアンは思う、変わったと。これがあの引きこもり爆弾娘と同一人物か。

 小僧め一体なにをやらかした。

 

「初めましてではないですよね、メジロアルダンです」

「そうだな。ここに来た頃のお前は周りを気にする余裕はなかったからな」

「先程のお話、ダブルGジンライをマサキさん用に改修なさるおつもりですか?」

「そのつもりだったがな」

「その気はないと・・・でしたらそのダブルGを私にくださいませんか」

「姫、これはまた言うようになったね」

「お前が?ダイナミックゼネラルガーディアンを継ぐとでも」

「はい。その力も覚悟も証明してみせます」

 

 アルダンが覇気を開放する。

 マサキのバーストモードのように粒子が部屋中に散らばり、やがてそれは青白い雷を纏う。

 背中から覇気が噴出して雷翼を形成する。

 

「これでもかなり抑えています。本気が見たければ屋外でないと」

「もう十分だ。わかったからその鬱陶しい雷をしまえ」

「鬱陶しい・・・酷いです。マサキさんからいただいた宝物なのに」

 

 小僧からもらっただと?いつからあいつは雷を出せるようになった。

 これでは前に取ったデータなどクソの役にも立たんではないか、ええい!

 

「興味深いですよね~。カピバラ君の周囲は研究テーマの宝庫ですよ」

「そんなもの、言われずともわかっておるわ!」

「メジロアルダンだったな」

「はい」

「いいだろう。3号機はお前のものだ、大口を叩いただけの結果を見せてもらおう」

「ありがとうございます。それと提案があるのですけど」

「何だ?」

「ジンライを私の武装に転化するに当たって新しい名前をつけてあげたいのです」

「その様子だと、既に決まっているのだな」

「もちろんです」

 

 マサキさんは死を待つだけの私を救ってくれた。ジンライは己の使命を最後まで全うした。

 彼らの魂に報いるのだ、次はきっと私の番だから。

 命の恩人たち、その力は私に受け継がれる。

 

 雷(いかずち)の鳳(おおとり)となって。

 

「雷鳳(ライオウ)でお願いします」

 

 

【どこかの海岸】

 

「フンフンフン~ン♪」

 

 早朝の砂浜をご機嫌な様子で歩くウマ娘がいた。

 動きやすい服装の少女は顔に目の周り隠すレスラーがするようなマスクを着けている。

 彼女は1人ではなかった。2体のお供を引き連れての散歩中だ。

 

「ずっと家に閉じこもってばかりなのは不健康デース!お前たちもそう思いますよネ」

「ガゥ」

「キュ~」

 

 同意を求めたウマ娘に対して2体は困ったような鳴き声を上げる。

 2体の体は大きい、1体はゆったりとした羽ばたきで空を浮遊し、もう1体は砂浜の感触に戸惑いながらも悠然と歩みを進める。

 

「嬉しくないんデスカ?あ、グラスに怒られると心配してるのデスネ」

 

 その通りだと言わんばかりに首を縦に振る2体。

 

「でかい図体の割に肝が小さいデースwwwそれでも四神デスカ」

「グゥ?」

「キュッキュッ?」

「慎重になるグラスの気持ちもわかりマス。ですが私は早く世間にお前たちをお披露目したいデス」

「???」

「???」

「初めてお前たちに会った時はワタシも驚きマシタ、いや腰がぬけましたネ!」

「!?!?」

「・・・・キュ!」

「ですがそれも過去の話!ただの空飛ぶ蛇と大きい猫を散歩させている私に不自然な点はありマセン。いずれはコソコソ隠れずに大手を振って自由に外を歩けるようにしてあげマス」

「ガゥガゥガゥ!!」

「・・・キュオーン」

 

 振り返らずに喋り続けるウマ娘は気づかない。

 2体が何かに反応し、虎の制止を振り切り龍が何処かへ飛び去ったのを。

 ウマ娘の話は脱線し親友の愚痴から自分最強伝説へと移行した。

 

「・・・であってワタシが世界最強ということで?ビャッコ、セイリュウはどこデスカ?」

「ガウゥゥ」

 

 おせーよ!今気づいたのかよ!と抗議の唸り声を上げる。

 

「ハハ・・・冗談はやめてクダサイ」

「・・・・」

「い、嫌っー!殺されるぅ!グラスに殺されマースッ!どこへいったんデスカ!帰ってきてクダサーイ!」

「グルル」

「カムバック!セイリュウ~!!!!」

 

 発狂する主を前に白虎はやれやれと首を振った。

 

【マサキ】 

 

「何か懐かしい」

 

 自宅マンションに帰れる前に寄ってみたのはアルクオンと戦ったコンテナだらけの埠頭。

 随分と派手にやらかしたはずなのに戦いの痕跡は微塵も感じられない。

 サトノ家の事後処理班が綺麗に片付けたのだろう。

 

「体にくっつけたまま戦うって今考えてもバカだ」

 

 契約直後で全員おかしなテンションだったから仕方がない、いい思い出だ。

 少し歩いて契約をした公園に到着。

 昼間だとまた雰囲気違うな、俺たちにとって特別な場所だからかちょっと神秘的に感じる。

 石造りのベンチに腰掛けてちょっと休憩。大分薄くなった傷跡を触る。

 

「激痛だったな。あいつら妙にエロかったのにそれどころじゃなかったし」

 

 よいしょっと、覇気を開放してリラックスする。

 この開放状態の方が俺の自然体なのかもしれない。

 タキオンによると寝ている俺からも覇気の粒子が出ているんだと。

 クロとシロは俺に引っ付いて寝たがった、最高に落ち着くとか言ってたな。

 目の前にいる奴はどう思っているのだろう。

 

 この公園には先客がいた。

 青い体に翼の生えた龍、ほぼ機械で出来ているはずなのに命の鼓動を感じるこれが半生体兵器。

 スルーしておきたい所だが、タキオンにお願いされたしな。

 敵意は感じない、じっとこちらを見ている。俺がここに来ることをわかっていたのか。

 

「初めましてだな。俺に何か用か?」

「・・・・」

 

 人語は理解できるんだよな。全長4mぐらい結構でかいから威圧感ある。

 俺に向けて首を伸ばしくる。噛みついたりするなよ・・・さ、触ってもいいのかな。

 そぉーと顔に触れてみる。不思議だ金属なのにちょっと温もりがある、マジで生きているんだな。

 

「なんだ大人しいじゃないか。聞いてるぞ、お前脱走してきたんだろう、相棒の虎さんはどこにいる?」

「キュ~」

「お、どうしたどうした」

 

 何かをねだるように声を上げる龍。はっはーん、さては腹ペコだな。

 ちょっとぐらいならクロとシロも許してくれるだろう。

 龍の体に触れながら覇気を流してやる。

 すると嬉しそうに翼を広げて「キュオーン!」と咆哮を上げた。

 

「そうか、気に入ったか。でもお前もう飼い主がいるだろ」

 

 龍の中には別の人物から与えられたであろう強い覇気を感じた。

 中々の実力者であろう覇気2人分、おそらくその内の片方がこいつの飼い主だな。

 勝手に餌をやって良かったのだろうか。まあ、怒られたりはしないだろう。

 

「飼い主と一緒にテスラ研に行ってほしいんだけど、俺の言ってることわかるか」

「キュ~」

「嫌か、大丈夫だよ。タキオンって言う変態以外はみんないい人だから」

「キュルル」

「勝手に出てきたから怒られる?お前それはダメだろ。え、しばら匿ってほしい?その大きさで何を仰る」

「キュー!」

「は?そんなことできんの!」

 

 体の大きさを指摘した直後、一鳴きした龍はみるみるその体を縮めた。

 不思議過ぎるどういう技だよ。

 4m程から15cm程の手の平サイズまで小さくなった龍はパタパタと飛翔し俺の両手に着地した。

 「これならいいでしょ」みたいな顔しやがって。

 

「ハァ~ちょっとだけだぞ。飼い主が迎えに来たらちゃんと戻ること、テスラ研にも行ってくれるよな」

「キュー」

「家に帰るか、そうだタキオンに連絡しないとな。ちょっと何してんの」

 

 俺が持っていたカバンを器用に開けて中に潜り込む龍。

 安心したのか体を丸めて寝る体制にはいってしまった。こいつ警戒心なさすぎでは?

 ちょっとだけ重くなったカバンを提げて公園から移動する。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それで?私のリュウちゃんはどこですか」

「怒らないください、えーとそのデスネ」

「トラちゃん、教えてくれますか?」

「ガゥ~」

「散歩中に何処かへ行ってしまったのね、そもそも不用意な外出は控えるように言ったはずですが」

「ずっと閉じこもったままではストレスが溜ると思ってその~」

「誰が正座を崩していいと言いましたか」

「もう許してくだい~さっきから足の感覚がないデス」

「ガゥ」

「トラちゃんに免じて今回だけは許します。それより早く探しに行かないと」

「あ、足がぁ~」

「もうすぐご飯の時間なのに帰って来ない。迷子になったのでしょうか、きっと今頃お腹を空かせて鳴いている」

「あああ痺れが」

「もう!ちょっと正座したぐらいで情けないですよエル!ほっといて行きましょうトラちゃん」

「ガゥ」

「グラス待って!置いて行かないでクダサイ!ちょダメですビャッコ力任せに引きずらないで!背中に乗せるぐらいしてくれてもアァー!」

「どうしましょう悪い人に捕まっていたら。リュウちゃん、どうか無事でいてください」

 

 マサキが龍を保護した頃、その主であるウマ娘が捜索を開始していた。

 

「やっと帰って来たな」

 

 自宅マンションに到着。

 ここにクロとシロを連れて帰ったのが随分と昔に感じる。

 

「ん?」

 

 郵便受けがどえらいことになっているのではと危惧したが綺麗なものだったので拍子抜けした。

 チラシなんかがどっさり突っ込まれているのを想像していたんだがな。

 オートロック付きで俺には勿体ない良物件なので管理会社が気を利かせてくれたのかもしれない。

 エントランスを通りエレベーターに乗って目的の階へ、部屋の前に到着して鍵を。

 

「あれ?開いてる。鍵を閉め忘れたつもりはないが、こんな長期間施錠していなくて部屋は大丈夫なのか」

 

 とりあえず中に入ろう。

 

「ただいま~。と言っても誰もいないよな」

「おかえりなさいませ!!!」

「!?!?!?」

「お風呂にする?ご飯にする?それとも~ゴ・ル・シ?」

「・・・・」

「おい!何か反応しろよ~つまんねぇだろ~」

「・・・・」

「あのさ、今思ったんだけどよ」

「・・・・」

「誰だお前!!!」

「俺のセリフだ!!!人の部屋で何してんだ!!!何もんだよてめぇ!!!」

 

 部屋に入ると謎のウマ娘が出迎えてくれた。全く心当たりがない初対面のウマ娘。

 不法侵入者を前にして俺はかなり動揺していた。

 どうやら料理中だったのかキッチンを使った形跡がある。何してくれてんだ。

 ここのセキュリティだめだめじゃんか、管理会社に苦情をいれます。

 

「この私が誰か知りたいのか?いいぜ教えてやるよ」

「もったいぶらずはよいえ」

「聞いて驚くなよ、やっぱり驚け!キングオブハジケリスト!ゴールドシップ様とは私のことさ!」

「あ、もしもし警察ですか?はい、ええ、現在進行形で自宅に不法侵入されて困ってまして」

「やめろよ~民事不介入だろ~」

「立派な刑事事件だろうが!スマホ返せや!」

 

 あっさりスマホを掠め取られた。

 初対面のクロとシロにもやったなこのやり取り。まともに通報できた試しがない!

 

「大丈夫です~ちょっとうちのダーリン酔っちゃってて、ごめんなさい。はい、ご迷惑おかけしました」

「誰がダーリンじゃ!酔ってねぇよ!俺は下戸だ」

「お前さあ、悪戯で110番するのはダメって知らないのかよ」

「悪戯じゃねーよ。本気の110番だよ」

「まあまあ、長旅で疲れてるだろ?今すぐ飯にするからちょっとまってろ」

「おい話を聞け!」

 

 俺にスマホを返すと当然のように料理再開しやがった。

 一体何なんだ?訳の分からない勢いに飲まれて終始向こうのペースだ。これがハジケリスト?

 埒が明かないのでとりあえず勝手知ったる我が家に入る。

 なんか掃除が行き届いてる。俺がここを出た時よりピカピカなんだが。

 カバンを置いてソファーに座る・・・家具が追加されてる!ソファーなんかなかったぞ。

 

「あ、そうだ。おーい起きてるか」

「キュ」

 

 カバンを開けるとのそのそと龍が出てきて俺の膝に乗って来た。

 指先に覇気を集中して近づけてやると嬉しそうに額を合わせてくる。

 うんうんカワイイ奴めしっかりお食べ、今ご飯をあげています。

「できたぞ!ゴルシ様特製の焼きそばだ。ん?ミミズをペットにしてるのか、変わってるな」

「キシャーッ!!!」

「ミミズ呼ばわりはやめてやれよ!よしよし、お前は立派な龍だぞ。このキチガイは放っておけ」

「キチガイwww言ってくれるwww」

 

 あんなに大人しかった龍が興奮してゴールドシップと名乗ったウマ娘を威嚇する。

 今にも飛び掛からんとする龍を両手で包んで回収、体を優しく撫でて落ち着かせる。

 

「冗談だよ龍王機。超機人なんて久しぶりに見たからさ、ついからかっちまった」

「龍王機?超機人?お前こいつが何なのか知っているような口振りだな」

「どーでもいいだろそんなこと。それより早く食えよ冷めちまうぞ」

「いろいろちゃんと説明してもらうからな。・・・いただきます」

「おう。腹いっぱい食ってくれや」

 

 なぜ自宅を不法占拠している奴の料理を食べないといけないのか。

 しかし、このやきそば・・・もう見た目と匂いからして絶対美味いと保証されているようなもんだ。

 作った奴は別にして、これは温かいうちに食べないと損するぞ。

 箸を受け取って焼きそばを口に運ぶ。

 

「超美味い」

「だろ?」

「悔しいがマジで美味い。ああ、これはヤバいな箸が止まらない」

「こいつを食っちまったら二度と他の焼きそばに浮気はできないぜ」

 

 夢中で焼きそばを食べる俺を満面の笑みで見つめるゴールドシップ。もうゴルシでいいや。

 あっと言う間に完食してしまった。

 

「ごちそうそさま」

「おそまつさまだ」

「キュー」

 

 龍はいつの間にか俺の頭に乗っかってる。あまり重さを感じない、つくづく不思議な存在だ。

 ゴルシは食後にお茶も出してきやがった。

 生意気にも紅茶だし、そんなティーカップ知らないし。

 

「落ち着いたか?腹が減ってると短気になるからな」

「そろそろ説明してくれ」

「何についてだよ?」

「お前の目的は?なぜここにいる?」

「それ聞いちゃうかー」

 

 参ったな―と大袈裟なリアクションをするゴルシ。

 格好はジーンズにシャツ・・・そのシャツは俺のじゃねぇか!勝手に着るなよ。

 シンプルな装いは着こなすのが難しいというが、長身で無駄にスタイルがいいこいつには似合っている。

 白銀の美しい毛並みをもっており、ちょっと気品のある所作が凄く腹立つ。

 黙って本性を出さなければどこかのご令嬢でも通用しそう。シロと同じタイプか。

 とても失礼なことだがなぜかゴルシとマックを似ていると思ってしまった。

 許してくれマックイーン、お前はこんなにハジケてないよな。

 

「まさかとは思うが、メジロ家のウマ娘か?」

「悪いな、この世界の私はまだ生まれてねーよwww」

「お前はここに存在しているじゃないか!頼むから真面目に会話してくれ」

「嘘は言ってねーんだけど、まあいいや。私が世話になっているのはファイン家だよ」

「ここで来たか」

 

 御三家の1つである謎多きファイン家関係者に遭遇。

 向こうから接触してきた・・・さて何が狙いなのだろうか。

 

「じゃあさっそく始めるか、ほら持っていけよ」

「話を飛ばずな」

「いらないのか?覇気を集めてるんだろ」

「その通りなんだけど、頼んでもないのに協力的でちょっと引く」

「用心深いのは美徳だがそのせいでチャンスを逃がすこともあるんだぜ」

 

 ふざけた言動の中で時々垣間見える知性の高さにイラっとする。

 生意気にも俺に愛バたちを思い出させるからだ。ほんと早く会いたい。

 まだ会って少ししか経ってないががゴルシはおそらく強い、覇気を提供してくれるのなら歓迎するべきだ。

 

「上手い具合に乗せられたようでムカつくが、確かにお前の言うことも一理ある」

「早く!早くしてくれよ!もう待ってられねー」

「ああもう、わかったから頭出せ」

 

 ゴルシの頭を撫でながら覇気をドレイン。

 「あ~もうちょっと右~そこだ!そこが下痢になるツボだ」とか言ってるバカは無視。

 髪質がマックそっくりなんだけど・・・覇気もなんか似てる。

 

「メジロマックイーンって知っているか?」

「死んだ婆ちゃんと同じ名前だな」

「もういい忘れてくれ」

「うちの婆ちゃんwww品性がどうこう言う癖にスイーツをバカ食いするわwww草野球で相手チームと乱闘騒ぎ起こすわでwww」

「もういいから!お前の面白お婆ちゃんと、俺の知り合いが別人だってわかったから」

「別人だといいなwww」

 

 メジロ家の皆さん大変失礼しました。

 一瞬でもこいつをメジロブランドのウマ娘と勘違いした俺の目は曇っている。

 「もっとしてくれよ~」とせがむゴルシの頭撫でを継続中。

 質問には答えてくれそうなので聞いてみよう。

 

「俺のことをどこで知った」

「お前インターネットやSNSとかやらねーの?原始人かよ」

「時代遅れで悪かったな、それがどうした」

「1年ぐらい前だったかな、お前が化物と戦ってる動画が拡散されたんだよ」

「え・・・聞いてないよ」

「それから少しして、ウマ娘を撫で回す変態が出るって噂が立ってな。掲示板やウマッターはお祭り騒ぎよ」

「なんてこった」

「実際に被害にあった奴からの情報提供も凄かったぞ、作り話にしてはえらい具体的でよう。なんでも撫でるのは覇気を吸収するためとか、愛バのために頑張ってるからとか」

「・・・あいつら」

 

 今までドレインしてきた奴らの中に俺のことをネット上に晒した駄バがいるらしい。

 犯人は誰かな~1人か?それとも全員か?どちらにしろいつかキッチリお礼しないとね。

 

「音速の貴公子とオールラウンダーって奴らの投稿が特に詳しくてな」

「犯人なんとなくわかった」

「お前のことロリコン、シスコン、マザコンの三重苦だってwww」

「ねぇ、変態って拷問しても罪にならないよね」

 

 姉さんのことはそんなに話してないはずなのに、どこで嗅ぎ付けたんだか。

 脳裏にアグネスと言う名を冠した変態ウマ娘たちが浮かんだので、いずれ制裁を加えることを誓った。

 



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ごるしと

 龍を拾って家に帰ったらなんか変なのがいた。

 

 

「それでよ~私の雇い主がお前に興味持っちゃった訳」

「それがファイン家か」

「正確にはそこの頭首様だ。お前の力になってやれと頼まれたんでな」

「なんでファイン家頭首が俺に味方する?」

「期待してるんだとよ。まあ、お前がいるだけで救われている奴がいるってこったな」

「わけわからん」

「今はそれでいいんだよ。これからじっくり相互理解を深めて行こうぜ」

「信じていいのかよ、不安だ」

 

 ファイン家とゴルシにはまだ秘密があるみたいだ。

 隠し事は気になるが、他にも聞きたいことがある。

 

「いつから家で生活している?そもそもなんでここにいるんだよ」

「一週間ぐらい前からかな、ここで待ってりゃお前の方から来るかな~と思ったら見事的中!」

「セキュリティ・・・」

「そんなもんでゴルシ様が止められるとでも?」

「うん、思わない」

 

 ゴルシの読み通り俺は帰ってきてしまったのか。

 次はこいつのことだ、頭にいる龍を捕まえて手の平に乗せる。

 

「この龍がどういう奴か知ってるなら教えてくれ」

「ちょっと見せてくれ」

「キシャアッーー!!」

「メッチャ嫌われてるし」

「なんだよ、機嫌直せよ~。触るぞ・・・やめろ噛みつくな!」

 

 ひっくり返したり指でつついたりして何かわかるもんかね。

 俺が我慢してくれと言ったので嫌がりながらも龍は大人しかった。

 

「龍王機なのは間違いねぇ、でも知ってるのとはちょっと違う、合体機構がオミットされてんのか」

「どうした?何かわかったか」

「ああ、こいつは四神、青龍の超機人で名前は龍王機だよ」

「四神なら知ってるぞ、青龍、白虎、朱雀、玄武。中国の神話で天の四方の方角を司る霊獣だ」

「そうだ。超機人ってのは、まあスーパーロボットみたいなもんだな。生体部品ついてるけど」

「龍王機かぁ~。やっぱりお前は古代人が造ったとんでも兵器ってことでいいのか?」

「キュ~」

「えらい懐かれてるな、本来は主人にしか心を開かないはずだったのに」 

「もう一体の白虎も探さないと、なんとかテスラ研に行ってもらわねば」

「虎王機もいるのか、バラルの活動がもう始まっている・・・しかし、青龍の様子を見る限りはそうでもないか」

「ちょくちょく不穏な単語出すのやめてくれない」

「悪いな、いろいろぶっちゃけたいのはやまやまだが、こっちも情報の整理が追い付かなくて」

「なんか大変そうだな。とりあえず青龍の主を探そうと思う、上手くいけば覇気をもらえるかもだし」

「もう暗くなるし明日にしろ。今日の所は泊まっていけよ、今ならゴルシちゃんが遊び相手になってやるぞ」

「泊まるも何も、ここは俺の家だっつーの」

 

 飼い主探しは明日にしよう。

 お前もそれでいいか?と聞いたら、青龍は首を縦に振った。

 

「せっかくだからゲームで対戦しようぜ」

「いいけど、家にスマブラとかないぞ」

「このデッキを貸してやるよ」

 

 ゴルシが俺にカードの束を渡してくる・・・遊戯王、お前デュエリストだったのか。

 

「ちなみに渡したデッキの方が強いからな。大会には出られない程の凶悪デッキだ」

「ちょっと待ってくれ、えーとルールは」

「そんなんやりながら覚えていけよ、さあいくぜ城之内君!」

「安藤ですけど」

 

 丁寧な解説付きで意外と楽しめました。

 それにしても俺が知っていた遊戯王はどこへ行った、新しい召喚方法がさっぱりわからん。

 俺の知識はエクシーズ召喚でストップしてるから仕方がない。

 あの禁止カードが入ってますよ、キモイ顔の壺が3枚も。

 これで大会に出れるわけねーだろ!そのデッキ使って負けた俺は虫野郎以下です!

 

 遊び疲れたので風呂に入る。一番風呂はゴルシが譲ってくれた。

 青龍がついてきたので一緒に入浴。

 

「超機人って風呂入るんだ・・・」

「キュ」

「錆びたりはしないってか、不思議パワーでなんでも解決すごいですね」

 

 風呂から上がると「じゃあ入ってくるわ」といってゴルシが風呂へ。

 おい服は脱衣所で脱げや!スタイルいいから気になるんだよ。

 風呂場から聞こえてくる鼻歌をBGMに俺はパソコンを立ち上げる。

 良かった、特に弄ったりはされてないようだ。

 カメラをONにしてタキオンに連絡をいれる。

 画面に見知ったウマ娘の顔が映る、リモート会議一回やってみたかったのよ。

 

「やあカピバラ君、3日ぶりだね」

「どうも音速の貴公子さん。三重苦を背負ったものです」

「な、なんのことやら。ははは・・・リモートだけど私の土下座が見たいかい?」

「タキオンさん何をして、あ、マサキさん」

「ようカフェ。相変わらずカフェイン取ってるか?」

「最近はノンカフェインのコーヒーも飲みます。しまったな、アルダンさん今ちょうどいません」

「忙しいなら無理に呼ばなくていい。報告だ、青龍を見つけた。ほら、おいで」

「キュ~」

「え、ちっさ」

「カワイイ、でもその子が本当に例の生体兵器ですか」

「今は縮んでいるが元々はでかかったんだぜ」

「なんと体の縮小と拡大を可能とする特殊能力か、他にもあるんだろ!いいね!ああ、隅々まで調べつくしたいよ」

「キュ」

「やめろ!青龍が怯えている。こいつを解剖するとか言ったら許さんぞ」

 

 現状を報告、飼い主と白虎も探してみることとゴルシの奴がいたこと。

 

「了解だよ。首尾よくいけば白虎共々こちらに来てくれるんだね」

「あんま期待すんなよ。飼い主が拒否すればそれまでだ」

「ゴールドシップ、それにファイン家ですか。面倒事になってきているような」

「やっぱりそう思うよな。もう~俺は愛バたちとまったり幸せになりたいだけなのに」

「大変だと思うが、その未来を掴むためにも頑張ってくれ。こっちもできる限り応援する」

「ありがたいね。じゃあそろそろ切るわ、アルダンやレーツェルさんによろしくな」

「また連絡してください。待ってますよ」

 

 リモートを終えるとちょうどゴルシが風呂から上がってきた。

 

「なんだ?エロサイトでも見てたのか」

「テスラ研に連絡していただけだ。エロサイト?愛バを手に入れてから興味が無くなったな」

「自身のロリ魂に遵ずるか、恐れ入ったぜ」

「それ褒めてんの?ちょっとバカにしたよね」

「なあ今までどんな人生だったか話してくれよ」

「なんで今日あったばかりの怪しい奴に人生を語らねばならぬのですか?」

「いいじゃん、自慢の愛バや家族のことを語ってくれよ」

「お前のことを教えてくれるんならな」

「ん~・・・まあいっか、いずれは話すんだし。よしいいぜ!まずはそっちからな」

「嘘ついたりするのは無しな。やっぱやめたとか抜かしたら、元サイズの青龍と一緒にお前を泣かす」

「キュー」

「そいつは勘弁願いたい」

 

 俺の人生を知りたいとか、よくわからん奴だな。

 まあ家を不法占拠されたとはいえ、こいつが悪い奴じゃないのはわかっている。

 だからちゃんと話してやる、母さんや姉さん、クロとシロのこと。

 細かい所は端折るつもりだったがゴルシは詳細を聞きたがった、お蔭で姉さんの暗い過去まで軽く話すことに。

 ごめん姉さん。不用意に話していい内容じゃなかった、後で謝ろう。

 ゴルシは俺が話している最中、一切茶化したりせず真剣に聞いていた。

 

「で今に至ると、こんなところだな」

「天級騎神にパーフェクト、愛バはアレだし。クロスゲートにアインスト・・・マジでどうなってんだ」

「おーい。何か気になることがあったか」

「気にならねぇ所の方が少ないぐらいだ。これはもう確定だな」

「今度はゴルシ、お前の番だぞ」

「わかってるよ。最初に言っとくぞ、今から見せるのは本当にあったことだからな」

「見せる?話すんじゃなくてか」

「ああ見てもらった方が早い。質問は後で受け付けるからしっかり見てくれ、私が生まれた世界に何があったのか」

「どうやって何を見せるつもり」

「いくぜ!秘技ゴルシちゃんメモリーズ!」

「ちょ、なに、がっ!」

 

 こいついきなり頭突きかましやがった!

 石頭め・・・モロに入った・・・ヤバい・・・頭がクラクラする・・・あ、無理。

 

「いい夢見ろよ・・・たぶんショックを受けると思うが耐えてくれ」

 

 ゴルシの声が聞こえた後、俺の意識は落ちて行った。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 明晰夢というやつを見ている。

 ここが夢の中だとはっきり認識できている。

 ここは俺が見ている夢じゃない、ゴルシが見せている夢・・・違う記憶だ。

  

 ここはどこだ、軍事基地のような施設で大勢の人が慌ただしく動き回っている。

 警報が鳴り響く施設内、大型の輸送艦が多数配備され、そこに大量の物資や人員が詰め込まれていく。

 場面はその輸送艦群の先頭に陣取っている艦のブリッジに移る。この艦と何隻かは戦艦だ。

 

「オルゴン反応接近中!その数、クソっ!多すぎる!」

「人員と物資の搭載が完了した艦から順次発進して、私のことは待たなくていいよ」

「了解!クロスゲート起動、転移可能域まで残り10分です」

「10分か・・・それだけあれば」

「更なる反応!これは・・・ヤツです!"ベーオウルフ"が来ました!!」

「やっぱり来ちゃうよね、逃がす気はないってことかな」

「頭首様・・・」

「ごめんねみんな。私と一緒に死んでくれるかな?」

「我ら一同、既に覚悟はできております」

「あなたを置いて逃げるなんてできません」

「最期までお供します」

 

 頭首と呼ばれた少女に艦内のいたるところから「了解!」の声が飛ぶ。

 何が起こっているのかわからんがこの人たちは死ぬ気だ。

 クロスゲートと言ったか、不思議なもんで俺が見たいと思ったらそこに場面が移る。

 輸送艦群の前方に巨大なリング状の構造物があり怪しい輝きを放ち出している。

 俺の知っているゲートより遥かに大きいサイズだが間違いない、クロスゲートだ。

 

「異世界への脱出、ネバーランド計画に中止はないよ。この旗艦のみを残して、他は出発を急いで」

「おっとそいつはダメだぜ。お前もさっさと行っちまいな」

「ゴルシちゃん!?何やってるの!!」

 

 突然外部から通信が入る。この声ゴルシか。

 基地から離れた場所に1人立ち、遠くを見据えている。

 腕部に刃が取り付けられた青い武装を纏ったゴルシ。

 その雰囲気は俺の知ってるふざけた感じは鳴りを潜め、固い決意とギラついた戦意に溢れていた。

 

「そんなわかりきった事聞くなよ。あいつと決着つけずにこの世界とおさらばなんて無理だぜ」

「ゴールドシップ、今すぐ戻って!早く!もうすぐ転移が始まっちゃう」

「もう時間切れだ、おいでなすった」

 

 何かが迫ってくる、あれはPTか?ゲシュペンスト大群。

 でも何かがおかしい全身から溢れるように紅い結晶体がくっついている。

 気のせいか、色は違うけどクロとシロの結晶に似ている。

 

「有人機のゲシュペンスト、中の人はとっくに同化されて手遅れか」

「まったくよう、触れただけで自分の手駒にしちまうんだから困ったもんだぜ」

「逃げる気はないんだね」

「お前は逃げろよ、必ず生き残れゴルシ様との約束だ」

「お礼は言わない、さよならも言わない、次に会ったら死ぬほどラーメン奢ってもらうから」

「向こう側に美味い店があるといいよなwww」

「ファイン家頭首からの命令です。ベーオウルフを足止めし艦隊が脱出するまで時間を稼ぎなさい」

「了解」

「すぐに追いかけてくるんだよ。待ってるから!」

「おう。早く行け」

 

 ゲートが輝きを増し異世界への扉が開かれる。

 艦隊は浮上を開始しゲートに向けて発進して行く。

 1人残ったゴルシは彼方から迫り来る異形のPT部隊を見据える。

 その先頭に一際異彩を放つ存在がいた。

 

 !?!?!?

 

 いや、まさかそんな。

 そいつを見た瞬間、胸が締め付けられるような痛みが走る。

 違う違う違う!あれは違う!あれは俺の愛バなんかじゃない!!!

 

 全身が紅い結晶で構成された化物。

 辛うじて女性に見えるシルエット、四肢に巨大なかぎ爪をつけ、尋常じゃない威圧感を放っている。

 口に当たる部分からはチロチロと高密度の覇気が漏れ出している。

 おそらく口内の牙も爪同様の威力をもった凶悪な代物だろう。

 

「よう、ベーオウルフ。そんなに急いでどこに行くんだ?」

「・・・・」

「初めて会った時からいろいろあったな。おかげさまで私たちはこの世界を捨てるはめになったぞ」

「・・・・」

「どんな気分だ?ん?メジロ家もバラルもみーんな潰して、かつての仲間だった婆ちゃんやトレセン学園の全員を殺したってのはよ!!」

「・・・・」

「何とか言えよてめぇ!こんなことしてなにが・・・」

「・・・アハハ」

「?」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

「笑うのかよ・・・もういい!くだばれ!!ベーオウルフ!!」

 

 その声・・・嘘だよな。俺が知ってるあいつの声とちょっと似てるだけだよな。

 

 激昂するゴルシと狂った笑い声を上げるベーオウルフの戦闘が開始された。

 ゴルシ強ぇ!凄まじい動きで敵を圧倒する。

 転移中の艦体に攻撃しようとするPT部隊を片っ端から薙ぎ払い、宿敵の動きにもすかさず対応してみせる。

 姉さんと同じぐらい、ひょっとするとそれ以上の強さだ。

 一騎当千とはこのことか、この調子ならいけるのでは。

 

「思った通り弱体化してやがる。本当バカだよなwww餌である覇気、それを潤沢に持っている生命の人類を考え無しに滅ぼすからだwww」

「・・・・」

「この終わった世界はくれてやるよ。最期のときまで精々飢え苦しんでろ」

「・・・ハハ」

「もらったぞ!青龍鱗!」

 

 あれだけいたゲシュペンストを手早く片付けベーオウルフを追い詰める。

 ゴルシが構えた両手から青い覇気を纏ったエネルギー弾が放出される。

 文句なしの直撃コース、当たればただでは済まないだろう。

 だというのになぜだ、ベーオウルフは回避行動はおろか防御姿勢すらとろうとしない。

 する必要がないとでもいうのか、その答えは上空から現れた第二の化物によってもたらされた。

 ゴルシの青龍鱗をいとも簡単にはじいてみせる。

 

「"ルシファー"まで来やがったか!相変わらず仲のよろしいことで、あ~吐き気がする!」

「・・・・」

「お前が来たってことは・・・そうか、生き残りの混成部隊は全滅か」

「・・・・」

「けど遅かったなwww俺以外はみんなここから逃げちまったよwww」

 

 クロスゲートによって最後の一隻が転移するのを見届ける。

 目的通り時間を稼いだ、ざまあみろとゴルシは2体の化物を見る。

 しかし、そいつらはまるで動じる様子もない。

 

 ルシファーと呼ばれた化物の姿があらわになる。

 全身が紅い結晶体で構成されているのは同じ、こちらも女性のシルエットでかぎ爪は無い。

 代わりに目を引くのは尻尾に当たる部分が巨大化し五つに枝分かれしていることだ。

 先端が鋭い刃状になった尾はそれが武器であり盾であり、決して触れてはならない毒を持っているとなぜだかわかってしまった。

 

 やっぱり・・・お前もいるのか・・・二人ともどうして。

 

「お前らはここで私と死ぬんだよ!ゴルシ様の最後のパーティーに付き合ってもらうぜ」

「・・・アハハ」

「・・・フフフ」

「最後まで狂ってるな、こんな奴らにどれだけの犠牲者が・・・おいコラ待て!何をしている」

 

 ルシファーの挙動がおかしい、停止したクロスゲートに尾を伸ばし何かをしている。

 よく見ると尻尾の先端部からギリギリ目視できる程度の糸のようなものが伸びゲートまで到達している。

 ゲートが再び起動、結晶体と同じ紅い輝きをもって転移するためのエネルギーをチャージしだす。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

 

「ふざけやがって!お前らぁ!!!」

 

 2体が得物を逃がすはずはなかった。

 ゲートに干渉し強引起動、先に転移した者たちを追いかけるつもりだ。

 その意図に気づいたゴルシはルシファーに襲い掛かるがベーオウルフがそれを阻む。

 剛腕に装着された爪はかすっただけで命を脅かす。

 距離を取ればそこにルシファーからの砲撃が見舞われる。

 尻尾から無数の追尾式のレーザーが放たれる。あれも覇気弾の一種なのか?

 

 ジリジリと追い込まれていく。

 ゴルシが力尽きたとき2体は異世界に転移するだろう、そしてまた滅びをもたらす。

 

「行かせるかよ、この世界の滅びを異世界の奴らにプレゼントするなんて御免だ!」

「・・・アハハ」

「・・・フフフ」

「もってくれよソウルゲイン!リミット解除コードき・・・」

「???」

「???」

「マジか?なんか来るぞ」

 

 玉砕覚悟で仕掛けようとしたその時。

 起動したゲートから何かが這いずりだして来た。

 ゲートの輪を掴む巨大な腕、大きな体躯と翼、黒い異様はまさに悪魔。

 あれは・・・知っている・・・俺はこの悪魔に・・・。

 心臓の鼓動が耳に強く響く、大切な約束が・・・そのために俺は。

 

 大地に降り立った悪魔はその巨体を縮める、まるで世界の理にあったサイズに調整したかのよう。

 2m弱程の身長になった悪魔は翼を砲塔に変形させて正面に打ち込む。

 呆気に取られるゴルシを通過した弾頭はベーオウルフとルシファーを狙ったものだ。

 今まで余裕をもって遊んですらいた2体が初めて強い警戒をみせ回避行動をとる。

 爪と尻尾の結晶体にかすった弾頭はその部分を抉り取り、2体は自身を傷つけた存在に怒りを示す。

 またとんでもない奴が来たもんだ。何者かわからないがゴルシは命拾いした。

 

「敵の敵は味方ってことでいいのか?お前は何もんだ?それが異世界で流行りのコスプレか」

「ゲートはまだ動いている・・・行け・・・あの2人は俺が食い止める」

「そんなことできっかよ!」

「代わりに頼みがある・・・探せ・・・世界を弄ぶ破壊者と・・・ディーン・レヴを宿す者を」

「わけわかんねぇ。それよりヤバい!お前、体が消えかかってるぞ」

「存在できる時間は少ない・・・お前が転移した後・・・この世界を隔絶する」

「お前は消えて、あいつらをこの世界に閉じ込めるのか」

「消えはしない・・・いずれまた会える・・・さあ行くんだ」

「ありがとよ。可能なら私の分まであいつらをぶちのめしてくれや」

 

 悪魔に導かれてゴルシはゲートにを潜る。生身で大丈夫なのか?まあゴルシだし何とかなるか。

 転移する直前に大声で悪魔に呼び掛ける。

 

「そうだお前!名前は!!!」

「クォヴ・・・いや・・・ちがうな」

「早く教えろ!!!」

 

 一瞬だけなにかを考え言い直す。

 

「アストラナガンだ・・・すぐに忘れてくれていい」

 

 アストラナガン、それがこの悪魔の名前か。

 

「ぜってー忘れてやんねぇ!!!」

 

 ゴルシはそう叫んで転移していった。

 残ったのはアストラナガンとベーオウルフ、ルシファーの3体。

 にらみ合う両者、しかし悪魔の方はどこか悲しげだ。

 

「遅れてすまなかった、奴を取り逃した挙句、お前たち2人を滅びの獣に貶める結果になるとは」

「・・・・」

「・・・・」

「俺だけは理解しよう、お前たちは被害者だと・・・これ以上何も殺さなくていい、壊さなくていい」 

「・・・・」

「・・・・」

「もう終わりにしよう」

 

 悪魔の肩口から長い棒状の物体が飛び出す。

 それを片手でつかみ取った瞬間、銀色の輝きを放つ刃が形成される。

 死神が持つ大鎌、相手の魂を刈り取る武装。悪魔の見た目と怖いくらいにマッチしている。

 それを2体に向けて構える。2体の化物も爪を牙を尾を鋭く研ぎ澄ます。

 

「願わくば、ここではない世界のお前たちに、良き理解者が現れん事を」

「「オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」」

 

 アストラナガンの声に反応したのか、笑うのをやめ叫び声をあげて突撃する2体。

 怒っているのか、それとも泣いているのかわからない。

 3つの強大な力がぶつかり合う、観測者のいない世界、悪魔の体が消え去るまでそれは続いた

 取り残された2体は天を見上げいつまでも咆哮していた。

 それが1つの世界の終焉だった。

 

 終わった・・・これを見せたかったのかよ。

 俺の知ってるあいつらじゃないのはわかっている。それでもこれは結末は・・・。

 結晶体・・・このままだと俺の愛バは同じ道を辿るのか?それは絶対に認めない。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「キューキュー」

 

 心配そうに俺をのぞき込む青龍の声で目が覚めた。

 その体を指先で撫でてやる。

 

「大丈夫だよ。ありがとな心配してくれて」

「キュー」

「起きたか、どうだった?」

 

 ソファーに寝かされていたようだ、時間にして15分ぐらいか。

 テレビを見ていたゴルシが振り返り俺に質問してくる。アイス食ってるー!

 

「牧場しぼり?」

「ちげーよMOWだよ」

「俺は爽が好き」

「ハーゲンダッツ、もっと安くなんねーかな」

「でもあの値段と味には納得して買うよね」

「そうだな・・・でどこまで見た」

「アストラナガン」

「よし、全部だな」

 

 スプーンを差し出してくるゴルシから何口かいただく。うまーい!

 

「お前とファイン家は異世界からの逃亡者だった。そのことを知っているのは?」

「教えたのは天級騎神たちだけだ。もっともメジロ家のばば様や、一部カンのいい奴らはなにかしら気づいていると思うぞ」

「母さんたちは知っていたのか・・・じゃあクロとシロのがああなっちまうことも」

「そこは誰にも喋ってねーよ。この世界にベーオウルフとルシファーが誕生すると決まった訳じゃないし」

 

 助かった、もし母さんがクロシロを危険視していたら絶対に契約解除されていた。

 

「天級には事情を話してクロスゲートを監視してもらっている。ベーオウルフとルシファー、その他の外敵から侵略を防ぐためにな」

「ラ・ギアスに住んでいるのはそのためか」

「あの村の住人の殆んどは転移してきた奴らだぞ。いざって時は天級と協力して事に当たる手筈になっている」

「マジでか!訳ありとは聞いていたがそんな事情があったとは」

 

 隠し事多いですよ。知らないままが幸せだったとは思わない、もう気づいてしまったからな。

 

「パラレルワールドってことになるのか、ゴルシのいた世界は」

「混乱するから私のいた世界を1st(ファースト)、今いる世界を2nd(セカンド)でどうよ」

「おkそれでいこう。時間は1stの方がちょっと進んでいるんだよな」

「ああ、その認識で間違いない」

「お前の婆ちゃん・・・」

「おっと、2ndの婆ちゃんには言うなよ。まだうら若き乙女だろうからなwww」

「言わない、言えない。でもwwwごめんwwwこれは笑うwww」

「私をバカにしてんのかwwwそれともメジロ家全体かwww」

「だってwww末裔がこんなんwww」

「ひでーなwwwまあ自覚はあるんだわ、お嬢様ってガラでもないしなwww」

「( ´ー`)フゥー...いや大変失礼した。メジロ家の血筋が半端ないって再認識したわ」

「あんまり気にすんな。この世界でゴルシちゃん2号機が生まれてくるかはわかんねーし」

「全く同じ未来が展開するとは限らないってか」

「同一人物でも趣味趣向や進路、結婚や子供の有無、生き様や死因まで何かと違ったりするしな」

「でも概ね似たような感じにはなるんだろう」

「そういう訳だからベーオウルフとルシファーには監視をつけている。お前たちには悪いと思っているが、サトノ家やラ・ギアスにはファイン家の諜報員がずっといたんだぜ」

「いい気はしないが、世界が滅ぶというなら致し方無いのか」

 

 知らない所で動かれているのは不快だけどな。

 ああ、心配だ。今の状態のあいつらは1stの連中にはどう見えているんだろう。

 

「クロとシロに手を出す気か?それなら俺は」

「待て待て!そんな気はねぇよ。少なくとも私たち穏健派はな」

「過激派がいるって言ったようなものですね」

「転移した1stの生き残りの内半分はファイン家を中心とした穏健派に、残りの半分は2ndに新たな世界を構築したいって過激派だ。こいつらはお前の愛バを超敵視してるから要注意だ」

「そんなのがクロとシロを狙っているだと!やらせはせんぞぉ!」

「そこは安心していいんじゃね。ラ・ギアスにいるの住人は穏健派だし天級の懐に突っ込むアホはいないだろ」

「実家に運んだのはファインプレーだったのね」

 

 問題は増えたがとりあえずあいつらの安全は問題ないみたいだ。

 

「愛バたちが結晶化した。これは、その、ああなってしまう兆候なのか?」

「1stのあいつらは結晶化なんてしてねーんだわ。普通に成長して普通に学園に通って騎神になって、ある日を境に豹変したと婆ちゃんが言っていた。それまで予兆や異変の類は一切感じなかったから不思議がってたな」

「突然異常をきたしたのか・・・1stの俺は一体何をやってたのか」

「いないぞ」

「なにが?」

「1stにお前はいないんだわ」

「へ?」

「天級やお前の周りにいる奴らは大体1stにもいた事を確認済みだ。でも何度調べてもお前はいない」

 

 世界規模の話だと人間1人ぐらいいてもいなくても問題ないのか。

 でも自分のことになるとなんか不安になるな。

 

「えーと姉さんのことは」

「パーフェクトは一人っ子だったぞ。テロに巻き込まれてもいない、メジロ家に仕えてもいなかったがな」

「なんだろう、この不安感がマシマシになってくる感じは」

「安心しろ。お前はちゃんとここにいる」

「キュー」

 

 ゴルシが俺の手をしっかり握る。飛行した青龍が俺の頭に着地する。

 ちゃんと感覚がある大丈夫だ。俺は確かに今ここに存在している。

 

「1stにいなかった男が1stを滅ぼした騎神と契約した。穏健派はお前に期待しているんだよ」

「期待ねぇ」

「アンドウマサキ、愛バたちを正しい姿に育成してやってくれ」

「そのつもり」

「この世界の命運はお前にかかっている!とにかく超頑張れってことでよろ~」

「うは!責任重大!!!」

 

 言われなくてもやってやるよ。頑張る理由が増えただけさ。

 あんな硬そう痛そう無機物ボディ・・・無理です!

 俺のカワイイ愛バたちは柔らかスベスベボディなんだよ。 

 

 1stのような結末は絶対に認めんぞ。

 



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おちゃしませんか

 別世界の愛バが世界を滅ぼしていました。

 

 

「おう、お疲れさん。こっちは無事に接触できたぞ。しっかり良好な関係を築いからな」

 

 1stと2nd、二つの世界についてアレコレ会話していたら電話がかかってきた。

「すまんな」と言って電話にでるゴルシ、聞かれても大丈夫な話なのか、特に場所を変えるでもなく電話をしている。

 

「あ?それはねぇよ、直接会ったらわかる。断言してもいい、アンドウマサキはいい奴だ」

「照れますな」

「キュー」

「青龍もそう思ってくれるのか。カワイイ奴め~うりうり」

「キュッキュッ」

「今は超機人とじゃれ合ってるよ。え?確かにそうだけど、でもよ~」

 

 話しているのは口調からして同僚か上司ってところだな。

 青龍が俺のスマホに興味を示したのでアプリを開いて写真を見せてやる。

 操作方法をすぐに理解した青龍は器用に写真をスライドさせていく。

 クロとシロの写真でスライドを止め「キュー」と一鳴きした。

 そうだ、そいつらが俺の愛バたちだよ。

 

「ああ、目の前にいるぞ。それで納得するなら・・・すまねぇマサキ、電話に出てやってくれ」

 

 スマホを俺にパスしてくるゴルシ。

 電話の向こうにいる相手が俺と話をしたいらしい。

 いいだろう、どんな人物なのか興味あるし。

 

「お電話代わりました。アンドウマサキです」

「わぁ~とっても事務的だ・・・っコホン。ご丁寧にどうも、ファインモーションと申します」

「その名前、ファイン家の方ですか?」

「若輩の身でありますが頭首をしております。以後お見知りおきを」

 

 いきなりトップが来ちゃった。

 ゴルシを見るとうんうん頷いている。

 1stの記憶でもそうだったが頭首と随分仲がいいんだな。

 

「ぷっ・・あはは、やめやめ!敬語は無し、もっと気軽に話そうよ。今から友達ってことで、いいかなマサキ」

「かまわんよ。モーさんって呼んでいいか?」

「さんはいらないよ」

「モーちゃんよりモーさんの方がしっくりくるんだよ」

「だったらそれでいいよ。さっそくだけど聞きたいことがあるんだ」

「言ってみ」

「単刀直入にいくよ。ディーン・レブって知ってる?」

「アストラナガンが言っていた謎の単語か、何を意味しているのかサッパリわからん」

「だよねー。そっかぁ・・・うん、これはまあ保留で。次の質問」

「まだあるのか」

「ズバリ!あなたは世界の破壊者ですか?とんでもない極悪非道のクズだったりする?」

「1stに存在しなかった俺がどうやって世界を破壊に導いたんだよ」

「ごもっとも!よっし!マサキは黒幕ではない。ディーン・レヴは引き続き意味不明」

「簡単に信用していいのか、俺が嘘をついているかもよ」

「それはないない。電話越しでもわかるぐらいお人好しの癖に」

「ロリコン、マザコン、シスコンを患ってるけどな」

「愛バと家族を大事にしている証拠だね、立派だよ」

「泣いてもいい?そんな風に言ってくれたのモーさんが初めて」

「どうせ泣くなら直接会ってからにしてよ、成人男性の号泣シーンとか興味ある~」

「はは、こやつめ」

 

 ゆるふわな雰囲気の声、少し会話しただけですっかり心を許してしまう。

 こういった人心掌握も上に立つ者としてのスキルなんだと思う。

 これから仲良くしましょうという事で話がまとまった。

 

「想像していたよりも親しみやすくて安心したぞ」

「私もだよ、疑ってごめんね。落ち着いたらデートしようね~いいラーメン屋に連れてってあげる」

「ラーメン好きなのね」

「主食ですから」

 

 このままだと好物の話から長電話に発展しそう、お互いに察して電話を切り上げる。

 

「話ができてよかったよ、会うの楽しみ~。ゴルシちゃんに代わってくれるかな」

「こっちもだ、じゃあなモーさん」」

 

 ゴルシに電話を返す。

 

「言った通りだろ?あーはいはい、こっちは気にすんな。ん、じゃあまたな」

「モーさん、いい子だよな」

「騙されんなよ、ああいうのが一番質が悪いんだからな」

「そういう所も嫌いじゃない。腹黒女子・・・しゅき」

 

「趣味悪りぃ」と言われた。

 失敬だなゴルシ君!女を見る目は有るつもりだぞ、そうだよね~クロシロ。

 

「というわけでコンゴトモヨロシクだ相棒」

「相棒?誰が」

「お前しかいないだろう」

「どういうことよ」

「覇気集めに協力してやるってんだよ。しばらくは愛バの代わりをしてやるよ」

「レンタル愛バ再び!ゴルシを仲間にすると一体どんな特典が」

「ゴルシちゃんレーダーの本領発揮だな。力ある騎神をカンで探してやる」

「カン!?それって意味あるのか」

「お前にはちゃんと会えたぞ。どうせ当てずっぽうなんだろ、素直に頼れよ」

「どうしてもついて来る気か?」

「お前の警護と監視も兼ねてんだ、コソコソやられるよりお互い気楽だろ」

「それもそうか。よろしく頼むぞ、ゴールドシップ」

「おうよ。どうせなら楽しくいこうぜ」

 

 翌朝。

 ちょっと準備してくると言って部屋を出ていくゴルシ。

 俺は青龍を連れて外出、合鍵は既に作られておりゴルシも自宅の鍵を所持している。

 

「堂々としていれば大丈夫だぞ、さあ行こうか」

「キュー」

 

 元のサイズに戻った青龍、やっぱり大きいな。

 昼間に龍を引き連れて散歩しています。こうしていれば本来の主人が見つけてくれるのを期待。

 人が多過ぎる大通りはさすがに避けた。過剰な騒ぎを起こす気は無い。

 犬を散歩させる老人とすれ違うが、特に何も言われない。犬の方は首を傾げていたが。

 今度は若いカップルか、リア充を妬んでいたのはもう過去の話。俺には愛バがいるんです。

 青龍を見て驚く男、女の方が話しかけてきた。

 

「ドラゴン?すみません、それって何ですか?どこで買えます」

「試作AMのテスト中なんです。こちらは商品化する予定は無いので購入はできません」

「ええー、残念だな。どこに配備される予定なんですか」

「申し訳ない企業秘密ですので」

「キュー」

 

 こんな感じで話しかけられても問題ない。写真も遠慮してもらっている。

 通行人も驚きはするが、俺が平然としているので「まあいいか」でスルーしてくれる。

 しばらく街をうろついたが成果なし。

 

 どれだけ都会でも自然を求めてしまうのは生物としての本能なのだろうか。

 整備された河川敷に到着、最近では天然の小魚も見る事ができる近隣住民の癒しスポット。

 故郷の河原でよく遊んだっけか、変な形の石を探すだけでも楽しいんだよな。

 川を見下ろせる原っぱの上に座り込む。

 

「ふぅーやれやれ。どっこいしょ」

「キュ」

「爺臭くて悪かったな。昨夜はあんまり眠れなかったんだよ、ちょっと休憩させて」

「キュー」

「なんだ、お、ありがとう」

 

 青龍が長い体を横たえて、寄りかかってもいいよと言ってくる。

 枕にしてやろう。胴体に頭を乗せると金属の硬さはなく沈み込むように受け止めてくれた。

 この枕凄い、ぐっすり眠れそう。首と尾で俺の体を包み込むようにしてくれる青龍。

 

「寝てもいいのか?」

「キュ」

「お前も寝るのかよ・・・そうだな、お昼寝タイムだ」

「・・・キュ~」

 

 1stの記憶でみた紅い結晶体の化物。

 どうしても気になってしまい昨夜はよく眠れなかった。

 ここは2ndだ、俺の愛バは大丈夫。大丈夫に決まってる、2人には俺がいる。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「何?この覇気は一体どこから」

 

 リュウちゃんの捜索は今日も続いています。

 昨日は見つけることができなかった、今日こそは必ず。

 手分けして捜索することにしたので、エルとトラちゃんは別の所を探してくれています。

 一人になった私が河川敷を歩いていると、強い覇気を感じました。

 なんて強力な覇気、でもとっても穏やかで優しい、どんな人が出しているのでしょう。

 そうだ、リュウちゃんがこの覇気を感じたらそこを目指すはずです。

 私は覇気をたどってみることにしました。

 結果、私の考えは正解だったようです。

 川を見下ろせる位置の原っぱで眠る男性と、その人に寄り添っているリュウちゃんを発見しました。

 

「良かった、リュウちゃん」

「キュ」

「え、ああ、そうですね」

 

 駆け寄る私に気づいたリュウちゃんが「お静かに」とこちらを制する。

 あら~、もっとこう感動の再開で私にじゃれついてくると思ってたのに残念。

 その人を起こしたくないのね。

 

「無事で良かったです。単独行動は危険なので「めっ!」ですよ」

「キュ~」

「反省しているならいいのです。突然いなくなったのはこの人が原因ですか」

「キュキュ」

「別にこの人を咎めようとは思いません。むしろあなたを保護してくれて感謝の極みですよ」

 

 深い眠りについている男性を見る。

 10代後半から20代前半と推定、大学生ぐらい。

 しっかり修練を積んでいる筋肉の付き方、年上ですがどこか子供っぽい顔つき。

 特筆すべきは溢れ出る覇気だ。

 近づくにつれてその異常性が際立ち、眼前のこの距離ではもう明らかにおかしいとわかる。

 ハッキリと目視出来る、優しい光を放つ覇気の粒子がキラキラと宙を漂っている。

 触れると儚く消えてしまうが、無尽蔵に放出されるそれはとても幻想的だった。

 

「ふぁ~、あら、はしたない。でもこの覇気に当てられるとこっちまで眠く」

「キュ」

「そうですね。私もちょっとお昼寝しましょうか」

 

 リュウちゃんがスペースを空けてくれたので、男性の隣に身を横たえる。

 昨夜は遅くまで探していたので少々寝不足です。

 見ず知らずの男性の横で眠るなど血迷っているのは自覚しています。

 ですが、この人には何故か絶大な安心感があるのです。

 この覇気に当てられしまったらもう仕方ないですよね。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 起きたら隣に見知らぬウマ娘が寝ていた。

 青龍の正体が美少女だったのかと思ってちょっと歓喜したが違った。

 

「キュー」

 

 青龍が「ねーよwww」って言ってる。

 わかってるよ、この子がお前の主なんだろう。

 まずは起きてもらわねば。

 

「すみません。起きて、起きなはれ~」

「あ・・・うん・・・ふぇ」

「寝起きの無防備さ大変カワイイです。起きた?ほら、しゃっきっとしてくれ」

「う~ん。ふぅ・・・おはようございます」

「はい、おはよう。いきなりだけど誰?」

「あなたこそ、どなたですか?」

 

 大きく伸びをしてウマ娘が目覚めた。

 お互い自己紹介の順番をゆずりあった結果、いつものように俺からいきます。

 

「操者をしている、アンドウマサキです」

「まあ、操者でしたか。私はグラスワンダーと申します。そこにいるリュウちゃんの主人ですよ」

「キュッ」

 

 グラスワンダー。

 綺麗に整えられた茶色い毛並みに青い瞳。おっとりとした雰囲気の優し気なウマ娘。

 強いな、こうして向かい合ってる今も全く隙がない。

 いい目をしている、確固たる信念をもっている奴の目・・・武士か!

 まあ、そんなことよりカワイイですね。どいつもこいつも俺を楽しませてくれる!

 

「リュウちゃんを保護してくれてありがとうございます」

「勝手に連れていったみたいで悪かったな」

「いえいえ、リュウちゃんがご迷惑をお掛けしたみたいで」

「そんなことない、凄く大人しかったぞ」

「まあ、そうなんですかリュウちゃん?」

「キュー」

 

 友達の家に泊った翌日の保護者会話みたいになってきた。

 

「是非お礼をさせてください。何がいいかしら」

「それなら頼みがある。話を聞いてくれるか?」

「近くに良いお店があるんです。お茶でも飲みながらじっくりとお話しませんか」

「いいね!そうしよう」

「あ、でもリュウちゃんが」

「ん?問題ないだろ、青龍サイズダウンだ」

「キュー」

「え?」

 

 俺の意図を察知して手の平サイズになった青龍が主人のもとへ飛んでいく。

 両手で受け止めたグラスはなぜかひどく驚いている。

 

「まあまあ!こんなに小さくなれたんですね」

「なんだ知らなかったのか?」

「始めて見ましたよ。どういうことですかリュウちゃん?」

「キュキュキュー」

「なるほど・・・マサキさんの覇気を食べてからできるようになったと」

「あちゃ~勝手にご飯あげたのはマズかったか。ごめん、俺の覇気はちょっとおかしいんだわ」

「ちょっと?」

「かなりおかしいのかも、マジでごめん」

「リュウちゃんが喜んでいるので問題ないです」

「ならば良よし」

「とりあえず行きましょうか。リュウちゃん、お店に入ったら置物のフリをお願いしますよ」

「キュ~」

 

 龍の置物持って入店する奴は十分怪しいと思うが、なんとかなるか。

 

 グラスに案内されたのは和風のカフェだった。

 店内では何種類もある茶葉を選んで好きなお茶を飲めるシステムみたいだ。

 甘味も充実しておりどれも美味そう。

 グラスおすすめの茶葉を選んでもらい煎茶と何本かお団子をチョイスした。

 店外テラス席には赤い布が敷かれたベンチに日よけの番傘、実に茶店っぽいです。

 天気がいいのでそこに座っていただくことにした。

 

「私の趣味全開ですが、こういうのはお好きでしたか?」

「大好き。お茶もだけど和風の甘味が好きでな、抹茶系のスイーツとかあんこは大好物だ」

「喜んでもらえて良かったです。あんこは何派ですか?」

「つぶあん派かな。上品なこしあんも好きだけど、つぶあんの「あんこ食ってるわー」感がたまらん」

「私もです!マサキさんが話のわかる方で嬉しいです」

「この店、夏季限定で抹茶氷やってるみたいだ。今度食べに来よう。」

「その時はご一緒させてください。限定メニューと言えば、隣町にある甘味処では1日5食限定の抹茶パフェがあって」

「それ知ってる!ウマスタで話題になってたヤツだ」

 

 女の子と甘味の話で盛り上がってしまった。何これ、すんごい楽しいんですけどー!

 青龍が時折かまってほしくてじゃれてくる。ほいほい忘れていませんよっと。

 お茶とお団子に舌鼓を打ちながら会話を続ける。俺とグラスはすっかり意気投合した。

 

「私の友人は辛い物ばかり食べているので、甘い物の話題をふっても反応がイマイチなんですよ」

「俺が一番つるんでいる男は甘い物好きだから、よくいろんな店に連れていってくれるぞ」

「スイーツ男子というヤツですね。羨ましいです」

「女性だらけの店内に野郎二人で入店するのも慣れたもんさ」

「操者なのでしたら愛バを誘ってあげてはどうですか?きっと喜んでくれますよ」

「それは俺が愛バとやることリストに加えておくよ・・・ほうじ茶美味い~香ばしい」

「愛バに何かあったのですか、お話聞かせてくれます?」

「ああ」

 

 グラスに事情を説明する。

 覇気を集めていることの他に、結晶体の写真を見せて心当たりがないかも聞いてみる。

 

「そんなことが、私の覇気がお役に立てるなら遠慮なさらず使ってください。リュウちゃんを保護していただいたお礼です」

「キュー」

「ありがとう。本当に助かる」

「それにしても不可思議です。いくら成長期でも結晶体になったなどと聞いたことがありません」

「原因は俺の覇気とあいつら自身だと思うんだがな」

「操者のために更なる進化を望んだとでも・・・強い絆で結ばれているのですね」

 

 普通の成長では満足しない、俺がそうさせてしまったのか。

 そこまでしてくれるのは嬉しい反面、申し訳ない。

 二人のことを考えると寂しさがこみあげてくる。いかんいかん、しっかりしろ俺。

 クロシロを思って前向きになるのはいい、でも落ち込むのは無しだ。

 

「団子美味いね、お茶も美味しいし」

「食べ終わったら覇気を提供します。今はこのひと時を楽しみましょう」

「そうだな。リラックス~」

「はい。のんびり、まったり、参りましょう。たまには立ち止まって気分転換するのは大事ですから」

 

 気を遣わせてしまったようだ。お言葉に甘えてまったりしよう。

 青龍はグラスの膝上で丸くなっている。

 俺たちの間にのほほんとした空気が流れる。老後は是非こんな感じに穏やかでありたい。

 

 しばらくして「お茶のおかわりをもらって来ますね」とグラスが二人分の湯飲みをお盆にいれて立ち上がろうとしたのだが。

 

「私の友達から離れなサーイッ!」

 

 突如、こちらに向けてダッシュしてくるウマ娘が登場した。なんだあれ覆面?を着けてる。

 俺は団子が乗った皿を持ってスッと横へ移動、青龍はグラスの右肩に移動した。

 グラスは「あら?」と首を傾げながらもお盆を持ったまま、突撃ウマ娘に足払いをかけた。

 

「ぐへっ!な、何するんですかグラスっ!」

 

 顔面から綺麗に転倒したが、即座に跳ね起きて抗議の声を上げるウマ娘。

 ノーダメージそうなので心配なし。

 

「エル、騒がしいですよ。お店や他のお客様にご迷惑です」

「知り合いか?」

「残念ですがそのようです」

「ザンネン!酷すぎますよグラス~」

「ガゥ」

「お、白虎だ」

「キュー」

「ガゥゥゥー!?」

 

 青龍が「よっ!元気?」と声をかけると白虎が「小さくなっとるやないかい!?」とツッコんだ。

 

「はじめましてだな。そうか、虎王機って言うのか、白虎って呼んでもいいかな。お近づきの印に覇気をお食べ」

「ガゥガゥ」

「よしよし、いい子だな。美味いか?焦らなくていいからな」

「こらっビャッコ!知らない人から餌をもらってはいけまセン!というより私を無視しないで!」

「アンドウマサキだ。よろしくな、えーと・・・ルチャドーラさん?」

「ほら見なさい、常時そんなの着けているから女子レスラーに間違われる」

「これは父からもらった勇気のお守りなんデス。人前で脱ぐなんてとんでもない!」

「妙なこだわりをお持ちで」

「我が名はエルコンドルパサー!いずれ世界最強の騎神になる存在デース!」

「俺の家族を倒してから言ってね」

「あなたの家族が世界最強と何の関係が?それよりグラス!青龍の誘拐犯となんで仲良くしてるのデスカ?」

「誤解です。マサキさんはリュウちゃんを保護してくれた恩人で、先程友人になった人です」

「ええ~ホントですか~。この人なんかロリコンでマザコンでシスコンっぽくないデスカ?」

「失礼ですよエル!」

「人から言われると結構傷つくな」

 

 割と当たっているので声を大にして反論しづらい。

 でも、ムカついたので自慢の覆面を引っ張っていじめようと思います。

 おおー思ったよりも伸びる、素材は何だろうか。

 

「何するんですかっ!ヤメ」

「オラッ!素顔を見せろ!どうせ、ただの美少女なんだろ?ああん!!」

「やめてっ!引っ張らないで!グラス、見てないで助け・・・どうして羽交い絞めをするんデスかー!」

「私の友人に無礼を働いた報いです」

「私は?私の方が付き合い長い友達なのに!!ダメ!今、手を離すのはダメです!ゆっくりそぉーと元に」

「あっ」

「いっっったあぁぁぁいいいい!!!目がぁぁぁーーー!!!」

「うるさい奴だな」

「まったく嘆かわしい限りです」

「キュー」

「ガゥ」

 

 ワザとではない、うっかり伸びきった覆面から手を離してしまった。

 バチンッ!!と顔からいい音がした後、叫び声を上げてうずくまるアホがいた。

 やれやれと首を振る俺たち。

 

「ううっ・・・あんまりデス・・・」

「ああもう泣くなよ。ほら、見せてみろヒーリングしてやる」

「おや、マサキさんは治療術の心得があるのですか?」

「我流だよ。でも評判は上々なんで心配するな。ここか?じっとしてろ」

 

 涙目のエルコンドルパサー。

 やや茶色がかった黒い毛並み。父から譲られたレスラーマスクがトレードマークのラテン系ウマ娘。

 強者への憧れを胸に修練の日々を送っているらしい。口だけではなく確かな実力はありそうだ。

 グラスとは腐れ縁でアメリカに住んでいた頃からの付き合いらしい。

 

 全然大したことないがはずだが、ヒーリングを施す。

 マスクを取った素顔は思った通り可愛かった。なぜ隠すのか理解不能だ。

 

「あなた・・・いい人デスネ!!!」

「手の平返し早すぎて引きます、チョロ過ぎですよエル」

「覇気から伝わってきました。マサキは信用できる人デース」

「そりゃどうも、素顔とってもカワイイでーす」

「う~////もういいですから、後ろ向いててください」

「きっと、エルにとってあの覆面は下着みたいなものなんですよ」

「マジか~それは失礼なことをしたな。許してくれ」

「適当なことを言わないでくだサイ!!」

 

 いそいそと覆面を付け直すエル。

 隠さなくていいのにと思うが、ここは本人のこだわりを尊重することにした。

 彼女にも協力を頼んでみよう。

 

「エルコンドルパンサー、お願いします!覇気をください」

「パサーですよ!間違えないで!」

「え?・・・私、ずっとパンサーだと思ってました」

「なんでグラスはいちいちワタシを傷つけるんデスカ!」

「あなたに私という消せない傷を刻み付けたいからでしょうか?」

「怖い!そして重い!」

「冗談です」

「コンド―さんというのはどうだろ」

「急に何を!?それをワタシのあだ名にするきデスカ?・・・遠慮します」

「コンドーさんwww避妊具を連想しますねwww」

「グラスッ!!!てめぇはもう黙れ!!!」

「無理に片言キャラにしなくていいよ、タイキと被ってるし、痛々しい」

「お前も黙れ!!!」

「最近の若い子、ちょっとキレやすくない?栄養が偏ってるのかな、心配だわ」

「きっとカプサイシンの過剰摂取で脳細胞が委縮しているのですよ、かわいそうに」

「こいつらマジでムカつく」

「コンド―さん!頼むよ、俺の愛バが大変なの!覇気をちょっとだけ吸わせて欲しい」

「その呼び方を採用した覚えは無い!」

「エ・・・じゃなかった。コンド―〇?マサキさんの話をちゃんと聞いてあげて」

「いつもみたいにエルって呼べよ!!!コンド―〇って伏字にしたら余計に卑猥だろうが!!!」

 

 激怒するコンド―さん。ちょっと泣いてるのでこの辺でストップだ。

 グラスがなんかツヤツヤしている、さてはこいつSだな。

 結局、コンドーさんは不採用になったので仕方なくエルと呼ぶことにしました。

 

 エルと白虎、新たに加わった二人にも俺の事情を説明した。

 

「グスッ・・・いい話ですね。愛バのために変態の汚名を被るだなんて」

「ガゥ」

「その汚名を被せた奴にはいずれ制裁を加える。待ってろよアグネスども」

「本気の目、使命に燃える殿方はいいものですね~」

「どす黒く濁った瞳してますよ。」

 

 人数が増えたので追加注文「ハンバーガーは?」と発言したエルにグラスがイラッとした。

 そういうとこやぞ!!

 ちなみに白虎は俺の覇気を食ってすぐにサイズダウン、今は青龍と一緒に俺が抱っこしてます。

 

「いいでしょう!世界最強のウマ娘たるもの、困っている人を助けるのは当然です。覇気の提供OKです!」

「少し休憩したら場所を変えましょう。覇気の提供はその時にでも」

「二人ともありがとう。その後なんだが、青龍と白虎を連れてテスラ研に言ってくれないか」

 

 テスラ研に行ってもらうことも承諾してもらった。

 超機人に出会い主人となったものの、今後どうしてよいか途方に暮れていたのが現状だったらしい。

 親御さんたちは海外にいて二人は立派な騎神になるべく日本に単身やって来たのだとか。

 テスラ研で保護してもらう話は渡りに船、二人にとってちょうどいいタイミングだったようだ。

 和風カフェで駄弁ってから外へ、移動しながらの身の上話は楽しかった。

 

「へぇー。じゃあ、二人はトレセン学園に入るんだ。上手くいけばスぺの同級生になるのか」

「編入の手続きは済ませてあるので来月には通えるそうです」

「実力さえあれば中途編入可能、騎神の育成には広く人材を募るってのはいい考えだ」

「飛び級で入学した例もあったそうです。どんなライバルたちが揃うのかワクワクしまーす」

「キュー」

「ガゥ」

「お前たちも学園に?どうだろう、やよいや姉さんが許可すれば大丈夫か」

「マサキさんのおかげで小さくなれますし、大きさでご迷惑をおかけする問題は解決ですね」

「便利な機能があったものです。それにしても・・・よく懐いていますね」

「本当にそうです。私たちが出会った時は結構警戒されて、仲良くなるのに時間がかかりましたものね」

「キュ~」

「グルルゥ」

「その節はすまんかったって言ってるぞ」

「意思疎通も私たちよりできてる気がします」

「気のせいだろ」

 

 超機人2体とすぐ仲良くなったことに少し驚かれた。

 そういえば、クロシロも俺以外の男には当たりがきつかったらしい。

 変なフェロモンが出ちゃってますかね。まあ、いいか。

 先程昼寝をした場所まで戻ってきた。

 川のせせらぎを聞きながらお待ちかねのドレイン。

 エルから先にやることにした。

 

「緊張しすぎだってばよ。リラックスしてくれないと上手くいかんのよ」

「うう、どうすれば」

「委ねろ」

「何を?」

「お前の全てをゲッター委ねるんだ」

「それ同化されちゃうパターンなのでは?」

 

 ゲッターとは何かを語るとキリがない(ネオさん英才教育の賜物)

 優しくやさし~く頭を撫でてやると緊張が解れてしっかりドレインできました。

 

「なんか手馴れているのがムカつく」

「そりゃあ慣れもするよ。経験豊富ですから!次、グラスワンダーさん」

「はい、お手柔らかにお願いします」

 

 凛とした相手にやるときはこっちも緊張する。

 凄くいけないことをしている気がして・・・ムラムラします。

 

「愛バがいるんですよね?私に欲情しては「めっ!」ですよ」

「すんません!ホント自重します・・・たぶん

「あら・・・本当に撫でるの上手ですね。これで愛バを落としたんですか」

「落とされたのは俺だと思ってる」

「あら~惚気られてしまいました」

 

 グラスのドレインも完了。

 二人と二体はテスラ研に行ってもらって、俺はゴルシと合流するか。

 

「ありがとう二人とも。じゃあこれからテスラ研に・・・」

「グラス!!」

「わかってますよエル。リュウちゃん、マサキさんを守って!」

「キュー」

「ビャッコもです。マサキの護衛を頼みます」

「ガゥ―」

「どうした、一体なにが」

 

 急に戦闘モードに入る俺以外のメンツ。穏やかじゃないですね。

 気づくのが遅れた、俺ってホント索敵能力の精度が低い。

 

「来ます!」

 

 地面からいきなり植物のようなものが生えた。

 いつから潜伏していたのか川の中から飛び出してくる奴もいる。

 空からも何体か振ってきた。どいつもこいつも異形の存在。

 変な人面がついた謎の植物、根っ子っぽい足で歩き回る・・・キモイ。

 袋状の体に足と羽がくっついた鶏っぽい奴・・・キモイ。

 空飛ぶ金魚?とりあえずキモイ。

 ヤマアラシみたいな奴・・・こいつはまだマシ。

 ぷっくりとした四足の奴、こいつ体の裏側に人面あるから・・・結局キモイ。

 といったキモイやからに囲まれてしまった。大きさは平均2m前後って所か。

 

 ここでこの世界の常識をお伝えします。

 たまにね~出るんですわ、正体不明の敵性体が。

 こいつら人を襲うから操者と騎神やAMにPTの部隊、野良強者たち等が定期的に出動してハンティングしてます。

 マジで迷惑な話なんですが、そういうデンジャラスな側面を持つのが常識の世界ですのでご理解ください。

 まあ、慣れですよ慣れ。見つけたら慌てず騒がず即通報、強者の到着を待つのが一番。

 こいつらのことはたまにニュースで見る。

 未だに詳細は報道されないが通称はある。

 

「デモンかぁ・・・数が多いな~めんどくせ」

「キューキュー」

「ガゥガゥ」

「別に怖くないよ、キモイのが勝ってる」

 

 ああそういうことね。こいつらの狙いは超機人か。

 トラブル発生!知ってたよもう!

 



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しつげん

 二体の超機人とその主を発見。ドレインもしたのでテンション上がった。

 キモイのに囲まれてすぐに下がったけど。

 

 コードネーム、デモン。

 目的不明、正体不明の迷惑存在。特徴は見た目と動きがキモイ。

 

 こいつらが現れた瞬間にグラスとエルは戦闘モード。

 超機人たちも元のサイズに戻って敵を威嚇する。

 

「キューキュー」

「ガゥ」

「なになに、妖機人(ようきじん)百邪に寝返って変質した凶悪な超機人の総称。バラルが使役する生体兵器もそう呼ばれると、ふーん」

 

 超機人たちからテレパシーでビビッと送られてきた情報によると。

 このキモイ集団は後者、バラルの生体兵器だって。

 脳内に知らない単語と情報がいきなり飛び込んで来るからビックリするよ。

 デモンは妖機人、超機人の敵ってことでOK。百邪?バラル?ってなんだよ。

 

 俺をキモイ集団から庇うように前に出るグラスとエル。

 戦い慣れしているようで二人の背中が頼もしい、男前ですやん。

 

「リュウちゃん、金箍棒(きんこぼう)を!!」

「ビャッコ、ジャベリンです!!」

 

 主人の命に応え超機人たちが体から上空に棒状の物体を射出する。

 落下してきた物を片手でキャッチする二人。

 得物の感触を確かめるように器用な手つきで回転させた後に構えをとる。

 重心を軽く落とし長い得物を構える二人、やだカッコいい!!

 

 グラスの獲物は黄金の輝きを放つ棒、金箍棒って孫悟空の使った如意棒の事か。

 エルの獲物は中国の武将が使うような偃月刀(えんげつとう)だ。

 

「武装の供給ができるのか、お前たちは自立行動型兵器であり武器庫でもあるんだな」

「キュー」

「グルル」

「感心してる場合ですか!早く離脱を」

「リュウちゃん、トラちゃん!マサキさんを連れて行って!」

「ちょ待てよ!俺もた・・・うぉ!?」

 

 一緒に戦うつもりだったのに、青龍にひょいっと肩をつかまれて体が浮き上がる。

 白虎の背中に降ろされた。

 青龍が敵陣の手薄な箇所を突破し、穴をあける。わお!火吹いたぞ。

 そこを白虎が高速で走り抜ける。

 俺が乗っているのになんてスピードだ。人間一人ぐらいの重量なんぞ全く問題ない。

 みるみる距離が離れていく、こんな状況じゃなければ超機人に乗ったことで大はしゃぎしていた。

 振り落とされないようにしがみつきながら移動する。

 あ、ストップ!ストップだ、優秀な二体に声をかける。

 

「ここまで来れば十分だから降ろしてくれ」

「キュ?」

「ガウ?」

「ご主人様たちが心配だろ?俺はいいから戻って加勢してやりな」

「・・・・」

「・・・・」

「それはこれで解決だな。ほら、持って行け」

 

 超機人との契約システムは操者と愛バの契約を元に構築しているのだろう。

 駆動燃料は契約者の覇気、戦闘行為をすればその消費量は跳ね上がる。

 契約して日が浅いと覇気の循環効率が悪く設定以上に消耗が激しくなるのだとか。

 グラスとエルが超機人と契約して1月ほど、互いの覇気が馴染むには1年は必要。

 主人と共に戦いたいのは山々だが、必要以上に力を奪って足を引っ張る結果になることを超機人たちは恐れている。ホンマにええ子やね。

 

 そこで俺の出番。

 二体の体に手を置いてたっぷり覇気を供給してやる。 

 さっきグラスとエルにもらった分のお返しってことで。

 超機人と俺の覇気は凄く相性がいい、二体のお腹を満たしてやると凄く満足してくれた。

 二体の体から覇気の粒子が溢れる。

 しっかり覇気が馴染んだ証拠、こんなんでどうよ。

 

「どうだ、いけそうか?」

「キュキュキュー」

「グルルゥゥ」」

「ならば行くがいい!主人を助け、あのキモいのを殲滅しておいで!」

 

 先程とは比較にならない程のスピードで戦場へ戻る二体。

 あの様子なら大丈夫だろう。

 さてと・・・。

 

「そこの奴、俺に何か用か?」

 

 河川敷から離れた場所の雑木林、その陰から人型が現れる。

 鎧を身に着けた古代中国の兵隊を思わせる姿、顔に当たる部位に目、鼻、口はない。

 大きさ3m弱、手には剣を装備してこちらに殺気を向けている。

 剣の形は魚型で、中央に柄があり左手で尾の部分を掴む両手持ちすると剣というより槍の雰囲気。無駄に凝ってるな、そして使いにくそう。

 覇気の感じからしてこいつも妖機人か。

 

「なんか喋ってくれる?用がないなら早く消えろ」

 

 剣の先端から高圧の水流が打ち出される。

 ウォーターカッター?当たりたくないので避ける。水流に打ち抜かれた木々が倒壊する。

 体を大きく反らしてブリッジ状態で回避。日々のストレッチが功を奏した結果だ。

 

「攻撃したな、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだぞ」

「・・・・」

「かかってこいや妖機人!俺に出会った不幸を呪え」

 

 手加減はいらないよな、とことんやってもいい相手は久しぶりだ。

 バイオレンスな愛バたちを見習ってみますか。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はっ!」

「だぁりゃあああ!」

 

 マサキが去った後。

 妖機人に包囲されたグラスとエルは己の技量を最大現に発揮し敵を撃破していく。

 

「伸びて!金箍棒」

 

 グラスの声に応えた武具が10mを超える長さにまで伸びる。

 伸びたことにより取り回しが悪くなったはずが、それを感じさせない動きで繰り出される棒術、複数体の敵を巻き込んだ後、しなる金箍棒によって敵を大地に叩きつける。

 

「食らいなさい!」

 

 エルが使う武具はソニックジャベリン。

 斬撃、払い、刺突を組み合わせた華麗な演武が抵抗する隙を与えず敵を屠る。

 高速の連続突きが敵を穴だらけに、弧を描く薙ぎ払いが接近するものまとめて吹き飛ばす。

 力を込めた斬撃が装甲をものともせず一刀両断。

 

 背中合わせになった二人、まだ余裕がある。

 しかし、このままではじり貧なのも事実。

 

「今日は数が多いですね。最高記録更新、嬉しくないです」

「キモい上にしつこい!いい加減にしてほしい」

 

 会話中も動きを止めない、包囲陣を狭めるキモいのを潰していく。

 

「マサキさんは無事でしょうか?巻き込んでしまいました」

「ビャッコたちが逃がしてくれたはず、信じましょう」

 

 倒した数が20を超えた頃、敵に動きがあった。

 

「ここに来て増援ですか」

「ああもう!キリがないでーす」

「キュー!」

「ガゥ!」

「「何で戻ったの!?」

 

 龍と虎の超機人が戦場へ舞い戻る。

 敵増援に向けて龍は超高温の炎を吐きかけ、虎は衝撃波を伴う雄叫びを上げる。

 それだけで半数以上の敵が滅ぼされる。

 倒しきれなかった相手にも追撃を忘れない。

 翼に仕込まれた刃で切断、鋭利な爪と牙が容赦なく引き裂いていく。

 わずかな時間で増援を片付けた二体は包囲網を突破し主人に寄り添う。

 

「今のが超機人本来の力でなんですね」

「待ってください、誰がビャッコたちを強くしたんですか?それに体から覇気の粒子が」

 

 超機人の体から溢れる覇気の輝き。

 この覇気の持ち主は一人しかいない、私たちは彼の力を見誤ったようだ。

 でも、超機人をこちらに戻したのは・・・まさか。

 

「エル!マサキさんの所にも敵がいます。ここにいる雑魚より格上の相手が」

「そんな!今まで私たちに粘着していたのに何で?」

「おそらく、私たちはついでです。今回、妖機人の狙いは最初からマサキさんだけです」

「させません!会ったばかりだけど、もう大事な友達なんですから」

「ええ。彼に何かあれば、ご家族や愛バに申し訳が立ちません」

 

 今一人で敵と相対しているであろう彼の下に行かなくては。

 焦るこちらを嘲笑うかのように迫る妖機人。

 どけよ!時間稼ぎの消耗品風情がっ!数を頼りにする雑魚に苛立ちが募る。

 

「キュー」

「リュウちゃん?え、このお札に覇気を込めろと」

 

 青龍が黄色地に朱色の文字が描かれた札を主に渡す。どこから出した?

 思考は一瞬、相棒を信じて札に覇気を込める。

 すると、札に宿った法術が発動された場合の効果、範囲、威力が頭になだれ込む。

 発動まで残り5秒。

 

「移山法・・・は!?エル!退避しますよ!」

「ちょ、え、うぇぇーー!?」

 

 慌てて空中に札を放り投げるグラス。

 超機人は主の体を引っ張り強引に包囲網を抜ける。

 即座に追いかける姿勢をとった妖機人たちだったが遅すぎた。

 

 札が効力を発現。

 空中に巨大な岩石が現れる。あまりに巨大、山と言っても過言ではない。

 現れた巨岩が重力に従い落下、数十体の妖機人が押し潰され粉砕された。

 

「危なっ!今の本当に危なかった!!何してくれてんですかグラス!!」

「リュウちゃんに言ってくださいよ。まあ、これで結果オーライですね」

「まったく、みんな急ぎますよ!ビャッコ加速してください」

「ガゥー」

「え?まだ他にもお札があるですって、それはまた今度にしましょうね」

「キュー」

 

 覇気のぶつかり合いを感じる。

 あの雑木林の奥で戦闘が行われている。

 マサキの下へ急ぐ途中、それを発見した。道標のように奥へと続いている。

 

「これが全て妖機人の死骸・・・どう見ても100体以上」

「たった一人で倒せる数じゃないです、普通なら」

 

 無数に転がる敵の骸、この数を一人でやったのか。

 やられ方も酷い、砕かれ、踏み潰され、千切られ、抉られ・・・見るも無残な光景が広がっている。

 いろいろな殺し方を試行錯誤した結果、こうなってしまったとでも。

 木々が倒壊する音が響いて来る。この先だ、いる。

 

「行きましょう。この目で見ないとハッキリしませんから」

「わかりました。マサキはきっと無事ですよね」

  

 音がする方へ近づいて行った先、人型の妖機人が視界に飛び込んで来た。

 一目で理解できてしまう、格が違いすぎると。

 勝てない、超機人を含めた全員で戦っても無理な相手だ。

 超級騎神並みの覇気を纏う存在に委縮してしまう。

 だが何故だ?

 妖機人は自分たちの存在に気づいたはずなのに襲って来ない。

 こちらを気にしている余裕がないとでも?

 よく見れば全身に殴打された跡と亀裂が入り、顔に当たる部位の半分が崩壊している。

 

 林の奥から妖機人めがけて三発の覇気弾が撃ち込まれる。

 小石程の大きさなのに一発一発が見た目以上に重い、まともに食らえばただではすまない。

 妖機人は辛くも三発の弾丸を剣で捌ききる。

 だが、殺しきれない威力と衝撃に後退を余儀なくされてしまう。

 今度は妖機人目掛けて雷が迸る。

 追尾するような軌道を描きながら進む雷、先端は四俣の爪になっている。

 標的を捉えた雷の凶爪が妖機人の肩口に深く食い込む、更にそこから放電。

 電撃を受け膝をつく妖機人。そこへ彼が現れた。

 

「追い詰めたぞ・・・逃げんなコラッ!そっちから始めた戦いだろうが!」

 

 ちょっと負傷したが全く問題なし、まだまだいける。

 逃げに入った妖機人を追いかけ回して疲れた。林や森の地形を縫って移動するのは苦手だ。

 スぺの野生的センスが羨ましい、山籠もりやってみようかな、姉さんも経験者みたいだし。

 アルダンに受け継がれた雷の残りで形成したプラズマビュート改、なかないい感じ。

 一本しか出せないが、そこは質で勝負!先端を爪にすることでガッチリ掴むことができます。

 

「マサキさん!」

「お、二人とも無事だったか。青龍と白虎が頑張ってくれたようだな」

「キューキュー」

「ガゥガゥ」

「マサキ!前!前です!気を抜いてはダメです!」

 

 よそ見をした俺に妖機人が剣を振り下ろす。雷爪を回収して回避。

 おや?少し前に顔面を陥没するほど殴ったのに、傷が回復している。

 体に入っていた亀裂も無い・・・また自己修復持ちかよ。だが、ぺルゼインよりも回復速度は遅い。

 体に攻撃をすると怯むのだが、痛がったりはしていない。こいつの核はどこだ。

 接近戦、剣撃がこちらを掠める。避けきれないものは覇気を腕に集中してガード。

 それじゃ届かねぇ・・・あ!?腕に痛みが走る。

 魚の形をしているので変わっているなーと思っていた妖機人の剣。

 ただの飾りだと思っていた魚の目がギョロっと動き口を大きく開けた後。

 ズラリと牙が並ぶその口で腕に噛みつきやがった。

 

「いだだだだ!!離せや!」

 

 痛っ!牙を突き立てただけじゃなく肉を食いちぎるために暴るとは。

 引き剥がすことに成功したが腕には結構なダメージ。

 あー痛い、傷が残るかもな。とりあえず覇気で止血とコーティング、神経は大丈夫そう。

 心配そうにこちらを見ている二人と二体に注意しておこう。

 

「大丈夫、負けたりしない。こいつは俺一人でやらせてくれ」

「聞きましたねエル、手出し無用です」

「わかってます。セイリュウとビャッコもいいですね」

「キュー」

「ガゥ」

 

 青龍からテレパシーで情報が送られてくる。敵、妖機人の名は鋳人(いじん)先に現れたキモイ集団より強いから気を付けろだとさ。

 魚がガチガチと牙をならし不快な音を立てる。

 その音に導かれるようにして、上空に新たな妖機人が出現する。

 こいつは既に何回も仲間を呼んでいる。一騎討ちする気はないのですか?

 物量で押せば勝てるとでも?舐めんな。

 

「すごい数です!流石にこれは見てられません」

「待ってエル、マサキさんが何か仕掛ける」

 

 チャージしまーす、集中集中集中、発射口よし、方位角OK、ターゲットロック。うん、いけそうだ。

 大きく息を吸い込み呼気と一緒に覇気を吐き出す!

 口から発射された極太の光線が空に撃ち上がる、しっかり踏ん張ってないと俺自身の体がもたん。

 緑色の覇気光線が空中の妖機人を消し飛ばす、念のため首を振って光線を左右に往復させておこう。

 もういいかな、ふぅ・・・スッキリしたな「グェプッ!」失礼、ゲップ出ちゃった。

 姉さん直伝のハイパーブラスター!多少、俺流にアレンジを加えたのでオメガブラスターなんてどうでしょう。

 これはストレス解消に使える、今度からたまにコレやろう。

 

「増援はもう無しか?」

 

 鋳人の焦りと動揺が伝わって来る、人語を喋らないが覇気で大体わかるんだな。 

「理解不能、理解不能、理解不能」「危険、危険、危険」

 自意識や感情表現の豊かさは超機人の勝ち。妖機人はあくまで何者かに使役される存在で個性は薄い。

 無人機と一緒か、こいつを尋問しても無駄だろうな。

 

 鋳人が覇気を練り上げる。勝負に出るか?大技の予感。

 魚型の剣を大地に突き立てる、鋳人を中心に太極図の紋様が展開された。

 

「うお!地割れが、水が出てきた!?温泉でも掘り当てたの?」

「リュウちゃん!退避です!」

「ビャッコ逃げますよ!」

 

 いきなり大量の水が地面から噴出した、明らかに量がおかしい。

 なんかこの水、俺に向かって来てね?指向性を持った水に抗う暇もなく飲み込まれた。

 いや~想定外だわ~。溺れるのは勘弁なので何とか水面に。

 

 (あだっ!こいつ)

 

 大量の水は川となって俺の動きを封じる。固有結界!?

 もたもたしていた所を鋳人が水中を自在に動き回り攻撃してくる。

 水を得た魚だ、いつの間にか下半身が人魚のように変形している。

 水中戦の方が得意だったてか、スパロボは海適応S機体を活躍させたくなる俺です。

 連続で俺を切りつけた後にイルカジャンプ、空中に飛び上がり剣をこちらに投擲する。

 剣の魚部分が大きく変形、目を血走らせ、牙を剥き出しながら俺に襲い掛かる。

 

 (ジョーズかよ!嫌ー!こっち来ないで!)

 

 サメ映画はディープブルーがおすすめ、2と3?知らんな。

 腕を噛まれたときを思い出し怖気づいてしまう。覇気で防御力を高めたから簡単にはいかんぞ。

 こちらの胴体を噛み千切れるほど大きくなった魚の顎が防御の上から食らいつく。

 覇気の防御層は破られてはいない、それに業を煮やしたサメ野郎が牙で俺を挟んだまま回転。

 

 (デスロール!?)

 

 得物に噛みついたワニが見せる必殺の動き。

 自身の体ごと得物を回転させ肉を引き千切り骨を砕く、エグい技です。

 目が回る~、それに息がヤバい・・・。こんなところで負ける訳にはいかないんだよ!

 

 形勢逆転したことで調子に乗ったのか鋳人が俺を嘲笑する。

「勝利、勝利、勝利」「死ネ、死ネ、死ネ」「次モ、次モ、次もコロス」

 

 感情希薄なんじゃなかったのか?

 トドメを刺す前に舌なめずりするようなバカは三流以下だって知らないのか。

 そんなんだから・・・。

 

「オマエの次は、オマエの大事な愛バをコロシテヤル」

 

 最低最悪の失言をほざいてしまう。

 

「なんだとごらぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 キレた。

 母さんの風、シルフィードアクセル乗せたままでバーストモード発動。

 暴風と覇気の爆発が鋳人の創り出した川の全てを一瞬で吹き飛ばす。

 

「なんてこと・・・」

「ありえない、こんなのおかしい」

「「!?!?」」

 

 川に沈んだマサキを心配していた者たちは驚愕する。

 疑似的な川をつくるほどの水量を気迫だけで消滅させただと。

 あれはダメだろ、今のマサキは超級騎神ですら霞む程の覇気を放出している。

 しかも、それが全く衰えないどころか刻一刻と強くなっていく。

 人型の妖機人は動かない、いや、動けないのだ。

 普段の優しい覇気から一変して、禍々しい殺気の籠った死の輝きが周辺を埋め尽くす。

 もはや、マサキを人間にカテゴライズする自信は無い。

 

「誰が、誰を殺すって?」

 

 俺がどれだけあいつらを思っているか、会いたいか、寂しいか。

 それを、わかった上での発言か?

 お前、生きてここから帰れると思うなよ。

 

 人型の方は動かない、代わりに魚の方が突っ込んで来る。

 水中ではないので動きは大したことない、やぶれかぶれの突撃を止める。

 びっしりと牙が生えそろった魚の口を両手で広げる。

 力任せに魚の顎を開ける、限界以上に広げられた部位が嫌な音を立て始める。

 狂った様に暴れ回る魚、頭部から全身へと縦に裂けていく人型。

 

 声に出してはいないだろうが、確かに聞いた。

 こいつはあいつらを殺すと言った。許せない!許さない!殺されるのはお前だよ!

 ブチブチと筋繊維の切れる音、バキバキと機械部品の砕ける音。

 飛び出した魚の目玉が千切れて落下する。

 覇気の制御は既に不可能、体内からよくわからないものを零しながら崩れていく。

 やっぱり魚の方が本体だったか、魚にダメージが入る度、人型の体もボロボロになる。

 お前の敗因はシンプルに一つだけ。

 

「てめぇは俺を怒らせたぁぁぁーーー!!!」

 

 シルフィードアクセル全開!暴風の意味は特にない!この方が単純にパワーが上がるから。

 そのまま魚を頭から尾まで引き裂いてやった。

 体液?がちょっと散った、汚ねぇ。キモイ魚だったものを無造作に捨てる。

 人型も連動して裂けている。アインストみたいに土に還るのかこいつら?

 

「はぁ、やっちまった」

 

 クロとシロに悪意を向けられるとどうしても抑えられない。

 もし、敵が複数だったら?こいつ以上の強敵が控えていらた?

 後先考えずに力を使って、肝心な時に戦えませんじゃ話にならない。

 クールにならなければ、いつか痛い目を見そうで不安だ。

 でも、愛バを害する宣言されて黙っているようなら操者失格だとも思う。

 一人なのがいかんのよ、あいつらが隣にいればもっと上手くやれるはず。

 結論、早く会いたいよ。

 

「お疲れ様です、やりましたね」

「キューキュー」

「凄かったでーす。特にゲロビームが」

「ガゥガゥ」

「ゲロビって言うと姉さんに怒られるぞ。終わったみたいだな」

 

 戦闘終了、残存勢力なし。

 駆け寄って来た皆の状態をチェック。ケガはしてないな、ヒーリングは必要ないみたい。

 ほっと一息、ちょっと疲れた。

 

「人の心配してる場合ですか、腕を見せてください」

「え、ああ、忘れてた」

「キュ~」

 

 グラスに腕を掴まれてから思い出した。魚に腕を噛まれたんだった。

 青龍がどこからともなく取り出した御札を、グラスが俺の腕に貼り付けていく。

 包帯代わりにいいかも、この札には回復力を高める効能があるらしい。

 

「妖機人は青龍と白虎を狙っているのか?」

「これまで何度か襲われたことがあります。ですが、人型の妖機人は始めて見ましたし、今回の狙いはマサキさんだったようです」

「妖機人に目をつけられるようなことしたかな?」

「さっきまでのマサキを見たら誰だって目をつけるのでは」

「そ、そうかな。それはやめてほしい」

 

 その昔、無謀にもラ・ギアス付近に出現した妖機人がいた。

 当時の俺は妖機人については無知だったから、新種の生物を発見したかと思って不用意に近づきすぎた。

 そのせいで奴らに追いかけ回されるハメになり、激怒した母さんがチリ一つ残らず妖機人を消滅させたとさ。

 それ以来、ラ・ギアス近辺に妖機人は出ません。

 

「母さん絡みで俺を恨んでいたとか?うーん、わからん」

「とりあえず、ここを離れましょう。そろそろ警察や軍が気づいてるはず」

「マサキのゲロビと覇気はいい目印ですよ」

「すまぬぅ」

「キュー」

「ガウ」

 

 妖機人の目的はなんなのか?青龍と白虎を狙う理由は?今はわからん。

 でも、これだけはハッキリわかる、どんな奴だろうと俺の愛バを狙うなら容赦はしない。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「青龍と白虎は主人を見つけた。彼女たちごと引き入れるのが理想だったが」

 

 マサキたちの様子を離れた場所から伺う男がいる。

 長身痩躯、白いスーツに青いシャツ、黄色のネクタイを着用した飄々とした雰囲気の男。

 戦闘が終わり移動するマサキたちを見ながら、一人呟く。

 

「まあ、今はいいだろう。主人共々、バラルの脅威足りえない」

 

 最初の狙いは超機人とその主だった。

 妖機人を送り込み力量を図った結果は捨て置いて問題なし。

 それよりも、突如として現れた人間の方が気にかかる。

 だから今回は男の力量を図るつもりだった。結果、問題は大いにあり、あの男は危険だ。

 鋳人は人間が単独で勝てるような存在ではないはず、しかも、騎神の手を借りず素手で圧倒した。

 最後に見せた覇気だけでも十分に警戒すべき対象だ。

 そうか、あれが奴の言っていた代役。

 

「だとすると、これ以上は協定違反になってしまうな、この場は引くよ」

「・・・・」

「・・・・」

「心配せずとも君たちの主人はこちらで用意しよう。さあ、帰るよ、凶暴なウマが来る前にね」

 

 白スーツの男がキザな仕草で指を鳴らす。

 地面に太極図の陣が展開、二体と共にその場から姿を消す。

 謎の男と共にいたのは、火の鳥を思わせる紅い鳥と蛇の尾をもつ頑強な亀だった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 白スーツたちが消えた場所に別の人物が現れる。

 彼女、ゴールドシップはマサキたちに妖機人をけしかけた奴を探していた。

 

「逃げたか、バラルの飼い犬が動いてるってことは。ハァ~めんどくせ」

 

 やっぱ2ndにもいるのか、役立たずの神が。

 1stでは顕現する前にベーオウルフとルシファーが潰したからな。

 お、マサキから電話だ。

 

「おう、お疲れ。ゴルシソード(ただのネギ)は無事手に入れたぜ。それより、超機人たちはテスラ研に行くんだろ、覇気もらったなら礼は言っとけよ」

「お前見ていたな、少しは手伝えよ」

「あの程度なら余裕だろ。現に楽勝だったじゃねーか」

「噛まれた、痛い」

「最初から全力でいかないお前が悪い、お遊びが過ぎたな」

「面目ない」

「家に帰ってるからな~。じゃ、また後で」

 

 1stでベーオウルフたちを生み出した存在。

 そいつが2ndでも暗躍し既にバラルに接触している可能性は高い。

 必ず何か仕掛けてくる、マサキのことはとっくに気づいてるだろうからな。

 何者か知らないが、思い通りに行くと思うなよ。

 アンドウマサキを甘く見てると後悔するぞ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「気を付けて行くんだぞ。タキオンたちに話は通してあるからな」

「お世話になりました。マサキさんの目的が成就することを祈っています」

「キュー」

「私もっと強くなりまーす。次に会ったとき勝負してください」

「ガゥ」

 

 すり寄ってくる青龍と白虎を撫でてやる。これからも主人と仲良くな。

 グラスが青龍に、エルが白虎の背に乗って出発準備完了。

 

「また、お茶をご一緒しましょうね。約束です」

「今度は私おすすめの激辛料理店にも行きましょう」

「お茶と甘味は是非、激辛はピリ辛ぐらいで頼む」

「また会いましょう、マサキさん」

「さらばでーす」

「キューキュー」

「ガゥ―」

「またな~」

 

 超機人とウマ娘たちが遠ざかっていく。お別れの時はいつも寂しいな。

 腕の貼り付いた御札を見る。まだまだ甘い、無傷で勝利するぐらいでないといけなかったのに。

 クロとシロが頑張って成長しているなら、俺も止まる訳にはいかない。

 あいつらに相応しい操者は俺だと、自信を持って言えるように。

 

 帰宅した俺を待っていたのはゴルシと大量のうまい棒だった。

 それ今後の旅に必要か?ああうん、一本もらうね。ココア味だと!?初めて食べたがいけるな。

 

 



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えーあいわん

 妖機人と戦闘した、グラスたちはテスラ研へ。

 俺とゴルシは覇気を求めて旅立つ。

 

【???】

 

「あれ?まためじろだ」「なんにんいるんですか!」

「そーすやきそばのあじ」「めじろにしてはしょみんてき」

「おいしければなんでもいい」「うめうめうめ」

 

「あーかっらっ!」「からいというよりいたい!」

「からすぎる」「う~まだひりひりします」

「わたしのぶんあげるね」「いらん!もうむり、やめ・・・あー!!」

 

「おちゃ」「おちゃです」

「たんさんのみたい」「ぜいたくいうな」

「ほっとするね~」「そうですね」

 

 (なんだとごらぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!)

 

「!?」「!?」

「あーあーきれちゃった」「あのやさしいひとをおこらすとか」

「どこのばかだよ」「しらね、きょうみないです」

「じごくいきけってい」「しけいです!しけい!」

 

 (あいたい、さびしい)

 

「わたしわるいこだ」「しってる」

「うれしいっておもっちゃった」「そのきもちわかります」

「わたしたちのせいでつらいのに」「それだけおもってくれてるわけですから」

「ほんとさいてーだよ」「こころをいためてくれるのがうれしいだなんて」

「ざいあくかん、ぱない」「みすてられたらどうしましょう」

「そのときはあなたのぶんまでわたしが」「それいじょうほざくな!」

「あのひとのとなりはもらうね」「みのほどしらずが、わらわせんな」

「またこのぱたーん」「おやくそくです」

 

 ヽ(`Д´☆ガッ■━⊂(・∀・ ) 彡

 

 ヽ( ・∀・)ノ┌┛Σ(ノ;`Д´)ノ

 

【マサキ】

 

 また愛バたちがケンカをしている、そんな気がした。

 あいつらがケンカする理由はなんだろう、食い物の奪い合いかな?

 もし俺の取り合いだったら「やめてー!」と言いつつちょっと嬉しいかな。

 

 準備を整えてマンションの管理会社にも連絡した。

 しばらく戻れるかどうかわからないので、賃貸契約を解除するか相談しようと思ったんだけど。

 なんと、シュウが数年分の料金を前払いしているので部屋は期限まで自由にしていいとのこと。

 本当に何かなら何までありがたい幼馴染だよ。

 お礼に旅で会ったウマ娘たちの写真ぐらいなら見せてあげようかな。

 泣いて喜ぶか、金払わせてとか言いそう。

 ドレインしたウマ娘にはお願いして写真撮らせてもらってる。

 みんな写真でもカワイイ!凄い豪華メンバーだ。

 母さんたちの写真なんて超レア!札束積んでも手に入らんぞ。

 あ、デジタルの顔がヤバいwwwテイオーとマヤに挟まれて成仏しかけとるwww。

 全て純粋に旅に思い出です。やましい気持ちは無い!

 たまに見てニヤニヤするだけ!俺の癒しなんです!

 その数百倍、愛バの写真見てるから!毎朝毎晩欠かさずニヤニヤしてるからぁ!!!

 

「そこの気持ち悪いニヤケ面男子~。お待たせ~」

「気持ち悪い言うな!それどうした?」

「どうだ、すげーだろ。今からこいつが私たちの愛車だぜ」

 

 ちょっと待ってろと言ったゴルシが戻ってきた、サイドカー付きの大型バイクに乗って。

 黒のカウルにマットシルバーのフレーム、重厚感たっぷりでいいね。

 車体各部に張り巡らされた動力パイプが青く発光してオシャレ!

 サイドカーもデザイン性に富んでカッコイイ。メーターパネル類も凝ってるな。

 ナビに表示枠、よくわからんスイッチの数々、サイドカーにもモニターがついてる。

 バイクショップにこんなんあったら、いくらするんのか検討もつかん。

 

「これを使ってもいいの!テンション上がってキター!」

「ファイン家技術部がサボりついでに組み上げた代物をパクって来た」

「泥棒!まあ、いいか(聞かなかったことにしよう)こいつに名前はあるのか?」

「メディウス・ロクスだってよ、変な名前だよな。さあ、乗った乗った」

「了解~よいっしょっと、思ったより足元広いな」

「じゃあ出発だ!目指せイスカンダル!」

「遠すぎるwww」

 

 エンジンの駆動音が静かだ、ブオンブオン!じゃなくてスフィーン!って感じ、伝わる?

 動力は何だ?排気ダクトがあるのに煙が出ない。

 

「一応、ガソリンでも動く仕様だぜ。TEエンジンとのハイブリッド車だ」

「TEって何の略?」

「ターミナス・エナジーって言う謎エネルギー」

「ロマンだね~」

 

 宇宙に存在する四つの力(基本相互作用)強い力、弱い力、電磁気力、重力の4種類。

 その次に存在を予見された理論エネルギーが「ターミナス・エナジー」

 どこにでも存在し無限の供給を得られるが、調整が極めて困難と言う問題あり。

 バイクぐらいならなんとか動かせるが、それも補助動力があってのこと。

 TEエンジンを搭載したロボや武装の開発も進行中。

 

「TEアブゾーバーだったかな、1stで運用してた特機にそんなのがあったような」

「へぇー、正直テクノロジーの進歩についていけない」

「そこなんだよな。2ndの技術進歩はどう見ても早すぎる」

 

 1stと2ndは似たような歴史を歩み、数十年1stが先に進んでいる。

 だが、2ndの技術は1stの最新技術と遜色ないほどに迫っていたのである。

 テクノロジーによるアドバンテージは取れないと判断したファイン家は2ndとの融和を。

 それに反発したものはファイン家を離反し、暗部へと潜って行った。

 

「1stの進歩が遅いってのもあるんだよ。だって総人口が減りまくってるから」

「すまん」

「なんでお前が謝る?忘れんな、ベーオウルフとルシファーはお前の愛バじゃないぞ」

「わかってるんだけど」

「まあ、1stにお前がいたなら違った結末があったのかもな」

 

 考えてもしゃーないから気にすんな、と言って笑うゴルシだった。

 

 バイクは快調に進む。ヘルメットはどうしてるのかって?

 俺はサイドカーに積んであったヤツをしっかり装着してるよ。

 こめかみ辺りのスイッチ一つで開閉可能な超カッコイイ黒のフルフェイスをな。

 軽量の金属パーツを使った特注品、これゲシュペンストの頭部に似てるというか、そのものだ。

 PTの頭部を軽く弄っただけにみえる、戦闘にも耐えられそう。

 ゴルシはヘルメット免除だよ。

 一定の実力があるウマ娘(主に騎神)は覇気で頭部と言うか全身をガードしてるから、バイク事故位で死なない。

 ウマ娘用の免許証にはノーヘル可、不可、の項目がある世の中です。

 俺もノーヘルでもいいんだが、一応人間なのでいちいち説明するのがめんどいし。

 職質回避のためにもしっかり着用してます。

 

「で、どこに向かってんの?」

「知らね」

「おい!」

「海と山どっちがいい?」

「山」

「じゃあ山に行くか」

「適当すぎ」

「知らないのか?ゴルシ様を信じるものは救われる」

「信じてないから救いもないね」

 

 こんなので大丈夫か?

 

 大型バイクで山道を登って行く。オフロードもバッチリ走破する高い性能。

 サイドカーの座席が少し硬いので尻が痛くなった。

 サスペンションと座席の改良を求む。

 

 凸凹山道の衝撃が尻にダメージを与えていると小奇麗なログハウスに到着。

 扉の鍵を強引に開け放ち、ずかずかと中に入るゴルシさん。

 

「いいのか?犯罪だぞ」

「ファイン家の力でどうとでもなる。モーションがちょっとプンスカするだけだ」

「モーさんも苦労してるのな」

「今日はここに泊るぞ。夕飯は何がいいかな~」

「おーい、本来の目的忘れんなよ」

「忘れてねぇよ。この山にはいるんだ、とっておきの獲物がな」

「北海道で食ったから熊肉はもういらんぞ、それより聞きたいんだが」

「なんだ?」

「ヘルメットが脱げないんだけど、どうなってる」

「嘘だろwwwちょっと見せてくれ」

 

 ゲシュペンスト頭部が外れません。

 笑ってんじゃねーぞゴルシ!お前が持って来たんだろうが。

 さっきから何度も試してるんだが、ウンともスンとも言わん。呪いの装備二つ目。

 

「覇気でぶっ飛ばしていいか?」

「待て!それは最終手段だ。うーん、どうなってんだコレ」

「もう自力で壊すぞ!せーの」

「ヤメテ」

「・・・・」

「どうしたマサキ」

「ヘルメットのモニターに文字が出た」

「コワサナイデ」

「このヘルメット生きてる」

「超機人がいるなら、意識があるヘルメットもアリってか」

「オハナシシヨウ」

 

 俺と交渉したいとな。面白れぇやってやろうじゃないの。

 

「ちょっと、一狩りしてくるわ。ヘルメットと遊んで待っててくれ」

「行ってら~」

 

 ゴルシが夕飯の獲物を狩りに行った。俺はヘルメットと話してみる事にした。

 

「何者ですか?」

「All In One」

「オールインワン?」

「AI1(エーアイワン)デイイヨ」

「AI1はヘルメットの妖精か」

「チガウ、セントウガタジンコウチノウ」

「その人工知能がなぜここに」

「ツェントルプロジェクト」

「え?何?カタカナ多すぎてめんどい」

「バカ?」

「いますぐ破壊してやろうか!」

「ゴメンナサイ、バカデモワカルヨウニスル」

「バカなのは決定かよ」

「ノウミソスキャンカイシ」

「待てや!今、脳みそって言っただろ!何をするだぁー!」

「シンパイナイ、ジットシテ」

 

 ヘルメットが妙な音を立てる中、モニターに人間の頭部断面図とメーターが表示される。

 モニターに表示されたメーターがすぐに100%に到達。

 スキャン完了と表示された。

 

「終わったのか」

「うん。無事完了したよ」

「誰だよっ!」

 

 耳元から若い女の声が聞こえた!このログハウスには俺しかいない、ゴルシは出て行ったまま。

 お化け?やめてくれよ・・・怖いの無理です。

 

 ヒリュウにいた時、クロの部屋でホラーゲームをプレイしたことがあった。

 案の定ビビった俺が「きゃっ!」と情けない悲鳴をあげてシロに抱きついたは内緒。

 シロが勝ち誇った笑みを浮かべ、それを見たクロの目がゾンビより怖かったのも内緒。

 直死の魔眼を発動したクロによってシロが17分割されそうになった思い出。

 

「AI1だよ。ずっと一緒だったじゃん」

「なぜ急に喋り出した」

「マサキの脳から情報をもらったからね。これからは自由にお話できるよ、嬉しいでしょ?」

「とりあえずヘル脱いでいいか」

「ちょっと待ってね、よし、これでどうかな」

 

 ロックが解除されたので開閉スイッチでフェイスオープン。

 ふぅ、メタルマン(B級映画)の一生脱げない仕様じゃなくて良かった。

 脱いだヘルメットことゲシュヘッドを外に駐車してあるサイドカーの座席にそっと置く。

 

「じゃあ、そこで大人しくしてろよ」

「えー!ここに放置するなんて酷いよ」

「またかぶる時までさらばだ」

「嫌だー!人工知能虐待で訴えるぞ!助けてー!ここに最低のロリコン野郎が」

「大声で叫ぶな!」

 

 山の中とは言えあまりにも人聞きが悪い、仕方ないのでログハウスに持ち帰る。

 流暢に喋るようになったと思ったらこれだよ。厄介な奴を誕生させてしまったのかも。

 こいつ若い女の声を出すからホントに質が悪い。

 

「暇でしょ?何か話してよ」

「そう言われましても」

「人工知能にとって情報収集は趣味と実益を兼ねた生きがいだよ。何でもいいからさぁ」

「どこから話そうかな」

「愛バのこと、家族のこと、別世界のこと、ネタはいっぱいあるじゃん」

「スキャンした時に知ったならそれでいいのでは」

「直接聞きたいの!断片的な記憶からじゃなく当事者からの生きた情報がほしい」

「個人情報の悪用はダメよ」

「安心してね、情報漏洩が発覚した場合は事故に見せかけて犯人を処理するから」

「処理・・・社会的死ですか」

「物理的にもだね」

 

 この人工知能怖い。

 あらゆる電子機器にハッキングかますぐらいやってのけそう。

 

 部屋の中でゲシュヘッドと向かい合って座り、お喋りする。

 絶妙な相槌と適度な質疑応答が気持ちいい。カウンセラーでもやったらどうなの?

 聞き上手なAI1にのせられて、結構深い部分まで話しちゃったよ。

 

「なるほどね。前途多難だけど頑張ってるマサキは偉いよ」

「聞いてくれてサンキューな。話したらスッキリした」

「こちらこそ、興味深い話をありがとう。お礼に私も力を貸してあげるね」

「じゃあ、明日の天気を教えて」

「それはSiriかAlexaにでも聞いてくれる。そいつらより優秀な私はもっと凄いこと知ってるよ」

「ロト7の当選番号を」

「当選番号を操作することはできるけどって、そうじゃなくて!愛バに関すること聞いてよ!」

「今すぐあいつらを救う方法」

「無理」

「もう帰っていいよ、自分自身をアンインストールしろ」

「ヒドイ!出て行けって言ったな―!今すぐには無理だけど、きっかけは作ってあげるのに」

「どうやってだよ」

「天級騎神の居場所知ってる」

「風と闇と火は間に合ってるぞ」

「土」

「どこだ!」

「ここ」

「どこ!?」

「私」

「・・・はい?」

 

「こんな姿で悪いね。土の天級騎神"ザムジード"とは私のことさ!」( ー̀ωー́ )ドヤッ!

 

 こいつ今何て言った・・・人工知能が土の天級騎神だと。

 今の笑う所か、こいつなりのジョークなのだろうか?全然面白くないぞ。

 

「お腹空いた、ゴルシまだかな~」

「現実逃避しても無駄だよ。さあ、真実を受け止めたまえ」

「ファイン家が造ったAIと言う設定はどこへ行った」

「AI1と言うのは勝手に勘違いした人がつけた名前だからね~」

「人工知能ではないと?」

「正確には記憶データ?思念体かな?機械に憑依できるお化けだと思ってくれたら」

「俺、お化け、嫌い、怖い、帰れ」

「言語中枢に異常をきたす程苦手か。サイの息子は随分臆病なんだね」

「母さんを知ってる?いや騙されんぞ!俺の脳をスキャンしたから適当言ってるな!こいつめ」

「ちょっとサイに電話してよ。証明してあげる」

「そこまで言うなら」

 

 母さんに電話、良かったちゃんと出てくれた。

 

「どうしたの?クロシロちゃんは、まだ硬ったいままよ」

「土の天級騎神(自称)が母さんと話がしたいって言ってる」

「へぇ、見つけたんだ」

「少々お待ちを、ほら、母さんが待ってるぞ」

 

 スピーカーホンにしてゲシュヘッドの近くにスマホを置く。

 

「やっほーサイ!何年ぶりかな?元気してた」

「アンタ誰よ!アラフォーの私にお前のようなクソガキボイスの元同僚がいてたまるか!」

「なんだ、やっぱり嘘かよ。無駄な時間を使わせやがって」

「あのねぇ。私が元々人類じゃなかったの忘れてるでしょ」

「あ・・・そうだった。アンタはクロスゲートから出てきたキモいクリーチャーだったわね」

「キモいクリーチャー!?怒るよ!!あの時の外見はカッコイイ馬だったじゃんか!!」

「この世界に馬なんて幻想生物はいません!代わりにいるのが私たちウマ娘ですー」

「ちょっと待て、今、聞き捨てならん事を言ったな。ゲートから出てきた?それに馬?」

「おっと、マサキも聞いていたのね。こいつの正体はアーマーと一緒のアレよ」

「アインストだと!?」

「お、久しぶりにそう呼ばれたなー。そっかぁ、同胞たちに接触していたんだったね」

 

 アインスト、天級騎神の一人がアインスト・・・もうウマ娘でもなんでもねー!!!

 

「聞きたいことが山ほどあるが、こいつは本物に土の天級なのか、どうなの母さん?」

「正直わかんない。おーい自称ザムジード、私や他の天級にしかわからないことを言ってみろ」

「DC戦争のラストはビアンのヴァルシオン倒して終結は表向きの話」

「・・・え?」

「本当はあの後、エアロゲイターが送り込んだメテオ3がセプタギンへ変貌をとげ地球文明の抹殺を開始、もう少しで人類滅亡まで」

「よし!本物ね。もういいから黙って、それ言っちゃダメなヤツだから」

「何?今の何?とんでもない秘密喋ったよね!ねぇ?」

「私もいいかな」

「あ、ネオさんどうもです」

「ごきげんようマサ君。えーと、自称ザムさん?」

「ネオ!相変わらずロボ好きをこじらせてる?」

「絶好調よ」

「そうなんだ。昔、ネオの激レアプラモをオークションで売りさばいたのが懐かしいよ」

「は!?初耳なんだけど!そんなことしてたの!?」

「どうせ積んでるだけで勿体ないからって、ネオ以外の天級全員が嬉々としてやってたよ」

「ちょ、バカ!その件は墓場まで持って行くって約束」

「・・・サイさん?(#^ω^)」

「私だけじゃないの、グラもガー子もたった今暴露したザムだってやってたからー」

「つまり全員敵ね」

「今まで気付かなかったじゃない!そもそも買っただけで満足して積んどくのが悪い」

「逆切れしたぁー!もう許さない!サイさん、表に出なさい!」

「やる気なの?いいのかな~流れ弾で村が滅んだらアンタのせいだからね!」

「あんなこと言ってるのがマサキの母親なんだね」

「俺の母さんは本当に立派な人だよ」

「せんの・・・じゃなかった、愛情を注いだ教育の賜物ね」

「やっぱりマサ君はうちで引き取った方が良かった!ネオグランゾン痛恨のミス!」

 

 母さんたちの悪行がバレて電話の向こうが修羅場。

 故郷を人質にとるゲスい母さん、何のことですかな?俺は何も聞いてないです、ハイ。

 

「ねぇグラは一緒じゃないのー?」

「旦那と一緒にトレセン学園に行ったわよ。息子に会いたいんだってさ」

「ヤンロンがピンチだwww突然の両親職場訪問wwwくっそ恥ずかしい」

 

 姉さんに報告しておこう。

 ヤンロンをフォローしてあげてください・・・送信っと。

 

「何だかんだで親バカよねー」

「ホントそうよね。子離れしろって感じ」

「二人とも本気で言ってるから怖い、鏡見て」

「超特大ブーメランwww」

「「???」」

 

 その後、いろいろ照合した結果。

 母さんたちの若気の至りと、記録から抹消された機密情報を暴露しつつ。

 人口知能AI1は天級騎神ザムジード本人だと判明した。

 

「何でAIやってるの?体は?そこから話してくれ」

「死んじゃったら体もクソもないよね」

「なんだ、アンタ死んだの」

「お葬式した?アインストの弔い方法ってどうするの?」

「はいやめー、もういろいろと会話がおかしい!!俺にもわかるようにお願い!」

「「「めんどいなー」」」

 

 これが天級トーク(;゚д゚)ゴクリ…

 全くついていけない、戦闘力だけじゃなく思考もぶっ飛んでる。

 そんな人たちに育てられたのが俺です。

 

「私は不慮の事故でこの世界にやって来た、所謂はぐれアインストなんだよ」

 

 まだ学生だった母さんとグラさん、そして水の天級騎神。

 旧トレセン学園(当時の名は騎人養成士官学院)に通う三人が校舎地下の迷宮でクロスゲートを発見。

 そこから馬の姿をしたアインスト、後のザムジードが現れた。

 その場のノリと勢いでザムジードを地上に連れ出した母さんたち。

 「未知との遭遇が世界に革新をもたらす」( ー`дー´)キリッと言う戯言で押し切った。

 当時から母さんたちの力は飛び抜けており、御三家も彼女たちが言うなら仕方ないで通った。

 

 母さんたちが戦場に赴く際、傍らには謎の生物?が確認されていたのだが。

 触らぬ神に祟りなしでみんなスルーしてくれた。

 「土の天級騎神見たことなくね?」と言う疑問は極度の対人恐怖症設定でなんとかした。

 DC戦争後、ザムジードは「世界を見に行く」と言って一人旅立ち、今に至る。

 

「人知を超えたパワーで無理やり乗り切ったんだね」

「そうよ、褒めて!」

「さすが母さん!息子の俺も鼻が高いっス!」

「えへへ////」

「ねぇ、この親子ヤバくない?頭のネジ外れてるよ」

「サイさんの頭にネジ穴は元々ないわ。マサ君はえげつないマインドコントロールされてるのよ」

「「人聞き悪いなぁもう!」」

 

 俺たちはどこにでもいる普通の親子です。

 

「えっと、死んだって言うのは」

「こっちの世界に転移した時、いろいろ破損しちゃってね。最初からもって20~30年の命だったんだ」

「寿命だったのか」

「死ぬ前に世界旅行だー!って叫んで出て行ったわね」

「それがどうしてAIの真似事なんか」

「ただ死を待つのも癪だったから、後世に何か残してやろうと足掻いた結果」

「こうなってしまったと」

 

 死期を悟ったザムジードは自分の得た知識と記憶、天級としての力を残そうと考えた。

 肉体は最小限に圧縮しアインストの核、例の紅い玉にして、そこに覇気と力を残した。

 ファイン家協力のもと知識と記憶データは分割して量子コンピュータ保管されたはずだった。

 

「それが余りにも退屈でね~。思い切ってネットの海へ飛び出しちゃった訳さ」

「うっわ!最低なウイルスが誕生したものね」

「シュウ君にセキュリティ対策頼んだ方がいいかしら」

「今すぐお前らのスマホをハッキングしてやろうか!」

「「ごめんなさい!!」」

「そんな時、ツェントルプロジェクトで人工知能を開発していてね」

 

 ツェントルプロジェクト

 十年先を見据えた新機軸の機体と武装の開発計画。

 理論上、無限供給可能な高出力のTEエンジン、自己修復可能な自立性金属細胞ラズムナニウムを使用しメンテナンスフリーな兵器の開発を目指した。

 御三家が共同出資、近々プロジェクトをメジロ家主導に切り替える予定。

 

「そこの研究員たちがまたポンコツでねー。毎晩徹夜してるのに全然成果が上がらない、余りに不憫だったからつい手を貸しちゃったんだ」

 

 設計ミスの指摘やバグの修正、TEアブゾーバーのデザインに至るまで匿名でアドバイスしたんだとか。

 すると、一人の研究員が盛大な勘違いを始めた。

 ザムジードをデータのみの存在だと見抜いたまでは良かったのに。

 

「「これは私の造ったAI1が自己進化したのね!私天才!ひゃっほーー!」とハッチャケまして」

「それからどうした」

「その人がさぁ、もう気持ち悪ったら。我が子のように接してくるのも嫌だったし、他人を見下す愚痴の数々、しまいには「私とあなたで世界を変えるのよー」とか言い出して怖かった、目が完全に言ってたねアレは」

「狂人ってやつか、そんなの放置しといていいのか」

「「うるせぇよババア!」というメッセージを大量に送り付けて発狂した所で、事前に通報しておいた御三家の掃除屋(揉め事処理のプロ)に連れて行かれた。今は精神を病んでネット環境のない超ド田舎に引きこもってる」

 

 悪の芽が事前に摘み取られていた。こういう所は流石天級だと思います。

 

 AI1はそのメンヘラ研究員の妄想ってことで決着。

 暇を持て余したザムジードはTEアブゾーバーの予備パーツで組まれたバイク、メディウス・ロクスに憑依。

 ヘルメットのゲシュペンスヘッドを誰かが装着してくれることを期待して眠りについた。

 そのバイクをゴルシがパクって来ましたとさ。

 

「運命感じちゃうよねー。まさか、サイの息子に会えるなんてさ」

「話は大体わかったけど、その声と口調は何?アンタはデフォルトでたどたどしい片言だったじゃない」

「アーマーもそんな感じなんだよな、ミィとぺルゼは結構流暢に会話できたけど」

「マサキの脳をスキャンして最適な音声にしてみたんだけど、変かな?」

「つまりマサ君の趣味なのね」

「またロリなの?そんなに年下が好きなの!?」

「ほっとけや!変じゃないけどアラフォーぽくはないな」

「私、この世界に来る前は軽く500年は生きてたんだけど、今更アラフォーって言われてもな」

「メディア向け天級騎神のプロフィールでは最年少だったわね」

 

 見た目こそ人外だったが、ザムジードは母さんたちの妹ポジションだったらしい。

 

「そう言えば最年長のあいつは今どこに」

「そうそう!ガッデス!あいつが私の体を持ってるの!」

「「\(^o^)/オワタ」」

「諦めないでー!!!一緒に探してくれるよね?マサキ!」

「ここで俺の出番っスか?」

「そうだよ。見つけたら私の体から覇気を吸収してもいいし、ガッデスの覇気ももらえるようにしてあげる」

「水天がどこにいるか知ってるのか?」

「どうやら一ヶ所に定住せずに移動を繰り返しているみたい」

「借金取りから逃げてるんじゃないのー」

「放浪癖もあったのね。一人で生活出来ているのか心配だわ」

「最悪、売り飛ばされているかもよ、アンタの体」

「そうなる前に見つけるの!」

 

 自分の体に近づけばなんとなくわかるらしい。

 これは良いレーダーを手に入れたぞ。

 水と土の天級騎神から覇気をもらえれば、きっとあいつらも目覚めてくれるはず。

 

 ザムジードが旅に協力してくれることになった。

 ついでに、母さんたちに経過報告、姉さん、テスラ研、超機人。 

 ベーオウルフとルシファーのことは濁して、1stのこと、ファイン家と接触したことも。

 

「妖機人か、今度見かけたら消し飛ばしとくわ」

「1stのことも知ったのね・・・」

「メジロアルダンの暴走、ヒュッケバインの事故・・・きな臭いね」

「問題ないと思うが、母さんたちも十分注意してくれ。なんかメッチャ悪い奴がいる」

「私たちより自分の心配をしなさい」

「そうよ、マサ君。くれぐれも気をつけてね」

「私がいるし、ファイン家の頼もしい護衛もいるから大丈夫」

「ミノルちゃんもいるしね」

「シュウ君たちもずっと味方よ」

「ありがとう。みんな頼りにしてます」

 

 通話終了。

 そうだ、いろんな人が俺に協力してくれてるんだ。

 だから俺たちは大丈夫、そうだよなクロシロ。

 

「サイもネオも変わってないな。元気そうで安心したよ」

「えーとザムジードさん」

「他人行儀だな~。急にかしこまらないでよ」

「じゃあ、今まで通りで行く。馬ってのはあのウマのことか?」

「そうだよ、あ、ヘルメット被ってくれる。絵で見せてあげる」

 

 ゲシュヘッド装着!

 モニターに表示される四本足の動物。

 ドラゴンやグリフォンなど架空の幻想生物、その中に馬とよばれる生物がいる。

 遺跡の彫刻、絵画やファンタジー作品によく登場しウマ娘に似た耳と尻尾を持っている。

 人間を乗せて走り、人間と良きパートナーである描き方が多い。

 ウマ娘のウマやバの語源となった存在。この世界にはいません。

 

「ウマ娘を動物化したらこんなのになるって誰か言ってたな」

「宇宙は広いよ、ウマ娘がいなくて馬がいる世界だってあるんだから」

「・・・その世界って、あいつらいないだろ」

「馬のキタサンブラックとサトノダイヤモンドがいるかもよ」

「ちょっと見たい気もするが、やっぱり女の子の姿でお願いします!」

「そうだね。ウマ娘はカワイイよね」

「話がわかるなザムさん」

 

 馬だった頃のザムさんが表示される。

 紫色の装甲、各所に紅い玉、関節部に緑の触手と骨っぽい部分。

 全部盛りのアインストレジセイアの形を馬型にしたって感じかな。

 

「アインストの馬か、キモかっこいいな」

「キモいのは余計だよ!サイたちを乗せて戦場を駆け巡った日々が懐かしい」

「体戻ったらまた馬になるのか?その時は乗せてくれ」

「うーん。どうしよかな、このまま眠りにつくのもアリかと思ったけど。まだ私がいた方がいいのかな」

「母さんたちも喜ぶよ、どんな形でもいてくれた方がいいと思う」

「考えておくよ・・・そうだ!心機一転、生まれ変わった記念に名前を改めよう!」

「急に思いついたな」

「ザムジードってなんか可愛くないよね、アインストの親玉がつけてくれたけど今日でおしまい」

「おしまいなんだ」

「そういう訳でカッコカワイイのをよろしくね!」

「俺がつけるのかよ?無茶ぶりだな」

「中学生の時、ダークヒーローに憧れて、眼帯したり無駄に包帯巻いたりしてたマサキならできる!」

「何のことかわかりませんね。俺が中二病を患ったなんて冗談きついよ」

「嘘だっ!自作の妄想ノート(ネクロノミコン(笑))や闇属性のネオに弟子入りしようとしたり、架空の秘密結社に狙われる設定だったり」

「痛たたたたたたた!やめろーー!!その黒歴史は俺に効く!!」

「黒き愛バ、シュロウガと共に無限獄に囚われし大罪人"アサキム・ドーウィン"」

「がはっ!!!」

「いや~カッコイイねwwwアサキムwww」

「ホント勘弁してください。お願いだから」

 

 思い出して悶絶する過去、皆さんもおありですかな?

 中二病でも愛バが欲しいです。

 



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ちゅうに

 脳をスキャンされて黒歴史が暴かれました。

 

「アサキムの名は封印したんだ、掘り起こさないでくれ」

「その時の熱い気持ちを復活させて!いい名前をつけてちょうだいな」

「キラキラネームつけられた子供がどんな目に会うか知ってる?」

「ウマ娘の真名なんて結構エグイのあると思うんだけどなー」

「それを言われると」

 

 あの時の気持ちを思い出すか・・・どうして俺はあんな無駄な時間を。

 こんなの愛バたちに知られたら恥ずかし過ぎて発狂する。

 あれ?妄想ノートはどこへやったんだっけか、処分した記憶がない。

 もしかして、まだ実家にあるとか・・・アカン。

 ひぇぇ、俺が処分するまで誰にも見つからないで!頼むから!

 

「ネクロノミコン(笑)が心配かな」

「あれはマジで禁断の書物だ。見られたら俺が死ぬ」

「そんなにヒドイのか、逆に読んでみたいな~」

「頭おかしくなるよ?」

「それより名前を考えてよ」

「トンヌラ」

「メラゾーマで焼却されたいの?断末魔が「ぬわーーーっっ!!」に固定されるよ」

「チャゴス」

「ドラクエ界屈指のクズ王子はやだー!」

「・・・ミュステリオン・サ―スウルガ」

「ん?今のもう一回言って」

「ミ、ミュステリオン・サ―スウルガ////」

「・・・・」

「ごめん忘れて////」

 

 言うんじゃなかった。

 

「え!ちょっと待ってよ、今の!えーとミュステリオン?」

「やめましょうや」

「元ネタは何?教えて!」

「言いたくない」

「言えよー!中二力全開の名前はどこから拾って来たか言え!」

「ネクロノミコンの3ページ目」

「もっと詳しく」

「後悔しても知らんぞ」

 

 ミュステリオン・サ―スウルガ(光属性、金髪巨乳)

 無限獄に囚われしアサキム(闇属性チート主人公)の前に現れた謎の美女。

 その正体は生き別れの姉で愛バのシュロウガは二人の関係に気づいている。

 世界をBL文化で埋め尽くそうと目論む魔王、クサッテ・ヤガールとの決戦にてアサキムを庇い命を落とす。

 ラスボス、腐界王ガチホモンに追い詰められたアサキムが真の力に覚醒した際、なんやかんやで復活し最後は姉弟の合体攻撃ファイナルフィニッシュエンド(なんかとにかくすごいビーム)で世界を救った。

 普段はクールなお姉さんでパーティーのまとめ役、戦闘時は危険を顧みず先頭に立ち仲間を鼓舞する切込み隊長。

 

 以下、長過ぎる設定が数ページに渡って続く。

 これを考えた当時の俺は本当にどうかしていた。

 生き別れの姉って設定が・・・リアルの自分と被るとは思わなかった。

 

「以上だ・・・」

「マサキが考えたんだwww設定www凝り過ぎwwwあははははははははwww」

「おうおう、好きなだけ笑えや!俺はどうせ痛すぎる男だよ、ちくしょう!!」

[ごめんごめんwwwうん、気に入ったよミュステリオンを採用します」

「ミュステリオンはグラマラスな金髪美女だぞ」

「それが何か?」

「お前の声ってなんか、ミーハーでお笑い好きのミリオタ小娘(貧乳そしてアホ)ぽいんだよ」

「ひでぇ!私はミュステリオンを名乗る資格がないのか残念!!」

「待ちな!少し弄ってみる、文字数を減らしてと・・・ミ、オ、サ、ス、ガ」

「だいぶ削ったね」

「ミオ・サスガでどうだ?絶妙にアホの子ぽい響きだ!」

「アホの子はともかくミオか・・・いいね!」

「はい!決定!今日からお前はミオ・サスガだ」

「どうもミオです。よろしくね~」

 

 恥ずかしい思いをしながらもミオ・サスガに名前決定。

 一応、母さんたちの同期(という設定)なんだが、声のせいか年下に思えてしまう。

 体が無いから余計に年齢を想像しにくいな。

 

「体って新しく用意できるもんなの?」

「ガッデスの持ってる本体があれば再構成可能だけど、気は進まない」

「何か問題があると」

「寿命が来て今の状態になったからね、再構成した所でもって半年」

「そんなん悲し過ぎる」

「破損した体のデータを補えればいいんだけど、あーどこかに同胞がいればな~」

「実家にいるぞ」

「そっか!サイの所に変わり者のゲミュートがいるんだったね!いや~盲点だった」

「なんとかなりそうか?」

「交渉次第かな。うっし!希望が出てきたぞ」

「それは良かった。後はアーマーと話し合ってくれ」

「今から新ボディのデザインを考えておかなきゃ、マサキの希望はある?」

「美少女でお願いします」

「一切の迷いなく即答したね。了解、合法ロリの美少女だね」

 

 ロリは言ってねーよ、愛バで間に合ってるよ。

 でも、期待して待ってます。

 

 その後も会話が弾みました。声はアレだがミオの人生経験は俺よりも上。

 真面目な話から、ふざけた話までどんなジャンルにも理解を示してくれるので会話が楽しい。

 コレ一家に一台欲しい!そのうち人工知能と会話して癒される時代が当たり前になるのかね。

 

「なんか来るよ」

「ゴルシが帰って来たんじゃない」

「違う・・・車だね」

 

 窓から外を伺うとログハウスの前にバンが停車した所だった。

 白いハイ〇ース・・・あんまりいいイメージがない車だ。

 車からゾロゾロと人が降りてくる、チンピラ風の男が数人と・・・子供が二人!?

 目隠しされた幼い女の子二人をぞんざいに扱ってる、保護者って感じじゃねーな。

 腕に抱えたミオ(ヘルメット)と俺は不穏な気配を感じ取った。

 

「声を拾ってみるよ」

「頼む」

 

 怪しい男たちの声を俺にわかるように聞かせてくれる。収音マイクか、便利ね。

 

「指定された場所はここだな」

「おい、追手が来る前に早く済ませようぜ」

「焦るなよ。まだ依頼主が来てねえ」

「全くいい儲け話だな。ガキをさらうだけで大金が手に入る」

「ただのガキじゃねぇ。ウマ娘だぞ」

「訓練を受ける前のウマ娘など俺達にかかれば大したことないぜ」

 

 あらー粛清対象みたいね。

 

「やっちゃっていいかな?」

「いいよー慈悲などいらぬ」

 

 玄関から堂々と出てクズ共に声をかける。

 

「何なんですかあなたたち!ここはハッテン場じゃないわよ!」

「お前こそ何だ!俺達はそういう関係じゃねーよ!」

「否定するところが怪しい」

「今から大事な取引があるんだ、痛い目見たくなかったらとっとと失せろ」

「知らないのか?この山はホモお断りだぞ」

「だから違うって言ってんだろうが!おい、こいつを黙らせろ!」

 

 見た目はいかつい人間の男たちか、覇気は・・・ざっこwww

 こんなんラ・ギアスじゃあ小学生でも対処できる。

 え・・・こいつらマジか!素手で俺とやる気になってる。

 覇気まともにを使えるのはリーダー格の男だけか。

 

「へへ、運が悪かったな!」

「お前がな」

「え、ひでぶっ」

「な、一撃で沈んだだと!」

「次はお前ね」

「はふんっ」

「ぐぇ」

「うわらばっ」

「エリック上田」

「びひゃあああああっっうまいぃぃぃっ」

 

 断末魔がおかしい奴がおる。

 パンチなんかしとらん、ビンタで十分。それぐらい雑魚い。

 

「ぐっ、そうか貴様メジロ家の起動部隊だな」

「ぶっぶー違います」

「だが残念だったな元操者の俺に勝てるわけねぇ」

「もしかして愛バに逃げられたwwwダッサwww」

「うるせえ!正解だよ。ちょっと浮気したぐらいでどいつもこいつも」

「完全にお前のせいじゃねーか!くたばれ!!」

「ぎゃああああああああああああ」

 

 弱すぎる、こんな奴でも操者だったとか。

 浮気して愛バに逃げられたか、俺も気を付けよう。

 気絶した男たちの服を漁る、なんだ拳銃もってるじゃん使えよ。

 俺の覇気制御も大分上手くなったってことかね。

 最近では攻撃の瞬間まで覇気を一切漏らさず一般人を装える、絶状態を習得してやったぜ。

 寝ているときはまだ漏らしてます。おねしょじゃないです。

 男たちをパンイチにしてその辺の木に吊るしておこう。ロープはログハウスたんまりあったぞ。

 

「さあ、もう大丈夫だ。出ておいで」

「「・・・・」」

「おっと、目隠しに猿ぐつわもされてる。ちょっと待って、ここをこうして」

「ぷはっ!」

「もうサイアク!」

 

 一人はロングヘアに濃い茶色の毛並みを持ったボーイッシュなウマ娘。

 人懐っこく好奇心旺盛な目で俺を見ている。

 

 もう1人はショートカットに明るい茶色の毛並み、ややつり目で勝ち気そうなウマ娘。

 俺を警戒してるな、そんなに睨まないで!興奮します。

 

「兄ちゃん強ぇーんだな!音だけでわかったぜ」

「フンッ、余計なことしてくれたわね」

「とりあえず家に入りな、話はそこで聞くよ」

「は?何でアンタに従わないといけないの」

「待てよ、この兄ちゃんは大丈夫だぜ」

「そうかしら、こいつロリコン臭がするわよ」

「だったらなおさら俺たちに危害は加えないだろ」

「さっさと下山してお家に帰れよーじゃあな」

「ほら!お前が本当のこと言うから兄ちゃんが拗ねちまった」

「何よ!私のせいだって言うの!」

 

 俺を放置してケンカを始める二人。

 その姿が、あいつらとダブって見えた・・・(´;ω;`)ブワッ

 

「あー泣かした!スカーレットが年上の男を泣かした―!」

「ちょ、ちょっと何泣いてんのよ!ああもう!悪かったわよ、ロリコンは流石に失礼だったわ」

「ごめん、違うんだ。ただ、俺の大切な奴らと・・・なんか似てるなって」

「ウオッカ!アンタも手伝ってよ!」

「なあ兄ちゃん泣かないでくれよ、そんなんじゃこっちまで、うう~」

「もらい泣きしてんじゃないわよ!」

 

 スカーレットと呼ばれたウマ娘によしよしされてしまった。バブっていいですか

 ウオッカはもらい泣きするほど情に厚い奴だ。

 結論、二人ともいい子。

 

「ただいまー」

「お帰り~上手くいったみたいだね」

「誰と喋ってるの?」

「そこのヘルメットだよ、ミオって言う奴が憑りついてるんだ」

「高性能AI搭載型のヘルメット!?かっけー!」

 

 ログハウスに二人を招待する。

 

「これをお食べ」

「何よ、この大量のうまい棒は」

「俺、コンポタ味がいい」

 

 うまい棒が役に立ったぞ。

 菓子を美味そうに食ってる姿は子供らしい、クロシロよりちょっと上ぐらいの年齢かな。

 

「俺はアンドウマサキ、愛バを救う旅の途中だ。こっちはミオ・サスガ、AIぽい奴だ」

「ミオだよ、よろしくしてね」

「おう、俺はウオッカって言うんだ」

「ダイワスカーレットよ」

「ウオッカにイワスカー?」

「変な所で切らないでよ、スカーレットでお願い」

「ダスカは?」

「別にいいけど」

「ダスカwww」

「やっぱダメ!こいつがムカつくから」

「スカーレットね了解」

 

 ウマ娘の名前って、どこで区切ったらいいか、どこをメインで呼べばいいか迷うんだよな。

 

「世間では誘拐ごっこが流行ってるのか?」

「ごっこじゃねぇ!マジで誘拐されたんだ」

「それ嘘だろ、あの程度のチンピラに遅れをとるほど弱くないだろお前ら」

「へぇ、わかるのね」

「なんだバレバレだったか」

 

 上手く隠しているが、二人の覇気は見た目以上に強い。

 目隠しされている時も全く動じず、俺とチンピラの戦闘を聴覚だけで把握してたしな。

 クロとシロに出会ってなければ油断していた、ウマ娘はガキでも侮ったらアカン。

 

「実力に自信があるのはわかった。でも危険だぞ、どうしてこんなことをした」

「最近、うちの近所に人さらいが出るって噂が立ったんだ」

「ただの噂で済めば良かった。でも、クラスの子が誘拐未遂にあったの」

「そいつ凄く怖い思いをしたみたいで学校に来なくなったんだ」

「許せない、そう思ったから犯人を捕まえてやろうと思った」

「だからわざと捕まったフリをしたと」

 

 頷く二人、眩しいほどに純粋な正義感。

 危険だとか無謀だとか子供の出る幕じゃないとか、いろいろ言いたいが。

 こいつらの真っ直ぐな心意気に感心してしまった。

 でも、大人として注意はしておかねば。

 

「事情はわかった。それで、両親や周りの大人たちはこの事を知ってるのか?」

「それは・・・」

「言ったら絶対反対される」

「お前たちが友達を思って行動したのは偉いと思う、でも大事な人に心配かけるのはダメだ」

「そうやっていつも大人は」

「私たちの気持ちなんて理解する気も無いくせに」

「正論言われてムカついているうちはまだマシだ。本当に取り返しのつかない事態になった時にはそんな暇すらないぞ」

「「・・・・」」

「別に責めてる訳じゃない、ただあまり心配させないでくれ。俺の言ってることわかるよな?」

 

 そうだ、会えなくなってからじゃ遅いんだ。

 こいつらにだってきっと、かけがえのない存在がいる。

 その人たちの分まで俺が諭してあげないと、覇気を出しながら二人の頭をそっと撫でる。

 覇気は言葉よりも雄弁に語ってくれるんだ。

 口先だけでなく本心で心配している、俺の気持ちが伝わってくれるはず。

 

「「ごめんなさい」」

 

 素直に謝ってくる二人、いい子だ。あ、ウマ耳が(´・ω・`)ショボーンってなった!

 

 ウマ娘ションボリしている時のウマ耳可愛すぎない?

 (レース前パドックでの不調、絶不調で見れます)

 耳がこう、垂れてさぁ。元気ないですよーみたいになってんのよ、クッソかわええ!

 クロとシロの耳がふにゃって垂れる度に可愛すぎて息止まるかと思ってました!

 復活したら絶対触らしてもらおう!あー楽しみすぎる!ぐへへ。

 

 おっと失礼しました。

 愛バをわざと曇らせ隊はほどほどにしましょう。

 

「謝るのは俺じゃなくて親御さんたちにな。説教タイムは終わりだ、うまい棒もっと食え」

「これ連続で食べるもんじゃねーだろ」

「口の中が渇くんだけど、飲み物ある?」

「冷蔵庫に何か入ってるっぽいよー」

「ちょっと見てくる」

 

 ログハウス内部を少し探索、キッチンの戸棚のにはコップ等の食器類が揃っている。

 ここはレンタル用の物件なのか、知らんけど。

 冷蔵庫発見、どれどれ。500mlのペットボトル飲料が何本かあるな、全部で三種類。

 

「こいつは・・・」

 

 メジロ印[ミネラルウォーター"ただの水ですわ"]※採水地不明 中毒性あり。

 サトノ印[超激炭酸"ハジケてぇ!!"]※飲むかどうかは自己責任 中毒性あり。

 ファイン印[ネタ飲料"ラーメンは飲み物"]※高カロリー、高脂質、高塩分 中毒性あり。

 

 バカかよwww全部中毒飲料じゃねーかwww。

 御三家って基本的な思考がアレだよね、うん、バカだ。

 

 ラベルに開発者のコメントが書いてある。

 

☆ただの水ですわ☆

「この水はダイエットに最適ですの、もうゴクゴクですわ」

「これを飲みながらスイーツもパクパクですわ」

 

 パクパクしたらダイエットにならんだろうがwww

 

☆ハジケてぇ!!☆

「非日常の刺激を求めるあなたに!日頃の恨みを晴らすのにも使えます」

「怨敵の黒髪バーサーカーは一口で痙攣して大人しくなりました。ざまぁwww」

 

 マジでなにやってんの!?憎しみの連鎖やめなさい。

 まったく、俺がついててあげないとダメだな・・・やれやれ。

 手のかかる愛バほどカワイイってなもんです。

 

☆ラーメンは飲み物☆

「これさえ飲めばお口の中がずっとラーメンだよ!最高だね!最高だと言え!」

「ラーメン食べながら飲むのが一番おすすめ、他の食品なんていらねぇんだよ!」

 

 文章からにじみ出る狂気。

 ラーメンバカ<ラーメンキチガイ<<(超えてはいけない壁)<<ラーメンアイキャンフライ!

 ヤバいな、こいつぁアイキャンフライのレベルだぞ。

 もう手遅れかもわからんね。

 

 とりあえず全部持って行こう。

 

「お待たせ~どれがいい?」

 

 テーブルの上にペットボトルを置く。

 

「私これ」

 

 早い者勝ちとばかりにスカーレットがただの水をゲットする。

 

「一番無難なヤツ選びやがって、ウオッカはどうする?残り二択だ」

「先に選べよ、どっちも碌なもんじゃないのはわかった」

「もちろん俺はサトノ印でいくぜ!シロが作りクロが悶絶した味を試してこその操者だ」

「何の使命感?じゃあ、俺はラーメン?なんかすげードロッドロなんだけど」

「ん・・・普通の水ね。何の面白みもないわ」

「そりゃそうだろな。ウオッカ、いけ!」

「おう・・・うへぇ、濃厚すぎる。これ喉が余計に乾くし、もう一口は無理だ」

「無理に飲むなよ、中毒性ありって書いてあるからな」

「そんなの子供に飲ませるマサキってば鬼畜~」

 

 自分は飲めないから他人事なミオ。

 顔をしかめるウオッカ、スカーレットは特に被害はなし。

 何かを期待しながら俺を見つめる三人、なんだその目は、フッ・・・任せとけ。

 次は俺の番だ。

 シロ、ちゃんと飲めるんだよなコレ?いただきます。

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃばばばばばばば!!!」

「「「ぎゃははははははははははははwwwwwwwww」」」

 

 ビクンッビクンッ!と痙攣しながら床を転げまわる俺。

 それを見て手を叩いてバカ笑いするガキどもと、下品な笑い声を上げる土天の地縛霊。

 はい!やっぱりダメでした!知ってたわ!

 シロめ覚えてろよ!クロと一緒にお仕置きしてやる!

 俺じゃなかったら死人出るぞコレ、どうか市販品じゃありませんように。

 

 お前らこれで満足か?俺は嫌だね。

 

「はぁ、はぁ、とんでもない飲料だった。いや、これ飲み物って言ったらアカン」

「あー面白れぇーwww大丈夫だったか兄ちゃんwww」

「全然大丈夫じゃねーよ。全身が痺れた足の裏みたいになったわ」

「けほっけほ、もう!笑いすぎてwwwお腹痛いじゃないのよ」

「むせるほど笑うなよ。尊い犠牲になった俺に労いの言葉ぐらいかけてくれ」

「強制的に痙攣発作を起こさせる飲料か、拷問ぐらいしか使い道がないね」

「知ってるか?コレ作ったの俺の愛バなんだぜ」

「「「引くわーwww」」」

「ですよねー」

 

 おーいシロ、見事に引かれたぞー・・・でも好き!

 どの飲料も中毒性ありってのが恐ろしい、リピーター狙ってんのか?

 開発者の全員が頭首と次期頭首か、御三家まじパねぇな!

 

 結局、メジロ印の水を仲良く分け合った。

 間接キス?大人の俺が照れたらキモいだろ。

 だってスカーレットが「はい、どうぞ」って自然にパスしてくるからさぁ。

 俺から進んでやったことじゃないし、問題なし。

 

「愛バ以外の女児と回し飲みできて嬉しいマサキ」

「やめろ!そういう風に言ったらキモさが上がる!」

「ロリコンなら仕方ねぇよ」

「病気だものね」

「気を遣ってくれるのが逆に辛いっス」

 

 だいぶ打ち解けたと思うので切り出してみるか。

 

「ところで君ら、なかなか良い覇気持ってんな」

「急にジロジロ見ないでくれる?視線がねちっこくて不快」

「そう言うなよスカーレット、まあ俺たちに目をつけたってのはいいセンスだ」

「ちょっと俺の話を聞いてくれるかな?」

「話だけなら、いいけど」

「なんだ、言ってみ」

 

 いつものヤツを説明をする。

 覇気くださいな。

 

「アンタと契約した奇特な騎神がいるのね」

「俺にはわかるぜ。兄ちゃんの愛バもきっと面白ヤベェ奴だ」

「年齢はお前たちと同じか、ちょっと下かもな」

「やっぱり真性のロリコンじゃないの!」

「だから否定してないだろ?年下好きで何が悪い!」

「やめとけスカーレット、兄ちゃんの目を見ろよ。本気だ」

「なんて澄み切った瞳なのかしら、それが余計に恐ろしいわ!」

「まあまあ二人とも、マサキの性癖はもう手遅れだから許してあげてよ」

「一応聞くけど、愛バとは両想いなのよね?」

「三女神と母さんたちに誓ってもいい!俺は真剣(マジ)だ」

「母さんたち?ってなんだよ」

「生きる伝説、現人神、最終兵器、アルテマウェポン、見た目10代のアラフォー、それから」

「はいはい!一応私もその一味だよ~。今はこんなんだけどね」

「後は姉さんもそっち系かな」

「兄ちゃんの家族がまともじゃないってのは理解した」

 

 俺の真剣さは伝わったみたいだ。

 「仕方ないわね」と言いながらもドレインを許可してくれた二人に感謝です。

 

 その後は二人の進路について話してみた。

 ほう、トレセン学園志望ですか。順調に戦力が集まって来てるみたいですね。

 一ヶ所に戦力集中ってのもパワーバランス的にどうなんだろうか。

 もし学園が武装蜂起とかしたらヤバいんじゃね?誰も止められなさそうなんだが。

 そういえば、分校を建てる計画があるとかシュウが言ってたな。どうなったか今度聞いてみよう。

 

 今日は趣向を変えて二人同時にドレインしてみよう。

 

「二人とも気を楽にして~。ハイ!いいねいいね~その調子」

「ただ吸い取られてるだけって訳でもなさそうだな」

「そうね。ロリの覇気がこっちに来てるわ」

「ちょこっとだけ俺の覇気がそっちに流れるのは仕様だ。我慢しなさい」

「別に嫌ってわけじゃないわよ」

「ならば良し!もうちょっと吸わせてね」

「なあ、俺たち大丈夫かな?」

「何よウオッカ、相変わらずビビりなんだから」

「ビビりで悪かったな!そうじゃなくて、俺たちとんでもねぇもんインストールされてね?」

「それはロリの因子よ。年下にハアハアするスキルね」

「いらねー!」

「本人を目の前に言いたい放題。これが若さか・・・」

 

 インストールか、確かにそう表現するしかない現象を知ってる。

 テイオーやマヤにアルダン、俺の覇気が影響を与えて変化した連中がいる。

 未確認だが他の奴らにも似たようなことが起きているのかも。

 もちろん、クロとシロが一番大きな変貌を遂げてしまったのは周知の事実。

 何なんでしょうね本当に。

 

 ドレイン対象は直感で決めているが、それがもしかしたら。

 俺の覇気に影響されても大丈夫な奴を無意識に選別しているってことはないだろうか。

 都合よすぎる考えだがあながち間違っていないような気がする。

 頼むぜ俺の覇気よ、みんなをいい方向に導いてくれ。

 「お前の覇気で頭が悪くなった!どうしてくれる」とか言われたら泣く。

 謝ったら許してくれるかな、土下寝の練習しとくか。

 

「お終いだ、協力ありがとうな。体に異常はないか?」

「もういいのか、うーん、何も変わって無いな」

「変わってたら嫌でしょうが、心配無用よ」

「へぇー、今のがENドレインなんだ。へぇー」

 

 ドレインを見学していたミオが感心したような声を上げる。

 

「愛バでもないウマ娘と覇気のやり取りをする。簡単にやってるけど、かなりの特殊技能だよ。わかってる?」

「そう言われてもなー。ちなみにウマ娘だけとは限らないぞ、人間や超機人相手でも普通にできた」

「ますます頭おかしいね。おまけにそれを遠く離れた愛バに送っているんでしょ?」

「あいつらにあげる覇気はこっちで精査してる。俺があげたくない覇気は一滴たりとも送ってない」

「随分とグルメな愛バだね」

「少しでもいいものを与えてやりたいと思う操者です」

「楽しみだな~。どんどん来ちゃうよコレは」」

「何がよ」

「私たちの後継者かな、それとも天すら置き去りにする"規格外の何か"かな」

「それは恐ろしいぞ」

「何言ってんだか、そうなる可能性ランキング第一位の癖に」

「ほぇ?」

 

「困りますね~、そうなってしまうと非常に困るんですよアンドウマサキ君」

 

 会話中に突如として男の声が響き渡る。

 ウオッカとスカーレットを抱えて玄関口から逃走を試みるが遅かった。

 ドアが弾け飛ぶ、窓ガラスが割れる、そこからゾロゾロと武装した集団が侵入して来た。

 ミオはテーブルに残したまま、女児二人を庇いながら侵入者たちを見る。

 

 ミオが気が付かなかっただと、隠形?何かで索敵妨害された?

 

 見た事がない格好。

 戦隊モノのピッチリスーツらしき服を着て大型の特殊ゴーグルを着けている。

 それで前見えてんの?

 腕と足には重そうな機械部品、弾倉が装填してあると見た。変わった武装だな。

 何よりこいつらが異質なのは覇気だ。

 双子ですら違いがあるのにこいつらの覇気は全てが同一に感じる。

 まるで最初からそういう風に造られたみたいに、そもそもコレは覇気なのか?

 似たような別種のエネルギー?だとしたらこいつら人間じゃねぇ!

 

「戦闘用アンドロイド"Wシリーズ"ですよ。量産型ですけどね」

 

 Wシリーズと呼ばれた集団をかき分け、ゆらりと男の姿が現れる。

 先程の声はこいつだ、部屋の中から聞こえたのはいったい。

 

 似合わない小さめのサングラスをした緑髪の痩せ男。

 臭い、こいつは臭い。その目が、覇気が、ニヤついた口元が語っている。

 こいつは「外道」だと自身の快楽のため平気で人を踏みにじるクズ野郎だと。

 

 困惑する俺を嘲笑うかのように天井から黒いモヤのような物が降りてくる。

 そのモヤは男が差し出した手の平に止まると、役目を終えたかのように霧散した。

 索敵妨害をして、声を届けたのはアレか。

 

「教団の使い魔、なかなかどうして便利なものです。マサキ君たちの会話は筒抜けでしたからね」

 

 使い魔?部屋の様子を最初から伺っていたのか。

 どんな原理か知らないが、間違いないこいつは敵だ。

 

「一方的に知られているのは気分が悪い。お前は何者だ?」

「申し遅れました。僕はアーチボルド・グリムズ、しがない何でも屋です」

「じゃあ仕事をくれてやる。そのポンコツどもを連れて早く帰れ、報酬はそこのうまい棒だ」

「スナック菓子は趣味じゃないんですよ。それに仕事は別の方から受領しています」

「どうせ碌でもない仕事だろ」

「そこのお嬢さんたちを渡してもらいましょうか」

「絶対にノー!」

「そう答えるのは想定済みです。先にお楽しみから始めましょうか」

「!?」

「きゃっ!」

「うぉ!」

 

 一切の躊躇なく懐から取り出した拳銃を発砲するアーチボルト。

 狙ったのはウオッカとスカーレット、こいつ!最初から子供を狙いやがった。

 覇気でコーティングされた腕で銃弾を弾き返す。

 その様子をニヤニヤしながら見るクズ。

 

「お前っ!ウオッカたちが必要なんじゃなかったのか!」

「クライアントからの依頼は確かにそうですね」

「だったら」

「ガキを狙えば必ずあなたは守るでしょ?そしてこちらを攻める暇はない、優しいあなたを仕留める簡単な方法を選択しただけですよ」

 

 ブチギレそう、本当に清々しいまでのクズ。

 

「俺を始末する理由は」

「ん?わかりませんか。あなた絶対に邪魔者になるでしょ、サイバスターのようにね」

「確かに、お前みたいなクズは発見しだい悪即斬だわ」

「まあ、それは建前でして」

「???」

「天級の息子を殺したなら私の名も業界に轟くでしょう。拍が付くってヤツですね」

「俺はトロフィーかよ」

「それに・・・くくく、子供を庇って一方的に嬲られる哀れな生き物ってのを見たいんですよ!!!」

「このクズ野郎がっ!」

 

 拳銃を連続で発砲するクズ、ちっ、ただの弾丸じゃない。

 ガードの上からも響いてくる、騎神制圧用の特殊弾か。

 クズだけじゃなくて周りのアンドロイドたちもこちらに攻撃を仕掛ける。

 腕に仕込まれたのはマシンガンの類か、クズの拳銃程じゃないがこっちもチクチク痛てぇ!

 ええい、こんな所じゃ逃げ場がない。

 広いはずのログハウス内部はクズとアンドロイドたちによって定員オーバーだ。

 俺にできることはウオッカとスカーレットを庇って耐えるだけ。

 小さな二人を抱きしめて背中に攻撃を受け続ける。

 すまんミオ、おまえに構ってる余裕はない。自力で生き延びてくれ。

 

「何やってんだよ!兄ちゃん!いいからもういいってば!」

「バカ!アンタ死んじゃうわよ」

「危ねぇから顔を出すな、大丈夫だからな、お前たちは絶対に守る」

「やめてよ!私たちは放って置いて!あいつを倒して」

「あんな奴に兄ちゃんが負けるはず無い!俺たちがいなければ」

「っ!?、バカなこと言うな・・・お前たちがいなけりゃいいなんてこと絶対に無い」

 

 パパスさんの気持ちが今ならわかる。

 人質とられて嬲られるのって辛いよな、片乳出した変な格好て言ってごめん。

 クズが俺たちを見て笑ってやがる。精々今の内に笑っとけ。

 何発撃たれた?背中は酷い事になってるな、肩が裂けた、血が二人にかかったじゃないか。

 じわじわと追い込むように発砲し続けるクズども、アンドロイド全員で一斉射撃すれば終わるのに。

 あえてそうせずに、時間をかけて痛めつけたいらしい。

 

「ほらほら!しっかり防がないとガキに当たってしまいますよ!ひゃははははははは!!!」

 

 うるせぇ!耳障りなんだよお前の汚い声は!

 

「愛バのために頑張って来たんだろ、こんな所で死んじゃったらどうすんだよ!」

「そうよ!アンタが救うのは私たちじゃない!本当に大切な子を優先してよ」

 

 はは、本当にウマ娘は早熟だ。

 怖くて、悔しくて、無力な自分が情けないって泣きだしそうなのに、俺を気にしてくれるのか。

 そんな奴らだからこそ俺はつい動いてしまうんだ。

 そうだよな、クロ、シロ。

 

「ここでお前たちを見捨てたら、もう愛バたちに会えない。そんなダセェ操者になんかなりたくない」

「カッコつけてる場合か!バカだよ!兄ちゃんは大バカだ!」

「知ってるよ」

「わかってない!人間の癖に、ウマ耳と尻尾もない下等生物の男が生意気言うな!」

「わお、お前もナチュラルに人間見下し系かダスカちゃんよ」

「バカを見下して何が悪いの!嫌いよ、弱い癖にいい格好して先に死ぬ奴なんて嫌い!」

 

 本当にバカだと思う。

 俺はクロとシロを必ず助けると、もう一度会うって誓った。

 それを反故にするようなことをしている。

 それでも・・・

 誰に罵られても、笑われても、嫌われても、例え泣かれてもこればっかりは性分なんで。

 

「女の子の前でカッコつけるのは男の本能だからな。一人ならとっくに死んでるwww」

「バカッ!」

「くそバカ!!」

 

 さっきからバカバカ言い過ぎじゃね?

 辛いときは笑った方がいいって誰が言ったんだっけか。

 あー、覇気のガードはもう二人に回す分だけにしようかな、そろそろ防御層が削れてきた。

 背中の感覚がなくなってきたし。

 

「いいですね~その眩しい輝き、それを踏みにじる時の快感が最高に好きなんですよ僕は!!!」

「うるせぇ死ね」

「死ねよクズ」

「口の悪いガキですね。教育してあげましょう、自分たちのせいで誰かが死ぬ絶望をね!!」

 

 めんどくさくなったのか、クズが俺の頭に銃口を向ける。

 目を見開く二人に覇気と目でメッセージを送る。

 

 (大丈夫、心配すんな)

 (必ず助けるからな、待っていろ)

 (信じてくれるよな)

 

 引き金に指がかかる。

 二人を覇気でコーティング、流れ弾から遠ざけるように突き飛ばす。

 アクセル全開!振り返る。

 一瞬怯むクズ。

 殴りかかる、間に合わない。

 口元を釣り上げて不快な笑みを作るクズ。

 

「ミオ!!!」

「終わりですね」

「「やめっ」」

 

 パンっ!と銃声が響き渡る。

 クズに向かって行ったマサキが倒れる。

 倒れたマサキに向けて、何度も発砲するクズ。

 そのうち弾丸が尽きたのか、発砲をやめる。

 

「あ、あああ」

「い、嫌っーーーー!!!」

 

 血だ、血が出てる。

 赤い血がマサキの頭から体からどんどん流れて床に血だまりを形成してゆく。

 

「ふーー、あっけない物ですね。これが奴の気にしていた代役ですか、口ほどにもない」

「アンタ!絶対に許さない」

「・・・何でだよ、何でこんなことするんだよ!」

「何で?決まってますよ。楽しいから、それだけですよ。ひゃははははははは!!!」

 

 ひとしきり笑ったクズはアンドロイドに命令する。

 マサキの遺体にすがりつこうとした二人を強引に引き剥がし連行していく。

 

 ウオッカとスカーレットは最期の言葉を思い出す。

 (信じてくれるよな)

 痛かっただろうに、最期まで笑ってくれた。

 あれだけの銃撃を受けたのに二人は無傷、しっかり守ってくれた。

 

「信じてる、だから、お願い」

「起きてくれよ・・・」

 

 二人の呟きは森の中へ消えていった。

 

「さて、これで私は天級を敵に回した。楽しみですね~我が子を失った母親はどんな顔をするんでしょう」

 

 天級を相手に生き延びられるとは思わない。

 それよりも伝説に名高い彼女たちがどんな表情を見せてくれるかが楽しみでしょうがない。

 それが見れるなら自身の死など安いものだ。

 

 まさに外道、自身の愉悦のために人を苦しめるクズ。

 

「そうでした、あなたには愛バがいたのですよね。くく、これはまだまだ死ねません」

 

 マサキの遺体に蹴りを入れながら、独り言を抜かす。

 

「操者を失った愛バの顔も見たいですからねぇ!ひゃはははははははは!!!」

 

 ログハウスを後にするクズとアンドロイドたち。

 動く者の居なくなった部屋には静寂が満ちる。

 

 クズ、アーチボルド・グリムズは知らなかった。

 いつの間にかテーブルの上のヘルメットが消えていることに。

 

 そして

 

 自分がどんな存在に手を出したかを。

 

「これはヒドイ!本当にヒドイ!そう思うよね~マサキ?」

「違う」

「何が?」

「マサキではない、俺は、僕はアサキム・ドゥーイン。クズに断罪の刃を突き立てる黒き疾風だ」

「お、スイッチ入ってきたな~。付き合ってあげるよ、だって私はミュステリオンだからね」

 

 この日、長き封印から禁忌の力(中二病)が大いなる復活を遂げた。

 



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まつろ

 アサキムが復活した。

 

【???】

 

「せんどばつぐん」「なかなかいきのいいはきです」

「ろりか」「ろりです」

「でもいままでもろりいたよ」「いっぱいいましたね」

「おないどし?」「ちょっとおねえさんでしょう」

「かったね、とししたしょうり」「こちらがろりです」

 

「おもいだした」「なにを」

「れいのたんさん」「はて?なんのことやら」

「あれはゆるされない」「すっごくたのしかったですwww」

「まじおぼえてろよ」「びょうでわすれますー」

 

「・・・・」「・・・・」

「・・・ころそう」「・・・ころしましょう」

「いじめたな」「もてあそんだな」

 

「「あのひとをわらったなくずが!!!」」

 

「といっても」「てもあしもでません」

「せめておうえんしよう」「ええ、ねんをこめておくります」

 

「「がんばってー!まけるな―!」」

 

「なんかちがうな」「もっとかげきにいきましょう」

「そうだね、わたしたちのぶんまで」「やっちゃってください」

 

「「ころせ!ころせ!ころせぇーーー!!!」」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 きっと愛バたちも応援してくれてる。

 わかってるよ、絶対に逃がさない。

 

「でも間に合って良かったよ」

「マジで助かったぜ、ミオ様さまだ」

「もっと褒めて~」

 

 死んだかと思った?残念トリックだよ。

 

 ミオが宿るヘルメット及びバイクは

 ツェントルプロジェクトのTEアブゾーバー予備パーツで出来ている。

 TEエンジンだけじゃないのよ。

 金属部品の大部分は自己修復可能な自立型金属細胞ラズムナニウムで出来ている。 

 そこに天級の頭脳が加わっているんだから凄いんですよ。

 

 俺が銃撃されている時。

 ミオはヘルメットを分解し液状化、気づかれないように俺の体に溶け込んだ。

 服や皮膚に擬態するのだってやってのける高性能っぷり。

 クズがヘッドショットしたのは覇気で我慢。くっそ痛いわボケ!

 大量の血のりを演出したのもミオ。ホントに万能ですよ。

 

 今は天級の腕輪付近に装着されたスマートウォッチの形をとっています。

 

「だいぶ減ったな」

「バイクの分もあるし、自己増殖もできるから心配しなさんな」

「まるでDG細胞だな」

「たぶんモデルはそれだね。自己再生、自己増殖、自己進化、アインストならこれぐらい普通」

「元の体とマッチングしたって訳か」

「形状変化はラズムナニウムの勝ちだね。アインストボディじゃここまでの変化は無理」

「それもお前の思考と演算能力あっての話だな」

「お、わかってるね。それで、復活したアサキムはどう動く」

「もちろん、奴を裁く。それこそ徹底的にな!!!」

「あいつマジでムカつくから私も全力貸しちゃうね」

「頼りにしてる」

 

「うお!な、何じゃーこりゃぁ!マサキ!生きてるのか!?」

 

 ゴルシがやっと帰って来たようだ。

 

「遅いっつーの」

「ホントだよ」

「説明はよ」

「誘拐、ウマロリ、クズ、ぶっ殺す」

「理解した!遅れてすまない!」

 

 流石ゴルシ、話が早い。

 

「うへぇ、アーチボルドのクズ野郎かよ。こんなとこで会うとはな」

「知ってるのかゴルシ」

「裏稼業をやってる連中からも嫌われてる最悪のクズだ。テロ、人身売買、薬の取引、その他、何でもやるぜ」

「おまけに人を苦しめて楽しむ奴だろ」

「それな。そのせいでどれだけの人が不幸になったか」

「それも今日で終わりだ」

「Wシリーズを使ってたか、過激派とつるんでやがるな」

「あのアンドロイドは1stの技術か」

「その通り、大部分は過激派連中が運用しているはず。はぁ、情けねぇあんなクズに提供していい代物じゃねーぞまったく」

 

 1stの過激派が関わっていることが判明。

 今そんなことはいい、奴を追うぞ。

 

「手伝うぜ。その外道には地獄がお似合いだ」

「いや、ゴルシはメジロの起動部隊を呼んでくれ」

「はぁー私の出番はないってか」

「きっと、ウオッカたちを捜索してすぐ近くまで来てるはず。その人たちを誘導してあげてほしい」

「でもよ」

「奴を断罪するの俺だ、誰にも邪魔はさせない」

 

 溢れる覇気の揺らめきと禍々しさに息を呑む。

 かわいそう、本当に可愛そうな奴だアーチボルト。

 お前はマサキを本気にさせた、もう助からないぞ♪

 

「アンドロイドは皆殺しでいいんだな」

「ああ、奴に使われてるのは忍びない。片付けてやってくれ」

「ゴルシちゃん行ってら~」

「おう、って何だお前!スマートウオッチが喋った」

「後で説明する。行ってくれ」

「了解、ぶちのめしてこい」

「ああ、必ず」

 

 駆け出して行くゴルシを見送る。

 こっち出発しますか。

 

「ちょっと待って、物資の補給をして行こうよ」

「どこにそんなものあるんだ?」

 

 準備段階で勝負の行く末が決まるってのは良くあるな。

 さらわれた二人が心配なのはもちろんだが、ここで焦ってはダーメ。

 カバンに道具を入れ、最期に乗って来たバイク、メディウス・ロクスに近づく。

 バイクにも使われているラズムナニウムを補給するため、パーツを金属粒子に変換していく。

 鈍く輝く黒い液体が空中で渦巻いている光景の完成。

 ほほう、これ全部がラズムナニウムか。

 

「そんで、これどうすんの?」

「映画好き?」

「アマゾンプライムでよく見てる」

「ヴェノム見た?」

「見た・・・まさか!アレやってくれんの!」

「このミオ様に任せなさい。準備はいいかな?アサキム」

「ああ、いくぞミュステリオン!僕たちならやれる」

 

 ウオッカ、スカーレット待ってろ、今行くぞ。

 アーチボルド!!!てめぇは首を洗っとけ!!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「やっと大人しくなりましたか。ガキは素直に大人に従えばいいのです」

「・・・・」

「・・・・」

 

 量産型Wに担がれて運ばれるウオッカとスカーレット。

 先程まで口汚くアーチボルドを罵っていたが、現在は俯いて無言のままだ。

 

「くくく、やっと自分たちの状況が理解できたようですね」

「・・・・」

「・・・・」

「君たちはこれからどうなると思います?碌な事にならないのは保証しますよ。楽に死ねるといいですね~」

「・・・・」

「・・・・」

「反応が無いのは面白くないですね。もっと泣き叫んでほしいのですが」

「・・・・」

「・・・・」

「まあ、いいでしょう。マサキ君を殺して気分がいいですから、ガキの悲鳴は後にとっておきますか」

 

 上機嫌のまま森を進んで行くクズ一行。

 アーチボルドを中心に量産型Wが20体、隊列を組んで目的地へ向かう。

 きっとこの先には輸送用の車両か艦が用意されているのだろう。

 

 (ウオッカ、気づいてる?)

 (ああ、スカーレット)

 (じゃあ大人しくしていましょう、くれぐれも先走らないでよ)

 (お前こそ、カッとなって動くなよ)

 

 幼いが聡明な彼女達は気づいていた。

 ドレインされたときに生まれた繋がりと、それがまだ途切れていないことに。

 わかる、追って来ている、来てくれている。

 自分たちの中に混じった覇気が咆哮を上げている。許さねぇぞコラ!!!

 

 (死んだフリってヤツか)

 (ふん、私は最初から見抜いてたけどね)

 (嘘つけ)

 

 ちゃんと大人しく待っていよう。それだけでいい。

 おい、そこでヘラヘラしてるクズ!いつまで笑ってられるか見ものだな。

 

 ウマ娘たちがそんな思いでいることなど知りもしないクズは不意に足を止める。

 空中を黒いモヤが漂いクズの下までやって来ると人の形に変わる。

 その人物像は背後の景色が空けて見える、青いホログラムのようであった。

 

「首尾はどうですか?」

「上々ですよ。神官殿が心配するようなことはございません」

 

 神官と呼ばれた男。

 一見すると聖職者のような恰好をしているが、全体的に不健康そうなオーラがそれを台無しにしている。

 ワカメのようなうっとおしい髪、目つきが悪く少しクマもできている。顔色も悪い。

 この男が崇拝する神はきっと碌なもんじゃない。

 

「アンドウマサキと接触されたようですが」

「それがですね~、あまりにつまらなかったので殺してしまいましたぁ!」

「殺した?それは本当ですか」

「ええ、眉間にこう、ズドンッ!とね。その後、体中を撃ちまくったので血の海でしたよ」

 

 自分の功績を誇らしげに語るクズ、しかし、神官は難しい表情のままだ。

 

「我らが神、ヴォルクルス様のお力で覇気を移植されてからというもの。少々、調子に乗りすぎでは?」

「そのことについては感謝してますよ。ですからこうやって貢物を用意してます」

 

 ウオッカとスカーレットを見せつけるようにするクズ。

 

「ウマ娘の子供ですか、ヴォルクルス様はウマ娘を好いてはいないのですが」

「要らないのなら別の取引先に卸すだけです。才あるウマ娘をほしがる輩は大勢いますから」

「私が言うのもアレですが外道ですね」

「それで、次の仕事はどんな案件ですか?」

「これは異な事をおっしゃる。あなたと仕事をするのはこれが最後です、お疲れさまでした」

「トカゲの尻尾切りですか、天級の報復が余程恐ろしいと見える」

「天級がなぜ動くのです、アリがどこで何をしようとも象は我関せずですよ」

「一人息子を殺されてもですか」

「そのことなのですが、もう一度聞きます。本当に殺したのですね」

「ええ、確かに」

「死体を確認しましたか?首を斬り、頭を潰し、全身をくまなく灰にしましたか?」

「あれだけ弾丸を打ち込んだのです。必要ないでしょう」

 

 神官は盛大なため息と共に首を振る。

 

「やはりあなたはその程度ですか、私も暇ではないのでこの辺で失礼します」

「気が変わったならいつでもご依頼ください。特別価格でお引き受けしますよ」

「それは不可能でしょう。あなたはここで終わりです」

「・・・・」

「では、さようなら。長く苦しまないといいですね」

 

 ホログラムが消える。神官の残した不吉な言葉が酷く癇に障った。

 

「カルト教団の神官風情が預言者気取りですか。終わりだと?僕はまだ死にませんよ!まだまだ満足してませんからね~お楽しみはこれからです、ひゃはは」

 

 多少の不安をかき消すように笑いを浮かべるクズ。

 自分が死ぬとしたら天級の手によってだろう、それまではもっともっともっと遊ぶんです。

 一度きりの人生、楽しまなくては。

 

 人員輸送用のヘリと10mを超える起動兵器が森を抜けた広場に停泊している。

 ここを抜ければすぐに移動、ウマ娘のガキどもの引き取り先を探そう。

 神官の言が気になった訳ではないがログハウスを砲撃しておくのもいいかもしれない。

 

「さあ、行きますよ。もうすぐで・・・す」

 

 おかしい、何か違和感がある。

 量産型Wを見る・・・これだけだったか?

 視界に入ったのは10体程、残りの半分はどこへ消えた。

 

「お前たち!人数は揃っているのか?直ぐに確認しろ」

「了解」

 

 ちっ、と舌打ちをするクズ。

 今回連れてきた量産型Wはこちらの命令には忠実だが融通が利かない。

 逐一命令しなければ行動せず、センサー類の精度も悪い。

 部隊の半数が消失したとしても、自身に攻撃されなければ警戒や反撃もしない。

 最初から自分は信用されていなかったのだろう、形だけの不良品をつかまされた。

 

「9番から18番までが行方不明、機能停止状態に移行したと推測」

「総員警戒態勢、僕を守るんですよ」

「了解」

 

 もう少しで広場まで出る、そこまで行けば。

 

「覇気反応あり位置とくて・・・」

「!?」

 

 何かに気づいた量産型Wがの姿が森の奥へ引きずり込まれた。

 何だ今のは?黒く巨大な爪に上半身を掴まれた瞬間に消えた。

 マズい、とにかくマズい。

 冷や汗が頬を伝うと同時に、前方から衝撃音。

 木に何かが叩きつけられた、量産型W?・・・胸から上に食いちぎられたような傷。

 ボトッ・・・ボトッ、ボトボトボトッ。

 上から落ちてきたのはアンドロイドの首、腕、足、胴体、バラバラにされた各部位。

 生物では無いと理解していても、人間に似たパーツが大量に降り注ぐ光景は狂気の沙汰だった。

 

「ど、どこにいる!!いるんだろアンドウマサキ!」

 

 静まり返る森は答えない。

 代わりに、今まで無言だったガキどもがクスクスと笑い出す。

 

「何がおかしい!!」

「いや、だってwww」

「ふふっ、アンタかわいそうねwww」

「このガキ!!!」

 

 激昂したクズが二人を殴りつけようとした時、それは現れた。

 

「逃れられない・・・君も、そして僕も」

「え?」

「君の眼と心を射る・・・!」

 

 音もなく接近した黒い人影が囁く。

 手加減マシマシだが怒りを込めた目つぶしがクズのサングラスを破壊する。

 

「がぁああ!!目がぁああーーー!!」

 

 ムスカ大佐の刑、執行完了。

 目を抑えて悶絶するクズは放置してと。

 

「汚い手でその子たちに触れるな、ディスキャリバー!!!」

「危険、きけ・・・」

 

 一閃、ラズムナニウムで現出させたディスキャリバー(漆黒のハリセン)を見舞う。

 スパーンッ!といい音はしなかったが量産型W2体の頭部が森の奥へぶっ飛ばされた。

 

「わっ!」

「きゃっ!」

「おっと」

 

 力を失った体が崩れる、担がれていた二人をキャッチして広場までジャンプする。

 久しぶりの女児二人抱っこ、ぎゅっとしがみついてくるのを感じてあいつらを思い出しちまった。

 あれは、輸送ヘリコプターとロボ?ジガンスクードって起動兵器にちょっと似てる。

  

 (ミオ!索敵)

 (ほいほーい、周囲に敵映なし。ジガンから離れた所に二人を退避させるのが吉)

 (やっぱアレってジガンなの?)

 (ジガンスパーダ、1stで運用されていた大型移動砲台。珍しい有人仕様だね)

 (後にするか)

 

 ミオに指定された場所に二人を降ろす。

 

「二人ともよく頑張ったな。無事で良かった」

「バカ!死んだかと思って本気で心配したんだから!」

「そうだぜ!兄ちゃん死んだフリでトラウマ確定したんだからな!」

「あの時は、ああするしかなかったんや」

「二度とやるな!バカ!ロリコン!・・・グスッ」

「うう、バカ野郎。俺たちのせいだって・・・そう思って・・・怖かった」

「よしよし、俺が悪かったよ。もう大丈夫だからな、な!」

 

 まーた女児を泣かせてしまった。

 心配してくれてありがとな。

 ちょっとだけ泣いた後、二人はいつもの調子に戻ってくれた。強い子だな。

 

「でその格好は何?」

「パワードスーツか!くぅ~かっけー!」

「ミオです。私がデザインしました」

「中身は僕だ!」

「「僕?」」

 

 全身を包み込んだラズムナニウムによって爆誕した黒き疾風。

 仮面ライダーにゲスト出演できるぐらいのハイクオリティ。

 剛性と柔軟性を合わせ持つ黒のボディスーツ。

 腕、足、背には覇気の噴出口もあってバーストモードにも対応。

 頭部はゲシュヘッドではなく、ツインアイのスタイリッシュなデザイン。

 ラズムナニウム形状変化による武装(ディスキャリバー)を使用可能。

 攻撃時にはグラヴィティアクセルを連動させると覇気がいい感じに黒くてマッチする。

 うは!カッコイイ!

 映画ヴェノムで見た主人公たちみたいに有機物ぽさはないが、アレに近い感じ。

 ミオが体に張り付いている状態なので、索敵等のサポートもしてくれます。

 

「僕の名はアサキム・ドーウィン。無限獄に囚われし大罪人さ」

「「はい?」」

「アサキム!決めポーズだよ!」

「そっか!え、えーと・・・命!」

「なんでそれをチョイスしたの!」

 

 とある芸人さんがよくやってる体で漢字の命を作ってみた・・・失敗したぁ!

 

「意味不明なんだけど、それも持病なの?」

「そ、そうですね////」(真面目に心配されて恥ずかしい)

「ポーズはともかくかっけーよ!俺こういうの好き!」

「良かったね、ウオッカはわかってくれたよ」

「年齢的に二人が発症するのはこれからだ、楽しみにしてろ」

「マジでか!」

「嫌よ!」

 

 ウオッカは見込みありそう、スカーレットは否定的だがどうだろう。

 案外こういう子が発症するんだよな。

 

「アンドウマサキィィィーーー!!!」

 

 クズが怨嗟の声を上げている。

 

「ご指名入りましたー」

「おk!ちょっと行ってくるわ。あ、コレお願いしていい」

「俺たちの分まで頼むぞ」

「負けたら承知しないわよ」

「任せなさい」

 

 二人に持って来た荷物を渡しておく。

 さあ、狩りの再開だ。

 

 広場まで出てきたクズご一行様。クズ1匹、アンドロイド残り7体。

 

「死にぞこないがぁ!どうやったか知らないが、今度こそ殺してやる」

「君の命の灯火が揺らぐ・・・」

「わけのわからないことを、やれ!量産型W」

「任務了解、ターゲットを排除します」

 

 腕部のマシンガンを構えるアンドロイドたち。

 「とう!」と上空に跳躍、覇気弾の発射体勢をとる。

 

「行け!黒き獄鳥よ!」

 

 グラヴィティアクセルを乗せた黒い覇気弾を発射!

 3発が限界、命中!2体を倒した。1体は半壊、ピンピンしてる方を狙うか。

 

「削り裂く!その命を!」

 

 発射した3発中の1発は大き目にしておいた、それをなんとかコントロール。

 クズの護衛を担当している奴を追尾して超速連撃、ラストは地面ごと体を削り滅殺。

 

「ぐうう、痛々しい言動の癖になんて奴だ!」

 

 クズにはわからんのですよ、このセンスの良さがなぁ。

 

「ガラクタども!早く奴を殺せぇ!」

 

 逃げてんじゃねーぞクズ。

 残ったアンドロイドに迎撃させて自分は逃げるとか、美しくないな。

 紳士たるもの、常にエレガントで優雅たれですぞ・・・なんか混ざったな。

 トレーズ閣下と、なんか短剣でぶっ刺された炎使いの魔術師パパ?娘が可愛かったはず。

 

「魔王剣・・・!」

 

 ディスキャリバー再び。残りの雑魚を片付けるぞ。

 

「黒き霞となり散れ!」

 

 遅い、遅すぎる!アンドロイドの反応速度が鈍すぎてつまんね。

 すれ違いざまにハリセンでぶっ叩く。

 叩いた箇所が達磨落としみたいに飛んで行ったぁー!もっと頑丈に造れよ。

 

 よし、アンドロイドはこれで全部だ。さてクズはどこかな。

 

「ひひひひひ、そこまでですよマサキ君」

「お?」

「ジガンスパーダ動かしちゃったね」

 

 10m超えの巨体が浮上してこちらを向く、いつの間に乗り込んだのよ?

 

「消し飛ばしてあげますよ!ギガ・ワイドブラスター発射ぁ!」

「ヤッバい」

「はい退避退避~」

 

 広範囲の放射されるエネルギー砲、広場全域をカバーできる広さだ。

 

「はい、逃げるよ」

「おう」

「落とさないでよ」

 

 ウオッカとスカーレットの所までアクセルで瞬時に移動。

 察した二人を即座に抱っこ、エネルギー砲範囲外の上空へジャンプ。

 あーあー、ヘリが消し飛んだよ。

 

「なんか二人とも落ち着いてるね」

「今更驚かねぇよ」

「それに、アンタなら絶対になんとかするでしょ」

「肝が据わってらっしゃる!その信頼に応えますか」

「ミサイルランチャー来るよ!」

「もう、やけくそだな。これだからクズは」

「余裕のない所もクズね」

「反面教師の鏡だな」

「貴様らぁ~!聞こえてるぞ!!」

 

 収音性はバッチリみたいね。

 空中で身動きできない所にミサイルの雨ですか、温いんだよ!

 ミサイルが直撃する。

 

「思い知ったか!お前たちは勝てないんだよ!最後に笑うのはやはりこの僕!!!」

「あーうっせぇわ」

「な、なんで!なんでお前は死なないんだよーーー!!!」

 

 俺たちを囲むように球体のバリヤが展開されている。

 うん予定調和だな。

 

「TEスフィア、強度はまあまあ、展開速度とEN効率は見直しが必要かな」

「あの程度のミサイル、俺の覇気バリヤーでも何とかなったわ」

「ダメダメ!子供二人のこと考えてより安全な選択をしないとね」

「せやな」

「ミサイル食らって無傷でしたって自慢できるかな」

「誰も信じないわよバカ」

 

 TEエンジン無しでターミナス・エナジーのバリヤ展開。

 ミオが5秒以内にやってくれました。ホントにこいつ出来る奴やで。

 しゅたっと!着地。

 二人を降ろしてジガンスパーダを見上げる。

 

「連続で撃って来ない?なんで」

「ミサイルはさっきので弾切れ、ワイドブラスターはチャージ中」

「まだだ!こいつで消し飛べ、ジガンテ・カンノーネ!!!」

「もういいって」

 

 両側に装備された2連ビーム砲を発射しようとしたクズだったが、その砲身が内側から弾け飛ぶ。

 おー、ボンッ!っていったぞ。

 

「なぜだ!なぜこんな」

「こんなこともあろうかと」

「先に潰しておきました」

 

 輸送ヘリに近づいた時、明らかな敵戦闘ロボを見つけて何もしないと思ったか?

 ボディスーツからちょっとだけミオの分身を作り、ジガンスパーダの砲身に取り付いたもらった。

 黒いスライムがのそりのそりと動くのがちょっと不気味だったな。

 ジガンテ・カンノーネの発射を妨害、見事に成し遂げたぜ。

 あ、黒スライムがさり気なく戻って来てる。お帰り~そして再融合!

 

「こ、こんなことあってはならない!この僕が!この僕がぁ~!」

 

 このDIOがぁーーー!!!みたいに言うな!

 DIO様とクズじゃ年期も信念もカリスマ性も違うんだよボケが!!

 

「決めちゃいますか」

「ああ」

 

 ディスキャリバーをハリセンから本来の剣にする。

 左手の平を斬ったように見せかけ、黒い覇気が血液のようにポタポタとしたたる(全て演出です)

 

「黒獄の刻が・・・君に訪れる!」

「イグニッション!」

 

 ミオの掛け声でバーストモード起動、そこにターミナス・エナジーも乗せてもらう。

 黒翼展開!ブーストッ!

 無駄にカッコイイ、無駄の無い、無駄な動き。

 黒い覇気とTEを散らしながらクズの機体に接近。

 コックピットを避けて、キャリバーをぶっ刺したらぁ!

 

「ひぃ!!!」

 

 目でも合ったのか?向こうから俺はどんな風に見えてるんだろう。

 ぶっ刺し状態のまま巨体を抱えて更に上空へGO!

 こっからが本番じゃあーーー!!!

 

「ランブリング・ディスキャリバー!」

 

 母さんは昔、ディスカッターという名の愛剣で敵を斬り刻むの好きだったらしい、怖い。

 実際に見た事はないがたぶんこんな感じ。

 もっとだもっと速く鋭く!刻め刻め刻め!上から下から右から左から360°全方位から斬りまくれ!

 

「ハハハ!ハハハハ!」

 

 ちょっと楽しくなったので自然と笑えてくる。

 ジガンから「ぎゃ!」とか「やめ」とか「死ぬ!死んでしまぅ!」と情けない声が聞こえる。

 もっと怯えろバーカ。

 こんなもんか、キリのいい所で地面に着地。

 

「これはサービスだよ」

 

 ほう!なんということでしょう。

 空を見上げるとそこには、クズのジガンを中心に黒い魔方陣が描かれているではありませんか。

 俺が攻撃している時にミオが覇気とラズムナニウムを微調整しながら描いたらしい。

 なんて無駄な・・・いやこれはこれで素晴らしい。

 黒の魔方陣が光だした、直後に見事な大爆発!!!

 

「「汚ねぇ花火だ!」」

 

 一回言ってみたかったシリーズのひとつ「汚ねぇ花火だ」無事言えました。

 

「見て!クズが飛び出てきた」

「意外としぶといな」

「ハッチが開かない!?とか言って死ぬかと思ったのにねー」

「だな。よし確保ーーー!!!」

 

 クズなりに覇気が使えるらしく、あの高さからダイブしても打ち身ぐらいで済んだらしい。

 なんでパンイチになってんだよwwwおまけに頭がwwwチリチリアフロにwww

 古き良きお笑いを単独で再現してるんじゃねーよwww

 笑えたけどムカついたので、アフロを掴んで恫喝する。

 

「おんどりゃー!こんクズがぁ!あ゛あ゛あ゛あああんんん!!!」

「ひぃぃぃぃいいい!!!」

「おい!こっち見ろボケ!ああゴラッ!舐めくさりやがって!おおおおんんんん!?」

 

 アフロを引き千切り、首をガクガク揺さぶってクズに怒りをぶつける。

 

「きしゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「さあ、垣間見るがいい!」

「な、何を?」

「僕の過去!僕の罪!僕の宿命!そして、僕の絶望を!!」

「え?は?え?」

「フッ・・・僕の希望は、どこにあるんだろうね」

「し、知らない」

「クロとシロの所に決まってるだろうがぁあああああああああああ!!!」

「ひぃぃぃ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいーーー!!!」

 

 はぁ、はぁ、はぁ。まだこんなもんじゃねーぞクズ。

 

「ミオ戻れ、疲れたからアサキムは封印する」

「はーい。転身っと」

 

 ミオがスマートウオッチに戻った。

 余ったラズムナニウムこと黒スライム(結構でかい)は俺の椅子になってくれた。

 なかなかの座り心地、ビーズクッションみたいに体が沈み込む。

 

「尋問タイム!」

「いえーい!」

「え!?」

「おいクズ」

「・・・・」

「お前だよ!お前!返事ぐらいしろや!」

「く!君に話すことは何もありません」

 

 こいつさっきまで涙目だった癖に、持ち直しやがった。

 

「協力者、仕事の取引先、全部吐け」

「ひゃは!ひゃはははは!!」

「癇に障る笑い声きらーい」

「これで勝ったつもりですか?君は今後も狙われる!そしていつの日か絶望する!ああ楽しみですね~」

「・・・なんかのど渇かない?」

「ウオッカ、スカーレット。こっち、こっちだよー」

 

 離れていた二人が駆け寄って来る。

 

「やったな兄ちゃん!」

「でこいつの処遇は?」

「拷問タイム!」

「「「いえーい!!!」」」

「は?じょ、冗談でしょう!?」

「まあまあまあまあ、とりあえずコレでも飲んで」

「な、そんな怪しいもの飲むつもりは・・・ぐぇ」

「いいから飲めや!!!」

 

 二人に渡していた荷物から500mlペットボトルを取り出し、クズに無理やり飲ました。

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃばばばばばばば!!!!」

「「「「ぎゃはははははははははははははははwwww」」」」

 

 すっげー俺こんな風に痙攣してたのか。

 体を大きく跳ねさせながら地面をのたうち回るクズ。

 しばらく観察・・・あ、やっと止まった。

 

「な、何を飲ました!毒か!毒なのか!」

「ただのジュースだよ。次はラーメンにしようか」

「ラーメンなんてどこに、待て、やめ・・・」

「そーれっと」

「ガボボボッ・・・ゴボボボボ」

 

 たーんとお飲み。無理やり流し込んであげる優しい俺。

 

「ぐぁ・・・気持ち悪い、胸やけがする。今度は何の毒だ」

「ラーメン100%ジュースだ。次は選んでいいよ、どっちにする」

「待て!待ってくれ!いつまで続ける気だ」

「在庫がなくなるまでかな」

「在庫ってそんな」

「えーとカバンの中には後、各種10本づづだね」

「無理!無理だ!そんなに飲んだら死んでしまう」

「別に俺は困らないし、ねぇ」

「私もー」

「俺も」

「右に同じ」

 

 ハジケてぇ!!を飲んでいないのに痙攣しだすクズ。

 違うなガクブル震えてやがるのか、知らね。

 

「もうゲロっちまいな」

「そ、それで勘弁してくださいますか?」

「早くしないと気が変わるかも」

「協力者はヴォルクルス教団!1stから来た異世界人の集団です」

「教団?ファイン家の言ってた過激派か」

「そうです!2ndに来た彼らは穏健派と過激派に分かれた。過激派は邪神ヴォルクルスを信仰することで結束し各地で暗躍しています」

「ふーん、トップは誰?」

「神官のルオゾール・ゾラン・ロイエル。1stにいた頃は敬虔な三女神信徒だった男です」

 

 三女神から邪神に乗り換えたってか?1stが滅んだことで思う所があったのかね。

 

「他はないか?俺を代役って呼んでたな、それはどういう意味だ」

「マサキ君にえらくご執心な奴が君をそう呼んでいる」

「誰?どんな奴?」

「わからない、直接会ったりはしないんだ。顔や声を加工したデータのみのやり取りで何者なのかは誰も知らない」

 

 そいつがアレか、世界の破壊者って奴なのか?

 クズのチリチリヘッドに掴んだままなので覇気をチェックしている。

 嘘発見器作動中、覇気の乱れで本当かどうか判断してます(割と正確)。

 これ以上は何も出ないか・・・。

 

「もうすぐメジロ家の起動部隊が来る。ちゃんと捕まって反省しろ」

「はい、それはもう。これからは心を入れ替えて懺悔と償いの日々を送りたいと思います」

「甘いわよマサキ!こいつ絶対にまた何かやらかす」

「兄ちゃん!騙されんな!ここでトドメを刺せ」

「私はマサキに従うよ」

「お前たちの気持ちはわかる。でも罪を憎んで人を憎まずだ」

 

 甘いのは自覚している。

 それでも俺は不殺系主人公!性善説を信じる俺は更生の余地ありと判断・・・んん?

 

「マサキ君、こんな僕にも慈悲をかけてくれるのですね。このアーチボルド感服致しました」

(バカが!甘い甘いですね~。このバカには別の意味で感服するわwww)

 

 は?なんか口に出した言葉と本心が全く違うんですけど。

 嘘発見器が進化してる?こいつの本心が覇気から伝わって来るぞ。

 

「いや、更生してくれるのが一番だからな。ははは」(#^ω^)ピキピキ

「します!必ずマサキ君の期待に応えてみせますとも」 

(する訳ねーだろバーカwwwそれにしてもマジでムカつく顔してるなこのくそバカは)

 

 ほう。

 

「母さんや愛バたちのためにも、俺は不殺の精神を守るよ」(#^ω^)ピキピキ

「素晴らしい!ああなんて高潔な精神!君にもっと早く会いたかったです」

(マザコンでロリコンかよwwwキモwww早く死なねーかな、死ね、今すぐ死ね、苦しんで死ね)

 

 

 ほほう。

 

「操者になれば良かったのにな。愛バがいれば違った人生があったかも」(#^ω^)ピキピキ

「そうですね。今度生まれかわったら、ウマ娘たちと穏やかな人生を」

(あんな奴らただの商品だろ?頭湧いてるなコイツwww何が愛バだ反吐が出るわwww)

 

 ほほほう。

 

「この写真見てくれる。俺の愛バたちなんだけど、どう思うかな」(#^ω^)ピキピキ

「なんと愛らしい!操者に似てさぞや優秀な子たちなのでしょうね」

(操者に似てバカ丸出しの面だなwwwうっわ!こんなガキどもに反応するとかwww)

(ああキモイキモイキモイwwwそうだ!いい事を考えたぞwwwここを乗り切ったら)

 

 言ってみろやドクズ。

 

「一度会ってみたかったですね。ああ、それにしても羨ましいです」

(このガキどもを先に殺してwwwこのロリくそバカの前に晒してやろうwww)

 

「心から反省致します。信じてくださいますよね」

(あ~楽しみだなwwwどんな顔して泣き叫ぶんだろう、精々僕を楽しませろよバーカ)

 

「判決私刑でーす!はい決定!」

「え?」

「え?」

「え?」

「いえーい!」

 

 ミオ以外が何で急に?って顔をした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!話がちがががががががぁあぁぁぁあ!!!」

「ん!?間違ったかな・・・」

「トキ!」

「違うわ、あれはアミバよ」

「うわらばって言えよー」

 

 覇気中枢を乱暴にチェック、そしてこじ開ける。両手でしっかり頭部を固定。

 なんだこいつの汚い覇気は、パズルも歪で形もバラバラ。過去最低の部類だ。

 本人の覇気は・・・ちっさ!ナニコレぇこんな短小がなんで。

 はあ、そういうことかよ。こいつの覇気は殆どが借りものだったって訳か。

 気に入らないので全部はぎ取ってやろう。

 

「何をして・・・ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 アルダンの時とは違う、繊細な作業は必要ない。

 ただ適当にムカつく覇気を握り潰してやるだけ、本人の覇気や中枢を一緒に潰しても不可抗力。

 これと、これ、こっちも、ああ、これもいらないよね。

 痛いか?痛いだろうな。

 体内に手を突っ込んで臓器をもぎ取っているのと変わらんからな。

 

「げひゃ・・・げひぃ・・・ぐぎゃ・・・ぎいいいいいいいい」

「なんか泡吹いてるよ」

「そういう年頃なんだろ、放っておけ」

「ねぇ何してるの?」

「こいつに覇気っていらないと思うから潰してんのよ」

「そうだな、どうせ悪用するに決まってるから賛成」

「そうね、それがいいわ」

 

 白目をむいて、泡を吹いて、ジタバタ暴れるクズ。

 まだ終わってないから頭を離さない、頭蓋骨がメキメキ言ってるけど知らん。

 これでいいかな、覇気中枢だったものはボロボロだけどまあいいよね。

 バブチッ!なんか凄い音したな。

 頭から手を離す時、チリチリアフロをもぎ取ってサザエさんみたいにしてやった。

 

「ひゅー・・・ひゅ・・・ひゃ・・・は」

「おーい、起きろクズ」

「ぐへっ!」

 

 変な呼吸で気絶しそうになったクズを起こす。

 足で顔面をヒーリングしてやる。顔を踏んだ形になったけどかまわんだろう。

 

「ぼ、ぼぐに何をじだぁーー!」

「お前、一生覇気使えねぇよ。それどころか一般人より非力になったかもな」

「え゛なんで?なんでごんなこど」

「楽しいからに決まってるだろ?何言ってんだコイツ」

「ぞ、ぞんなぁ。それじゃぼぐは」

「えーとなになに、わぁ!いろんな所で恨みかってるな」

「裏社会で特に凶悪な連中にクズ弱体化情報流したよー。あ、さっそく動いたみたい」

「なんでごどぉー!」

「素直に捕まるしかないな。まあ、執念深い奴なら塀の中でも普通に追って来そうだけどな」

「びゃははは!ぞんなバガな、びゃははー」

 

 狂ったように不快な笑い声を上げるクズ。壊れたか。

 

「これから大変だな」

「身から出た錆」

「因果応報」

「自業自得」

「まあまあ、そんなこと言ってやるなよ。あ、笑いすぎてのど渇いたよね」

「え?」

 

 カバンから新たなペットボトルを取り出すとピタッと笑い声が止まった。

 なんだ正気に戻るほど嬉しいんだね。

 まさか、俺の愛バが丹精込めて造ったジュースが飲めないとか言わないよな。

 

「はいあーん」

「びひゃあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 外道は覇気だけじゃなく断末魔も汚かった。

 



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おまつりさわぎ

 クズを断罪した。

 

 

 とあるメジロ家所有の高層ビル、その地下に秘密裏に造られた施設がある。

 ここは重要な犯罪者の拘留と取り調べを行う場所。

 

 無機質な部屋の中では現在取り調べの真っ最中だ。

 ベテランと若手コンビの職員二名が凶悪犯と質疑応答を繰り返している。

 質問に答えている男は異様な風貌だった。

 

 頭はチリチリで側頭部の毛がゴッソリ抜けており、サザエさんを彷彿とさせる妙な髪形。

 過度のストレスを受けたのか白髪だらけ。

 顔はゲッソリと痩せこけており虚ろな目をしている。

 まるで生気を感じられない、廃人寸前だ。

 たまに体が大きくビクンッと痙攣し、常時何かに怯えながら小刻みに震えている。

 

 質問には素直に答え、過去の犯罪歴や手口など洗いざらい吐き出した。

 そうしなければ、死ぬより恐ろしい目にあうとブツブツ呟きながら。

 

「本当にアレがあのアーチボルドなのか?」

「生体データは一致している。かなりの変貌を遂げているが間違いない、我が仇敵アーチボルド・グリムズだ」

 

 取調室の様子をマジックミラー越しに見る男たち。

 メジロ家、現教導隊指揮官カイ・キタムラとレーツェル・ファインシュメッカーの二人だ。

 

「全身打撲、頭髪の変化及び特定部位の毛根死滅、精神にもかなりのダメージを負っている」

「毛根?ああ、あの妙な髪形か」

「一番不可解なのは覇気中枢がズタボロに破壊されているこだ」

「覇気の使用は二度と不可能、体力気力共に後期高齢者並みに落ちている」

 

 覇気とは生命エネルギーと感情エネルギーにその他諸々が合わさったもの。

 体力と気力を修練によって高める事で覇気が強化されます。

 覇気中枢とは覇気を生成、貯蔵する目に見えない器官。いわば第二の心臓。

 そこを破壊されたアーチボルドが廃人化するのは当然の結果だった。

 

「どうやったのかまるで見当もつかん。熟練の治療師や高位操者でもこんな真似は不可能だとさ」

「他者の覇気をここまで弄れる人物は限られている・・・フフッ、そうか」

「奴を廃人にした人物に心当たりがあるようだな」

「どうやら、また先を越されてしまったようだ」

 

 一週間前、ウマ娘の女児誘拐事件があった。

 実行犯はチンピラ崩れの小物だったが、背後に重要指名手配犯アーチボルドの影が見えたためメジロ家の起動部隊が出動した。

 

 取引場所である山間部は複雑な地形であり捜索は難航するかに思えたが、善意の協力者である謎のウマ娘の誘導で事なきを得た部隊は速やかに現場へ到着。気が付くと協力者は忽然と姿を消していた。

 

 ログハウス内で被害者の女児二名を発見し保護。

 スナック菓子を食べながらくつろいでいたので、皆、首を傾げるはめになった。

 

「あら、遅かったのね」

「もう終わっちまったよ」

 

 ケガも無く妙に落ち着いているのが気にかかったが、一応病院に搬送。

 後の事情聴取では、アサキムと言う人物が助けてくれたと述べた。

 

「超カッコイイんだぜ!バカだけど」

「ありえないほど強かったわ、ロリコンだけど」

 

 バカでロリコンだがメッチャ強い、漆黒のダークヒーローがいたのだと。

 それ以上は特に何も語らず。

 現在、女児二名は心的外傷も無く今も元気に日常生活を満喫している。

 

 ログハウス周辺の木に気絶し白目をむいた半裸のチンピラたちが吊るされていた。

 なぜか全員亀甲縛りだった、わけがわからないよ。

 森の中では戦闘用アンドロイドの残骸を多数発見。

 損傷が酷く、力任せに体を引き千切ったものや首を一撃で飛ばされたように思える。

 戦闘が行われたと思われる広場は広範囲の砲撃を行ったのか広範囲が荒れており。

 その中心でアーチボルドらしき物体は発見された。

 

 パンイチ、サザエさんヘッド、涙と鼻水と自身の吐瀉物まみれの姿。

 更に油性マジックで背中に大きく「成敗ッ!!!」と書いてあった。

 何度も痙攣し、誰かに許しを請うようにうわ言を繰り返す元アーチボルド。

 

「ゆるして・・・やめ・・・あ、アサキム・・・あくま・・・ひぃ」

 

 周囲はジュースとラーメンとゲロの臭いが立ち込めていたという。

 

 以上が報告書の内容。まるで意味がわからんぞ!

 

 取り調べが終わった、アーチボルドは後日、凶悪犯用の専用施設に移送される予定。

 あの様子では二度と悪事を働くことはできないだろう、同情はしないが本当に哀れな。

 

「アサキム、一体何者なんだ」

「ただのヒーローだよ」

「ヒーローか、でも良かったのか?ずっと奴を追っていたんだろう」

「自らの手で奴を裁いてやりたかったのが本音だ。しかし、私ではあそこまで出来なかっただろう」

「殺してはいないが、地獄にはしっかり落としたって所か」

「アーチボルドを殺さずに地獄送りにしてくれた。アサキムには心から感謝している」

「あー、そのなんだ。カトライアの事は」

「彼女とはそんな関係ではないよ。たまに連絡は取っているがね」

 

 レーツェルは懐から写真を取り出す。

 優しそうな男性と黒猫を抱いた美しいウマ娘。幸せな夫婦の写真だった。

 

「この通り、今はとても幸せだと報告してくれた」

 

 エルザム・V・ブランシュタインがメジロ家機動部隊に入る以前の事。

 士官学校に通う彼にはウマ娘の学友がいた、それがカトライア。

 いつの日か契約を結び共に世界を守っていこうと、将来を語り合った仲だった。

 

 忘れもしないあの日、エルザムが特別実習で学校を留守にしている間それは起こった。

 軍の士官学生を狙った爆破テロ事件。

 多数の負傷者を出し、カトライアはその時重傷を負い、騎神になるのを断念した。

 多くの教官や友人、そして相棒になるはずだった人の未来を奪った犯人をエルザムは酷く憎んだ。

 後に、このテロ事件の主犯はアーチボルドだったことが判明。

 エルザムは仇としてずっと奴を追い続けていた。

 

 彼女と別れる前に交わした言葉を今も覚えている。

 

「エル、私はあなたの愛バにはなれなかった。でもね、あなたを必要としてくれる子は必ずいるわ」

「カトライア・・・私は」

「あなただけのトロンべを見つけてあげて・・・約束よ」

 

 写真の男性と結婚したと連絡が来たときは自分の事のように嬉しかった。 

 事件の暗い過去を引きずらず、前を向き幸せになろうと努力している彼女を尊敬した。

 過去に縛られていたのは私だけか・・・。

 ちなみに写真に写る黒猫の名前もトロンべらしい。

 

「元カノに未練タラタラか」

「やかましい!そのチョビ髭をバーナーで炙られたいのか!」

「キャラが崩れてるぞ」

「失礼した。今は愛バがいる身、そして更なる美食とトロンべの追求に余念がない」

「お前・・・まだ他にも契約するつもりか?」

「知らないのか?最近は一対一よりも複数人での契約が主流だ」

「お前の覇気ならば問題ないか、好きにしたらいい」

「後一人ぐらいならいけそうと判断している。フフッ、待っていてくれ新たなトロンべよ」

 

 こいつ黒髪ウマ娘フェチなだけじゃねーかとカイは思う。

 淡い緑髪のカトライアは例外だったらしい。

 もう少し興味本位で聞いてみる。

 

「黒髪以外の条件は何だ?」

「確かな戦闘力と思慮深さ、後は何かしらの調理技術だな」

「今の子は、コーヒー淹れるのが上手いってだけで契約したんじゃなかったのか」

「次はそうだな、パティシエの心得がある者がいい。ドイツ菓子など作れたら最高だ」

「無茶苦茶言うな、そんな騎神いると思うか?」

「いるさ、確実にな」

 

 アーチボルドが捕まった件は、後でカトライアにも報告しておくか。

 奴に苦しまされた被害者たちもこれでうかばれてほしいものだ。

 アサキム、トロンべの弟よ、今度改めて礼を言わせてほしい。

 

 ケーキ作りが得意なトロンべ募集中なのでよろしく。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「くしゅん!」

「珍しいねフラッシュ、風邪でもひいた?」

「違います。何故か今、悪寒がしたので」

「お腹出して寝てるからだよー」

「それはあなたでしょファルコン!」

「盛った男どもに噂されてるんじゃないの?この無自覚童貞殺し!」

「ど!?別に殺してません!人をエロスの権化みたいに言わないでください!」

「お嬢様の操者と一線越えてもいいって思った癖に」

「お前もだろうが!流石底辺地下アイドル、体を使った営業は得意分野ですね」

「ウマドルだって言ってるだろ!もう怒った!アダルト業界にフラッシュの履歴書送ってやるー!」

「その時はお前も道連れだ。アイドル崩れの風俗嬢はガンガン指名されるぞ、良かったね」

「なんだとー!」

「なんですか!」

「あの、お二人とも頭首様の御前ですよ」

 

 くしゃみをきっかけにケンカを始めた二人に戸惑うウマ娘。

 サトノ家、ヒリュウ改の作戦会議室では30名程の従者部隊員と頭首サトノドウゲンたちがいた。

 作戦会議室といっても内部はサークルの部室を広くしたような雑多な空間だ。

 大型モニターにホワイトボードと大き目のテーブル、人数分の椅子。

 ぬいぐるみやフィギュア、各自が持ち寄った大小様々な私物が陳列されている。

 テーブルの上にはお気に入りの飲み物と菓子類が広がっており、皆でそれをつまんでいる。

 

「いいのいいの、うちはこれが日常だから。諦めて早く慣れてね新人君」

「はい。フフッ、あの人が言ってた通りです」

「期待してるよ~ルーキー」

「よっ!期待の新人!」

「なんでも聞いてくれよ、カワイイ子は大歓迎」

「今度一緒にお出かけしようね」

「付き合ってほしいっス!」

「身の程を知れ」

「(´・ω・`)ショボーン」

 

 新人と呼ばれたウマ娘に周囲から声がかかる。どれも好意的なものであり歓迎の意を示している。

 

「ちょっと皆さん!新人とはいえ実力と階級は彼女が上なんですから、それなりの敬意を払ってですね」

「だったらあなたもだね~6番のフラッシュさん」

「何か言いました?私より下の7番ファルコンさん」

「あ・え・て・下にいてあげてるんだよ、わかってる?」

「そのまま最下層まで落ちてしまえ」

「あ?」(ウマドル舐めんなよコラ)

「お?」(完璧に組まれた殺害計画実行してやろうか?)

「どっちが勝つと思う?」

「フラッシュに冷蔵庫のプリンかける」

「それ俺のじゃん」

「ファルコンに私の限定ブロマイドをかけるわ」

「お嬢様たちが写った分(頭首検閲済み)はもう持ってるよ・・・まさか!マサキ様の!」

「盗撮じゃないか!お嬢様に殺されるぞ!」

「今すぐ言い値で買います!!おいくらですか?」

「新人君!?」

「あら、ルーキーはマサキ様のファンか」

「うんうん。これならすぐに仲良くなるね」

 

 しばらく騒がしいやり取りの後、ドウゲンは新人に声をかける。

 

「何度も聞いたけど、本当にほんとぉーにいいんだね?」

「はい、どうかここで働かせてください」

「見かけによらず大胆だよね。君の立場でここへ来るのはかなりの勇気が必要だっただろうに」

「多少、肩身の狭い思いをすると覚悟していましたが、まったくの杞憂でした」

「うちのメンバーは変わったもの、面白いもの大好きだからね。君の入隊はお祭り騒ぎだよ」

「私の真名を聞いても「おろしれー」「良く裏切った!」「しゅき」等、皆さん笑顔で迎えてくださいました」

「娘たちが結晶化しても「流石お嬢様!輝いておられる」と斜め上の賛辞を真面目に贈っちゃう連中だから」

 

 変人の巣窟でごめんねと、頭首自らが言ってしまう変わった組織。

 入隊試験を終えた私を見て、なぜか三点倒立で「感動した!」と叫んだ頭首様も大概だと思うけど。

 後、別に実家を裏切ったつもりはないのです。

 妹分たちと争うだなんて・・・・・・あら、それはそれで楽しそうだわ。

 

 パンパンと手を叩いて皆の注目を一旦集めるドウゲン。

 

「はいはい、お静かに~。もう知ってると思うけど改めまして、本日より新しい仲間が増えるよ」

「やったねたえちゃん!」

「おい、バカやめろ!」

「ここにいないメンバーたちにも周知させること。いいね」

「「「「かしこまり!」」」」」

 

 了解の声が響き、新人の紹介は続く。

 

「入隊試験を歴代一位の成績で通過、覇気係数はなんと超級だ!」

「すっげ」

「流石っス」

「これがあの家の秘蔵っ子」

「向こうの頭首と話はついてる、本人の意思も固い、ここでの評判も良し、妻も推薦してるよ!」

「公認キター!」

「これで勝つる」

「奥様の推しなら仕方ない」

「それに、なによりも・・・カワイイィィィーーーー!!!」

「「「「それな!!!!」」」」

「お褒め頂き光栄です////」

「照れながら微笑むのが余計に尊い」

「何人か昇天したぞ」

「揉めに揉めた配属先は・・・シングルナンバーに決定しました!」

「おお!」

「妥当だな」

「自分、部下に立候補していいっスか」

「ええー!私が先だよ」

「何番?欠番だらけで選び放題だろ」

「シングルナンバーの再編成も今後どんどんやっていくよ。いい人材がいたら即スカウト!ハロワにも求人載せちゃったぞ」

 

 「ハロワで募集すんなよ」と思ったがありかもな。

 求人サイトからサトノ家に就職した者が結構いるので、昨今では普通なのかも。

 

「では最初のお仕事、自己紹介いってみよう!ナンバーと真名を高らかに宣言しちゃいなさい!」

「はい!」

 

 テンション高めのドウゲン、その横に一人のウマ娘が並ぶ。

 サトノ家従者部隊の黒い戦闘服(趣味でカスタム可)そのインナーのみをラフに着こなした姿。

 白磁のように透き通った肌、青みがかった美しい毛並み。

 所作のひとつひとつに気品が溢れ、お嬢様たちとは違った高貴さを感じる。

 それでいて、隠しきれない極大の覇気をその体に秘めた実力者。

 

 期待を込めた視線を受けて一礼、軽く微笑んでから告げる。

 

「本日よりお世話になります」

 

 少し緊張する、いけない、ちょっとだけ尻尾が放電しちゃった。

 

「サトノ家従者部隊0番、超級騎神"メジロアルダン"と申します。皆さん仲良くしてくださいね」

 

 よし!ちゃんと噛まずに言えました。

 

「0番キマシタワー!!!」

「幻のシングルナンバーがついに登場!」

「0ってことは忍んでない忍者になるつもりなの」

「全身凶器の暴れん坊忍者募集!って来るわけねーだろそんな奴・・・それが今来たぁーーー!」

「「メジロの暴君みたいな子が欲しいな~」て頭首様の思いつきで生まれたからな」

「あんなカワイイのにリーサルウェポンなんだ・・・しゅき!」

「実家を敵に回す心意気に惚れました。結婚してください!」

「とりあえず踏んでくれます?あ、尻をぶっ叩いてくれてもいいですぞ」 

 

 写真を撮る者、手を叩いて笑う者、感涙する者、求婚する者、ただのドM。

 とにかく歓迎されてるみたいだ。頭首様もこれで良しと頷いている。

 

 ここからまた始めよう、新しい私を。

 

 マサキさん、喜んでくれますか?褒めてくれますか?バカだって笑いますか。

 あなたに救われたこの命、あなたの帰る場所を守るために使わせてください。

 どうかご無事で、また会える日を心から楽しみにしております。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ああああああああああああ」

「マサキがバグった」

「どうせ禁断症状だろ」

「何の?」

「ロリの」

「納得した」

「納得するなよ!ウオッカとスカーレットがどうなったか心配なだけじゃ!」

「無事保護されたの見たじゃねーか」

「俺が恋しくて泣いてたらどうしよう」

「ねーよ」

「自意識過剰」

「だって、クロとシロを思い出しちゃったんだもんよー!背格好が似てたんじゃよー」

「ロリの禁断症状、治し方検索っと」

「新しいロリをあてがうしかないぞ」

「クローーーシローーー愛してるぞーーー!!!」

 

 海沿いの国道を軽快に走行するサイドカー付きのバイク。

 運転ゴルシ、俺はサイドカーで吼えてます。

 ヘルメット越しに愛バへの愛を叫ぶ俺をウザそうにあしらうゴルシとミオ。

 

 クズへの制裁が終わった後、ログハウスに戻りウオッカたちとお別れした。

 俺のことは一応ナイショってことにしてもらった。

 最後にデレた二人をしっかりハグさせていただきました。やっぱロリ最高!

 結局、ゴルシが山で狩って来たのは毒キノコだったのでリリース。

 アーチボルドに食わせればよかったかもな。

 

 下山してからは海を目指してみた、超適当www。

 

「ここいらで一気に覇気を吸収したい」

「贅沢~」

「祭りだ」

「どうした急に?発作か?いつものゴルシか?」

「祭りの匂いがするんだよ・・・いるぜ、そして来るぜ」

「ミオ」

「もう少し先の町で確かにお祭りやってるね。へぇー商店街主催で割と人気があるみたい」

「人が集まる、その中に強い覇気を持った奴らがいるかも」

「決まったな!行くぞ!思う存分ハジケてやろぜ!」

「「ひゃっはぁーーー!!!」」

 

 のりこめーってことでお祭り会場に突撃した俺たちだった。

 

「はい、これお釣りです。熱いから気を付けてください、ありがとうございましたー」

「マサキ!こっち手伝ってくれ」

「あいよー」

「らっしゃい!列に並んでお待ちください。割り込みした奴は禿げます」

 

 ゴルシ特製やきそばを販売する俺たち。

 メイン調理はゴルシ、調理補助と売り子は俺。

 店頭に設置されたマネキンにヘルメットを被せてあるので、そこから元気のいい客引きを行うミオ。

 

 なぜこんなことをしているかと言うと。

 お祭り会場に到着した俺は騎神を発見、覇気提供の交渉をした。

 向こうが提示した条件はお祭りの出店を手伝うこと。人で不足で猫の手も借りたい状況だったらしい。

 手伝いの見返りとして覇気をもらえる。

 更に知り合いのウマ娘たちに声をかけてくれるとのこと。やったね。

 

 屋台の一つを任された俺たちはゴルシのやきそばを販売。

 あっという間に大人気、飛ぶように売れていくので忙しいが気分がいい。

 本日の売上一位はもらったな。

 

「いや~大盛況ですな。君たちにまかせて正解だったね」

「ネイチャさんちっす」

「「チース!!」」

「元気だねぇ」

 

 俺たちをお祭りに巻き込んだ張本人、ウマ娘のナイスネイチャが様子を見に来てくれた。

 下町育ちの庶民派、茶色い毛並みのウマ娘。

 両肩にかかるぐらいの束ねた髪をもふもふしたいです。

 わかるぞ、この子は家事スキル高くていい嫁さんになりそうだと。

 ご近所のご老人たちに愛された、商店街のアイドルです。

 

「代わろっか?休憩まだでしょ」

「待ってくれ、今やっとゾーンに入った所だ!今ある分を全部売り尽くしてみせる!」

「フッ、マサキの腕がメキメキ上達していくのがわかるぜ。免許皆伝の日も近いな」

「残り10食だよー!今買わないと一生後悔するぞ!是非食べってってねー」

「あはは、何だこの迫力」

 

 10分後。

 

「しゃあーーー!完売した!ありがとうございましたぁ!」

「「ありがとうございました!!」」

 

 凄まじい勢いと迫力、店員の意味不明な言動、なにより箸が止まらないほどの美味さが客を呼び続けた。

 1日分の材料を半日で使い切った、追加の物資が届くまでしばらく休憩をもらったよ。

 ゴルシは他の店を手伝って来ると言って消えていった。パワフルな奴め。

 俺とミオは祭りを見物中。

 

「おお、マサキじゃないか!」

「よおダブルジェット」

「ツインターボ!なんで間違えるかなー」

「一回外すのが様式美だと思って」

 

 元気いっぱいのウマ娘が突っ込んで来る。

 こらこら急に走ると危ないぞっと、小さな体をひょいっと抱え上げる。

 抱っこ検定があったら初段ぐらいは余裕だと思う今日この頃。

 

 鮮やかな青い毛並み、先端が薄っすら色違いでとてもキレイ。

 オッドアイにぐるぐるお目目、歯がギザギザなのはなんでだろう?可愛いから許す。

 

「他のみんなはどうした」

「いるよー、おーい二人ともこっちだぞー」

 

 ターボに呼ばれ更に二人のウマ娘が近づいてくる。

 

「ターボさん、単独先行は危険です。また迷子になったらどうするんですか」

「ぐすっ・・・あ・・・マサキさん、どうもです」

 

 やれやれと言った感じでターボを注意するメガネをかけたウマ娘はイクノディクタス。

 薄茶色の毛並み、長い三つ編みと丸眼鏡が特徴的なウマ娘。

 生真面目を絵に描いたような子でネイチャを含む四人のまとめ役兼参謀ポジション。

 

 なぜか鼻血を出して泣いているのはマチカネタンホイザ。

 肩耳が貫通した帽子を被り、ゆるふわな茶色の毛並みを持ったウマ娘。

 不幸体質なのか、転んだりぶつかったりしてしょっちゅう鼻血を出す子。

 鼻血か・・・姉さんを思い出いちゃった。

 それとマチカネだと、フクキタルの親戚かなんかか?この子にお守り売ってやれよ。

 

「すみませんマサキさん。ご迷惑では?」

「そんなことないぞ」

「そうだぞイクノ、マサキはターボと遊びたいんだ」

「そういうことにしとくか、ちょっと降ろすぞターボ」

「うん」

 

 鼻血出してる子を放置できません。姉さんは自分でなんとかして。

 

「今度はどうしたんだよ。あーあーもう」

「ずみばぜん~、人混みに流されてマッチョなおじ様の肘鉄がモロに」

 

 どういう状況だそれ。きっとおじさんも気づかなかっただろう。

 血を拭き取ってから覇気でヒーリングをするか。

 ちょっと摘まむぞ我慢して。

 

「えい、えい、むん!」

「ふぎゅ!」

「「持ちネタパクられてるwww」」

「リスペクトしただけだ」

 

 絶妙な力加減で鼻を摘まみ覇気で止血とヒーリングを施す。

 「えい、えい、むん!」はタンホイザがたまに呟く掛け声。可愛いから使ってみた。

 待つこと数秒、これでよしっと。

 

「あ、止まった。さっすがマサキさん、ありがとうございます」

「どういたしまして。気を付けろよ、流石にもげた鼻は治せそうにない」

「怖っ!不吉なこと言わないでくださいよ」

「常日頃から顔面への攻撃に注意しておくことを推奨します」

「いっそのこと鼻を鋼鉄製に改造したらいいと、ターボは思うぞ」

「「それだ!」」

「してたまるか」

 

 その後、休憩時間の終了まで祭りを一緒に楽しんだ。みんないい子たちなのよ。

 ネイチャもそうだがこの子たちの覇気は既にいただいております。超ありがてぇ!

 さあ、午後からも頑張りますか。

 

 何日か経っていよいよお祭り最終日。

 

「信じられねぇ」

「うそだろ」

「困ったね」

 

 噂は聞いていた。

 たった一人で屋台の材料を全て食い尽くす魔物が出ると。

 それが今日、俺たちの屋台に現れた。

 

「美味いな、ああ、本当に美味い。おかわりだ」

 

 調理の手を止めることは出来ない、周囲の見物客も圧倒される食欲。

 急いで追加オーダーに応えるが、作ったそばから消費される。

 

「ついに来たね。彼女が」

「知っているのかネイチャ!」

「オグリキャップ、数多の飲食店を出禁になった暴食の魔王」

 

 魔王と呼ばれたウマ娘により、空になった容器がどんどん積み上がる。

 この食べっぷり、北海道の野生児スぺよりも上だ。

 

 灰がかった銀の毛並み、性格は常にマイペースかつ天然が入ってる感じがする。

 周りの喧騒を全く気にせずにもきゅもきゅ食事を続ける様は、威風堂々。

 燃費はともかく、こいつ強いな。覇気の質が強者のそれだわ。

 

「おったおった!ってまーた食い散らかしとんのか、ほんまええ加減にせぇよ」

「あらあら、オグリちゃんは今日も食欲旺盛ね~」

「タマ、クリークも。食べるか?ここの焼きそばはとても美味だぞ」

 

 オグリの連れであろう二人のウマ娘がやって来た。

 一瞬、視線が合う。ほう、この二人もなかなかの覇気をお持ちですな。

 

「うちらの連れがえらいすんません。お代はきっちり払わせますんで、心配せんといてや」

「こう見えても騎神なんですよ~。オグリちゃんは高給取りなので食べた分ぐらいは出せます」

「食費で殆ど消え去る運命だぞ」

「わかっとんなら自重せいや!」

 

 年齢関係なく烈級騎神以上なら騎神専用のバイトをする資格が与えられる。

 ちょっとした警備や探偵の真似事、警察や軍からの協力要請がメイン。

 絵のモデル、レンタル愛バ、野良レース出場といった変わり種もある。

 自身の実力と級位を加味していろんな仕事ができる社会なのです。

 ファンタジーもので冒険者がギルドでクエストを受ける感じを想像してくだされ。

 お小遣い稼ぎをするもよし、自身の修練を兼ねるのよし、名を売るために活躍するもよし。

 危険な任務は自己責任!ちゃんと契約書に「死んでも文句言うな」って書いてあるから恐ろしい。

 

 強い覇気を持つ人間や操者限定の仕事もあるらしいぞ、へぇー。

 

「三人とも烈級以上か」

「うちとクリークは烈、オグリは轟や」

「最近は指名も増えて大忙しですからね。今日は久しぶりにのお休みです」

 

 簡単にお互い自己紹介した。タマモクロスとスーパークリークか。

 

 タマモクロス

 関西弁を話す小柄なウマ娘。この子も銀の綺麗な毛並み。

 周囲への気配りとツッコミを忘れない面倒見のいい苦労人。

 小さい体で頑張ってる子を見ると応援したくなります。

 

 スーパークリーク

 おっとりした性格、艶のある茶色の毛並み。

 年下だよな・・・なんだこの溢れ出る母性は!バブっていいのかな。

 スタイルもいい、おぱーいがパネェっス。油断すると赤ちゃんにされそう。

 

「ちょっと失礼」

「ん?なんだ、ああ、なるほど覇気を調べてるのか」

 

 オグリの食欲は覇気の異常かもしれないのでチェックしてみる。

 頭に手を置いて集中、残念!特に異常なし。これはただの食いしん坊だったぜ。

 あれ、その方がヤバくね。

 

「まだ食べたいか?」

「うん」

「お腹いっぱいになったら覇気を分けてくれないか?」

「いいぞ」

「よし、約束だぞ」

「うん。おかわり」

 

 覇気のドレインを約束させた。

 

「ちょっといいの!あんな安請け合いして」

「お腹いっぱいって、あいつ底があるのか不明だぞ」

「兄さん、それは無謀っちゅーヤツや」

「どうしましょう~」

 

 ミオ、ゴルシ、タマ、クリーク、それに周囲の人達にも心配されてしまった。

 

「わかってる。だけどあの顔を見ろよ」

「じーーー」( ᯣ _ ᯣ )

「は!もう食い終わってこっちを見てる!」

「なんて物欲しそうな顔なんだ」

「俺はオグリを満足させてやりたい」

「本気なんやな」

「今日は祭りの最終日だ、最後にあの胃袋ブラックホールに勝ちたい!」

「まあ、素敵」

「俺一人じゃ無理だ、頼むみんな協力してくれ!」

 

 綺麗すぎるお辞儀、本心からの誠実な気持ち、よく通る声と慈しみに溢れた覇気。

 マサキの願いはミオたちだけでなく周囲全ての人々に伝わった。

 

「へっ、若造にそこまで言われたらやるしかないか」

「腕が鳴るわい、わしの封印を解く日が来るとはな」

「ああ、皆やってやろうぜ!」

「そうよやりましょう。だって楽しそうじゃないの」

「俺もやるぜ」

「私も」

「フッ、私を忘れてもらっちゃ困るよ」

 

 自分の店を放置して協力を申し出る人、謎の風格をお持ちの爺さん、異様に覇気が強いおばさん。

 お客さんなのに手伝いをしたいと言ってくれる人。

 ざわ・・・ざわ・・・してきたの。

 

「あーあー皆に火をつけちゃったね」

「ネイチャは強制参加な」

「あはは、逃げればよかったかな」

「ターボもやるぞ」

「微力ながらお手伝いします」

「今日は鼻血出さないよ」

 

 ネイチャと愉快な仲間たちも参戦。

 

「ミオ、ゴルシ、俺を勝たせてくれ」

「今更だな」

「私の分析力でカバーしてあげるよ」

「ちょいまち!兄さんたちだけにええ格好させへんで」

「私達もお手伝いします~」

 

 揃ったな・・・。

 

「すまない、誰かおかわりをくれないか?」

「やるぞみんな!奴の胃袋を満タンにしてやろうぜ!!!」

 

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「もう無理がはっ!」

「タンホイザーーー!!!」

「ダメだ鼻血ブーだ。衛生兵ーー!!!」

「クッソ、これで何人目だよ」

「とにかく作るしかねぇ、手を止めたら負けるぞ」

「材料、材料はまだか!こっちはもう空だぞ」

「ここまで来たんだ、あと少し粘れば・・・」

 

「すまない、おかわりはまだか?」

 

「終わりだ・・・」

「勝てない」

「倒す手段はない」

「アカン、既に半数が過労でダウンしてもうてる」

「底の見えないオグリちゃんに絶望して戦意喪失してる方も多いです」

「これが暴食の魔王ベルゼブブの異名を持つウマ娘」

「あの質量はどこへ消えるんだ?本当にブラックホールなのか」

 

 みんなの気持ちがひとつになってからしばらく経過。

 死屍累々のお祭り会場になりました。

 余りの忙しさで半数以上の人がダウン。調理のやり過ぎで人が倒れるってどういうことだよ!

 だというのに、奴のペースが全く落ちない。質量保存の法則はいずこへ。

 俺は間違ったのか?皆を巻き込んで・・・これでお終いなのか。

 

「マサキ!オグリのお腹を見て」

「・・・はっ!アレは」

 

 見えた!勝利までの道筋が。

 ここまでの犠牲は無駄じゃなかった。

 

「腹が、ボテ腹になってるーーー!!!」

「「「「なん・・・だと・・・」」」」

 

 まるで変化がないように見えた奴の腹が膨らんでいるのだ。

 これは限界が近づいているのでは。

 

「ようベルゼブブ!腹の具合は大丈夫か?無理してんじゃないのか、ん?」

「オグリキャップだぞ。そうだな、もう少しいけそうだ」

「聞いたか皆!もう少しだとよ!」

 

 今まで、おかわりと特盛しか言わなかった奴が「もう少し」と言ったな。

 奴の少しがバカげた量なのは百も承知。

 だが、ここしかない!みんなもそれをわかっているので気力を持ち直す。

 

「へへ、ゴルシ様ともあろうものが。焼きそば作りで腱鞘炎になるとは」

「無理すんなと言ってやりたいが、ここが正念場だ頼む」

「任せろ、腕がもげても調理してやるよ」

「あんな奴生かしておいたら町の食糧が食い尽くされてしまう」

「ここで仕留めるぞ」

「ターボまだやれるよ」

「向こうも消耗している、この好機を逃してはダメです」

「ふぃーとんでもないことになったね」

「鼻血止まった。寝てる場合じゃないよね」

「まだやれる」

「諦めない」

 

 倒れていた奴らが復活する。

 勝利は目前、折れかけた心に再び火が灯る。

 

「よーし!もうひと踏ん張りじゃー!」

「「「「えい、えい、むん!!!!」」」」

「ちょ、わたしの!」

 

 みんな大好き「えい、えい、むん!」

 むん!の所で筋肉を膨張させムキムキになった爺さんがいたが無視。

 若返った婆さんもいたが無視。ヤバいなこの商店街www。

 

「なあクリーク」

「なんですタマちゃん」

「こいつら全員アホやな」

「今頃気づいたんですか?」

「そしてうちらもアホの一味や」

「そうですね~アホの子が集まるときっと楽しいですよ」

「せやな」

 

 盛り上がる俺たちをよそに。

 暴食の魔王は特に気にした様子もなくあの言葉を口にする。

 

「おかわり」

 

 温度差酷いな。

 



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ほうそうじこ

 オグリの腹を満たすために奮闘した。

 

 

「これが最後だ」

 

 オグリキャップことベルゼブブの前に最後の一皿を置く。

 最終決戦に挑んだ俺たち、わかっていたけど、まあ甘くなかったわ。

 「もう少し」とは何だったのか。

 まさか、本当に食材全て使い切るとは思わなかった。

 代用品としてタマがたこ焼きを混入させても文句言わず食ってた。

 焼きそばが間に合わないので、いか焼きやリンゴ飴にたい焼き、その他。

 場を繋ぐために用意した全てを食い尽くした、まさに暴食の魔王。

 

 本当に本当の最後の一品。

 ちょっと焦げた破片もかき集めて入れてたけど我慢して。

 

「うん。いただきます」

 

 食に対するリスペクトはあるんだよな。

 ちゃんと手を合わせるし、美味そうに食べてくれる。

 作った方としては嬉しいんだよ、量が異常なだけで。

 

 あ、もう食べ終わる。

 しっかり噛んでよく味わい飲み込む。

 「うん」と頷いたオグリはその箸を・・・ついに置いた。

 

 周囲が静まり返る。誰もが期待している、あの一言を。

 言え!頼む言ってくれ!マジでお願いします!ホント勘弁して下さい。

 固唾を飲んで皆が見守るなか決着の時は訪れた。

 

「ありがとう、お腹いっぱいだ」

 

 目を閉じ手を合わせるオグリは待ち望んだその言葉を紡いだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

 ・・・聞いたか皆?

 

「勝った・・・」

「倒した、あのオグリを」

「聞き間違いじゃないよな!」

「確かに聞いたわ、ごちそうさまって」

「ああ・・・やったぞ」

 

「よっしゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「やった勝った!勝ったんだ!俺達の勝ちだーーーー!!!」

 

 勝利の雄叫びが上がる。

 感極まって泣き出す者、抱き合って喜ぶ者、放心状態でへたり込む者。

 疲れた体を無視できる程の圧倒的達成感。

 やった、やりきったぞ!どうだ!俺たち凄い!

 

 歓声と拍手が聞こえる。

 いつの間にか見物客も増えていたようだ。

 

「おめでとー」「よくやったぞー」「なんか凄かった」と称賛の声をかけられて照れる。

 

「いやホンマに大したもんや、素直に感心したで」

「おめでとうございます~。フフッ、みんないい子いい子してあげますね」

「誰?」

「知らんのに手伝わしたんか!」

「忙し過ぎて忘れちゃったみたいですね」

「思い出した、スーパーモクロス!」

「変なフュージョンさせんなや!」

「冗談だよポチ」

「タマや!」

「息ぴったりですね~」

「やるなタマ」

「あんたもなロリ」

「マサキですけど!」

「「・・・・」」

「「なにコレすっごい気持ちいい!!」」

 

 ボケとツッコミの応酬がバッチリ噛み合い気分爽快だった。タマとがっちり握手。

 ついでに覇気プリーズとお願いしてみる。

 

「ええよ。楽しませてもろうた礼や」

「私もいいですよ。甘やかさせてくれたらですけど」

「ありがとうございますー」

 

 和気あいあいとした空気が場を包む。皆の気分は晴れやかだった。

 そこへ、お腹を膨らませたオグリがやってきた。

 

「本当に美味しいかったぞ。こんなに満たされたのはいつ以来か、みんなありがとう」

「いいってことよ、なんだかんだで楽しかったし。皆もそう思うよな」

「まあいいんじゃない」

「終わり良ければ総て良しってことで」

「あはは、二度とやりたくないけどね」

「みんなで頑張るのってとっても楽しいぞ」

「そうですね。貴重な体験でした」

「むん!」

 

 今の俺たちは勝利の余韻に痺れております。

 

「そうだ。言い忘れていたことがあるんだ」

「なんや?もう腹減ったとか言うなよ、空気読め」

「さすがにそれはいけませんよ」

「違うんだ」

「勿体ぶらずはよいえ」

 

「財布持って来るの忘れた。つまりお金がない」

 

「ちょ、おま」

「ええーオグリちゃん、それは」

「は?」

「はぁ?」

「はぁぁ?」

「ただ飯だと・・・」

「それはない」

「ケンカ売ってんのか」

「もういい吊るせ」

「むん!」

 

 さっきまで穏やかな空気が殺気だったものに変わっていく。

 観客たちからブーイングと「舐めんな!」等のどせいが聞こえてくる。

 俺はそっとスマホを取り出し流れるようにダイヤルした、ここにかけるのは何回目だろうか

 

「もしもし警察ですか?無銭飲食の現行犯です。犯人は騎神なのでフル装備で来てください」

 

「オグリっ―――!!!今日という今日は許さへんで!!!」

「わぁ!タマちゃん、血管ブチギレそう」

「すまんタマ」

 

 その後、偶然お祭りを視察しに来ていた町長がオグリの健啖家っぷりに感動して支払ってくれた。

 後日、ちゃんと返済することを念書に書かされたオグリであった。

 怒り心頭のタマがオグリの頭を地面に擦り付けてた。反省してるから許してあげて。

 

 暴食の魔王が降臨し、それを撃退した武勇伝は長く語り継がれることになる。

 次回以降の祭りでは焼きそばが名物となり、商店街の飲食店はデカ盛りメニューで商売繫盛したのは別の話。

 

 ドレインタイム。

 

「オグリの覇気ゲットだぜ!」

「ん?もういいのか」

「おう、ありがとな」よしよしヾ(・ω・`)

「くすぐったいぞ、もっと撫でてくれ」

「あら、意外と甘えん坊さん」

 

 約束通り覇気をもらった。うん、いい感じだ。

 もうお腹がへっこんどる!消化効率良すぎじゃね?

 

「お次はタマちゃんです」

「はいな、ちゃっちゃとすましてや」

「さあ゛!!うちとやろうや゛ぁ!!」

「このボケしばくぞ」

 

 良かれと思って下手な関西弁を言ったら怒られた、何か気に障ったのだろうか?

 うんうん。タマの覇気もいい感じだ。

 関西弁キャラが一人いると賑やかでいいよね。

 

「マサキの覇気が少しこっち来るんは仕様なんか」

「そうなのよ。我慢してくれ」

「まあええか、今の所は問題なさそうやし」

 

 えーと次は。

 

「先にこちらがいただいてもいいですか?」

「ほう。何を俺に要求するつもりかね」

「フフッ、一緒に遊んでほしいだけですよ」

「尻尾鬼か?それなら皆でやった方が」

「違います。一緒に"でちゅね遊び"しましょうね~」

「何それ凄い気になる」

 

 でちゅね遊びだと・・・望むところだ!

 

「アカン、マサキが赤ちゃんにされる」

「別にいいんじゃね」

「たまには童心に帰るのもいいよね」

「放っておきましょう」

「ターボも気になるぞ」

「いけません!アレは道を踏み外した者がする禁断の遊びです」

「イクノはなんで内容しってんのかな?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅー・・・はっ!!!」

 

 呼吸を整え覇気を全身に回す。

 対人戦の型を一通り行って、エア戦闘もやってみる、想定している相手はもちろんあの人だ。

 毎日欠かさずやった成果は確実に出ていると思う。

 研ぎ澄まされた感覚、鍛え上げられた肉体、一歩づつ着実に前へ進んでいる感覚が嬉しい。

 私、強くなってるよね。

 ご近所に比較対象がいないから、月に一度は腕試しのため町に繰り出すようになりました。

 野良試合では今の所無敗の戦績です。

 

「ここまでにしましょうか」

 

 午前の修練を切り上げる。ちょっと遅いお昼を食べに家へ帰る。

 空から落ちて来た男に出会ってから、およそ一年と半月経過。

 修練は継続中、トレセン学園目指して頑張るぞー。

 体もだいぶ大きくなりました、今度会ったらビックリさせてしまうかも。

 ウマ娘の急成長は本人すらも驚愕するのが一般的。

 ある日、鏡を見て「私こんなんだったかな?」と疑問に思った。

 よく食べてよく寝る子は育つのです。

 

 家に到着、最近熊に遭遇しません、そろそろお肉が恋しいです。

 

「お帰りスぺ、見てみな面白いことやってるぞ」

「ただいまお母ちゃん、何?テレビなんか見て」

 

 リモコンを持って音量を上げてみる。

 お昼過ぎのニュースでは、とある商店街主催のお祭りを中継している。

 賑やかな出店の数々、大勢の人、山奥に住む私には非日常の世界。

 

「本日は祭りの最終日ということで、先程まで変わったイベントがあったそうです」

「何でも一人のフードファイターが屋台の食材を食い尽くしたとか」

 

 フードファイター?そんな魅惑の職業があるのか!

 

「なんかアンタみたいな奴がいたってよwww」

「私はもっと自重できるよ、たぶん」

 

 リーポーターが商店街の奥へ進んで行き、例のイベントがあった場所に到着したようだ。

 既に終わった後らしく、大量の皿や容器類を多くの人が片付け清掃している。

 疲れた顔をしているが、どこか満足気な様子な人々がチラホラ見える。

 

「では商店街の代表者にインタビューしてみましょう」

「ええー、アタシでいいのかな」

 

 庶民っぽい家庭的なウマ娘が照れながらもインタビューに答える。

 ああいうのが好きな男の子っているだろうなー。

 

「イベントは大盛況だったそうですが、企画をしたのはあなたですかネイチャさん」

「違いますよ~。私は手伝っただけで、考えたのは別の人です」

「絶望的な状況だったと聞きましたが、それを乗り越えた秘訣は?」

「みんなが頑張った結果としか言えないです。あの空気はホント凄かったですから」

「はい、ありがとうございました。それでは他の方にもインタビューを」

「ああ!待ってくださいそっちはやめ」

 

 リポーターが背後にある仮設テントの中へ突撃しようとする。

 イベントスタッフの休憩所らしきその場所でカメラが映したものは。

 

「はーい、いい子いい子」

「ばぶぅー」

 

 母性溢れるウマ娘の膝枕で幼児退行したバカの姿だった。

 おい、モザイク今すぐかけろ!映しちゃダメなヤツがいるぞ。

 

「あん?なんやおたくら、今あいつは真剣なんや邪魔せんといてや」

「スーパークリーク、鬼子母神と呼ばれしウマ娘は伊達じゃない」

「秒殺だったね。膝枕された瞬間にバブリだしてドン引きだよ」

「アレ止めなくていいのか?マサキ戻ってこれなくなるぞ」

「見ちゃダメよターボちゃん。頭が悪くなるわ」

「ばぶばぶぅーー!!」

「みんな~赤ちゃん(マサキ)が「外野うるせぇ!」って言ってるわ」

「あの~これは一体何をしているのでしょうか?」

 

 リポーターが至極まともな質問をした。

 

「見てわからんか?あいつは今、戦っとるんや。母性という名の暴力とな」

「ばぶー」

「えー(ドン引き)ただの変態プレイ中にしか見えませんけど」

「けっ!これやから素人は困る」

「(´∀`*)ウフフ いい子、いい子~」

「えーと、そこの方にインタビューしても?」

 

 リポーターも結構攻める奴だな、そもそもあのバカまともに喋れんのか?

 

「すみません。少しいいですか?」

「いい子いい子~、マサキさんインタビューしたいって言ってますよ~」

「急に押しかけて何ですか?俺は甘えるのに忙しいんです!邪魔するんなら帰って!」

 

 普通に喋りやがったぞ、名前バッチリ言ってるが大丈夫か。

 

「ばぶーばぶーばぶー!(帰れ!帰れ!帰れ!)」

「まあまあ、せっかくですからお話聞いてあげましょう」

「クリークママに感謝しろよ。早くしろ、幼児退行するまで時間がないぞ」

「では、今日の大食いイベントはあなたが企画したのでしょうか」

「は?ああ、オグリの件ですか。企画というよりその場の勢いですかね、あの時はただ必死で・・・」

 

 メッチャまともに答えるのがなんか腹立つ。

 膝枕されたまま( ー`дー´)キリッ!とキメ顔するバカ・・・ぶん殴りてぇ。

 

「以上です。ありがとうございました」

「かまへんよ」

「それと個人的な質問なんですが、よろしいのですか?テレビにあなたの醜態が映ってますよ」

「はっ!どうせ弱小ローカルテレビ局でしょ、この時間帯のニュース見てる暇人なんていませんよ」

「失礼ですね!うちは大手の全国メディアですよ、視聴率だっていいんですから!」

「マジでか!それはちょっと困る、編集で何とかしてくれますよね?」

「残念でした生放送ですwww」

「なんだとぉ!おい!今すぐカメラ止めろ!みんな手伝ってくれこいつらを逃がすな!!」

「「「「マスゴミ死すべし!」」」」

「ちょ、よってたかって、やめてください!報道の自由がぁああああああ!!!」

 

 しばらくお待ちください 

 

 なんなんだ今のはぁ・・・。

 

「放送事故だろうがぁ!!!」

「落ち着きなスぺ、相変わらずの変人っぷりだねあの男はwww」

「笑い事じゃないよ・・・こっちが恥ずかしい」

 

 興奮しすぎてリモコンを床に叩きつけてしまった。

 もう!何やってるんですか!あんな人に一時でも師事していたなんて!

 

 映像がスタジオに切り替わった、司会者と出演者が当たり障りのないコメントで場を繋ぐ。

 

「えー、不適切な映像が流れましたこと誠に・・・え?」

 

 謝罪しようとした司会者がカンペで指示されたのか一瞬固まるが、すぐに持ち直す。

 

「視聴者から多数「続きを見せろ」とのご意見をいただきましたので中継を再開します」

 

 おいおいおい!見てる方もバカかよ。まあ、私も気になりますけど。

 

「クレームは一切受け付けません。視聴は自己責任でお願いします」

「現場のリポーターさん!そちらの状況を伝えてください」

 

「おぎゃー」

「ばぶぅ」

「フフフ、赤ちゃんが増えました~。いい子いい子」

 

 アカンwwwリポーターが赤ちゃんにされたみたいだwww。

 司会者が「んんん゛!?」って吹き出した音声が聞こえる。

 

「あ、カメラ復活した?オグリ代わってくれ」

「ああ、選手交代だ」

「は~いオグリちゃんいらっしゃ~い」

「ばぶぅー!」

 

 バカが膝枕をオグリと呼ばれたウマ娘に譲った。

 秒で赤ちゃんになるオグリ、あの膝枕に一体どんな力が?

 

「マサキ、こんなチャンス滅多にないよ!やっておしまい!」

「任せろ!ゴホン・・・あーあー・・ん!よし」

「カッコよく決めろよ」

「みんなー見てるー!!!俺やで!!!」|  ̄∀ ̄ |ドヤァ

「皆さん彼を中心に集まって、仲いい感じで、ああそうそういい画が撮れてます」

「カメラさんノリノリー」

 

 ドヤ顔を決めたバカを中心にウマ娘や商店街の人たちが集まる。

 バカがも揉みくちゃにされた。

 

 みんな笑ってる・・・いいなぁ楽しそうで。

 

「ちょ、どさくさに紛れて尻を触った奴がいるー!嫌っー感触がゴリマッチョ男性の手だったぁ!」

「おい、誰かマサキの尻を守れ」

「その役目は任せてもらおう」

「あなたは!肉屋のせがれタカシさん!(27歳、趣味ボディビル)」

「これで一安心だ」

「ええんか?犯人どう見てもそいつやけど」

「マサキって変なのにモテるよね」

「変人ホイホイのマサキさん、コメントを」

「覇気をくれた皆ありがとう!ホモに襲われたりするけれど俺は元気です!」

「アピールしてアピール!」

「強い覇気を持っているウマ娘募集中!後もうちょっとな気がするからよろしく」

「もちろん、そっちから来てくれるのも大歓迎だよー」

「それから・・・一応釘も刺しとくか」

 

 まだ旅の途中らしい。

 バカの表情がちょっと変化する、真剣な顔・・・いつもそうならもっとモテるのに。

 

「俺にちょっかい出してる奴に警告する。身内の女性陣をぶつけられたくなかったら引っ込んでろ!」

「他力本願!マザコン!シスコン!」

「うるせー!これ以上の抑止力が他にある?ないでしょーが」

「カッコ悪いなー「まとめてかかって来い!」ぐらい言ってよ」

「まとめて来ないでー!お願いしますー!」

「こういう男ですわ」

「少なくとも母さんと姉さんは加勢してくれるもん!」

「もん!ってwww」

「ヘヘ、頼んますよ二人とも。お土産買って帰るからねー」

 

 何か敵でもいるような発言、そして母親と姉に丸投げする小物っぷり。

 バカの母親と姉か、ヤベェ奴なんだろうな・・・想像したくない!

 更に続けて何か言ってる。

 

「水の天級騎神出て来いやぁ!後はお前だけだぞ!」

「ガッちゃん見てるー?みんな集まってるよ~乗り遅れるな!このビッグウェーブに!」

「は?今なんと仰いましたか、天級?」

「ばぶぅ?・・・はっ!私は一体何を、そうだバカどもに襲われて!あー何やってるんですか!」

「ちっ!リーポーターが正気に戻りやがった」

「カメラさん!もういいから撮影やめて!私がバブってる所はカットして!」

「生放送ですよwww」

「そうだった!くそがぁ!どうしてくれるんだ、全部アンタのせいだぞロリコン!」

「いだだだだ!やめなさい、マイクで目を突こうとするのやめなさい!」

「マサキ最後になんか言え!心のままに叫べ!」

 

「クローーー!シローーー!愛してるぞーーー!!!俺の愛バがズキューンバキューン!」

 

 ロリコンの大絶叫、クロ?シロ?なんだそれは人の名前か?

 それより今なんて言った、水の天級・・・後はお前だけ・・・集まってる?

 バカの戯言と一蹴するのは簡単だが、嘘を言ってるように見えないのがホント怖い。

 誰もが畏怖する伝説の騎神を集めてる?何が始まるんです?

 

「はい撤収撤収!もう帰りましょう、こんな奴に関わったら頭が悪くなる」

「待って!今から愛バたちのクソかわエピソードを・・・」

 

 しばらくお待ちください

 

 マサキは知らなかった。

 午後のニュースにしては異例の視聴率を叩き出した今回の放送が、多くの友人知人に見られていたことに。

 

 マサキを知ってる者たちは同じような感想を持った。

 本当にあいつは何をやっているんだろう・・・でもまあ、元気そうで良かったよ。

 クロとシロってのがおそらく愛バ・・・アレの愛バ・・・どんな子なんだろう。

 

「なんかドッと疲れた・・・でも、変わってなくて安心した」

「凄い醜態だったね、アレが一時期家に泊まっていたなんてwww」

「マサキさんはアレでいいんだよ、フフッ、私ももっと頑張らないと」

「その意気だ、バカな師匠に成長した自分を自慢してあげな」

「うん、見ててねお母ちゃん」

 

 立派な騎神になれたら少しぐらいは感謝してあげますよ師匠。

 

【ラ・ギアス】

 

「やれやれですね、しかし、あのウマ娘にバブってしまうのも仕方ありません!超うらやま!」

「マスターはバブりたいのですか?それともボコられたいのですか?」

「お兄さま、赤ちゃんになりたいの?」

「人は誰でも幼子に戻りたい時があるのですよ」

「腕時計・・・同胞・・・気配」

「ネオ」

「何サイさん?」

「ちょっとコンビニ行ってくる」

「嘘つけ!マサ君の所に行く気ね、そうはさせないわ!」

「離せーー!行かなきゃ!私行かなきゃ!あの子が待ってるのーーー!!!」

「今すぐ来てなんて言ってないでしょ!落ち着きなさい」

「あんな小娘にバブるなんてぇー!マサキのママは私だぁあああああああ!!!」

「さすがマサキさんのお母様、面白愉快です」

「うん。ライスもサイさん好きだよ」

「二人とも感心してないで母を手伝ってください、暴走したバカ親を止めます」

「・・・ザムジード?」

 

【トレセン学園】

 

「かっかっかwww相変わらず無茶苦茶やっとる。ダーリンもそう思うじゃろ?」

「元気があって大変よろしい!」

「父上、母上もアレを褒めてはいけません」

「たづな?どうした、やけに大人しいな」

「やよい」

「ん?」

「ちょっとコンビニ行ってくる」

「虚偽っ!斬艦刀持ってどこへ?・・・マサキ君の所だな!行かせんぞ!」

「離してーー!行かなきゃ!私行かなきゃ!あの子が呼んでるのーー!!!」

「どこかで同じ反応してるヤベェ奴がいる気配がする!」

「膝枕は私のが!お姉ちゃんの方が絶対いいに決まってるんだからぁああああああ!!!」

「美しい姉弟愛だな」

「聞けば感動の再会だったみたいじゃのう」

「二人とも感心してないで止めましょう、ああなった駿川女史は学園を破壊しかねない」

「マサキ君、この姉なるものなんとかして」

 

【ファイン家秘密基地】

 

「あらら、全国放送ってわかってるのかな、わかってないんだろうなー」

「おい、本当にあんな奴が切り札になるのか?ロジカルの欠片もねぇぞ」

「シャカは頭固いんだから、理不尽に勝つためには更なる理不尽をぶつける必要があるのだぞ」

「ハァ~、いいさ、お前が決めたんなら俺たちは着いていくだけだ」

「ご苦労おかけします。うーん、やっぱり保険をかけておくべきかな」

「お前また何か企んでるな。それも結構面倒なヤツを」

「ええ~そんなことないよ~。私が殺されるかもってだけだからさ」

「自分の命を簡単に賭けるな」

「命を賭けるぐらいしないと女神は微笑んでくれないよ」

 

 黒革張りのソファーにドカッと腰を下ろし、行儀悪く足をテーブルに投げ出したシャカと呼ばれたウマ娘。

 ファイン家頭首はそれを咎めるでもなく、先程までマサキが映っていたテレビのチャンネルを変える。

 あ、新発売のカップ麺だ。激臭!納豆くさや風味?また冒険したなぁ・・・今度チャレンジしよう。

 

「頭首様、お客人が来ております」

「だれー?」

 

 部屋の出入り口付近のインターホンから通信。誰だろう?何か約束してたっけか。

 

「テュッティ・ノールバックと言う名の女性です」

「そんな奴知らん!」

「俺も知らね」

「水の天級騎神ガッデス様の弟子だと自称していますが」

「証拠は?」

「神格武装グングニールを所持しています。偽物だとは思えません、凄まじい覇気です」

「おっけー。通してあげて」

「じゃあ俺はゴルシとロリコンに会って来るわ」

「はーい気を付けてね。マサキと仲良くすること!これは頭首命令だからね」

「へいへい・・・さて、俺の予測を裏切ってくれる奴だといいんだが」

 

 重要人物来たね。

 だぁーーーめんどくさくなってきたーーー!ラーメン食いてぇ!

 いつになったら頭首辞めれるんだろ?私に期待なんかするなっつーの!まったくもう!

 

「キタちゃん、ダイヤちゃん、早く起きなよ。お仕事手伝って!」

 

 ファイン家は弱小勢力なのです。ファインモーションは働き過ぎだと思うのです。

 メジロ家でもサトノ家でもいい、私を週休6日にしてくれ。

 

【???】

 

「・・・・」「おーい」

「・・・なに」「どうしました?」

「そろそろいこっかなと」「またさきにいくんですね」

「ついてこないとおいてく」「それはこまりますね」

「じゃあ・・・はやくこいよ」「かんたんにいいますね」

「かんたんじゃない」「わたしはいつもひっしですよ」

「それはこちらもおなじ」「どうだか」

「いいの?かっちゃうよ」「よくないです、まけません」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 日の光が射さない部屋。

 沢山のお菓子、積み上げられたマンガ、可愛げの欠片も無い謎の置物が所狭しと鎮座する。

 暗い部屋の隅には簡易モニターが設置され、昼過ぎのニュースを映していた。

 生放送、普段なら全く興味ないが今日はなぜか気にかかった。

 

「水の天級騎神出て来いやぁ!後はお前だけだぞ!」

「ガッちゃん見てるー?みんな集まってるよ~乗り遅れるな!このビッグウェーブに!」

 

 頭から毛布を被った小柄な体がぴくっと反応する。

 画面に映る男と、男が着けたスマートウォッチを凝視・・・零れるようにクスクスと笑った。

 

「そうだね。私も早く会いたいよ」

 

 毛布を被った人物は己の手を握ったり開いたりして確認する。

 自分の体に違和感がある、それを確かめるように動作を繰り返してみた。

 

「だいぶ縮んだね、今何歳ぐらいに見えてるのかな」

 

 これ以上縮むのはさすがにアウトだ。

 唯一の救いは弟子に力を託せたことだけ、あれは本当に良いタイミングだった。

 残りはあの子たちのためにキープしておかなきゃ。

 

「まあそれが役に立つかは、ここから出れたらの話」

 

 その部屋はリング状にみえる構造物の中心に位置していた。

 彼女を閉じ込め力を奪うための部屋・・・牢獄だった。

 欲しいものは用意してくれるので今の所快適だ。死の危険が無ければずっとここでも良いんだが。

 

「早くおいでマサキ、無事に連れ出してくれたら・・・私を養う権利をあげちゃう」

 

 ニート生活がすっかり板についてしまった彼女はあくびをして横になるのだった。

 



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あいらんど

 生放送されちゃった。

 

 お祭りは大盛況のうちに終わった。

 でちゅね遊びの報酬としてクリークからも覇気をもらって大満足。

 

 ネイチャ、ターボ、イクノ、タンホイザ、オグリ、タマ、クリークと大漁だったな。

 別れを惜しみつつ旅を続ける俺たちでした。

 

 ご縁があればまた会えるよな、みんなお元気で!

 

「ご飯できたよー」

「メシの時間じゃぁーーー!」

「これだけが楽しみで」

「何それ黒魔術の材料?」

「ゴルシちゃんが釣ったよくわかんないお魚の鍋だよ」

「それ以外にも浮いてるぞ」

 

 なんだろう、何かの目玉?気にしたら負け。

 ヒトデらしきものも入ってるがこの際我慢。

 

「隠し味だね」

「隠れてないけどな」

「それじゃあ手を合わせて・・・いただきます」

「「いただきます」」

「ええー、それ食べるんだwww」

「「「・・・・」」」

「思念体の私にもわかるようにコメントください」

「「「ボォォォノォォォーーー!!!」」」

「ウマいの?マズいの?どっちだよ!」

 

 絶賛サバイバル中ですけど何か?

 

 3日前

 気づいた時、俺たちは見知らぬ島にいました。

 なぜこんな所に?あらやだ昨日の記憶がない。

 

 バイクはどこにも無いわ、荷物は無いわ、青い海と砂浜だわで大混乱。

 

「ゴルシ!何がどうしてこうなったか言え!」

「アレだよ、きっと私たちは島に呼ばれたのさ」

「この状況、最終回まで見たら「は?」ってなった海外ドラマに似てる!」

「空想でもいいからもっと科学的な説明が欲しかったよなアレ」

「まだ日本領海だから安心して.・・・なんだ、私たち以外の人間がいるじゃん」

「とりあえずその人たちと合流だな」

「「ラジャー!」」(`・ω・´)ゞ

 

 人がいる場所を目指して歩く。

 ミオのナビと何かと詳しいゴルシがいるのでこんな時でもポジティブです。

 ちょっとしたハイキングだと思うことにしよう、そのほうが楽しいし。

 歩きながらポケットに入ってたスマホをチェック、大丈夫だ壊れてない。

 購入する時にとにかく頑丈なのを選んで良かった。

 それをシュウが暇つぶしに魔改造した一品なのでとにかく壊れない!ありがてぇ。

 待ち受け画面がシュウの変顔シリーズ(削除不可)に設定されていたのは嫌だったけど。

 

 見えてきた、あれは野営地か?人がいるぞ助かったー。

 駆け寄ろうとした俺をゴルシが手で制する。何よ?え、わかったよ。

 急にうつ伏せになったゴルシにならって俺もうつ伏せ。

 物影に隠れつつ匍匐(ほふく)前進で移動。

 

「どしたの?」

「あいつらバカンスに来たって風には見えないぞ」

「言われてみれば確かに」

 

 複数人の男女、ウマ娘はいない。

 陽キャの学生集団などではない、ちゃんと訓練を受けた人間の動き。

 野営地では丈夫そうなテントや、謎の機材がきちんと配置されている。

 船を降りてここまではトラックで来たのか、オフロードもバッチリな軍用トラックが止まっている。

 奥にあるのはPTか、結構な数が揃えてある。

 

「軍人さんたちが訓練キャンプ中とか?」

「正規軍じゃないね、バッジ見て」

「DC・・・いや、それは外しとけよ、所属諸バレしてるけどいいのか」

「正確にはノイエDC。指導者を失って迷走中のテロリストだな」

 

 ビアン博士とリューネの後始末はまだ終わってないみたいだ。

 

「話したら助けてくれるかな?」

「お前はともかく私は無理だな、あいつらウマ娘超嫌いだし」

「ほう・・・それなら俺の敵だな」

 

 家族がウマ娘だらけな俺にとっては完全に相容れない。

 アーチボルドのようにウマ娘を商品などと抜かす輩は許さないわよ!

 

 ん?誰かがやって来る。

 銃を突き付けてられたウマ娘が連行されている!?

 

 覇気を集中、いつでも飛び出せるように準備をしておく。

 

「ええーなんで意地悪するの~、お腹すいてるのかな~?」

「黙って歩け、無駄な高身長しやがって」

「何だそのウマ娘は!」

「はっ!島の探索中に発見しました。食材を探しに来たなどと言っておりますが」

「怪しい奴だな、御三家の騎神じゃないのか」

「この島には幻のにんじんがあるって噂を聞いてね~」

「勝手に喋るな!荷物は大きなカバンのみ、覇気は平均以下ですので危険はないかと」

「図体だけのウマ娘か、悪いが我々の潜伏先を知った以上は消えてもらおう」

「潜伏?おじさんたち何か悪い事したの?それともこれからするつもりなのかな?」

「御三家が大人しい今が好機なのだ、人間の世界を取り戻す戦いは終わっておらん」

「わぁ!大儀に酔ってる~。目を覚ました方がいいよ、それとも~」

「運が無かったなウマ娘、今度は人間に生まれて来い」

 

 銃口を向けるリーダー格の男にウマ娘は告げる。

 

「永眠したいのかな」

 

 途端に膨れ上がる覇気、驚異的なスピード、見た目以上のパワー。

 声を出す暇もなく殴られた男がこちらに飛んで来た。危なっ!

 木にぶつかってようやく停止する男、あちゃー顔が「前が見えねぇ」状態だわ。

 一応生きてるから放置。

 

「こいつやはり敵か!」

「応援を呼べ!」

「は~い無駄だから大人しくしようね~」

「ぐぁああああ!」

「げへっ」

 

 戦闘が始まってしまった。どうしよう出るタイミングを失ったぞ。

 ケツとタッパのでかいウマ娘が強すぎる、これなら俺の出番はないかも。

 ウマ娘が素手で人間を薙ぎ払う。圧倒的な種族差、DCが危惧した通りの光景。

 ウマ娘の殆んどは人間に友好的だ、もしその関係が壊れてしまったら?

 DCの思想は極端だったけど、強大な存在を前に恐怖を抱くのは当たり前の感情だとも思う。

 強い女の子好きな俺はムラムラします。

 

「たぶん真面目なDC兵はウマ娘に何かトラウマがあるんだろうな」

「真面目じゃない奴は?」

「ただの嫉妬、憂さ晴らし、被害者面、下から上に文句を垂れてる自分が大好きなゲス」

「くだらねぇーそんなの知ったこっちゃない。俺は、俺が好きな奴らの味方をするだけだ」

「お、PTが動くぞ。そろそろ行くか」

「ミッションの説明するよー。ウマ娘に加勢、DC兵の制圧、死人は出さないように努力すること」

「「了解!!」」

 

 ゴルシと一緒に草むらから飛び出す!

 ウマ娘(大)の背後から攻撃しようとした兵士にラリアットをぶちかまして昏倒させる。

 タイミングバッチリ!ちゃんと合わせてくれるゴルシはできる子です。

 

「ヒューー!!俺参上!!!」

「祭りの場所はここかぁ~」

「わっ!誰かな?君たちも敵?」

 

 口で説明するより近くのDC兵を殴り飛ばすことで味方アピール。

 

「通りすがりのウマ娘ゴルシちゃんだよ!こっちはマサキって言うロリコンだ」

「余計な情報を入れるな!ただ俺は小さな女の子を愛でたいだけの紳士だ!」

「その自己紹介だと通報されてもおかしくないからな」

「面白い人たちだね~私はヒシアケボノだよ~」

「ボノだな。楽しそうなので参戦希望しますがよろしくて?」

「大歓迎~。一応、不殺でお願いねぇ」

「ほーい」

 

 DC兵たちは混乱していた、大きなウマ娘を捕まえたと思ったら陣地が壊滅寸前。

 後からやって来た奴らは何だ?武装したこちらを素手で制圧していく。

 

「なんだこいつらヤベェぞ!」

「PT部隊は?早く来てくれ!」

「バカな、一人は人間だぞ・・・ちょっと待て、あの男が一番暴れてやがる!」

 

 PTがやって来る、ゲジュじゃないな。ミオ解説頼む。

 

「量産型ヒュッケバインだね。基礎フレームはMk-IIのものを使ってる、ブラックホールエンジンと重力制御システムは無しだと!?なんだコレ?凶鳥の個性を全部捨ててる、何がしたいかわからん!」

 

 量産機あるある、使いやすくした結果、凡庸に成り下がっちゃう。

 そういう機体で活躍するのが腕のいいパイロットなんだよね~(ロボ好きネオさん談)

 

「二人とも覇気を回す、さっさと終わらせよう」

 

 接続開始、ゴルシとは既に調整済み、ボノはぶっつけなのでちょっと控えめにしておこう。

 テスラ研で教えてもらったけど、覇気で繋がってることをリンク状態と言うらしい。

 本来は操者と愛バ間の繋がりを差しており、覇気の補充、思考の伝達と共有、その他を可能にする。

 クロとシロが復活した時のためにリンクの修練もやらないとな。

 もちろん了承を得てからだ、そもそも俺を拒絶する相手には上手くリンクできないのよコレ。

 ボノは文句も言わず受け入れてくれたみたい、いける。

 

「ボーノ!凄いねこれ、元気もりもりだよ」

「よっしゃ!今の私はスーパーゴルシ様って所だな、オラぁ!かかって来いやぁ!」

「えーと、ノルマは一人三体ね」

「今の声誰?もう一人いるの?」

「それは後で説明する、先に個性を無くした凶鳥をもてなしてやろう」

「注意!有人機だからね!四肢をもいだりしちゃダメだよ」

「「「あ、そっかぁダメなのかー」」」

「うわ、こいつら千切る気満々だったよ!」

 

 えっと、手加減って結構難しいな。

 どこを狙えば、ゴルシとボノは・・・ああ、そうか装甲の厚い所をやればいいのね。理解した。

 

「調子に乗りやがって!我らは義によって立っているのだ!貴様らごときに」

「ウマ娘に味方する者は人間でも容赦はせん」

「おそらく男が操者だ、奴を狙えばいい」

 

 三体のヒュッケ(無個性)が隊列を組んで迫る。ゴルシとボノは別方向で暴れてる。

 射撃される、実弾とビーム、着弾箇所をガードして弾く、その程度は効かない。

 プラズマカッター抜刀、なんかゆっくりに見える、思考が引き延ばされたかのようだ。

 あいつらを思い出す余裕すらある。

 

「マサキさん、こうだよ!こう!」

 

 いつぞやクロが見せてくれた正拳。小さな拳が空気を裂きシュッ!と音を立てる。

 

「おお、なんかカッコイイぞ。さすが俺の愛バだな」

「アレぐらい私でも出来ますよ。あ、私の空円脚見ます?今日の下着はちょっと大人」

「せいっ!」

「ぐぼぉ!・・・いきなり水月(みぞおち)です・・か」ガクッ

「クロ、やりすぎだぞ」

「痴女サトイモは放置して、マサキさんも一緒にやろうよ~ねぇいいでしょ」

「じゃあ教えてもらおうかな、お願いしますよクロ先生」

「任せて、じゃあ最初は騎神拳の基本から・・・」

 

 ヒリュウの甲板で騎神拳をほんの少しだけ教えてくれたクロ。

 それでやっと母さんたちやシュウもそれとなく体術を教えてくれていたことに気づいた。

 グラさんに、姉さんに、ヤンロンに、沢山の人たちの教えが俺を導いてくれる。

 

 0.3秒にも満たない刹那の思考。

 棒立ちの俺に迫る三体のPTが一列に重なった瞬間を見逃さない。

 騎神拳・・・

 

「無双!正拳突きぃいいい!!!」

「「「ぎゃああああああああ!!!」」」

 

 小細工はいらない、ただ真っ直ぐに拳を打ち込む。

 最小限の覇気、最小限の動き、俺の拳が先頭のPT胸部中心を打ち砕く。

 先頭のPTは後続の二体を巻き込んでぶっ飛んでいった。

 

「やるぅ!ワンパンマサキだね」

「全然ダメ」

「え?今ので満足してないの」

「グラさんならもっと速く、姉さんならもっと強く、ヤンロンならもっと鋭く出来たはずだ」

「比較対象がねぇ」

「クロやシロだってこれぐらいやってのける。まだまだ修練あるのみ!」

「なるほど、サイに育てられた人間はこうなるのか」

「何?悪いことか」

「超常的な力を見せつけておきながら、子供の可能性を否定せず大事に育てたんだね~」

「えっと、母さんを褒めてる?」

「サイはマサキのことを心から愛しているよ」

「それは知ってる」

 

 なぜか母親を褒められた、うちの母さんが最高なのは言うまでもなく当然だ。

 

「そっち終わったか?」

「こっちは完了したよ~」

「俺が最後だったか、接続解除するよっと。二人ともどう?体は問題ないか」

「無問題だぜ」

「うん平気平気」

「一応、中枢をチェックするぞ。それと、いきなりだがボノよ、覇気を分けてくれないか?」

「何に使う気か教えてくれる」

「愛バのためだ」( ー`дー´)キリッ

「ならオッケー!」

 

 アフターケアも怠らない、二人の覇気をチェック問題なし。

 

 いやはや、思わぬ所でドレインできるもんですな。

 ヒシアケボノ

 体格のいい茶色の毛並みのウマ娘。ほのぼのとした雰囲気でなんか和む。

 大きな体から繰り出される攻撃力は本物、パワー特化型と思いきや覇気の制御は繊細。

 戦い慣れしているように感じる。

 

「覇気制御上手だな、計測器を欺いてDC兵を油断させたとは」

「体が大きい分、覇気を小さく見せないと直ぐに警戒されちゃうからね~」

「俺よりちょい下、175cmって所か」

「まだ成長期だからね~180はいけると思うよ~」

「私は170だぞ」(`・∀・´)エッヘン!!

「ゴルシ、お前何歳だ?1stの記憶でも同じ姿だったと思うが」

「ひ・み・ちゅ!」

「アッハイ」

 

 女性で身長170cm以上は高めなんだな。

 ゴルシは年齢不詳ってことでいいよ。そこまで興味ないし、564歳とか言われても「ふーん」だわ。

 ウマ娘はサイヤ人みたいに若い肉体のまま年齢を重ねる。

 母さんたち見てたらわかるだろ、あんなんだから未だに命しらずが求婚してくるんだぜ。

 

 ボノの覇気をドレイン中・・・???・・・。

 

「なあ、もしかして操者がいるのか?」

「いないよ?どうしてそう思ったの」

「いや・・・悪い気のせいだったわ」

「気のせいなら仕方ないね~」

 

 微かな違和感があったような気がしたけど無事完了。

 

 ボノとお互いの情報交換をすることにした。

 テロを企てるノイエDCを捜索し潰すのが目的だったと話してくれた。

 

「御三家の騎神だったのか、どこ?メジロ、サトノ、ファイン」

「こんな奴ファイン家で見たことないぞ」

「御三家は関係ないかな・・・今の所はだけど」

「じゃあ民間の軍事企業か自警組織ってヤツか」

「まあ、そんな所だね~。とりあえずDCは敵対勢力だよ」

「なら俺たちとは仲良くできるってことで」

「うん。それでいいと思う」

 

 握手した手をブンブン振ってくるボノ。

 嘘は言って無い、わかるこの子はいい奴だ。

 

「マサキ、もう一人来るよ」

「凄いスピードだ、騎神か」

「アーケーボーノーさーん!!!」

 

 なんか近づいて来るんだけど!?土煙を上げてこっちに向かって来る。

 

「バクシーン!!!」

「おわっ!」

 

 妙な叫び声を上げたウマ娘がキキッーー!!!と急ブレーキをかけて停止する。

 

 茶色の毛並み、おでこを出し、髪を後ろで括ったウマ娘。

 元気が有り余っているのを全身で物語っている、覇気も隠そうとしてないし。

 特徴的なピンク色の瞳に花弁のような模様がある。

 

「お疲れ様です!委員長な私はアケボノさんが気になりまして参上した次第です!」

「ありがとうバクちゃん。DC兵は制圧したから運んでくれる~」

「はい!お任せください!バクシーン!!!」

 

 バクちゃん?が気絶したDC兵を次から次へとトラックに押し込む。

 いや、無理やりすぎんだろ、はみ出てるぞ。何とか全員詰め込んだみたいだ。

 

「ではお先に失礼します!!バクシーン!!!」

 

 ええー、運転しないのかよ!極太ワイヤーをトラックにセットして引っ張っていったぞ、何てパワーだ。

 牽引可能にしたワイヤーの強度より、バクちゃん?の力に驚くわ!

 落ち着きの無い奴だったな、何をそんなに生き急いでいるのかね。

 

「俺たち、眼中に無かったな」

「バクちゃんは真っ直ぐな子だからね~猪突猛進で周りが見えくなっちゃうんだ」

「DC兵をどうするの?」

「彼らの乗ってきた船を奪ったから、それで陸地まで行くんだと思うよ~」

「へぇー」

 

 後で気づいた。この時、一緒に行けばよかったんだよな。

 

「それで、マサキさんたちはどうしてこの島に?」

「記憶がねぇんですよ」

「右に同じゴルシちゃんだ」

「二人ともマジで覚えてないの?」

「ミオさんや、知ってるなら言えよな」

「思い出してくれるの待ってたんだけど仕方ないな」

「ミオ?その腕時計が喋ってるの~」

「紹介遅れました、ミオ・サスガだよ。マサキのアドバイザーやってます」

「まあ、超高性能AIだと思ってくれ」

「わかったよ~、よろしくミオちゃん」

「それで、俺とゴルシに何があった?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それは昨日のことだった。

 

「マサキってもう成人してるんだよな」

「立派じゃないけど社会人ですぞ・・・あわわ、もしかして俺ってば二十歳越えニートなのか!」

「操者だろ?登録すれば仕事もらえるはずだぞ」

「愛バがあの状態なのに、どうやって登録するんだよ!こうなったら新理事長(やよい)のコネに賭けるしか」

「お前の職業はどうでもいいよ。それよりこんなものがあるんだが」

「それって酒か?お前、一応未成年って設定だろうが」

「商店街の連中にもらったんだよ、勿体ないからここで飲もうぜ」

「俺は下戸だぞ、高校生の時ジュースと間違えて飲んだチューハイでゲロ地獄よ」

「今なら平気だろ?ほれ、ちょっとだけだからさぁ~」

「お前が飲みたいだけじゃん!目を瞑ってやるから一人で飲めよ」

「ええー、一人飲みなんてつまんねぇよ~。なあ、いいだろう酌してやるからさぁ」

「アルハラ止めてくれます?酌とか言う意味不明なシステム大嫌いなんだが」

 

 なんで他人に注がせる?自分で入れて飲めよ!何が楽しいの?ホントあれ嫌い!

 あ、でも気心知れた仲間たちとならちょっとだけやってみたいかも。

 嫌いな上司にやれとか命令されたら「は?キレそう」ってなっちゃうかもよ。

 

「何事も経験だぞ~。大きくなった愛バたちが酒豪だったらどうすんだよ」

「ぐっ!あいつらがそんな・・・なんか酒強そうな気がする」

「練習だ練習!ほら、つまみもあるぞ」

 

 商店街の皆さんが沢山お土産をくれたんだっけ。

 夕暮れの中、潮風の匂いがする海の見える公園のテラス席で酒を交わす。

 どこからかぐい呑みを二つ取り出して酒を注ぐゴルシ。

 う、匂いがもう・・・う。

 

「ほどほどにしときなよ。明日はまた移動するからね」

「おう、飲酒運転ダメ!絶対!」

「飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!」

「てなわけで今日はここで野宿だ!カンパーイ!」

「カンパイ、じゃあ一杯だけ・・・いただきます・・・うぇ」

「おいおい!これ結構いい酒だぞ!せめて美味そうに飲めよ、酒蔵に失礼だろ」

「だって、う、ホントだめなんだよ・・・ああ、製造者さんには申し訳ないが無理ー」

「早い!マサキもう真っ赤だよ。肝蔵の分解酵素が弱いのかな」

「もう・・・ちょっとだけ頑張る・・・せめてこの一杯ぐらいは」

「おい、無理すんな」

 

 1時間後

 

「おぼぇ・・・オロロロロロ!」

「ちょ、大丈夫?マサキのゲロが止まらないんだけど!」

「ぎゃはははははは!ゲロのナイアガラやーーー!!!」

「アルコール度数結構高めだったか。ねぇ二人とも、もう止めよう」

「きぼじわるい・・・うぇ・・・やめとけば・・・よかった」

「マサキ顔色が悪りぃぞ!さてはお前ガミラス人だな!しょうがねぇなぁ母星に連れていってやるよ」

「やめて・・・揺らさないで・・・波動砲が出ちゃう・・・うぇ」

「お、都合よくヤマトがあったぞ!乗り込めーーー!!!」

「どう見てもアヒルボートだよね、なんで浜辺に打ち上げられてんの?あんなので海上に出たらヤバいって」

「私を誰だと思っている?ゴールドシップ様だぞ!アヒルをヤマトにするだけの馬力を見せてやんよ!」

 

 ぐったりしたマサキをアヒルボートに押し込みペダルを漕ぎだすゴルシ。

 騎神の脚力はアヒルボートを快調に進撃させた、アヒル頑丈だなおい!

 

「バイク置いて来ちゃった・・・もう気が済んだでしょ?戻ろう」

「まだガミラス星に着いてねーだろ!行くっきゃねーんだよ!俺達はなぁ!」

「スパロボV・・・ヤマト強すぎ・・・ロボ?・・・参戦作品・・・何でもありか」

「SDガンダムやアイアンリーガー参戦ってなかなか意味不明だよな」

「え?何この反応、私が気がづかなかった?と、止まって!前方にステルス状態の何かがいる!」

「え?」

「・・・ほぇ?」

 

 姿が見えない何かにぶつかった!その物体は大きく、アヒルボートを簡単に転覆させた。

 アヒルは犠牲となったのだ。

 

「ぎゃはははははははははははははははこのまま大破進軍だぞゴルァ!!!」

「うぇええあぁぁぁぁぁぁぁオロロロロロロッ!!!」

「あーあーもう・・・マサキの生命維持だけはやったげるよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「てなことがあったわけよ。どう?思い出した」

「ゴルシ、お前禁酒な」

「すんません、ほんとマジで反省します」

「よく生きてたね~。お酒の事故はダメだよ絶対!」

「「申し訳ないです」」

 

 アヒルボートは飲酒運転になるのか?そもそも免許がいるのか謎だ。

 特に何もしてないが飲むと決めたのは俺だからな、ゴルシだけに責任は無いだろう。

 みんなもお酒には注意してね。遭難してからじゃ遅いからな。

 

「この島から出るにはどうしたら」

「しまったな、さっきの猪娘について行くべきだったぜ」

「DCの船はバクちゃんが乗っていったね~」

「じゃあボノはどうやってここに来て、どんな手段で帰るつもりだったのよ」

「仲間が送ってくれたんだよ~ちゃんと迎えにも来てくれる予定なの~」

「それに乗せてくれませんかねぇ」

「いいよ~。マサキさんたちならみんなも喜ぶと思うから~」

「やったね!」

「ああ、ついてるな」

「それで何時ごろ迎えに来てくれるんだ?」

「えーと3日後だね」

「おーい、食料とか宿泊施設とかあるわけ?」

「無いね!予想以上に早く片付いたから、ここからはサバイバルの時間だね~」

「マジかー・・・俺キャンプ初めて!ゆるキャンでお願いします!」

「よぉーし、まずはDCの物資を漁ろうぜ。何かアイテムがあるだろう」

「さっきの戦闘で結構破壊しちゃってるけどね~」

 

 テントとサバイバルキットは使える。銃器や弾薬はいらん。

 食料・・・むぅ・・・ガムしかないぞ。レーションぐらい置いとけや。

 

「雨露しのげるけど食いもんは現地調達だな」

「良かったな、ゴルシちゃんはサバイバルの経験者だぞ」

「そもそも、お前が飲酒を進めなければサバイバルする必要なかったけどな」

「もういいだろ~そのおかげでボノにも会えたから結果オーライにしてくれよ~」

「食材の知識と調理は得意分野だよ~最悪毒があっても食べれるようにしてあげる」

「私にも遠慮なく聞いてね、生き字引のミオです」

 

 何とかなりそうじゃないの、俺一人だったらゆるキャンどころじゃなかったな。

 

 開始されたサバイバルは案外楽しかった。

 いろんなことを三人から教えてもらった、火起しは俺のサラマンダーアクセルでやりました。

 この島は狭い!猛獣はいないし、謎の古代遺跡や秘密基地も存在しない、ロマンが無い!つまんねぇー!

 野草って食べれんのな・・・味は、うん・・・美味しくはないけど。

 滝の流れる湖を発見したのはラッキーだった。風呂あるじゃん!やったね。

 ゴルシとボノが俺を気にせず沐浴(もくよく)するから焦ったぜ、バッチリ見てしまったんだが。

 俺はそのですね・・・ロリなんで・・・特に何も。

 

「おい、見たなら感想ぐらい言えよ!」

「スタイルいいですね!水も滴るイイ女!メジロ魂を感じるぞ!」

「メジロ?ゴルシちゃんはお嬢様?」

「ちげーよ。私はただのゴールドシップだ」

「よくわかんないな~」

「本当にあんまり反応してない、これがロリコンか」

「ミオさんや、どこを計測した?マジでやめてくれない」

「なんかムカつくぜ!オラァ!反応しろやぁ!」

「ひぃ!俺はクロとシロに操を立ててるんです!堪忍してくんなはれー」

「あははは、楽しいね~」

 

 クロ、シロ、俺は耐えたぞ。褒めてくれるよな。

 

「なあミオ」

「何?」

「今のお前ってエネルギーどこから調達してんの?」

「マサキの覇気とターミナスエナジーを少々」

「俺って結構吸われてる?」

「私は省エネだよ。マサキの覇気弾一発分で10日は持つ」

「そりゃ凄いや」

「凄いのはマサキの覇気質だけどね」

「一般的な操者だとしたら」

「私を装着して3日もつかな、もたないだろうな」

「結局、俺があの時ヘルメットを被ったのは最良の結果だったでおk?」

「おkだよ」

「食事の手間が省けるってのは便利だな」

「みんなが美味しそうなもの食べてるのに、参加できないのは辛いけどね」

「体が手に入ったら飯行くぞ、約束だ」

「そうだね。今から食べたいものリストを作っておくよ」

 

 その日が楽しみだな。

 

「この地図なんだ?」

「DCのテロ目標地点かな~詳しくは知らないけど」

「テスラ研、トレセン学園、シラカワ重工本社、それにラ・ギアスにも×印ついてるんだが」

「アホだろ自殺志願者か?どの施設でも返り討ちが決定コースだ」

「何か後ろ盾でも手に入れたのかな~怖いね~」

 

 俺にちょっかいをかける何者か、代役と俺を呼ぶ奴・・・全部繋がってたらめんどいな。

 

「珍しく考え事か?」

「世界の破壊者(仮)が関わってたらウゼェなーと思って」

「ああ、そりゃあ本気でウザいな」

「なになに?何の話してるの~」

「今日の飯についてだ」

「さっきヤドカリ捕まえたよ~」

 

 そんなこんなで楽しいサバイバル生活は順調に進み。

 迎えの船が来ましたとさ。

 

「どこにいるってばよ?」

「もう来てるよ~目の前だって」

「海しか見えん!」

「・・・私のセンサーにも反応なし?あ、まさかコレって!」

 

 ミオが何かに気づいた時、に何も無いはずの海上から声が聞こえた。

 

「お~ほっほっほっ!ごきげんようアケボノさん!このキングが直々に迎えに来て差し上げましたわ!」

 

 高らかな笑い声の後、海上に姿を現したのは大きな輸送機だった。

 海上すれすれの低空飛行でここまで来たらしい。

 

「大型戦略戦術輸送機レイディバード。騎神やAMたちを戦場へ届けるポピュラーな奴だね、目視にも対応したステルス機能付き、私のセンサーに引っかからないとはやるね」

「甲板上にいるのがさっきの「お~ほっほっ」か?風が結構強くてスカートめくれそうなんだけど」

「髪もボッサボサになってるな、何がしたいんだアイツ」

「キングちゃんは目立ちたがり屋さんだからね~登場シーンをバッチリ決めたかったんだよ」

「フッ・・・勝ったな」

「そこの人間!私を見て何を勝ち誇っているのかしら?」

「いや、俺の愛バの勝ちだなと」

「あなたの愛バ?何の勝負で私が敗北したと言うの」

「下着の大人っぽさですかねwww」

「勝手に見てんじゃないわよ!!!変態!!!」

「見せつけた癖に何言ってんの?被害者こっちなんですけど~、変態はそっちですけどwww」

「キィーーー!!!アケボノさん!この失礼な男は何ですの!」

「まあまあ、キングちゃん落ち着いて」

「なんかアレだな、いじっていいんだよな」

「ああ、アレは存分にいじってやらないと失礼だ」

「手加減してあげなよ、あの子律儀に相手しそうで不憫」

 



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ゆーしー

 酒は飲んでも飲まれるな。  

 サバイバル生活を満喫しました。

 

 迎えに来た輸送機レディバード乗り込む。

 

「「「おじゃましまーす」」」

「は~い乗って乗って、ふぅ~これで一安心だね~」

 

 ミオが言うには酔った俺たちが乗ったアヒルボートが転覆した際、ぶつかったのがこの輸送機らしい。

 俺たちが悪いのはわかっているが、遭難した原因の輸送機に助けられるって複雑。

  

 内部は結構簡素な造りだな。

 ヒリュウやハガネが凄過ぎただけで輸送機なんてこんなもんだろう。

 俺たちが乗り込んだのを確認して発進したようだ。

 

 先程甲板上で「キィー!」と叫んでいたウマ娘がこちらにやって来る。

 

「任務ご苦労様、アケボノさん」

「キングちゃん!お迎えありがとうね~」

「それで、そちらの招かれざる客はどちら様?」

 

 ゴルシとアイイコンタクト。

(やるか)

 (ああ)

 

「どうしたのかしらお二人さん、キングの威光を前にひれ伏す準備ができたのかしら?」

「ウニョラーーー!!!」

「トッピロキーーー!!!」

「ああ、大変発作が」

「え?何?ひぃ!こっちに来る!」

「メッケメケェエエエエエ!!!」

「キロキロキロモキレ---!!!」

「わぁ~3日間のサバイバルですっかり野生化したんだね~」

「アケボノさん!見てないで助けて!」

「コラ!マサキにゴルシ!初対面の相手を襲っちゃダメ!」

「「オアーーー!オア――!!」」

「あ、あなたたち一体何なのよ!?」

「「ヒッポロ系ニャーポンさ」」

「は?」

「それなら仕方ないね~」

「そこまでの覚悟だったらもう何も言わないよ」

「お待ちなさい!今の言葉の意味が理解できたというの?冗談でしょ!」

「おい、こっちは疲れてるんだよ。静かにしてくれない」

「騒がしい奴だな、落ち着けよ」

「突然正気に戻るな!なんで私が責められるのよ!」

「何か食べるもの無い?お腹空いたよ~」

「だな。糖分が足らねぇぜ」

「無視すんな!!!」

「いい具合に弄ばれてるな~。この二人相手じゃ分が悪いよ」

「うう~、一流の私によくも・・・あなたたち!覚えてなさい!後悔させ」

「あの雲、なんかウンコに似てる」

「ああ、見事な巻きグソだ」

「せめて聞きなさいよ!」

 

 一人でプンスコ怒っているウマ娘がいる。腹でも減っているのかな。

 

 茶色い毛並みに青いイヤーカバーを着けた、自称一流のウマ娘。

 高飛車な感じがするが、なぜだかイマイチ決まらない。

 悪役令嬢になろうとして失敗した、お人好しって感じ。

 俺とゴルシの嗜虐心(しぎゃくしん)を刺激したのが運の尽きだぞ。

 

 ボノがどこからか持って来たお菓子をいただく。うめうめ、久しぶりの糖分ですわ。

 操縦席にいるパイロットと数人の乗務員、全員がウマ娘。

 輸送機の大部分が車両や起動兵器の格納スペースで占められている。

 座席が見当たらないので地べたに腰を下した、みんなで輪になってダラ~とする。

 

「機嫌直してよキングちゃん~。マサキさんたちも反省してるからね」

「別に怒ってないわよ、引いてるだけで」

「アンドウマサキ!可愛い愛バたちのために頑張ってます」

「ゴールドシップ!元居た世界が滅んだからこっちに来ちゃった」

「ミオ・サスガ!体が無いので腕時計になったりヘルメットになったり」

「怪しすぎるわ!!!」

「誰も嘘は言って無いぞ、信じてくれよゲイナー」

「エクソダスするかい?」

「オーバーフリーズしてる場合じゃないよ、オーバーヒートしていこう」

「それはキングゲイナーでしょ!私はキングヘイローよ!」

「王には人の心がわからない」

「騎士王ではないわ!」

「じゃあ何王なんだよ」

「キングはそこにいるだけでキングなのよ」

「キングだからか?」(よくわかんね)

「そうよキングだからよ」

「キングすげぇ」(マジでわかんね、もうめんどくせ)

「やっと理解したようね。さあ私を讃えなさいな!」

「で、この輸送機はどこへ向かっているのかね?知ってるなら教えてヘイロー」

「キングと呼びなさい、私たちの基地に向かっているわ」

「着いたらマサキさんたちの歓迎パーティーだね~とっておきのお鍋を作っちゃうよ~」

「きりたんぽ食べたい」

「もつ鍋がいい」

「うんうん。全部やろうね~」

 

 きりたんぽってあれだろご飯で出来た棒状のあれを鍋に突っ込むヤツ。

 名前は知ってるが実は食べた事ないのよ。たぶん美味しいはず。

 

 キングヘイローにも例のアレお願いしてみよう。

 

「キングにお願いがあります」

「頭が高いわよ、何?」

「覇気くれ」

「嫌」

「そこをなんとか」<(_ _)>ペコリ

「恐ろしく早い土下座、ゴルシ様じゃなきゃ見逃しちゃうね」

「あなたねぇ、プライドとかないの?」

「プライドで愛バは救えん!腹も膨らまん!結論、プライドなどいらぬ!!ぬぅ!ぬぅ!?」

「「サウザーwww」」

「聖帝みたいな顔やめなさい!わかったから、あげればいいんでしょあげれば」

「キングはすごいなぁえらいなぁ僕にはとてもできない」

「やっと理解したようね、大いに感謝しなさい!そうね、特別にキングコールをする権利をあげるわ。嬉しいでしょ」

「僕にはとてもできない」

「無理やり書かされた感想文風に拒否しないで!」

 

 キングの覇気をドレイン、気が変わったとか言われる前にやったるでー。

 ・・・うーん・・・いいんだけどね・・・ドレインは普通にできるし。

 

「ENドレイン、どこでこの技を覚えたのかしら」

「異世界から来たスケスケブーメランがくれた力さ」

「真面目に答える気がないのね」

「いつも誤解されるが、俺って結構真面目なんよ」

「・・・ねぇ、愛バのことが好き?」

「生き甲斐だ」

「そう、ならいいわ」

 

 キングの覇気をもらったぞ!

 基地とやらに到着するまでちょっと休もう。

 枕がほしい・・・丁度いいのがあるではないか!

 

「なんで私が!膝枕しないといけないのよ!」

「ばぶぅー」(そう言いながらも膝枕してくれるキング優しい~)

「でちゅね遊びの後遺症でな、マサキは誰かが膝枕してやらないと眠れなくなったんだ」

「幼児退行したマサキさん、とっても可愛いんだよ~」

「マサキは今リハビリ中なんだ。少しの間だけ協力してあげて」

「・・・すぴー」

「あ、もう寝やがった。ふぁ~私もひと眠りしよっと、着いたら起こしてくれ」

「アップデートが必要だし私もメンテに入ろうかな、ちょっと機能停止するね」

「もう、何なのよコイツら」

 

 信じられない、普通初対面の相手に膝枕要求するか?

 さっき会ったばかりの男に膝枕している自分が一番信じられない。

 何とはなしに男の髪に触れてみる、無防備に寝ちゃってまあ。

 こちらをニコニコしながら見つめるアケボノ。

 

「不思議だよね~何が違うんだろう?この人、本当に人間なのかな~」

「人間なのよね・・・」

「何事にも例外は付き物ってことかな、あ、そろそろ来るよ」

「来る?それはどういう・・・へ?」

 

 一流の膝枕でグースカ寝てる男から覇気の粒子が放出される。

 その後のことは体験したものでないとわからないだろう。

 

 ああ・・・この人は違うのね。

 

「理解してくれた~?」

「キングの名に誓ってこの人は・・・マサキは例外だと認めるわ」

「みんなにも会ってほしいんだ~」

「そうね、こういう人間もいるってことは知っておいた方がいいわ」

「キングちゃんならそう言ってくれる思ったよ」

「でも勘違いしないで、人間全てを認めた訳ではないから」

 

 安心しきった顔で眠るマサキの頭を撫でる。

 そうしていると、とても穏やかな気持ちになれた。

 

 仮眠をとってリフレッシュした。

 

「起きなさい、もうすぐ到着するわ」

「・・・うーんねむねむ」

「ふぁ~着いたか・・・あー体がバッキバキだ」

「アップデート完了っと。マサキ起きなよ~」

「久しぶりの基地だね~やっと温かいお風呂に入れるよ~」

「いい加減に起きて、ほら」

「嫌や~俺はここがいいんだ」スリスリ

「どこ触ってるのよ!ちょ、顔をこっちに向けるな!このスケベ!!」

 

 膝枕堪能いたしました。

 

「ありがとう。凄く落ち着いた」

「しゃんとしなさいな、ああもう!寝癖が」

「世話焼きなのね、マサキの好感度がアップした!」

「はいはい」

 

 寝癖と服装を整えてもらった、キングは気配りのできるいい子だぞ。

 

 目的地上空、ゆっくりと高度を下げる輸送機。

 窓から基地だという場所を見渡すことができた。

 

「森」

「森だな」

「もう少しで通過するわ」

「お?」

 

 何かを通り抜けたような感覚、この感じはラ・ギアスを出入りする時と似ている。

 眼下に広がる光景が鬱蒼とした森から人の手で建造された施設群へと変化した。

 「どう?凄いでしょ」とドヤ顔しているキングさん。

 確かに凄い仕掛けだ、広範囲を認識阻害させる結界が張ってあるとはな。

 

「視覚情報を誤認させる幻術の類か」

「秘密基地ぽくなってきた」

「内部は結構ハイテクだね、さっきの結界発生装置は地下にあるとみた」

「見ろよ、地面が割れたぞ!パッカーンって」

「なんだか、あんまり驚いていないようね」

「そんなことないぞ。秘密基地でテンション上がってる」

 

 宮殿のような大豪邸、噴水、訓練施設、倉庫、研究棟、プール、滑走路、庭園、森、その他諸々。

 基地って言うからもっと軍事施設みたいなのを想像していたが、違った。

 基地じゃなくて学園、そうトレセン学園に似ている、ミニトレセン学園だこれ。

 

 緑の芝生に覆われた地面がカパッと割れて内部へ着艦するように誘導灯が点いた。

 滑走路に降りるんじゃないのね。「ガイドビーコンなんて出すな!」と言うのは誰のセリフだったけか。

 無事着艦、お見事でした。

 

「ありがとうございました」

「え、はい、どうも」

 

 輸送機のパイロットと乗組員にお礼を言ってから輸送機を降りる。

 礼を言われるとは思ってなかったのか反応が「なんだこいつ?」だったけど。

 

 着艦したドック内は広く騒がしい、忙しなく多数のウマ娘が動き回っている。

 俺たちが乗っていた輸送機の他にも多数の車両や艦が配備してある。

 周囲のスタッフはウマ娘ばっかりなんだな、まあそういうこともあるか。

 

「キングちゃーん!おかえりー!」

「まあ、ウララさん。急に走ったら危ないわよ・・・とと」

 

 小柄なウマ娘が駆け寄って来た。しっかり受け止めるキング。

 

「ボノちゃんもおかえりー!・・・あれれー??」

 

 俺を見て目をパチクリさせるウマ娘。俺の顔に何か?鼻毛には注意してますぞ。

 

「ただいま~この人はね~」

「人間?もしかして男の子」

「性別オスですが何か?」

「うわぁーーー!!!」

「ほわぁーーー!!!」

 

 いきなり叫んだウマ娘にビックリして俺も叫んじゃいました。

 

「人間だ!それも男の子!みんなーーー!男の子が来たよーーー!!!」

 

 走り出したウマ娘、男が来たぞと触れ回っている。

 子って歳でもないのですが・・・。

 

「説明しておくべきだったわね」

「ここはねぇ~人間が滅多に訪れないんだよ~」

「男性が来たのはいつ以来かしら、とにかく施設内に人間がいること自体が珍しいのよ」

「ほほう。終末のハーレムを期待してよろしいか?」

「よろしくないわ」

 

 ということはですよ、ここはトレセン学園以上にウマ娘だらけってことですね。 

 しばらくここで暮らしたい!

 

 周囲のウマ娘たちが俺たちを、いや俺を見ている。

 珍獣を見るような目つきですね。視線が絡みつく、期待に応えてやろうかしら。

 

「いきなり全裸になったらどんな反応するんだろう」

「何不穏なことを口走ってんの!」

「おっと、口に出してたか。バレたら仕方ない、キングの命令は絶対!脱ぐか!」

「そんな命令した覚えはないわ!」

 

 走り回っていたウマ娘が戻って来た。

 

「私ハルウララ!あなたのお名前は?」

「俺はアンドウマサキ、こっちの変なのはゴルシ、腕時計はミオだ」

「フフッ」(髪を掻き上げてキメ顔)

「どうも」(スマートウオッチを点滅)

「マサキ・・・マサキに、ゴルシちゃんとミオちゃんだね」

「そっちはウララでいいか」

「うん。よろしくね」

 

 ハルウララ

 ピンク色の毛並みと瞳を持つウマ娘。

 瞳の中には特徴的な花弁の模様、似たような奴がいなかったか。

 ちっこい体に元気いっぱい、無邪気に微笑む姿はまだ子供だな。

 

「マサキさんはね~、私を手伝ってくれたんだよ~」

「へぇー、ボノちゃんのお手伝いができる人間なんだ」

「俺が加勢する必要はなかったけどな」

「そんなことないよ~」

「報告とマサキたちの紹介をしたいのだけど、カイザーは戻っているかしら」

「いるよ~、えーと、首を洗って待ってる?」

「長くしてだな」

「他のみんなは?」

「マルちゃん以外は揃っているよ、みんな暇なのかな」

「了解したわ。あなたたち、このキングについてらっしゃい!」

「「「イエス、ユア・ハイネス」」」

「やればできるじゃないの!今の返事、すっごくいい感じよ!」

「はやくいこう~」

 

 エレベーターを乗り継ぎ広い敷地内を移動する。

 すれ違うウマ娘たちが俺を見るたびに、ギョッとする。

 あからさまに敵意を向けてくる奴、目を合わさない奴、逃げ出す奴、指差してクスクス。

 うん、不快です!ぷるぷる僕は悪い人間じゃないよ紳士だよ!

 

 それが何度も続いた結果。

 

「シャアッーーー!!!ガルルルル!」

「ご、ごめんなさーい」

 

 野生化した。

 

「コラ!マサキ!威嚇したらダメよ」

「どうどう~マサキさん」

「フッー!フッー!フッー!」

「うわ、人間がいる」

「え?やだ本当」

「フシャアッーーー!!!」

「「ひぃ!!」」

「あなたたち!すぐに退避しなさい!写真撮ってる場合か!」

「逃げて逃げて~ウララ~」

 

 オレサマオマエマルカジリ

 

「マサキの気持ちもわかるぜ。ここじゃ人間は完全にアウェイ、居心地悪すぎだろ」

「ごめんね~ちょっと事情があるんだ~」

「よしよし大丈夫よ。あなたはこのキングが守ってあげるわ、だから落ち着いて」

「・・・フニャーゴロゴロ」

「いい子ね」

「キングちゃんすごーい。人間使い?」

「膝枕といい、キングにメチャクチャ懐いてるのはなんでだ?」

「バブれる対象だからじゃないの、本能で甘えさせてくれる相手だと認識したんだよ」

「確かに~キングちゃんはヒモ男を養って貢ぎそうかも~」

「「彼には私がいないとダメなのよ~」ってかwwwダメにしてるのはてめぇだよwww」

「あはは、キングちゃんダメ男製造機なんだwww」

「誰がダメ男製造機よ!!!」

 

 キングに妙な才能があるのが発覚した。

 

 地上に出た、建物だけじゃない、空気も学園に似ている気がする。

 中央にそびえる洋風の豪邸目指して更に移動、よく整備された通路や街路樹、どこに行ってもウマ娘。

 本当に人間はいないんだな。

 

 上空からも確認できた豪邸の辿り着き大扉を開ける。

 ここはエントランスホール、トレセン学園校舎棟のものによく似ている。

 高い天井、売店や食堂などの各種施設、上階へと続く階段、休憩用のテーブルとイスがチラホラ。

 

 エントランスにいるウマ娘たちが一斉にこちらを見る。

 不躾な視線ですね。

 

「オア~」(全員騎神だな!やんのかコラァ!)

「心配しなくていいからね~みんなマサキさんが気になってるだけだから」

「なんとなく意味は伝わるから放置してるけど、マサキ、人語を忘れてるね」

 

 この場にいる騎神を代表してか一人が近づいて来た。

 お、褐色じゃないですか!いいね!

 

「おかえり、ゾロゾロ連れてどうしたんだい?」

「ただいま~姐御~」

「アマちゃん!えっとね、男の子が来てストレスで野生化してやってやるぜ」

「意味がわからん」

「残念ながら事実です。カイザーに報告したいのですが」

「執務室にいるよ。それにしてもへぇー、人間それも男かい」

「ウニョ~」(甘やかしポイント平均値をオーバー、バブリ対象として認定します)

「早く行こうぜ、マサキがその女の膝で熟睡する前にな」

「ウララさんはここで待ってなさい」

「はーい、ウララ~」

「面白い奴だね、また後でな」

 

 褐色ウマ娘と別れて執務室へ。

 入口扉の前でピタッと足を止める。

 

「いる」

「あ、マサキが戻った」

「あの扉の向こうに・・・三人」

「別にとって食われたりしないわ、行きましょう」

「怖いから嫌です」

「ここで怖気づいたか、しゃーない帰るぞ」

「触らぬ神に祟りなしだね」

 

 回れ右して帰ろうとする俺たちをキングとボノが引き留める。

 

「ここまで来て帰るだなんて!すぐそこなのよ」

「一緒に行くから大丈夫~怒られたりなんかしないよ~」

「だってよ、どうするマサキ?決めるのはお前だ」

「嫌!」

「帰るわ」

「帰ろう」

「なんでマサキが決定権持ってるのよ!子猿に総理大臣任せるぐらいの暴挙でしょ!」

「なんでそんなに嫌がるの?教えてくれるかな~」

「あの部屋に入ったが最後、一瞬で身包み剥がされたあげくに俺のうまだっちが酷い目にあう」

「「それは恐ろしい」」

「命からがら逃げた俺はキングの裏切りにあい、執拗な逆うまぴょいを強いられてるんだ!!!」

「「強いられたかー」」

「そして俺はこの基地に囚われうまぴょい奴隷として割とハッピーエンドで終わる」

「「ハッピーエンドならいいんじゃね」」

「被害妄想が凄いな~」

「結局、都合のいい終わり方してるじゃないの!いいから行くわよ」

 

 渋る俺の手を取り引きずって行くキング。強引なのね。

 

「何かあったらキングを肉壁にしていい?」

「いいわけないでしょ!でも、一応守ってあげるわ感謝しなさい」

「私を盾にしてくれてもいいよ~」

「ありがてぇありがてぇ。皆の衆、作戦「いのちをだいじに」で」

「「ラジャー」」

「超級騎神が三人」

「「来るぞ遊馬!」」

「ユウマって誰?」

 

「ほう貴様、わかるのか」

「妙な覇気の出所はお前か」

 

 扉の前でわちゃわちゃしていたら向こうから来ちゃった。

 執務室から出てきたのは鋭い覇気を放つ二人のウマ娘。

 

「ごきげんようエンプレスにブライアン」

「その呼び方は流行らないと言っているだろうキング、その男が例のたわけか」

「ええそうよ、あまり怖がらせないであげて、野生化してしまうから」

「野生化?獣のような闘争本能を秘めているという事か、面白い」

「そんな野蛮人みたいな真似は致しません」

「ついさっきまで致してたよね」

 

 俺を品定めするように見てくるエンプレス。エンプレス・・・女帝か。

 口にカイワレ?を咥えたブライアンの視線も勘弁してほしい。

 こいつら強いぞ。覇気くれないかな~。

 友好的な関係を築くためにも第一印象は大事、紳士的振る舞いを心掛けよう。

 

「初めまして、エンプレスさんにブライアンさん。アンドウマサキです、以後お見知りおきを」紳士

「聞いていた話と違うな、礼儀正しい奴ではないか」

「ハズレか?いや、こいつの覇気は確かに・・・」

「私の時と随分違うじゃないの!さっきまで人語を忘れて唸ってた癖に!」

「キングさんに良い病院を紹介してあげては?」

「ああ、後ほど手配しよう。疲れが溜っているのかもしれない」

「いらん気遣いするな!」

 

 キング、あなた疲れてるのよ。俺という紳士が野獣に見えるなんて重症だ。

 エンプレスとはキングが勝手に言ってるあだ名だと判明。できる女って感じの御方です。

 ブライアンはもうあれだ、まーた戦闘狂タイプだよ・・・もうお腹いっぱいでち。

 

「エアグルーヴだ。まずはリーダーである皇帝に会ってもらう」

「ナリタブライアン、好きに呼べ」

「皇帝、なんだか凄そうですね。承知しました」

「私などより遥かに優秀な方だ、失礼の無い様にな」

「おい、そこの男。後で顔を貸せ」

「嫌ですけど」

「ちっ」

 

 上から目線で命令してくるブライアンをサラリと躱して入室。

 どうせ手合わせのお誘いだろ、今そういうのいいから。

 エアグルーヴに率いられてご立派な造りの執務室に乗り込んだ俺たち。

 

「お連れしました」

「ああ、ご苦労だったね」

 

 大きな執務机を挟んだ向こう側、高級そうな革張りの椅子に座りこちらに背を向けているウマ娘。

 うは!こいつはヤベェぞ、姉さん並みの覇気を感じる。

 まあ、母さんたちの覇気に慣れた俺は「すごいですね」と素直に感心するだけなんで。

 嘘です!ちょっとビビりました!キングがさりげなく背中ポンポンしてくれなかったら逃げてたわ!

 この覇気とプレッシャー、皇帝は間違いなくこのウマ娘。

 

 椅子を回転させてこちらを向こうとする。

 

「よく来てくれたね。私はここの代表を務めるシンボリル・・・あ」

「?」

 

 回転の勢いが強すぎて一周、また背を向ける皇帝さん。なにやっとんねん。

 照れながら半回転してやっとこちらを向く。顔赤いっスよ。

 

「ゴホン!・・・最近の椅子は回転が効いていて困る////」

「椅子のせいにすんなよ」

「ゴルシ、そこはスルーしてやれよ。皇帝さん真っ赤だから」

「皇帝・・・」

 

 エアグルーヴにジト目を向けられションボリする皇帝さん。

 それを見てちょっと緊張が解れたので良しとする。

 見かねたキングが発言する。

 

「先に報告をしたいのだけどいいかしら?」

「聞かせてもらおうか。君たちもそれでいいかな」

「かまいませんよ」

「島にいたDCは全員懲らしめておいたよ~マサキさんたちが手伝ってくれてね~」

 

 島での戦闘と俺たちに会ったこと、サバイバルをしたことをボノが皇帝に報告する。

 「マサキさんがね~」とボノが俺について言うたびに「ほう」と興味深く頷いている。

 

「大体わかった。よくやってくれたヒシアケボノ、疲れただろう、ゆっくり休んでくれ」

「は~い」

「キングも下がっていいぞ。彼らと話をしたい」

「わかったわ・・・マサキ、また後でね」

「ありがとうキング」

 

 世話焼きキングはホンマにええ子やで、キングコールするものやぶさかでない!

 ボノとキングが退出し、俺とゴルシとミオが残される。

 エアグルーヴも外に出たようだ。

 

「改めまして、シンボリルドルフだ。皆からは皇帝と仰々しく呼ばれているよ」

「皇帝に女帝、それにシャドーロールの怪物か。有名所の騎神が勢ぞろいとはな」

「私も君の事を知ってるよ。ファイン家の奇行種ゴールドシップ」

「「奇行種www」」

「おーい、奇行種具合ではマサキも負けてないぞー」

「ふむ、アンドウマサキ君だね」

「そうです。初めまして皇帝さん」

「生放送で全国に赤ちゃんプレイを披露したアンドウマサキ君だね」

「それは人違いですね」

「マサキたちのこと知ってるんだね。テレビの情報だけではないように思うけど」

「腕時計が喋っている?君の事は知らないな」

「AIのミオだよ、マサキのアドバイザー的存在」

「ミオ君だね、よろしく」

 

 俺たちのことは調査済みってか。ならば話が早い。

 

「俺の目的を知っていのるなら協力してほしいのですが」

「私の覇気が必要かい」

「ダメでしょうか?」

「愛バのために尽力する君を応援したいとは思っている」

「条件付きでOKということですね」

「察しが良くて助かるよ」

 

 個人的には協力OK、立場的にNGってことかな。

 その辺はちゃんと聞いてみないとわからんね。

 

「我々のことを知ってるかい?」

「無知ですみません。あなたたちがどういう集団かは知りません」

「ゴールドシップから聞いていないのか」

「知ってるなら教えろや!」

「そのうち否が応でもわかるからいいかな~と」

「ここを訪れた人間は久しぶりだ。歓迎するよ」

 

 スッと姿勢を正して組織名を教えてくれる。

 

「我々はUC(ユーシー)、ウマ娘の平和と安寧を願う組織だ」

「DCのパクリですね」

「DCに似せているのはワザとさ、彼らの二の舞はしないという戒めの意味を込めている」

「UCは何の略?幻想生物の馬の上位存在ユニコーンですか?」

 

 ユニコーンとは角の生えた馬っぽいヤツです。

 馬を更にパワーアップさせた存在としてペガサスと共に、この世界では人気の幻獣。

 二次創作やゲームにガンガン登場します。ガンダムにもなってるしな。

 

「ウマ娘クルセイダーズだよ」

「しょーもなー」

「ゴルシ!ハッキリ言いすぎだぞ」

「UCか~私がフラフラしている間にそんな組織が誕生していたとはね」

「帰るぞマサキ、お前が関わる必要がない奴らだ」

「どうしたのよゴルシ、さっきから当たりが強くね」

「こいつらDCと一緒だからな。人間嫌いのウマ娘至上主義集団、そうだよな」

 

 人間至上主義のDC、ウマ娘至上主義のUC。

 どっちも迷惑だってサトノ家従者部隊の二人が言ってたな。

 それで人間がいないのか、どうりで俺を警戒するわけだ。

 

「我々の目的はあくまでウマ娘と人間の融和だ。選民思想に染まっているつもりはないよ」

「どうだか」

「ここに来るまでのマサキを見る目、少なくとも人間を対等に見ている感じではなかったね」

「不快な思いをさせたのなら謝罪しよう。だが彼女たちにも人間に思う所があるのだ」

「人間から酷い扱いを受けたとかですか」

「そうだ、DC兵たちがウマ娘を脅威に感じているように、UCのウマ娘たちは人間を良く思っていない」

 

 人間を嫌うウマ娘もいる。この前、最低のクズを成敗したばかりなので納得。

 もしアーチボルドのようなクズ男に関わってしまったら、絶対に人間嫌いになるだろう。

 大なり小なり、ここにいるウマ娘たちは人間に不信感を持つ経験があると・・・。

 ボノやキングは普通に話してくれるし、すれ違ったウマ娘たちの感情は嫌悪よりも恐怖。

 人間が嫌いと言うより怖くて信用できない、わからないってのが本音だと思いたい。

 もう憎くて憎くて仕方ないって所までいってる子がいなければいいが。

 

 ここのいる騎神たちから覇気をもらうことが出来れば、確実にクロとシロの復活に近づく。

 だが、UCのウマ娘たちは人間が嫌い・・・困ったね。

 目の前にいるシンボリルドルフ、彼女の覇気は何としてもほしい。

 

「あなたが覇気をくれる条件を聞かせてもらいましょか?」

「エントランスに集った騎神たちから信頼を勝ち取ってみせてほしい」

「それはいつもやってることです。ついでに覇気もゲットしますが、かまいませんよね」

「それでいい。気をつけたまえ、ここの騎神は曲者揃いだからね」

「曲者じゃない騎神の方が珍しいと思いますが、まずは先程の二人からいってみますか」

「エアグルーヴとブライアンを?いくら君でもそれは」

「ここを出て左の通路を移動中、すぐに追いつけるよ」

「では皇帝さん、また後で。イテキマース!」

「・・・行ってしまったか、あの二人は除外してもよかったのだが」

 

 執務室にはシンボリルドルフとゴールドシップの二人だけとなった。

 

「学園サボっていいのか?生徒会長殿」

「先輩方を差し置いて推薦されたので正直困ってるよ。お笑い番組だけが心の癒しさ」

「そんでここでも代表やってますってか。過労死するぞ」

「そうならないよう気をつけるよ。理想の実現には体調管理も大切だからね」

「真面目か。お前がどうしようと勝手だがマサキだけは敵に回すなよ」

「忠告痛み入るよ。天級の恐ろしさは十分理解しているとも」

 

 マサキ個人なら問題ないってか・・・わかってねーな。

 あいつのヤバい所は戦闘能力だけじゃないんだよ。

 



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かだい

 人間不信ウマ娘集団UCの基地に辿り着いた。

 仲良くなって覇気ゲット、ルドルフの覇気もいただくぞ。

 

「ぶへっ!」

 

 無様に大地を転がりました、どうも俺です。

 バーストモードの効果時間が切れて粒子放出も収まる。

 うう、全身が痛い。何とか立ち上がろうとするがプルプルする両手足。

 生まれたての小鹿か!

 

「この程度か、ハズレだったな」

 

 つまらなそうに見つめた後、興味が失せたとばかりに立ち去ろうとする強者。

 

 俺を圧倒した不愛想なウマ娘、ナリタブライアン。

 ざっくばらんに切った黒い毛並み、静かに燻る炎を宿した力強い瞳。

 高い闘争本能、強者故に満たされない渇きはクロやグラスたちよりも重症っぽい。

 男らしく一匹狼を好む存在。UCやトレセン学園でも畏怖の目で見られているとか。

 口に咥えた草は何?豆苗?自家栽培ってマジか。

 

「お待ちください」

「何だ、もうやめておけ。お前じゃ私に勝てない」

「明日また手合わせしてください」

「付き合ってられん、他の連中を当たれ」

「お前に勝ちたいの!だからお願いします」

「暇じゃないんだが」

「嘘つけ!アグルから聞いてるぞ、リブは暇人だって!昼寝と散歩で1日を終えると」

「瞑想とパトロールだ」

「頼むよ~ブラッシングしてあげるから」

「他人のお前にブラッシングなどさせると思うか」

「普段からお手入れサボってるのバレバレだからしてあげようと思ったのに」

「ぐっ、姉貴にやってもらうから大丈夫だ」

「ズボラすぎて心配かけてるのに「たまには自分でしろ」って注意されたばっかなのに」

「なんで知ってる」

「リブは俺と手合わせする。俺はリブにブラッシングする。はい決定!」

「手加減できんぞ」

「それがいいんだ・・・ごめん、立たせて」

「知らん、しばらくそうしてろ」

 

 「じゃあな」と俺を放置して去るナリブ、マジくそ強かった。

 大の字で寝っ転がったまま空を見上げる。あー負けた負けた。

 

「あれが超級騎神、姉さんがどれだけ手加減してくれていたか、今更理解した」

「いや~見事なまでにボッコボコだったね、私がナビする暇すら無かったし」

「バーストモードのアクセルを完封された、ショック!」

「その割には挫けてないね、むしろ楽しんでる・・・ドM?」

「ちがーう。強くなれるチャンスにワクワクしてるだけよ」

「何だかんだでマサキも脳筋バーサーカーだね」

「誉め言葉として受け取った」

 

 ルドルフと話した後、すぐにエアグルーヴとナリタブライアンを追いかけた俺。

 二人に覇気の提供をお願いしたが、拒否されました。

 とりあえず勝手に、エアグルーヴのことをアグル、ナリタブライアンのことをリブと呼ぶことにした。

 

「たわけが、勝手に決めるな」

「勝手に心読むのはいいのか?もう決めたから、これからはフレンドリーにいくぞ」

「馴れ馴れしい奴だな、そんなので皇帝から覇気をもらうつもりか」

「そのつもりだ、アグルの条件を聞かせなさいよ」

「引く気はないようだな。いいだろう、まずはブライアンを攻略しろ。私はその後に考えてやる」

「おい、私の意志はどうなる」

「元々このたわけと一戦交えるつもりだったのだろう?手間が省けたではないか」

「どーもリブさん。気が変わったので顔を貸します。覇気譲渡の条件は戦闘でいいか」

「雑魚にくれてやる覇気は無い。欲しければ私の渇きを癒してみせろ」

「やぁってやるぜ」

 

 広場に移動しての手合わせ開始したのは良かったのだけど。

 はい全然ダメでした!でも明日も約束した、まだここからだ。

 

 空が青い、どこからかピーヒョロロと鳶の鳴き声がする。

 長閑だ、空気も澄んでいる。もうちょっと休もう。

 

「いい天気ね」

「だね~。明日もって言ったけどさ、本気でここに滞在するつもり」

「ルドルフとアグルからは許可もらったぞ、部屋も用意してくれるってさ」

「こんな所じゃストレス溜まるよ」

「幸い味方はゼロじゃない。頑張ってもっと味方を増やす」

「前向きだね、それでもマサキを認めないって子は必ずいるよ」

「無理強いはしないさ。万人に好かれる奴なんてこの世にいない」

「何事かを成せば必ず肯定派と否定派が生まれるのは世の常だからね」

「アンチより、俺を好きになってくれた奴らに時間を使いたいんじゃ」

「うんうん。それでいいと思う」

「でもどうすっかな~。リブに一泡吹かせる方法、何かあれば・・・」

「周りの子に聞いてみたら?」

「まず会話に応じてくれるかどうかが問題だ」

 

 負けたけど、俺とリブの戦闘は強い覇気がぶつかり合った。

 ウマ娘、騎神なら尚更それをスルーすることはできないだろう、現にギャラリー湧いて来てたし。

 遠巻きに俺を見ているのを感じる。聞き耳を立てちゃうぞ。

 

「さすがブライアンさん。あの人間、手も足も出なかったよ」

「身の程知らずも甚だしい、多少は腕に覚えがあるようだが思い上がったな」

「所詮は人間、己の力量を読み違える浅はかな存在」

「これだから人間は」

「しかも男でしょ・・・ないわー」

 

 好き勝手言われてるー!負けた後に言葉攻めは効く・・・泣くぞボケ。

 こういう時はもちろん、クロとシロの事を考えて心の平穏を保つ。

 ちっこくて、柔らかくて、温かくって、いい匂いがして、全てが愛おしい存在。

 俺また負けたよ、たぶんこれからも負ける時は負ける。

 呆れるか?情けないって思うか?愛想つかすかな・・・それでもお前たちの事だけは。

 

「うぉおおおおおおんんんん!感動じだぁぁぁぁ!!!」

「うるせー!誰だお前」

 

 愛バに思いを馳せていたのに、やかましい泣き声で現実に引き戻された。

 俺のすぐ傍まで近づいて来ていたウマ娘が号泣している、なんだこいつ。

 確かエントランスにいた騎神の一人だ。

 

「だって、だって人間の分際でブライアンさんに挑むなんてぇえええ凄いよぉおぉおお!!」

「分際って言うな」

「わだじ人間はバカで愚かな生き物だって思ってたから、ひっく」

「あーそうですかい、バカで申し訳ないっスね」

「ホントのバカはあだじだぁぁぁああああ!良く知りもしないのに見下して、お兄さんはクソ雑魚なのに頑張ったよぉぉおおおおお!!」

「ちょいちょい、バカにするのやめろ」

「そこまでだチケット、彼が困っている」

「あーもう本当にうるさいな。なにやってんのよアンタは」

「ハヤヒデ!タイシンも!この勇気あるお兄さんがドMでブライアンさんがリョナプレイを」

「よいしょっ!」

「え?あぁあああああああ!!!千切れる!尻尾千切れるーーーー!!!」

「ねぇ、このやかましいのどうやったら黙るの?せめて音量下げる方法教えて」

 

 うるさい黒髪ウマ娘がの尻尾を引っ張っる。

 こうするとクロとシロは大人しくなったが、こいつは余計にやかましくなった気がする。

 

「アンタもう黙りなさいよ。この男、本当に引き千切る目をしてるわ」

「君が悪いんだぞチケット、無自覚に相手をディスっていたからな」

「うう~・・・ごめんなさい。だから離して」

「わかればよろしい、手荒な真似して悪かったな」

 

 ちょっと回復したのでひょいっと立ち上がる。

 騎神が三人、やかましい黒髪、理知的な白髪メガネ、ちっこいツンツン娘。

 バランスのとれた三人組だと思った。

 

「ここではアウェイの人間アンドウマサキですけど。会話をしてくれるか?」

「ああ、問題ないよ。二人もそれでいいな」

「うん、お話したい」

「好きにしたら」

「良かったねマサキ。私はミオ、高性能AIだと思ってくれていいよ」

「はいはい!アタシはウイニングチケット!」

「ビワハヤヒデだ、よろしく頼む」

「ナリタタイシン」

「よろしくな、チケ蔵、ヒデさん、それとタッちゃん」

「おい」

「「「タッちゃんとな!?」」」

「ダメ?タッちゃん可愛くない」

「「「かわい~い~」」」

「あんた、私がチビだからってバカにしてるの」

「マサキは小さい子を崇拝してるよ、バカにするなんてありえない」

「紳士ですから」

「それはそれで怖いんだけど」

 

 タッちゃんは不満そうだったけど、それ以上言及してこなかったので勝手に決定。

 近くのベンチに「どっこいしょ」と腰を下ろす。痛みはだいぶマシになってきたぞ。

 三人組もついて来た。チケ蔵は俺の横に陣取って、尻尾をブンブン動かしている。

 ヒデさんは冷静にタッちゃんは一歩引いた感じで応じてくる。

 

 ウイニングチケット

 黒い毛並みと赤い瞳、人懐っこくスポーティな感じがするウマ娘。クロを思い出すわ。

 ピュアで共感力に優れ、大声でよく泣く。よく言えば真っ直ぐ、悪く言えばおバカ。

 もう少し落ち着きましょう。

 

 ビワハヤヒデ

 白くフワフワした毛並み、眼鏡をかけた知的な印象のウマ娘。

 計画的で理論派、頭でっかち、理論を実践に落とし込めるだけの実力をちゃんと磨いている優等生。

 くせっ毛に悩み、頭が大きいと言われるのはNGらしい。

 

 ナリタタイシン

 淡い栗毛、青い瞳、小柄な体型のウマ娘。

 少々ツンツンして尖っているが、ナメられたくない一心からの態度だと推測。

 不器用なのが伝わって来るからちょっと心配、まあ友人には恵まれているので大丈夫か。

 「バカ////」て照れながら可愛く言ってほしいです!

 

「どうしてブライアンと戦闘していた?覇気で力量差はわかっていたはずだが」

「無茶なのは承知の上だ、愛バの復活がかかっているからやるしかない」

 

 事情説明・・・。

 

「操者だったんだ、ねぇ操者ってウマ娘を奴隷にして無理やり戦わせるクズって本当?」

「チケット、アンタねえ・・・」

「すまない、UC所属のウマ娘は人間について偏った知識を持っている者も多い。ピュア(バカ)なチケットはそういう連中から影響を受けやすくてな」

「ピュアなら仕方ない。チケ蔵さんや、俺は愛バを奴隷だと思ったことは一度もない」

「じゃあどういう関係?」

「両想いだと自負している。かけがえのない大切な存在だ」

「ひゅー、恥ずかし気もなく堂々と言ったねー」

「事実だからな」

「愛バのためにか、君のような人間ならば皆も心を開くかもな」

「マサキさんはいい人間なんだ、へぇー」

「人間と契約するなんて時代遅れだと思うけど」

 

 この三人は友好的、そしてそれなりの実力者だ。

 リブとの手合わせ後からずっとこちらを伺っている多くの気配を感じる。

 これはモブウマ娘たちのものだろう、俺は試されているんだ。

 UC全体に受け入れてもらうためには、実力者たちから認められるのが一番。

 

 交渉開始。

 

「お三方の覇気がほしいです。何とかなりませんか」綺麗なお辞儀

「いいよ!あげる!」

「チケ蔵チョロっ!」

「マサキさんはいい人、愛バのために頑張ってる・・・応援ずるよぉおおおおおんんん!!」

「うわ、また泣いた」

「二人とも協力してあげてよぉおおおおお!!」

「皇帝からは「マサキ君に協力するかどうかは自己の判断に任せる」と言われている」

「無償で覇気をあげるのは嫌、周りの目もあるし、チョロ蔵と一緒にされたくない」

「チケ蔵だよぉぉぉおおおおおおんんん!!」

「だったら課題を出してほしい、それをクリア出来たら覇気をくれるってことでどうよ」

「いい考えだと思う。二人とも異存ないか?」

「いいよぉぉぉぉぉおおお!!」

「あーうっさい、私もそれでいいわ」

「決まったな」

 

 どんな課題を出されることやら、頑張るぞー、えい、えい、むんっ! 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「こんな感じでどうかな。我ながら結構上手くできたと思うんだ」

「これが私だと・・・す、素晴らしい」

「ハヤヒデが、ハヤヒデが」

「あの剛毛がなんてこと」

 

「「ハヤヒデの髪の毛がサラッサラのストレートヘアになったぁあああ!!」」

 

 チケ蔵とタッちゃんが驚きの声を上げる。

 ヒデさんは手鏡に映る自分を見てウットリしている。気に入ってくれたみたいだ。

 

 出題されたのはブラッシング、くせっ毛に悩むヒデさんを満足させてくれとのこと。

 愛バたちに好評だった俺のテクニックがどこまで通用するか心配だったが、なんとかなった。

 

「マサキ、美容師になってヘアサロンやれば。癖っ毛で悩むお客さんで繁盛するよ」

「店を出すなら是非教えてくれ、毎週でも通うぞ」

「いや、美容師はそんな甘い職業じゃないからな。ブラッシング出来るだけじゃなれないよ」

「一体どうやったの」

「そうだよ、ハヤヒデの剛毛は今まで多くのブラシやスタイリング剤を葬って来たのに」

「ちょっとした覇気の応用だ」

 

 ヒーリングで傷を治療している時「治れ~治れ~」と念じているように。

 ブラッシング中は「真っ直ぐ、そうそう、真っ直ぐ綺麗によ」と念じながらするのがコツ。

 髪の毛一本一本に覇気を浸透させていくイメージ。

 慌てず、ゆっくり丁寧に、心を込めて。するとどうでしょう、サラサラヘアの完成です。

 

 クロとシロはブラッシングをよくせがんできたな、またしてあげたい。

 

「マサキの覇気あっての技だね。こんなブラッシングができる奴はそういないよ」

「感動じだぁああああ!ストレートハヤヒデなんて奇跡だよぉぉぉおおおおおおんんん!!」

「初の試みだし、俺は素人だ。その状態はもって3日ぐらいかな」

「3日もか!ありがとう十分だ。長年の夢が叶ったよ」

「俺はヒデさんのくせっ毛もいいと思うぞ」

「そうかい、世辞でも嬉しいよ。よーし、今日はこの髪を妹に自慢してやろう」

「妹いるんだ」

「君を叩きのめしたブライアンが妹さ」

「マジか、そう言われると似ているような」

 

 ヒデさんとリブは姉妹だった。毛色と髪質はともかく、顔立ちと覇気質が似ている。

 姉なら妹の弱点知ってるかもな、聞いてもいいのかしら。

 

「次はチケ蔵だな」

「わーい、よろしくお願いしまーす」

 

 躊躇せずにドカッと俺の前に腰を下ろすチケ蔵。

 この子は髪質は特に手を加える必要なし、ハヤヒーは毛量が多かったし大変だったぜ。

 丁寧にブラシをかけていく。

 

「おおお~なんか凄い、上手上手!」

「こら暴れない、じっとしてなさい」

「えへへ、なんかいいね、こういうの」

 

 屋外でのブラッシングは続く。場所は先程の広場から少し離れた中庭、休憩用テラス席。

 あえて人目のある所でやるのは三人の希望、一応俺の監視という名目。

 俺にとっても周囲への存在アピールになるので願ったりだ。

 気づいてるぞ様子見モブたちよ、チラチラ見てんだろ~。

 

 チケ蔵のブラッシングも完了。

 

「ありがとう!わぁ、尻尾も完璧だ。嬉しいな」

「喜んでくれてなにより。最後にタッちゃん」

「私はやめとく」

「遠慮することはない、せっかくだからやってもらうといい。凄くいいものだぞ」

「そうだよタイシン!マサキさんにブラッシングしてもらった記念も三人お揃い」

「ほらおいで~、試すのは一時の恥、試さないのは一生の恥」

「はぁ・・・変なことしたら蹴り飛ばすから」

「耳に触るのは?」

「アウト」

「そんな~」

 

 まあ、ブラッシングしてると耳ぐらい触りますよ。

 アウトと言ってたが特に怒られたりしない、最初は緊張していたが徐々にリラックスしてくれた。

 

「三人が何でUCにいるか聞いてもいいか?」

「アタシはお父さんが「パパ以外の男はうまぴょいの事しか考えてない野獣だ」って言ったからかな」

「それって娘を取られたくない父親のエゴでは」

「「ウマ娘だけの組織で腕を磨きなさい、男には関わるな」て何度も言ってた。個人的に人間嫌いって訳じゃないよ」

 

 チケ蔵は完全に父親が過保護をこじらせた結果だった、本人も特に疑問を感じずここまで来てしまったか。

 

「私は妹の付き添いだ。ブライアンは操者を必要ないと断じ、人間を歯牙にもかけていない」

「あの強さじゃ操者にしてくれって周りがうるさかったろうな」

「ああ、それにうんざりしたブライアンはここに行き着いた。過保護だとも思うが妹を放ってはおけないからね」

 

 ヒデさんはナリブを心配してついて来たと、どこのお姉ちゃんも偉大である。

 

「私は人間嫌い」

「タッちゃん・・・」

「ずっとチビだってバカにしてた癖に、騎神になった途端に手の平返してすり寄って来た」

「よしよし」

「大人しくしてれば調子に乗る、本気を出せば化物呼ばわりホントどうしろってのよ!」

「よしよし」

「わかってるわよ、人間もそんな奴ばかりじゃないってことは。でも、あの時の悔しさは忘れない」

「よしよし」

「あー思い出したらムカついてきた。あいつら全員足の小指骨折しろっ!!」

「よしよし」

「よしよしウザい!」

「ホント災難だったな。タッちゃんはよく我慢した、偉い偉い。溜め込んだ怒りは全部出してしまえ、たっぷり聞かせてもらうから」

「・・・あんたウザい」

 

 そう言いながらもプンスコ怒ったり、ションボリしながら話してくれるタッちゃん。

 ウマ娘への理解が少ない地域でよくある問題だ。

 高スペックのウマ娘を妬んだり、都合よく利用したりと、心無い人間のたちのせいで病む子もいる。

 周りと違うのを許さない環境ってのは残酷だ。子供のコミュニティならより顕著だろう

 

 話を聞きながらも、ブラッシングは継続、怒りが激しい時は頭と耳を撫でて落ち着かせる。

 家族や友人ににも吐き出せないことってあるよね。その点、俺なら問題ない訳で。

 ひとしきり話し終えたらスッキリしたのか大人しくなった。あれ・・・。

 

「初対面の男に愚痴って絡むなんて、何やってんのよ私」

「あの、タッちゃん」

「何?もう終わった」

「このまま覇気をもらってもいいか、今もの凄くドレインしやすい状態でして」

「・・・もう好きにすれば」

「じゃあ、いただきますっと」

 

 ナリタタイシンの覇気を手に入れた。

 これって俺に心を許してくれたってことだよな。嬉しいねぇ。

 

「タイシンが~あのキレたナイフがぁ~マサキさんにデレたよぉぉぉおおおおお!!!」

「驚いたな、マサキ君にはタイシン攻略の方程式が既に構築済みだったのか!」

「うっさい!デレてないし」

「タッちゃん、もうちょっといい?」

「仕方ないわね、痛くしないでよ////」

「「デレとるやないかい!!」」

 

 「ツンデレはツンツンする前に落とせばいい」サトノさん家のダイヤモンドちゃんが言ってました。

 「ツンを失ったツンデレに存在意義はない」シラカワさん家のシュウ君が言ってました。

 「最終的にデレてくれるなら何だっていい」アンドウさん家のマサキ君はこう考えております。

 

 その後、チケ蔵とヒデさんの覇気もドレインさせてもらいました。

 この三人と仲良くなれたのは僥倖(ぎょうこう)だったな。

 こちらを伺うモブたちの警戒心が少し和らいだように感じる。

 

 誰かが近づいて来る。あのウマ娘はエントランスにいた騎神の一人。

 

「なんだ、上手くやってるじゃないのさ」

「「姐御!」」

「アマさん、マサキを心配して来てくれたのか」

「そのつもりだったけど、その様子じゃあいらぬ世話だったね」

「先程はどうも、褐色美人さん。アンドウマサキです」

「皇帝からアンタのことは聞いてるよ。ヒシアマゾンだ、それしにても・・・へぇー」

「な、なんスカその目は、裸が見たいのなら有料になりますよ」

「コラ、私を盾にすんな」

 

 眼力の強い瞳でジロジロ見られた、思わずタッちゃんの後ろに隠れる。

 尻尾でペシペシ叩かれたけど、それでもしっかり庇ってくれるタッちゃんが好き。

 

「大丈夫だよ、マサキさん。姐御は見た目に反して超絶いいウマ娘だから」

「そうだぞ、オカン級の寛容さはブライアンもたじろぐ程だ」

「まあ、ここにいる奴らは皆世話になってるよ」

「その言葉信じるわよ、嘘ついたら耳にハチミツ塗りたくってアリの巣付近に放置プレイの刑」

「「「地味に怖っ!!!」」」

「アハハハ!この短期間でここまで仲良くなるとはね。ヒシアマ姐さんもビックリだよ」

 

 ヒシアマゾン

 褐色の肌に艶のある黒い毛並み、力強くも優しさを感じる瞳。

 野性味溢れる血気盛んなタイプだが、世話焼きで面倒見の良い姐御肌。

 家事スキルも高く、とても頼りがいのある存在なのだとか。

 

「さっそくブライアンとタイマンしたそうじゃないか」

「ボコボコだったけどな」

「あいつに挑んでピンピンしてる時点で大したもんさ。いいねぇ、人間にしておくには勿体ないよ。気に入った」

「ごめんなさい。俺には可愛すぎる二人の愛バがいるんです」

「なんで姐御が振られた感じになってんの」

「別に交際を申し込んじゃいないよ。おかしな奴だね」

 

 ヒシアマゾンは俺の面倒も見てくれるらしい・・・それってどこまで可能ですか?

 うちの愛バは入浴介助から添い寝までやってくれたぞ、マジ最高!

 

「部屋を用意したから案内するよ、ついて来なマサ公」

「わかりやした姐御!ついてくついてくついてく」

「どこに行こうとしてるんだい!なぜ反対方向に?」

「あーマサキは方向音痴なんだよ。たまーにそのキャラ設定を出してきてウザい」

「おいこらミオ、ウザいとか言うな泣くぞ」

「そいつが自慢のAIってヤツか、なんでもいいからついて来な、はぐれるんじゃないよ」

「ウッス。ありがとな三人ともまたな~」

「ばいばい~」

「また会おう」

「またね」

 

 三人娘と別れてヒシアマゾンこと姐御について行く。

 中央広場から少し離れた所にあったのはレンガ造りの建物。

 

「人間が来た時はここで待機してもらうのがルールなのさ、少々手狭だが勘弁しておくれよ」

「かまわないっス。いろいろとご迷惑をおかけします」

「掃除は行き届いているから安心しな、最近じゃ無許可で出入りしている奴もいるみたいだし」

 

 室内はキチンと整理整頓されており、洗面所、トイレ、ベッドにソファー、テーブル、冷蔵庫や電子レンジ等の家具家電も揃っている。ちょっと広めのワンルームマンションみたいな間取りだ。

 

 冷蔵庫の飲み物は自由に飲んでいい、ご飯は食堂でとるのが基本。

 ご飯の時間になったら呼びに来てくれるらしい。

 一人で勝手に行動して問題があったらいけないので気を遣ってくれたようだ。

 

「スマホは持ってるな、連絡先を教えておくよ。外出する時は必ず連絡する事、私じゃなくてもいいから気の許せるウマ娘を同行させるように」

「さっきの三人やキングたちなら付き合ってくれると思いたい」

「まだアンタの事を警戒している奴は大勢いるが、挫けるんじゃないよ。困った事があればアタシを頼ってくれればいい」

「ありがとう頼りにしてます姐御!」

「じゃあ、メシの時間までゆっくりしてな。タイマンで消耗してるだろうしね」

「は~い、ちなみに姐御の覇気を頂戴することは可能ですか?」

「焦るんじゃないよ。まずはそこにいるサボり魔と交渉したらどうだい」

 

 「また後でな」と言って姐御が部屋を出ていった。

 ソファーの上の毛布が不自然に盛り上がっているのには気づいてましたよ。

 「どっこいしょ」ソファーの空きスペースに腰を降ろす俺。

 ここまで近づいてやっと覇気が感じられる、大した隠形だな。

 

「あちゃ~バレバレだったみたいですね」

 

 まいったな~と頭を掻きながら毛布から出てきたのは飄々とした雰囲気のウマ娘。

 

「どうも~セイウンスカイっていいます」

「アンドウマサキ・・・あ、ヤベェこれ来たわ・・・ふぁ~眠い」

「ミオ・サスガだよ。マサキがお眠だから手短に」

「マサキさんにミオちゃん、りょーかいです。私のことはセイちゃんでもウンスでもスカイでもお好きにどうぞ」

「ごめんちょっと寝るわ、ミオ、姐御が来たら起こしてくれ」

「わかったよ」

「ちょいちょいちょい!何でスルーするかな~。あ、その毛布は私の」

「生温かい、グッスリ眠れそう」

「えっと、聞いてる?見えてる?セイちゃんここにいますよ~」

「お、抱き枕あるじゃん」

「え、え、ちょっと何して」

「おやすみ~」

「いい夢みろよ。さてさて、今の内にガッちゃんの行きそうな所を検索しておこうかな」

「うぇえええええええええ!?」

「うるさい・・・」

 

 仮眠をとって体力回復しておこう、リブとの戦闘で思いのほか覇気を消費してしまったからな。

 このソファー大きくてフカフカ、抱き枕は柔らかくていい匂いがする。

 

「温かい・・・ごめんよセイちゃんとやら・・・起きたら・・・お話しよ・・・」

「寝ちゃったよ、いきなりペース乱されたな」

 

 軽くホールドされているだけなので抜け出せない訳ではないが。

 なんとなく起こしてしまうのは悪い気がした。

 

「無防備すぎませんか~私が悪い子だったらどうするんです?」

 

 返事は無い、AIの方も沈黙したままだ。

 マサキの体から覇気の粒子が漏れ出すのじっと観察する。

 

「なるほどなるほど、これはいけません。セイちゃんもまた眠たくなって来ましたよっと」

 

 姐御が来なければ昼寝継続するつもりだったし、まあいいか。

 

「抱き枕の役目をしっかり果たしてあげましょう、特別サービスってことで」

「・・・青雲の癖に・・・線香の匂い・・・しない」

「失礼な寝言だな、線香ブランドじゃないですよーだ」

 



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なべぱ

 リブに負けた、BNWと仲良くなった。

 姐御に案内された寝床でウンスを抱き枕にした。

 

 仮眠をとって回復。

 姐御が来る前に起きて喋る抱き枕と会話を試みる。

 

「結構な抱き枕でした。どうもありがとうセイちゃん」

「お気に召していただきどうもです。お支払いはどうされます?」

「しまった有料だったか」

「今ならキャンペーン中で覇気吸収もできるお得なプランもございます」

「これは買うしかないね、マサキ早く支払って」

「じゃあこれで」

「毎度あり~って何ですかコレ?」

「さっきヒデさんにもらった飴玉(はちみつにんじん味)」

「わーいこれ好きなんですよって違う!」

 

 ノリツッコミした後に飴玉を口に入れるセイちゃん。

 食べるんだ・・・ブラッシング中にヒデさんの剛毛から出てきたことは内緒にしておこう。

 個別包装で良かった。

 

 セイウンスカイ

 緑がかった毛並みに青い瞳のウマ娘。

 のんびりフワフワ、気怠い感じの雰囲気を持っているが真意は如何に。

 この子は本当に怠けているのか、それともポーズなのかわからんな。

 頭の回転は良さそうなので策士タイプか。

 線香の匂いはしない、それよりもっといい匂いがした。

 

「お支払いは体でお願いします」

「うまぴょいは勘弁して、俺にはクロとシロが」

「ちがーう!私のお仕事を手伝ってほしいだけだよ」

 

 UC基地でのお仕事は当番制。

 サボり魔のセイちゃんはペナルティを含めて数々のお仕事が溜まっているのだとか。

 

「業務内容は?」

「お掃除や基地の修繕作業、倉庫整理、食事当番、セイちゃんと釣りに行くってのもあるよ」

「最後のは遊んでいるだけじゃないか。それぐらいなら全然いいぞ」

「交渉成立、では覇気をどうぞ。どうやって吸収するのかな見せてもらおうかな」

「まず頭を撫でます。はいリラックスして~、俺に覇気をあげてもいいと念じてくれると尚良し」

「ほうほう」

「はい来ました来ました。いいですね~その調子でお願いします」

「あ、今持っていかれてる。そしてこっちにもなんか来てる」

「俺の覇気がちょっと移るけど心配ないよ、そういう仕様です」

「馴染む!実に馴染むぞ!ってほどでもないね」

 

 セイウンスカイの覇気を手に入れた。

 

「吸収した覇気はどうなるんです?」

「殆どは俺の愛バへ送ってご飯になる。残りは俺の覇気中枢に溶け込むらしいぞ」

「ふーん。これまでいっぱい覇気を取り込んだ結果、強くなった実感はある?」

「ちょっとづつ強くなってるとは思うけどな。覇気もらって即劇的強化ってことは無いな」

 

 その後もいくつか質問をしてくるセイちゃんに、わかる範囲で答えていく俺。

 

「なるほど~だいたいわかった」

「何がよ」

「マサキさんの愛バは正真正銘の大物だってこと」

「知ってる、あいつらは俺には勿体ないぐらいのいい子たちで自慢の愛バだ」

「最初からハイリスクだってわかった上での契約、命を賭けてマサキさんを操者にした。愛されてるね」

「・・・やべ、泣きそう」

 

 そうまでして俺のことを・・・。あの子たちってば!起きたらちょっとだけ説教と沢山の感謝をせねば。

 ああ、早く会いたい。

 

「マサキさんの規格外な覇気を常時食らっておきながまだ飢えているってどんな化物なの」

「ホント腹ペコな愛バで困っちゃうわ、しかぁし!手がかかる子ほど可愛いってなもんよ」

「自分が何を育てているか理解してる?してないよね」

「超可愛いウマ娘二人を育成中さ」

「ダメだこりゃ、いや~怖い怖い、ハハハ・・・マジで寒気がする」

「風邪でもひいたか、毛布いる?」

「そういう意味じゃないよ。マサキさん、愛バに最優先で教育してほしいことがあるから聞いて」

「教育も何も頭の良さはあいつら方が上だぞ」

「何があってもセイウンスカイを攻撃対象にしないってキッチリ教えておくこと!いいね!」

「お、おう?」

 

 必死な様子で迫るセイちゃんに思わず頷いてしまった。

 何故だかクロとシロを怖がっている?最高にカワイイ俺の天使たちに失礼な。

 

「結論!マサキさんたちはセイちゃんの手に負える存在じゃない。こういう相手には友好関係を結ぶのが得策」

「セイちゃんマイフレンド」

「そうですフレンドです。添い寝した仲ですし、もうマブダチってことでよろしく」

 

 それから、お友達記念でセイちゃんにブラッシングしてたら姐御がやって来た。

 

「メシだよマサ公って、ああ、お邪魔だったかい」

「姐御、ちょっと待って後は尻尾だけだから」

「う~ん誰かにやってもらうのは久しぶり~最高~」

「はーっはっはっは!スカイ君を手懐けるとは、その手腕あっぱれだ!」

「はうう・・・私なんかがお呼ばれしていいんでしょうか」

 

 姐御に続いて二人のウマ娘が部屋に入って来る。新顔か。

 

「手懐けたのはセイちゃんの方です。ですよねマサキさん」

「ああ、そうだなっと。よし綺麗になったぞ」

「ありがとうです。風呂上がりに毎回やってくれるとうれしいな」

「初回はサービス、次回から有料になります」

「1回ブラッシングにつき1回添い寝」

「仕方ないなぁ~」

「今、いかがわしい取引が展開されたのは気のせいかい」

「なんのことですかな。ところでそちらのお二人は?」

 

 不遜なポーズを決めているウマ娘と終始オドオドしているウマ娘が俺の問いに答える。

 

「この僕こそがテイエムオペラオーさ!君との出会いを祝してディナーをご一緒しようじゃないか」

「メイショウドトウです~。よろしくお願いします・・・無理に覚えなくていいです」

「オペにドトだな。アンドウマサキ、人間、操者、そして子供に優しい特級紳士だ」

「正しくはマザコン、シスコン、そして限界突破ロリコンだね」

「黙ってろノーボディ!」

「ノーボディのミオ・サスガです。高性能AIにしてマサキのアドバイザーって設定」

「三つの十字架を背負いし勇者に、体無き高潔な魂!ああ、なんとも心躍る配役だ」

「ひぃぃ!三重苦の変態さんと幽霊さんです~。ごめんなさいごめんなさいゆるして」

「ミオ、お前のせいで二人が混乱してる」

「私は本当のことを言っただけなのに」

「三重苦のマサ公、ちょっとテーブルを片付けておくれ」

「姐御、ここで食べるんですか?」

「アケボノから食材を預かっていてね。今夜は鍋パーティーさ」

「おお!鍋キターーー!」

「それはセイちゃんも参加していいのかな」

「勿論さ、ただし手伝いと後片付けはしてもらうよ」

 

 ガスコンロや大きな鍋をも持ち込み皆で夕餉の準備をする。

 ウマ娘は健啖家が多いので鍋もコンロもでかい!どこで売ってんの?てぐらいの大きさだ。

 コンロと鍋が三つもあるし、三種類の鍋できるじゃんよ贅沢~。

 

 キングたちは急な仕事が入って遅れて来るそうなので先に始めていいってさ。

 

「すっかり忘れてたけどゴルシはどこへ行った?」

「そうだった、奴からマサ公に渡してくれって頼まれたんだった。はいよ」

「手紙?達筆なのがムカつく」

 

 姐御から手紙をを受け取る、どれどれ・・・。

 

 アンドウマサキ様へ

 

 お元気ですか?相変わらずド変態のロリコンでしょうか。

 こちらはセミの抜け殻が暴落してハジケリストたちの間で紐無しバンジーが流行中です。

 

 本題です。

 ラーメン狂いの上司が脱走しそうな気配がしたので一度帰ります。

 短い間でしたが大きなお世話になりました。

 100年後暇でしたら無限のフロンティアでお会いしましょう。

 

 追伸

 

 冷蔵庫にイナゴの佃煮が入ってます。全部食べてね、ぜってー食えよ!!!

 

 黄金の浮沈艦、ゴールドシップ様より

 

「それ」

「あ、凄い一発で入った」

 

 ゴルシからの手紙を適当に丸めてゴミ箱へシュート!

 いろいろツッコミ所があるけど、文章の最後にキスマークがつけてあったのが最高にイラっとした。

 

「あいつ、あんまり役に立たなかったな」

「ヒドイ!ご飯美味かったし、なんだかんだで頼りになるって言ってたじゃん」

「ウマウタ―<ゴルシ<ミオなんだよな」

「おお、私の評価高い!マサキの相棒の座は私ってことで」

「ミオ<<<絶対超えられない壁<<<クロシロだから」

「ちくしょーめ」

 

 たまーに修練に付き合ってくれたりはしたけど、結局あいつの本気は見れなかったな。

 1stの回想で見たゴルシは、目下苦戦中のリブよりも強かったはずなのに。

 いつか本気のゴルシを見せてほしい。

 

 一応、冷蔵庫を確認・・・うわ、本当に佃煮が入ってる。いつの間に用意したんだ。

 

「それはなんだいマサ公?」

「イナゴです。ゴルシが姐御にって」

「う、食べ物を粗末にはできないね。マサ公、付き合ってくれるかい」

「お供します姐御」

「うえ~それ食べる気?セイちゃんはパスで」

「フフッ、イナゴに怯むような僕ではないよ」

「え、皆さん未経験?美味しいのに~」

 

 イナゴ経験者がいたわ。無理だったらドトに任せよう。

 鍋の準備をみんなでします、姐御はもちろんセイちゃんとぺラオも器用で助かる。

 ドトちゃんは・・・うん、包丁は危ないからやめとこうか、お皿もこれ以上割ると無くなるからごめんね。

 ドジっ子属性恐ろしいぞ!そして慣れっこなのか、俺以外のウマ娘が後始末をサッと行うのが凄い。

 

 テイエムオペラオー

 鮮やかな薄茶色の毛並み、王冠を頭に乗せたナルシストなウマ娘。

 尊大な態度と演技過剰な挙動だが、どこかコミカルで憎めない。

 自己愛と同時に周囲への愛を持ち合わせており、懐深くある意味大物。

 ただのいい人じゃないか。

 

 メイショウドトウ

 茶色の毛並み、アホ毛と前髪中央に大きな白メッシュのあるウマ娘。

 自分に自信がなく弱気な垂れ耳、典型的なドジっ子。

 それ故か、底抜けな自信と前向きさを持つぺラオを尊敬しているのだとか。

 自信を持てい!お前にはあるじゃないか!説明不要なほどたわわに実ったお胸がよぉ!

 すげぇな、姐御も結構あるがそれ以上だ。タイキより、そしてクリークよりも上だと。

 巨乳じゃねぇアレは爆乳だ。

 

「はぅぅ・・・マサキさん、見すぎです~」

「見ないのは逆に失礼でしょうが!!!」

「なぜキレたのか不明だが、世の男性諸君はそういうものなのかい姐御?」

「アタシに聞かれても困るね」

「いや、アレは女でも見ちゃうよ」

「ですよね~。最初はふざけてボール入れてるのかと思ったし」

「ごめんなさい、無駄な脂肪をぶら下げてごめんなさい」

「それ嫌味に聞こえるから注意な」

 

 なぜかあるウマ娘を思い出してしまった、元気にしてますか逃亡者さん。

 あれから空気抵抗はどうなりましたか?少しは成長しましたか?

 俺は貧乳巨乳なんでもバッチコーイなので安心してください。ではまたいつか。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・チッ」

「スズカさん?急に舌打ちしてどうしたんですか」

「なんでもないわフクキタル、ロリコンにバカにされた気がしただけよ」

「元気だしてクダサイ、ワタシと一緒にハッピーになりましショウ!」おっぱいブルンブルン

「バストドレイン!!!」

「NOッッッ!!痛い!痛いデス!やめてクダサイ、スズカ!もげる!もげてしまいマス!」

「ああータイキさんの胸が鷲掴みに!スズカさんが遂に巨乳狩りを開始しおった!」

「こんなものもげてしまえ!ていうかくれ!寄こせってんだよ!」

「ワタシのバストを狩ってもスズカのバストは変わりマセン」

「ならば全ての巨乳を狩り尽くすのみ!でか乳などこの世にあってはならん!」

「なんという覇気!?シラオキ様どうかこの憐れなまな板をお救いください」

「誰がまな板だ!ぬりかべって言った奴もコロス」

「そこまでは言ってませんよ、ぬりかべwww自虐にも程がある」

「うるせーよ!イカれたスピリチュアルジャンキー風情が!」

「私だけじゃなく、シラオキ様もバカにしましたね!今日中に天罰が下りますよ!」

「やってみろや、具体的にどんな目にあうんですか!」

「えーと、白目むいて地面にめり込むとか?」

「ハイ嘘乙でーす」

「あだだだだ!なんでもいいから離してクダサイ!」

 

 とある街で悲しきモンスターが誕生しかける事件発生。

 たまたま現場に居合わせた操者と騎神らしき女性が食い止め事なきを得た。

 

「なかなかイキのいい子でしたね。スカウトってことでお持ち帰りします、いいですよね?」

「許可ッ!優秀な騎神を学園にご招待だ」

「おのれ・・・巨乳族め・・・これで勝ったと・・・思うなよ」ガクッ

「バカな!ぬりかべが1分持たなかっただと!」

「ワォ!地面にめり込んだスズカ、とてもシュールですネ」

「適当に言った予言がまさかの大当たり!ざまぁwww」

「ワタシのバストもどうにか無事デス、あー怖かった」

「測定ッ!ふむふむ、なかなかの覇気だな。たづな、そこの二人もついでに連行しろ」

「「え?」」

「はーい、ようこそトレセン学園に。拒否権?あるわけないでしょ。ほら、気絶しているスレンダーさんを運ぶの手伝ってください」

「あ、コレ逆らったら殺されますね」

「いいじゃないデスカ、ワタシたち学園にスカウトされマシタ、受験の手間が省けマス」

「ついでですけどね」

「収穫ッ!生徒会長が戻るまでに生徒(手駒)をもっと集めるぞ」

「スカウト旅行、思いつきで始めましたが結構楽しいですね。マサキ、お姉ちゃんは安い給料で今日もこき使われてるよ」

「文句があるなら学園を壊さないように!たづなの給料が安いのは修繕費を天引きしているからだ」

「学園が脆すぎなんですよ・・・トホホ」

「弟に良い所を見せたいのだろう、ここで頑張ればマサキ君も「自慢の姉です」って褒めてくれるぞ」

「やる気が上がった。テスラ研と御三家にも突撃しましょう!あそこには絶対ヤベェのがいるはず」

「歓迎ッ!ヤバいウマ娘、大いに結構!学園の未来は明るいな」

「起きてくださいスズカ、トレセン学園行きが決定しましたヨ」

「白目むいてますね、なんてヒデェ顔だ。ご両親泣きますよコレ」

 

 トレセン学園は将来有望なウマ娘を随時募集中(強制連行あり)

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 お仕事中の姉が無茶苦茶やってる気がした。

 一生懸命働く姉さんはカッコイイのです。

 

「お待たせ~間に合ったみたいだね」

「あら、まだ始めてなかったのね。これエンプレスからの差し入れよ」

「お菓子いっぱいもって来たよ。みんなで食べようね」

「お、来たか」

 

 大量のお菓子や飲み物を持ってボノ、キング、ウララも合流した。

 

 よっしゃ、準備完了!飲み物を入れたグラスを片手に全員起立。

 

「姐御、開始の宣言をお願いします」

「アタシかい、こういうのは目立ちたがり屋のオペが適任だよ」

「フッ、任せたまえ。今宵、この鍋パに集まり同志諸君!まずは人間、マサキ君の来訪を歓迎しようではないか。我々は各々人間に対し思う所はあれど、僕の尊さを理解する美意識はどんな生命にも宿ると信じている。つきましては我が栄光の歌劇第一章序説をここで・・・」

 

「もういい!!長い!!かんぱーい!」

 

 姐御が痺れを切らして強行突破した。

「かんぱーい!!!」とみんなが声を上げる。鍋パ開始です。

 

「ああ、スピーチをカットされてしまった憐れな僕もまた美しい」

「オペラオーさんのメンタルは超合金Z製です~。尊敬します~」

「ウララちゃんあーん」

「あーん」

「ちょっと!なんでバッタを食べさせようとしてるの」

「イナゴだ」

「違いがわからないわ、イナゴの佃煮?なんでこんなものがあるのよ」

「おいしい!もっとちょうだい」

「おう、好きなだけ食べなさい。キングもどうぞ」

「・・・スカイさん、お先にどうぞ」

「いや~セイちゃん、イナゴだけは食べるなってご先祖様に言われてるから」

「ボ~ノ~。これ作ったの誰?ゴルシちゃんかぁ、今度作り方教えてもらおう」

「うん、見た目はアレだが。意外といけるね」

「イナゴ人気すぎじゃね。鍋食おうぜ鍋」

 

 鍋は三種類、俺のリクエストのきりたんぽ、もつが入ったちゃんこ鍋、洋風のトマト鍋なんてのもある。

 どれもめちゃくちゃ美味い。

 材料はどっさりあるので、具材をどんどん追加する。マジでパクパクですわ。

 配膳役をしている姐御とボノにも食べてほしいので交代する。

 

「二人も食べて下さいよ。ほら、俺が代わりますんで」

「悪いねマサ公、どうもこういった場じゃ世話を焼いちまう質でね」

「みんなが美味しそうに食べてるのを見るとこっちも幸せだからね~」

「は~い交代交代、全員しっかり食べましょうね」

「シメは雑炊、それともうどん?」

「トマト鍋は雑炊にしてチーズを入れたらどうだろう、トマトリゾットinチーズの完成だ」

「うは!めっちゃ美味しそうなんだけど」

「ねーねーイナゴも入れようよ」

「「「「それはやめとけ」」」」

 

 イナゴリゾットを回避しつつ、鍋パーティーは進む。

 ちょっと落ち着いたので、姐御に話を振ってみる。

 

「姐御、先程の話なんですが覇気を分けてほしいです、対価として何か俺にできることがあれば言ってください」

「事情は聞いてるよ。アタシの条件はそうさねぇ、やっぱりタイマンだね。これしかないよ」

「タイマン?既にリブとやってる最中なのですが」

「察しなさいよ、姐御はマサキの修練に付き合ってくれるつもりなのよ」

「え!いいんですか姐御。それは凄くありがたい」

「あのブライアンに真っ向勝負する奴を黙って見ていられるかい、それにタイマンってのは本気だよ。修練だろうが手加減するつもりはないから覚悟しな」

「姐御~感謝です~」

「おやおや、アンタ年上だろうに、まったく・・・」

 

 姐御の寛容さに感動したのでちょっと涙ぐむ。操者になってから涙腺がどんどん緩くなる俺です。

 修練に付き合ってくれて覇気までくれるとは太っ腹っス。

 よしよしは、するのもされるのも好き。

 

「ふぅん、マサキ君は覇気を求めているんだね。ならばこの僕も協力しようではないか」

「わ、私のでよければ、いくらでもあげちゃいます~」

「オペにドトもありがとう。俺に何かしてほしいことはあるか?」

「君には僕と一緒に舞台に立ってもらおう」

「どういう意味だ?」

「オペラオーさんは気が向いた時にゲリラ歌劇を開催するんです~」

「ああ、あの一人芝居ね」

「観客ゼロなのに半日演じてたこともあったね~」

「内容が8割がた自画自賛だからね、飽きる」

「場所も時間も不定期だから余計に人が集まらないし」

「私特別出演したことあるよ、木の役で」

「それ必要か」

 

 散々な言われようの寸劇に出演しろと、それでオペが満足するならいいのか。

 自慢じゃないが台本を覚えるなんて無理なんだけど。

 

「僕の直感はハズレないさ、君はよい演者となる」

「わかった。どこまでできるかわからないが日時が決まったら教えてくれ」

「新たな登場人物を得て舞台は更に進化する。ああ、楽しみだな」

 

 オペの条件はこれでよし。

 

「ドトは何かあるか、遠慮しないで言ってくれ」

「えっと、えっと・・・」

「尻にパンを挟み右手の指を鼻の穴に入れ左手でボクシングしながら「いのちをだいじに」って叫べばいいのか」

「何よそれ」

「キングちゃん知らないの、ブタになるおまじないだよ」

「ち、違います。あの・・・ってもいいですか」

「よく聞こえない、さあ、恥ずかしがらずに言ってごらんなさい」

 

「さ、触ってもいいですか!!!」

 

 今何と仰いましたか。みんなもシーンとなっちゃったよ。

 

「そうか、意外と大胆なんだな。そんなに俺の"うまだっち"に触りたいか」

「ドトウ、君って奴は・・・素晴らしいよ!この僕ですらドン引きだ」

「ねえキングちゃん、うまだっちって何?」

「スカイさんが良くご存じよ」

「こっちに振らないでよ!姐御が一番詳しいからね」

「ば、ば、バカ言ってんじゃないよ!何でアタシがそんな」

「私見たことあるよマサキさんのうまだっちはね~これぐらいの大きさで」

「具体的な説明やめろ!え?ボノはマサ公のアレを見たことあるのかい」

「無人島生活での嬉し恥ずかしハプニングだな」

「裸見たぐらいで一々騒いでたらサバイバルできないよ~」

「あの、あの、うまだっちは別に触りたくないです」

「なんだと・・・クロとシロはめっちゃ触りたがったのに、隙あらばタッチしようとするから参ったぜ」

「操者がロリで愛バが痴女、いろいろ終わってるね」

「最近毒舌ですねミオさん」

「ふんだ、皆で美味しそうなもの食べやがって。体が手に入ったら私のために鍋パしてよね!」

「わかったわかった、拗ねるなよ」

 

 ミオが疎外感を感じて拗ねてしまった。ノーボディは辛いんだと。

 

「私こんな性格だから人間、特に男の子が怖いんです。でもそれじゃダメだと思って、マサキさんなら大丈夫か持って、はぅ~すみません」

「まあ、その乳ではジロジロ見られて余計に怖かったろうな。心中お察しします」

「マサキのアホ!デリカシー無しのガチロリ!」

「いいんです。その通りですから~、変なこと言ってごめんなさい」

「全然変じゃないさ、さあ、思う存分触ってくれ!さあ!今すぐ!」

「え、え~本当によろしいのですか?でもでも」

「ドトウ、僕からのアドバイスだ。いいからさっさとやれ」

「オペラオーさん、わかりました。私、マサキさんを触ります」

「バッチコーイ!」

「い、いきます!」

「何これ?」

「ほっとけほっとけ、アタシらは夕飯の続きをすればいいさ」

「ウララさん、野菜も食べなさいな」

「キングちゃんはイナゴ食べてよ」

 

 恐る恐るドトが俺の頬に触れてくる。ちょっとひんやりした手の平がくすぐったいっス。

 少しずつペタペタと全身を触っていく、うまだっちは避けてる、遠慮すんなよ。

 

「わ、わ、凄いです。温かい、脈がある、ちゃんと生きてます~」

「そりゃそうだ。ほら、今度は握手だ。щ(゚Д゚щ)カモーン」

「は、はい!」

 

 しっかり握手、俺の手は温かいと愛バには好評なのだがどうかな。

 にぎにぎと握り返す。微笑むドトが可愛い。

 公開ボディタッチ、なんだか興奮してきた。

 

「なんで飯食いながらイチャついてる男女を見なければいけないのかな」

「すーぐ浮気するんだからマサキってば」

「まあまあ、あのドトウが男と触れ合ってる奇跡の光景を目に焼き付けようではないか」

「よーし、今度はハグだ」

「はい」

「はっ!こ、これは」

 

 あーーーー!!!当たってる!すんごいのが当たってる!うひょーーー!!!

 なんというビッグバンおぱーい!!!

 耐えろ!耐えるんだ俺!クロシロ俺に力を貸してくれ!やば、これやばばばばば。

 ちょっとこの子、今何歳だ?発育凄すぎてもうあーーー!!!

 

「おーいマサキ自重しなよ~。愛バが起きたらチクるからね」

「ミオさん待って!これは不可抗力だから」

「は、恥ずかしいです~」

「おっと?ドトさんや、このまま覇気をもらってもいいかな」

「どうぞどうぞ~。なぜでしょうかマサキさんは男の人なのに全然怖くないです」

 

 タッちゃんの時のようにリラックスしてくれたのか、ドトの覇気もドレイン可能状態になった。

 フワフワの髪の毛と垂れ耳のある頭を優しくなでてドレイン。

 いい感じ、メイショウドトウの覇気を手に入れた。

 

「ありがとうございました~。今日の事は忘れません」

「こちらこそだ。ドレインあざーす」

「ドトウ、今日のはあくまで特例だ、不用意に男に触ってはいけないよ。勘違いされるからね」

「過度なスキンシップで勘助を量産するんじゃないよ」

「え、は、はい?」

「わかってないねこりゃ」

「こういうのが無自覚サークルクラッシャーになったりするんだね」

「ウララさん、あなたの偏った知識は何なの?」

 

 人間嫌いのウマ娘集団UC?話せはわかってくれる奴らばかりじゃないか。

 友人になってくれて、覇気も順調にドレインできてるし。

 

「UCが過激思想だったのは昔のことさ、皇帝たちが来てからはここも随分と変わったよ」

「ここを出ていった奴らが言ってたね「腑抜けたお前たちには用はない!我々こそが真のUCだって」」

「残ったウマ娘たちは、本当は人間を信じたいのよ」

「素直になれない子が多くてね~まあ、気持ちはわかるから無理強いもできないし」

 

 人間は敵!と思っているウマ娘はとっくの昔に離反しているらしい。

 今残っているウマ娘はきっかけさえあれば人間と仲良くしてもいいって思ってくれているんだ、良かった。

 

 話を聞いていろいろ判明した。

 シンボリルドルフ、エアグルーブを含む何名かの騎神はトレセン学園が派遣したらしい。

 組織として分解しかけた所を来訪した皇帝たちが代表になってUCをまとめたんだと。

 トレセン学園の上層部が絡んでる。やよいや姉さんはこの事を知ってたのかな。

 

「皇帝たちは、表向きには留学ってことでUCに派遣されて来たのよ」

「私たちを学園にスカウトって打算もあるんじゃないのかな」

「じゃあ、みんなトレセン学園に行くのか。俺も雇ってほしいぞ」

「進路はまだ考え中よ、あなた教官志望なの?ライセンス持ってるようには見えないけど」

「俺が持ってる資格は自動車、大型二輪、危険物取扱者と毒劇物取扱者にフォークリフトそれから」

「トレーナーライセンス、教員免許は無いのね」

「とりあえず愛バを起こしてからかな、勉強は苦手だけど頑張る」

「私、宅建持ってるよ」

「ウララさん、いつの間に」

 

 俺がトレセン学園の教官か、元々トレーナー志望の俺としてはかなり理想的な進路だ。

 クロとシロが生徒で、姉さんやヤンロンが同僚な職場環境。なかなか幸せだと思う。

 ハードルは高そうだけど、そんな未来が実現できるように頑張るぞー。

 

 楽しい鍋パは大盛況の内に終了した。こういう思いでを愛バたちとも作っていきたい。

 後片付けをしっかりやった後に皆寝床に戻っていった。

 ゴルシ、イナゴ大人気だったぞ。キレイに完食しました。

 

「明日はまたリブとの手合わせだ、早く寝て備えよう」

「戦況分析は私に任せて思う存分やられてね」

「負ける前提なのやめてくれませんかねぇ」

 

 今日はあいつらの夢が見られるといいな。

 



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まるふじ

 ブラッシングや鍋パをして、ウマ娘たちと仲良くなった。

 打倒ナリタブライアン。

 

 目覚めはスッキリ、ミオの目覚まし5分前に起きてやったぜ。

 

「おはようミオ、目覚ましに勝ったぞ!」ドヤッ

「おはよう、寝癖凄いよ」

 

 朝の身支度をサッと済ませる。

 軽くストレッチした後に朝食、白湯をゆっくり飲んで終了。

 朝は基本食べない主義なのでね。

 

 メッセンジャーアプリを起動して姐御に連絡する。

 

『おはようございます姐御』

『おはようマサ公』

『朝の修練をしたいのですが、外出許可願います』

『部屋の外で待ってな、迎えが行くからね』

『姐御は来てくれないんですか』

『悪いね、今日は食堂で朝食当番さ。代わりの奴に話はしてあるから上手くやりなよ』

『ありがとうございます。また後で』

 

 姐御は来られない、代理で別の奴が来てくれるらしいが誰だろう。

 部屋の外で待ってるとそいつは現れた。

 

「バクシーン!!!」

「朝からうっさ!そしてなんか見覚えある奴が来おったわ」

「このデコどこかで、確かバクちゃんだったかな、無人島でちょこっとだけ見たね」

 

 DC兵をまとめて連れ去ったバクちゃんが来た。

 

「おはようございます!あなたがアンドウマサキさんで間違いないですか!」

「はいそうです!朝から超元気ですね!」

「皆の模範となるべき委員長は早朝からフルスロットルですよ」

「委員長?えーと、お名前をフルネームでどうぞ」

「はい、サクラバクシンオーです!お好きに呼んで下さい、マサキさん」

「とりあえず委員長って呼ぶわ、今から修練に付き合ってくれるでいいんだよな」

「はい、お話伺っております。優等生の私に任せてください」

「さっきから委員長だの優等生だの、こいつは何を言っているんだ」

「察しろよミオ、『委員長=優等生=バクシン』って意味不明な式が彼女の中で成立してるんだよ」

「あー、うん、そっかそっか。クソどうでもいい!対処法はマサキに任せるよ」

「ミオさんのことも聞いております。マサキさんに取り付いたキモオタの地縛霊ですよね」

「ケンカ売ってんのか!デコっぱち!」

「ああ、すみません!キモオタではなく喪女の霊でしたか」

「それでフォローしたつもりかてめぇ」

「なんでもいいから修練開始しようぜ、時間が勿体ない」

「おお、そうでした。ではしっかりついて来てください、バクシーン!!!」

「「バ、バクシーン!!」」

 

 元気に走りだしたデコっぱちを追いかける俺。ちょっと不安。

 

「おい、委員長!壁!目の前に障害物が」

「バクシーン!」

「「うそーん」」

 

 基地の周囲に建造された外壁を物ともせず破壊して進む委員長。

 よく見るとそこかしこに人が一人通れるぐらいの穴があいてる・・・コレぜんぶ委員長が。

 その後、森へ入ったがかまわず直進。避けるのではなく破壊して進む、後ろにつけている俺は楽なんだが。

 

「直進行軍なんて始めて見た。自然へのダメージが心配だわ」

「ご心配なく!大木や貴重な動植物は一応避けていますから」

「基地の壁はいいのか」

 

 猪突猛進、その名の通りの驀進王。

 歩道や人の多い場所等でウマ娘の全力疾走が基本的に禁止される理由、委員長を見てるとよくわかる。

 こんなヤツに衝突されたら大型トラックすら吹っ飛ぶわ。

 

「ついて来てます?いい感じですね~。では交代しましょう!」

「どういうことだ」

「今度はマサキさんが先行、私が追いかけます」

「直進行軍はしないぞ」

「障害物は躱しても壊してもいいです。とにかく走って走って走りましょう」

「マサキ、障害物競争のお誘いだよ」

「この森全体が修練場なのね」

「私にできるのはただバクシンするのみ、バクシンは全てを解決します!そうですよね?」

「いや知らんけど」

「ただがむしゃらに走るか、そういうの嫌いじゃないわ」

 

 ウマ娘はやはり走るのが好きな生き物だ。

 リブとの手合わせ前にランニングと参りましょうか。

 森を走るのはスぺとの尻尾鬼以来だ、よーしやったるでー。

 

「じゃあ行きましょう!レッツバクシーン!!!」

「「バクシーン!!!」」

 

 森の中を縦横無尽に駆け回る。

 登り坂、下り坂、獣道。道なき道をただ疾走する。

 岩は破壊!川は飛び越える!枝は無視!きのこは回収!木は避けて!熊は無視!ゴリラも無視!

 

「マサキ!今、日本にいてはいけない動物が」

「無視しろ!この世界の生態系は狂ってる」

「デモンの亜種が極稀に現れますからご注意を」

「ほらな、妖機人なんてのがいるんだぞ、今更ゴリラぐらいでガタガタ言うな」

「私もアインストだし、そうだね気にしたら負けだね。落度の極み巨人、完璧おやじ(破滅の王)、霊帝ジジイ、暗黒脳ミソより全然マシ」

「やめーや!全然心当たりないけど、絶対会いたくない奴らを列挙しただろ!なんか鳥肌たったわ!」

「おっと、聞かなかったことにしてね」

「マサキさん、そこ落とし穴です」

「うぁお!あっぶねー!罠を仕掛けた不届き者は誰だ」

「チケ蔵さんです。1週間前デモンを捉えてペットにするって張り切ってました」

「そんな無茶な」

「30分で飽きて、穴はそのまま放置して今に至ります」

「あいつ、後でお仕置きしてやる。てか30分で掘ったにしては深い」

「危ないからちゃんと埋めておこうね」

 

 朝のランニング終了。

 委員長に小さな擦り傷ができていたのでヒーリング。

 俺も騎神たちも回復力は高いので放っておけば半日以内に治るが、早い治療に越したことはないだろう。

 

「ありがとうございます!お時間があればまたご一緒しましょう。では私はこれで、バクシーン!」

「ありがとうバクシン・・・行っちゃったよ。元気ね」

「ブライアンとの手合わせまで時間があるね。どうする」

「ちょっと休憩して自主練する」

「了解~ん?んんん?」

「どうしたミオ、ついに壊れたか」

「バイク放置してたじゃん、その反応が近づいて来てる」

「酔って乗り捨てたヤツかゴルシが回収したのかと思ったぜ」

「情報漏洩を防ぐためにTEエンジンは破壊したし、ラズムナニウムは私がいないとただの金属だから問題ないけど」

「不法投棄したのマズかったかな」

 

 複数ある基地の搬入口から軽トラが入って来た。

 ゲートは顔パス、ウマ娘が運転しているみたいで荷台に俺たちのバイク、メディウス・ロクスが括りつけられている。

 

「間違いない、アレはメディウスだよ」

「すみません~そこの軽トラちょっと止まってください~」

 

 両手をブンブン振って止まってアピール。

 運転席のウマ娘が気づいた、こっち来てくれるようだ。

 あれ?スピード出し過ぎじゃない、そこは徐行する所でしょうが!え、嘘、止まる気ないのか。

 

「きゃ危なっ!」

「仁王立ちで避けないマサキも大概だ!」

 

 キキーーッ!と急ブレーキをかけて俺の眼前で止まる軽トラ。おい、もうちょっとで人身事故だぞ。

 

「さっすが私!今日もバッチグ~ね」

「助手席の私を共犯にするつもりかい、こういった驚かせ方は嫌いだな」

「フジってば、私のドラテク信用してないの~。お姉さんガビーンだわ」

「信頼はしてるよ。信用は最近減り気味だから補充してくれ」

「はぁ~い。ごめんね~えーと、え、あらあら~なんということでしょう」

 

 危険運転をしたウマ娘が俺を見てビックリしてる。

 警戒というより珍しいものを発見した好奇心。

 

「人間!人間よね!それも男の子、ねぇどうやってここに来たの?目的は何?お姉さんに教えてちょーだい」

「やめなよマルゼン、ぐいぐい行き過ぎだ。君、大丈夫だったかい」

「問題ないです。えっと、荷台のバイクですけど、それは俺のなんです。信じてくれますか」

「このオーバーテクノロジーの塊を俺のバイクと言ったね。君は何者だい」

「そうよ。あなたはだぁ~れ?もしかしてここの子たちに酷い事されてる?捕虜?」

「捕虜じゃないですよ。ルドルフには一応歓迎されてます」

「皇帝のお墨付きなら問題ないか。とりあえずこのバイクはすぐには渡せない、悪いようにはしないから一旦こちらに預けてくれないかい」

「なにこのウマ娘、女性なのにイケメン。あなたは信用できる、どうかお願いします」

「ねぇ私は?このマルゼン姉さんには何か言うこと無いの?」

「昭和の香りがしますね」

「チョベリバ!」

「令和の時代に何言ってんだろ、やめてよね死語が多すぎて不快」

 

 両方年下だと思うがバブル世代の価値観をお持ちのウマ娘と、爽やかイケメン風のウマ娘に遭遇。

 軽トラと別れて自主錬をする。バイクの事は後で考えよう。

 

 時間だ、リブが待つ広場へ向かう。

 

「チッ、もういるのか。まだ時間前だぞ」

「5~10分前行動は基本だ。リブこそ早いじゃないか」

「面倒事は早く済ませるのに限るからな」

「言ってくれるじゃないの、今日は昨日のようにいかんぞ」

「無駄だ、今日も10分以内に沈めてやる」

 

 少し距離をとって睨み合う。

 リブは構えもしない、必要ないってか。格下はこちら、胸を貸してもらう立場だ。

 それでも勝つ!負ける気で勝負する奴があるかよ!

 母さんと遊んだ時だって俺はいつも全力だ、負けてもいいなんて思わないし、思いたくない!

 バーストモード解放、この状態でないと勝負にすらならない。

 

「デュエル開始の宣言をしろ!磯野!」

「ミオだよ!誰だイソノって!まあいいや」

「早くしろ」

「いざ尋常に・・・デュエル開始ぃぃぃーーーー!!!」

 

 引いたら絶対負ける。攻めろ最初から全力で行け!

 

「シルフィードアクセル!」

「また妙な風か、それがどうした」

 

 リニアアクセル常時展開は当然として、風、炎、闇を全て使っていかないと。

 無いものねだりしても仕方ないが、水と土があればと考えてしまう。

 

「姉ちゃんのサラサラヘア―見たかコラぁ!!」

「アレはお前の仕業か、ずっと自慢してきてウザかったぞ」

「お前の毛はどうブラッシンブしてやろうかな、へへっ今から楽しみだぜ!」

「変態が、こんなキモイ奴に一瞬でも期待した自分が恥ずかしい」

「こんなんでも好きって言ってくれる奴らがいるのよぉぉぉ!」

「集中してマサキ!気持ちだけで勝てる相手じゃないよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

 昨日よりは粘った、昨日よりもっと痛めつけられた。

 アハハ・・・こいつマジくそ強い。息ぐらい乱せや、こっちはもう心肺機能が限界だぞ

 

「つまらん、昨日の二の舞だ」

「ハァハァ、違いますー。昨日より2分31秒も粘りましたー、ゲホッゲホッ」

「元気じゃんマサキ」

「じゃあな」

「ちょ、待てよ。明日もこの時間でおなしゃーす」

「勝手にしろ」

「あ、ブラッシングしてほしかったらいつでも」

「いらん」

「素直じゃない~」

 

 もう、ブラッシングするって言ったのに。

 これは勝負に勝ったらさせてくれると解釈しておkかな。

 

「損傷チェック、全身打撲打身、覇気の大量消費、骨折なし、臓器及び神経系異常なし、頭は常におかしい」

「おいコラ、誰の頭が常時おかしいって」

「全治半日だね。ご飯食べて寝たら治るよ」

「スルー?まあいい。姐御との修練もあるから2~3時間で治す」

「この回復力も異常なんだよな~。さすがサイの息子」

「フッ、褒めても何もでないぞ」

 

 戦闘疲れで仰向けにダウン、今日も青い空、太陽が眩しい。

 ポカポカ陽気でちょっと眠気が・・・。

 

「うわぁぁぁぁぁんんん!!!マサキさんが死んだよぉぉぉぉおおおおおんんん!!!」

「うるせーーー!!またお前かチケ蔵!死んでねーわ、ちょっと目を瞑っただけだわ」

「良かったぁぁぁぁ!!!生きてたよぉぉぉぉおおおおお!!!」

「ちょ、ヒデさん!タッちゃん!いるんだろ。こいつ回収して!」

「またか、チケット音量を下げろ。本気で耳が痛い」

「そぉい!!!」

「フゴッ!?」

 

 駆け付けタッちゃんがチケ蔵の口に何かを放り込んだ。

 

「もぐもぐ、美味しい~タイシンこれなあに?」

(しな)びたにんじんよ」

「廃棄予定品だな、鮮度は落ちてるがチケットなら大丈夫だろう」

「ちょっと黒く変色してたけどいいのか」

「大丈夫!アタシ賞味期限とか気にしたこと無いから」

 

 萎びたにんじんを完食したチケ蔵は静かになった。

 

「また酷くやられたものだな」

「昨日より粘ったからちょびっと前進だ」

「みーんな見てたよ。ギャラリー昨日より増えてたし」

「アンタをバカにする奴もいるけど気にしないで、勝手に言わせておけばいいから」

「タッちゃん、お気遣いサンキュ」

「それより!ヒドイよマサキさん!」

「俺何かした?」

「昨日みんなで鍋パしたんでしょう!どうして呼んでくれなかったのさぁ!悲しいよぉぉぉおおおお!!!」

「えー、あれは姐御が声をかけたからであって、そもそも俺は鍋パするとは聞いてなかったし」

「そもそもアンタ、昨日20時には寝てたじゃない」

「私はブライアンに髪を自慢していたからな」

「うう~、次は絶対呼んでよ!姐御にも言っておくから」

「おう、機会があればな」

 

 BNWと会話していると他の騎神たちもワラワラ集まって来た。

 

「おいおい、みんな見てたのか・・・恥ずかしい。こんな無様な姿でごめん」

「先程ぶりの委員長です!マサキさん!ナイスファイトでした。バクシン魂を感じます」

「見事な負けっぷりにセイちゃんも思わずニッコリです」

「スカイさん!マサキは十分頑張ったでしょう。少しは褒めてあげないと」

「キングちゃんはマサキに甘々だ~」

「あわわ、酷いケガです~。早く治療しないと」

「傷は男の勲章だよドトウ。それにマサキ君なら半日経たずに完治するさ」

「丁度いい時間だね。マサ公、昼飯を食う元気はあるかい?」

「たべりゅ~」

「じゃあ食堂に行こうね~私が運んであげるからそのままでいいよ~」

「ありがとうボノ、うわぁい高いよ~」

「なぜバーベルのように持ち上げる」

 

 てっきりお姫様抱っこされるかと思ったのに、横になったまま高い高いされた。

 軽々持ち上げたな。なんだコレ、頼むから落とさないで。

 

 ボノに持ち上げられたまま食堂に乱入したので、モブウマがギョっとする。

 俺の周りに有力者が揃っているので何事かと思っているのだろう。

 

「え、まさか食堂で公開処刑」

「さすが姐御たちだ私たちに出来ない事を平然とやってのける」

「そこに痺れる憧れるぅ!!!」

「やだ、ご飯がマズくなるから他所でやってほしい」

「リンチ?リンチするの、いや、それはあまりにも」

「寄ってたかってヒデェ、これが騎神のやり方か」

「結局、人間とは相容れないのね。悲しいわ」

 

 凄い言われようwwwなんか笑えてきたわwww

 あ、タッちゃんがキレそう。よし、ヒデさんが落ち着かせて、ひぃ!姐御とキングもなんか怒ってる。

 

「はぁ~い皆、一旦落ち着きましょうね。短気は損気よ」

「「「「マルおば!!!!」」」」」

「おば!?ちょっと!今「おば」って言った子、出てきなさいよ!」

「君がキレてどうするんだ。また会ったね人間君」

「「「「キャーッ!フジ様ーーー!!!!」」」」

「二人とも帰ってたのかい、アタシらは・・・かくかくしかじか」

 

 軽トラに乗っていたウマ娘たちと早くも再会。

 ボノさん、もう降ろしてください「採ったどーーー!」みたいになってるから恥ずかしい。

 

 大所帯になったので食堂の一角を占領して着席。

 

「マルゼンスキーよ。聞いたわよ~ブライアンちゃんを落としたいのね!応援しちゃうから」

「そうですね。物理的に叩き落としたいです」

「フジキセキだ。君がどんなキセキを起こすのか楽しいみだね」

「うほ!イケメン~」

「マサキ、ご挨拶」

「アンドウマサキ、人間、性別男、愛バがかくかくしかじか大変なので覇気くれたら嬉しいです」

「ミオ・サスガ、幽霊みたいなもんでマサキに憑りついてます」

「お前、自分の説明どんどん面倒になってるだろ」

 

 自己紹介終了!俺の目的も話したぞっと。

 

「マルさんとフジって呼んでいいかな」

「おっけ~」

「かまわないよ」

「覇気を分けてほしいです。お願いします」

「いいわよ、はいどうぞ」

「右に同じだ。遠慮しないで持って行ってほしいな」

「何の問題もなくスムーズに行き過ぎてビックリ」

「こういうこともあるよ」

「だって時間の問題でしょ。どうせみんな覇気あげちゃうんだから」

「愛バのために頑張ってる君を見捨てるほど薄情じゃないよ」

「ありがてぇ!このお礼は必ず」

「ねぇねぇ~早く食べないと食堂混んじゃうよ」

「おっと、二人とも覇気吸収はオーダーした後でお願いします」

「はーい、何食べよっかな~。最近のトレンドはタピオカミルクティーかしら」

「それはもうオワコンだね」

 

 マルゼンスキー

 茶色い毛並みで、どこか古臭い言葉遣い(死語)を好むウマ娘。バブル世代?

 高いポテンシャルをもっているようで、ルドルフたちに迫る程の覇気をひしひしと感じる。

 だからといって偉ぶる様子もなく、親しみやすいので皆から慕われている。

 気のいいお姉さん。

 

 フジキセキ

 黒い毛並みにショートカット、ボーイッシュなウマ娘。イケメン!

 女子高に居そうな女子にモテる女子というやつだろうか。

 タラシではなく、親身になって相手に寄り添うのでとても好感が持てます。

 心までイケメンですか、そうですか。

 

 公開ドレインにて二人から覇気をゲットした。

 

「これがENドレイン、イケイケでチョベリグな技ね」

「お褒め頂きどうも」

「なるほどね、こうちゃって沢山のポニーちゃんを撫で回して来たんだね」

「合意の上です」

「強い覇気を持ってるウマ娘なら御三家のお嬢様たちがいいんじゃないの」

「そんな簡単に会える存在じゃない、無茶ぶりがすぎるよマルゼン」

「そ、そうっスね。機会があればダメ元で訪ねてみようかな~なんて、アハハ」

 

 サトノ家のお嬢が愛バでメジロ家は攻略済み、ファイン家はこれから会う予定ですけどね。

 わざわざ説明するのも嫌味ったらしいし、面倒臭いので今はやめておこう。

 ネタばらしは追及されてからでいいや。

 

 昼はおすすめメニューの生姜焼き定食にした。

 山盛りのキャベツにみそ汁、ホカホカご飯に漬物もついてる。

 豚肉は薄切りだが味が良くしみ込んで美味!こういうのでいいんだよウマーい。

 

 「生姜焼きを選ぶのはしょうがない」という発言をした皇帝がいたような気がしたがスルー。

 それを聞いてやる気を下げた女帝もスルー。気のせい気のせい。

 二人なら今頃、セレブ御用達の高級レストランでランチしてるよ、多分。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ブライアンとやり合った後に、これだけ動けるとはね」

「昼飯が美味かったので回復しました」

「そいつは良かった、アレを監修したのはアタシだから嬉しいね」

「さすがっス、今度料理教えてください」

「そいつはアタシを満足させてからだね」

 

 昼食後に皆と別れて姐御と修練開始。

 とりあえずで始まった組手を休憩を挟みつつ何度も行う。

 姐御は持ち前の観察眼で俺の隙や無駄な動きを教えてくれる。

 一人では気付かない所を指導してもらえるのは凄く助かる。

 

「姐御はリブと手合わせしたことがありますか?」

「そりゃあるさ。出会った当時はまだアタシの方が強かったね。今じゃすっかり追い抜かれちまったよ」

「確かにリブは強い、でも姐御もまだまだこれからだと思う。だってまだ十代でしょ、俺二十歳っスよ」

「そうだね勝手に見切りをつけてた自分が情けないよ、ブライアンに突っ込んで行くアンタを見てたらこっちまで燃えてきた」

「まずは俺が一矢報いるんで、ご協力お願いします」

「ああ、あの一匹狼気取りを泣かせてやろうじゃないのさ」

「泣顔想像できないっス」

「だろうね」

 

 姐御との修練は大変有意義でした。

 仕事がある姐御と別れて、待ち合わせ場所に向かう。

 

「良かった逃げずに来てくれた、待ってましたよマサキさん」

「待たせたなセイちゃん。で、俺は何を手伝えばいいの」

「今日はとある部屋のお掃除です。では行きましょう」

 

 セイちゃんとウマ娘の居住棟へ、4階建ての建物最上階角部屋が目的の場所だった。

 ドンドンっと遠慮のないのノックした後、部屋にいるであろう住人に声をかけるセイちゃん。

 

「こんちは~セイウンスカイとアンドウマサキさんが来ましたよ~」

「はぁ~い、ちょっと待って今開けるから」

「この声、マルさんか」

 

 ラフな部屋着を着たマルさん登場。ここで寝泊まりしてるのか。

 

「いつも悪いわねスカイちゃん。今日もよろしく頼むわ、マサキ君もシクヨロ~」

「なに逃げようとしてるんですか?散らかしたのはマルゼンさんでしょ、三人でやるんですよ」

「私に片付けろって言うの?無理よ」

「あの、玄関まで溢れたダンボールは何でしょうか」

「通販って便利よね~ついついポチッちゃって」

「もう理解しましたねマサキさん。この汚部屋の掃除が我々の任務です」

「特殊清掃キタコレ!マルさんは片付けられない女だったか」

「アハハ、一応、水回りは何とか死守してるんだけどね。本当にごめんね」

「頭を上げてください。これはサボり魔セイちゃんへの罰なんで、お気になさらず」

「なあ、Gが飛び出てきたりしない?そんな事態になったら迷わず帰るからな」

 

 足の踏み場が少ない廊下を通って部屋へ突撃~。

 ダンボール箱の山だ、ネオさんの積みプラモ部屋を思い出す光景。

 

「どこで寝てんの?ここ部屋じゃなくて倉庫だろ」

「ベッドは久しく見てないわね」

「もう、何やってるんですか。ゴミはちゃんと分別して決められた場所に捨ててくださいよ」

「ミオ、起きてるか」

「んあ?ごめんちょっとメンテ入ってた。何か用」

「Gの反応はあるか?」

「ちょっと待って・・・奇跡的に大丈夫みたい」

「良かった~。Gってキモいし怖いから大っ嫌い」

「ここより、マサキの寝床の方が」

「シャラップ!!知りたくないから言うな!姿さえ見せなければこちらからは手を出さないでやる」

「一見綺麗に見える場所にいるんだよね。おお怖い怖い」

「あ、なんか踏んだ!」

「そこにあったのね、食べかけのお煎餅」

「こっち見て!かなり昔の遊戯王未開封パックがある」

「オークション出品不可避」

「大量の一升瓶が転がってるんだけど・・・」

「全部醤油よ」

「ですよね~。まさかお酒ってことはないよね~」

「へぇー最近の醤油って獺祭とか魔王って名前なんだ、へぇー」

「何も見なかったぜ」

「遺品整理してるみたいだね」

「ゴミに囲まれての孤独死・・・マルさん、どうか安らかに」

「ちょっと!縁起でもない事言わないでよ」

 

 時折出てくるお宝を発掘しながら汚部屋掃除。日が沈む頃には何とか片付きました。

 

「ありがとう~お礼に渾身の一発ギャグを見せてあげる。だっちゅ~の」

「おぱーいを寄せて何やってるんですか?ぱふぱふしてあげちゃうの合図ですか」

「伝わらないか~、きっと人間にはまだ早すぎるのね」

「同族のウマ娘にも伝わってませんよ。それと早いのではなく古いのです」

「そうだわ、今度私のタッちゃんに乗ってドライブしましょう」

「タッちゃんに乗ってドライブ?・・・鬼ですかアンタは」

「マサキさん、勘違いだから、タイシンのことじゃなくてマルゼンさんの愛車のことだよ」

「焦った、タッちゃんに無理やりおんぶさせた挙句、長時間酷使するのかと思った」

「まあ、ウマ娘ならそれぐらい出来ないこともないけど」

 

 車よりウマ娘に背負ってもらった方が早い事もある。

 歩道、車道、ウマ娘用のレーンがある世界だからな、さもありなん。

 小学校の運動会で体格のいい父親をウマ幼女が軽々運ぶ競技風景はよくある。

 絵面が悪いが現実なのよね。

 

「小柄なタッちゃん背負われるなんて・・・いいかも」

「いいんかい」

「タイシンちゃんあれで結構パワーあるわよ。舐めちゃダメ絶対」

「体の大きさとパワーが比例しないのは身をもって理解してますとも」

「ブライアンちゃんにアレだけボコられてればね」

「そういえば、俺のバイクどうなりました」

「ああそうだった、格納庫に保管してあるから必要なら取りにいって、要らないならこちらで処分するわ」

「マサキ!回収しにいくよ」

「がってんだ」

「またね~」

 

 セイちゃん、マルさんと別れて格納庫へ。

 

「あった!会いたかったよ我が半身よ~」

「修理できそうか?」

「時間はかかるけどなんとか、申し訳ないけど手押しで運んでよ」

「ういーす」

「エンジンは普通の奴に交換かな、ラズムナニウムはまだ生きてるから」

 

 ミオがブツブツ言い出した、今後の修理計画でも練っているのだろう。

 

「こんな所にいたんだねマサキ君。それが君を運命の旅路へ導く二輪かい」

「ちょっと修理が必要だけどな。オペはどうしてここに」

「君を探していたのさ、喜びたまえ!明日の昼食後、僕らの舞台が幕を上げるよ」

「来たか、お手柔らかに頼むぜ。台本はあるか」

「そんな無粋な物は必要ないさ!感じるままに演じてくれればいい!」

「アドリブでやれってことね。どうなってもしらんぞ」

「演劇か、まあ頑張ってね」

「他人事だと思って」

 

 ふーむ、どうしたものか。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「安請け合いしちゃったかもな」

「明日の午後からだよね~私も見に行くから頑張って」

「ボノはオペの寸劇に出たことある?」

「まさか、基本オペちゃんの一人芝居だからね。マサキさんにオファーしたのだってビックリだよ」

「オペなりに俺をテストしてるってことか、考えても仕方ないから今は風呂を満喫するぜ」

「そうそう、今はお風呂でリラックスタイムだよ~」

「ふぅ、いい湯だな」

「だね~」

 

「なんで!!!あなたがここにいるのよ!!!」

 

「うるさいのが来たな」

「だね~」

「ア、アケボノさん!自分が何してるかわかってるの?」

「マサキさんと混浴してる」

「もう、風呂ぐらいゆっくり入らせてよキンタロー」

「キングヘイローよ!なんで混浴?そもそもここはウマ娘の居住棟、許可のない人間は立ち入り禁止よ」

「寝床の風呂が壊れたんだよ、冷水しか出なくなってな。皇帝に頼んだらここの大浴場使っていいって」

「そ、そう。なら問題ないのかしら」

「20時~21時限定でここは混浴なんだよ。知らずに入ってきたキンタローが悪い」

「連絡ミスがあったのかもね~」

「私の前にスカイさんが来たと思うのだけど」

「脱衣してる最中に遭遇した、セイちゃんは真っ赤な顔して立ち去ったぞ」

「スカイさん、飄々としてるけどピュアだから弄らないであげて」

「わかるわ~ブラッシングの時も結構緊張してたし」

「男を手玉に取ろうとして、本気になった相手にわからされちゃうタイプだね~」

「それ本人の前で言わないで、泣いちゃうわよ」

「で、どうすんのキング?早くドア閉めてよ寒い」

「腰にタオルを巻いているのよね」

「フッ、湯船につかるときはフルフロンタルさ」

「こっちを見ないこと!湯船から出たら即アレを隠すこと!いいわね」

「はーい、一名様ご入浴~」

「結局キングちゃんも入るんだ、意外」

 

 ミオがバイクに掛かり切りになっている間にお風呂。

 サバイバル生活中に慣れた俺とボノ、羞恥心?知らんな。

 キングはギャーギャー言いながらも結局混浴した。

 途中から俺に目隠ししやがって、どんなプレイだよ興奮するじゃないの。

 三人でまったりしていると、他の騎神たちが来て騒ぎになったので退散。

 部屋に戻ると修理疲れしたミオが待っていた。

 動かせるようになるにはまだ時間がかかるらしい。

 黒いちびスライムが俺の腕に巻きついて装着完了!

 

「いいお湯でした。クロとシロが起きたら温泉に行くってのもいいかもな」

「愛バの居ぬ間に他のウマと混浴する操者、このクズ」

「不可抗力!俺の心はいつでも愛バたちでいっぱいよ」

「クロちゃんとシロちゃんだっけ、もし二人が他の男と風呂入ってたらどうすんの?」

「俺がショック死する」

「嫌だよね悲しいよね?愛バにそんな思いさせちゃダメだよ」

「マジですんません。俺がバカでした」

「謝るなら私じゃなくて二人にね」

 

 必要とはいえ、いろんなウマ娘たちと仲良くなったことをあいつらはどう思うのだろうか。

 ちょっとマーキングされただけで発狂した前科があることだし。

 見捨てられないように気をつけないと。

 

 今夜は愛バに謝罪しながら眠りについた。

 

「ごめんクロシロ・・・頼むから捨てないで」

「浮気したヒモ男みたいな寝言だ」

 

 



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るる

 マルさんとフジと知り合った、後バクシンも。

 バイクが戻って来たので修理中。

 

 

 力が欲しいですか

 

 (何だ・・・誰だ・・・)

 

 力が欲しいですか

 

 (よくわからんが、もらえるものはもらっておこうかな)

 

 力が欲しいなら

 

 (ねぇ聞いてる?)

 

 あげます・・よ・・え!嘘?男の人・・・なんで!!!

 

 (知らんがな)

 

 ど、どうしようこんなことって・・・あわわ。

 

 (トラブルが発生した時こそ冷静に、今日の所は一旦帰ったらどう)

 

 そうですね、しっかりしないと・・・すみません、お言葉に甘えて一旦戻ります。

 

 (どこのどなたか存じませんが気を付けてお帰り下さい)

 

 はい、日を改めてまたお会いしましょうね。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 夢の中で誰かに声をかけられた。不思議とハッキリ覚えている、あれは何だったのだろう。

 「力が欲しいか」ってARMS思い出したぞ、もしかしてジャバウォックさんですか?

 大好きな漫画です。主人公の両親がガチで強くてカッケーのよ。

 

 変な夢を見ても朝はやって来る。

 早朝バクシンを終えた俺は委員長に覇気提供をお願する。

 快くOKしてくれました。

 

「どうですか!来てますか!」

「めっちゃ来てるぞ・・・よっし完了。ありがとう委員長」

「どういたしまして!いつの日かマサキさんの愛バもご一緒にバクシン出来たらいいですね」

「そいつは楽しそうだ」

 

 UC基地滞在三日目。

 サクラバクシンオーの覇気を手に入れた。

 ドレインは順調そのものなんだけど。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あ、ありがとうござい・・・ました・・・」満身創痍

「ふん」 

 

 リブとの手合わせ三戦目。今日もノックアウトされました。

 機嫌が悪いのか鼻を鳴らして立ち去るリブ、怖ぇーよ。

 

「めっちゃ怒ってたね、怒りのパワーでボコボコだ」

「せっかくのピーマンが・・・食べ物を粗末にしちゃダメなのに」

「そこは安心して、チケ蔵が回収して食べてたから」

「あいつ何でも食うよな。拾い食いは褒められたことではないが今回はGJだ」

 

 体が痛いので仰向けのままボーっとする。そろそろチケ蔵たちが来そうな予感。

 

「あ、あの」

 

 なんと、知らないウマ娘たちが近づいて来てた。覇気は微弱なので騎神ではない。

 どなた様?もしかしてモブっ子ですか。

 

「お、応援してます」

「全然カッコ良くはないけど、見てます」

「がんばって」

「はぁはぁ、苦痛に歪んでる顔、素敵」

「別にアンタのことなんか好きじゃないんだからね」

「え・・・ど、どうもありがとう?」

 

 もしかして応援してくれてるのだろうか。

 俺のやられっぷりが憐れで同情してしまったとか。

 

「きゃー話しちゃった」とか言いながら走り去って行くモブっ子たち。

「どうだった?」「男だった」「そうじゃなくてさぁ」「覇気ヤベェ」「なんかいい匂いした」

 

「今の何だったんだ」

「ちょっとは人気出てきたんじゃないの、この調子でいいね!とフォロワーを増やしていこう」

「冷やかされただけだと思うぞ。痛たた、リブの奴思いっきり殴りやがってこんちくしょーめ」

「何よあいつら、最初はマサキのこと毛嫌いしていた癖に」

「ピーマンさん苦くて美味かったよぉぉぉ!!!」

 

 モブにガンを飛ばすタっちゃんと拾い食いのチケ蔵がやって来た。

 

「秘密道具のピーマンはダメだった、しかし、俺はしつこいので諦めません」

「粘着マサキだ、トリモチぐらいねちゃねちゃしてそう」

「ルドルフに会いに行くぞ、ふん!・・・ダメだ、まだ立てない」

「まだ動かない方がいいわ、昨日より酷くやられてるから」

「心配ありがとう、タッちゃん。あれ?ヒデさんは」

「さあ、妹に用でもあるんじゃないの」

「マサキさん次は何を食べたらいい?」

「草でも食ってろ」

「この辺の雑草は美味しくないんだよ」

「既に試食済みだと・・・まあいい、それより膝貸して」

 

 チケ蔵の膝を無理やり枕にして休憩、なんだよこいつ結構胸あるな。

 アホだけどしっかり女の子だった。

 

「タイシン〜「なんで私に頼まないのよ、バカ」って顔してるよ」

「は?そんな顔してないし」

「コラコラ、ケンカしちゃだーめ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今日はいつも以上に荒っぽかったな」

「姉貴か、あいつがふざけたマネをするからだ」

「フフッ、まさかあんな行動をするとは。さすがの私も見抜けなかったよ」

「笑い事か、どうせ姉貴が余計なことを言ったんだろ」

「お前の弱点を聞かれたのでな「妹は野菜嫌いだ」と答えたまでだ」

「クソっ!あのバカ」

 

 三日目も律儀に現れたマサキ。

 あれだけボコってやったのに諦めて無い様子。

 

 本日の手合わせ開始直後、こともあろうに奴は右手に隠し持っていたピーマンを私の口にねじ込もうとして来た。

 

「好き嫌いすんな!食えやオラッ!」

「な!?」

「動揺した?マサキ効いてるよ!」

「何を考えている、気でも狂ったか」

「平常運転ですけど何か?豆苗咥えてる暇あったらピーマン食えぇぇぇっ!」

「こいつ・・・」

 

 ピーマン片手に本気で襲い掛かって来るバカに思わず力が入ってしまった。

 何とかピーマンは弾き飛ばしたが、その後もしぶとかった。

 本当になんだコイツ、昨日よりも動きが良くなっているのも意味不明だ。

 まさか成長したのか?こんなに早く。

 

 大の字に倒れたバカを放置して立ち去る、不覚にも今日は少し息が上がった。

 

「少しは彼のことを認めたか」

「どうしてそう思う」

「やれやれ気付いていないのか、顔がニヤケているぞ妹よ」

「・・・は?そんな訳ないだろう」

 

 理論派の癖におかしなことを言う姉貴。

 私ただ鬱陶しい人間を排除しただけだ、他意はない。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 執務室に突撃―――!!!

 

「うわ~ん!ルドえもん~!」

「やかましいぞたわけが、ノックぐらいせんか!」

「やあ、マサキ君。どうしたんだい、またブライアンにいじめられたのかな」裏声

「そうだよ!あいつ無茶苦茶するのよ!なんとかしてよ~ルドえもん~」

「仕方ないな~マサキ君は、渡したピーマンは使ってみたかい」裏声

「なんの成果も得られませんでした!」

「当たり前だバカタレ」

「ふむ、では次の策を考えなくてはね」

 

 リブとの手合わせ前にバッタリ出くわした俺とルドルフ。

 ブライアン攻略法を相談してみた所ピーマンを渡された。

 ヒデさんから「野菜嫌い」を聞いていた俺は「これならいける!」と思ったが甘かった。

 なんでルドルフがピーマンを持っていたのかは本当に謎。

 

「とても嫌そうな顔は見れたけど、余計に怒らせちゃった。お蔭で昨日よりボコボコですわ」

「それはすまなかったね。もし彼女の口に入れることが出来れば、決定的な隙を作れると思ったが」

「こいつら正気か・・・ああ、頭痛い」

 

 こめかみを押さえて唸るアグルをよそに、ソファーに座ってぐてーとする。

 向かいにはルドルフが足を組んで座っている。おや、チラチラ見えそうですぞ。

 見えそうで見えないのがポイント高い。

 

「くつろぎ過ぎだ、たわけ」

「たわけです。アグルも何か考えてよ」

「そもそもブライアンの攻略法をなぜ私たちに聞く?」

「強い奴にアドバイスを求めて何が悪い!か弱い人間を救うのも強者である騎神の役目でしょ!」

「まったくもってその通りだね」

「皇帝はこの男に甘すぎます」

「それはお互い様だろうエアグルーヴ、君はもう覇気をあげたそうじゃないか」

「う、それは、このたわけがあまりにも・・・みっともなかったもので」

「・・・ぽっ////]

「頬を染めるな!気色悪い」

 

 そうなのです。アグルの覇気は既にドレイン済みだったりします。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 昨夜、なんだか寝付けなかった俺はコッソリ部屋を抜け出して修練しておりました。

 それをエアグルーヴことアグルに見つかった。

 

「こんな時間に何をしている」

「ふっ、見て、ふっ、わからないか、ふっ、そこっ!」

「不審者が一人でクネクネしているようにしか見えん、正直キモイぞ」

「ほっとけ!今はエア戦闘中なの!イメージが崩れるから邪魔しないで!シッシッ」

 

 仮想敵はもちろんリブ、俺が創造したイメージなのに勝てる気がしない。

 落ち着こう、冷静になれ、こんな所で終われないだろうが!

 勝つ、勝って覇気を手に入れる。大好きなあいつらが待っているんだぞ、やってみせろよ!

 

「おい」

「え、は、何」

 

 不意にタオルを頭にかけられた。

 

「アグル?まだ居たのか」

「集中しすぎだ、あれからもう2時間以上経過している。まずはその凶悪な覇気を収めろ」

 

 気付かなかった、そんなに経っていたのか。

 アグルは一旦自室に帰ったが、俺の覇気を感じてわざわざ戻って来てくれたらしい。

 

 エアグルーヴ

 キッチリ整えられた黒い毛並みに鋭い眼光のウマ娘で女帝と呼ばれる。

 皇帝ルドルフの右腕であり、強く気高いウマ娘の理想を体現する存在たらんとする。

 そのストイックさに痺れる憧れるぅ!

 自他共に厳しいが、本当は優しいの知ってるよ。高い実力を誇る本物の出来る女。

 趣味、園芸と家庭菜園。

 

「心配してくれてありがとう。でもまだ足りないんだ」

「だから貴様はたわけなのだ。これ以上は明らかなオーバーワークだ、今すぐ部屋に戻って寝ろ」

「ええー」

「ええーじゃない。これは命令だ、素直に従え。貴様が覇気をまき散らすせいでこっちが眠れないんだ」

「う、迷惑だったか・・・ごめん」

「捨てられた子犬のような目をするな。ええい、妙な罪悪感が」

「・・・俺ってダメダメだな、リブには勝てないし、こんなんじゃお前たちの覇気をもらうなんて夢のまた夢」

「根性無しが、お前がそのザマで愛バたちを救えるのか」

「クロ、シロ・・・うう」(´;ω;`)ウゥゥ

「泣くな!みっともない!ああもう、私の覇気をくれてやるから泣き止め」

「俺まだリブに勝ってない」

「特別に許可してやると言っているんだ。その代わり情けない姿を見せるんじゃない」

「ありがとうございます!その優しさに最大級の感謝を」

「勘違いするな。貴様のためではない、たわけを操者に選び茨の道を歩む同胞のためだ」

「正しいツンデレありがとうございます!では遠慮なく~」

「終わったら早く寝ろ、夜更かしは万病の元だ」

「これが出来る女・・・マジ尊敬します」

「いらん世辞はいい、さっさと済ませろ」

「うわ~、髪の毛サラッサラやんけ!いい匂いするし」(はい、すぐに終わらせます)

「たわけ!本音と建て前が逆だ!////」

「大変失礼しました!照れたあなたも素敵です」

 

 と言うことがあったわけよ。

 

「真夜中の逢瀬とはロマンティックだね」

「そういうのではないです。勘違いはやめて頂きたい」

「アグル、ここにあるお菓子食べていい?」

「それは皇帝の」

「かまわないよ、せっかくだから一緒に食べようか。エアグルーヴも付き合ってくれ」

「ハァ~・・・お茶の準備をして来ます」

 

 執務室からアグルが出ていった。残った俺とルドルフはリラックスして会話する。

 敬語はいらない、自然に仲良く話してくれと言われているのでため口だ。

 お、どら焼きがあるじゃん。

 

「皆とは仲良くやっているようで安心したよ」

「いい奴らばっかだから助かってる」

「僅かな時間で君は多くの騎神から信頼と覇気を勝ち取ったようだね」

「後はオペとリブ、そしてルドルフお前だけかな」

「まさか、あのエアグルーヴが覇気を提供するとは思わなかったよ」

「アグルの優しさに救われた、本当にありがてぇ」

「みんな君には何故か手助けをしてあげたくなる。一種の才能だね、それこそが君の真の力なのかもしれない」

「つい世話を焼いてしてしまうぐらいダメダメ人間なのか俺は、凹む」

「卑屈になることはないよ、人望があるのは素晴らしいことさ」

「そういうもんか、はい」

「いいのかい、では遠慮なく」

 

 一個しかないどら焼きを半分こして二人で食す。美味しいものは共有したいのです。

 

「「うまーい」」(゚д゚)ウマー

 

 つぶあんがメッチャ美味い、和菓子好きと言えば、グラスたちは元気にしてるだろうか。

 

「そうだ、私にはあだ名を付けてくれないのかい」

「ん?つけた方がいいのか、キングがカイザーって呼んでるからエンペラーとかにする?騎神皇帝とか超カッコ良くない」

「もっとこう親しみやすいのがいいな」

「じゃあ、ルドルフの"ル"を二つとって"ルル"」

「風邪薬みたいだね」

「俺はギアスを思い出したけど、どうかな?」

「うん、それでいいよ。フフッ、皇帝には少々可愛いが過ぎるかな」

「お前の顔は元々カワイイ系だから似合ってるぞ。威厳は行動と気合で保つようにしてね」

「本心から言っているのがわかるから質が悪い」

「ルル」

「なんだい」

「呼んでみただけ」

「そうか////」

 

 シンボリルドルフ

 全体的に茶色の毛並みに前髪はこげ茶、その一房が三日月のような曲線を描く白メッシュのウマ娘。

 皇帝の異名をもち、実力、人格、政治手腕は飛び抜けている。

 トレセン学園生徒会長にしてUCの代表も兼任するとか、どんだけ優秀なんだよ。

 全てのウマ娘たちが幸福になれる時代を目指す理想主義者。

 人間のことも軽視していない人格者。名前負けしていない圧倒的な覇気は姉さんクラスだ。

 こいつマジで超クソ強い、リブに勝てない俺では太刀打ちできないぞ。

 お笑い好きでダジャレを考えるのが趣味、話してみると気さくで凄くいい奴。

 

 あだ名はルルに決定してやったぜ。

 

「あの、お茶が入りました」

「居たのかエアグルーヴ」

「皇帝の照れ顔はしっかり激写しました。テイオーが見たら卒倒しますよ」

「それはやめて」

「テイオー?トウカイテイオーのことか。あいつからも覇気もらったんだよ」

「そうだったのか。あの子はどうだった、ワンパクだっただろう」

「危ない所を助けてもらったぜ。マヤと一緒に三人でヤンロンをボコった仲だ」

「ヤンロン教官をボコっただと!何をやらかしているんだ貴様は!」

「そっか、あの時ルルたちはここにいて不在だったんだな。えーと実は」

 

 トレセン学園に寄った時の話をする。

 姉さんとの関係は一応伏せておくか、テイオーとマヤとチームを組んだヤンロン戦。

 あのチビっ子たちは、うん、きっと今も元気に走り回ってるさ。

 

「教官を倒して、たづなさんから覇気を入手したのか。是非とも見学したかったな」

「我々の不在時に学園が無法地帯に・・・」

 

 テイオーが憧れている存在がルルだと判明。そりゃこれだけの逸材に惚れ込むのも無理はない。

 あの時、トレセン学園から留学していたと言うのは嘘。

 学園を度々抜け出すブライアンを連れ戻すためと、UC基地の構造改革をしていたらしい。

 

「学園で会えなかったときガッカリしたけど、ちゃんと会えて良かった」

「我々には縁があったというこだね」

「貴様、日本各地で散々やらかしているようだな」

「人聞き悪い~。そうだ、出会った殆どの奴がトレセン学園志望だって言ってたぞ」

「ほう。君と縁を紡いだ騎神が学園に・・・楽しくなりそうだ」

「やる気が下がった」

「「なんでさ!!」」

「たわけが選んだ騎神など問題児だらけに決まってます。今から頭痛が・・・」

「自分もその枠に入ってるの気づいてる?」

「炭酸水を飲んだソーダ」

「ルルどうした急に?」

「更にやる気が下がった、もう絶不調です」

「場を和ませようと思って」

「ギャグとはそれを発言すべき空気とタイミング、会話の流れ、相方との呼吸、聴衆の反応や好み、様々な要素を加味した上で行うべきものです。皇帝には何よりセンスが足りない」

「すっげー的確な指摘、アグルは笑いにも厳しかった」

「えっと、あの、本当に申し訳ないです」ションボリ

 

 あーあ、落ち込んじゃったよ。落ち込んだシンボリルドルフか・・・ふむ。

 

「ションボリルドルフ」

「プッッッ!アハハ何を言ってるんだ貴様はwww」

「ちょっと待ってーーー!!!」

「「何?」」

「私の時と随分対応が違うじゃないか!吹き出すエアグルーヴなんて久々に見た!」

「それはその、なあ」

「ああ、そういうこともあるよ」

「ズルいぞちくしょう!どうしてだ、なぜ、私のダジャレで笑ってくれないんだエアグルーヴ」

「すみません皇帝、私は自分の表情筋に嘘をつきたくないのです」

「そんなに嫌か!!!」

「ああもう、よしよし」

「うわーんマサキ君、エアグルーヴがいじめる~」

「うは!幼児退行ルルちゃんかわええ」

「最初と立場が逆になってますよ」

「覚えていろ、いつか私のダジャレで爆笑させてみせる」

「それはない」キッパリ

「ヒデェwww」

 

 駄々っ子のように悔しがるルルに威厳もくそもなかったが微笑ましいので良しとする。

 結局、お菓子食って駄弁っただけだった。でもちょっと元気出たぞ。

 リブ対策はまた今度相談しよう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どういうことなの」

「これも僕の人徳故と言いたいが、どうやらお目当てはマサキ君のようだ」

「ごめん、観客なんていても数人だと思って舐めてた」

「あわわ、私だったら緊張で気絶しちゃいます~」

「エンターテイナーの私としては羨ましい限りだね」

 

 オペと俺の演劇、ガラガラの舞台、5分ぐらいの寸劇でさっさと終わるつもりだったのに。

 なんと観客がいるんですよ・・・仕事しろ。

 

 主演、オペラオー おまけ、俺 エキストラ、そこら辺の暇人

 裏方、ドトウとフジ 

 

「なんでだよ、ボノやキングたちはまあわかるが、モブがメッチャ見に来てる」

「30人はいますね~」

「観客を待たせるのは僕のポリシーに反する。開演時間を前倒しして始めようじゃないか!」

「え、ホントにやんの?アドリブだろ、上手くいくのかこんなの」

「大丈夫、君の中に眠る魂を解き放つんだ。それで全て上手くいく」

「眠る魂・・・ハッ!まさか奴のことか」

「ドトウ、フジ先輩、裏方をよろしく頼むよ」

「お任せください~がんばりますから~」

「ドトウ君のフォローは任せてくれ」

「さあ舞台の幕開けだ!共に輝こうじゃないかマサキ君」

「ええい、こうなったらやけくそだ」

 

 場所はリブと手合わせしている広場の中央、他と違いここだけ一段高くなっている。

 舗装された石造りの地面が俺たちの舞台だ。

 

 ざわ・・・ざわ・・・。

 

「あ、出てきた」

「始まるよ~みんな静かに~」

「なんか二人とも役に入った顔してる」

「「「きゃーーー!!!オペー様ーーー!!!素敵ーーー!!!」」」

「うるさっ!」

「オペラオーの追っかけかよウゼェ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 時は中世ヨーロッパぽい異世界のよくある話。

 魔王に脅かされた世界を救わんと単身旅立った勇者オペラオー。

 彼はある日、運命の出会いをする。

 

「今日は風が騒がしいね」

「フッ、だがこの風少し泣いている。そう思わないかオペラオー」

「どうして僕の名を、君は誰だい?」

「俺の名はアサキム、お前と同じ神に選ばれた光の勇者だ」

「な、まさか、君も特異点だったのか」

「ああ、急ぐぞオペラオー、風が止む前に」

 

 こうして運命に導かれた二人の勇者は出会ったのであった。

 

 そこから数多くの激戦を繰り広げ二人は着々と強くなっていった。

 最初は二人だったが、彼らの武勇に憧れた者、希望を見出した者、腐女子たち、多くのを仲間が集い、今や一大軍勢になっていた。

 この頃になると二人の絆はもはや一心同体レベル、ホモ疑惑が噂される程であったという。

 

「くっ!敵の幹部を倒したのはいいが、罠だったか」

「諦めるなオペラオー、俺たちならやれる。今までどんな困難も二人で乗り越えたじゃないか」

「そうだな、アサキムの言う通りだ!みんな撤退だ、ケガ人には手を貸してやれ」

「「「了解しました」」」

「はっ!?オペラオー危ないっ!」

「アサキム!」

「ぐあっ!・・・大丈夫、致命傷だ」

「そんなアサキム、僕を庇って」

「報告します!敵の増援です。このままでは退路が」

「オペラオー・・・行け」

「ば、バカなことを言うな!友を置いて行けるわけが」

「甘えるなーーー!!!」全力パンチ

「がはっ!」

「オペラオー、お前には世界の命運と仲間たちの命がかかっている。判断を誤るな!」

「しかしっ!」

「舐めるなよオペラオー、俺がこの程度でくたばると思うのか」瀕死吐血中 

「あ、ああ、僕は」

「オペラオー様!もうここはもちません!すぐに撤退を!」

「行け!オペラオー!行って魔王を倒せーーー!!!」

「すまないアサキム!死なないでくれ!全軍撤退!」

「フッ・・・最後まで甘ちゃんだったな・・・」

 

 無二の親友を失ったオペラオー、崩れおちる敵幹部の城が墓標となったアサキム。

 友との誓いを胸に打倒魔王を固く誓うオペラオーであった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「「アサキムーーー!!!」」」

「泣くな、彼は最期まで誇り高い勇者だったんだ」

「なんだコレ、割と面白いぞ」

「オペ様はいつも通りだけど、人間の熱演がヤバい」

「うん、なんか引き込まれちゃう」

「うあぁぁぁぁぁんんん!!!アサキム死んじゃったぁぁぁあああああ!!!」

「チケットがうるさくて集中できない」

「・・・・」

「タイシンが無言で絞め落とそうしてくるよぉぉぉぉ!!!」

「マサ公に演技の才能があったとはね」

 

 なんか観客が倍ぐらいに増えてる。アドリブ100%だったがアレで良かったのか。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ついに魔王の城へ辿り着いたオペラオー。

 多くの犠牲を払い玉座の間で待っていた魔王に「よくここまで来た褒めてやらろう」してもらった。

 そして始まる最終決戦、なんやかんやでオペラオーの聖剣が魔王の急所を貫く。

 

「ぐああああ」

「終わりだ魔王!これで世界に平和が戻るんだ」

「くっくっくっ、お前は何もわかっていない」

「何が可笑しい魔王」

「私などあのお方の前では中ボス同然よ、ここで私が倒れてもあのお方が必ずや」

「世迷言を!」

 

 トドメを刺そうとしたオペラオーの剣を突如現れた仮面の人物が弾く。

 

「何者だ!なぜ邪魔をする。そいつは魔王だぞ」

「おお、あなた様は・・・ぐぇ!」

「雑魚が・・・貴様は中ボス以下だ」

「魔王を殺した!?お前は一体」

「フッ、久しぶりだなオペラオー」

「その顔!アサキム、生きていたのか!!」

「ようやくここまで来た。構えろオペラオー!お前を倒し俺は魔王を超える覇者、世紀末覇王となる!」

「世紀末覇王!?なぜだアサキム、なぜ僕らが戦わなくてはならない」

「まだわからないのか、だから甘いんだお前は」

 

 どこからか取り出した小さな王冠を頭に装着するアサキム。

 それはオペラオーが着けているものと瓜二つであった。

 

「それは!我が家に伝わる唯一無二の王冠・・・まさか、そんな・・・君は」

「理解したか、そうだ・・・俺は未来のお前だオペラオー!」

「嘘だ、嘘だぁーーーー!!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「「超展開キターーー!!!」」」

「いや、顔も背丈も全然違うじゃん。無理あるだろ」

「そこは雰囲気を感じて脳内補完しとけよ」

「未来の自分が殺しに来る・・・正直好きな展開だわ」

「なんかパクってね」

「細けぇことはいいんだよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「誰かを助けたいという願いがキレイだったから憧れた。故に、自身からこぼれ落ちた気持ちなど無い。これを偽善と言わず、何と言う!」

「違う!僕は」

「なんやかんやで、そんな夢でしか生きられないのであれば、抱いたまま溺死しろ!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 剣舞は事前にちょっとだけリハーサルしたけどいい感じ、上手くいってる。

 所々でオペがアイコンタクトで褒めてくれてる。

 名台詞を言って嬉しい、言われて嬉しい。

 小道具の模造刀を使って斬り結びながらセリフを、いや、魂のままに言葉を紡ぐ。

 覇気の粒子をちょっとだけ拡散させて盛り上げるのも忘れない。

 

「fateだコレ、エミヤもろパクリじゃねーか!」

「でも、剣劇すごっ!アニメより激しいってなんなの」

「さすがに投影魔術はなしか」

「・・・なんだか人間がカッコよく見えてきた」

「「「おい、その先は地獄だぞ」」」

 

「うわーうわー見てキングちゃん!二人とも凄いよ」

「ええ、思いのほかよくできてるわ」

「ボーノだね~」

「これにはセイちゃんも思わずニッコリです」

「おお、ちょ、にょわー!お二人とも輝いてますね」

「二人ともナウいわね~」

「ナウ?え?何それ?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられないーーー!!!」

 

 ここでオペラオーが覚醒、アサキムを倒し、ぽっと出の金髪成金ラスボスもアッサリ倒す。

 

「答えは得た、心配するなオペラオー俺もこれから頑張ってみるさ」

「アサキム・・・さらばだ未来の僕」

「じゃあな、過去の俺」

 

 オペラオーがこれからどんな人生を歩むのか、未来に帰ったアサキムがどうなったのかは皆様のご想像にお任せします。

 

 THE END

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「ありがとうございましたーーー!!」」

 

 オペと2人で観客に頭を下げる。

 もう後半無茶苦茶だったがなんとか終幕、エキストラが結構いい仕事してくれたな。

 なんやかんやの部分も実際にはやってるから講演時間は割と長くハードだった。

 

 ぱちぱちぱち、パチパチパチパチーーーーー!!!

 

 おお、拍手されてるぞ!嬉しいじゃないの。

 

「ブラボー!!」

「「「オペ様ーーー!!!素敵でしたーーー!!!」」

「人間もよく頑張った」

「ヒロインが出て来ねぇwww」

「BLだったのか」

「ねぇ、最後のぽっと出のラスボス・・・皇帝に似てない?」

「バッカ!皇帝は今頃、執務室で難しい書類を華麗に処理してるよ」

「終盤ガチで斬り合ってて草」

「とにかく大迫力だったね」

「パクリだけど」

「オマージュだよ、リスペクトだよ」

「あー、fateはもう一回記憶消してプレイしたいゲームの一つだわ」

「それな」

 

 概ね好評なようで安心した。ブーイングされたら泣くところだったぞ。

 

「君をパートナーに選んで正解だったよ、今日の成功は君のおかげだ」

「こちらこそ、俺のアドリブについて来てくれてサンキュ。結構楽しかったぜ」

 

 がっちり固い握手を交わすオペと俺。

 拍手喝采は言い過ぎだけど、みんなが楽しんでくれて良かった。

 ラスボス役を買って出たルルは金髪のカツラを取ってこちらに手を振ってくれてる。

 なんて親しみやすい皇帝だ、みんなもっと彼女とフレンドリーにしてあげましょう。

 

 その後、約束通りにオペから覇気をドレイン。

 劇の感想や続編の構想を語りあったり、観客のみんなを巻き込んで打ち上げしたり。

 楽しかったです。

 



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ゆめのおつげ

 皇帝→ルル

 オペと演劇した。

 

 

 力が欲しいですか

 

 (どうも)

 

 あ、やっぱりここに来ちゃいます。住所は合ってるみたいですね。

 

 (夢に住所あるんだ)

 

 あの、いくつか質問してもいいですか?

 

 (かまわんよ)

 

 実はウマ娘だったりします?

 

 (人間のオスです。証拠は"うまだっち"する部分があることです)

 

 ウマ娘ではない・・・では修羅ですか?

 

 (うまだっちスルーされた!修羅というのは知らんが操者だぞ)

 

 操者、だとしたら愛バたちの影響がこの人に・・・それとも

 

 (考え中に悪いが俺からもいいか)

 

 はい、なんでしょう

 

 (あんた誰だ)

 

 あなたたちが言う所の女神ってヤツです

 

 (あっそ、ふーん)

 

 あー!信じてませんね、三女神の一柱なのは本当なんですよ

 

 (俺はアンドウマサキ、自称女神様のお名前は?)

 

 真名は秘密です、なのでメルアとお呼びください

 

 (おっけーメルア)

 

 本当にこの人でいいのかな、やっと出会えた後継者だけど・・・あまりにも変。

 

 (変なので悪かったな、後継者ってなによ)

 

 その話はまた今度にしましょう、時間切れです

 

 (もう夢から醒めるのか)

 

 いえ、私が面倒臭くなっただけです

 

 (おい駄女神)

 

 駄女神!?やった!一度言われてみたかったんです!

 

 (喜んじゃダメだろ。今、強敵に勝てなくて困ってる、女神様らしく何かいい助言の一つでもくれ)

 

 では少しだけヒントを『鍵の使い方間違ってますよ』ではまた~。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「違うのか」

「何?何のこと」

「夢のお告げがあってだな・・・かくかくしかじか」

「女神様?女神ってあの三女神、ちょっと失礼」

 

 腕時計から伸びだ黒い触手?がペチペチ額を叩く、頭を調べているみたいだ。

 

 今朝のバクシンは委員長の都合により中止。

 朝の時間をゆっくり過ごしながら夢の内容をミオに相談してみた。

 

「うーん、脳をハッキングされた形跡はない。女神メルア・・・本物なのかな」

「三女神の名前は、えーと確か」

「一般的にはダーレーアラビアン、バイアリーターク、ゴドルフィンアラビアンって言われてるけど」

「メルアかすってもないじゃん」

「一般説のウマ娘がいた頃よりもっとずっと昔、三人のウマ娘と操者の男がおったそうな。これが真実の三女神と最初の操者じゃないかって説を私は推すね」

「最初の操者に真・三女神か。そいつらの名前は伝わってるのか?」

「不自然なほど記録が全く残っていないんだなこれが」

「古代のロマンを感じる。考古学、遺跡、オーパーツ、トレジャーハンター、ワクワクすっぞ」

「そもそも女神が三人ってのも怪しいんだよ、四人いたって言ってる学者もいるし」

「それはハブられた一人が不憫だろ」

 

 女神の話は切り上げて今日もリブと手合わせだ。

 

「グラヴィティアクセル!」

「それはもう見た」

 

 重力球を形成してぶつけるがこいつは制御が難しい。

 ネオさんだったら、広範囲を重力崩壊させたり、他にもいろいろ攻守に使えるはずなのに。

 時間にして数秒しかもたない重力球は簡単にいなされて消滅する。

 

「サラマンダーアクセル!」

「温いぞ」

 

 高温の炎を纏った回し蹴り、これも簡単に防がれる。

 グラさんの炎に比べ火力が弱すぎる、超級騎神ともなるとこの程度の炎では怯みもしない。

 ライター代わりが関の山かよ・・・。

 

「シルフィードアクセル!」

「そよ風だな」

 

 自慢の母から譲り受けたはずの風。

 母さんなら、真空波で切り刻んだり、竜巻で吹き飛ばしたり、風の力を自在に応用していた。

 俺はただ体に風を纏っているだけにすぎない、そよ風・・・扇風機代わりにはなりますか。

 

「はあ・・・はあ・・・くそ」

「見かけ倒しだな、陳腐な手品と一緒だ。派手さに比べて威力がまるで伴っていない」

「その通り過ぎて泣ける」

「属性攻撃はお前には分不相応の代物だ。私の興味はお前にそれを譲った騎神にある」

「会いたいなら止めはしない、しかし、あの人たちに会うつもりなら俺を倒してから行け」

「マサキのバカ!何度も倒されてるじゃん」

「それは言わないで!精一杯の虚勢を張ってるんだから」

「続けるぞ、お前がこれで終わるか、それとも一皮むけるのか確かめてやる」

「ちょっとは期待してくれてるの?よーし、行くぞ!」

「ダメージが酷かったらストップかけるからね!」

 

 こうして今日もまた敗北、負けが続くとネガティブ思考になってイカン。

 「鍵の使い方間違ってますよ」メルアはそう言っていた。

 リブは属性攻撃を見掛け倒しと一蹴した。

 さて、どうするか。

 

「落ち込まないでマサキ、私はマサキがブライアンに劣ってるとは思わない」

「ありがとうミオ。ピンチはチャンス、リブが言ったように一度見直しが必要だな」

「そういう前向きなとこ好きだよ」

「そうか、美少女になったらハグしてくれよな」

「はいはい、愛バが許してくれたらね」

 

 倒れたまま笑う、一人じゃないって素晴らしいよな。

 

「なんかうつ伏せで笑ってる、怖い」

「え、泣いてるんじゃないの」

「どうする?」

「助けた方がいいのかな」

「えーと、えーと」

「今日はチケ蔵さんたちいないの?」

「あの人たちは出張中だよ、デモンの群れを発見したから討伐任務だって」

 

 モブが何やら囁いている、チケ蔵たちは任務中か・・・地面がひんやりして気持ちいい、このまま寝てしまおうかな。

 

「こんなところで寝たら風邪をひいてしまうよ」

 

「こ、皇帝」

「ルドルフ様がなぜここに」

「まさか人間さんにトドメを」

「いや、よく見ろ・・・なんか二人の距離近くね」

 

 今日はルルが来てくれた。

 

「どうした、この時間は仕事中だろ」

「エアグルーブに代わってもらった。君が落ち込んでいるから行っていいと言われたよ」

「アグルの奴、自分は照れ臭いからルルを送ったな」

「そう言わないでやってくれ、彼女もそして私も君を心配している」

「わかってる、心配させてごめん。何とか心は折れずにすんでる」

「とりあえず立てるかい、いつまでもそのままでは死体と会話してるみたいだ」

「死んだフリって効果あると思う?」

「ブライアンなら用心を兼ねて先に頭を踏み潰すぐらいはやるだろうね」

「だろうな・・・よっと」

「掴まってくれ、まだフラついているから危ないよ」

「すまないねぇルルや」

「それは言わない約束だろうマサキ君」

 

 立ち上がらせてもらい、肩を貸してもらって移動。

 近くのベンチに腰を降ろして一息つく。ふぅ、どっこらせっと。

 

「少しだけ待っていてほしい、すぐ戻る」

「いってらー」

「ルドルフっていい子だよね」

「同感、偉そうじゃないのがいい」

「ただいま」

「お帰り、早かったな」

 

 ダッシュで行ってダッシュで帰って来たらしい。

 手にはコンビニコーヒーを入れるようなカップ容器が二つ。

 その一つを俺に渡してくる。

 

「どうぞ、遠慮なく飲んでくれ」

「飲み物?中身は何だろう」

「ホットはちみーだ、疲労回復にはこれがいい」

「ありがとう。はちみーか、テイオーたちが美味そうに飲んでいたっけか。いただきます」

 

 二人でベンチに腰掛けて休憩。

 もらったはちみーをチビチビ飲みながら体を休める。

 疲れた体に程よい甘さと温かさが染み渡る、う~ん美味しい。

 

「ホットドリンクってほっとするよな」

「ブフッッッ!!」

「うわ!ちょ、吹くなよ!」

「ゲホッゲホッwwwホットとほっとするかwwwやるじゃないwww」

「あ、そっかダジャレになってたか、別に狙って言ったんじゃねーよ。偶然だ」

「素晴らしい才能だ、これがダジャレの極意なんだね」

「やめて!こんなので褒められたら逆に困るし、恥ずかしいわ」

 

 せっかくのはちみーを吹き出したルル。トレセン学園生徒会長はちょっと残念だった。

 ルルはしょーもないダジャレがツボったようでしばらくクスクス笑っていた。

 

 落ち着きを取り戻したルルにリブ対策を相談してみる。

 ちょっと行き詰った現状についても話す。

 

「ルルはリブと勝負したことはあるのか?」

「ああ、楽勝とはいかなかったが何とか勝てた。あの時は少々焦ったが嬉しかったよ、切磋琢磨できる同志が増えたからね」

「やっぱりルルは凄いのね、皇帝の名は伊達じゃない」

「君のことは心から応援しているが、正直あのブライアンに数日で勝つのは、ほぼ不可能だ」

「現実が辛い」

「超級騎神を相手に何度も手合わせしてる時点で賞賛に値するよ。でも、それでは足りないんだね」

「リブに認めてもらって覇気をもらう!」

「そうだね。だから私も修練の協力をするよ」

 

 俺の手をそっと握るルル、あらやだ、おててが柔らかいじゃないの。

 手からルルの覇気が流れ込んで来る、俺は何もしてないぞ。

 

「なんだコレ!?今、俺とルルがリンクしてる」

「上手くいったようだ、やはり君は普通の人間とは違う」

 

 こちらから接続してないのに、リンク状態に入った。

 今、俺とルルの覇気が確かに循環している。どういうことだ。

 

「超級騎神は単純な身体能力だけでなく覇気の扱にも長けている。私が得意なのはコレさ」

「操者を介さずに戦術リンクをする能力」

「誰にでも有効と言うわけではないんだ、それなりの格が無ければ私の覇気に潰されてしまう」

「あ、今わかった!ボノたちをドレインした時の違和感の正体はコレか。ルルの覇気が中枢に混じってたんだ」

「正解だ。彼女たちに試したことがあってね、その時の形跡が中枢に残っていたのだろう」

「循環というよりルルの覇気を一方的にもらってる感じがする」

「君のように自由自在と言う訳にはいかない、できる事はシンプル、私の覇気をリンク相手に上乗せするだけ」

 

 ボノたちに操者がいると誤解した原因判明。

 この能力がもっと発展したら「操者いらね」ってことにならないか。

 ウマ娘同士が手軽にリンク出来るようになると人間と契約する騎神が減りそう。

 人間とウマ娘間のパワーバランス大丈夫?新たな火種になったりしませんように。

 

「もちろん覇気が多少増加した程度で簡単に勝てるブライアンじゃない、君に必要なのは肉体の強化は元より、覇気の制御と応用力を伸ばす事だと思う」

「大分マシになったと思ったけど、覇気の使い方はまだへたっぴだと自覚してる」

「良ければ時間の許す限り"皇帝式覇気の使い方"を伝授したいと思うけど、どうかな?」

「是非是非、よろしくお願いします。ありがとうルル」

「どういたしまして。さっそく午後から始めようか、ヒシアマゾンたちにも協力してもらおう」

 

 昼食後、優しい皇帝の力を借りて覇気の使用法を学ぶ。

 俺の覇気は駄々洩れや垂れ流しなんて揶揄されることがあり、無駄にしている分が多いらしい。

 もっと効率のよい制御法はないか探る、リンク状態にしたりされたりを繰り返して覇気の流れを感じる。

 ルル、アグル、姐御、フジ、マルさんたちが代わるがわる修練に付き合ってくれた。

 キングたちは出張中、明日には帰って来るらしい。

 

 集中して取り組んでると、あっという間に時間が経つな。今日の修練は終了。

 食事もそこそこに部屋へ戻る。

 

「ミオ、バイクはあれからどうなった」

「エアグルーブに頼んでエンジンの部品を取り寄せてもらってる、もう少し待ってね」

「いつの間に」

「マサキのスマホをハッキングしてエアグルーブのスマホに連絡した」

「お前、マジでその力を悪用するなよ。サイバーテロやりたい放題じゃないか」

「わかってるよ。政府機関や軍事基地に挑むにはリスクが高すぎるし、やらないよ」

「"やれない"じゃなくて"やらない"なのが怖ろしい」

 

 夜の自主錬。

 アグルに頼んで防音室ならぬ覇気遮断処理が施された地下修練施設の使用を許可してもらった。

 ここなら思う存分バーストモードを使用できる。

 みんなに感謝しつつ今日教わったことを復習、力の流れを正確につかむために己と対話する。

 目を閉じて呼吸を整え、頭を空っぽに。瞑想はいいぞ、騙されたと思ってやってみるのオススメ。

 集中している時にミオは話しかけてこない、空気の読める奴である。

 まあ、俺の体をずっとモニタリングしてるからな。

 あー、クロとシロに会いたい・・・おっと、雑念が・・・雑念ではない!愛バを思って何が悪い!

 

 (マサキ集中力が途切れてるよ)

 (こいつ、直接脳内に)

 

 ダメな時はちゃんと注意もしてくれるので大助かり。

 オーバーワークだめ絶対!ちょっくら休憩しよう。

 

「メルアまた来るのかな」

「自称女神様か、そういえばどんな姿だった?教えてよ」

「姿は見えない。今の所、声だけだ」

「どんな声?」

「若い女ぽい」

「ほう若い女か、神様だから全盛期の姿を保ってるのかも、羨ましいよね~私のニューボディもそうしようっと」

「簡単に言いよってからに、水の天級騎神探しはどうだ、どこにいるか検討はついたか?」

「さっぱりだよ、隠れてるにしても理由がわからない」

「怠け者だって聞いてるぞ、働きたくないでござる状態じゃねーの」

「そうなんだけど、あれで結構な寂しがりやだから、私たち天級が集まってるの知ったらノコノコ出てくると思ったんだけどな」

「・・・生きてるよな」

「生きてるとは思うよ。きっと何か他に事情があるんだよ」

 

 ちょっとだけ心配になって来た。

 腐っても天級、そう簡単に死んだりしないと思う。

 

 休憩終了、修練再開。

 

「よっしゃバーストモードを使うぞ」

「それなんだけどさ、マサキ、バースト中の方がリラックスしてるよね」

「あー、そうかもな。なんか全裸になったような開放感がある、さらけ出してやったぜ!みたいな」

「覇気漏れを起こしてない状態は元栓を閉めて押さえてる、これって普段の方が無理してるよね」

 

 幼い頃に母さんによって一時封印された覇気、それから何年もずっと元栓を閉めていたからか、別に無理はしているとは思わない。

 今は呼吸と同じぐらい苦も無く当たり前にできることだ。

 母さんはコレを見越して封印したのか?そこまで考えていないような気もする。

 

「寝てる時、たまーにバーストモードになってるよ」

「嘘!恥ずかしい!キラキラ放出しながら寝る男に添い寝して、あいつらは気にならなかったのか?無理してたらどうしよう。「眩しくて眠れん!」とかキレられたら泣く」

「認識を改めた方がいいかも」

「んんん?何が言いたいのよ?」

「私の推測だけど、マサキって本当の意味でバーストモードになってないんじゃ」

「なん・・・だと・・・」

「マサキがバーストモードだと思ってるのはただ自然体に戻っただけ、真のバーストでは無い!とか?」

「・・・ミオ」

「ごめん、さすがにそれはないよね~」

「お前は本当に頼りになる奴だな、なんか凄いしっくり来たぞ」

「え?」

「もう一段階上に行けってことだよな。やってやろうじゃないの」

「で、できるんだ・・・ずっと見てるけどマサキの底が私にはわからないよ」

「ミオ、修練場の耐久性はどのくらいだ」

「サイが暴れてもちょっとの間ならもつぐらい頑丈」

「なら遠慮はいらないな」

 

 覇気の粒子が解放された状態、これが第一段階であり通常形態と言うかリラックスしてるだけ。

 真のバーストモードは更に上、そこに至るにはどうすべきか。

 試行錯誤を繰り返すしかない、もう少し、後少しで何か掴めそうだ。

 

「うぃ~疲れた~」

「はーい、さっさと寝なさい、おやすみ」

「おやすみ~」

 

 部屋に戻ってシャワーを浴びて歯を磨いてバタンキュー!

 適度な疲労感がベッドにダイブした俺を即爆睡に導いた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 頑張ってるみたいですね

 

 (どーもメルアさん)

 

 ちょっと待ってくださいね、ここをこうしてっと

 

「どうですか?これで話しやすくなったと思います」

「おお、目の前に気配を感じる。声もそこから聞こえてくる」

「この調子なら、お顔を見てお話できる日も遠くないです」

「ほほう、女神様の御尊顔を拝むためにも頑張りますか」

「過度な期待はしないでくださいね」

「ご謙遜をしおってからに。それで「鍵の使い方」についてのヒントをもっとくれないか」

「鍵は既に三つ持ってますね。後二つ欲しい所ですが、今は三つだけでも十分でしょう」

「メモとりたい」

「少しでも開けてくれたら、こちらからパスを繋げます。後は思うようにやっちゃってください」

「・・・・」

「「借り物の力」じゃないですよ。私の力はあなたが自分の意志で掴み取った、あなただけの力になります」

「考えてること筒抜けか!母さんたちの力みたいに分不相応かなと」

「女神なんて言ってますけど、あの時、あの場所でたまたま運が良かっただけの小娘です。後輩たちにお節介したくて死んだ後も意識が残ってしまった、気まぐれでフワフワした何かです」

「自己評価低いな」

「力の事はまたの機会にしましょう、鍵を五つ集めてからですね」

「後継者ってのは俺でいいのか?」

「偶然や間違いで私と三回も会話できる人はいません。後継者はあなたしかありえない」

「最初かなり戸惑っていたけど大丈夫」

「三女神はウマ娘の神です。今まで人間に力の継承がなされた例はありません、しかも、男性だったので本当にビックリしたんですよ」

「よく言われるんだけど、俺っておかしいのかな」

「規格外ではありますが、あなたはとても素敵な人ですよ。自身を持ってください」

「ありがとう!女神のお墨付きいただきました」

「まあ、トーヤさんには敵いませんけど」ボソッ

「何か言ったか?」

「いえ何も言ってません。あ、解放状態名は"バーストモード"ではなく"バスカーモード"がいいです」

「バーストはダメだったか?」

「私たちはバスカーと言ってたんで統一した方がいいかな~と」

「じゃあ今後はバスカーでいくわ」

「実はもう一つ、処刑前のキメ台詞があるんです。後日伝授しますので期待しててください」

「処刑前とは物騒な」

「今後もご活躍を期待してますね。そろそろおやつタイムなのでこれにて失礼します」

「ほい、またな~」

 

 おやつ食べるんだ・・・。

 

 修正が入ってバースト改めバスカーモードになってから数日経過した。

 その間もリブにボコられたり、修練したり、みんなと遊んだり仲良くなったり。

 バイクが直ったり、モブにも大分受け入れられたり。ウイニングライブごっこしたり。

 ここでの生活は充実していた。

 

 自主練後

 

「じゃあ帰るか、忘れ物はないよな」

「私、マサキのこと舐めてたよ」

「今は違うのか」

「天級の上に女神の加護まで付いた人間だとは恐れ入ったね」

「褒めても何も出んぞ、運が良かっただけの男だ」

「運も実力の内って言葉もあるよ」

 

 あれからメルアは夢枕に立たなくなった。残りの鍵を集めたらまた話せるかな。

 覇気の修練とメルアのヒントを得て、形になったバスカーモード。

 明日はいよいよお披露目するつもりだ。

 決戦は明日だ、早く寝よう。

 

「目にもの見せてくれるわ~」

「興奮して眠れないなんてことないようにね」

 

 翌日

 朝の地下修練場。

 マサキが夜の自主練のために使用している場所に二人の超級騎神がいた。

 

「ダメです」

「何がだい?」

「この修練場はもう使えません。覇気遮断の結界が壊されています」

「私とブライアンが本気でぶつかってもびくともしなかった結界が壊された?経年劣化ではなく」

「場に施されたコーティング、結界発生装置の心臓部が軒並み擦り減っています。数日で何をどうやったらこうなるのか・・・」

「本当に面白いねマサキ君は」

「私はあの男が愛バを化物に育てていると思っていました」

「そうだね」

「だがこうも考えてしまう、力あるウマ娘たちが一人の人間を寄ってたかって化物に、いやそれ以上の何かにしようとしていると」

「それに私も君も加担したね」

「我ながら取り返しのつかないことをしたのではないか、頭痛の種が増えた気分です」

「だが後悔しているようには見えないよ」

「そこが余計に悩ましい、あのたわけに力添えできたことに満足している自分がいる」

「彼が今後どうなるのかはそれこそ・・・」

 

「神様にだってわからないよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ナリタブライアンとマサキの手合わせはUC基地のウマ娘たちにとって最早日常の一コマ、そして見逃せない一大イベントとなっていた。

 最初は遠巻きに見ていたモブたちも、今では時間になると良い観戦スポットを確保するために動く。

 仕事を放り出して駆け付ける者、出店を出して荒稼ぎする者、食料を持ち寄って観戦する者もいる。

 時間ピッタリに来ていたブライアン自身も10分前には到着し、目を閉じその時を待つ。

 

「おや、今日は全員勢揃いだね」

「仕事を残して来た私たちも大概ですよ皇帝」

「今日こそ何か起こりそうなのよね~私のハートがピクピクしちゃうわ」

「それはただの不整脈では?」

「マサ公は本当に良く頑張ってる、最後まで応援するさ」

「最高のイリュージョンを期待してるよ」

「はうう~、連日やられっぱなしのマサキさんが心配です~。私なら泣いたまま干乾びて終わります~」

「はーはっはっはっ!僕は全く心配してないよ!今日は彼にとって栄光の日となるだろう」

「オペラオーさん、王冠の向きが逆で頭に刺さってます~メッチャ心配してます~」

 

「今日は遅いですね。はっ!まさか、お一人でバクシン中?」

「それはないよ~今日はずっとお部屋に籠ってるし、ちゃんと食べてるのかな~」

「少し心配ね、やられ過ぎて自暴自棄になって無ければいいけど」

「マサキさんはそんなやわじゃないよ、昨日は一緒に釣りに行ったけど元気だったし」

「マサキさんは勝つよ」

「君はいつもそう言ってるねチケット。根拠はあるのかい」

「ハヤヒデも気付いてるはずだよ。戦闘継続時間、覇気出力、ダウンしてから回復までの時間、その他全てが数日前とは別物、マサキさんはきっと飛び越えるよ」

「アンタ・・・変なものでも食ったの?真面目なこと言うなんて」

「シリアスチケ蔵だよ」

「「キモイ」」

「あー来たよ」

 

 いつもバカをやって騒いでいるおかしな人間。

 結局、どいつもこいつも彼に魅せられてしまったようだ。

 ドレインされていないウマ娘たちも例外ではない。

 

 今日は時間ピッタリにやって来た、周囲のざわめきは自然と大きくなる。

 

「ほう、覚悟を決めた目だ」

「なんかいつもと面構えが違う」

「あれ変だな、ちょっとカッコ良く見える」

「今日はどんな醜態を見せてくれるのでしょうか、ハァハァ」

 

「ミオ」

「はいはーい。じゃあ頑張ってね」

 

 腕に巻き付いたミオがするりと離れて行く、無駄な決め顔中のチケ蔵の頭にちょこんと黒い塊が鎮座した。

 チケ蔵気づいてないし。ヒデさんとタッちゃんは教える気はないようだ。

 

 何日も付き合ってもらった好敵手を前にする。

 

「ありがとう、ナリタブライアン。お前のお蔭で俺はまた先に進める」

「礼など不要だ」

「今日こそ勝つ」

「聞き飽きたセリフだ。しかし、ここまでしつこい奴は初めてだ」

「お前の渇きを満たせるかもよ」

「期待はしていない」

 

 フッ、と互いに笑いが漏れる。何度も拳を交えた、ちょっとは仲良くなるさ。

 

「開始の宣言は僭越ながら私がやるよ」

「好きにしろ」

「ルル、頼む」

 

 少し距離をとる。目線は逸らさない、リブの眼光を受け止める。

 

「トレセン学園生徒会所属、超級騎神、ナリタブライアン」

「愛バを救うためならどこまでも、操者、アンドウマサキ」

 

「いざ尋常に・・・はじめっ!!!」

 

「ぶっちぎってやる!!!」

「かかってこいや!!!」

 

 見ているかクロシロ、なんと女神様も応援してくれるってよ、頼もしいよな。

 



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おるごないと

 女神様も応援してくれるそうです。

 今日こそナリタブライアンに勝つぞ。

 

 

 リブとの戦闘開始。

 最初から解放状態で挑む、戦闘時は常時これが正解だ。

 

「はぁぁぁ!」

「くぉらっ!」

 

 ぶつかる拳と拳、最初は押し負けていたが今では拮抗している。

 

「ふんっ」

「ちっ」

 

 わかっていたけど、リブも数日前より動きが良くなっている。

 慢心せずにしっかり修練を積みレベルアップしてるのは敵ながら見事だ。

 数合打ち合った後に距離をとる、リブが牽制用にしては強力な覇気弾を撃ち込んで来る。

 こいつの威力もシャレになってないので全く油断できない。

 軌道は単純なので避ける、その先にはリブの蹴撃が待っているは想定済み。

 いつもなら属性攻撃で凌ぐ所だが、今日はダメだ。ダメージ覚悟でガードする。

 

「痛てぇ!」

「パターンを変えたか、何か企んでいるな」

「どうかなっ!」

 

 ブラスター発射!手足が塞がっていても口から光線吐いちゃう系男子です。

 

「今のが隠し玉か」

 

 あらら、簡単に防がれたな。でもちょっと驚いてるね。

 

「見せた事なかったっけ?」

「初見だ。ホント人間やめてるな」

「失礼な!実の姉はもっと凄いの吐くよ」

「お前にも姉貴がいるのか・・・怪獣姉弟か」

「それ姉さんの前で言うなよ、真っ二つにされるぞ」

「望む所だ!」

「望む!?」

 

 この戦闘狂め!斬艦刀を装備した姉さんの怖さを知らないからそんなこと言えるんだ。

 

「まだ何か隠してるだろう、さっさと見せろ」

「バーローまだ早いっつーの」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「押され始めた、これじゃ負けパターン入っちゃう」

「・・・マサキ」

「何かを待っているように見えるが?」

「お、わかる子がいるんだね。そこの白髪くせっ毛メガネっ子は洞察力A⁺だね」

「ひぃ!いつの間にか頭に黒光りする何かが!もしや、喋るゴキブリィィィーーー!?」

「ちがーう!私だよミオ・サスガだってば」

「マサキの腕時計だったアンタがなぜここに?」

「危ないから退避してろってさ」

 

 次第に防戦一方になるマサキ、固唾を飲んで見守るギャラリー。

 この時、覇気を分け与えた騎神たちは気づいていた。

 愛バほど強くはないが覇気を通わせた者同士には繋がりが出来る。

 マサキの場合はそれが特に顕著であり、僅かだが感情すら伝わることもある。

 

 (((こいつ、全然諦めてねぇ!!!)))

 

 自分の敗北など微塵も考えていない、どこまでも真っ直ぐな意志を感じる。

 

「根性だけはいっちょ前だな」

「え、何?今バカにしたか」

「粒子量が減ってきてるぞ、そろそろお終いか」

「まだやれる」

 

 リブの指摘したように覇気粒子がみるみる減少していく。

 俺のエネルギー残量を明確に示しているのがわかるのか、ギャラリーから落胆ムードが漂う。

 

「もしかしたらって思ったけど、やっぱり」

「無謀だったか」

「頑張ってほしい、応援してあげたい、でも」

 

「マサ公本人が諦めてないのに、勝手なこと言ってるじゃないよ!」

「でもでも~、光がどんどん弱くなってます~」

「君の舞台がこんな幕引きだなんて認めない。さあ、魅せてくれ、本当の君を」

「心配ないさ、なにか企んでる顔をしてるからね」

 

「エアグルーブ、マルゼンスキー、皆を少し下がらせてくれ。障壁の強度も上げておこう」

「合点承知の助、いよいよかしら」

「了解です。おい、お前たちも手伝え」

 

 何かを察したルルたちがギャラリーを少し遠ざける。

 そして、俺の覇気放出が止まった。

 

「自慢の属性を出さずにガス欠か・・・終わりだ、じっとしていれば一撃で気絶させてやる」

「結構かかったな」

「何を言って」

「お楽しみはここからだぞ」

「まさかお前」

 

 完全に停止したと思った覇気放出が再開!!

 出力、粒子量共に今までの比ではない。一瞬で周囲を美しい緑の輝きが埋め尽くす。

 止まらない、止められない、やっと外に出れたことを歓喜するかのように溢れる大出量の覇気。

 これが、こんなものが、たった一人の人間から出ているのが信じられない。

 

 覇気の爆発、それを行っている男を前にギャラリーはおろかブライアンも動けない。

 

「ひぁっ!何!なにこれ!」

「今までも十二分に狂った量だったのに、更に出して来おった」

「待ってよ、この覇気、超級よりも上なんじゃ」

「ダメ、クラクラする。立っていられない」

「無理せず座ってな、耐性の無い奴は意識をもっていかれるぞ」

「やば、マジで漏らす所だった」

「ヤバいヤバいヤバい、超危険だってコレ!」

「おかしいな、震えるほど怖いはずなのに。どこか温かくて優しい覇気だってわかる」

 

 更なる異常が発生、拡散する粒子の一つ一つから何かが伝わって来る。

 この場に集った全てのウマ娘たちはある光景を見た。

 それは記憶、マサキの覇気が強く覚えている魂の記憶。

 

 あれは誰だろう。

 幼い二人のウマ娘が男に駆け寄って行く。

 顔はよく見えないが、一刻も早く男の下へ行きたい気持ちが二人から溢れている。

 

 早く、早く、早く、声が聞きたい、笑いかけて、撫でて、抱きしめて、好きだと言ってほしい。

 こちらに気づいた彼が「おいで」と手を広げて待ってくれるのが、たまらなく嬉しい。

 

 男に飛びつく二人、苦笑しながら二人を抱き上げる男。

 全力で甘えてマーキングするウマ娘たち、それを受け入れ二人をギュッと抱きしめる男。

 三人とも幸せそうだ。

 

 ロリコン?上等だよ!ずっと待っていた、ようやく会えた、最高に大切な宝物。

 嬉しい、幸せだ、こいつらに会えて良かった、離さない、ずっと一緒だ。

 

 なのに・・・

 

 眠ってしまった、一体いつ目覚めるのだろう。

 一緒にいられない、いなくなった、なぜこんなことに、俺はどうすれば。

 

 俺のせいか、俺がお前たちを追い詰めたのか、出会わない方が良かったなんて思いたくないのに。

 

 寂しい、怖い、悲しい、どうして、嫌だ、一人は嫌だ、また置いて行かれるのは嫌だ!

 

「全員、見えているし聞こえているな。これがマサキ君と愛バの記憶か」

「あいつ、こんな気持ちを抱えていたんだ」

「うおおぉぉぉんんん!!!マサキさん泣いてるよぉぉぉぉぉんんん!!!」

「寝ている時のマサキさんからね~たまに漏れちゃうんだよ、こんな感じの記憶と思いが」

「一流の私も最初は驚いたわ。でもそのおかげでマサキと愛バの関係が本物だと、この人間は私達が思っているような下賤の輩ではないと確信したの」

 

 ・・・羨ましい。

 人間嫌いのUCウマ娘すらそう思ってしまう程に、仲睦まじい三人の様子がその思いが、自分たちの頑なな心を溶かしていく。

 こんなものを見せられてしまえば無理もない。

 人間との絆など無意味だと、あの三人を前にして断じることができる者がいるのか。

 

 その後にマサキが経験した寂しさや痛みも理解してしまう。

 そのために、あんなに必死に。

 そうか、あなたはウマ娘のために命を賭けられる人間なんだね。

 

「マサキ君が皆とすぐに仲良くなった理由がわかったよ」

「はい、奴の思いはそこにいるだけで周囲に伝わるようです。ここまでハッキリとではないですが」

「愛バを大切に思う気持ちが無意識に伝達され、受信した方は彼を放っておけないか」

「そんな堅苦しいものじゃないわ、全てはマサキ君の人柄と「愛」のなせる結果よ」

「愛か」

「愛よ」

「愛ならば奇跡が起きても仕方がないね」

 

 希望の灯を胸に男は旅を続ける。

 

 待っていてくれ、必ず助ける、諦めない、取り戻す、もう一度、何があっても、お前たちを、絶対に。

 

 だって俺は・・・かけがえのない二人のことが・・・そう。

 

 自分でも呆れるぐらい大好きなんだから!!!

 

「わぉ!大胆~」

「えーと////」

「はは、参ったねこれは」

「なんかこっちが照れる////」

「ひゅー惚気過ぎーーー!!!」

「あんなに思われてる愛バが素直にうらやま」

 

 こりゃ恥ずかしい!俺の思いが筒抜け状態、これがサトラレですか。

 一人は嫌だ?・・・何を勘違いしているんだ俺は。

 ずっと誰か見守ってくれていた、姉さん、園長、母さん、沢山の人たちに今も助けてもらっているじゃないか。

 それに、あいつらとは離れていてもずっと繋がっている!

 

 さあ、やるぞ!アクセル発動!!

 鍵の使い方はもう理解してる。三つ目をぶっ刺すのは初めてだけど。

 鍵の正体は天級騎神の属性覇気。それを使って俺の覇気中枢にある扉を開けるんだ。

 

 攻撃時に風、重力、炎を使用していたのが外側に向けた場合。

 これを内側に、更なる力を引き出すために覇気中枢を刺激するのに使う。

 これがメルアの言っていた「鍵」の使い方で合ってますよね?間違ってたらもう知らん!

 そもそも、見よう見真似で母さんたちみたいになろうだなんて、おこがましい。

 天級の力をメインウェポンにするには俺はまだ未熟だ。

 ちょっとだけ背中を押してほしい時に頼らせてもらうのが正しい使い方なんだ。

 

 扉へ辿り着くには余分な覇気を一度全部放出する必要があることも最近知った。

 だから待っていたんだよ。

 一つ目、シルフィードを差し込むと扉の奥から通常より濃い覇気が出た。

 二つ目、グラヴィティで更に加速する放出、ついでに胸に秘めた思いが暴露された。

 そして三つ目、サラマンダーを使うのはこれが初めて。いけるよな。

 

「さてどうなる」

 

 ピキッ・・・パキッ・・・ガキッ、ビキビキビキィバキィィィーーー!!!

 

 何の音?なんか硬いものが精製されているような。

 

 (やりましたね!)

 (メルア!)

 (今繋げます、さあ手を伸ばして)

 (よっしゃ)

 

 俺の内部で起こっていることがイメージされる、扉の奥から女の子が腕を伸ばしている感じがする。

 ちょっとしか開いてないので片腕しか無理ぽい、扉を押さえているもう片方の腕がプルプルしてるけど大丈夫?

 

 (早くしてください~もう閉まりそう!このままじゃ扉に挟まるぅ!潰されちゃいます!)

 (ちょ!俺の深層領域で女神殺しなんて事件は勘弁だ!!)

 (死にはしません!でも、扉に挟まって身動きできない神なんて、いい笑い者です・・・(´Д⊂グスン)

 (泣かないで~、到着したから!はい握手だ!)

 

 握手というよりガッチリ掴んで引っ張られた。相当切羽詰まってたみたいだ。

 

 (パス形成よし、これで受け渡し完了です)

 (ありがとうメルア、それでこれからどうすればいい?)

 (考えずに感じる、それで全て上手くいきます)

 (よっしゃ!)

 

 ひらひらと振られた手が扉の奥へ引っ込んだ。

 意識が現実へ引き戻される。時間にして1秒も経っていない。

 

 ピキッパキパキパキパキパキッ!さっきからこの音どこから?

 

 ん?リブがこちらを見て目を丸くしている。なんだその目はぁ。

 周囲のギャラリーもポカンと口を開けてこちらを凝視している。

 

「誰だお前」

「おいおい、ボケたのか?俺はアンドウマサキだ」

「私が知っているマサキとお前はかなり違うな」

「はい?・・・ん」

 

 なんか手がゴツゴツするな~と思っていたが、視界に入った手と腕が緑の結晶に覆われていた。

 なにが起こってる?この結晶はクロとシロが変貌した例の結晶体?

 

「え?え?えぇぇ」

 

 まさかコレ、手だけじゃない!どこまでこんな状態なんだ?

 さっきの不可解な音は、覇気が結晶化していく音だったのかよ。

 顔をペタペタと触ってみると硬質なスベスベ感が伝わって来る・・・ハハハ、どうしよう。

 

「マサキ!鏡!鏡用意したから見て」

「ナイスだミオ!気が利くな」

 

 お気遣いのミオさんが、チケ蔵を上手くコントロールして姿見を用意してくれた。

 そこに映ったのは、全身を輝く結晶で構成された人型の異形だった。

 

「なんだこの化物はっ!無駄にキラッキラッしやがって!」

「お前だ!大事なことだからもう一度言うよ、その結晶人間はお前だ!マサキ!」

「やっぱそうか~俺か~」

 

 クロ、シロ、お前たちの操者はどんどん人間離れしていってます。

 こんな俺でも一緒にいてくれますか?

 

 色は違うけどこの姿、ゴルシが見せてくれた1stの記憶で暴れ回っていた滅びの獣。

 ベーオウルフとルシファーにそっくりじゃねーか!!!

 

 ざわ・・・ざわ・・・

 

 いきなり化物になった俺を前に騒がしくなるギャラリー。

 そりゃそうだ、誰だってビックリするわ!俺が一番びっくりしとるわ!

 

「姿は変わってもマサキに違いないな、ならば続けるぞ」

「リブ!わっ、ちょ、バカ」

「見た目通りの硬さ、砕きがいがありそうだ」

「この戦闘民族さんめ!」

 

 リブの拳をガード、今のでちょっと腕の結晶にヒビ入った!このまま腕ごと砕けるなんてことはないよね。

 戦闘は続行していいみたいだ、予想外の事態なのにみんなパニックにはなっていない。

 ルルたちが変貌した俺を見ている。

 きっと驚いただろう、こんな姿になった俺を見た反応が気になる。キモイ?それとも怖いか。

 

「マサキ」

「マサキさん」

「マサキ君」

「マサ公」

 

 ああ、覇気をくれたみんなに心配をさせてしまっている。

 

「「「「なんだその状態異常wwwおもしれぇwww」」」」

 

 そうでもないみたいですね。お前らなぁ・・・。

 

「アハハハwwwすごいイリュージョンだねwww」

「これが若さかwww」

「怪奇、結晶男現るwww」

「ユニコーンガンダムのラストで見たwww」

「フルサイコフレームだったのwww」

 

 ねぇ、これって異常事態だよ。人間が結晶怪人に変身したんだよ?笑ってる場合じゃないよ。

 ユニコーンはフェネクスが好きです!ガンダムNT見て改めて思った、とりあえずニュータイプ研究所は滅べ!

 

 こうしている間にもリブが攻め込んで来るので考えがまとまらない、どうしてこうなった。

 これが真のバスカーモード?

 

 (ちょっとメルアさん!女神様ってば!取り扱い説明書をください!今すぐ!)

 (オルゴナイト形成は・・・上手く行き過ぎたようですね)

 (メルア!良かった~帰ったのかと思ったぜ)

 (マサキさんが余りにテンパってるので戻って来ちゃいました)

 (ヘルプ!ヘルプミー!この間違った変身を解く方法を教えて)

 (別に間違ってませんよ、初回なので勢い余って全身にマテリアライズされたみたいです)

 (マテ?)

 (では説明いたします)

 

 生物が発する生命エネルギー(感情エネルギーを含む)が覇気。

 別名プラーナというが、メルアたちが生きていた時代はオルゴンエナジーとも呼ばれていたそうだ。

 

 高密度のオルゴンエナジーが物質化したものがオルゴナイト、漢字で書くと覇気結晶ってとこか。

 物質化した覇気を自在に使用する術を習得した超越的存在のウマ娘こそが三女神の正体。

 

 (物質化した覇気、オルゴナイトの力は強力ですよ。私たちもこれでドカン!とやってました)

 (ドカンねぇ、全身にくっついてるのはさすがに邪魔なんだが)

 (頑張って自分でとるか、相手に除去作業を手伝ってもらえばいいと思います)

 (どうやって?)

 (あ、来てくれましたよ)

 

「どこを見ている!」

「へ、おごっ!」

 

 メルアとの会話は1秒にも満たない刹那の間に行われているが、その僅かな隙が命取り。 

 顔面にいいパンチをいただきました。痛っ!衝撃凄い!

 

 ピシッ!あれ、俺の顔割れてね?

 

 リブのパンチで亀裂の入った顔面、そこから全身に崩壊が広がっていく。

 よーし、このまま脱ぎ捨ててしまおう。脱皮ですよ脱皮。

 

「しゃあ!キャストオフだ!!」

「何!」

 

 覇気の出力を上昇させて邪魔な結晶をぶっ飛ばす。ふー8割ぐらい外れた、サッパリサッパリ!

 そのままぐるっと一回転、勢いのせた回し蹴りをリブにお見舞いする、インパクト時に足の結晶をパージしておくのも忘れない、うぉ!なんか結晶が爆裂して威力が跳ね上がった!

 

「この力!?」

「なるほど、こういう風に使えばいいのか」

 

 全身を覆っていた結晶はほ外れた砕け散った、両指先の結晶はまだ残っている。

 無くなった分は気にしなくていい、すぐにでも精製できるから。

 

「くらえ」

「お?」

 

 リブが握り込んだ拳から覇気弾を放つ、その数10発、半数は曲線的な軌道を描き俺の回避ルートを潰している。

 

「耐える!」

「バカが、お前の覇気ではガードした所で」

 

 昨日までの俺ならこんなのくらえば負け確定。

 全弾命中!衝撃がすんごいのよ。しかし、俺の防御力も上がっている。

 体を覆う通常の覇気コーティングに加えて、覇気の粒子が形成する防護壁がしっかり守ってくれる。

 

「ビックリしたけど、大丈夫」

「全弾食らって無傷だと」

 

 オルゴンクラウド

 放出した覇気粒子に指向性をもたせたもの。漢字では覇気雲?よくわかんね。

 今回はバリアとして使ってみた。これも、メルアの協力を得て獲得したバスカーモードの力。

 移動の補助、オルゴナイトの形成、防護壁の展開にと、いろいろ使えそうだ。

 

 (オルゴンエナジーを操作して、オルゴナイトとオルゴンクラウドを使いこなしましょう)

 (オルゴンがゲシュタルト崩壊しそう)

 (あなたが生み出した覇気をしっかり感じ取ってください)

 (やってみる)

 

 クロやシロならこの力、どう使うだろう。

 きっと、俺なんかよりも上手に扱うんだろうな。

 

 顔に残った結晶の仮面をはぎ取る。

 

 姿見に映ったその顔は、良かった、ちゃんと俺だった。

 

「今度こそお待たせだ、リブ」

「待ちくたびれたぞ、どんな姿になろうともぶっちぎってやる」」

「いつまでもやられっぱなしだと思うなよ、まずはその幻想をぶち壊す!」

「やってみろ!」

 

 強大な覇気を練り上げるリブ、俺もオルゴナイトをいつでも出せるように準備する。

 不慣れだなんて言ってられない、やるんだよ!

 

「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 激しい殴打のラッシュ、一撃ごとに拡散される覇気が衝撃となって周囲の者を驚嘆させる。

 

 ナリタブライアンはUCでも屈指の武闘派で超級騎神、その力は皇帝ルドルフと同格、将来的には天級の座も狙える逸材だ。

 その畏怖と羨望の対象である彼女と、互角の戦闘を繰り広げる男が存在するなど、数日前は誰も想像していなかっただろう。

 

「最初から普通じゃなかったけど、ここまでとはね~」

「ウララさん?大丈夫」

「あ・・・うん。すごいなって思って・・・もうわかんない」

「あのブライアンにダメージが入ってる?どういうこと」

「マサキの手に注目~、結晶が拳を覆ってるね。アレで攻撃されると多分メチャクチャ痛いと思う」

「理屈はわからないが、あの結晶は危険だ。不用意に触れるのはよくない」

「ねえねえハヤヒデ、これマサキさんが落とした結晶の欠片だよ。綺麗だね」

「注意喚起したばかりだぞ、チケットはもう好きにしたらいいと思う」

「お土産にもらっておこうかな・・・わっ!・・・あー砕け散って無くなった」

「一定時間で霧散するのか、粒子に戻っただけかもしれないな」

「謎だらけだね」

 

 

 メルアがイメージで力の使い方を教えてくれる。神様になる前にはこうやって戦っていたのだろうか。

 

 (私がお手伝いできるのはここまでです。後はあなた次第)

 (ありがとうメルア、頑張ってみる)

 (いつも応援してますからね、あなたに女神の祝福を)

 

 リブから攻撃をもらう、痛いけどオルゴンクラウドのお蔭かダメージは昨日の半分以下に抑えられる。

 こちらの攻撃、オルゴナイトを纏った手足はそれだけで凶器だ。リブの強固な覇気防御層を越えてダメージを与えることができる。

 

「痛い!でもダウンするほどじゃない、お前はどうだ!痛かったら泣いてもいいのよ?」

「相手の攻撃で痛みを感じるのは久しい、もっと痛みをくれ」

「Mかよ」

 

 攻撃や防御の度にオルゴナイトが砕け散る。その都度、新規に精製するがリブの連撃を前に隙を見せれば一気に追い込まれるので注意。

 

 蹴りを放つ、攻撃をヒットさせる瞬間を狙い、こちらからオルゴナイトを爆散させる!

 

「ぐっ!」

 

 こいつは有効、リブからしたら打撃と同時に爆弾をゼロ距離で起爆されたようなもの。

 力加減や精度はまだ改良の余地あり。

 

 ギャラリーの方へ飛び後退するリブ、ルルとアグルたちの誘導で既に退避完了済み。

 逃がさない!ここで攻めないでいつやるんだよ。

 手にオルゴナイトを精製、結晶の拳を食らいなさい!

 一瞬だがルルたちと目が合う「行け!やってみせろ!」と応援してくれる。

 ああ、見ててくれよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 渇く、渇く・・・渇きの正体もわからぬままに、闘争を求める。

 

 強者故に満たされない、もっともっとだ、頼むからまだ消えないでくれ。

 簡単に諦めないでくれ、私はまだ・・・戦っていたいんだ。

 

 姉貴の背を追いかけていた頃は良かった。

 自分の強さを自覚した時、喜びより虚しさが勝った。

 誰か・・・いないのか・・・。

 

 ルドルフは強かったが再戦はいつになるやら、エアグルーブは相手をしてくれない。

 姉貴は?アマさんは?他のみんなは?

 こうなったら天級騎神に挑むしかないと思いかけた時、あいつは現れた。

 

 一般人よりはマシ、ただそれだけの男。

 

 手合わせを挑まれたのでノックアウトしてやった。つまらない、もう来ないだろうな。

 予想に反して次の日も、また次の日も懲りずに挑戦してくる。いつもへばっている癖にしつこい。

 何かを秘めているのを感じるが、こいつの成長を待っていては人生終わってしまう。

 もしかしたらと思ったんだが、人間に期待するなんてどうかしていた。

 

 そうして今日も渇いていくはずだった。

 

「逃がすかぁ!!」

「っ!」

 

 人間、マサキは限界を超えてみせた。

 結晶を身に纏いこちらを吹き飛ばす威力の一撃を叩き込もうとしてくる。

 必死の形相、息を荒げ、痛む体にムチ打ちながらも果敢に攻めてくる。

 その目が、顔が、覇気が、全身が、言っている「お前をぶっ飛ばす!」と。

 

 ああ、そうか。

 

 私は誰かに、追いかけてほしかった。あの頃みたいに一緒に遊んでほしかったんだ。

 

 渇きはもう感じていない、満たされていく。

 

 (どこまでも食い下がって来る)

 

 広場を飛び出し、ギャラリーを置き去りにして、基地を走り回りながら攻防を続ける。

 いくつか建物を壊したが知ったことか!こんなに楽しい戦いをやめられる訳が無い!

 走りながらぶつかり合う。

 

 (振り切れない?この私が・・・)

 

 面白い、面白い、自然と顔に笑みが浮かぶ。

 マサキの手刀を首の動きだけで回避して殴り飛ばす。

 攻撃を避けきれなかった髪の毛が宙を舞う、今のは危なかった、汗が頬を伝っていくのを感じる。

 こんなに愉快なのは久しぶりだ。

 

「何笑ってんだ!そんなに俺の顔は愉快かコラ!」

「アンドウマサキ・・・感謝する」

「え、何、急に?」

「さあ、とことんやろう!」

「あ、はい」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 マサキとブライアンの戦闘は基地内から外へ移行した。

 二人に置いてけぼりをくらったギャラリーたちは建物の屋上や基地外壁の上に昇るなど、思い思いの場所で観戦中である。

 

「ああー!おいでよバクシンの森が、お二人のパワーで荒れ地になってしまいます!」

「森の名前あったんだwww」

「そろそろ決着がつきそうね」

「ブライアンの奴、皇帝と手合わせした時より強くなっている。マサキのしつこさに感化されたのか」

「マサキ君がこれまで歩んで来た行程を肯定しよう皇帝だけに!」

「・・・・」やる気が下がった

「皇帝だけに!!」

「二回も言わなくて結構です」

「私の発言(ダジャレ)についての感想を400字以内で答えよ」

「不快」

「漢字二文字はやめて!?」

 

 女帝のやる気が絶不調になった頃、マサキとブライアンの戦闘は佳境に入っていた。

 

 苦しい、心臓の鼓動がうるさい、疲労もピークだ。

 ここでぶっ倒れてしまえば楽になるぞ、もういいじゃないか、よく頑張ったよ。

 やめろ、そんな誘惑にのってたまるか!甘えるな!倒れるのは勝ってからだ。

 

「確かこうだったな」

「おいおい、まだ覇気が残っているのかよ。超級騎神ってのはどうかしてるぜ」

「お前が言うな。行くぞ!」

 

 リブが出す桁外れの覇気が炎のように揺らめくオーラの形をとる。

 合わせた手の平に覇気を集中し、溜めた後に発射される。

 

「かめ〇〇波ーーー!!!」

「言った!そしてやりおった!!」

 

 なんか見た事ある構えだと思ったら、皆ご存じのアレだった。

 再現度が高い、威力も元ネタ通りだったらヤバい。これには応えねば。

 

「すうぅぅぅーーーはぁぁぁっ!!!」

 

 オルゴンブラスター発射!

 本日の一発目よりも威力が上がっているぞ。

 

 リブのかめ〇〇波と俺のブラスターがぶつかる、真っ向から受けて立つ。

 光線同士の競合いが開始される。

 

「これはきっつい・・・」

 

 光線の太さが倍ぐらい違う、リブの方が厚さがあるので不利っスね。

 口から出した後は腕で押し出す感じにしてます。

 だったら最初から手で撃て?それは好みの問題です。口から出した方がワイルドだと思ってる俺です。

 いやーーー!押されてるーーー!!ぐぎぎぎぎぎ。

 残念パワーが足りない。

 

 そうだ、アレがいい。

 メルアが見せてくれたイメージではもっと大出力の極太ビームをぶっ放すウマ娘がいた。

 今の俺ならきっと再現できるはず、やってやんよ。

 

 リブにじりじりと押されている最中、覇気を集中、オルゴンクラウドで周囲に拡散した余剰分も全てかき集める。

 後ほんの少しで俺に到達しそうになったかめ〇〇波を押し戻す準備完了。

 ギリギリまで溜めに溜めたぞ。

 ブラスターを超える高威力、高射程を誇るであろうその技をぶっぱなす。

 

「うぉらぁあああああああああああああああ!!!」 

 

 オルゴンスレイブ

 発射された瞬間に形勢逆転、かめ〇〇派を飲み込んでリブへ直進。

 オルゴンエネルギーの奔流がリブめがけて浴びせられた。その直後に大爆発!

 

 まだ終わりじゃない。

 予想通り、爆炎の中からリブが飛び出して来た。

 衣服がちょっとボロボロになってるがかまわず突貫してくる。

 お前ホントすげえな。

 俺なんてもう倒れそうだ。おそらくこれがラスト、最後まで付き合うぞ。

 

「アンドウマサキ!!!」

「ナリタブライアン!!!」

 

 オルゴンクラウドの防壁を貫通するリブの拳、迎撃した俺の右手から嫌な音と激しい痛み。

 くそ痛い!結晶の精製が間に合わなかった!?利き手を潰されたか。

 

「これでっ!!」

 

 終わりにしてたまるか!

 片腕を殺しただけで満足か?随分とお優しい事で。

 

「まだだっ!」

「が、左の!?」

 

 オルゴナイトを纏った左の手指がリブの胴体に打ち込まれる。

 そこから更に結晶を精製、ここまで距離が近いとこっちもダメージ覚悟だが仕方がない。

 

「行っけぇぇぇ!!!」

 

 爆裂!!!

 膨大な覇気で精製された左手の結晶が破壊の力となって砕け散る。

 

 フィンガークリーブ

 オルゴナイトを纏った貫手の連撃。

 本来ならばラストに鋭利なオルゴナイトのロケットパンチをぶち込んだ後に爆裂させる。

 

 今回はゼロ距離でぶち込んだので二人とも吹っ飛びました。

 

 最後の瞬間、俺とリブの思考がリンクする。

 

 (どうした?もっと嬉しそうな顔をしろ)

 (ありがとう)

 (礼などするな・・・覚えていろ、次はぶっちぎってやるからな)

 (その時はまた、よろしく頼む)

 (お前を見くびっていた私の負けだ。そして限界を超えたバカなお前の勝ちだ)

 (素直に褒めてくれませんかねぇ)

 

 二人して大地に転がる。

 立ち上がるのが辛い。お、ルルたちがこっちに向かってる。

 カッコだけはつけとかないとな。

 

 フラフラのままゾンビのように立ち上がり、リブの下へ。

 あらら、気絶しちゃってるよ。眠っている時はカワイイのね。

 服をボロボロにしちゃったので、俺の上着(こっちもボロボロだけど)をかけておく。

 

 到着したルルたちが破壊の残滓と俺たちを確認する。

 

「勝負あり!二人とも良く戦った。勝者!アンドウマサキ!!」

 

 ルルの声に合わせて拳を天へ突きあげる。なんかそれっぽいだろ。

 

「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

 

 なんかギャラリーからよくわからん雄叫びが上がった。

 

 つ、疲れた。

 



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はぶきすぎ

ガシャポン、全力疾走アクリルスタンドを発見したので1回挑戦してみた。
マックイーンでした。


 ナリタブライアンにやっと勝てた。

 女神チート使ってもかなり危なかったけど。

 

「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

 

 うるさいですね。

 左腕を上げたままラオウスタイルで気絶しようかと思ったのに、うるさくて無理。

 リブの傍にへたり込むように座る。はぁ、マジで疲れた。

 バスカーモードにオルゴナイト、オルゴンクラウド。慣れない新技を使ったのでいつも以上に消耗している。

 

 パチパチパチと拍手しながら、ルルがこちらに来た。

 

「お疲れ様。素晴らしい戦いだったよ」

「そうか?かなり苦戦したし、結構ギリギリだったぞ」

「謙遜することはない、たった今、君は偉業を成し遂げた。人の身で超級騎神に勝利したんだ」

「実はチート使ってました」

「結晶の事か、聞きたいことは山ほどあるが。あの力を呼び寄せ、使いこなしたのは紛れもなく君自身の成果だ」

「そう言ってくれると、ありがたい」

「今は君の勝利を讃えようじゃないか。なあ、皆!」

「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

「うるさ・・・囲まれてる!」

 

 沢山の拍手と歓声、気が付けば興奮したウマ娘たちに囲まれていた。

 最初はあんなに拒絶していたモブたちが笑顔で褒めてくれる。

 

「凄かった!凄かったよ!」

「これは認めざるおえないです」

「どんな修練を積めば、そんなに強くなれるのですか」

「血が滾りました」

「その・・・ごめんなさい!ずっと誤解してました」

「最初から気づいてましたよ。あなたはただ者じゃないって」

「ブライアンさんの無防備な寝顔・・・(*´Д`)ハァハァ」

「綺麗なキラキラ結晶、お土産にほしいです」

「やっぱりロリコンだったんですか?」

「ブラボー!ブラボー!」

「トレビアァァァンンン!!!」

 

 お、遂にモテ期到来か。

 気の利いた返しもできず「あ、どうも」「いえ、そんな」とコミュ障気味の返答を繰り返す俺。

 女子の圧力怖い。

 

「はーい散った散った!マサキ君が困ってるわ」

「そこを通してくれるかなポニーちゃんたち。私たちも彼を労いたいんだ」

 

 モブを掻き分けて見知った顔、ネームドウマ娘たちがやって来た。

 

「ナイスバクシンでしたよ。はなまるをあげちゃいます!」

「ああ、バクシンしまくってやったぜ」

「君が起こしたキセキ、しかと目に焼き付けたよ。種と仕掛けが何だったかは気になる所だけどね」

「それは女神のみぞ知るって奴だよ、フジ」

「超イケイケのノリノリだったわね。バッチグーよマサキ君」

「なんだこの激マブは」

「お疲れ様でした~。私、いっぱい応援しました~」

「ありがとなドト、ちゃんと聞こえていたぞ」

「はっーはっはっはっ!最高の舞台だったよ。今日の主役は間違いなく君さ」

「結晶人間になった時はどう見ても仇役だったけどな」

「セイちゃんの思った通りの結果でした。やりますね~このこの~」

「よせやいマイフレンド」

「よくやった!アンタは本当によくやったよマサ公。今日はご馳走にしようじゃないか」

「ありがとう姐御!ご飯が楽しみ~」

「ねぇねぇ、抱っこしてたのが愛バ?」

「見ちゃったか、そうだよ。いつかみんなにも紹介したいな」

「あなたにしてはよくやったわ、褒めてあげる・・・ちょっとだけカッコよかったわ」

「うん。しっかり褒めてくれよキング」

「ボーノッ!キラキラ~でバシューンとしてドカーンだったね」

「語彙力の低下はともかくありがとうボノ」

 

 次々と労いの言葉をかけられて照れます。

 

「がんどうじだぁぁぁああああああっ!!!よぉうおぉぉぉんんんんんん!!!」

「いつまで叫んでるんだチケ蔵!毎回それで疲れないの?」

「アンタの記憶を見てからずっと泣き叫んでるわよ、こいつ」

「勝ったよ、タッちゃん」

「うん、見てた。よく頑張ったね、おめでとう」

「あんなに楽しそうなブライアンを見たのはいつ以来か。マサキ君、妹に勝ってくれたこと、心から感謝する」

「いえいえ、大事な妹さんをボコってすみません。ヒデさんや皆も、どんどんリブに挑戦したらいいと思う。口や態度はそっけないけど、リブは皆と遊びたいんだよ」

「フフッそうだな、その時は姉の威厳というものを思い出させてやるとしよう」

 

 なんだかんだで、リブはちゃんと手加減してくれたし、俺が成長するまで待っててくれた。

 慣れると少しめんどくさいクーデレなのよこの子は。

 こんなこと本人に言ったら殴られそうだけど、友達の輪に「あーそーぼー」とか「いーれーてー」が言えない恥ずかしがり屋さんでもある。

 これからは、姉や仲間にたっぷり遊んでもらえるといいな。

 

「痛たたた、回復にはしばらくかかりそうだな」

「動くな、たわけが。救護班何をしている!ケガ人を放っておく気か」

「アグル、これぐらい心配ないよ。それより見たか」

「貴様にしては上出来だ。盛大な惚気も聞かせてもらった」

「恥ずかしいので、そこは忘れて」

 

 女帝が直々に血を拭ってくれる。

 ダメにした右手を慎重に扱い、処置を施してくれた。さすができる女。

 気絶中のリブを救護班が手当てしようとしている。

 まだ、少し残っているよな。

 

「俺がやる、手当てをするぐらいの覇気ならまだ残ってるし」

「何をする気だ、安静にしてろ」

「いいから、やらせてくれ」

 

 無事な左手に癒しの光を集中。 

 リブの体をヒーリングしていく、傷が残ったりしたら申し訳ないからな。

 

「ヒーリング!?それもこんな高精度の」

「みるみる傷が治っていく。救護班いらないじゃん」

「この回復量、治療師でも十分やっていけるのでは」

「愛バ以外にここまでの処置が施せるなんて」

「君は本当に多芸だね」

「あの、気が散るので見学はお静かに」

 

 ジロジロみられて緊張したけど、ヒーリング完了。

 ちょうどその時、開かれたリブの目と視線が合った。

 

「お前か」

「お早いお目覚めで。ヒーリングしてみたがどうだ、痛い所はあるか?」

「問題ない・・・それよりどういう状況だ」

 

 起きたらみんなにのぞき込まれていた。それは困惑しますな。

 

「起きたか、敗北者の妹よ」

「姉貴、敗北者言うな」

「事実だろう、それで今の気分は?」

「渇きはない、不思議とスッキリしている。やるべき事もできたしな」

「やるべき事?それは何だ」

「更なる高みを追いかけ続けること。上には上がいるってのはいいものだ」

「上ばかり見ていると下からすくわれるぞ」

「それもいいな」

「本当に困った妹だよ。お前に勝利する方程式を考える身にもなってくれ」

「楽しみに待ってる」

 

 姉妹の間で何か思う所があったみたい、良かったわね。

 

「女神様は来てくれた?」

「ミオか。ああ、メルアには大変お世話になってしまった」

「よっと」

 

 小さな黒スライムがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、俺の体を登って来た。

 戻って来た便利な相棒に、結晶化に至った経緯を説明する。

 

「覇気の物質化、オルゴナイト、歴代の三女神はその力に目覚めた者たち」

「そうらしいな」

「今回はマサキという男が混じってるね、残りの二人は・・・考えるまでもないか」

「ああ、おそらくな」

 

 いや、ほぼ確信していると言っていい。

 俺の愛バはオルゴナイトの繭に姿を変えたのだ。

 女神が後継者に選んだのは、あいつら二人だってことに。

 

「愛バが持ってた女神の因子にマサキが引っ張られたのかな?」

「1stのあいつらも良くない結晶化をしていたから、そうかも」

 

 本来なら、ウマ娘が継承する力がなぜ俺に?また今度メルアに聞いてみよう。

 

 その日、俺の勝利記念パーティーが開催された。

 超特急で野外ステージが組まれテーブルやイスが用意された、大量の料理がずらっと並んで準備完了。

 野菜嫌いのリブが頑張ってピーマンを食べたので皆で褒めたり、ルルの一発ギャグとマルさんの死語連発で会場が凍りついたり、フジがチケ蔵を使って人体切断マジックに挑戦したり、バクシンがウララ~してウンスがボーノでアマゾンにキングは一人この俺だったりして、とにかく楽しかった。

 最終的に誰かが俺の飲料に酒を混入し、ダウンした俺は途中退場となってしまったとさ。

 

 翌日、覇気が回復したリブから約束の覇気を提供してもらった。

 ついでにブラッシングもして、ツヤサラストレートの美髪にしてやったわ。

 

「お手入れはちゃんとしろよ、せっかくの綺麗な毛並みを大事にしてやれ」

「考えておく」

「そう言って行動しない奴が多いんだよな。ヒデさんや皆にも監視と指導をお願いしておくからな」

「チッ」

「コラ!舌打ちしない」

 

 ブラッシングついては一応努力することを約束させた。

 カッコ可愛く生まれてきた自分の長所を大事にしなさいよ。

 

 そして遂にルルから覇気をもらえることになった。

 

「それじゃあいいかな、ルル」

「ああ、君ならば私の覇気を託すに値する人物だ」

「リラックスしてね、はいそのまま~」

「頭を撫でられるのはなんとも新鮮だね」

「超級の上に皇帝の二つ名持ち、そんなお方の頭を撫でるなんて恐れ多いことをやってるな俺」

「今の距離感が好ましいんだ。今更、堅苦しい態度をとられると悲しいな」

「じゃあ、これからも対等の友達ってことでOK?」

「ああ、そうしてくれ」

「・・・・」

「・・・・」

「布団が吹っ飛んだ」

「ブフッ!」

 

 定番のダジャレでも吹いてくれるルルだった。

 やったー!念願のシンボリルドルフの覇気を手に入れたぞ。

 

 リブ戦で負った傷と消耗した体力の回復。

 それと、バイクの修理もあるので、数日間UC基地で療養させてもらうことにした。

 

 そんなある日、俺は休憩中のルルたちと執務室でまったりしていた。

 

「結局、UCは解散するのか」

「元々それが当初からの計画でね。既に離反したメンバーや残党の後始末はあるが、ここにいる皆と基地は御三家と学園が面倒をみる手筈になっている」

「どこかのたわけの影響で、かなりの前倒しを余儀なくされたがな」

「ふーん、変な奴がいるんだな。あ、お菓子もらうね」

「自覚がないのか、このたわけが」

「まあまあ、エアグルーブ。マサキ君にとっては何かを成したではなく、普段通りに過ごしただけなんだよ」

「バームロールうめぇ。ボンさん元気かな~」ムシャムシャ

 

 ルルたちとアグルの淹れてくれたお茶を飲みながらティータイム。

 UCは解散決定したようだ。

 ルルとアグルがUCを仕切る→リブをどうにかして学園に連れて帰る→皆を説得→UC解散

 と言う流れを計画しており「皆を説得」は時間をかけて少しづつ人間への拒否反応を緩和していく予定だったのだが、もうその必要もないだろうとのこと。

 

「俺がなんかの役に立ったなら幸いだ」

「君は本当にいい仕事をしてくれたよ。愛バたちもさぞや鼻が高いだろう」

「あいつらに自慢できることが増えたな」(`・∀・´)エッヘン!!

「まったく頭のゆるい男だ、全ての人間が貴様のようならば楽なのだがな」

「褒めてるのか?あ、そうだ、ルルたちというか皆はその・・・俺と愛バの記憶を見たんだよな」

「それはもうバッチリと」

「ロリコンめ!あの二人は若すぎるだろ」

「二人が可愛すぎるのが悪いんや!彼女たちを愛バにしたこと、微塵も後悔しておりません」( ー`дー´)キリッ

「ロリコンの鏡だね」

「あれ以来、愛バのことで皆からかってくるのよ、嬉し恥ずかしで困っちまう」

「貴様が操者ではさぞ苦労が多かろうな。精一杯、大事にしてやれ」

「女神と母さんたちに誓ってそのつもりだ」

 

 ルルとアグルは俺の母さんが天級騎神だと知っている。

 身内の七光りを吹聴してマウントとる気はない。

 したがって基本的には、聞かれたり、何かの弾みで言ってしまわない限りは秘密。

 

 今まで出会ったウマ娘の中でも、ルルとアグルの実力と聡明さはトップクラスだ。

 信頼できるこの二人には、女神と会って力を得たことを話してもいいだろう。

 

「三女神の一柱メルアか、にわかには信じ難い話だ」

「最初は夢か自分の妄想が限界突破したのかと思ったけど、どうやら本当っぽい」

「マサキ君が顕現させたオルゴナイト。あの力を見た後では幻覚や妄想で片付けることはできない」

「二人はメルアって聞いた事ない?真名はまだ秘密みたいでな」

「残念ながら聞いたこともない、メルアと言うのは生前に操者が授けた愛称なのでは」

「あだ名か・・・うちのクロとシロみたいなもんか」

「それが貴様の愛バの名か?なんだかペットの猫みたいだな」

「猫じゃない、先代はカナブンだ」

「「カナブン!?」」

「どんな真名だろう、やっぱ女神だから"ヘラクレスオオカブトムシ"とかかな」

「世界最大のカブトムシか、それはいいね」

「よくないです。昆虫から離れろ」

 

 女神については本人に直接問いただすのが一番だと結論付けた。

 二人も心当たりがないようだし。今後、何か手がかりや気付いたことがあれば、連絡をくれることを約束をとりつけた。

 

 お茶とお菓子のお礼に仕事を手伝うことにした。

 書類仕事はルルがテキパキと片付けるので、アグルについていくことにした。

 基地内の見回りやクレーム処理、揉め事の仲裁、搬入物資のチェック、花壇と菜園の整備など多岐に渡るので、俺でも何か手伝えることがありますよね。

 

「これでよし、もう転んだりするなよ、足元注意だ」

「ありがとうございましたロリコンさん」

「さすがロリコンですね」

「いい男紹介してよロリコン君」

「愛バとの馴れ初めを詳しく」

「ロリコンになったきっかけは?」

「もう用は済んだだろう、早く仕事に戻れ」

「「「「「し、失礼しました~」」」」」

「まったく、あいつらは」

「・・・ふふ」

「どうした、幼女がいなくて物足りないか?」

「どこへ行ってもロリコン呼ばわり。もう誉め言葉だよね、ふふふ・・・クロとシロの可愛さを知ったら、誰もが俺を羨むことになる。そうなってから後悔しても遅いんだからね!」

 

 見回り中に転んでケガをしたモブがいたのでヒーリングしてあげましたぜ。

 リブ戦でロリコンが広まっており、もはや訂正不可能。泣けるぜ。

 最初の頃に比べて俺への嫌悪感が大分薄れているのを実感した。

 挨拶すれば普通に返してくれるし、向こうから話しかけてくれることも増えた。

 まだ警戒している子もいるが、人間に対してすこしでもプラスの印象を与えられたのは良かったと思う事にしよう。

 

「人間全員がロリコンだと勘違いしていなければいいがな」

「俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!」

「愚かなレプリカの真似はやめろ。自分の選択と愛バを信じているんだろう、ならば誰に何を言われても貴様は堂々としていればいい」

「アグルのそういう所が好きです」

「たわけが、仕事はまだ残っている。さっさと次に行くぞ」

「はーい」

 

 アグルのお手伝いをこなしてから寝床に戻るとバイクの修理が完了していた。

 

「おかえり、じゃーん見てよコレ!」

「おお、ようやく直ったか。なんか前と形状が違うじゃん」

「基礎フレームはそのまま、マサキの身体データに合わせて、乗り心地と操作性を向上させたよ」

「サイドカーは外したのか、へぇー、ほーう」

「シートとサスペンションには拘ったからね、これで尻へのダメージも安心」

「そいつぁすげぇや!」

 

 試しに跨ってみたら凄くしっくりきた。人間工学に基づいて設計してる感じ。

 シートがいいね、これでお尻を痛める心配はない。ハンドルを握る、運転姿勢も問題ない。

 ミオにより俺専用にカスタマイズされたメディウスVer.2.0だ。

 こいつをかっ飛ばすのが今から楽しみだ。

 

「体の方はどう?」

「ほぼ回復した。いつでも準備OKだ」

「じゃあ、そろそろですか」

「そうだな、挨拶しておかないと」

 

 旅はまだ続く、明日にはここを出発しよう。

 

「そうだ、女神とオルゴナイト関連の報告をシュウ宛に送っておくか」

「レポートは既にまとめてあるよ。動画とマサキの生体データ各種も添えておこう」

「シラカワシュウ個人宛で頼む。他者に見られないようにしてくれるとありがたい」

「暗号通信でやってみるか、ネオの息子なら解読も容易いだろうからね」

「任せっきりですまんな」

「かまわんよ」

 

 タキオンやビアン博士には・・・また今度にしよう。

 奴らは俺を研究対象として見てるから、めんどくさいし少々身の危険を感じる。

 どうせシュウからバレるだろうし、こういうのは一番信頼できる兄貴分に丸投げしまーす。

 

 ここを発つことを告げた翌日の朝。

 

「見送りはいいって言ったのに」

「そういう訳にはいかない、君はもう我々の仲間であり大事な友なのだから」

「同じ釜の飯を食った仲ってやつだね」

 

 嬉しくて泣きそうになるからやめてね。

 見送りに集まってくれたのはルルだけじゃない、覇気をくれた皆にモブたちもたくさんいる。

 

 チケ蔵が泣きすぎて水たまりができてるwww。

 ヒデさん、妹の攻略頑張って、期待してるぜ。

 タッちゃん、ありがとうデレてくれて。

 ボノ、姉御、いつも美味しいご飯をありがとう。もらったレシピ大事にする。

 オペ、演劇楽しかったぜ。次の公演でもきっと輝いてるんだろうな。

 ドト、お前は出来る子だ、自身を持ってね。

 ウララ、純なままの君でいてください。

 キング、たくさん世話を焼いてくれて嬉しかったよ。

 ウンス、友よ、また釣りに行こうな。

 委員長、バクシン!これ以上の言葉はいらないな。

 フジ、手品の種明かしを披露してくれ。

 マルさん、自慢のスーパーカーにいつか乗せてね。

 リブ、良い好敵手だったぜ、ちゃんと野菜食えよ。

 アグル、ルルを頼む。たわけって言われるの癖になります。

 ルル、皆を頼む。責任ある立場だからって無理は禁物よ、過労死ダメ!絶対!

 

 撫でたり、ハグしたり、握手したりして別れの挨拶とする。

 目を潤ませたり、本気で別れを惜しんでくれる奴らがいたのでこっちまで泣きそうになった。

 いや、ちょっと泣いた。

 

「愛バの件が解決したら是非とも学園に寄ってくれ、待っているよ」

「ありがとう、皆のことは忘れない。では、サラダバーーー!!!」

「さらばだーでしょ」

 

 黒いバイクに乗ってUC基地を後にする。

 快調なエンジン音を響かせて出発進行~。おほっ!いいスタートですぞ。

 ミラー越しに皆がブンブン手を振っているのが見えた。ありがとう、またいつの日か。

 

「良い奴らだったな。覇気も大漁大漁ですわ」

「トレセン学園か、私もキャンパスライフってのに憧れちゃうな~」

「青春時代・・・ハハハ、ハァ~」

「おや?その反応は中二病を卒業した後にも黒歴史があるとみた」

「ノーコメントで」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 マサキが去った後のUC基地。

 ウマ娘たちはそれぞれの日常へと戻っていった。

 もうすぐこの基地は閉鎖される予定だ、引越準備等で忙しくなるだろう。

 マサキと特に仲が良かった者たちは、ほんの少しの寂しさと幸運にも彼に会えたことに充足感を得ていた。

 きっとまた会える、その時はご自慢の愛バとやらを紹介してもらおうじゃないか。

 

「了承ッ!UCの解体計画は前倒しで遂行することに相違ないな」

「はい、就職希望者は御三家の採用担当が引き取るようです。思い通りの職につけるかは本人の努力次第ですが」

「学園への編入希望者は皇帝のお墨付きだな、次期理事長として歓迎する」

「有望な騎神が揃っていますよ。一段落したら私もそちらへ戻ります」

「うむ、万事順調に運んで何よりだ。それにしても、こうもアッサリと説得に成功するとはさすが皇帝だな」

「私ではありません。皆の心を変えたのは彼ですから」

「彼?UC基地に男が来ていたのか、なんとも肝の据わった奴がいたものだ」

「ええ、とても変わっていて不思議な男でした」

「変な男・・・わかったぞ、そいつは変人だな!」

「ふふ、そうですね」

 

 変人と呼ばれてプンスカ怒っている彼を想像してしまった。

 

 次期理事長に報告をすませてビデオ通話終了、うーんと軽く伸びをしてストレッチ。

 さてと、彼に負けないように私も頑張らないとな。

 ノック音の後、入室を許可するとエアグルーブがお皿に乗った何かを持って来た。

 

「失礼します皇帝、おやつのお時間です」

「子供か私は!まあ、もらうけども」

「あのたわけ、マサキが厨房を借りて作っていたプリンです。人数分用意できなかったそうで争奪戦になりましたが、何とか私と皇帝の分は死守しました」

「いつの間に仕込んでいたのか、マサキ君の置き土産だね。ふむ、プリンか・・・」

「あ、嫌な予感が」

「プリンは栄養たっプリンなんてな!」ドヤァ

「心底不愉快です。このプリンは二つとも私がいだだくことにします」

「やる気が下がらない代わりに辛辣っ!待って!プリン私も食べたい~」

 

 マサキの手作りプリンは概ね好評だった。

 味や形はともかくどこか懐かしく素朴な味わい、作り手が鼻歌まじりに調理する姿が目に浮かぶ。

 料理上手のヒシアマやアケボノ曰く「ちゃんと心ってヤツがこもっている一品」らしかった。

 

「おいしいよぉぉぉ!!!マサキさんいなくて寂しいよぉぉぉんんん!!!」

「あーうるさい!てか食いすぎ!一口だけって言っただろ!」

「やれやれだ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 UC基地を出発してから一か月ほど経過した。

 今、ドレイン中でございます。

 

「本来、覇気のやり取りってのはやろうと思って出来るもんじゃねぇ」

「そうらしいな、あ、動かないで」

「それをほいほいやってるお前は何だよ。熟練の操者と愛バ、極一部の天才たちにだって不可能な芸当をいとも簡単にしやがって」

「出来るんだから仕方ないし、これは愛バたちを救うために必要なことだからな」

「あークソ!こっちが必死こいて組み立てた理論を嘲笑うかのように飛び越えやがる。これだからイラつくんだよ、規格外の連中は」

「興奮しない、怒ってもいい事ないぞ。ハイ深呼吸して~」

「しかもお前、まだなんか隠してるだろ。こっちの血管ぶち破るぐらいのふざけたネタをよう!」

「はい。どうもありがとうございました~ドレイン完了っス」

「お前のデータを渡してもらう約束忘れんなよ」

「悪用しない、個人情報の取り扱いは厳守する、俺をげっ歯類呼ばわりしないのが条件だ」

「げっ歯類?ああ、テスラ研のマッドサイエンティストか。あんなのと一緒にするな」

「悪名高くて超納得した」

 

 たった今、覇気をくれたこのウマ娘さんの名はエアシャカ―ル。

 街中でいきなり声をかけられたからビックリしたわー。

 逆ナンかと思ったのは一瞬、ヤンキーに絡まれたと思ってビビッたのは内緒。

 雇い主はファイン家、モーさん直属の部下でゴルシの同僚らしい。

 テレビ出演をした俺のことを探してわざわざ会いに来てくれたのだった。

 

 黒い毛並みに眉の横に特徴的なピアス・・・ワイルドなイケメン女子。

 高圧的な見た目ではあるがかなりの常識人。

 頭も性格もキレキレのデータ主義者で、アバウトなものを嫌い、ロジックによる筋道がたったものを好む。

 俺は文系なので、数字に強い子は素直に羨ましい。

 

「スマホにデータ転送したよ。私もマサキについてはわからないことだらけだよ、それで我慢してね」

「ラズムナニウム製の自立行動型AI、てめぇも十分すぎるほどの規格外だ」

 

 (マサキ、私の詳細と女神関係の話は言っちゃダメだよ。いずれバレるとしてもね)

 (今喋ったらシャカの脳みそパーンッ!しそうだからな)

 

「行くぞ」

「どこに?」

「決まってるだろ、うちのボスが待ってんだよ」

「やった!今、会いに行きます。モーさん」

 

 現時刻20時、場所はとある都会の繁華街。

 人混みで賑わう夜の街をシャカの後に続いて歩いて行く。

 

「あんまキョロキョロすんな、田舎者かよ」

「田舎出身ですけど何か?欲望渦巻く夜の繁華街、俺には無縁の場所だな」

「ぼったくりバーに行こうよ!カモのふりして散々飲み食いした後に、バスカーモードで店ごと潰してやんの」

「そういう店の取り締まりは警察に任せるわ」

 

 煌めくネオン、騒がしい人々、お酒を提供するお店の数々。場違いな空気を感じますね。

 ふと、UC基地を出てからここまでにもいろんな出会いがあったのを思い出す。

 

 自称姫を名乗るウマ娘が舞踏会ならぬ、武闘大会に間違って参加したのを見守った。

 

 痴漢冤罪容疑をかけられそうになった所を、ギャルウマ娘たちに助けられた。

 

 雨の中、楽しそうに散歩するウマ娘に付き合ってびしょ濡れになった。

 

 田舎から出てきたウマ娘を道案内して余計深刻な迷子になった(ミオがいなかったら詰んでた)。

 

 読書好きの眼鏡っ子ウマ娘に誤って官能小説をプレゼントしそうになった。

 

 魔女に憧れるウマ娘にホグワーツだと言ってトレセン学園をオススメした。

 

 ヒーローに憧れるウマ娘に雄英高校だと言ってトレセン学園をオススメした。

 

 噛みつき癖のあるウマ娘を発見したので逆に噛みついてやろうと追いかけ回した。

 

 「なのなの」言うウマ娘に覇気をもらったなの!

 

 狐面てやんでぃな江戸っ子ウマ娘と勝負してねじ伏せた。

 

 道場破りを繰り返す格闘ウマ娘の野望を阻んだ後、一緒に修練した。

 

 俺様系ウマ娘がいたので壁ドンをしてもらったらキュンキュンした。

 

 正統派主人公みたいな素直で良い子なウマ娘がいた、マルさんに憧れてるらしい。

 

 マーベラスがマーベラスでマーベラスだった。

 

 ニット帽をかぶったアウトローウマ娘と賭け狂いした。

 

 ハチマキを巻いた熱血ウマ娘に風紀委員が似合うねと言ってみた。

 

 妙なテンションのアクティブウマ娘にジョジョ立ちポーズ勝負で引き分けた。

 

 どこか影を背負ったダウナーウマ娘を笑かそうと頑張った。

 

 自身の可愛さをよく理解しているウマ娘に自撮りの極意を教わった。

 

 6人目のメジロ来ちゃったよ・・・おっとりマイペースですか、俺の性癖には合ってますね。

 

「詳細は省くけど、なかなか濃いメンツだったな」

「省きすぎ!」

 

 皆いい子たちでしたよ。ええ本当に。

 




実装済みキャラの出会いエピソードは全員分書く予定でしたが力尽きました。



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らーめんほてる

 UC基地を出発。

 その後もいろんなウマ娘に出会ってウハウハ。

 

 

 エアシャカールに案内されて到着したのは飲食店の連なる通りだった。

 多くの人で賑わっており大変活気がある。

 

「あっちもこっちもラーメン屋だらけ」

「この街有数のラーメン激戦区さ。ラーメン狂いのあいつにとっては天国だろうな」

「この中からモーさんを探せと?」

「晩飯はまだだろ、気になる店で適当に食ってりゃ向こうが見つけてくれるんじゃねーの」

「うどんが食いたい」

「同じ麺類だろうが!贅沢いうな。じゃあな、後は上手くやりな」

「ちょいまち、シャカはご一緒しないのか」

「お前と違って忙しいんだよ。それに今日はスパゲティの気分だし」

「さっき俺になんて言った「同じ麺類だろうが!」てキレましたよね?」

「知るかよ。おいAI1改めミオだったか、てめぇは俺と一緒に来い」

「えー、私はマサキと一心同体なのに~」

「もらったデータだけじゃ情報量が足りねえ、実際に観測した奴の口からマサキの異常性を教えろよ」

「異常は言い過ぎでは」

「まったくもって言い過ぎじゃないよ」

「(´・ω・`)ショボーン」

「それにお前、自分がファイン家技術部の備品だってことを忘れてないよな」

「確かに私の所有権はファイン家にあるかもね・・・どうしようマサキ」

「行って来な、何かあったらすぐに連絡すること」

「わかった、じゃあ行ってくる。私がいないからってハッチャケ過ぎたらダメだよ」

 

 俺の腕からシャカの肩に飛び移る黒いスライム。

 俺にはわからない専門用語で会話しながら二人は去っていった。インテリ同士気が合うのかな。

 一人になってしまったぞ。

 ここ最近はずっとミオがいてくれたので、なんだか急に寂しくなってしまった。

 

「とりあえず腹ごしらえしますか。う~ん、どこで食べようかな」

 

 食欲を誘う香りが四方八方から漂ってくる。

 ラーメンに詳しい訳ではないので、どの店を選ぶのが正解なのかわからん。

 うわ、行列ができてる店がある。さぞや人気のある店なのだろう。

 

「行列って苦手だ、仮に入店できた所で落ち着いて食えないだろう」

 

 店内がギチギチで隣の客と距離が近い、早く食ってどけよ!ってせかされてる感も嫌。

 

「ここは応援する意味を込めて、空いてる店に入ろう」

 

 お客さんが少ないからと言ってマズい店とは限らないよね。

 少なくとも激戦区に出店してるぐらいだから、それなりの味は保証されてるだろう。

 

「おう、兄ちゃん!暇か?腹減ってるならうちの店に寄って行きな」

「暇じゃないです。キャッチセールスはお断りします」

「かてぇこと言うなよ。後悔はさせねえからな、な」

「しつけぇ!でも、その熱意を汲みます。いいぜ、アンタの店に決めた」

「話のわかるお客様ご案内だぜ!ついて来な!」

 

 威勢のいいおっちゃんに捕まったので流れに身を任せることにした。

 職人気質な風貌をしているし、この人が作ったラーメンなら確かに美味そうと思った。

 

「さあ、着いたぜ」

「急用を思い出したから帰るね」

「ここまで来てそりゃあないぜ兄ちゃん!」

 

 近くの店に誘導されるのかと思いきや、激戦区から離れた裏通りに連れて行かれた。

 目の前にあるのは年期の入った移動式屋台がポツンと佇んでいるのみ。

 期待してたのと違う。

 

「屋台に用はないので失礼します」

「待って!華麗なバックステップで立ち去ろうとしないで!おっちゃんのバイト代がかかってるの!」

「アンタ店長ですらなかったのか!見た目ベテランの頑固職人なのに、ただのバイトかよ!」

「自慢じゃねぇが味音痴でな、ラーメンとうどんの違いがイマイチわからん」

「ラーメン屋でバイトしないでくれますか」

「調理の腕もさっぱりでな、カップ麺作るのも一苦労だぜ」

「うわぁ」ドン引き

「男子厨房に入るべからずって言うだろう」

「いまどき家事をやらない男ってホント見苦しいわ、軽蔑します」

 

 知り合いの男連中は皆家事得意なので、このおっちゃんの言ってる意味がわからない。

 俺だって一人暮らしする前からある程度はやってるし。

 シュウなんてストレス溜ると家事に逃げるタイプだぞ。

 

「マイワイフと同じ目をしてやがる。バイト代が入らないと離婚されちまうんだ、頼む!この哀れなゴミ虫を助けると思って、あ、靴をお舐めしたほうがいいですか?」

「やめろ気色悪い!ああもう、わかったよ。行くよ、行きますよ」

「そうこなくっちゃ!ささ、こちらへ。大将~ご新規のお客さま一名入りまーす」

 

 世知辛い客引きバイトに従って屋台の座席に座る。

 ちょっとワクワクしてきた。

 

「は~い、いらっしゃい!」

「どうも」

「大将、ワシもうすぐ定時なんでお先に上がらせてもらいやす。お客様は引き続きどうぞごゆっくり」

「ご苦労様、タイムカードちゃんと押してってね~」

 

 屋台にタイムカードあるんだ。

 バイトおっちゃんは定時退勤したようで、残されたのは大将と俺の二人っきり。

 

 それよりも、大将と呼ばれたのは俺より若い女の子・・・これまたウマ娘かい。

 

「「こんな小娘にまともなラーメン出せんのかよ」て心配したね」

「そこまでは思ってないよ」

「ならいいんだけど。何にする、うちは豚骨オンリーだけど、麺の硬さと、スープはこってりかアッサリを選べるからね」

「うどん」

「帰れ!」

「帰るわ・・・おい、離せや、やめっ!服伸びちゃうから、やだ力強い!」

「帰らないで!うどんはやめてラーメン食べようよ、ね、ね」

「別にラーメン食いたいわけじゃないし、今うどんの気分だし」

「お代はいらないから、グスッ、お願い食べていって」うるうる

「わかった、わかったから泣くなよ」

「最初からそう言ってくれればいいんだよ~、で何にする?オススメはこってりバリカタニンニクマシマシだよ」

「嘘泣きかよ、えっと、アッサリのバリやわニンニク抜きで」

「オススメ完全無視した!いじわるだね」

 

 ぶつくさ言いながら調理に取り掛かる大将。

 大将と呼ばれるだけあって、淀みない動きでラーメンを作る姿には感心する。

 中高生ぐらいか、かなり若いので普通こっちがバイトだと思うよな。

 目が合う度に微笑んでくれる、その顔、ドキッとします。

 

 麺が茹で上がったようで湯切りの工程に入る大将。

 

「よく見ててね、そぉい!」

「あっつ!なにやってんのおバカ、こっちまで茹で汁が散ったぞ」

「湯切りの過剰演出こそラーメン作りの真骨頂だよ」

「知らんがな」

「そうこう言ってるうちに完成ってね。へいお待ち!」

 

 ドンッ!と俺の前にどんぶりに入った完成品のラーメンが置かれる。

 

「親指!親指ガッツリ入ってるから!熱くないの?」

「大将(美少女ウマ娘)の出汁入りってことで一部の層から支持されないかな」

「どんな客層狙ってんだ。まあ、俺は気にしませんけどね」

「ドロリ濃厚、豚骨こってりバリカタニンニク抜きを召し上がれ」

「俺が注文したのと微妙に違うし」

「さあ、食べよう食べよう!あーお腹空いたぁ」

「え?」

 

 エプロンとバンダナを脱ぎ捨て、厨房から出て俺の隣席に腰かける大将。

 その手には俺の前にあるラーメンと瓜二つのどんぶり。

 

「お前も食べるんかい!」

「食べるよ、食べまくるよ。そのために、こってりバリカタ二人前用意したよ」

「自分好みの調整したのかよ」

「ニンニクは抜いたよ。もういいじゃん、伸びる前に美味しく食べようよ」

 

 美味しい内に食べるのが食に対するリスペクトだ。

 大将は変わった奴だが、目の前のラーメンに罪はない。

 

「「いただきます!」」

 

 まずはスープを一口。濃厚な旨味が口いっぱいに広がって行く、いいねいいね~。

 バリカタの麺はやや硬めで程よい食感、スープに絡んで美味い!美味いぞ!

 しばらく、無言で麺をすする。

 

「どうかな、美味しい?」

「うん、とっても」

「えへへ、良かった~。替え玉も用意できるからじゃんじゃん食べて」

 

 整った顔をにへらと崩して嬉しそうに微笑む大将。あ、激マブがおる(マルさんの死語がうつった)

 くあ・・・どうしてウマ娘はこう、いちいちカワイイのだろうか、ズルくない?

 

「ヤバッ、くっそカワイイ」

「お褒め頂きどうもです」

「まーたやらかした、すぐ口に出でるんだから俺ってば」

「素直に人を褒められるのは美徳だよ」

 

 雑談もそこそこにしてラーメンに集中。

 俺は一回、大将は三回替え玉した。

 スープの飲み干して完食いたしました。血圧?カロリー?知ったことか。

 

「「ご馳走様でした!」」

「ふー、満足満足。たまにはラーメンもいいな」

「私は毎日でもバッチコイだよ」

「で、どうしてこんな回りくどい真似をしたんだ大将、いや、ファインモーション」

「ん?そんなの、一緒にラーメン食べたかったからに決まってるよ」

 

 「当たり前のことを聞かないでよ~」とけらけら笑うモーさん。

 探していた人物、ファイン家頭首が目の前にいる。

 偶然ではなく必然、客引きバイトおっちゃんの段階から全て仕込まれていたのかもしれない。

 

 ファインモーション

 綺麗に整えられた薄茶色の毛並みに、金色の輝きを放つ瞳。

 前髪真ん中の一房が白く染まり筆のように見える、後頭部に髪を纏めて括り、尻尾は毛先でパッツンカットにしている。

 御三家の一角、ファイン家の現頭首であり、本来ならば接点などあろうはずない存在。

 名家生まれの地位をひけらかすでもなく、あくまでもフレンドリーに接してくれるのはありがたい。

 この世界のお嬢様たちは皆いい子です。

 実力のほどは未知数だが、底知れない何かを隠し持っていそう。

 何事にも興味津々、多少危険でもこれだと思ったことには首を突っ込みたがるので、危なっかしい。

 こういう所、シロに似てる気がする。

 1stが滅んだ事情に詳しく、今後も長い付き合いになりそうな予感。

 自他共に認めるラーメン好き(狂い)。

 

「そうです。私がファインモーションです。会えて嬉しいよアンドウマサキ」

「俺も嬉しいよモーさん」

「食後のお散歩にお誘いしたいけどいいかな」

「屋台から離れていいのか」

「問題ないない。みんな~ちょっとデートしてくるから、後よろしく」

 

 モーさんの声かけに合わせてわらわらと多数の老若男女が湧き出て来た。

 物陰から、ゴミ箱から、建物の壁から、マンホールをから、上空から!

 いやーー!潜伏しすぎーー!!怖い怖い怖い!!

 ちょwwwさっき帰ったはずのおっちゃんがビルの屋上からこっち狙ってる!?

 サムズアップする前にスナイパーライフルを降ろせボケ!俺の頭に照準合わせてんじゃねーよ!

 ずっと見られてたの?シャカは何も説明してくれなかったぞ、あんちくしょーめ!

 忍者や凄い数の忍者がおる、これだけの人員配置に気付かなかっただと・・・。

 こちらに一礼して彼らは屋台を速攻で撤去していった。お仕事ご苦労様です!

 

 なんかこういうの、サトノ家でも見たぞ。

 御三家の諜報員はあらゆる所に存在している、気にしたら負け。

 

「じゃあ、行こっか」

「自分の索敵能力が本気で心配になってきた」

「ファイン家の隠密も中々でしょ、周囲に溶け込むことに関しては皆プロだから」

「それって、1stから来た人達が2ndで暮らすために身に着けた技能だったり」

「おお、正にその通りだよ。あれ?おかしいな、マサキは知能指数が低いロリコンじゃなかったの」

「お前にそんな報告をした不届きものは誰だ!」

「ゴルシちゃん」

「やっぱりな!あいつったら」

「ゴルシちゃん、メッチャいい笑顔で褒めてたよ、千年に一度のゴッドロリコンだって」

「バカにしてるよね、ゴッドってなんやねん」

「ゴルシちゃんだけじゃない、マサキは今まで沢山のウマ娘に気に入られた。それは十分誇っていいことだよ」

「皆がたまたまいい奴らだったから助かった」

「たまたまねぇ・・・皆、マサキにだけチョロくなってるの気付いてあげて。もちろん私も含めてね」

 

 俺にだけチョロい?特別扱いしてくれたって事か。

 ありがとな、いつかまたお礼を言わせてくれ。

 

「ウマ娘ってさぁ、男を見る目が人間女性の数倍厳しいって知ってる」

「聞いたことがある程度には」

「小さい頃から男の人にはいろんな感情向けられるし、男性のあしらい方を幼少期から叩き込まれるのが当たり前だしね」

「恵まれた容姿、高いスペックの数々。男に放って置かれる方が珍しいってのはわかる」

「運命の相手、愛バは別として。行く先々でこれだけ大勢のウマ娘に受け入れられた男なんて、それこそ"原初の操者"トーヤの再来かもね」

「原初の操者・・・トーヤ?その名前どこかで」

「2ndではその辺りの文献や伝承が残っていないんだっけ、"三女神"カティア、フェステニア、メルア。そして"機甲龍"シャナ=ミア。"夜を統べる修羅"トーヤと共に戦った伝説のウマ娘たち」

「待て待て待てぇーーいっ!!重要な情報が多すぎる、一回整理させて。ああ、ミオがいないし!」

 

 「ウマ娘の男を見る目は厳しいよ」って話からとんでもない情報が飛び出して来た。

 メルアの名前を出されて驚く暇もなく、何でもないことのように人物名を言ってのけるモーさん。

 えーと、あった。こんなこともあろうかとメモとペンは常備しております。

 スマホのメモアプリ?ボイスメモ?ミオがやってくれると思ってたから用意してねーよ。

 

 1stと2ndは数十年のズレがあるが、ほぼ同一の世界だ。

 三女神関連の伝承が2ndに残っていなくても、1stには文献やよくあるおとぎ話として根付いていたらしい。

 

「5人の関係を模して後の人々が"操者と愛バ"と呼び始めましたとさ」

「モーさん、細かい所をもう一回お願い!大事なことなんだ」

「このお話大好きだから詳しいんだ、何でも聞いてちょうだいな」

 

 覇気を自在に使いこなし高い戦闘能力を持つに至った人間『修羅』

 覇気を物質化させる域まで登り詰め超越的な力を振るうウマ娘『三女神』

 異界門の破壊及び外敵の排除を目的に生み出された殲滅型決戦兵装『機甲竜』

 

 修羅  トーヤ

 

 三女神 カティア フェステニア メルア

 

 機甲竜 シャナ=ミア

 

「トーヤは人間の男で、後の四人がウマ娘ってことだよな」

「うん。そう伝わってる」

「ウマ娘たちの真名はわかるか?」

「全くもって存じません。これだけは1stにも残ってない情報だよ」

「機甲竜ってのがよくわからん。凄い兵器でそいつもウマ娘?どういうこと?」

「ややこしいよね~。正体の予測はついてるけど、今は深く考えないでおくこと推奨」

 

 モーさんの言う通り、考えても仕方がないか。機甲龍の事は頭の片隅に置いておこう。

 確実に知ってる奴と知り合いだし・・・そうだよなメルア。

 

「意外だね、神話に興味あるなんて」

「最近、女神様本人とお話しする機会があってな」

「何その冗談wwwあー可笑しいwww・・・あ、やばっ顔がマジだ!」

「信じてくれなくても事実だからな」

「茶化してごめん。何があったか話してくれる」

 

 女神メルアがコンタクトをとってきたこと。

 オルゴナイトを発現させ戦闘したこと、クロとシロも女神の力を継承者するであろうこと。

 洗いざらい喋った。

 モーさんは黙ったまま真剣に聞いてくれた。

 

「女神様が動いた・・・違う、動かされたのか」

「モーさん」

「全ての事象が収束する先にいるのは、やっぱり」

「立ったまま考えごとか?どこかに座ったほうがいいぞ、この時間に空いてる店は」

「決めた!ずっと前から決まってた!善は急げ、行こうマサキ!」

「おいどうしたモーさん、ちょ、引っ張るなって」

「ほら走るよ、早く早く~」

 

 俺の手を引っ張って駆けだすモーさん。急にどうしたんだろう。

 夜の繁華街をウマ娘に手を引かれて走る。まあいいか、なんか嬉しそうだし

 さすがウマ娘、なかなかの俊足でした。

 

「こちらのお部屋になります。ごゆっくりお過ごし下さい」

 

 礼儀正しいボーイさんに案内された部屋は豪華過ぎて少し落ち着かない。

 まあ、夜景が綺麗ね。タワマンに住んでる人は毎晩こうやって下界を見下ろしているのか。

 

 あの後、モーさんに連れてこられたのは某高級ホテル。

 

「最上階のスイートルーム、ここで一体何を?」

「若い男女がホテルでやることなんて決まってるよね」

「成人男性をからかって遊ぶなよ、こういうのは感心しないぞ」

「てい」

 

 トンッと胸の中心を押される、俺が力を抜いたタイミングで絶妙な力加減の押し出し。

 完全に虚を突かれた、そのまま後ろに倒れこんでしまう。

 キングサイズのベッドが俺の体を受け止める、その隙を逃さずモーさんがマウントポジションを決めた。

 抜け出せない!?両腿で俺の体をガッチリホールドしている。

 え?何?何この状況?

 混乱する俺の耳元に顔をよせ囁く。

 

「しよっか」

 

 何をですかぁ!アレかアレですか!アレしかないか!

 間違ってたら恥ずかしいので一応聞いてみよう!

 

「な、な、何をする気でございますでしょうか?」

「うまぴょい」

 

 やっぱりーーー!!!

 どういう事?そういう事?俺、モーさんにホテルに連れ込まれて襲われてんの?何で?

 

「あ、わかったドッキリだ!どうせゴルシやシャカが隠れて笑ってんだろ?」

「人払いは済んでる、正真正銘二人っきりだよ」

「待て!お前未成年だろ、ホテルの従業員は何やってんの」

「ウマ娘からのお誘いなら見逃す。暗黙の了解だよね」

「そうだったーーー!」

 

 この世界、ウマ娘の優遇措置的なものが結構あるんだけど"うまぴょい"に関しても当然あるのよ。

 

 男が未成年のウマ娘を連れ込んだらアウト!しかし、未成年のウマ娘が男を連れ込んでもセーフ!

 

 ね、理不尽でしょ。つまり、ウマ娘側がノリノリなら「まあ、いいんじゃね」で皆が我関せず状態になってしまうのよ。

 『ウマ娘には逆らうと面倒事になる』『男への嫉妬と羨望』

 『スケベですかもっとやれ』『闘争本能(意味深)だから仕方ない』等々がもっともらしい理由。

 

 高級ホテルだろうとそれは適用される。

 一流のホテルマンならばお客様がお部屋で何をなさろうが全力スルーでございます。

 

 衣擦れの音が聞こえる、アカン!モーさんが服を脱ぎだした!

 衣服に手をかけるモーさんの手を掴んで止めさせる。

 

「どうしたどうした?ラーメンが当たったのか?」

「したいと思ったことを実行しているだけだよ、私はあなたが欲しい」

「理由説明!今すぐ!はよ!」

「今後のために必要だから、対価として私自身を捧げるよ」

「何を言って」

 

「この私、ファインモーションの操者になってよアンドウマサキ」

 

 は?操者になれだと・・・俺に・・・え?

 

「バッカおめぇ!俺は既にクロとシロの操者だってばよ!」

「もう一人ぐらい追加しても問題ないよね。マサキの覇気量なら余裕余裕」

「そう言う問題じゃない、あいつらが知ったらどうなるか」

「キタちゃんサトちゃんの許可を貰えばいいの?先に既成事実を作ってからの方が説得できると思うんだけどな」

「殺されますよ?俺もお前も」

「二人がマサキを害するはずがないよ、私は・・・下手すると殺されちゃうね」

「それがわかってるなら」

「必要なことだって言ったよね。私にはマサキが必要なの、命を賭けてもいいほどに」

「冗談で言ってるわけではないんだな。奴・・・"世界の破壊者"への対抗手段か」

「賢いね。そう、これは私なりの保険だよ」

「保険」

「もしマサキたち三人が敗北した時、誰が2ndを守るの?キタサトの二人がベーオウルフとルシファーにならない保証は?マサキは二人を殺せるの?」

「・・・・」

「マサキの覇気は異常、それが愛バの二人に影響を与えたのは事実。二人で支えられないなら、それ以上の人数で支えるのが妥当じゃない」

「・・・・」

「私には強くなりたい理由がある。マサキと契約すればきっと、その願いは叶う」

 

 まくし立てるように喋るモーさん。

 いったいこの子はどこまで見えて、何を考えているんだ。

 俺と契約して強くなりたい?そうなれる保証こそないだろうが。

 第一覇気供給元の俺が死んでたら全く無意味だし、クロとシロを殺すための覇気を俺がスムーズに流せるとは思えない。彼女の言ってることは穴だらけ、机上の空論だ。

 どうしたものか。

 

「保険のため・・・自分を犠牲にするなよ!嫌々うまぴょられても嬉しくねーわ!」

「ああ、そこは心配しなくていいよ。仕方なくって訳じゃないから」

「?」

「マサキとしたいってのはビジネス関係なく本心。気に入ってるんだよあなたのこと」

「??」

「好きだって言ってんの、言わせんな♪恥ずかしい////」

「な、なんだってぇーーー!!!」

 

 クロ、シロ、とんでもないことになった。

 ウマ娘に押し倒された挙句に告白された・・・これがモテ期か。とらぶっちゃうのかい!

 

「いきなり好きとか言われても、今日、初めて会ったばかりなのに」

「キタサトの二人とは初日でお泊り、翌日に契約してたよね」

「そうでした」

「なら、私が初日でうまぴょい決めても全く問題ないね」

「その理屈はおかしい」

 

 くっ!なんてパワーだ、全然抜け出せないし。

 こうしてる間にも体を密着させたり、頬ずりしてくるから大変なことに!

 あ!ブラジャー外して放り投げやがった!見えてる、おぱーい見えてるから!

 メッチャ自慢したい「俺今、ノーブラの美少女に押し倒をされてんの」って叫びたい!

 「シネ」ってリプが燃え上がるだろうな~。

 

「マサキは私のこと嫌い?私じゃ"うまだっち"してくれないかな」

「グイグイくるなこいつ」

「攻めれる時に攻める!ライバル不在の今が千載一遇のチャンス」

「モーション恐ろしい子!」

「して欲しいがあったら言ってね。あなたはどんな変態プレイが好みなのかな~」

「変態プレイする前提なのやめてくれます」

「赤ちゃんプレイしてた癖に」

「もう、あのテレビ局め!俺で稼いだ視聴率の分け前請求してやろうかしら!」

 

 ファインモーションを改めてみる、好きか嫌いかで言えば間違いなく好きだ。 

 こんなカワイイ子に迫られて正気を保っているのは、俺が既に契約済みだからだろうか。

 蠱惑的な笑み、乱れた衣服、上気した頬、彼女から漂う甘い香り、その他諸々が誘惑してくる。

 「魔物じゃ!女は魔物じゃ!」と俺の中の村長が絶叫している。

 

「クスッ、気に入ってくれたようでなにより。じゃあ続きを・・・」

「さっき食ったラーメンで豚骨臭いだろ、やめましょうや」

「私も豚骨食べたから気にしないよ。気を利かせてニンニク抜いておいて良かった」

「待て!俺にはクロとシロがいるんだ!浮気はしない!」

「浮気じゃなくて本気にすればいいじゃない」

「余計悪いわ!いやーーー!クロとシロに刺される!スクールデイズみたいな展開いやーーー!!」

「大丈夫、その時は私が守ってあげるよ。中に誰もいませんよってね」

「誠シネ!あばばばばばばばば」

「因みに私がヤンデレになるルート、全滅エンド、世界崩壊シナリオも完備してます」

「鬱ゲーだったか、もうやだ泣きそう」

「そのまま天井のシミでも数えてて、イメトレだけはしっかりやって来たから任せてね」

「いい加減にしろコラ!とにかく俺はお前とする気はない!」

「据え膳食わぬは男の恥なのに、このヘタレ!」

「ヘタレです!こんなのとうまぴょいしたくないよね、さあどけ」

「ヘタレでも好きだよ」

「クッソ!言動も仕草も顔もカワイイ!やーめーろーやー」

「私と契約して操者になってよ」

「断る」

「私が契約して愛バになってあげるよ」

「言い方変えただけじゃん!」

「ホントわがままだね。強行突破ファインモーション!!さあ、うまだっちしましょうね~」

「天元突破みたいに言うな!ダメそこ触っちゃらめーーー!!!」

 

「アアアッーーーーーーーーー!!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どうしたミオ」

「今、マサキの悲鳴が・・・気のせいか」

「うちのボスが面倒みてんだ、今頃ラーメン食い倒れでもしてんじゃね」

「そうかなぁ。ねぇシャカのボス、ファイン家頭首ってどんな子」

「頭は悪くねぇがバカだな」

「どっち!?」

「頭首なんて名乗っちゃいるが不器用な奴でよ、何でもかんでも一人で抱えて溜め込んでる」

「メンタル調整下手くそなタイプか」

「「平気、へっちゃら、大丈夫」ってよお、いっつもヘラヘラしやがって。無理してんのバレバレなんだよバーカ。それでも1stは、ファイン家はあいつに頼るしかなかったんだ」

「よくわかんないけど、苦労してるんだね。いいストレス解消方法が見つかればいいんだけど」

「そのはけ口がラーメンだったらしいが、食欲だけじゃ限界がある。いっそのこと、好きな男でもいてくれたらいいのによ」

「ストレス解消の生贄にされる彼氏が不憫」

「どこかにいねぇかな、あいつを落とせる色男って奴」

「その辺のホストクラブに連れてったら?」

「ホストには荷が重すぎるだろ。上辺だけの口説き文句なんぞ1ミリも響かねぇし届かねぇよ」

「めんどくさいなぁ。じゃあもう、マサキに丸投げしちゃえばいいよ」

「冗談抜かせ、あいつには愛バがいるだろうが」

「そんなの知ってるよ。それでも、マサキならどうにかしてくれそう」

「そんなこと言っていいのか、今頃ホテルにしけこんでたらどうすんだよ」

「・・・・」

「・・・・」

「「まっさかぁwww!!」」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「痛い痛い!ギブギブギブ!」

「どうだ参ったか!このドスケベめ!まったく、最近のお嬢様はどうなってるんだ!ドスケベばっかじゃねーか!」

「か、関節がぁあああ!」

「次の技行くぞコラ!」

「もうやめてぇーー!モーションのライフはとっくの昔にゼロよ」

「ベッドで寝技がしたかったんだろ?喜べよ」

「謝る!謝るから!許して、ごめんなさい!ムラムラして先走りました!発情期もう終わったんで、解放してください!ホント自分がバカでしたーーー!」

 

 いい声で鳴くじゃねーかこのメスウマ、ベッドの上で女をひぃひぃ言わしてるどうも俺です。

 逆うまぴょいを何とか凌ぎきった俺はモーさんに反逆していた。

 随分抵抗してくれたなコラ!バスカーモードまで使わせやがって!

 ありがたく思え、武士の情けでオルゴナイトは出さないでいてやる。

 

「圧制には屈しません!反逆こそが我が人生よムハハハハッ!アッセイッ!」

「ひぃ!筋骨隆々のバーサーカーに憑りつかれている!?あ、電話鳴ってるよ、フロントからご連絡がぁぁぁ」

 

 グロッキーになったモーさんを放置して電話に出る。

 

「失礼しますお客様。お客様のお部屋から悲鳴と怒号、そして謎の閃光と振動が発生しているようですが」

「あ、はい、すみません。連れの変態が"エクストリームソロぴょい"をガンぎめしておりまして・・・」

「そん・・な・・こと・・してな」

「ええ、もう見るに堪えないアへ顔っぷりでして。いえいえ、こちらの落度ですから」

「やめ・・もうこのホテルに泊まれなく・・・なる」

「はい、お騒がせしました。よく言って聞かせますので、お気遣いどうも」」

 

 やれやれ、ホテルに迷惑かけちゃったな。

 クロ、シロ、俺はやったぜ!最後の一線は守りきったぞ。

 ふふ、あいつらがGJと親指を立ててる姿が目に浮かぶぜ。

 

 それから・・・

 

「ヘタレ!「強くなりたくば喰らえ!!!」て勇次郎さんも言ってるのに!」

「うるせぇよ。お、ブラあったぞ、早く装備しろ装備」

「まったくもう、私の生乳見て興奮してた癖に」

「なまちち言うな」

「マサキがロリコンなのはよく理解したよ。初めては幼女じゃないと嫌なんだね」

「おいコラ」

「それともまさかホモ?男スキー?そんなのって・・・お相手は、幼馴染のシュウさん、それともヤンロンさんかな?」

「やめてね」

「ナイスカップリングだね!コネクティブマサキwwwなんちゃってwww」

「バディコンプレックスwww」

 

 バディコンはヒゾンさんがひたすら可哀そうなロボアニメです。振られ男の妄念を楽しもう。

 

 いったい俺のどこに何をコネクティブしようというのかね?

 想像したらアカン、吐き気がします。

 シュウとヤンロンのことを知ってる。俺の関係者はリサーチ済みってことね。

 

 少々暴れたので散らかった部屋を二人で掃除する。

 ブラを装備し直したモーさんは、乱れた衣服と髪に尻尾を整えて落ち着きを取り戻した。

 

「うまぴょいも契約もしてくれないんだね・・・よよよ」

「ごめん。気持ちはありがたいが、俺のことは諦めてくれ」

「キタサトちゃんの許可が先か・・・うーん、どうしよっかな~」

「やだこの子諦める気ないわ」

「勝率0%ならクールに去るつもりだったけど、ちゃんと反応してくれたし、希はまだあるからね」

「逞しい!」

 

 クロシロには申し訳ないが、俺の"うまだっち"はよく頑張った方だと思います。

 いや、アレは無理だろ。パンツ死守しただけでも褒めてほしい。

 

「じゃあコレ、はい」

 

 俺にブラシを手渡してくるモーさん。

 ベッドに腰かける俺の足、その間にドカッと座る。

 

「ブラッシングしてよ。これぐらいならいいでしょ」

「それぐらいならお安い御用だ」

「ふふ、上手上手~」

「尻尾、パッツンカットなんだな」

「先端が燃えたからね」

「いったい何があった!?気になるーーー!」

「あれは夏の暑い日だった、ゴルシちゃんが七輪で・・・」

 

 尻尾のカッティングに悲しいエピソードがあった。事件の発端はやはりゴルシだった。

 元々綺麗なのでブラッシングの必要は感じないが、しっかりやらせていただきます。

 理由はどうあれ、俺に告白してくれた子だぞ。

 一度お断りした手前、お詫びの意味をこめて丁寧にブラシをかけていく。

 本人は諦めていないようだけど。クロとシロを納得させる手段があるのかね。

 

「うなじ色っぽいな」

「好きなだけ見ていいよ。いずれはあなたの物だからね」

「なんでそこまで」

「マサキを初めて知った時は、天級の子でキタサトちゃんの操者という重要人物。ただそれだけ」

「ふむふむ」

「電話で声を聞いた時、なんかいいなって思った」

「ふむふむ」

「生放送でバブってる姿を見てやっぱ変態だと思った」

「そこはいらないだろ!」

「今日やっと出会えてラーメン食べて話してみたら、思ってたよりいい男でさ、女神に会ったなんて言いだすし。これはもう運命だって決めちゃった」

「んん?」

「さっき密着して確信したよ、匂いも覇気も心臓の鼓動も体温も、あなたの全てが心地いい、絶対手に入れたいって思った。過ごした時間は関係ないんだよ、惚れちゃったもんは仕方ない、はい私の負け~」

「お、おう////」

「照れんな照れんなよ・・・いや、私もちょっと照れるね、あはは///」

「・・・えーと///」

「・・・やっぱりする?」

「お気持ちだけで」

「ヘタレ」

 

 ラブコメの波動を感じる。

 ストレートな好意をぶつけられ、いい雰囲気になりかけたのをぐっとこらえる。

 正直、俺も出会ってすぐにモーさんのことをに気に入った。

 クロシロのことはもちろん愛してる。だけど、モーさんのことも気になるのよ。

 俺って気が多い男だったのね、浮気野郎ですか・・・誠ですか・・・あいつの同類は嫌っス。

 うまぴょいキャンセルからの関節技をかけられるほどの距離感。それってなんやねん。

 

「こいつぁ脈ありだね。私、頑張るよ」

「心を読むな。この髪のなんだ団子?解いていいか」

「あ、うん。うなじは隠れちゃうけど、印象変わって二度おいしいよ」

 

 括ってある髪を解いてブラシをかける。髪型がちょっと変化、これはこれでいいね!

 

「あーあ、できれば今日中に愛バ参入したかったな~」

「まだ言うか、俺はクロシロのことで手一杯だっつーの」

「四人目になりたかったな~。いやなるよ、なりますとも、これは決定事項だから」

「・・・よにんめって何?」

「愛バの数」

「誰の」

「マサキのに決まってる」

「クロ、シロ、で二人・・・今俺の愛バは二人。万が一、モーさんが参入した所で三人目では?」

「え!?気付いてないの!あちゃ~、やっちまってるねぇwww」

「あ、あれ。なんかその、取返しのつかないことをやらかしてる気が」

「三人目、キタサトちゃん以外にもう一人契約済みだから、私のことも愛バにしてくれると思ったんだけど。まさか気付いてないとは」

「なんということでしょう」

「ここまでの旅で出会ったウマ娘の一人と契約してるよ。まあ、キタサトちゃんとの繋がりに比べたら微々たるものだけど」

「どうしてモーさんにそれがわかる」

「これでも頭首様ですから、覇気中枢、神核(しんかく)の情報を読み取るのは得意なんだ。あ、神核ってのは覇気中枢の別称でエネルギーの集まるコア部分だよ」

「俺の神核をサーチした結果が、えっと」

「契約人数、三名だってバッチリわかったよ」

「いつ?誰?どこ?なんで向こうは何も言って来ない!」

「向こうも気付いてないとか?そんなことあり得るのかな」

 

 誰だ、いままでドレインしてきた奴らの顔が浮かぶ・・・アグネスだったら笑うしかねぇ。

 

「思い出してみようか、マサキがドレインしたことで"大きな変化”をした子がいたはずだよ」

「変化・・・もとから変態のあいつらは除外、あいつでもない、いやあの子に限って、いや違うな」

「その子、マサキのこと絶対好きだと思うよ。うまぴょいバッチコイぐらいには」

「うまぴょいOKな子だと!そんな奴・・・いたわ」

 

 え?まさかまさか!

 

「噛みつきや、覇気の循環を契約深度まで行っていないとしても、きっと何かを交換しているはず」

「何かって何」

「操者のDNA情報、体液・・・手っ取り早いのは血液かな。それを摂取したことで簡易契約が成立したんだろうね」

「血を吸われた経験なんてクロシロ意外にいないぞ」

「容疑者の前で出血したまま気絶したことあるでしょ。目覚めた時はもう手当済みだったから現場は見ていない」

 

 ハッとして頬の傷に手を当てる。あいつ・・・

 

「言えないよねwww好きな男の血を見てムラムラしたから舐めちゃいましたなんてさwww」

「あ、あ、あ、あ」

「心当たりあるんだね。条件の再確認いってみようか」

 

 ・俺のことが好き(うまぴょいしてもいいほどに)

 ・それなりの実力者(おそらく轟級以上)

 ・そいつの前で気絶した経験がある(その際、血を摂取された模様)

 ・契約は不完全で俺もそいつも気付いてない

 ・契約後に大きな変化が起こっているはず

 

 この条件から導き出される結論は。

 

「カミナリ」

「雷がどうかした?」

「取られたんだ、そいつに雷となった覇気をゴッソリと」

「属性覇気を発現していたの!?しかも、それを取られたぁ!?なにやってんの!その子に間違いないよ!」

「あちゃ~、クロシロ許してくれるかな~」

「誰?名前教えてよ!寝取りの先輩として詳しくお話し聞きたい!」

「俺もあいつもそんな気さらさらなかったんや、それだけは信じて」

「不可抗力など知ったことか!いいから!キタサトちゃんから略奪愛した命知らずの名前を言って!」

「メジロ・・・」

「おいおいおい!よりにもよってメジロかい!キタサトちゃんブチギレ確定でーすwww」

 

 あの姿を思い出す。

 美しさと気品と強さを兼ね備えたメジロ家の秘蔵っ子。

 引きこもりから解放された彼女は、雷を纏い広い世界に羽ばたいていったはずだ。

 うん、あの子もドスケベだったな。

 

「アルダン・・・三人目はメジロアルダンだ」

 

 あははは・・・俺ってば知らず知らずのうちになんてことを・・・マサキ○ねって言わないで。

 

 




クロ「うわぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」
シロ「のわぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」



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わたしとわたし

 ラーメン食った後、うまぴょいされそうになった。

 いつの間にか愛バが増えていた、ゆるしてゆるして。

 

 某県某市、人里離れた場所の山間部にて。

 ウマ娘のみで構成されたとある部隊は、壊滅の危機に瀕していた。

 

「くそっ、サトノ家は落ち目のはずじゃなかったのか!」

「既に半数以上がやられた。敵はたった一人だぞ、私は夢でも見てるのか」

「聞いてないぞ、あんな・・あんな恐ろしい奴を飼っているなんて!」

「ここはもうダメだ、一時撤退して再起の時を・・・奴だ!」

「来る!あいつが来る、上だ!雷に注意しろ!」

 

 太陽を背に空中で身を捻る人影。

 長いマフラーをなびかせたシルエットはウマ娘。

 足甲に装着されたブースターが展開、発動!

 雷光を纏った覇気を振りまきながら垂直落下、その足で大地を蹴りつける。

 蹴撃の着地点は敵部隊の中心、狙い通り。

 着地点から拡散されるのは破壊の衝撃と振動!そして猛り狂う雷撃!地面を抉り数十人を巻き込みながらあらゆるものを薙ぎ払う。

 戦闘にすらならない、一方的な蹂躙。

 

「「「「う、うわぁぁぁあああああああああああああああああああああ」」」」

 

 この日、数十名からなるUC残党軍は世間に認知されることもなく幕を降ろした。

 

「余りに脆い・・・最初に言いましたよ、抵抗せずに投降しろって」

 

 死屍累々の中、未だ残る雷を弾けさせながら一人立つのは美しき騎神。

 青みがかった毛並みを持ち、首に長い布きれ、通称"正義マフラー"を巻きつけている。

 サトノ家製の黒い装甲服に白銀の手甲足甲を身に着けた超級騎神、その名はメジロアルダン。

 

「いい感じでしたよライオウ。これからもよろしくお願いします」

 

 専用装備のダブルG雷鳳(ライオウ)ビアン博士は注文以上の仕事をしてくれたようだ。

 実に馴染む、私の覇気雷とも相性抜群だ。足甲のブースターはやや重いが問題ない。

 ジンライから譲り受けたマントをマフラーとして再加工してくれたのもありがたい。

 特殊繊維のマフラーは銃弾程度なら軽く弾く、覇気を通わすことで操作可能、攻撃にも防御にも使える。

 先端の擦り切れたような形状は使い込まれた感を出すためのデザイン。見た目もカッコイイのでお気に入り。

 あの人に今の私を見せたら、どんな反応をするでしょうか。

 

「なにがUCですか。この程度で人間を見下すなど片腹痛いです」

「うわ~ホントに一人でやっちゃったの」

「アルダンさん。あなたの力は十分承知しておりますが、単独先行は部隊の足並みを崩します」

「ファルコンさん、フラッシュさんも。申し訳ありません、この方たちが無礼極まる妄言を吐いたものですからつい」

「つい、じゃないよ!もう!要するにムカつくことを言われたからキレちゃったんだよね」

「それで、あなたを怒らせた言動とはいったい」

「はい、赤ちゃんプレイを披露したあの人のことを「低俗極まる最低の人間」「こういう男は存在自体が害悪」などと嘲笑ったので・・・ああ、思い出しただけでイライラします。尻尾を引っこ抜いてやろうかしら」

「バブってたね~。男連中が「さすがマサキ様!俺たちにできない事を平然とやってのける!」って感涙してたし」

「フフッ、私はちょっとカワイイと思いましたが」

「わかります!そうなんです、年上なのにちょっとカワイイ所とかもう!ああ~私も膝枕してさしあげたい」

「ゾッコンってヤツだね、お嬢様たちの操者なのにいいの」

「いいんです。あの人の幸せが私の幸せですから。無かったはずの未来をくれた、その恩に報いたい。こんな私が少しでもお役に立てることが嬉しいのです」

「その生き方を否定はしません。あの方がどう思うかは別として」

「お嬢様たちが起きたらさぁ、相談してみたらどうかな?」

「何をですか?」

「愛バになってもいいですかって」

「ファルコン!それ以上は」

「お嬢様たちは難色を示すと思うけどさ、あの人は「いいよ」って言ってくれそうじゃない」

「・・・・」

「一回ぐらい考えたことあるでしょ?愛バになれたらいいなってさ」

「ホントあなたは、残酷なことを言いますね」

「ダメ元で言ってみようよ!私達もフォローするしさ」

「ちょ、巻き込まないでください」

「ダメですよ、あの人とお嬢様たちの絆に横入するなんて」

「だから!伝えるだけでもいいって!このままじゃ絶対後悔するよ」

「ファルコン・・・あなた、お嬢様たちのドロドロ展開が見たいだけでは」

「ギクッ!な、なんのこと。私は純粋にアルダンちゃんを心配して」

「お気遣いありがとうございます。少し周辺を見回りしてきます」

 

 微かに残った頬の傷、そこをなぞるように触れてから、アルダンは去って行った。

 あの傷になにか思い出があるのだろうか?

 

「あ・・・行っちゃった。フラッシュ~何かいい作戦考えてよ。アルダンちゃんが漁夫の利を得るようなエグイ策をよろ~」

「無茶言わないでください」

「出会いから結婚、妊娠、出産、以下略、老後、墓場までのガチガチプランを妄想した腕をみせろよ!フラァァァシュゥゥゥーッ!!!」

「煽るな!ですが、そうですね。アルダンさん以外にもう一人、巻き込むことができればあるいは」

「なるほど、二対一から二対二にするんだね」

「アルダンさん一人だと怒りの矛先が集中してしまいます。ここにもう一人投入することで憎むべきターゲットを分散、まずは新参者同士で同盟を結び、お嬢様方の結託を突き崩す」

「メッチャ具体的に考えてるーーー!!!」

「もう一人、四人目に求めるスペックは、頭の回転が速くしたたかな性格、それでいてトリッキーな動き得意とする方が望ましい。ブラック様を翻弄し、ダイヤ様の予測を掻い潜る、そんな方が」

「そんな危ない子いるの!?学園の超級たち、もしくはメジロの頭首候補レベルじゃないと無理でしょ」

「現状、実現不可能なプランです」

「もし、そんな子が現れたら・・・もっと面白くなるね!」

「そのお話詳しく」

「ひぃ!い、いたんだアルダンちゃん」

「興味深いお話をしていたようなので、戻ってきました」

「地獄耳ですね、どこから聞いてました?」

「四人目がお嬢様たちを巻き込んで自爆!!その隙に、私があの人をかっさらう所までです」

「かなり都合のいい改変がなされてますね」

「あの人が絡むと途端に頭悪くなるよね、アルダンちゃん」

 

 サトノ家従者部隊でも有数の騎神三名が、スクラムを組んで不穏な計画を立案している。

 捕虜の移送や撤収作業を行う他の部隊員たちは、聞き耳を立てつつ見て見ぬ振りをする。

 中には馬鹿正直に報告する者もいた。

 

「あんなこと言ってますがよろしいのですか、止めなくて」

「放っておいていいよ、娘たちには良い試練だろうからね」

「鬼ですかアンタは」

「マサキ君のことを信頼しているし、アルダン君にもまだ見ぬ四人目君にも、幸せになってほしいんだよ僕は」

「欲張りですね」

「そう僕は欲張りなパパさんだよ。もちろんブラックとダイヤの幸せも心から願っている」

「それで、ぶっちゃけ本音はなんでしょうか」

「面白そうじゃないか!三角関係ならぬ五角関係!マサキ君が選んだ子なら四人目も相当ハジケた子だよ。その全てをサトノ家で迎え入れたら、僕たちが全てを手に入れたも同然!ひゅーー!!楽しくなってきたぁーーー!!」

「それでこそ頭首様です。一生ついて行きます」

「頑張ってくれよマサキ君、全ては君にかかっている!みんなで幸せになろうじゃないか~」

 

 サトノ家は今日も通常運転だった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ブラッシングを終えた俺たちはまったりくつろぐ。

 モーさんはあれから俺にべったりだ、自然に距離を詰めてくるのですよこの子は。

 そんな彼女はさっきからタブレットで何かを検索している。

 モーさん曰く、この端末はファイン家諜報部のデータベースに接続できるものらしい。

 げっ!アルダンの情報が羅列されてる。

 

「アルダンが三人目・・・あいつ俺の傷口をペロペロしたのか////」

「メジロアルダン、テスラ研でマサキが救った元爆弾引きこもり娘。うわっ!ザ・清楚系お嬢さまオーラ出てる」

「写真まであるのか、盗撮だろ。その子結構強いのよ、今頃ビリビリで大暴れだ」

「マサキってお嬢様キラー?」

「その称号は名誉なのか」

「メジロ家、サトノ家、そして私のファイン家、御三家お嬢様コンプリートした気分はどう?」

「恐れ多いけど光栄でっす!」

「うーんこの子も手強そうだな。私、かなり出遅れてるし・・・愛バランキングをここから巻き返すには」

「モーさん、当初の目的通り覇気をくれないか」

「いいよ、血を吸わせてくれたらね」

「噛みつくのはヤメロ!あの激痛は絶対無理!」

「だからうまぴょいするべきだったんだよ。体液、血液よりも濃い男性特有のアレでも全然良かったのに」

「アレはちょっと・・・その・・・ねぇ」

「まあ、あれだけ抵抗されて無理やり摂取した所で効果は薄いか。やっぱり合意の上で吸血ちゅーちゅーがベスト」

「ベストじゃないが!何これが決定打みたいにしてんの!」

「契約してよ~、マサキが契約してくれないと行きずりの男と一夜の過ちするよ!それでいいの!」

「それはちょっと嫌かも」

「ちょっとだと!!もっと悔しがってよ!!「あいつ、俺のこと好きだって言った癖に」て悶々としてよ!!」

「キレんなよ、はいはい、かなり嫌です!嫉妬もしますよ!彼氏面してごめんなさいね!!」

「だよね!嬉しいな~マーキングしちゃお~」

 

 自然に抱きついてくるなよ、振りほどけないし。

 モーさんは何というか、間の読み方が凄く上手い。

 こちら間合に簡単に侵入してくるし、気付いたら向こうのペース。

 力を出す瞬間、溜める瞬間、その一瞬の隙間を読み切りそこを突いてくる。

 天然のものか修練の賜物か、どちらにしろ大したものだ。

 うまぴょい回避のためには、バスカーモードの力押しが無ければ危なかったのもこの特技のせい。

 

「マーキングされた奴って、他のウマ娘にはどう見えるんだ」

「見えるというより、匂う、もしくは感じるかな。対象の匂いに混じったメッセージが瞬時に理解できる感じ」

「ウマ娘同士の暗号か」

「その解釈であってるよ、如何なる機具を用いても人間にメッセージの内容解読は無理」

「例えばどんなメッセージがあるんだ」

「基本は牽制や自慢で、よくあるのは『売約済み』『私専用』『これ私の~』」

「なるほど、カワイイ独占欲ですな」

「後は『下手くそ』『ポークビッツ』『早い』『不能』『ご自由にどうぞ』」

「後半のヤツ酷すぎない」

「思い、念を込めて体を擦り付けるの。全身どこで擦ってもいいけど、額、頬、首の辺りからフェロモンが出てるからそこをこんな風にね、甘えてくる猫みたいスリスリ~と」

 

 実践しながらマーキングを見せてくれるモーさん。う~んカワイイです。

 こうしていると本当に信頼されてるって感じるんだよな。

 

「対象のどこに着けるのがいいんだ」

「好きな所にでいいと思う。腕や胸、お腹等の上半身が一般的。中には"うまだっち"やお尻にやっちゃう猛者もいるけどwww変態チックでオススメしない」

 

 ・・・クロ、シロ、お前たちはやってないよな。

 俺が寝てる間とかに、変な所にマーキングしてないよな。頼むぜホント。

 

「クロとシロのメッセージはまだ残ってるか」

「もう消える寸前だけど何とか読み取れるよ、聞きたい?」

「是非」

「『ぶっ殺…』」

「もういい!聞きたくない!あいつら笑顔で何をすり込んでんのよ!」

「うわぁ、凄い長文・・・。これキタちゃん?それともサトちゃん?両方かな、特級呪物も真っ青の怪文書だ」

「やっぱ気になるから要約できる?マイルドに何を伝えているかだけでも教えてくれ」

「う~んとね最初のほうは『私たちのだから取らないで』」

「あいつららしい」

「残りの長文は『ウマ娘に理解のある最高の男』『どうかお願いします。彼が困っていたら助けてあげて』だと思う、健気だね本当・・・妬けちゃうくらいに」

「(´;ω;`)ブワッ」

「あらら、泣かない泣かない。二人には内緒だよ、マーキングされたメッセージを本人にバラすのは基本NGだから」

 

 皆がドレインに協力してくれたのは、愛バのマーキングのお蔭でもあったのか。

 きっと、このメッセージを受け取って協力してくれた子もいたんだ。

 知らぬ間にいつも二人に助けられてた、ズルいぜ・・・クロ、シロ。

 

「もう2年ぐらいになるよね、上書き無しでここまで長くマーキングが残ってるのが奇跡だよ。相当な思いを込めて何度も何度もやったのがわかる」

「・・・もうやめて、涙が止まらない・・・あの子たちったら、起きたら死ぬほど撫で回してやる」

「あの二人がこうもデレるなんてね」

「因みにモーさんは今どんなメッセージを」

「聞きたい?特別に教えてあげる」

「信じてるぞ、ロリコンとかやめてね」

「惜しい!」

「おい!」

「嘘だよwww私のは『定員オーバー』だよ」

「どういう意味だ?」

「五人目はいらないってこと」

 

 どこまで本気なんだろうこの子は。

 

「というわけで血をくださいな」

「嫌どす」

「じゃあこうしよう、マサキが傷を負った場合。もれなく私がペロペロします!これでどうだ!」

「どうだと言われましても」

「無傷で過ごせば何も問題ないよね。私を諦めさせたいなら出血するようなケガをしないこと」

 

 何これ。

 健康無事を願われてるのに、出血を期待されてる。

 

「じゃあ先払いするね。私の覇気をどうぞ」

「悪いな、期待に応えてやれなくて」

「キタサトちゃんを思ってのことだから仕方ないよ。まだかな〜血、血、血」

「出血待ちやめてもらえます」

「鼻血とかはちょっと嫌なんで、なるべく舐めやすくて吸いやすい箇所をお願いね」

「意地でも出血してやらねえ!」

 

 本気で俺の血が欲しいなら俺を攻撃して傷つけるなりすればいい、それをしないのは俺を大事に思ってくれていることの証明。言わなくてもわかるよねって目が物語ってます。

 

 ドレイン前の下準備、いつものようになでなでします。

 目を細めて気持ちよさそうな顔をするモーさん。

 

「えへへ、嬉しいな。今後もいっぱい甘えさせてね」

 

 ドレイン可能状態までリラックスしてくれた。よしこれで・・・ん?

 

「あ、今吸われてる。なるほどこんな感じなんだ」

「う~ん・・・ん・・・んんん?」

「どうかした?私の覇気に何か問題が」

「ファインモーション」

「なあに」

「お前、本当にファインモーションか?」

「おかしなことを言うね。私がファインモーションじゃなかったら、何だって言うの」

「覇気って不思議だ、記憶や感情が伝わることすらある。本人が望まなくてもな」

「プライバシーの侵害。やれやれ、あなたの前じゃ私はただのクソ雑魚ウマ娘だよ」

「ごめんな。でも、本当は知ってほしかったから、俺に伝わったんじゃないのか」

「やだなぁ、精神攻撃ズルいよ。マサキのドS!肉体だけじゃなく精神的にも隷属させたいんだね!やれるもんならやってみてよご主人様!」

「ちょっと調教が進んだ感じ出すのやめて!」

「ご主人様はダメだった?どんな呼び方でも対応するからね、このブタ野郎!」

「SとMの両対応ですかい。とにかく、伝わった情報は俺の心にしまっておくから心配すんな」

「私の何を知った!言え!どんな恥ずかしいネタで脅迫する気だ!」

「落ち着きなされ」

「隠し財産の場所か!それとも開かずの第七倉庫にいる例のアレか!はっ!まさか、PCのお宝フォルダを・・・それだけは、おごごごごごご!?」

 

「ココ」

 

「っ!?」

 

 俺の一言でピタッと動きを止め目を見開く。

 完全に虚を突かれたといったその表情は、出会った当初の余裕あるものではない。

 何度かパクパクと口を動かすも言葉が出ない、やがて観念したかのように顔を伏せる。

 

「ハァ~~そうきたか・・・私たちの覇気、かなり相性いいみたいだね」

「ごめん、触れられたくない事だったか。この話はもうやめ・・・」

「逃がさないよ、深淵を覗いたツケは払ってもらう」

「大丈夫、ここにいるぞ。だから両手両足でしがみつくな、セミかよ」

「こんなに可愛いセミがいてたまるか!」

「事実だけど自分で言うな」

「本当はね、操者になってから聞いてほしかったけど。うん、今がその時だってことだね」

「よし、一旦座ろう。真面目な話になりそうだからな」

 

 セミの締め付けが徐々にきつくなっていくので危なかった。

 モーさんと向かいあい、フカフカベッドに腰かける。

 目をつぶって一考した後、放った最初の言葉。

 

「私ね、一度死んでるんだ」

 

 あはは、と下手くそな笑顔を浮かべて語り出す。

 

「どこから話そうかな、ファインモーション誕生秘話のはじまりはじまり~」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

【ココ】

 

「おいでココ」

 

 私と同じ金色の瞳をしたウマ娘、お母さんに呼ばれて駆けだす。

 優しく受け止められ抱き上げられる。母親に感じる絶対的な安心感で満たされる。

 

「もうすぐお父さんが帰って来るわ、今日は何が食べたい?」

「うーん、えっとね、ラーメン。ラーメンが食べたい!」

「ココは本当にラーメンが大好きね」

 

 私の名前は"ココ"

 由来は母の名前"ココット"から来ている。ココって響きが可愛いでしょ。

 私が真名とやらを授かるのは成長期を終え、頭首になってからだと祖父母から聞いた

 どうでもいい、興味ないな。

 

 うちは所謂没落貴族ってヤツだ。

 あらゆる分野を牛耳るメジロ家、謎の勢いと行動力で世に蔓延るサトノ家。

 そして、大した功績も力も資金も人材もない我が家、ファイン家。

 メジロとサトノ、両方にいい顔をし、おこぼれに預かっていただけの集団が御三家の一角とかマジウケる。

 もう、張りぼてだらけプライドを捨てて一般庶民に戻りましょうや、その方が絶対楽だって。

 

 ファイン家の実体は、何かの手違いで御三家なんて呼ばれてしまったことに優越感を持っちゃった勘違い集団。

 兼ねに汚く見栄を張る事と世間体を人一倍気にする、それだけが生きがいの老害や一部の寄生虫が私たち家族に口出ししてくるのが本当にウザったい。

 父も母も私も権力や名誉なんていらない。ただ普通の幸せがここにある、それで十分じゃないか。

 

 血筋や格式(笑)を重んじる祖父母に命じられ、嫌々お見合いして出会ったのが私の父と母。

 母は外国籍のウマ娘だった、確かアイルランド出身で王族の血を引いたとかなんとか。王家の血(笑)を取り入れることでファイン家の格がどうたら・・・バカバカしいね。

 互いに望まぬ政略結婚だったらしいが、不思議と意気投合した父と母は両想いで大変仲睦まじい。

 私が産まれてからもしょっちゅうイチャついているのバレてるよ。

 

 ファイン家がどうなろうと知ったことではない。

 私はただの"ココ"として優しい両親に見守られ、これからも生きていくんだ。

 

 そうできたら良かったのに・・・

 

 父と母が死んだ。

 交通事故、即死だった。

 両親の乗った車に信号無視をした暴走車が突っ込んだらしい。私はその日、高熱を出して寝込んでしまい急遽、祖父母宅に預けられていたので無事だった。

 事故の原因は飲酒か薬か前方不注意か・・・わかった所で、もう父も母も帰って来ない。

 最初に感じたのは「なぜ?」という疑問だった。どうして父と母が、二人は何も悪い事をしていないのに。

 納得はしていないが理解した・・・良いとか悪いとかじゃない、この世にはどうしようもない理不尽が至る所で起こっている。それだけのことだった。

 両親たちはそう、運がなかったのだ。

 気が付いたら葬儀は終わっていた。悲しいとか思う暇もなく、過ぎ去る日々。

 どうしよう、どうなるのだろう。どうやって生きていこう。

 

「気を落とさないでね、ココちゃん」

「心配するな、あの子達の分まで大事にしてやる」

 

 私を引き取ったのは当然、祖父母だった。

 面倒を見てくれることには感謝するが、両親の遺産と、ファイン家の次期頭首である私を思うがままにできる権利を手に入れた喜びは隠しきれていませんよ。

 こいつら嫌い、強欲老害どもが。

 

 最初の内、祖父母は比較的優しく接してくれた。

 今では邪魔者扱いだ。

 

「はぁ、早く出て行ってくれないかねぇ」

「まったく、あいつらも厄介な子を置いて逝ったな」

「役立たずな子だよ」

「今となっては本当に息子の子なのか怪しいもんだ」

 

 聞こえてんだよボケ。

 

 元々病弱で、頻繁に高熱だしては体調不良を訴える私を不信に思った祖父母は、金にものを言わせて私の全身を精密検査した。

 高名な治療師まで呼んで覇気の流れから、神核までチェックされた。

 そこでわかった事実が、老害どもが態度を変えたきっかけだ。

 

 極度の虚弱体質であり、身体能力は人間女性の平均以下。

 レース出場はおろか騎神になることなど不可能、神核の一部に欠損あり覇気の循環効率が著しく悪い。

 ウマ娘のアドバンテージを私は持っていなかった。

 更には、先天的異常により妊娠することが出来ない体だと判明。

 

 ウマ娘の力を示せず、頭首の器ではない。

 跡継ぎを残すことができず、政略結婚の道具として使うこともできない。

 祖父母たちにとって私は望みを叶えてくれる大事な子(金のなる木)から、厄介者のごく潰しにクラスチェンジしたらしい。

 

 世間体を気にしてか、家を追い出されることはなかったが、聞こえるように悪態をつかれ、いないものとして扱われる日々はストレスが溜って仕方がなかった。

 両親の遺産を私に代わって管理する、その名目で贅沢三昧な暮らしをする祖父母を見ていると、腹立たしさよりも、こんな奴らの血が流れていることが堪らなく不愉快だった。

 ああ、早く大人になりたい。

 こんな所、早くおさらばしたい、私はのびのびと精一杯生きたいだけだ。

 たとえ、医者から「10歳まで生きていられるかわからない」という死の宣告を受けていたとしてもだ。

 希望は捨てない、意志はまだある。両親の分まで少しでも長生きしてやる。

 いつか天国で二人に会った時「どうだ、私頑張ったよ」って言ってやるんだから。

 

「いやーめでたい!欠陥品のお前を引き受けてくださるそうだ。もっと喜んだらどうだ、なあ」

「私たちはあなたからもファイン家からも手を引くわ、精々上手くやることね」

 

 ある日、ジジイとババアが興奮気味でそんなことを言ってきた。まあ、嬉しそうな顔だこと。今日も腹立つ顔してるな。

 

 数日前からうちに知らない人が出入りしているのは知ってたが、私をどこかに売り飛ばしたらしい。

 それも、あんなに固執していたファイン家をセットにしてだ。

 

 ジジババの話によると、一生遊んで暮らしてもおつりが来るぐらいの金をポンッと支払ってくれたそうだ。

 その代わりの条件が、私の身柄とファイン家に関する全ての権利譲渡。そして、老害と寄生虫どもは国外退去して今後一切ファイン家に関わらないと誓うことだった。

 接近禁止を破った場合は物理的に消されるらしいが、迷わず了承したというからやれやれだ。

 

 これはピンチ?それともチャンス?

 

 ともかく、老害と離れる望みは叶った。後は私の引き受け先がまともでありますように・・・

 あははっ!無理か、無理だな!ちくしょう!

 負債だらけのハリボテ名家と短命病弱ウマを買う物好きというか絶対ド変態だぞ!

 私を散々弄んだ挙句、嬲り殺しにして「愉悦ッ!」ぐらいかましてきそう。嫌だなぁ怖いなぁ。

 せめて楽に死ねるよう、従順な態度で媚びを売っておくか。

 どうせ殺されるならイケメンがいい「お前を殺す」て言ってよヒイロ・ユイ。

 

 私を買ったド変態(仮)は想像していたのと大分違った。

 

「ようやく会えたね」

「え?あれ?あなたはいったい・・・」

「私はファインモーション。はじめましてだね、もう一人の私」

 

 老害が旅立ってからすぐに知らない大人たちが迎えに来た。

 ひぇ、黒塗りの高級車とかヤクザ屋さんですか。\(^o^)/オワタ

 絶望に打ちひしがれている私が連れて来られたのは、見た事もない建物(これは何かの輸送機?よくわからない)

 丁重に案内された建物の奥で待っていたのは私によく似た顔の女だった。

 年は向こうが数年ほど上っぽい、いつも鏡で見ている顔が順当に年を取ったときこんな顔になるんだろうな。そう思わせるような顔をしている。

 目の前に鏡が置いてあるのではと錯覚してしまう。

 本当に気持ち悪いぐらいに似ている、生き別れの姉妹?クローン?

 あ、わかったぞドッペルゲンガーだ!目撃したら死の予兆なんだっけか笑えねぇ。

 

「メッチャ混乱してるねwwwもっと近くにおいでよ、説明するからさ。まあ、お茶でも飲みながらゆっくりしなよ」

「は、はぁ」

「ほらおいで~、おお、これがロリな私・・・やだカワイイ~」

「なんだコイツ、キモッ!」

 

 もう一人の私とか言う目の前のそっくりさん、闇遊戯なの?ATMなの?さっさと成仏して。

 

「もっと腕にシルバー巻くとかさぁ」

「嫌ですけど、さっさとこの状況を説明して」

「似ているけど別の世界、パラレルワールドから来たって言ったら信じる?」

「信じる信じないかは全てを聞いてからにする」

「さすが私、賢いね」

 

 それはそれは荒唐無稽な話を聞かされた。

 似て非なる世界1stからやって来たこと、1stは滅びを迎え脱出してきたこと。

 ベーオウルフとルシファー、世界を歪める悪の存在、この世界2ndを二の舞にさせたくないこと。

 

「世界の歴史はおよそ数十年ずれている。そして、全てがそっくりそのまま同一というわけではないの。例えば、2ndの私は既に誕生してヘビーな人生を歩んでいるとか」

「1stと2nd、時間のズレ、似ているようで異なる世界」

「私たちが会えたのは奇跡だよ。まずはそのことを喜ぼうか」

「あなたの望みは何?まさか、ただの同情心で私を買った訳じゃないよね。何をすればいい?」

「本当に賢いね。でも、そんなんじゃ「カンのいいガキは嫌いだよ」って言われるぞ~」

「早く言えよ」

「あなたと合体したい」

「はい?」

「魔法カード融合を発動!」

「だから何?」

「まだわかんないの?私と一つになろうって言ってるの、同化だよ同化」

「ナメック星人?それともフェストゥム?どっちでもいいけど気持ち悪いな」

「私たちが生き残るにはこれしかないの」

「なんですと」

「知ってるんだよ、余命幾ばくも無いんでしょ、死にかけさん」

「うるせー」

「なんと奇遇なんでしょう、私ももうすぐ死んでしまうのです」

「そんな所まで似てて引くわ」

 

 1stからこちらへ転移するにあたり相当な無理をしたらしい。

 ゲートとやらを起動するために、神核にダメージが入るほどの大量の覇気を酷使したのだとか。

 ファイン家頭首として皆を2ndに避難させる責任があるとかなんとか。

 死ぬようなダメージを負っても民を守る義務を果たすとか、すげぇなそっくりさん。

 2ndに来てから残された時間がないとわかった所で、1stの難民をまとめるお役目、後継者となるものの選定にあたっていた所、難民の一部が離反、ヴォルクルス教団を名乗り裏社会へ潜伏したのだとか。

 そのようなゴタゴタの最中、私を発見して没落ファイン家ごと買い取ったのが真相だった。

 

「魂継(たまつぎ)って知ってるかな」

「引退や死期を悟った騎神が、子や弟子、後継者に力を譲渡する儀式」

「その受け皿をあなた、もう1人の私にやってほしいの」

「マジっすか」

「力だけじゃない私の記憶、1stの知識と経験、神核の情報を全てダウンロードするるもりだよ」

「それをやるとどうなるの」

「かなりの無茶をやるから、終わった後で私は死んじゃうよね。成功すれば私とあなたの意識は統合されて、健康な肉体もゲットできる・・・といいな」

「かなり危ない橋みたいだな、成功率は聞かないでおくよ。仮に成功したとして、そいつは私?1st出身のあなた?それとも新しい第三者なの?」

「知らね」

「おいぃぃぃ!」

「そんなの、やってみなくちゃわかんないんだもん!二人で死を待つより、二人で新たな生に賭けてみない?」

「・・・いいよ。その賭けにのった」

「即決ありがとう!それでこそ私だね。じゃあさっそくいいかな、気が変わる前にやっちゃおう」

「うわぁ軽い」

 

 両親は既に他界、私の余命は明日も知れず、じゃあやってみるしかないよね。

 不思議と恐怖は無かった、失敗しても両親に会えると思ったし。

 

 分かれていたものが本来の形に戻る、それが自然のような気がしたから。

 

「怖い?」

「ちょっとだけ」

「私もだよ」

「ラーメン好き?」

「大好物」

「そっか、そっか、うん」

「お互い苦労したね」

「まだまだこれからだよ、頑張ろう」

 

「じゃあやるよ。よろしくね私」

「うん。お願いね私」

 

 儀式は滞りなく進行。

 全てが終わったとき、私は私の遺体に抱きしめられていた。

 穏やかな顔、まだ温かい、先程までその体はちゃんと動いていた、動かしていた。

 

「上手くいった?なんか頭がグワングワンするな」

 

 二つの記憶が混ざり合う感じがちょっと気分悪い。

 馴染むまでもう少しかかりそうだ。

 

「ちょっと!成功率30%以下じゃない!ああ~今となっては誰に文句を言えばって私か!」

 

 人格の統合もなんとかなってる。

 目の前の体、1stの体を静かに横たえる。あ、目が半開きになって怖い。ちゃんと閉じてっと。

 う~ん、不思議な感覚だ。確かに私は死んだ、でもまだ生きている。

 ずっと2ndの体に入ってた意識と、1stからやってきた意識が余りに自然に統一されていくので、なんというかその、目の前の死体を見てもwww不謹慎なんですがそのwww笑いそうでしてね。

 コイツ死んでるwww私www死んでるwww安らかすぎじゃねwww

 

「おい!モーション、生きてるかって・・・は?」

「あ、ゴルシちゃん。ハロー!元気してる」

「おま、え、死んで、何。どういうこったこれは?」

「あはははっ、ゴルシちゃんが真顔でwww唖然としてるwww」

「なにやってんだてめぇぇぇーーー!!!」

 

 ドアをぶち破って現れた友人のテンパり具合に笑ってしまった。

 首を絞めるのはダメです。もう体はこれしかないのでやめてね。

 ゴルシちゃんに説教された、怖かったので素直に謝った。

 魂継をすることは1stの皆には内緒で行った。だって絶対反対するでしょ。

 賭けには勝ったからもう怒らないで・・・はい、すみませんでした。

 

 そして私は『ファインモーション』になりましたとさ。

 これからは真・ファインモーションですよ。ワクワクしてきたぞっと。

 

 1stの体は手厚く埋葬した。

 自分の棺桶運んだの自分ですからwww貴重な体験をしてしまった。

 その後は、ファイン家頭首の新生を1stの皆に納得(無理やり)してもらって、忙しい頭首様の生活が始まった。

 現状の問題点を総ざらい、2ndファイン家の立て直しと1st難民の受け入れ先を何とかしなくては。

 

 天級騎神に接触、ラ・ギアスへの移住とクロスゲートの監視をお願いする。

 説明するまでもなくゲートの危険性に気付いていた天級はやはりすごい。

 

 メジロ家及びサトノ家に技術提供を行い、ファイン家の有用性を示し太いパイプを形成する。

 サトノ家の子供たちは最重要警戒対象だ。

 早い内に会っておきたい、そうだな、操者を探せと言い聞かせておくか。

 1stの二人には操者がいなかった、もし操者がいたのならあのような結果には・・・。

 

 ヒュッケバインの事故?そんなの1stではなかったはず。

 そもそもブラックホールエンジンはまだ早すぎるだろ、2ndの技術は1stに迫っている。うちがちょこっと未来の技術をばら撒くので進歩状況は加速するだろう。

 

 ゴルシちゃんの年齢がわからない、深く考えたら負け。

 

 ファイン家は皆の頑張りで急成長を遂げる。新しい人材も沢山は雇うことができるようになった。

 エアシャカ―ルはよく私の愚痴を聞いてくれる。採用面接時、1stのことを話しても「あ、そう」で返してくれたので即採用。殆どの人は「コイツやべぇ」「ファイン家狂ってやがる」って顔して途中退席するんだよね~プンプン。

 

 アースクレイドル・・・1stでは机上の空論で終わった大規模都市シェルター。

 2ndにて実験的に稼働していたが襲撃事件により多数の犠牲者を出し、現在は放棄されている。

 クロスゲートの研究施設があったことを確認。

 

 ヴォルクルス教団・・・マジめんどくせぇ。

 カルト教団の分際で私の仕事を増やすなボケが。

 やめてよー本当に勘弁して、あのくそワカメオヤジめ。いつか坊主頭にしてやろう。

 

 うわ、妖機人の出現報告がある。ふむふむデモンと呼んでるのね。

 超機人が味方になってくれるといいけど。

 バラルが絡むと碌なことにならないのはわかってるからな~。どうしたもんか。

 

 1stでは起きなかった事件事故、まるで何者かの意志を感じるのは気のせいか。

 アストラナガンが警告した"世界の破壊者"そのような存在がいるのだろうか。

 この世界は2ndは守らなくてはいけない。

 

 体の調子はすこぶる良好。

 体が軽い、もう何も怖くな・・・やめよう、死亡フラグだ。

 二つの魂を統合したんだ、強くなって当然ですよねー!そう簡単なら良かったんだが。

 頭で知ってるのと体が動いてくれるのは違う、特にこの2ndボディは病弱だったためまともな修練などしたことがない。ゴルシちゃんや皆に頼んで徹底的に鍛え直すことにした。毎回ゲロ吐くほど頑張った。

 体が動くってのは素晴らしい、逃げ出したくなるようなキツイ修練も何とかこなし、少しづつ強くなる実感が嬉しい。2ndの私が望んでも手に入らなかった強い体、いいじゃないの。

 1stの私は覇気制御に長けていた、魂継で記憶を転写できるほどの使い手はそういない。2ndの私は虚弱だったがセンスはあったらしい、健康体に優秀な頭脳と知識、そして修練を楽しめる才覚と天性の戦闘センス。

 今の私結構強いかも。父と母に見せてあげたかったな。

 

 キタサトちゃんに接触してからしばらくたった。

 あの可愛らしい二人が、あのベーオウルフとルシファーの幼体・・・ウソやろ。

 操者は見つかったのだろうか、心配だな。

 

 ビックリした!本当にビックリした!

 し、尻尾がピーン!となって全身の毛が逆立った。まだ心臓がバクバクしてる。

 

「今の何?覇気の爆発?何かヤバいのいる!」

 

 ゴルシちゃんが「おもしれ―奴がいるみたいだぞ」って笑ってた。

 シャカは「ロジカルなんて言ってられねーふざけた野郎がいる」ってキレてた。

 一応、調査警戒だけはしておこう、何かが動き出す予感がする。

 

 ラーメンは美味い。

 1stではお店自体が少なかったから大満足。2ndの私は元から大好物なので大満足。

 つまりは美味しいってこどで・・・かぁ~今日もウメーーー!!!

 油断すると太るな・・・筋トレ真面目にやっとくか。

 

 キタサトちゃんが契約したらしい、操者を見つけたのだ。おめでとーよくやった。

 

「二人の操者が尻尾ピーン事件の元凶とはね・・・ブッ!アハハハハハハハハハハッ!」

 

 報告書に添付された男の資料写真、なぜこの写真を選んだ!絶対ワザとだろ。

 

「目www薄目開きwwwアルカイックスマイルwww悟り開いてるwww」

 

 菩薩像かよ!失敗した免許写真だコレww瞬きしたのを採用するなよ。

 

「あーおかしいwwえっと、サイバスターの・・・へ、養子!?実子ではないのにあの覇気なの?」

 

 彼についての調査報告、所々不可思議な点がある。しかも彼は、1stに存在していない人間だ。

 イレギュラー・・・これ絶対何かあるやつだ。

 そんな訳あり男を操者に選んだキタサトちゃん・・・これが吉と出るか凶とでるかは賭けだ。

 

「アンドウマサキ、あなたはどんな人間なのかな」

 

 妙に耳に残る名前だ。

 彼にはすごく興味がある、ちゃんと会って話がしたいな。

 

 何かが始まる予感がする、これは乗るべき流れだね。

 

「私はいつも通りやるべき事をやるだけ、今までもこれからも」

 

 私はファインモーション、弱い"ココ"はもういない。

 

 私は私に出会い、新しい本当の私になった。

 




クロ「どいつもこいつも!」
シロ「卑しか女だらけですよ!」


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ここ

誤字報告及び感想いつもありがとうございます。


 ファインモーション過去を語る。

 なんと二人のモーションがフュージョンしていた。

 

「それからは、頭首の責務と仕事の忙しさに心身をすり減らしつつ、ようやく見つけた操者に契約を拒否されてしまうのでした・・・(´Д⊂グスン」

「こちらの良心に訴えかけるのやめてね」

「あーあー、どこかにいないかな~すんごい覇気の持ち主で血液をくれるような優しい人が」|д゚)チラッ

「こっち見んな」

「もう、テレやさん♪好きな子に意地悪したくなるお年頃かな?」

「意地悪なんかしない、幸せになってほしいと思ってる」

「あなたと一緒なら幸せだよ」

「その気持ちは嬉しい・・・けど、ホントマジどうしよう!まずはクロとシロを起こしてアルダンにも話さないと、それからメジロ家とサトノ家に報告と謝罪をして、ああくそ一人じゃ心もとないシュウや母さんたちに弁護を、悲劇の結末を逃れるルートをなんとか探さないと。止めるしかない!俺がもっと強くなって愛バたちの激突を止めなければ!ぐあぁぁこの俺が女性関係で悩む日が来るなんてーーー!!!」」

「もしもの時は私が皆に説明してあげるよ「マサキが本当に好きなのはファインモーションだけだ」ってね」

「火に油どころか爆弾投げ込んで楽しいか?」

「意地悪したくなるお年頃ですからw」

「ハハッ!コイツ~」

「いひゃいいひゃい!ほっぺたひっひゃらないべーーー!!!」

 

 柔らかい頬っぺたを引っ張っていると多少溜飲が下がった。

 赤くなった頬を撫でながらもどこか嬉しそうなモーさん。

 結構重い過去話をした後なのに暗い雰囲気を感じさせない、この子強い。

 

「ご両親と1stモーさんのこと、お悔やみ申し上げます」

「気にしないで、いろいろあったけど大事なのはこれからだからね」

「なあ、結局お前はどっちのファインモーションなんだ」

「どっちでも本当の私だよ。強いていうなら4:6で2ndよりかな」

「どんな形でもお前が生きててくれて嬉しいよ。本当によくやったな」ヾ(・ω・*)なでなで

「そういうとこだよ!!!」

「なぜキレる?」

「そのナデナデと甘い言葉でどれだけのメスウマを落として来たんだ!知ってるかもだけど私はもう落ちてるよ!!!」

「そ、そうか」

 

 急にキレ出したよ、情緒不安定なのは魂継の副作用?母さんたちに診てもらったほうがいいかも。

 

「余計な心配しないで、それよりお願いがあるんだけど」

「まだ出血しとらんよ」

「そうじゃなくて、呼び方の変更を希望します」

「モーさん嫌だったか?じゃあインモ・・・よせよせ、首を絞めるほど喜ぶなよ」

「その汚名、ファイン家では禁句だよ!なんであなたまでサトちゃんと同じこと言うかな!」

「やれやれシロと被ってしまったか、フッ、さすがマイ愛バだ」

「「インモ―?陰毛ですかwww卑猥っスねwww」てバカにされた気持ちがわかるか!」

「ブハッwwwシロwwwお前って奴はwwwもう陰毛にしか聞こえないwww」

「もう!起きたらちゃんと叱っておいてよ。罰としてたった今から私を"ココ"と呼ぶことだね」

「いいのか?それは両親の思いが詰まった大切な名前だろ」

「大切な名前だからこそ呼んでほしい愛バ心をわかれ!」

「さっきから怒られてばっかだ、わかったよココ」

「ふぉぉぉ、今ゾクッと来たァーーー!いいね!特別な感じがするよ」

「クロにシロにココか。こりゃアルダンにも何かつけてやらないと、二文字で統一して"アル"かなやっぱ」

「おーい、今は目の前の愛バに集中してよね」

「ココはまだ正式な愛バになってないでしょ」

「時間の問題だと思うけどね」

「ニヤニヤしないでくださる、コラッ!お尻触らない!」

 

 なんという自然なボディタッチ、なんなの?みんな俺の尻メッチャ触りたがるやん!

 アルダンの呼び方はアルに仮決定。

 

 愛バの増員には最初こそ驚いたが、いつの間にかアルとココを受け入れている自分がいる。

 この二人ならばきっとクロとシロも・・・ダメかな?全裸で土下寝してもダメ?

 これは誰かに相談した方がよさそうだ。

 

「スマホとにらめっこして何やってるの?」

「ちょっとネットの住人たちに相談してみようかと思って」

 

 つい先日、ネットに操者専用サイトや掲示板が存在するのを発見した。

 愛バの自慢をしたり、ちょっと弱音や愚痴を吐いたり、あるあるネタで盛り上がったりして大変興味深い。

 あるサイトのお悩み相談機能は充実しており、相談内容を入力すると暇人が回答を寄こしてくれる。

 『愛バの食費がエグイ』 『マーキングを消す方法』『ブラッシングのススメ』

 『俺の愛バ年上なんだが』『にんじん飽きたって言われた』『温泉旅行はいいぞ』

 今日も沢山の相談で賑わっているな。

 

「へぇ~こんなのあるんだ、書き込んでいるのが本当に操者だって保証はなさそうだけど」

「そこを気にしたら負けだ。不特定多数から何かお知恵を拝借できればそれでいい」

 

 相談内容をポチポチ打ち込む。

 

『緊急事態!愛バに許してもらえる方法を教えて下さい(なお全面的に俺が悪い模様)』

 

「お、もう書き込みが来たぞ」

 

 早い!ずっと張り付いてる奴がいるのか。

 

『何をやらかしたか言え』

『愛バが二人から四人に増えそう』

『貴様嫌味か!』

『愛バはどんな子たちだ、教えてクレメンス』

『全員年下で良家のお嬢様、メッチャ可愛くて俺には勿体ない。一緒にお風呂と添い寝は当たり前、今日は愛バ未満の子に逆ぴょいされそうになった。やれやれだぜ』

 

 これでいいかな、いいアドバイスを頼むぜ。

 さあて、どんな回答が・・・おっふ。

 

『もげろ』

『もげろ』

『もげろ』

『もげろ』 以下同分が続いている。

 

 これは酷い、一瞬スマホがバグったのかと思った。

 怖いな~みんな俺が"うまだっち"とお別れすることを望んでいる。

 

「もげてたまるか!罵倒ばっかりでアドバイスが一つもねぇ!」

「示し合わせたかのように「もげろ」で埋め尽くされたね」

「こんな所に相談したのが間違いだった!やっぱり知り合いに聞くのが一番」

 

 ネットはそっ閉じして終了。

 今度はメッセージアプリを開き、母さんたちのグループラインに相談投下!

 グループメンバーの数字がなんか多い気がしたが、まあいいか。

 

「早速返信がじゃんじゃん来てる。みんな暇なのか?」

「私にも見せて~」

 

『帰ったらお説教をします』

『マサ君ったら色男ね』

『ええのう、若いのぅ』

『マサキ今どこにいるの?・・・ホテル!?私が目を離した隙に何してんの!』

『羨ましい羨ましい羨ましい恨めしい恨めしい恨めしい、ウマ娘ちゃんたちのハーレムゥゥゥ!!』

『姫か!姫に手を出したんだね!やっちまったねぇカピバラ君ンンンンッ!』

『ペドフィリアの犠牲者が増えたか、べ、別に羨ましなんかないんだからね!さっさと逝け小僧!』

『アハハハハハッ!下手なバラエティ番組より面白いぞ☆ブラックとダイヤのことも忘れんな☆』

『君は本当に期待を裏切らないな、娘たちが暴走してもパパはスルーするのであしからず』

『立派なプレイボーイに成長したのね。お姉ちゃん複雑だけど嬉しい』

『見事ッ!君の愛バたちも是非学園に』

『何をやっているんだお前は!母上たちが泣くぞ』

『トロンべはトロンべはいるのか?』

 

「お説教いやぁーーー!グループの人数が増えてる・・・ミオの仕業だな」

 

 あいつなら俺のスマホをハッキングしてグループを追加していてもおかしくない。

 勝手に何やってんのよもう!

 メジロ家のばば様やウォルターさんがいなくてよかった、アルダンのことを言うの怖いし。

 

『まずは素直に非を認めて謝りましょう。言い訳をすると更に怒りを買います』実体験

『あなたのことです、どうせ後続の二人もさぞぶっ飛んでるでしょう』

 

「さすがだぜシュウ、ホント頼りになるの男だぜ」

「ぶっ飛んでて悪かったね」

 

『ぶっとび娘四人が本気で争えば甚大な被害が予測されます、四人を守るためにも全面戦争は回避しなければなりません。ですから、マサキは四人を纏めて面倒をみる気概と根性、何よりも大きな愛を持つ男になってください。愛バが何人増えようとどっしり構えて「全員俺について来い」と言える男にね』

 

「恥ずかし気もなく愛!」

「殆どは罵倒と冷やかしと煽り。まともなアドバイス(精神論)をしてくれたのはシラカワシュウだけ、資料で読んだけどかなり優秀なんでしょ、おまけに心までイケメンだなんて」

「騙されんな中身結構ネバネバでドロドロよ。今からでもシュウに乗り換えるか?」

「まさか、私はあなたと違って浮気なんかしないよ」

「させてる元凶が何を言う」

「怒らないでよ、はい尻尾」

「うむ。いい触り心地だ」

 

 精神安定にココの尻尾を触る。うひょサラサラやんけ!

 

『操者としての真価が問われますよ、あなたが愛バたちを導いてあげなさい。頑張れとしか言いようがありませんが応援しています』

『あなたを巻き込んだ張本人、どうせ隣にいるのでしょう。どこのどなたかは存じませんが、マサキのことをよろしくお願いします』

 

「おおっと、どこかで見てるんじゃないかってぐらいのバレバレ、わかっていたけど相当なやり手だ」

「シュウは本物の天才だからな、仕方ない」

 

『最初こそブルボンとライスは少しだけピリピリしていましたが、今では私を差し置いて二人でイチャコラと』

『仲がいいのは嬉しいのですが、これって放置プレイなんでしょうか?』

『最近は母と三人で出かけたりして・・・私はどうしたらよいのでしょう』

 

「どっしり構えてないじゃん!何でお前が相談する側になってんのよwww」

「ATMになったお父さんみたい、ちょっとかわいそうかな」

「えっと「二人が入浴中に突撃しろ」「布団の中にも突撃しろ」これでいいか」

 

『マサキは単純でいいですね。さっそく実行してみます』

 

「実行しちゃうんだwwwバカと天才は紙一重だね」

「後はこれをやっとけ「ボンさんはワシャワシャ頭を撫でられるのが好き」「ライスは耳をむぎゅむぎゅされると照れて喜ぶ」スキンシップ大事よ」

 

『なんでうちの子の弱点を知ってるんですか!寝取られですか!そこんとこ詳しくぅ!!!』

 

 めんどくさいのでアプリ終了。

 シュウや他の皆にお礼の返信して、罵声だけの奴には『おならぷう』とだけ送っておいた。

 

「要は俺次第ってことか・・・( ´Д`)=3 フゥ」

「一緒に土下座しようね、不倫が奥さんにバレた下衆カップルのように!」

「嬉しそうっスね、こっちは今から気が重いってのによ」

 

 クロとシロはまだ起きないか、アルとココの存在を嗅ぎ付けたらすぐにでも飛び出してきそうなんだが。

 

「もういい時間だし、お風呂入って寝た方がいいよ」

「そうだな、じゃあ帰るわ。いろいろありがとなココ、縁があったらまた会おうぜ」

「どこへ行こうというのかね?」

「出入口を塞ぐな。ミオと合流して旅を続けるんだよ、水の天級騎神を探さないといけないからな」

「ミオちゃんはシャカが預かってくれるよ。今夜はここで私とお泊りするんだ!」

「そっか、じゃあ俺がベッドを使うからココはベランダで寝てくれる」

「サラッと締め出そうとしないで!それが愛バ予定の子にする態度なの」

「夜景が綺麗だから気を利かせたつもりなのに、フロントに頼んだら寝袋ぐらい用意してくれるだろう」

「スイートルームに宿泊したつもりがベランダで野宿なんて嫌だよ!」

「さすが高級ホテルのスイートだな備え付けの風呂もでっかいぞ、じゃあお先に~」

「一緒に入ろうって誘えよ!背中流してよ」

「愛バじゃない奴はダメです」

「キタサトの二人とは既にご一緒しているのに!ズルいぞロリちくしょう!」

 

 鍵がかかるドアもウマ娘の力の前では無意味って所が多いんだけど、このホテルはしっかりしてる。

 各部屋のドアは超合金製の生体認証、無理にこじ開けようとすると即通報される特注品。

 風呂場の鍵は・・・残念一応あるけど出入口ほど堅牢なものじゃなかった。

 

「いつまで脱衣所にいるつもりだ?怖いんですけど、ゆっくりお風呂に入りたいんですけど」

「ちょっと裸見せあうだけだから、男性の体に興味があるだけだから」

「浴室に一歩でも侵入してみろ、襲われたって母さんにあること無いこと喋るぞ」

「お母さんにチクるとか成人男性のすることか!マサキのマザコン!ロリ!ヘタレ!」

「どうせロリコン、マザコン、シスコン、そしてヘタレだ・・・あれ、おかしいな、まだシャワー浴びてないのに目から水が」

「負の四冠王でも大好きだよ」

「あんまり嬉しくない四冠ですね」

 

 脱衣所で騒ぐココを放置してお風呂タイム、ガラス張りなのでこっちメッチャガン見してくるのが怖い。

 

「残り湯は捨てないで・・・アッーーー!!!勿体ない」

 

 気持ち悪いこと言い出したので風呂釜に張ったお湯は抜いておいた。

 

 俺と入れ替わりにココが入浴、その間に高級そうなソファーに寝ころんで大きなテレビのリモコンをポチポチする。

 最近テレビ見てないな、umatubeばっかり見てたから今どんな番組が流行っているかわかんねぇ。

 部屋を暗くしてテレビを見ながら寝落ち、明日が休日だったらやってしまうことあるある。

 寝冷えしないように毛布に包まってと、おお、この毛布も高級感があっていい感じだ。

 バラエティ番組で知らない芸人がウケている・・・あ、ハートさん出てる。このママさん、さっきシレっと返信して来たから驚いたぞ、いやダメ元で相談送ったの俺だけどさ、まさか返信が来るとは。

 

 ウトウトして来た・・・音からすると、ココが風呂から上がったな。

 

「あれ、ベッドで寝るんじゃなかったの?」

「俺はソファー・・・ココは・・・ベッド使え・・・ベランダは冗談だ」

「もう寝落ち寸前だね。ベッドにおいでよ、そこじゃ狭いでしょ」

「いや・・ここでいい・・このソファー割といい感じ・・・動くのめんどい・・し」

「しっかり休まないと明日に響くよ、よいしょっと」

「うわぁ・・・ココってば・・・力持ち」

「ウマ娘ならこれぐらい当然。ここの辺でいか、しまったな風呂上りにブラッシングしてもらえば良かった」

「明日・・・また・・・して・・やる」

「ならいいか。それにしても無防備だね、添い寝ぐらいは満喫させてもらうよ」

 

 体が宙に浮く感じがするが眠いので無抵抗。

 ココに運ばれてベッドの上に優しく寝かされる。

 成人男性ぐらい軽々運ぶウマ娘パワー、わかってるけど改めて凄いよな。

 

「明日は決戦だからぐっすり休んでね」

「なにそれ・・知らない・・ない・・・」

 

 遠くからドライヤーの音がする、ココが俺を気遣って別の部屋で毛を乾かしているのだろう。

 なんか不穏なことを言われた気が・・・まあいいか・・・眠いし。

 

 なんだ・・・テレビ音・・消えた・・・すぐ隣に柔らかくて温かい何かが・・・いい匂いだ。

 何かが引っ付いて来た・・・凄く落ち着く、これなら朝までぐっすり眠れる。

 

「あなたはどんな刺激をくれるの?期待してるね、私の操者様」

「インモ―」

「寝言で禁句をほざくな」

 

 翌日・・・

 

 目覚めた時はなぜかベッドの上で、ココに抱きつかれていた。

 気持ちよさそうに眠るココを起こすのは気が引けたので、そのまま二度寝した。

 二人して寝坊した。

 

 朝、朝食もそこそこにホテル屋上のヘリポートに移動、待機していた大型の軍用ヘリに乗り込み今はお空の上。

 この間、説明まったく無し!ココに誘導されるままに連れて来られた。

 先に乗り込んでいたミオ&エアシャカ―ルと合流。

 

「昨日は随分とお楽しみだったようだね、朝帰りマサキ」

「そっちこそシャカと遅くまでどこで何をしていた、朝帰りミオ」

「お前の珍プレー集で盛り上がってただけだ、ホテルで夜の運動会してた奴に文句言われる筋合いはねぇよ」

「プロレスごっこしてただけですー!おぱーい見たのはワザとじゃないですー!」

「いやらしい!愛バにチクってやる」

「やってみろや!もうそんな段階じゃねぇんだよ!俺が愛バたちに土下座すんのは確定してるんだからなっ!」

「開き直ってる、ファインモーションに何かされたようだ」

「過去と未来について語り合っただけだよ。それより支給された装備はどうかな」

「問題ない、サイズぴったりだ」

「私の体で計測した甲斐があったよ」

 

 昨日のドタバタ中に俺のサイズを測定していただと。ココってば侮れない。

 

 突然ですが今日のファッションチェック。

 ファイン家で用意してもらった戦闘服一式の上に、全身をすっぽり覆うフード付きローブを着ている。

 どこから見ても怪しい奴です。

 ココにシャカ、ヘリのパイロットや他のファイン家部隊員も似たような恰好をしている。

 仮装パーティーかな?

 

「こんな格好をさせて一体何をするつもりだ?」

「サプライズだよ。今からマサキたちをファイン家主催のイベントにご招待するね」

 

 おお、やっぱり仮装パーティーだったみたいだ。歓迎してもらって悪いね。

 

「今日はファイン家の宿敵、ヴォルクルス教団のアジトに殴り込みをしまーす!」

「「「「しゃーっ腕が鳴るぜ!!!」」」」

「「聞いとらん!!」」

 

 俺とミオの叫びはスルーされた、ヘリからダイブして逃げた方がいいのかしら。

 やばいな、ココが俺の腕をガッチリ掴んで離さない!

 寝耳に水の俺とミオを放置して盛り上がってるファイン家一同。

 いつの間にかファイン家VSヴォルクルス教団の戦いに巻き込まれてる!

 

「おいボス、説明してやれよ。マサキが凄く嫌な顔してんぞ」

「マサキたちにも戦う理由はあるんだよ。だって、今から行く場所には・・・」

「溜めんな、はよ言え」

「水の天級騎神"ガッデス"が囚われているんだからね」

「・・・マジで?」

「マジだよ」

「ガッちゃん!遂に見つけた」

 

 探し続けていたガッデスが遂に・・・ミオとガッデス、二人の天級から覇気を貰えればクロとシロは目覚めてくれる!そうなるという確信がある。やった、やったぞ。

 

「どう?やる気出たでしょ」

「ああバッチリな。教団だかなんだか知らんが決めたぞ、邪魔する奴は全て滅ぼす、ガッデスは必ず助ける」

「朗報なんだけど、ちょっと困った事になったかな」

「どうしたミオ、嬉しくないのか?久しぶりの再会が叶うぞ」

「教団には天級騎神を捕らえて監禁できる何かがあるってことだよ。それが酷く不気味に思えて仕方がないんだ」

「確かにそうだけど、クロシロのためにはガッデスの救出は必須だ。それに、母さんたちやお前の友達を見捨てるなんて俺にはできん!ココやファイン家の皆さんも協力してくれるんだ、やってやろうぜ!」

「うん。不確定要素はあるけれどその分精一杯サポートするよ、頑張ろうマサキ!」

「話は纏まったみたいだね。それでどう、一緒に戦ってくれる?」

「もちろんだ、喜んで参戦させてもらう。みんな、どうかよろしくお願いします」

「今の聞いたね、ファイン家頭首のファインモーションの名において命令します。今後、マサキの命令は私の命令と同義だからそのつもりで。彼に最大限の忠義を尽くしてあげて」

「「「「御意!!!!」」」」

「ぎょい!じゃないが!何、無茶苦茶言ってんだよ。みんな困ってるでしょーが」

「ん?みんなノリノリだよ。マサキは私の操者、伴侶になるんだから当然だよね」

「シャカさん、お前さんのボスが乱心したぞ」

「それはいつものことだな。こんなんでもボスの判断は信頼できるし、している。期待を裏切るんじゃねーぞマサキ様」

「こんなんって言うな」

「様付やめて」

 

 インカム越しに行われたココの命令はヘリに乗っていないファイン家の人たちにも伝達されたらしい。

 ポッと出の俺に従う気満々ってなんなの?こういう所はサトノ家に似ているな。

 命令なんかしないし、権力もらってもどうすればいいのかわかんね。

 

 ヘリが到着したのは廃工場に偽装した中継基地だった。

 俺たちをお出迎えする人たちの中に見知った顔を見つける。

 生きとったんかいワレ!

 

「よう、元気にしてたかマサキ。イナゴ食べた?」

「元気だし、イナゴは好評だったぞ。急に居なくなったから寂しかったぜゴルシ」

「すまんすまん、あの時は急な仕事が入っちまってよ。それより聞いたぞ、見事UCの連中を落としたらしいな」

「結構大変だったんだぞ、超級騎神にボコボコにされたりとか」

「お前の珍道中と武勇伝は後でじっくり聞かせてくれよ、またよろしく頼むぜ」

「ああ、頼りにしてる」

「私もいるよ」

「いたのかえーと・・・ミ・・ミ・・めそ?」

「めそってなにさ!ミオだよミオ・サスガ」

「あ、そうだったな・・・(ヤベェ本気で忘れてた)」

 

 拳と拳をコツンと合わせて再会の挨拶とする。

 ゴルシの無邪気な笑顔に釣られて、自然と笑みがこぼれる。

 そうしていると、ぐいっとココに腕を引っ張られた。

 

「ゴルシちゃん、マサキは私のだからね」

「お、いっちょ前に嫉妬してんのか?まだ契約してない癖にwww」

「上司をバカにしたな!もう少しだったんだよ、マサキがヘタレだから・・・」

「ヘタレでよかったな、マサキが肉食系でグイグイ来たらビビッて逃げたんじゃねーの?」

「そ、そんなことないもん!一晩中アレがコレしてグッチャグチャにエロいことする予定だったよ!]

「ココ、妙なことを口走るな。周りの皆が困ってるから、恥ずかしいから」

「ココね・・・その名前を呼ばせるぐらいには仲良くなったか。まあ、いいんじゃね」

「意地悪ゴルシは放置だ!行こうマサキ、ハジケリストに関わると碌な事ないよ」

「待ってくれよ~」

「相変わらずウゼェなゴルシ」

「誰だこのインテリヤンキーは?」

「エアシャカ―ルだ!ワザと言ってるだろ!」 

 

 俺の手を引いて歩き出すココ、言い合いをしながら後に続くゴルシとシャカ。

 ここにいるファイン家の人たちもフード付きのローブを見に着けている。ファイン家の制服?

 ココを見て挨拶する者、報告と指示を仰ぐ者、「頭首様」と呼ばれて笑顔で答えるココ。

 年上や強面の人達を従えてる姿は俺に逆ぴょい未遂をした時とは別、上に立つ者の顔だ。

 頭首様か、やっぱり偉い立場の子なんだな。そんな凄い奴がどうして俺なんか選ぶかね。

 

「なんかじゃなくて、だからだよ」

「心を読まれるのにもう抵抗を感じなくなってきた」

「もっと自信を持って、私や他の三人があなたと共にありたいと願ったのは事実なんだから」

「思いが重い」

「重いけど落とさないでね、しっかり受け止めてくれるって信じてるから」

「善処します」

「「「イチャついてんじゃねーよ」」」

「邪魔しないでくれるかな」

 

 ココと喋っているとミオたちが割り込んで来るんだよな。

 廃工場跡の地下には簡素な部屋がいくつかあり、その内の会議室っぽい所で作戦会議です。

 

「教団を攻めるのに何かいい案があるのか?馬鹿正直に正面突破とか?」

「それについては彼女が説明するよ、よろしくねテュッティ」

「はい」

 

 先に部屋にいた人たちの一人が立ち上がりフードを脱ぎ顔を見せる。

 

「その顔・・・テュッティ・・・そんな」

「マサキどうしたの?バイタルが乱れてるよ、あ、痙攣し始めた」

「久しぶりねマサキ、よく来てくれたわ」

「どど、どうもっス」

 

 スラっとした長身、スタイルのいい金髪美女、柔和な笑みはあの頃と変わっていない。

 

「あーーわかった!ミュステリオンだ!マサキが言ってた金髪巨乳の元ネタはこの子だ!」

「ミオォォォ!!!黙れぇぇぇぇ!!!」

「みゅすて?何?」

 

 こんな所で再会するとは思わなかった。

 

「何々?二人は知り合いなの、どういう関係?」

「学生時代の先輩と後輩よ、そうよねマサキ」

「そうっスね。はは、いやテュッティ先輩もお変わりなく」

「本当にそれだけ?マサキが変な汗かいてるのは何で?」

「ちょっとこの部屋暑いから、ローブなんて来てるから仕方ないよね」

「愛バの直感!こいつは臭せぇ!ゲロ以下の臭いがプンプンしやがる」

「ラ・ギアスで暮らしていた時に親しかっただけよ、勉強教えてあげたりとか」

「青春してんのかよ!マサキの癖に生意気」

「その辺にしといてやれ、ロリコンにも黒歴史があるんだよ」

 

 あの頃は俺も若かった、勢い余ってネクロノミコン(笑)に妄想を書きなぐってしまう程に。

 そうです白状します、ミュステリオンの元ネタはテュッティ先輩です。

 この人、テュッティ・ノールバックは学生時代の先輩で中高とお世話になったのだ。

 そして、高校生になった俺はこの人に・・・ヤッベ恥ずかしい(/ω\)

 

「クネクネしながら赤くなってる。気持ち悪いよマサキ」

「フフッ、相変わらずね。シュウやおば様たちはお元気かしら」

「今は何があったか聞かないでおくよ。後で絶対に教えてもらうからね」

「さ、作戦会議に戻ろうじゃないか・・・あはは」

 

 ココの尻尾が俺をペシペシする。なんだよ、何もしてないだろ。

 

「教団はお師匠様を、天級騎神ガッデスの生贄にして異界から邪神を降臨させようとしているの」

「これまたヤバそうな案件だな」

「神の名はサーヴァ・ヴォルクルス。この世界にあってはならない存在よ」

「ガッちゃん・・・早く助けないと、時間は?後どのくらいの猶予があるの」

「邪神降臨の儀式は今夜、奴らのアジトに潜入してガッデスを救出、その後に教団を叩き潰す。以上!」

「それで皆それっぽいローブ装備なのね、よっしゃやるしかないか」

「儀式の邪魔をして、くそワカメおやじの泣きっ面を拝むよ!みんな頑張ろうね」

「「「「おおーーーー!!!」」」」

「くそワカメって誰のこと?」

「神官のルオゾールだな。ボスのことを名指しで誹謗中傷したから根に持ってるんだよ」

「「脳みそまでラーメンに侵された小娘ww」だと!上等だよ、そのウザったい髪をツルッ禿げにしてやんよ!」

「憎しみ半端ないな」

「突入メンバーはマサキとミオ、私とゴルシちゃんにテュッティで行くよ。残りは周辺の警戒とプランBの準備をお願いね」

 

 作戦決行は今夜、ガッデスを生贄にして邪神降臨などさせてたまるか。

 

「立派になったわね。あのやんちゃ坊主が今じゃ操者か」

「先輩も変わらずご立派ですね」

「どこ見て言ってるの!キタちゃんサトちゃんにアルちゃん!!マサキがぁ!私たちの操者が年上女のおっぱい見ながらクネクネしてるよ!!」

「叫ばないでくれます」

 

 マジでやめろ。

 




クロ「年上には興味ないんじゃなかったの」
シロ「信じてますよあなたは真性のロリコンだって」
アル「ヒト耳の分際でよくも」
ココ「要注意だね、油断してると間違いが起こりそう」

クロ「お前が言うな」
シロ「お前が言うな」
アル「お前が・・いえ、寝すぎなのも悪いと思います」
ココ「だよね冬眠しすぎだよね」

クロ「やるか」
シロ「ああ」
アル「ケンカはやめましょうよ」
ココ「そう言いながら拳を固めるアルちゃん素敵」


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とつにゅう

 学生時代の先輩と再会してビックリ。

 ガッデスを助けて、教団を潰しちゃおうぜってことに。

 

 

 山奥の村ラ・ギアス、マサキ実家の客間だった場所。

 この家の主であるサイバスターは緑の輝きを放つ結晶体を前にしていた。

 

「もうそろそろいいんじゃないの?」

 

 返事は無い、わかっているが気にせずに続ける。

 こうして語りかけるのは二人が結晶化する前からの日課にしている。

 中にいるのは私の娘になるかもしれない子たちだ、義理の母として気になるってもんよ。

 

「いい加減起きないと本気でヤバイわよ「愛バが増えるかも」なんてメッセージ送ってきたんだから」

 

 マサキが送ってきたメッセージ、愛バが四人になりそうという衝撃の内容だった。

 

 あの子は変な所で真面目だ、本気で嫌な相手ならキッパリ断るし、誰かに相談などしないだろう。

 ということは・・・

 

「三人目と四人目のことを少なからず気に入ってるってことよ。あなたたちはそれでいいの?」

 

 小さな体をフルに使って怒り狂う二人の姿が想像できてしまって、ちょっと笑ってしまう。

 

「文句があるなら早く出てきなさい。ほら早く~」

「またやってるのね、サイさん」

「煽っていればひょっこり出てくるかと思ったんだけど」

「今日も変化は無いみたいね」

 

 ネオが部屋に入って来た。こいつの不法侵入はいつものことなのでスルー。

 キッチンではグラとその旦那が勝手に料理をしている最中だ。

 アーマーは散歩中、あのアインストは日に一度クロスゲートを見に行っている。

 不活性状態のゲートなんか見ても面白くないだろうに。

 

 綺麗な結晶体は変わらず無言。

 マサキからの供給もかなりの量になっているはず、最後の一押しとしてやはりあの二人の覇気が必要か。

 

「聞いてる?ガ-子が見つかったこと」

「ザムさん改め、ミオさんから連絡もらったわ。カルト教団に捕まってるんですってね」

「何をどう下手こいたのか知らないけど情けない話ね、修練をサボって食っちゃ寝してるからよ」

「相手の方が一枚上手だっただけかしら。それとも、ガーさんに何か考えがあるのかも」

「マサキとファイン家が救出に向かったから心配は無いと思うけど」

「もどかしいわね。私たちが行けば速攻で終わるのに」

「それは言いっこなしよ。ここでのんびり暮らせてるだけで満足しないと」

「そうね、そうだったわね。普通に生きていけるのがどんなに素晴らしいかはよくわかってる」

「グラが来てザムとガー子が見つかったから、昔を思い出したんでしょ。自分こそが絶対でどこまでも行けるって信じてたあの頃を」

「懐かしいなんて思うのは年を取った証拠ね、やだわ~」

 

 大きすぎる力には代償が付き物なのは私たちも同じ。

 国家というか世界との約束事(長ったらしい条文だった)によって行動が制限されている。

 緊急時以外の力の行使をしない、位置情報の定期連絡が主だったような。マジめんどい。

 範馬勇次郎と同じ扱いかよ!あんなガチムチ親父の同類か・・・。

 その縛りが嫌で行方を眩ませたザムとガー子、上手く逃げたわね。

 国のお偉いさんたちが私たちを危険視することは理解できる。

 自由に動ける人型の戦略兵器(対抗手段がほぼ皆無)がフラフラしていたらそりゃ怖いよな。

 

 世界を救ったという功績、私たちを英雄視する人々、犯罪への抑止力などの使い道が認められ、なんとか居場所を確保しているってのが現状だ。

 人気者でよかった!容姿端麗でよかった!大勢の支持を得るということは生きていく力になることを知った。

 そうでなければ今頃"天級VS世界連合軍"になるところだ、あっぶねぇーー。

 

「教団とやらはこちらをじっくり調べたのでしょうね、やれやれだわ」

「ガー子を捕らえたってことは、奴らはゲートの力を利用する術かそれに酷似した何かを持っているのか、めんどうね」

 

 極秘だが最強無敵と思える私たちにも当然弱点ぐらいはある。

 信頼できる一部の者しか知らない秘密、政府関係者でも数人にしか教えていない。

 これがあるから私たちの動きは制限されていると言っていい。

 

「シュウ君は早い段階で気づいたわよ「これは推測ですが・・」なんて言ってね」

「これだから天才は」

「マサ君は気づいているの?」

「旅立つ前、ゲートについては教えたわ。他は随分前から自分で調べていたみたいだから、特に驚いては無かったわね」

 

 息子に余計な気遣いをさせたくはないが、手遅れかな。

 

「ビアン博士やシュウ君が何か考えてくれてるみたいだけど、いつになるのやら」

「毎回データを取らせてあげてるんだから結果を出してほしいわね」

 

 結晶体をペチペチ触りながら再度語りかける。

 

「私の分までマサキに寄り添ってくれるんでしょ。頼りにしてるわよ可愛い愛バたち」

「みんな待ってるわよ、起きたら頑張ったマサ君を労ってあげましょうね」

 

 それにしても綺麗な結晶だ、売ったらいくら位になるのだろうか。

 よこしまな考えを浮かべているとグラが部屋に入ってきた。

 

「おーい、うちのダーリンが激辛麻婆豆腐作ったから食べんか」

「「食べる~」」

「本気で辛いから覚悟して食べるんじゃぞ」

「脅かさないでよ、ちょっと怖くなってきた」

「サイさん、舌がお子様なんだから、泣いたり暴れたりしないでよ」

「わかってるわよ、キンキンに冷えたお水用意してからにするわ」

 

 麻婆は旨かったけど私はちょっと泣いた。だって辛いんだもん。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「神を恐れぬ不届きものめ!貴様らには必ず神罰がくだるぞ!」

「はい、おやすみ~」

「ひでぶっ!」

「気絶したおっさん一丁あがり~」

「ご苦労様です、こっちのおっさんとまとめて縛って並べておきましょう」

「ういっす」

 

 ヴォルクルス教団を絶賛襲撃中。

 教団アジト付近に展開した敵部隊を一人また一人と順調に処理していく。

 先行偵察に行ったココたちを待つ間、俺と10人程度のファイン家忍者さんたち大活躍。

 

「見事なお手並み感服致します。さすが、頭首様が選んだお人だ」

「そちらこそ、音もなく接近し一撃で相手を昏倒させる早業、マジかっけーッス」

「普段なら世辞と受け取ってしまいますが、あなたは本心からそう思ってくださるのですね」

「す、すみません。俺いろいろとわかりやすい奴らしくて、いつも注意されるんです」

「お人柄なのでしょうね、そんなあなただからこそ・・・どうかファイン様のことよろしくお願いします」

「え、は、はい?ミオどういうことなの?」

「褒められてることを理解していないマサキだったとさ」

「そうなのかー」

 

 こちらを見てクスクス笑う忍者さんたち、なんだろうアホの子を見る生暖かい眼差しを感じちゃう。

 まあいっか、みんな楽しくお仕事できてるみたいだしな。

 この忍者さんたち性別、年齢、経歴も様々だかとにかく練度か高い。

 マジで強いのよ、教団の雑魚なんかまるで相手にならんレベル。

 ラ・ギアスの非公式団体『天級ファンクラブ』(母さんたちの追っかけ)連中並みの戦力はあるな。

 

「後で足音を消す歩法教えてもらおうかな。何かの役に立つかも」

「幼女の背後に忍び寄って何をするつもりなの?」

「使い方を限定するのやめて」

「ごめんごめんwwちょっと緊張を解そうかと思ってねw」

「緊張なんてしてない、母さんたちの分まで頑張らないといけないし」

「悪いね、サイたちが来ればそれこそ一瞬で片がつくのに」

「まあ、そうなんだけどな。母さんたちが出張るまでもないさ」

「知ってるの?サイたちがラ・ギアスから出てこない理由を」

「知ってるよ。まあ弱点ぐらいはあるよね」

 

 母さんたち天級騎神はラ・ギアスから出て来ない、出ることができない。

 彼女たちはラ・ギアスのように潤沢なプラーナが豊富な土地でしか生存できない。

 俺とシュウのお願いで母さんたちには極力、村の外に出ないようにしてもらっている。

 

「陰陽道や古代道教、風水術における繁栄するとされる土地、すなわち龍穴(りゅうけつ)。今風に言うならパワースポットか、そこから離れて活動できる時間は二、三日が限界だった。今ではもう半日村の外にいただけぐったりしていることもあったかな。全盛期はそんなことはなかったらしいが、俺を引取った時は既にラ・ギアスから遠出はしていなかった。クロスゲートは各地の龍穴にあることが多いからラ・ギアスにゲートがあるのは当然。グラさんが中国から引っ越して来たのは前住所のプラーナが枯渇したからだろう、年々減少しているらしいな。ガッデスが旅に出た理由はおそらく、新たな龍穴もしくはクロスゲートの探索とそれに頼らない延命方法の発見のためだろう」

「おお、一気にまくしたてよってからに」

「間違ってたか?ビアン博士やシュウに聞いたり、自分でも調べてみたんだが」

「合ってるよ・・・ごめんね」

「謝るなよ、母さんたちのことはミオに責任はないだろう」

「ロリ以外の知識がチンパンジーより劣っていると勘違いしていたよ、思ったより頭いいんだね!」

「この腕時計もう飽きたな、リサイクルショップで買い取ってもらおう、最悪処分でいいや」

「ごめんなさい!二束三文で売らないで!処分もダメ絶対!」

 

 誰がチンパンより劣る脳みそだ!

 

 長文にもなるわい、あれはショックだったし結構勉強したからな。

 ちょっとだけ昔のことを思い出した・・・

 

 母さんたちの体質に気づいたのはまだ俺が小学校低学年の頃だ。

 ある日、俺は母さんにわがままを言った、旅行に行きたいと。

 クラスの友達に家族旅行の話を聞いて羨ましくなったからだ。母さんは二つ返事で引き受けてくれた。

 あの時は嬉しかった、後に後悔するとしても。

 二泊三日の旅行事態はとても楽しかったが、家に帰ってから母さんが体調を崩した。

 信じられない、あの母さんが・・・いつも元気過ぎる母さんが寝込んでしまっている。

 こんなことあってはならない、俺は酷く動揺してただただ泣いた。

 

「もうわがまま言わない、だから、死なないで。お願いだから」

「バカな子ね、この程度で死んだりしないわよ。ちょっと横になってればすぐよくなるわ」

「本当?絶対だよ、嘘ついたら弱っている母さんの写真をファンクラブの人に売り飛ばすよ」

「あははは、それマジで嫌・・・頼むからやめてね」

「何かしてほしいことある?クスハ汁(狂人用)ならすぐにでも用意できるよ」

「今それを飲んだら絶対吐いちゃう、普段でもゲロりそうなのに。そうね・・・ちょっと心細いから一緒に寝てくれる?」

「うん」

「風邪じゃないからうつったりしないわ、おいで」

「うつってもいいよ、おじゃましまーす」

「はーい、息子一名様どうぞ~。よーしよしよしよし」

「ちょwくすぐったいww」

「フフッw」

 

 母さんの布団に潜り込んで引っ付いたりじゃれたりする。熱があるのか体温が高い。

 幸せ、この人が母親になってくれて幸せだ。母親・・・もう二度と失ってはいけない存在。

 いつもより温かい母に抱きついて願い思う「どうか大好きな母さんが元気になりますように」

 

「サイさん!ぶっ倒れたんですって!遺書の準備した?マサ君の親権を私に譲ってから逝って!」

「失せろ闇大帝!今親子の幸せを噛みしめてるんだ!お邪魔虫は帰れっ!」

「母さん、今は安静にしましょうや」

 

 この日以降、俺は母さんに遠くへの外出を進めたことはない。

 仕事関係の出張でも二日以内に戻って来たし、それはネオさんも同様だった。

 本人の口から聞くのが怖かった、あの母さんに史上最強の母に弱みがあるなど認めたくなかった。

 だからずっと聞けなかった。

 気にはなるので俺なりにいろいろ調べた、もちろんシュウやビアン博士にも聞いてみたさ。

 

「やっと気づきましたか、あなたにしては上出来です」

「天才のお力で何とかなりませんかね」

「母たちを世に解き放つのがいいとは限りませんよ。もう引退したのだから余生をゆっくり過ごさせてあげたい気もあるのですが」

「ラ・ギアスはいい所だよ。でもさ、たまには「遠くへ行きたい」と思ってるかもだし」

「大地のプラーナはどこも減少傾向にあるらしいです。今すぐにではなくとも何か対策が・・・」

「あー、またシュウ殿が長考に入っておられるぞ!」

 

 シュウの考えは今も昔もバカな俺には理解不能なので頭脳労働は任せておくことにした。

 ビアン博士は「チンパン以下の脳みそ小僧がどうにかできる話ではない!」だと、いつか禿げろマッドじじいめ!!

 

 都心から離れたド田舎であるはずのここ、ラ・ギアスがやけに栄えている理由がわかった。

 おそらく母さんたちのために住民のみんなが頑張った結果なのだろう。

 ここは天級騎神に守られた楽園であり、世界を震撼させる強者たちに許された小さな箱庭だった。

 

 プラーナとは覇気の別名。

 生命が発する余剰覇気が大地や環境に溶け込み潮の流れのようなものを形成しているのだという。

 それを学者連中はプラーナと呼称している。

 要は、生物の体、内部から溢れる命のエネルギーが覇気。

 そして、自然環境に混ざり漂う外部エネルギーがプラーナ。

 TEエンジンの動力であるターミナスエナジーもプラーナに類似したものなのかもしれない。

 環境破壊の影響かプラーナが豊富な土地はこの世界からどんどん姿を消していってる。

 

 だからさぁ、天然記念物のように保護すべき存在なんだよ、母さんたちはっ!

 絶対に嫌がるから言わないけども、実際そうなってるし。

 

「回想終わった?もう一つ、ゲートについてもきいてるかな」

「旅立ちの前に聞いた、母さんたちでも破壊できない謎物質で出来てる。それと、天級騎神の覇気を異常に吸収したがるから触るのはNGだとも」

 

 天級騎神の弱点は二つ。

 ・プラーナの多い土地でしか生きられない

 ・クロスゲートそのもの

 

「土地の方はともかく、ゲートを用いた術式なんかをぶつけられるとかなりマズイ。きっとガッちゃんはそれをくらったと思われる」

「教団にそんなことをできる奴がいるのか、めんどくせ。ミオはアインストだったからいいとして、ガッデスが旅立てたのなんでだろう?」

「ガッちゃんは覇気制御は天級一だよ。体内の覇気消費を節約するのはもちろん、外部からプラーナをたっぷり取り込むこともできたはず。多分、省エネで活動しつつ定期的に小規模の龍穴を転々としていたんじゃない」

「龍穴ってそんな簡単に見つかるもんか?」

「師匠は龍脈を辿る術に長けていたわ、ダウジングとかもよくやってたわね」

「おかえり、テュッティ先輩」

「ただいま。周辺の教団員はあらかた片づけたみたいね」

「後は突入するだけだな、こっからが本番だ」

 

 偵察に出ていた、テュッティ先輩とゴルシが帰って来た。

 

「ココは?」

「こっちだよ」

「いたのか」

「ずっと」

 

 どうして木の上に登っているのだろう?いつからいたのだろう?なんでドヤ顔なのだろう?

 

「とうっ」

  

 木の上から飛び降りた気がするので横にズレる。

 ベシャと音がした・・・なんだ着地失敗か。

 すぐに飛び起きるココ。元気ですね。

 

「避けないでよ!今のはお姫様抱っこで受け止める所だよ!私じゃなかったら大怪我してるよ」

「無傷ならいいじゃないか、だいたい、お前なら余裕で着地できただろうに」

「愛バになったら待遇改善を求めるからね、年上玉砕マサキ!」

「お前今なんつった!?」

「年上!玉砕!マ・サ・キ!」

 

 テュッティ先輩を見るとクスクス笑ってらっしゃる。

 もう~勘弁してよ、なんでバラすかな。

 

「ごめんなさい、鬼気迫る表情で聞いてきたから、ちょっとだけ話しちゃった」

「このために班を分けたんかい、ココさんよぅ」

「好きな人のことは知っておきたい愛バ心、理解してくれると嬉しいな」

「ロリになった原因があってよかったなマサキww」

 

 よくねぇよ、肩に手を置いて慰めてるつもりかゴルシ。

 笑うなボケ!

 

「なになに?マサキがロリになった元凶がテュッティなの」

「いづれバレるなら自分からいったらぁー!そうだよ、高校生の時に先輩に告って見事玉砕した振られ男の成れの果てが俺だよこんちくしょーーーっ!!」

「本当にごめんなさいね。あなたのことはいいお友達だと思ってるから」

「あの時と同じセリフやんけ!二回も聞きたくなかったッス」

「マサキ、一応ここは敵陣だからな静かにしろ」

「年上に振られ、ロリに走ったんだね・・・哀れな」

「年下ならここにいるよ!過去の傷を忘れるぐらい愛してあげる」

「あばばば、今優しくされたら落ちちゃう」

 

 背後からギュッと抱きついてくるココに慰められる。

 先輩との再会、一人じゃなくてよかったと思う。

 二人だけなら悲鳴を上げて逃亡していただろうから。

 

 当時、高校生だった俺はテュッティ先輩が学校を卒業する日に告白したのだ。

 フッ若かったな・・・。

 

 楽しかった青春の日々を思い出すぜ。

 勉強を教えてもらったり、二人っきりじゃなかったが遊びに出かけたりと仲は良かったはず。

 先輩は美人スタイル良くて優しくて憧れの対象だった、学校中に狙ってる有象無象がゴロゴロいた。

 ある日、先輩に好きな相手がいると知って焦った。相手はクッソイケメンの生徒会長で凹んだ。

 卒業証書を持った先輩を呼び出し震える声で告った、やっぱりダメだったけどスッキリした。

 俺の後にも告白ラッシュを受けその全てを撃沈していた先輩はさすがだった。

 本命の彼氏がいるのに告らずにはいられなかった。俺も有象無象も。

 

 帰ってむせび泣いた。

 心配したシュウがどういうつもりか、うまぴょい伝説の完コピを披露してくれた。

 バカが、それで慰めてるつもりか?なにが「踊らにゃ損損」だよ・・・やったるわ。

 朝まで二人で歌って踊ったわ、この時は母さんもネオさんも見て見ぬふりしてくれた。

 

 翌日、バカ二人で筋肉痛になった。

 

 先輩は彼氏と一緒に村を出てどこかの都会で暮らしていると人づてに聞いた。

 それからは会っていない。

 

 そして、昨日ばったり再会した。

 まさか、天級騎神の弟子になっていたとは。

 

「"あの人"とはその後」

「ええ、良好な関係よ。彼も会いたがっていたわ」

「そうっスか、あの時は言えなかったけど、おめでとうござます」

「ありがとう、マサキにもいい子が現れたみたいね」

「はい・・・おいココ、キツくなってきてるから、肋骨が痛いからゆるめて」

「そのいい子には私も含まれてるよね、ね」 

「茶番はそのぐらいにしろ、そろそろ行こうぜ、愛バ(仮)」

「カッコカリ言うな!お前はボスと呼びなさいエージェント564」

「了解ボス」

 

 引っ付き癖でもあるのだろうか、ココが俺から離れないのでおんぶして移動開始。

 やたらと密着したがるな、見た目より幼い所は過去のことが原因かも。

 部下のみんなが見てるぞ、それでいいのか愛バ(仮)

 

「悪りぃな、甘えてんだよコイツは」

「かまわん、ウマ娘をおんぶできるなんて幸せなことだ」

「ラーメン以外に拠り所がなかった頭首様が・・・うぅ」

「あの、部下の忍者さんたち泣いてますよ」

「子供みたいに甘えるモーションが見れて感激してんだろ、ほっとけ」

「ふーん、で、頭首様本人は恥ずかしくないのか」

「全然、むしろ見せつけてやろうかと思ってる」

「甘えん坊さんか?」

「嫌い?」

「そんなわけない」

「攻守交代もありだからね、甘えたくなったらいつでも言って」

「それは楽しみですな」

「ううっ・・・イチャついておられる。ラーメン喪女と言われた頭首様がイチャコラと」

「コラッ写真撮るのはダメ!お給料下げるよ」

「「「「さーせん」」」」

「なんか凄いわね」

「どしたのテュッティ先輩」

「ファインさん、私にはとても事務的な応対だったから、キャラの違いに戸惑ってるわ。ウマ娘をデレさせるコツでもあるのかしら」

「さあ、どうなんでしょう。ココもクロやシロみたいに人見知りか」

「内弁慶って言ってよね」

 

 それって俺は内側にカウントされているってことか。

 身内だからこそ本性を見せる、そんな風に言われたら自惚れちゃうわよ。

 

「イチャついてる所悪いがストップだ。見えたぞ、あれが教団ご自慢の神殿入り口だ」

 

 ワイヤレスインカムからエアシャカ―ルの通信が入る。

 シャカは俺たちから離れた位置で別動隊と待機、こちらの動きをモニターしてくれる。

 

 前方、人工的に造られた洞窟の入り口。神殿(笑)邪教のアジトとしてはそれっぽくていいですね。

 門番なのか仮面をつけフード付きのローブを纏った教団員がいる。

 武装は・・・ここからじゃよくわからんが、銃器ぐらいは携帯してるかも。

 

「基本は潜入だ、バレたら二手に分かれて一方がアジト内部をかく乱、もう一方がガッデスを救出する」

「うんうん。それでいいと思う」

「ガッデス救出が最優先だ、ルオゾールのボケは見かけたらついでに殴っとけ」

「10発ぐらいは入れといて」

「まずは内通者と合流しろ、奴がガッデスの居場所を教えてくれる手筈になっている」

「なかなか腕の立つ人材でね。教団の情報を逐一報告してくれていたんだ」

「彼女によろしくな、こっちはプランBの準備をしておくぜ」

「プランBとは何ぞや」

「私たちが失敗した場合、別動隊がアジト諸共教団を殲滅するよ」

「俺たちの安否は考慮されてないな」

「因みにプランCはマサキを餌にメジロ家とサトノ家もここに呼んで全てを灰燼(かいじん)に帰す」

「BとCが発動しないように頑張れってことね」

 

 ここからは忍者さんたちとは別行動「ご武運を」と言われて送り出される。

 メンバーは俺とミオ、ココ、ゴルシ、テュッティだ。

 顔バレしないように教団員から奪った仮面を装着する。

 ん?なんか俺の仮面だけ違わない?まあいいか、これで変装完了だ。

 シャカとの通信もここまで、どうせ内部ではジャミングされるとのこと。

 

「止まれ・・・お前たちは見回りに出ていた者たちか?」

「そうです。周辺特に異常ありませんでした」

「ご苦労だったな、入っていいぞ。もう少しで我らの神が降臨なさる、儀式には遅れないようにな」

「はい、今日という日に立ち会えること誠に光栄であります」

 

 ザル警備乙です。

 そしてゴルシのアドリブが上手い、俺が喋るとボロが出るので無言を貫くぜ。

 

「おっと忘れる所だった、すまないが合言葉を言ってもらっていいか。一応決まりなんでな」

 

 えっと、定番のヤツが来たぞ。

 俺はまったく知らないが、いけんのかゴルシ。

 

「ファイン家頭首の真名は」

「陰毛」

「うむ、通ってよし!」

 

 (広まってんじゃねーかぁぁぁ!!ふざけんなよ!)

 (ココ!堪えてくれww)

 (あのクソボケワカメ絶対にゆるさん!)

 

 笑うなwwまだ笑うなwwダメですテュッティ先輩ww肩が震えてますってwww。

 

「ヴォルクルス教団員は布教活動のついでにファイン家を貶める、神官様のお考えはさすがだな」

「まったくだ、それにしても陰毛ってwwwウケるよなwwみんな我慢せず笑っていいんだぞww」

 

 (潰す、徹底的に潰してやるぞ。陰毛をバカにした者たちは全身の毛という毛を剃り尽くしてやる)

 (毛狩り隊の誕生かww)

 (どす黒い覇気漏れてんぞwwどうどうww)

 (初っ端からこれで大丈夫かしら)

 (まあなるようになるさ)

 

 一人づつ洞窟の入り口を通過して行く、ココの怒りゲージがリミットブレイクしたけどなんとかなった。

 さあ、俺も通らせてもらいましょうかね。

 

「待て、その仮面・・・お前は」

 

 ヤベッ俺だけ仮面の形状が違うのを見とがめられた。どうしよう、もしかしてこの仮面の持ち主は教団内でも地位が低くて神殿に入れないとかだったりして・・・。

 

「あ、あなたは、教団一のプレイボーイ!マコトさんじゃないっスか!」

「何だと!この人があの・・・ふむ、さすがだ不誠実な覇気を纏っておられる」

「下半身のだらしなさで女に刺されること数百回!守備範囲は三歳児から棺桶に入る寸前までだと言う、恐ろしい」

「両刀使いって噂は本当ですか?詳しくお話聞きたいです」

「みんな待つんだ、マコトさんが困っておられる」

「いやぁ・・・あはは」

「さあどうぞ、ヴォルクルス様はあなたをきっとお救いくださるでしょう」

「はい、どうも」

 

 (マコトだと!俺が気絶させたあのおっさんがマコトだっただとぉ!)

 (チビデブハゲだったね)

 (どうやったらそんなのがモテるんだよ!)

 (さあ、マサキが無駄にモテるのと一緒じゃない)

 (無駄って言うな)

 

 通過した後も門番たちは俺が変装したマコトとやらを話題に盛り上がっている。

 

「あの人はな、元々操者だったんだぞ。最初は一途だったが有り余る情動を抑えきれずに次から次へと契約、調子に乗りまくったマコトさんは愛バの数がどんどん増えて、気づけば全員湿度MAXのヤンデレウマ娘の大群に追いかけられるハメに・・・そうして、命からがら辿りついたのがヴォルクルス教団だったのさ」

「「「へぇー凄いっす、マジリスペクトっす」」」

 

 ・・・・・・ヤベェ何も言えねぇ。

 

 (アンドウマコトさんでしたっけ?)

 (やめーや!マサキだマサキ)

 (状況が今のお前と酷似してるじゃねーかwww)

 (マコトっ!私たち四人以外との行為は浮気とみなすよ!)

 (マサキつってんだろうが!お前がそもそもの元凶なのわかってるかココさんよ!)

 (三人目は知りません~アルダンちゃんに関しては私はノータッチだよ)

 (そこを言われるともう無理ッス)

 (不誠実なのは感心しないわね、女の子を泣かせたら駄目よ)

 (先輩~信じてくださいよ、俺はマコトにはなりませんから)

 (おまけに両刀だとよwww)

 (そこも合ってるね)

 

「合ってねぇよ!それだけは断固として否定させてもらうわっ!」

 

 はっ!しまった。でっかい声出してもうた。

 

「・・・若い男の声?・・・!?こいつマコトさんじゃないぞ!」

「し、侵入者!だったら周りの奴らも」

「すぐに応援を・・・」

 

「「「「おるらぁっ!!!!」」」」

 

「ぐへっちょん」

「あべしっ」

「か、神よ」

「おぼふぅ」

 

 もう、結局こうなるのね。門番を各個撃破で気絶させる俺たち。

 あーバレたバレた。全員ローブと仮面を脱ぎ捨てる。

 みんなお揃いのファイン家特性の戦闘服でコーデしてます、ゴルシとココは騎神用の身軽な軽装。

 テュッティ先輩はシュッっとした操者用のスーツ・・・スラックスか、これはこれでいいね。

 ゴルシはともかく、ココの生足がエロい。昨日の夜を思い出してしまうな。

 おっと、視線に気づかれた。今スカートはたくし上げなくていいです、後でお願いします。

 俺の装備は長らく愛用したサトノ家制のものとはお別れして、全て新しいものに交換している。

 共通規格のものも多いので違和感はない、バスカーモードの使用を考えて結晶を纏うであろう部位はあえて余分な装飾を施していない、ブーツは前にも増してしっかりとしたものを用意してもらった。

 いいね、いい感じだ。

 

「これもどうぞ、私からのプレゼント」

 

 ココが荷物から黒のダウンコートを取り出して俺に着させてくれる。

 小さく折りたたまれていたのに、解放したとたんにフワッと膨らんだ?

 繊維だけじゃなく特殊な加護や術式がかけられているとみた、知らんけど。

 

「これは?」

「本来は私用だったけどサイズが合わなくてお蔵入りしていた一品。騎神用特殊防護着衣"バリアジャケット"ってヤツだよ・・・うん、サイズぴったり昨日私の体で測定したから間違いないね」

 

 うまぴょい未遂中にそんなことしてたの?

 バリアジャケットはサトノ家でもみたな、それよりも軽くてかなり丈夫そうだ。

 

「えへへ、うん、よく似合ってる。近接戦闘の邪魔にならないのは勿論、各種属性防御、おまけにマーキングの匂いや覇気の漏れもごまかしてくれる」

「そいつはすげぇや」

「それはプロトタイプ、いつかはマサキと愛バ全員でお揃いにしてもいいかも」

「ありがとなココ、そうなるように頑張りますか」

「あ、それレンタルだから絶対返してよ。後でクンカクンカするんだから!」

「その一言で台無しだ」

 

 ここは敵のアジト入り口だぞ、それでもはしゃぐココを見て緊張も焦りも消えていく。

 ワザとか天然か?どっちでもいい、ココは俺を気遣ってくれるいい子だ。

 

「暇さえあればイチャついてるよ・・・マコトになる日も近いね」

「おーい、マコト二世。そろそろ移動しないと雑魚がわんさか来るぞ」

「じゃあ二手に分かれましょう、マサキと私で内通者に合流して師匠を探す」

「ゴルシちゃんと私で少し暴れますか、ワカメを見つけたらボコる」

 

 チーム分け決定。

 俺とミオ、テュッティ先輩がガッデス捜索チーム。

 ココとゴルシが騒ぎを起こしておとりになるかく乱チーム。

 

「決まったな、全員必ず生きてまた会おうぜ」

「フラグやめなよ~」

「そんなつもりはなかった、なんかごめん」

「ボス、号令してやれ」

「はーい、じゃあみんな頑張ろっか、危なくなったら超逃げていいからね!ガンガンいっていのちをだいじに!」

「「「「ガンガンいっていのちだいじに!」」」」

 

 矛盾する作戦を提示されたがこれでいい。とにかくやるしかないのだから。

 

「ヒャッハー!祭りじゃ祭りぃぃぃ!!!」

「ちょ、マサキは騒がなくていいんだよ」

「二人とも気を付けてな」

「そっちもね。テュッティ、ミオ、私のマサキをお願い、大切な人なの」

「ヒュー!任された」

「フフッ、ええ、師匠の名にかけて全力でサポートするわ」

「私のっておま////」

「照れ顔wきっしょっwww」

「うるせーはよいけ564」

 

 作戦開始、さてさてガッデスはどこだろう。

 

 




クロ「イチャついてんじゃねーよ」
シロ「お前マジで覚えとけよ」
アル「万死に値します」
ココ「さーせんwww」


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ごうほう

ファインモーション実装されましたね。


 教団アジトの洞窟神殿に突入!

変装は即バレした、二手に分かれて行動開始。

 

 

 ココたちと分かれた俺とテュッティ先輩はいきなりピンチになっていた。

 

 洞窟神殿内部、進んだ先の広間で行われた雑魚教団員との戦闘は最初こそ俺たちが優勢だった。

 一人の女が現れるまでは・・・

 

「これで終わりよ、アストラルバスター!」

「強すぎる・・・くそ・・・こんなはずじゃ」

「うわーやーらーれーたー」

 

 ド派手な魔方陣から発せられた謎ビームをモロに食らってしまう。

 俺と先輩は力尽き倒れ伏す。

 それにしても先輩・・・棒読み過ぎです。

 

 ここまでか・・・・

 

「フンッ、他愛ないわね。私が出るまでもなかったかしら」

「おお、やった!侵入者たちを倒したぞ」

「さすがはサフィーネ様だ!紅蓮の二つ名を授かるだけはある」

「背教者どもめ、ざまぁないな」

 

 盛り上がってんな。う~ん、地面が冷たいや。

 

「ここの片付けは私がやっておくわ、アンタたちは別の区画で暴れている奴らを捕らえなさい」

「くくく・・・サフィーネ様ご自慢のサドマゾプレイが炸裂するのですね」

「哀れな、これもヴォルクルス様に背いた罰だ」

「サフィーネ様、お、俺も虐めてほしいっス!」

「どうかお慈悲を!顔面への全力ビンタを希望します!」

「やかましい!さっさと行け豚どもが!」

「「「ありがとうございます!」」」

 

 うわ、よく訓練されている豚だな。ドン引きっスわwww

 豚どもがキャッハウフフしながら立ち去っていく、あいつらなんか楽しそうだな。

 

「従順すぎるのもつまらないものね・・・もういいわよ、坊や」

「もう二十歳過ぎだ、坊やはやめろって」

「いくつになっても坊やは坊やよ」

 

 スッと立ち上がり服の汚れを払う、もちろん無傷ですよ。

 

「相変わらずよくできた手品だ、教団の雑魚が誰一人として気づかないとは」

「覇気を応用した幻惑術よ、ぼうやの演技が下手くそだからヒヤヒヤしたわ」

「紅蓮って何?ちょっとカッコイイのがムカつく」

「豚どもが勝手に言い出した通り名"紅蓮のサフィーネ"割と気に入ってるわ」

 

 あの頃と変わっていないようで安心したわ。

 

「まさか内通者がお前だったとは、久しぶりだなサフィーネ」

「それはこちらのセリフよ、ガッデスの救出に来るのがぼうやだなんて聞いてないわ」

「聞くも涙、語るも涙の事情がありまして」

 

 ここに至った経緯を説明する。

 目の前にいる女の名はサフィーネ・グレイス。

 鮮やかな長い赤毛の髪にスタイル抜群の妖艶な女性。

 惜しげもなく肌を晒す露出過多な出で立ちがもたらす圧倒的な存在感。

 服装でわかると思うが特殊な奴でサドでありマゾでもある。つまり変態だ。

 

 数年前、この変態はフラッとラ・ギアスを訪れた。

 強い騎神に対して勝負を挑むのが好きで、天級騎神の噂を聞いて単身ここまで来たというから驚いた。

 そして、あろうことかネオさんにケンカを売るという自殺行為をやってのけた。

 結果は当然ネオさんの圧勝、近所のため池に頭から突っ込んだ土座衛門姿は見事だった。

 攻撃がヒットする瞬間「ウホッ!コレ私しんじゃうわ~」とか言って喜んでいたので割と余裕があったのだろうか?

 トドメを刺そうとするネオさんを現場に居合わせた俺が必死に止めんだったな。

 「変態にも五分の魂ですよ」という俺の言葉が効いたんだと思う。

 

 土座衛門から復活した変態はサフィーネと名乗り、ネオさんの下僕になりたいと懇願した。

 「えー、心底気持ち悪から嫌」とネオさんは俺の背中に隠れてしまう始末。

 この見た目中学生のママさんはめんどくさくなると俺かシュウを盾にする、主に母さんに文句言われている時とかね。

 変態の執念は恐ろしい、断られたのに諦めずストーカー化。

 見つかる度にネオさんの攻撃をくらい「ありがとうございます!」と喜んでいた。

 ワームスマッシャー食らって「ああん、もっと強く」と叫んだ時は変態の生き様を見てちょっと感心した。

 面白がった母さんが「どの程度か見てあげる」と言ってサフィーネの実力を測ったことがある。

 「サイ様からもご褒美を頂けるなんて!もうらめぇー!」って叫んでたな。

 普段から痴女みたいな恰好してるのに戦闘で服がボロボロになり真っ裸寸前だったな。

 

「人間にしては筋がいいわ、ドM効果でダメージをやわらげているのがマジウケるww」

「何その気持ち悪いスキル」

「下僕にしてあげたら?いいパシリになるわよ」

「他人事だと思って!何とかしてよサイさん。変態の飼い主だって笑われたくない!」

「ネオ様が望むのであれば何でも致します!夢は縮退砲の直撃で死ぬことですわ!!」

「こういう奴には撃ちたくないのよね、助けて~マサ君」

「ネオさん、よしよしです。でもすげぇな、都会にはこんな変態がゴロゴロいるのか、トレーナーになる前に外の住人に馴染めるかどうか不安だ」

「いや、ここまで酷いのはレアケースよ」

「変態には変態をぶつける、シュウ君!こっちにいらっしゃーい」

「「実の息子を変態って言っちゃったよwww」」

「なんですか?先ほどから騒々しい・・・おや、そちらのマブノーマルぽい方は」

「はぅ!こ、この最高に素敵なイケメン様はどなたですの?」

「私の息子シュウ君よ。サフィーネちゃんは今日からシュウ君のお手伝いをすること、はい決定!」

「はっ!我が命に代えましても!」

「ちょっと待ってください、何が何やら」

「シュウ様!このサフィーネがアレもコレも全てお世話致しますわ、つきましては好きな女性のタイプをお聞かせください」

「年下のウマ娘です」キッパリ

「ガッデムッッッ!!」

「面白い子ねww」

「俺ちょっと好きかもww」

「頑張ってシュウ君、その変態をしっかり躾けてやりなさい」

「シュウ様が直々に調教してくださるの!?バッチコイですわ!」

「やれやれ、あまり期待しないでくださいよ」

 

 超高速の失恋をした変態はすぐに立ち直った。大した回復力だ。

 その後、なんやかんやでシュウにつきまとっていた。

 ラ・ギアスに滞在中は俺ともよく遊んでくれて、俺のことを"坊や"と呼んでくるようになった。

 シュウに比べると俺はお子様なんだそうな、ガキで悪かったな。

 懐かしい、あの頃、大変興味深いサドマゾ理論を語ってくれたもんだ。

 田舎育ちの俺には外の世界や都会の話もすごく為になった。

 テュッティ先輩に憧れていた時には恋愛相談をしたり、シュウと一緒にバカをやってたら混ざってくれたり、たまに母さんとネオさんに折檻されていたり。振られて落ち込む俺を励ましてくれたりもした。

 

 変態だけど面倒見がいい面白お姉様、それがサフィーネ・グレイスという女だった。

 

 喜びは全力で表現するべし、再会を祝して軽くハグをする俺とサフィーネ。

 

「ネオさんに連絡してるか?口には出さないが心配してたぞ」

「私ごときがネオ様においそれと連絡できるわけないでしょ!ああ、勿体なきお心遣い」

「シラカワ重工の出世頭が何故スパイのような真似を?」

「シュウ様の許可は頂いてるわ、この教団の内部調査が目的でファイン家に情報を流したのはついでよ」

 

 数ヶ月前、シラカワ重工にヴォルクルス教団から秘密裏にコンタクトがあった。

 内容は、教団との技術提携や資金援助がうんたらかんたら・・・要するに教団の傘下に入れってこと。

 断れば背教者とみなし神罰が下るとの脅し付きだ。

 とりあえず無視を決め込んでいたら、工場内や実験場で不審な事件事故が相次ぎ、従業員にも被害が出始めたので表向きは協力体制を取ることを了承した。

 サフィーネは潜入調査を自ら志願、教団内での信頼や地位を勝ち取りスパイとして活動していたらしい。

 

「無茶するなぁ、バレたらどうするつもりだったの」

「その時はその時よ、陽動に攪乱、情報収集は私の得意分野なのよ、隠密行動は性に合ってるし」

「俺たちに会う前の経歴がヤベェのはわかった」

「ねぇ、ちょっと!」

「都会暮らしには慣れたかしら?今度シュウ様たちも一緒に食事でもどう」

「いいね!俺の愛バたちも連れていくわ」

「操者になったのね、おめでとう。ロリを拗らせていたから心配していたのよ」

「それが、愛バがロリなんよ」

「そう、とっくの昔に手遅れだったのね・・・その意気やよしっ!!恐れずにそのまま進め!!」

「お前ならそう言ってくれると思った」

「ちょっと!!こっち!こっち見なさい!」

「マサキ、テュッティが喚いてるよ」

「先輩?え、なんでまだ寝てるんですか。もう演技しなくて大丈夫ッスよ」

「拘束術で縛られて立てないの!なんで私だけ!さっさと解除しなさいよこの痴女!!」

「嫌ね~砂糖中毒の声が聞こえた気がするわ。幻聴かしら?」

「いいから早く解けや!グングニールぶっ刺して体内から氷漬けにしてやろうか!」

「なにそれちょっと気持ちよさそうじゃない////」

「喜ぶなぁ!!!」

 

 あーそうだった。この二人、相性が悪いのか会う度にケンカになるんだった。

 ラ・ギアスに居たころ何度か遭遇する機会があったんだけど、俺とシュウをそっちのけでケンカ始めるからビックリしたわ。

 先輩いわく「生理的に無理」サフィいわく「かまととぶってるのがムカつく」らしい。

 「ケンカするほど仲がいいのでは?」という結論に達したので放置することにしていたが、数年経った今でも変わってないのかい。

 

 サフィと絡んでいる時の先輩は表情豊かで見ていて飽きない、普段の慈愛に溢れる顔が青筋浮かべた般若になるのです。

 拘束術を解かれた先輩はプリプリ怒りながら立ち上がる。

 先程の偽攻撃中に別の術を仕込むとか、無駄に高度なテクニックだな。

 

「やってくれたわね、この野郎」

「手が滑ったのよ、悪気しかないのよ」

「変態は教団と一緒に滅べばいいのに」

「砂糖の取り過ぎで脳みそが腐ったの?」

 

 先輩が蒼い輝きを放つ槍を構える、サフィが覇気を溜めて何かの詠唱を呟きだす。

 こらアカン、ちょっと離れておこう。

 

「ハイドロプレッシャーッッッ!!!」

「エレメンタルフュージョンッ!!!」

 

 超高圧の水流と色とりどりの光線がぶつかり合う。

 威力はうまい具合に拮抗している、こういう所はそっくりな先輩たち。

 両者見応えのある派手な技ね、本来の目的を忘れていないといいけど。

 

「止めなくていいの?」

「いいんじゃね、仲良くケンカしてるだけさ。先輩の槍はガッデスからのプレゼントらしいな」

「アレはガッちゃん愛用の魔槍グングニール、弟子にあげるなんてテュッティは大事にされてるね」

「母さんも昔"ディスカッター"ていう魔剣を持っていたらしいな」

「ガッちゃんがサイに無断で持ち出した挙句、何処かに売り払ったヤツだね」

「ひでぇwそれで母さんの心証が悪いのか」

 

 数分打ち合った後、満足はしていないようだったがキリがないと判断した二人は覇気を収めて戻って来た。

 

「無駄に疲れたわね、さあガッデスの所に案内するわ」

「誰のせいだと・・・」

「先輩、今は救出任務が先ですよ」

「そうね、ごめんなさい。早く師匠を助けてあげないと」

「弟子がこんなんとかガッデスも妥協したものね」

「うるさいわよ、歩くわいせつ罪が!」

 

 洞窟神殿奥を進んで行く、方向音痴の俺は既にマッピング不可能です。

 

「ガッちゃんにやっと会えるんだ、長かったな~・・・ストップ何か来るよ」

 

 ミオのセンサーに何か反応したらしい。

 眼前の地面がぼこぼこと盛り上がり数メートルを超えるの土と岩の塊が出現する。

 いつしかそれは、上半身と腕部がやたら大きい不格好な人型を形成。

 おお、増える増える。あっという間に通路いっぱいのでかぶつ軍団誕生だ。

 

「"デモンゴーレム"この通路の防衛装置が働いたみたい」

「そういうのは事前に解除しとけよ」

「急な話でそこまで準備できなかったのよ、ほらほら、坊やを狙ってるみたいよ」

「マサキは変なのにモテるからね」

「ほう、俺の可愛い愛バたちが変だと申すか」

 

 巨大なグーパンを見舞って来るゴーレム・・・おっそいなぁ。

 当たる方が難しい攻撃、リブとの戦闘を経験した今ではちっとも怖くない。

 簡単に躱せる、慌てず立ち位置をズラすだけで十分。

 

「死霊の霊気を土塊に宿らせて実体化させた泥人形よ。気を付けてマサキ」

「アハッイ、そうっすね」

 

 霊気ときたか、この世にはいろんなエネルギーがあるんだな~また一つ学んだぜ。

 

「坊や?落ち着きすぎじゃない。油断してるとマジで死ぬわよ」

「ああ、うん」

「弱点は体の何処かにある核石だと聞いてるわ、見つけて破壊するのよ」

「めんど」

「やる気出しなさいよ!さっきから何なの?」

「無理を言わないで、マサキは操者、基本は後衛なのよ。私たちと違って愛バがいなければまともに戦闘できないわ」

「くっ、そうだったわ。坊やここは私とかまとと女に任せて先に行きなさい!」

「師匠はこの先にいるはず、頼んだわよマサキ」

「まさかアンタと共闘することになるとはね」

「不思議ね、背中を預けることに全く不安がないなんて」

「行くわ、遅れるんじゃないわよ」

「ええ、どっちが多く倒せるか競争ね」

「「はぁぁぁ!!」」

「えっと、じゃあ、ここはお願いします」

「温度差wwすげぇwww」

 

 すごく晴々とした顔でゴーレムの群れに突撃していくお姉さま方。

 「俺に任せて先に行け」をやられてしまった。

 二人とも自分の役割に酔ってたからツッコミ損ねた、やっぱりメッチャ仲良いよね。

 

 ここからは一本道みたいなので俺でも迷う心配なし、いざとなったらミオもいるし大丈夫だ。

 よし、先に進もう。

 

「完全にマサキの実力誤解してたね、あの二人なら負けはしないからいいか」

「俺の覇気制御も上達したからかな、それとココも先輩たちには詳しく説明していないんだろうな」

「そのココちゃんが術を仕込んだ形跡があるよ、一般的な操者程度の覇気に見えるように偽装してある」

「あいつ抜け目がないな」

「いい子じゃん、意図はどうあれマサキを大事に思ってしたことだよ」

 

 頭のいい子だからいろいろ考えがあるんだろうな。

 潜入に当たって俺の覇気が目立つのを防いでくれたんだろう、もしくは、俺を他のウマ娘にとられないように気を回したとか・・・後者が正しいような気がしてきた。

 

 ひたすら奥へ進んで行く、途中で下り階段を何度か駆け下りた。

 今、地下何階だ?階段多すぎ!エレベーター完備しとけよ。

 

「マサキそこ!そこの如何にも怪しさ満点の鉄扉がゴールだよ:

「これ扉か?ゾルディック家の入り口じゃね」

「鍵はかかってないみたい、そこそこの覇気を持った者じゃないと開かない仕組みだ」

「お邪魔します!」

「いとも簡単に開けたね」

 

 普通に開いた、そこそこじゃない覇気の持ち主ですから。

 

 部屋の中は無機質な石壁の空間が広がっている。

 地面に描かれた不気味な魔方陣らしき紋様と、それを囲むように設置されたリング状の機械類が見える。

 ・・・クロスゲート?全然似てないのになぜかそう思ってしまった。

 淡い光を放つ魔方陣と、微かな駆動音をあげる機械によくないものを感じる。

 そして一際目を引くのは、魔方陣の中心に設置された檻、あれは牢屋だ。

 今すぐ駆け寄りたいのをグッと我慢、まずはミオに周辺と機械類をチェックしてもらう。

 

「無謀な突撃をしなかったのは偉いよ、ちょっと待ってね・・・その機械、壊した方がいいみたい」

「任せな、そりゃ、せい、ふんぬ、どっせい!」

「魔方陣は・・・機械の効能を増幅する術式だから問題なし、一応地面割って崩しといてね」

 

 この程度の機械、覇気でコーティングした俺の手で十分引きちぎれる。

 停止スイッチ?探すのめんどくせ、壊していいってミオが言ってたし大丈夫だろ。

 魔方陣の方は足で床を蹴り砕いておこう。光が収まった。

 牢屋に近づく、中には・・・テレビ、漫画、パソコン、ぐっちゃになった布団らしき物体。

 大量の菓子類とゴミ袋・・・これただの汚部屋だ。

 ここにガッデスがいるのか?この引きこもりニート部屋と化した牢屋に?

 

「わかる、言いたいことはわかるよ。でも私はこの惨状を見て逆に安心したよ」

「随分だらしのない人なんだな。で?肝心のガッデスはどこよ」

「ガッちゃんいるんでしょ!元ザムジードが助けに来たよ!」

 

 返事がないただの屍のようだ。屍すら見当たらないので困ったもんだ。

 しかし、ちゃんと対策はあるのですよ。

 母さんたちにもらった天級の腕輪に覇気を通わす。

 するとどうでしょう、みるみるうちに極大の覇気が溢れて来るではありませんか。

 さあ、出て来いやっ!

 

「ふぇ・・・サイたちがいるの?・・・借金なら返せない、ない袖は振れない」

「開口一番のセリフがそれか」

「やっぱりいた!」

 

 うず高く積まれたごみ袋の山から非常にちっこい物体がぴょーんと飛び出してきた。

 は?・・・なんだこのチビは・・・クロとシロよりも小さいぞ。

 三、四歳ぐらい?幼稚園児やんけ!

 

「自堕落な眠りにつこうとしていたのに・・・起こしたのは誰?」

「私だよ私、ザムジード改めミオ・サスガだってば」

「ザムジード・・・その黒い時計がザムジード?・・・随分変わった」

「お互い様じゃない、何で縮んでんの?」

「いろいろあった・・・それより・・・やっと来てくれた、遅刻・・・マサキ」

「あ、えっと、このダウナー系のロリが本当に母さんたちの仲間」

 

「そだよ。水の天級騎神ガッデスは・・・私で間違いない・・・はず?」

 

「いや、聞かれましても」

「そのロリがガッちゃんで間違いないよ、姿は変わってもぐーたらな性根は変わってない」

「ミオが言うならそうなんだろうな、それにしても・・・ふむ」

「牢屋越しにロリを品定めするマサキ・・・最低な絵面だ」

「私に興味ある?・・・サイより年上だけど・・・いいの?」

「マジか!これが完全合法ロリか!」

 

 念願の合法ロリ・・・じゃなかった、天級騎神ガッデス。

 例によってウマ耳と尻尾は隠しているみたいだ。

 清流を連想させる水色の長い髪の毛、アホ毛が触覚のようにひょこひょこ動いてい不思議。

 深い海のような青い瞳、ぱっちりまつ毛の癖に眠たそうなたれ目がこちらを見ている。

 着衣はサイズの合わない教団員ローブを無理やり羽織っているだけ・・・もしかして、はいてない!

 小さい・・・どこからどうみても幼児だ。

 その容姿は恐ろしく整っている、ゴミ山から出て来たと言っても誰も信じてくれなさそう。

 低身長、柔らかそうなプニプニほっぺ、小さなおてて、少々舌足らずな発音、その他諸々が俺を狂わせる!

 

 こちらに近づき、牢屋越しに伸ばされた手を握る・・・本物や本物の合法ロリや。

 

「マサキの顔がヤバイ!犯罪係数が計測不能だ」

「ドミネーターで撃ちたきゃ撃てよ!その程度でこの子の手は離さんぞ!」

「ねぇ・・・ここ開けて・・・外出たい」

「うんうん、今出してあげるからね」

「そいつ年上だよ!アンタの母親よりも!」

「知ったことかぁ!」

「こりゃダメだ、合法ロリを前にして逆上せ上がってる」

「くっそ!開かねぇぞ、どうなってんだ」

「鉄格子に術式・・・ゲートと同一の効果を付属・・・普通・・・触っただけでバタンキュー」

「そんなものを触らせんな!このロリはヤバイよ!檻に触っちゃダメ」

「バスカーモード!!」

「「あ」」

 

 ミオの言葉は届かない、この檻に触れると覇気を吸い取られて昏倒するとか、どうでもいい。

 こんな小さな子を牢屋に閉じ込めているだと・・・許せん!

 絶対に助ける、バスカーモードを発動させオルゴンクラウド展開。

 

「ぬぉぉぉぉおおおお!!」

「わぁ・・・すごいね・・・檻がぐにゃぁ」

「ちょ、力の無駄遣いやめなよ」

「これでよしっ!さあ、出ておいで」

「うん・・・ありがと」

 

 俺が曲げた鉄格子の隙間からちょこんと幼女が出てくる。

 こちらを見上げるロリ、目の前にいるとなおさら小さく感じるな。

 

「ガッちゃん、私の核を持ってるよね。返してくれる」

「無理・・・売った」

「恐れていたことが現実に!何してくれてんだこのドチビ!」

「冗談・・・ちゃんと持ってる・・・これだけは死守した」

「偉いよガッちゃん!信じてた」

「へい・・・パス」

「わっと、急に投げるなよ」

「危ないなぁ、もっと丁重に扱ってよね」

 

 オレンジ色の輝きを宿した丸い物体を投げ渡される。

 大きさはテニスボール程度、星が見当たらないのでドラゴンボールではない。

 

「アインストの核だよ、マサキも見たことあるはず」

「俺が知ってるのはもっと大きくて色も真っ赤だったな」

「そこに私の生体データが詰まってる・・・うん、破損や変質はしていない。よし、アレをパージするよ」

「はいよ」

 

 俺の背中からウニョウニョと黒い触手とモヤが這い出て来る。

 バイクから回収したラズムナニウムをずっと背中に張り付けていたのよ。

 それはアインストの核をすっぽりと包み込み、一回り大きな黒い宝珠となった。

 内部にある核が一定のリズムを刻み点滅する様子がまるで鼓動のよう。

 

「長いこと待たせたね。その宝珠にドレインをやっちゃっていいよ」

「私も・・・いいよ・・・マサキの愛バ分ぐらいは残してる」

「いよいよか、これで天級騎神の覇気コンプリートだぜ」

 

 右手でミオの宝珠を持ち、左手でガッデスの頭を撫でながらドレイン開始。

 他の騎神と一線を画す覇気が流れ込む。そうだ、これこそが天を冠する者の覇気だ。

 クロ、シロ、こいつがラストオーダーだ。満足したのならそろそろ起きなさいってばよ!

 

 ドレインしている最中にガッデスから囚われ身になってからの生活について聞いた。

 主にサフィーネが面倒を見てくれていたらしく、思いのほか快適だったらしい。

 俺が愛バを救うための旅をしていることは、シュウからサフィーネに、そしてガッデスに伝わったのだろう。

 魔方陣から覇気を吸われるのは辛かったが、食料や嗜好品、娯楽アイテムはいくらでも用意してくれたらしい。

 

「生かさず殺さず?・・・家畜になってみた・・・ある意味ここは天国だったかも」

「本当の天国に行きそうだったのわかってる?相変わらずのんびりし過ぎ」

「焦ってもいいことない・・・いざって時のため・・・英気を養うのも大事」

「ねぇどうして捕まったの?詳しく聞きたいんだけど」

「不意を突かれた・・・不覚」

「目が泳いでるよ。もしかして、ワザと捕まった?」

「知ってるなら聞かないで・・・恥ずかしい」

「なんでそんなことしたの!邪神降臨の生贄にされる所だったんだよ!」

「自由に生きるため」

「それで死にかけてりゃ世話ないよ」

「分の悪い賭けなのは知ってた・・・マサキが来た・・・賭けは私の勝ち」

「置いてけぼりッスわ~二人とも説明求む」

 

 ガッデスが母さんたちの下を去った理由は、天級騎神が土地に縛られず生きていく術を探す旅に出たからだ。

 各地を巡り、プラーナとゲートについても研究したらしい。

 その結果出した答えは弱体化。

 

「私たちの力・・・世界から無尽蔵かつ一方的に供給される・・・望まなくても」

「供給元は世界という概念そのものか、そんなことだろうと思ってたけど」

「受け皿の体と神核は生まれつき丈夫・・・それでも限界はある・・・プラーナが活性化した力場でないと」

「もって30歳ぐらいじゃない?私以外の全員がアラフォーなのは実はすごいことなんだよ」

「母さんたちの平均寿命、外界では30だと・・・ラ・ギアスで暮らす意味は大きかったんだな」

「サイたちを・・・ババアにするため・・・天級騎神をやめなくちゃいけない」

「天級をやめる、そうすれば母さんたちが無事ババアになるんだな」

「ババア計画・・・ゲートを利用して弱体化を狙う・・・超級ぐらいでストップできれば万々歳」

「教団が既にゲートの力を研究して組み上げた術式を実用化していた、それでワザと捕まってみたわけか」

「ご名答・・・ここで力を吸われながら、ずっと解析していた・・・結論無理」

「「ダメじゃん!」」

「式を組むだけでも相当な時間と労力がいる・・・ここの牢屋と魔方陣を準備するのだけで数年かかったみたい・・・行き場を失った力の使い道も問題」

「教団はガッデスの覇気をヴォルクルスの降臨に使うつもりだからな」

「サイたちを弱体化させる度に邪神をこの世界に招待するってのはダメだよね」

「邪神が出てきても、それを倒せるはずの騎神が弱くなってるんじゃあな」

 

 どうすりゃいいのよ。

 

「悩まなくていい・・・全部解決・・・マサキが救ってくれる」

「俺が何を」

「ENドレイン・・・さっきの檻を捻じ曲げた力・・・その二つを合わせれば、きっと」

「天級でも不用意に触れないゲートの力にも干渉できる女神の力!確かに、バスカーモードでドレインすれば安全かつ効果的に弱体化させることが可能かも」

「しかし、一時的に弱らせてもしばらくすればまた復活するんだろう?」

「定期的にやればいい・・・将来的には世界からの供給をカットする・・・そこはビアンやネオの息子に期待」

 

 メルアには感謝しないとな、ホント女神様様だ。

 クロとシロを起こした後に母さんたちも救ってやれる、こんなに嬉しいことはない。

 

「マサキがサイの下に来て、私たちと出会ったことには意味があった。もう、運命感じちゃうぐらいにね」

「宛てのない旅に出た私より・・・子育て頑張ったサイが正解・・・だったかも」

「そんなことない、ガッちゃんがいっぱい悩んでくれたことに皆感謝してるよ」

「良かったな、母さんたちの役に立てるなら俺も嬉しい・・・よし、ドレイン完了だ」

「ふぅー肩の荷が下りた気分だよ、予定通り休眠させてもらおうかな」

「ああ、そうだったな」

 

 ここへ突入する前にミオと決めていたことがある。

 ガッデスと再会し自身の生体データを入手することが出来たら、しばらくお休みすると。

 新しい体を造る時間がほしいんだそうな。

 

「じゃあ私はボディの設計と調整に入るよ。ここからはサポートなしだけど大丈夫?」

「正直不安だが何とかする。たくさん助けてくれてありがとうミオ、今までご苦労だったな」

「こちらこそありがとう、マサキと旅が出来て楽しかったよ。この宝珠をラ・ギアスにいる同胞の下まで送り届けるのを忘れないでね」

「実家のアーマーに渡せばいいんだよな。確かに承ったぞ」

「次は人型で会おうね、私がいなくてもしっかりやるんだよ」

「どんな姿か楽しみにしてる・・・しばしのお別れだ、またな」

「うん、またね。ガッちゃん、そういう訳でマサキをお願い」

「どういう訳かわかんない・・・けど、いいよ・・・おやすみザムジード」

「ミオだってば、おやすみ~」

 

 黒い宝珠に腕時計に擬態していたミオが吸い込まれる。

 聞きなれた声が聞こえなくなったことに僅かな喪失感が生まれる。

 なんか、ミオが巻き付いていた腕がスースーするな。

 宝珠を用意していたカバンに収納する、カバンの内部は対衝撃性の特殊カーボン素材で出来ていて軽量かつ丈夫なのでワレモノでも安心。

 貴重なツッコミ役がいなくなってしまったな。

 

「ずっと一緒だった奴がいない。ちょっと、いや、かなり寂しいな」

「生きてればまた会える・・・話相手は・・・私がなる」

「お気遣いどうも、呼び方はガッちゃんでいいか?」

「好きに呼んだらいい・・・ここから移動しよう」

「わかった、行くか。はぐれないようについて来るんだぞ」

「ん」

「両手を広げて何を期待してるんですかねぇ」

「察して・・・歩きたくない・・・だっこ」

「うわぁ、怠惰ですね。まあ、抱っこは得意なのでやりますけど」

 

 年上のおチビをひょいと抱える。

 想像以上に軽い、そして体が冷たい。覇気も天級騎神とは思えないぐらいに微量で、かなり弱っている。

 怠惰なのではなく本当は歩くことすら辛いのかもしれない。

 戦闘はに巻き込んではいけない、俺がこの子を守らねば!

 

「マサキの覇気・・・ちょっとづつもらうね・・・へぇ、ほうほう」

「遠慮なくどうぞどうぞ。ところで、いったい何に感心しているんだ?」

「・・・三分なんだね」

「カップ麺の時間ですよね?あっち方面の話じゃないですよね!」

「ばりやわ・・・それだといざって時に苦労する・・・愛バが」

「絶対麺の話じゃないよね。誰のどこが"ばりやわ"だ!いざって時って何よ!ココの奴~何をマーキングしとんじゃぁぁぁ」

「後で消し方教えてあげる・・・ほら、行こう・・・ゴーゴー」

「もういやっ!ウマ娘同士でどんな酷いやり取りしてるのよ!人間にはわからないからってやりたい放題」

 

 マーキングしている時は可愛いのに、これだから油断ならねぇ。

 カバンの中にはミオが変化した黒い宝珠を入れて、腕にはガッデスをしっかり抱いて移動を開始する。

 

「テュッティ先輩とサフィーネに合流しないと、ココとゴルシは大丈夫かな」

「お話して・・・マサキのこと・・・愛バのことも」

「何から話そうか、まずは俺とクロシロの出会いから・・・」

 

 どこに雑魚が潜んでいるかわからないので油断せずに行こう。

 小声で会話しながら慎重に歩みを進める。

 相槌を打ちながら弱々しい力で少しづつ俺の覇気を吸っているガッちゃん。

 俺の保護欲を刺激する存在に、気づけば結構話し込んでしまった。

 

「それで、クロがシロにアイアンクローを・・・って寝ちゃったか」

「すぅー、すぅー」

 

 天国だと言っていたけど、監禁生活で疲弊していたんだろう。

 このまま眠らせておいた方がいいのかな。

 

「マサキどこにいるの!」

「坊や返事しなさい、この辺にいるはずなんだけど」

「先輩、サフィーネ!?こっちです、こっちにいます」

「無事でよかったわ。それで、師匠は見つかったの?」

「いるじゃないそこに、グッスリ眠っちゃってるわ」

「え・・・ちょっと待って、マサキが大事に抱えてる子供が師匠なの!」

「ああ、ガッデスご本人のはずだ」

「マサキが趣味でさらって来たわけじゃないから安心しなさい」

「一瞬疑ったけど納得するしかないようね、あのクールビューティーがどうしてこんな」

「どんだけ信用がないんだ俺、泣けるぜ」

「泣かないで・・・マサキは優しい子・・・幼女には特に」

「師匠!」

「起きたかガッちゃん」

「テュッティ~・・・はろはろ~・・・サフィーネもいたんだ」

「いたわよ!いつ見ても憎たらしいガキね」

「師匠、よくぞご無事で。ああ、すっかりロリロリしくなって・・・大変可愛いらしいです」

「言いつけをちゃんと守ってくれたね・・・いい子」

「勿体ないお言葉、さあこちらへ」

「おかまいなく・・・」プイッ

「え、そんな~」

 

 師匠を受け取ろうと手を広げる先輩から顔を背け、俺にしがみつくガッちゃん。

 先輩がショック受けてる、やだなぁそんな目で見んといてや!

 

「ガッちゃんは俺の覇気を吸って回復中なんですよ、もう少しだけこのままいさせてください」

「今だけよ・・・師匠に変なことしたら、いくらマサキでも許さないから!」

「先輩から憎しみの視線を受けるハメになるなんて」

「救出任務成功ってことかしら、早くここからずらかるわよ」

「それはダメ・・・儀式を潰さないと・・・私の覇気で邪神降臨とかキモイ」

「無茶よドチビのアンタが行った所で何ができるの」

「後始末をつける・・・マサキが」

「他力本願!でもいいっスよ。ガッちゃんをロリにしてくれたお礼をしてやらないと」

「自分の身ぐらいまだ守れる・・・いざとなったら逃げる・・・マサキGO」

「GOサイン出たので行きますわ、先輩とサフィーネはどうします?」

「乗り掛かった舟だし行くわよ」

「行くに決まってるでしょ、ロリコンから師匠を守らないと」

「敵は教団であって俺ではないですよ」

 

 先輩から敵認定されてしまった。

 ヴォルなんとかさんを召喚する儀式を邪魔しに行くことに決定。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そらよっ!白虎咬」

 

 掌底から打ち込まれる覇気の渦によりデモンゴーレムの巨体に風穴が空く。

 

「てめぇにはこれだ、玄武剛弾!」

 

 背後から迫るゴーレムに拳に集めた覇気弾を飛ばす。

 回転がかかった覇気弾は命中した部位に深々と抉り込み貫通、敵をただの土くれへと戻す。

 

「また腕を上げたね~、上司として鼻が高いよ」

 

 安全な位置から戦闘を見守るココは微笑みながら部下を褒める。

 

「世辞はいいから、少しは手伝えよ」

「ルオゾールに会うまで温存してるんだよ、サボってる訳じゃないからね」

「どうだか、マサキがいないから気を抜いているんだろ。おい、一体そっち行ったぞ」

「私と遊びたいの?ごめんなさい、泥人形に用はないの」

 

 警戒する素振りすら見せない獲物を前に、ゴーレムは容赦なくその腕を振り下したかに思えた。

 

「マサキ大丈夫かな、新しいロリに手を出してないといいけど」

 

 ゴーレムの腕がココに届くことはなかった、そればかりか胴体から四肢を分断され崩れ落ちる。

 残った胴体部ある急所の核石にビームで形作られた刃が突き立つ。

 あっけなくゴーレムは消滅した。

 

「ミラージュソード、初めて使ったけどまあまかな」

「新デバイスのは調子はいいみたいだな」

「たまには使ってあげないと拗ねちゃうからね」

 

 ゴルシは青い手甲と足甲を、ココはピンク色のものを装備している。

 

 1stでの激戦を生き抜いたゴルシの専用デバイス"ソウルゲイン"

 改修を何度も繰り返して今も大切に使われているファイン家秘蔵の特級武装。

 ココが今しがた使ったのは"アンジュルグ"

 1stの技術を盛り込んで新たに開発された新デバイス。

 ピーキーな性能が祟り使い手がいないので頭首であるファインモーションが引き取った。

 スペック上では遠近両戦闘に対応した優秀な子のはず。色は趣味じゃないけど。

 

 "デバイス"と言うのは1stで"個人用戦術武装"を意味していた言葉。

 2ndでもこの呼び方を定着させていこうと思ってる。

 デバイスの便利な所に非戦闘時はコンパクトに格納できる点がある。

 腕輪や首飾り等、思い思いのアクセサリーに加工して携帯可能だ。

 武装のデバイス化はメジロ家やサトノ家でもそのうち実用化される見込みだ、技術提供した甲斐があると思わせてね。

 

「ゴーレムは片付いたな、これからどっちに行くよ」

「もちろん奥だね、そこから嫌な気配をビンビン感じる」

「了解だボス、向こうはガッデスを救助したころだといいが」

「心配ないよ、私が好きになった男は四葉のクローバーより幸運なんだから」

「隙あらば惚気るようになったなコイツ」

 

 全員更に奥へと進む道を選択する、それを待ち受ける者が何であるかをまだ誰も知らない。

 

 




ココ「祝!私実装されました~。いぇーい拍手拍手!」
クロ「けっ」
シロ「ぺっ」
アル「おめでとうございます殿下。予想通りのラーメン狂いでしたね」

クロ「アイルランドに帰れ」
シロ「アイルランドに謝れ」
ココ「もう、ひがまないでよ~。それで皆の実装はいつですかぁww」
アル「私なんて、SSRサポカはないしトレーナーノートにも載ってないし・・・」

シロ「教えてくれクロちゃん私たちは一体いつまで待てばいい?運営は何も教えてくれない」
クロ「お正月?一周年?アニメ三期?なんでもいいから頼むよ」
アル「ドーベルが実装されてブライトもなんか来てるし、私はどうしたら」
ココ「みんな運営を讃えよう!!はい課金課金課金~あはははは」

クロシロアル「コイツ野放しにしてたらまずいな」









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はかいじゅう

無料10連ガチャで季節外れの水着スぺちゃん来た


 内通者は変態の知り合いだった。

 ガッデスの救出に成功、ミオがスリープモードに移行して寂しい。

 儀式を止めるため、洞窟神殿の奥を目指す。

 

 

「今宵、我らが悲願は達成される!偉大なるヴォルクルス様が現世に降臨なさるのだ!」

「「「「うぉぉぉー!!ヴォルクルス様バンザーイ!!」」」」

 

 教団アジト洞窟神殿最奥、儀式の間にて。

 集まった大勢の信徒を前に神官ルオゾールは高らかに宣言する。

 熱狂する信徒たちが血走った目で歓声を上げている。

 会場は異様な雰囲気と歪な覇気と霊気で溢れており、ここがまともな場所ではないのは一般人でも察せられる。

 その様子を少し離れた位置から観察している、俺たちだった。

 

「隠形術って便利だな、この距離でも気づかれないなんて」

「そうでしょう、天級一の術士である師匠の隠形はそう簡単に見破れないわ」

「なんでアンタが威張るのよ」

「師匠の活躍を弟子が誇るのは当然ですから」

「私だけじゃ無理・・・マサキの覇気あっての技・・・この覇気マジやばくね」

 

 ガッちゃん(アラフォー合法ロリ)をしっかり抱っこ中。

 複数人に完璧な隠形をかけるみせる腕前はさすが天級、燃料として俺の覇気が役に立っているようで何よりだ。

 彼女を抱っこしているのには術の発動と回復を兼ねた重大な意味がある。

 誓って俺がしていたいからだけではない!

 汚部屋住人だったとは思えない、サラサラで艶のある髪を撫でると気持ちよさそうな顔をするのがかわええ!

 癒されるわ~見てるだけでどんどん元気になるわ~これが水の天級騎神の力。

 

「ロリにばっか構ってないで、ボスの機嫌をとってくれ」

「合流した途端にこれだよ!マサキのアホ、真性ロリコン!そんなに小さい子がいいのか!デレデレしちゃってさぁ」

「なに怒ってんだよココ。ガッデスはこの通り無事助け出したぞ」

「ちょっと目を離した隙にロリをお持ち帰りとか、これはダイヤちゃんたちが心配するのも無理はない」

「おいおい、よしてくれよ。ガッちゃんは母さんの友人、言わば知り合いのおばちゃん的存在だぞ。そんな人をやましい目で見るわけなかろう」

「おばちゃん・・・事実だけど・・・呼ばれたくない」

「ごめんよガッちゃん、そんなこと全然思ってないからね~」

「このペドがぁ!愛バ(予定)の私を放置して何しとんじゃ!」

「「「空気悪いなぁもう!!」」」

 

 睨むなよココ、可愛い顔が台無しだぞ。

 もちろんガッちゃんも可愛いよ!後で写真撮ろうね~。

 はて?ゴルシたちがジト目を向けてくるが、さては近視だな。

 

 儀式の邪魔をするため奥へ進んだ俺たちはココ&ゴルシのチームと無事合流。

 ガッちゃんに高精度の隠形術をかけてもらい、教団のしょーもない集会現場を見学中。

 

 巨大な祭壇の上に二つ・・・例のアレがある。

 見たくなかった、事件が起こる所にはやはりコイツがあるわけで。

 

「はいはいクロスゲートですよね~、知ってた!」

「大きさは二つとも20メートルぐらい、標準サイズだね」

「あれで標準かよ」

 

 ラ・ギアスにあるヤツはもうちょっと小さかったな、1stには輸送艦が潜れるほど巨大なヤツもあったはず。大きさはいろいろあるらしい。

 

「私から奪った覇気でゲートに干渉・・・ヴォルクルスがこんにちはする」

「それを何とかしないと、あの腹立つ顔の神官とやらをぶっ飛ばせばいいのか?」

「あいつ一人倒してもここの雑魚どもが黙っていないだろうな」

「下手に刺激すると玉砕覚悟で突っ込んでくるわ、狂信者って嫌ね」

「できれば殺したくない、こういう時は不殺側がめんどくさい」

 

 どうしたもんか、ここの連中を全員殺さずに事を運ぶにはどうすれば。

 悩んでいるうちに長い演説がクライマックスに入ったようだ。

 

「では皆さん、今こそ誓いを果すとき!ヴォルクルス様にその命を捧げるのです!」

 

 ひょ?コイツら全員自分が生贄になるって知ってるのか。

 神官の宣言を聞いても歓声は鳴りやまない。

 神のために死ぬことが栄誉あることだと口々に叫びながら喜んでいる。

 うわぁナチュラルに狂ってるなぁ~。

 

「仕方ねぇやるか、ガッちゃんミオを頼む。はい先輩、後よろしく」

「ええ、待っていたわこの時を!」

「今のテュッティ・・・なんか怖い」

 

 ガッちゃんにミオが入ったカバンを持ってもらい、その上でガッちゃんを先輩に渡す。

 師匠をしっかりと抱きとめたテュッティ先輩は凄く嬉しそうだった。

 鼻息が荒いのが少々気になるが、今はいい。

 

「ココ、作戦はあるか?」

「私とゴルシとマサキであのワカメをムッコロス!テュッティとサフィはガッデスを護衛する。ね、簡単でしょ」

「「「「了解!!」」」」

「さあ、行くか」

「待って・・・様子がおかしい」

 

 場の空気が変わった。

 俺たちの近くにいた信徒の一人がバタリと崩れ落ちる。

 なんだ?興奮し過ぎて気絶したのか。

 それを皮切りに次々と人が倒れていく、一体何が・・・。

 

「動いちゃダメ・・・気づくのが遅れた・・・会場全体に私がいた牢屋と同一の術式設置してる」

「信徒から覇気を吸収してるのか、この人数をいっぺんにやるなんて」

 

 強制的なENドレインが発動している。

 これのためだけに信徒は集められた、邪神の餌になるために。

 声も出さずに倒れていく人々、それを見てもなお、神を望む信徒たち。

 これは異常事態ですよ。

 それは祭壇上の神官ルオゾールと隠形で身を隠した俺たち以外の全員が倒れ伏すまで続いた。

 静まり返る会場、信徒から集めた覇気はルオゾールの下へ集まったようだ。

 

「ふむ。これっぽっちですか、神への供物としてはいささか物足りませんね」

 

 あまり関心がない様子で覇気の塊をゲートへと掲げる。

 二つのゲートの内、黒い装飾が施された方に覇気が吸収されていく。

 

「さあもういいでしょう。邪魔する者はいません、姿を見せてはどうですか?」

「!?」

 

 あの野郎、最初から気づいていやがった!

 ルオゾールが見つめる先は俺たちの・・・反対方向だった。

 

「そこにいるのはわかっています。潔く出てきなさい」

 

 大仰なポーズを決めるルオゾール。

 うわwドヤ顔であらぬ方向を指差してるwwこいつ思ったよりポンコツじゃね。

 ココが口パクで「バーカ」って言ってる。

 

「あのwwこっちですよwww」

「え、あ////さ、最初から気づいていましたとも!ええ、そうですあなたたちを試したのです」

「言い訳乙w恥ずかしいよね。俺もよくやるからわかる~」

「ウォッホン!よくここまで来ましたね。アンドウマサキとファイン家御一行様、ガッデスとサフィーネもそこにいるようですね。歓迎しますよ・・・ヴォルクルス様への生贄としてね」

「私が裏切ってるのに驚いてないようね、とっくの昔に気づいていたのかしら」

「ええ、あなたがヴォルクルス様よりもシラカワシュウを崇拝しているのは存じています。残念ですよ、あなたもシュウもその気になれば教団での地位が約束されたものを」

「ノーサンキューよ。シュウ様も私もこんな陰気な所で出世する気は毛頭ないわ」

 

 キッパリと言い切るサフィーネが堂々としてカッコイイ。

 ココが一歩前に出て会話を試みる。

 

「ごきげんよう、ルオ神官。しばらく見ない内にまた顔色が悪くなったね」

「これはこれは、ファインモーション殿下。わざわざご足労ありがとうございます」

「殿下なんて呼ばれてたのはずっと昔、ここではない世界のこと。それより聞きたいことがあるんだけど」

「私に答えられることならばなんなりと」

「敬虔な三女神教徒だったあなたが何故、ファイン家を裏切ったのかな?1stの民はあなたのこと尊敬したよ、私もあなたに教えてもらった女神様たちの話が大好きだったのに」

「女神、そのようなものを信仰していたのがそもそもの過ちです・・・1stが滅びゆく最中、私は祈りました。「どうか我らの世界をお救いください」と・・・何度も何度も何度も何度も何度もねえ!それなのに、救いは終ぞ訪れず故郷を捨てて逃げることになった。おわかりですか、三女神などそもそも存在しないのですよ」

「だから今度は邪神を信仰したの?尻軽すぎてウケるんですけどwww」

「"あの御方"が導いて下さった、新たな神を崇めろと!それこそがヴォルクルス様!1stのような悲劇を繰り返すわけにはいかない、世界は唯一絶対の神によって統治され、今度こそ何者にも侵されない楽園となるのですよ!!」

「盛り上がってるとこ悪いんだけど、三女神は実在するみたいだよ?」

「ハハハ・・・脳が麺でいっぱいの方はおかしな言動をしますな」

「やかましい!マサキが女神様に力をもらったのが証拠だよ」

「私がここにいる・・・牢屋を壊したあの力・・・女神が関わっていても不思議じゃない」

「アンドウマサキはサイバスターの子、他の天級とも親しい。おそらく何かしらの対策を取っていたのでしょう、それを女神の力と決めつけるのはいささか強引では?」

「ゲート絡みの術・・・私たちには効く・・・サイでも無理」

「女神がいようがいまいが、もはやどうでもいいのです。ヴォルクルス様の前では何者をも敵ではない」

 

 こりゃダメだと言うように首を振って会話を終えるココとガッちゃん。

 俺もこいつには聞きたいことがある。

 

「質問!」

「無駄に綺麗な挙手ですね、どうぞアンドウマサキ」

「アーチボルトと言うクズを知ってるな?」

「彼とは一時的なビジネスパートナーだっただけです。ああいう輩を利用した方が上手くいくこともあるのですよ」

「ふーん、まあいいや。じゃあ"あの御方"について教えてくれる?そいつだろ俺を"代役"とか言ってる奴、出来れば会って語り合いたいんだ、肉体言語でな」

「あ、あなたはここで死ぬのです。あの御方のことを知る必要はありません」

「結局答えないのかよ、マジでクソだなお前」

 

 威嚇の意味を込めて覇気を飛ばしてみる。

 すると、ビクッと肩を震わせたルオゾールがわずかに後退る。

 

「マサキ・・・それ悪い人以外にやっちゃダメ・・・常人なら多分漏らす」

「大げさな、ちょっと睨んだだけだろ」

「うわダッサwwガン飛ばされてビビってやんのww」

「笑いすぎだボス、マサキに敵意や殺気を向けられて平気でいられる奴はまずいないぞ」

「自分じゃわからん、そういうもんなのか?」

「そうだよ、ウマ娘は元より覇気が感じられる人類だったら間違いなくビビるね。高密度大質量の覇気が一斉に"殺す、出来るだけ長く苦しめて殺す"て囁くんだよ、マジで漏らすね」

「漏らされるとめんどくさいな」

「マサキの覇気はただでさえ感情やイメージが乗りやすい。例えば、自分の全身が食いちぎられた映像が脳に直接飛び込んで来るって言ったらわかるか?お前はそういうことをやっちゃってるわけよ。いい加減気づけ、アンドウマサキの覇気は怖いんだよ」

「なんかごめん」

「味方には最高に頼もしくて優しいから平気だよ、敵に回った奴らが不憫なだけ」

「悪い奴には存分にやっていいんだよな」

「うん・・・許可する」

 

 ガッちゃんのお許しが出たので眼前の神官野郎を威嚇するのを継続。

 平静を装っているがこいつビビってるのか、情けねえな。

 

「何という禍々しい覇気!その力で私を葬るおつもりか?」

「それはお前の返答しだいだ、今なら頭を丸坊主にするだけで許してやる」

「私が直々に刈ってあげるね♪嬉しいでしょ?泣き叫んで喜べよ」

「頭首ともあろう御方が私怨で動く、所詮は陰毛ですか・・・」

「あははは、見て見てマサキ。腐ったワカメが何か言ってるよ、目障りだから踏みつぶしてもいいよね」

 

 やめろ、それ以上ココをキレさせんな!やめろぉーー!!

 飛び出しそうなココを落ち着かせる、こういう時は耳を優しく触ってやるといいんだよな。

 クロとシロで学習済みな撫でテクニックが役立つぜ。

 

「恐ろしいですね、弱者である私は神に縋るしかありません。こんな風にね!」

「あ、こらてめぇ!」

 

 まずいゲートが起動した。

 会話している間にも覇気の充填が完了したらしい。

 ちっ、さっさとボコっておけばよかった。

 

 二つあるゲートのうち祭壇の右側、ルオゾールの近くにある黒装飾のゲートが光を放ちだす。

 ルオゾール・・・もうめんどいからワカメでいいよね。

 

「しまった、これどうやって止めたらいい?」

「止め方・・・知らない・・・」

「ガッちゃんでも無理か、ココ!?」

 

 ゲートの起動で慌てる俺をよそに、ココは腰にマウントされたデバイスの武装を手にする。

 折りたたまれたギミックが展開、現れたのは機械の長弓らしき物体。

 弓?え、それ弓なの?弦がないぞ、それに矢はどこに・・・。

 心配無用だった、持ち主の覇気に呼応して弦と矢が生まれ、一気に引き絞り発射!

 

「イリュージョンアロー!」

 

 流れるような一連の動作、敵の体を貫かんと放たれた光の矢は一直線にワカメへと向かい直撃する。

 

「当たった?・・・んだよな・・・」

「間違いなく当てた、でも」

「効いてるよには見えないな」

 

 直撃する瞬間、わずかにワカメの体がブレたような気がする。

 なんだアレ、特殊な防御装置か?

 ワカメの着ているローブの下から趣味の悪い手甲が見える。

 

「フフフ、私のデバイス咒霊機"ナグツァート"のアストラルシフトはいかがですかな」

「あす?何?」

「アストラルシフト・・・精霊界と現界の狭間に身を置くことで・・・展開中に無敵モードになる」

「解説ありがとうガッちゃん。説明されてもよくわからん!とにかくすげぇチートだな」

「余裕ぶっこいてたのはそのチートバリヤのおかげかよっ!」

 

 ココの射撃と同時に接近していたゴルシの拳がワカメの顔面に直撃・・・しかしこれも効いてない。

 

「手応えがキモイ!スカッというかフェニャンって感じで!」

「俺がやる!」

「ちょ坊や!突っ込んでどうすんのよ」

「師匠、何か手はないのですか?」

「マサキのやりたいようにすればいい・・・あの子を信じるだけでいいの」

「え、でもそれじゃ」

 

 ココが気にせず矢を連発する、狙ってるのは寸分たがわずワカメの眉間。殺す気満々だ。

 

「止まらないでゴルシ!キモバリヤが機能しなくなるまで攻めればいいの!」

「了解ボス!何時までもつか楽しみだなおい!」

「アストラルシフトに限界はありませんよ、どんどん攻撃してきなさい!全てが無意味だと知って絶望するがいい」

 

 動きは封じているがダメージが入ってない。

 俺の接近に気づいたワカメが紫色の火の玉を無数に発生させこちらに撃ち込む。

 この程度で怯みません。

 炎の衝撃と煙の中から飛び出す、ゼロ距離とった!

 

「よいしょっと!!」

「無駄ですぞ!」

 

 うわぁ、本当にキモイ!フニャラピョン!って感触が拳に伝わった。

 

「おい、誰かKOS-MOS連れて来い。ヒルベルトエフェクト使える奴いないとヤベェぞコレ」

「フフフ、グノーシス呼ばわりですか。まあいいでしょう、己の無力を・・・」

「なーんてな!!」

 

 油断してんじゃねーぞボケ。

 

「あびゃしぁぁぁ!!!」

「「「「メッチャいいのが入った!!!」」」」

 

 ワカメのニヤケ面に俺の右ストレートがめり込む。

 妙な叫び声を上げ、きりもみ状に吹っ飛び儀式用の小道具(髑髏とか気持ち悪いヤツ)が用意されたテーブルをなぎ倒した所でやっと停止する。

 

「よしっ!ざまぁ」

「さすがマサキ!好き!契約して!」

「やるじゃねぇか。で、どんなトリックだ」

「女神様を舐めたらアカンってことよ」

「本物のチートが味方でよかったぜ」

 

 一発目はお試しのパンチ、二発目が本命のちょっと全力パンチ。

 オルゴンクラウドを集中させた拳はアストラルシフトだろうが問答無用で貫通するようだ。

 バスカーモードを発動しなくてもこれくらいは軽いね、結晶化はしてないから一応手加減している。

 全力のフィンガークリーブなら脳みそ貫いてたぞ。

 

 死んでないよね?・・・あ、汚ったないワカメが動いてる。

 

「う、ぐうぇぇ・・なぜだ・・・」

「覇気のガードをちゃんとしないからだ、アスなんちゃらを過信しすぎるからモロに入るのよ」

「なぜ無敵のアストラルシフトが破れる!やはりお前は危険だ!危険すぎる!」

「危険人物に危険呼ばわりされましても」

「危ない男って素敵・・・抱いて!」

「発情すんなボス」

 

 ありゃりゃ顔がパンパンに腫れてるし、歯も何本か折れてますね。

 もう降参したらいいのに。

 

 その時、起動中のゲートに変化が訪れる。

 異質な覇気が漏れ出し、あっという間に儀式の間全体を包み込む。

 これが、破壊神ヴォルクルス様の覇気?想像していたよりもなんというか・・・なんだ・・・。

 待て、この覇気・・・違う、似ているけど違う、これは・・・。

 

「うおおおぉ!遂に神が降臨なさるぅ!ようこそヴォルクルス様ーーー!残念でしたねぇ、後一歩で私を追い詰めたというのに、くくく・・・やはり私は神に選ばれたそ・・・ん・・ざ・・?」

「なんかヤベェぞ、ココ、ゴルシ離れるぞ・・・二人ともどうした?」

 

 興奮していたワカメが口をあんぐりと開けたままゲートを見て固まった。なに?電池切れた?

 ココとゴルシの様子もおかしい。

 

「マサキ・・・ボスたちを連れて逃げろ」

「はぁ?お前何を」

「に、逃げよう・・・逃げないと死んじゃう・・・いや」

「ココどうした、お前震えてるのか?」

 

 ゴルシは臨戦態勢のまま俺とココを庇うように前に出る。

 そしてココは、真っ青な顔をしたままガタガタ震えていた。

 出会った時からどこか余裕のある雰囲気を纏っていたファイン家頭首はもはや見る影もない。

 そこにいるのは、絶対的な恐怖に怯える一人の女の子だった。

 

「おいしっかりしろココ!どうしたって言うんだ」

「死ぬ、死んじゃう、マサキがみんなが・・・また・・・いや、もう見たくない」

「下がりなさい坊や!ガッデスが結界を張るわ、その手助けをしなさい」

「マサキ・・戻って・・・ちょっと・・・いや、かなりヤバイ・・・テュッティも手伝って」

「お任せください師匠!最大出力でもたせてみせます。マサキ早く戻って」

「クソっ!何が来るってんだ」

 

 ゴルシと一緒に震えるココを引きずって後退する。ワカメは知らん!

 ゲートの光がどんどん強くなる。

 門の奥底からこちらに這い出てようとする何者かが放つ覇気は上昇し続ける。

 振動する、ゲートのみならず儀式の間が、この洞窟神殿全体が震えている。

 

「こ、こんな・・こんなものを喚んだ覚えはないっ!!まさか、まさか、私はあの御方に!!」

 

 ワカメが何か叫んでいるがよく聞こえない。

 どうやら奴にも想定外のことが起きているようだ。

 

「来る・・・来るよ・・・あいつらが来る!!」

「来るってなに・・・が・・・」

 

 取り乱したココが叫ぶ、もうどうすることもできない。

 ここに乗り込んだ時点でゲートを確保するべきだった。後の祭り。

 

 いつかこんな日が来るってわかっていたのかも知れない。

 俺とあいつらには縁があるのだろう、切っても切れない縁が。

 例えそれが、別世界の存在であっても。

 

 あいつらが・・・俺の知らないあいつらが・・・来た。

 

「オオオォォォォォォォォォォォォォッッッ!!」

  

 冗談抜きで全身の毛が逆立つ、俺に尻尾があったらピーンしたまま固まるわ。

 紅い、紅い覇気の粒子がまき散らされる。

 ワカメはその余波を受けビビりながら後退、俺たちはガッちゃんと先輩が張った結界内に退避して衝撃を受け流す。

 

 やっぱりか、やっぱり来たんだな。

 紅い結晶体で構成された体を持つ異形の存在がゲートより現れる。

 ゴルシが見せてくれた1stの終わり。その原因となった滅びの象徴、破壊獣。

 その名は・・・

 

「ベーオウルフ・・・ルシファー・・・そんなことって」

「あれが世界を滅ぼした元凶!?」

「ヴォルクルスじゃなかった・・・でもこれは・・・もっとピンチ」

「どうしたらいいの?いやアレはそもそも何なの?」

「くっ!マサキ、ここは私が・・・」

「待った・・・ゴルシよく見ろ」

 

 覇気は確かに二体分、しかし出て来た異形はなぜか一体だ。

 ゲートから出てすぐに活動するかと思えば、その動きは酷く緩慢でぎこちない。

 全身が欠けている?ボロボロだ。

 ゴルシの記憶で見た二体の形と違う、アレは崩れかけた二つの体を無理やりくっつけてなんとか維持しているという状態なのではないか。

 

 紅い結晶体で作られた体は左右非対称。

 右半身は大きなカギ爪を持ち刺々しいが、左半身の手に爪はなく足にのみバランスの悪い欠けた爪がある。

 尻尾のような器官は三本、うち一本は力なく垂れ下がったままだ。

 顔はのっぺりとして表情は乏しく、大きく裂けた口にはズラッと紅い牙が並ぶ。それも半数以上欠損しているが。

 全身にダメージがあるのは一目瞭然、こうしている今も体が崩壊していっている。ひび割れも凄い。

 唯一目が、その目に当たる部分に灯る紅い光が煌々と輝いている。

 

「あいつ死にかけなのか?それに二体が合体してやがる」

「アストラナガンがやったのか?いや、ゴルシの記憶ではあそこまでのダメージを与える前に消えていたぞ」

「推測だけど・・・ゲートを無理に越えたから・・・転移の負荷に体が耐え切れなかったのかも」

「2ndに転移するには数年の準備が必要だった、ベーオウルフたちにとっても今回の転移は急なことだったのか?」

「わからん。どうすんだ?話とかできんのかよアレ」

「バカ、下手に動いて刺激するな。放っておけばあのまま朽ちていくかも」

 

「ウウォォァ」

 

 確かに、あのままではもたない。放っておけば・・・。

 

 合体破壊獣、体はボロボロだがその眼光はいまだ強い光を宿している。紅い光。

 その光があるものを捉えた時に俺は動き出していた。

 

「マサキ!なにやってんだ!」

「あっぶなっ!」

 

 紅い獣が尻尾を振り下ろした、倒れている教団信徒たちの体へと。

 奴の考えに気づいた俺はとっさにバスカーモードを発動!リニアアクセルも展開、獣の標的にされた人(三人)を乱暴に抱えて距離を離す。

 獣は何が起きたか理解していない様子。

 

「ガッちゃん!」

「うん・・・他の人は既に外へ送った・・・転移術は疲れる」

「ご無理をなされて、その体では負担が」

「いい・・・私、これでも天級・・・頑張れる」

「し、師匠~」

 

 小さくなっても母さんの同類、あれだけの人数を瞬時に転移させた。

 儀式の間に到着してから既に術式を用意していたのか、なんという慧眼恐れ入る。

 俺が何か言う前に倒れている全員と俺が助けた奴らをどこか別の場所に飛ばしたらしい。

 GJだ、紅い獣にまともな餌をやるわけにはいかない。

 

「放置してハイおしまい!とはいないようだ。今、人間を食べようとしたぞ、それに現れてからずっと周囲の覇気を少しずつ吸収してる。回復しようとしてんじゃねーよ」

「やっぱバケモンだな、くたばる気はサラサラないってか。まあ、考えようによってはチャンスだ」

「だな、ちょうど弱ってるし。決着はつけた方がいい」

 

 俺とゴルシの意見は合致する。

 

「「アイツはここで倒す!!」」

 

「ルォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 覇気の爆発!俺たちの意思を理解した獣が吠える、その度に超凶悪な覇気が衝撃となって洞窟中を揺らす。

 あれるぇーー?アイツ弱ってるんだよね?・・・倒せるんだよね?

 今のでナリタブライアン10人分ぐらいの覇気を感じたんですが・・・アカン。

 

「今の衝撃で通信が回復したわ!これでファイン家の別動隊に連絡できる」

「洞窟内には入っちゃだめ・・・信徒たちは外に出した・・・ここ私たちだけ」

「サフィと先輩たちは脱出してください。ガッちゃんにミオ、それとココを頼みます」

「ボス、いつまで呆けているんだ。さっさと退避しろ」

「・・・私・・・わた・・しは」

「戦えない奴は足手まといよ、邪魔者がいればそれだけ坊やたちの勝率が下がる」

「でも・・・」

 

 入口でもらったバリアジャケットを脱ぎ、震えるココに羽織わせる。

 母さんが言っていたな「女の子を元気づけられる男になりなさい」って。

 気の利いたことを言えるほどの学は持っていないが、やるだけやってみる。

 

「あ・・これ」

「お前、俺の匂いが好きだって言ってくれたな」

「うん、マサキの匂いはとっても落ち着くの」

「ちょっと早いけどそれ返すわ、好きなだけハスハスして元気出せ。さあ、みんな行ってくれ」

 

 紅い獣、ベーオウルフとルシファーが合体したものなので"ベーオルシファー"と呼称しよう。

 あいつは空気読んで・・・うん、ないね。

 俺たちを無視して二本の尻尾をアンテナのように広げ覇気を吸収中、あれが終わったらこっちに来る。

 

「ダメだよ、戦っちゃダメ!死んじゃうよ」

「ココ」

「もう嫌なの!あいつらに殺される人は見たくない、それがキミだなんて・・・私が好きになった人もだなんて絶対に嫌!」

「俺は死なない。クロとシロにまだ再会してない、アルダンとも話がしたい、母さんやシュウたち、今まで会った沢山の人たちと何度でもバカ騒ぎがしたい。だからこんな所で死ぬわけにはいかない」

「世界を滅ぼしたんだよ、無理だよ、勝てないよ・・・」

 

 この子は本当に多くの死を見てきたのだろう。

 戦友たちの死、世界の死、両親の死、自分自身の死、いっぱい泣いて傷ついてきたはずだ。

 その死の象徴が目の前にいる。戦意喪失して当然だ、ココを情けない奴だなんて誰にも言わせない。

 頭首としての重圧、生き残った者の使命、それに押しつぶされることなく今まで生きてくれた。

 精一杯頑張った、そして俺に出会ってくれた。

 自分ではなく"誰かが死んでしまう"ことを恐れて震えているこの優しい子を守らなくては。

 

「知ってるだろ?俺うまぴょい未経験なんだぜ、マジで死ねるか!」

「バカ・・・こんな時まで」

 

 それにな・・・

 

「お前が操者にしたい男は、あんなのに負けるようなダセェ奴か?」

「ダサくない、最高にカッコイイ男だよ」

「だよな~。大丈夫、ちゃっちゃと片付けるからな。だから怖がらなくていい、お前が真に怖がるべきなのはクロとシロが起きた時だぞ・・・ホントに今から胃が痛い」

「あはは、そうだね。うん、本当にその通り」

 

 顔を上げて立ち上がる、恐怖に震える心はもういない。

 我ながらチョロいチョロ過ぎる。

 好きな人にちょっと声をかけられた、それだけでもう負ける気がしない。

 返却されたジャケットに袖を通す。やっぱ大きい、そして彼の匂いがする。こいつぁたまらん。

 

「情けない所見せたね。もう大丈夫!私もやるよ、1stの生き残りとしてけじめをつけさせてもらう」

「ビビりインモーはいらねぇぞ、私とマサキのコンビだけ十分だ」

「口の利き方に気を付けろ、コンビなのは私とマサキだよ。給料現金じゃなくて中華麺で支給してやろうか」

「そいつは勘弁だボス。やる気になってなによりだ、そういう訳でいいかマサキ」

「ああ、俺たち三人でやるぞ」

 

 元気になったココ、最初からやる気のゴルシ、二人と拳を軽くぶつける。

 それが合図、俺の仕事はここからだ。

 回す、回す、覇気を回す。

 接続、回路形成、対象・・・はは、なんだよ・・・ゴルシもそうだがココ・・・相性バッチリじゃないの!

 

 粒子解放!二人の体から緑の粒子が溢れ出す。

 

「来た来た来たぁーーー!久しぶりだぜこの感じ!スーパーゴルシとは私のことよ」

「ああヤバ、これは本当に・・・こんなの味わったらもう、これでまだ契約してないなんて・・・」

「ココ、大丈夫か?最初だから少し抑えてるが」

「お、抑えてこれなんだ・・・はぁ、キミの前ではどんな操者も霞む、本当に見つけてよかった。私は間違ってなかった、キミこそが私たちのクローバー」

「ポエム?クローバーって何?」

「最上級の誉め言葉だよ!もう好きにして、契約して、うまぴょいして、子供は何人ほしいですか!」

「テンション高けぇなおいww」

「これぐらいでいい、上げていこう」

 

 もう少し馴染ますか、二人の騎神が俺の覇気を受け取り戦闘準備中。

 

「じゃあ私たちは行くわ、気張りなさいよ坊や。シュウ様によい報告させてよね」

「おう、助かったぜ、後は頼む」

「マサキ、師匠を助けてくれてありがとう。戻ったら昔みたいにケーキを焼いてあげるわ」

「ははは、砂糖の分量はレシピ通りでお願いします!ホントたのんますよ!」

「ありがと・・・サイはいい子を育てた・・・負けないで、勝ったら私を養わせてあげる」

「母さんや愛バがなんて言うか、その件は後日相談ということで」

 

 去って行く三人を見送る。

 あ、四人だったな。ミオ・・・達者でな。

 

「オオォ・・・アアアァァァァッ!!」

 

 準備完了ってか。

 

「直接対峙した経験者としての感想はどうだゴルシ?」

「かなり弱体化してる、生き物から直接覇気を吸収しない限り全盛期の力は出せねぇみたいだ」

「転移の負荷に加えて、無理な融合で神核もメチャクチャ。死にぞこない、ただのゾンビ、勝てない相手じゃないよ」

「さっき勝てないって言ってたよな」

「あれはその、ちょっと弱気になってたから、冷静な判断がですね」

「その辺にしといてやれゴルシ。今から俺たちで楽しい楽しい後片付けするんだからね!」

「へいへい、うっし、頼むぜソウルゲイン!因縁の相手だからな」

「お願いねアンジュルグ。いっぱい暴れちゃおう」

「デバイスかぁ、いいな~俺もほしいなぁ」

 

 世界を滅ぼした獣の残骸を相手にした戦闘が始まる。

 ココと組むのは初めてだが不安はない、ゴルシとの相性もいい。この二人は強い!

 どうか、応援していてくれよなクロ、シロ。

 

「ファイン家頭首"気ままなお嬢"ファインモーション」

「ファイン家、遊撃部隊長"破天荒"ゴールドシップ」

「えーと、愛バが増えそうでテンパってるアンドウマサキ」

「「何だそりゃww」」

「俺のこと笑える?級位を名乗れよ、それと二つ名今考えただろう!!」

 

 1stでは級位を名乗る文化がないらしい、しかも二つ名はその場の思いつきと勢いでOKらしい。

 それでいいのか?

 いいか、級位とか試験受けないともらえないし、そもそも試験受けてない奴もいっぱいいるし。

 

 とにかくやることは決まってる。

 ベーオルシファーを絶対に倒す。長旅ご苦労さん、ここがお前の墓場だ。

 

「オオオァァァッーーー!!!」

「「「かかってこいや!!!」」」

 

 




クロ「ジャケットずるい!」
シロ「羨ましくなんかないんだからね!」
アル「本当にいい匂いですよね、嗅いでると幸せ過ぎて・・・はぅ」
ココ「これはいいものだ、えへへ」

クロ「あー、あれってさあ」
シロ「知りません、あんなの知りませんってば」
アル「並行世界の自分ですか、ちょっとだけ興味あります」
ココ「キッチリとどめ刺すぞーーー!おーーー!!」

クロシロ「コイツにトドメ刺されるの嫌だな」
アル「どうせならマサキさんにやってほしいです」
ココ「そうだね「お前を殺す」ってイケメンボイスで囁いてほしい~」

クロシロアル「すっげぇわかる」


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くろまく

 なんということでしょう。

 ゲートから1stを滅ぼした紅い獣が出て来た。

 合体してるけど弱っているぞ。

 今がチャンス!てなわけで、破壊獣ベーオルシファーに挑む。

 

 

「出し惜しみは無しだ!」

 

 先手必勝、オルゴンブラスター(口から怪光線)を吐き出す。

 ゴルシとココも続く。

 

「こいつもだ!青龍鱗」

「行って!シャドウランサー!」

 

 俺のブラスターとゴルシが飛ばした青いエネルギー波が同時に着弾する。

 その直後にココが手甲から放った矢じり状の弾丸が追い打ちをかける。

 

「・・・・アァァ」

 

 相手の損傷は軽微、巨大化した爪付きの腕で一応ガードしたようだ。

 今のは戦闘開始の合図だ。気にせずに攻める。

 

「この切っ先、触れれば斬れるぞ!」

「それ伸びるの!」

 

 ゴルシが手甲に装着されたブレードを伸ばしベーオルシファーに飛びかかる。

 おわ!?分身した?質量を持った残像ですか。理屈はわからないが高度なテクだ。

 

「ゴルシが五人、ウザさも五倍だな」

「言ってる場合か!早よ援護しろ」

「注意して、このまま黙ってるとは思えないよ」

 

 分身を繰り出し包囲しながら斬撃を見舞う。紅い結晶で構成された体に傷が増えていく。

 相手は最初から消耗している、このまま削っていけば倒せるはずだが。

 

 ビキビキと嫌な音を立てベーオルシファーの尻尾に変化が起こる。

 無数の紅い棘が尻尾の表面にビッシリと生え揃った。

 それをどうする気だ?ああなるほど、射出するのね。

 

「アアアァァァーーーー!」

「うへぇ」

「あらら、数が多すぎる」

「防御は俺が、オルゴンクラウド!防いでみせろや!」

 

 全方位に飛び散る紅い結晶体の棘。

 ゴルシは上手いこと叩き落した、ココと俺に向かって飛んで来たヤツはオルゴンクラウドで防ぐ。

 危ねぇ、通常の覇気ガードでは大ダメージになるところだ。

 一回では終わらす気はないらしい、尻尾が次弾を生やそうとして、そこへ間髪入れずに光の矢が突き刺ささる。

 光の矢が爆発、結晶弾の生成を妨害する。

 防御を俺に任せたココが弓矢による射撃を行った結果だ。

 

「ルオォォォ」

「幻影の矢、もっと味合わせてあげる。さあ、どんどんいくよ」

「ナイスアシストだボス、右は任せな」

「じゃあ俺は左を」

 

 覇気の循環でリンク状態となった恩恵はでかい。

 一つ、俺の覇気を常に補給してやれる(ステータスアップと回復を含む)。

 二つ、仲間の思考と次の行動が大まかに読めること。

 これが連携攻撃には持ってこいなんですよ、援護動作が淀みなく行えるからね。

 

 ココはイリュージョンアローを連射して相手の射撃を阻止。

 ゴルシがカギ爪と斬撃合戦を始める。

 ちょっとでも隙を見せたら・・・俺がそこを狙う!

 

「腹が・・がら空きじゃぁぁ!!」

 

 結晶体を纏った五指をベーオルシファーの腹に叩き込んでやろうとしたが、三本の尻尾が邪魔をする。

 攻撃にも防御にも使える。こういう隠し腕的みたいな武器は個人的に大好き。

 数が三本でよかった、過去記録のルシファーは5本の尻尾がそれぞれ違う動き可能としていた。

 もしかしたらもっと本数を増やせるのかもしれない、恐ろしい。

 あんなのやられたら対処しきれない。

 

「悪いな、一本もらうぜ!」

「!?」

 

 一番動きの悪い一本を強引に掴んで引きちぎる。

 

「とったどぉーーー!」

「バカ!素手で無暗に触るな」

「へ?」

 

 ゴルシの忠告は遅かった。

 紅い尻尾から結晶体が膨れ上がるように生成される、その結晶体が掴んだこちらの腕を飲み込もうと浸食を開始。紅い結晶が俺の手から腕を伝って全身に広がろうとする。

 な、なんじゃこりゃぁーー!

 

「ビ、ビックリさせんなや!」

 

 紅い結晶の浸食を俺のオルゴナイトで打消し逆に飲み込む。

 緑の結晶が勝ったぞ!そのまま尻尾の残骸もオルゴナイトで上書きした後、霧散させる。

 

「何今の怖い、俺のこと食おうとしたぞ」

「お前の方が怖いわ!やり返した上に勝つか普通」

「やっぱりマサキなら平気だったね。逆に食べちゃうのは予想外だったけど」

「説明おなしゃす」

「奴の得意技だ。触れたものを浸食、同化して自分の餌にする」

「マジか!」

「生物や機械のコントロールを奪って手駒にしたりとかもできたはず。アレめっちゃ厄介なんだよ!」

「100人規模のPT部隊を丸ごと奴に乗っ取られたこともあったな。あの時はマジ絶望した」

「素手がNGなら先に教えとけよ」

「一般兵は接近戦そのものがアウトだったよ。浸食防止ぐコーティングが施されているデバイス持ち以外は、発見したら即時撤退、遠距離のサポートに専念するってマニュアルがあったぐらい」

「俺は自分が出せるの結晶体、オルゴナイト(緑)がなんとかしてくれるから平気なのね」

「さっきちょっと触ったけど私も平気だったぞ」

「なにしてんの!・・・でもそっか、マサキとリンク状態にある私たちにも浸食耐性ができているんだ」

 

 俺のパッシブスキル有用でした。

 

「オオオオオオォォオォォ」

「うわーキレてるキレてる。マサキ、お前完全にロックオンされたぞ」

「ベーオルシファーにとって、マサキは最悪の抗体になるわけだから仕方ないね」

「一直線に向かって来た!?うわっとと」

 

 カギ爪、尻尾、足技、結晶射撃と連撃の全てがこっちに来る。

 俺に集中した?・・・コイツ・・・もうココとゴルシを眼中に入れてない。

 それでいい、狙ってこい。

 

「私のことはガン無視かよ。つれないな、1stで散々殺し合った仲だろう」

「オオォ」

「お前もマサキにゾッコンか、そういう所はソックリなんだな」

「ゴルシ!いらんこと言うな」

「おっと口が滑った。諦めな、マサキにはもう運命の相手がいるんだ」

「私は諦めないよっ!」

「バカこっちに矢を飛ばすな!あれだ・・うちのボスやメジロのお嬢もいるし、お前はいらないってよぉ!」

「あえて言おう、お前の席ねぇからぁ!」

「オォォォオォ」

 

 俺に注意し過ぎた所をゴルシが果敢に攻め上げる。

 俺の愛バと一緒にすんな・・・クロとシロには、こんな悲しい奴になってほしくないんだ。

 会話になってない独り言を続けながらベーオルシファーの体を蹴り上げる。

 ゴルシの意図を理解した俺も同じ動き、二人分の力が乗った蹴り上げを食らい宙に浮く異形の体。

 

「その隙は見逃さない!」

 

 空中に浮いたベーオルシファーに横なぎの斬撃を見舞うココ。

 弓矢による援護射撃の後、タイミングを合わせてジャンプしていた。

 跳躍力の高さもウマ娘の特徴、騎神ともなればそのジャンプは髭面の配管工にも引けを取らない。

 覇気で出来た光の剣が鮮やかな軌跡を描く、う、うつくしい。

 残っていた二本の尻尾を切断することに成功。

 ココは剣技もそれなりに使えるようだ、なんとも頼もしいね。

 

「こいつもくれてやる!」

 

 尻尾を失ってバランスを崩した所にさらなる追撃。

 ココと入れ替わりに飛び上がったゴルシが分身による連続攻撃。

 結晶の体を切り刻み、ラストに渾身の力を込めた打ち下ろしの斬撃。

 

「舞朱雀っ!!」

「オアアアァァァァァァ!!」

「「ヒューー!決まったぁーーー!!」」

 

 ベーオルシファーの右腕を根元からぶった斬った。

 着地姿勢を取ることもできずそのまま落下する。

 祭壇に置かれたオブジェ(謎の髑髏と怪しい液体?)を複数巻き込んで土煙が舞い、轟音が響く。

 それを見届けた後、華麗に着地した二人と喜びのハイタッチ。

 

「イエーイ!やってやったぜ!」

「今のいいんじゃない、さすがに効いたんじゃない、俺たちいけるんじゃない」

「私たち・・・本当に勝っちゃう。お願いだからフラグ立てないでよ二人とも!」

「「やったか!?」」

「やめろって言ってるだろ!ああもう」

「念入りな追撃をしておこう、オルゴンブラスタァァーーーー!!」

「エグい!」

「慎重なマサキも大好きだよ」

 

 土煙が晴れる前に口からビーム。

 覇気の反応が消えていない、奴はまだ生きている。

 三発目を撃とうとする前にそこから飛び出してくる紅い結晶体の獣。

 右腕と尻尾を失い、全身が崩れ去ろうとしている。まだやるか・・・

 

「オオォ・・・・ァァ」

「滅びよ!不届きものめが!」

「「「なんだと!!」」」

 

 ここで乱入だと!

 なんと、今まで姿を隠していたワカメことルオゾールがベーオルシファーの背後から攻撃を仕掛けたではありませんか。

 ちょいちょいちょい!おっさんなにしとんねん!

 

「貴様のせいで、1stの民がどれだけ苦しんだと思っている!ヴォルクルス様に代わって私が天罰を下し・・」

「アアアアアァァァァァッッッ!!」

「ぶへっ!」

「ルオゾール君ふっとばされたぁーーー!」

「何しに出て来たんだアレ」

 

 心なしか俺たちに向ける敵意以上の怒りでワカメを薙ぎ払ったように見えた。

 鬱陶しいから仕方ないね。

 おや、ワカメがすぐに立ち上がったぞ。思ったよりしぶとい。

 

「ベーオウルフ、ルシファー、貴様らの打倒こそが我が悲願・・・そのために私はヴォルクルス様を・・」

「フラフラじゃねーか、おいワカメ!あぶねぇぞ!」

「ほっとけ!ワカメが気を引いているうちにトドメをさすぞ」

 

 ベーオルシファー、略してベオルがワカメの方を向く、あらやだ嫌な予感。

 アレやばくね。

 俺の考えは合っていた、ベオルは目標をワカメに変更して・・・加速した!

 ちょ早っ!あの崩れた体でまだあれだけのスピードが出せるのかよ。

 

「オオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「私が死んでも代わりはいるものぉぉぉ!」

 

 なぜ綾波レイのセリフを言ったのだろう?

 似合ってない上にキモイからやめてほしい!

 ベオルは苦肉の策としてワカメを食べることにしたようだ。 

 そのワカメ多分マズイよ、微量回復と同時に状態異常"毒"になりそうだけど大丈夫?

 ゴルシもココも動かない、というか捕食中に生まれる隙を待ってらっしゃる。

 非情非情ぅぅぅ!

 ええい・・・ちくしょうめーー!!

 

「そんなもの食べちゃいけません!」

「ガアアァァァ」

「なんと」

「「ええーー」」

 

 お食事妨害御免!ベオルの背中にドロップキック!

 ゴルシとココが不満そうな声を上げる。だまらっしゃい!

 不意を突かれたベオルは残った左腕と足のの爪で地面を削りながらブレーキング、体の構造が既存の生物とは違うのか骨折や負荷を気にしない無茶な動き、己の体が崩壊することもいとわない。

 体制を立て直し、踏み込みの一歩目から尋常ではない加速で俺とワカメの方へ突っ込んで来る。

 

「ああああ!もうやけくそだ!」

「え・・・な・・何を」

「「は?」」

「ウォアアアァァァーーー!」

 

 俺の行動に目が点になる仲間たち、そしてワカメもポカンとしてる。

 やりたくなかったよ!

 

「「お、お姫様抱っこしたぁ!!」」

「仕方ないだろうが!このワカメを食われたらベオルが回復するんだから、とりあえず助けただけ!俺だってなあ!こんなおっさんになんで・・・クロ、シロごめん俺汚れちゃった(´Д⊂グスン」

「何をやっているのです/////私まで攻略なさるおつもりか////わ、割といいかも・・フフ」

「頬を染めるなぁ!!」

「どんだけお人好しなんだかw」

「そ、そんな・・・マサキの守備範囲がわかんないよ。おっさんにお姫様抱っこするなんて・・・」

「ボス、ショックなのはわかるが、マサキがこっちに来るまで援護だ」

「あいつが全部悪い・・・ワカメコロスワカメコロスワカメコロス」

「ダメだこりゃ」

 

 ここで豆知識。

 ウマ娘と結婚した男性は結婚式で花嫁にお姫様抱っこしてもらうのがこの世界の定番。

 力関係が一目瞭然でわかりやすい幸せ夫婦誕生の瞬間です。

 もういっその事、お姫様じゃなくて"王子様抱っこ"という名称にすればいいと思う。

抱っこマイスターの俺はするのもされるのも好き。

 体の小さいクロとシロは俺の上半身と下半身を二人で仲良く持って移動したこともあったな・・・途中でケンカして綱引き始めた時は焦ったぜ。

 「はらわたをブチまけちゃうからやめてぇーー!」て叫んだらやっとやめてくれたな。

 

 お姫様抱っこにはね、なんていうか夢があるんですよ。

 それをおっさんにやってしまったわけで・・・人工呼吸よりマシだったと思うことにしよう。

 

 ワカメを抱えたまま追ってくるベオルから逃げ回る。

 一応ここは地下なんだよな、天井の高い広大な空間は鬼ごっこにも対応してます。

 結晶の棘、振り下ろされる爪、裂けた口の牙、驚異的なスピードとパワーでこっちを狙ってくる。

 地面、壁、柱を縦横無尽に蹴り上げながらの超高速移動の応酬。

 バスカーモードとアクセルの組み合わせが途切れた瞬間に捕まってしまうぞ。

 

「手頃な餌に目が眩んでる、そんなに食いたいかコレ?」

「コレですが何か?すぐ後ろに迫ってますぞ、さあ!もっと速く走るのです」

「調子にのんな!投げ捨てるぞ。おい、自慢のバリヤはどうした」

「あなたの結晶体と同様ですな、奴の攻撃は私のアストラルシフトを貫通します」

「同じ結晶ね・・・」

「私が食べられてしまってはせっかく与えたダメージが完全回復!絶体絶命になってしまう。そうならないように鋭意努力するのです」

「ホントに回復するか試してみるか、ワンチャン食中毒でスリップダメージが入るかも・・・」

「おやめください、死んでしまします!」

 

 ワカメが偉そうなのでやる気が出ない、あえて食べさせてみるのもアリかもしれない。

 ベオルの紅い結晶と俺の緑の結晶・・・どんな関係があるか考えるのは後回しだ。

 俺とリンク中のゴルシとココも捕食対象外になっている。

 今の所、唯一の回復手段のワカメを俺が持って逃げているから追ってくるわけね。

 

「なぜ外に出て食事をしないんだ、知性ないの?バカなの?」

「おそらく限界が近いのですよ、外で適当な人間を捕食する時間すら奴には惜しい。それにあなたがいる」

「俺から目を離したくないってか」

「理由は不明ですが、最初から奴はあなたを見ている。何か因縁がおありですかな」

「まあそれなりにな・・・要するにこのまま逃げ回っていれば」

「奴の体は崩壊し世界の危機は去るでしょう・・・これは!?アンドウマサキ、ゲートが!」

「はい?え・・・どういうこと」

 

 ベーオルシファーが出て来たゲートがもう一度輝きだす。

 待て何をしている・・・ああもう勘弁してくれ。

 

 ゲートに残っている大量の覇気がベーオルシファーに補給されていくだとぉ!!

 

「お前何をやらかしたワカメ!」

「私ではありませ・・・まさか・・・この会場に"あの御方"が」

「黒幕の仕業かい!どこだどこに」

「マサキ!こっちに一旦戻って来い」

「ワカメは捨てていいよ」

「不法投棄は感心しませんな!」

「きゃーー!ワカメがしがみついて激しく不快」

 

 ベーオルシファーが動きを止め、ゲートからのエネルギー補給を受ける。

 崩れかけた体がみるみる修復していく。

 ここで回復するんかい!強敵の超回復ってホント嫌い。

 我慢してワカメを助けた意味がこれで消失した、無駄な努力ご苦労様~てHU☆ZA☆KEN☆NA!

 

 よけいな海産物と一緒にココたちと合流。

 ワカメを降ろしてやっと不快な抱っこから解放される。

 

「ご苦労様でした。次の機会があれば是非またよろしくお願いします」

「次はない!もう絶対やらない」

「フフフ、嫌よ嫌よも好きの内ですぞ」

「ごるぁ!くそワカメ!お前マジでふざっけんな!やってくれてなボケ!私の男から離れろ、消し飛ばすぞ!」

「おお、怖い怖いw」

 

 怒りと嫉妬でチンピラと化したココがワカメに乱暴な蹴りをお見舞いする。

 それをヒョイと躱したワカメの不敵な笑みが余計にココを煽る。

 これが御三家頭首の成れの果てです・・・いや、メジロとサトノも似たようなもんか。

 俺に向き直ったココは正面から俺をハグする。

 

「かわいそうなマサキ、今すぐ浄化してあげるね!」

「うわぁい、熱烈なハグとマーキングだ。まだ戦闘中なのわかってる?」

「おぼぇ・・・ワカメ臭せぇ、人の男になんてことを・・・絶対ゆるさん」

「え、俺ワカメ臭いの。いやぁぁぁーーー!愛バたちに嫌われるのいやぁぁぁーーー!」

「誠に失礼ですな、私のダンディなスメルを理解しないとは」

「それただの加齢臭じゃね」

「安心してマサキ!私がなんとか匂いの上書きを・・・おぇ」

「無理すんなココ、お前ゲロ吐きそうな顔してるぞ。お願い吐かないで!ゲロ臭も追加とか嫌よ!」

「原料ラーメンのゲロか、なかなか破壊力高そうw」

「ふむ。ファイン家では想い人にゲロをぶっかける習慣があると、異常者のそれですな」

「そんなわけあるか!うぇっぷ・・・誰かファブリーズ持ってきて」

「市販の消臭剤にヘルプするほど臭いのか?もういいよココ、後でファブっとくから・・・(´Д⊂グスン」

「守れなかった・・・ごめん、ごめんねマサキ」

「そんなことより、アレを放置していてよいのですか」

 

 ワカメ臭でパニックになってる場合じゃなかった。

 理由は不明だが、再起動したゲートがベーオルシファーにエネルギー補給をしている。

 くそ、もう腕と尻尾が再生しかけてる。

 

「オルゴンクラウド最大展開!好き勝手にはやらせん!」

 

 指向性をもった覇気の粒子群がゲートに殺到する。

 瞬く間にゲートを埋め尽くしたそれは結晶化を開始、緑の結晶ドーナツが出来上りゲートの動きを止める。

 これでよし、回復妨害してやったりだ。

 

「ゲート全体を結晶で包み込み動きを封じましたか、器用なものですな」

「もう驚くのも飽きてきたがホントとんでもねぇ奴だ」

「やだ、私の操者(ほぼ確定)凄すぎ。惚れてまうやろーー!あ、とっくの昔に惚れてたよ」

「二人とも、こんどこそ決着をつけるぞ」

「了解、おいワカメ邪魔だからどっか行け」

「今日の所は見逃してあげる。早く消え失せてね」

「それはできない相談ですな、あ奴には散々辛酸を舐めさせられたものでして」

「は?私たちと共闘する気、厚顔無恥も甚だしいんだけど」

「判断は一応恩人であるマサキに任せます。いかがですかな?」

「敵の敵は味方ってか・・・いいぜ、協力してもらおう」

「ええーマサキ本気なの」

「妙なマネをしたらココが地獄の折檻をすればいい、その時は誰も止めない」

「わかったよ・・・今だけだからねくそワカメ。勘違いしないでよ」

「ルオゾールですぞ。まったく、あなたを頭首として推薦したのは大きな誤りでしたよ」

 

 渋々といった感じでワカメの協力を認めたココ。

 今は猫というかワカメの手も借りたい状況なのは理解しているだろうからな。

 この二人、もしかして昔は仲がよかったのかな。

 

「オオオオオオオォォォーーーー!!」

 

 バキバキと音を立ながら紅い結晶体が膨れ上がる。

 ふぁ!?何?フォームチェンジですか。再生した箇所だけでなく全身が変化した。

 尻尾は一本になったが肥大化している。毛が生えていたらさぞやモフモフだったろうに。

 腕の爪はダウンサイジングして軽量化、逆に足の爪がでっかくなっちゃた。

 頭部から長くて細い結晶状のものが生えている、髪の毛?ロングヘアになったな。

 眼光は更に鋭くなったように感じる。

 こちらを、俺を見ている・・・最初からずっと。

 

「なーんかスリムになったな、ダイエット成功か」

「元々の形状に近づいた?騎神だった頃の意識はないはずだけど」

 

 紅い眼差しを正面から受け止める。

 この勝負、長くびかせるつもりはない。一気に決める。

 

「ゴルシとココは大技の準備しとけ、ワカメは適当にやって」

「おうよ」

「うん」

「適当にいたします」

 

 フッーー・・・深呼吸。

 力を籠める、拳を握り、踏み込む最初の一歩に全神経を集中させる。

 3・・・2・・・1・・・ゼロだ!

 

「来い!ベーオルシファー!!」

「アアアァァァーーー!!」

 

 正面からの激突、相手の懐に飛び込んだのはほぼ同時。

 オルゴナイトで固めた拳を思いっきり奴の顔面に叩きつける。

 

「ぐがぁ」

「オオ」

 

 顔に強烈な衝撃、痛さよりも揺れる視界と脳が心配。

 奴も同じこと考えていた場合こうなりますよね。

 クロスカウンター、クリティカルヒットしたは両者の拳、互いの頬に見事に刺さってます。

 

「ダブルノックアウト!?」

「い、痛そう」

 

 この程度で俺も奴も倒れねえよ。

 

「ここからだよなぁ!」

「ガアアァァ」

 

 開始される殴り合い、命を削り合う死の舞踏。

 細身の体からは信じられない威力の攻撃が飛んでくる。

 早い、そして鋭い。正攻法で正面から相手をねじ伏せに来ている。

 ああ、この攻撃はあの子が好きそうなスタイルだ。

 綺麗な黒髪、赤い瞳、俺に全力で擦り寄ってくる姿を思い出す。

 

「それがどうした!」

 

 相手の拳をいなし、がら空きの顎に頭突きをかましてやる。

 俺の石頭は今じゃ覇気とオルゴナイトの硬度も合わさってる、痛かろうな。

 それから~ヤクザキックを食らいなさい!

 

「アア」

「跳んだ!?」

 

 ヤクザキック不発。

 回避した直後に尻尾をビタンッと地面に叩きつけ大跳躍した。

 牙の並んだ口が開かれ、そこから発射されるのは赤い怪光線。

 

「ブラスターきた!」

 

 一直線に迫る光線を横飛びで回避。

 ブラスターの勢いは止まらず、ココたちいる方向へ向かう。

 リンクはまだ継続中、こっちは構うなと仲間の覇気が言っている。

 

「「ワカメバリヤー!!」」

「ぬおお、この私を盾にするとは!いいでしょう、防いでみせましょうぞ!」

 

 なんか大丈夫そうなのベーオルシファーに集中しよう。

 

「行けっ!結晶の拳」

 

 光線を吐き切った所に、オルゴナイトで両手に形成した杭を二発ぶっ放す。

 フィンガークリーブの応用、射撃は苦手だけどこういうロケットパンチ風の技なら俺に合ってる。

 ダメか、二発とも蹴散らされた。威力も飛距離も足らない、飛び道具下手くそすぎて泣ける。

 空中にいたベオルは尻尾と背中から覇気を噴出、加速したまま俺の背後に着地。

 振り向こうとする俺の頭にカギ爪を伸ばした回し蹴りが襲う。

 防ぐ?いや待てこれは・・・

 

「ひょわっ!あっぶ!」

 

 回し蹴りに合わせて尻尾の攻撃も含まれていやがった。

 髪の毛を掠める赤い刃に冷や汗が止まらない。

 尻尾の結晶を大鎌状に変形させ、蹴りから僅かに遅れて振りかぶる二段構えの攻撃。

 もし回避でなはく防御を選んでいたら今頃首チョンパでしたわ。

 無理な避け方で首がグキッってなったのを気にする暇もなく、転げるようにその場から逃げる。

 物言わぬ紅い眼が笑ったような気がした。

 

「伸び、え、長っ!」

 

 尻尾が追撃をかける。

 伸びた尻尾の先端は鋭利な矢じり状になっている。

 俺の体を貫くには十分すぎる大きさの尻尾。

 伸縮距離には限界があるはず、それに長く伸ばした状態で精密な動きはそうできない。

 などと楽観視していた自分が悪い。

 

「危ないマサキ!」

「は、いいっ!」

 

 クパァという擬音が聞こえそう。こちらに届く寸前、鎌首をもたげた尻尾が先端から五つに枝分かれした!?

 いきなりのことで面喰ってしまう。最初から五本だった、だからその大きさと太さだったのかよ。

 五分割された尻尾はそれぞれが俺の頭部と四肢を貫こうとする。

 

「ぐぎぎ」

「ああ、よかった」

「今のは危なかったぞ、油断すんなロリ!」

 

 ココが声をかけてくれなかったら危なかった。

 ピンポイントバリヤの要領で尻尾が狙っている体の四箇所にオルゴナイトを形成。

 手足はなんとか守られた、顔に迫る最後の一本は・・・これしかない。

 

「歯で受け止めましたか、野蛮ですな~」

「ワイルドで素敵なんだよ!腐れワカメにはわからんのですよ!」

「お前ホント、マサキが大好きなんだな」

 

 ぐぁ・・・口の中切れた。

 歯で受け止めた先端を嚙み砕いてペッと吐きだ出す。

 一本に戻ろうと引っ込む尻尾をむんずと掴む。

 待てコラ逃がすわけねぇだろ!

 

「お前の浸食は俺には効かない、じゃあ、俺の浸食はどうかなっ!」

「オオオ!?」

 

 出力を上げる!

 緑の結晶体がベーオルシファーの尻尾を埋め尽くし、本体へと駆け上がる。

 これにはさすがの奴も驚いたようだ。

 どうする?このまま結晶で全身を・・・何?

 躊躇なく尻尾を切り離した。

 それだけじゃなく、切り離された尻尾が結晶体に浸食されつつも俺に巻き付いて来る。

 そこへ本体からブラスターが撃ち込まれ。

 爆発する。部屋全体を揺るがす大爆発!その中心にいた俺は意識が飛びそうになる。

 「うわあああ」とか「ぎゃあああ」とか叫べないもんだな。

 絶叫できるってまだ余裕あると思う今日この頃。

 

「痛、うあ・・・くそ・・が」

 

 今のは効いた、ブラスターはともかく、巻き付いた尻尾が自爆するとは思わんかった。

 全身にくっついた複数の小型爆弾を一斉起爆されたも同然の衝撃。

 ノーダメージとはいかない、オルゴンクラウドが使えなければ今ので終わってた。

 体は痛いけどまだ大丈夫、服は・・・凄いな、ちょこっと焦げているだけ。

 ファイン家の戦闘服もいい仕事していますね。

 

「生きてんのか!」

「し、死んじゃったかと思った」

「うむ。どちらも化物ですな」

 

 ゴルシ、ココ、こっちはいいから溜めてろ!

 

 ベーオルシファーが突っ込んで来る。

 尻尾の再生はまだ時間がかかりそうだ、奴の武器を減らせたと思うことにしよう。

 フィンガークリーブで迎え撃つことにする。

 奴は両手を刃に形状変化、紅いブレードによる斬撃をチョイスしたようだ。

 

 先程の尻尾を使った攻撃。

 相手の意表を突くことを楽しむかのような、工夫と罠を巡らせた嫌らしさ・・・。

 もうわかった、これアレだ、あの子の趣味だ。

 長い亜麻色の髪、琥珀色の瞳、普段アレな癖にどこか遠慮がちに擦り寄ってくる姿を思い出す。

 

「そりゃ苦戦するわ、二対一だし」

 

 契約前、コンテナだらけの埠頭で初めて戦った二人の愛バ。

 それを凶悪に魔改造して合体させたヤツが目の前の敵だ。

 結晶の刃と結晶の拳が火花を散らす。一進一退の攻防が続く。

 

 なあ、一体何がお前たちをそうさせたんだ?

 

 覇気からは敵意以外の感情は読み取れない。

 本当にそうか?もう手遅れだと諦めているだけじゃないのか。

 俺は・・・

 戦闘中に意識を逸らすなど愚の骨頂、わかってはいるんだが。

 

「くぉらぁ!マサキ!!」

 

 俺の意識に喝を入れる声が響く、ココだ。

 

「勝つんでしょ!勝って、キタサトちゃんに会いに行くんでしょ!」

 

 そうだ、そのために頑張って来たんだ。

 

「キミの愛バは誰?キタサトアルと私、ココを含めての四人でしょうがぁ!!」

 

 お前はまだ愛バ未満じゃい。アルダンも仮契約だよね。

 

「そいつは、ベーオルシファーは1stの残骸でしかない。もうどこにもいないんだよ、別世界の彼女たちは!」

 

 わかってる、わかってるから。

 

「お願い戦って!私たちで終わらせてあげないとダメなんだよ!!」

 

 ああ・・・そうだな。

 

 下手な優しさは時として邪魔でしかない。今は集中しよう。

 ベーオルシファーの真意を探るのは勝利してからだ。

 

 ベーオルシファーのブレードを止める。

 

「そんな鈍らで俺が切れるかぁぁ!」

「アアァ」

 

 折る!砕く!破壊する!緑の結晶は紅い結晶を凌駕する。

 両手を失うベーオルシファー、再生は始まらない。

 緑の結晶が傷口そのものを覆っているからだ。

 再生持ちは本気でウザいから潰させてもらった、思い付きでやったが上手くいった。

 戦意はまだ失っていない、残った両足から繰り出される蹴りと、むき出しの牙で噛みつこうとしてくる。

 往生際が悪い、次は足をもらう!

 カギ爪ごと踏みつぶす、再生防止のため結晶をプレゼントするのも忘れない。

 奴の口に覇気が集まるのを感じる。この距離でブラスターか無茶すんな。

 ・・・ここだ。

 発射される寸前、下から上に向けて掌底を放つ。

 頭突きしたときも思ったが、顎が弱いぞ。

 ブラスターの暴発、強制的に上を向かされたベーオルシファーの光線は天井を削り爆発する。

 おいおい、ここ地下だぞ。崩落とかしないよな。

 

「アガ・・ァァ!?」

「終わりにしよう。うあああああああああああああ!!」

 

 フィンガークリーブを体に突き立てる。

 俺の指が奴の首と胴体に深く食い込み、傷口に再生防止のオルゴナイトで固める。

 踏ん張りは効かない、奴の体が浮く。

 持ち上げた体を無造作にそれでいて力いっぱい投げる。

 

「そりゃぁぁぁ!!」

 

 当てずっぽうに投げたわけじゃないぞ。

 悪いなベーオルシファー。こっちは四人がかりなんだわ!

 投げ飛ばした先にいるのはニヤケ面のワカメおじさん。

 

「私の出番ですな、さあ地獄を見せて差し上げましょう」

 

 ワカメが禍々しい長剣を構えている。どこから出した?

 飛んできたベーオルシファーに突き立てることに成功、あいつ俺がつけた傷口を狙ったな。

 腹立つが優秀なワカメ、立ち上がろうとするベオルの攻撃を避け背後に回る。

 今の何?透明化したように見えたけど?アレもアストラルシフトの応用なの?キモイ!

 そのまま指揮者のように指を動かすと、突き立った長剣が自在に動き回りダメージを与えていく。

 

「オオオウォォ」

「はっはっは、プラグマティックブレードのお味はいかがですかな。今の私すごく輝いてますな!」

 

 結構な有効打であるのは認めるが・・・なんか腹立つ。

 

 (マサキ、準備できたよ)

 (よっしゃ、やれココ!)

 

「リミット解除・・・コード・ファントムフェニックス!!」

 

 ココの武装である弓矢、両端のリム部分から覇気の粒子が迸る。

 存分にチャージされ、矢に込められた覇気は今までの比ではない。

 一瞬だが、ココの背中に天使の翼を幻視する。

 俺とココの混ざり合った覇気が彼女の背から漏れ出ているからだ。

 ファントムフェニックス、必殺の掛け声と共に発射された矢はその名の通り炎の不死鳥を形どる。

 どういう理屈でそうなったかって?知らん!感じろ。

 不死鳥は真っ直ぐ標的に向かい衝突する。

 その威力はご覧の通り、ベーオルシファーを中心に極太の火柱が立ち上り焼き尽くす。

 

 ワカメごと。

 

「ぬぉぉぉぉぉ!?」

「オアアァァァァァァァ!」

 

 満足気な表情のココ、一仕事やりきった達成感が溢れてる。

 

「焼きワカメじゃ!ざまぁwwそのまま奴と燃え尽きてしまえ」

「ふぅ・・・死ぬかと思いました。予定では私が退避した後に発射でしたよね?」

「チッ、なんで生きてんのかな!」

「やれやれ、透過しての移動は疲れるのですよ。私、少し休みますね」

 

 髪の毛ちょっと焦げとるやないかい!

 さすがに疲れたらしい、コゲワカメは「どっこいしよっ」と言って腰を下ろした。

 お疲れ~もうずっと寝てていいぞ。

 

「ォォォオオオオ」

 

 あれだけの炎に焼かれてもベーオルシファーはまだ動く。

 でも大分効いてるよな。

 

 (さあ、頼んだぜ。バッチリ決めろ!)

 (ありがとな・・・1st全てを代表して礼を言う)

 (らしくねぇぞ、存分にやってしまえ!!)

 (任せな!)

 

 リンクとアイコンタクトによる会話は超便利。

 

「ばあちゃん、みんなも・・・見ててくれよな!!」

「久しぶりに見られるね、楽しみだな~ゴルシちゃんの麒麟」

「リミット解除!」

 

 こちらもたっぷりチャージ完了、打ち合わせた両拳に青い覇気が集中する。

 

「そらっ行け!」

 

 飛び上がったゴルシはそこから無数の覇気弾を眼下のベーオルシファーにお見舞いする。

 一発一発が高威力の散弾!逃れる術はなく敵に殺到する。

 立ち上る黒い爆煙、そこへ突撃するゴルシ。

 

「でやぁ!」

 

 視界不良の中でゴルシの声と打撃音が響く、煙の中からベーオルシファーが飛び出して、いや、殴り飛ばされて来た。追いかけるゴルシ、もはや逃走など許さない。

 

「せい!」

「でやああ!」

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

 ゴルシは止まらない。拳、肘、蹴り、突き、その他諸々。

 因縁の相手に対し万感の思いを込めて激しいラッシュを繰り出す。

 あれだ、ジョジョのオラオラオラだよ。全身ボッコボコやぞ。

 

 家族、戦友、故郷を奪った相手に対する怒りと憎しみ、今ここで晴らす!

 俺にできるのはその手助けだけだ。

 覇気ならいくらでも回してやる、だから行け!ゴールドシップ!

 

「コード麒麟!」

 

 デバイス、ソウルゲインにある球体の色が赤に変わる。

 両肘を後ろに突き出す構え、腕に装備されたブレードに全エネルギーが集中する。

 

「ベーオウルフ!ルシファー!この一撃で決める!」

「やれ!」

「やっちゃえ!」

「やってしまいなさい!」

 

 突貫!

 ここまでのコンボによるダメージがベーオルシファーに防御の構えすらとらせない。

 

「でぃぃぃやっ!!!」

 

 勝敗は一瞬で決した。

 左、右と振るわれた絶対破壊の力を込めたブレード。

 全身全霊の一撃がベーオルシファーを下から上、縦方向に両断する。

 

「!?アァ!?オァァァァァッァァ!?」

 

 ぶつかり合ったエネルギーの奔流が大爆発を引き起こす。

 地面に手をついて着地するゴルシ。

 目をつむり肩で息をしている。そして背後で爆発を上げる宿敵に別れを告げる。

 

「失せろ、この世界・・・いや、全ての世界からな」

 

 憑き物が落ちたような顔で立ち会がるゴルシ。

 そこへココが駆け寄って行き飛びつく。

 

「やった!やったよ!やりおったなこんちくしょーーめ!」

「いだだだ、おいボスやめ・・・大技の反動で即効性の筋肉痛がぁぁぁ」

「特別ボーナス支給しちゃう!何がいいかな」

「有給休暇をくれ、三年ぐらい」

「そのまま放浪の旅に出そうだから却下。ラーメンならおごってあげる」

「またラーメンかよ。まあ、それでもいいや」

 

 嬉しそうにじゃれ合う二人を見てホッコリ。

 だがまだやることがあるんだ、これがな。

 爆発の中から力なく落下した者がいる。

 そいつは崩壊寸前の体と引きずりながら、ズズッ・・・ズズッ・・・悲しいほどゆっくりと俺の方へ。

 両断された体を無理やり再生させ辛うじて動けるようにしたのだろう、小さな子供ぐらいのサイズになった人型が二体確認できる。

 紅い結晶体でできた怪物が二体這ってくる。

 自分たちが得られなかった、大切な何かを求めるように・・・。

 

「お任せしてよろしいですかな」

「ああ、手は出さないでくれ」

 

 ワカメが空気読んだ、こいつ思ったよりいい奴だよな。頭焦げてチリチリワカメだけど。

 

「うそ!・・・まだ生きてる」

「あいつ!?」

 

 ココとゴルシが気づいた。もうちょっとじゃれててもよかったのに。

 

「待ってマサキ!まさか」

「早くトドメをさせ!これ以上何するかわかったもんじゃねぇ」

「大丈夫だ」

「おいコラ聞いてんのか!」

「本当に大丈夫だから、少しだけ時間をくれないか。これが最期なんだ・・・」

「私はマサキを信じるよ、ゴルシちゃんも、ね」

「ちっ、わかったよ」

 

 ありがとう二人とも。

 

 三人が見守る最中、俺はベーオルシファーと対峙する。

 二つに分離したからベーオウルフとルシファーに戻ったか。

 

「ようやく話せるな、俺はアンドウマサキだ。俺の言ってること、わかるよな」

「・・・・ァ」

「・・・・」

「声は出さなくていい、勝負は俺たちの勝ちだ、頼むから暴れないでくれよ」

「「・・・」」

 

 しゃがみ込んで二体の顔を見る、こちらを見上げる小さな四つの眼光には力が無い。

 時間が迫っている。

 

「俺に会いに来てくれたんだよな。そのために無茶をやらかして今もボロボロだ」

「「・・・」」

「わかってる。好きで戦っていないよな、望まない闘争をずっとやらされてきたんだよな」

 

 別世界の縁を辿ってここまでやって来た。

 自分たちの世界では出会うことが叶わなかった可能性を見たくて。

 こうして相手の覇気が感じられる距離まで近づけばわかる、ベーオウルフとルシファーの体はずっと暴走状態にあったと。

 体だけが本能のままに暴れ回った。

 その間、心は神核の奥深くに封じられたまま泣き叫んでいた。

 誰にも何も届かない、声も涙も枯れ果てたのは随分前だった気がする。

 全てを殺し、全てを壊し、その結果、世界ごと捨てられた。

 

 伝わる、破壊獣と言われた二体から・・・かつての彼女たちの本心が。

 

「辛かったな、大変だったな、本当に・・よくここまで来てくれた」

 

 目の前の二体は涙を流さない、だからその分も泣き虫の俺が泣いてやる。

 

 取り残された、何もない、自分たち以外に誰もいない、衰退も繁栄もない空虚な世界。

 自分たちが壊した世界。

 幾星霜の時を呆然と立ち尽くした、自壊するその時をただ待ち続けた。

 そんな時、確かに感じた。

 門の向こうから暖かくて優しく、それでいて強い覇気を。

 

 誰?誰なの?操者?まさか・・・一緒にいるのは・・・私たち?

 

 会いたい、見てみたい、自分たちにはありえなかった可能性がある世界。

 

 クロスゲート・・・そうゲートがある。

 いつか向こうの世界と繋がる時が来るかもしれない。

 ごめんなさい・・・その時まではどうか・・・生きてしまうことを許してください。

 

「いいんだ、全部伝わってるぞ。他の誰もがお前たちを許さなくても、俺がお前たちを許すよ」

「「・・・・」」

 

 震えながら伸ばされた手を握ろうとしたが崩れていく。

 崩壊していく全身、もう長くない。

 

「こっちのお前たちは賑やかで楽しくて飽きない、めっちゃ可愛くて俺のことを操者にしてくれた」

 

 触れた先から崩壊する頭を優しく撫でる、あいつらにそうするように。

 

「今はちょっと訳ありだがな・・・よし、待ってろ今見せてやる」

 

 バスカーモードのフルドライブ。

 ベーオウルフとルシファーへと愛バのことを想いながらゆっくり覇気を流す。

 漏れ出した余剰分がココたちにも伝わったようだ。

 

「これ・・・キタサトちゃん」

「マサキと愛バたちのメモリーってか・・・悪くない」

「こ、このウマ娘は!?奴らの幼体。なるほど、そういうご縁ですか」

 

 出会い、楽しかった日々、別れ、俺たちの思い出を全部見せてやる。

 

「「アア・・・アァ・・・」」

「本心から思うよ、あいつらに会えて本当によかった。今ここにいないのが本当に寂しくてな」

 

 長年の旧友に再会したみたいに語りかける。殆ど惚気話になっちゃったけど。

 

「嘘みたい、ベーオウルフとルシファーに意思疎通ができてる」

「あんなに大人しい奴らを初めて見たぜ、そして懐いてやがる」

「し、信じられん、あの破壊獣が・・・まるで幼子のようではないか」

「マサキ・・・キミはホントに凄い人だね」

 

 この場にいる全員がマサキと愛バの思い出を垣間見る。

 その光景に変化が生じる。

 俺と愛バの記憶じゃない、まさかこれはお前たちの。

 

「伝えたいことがあるんだな、いいぜ、見せてくれ」

 

 塗り替えられる光景。

 二人の記憶、見せたいものは何だ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それはまだ平和だった頃、ある日の1stでの出来事。

 世界の滅びはここから始まった。

 

「現場はここ?」

「うん。そうみたい」

 

 原因不明のAM暴走事故が発生した。

 ギルドからの仕事にも慣れてきた私たちはいつものようにコンビを組んで事に当たる。

 

「テイオーさんたちは?」

「別の場所でも同様の事件が発生したみたい、そっちに行ってから来るってさ」

「うーん、何やらキナ臭いね」

「確かに、でも考えるのは後。まずは生存者の救助と暴走中のAMを処理しましょう」

「了解、今日もよろしくねダイヤちゃん」

「こちらこそ、頼りにしてるよキタちゃん」

 

 現場の指揮を担当している騎神に許可をもらって現場に突入。

 最近は顔も売れて来たのですんなり通してもらった。

 

 AMを排除しつつ生存者を探す。

 

「ここはクリア・・・次の場所に行きましょう」

「待ってダイヤちゃん、生体反応?向こうからだ!」

「あ、ちょっと待ってよ」

 

 生存者を見つけたキタちゃんを追いかける。

 旧市街の雑居ビルその一室で倒れている人を発見した。

 

「救助に来ましたよ、大丈夫ですか!脈はある・・・うんしょっと」

「もう、置いていかないでよ。その人は」

「このまま私が背負って行くよ、ダイヤちゃんは帰りのルートを先導し・・て・・」

「キタちゃん?」

「ぐっ・・なにコレ・・かっ・・・は・・」

「どうしたのキタちゃん!」

 

 要救助者を背負ったキタちゃんが急に苦しみだした。

 背負っている人を振り落として激しく悶える。一体何が起きてるの?

 

「ダメ・・にげ・・・う、うああああああああああああああああああ!!」

「そんな、嘘!キタちゃん!」

 

 絶叫を上げるキタちゃんが変貌していく、胸の中心から紅い結晶のようなものが広がり全身を埋め尽くす。 

 そうして現れたのは変わり果てた姿の相棒・・・紅い化物だった。

 

「オオオオォォォッーーーー!!」

「キ、キタちゃ・・・っ!?」

 

 腕が振るわれる、カギ爪のついたそれは問答無用でこちらを攻撃してきた。

 救助者を抱えて逃走を図る。

 叫び声を上げながら追ってくる・・・アレは何?キタちゃんはどうなったの!

 混乱する頭を必死に働かせる。

 しっかりしろ!人命救助が先だ、まずはこの人を安全な場所まで運んで、それから、今あったことをみんなに知らせるんだ。

 テイオーさんやマックイーンさん、頼りになる先輩方や同僚が力を貸してくれるはず。

 

「待っててキタちゃん!必ず助け・・る・・から・・」

 

 え?走っていたはずなのに・・体から力がぬ・・け・・胸の奥が変だ・・・。

 

「あ、ああ・・・がぁ・・・」

 

 倒れる、いけない・・・今倒れたら救助者は・・どこにいった?

 私が抱えていた救助者がいない!?

 

「トウカイテイオーとメジロマックイーンではなかったか、まあいい」

「あなた・・・だ・・れ・・」

「ほう、まだ意識があるのか。やはり、お前たちは掘り出し物だった」

「何を・・した・・の」

「私のちょっとした特技だ、相手の神核をある程度自由に弄れる。まるで立体パズルのように」

 

 意識が飛びかける、体の奥からよくない何かが溢れ出す。

 先程のキタちゃんのように私の体を紅い結晶が埋め尽くそうとしてくる。

 ダメ・・・やめて。

 

「君たち二人には何かしらの才が眠っていた、それを無理やり呼び起こしてみたが・・フフフ」

 

 心底楽しそうに話しをする何者か、こちらが聞いていようがいまいが関係ないのだろう。

 声?ボイスチェンジャーでも使っているのか、歪んだ音声が言葉を紡ぐ。

 そういえば最初から正体不明だった、男か女かも分からない、厚着をしておりフードを目深に被って顔すら見えない。匂いも皆無・・・よくよく考えたらおかしい、騎神である私が一般人の匂いを皆無と判断することはありえない。それに覇気だ、私もキタちゃんも最初からこの人の覇気を探ろうとすら思わなかったのはなぜだ?

 

「最近"彼"が相手をしてくれないから退屈していたんだ。まさか、思いつきで始めたことがこのような結果を生むとは、これだからウマ娘はいい」

 

 体が・・・私の心が・・・消えていく。

 

「今回はこれで行こう!きっと素晴らしい滅びになるぞ!」

 

 だ・・ダレカ・・・

 

「ん?君たちの先輩方が来たようだ、私はこの辺で失礼する。君たちの闘争を特等席から見物させてもらうよ」

 

 ・・・ク・・

 

「では、よき滅びを期待しているよ」

 

 ・・・クソがぁ・・・

 

 逃げて行った何者か、アレは邪悪だ、世界を弄ぶ病巣のような存在。

 悔しい、最期に私が感じたのは堪らない悔しさ無念さ、柄にもなく口汚い言葉が出てしまうほどに。

 

 キタちゃんは私はどうなる、どうなったのだろう?

 よくない、とてもよくないことが起こるのだけはハッキリしている自分が嫌になる。

 

「キタちゃん!ダイヤちゃん!どこなの!」

「テイオー!あそこです。サトノさんがいましたわ」

 

 ・・・二・・ゲテ・・・

 

「アアアアァァァァーーーー!!!」

「サトノさん!?」

「え、何が・・・マックイーン離れて!奥からもう一体何かが来るよ!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオォォォ」

「紅い結晶の化物!?それが二体・・・そんなまさか・・」

「キタちゃんとダイヤちゃん?コレが」

 

 巨大なカギ爪もった化物と尻尾が肥大化して枝分かれした化物が二体。

 女性的なシルエット・・・コレが可愛い後輩たちだなんて認めたくない。

 それに、この異常な覇気・・・超級騎神どころじゃない、敬愛する会長の覇気より上だなんて。

 二人を救う?バカを言うな、こっちが生き残れるかも怪しい状況だ。

 ごめん、本当にごめん。今すぐに二人を助けてあげられなくてごめん。

 覚悟を決める。

 

「撤退するよマックイーン。これはボクたちだけじゃ手に負えない」

「了解ですわ。お二人のことは皆と合流してから考えた方がよさそうです。さあ、行きましょう」

「行くのは君一人だ。会長やチームのみんなによろしく」

「何を仰いますの!残るなら私も・・・」

「わかってるだろマックイーン。二人ともやられるわけにはいかないって、誰かがこのことを報告する義務があるんだ」

「でも、それでしたら」

「ちょっと時間を稼いだら直ぐに追いかけるよ。心配しなさんな、無敵のテイオー様は何度ケガしたって復活してきただろう」

「・・・死ぬことは許しませんわ!必ず追いついて来るのですよ、待ってます!」

「うん。行ってマックイーン」

 

 マックイーンが振り返らずに走り出す。目から大粒の涙を零しながらの逃走。

 正しい判断をした、それなのに涙が止まらない。

 辛くてもこうしなければいけない、わかっていた、騎神となったその日から覚悟はしていた。

 だけど・・・ああ、本当は凄く怖くて悲しくて・・・とても・・・

 

「そういうわけで付き合ってもらうよ、お二人さん」

「オオオ」

「アアア」

「なんでそんな風になっちゃたか、わけわかんないよ。ごめんね、最近二人に構ってあげられなかったからバチが当たったんだ・・・やっと超級騎神になれたのにな・・・超級最初の仕事がこれだよ」

 

 自重気味に笑うテイオー、そのまま構えを取り覇気を練り上げる。

 

「チーム"スピカ"所属 トウカイテイオー ここは絶対に通さないよ!」

 

 絶望的な戦闘が始まる。

 これは撤退戦、仲間を逃がすために殿を務めた者の末路は決まっている。

 

 これが1stの終わりの始まりだった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今のは・・そうか、あいつが元凶か」

 

 知ってる奴らが出てきた、俺が知っている姿より立派に成長したあの子たちが。

 俺の愛バたちって成長しても可愛いんだな・・・嬉しい。

 そんなことより!神核を弄っただと!?

 潜在的に女神の因子を持っていた二人を強引に暴走させた結果がこれだってのかよ。

 それを、まるで遊び感覚でやりやがった。

 最初から二人を選んだわけではない、誰でもよかった。

 たまたま面白半分でやったら大事になってそれが楽しいだと!!

 ふっざっけんなぁぁぁ!!マジでふざけんな!そんなくだらないことで、そんなので二人は破壊獣なんて呼ばれる存在になってしまったのかよ。

 たくさんの人が苦しんだんだぞ、許せない、許すわけにはいかない。

 

「ココ!ゴルシ!ついでにワカメ!今の見たな!」

「バッチリ見たよ!うん、二人も被害者だったんだね」

「若い頃のばあちゃん・・・テイオーはあの後確か・・・クソッ」

「あれは・・そんなはずが・・・」

「俺は黒幕を絶対に許さねえ。こっちに来てるんならぶっ飛ばす」

 

 目的が増えた。

 あんな奴を野放しにしていたらまた碌でもないことをやらかすに決まってる。

 俺のキルノートにメモってやるぞ、油性マジックでな!

 

「「・・・・ァ」」

「ありがとうな。お前たちの無念は俺たちが引き継ごう。あんな奴の好きにはさせない」

 

 もう頭部しか残っていない、消えていく二体。

 最期の力で俺たちにあのビジョンを見せてくれたんだな。

 

「疲れただろう。もう休んだ方がいい・・・眠るまでずっとこうしていてやるからな」

 

 愛バにそうするように抱きしめる。

 こいつらは確かに世界を滅ぼした。贖うにはあまりに大きな罪、でも最期ぐらい安らかに逝かせてやりたい。

 俺のわがままを女神様たちなら許してくれるよな。

 消えていく、別れの時が近い。

 何か言えよ俺!もっと言いたいことが、かけてやりたい言葉があるはずだろうが!

 

「俺は愛バにあだ名を付けてるんだ。先代がカナブンで最初揉めてな・・・」

 

 俺のバカ、泣いてる場合か!あだ名のエピソードは別に今言わなくてもいいだろ。

 崩れて粒子になっていく二体の、悲しい運命を辿った二人の目を見ながら告げる。

 

「おやすみ・・クロ・・シロ・・いい夢を見るんだぞ・・・」

 

 手から質量が感じられなくなる。

 ベーオウルフ、ルシファーと呼ばれ恐れられた二人の最期だった。

 ただ涙が零れる。いいんだ俺は今泣くべきなんだ。

 クロ、シロと呼んだのは間違いじゃなかったと思う。

 1stに俺がいたらきっと似たような名前を付けていただろうから。

 

 崩壊した二人の体は紅い粒子となって霧散して・・・え?

 紅い粒子群の色が変化していく、俺の覇気と同じ綺麗な緑色になった。

 宙を漂う二人の残滓が俺の下に、コレ全部が覇気か・・・もらっていいんだな。

 俺の体に浸透していく覇気、これは、奴に汚されていない彼女たち本来の覇気だ。

 ありがたく頂戴する。

 その覇気を共にメッセージを受け取る・・・しかと胸に刻みつける。

 これは彼女たちの遺言だ。

 

 ・・・ありがとう・・・

 

 ・・・やさしいあなた・・・ 

 

 ・・・どうか・・あなたのしってるわたしたちを・・だいじにしてあげて・・・

 

 ・・・よ・・かった・・さいご・・に・・あえた・・・のが・・・

 

 ・・・あなたで・・よかった・・・

 

 ちゃんと聞こえたよ。俺も会えてよかった。

 あいつらが起きたら話してやろう。

 もう一人のお前たちがいたことを、その悲しい出来事を。

 

「クロ、シロ、お前たちに会いたいよ」

 

 無性に会いたくなった。

 今すぐにでも会いたい、ガッちゃんとミオの覇気は届いただろうか、起きてくれよ二人とも。

 

「お疲れ様、マサキ」

「ココ」

 

 後ろがら優しく抱きしめられる。

 

「悪い・・お前やゴルシ、1stの人たちからしたら俺は甘すぎるって怒られて当然だ」

「いいの、あれでよかったんだよ。ちゃんと看取ってあげられてよかったね」

「あいつら、ありがとうって・・俺に会えてよかったって・・・」

「うん」

「なんでこんな・・・あいつらは悪くない・・・それなのに・・・」

「うん」

「泣いてばっかでごめんな。カッコ悪い・・だけど、もう少しだけこのままで・・・頼む」

「誰かを思って流す涙はカッコ悪くなんかない。それを笑う奴がいたら私が始末してあげる」

「過激だな・・・でも、ありがとう」

 

 さようなら別世界のクロとシロ。お前たちのことは忘れない。

 

「なあワカメ、お前なんか隠してんじゃね?さっきのビジョンに出てきた正体不明に心当たりあるんじゃね」

「・・・そのことですが、いいでしょうあなた方には話しておくべきだ」

 

 俺とココがちょっとだけセンチメンタルに浸っている時。

 ゴルシと会話していたワカメが意を決して何かを話そうとした時。

 そいつは現れた。

 

 パチ、パチ、パチ、パチ・・・

 

 拍手?場違いな音が聞こえた方向へその場の全員が一斉に視線を送る。

 そこには教団信徒のローブと仮面をつけた人物が立っていた。

 いつからそこにいた?覇気・・・何だ?読めない・・・そこにいるのに感じとれない!

 ゆっくりとこちらを称賛するような拍手、こいつ・・・こいつは・・・

 

「さすがは我が宿敵の"代役"だ。よいものを見せてもらった」

「てめぇ・・・」

「あ、あなたは」

「おっと、自己紹介は自分でするよルオゾール。皆さん、初めましてかな」

 

 ビジョンで見て聞いたばかりの声で喋る。

 男か女かわからない、ボイスチェンジャーで変換されたような歪んだ声。

 

「私の名はそう・・・ルクスとでも呼んでほしい、以後お見知りおきを」

「ルクス、ベーオウルフたちを造ったのは」

「はい、私です」

 

 否定する意味はないとばかりの即答。

 

「そこのルオゾールが言ってる"あの御方"とは私のこと、孫光龍を使い妖機人にあなたを襲わせたのも私、他には・・・何でしたかね、メジロ家、アースクレイドル、DCにUC、ヒュッケなんたら・・・すみません、多すぎて把握してないです」

 

 まったく悪びれてない様子に絶句する。

 こいつ自分の悪行を指折り数えながら、途中でめんどくさくなって放棄しやがった。

 聞いたことがある単語を呟くたびに胃がムカムカしてくる。

 もしかしなくても、今まであった大事件の裏にはコイツの影があったと確信する。

 

 (二人とも)

 (さっきの戦闘で気張り過ぎた、デバイスも私も40%が限界だ)

 (同じく、無理すれば大技一回分なら可能化も)

 (俺はまだ動ける。二人はそのまま待機だ、下手に動くなよ)

 (ラジャー)

 (了解だよ)

 

「ルクス、これはどういうこどですか!ベーオウルフたちの誕生にはあなたが関わっていた。1stを滅ぼしたのはあなたではないですか!」

「それが何か?」

「あ・・あなたは言った1stの滅びを防げなかった神を捨て、新たな神ヴォルクルス様を信仰しろと。あれは嘘だったのですか」

「嘘ではない。ヴォルクルスが2ndを滅ぼすエンディングがあってもいいかと思っただけだ」

「エンディング?あなたが何を言っているのかわからない」

 

 ケラケラと答えるルクスに対してワカメは混乱していく。

 エンディングだと、こいつまさか・・・

 

「おいルクス、そこのワカメをそそのかした理由はなんだ」

「暇つぶしだったかな・・・いけないな、私はその場の思いつきで動いてしまう質があってね」

「わ、私の信仰が・・ただの暇つぶし・・・」

 

 はい、わかった。こいつマジくそ外道。

 感覚が狂ってる、遊んでやがるんだ、人の大事なものを踏みにじって。

 

「ベーオウルフたちを召喚したのもてめぇか」

「そう!それそれ!あれは私にも予想外のこと、シナリオを無視した完全なイレギュラーだった。ああいうハプニングは大歓迎だ。つい、盛り上げるためにゲートを操作し回復させてしまったよ。延長戦は期待通りに楽しめた」

「奴が来たのはお前が意図したことではないと、じゃあ何で?」

「お前だアンドウマサキ。ルオゾールがゲート起動した時にお前の覇気がゲートから各世界に漏れたのでしょう、あの二体はその僅かな覇気を手繰り寄せ自力でゲートを潜り抜けた。ああ、これを奇跡と言わずして何と言うのか!私が残したガラクタが物語のいいアクセントになったようで喜ばし・・・」

 

 ルクスに無言でブラスターを発射する。 

 回避した風には見えない、直撃爆発する。

 聞くに堪えない・・・ガラクタだと!あの二人を化物にしておきながらガラクタだと罵ったか貴様。

 

「ごめん、我慢できなかった」

「いいよ、マサキが撃たなかったら私がやってた」

「だな。あいつはアーチボルトが可愛く思えるほどの外道だ」

「・・・騙された・・・私のやってきたことは一体・・」

「ワカメ、シャキッとせんかい!」

「は、へ、はいぃ!!」

「悔やむのも嘆くのも後にしろ!あの外道に少しでもムカついたなら手を貸せ!そのあとでくたばれ」

「くたばってたまるものですか!ええ、やってやりますとも!おのれルクス、許しませんぞ」

「ワカメが仲間になった」

「敵でも味方でも微妙な戦力で使い辛そう」

「何がヴォルクルス様ですか!もう様付けめんどくせぇ!そもそもヴォルクルスって何?そんな奴見たことねーし!どうせラスボスじゃなくて中ボスのなかでも下の下的存在でしょうな!邪神?破壊神?天級倒してから言えやwwwバッカじゃねーのwww」

「ハッチャケワカメwww」

「こっちの方がよくね。教団運営とかでストレス溜まっていたんだろうな」

 

 手のひら返しクルクルパーのワカメを放置していると、爆煙の中から悠然とヤツが歩いて出て来る。

 

「無傷・・・それに、紅いオルゴンクラウド」

 

 ルクスを中心に赤い覇気の粒子が展開されている。

 これが奴の覇気、今までは完全制御で隠蔽していたのか。

 

「嫌な色だね。綺麗じゃなくて、なんか汚ったない赤」

「性格の悪さがにじみ出てんだよ」

「ベーオウルフたちは鮮やかな"紅"でした。似ているようで全然違いますな」

 

 奴に神核を弄られた二人、色の鮮やかさで優っていたのは彼女たち本来の輝きのせいだったのかも。

 

「今日はヴォルクルスの降臨を見学するだけのつもりだったが、お前たちの登場とハプニングでいささか気が変わった」

 

 赤いオルゴナイトで剣を造りこちら向けるルクス。

 オルゴンクラウドとオルゴナイトを使いこなす。

 

 敵だ、見つけたぞ、こいつこそが俺の敵。

 

 結晶を武器にするのもお手の物か、技が被ってるんだよボケ。

 ますます存在を許しておけない。

 

「この後何か予定はあるか?もしよかったら・・私と遊んでいかないか?」

「四対一だけどいいのか」

「問題ない。私と一騎打ちする資格があるのは"彼"だけだ」

「彼って誰やねん」

「いずれわかる。さあ、雑魚は雑魚らしく群れてかかってくるのがお似合いだ」

「あいつメッチャ腹立つ」

「処す?ねぇ処していい?」

「煽り耐性ゼロですな、もちろん私もゼロです!ムカつくんだよ!」

「やってやんぞご・・・ん?」

 

 (・・サ・・キ)

 (だ~れ~?今、忙しいんだけど)

 (よかったマサキ!やっと通じた)

 (メソ・・メルアじゃないか!久しぶりすぎて一瞬わかんなかった)

 (今メソって・・それよりも今相手にしている奴は何者?)

 (ああ、俺を通して見えてんのね。ルクスだとよ、今までの事件はだいたいこいつのせい)

 (赤いオルゴンエナジー使い、私が生きた時代にもいなかった)

 (女神様でも初見ってヤツか注意しながら戦うぜ)

 (え、待って!ダメ!)

 

 ※俺と女神様の会話は0・3秒以内で行われます。

 

 メルアの静止を聞かずに飛び出す。

 一番手はゴルシ、次にワカメが続く、バスカーモードは問題なく発動中、ココの援護射撃もまだいける。

 戦闘開始!俺も行くぜ。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「まだ開始30秒たってないぞ?ガッカリさせるな」

 

 ポタポタと何かが零れ落ちる。

 自分の額から滑った血液が滴る音だと気づくのはまだ先のこと。

 

 あれ・・・どうして俺は・・・負けているんだろう。

 




クロ「(´Д⊂グスン」
シロ「マサキさんの優しさが目に染みます・・・」
アル「うう・・・私こういうの弱くて・・うう・・」
ココ「本当に私の操者は最高だよね」

クロシロアル「「「お前のじゃねーよ!!!」」」

ココ「三対一で私を責めるのもうやめない」


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そうしつとめざめ

長くなりました。


 ベーオウルフとルシファーを倒し、お別れをした。

 そして黒幕登場。

 

 

「何が・・・起きて・・・」

 

 視界がぼやけて揺れている。

 体が動かない・・・頭に強い衝撃を受けた。それはいつ?

 わからない、なぜ自分が今この状態にあるのかがわからない。

 

 考えろ、動け、奴が、奴が来るぞ。

 

 奴って誰だ?

 俺はベーオウルフとルシファーを倒した。

 そして・・・そして・・・

 

 ルクス 敵だ ルクス 見つけた ルクス 倒さないと ルクス あいつは敵だ

 

 そうだった、ルクスだ!あの野郎が現れて四対一の戦闘になったんだ。

 それでゴルシたちに続いて飛び出して・・・そこまでしか覚えていない。

 

「ッ!・・・あ・・」

 

 思考が整理されるにつれて全身の感覚が戻って来た。

 まず感じたのは痛みだ。

 デコがいってぇ・・・額が酷く痛む。それと背中もだ・・・背後にある柱に打ちつけたみたいだ。

 今気が付いたが視界が微かに赤い、額の傷口から出血している。

 額から流れた血は顎まで流れポタポタと滴っている。

 ああこれは・・ちょっと割れたか。陥没はしてないが頭蓋骨にヒビが入ったかも・・痛てぇ。

 頭部をルクスの剣で攻撃されたとみて間違いない。

 ・・・あいつが用意した結晶の剣はでかかった、元ソルジャー(笑)のイケメン愛用の大剣ぐらいだったし。

 それを避けるでも防ぐでもなく真正面から受けたのか?

 油断はしていなかったはずだ、そもそも攻撃を受けた覚えがまったくないのはなぜだ?

 わからない、みんなはどうなった・・・!?

 

 霞む視界で捉えたものは離れた位置で倒れ伏すゴルシとワカメだ。

 やられたのか・・覇気はまだ感じる、死んではないが起き上がる気配はない。

 ココ!ココはどうなった。

 

「まだ開始30秒たっていないぞ?ガッカリさせるな」

 

 変声機を通したような歪んだ声が聞こえる、ルクスだ。

 

「う・・か、はぁ・・はぁ・・」

 

 いた!ココはミラージュソードを手に取りルクスに対峙している。

 その息は荒い、一人でルクスの相手をしていた?なぜだ、ココのポジションは弓矢による後方支援だったはず。

 おかしい、何かがおかしい。

 今の状況に陥る前の記憶が欠如していることが余りにも不可解だ。

 ハッキリとわかるのは、大ピンチってことだけ。

 

「ココ・・・」

「マサキ!ッ!!」

「おっと」

 

 俺の声を聞いたココがルクスへとシャドウランサーをばら撒き後方へ飛びのく。

 ルクスが回避行動をとっている隙に俺の下へとやって来た。

 

「マサキよかった、動けるようになったんだね」

「ぅ・・ココ・・何があった」

「聞きたいのは私の方だよ、急に三人とも動かなくなったから」

「な、なんだそりゃ・・・」

 

 三人とも動かなくなった?身に覚えがない。

 

「酷い傷・・すぐ手当しないと」

「後でいい・・どうして動かなくなったかわかるか?俺にはその時の記憶がサッパリないんだ」

「三人が向かっていった直後にルクスの手から光が出たの、そうしたらピタッと止まっちゃって」

「明らかに何かされたよう・・・だな」

「その何かがわからない、非常にマズイ状況だよ」

 

 俺の額にハンカチを当てながら笑ってみせるココ。

 焦っている、だからこそ自分と相手を安心させようと変な笑い顔になっちゃうよね。

 ピンチ!俺たち今、大ピンチ!

 奴が何かしたのは明白、そのからくりがわからない、対処方なし!詰んだ!

 遂に登場した黒幕をとっちめるつもりが全滅秒読み開始だ。

 あれだな、ベーオルシファーを討伐したことでよい流れがこっちに来てると勘違いしたわ。

 勢いでいける!と思ったんだがな。

 

「私、マサキに会えてよかった」

「遺言タイムに入るのやめろ」

「最後にうまぴょいしてくれたら思い残すことはないよ、今すぐやろう!」

「無理だろ」

「うまぴょい時間最速の動物は"コモンマーモセット(5.52秒)"マサキなら5秒以内でいけるよね!二人でギネス更新しようよ」

「そんなレコードホルダーになってたまるか!」

 

 スピードの向こう側に突き抜け過ぎだろ!

 さすがのスズカさんも「その景色は見たくない」て言うと思うぞ。

 おーい、俺の手をおぱーいに誘導しないでくれ。

 生乳柔らけぇな・・・ああくそ・・・死にたくねぇ、いやホントマジで。

 この先を味わってみたかった、エロの向こう側へは是非行ってみたいね!

 「その景色は勝手に見てろクソが!」て言いそうなスズカさん。

 

 (揉んどる場合かぁぁ!!)

 (メルアさん、今いい所だから邪魔しないで。最後にココのおぱーいを堪能したいの)

 (余裕があるんだか無いんだか・・まだ終わってません!)

 (だよな!もちろん愛バたちのためにも諦めてないぞ。で、あのチートの正体は?)

 (あれはラースエイレム、その昔"フューリー"が使った時間兵器です)

 

 女神メルアさんの説明

 ヒューリーとは神話時代の大戦でメルアたちに敵対した組織の一つ。

 そしてラースエイレムとは。

 範囲内の時間経過を完全停止させる「ステイシス・フィールド」を展開することで、内部に存在するターゲットを「停止」させてしまうという反則じみた性能を持つ、まさにチートだそうだ。

 

 (余りに反則すぎて使った者は「卑劣大魔王」の称号と共に村八分にされてましたね)

 (つまり・・これはその・・あれだよね)

 (言いたいことはわかります"ザ・ワールド!"で合ってますよ)

 (ですよね~。もう無理じゃね、俺ジョースターの血筋じゃないしスタプラ使えないし)

 (私たちの時は、双子の修羅の神核を同調させることで"時流エンジン"を生み出し対抗しました)

 

 むかーし昔のことじゃった。

 限りなく近しい二つの真核を組み合わせることで時流子の流れを加速させる因子を発見した者がいた。

 ややこしいのでお蔵入りされていたその研究はヒューリー側にラースエイレムというチート兵器が生まれたのを期に再開された。

 研究の結果、双子の修羅を同調(現代で言うリンク状態の強化版)させその覇気を三女神パワーで強化&拡散させることで、自軍をラースエイレムの停止状態から守るキャンセラーとして活躍したのだとか。

 ラースエイレムを打ち破りし力の名は時流エンジンと名付けられ大戦後に封印(再お蔵入り)。

 双子は"空間の支配者"と二つ名を「恥ずかしい」と言って辞退したらしい。

 

 (と言うわけです。ラウルさんとフィオナさん・・懐かしいな~)

 (過去にどうやったのかはわかったよ。今どうすんのかって話は?)

 (時流エンジンの持ち主を頼りましょう!はい、これで万事解決です)

 (この場に双子なんかいねぇわ!)

 

 いたとしても神核のシンクロ率がシン・エヴァのシンジぐらいの数値じゃないとダメなんだろ?

 そんなもん調べてる時間はない。

 

 (全ての事象はあなたに集約されつつあります)

 (それココも言ってたが何?今はそれより、双子が)

 (世界はあなたを応援している。勘違いではなくいい流れは来ていますよ)

 (ふ、ふたごがぁぁぁ)

 (よく見て、必要とするものは既に揃っています。後は彼女の願いを叶えるだけ)

 (はっ!まさか、俺とワカメは双子だったのか!それは嫌すぎる)

 (ここまで言ってもまだわかりませんか?おーい、聞いてますか・・ねぇちょっと、コラ)

 (あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!双子が必要なんて聞いてないよ~)

 

 ⦅いいから!目の前にいる子と契約しなさーい!⦆

 

「は、メルア!え・・契約・・誰と」

「どうしたのマサキ。あ、やっぱり両手で揉みたい?」

 

 女神通信を終えると俺におぱーいを揉ませている可愛いウマ娘がおりました。

 この状況でなにやってんだろう、とりあえずもう2、3回だけ揉んどいた。

 

「ん////」

「ありがとう、大変良きお胸でございました」

「こんなのまだ序の口、この先のメニューも永久無料で提供できるからね」

「死ねない理由が増えた」

「それで、何か思いついた?女神様はどんなアドバイスをしてくれたの」

 

 察しがよくてホント助かる。ココもまだ諦めたわけじゃなかった。

 女神はココと契約すれば万事解決と言った、それはなぜか。

 必要なのは限りなく近しい神核のを持つ者とそれの同調、双子である必要はない。

 "同一人物"であるのならば、双子以上の時流エンジンが誕生するのではないか。

 そして既に対象者の二人は"融合"というこれ以上ない形で合一を果たしている。

 

「ココ、俺たちが止まってる間はどうしてた」

「三人が達磨さん転んだを始めたみたいになって、それで」

 

 ルクスが手元が輝いた直後、時間停止した中で奴はゴルシとワカメを大剣で薙ぎ払ったらしい。

 防御も受け身も取らない二人を訝しく思ったココはすぐに駆け出し、俺とルクスの間に割って入ったらしい。

 

「剣の軌道を逸らそうとしたんだけど間に合わなくて、マサキを吹っ飛ばしちゃった」

「俺をここまで飛ばしたのはお前だったのか」

「スマートに助けられなくてごめんね、背中痛いよね」

「いいんだ、マジで助かった」

 

 ココが多少なりとも妨害をしてくれたから、まだ生きていられる。

 脳天を勝ち割られそうになった俺を咄嗟の判断で逃がしてくれた。

 改めてゾッとする・・何も知らないまま、頭割られて死ぬ所だった・・スイカ割りトラウマになりそう。

 

「別れはすんだか?」

 

 ルクスが余裕をもって近づいて来る。

 来ないな~と思ってたら遺言タイムを許してくれたようだ、舐めやがって!

 

「全然すんでないよ!ちょっとやりたいことあるから二人っきりにして!ベッドがあれば尚よし!」

「そんなに待てない、さっきおっぱい揉ませていただろう?それで満足しておけ」 

「見てんじゃねーよ!このスケベ!あれぐらいで満足できるか!余計にムラムラして未練が残るわ!」

「それは全く同感だな」

「本当に頭のおかしい奴だ。死を前にしてのその言動、さすがに少々面喰ったぞ」

 

 余裕をぶっこいている。

 こいつは俺たちを見て楽しんでいる、いやそうじゃない、楽しみたいのだ。

 予定調和のシナリオよりハプニングがあった方が好きだと言っていた。

 サプライズ、新鮮な驚き、どんでん返し、予想外の結果、そういうのがお好みらしい。

 こうして会話しているのも自ら進んでやり取りを楽しんでいる。

 時間、時間がほしい、ココと契約できるだけの時間が。

 

「なるほど、ファインモーションと契約するつもりか」

「え・・」

 

 あちゃーバレてる。

 

「ラースエイレムを発動中に邪魔が入るとは思わなかった。彼女の神核は特別なようだ」

「ああ、そういうこと・・大体理解したよ」

 

 ココは本当に優秀な子だ。

 自分だけが動けた理由と、契約によりその効果を俺にも付与できるとすぐに理解してくれた。

 

「あっさり終わったらつまんないだろ?よければココと話をする時間をくれよ」

「それは気が進まない。ラースエイレムを復元するのには多大な労力がかかった、簡単に攻略されてしまうのは都合が悪い」

 

 ダメか・・・まあ当然だわな。

 時間兵器なんてものの優位性をそう簡単に手放すわけないか。

 

「悔しいけどルクス、あなたの勝ちだよ。勝者の余裕でここは見逃してくれないかな?」

「ファイン家頭首ともあろう者が命乞いか、見苦しいぞ」

「見苦しくて結構、マサキの命が助かるならいくらでも無様に足掻くよ」

 

 ココ・・・お前って奴は。

 

「愛バになってすらないのにその男を庇うか、健気なことだ。いいだろう」

「タダってわけじゃないんでしょ、それで条件は何かな?」

「その胆力、気に入ったぞ。では、私と契約してもらおうか」

「なん・・だと・・」

「聞き間違いかな?もう一回言ってくれる」

「私の愛バになればマサキを見逃すと言ったんだ」

 

 愛バ?愛バって言ったか。

 え、ちょっと待って、ココがこのクソ野郎と契約するだと。

 そんなことは・・・

 

「バカ言ってんじゃねーぞ。この子は」

「ごめんマサキ、ちょっと黙ってて」

「しかし!」

「操者でもない癖に契約に口を出すのは無粋だな、アンドウマサキ」

「うっせぇ!ココ聞くな、こいつはただのゲスだ」

「あなたの愛バになって私に何かメリットがあるのかな」

「ココ!」

 

 ええーー!?

 交渉に入っちゃうの?俺よりルクスの方がいいと思ったら乗り換えちゃうの!

 確かに俺はまだ操者じゃないけどさ・・・でも・・・だからって。

 

「マサキとファイン家には手を出さないことを約束しよう。その気があればメジロ家とサトノ家を潰して、ファイン家一強の繁栄も夢ではない」

「随分魅力的な話だね。ねぇ、あなた人間?他にも契約している子がいるの?」

「ご想像にお任せしよう、契約は今回が初めてではないと言っておこう」

 

 こいつも操者だと!こんな奴にも愛バが既にいることが信じられない。

 

「では返答を聞こうか、ファインモーション」

「最終確認だけど、マサキの命は助けてくれるんだよね」

「もちろんだ」

「ファイン家・・私の仲間たち、そこにいるゴルシちゃんとワカメも含めて手を出さないと誓う?」

「ああ、死んだお前の両親に誓ってもいい」

「そっか・・・そっか、そっか」

 

 ルクスがこちらに手を差し伸べる。

 その手を取れば助かる可能性がある。

 だけど・・ココ・・・お前は・・・

 

「マサキ・・・本当にごめんなさい」

「いいんだココ。お前は絶対に正しい」

「フッ、賢明な判断だ。さあ、こっちに来るんだ・・・ココ」

 

「ゲス野郎の分際で気安く呼んでんじゃねーぞ!ぶっ殺すぞ!!」

 

 おおっと、ココがぶちギレた。

 

「その名はマサキにしか許してない、お前の汚ねぇ口から垂れ流していいと誰が言った、ああゴルァ!」

「これはこれは、品性の欠片もないことだ」

「黙れよ!大人しくしていれば嘘八百並べやがって!私と契約してもマサキを殺す気だった癖に」

「気づいていたか」

「1stでお前が何をしたか忘れたとは言わせない、人の尊厳を踏みにじり世界を滅ぼしたゲスの言うことを信じるとでも思ったか」

「そうか、ならば「仲良く死ぬ覚悟ができている」と解釈していいんだな」

「覚悟なんてしない!でも、お前の愛バになるぐらいだったら死んだ方が何億倍もマシ」

「ココ、よく言った」

「私の操者になるべき人は決まってる!アンドウマサキただ一人だ!お前はお呼びじゃないんだよ!」

 

 がるるる!と牙をむき出しにして威嚇する猛獣のような笑みを見せるココ。

 今の聞いたか・・・最高に心に来る啖呵だった。

 嬉しすぎて泣きそう、てか泣くわ。

 

「だから、ごめんなさいマサキ。最期に一緒なのが私で・・キタちゃんやダイヤちゃんじゃなくて・・アルダンちゃんも怒るかな?・・・て、泣いてる!?」

「うう・・ワイは果報者や・・クロシロだけじゃなく、こんないい子に好かれて、グズッ」

「あ・・」

「渡さねぇ、この子はお前なんかに絶対渡さない!何度もげろって言われもいい、土下寝でも何でもしてやる。クロもシロも、そしてココも俺のものだぁぁぁ!」

 

 ココの肩を掴んで抱き寄せ宣言する。

 ええ、勢いですが何か?

 

「マ、マサキ///嬉しいけどアルダンちゃんを忘れてるよ」

「忘れてない!アルダンはあれだ、ええーとまだちゃんとお話してからじゃないと・・」

「その時は全員揃ってるといいね、私たち五人全員が」

「ああ、最高のハーレムだ。嫉妬と憎しみの視線ですら心地よく感じそうだな」

 

 俺たち五人でか・・・楽しそうだな・・・ケンカはしないでね。

 今、その未来が断たれようとしているのが大問題だ。

 

「振られてしまったか、残念だ」

「はいそれも嘘、私のことなんて「手に入ればラッキー」ぐらいにしか思ってないよね」

「残念なのは本心だよ。ウマ娘に袖にされるのは何度経験しても辛いこどだ」

「実は非モテなのかww人の女に手を出そうとする奴が悪い!!」

「っ!?ダメ!」

 

 ルクスの手元がひか・・・

 

「ぐ、あぁ・・またか・・ちくしょう・・・」

「・・っ・・マサキ」

 

 ラースエイレムをまた使われた。

 ココは弾き飛ばされ、ルクスは仰向けに倒れた俺に大剣の切っ先を突き付けている。

 チャージまでにはしばらくかかってそう・・停止していた時間も最初より短い。

 乱発はできない、されてたまるもんですか!

 

「ゲホッ・・急にキレてどうしたよ・・何がお前をムカつかせた?」

「わかっていないようだから教えてやる。私の方が先だった!」

「ガッ・・・うぁ・・」

 

 頭を乱暴に蹴られた。サッカーボールじゃねぇぞコラ。

 

「お前っ!!!」

「動くなファインモーション、今は私とマサキが談笑中だ」

「剣を首に当てといてよく言うわ。何が先だって」

「キタサンブラック、サトノダイヤモンド、メジロアルダン」

「愛バたちが何かしたか、お前の口からその名前が出ること事態が不快なんだが」

「出会ったのは私が先だ!私こそが彼女たちの操者になるはずだった」

 

 はあああああ!?そんなことクロもシロもアルダンからも聞いたことない。

 

「それを後からしゃしゃり出てきた貴様が奪っていった!私には貴様を殺したい十分過ぎる理由があるんだよ」

「それがお前の本音かよ。余裕ぶってたのはどうしたwwそっちの方が好感持てるぞ、ダサくてww」

「口の減らない男だ。こんな奴が天級の息子を騙るなど世も末だ」

「騙ってねぇよ!俺はちゃんとした母さんの子だ」

 

 血のつながりなんて関係ない。 

 俺と母さんは正真正銘の仲良し親子なんだ。

 

「せっかくだ、お前が死んだ後の計画を聞かせてやる」

「捕らぬ狸の皮算用だなwいいぜ、クソつまんねぇプランを言ってみろよ」

「先程も言ったがお前の愛バたちは本来、私のものだ」

「ちげーよ俺のだよ」

「お前は死に、愛バたちは自由の身となる。そこで改めて契約をしよう」

「あいつらが素直に応じるわけがない」

「だろうな、だが、私にはコレができる」

「なっ・・・がぁあああああああああああ!!」

「マサキ!何やってんだぁ!このゲスーーー!」

 

 ルクスが俺の胸に右手の指をめり込ませた。

 うがあ・・・ああ・・・掴まれた・・・心臓?・・違う、神核をだ・・・。

 俺の体内には入ったように見えた奴の手は、形のない覇気溜まりの神核に触れている。

 これが奴の能力、対象の神核に手を伸ばし弄ぶ。

 圧倒的な不快感、鈍く強烈な痛み、最悪の異物が侵入したことに全身が悲鳴を上げる。

 

「痛いか、無痛にもしてやれるが、お前に必要ないだろう」

「て、てめぇ・・くそが・・」

「彼女たちの神核を操作して、私の覇気無しではいられない体に調教してやる」

「そんなこと・・させっかよ・・」

「薬物中毒と一緒だ。跪いて私に覇気を懇願する姿が今から待ち遠しいぞ」

「さすがゲス・・いい趣味してる。死ねばいいのに」

「お前もやっていることだろう?少なくとも二人は完全な中毒者だ、その結果はお前も知っての通りだ」

 

 こいつ、クロとシロが結晶の繭になったことを言っているのか。

 

「俺は神核をどうこうしてない、心からあいつらを好きになったんだ」

「その気持ちすらもお前の異常性が引き起こしたと、なぜ考えない」

「知るかバーカ!」

「お前がモテないだけなのをマサキのせいにすんな!キモイんだよゲス」

 

 ルクスは俺とココの罵倒にも動じない。もうこいつ最高に嫌い。

 愛バたちを俺に取られたを思って逆恨みするのもキモイし、まだ諦めてない粘着っぷり。

 やり方も最悪、このゲスをあいつらに会わすことはできない。

 

「後のことは心配するな。愛バもそこのファインモーションも私が面倒をみよう」

「ちっとも安心できないな」

「ここまでにしよう。さよならだアンドウマサキ」

「さよならすんのはてめぇだよ!」

 

 俺の胸から引き抜かれようとした手を掴む。

 バスカーモード!食らいつくせ!俺のオルゴナイトよ!

 緑のオルゴナイトがルクスの手から腕を飲み込む。

 このまま一気に!

 

「できるとでも思ったか?」

「ちいっ」

 

 奴の赤いオルゴナイトが浸食を止める。

 緑と赤の結晶は互いを相殺し合い霧散する。

 まだだ!

 

「玄武剛弾!」

「アストラルバスターッッッ!!」

 

 いつの間にか復活していたゴルシとワカメの攻撃がルクスへと迫る。

 二人とも死んだふり上手かったぞ。

 ラースエイレムを使って来ない、やっぱり乱発はできないみたいだ。

 大剣を振るうと同時にオルゴンクラウドで二人の攻撃を防いでみせるルクス。

 

「いいから!どけよゲス野郎!!」

 

 そこをココが強襲、ミラージュソードがルクスの首を狙う。

 ヒット寸前で光の剣が止まる。オルゴンクラウドの強度を上げたな。

 

「こっち見ろや!実は非モテ!」

 

 仰向けのまま下からブラスターを浴びせかけてやった。

 俺が奴の腕を結晶浸食してから、みんなの動きが噛み合いコンボが発生した。

 リンクはとっくの昔に切れているってのに、ルクスへの怒りが俺たちの心を一つにした。

 これには奴も後退せざる得ない。

 

「マサキ!」

「ココ!」

「させるか、今一度ラースエイレムの恐ろしさを知るがいい」

 

 やっべ!今度こそやっべ!

 俺のミスだ、つべこべ言わず、昨日の内にココと契約しておけばこんな結果には・・

 

「させない・・ケルヴィン・・ブリザード」

 

 凛とした声が聞こえた。

 瞬間、この場全体の温度が休息に冷えていくのを感じる。

 

「この冷気!?くっおおおおおおおおぉぉぉ!」

「何アレ凄っ!」

「一瞬で氷漬けになっただと!」

「ざまぁw」

「戻って来ましたか、あのような体で無茶をする」

 

 周囲一帯に冷気がに包まれた。

 戦場の景色が一変する。そこかしこに生まれる氷塊、大気中の水分すらも瞬間冷却しキラキラ輝くダイヤモンドダストが出現する。

 寒っ!めっちゃ寒い!真冬なの?氷河期なの?体の芯から震える程の冷気を感じる。

 攻撃対象となりその冷気を集中させられたルクスがどうなったかは一目瞭然。

 眼前にあるのは大きな氷柱、仮面を付けた人型を封じ込めた氷の牢獄が生まれている。

 

 氷漬けのルクスがその動きを完全に停止していた。

 

 こんな芸当ができる人物はやはり彼女しかいない。

 

「ガッちゃん!」

「ん・・・間に合ったね」

 

 ベーオルシファー戦の前に別れたはずのガッちゃんがそこいた。

 

「どうしてガッちゃんがここに?先輩たちはどうしたんだ」

「それは・・かくかくしかじか」

 

 洞窟神殿から退去したテュッティ先輩、サフィーネ、ガッちゃんとミオは地上で待っていたファイン家別動隊のエアシャカ―ルたちと合流し、俺たちの帰りを待っていた。

 その間、転移術で移送した教団員の手当てと捕縛をしていた所でガッちゃんが気づいた。

 転移させたはずの人数が一名足りないことに。

 嫌な予感がしたガッちゃんは追いすがるテュッティ先輩を説得(腹パン気絶)して俺たちの下へ参上してくれた。

 

「そこの仮面・・信徒に混じってた」

「そうか、最初からいやがったのかコイツ」

「一人で来るなんて、思い切ったことしたね」

「一人じゃない・・ザムも道連れ」

「それ持ってきちゃったか」

「降ろすの忘れてた」

 

 ガッちゃんも慌てていたのだろう、ミオが入ったバッグを肩にかけたまま来ていた。

 ピシッと氷柱に亀裂、マズイ!ルクスの奴が出てこようとしている。

 

「長くはもたない・・チャンスは今だけ」

「ワカメ!」

「承知しましたぞ」

 

 ゴルシとワカメがガッちゃんの傍に駆け寄り、氷柱の周囲に結界を張ろうと試みる。

 

「ああくそ、自慢じゃないがこういうの苦手だ。私ができることあれば言ってくれ」

「覇気ちょうだい・・・ダメ、マサキのみたいに上手くチューチューできない」

「それでも無いよりマシだろ、いいから使ってくれ」

「二重三重に陣を張るつもりですが、これでも突破されそうですな」

「おお・・人間にしてはなかなか・・・うん、そのまま手伝って」

「マサキ!ボスを頼む!さっさとやることやっちまえーーー!!!」

 

 仲間たちが作ってくれたこのチャンス、無駄にするわけにはいかない!

 

「ココ・・その・・・いいか」

「うん、待ってましただよ」

「えっと、どうしよう。クロとシロの時は確か」

 

 上半身を起こして立ち上がろうとする俺をココが制する。

 

「座ったままでいいよ、楽な姿勢でやった方がいいでしょ」

「そっか、最初に謝らせてくれ。こんなことになってごめん」

「謝る必要は感じないけど、マサキの気が済むなら受け取るね」

「散々拒否した挙句、ピンチになったら都合よく契約しろだなんて・・俺は最低の男だ」

「無理を言ってたのはこっちだし仕方ないよ」

「今更なんて言えばいいか正直わからない、クロシロの許可を取ってからだと思っていたし、出来ることなら今じゃなくて、もっとムードのある時と場所で契約したかった」

「ホントだよ、そこだけは残念だな」

 

 足を投げ出して座る俺に正面からしな垂れかかって来るココを受け止める。

 ちょっとドキドキしてきた、ココの鼓動も同じようなリズムを刻むのを感じる。

 細く繊細な身体・・クロシロとは違う匂い・・覇気の流動。

 近距離で見つめ合う、金色の美しい瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。

 欲しい・・・お互いがお互いのことを欲している。

 

「勝つために、生き残るために、お前が必要だココ」

「うん」

「でもそれだけじゃない、今ならわかる。あいつらと同じく俺はお前のことも待っていた」

「私もだよ」

「今ピンチじゃなくても、きっとどこかでこうなる運命だったんだ・・・今のはさすがにクサいかw恥ずかしい!」

「フフッ、頑張って。クサさ最高潮でもキミの口説き文句はこうかばつぐんだよ」

「ならいい。最後に確認だ、俺には既に愛バがいる。それでも本当にいいのか?」

「百も承知、とっくに覚悟はできてるよ」

「お前一人に構ってやれなくて寂しい思いをさせるかもしれない、それにクロシロがどういう態度に出るか未知数だ、アルダンのこともある。いろんな奴らに好き好き言ってしまうダメ男だし。俺といればそこのルクスみたいなのに絡まれるだろう、大変な思いをして後悔する日が来るかもしれない、それから・・・」

「はいストップ!」

「んぐ」

 

 指先で口を止められる。契約前の不安材料はしっかり提示しておきたかったんだが。

 

「言ったでしょ、もう私は覚悟完了してるの。今更そんなので怖気づいたりしない」

「しかしだな、負わなくてもいい苦労ってもんが」

「マサキにはそれだけの価値がある。苦労?寂しい?そんなのが全部チャラになってお釣りがガッポリ入るくらいの価値がね。せっかく見つけたキミを手放すだなんてとんでもない!!」

「強いな、俺の愛バはみんな強い子ばかりだ」

「キミがいるから強くなれるの」

「俺のことも強くしてくれるか?」

「うん、一緒に強くなろう。私とキミとみんなでね」

「みんなか・・そうだな、全員揃うまでは絶対に死ねない」

「揃った後が本番だよ、ワクワクでいっぱいの日々にしようね」

 

 覚悟が決まってないのは俺だけだった。

 この子を幸せにする勇気が無いなんてどこかで言い訳をしていた。

 情けねぇ、ここまで言わせてできないなんて言えない!

 クロもシロもアルもココも俺が幸せにしてやるんだ!うひょー大それた四股宣言!!!

 

「四股すんません」

「それこの先何回も言いそうww」

「ふぅ・・・そろそろ、いいか」

「うん、やろう」

 

 いよいよだ。

 結構な緊急事態だが焦って契約したくない。まだ出てくんじゃねーぞルクスのアホ!!

 

「ファインモーション、お前と契約したい。俺の愛バなってくれるな」

「はい承りました。私、ファインモーションはアンドウマサキ様を生涯の伴侶、操者として認めます」

 

 照れる///

 この後は・・・ん?忘れていたぁーーー!この後アレがあるやん!あの激痛再び!?

 

「い、今から地獄の噛みつき刑でしょうか((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

「おや、震えだしたね。それもいいけど・・・こっちをもらおうかな」

「何を・・・痛っ!」

 

 ルクスに頭を蹴られてから額の傷口がまた開いていた。

 もう血が止まらないので放置していたが、そこへココがいきなりキスをした。

 

「チュッ・・・ん」

「お、おい」

 

 怪訝に思っている俺を無視して傷口に口づけするココ。

 口紅のようになった俺の血を舌を使って舐めとる・・・エロい。

 そのまま今度は舌を這わせてきた!ちょっとおおおお!

 

「レロ・・・染みる?」

「少しな。なあ、デコの血でいいのかよ?」

「出血したら舐めるって言ったよね。実はルクスの攻撃を食らった時からずっと狙ってました」

「マジでか!あの時、そんな気持ちだったの!」

「チューーー!!」

「吸い過ぎ!吸い過ぎだから!なんかこのまま脳みそ吸われそうで怖い!!」

「じゃあ舐めるね。レロレロレロレロレロレロレロレロ~」

「ちょw花京院より舐めてるぅぅぅ!」

 

 俺のおでこはサクランボじゃありません。

 なんとも締まらない、こんなんで人生のパートナーが決まってると思うと笑える。

 不思議だ・・・クロとシロの時は死ぬほど痛かったのに・・今回はなんか楽?

 額はずっと痛かったはずなのに、ココが舐めている箇所から痛みが引いていく気がする。

 

 ココの頬が上気している。

 舌がゆっくりじっくり額を舐める、俺の血を味わっているかのようだ。

 悩ましい吐息がエロい、傷口へと時折やさしくキスをされてしまう。

 心地いい・・もうなすがままだ・・このまま身を委ねてしまっていいのか・・・いいか。

 声が聞こえる・・・あの時みたいに。

 

 ・・・ほら、私の言った通りになった・・・

 

 ・・・ピンチなのはわかってるけど、嬉しいよ・・・

 

 ・・・やっとあなたのものになれた、それがとても嬉しい・・・

 

 ・・・ズルい女、嫌な女、弱い女、こんな私でごめんね・・・

 

 ・・・嫉妬するし、わがままも言うよ、泣いたり暴れたりするかも・・・

 

 ・・・でも、どうか、そばにいさせてね・・・

 

 ・・・私の全てをあげる。だから、聞かせてほしいの・・・

 

 ・・・私、あなたのことが大好き。他の三人に負けないくらい好き・・・

 

 ・・・あなたは・・・

 

  (何だよ?言ってみろ)

 

 ・・・あなたは私のことどう思うかな?・・・

 

  (好きでもない女と契約なんかするかよ)

 

  (ピンチをしのぐためだけじゃない、これからもお前にいてほしいから契約するんだ)

 

  (気が多くてすまん!俺はみんなが好きだ、だから、お前のことも大好きに決まってる)

 

  (好きだファインモーション、こんな俺でよければ全部もっていけ)

 

 ・・・うっわ、うわ、うわぁぁぁ!ヤバイ鼻血出そう・・・

 

  (おい!今最高にいいムードだったのに!)

 

 ・・・もう思い残すことはないよ・・・昇天していいかな?・・・

 

  (いいわけないだろ)

 

 ・・・もう何も怖くない。あ、やっぱりキタサトちゃんは怖い・・・

 

 ・・・これからもよろしくね、私の操者様・・・

 

  (こちらこそだ、俺の愛バ4号)

 

 ・・・4号はなんか酷くない・・・

 

「あいつら、いつまでやってんだ!」

「ふむ。額からの吸血プレイですか・・暗黒神官と呼ばれた私でも引きますな」

「教団はもっとエグイ儀式やってそうなんだが」

「失礼な!ヴォルクルス教団は地道な布教活動とアットホームな雰囲気が魅力の健全な宗教団体ですぞ」

「生贄に覇気を奪うのがアットホームねぇ」

「それはそれ、これはこれです!普段は好きなお菓子を持ち寄ってスマブラ大会とかしてました」

「それ私も参加した・・教団は変だけど・・みんな割といい人だらけ」

「は?アーチボルトと繋がっていただろ、生贄用意してもらったりとか」

「奴に依頼したのは闇社会で「信者募集中」の宣伝です。それを曲解したあのアホは女子供をさらってこちらに寄越す始末!可哀そうなのでトラウマな記憶は消して家に送り届けましたよ。もうマジでめんどうでした」

「ワカメが助けて入信した子もいる・・・教団はダークぶってるけど殺しやテロにはいっさい関与してない」

「知らんかったわ~。極悪キチガイカルト教団だってモーションが言っていたから」

「おのれファイン!小さいころ宿題を手伝ってやった恩を忘れおってからに!」

「そういえば、1stでは師弟関係だったな」

「先生、先生と呼ばれていた頃が懐かしいですよホントに・・・」

 

 ルオゾールも教団も思ったより腐っていなかったことが判明。

 教団は純粋にこの世界2ndのことを憂い、ヴォルクルスの召喚に踏み切ったようだ。

 自分たちを生贄にしても1stの悲劇を繰り返さないと決死の覚悟をしていたのだとか。

 

「お前の悪い言動は何だったんだよ」

「ヴォルクルスは破壊神、悪の組織風にキャラ立てしないと召喚に応じないと脅されまして・・・ルクスに」

「騙されすぎだろ!」

「仕方ない・・ルオゾール、あいつに神核弄られてた・・定期的に」

「え?それはいつですか!身に覚えがありませんぞ!」

「マッサージチェア」

「な!まさかあのプレゼントが・・そんな」

 

 教団を立ち上げて間もない頃。

 お祝いにルクスから高性能マッサージチェアをプレゼントされたことがある。

 大層気に入ったルオゾールはそこに座りうたた寝をするのが日課になっていた。

 

「昼寝中・・ルクス、後ろにいたの見たよ」

「教えてくださいよ!」

「無理だよ・・その後、すぐに牢屋行きになった・・・あなたのせい」

「そうでしたぁ!誠に申し訳なかった。あわわわ、私の神核大丈夫?どうなってんの?」

「見た感じ問題ない・・気分の高揚と、ヴォルクルスに対する狂信性の一時アップが目的・・たぶん」

「ルクスゥゥゥゥ!!私の心を弄んだなぁ!許しませんぞォォォ!!」

「気力限界突破ワカメww」

「ん・・そろそろ・・・ヤバイ」

「くっ、これだけの結界を内側から・・」

「マサキ!早くしろ!デコ舐めプレイの延長戦は却下だぁぁぁ!!」

 

 デコ舐めプレイってなんやねん。

 ガッちゃんたちが限界みたいだ、名残惜しいが行かなくては。

 

「ココは休んでろ、後は俺がやる」

「うん・・お願い」

 

 契約完了。

 今回は痛くなかったし、気絶もしなかった。

 契約のやり方とその間の感覚には騎神ごとに違う反応があるのかも、知らんけど。

 俺はすこぶる元気だ、ココの覇気をもらってベーオルシファー戦より調子がいいくらいだ。

 逆にココは俺の覇気を取り込んだ反動から少々ぐったりしている。

 心配だ、またクロやシロみたいになったらどうしよう。

 

「結晶体にはならないよ、ちょっとクラクラしてるだけ・・マサキの凄くおっきいんだもん///」

「覇気のことですよね?小さいと言われるよりはマシだけどな!」

 

 背伸び、腕回し、腰回し、屈伸、伸脚、アキレス腱・・・ストレッチをしてと。

 

「もう無理~・・・マサキ・・・後よろしく」

「そうと決まれば退避ですぞ、ささ、ガッデス殿はこちらへ」

「はい・・運搬よろ~」

「いくら天級でも身を酷使し過ぎだ。体だって幼女のままなのに、死んじまうぞ」

「それでも私は天級・・サイに代わってあの子を守る義務がある」

「天に愛されし子、それがアンドウマサキですか」

 

 ガッちゃんがワカメに抱っこされて退避していく、いいの?ワカメ臭うつちゃうよ。

 ゴルシはこちらに来てココを守ってくれるようだ。

 

 ワカメの多重結界が破られる。

 その直後に氷柱が音を立てて崩れ去る。

 中から激昂したルクスが出て来る、ガッちゃんの技が随分とお気に召したようだ。

 

「やってくれたな天級騎神!そんなにあいつが、マサキが可愛いか!!」

 

 おほっ!怒ってる怒ってるw年上に可愛がられて何が悪い!

 

「よっしゃ、行ってくるわ」

「うん、気を付けて」

 

 額の血は止まった、というか無理やり止めた、だってココがずっと舐め続けそうな勢いだったんだもん。

 オルゴナイトで傷口を固める、やったら出来た!止血には今後も使えそうなテクだ。

 

「あのバカを殺してやる!そうだ、そうすれば天は"あの美しい風"は目を覚ます!!」

「寝ぼけてんのはてめぇだよ」

「ぐ、マサキーー!!」

 

 なんか言い出したけど知らん。

 怒りのままに剣を振るうルクスへ接近してオルゴナイトの爪をお見舞いする。

 剣で受け止められた、でも構わない。

 

「くだらん、ガラクタの真似事か?」

「意外と応用がきくんだよ、こんな風に!」

 

 10本の爪を近距離から射出する。フィンガーミサイルなんてどうよ。

 

「ちぃ!」

 

 剣で半数を残りの半数をオルゴンクラウドの盾で防ぐルクス。

 ふむふむ。威力と命中後の爆破規模は結晶の大きさと、そこに込めた覇気に依存するっと。

 こういうのはシロの得意分野だ、あいつが起きたら相談してみたい。

 

「だっりゃぁあああ!」

 

 考えろ、常に工夫を凝らせ、まだやれる、まだアレができるはず。

 模倣しろ、見たはずだ、感じたはずだ、あいつらみたいに、そしてそれ以上のオリジナルを!

 フィンガークリーブ、何度も拳をぶつけるのはルクス本体ではなくその大剣。

 結晶の強度は俺の方が上だ!武器破壊まで後一歩ですが大丈夫?

 

「なめるな!」

「おお、もう一本か」

 

 左手にも剣を形成して攻撃を開始するルクス、右手の大剣より小ぶりだな。

 両手剣に両拳がぶつかる。手が塞がった、こんな時もう一本腕があればな・・・造るか。

 

「よい・・しょっとぉ!!」

「貴様っ!」

 

 ルクスの頭上からオルゴナイトの槍が振り下ろされる。

 覇気で出来た鞭を造る要領で尻尾を造ってみた、俺が制御できるのは一本が限界それでも意表を突くには十分。

 槍の正体は即席で造った尻尾の先端だ。手足が塞がってもこいつで追撃できる。

 同時、俺の足に形成していたカギ爪をルクスの足に接触させ浸食させる。

 緑の結晶で地面に縫い付けられた足じゃ回避行動には移れまい。

 

「うぐっ」

「浅かったか」

 

 尻尾槍が二振りの結晶剣を破壊する。

 頭を狙った一撃を武器を犠牲にすることで防いだか。

 はい、隙ができました!

 

「臓物(はらわた)をブチ撒けろ!!」

 

 正拳突きをルクスの腹に叩き込む、ヒットした瞬間におまけつき。

 拳と共にオルゴナイトの杭を打ち込み射出!

 アルトアイゼンのリボルビングステークからヒントを得たオルゴナイトステークだ!

 

「ぐおおぉぉぉぉーーー!!」

 

 今のは完全に入った。

 ルクスは叫びながら吹き飛び、儀式の間の柱を二、三本へし折ってようやく止まる。

 

「やるじゃねえか!おい、見ろよボス!あんたの男、超強いぜ」

「知ってるよ・・やっぱりカッコイイな」

「ありゃボスには勿体なかったな、私が唾つけとけばよかったぜ」

「残念だったね、そっか、ゴルシちゃんでもそう思ってくれるほどの人が私の・・・えへへ」

 

 この程度で終わるはずはない、油断せずに構える。

 ほら来たぞ。

 立ち上がったルクスが赤いオルゴナイトを手に形成しそこからビームを撃って来る。

 オルゴンクラウドで軌道を逸らすことに成功、ルクスは横に走りつつこちらにビームを撃ち続ける。

 射撃戦にシフトしたようだ。

 

「その姿、お前はベーオウルフやルシファーにでもなるつもりか!」

「必要なら何にだってなるさ。てめぇに人生狂わされたあいつらの意思が俺に宿ったのかもな」

「減らず口を!」

 

 うわ、バンバン撃って来る。

 ブラスターで応戦するが直線的な軌道が読み易いのかひょいひょい躱される。

 こっちはクラウド上からガリガリ削られているのに。

 とりあえずルクスがいる方に向けて結晶の塊をぶっ放しておこう。

 

「そんな狙いで当たるとでも」

「ちょこまかウゼェ!止まれってんだよ!」

「防護壁がいつまでもつかな、このまま追い詰めてやる」

「あっ!そこ危ないぞ」

「ハッタリはよせ、幼稚な言葉で惑うほど・・な、ぐあぁぁぁ!!」

「だから言ったのに」

 

 先程何発かぶっ放した結晶塊が形を保ったまま転がっていた。

 ルクスの移動先にちょうどあったので遠隔操作で起爆できるかやってみたら出来た。

 見えている地雷でしたよ?注意もしたのにモロに食らってやんのww

 逃がさん!

 姿勢を崩しよろけた所を一気に接近。

 体重、覇気、速度、それと奴に対する怒りを込めた全力蹴り!

 

「くたばれ!」

「おごっ!?」

 

 足裏のオルゴナイトを起爆!結晶爆裂脚、いいルビが思いつかん。

 二回目の吹き飛び、今度は受け身をとって倒れ伏すことはなかった。

 ふと思ったが、あの仮面なんなの?

 あれだけ動き回って吹っ飛んだのにどうして外れないの?肉付面なの?仮面が本体なの?

 そんなに隠されると暴いてやりたくなるな!

 

 新規契約した効能か、体がメチャクチャ軽い。

 一方、ルクスの方は片膝をついて肩で息をしている。

 あれれ~どうしたのかな、結構効いているじゃないの。

 

「あれだな、ラースなんたらがなけりゃ、ちょっと強い不審者だなww」

「忌々しい男だ、ならば望通り味合わせてやる!停止した時の中でわけもわからず死んでいけ!」

 

 ルクスの手元が怪しく光ると同時に時間停止のフィールドが形成される。

 俺の時は三度停止した。

 

「フン、偉そうにしていたのはハッタリだったか」

「・・・・」

「契約したものの、その力を引き出せなかったようだな」

「そ、そんなマサキ!」

「見ているがいいファインモーション!お前の想い人の最期をな!」

「ダメ!やめて!」

「ハハハハ、終わりだアンドウマサキ!」

 

 手に形成した赤いナイフをマサキに突き立てようとしたルクスは見た。

 マサキの眼球が動き、こちらを睨みつけるのを。

 

「うわたぁ!!」

「ぐぇ」

 

 ルクスの仮面に俺の拳がクリティカルヒットする。

 あっぶな!めっちゃ近かったぞ、あんなに顔近づける必要ある?キスされるのかと思ったわ。

 

 (もう!急に話しかけるのやめてよね、メルアさん!)

 (いや、どうなったか心配でして)

 (会話中にラースなんたら来ちゃったから、動けるまでラグが発生したでしょうが!)

 (ご、ごめんなさい。でも、よかったですね!時流エンジンの恩恵がバッチリ作用していますよ)

 (ココのおかげだ、後でお礼しないとな)

 (四人目の愛バですね。境遇がトーヤさんに似てるのは偶然でしょうか?)

 (トーヤってのがメルアたちの、いいひとって奴かどんな男だ?やっぱ俺に似てるのか?)

 (はぁ?冗談よしてください、似てませんし。トーヤさんの方が何兆倍もカッコいいです)

 (そ、そうっスか)

 (大体!オルゴナイトで尻尾や爪を出したり、噛みついたり、光線吐いたり野蛮な真似はしませんよ!)

 (ごめんってば)

 (トーヤさんの戦いはもっとスマートなんです!こう、武術と剣を華麗にですねぇ・・)

 (この話続けるの?まだルクス倒してないよ)

 (まあ、私たちに対してはもっと積極的になってほしかったですけど)

 (エロさでは俺の勝ちだな!)

 (そこで威張られても・・・)

 (エロくて何が悪いか!)

 (ラースエイレム、多分今ので終わりですよ。時流エンジンで動く人数が二人もいれば負荷がかかって壊れます)

 (そうなの?じゃあ、ここからは真向勝負だな)

 (はいです!頑張ってください、私たち全員が応援していますからね)

 

 時間停止前の女神通信がちょっと邪魔だった。

 トーヤみたいにスマートな戦いは俺には無理だ、俺は俺らしく行くところまで行こう。

 

 ひっくり返りそうになるルクスのローブを掴み至近距離から睨みつける。

 手首から腕にかけて接続されていた謎の装置(多分あれがラースエイレム)が火花を出して煙を上げる。

 メルアの言った通りだ、時間停止中に動く人数が起動者以外にいると負荷がかかり壊れる。

 ココが一人で動いていた時からずっと負荷がかかっていた、それが今度こそ臨界突破しただけ。

 俺が仮面に手をかける、その腕を掴むルクス、おい観念しろや!

 

「ラースエイレム破れたり!さあ、顔を見せろ。ブ男か?イケメンか?それとも女かぁぁ!!」

「は、離せ」

「俺はプレデターの素顔を希望する「なんて醜いんだ」ってシュワルツェネッガーみたいに言ってやんよ!」

「やめ、ぐ、くそ、や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うわっと!」

 

 焦ったルクスが覇気の瞬間解放による爆発を行う、食らうわけにはいかない、距離をとって回避。

 ちっ、もう少しで外せたのに。

 

「はぁ、はぁ、マサキィィィィ!どこまでも目障りな男!貴様だけは」

「正々堂々勝負しろや、それで負けろ」

「負ける?この私が負ける?ありえないんだよそんなことはなぁ!」

 

 攻撃?オルゴナイトからの赤いビーム、でも俺を狙ったわけじゃ・・・あの野郎!!

 

「ぐっ・・」

「お、おい」

「マサキ!く、ゴルシちゃんマサキを」

「いいから、隠れてろ。あいつお前らを狙う気だ」

「隠形で隠れていてもわかるぞ!そら、今度はそっちだ!」

「くそっ!」

 

 何もない所へ攻撃したようにみえるが違う、あそこにはきっと、間に合えーーー!!

 

「がぁ」

「マサキ!・・やだ・・」

「おのれ、天級の隠形を看破するとは」

 

 最初はゴルシとココを今度はワカメとガッちゃんを狙った。

 最悪だ、俺とタイマン張るのをやめて手当たり次第に攻撃し始めた。

 しかも、オルゴンクラウドを集中してやっと防げる程度の威力で撃って来る。 

 狙われている奴らから離れすぎていると庇いきれない。

 そうなると、俺が直接盾になるしかないわけで・・・こいつ美学もクソもないな、マジ悪だ。

 胸と腹部に鈍痛・・痛てぇ・・カバーしきれない箇所があったか・・ああ、また出血。

 

「次はどっちかな、どっちがいいと思う?お前に決めさせてやるよマサキ!」

「このゲスがぁ・・・」

「ルオ・・ここまでありがと・・マサキ抱っこ」

「え、ガッちゃん何する気」

「覇気もらうね・・・ふぅぅぅ・・・はっ!!」

「こ、これは」

 

 戦場全体に現れる魔方陣、ガッちゃんが俺の覇気を流用して何かやる気だ。

 

「ガッデス!お前も目障りだ、マサキと共に消えろ!」

 

 ビームが飛ぶ、今度はココの方へ。 

 やめろ!その子は俺の愛バになったばかりの子だぞ!

 くそ、間に合うか・・今のゴルシじゃアレは止められない!

 

「大丈夫・・私が・・送るから・・お別れ言う?」

「え、あ、そうか」

 

 そういうことか、頼りになる幼女様だぜ。

 

「ルオゾール!あんた思ったよりいい奴だったな、今後は精々真面目に生きろ」

「・・・はい、命の恩人の言葉、確かにいだたきましたぞ」

「ゴルシ!これからも誰かを助けてやってくれ、マジなお前もカッコよかったぞ」

「急に何を・・まさか」

「ココ!」

「マサキ!」

「あいつらを頼む!絶対に戻るから信じて待ってろ!最高のハーレムを準備しておいてくれ」

「うん、待ってる!信じてるから!だから・・・」

 

 魔方陣の光が一層強くなる。

 そして転移が始まる。俺とガッちゃん、ルクスを残してみんなが消え去った。

 地上に送ったんだよな・・・これで心配なく戦える。

 

「転移術か厄介な、だが、そのせいでガッデスは死ぬな」

「何?ガッちゃん・・・な、覇気が」

 

 ガッちゃんの覇気が酷く弱まっている・・これはヤバイ、明らかに虫の息だ。

 ただでさえロリ化しているのに、ここまで大技を連発し過ぎた。

 嘘だろ、待ってくれ、こんな所で死なないでくれ、今日はあなたを助けにきたはずなんだ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!

 

「マサキに肩入れするからそうなる。お前のせいで天が一つ失われるんだ」

「俺のせい・・俺がガッちゃんを、母さんの友達を」

 

 体が震える・・さっきから必死に覇気を与えようとしているが・・ガッちゃんが受け取ってくれない。

 もう、受け皿である自身の神核に外部から覇気を取り込む力さえ残っていないのか。

 涙が出て来る、もう、ルクスなんてどうでもいい。

 腕の中で消えている命を前にどうすることもできない自分がただただ情けなくて悲しい。

 

「泣かない・・男の子でしょ・・フフ、なんかちょっと嬉しい」

「ガッちゃん待って!お願いだから待って!今俺がなんとかするから」

「子供は諦めてた・・でもテュッティが来て・・マサキにも会えた・・うん、二人とも私の子にしよう」

「おれは母さんの子だよ、でも、ガッちゃんの子にもなっていい!だから」

「眠たくなって・・・来ちゃった・・じゃあねマサキ・・それと■■■■■■■」

「何?何を言ってガッちゃん!ガッちゃんてば!」

 

 最後に何かを呟いた?よく聞こえなかった、それとも認識できなかった。

 

「哀れな、マサキは結局覚醒に至らなかった。お前は所詮、彼の"代役"でしかない」

 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!どうすれば、母さん、母さんたちならなんとかできるのか?

 でも母さんたちはここにはいない。

 会いたい、今ものすごく母さんたちに、そしてクロとシロに。

 あいつらの所へ、ラ・ギアスへ今すぐ帰りたい。

 そこにはシュウだっているはずだ、だからガッちゃんを誰かが救ってくれる。

 帰る、帰りたい、故郷ラ・ギアスへ・・・せめてガッちゃんだけでも!

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

「な、ゲートが作動した!?バカな私はアクセスしてな・・・お前かぁ!」

 

 ベーオルシファー戦で結晶まみれにして放置していたゲートが動き出す。

 結晶を取り払い、力強い光と共に駆動音を響かせる。

 

 『起動権限者のアクセスを確認』

 『前回のゲストは不正なアカウントの使用が認められました、アカウント破棄します』

 『ユーザーを確認・・・履歴を確認・・・約20年前の使用を確認・・』

 

 声が響く、頭の中に直接聞こえる声が。

 女神通信や超機人のテレパシーに似ているが、これは機械音声のように無機質で業務的だ。

 これは、ゲートが俺に言っているのか?

 

「私の操作を受け付けない、またか・・そうやってお前は全部持っていく」

 

 ルクスがなんか愕然としてるがそれどころじゃない。

 このタイミングで起動したゲート、何か意味があるはずだ。

 

 『転移先を指定してください』

 

 なんだと、転移先を選べるのか!だったら行くっきゃねぇ!

 

「ラ・ギアスまで頼む!わかるか?」

 

 『ラ・ギアス???該当データなし』

 

 ええー、こいつまさか現在の地名とか知らないのか。どういえば伝わるんだろう。

 

「日本の○○県○○市の山間部にある村だよ」

 

 『日本?ニホンってなんやねん?』

 

 こいつ!急に口調が関西弁に・・日本わかんないかぁどうしよう。

 悩んでいると向こうから提案された。

 

 『オススメの転移先をピックアップします』

 

 そんな機能まであるのね。

 

 『起動可能なゲート検索・・32件該当・・・内、外界行き18件』

 

 外界行きはやめてほしい。

 

 『現存エネルギーで転移可能先・・・6件該当』

 『19番ゲート付近に準起動者反応を二名確認・・・同場所にてエレメンツの反応もあり、三名確認』

 

 ん?今のは・・・準起動者、エレメンツだと・・それって

 

 『19番ゲートへの転移をオススメします』

 『転移予定者はユーザー並びにエレメンツ二名と判断、合流するなら19番ゲートへの転移がよいでしょう』

 

「そこだ!そこでいい、転移先をそこに指定する」

 

 『転移先指定完了・・2分以内にゲートを通過してください』

 

 輝くゲート、その向こう側はきっと・・・俺の望んだ場所。

 

「行かせると思うか!」

「くそ、邪魔すんなボケ!今はお前に構ってる暇はない!」

 

 リングの中心が波打つ向こう側は見えないが、アレさえ潜れば。

 

 ルクスがゲートの前に陣取って邪魔をする。

 ち、近づけねぇ!ビームやめろや!

 

「ははは、そうやっている間にガッデスはくたばるな」

「てめぇマジで泣かすからな」

 

 どうすれば、早くしないとゲートが閉じてしまう。

 ミオお前ならこんなときどうする?

 

「てミオ!お前!」

 

 ガッちゃんが持っていたバッグの中にある宝珠が輝いている。

 チャックを開けて中を覗くと宝珠の黒い表面が蠢いているのを確認した。

 ラズムナニウムで構築されたそれはバッグから出てすぐにガッデスの体を包み込む。

 時間にして数秒、あっという間に黒い宝珠は数倍の大きさになった。

 中にミオとガッちゃんを取り込んだ結果生まれた黒の宝珠(特大)。

 そうか、ミオ、お前も力を貸してくれるんだな。

 

 でかくなった黒の宝珠をオルゴナイトでコーティングする。

 これで転移の負荷にも耐えてくれるはず。後はあの邪魔臭い野郎を!

 

「そこをどけぇ!!オルゴンスレイブーーーー!!!」

「バカな!ゲートごと破壊するつもりか!」

 

 あれ、知らないのか?ゲートは母さんでも破壊できないんだぞ。

 この程度はゲートにとってなんでもない。

 ブラスターの数倍、広範囲をカバーする大出力のエネルギー波がルクスを襲う。

 回避場所?そんなもんねぇよ!だから防御するしかないよなぁ!

 ルクスの動きが止まった、今だ!

 ガッちゃん、ミオ、母さんたちとあいつらによろしく。

 

「いっけぇぇぇーーー!!」

 

 両手で力いっぱいぶん投げる。

 サッカーのスローインならゴールもスタジアムも貫通する勢いで投げたつもりだ。

 ゲートに向かって、シュウウウゥゥゥーーートイン!ど真ん中だぜ!

 

 『転移完了を確認・・エネルギー供給の必要があります・・次回起動ま・・で・・』

 

 ゲートからの声が聞こえなくなる。

 ありがとう、迷惑門なんて言ってごめんなさい、役に立ったわ。

 これでガッちゃんは・・大丈夫、母さんたちを信じよう。

 

 ルクスはど・・こ・・が・・・ぁ?

 

「よそ見とは随分余裕があるな」

「しつこいな・・・普通空気読んで逃げるだろう・・がはっ・・」

 

 俺の腹に赤いナイフが刺さっている・・・ルクスの生み出した赤いオルゴナイトの短剣。

 ああヤベェ・・・今度こそヤバイ・・・。

 ナイフが引き抜かれる、出血する、口からも吐血する。

 崩れる、震える手で腹を押さえたままうずくまることしかできない。

 バスカーモードの時間が切れた、ココと契約した反動もここにきて感じるようになる、頭がクラクラする。

 

「手こずらせてくれたな、代役の分際で!」

「がっ・・あ・・ああ」

 

 顔を踏まれた、クソが、鼻が曲がったらどうしてくれる。愛バが悲しむでしょうが。

 

「このまま出血死するのを眺めてやってもいいが、こちらにも決まりがある」

 

 決まり?約束事?誰とのだ、こいつの協力者ならまだまだいそうだがな。

 

「ゲートを動かした、お前はまだ化ける可能性がある」

 

 俺の足を持って引きずるルクス、どこへ連れて行く気だ・・・ああ、痛てぇ‥体にもう力が・・

 二つある内のゲート、先程俺が起動させたのとは別のゲート前へと連れて来られた。

 

「収穫の時期はまだ早い、しっかりと熟成させねばな・・ゲートアクセス」

 

 ゲートが輝きだす、よかったな、こっちのゲートはまだお前の不正アクセスに気づいてねぇぞ。

 

「この・・クソや・・ろう・・が」

「そんな目でみるな、殺さずにチャンスをやろうと言ってるんだ」

「嘘つけ・・別に死んでも・・いい・・て思ってる・・くせ・・に」

「その通りだ、だがお前を生かしてもっと苦しめたいのも本心だ」

 

 起動したゲートへ周囲の空気が引き込まれて行く。

 倒れたまま踏ん張りの利かない俺は少しづつゲートに吸い込まれていく。

 驚きの吸引力、何なのよコレ?ダイソンなの?

 

「くそ・・・あ・・・」

「熟成期間を設ける。ここでは無い場所で生き残ってみせろ」

「ふざけ・・・んな」

「ああ、そうだ。なるべく早く戻った方がいい、余り遅いと・・・もらうぞ」

「何を・・」

「お前の大切な愛バたちをだ!全員まとめて私のものにしてやる!!」

「・・・ぐっ」

「神核も身も心も全て全て全て!全てを思い通りにしてやろう!ククク・・アッーハッハハハ!」

「ゲ・・ス・・が」

 

 下半身がゲートに飲み込まれた。ズルズルと引き込まれる・・・ああ、爪が床に引っかからない。

 

「いい顔だ、その悔しそうな顔を覚えておこう。戻って来たらまた見せてくれ」

 

 うるせぇ・・・

 

「どこへ行くかは私も知らない、運が悪ければ転移の負荷で体が弾けるかもな」

 

 うるせぇよ・・・

 

「愛バが待ってくれているといいな?私のものになっているかも知れないがw」

 

 黙れ・・・

 

「クロ、シロ、ココだったか。アルダンはアルか、お前が考えたらしい低俗な名だ」

 

 黙れよ・・・

 

「抵抗する気も失せたか、絶望して気でもふれたか?精神崩壊なんぞに逃げるなよ」

 

 ・・・

 

「お前が悪い、お前の存在が間違いだ、後悔しろマサキ」

 

 ああ、もうホントうるせぇ。ギャーギャーやかましいわ。

 こっちは腹に穴が開いて、額が割れて、血も吐いてんだそ、他にも全身痛いし、力の使い過ぎと契約の反動で怠いし、ベーオルシファー戦からの連戦だったんだぞ!チート使って負けた癖に偉そうな。

 てかコイツ何なの?

 もう俺が抵抗しないと思ったらベラベラベラベラ喋りやがってよぉ!

 なんかキャラ変わってね?登場時の余裕しゃくしゃくはどこいったよ。

 今はもうなんか、三下というかただのゲスじゃん、アーチボルトのお仲間じゃん。

 こんな奴に滅ぼされた1stが浮かばれない。

 

 ああ嫌だなぁ・・今から異世界かぁ・・チート転生じゃないと嫌だなぁ。

 チートくれないならせめて・・・お土産がほしいな・・・そうだ、もらっていこう、それがいい!

 

「もうすぐお別れだぞマ・・・・・は?」

「ガアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!」

 

 近づきすぎだボケ、そんなに俺の顔が見たかったのかよ。

 こいつマジで危機感ないよな、猛獣に不用意に近づくバカの末路を知らないのか。

 痛みを我慢し、上半身の力だけで跳ねる、下半身はもう浸かってるから無理。

 屈んでまで俺に嫌味を言っていたルクス、その腕を掴む、掴む、掴んで引く、こっち来いや。

 残った僅かな力でバスカーモード限定使用開始!場所は口内、人体の最強硬度を誇る箇所。

 そして・・・俺の歯は輝く緑の牙となり・・・

 

 ルクスの右腕を噛み千切ってやりましたとさ・・・ざまぁ。

 

「な、が、あああああああああああああああああっっっ!!こいつ!腕を!私の腕をぉおおぉお!!」

「ぎゃははっはははは!あーマジい・・ゲスの血肉なんざ口にするもんじゃねぇな」

「くそっくそっくそっ!このバカが!貴様は人間じゃない野蛮な猿以下の畜生だ!あああああああ」

「早く帰って手当したら?オルゴナイトで傷口固めたから死なないぞ。この腕は土産にもらっとくわ」

「ぐっ・・・それを、か、返えせぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ルクスが残った左腕を伸ばそうとする、それを未だに残る牙を鳴らして威嚇する。

 右腕か・・・ふむ、やっぱいらね。

 フゥゥゥゥーーーー!とブラスター(小)を浴びせかけるとルクスの右腕は結晶化の後、ボンッとなって消えた。

 

「あ、ごめーん。ゴミが落ちてたから綺麗にしておいたわww」

「お前ぇぇぇぇぇ!!」

 

 ああ、もう胸のあたりまでゲートインしちゃったよ。これはもう抜け出すどころじゃないな。

 

「覚えていろアンドウマサキ!この痛み、屈辱、決して忘れはせん!」

「いいから失せろボケ、帰って「腕がないよー」て泣いてろ」

「忘れるな!お前に待っているのは破滅だけだ!最期は無様に野垂れ死ね!!」

「あーはいはい。お前が死ねバーカ」

「奪ってやる何もかも家族も愛バもこの世界の居場所も全て・・・」

「なげぇ!うぜぇぇぇぇ!!」

 

 最後の最後に残ったブラスターを吐き出す。

 仮面越しにもわかる憎しみを込めた視線を向けながら、ルクスの姿は掻き消えてしまった。

 撤退用の転移術か・・・使えるんなら早くしろよ。

 一人になったな・・・暗い・・・静かだ・・・。

 ゲートの微かな駆動音だけが聞こえる。うーんズブズブ入ってます、もう残りは首と頭だけか・・・

 せっかくここまで来たのに、もうすぐ会えるはずだったのに、悔しいな。

 でもなぜだろう、これから行く場所にあんまり不安は感じてないんだ。

 天国だったてのはやめてね。

 

「腹減った・・・眠い・・・寒い」

 

 痛みが少なくなってきた・・ヤバイな・・・体の冷えの方が辛い・・血が減り過ぎた。

 でも、これだけは・・・言うぞ、声を大にして言いたい俺の思いの丈。

 

「母さん・・心配かけてごめん。シュウ・・・助けてくれたみんな、みんな・・・ありがとう後よろしく」

 

「姉さん、俺、弟で最高に嬉しかったんだぜ。ネオさん、グラさん、ミオ、ガッちゃんも・・・」

 

 みんなの顔を思い浮かべる。絶対に忘れないように、再び戻って来るその時まで。

 

「ココーーー!!あいつらと仲良くな!お前なら絶対に大丈夫だから、頼む!」

 

「アルダン!!アルって呼ぶわ!巻き込んでごめん!でもお前が愛バなの超嬉しいぞ!!」

 

 それから・・・最後はやっぱあいつら二人に・・・

 

「クロ!シロ!いつまで寝てんだ!起きろ!起きないと!ルクスって変態が来るぞ!!」

 

「どんなに離れてもずっと一緒だ!愛バが増えちゃったマジでごめん!でも二人ともいい子だからぁ!」

 

「愛バたちみんな愛してるぞぉぉぉぉーーー!!!全員が必要で大切だ!マジで信じてくれ!」

 

 なんか言い訳になってきたな・・・もう一回だけ・・・

 

「だから!早く起きろぉぉぉぉぉぉ!お前たちの可愛い顔を見せてくれーーーーー!!!」

 

「クロ!シロ!アル!ココ!俺は絶対にかえ・・・」

 

 ゲートが叫んでいた人間を飲み込む。

 ヴォルクルス教団地下神殿、儀式の間は激戦の後に静寂を取り戻した。

 残ったのはゲートの淡い光と、緑に輝く儚い粒子のみだった。

 

 この日、アンドウマサキは2ndから消失した。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「マサキ!?・・・そんな・・・リンクが切れた」

「ボス?どうしたあいつに何かあったのか」

「大丈夫、だって絶対戻るって言った、約束したんだから・・・信じる信じなきゃ」

 

 頭を振って立つ、ガッデスの転移術にて地上へ帰還したココは操者に託された使命を果たそうとする。

 

「シャカールたちはこの近辺にいるはず、行くよゴルシちゃん」

「おい、いいのかマサキが」

「私には使命がある。マサキは絶対に無事、まずは別動隊との合流を優先します」

「その使命とやら、私も参加できますかな」

「今更何?私は忙しいんだけど」

 

 ルオゾールがココの前に立ちふさがる、邪魔をするなら殺すぞという覇気を飛ばすココを意に介していない。

 

「見つけたのですよ、新たな神、いや希望をね。誰に言われたからでもなく、この目でしかと見て判断しました」

「まーた信仰か?懲りないおっさんだな」

「アンドウマサキ、マサキ様こそがこの世界の希望!私は彼と彼の愛する者の力となりましょうぞ」

「口では何とでも言えるよね。縋る対象がほしいだけならやめてくれる、マサキは私の、私たち愛バのものだ」

「今までの行いが簡単に許されるとは思ってません。手始めにこういうのはどうでしょう」

 

 ルオゾールが自らの頭に手を当てる、次の瞬間・・・髪の毛が全て抜け落ちた。

 見事なツルっぱげの完成である。なんの手品だよ!セルフ出家やめろ!

 

「ふむ。思いのほかサッパリしますな、これでもうワカメとは言わせませんぞ」

「ワカメがハゲにジョブチェンジしただけじゃねーか!それにしてもすげーツルツルだぁ」

「わかった、ハゲが今からファイン家に復帰することを認めます。教団員もまとめてこちらに引き込める?」

「もちろんですとも、皆がマサキ様の下僕となりましょうぞ。全員の頭髪はハゲオンリーでいきます」

「それはいらない」

「いいじゃねーか、ファイン家ハゲ部隊を設立しようぜww」

 

 終わってない、ルクスとその関係者の脅威は残っている。

 ここからだ、例え操者と離れていても愛バは止まらない!止まるわけにはいかない。

 

「早く帰ってきてねマサキ・・したいこと、してほしいことがたくさんあるんだから」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「聞こえた」

「え、何が?アルダンちゃんどうしたの?今日のカレー美味しくなかった?」

「そんなはずありません。私がグラム単位で計測した完璧な材料とレシピに時間配分は完璧です」

「ええーーココ壱みたいな味がするよコレ、ズルしてデリバリー頼んだ?」

「お店の味に近づいてるならいいじゃないですか!誓って手作りですよ!」

「私、ジャガイモがちょっと溶けた田舎臭い家カレーが好きなんだけど」

「だったら自分で作れぇぇぇ!!文句が多いんですよファルコンは!」

 

 言い合いを始める二人をよそにアルダンは窓の外に目を向ける。

 

「アル・・・アル・・・私をアルと呼んだのは・・・あなたですか」

「アルダンちゃん?おーい」

「聞こえてませんね」

 

 急いで着席し、とり落としたスプーンを手にする。

 食べかけのカレーを凄い勢いで掻き込み、咀嚼し、一気に飲み込む。

 

「ちょ、慌てて食べなくていいってば!」

「ごちそうさまでした。ちょっと頭首様の所へ行ってきます」

「どうしたのです?お給料の値上げは期待できませんよ」

「あの人の、マサキさんの現在位置を調べてもらいます。それとお嬢様たちの警護に志願します」

「え、遂に略奪愛計画を始めるの!やったぁーー!」

「コラ、ファルコン!待ってくださいあの計画は杜撰すぎてバカらしい・・・」

「アルダンちゃん待って!カレー付いてる!ありえないところに付いてる!」

 

 部屋を飛び出し走る、目指すはサトノ家頭首のいる場所。

 居ても立っても居られないこの気持ちはなんだろう、間違いなく何かが起こった。

 あの人の、お嬢様たちの、そして私の運命が動き出す予感がする。

 

「マサキさん、無事ですよね・・・お嬢様たちのことは命に代えても守ります」

 

 だから・・・

 

「またあの優しい笑顔を見せてくださいね」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あ・・・」

「サイさん!大丈夫?」

「あ、うん・・・ちょっと湯呑が割れちゃって」

「あらら、見事に真っ二つね。どうやったらそうなるのよ、変な力入れすぎなんじゃないの」

「いや、そんなことしてない・・・コレ、マサキが使ってたヤツなのよ」

「なんか縁起悪いわね、もしかしてマサ君に何か・・・」

 

 ピシッ!

 

「え、またぁ?」

「違う、この音は・・・!?クロちゃんとシロちゃん」

 

 ピシッピシ・・・ピキ・・・バキ・・・・ピシッ・・・

 

 音の出所は客間だ、一目散に向かい襖を開け放つ。

 いつものように鎮座する緑の結晶体、そこに無数の亀裂が入っていた。

 

「これは・・・」

「シュウは家にいるんでしょ、すぐに呼んできて。それからドウゲン君とビアン博士にも連絡を」

「え、ええーー!ということはつまり」

「繭が割れるわ、出て来る・・・産まれるわよ、あの子の大切な愛バたちが」

 

 亀裂はこうしてる今もどんどん増えていく。

 結晶全体が輝きだし今にも爆発しそうだ。

 

「家をぶっ飛ばしたりしないでしょうね、一応結界だけ張っとくか」

「あわわわ、こ、心の準備が・・・どうしましょう、ねぇどうしたらいいの?」

「テンパりすぎだっつーの!いいからシュウを呼んできなさいよ」

「そんなことより動画とか撮らなくていいのかな、この決定的瞬間を記録した方がいいんじゃないの」

「カメラなら博士とシュウがとっくに仕掛けてるわよ。あ、そろそろよ」

「待って!二人とも待って!おばちゃんまだ覚悟ができてないの!」

「おばちゃんww自分で言っちゃったよ。それより構えて、出て来るのはクリーチャーかもよ」

「それってファイン家が危惧していた、ええと」

「ベーオウルフ、ルシファー、マサキが旅立ってからすぐに、ファイン家頭首が教えてくれたでしょ」

「世界を滅ぼした破壊獣・・・そんなのにはならないわよね」

「わからない、この繭自体が未知の現象だからね。何が起こっても不思議じゃないわ」

「出てきたのが怪物だったら、どうするの」

「もちろん倒すわ、マサキに恨まれても私たちには世界を守る義務がある」

「そうね、わかった。私も付き合うわ、なんとか救う方向で」

「甘ちゃんね、でもアンタはそれぐらいでいいわ。お、来るぞ来るぞ」

「頑張ってもう少しよ」

 

 二人の天級が見守る最中、結晶の輝きは最高潮に達する。

 繭が割れる、吹き出すのは貯め込んだ覇気の余剰分なのか、様々な騎神の命を感じる。

 光爆、視界が埋め尽くされるほどの光が溢れ、アンドウ家が内側から眩く照らされた。

 

 そして・・・・

 

「あー眩しかった、で二人はどうなったの?」

「衝撃は感じなかった、爆発しなくてよかったわ・・・覇気の粒子、あの子と一緒の光」

「ちょっと見えない、見えないから!この粒子邪魔よ」

 

 粒子は徐々に消えていき、久しぶりに布団が見えてきた。

 いる・・・そこの二人がいる・・・さあ、どんな姿かな・・・

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・ん・・・サ・・キ・・さ・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

 寝ている、一糸纏わぬ姿のウマ娘が二人、穏やかな寝息を立てながら。

 

「着替え、持って来ないといけないわね」

「私のを着せればいいわ、この感じだとサイズも合いそうだし」

「あはははww何言ってるのww胸の大きさが違うじゃない!サイさん負けてるじゃないwww」

「よし、表にでろ。久しぶりに相手をしてやる」

「怒らないでよ~、私のならギリ合うかな」

「いや、アンタのでも無理でしょ。起きたらうまむらに連れて行くしかないか」

「それにしても・・・育ったわね」

「育ち過ぎよ、リミットオーバーにもほどがあるわ・・・どうすんのよコレ」

 

 二人の姿を見た時、私たちは一瞬見惚れてしまった。それ以上に困惑した。

 このウマ娘たちは一体何なのだろう、急激な成長をする例は多々あれどまさか・・・。

 

「体だけ大きくなって、前より"弱く"なってるなんてね、何がしたいのかしらこの子たち」

「覇気が繭になる前の・・多く見積もって半分・・・マサ君が集めた覇気はどこへ行ったの?」

「神核だけは安定してるみたい、一応健康体にはなってるみたいね」

「むむむ・・・胸部装甲が大きいのはマサ君の趣味かしら」

「知らないわよ。はい、じゃあ関係各所に連絡するわよ」

 

 まあいい、これであの子も帰って来るだろう。

 

「マサ君、きっとビックリするわ。だってこんなに綺麗で可愛いんだから」

「戦力になるかはともかく、そこだけは大満足でしょう。こんなのがいたら男も女も放っておくはずないもの」

 

 操者の喪失と愛バの目覚め、彼と彼女たち物語は続いていく。

 

 



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白の夢

 

 「起きろぉぉぉーーー!!!」

 

 誰だろう、私を呼ぶ声がする。

 この声知ってる、大好きな声、あの人の声だ・・・

 私、何をやっているんだろう、どうしてここにいるんだろう?

 理由、理由があるはずだ、こうなっている理由がきっと。

 

 整理しよう。

 自分のことをまず確定しよう。

 こんなフワフワした状態じゃ、考えもまとまらない。

 私、私は誰だっけ・・・

 

 これは必要なことだ、先に進むためにも必要なこと。

 だってほら、隣にいるあいつはもう動き始めている。

 待って、待ってよ!そうやっていつも先に・・・

 負けたくない、あいつには負けたくない、あいつ・・・てっ誰だっけ?

 

 落ち着け、落ち着け。

 思い出すんだ、あいつのことを、自分のことを、ここに来るまでの気持ちを。

 

 そうして記憶の海に沈んでいく・・・私が私になるために。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あなたも、いつか出会えるといいわね」

「はい」

「きっと素敵な人よ」

「そうでしょうか」

 

 ずっと昔、私と母はこのような会話をした。

 操者、そして愛バ、互いを認め合い高め合う最高のパートナー。

 絵本に出てくる操者と愛バの物語。

 それを読み聞かせながら、嬉しそうに語る母。

 私の反応はイマイチ、それもそのはずだ。

 だって、"自分より弱い生き物"の力を借りて強くなれるなんておかしな話だ。

 単体で完璧な命の私たちウマ娘が、人間を頼る必要性を感じない。

 人間は共に戦う存在じゃない、人間は私たちウマ娘が守るべき存在だ。

 この時は、本当にそう信じていた。

 

 私、サトノダイヤモンドは"望まれたウマ娘"として生まれた。

 

 サトノ家、御三家の万年№2に甘んじている一応名家。

 どう転んでも筆頭のメジロ家には勝てそうにない、永遠の二番手。

 まあ、御三家の括りがなかったら二番どころかもっとずっと下かも。

 ファイン家?何それおいしいの?

 

 そのメジロ家へのコンプレックスを抱えまくったサトノ家は、近年稀にみるフィーバーを迎えていた。

 なんと、頭首サトノドウゲンの娘が待望の"ウマ娘"であることが判明したからだ。

 頭首直系のウマ娘が誕生しなくなってから随分と経つ。

 うちの職業柄ウマ娘の従業員は多いに越したことはないのだが、サトノの血を受け継いだウマ娘が不在で「なんか締まらないなぁ」という空気が漂っていた所の吉報だったから、さあ大変。

 

 メジロ家とサトノ家の決定的な違いはここにある。

 メジロ家が一族中で多くのウマ娘が誕生しているのに比べ、サトノ家ではウマ娘が生まれること自体がレアケースとなって久しいのである。

 別にウマ娘をまとめるリーダーがウマ娘である必要はないが、やはり大きな組織を、それも騎神の従者を抱え戦闘や荒事を生業としている家の者が、ただの人間ではカッコがつかないというのが本音だ。面子というのは時として凄くすごーく大事なものである。

 組織の求心力と言う点で、騎神を勧誘する際はどうしてもメジロ家に劣ってしまう。

 優秀な騎神を召し抱えられない=戦力低下=組織全体の弱体化の式が成り立つ。

 

 何年もどんよりジメジメしていたサトノ家。

 そこに産まれたのが私だったもんで、当時はそりゃ凄まじい歓迎ぶりだった。

 父と母には毎日大勢の客が訪れ、親戚一同は連日のどんちゃん騒ぎ。

 いつの間にか知らない親戚が増えてたり、宗教への寄付を募る電話が鳴り止まなかったらしい。

 宝くじの高額当選がバレた奴かっつーの!

 

 大事に育てられました、ええ、ホントに蝶よ花よとね。

 私は周囲の期待に応えました、だって私、超優秀でしたからね!

 物心つくのも早かった、最初に覚えたのは周囲を把握することだ。

 誰が一番で、誰が弱くて、誰を動かせばいいかわかる、誰に味方すればいいかわかる。

 空気を読むなんてヤツの凄いバージョン、人の顔色を窺って望む結果を出してやる。

 それだけで私の評価はうなぎ登りだった。

 簡単だな、簡単すぎてつまらない、ああ本当に面白くない。

 

「ダイヤモンド様、本日のご予定は・・・」

「全て把握しております。ご苦労様でした」

「はっ!失礼しました」

 大人はみんな私を褒める。

 「ダイヤ様は立派だ」「あんな優秀な子、見たことない」「サトノ家は安泰」「踏んでほしい」

 聞き飽きた賛辞、クソつまんね。変態がいるのはご愛嬌。

 望まれたウマ娘?ちょっと違うんだなこれが。

 私は"他人が望んだことをこなしているだけのウマ娘"ただ淡々と機械のように。

 だからだろうか、ちょっと感情が高ぶった時や、頭の中では割と下品な感じにしている。

 なんかこっちの方が生きてる感じするし、もしかしたら、別世界の私は大声で口汚い言葉を使ってみたい願望でもあったりして・・・何を言ってるんだ私は。

 

 そんなこんなで上手くやっていたわけですよ。

 でもそう思っていたのは私と周りだけで、実際はそうじゃなかったのかも。

 

 父の名はサトノドウゲン、無精髭を生やした長身のがっちり体形親父。

 結構顔が怖いので誤解されやすいが、極度のお人好しでビビり、ヘタレでもある。

 父が頭首になってからサトノ家は一気に傾いたって有名、それと同時になぜか一部の層にコアな人気があり忠誠心の高い部下を多数抱えているのも事実だ。

 父が頭首なのはその手腕というよりも、人柄と顔の広さだ、つまり有志のファンによって支えられているのである。親戚一同もそんな父が可愛いらしく、どんなポカをやらかしても「まあ、ゲンちゃんなら仕方ないよね」で許してしまう。甘やかすな!

 父は私のことを「目に入れても痛くない!」と豪語して激アマ対応、うっとおしい程に構って来るので時々疲れる。しかし、放置するとむせび泣くので適度によい娘キャンペーンを開催している。やれやれ。

 でも・・・嫌いじゃないですよ・・・いやホントですってば。

 

 母は・・・母かぁ・・それ聞いちゃうか・・うーん。

 とりあえず名前は無しで、母は母だ!それ以上でも以下でもない。

 母と私の関係は少し、いやかなり歪に見えたことだろう、これでもお互いに気を遣わない関係で楽だったんだが。

 母は人間、そして恵まれた覇気をもつ優秀な操者候補だったらしい。

 愛バを求めサトノ家を訪れた際、父が一目惚れ、あれよあれよという間にお見合いがセッティングされ母の「まあ、いっか」の一言で結婚までこぎ着けた。

 わかりましたか?そう、母は変わり者なんです。ドライと言うかなんと言うか、母には母の世界があってそこから必要以上に外れなければ許容、外れれば「もういいや」になってしまうみたいな、詳細は本人に聞いてみてもよくわかりませんでした。

 

 母にとっての私は決して望んだ子ではなかったようです。あちゃーーwww

 サトノ家に嫁いだのはそれなりに幸せになれそうと思ったから、普通に結婚して、普通の子供がほしかったらしいのです。

 はい!ここでもうアウトですよ!

 なんと!産まれたのはまったくもって普通じゃない私でしたwww

 どうした笑えよ!!!笑ってくださいお願いします。

 

 母もね、最初の頃は一生懸命だったんですよ。

 絵本を読んでくれたり、行儀作法を教えてくれたり、手をつないで遊びに行ったり。 

 その他にもたくさん思い出をくれました。よき母であろうと頑張ってくれました。

 その節はありがとうございます!

 母の恩義と期待に応えようとしましたよ、張り切りました、張り切り過ぎました、テヘw

 教えられたこと、言われたこと、全て一度で覚え完璧にこなしてしまう。

 何をやってもやらせても必要以上の結果を出してしまう。

 教えてくれている最中に「その解釈は間違ってます」なんて生意気を言う。

 優秀、優秀過ぎた、ただ喜んでくれると思ったんですがね・・・

 見て見て!あなたの娘はこんなに凄いよ、親のあなたも凄いんだよって言いたかっただけなのに。

 

「私、必要かしらね?」

「え・・・はぁ・・・どうでしょか」

 

 ため息交じりの声で問われたことに即答できなかった。

 「何をバカな必要に決まってる」そう言うつもりだった。

 でも本心は違う、もうこの人から学ぶことは何もない、得られるものはないだろうと思っていたから。

 ・・・バカですよね、こんな娘が可愛いわけあるか!

 

 母は普通の、弱い人間の、自分を頼ってくれる娘を望んでいたのだろう。

 普通に親を頼り、普通にわがままを言い、普通に泣いて、普通にケンカして・・

 そんな当たり前の母娘でいたかったのだろう。

 そういえば母の前で泣いたことあったかな・・・生まれた瞬間と赤ちゃんの時ぐらいかな。

 ケンカもしてない、面倒事もかけてないと思う、叱られたことは・・アレ?あらら。

 そりゃつまんねぇわ!仕方ないわww私だったら絶対嫌だもんww

 

 父と母は私との接し方についてずっと話し合っていたらしい。

 迷惑かけとるやないかい!

 父が母をなだめる姿を何回見たことか、マジですまんの。 

 なんでかわからないが、それでも父との関係は良好なんだよな。

 普通に笑って、コントみたいになって、父のヘタレっぷりにツッコんで。

 いや、これただの芸人やんけ。

 そうじゃなくて、父といる時はその、素の汚い私が出ちゃうと言いますか。

 まあ、甘えているわけですよ・・言わせんな恥ずかしい////

 

 母との関係が特殊なものになるまで時間はかからなかった。

 お互いが話し合って納得した結果。

 私たちは母と娘ではなく、サトノ家の同居人みたいな感じになった。

 変だと思うかもしれないが、これが割と功を奏したのよ。

 母と娘が元々無理だったのだ、だからその枠を取り払った、解放された気分だった。

 母は笑顔が増えたし、私とも会話が増えた、二人で出かけたり、趣味について語り合ったこともある。そう、同居人で年の離れた友人関係が私たちの距離。

 それがとても心地よかった。楽だった。

 私のような変な子の親から解放されてせいせいした?よかったね!

 母娘関係を修復しようとか考えないし思わない、だって今が楽ちんなんだから。

 

「私、この家を出て行くわね」

「え・・・」

「そうですか」

 

 ある日の食卓、家族の団欒に見えるシーンの最中、母が宣言した。

 父は絶句して固まっていたが、私の心境は遂にキターーーー!!だった。

 一月ぐらい前からちょっとづつ私物が減っていたのは知っていたし、父と母の会議も回数がここのところ増えていた。何よりも・・・臭いだ。

 母から父以外の男の臭いがする!年は若いな・・推定20代の若造か、割とイケメンで好青年、母との交際は真剣でありいずれは結婚するつもり、真面目ちゃんなのでやることはやってない。ちゃんと離婚してからハッスルする気らしい・・・。

 臭いだけでこんなに推測できんだよ!ウマ娘すげぇだろ褒め称えろ!

 浮気ではない、本気だ!現に、母は彼氏のことを包み隠さず父に話し必要なら慰謝料と養育費も払う覚悟ありありのありなのだ。覚悟完了してんなおい!

 

 父は号泣し、泣いて縋ったが、母の決意は固かった。

 あれれ、コレ私のせいかな。

 私の優秀さが離婚に繋がったか・・・責任?あんま感じてませーん。

 その日からしばらく父と一緒に寝た。

 寂しいのは私ではない、この髭面親父だ。泣き顔きっしょww

 ちょっとだけ申し訳ないと思ってしまった。

 

 別れの日。

 今日は母が出て行く日だ。

 小さなスーツケースを一つ持って家を出る母。

 父と私は最後のお見送りをするべく後に続く。

 おい、しっかりしろ!震えてんぞ!まだ泣かないでよ父様!

 だだっ広い庭を抜け玄関の門扉まで進む、家の屋敷はでっかいのですよ。

 

 正面に見慣れない男性を見つける。

 父と私の方を見て会釈、こちらも会釈を返す。

 ほほう、あれが母の彼氏ですか。思った通りなかなかのイケメン~。

 今風のSUVでお出迎えですか、身なりもいい、どこぞの起業家か大手のエリート社員ってところだな。優しそうな顔、何より覇気が穏やかでいい。この人ならきっと、母を大事にしてくれるだろう。

 

 彼氏と二、三言葉を交わしてスーツケースを渡す。

 車への積み込みを任せて母がこちらに来る。

 最初は父と会話、どういう経緯なのか笑顔で握手しおった!この二人の関係もよくわかんねぇな。円満離婚でおk?

 で、今度は私に向き直るわけでして。

 母の顔、久しぶりにじっくり見たな・・私とあんまり似てねぇな。

 

「じゃあ、元気でねダイヤモンド」

「はい、母様もお元気で」

「私はあなたの母親には成り切れなかった。そのことはごめんなさい」

「いえ、私も母様の娘として振舞えませんでしたから、お相子です」

「まったく・・・最後まで可愛げのない子ね」

「性分ですので」

「ねぇ、抱きしめていい?」

「はい、お好きにどうぞ」

 

 低身長の私に合わせてしゃがんだ母に抱きしめられる。

 こんな風にされたのはいつ以来だろうか・・・

 

「信じられないかもしれないけど、あなたのこと嫌いじゃなかったわ」

「私もです」

「もう、会うことはないでしょう。偶々会っても知らないフリしてよね」

「はい、そうします」

「あの話覚えてる?操者と愛バの物語」

「はい」

「好きな人が、寄り添える相手がいるっていいものよ」

「父様と浮気相手がいる前でそのセリフはちょっと」

「黙って聞いて、あなたは凄い、きっと一人で何でもできる」

「まあ、そうでしょうね」

「そんなあなたがおバカになっちゃうぐらい、最高に好きな人ができた姿を見たかったわ」

「・・・ありえませんね」

「あなたみたいなのがハマるとヤバいのよ。覚悟しておきなさい」

 

 私を開放して立ち上がる母、その姿はちょっとだけ堂々としてカッコよかった。

 

「あなたの幸せを心から願っているわ」

「ありがとうございます。母様もお幸せに」

「いつかあなたにも素敵な人が現れるといいわね」

「期待しないで待っておきます」

 

 イケメンSUVの助手席に乗り、颯爽と去って行く母を見送る。

 これが、母を見た最後だった、今のところ連絡も目撃もしてないし、されてない。

 ふと上を見ると、父が立ったまま泣いていた。

 元気出せよ、仕方ねぇな・・今日は風呂一緒に行くぞ。

 せっかく背中を流してやったのに、風呂でもずっと泣いてた。女々しいな!

 

 次の日から、なぜか父はサングラスをかけるようになった。イメチェン?

 なにそれ?いや、ちょっと待てそれだとアレだ、息子を初号機パイロットにした陰キャこじらせ外道親父じゃないか。

 似てるな~マジで似てるな~声そっくりだもんな。

 ゲンドウとドウゲン・・・もう運命だな。

 私はエヴァに乗りたくないので父のことは"マダオ"と呼称しよう。

 まるでダメなおっさん略してマダオだ。銀魂好きですか?私は全巻揃えちゃうぐらい好き。

 

 母のことを振り切るかのようにマダオは仕事に打ち込んだ。

 やりゃあできるじゃねぇか!ちょっと見直したわ。

 万能母艦ヒリュウをメジロ家と交渉して、ぶんどって来たときはサトノ家一同狂喜乱舞したわ!

 えーと、なになに、ヒリュウを改修するってか!いいぞもっとやれ!

 居住ブロックに私の部屋を用意しろ、それから大浴場には拘れ、お願いパパ!

 これで家が制圧されても大丈夫って・・・縁起でもないこと言うな。

 

 私も忙しくなりましたよ。

 父の名代として駆り出されることも増えました。立派に勤めを果たしてみせましょう。

 マジ退屈でウンザリwww。

 そして遂に学校!義務教育が受けられる年になったのです。

 正直めんど・・ゴホン!ええ、同年代の方々と集団行動をとるのは非常に興味深いです。

 学校デビューは、まあ、私ですし。上手いことやりましたよ。

 清楚でおしとやかなダイヤちゃん(おまけに美少女)はみんなの憧れ、人気者ですわ。

 

 それにしても、不思議な生き物がいるな。その名は男・・・。

 私は同年代の子供と接触する機会があまりなかったもので、子供との付き合い方がイマイチよくわからない。

 女子はまだなんとかなるんだよ。問題は男子だ・・・なんだこいつら?

 これをどう育てたら、母をその気にさせたイケメン君まで進化をするんだよ。

 無知で、愚かで、不潔、おまけに助平と来た!人類かコレが・・・猿だろ猿、猿山に帰れ!

 しまったな、女子限定の学び舎にしてもらえばよかったかも、男子の存在がホント無理。

 こいつらは私にもちょっかいかけて来るからドン引きだ、何?自殺志願者か?

 マダオとの約束「腹の立つことがあっても我慢して、殺しは絶対にNO!」の約定があってよかったな。

 やーめーてーよー、もうほっといてよ。こっちくんな!

 何が目的なの?目が合ったら逸らす癖に、軽く微笑んでやったら赤くなるの何?熱があるなら休め。

 気を引きたい?嫌がらせで気が引けると思うなよ!お前らへの好感度はマイナスより上がらねぇよ。

 将来的にこれと、繁殖活動するとか・・・正気か?

 ダメだぁ!そんなのダメだぁ!せ、せめて年上でお願いします。

 ダイヤちゃん割とファザコンなんで、年上の包容力をみせてほしいっスわ。

 

 そんなこんなで私の人間蔑み度がアップしたのでした。特に性別男はアカン!

 

 友達?いますよ普通に、お喋りしたり、休憩中に駄弁ったり、ご飯を一緒に食べるやつですよね。

 放課後?お出かけや遊びに行く?家に招待したりして・・・はぁ・・あのですねぇ。

 うちはサトノ家ですよ。黒服の強面がゴロゴロしてる所に友人なんて呼べませんよ。

 それに必要性を感じません、放課後は一人でゆっくりしたいし、次期頭首としての仕事や、勉学に修練で忙しいんです!一緒にいたいと思う同年代なんていませんよ、いるわけありません。

 友達・・・無いものねだりしても、仕方ないですよね。

 

「ダイヤちゃん、今日は早く帰って来てね」

「また何か企んでますか?私の部屋にゲシュペンスト(中の人マダオ)を放置した時みたいな、サプライズはやめてください」

「ええーー、アレ結構喜んでいたじゃん。嬉々として襲い掛かって来たじゃん」

「自室に武装したPTがガイナ立ちしていたんですよ!メジロ家暗殺部隊のカチコミかと思って焦りましたよ」

「全武装を解体した挙句、エアダクトから濃硫酸を流し込もうとしたぐらいだしね」

「とにかくやめてください!もう部屋を荒らされるのは懲り懲りなんです!パソコンのデータぶっ飛ぶのもう嫌なんですぅ!」

「いや、暴れて荒らしたのはダイヤちゃん自身・・・あ、ちゃんと早く帰って来るんだよ、寄り道ダメ絶対」

 

 まただ、また父が妙な気を回した。サトノ家恒例のサプライズイベントです。

 離婚してからというもの父は前にも増して子煩悩になった。

 誕生日以外のサプライズも多いし「アレ欲しいかも」と呟いただけで、翌日それがお急ぎ便で届く始末。

 冗談に決まってるだろw誰が"邪神モッコス"のフィギュアなんか欲しがるかよww

 我が家の玄関前にディスプレイ中、魔除けとして大活躍のモッコス!みんなも買ってみよう!

 愛されてるのはわかってるから、頻度が多すぎだから、少し落ち着いてほしい。

 で、今朝もソワソワしながら早めに帰宅を促して来たわけで・・・何かあるなコレ。

 絶対なんかあるぞコレ!要警戒だ。

 

 帰り道異常なし、黒服がお出迎えする様子もなし、帰宅してからが本番か。

 嫌だなぁ、怖いなぁ、今回は部屋が無事に済みますように。

 無事帰宅、満面の笑みを浮かべた父に出迎えられた。その笑顔に不安しか感じない。

 

「お帰り~、うんうん、ちゃんと帰って来て偉いぞう」

「帰巣本能ぐらい備えてますよ。それで、ネタばらしはいつですか?」

「ネタ?ネタなんて仕込んでないよ。用意したのはプレゼントさ、それも、とびきりのヤツをね」

「プレゼントのヒントは?」

「生き物」

「クソがぁ!何を用意したんだ!ああもう!頼むから部屋を荒らさないでくださいよ~」

「仲良くするんだよ~」

 

 生き物!生き物wwバカじゃないの?

 私に何かを育てるなんて無理に決まってる。向いてない向いてないんだよ。

 ペットなど飼いたいと思ったことすらない。

 学校のメダカ水槽にザリガニ放流して全滅させた犯人は私だ!

 だって共存できると思ったんだもん、まさか、ザリガニ単騎による蹂躙が始まるとは思わんかった!

 正直ちょっと興奮した。ザリガニ強ぇぇぇカッケェ!ってなった。メダカさんたちごめんなさい。

 

 部屋の扉前で待機、父が何を仕入れて来たか、それが問題だ。

 サソリや毒ヘビだった場合、血清とか用意した方がいいかも・・さすがに考えすぎか。

 猛獣の類だった場合、戦闘が予想される。

 なめんなよコラ!こう見えてもウマ娘やぞ、熊ぐらいになら勝てる自信があるわ。

 深呼吸・・・意を決して扉を開く。

 

「あ、やっと来た」

「へ?」

 

 開けた瞬間に固まる。

 向こうもこちらに視線をやり笑みを浮かべる。

 生き物・・・確かに、生き物だった。

 でもよう、同年代ぐらいのウマ娘が用意されてると誰が思うよ!

 私の父は何をやったのだろうか、人身売買?目の前のウマ娘を買ったのか?それとも誘拐!?

 だとしたら大問題だ!即刻、頭首の座を明け渡してもらいたい!その後、警察に突き出そう。

 

「あなたがダイヤモンド?私はえっと、うん、キタって呼んでね」

「確かに私がダイヤモンドですが、キタ・・さんはここで何を?」

「頭首様から聞いてないの?私、今日から従者部隊入りしたんだ」

「え?あなたが従者部隊。冗談を言ってるわけではないみたいですね」

「うん、最年少の合格者だって。みんな褒めてくれたよ」

 

 キタと名乗ったウマ娘。

 ここから長い付き合いになるとは、この時は夢にも思わなかった。

 

 黒髪に赤い瞳、髪の毛は無造作に伸ばしているが、それがこの子にはピッタリ合っている気がする。

 ニコニコというよりヘラヘラした笑顔を浮かべている。

 

 綺麗で可愛い子だな。愛嬌がないと母に指摘された私にはその笑顔が眩しいです。

 キラキラした赤い瞳がこちらを射抜く。

 艶やかな闇色の黒髪は天性の気品と風格を備えている。

 いい面構えだ。

 やりますね、容姿端麗がデフォのウマ娘、その中でもこいつは文句なしの美形!可愛い!くそぉ!ま、負けてない・・負けてないですよね?

 それと、なんかいい匂いしそう。てかしてる!

 

 笑顔は決して媚びているのではなく、どこかこちらを品定めしているように感じる。

 年は同じぐらい、背丈もほぼ一緒、肝心の覇気はどれどれ・・・うおっ!マジか。

 ヤベェなこいつ、入隊テスト合格は伊達じゃないってか。

 

「私、同等のウマ娘に会ったの初めてなんだ。だからとっても嬉しいよ」

 

 同等ときましたか、同年代ではなく同等・・なめられたもんですね。

 

「本日付けで私がダイヤモンドの専属従者になるから、よろしくね」

「はぃぃぃぃ!?私は全く聞いておりませんが」

「頭首様の決定だよ。だからよろしくね」

「いや、強行突破しないでください。私に専属なんていりませんから、お引き取りください」

「ええー!せっかく割のいいお仕事見つけたのに、そりゃないよ」

「それはお気の毒に、あなた程の腕ならサトノ家じゃなくても雇ってもらえますよ」

「考え直してよ~、従者が嫌だったら友達ってことで」

「そうか、そういうことですか」

 

 こいつは父が用意した私の"お友達"ってわけか。

 金で用意するなよ・・・めっちゃ嫌な金の使い方じゃんか。

 ご丁寧に"同等"の奴をしっかり見つけて来た所が余計に腹立たしい。

 数日前、父との会話で「本気で遊べる友達がほしい」なんて戯言を言わなきゃよかった。

 私はね、ウマ娘なわけですよ。

 人間の子供と本気で遊んだらケガだけじゃ済まないこともあるわけで。

 しかも、私も例に漏れず体を使った遊戯がしたいわけで・・・肉体言語的な。

 私の希望する友達は、ウマ娘で実力が近しい(できれば同年代)存在だった。

 それをクリアしたのが、目の前の黒髪である。

 

「どこで拾って来たんだか・・はぁ・・」

「メジロ家の従者部隊試験と間違えて受けたら合格したの」

「おい!メジロ家が第一志望かよ!帰れ!」

「帰らないよ、サトノ家のこと好きだし、頭首自ら面接してくれるなんてアットホームだよね」

「うちはブラックですよ、給料は安いし、仕事はメジロの下請けで激務です」

「奇遇だね、私もブラックなんだ」

「何のことですか・・・とにかく部屋から出て行ってください」

「ええー、一緒に遊ぼうよ」

「嫌です。仕事なら私のお守り以外の業務を担当してください、父にもそう言っておきますから」

「頑固だな~、友達ほしくないの?私はほしいのに」

「必要ないです。そんなものいなくても生きていけます」

「なら仕方ないね」

 

 部屋を出て行こうとするキタ、やれやれ、やっと理解してくれたか。

 ごめんなさいね、私の平穏にあなたは要らないの、気を付けてお帰りください。

 

 バンッ!

 お、お、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 

「なんの真似ですか?」

「いい反応だね、これなら退屈しなくて済みそう」

 

 コイツ!私の横を通り過ぎるふりして裏拳かましてきやがった!

 ビビったわ!咄嗟に受けれてよかったわ!遅れたら顔面鼻血ブーだったわ!

 

「自分が何をしているか、わかってます?私、サトノ家次期頭首ですよ?」

「知ってるよ。家名や肩書なんか知らない、私は人の価値を自分の目で見て"一緒に遊んで"から確かめる」

「あなたの遊ぶは、暴力のことですか?野蛮ですね~紛争地域にでも移住したらどうです?」

「戦争はダメだよ、いっぱい人が死ぬのはよくない」

「あ、そういう倫理観はあるんですね。意外」

「闘争の醍醐味はね、同レベルの相手と心ゆくまで死合うことだと思うの。ギリギリ限界の果てに行きたいな」

「わかった、あなたはただのバーサーカーですね。聖杯戦争、生存無理ww序盤で消えそうw」

「知らないの?ウマ娘はみんなバーサーカークラスが基本だよ」

「私、ライダー志望なんだけどな・・・それで、このまま遊ぶつもりですか?」

「うん!ダイヤモ・・もうダイヤちゃんでいいよね。ダイヤちゃんを一目見た瞬間に思ったよ、この子に勝ったらさぞ気分がいいだろうなって!」

「うわぁ、初見でロックオンされてたんだぁ・・最悪」

「だからさぁ・・続き、やろうよっっ!!」

「あーーー!この部屋はやめて!お気に入りの家具がぁぁぁぁ!ぐぁぁぁパソコンもぉぉぉ!」

 

 そこからはもう・・・ええ・・・まったく酷いものでした。

 サトノ家の不祥事トップ10にランクインしましたよ。なんせ、屋敷が半壊したのですからね。

 

 キタ、こいつマジで強い。多分キタキタ親父より強い(当たり前かw)

 今まで出会ったどんなウマ娘より恐怖を感じた。やられる!と思ったことも一度や二度じゃない。

 屋敷の破壊された壁が、逃げ惑う部下たちが、グラサンをなくして泣くマダオが視界に入ってもそれどころじゃない。一瞬でも目を離したら狩られる!そう思えるだけの力を十二分に振るってくる。

 楽しそうだな、おい!ホント・・・楽しそうに笑ってる。

 

「こんなことしてただで済むと思うなよ!」

「それがダイヤちゃんの素?そっちの方がいいよ、下品で面白くてww」

「やかましいわ!てめぇ、損害賠償請求してやるからな」

「頭首様とは利害が一致してるよ「君の好きなようにやっていい」て許可もらってるもん」

「だからって、友達になるのに死合いして、屋敷ぶっ壊すとかないわ!」

「拳は言葉より雄弁だよ、屋敷は犠牲になったのだ、私たちの犠牲になw」

「物は言いようですね、くそっ、手が痺れてきた。手加減なしでやってくれちゃって」

「楽しんでる癖にw私の弱い所をガンガン狙ってくる上に、屋敷内の道具を使用した即席トラップのまあえげつないこと!」

「は?地の利を生かすのは当然でしょ。私のテリトリーでケンカを売った自分を恨め」

「褒めているんだよ。私とここまで遊んでくれた子はいなかったから」

「いや、できたとしてもやらないでしょ普通」

「普通って言葉嫌いだな。平均を言い訳にして目を背けるなんてつまんない!」

「それには同意します、よっと!ちぃ、これも躱しますか」

 

 問答を交えながら、格闘戦を続ける。

 誠に遺憾ながら・・・こいつとの遊びは楽しかった。それは事実、向こうも多分そう感じてる。

 なんだろう、充足感ってやつですか。

 こいつとの遊びはとてもとても満足いくものだったのです。久しぶりに我を忘れた。

 満足・・・それを諦めたのはいつの頃だったかな。

 

 夢中になって時間の概念が吹っ飛ぶ、短かったような気も長かったような気もする。

 気が付けばお互いもうボロボロだ、服は破れ、血は滲み、マダオがなぜか半裸で気絶している。

 小学校低学年がしていい恰好じゃないよ、ああ、私の膨らみかけるところがポロリしそう!

 (/ω\)イヤン

 

「あは・・は・・ねぇ友達ってのやっぱなしで・・いたた」

「けほっ・・あ、鼻血が・・・はっ!最初からそんなもんになる気はねーです」

「親友、親友がいいな。ダイヤちゃんが勝ったら親友になってあげる」

「ワザと負けたくなる提案どうも。そっちが勝ったらメジロ家に推薦状を書いてやるよ」

「そんなの要らないよ。ここが、サトノ家が気に入った」

「じゃあ、後始末はしなくていい権利をやる。その代わり、私が勝ったら様付けで呼べ!主従関係は絶対、二度と逆らわないことを誓ってもらう」

「うわ、女王様気質・・・引くわー」

「そのまま引いてろ!押しつぶしてやる」

 

 こっからがまた大変だった、もうお互い死に物狂いでやり合って、意識を取り戻したマダオがシングルナンバーと呼ばれる従者部隊のエリートを招集していたからな。

 メジロ家との戦争が始まると思って駆け付けたナンバーズが見たのは、次期頭首が同年代のウマ娘と野獣のように殺し合っている姿だったからドン引きですわ。

 数分で飽きて、私たちを見世物に酒盛り始めたナンバーズ含めた部下たちにもドン引きですわ。

 

 あーあ、メチャクチャな一日だった。

 この日のことは生涯忘れたくても忘れられない。

 ようやく組み伏せたキタが大人しくなるのを待って声をかける。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・私の勝ちですね・・・」

「うん。そうみたい・・あはは・・超悔しい・・・私本気だったんだよ」

「私もです、つい熱くなりました。そのことだけは感謝します・・・ああ、痛てぇ」

「関節・・・外されるとは・・・参ったな・・あと一歩だったのに」

「ああ、そうでした。3~2~1」

「え、ちょっと待って何のカウントダ・・・ぎゃあああああああああああああああああああ!!」

「はい、ハマったぁ!これで元通り。しばらく安静にしてれば治ります」

「グスッ・・ヒ、ヒドイ・・目から火花が出た・・超痛すぎる!」

「鬼の目にも涙ですね。つ、疲れたぁ・・・後片付けが大変そう・・トホホ」

「ねぇ、ダイヤ様」

「ちょ!キモイキモイキモイ!いきなりなんですか」

「そっちが様付けにしろって言った癖に」

「忘れてました」

「私を専属従者として認めてくれないかな?私ダイヤ様ともっと一緒にいたい」

「様はもういいですって!専属・・・専属かぁ・・うーん」

「ダメ?」

「いいでしょう。ただし条件があります」

「体だけは勘弁して、私はノーマルなの。そういうのは男女でやらないと・・ねぇ」

「クソガキが何抜かしてんだ!お前の体なんぞ興味ないわ」

「だったら何?早く言って」

「主従関係は結びます。ですが、私たちはあくまで対等です。好きな時に意見し、好きな時に遊びましょう」

「おお、それは願ったり叶ったりだけど、いいの?」

「いいんです。だって私たち、たった今から・・・し、親友ですからね////」

「プッ、クサいよダイヤちゃんww」

「ああーー!頑張って言ったのにーーー!笑いやがった、もういい、誰も信じない」

「ごめんごめんwwよっと」

 

 寝転がった状態から立ち上がり。パンパンっと衣服の埃を払うキタ。

 私も彼女に倣って埃を・・・服?これ服?ボロ雑巾の間違いじゃ・・・ひでぇ有様。

 

「改めまして、サトノ家従者部隊ダイヤ様専属、真名キタサンブラックだよ」

「サトノ家次期頭首、サトノダイヤモンドです。まあ、楽しくいきましょう」

「「コンゴトモヨロシク」」

 

 ガッチリ握手して笑い合う。「やるな」「お前もな」で理解し合った私たちの始まり。

 いつの間にか夜、星空が綺麗だったな~。

 屋内のはずが夜空も拝めるなんて、大胆なリフォームしたもんですよ。

 匠は私とキタちゃん。「なんということをしてくれたのでしょう」とマダオが泣いてた。

 こうなる原因作ったのはあなたですよね?

 

 翌日からキタちゃんは私と行動を共にするようになった。

 キタちゃんは二、三日に一度は実家に帰るが、それ以外は朝から晩まで一緒。

 学校でも公務でも一緒、風呂にも布団にも突撃してくる、その図々しさには・・少しだけ感謝した。

 何でも言える仲間が、対等の友達ができたことが素直に嬉しかった。

 

 父と私は壊れてしまったサトノ屋敷から、近くのビジネスホテルに避難した。

 住み込みの部下たちは改修中のヒリュウで寝泊まりしているようだ。迷惑かけてすんません。

 憧れのホテル暮らし、思ったよりいいもんじゃない、食事はモーニングのセルフサービスのみ。

 文句なんてありませんよ?サトノ家は質素倹約主義なのでメジロみたいな豪華絢爛成金趣味はないんです!

 

「いつになったら屋敷は直るのでしょうか?さすがに飽きた、ビジホ暮らし」

「うーん。だったらさぁ、うち来る?」

「へ?」

 

 てなわけでキタちゃんの家にお宅訪問・・・おおお、タワマン!タワー型マンションじゃないですか!

 しかも、最上階ぃ!もしかして、キタちゃんってばいい所の子なの。

 あ、私も一応お嬢様にカテゴライズしてくださいね、オナシャス!

 いつも思うが、エレベーター止まったら不便なんてレベルじゃねーな。まあ、ウマ娘なら問題ないか。

 

「ママ~帰ったよ~」

「おお、お帰り☆我が愛しの娘よ☆うん?そっちの可愛い子は誰かな☆」

「嘘だろ・・サ、サトウシン・・本物?」

「おうよ☆元アイドル、現バラエティーの女王!佐藤心(サトウシン)とは私のことさ☆」

「芸能人、キタちゃんの母親が・・・意外っ!」

「よく言われる~」

「初めましてサトウさん、ご活躍いつも拝見しております。サトノ家次期頭首、サトノダイヤモンドです。キタさんにはいつもお世話になっております」

「お世話してますww」

「いや、むしろこっちがお世話と言うか後始末してるんだけど」

「ブラックから話は聞いてるよ。君がダイヤちゃんかぁ☆会いたかったぞ☆」

 

 キタちゃんのお母さんは今をときめく売れっ子芸能人サトウシンだった。

 この人から、バーサーカーが産まれただなんて信じたくない。

 タワマン最上階でおもてなしされました。

 普段はお手伝いさんがいるんだけど、今日はオフってことで手料理を振舞ってくれた。

 むむ、美味しい・・芸能活動をこなしつつ主婦業もマスターしてるとは、マジ尊敬します。

 ほほう、父親不在ですか、キタちゃんから離婚歴ありのシングルマザーと聞いていたが・・・

 うちもシングルだし、そこは空気を読んで突かないことにする。

 

「あの、失礼ですが、シンさんはウマ娘なのですか?」

「そだよ☆普段から隠してるんだけどね☆うんしょ、コレが証拠さ」

 

 髪の毛と同じ、淡いブロンドの尻尾と耳が出現する。

 

「正直に言っていいよ☆余りにへなちょこな覇気でビックリしたって」

「ごめんねママ~」

「ブラックのせいじゃないさ☆必要なものが必要な人の下へ行っただけだぞ☆」

「すみません、込み入った事情に深入りしてしまって」

「いいのいいの☆いづれわかることだし、娘に母親の力を継承できたと思えば嬉しいもんさ☆」

「ママ大好き!お小遣いアップして」

「私もブラックが好きだぞ☆お小遣いは自分で稼ごうね☆」

 

 出産を機に覇気を失うのはよくあること、疑似的な魂継が親から子へ行われるためだ。

 うちの母もそうだったな・・私を生まなければ彼女は今頃操者をやっていたのだろうか。

 サトノ家ではありえない、仲睦まじい母娘の姿を見た。

 私が母とあんな風にじゃれ合ったことは新生児の時ぐらいか・・少しだけ羨ましい。

 

「おっとダイヤちゃんが寂しそうだぞ☆」

「こっち来いよ、そぉーれい」

「え、ちょ、やめ」

「我が家に来たものは我々母娘の洗礼を受けるのだ☆ナハハハ」

「アハハハハ」

「近い、狭い、なんだこの母娘・・むぎゅぅ」

 

 キタちゃんに抱きつかれ、そんな私たちをシンさんが優しく抱きしめる。

 サンドウイッチされた・・・温かい・・・母はきっと、こういうのを望んでいたんだ。

 させてあげられなくてごめんなさい。

 

 この日からたまにキタちゃんのお家へお邪魔したり、お泊りしたりが日常になる。

 

「ダイヤさん・・・ちょっとお話があるんだけど・・いいかな」

「何ですかクネクネして気持ち悪い」

 

 ある日、父がモジモジクネクネしながら声をかけてきた。

 なんだろう、無茶なお仕事の依頼かな?さん付けなので要警戒。

 部下たちのモチベーションアップ用「ダイヤ様写真集」の撮影はこの間やったばかりだろ!

 

「あの・・パパね・・その・・」

「再婚ですか?やっと覚悟を決めたんですね、おっそ!」

「何で?何で知ってるの!言ったことなかったよね!」

「ウマ娘なめんな!加齢臭にいきなり女の人の匂いが混ざったら誰でも気づくわ」

「うそーん!せっかくのサプライズが」

「それで、お相手はどなた?」

「あ、そこまでは知らないんだ。じゃあ、行こうか。両家顔合わせにね」

「いきなりですね。ですが、望む所です。物好きな女の顔を見てやりましょう」

 

 父は騙されやすいので、もしも結婚詐欺だった場合は私が止めなくては。

 さてさて、うちのマダオを落としたのはどんな方でしょう・・・

 

「お、お邪魔します」

「は~い☆いらっしゃいだぞ☆」

「おっそーい!待ちくたびれたよダイヤちゃん、頭首様」

「すまないね、はい、これお土産だよ」

「うわぁぁぁぁ!みそピーだあぁぁぁ!私これ超好き!」

「みそピーってwwいや、美味しいですけどね」

 

 なんか見たことあるタワマンだな~と思ったら、こういうことですか。

 まさか、再婚相手がキタちゃんの母上、シンさんだとは。

 匂いで気づくべきでした!

 最近、ウマ娘の嗅覚を研究した商品が登場したせいで匂いが当てにならん。

 消臭剤、ボディーソープ、香水、これからどんどん増えるんでしょうね。

 

「ダイヤちゃん☆私のことはママでもお袋でも、好きに呼ぶがいいぞ☆」

「はい、ハートさん。で、いつからですか?馴れ初めを聞かせてください」

「ショック☆でもハートは諦めないぞ☆」

「私がサトノ家従者部隊採用試験の面接に行ったときだよね。あの時ママもついてきたもん」

「なぜキタちゃんが答える」

「あはは、まあそういうことなんで」

「そういうことだぞ☆」

 

 どういうことだよ、サッパリわかんねぇよ。いい年こいてまた一目惚れかよ!

 親の惚気話とかあんまり聞きたくないので別にいいか。

 シンさんの真名はシュガーハート、だからハートさんと呼ばせて頂きます。

 

「父のどこがよかったんですか?金ですか?」

「コラコラ、ダイヤ!財力意外魅力ないみたいな言い方やめて!」

「うーん☆可愛い所かな☆」

「いやぁ///えへへ」

「いい眼科を紹介しましょうか?父が可愛く見えるなんて重症です」

「ダイヤ~」

「その辺にしてあげなよ。中年の哀愁が可愛いと錯覚したんじゃないかと・・・重症だねママ」

「どちらの娘も辛辣☆気に入ったぞ☆」

 

 そんなこんなでとんとん拍子に話が進み。

 晴れて、父とハートさんは再婚したのでした。めでたしめでたし。

 ハートさんがお母さんか・・・お母さんって呼ばなきゃダメ?

 嫌じゃないです・・・ちょっと恥ずかしいのと・・・私に誰かを母と呼ぶ権利があるか疑問なので。

 しばらくハートさんでお願いします。

 

 頭首の再婚で揉めると思った?残念、家はサトノでした!

 現役芸能人との再婚ということで、親族はまたしても大歓迎の大フィーバー!

 従者部隊最年少のキタちゃんは元々アイドル的存在だったので、お嬢様への昇格もすんなり納得された。

 引き続き従者部隊に席を置きつつ、サトノ家の令嬢としても振舞うそうです。めんどくさそう。

 こういう時の頭空っぽ具合がサトノ家のいい所だ思う。ノリと勢いを大事に生きてるな。

 

「どっちにする?」

「何がですか?」

「姉と妹どっちがいい?」

「そういうのやめましょうよ。主従だけでもめんどくさいのに」

「私たち姉妹になったんだよ!ちゃんと決めておいたほうがよくない?」

「興味ないです。大方それにかこつけて勝負したいだけでしょう」

「わお、お見通しかぁ」

「この件は聞かなかったことにします。私たちの関係が壊れる元凶になり得ますから」

「了解、姉妹決めはなしだね。私たちは対等だ」

「そうです。仲良くいきましょう」

「でもさぁ、たった一つしかないものをお互いが好きになった時はどうする?」

「平等にシェアすればいいのでは?」

「分けれない、分けたくないものだったらどうする?」

「その時は、潔く勝負しますか」

「やった!首を洗っておいてね」

「こっちのセリフですよ」

 

 そんな事態にならないのが一番です。

 ちょっとだけ嫌な予感がする。キタちゃんと私の好みって被ること多いんだよな。

 やれやれ、お菓子の取り合いぐらいで済めばいいですが・・・

 

「ねぇ、今日はどこ行くの?」

「ちょっとした会合だよ、同業他社との情報交換や取引のお話を少々」

「それで?何で私たちまで呼ばれたんでしょう」

「それが、先方の頭首がどうしても二人に会いたいって打診されてね」

「同業者、頭首・・・メジロですか?」

「ぶっぶー!ハズレだよ。本日、招待してくれたのはファイン家だよ」

 

 ファイン家・・・正直よく知らないんだよな。

 ここ最近、急速に勢力を拡大して着々と力をつけている、油断ならない集団らしい。

 サトノ家以上にパッとしない、御三家の空気とか言われてたのに、何があったのやら。

 

 ファイン家が指定した場所は落ち着いた雰囲気の和風旅館だった。

 都心から離れた郊外に位置し、ちょっとした大人の隠れ家的お宿に到着。

 いいですね~こういう所で羽を伸ばしてまったりびろーんと寛ぎたい。

 館内に通されファイン家の方々とご挨拶、大人の会話が始まってしまったので退屈だ。

 気を利かせてくれた旅館内のスタッフが中庭に行ってみたらどうかとお勧めしてくれた。

 

「いいよ、行っておいで。くれぐれも物を壊したり、誰かを傷つけたりしないこと、いいね」

「「は~い」」

 

 キタちゃんと旅館を探検、ちょっとワクワクすっぞ!

 

「広いね~。あ、温泉あるんだ、入る時間あるかな~」

「それよりこっちが気になりますね。この旅館、なぜか名物がラーメンらしいですよ、変わってる」

「旅館なのにラーメン?意味不明だね」

 

 写真のラーメンは具沢山でとても美味しそうだった、機会があれば是非食べてみたい。

 

「ここが中庭ですか、季節が合えば桜や紅葉も楽しめそう、う~ん雅ですね」

「おお、芝生だ芝生!手入れが行き届いて綺麗だね~」

「そうで・・・んがぁ!」

「ダイヤちゃん!」

 

 突然のことだった、いきなり後頭部に衝撃が・・・攻撃された?

 

「ダイヤちゃんの頭にサッカーボールがめり込んどるww」

「どこのどいつだ!この私にシュートを決めるとはいい度胸じゃないか!」

「ごめんなさ~い、ボールそっちに行っちゃいましたぁ」

「あいつかぁ」

「あの子、ウマ娘だよ。警戒して・・・多分強い」

 

 まったく悪びれた様子もなくそいつは現れた。

 何?私と戦争したいの?

 こいつが私の後頭部を・・大事な脳が詰まってるんだぞ!これ以上アレになったらどうしてくれる!

 私たちよりちょいと年上のウマ娘・・覇気は・・・な、なんだ・・と。

 

「ごめんなさいね。ちょっと足が滑っちゃって」

「ワザとか!ワザとやったんか!」

「事故だよ事故、そうだ!お詫びの印に一緒にサッカーしない?」

「そんなのがお詫びになるか!」

「ダメかな?三人で遊んだら楽しいと思うんだけどなぁ」

「遠慮します。球技詳しくないんで、それにボールが私たちの脚力に耐えれるとは思えません」

「そこは力加減を調整するんだよ、こんな風にね」

「わっ、上手上手~」

「へぇ、なかなかやるじゃないですか」

 

 リフティングというやつをいとも簡単にやってみせる。

 落下したボールに合わせ足の適切な部位を当て、ボールの軌道を安定させる。

 上手い大道芸人のジャグリングを見てる心境だ。

 放っておいたら、永久にできてしまうのではと思うほど安定した動きをみせる。

 しばらくボールの動きを目で追っていると、謎ウマ娘が話かけてくる。

 

「二人はさぁ、もう操者っているのかな?」

「は?操者ですって、この年でいるわけないでしょ」

「要らないかな、別に人間に頼らなくても十分やっていけるし」

「つまりは、この先も契約する気はないと?人間は下等生物でパートナーになるとかありえないと?」

「そ、そこまで言ってませんよ」

「でも、当たらずとも遠からずかも」

「操者はいいよ~、きっと強くなれるよ、苦楽を共にしていろんなものを共有できる。それは最高に素敵じゃない」

「いえ、別に」

「まだ早いかな・・」

「乗り気にはなってくれないか・・・そっか、そっか」

 

 リフティングを中止してこちらを向く謎ウマ娘。

 そいつの覇気が一瞬だけ攻撃的なものになった。

 

「私はキミたち二人に操者を見つけてほしいんだ」

「私たちが操者を得ることで、あなたにどんなメリットが?」

「私だけじゃない、世界にとってのメリットがある・・・かも」

「かも!かもってことは確定してないんだよね。不確かなもののために契約を強制されても困るよ」

「ごもっとも、でもね、これで未来の危機が回避できるなら安いものだよね」

「言ってる意味がわかりません。もういいですか、行きましょうキタちゃん」

「う、うん。それじゃあ」

 

 こいつ頭おかしい、関わったらいけない奴だった。

 それに・・・こいつの覇気、得体の知れない気持ち悪さがある。

 一人なのに・・まるで二人いるような・・・うん、気のせいだな。

 

「逃げるなよ、サトノダイヤモンド、キタサンブラック。そんなんだから・・・」

「え!?」

「何!?」

「弱いままで、みんなを不幸にしたんだよ!!クソガキがぁ!」

 

 突如膨れ上がった膨大な殺気に気圧される。

 初対面のウマ娘、その瞳から明確な憎悪と怨嗟を感じる。

 産まれて初めて、ここまでの殺意を向けられた。

 喉が渇く、声が出ない、体が動かない、キタちゃんと死合った時なんてまだ全然マシだった。

 極大の負の感情を向けられることは、こんなにも苦しいんだって、初めて知った。

 理由がわからない、このウマ娘と自分たちの接点は無いはずだ。

 彼女から恨まれる覚えはない、だというのに、どうして・・・

 

 どうして、今すぐにでも泣き叫んで許しを懇願したくなっているのだろう。

 

「ごめんね、こっちは本気なんだ。相手に言うことを聞かせたいときは、勝負するしかないよね」

「あ、あなた何者ですか?」

「どうして、私たち何かした?」

「そっちは二人がかりでいいよ、尻尾鬼でいいか、経験あるよね」

「勝手に決めないでください!」

「・・・いいよ。やろう」

「キタちゃん!」

「ダイヤちゃん、これはもう勝負しないとダメだよ。戦ってこそわかることもある」

「またそれですか・・・仕方ないですね」

「決まりだね。じゃあ、スタート」

「ちょ、ルールは!」

「最後まで立っていた方の勝ちで」

「それもう尻尾鬼じゃなくね」

 

 しまったなぁ・・・お気に入りの服を着て来ちゃった。服?ハイブランドよりウマクロ派です。

 やるだっけやってみましょうか、後悔させてやる!

 つもりだったんだけどなぁ・・・

 

「年齢的には上位、連携はまだ甘い、現時点での危険性皆無、なんだ・・・弱すぎない?」

「ち・・ちくしょ・・う」

「あ、ありえねぇ」

 

 戦闘開始直後の二人まとめて秒殺された。

 驚愕よりも悔しさと怒りで跳ね起き、攻撃するがその度に、躱され、いなされ、防がれ、カウンターをもらう。

 二人がかりだぞ?実力にそれなりの自負があった私たちのプライドはズタボロだ。

 身体はもっとズタボロですけどね・・・ここ芝生でよかったぁ。

 

「ちょっと拍子抜けだな。ずっと雑魚のままでいてくれた方がありがたいけど」

「・・・雑魚」

「何も言えねぇ」

「最低限身を守る術は必要か、それに二人の力が黒幕に対抗する手段になるかもしれないし、その為にはやっぱり操者が必要。それも、二人を正しく育成できる人が」

 

 こっちは息も絶え絶えだというのに、涼しい顔で独白を続ける謎ウマ娘。

 

「よし!今後の方針は決定。負けた二人には約束通り言うことを聞いてもらうからね」

「そ、それより・・」

「ここから・・出せ・・」

「あ、ごめんごめん。すぐに掘り起こすからね」

 

 どういう状況かって?埋められてんだよ。

 首だけ出して、地面に埋まってんの!この屈辱忘れてなるものかぁ!

 普通穴掘るか?そして埋めるか?旅館に許可とってやっているんだろうなコラ!

 

「うわ、二人とも泥だらけww」

「誰のせいだと、あーあーもう最悪です」

「埋められたの初めて、ちょっとワクワクした」

「ではでは~、お姉さんからの命令を発表します。心して聞いてね」

「できる範囲でお願い」

「金はやらねぇぞ!」

 

「キミたち二人には操者を見つけて契約してもらいます!頑張って最高のパートナーを探そうね」

 

「「嫌っスわ」」

「コラ!このお題は確実にやってもらうよ。じゃないと今後の取引は無しにするからね」

「取引だと?・・・あなた、ファイン家の要人ですか」

「要人も要人だよ。自己紹介前にボコってごめんね」

「「本当にな」」

「ファイン家頭首、ファインモーションだよ。よろしくね、まだ可愛い破壊獣さんたち」

「破壊獣、さっきから何を。というか頭首!?あなたいくつですか?」

「2ndの体だからえーと12歳ぐらいかな、学校に行っていたら小学生だったと思うよ」

「小学生が頭首・・ファイン家はロリを崇める風習でもあるのですか?」

「やらなくちゃいけないからなってる、それだけだよ。うちのみんなは納得してついて来てくれてる」

「パパとお話している人が頭首じゃなかったんだ、ふーん」

 

 ファインモーション、若干12歳で頭首を務めるウマ娘。

 思えばこの時、初めて格上の相手と戦い、速攻で敗北したのだった。

 負けた・・・力でも想いでも、仕事内容でも・・・上には上がいるって本当だな。

 その名前、ジャポニカ復讐帳に書いておくぞ、油性マジック赤でな!

 

「ここにいたのかい、ダイヤ、ブラック」

「父様」

「パパ!」

「ごきげんよう、ドウゲンさん。少し娘さんたちと遊んでもらってたんだ」

「ファインさんもご一緒でしたか、本日は誠によいお話をさせて頂いて・・・」

「いえいえ、サトノ家とは今後もよい関係でありたいとファイン家一同考えておりますから」

「こちらこそ願ってもいないことで、何卒よろしくお願い申し上げます。よいお返事を期待しておりまから!それはもう、メチャクチャ期待していますからぁ!」

「働くパパは腰が低い!」

「年下相手でも誠実な応対、そして美しすぎるお辞儀・・我が父ながら大した者です」

「娘に褒められるパパの喜び・・ジーンと来るなぁ」

「仲良し親子で羨ましいよ。急な話なんだけど、協定に関して条件を一つ追加したいのですが、よろしくて?」

「何でしょうか?ここに来ての追加条件となると少々身構えてしまいますな」

「ご息女の二人によき操者を見繕って契約させること。これを条件として追加します」

「ひょへ!?」

「父様w変な声出さないでww」

「あははwひょへってww」

「期限は今日から半年以内、条件が達成できなかった場合、本日のお話はなかったことに。また、今後の全て取引はメジロ家と致すことにします」

 

 待て待て待て待て、待てや!

 私たちに操者をつけることがそんなに大事か?

 全ての取引をメジロ家とだと!サトノ家はもういらない子なの!そ、そんなぁ~。

 ヤバイヤバイヤバイ、サトノ家の死活問題になってきた、一族滅亡の危機!

 今まではサトノ家とファイン家が協同することで、辛うじてメジロ家に対抗できていたのだ。

 メジロ家とファイン家が本格的に手を組めば、サトノ家などあっという間に根無し草にすることも・・・

 

「お、お待ちください!娘たちはまだ10歳にもなっていない若輩の身、操者を必要とするには早すぎるのでは!」

「そんなことない、早ければ早いほどいい。よき操者とよき関係を結び、来るべき脅威に備えてほしいの」

「しかし、それは余りにも暴論では、娘たちの気持ちもありますし・・・何を!?」

「無茶な要求をしているのは理解しています。ですが、これは大袈裟ではなく世界の未来を決める重大案件なのです」

 

 メジロ家の名を出し、そのまま高圧的に要求を迫るのかと思ったが違った。

 ファインモーションはその場で地面に手をつき首を垂れ、土下座をしてみせる。 

 これには私たちサトノ家一同( ゚д゚)ポカンである。

 

「ファインモーション、一世一代のお願いにございます。どうか、操者と契約する件を前向きに考えていただけませんでしょうか?お二人が誠の操者と契約なさった場合、ファイン家はサトノ家の傘下に入り未来永劫の協同を誓う所存です」

「・・・ダイヤ、ブラック、どうやら彼女は本気のようだ。後はお前たちが決めなさい」

「そこまでする理由は教えてくれないのですか?」

「今聞いても混乱させるだけだろうし、操者が決まった暁には必ず説明することを約束するよ」

「私たちが気に入る人間かぁ、ぶっちゃけハードル超高いよ?」

「高くないと困るよ。あなたたちが心から納得する、最高の操者を選んでほしい」

「どうする?」

「どうしましょうか?」

「まさか勝負事の約束を反故にするなんて・・・キタちゃんとダイヤちゃんはそんな恥知らずじゃないよね」

「ちっ、それを言われると・・ああわかりましたよ!探すだけ探してみましょう」

「私も一応頑張ってみる。でも、何百人会っても気に入らなければそこまで、契約なんか絶対にしない」

「今はそれでいい、私からも優良な操者候補のリストを送るから、まずは検討してみて!あ、もう頭上げてもいい?そろそろ土下座がしんどくなってきた」

「操者か、娘たちの成長には歓迎すべき存在・・ダメ!やっぱりパパかなり寂しい~」

「じゃあ、仲直りだね。末永くよろしくねキタちゃん、ダイヤちゃん」

「いつか借りは返すからね」

「覚えてろよ」

「もう、逆恨みして悪かったってば・・この世界のキミたちは悪くないのわかってたのに・・ごめんね」

「「???」」

 

 その後、汚れた服を預けてお風呂に入ることに・・・うは、露天風呂だ!

 

「あ~しみる~」

「おっさん臭いよダイヤちゃん」

「ほっとけ!真っ昼間から露天風呂、この贅沢を今は堪能しますよ。はふぅ~」

「それで?二人はどんな操者がいいのかな」

「年上の分別ある人間が最低条件、男は嫌だな」

「覇気だよ覇気!これが合わないと全部ダメ!なるべく強力な覇気の持ち主を希望するよ」

「二人が満足する覇気か・・かなり限られるね」

「「いたのかインモー!」」

「それやめろっ!また埋められたいか!」

 

 いつの間にかインモーまで入浴していた。

 ファインモーションに一矢報いてやろうと名前を弄ったのが大層お気に召したようだ。

 「インモー?陰毛っスかw卑猥っスねww」「ぶっころ(#^ω^)ピキピキ」の流れがありました。

 

「そっちだって、サトイモの癖に!芋の癖に」

「里芋なめんなよ!煮っ転がしとか超美味いだろうが!」

「煮っ転がしwww」

「笑ってないでお前も何とか言えよ、世紀王!」

「リボルケイン!!」

「「ぎゃあぁぁぁ!目がぁぁぁぁ!」」

 

 キタちゃんの容赦ない目潰し(リボルケイン)によってインモーと私のバトルは有耶無耶に終わった。

 世紀王のネタがわかる人がいるかどうかは知らん!

 人の名前で遊んではいけません、少し前に学校で暴れた私が言うのだから間違いない!

 わかっていたのに我慢できんかったんや!インモーが悪いんや!

 

「美味しいね」

「うめうめうめ」

「はふはふ、うまーい」

「二人とも落ち着いて食べなさい」

 

 風呂上りにラーメンを奢ってもらったので、出会って5分でバトルした(埋められた)件は水に流すことにした。

 たまに食べるとホント美味いな、強烈な旨味が脳にガツンと来やがるぜ。

 人の奢りと言うのがいいね、ただでこれを味わえるなんて得した気分だ。

 

「操者探し頑張ってよ、進捗状況は定期的に確認するからね」

「そんな担当編集者みたいなことを」

「見つかるのかな・・・不安だ」

「二人とも無理しないでね。サトノ家の未来より娘の未来を優先したいパパでした」

「父様こそ無理しないで、ファイン家との取引が無くなったらうちは・・・およよ」

「ファイン家は鬼畜だよね、頭首の顔が見てみたいよ」

「ええ、きっと卑猥な顔で腹立つこと必至ですwww」

「本人ここにいますけど!!と・に・か・く・頼むよ二人とも、この世界のために、何より自分たちの未来のために頑張ってね!」

「「へーいへいへい」」

「やる気だせ!」

「うんうん。三人とも仲良くできそうで安心したよ」

 

 どこがだよ・・・。

 ファインモーションとはまた別件で揉めそうな気がしてならない。

 

 こうして私たちは操者を探すことになったのでした。

 

 そして・・・あの人に出会った。

 



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黒の夢

 「起きろぉぉぉーーー!!!」

 

 誰だろう、私を呼ぶ声がする。

 この声知ってる、大好きな声、あの人の声だ・・・

 私、何をやっているんだろう、どうしてここにいるんだろう?

 理由、理由があるはずだ、こうなっている理由がきっと。

 

 整理しよう。

 自分のことをまず確定しよう。

 こんなフワフワした状態じゃ、考えもまとまらない。

 私、私は誰だっけ・・・

 

 これは必要なことだ、先に進むためにも必要なこと。

 行かなくちゃ、先に行かなくちゃ、少しでも先に・・・

 来てる、絶対に追いついて来る、本物のあの子はきっとすぐに来てしまう。

 負けたくない、あの子には負けたくない、あの子・・・てっ誰だっけ?

 

 落ち着け、落ち着け。

 思い出すんだ、あの子のことを、自分のことを、ここに来るまでの気持ちを。

 

 そうして記憶の海に沈んでいく・・・私が私になるために。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おめぇにはでっけぇ奴がお似合いだな」

「急にどうしたの?認知症外来行く?」

「かっかっか、言うねぇ。今のはジジイの戯言だ、色気づいた頃に思い出してくれや」

「ジージが何を言っているのか、わかんないよ」

「いつかわかる日が来らぁ、そんで、今日は何して遊ぶよ」

「時代劇で見たアレ!め組ごっこ!火事で大騒ぎ中、人様の家の上でハッスルするの!」

「あいつらは火消し、今でいう消防士だ。人の命を守る立派な仕事だぞう」

 

 その昔、父方の祖父とこんな会話をした。

 祖父が言っている"でっけぇ"が何を意味するのかはわからなかったし、祖父と母以外の人物に何も希望しないし、期待もしない。

 大好きなママと祖父ことジージがいてくれる、それだけで満足、それ以上を満たしてくれる存在を望むなんて贅沢だ。

 ジージの言うでっけぇ奴は・・・私と遊んでくれるのかな?

 

 私、キタサンブラックは両親共に芸能人だった。

 母は真名シュガーハート(芸名サトウシン)、同じく芸能界の二世タレントで舞台俳優の父と電撃結婚の末に誕生したのが私。

 当時少しだけ話題になったんだけど、父の影が薄くて忘れ去られるのも早かった。

 

 祖父が超有名な大御所演歌歌手であり、父は完全に親の七光りで芸能界入り、大した覚悟も努力もなく舞台俳優になってしまったのだから仕方ない、芸能界はそんなに甘い世界じゃないってことだ。

 

 どういう経緯かは知らないが、当時アイドルだった母を祖父が大層気に入り、息子へ縁談の話を持ち込んだのがきっかけだったようだ、父と母は周りも羨む美男美女カップルで、付き合った当初は熱愛報道されたりと週刊誌を賑わせたりもした。

 

 そんなこんなで私が生まれて・・・それから父がおかしくなった。

 元々変な人だったの間違いか、釣った魚に餌をやらないと言うやつなのか、父は私が母のお腹にいる時には既にモラハラと浮気のオンパレードをかましてくれたらしい。

 それにキレた母は出産直後に父と離婚!もっとブチギレた祖父が父を勘当し、家から追い出した。

 その後、父の行方はわかっていない、知りたいとも思わない。

 顔も知らない男、生物学上の父なんてクソどうでもいい。

 

「黒、爺ちゃんの所で暮らすか?」

「ジージと一緒に?私、ここにいてもいいの」

「おうよ、遠慮することはねぇ。おめぇは俺っちの大事な孫娘だからな」

「ジージ超かっけぇ!」

「がっはっはっはっ!もっと褒めろ!」

 

 綺麗にホワイトニングされた歯をキラリと光らせ、豪快に笑う祖父が私は大好きだった。

 この人には本当に今も昔もお世話になっている。

 離婚後も母と私を気にかけ、仕事で忙しい母に代わって私の面倒をみてくれるようになった。

 それはジージの奥さんである祖母が亡くなった後も続いた、バーバも優しくて大好きだったよ。

 母方の祖父母?母は元々孤児で天涯孤独だよ、重くなるからこの話やめようね。

 

 私の名前、実は祖父の名前が少し混じってる。どこかはご想像にお任せ~。

 ブラックは祖父と母の好きな色、だから祖父は私を黒(クロ)と呼ぶ。

 あらら、父の希望が入ってませんね・・・浮気野郎に命名権なんてないんじゃよ!

 

 忙しい合間縫って母・・ママは愛情たっぷり育ててくれた。

 ジージは父がいない私が捻くれてしまわないように心配してくれていた。

 演歌に時代劇、ウマ娘のレース、いろんなジャンルのライブやコンサートにも連れて行ってもらったな。

 祖父と母の仕事関係と趣味が私の情操教育に使われた。

 お陰様で私はこんなに元気いっぱい、父は本当に要らなかったねwww

 

 さて、こんな感じで暮らしていたんだけど・・全てが順風満帆でもなかったの。

 

 ジージの家はとても大きい。

 ジージは芸能界を引退後に複数の企業経営に乗り出し見事に成功!長者番付トップ100に今もランクインしてるんじゃないかな。ウマ娘の教育機関とかにも出資している慈善家である。

 従業員、お弟子さん、親族、その他諸々が毎日ひっきりなしに出入りするのがジージの屋敷だった。

 ジージの孫である私はみんなに可愛がってもらった。

 でも、そんな私を疎ましく思う人たちもいるようで・・・めんどくさいなぁ。

 

 年に何回か親戚縁者一同がジージの家に集まることがある。

 うちは親族経営がほとんどなので、一族の頂点であるジージのご機嫌伺いにみんな必死なのだ。

 

「ブラックさん、お母様は?」

「今日はお仕事だから、遅くなるって」

「あらそうなの、やっぱり芸能人ね、子供を放置してやりたい放題なんてww」

「・・・そんなんじゃないよ」

 

 嫌味か貴様!うん、間違いなく嫌味だな。

 ジージとママの目の届かない所で一部の親族がチクチク悪口を言うようになった。

 ああウゼェ、ママが美人だからって僻むなよクソババア。

 

「おい、黒いの!お前ウマ娘なんだろ?なんかやってみろよ」

「なんかって何?」

「はぁ?それぐらい自分で考えろよ。ウマ娘ならなんでもできんだろ」

「まあまあ、ウマ娘だからって無茶言わないでよ。私ぐらいの騎神なら別だけど」

「中学生で烈級騎神なんて凄いよな!お前も見習えよ黒いのww」

 

 黒いのって言うなボケ!

 私を虐める親族、その子供たちもこの親にこの子ありなので私を虐めて来る。

 そして、そのガキの中に何人かウマ娘がいて、リーダー格の中坊がまぐれで烈級騎神の試験に受かったから天狗になっているのだ。

 私を下げ、リーダーを上げての恒例行事には飽き飽きした。

 

 何でこんな目にあっているのかと言うと、まず母のことが上げられる。

 母は美人で目立つおまけに芸能人、他人からの嫉妬や蔑みの対象になりやすく、娘の私にもそれは継承されている。

 父とジージのこともある。

 出産直後に父が勘当されたこと、今でも私たち母娘にジージが目をかけてくれることに、嫌な噂が立っている。

 私はジージーとママの子供で、父はスーケープゴートにされたのではと言う根も葉もない憶測がね。

 ジージが母を何かと気にかけ、私を猫可愛がりしているのは周知の事実なので、それを面白く思わない連中からしたらこの噂は最早真実なのだ。

 

 自分たちの大事なお金、その取り分が減るのが許せない!

 愛人とその娘にやってなるものか!ましてや、あの黒いのが次期後継者なんてあってはならない!

 あいつらの考えていることなんて、こんな感じだろうな・・・はぁ、クソつまんね。

 

「黒髪に紅い眼、なんて不吉なのかしら」

「一族にあんなウマ娘いたことがない、きっと、よくないことが起こる」

「お婆様が亡くなったのもあいつのせいだろ」

「母娘そろって疫病神だな。ホント気味の悪い子だよ」

 

 あのさぁ・・・内緒話なら私がいない所でやってくれませんかねぇ。

 言いたい放題か、私のウマイヤーが聞きたくないことまでバッチリ捉えて困ってるんですよ。

 バーバのお見舞いに顔も出さなかった奴らがふざけたことを抜かすなや。

 おめでたい奴らだ、バーバはお前らのこと大嫌いだって言ってたぞ。

 今頃きっと、天国で中指立てて変顔決めてるわ!

 

 遅いな・・・ママ、ジージ早く帰って来て・・・ストレスで胃炎になりそう。

 私の願いは叶わず、この日はジージもママも帰宅するまで時間がかかった。

 ママはともかく、ジージが御三家とかいう名門の所へ挨拶に出かけていたのが痛い!

 きっと、おもてなしを断りきれずに長引いているんだ。ジージが時計をチラチラ気にしている姿が目に浮かぶ。

 そうか、こいつら私を曇らせ隊の連中はそれも折込済みってわけか。

 ママとジージの不在を狙ってやりたい放題ってなわけですか、小賢しいな、死ねばいいのに。

 

 状況は悪くなる一方だ。

 計画的犯行なのか良識のある親族は、本日の集まりに呼ばれてすらいないようだ。

 顔見知りのお手伝いさんたちがなんとか私を逃がそうとしてくれるが、上手くいかない。

 ありがとう、でも、無理しないでね。

 あなたたちまで目を付けられたら大変なので、お気持ちだけで結構です。

 うげ、酒盛り始めやがった。それはジージが大切に保管していたお酒じゃね?調子に乗り過ぎだろ!

 酒が入ると益々知能指数が低下し、言動が狂ってくるので困ったものだ。

 畳張りの大広間を占拠しての大騒ぎ、ああもう、メチャクチャだよ。

 こういう時は、ジージの部屋に退避して嵐が過ぎ去るのを待つのが吉・・げっ、見つかった。

 

「おい!黒いのこっち来いよ」

「遠慮しとく、今からプチプチ梱包材を潰す作業で忙しいから」

「明らかに暇じゃねーか!いいから来い」

 

 プチプチを潰してストレス解消したいのは本当なのに・・・お前らのせいでな。

 宴会場の中央に引きずり出されてしまった。

 さっきからなんだこの男、えーと、名前知らね。触んなよ馴れ馴れしいな・・・息が臭い。

 リーダー格のウマ娘にいつもヘコヘコしてる三下だったか、似たようなのが何人もいるので区別がつかない。

 

 酒に酔った大人たちの余興として組手をやれとのことだった。

 相手はリーダー気取りのウマ娘、自称烈級騎神の子。

 

「お爺様の血を引いているなら、騎神になる覚悟はあるんでしょうね」

「やめようよ。お家でケンカしたら、後々大変だよ」

「ケンカ?これは私からの指導よ。烈級の私が直々に手解きしてあげるわ」

「要らない、勝負にならないのはわかってるから、面白くない」

「あいつビビってるぜww」

「おーい早くしろよー。酒が不味くなる」

 

 ニヤニヤと悪意たっぷりの笑みを浮かべ、私を取り囲むバカたちのバカの子たち。

 級位持ちが年下の級位無しと組手・・・相撲部屋のかわいがりかよ!マジやめろや。

 

「手加減してあげるからかかって来なさい。あ、手が滑ったらごめんねw」

「本当にやるの?後で文句言わない?」

「グダグダうるさいわね。いいからやるわよ!いずれは私がこの家を仕切るんだから、今の内から上下関係を叩き込んであげるわ」

 

 親に何か吹き込まれて育ってるな。救えない親子だ。

 

「それでも爺さんのお気に入りか~、あんなのに目をかけるなんて爺さんももうろくしたな」

「業界人ぶったアバズレの子なんでしょ、母親に似て媚びるのだけは上手いのね」

 

 あーもういいや。

 

「先手はそっちに譲ってあ・・・げふっ!」

「・・・・っ」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ???」」」」」

 

 私のことはいい、でも、ジージとママのことまでバカにするな。

 軽くジャンプ、自称烈級の頭を掴んでそのまま畳に押し付ける。

 我に返った相手はジタバタもがいているが、私の片手一本で顔面を上げられない。

 試験官は何処を見ていたんだ?こんな雑魚が騎神認定されたら世も末だ。

 

「審判いないの?カウント取るよ・・3・・2・・1・・ゼロ、私の勝ち。じゃあ、そういうことで」

 

 静まり返る宴会場。

 解放した頭の持ち主が涙目で半狂乱になり喚き散らすまで、時間が停止したようだった。

 さあ、ジージの部屋でゲームでもするか「風来のシレン」スイッチ版の続きでもやろう。

 

 立ち去ろうとした瞬間、自分の体が跳ね飛ばされたのを感じる。

 ・・・・あ・・へぇ・・そういうこと・・・やっちゃうんだ。

 誰がやったのかはわからない、酒を飲んでいた大人の一人が私を思いっきり蹴り飛ばしたんだ。

 いくらウマ娘でもまだ幼児だぞ!虐待で訴えてやるからな!

 ちょっと油断していたし、ここまでの暴挙に出てしまうほどのバカがいることに面喰った。

 防御が遅れた・・受け身取らなきゃ・・なんて無様、後で反省だぞ私。

 

「何てことしてくれたんだ!このクソガキ!」

「そうだ!お前ごときがうちの子によくも」

「わ、私にこんなことして・・ただで済むとは思わないで!」

「やっぱり不吉な子だわ。今ここでよく躾けるべきよ!!」

 

 うわぁ、酷い絵面だな~。どこか他人事のように感じていた。

 怒り狂った大人たち、酒に酔った者、ただ私を虐めたいガキ、騒ぎに乗じた者たちによる集団リンチ。 

 はい、幼児虐待に集団暴行、殺人未遂もつけとくね。

 いたた・・いた・・痛いって・・殴る、蹴る、踏まれる、待て待て耳と尻尾はやめろ!!

 急所は一応守らないと、覇気で体を覆って・・これで大丈夫そうかな。

 ああ、お手伝いさんが泣きながら止めに入ってくれてる・・・ごめんね、こんなことになって。

 それにしても醜い、醜いな・・なんて汚い顔をしているんだろうこいつらは・・・

 これが同じ人類か?悪い奴には人間もウマ娘も関係ないんだな~また一つお利口さんになったよ。

 

「ぜぇ・・ぜぇ・・どうだ!これでわかったか!お前は私たちに逆らってはいけないんだ」

「そうよ!あんたは大人しくみんなの玩具になってればいいのよ!」

「この世は弱肉強食なんだよ!」

「弱肉強食?」

「ああそうだ、弱い奴は強い奴に従う!この世の絶対ルールだ!よく覚えておけガキ!」

「おい、爺さんが帰るまでにこのガキをじ・・ありゅぇ・・」

 

 ゴキッ、バキッ、メリメリメリ・・・骨が砕け筋繊維のねじ切れる音が響く。

 私の胸倉を掴んでいた中年の腕を雑巾絞りのごとくねじってやったからだ。

 

「あ、あがががががががっっ~~~!!?」

「サンドバッグごっこ飽きた・・・今から私のターン」

 

 悶絶してのたうち回る男を見て後退するバカども。

 いち早く逃げ出そうとした名も知らないババアの正面に回り込み膝を砕いてやる。

 

「ぎぃぃぃええええっっっ!!」

「弱肉強食、いい言葉だよね。全員を黙らすには・・この場で一番強ければいいんだよね」

 

 身体のダメージを確認、打身と打撲が少々で問題なし。

 まずは逃げる奴から潰すか、体の大きい奴を優先してガキは後回し、とにかく全員に勝たなくちゃ。

 うん?どうして止まってるの?動いてもいいんだよ。

 なんで泣いてるの?震えてるの?顔色が真っ青だよ「ごめんなさい」「許して」「悪かった」???

 は?何を言ってるのかわかんないなぁ・・・私と遊びたいんだよね、やる気になってあげたよ。

 遊ぼうよ、そっちが先に誘ったんだろ?楽しめよ、思う存分相手してあげるからさぁ!

 

「はい、スタート。最後まで立っていた人が勝ちで」

 

 もっと早くこうすればよかった。

 どんな人とでも"話せばわかる"なんて認識が甘かった。

 純粋な暴力でしか分かり合えないことだってあるんだ。それがよくわかる出来事だった。

 

 やっちゃった・・・でも・・・最高にスカッとした。

 こいつら、いちいち豚みたいな悲鳴を上げる。それがおかしくってwww

 

 お手伝いさんから知らせを受け、急遽帰宅したジージが目にしたのは・・・赤い大広間。

 死屍累々、呻き声や微かな悲鳴を上げて倒れ伏す者どもを尻目に、ピンピンしている子供が一人。

 

「あ、お帰りジージ。遅かったね」

「黒・・・おめぇがやったのか」

「うん。ちょっと遊んだら、みんな壊れちゃった。豚の相手はつまんない」

 

 返り血に染まった体で笑顔を浮かべ、祖父を出迎える孫娘の姿がそこにあった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ジージの屋敷で私が"遊んだ"ことはちょっとした事件になった。

 身内間で起こった事件ということで、警察沙汰にはならなかった。

 もしかして、ジージの口添えで私は罪を免れたのかも、感謝しなないとね。

 しかし、何台もの救急車が殺到したことで、ご近所から遠巻きにされる事態となってしまった。

 老若男女数十人が病院送りとなり、被害者は退院後も精神科への通院やフラッシュバックに悩まされる日々を送っているのだと後で聞いた。

 偉そうにふんぞり返っていた親族の多くは経営権を放棄して地方へ隠居したみたい。

 ジージの屋敷には二度と近づきたくないと言って、向こうから縁切りを懇願してきたらしい。

 そいつらの子供やあの烈級(笑)は今回の件がトラウマとなり引きこもり生活まっしぐらだそう、なんでも幼児のウマ娘を見るだけで発狂するようになったのだとか・・・情けないな、ざまぁ。

 

 ママにはいっぱい怒られた。それ以上に謝られた。

 「気づいてあげられなくてごめんね」と泣くママを見て私も泣いた。ママは悪くない。

 お仕事をちょっと減らす、絶対減らすと息巻いていたが大丈夫だろうか?

 

 ジージにも怒られた。

 

「ど阿呆、おめぇならもっと上手くやれたろうに」

「余裕があるようで無かったのかも、一斉に責められるって怖いね。テンパっちゃった」

「褒めるべきじゃねぇのはわかってる。だがよ、よくやった。幸い死人は出てねぇ、あの時、お前はよくやったと俺っちは思うぜ」

「先に殴らせてあげたから、一応正当防衛ってことで」

 

 大きな手でガシガシと頭を撫でられる。この武骨な手が私は大好きだ。

 ジージは今回の事件、責められるべきは自分だと親族中に宣言した。

 私をよく思わない連中の存在を知りながら放置していたこと、親族への説明不足で疑心暗鬼や余計な詮索を誘発したこと、全ては息子の不貞行為が原因であることを踏まえ各方面へ頭を下げた。

 私も一緒に謝罪行脚をしようと思ったのだが、私の姿を見ると皆が怯えるので却下となった。

 

 一方で私を虐待していた連中をジージは許さなかった。

 全ての罪を白日の下に晒し、私に対する罪状を追求、私から受けたゲガの治療費をジージが支払うことで、今回の事件は示談とすることで幕引きになるよう話をつけた。

 当然、屋敷への出入り禁止。もっとも前述したように向こうから縁切りを申し出て来たので結果オーライ。

 財産狙いの豚には今後も相応の罰が下るのだそうだ。

 

 困ったことに、私の暴れっぷりはそれはもう恐ろしかったらしく、顔見知りのお手伝いさんもすれ違うだけで「ひっ!」と悲鳴を上げてしまうようになった。

 だから嫌だったのに・・・怖がられてる、仕方なかったとは言え少しだけ悲しい・・・

 

 ずっと前から知っていた。

 私の中にはずっと燻っている何かがあるってことに、もっと、もっと、もっとちょうだい!

 こんなんじゃ足りない、熱狂、焦燥、危機感、陶酔、喜悦、興奮、激情、もっと感じさせてくれ。

 ここにいる!生きているんだって証を!最高の瞬間を!

 

 脳筋、戦闘狂、狂戦士、イカれていると罵られても仕方ない。

 オッス、オラサイヤ人のじゃなくてウマ娘www

 でも認めるしかない、これが、こんなどうしようもないウマ娘が私なんだって。

 一度そういうものだと認めてしまうとアレだな、なんかフッ切れた。

 

 そうだよ・・・私は遊びたいんだ。

 遊んでよ、戦ってよ、戦って、戦って、戦って、戦わせて、戦いたいんだよ。

 私と一緒に遊ぼうよ・・・ねぇ、誰かいないの?

 

 何処かにいないかな、私と遊んでくれる強い子は・・・簡単に壊れない頑丈な子は・・・

 ドン引きしながらも、なんだかんだで最後まで付き合ってくれる。そんな存在・・・・

 友達・・・ほしいなぁ。

 

 事件から半月経った頃、ジージとママ、それと良識ある親族の大人たちが集まり話し合いの席を設けた。

 議題はもちろん私の処遇についてだ。

 問題児を集めて修行(主に精神面)を行っている山寺へ預けてはどうか、なんて案も出たらしい。

 子供を集めて英才教育を施す怪しい集団か・・・さては山育ちだな!

 とあるメーカーの作品でやたらと強い"山育ち"に私も・・・ママによって却下されました。

 

 結局、ジージの家に迷惑をかけてしまったので、私とママは屋敷を出て二人暮らしすることになった。

 ジージは気にすんなと言ってくれたが、ご近所や親族の目、私を怖がり危険視する人たちに配慮した結果だ。

 ママはジージに頼り過ぎていたことを反省し「これからは母娘仲良く逞しく生きていくぞ☆」と張り切っていた。

 

「黒よぅ。おめぇはさっさと仲間を作っちまった方がいい」

 

 引っ越しの荷造りも早々に終わったある日の午後、盆栽の手入れをしながらジージがそんなことを言った。

 

「親しい人ならジージやママがいるよ。他は必要ない」

「かぁー!生意気言いおってからに、そんなんじゃ、好きな野郎ができた時に苦労すんぞ」

「パパは浮気男だったし、男の子は私を虐めてきた奴らぐらいしか知らない。私、男性不信になる条件整いすぎ、だから男の人は苦手・・」

 

 嫌いと言うより、何考えているかわかんないから怖いのかも。

 年が離れいれば割と大丈夫なんだけどな、5・・いや、10年ぐらい上ならしっくりくる。

 

「お、おう。でもよぅ、何かの拍子にコロッと好きになっちまうことだってあるんじゃね、こう・・一目惚れとかな」

「それジージとバーバの馴れ初めでしょ?耳にタコが出来るほど聞いたよ」

「タコぐらい我慢しろ、とにかくだ!おめぇは一人じゃ危なっかしい。俺っちやハートはそこんとこ心配してんのよ」

「私にはお目付け役が必要だってこと?窮屈なのは嫌」

「そんな堅苦しいもんじゃねぇ。おめぇが一緒にいたいと思う奴、そして、おめぇと一緒にいたいと思ってくれる奴が傍にいれば、ジジイも少しは安心できるってもんよ」

 

 確かに友達はほしいと思っていた。

 待っているだけじゃなく、こっちから探しに行くべきなのかもしれない。

 恋人はまだ早いかな、ジージ以外の男の人を好きになれる自信ない。

 

「友達・・・探してみようかな」

「お、その気になってくれたか!ダチ公はいいぞぉ、俺っちがやんちゃだった頃は毎日バカ騒ぎでよう。あれは・・」

 

 ジージの思い出語り(放置すると無限ループする)を聞きながら、私はまだ見ぬ友達に思いを馳せていた。

 筋肉モリモリマッチョのウマ娘がいいなぁ・・花山薫みたいなのに「まだやるかい」て言われてぇ!

 タフさは重要だよね。

 

「でっけぇ奴だぞ、でっけぇ奴を味方にしろ」

「またそれ?ガタイの大きさがそんなに大事なの」

「そうじゃねぇ、そいつの考えや懐の深さ、どんな苦難にも折れねぇ負けねぇ心意気。要は肝っ玉の大きさが大事なんだ。そこがしっかりしてる奴ってのが"でっけぇ"てことだ」

「肉体的な強さじゃなく、精神面の強さで人の価値を測れってことなんだね」

「小難しく言いよってからに、まあ合ってるからいいや。忘れんな、でっけぇ奴だぞ」

「はーいはいはい」

「へっ、孫に結構いい話ししちまったぜ。俺っちてばナイスジジイ(自画自賛)」

 

 妖怪ナイスジジイがキメ顔をしたので少しウザかった。

 でっけえ奴、でっけぇ奴ねぇ・・・花山薫は身も心もでっけぇ奴だ、ならもう花山薫でいいじゃん。

 いたらの話だけどね。

 

「黒、おめぇもでっけぇ女になるんだぞ。可愛い孫の成長が俺っちの生きがいだ」

「どこ見て言ってるのかな、このエロジジイ!!」

 

 幼児の胸を見ながらセクハラ発言しないでよ、台無しじゃんか。

 お仕置きだね。

 

「実の孫でも通報したら捕まるんだよ?反省してねジージ。」

「ギブギブギブッだ!海よりも深く反省した、それ以上はいけないぞぅ」

 

 アームロックを解除した後は、いつも以上に楽しく遊んだ。

 お弟子さんを呼んで相撲大会とかメッチャ面白かった。最終的に座布団を相手の顔にぶつけ合う乱闘騒ぎになったけど。ジージが一番ハッスルしていたなぁ。

 それにしても、お弟子さんたちは何の弟子なんだろう?演歌歌手?それにしては身のこなしが常人のそれじゃない気がするんだけど、私に護身術と制圧術を指南してくれた人もいたし。

 大きな家だといろいろあるんだろうなと納得しておこう。やぶ蛇になっても困るからね。

 

 私とママは二人暮らしを始めた。

 新しい住処はなんと、タワマン最上階だヒャッホー。

 思えばママは売れっ子芸能人、十二分にセレブでした。

 ママが忙しい時は、優しい家政婦さん(年齢不詳の美魔女)が来てくれるので家事については心配ない。

 私だって多少はできるんだよ、ホントだよ!ルンバを踏んで壊した?あれは事故だよ!

 ジージとは定期的に会うようにしているので寂しくない。今でもよき祖父と孫の関係である。

 最近、サーフィンを始めたとかで小麦色に日焼けしていた。本当に元気だな~。

 

 ジージの提案を受け入れて行動開始。

 友達100人でっきるかな~・・って100人もいらん!

 まずは強そうな奴がいそうな所を探ってみる。

 

「これで何度目かな☆ママもう疲れちゃったぞ☆」

「うーん、今回もダメだったよ」

「血気盛んなのはいいけど☆肝心の友達はできたのかい☆」

「ああ、そうだった。えーと・・・あはは、ごめんなさい」

 

 騎神の育成機関はトレセン学園が有名だが、民間にも多数の教育現場がある。

 いわゆる騎神予備校といったものから私塾や道場、やる気さえあれば幼い頃から修練を積むことは誰でも可能だ。

 ママと一緒にそういった施設を巡ってみたんだけど・・イマイチだな。

 期待外ればっかり、口だけの奴が多すぎるのも問題だ。

 

「いきなり師範に一騎打ちを挑むのはダメダメ☆」

「強い大人と戦えば現場の実力がわかるんだよ」

「勝負してくれないと無理やり襲い掛かるのもダメダメ☆」

「三回に一回は勝ってるもん、今日の所は雑魚すぎてつまんなかったなぁ」

「負けて痛い思いして出禁☆勝ってもドン引きされて出禁☆今更ながら娘の凶暴性に呆れてるぞ☆」

 

 そうなんだよなぁ、旨くいかないな。

 

 師範と勝負して負ける→やったぞ!ここはまとだ→躾がなっていない猛獣はいりません!

 その躾も込みでやってほしいんだけど・・・ダメ?ダメかぁ。

 将来有望だと思って面倒見てはくれないんだね、狭量すぎない?もういいよ!こっちから願い下げだ。

 

 師範と勝負して勝つ→レベルが低い、ここはダメ→看板はやるからもう帰ってくれ!

 道場破りじゃないってばよ。

 良い子のみんな~ここの先生たち全員自称騎神だから、経歴詐称しているから別の所に通った方がいいよ。

 

「年の近い子は、逃げ出す、泣き出す、酷い時は失神or失禁ww参った参ったww」

「人脈作りどんだけ下手くそなんだよ☆業界の荒波に揉まれたママの遺伝子は何処へいったんだ☆」

「お腹の中で因子継承の不具合が起きた、ママの責任」

「ちくしょう☆闘争心に極振りしちまったぜ☆しかぁし!超愛してるぜ我が娘よ☆」

「私も愛してるよママ」

「「あははははははwww」」

 

 私たち母娘は今日も絶好調だった。

 

 ご近所を飛び出して、隣町の道場へ遠征に行くようになった時、ある噂を聞いた。

 最近、謎の道場破りが頻発しており、どの施設も現役の騎神を配備して要警戒中なのだとか。

 現場には若い母娘を装って訪れ、実行犯は小さな黒髪のウマ娘らしい。

 怖っ!そんな危ない奴がいるんだ・・・日本の治安はどうなってるんだよ、まったくもう!

 私にはまったく関係ないけど道場へ行くのは、もうやめておこうかな・・・テヘ。

 

「メジロ家だ☆メジロ家に行くぞい☆」

「どうしたのママ?あ、遂に私を売り飛ばす算段がついたの!幼児虐待と人身売買だね、訴えて勝つよ」

「ちがーう☆メジロ家が若いウマ娘の従者を募集してるんだぞ☆お嬢様の付き人にでも考えているんだろ☆」

「へぇー、そこで働いてこいと?私まだ小学生なのに」

「御三家は実力主義で年齢不問だぞ☆メジロ家なら同年代の強い子はゴロゴロいるし、お小遣いも稼げて一石二鳥☆旨く行けばお嬢様とお友達にだってなれちゃう☆行かない理由がないね☆」

「しゃー!やったるぞー!メジロ家がなんぼのもんじゃい!」

 

 そんなこんなでやって来ました採用試験会場!って今日かよ!

 うわ、凄い行列と人込み・・これが全部ライバル、倍率いくつよ?ちょっと自信なくなってきた。

 

「本当にごめんねっ☆この埋め合わせはいつか必ず☆」

「いいから行って、急なお仕事なら仕方ないよ」

「財布とスマホ持ってるな☆変な人についていったらダメだぞ☆メジロ家にケンカを売るのだけはやめてくれい☆」

「わかってるってば、行ってらっしゃい」

 

 ママの車を見送って一人会場に取り残される。

 殆どの子は親子連れ、一人で来ているのは中学生ぐらいの子ばかりだ。

 まだかな、長いな、待ち時間が長すぎる!話し相手もいないので退屈でどうにかなりそう。

 まだ時間はあるよね、お腹空いたから何処かで何か食べてこようかな。

 試験会場はとある大学を貸し切りにして行われている。カフェテリアぐらい完備しているだろう、見学がてら散策を開始。広いな、ここでお兄さんお姉さんたちがヒャッハーなキャンパスライフを・・・ん?

 

「ここにも試験会場?"ウマ娘熱烈歓迎"だって、変なの」

 

 手作り感満載の看板(無駄に達筆)が空き教室前に置かれていたのが、なぜか妙に気になった。

 さっきまでいた場所に比べえらい寂れてる。空いているならみんなこっちに来ればいいのに・・・

 中を覗いてみる、サングラスをかけたおじさんが大きな欠伸をしている真っ最中だった。

 なぜ一人でここに?なんか何処かで見たような・・わかったエヴァだ!碇司令そっくりww

 あ、ヤベ、目が合った。

 

「おお、おおおおおお!?」

「えっと、ここは試験会場ですよね?私・・・」

「や、やった!ダメ元でやってみたら成功した!ククク、メジロのババアめ・・まさか頭首自ら試験会場に潜入!受験者を横取りするとは思うまい!ダイヤは呆れていたが、これでパパの面目は保たれた」

「あ、間違えました」

「待ってぇぇぇーーー!行かないでーーー!ちょっとだけでも話を」

「変な人についていったらダメって言われてるんで・・」

「身分なら証明する!ほらこれ免許証でいい?サトノ家頭首、サトノドウゲンだよ~怖くないよ~」

「サトノ家?用があるのはメジロ家なんだけど」

「これも何かの縁!そう、ご縁があったんだよ!ちょっとした偶然はもしかしたら必然、騙されたと思って試験受けてみない?」

「でも」

「メジロ家はアレだよ?規律にやかましくてウザったい、採用された所でその他大勢の戦闘員Aになるのがオチさ」

「ああ、それはなんかわかるかも」

「でしょ?確かにうちはメジロ家より弱小だけど、仕事は個人の裁量に任せることが多いし、アットホームでみんな仲がいいんだ。各種イベントやサプライズも盛りだくさん!楽しいこと請け合いだよ」

 

 アットホームって、ブラック企業が求人でよく言ってる。

 イベントも強制飲み会とかで、休日もウザい先輩や同僚に絡まれ碌に休めない、とかだったら嫌だな。

 サトノ家・・・御三家なんだよね。ここでもいいか、別にメジロ家にこだわってるわけじゃないし。

 嫌だったらバックれたらいい。

 

「わかった。試験を受けるよ」

「本当かい!自分で言うのもなんだが、こんな胡散臭いおじさんの言葉を信じるのかい?」

「私は大事なことを直感で決めるようにしてる。おじさんはいい人、それに、ご縁があったんでしょ」

「いいよいいよ!そういう感覚のサトノ家では超大事よ、ささ、座って座って」

 

 受験を決めた私を見て、パアッと顔を輝かせるおじさん。

 このおじさんジージの同類かも。顔は全然違うけど、私をただひたすらに慈しむような視線を感じる。

 会ったばかりだというのに、私は警戒を完全に解いてしまった。思ったより凄い人なのかも。

 

「改めて、おじさんの名前はサトノドウゲン、サトノ家頭首をしているシングルファーザーさ」

「残念、ゲンドウじゃないんだ」

「ははは、よく言われるよ。娘は「父様にはマダオがお似合いです」と言うけどね」

 

 娘がいるのか、頭首の娘、ご令嬢、強いのかな?

 マダオとはうまいこと言うもんだww少年漫画が好きだったら、お話してみたい。

 

「では、君のことを聞かせてくれるかな?なるべく詳しくお願いね」

「わかっ・・わかりました。私はキタサンブラックといいます。年齢は・・」

「口調はそのままでいいよ、楽にしてくれていいからね」

「は・・うん。じゃあ、そうするね。えっと、今はママと暮らしていて」

 

 敬語は苦手なので助かった。ジージから一通りの礼儀作法は学んでいるけどね。

 

「嘘!お母さん、あのサトウシンなの!だ、大ファンですって伝えて!!」

 

 よかったねママ。おじ・・頭首様、いつも応援してるってさ。

 

「そうか、北の親父の孫娘・・・あ、気にしないで続けて・・・(連絡しておかなきゃ)」

 

 ジージのこと知ってるみたい、歌手としてではなく、今のジージと何か繋がりがあるのかな。

 

「志望動機は「私より強い奴(同年代)に会いに行く」かい。うんうん、元気だね~」

「本気と書いてマジだよ」

「君のお眼鏡に叶う、強い子が現れたらどうするんだい?」

「もちろん勝負してもらう、それから・・友達になってくれたら嬉しい。強い子じゃないと私と遊んでくれないから」

「驚いた、ここまでピッタリの人材が来るとは・・少しいいかい?」

 

 席を立って近づいて来た頭首様は、私に断りを入れてから頭に触れる。

 大きな男の人の手だ、やっぱり大丈夫、触られても嫌じゃない。

 

「くすぐったいww」

「ふーむ。覇気の巡りは活発、神核の強度と安定性も抜群にいい。ファル子やフラッシュに会った時を思い出すなあ。恐らく才能はこの子の方が上」

「何してるの?」

「フフフ、昔取った杵柄だよ。頭首になる前のおじさんはギルド所属の敏腕治療師でね、触れた相手の覇気や神核の状態チェックは朝飯前さ」

「おお、激戦には必須のヒーラーさんだ!初めて見た!ザオリク!ザオリクやって見せて!」

「はっはっはっ、死者蘇生はさすがに無理だよ。ちょっとしたケガを治すぐらいは、今でもできるけどね」

「よくてベホイミぐらい?」

「ホイミ止まりかも・・・肩こりに腰痛、打身や捻挫なら任せて」

「湿布みたいwwwサロンパスおじさんwww」

「ダ、ダイヤと似たようなことを・・・インドメタシンとフェルビナクには負けないよ!」

 

 やばww鎮痛成分と張り合おうとしているwww

 サトノ家頭首はとても愉快なおじさんだ、私の好感度アップだよ。

 私のステータスを確認し、一通り話し終えた頃、頭首様は何処かへ電話していた。

 

「場所は○○大学の・・・うん、よろしく頼むよ。お待たせしたね、ええと、なんて呼べばいいかな?」

「好きに呼んでいいよ」

「では、ブラックで。お昼はまだだろう?ご一緒に如何かなブラック君」

「わーい、やった!チー牛!チーズ牛丼食べたい!」

「若い子はチーズトッピング好きだよね」

 

 学内併設のカフェテリア、本日限定でメジロ家の給仕係が出張料理人として馳せ参じていた。

 受験者とその保護者には色とりどりの料理が格安で提供され、美味しさボリュームともに大満足の料理に舌鼓を打っていた。

 牛丼は無かった残念!と思っていたら、ここの給仕はできる奴だった。

 じっくり焼いたステーキ肉をカットしてアツアツご飯が入った丼へ、それだけでご飯が進むタレを即興で作り上から回しかける。最後になんと!とろとろのラクレットチーズをたっぷりかけてくれた!うわぁぁ映える!

 裏メニュー、ブラックちゃんの無茶ぶり"とろとろチーズステーキ丼"の完成である。

 所望したものとは大分違ったがこれは美味い!頭首様も私もお肌けリアクションしそうになったわ!

 私たちの後にも「あれが食べたい」と注文する人がいたぐらいだしな。

 

「美味しかったね。メジロ家は食も侮れないなぁ」

「満足満足~。お金、本当によかったの?私ちゃんと持ってるよ」

「若者にご飯を奢ってドヤるのは大人の特権だよ。気にしなくていい」

「ゴチになります。このご恩はいつかお返しするね」

「しっかり者、それに律儀ないい子だ。お腹は大丈夫かな、今から実地試験を・・お、こっちだこっち」

 

 食後に学内グラウンドでまったり、手にはメジロ家特性のスムージー(野菜と果物たっぷり)。

 美味しいなコレ、ビタミン補給~。

 大排気量のアメリカンバイクが停車し、ライダースーツで全身を固めた人物がこちらにやって来る。

 ・・・訓練された者特有の足運び。誰だろう?軍人?

 ヘルメットを脱いで現れたのは端正な顔立ちの男性。青い髪に切れ長の目、軽そうに見えて芯はしっかりしてそうだ。

 

「非番なのに呼びつけて悪かったね。ちょっとこの子を見てほしいんだ」

「おやっさんの頼みなら喜んで。へぇーこの子が・・・なるほど、うちのお嬢には合ってるかもな」

「おじさん誰?」

「まだギリ20代だぜ。おじさんじゃなくてお兄さんな、おいたんでも可」

「おいたん何者?」

 

 この男、私が出会った人間の中では一番強い。

 

「サトノ家従者部隊のエリート、シングルナンバーのイルム君だよ」

「イルムガルト・カザハラだ。よろしくな、可愛い子ちゃん」

「チャラい!不誠実なおいたんは嫌い。でシングルナンバーとは?」

「1番~9番までの番号を与えられた精鋭たち、だったらよかったんだけど・・・」

「人手不足と実力不足で半数以上が欠番、人間の俺が入っちまってる時点で察してくれ」

 

 今なら私もシングルナンバーになれるのかな?

 

「お嬢ちゃんいくつ?名前は?」

「キタサンブラックだよ。年は〇歳」

「10年後暇?フリーだったら飯でもどう?」

「未来のナンパ予約。相変わらずだな君も」

「今から唾つけといて損ないですよ。この子、絶対にいい女になるって断言できる」

「わざわざナンパしに来たの?違うよね」

「ああ、もう始めていいかい、おやっさん?」

「うん。メジロ家の執事長と大学側には許可を取ってる。とりあえず10分ぐらいで」

「よーし、今からおいたんと遊んでもらうが・・へへ、準備万端ってやつか」

「嬉しいな、食後の運動がしたかったの」

 

 期待通りの展開に心が躍る。

 頑張らないと、これは実力テストってヤツだ。

 頭首様にいい所を見せて採用してもらう、その試験がこんなに私好みだなんて、ついてる!

 関節を解して覇気を練る、もう我慢できない。

 いいよね、いくよ、いっっくぞぉーーー!

 

「間地かで見ると凄まじいな。烈級ぐらいなら即合格しそう」

「うへぇ、その年で出していい覇気と殺気じゃねぇな」

 

 相手は格上!作戦ガンガンいこうぜでぶっちぎる!

 

「無所属、キタサンブラック!胸を借りるよ、おいたん!」

「サトノ家従者部隊1番、イルムガルト・カザハラ。惚れんなよ、お嬢ちゃん」

 

 ・・・危ない、数回打ち合っただけでもわかる強靭さには、惚れてもいいかと思っちゃった。

 攻撃、当たってるよね?全然効いてない!?覇気のシールド硬度が桁違いだ。

 年功序列なんてクソだと思っていたけど、しっかり時間をかけ修練された技巧にはまるで歯が立たない。

 単純な練度差で負ける。似非道場の師範などおいたんに比べたらゴミカスだ。

 よかった、私、全然弱いじゃん。まだまだ強くなれる、まだまだ強くなりたい。

 これだから楽しいんだ、羨ましいんだ、強いって凄くすごーくカッコイイし、キラキラしてる。

 

「どうかなブラック君は」

「今でも30番台には余裕で届くでしょう。おチビなの加味すれば将来的に超級騎神も夢ではないっスね」

「だよね!聞くまでもないが判定は?」

「文句なしの合格。これだけの逸材よく見つけたもんだ。メジロ家がちゃちゃ入れて来る前にずらかった方がいい」

「そうだね。さっそくうちの子として登録を、あ、親御さんにも説明・・・さ、さ、サトウシンと会える!!え、えらいこっちゃでぇぇぇーーー!!!」

「なぜ芸能人の名を?まあいいか、おーい、お嬢ちゃん生きてるか?」

「おいたん・・クソつよ・・いつかリベンジ・・・ガクッ」

「ありゃりゃ、気絶しちまったぜ」

 

 おいたんに完敗したものの試験は合格。

 私は晴れてサトノ家従者部隊員として雇われることになった。やったね!

 後日行われた最終面接と言う名の親子説明会。

 ママを見てテンパりまくる頭首様が凄く面白かった。

 帰り際にママと連絡先を交換していたのを見逃さない私、まずは友達からってヤツ?

 ママも満更ではない様子なのが意外だった。

 「娘が拒否しないってだけでポイント激高だぞ☆」とのこと。

 

 サトノ家でのお仕事が始まった。

 学生との両立なので時間の融通は利かせてもらった。ありがたいね。

 部隊員の先輩方に挨拶「可愛いぃぃぃ!」「小さい!」「ロリィィィ!」「踏んでくれ!」大歓迎された。

 ちょっとだけ身構えていたが、みんな驚くほどよくしてくれる。

 ジージの屋敷で会ったクソ親族とはえらい違いだ。本当に強い人、立派な人は他人にも優しくて当たり前なんだって理解した。

 ここには人間もウマ娘もたくさんいる。

 おいたんみたいに騎神より強い人間も、そんなに強くないウマ娘も、みんな自分ができることで一生懸命頑張っている。何よりみんな楽しそう。仕事内容は地味な裏方や、ちょっと変な案件が多いかな。

 メジロ家の下請けと、メジロ家ではやらない仕事もうちはやる。

 ゲートの捜索ってなんだろう?プラーナ地場の調査?新型ラーメンの開発協力・・何だこれ?

 

 まだ新人の私は先輩についていって仕事を見させてもらう。

 まずは空気に慣れてほしいんだそうな。それ以外は修練、修練、修練のトレーニング三昧!

 強い人が多いのでやりがいがある。最高の環境を手に入れたぞ。

 

 何か忘れてないかって?友達・・友達はまだ・・同僚や先輩はたくさんできたけど、年の近い子はうーん。

 ファル子さんとフラッシュさんはお姉さん的存在だしなぁ。

 

「ブラック君、ちょっといいかな」

「頭首様。ママとはその後どうですか?」

「この間はお洒落な店で食事を・・てゲフンッ!その話はいいから、お仕事をお願するよ」

「またラーメンの試食会ですか?フラッシュさんがカップヌードルの味を完全再現してたよ」

「そのデータはファイン家に送ったよ。君にしかできないお仕事があるんだけど、実はね・・」

 

 この仕事を受けたことが私の転機となった。

 長い付き合いになる、あの子との出会いが待っていたから。

 

「専属、私は今日からお嬢様の専属なんだ・・・よし、頑張る」

 

 頭首様の一人娘、その子の専属従者をやってほしいとのご依頼だった。

 お嬢様、サトノダイヤモンドの噂は同僚たちから度々聞いていた。

 なんでも超絶優秀なウマ娘で、サトノ家が待ち望んだ最終兵器なのだとか。

 私はその子を顔を知らない、だって写真や映像の一切合切を頭首様も同僚もグルになって見せてくれなかったから!こんなことある?なんで?って聞いたら「出会ってからのお楽しみ♪」だそうな。ちくしょう!

 本日がその記念すべき初顔合わせの日。

 「ここで待ってってね」と言われて通されたのは、サトノ屋敷のダイヤ様の自室。

 勝手に入っていいのかな?頭首様がいいって言ったから大丈夫だと思うけど。

 部屋はきちんと整理整頓されていて、お嬢様の几帳面な性格が伺える。

 しかしなぁ・・・こいつは・・・

 

「凄い、秘密基地だ」

 

 もっと女の子を前面に押し出した、ピンクでフリフリ、エレガントでシャラララーを想像していたが違った。

 大きな本棚には難しそうな書籍や辞典、漫画や妙に薄い本がギッシリ。

 壁や棚にディスプレイされた何かの骨格標本、フィギュアにモデルガンと刀剣類!?

 造りかけのピタゴラスイッチ?何をやっているんだろう。

 広い作業机に出しっぱなしの工具類、意味不明な設計図?電子機器の制御盤、積み上げられたプラモデル。

 隣にはパソコンデスク・・これただのパソコンじゃない、ワークステーションってやつかも。

 株取引でもやっているのか?モニターが複数あるし。

 壁に埋め込まれた大インチ画面のテレビに各種ゲーム機、あ、メガドライブ!?レトロゲーもやるんだ。

 他にも見ているだけでワクワクする物体が所せましと並んでいる。

 ベッドや姿見、クローゼットは必要最低限に抑えられ部屋の隅に追いやられている。

 ダンベルあるじゃん、ほほう30㎏か・・・勝ったな、うちには50㎏あるもん。

 

「趣味満載の部屋、私と気が合いそう」

 

 こういうの嫌いじゃないわ、むしろ好きだわ。いいなぁ私の部屋もこんな感じに模様替えしたい。

 はっ?誰かが近づいて来る。

 来た!扉の前に気配がある・・向こうもこちらに気づいた。

 ドキドキ、どんな子かな・・・花山薫期待していいッスかwww来い、来い、来い、薫っ!!!

 

「あ、やっと来た」

「へ?」

 

 部屋に入って来た人物は目をパチクリさせて固まる。

 私も呆気にとられたよ。だって、初めて見たお嬢様は・・・

 

 とんでもなく可愛くて綺麗な子だったから。

 

 薫じゃなかったぁぁぁーーー!!!それはもうええっちゅうねん!

 どうしよう、変な汗が出て来ちゃった。

 動揺を悟られてはいけない、しっかり目を見て会話しないと失礼だよね。

 う、本当に綺麗な子だな・・・うちのお嬢様マジお嬢様やんけ!眩しい!直視できない!

 

 私を見る琥珀色の瞳に吸い込まれそう。亜麻色の髪からは得も言われぬ気品と優雅さがにじみ出る。

 私もよく容姿を褒められるけど、この子の前じゃそれも霞む。

 幼さいながら整い過ぎた顔立ちは多くを魅了して止まないだろう。

 くあ、いい匂いしそう!というかしてる!

 

 おっと、覇気はどうかな・・・ウホッ!(゚∀゚)キマシタワーーー!!!

 やったぁ!やってくれたなサトノ家!いい仕事だよ頭首様!!!

 外見はともかく、中身は花山薫もワンパンできる猛者じゃねぇか!ヒャッホー!!

 さようなら薫、こんにちはダイヤモンド!待ってたよ、あなたに会えるのずっと待ってたんだよ!

 この子となら、絶対にいい友達になれる。ううん、なりたい!

 お、落ち着け、変な子だと思われちゃう。まずはしっかり挨拶して専属にしてもらわないと。

 ああ、早く遊びてぇ!!!ウズウズしちゃうわ。

 

「あなたがダイヤモンド?私はえっと、うん、キタって呼んでね」

「確かに私がダイヤモンドですが、キタ・・さんはここで何を?」

「頭首様から聞いてないの?私、今日から従者部隊入りしたんだ」

「え?あなたが従者部隊。冗談を言ってるわけではないみたいですね」

「うん、最年少の合格者だって。みんな褒めてくれたよ」

 

 当たり障りのない会話からスタートしたんだけど。

 結局、専属は認めてもらえなかった・・・だったら、実力行使しかないよね♪

 軽くジャブから、裏拳でいいか。

 あはっ!止めた止めたwww簡単に止められた!そうこなくっちゃ!

 

「なんの真似ですか!」

「いい反応だね、これなら退屈しなくて済みそう」

 

 そこから始まる大乱闘!もう止まらないよ!やったるでーーー!

 最初は回避に専念していたダイヤ様・・・ちゃん付けでいいよね。ダイヤちゃんもブチギレて反撃してくる。

 うはっ!こういうタイプは初めてだ。

 こちらの防御が薄い所を的確に狙ってくる、鋭くそれでいてしなやか、パワーは私が上だけど読みは完全に向こうが上。未来予測でもしてんのかっ!て言う位の動きでこちらを攻めて来る。

 ああ、もう最高!これこれ、こういうのでいいんだよ!

 これが、これこそが本物の強者。出会うべくして出会った友と書いてライバル!

 嬉しすぎて若干テンション高めでごめんね!

 

「逃がさないよ!」

「・・・バカがっ!」

「うわぁと!」

「ちっ、外した。ウゼェからはよくたばれや!」

 

 廊下を走り抜けた先のカーブから、包丁やアーミーナイフが飛び出して来たのをなんとか捌く。

 いつの間にこんなものを・・・その後もワイヤートラップや落とし穴、トラばさみまで用意されてる!!

 考えなしに逃げている訳ではない、ダイヤちゃんの何気ない一挙手一投足が相手を追い込む布石になっている。

 ここは相手のホームだったな。ルールも素手オンリーにしていないので何でもあり。

 こっちが不利なのは承知済み!全部完封してやる!

 手加減なし、頭も体もフルに使って挑んで来てくれる。それが最高に嬉しい。

 応えなきゃ、こっちも応えなきゃいけない!

 嫌そうな顔しないでよ、わかってるよ。気づいてる?ダイヤちゃん、ギラギラした目で笑ってるよ。

 言葉使いも乱暴だ。そっちが本性なんだね、うんうん、そっちの方が好きだな。

 

「ボケが、バラしてやるよ!」

「ぎっっっ・・・がぁ」

 

 服が破れて血が滴り出した頃、気づけば屋敷は爆破されたみたいな惨状になっていた。

 ごめんね頭首様・・・あ、おいたんに皆も来てる。

 酔っぱらってるなぁ。おいたん、禁酒1日で断念かよ!賭けてるの?勝ったら取り分は山分けにしてよ!

 

 それより今の一撃、なんか腕が・・上がらない!?プラーンてなってる!???

 

「ふぅ、成功した。右肩の関節を外した、痛いでしょ、もう降参しろ」

「あはは、ずっとこれを狙ってたんだ・・凄い、すごい、スゴイ!やっぱりダイヤちゃんは凄い!」

「当たり前だろうが、早く降参を」

「するわけない!まだ終わってないよ!今度は左を外して見せてよ!あははははははははは!」

「イカれてやがる。最悪完全分解するしか・・人体の不思議図鑑もっと熟読すべきだったか」

 

 本?本で読んだ知識のみでやったの?

 ぶっつけで関節外すってそんなことできるの?怖いな、ヤバイな、面白いなこの子。

 まだ遊ぼう、片腕だけでもやってみせるから。

 動き、鈍くなってるよ・・考え事が多くて頭が熱くなりすぎてるのがわかるよ。

 オーバーヒートしてるんだよね、演算と予測、行動に移すまでの電気信号の加速が脳に、全身にダメージを与え続けていたんだよね。

 どっちが先に潰れるか・・・勝負だよ親友!!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「改めまして、サトノ家従者部隊ダイヤ様専属、真名キタサンブラックだよ」

「サトノ家次期頭首、サトノダイヤモンドです。まあ、楽しくいきましょう」

「「コンゴトモヨロシク」」

 

 結局、負けちゃった。悔しい、悔しい、それ以上に清々しい。

 かけがえのないものを手に入れた喜びが全身を満たしている。

 親友でライバルで上司、守るべき対象で、倒すべき存在。

 追いついて、追い抜かれて、また追いかけて・・・ずっとイタチごっこしていたい。

 ジージとママに自慢してやろう。最高のダチができたよって。

 

 ありがとうサトノ家、ありがとう頭首様、ありがとうダイヤちゃん。

 私、これからも頑張るね。

 

 この後もいろいろあった。

 ママと頭首様が結婚して私はサトノ家のお嬢様入り、ダイヤちゃんの姉妹になったのだ。

 頭首様はパパと読んだら凄く喜んでくれた。私も嬉しい、ママも幸せそう、収まる所に収まった感じ。

 ダイヤちゃんもママのこと「お母さん」て呼べばいいのに、ダイヤちゃん風に言うなら母様かな。

 照れちゃってもう!無理強いはしないよ、いつか自然に呼べたらいいね。

 

 私たちの関係は良好、たまにケンカもするけど、それも本気でぶつかってる証拠だよね。

 学校も仕事中も休みの日も一緒。そんな私たちを両親がサトノ家のみんなが暖かく見守ってくれている。

 ジージに報告したら諸手を上げて喜んでくれた「でかした!さすが俺っちの孫」だって。

 「あとはいい男がいりゃあ文句ねぇな」って気が早いよ。

 

 ダイヤちゃん学校で大暴れwwサトイモ事変www笑わせてもらった。

 

 ファイン家のインモーにボコられた。

 強いな・・・この子にもいつか勝つぞ!修練に身が入るってもんよ。

 で、敗者への罰ゲーム?操者を見つけろだってさ・・・

 

 (*´Д`)はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?マジで言ってる?

 

 契約ってアレでしょ、ブラック知ってるよ。

 血を吸わないとダメなんだよね・・・うげ・・・絶対無理。

 ジージやパパの血でも無理、ヴァンパイアだとしても無理、無理無理無理だってば!!

 

 約束なので、操者候補の選定と、契約についての書物を読んでおく。

 ダイヤちゃんは書庫から古い文献まであさり始めた、厄介なこと言い始めそう。

 

「気に入った相手ならその全てが愛おしくなるそうですよ。知らんけど」

「何それ、ソースはどこよ。好きになった相手の血がほしいとか、怖いよ」

「最近は書面と皮膚接触での覇気循環で契約完了ですが、この噛みつき契約の方がハイリスクハイリターン!」

「だからそれを選ぶと・・ダイヤちゃんの病気が始まった」

「病気じゃねぇ!面白い方が好きなだけですよ、絶対こっちの方がいいですってば」

「「契約時、人間には死んだ方がマシ級の激痛が走ります」て書いてあるよ・・・こんなのやってくれる人いるわけないよ!」

「いいや、私はやるね!今の内に頸動脈を噛み千切る練習をしておかないと」

「噛み千切ったらアウトだろ」

 

 やれやれ、ダイヤちゃんの操者になる人は苦労するな。

 私?私は・・・どうなんだろう?その時になってみないとわからないよ。

 優しい人がいいな。それで、一緒に遊んでくれたら最高・・・高望みし過ぎか。

 まあ、ドン引きされて終了だろうな。最悪ダイヤちゃんだけでも操者に恵まれたらいいや。

 私は今のままで十分幸せだよ。

 

 そのはずだったのに・・・もっとほしい、もっと私を見て、もっと一緒にいたい。

 戦っている時より、遊んでいる時よりも、ずっと大事な感情が溢れて止まらなくなる人。

 

 そんなあの人に・・・出会ってしまった。

 



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顔見る前から好きでした

 ギルドとは元々中世のヨーロッパで、技術の独占などのため、親方・職人・徒弟から組織された同業者の自治団体のことである。

 ウマ娘という存在がいるこの世界において、ギルドは幾度も変革や発展を迎え、今では社会を構成する一組織として確固たる地位を築き上げた。

 

 警察や軍隊等の公的機関、御三家や大企業が有する私設部隊、他にも大小様々な"武力"を持った者たちが乱立している世の中で、そうのような組織に所属していない者も多数存在する。

 少人数でチームを組んでいる者、一匹狼やフリーのエージェント、訳ありや、バイト感覚で仕事をしたいと考える者、学生の身でありながら力を持て余した者たち。

 その力を遊ばせておくことを惜しんだ結果、ギルドから彼らに仕事を斡旋するようになった。要はお気軽に使える遊撃部隊(便利屋)を社会が望んだのである。

 

 ギルドは一見すると小洒落たカフェテリアやバーのような外観をしているものが殆どだ。

 設立当初からの伝統なのか、飲食店にクエスト受注窓口が併設されているというのが基本スタイルだ。

 店内では飲食可能で場所や時間帯によっては酒類も提供可能。

 食事やちょっとした休憩、同業者との交流や情報交換の場としても重宝されている。

 

 そのギルドにとある情報が飛び込んできた。

 情報は瞬く間に拡散され、日本中の各支部に伝達された。

 

 『サトノ家の令嬢二名が操者を探しています』

 『選定試験を行いますので、我こそはと思う方は奮ってご参加ください』

 『なお、試験中に起きた事件事故及び心的外傷については一切保証しません』

 『十二分にご検討されてからのご参加をお勧め致します』

 

 ざわ・・・ざわ・・・

 公開された情報を見た者たちのざわめきがギルド内のそこかしこから聞こえる。

 

「俺、行ってみようかな」

「バカっ!やめとけ。メジロ家じゃなくて、あのサトノ家だぞ」

「でもコレってチャンスだよな。御三家令嬢の操者ともなれば、かなりの好待遇が約束されるはず」

「よく読め、不穏なことが書いてあるだろ。何をされるかわかったもんじゃない」

「心的外傷ってなんだよ、怖ぇぇー」

「肝心の令嬢だが、写真すら無いのはどういうことだ?」

「そりゃあアレだ。外見だけに釣られてくるマヌケを排除するためだろう」

「会ってからのお楽しみ、そういうの嫌いじゃないわ」

「でもなぁ、サトノなんだよなぁ」

「「「「それな」」」」

 

 メジロ家に比べ世間一般に評判のよろしくないサトノ家。

 怖いもの見たさで参加を決めた者も少なからずいたようだが、サトノと聞いただけで大多数の者たちはこの情報をスルーしたのであった。

 

 わかりきっていたことだが、私たちの操者探しは難航した。

 

「「はぁ~・・・」」

 

 深いため息をついてぐったりする。

 今日は朝から代わるがわる、いろんな人間に会い過ぎて疲れてしまった。

 

「二人ともお疲れだね」

「パパ~もうやめよう、知らない人に会うの結構キツイ」

「もう二十人は相手しましたよね。疲れるはずです」

 

 私もキタちゃんも内弁慶な所がある。人間に対してはなおさら人見知りだ。

 選ぶ立場なのはこっちだが、初対面の相手にジロジロ見られるのは気分がいいものではない。

 しかもそれが間を置かず、何度も何度も行われたのでストレスがマッハだ。

 

「さっきの受験者、泣きながら帰っていったけど、何かあったの?」

「「目線がエロい、キモイから消えてくれる」って正直に言ったら泣いちゃった」

「実際はもっとキツイ言い方でしたけどね、もうちょっとお手柔らかにしてあげましょうよ」

「ダイヤが面談した相手は、何故か複雑骨折して泡を吹いていたね」

「あの野郎、私の身体に触れようとしたんですよ!太腿の辺りを嫌らしい手つきでね」

「よし!そいつには社会的に死んでもらおう!」

「さすがパパ!」

「当然ですね」

 

 面接にまでこぎ着けたのなら、少なくとも覇気や身体能力のテストには合格したはず。

 だが、どうにも気に入らない。

 わざわざお越しくださった手前、定型文のやり取りぐらいはしますけど。

 本音では会った瞬間に「はいダメ!お帰りください」「ないわーありえんわー」と言いたい。

 足りないんだよ、どいつもこいつも、クソみてぇな覇気だな。

 

「覇気がショボ過ぎる。もう、それだけで無理です」

「一応基準値はクリアしているんだけど」

「じゃあ次からは基準値とやらをもっと上げてよ、今日来た連中の数倍はほしい」

「む、無茶を言うなぁ。今日、来てくれた人たちだって、轟級騎神の操者には確実になれるとのお墨付きだったんだよ」

「じゃあ、超級の操者クラスを寄こしてください」

「メジロ家でも数人いるか、いないか、の人材を所望するか・・うちの子ってば」

「わがまま言ってごめんね。でも、こればっかりは・・」

「いいんだ。パパとしても二人には納得して契約してほしいからね、焦らず行こう」

「お手数をお掛けします」

 

 その後も数日に渡り面談ラッシュは続いたが、状況は芳しくなかった。

 会った人数は三桁に及んだものの、これだと思う人物は未だにいない。

 

「お待たせしました。ミラノ風ドリアでございます」

「待ってました!サイゼではこいつを食べないと始まりませんね」

 

 連日の面談に疲弊した私たちは休暇をもらった。

 みんな大好きサイゼリアで遅めの昼食を取る。

 私の横に座ったキタちゃんは、辛味チキンに夢中だ。

 それも美味そうだな、後で私も頼もうかな。

 

「それで、半年経ったけど。操者は見つかった?」

 

 私たちの対面に座るウマ娘、インモ・・ファインモーション。

 フォークで自分の注文した品をつつきながら笑みを浮かべてこちらを見る。

 あはは、目が笑っていませんね。

 

「それ何です?」

「エスカルゴのオーブン焼き」

「カタツムリ・・・チャレンジしてみましょうか」

「話を逸らさないでくれる。操者はどうなったの?」

「見てわからない、もちろん見つかってないよ!」

「開き直ってもダーメ。はぁ・・私が送ったリストの候補者も全滅か」

「いや、あなたの推薦で来た人間、失礼な奴でしたよ」

「「べ、ベーオウルフ・・すみませんごめんなさい!やっぱ無理です~」」て泣きながら逃げた」

「私なんて会った瞬間にガタガタ震えて「ルシファーの幼体・・うぇ吐きそう」ですって!人の顔見てゲロしたくなるってなんですか!私の顔、そんなに酷いですか!」

「あちゃ~、1st出身者はやっぱ無謀過ぎたかぁ。二人ともごめんね、その人たちは完全に人選ミスだったよ。二人が超絶ブサイクで発狂したんじゃないから安心してね」

「ファイン家嫌い」

「同感です。頭首のことはもっと嫌いです」

「謝るから許してよ。小エビのサラダ頼んであげるからね、ね」

「「Lサイズでな」」

 

 今日は月一恒例の定例報告会。

 ファインモーションと食事をしながら、操者探しについて報告する。

 5回連続でラーメン屋を指定されたので、今日はファミレスにしてもらった。

 

「麺類、パスタしかないんだ。ラーメンは?」

「あるわけねぇだろ」

「すみませーん注文いいですか。えっと、たっぷりコーンのピザと柔らか青豆の温サラダで」

「バッファローモッツアレラとプロシュートも」

「小エビのサラダLサイズ、ふた・・三つもお願い」

 

 私たちウマ娘ですからね、そりゃあ食べますとも!まだまだ序の口です。

 

「期限、今日までなんだけど?」

「取引中止は勘弁してくれませんか、ホントマジ勘弁してください」

「パパのお仕事を人質にするのはやめたげてよう。路頭に迷ったら末代まで呪うからね」

「仕方ないなぁ、今回だけだよ。今後も定期報告はちゃんとすること!いいね」

「「ありがとうございます!!」」

「後、三カ月は待つよ。それが過ぎたら・・」

「「過ぎたら?」」

「二度と覇気を使えないよう封印して、二人にはラーメン職人を目指してもらう」

「職人!ラーメン屋をやらないといけないの?飲食店の経営なめすぎ!」

「そこじゃないですよ!封印ってそんな真似ができるとでも」

「できるよ。私、天級騎神にコネがあるから」

「「はぃぃぃぃ!?」」

「ハッタリじゃないよ。天級なら覇気封印もちょちょいのちょいってね」

「嘘を言ってるようには見えない・・・マジか、最悪だ」

「覇気を失う?ただ可愛いだけの生き物になってしまう!それはちょっと困るぞ」

「だから頑張ってね!自身が無いなら、修行先を決めておいてね」

「ラーメン修行・・・やりたくねぇ」

「ラーメン好きな癖に、ラーメン屋を甘く見過ぎ!毎年どれだけ開店、そして廃業しているのか知ってんのか!」

 

 ラーメン店を経営する未来を防ぐために頑張ろうと思いました。

 

 ファインモーションと別れた後、家に直帰する気にはならなかったので近所の公園でぐだぐだしてみる。

 

「本当に困りましたね」

「ラーメン屋・・バイトならともかく、本業にするつもりはないよ」

「適当な人と契約・・いや、それは自分にも相手にも失礼過ぎる」

「それじゃあ、お互い不幸になってお先真っ暗だしね」

「「はぁ~~~」」

 

 ため息をつくと幸せが逃げるなんて聞いたことがある。

 だとしたら、私たちの幸せは木星辺りまで逃亡していることだろう。

 

「長いため息、何か悩みがあるのかしら?」

「誰や!」

「ほぇ?」

 

 気が付いたら背後を取られていた。

 振り返るとそこに、青みがかった毛並みのウマ娘が立っていた。

 誰だ?見たことがない奴だ。

 私たちより年上、育ちがよさそうな外見、ザ・清楚系、身に着けている衣服も高級品だ。

 裕福な家の子だというのはわかった。

 

「驚かせてごめんなさい。妹たちを思い出して、声をかけてしまいました」

「あ、はい、そうですか」

「あなた、どうしたの?覇気が変だよ」

 

 そうだ、キタちゃんの言う通りだ。

 このウマ娘の接近に気付かなかったのは覇気の出力が微弱すぎて、それを感じることが出来なかったからだ。今、こうして正面に立つ姿を確認して、そこにおったんかい!となった。隠形や隔絶状態にしてはいない・・ちゃんと生きているウマ娘から出ている覇気なのか心配になってくる。

 

「そう、わかるのね・・私、生まれつき神核が不安定なんです。覇気の制御が下手で、今みたいに極少量しか出ない時もあれば、体が言うことを聞かない程に溢れ出すこともあるの」

「それは難儀なことですね。治療は旨く行きそうでしょうか」

「先天性の異常なのでお医者様も首を捻ってました」

「可哀そうなんて思うのは失礼かな。止まってしまうのは、全部やり切って納得してからがいいよ。私に言われなくたって、あなたの目には生きようとする意志を感じるもん。大丈夫だよね」

「キタちゃん・・急に賢くなって、今日は槍でも降るんですかね」

「ジージの受け売り!耳タコするまで聞いた「ジジイのちょっといい話集」より抜粋」

「フフッ・・元気づけてくれたのですね。ありがとう、そう簡単に死ぬ気はありませんからご安心を」

 

 クスクス笑う姿にも品があって可愛らしい。私とは違うな、これぞお嬢様!って感じ。

 

「それで、あなたたちは何を悩んでいたの?よかったら聞かせてくれないかしら」

「見ず知らずの方に話す内容では・・いえ、この際です、聞いてもらいましょう」

「そうだね。私たちだけじゃ行き詰っていたし、第三者の意見が突破口になる可能性もあり」

「はい、どうか、気兼ねなくお話してくださいね」

「えーと、お名前は?」

「通りすがりのA子です」

「ならば私はDですね」

「私B!」

 

 何故だかコードネームで呼び合うことに・・・こういう趣向もたまにはありだな。

 立ち話もあれなので、近くのベンチへ移動する。三人並んで腰掛けお悩み相談。

 A子さんは大変聞き上手で有らせられた。

 溜まっていたストレスのせいか、包み隠さずベラベラと喋ってしまう。

 おっとりポワポワした雰囲気の人だ、そのせいか、私たち二人もすんなりと心を許せた。

 安定性を欠き、波のように満ち引きする覇気から推測するに、A子さんが万全の状態であったなら間違いなく強者であっただろう。

 私たちはA子さんの真価を察し、彼女を強者と認めた上で相談しているのかも知れない。

 

「あらあら、まあまあ!操者を探しているのですか?お若いのに随分と進んでいますのね」

「私だって、こんなに早く操者を探すとは思ってないかったですよ」

「乗り気ではないが探さなくてはならない、候補者には会ってみたが、今の所は脈無しなんですね」

「大体そんな感じだよ。やれやれだ」

 

 少しだけ思案した後、A子さんは口を開く。

 

「・・・それならば、待っているだけなのを止めてみたらどうでしょう?」

「「え?」」

「聞けばお二人は、向こうから来た人のみを相手にしている様子。探していると言ってもあくまで受動的、自分の足でわざわざ探してはいない、違いますか?」

「確かにそうです。そうか、嫌々なあまり受けに回り過ぎてましたか」

「こんなに簡単なことに気づかなかったなんて、私たちのアホ!そうだよ、人生を左右する相手を座して待っているだけなんてバカみたい」

「ずっと後手に回るだなんて、らしくなかったですね。攻めて攻めて自分たちで掴み取る。そうじゃないとダメでした」

「ジージの家を飛び出したからダイヤちゃんに会えた、今度もきっと大丈夫だよね」

 

 キタちゃんは父が勝手に用意したのですが・・・まあ「友達がほしい」と意思表示した結果、彼女に出会えたのであればよしとしましょう。

 

「偉そうなことを言ってすみません。少しはお役に立てたでしょうか」

「目が覚めましたよ。ありがとうございますA子さん」

「うん。喝を入れてもらった気分だよ」

 

 ベンチから元気よく立ち上がり、ペコリと頭を下げる。

 

「やるべきことが見えました。帰りますよB!私にいい考えがある!」

「コンボイ司令はやめて!不安しかない!けど付き合うよD!」

「A子さん、ありがとうございました。では、またいつかどこかで」

「ばいばい~、またね~」

「はい、またどこかで・・・」

 

 A子さんにお礼を言って、ダッシュで帰宅する。

 善は急げだ。この作戦には、先日うちに運び込まれたアレを使う必要がある。

 格納庫のロックは私でも解除可能、後はアレの動き次第。

 きっと上手くいく、そんな予感をひしひしと感じていた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「元気な子たち・・・」

 

 マックイーンたちは元気だろうか、先程まで一緒にいたに二人を見て妹分のことを思い出す。

 

「待っているだけなのは私もでしょうに・・・人に説教する立場ですか」

 

 胸に手を当てる、安定しない神核の揺らぎを今も感じる。

 自分が起こした大事件、誰かを危険に晒すような私は存在しない方がいいのだろう。

 それでも・・可能性が僅かでも残っているのなら、それに賭けてみたい。

 止まってしまうのは全部やり切ってから、確かにその通りだ。

 アドバイスしたつもりが、逆に勇気をもらってしまった。

 偶然の出会い、温かい気持ちをどうもありがとう。またいつかどこかで・・・

 小さな二人を見送った後、自分の傍らには執事服を着た壮年の男が立っていた。

 音もなく現れると未だにビックリしますね。慣れません・・・

 

「お嬢様、お車の準備が整いました。そろそろ出発致しましょう」

「あら、もう終わったのウォルター?」

「はい、全て滞りなく。先方とも話はつけてあります」

「ありがとう、では、参りましょうか。行先は、えーと、どこだったかしら?」

「テスラ・ライヒ研究所でございます。あのビアン博士が設立した研究機関、きっとお嬢様を救う手立てが見つかるはずです」

「そうだといいわね。どんな最期が待って居ようとも、最善を尽くしましょう」

「その意気です。それでこそメジロ家の血を継し者、メジロアルダン様です」

 

 執事を従えたウマ娘はどこか晴々とした顔をして去っていった。

 この時、三人は互いの真名を名乗らなかった。それは運命のいたずらか、それとも・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「へっへっへ・・・やった!やっちまったぜ!もう後戻りできねぇ」

「お頭!顔が凶悪になってるよww」

「我ながら完璧な仕事っぷり!マダオの裏をかき、まんまとお宝ゲットだぜ!」

「後でメチャクチャ怒られそう・・ねー、運ぶの手伝ってよー!この子、重い~」

「だらしねぇな、それでもサトイモ盗賊団の一員か!」

「サトイモ盗賊団ww弱そうww」

 

 あいにくの空模様、今日の天気は朝から曇り、夕方からは雨になるらしい。

 私たちの作戦は雨天決行!仕事で不在の父や部下の目を盗み、格納庫奥に封印されていた"例のアレ"を無断で持ち出すことに成功した。

 

「パパが家宝にするんだ~って言ってたけどいいのかな?」

「動かない骨董兵器なんぞ宝の持ち腐れですよ。有効利用してやりましょう」

 

 キタちゃんが、銀色に輝く大きなキューブ状の物体(車輪付き)を押しながら移動する。

 私は大きめのスーツケースを二つ牽引する。

 ガラコロと音を立て道を進む、スーツケースはともかく、クソでかキューブの方は目立ってしょうがない。

 どこか適当な場所で開封の儀を行おう。

 

 この辺でいいかな。雑居ビルの裏路地、人がいないことをよく確認してからほっと一息。

 

「あー重かった!結局私がずっと運んでたね」

「じゃんけんで勝負とか言い出したキタちゃんが悪い。それよりお宝を開けますよ」

 

 キューブの表面に触れる。

 パッと見、継ぎ目がなさそうに見えるが・・あった、隠しスイッチ発見。

 ピピッという電子音が聞こえた後、キューブの下部からコンソールが出現した。

 

「パスワード・・・?ブラックダイヤモンド・・・一発かよ!チョロ!」

「娘の名前は安直だよね~。愛されてるから嬉しいけどさ」

 

 チョロすぎるパスワードでロック解除。

 空気が抜けるような音が聞こえると同時に、キューブが展開し、お宝の姿が露わになる。

 中に入っていたのは3m級の黒い人型。

 古代遺跡から発見された素体を用い、現代の技術で再現し、復活させた自立行動型起動兵器。

 対騎神用だというのだから、DCみたいに遥か昔にもウマ娘嫌いの人間がいたんだなぁ。

 

「おお、こいつが・・・羅刹機アルクオン!」

「うはっ!カッケーー!!ロボだロボ!強そうだなぁ戦ってみたいなぁ」

「ええと、起動させるには・・覇気がいるんですよね、キタちゃんお願いします」

「嫌だよ!この子が大飯食らいだって知ってるもん」

 

 ちっ、知っていたか・・・

 起動実験を行った際、実験場にいた数十人の覇気を瞬時に吸い取り病院送りにしたんだよな。

 キタちゃんなら耐えれると思ったんだけど・・・わかりましたよ、ジト目やめて!

 

「では、少量のみを与えて様子を見ましょう」

「二人でやろうね。途中で逃げるのは無しだよ」

 

 アルクオンの中心にある球体、核触れて覇気を流す。

 これぐらいかな・・・いや、もうちょっとだけ・・・もういいよね。

 微かな駆動音、やった成功した。

 精悍な顔立ちのツインアイに光が宿り、ゆっくりと立ち上がるアルクオン。

 うお、でかいな・・威圧感パねぇ!既存のAMなんか目じゃない迫力がある。

 

「上手くいったね。それでこれからど・・・しよぉぉぉぉ!?」

「ふんがっ!?」

 

 え?え?ええええぇぇぇぇ!?何が起きたたたた・・・いっでぇ!

 

 理解が遅れる、どうして地面に顔から突っ込んだ!?

 アルクオンに二人まとめてぶん殴られたことに気付いたとき、奴はビルの壁を蹴りながら上昇、そのまま離脱していく最中だった。何その動き?巨体からは信じられない機動性してる。

 

「あ、逃げる!追いかけなくちゃ!」

「なめやがってぇぇぇ!持ち主に対する礼儀がまるでなっちゃいない!!」

「早く!早く行かないと!」

「ヤベッ!操者を先に見つけられたらヤバイ!」

 

 アルクオンは駆動燃料に大量の覇気を必要とする。

 そして、自立行動型兵器の奴は自分に覇気を供給する人間を求める。

 起動時はともかく、駆動中は基本的に人間からの覇気しか受け付けない(後に食わず嫌いだったことが判明)

 その習性を利用して、奴が見つけたであろう潤沢な覇気の持ち主を、先に頂いてしまおうと思ったんだが。

 

「横取り大作戦失敗!!」

「諦めんなよ!まだ終わってない!見ましたか、あいつの挙動?」

「うん、凄く早かった。なんか・・焦ってる?迷ってる?」

「その通り!多分あいつもう操者を見つけたんだ。でも、人が多すぎて混乱してる。逃げて行った方向から見て、操者はこの街にいる可能性大!」

「ならまだチャンスはあるね。でもどうしよう、しらみつぶしってわけにもいかなし」

「こんな時こそ直感頼み!強い覇気を持っている者同士は惹かれ合う。操者と愛バ、運命の相手ならば必ず出会える!まだ見ぬ絆を信じましょう」

「めっちゃロマンティック!!そういうの好き!!もうやけくそだぁーー!」

「私の操者様ーーー!サトノダイヤモンドはここですよーーー!早く見つけてくださーい!」

「キタサンブラックここにいるよ!操者になってくれる人、どこにいるの?出ておいでーーー!!」

 

 と、まあ最初は張り切ってがむしゃらに行動しました。

 街を駆けずり回り、少しでも覇気を感じたらその出所を探る。

 違う、コレジャナイ感、この人でもない、全然ちがーう!、ここにもいない、どこだ?

 

「ぜぇ・・はぁ・・い、いない」

「人多すぎ・・この中から・・探すの・・無理じゃ」

 

 日中の仕事を終えた人々が帰宅を急ぐ時刻になってしまった。

 振り出した雨が強さを増す中、びしょ濡れかつ泥で汚れた私たちは、やっとの思いで人気のない地下道入り口に辿り着いた。

 

「もう最悪!なんで私を道連れにしたの!というかなんで転んだの!」

「仕方ないでしょ、尾行されていたんですから・・はいコレ」

「・・発信機。フラッシュさんの仕業か」

「格納庫前で擦れ違ったから怪しいと思ったんですよ。こちらの動きは筒抜けですね、アルクオンの方は父様たちに任せていいでしょう」

「転んだように見せかけて発信機を壊した?・・・おい、本当のことを言え」

「ごめんなさい!滑って転んだのは天然ですぅ!その時に発信機を見つけて、言い訳に使いました!」

「最初からそう言ってよ・・ああもう、どうすんの・・今日はもうやめる?」

「そうですね、この地下道を抜けた先にビジネスホテルがあったはずです。そこに宿泊しましょう」

「子供だけで泊めてくれるかな」

「心配いりません。あのホテルはサトノ家の関連企業、支配人は私のことを知っていますから」

「名家のコネはありがたいね。よし、風邪ひく前にレッツラゴー!」

 

 追跡防止にスマホ置いて来た意味がなくなった。発信機かぁ、やられたな。

 迎えが来ないということは、父は私たちの自由行動を見逃してくれるらしい。

 アルクオンが一般人を襲うことがないよう、警戒もしてくれているはず。

 心配かけているだろうな。時間は明日までが限界か・・簡単にはいかないなぁ。

 

 本日の成果なし!そう考えると疲労度が増してくる。

 牽引しているスーツケース、普段は楽勝な重量、それすらもウザったい。

 

 アルクオンが収納されていたキューブ体は路地裏の隅に放置してきた。

 父が回収してくれていることを祈ろう。

 

 なんだか不気味な地下道だな。

 切れかけた蛍光灯の点滅や、薄汚れた壁、淀んだ空気が不快。

 さっさと通り抜けてしまおう。

 キタちゃんも同じ気持ちなのか、やや小走りに加速する。

 無駄に長げぇなこの地下道。

 

 (*´Д`)はぁ・・・嫌な空気だ・・濡れた服が気持ち悪いし、顔も汚れてるだろうな。

 タオルぐらいもって来ればよかった。

 一時の家出だと甘く見ていた、持ち物のチョイスを失敗。

 旅行や出張の前には荷物の確認と整理を心掛けるべきですね失敗失敗ww・・・し・・ん?

 

 ( ,,`・ω・´)ンンン?

 

 んん?・・・んんんんんんんんんんんんん???・・・な、なに・・これ・・ウソ・・?

 

 そんなまさか・・・これ・・・覇気か!?

 

「ダイヤちゃん!!!」

「ステイ!」

「ぐぇ!なんで止めるの!!」

 

 遅れて気付いたキタちゃんの耳を引っ張って動きを止める。

 顔を近づけて、小声て喋る。

 遠くからこちらにやって来る、彼に気付かれないように。

 

「前から来る、男性、10代後半から20代前半、長身引き締まった体、恐らく〇貞」

「そんなんどうでもいい!!は、覇気が・・覇気が桁違いだよ!!なんで?どうしてコレに、今まで気づかなかったの?ありえない!!」

「かなり高度な術ですね。目視可能距離まで近づかないと、判別不可能な細工が施されている」

「え、じゃあ向こうは私たちにもう気付いてるかも?どうする?声かけてみる」

 

 これは行くべきか・・いや・・この異常な覇気を出している人間からすれば、私たちなど歯牙にもかけられないかも。

 感じたことのないプレッシャー。この覇気はヤバイ、ヤバすぎる!

 この人間から覇気を乗せた殺気を向けられたら、冗談抜きで心臓発作起こす自信がある。

 こ、殺される・・体を掴まれて、無理やり覇気を流し込まれただけで、神核が内側から崩壊しそう。

 それほどまでに凶悪、大出量、大出力の覇気を垂れ流している。もうすぐそこまで来ている。

 逃げるべきだ・・・この人間には関わってはいけない。 

 まともなウマ娘なら、隠れて逃げてやり過ごすのが賢い選択。

 

 ・・・まとも?・・・はっ!私には当てはまらない言葉ですね。

 

「行くぞ。彼こそ待ち望んだ操者です」

「え?そこは慎重になる所じゃないの?いつもと立場が逆じゃね」

「ビビっているなら来なくていい。私が操者を手に入れる瞬間をアホ面で見てろ」

「はぁぁぁぁ!!?ビビッてねーし!!先に見つけたの私だし!ダイヤちゃんこそどっか行ってよ!」

「ほざけ!先に見つけたのは私だ。とにかく彼は私の操者!これもう決定事項だから」

「私のだよ!!絶対私の方がいいって言ってくれるはず」

「いや、私が」

「私だって」

「「・・・やめよう」」

 

 こうして揉めている間にも近づいて来る。

 どうしよう、ああ、こんなずぶ濡れの汚れた顔で会いたくなかったぁぁぁ!!

 第一印象は大事なのに・・初見のファッションがこれだなんて・・ヒドイ。

 

 マジかよ!キタちゃんも同じ人を希望している。・・・戦争かなこれは。

 お互いに足を引っ張り合って、結局、契約出来ず仕舞いだ、なんてことにならないようにしなければ。

 クソっ!恐れていたことが現実になった・・・好みが被るのはわかっていたのに。

 私もキタちゃんも、この僅かな時間でもう決めてしまっている。

 まだ顔もよく見てないのに、性格もどんな人なのかわからないのに、膨大な覇気から感じる力に魅せられてしまっている。

 完全に酔ってる、虜になってる、この覇気を自分のために回してほしいと思ってる!!

 

「争ってる場合じゃないです。休戦協定を結びましょう」

「オッケー。思ったんだけどさぁ、この覇気だと私たち二人ぐらいなら余裕じゃない」

「でしょうね。この質と量なら10以上の騎神を従えても不思議じゃありません。ですが・・・」

「独占欲発動?」

「それなんですよね。譲りたくない感が凄いんです!束縛もしたいです!」

「ヤンデレ素養があったんだね。気持ちは物凄くわかるよ」

「病んでません、デレデレですから」

「はいはい、とりあえず話してみようよ。それから契約して、最終的にどっちがいいか選んでもらうってのは・・どう?」

「その案を採用します!まあ、勝負は既についてますがww」

「その余裕が泣き顔に変わる瞬間を見てあげるねwww」

「何だとコラ!今ここで泣かせてやろうか!」

「やってみろよサトイモがぁ!!」

「「・・・やめよう」」

 

 おかしいぞ、二人とも妙なテンションになってる。

 話したこともない人を巡ってケンカとか、相当ヤバイ奴らだ。

 くっ、それもこれも、前方から漂ってくる覇気のせいだ!思考回路がショート寸前!!

 私たちいつも以上に頭悪くなってるーーー!!!

 

「ちょ、来るよ来ちゃうよ。ど、ど、どうすればいい?」

「一旦スルーしましょうか。その後、彼を尾行して家を突き止める。今日はホテルに泊まって、明日サッパリした状態で改めてご挨拶を・・・ダメだぁ!その間に別のメスウマやアルクオンに取られると思ったら、ホテルでグースカ寝るなんてことできっかよぉ!!」

「だよね!行くっきゃないよね!!」

 

 お互い自然と手を繋ぐ、ちょっと震えてるのが伝わるだろうか、なんだキタちゃんもかよ。

 

 (よし、行こう)

 (行きましょう)

 

 彼がドンドン近づいて来る。どうやら向こうもこちらに気付いた模様。

 

 (こっち見た!見た!)

 (見ましたね・・なんかちょっと動揺してますよ)

 

 もうちょっと、もう少し・・ああ、みっともない恰好を見られてしまう。

 

 (匂いがする!これあの人の匂なの!?うわぁぁぁぁぁ!!めっちゃいい匂いだぁぁぁ!!)

 (し、信じられない。これが男から出た匂いだと・・ご飯三杯はお代わり余裕っスわ!!)

 

 うそやろ!?今まで嗅いだことない匂いが鼻腔をくすぐる。

 これがフェロモンとかいうやつか?すげー落ち着くし、いつまでも嗅いでいたい。

 全力深呼吸で肺を満たしたい!このアロマどこに売ってますか?一生分買います!!

 

 (顔!顔が見え・・がっはぁぁぁぁあぁぁ・・・あがががあががが!)

 (・・・//////////////////////////////////////////////ボンッ!!!)

 

 チラッと見えた顔に二人とも轟沈ですわ。

 

 (超絶美形というわけじゃない)

 (モデルやイケメン俳優という感じでもない)

 (でも、優しそうな目・・凄くキラキラしてる。髪の毛キレイ、うる艶)

 (パーツのバランスが絶妙、大人っぽくもちょっとだけ少年の可愛さを残したような)

 (タイプだ・・・)

 (めがっさ好みです)

 ((きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!超カッコイイィィィィィィィィーーー!!!))

 

 ダメだぁ!ダメだぁ!だめだぁぁぁぁ!!!

 本で読んだ通りになってる!相手の全ては愛おしいとはこのことか。

 一目惚れ!!いや、よく見る前、覇気を感じた時から好きでしたぁ!!

 

 (キタちゃん)

 (何?)

 (私、あの人と結婚します。招待状送るから式には来てね)

 (アッハッハッハッ、ワロスワロス~葬式には出てあげるよ。天国から私たちのハネムーンを見ててね)

 (子供を残して死ねるか!私とあの人の遺伝子を後世に残すのが使命なの)

 (知ってる?劣性遺伝子は自然淘汰されるべきなんだよ、子作りと子育ては私がやるよ)

 

 もう結婚式場へのゴールインから孫に囲まれた余生までシミュレートしたわ。

 気が早い?ライバルのメスウマが隣にいるんだぞ!悠長なこと言ってられるかぁ!!

 

 妄想とケンカで時間を食い過ぎた。

 気づけばもう目の前・・・ヤバイ、心臓の音聞こえてないよね。沈まれこの不整脈がぁぁぁ!!

 そして・・・アッサリ擦れ違った。

 

 (おぃぃぃぃぃ!無言かよ!なんか言えよ!)

 (切り込み隊長はキタちゃんでしょうが!ビビッたなてめぇ!!)

 (そっちこそ!手汗がさっきから酷いんだよ、ウエットマンがよぅ)

 (ウェットウーマンじゃボケ!誰が"湿った手の女"か!)

 (フォークダンス拒否られるよww)

 (バッカおめぇ!私と手を繋ぎたくてクラスの猿(男子)ども殴り合いしてただろうが)

 (あの暴動はそういう経緯があったんだ・・・)

 

 手汗じゃねーよ、雨だよ雨・・・もしくは大気中の水分が、潤いをくれたんだよ!

 体育祭で猿どもがケンカしていたのは事実だ。

 私もしくはキタちゃんとの、学校行事だから合法握手を巡って順番争いが起こったんだよな。

 結局、私とキタちゃんがずっと固定で踊るハメになったけど!

 

 ああーー!!バカなこと考えている隙に、私の操者がぁぁぁぁぁ!

 

「なあ、大丈夫か?」

 

 おっと、突然のイケメンボイス~。んん?どこから聞こえて来たのかなぁ・・・マジで?

 声かけられたぁぁぁぁぁ!!

 どどどど・・・どうすんのこれ・・・どうしたらいいの?

 

「大丈夫って」 

「私たちの事ですか」

「いや、お前ら以外誰がいるんだよ」

 

 なんの面白味もない返答してしまったぁ!バカバカ!私たちバカ!

 お・ま・え・ら お前らって言われたぁぁぁ!うひょー認識されてるぅ!それだけでメッチャ嬉しい!

 これはアレだ、人気アイドルが突然自分の名前を呼んでくれた。それに匹敵する奇跡だ!

 会話、会話しないと・・・ああ、いつもよく回る舌が動かねぇ、どうなってんだくそがぁ!

 

「もう一回聞くぞ、大丈夫か?」

 

 う~ん、いいお声ですね~。クールでキリっとしてて、それでいて熱血なシャウトも得意。

 ああ、なぜだろう・・・緑の川が見える・・グリーンリバー・・略してグリババ。

 スパロボガチ勢ってホントですか?グリババ様。

 

 (耳から出血しそう・・鼓膜が痙攣起こしてるよ)

 (待て!まだ逝くのは早いぞ!「受け入れよ」って言われてねぇだろ!)

 

 彼との距離が近づいた瞬間。五感の全てにノイズが走る。

 ゾッとするような感覚に襲われた・・・これは警告、彼を大事に思う誰かの警告だ。

 マーキングのメッセージ!?それも超強力なヤツを前にして冷や汗が止まらない。

 

 『覚悟無き者は去れ!!!』

 

 短くも強烈な想いを込めたメッセージ。これを刻んだのは超級クラス?いやもっと上の化物!?

 これを読んでなお、彼に手を出そうとするウマ娘はいないだろう。

 今まではそうだったのかもね、でも今は私たちがいる!この程度の脅しに屈するかぁ!!

 

 (正直ブルってる)

 (私もです。この人は一体何者なんでしょうか・・・)

 (やめとく?)

 (まさか!覚悟なら既に完了してます)

 (言うと思った。私だってやっちゃうよ)

 

 この人が誰だろうと関係ない、強い何者かに守られているなら、それほどの貴重な男だって証拠。

 なおさら興味が出てきた。

 

 私たち二人はもうメロメロのメロよ・・・この後、何がどうなったのか実はあまり記憶がない。

 

 通報されそうになって、免許証盗んで、コンビニいって、お持ち帰りされて・・・

 彼の一挙手一投足に気になって、その優しさと人となりに触れて、わがまま言って困らせて。

 

 夢みたい、これは本当に現実なの・・・私、女の子でよかったなぁ。

 

 シロ、シロ、シロ、シロ、シロ・・・私はシロになった。キタちゃんはクロ。

 愛称、彼がくれた初めてのプレゼント、先代がカナブンなのは気にしたら負け!!

 シロは全然真名と関係ないけど、サトとかダイとかモンドよりマシと思うことにする。

 彼にシロって呼ばれる度、体がビクンッてなる。心の中では元気よく挙手&起立してますぜ。

 

 彼の名前も知った。絶対に忘れない魂に刻み付けた大事な名前。

 何度も何度も何度も、頭の中で繰り返す。

 マサキ、アンドウマサキ、マサキさん、マサキさん、マサキさん・・・ウェへっへっへ・・・。

 

「ダイヤちゃん?入浴中にガンギマリするのやめてくれる」

「ヤク中じゃねーよ。それと、ダイヤじゃなくてシロです。お間違えなきように、クロちゃん」

「そうだったね。クロかぁ、ジージが呼んでくれていたなぁ、えへへ」

「ダイヤ改めシロです!マサキさんの愛バのシロをよろしく」

「うっわ!クソウゼェww自称愛バが何か言ってるww」

「妖怪乳首削りは黙ってろ!再生しなかったら一生恨むからな!」

 

 当初の予定とは違ったが、いい感じで事が運んでいる。

 出会った当日にお持ち帰りからの~お泊りコンボが発生!契約までまっしぐら!

 

「うーん。なんか違うなぁ」

「どしたの?」

「いや、このボディーソープやシャンプーもいい香りだけど。マサキさんの匂いじゃない」

「わかるぅ~。察するに、アレはマサキさんの体からにじみ出る天然のフェロモンですよ」

「・・・マーキングのやり方知ってる?」

「そう来ましたか・・・書物の知識なら少々」

「それでいいから教えて、自分の匂いをマサキさんに付けたい、混ぜ混ぜしたいぃぃぃぃ!」

「この欲張りさんめ!だが同感じゃい!所有権を主張するためにも、早いとこやっちまいましょう!」

「名付けによっと少し覇気が循環したけど、どうよ?」

「いい感じです。拒絶反応なし、不快感なし、なんか肌がツヤツヤしてきた」

「私はなんかポカポカするよ。神核があったけぇんだ・・これがな」

「二人ともいけそうですね。勝負は明日です」

「うん。なんとか契約してもらおう」

 

 風呂上りには更に嬉しいことが待っていた。

 ブ、ブブブブブ、ブラッシングだとぉぉぉーーー!!!いいんスカ?やってもらっていいんスカ?

 お金払います。払わせてください!え、無料?・・・ここが天国か・・・・

 ブラッシングはいつも、セルフかキタちゃんとかわりばんこしている。

 それが、マサキさんの手にかかれば・・・究極のリラクゼーションタイムに早変わりぃーーー!!

 あびゃーーー最高すぎる。至福のひと時をどうもありがとう。生きててよかったぁ。

 彼の匂いに包まれて、優しく優しくブラシをかけてもらう。あう、マッサージまで・・・

 もう腰砕けですわ!調子にのって寄りかかっても許してくれる、あ、頭撫でてくれた。

 

 (シロちゃん!シロちゃんってばよ!)

 (何?今いい所だから邪魔すんなや)

 (鼻wwマサキさんの鼻がww毛がwww)

 (ハナ?何を言って・・・)

 

 ブハッ!・・・・・クッ・・アハハハハハハハハハハwwwやめてくださいーー!!!

 

 よし、顔には出てないな。よく我慢したぞ私!

 マサキさんの・・・は、鼻毛がwwピョロピョロしてるぅwwww

 どういうことなの?それはひょっとしてギャグでやっているのですか?

 わ、笑ってあげた方がいいのかな・・いや、この様子だと気づいていない。

 教える?でも、それだとこの至福の時間が中断してしまう・・・スルーしておこう。

 おい!クロちゃん!ジェスチャーやめろ!見ないようにしているんだからやめて!

 

 笑いをこらえるのに必死だったが、とても充実したブラッシングでした。

 

 その後、真名を名乗りご挨拶。鼻毛も指摘してピザで夕食パーティー。

 クスハ汁・・・これ造った奴アホだろ。製造者は無駄に揺れるカットインの乳女だな。

 

 うまぴょいwww計画www腹がよじれる程笑ったのは久しぶりだ。

 アンドウマサキさんが木原マサキさん(天)になりかけたwww

 

 夜、マサキさんのお布団で就寝。

 ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!この布団すごいよ!マサキさんの匂い100%スパーキング!

 グェフェへへへへ・・・ヤベェよだれが出ちまう。

 

 隣室で電話を終えたマサキさんは私たちを一撫でして眠りにつく。

 ・・・紳士ですね・・・手を出してくれてもいいんですよ。バッチコイですよ!!

 ふぁぁぁ・・ねむねむ・・今日はいい夢が見られる気がする。

 

 翌日早朝。

 

「寝顔、可愛すぎんかコレ」

「無防備なマサキさん・・・ゴクリッ」

 

 早起きした私たちは、寝ているマサキさんの顔を覗き込む。

 か、かわええ!何だこれ何だこれ、年上男性のあどけない寝顔・・くそぉ!スマホがねぇ!写真撮りたい!

 急にクロちゃんがマサキさんの首へと顔を近づけた・・おい!

 

「ちょいちょいちょい!何しとんねん!」

「いや、首筋を噛むならこの辺かな~と」

「寝ている時にやるのはイカンでしょ」

「本番前のシミュレートだよ。ここの血管から吸血すればいいのかな」

「どアホぅ!そこは動脈だ。そこは避けてですね・・えーとこんな感じで」

「あー抜け駆けはダメだよ!」

 

 目を覚ましたマサキさんにアイアンクローされました。握力強いですね。

 

 朝の身支度を整える。

 マサキさんの着替えはもちろんガン見しました。ゲヘへ、朝から眼福眼福。 

 お返しに私の着替えをガン見してくれていいんですよ。

 あら、割と興味もってくれてます?ほうほう、これは脈ありですね。

 

 朝食は旦那様の手作り・・・フレンチトースト美味し!毎朝でも食べたいです!

 料理かぁ・・マサキさんが喜ぶならやってみる価値ありですね。

 

 お金は受け取ってもらえませんでした。

 私たちを認めてくれる・・・嬉しい、彼の優しさが、その誠実な心が、堪らなく嬉しい。

 「大好きです」なんて口走ってしまった。本心からですよ・・父にだって滅多に言いません。

 人生初のマーキングは上手くできたかはわからない。

 どうせ、これから何度でもやる気だし、いいか。

 

 アルクオンの捜索。 

 これってデートですよね?あ、余計なクロい子もいますが気にしたら負けです。

 街を巡る、彼の隣を歩く、楽しく会話する、笑顔を向けられる、一緒に笑う。

 デート・・いいものですね。

 

 アルクオンは来ないか・・

 特殊なセンサーでも備えているのか、奴は隠蔽術が施されたマサキさんの覇気に気付いていた。

 もっとも精度の方は低いらしく、個人をドンピシャで特定することは不可能なようだ。

 昨日の逃走劇も大体の当たりをつけて飛び出していったが、マサキさんを発見することは叶わなかった。

 残念でしたね、操者との縁は私たちの方に分があったな。

 起動時に私たちが与えた覇気は少ない、予備バッテリーのような機構が備わっていたとして無駄遣いはしないだろう。

 人が襲われたというような事件事故も皆無、対騎神用なので人間を攻撃しないように設定されているのかも。

 まあ、破壊されそうになったら防衛機構が働いて人間にも反撃してきそうではあるが。

 父たちがアルクオンを確保してくれることを期待するか。

 

 楽しい時間は早く過ぎ去るって本当ですね。

 マサキさんから借りたスマホで、家に連絡をいれた「こっちは大丈夫なので羅刹機をよろしく!」とだけ言っておいた。

 契約!契約をしないと・・どうやって切り出そう・・・

 

 マサキさんについて少し不可解な点がある。

 彼は自分が出している異常な覇気に気付いていない。感じ取れないようにされている。

 恐らく、マーキングで警告メッセージを刻んだ相手の仕業だ。

 何の意図があってのことだろう?自身の覇気で思い上がらないための処置?それともただの過保護?

 どちらにせよ、彼を守ろうとする意志は伝わってくる。

 どなたかは存じませんが、ごめんなさい。あなたが厳重に封をした扉、私たちが開けちゃいます!!

 

 ・・・戦闘になってしもうた。

 マズったな「首を噛ませてください」じゃなくて「吸血してもいいですか?」にすればよかった。

 あーあーもう、クロちゃんのスイッチを入れちゃったよ!ケガさせないようにしないと。

 あら、思ったよりやりますね。昨日の地下道でもそうでしたが、身のこなしが様になっている。

 格闘の心得がある、目線だけでなく耳と尻尾に注力していることから、対ウマ娘戦の知識もあり。

 覇気を感じていないんですよね。それでこんなに動けるの?

 これで覇気が使えるようになったら・・・想像しただけでワクワクが止まりません!!

 うわっ!容赦なく顔面狙って来た!必死な表情・・ああ、いいですね・・・

 クロちゃん、交代してください。私もマサキさんと遊びたい!!!

 

 操者になるメリットを提示したら、アッサリ了承してくれました。やったね!

 よかったぁ。私たちのことを気に入ってくれたんですね。

 これからは愛バとして、たっぷりご奉仕しますね。どうか末永く可愛がってください。

 さて、契約しないと・・・き、緊張しますね。

 

 最悪のタイミングでアルクオン襲来・・・貴様見ていたな!この覗き魔が!

 もうちょっと待てなかったんですか!!ちくしょう!

 マサキさんが狙われてる!「わ・・私のだぞッッッ!!!」

 

 アルクオンはクロちゃんに任せて逃げることにした。

 いっそのこと共倒れしないかな・・いや、嘘です。ちょっとそれもアリかと思っただけです。

 うげっ!こっちに来やがったか・・・クロちゃーん何やってんの!!

 ボール扱いされた、うぇっぷ・・吐きそう。

 

 助っ人が来てくれた、その名はボンさんw

 契約する時間を稼いでくれるみたいだ、ありがぇ!

 

 やっとこの瞬間が来ました。

 私は、私たちはマサキさんのものになる。だから、私たちのものになってください。

 

 激痛でマサキさんが暴れそうになるのを抑え込む。逃がさない。

 彼の絶叫を聞きながら、牙を立て、血をすする。熱い、命の味、もっとほしい。

 ちょうだい、あなたの全て、その命をちょうだい、はぁ////凄く気分がいい////

 混ざる、私たちと彼の覇気がぐちゃぐちゃに混ざって溶けて一つになる。

 感じる、なんて凄い覇気、神核は想像を絶する複雑さと強度を誇り、ギラッギラに輝いている。

 頭が沸騰する、堪らない恍惚感に全身が痺れる。

 痛くしてごめんなさい。でも、止めない、止められないの。

 

 「いいぜ・・・全部もっていけ・・・」

 

 契約完了・・ですね。

 

 気絶したマサキさんを残し、私たちは走る。

 ボンさんと合流して、あのポンコツを倒さなくてはいけない!

 

「今の私は気力200オーバーです。アルクオンがなんぼのもんじゃい!!」

「うーん。気分爽快!最高だよ!操者の覇気をもらうってこんなに気分がいいんだ!」

 

 まだこんなもんじゃないはず。

 気絶中にも関わらず大量の覇気が供給されてくる。

 マサキさんが意識的に覇気を回したら・・・は、破裂したりとか、しないですよね・・あはは。

 

 おいおい!三人がかりだぞ!羅刹機パねぇな!誰だこんなもん造ったバカは!

 わかってまーす!復元したのはサトノ家でしたね・・・/(^o^)\ナンテコッタイ

 クソォ・・・腕が上がらない・・ヒビが入った。痛たた。

 

 ボンさんもクロちゃんもやられた・・・私もピンチ。

 息がっ・・絞殺なんて冗談じゃない・・苦し・・せっかく・・会えた・・のに・・

 これから最高の愛バライフが待っているのに、こんな所で終わりたくない!

 嫌だ、離せこのポンコツ!!私の命はもう私だけのものじゃない!あの人の、マサキさんのものだ!

 てめぇなんぞにくれてやるほど安くないんだよぉ!!

 

「おい!なに人の愛バ勝手にボコってんだ」

 

 やられる!と思った瞬間、一番聞きたかった人の声が聞こえた。

 首の締め付けから解放され、優しく抱き留められる。

 守るべき操者に助けられるなんて情けない、弱い自分が心底嫌になる。

 それでも、この瞬間に幸福を感じた。

 ピンチに駆けつけたヒーローに救われるヒロインみたい、憧れのシチュエーション(゚∀゚)キタコレ!!

 それが嬉しくて、嬉しすぎて、普通の女の子みたいにウットリしちゃった。

 

 母様・・・私、見つけたよ・・・ちゃんと出会えたよ。

 

 でもね、少しだけ違ったの。

 

 私の前に現れた人はね・・母様が言ってたよりも、もっとずっと・・・

 

「解体するぞ!コノヤロウ」

 

 最高に素敵な人だった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 アルクオンを倒した後、天を衝く光の柱が出現した。

 その発生源は、雄叫び上げる私たちの操者だ。

 シロちゃんはその光景をウットリしながら見つめている。メスの顔しやがって!

 私はもう、嬉しくって、嬉しすぎて、自分が手に入れたものの大きさに震えた。

 うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 心の中で私も絶叫している。興奮冷めやらない、冷めることなどありはしない。

 

 ジージ・・・私、見つけたよ・・・ちゃんと出会えた。

 

 自慢したいなぁ。私のだよ!すごいでしょって。

 

 今ならわかる。あの言葉の意味が・・・

 

「ジージ、きっと腰を抜かすなぁ」

 

 だって、彼は・・・信じられないぐらい大きくて大きくて・・・

 

 最高に"でっけぇ"男だったから。

 




クロ「シロちゃん視点長くない?」
シロ「気のせいです」
クロ「どう見ても長いし多いよ!なんで優遇されてるの!」
シロ「私がメインヒロインですから。サーセンwww」
クロ「マジか・・・作者はサトイモ好きか・・・マジかぁ・・・」
シロ「クロちゃんのサポカガチャで、爆死した恨みもあるそうですww」
クロ「ひぃ!ゆるしてゆるして、弧線のプロフェッサーあげるからぁ!!」


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大きいことはいいことか

 ああ・・・そうだ・・・思い出した。

 私とあいつは、あの人の愛バになったんだ。

 三人一緒ならどんな困難だって乗り越えられる。

 きっと輝かしい未来が待っている。そう信じていた。

 

 手にしたものの大きさと、支払うべき代償から目を背けながら。

 

 最低だ、最悪だ、なんてザマだ。

 ずっと一緒にいるって誓ったのに、たくさん笑顔にしてあげたかったのに・・・

 

 離れ離れになった。

 寂しい思いをさせた。

 彼を泣かせた。

 守るべき彼が戦って傷ついている時・・・その場に私はいなかった。

 

 私のせいだ、私のせいだ、私が弱かったから、私が・・相応しくなかったから。

 

 操者を得て強くなった気分でいた。

 愚か過ぎて笑えもしない、ただ彼の力に飲まれただけだ。

 結局、私程度の雑魚が愛バになっていい存在じゃなかったんだ・・・

 分不相応、運命の相手が聞いて呆れる。ホントお前じゃねぇ座ってろだ。

 

 旅の最中、彼はたくさんの騎神に会っていた。

 その中には、私よりもずっと強くて才能溢れる子が何人もいた。

 私じゃなくてもよかった・・・彼を愛し守ってくれる存在は、他にもいたのに。

 

 それに、私とあいつは・・・を・・・滅ぼした・・・だ・・から。

 

 だから・・・

 だから・・・

 だからって・・・・

 

「諦められるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 反省はした!後悔もした!泣き言はもういい!

 知ってたわ!わかってた!最初から覚悟していた!

 

 彼という存在に、私ごときが釣り合うなんて、ありえないって!

 

 それでも・・・

 

 彼がいい!彼がほしい!彼じゃないとダメなんだ!彼がいてくれないと嫌だ!

 

 このままではダメだ、そう思ったから変わろうとしたんだろう。

 本当に愚かで、汚くて、浅ましい。

 彼のためではなく、自分のために眠りについた。

 全ては私のわがまま、醜い願望を叶えるため起こした行動。

 狂ってる、どうかしている。

 大事な人といたいがために、大事な人を傷つけるなんて。

 

「ここまでやって、失敗するわけにはいきません」

 

 必要な糧は集まった。彼が苦労して集めてくれた。

 時は満ちた、もう十分だ、ここから出なくては、動け、動けよ!

 あいつはもう動き出してるぞ!!

 そうだ、あいつだ!私の同類、私の片割れ、私と同じ結論を出した。

 もう一人の最低野郎!

 負けるか、負けてたまるか、独り占めは許さない!!

 

 あいつだけじゃない、他にもいる!

 彼に魅せられたライバルが、眠りを必要としない同類が。

 きっと強い、今の私じゃ勝負にすらならない上位存在。

 負けたくない、負けたくない、私だって・・・彼の・・・

 

「愛バなんだから!」

 

 体、そうだ、強い体が必要だ。

 こんな小さな体じゃ守れない、こんな弱い体じゃ戦えない。

 造ろう、最初から何もかも造り直そう。

 

「ぐっ・・・あっ・・・つ・・・」

 

 痛い、痛い、痛い。

 分解からの再構成、生命の理を飛び越える神秘の反動が痛みという信号を送って来る。

 魂を、私という概念そのものを削られるような痛み・・気が狂えるならどんなに楽だろう。

 無理だ・・耐えられない・・どうして・・こんなの意味無い・・もうやめよう。

 ああうるせぇ!弱い私は黙ってろよ!

 

「・・ぁ・・この・・・」

 

 噛みついて契約した時、彼はもっと痛かったはずだ。

 それでも、受け入れてくれたんだ。

 私たちを思って泣いてくれた、何度も何度も泣かせた。

 その悲しみに比べたら、この程度の痛みが何だというのだろう。

 

 もっと大きくて強靭な体。挫けることを知らない強い意思。

 あの人の全てを受け止められる強い体と心が・・・ほしい。

 

 肉体を再設計、強度と柔軟性の確保、■■■の起動を準備、実現可能のため○○%大型化。

 外界からの接続を認証・・・神核の更新と最適化を実行。

 要領の増設、処理速度を高速化・・・を取得・・・を実行・・・を選択・・・の削除。

 

 魂が軋む、痛覚をもった意識をミキサーでゴチャ混ぜにされたような不快感。

 熱せられ、冷やされ、伸ばされて、固められ、ぐちゃぐちゃにされる。

 情報の混濁・・・感じているのもが痛みであったのかもわからなくなる。

 

「・・サキ・・さ・・ん・・・マ・・」

 

 声にならない声であの人の名を叫ぶ。

 あの人の顔、声、体、匂い、覇気、仕草や癖、細部まで思い出す。

 大丈夫・・・大丈夫・・・まだ全然大丈夫。

 こんな所で止まっていられない、だから邪魔をするな。

 行かなくては、ここから出なくては、だって、だって私は・・愛バで。

 

 サトノダイヤモンドは・・・アンドウマサキの・・・

 

「マサキさんの所有物なんだから!一緒にいないとダメでしょうが!!」

 

 所有物の所は、恋人、嫁、妻、番、でも可です!!

 おっし!これぐらいでいいだろう、後は出たとこ勝負でなんとかしてみせる。

 こんな辛気臭い所さっさとおさらばだ!

 あーーーー!あいつがいない!出遅れた!急がないと!

 痛み?喉元過ぎれば熱さを忘れるってやつですね。

 

「マサキさん・・・今行きますからね」

 

 意識が覚醒していく、夢の終わり、目覚めの時だ。

 ここでのことを目覚めた自分は覚えていない、そんな気がする。

 でも、きっとこの気持ちは、マサキさんへの想いは変わらない。

 それだけで十分だ。

 

 ただ一つだけ気掛かりなことがある。

 

「小さい体の方かお好みでしたかね」

 

 ロリコン、卒業してくれますか?

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あ・・う・・・ぁ」

 

 眩しい、ここは何処だろう、私は・・・

 

「あ、起きた!シロちゃん、私だよ!わかるよね」

 

 シロ・・・そうだ、私はあの人のシロだ。

 曖昧だった意識がクリアに、そして記憶の整理整頓が始まる。

 私はサトノダイヤモンド、マサキさんの愛バで、眠たくなってそれで・・クロちゃんも。

 いつも隣にいた相棒はどこだ?

 それに、マサキさん!私の操者はどこにいる!?

 

「う、ぐっ・・・」

「ああ、無理に起きない方がいいよ。寝たきり生活が長かったからね」

「あなた・・誰ですか・・」

 

 布団に寝ている私を覗き込む、黒髪美人のお姉さん。

 この人が看病してくれたのだろうか?

 凄く綺麗な人、それに愛嬌もあって可愛い。紅い瞳はルビーみたいに輝いている。

 ん?この顔・・・いやいや・・・いやいやいや!

 

「あの、知り合いの子にそっくりなんですが・・・お名前を伺っても?」

「まだ寝惚けているんだね。クロだよクーロ!あなたの親友で部下で姉妹でマサキさんの愛バ」

 

 口調と匂いも知っているものと一致!ああーーー!そんなまさか・・・

 

「真名キタサンブラックだよ。忘れたとは言わせないよ、サトノダイヤモンド」

「嘘だ‥‥‥夢だろ‥‥これ‥‥夢に決まってる‥‥‥‥‥!」

「ところがどっこい‥‥‥‥夢じゃありません‥‥‥‥! 現実です‥‥‥! これが現実‥!」

 

 なんでさ!何が起こった!ついさっきまで、ちんちくりんだったはず!

 それがこんなに大きくなっているだと!背ぇ伸びたなぁーー!大人びたなぁ!それに・・・

 

「なんだそのワガママボディは!ボンッキュッボンッか!スタイル抜群かぁ!」

「表現が古臭いな。そっちだって、人のこと言えないじゃん」

「はい?私は今日も若くてプリティ・・な、なんじゃあこりゃぁぁぁ!!!」

「そのリアクションはもう私がやったよwww」

 

 目の錯覚だろうか?腕がなんか長い、ペチペチと自分の顔に触ってみるが、こんなんだったか?

 足先の感覚、いつもより距離があるような、あれあれれ?

 一番気になる場所に触れてみる・・・フニョン!・・水風船?なぜ胸部装甲に風船が・・・

 あ(察し)こいつは私が憧れた女の武器、ズバリ!おぱーいですね。あはははは・・・すげぇなコレ!

 

「自分の胸に夢中とかキモイよww」

「いやだってコレ凄くない?凄いよね、ねぇ!!」

「はい凄い凄い。垂れないように気を付けてね」

「ブラをブラジャーをください!こんな凶器を生で放り出すなんてとんでもない!!」

「寝起きなのにテンション高いわね~」

「あ、サイママ」

「お義母様!」

 

 おぱーいに興奮していたら、銀髪の美人が部屋に入って来た。

 マサキさんの母親、サイバスター様だ。

 ハートさんに続き、いずれ私の母になってくれる偉大なお方です。

 

「急成長でビックリしたのはこっちの方よ。動けるならまずはお風呂に入ってらっしゃい」

「お、お見苦しい所をお見せしまして・・・あのマサキさんは?」

「その話は後にしましょう、まずは身なりを整えてからね」

「は、はい」

「動ける?手を貸そうかシロちゃん」

「いえ・・よっと・・・大丈夫みたいです」

 

 クロちゃんに気を遣われながらも、立ち上がる。うわ、目線が高い!落ち着かねぇ!

 

「すぐに慣れるよ。私の時もそうだったから」

「だといいんですけどね」

 

 入浴中にも考えを巡らせる。クロちゃんは私より数時間早く目覚めたようだ。

 私とクロちゃんの身に何が起こったのか、あれから何日経った?

 マサキさんは?・・・マサキさん・・・リンクが切れてますよ・・どこにいるんですか。

 

「うん・・・しょっと」

 

 風呂上りに柔軟体操。なんだか体がバッキバキだわ!固い~固いよ、凝り固まってるよ。

 自分の体のはずなのに違和感ありすぎ、馴染みきっていない新品?そんな感じがする。

 用意してもらった服、どこがとは言わないが少々キツイ。

 義母様いわく「今はこれで我慢して」だそうだ。私の胸を見て舌打ちしたのは気のせいだと思いたい。

 全身が映る姿見で自分の体をチェック。

 

 私の体がアオハル大爆発してる!もしくは、ワープ進化で幼年期から究極体に!

 ウォーサトイモン・・・メタルサトイモン・・・おバカ!サトイモンはねぇよwww

 

「やだ、これが私・・・う、美しい////」 

 

 美少女や!美少女がおる!ロリから一皮も二皮も剥けて、美人度がアップし過ぎてますね。

 もちろん可愛さも絶妙なさじ加減で残ってます。

 それにこのナイスバディ!そのおぱーいで騎神は無理でしょ?って言われちゃう!!

 うむ、しっかりバスト87だな。予測通りの結果で満足だ。

 顔よし!スタイルよし!性格も・・いいはず!こりゃ男どもが放っておかないぜ!!

 やめて!放っておいて!私がモテたい人は、この世にただ一人だけなの!!

 

「マサキさん、喜んでくれますかね?貧乳派とか言われたら泣く」

 

 リビングに向かうとテーブルの上に御馳走が並んでいた。

 うはっ!美味しそう。なんだか急にお腹が減ってきた。

 義母様は手際よく食事の準備を整えており、それをクロちゃんが手伝っている。

 

「あら、もういいの?どれどれ・・・いいわね、文句なしに可愛いわ!」

「ありがとうございます。私もお手伝いします」

「ならこれと、それも運んでくれる。簡単なもので悪いけどご飯にしましょう」

「サイママ、料理上手~。でも作り方独特~」

「美味けりゃいいのよ、美味けりゃ」

 

 メニューは日本の家庭料理、いわゆるお袋の味の見本市。

 味噌汁、ご飯、肉じゃが、おひたし、焼き魚、漬物、他にも大皿に乗った煮物や佃煮や副菜が多数ある。

 あぅ・・・マジで美味しそう。こういうのでいいんですよ!日本人でよかったぁーー!!

 

「「「いただきます」」」

「お代わりもいっぱいあるからね。遠慮せずにじゃんじゃん食べて」

「はい・・・う、うますぎるぅ~・・・いったい何日ぶりの食事なんだ!」

「美味ーい。思わずガッついちゃう!はふぅ~幸せ」

「お口に合って何よりだわ。そうだ、ドウゲン君たちにはもう連絡したからね、きっとすぐに来てくれるわ」

「パパ、それにママも」

「ありがとうございます。ああ、メシウマな義母様、素敵です」

「サイでいいわよ、様付けって苦手だからね」

「ではサイさんで」

「私はサイママって呼ぶよ」

「私の方はクロちゃん、シロちゃん、でいいかしら?マサキ以外に呼ばれるのは嫌?」

「そんなことないよ、サイママなら大歓迎」

「サイさんのお好きなように、あなたにそう呼ばれるなんて光栄です」

「ウフフ、ありがとう」

 

 全騎神の憧れ天級騎神、その筆頭であるサイバスターと食事をしている。

 しかも手料理だ・・・この食卓に全財産を投げ出してもいいと思う輩は山ほどいるだろう。

 行儀作法大丈夫だったかな、美味しすぎて"パクパクですわー"しちゃった。

 サイさん小食だな・・・天級は省エネなのかも。

 

「「ごちそうさまでした」」

「はい、お粗末様でした」

 

 食後のお茶を頂いてまったり。あーー満腹満足したぁ。

 

『次のニュースです。数日前に崩落した洞窟ではファイン家主導のもと復旧作業が続いており』

 

 テレビでは午後のニュースをキャスターが読み上げている。

 ファイン家・・・インモーの所か、洞窟?洞窟を復旧ってなんだ。

 

『この洞窟は新型のアミューズメントホテルとして計画され・・・』

『現場付近の目撃情報によると謎の発行現象が・・・』

『仮面を付けた謎の集団がいたとも、リング状の構造物と緑色の鉱石を回収・・・』

 

 なんだろう、ニュースの現場が凄く気になって仕方がない。

 クロちゃんもテレビの画面をジッと凝視している。

 

「落ち着いた?そろそろ情報の整理いってみる?」

「はい、お願いします」

「私たちとマサキさんに、何があったか教えてほしい」

「そうね、どこまで覚えてる?」

「私たちが・・・」

 

 ピンポーン!

 インターホン鳴っちゃったよ・・・お客さんかな?

 

「ちっ、これからだってのに・・・はーい開いてるわよ、勝手に入って」

 

 誰だろう?三人・・・騎神2人間1か。

 思わず身構えそうになるが、一人は知っている匂いなので警戒を解く。

 

「お邪魔します・・・ふむ、目が覚めたようですね」

「お二人とも、お久しぶりです」

「は、初めまして!うわ・・うわぁ・・・凄く可愛い子たちだね」

 

 おまかわ!と言いたくなるような黒くてちっこい騎神に、いつぞや私たちを助けてくれたボンさん。

 そして、長身のイケメンが現れた。・・・この人・・操者?どこかで見たような。

 

「ネオは?」

「うまむらに行ったまま帰って来ません。二人の服を買い漁っているのでしょう」

「あいつは・・クロちゃんたちは着せ替え人形じゃないっての」

「二人にお話は?」

「これからよ」

「ではご一緒させてもらいます。彼女たちの存在は大変興味深いですから」

「好きになさい、クロシロちゃん、この子たちも同席するけどいいかしら?」

「構いませんが、どちら様でしょう?」

「ボンさんは知ってるよ」

 

 微笑みながらボンさんは頷いてくれる。

 

「天級騎神ネオグランゾンの子、シラカワシュウです。マサキとは幼馴染ですよ」

「大物が来ましたね・・・シラカワ重工の若きトップ、稀代の天才シラカワシュウ。まさか天級のご子息とは」

「シラカワ重工、知ってる!超有名企業じゃん!お母さん、ネオグランゾンなの!超かっけーー!」

「改めまして、マスターシュウの愛バ、ミホノブルボンです」

「シュウお兄さまの愛バ、ラ、ライスシャワーですぅ。よかったちゃんと言えたよ」

「ご丁寧にどうも、マサキさんの愛バ、サトノダイヤモンドです」

「同じく、キタサンブラックだよ」

 

 簡単に自己紹介をした。

 ほほう、シュウさんも中々の色男ですなぁ。覇気も良質で愛バ二人も優秀・・できるな。

 ですがまあ、私のマサキさんには劣りますけどねぇ!!!

 失礼、愛バの贔屓目が正直に暴走しました。自分の操者が一番なのはどの子も当たり前ですよねー。

 うちの子が一番ならぬ、うちの操者が一番なんだからぁ!!!

 

 人数分のお茶を用意し、お茶請けも完備しました。

 このニッキ臭は・・・お、生八つ橋じゃないですか。誰か京都行ったの?

 

 まずは自分たちが覚えている所まで話そう。

 

 マサキさんと契約した翌日から、異変は始まっていた。

 神核の内側から響く鼓動?何かが脈打つ感覚、それを契約の反動だと、操者の覇気が私たちを強くしてくれていると、そう思ったから深く考えずに放置した。

 放置した・・その内なんとかなると思って、なんとかなってほしくて・・・

 

 認めたくはなかった。

 操者の覇気に潰されかけている事実を、愛バになる資格無き未熟者だってことを。

 まったく釣り合いが取れていない「所詮、お前たちでは無理だったんだよ」って突き付けられているのに。

 そんなことはない!今はちょっと調子が悪いだけ・・認めてたまるか。

 

 二人で平静を装った。

 幸い、この頃のマサキさんは覇気や神核の変化に鈍感だった。

 父は苦い顔をしていたけど私たちの意思を汲んで、口をつぐんでくれていた。

 

 メジロ家のハガネから戻る途中、マサキさんから別のメスウマ臭がして発狂した。

 ここ最近の不調で、心身共に安定性を欠いていた所でこれはマジで凹んだ。

 奪われる!メジロ家にマサキさんを取られしまう!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!

 

 その後に出会った、天級騎神グランヴェール。その圧倒的な力を目にして思った。

 私たちもあんな風に強かったら、操者の傍にいることを許されるのだろうか・・・

 

 強くなりたい・・変わりたい・・私たちこそ彼の愛バだと叫びたい。

 奪わないで!あっち行って!頼むから・・お願いだから・・・やめてよ。

 困った時の神頼み、信心深くはないけれど・・ご利益があるなら何でもいい、そうだ三女神様!!

 ウマ娘の始祖である女神様なら、きっと・・・

 

 どうか、お願いします。

 彼を失いたくない!だから、強くなりたい!なるべく早く!べらぼうに!

 

 『力がほしいか』

 

 そんな問いかけが聞こえた気がする・・その時からだ、酷い睡魔が襲って来たのは。

 そうして、昏睡状態になった私たちをマサキさんが、ここラ・ギアスに運んだ。

 

「異世界からやってきたアインストと取引したのよね、その結果、二人の神核を安定させることに成功した。それでもあなたたちは眠ったままだった。

「マサキ以外の覇気、それも素質のあるウマ娘限定の覇気を望んだ。そのことは覚えていますか?」

「いえ・・眠る直前はただ申し訳なくて、悔しくて、そのようなことは」

「マサキさん、泣いてた・・私、弱い自分が、大事な操者を泣かした自分が許せなかった・・」

 

 私もクロちゃんと同じ気持ちだ、不甲斐なくて、情けなくて、なんて自分はこんなに弱いのかと嘆いた。

 その結果・・騎神の覇気を操者に注文しただと?

 それについては身に覚えがございません!強くなるために操者に要らぬ苦労をかけるなんて・・・

 ダメダメな愛バだなぁ・・・トホホ、許してマサキさん。

 

 私とクロちゃんが知る限りの話をした。八つ橋(゚д゚)ウマー

 

「ふぇぇ・・そんなことがあったんだね」

「昏睡・・まるで眠り姫ですね」

「どう思う天才君?」

「さっぱりわかりませんね!奇跡が起きたとしか言いようがありません」

 

 天才のシュウさんもお手上げポーズ。

 

「きっかけはマサキの覇気で間違いないでしょう。ですが、その後のことは、お二人が望んで引き起こした事象だと推測します」

「私たちが・・・」

「望んだ・・・」

「マサキが好き過ぎて、眠ったり、結晶になったり、でっかくなったりしたのね。うちの子愛されてるわ~」

「操者への愛が起こした奇跡・・・素敵だね」

「愛ゆえにですね、マスターも見習ってください」

「私が昏睡したらどうします?」

「脳に電気ショックで叩き起こします!」

「ブルボンさん、やりすぎだよ・・・ちょっと火で炙れば起きてくれるよ」

「フフフ、私の愛バは凶暴です」

 

 私たちが眠ったのは自業自得ですね!どうしてこうなったかわ考えてもわからん!

 

「あのぅ・・結晶とは何のことでしょうか?」

「はいコレ、二人が眠ってからしばらく経った時の映像」

 

 動画には私が目覚めた時にいた部屋が映っている。

 ・・・は?部屋を埋め尽くす輝く緑の石?は何だろう?

 

「これが結晶?」

「そうよ、いきなりそうなったからビックリしたわ」

「私たちは何処に?」

「さあ?その中にいたんじゃないの、知らんけど」

「この結晶体はお二人の繭だと思っていましたが、どうです?」

「いや、繭とか言われましても・・・」

「綺麗な石ころになってる、これが本当に私たちだったの」

 

 人体というか愛バの不思議ですね・・・不思議すぎるだろ!

 自分でやっておきながら仕組みや理屈がまるでわからん!!

 もしかして、一旦溶けた?ドロドロのスープから復活したの?完全変体する昆虫かよ!!

 だとしたら、まさに蛹や繭といった表現がピッタリだ。

 

「それで、出てきたらこの体になっていた・・・何それ怖い」

「成長期の神秘だね~」

 

 大きくなっているのはこの際、置いておくとして・・・見過ごせない事態が発生している。

 

「普通に考えたらパワーアップイベントだよね」

「まあそうですね・・復活を遂げ新たな力で無双!ってのがお約束なのに」

「「弱くなってるんですよねーーー!!!」」

「ちょっと失礼・・・覇気の総量が減っているわけではないようです・・・奥深くへ籠っている?」

 

 シュウさんが私たちの頭に手を当てて首を捻る。

 籠ってる?覇気が引き籠りッスか・・・働きたくないでござる!

 

「あははは・・・気付いていたよ。雑魚丸出しの覇気しか出せないって・・・凹む」

「図体だけでかくなっても意味がないんですよ!何をやってんだか私は・・・」

 

 神核の鼓動は穏やかだ・・体と同じく、こちらも形状が変化している模様。

 昏睡する前の息苦しさや圧迫感は無い、覇気の出力が減っているだけで心身ともにスッキリ爽快だ。

 

「戦闘において覇気が使えないのは致命的ですね」

「私たちもう騎神じゃなくなったの・・うう・・こんなんじゃ、マサキさんに捨てられちゃう」

「お兄さま、何とかしてあげられないの?」

「長いお勤めの結果がこれでは、あんまりです。マスターの出番ですよ」

「もちろん手を尽くす所存です。ビアン博士も協力してくれるでしょう」

「ビアン?元DC総帥のビアン・ゾルダークですか!またしても有名人」

「ウマ娘嫌いなのに協力してくれるんだ」

「そこはほら、私のコネでね」

「「さすが!!」」

 

 あのビアン博士と繋がりをもっているだなんて、さすが天級!

 

 弱体化した件は保留。

 体が急成長したために、神核やその他の各部位が馴染んでいないだけかもしれないし。

 自然に回復してくれるといいんだけどな。

 

「本題に入りましょうか」

「うん、ずっと気になってたしね」

「感覚としては、うーんよく寝たなぁ・・ぐらいなんですよね」

「ちょっと寝坊した感がパない」

「教えてください」

「私たち・・・」

「「どのくらい寝ていましたか?」」

 

 1ヶ月か?それとも2ヶ月か?

 操者を一人にするなんて!本当に愛バ失格だ!

 

「2年半」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・ワンモアプリーズ?」」

「マサキが旅立ってから、大体2年と半年経過したわね。やっと起きてくれて安心したわ」

「「なん・・だと・・」」

「惜しいですね。後半年で"眠り姫"から"三年寝太郎"にランクアップでした」

「ブルボンさん!シャラップ!!」

 

「「ね・・・寝坊したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 告げられた期間の長さに戦慄する。

 人生史上最大の寝坊をかました。大失態に眩暈と吐き気もする。

 長い!長すぎるよ!そんなに長くマサキさんを一人にした、やってしまったぁ!!

 

「お、怒ってるかな、愛想を尽かしているかな、もう私たちなんて過去の女で・・あばばばばあばああ」

「2年以上音信不通・・両想いのカップルでも自然消滅するには十分過ぎる・・おごごごごおごっごお」

「悶絶し始めたわwwシュウ、ブルボンちゃん、ライスちゃんもちゃぶ台ごと避難よ~」

「「「はーい」」」

 

 頭を抱え畳の上を転がる私たちを尻目に、サイさんたちが避難する。

 ああ、お茶が零れたら大変ですからね・・・

 どうも、2年半も操者を放置した愛バ(笑)です。

 こんなの愛バじゃないですwwただの駄バですよ駄バ!罵ってください!

 

「あははは・・・もうダメ、終わった・・」

「生きる意味を失いました・・富士の樹海ってここから遠いですか?」

「ちょっと!弱気になってる場合じゃないわよ!・・・手遅れかもしれないけど」

「その通りです。マサキならきっと・・多分・・楽観的に考えれば・・えーと・・ご愁傷様です」

「何ですか!その歯切れの悪さ!励ますならキッチリやってくださいよ!」

「そうだよ!ボンさんたちも目を逸らしてな・・・・・・・・・・おい、いるのか?」

 

 いるのか?クロちゃんったら何を言ってるんでしょう?

 おや、どうしたんですか皆さん、顔を伏せてたり目を逸らしたり・・こっち見ろ!!

 

「サイママ」

「何かしらクロちゃん」

「皆の憧れサイバスターは嘘をつかないよね、何か知っているなら教えてほしいな」

「あらやだ、この子の殺気、全盛期のネオみたいwww」

「サイさん?」

「おお、こっちもか。何かなシロちゃん」

「私の目を見て答えてください。マサキさんの愛バは何人ですか?」

「クロちゃんとシロちゃんで、いーち、にーい・・・さ」

「「さ?」」

「・・・・遅いわねネオったら・・あ、硬い八つ橋もあるんだけどいる?」

「「続きはよ」」

「天級騎神を脅していますよ。マサキの愛バは大物ですね」

 

 目が泳ぐサイさんに詰め寄る私たち、もう天級とか知ったことか!早くゲロっちまいな。

 

「さ、さん、よん・・・ええい、わかったわよ!1、2、3、4、全部で4人よ!4人!!」

「「4人だとぉぉぉぉぉーーーー!!!」」

「ひぃ!」

「マスター!避難指示を」

「待ちなさい!面白いので様子見ですww」

 

 よん?四?よーん?4?ワン、ツー、スリー、フォオーーーーーーーーーー!!!

 

「つい最近ラインがあったのよね。愛バが増えるかもって」

「濁してましたが、確定したも同然でしょうね」

「「どこのメスウマがちょっかいかけたんじゃあぁぁぁぁぁぁーーー!!」」

 

 嘘でしょ?嘘だと言ってよマサーキィ!私たちの心、ミンチよりヒデェことになってますよ!

 

「あんなにマーキングしたのに・・そうか・・取っちゃうんだ、アハハハハハハ、そっかそっかぁ」

「戦争じゃぁ!皆殺しじゃぁ!耳と尻尾を引っこ抜いたらぁ!!」

「マサキさんは騙されているんだよ。目を覚まさせてあげなきゃ!私しか見なくていいよって」

「少々お待ちください、あなたを誑かした淫売はこの私が消し去ってあげます、完膚なきまでにね」

「よーし!頑張るぞーー!やって、やって、やって、殺って、殺ってやらぁーーー!」

「覚悟しろよ・・慰謝料と養育費だけで済むと思うな。殺してバラして晒してやるよ!」

 

 私たちは、裸足のまま外に飛び出そうとする。

 

「はい、そこまで」

「ぎゃふん!」

「ほげぇ!?」

 

 残念!首根っこを掴まれて、動きを封じられました。

 天級騎神すごいですね!うわぃ、万力のような締め付け・・お、落ちる・・ギブですギブ。

 サイさんはその場から一歩も動いていない。

 覇気で出来たロープが首輪のように絡まっている。便利な技をお持ちですね。

 

「はぁ、あなたたちの憤りもわかるけど。ちょっと落ち着きなさい」

「弱体化をお忘れですか、今の状態で出て行った所で勝ち目はありませんよ?」

「だって・・だってぇ・・・う、うう・・うわぁーーーん!いーやーだぁーー!」

「ウボェ・・・グェヘ・・・ズズ・・・うぉぉぉーーーーん!いーやーでーすー!」

「な、泣いちゃった・・ええと・・大丈夫だよ、よ、よしよし」

「体は大人、頭脳は子供、逆コナン君ですねwww」

「ブルボンさん!お黙りぃぃぃ!!さっきから何なの?」

 

 その後、泣いて泣き続けて瞼が腫れたました。

 帰って来たネオグランゾンことネオさんがビックリされていました。

 虐待の罪でサイさんを通報しようとしたので、風と闇がプチゲンカしていました。

 それを宥めるのに、泣いている場合ではなくなったのですが・・・はぁ・・マサキさん。

 

「・・・」

「・・・」

 

 縁側に座りボーッとする私たち、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 嫌な考えが何度振り払っても湧いて出る。どうして・・・理由は至極当たり前、私たちのせいだ。

 

 シュウさんとその愛バ二人は、シラカワ邸に戻っていった。

 ネオさんはそのまま、サイさん宅で駄弁っている。

 

「後2人いるんだって」

「私とクロちゃんで一人づつ相手するしかないですね」

「ショック」

「ショックですね」

「どこかで慢心していた。マサキさんは、いつまでも私たちのだって」

「英雄色を好むといいますし、あんないい男、いつまでも放って置かれるほうがあり得なかった」

「バカだよね。仕方ないよ・・2年だよ2年・・浮気されても文句言えない」

「マーキングの警告を突破した、私たちの時と同様に、覚悟完了したメスウマが相手ですよ」

「きっと強いよね、マサキさんが認めたんだから・・・」

「知り合いだったら嫌だなぁ、超気まずいですよ」

「「はぁ~」」

 

 マサキさん、今どこで何をしているんですか?会いたいです。

 シュウさんたちいわく、こちらからの連絡に反応しないとのこと・・・心配だな。

 「マサキは、よくスマホの充電を忘れますから」と言われたけど大丈夫かな。

 

「ねぇ、二人が可哀そうよ。なんとかしてサイさん」

「そっとしておけばいいのよ。考えをまとめる時間も必要だわ」

「・・・任セナ」

「アーマーちゃん!?」

「お、行くのね。アインストのお手並み拝見」

 

 ガシャンと音を立て鎧がやって来る。。

 大柄な体を私とクロちゃんの間にグイグイ割り込ませ着席。

 ちょ、狭い狭い・・・もう何がしたい・・え・・あ・・励ましてくれるんですか、そうですか。

 

「アインストでしたっけ・・異世界から来た物好き、今はサイさんのペットでしたか」

「アーマーちゃんだね。聞いてるよ、私たちが眠っている間、ずっと護衛していてくれたんだよね」

「約束シタ、マサキ、オマエラ頼ムト」

「独特の喋りですね。ですが、いい子だってのはわかります」

「中身空洞だぁ・・こんな子も手懐けるとは、やっぱりマサキさんは凄い」

「元気ナイ、ナニユエ?」

「捨てられちゃうかも・・・」

「私たちより、いいウマ娘と契約したそうです・・はぁ」

「心配、イラナイ、杞憂」

「あなたに何がわかるんですか」

「ワカル、マサキ、オマエラ大事」

「本当に?本当にそうなのかな・・私たちのいらない子じゃあ」

「イラナイ子ノタメ、命カケル?」

「命・・そうでした。ずっと、ずうっーと!マサキさんは命をかけてくれた」

「本当ハ死ヌハズダッタ、ソノ運命、マサキガ変エタ」

「生かされた・・私たちが、生きることを望んでくれた」

「理解シタカ、クズドモ?シャキットシロヤ」

「うん。もうクヨクヨするのやめた!元気出すよ」

「クズどもって言った!?思ったより口悪いな。でも、激励ありがとうございます」

 

 異界の謎生物?に元気づけられてしまった。貴重な未知との遭遇。

 表情の無い鎧がニカッといい笑顔を浮かべた気がする。

 私たち背中をポンポンと叩いた後、鎧は客間の隅に移動、ドッカリと腰を下ろし、動かなくなった。

 サイさんが言うには睡眠モードに入ったらしい。

 アインストって眠るんだ・・・え?気が向いたらご飯も食べるんですか・・・謎の生き物だ。

 

「マサキさんがモテるのは、それだけいい男だって証拠!」

「それな!要は私が正室、残りのカスどもを側室(おまけ)にすればいいんです!」

「そうだね。カスのシロちゃんwww」

「おや、側室ごときが正室に逆らわないでくれませんか?カス三人で慰め合ってろwww」

「「ぶっコロ!!」」

「元気になったみたいね・・・ケガする前に止めた方がいいかしら?」

「そうね。家を壊されたら堪らないわ。おーい、二人ともアルバムがあるんだけど見る?」

「何のアルバム・・っ!?見ます見せてください!よければ言い値で買います!」

「そ、それは・・・まさか・・・お宝だ!それを拝見しないなんてとんでもねぇ!!」

 

 サイさんが手にしている、大きな本のような物・・・アルバム・・写真・・思い出。

 恭しく受け取ったそれを、震える手で広げ、ページをめくる。

 

『〇月〇日 マサキがラ・ギアスにやって来た記念』

 

 銀髪の女性に抱っこされ、照れながらもニッコリ笑う少年の顔。

 仲のいい親子のツーショット写真がそこにあった。

 

「「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!マサキさん!超かわえぇぇぇーーーー!!!」」

 

 幼いが確かにこの顔はマサキさん!面影がバッチリ残ってる。あわわわわ・・・凄いものを見た。

 その後もページをめくり、新たな写真が目に入る度に、絶叫と悶絶を繰り返す!

 もうやめてーーー!私たちのライフはもうゼロよぉ!いや、やっぱりやめないで!!

 

「ロリ!ロリマサキさんのパラダイスや!うぁ鼻血出そう・・くぅぅぅ、かわいいよぉ」

「この場合はショタが正解・・おう、これは夏のプール日和・・グヘヘへへ」

「すっかり夢中ね」

「無理もないわ、うちの子だからね!!」

「サイさん・・この写真焼き増しは・・」

「無理!嫌!不許可よ!」

「そ、そんなぁ~。ならば今の内に脳内に刻み付けてやる!」

「だんだん成長していく・・はふぅ・・私たちの同級生だったらと、妄想が捗る!」

 

『シラカワ親子と一緒』

『初めてのアカシックバスター』

『家の改築(8回目)記念』

『中二病覚醒www』

『〇歳の誕生日』

 

「マサキさんの思い出ですね~。うん?・・・この写真は」

「どうしました?・・・マサキさんと・・誰ですかこの金髪巨乳は?」

 

 赤くなった顔で、少し緊張し気味のマサキさん。

 その肩に手をかけて微笑む綺麗な女性と二人で写った写真。

 二人とも学生服を着用しているので高校生ぐらいの時だろうか。

 マサキさんが、見たことがない表情をしている。それが酷く癇に障った。

 

「それはテュッティちゃんね。この時のマサキ、ガチガチになってたわ」

「ああ、マサ君の初恋相手ね」

 

 はつこい・・・誰の?マサキさんの初恋?ハハッご冗談お・・おうおうおうおうおぉぉぉぉぉぉ!

 

「こ、この方と、マサキさんはその後・・・」

「マサキが告って振られたのよ。あの時の落ち込みっぷりは大変だったわ」

「シュウ君が夜通し煽ってようやく立ち直ったのよね。うんうん、友情って素晴らしいわ」

 

 こくった・・だと。「告白したのか?私以外のメスに」

 

「振った、振っただと、マサキさんが振られた。コイツ何様のつもりだ!」

「待ってください!考えようによっては、このメスのおかげで、今のマサキさんがあるわけでして」

「ああそうだった。それからよ、マサキがロリ・・「やっぱ年下だよね」とか言い出したの」

「「テュッティさん!ありがとうございましたぁ!!」」

 

 彼を振ってくれて感謝いたします。

 後は私たちに任せて。どうか、二度とマサキさんに近づかないでくださいね。

 

「む、女の子と写っている写真が結構ある。嫉妬しちゃうな」

「リューネちゃんにサフィーネ、村在中のウマ娘とかね。あ、これも懐かしいな」

「恋愛には未発展だけど、女の子とすぐ打ち解けるのよね、マサ君ったら」

「なんかわかる気がする」

「心にですね、こう、スッと不快感なく滑り込んで来るんですよねぇ」

 

 私たちの操者は、女子のATフィールドを中和する機能を備えているようだ。

 誇らしくもあり、心配でもある。

 

 子供の頃のマサキ、思春期で中二病まっさりのマサキ、青春時代を謳歌するマサキ。

 いろんな時代でいろんな表情を見せる操者を目に焼き付ける。

 5冊目のアルバムを閉じて思いを馳せる。

 

「堪能しました。動画等もあれば、是非お願いします」

「それはまた今度ね」

「マサキさん・・・今どこにいるんだろう。会いたいよ・・・」

「連絡がつかないのは不安ね。シュウ君も首を傾げていたわ」

 

 ピンポーン!また来客か。

 

「開いてるわよ~、勝手にどうぞ~」とサイさんが応答する。

 ドタドタと見知った人たちが入って来る。

 

「ダ、ダイヤ!ブラック!無事かい!て・・・えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「どうした☆どうした☆あ、パイセンたちお邪魔しまーす。うちの娘たちがすっかりお世話になったようで」

「パパ!ママ!」

「父様、言いたいことはわかりますが落ち着いて。ハートさんもご心配おかけしました」

「・・・夢でも見ているのか。娘たちが一気に老けた!」

「コラコラ☆若人に老けたは失礼だぞ☆いやーちょっと見ない間に、大きくなったねぇ☆」

「親子感動の再会、よかったわね」

「シュウ君が簡単なメディカルチェックは済ましているわ。今の所、体が大きくなっただけで、健康体ですって」

「覇気は激減しましたけどね」

 

 両親と再会。父もハートさんもご壮健で何より。

 図体が大きくなったことで、動揺する父を宥めたり、写真を撮ったり、騒がしくも忙しい。

 ハートさんは、サイさん&ネオさんとの思い出話に花を咲かせていた。

 父は少し痩せたような気がする。ハートさんは私たちを見て目が潤んでいる。

 我が子が2年以上も昏睡状態だったんだ、きっと多大な心労をかけたことだろう。

 

「もう大丈夫です。マサキさんが助けてくれましたから」

「パパ、ママ、心配かけてごめんね」

「いいんだ、二人がこうして無事なら・・うう・・よかったぁ・・本当によかった・・」

「もうパパ☆泣かないって約束したろ☆でも、うん・・よく起きてくれたね☆偉いぞ二人とも☆」

 

 二人の天級に見守られながら、親子4人で抱き合う。私の・・家族・・温かい・・

 ここに、マサキさんもいれば・・・

 

「ほ、本当におっきくなったな・・パパなんだか照れちゃう////」

「ハートさんの前で何を抜かすか!このマダオは」

「ダメだよパパ!私たちマサキさんのものだからね」

「でも本当に成長し過ぎだぞ☆今すぐ業界に売り込める顔とスタイル☆うらやま☆」

「父様、マサキさんの行方について何か情報は?」

「おお、そうだったそうだった。どうやらマサキ君はファイン家と行動を共にしていたらしい」

「ファイン!あのラーメンマニアの所に」

「教団という組織の殲滅作戦に参加したようだ・・極秘情報だが、水の天級ガッデスの救助も兼ねていたと」

「な!ガー子の奴・・うちの子に迷惑かけやがって」

「救助?あのガーさんが捕まっていたどでも・・・何事?」

 

 教団、水の天級、ファイン家の作戦行動に参加・・・厄介ごとの臭いしかしない。

 うちのマサキさんは、一体何に巻き込まれた。

 

「ここへ来る前に、ファイン家からメッセージが届いた。ダイヤ、ブラック、お前たち宛にだ」

「まるで私たちが起きるのを、知っていたようなタイミングですね」

「ファインモーション・・・どこまで関わっているのかな」

「先に言っておくよ。ショッキングな内容だから心して聞いてくれ」

 

 真剣な父の様子に不安が募る。

 気付けばクロちゃんと手を握り合っていた。ウエットウーマンでも勘弁して。

 サイさんが「はよいえ」と顎で催促したのを合図に父がメッセージを読み上げる。

 今時、紙の手紙かよ!

 

『アンドウマサキはこの世界から消失しました』

『あなたたちに出来ることは何もありません』

『彼の救助は私たちが責任もってやり遂げてみせますので、ご安心を』

『二人は大人しく待機をしていてください。邪魔立てした場合、命の保証は致しません』

『なお、水及び土の天級騎神を発見した場合はご一報ください』

 

 なんだ・・何を言っているんだ・・消失・・消えた・・あの人が消えただと!?

 

『操者探しの件、無事クリアしたこと、遅ればせながらお礼申し上げます』

『最近、私も操者と契約しました。二人が羨むこと必至のいい男です!』

『では、その内お会いしましょう。ファインモーションより』

 

 惚気てんじゃねーよ。インモーの操者なんてどうでもいいわ!

 

「ははは、なめられたものですね・・・」

「余計なことをするなって・・邪魔だってさ・・・」

 

「「ふざけんじゃねーぞ!!インモーがぁぁぁーーー!!」」

 

 ですよねーと父たちが首を振る。

 消失の意味はよくわからないけど、マサキさんに何かよくないことが起こった。

 ジッとしてるなんてできっこない!動かなければ・・助けが必要なら今度は私たちの番だ!

 

 まずは力を取り戻そう、幸い修練相手には事欠かない。

 だってここには、あの天級がいるんだから・・・

 

「サイさんどうする?」

「ファイン家に連絡してみるわ。不確定な事柄が多すぎて・・・マサキ、あんた何をやらかしたの」

 



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ロリコニア

ウマ娘1周年おめでとうございます


「ようやく会えたな、クロ、シロ」

 

 目の前に待ち望んだ彼がいる。

 会いたかった!この日をどんなに・・・あれ、どうしたんだろう。

 変だな、声が出ない?

 

「二人とも大きくなったな」

 

 そうなんですよ、ビックリしましたか?

 でも、あなたを想う気持ちはこれっぽっちも変わってません。

 むしろ、どんどん強くなってます。

 

「そうか・・大きくなってしまったか・・・はぁ」

 

 え?なんで・・そんなに残念そうに、ため息までついて。

 

「ごめんな二人とも、やっぱり俺は、小さい子しか愛せないんだ!」

 

 そんな大声で高らかに宣言しなくても、存じてますよ!

 

「だから・・お前たちとはお別れだ」

 

 うそっ!やだ!そんなこと言わないで。

 

「ここにいましたか、マサキ」

「シュウ!その顔はまさか・・見つけたんだな!」

「ええ、ついに発見しましたよ。幻の王国ロリコニアをね」

「女性の外見年齢が10歳でストップする、ロリだらけのパラダイス・・実在したか!」

 

 してたまるか!

 見た目ロリでも実年齢90歳とかだったらどうするんですか!

 いや、それはそれで需要はあるのか・・・

 

「今、王国は新たな王を求めています。マサキ、あなたが次の王となり夢の千年王国を築き上げるのです!」

「俺が・・そうか、俺はこの楽園に君臨するために・・」

「見なさい、王の親衛隊(ロリ限定)たちが迎えに来てくれましたよ」

 

 シュウが指差した先には、たくさんの幼女たちがマサキに手を振りラブコールを送っている。

 

「キャー!あの方がマサキ様よ、思った通りカッコイイーーー!」

「新国王様~早く帰りましょう~」

「お背中流してあげるね」

「もちろん、ベッドも一緒よ」

「みんな待ってるよ、朝から晩までイチャイチャしましょう」

 

 やめろ!このメスガキどもがぁ!マサキさんに色目をつかうな!

 

「さあ、行きますよ!マサキ王!」

「がってんだ!シュウ大臣!ロリコニアが俺たちを呼んでいるぜ!」

「お二人とも、こっちですよ~こっち」

「「「「マサキ王バンザーイ!!バンザーイ!!」」」」

 

 頷き合ったアホ二人は、歓喜の奇声を上げながら幼女の群れに突撃し行く。

 

「「イィィーーヤッホゥゥゥーーー!!」」

 

 待って!待ってよ!ちょっと前まで私たちもロリだったのに!!

 寝て起きたら成長していたの!心はまだ幼女なの!

 

 見えない壁に阻まれて体が動かない、遠ざかるロリコンに追いつくこともできず。

 ただ茫然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 ちょ、ホントに行くのかよ!行くな!行かないで!

 マサキさんぁぁぁんーーー!カムバーック!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」」

 

 布団を跳ね除け絶叫と共に飛び起きる。

 酷い悪夢を見た・・・なんて頭が悪すぎる内容。

 ふと横と見れば、隣で寝ていたはずの相棒も起きていて、ぜいぜいと息を切らせている。

 まさかクロちゃんも同じ夢を?

 

「ロ、ロリコニア」

「お前もかよ!」

「そういうシロちゃんも、見たんだね」

「見た、これが悪夢じゃなくて何だというのか。」

 

 体が大きくなった今の私たちに、この夢は痛恨の一撃すぎた。

 

「現実じゃないよね。マサキさん、王様になったりしないよね」

「確かにマサキさんは自他共に認めるロリコンです。ですが、あそこまでは」

 

 あんなアホな理由で自分たちを捨てたりしないと、信じている。信じさせて!

 だが、彼の性癖は・・うん、そのね・・えっと・・マジどうしよう。

 夢のマサキさん、物凄くいい顔していたなぁ。

 

「今まではロリコンの方が都合がよかったのですが」

「これからは自重してもらおう。マサキさんの好みを変えてもらわないと!」

「茨の道ですが仕方ありません。「好きなタイプ?ダイヤモンドって女かな」と言わせてみせましょう」

「「ブラックって女しか興味ないんで」と言ってもらうのが先だよ!」

 

 新たな目標ができました。

 操者の性的嗜好を変える・・・なんと難しいテーマか!上等だ、やってやるぜ!

 

「朝から元気ですね。起きたのなら健康チェック、いっときますか?」

「「出たな!ロリコニア大臣!!」

「ロコニア?大臣?」

 

 大臣じゃなくて、シュウさんが様子を見に来た。

 身支度を整えて、パパっと健診をしてもらう。今日も健康優良体です。

 朝食前にストレッチと軽い運動を行う。

 

「見てこの柔軟性。ダバダバダバ」

「ちょw開脚前進やめてくださいよ。キモ怖いですww」

 

 クロちゃんが某バレエダンサーみたいに迫って来た。

 なんて奴だ!太腿で移動してやがる!タンクモードやめーやwww

 

「覇気が上手く出せないだけで調子はいいんだよね、頭も冴えてる気がするし」

「単純なステータスはチビだった頃の数倍になってます。でも肝心の覇気がなぁ・・・」

「困ったね、これじゃあ戦闘は無理だ。騎神は元より雑魚AMにも勝てないよ」

 

 戦闘力53のフリーザ、念能力も奇術も使えないヒソカww

 今の私たち、まさにそんな感じですわww

 パッと見強そうなのが余計に質悪い!!

 

「やるよ~、軍隊式ラジオ体操の後に組手三本だ」

「一応病み上がりなんですから、お手柔らかに」

 

 ふむふむ。昨日より馴染んだようで、体のキレはいい感じですね。

 2年半のブランクが心配だったが組手も問題なく出来ました。

 手足のリーチが伸びた分、攻撃に幅がでるな。体表面積が増えた分、回避や防御には注意しよう。

 

「ねえねえ、正直おぱーい邪魔臭くない?」

「そこは慣れるしかないでしょう。いらないならミサイルとして、発射したらどうですか?」

「その役目はB87のシロちゃんに譲るね」

「残念ですが、このミサイルはマサキさんの許可なく発射できないのです。あなたもでしょう?」

「確かに!」

 

 たった2発の秘密兵器です。敵ではなく、好きな男性を落とすために使いましょう。

 

「それで・・・その・・・あれの再生は・・・した?」

「・・・・」チラッ(無言でシャツを捲り上げる)

「すげぇ!完全回復してる!これがダイヤモンドぱい!おうおう、いい形してるな!」

「フフフ、これでマサキさんを誘惑&悩殺ですよ」

「朝っぱらから義実家の庭で露出プレイwこんなのが我が宿敵かww」

「さあ、こんどはクロちゃんの番ですよ?その名の通り、黒いビーチク見せてくれや」

「黒くないわ!B85のキレイなピン・・・言わせんな!」

 

 互いの上半身を狙った取っ組み合いは、サイさんの仲裁で事なきを得た。

 「みっともないから、やめなさい」って言われちゃったよ・・・。

 

 今朝はシラカワ家に集まっての朝食です。

 アンドウ家とシラカワ家は、お隣のよしみで頻繁に食事をご一緒するのが伝統らしい。

 朝からガッツリ食べますよ。

 

「いっぱい作ったからたーんとお食べなさい」

「「「「わーい!!」」」」

「若い子は元気ね」

 

 ボンさんとライスさんも中々の健啖家、私たちも負けていられません。

 ネオさんお手製の朝食は、なぜか台湾風のメニューだったが、美味しいので文句なし。

 

「台湾朝食の定番メニュー、鹹豆漿(シエンドウジャン)ですか、美味しすぎます」

「初めて食べたけど、これ好き!」

 

 小エビやザーサイ、青ねぎ、揚げパンなどの具に、温めた豆乳を入れたボリューム満点なスープです。

 具だくさんスープによって活力が漲る!

 大鍋で作ったスープは4人の騎神によりきれいさっぱり平らげられた。

 サイさんにネオさん、そして人間のシュウさんは小食なんですね。

 え、私たちが食べすぎ・・いや普通ですよ。

 

 今朝方見た悪夢を話題に談笑する。

 

「ほほう!ロリコニアですかwwマサキらしい」

「大臣役で特別出演していた癖に」

「身に覚えがありません。10歳で成長が止まる・・・興味深い異常現象です」

「超天才のシュウさんなら、アポトキシン4869を造れますか」

「そうですね・・私の手にかかればあながち不可能でも・・・あいだだだだ!」

「そのような劇薬を調合した場合、黒の組織より早くマスターを始末します」

「ダメだよお兄さま!ロリコニアなんて建国したら許さないよ!」

「折れる!ウマ娘パワーで捻じってはダメです!申し訳ない、愛バの逆鱗に触れたのでロリ薬は造れません」

「ちっ、ダメですか」

「小さい体に戻るのは潔く諦めた方がよさそうだね」

 

 適度の満たされたお腹をさすっていると、テレビからここ最近よく見る映像が流れてくる。

 

『私の名はルクス、世界に光をもたらさんとする者だ』

 

「まーたやってるよ。もう飽きたってば」

「何なんでしょうね、この鉄仮面は・・・こいつ絶対コードギアス好きだろw」

 

 ギアスに出てくる、ブリタニア軍人みたいな恰好しよってからに。

 金の刺繍が入った白い軍服らしき服にマント・・・特注のコスプレ?

 頭部には西洋甲冑の兜を思わせるヘルメットを装着し、声はボイスチェンジャーを通した、男とも女ともとれる耳障りな機械音声。今、世間を騒がせている張本人だ。

 

「ルクス・・・ラテン語で"光"ですか。けっ!」

「こいつ嫌い、なんかわかんないけどメッチャ嫌い」

 

 私とクロちゃんはルクスの存在を知った瞬間に、得も言われぬ嫌悪感を覚えた。

 こいつを見ていると酷くイライラする。

 存在そのものが不快、許すな、こいつは敵だと本能が警告しているかのようだ。

 

 腹の立つことに世間では今、このルクスと名乗る不審者の話題で持ちきりなのだった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私たちが目覚める数日前、日本中が一時的に電波ジャックされる事件が起こった。

 公共放送にネットやSNS、あらゆる通信媒体に同様の映像が流れる。

 

『日本に住まう全てのヒトとウマ娘に告げる』

『私の名はルクス、世界に光をもたらさんとする者だ』

『平和に見える世界は今、停滞を迎え腐敗していく一方だ』

『長き平和は人々の魂を濁らせ、人類は尊厳を無くし、種としての進化は行き詰った』

「そのようなことを私は見過ごせない、人類種の劣化を何としても食い止めなければいけない」

 

 鉄仮面が身振り手振りを交えながら熱のこもった演説をする。

 お前誰だよ!合衆国ニッポンポン!でもやってろw

 

『人類の栄光と繁栄を取り戻す。そのために私が光となって皆を照らそう』

『方法は至極簡単だ。闘争による魂の昇化と発展こそを私は望む』

『全ての戦士たちに力を与えよう。各々が望む闘争をすればいい』

 

 冗談半分や冷やかしで聞いていた人々だが、注意深く監視していた者たちはここで戦慄する。

 情報がバラまかれている。それも、まだ世に出してはならない機密情報が!

 ネットの海にランダムで大量のファイルが流出していく。

 止められない、削除は間に合わない、既に手遅れだ。

 

『現在、政府や御三家、一部の研究機関が力の独占を行っている。その枠を取り払った』

『どうやって?などと聞くな。私にはそれが出来た、だから実行したまで』

『ここまでやっても疑う者のためにデモンストレーションを行う』

『見るがいい、力を手にした者の姿をな』

 

 映像が切り替わる。場面はどこかの工場?

 炎上している!?攻撃を受けている・・・いったい誰が・・・

 

『あ、もう映ってる?』

 

 場違いな声が聞こえる。ドローンか何かで撮影していのか?カメラが声の主を映し出す。

 黒い武装を纏ったウマ娘!?いや、それよりも・・浮いている?単独で空を飛んでいるだと!

 小型高性能化されたテスラ・ドライブ?騎神の武装に装着できるものは未だテスト段階なのでは?

 黒いバイザーで隠された顔は見えない、声は若い女の物だ。

 

『彼女は私の協力者でね。今日がちょうど初仕事だ』

『愛バって言ってよもー!皆さんどーもです。私のことは内緒だから、デバイスだけ紹介しちゃうね』

 

 くるっと空中で一回転したウマ娘。

 砲身の先に斧が合体したようなライフルを掲げ、黒い翼を広げる。

 

『カッコイイでしょ?この子はガリルナガン。ルクスが"彼"をモデルに組んでくれた私のお気に入り♪』

『そろそろいいかな?仕事にかかってくれ』

『はーい!視聴者のみんなー応援よろしくぅ!!』

 

 元気のいい声と共に急降下!一直線に突っ込んでいく。

 地上に展開した警備用のAMやPT部隊に向けライフルからの射撃も忘れない。

 撃ち出された黒いエネルギー波が、邪魔する者をいとも簡単に薙ぎ払い無力化していく。

 たった一騎に手も足も出ない。圧倒的な力の差を見せつける。

 

『お、いたいた!こんな所に・・・』

 

 ものの数分で邪魔者を片付けた彼女はとある施設に目を止める。

 頑強な壁を突き破りあっさりと内部に潜入、目的の相手を見つけたようだ。

 ハンガーに固定されているのはPT?・・・凶鳥、しかも群れだ。

 初代からMk-Ⅲまでが揃って姿は壮観であったが、起動していない状況では余りにも無防備。

 目の前の敵に抗う術はない。

 

『ヒュッケバインシリーズ。手始めに、この呪われし機体たちを駆逐して見せよう』

『やっちゃっていいんだね。この時を待ってたよ、バニシングトルーパー・・アンタのせいで私は・・』

『Mk-Ⅲからはトロニウムの回収を忘れるな』

『わかってるよ!消えちゃえ!不幸を呼ぶ機体!』

 

 機体を見た瞬間に激昂したウマ娘による処刑が開始される。

 斧の一撃で真っ二つになる、発射されたウイングの刃で切り刻まれる。

 砲撃による爆散、無抵抗のまま不幸を呼ぶと忌み嫌われた機体群が沈んでいく。

 僅かな時間で原型を留めているヒュッケバインは皆無となった。

 

『あ~スッキリした。トロニウムの回収も完了、じゃあ帰るね』

『ご苦労だった。積年の恨みも果たせたようでなにより』

『ルクスのおかげだよ。視聴者のみんなも力がほしいって思ってくれたかな?』

『ああ上出来だ』

『帰ってアイスでも食べよっかな・・ん?あそこにも何かいるね、ついでにバーン!これでよし』

 

 帰路につこうとしたウマ娘は最後に離れた位置にあった倉庫を砲撃、その爆発を見届けて飛び去っていった。

 映像がルクスのアップに切り替わる。

 

『デバイス、新型テスラドライブ、既存のAMやPTに収まらない兵装』

『プレゼントはそれらの技術データだ。その力を使えば単騎で大規模施設の破壊すら可能となる』

 

 力をくれてやったとルクスは言う。

 だが何か忘れていないか?この世界には彼女たちが・・・

 

『ああ、天級騎神のことなら心配無用だ』

 

 懸念を取り去るように告げる。

 

『彼女たちは不用意には動かない、動けないと行った方が正しいか』

『今の彼女たちは戦場から身を引くことで延命をしている。ただのウマ娘だ』

『最早抑止力とはなり得ない。その証拠に、ここ数年で彼女たちが殲滅した組織はゼロだ』

 

 絶対者の否定、それは、彼女たちの威光で影を潜めていた者たちへの光となったのか。

 

『それでも心配な者には、クロスゲートを解析した術式や装置のデータを活用しろ』

『天級騎神の弱点はそれだ。ゲートから生み出された技術に天は無力だ』

 

 トップシークレットである天級の弱点をあっさり暴露した。

 それもプレゼントしたファイルに入っているぞとルクスは言う。

 

『わかったろう、邪魔する者はいない』

『闘争による人類の革新が始まる。私はそれを見物させてもらおう』

『ヒトとウマ娘の未来に光あれ』

 

 という一連の演説、犯行声明?によって世界は騒々しくなった。

 私たちがグースカ寝ている間にそんなことがあったなんて。

 ルクスについての感想、演説がキモくて不快だった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で、ルクスの影響はどうなの?」

「御三家やテスラ研、シラカワ重工の関連企業は蜂の巣をつついたような騒ぎでした」

「幸い、今の所はテロ組織や要注意団体の動きはないみたい」

「情報の流失は60%以上、多数のオーバーテクノロジーや秘匿情報が漏れたようです」

「手に余る力を持った連中がこのまま大人しくしているとは思えない・・やれやれ」

「EOT(イオト)ですか・・アホに武器を与えるなんて、碌なもんじゃないですね」

 

 EOT、エクストラオーバーテクノロジーと名付けられたそれは、安全性などを考慮して封印していたものだ。

 時間をかけ少しづつ小出しにして、世に浸透させる計画だったのにルクスのせいでおじゃんになった。

 数世代先のチート技術の設計図や研究データの他に、ファイン家が持ち込んだ1stの技術もそこに含まれている。

 

「守りに入った企業と研究者は御三家に保護を求めています」

「厄介なブツを押し付けたいだけでは?」

「ガリルナガン・・・あの子・・・いや、そんなことない」

「ライスさん?」

「ヒュッケ大量虐殺!クソッ!Mk-Ⅲの設計には私も参加したのに、腹立つなぁ!」

「シロちゃん、そんなことしてたんだ・・・ヒュッケ、絶滅したの?」

「ところがどっこい、まだ生きていますよ・・もっとも無残な程バラバラですけどね」

「データ照合、ヒュッケバイン009がMk-Ⅲ用AMパーツのフィッティング調整機として改造された記録があります」

「そう、名付けてエクスバインがまだいます」

「ガリルナガンが最後に砲撃した倉庫、そこにいたんだね」

「無人機として組直すのは時間がかかり過ぎますね。何とか補強してあげたいのですが」

「エクスバイン・・・」

 

 009、バニシングしちゃった子の兄弟機か・・・良かった、凶鳥の血はまだ生きている。

 イメージを変えるために「緑にしたら?」と私が適当ぶっこいた結果、抹茶色に塗装されて整備員から「カッパバインw」とからかわれていたっけな。

 その子が今やバラバラ死体になってるとは・・・うーん、何とかしてあげたいですね。

 もったいないな・・・改修プランをシュウさんと相談してみようかな。

 

「天級のお二方は大丈夫ですか?」

「私?私はまったく気にしてないわ!」

「私も~、だってその通りですものね~」

「楽観的と言いますか、母たちはいつもこんな感じですので」

「さて、昼と夜は何を食べましょうかね?」

「今日スーパーがポイント5倍デーよ!一緒に行きましょう」

 

 弱点を世間一般公開されたのに・・・強い!このどっしり感パないわ!

 自分たちのことよりメシが大事、主婦だ!かーちゃんは偉大だ。

 ルクスのことは御三家や対テロ部隊が血眼になって探していることだろう。

 力の無い私たちにできることは迷惑不審者は早く捕まってくれと祈ることだけだ。

 

 朝食後、解散した私たちはマサキさんが使っていた部屋を探索する。

 ふへへ、テンション上がるぜ!あ、サイさんの許可は得ています。

 

「シロちゃん!これ見てこれ」

「黒いノート?どこにあったんですかコレ」

「天井裏にあった!鎖でがんじがらめの上に錠前がかかっていたけど、腕力でロック解除完了」

「一体何が記されて・・・ブフォww」

「どうしたの?」

「痛たたたたたたたwwwあーこれはダメですwww封印指定ですwww痛すぎるww」

「見せてよー!・・・え!フフッwwマサキさん・・・かーわーいーいーwww」

 

 操者の黒歴史を垣間見てしまった。

 中二病でもいいじゃないですか、ああ、そんな所も大好きですよ。

 ノートにビッシリ書き込まれた中二設定資料集を夢中で読みふける。

 挿絵ww挿絵が無駄に上手くて妄想が捗るwww

 

「アサキムwwwかっけーwww私、シュロウガになってあげたいwww」

「も、もうwwいいでしょうwwプッwwこれは元に場所にwwwちょっと待ってもう一回だけ」

 

 これは私たちの胸にそっとしまっておきましょう。

 うん、それがいい!真の愛バは操者の黒歴史も許容します!

 

 ひとしきり笑った後は約束していた相手との待ち合わせ場所へ向かう。

 

「そこまで!」

「「オッス!ありがとうございました!」

 

 マサキさんが幼い頃から使っていた修練場に来ています。

 天級騎神グランヴェール、その旦那様に体術の稽古をつけてもらってはや数時間。

 もうすっかり師匠って呼んじゃってます。

 

「ブラックは少々前のめり過ぎだ、相手の呼吸を読め」

「はい」

「ダイヤ、奇襲奇策も結構だが基礎を疎かにするな」

「はいです」

 

 この如何にも達人風なお方は本当に人間なのでしょうか?

 師匠、口数少ないのでコミュニケーション取りづらいんだよな、名前は烈?やっぱり海王なの。

 いくら弱体化しているとはいえ、私たち二人がかりでも息一つ切らせていません。

 中国武術恐るべし!夫婦揃ってナチュラルに炎を出すのもヤベェ。

 持参したタオルで汗を拭いてから水分補給、あーポカリうめぇッス!

 

「覇気が出せんようになるとはのう。困ったもんじゃ」

「誠に不可解な現象だ」

「グラさん、師匠も、何とかできない?」

「ダーリンは元よりわしも専門外じゃな、こんな時こそガッデスがおればのう」

「天級一の術士、ガッデスですか・・・是非お会いしたいですね」

 

 修練後、グラさんと師匠に別れを告げて帰宅途中。

 中身空っぽの鎧、アインストのアーマーに遭遇した。

 見れば、すれ違う人々と気さくに挨拶をしており、日常に溶け込んでいらっしゃる。

 この村、ラ・ギアスの異常性を改めて認識。異世界の謎生命ぐらいじゃ動じない。

 

「散歩中、付き合え」

「いいですよ。お供しましょう」

「どこ行くの?」

「ゲート、様子を見に行くのが日課」

 

 クロスゲート、マサキさんに抱っこされて散歩した時に見た遺跡にあるというヤツか。

 アーマーについていくと、そこは以前に見た遺跡は見当たらず、頑強そうな防護壁に周囲を囲まれた無機質な建物があった。

 武装した警備員に挨拶して内部に通してもらう。アーマーは顔パスで、連れの私たちにも許可が下りた。

 ザル警備ですね。

 

「ここにあったはずの遺跡はどうなりました?」

「全部吹っ飛んだ、悪いのはぺルゼイン、それとマサキ」

「マサキさん絡みなら仕方ない」

 

 建物内部、5つ目の隔壁を抜けた先にそれはあった。

 大きなリング状の構造物が部屋の中央に横たえてあり、データを収集でもしているのか周囲にある電子機器がカタカタと細かい音を立てている。

 白衣を着た研究員らしき人物が「見学ですか?ごゆっくり」と言って部屋を出て行った。

 この部屋は外部から常に監視されているので問題なしとのこと。だからザルだって。

 ほう、こいつがクロスゲートか・・・冗談抜きで異世界へと通じる門が目の前に鎮座している。

 

「クロスゲート、アーマーはここから来たんだね」

「おうよ」

「天級騎神の攻撃に耐えるどころか、ゲートを解析して生まれた術式は天級の弱点そのもの・・・」

「せやな」

「ちょいちょい受け答えが雑なの気になるなぁ」

「すまんの・・・???・・・イモ、そこから離れろ」

「イモ!?私のことですか。離れろって、え?」

「シロちゃん!ゲ、ゲートが動いてる」

「なんですと!」

 

 アーマーの忠告後、即異変が起こる。

 急にゲートが淡い輝きを放ち出したかと思えば、輪の内部が水面の様に揺らぎだす。

 

「う、美しい。キレイな輝きですね」

「見惚れている場合か!ちょ、シロちゃん覗き込み過ぎ!落ちても知らないよ」

「平気ですよ。なぜかわかりませんが、コレが悪いものだとは思えないんです」

「緊急事態、マニュアルに従い隔壁下ろす」

「あれ?この状況、結構ヤバイ」

 

 アーマーが扉付近の非情レバーを引っ張り部屋を隔離する。

 モニター越しにこちらを見ているであろう研究員及び警備員に連絡もしている。

 なにこのアインスト優秀過ぎじゃね?

 おいバカ敬礼やめろ!決死の覚悟で残り、犠牲になるみたいな空気出すな。

 

「来る、衝撃に備えろ」

「来るって何が!?」

「アレですよ。世界滅ぼしちゃう系のラスボスっぽい奴」

「ラヴォス、サルーイン、ゾーマ、ニュクス・アバター。この辺りなら、ちょっと会いたいんだけど」

「人修羅」

「「それはマズイ!!」」

 

 アホなこと言っている間にゲートの輝きは強くなり、何かが飛び出してきた。

 球体のそれはよりによって、退避していた私の・・・

 

「ブヘェッ!!」

「シロちゃんのナイス顔面セーブwww」

 

 ええそうです。顔に直撃しましたよ。

 

「いっっってぇなぁ!ちくしょうーーー!!」

「何?何がぶつかったの、黒いボール?」

「キャッチ」

 

 転がっている球体をアーマーが捕まえる。

 ゲートはそれっきり動きを停止した。

 一体何だったんだ?

 

「私の顔面を強襲するとはいい度胸だな、このくそボールがぁ」

「大きいね、触っても大丈夫なの」

「解析中・・・」

「卵かな?」

「だとしたら、生まれてくるのは碌な奴じゃないですね」

 

 直系1mぐらいの黒い球体をアーマーがペタペタ触りながら様子を伺う。

 

「おk、理解した」

「「あっ!?」」

 

 いきなりで一瞬の出来事だった。

 アーマーの体を構成する鎧の胸部があんぐりと口を開けたと思ったら、黒い球体を飲み込んでしまったのだ。

 

「ゴチです」

「何やってるんですか!そんな得体の知れないものを食べて」

「そうだよ!何味だったか教えてよ」

「ピスタチオ」

「「流行ったけどさぁ!!」」

「気にすんな、ええから、帰るぞ」

「い、いいのかなぁ」

「本人が平気っぽいので良しとしましょう」

 

 面倒事に関わりたくないのか、職務放棄した研究員たちは「何も見なかったZE☆」と親指立てていた。

 ダメだこいつら・・・

 ゲートの監視と警備を、この人たちに任せるのはやめた方がいいと進言しよう。

 

「揃ったな」

「何が?」

「天級」

「は?」

 

 自宅へと歩きながらお腹?をポンポン叩くアーマーは何故かだか満足げな様子だった。

 

「ただいま」

「だだいま帰りました」

「お帰りなさい。あら、アーマーも一緒だったのね」

「ただいま、母上、朗報」

「何々、ついさっきゲートが一瞬だけ起動したことと関係あるのかしら?」

「母上の同胞捕まえた」

「ん?・・・( ,,`・ω・´)ンンン?」

「同胞、まさか残りの天級騎神!」

「え、ガー子にザム吉が!どこにいるの」

「ここ」

「どこよ?」

「あの顔面強襲ボール・・・」

「ねえ、ヤバくない?食べちゃったよね、ピスタチオ味だったよね」

「とりあえず、一匹出す」

「うわ!ゲロした」

 

 ペッ!と胸部装甲の隙間から何かが吐き出された。

 

「な?子供?」

「ちょ、大丈夫!大変!意識が無いよ」

「この覇気・・・メチャクチャ弱ってるけど、いや、確かに面影が・・・げっ!死にかけとる!」

 

 青い髪の幼女をすぐさま抱き上げてアタフタするサイさん。

 私たちが寝ていた客間に布団を敷いて寝かせ、ネオさんたちを招集する。

 この日は天級総出で、代わるがわる覇気を補給しながら看病するハメになった。

 

「じゃ、こっちも、作業開始」

「今度は何ですか、おい、ちょっと」

「あれ?もう寝るの」

「アーマーから・・・ミオ・サスガに」

「「???」」

 

 慌ただしくなった安藤家。

 鎧のアインスト、アーマー縁側にドカッと腰を下ろしたまま動かなくなった。

 最後に呟いた言葉の意味はわからなかった。

 




クロ「私キターー!!しゃああああああああああああああ!!!」
アル「一周年です。おめでたいですね」
ココ「やったね!ウマ娘はこれからもガンガン盛り上がって行くよーー!」

シロ「・・・」

クロ「あれ?何かサトイモが転がってるwww」
アル「申し訳ありませんw私の方が先でしたねwwいやホントww」
ココ「あはははははははwwwひゃはははははははwww最下位イモwww」

シロ「酷くない?せめてクロちゃんとのダブルピックアップガチャでしょうが!!」

クロ「タンホイザ来ちゃったww」
アル「可愛らしい方ですよね。あ、次はメジロブライトだと思いますww」
ココ「新しい子も増えたからねwwサトイモの収穫はまた遅れるかもねww」

シロ「オマエラマジオボエテロ・・・運営様!マジで頼みますよ~」


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名前を呼んで

 ファイン家所有の某所、人里離れた場所では急ピッチで工事が進んでいた。

 多くの作業員と建設重機が行き交う現場は活気で満ち溢れている。

 見事な輝きを放つ禿頭(ハゲ)の男が現場の指揮を執り、用途不明のオブジェや電子機器の設置、果ては魔方陣らしき紋様の書き込み作業等を進めていく。

 その光景を離れた位置で眺めながら電話をしているウマ娘がいた。

 彼女はケラケラと楽しそうに会話をしている。

 通話相手は気心知れた親しい間柄のようだ。

 

「そうだね。私たち4人でちゃんと話あった方がいいよね」

 

 4という数字を強調して伝えるとスピーカーからいい反応が返って来る。

 

「うんうん、二人が怒るのは私の責任だ。だが私は謝らない!」

 

 電話越しでも伝わる呪詛まみれの声に、若干引きながらも毅然とした態度を示す。

 

「それじゃあ、第一回愛バ会議を楽しみにしてるよ。またね~」

 

 本題である会議の開催日時を伝えて通話終了。

 

 頭首であるファインモーションは、隣にいる部下のエアシャカ―ルにやれやれと大袈裟なジェスチャーで心労をアピールしてみせる。

 

「あー怖かった、ダイヤちゃんの一言一句に殺気を感じたよ」

「計画は予定通り進めていいんだな」

「うん、変更なしでよろしくね。マサキをサルベージする前に話はつけておかないと」

「こっちの準備はまだかかりそうだ、ルオゾールの注文が多くて嫌になるぜ」

「ハゲはハゲなりに有能だからしっかり連携をとってあげてね。ゲートから邪神を呼び出す方法を知ってるのは確かだから」

「で?目覚めた破壊獣どもはどんな具合だ」

「なんか弱体化してるってさ、殺される心配は今の所なさそう。でも、アレの用意はしておいて」

「へいへい、くぁ~忙しくて泣けるぜ」

「インテリヤンキーの底力を見せてちょうだいな。頼りにしてるからね」

「ヤンキー言うな」

 

 自前のノートパソコンをカタカタと操作しながら、持参した缶ジュースをグビッと飲む。

 

「またエナドリ?飲み過ぎは体に悪いよ」

「毎食カップ麺よりマシだろ、そういえばゴルシの奴はどうした?」

「休暇申請して何処かに消えちゃった。大丈夫、作戦決行日にはきっと帰って来るよ」

「マジで羨ましい・・・俺、今月まだ休みもらってねぇよ」

「悲願だったベーオウルフたちとの決着をつけられたからね、リフレッシュ休暇は必要だよ」

 

 故郷と一族、そして戦友たちの仇を討つことができたのだ。

 いくらハジケリストと言えども、センチメンタルな気分に浸りたいこともあるのだろう。

 リング状の構造物が運搬されて来たのを確認しつつ会話を続ける。

 

「あのルクスとか言う仮面野郎は放置していいのか?」

「調査と捜索は引き続きお願い。そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないと思うけどね」

「あれだけの啖呵を切ったんだ。奴には相当な自信と後ろ盾でもあるんだろうさ」

 

 そうだろうな。

 ヒュッケバインを襲ったガリルナガンの使い手、電波ジャックやEOTを流失させたこと。

 敵はルクス一人だけとは考えにくい、奴には協力者がいる。面倒で厄介なことだ。

 ルクスに対抗するために、こちらも戦力の確保と増強をしておく必要がある。

 その中心にいるべき人が、安心して帰って来られるように。

 

「しばらくは大丈夫だと思うよ。こっちはマサキと離れちゃったけど、向こうも無傷じゃないみたいだからね」

「血痕からは有力な情報を得られなかったが、お前の操車が一矢報いたのは確かみてぇだな」

「流石過ぎて惚れ直しちゃう!予想だと腕の一本ぐらいもぎ・・・噛み千切ったとか?」

「まさか、それだとマジもんの化物ってことになるぞ、お前の男は」

「私の操者だよ?スパルタ兵もドン引きの闘争心で、それぐらいやってみせるよ」

「そうかい。俺はルクスって奴に同情しちまうよ、アンドウマサキの敵役なんて碌な目に会わないのが確定している」

 

 マサキが消失した現場からクロスゲートを回収。

 私たちが退去した後にマサキはゲートで何処かへ転移させられた模様。

 現場に残された血痕から、マサキはルクスにそれなりの手傷を負わせたことだけはわかった。

 最後まで死力を尽くして抵抗したんだ・・・その姿を想うだけで誇らしい。

 残された血液から情報を読み取れなかったは残念だ。戦闘による大規模覇気の残渣及びゲートの余剰エネルギーに晒されたことで生体情報が欠損していたので仕方がない。

 ヴォルクルス教団を吸収合併し、人員の補充と勢力を拡大した新生ファイン家はマサキのサルベージを実現するために奮闘中だ。

 世間を騒がせたルクスとの決着はマサキを取り戻してからだ。

 今は私たち・・・愛バ4人の団結を急がねば・・・こ、怖くなってきた。

 ルクス・・・今は泳がせておいてやる、精々調子に乗っておけ。

 

「私たちを敵に回わしたことを、必ず後悔させてあげる」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ガッちゃん。はい、あ~んして」

「あ~ん」

「ん・・・」モッキュモッキュ

「美味しい?」

「ボーノ。もっとちょうだい」

「か、かわいい~。いっぱい食べて大きくなってね」

「クロちゃん。そのロリババアを甘やかしちゃだめよ」

「ババア違う、アラファオーなめんな」

 

 数日前、アーマーから吐き出された幼女は一命を取り留めた。

 なんとこのロリは水の天級騎神ガッデスご本人であることが判明。

 体が縮んだ経緯については、邪神降臨を目論んだ教団にエネルギーちゅーちゅーされた結果らしい。

 マサキさんと会ったことも聞いた、そしてルクスのことも。

 あの変態仮面が諸々の事件を起こした黒幕であり、マサキさんが行方不明になったのも奴の仕業だと知った。

 

 ガッデスはまだ完全回復とはいかないので看病を所望。

 今は母性本能に目覚めたクロちゃんが即席おじや(昨晩の残り物使用)を「はい、あ~ん」と食べさせている真っ最中。

 クロちゃんってば、乱暴者の癖に世話好きなんですよ。

 カゼをひいた時とか、妙に優しくて戸惑ってしまうぐらいです。

 その間私の方は、知り合いのラーメン狂いと非常に大事な電話をしていた。

 

「あ!コラ待て・・・切られた。あのインモーめ」

「シロちゃん。どうだった?」

「最悪なことだが間違いない、インモーがやらかしおったで!奴が寝取りウマ確定だ」

「あのメスウマぁ!初対面から嫌な予感がしていたんだよ!残りの一人は?」

「「最後の一人はサプライズ~当日までのお楽しみってことで♪」とはぐらかされた」

「うわぁ、気になる。当日って何かイベントでもあるの?」

「三日後に第一回愛バ会議開催、マサキさんの愛バ全員集合だとよ。いやぁ今から楽しみですな」(#^ω^)ピキピキ

「当日の天気は血の雨だね」(#^ω^)ピキピキ

 

 スマホを握りしめる手に力が籠る。おっと壊さないようにしないと(これで七代目)。

 

「ファインと話していたの、私が無事なのを伝えてくれた?」

「一応伝えましたよ。「ああ、やっぱりね。そっちで保護よろしく」と言ってました」

「教団とファイン家の衝突。マサキはルクスと戦闘して行方不明か・・・あの仮面、うちの子たちによくも」

「ルクスはマサキに執着しているみたいだった。今後は愛バである、あなたたちが狙われる可能性も」

「うへぇ!それは困った」

 

 一刻も早く力を取り戻さなければ、勝負にすらならない。

 ルクス!マサキさんを傷つけたこと断じて許さない。

 

「ガッデスさん」

「ガッちゃんでいいよ」

「天級最年長が抜かしよるww」

「サイは黙ってて」

「では、ガッさん。私たちの覇気、何とかなりませんか?」

「うーん・・・果報は寝て待て」

「放っておけと?」

「一見枯れているように見える井戸、その奥底は温泉どころか油田に繋がっている。溢れるのは時間の問題」

 

 これまた、微妙な例えをなさいますね。

 

「何かが二人の覇気を使って回路(パス)を形成した。もうすぐ向こうから接触してくるはず」

「あの、要領を得ないんですが、一体何のことです?」

「心配無用。二人は今、マサキと同じステージに立っている」

「マサキさんと同じ・・・」

「オルゴナイトの繭から生まれた、生まれ変わった二人がただの騎神で終わるはずは無い」

「だといいんですけど」

「この言い回し、面倒な性格は相変わらずねガー子」

「サイは老けたね。私はアンチエイジングに成功したよ。(^_^)vブイッ!」

「嫌だわ~最高にムカつく」

「サイが育てたにしてはマサキはいい子。私が引き取ってもいいよ」

「そこまでにしとけよ。バギクロスぐらいなら無詠唱ノータイムで出せるんだからな」

「そうよ!マサ君の親権は私も欲しいんだから」

「いや、マサキはもう成人しておるじゃろうが、親権ってww」

「ああーー!!ウゼェ!アラフォー同窓会ヤメロ。その一員なのが一番泣けるわ」

 

 いつの間にか、ネオさんとグラさんがヒョッコリ現れました。

 師匠(グラさんの旦那)とシュウさん(及びその愛バ二名)は持ち前の家事スキルを遺憾なく発揮して買い出しと、夕餉の準備中です。「人数が増えましたからね」となんか楽しそうでした。

 

 今、アンドウ家の覇気係数がとんでもない数値になっております。

 何という過剰戦力!この場所に集うご婦人方の気まぐれで、地上から町がポンポン消えてもおかしくないです。

 弱点があると聞いて逆にホッとしたぐらいですよ。それぐらいじゃなと余りに理不尽。

 存在が大きすぎて近くにいると、いろいろな感覚が麻痺しそうです。

 こんな状況で育ったマサキさんはそりゃ大物ですわ。

 

「5・・・4・・・3・・・」

「ここで唐突なカウントダウンが!?」

「え?どこから、うお、アーマーさんからだ」

「もう今度は何よ。ここ最近いろんな事が起こり過ぎ!」

「シュウ君曰く、特異点崩壊がどうたら・・・よくわかんないけど」

「2・・・1・・・」

「全員集合!ガー子を中心に結界を張るぞい」

「「「了解」」」

 

 なにごと!何事?

 縁側に鎮座して不動明王と化したアーマーからカウントダウンの音声が発せられる。

 自爆はやめてくださいよ。

 咄嗟の判断と行動力はやはり歴戦の猛者。

 ガッデスと私たち二人を庇いつつ、グラさんが防御結界を即時展開、それをネオさんがフォロー。

 サイさんはアーマーが良からぬ動きをした場合に備えて覇気を集中、最悪の場合はアーマーを大技でぶっ飛ばす気満々だ。

 

「0・・・」

 

 さて、何が起こるか・・・

 

「何も起こらないのかよ!」

「お、驚かせやがって」

 

 ガシャンとアーマーの頭部が地面にに落ちる。

 続いて、体を構成する鎧のパーツが次々に落下する。

 

「風化していきますよ。え、死んだの」

「何あれ!ひぃ!手が・・・人の手が見える!」

 

 崩れていく鎧の中心、胸部装甲だった箇所からこちらに向けて人間の手が伸ばされているのを発見。

 ええーー?!何それ。まさかアーマーさん・・・サイさんに内緒で人を食べてましたか?

 

「ごめーん。ちょっと引っ張ってくれる」

「うっわっ!喋った。どうやら生きてるみたいだよ」

「いいの?引っ張っていいの?犯罪の共犯とかにならないの」

「この声・・・いいわ、引っ張りましょう。やるわよネオ」

「いいわよ、サイさん。せーの!」

 

 スッポン!とあっさり引っ張り出されたのは人間?それも少女の形をしていた。

 

「ふぅー。服のデザインと形成が間に合ってよかった。全裸で初お目見えは締まらないしね」

 

 十代前半ぐらいに見える少女が現れた。

 ネクタイを締めた青いブレザータイプの学生服を着こなし、愛嬌よく人懐っこい笑みを浮かべている。

 髪形はツインテールの可愛らしい美少女だ。

 私たちと同年代?体の発育は・・・フッ、私たちが大差で勝利ですね!

 

「おお!全員揃ってるじゃん!何年ぶりかな~」

「えっと・・・」

「どちら様でしょうか?」

「うん?マサキから聞いてないの?新顔もいるみたいだし、自己紹介するね」

 

 風化していくアーマーの残骸をパンパンッと払ってくるりと一回転。

 ビシッと妙なポーズを決めて少女は宣言する。

 

「土の天級騎神ザムジードだったのは過去の話」

 

「今の私は、同胞であるアインスト"アーマー"と融合を果たし、誕生した新たな生命体」

 

「新人類!ミオ・サスガだよ!よろしくお願いします」ドヤァ

 

 ザムジード・・・新人類?・・・は?

 

「ねえ、今日の夕飯何だと思う?」

「ダーリンがキッチンに立つと中華三昧じゃぞ」

「飲茶がいいわね。シュウ君なら小籠包とか出してきそう」

「焼売好き」

「あの、無視はやめてください」

 

 思考放棄した天級たちが夕飯の献立を気にし出した。

 最近理解したが、この人たち基本メシの話ばっかりしている。

 所帯じみててなんだかなぁ。

 話が進まないのでクロちゃんと私がコンタクトを試みる。

 

「イノベイター?」

「エヴォリューダーってことでオナシャス!」

「ザムジードだったとは、どういうことですか?マサキさんとのご関係は?」

「実はね・・・」

 

 ほうほう、ザムジードの正体はアインストだったと。

 そして死期を悟った彼女は肉体と精神を分離、自立型金属細胞ラズムナニウムの制御AIに偽装して活動を開始。

 マサキさんと合流して共に旅を続け、肉体のコアを持っているガッデスを救助、ゲートを通ってここまで来た。

 

「それでアーマーさんと融合合体して美少女化したと」

「マサキとの約束だからね。次に会う時は人間の姿だって」

「アーマーさんの意思は?」

「心配しなさんな。双方合意の上だよ、私はザムジードでありアーマーでもある。お互いの記憶は共有し統合もしている。ミオ・サスガとして生まれ変わっただけだからね」

「ならいいのですが、それでマサキさんは」

「ガッちゃん、わかる?」

「ん、多分だけど・・・マサキがゲート使って私たちを逃がしてくれた」

「単独でゲートを起動したの?・・・いや、マサキなら・・・」

「ミオ、けじめ」

「そうだね。謝らないと」

 

 ガッデスとその傍に寄り添ったミオが、サイさんと私たちに向けて深々と頭を下げる。

 突然のことに面喰ってしまう。

 

「サイ、それにマサキの愛バたち・・・ごめんなさい」

「私たちがついていながら、助けられたのはこっちだった。本当にごめん」

 

 見た目はともかく、年長者としての責任を果たせなかった。

 無念さを噛みしめ謝罪をする天級二人。

 

「そういうのやめてよ。マサキはアンタたちを無事に逃がしてくれた、母として鼻が高いわ」

「天級騎神に借りを作るなんて、私の操者は立派だ」

「マサキさんの行動にはいつも驚かされますけど、それには必ず意味があります。お二人が今ここにいる事もきっと偶然ではありません」

「でも、そのせいでマサキは」

「ゲートで異世界に飛ばされたのね。今頃、勇者扱いでもされているのかしら」

「マサキさんならどんな場所でも大活躍だよ」

「無能認定からの追放、そして魔王へと成り上がるマサキさん・・・いいですね!」

「えー・・・なんかあんまり心配してない」

「心配はしてるわ。でもね・・・信じてるの」

「そうそう、信じてるよ」

「ええ、どんな時でも信じてます」

「私の息子はね、好きな女を残してくたばるような男じゃないわ」

「わお!サイさんカッコイイ」

「楽観主義極まれり。じゃが、わしもその通りだと思うとるよ」

「うまぴょい計画、未完遂のまま死なれては困ります」

「ホントそれ!」

 

 マサキさんは絶対に生きている。

 それだけはここにいる全員が確信している。

 姿は見えない、リンクは切れた、それでも・・・彼ほどの存在が黙って消えたなんてこと、ある訳がない。

 必ず帰って来る。その為に今もどこかで戦っているはずだ。

 

「というわけで、謝る必要はないわ。どうしても気が済まないなら、今後もマサキやクロシロちゃんたちを気にかけてあげて」

「もちろんだよ。ミオ・サスガはマサキのズッ友だからね」

「マサキは命の恩人、そして私の子も同然」

 

 本当に不思議な人だ。

 ここにいないのに、彼を思うだけで皆の心が暖かくなる。

 世界に名立たる天級騎神、その全員から愛されているだけでも驚愕に値する。

 天級だけではない、彼のために協力を惜しまないと言ってくれる猛者は他にもいるのだろう。

 多くの人に影響を与え巻き込む力。それこそがマサキさんの真骨頂で恐ろしい所だと思う。

 

「クロちゃん。私たち絶対に強くならないといけません」

「うん。このままじゃ終われない」

 

 堂々と彼の隣に立つ。

 それが愛バとして選ばれた自分たちの使命だ!

 

「女神と竜の加護、それに・・・見てるよね・・・」

 

 誰に聞かせるでもなく、ボソッと呟いたガッデスの小声を私は聞き逃さなかった。

 女神と竜?そして最後に「くろきじゅうしん」と言いましたか・・・

 「黒き銃神」とは何のことでしょう?

 

 この日、愛バとして新たな決意を固めた私たちだった。

 

 

 ⦅力がほしいか⦆

 

 (誰?)

 (誰ですか?)

 

 ⦅力がほしいか⦆

 

 (お、シロちゃんだ。やっほー)

 (嫌ですね、人の夢に不法侵入しないでくださいよ)

 

 ⦅力が・・あの、聞いているのかしら?こっちを見なさい!⦆

 

 (ここは私の夢だよ。侵入者はそっち)

 (ロリコニアの件もあります。同じ操者を持つ私たちは夢を共有してしまうみたいですね)

 (それならマサキさんの夢にダイブ希望なんだけど!)

 (その手があったか!操者と愛バは夢で繋がることもあるそうですし、私ワクワクしてきました)

 

 ⦅無視されてる・・・テニア!ちょっと来て、今回の後継者たちは手強いわ⦆

 ⦅もう、なんだよ~。最初の定番挨拶ぐらい一人でチャッチャとやってよね⦆

 

 (なんか気配が増えた)

 (そちらの方々、とりあえず姿を見せてくれます?)

 

 ⦅こちらを認識しても動じないか・・・いいね!度胸ある子は大歓迎⦆

 ⦅メルアの方も前代未聞の後継者らしいし、此度は何かおかしいわね。はい、これでいいかしら⦆

 

 パンッ!と柏手を打つ音が響いた瞬間、景色が変わる。

 隣にはいつもの相棒が、そして目の前には初見の少女が二名。

 

「はじめまして、私の名前はカティア。やっと繋がったみたいで安心したわ」

「はじめましてだね、フェステニアだよ。テニアって呼んでね、後継者さんたち」

 

 聡明な雰囲気を漂わせた黒髪の少女はカティアと名乗り、明るく活発な雰囲気を纏った赤毛の少女はテニアと名乗った。

 この覇気・・・いや、このプレッシャーもう神気といってもいいレベルだ。

 サイさんたち天級から感じるものとは別の圧をピリピリ感じる。

 

「神様?」

「お!鋭いねキミ。いや~滲み出る神々しさでバレちゃったかぁ」

「嘘臭いですね。どの宗教体系の神ですか?空飛ぶスパゲッティ・モンスター教?」

「こっちの子はひねくれてるわね。私たちはウマ娘の始祖、三女神よ」

「「二人しかいねぇし!」」

「そこはツッコまないで」

「もう一人は別行動中よ。あなたたちの大事な人の所に行ってるわ」

「マサキさんの所に!ズルい」

「夢枕に立ったということは、何か用件があるのですね。詳しくお聞きしましょう」

「では立ち話もなんだし、こっちで」

 

 再びパンッ!と柏手が響く。

 周囲の景色が入れ替わる。場所はどこかの庭園、ガーデンテラスに丸テーブルと椅子が四つ、テーブル上には人数分の紅茶とお菓子、アフタヌーンティーセットが用意されている。

 

「遠慮しないで飲んで食べて、スコーンにはジャムをつけるのがオススメだよ」

「夢の中で飲食しても大丈夫なんでしょうか?」

「朝起きた時、少しだけ胃もたれするわ」

「その程度で済むなら問題なし!いただきまーす。・・・お、結構いける」

 

 テニアとクロちゃんがガツガツ飲み食いし始めた。

 あのさぁ、紅茶ってもっとこう優雅に嗜むものでしてね・・・あ、いい香り。

 

「話を進めていいかしら、せめてあなたは聞いてくれると嬉しいんだけど」

「いいですよ。お互いアホの相方は放置しおきましょう。申し遅れました、私は・・・」

「サトノダイヤモンド、操者からもらった名はシロ」

「いい食べっぷりのキミはキタサンブラック、操者からはクロって呼ばれてるね」

「ご存じでしたか」

「これでも女神ですからね。後継者である、あなたたちことはずっと見ていたわ」

「見てたの!あれやこれや見てたの!(/ω\)イヤン」

 

 紅茶を飲みながら説明を受ける。

 マサキさんを含めた私たちは三女神の後継者に選ばれた。

 正確には力を求めた私たちに女神が応えてくれたのだった。

 

「やたら大きな覇気が渦巻いているな~と思ったら、キミたちの操者、マサキだったわけよ」

「メルアが考えなしに飛びついちゃってね。まあ、そのおかげであなたたちを見つけたんだけど」

「ほう、私たちはマサキさんのおまけですか。おまけ上等です!」

「女神も軽く釣り上げるマサキさん、素敵過ぎる!」

「やだ、この子たち操者に心酔してる。狂信者の目つきだ」

「私たちもトーヤにはこんな感じだったらしいよ。知らんけど」

 

 力をくれるというならください。

 覇気が出せなくなったのは女神様のせいですか?

 

「明日の朝には覇気も元通り・・・いや、以前とは比べ物にならない程ボーボーボーだよ!」

「それを聞いて安心しました」

「やったねシロちゃん!覇気がまた使えるよ」

「満足するのは早いわ、物質化された覇気"オルゴナイト"を使いこなしてもらわないと」

「マサキはもう普通に使ってたね。因みにあいつ・・・仮面の、えっとル、ル」

「ルクスですか」

「そうマサキをボコった張本人!あいつもオルゴナイトの使い手なんだ。赤くて憎たらしい色の」

「ルクスを相手に戦うなら、オルゴナイトの使用は必須条件ね」

 

 緑の結晶体、オルゴナイトの使用は今後の戦闘では人権スキルに該当する。

 マサキさんにはできた、ならば私たちも続かなくては。

 頷き合った私たちは二柱の女神に問いかける。

 

「どうすればいいですか?」

「私たちの真名を呼んでくれたらいいよ」

「オールドファッション」

「フレンチクルーラー」

「当てずっぽうで言ってもダーメ!それとドーナツから離れろ」

「あなたたちが真に力を望むなら、私たちの真名は自ずとわかる。そういうものよ」

 

 力ならずっと前から望んでますよ。ですが、何も浮かんできません。

 私たちに何かが足りないと、そういうのか。

 

「本当に望んでる?怖がってる癖に・・・また、同じ結果になったらどうしようって」

「テニア、あれは別世界の二人よ。この子たちは関係ないわ」

「そうだけどさ、並行世界の念をこの子たちが汲み取っていないとは思えない。ベーオウルフとルシファーの想いはマサキに、そしてこの子たちに受け継がれてる」

「一理あるわね。二人は無意識でオルゴナイトの使用を拒絶している。だから私たちの真名を呼べないのね」

 

 女神二人で何やら思案し始めた。

 ベーオウルフ、ルシファー、その言葉どこかで・・・何だろう、その名を聞くと胸の奥が締め付けられる。

 私とクロちゃんは強くなりたい、強くなってマサキさんの力になるのだ。

 だけど恐れているのか?強くなった結果またあの惨劇を繰り返・・・また?またって何だ?

 

 紅茶のお代わりとスイーツの乗った皿も空になった頃。

 

「もう時間切れね。覚悟が決まったなら真名を呼んでちょうだい」

「く、わかりません・・・ヒ、ヒントをください」

「「人型起動兵器みたいっスねw」のジンクスからは、女神と言えど逃れられなかったよ」

「理解した、ロボだ!ロボみたいなんだね」

「キタサンブラック、あなたは私の、カティアの後継者とするわ」

「はい。よろしくお願いします」

「サトノダイヤモンドは、このテニアさんが面倒見ちゃうよ」

「了解しました。何卒よしなに」

 

 へぇ、意外ですね。性格的に逆かと思いましたが、戦闘スタイルの相性で判断したのでしょうか。

 

「そろそろ起きる時間ね、また会いましょう」

「期待してるよ後継者たち。キミたちなら、あの竜姫様も味方してくれるかもね」

「またね~ばいばーい」

「真名当てですか・・・参りましたね」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 復活!覇気が復活したぞ!

 まるでマサキさんみたい、周囲一帯に覇気粒子を散布できるぐらいドバドバ出ちゃってますよ。

 喜ぶのはまだだ、垂れ流すのはやめてコントロール・・・えっと、元栓をしっかり閉めるイメージ。

 体の内から溢れんばかりの力を制御する。

 マサキさんはこれを、直感とセンスで行っていたというのだから大したものだ。

 なめないで頂きたい、私とクロちゃんもできますとも。

 戸惑ったのは最初だけ、すぐに呼吸をするかのように覇気を完全制御下に置く。

 

 ここまではいい、結晶体の形成はまだ無理だけど・・・

 

「ダメだ。ステークが煙噴いちゃった」

「こっちもですよ。オクスタンランチャーの砲身が焼き切れそうです」

 

 事前に約束していた通り、父様に頼んで武装アルトアイゼンとヴァイスリッターを用意してもらった。

 久しぶりに武装状態での模擬戦でもと思ったのだが・・・

 

「まさか、数発撃っただけで使えなくなるとは」

「デバイスだっけ?専用武装として改修してもらう予定だったけど、これじゃあ無理っぽいね」

「ちょっと、このミオさんに見せてごらん・・・ほうほう」

 

 暇を持て余していたミオさんが立ち会ってくれていた。

 ヴァイスとアルトをペタペタ触って何をを確認している。そんなのでわかるのですか?

 

「あーこれじゃダメだね。多分だけど二人はもう既存のデバイスを使えないよ」

「そんな~」

「結局、戦闘の基本は素手での格闘戦ですか」

「マサキもだけど、キミたちの覇気は凶悪すぎてデバイスの性能が追い付いて来ないんだよ。サイたち天級だってそう、使用武器は自分自身が長い年月をかけて鍛造した神格武装ぐらいだね」

「私たちのスペックに合ったデバイス、一から造ってもらうしかないね。パパにおねだりしよう」

「サトノ家の財政状況でそれは厳し・・・ああ、そうだ、アレとコレをああしてやれば・・・いけるな」

「お、シロちゃんが何か閃いたようだ」

 

 デバイス・・・私たちにピッタリな素体・・・心当たりがある。

 

「アルトとヴァイスはどうする?」

「このままお蔵入りはもったいないですね。強化プランも一応考えてたのですが」

「はいはい!要らないなら、私がもらっていいかな」

「ミオさんにですか・・・ふむ」

「アインストの技術で魔改造してあげる」

「そのお話乗った!」

 

 アルトとヴァイスは後日、正式にミオさんに譲渡することとなりました。

 願わくばよき使用者に恵まれますように。

 さて、私たちも自分用のデバイスを準備しないと・・・都合よく二つとも解体(バラし)作業が済んでいます。

 

 一方その頃、リビングで駄弁っていたサイさんとガッさんは

 

「ねえ、今思い出したんだけど。私のディスカッター返してくれる?」

「なぜ私に聞く」

「しらばっくれんな!アンタが持ち逃げしたのは知ってるのよ、ガー子」

「持ち逃げじゃない、借りパク」

「一緒じゃボケ!それで、今どこにあるの」

「さあ?数年前、とある物好きに売った後どうなったかは知らない」

「こいつは・・・売る方もだけど、買う方もアホね」

「いい値がついたよ。ありがとう」

「満面の笑みが憎たらしい。アレはマサキか、その愛バに譲渡するつもりだったのに~トホホ」

「じゃあ、結果オーライ」

「何が・・・ああ、そういうことか。今の持ち主、剣は使えるの?」

「知らない。でも、ディスカッターをその場で軽々振り回していたのは見た」

「ふーん。私の得物を振り回したねぇ・・・なら問題ないか」

「そうそう。私の行動(借りパク)には意味があったの」

「その件は許してねーからな」

 

 女神様の真名は浮かんできません。

 思いつく限りのスーパーロボット名をあげてみたがダメでした。

 そんなこんなで、愛バ会議開催当日を迎えるのであった。

 



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狙ってます

 マサキさんの実家で暮らすことにも、すっかり慣れ親しんだ今日この頃。

 無事に覇気を取り戻した私たちは、天級騎神たちの庇護下で修練の日々を送っていた。

 花嫁修業も兼ねているので、家事手伝いやご近所への挨拶回り、お義母様であるサイさんにいい嫁アピール(ポイント稼ぎ)も忘れずに行っています。

 インモーたちにつけられた差を埋めるべく精進あるのみです。

 仕事の合間を縫って父とハートさんも何度か様子を見に来てくれました。

 リモートで十分なのに、子離れできない両親で困りますよ。本当に親バカなんですから。

 愛されているのは誠にありがたいことですね。心配かけた分のご恩はそのうちお返しします。

 

 そんなこんなで、愛バ会議の当日がやってきた。

 

「準備オッケー。そろそろ出発しちゃおうよ」

「せっかちですね。そんな装備で大丈夫ですか?」

「一番いいのを頼んだからね。問題ないない」

 

 今日の服装はひと味違います。

 ここ最近のラフな普段着(ネオさんからもらった"うまむら"の服)ではない。

 サトノ家特製、黒色の戦闘服を着用しています。

 従者部隊の制服としても採用されているこの服は、フォーマルからカジュアルまで幅広く取り揃えておりまして、小物類やオプションも大変充実している。

 突発的な戦闘や冠婚葬祭にまで対応している。まさに"勝負服"

 レース選手が着ているヤツとは素材もかかった費用も桁違いなのですよ。

 恋敵に会うのだ、服装だって気合が入るってもんです。

 なにせこれから向かう戦場は正しく"修羅場"なのだからなぁ!

 

「サイズピッタリですよ。流石ハートさん」

「芸能人になる前のママはスタイリスト志望だったからね、これぐらい朝飯前だよ」

「一回のハグで全身を採寸するとは、恐れ入ります」

 

 クロちゃんの服装は肩と脇がモロ出しのミニスカートスタイル。

 なんだそれ誘ってんのか?胸元開き過ぎじゃね。

 私はフリルがあしらわれたドレスタイプを選びました。萌え袖?鬱陶しいので今回はオミットしました。

 戦闘も想定しているのでスカートの中はしっかりとインナーを着込んでいます。

 下着を見ていいのはマサキさんだけですから当然ですね。

 

「お、気合入ってるわね。まるでカチコミに行く前のヤーさんみたい」

「残りの二人がどんな子か気になるわ~。後でお話きかせてね」

「うむ。くれぐれも気を付けるのじゃぞ」

「お土産、ラーメン以外でお願い」

「ケンカするなら広い場所でね。そうだ!スマホ出してくれる、渡しておきたいものがあるから」

 

 天級の皆さんがお見送りをしてくれます。

 シュウさんと愛バお二人はお仕事で会社に戻りました。ルクスのせいで余計な仕事が増えたようです。

 師匠は「日帰り富士登山だっ!」と言って早朝ダッシュした姿を最後に見ていません。

 グラさん曰く「いつものことじゃ」なので問題ないのでしょう。

 

 私のスマホに手をかざすミオさん。

 

「今何をしたのですか?」

「元気が出る音声データを少々、暇な時にでも聞いてみて」

「ほう。流行りのASMRですか・・・ちょっと興味あります」

「シロちゃんズルい。私もほしい」

「ダメです。あなた私以上にスマホ壊すでしょうが!今何代目ですか?」

「27代目・・・今使ってるのは超合金製の特注品・・・あはは、そりゃダメだよね」

 

 元気が出る音声・・・期待していいですか!十中八九マサキさんの声ですよね。

 松岡修造さんの応援集だったらどうしてくれよう。

 もっと!熱くなれよぉぉぉーーー!

 

 玄関前には黒塗りの高級車がスタンバってました。

 こちらを見た運転手が深々とお辞儀をする。

 インモーの指示でファイン家が迎えを寄こしたみたいです。

 

「では行って参ります」

「行ってきます」

 

 手を振るサイさんたちに見送られラ・ギアスを出発。

 

「到着までしばらくかかります。ご要望があれば何なりとお申し付けください」

「ありがとう。運転よろしくね」

「安全運転でお願いします」

「はい、お二人を無事にお連れするのが私の任務ですから」

 

 これといった特徴の無い運転手と会話した後、窓の外を眺めながら今後について考える。

 どんな顔して会えばいいのだろう、インモーにもう一人の愛バ・・・

 オルゴナイトはまだ使えない、女神の真名なんてわかんねぇよ。

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「あらら、もう寝てますよ」

 

 クロちゃんはイベントの前日に興奮して寝不足になるタイプ・・・私も少し仮眠を取った方がいいかも。

 到着すれば起こしてくれますよね・・・ふぁぁ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今しがた出発なさいました。私も後を追います」

 

 警護対象であるお嬢様が乗った車を見送りながら定期連絡を入れる。

 ステルスモードで待機させておいた車に乗り込む寸前、こちらを向けられた視線を感じる。

 

「やはり気付いてましたか。天級なら当然ですよね」

 

 煌めく白銀の髪を持つ女性、その視線を真っ向から受け止めた後に会釈をしておく。

 顔を上げた私に、彼女は何かを言っている。

 この距離では声は届かない、口唇術で唇の動きから意味を読みとる「お願いね」ですか。

 

「はい。この命に代えましても」

 

 あの方がマサキさんのお母様・・・今度はゆっくりとご挨拶したい所ですね。

 車に乗り込み発進させる。

 今、お嬢様たちの警護任務に当たっているのは私一人。

 世間の騒がしたルクスなる不審者のせいでサトノ家従者部隊も大忙しなのです。

 「単独任務だけど、君なら大丈夫」と任せてくれた頭首様の期待に応えるためにも頑張ります。

 車の免許ですか?ウォルターが内緒で教えてくれましたから何も問題ありません。

 走った方が速いのは百も承知してます。

 この世界、公道でのウマ娘による全力疾走はいろいろと規制があるのです。察してください。

 あぅ・・・見失っちゃう。安全運転で急がないと。

 

「綺麗な子だったわね、知り合い?」

「さあね。おそらくはサトノ家の従者部隊員でしょ」

「見たことない顔じゃが超級騎神かのう、かなりの強者じゃて」

「あの子ヤバイ、覇気に属性が宿ってる」

「うぇ!それって最早私たちの同類じゃん」

「「「「お前は違う!!!!」」」」

「えー私違うのかぁ。昔は頑張って地属性っぽい攻撃していたのになあ」

 

 最初からウマ娘ですらない上に、先日、アインストも辞めてしまった。

 こいつは一体何を目指して生きているのだろう?

 アインストじゃなくてアンノウン、正体不明のヒト型生命体の友人にジト目を向ける一同。

 

「そもそも地属性って何?意味わかんないんだけど」

「それ言っちゃう!地震を起こしたり、岩を出したりぶつけたりとか・・・いろいろだよ」

「地味」

「無駄に硬い」

「茶色か黄色」

「運動性悪そう」

「酷い!全世界の地属性キャラに謝って!」

 

 地属性が大活躍する作品って何かあったかな。知ってる人は是非教えてください。

 

「気のせいか・・・」

 

 今の覇気・・・一瞬だけど、マサキがヒョッコリ帰って来たのかと錯覚した。

 もしかして、マサキにドレインされた経験者では・・・微量だが覇気が混じることもあるって聞いてるし。

 うちの子、ああいう清楚系も好きなはず。

 クロちゃんやシロちゃんとは、また別の魅力と気品に溢れた子だったな。

 

「いや、まさかね」

 

 バカな妄想がよぎった頭を振る。

 従者部隊なら彼女たちの部下に当たる。そんなこと起こりえない。

 でも、あの子なら・・・いい勝負になる。

 クロシロちゃんと"真っ正面から殴り合い"が出来る子だと、そう思ってしまった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 車が停車し、ドアの開閉音がしたような気がする。

 どれぐらい眠っていたのだろうか、隣でクロちゃんが身動ぎする音が聞こえる。

 

「ふぁ・・着いたの?」

「そうみたいですね。運転手さ・・・あれ?」

 

 どこにいったのでしょう、姿が見えませんね。

 突然の便意にでも襲われたのでしょうか?だとしても、一言も告げずに下車するか・・・

 というかここは何処だ?周囲の景色からすると採掘場跡のように見えるが、インモーの指定した場所は都市部にある某ホテルのラウンジではなかったか。

 ガチャ・・・おう、扉にロックがかかってます。放置された上に閉じ込められました。

 

「運転手さん戻ってこないね~。これはアレかな」

「アレですね」

「「嵌められた!!」」

 

 インモー!愛バ会議とかハッタリかまして、私たちを亡き者にする算段か!!

 後方から何か来てる。トラックか・・嫌な予感がする。

 

「ジタバタしても仕方ありません。ここは怯えてテンパっている振りでもしておきましょう」

「あ、トラックから誰か出て・・・わぉ、団体さんだ」

「囲まれましたね」

 

 猛スピードでこちらにやって来た数台の大型トラック。

 停車してすぐに、開け放たれたトレーラーからゾロゾロと人が降りて来た。

 ざっと30人って所か、それより何だこいつら?お揃いの妙な格好しやがって。

 変なゴーグルを装着し、腕部と脚部に重火器を思わせる機器がくっついている。

 

「明らかに友好的ではない様子。インモーの指示でしょうか?」

「どっちでもいいよ。邪魔するなら倒すだけだし。それよりも、姿だけじゃなく覇気も同じなんて気味が悪い」

「その様に造られたのでしょうね」

「まともな人間じゃなかったか、人造人間?」

「ミオさんに教えてもらった、戦闘用アンドロイド"量産型Wシリーズ"だと思いますよ。確かファイン家が所有しているのだとか」

「マサキさんが戦闘した奴らか、ファイン家産ならインモーの容疑が濃くなってきたね」

 

 無言の集団に取り囲まれるのはあまりいい気分がしない。

 ドアをぶち破って逃げるべきだろうか。

 

「ターゲット二名を確認。これより殲滅行動に移行する」

 

 聞こえました?殲滅行動ですってwww参ったね。

 ガシャンッ!とアンドロイドたちの腕がスライドし砲身が現れる。

 

「排除開始」

 

 豪快ですね~グレネードランチャーの集中砲火で車ごとドカン!ですか。

 着弾までの僅か、相棒の目を見て会話。はいはい、わかってますよ。

 

 私たちを乗せた車は予想通り大爆発炎上しましたとさ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 1週間前。

 メジロ家が管理する特定犯罪者収容施設。

 

「バカな!脱走者だと。警備の者は何をやっていたんだ」

 

 緊急招集された人員の一人。カイ・キタムラは不測の事態に頭を抱えていた。

 外部からの侵入者によって凶悪犯罪者が一名脱走したとのことだ。

 

「口で説明するより、監視カメラの映像を見て頂いた方が速いです」

「こいつは・・・ルクス!」

 

 現在進行形で世間を騒がせているルクス(変態仮面)。

 そいつらしき人物が施設の正面から堂々と侵入、囚人の一人を伴いごく自然に退出していく様子が映し出された。

 

「何故だ?目の前で開錠されているのを黙って見ているだと」

 

 カメラに映る警備員は棒立ちで微動だにしない。

 まるで、ルクスと脱走者以外の時が停止しているかのようだ。

 ルクスのかざした手から一瞬光が発せられている。何かしているのは間違いない。

 

「施設全体の時が停止した訳ではないようです。止っていたのはルクスの付近にいた警備の者のみ」

「仕組みはわからんが、一定範囲内の相手を停止させる術か・・・ふざけているにも程がある」

 

 こんなものを自由に使えるのであれば、ルクスの捕縛など夢のまた夢ではないか。

 厄介だ、この力についても報告しておかなければ。

 

「ルクスについては後回しだ。奴が逃がした囚人は?」

「こいつです。やっとのことで逮捕出来たというのに残念です」

「クソッ!レーツェルに何と言えばいいんだ」

 

 逃げた囚人はマサキと因縁のある人物、その名をアーチボルド・グリムズといった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 そして現在、人が寄り付かない採掘場跡にて、炎上する車を見ながら高笑いを上げる者がいた。

 

「ひゃははははははっっ!あ~開戦の狼煙としては些か派手でしたかねぇ!」

 

 奇声を上げながら楽しそうに顔を歪める男。

 Wシリーズを引き連れてトラックから降りた彼は血走った眼をギョロギョロ動かす。

 そうかと思えば、途端に冷静さを取り戻しアンドロイドに指示を出す。

 精神は既に破綻している、男はとある人物への復讐心のみで活動中の狂人。

 

「まだ生きている。警戒を怠るな」

「了か・・い・・」

 

 刹那「了解」と返答を試みたアンドロイドの内、一体の首から上が消失した。

 

「ひゃは!そうこなくては」

 

 頭部を失い崩れ落ちる者を尻目に、男はそれを視界に収める。

 黒い戦闘服に身を包んだ黒髪のウマ娘、紅い瞳を爛々と輝かせ戦利品の頭部を相棒へほうり投げる。

 

「シロちゃんパース」

「うわっ!生首なんていりませんよ!」

 

 と言いつつ律儀に受け取ってしまった。

 乱暴にもぎ取られた首からは機械部品や導線が露出して痛々しくもグロい。

 ロボでよかった。

 

 爆発した車の中から奇跡の生還!種も仕掛けもありありです。

 ただ単純に私が覇気で防壁を展開、爆炎を上げる車内からそっと退避。

 その後にアンドロイドの指揮をとっている人物を確認。

 我慢できなくなったクロちゃんが、敵の頭部をお持ち帰り~。

 それだけです。

 

 うーん、よくできてますね。これにもEOTが使われているはず、詳しく調査したい所です。

 もしアンドロイドが普及すれば、身の回りの雑用をお願いしたい。

 どら焼き好きのタヌ・・ネコ型ロボットはいつ実用化されるのでしょうか?

 

「戦闘続行不可能、コードATA発動」

「ん?なに・・」

 

 生首が何か呟いた。そして自爆しやがった!

 

「サトイモ爆殺☆」

 

 しとらんわ!嬉しそうに何てことを言うのだろうか、このキタサンは!

 ゲッホッ!うへぇ・・・三日前なら今ので死んでたぞ。

 ダメージ確認・・・ちょっとむせただけ、痛くも痒くもないわ!

 頭部や顔面にボールの直撃を受けたり、私こんなんばっかですよ。

 毎回同じネタで弄られる芸人のような扱い。

 

「なるほど、やられると自爆するんだ。注意しようねシロちゃん。」

「なるほどじゃないですよ!ちょっとコゲちゃったじゃないですか!私だからこの程度ですんでいますけどね」

「ああ、それだ!そのふざけた感じ・・確かにお前たちは奴の愛バだ!!」

「何このおじさん、情緒不安定で怖いんだけど」

「あなたは誰ですか?私たちがサトノ家の者だと知っての狼藉ですか」

「キミたちの操者に随分と世話になった者ですよ。ええ、本当に大きなお世話にねぇ!!」

「マサキさんの敵か、やっちゃっていいよね」

「名前ぐらい聞いてあげましょうよ。興味ないですけど」

「アーチボルドだ。アンドウマサキをぶち殺したくて仕方がないんだよ!この僕があんなアホな男に好き放題やられて・・・どれほどの苦痛を味わったことか!!」

「どうせ自業自得でしょ。性根が腐ってそうだし」

「覇気が汚ったねぇな。クズ特有のゲロ以下臭もします」

「ああ~ムカつくムカつくイラつくぅぅぅ!操者はゴミクズ!その愛バもゴミクズだぁ!!」

「ゴミにゴミって言われたww」

「マサキさんへの侮辱は許しませんよ。その口、二度ときけないようにしてやろうか」

 

 頭を掻きむしり、地団駄を踏んで怒り狂うクズ。

 

「それで?あなたを寄こしたのは誰ですか?」

「善意の協力者がいましてね。キミたちを自由にしていいそうだ」

「ルクスですね」

「アホの愛バにしては利口だな。そうだ、ルクスが私を解き放ってくれた」

「インモーの容疑が晴れた」

「本当なら奴を直接ブチのめしてやりたいが、いないなら仕方がない」

「「・・・」」

「聞いているぞ。別の世界に飛ばされたんだろうwwざまぁないなぁwwひゃははははははは」

「「・・・」」

「今頃、野垂れ死んでいたりしてなぁ!愛バのキミたちはどう思う?んんん?」

 

 私とクロちゃんは同時に動いていた。

 覇気弾を無言で射出!狙いはクズの顔面。笑うな!マサキさんをバカにするな!!

 あの人が、私たちを残して死ぬわけねーだろうが!

 

「おっと、危ない危ないw」

 

 ちっデバイスか!

 クズの腕に現れた白い装甲が覇気弾を防ぐ。

 

「ルクスから玩具をもらったようですね」

「僕のデバイス、グラビリオンですよ。防御性能は折り紙付きぃぃぃ!」

「それはよかった。時間をかけて痛めつけてあげる」

「こちらのセリフですよ。操者への恨みは愛バを苦しめることで晴らせるぅぅぅ!」

「悪趣味ですね。お前絶対モテないだろ!気持ち悪い性癖もっているだろ」

「楽しみだ!楽しみだなぁ!お前たちの亡骸を目にしたマサキはどんな顔をするのかなぁぁぁ!!」

 

 くそウゼェ・・・早く黙らせた方がいい。

 野放しにしておくのは精神衛生上よろしくない。

 こいつの存在でマサキさんが不快な思いをするのは嫌だ。

 

「んん?やる気になったかぁ!だが、僕は野蛮な獣を相手にする趣味は無い!」

「は?ふざけたこと言ってないでかかってこいや」

「玩具はまだあるんだよ!お前たちにピッタリな玩具がなぁ!」

「クロちゃん!一旦下がって」

「ちっ!」

 

 トレーラーの奥にまだ何かいる!?

 危ねぇ!先程までクロちゃんがいた場所へ向け、ビームが照射された。

 続いてトレーラの外壁を内部から突き破った何者かが私の方へ突撃してくる。

 大きさ2mちょい、紅白の装甲・・・PT!しかもこいつは。

 右腕に装備されたアレを打ち込むそぶり!?それはちょっと困る。

 

「アルトアイゼン!無人機版が組み上げられていたとは」

 

 誰だ!ロボにする計画はあったけど許可してねーぞ!著作権どうなってんの?

 まずい、私が考えたスペック通りの性能ならステークを食らえばタタでは済まない。

 クロちゃんの方へ行ったのは・・・

 

「ぎゃーーー!!ビームと実弾の雨あられ!ヴァイスリッターだよ、シロちゃん!」

 

 ですよねー!二体での運用がデフォルトです。

 

「アンドウマサキの愛バを騙るなら、この程度の相手は楽勝だろう?ひゃはははははっ!」

「クソっ!」

「シロちゃん。コンビネーション!こっちも上手いことやらないとヤバイ!」

「わかってますよ!」

 

 クズ一人ならともかく、アルトとヴァイスのPT版は予想外だ。

 この短時間でわかった。このPTメチャクチャ完成度が高い!予想だがEOTも組み込んで私が想定した以上のスペックを叩きだしている。

 戦闘データは私たちのものを流用されているはずなのに、やりにくいったらありゃしない!

 どうする?二対二でやった方がいいのか?

 私とクロちゃんの連携を上回る動きしそうなんだけど・・・そうなった場合追い詰められるのはこっちだ。

 

「目の前のPTを私だと思ってぶっ飛ばせ!」

「了解!そっちの赤カブトムシは私ってことで」

「周りの雑魚も来るぞ」

「自爆にも注意」

 

 アンドロイドもチクチク攻撃してくるから面倒くさい。

 機械だけあって、アルトとヴァイスの攻撃の間を縫うように撃って来るから油断できない。

 

 足りない・・・これじゃあ、全然足りない。

 私たちは、マサキさんの愛バなのに、こんな奴らに手こずっている場合じゃないのに!

 畜生っ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そこをどいてくださいませんか?」

「まあまあ、そう言うなって。暇ならちょっとお茶でもどうよ?」

 

 ヘラヘラと近づいて来た相手に蹴りを見舞うがヒラリと躱される。

 

 お嬢様たちが乗った車を追跡中だったアルダン。

 ファイン家が指定した目的地から外れて行く車を不審に思いながら追尾していた所、彼女は現れた。

 

 突然、車のボンネット上へと落下して来た彼女に驚き運転を誤る。

 お嬢様たちの車を見失しなったあげく、私の車は横転した。あぅ・・事故ってしまいました。

 「おーい、生きてる?」と声をかけてきたのは白い毛並みをなびかせた長身のウマ娘。

 誰のせいで事故ったと思っている!

 即座に立ち上がり臨戦態勢を取った。敵か?相手の意図がわからないが邪魔をしたのは事実だ。

 

「急いでいるんです。邪魔をするなら容赦しません」

「おお~。これがあいつの・・・へぇーほぅ~。いい趣味してんなぁ」

「ジロジロ見ないでください」

 

 無視して通り過ぎようとした所、先回りされて通せんぼ・・・イラっとしました。

 なんでしょう?この方・・・ものすごくものすごーく腹が立ちます。

 

「そりゃあ、同族嫌悪ってやつかもよ」

「何を・・心を読まないでください」

 

 何が同族だ!身内にこんな変な子は・・・いないですよね?

 

「サトノ家従者部隊の任務中なのです。あなたに構っている暇はない」

「こっちも一応仕事中なんで、構ってほしいぜ」

「誰の差し金ですか!」

 

 デバイス雷鳳顕現!雷を纏った蹴撃を放つ。

 

「ラーメン好きの上司だよっと。やれやれソウルゲインは修理中なのによぉ」

 

 この人強い!私の雷に怯むことなく蹴りを蹴りで相殺してきた。

 

「あの二人が心配なのはわかるけどよ。これも必要な試練ってことで、アルダンは私と遊ぼうぜ!」

「私を知ってる?あなたは一体」

「ばあちゃんから聞いたことあるぜ。1stでの二つ名は"割れないガラス"」

「そのような名を授かったことはありません。人違いでは?」

 

 会話中も拳と蹴りのラッシュは止まらない。

 初対面のはずですよね?この呼吸・・・マックイーンに似て・・き、気のせいですよね。

 

「人違いっちゃあそうだけど。近くて遠いご縁ってヤツがあるかもな」

「戯言に付き合う気はありません」

「そうかい。こっちも試してみるか、出番だぜ!アシュセイヴァー!」

 

 デバイスを出された。今まではお遊びでしたか・・・

 

「えーと何々・・・お、これいってみよう!それ行け!ソードブレイカーっ!」

「っ!?」

 

 何か飛ばした?来る!

 

「操作めんどくせぇ!オートでやれオートで!」

「無線誘導兵器」

 

 実体の刃が備えられた6機のビットが縦横無尽に動き回り、こちらを切りつけに来る。

 無線誘導によるオールレンジ攻撃!死角からの攻撃はズルいです。

 話は変わりますが、この前、従者部隊恒例アニメ鑑賞会でガンダムを見ました。

 そこにファンネルやビット、ファングといった兵器が出てきたのですが、まさにそれですね。

 

「おいおい!これだけやって全部躱すのかよ!イカれた空間認識能力だな!」

「レーザーによる射撃、実体刃とレーザー刃の使い分けもできる・・・よい兵装です」

「こいつはどうだい、ハルバートランチャーってなぁ!」

 

 長槍型の銃身を展開し、複数のレーザーを一斉発射する。

 直撃コース!?ソードブレイカーで着弾地点へと追い込まれたようだ。

 やりますね。気安い言動に反して、その攻めは精密で容赦がない。

 

「ですが・・・私と雷鳳の敵ではありません」

「のわっ」

 

 バチバチと青い放電をまき散らし、脚部のブースターを展開!

 全身をしならせた回転蹴りが宙に弧を描く。

 アルダンを中心に衝撃波のサークル(雷撃付き)が生まれた。

 発射されたレーザーを全てかき消し、周囲の木々をなぎ倒す。

 

「ひゅー!まとめて吹き飛ばしやがった。無茶苦茶するなアンタ」

「次は直接当てます。逃げるなら今の内ですよ」

「逃げたいのは山々なんだがなぁ。言っただろう、仕事なんでな」

「むぅ。思ったより真面目さんですね」

 

 無理難題を振られても職務放棄しないのは従業員として立派だと思う。

 信頼できる同僚や上司に恵まれているのだろうか?社畜?

 いけない、このウマ娘は敵だ。集中集中しないと。

 恐らく悪い人じゃない・・・でも、今は邪魔だ!!

 お嬢様たちに何かあればマサキさんが悲しむ。それは絶対にあってはならない!

 

「恩人の幸せを奪う輩は、私がすべて蹴り砕く!!」

「恩人と書いて、好きな男と読むってか。愛されてるなマサキの奴」

「マサキさんを知っている?か、彼はただの恩人です・・身も心も捧げたいぐらい愛しているなんて、言ってませんよ!!ええ、ホントにちょっと結婚して生涯を共に過ごしたいだけですから!」

「あ、はい(ヤベェな!納得のマサキの愛バ3号ww)」

 

 一人で勝手に惚気た上に照れながら攻撃を仕掛けてくる。

 そんなアルダンを見て安堵するゴルシ。

 自分で言うのもアレだが、私のハジケ具合は血筋の影響が大きいと思う。

 メジロの血・・・恐ろしいぞ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おーい、見ているだけでいいのか?」

「まだ早いよ。みんなも指示するまで動かないでね」

「「「「御意!」」」」

「ゴルシは大丈夫かね。結構ヤベェ奴なんだろメジロの秘蔵っ子はよ」

「ゴルシちゃんなら何とかするよ。メジロ家にはメジロ家の末裔をぶつけてみましたw」

 

 少し離れた場所にて部隊を展開しつつ、採掘場で行われている戦闘を見守る一団がいた。

 ファイン家頭首とその参謀に十数人の部下たちだ。

 気配遮断の隠形術を周囲に張り巡らせているので、向こうはこちらに気づいていないだろう。

 キタサトちゃんを翻弄する二体のPTと数十からなる量産型W、二人ともピンチだね。

 

「過激派連中はどうなった」

「一網打尽にしてやったよ。面白いように釣られてやんのw」

「悪い女だ」

「そうだよ、知らなかったの?目的のためなら友人だってダシにしちゃう」

 

 第一回愛バ会議。その裏でファイン家は二つの作戦行動を取っていた。

 

 一つ目、かねてからの懸念事項であった1st過激派を炙り出し、一掃すること。

 1st出身者の中には2ndに馴染めず、ファイン家から離反していく者たちも少なくはない。

 それだけならまだいい、問題なのはベーオウルフとルシファーへの恐怖と憎悪に狂った者たちだ。

 破壊獣の幼体だとみなされた二人のウマ娘、キタサンブラックとサトノダイヤモンド。

 彼女たちの殺害を望む彼らは過激派と呼ばれ、2ndとの融和を図り、サトノ家の子らに手出しすることをよしとしない穏健派と対立関係にあった。

 一時期「メジロ家と組んでサトノ家を根絶やしにしろ!」なんて真面目に訴えてきたこともあったな。

 過激派の気持ちはわかる、しかし、何も知らない彼女たちをただ排除して「はい、世界は平和になりました」とはいかないだろう。

 ここは2ndだ、1stとは違う結果と歴史を歩む似て非なる別世界。

 ならば、彼女たちが彼女たちのまま生きている世界を望んだっていいはずだ。

 結果を急ぎ過ぎた悪い子たちは、このファインモーションが止めるから覚悟して!

 

 愛バ会議の日時をリークしてあげると、待ってましたとばかりに入れ食い状態。

 天級を恐れ、ラ・ギアスでは手を出せなかった過激派は、今日一気に動いた。

 それをまとめて潰した。

 今頃、ハゲが率いる元教団部隊(どう見ても毛狩り隊w)が後始末を完了しているだろう。

 

 二つ目はこれからだ。

 

「過激派の奴らめ。まさか、ルクスを頼るとはな」

「予定調和だよ。過激派だけの戦力じゃ蹴散らされて終わりだろうし、こっちの方が都合がいい」

「ファイン家頭首としては正しい判断だ」

「でしょ。何も問題ないよね」

「あいつらのダチとして、マサキの愛バとしてはどうなんだ?」

「それでもやるよ。汚れるのも罪を背負うのも私の役目、これは誰にも譲らない」

「付き合わされる方は堪ったもんじゃねぇな」

「無理強いはしないよ。嫌ならいつでも辞めていいからね」

「アホか、ラーメン食うしか能がねぇガキを残して何処へ行けってんだよ。そうだろお前ら」

 

 シャカが後方に控えた部下たちに声をかける。

 うんうんと、示し合せたかのように頷く部下たちは思いの丈を漏らす。

 

「そうっスよ!頭首様。もっと俺たちをアテにしてくださいッス」

「素はヘタレで根暗なんですから、ご無理をなさらぬように」

「極稀に醤油ラーメンと味噌ラーメンの区別がついてないの草www」

「マサキさんにデレデレなの可愛すぎる!」

「うどんを敵視するのやめてくれませんか?」

 

 みんなありがとう。

 何人かは不敬罪で、四葉のクローバー100本(野生)を収穫するまで野宿の刑だ。

 

「みんなデバイスは持ってきたかな。よしよし、ランドグリーズ隊!顕現しちゃってよ」

「「「「了解!!」」」」

 

 部下たちの内、デバイス持ちの10名がお揃いの腕輪に触れる。

 一瞬の輝きの後、緑色の武装を纏った姿に変わる部下たち。

 ランドグリーズは1stで運用されていた重装甲の砲戦型デバイス、左肩にマウントされたリニアカノンによる長距離砲撃が得意。

 

「いつでも撃てるように準備しておいて、勝手に撃ったらダメだよ。あれ?シャカは装備しないの」

「俺はこいつでいい。弾は例のアレだ」

 

 シャカは長方形のケースから長銃を取り出す。

 ブーステッドライフル、威力射程共に狙撃にはもってこいの武器だ。

 

「凄く似合ってるよ。一発勝負になるから外さないでね、スナイパーヤンキーw」

「うるせぇ、というかお前のデバイスは間に合ったのかよ」

「今出すからちょっと待って・・・うんしょ、ラーズアングリフ!セットアップ」

 

 ファインモーションが纏ったのは紅い武装。

 修理中のアンジュルグに代わり用意した新たなデバイス、ラーズアングリフ。

 部下たちが装着しているランドグリーズをベースに各種能力を強化したカスタム機。

 砲撃戦用の機体であり、武装は実弾兵器に纏めている。機動性は低いが厚い装甲と多彩な防御機構を有しており、長射程の武装で敵を近づけさせない事も相まって、堅牢な守りを誇る。

 強化分の重量や要求する覇気が増加しており、並みの騎神では動かすだけでも一苦労の問題児でもある。

 

「そいつをまともに動かせるとはな」

「これもマサキと契約した恩恵だね。重厚感がしっくりきて怖いぐらい」

 

 契約の恩恵は本当に素晴らしい。

 基本能力は上昇し、感覚が研ぎ澄まされ、視野も広くなった。覇気の流れもより深く感じ取れる。

 結果、デバイスとの親和性が向上し、以前は使えなかった武装を扱えるようにもなった。

 最高の操者であるマサキの愛バになった、その特典を嫌というほど感じてしまう。

 

 右背部に折り畳まれて装着されている長身のリニアカノン。

 フォールディングソリッドカノンに、今日のために用意した特殊弾頭を装填する。

 砲身を採掘場にいるターゲットへ向けたまま待機姿勢。

 

「俺はどっちを狙えばいい?」

「キタサンブラックをお願い。私がサトノダイヤモンドを仕留める」

「優先すべきなのはベーオウルフじゃないのか」

「わかってないな~。1stに直接的な被害を及ぼしたのは確かにベーオウルフだよ。だけどね、本当に恐ろしいのはルシファーの方。あいつの狡猾さと残虐性が世界の滅びに繋がった」

 

 単純な破壊活動は本能のまま暴れ狂うベーオウルフが上だ。

 しかし、長引く戦火の最中、ルシファーは頭を使うように進化した。

 対象をただ捕食したり殺すのではなく、オルゴナイトの浸食により自身の手駒にすることを覚えた。

 人間、ウマ娘、無人機を自分たちの眷属化し軍団を編成し運用する。

 コンピューターや電子機器をハッキングし、こちらの裏をかいたり、重要拠点を優先的に攻撃する。

 戦略級の超兵器を支配下におき使用されたこともある。

 トライ&エラー楽しむかのように一つ一つ丁寧に経験し学習し、更なる攻め手を繰り出してくる。

 それをいつしかベーオウルフも模倣する始末。

 気付いた時、二体の破壊獣は手が付けられない存在と化していた。

 

 優先して殺すべきなのはルシファーの方だ。

 

「マサキが残してくれた力、こんな風に使うなんて・・・自分は本当に最低な女だよ」

 

 マサキが転移した後の教団神殿跡、クロスゲートと共に回収された物がある。

 それは、現場に残された僅かな緑の結晶体、オルゴナイトの塊。

 殆どは粒子化の後に風化していくはずなのだが、結晶化したまま形を維持している物を発見。

 ファイン家の技術部に運ばれたそれは二発の特殊弾頭に加工された。

 

 一発はブーステッドライフル用のライフル弾。

 もう一発は、ラーズアングリフのフォールディングソリッドカノン用の炸裂弾。

 

「殺傷能力はアングリフの炸裂弾がどう見積もっても上。だから、私がサトノダイヤモンドを狙う」

 

 緑のオルゴナイトは紅いオルゴナイトの浸食を跳ね除ける。

 そればかりか、逆に浸食を上書きした光景を確かに見た。

 マサキと女神の力が宿ったこの弾頭こそ、ベーオウルフとルシファーへの特効兵器だ。

 命中すれば破壊獣をきっと殺せる。

 もしこれが1stで量産されていたら・・・それは、考えても詮無きことか。

 

 今日、愛バ会議が開催されるのは、キタサトちゃんの二人が試練に打ち勝ってからの話だ。 

 ルクスでも過激派でもいい、何なら私がやってもいい。

 二人をギリギリまで追い込む、そして内に秘めた獣を解き放ってもらう。

 その結果、再び破壊獣と化すならば・・・責任をもって殺してあげる。

 二人が世界の希望になるか、絶望になるか、見極めさせてもらう。

 これが二つ目の作戦だ。

 

「恨んでくれていいよ。マサキに嫌われちゃうのはキツいけどね」

「なあ、あいつらが覚醒することなく、このままやられちまったらどうするんだ?」

「どうもしない。ここで倒れるなら、二人はその程度でしたってだけ」

「そこは厳しいんだな」

「ルクスと戦うつもりなら強くならないとね。それに、弱いウマはマサキの愛バ失格!」

「言ったな。その覚悟があるなら付き合ってやるよ頭首様」

「総員、待機状態を維持。もう少し戦況を見守るよ」

 

 ターゲットインサイト、この距離でも美しく成長した顔がよく見みえる。

 あらら、だいぶ切羽詰まっているねダイヤちゃん。

 できれば撃たせないでほしい。

 本当は、今だって体が震え出すのを必死に抑え込んでいる。

 二人は友人であり、同じ男を愛する同類だ。殺したくはない。

 でも、その時が訪れたら躊躇はしないと決めている。

 

 これでも二人のことを信じている。

 マサキが選んだ子たちだもの信じるに値する。

 だから・・・どうかお願い・・・信じさせて!私たちを世界を裏切らないで!

 

「マサキ・・・キタちゃんとダイヤちゃんを守ってあげて」

 

 ここにいない操者に思いを馳せる。

 そうやって叫びたくなるほどの焦燥を受け流す。

 守ってと言いつつ、殺そうとしている。

 矛盾にまみれた自分の醜さを飲み込んで、狙い撃つ姿勢は崩さなかった。

 



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継承者

「ヤバイヤバイヤバイ!こいつら予想以上に手強いよ」

「弱音を吐いてる場合か!気持ちで負けはダメです」

「くっ、まさか二体のPTによってこんな苦しい戦いを・・・」

 

 お、前振りですか?前振りですね。

 こんな時だというのにヤレ!とおっしゃるのですね。

 いいでしょう、ダイヤ渾身の「いつか言ってみたいセリフ」とくとご覧あれ!

 

「強いられているんだッ!(集中線)」

 

 成し遂げたぜ。顔もバッチリ決めてやりました。

 

「何で?何で唐突に集中線つきで激高したの!?その濃い顔やめてよ!」

「あれ?お気に召しませんでした。そっちが振った癖に」

「たまにシロちゃんのことが本気でわからなくなるよ」

「それはお互い様です」

 

 どんなピンチでもお約束をやってのけてこそ一流。

 それが大人の余裕だと私は思うのです。

 

 迫りくるアルトアイゼンとヴァイスリッター。

 赤と白、二体のPTに私たちは大苦戦中。

 アルトの執拗な突撃、愚直なまでの猪突猛進っぷりがすこぶる厄介だ。

 ヴァイスはその機動力を生かした強力な移動砲台と化している。空飛ぶのズルい!

 両機とも、ものすごく見覚えのある動きで攻撃してくるのが余計腹立たしい。

 

「戦闘データの引用元はさぞ野蛮な狂人に違いないです」

「そうだねーどこのバカだろうね」

「「・・・・」」

「「そうだよ!私たちだよ!」」

 

 言ってて虚しくなった。

 アルトとヴァイスの戦闘データ引用元は、ご存じの通り私たちですからね!

 なんてこった!一生懸命収集したデータをパクられたばかりか、刺客として送り込まれるとは。

 凹むわ~テンション下がるわ~。

 

「こういうときは、マサキさん(脳内妄想版)に慰めてもらうのが一番なのですが」

「右に同じ・・撃って来る、散開っ!」

 

 クロちゃんの声でその場を飛びのく、上空からってのがキツイな。

 ヴァイスのビームが私たち二人をまとめて薙ぎ払う軌道を描く。

 それを躱した先にはアルトのステークがお出迎え・・・おおっと、うん、知ってた!

 

「やらせるか!」

「ひゅー!ブラックさん素敵~」

「それほどでもあるよ」

 

 間一髪、クロちゃんがアルトを蹴り飛ばしその姿勢を崩す。

 杭打ちの刑を逃れたことに感謝しつつ、私は浮遊するヴァイスに向けて覇気弾をぶっ放す。

 避けんなボケ!素直に食らって落ちろってんだよ。

 

「まいったね。私たちより上手に連携してくる」

「恐るべきは機械ならではの正確性・・ちっ!周りのアンドロイドもめんどい」

 

 Wシリーズと呼称される、アンドロイドどもの攻撃も地味にウザったい。

 両腕の機関砲でこちらに射撃してくる。

 威力は大したことないが、気を取られている間にアルトとヴァイスが来てしまう。

 これの流れは非常にマズイ。気力が尽きるのが先か、体力が尽きるのが先か・・・

 どちらかが途切れた瞬間、負けが確定してしまう。

 

「ひゃはははははっ!手も足も出ないようですね」

 

 場違いな笑い声が戦場に響き渡る。

 最高に耳障りで癇に障る声だ。耳が腐るからヤメテね。

 

「「超ウザいんですけど!!」」

「ん~?焦ってますね~。こいつは大変だぁ~このままじゃ操者との再会など夢のまた夢」

「あんの野郎」

「こんなにイラついたのは久しぶりですよ」

 

 高みの見物を決め込んでいるアーチボルトの声が一々ムカつく。

 私たちが苦しんでいる様が最高に楽しいらしい。

 今気づいた。いつの間にか簡易テーブルと椅子が用意されている。

 両隣に護衛のアンドロイドを数体侍らせ、足を組んだ状態で椅子に腰かけるクズ。

 片手にはティーカップらしきものを持ち、香りを楽しみながら口に運んでいる。

 あームカつく!こっちは切羽詰まっているのに、悔しいです。

 その椅子とテーブル何処から持ってきた?優雅にお茶してんじゃねーよ!

 特等席でスポーツ観戦気分ですか、この野郎。

 

「ルクスには感謝しないといけませんねぇ。これで僕の留飲も下がるってもんです」

 

 別にお前を喜ばすために苦戦してる訳じゃない。

 ルクスと一緒にくたばれ。

 

「さあ、もっと苦しめ!無様に足掻いて、最後には惨たらしく絶命しろ!」

「「絶対にNO!」」

「ボロクズになった自分たちの死体を操者に、あいつに披露するんだな。ひゃはははははははっ!」

「そんな醜態を」

「マサキさんに見せられるか!」

 

 次にマサキさんと会う時は超感動の再会シーンだって決めている。

 もう何十パターンもシミュレーションしている。最高の演出で忘れられない瞬間にするんだ。

 こっちが死体だった場合は考えたくもない。

 

「威勢だけはいいガキどもだ。お前たち、こちらの損害を考慮する必要はない、早くそいつらを仕留めろ」

 

 クズの指示でPTとアンドロイドの動きがより苛烈になる。

 ガキか、確かにちょっと前まではガキでしたよ。

 でも、いつまでも子供ではいられない。

 体は大きくなったし、好きな人だっているんだ。

 たくさん助けてもらった分、今度は私があの人を助けてあげられるように、一人前にならなくては!

 

「シロちゃん。クズは後回しでPTに集中」

「わかってます。雑音はスルーしておきましょう」

 

 ああ、気に入らない。

 クズの嘲笑と存在はウザったいが、それ以上に気になっていることがある。

 ここに来てからずっと感じている視線・・・敵意というより同情や憐憫?

 ここからの距離は遠い、だが確実にいる。そこから観察しているな。

 そのピリピリくる熱視線やめてくれません?どこの誰だよてめぇ。

 

 いけない集中集中、まずは数を減らさないと、定石通り行きますか。

 

「決めた、奴から落とす」

 

 邪魔くさいアンドロイドに向けて射撃!覇気弾で牽制しつつ道を拓く。そら行け!

 

「おっけー!キタサンブラック突貫するよ」

 

 ヴァイス目掛けて突っ込んでいくクロちゃん。そうだ、奴を・・・

 そこへ割り込む機体アルトアイゼン、自身の相方を守らんと立ち塞がる。

 

「「やっぱり来たぁ!」」

 

 完全な予定調和、その動きは読めてました。

 だって、私が狙われたらクロちゃんだって庇ってくれる。くれますよね?

 

「そぉれ!」

 

 私たちの狙いは最初からお前だよ、アルト!

 クロちゃんの拳がヒット!ステークを上手にいなしてアルトの頭部を揺さぶる。

 頼もしき親友は、そのまま体をずらして射線を空けてくれる。

 ふふん。わかっているじゃないですか。

 両手の平に覇気を集中、指から爪の先までに力を通す。

 今回はこれでいってみる。

 

「はいそこ!」

 

 覇気弾の連射!

 一発の威力と精度を落とした分、弾数を上げた。

 無数の弾丸をご馳走してやるよ!

 よっしゃ命中!アルトの装甲に傷が入ったのを確認。

 

「今の乱射カッコイイね」

「マシンガン風にしてみました。来ますよ!」

「大丈夫、見えてるから」

 

 ヴァイスが左腕のビームキャノンをばら撒いて来たので躱す。

 おいおい、アンドロイドどもにガンガン当たっているがいいのか?そいつら一応味方だろ。

 まあいい、ダメージを負ったアルトが動きを止め、連携が崩れた今がチャンス!

 

 (どっち?)

 (ヴァイスは無視!このままアルトを叩く!)

 (おっけー)

 

 定石通り装甲が薄いヴァイスを先に落としたい所だが、どうせ援護防御で邪魔をしてくるアルトを先に・・・

 

「コードATA発動」

「いっ!?」

 

 何者かに足首を掴まれた?そう感じたと同時に爆発が起こり衝撃が体を襲う。

 防御、辛うじて間に合ったけど少しもらった・・・痛む体で受け身を取りつつ態勢を立て直す。

 今のは・・・またアンドロイドの自爆か?

 ヴァイスの流れ弾を食らって倒れていた一体が自爆したのか。

 まだ致命傷じゃなかっただろ、諦めんなよ。自爆は首もげてからにしろよ。

 最初から自爆する気だった・・・こいつら最早ただの特攻兵器だ!

 周囲を確認、とりあえず私の近くにアンドロイド(動く地雷)はいない。

 クロちゃんの方は・・・・!?

 

「そこはマズい!離れろ」

「え!?ちょ」

 

 クロちゃんが退避した先には、奴らが降りて来たトラックの一台が停車していた。

 そのトレーラー部分の壁を突き破りアンドロイドの増援が出現。うへぇ、おかわり来ましたよ。

 まだそんなにおったんかい!どんだけ持って来たんだ、積載量絶対オーバーしてるだろ。

 反応が遅れたクロちゃんになりふり構わずしがみつくアンドロイドの群れ。

 うわーゾンビ映画で見るシーンみたい、割といい奴から群がられて食われるんですよね。

 

「「「「コードATA発動」」」」

「しまっ!!」

「クロちゃん!!」

 

 閃光、轟音、爆発!

 クロちゃんに群がったアンドロイドがまとめて自爆した結果だ。

 

「ぐぁ・・っ」

「どけコラッ!!」

 

 クロちゃんの下へ急行!よかった、まだ生きているな。ちょっと焦げてるけど。

 マズいな、今のは結構なダメージだ。

 更に群がろうとするアンドロイドを蹴り飛ばし、クロちゃんに肩を貸す。

 

「予定変更。全力で逃げます」

「賛成・・上手く行くといいけど・・痛っ」

「しっかり、マサキさんにまたブラッシングしてもらうんでしょ!」

「そうだ、あの至福の時をもう一度」

 

 最悪クロちゃんだけでも・・・いや、バカな考えはやめよう。

 私たちは絶対に生きてマサキさんに会うと誓ったのだから、こんな所で死ねない。

 

 ああもう!ムカつくムカつく。

 おい、ずっとこっちを見ているだけの暇人ども!いい加減援護ぐらいしろや!

 マジでピンチなんです。助けてくださいお願いします。・・・ダメか、ダメっすか。

 はーん、わかったぞー。お前ら私たちを助けるつもりはハナからないんだな。

 こっちを見ているのではなく、正確にはロックオンしているんだ。結局敵かよ。

 狙撃か、はたまた砲撃か「狙い撃つぜ」の準備万端ってか?ふざけんな!

 お前らもそこのクズ同様、私らが四苦八苦しているのが楽しいか?

 呪ってやるぞ、絶対化けて出てやるからな!いや、死なねーし!

 

「受け身ぐらいとってくださいよ!そいやっ」

「な、にして・・・のぉぉぉーーー!!」

 

 許せブラック!負傷したクロちゃんを全力で投げ飛ばす。

 採掘場を抜け木々の生い茂った森の中へぶっ飛んで行く相棒、紅い瞳から抗議と悲痛な叫びを感じ取ったが無視。

 

「( ´Д`)=3 フゥいったか・・・」

 

 一息つく暇もない、背後から二体のPTと動く地雷軍団が来ている。

 負傷者を抱えたまま逃げる隙など与えてくれなかった。

 こうなっては仕方ありません。

 覇気残量確認・・・むー心許ないですね。

 ですが耐えてみせましょう。

 

「オラッ来いやぁ!」

「「・・・」」

 

 うわっ!本当に来た。

 嫌だな怖いなぁ・・・マサキさんに会いたいな。

 覇気の防壁をフルパワーで展開しつつ身構える。

 この感じ久しぶりだ、アルクオンと戦った時に感じたもの再び!

 死期を悟るってやつですかね・・・冗談じゃない。

 

 ♦

 

 戦場から離れた場所にいる、ファインモーションとその部下たち。

 デバイスを顕現し標的を捉えたまま戦況を見守る。

 あれは量産型のWシリーズ、過激派連中が裏社会に横流しでもしたか、後で締めておこう。

 見慣れない二体のPT、赤いのはもしかしてゲシュペンストⅯk-Ⅲ?

 2ndであの欠陥機が正式採用されたという話は聞いていない、恐らくルクスとその一味が持ち込んだ技術から造り上げたと推測。

 それから、指示を出しているチンピラ小物臭がする男は・・・異常なほどムカつくな。

 何故かわからないが、一目見て全身が拒絶反応を示すほど嫌いになった。

 あの優しいマサキですら唾棄しそうな男だな。

そんな奴に好き放題やられて、クロシロちゃんも最高にムカついているだろう。

 

「まだか」

「まだだよ」

 

 ダイヤちゃんが負傷したキタちゃんを逃がした。

 そっか、自分がリンチされるのも覚悟の上なんだ。何だかんだで優しいよね。

 ねえ、どうしたの?なんでオルゴナイトを使わないの?できないとは言わせないよ。

 ああ、焦れったいな・・・早く、早く本性を現せ!

 

「ボス、今ならまだ作戦変更もアリだぜ」

「変更はしないよ。二人を助けるか判断するのは、見極めが終了した後」

 

 世界の敵になる可能性を孕んだウマ娘たち、ファイン家頭首として慎重に対処しなければならない。

 それは重々承知しているはずだった。

 

「見ているだけってのもキツイよな」

「・・そうだね」

「気が変わったならすぐに言えよ」

「いいから、シャカはキタサンブラックに集中」

「森の中へ入っちまった。ここからだと無理がある」

「どうせそのうち出てくる。気を抜かないで、いつでも撃てるように準備して」

「・・・ったくよぉ」

「何?言いたいことがあるなら言って」

「でかい口叩いた割にブルっちまってるな、そんなんでダチを撃ち殺せんのか?」

「うるさいな」

「毛が逆立ってウザい、目が血走って怖ぇ、なんだその汗は?多汗症かよ、覇気が乱れてんぞ、心拍数おかしくね?不整脈過ぎませんかね。ヘタレインモーが」

「余計なお世話だよ。私はやる時はやる子なの!黙って言うこと聞きなさい!」

「へーへー、頑張りまーす」

 

 このインテリヤンキー、ここぞとばかりに言いたい放題だ。ヘタレインモーてなんだてめぇ!

 あーあー気を遣われちゃった。お陰で少しだけ緊張が解れたよ。

 でも礼は言わない、割と真面目に凹んだからね!もっとマイルドな言い方無かったの?

 うう、私これでも頭首なのに。部下のみんなに示しがつかないな。

 

「ファ、ファイン様がヘタレていらっしゃるぞ」

「元気出してください頭首様」

「誰か!早くベビースターラーメンを」

「しまった!ドデカイ(チキン味)しか持ってねぇ!」

 

 やめてー今慰められたら泣くから!お気持ちだけで十分です。

 ベビースターラーメンドデカイ(チキン味)は後で没収します。

 

 傷つき追い込まれている二人を見て胸が軋む、こんなんじゃダメ、落ち着け冷静になれ。

 無意識に耳と尻尾が落ち着きなく揺れてしまう。情に流されるな、この期に及んで二人を「助けたい」なんて思うのはお門違いだ。

 待て、もう少し、もう少しだけ、きっと二人はやってくれる。

 二人は今日ここで内に秘めた獣を解き放つ。その結果次第では私が始末をつける。

 もういいでしょ。さあ見せてよ二人の本当の姿を。

 何を躊躇ってるの?こんな所で倒れるつもり?ねぇ二人とも・・・

 

「マサキに会えなくなってもいいの?」

 

 ♢

 

 流石は血も涙もない殺戮マシーン、寄ってたかってのリンチにも一切の躊躇なし。

 父様に「うちの娘、超絶可愛くて悶絶しそう!」とまで言わしめたこの私に、よくもまあやってくれたな。

 ダイヤモンドはハンマーで叩くと割と簡単に砕けることをご存じですか?

 サトノブランド製の私もその例に漏れないのですよ。だから、その辺りでやめてください!

 

 現在進行形で私をボコボコにしているアルトとヴァイスの動きには心当たりがある。

 二機の武装とスペックをフルに活用したコンビネーション。

 それは「ランページゴースト」という名の合体攻撃。※命名・サトノドウゲン

 

 それはまだマサキさんに出会う前のこと。後のアルトとヴァイスになる新武装の動作試験中。

 私とクロちゃんの動きが妙に噛み合い「コンボが繋がった」状態になった。それをサトノ家の技術部が「これ無人機の戦術モーションに組み込んだら面白くね」とか言い出したので長時間データ収集に付き合わされたことがあった。あのときはに本当に疲れた、やっと終了したときには私とクロちゃんは疲労困憊でグッタリ。

 そうして今、苦労して集めた成果物の成れの果てをご馳走されているわけです。

 アルトのステークにクレイモア、ヴァイスのビームと実弾砲撃の嵐、トドメにゼロ距離でのぶっ放しと来たもんだ。

 うーんお見事ですね、息ピッタリで感心しますよ。

 メチャクチャ痛いし出血もしている、衝撃も凄い骨に響く。気にしたら負け、ここは敢えて鈍化になっておこう。覇気の防壁を削られた、これ以上はもたないな。二機のステークとランチャーがもうすぐそこに・・・

 あ、これダメ・・・私死ん・・だ・・・?・・・ん、まだ?なんか遅い。

 焦らすなよ~どうせなら一気にやっちゃってよ!

 

「これってランページゴースト?直撃をもらうのはちょっと怖いね~」

「は!?クロちゃん。何で」

「酷いやシロちゃん!急に投げ飛ばすなんて」

「いや、あなたどうして」

 

 さっきぶん投げた奴がどうして目の前にいるんだ?

 私は合体攻撃「ランページゴースト」を食らって木っ端微塵に爆散予定なのですが、どういうことなの。

 見渡すと自分たちが緑色の結晶体に包まれていることに気付いた。これは円形の防壁?

 私たちは円の内側に、敵は外側にいて入ってこれないようだ。

 この結晶が守ってくれたのか・・・

 

「オルゴンクラウドで壁を造ったわ、間に合ったようで何より」

「今のは危なかったよ。私たちが助けなかったら間違いなく死んでいたよ」

 

 聞き覚えのある声、クロちゃん意外にも誰かいる。

 

「女神様たちが助けてくれたよ。感謝感激」

「そのようですね。ありがとうございます、カティアさん、テニアさんも」

「気にしないで、大事な後継者に死なれたら困るもの」

「そうそう、後継者があまりに不甲斐ないから思わず出て来ちゃった」

「「すみませんでした!!」」

 

 どうやら神の奇跡(チート)で都合よく救われたみたい。

 無様を晒したのは本当なので二人揃って頭を下げる。

 マサキさんも褒めてくださった完璧な角度のお辞儀を披露する。

 

「なんて清々しい謝罪だ。嫌味を言ったこっちが恥ずかしくなる」

「慣れないことするからよ。二人とも頭を上げて」

「いや本当に情けない姿をお見せして」

「申し訳ないです」

「もういいってば。それより、今のうちにやるべきことをやっちゃおうよ」

「そうね。不完全なラースエイレムがいつまでもつかわからないし」

 

 結晶体越しに外の光景が透けて見える。

 オルゴンクラウドに阻まれて態勢を崩すアルトとヴァイス、遠巻きに伺うアンドロイドたち。

 こっちを見て驚愕の表情を浮かべたまま固まるアーチボルト。

 

「この状態、時間が止まっていると解釈していいのですか?」

「正確には引き延ばしてるわ、女神特権でラースエイレムを再現してみたの」

「か~な~り無茶したよ。こんなのもうこれが最初で最後だからね」

「「女神パワーすげぇぇぇ」」

 

 ラースエイレムというのが時間停止の技もしくはそれを可能とする兵装の名前か。

 時間操作とかもうチートですやん。

 

「助けて頂いて何ですが、神様がそんな簡単に力を振るっていいのですか?」

「あなたたちに関しては特例が認められているわ。上からも「今回は積極介入もやむなし!」と言われているの」

「前の世界はあの惨状だし、一連の事象も見過ごせない。神界もやっと重い腰を上げましたとさ」

「テニア、余計なことを言わない」

 

 上に神界ときましたか、神様たちも大変なんだな。

 なるほどなるほど、神様は私たちを贔屓して助力してくれるようだ。

 

「その顔「チート使えるのならお前らが全部なんとかしろよ、神だろ?」って思ったね」

「思ったよ」

「クロちゃん、バカ正直に無理を言ってはいけません。神様たちは直接手出し出来ない決まりのようなものに縛られているのでしょう」

「おお、私の後継は利発で助かるね」

「マサキさんや私たちにへの助力はセーフ。ルクスたちへのダイレクトアタックはアウトってこと?」

「その通りよ。困難や試練を乗り越え、世界をよい方向へ導くのは現世に生きている者が成すべきこと。私たちはそれを見守りながら、たまに背中を押したり、お節介を焼くだけ」

「そうそう、神だの高次元存在だの言われているけど、私らは所詮「過去を生きた者の残留思念」または「強き想いや願いの集合体」にすぎない、それが世界の均衡を保つシステムに雇われて機能しているだけ」

「シロちゃん・・・私、頭パーンってなりそう」

「頭脳労働は私がやるから無理すんな。女神様方!大変興味深いお話ですがその辺でご勘弁を」

「ごめんごめん、脱線したね」

 

 クロちゃん、頭いい癖にめんどうになって思考放棄しましたね。

 

 判明したこと。

 ルクスを倒すのは私たちの仕事。手伝ってはくれるが、直接ボコってはくれない。

 結論「神様も大変なんやで」

 

「よし、本題に入るよ。このままじゃ二人ともバットエンド一直線」

「違うわ、デッドエンドよ」

「「どっちも嫌っス」」

「デッドエンドを回避するにはどうすればいいかな?」

「真名ですね」

 

 わかってる。

 女神の真名を呼び、力の継承を完了する。

 緑の結晶、オルゴナイトを使えるようにならないといけない。

 

「では、さっそくいってみよう!カティアの真名は何でしょうか?」

「え、私からなの。いいわ、ブラック答えてちょうだい」

 

 クロちゃん頑張って!ロボっぽい名前だぞ、見事に当ててやれ。

 

「ジアース」

「ちょwバカww」

「ブッブーはずれー」

「あなたね・・・よりにもよって」

「え、メッチャ強いよ。ぼくらのは鬱になるけど名作だよ」

 

 何故乗りたくないロボットランキング、トップ3入賞確定の機体を選んだのだろう。

 一戦ごとにメインパイロットの命を消費する設定はエグいですよ。

 私だったら、ファフナーとかは勘弁してほしいですね。

 テニアさんが私を見つめてくる。「お前はわかってるよな」と目で訴えて来てます。

 

「次!ダイヤなら私の真名わかるよね?」

「ダイミダラー」

「なんで健全ロボなんだよ!?指ビームでぶっ飛ばすぞ!」

「あのOP勢いあって好きだよ」

「落ち着きなさいテニア、ハイエロ粒子が出てるわ」

「そんなもん出るか!」

「マサキさんなら、例えペンギンコマンドになっても愛する自信があります!」

「そ、そんなことになったら。マサキさんの前尻尾ガン見不可避!」

「メルアも言っていたけど、この子たち真性のアホだね」

「知らなかったの?私は最初から気づいていたわ」

 

 これぐらいで呆れないでください。神様ならもっと寛容になった方がいいですよ。

 こちとらマサキさんに関しては大真面目なんですから。

 

「おかしいな、継承者としての資質は十分だからとっくの昔に真名が脳裏に浮かび上がっているはずなのに」

「深層心理で拒絶しているのよ。オルゴナイトを使うのがそんなに怖いのかしら」

「そうなのですかクロちゃん?」

「よくわかんない。真名を考えていると、なんだかネガティブな気持ちになると言うか」

「私もです。胸の奥でこう誰かが囁くような」

 

 聞き覚えのある誰かの声が何度も囁くのだ。

 その声は絶望と諦観に満ちた重く暗い声だ。

「やめたほうがいい」「また繰り返すのか?」「無理だよ」「あんなことをしでかした癖に」

 

 女神様たちの真名、私たちはもう既に知っている。

 それなのに、その名にだけモザイクがかかったかのよう。

 呼びたくても呼ぶことができない。

 女神の後継になることは、結晶体・オルゴナイトの力を使う者になるということ。

 

 知らない誰かの記憶が咎める。

 再びあのような化物になるつもりか、冗談じゃない。

 そうまでして力を望むのか?あんなことをしでかした私たちにその資格があるというのか?

 嫌だ怖いよ。取り返しのつかない間違いを犯してしまうことが、化物になるのが怖い。

 何のことだ。知らない、そんなの知らないはずなのに。

 オルゴナイトを継承することで恐ろしいことが起きるという不安が拭えない。

 そう例えば・・・全てを壊し、全てを殺す、化物になってしまうとか。

 

 自惚れでなければ、きっとマサキさんは化物になった私たちですら許容してしまう。

 その結果、化物の犯した罪を糾弾され非難を浴びる責め苦は操者にも向かうはず。

 ダメだ、ダメだ、ダメだ!それだけは絶対にダメだ。

 マサキさんを、あの優しい人をそんな目に合すことは許されない。

 

「思ったより重症だね。ベーオウルフたちの想念に影響されて踏ん切りがつかないみたいだ」

「いつまでもこうしていられないわ。ラースエイレムの展開時間も無限ではないし」

 

 タイムリミットがあるんですね。

 時間操作が終了すればアルトとヴァイスの手で再びフルボッコにされてしまう。

 くっ、これも私たちの弱さが招いた結果か。

 どうする、何か無いのか、リスクを恐れて立ち止まる弱い心に勇気を与えてくれる何かがあれば。

 

「会いたいよ。マサキさんがいてくれたら、絶対やる気が出るのに」

「ホントそれな。少しだけでいい、せめて声だけでも・・・アッーーーー!!」

「ハッテン場から響く嬌声かな?」

「やめなさい!何を言い出してるの、神の癖に腐ってるの?」

「この女神様たちもどうかしてるな」

 

 そうだ声!ここへ来る前にミオさんから貰ったボイスデータがあるじゃありませんか。

 スマホスマホ・・あった、大丈夫壊れてない。えーとこのアプリで再生出来そうだな。

 

「残念だけど、ここで悲しいお知らせ。ラースエイレム終了まであと少し」

「申し訳ないですが、後数分はもたせてください」

「いいわ、やってみましょう。何かやるつもりなら急いで」

「シロちゃん?こんな時にまでソシャゲはやめて」

「違う!今から最高にイカしたASMRを聞かせてやるからお静かに!」

「ほう、期待していいんだね。いいよ、私の聴覚を喜ばせて」

 

 いざ再生じゃい!

 ドキドキそしてワクワクする。数秒後、思いのほかクリアな音声が聞こえてくる。

 

『設定はこれでよしっと。はい、思いの丈をどうぞぶちまけちゃって』

『あ、もう録音してんのか。ちょっと待てよ、あーあーうん、ヴンンッゲフンゲフン!オヴェェ』

『むせすぎ!喉の奥から何をひり出そうとしてるんだよ』

『わりぃ、もう大丈夫だ。えー今日は○月〇日、ミオの思い付きで音声データを記録してみることにした』

『午後からはファイン家と合同でヴォルクルス教団を襲撃する予定なんだ。それまでの空き時間で最後のメッセージを残しておくのもいいかと思ってね』

『最後とか、縁起悪いこと言うなよ。これを遺言にするつもりはサラサラないぞ』

『まあまあ、これも何かの役に立つかもよ。マサキの声を聞いたら愛バたちもハッピーさ』

『そうかな、そうだといいな』

 

 ああ・・・この声は、ずっと聞きたかったあの人の声だ。

 

『ええと、愛バに向けてのメッセージなんで、心当たりの無い方は再生を停止してくれると助かる』

『これまで散々恥を晒しておいて、今更恥ずかしがるんだ』

『ミオさん。人聞きの悪いことは言っちゃダメ』

 

 少し赤くなって照れた表情が容易に想像できる。

 私とクロちゃんの耳はもうこの音声に釘付けだ。

 

『一応自己紹介しておくぜ、俺の名はアンドウマサキ。昏睡状態から結晶体に変化した愛バを目覚めさせるために旅をしてここまで来た男だ』

『アシスタントのミオ・サスガだよ。この音声の記録と補完を担当するね』

『いろいろあったが今の所は元気だ。なあ、聞こえているか?そこにいるのか?』

 

 聞こえています!ここにいます!全てあなたのおかげです。

 

『これを聞いているお前たちは、もう起きてくれているか?元気になってくれたか?』

『姿が見たい、声が聞きたい、また抱っこさせてほしい、一緒にいたい』

『泣くの早すぎ!頑張れ頑張れ~』

『うるせぇ。ああクソッ、会いたい』

 

『お前たちに会いてぇよ・・・クロ、シロ』

 

「「私も!!」」

 

 私たちの叫びが重なる。この気持ちを今すぐに伝えたい!

 震えるように絞り出した操者の悲痛なる願い、その思いに応えられないこの身のなんともどかしいことか。

 

「しっかり伝わってるよ。ずっと同じ気持ちだよ」

「絶対に生きて再会するんです。ええ、何が何でも絶対の絶対に!」

 

 私たちチョロすぎ!いや、マサキさんに対してはチョロ娘でいいのです。

 沈んでいた心に新たな火が灯る。

 マサキさんの思いが私たちの心に火を灯してくれる。

 誰にも消せない、何度でも燃え上がる。

 

『いろんな奴に会った、いろんなことを知った。それでも、お前たちへの想いは変わらない』

 

『約束する。この先何があろうとも必ずお前たちの下へ帰る。だから・・・』

 

『お願いだ・・また、元気な姿を見せてくれ。頼むよ』

 

「元気です!もうバカみたいに元気ですから」

「お陰様で、あれもこれも大きくなったよ。しっかり見て触って確かめてほしいな」

 

 そうだ、操者との大切な約束は何があっても守る。守ってみせる。

 

『マサキ、大事なことを言わないと』

『ああ、実は女神様に会って力を貰ったんだ。嘘じゃないぞ』

 

 三女神の一柱に会い、オルゴナイトを操るに至った経緯を話すマサキさん。

 いずれ私たちの前にも女神が訪れ、継承者になるであろうことを説明してくれた。

 

『詳しいことは女神様に聞いてくれ。それで、結晶体・オルゴナイトのことだが』

 

『その、とある二人組がな・・力を暴走させて酷い結果になった事件があったんだ』

 

『その二人がお前たちに似ていて、心配なんだ』

 

 マサキさんは優しいね、その二人は似ているんじゃない・・その二人こそ私たち。

 

『違う』

 

 否定する声に驚く、聞いているこちらの心情を図ったかのようなタイミングだ。

 

『あいつらとお前たちは違う』

 

『バカか俺は、心配だなんて言うなよ。二人を信じるって決めたんだ。悪かったな二人とも』

 

『残念だが、あいつらにはいなかったからな。この世界では、今度こそは大丈夫だ、だって』

 

『お前たちには操者が、この俺がいる!』

 

 操者の言葉に心が震える。

 

『何度でも言う。キタサンブラック、サトノダイヤモンド、お前たちには俺がいるぞ』

 

『どんなに離れていても、お前たちの傍には俺がいる』

 

『お前を信じろ!俺が信じるお前たちを信じろ!!』

 

 マサキさん、カミナの兄貴みたいで素敵。

 グレンラガン、見ていない人は人生損していると思うの。

 

『いいか忘れんな!信じろ!絶対に大丈夫だからな、きっと何とかなる。よっし、以上だ』

『そんなのでいいの?詳細を説明しないから何が何やら』

『いいんだよ。その時が来れば自ずとわかるはずさ、継承前に女神様が補足してくれんだろう』

『では本題をどうぞ』

『え、今ので言いたいことは言ったはず』

『増えたよね。増えていたよね。これから増えそうだよね。その事について弁明はないの?』

『・・・・』

『何か言え、この浮気者がぁぁぁ!』

『う、浮気じゃないのよ。ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ』

『私に謝ってどうするの!クロシロちゃんに謝って!いつもみたいに土下座しなよ』

『ひぃ!か、堪忍しておくれ~。アルダンの件は知らなかったんです!ココはえっと、そのね・・』

『言い訳見苦しいわ、種馬がぁ!』

『すみませんでしたぁ!全部この俺がアンドウマサキが悪いです!だから種馬の称号はヤメテ』

『あれ?マサキたち何してるの』

『ココ!ミオさん、録音中止よ。はい、撤収!終わり終わり』

『はいはーい。後で編集しておくね・・・』

 

 再生終了。

 凄くいいセリフの後に謝罪するマサキさん、その情景が細部まで想像できる。

 ほう、アルダンにココですか。それが増員の名前ですか、そうですか、へぇー。

 お会いするのが楽しみですよ、ええ本当にね。(#^ω^)ピキピキ

 

「終わりです」

「そっか、マサキさん元気そうだったね」

「はい、私たちをずっと想ってくれています」

「信じろだって。うん、信じよう。信じてやってみせよう」

「ええ、操者の期待に応えてみせましょう」

 

 心に灯る火が暖かい、全身に力が漲る。

 アルトとヴァイスに苦戦していたさっきまでの自分とは、もうおさらばだ。

 

「お、覚悟完了したみたいだね」

「よかったわ。こっちもそろそろ限界だもの」

 

 時間停止終了までもうすぐ、力を手にするのは今この瞬間しかない。

 頷き合った私たちは女神様に向き直る。

 

「カティアさん。私もう大丈夫、いけるよ」

「そのようね」

「テニアさん。その力、ガッツリバッチリ頂きましょうか」

「うん。二人ともいい顔になったね」

 

 女神様たちから光が溢れる。覇気を超える神気の輝きが辺りを満たす。

 

「「新たなる継承者たちよ。我らが真名を呼び、力を手にしてみせるがいい」」

 

 うわ、偉そうな言い回し。神っぽい実に神っぽいです。

 続いて、頭の中に例の声が響く、目の前のいるんだから直接口頭で言えばいいのに。

 

 【力が欲しいか】

 

 (うん)

 (ええ、とっても)

 

 【力が欲しいか】

 

 (欲しいって言ってるじゃん)

 (しつこいですよ)

 

 【力が欲しいなら】

 

 ((欲しい))

 ((あの人と一緒にこの先も歩む力が欲しい!!))

 

 【与えましょう】

 【あげちゃうよ】

 

 その瞬間、私たちの脳裏に女神の真名が浮かび上がる。

 クロちゃんはカティアさんの、私にはテニアさんの真名がハッキリわかる。

 

 今こそ告げる。

 女神と呼ばれし古のウマ娘、原初の操者と共にあった超越者、騎神たちの祖。

 その名は・・・

 

「力をちょうだい!クストウェル!!」

「その力貰います!べルゼルート!!」

 

 ニッコリ微笑んだ女神様たちの姿が消えていく「正解」と呟きこちらを褒めてくれている。

 もう行ってしまうのですね。ありがとうございます。どうか、これからも見守ってください。

 

 私たちの体に変化が起こる。

 覇気の粒子が止まらない、止めどなく溢れる光はやがて緑の結晶となり全身を覆い尽くす。

 

 ああ、そうか・・・やっと真の意味で理解した。

 この姿になったことでようやくわかったよ。自分たちの正体が何なのか。

 

 ラースエイレムの効果が切れ、時間が正常に流れ出す。

 追い詰めたはずのウマ娘たちがいた場所から、凄まじい衝撃と膨大な覇気が拡散される。

 二体のPTとアンドロイドは堪らず距離をとる。

 突然の異常事態に目を白黒させながらアーチボルトは叫ぶ。

 

「一体何が・・・あ、あれは・・何だ?」

 

 その場所には、先程まで狩りの得物にすぎないウマ娘が二人いたはずだった。

 

「何なんだぁぁぁぁあの化物はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 今そこにいるのは、全身を緑の結晶体に覆われた二体の異形だった。

 

「「アアァァ・・・ウオォォォォォォォォォッッ!!!!」」

 

 別の世界、もう一人の自分、世界を滅ぼした破壊獣、これが私たちの本性。

 

 新たなベーオウルフとルシファーが誕生した瞬間だった。

 



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葬送と覚醒

「ここどこ?」

「また夢ですか」

 

 女神と初めて会ったときの状況と一緒だ、私とクロちゃんが同時に見る妙な現実感を伴った夢。

 直前の記憶は真名当てに正解し、力を受け継いだ後で途切れている。

 なんだか知らないが、謎の異空間にご招待されたようだ。

 こんな所にいる場合ではないのですが、まだ戦わないといけないのに。

 

「見て、誰かいるよ」

「ここへ招き入れた犯人ですね」

「む、要警戒だね」

 

 第一村人発見。視線の先に二人いる。

 その顔、その姿はまさしく・・・

 

「嘘、私がいる」

「どうやらそのようです」

「リアクション薄っ!驚いてないの?」

「驚いてますよ。ですが、いつかこんな日が来るのではと、思っていましたから」

「ドッペルゲンガーに遭遇することを予測しながら生きていたの。シロちゃんってば、やっぱり変人」

「やかましいわ」

 

 変人で悪かったな!

 脳の演算領域に余裕があるのだから仕方ないでしょう、並列思考処理なめんなよ。

 ドッペルゲンガーとは言い得て妙だな。出会ったら死ぬという噂は本当でしょうか。

 ふむ。姿形もそうだが覇気の性質すらほぼ同一、父に隠し子が!・・・それはないですね。

 自分たちに瓜二つのウマ娘がこちらを見据える。

 何やら様子がおかしい、纏う雰囲気は暗く、虚ろな目をしている。寝不足かな?

 生気が感じられない、その目は酷く冷めていて、顔色も良くない。

 似ているけど、やっぱり違う。こんなのが自分たちだとは思いたくない。

 これでは、私たちが陽キャで向こうが陰キャですね。

 

「その面でマサキさんの前に立つ気ですか?冗談は顔だけにしてください」

「よくできた偽物さんたち、私たちに何か用かな」

 

 偽物の私が手を動かす。

 白一色だった景色が様変わりする。

 何ですかここは・・・瓦礫の山?

 かつて街だったであろう場所、崩れて倒壊した建物、人はおろか生命の息吹を感じられない。

 何もない、もうここには何もない。

 

『ここは終わった世界』

『私たちが終わらせた世界』

「な、あなたたちは!」

「その姿・・・何?」

『ベーオウルフ』

『ルシファー』

『『世界に牙を剥いた滅びの獣・・・破壊獣』』

 

 景色と共に偽物たちの姿も変化していた。

 全身を紅い結晶体で覆われた異形の体。

 一体は四肢に巨大なカギ爪を装備した化物。

 もう一体は肥大化し枝分かれした尾を広げる化物。

 化物だ、化物がいる。

 存在するだけで周囲を威圧し恐怖を植え付ける覇気を撒き散らす。

 破壊獣だと?正真正銘の化物じゃないですか。

 

「警告のつもりですか?オルゴナイトを使えば、私たちも化物になると」

「そんなことって!」

『もう二度と』

『繰り返す訳にはいかない』

「うっ!」

「な、にこれ・・」

 

 化物が言葉を発した時、知らない記憶が一気になだれ込む。

 ここでは無い別の世界1stを生きた私たちの記憶。

 何者かによって神核を弄られ化物に成り下がった自分。

 あらゆる命を貪り殺す。

 友を仲間を愛すべき人たちの命を無慈悲に刈り取る。

 あらゆる物をそこにあるだけで壊す。

 邪魔、邪魔、邪魔だ。全部いらない、イラナイ、壊れろ、キエロ。

 狂って狂い続けて暴れる回る。

 行きついた先は、何も無い、誰もいない、全てが終わった空虚な世界。

 

 こんな寂しい世界を誰が望んだというのだろう。

 

「なるほど、あなた方の無念が真名当ての邪魔をしていたのですね」

「ずっと引っかかっていたモヤモヤの原因は、別世界の私・・その後悔と懺悔」

『オルゴナイトは真の強者にのみ許された力』

『あなたたちには使いこなせない』

「だから、諦めてここで倒れろと?」

「嫌だよ。今、力を使わないとやられちゃう」

『それがあなたたちの運命』

『みんなを救う唯一の方法』

「だからって・・・」

 

 言いたいことはわかるが到底受け入れられない。

 反論しようとした矢先にシンプルな要求を突き付けられる。

 

『『死ね』』

 

「あ゛(# ゚Д゚)」

「お゛(#^ω^)」

 

 今の聞きました?直球ど真ん中ストレートですよ!

 思わず条件反射でメンチを切ってしまう私たち。

 

『世界のために死ね』

『みんなのために死ね』

『未来のために死んでよ』

『全てを救うために死んでほしいの』

 

 紅い化物たちが吠える。

 それはここにいる四人全員に向けられた呪詛の言葉。

 

『ねえ・・わかるよね、わかってるでしょう!』

『あなたたちは、私たちは皆ここで死ぬべきなんだよ!!』

『ダメなんだよ・・ここにいたらいけないの、許されないの』

『お願い、わかってよ・・・もう嫌なの・・殺すのも壊すのも嫌!!消えちゃいたい・・』

 

 それは魂の慟哭だった。

 二体の化物が泣きながら訴えかけてくる。

 私たちの存在は世界を危険に晒すと、許されない存在だと、だから死ねと。

 

 それに対する返答は既に決まっている。

 

「「断る!!」」

 

 私とクロちゃんの声が綺麗にハモる。

 フッ、ドヤ顔で言い切ってやりました。ポーズも決めれば尚よかったですね。

 シーンと場に白けた空気が漂う。おやおや、完璧な返答に唖然としているようですね。

 一拍おいて我に返った偽物コンビが慌てだす。

 

『あの、話聞いてた?ものすごーくシリアスで重要で緊迫していたはず』

『世界の命運が・・』 

 

「「知ったことかぁ!!」」

 

『『えー・・・』』

 

「よく聞きなさい!別世界の私たち!えーとですね」

「一緒にしないでっ!!」

「そうだ一緒にすんな!この陰キャどもが」

 

 ここからは私たちのターン!

 

「自分たちがやらかしたから、別世界の私たちも同じミスするよね。そうだ!そうに違いない!って」

 

「「大きなお世話じゃボケ!!」」

 

「必要以上のお節介は勘弁してよね」

「大体ですね~。私たちそんなに似てますか?」

「よく見たらそうでもないよね」

「私の目は誤魔化せません。ほほう、おぱーいのサイズが違いますね。私たちの方が説明不要なほどでかい!」ドヤァ

「ちゃんと栄養取ってる?勝手に同類認定されても困るよ」

「あなたたちに足りないもの、それは!」

「情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!」

 

 さあ、言っちゃいますよ!合わせろクロちゃん!

 

「「速さが足りない!!」」

 

 決まったな!ここ最近の私たち冴えてるぅ!

 イエーイ!とテンション高めのままクロちゃんとハイタッチです。

 

『『は?』』

「は?じゃねぇよ!アンタらがダメダメだったの仕方ない。しかし!私たち優秀ですから、できる女ですからね!あなたたちと違ってw」

「無問題ってヤツだよ。余計な心配はいらないの!そういうのいいからぁ!」

『『・・・・』』

「別世界の私たちの罪?とかで責められてもねぇ。知らねぇとしか言えませんし責任とれませんよ」

「身に覚えないのに、そっちの嫌な記憶とモヤモヤを押し付けて来るし。妙な罪悪感がして不快なんだけど」

「あなたたちの残念無念はよーく理解しました。大変お気の毒だとは思いますよ」

「その上で言わせてもらうね」

 

「「私たちを嘗めるな!!」」

 

 一緒にするな、侮るな、見下してんじゃねぇ!2Pカラーの分際で!

 失敗したらどうする?知らん!その時はその時だ!

 希望的、楽観的、無謀、無責任!なのは百も承知よ。上手くいった場合を考えて何が悪い!

 世界の命運?そんなものより大事なことがある。大事にしたい人がいるんだ。

 あの人と一緒に幸せな時を過ごす。それこそが私たちの命題よ。

 そのために必要なら世界平和を維持してもいいし、邪魔する奴は排除する。

 ただそれだけ、実にシンプルでしょ。文句あるか?

 

 それでどうする?力ずくて私たちを殺す?

 

『『・・・・』』

「・・・・」(くしゃみ出そう)

「・・・・」(シロちゃんの耳大きいな~)

 

 は、鼻がムズムズして・・おいヤメロ!私のウマイヤーをお触りしたいなら、金を払え!

 あ、もちろんマサキさんは永久無料ですからね。ガンガン触って揉みくちゃにしてください!

 

『・・・そうだね。同じじゃない、違うよね』

『ならば違う結果も導けるはずです。フフッ、大変よい啖呵でしたよ。もう一人の私』

『これが操者を得た騎神、愛バってヤツなのか。いいね、凄くいい』

『私たちが成し得なかった可能性。眩しいですね』

 

 紅い結晶が消え、化物たちの姿が元に戻る。

 もうこちらに敵対する意思はないようだ。

 ふん、多少はいい面になったなPカラー。

 回りくどいことを、最初から私たちの覚悟を試すつもりだったようですね。

 

『直接話がしたかった。もう一人の自分が、あの優しい人の愛バがどんな子かって』

『予想以上に痛快でした。あの人が見せてくれた通りの子』

「マサキさんに会ったの!?」

『うん。とっても優しくて素敵な人だった』

「そうでしょう、そうでしょう!絶対にあげません!」

『横取りなんてしません。ただ、凄く羨ましくって・・いいなぁ』

『本当に・・・羨ましい』

 

 どこか遠くを見つめる2Pたち、マサキさんに会った時を思い出しているのかな。

 そうか、あなたたちを看取ったのはマサキさんなのですね。

 キラキラと粒子が舞う、一体どこから・・・はっ!2Pたちの体が足先から消えていく!?

 

「体が!?」

『あはは、もうお別れみたいだね』

『女神様にご無理を言って作ってもらった機会、しっかり目的は果たせたので満足です』

 

 う、自分と同じ顔の奴が成仏する瞬間を見るなんて、複雑すぎる気分だ。

 

「化けて出ないでね」

『さあどうかな。あんまり情けないとお邪魔しちゃうかも』

「この夢から覚めたらどうなります?」

『オルゴナイトの力を得た直後の状態で現実に戻るでしょう。くれぐれも力に飲まれぬようにお願いします』

 

 こうしている間にもどんどん消えていく。

 思い残すことがなければいいのですが・・・

 まったくおかしな経験だ、別世界の自分と言葉を交わし見送るだなんて。

 

『操者を大事にするんだよ』

「言われなくても大事にするよ。この命に代えてもね」

『1stの生き残りやファイン家の方々に心からの謝罪を・・その資格はありませんけど』

「ああ、それで初対面のインモーが殺気立っていたのか。まあ、それは上手くやっておきますよ」

『気を付けて、私たちをこんな風にした元凶はこの世界にいる。きっとよくないことを企んでいるはず』

「任せて、そいつに会ったらたっぷりお礼しておくから」

 

 元凶か、そいつの排除は重要項目に位置付けですね。

 マサキさんとの未来を邪魔する輩は始末するに限る。

 

『しっかりね。しっかり生きて幸せになるんだよ!私たちの分まで』

『人生を楽しみ謳歌してください。それが最高の供養になりますから』

『それで、できたら自分意外の誰かも幸せにしてあげて』

『みんな仲良く平和が一番です』

『正義の味方になれとか、世界を救えとか言ってるんじゃないよ』

『少しだけでいいんです。その力をどうか正しいことに、困っている人々の為に使ってあげてください』

『こんなところかな・・ふあ、なんだか眠たくなってきたよ』

『眠るように逝けるなんて、勿体ないです』

 

 もう背景が透けるぐらい薄くなっている。

 2Pたちの言葉を頷きながら聞く。

 

『マ・・サキ・・あの人は・・だから・・・生まれて・・・』

『みんなで支えてあげて・・・絶対・・・逃がしちゃ・・・ダメです』

 

 マサキさんのことはお任せください。あんないい男、逃がしてたまるか!

 

 これでお別れのようだ。名残惜しいが最後の挨拶をしなくては。

 

「さようなら、キタサンブラック。会えてよかったよ」

『こちらこそ。じゃあね、キタサンブラック。いろいろ頑張るんだよ』

「お別れですね、サトノダイヤモンド。安心して眠ってください」

『はい。どうかお元気で、サトノダイヤモンド。・・・ああ、これでやっと』

 

『みんな・・ごめん・・ごめんなさい・・ごめん・・なさい』

『遅く・・なりました・・・今そちらへ・・』

 

 粒子となって消えていく二人。

 

『ねぇ・・キタちゃ・・ん』

『何・・ダイヤちゃん』

『ずっと・・・一緒にいてくれて・・・あり・・がと・・う』

『これからも・・一緒・・・だよ』

『・・・うれ・・しいな』

『うん・・・』

 

 最後にそんな呟きが聞こえた気がした。

 たった二人だけの親友、化物になり罪を犯しても、終わりを迎えた世界の中でも。

 二人の絆は確かだったのだ。

 行先は天国か地獄か・・・何処だろうと二人一緒だといいですね。

 

「仲良しさんだったね」

「ですね」

「逝っちゃった。なんだか寂しいや」

「ですね」

「泣いてるの?」

「別に」

「シロちゃんはさ・・・シロは一緒にいてくれる?」

「わかりきったことを聞きくんですね」

「ちゃんと聞きたいからね」

「嫌だって喚いても一緒にいてやりますよ。あなたみたいな狂人に付き合えるのは私ぐらいです」

「狂人って酷いなw」

「私だけじゃないですよ。マサキさんやそのご家族、サトノ家のみんなに、おまけのインモーともう一人もセットでついてきます」

「そっかぁ、それはとっても嬉しいね」

「そうですよ、だから心配しないで・・・クロ」

 

 ヤダッ照れる!ノリでちゃん付けをやめてしまったぞ。

 クロったら顔赤いぞ、多分私も赤くなってる。

 まあ、これもまた大人の階段を登ったということで。

 あーやめやめ!百合百合しくってよろしくない!女神様が見てるぅ!かも。

 

「これからもよろしくね、シロ!」

「よろしくしてあげますよ、クロ!」

 

 神の奇跡による邂逅が終わる。

 もう一人の自分から託された思いを胸に戦場へと帰還する。

 

「戻ったらすぐバトルだね」

「気合入れていきますよ」

 

 ♦

 

 「「アァァ・・・ウオォォォォッッッ!!」」

 

 ビリビリと大気を震わす咆哮が迸る。

 圧倒的な存在感を放つ化物たちが生まれた瞬間だった。

 そう生まれた、生まれてしまったのだ。

 私たちファイン家が、1stの生き残りとその流れを汲む一族が危惧した最重要警戒対象が!

 ここからはかなりの距離があるはず、それなにこの威圧感は何だ?

 嫌だ、逃げろ、アレの相手をしてはいけない!さもないと殺されるぞ!

 生物の本能が体の奥から危険信号を激しく点滅させる。

 

「オルゴンエナジー規定値以上を検出!破壊獣で間違いありません」

「あれがベーオウルフとルシファー?なんというプレッシャーだ」

「父さんに聞いた通りだ。アレはまともじゃない」

「ど、どうするのですか?このままじゃ」

「みんな落ち着いて。はい、深呼吸~」

「しかし、ファイン様」

「大丈夫だから、ね。パニックになったり、先走るのは禁止だよ!」

「「「「「は、はいっ!」」」」」

 

 キタちゃん、ダイヤちゃん、ようやく本性を現したね。

 やればできるじゃん。

 

「もう撃っちまっていいのか?」

「ダメ」

「覚醒直後で動きの鈍い今がチャンスだぞ。この機を逃せば後は無い」

「結晶体の色を見て」

「色だぁ?あー緑だな。緑?確かレポートでは鮮やかな紅だったはず」

「そう!緑なんだよ。マサキの覇気を同じ綺麗な緑色なの」

「だから何だよ色違いってだけでヤベェ奴らには変わりないだろ」

「1stの二人とは違う、2ndの二人は大事な人を手に入れている」

「操者か、操者の覇気があの化物を大人しくさせるとでも?」

「マサキの覇気で大人しく?うーん、そうは思えない」

「おいおい」

 

 マサキの覇気には強力なバフ効果があり、リンクした対象の全能力を底上げする。

 凄まじい効能はドーピングコンソメスープも目じゃないと評判だとか。

 最早劇薬の如きその覇気を長い間与えられ続けた騎神はどうなる?

 しかも、その中には天級と操者自ら選りすぐった騎神の覇気もプラスされる。

 更にその騎神は神ごときの力で世界滅亡シナリオを担当できる逸材だったとしたら。

 まっさかぁ!破壊獣を超える、新たな獣が生まれたり・・とか?

 ヤバいかも、真面目に逃げたくなってきた。

 

「と、とにかくまだ様子見でお願い」

「手遅れにならなきゃいいがな」

 

 後は二人次第・・・お願い、どうかオルゴナイトに飲まれないで。

 その力は正しい心で使ってこそなんだよ。

 うん。ここまで来たら信じよう、同じ操者をもつ仲間だもんね。

 

「お、動くぞ」

「さあ、どうな・・・へっ!?」

「何だ、あいつら何をやっているんだ」

 

 てっきり近場にいるアンドロイドやPTに襲い掛かると思ったが違った。

 目についたものを手当たり次第に破壊して回るそぶりも見せない。

 二体の獣は明確な意思を持って標的を定め攻撃している。

 

「どうなってやがる」

「わからない、こんなの知らない。予想外だよ」

「ベーオウルフとルシファーが、殴り合いをしてるじゃねーかよ!」

 

 周りの機械群には目もくれず、渾身を力を込めて互いを殴り飛ばす。

 狂える獣が二体、そこにいた。

 

 ♢

 

 アーチボルドは状況について行けず困惑していた。

 憎き男の愛バを追い詰めたはずが、その二人は見たこともない化物に姿を変えた。

 ハッタリか、それとも何か別の隠し玉でも使ったのか?あの男の下僕ならそれぐらやりそうだが。

 全身を緑の結晶に覆われた二体の化物がいる。

 表情は見えず、ピクリとも動かないが尋常じゃない威圧感を放っている。

 

「怯むな。そのまま囲んでやってしまえ!」

「「・・・・」」

「どうした?何をやっている。その化物を始末しろと言っているんだ」

 

 これはどういうことだ。

 今まで従順だったPTとアンドロイドが動かない、故障か?そんなはず無い。

 手元の懐から出したタブレットを確認。

 自分の手駒たちの情報が表示されている。AIに原因不明のエラー?

 何・・・ありえないことに気付く、化物を取り囲んだまま停止した機械どもが小刻みに振動している?

 

「何だそれは、冗談はよせ。まさか‥震えているのか?」

 

 そんなバカなこいつらはただの兵器だぞ!

 命令に従い動くのみ、感情などあるはずが無い。

 それが恐怖しているとでもいうのか。

 

「危険!ベーオウルフ危険!」

「ルシファーを確認!戦闘領域からの即時撤退を進言」

 

「「「「危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険―――」」」」」

 

 その場にいる全アンドロイドたちが狂ったように警報を上げる。

 もし彼らに命令に背く権限があれば一目散に逃げだしていただろう。

 Wシリーズは元々1stの技術と部品で造られたものだ。

 基礎AIに宿敵であり最重要警戒対象のデータが残っていたとしても不思議ではない。

 アーチボルドは知らなかったが、二体のPTアルトとヴァイスにも1st製のAIが使用されていた。

 

「やかましい!また不良品か、ルクスの奴め」

 

 面倒だが直々に手を下す必要がある。

 苛立ちを隠そうともせずに立ち上がり、デバイスに手をやる。

 

「「アァァ・・・オオオォォォォォォォォォッッッ!!!!」」

「ひぃぃ!」

 

 突如として二体が咆哮した。

 膨大な覇気と化物の放つ圧倒的な存在感が衝撃波を伴い周囲一帯に拡散される。

 驚愕のあまり尻餅をつき後退るアーチボルド。

 マズい、あの二体の力は未知数だが自分一人では手に余る。

 くそ、ガラクタどもはまだ動かないのか・・・

 

「オオオオオッッ!」

「アアアアアツッ!」

「な、なに」

 

 次に起こった事態にまたしても驚く。

 叫びを上げた二体はこちらには目もくれず、隣にいる同胞に向かって攻撃を開始したのだ。

 もう訳がわからない。しかし、クズはクズなりに頭を使い状況の整理し、自信を納得させる。

 

「そうかそうか、そういうことかぁ」

 

 恐らくこの化物どもは暴走状態にある。

 どうやったのかは知らんが、己の姿を変容させるほどの力を使ったが失敗。制御不能に陥った。

 大きすぎる力に飲まれた、そう考えればこの状況も頷ける。

 何とも愉快だ!今奴らは、倒すべき敵を見失い仲間同士で殺し合っている。

 

「ひゃは、ひゃはははははは!いいぞ、その調子で殺し合え!」

 

 ここにアンドウマサキがいないのが残念だ。

 実に愉快だ!お前の大事な愛バたちが殺し合いをしているぞ。

 見せてやりたかったなあ、その時のお前の顔を見たかったなあ。

 

 状況が分かれば恐れることはない。

 幸いこちらには向かって来ないようだし、高みの見物としゃれこもう。

 その内ガラクタどもエラーも直るだろう。

 

 ピキッ・・・

 

 キャットファイトというには壮絶すぎる戦いが展開される。

 何度もぶつかり、殴り、蹴り上げ、組み合い、相手の全身を力任せに殴打し続ける。

 暴虐に狂った二体は互いの存在を認められない、二人を知らない者が見ればそう思っただろう。

 

 パキッ・・ビキ、バキ!

 

 全身に亀裂が入っていく。

 飛び散る破片、ひび割れていく結晶はその数を増していく。

 

「おおおおぉぉぉっっ!!!」

「ああああぁぁぁっっ!!!」

 

 一段と大きな叫びが轟く。

 二体が溜めに溜めた頭突きを繰り出し、互いの頭部から全身へと衝撃が駆け巡る。

 

「下劣で野蛮・・流石あの男の愛バ。ああ、もうウマ娘ですらないかぁ」

 

 額をくっつけたまま動かなくなる二体。

 

「もう終わったのか?今ので脳味噌が潰れでもしたかぁ!哀れ哀れだな!」

 

 終わったな。アーチボルトは心底可笑しそうに笑う。

 勝手に自滅した二体を嘲笑い、自身の勝利を確信する。

 頭の中では仇敵のマサキをどう料理してやろうかと考えていた。

 

 まだ何も終わっておらず、ここからが始まりだというのに。

 

 ビキッ、バキン、ビキビキビキビキィィィーーー!!!

 

 割れて、崩れて、剥がれ落ちて行く。

 ああ、鬱陶しい。邪魔だ、邪魔すぎる。硬いし重いし無駄にキラキラしてるし。

 まったくもう、せっかくの美貌(自惚れ入ってます)が台無しだ。

 あの人に可愛いって綺麗だって言ってもらうんだ。

 こんなドレス似合わない必要ない!全部引き千切ってやるわ!

 

「いっ」

「うう~」

「気のせいか?今何か・・」

 

「「いっっってえええぇぇぇぇぇッーーーー!!!!」」

 

 ひび割れた化物から似つかわしくない叫び声が上がった。

 先程までの雄叫びより甲高く感情の籠った声。

 涙目の少女が痛みを訴えて叫んでしまったような声。

 何度目かの驚きに今度こそひっくり返るアーチボルド。

 

「痛い痛い痛いーーー!もう!何するんだよこの石頭!ダイヤモンドヘッド!」

「こっちのセリフです!あがが・・消えた、今ので貴重なメモリーがいくつか消えた」

「どうせくだらない記憶でしょ、腐れサトイモが!」

「マサキさんメモリーかも知れないじゃないですか!!腐れはやめろっ!」

「しゃ・・・」

「あ、クズがこっち見てる」

「しゃ、しゃ、喋ったぁぁぁっっっーーー!?」

「「うるせぇよ!!」」

 

 なんかクズが一人で吠えてる。気安く指を指すなよ。

 暴走したと思った?残念!最初から正気を保ってましたよ。

 「おれはしょうきにもどった」の竜騎士と一緒にしないでください。

 うーん、体が真の意味で硬い。

 ようやく顔の辺りが剥がれた。まだいたるところにくっついてウザいな。

 

「そぉれぃ!」

「ナイス腹パン!って何してんだコラ!」

「やり返してきなよ。この石ころ取って!内側から取れないとか何なのこれ」

 

 石ころじゃなくてオルゴナイトですよ。

 クズはまだ「何?なんで」とか喚いて混乱中、今のうちにこの外装を取り払ってしまいましょう。

 おっふ!全方位を敵に囲まれているじゃありませんか、何故か棒立ちで動かないのが救いだ。

 痛っ!今のワザとだろ!腹パンじゃなくて胸パンしやがった。

 マサキさん専用おぱーいを潰すのやめてくれますか!

 急げ急げ、こんな時こそ慌てずゆっくり確実にってね。

 もういいか、手加減しつつのどつきあいで半分以上は取れた。

 

「頃合いですね」

「ねえ、私の顔面右半分まだ結晶まみれなんだけど」

「我慢しろ!後は一気に吹き飛ばすぞ」

「濡れたワンちゃんのようにだね。じゃあ、いっくよぉぉーー!!」

 

「「せーのっ!」」

 

 弾け飛ぶ結晶体。

 いくつかクズのいる方向へ飛んでいった「ぐほぉ!?」命中してやんのざまぁww

 私たちの全身が露わになる。

 といっても特に変化はして・・・おや、相棒が緑の手袋と靴を履いてますね。

 

「ありゃ、手と足の結晶が残っちゃった」

「賢い私にはわかります。それはあなたの武器です。上手く使って戦いなさい」

「おお、なんとなくわかる。これ消費してもすぐ新しいの出せるよ」

「爪はいらないのですか」

「出せなくもないけど、今はいいや」

 

 結晶体で出来たシンプルな手甲足甲。デバイスも基本は手と足を重点的に固めますし無難な形状ですね。

 インファイト好きのクロにはピッタリ。

 うん?よく見たら、耳にも結晶が残ってるな。何それ角?それともアンテナなの?

 耳の結晶、本人気付いてないしw黙っておこう。

 

「で、その触手がシロの武器?」

「触手言うな!どう見ても尻尾じゃ!」

「いや、パット見わかんないよ。うんw卑猥www」

「ハハッ、こいつ~」

「いやー!ごめんなさい、触手が首に絡みつい・・ぐぇ!」 

 

 尻尾を伸ばして首を絞めてやった。うむ、コントロールはバッチリできます。

 断じて触手ではない!これは尻尾ですよ尻尾!ウネウネ動いてますが尻尾なんです!

 腰下の辺りから緑の尻尾が生えてます。

 通常時のサラツヤ毛並みをオルゴナイトがコーティング。そして、なんやかんやでこうなった。

 自由に動かせるし、伸び縮み形状変化もある程度可能。

 それぞれに感覚が備わっているようで手足が増えたみたい。

 

「ゴホッ・・数はそれが限界?」

「どうでしょう、とりあえず4本でいきます。慣れたら増やしてみますよ」

「東京グールの赫子(かぐね)みたい」

「まさにそれです。しかも、鱗赫(りんかく)ですよ」

 

 メインウェポンの確認完了っと。

 まだ強化や拡張の余地はありそうですね。

 後は状況に応じてオルゴナイトを使っていきましょう。

 継承完了時に取説は受け取っている(直接脳内に)から何とかなりそう。

 今の状態は"バスカーモード"と呼称するのですね了解です。

 

「こ、このくたばりぞこないがぁぁ!!」

「いちいちうるさいクズだなぁ」

「多分発情期ですよ」

「うわキモ」

「違うわ!」

 

 クズが回復したみたいだ。

 もう少し時間がほしかったですが、まあいいでしょう。後は実戦で馴らす。

 

「お前たち!いい加減仕事をしろ!」

「エラー修正・・リカバリー・・再起動完了」

「敵騎神・・該当データなし。ベーオウルフ及びルシファーの亜種と仮定」

「対象の警戒レベルを引き上げ」

「敵を確認。任務遂行開始」

 

 クズの命令で棒立ちだった機械群が息を吹き返す。

 お、やる気か。

 これがバスカーモードでの初戦闘だ。

 しっかりと慣らし運転させてもらいましょうか。

 

「チュートリアルの的役ご苦労様ですww」

「まだ慣れていないからね、力加減はできないよ」

 

 強敵であるPTアルトアイゼンとヴァイスリッターも動き出す。

 来るか・・・あれ?あれれ、何か変だ。

 こいつら、こんなんだったか?もっと大きく見えていたのは気のせいか。

 あれだけ苦戦した相手を前にしているのに、不安や焦りは一切感じない。

 

「こんなのに手こずっていたんだ。恥ずかしい!恥ずかしいよ」

「マサキさん、不甲斐ない私を叱ってください。たっぷりネッチョリお仕置きして下さって結構です///」

「その"お仕置き"とやらについて詳しく!当方参加希望だよ」

「まあ焦りなさんな。その話はこいつらを片付けてからにしましょう」

「了解!俄然やる気が出て来たぞー」

「張り切り過ぎて"恥"をかかないようにしてくださいよ」

「そっちこそね」

 

 "恥"とは勿論ゲッター的な意味でいいましたよ。恥をかく=死です。

 

『どんなに離れていても、お前たちの傍には俺がいる』

 

 泣いてしまうほど嬉しい言葉をくれる人。

 愛しい人、マサキさん。

 信じています。今も支えてくれているのを感じます。

 女神様と私たちを結びつけてくれたのは、きっとあなたです。

 あなたがいたから、ここまで来れたんです。

 

 あなたの為なら化物になっても構いません。

 あなたがいてくれるなら、あなたがいてくれるから、どんな困難も乗り越えてみせます。

 

「スゥー・・ハァー」(深呼吸)

「ん・・いけるよ」(手足の感触をチェック) 

「やりますよ、クロ」

「頼りにしてるからね、シロ」

 

耳よし!尻尾よーし!覇気よし!結晶生成多分よし!

 準備万態、相棒もいけそうだ。

 

 敵はアルトとヴァイスに数十体のアンドロイド、そして後方に控えたクズ。

 相手にとって不足無し、むしろ物足りないかも知れません。

 

「アンドウマサキの愛バ。そして女神クストウェルの後継、キタサンブラック」

「同じく、マサキさんの愛バ。女神べルゼルートの後継、サトノダイヤモンド」

 

 マサキさん、女神様、もう一人の私たち、家族に恩人の皆様方。

 生まれ変わった私たちを見ていてください。

 

「「邪魔する奴はぶっ〇ロス!!」」

 

 



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集結

「そいつらを殺せぇぇーーー!」

 

 発情期のヒト(♂)が小物臭漂う命令を下す。

 それにより、PTとアンドロイド群が一斉に動き出した。

 完全包囲されている不利な陣形だが、ここは慌てず騒がずキッチリ防御だ。

 ランチャーや機関砲から繰り出される弾丸の雨霰が飛んで来る。

 慌てなーい慌てない。

 

「私の尻尾は変幻自在」

 

 形状変化で扇状に広げた尾を盾にしてガード。

 結晶体の尻尾は"オルゴンテイル"とでも名付けましょうか。

 ビームも実弾も簡単に弾いてみせますとも。

 

「ちょ!自分だけなの、私も守ってよ。全然余裕あるじゃん」

「悪いなクロ!この尻尾ガード、私と操者専用なんだ(嘘)」

「スネ夫のような憎たらしさ!もう~意地悪だなぁ」

 

 そう言いつつ、オルゴンクラウドで盾を造りガード決めているクロ。

 そこへアルトのステークが迫る。

 

「まずは一匹ぃ!!」

 

 クズうるさいです。

 

 クロの土手っ腹に風穴を空けたステーク、排出される薬莢。

 嬉しそうに口を歪ませるクズは見た。

 

 バキンッ!

 

「なんだと!?」

 

 仕留めたはずの得物、その体が砕け散った!?

 アルトが貫いたものは人型の結晶体。

 ほう、変わり身の術ですか。

 

「どこ見てるの!」

 

 難なく背後をとったクロ。

 "オルゴナイトミラージュ"結晶で分身を作り出す技ですか。面白い手品ですね。

 奇襲に反応できないアルト、そこへ結晶に包まれた両拳で殴りつける。

 

「それっ!それそれそれ!」

 

 目にも止まらぬ連打。威力は素手だった頃とは比較するのもバカらしい。

 堅牢なアルトの装甲が無残にもベコベコである。

 

「オルゴンスラッシュ!」

 

 トドメに右脚のトーブレードによる飛び蹴りを叩き込む。

 つま先に形成された結晶刃で胸部を抉られたアルトは、蹴りの威力を殺しきれず大きく後退せざるを得ない。

 

「よし、いい感じ!」

「ぼ、僕のアルトアイゼンが、バカな!」

 

 バカはお前だ。この調子で残りの玩具も片してやんよ。

 

「アルトは任せて、このまま追撃する!」

「頼みました。ヴァイスとアンドロイドは私がやります」

 

 アルトを追って離れていくクロ。

 それでいい、大火力で戦闘の中核を担うアルトを抑えてくれるだけで随分楽になる。

 

「突撃バカ同士でやり合ってくれるとありがたいです」

 

 こちらを警戒したヴァイスは遠距離砲撃に徹するみたい、先にアンドロイドの数を減らしましょう。

 取り囲んでの機関砲乱射ですが、いくら撃っても無駄無駄無駄ァ!

 埒が明かないと判断した何体かが突っ込んで来る。

 

「近接戦闘に移行」

「目標補足」

 

 いっぱいキターーー!

 一対多数の戦闘は不利じゃないかって?そうなんですけどね。

 一騎当千の強者が雑魚を蹴散らすのって素敵ですやん。無双したいお年頃なのです。

 そのためのオルゴンテイルです。

 

「排除かい・・・!?」

「よっこらせっ!!」

 

 4本のオルゴンテイルを力任せにブン回す。

 それだけで不用意な接近した数体が薙ぎ払らわれ宙を舞う。

 なるほど、思ったよりパワーがある。

 斬り、突き、払い、叩きつけ、物を掴んだりといろんな使い方が出来そう。

 

「戦闘パターン、ルシファーに酷似」

「危険!現行戦力では対処不可と判断」

 

 む、ルシファーというのは別世界の私ですね。

 似ている?それじゃあダメだ。彼女と同じではいけない、超えていかないと。

 試行錯誤を繰り返し、もっと愉快で残虐な芸を身に着け披露してやろう。

 

「いいから行け!消耗品どもが。一斉に自爆でも何でもしろ!」

 

 クズがクズな発言をしている。

 最低の上司に使われているアンドロイドたちに少し同情してしまった。

 人型特攻兵器と化したアンドロイドが群がって来る。

 触るとドカン!ですか、ならば。

 

「くっ!まさか触手を使ってくるとは」

「ノー触手!しっぽ!可愛いダイヤの尻尾です!」

 

 どいつもこいつもオルゴンテイルの良さがわかっていない。

 きっと冬場なんか凄く重宝しますよ。

 コタツに入ったままで、遠く離れたリモコンや漫画、みかんだって取れちゃうんだからね!

 

 6・7・・・向かってくるのは8体か。

 正面6、背後から2。そうそう、もっと近づいて来い。

 

「自慢の触手ごと爆死しろ!」

 

 尻尾だって言ってんだろ!

 ここで本数を増やす、迂闊に近づいたことを後悔するがいい。

 

「ブチ抜いてやります!」

 

 できた!モデルイメージはグレンラガンのフルドリライズ。

 私を中心にオルゴンテイルが伸び突き出される。その数16本。

 先端を鋭利な刃に変化させた尻尾に貫かれ動きを止めるアンドロイドたち。

 接近して来た8体、全て串刺し完了。

 尻尾の本数や大きさを調整すれば、ヘッジホッグなトゲトゲダイヤちゃんの完成です。

 無礼者めが、私はお前ら如きが気安く触れていい女じゃないんですよ。

 

「コードATA―――」

「させると思うか」

「A―・・」

「エラー、外部から本機へ侵入され、エラー」

「躯体・・制御不能、範囲なおも拡大中」

「ATAによる自壊を・・・ガッ」

 

 自爆など許さない。

 串刺しにしたアンドロイドたちの体を結晶が包み込む。

 内側からも外側からも流し込み、取り囲み、吸収(つまみ食い)、残りは放って置けば霧散するだろう。

 もう一人の私、ルシファーの得意技"浸食攻撃"はお気に召してくれましたか。

 私この技好き、これ滅茶苦茶使える。

 

「へぇー。量産型Wシリーズ、1stで運用された戦闘人形。そのカスタム機ですか」

 

 取り込んだアンドロイドの情報が頭に流れてくる。それで、こいつらの素性がわかった。

 浸食した対象を文字通り"食らう"ことで自身の一部とする。

 動力炉からは疑似覇気を拝借し、ちょこっとだけEN残量が回復した。

 機械相手ならそのAIに刻まれた情報を、生物なら蓄えられた知識を奪える。

 我ながらなんとエグい!

 捕食せずに解析・構築・改造を優先することも可能っぽいな、この辺はまあ、おいおいね。

 

 自爆することもできず結晶化し、砕け散っていくWシリーズ。

 それをみたクズはいよいよパニックを起こす。

 

「い、今のは何だ!?何をしたぁーーー!!」

「ホントうるさいな、ちょっと食べただけですよ」

「食べた?アンドロイドを食っただと」

「お腹は膨れませんけどね。自爆させないための苦肉の策です」

「化物が、話が違うぞ。高く見積もっても轟級クラスではなかったのか」

「違いますー。ルクスの目も節穴ですね」

「ではやはり、超級騎神か」

「無級です」

「ムキュー?そんな級位聞いたことがないぞ」

 

 実は私、級位持ってないんですよね。級位無し、だから無級です。

 クロと一緒に烈級騎神の試験を受けには行ったのですがいろいろあってサボっちゃった。

 あの時はクロが試験官を半殺しにするハプニングが面白過ぎてヤジを飛ばすのに必死でしたから。

 こう見えても一応ね、サトノ家の次期頭首ですから日々忙しくって面倒くさくって今に至る。

 今後級位を取るかは操者と相談して決めたいと思います。

 マサキさん、そういうの無頓着そうです。

 

「どうでもいいで・・来るか」

「ヴァイスリッター!その触手生物を殺せ!」

 

 Wシリーズをぶっ飛ばしながらクズに接近した所でヴァイスが来た。 

 私がテストしていた時より、オクスタンランチャーが強化されている。

 EモードとBモードを同時に撃っても銃身が安定しているし、燃費も中々。

 おー撃って来る来る。

 

「上等です。そのガンファイト受けて立つ」

 

 両手に覇気を集中、二丁拳銃をイメージしてオルゴナイトを・・・アカン。

 複雑すぎる武装は結晶体で再現するの大変だ。ぶっちゃけ面倒くさい!

 仮に結晶銃が完成したとして、造った労力分の威力や効能は発揮されない。

 ※女神マニュアルにちゃんと書いてありました。

 結晶武器はシンプルな物をチョイスするか、装備中のデバイスや武器をコーティングするのが吉。

 ハンドガンが二つに、後はライフルがあればいいのですが、無いものねだりですね。

 仕方ないのでクロみたいに、両手をオルゴナイトで包み結晶弾を生成。

 上空にいるヴァイスに向けて撃ちまくる!

 

「カトンボめ、落ちなさい!」

 

 銃撃戦開始!

 オラオラオラァ!連射連射連射だーー!

 そっちがビームと実弾なら、こっちは覇気弾と結晶弾で応戦してやる。

 アルト程の装甲が無いのは知ってるぞ、対覇気装甲とビームコートがある?

 結晶弾で貫いてみせますが何か?

 

 回避運動を取りながら撃って来るヴァイスに合わせ、こっちも移動砲台と化す。

 その間にも地上のWシリーズが自爆特攻を仕掛けて来るから大変。

 顔と両手の砲身はヴァイスに向けたまま、群がるボム兵どもはオルゴンテイルで蹴散らす。

 なんか見えているんですよ、敏感なオルゴンテイルは感覚器としての役目も果たします。

 コレただの尻尾じゃねぇ!

 攻撃・防御・索敵も可能で、その他便利機構を積み込んだ複合武装だ。ひゃっほう!

 

「クソがぁくそっくそっ!」

 

 安全圏にいるクズが頭を掻きむしりながらこちらを見ている。

 どうした?縮こまってないでお前も参加しろよ。

 あ、お前は食べないから安心して、なんか頭悪くなりそうだから遠慮します。

 

「ただいまー」

「あれ、戻って来たのですか」

 

 Wシリーズ最後の一体、その体が縦にスライス(四分割)された。自爆する暇もあったもんじゃない。

 軽やかな足取りで戻って来たクロの仕業だ。

 少し息が上がっているが余裕そう、安心した。

 

「ウルヴァリンやwウルヴァリンがおるww」

「どう、いいでしょうコレ」

 

 両拳から生えた結晶爪を見せびらかすクロ。出したり引っ込めたりすんな!

 

「アルトは?」

「そこそこ遊べたかな、もうすぐフィニッシュ」

「こっちもです」

 

 上空への射撃を止め、クロと共にちょっと後退。位置取りを新たに仕切りなおす。

 被弾した各所から煙を上げるヴァイスはクロを追って来たアルトの横へ並ぶ。

 あらら、左腕が根元から消失、ヒートホーンもポッきり折られているじゃないですか。

 キタサンブラック、サトノ家の無垢なる鉄砲玉と踊ればそうなりますよねー。

 

 怖気づいたクズを挟んで右に私たち、左にPTども。

 こうしていると、そう、なんかねシンパシーがね。

 短い間でしたが互いの健闘を称えあって奇妙な連帯感が・・・微塵もあってたまるか!

 所詮PTとウマ娘ですから、前半でボコボコにされた恨みは忘れませんから。

 

「リミット解除だ!とにかく、そいつらを何とかしろぉーーー!」

「マジうるさ」

「声ガラガラになってきてないw」

 

 のど飴常備しとけや。

 クロは生姜入りの本格的なものが、私はミルク風味の優しいのど飴が好き。

 

 使い手に恵まれませんでしたね。そこだけは同情します。

 クズの命令でアルトはステークを振りかぶり突貫、ヴァイスは上空へランチャーを構え貯めに入る。

 

「「・・・・!!」」

 

 さあ、ファイナルアタックです。

 

「バッチリ決めて来なさい」

「うん。お先に!」

 

 あ、アレをお忘れなく。

 

「オルゴンマテリアライゼーション!」

 

 言えたじゃねえか。

 女神マニュアルにあったキメ台詞略して"オルマテ"ちゃんと言えましたね。

 集中したクロはおもむろに巨大な結晶体を生成する。

 でか!無駄にでか!それをどうする気ですか?

 

「ごめんね。もし、生まれ変わったら次はもっと遊ぼう」

「・・・・」

 

 生成した結晶体を前方に撃ちだす。射撃?いやこれは・・・

 間髪入れずに駆け出していくクロ、その速度は先行した結晶体に軽々追いついた。

 

「よっしゃぁ!」

 

 ど、ドッキングしたー!

 右手を結晶体に打ち込んで巨大なクローアームに変化させる。

 そのドッキングシーケンス無駄・・・いや、ありですね。

 

 更にウマ耳を覆う結晶角が展開、猛烈な勢いで覇気(オルゴンエナジー)が噴出する。

 何それ?何してんの。まさか、消費しきれなかったENを排出してんの。

 そのまま超加速!

 輝く巨大な右手、オルゴンクロー。

 流出した覇気により、加速した全身に緑色のオーラを纏ったように見える。

 その姿は、かつてベーオウルフと呼ばれた化物を彷彿させる禍々しさと、女神が如き神聖さが両立していた。

 

 アルトが加速しながらクレイモアを乱射する。

 それをものともせず突っ込むクロ。

 標的は眼前、二人の距離はゼロになり交差する。

 打ち込まれるリボルビングステークとぶち込まれるオルゴンクロー。

 

「これで・・・フィニーーーシュッッ!!!」

 

 緑の右手がステークを、いや、アルトの上半身を丸ごと削り取り、握り潰し、破壊する。

 ズササァーー!と土煙を上げてブレーキをかけるクロ。

 覇気の排出が終わり、ギュっと握り込んだオルゴンクローも役目を終える。

 アルトアイゼンだった物はオルゴンクローと一緒に粒子化して霧散していく。

 残された下半身だけが直前までそこにPTがいたことを証明していた。

 

「フゥー気分爽快!」

 

 よくやった!

 それではこっちも・・・え?まだチャージするの仕方ありません。お付き合いします。

 オルゴンテイルは4本でいく。

 まずは2本を使う、地面にブッ刺して姿勢制御アンカー代わりにする。

 

「スリット解放・・イメージは銃じゃなくて弓で」

 

 残りの尻尾は羽のように広げ、用意した隙間から余剰分の覇気を排出する。

 今の私、ルシファーと呼ばれた化物みたいですか?尻尾多めの女神ってことでどうよ。

 狙いは上空のヴァイスリッター、クロが見せてくれたように大きめでやってみよう。

 

「オルゴンマテリアライゼーション!」

 

 両腕で大きなクロスボウを構えているイメージ。

 撃ち込むのは結晶体でできたした巨大な鏃状の塊。こいつは痛てぇぞ。

 

 ちょうどヴァイスのチャージも終わったようだ。

 

「・・・・!」

 

 見下ろしながら、、砲身が焼き切れる程の太くて高威力のビームを撃ってきた。

 反動キツそう、機械の癖に無茶をする。これが最後の一撃だと理解しているのですね。

 そんなのまともに食らったらクレーターの中心でヤムチャさんみたいに、なってたまるか。

 勝つのは私だ!

 

「アブソリュート!行けぇーー!」

 

 空へ撃ち出される鏃。

 極太のビームを突き破りながら天へと駆け上がり標的に命中。

 粉砕!玉砕!大喝采!

 結晶の塊と共に砕け散ったヴァイスリッターは影も形も無い。

 跡形もなく消えてしまった。

 残ったのは何もない地面に着弾したビームの余波と、空で舞い散るオルゴナイト片と覇気の輝きだけだった。

 

「ざっとこんなもんです」

 

 どうです?綺麗な花火でしたね。

 バスカーモードでの初陣としては良い結果をはじき出せたと思います。

 この力、使いこなすにはまだまだ修練が必要ですね。

 デバイスも用意しないといけないな、オルゴナイトを邪魔せずそれでいてもっと・・・

 後にしましょう。とりあえず何とかなりました。

 

「お疲れ様~。オルマテちょっと噛みそうになった」

「あれ言いながらだと結晶体がゴリゴリに強化されません」

「やっぱり!そうだよね」

「不思議なこともあるものです」

 

 クロと合流、互いの無事を確認。大きなケガもなく何よりです。

 

「あー終わった終わった。それじゃあ」

「帰りますか」

「そうだね。なんか疲れた」

 

「お前ら・・・ちょっと待てぇぇーーー!」

 

「「誰?」」

「ぐっ、アーチボルドだ!」

「ねぇ、あの人型の生き物何?見ているだけで胃がムカムカするんだけど」

「しっ!見ちゃいけません。アレはクズ虫と言って近づくとアホがうつる特級指定害虫です」

「なんて恐ろしい!」

「しかも発情期なので手に負えません」

「駆逐!駆逐!今すぐ駆逐しないと」

「触りたくないのでクロにお任せしますね」

「嫌だよ!そういうのはじゃんけんで決めようよ」

「私パーを出します」

「心理戦やめーや」

 

「誰がクズ虫だ!こっちを見ろぉぉぉーーー!」

 

 もう、クズ虫のテンションが高くてウザったいこと。

 ああいう大人になってはいけない反面教師の鏡だな。

 

「よくも、よくも僕の手駒たちをやってくれたな」

「やりましたけど何か?」

「残りはあなた一人だけ、早く終わらせよう」

「どこまでもムカつくやつらだ!いいだろ見せてやる。僕のデバイス、グラビリオォォォン!」

 

 グラビリオン?

 昔AMのコンペで没ネタになったヤツにそんな名前があったような。

 それをデバイスにしちゃったかー、やっちまいましたな。

 あの時、メジロはアーマリオン、サトノはズィーガリオンを推していたからわかんね。

 

 おやクズの様子が変だ。

 体中に装甲を纏って二回りぐらいでっかくなっちゃった。

 全身に着込むパワードスーツタイプのデバイス、そういうのもあるのか。

 着膨れしたなぁ何だこれ、リオンが元になっているとは思えないほど不格好だ。

 

「はははは!どうだ驚いたか」

「「ほぇー」」

「ルクス秘蔵のデバイス。ぐふふ、全身に力が溢れるようだ。これで貴様らをズタボロにしてやる」

 

 (はいそのまま~動かないでね)

 

「今なんか聞こえた」

「クロ、私の後ろへ」

 

 遅い、やっと動くのかよ。

 

「そうだ最初からこうしていればよかった。役立たずのPTどもは不要だったな」

「お、守ってくれちゃう」

「まあ一応」

「照れちゃってこのこの~」

 

 て、照れてないし!仲間を守るのは当然だし。

 え?目の前の急にでっかくなった人?ほっとけばいいと思いますよ。

 

「このアホウマどもが!いい加減にしろ!しぃぃぃねぇぇぇッ―――おぼフッッ!?」

「「おぼふww」」

 

 攻撃開始しようした元クズ、現8メートルぐらいの不格好ロボに何かが着弾し爆発した!

 緑・・結晶の弾丸だと!?

 サッカーボールぐらいの弾丸は命中と同時に砕け散り、私たちがいる場所にも余波が襲う。

 登場してすぐに大破したクズは何もできずに轟沈。

 危ねぇ!ガードしておいてよかった~。

 

「うわぁ何?誰の仕業」

「今のオルゴナイト・・・ちっ、そういうことですか」

 

 崩れ落ちるグラビリオン(笑)の残骸からボトっと何か出て来た。

 しぶといなーなんで生きているの?何でアフロになってるの?

 

「終わったのかな」

「ここからが本番ですよ」

「まだ増援が来るの?」

「ええ、クズの何倍も厄介な奴がね」

 

 バスカーモード解除っと、くぅ~疲れました。

 覇気は・・出せる、戦闘はまだいけそうだ。

 ケガが無いかお互いにチェック、ついでに服装と毛並みを整えておく。身だしなみ大事。

 ヒーリング・・・出来なくもないが苦手だ。これは操者にやってほしい。

 

「マサキさんのヒーリングが恋しい」

「アレめっちゃ効きますからね。戦闘終了後のお楽しみですよ」

 

 車両が近づいてくる音がする。

 しばらくして、私たちの前に複数のミニバンが到着。

 中から思った通りの奴が降りて来た。

 

「どうもどうも~二人ともお疲れ様だね。ご機嫌はいかがかな?」

「やっぱり」

「お、お前は・・」

 

「「インモーかよ!!!!」」

 

「将軍かよ!みたいに言わないでよ!」

「今更なんなの、遅刻だよこのクソ野郎」

「お前戦闘中ずっとチラチラ見てただろ、クズ一匹仕留めたぐらいで調子のんなや」

「げ、元気だな。前半死にかけていた癖に」

「なんだコラやんのかぁ!耳と尻尾むしり取ってやる」

「今なら秒でぶっコロだぞ、オルゴナイト尻にブッ刺してやるよ!」

「この底辺チンピラウマどもがぁ。これはマサキが苦労するのも納得のDQN」

「気安いぞ、誰がその名前を呼んでいいと言った」

「DQNで結構、今から全面戦争するでおkですね。はいわかりましたーインモー一匹処理しまーす」 

「はぁ頭痛い、とりあえず二人とも落ち着いて」

 

 落ち着けだと?無理だ。

 戦闘中、あわよくば殺そうとしたのはそっちだろ。

 さっきの結晶弾、あの結晶はマサキさんの覇気で生成したんだろ。何故お前がそれを持っている。

 そして、こちらのイライラ助長させる最大原因がある。

 なんで・・・

 

「「何でお前からマサキさんの匂いがするんだよ!ドちくしょぉぉぉッーーーーー!」」

 

「あ、わかる?そりゃもう愛バだからね。操者の匂いがしても何も問題なしなし」

「ありだわ!大ありだわ!」

「わかったジャケットだ!そのサイズ違いジャケットから匂う」

 

 インモーは一回り大きめの黒いジャケットを羽織っている。

 嬉しそうに見せびらかすようにくるっと回ってみせるインモー。

 

「マサキにプレゼントしたらフェロモン付けて返してくれたの」

「返品されてんじゃねーか」

「いや、でも、その手があったか!一旦着てもらってそれを返してもらえば・・・」

「あげないよ!」

「そこは"あげません!"だろ。ぐうう、羨ましい」

 

 インモーの匂いが付いてしまっているが、着てみたい。

 きっとマサキさんに包まれているような着こごち夢心地だろう。

 

 ぎゃーぎゃー言い合いをして無駄な体力を消費。そろそろ先に進もう。

 

「で、クズを使って私らを殺害しようとしたのはあなたですか?」

「ルクスとクズの動きを利用したのは認めるよ」

「何故そんなことをって、アレしかないか」

 

 こいつは別世界1stの出身か事情を知っている奴なのだ。

 ベーオウルフとルシファー、それになる可能性を秘めた私たちを警戒し暗殺を企てるのは当然。

 

「二人が暴走したら殺すつもりだったよ。乗り越えてくれて本当によかった」

「今後もずっとつけ狙う気?」

「その必要はないよね。まあ、マサキを裏切って悪さするなら・・・いつでも殺してあげるから」

「こっちのセリフだよ」

「マサキさんの敵は私たちの敵です」

「うんうん。そこは愛バとして共通認識ってことで」

 

 ふん。精々暗殺されないよう気をつけますよ。

 

「本当になったんだ、マサキさんの愛バに」

「謝らないよ」

「「・・・・」」イラッ

「どんな理由があれ、2年以上も操者を放置したのはそっちだから」

「「ぐぬぬ」」

「むしろプラス2で済んでよかったと思ってほしいよ!」

「「おごご」」

「あんないい男を逃すなんて!どれだけのウマ娘が気持ちを押し殺して我慢したと思ってんの?」

 

 わかってますよ!だから離れるのが嫌だったんです。

 

「二人のマーキングにビビッて遠慮して諦めた子に感謝しろ!逆に謝れ!」

 

 そこまで言うかこいつ。

 

「まあ私は我慢も諦めもしなかったけどね!初見でホテルに連れ込んだからね!!」

「「何してんだてめぇぇぇーーー!!」」

「フフッ、あの時のマサキったらウブで可愛かったな~うぇへっへっ」

「こいつマジで消した方がよくない」

「汚い!流石インモー汚い!」

「汚いは褒めことばだよ」

 

 涎垂れてんぞ拭けや。

 ホテルインしただと・・・殺意で人が殺せるなら目の前のウマを100万回地獄送りにできる。

 

「やったんか?」

「・・・」

「最後までやったんか?」

「何のことかな~」

「「うまぴょいしたのか聞いてんだよ!!」」

「それはね~・・・えへへ////」

「なんだ未遂か」

「とりあえず安心」

「む、なんでそう言い切れるのかな」

「完遂済みならもっと偉そうに堂々としているはずですからね」

「それか嬉し恥ずかし幸せ過ぎて頭沸騰してラリっているはず」

「バレたかー。でもね、もう少しだったんだよ」

 

 このインモー、マジで油断できない相手だ。

 マサキさん、頑張って自制してくれたんですね。

 私とそういう雰囲気になった場合は頑張らなくていいです。我慢ダメ絶対!

 

「もう一人はどうかわからないけどね」

「「なん・・・だと・・・」」

「私たちの知らない内にマサキは、マサキは、うまぴょいを」

「「う、うまぴょいを」」

「強いられたかもしれないんだッ!!」集中線!

「「いやぁぁぁぁーーー!!」」

「という事になってるかは、本人に直接聞いてみようよ」

 

 もう一人の愛バとやら、そのご本人はどちらにいるんですかね。

 ちょうどその時、ガサッと茂みから音がした。

 

「お、来たかな」

「ボス~、あいつヤベェよ。何とかしてくれよ~」

 

 長身のウマ娘が現れた。なんかヘロヘロに弱っているのですが。

 こいつも私たちと同じ愛バ?

 

「お疲れゴルシちゃん。それでお相手はどちらに?」

「手に負えねぇーよ。もう環境破壊ってレベルじゃないほど大暴れしやがった」

「それでおめおめと逃げて来たと、敵前逃亡で減給だね」

「いやマジでイカれてるんだって!こう雷がビリビリでドーンッッ!」

「雷ねえ、ここから遠い位置で撒いて来たのか・・迎えに行った方がいいのかな」

「あいつもうウマじゃないよ。ゴリラだよ電気ゴリラ、ゴリ娘パワフルダービィーだよ!」

「「何言ってんだこの人ww」」

 

 ゴリ娘?この森にはそのような生物がいるのか、たまげたなぁ。

 

「うーん、どうしよっかなー」

「とりあえず場所を変えません?」

「お腹減った」

「そうだね。じゃあ・・」

 

「こ、こ、コケにしやがってぇぇぇーーー!!」

 

 あ、クズ(アフロ)が復活した。

 

「忘れてた。どうするのコレ?殺処分?」

「ファイン家が何とかしてくれますよ」

「いや、うちはゴミ処理業務は受注してないよ」

「どうせ脱走犯だろ、メジロ家にパスすればいいんじゃね」

「シャカーー!これどうしたいい~!」

 

 周囲の残骸撤去等、戦闘の後始末をしているファイン家部隊の一人に声をかけるインモー。

 

「ああ?知らねぇよ。えーとそうだな、何処かの財団がDクラス職員募集してたから提供しとけ」

「その案いただき!」

「よかったな就職先が見つかったぞ」

「いいわけあるかぁ!」

 

 何でこんなに元気なのだろうか?デバイスがぶっ飛んでピンピンしてる、ゴキブリ並みの生命力。

 はっ!もしやテラフォーマーでしたか。

 

「どうして僕がこんな目に、あいつだ!あの男に関わってから全てがおかしくなった」

 

 なんか独白し始めた。

 

「マサキ!あのバカでアホ丸出しのマザコン・シスコン・ロリコン三重苦のクソ野郎が!」

 

 そこまでにしとけよ、誰の文句を言っている。

 ここにいる全員が殺気を出したのに気づけやボケ。

 

「今度会ったら殺す!絶対に殺す!アンドウマサキはこの僕が必ずコロ―――」

 

「誰が」

 

 雷光一閃。

 

「誰を殺すって?」

 

 この場にいる全員、反応できたのは何人だ。

 辛うじて青白い雷が駆け抜けたと認識した。

 次に見たのは、クズの頭を踏みつけ顔面を大地に叩きつけているウマ娘の姿。

 今のは何だ誰だ?いつの間に。

 

 バチバチッと弾ける雷光。

 端正な顔立ちのウマ娘から発せられる怒気と雷は震える程に美しく、恐ろしかった。

 クズはピクピクと痙攣しているので死んではないようだ。

 

「こいつです。こいつがゴリ娘です!」

「「「「な、なんだってー!!!!」」」」

「え、な、ゴリ?ち、違います」

「ひぃ!電気ゴリラ怖えーよ。誰か助けろくださいお願いですあいつマジでヤバイの」

「ゴルシちゃん、言語に異常をきたすほど怯えて」

「シロ!まだ戦える?」

「ええ何とか。さて、ゴリ娘相手にオルゴナイトがどこまで通用するか」ゴクリッ

「生け捕りにしろ!テスラ研に売り飛ばせば金になる」

 

 緊急クエスト発注!謎の電気ゴリラ・ゴリ娘を討伐せよ。

 

「やめてください!ゴリラじゃありません、ウマですウマ娘です」

「電気出すウマ、新種発見か。やはりテスラ研に」

「せっかく出て来たのに、またあそこへ戻るのは遠慮したいです」

 

 自分はゴリ娘ではないと、慌てて弁解しだす自称ウマ娘。

 ええー、ほんとにござるかぁーー?

 

「ねぇ、何でクズを攻撃したの?」

 

 それだ!このウマ娘が敵ならなぜクズをピンポイントで攻撃したのか。

 

「あの人の悪口を言いましたから、ついカッとなってしまって・・・申し訳ありません、お嬢様」

「あの人?マサキさんを知ってる。それにお嬢様って言った」

「そうか、ラ・ギアスからずっと護衛してくれていたのはあなたですね」

「サトノの従者部隊!そっかパパの差し金か」

「この度は馳せ参じるのが遅れてしまい、誠に申し訳ございません」

「どうせインモーが妨害していたんでしょう。しかたありません」

「お名前を聞いてもいいかな」

「はい、申し遅れました。私はサトノ家従者部隊0番メジロ―――」

「「めじろ!?」」

「そうそう、この子がアルダンちゃ・・アルダンさんかな。実際に会うのは初めてだから一瞬わかんなかったよ」

「ファイン家頭首様、この間のお話は何かの間違いでは」

「あらら、心当たりある癖に~」

「そ、それは・・うう////」

「「どういうことなの」」

 

 え?従者部隊で私たちの護衛で0番?メジロって言った?

 それでインモーがニヤニヤしながら弄って赤面してウホッ!かわええ!なんて綺麗なゴリラなんだ。

 

「はい、これで全員揃ったね」

 

 インモーが手を叩いて場を収集する。

 

「クズは捕縛して移送、後片付けが済んだら会場に移動するよ」

「「「「御意!」」」」

「かぁ~疲れた疲れた。帰って寝るでゴルシ」

「結局、俺の結晶弾は余っちまったな。まあいい精々研究させてもらうぜ」

 

 ファイン家部隊がいそいそと作業スピードを上げる。

 ゴルシと呼ばれたウマ娘は車に乗り込んで早々いびきをかき出した。寝るのはぇーよ。

 

「あの、どこへ移動するのかな」

「第一回愛バ会議の会場へご招待~」

「「「愛バ会議とな!」」」

「もう!ちゃんと予告したでしょ。本番はここからだよ」

「いや、もう一人が」

「察しが悪すぎですよクロ」

「あの、その、えっと・・あわわ]

「ゴリさん、アンタまさか」

「ゴリではないです。すみませんすみませんすみません」

「コラ!イジメかっこ悪いよ。威嚇しない、睨まない、変顔しない!」

「はぁ~。もう、ちゃんと説明してもらいますからね」

 

 愛バ4人の初顔合わせはこんな感じになりました。

 

 憎たらしいてき・・・ゲフッ!ゲフンゲフン!頼もしい味方との語らいが楽しみです。

 いやホントどうしてくれようか。

 



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ウマ女子会

 ファイン家所有の車両が列をなし道路をひた走る。

 その中の一台、黒いミニバンの車内では異様な緊張感が漂っていた。

 

「・・・・」ジィーー

「・・・・」イライラ

「・・・・」アワアワ

「・・・・」ニコニコ 

 

 興味と非難を含む視線を向ける者。

 苛立ちを隠そうともせず尻尾を揺り動かす者。

 周りからの圧で縮こまり冷汗を流す者。

 その光景を楽しそうに眺める者。

 

 「先に動いたらやられる」とでも思っているのか、牽制し無言で睨み合う状況が続く車内の空気は重い。

 ここに集う彼女たちには共通点があった。

 

 一つ、ウマ娘であり見目麗しい姿形と恐るべき力を有していること。

 二つ、全員がやんごとなき身分の者で、俗に言うところのお嬢様であること。

 三つ、とある男の愛バであり、操者である彼に想いを寄せていること。

 

 以上の三点である。

 

 運転を任されハンドルを握るエアシャカールは、ミラー越しに後部座席を確認してため息を吐く。

 彼女たちの気持ちも分かる。

 操者不在で不安と焦りが募る最中、自身の同類であり恋敵が初めて一堂に会したのだ。

 様々な感情が入り混じった結果、動くに動けないのだろう。

 

 ぶっちゃけ全員が「どないせーっちゅうんじゃい!」とテンパっている。

 

 (これが修羅場ってヤツかよ、めんどくせぇ)

 

 最悪な領域展開に巻き込まれた自分の不幸と、元凶の操者を恨みながらも一応声をかけてみる。

 

「いつまで睨み合ってるつもりだ?」

「ウフフ、みんなちょっと緊張してるだけだよね~」

「・・・ 」プイッ

「・・・チッ」

「・・・えっと」

「車内の空気最悪なんでやめてほしいんだが、全員今すぐ飛び降りてほしいんだが」

「今高速走ってるのにそういうこと言う!?」

「何なら俺が飛び降りてもいいぜ」

「あちゃー部下のメンタルケアを怠ってたか、帰ったら袋麺支給してあげるね」

「マジクソいらねぇ」

 

 うちのボス、一見いつも通りで余裕振ってはいるが目が泳いでいる。

 結局こいつも一杯一杯である。

 時間が勿体ねぇだろうが、今のうちに何か話しておけよな。

 そう思っていたのは自分だけではなかったらしい、状況を打破しようと一人が動いた。

 

「ねぇ」

「あ、はい。なんでしょうか」

「前に会ったことあるよね。ほら、公園でさ」

「覚えていらしたのですね。あの時、お二人はまだ小さくて操者選びに苦労されていましたね」

「そうそう、そんなこともあった。うん、顔色凄く良くなった、見違えたよ。元気になってよかった」

「ありがとうございます。これもマサキさんのおかげです。お二人こそ見違えました、大きくなられて」

「自分でもビックリな成長期。マサキさんが愛情たっぷりの覇気を送ってくれた結果だね」

「フフッ、きっと喜んでくださいます」

「そっちはどこでマサキさんに会ったの?教えてほしいな」

「私はですね・・・」

 

 お、黒い狂獣と電気ゴリラが打ち解けてきた。その調子だ絆ゲージを上げろ!

 

「ねーダイヤちゃん。私たちもグットコミュニケーションからの友情トレーニングしよ」

「説明なく命を狙われたこと許しがたく誠に遺憾でキレてます」

「何その言い回しw」

「インモーへの好感度が下がった。殺意が10上がった」

「殺意ゲージの上昇は止めて」

 

 問題はこいつらだ。

 両者ともなまじ頭がキレる分、大層面倒くさい性格をしている。

 頭はいいんだよ頭は・・・でもバカなんだよこいつら。

 考えすぎて、回り道して、上手くいかなくて、一人で抱えて、挙句の果てに全部巻き込んで爆発する。

 ホントめんどくせぇ。

 

「もう~根に持ちすぎだよ。何度も謝ったのに、どうしたら許してくれる?」

「・・・ジャケット」

「ほう、我の上着を所望するか」

「勘違いしないで下さい。私はただ聞きたいだけ・・・その、ど、どんな感じなのかですね」

「はぁ~聞こえんなぁ」

「マサキさんから返品されたジャケットの着こごちは!いかがでしたか!」

「最高だよ!着ている間ずっと密着気分だよ、一心同体だよ」

「そ、そんなにですか」

「マサキが帰ってきたら量産化する計画立案中」

「マジでか!その計画、一口噛ませてください」

「フフッ、元よりそのつもりだよ。お互い遺恨はあれどマサキについては協力していかないとね」

「わかりました。暗殺未遂の件は不問ということで・・それでですね・・こんな感じでどうでしょう」

「な、この短時間にユニフォームのデザインを、すごっ!全員分考えてあるし」

 

 うちのヤベェのとサトノのヤベェのが急に談笑し始めた。もう好きにしろや。

 

 車内の空気が和らいで運転しやすくなった。

 しばらくして、一行は目的地へと到着したのであった。

 

「さあ、着いたよ」

「意外!ラーメン屋じゃなかった」

「何ですかここ?」

「存じません。こういった施設は私も初めてで」

「貸し切りにしてもらったからね。遠慮せずに入店するよ、GOGOGO!」

「ちょ、押さないで」

 

 せかされて入店。

 広い入り口に受付がある。宿泊施設?

 インモーが受付で従業員と会話、シャカールやゴルシを含むファイン家連中とはここから別行動。

 

「おっし、皆の者~私に続け~」

「ホテルでしょうか?」

「宿泊も可能だけど、メインはそっちじゃないね」

「勿体ぶらず教えてくださいよ」

「すぐにわかるよ。お、ここだ。それじゃあ全員―――」

 

 この場所、それにこの湿気は・・・

 

「裸になってもらおうかな」

「「「・・・・」」」

「いいから早く脱げよ!オラッ!」

 

 (痴女か)

 (え、女の子同士で!?い、いけません!そんな百合百合しい!)

 (ゴリさんムッツリ?)

 (違います。ただのドスケベです)

 

 ♦

 

「ふぃ~生き返る~」

「広い!それにいろんなお風呂があって楽しい。今度はこっちに挑戦だ」

「あらあら、走ると危ないですよ」

「気に入ってくれたみたいで何より」

 

 はい、みんなでスーパー銭湯とやらを満喫中です。映像で見せられないのが実に惜しい!

 カポーンと木桶の音が聞こえてくる気がしませんか?

 会議の前にサッパリしておこうという算段らしいです。

 ジャグジーに打たせ湯、乳白色や蛍光グリーンの湯が入った瓶、寝そべりながら入れる変わり種もなんかもある。

 まさにお風呂のテーマパークですよ。

 戦闘で疲弊した体に効きますな~、貸し切りで気兼ねなく入れるのもいい。

 コラコラ、いくら広いからって泳いじゃダメ・・ちょっとぐらいならいい?よーし!潜水しちゃうぞ。

 

「欲を言えばマサキさんと来たかったですね」

「ホントそれな」

「もちろん二人っきりの濃厚混浴パーティーです」

「濃厚混浴////」

「おやおや~想像したな貴様~」

「し、してませんっ!お風呂でご奉仕プレイなんて知りません!」

「なるほど、ドスケベだ」

「ふーん、ドスケベなんだね」

「こういう、お清楚ぶった奴ほどエロいんですよね。脳内ピンクまみれかw」

 

 ドスケベゴリラが耳まで真っ赤になって湯船に沈んでいった。

 この人、色白かつ美肌だから朱が差すとわかりやすいんだよな。

 と思ったらすぐに浮上して来た。

 

「み、皆さんこそ!マサキさんとあの・・そういうことを・・してみたいと・・」ゴニョゴニョ

 

 お、反撃か。

 

「何を今更」

「愚問だね」

「そんなの・・・」

 

「「「してみたいに決まっとるわぁーーー!!!」」」

 

 貸し切りなので叫んでも大丈夫!よく響くなぁ。

 

「ですよね!私一人だけがドスケベじゃないですよね。全員がってことでいいですよね」

「「「よくないわ!!!」」」

「そんな~酷いです」

「ドスケベの称号はあなたにこそ相応しい」

「うんうん、ドスケベキング・・クイーン?」

「エロいわ~アルダンと書いてドスケベって読むぐらいエロイわ~」

「本気でやめてください!怒りますよ」

「ちょw雷はいけない!」

 

 バカどもと一緒に大浴場で感電死!

 そんなことになったらマサキさんが悲しむ前に呆れるでしょうが!

 「あいつら最後まで頭悪かったな」って墓前で言われたくない。

 

「ごめんごめんw雷はやめてね。いやマジで勘弁して」

「何故ですか?妹たちには誤解され、あなた方にも・・・マサキさん至らない私を許してください」トホホ

「誤解じゃないからじゃね」

「気にすることはないです。操者が望めば愛バは幾らでもエロくなるもんです」

「初めて聞いた。でも異論なし!」

「そうだね。マサキが肯定してくれるならどんなエロスでもぉバッチコーイってね」

 

 全員で頷く。フッ、この一体感嫌いじゃないわ。

 

「それにしても・・ふーむ」

「嫌~視線が絡みつく」

「見過ぎです。これ以上は金を払うか、目を抉るかしてください」

「あのチビちゃんたちが、ここまでたわわに・・・実り過ぎじゃない?」

「お二人とも本当に美しくなられて、羨ましいです」

「どうも。ですが、あなたに言われると嫌味というかなんというか・・」

「そんなつもりはありませんよ。本当にお綺麗ですから」

 

 これが褒め殺しか!くっ、本心で言ってくれているのが余計に・・・

 

「照れますのでその辺にしてください。ゴリさんも十二分にきっ・・綺麗ですよ」

「まあ、ありがとうございます。ゴリじゃなくてアルダンです」

「シロ、私は?」

「どーでもいい」

「少しは関心持って!」

「ダイヤちゃん、私はどうかな?」

「ちぢれ毛に興味ねぇんだよ」

「なんてことを言うんだこの里芋は!」

 

 うるさいうるさいうるさーい!

 言いたくない、言ってやらない。

 全員が可愛くて綺麗で私にはない魅力があって・・・負けたとか思ってねーし!

 マサキさん、あの子のここが好きなんだろうな~とか考えたこともないし!

 焦るな、最終的に選ばれるのが私であればよいのだ。

 

「「「それはどうかな」」」

「心を読むな!」

「「「か~わ~いい~www」」」

「こ・い・つ・ら」

 

 いじられるの慣れてないのでやめてほしい。

 

「裸の付き合いにしてよかったでしょ。何だかんだで仲良くなるね」

「いきなりでしたけど結果オーライです」

「よーし、次は洗いっこしようよ」

「「「洗いっことな!!!」」」

 

 体ぐらい自分で洗えや。やれやれクロったら、頭の中はまだまだお子様なんですから

 

「えーやらないの?練習も兼ねているのに」

「練習?何のですか?」

「操者の体を献身的に洗う練習。マサキさんに上手だねって褒めてもらうんだ」

「よし!早く始めましょう、ペアになった方がいいですかね」

「やりましょう!気持ち良かったって言ってもらえるよう精進あるのみです」

「そっか、そういうのもあるのか、私もまだまだ勉強不足だ」

 

 それからはもう泡まみれで揉みくちゃですよ。

 大事な所は湯煙と泡と謎の白線でガードされていますのであしからず。

 映像は脳内で存分に補完してください。

 

 (うひょひょーーええぞ!ええぞ!も、もうらぁめぇぇーーー・・・あっ)尊死

 

「またデジタル殿が死んでおられるぞ!」

「どうした急に、デジタルって何?」

「わかりません。何故だか言わなくてはいけない気がして」

「それは噂の生霊だね」

「生霊!噂って何?」

「聞いたことがあります。ウマ娘が仲良くしていると、勝手に現れ勝手に消える変態の霊が出るとか」

「ドン引きです」

「一応無害らしいけど、気持ち悪いよね~」

「近々SCP財団が収容するために動く予定だとか」

 

 この世界、まだまだ謎に満ちているようです。

 

「話は変わるけど、従者部隊の0番って本当?」

「はい、頭首様よりそのナンバーを授かりました」

「父様・・0番なんて架空の存在だといってはずでは」

「1番のおいたんより強いんだ。これは楽しみだな」

「それよりも、ご実家の方は本当によろしいので?」

「心配無用です。メジロ家、サトノ家双方ともに話はつけてありますから、ばば様たちは笑顔で送り出してくれました。サトノ家の皆様は笑顔で迎えてくれました。私は幸せものです」

「うちはともかくメジロ家が・・どういう風の吹き回しでしょうか」

 

 顔に似合わず無茶をする。

 メジロ家出身者でサトノ家に雇われたいと思った物好き、それも相当の身分と実力を持っている。

 うん、間違いなく変人だな。変なゴリラだな、うちこんな人材ばっかやんけ。

 

「ファイン家は全員いつでも大歓迎だよ!」

「いたのかB79」

「79言うな!あのねぇ、私のは十分お手頃サイズだよ。あなたたちが無駄にでかすぎなの!」

「無駄じゃない、私のB85はマサキさんのためにあるんだよ」

「見てくださいw負けウマどもが見苦しい争いをしていますよ。B87の私たちは高みの見物といきましょう」

「あの、マサキさんはどの程度のサイズが好みなのでしょうか?」

「無論B87に決まっています」

「物凄く安心しました」

「くっ、この、垂れてしまえ!垂れ乳になってしまえ」

「知ってる?こうやると乳首が削れて・・・」

 

 私の手にかかれば洗いっこ中に全員のバストサイズを測るなど造作もないです。

 過去のトラウマ、風呂場限定の妖怪が復活しそうになって少々焦りました。

 

 ♦

 

 風呂上り、サッパリした体をよく拭いてドライヤーとブラッシング。

 効率よく代わりばんこにやっていきましょう。

 

「ゴリさん上手~」

「アルダンです。とても艶やかな毛並みですね・・はい、まだ動いちゃダメです」

「こ、こうですか」

「うん、上手上手~なんだ、文句言ってた割にできるじゃん」

「クロ意外の子にやるのは初めてなんで・・・」

「へぇー、じゃあ今後は私とアルダンさんも追加でよろ~」

「く、後で交代してくださいよ。えっと・・マサキさんは確かこうしてくれたはず」

 

 マサキさんがしてくれた時のやり方を思い出してブラシをかける。

 う、インモーの癖にサラサラしやがってこんちくしょー!

 なんで私が緊張しないといけないんじゃ、こんな奴の毛がどうなろうと・・ええい、くそ。

 これもこいつの作戦なのだろうか?

 私とマサキさんが初めて会った時もブラッシング中に凄く絆が深まった。

 これはやる方もやられる方も相手を尊重し信頼して身を預ける必要がある。

 ウマ娘相手のスキンシップでこれ程の有効打は他にないだろう。

 

「全部マサキが教えてくれたんだよ」

「え?」

「みんなで仲良くなるにはどうしたらいいかって相談した事があったの、そうしたら」

 

 それは教団襲撃前の空き時間での談笑中、操者の男はアッサリと回答した。

 

『一緒に風呂でも入って、美味い飯食ったら自然と仲良くなれるんじゃね』

『そんなのでいいの?』

『いいんだよ。本気で嫌な奴らとはそんな風になれもしない』

『お風呂って結構ハードル高くない』

『まあな、でも裸の付き合いを最初にクリアしちまえば後はどうとでもなる』

『無茶苦茶だぁ』

『そこはココの頑張り次第だ。きっと大丈夫、クロもシロもアルダンもいい子だから・・たぶん』

『他人事だと思って、たぶんって』

『あ、そうだ。風呂上りのブラッシングは絶対やれ!あれはいいものだ』

 

「って言ってくれたんだよ」

 

 操者とのやり取りを思い出しているのだろう。

 ニコニコと笑顔を浮かべるインモーの尻尾にブラシをかけていると、心が穏やかになった気がした。

 

「ホント敵いませんね・・お釈迦様ならぬマサキさんの手の平でしたか」

「弄ばれて嬉しい癖に」

「嫌だとは言ってません。もっと弄り回してほしいぐらいですよ。はい、交代してください」

「はいはーい。ぐふふ、私のターンだね」

「激しく不安ですが、よろしくお願いします」

 

 インモーのブラシテクは思ったより心地よかった。

 マサキさんのテクには遠く及びませんけどね。

 クロの方も上手くやれているようですね。ゴリさんもこれにはニッコリです。

 

「なんで体操服?」

「何とも言えないデザインのジャージもついてます」

 

 用意された着替えは学生が体育の授業で着るヤツでした。

 どう見ても短パンですよ。

 ジャージを着るかはお好みで。

 

「このロゴ、トレセン学園指定のものですね」

「パジャマ代わりだよ。動きやすくていいでしょ」

「別にいいけどさぁ」

「あなただけブルマなのは一体?」

「牝馬だからさ」

「「「ヒンバ???」」」

 

 あまり突くと薮蛇になりそうなのでスルーした。

 

 ♦

 

 着替えて移動する。

 向かった先は施設内にあるお洒落なバーカウンターを通り過ぎて、併設された飲食スペース。

 ここはフードコートですか。簡素なテーブルとイスが逆に新鮮です。

 お嬢な私たちですが不満はあれど文句は言いません。

 どんな場でも楽しむゆとりってヤツを大切にしたい。堅苦しいのは苦手ですし。

 

「さて、次は同じ釜の飯を食うってのをやっちゃおう」

「会議はどうなった」

「まあまあ、食べた後でもいいじゃん」

「志を同じくする方とのお食事、ワクワクしますね」

 

 フードコートには私たち以外にもチラホラと人がいて思い思いの料理を口にしている。

 全員がファイン家の部隊員だろう。

 風呂はともかく、この場所では貸し切りでないほうがありがたい。

 静まり返った場所より多少の喧騒があった方が落ち着く。

 何故か厨房を仕切っているのはゴルシと呼ばれていたウマ娘だった。ただの戦闘員じゃなかったのか・・

 

「みんなは何ラーメンにする?」

「「メニューを寄こせ!」」

「おすすめはね~やっぱり豚骨が、あ、つけ麺ってのもあって」

「ラーメン一択なのでしょうか」

 

 やっぱりこうなったか。

 

「わがまま言わずに選んでよ、何ラーメンがお好みかな?」

「「うどん!」」

「帰れ!」

「「帰るわ」」

「待って帰らないでって・・このやり取りマサキともうやったよ!」

「いいですね、おうどん」

「ほら、ゴリさんもこう言ってる。三対一でうどんだね」

 

 マサキさんもインモー相手にうどんを所望したことがあるのだとか、だったら尚更うどんでよくね。

 

「お待たせしました。前菜のラーメンでございます」

「「「おい!?」」」

「ありがとうゴルシ大将。さあ、冷めないうちに食べようね~」

 

 こちらには最初から選択権はなかったようだ。

 用意されてしまったものは仕方がないので頂くことにする。

 風呂上りのラーメンか、インモーと初めて会った時もこうだったな。

 流されたようで癪だけどラーメンは非常に美味かった。

 く、悔しい!でもすすっちゃう!

 その後、メインディッシュとデザートもラーメンだったのは流石にムカついた。

 完食してやりましたけど何か?ウマ娘の胃袋を甘く見ないでください。

 

「けぷ・・・食べ過ぎた」

「何度も替え玉するからですよ。腹八分目って言うでしょうに」

「大変美味しかったです。ラーメンとは奥深い食べ物でしたのね」

「お、いい反応。今度一緒にラーメン屋巡りしちゃう?お勧めの店があってね」

 

 風呂に入った、飯を食って腹も膨れた。お次は・・・

 

「帰って寝るか」

「会議!今から会議するんだよ。何のために集まったと思っているの」

「今日はもうめんどいからまたの機会にしない?」

「ダメ、今日やるの」

「会議とは一体何が始まるのでしょうか」

「お互いの情報交換と今後の方針について、話しておかないといけない事があるの」

「ふぁ・・ねみぃ」

「ダイヤちゃん。お願いだから、やる気出して」

「無理、眠いもんは眠い」

 

 クズ一行との戦闘、初めてのバスカーモードで疲れているのは事実です。

 体が休息を求めているのですよ。

 

「マサキの話で盛り上がろうと思ったのにな」

「おお、それ最高」

「実に興味深いです」

「ふん。私の眠りを妨げる程のネタがあるなら言ってごらんなさい」

「マサキ、私のおぱーい直に触って揉んだ」

 

「「「ふざけるなぁァァァッッッーーーーーーーーー!!!」」」

 

 眠気なんかぶっ飛んだわ。

 こいつはホテルに連れ込んだだけでは飽き足らず、何てことをしてくださりやがっているのでしょうか。

 

「言ったよね、触ってもらえないおぱーいなど無駄なのだよ。時代はお手頃サイズだよ」

「ハ、ハッタリだ」

「嘘ですよね」

「どうしてそういう状況になったか言え!今後の参考にする」

「あれはルクスとの戦闘中、私たちは絶体絶命のピンチだった。それで、思い残すことがないようにと・・こうね、モミモミとね」

「まさかの戦闘中」

「死を覚悟して燃え上がる二人、なんて羨ましい////」

 

 何やってるんですかマサキさん。

 何やらせてんだ!おいコラ、ルクスのクソボケがぁ!パイ揉みぐらい阻止しろや!

 

「不覚にも変な声が出ちゃってね。いや~参った参ったw」

「クソが!」

「ち、ちくしょう」

「あう、マサキさんったら大胆////」

「という報告も有ったり無かったりするのが、愛バ会議だよ」

「ふむ。定例報告会と操者談義、その他諸々を兼ねているのか」

「所謂女子会だね」

「女子会!素敵な響きですね」 

 

 この面子で女子会か。

 ま、まあ、いいんじゃないですかね・・別にクロ以外の親しい奴が増えても困らないですし。

 どーしてもって言うなら付き合ってやらんでもないですし。

 

「シロが乗り気の内にやっちゃおうよ」

「待てや、誰が乗り気だと?わかった様なことを」

「そんなの仕草でわかるよ。耳の角度とか尻尾の揺れ具合、それから・・」

「やめて!改めてこの子怖い」

「マサキさんがいない間は、シロがボケもツッコミもやってくれるね」

「それはとても光栄・・・なんでしょうか?」

「はい、全員同意したことにしまーす。ではでは~」

 

 めでたく?会議の開催が決定した。

 

「あの、その前にいいでしょうか?」

「はい、ゴ・・ンンッ!・・アルダンさん」

「私、マサキさんの愛バになった覚えが無いのですが、契約を申し込んでおりませんし」

「え、そうなんだ」

「珍しい、知らず知らずのうちに契約していたのですか?」

「自覚無しってのも質が悪いね。もらえるものをバッチリもらった癖にさ」

「・・・はう」

「雷がのった覇気、元々マサキのだよね?」

「「なぁにぃーーー!!」」

「ひっ!そ、そうです」

「体液を摂取したよね。無断で血をペロペロしちゃうなんてやるね~」

「「あああああん!!」」

「いえ、ちがっ、う~・・・すみません。その通りでございます~」(´;ω;`)

 

 目を潤ませ土下座をするゴリさん。

 お清楚の皮を被ったドスケベゴリラが、こいつも要注意だ。

 

 以後、ゴリさんの弁解(言い訳)を聞いた。

 神核の異常で引き籠っていたところをマサキさんに救われたのだという。

 その際、何やかんやで助かったのだが、他者の神核を制御し治療するという荒業を成し遂げたマサキさんは気絶、頬に負った傷から出血していたらしい。

 

「自分でもよく覚えていないんです。気が付いたら彼の血を舐めていました。私ったら!本当になんて事を・・」

「切腹ものですな」

「介錯はお任せ下さい」

「この身はサトノ家とマサキさんに捧げております。お嬢様方が望むのなら自害致しましょう」

 

 このゴリ、覚悟完了しきってやがる。

 

「まあまあ、切腹はやめようね」

「「ちっ」」

「アルダンさんは相性が良かった。そしてマサキの凶悪な覇気を受け止める確かな器を持っていた」

「むう」

「私もだけどさ、マサキを初めて見た時どう思った?「この男ヤベェ!」って思ったはずだよ」

 

 確かに、普通のウマ娘なら絶対に関わりたくない。

 逃げて隠れて怖気づいて嵐が過ぎ去るのを待つのだろう。普通ならば・・・

 けれども、私たちは惹かれてしまった。欲しいと思ってしまった。

 強すぎる覇気に身を焼かれ傷ついてしまうとしても、彼と一緒にいることを願った。

 

「その恐怖を突破して雷と血を手に入れたんだ。それは賞賛に値しない?」

「むむむ」

「突破というなら私たちのマーキングもですね」

「は、はいぃ」

「ここにいるのは敵じゃないよ。同じ操者を欲した仲間、心の友ってヤツさ」

 

 同類、同志、同じ穴の狢なのはわかっている。敵じゃないかは・・・どうだろう。

 

「いいでしょう」

「認めるしかないよね」

「フフッ、わかってくれてよかったよ」

「あ、ありがとうございます!」

「決めたのはマサキさんですから、私は操者の決定に従います」

「私もいいと思うよ。思ったより嫌悪感ないし」

「よかったねアルダンさん。ひとまず安心だね」

「弁護ありがとうございました。い、インモーさん///」

「ハハハ、このゴリラめ」

「照れながら言われると下ネタ感が増すなw」

 

 これでいいんですよねマサキさん。

 契約には覇気の循環と操者のDNA情報が必要となるが、一番大事なのは"心"互いの気持ちだ。

 覇気には精神エネルギーも含まれる。お互いに多少なりとも好意が無ければ循環など上手くいくはずがないのだ。

 無意識とはいえ、契約をしてしまったマサキさんとゴリラは僅かな間に絆が生まれたのだろう。

 それこそ運命とでもいうような・・・何でしょうムカムカしてきました。

 

「マサキが戻って来たら、正式に契約してもらった方がいいよ。今の状態はそうだな・・60%ってとこだろうから」

「私が正式に契約・・はい!必ず愛バとして認めて頂きます」

「そっか、あれで60%なんだ。へぇー」

「よかったですね。遊び相手が増えましたよ」

「うん。100%ゴリさんを早く見たい」

 

 戸愚呂かよw100%中の100%ゴリさんなんか見たらマサキさん泣くぞww

 

 そんなこんなで少し仲良くなった愛バたちであった。



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事件は会議室で起こる

 愛バ会議ようやく始まる。

 

 場所はラーメンのフルコースを食べたフードコートから会議室(仮)へ移動しました。

 どう見ても団体客用の宴会場なのだが、インモーが会議室だと言い張るのです。

 このスーパー銭湯は老朽化したホテルをリフォームして運用しているって所なんでしょうね。

 手際のいいファイン家のスタッフによって会議室の準備は万端。

 ホワイトボードや資料閲覧用のプロジェクター、インモーも傍には小型のノートPCもある。

 丸いちゃぶ台と人数分の座布団、嬉しいことにお茶とお菓子も完備だ。 

 

「おー"白い恋人"あるじゃん。誰か北海道行った?」

「だからあなたはアホなのですよクロ。よく見なさい、それは"面白い恋人"大阪のお菓子です」

「パチもんかよ!どれどれ・・・うん、これはこれで美味しいから許す」

「こっちは"ちんすこう"ですね。沖縄土産かしら」

「今なんか「エッッッッロ」と思った私の心は汚れているのでしょうか?」

「ゴリさんだからね。仕方ないよ」

「エロスがさぁ、滲み出ているんだよな」

「皆さんが何をおっしゃっているのか理解したくないです」

 

 言い出しっぺのファインモーションが議長を務める中、他三名のやる気は低下していた。

 眠いのと、いろいろあって疲れたのと、お菓子が美味しいのと、無自覚ドスケベと、面倒くさいのである。

 

「それでは~第一回!愛バ会議を始めたいと思います!」

「「「おー」」」不調

「テンション低っ!元気出してよ」

「「「はぁ」」」絶不調

「・・・マサキ曰く「ノリが良くて元気な娘がタイプかも」だってさ」適当

「しゃーっ!やるぞ!やあぁぁっってやるぜぇ!」絶好調

「ヒャッハー!上げ上げで行きますよ!お前ら全員ついてこいやぁー!」絶好調

「何をしたらいいですか?誰をやったらいいですか?全て消し去ればいいんですか!」混乱

「やだw超ウザいww」

 

 すみません、取り乱しました。

 急激にやる気を上げた結果、慣れない言葉で異常なテンションになってしまった。反省します。

 やれ、やるんだインモー、全員のテンションが下がらない内に司会進行しなさいな。

 

「定番だけど、改めて自己紹介始めるよ」

「「「いえーい!」」」

「真名とマサキが付けた愛称を名乗ってね。所属と級位に、後は好きなものを言うのはどうかな」

「「「かしこまり!」」」

「トップバッターは・・・黒髪のキミに決めた」

「決められた」

 

 ご指名されたクロが元気よく起立する。

 今日も切り込み隊長に持って来いの元気娘っぷりだ。

 

「キタサンブラックです!マサキさんがくれた名前はクロ。みんな、よろしくぅ!」

「「「はい、よろしくぅ!」」」

「そこのダイヤモンドとは義理の姉妹で親友で主従でもあるの。でっかくなる前はサトノ家従者部隊に所属していたけど、今はどうなってるのかパパに聞いてみないとわからない。烈級騎神の試験には受かってまーす」

 

 私専属だからな、通常任務より私に密着24時が優先されるのがクロのお仕事です。

 従者部隊の再編成も父や皆と相談しないといけませんね。

 それもこれも、マサキさん次第ではありますが。

 

「確か13番でしたね。イルムさんや先輩方が褒めていましたわ」

「ドウゲンさんがダイヤちゃんに用意した究極の生体へい・・じゃなくて、プレゼントだね」

「生体兵器で間違ってないですよ」

「好きなものは、体を使った遊び(暴力)とお祭り、ジジイの影響で時代劇や演歌も嗜むよ。それから、ママとジージとパパとダイヤとサトノ家のみんな、家族と呼べる人たちが大好き」

「「ええ子やね」」

「あざとい!このブラックあざとい!」

「でも、一番大大大好きなのは~もちろん!アンドウマサキさんです!」キリッ

「元気いっぱいでよろしい。はい、みんな拍手~」

 

 少し照れながらクロが着席。

 パチパチパチ~と拍手してアイコンタクト、どうします?次いっちゃう?私いっちゃっていいですか。

 了承を得たので私のターンです。

 

「サトノダイヤモンドです。操者からはシロと呼ばれています、先代のカナブンから受け継いだ大切な名です」

「「カナブンとは何ぞや!?」」

「あーそうだった。せっかく忘れていたのに何でほじくり返すかなぁ」

 

 初耳の二人が驚いていたけどスルー。詳細はマサキさんに聞いてください。

 

「サトノ家次期頭首で級位無し。マサキさんという至高の存在を最初に見出し契約したのはこの私です。したがって一番の愛バは私で決定ということで異論は認めません」

「「意義あり!」」

「その時、私もいたじゃん!一番は私だよ」

「「それも異議あり!」」

「好きなものは面白いもの、笑えるもの、好奇心を満たしてくれるもの。漫画・ラノベ・ゲーム全般と機械工作や設計も好きですね」

「陣地作成EX持ちだもんね。放っておくとマイルームが秘密基地になるって、ドウゲンさんが嘆いていたよ」

「クレーンゲームの筐体をパパにねだってるの見た!翌日、シロの部屋がゲーセンになってて引いた」

「どんな漫画がお好みかしら、元引き籠りの私とじっくりお話しましょう」

「最後に大事なこと、私は操者のアンドウマサキさんを心から愛しております」威風堂々

「「「ひゅー言ってくれる」」」

 

 家族が好きってのは当然なので割愛しました。

 私の愛よ、マサキさんに届けー!

 たっぷり念を送った所で、さあ次いってみよう。

 

「超級騎神、メジロアルダンと申します。少し前までテスラ研にて絶賛引き籠り中でしたが、今は訳あってサトノ家従者部隊0番に席を置く身であります」

「メジロ家の秘蔵っ子がサトノ家入りとはね」

「その件は父とメジロのばば様が話し合いの末に決着したみたいですよ。うちに来たのはマサキさんへの恩返しでしたか?」

「はい、お嬢様たちの帰る場所を守ることが、そうなると信じた故の行動です」

 

 お嬢様ね・・うーん堅いなぁ。

 

「超級騎神だって、凄いなぁ流石ゴリさんだなぁ」

「マサキさんから頂いた雷の覇気あってのことです。私自身はまだまだ未熟ですから」

「それをまともに使えている時点で十分強者ですよ。で、マサキさんからはどんなあだ名を?」

「普通にアルダンと呼ばれていましたから、特に愛称などは付けられていません」

「アルだよ」

 

 インモーが突然エセ中国人みたいになった。

 ラーメンの食いすぎでついに壊れたか?

 

「マサキからの伝言「アルダンのあだ名か、全員二文字統一でアルだな。アルに決定」と言っておりました」

「アル、あの時呼んで下さったのはやっぱり・・・わかりました。たった今この時より、私はアルです」

「ゴリさんがアルさんになってしまいました」

「ゴリさんも面白可愛くていいと思うんだけどな」

「はいはーい、アルさん続きをどうぞ」

「好きなものは、読書と映画鑑賞にネットサーフィン。インドア生活が長かったので家事はそれなりに得意です。最近は放電を少々」

「映画好きなんだね、私とB級サメ映画の沼にハマってもらおうかな」

「家事スキル修得済みか~手強いな」

「放電を少々って何ですか?ツッコミ待ちですか」

「以上です」

「まだだよ。マサキのことどう思ってるか言え!てか叫べ!」

「私はその、マサキさんのことを・・・お、お慕いしております////」

「マジですか?」

「マジです」

「ガチで?」

「ガチです」

「ドスケベだよね?」

「違います」

 

 そこは「ドスケベです!」と言ってほしかった。

 三人終了~ラストは。

 

「最後は私だね。ファインモーションだよ、マサキからはココって呼んでもらってる」

「「「ココ?」」」

「私の幼名みたいなものかな。みんなもココって呼んでくれていいんだよ」

「これからもインモーでお願いします」

「却下!」

 

 クロ、シロ、アル、ココ、それで二文字統一ということですか。

 

「好きなものはラーメン。食べるのも作るものもお店を新規開拓するのも大好き!」

「「「知ってるよ」」」

「四葉のクローバーを見つけるのも得意。滅びた並行世界1st出身の自分と融合した経緯があって、その時に半身の記憶と力も継承してるから知識と経験は意外と豊富だったりするかもね」

「「「それは知らんかった!」」」

 

 重要な情報をサラッと流すな!こいつの人生思った以上にハードだったみたいだな。

 

「この世界で轟級の試験には受かったかな。マサキという操者を得た今なら、超級クラスは行けると思う」

「ねえねえ、この中で級位持ってない奴がいるらしいよ?」

「嘘!そんな無級野郎がマサキの愛バ名乗ってるの?ないわーありえないわー」

「悪うございましたね!級位が何だって言うのですか、ちくしょーめ」

「心配いりません。お嬢様ならどんな試験でも問題なくクリアできます」

「アルさんの優しさが沁みるぜ」

 

 烈、轟、超、その上はお義母様たち天ですか、この括りもそろそろ見直しが必要なのではと思う今日この頃。

 

「好きな男性はもちろんマサキ。ルクスやその他の迷惑連中を片付けたら、結婚して沢山子供をつくって幸せに暮らすんだ。これ決定事項だから」

「なんだと!」

「ですが、まあ」

「ええ」

「「「なんて素晴らしい未来だ!!!」」」

「でしょう!マサキには精力つけて頑張ってもらってさ、私だけじゃなく、みんなの所も子沢山!てな感じでどうよ?」

「いいね!私の子供たちとサッカー勝負だ」

「フフ、受けて立つよ。うちの子たちは補欠もうじゃうじゃいる予定だからね」

「11人オーバーだなんてそんな!お盛ん過ぎます。でも、マサキさんが望むなら////」

「まあ気色悪い、このメスウマたちネズミみたいに繁殖する気ですよ。吐き気がします」

 

 気が早すぎますね、体の準備はともかく心の準備が出来ていません。

 今の私に子育てはあまりにも無謀ですが、いづれはね。

 その時はマサキさん(旦那様)と相談して決めましょう。

 

 自己紹介後にはそれぞれの事情について話し合い。

 生い立ちからマサキさんと出会った時のことなんかを中心に話していく。

 インモーの過去が結構衝撃だったが、本人が気に病んだら負けってスタンスなので気にしないことにする。

 そして別世界1stのことやベーオウルフとルシファーについても、しっかりと話しておく。

 その過程で世間を騒がせている仮面のクソ野郎の名が度々上がる。

 

「多くの罪を重ねた上にマサキさんにも手を出すとは・・・ルクス、絶対に許せません!」

「元凶であろう奴が、今ものうのうとしているなんて悔しいな」

「もう一人の私の無念と怒り、熨斗を付けて返してやりますよ。必ずね」

「アルさんの神核に悪さをしたのもルクスなの?」

「その可能性は高いでしょうね。本人、若しくは協力者を使ったのかも」

「あの時会った研究員風の方・・女性?いや男性だったかも、すみません記憶がおぼろげで」

 

 顔や性別、背格好などを覚えていても意味がないかも知れない。

 そんなもの変装や隠形術で認識阻害すれば、いくらでも誤魔化せる。

 その研究員自体を洗脳して操るぐらいはやってのけそうだし。

 業腹だが今奴の正体については保留にしておく。

 

 話は続く、追加のお菓子とお茶をお願いします。

 

「女神、カティアとフェステニアね」

「真名はクストウェルにべルゼルートとおっしゃいます」

「三女神のもう一柱、メルア様はマサキさんを担当なされているのですね」

「そのはず、だから何かあってもマサキを守ってくれている・・といいんだけど」

「そこは女神様を信じましょう。直に体感しましたが、ゴッドパワーは頼りになります」

「それよりさ、オルゴナイトをルクスも使ってきたのって本当?」

「確かに見たよ。憎たらしいほどの赤い結晶だった」

 

 それだとルクスは神に匹敵する力の持ち主ということになるのでは?厄介な。

 

「それでも緑のオルゴナイトは負けない。女神様とマサキさんの思いがこもってるんだから」

「そうです。私たちとマサキさんで奴の野望ごと食い破ってみせますとも」

「あれれー私たちもいるよー」

「オルゴナイトが使えない人はちょっと」

「く、雷だけじゃダメでしょうか」

「心配ないよアルさん。それについてはちゃんと考えてあるからね」

「インモーさん、頼りにしております」

 

 インモー何かを企む。嫌だな、あの顔をは良からぬことを考えているとみたぞ。

 

「サイママたちはどうするんだろう」

「助力はしてくれるでしょうが、メイン戦力としてアテにはできません」

「ルクスも言っていたけど、弱点が露呈した上にラ・ギアスからは動けない。下手に動いてその力を悪用されることが最悪のケースだと本人たちも理解しているだろうからね」

「天級騎神の抑止力が届かぬ世界ですか、心配ですね」

 

 サイさんは「これからの時代は若い子にお願いするわ」なんて言っていましたけど、本心では歯がゆい思いをしていることでしょう。彼女たちを安心させる意味でも頑張らないといけませんね。

 

「眠れる竜を起こす必要があるね」

「それは何の例え話ですか?」

「例えじゃないよ。四人目の女神ともいわれる機甲竜を味方に出来ればいいなって」

「機甲竜、何ですかそのワクワクする響きは」

「四人目?四人目の女神様はウマじゃなくてドラゴンなの?かっけーな!」

「もしかして、シャナ=ミア様」

「「知っているのか雷電」」

「アルダンです。あれはいつだったか、幼い頃にばば様が―――」

「なるほどね、思った通り本体はメジロ家が・・・足りない欠片はうちが回収して、サトノ家と共同管理すれば」

「インモー?」

「うん了解了解。どちらにしろ竜を目覚めさせる鍵はマサキだから今は放置で、頭の片隅にでも置いといて」

 

 インモーはこれ以上話す気はないようだ。

 機甲竜シャナ=ミア、心に刻み込んで置きましょう。

 

「ディーン・レヴ・・・これもいっか、持ってるのはどうせ」

 

 やめろぉ!また不穏な単語を出すな。インモーちょっと秘密多くね?いつか全てゲロってもらうからな。

 

 そろそろいいか、聞かせてもらおう。

 クロとアルさんも頷く。

 

「結局マサキさんはどうなった?今どこにいるのですか?」

 

 これが聞きたくてここに集まったのだ。

 一息入れてインモーは話し出す。

 

「ルクスとの戦闘でマサキはクロスゲートのある場所へ残ったの、私たちが戻った時にはルクスもマサキもいなかった」

 

 まさかルクスに捕まったとか、最悪なケースを考えてしまい不安が募る。

 

「ゲートを調べた結果、転移した痕跡があった。恐らくルクスがゲートを起動してマサキを」

「ゲートに放り込んだというのですね」

「そんな、じゃあ今マサキさんはどこに」

「転移先の座標はこの世界ではありえない数値を示してた。これらのことから」

 

 ならばマサキさんはやっぱり。

 

「異世界に飛ばされたと思う。マサキは今この世界にいないんだよ」

「「「・・・・」」」

 

 消失したってそういうことか、異世界転移ってそりゃないでしょう。

 ミオさんたちから事前に聞いていたけど、インモーの口から断定された真実に気が滅入る。

 言葉もない、でもなぜだろうか、生きているってことだけは確信できる自分がいる。

 他のみんなもそれだけはわかっている。

 

「それで?どうやって連れ戻す気ですか」

「何も考えていないとは言いませんよね、ね」

「ファイン家の人やインモーは1stから転移して来たんだよね。だったら何かいい案を出してくれるはず」

「任せなさい、マサキのサルベージ計画は着々と進行中だよ」

「「「やるじゃねぇかインモーーー!!!」」」

 

 見直したぞインモー!後でカレーヌードルの謎肉を分けてやろう。

 

「邪神ヴォルクルスを呼び出す手順を踏んで、マサキを異世界から召喚する計画を進めてるよ。でもな~今のままじゃちょっとな~」

「何か協力できることは」

「できることなら何でもするよ」

「ええ、言ってくだされば何なりと」

「今何でもって言ったね?」

 

 インモーの目が輝いた。ヤバイ、早まったか。

 

「できる範囲でお願いします」

「わかってるよ。できる範囲で協力してもらう。まずクロシロの二人は~、クソ邪魔だから別行動で」

「「はい?」」

「回収したクロスゲートはマサキとルクスの覇気を諸に浴びたお陰で超不安定なの。同じオルゴナイト使いの二人がいたら混線して召喚の儀式に失敗しちゃう恐れがある」

「うげ、それでは」

「現場に立ち会うことはできないのですね」

「現場にはファイン家のハゲ率いる元教団員たちと私とアルさんで対処するよ」

「よかった、私は大丈夫なのですね」

「アルさんには邪神をぶちのめすって大仕事があるからね。決して楽な役目じゃないよ」

「それでマサキさんが救われるなら、相手にとって不足無しです」

「「いいな~」」

「一応保険として助っ人も呼ぶ予定だからお楽しみに」

 

 お留守番!こんな重大イベント中にお留守番かい。

 

「おっと、仕事を割り振らないとは言ってないよ。二人にはやってもらうことがあるからね」

「それを早く言ってよ」

「嫌な予感がします」

「二人には今後の生活基盤を整えてもらう。即ち、まともな社会的ステータスを手に入れるべし!」

「どういうこと?」

「具体的に何をどうしろと」

「二人とも自分の進路がどうなってるか理解してる、小学校卒業した記憶ある?」

「「あ」」

「してないよね、小卒ですらないよね」

「わ、私は次期頭首ですから学校など行かなくても」

「従者部隊でお仕事はしてるし別にいいかな」

「うん、それはわかってる。でもね、ドウゲンさんは学歴も大事にしてほしいってさ」

「パパ~」

「父様ってば、変な所でクソ真面目」

「小学校には話をつけてるらしいから、溜まりに溜まった補習と課題をこなしてまずは小卒を目指そう。いいね」

「「は、はい~」」

 

 補習って課題って・・・マサキさんのピンチに計算ドリルや作文やれってか!泣けるぜ。

 

「大事なことだよ。「え、お宅の愛バ小卒ですらないの?ウケるww」って笑われるのはマサキなんだからね!」

「「それは絶対に嫌だ!!」」

「たかが学歴、されど学歴。あって困るものじゃなし頑張ろう」

「仕方ない、これもマサキさんとの未来のため」

「こうなれば、さっさと片付けますよ」

「お二人とも頑張ってください、心から応援します」

「あれ?アルさんの学歴は」

「私はずっと通信制の学校で履修しておりましたから、中卒まではクリアしておりました。頭首様の計らいで数ヶ月前からとある学舎に編入させて頂きました」

「因みに私は中学生だよ」

「アルさん高校生だったのか、JKだね」

「じぇーけー?」

「インモーは中坊でしたか、道理で厨二臭いですね」

「ぶっ飛ばすぞ里芋!」

「JSにケンカ売るJCは見苦しいです」

「年上、高校生のお姉さん・・・いい事思いついた!相談なんだけど、アル姉って呼んでいい?」

「アル姉・・・何だか妹たちを思い出してしまいますね」

「嫌かな?」

「そんなことはありません。ですが、お嬢様に姉と呼ばれるのは畏れ多くて」

「そのお嬢様って言うのやめません?というかやめましょう。堅いですよ」

「そうそう、私もずっと思ってた」

「丁度いい、それぞれの呼び方を決めた方がいいですね」

 

 学歴問題からの呼称決めに発展。

 話し合いの結果、愛称であるクロ、シロ、アル、ココで呼び合うことに決まった。

 "さん"や"ちゃん"はその時の気分次第でお好みにアレンジする予定。

 サトイモ、インモー、ゴリラ等の蔑称も気分次第で使用可、クロだけ無いのが腹立つからその内なんか考えてやるぞ。

 年功序列だと、アル→ココ→クロシロってことになる。

 

「アル姉~」

「ア、アル姉さん///」

「はいはい。フフッ、可愛い妹が増えてしまいました」

「手慣れてるね。そっか、メジロ家にも妹分がいたんだね。私は対等ってことで、タメ口いいかなアル?」

「はい、よろしくお願いします。ココさん」

「マブダチゲットだぜ」

「マブダチ、よい響きですね」

「クロシロちゃーん、私のこともお姉ちゃん扱いしていいんだよ」

「うるせーよインモー」

「調子に乗んなインモー」

「もうヤダこいつら、マジクソ可愛くない」

 

 ココってなんだよ。最近ご無沙汰のカレー屋しか連想できねぇよ!お前はラーメンだろうが。

 ラーメン"ココ"って探せばありそうだな。

 

 話は進路に戻ります。

 

「えっと、アル姉とココはどこ高?どこ中?」

「よくぞ聞いてくれました」

「実は私たち同じ所に通っています」

「おお、凄い偶然」

「中高一貫校?御三家が通うレベル・・・なるほど」

「二人が寝てる間に驚く程改革が進んでね。今じゃ日本中から騎神とその卵が集う魔窟と化したよ」

「レース選手科と騎神科を完全分校化して新校舎を建てましたからね。御三家や各種企業団体も出資しているとか」

「天級騎神に変わる新たな象徴を欲しているんだよ。そのために"才ある人材"を片っ端からスカウトしたとか何とか、いやぁ、現理事長とその愛バはアグレッシブな人たちだね」

「頭首様からはクロさとシロさんもそこへ入学予定と聞いておりますよ」

「「私たちは聞いとらん!」」

「待ってるよ後輩たち、早く追いついておいで」

「全員揃って登校できる日が待ち遠しいですね」

 

 進路既に決まってたー!

 でも当たり前か、どうせ行くならそこしか思いつかないし。

 

 かつては天級騎神も通った伝統と格式ある学舎。

 ウマ娘に生まれた者が己の夢を賭け、ライバルたちと青春の日々を駆け抜けるその場所の名を人々は・・・

 

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園と呼んだ。

 

「私のキシンアカデミア始まった!」

「まだ始まってねーですよJSめが」

「お前もな」

「トレセン学園騎神科は、特別なカリキュラムや普通じゃありえない単位制を採用しているから、期待していいよ」

「お仕事にも理解がありますしね、殆どの生徒はギルドに所属して日夜クエストに励んでいます」

「へぇーそれは楽しみだね」

「ただちょっとばかし問題があって、まあこれはある意味ではそうなって当然の結果というか」

「UCの二の舞化現象ですか」

「鋭いねシロちゃん。生徒の半分以上はアレだ、人間慣れしてないってのが現状かな」

「完全に嫌っている訳では無いと思うのですが」

「選民思想?」

「でしょうね。トレセン学園に来るほどの猛者なら、さぞや人間が矮小かつ非力に見えて仕方ないでしょう」

 

 ウマ娘至上主義に傾倒する輩が出て来てもおかしくない。

 私もマサキさんに出会ってなかったら「人間=下等生物」という考えを改めなかったでしょうし。

 

「それを危惧してか、操者養成校との交流イベントなどは積極的に行っています。ここで契約者や将来の伴侶を見つける方も大勢います」

「「やはりトレセン学園は婚活会場だった!!」」

 

 ほう、操者不要論が蔓延るこのご時世に操者を目指す人間と学校があるとはね。

 良い契約者と出会えるかは運も必要ですから、学校に行ったら即愛バをゲットだぜとはならんでしょうに。

 まあ、運も実力の内ってことですね。

 マサキさんと出会えた私は運の値も高レベルだったと思います。

 

「それと教官にはメッチャ強い人間を採用しているの。これがもうホント笑っちゃうぐらい強くてね、下手な騎神じゃ手も足も出ない。ベギラゴン撃ってくるんだよあのチャイナ男!」

「やば、面白そう」

「是非拝見したいですね」

「学園内にいる人間さん、特に男性の方を侮ってはいけません」

 

 魔窟のトレセン学園を自由に闊歩できる人間は、騎神と対等以上に渡り合える実力者ってことでおk。

 

「二人は小学校を卒業してトレセン学園に入ること、いいね」

「「はーい」」

「編入試験落ちないでよ」

「頑張るよ」

「何とかなるでしょう」

「家業の方も頑張ってね。ルクスのアホがやらかしたせいで、テロリストや要注意団体が調子に乗ってるから潰しておいてくれると助かるよ」

「デモンや所属不明機の活動も増加傾向にあるらしいです。油断なさらぬように」

 

 マサキさんが帰って来る前に、掃除をしておいた方がよさそうですね。

 

「マサキさんのサルベージ、結構の日は何時ですか?」

「予定は未定、日取りが決まっても二人には教えないよ」

「ひどくね」

「教えたら絶対乗り込んで来ちゃうでしょ!こっちは任せて学園生活に備えてよ」

「ぐぬぬ」

「言う通りにしましょう。悔しいですがこ、ココの邪魔をしてはいけません」

「ココって言った!今ココって呼んでくれた。何これ超嬉しいんだけど、シロちゃんもう一回言ってみそ」

「やっぱインモーでよくないですか、こいつ」

「よかったですねココさん」

 

 ここまでの話をホワイトボードに書き出していく。

 ふむふむ、今後の方針が見えてきましたよっと。

 

「まとめるよ~」

「「「うえーい」」」ダラダラ

「みんな、お疲れだけどもう少し頑張って」

 

 ■マサキのサルベージ計画

  

  ファイン家主導の下、ココとアルが担当。外部から助っ人を依頼する予定。

  クロシロは不参加、結構日時は通達しないのであしからず。

 

 ■トレセン学園への入学

 

  クロ、シロは小学校を卒業し、トレセン学園へ編入せよ。

  その間にお仕事(悪党の掃除)もやっておく。

  今後の生活基盤を整え操者を迎える準備をしろ。

 

 ■ルクスについて

 

  どう考えても要注意!正体不明の仮面野郎、全ての元凶はこいつか?

  世界とマサキさんの敵であり倒すべき相手。

  マサキさんだけでなく、私たちにも執着しているらしいが詳細不明。

  赤いオルゴナイトを使い、他者の神核を操作できる異常者(キモイ)

  協力者いるらしく組織だった活動もしている模様、愛バがいる・・・ならば人間か?

  現状、こちらから手出してはいけない。引き続き情報収集に勤しむこと。

 

 ■お掃除対象

  

  各地で不穏な動きをみせる有象無象が発生中(ルクスのせい)

  DC及びUCの残党軍、妖機人(デモン)、チンピラ崩れ、未確認の敵対勢力が出現したとの報告もあり。

  放置しておくと調子に乗って湧いて来るので定期的に潰すこと。

  事と次第によってはメジロ家との協同作業になる場合有り。※要相談

  ルクス関係の輩と接敵した場合は特に注意すること(勇み足や深追い厳禁)

 

 ■戦力増強

 

  愛バ間での共有化(シェアリング)を実行する。

  オルゴナイトを使いこなせるよう各自修練に励むこと。

  天級騎神に教えを乞うのもアリ。

  ファイン家からサトノ家に技術提供、シラカワ重工とのコネもフル活用。

  新型デバイスの開発も視野に入れる。

  機甲龍とディーン・レブについてはマサキが戻ってから考えよう。

 

 ■その他

 

  愛バ会議は今後も不定期開催。

  お揃いの制服が欲しい!デザインやオプションの要望があればご意見を受付けます。

  花嫁修業ってした方がいいの?→鋭意努力しましょう。

  英雄色を好むという格言を忘れない、マサキに近づく女人にはくれぐれも注意して!

  操者の性癖であるロリコンを矯正したい→ロリコニア滅ぶべし!→ロリコニアって何?

 

「こんな感じかな」

「「「おー」」」

「マサキがいないからってダラダラし過ぎ!シャキッとしろや!」

「アル姉、ココが怒ってくるよ~」

「アル姉さん、あいつウザいから電撃お見舞いしちゃってください」

「二人ともダメですよ。ココさんは至極真っ当な事を言ってますから、ちゃんと聞きましょう」

「「はーい」」

「アルの言うことは素直に聞きくんだね」

 

 クロがすぐに懐いたように、アルさんの"姉力"は大したものです。私も飲まれてしまいました。

 一人っ子が長かったし、クロは姉妹というより相棒でしたから"姉"という存在が出来て嬉しいのです。

 マサキさんに甘えられない分をアル姉さんにぶつけちゃってる私とクロ。

 膝枕最高~もっと甘やかして下さい。服装が乱れるのも構わず絶賛ごろ寝中です。

 アレですよね、男子の目が無い所で女子ってどこまでもだらけちゃいますよ。

 コラコラ、スマホをこっちに向けるな。シャッター切っちゃダメです。

 

「やめなさい!写真はやめなさい!」

「やめない、だらしない姿と本性をマサキに見てもらおう、そして幻滅されてしまえ」

「謝るからやめ、ダメ、今のパンツ見えちゃってるから」

「私ばかりでは不公平ですね。お二人ともココさんにも甘えてあげて下さい」

「やきもち?」

「構ってほしいお年頃ですか?」

「違うし、陰ながら面倒見ていたつもりの二人が速攻で寝取られた気分になんてなってねーし。大体私は二人を殺そうと思ってた訳だし、そんな資格無いのわかってるけどさ・・むー」ブツブツ

「仕方ねぇな、アル姉さんの膝を貸してやろう」

「はいです。ココさん、どうぞいらしてください」

「いいってば、膝枕ぐらいで私のストレスがぁぁぁーー、何じゃこれ?物凄く落ち着くぅ」

 

 ココ、アル姉さんの膝枕に完敗。メジロアルダン恐ろしい子!

 

「はあはあ、もう十分だよ。これ以上は戻ってこれなくなりそう」

「堪能したようだね」

「それはもうバッチリと、至高の膝枕でした」

「至高?甘い、甘いな~ココは」

「私とクロはアル姉さんを超える膝枕を知っています」

「なん・・だと・・」

「それはまさか!」

 

 気付いたな、そうだよ。

 

「「マサキさんの膝枕だよ!!」」

 

「「いやぁぁぁーーー!!超羨ましいぃぃぃーーー!!」」

 

 ヒリュウにいた頃にせがんで何度かしてもらいました。最高に幸せでした。

 帰って来たらまたしてくれますか?今度は私がしてあげるのもいいですね。

 ライバルが増えたので、マサキさんの体力が心配になってきた。

 

 ホワイトボードに書き出された項目について気になる点があったので聞いておこう。

 

「ココ、質問いいですか?」

「どうぞどうぞ」

「共有化(シェアリング)とは一体何のことでしょう」

「いい質問だよ、今日は会議と一緒にシェアリングもやっておこうと思ってだんだ。マサキに仲介してもらうのが一番なんだけど、今は仕方がない。私たち四人で覇気循環(リンク)しちゃおーぜ」

「流行りの、ウマ娘だけでリンク状態になるヤツですか」

 

 UCが考案し、テスラ研でも研究されていたものが形になったのは去年のことらしい。

 手の平サイズの機器を使用して、操者要らずの戦術リンクをするのが当たり前の時代が来ていました。

 私たちがグースカ寝ている間に、そのような技が世間に広まっているのだから困ったものです。

 聞けばトレセン学園でも半数以上が生徒間で契約している状態で、操者と共に戦うことを時代遅れの遺物だと称する者も増えているのだとか。

 勘違いも甚だしい!真の強者と契約した事が無いからそんな妄言を吐けるのですよ。

 あの麻薬にも似た高揚感と万能感はデバイス(笑)で代用できるものか。

 

「ただのリンクと一緒だと思わないでね。私たちがやるシェアリングはその名の通り能力を共有化するの。他者のスキルを使えるようになるって凄いと思わない?」

 

 アルさんの雷を私が使えるようになったり、オルゴナイトをアルとココも出せるようなるのか。

 

「それが本当なら頼もしい限りだけど、上手くいくかな」

「ルクスに対抗するには上手くいかせるしかない、マサキの愛バである私たちならきっとやれる」

「やるだけやってみましょう。成功すれば良し、失敗した時はまた別の策を考えればいいだけです」

「わかりました。デバイスはどうします?」

「今はとりあえず無しでやってみよう」

 

 リンクのやり方、マサキさんなら無線接続可能なのですが。

 まずは手を繋いで覇気を流してみる。

 

「どう?」

「循環は出来ていると思う。うん、これぐらいで」

 

 手を離したココが右手を前に突き出して叫ぶ。

 

「オルゴンマテリアライゼーション!」

 

 静まり返る会議室。

 しかし、何も起こらなかった。

 

「うん失敗」

「なんか恥ずかしいw」

「うるさいな、そっちも何かやってみてよ」

「じゃあ私がやる」

 

 クロが天に向けた指先をこちらに向けて叫ぶ。

 

「必殺パワー、サンダーブレーク!」

 

 しかし、何も起こらなかった。

 ちょっと赤くなってプルプルするクロに同情の目を向けてしまう。

 

「出ないよ!戦闘のプロになりたかったのに」

「もし成功していたら私は黒焦げでしたね」

「やっぱりマサキさんがいないとダメなのでしょうか」

「うーん、繋がりが弱いのかな・・・そうだ!チューでもしてみる?」

「「「ちゅー???」」」

「何でも試してみないと始まらないよね。よーし、キスするぞ!キッスの時間だオラッ!」

「「「・・・・( ゚д゚ )」」」

 

 キス、口づけ、接吻、マウストゥマウス?

 本気か?いや正気か?こいつマジで狂ってやがる。

 

「それでは第一回愛バ会議これにて閉幕といたします。ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

 

 約一名重篤なエラーが発生したので強制終了。

 はい解散解散~帰って寝ましょうね~。マサキさんの夢が見れますように。

 

「しかしまわりこまれてしまった!」

「離せぇぇぇ!やだーーー!クロ!アル姉さん!お助けーーー!!」

「ひぃ!チュー魔人がシロを襲ってる」

「チュー魔人!なって恐ろしいのかしら」

「逃がさんぞ!ちょっとだけ、ちょっとだけだから!ベロチューまではしないから!」

「臭っ!お前ニンニクマシマシ食ってたろう!そんなんでよくもまあオエッ!近づくなーー!」

「誰かブレスケアを!」

「ケアしても嫌なもんは嫌だよ」

 

 チュー魔人を引き剥がすのに苦労した。三人がかりなのになんてパワーだ。

 

「もう照れなくてもいいのに、愛バ同士なんだからマサキも認めてくれるよ」

「いや、マサキさん多分ドン引きするよ」

「はぁはぁ・・・よかった、私のセカンドキッスは死守できました」

「セカンド?ファーストじゃなくて」

「まあ!シロさんは既にご経験者でしたのね」

「嘘!マサキ以外の人と経験済みだったの、相手は誰なの~このこの~」

「教えてもいいですが、あなたたちのファースト相手も暴露してください」

 

 妙な確信があったので聞いてみる。目を逸らしても無駄だ。

 ここに集った全員ファーストキッス経験者だろう、わかるんだよ白状しろ。

 顔を見合わせた後、観念したのかココが挙手する。

 

「はい!相手はマサキです!ホテルに連れ込んだ日に寝顔を見てたら我慢できんかった!」

「「「だろうと思った!」」」

 

 ちゃっかり寝込みを襲われているマサキさん。

 こいつは本当に・・・もう諦めたわ、インモーならそれぐらいやってるよね。

 

「アル姉さんも、ゲロっちまってください」

「私も、その・・・マサキさんです////」

「いつどこで?」

「頬っぺたの血を舐めたついでにですね・・こう、その場の勢いでといいますか・・・はう、面目ないです///」

「「「ドスケベが!!!」」」

「ひどい!」

 

 マサキさん!無防備過ぎますよ!どんだけ寝込み襲われているんですか!

 

「はいはい!私もマサキさんだよ。例に漏れず寝ている隙にやってしまいました!」

「考えることは皆同じだね~」

「はい、これが絆というヤツですね」

「そんな絆捨ててしまえ!というか、クロのファーストはマサキさんじゃないですよ」

「そんなことある訳ないよ。だったら私の初回限定版を奪ったのは何処の誰だっていうの?」

「私です」

「は?え?はぁ?」

「あなたのファーストキッス相手は私です。私のファーストもあげたからあおいこですね」

「マジで言ってるの?」

「・・・・ポッ////」コクンッ

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふざけんなよお前!変態!何でそんなことしたのか言え!」

「アレはまだマサキさんに会う前のこと、暑い夏の夜です。ふと目覚めた私は隣で眠る汗ばんだクロを見ていたらその・・・ムラムラしちゃいましてね」

「ぎゃああああああ!聞きたくない聞きたくないぃぃぃ!」

「気付いた時にはブッチュっとしていましたとさ」テヘッ

「ああもう!最悪!さいあく!サイアクだよ!」

「本物のチュー魔人はシロさんでしたね」

「うんうん。こうやって皆、少女から大人の女に成長していくんだね」

 

 ですからセカンドキッスはマサキさん用に確保してあるのです。お分かりかな。

 

「あなたたちと違って、私はバッチリ意識がある状態でチューしたいのですよ。寝込みを襲うなんて汚らわしい」

「私を襲っておいて何を抜かすかこのチュー魔人は!」

「済んだことはもういいじゃないですか、心がせま・・・ちょっとなんで羽交い絞めするのです?」

「許さん!お前だけは・・・やれぇーーー!チュー魔人二号!」

「私が来た!」

「来るな帰れ!」

「私はどうすれば、そうだ!この事を記録してマサキさんにお伝えしなければ」

「動画撮影!?アル姉さんやめてくださいぃぃぃ!」

 

 物凄い力で動きを封じて来るクロ、迫りくるココ(チュー魔人二号)、嬉々として録画するアル。

 もう滅茶苦茶だよ!

 

「いいです!皆さんとってもいい表情です!まさにカオスw」

「断罪の時間だ、さあ報いを受けろぉぉぉ!」

「フフフ、貴様のセカンドキッス貰い受ける!そぉーれーぶちゅーーーーーーーーーーーー」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!マサキさん助けてぇぇぇぇーーーーーーーー!!!」

 

 そんなことがあったにも関わらずシェアリングは上手くいかなかった。

 なんだこれ新しいトラウマが増えただけじゃねーか!

 

 こうして第一回愛バ会議は私の心と体に深い傷を残したまま終わりました。

 



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サトノのアレ

 愛バ会議からしばらく経過したある日。

 

 シュッ、シュッ、シュッ・・・・

 目的地へと順調に航行中の機内に木材を削る音が響く。

 その音は熟練の職人を感じさせる規則的なリズムと哀愁に満ちていた。

 

 音の出所では、彫刻刀を手にしたウマ娘が一心不乱に仏像を彫っている。

 既に出来上がった物が山積みになっているが手を止める素振りはない。

 木彫りの仏像は穏やかなアルカイックスマイルを浮かべているが、製作者の目は死んでいた。

 虚ろな目をしたまま作業を繰り返す彼女に対して、周りの従者たちは声をかけることができない。

 とりあえず、刺激しないよう遠巻きにしながらヒソヒソ話を行う従者たち。

 

 (う、また仏像の数が増えてる)

 (だんだんクオリティが上がってきてますな)

 (やっとご帰還なされたと思ったらあの調子だ。一体何があった)

 (情報によるとファイン家頭首になにかされたようだ)

 (おいたわしや、やはり操者様の不在がこたえているのでしょうか)

 (あんなお姿見ていられません!マサキ様には一刻も早く戻ってもらわねば)

 

「あらら、まだあの状態だったか」

「「「「ブラック様!」」」」

「様はやめてね」

「お許しが出たぞ皆の者!楽にいこうぜ」

「キタちゃーん、アレなんとかしてよ~。仏像の顔が妙にリアルで怖いよ~」

「お嬢を何とかできるのは同じお嬢のお前だけだ。行ってこい13番!先輩命令だ」

「しっかし、アレコレでかくなったもんだ。何度見てもエロ・・ゲッフン!あーあー、素敵やん」

「成長した記念の写真集はいつ発売ですか?え、発売予定は無いですと!そんなバカな!」

「ちょっと思いっきりビンタしてくれませんか?「このブタ!」ていいながら蔑んだ目で!」

「親しき中にも礼儀ありって言葉知ってる?」

「「「「今更ですな!」」」」

「あーこのノリはサトノ家だなぁ。帰って来たって感じするよ」

 

 従者部隊の皆は入隊当初から私を可愛がってくれた人たちばかりだ。

 だから必要以上に畏まられると困る。フランク過ぎても困るけど。

 サボっていた皆を追い払って相棒の下へ向かう。

 積み上げられた木彫りの仏像と木屑の山に埋もれつつある彼女に踏み込めるのは私だけだ。

 

「シロ、いつまでそうしてるつもり?」

「・・・・」

「シロってば!」

「シロ・・・遥か昔、そんなウマ娘がいたような気がします。最高に強くて可愛い無敵の・・・そうダイヤモンドのように輝いたウマ娘が」

「自画自賛!シロはあなたのことでしょうが、いい加減この仏像片付けてよ。邪魔だから」

「人違いですよ。私はどこにでもいる、セカンドはおろかサードキッスまでインモーに奪われた哀れな負けウマです」

「そんな奴どこにでもおらんぞww」

 

 愛バ会議の後、時折こうして仏像を量産するという奇行に走るシロであった。

 仏様のご尊顔がどことなくマサキさんに似ているのは気のせいじゃないのだろう。

 

「ブラックお嬢、ファイン様より通信が入っています」

「了解、モニターに映してくれる」

 

 備え付けのモニターにココの姿が映る。

 今日もラーメン食ったなコイツ。鳴門がデコにくっついてるんだけど、どうしてそうなった?

 ギャグなの?天然なの?

 

「サトノ家の皆様ごきげんよう。いかがお過ごしかな?」

「今日も今日とてお掃除に邁進しているよ。そっちはどう?」

「準備は佳境に入った感じかな。必ず成功させてみせるよ。ん?シロちゃんはいないの」

「ああシロは・・・」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」

「「何事!?」」

 

 モニターを見てココの姿を確認したシロが発狂していた。

 後退りしながら彫刻刀を振り回している。

 

「マズいぞ。ダイヤ様が発作を起こした」

「寄るな来るな!チュー魔人!来たら刺すぞ!ほ、本気だぞぉぉぉ!!」

「うわぁwすっごい反応www」

「笑い事じゃないよ。ココがやりすぎたのが悪いんだからね」

「クロちゃんだって「やれ!」て言った癖に」

「言ったけど、隠居した彫刻家に成り下がるとは想定外だよ」

「や、やめチューはもう嫌!いやなの!いや、いやだって言ってんだろうがぁ!ブッ〇すぞーーー!」

「大変!無差別攻撃モードに入った。お気を確かに!」

「暴れないでください!おい、そっちを押さえろ」

「落ち着いてダイヤ様!落ちつ・・痛っ!下剋上したろうかこのサトイモ!!」

 

 背後で部下に取り押さえられたシロは鎮静剤代わりのお菓子を与えられている。

 カントリーマアム(チョコまみれ)を口にねじ込まれた所でやっと大人しくなったようだ。

 美味しいよねアレ。

 

「お勉強は進んでる?トレセンの編入試験もうすぐでしょ」

「問題ないよ。合格したらすぐ連絡するからね。アル姉は?」

「今日はラ・ギアスで修練中。この間、サイさんたち天級にご挨拶に行ったよ。もう大歓迎されてね」

「サイママたち超いい人だったでしょう。「娘ができて嬉しいわ」て可愛がってくれるし大好き」

「そうそう。私もすっかり甘えちゃってさ、天級騎神は戦闘力も包容力も抜群だったよ。流石マサキの保護者」

 

 近況報告を兼ねて会話が弾む。

 愛バ会議を通して私たちの絆は確かに深まっていた。

 恋敵ではあるが、プライベートでも頻繁に連絡するぐらいには仲良しだ。

 

 ココはマサキさんサルベージ計画の最終調整で忙しく、アル姉も義実家で牙を研いでいる。

 負けたくない、カッコ悪い姿を見せられない友と書いてライバルたちがいる。

 私は恵まれていると心底思う。

 

 (本気で遊べる友達増えちゃった。これもマサキさんのお陰だね)

 

 最後に「お互い頑張ろう」と言って通信を終了する。

 

「お嬢、もうすぐ到着しますぜ。準備をしてくださいよ」

「はいはーい。思ったより早かったね。大丈夫シロ、もう行ける?」

「モッキュモッキュ」咀嚼音

「あーあ、一袋全部食べちゃった。太るぞ~」

「これからカロリーを消費する予定なのでいいんです!」

「仏像どうする?」

「従者部隊の皆に配ってください。もう父様の部屋には入らないので」

「ジージにあげたらメッチャ喜んでいたよ「こいつを彫った奴はただもんじゃねぇ!」だって」

「ほう、見る目のあるお爺様ですね」

 

 ご心配おかけしました。何とか正気に戻ったダイヤことシロです。

 チュー魔人の毒牙にかかった私はPTSDを発症してしまいました。

 精神を安定させるために仏像を彫り続けること幾星霜。妙な悟りを開く一歩手前まで来てましたが、こうして現世に帰ってきました。

 この病を治すにはマサキさんにアレやらコレやらズキューンバキューンしてもらうしかないですね。

 

「はぁ~体が疼いてしょうがないです。早いとこマサキさんに抱いてほしい。もちろん"うまぴょい"的な意味でね!」

「処女がww何かww言ってるwww」

「お前もだろうが!!」

「体が疼くってのは、わからないでもないかな。私たち欲求不満なんだよね~」

 

 そうそう欲求不満なんですよ。

 成長した体に手に入れた力の両方を持て余している。

 マサキさんが不在の今、解消する方法はただ一つ。お仕事に勤しむことです。

 

「ムラムラとモヤモヤをぶつける相手はいっぱいいるよ。今日も頑張ろうー」

「はーいはいはい。で、今日のお掃除対象は?」

「デモンとDC崩れのチンピラだよ」

 

 ほーん、このセット最近多いですね。

 なぜだかデモンとDCが共同戦線を張ったような動きをするパターンが増えている。

 まるでデモンの司令塔がDCを攻撃対象から外しているような、考えすぎか。

 ルクスの件もあるし油断は禁物。あらゆる事態を想定して動かねば。

 

「お嬢、先行部隊からの報告です。DCの奴らアレを使ったようで、無人機どもが暴走中です」

「あー、またですか。一般ピープルの避難を急いでください、先行部隊は無理せず私たちの到着を待つように」

「ゴミは一か所にまとめてくれると尚よしだよ。さあ現場に急げ~」

「了解!全速全身だ!」

 

 ♦

 

「これで~100ッ匹目!」

「キシャァァァァ!」

「うげ、なんか飛び散った。フラッシュ~こっち終わったよ」

「ご苦労様、この辺りはもういいでしょう。他のメンバーが戻り次第、移動しますよ」

 

 人面植物のような妖機人(キモイ)の頭部を潰したスマートファルコン。

 断末魔と共に飛散した体液っぽい何かを躱しつつ殲滅完了を告げる。

 傍に控えて戦況を分析していたエイシンフラッシュは相棒を労いつつ、次の行動に考えを巡らせる。

 

 サトノ家従者部隊はとある市街地でDCのテロ活動が行われるとの情報を得た後、即座に行動を開始した。

 DCはデモンの群れを誘導し市街地に解き放つことを画策していたが、先行した部隊によって全て処理され事なきを得ていた。

 

「テロにデモンも使うなんて面倒くさいなぁ」

「数頼みのデモンならまだマシですよ。DC兵の中には手強い奴らもいますから」

「デバイス持ってる連中でしょ「踏み込みが足りん!」とか言ってくる偉そうなの」

「私のチャクラムシューターを"切り払い"した手練れもいましたよ」

 

 あれがエリート兵という奴らなのだろう。

 同僚たちからも「誘導兵器を切り払われたムカつく!」といった報告が上がっている。

 

 とある電波ジャック事件以降、デバイスはあっという間に戦場の要となった。

 従来のPTやAMと違い、輸送や装着の手間が無く整備性と生産性にも優れている。

 騎神は元より、グレードを落とせば低級の覇気しか持たない人間でも使える。

 そんな手のひらサイズの便利兵装に人気が出ない訳がなかった。

 

「強力なデバイスは使い手を選ぶってのが唯一の救いかな」

「それでも、低級デバイスの使用者が烈級騎神並みの力を発揮する。由々しき事態です」

「本当だよね、真面目に修練して強くなれよって感じ」

 

 DCの一般兵(弱気)量産型の簡易低級デバイス使いが烈級騎神並み。

 エリート兵(強気)中級~上級デバイス使いが轟級騎神並み。

 

 人間はデバイスという装置を使うことで、種族と練度の差を埋めてしまう。

 ウマ娘にコンプレックスを抱くDCのような連中には天の恵みだ。

 それと同時期にウマ娘間のみでの契約方法が確立され、それ専用のデバイスも造られた。

 これにはUC的思想を持つ連中が飛びつき、瞬く間に普及した。

 

『これでもう、ウマ娘どもにでかい顔されなくて済む。ざまあみろ!』

『元より人間、操者など不要!我々は下等種族に縛られる弱者ではない、強者だ!』

 

 そんな声が上げる奴らが増えてきている。

 「まあまあ、仲良くやろうよ」と思ってる人たちからすればどっちもどっちだ。

 

 元々燻っていた火種に油を注いだような結果になったデバイス、その誕生から普及までのスピードが早すぎる。

 当然の進歩で単なる技術革新と言えばそうなのだが、この一連の流れにキナ臭いものを感じている者は多いだろう。

 それを仕組んだ奴に心当たりがあり過ぎるのも嫌な感じだ。

 

「デモンはともかく、DCはルクスと通じているよね」

「確証はないですが、十中八九間違いないでしょう。我々とメジロ家で散々追い込み瓦解寸前だった組織が盛り返した原因は、ルクスが手を回したとしか考えられません」

 

 捉えたDC兵の持つデバイスには粗悪品や最低限の安全基準に満たない物もあった。

 資金や物資を融通する見返りに、新兵器の試験運用をしていると思えば辻褄は合う。

 

「あーあー、こちらユニコーン1、バンシィ6番応答せよ」

「はい、こちらバンシィ6。状況報告をお願いします」

 

 フラッシュの装着しているインカムに通信が入る。自分のチームとは反対の方向へ展開した別動隊からだ。

 因みにユニコーンやバンシィというのは作戦行動中のコードネーム(頭首の思いつき)

 数字はそのまま従者部隊のナンバーがあてられている。

 

「デモンの掃討は終わったぜ。これから逃げた連中を追撃する」

「了解しました。こちらも今終わった所です。現在位置からだと7分18秒後に合流可能です」

「了解だ。このまま行けば楽・・・ちっ、あいつらぁ!すまん、問題発生だ」

「はい、そんな気がしていました」

「デモンは囮だ、DCの奴ら"Lウィルス"を使いやがった」

「面倒なことを」

 

 ジェスチャーで皆を集めろとファルコンに指示しながら、DCの愚かさに頭を抱える。

 

 ルクスがバラまいた技術の中にはコンピューターウイルスに該当するものがあった。

 そのウイルスは強固な防壁を潜り抜けAIに誤作動と暴走を引き起こす。

 感染する対象は戦闘用AI限定という代物で、無人機のAMやPTを無差別テロの実行犯に仕立て上げる。

 

 従者部隊の仕事にトラブルは付き物だが、こういう嫌な展開には慣れたりしない。

 焦るな、落ち着いていつものようにすればいい。

 罪のない誰かが傷つく、そんな暴挙を許せるものか。

 

「部隊を分けていたのは俺たちだけじゃなかったか。仕方ない、追撃は諦める。人命救助が最優先だ」

「はい、こちらも避難誘導と感染体の排除を」

 

「その必要はありません」

 

 突如、凛とした声が通信に割り込んで来た。

 展開中の部隊員全員に届くようにオープンチャンネルだ。

 声の主は緊急事態に慌てた様子もなく、さも当然のように指示を出す。

 

「ユニコーン1のチームはそのまま、逃走した連中を追撃してください」

「コードネーム?カッコイイね」

「バンシィ6及び7とその他は市民の救援活動に専念」

「えーと、こちらフェネクス13なんちゃって」

「邪魔すんな!・・感染体とウイルスを使った下郎は私が直々に始末します」

「私もいるよ~」

「そういうわけで、後ちょっと頑張りましょう。やるぞ、おー!」

「おー!」

「返事はどうした?」

「「「「「イエス、ユア・ハイネス!!」」」」」

「よろしい」 

 

 与えられた指示に従い行動を開始する部隊員たちは、ふと上空を見上げた

 姿は見えないがそこにサトノ家が誇るステルス輸送機が来ている。

 我らのプリンセスが到着したのだ。

 

「聞きましたね。急ぎますよみんな!」

「「「はい!」」」

「あの、ファルコンさん」

「んー何かな。新入りちゃん」

「本当に行かなくていいのでしょうか?感染体たちにエリート兵は流石に」

「う~んこの初々しい感じ、まさに新入りだね~」

「心配無用ですよ。自分の任務に集中しなさい」

「フラッシュさん、納得できません。あの方々はまだ子供なんですよ!」

「子供は時に大人より残酷ですよ。勘違いしないでください、あなたのために行くなと言っているのです」

「それはどういう?」

「アレ見ちゃうとさ、ショック受けちゃう子もいてね。自信喪失からの退職届コンボはもう勘弁してほしい」

「映像記録なら基地のアーカイブにありますから自己責任で閲覧してください」

「トイレ行ってからにした方がいいよ。ショック耐性が無いとゲロするか漏らすかだから」

「余計な事をいわない。時間が惜しい、さあ、行きますよ」

「・・・・はい」

 

 心優しく真面目で忠誠心もある新人だ。将来有望だがサトノ家ではそれだけじゃ生き残れない。

 アレを見て「無理ついていけません」というのが普通の反応。

 「超かっけー!一生ついていきます!」というのがサトノらしい反応だ。

 

「因みに私はゲロ吐いちゃった。フラッシュは?」

「はっ!情けないですね。私は少し意識が飛んだだけです」

「ダッサッw気絶してんじゃねーか」

「スマートじゃない、ゲロファルコンよりマシです」

「「「「ゲロファルコンwww」」」」

「コラ!みんな笑っちゃダメーーー!」ヽ(`Д´)ノプンプン

 

 ♦

 

「よーし全員止まれ!ここまで来ればもう大丈夫だろう。ここで作戦の成功を見届けるぞ」

「へへ、やってやったぞ。あの世で反省するんだな!ウマ娘などに媚びへつらう愚民どもが」

「デモンを利用するなんて正気を疑ったが、蓋を開けて見ればどうということもない」

「デバイスの調子もいい。あの鉄仮面と手を結んでよかったな」

「極めつけは例のウイルスだ。街中の無人機が狂っていく様子は愉快だったぜ」

 

 ユニコーン1に追われている部隊とは別、今回のテロを画策し本命のウイルスを使った主犯たち。

 一仕事を終えたとばかりに気を緩め、自分たちの成果を見物する態勢に入った。

 街のいたるところから火の手と煙が上がり、悲鳴や怒号が響き渡る。

 一つの街がなすすべもなく壊れて行く様、それをやり遂げたことに罪悪感は微塵もない。

 この街の存在をDCは嫌悪していた。

 住民のほとんどが人間とウマ娘の融和派で、かつてのアースクレイドルを思い起こさせる未来型モデルタウン。

 人に似た化物とそれを愛する裏切り者どもの住む街、テロの標的となるのは随分前から決まっていた。

 

「他の奴らはどうなった?」

「無事に逃げているといいがな、まあ、どうでもいい。所詮あいつらは捨て駒だ」

「ひでぇwwでも仕方ないw」

「ふん。我らDCの志を理解せず、ただ暴れたいだけの半端者には丁度いい役目だ」

「そういえば、デモンの姿が見えないッスね。まさか全部やられちゃったんですかい?」

「バカを言うな。アレだけの大群がこの短時間でどうにかなるかよ、大方統制を失って方々に散ったんだろう」

「相手はやけに少なかったしな。メジロ家も質が落ちたもんだ」

 

 嘲笑がこだまする。長い間辛酸を舐めさせられた相手に一矢報いたのは気分がいい。

 

「おい警戒を怠るな。まだ作戦は終わってないぞ」

「何ピリピリしてんだよ、もう終わったも同然だろう。今更何を警戒しろってんだよwwメジロ家もここまでは来ねぇよ」

「メジロではない、今回遭遇したのはサトノ家だ」

「サトノ?メジロじゃなくてサトノwwwあーあーそれでかぁ、どうりで弱っちいと思ったんだww」

「そういえば戦闘服の色が黒だったな。メジロの色違いで劣化版なんてわかんねぇよ」

「お前たち・・・サトノはヤバイって噂を知らないのか?」

「アレだろファイン家と手を組んだってヤツだろ、だからどうしたって話だ。ファイン家って何ww」

「後継者が順調に育っているメジロは怖いが、サトノとファインはなぁ」

 

 DCのエリート部隊、血気盛んな若い連中はサトノ家とファイン家を完全に見下していた。

 少数でデモンを殲滅した従者部隊がいたこと。人命を優先したため戦闘には消極的だったことには気づいていない。

 しかし、部隊の大半を占める者は思想はどうあれ、そこそこの猛者で構成されている。

 彼らは仇敵である御三家を相手に隙を見せてはいけないことを熟知していた。

 

「2年以上前のことだ、サトノが操者手に入れたという噂が立った。それからだ、あの家は前にもまして妙な動きをみせるようになった」

「急に活動規模を縮小したんだよな、なんでも次期頭首が病になったとかで」

「サトノだけじゃない、あの頃は御三家全体がおかしかった。まるで、そう、俺たちに構っている場合じゃないって感じだったな」

「同時期にあれ、何だったかな、都市伝説?が流行ったよな。修羅がどうとか」

「それ知ってるわ。人間にもウマ娘にも平等に襲い掛かるド変態が日本各地に出没したんだろ。俺の盟友たちがそいつにやられたらしい」

「ああ、DCとUC双方にケンカを売って悉くを壊滅、テスラ研とトレセン学園にも出たらしい。でだ、そのド変態の正体はサトノ家の操者だったんだとよ」

「バカらしい都市伝説だ。人間一人が起こした事件にしてはあまりに誇張し過ぎ、現実味ゼロだ」

「一応聞くが、そのハッタリやろうはどうなった?」

「ルクスが始末したらしい」

「かぁーつまんねぇオチだな。というよりその変態が実在していたことがビックリだ」

 

 笑い声が大きくなる。若造たちは仲間が笑い話をしてくれたぐらいに考えていた。

 話をした本人も本題前の軽いジョークのつもりだった。

 その全てが誇張でもハッタリでもなく、ある男がやらかした真実だと知る者はここにいなかった。

 

「変態のことは忘れろ。落ち目だと思われたサトノが再び動き出した時、今度こそ奴らは化物を連れて来た」

「どうせまたハッタリだろ?」

「だったらどんなによかったか。友軍が全滅する前に送って来たライブ映像、半殺し状態で横たわる者たちに底冷えする目線を向けるウマ娘。それが、ゾッとするほど綺麗で恐ろしくて・・・俺は確かに見たんだ!あの女が雷を纏って動く度に仲間がダース単位で吹き飛ぶのを、アレはただのウマ娘じゃない」

「・・・"雷帝"だ」

「らいてい?」

「サトノ家の雷帝。単騎で潰した組織は片手じゃ足りない、雷の如きスピードとパワーで敵対する者を蹂躙する超級騎神」

「マジか、そんなヤバイのがいるのか」

「雷を出すってのも比喩じゃねぇ、雷帝の覇気は正真正銘の雷撃となって暴れ狂う」

「今回の奴に出会わなかったのは運がいい、接敵したら俺たちはここにはいない」

 

 先程までとは打って変わって重苦しい空気が場を支配する。俺たちは運がよかっただけなのか?

 

「でもよ。その雷帝って奴にだけ気を付ければいいんじゃね」

「そうだ、デバイスと新兵器にルクスの力添えがありゃあ、超級騎神一人ぐら目じゃないぜ」

「最近、もっとヤバイのが増えたと言ったらどうする?」

「お、おい、やめろよ。なんだか寒気がして来た」

「姿を見てまともでいられた奴の方が稀だ。見つかった場合の対処法は「逃げるか」「諦めるか」だ」

「その、見たことがあるのか?」

「いや、だが特徴だけは何故か口コミで伝わっている。大抵の場合は二人組で、一人は黒髪に鮮血の様な紅い眼持を持つ戦闘狂。もう一人は、ひし形のメッシュが入った長髪で触手を出してくるらしい」

「二人?いや待て、触手ってなんだよ。ウマ娘の話だよな、バイオハザードのクリーチャーの話してないか?」

「怖すぎる、これからはそんな奴らを相手にしないといけないのか」

「狼狽えるな諸君!こんなこともあろうかと備えはバッチリだ」

 

 リーダー格の男が指を鳴らすとその傍らに異形の存在が現れる。

 顔が無く、魚に似た装飾が施された矛を持つ古代中国の武人。

 それはかつて、超機人と邂逅した際にマサキが戦った妖機人の上位個体。

 

「なっ!人型のデモンだと」

「鋳人(いじん)というらしい、ルクスからのサービス品だとさ。ただのデモンではない、こちらの命令に忠実で戦闘力は折り紙付きだ」

「確かに、こいつの覇気なら超級にも対抗できそうだ」

 

 切り札である鋳人を前に沸き立つDC兵たち。

 大儀の下で作戦を遂行できたことを誇らしく思い、不安要素が完全に払拭された安堵からか、今度こそ全員の緊張は解れていった。

 

 だが忘れてはいけない、最悪の出来事とは最悪のタイミングでやって来るのだ。

 例えばそう、安心感で満たされホッと一息ついた時などに。

 

「あぁぁぁぁ着地点ズレたぁぁぁミスったぁぁぁ!マサキさぁぁぁぁん!あい・して・まーーーす!」

 

 ・・・気のせいだろう、気のせいのはずだ。

 上空から落下する、ドップラー効果を含みながら大絶叫をあげる物体など知らない。

 知りたくない!

 

 ドォゴッッッ!と鈍い激突音が聞こえた気がした。

 ここから数百メートル離れた林へ何かが突っ込んだ音だろう。

 もしアレが生物だとしら生きてはいないはず。そのはずなんだ!

 

「おい」

「嫌っス」

「まだ何も言ってないだろ。いいからちょっと見て来い」

「放っておこうぜ。アレはたぶんフライングヒューマノイドって奴さ」

「飛んでなかったぞ、何か叫びながら自由落下していたぞ」

「くっ!と、とりあえずデバイスを起動して警戒態勢。なにこっちには鋳人がいるだ、どんな奴が相手だろうと負ける要素がない!」

 

 その時だった。

 

「アァァァイ・キャァァァーーーン・フラァァァーーーーーイッッ!!」

 

 また何か聞こえるぞ。

 

「またかよ!」

「はっ!そうか、上から来るぞ気を付けろっ!」

「まさか人間だと!?違う、アレはウマ娘。敵だ!騎神が振って来るぞーーー!」

「撃て!撃ちまくれ!空中で始末してやる」

 

 実弾、ビーム、ミサイルの対空砲火が青空に向けて放たれる。

 一直線に落下してくる何者かは抵抗することもなくその砲撃に身を晒す。

 

「しゃーっ!命中したぜ、呆気なかったな」

「何がしたかったんだ?」

「サトノ家のやることは本当にわからん」

 

 上空咲いた爆炎の花からボロボロになった体が落ちて・・・は?

 無傷だと!?それどころか加速して突っ込んで来ていないか?

 テスラドライブを装備しているようには見えない。

 だったらアレは何だ?手足にある緑の輝きから猛烈な勢いで覇気が噴出している!

 ブースター代わりのつもりか!

 そして足の輝きは強く大きくなっていく、緑の宝石?

 片足をこちらに向けて更なる加速を仕掛ける騎神、マズイと思った時には遅すぎた。

 

「やばコレ止まりそうにない、ああもういっちゃえ!オ・ル・ゴ・ン・キィィィッッーーークッッッ!!」

 

「総員退避ぃぃぃーーー!!」

「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」」」」

 

 流星となった騎神の蹴りが着弾する。

 大地を震わせ緑の結晶片と衝撃波を散らせながら超威力が炸裂した。

 立ち昇った土煙が晴れた時、DC兵は見た。

 たった今、自分たちを滅ぼしかけた存在が立っているのを。

 

「あ、あ、あし、し、痺れた、今のは効いたぁ~。でも、うん、着地成功!」

 

 着地だと?思いっきりキックって言っていたじゃねーか。

 あれほどの威力をぶつけて足がちょっと痺れたで済んでいるのもおかしい。

 

「い、生きているか」

「ああ何とか、それよりアレは」

「うお、こっちに気付いたぞ!」

 

 赤い瞳がこちらを捉えた。それだけで動けない、蛇に睨まれた蛙とは今の状態か。

 

「ねぇ!あなたたちDC?」

「・・・・」

「聞こえないの?それとも喋れない?何とか言いなさい」

 

 サトノ家制の黒い戦闘服を身に纏ったウマ娘。

 近接戦闘を好む者に人気のノースリーブとハーフパンツスタイル。

 黒髪に紅い瞳・・・奴だ。

 

「キ、キタサンブラック!?」

「おー私のこと知ってる人がいるんだね。そうだよ大正解」

「初めて見た、あれがサトノ家の――」

「「「黒い阿修羅!!」」」

「え!あしゅら。そんな風に呼ばれてるの?やだカッコイイからもっと言って!」

 

 腹グロ、世紀王、ブラックサン、黒い太陽、狂戦士、とか言われた事はあるけど阿修羅ときたか。

 いいじゃないの、気に入ったよ。考案者にはシロ手製の仏像を100体プレゼントしちゃう。

 

「に、に、逃げた方が」

「バカこっちには鋳人がいるんだ。何も問題ない」

「いじん?」

「お前を倒す秘密兵器だ。さあ、鋳人!その黒い絶望を葬り去れ!」

「絶望ってw」

「・・・あれ?どうした」

「どこに行ったんだ」

「おーい、まさかと思うけどさ。いじんってのコレのこと?」

「「「「・・・うそ・・だろ」」」」

 

 着地の瞬間、何か踏んだと思ったんだよね。

 自分の足元で消し炭状になっている何かを拾い上げようとして失敗。

 あらら、どんどん風化していく。

 近くに転がっていた槍っぽい得物もポッキリ折れて崩れ去っていった。

 何だったの?

 

「我らの切り札が、何も出来ずに消えた・・だと」

「はは、お、俺は夢でも見てるのか?なあ、夢だと言ってよバーニィィィーーー!」

「バーニィさんなめんなよ!ミンチより酷いことになるぞ」

「もう駄目だぁ、お終いだぁ」

「え、戦わないの?つまんないなぁ」

 

 膝をついて戦意喪失していくDC兵を一瞥してため息。

 あーこんなんじゃストレス解消にならないよ。

 

「どうしたもんかねシロ・・・シロ?あれシロはどこ行ったの」

 

 先に飛び降りたはずのシロがいない。

 飛び出すタイミングが少々早かった気がしたのだが、まさか着地に失敗したのか!

 もう!いちいち笑わせてくれるんだらww

 

「そうか、惜しいウマを亡くした。マサキさんとは私が責任もって添い遂げるから、安心して成仏してね」

「成仏なんかしませんよ!」

「あ、生きていた。もう、どこで遊んでいたの!?」

「ちょっと着地点をミスりましてね。地面に私型の穴が空いてしまいました」

「ギャグ漫画の奴か!超見てぇ!」

 

 若干、土に汚れたシロだが何とか生還したようだ。

 よく見ると木の枝や葉っぱがくっついてる・・雑木林に突っ込んだのかww。

 

「もう一人来たぞ」

「黒い阿修羅の相棒、そんなまさか・・・」

「詰んだコレマジで詰んだ」

「あ、あ、あわわわわわわっわ」

「黒い阿修羅ですと?」

「ふっふーん。いいでしょ私の二つ名だって」

「ほうほう、クロにあって私に無い訳ありませんよね。DCの皆さーん成敗される前に私の二つ名も教えてくれぃ!」

 

 うーん、純真無垢な○○とか、才色兼備な○○、白い○○、でしょうか。マサキさんの妻でも可です!

 さあ恥ずかしがらず、言ってごらんなさい。

 

「く、く、く、く」

「く?」

 

「「「「く、クレイジーダイヤモンドが出たぞぉぉぉーーーー!!!」」」」

 

「あはははははははははははwwwwあはははははははははwwwひゃははははははははwww」

「どうせそんな事だろうと思ったわ!お―おー笑え笑えぃ!この"狂った金剛石"を笑うがいいさ!」

 

 地面をゴロゴロ転がりながら、クロが腹を抱えて笑う。

 予想道理で面白くねーんだよクソがっ!

 バラバラに分解した後、父様のグラサンと再構成してやろうか?

 マダオのグラサンとして生きるがいい!ドラァ!ってな。

 

「終わった。短い夢だったな・・・俺、生きていたらDCやめて田舎に帰るよ」

「本当は二次元の彼女がいるんだ。死にたくない」

「悪いことって良くないよね。うん、生まれ変わったらウマ娘に転生しようそうしよう」

「い、嫌だぁ!生きたままピーーーー!されるぐらいなら死んだ方がマシだ」

「いや、お母さん」

「楽に死ねるといいな、もうどうでもいい、どうせみんないなくなる」

 

 DC兵が勝手に絶望していく。

 いい歳した大人がガタガタ震えちゃって情けない。

 こんなに可愛いダイヤちゃんにその反応はなんですか!失礼極まりない。

 

「それにしても悪名高すぎません。私、何かやっちゃいました?」

「ココと一緒に始めた情報操作は大成功。後で成功報告しなきゃ」

「おいコラ、今なんて言った」

「シロが血も涙もない極悪非道の拷問マニアだって広めちゃった。皆が怖がってくれたら、お仕事も楽になるとおもって・・・思いのほか上手くいって大満足!」

「お前らは私をどれだけ貶めたら気が済むんだ」

「良かれと思って」テヘッ

「マサキさんに言いつけてやるんだからぁ!お尻ペンペンしてもらえ!」

「それ、ご褒美じゃね」

 

 真の敵はやはりクロとココだった。うん、わかってましたよ。

 アル姉さんは何とか味方につけたいです。三対一は流石に泣きますよ?

 



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イケ魂

 今日もいつもと同じ日常が送れるはずだった。

 優しい両親がいて可愛い妹たちがいて、少々退屈だが穏やかで幸せな暮らし。

 それが保証されていると根拠もなく信じていた自分は愚かだったのか?

 

 突然訪れた非日常、平和な街をデモンとDC兵が襲ったのだ。

 地下シェルターへ避難する途中で両親たちとはぐれたのは痛恨の極みだった。

 人混みに流される自分たちを助けてくれる者はいない。

 みんな自分と親しい家族の身を案じることで精一杯なのだ。

 

「お兄ちゃん、私怖いよ・・・」

「パパとママどこに行ったの?」(´Д⊂グスン

「大丈夫、お前たちのことは俺が必ず守る」

「お兄ちゃん、弱っちい癖に」

「くせにー」

「はいはい、とにかく移動するぞ。父さんたちはシェルターの方へいるはずだ」

 

 3つほど年の離れた妹たちは双子だ。

 そして二人とも人間には無い耳と尻尾が生えている。ウマ娘の双子。

 両親も俺も二人のことを溺愛していた。

 友達には兄バカなんてからかわれるけど、本当に可愛いから仕方がない。

 いずれ身体能力では抜かされてしまうとしても、妹たちを守ると言ったことに嘘偽りはない。

 俺はもう分別ある中学生で、二人のお兄ちゃんなのだ。

 こんな時こそしっかりしなくてはならない。

 

 兄としての矜持と使命感により、己を奮い立たせ避難場所へ急ぐ。

 道中で逃げる人を襲うAMを何度も見た、街の警備ロボが何故?

 理屈はわからないが街中の無人機が暴走状態にあるようだ。見つかればただでは済まない。

 市民の敵と化した街の守護者たちから隠れつつ慎重に移動することにした。

 遠回りになってしまい、自分も妹たちも疲労がピークに達した頃、見慣れない武装をした大人たちに遭遇した。

 緊急時にはメジロ家の治安部隊が出動すると聞いたことがある。

 やった助かった!と安堵した自分の期待は脆くも崩れ去ることになる。

 

「あー?何だこのガキどもは」

「放っておけ、すぐに追手が来るぞ」

「ちっ、ウイルスを散布するなんて聞いてねえぞ。俺らは最初から捨て駒だったのかよ」

「見ろよ、ガキどもの中にウマ娘がいるぞ」

「なにぃ?それは見過ごせんなぁ」

「売り飛ばせば小遣い稼ぎにはなる。連れて行くか」

 

「やめろっ!妹たちに手を出すな!」

「「お兄ちゃん!!」」

 

 妹たちを背に庇い、銃を持った大人たちを睨みつける。

 救援に来てくれた人たちじゃない、こいつらは街を襲った最低の大人だ!

 幸せな日常を奪い、皆を不幸にした悪党。

 悪には屈してはならない、守るべきものために、己の正義を示して戦わないと。

 それだというのに今の自分は余りにも無力で頼りない。

 恐怖と緊張から汗をかき、足の震えが止まらない。

 せめて、妹たちに自分の怯えが伝わらないよう必死だった。

 

「妹だと?威勢のいいことだなお兄ちゃん!」

「こいつブルッちまってるぜwダセェww」

「知ってるか、DCではウマ娘と仲良くしているだけで罪なんだぜ」

 

 下品な笑い声を上げて少年を嘲る大人たち。

 追われる身であることを忘れたDC兵は溜まった鬱憤を子供たちぶつける。

 

「取引だ。そのウマ娘たちを置いていけ、そうしたらお前だけは見逃してやる」

「俺たちは人間には優しいんだ、よかったなボウズ」

「ふざけるなっ!そんなことできるか」

「では仕方がない。お前ら三人とも死んでもらう」

「「「!?」」」

「うわwひでぇww最初から殺す気だった癖によww」

「なんだ小遣いはいらないのかよ?」

「追手を撒きながら連れていけるわけねーべ。目撃者がいると面倒だ、始末するに限る」

「そういう訳だ。運がなかったな」

 

 無慈悲に向けられた銃口に心臓が早鐘を打ったように脈打つ。

 死ぬ?こんなところで終わってしまうのか。

 誰も守れず、何者にも成れず、死んでしまう。

 嫌だ、怖い、どうしてこんなことに、俺が何をした?

 俺は・・・俺は・・・

 

「や、やだよぅ・・」

「助けて誰か・・・」

「!?」

 

 俺はこいつらのお兄ちゃんだ!絶対に守ると約束した。

 恐怖も震えも全く拭えていないけど、今動かなくてどうするよ。

 相手の指先はトリガーにかかっていない、完全にこちらをなめている。

 だったら!

 顔を上げ、銃を向けていた奴に飛びかかる。

 何の技巧もないただの体当たり、相手の腕を掴むことだけを考えろ。

 

「うわあああああああああああ!」

「な、このクソガキ!」

「おいおいwガキ相手に何やってんだ」

「そうだぞーしっかりやれー」

「二人とも逃げろ!逃げてくれーーー!!」

「「お兄ちゃん!!」」

「おうおう、泣かせる話じゃないかww」

「この離しやがれっ!」

「ぐぁっ」

 

 訓練を受けた大人の腕力で殴り飛ばされた。

 決死の覚悟で挑んだのに時間稼ぎにすらならなかった。

 

「ごめんな俺が弱いばっかりに・・二人を守れ・・なかった」

「そんなことない!そんなことない!ちゃんと守ってくれたよ」

「置いていくなんてできないよ、ずっと一緒がいいよ・・・」

 

 泣きじゃくりながら寄り添ってくれる妹たち。

 何が楽しいのか、そんな俺たちをニヤニヤした顔で見る悪党たち。

 悔しい、情けない、耐え切れず涙が溢れて来る。

 ごめん、父さん母さん俺のせいで・・・ごめんな二人とも。

 

「ウマ娘の妹などいなかったら長生きできたのにな」

「・・・・」

「何だその目は、気に入らねぇ」

 

 それは断じて違う。彼女たちがいてくれたから俺は俺でいられたのだ。

 彼女たち妹が、俺をお兄ちゃんにしてくれた。そこには感謝しかない。

 ああ、本当に悔しいな。俺より年上の癖に、目の前の大人は知らないのだ。

 人間だとかウマ娘だとかじゃない、強固な絆の前では種族の違いなど何の障害にもならないと。

 

 妹たちを抱き寄せる。この暖かさと重み、命が息づいた証を死んでも忘れない。

 最後の抵抗はただ睨みつけることだけ、怖い、悲しい、悔しい。

 それでも最後まで目を逸らさない!

 覚えておけ!俺と同じ思いをもった誰が必ず、お前ら悪党にわからせてやる。

 自分たちを襲った悲劇。こんな理不尽がまかり通っていいはずが無い。

 

「じゃあなクソガキ、仲良くくたばれw」

「「「っ!!」」」

 

 覚悟を決めた少年の目が捉えたのは、撃ち出される弾丸でも、自らの鮮血でもなく。

 

 理不尽な暴力を更なる理不尽で叩き潰す獣の姿だった。

 

「お前がくたばれ」

「げひゅっ!」

 

 「くたばれ」と冷めきっているはずなのに煮えたぎる怒気をもった声が聞こえた。

 銃を持った男の顔面に獣の膝がめり込んでいる。

 声にならない音と血を飛び散らせた男は、きりもみ状に回転しながらビルの外壁に突っ込んだ。

 少年たちも、DC兵たちも何が起きたか理解できない。

 ただそこに理解しがたい存在が現れたことだけが事実であった。

 

「ふん。汚らわしい」

 

 吐き捨てるように悪態をついた獣がこちらを向く。

 ヒリつくような威圧感を放っていた存在はこちらを視界に収めると、打って変わって柔らかな笑みを見せた。

 

「・・え?」

「うわぁ」

「きれーい」 

 

 俺はポカンと口を開けたまま固まる。妹たちも目の前の存在に心ごと奪われたようだ。

 だって仕方がないだろう。

 ピンチを救ってくれたヒーローは・・・

 

「よく頑張りましたね。私が来たからにはもう大丈夫ですよ」

 

 ビックリするほど美しくて可愛らしいウマ娘だったのだから。

 

 ♦

 

 飛び膝蹴り発動の少し前。

 

 どうも狂った金剛石こと、クレイジーダイヤモンドです(やけくそ)。

 憎いあんちくしょうたちの策略により、ゴロツキどもの界隈ではエリザベート・バートリーも裸足で逃げ出す大悪女に仕立て上げられました。

 ふんだ、悪党どもにどう思われようと平気です。

 マサキさんは「シロはいい子だな」って言ってくれますもん!

 

「いいですか、迎えが来るまでここにいてください。逃げたら・・わかってますね?」

「「「「はい、仰せのままに!」」」」

「すっかり隷属化しちゃったね」

「下手に反抗されるよりマシですよ。さあ、人助けという善行に励みましょう」

「「「「お気をつけて!!」」」」

 

 戦意喪失後、すっかり大人しくなったDC兵を残して市街地にダッシュだぁーーー!

 奪い取ったデバイスをオルゴンテイルで捕食してやったら、自分からパンいちスタイルになってくれました。

 「命だけはお助けぇ!」と泣くので口約束だが、捕虜としてまともに扱うと言ってやった。

 その後の尋問はスムーズに進み、極限状況から私を神と崇める者まで現れた。

 メンタル壊れちゃったかぁ。こうなるという事は聞かせやすい、従順になるよう導いてやろう。

 というわけで、彼らは哀れな操り人形になってしまいましたとさ。

 一応、オルゴナイトで作った手枷足枷をハメておいたので逃走は無理だろう。

 

「感染体は見つけ次第排除、見敵必殺ですよ」

「サーチアンドデストロイ!ところでLウィルスのLって何?」

「Lux(ルクス)のLです。迷惑な病原菌にはピッタリの名前でしょう」

「うげーなんかキモイ」

 

 無人機を暴走させるウィルスが事件現場で確認されてから、御三家やギルドでは注意喚起と対処方法が検討されてきた。

 ウィルスの命名は私が言った「どうせルクスの仕業でしょ」の一言でLウィルスに決定。

 感染した機体を元に戻す方法は無いので、ぶっ壊すしかない。

 それも、今だけの話ですけどね。

 

「ワクチンの開発はどんな感じ?」

「来月には実戦投入できそうです。これもシュウさんのお陰ですね」

「やるじゃんロリコニア大臣!」

 

 これで被害者でもある無人機たちを救える。コスト的な意味でも救われる。

 仕方ないとはいえ、あまり派手にやると賠償金クレクレされますからね(サトノ家あるある)

 ショックを受けた父様のグラサンが割れるシーンはもう見たくない、というか見飽きた。

 

「壊した方が早いけど」

「それは言いっこなしですよ」

 

 市街地をパルクールしつつ爆走中、ふむふむ、避難状況は・・9割方完了していますね。

 お、通信だ。

 

「こちらユニコーン1、ちょっといいかい"おチビちゃん"たち」

「おチビは卒業しましたよ、イルムさん。ご用件をどうぞ」

「俺が追っていたDC兵が市街地に逃げ込んだ。住民に紛れて潜伏していた奴らと合流する可能性がある」

「わお!"おいたん"らしくないミスだね」

「そう言ってくれるなブラック。こっちはデバイスなんて便利道具持ってないつーの」

「近日中に支給しますよ。イルムさんの希望は超闘士をベースにした奴でしたね」

「おうよ、計都羅喉剣を頼むぜ。それで市街地の方は任せていいな?」

「はい、そっちは増援の警戒と避難民への対処をよろしくです」

「ドロ船に乗った気で待っててね」

「それを言うなら大船な。心配はしてないが、一応言っとくわ・・・殺すなよ」

「善処します」

 

 通信終わり。

 まったく、軟派野郎は心配性なんですから。

 先日、久しぶりに再会した第一声が「いい女になったな!メシいくぞメシ!」で肩を抱いて来た時は何て奴だと思ったけど、いい人なんです。

 こっちを未だに子供扱しつつ、いい女だからとりあえず誘うのが礼儀だってなんやねん。

 本命がいるの知ってるんですからね、チクったろうかなぁ。

 マオ・インダストリーの社長、マオさんとは旧知の仲なんですよ。

 

「おいたん、今度ご飯奢ってくれるってさ。一緒に行く?」

 

 あの野郎、クロにも手を出していたか。

 

「いいですね。一皿800円オーバーの高級回転に行きたいです」

「よーし、お皿を天井まで積み上げちゃうぞー」

「この際です。アルさんとココも呼んで破産させてやりましょう」

「それ面白い。二人とも私たち並みに食べるから・・・おいたん泣いちゃうねw」

「美少女が増えて喜ぶのが先でしょうね」

 

 お財布をスカスカにしてやりますよ。これで懲りてくださいね。

 ・・・・今何か聞こえた・・・人?・・・それから・・・

 

「2時方向!感染体くるよっ!」

「みんな大好きゲシュペンスト。安易なリオンじゃない所に住民のこだわりを感じます」

「何言ってんの、行くよ」

「お任せしてもいいですか?私はもう少し先に行きます」

「何か見つけたな、いいよ、ここは任せて先に行けよやぁーー!」

「語尾がバグってますよ」

 

 ブレンパワード懐かしい「死ねよやぁーー!!」のオマージュ?

 お子さんがいる方へアドバイス、クリスマスプレゼントぐらいは用意してあげましょう。

 

「ふんぬばらっ、バスカーモード!」

「いきなりですかい」

 

 エネルギー切れには気を付けなはれや。

 ゲシペンストの群れに突撃するクロを横目に先を目指す。

 聞こえたのは感染体の駆動音だけじゃない、人、それも子供の声が、逃げ遅れたのかな?

 とにかく急行しまーす。

 

 よかったアッサリ見つかっ・・アレは大ピンチやんけ!?

 

 武装した大人たちはイルムさんが言っていたDC兵だろう。

 子供に銃を突き付けて何をやっているんだか、そうだ、三人の子供がいる。

 二人のウマ娘、顔がよく似ているから姉妹だろうか、それを庇うようにしている人間の男の子。

 

 ドクンッ!

 

 賢い私には否が応でもわかってしまう。

 三人は兄妹、兄である少年は大切な妹たちを守ろと抵抗したのだ。

 非力な癖に、震えている癖に、今だって泣いている癖に、勇気を振り絞り立ち向かった。

 わかりますよ、あなたの思いも妹さんたちの思いも。

 だってあなたたちはまるで・・・私とクロとマサキさんみたいだったから!

 

 ドクンッ!!

 

 似ている、あの少年の魂はマサキさんを彷彿とさせる。

 そのイケメン魂、略してイケ魂に私たちウマ娘は惹かれるのです。

 勝てるかどうかじゃない、命に代えても大切な人たちを守りたいと願う気持ち。

 兄だけじゃない、妹たちもだ、あの子たちは自分の死より兄妹の死を恐れている。

 ああ、なんて眩しいのだろう、なんて尊いのだろう。

 あの子たちをカッコ悪いと笑う者には、あの輝きが見えないのか。

 

 ドクンッ!

 

 その尊き魂を踏みにじろうとする下郎がいる。許せない、許さない!

 やったな・・やってくれたな!・・私の前でよくも・・

 いらない、お前らはいらない、私とマサキさんの住む世界にお前らは必要ない!!

 

「じゃあなクソガキ、仲良くくたばれw」

 

 ・・・ドクンッ!

 

 キレた。心臓の鼓動すら置き去りにするスピードで駆け、距離をゼロにする。

 

「お前がくたばれ」

「げひゅっ!」

 

 自分から発せられた声は異常なほど冷徹で怒りに満ちていた。

 片膝に不快な感触あり、下郎の顔面を潰したからだ。

 ビルの外壁へと回転しながらぶつかったが知らん。あんな奴の生死などどうでもいい。

 

「ふん。汚らわしい」

 

 うぇ、あいつの血とかついてたら嫌だな。

 今日のドレス(戦闘服)はスカートだから気を付けないと。

 一応、パンツだろうとスカートだろうと戦闘には何も支障がない設計をしています。

 大事なのはインナーで、ピッチリスーツや見せパンはしっかり着込んでないと困ったことになります。

 

 ふぅ、一旦心を落ち着けて平常心と営業スマイルですよ~。

 勇敢な子供たちにご挨拶せねば。

 くるりと振り返った先には私を見て不思議な表情をする三人。

 

「・・・え?」

「うわぁ」

「きれーい」 

 

 まただよ、私、年齢が近しい子には初見でポカンとされてしまいます。特に男子は酷い。

 そ、そんなにおかしいかな・・凹みます。

 キレイって言ってくれてるから大丈夫だと思いたい。

 

「よく頑張りましたね。私が来たからにはもう大丈夫ですよ」

 

 安心させるように宣言する。豊満なおぱーいを揺らすほどに胸を張ってやります。

 おや、そこの男子、なぜ目を逸らす。

 

「ア、アンタ誰だ?」

「通りすがりのウマ娘です。趣味はマサキさんの妄想」

「お姉さんのお名前は?」

「おお、私がお姉さんですか!シロじゃなくて・・ダイヤと呼んでください」

「ダイヤちゃん、つよーい」

「へへへ、それほどでも」

「ダイヤさん、助けてくれてありがとうございました!ほら、お前たちもお礼」

「「ダイヤちゃんありがとう!」」

「どういたしまして」

 

 間に合ってよかったー。未来ある若人を救えて大満足です。

 

「何だあいつは、普通じゃないぞ」

「おい、生きてるか!おい!」

「ほっとけ、そいつはもう駄目だ」

「く、くそっ、あんな奴相手にしていられるか!俺は逃げるぞ」

「待ってくれ、お、俺も」

 

 下郎が仲間を置いて去って行った。

 おー逃げてく逃げてく・・・バカが、今更無事に帰れると思っているのか?

 イルムさんに連絡しないと。

 

「ユニコーン1へ。逃げ遅れた市民を三名確保、回収をお願いします」

「了解だ。すぐそっちに向かう」

 

 これで良しっと。

 

「動かずここで待っていなさい。すぐに助けが来てくれます」

「お姉ちゃんキシン?」

「バッカこんなに強いんだ。メジロ家の騎神に間違いないぞ」

「それは心外ですね。私はメジロではなくサトノ家の騎神です」

「「サトノ?」」

「し、知らないのですか。そっか、知名度が・・・やだ泣きそう」

「サトノ家なら知ってるぞ。メジロ家のしたっぱでパシリもやってんだろ」

「はぁ?はぁ?はぁぁぁん?」(#^ω^)ピキピキ

 

 誰がしたっぱじゃい!世間ではそんな認識なの?

 ここまで酷いとは思わなかった、今後は広報部にも力を入れることを誓いましょう。

 目指せイメージアップ戦略!

 

「あなた方は、ご兄妹であってますか」

「ああ、妹たちは双子でウマ娘だ」

「そうですか、少しお話いいですか?」

「「ダイヤちゃんなあに?」」

 

 歳は10前後か、年下ですから目線を合わせて、うーん、少し前まで自分もこんなんだったのかぁ。

 

「よいお兄さんですね」

「「うん!」」

「あなたたちはウマ娘、人間より強い体をもって生まれています。ですが、その力に驕る事なきよう気を付けなさい」

「「おご?」」

「調子に乗んなということです。大事なのは体の強さでなく心の強さです。そこに人間もウマ娘も関係ありません」

「心の強さ・・・」

「何となくわかる」

「今はそれでいいです。大きくなったら誰かを守ってやりなさい、お兄さんがそうしてくれたようにね」

「わかった!私、ダイヤちゃんみたいに強くなる」

「私も私も!お兄ちゃんもパパもママも守るの~」

「よしよしです」

 

 自然に頭を撫でることができた。マサキさんこんな感じでいいですか?

 

「それとあなた」

「お、俺?」

「勇気と無謀は違います。運が悪ければ死んでいましたよ、理解していますか?」

「そんなの、言われなくてもわかってるよ!でも俺は・・ああするしか」

「責めてはいません。もっと考えろと言っているのです」

「考えろって何を」

「そうですね。例えばですが、とある操者なら一旦、土下座をして油断を誘い、相手の口に苦手な食物をねじ込むとか?」

「そんな奴いるか!」

「または、妹君を人質にとり「俺はDCの新兵だ!貢物を持って来たぞ、へっへっへ」とハッタリをかまし隙をついて逃げる」

「どんな外道プレイだ!」

 

 あれ、思ったより不評だ。マサキさんなら躊躇なくやりそうな策なのに。

 

「と、とにかくですね。如何に絶望的な状況下でもやりようはあるのです。力で及ばないなら考えを巡らし、正解を手繰り寄せなさい。破れかぶれになるのは最後の手段です」

「・・・・」

「偉そうなことを言ってすみません。ですが、今日のことを教訓にして生存確率を上げてください」

「いや、アンタの、ダイヤさんの言う通りだ。俺がもっと上手くやれていたらよかったんだ」

「お兄ちゃんは頑張ってくれたよ」

「うん、カッコよかったよ」

「そこは同意します。身を挺して妹を守る姿は素敵でした」

「そ、そうか////」

「お兄ちゃん照れてる」

「う、うるさいな」

「修練あるのみですよ。まだ若いのですから可能性は無限大です」

 

 お節介でしたかね、まさか私が説教をする立場になるとは。

 

「さて、私はそろそろ行きますね」

「本当にありがとうございました。ダイヤさんが来てくれなかったら俺たち」

「あの、さっきから気になっていたのですが、あなた何歳ですか?」

「13歳の中学生だ」

「なんだ、同級生いわゆるタメってヤツですね」

「「「は?」」」

「ちょっと違うか、昏睡状態の前は、だから、えーと・・・12歳ぐらいでお願いします」

「誰がだよ!」

「私ダイヤちゃん。12歳なの、よろしくね!」

「うそつけ!アンタみたいな小学生がいるかよ!」

「ほほう、私のどこを見てそう思ったのですかね~ん~」

「なっ////」

「お兄ちゃんエロ!」

「スケベ!」

「嘘はついてません。ちょっと前までランドセル背負ってましたから」

「ダイヤちゃん本当のこと言ってるよ。私にはわかる」

「フフフ、ウマ娘の急成長をなめないでください。妹君たちも数年後には・・楽しみですね!」

「マジ・・かよ・・」

 

 なるほど、お兄さんが敬語だったのは私を年上だと勘違いしていたのですね。

 いや~私とクロはちょっと成長し過ぎた感はありますが、普通のウマ娘でも10~15の間で人間以上の爆発的成長!いわゆる本格化を迎えますからね。

 感じるのですよ、私とクロ以外でビックリドッキリの成長を遂げている存在をね。

 "一番好きのツンデレムチムチボディ"と"ボーイッシュで料理上手なバイカー志望"だと予測。

 私の未来予測は割と当たる。

 

「ダイヤちゃんはどうして大きくなったの?」

「いっぱい食って寝たからですよ」(何一つ間違っていない)

「へぇーそうなんだぁ。すごいなぁ」

「なあ、アンタは・・その」

「すみません無理です。私もう心に決めた操者がいるんです」

「まだ何も言ってねーよ!」

「あら、てっきり愛バになってくれと告られるのかと思いました」

「そ、そんな訳あるもんか」

「お兄ちゃん振られた」

「ダメ!愛バになるのは私なんだから」

「お前らなぁ」

「そうだ、もし操者になれた暁には是非サトノ家まで!メジロ家ではなくサトノ家!サトノ家をよろしくおねがいします。妹さんたちもですよ、騎神になったらサトノ家へGO!しっかり覚えてくださいね。あ、もちろん無資格でも大歓迎です。うちの採用基準はノリの良さを重視してますから、操者とか騎神とか覇気とかは気にしなくていいですから」

「一気に喋り過ぎだ、わかったわかったから近い近い近い!」

「おっと、もう行かないと。では皆さんお達者で~兄妹仲良くするんですよ~」

 

 言いたいことは言い切ったのでクールに去るぜ。

 フフ、こういう地道な営業努力が後々効いてくるのですよ。

 未来に向けて希望の種を撒き散らす私ってばお利口さん。

 

「行っちゃった」

「ああ」

「ダイヤちゃんカッコよかった!」

「ああ」

「それにすっっっごく可愛かった!」

「ああ」

「おっぱいも大きかった」

「ああ」

「お兄ちゃんスケベ!」

「ああ」

「一目惚れして速攻で振られたんだね。ショック受けるのも無理ないよ」

「うわぁ、悲惨すぎる~。トラウマ確定だぁ、絶対性癖拗らせたよね」

「お前らどこでそんな言葉を」

 

 思春期真っ盛りの少年にいろんなインパクトを与えたダイヤモンドであった。

 未来にて、彼と彼女たちがサトノ家に来たかどうかはまた別の話・・・

 

 ♦

 

「死に晒せぇ!オルゴンマテリアライゼーション!!」

 

 オルゴンライフルA(アブソリュート)

 敵の数が無駄に多いのでぶっ放しちゃったぞ!

 今回もライフルの開発が間に合っていないので、パントマイムでそれっぽくしました。

 撃てれば何だっていいんですよ。

 

「助けて!助けて!助けてくれぇーーー!」

「ひぃぃぃ!」

「化物、化物だ!」

「お、思い出した。あいつはサトノ家のぉぉぉぉーーーー!!」

 

「クレイジーダイヤモンドですが何か?」

「「「「ぎぃぃぃやあぁぁぁっっーーーーーー!!」」」」

 

 ふぅ、外道の断末魔はいつ聞いても醜い。下郎だったかな?どうでもいいか。

 

「こちらクレイジーダイヤモンド。今終わりました、各チームリーダー応答願います」

「クレイジー認めちゃったよww。フェネクス13、感染体の撃滅を完了、総数は・・・100までは数えた!」

「バンシィ6です。市民の救護活動中、メジロ家の救援部隊が協力を申し出ていますが、いかがいたしましょう」

「ありがたく受けてください、私が言うのもなんですが、ケンカしないように」

「了解です。引き続き任務に当たります」

「ユニコーン1だ。おチビが助けた三名の回収を完了、無事親御さんに届けたぜ。増援の気配は無しだ」

「ありがとうございます。各自、事後処理に入って下さい。ややこしい復旧作業はメジロ家に任せて撤収しますよ」

「「「了解!!!」」」

 

 終わったみたいだ。あー今回も何とかなりました。

 首をグキグキッと鳴らしてしまうのは親父臭いですか?

 

「で?何か用ですか」

「なんと、気づいていたのかい?」

「姿ぐらい見せてくれてもいいでしょう」

「これは失礼、レディに対する態度じゃなかったね」

 

 妙な気配を感じたので問いただしたら何かいた。

 全身白スーツだと?返り血とか目立ってしゃーないでしょそれ。

 臭いな、あーなんかコイツ・・・デモンの臭いがするぞ。

 

「初めましてサトノダイヤモンド。僕は孫光龍(ソンガンロン)という者だ」

「デモンを手配したのはあなたですか、ルクスとはどういったご関係で?」

「直球だね。確かに妖機人を動かしたのは僕だ、ルクスとは同盟関係にあるかな」

「ふーん。今日は顔見せですか」

「挨拶に来ただけだよ。もしかしたらキミが巫女かと思ったが、違ったようだ」

「そうですか、お帰りはあちらです」

「ああ、帰らせてもらうよ。そうだ、マサキ君は元気にしてるかな?」

「殺すぞ」

「おお!荒々しい殺気だ。不快に思ったのなら謝るよ、彼の動向は僕も気にしていてね」

「全て知っている癖に余計なことを聞くなボケ。デモンはこれからもテロ活動をする気か?」

「ルクス次第だ。僕はあくまで協力者、DCにもテロにも興味ないよ」

「バラルの犬が」

「へぇ・・・思った通り優秀だね。キミの様な者にこそ、うちに来てほしいものだ」

「遠慮します。私がどう動くかは操者次第なんで」

「だろうね。では、失礼するよ」

「もう会いたくないです」

「やれやれ、つれないなぁ」

 

 消えたか・・光龍と書いてガンロンと読む、まーた光かよ!光って奴に碌なのいねぇな!

 得体の知れない男だった。そもそもアレ人間か?覇気もなんか気持ち悪かったし。

 バラル、古来より人類の戦乱に介入する謎の組織。

 存在自体が眉唾物でしたがあの反応は当たりか、日頃から陰謀論や都市伝説を漁っていた甲斐がありました。

 善か悪か不明だったのですがデモンを使役しているとなると、うーん。

 ルクスに協力している時点で交渉の余地なしですね!はい、粛清対象にリストアップしまーす。

 

「クレイジー?大丈夫クレイジー!応答してよ」

「なぜダイヤモンドを消してクレイジーを残した」

「よかった。誰と話していたの?」

「白スーツの妖怪です」

「何それ、詳しく聞きたいな」

「ちょっと待ってください、外線が・・・ええ、はい、繋いでください」

「突然の割り込み失礼します。マサキのお兄さん的存在、シラカワシュウです」

「ロリコニア大臣ちーす!」

「まだ引きずっているのですか。それより、少々急ぎの用事をお願いしたいのですが?」

「内容を伺ってから決めます」

「慎重ですね。ブラックとダイヤにはすぐこちらへ、シラカワ重工本社まで来てほしいのです」

「今からですか、急すぎません?」

「こっちも・・・よ、ゆう・・がないもので」

「音声が不安定だよ?それに背後が騒がしい」

「失礼。現在、本社にて立てこもり中の身で・・・ぶっちゃけ、感染体の大群に襲撃されて困っています」

「エライことやないかい!」

「そういうことは、はよいえ!」

「ブルボンとライスが迎撃に当たっていますが心配です。あー何か爆発したぁ!早く!早く助けに来てください!お願いしますよぉぉぉぉぉんんん。あ・・・」

「ちょww」

「「あ」って言ったぞ!これもう手遅れじゃね、今爆発に巻き込まれたっぽくね?」

 

 はぁ、追加のお仕事入りました。残業手当?あるわけなかろう。

 マサキさんの友人なら見過ごせませんね。行きます、行けばいいんでしょ!

 不思議なことにシュウさんにも感じるのですよ。何かって?イケ魂ですよ、い・け・た・ま!

 

 



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食べちゃったんです

 一仕事終えた後に、切羽詰まったシュウからの救援要請。

 感染体の大群に襲撃されてピンチらしい。

 もう手遅れっぽいけど、見過ごせない。というわけでシラカワ重工本社にイクゾー!

 デッデッデデデデ(カーン)デデデデ!

 

 シラカワ重工本社・併設工場区画への連絡通路にて。

 十数人の騎神から逃走しつつ戦闘を行うのは、たった一人の騎神。

 ウマ娘同士の戦闘だ。

 数で劣る方の彼女は攻撃と移動を繰り返し、相手の戦力を着実に削っていく。

 

「ごめんなさい!」

「ぐぁ・・お、おのれ・・・」気絶

 

 小柄な騎神の一撃でまた一人崩れ落ちる。

 

「強い、これが人間と契約した騎神の力」

「認めない、"愛バ"なんてふざけた存在に負けるなんて」

「事実は素直に受け入れた方がいいよ。だから現実見よう?」

「バカにしているのか!」

「そ、そんなつもりじゃないよ。ただ、ライスは頭の悪いあなたたちが可哀そうだなって」

「それがバカにしていると言うんだ!」

「ムカつく!思ったより口が悪くてムカつく!」

「お、怒らないで」

 

 そうこう言っている間にも攻防が繰り広げられるが、怒られた方の騎神は未だ健在である。

 

 シラカワ重工を襲った感染体の大群、無人機へのLウイルスによるパンデミックを引き起こしたのはUC。

 ウイルスをUCに提供したのはルクスの一味で間違いない。

 ウマ娘至上主義を掲げる彼女たちUC兵が、起動兵器生産プラントにウイルスを散布、感染体の出現で混乱する本社と工場を制圧したというのが、ここで起こった事件のあらましだ。

 

「ええい、ちょこまかと」

「今のライス、お兄さまとリンクしてないんだよ。それに苦戦するってどんだけざk・・ンンッ!修練不足だね」

「雑魚って言おうとしたな!笑ってんじゃねーよ」

「笑ってなんかない「全員モブ顔だなぁ」とか「男運なさそう」とか「契約"いらない"じゃなくて"できない"の間違いではww」なんて思ってないの、信じて!」

「「「「信じられるかぁぁ!!」」」」

「な、なんでこうなるの~」

 

 無自覚に相手の神経を逆撫でする騎神の名はライスシャワー。

 多数の敵を相手取りながら、彼女はその刹那にも思考を巡らせている。

 

 (怒りでパワーアップ?してないね、あーダメダメ狙いが甘くなってる。そういう所が雑魚だってば)

 (お腹空いた。ニンジンカレー特盛食べたい)

 (お兄さまたち大丈夫かな。ちゃんと避難してくれたかな)

 (この人たち本当にモブ顔だなぁwww)

 

「くっそぉー!たった一人に」

「いえ、二人です」

「「「「なっ!?」」」」

「ブルボンさん!生きてたの、感染体の群れに潰されてグチャグチャになったはず」

「なってません。早とちりしたライスさんが、私を放置して逃げただけです」

「ごめんなさいぃぃ!「あ、これ無理」って思ったから、お兄さまとの合流を優先したの」

「その判断は正しいです。少々薄情ではありますが」

「あう、いつもの無表情だけどキレてる」

 

 本社側からやって来たブルボンが騎神たちの背後に現れた。

 ちょうど、ライスとブルボンで襲撃者たちを挟み撃ちする形になる。

 

「ミホノブルボン、UCの裏切り者め」

「先にルドルフ会長たちを裏切ったのはあなた方でしょう。人間嫌いを拗らせてテロに加担するなど、落ちぶれたものです」

「愚図蒙昧の人間たちに誑し込まれた、貴様に何がわかる!」

「理解する気もされる気もありません。そこを通していただきましょか」

「なめるなよ!二人まとめて――」

「「遅い」」

 

 UC兵が何事かを言い終わる前に攻めに出る。

 同じ操者を持つ二人の相性ピッタリで、数頼みの輩などに後れは取らない。

 5分後、立っている騎神は二人だけだった。

 

「ライスさん。マスターから何かを預かっていますね」

「うん。よいしょっと」

「今耳の中から!?」

「気のせいだよ。はいどうぞ」

「マスターが開発した対Lウィルス用のワクチンプログラム。奴らの狙いはコレですね」

 

 渡されたUSBメモリはシュウ特製のカスタム品。

 中には完成したワクチンのデータが入っている。

 破損などがないことを確認したブルボンは、それを大事そうにしまう。

 

「今胸の谷間に!?」

「気のせいです。ミッションを確認します。勝利条件は工場区画にある管理サーバにワクチンを流すこと」

「UC兵と感染体の排除は二の次だね」

「はい、極力戦闘は避けていきましょう。優先すべきはワクチンです」

「お兄さまは?」

「放っておいてもマスターは大丈夫です。今頃サトノ家あたりに救援を依頼していると予想」

「キタちゃんにダイヤちゃん、来てくれるよね」

「・・・それは難しいかも知れません」

「どうして?二人は異常者だけど、いい子たちだよ。お願いすればきっと」

「それが今回の襲撃、これは同時多発テロです。今現在、ここシラカワ重工とメジロ家基地を含む7カ所が襲われています。彼女たちが既に別の現場に出払っていた場合、ここへの到着はいつになることやら」

「それが本当なら・・ううん、弱気になっちゃダメ。ライスたちだけでも頑張らないと」

「それでこそ、マスターが信じた愛バです。行きま――――ライスさん離れて!」」

「っ!?」

 

 通路を薙ぎ払うような黒い閃光が走る。間一髪、反応することで回避が間に合った二人。

 今のは砲撃された!?

 

「あーあー、期待してなかったけどUCもロボット君たちもダメダメだ。そんなんじゃフォロワー増えないよ」

 

 場違いなほどの明るい声、地面スレスレを滑空しながらそいつは移動して来た。

 黒いデバイスを纏った騎神、その姿は、何時ぞやの電波ジャック事件で見たことがある。

 

「ガリルナガン!どうして?」

「覚えてくれてどうもです。あなたも私のファンになっちゃったのかな?非公式だけどルクスや私たちを応援する方法は沢山あるから検索してみてね。クラウドファンディングとかもやってるよ」

「今回のテロはやはりルクスの」

「今回もが正解。私はワクチン?ってのを回収もしくは破壊して来いって言われただけ」

 

 戦斧のついた長銃をくるくる回しながら彼女、ガリルナガンの使い手は問う。

 その顔はバイザーに覆われて確認できない。

 

「どっちが持ってるの?」

「「コイツです!!」」

 

 互いを指差して、自分はワクチンを持っていないと主張する二人。

 こういう時、庇い合って黙秘するんじゃないの?何で睨み合ってるの?なんだこいつら。

 

「どっち!?え、何、仲間割れ・・この状況で?」

「ライス見たもん!無駄な脂肪の間にインするの確かに見たもん!」

「言いがかりはよしてください。あざといデカ耳にインしていたのはあなたです」

「あざといぃぃぃ!無知っ子サイボーグを装って、お兄さまと混浴する方が何百倍もあざといよ!」

「邪神に囚われた闇の王子クリストフは、少女騎士ブルーローズと運命の出会いをする。幾多の試練を乗り越えながら何度も戦場でぶつかり合う二人。やがて二人はお互いを特別な存在として認め合い意識するのであった。キャッチコピーは「それは世界を巻き込む恋物語!!」絵本作家よりファンタジー小説家を目指すべきですw」

「やめろぉぉぉぉっっ!!新作絵本のシナリオをバラすのはだめぇぇぇ!何で知ってるの?はっ!見たんだね。ライスのノート(ネタ帳)見たんでしょ!ひゃぁぁぁ恥ずかしいぃ!」

「はて?何のことやら。まあまあ、落ち着いてくださいコシヒカリ先生?」

「ペンネームはユメピリカだよ!絶対見てるよこのニセサイボーグ!」

「ちょっとちょっと、無視しないでよ」

 

 罵り合いを始める二人の様子に困惑する襲撃者。

 このふざけた感じは、まさかルクスが言っていたアレなのか。

 

「わかったぞ!あなたたち噂の変態操者の愛バでしょ。えーと、名前は確かクレイジーブラック?」

「「あんなのと一緒にすんな!!」」

「違った?じゃあ」

「もういいですよ。行きなさい」

 

 誰?ここにはいない男の声が、備え付けのスピーカーから聞こえた。

 

「「はい!」」

「・・・ありゃりゃ、してやられた」

 

 男の声がした瞬間、二つのことが起こる。

 ケンカをしていたはずの二人が脱兎のごとく工場区画へ走り出す。

 二人が通路を抜けた直後に隔壁が下り、追跡の妨害をした。

 襲撃者は慌てた様子もなく、監視カメラで見ているであろう男に語りかける。

 

「なるほど、あなたの愛バだったね。社長さん」

「自慢の子たちですよ。演技力も中々のものでした」

「アレは演技じゃなかったような」

「喧嘩するほど仲が良いとも言いますので気にしません。それより、面白い術を使ってますね。あなたの姿は確かに見えているし映像記録も残せる。だというのに、あなたの正体に辿り着けない細工がされている」

「今のご時世、個人情報は大事にしないとね。ルクスがちゃっちゃとやってくれたよ。顔認証システムにはもちろん引っかからないし、素顔の私が傍にいても誰も気づかないし気づけない」

「正体を暴こうとする者の認識を改変し外してしまう・・どこの世界の技術・・いや、呪いの類ですか」

「難しいことは知らないよ。やれやれ、邪魔されたから追いかけないと」

「あの二人を見逃してくれませんか」

「こっちも頼まれたお仕事中だから、それは無理。ルクスはあなたとは交渉しないよ」

「ルクスではなく、あなた個人にお願いしているのですが」

「何々?ファンからのプレゼントは大歓迎。私のお使いを阻止できるぐらいの貢物だといいな」

「凶鳥」

「・・・それが何」

「いえ、えらくご執心だと思ったものですから。生き残りを放置して大丈夫なのかなと」

「生き残り、そんなはずない!あいつらは全部破壊してやった」

「詰めが甘いですよ。エクスバイン・アッシュは生きています」

「その情報が本当だという保証は?」

「信じる信じないは自由です。アッシュとその使い手(デバイサー)の爪牙がルクスを脅かす日を楽しみにしていなさい」

「デバイス化させる気、どこにいるの?」

「おや、ルクスのお使いはよろしいので?」

「いいから教えろ!さもないと、周囲一帯を吹き飛ばすよ」

「・・・時間も稼げたことですし、いいでしょう。工場B区画の地下、通称「フォーゲルネスト」で覚醒の時を待っています」

「あなたがルクスの宿敵じゃないことにビックリなんだけど、嘘だったら許さないからね!シラカワ社長」

 

 分厚い隔壁を無視して横壁を砲撃、通路に開けた横穴から飛び出していくガリルのデバイサー。

 ふむ。防御隔壁以外にも神経ガスやとりもちトラップの採用も検討するべきでしたね。

 彼女がなぜ凶鳥に固執するのかは不明だが、いい取引材料になったようだ。

 ともかく、これでワクチン散布までの時間は稼げた。後は愛バに任せればいい。

 去り際に面白いことを言っていた。

 ルクス側ではアレと私を同レベルだと思っているらしい。

 やれやれだ、何もわかっていない。本当にご愁傷様です。

 

「私がルクスの宿敵?ご冗談を。あなたたちが喧嘩を売った操者は、超が付くほどヤバイ男です」

 

 テスラ研や我が社のエリート研究員、そしてビアン博士までも「ヤバイ、マジでヤバイ、ヤバすぎてヤバイのがヤバイ」と錯乱した結論に至るほどの規格外、理不尽の権化。

 そんなのを敵に回したルクスとその一味には同情を禁じ得ません。

 

 これは予感ではなく確定事項です。ヤバイ男はもっとヤバイ感じになって戻ってくるでしょう。

 

「もちろん、その愛バたちも例外ではありませんよ」

 

 ♦

 

「あーあーサボっちゃった。でも仕方がないよね、後で謝っておこうっと」

 

 ルクスに頼まれたワクチンの回収は放棄した。

 私たちには命令に対する拒否権を与えられているんだ。

 ルクスには我欲を優先しても構わないと常日頃言われている、そういう所がポイント高いよね。

 

「やっと着いた。ここだ」

 

 一目見てわかるほどに分厚く強固な扉にかかれたドイツ語は「Vogelnest(フォーゲルネスト)」

 日本語で「鳥の巣」だと。まったく、不幸を呼ぶ鳥を保護するなんて理解できないな。

 工場の地下は広く迷路のように入り組んでいたので時間がかかった。

 

「いる、ここにいる!私には嫌でもわかる!」

 

 今度こそ根絶やしにしてやる。

 

「バスターアックスの威力、なめないでよね」

 

 入室用のキーなど持っていないので扉を破壊して侵入することにする。 

 得物を数回叩きつけ、へしゃげた扉を蹴り飛ばして進む。

 中は思いのほか広い、凶鳥以外にもEOTを使った超兵器やその試作機の補完庫になっているらしい。

 おつかいをサボった代わりに、お土産をいただいてもいいかなと考えていると見つけた。

 

「いた!って・・・( ,,`・ω・´)ンンン?」

 

 まだ組み上げの途中なのか、ハンガーに吊るされて破損個所を補強された包帯代わりのテープを所々に巻いた機体が見える。あれがエクスバイン・アッシュなんだけど・・・その傍に不審者が二名いる。

 

 襲撃者で侵入者の私がいうのもなんだけど誰?

 呆気にとられた自分と不審者の目が合う。悪寒が走った。

 両方ウマ娘、同族・・・なんだかわからないが、逃げた方がいい気がしてたまらない。

 

「「やべっ!!」」

 

 いけないことをしているのがバレた子供のような反応をみせる二人。

 ここで何をしていると言いかけて、長髪の方が腰から伸びる何かを機体の数カ所に打ち込んでいる!?

 アレは何?触手?何をしてる、何をして・・・バカげているが直感的に思ったことを口にしてしまった。

 

「それ・・食べてるの?」

「バレちゃしょうがねぇ!シロ!一気にやっておしまい!」

「アイアイサー!丸呑みにしちゃいますよーーー!グラトニー(暴食者)発動!」

 

 転スラ?そんなことはどうでもいい!

 触手が、無数に増えた触手が!アッシュの全身を包んで込んだ。

 奇妙な輝きとともに丸呑みにされた機体は徐々に小さくなっていく。

 冗談抜きであのウマ娘はアッシュを食べて呑んで、その身に取り込んでいるんだ。

 現実離れしたありえない光景を前に呆然と立ち尽くし、止めることができなかった。

 

 待って、そいつをやっつけるのは私の・・

 

「ふぅーごちそうさまでした!ちょっと量が多かったですね」

「完食お疲れ、結局何味だったの?」

「ファミチキ」

「凶鳥だからね、鳥だけにね!ってやかましいわ!因みに私はLチキ派だよ」

 

 ファミチキ?

 私がずっと追いかけていた最後の一体がファミチキ・・・何よそれ。

 自分が果たすべき事、晴らすべき恨みの対象を奪われた。ならば!

 

「何よ、何なのよアンタたちはぁぁぁーーー!!」

「「そっちこそ誰ですのん!?」

 

 もう訳が分からないけど、とにかく許せない。

 特に触手を使った長髪の方は、酷い目に合さないと気が済まない。

 デッドエンドにしてやる!

 

 ♢

 

 丸呑みする15分ぐらい前。

 

「スクランブル~ダァッシュゥゥゥッッ!」

「走れ~走れ~マキバオー」

「マキバオー?なんだか大先輩のような気がする!」

「おっと、妙な電波を受信してしまったようです。うんこたれ蔵様なんてお方知りません!」

「うんこってww小学生かwww・・・小学生だった!」

 

 ただのギャグ漫画かと思ったら、メッチャ熱くて泣ける作品らしいですよ。知らんけど。

 

 私ダイヤモンド、今秘密の地下道を爆走中なの。とメリーさん風に言ってみる。

 

 シュウさんからの救援要請を受けた我々は、シラカワ重工本社までの最短ルートを模索。

 なんとなんと!DCから救った街の地下には巨大な地下トンネルが建造されておりました(ご都合主義)

 極秘裏に建造されたそれは、こんなこともあろうかとシュウさんが用意したそうです。

 住民の避難と物資の輸送を兼ねたこのトンネルは、シラカワ重工と街の地下施設を繋いでおります。

 目的地まで車で30分ぐらいか、私たちの足なら20分切れるんじゃね?

 輸送機より早いってことで、私とクロの二人だけで走って向かっております。

 サトノ家の部下たちは置いて来た、どうせついて来れないし、別の任務が追加されましたからね。

 

「同時多発テロだってさ。やってくれたよね~」

「ルクスのアホめ、マサキさんがいないからって調子に乗りおって」

 

 イルムさんたちは事後処理をメジロ家に任せて、別の現場へすっ飛んで行きました。

 皆さんご苦労様です!残業代出ないけど頑張ってください、仏像いる?

 ただ走るってもの芸が無いので小話を交えつつ急ぐ。

 

「見て、十傑集走り!」

「なんの!こっちはバック走です」

「デビルバットゴースト!」

「トライデントタックル!」

「ぐほぉ!いたた・・走るの止めちゃダメでしょーが!」

「そうでした」

 

 個人的にはワンパンマンよりアイシールド21の方が好き。

 アメフトのルール、未だにうろ覚えだけど面白いんだよなぁ。

 

「おやつ持ってないの?」

「ほらよ」

「チョコレート?あーん・・・苦っ!にっっっがぁっ!これ"チョコレート効果"じゃんか」

「72%で何言ってんだか。うーん、ビターなチョコは大人の味ですね~」

「86%食ってやがる、無理してない?高カカオポリフェノールの虜なの?」

「もうお子様なんですから。まあ、95%はちょっとエグいかなとは思いますね」

「お子様だもん!やっぱ甘ーいミルクチョコが一番だよ」

「こんなのもありますよ」

「つ、ついに出たーーー!ブラックサンダー!いやっっほぅ!」

「クロはコレ好きですよね。至福のバターと優雅なヘーゼルナッツ、どちらにします?」

「両方くれ!」

「却下です。早く選ばないと私が二つとも食べます」

「あー待って待って」

 

 走りながら食べて大丈夫かって?喉に詰めないように注意しまーす。

 ※良い子のみんなはマネしちゃダメだぞ。

 チョコで栄養補給完了!更に加速加速~。

 

 そんなこんなで到着しました。

 

「着いた!」

「着きましたね」

「行き止まり?隔壁が下りて通れないよ。壊そうか」

「下がってなさい。バスカーモード」

「出た!触手」

「尻尾ですってば!こいつをここにブッ刺してと・・・ほい、ロック解除」

「ほう、便利じゃん」

 

 並みの電子ロックならこんなもんです。オルゴンテイルはハッキングツールにもなる万能具合。

 

「シロが手にしていい力じゃなかったね」

「自分でもそう思いますよ。マサキさんに誓って悪事には使わないよう自制します」

「オープンセサミ!」

「言ってみたかったんですね」

 

 クロがアーカードっぽい声色で「開けゴマ」したと同時に隔壁が上がる。

 アレってなんでゴマなんでしょうね。

 

「今どの辺りにいるかわかる?」

「さっきハックした情報によると、ここは倉庫兼、特注品の補完庫が並ぶ・・・鳥の巣?」

「何か見つけたの、えーと、ふぉーげるね、ねすと?」

「ここに寄り道しろと、私の第六感が告げています。てなわけでロック解除~」

「上に急がなくていいのかなぁ」

「心配ないです。シュウさんたちは本社ビルのパニックルームに籠城中みたいなんで、まだ猶予があります。一瞬ですが、ボンさんとお米さんの元気な姿もチラッと見えました」

「ハッキングすげぇ!コンソールから施設内のカメラをジャックしたのか」

 

 電子系統が繋がっているからこそ可能だっただけ。

 本気で対策されるとこちらの演算能力では対処できないし、無理すると脳がショートします。

 便利だけど過信は禁物。

 

「おお、宝の山ですね」

「新型デバイス。それに見たことがない機体たち、うわぁ特機もあるよ」

「目的の物は一番奥です・・・やはり、ここにいましたか」

 

 最奥のハンガーには組み上げ途中で放棄された状態のPTがいた。

 追加された装甲を補強するため全身に「CAUTION」と書かれたテープが包帯のように巻かれている。

 それでも足りない部分にはビームと覇気エネルギーによる攻撃を軽減するマント「コーティング・クローク」により補うことにしたらしい、その姿は「仮面をつけた傷だらけの騎士」といった風貌だ。

 装備に実体剣があるのもそれっぽい。

 

 まるで負傷兵を無理やり戦わせるような痛々しさ・・・だがそれがいい!

 壊れた体を押して奮戦するロボットの姿は美しい。エクシアリペアとか好きですわ~。

 

「ヒュッケバイン!?でも、なんかボロボロ・・包帯だらけでケガしてる」

「この子はエクスバイン、凶鳥最後の生き残りですよ。よく無事でしたね、私のことを覚えていますか?」

 

 冷たい外装に触れてみる。

 機械に語りかけるのはナンセンスですが、たまにはいいでしょう。

 日本には大切にされた物に神が宿ると言われてるんですよ。兵器にそれがないとは言い切れないでしょう。

 

「この子の知り合い?」

「解体寸前だったこの子をテスト用に残せと進言したのは私です。ブラックホールエンジンが無くても優秀な機体なんですから勿体ないってね。ちょっと失礼」

「へぇーそんなご縁があったんだ。何してんの!」

 

 オルゴンテイルを機体に接触させて情報を読み取る。

 エクスバイン・アッシュ。灰(アッシュ)ですか・・・復活させる気満々の名前。

 基礎フレームにもガタが来ている癖に、改修強化プラン案への期待値が先行しまくっているな。

 最終的にはブラックホールエンジンとトロニウムエンジンの複合炉を搭載した化物に?

 言うだけなら簡単ですよねー。

 それで事故ったら前回の比じゃないぐらいバニシングするとわかっているでしょうに。

 ああ、わかっているから止めたのか・・・うむ、英断でした!

 もし、そんなPTがもし完成しても"情緒不安定で時折白目になる腋見せ少年"でないと扱えないと思う。

 

「結局、デバイス化することに路線変更して、ここに保管(放置)されたらしいです」

「ふーん。この子も苦労したんだね」

「おや、まだ情報が・・・」

 

 ■アッシュの炉心(疑似神核)へアクセスしたおバカさんへ

 

  このメッセージを読んでいるということは、私の友人かその愛バである可能性が高いですね。

  最低でも我々の味方であってくれることを願います。

  もし違うのであれば、作業を中止して即刻家へ帰りなさい。

  アッシュはあなたに扱える代物ではありません。

  悪用はもってのほか、ほら、サッサと帰った帰った!帰って寝ろ!

 

  マサキであると仮定して話を進めます。

 

  エグゼクスな強化プランが盛り沢山だったのですが、色々あって中止しました。

  デバイス化を予定していますが仕事が立て込んでおりまして、思うように進みません。

  大変申し訳ないのですが、作業はそちらに任せたいと思います。

  まずパーツをバラして、アレをコレしてからソレで・・ああ!口で説明するのめんどくさーい!

  私が立ち会えない場合は、頭のいい知り合いを頼りなさい。

  ビアン博士、テスラ研のアグネス、ファイン家のヤンキーあたりなら何とかしてくれるでしょう。

  ではご武運を。

 

  ・サトノダイヤモンドへ

 

  アクセスしたのがあなたの場合、なおさら話が早くて助かります。

  我が社では持て余しておりますので、ご自由にお使いください。

  Mk—Ⅲの設計に関わったあなたなら余裕でしょう?

  マサキにプレゼントするもよし、ご自分で使用なさるのもいいでしょう。

  敵の手に渡るようなヘマだけはしないでくださいね。

  敵に利用されるぐらいなら破壊してください、パーツの一欠けらも残さずキレイさっぱりに!

  頼みましたよ。

 

  ※おまけ

 

  "クソ暑いのに汗だくで筋トレに励む半裸のマサキ(当時16歳)"の画像を添付しておきます。

  ご自由にお使いくださいwww

 

  なんで私はこんな写真を・・・こんなんだからホモ疑惑が湧くんですよ反省反省ww

 

  以上、シラカワ重工社長からでした!

  

「パーフェクトだシュウ社長!」

「急に何?なぜ涎を垂らす。一体何を見た!」

「とても素晴らしいものですよ。あ~ウェへへへ、ちょっと若い、汗がムレムレして最高ですね~」

「マサキさん関連だな!ズルい私にもみーせーてーよー」

 

 感謝しますよロリコニア大臣!

 すぐに助けてあげますからね。だから、他のお宝画像があればお願いします!

 

 さてさて、このアッシュどうしましょう。

 持ち運ぶのも邪魔になりますし、今まさに襲われているここへ放置していくのはちょっとな~。

 

「勿体ないですが、せめて私の手で引導を渡してあげたほうが・・・」

「なんだ壊すの?どうせなら食べちゃったら、なーんて」

「なるほどクロにしてはいい案です。それでいきましょう」

「え、冗談だったのに」

 

 ここにアッシュを放置していくのは危険だ。ルクスに奪われて悪用されるのは絶対阻止せねば。

 それに・・・

 マサキさんがデバイサーになったら、腋見せファッションになってしまう可能性がある。

 「超重獄に・・・堕ちろぉぉぉ!!」と叫びながら脱ぎ散らかすマサキさん・・・ちょっと見たい。

 いやダメダメ、操者の裸体を堪能していいのは私だけ、他の奴に見せるなんてとんでもない!

 

「操者を露出狂にする訳にはいかない!いざ、いただきまーす!」

「うわぁ、触手地獄炸裂」

「よいしょーーー!えいしょーー!フゥーハハハはーーーん?ふぉぉぉーーー!」

「気色悪い声を上げるなww」

「失礼、思ったより情報密度が濃くて・・うーん、消化吸収に手こずりそうですね」

「よく噛んで食べなよ、焦ってお腹壊しても知らないから」

「わかってます。少々お待ちください」

 

 複数に枝分かれしたオルゴンテイルをアッシュの内部構造にまで侵食させる。

 尻尾に接触した部分に私の覇気流し結晶化、そして同化吸収していく。

 安心しなさい、凶鳥たちの意思と力は私が受け継いであげます。

 

「思ったんだけど、これって火事場泥棒だよね」

「ど、ど、泥棒ちゃうわ!社長の許可は得ていますよ!」

「だったらいいけど」

「しばらく動けないので、周囲の警戒をよろしくお願いします。一人で逃げたら恨みますよ」

「はいはい、出会った時から一蓮托生ってね。早いとこ食べちゃってよ」

「唐突ですが、新たな能力に目覚めたようです。なんと!味がします」

「本当に唐突だな、味って何?」

「ほのかですが吸収中に味を感じたような気がします。恐らくこれは炉心に残っていたエネルギーの味!エナジーソムリエダイヤちゃんと呼んでください」

「気のせいじゃないの。本当だとして、それで何かいい事ある?」

「マサキさんの覇気を味覚で堪能できる。何味か楽しみですね~」ワクワク

「さっきからなんかズルくね!私にもやり方教えてよ」

「やり方なんて知りませんよ。閃くまで待てとしか」

「ちょっとクセのある名作RPGのようなシステム!?」

 

 ジュージーな味わい、これは揚げ物でしょうか。

 味はすれどもお腹が膨れないのが何とも残念ですね・・・何か来る。

 

 覇気?誰か近づいてくるのを感じる。

 破壊音がした。

 

「扉を破壊して無理やり入って来た!ということは、ここの人たちじゃない。まだ終わらないの?」

「待ってください、アッシュからぶんどったこのマントを使えばアラ不思議」

「それで隠れているつもりか」

 

 どこぞのスネークは段ボール箱を被ってスニーキングミッションをやり遂げたという。

 私もそれを見習ってコーティング・クロークを被ってみました。

 

「頭隠して尻隠さずの見本みたい、尻と触手がモロに見えてんだよなぁ」

「やっぱ無理か~。クロ、覇気を寄こしなさい、吸収スピードを上げます」

「ほいさ、もってけ泥棒」

 

 だから泥棒じゃないですよって。

 クロの手を握り、覇気を融通してもらう。スピードアップ!

 頑張れ私の尻尾さんたちーー!

 ぬぬぬぬぬぬぬぬぬーーーーーーん!

 

 あら、もうここまで来ちゃうの?早い!

 こっちに向かって来ているのは、ただの戦闘員や感染体じゃない、手練れだ。

 スッと離れて行こうとしたクロの手を摑まえて逃がさない!

 

「今、自分だけ逃げようと思いましたね?」

「わかっているなら解放してほしいな」

「一蓮托生だって誓った仲じゃないですか」

「私が運命を共にするのはマサキさんであって、シロはおまけなんだけど」

「おまけだとぉ!メインのマサキさんを引き立たせる、おまけの大役しかと承りました」

「やだ、無駄に前向き」

 

 離せ!離さない!おまけはそっちだろ!マサキさんが恋し過ぎて最近幻覚が見える!私もです!

 

 やれやれ、言い合いで時間を消費してしまった。

 はっ!・・・誰かこっちを見ている。侵入者はもう奥まで来てしまったようだ。

 

「「やべっ!!」」

 

 見つかってから隠れても遅いですよね。 

 向こうがアクションを起こす前にアッシュを食べてしまわないと。

 ここはクロに時間を稼いでもらって・・・

 

「それ・・食べてるの?」

 

 む、直感で気づかれました。

 

「バレちゃしょうがねぇ!シロ!一気にやっておしまい!」

「アイアイサー!丸呑みにしちゃいますよーーー!グラトニー(暴食者)発動!」

 

 私を庇うように前に出たクロに指示された通り一気食いにチャレンジする。

 オルゴンテイルの数を増やせるだけ増やして、突き刺す、巻き付ける、呑み込む!

 一緒に行きましょうアッシュ。私に力をかしてくれぃ!

 

 皆さんご飯はよく噛んで食べましょう。私のマネをしてはいけません。

 何とか完食!私の食べっぷりに侵入者さんも棒立ちするしかなかったようですね。(`・∀・´)エッヘン!!

 

「ふぅーごちそうさまでした!ちょっと量が多かったですね」

「完食お疲れ、結局何味だったの?」

「ファミチキ」

「凶鳥だからね、鳥だけにね!ってやかましいわ!因みに私はLチキ派だ」

 

 アッシュの炉心、プラズマ・ジェネレーターはファミチキの味でした。

 クロには言わなかったけど何故か最後の方は、唐揚げグランプリ最高金賞狙えるぐらいジューシーかつ美味だった。

 旨味が跳ね上がった原因は何だろう、今はどうでもいいか。

 

 おや、侵入者の方がプルプルしていますね。何か気に障る事でもあったのでしょうか?

 

「何よ、何なのよアンタたちはぁぁぁーーー!!」

「「そっちこそ誰ですのん!?」

 

 いきなりキレて襲い掛かって来た。

 もう、何なのよー!はこっちのセリフですってば。

 先端に斧がついた長銃とは変わった武器で・・・おお、それを振り上げて私の頭に振り下ろすと。

 いやースプラッター!う゛・・・アッシュが胃もたれ起こしてる。 

 溶け込んだのは胃ではなく、私の神核になので神核もたれが正しいですかね。

 

「出せ!凶鳥を吐き出せーー!」

「む、無茶言わないでください。うえっぷ・・食後の急な運動はキツい」

「あいつは私の獲物だったんのに!それをアンタみたいな奴が、死んで償え!」

「クローーー!突っ立ってないで助けて!じゃないとゲロ吐いちゃう、吐瀉物がバニシングしちゃう」

「ご指名ありがとうございます!」

「くっ、邪魔を・・するなぁーーー!」 

「そう言われると余計に邪魔したくなるね」

 

 消化不良な私に代わってクロがキレた侵入者と対峙する。

 よーしよしよし、うちのバーサーカーと遊んでなさいな。

 その間に私はおさらばでございます。

 

「待て!凶鳥を食ったアホな騎神」

「待ちません、今から食後のお散歩タイムですので、あばよ~とっつぁんwww」

「誰が"とっつぁん"だ!私はカ・・んん!・・・ベルス、そう、私の名はベルスだ!」

「どうせ偽名でしょ。まーたラテン語ですか、主の趣味に合わせたい気持ちは理解できますがね」

「ちょっと、今は私が相手だよ。こっち見て」

「お前に用はない!待てと言っているだろアホ、せめて名前を聞かせろぉ」

「ファインモーションです。みんなからはインモーって呼ばれています。好物は伸びたうどん!」

「そうきたかwwwインモー(偽)ここは任せて早く行けwww」

「ありがてぇ。ちょっくらシュウ社長を助けにイテキマース」

「ファインモーション!その名前覚えたからね、凶鳥への恨みはアンタを倒す事で晴らしてやるんだからーー!」

 

 よかったですねココ。ストーカになってくれそうな方を見つけてあげましたよ。

 面倒くさい相手を押し付ける。これぞ、愛バなりの連携プレー(ココの許可なし)ですね。

 

 ベルスかぁ・・・ラテン語で「かわいい」を意味する言葉だったはず。

 自分の可愛さに大層自信がおありのようで。

 あのデバイスは確か"ガリルナガン"ヒュッケ大虐殺の張本人。そしてルクスの愛バ(自称)

 遅かれ早かれぶつかる運命にある相手。

 しかし、今はその時ではない!(ゲロしそうなんでやめてね)

 さて、社長たちはどこでしょうか。

 

「隙だらけだよ、よそ見ばっかのベルスちゃん。オルゴーンナッコゥ!」

「ぐがぁ・・コイツ・・・緑のオルゴナイト!?そうか、お前がクレイジーブラックだな!」

「それ混ぜたらアカン」

 



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仮面つけた奴多すぎ

 エクスバイン・アッシュはファミチキの味がした。

 ガリルナガンのデバイサー、ベルスはクロが相手をしてくれています。

 私は腹ごなしのお散歩を兼ねた社長の救出へGO!

 

 工場区画のサーバールームに辿り着いたブルボンとライスは、操者に託されたワクチンを流していた。

 ここからワクチンプログラムがネットワークを介して、無人機の制御AIに伝播していくはず。

 普段から操者の仕事を手伝っている二人にとって、端末の操作は慣れたものである。

 

「うんしょっと、これでいいブルボンさん」

「はい、これにてセットアップ完了です。後はこのスイッチを」

「プログラムゥゥゥッッ!ドラーイブッ!」

 

 渾身の力を込めてスイッチを押すというより拳を叩きつけたライス。

 ファイナルフュージョン承認じゃねーよ。

 合体シーケンスの度に割られるスイッチカバーの必要性は今考えてもわからない。

 

 ベターマン・・スルーしてたから、スパロボ30でアレやらコレやら出てきてビックリです。

 ガオガイゴーってなんやねん。チビッ子たちが成人しているの見て、何か泣いた。

 

「勝手に押しましたね。私がやりたかったのに」

「えへへ、早い者勝ちだよ」

 

 これでワクチンの散布は完了。

 暴走中の感染体もこれで無力化されるだろう。

 後は、招かれざるお客たちにお引き取り願えればいいのですが。

 

「開けろー!中にいるのはわかっている」

「諦めて出て来い!お前たちは完全に袋のネズミだ!」

「ネズミじゃなくてウマですけど」

「そういうことじゃないと思う」

 

 複数人の怒号とロックした扉をガンガン叩く音が響き渡る。

 UC兵を叩きだすだけの戦力が今の我々二人には無い。

 せめてマスターとリンクできていれば。

 

「突入されるのは時間の問題です。ライスさんは何とか脱出を、御三家なら保護してくれるはずです」

「一人で逃げるなんてできないよ、お兄さまとブルボンさんがいる場所がライスの居場所だから」

「早とちりで私を置き去りにしたとは思えないセリフですね」

「根に持ちすぎ!と、とにかくライスは覚悟を決めたよ!付き合ってねブルボンさん」

「フッ、頼もしいですね。あなたがいてくれてよかった」

 

 爆発と衝撃!扉がぶち破られた。

 大勢のUC兵が室内になだれ込んで来る。

 

「さあ、ブルボンさん自爆するなら今だよ!なるべく大勢を巻き込んでね」

「フッ、嘆かわしいですね。あなたがいてくれて、ストレスが急上昇中です」

「ほらほら、ヒイロ・ユイみたいに潔く「任務完了」してよ!お兄さまには立派な最期だったと伝えておくから」

「それはマサキさんがやるべきでは?」

 

 マサキさんなら「死ぬほど痛いぞwいやマジで痛いww」とか言いながらピンピンしてそう。

 自爆という単語を警戒して近づくのを躊躇していたUC兵だが、一向に何も起こらない状況を察し二人に詰め寄る。

 

「捕まえろ!こいつらは社長の愛バだ」

「未だ籠城を続けるシラカワシュウ、愛バを人質にすれば流石に降伏するだろう」

「マスターを甘く見ない方がいいですよ。そこの"メカクレあざとい白米"が自決した所で微塵も揺らぎません」

「そうだね。お兄さまなら"ポンコツサイボーグ気取り"に「自害せよ」って無慈悲な命令下してニヤリと笑うよ」

「お?」(やんのかコラ!リゾットの分際がよぉ)

「あ?」(やったらぁ表出ろや!お粥じゃないつーの)

「な、なんだコイツら。私たちを無視して揉め始めたぞ」

「あれが人間と契約したウマ娘の末路だ。操者の覇気に影響され精神に異常をきたす」

「噂だけど、御三家には史上類を見ないほど"頭のおかしい愛バ"が誕生したんでしょ。怖すぎる」

「それ聞いたことがある。何でも行く先々で醜態を晒しまくっているとか」

「なんてこと、やはり世界はUCによって統治されるべきなんだ」

 

 メンチを切り合っていた二人は、間接的に操者をバカにされた事にムッとしながらもチャンスを伺う。

 

 (史上類を見ないほど頭のおかしいww)

 (間違いなく彼女たちのことだと判断します)

 (どうするの、限界まで暴れてみる?)

 (正常な愛バである我々はスマートに事を運びましょう。ここは大人しく従う振りです)

 (了解だよ。どこかの誰かさんたちとは違うって所を見せちゃうぞー)

 

 急に大人しくなった二人に釈然としないものを感じながらも捕縛を完了するUC兵。

 手枷は拘束した者の覇気を遮断する超合金製で抜かりはないはず。

 

「これでよし、本体と合流するぞ」

「ワクチンの回収はどうする?」

「それはルクスの使いに任せればいい、我々には関係ない。利用できる内は精々使ってやろう」

「オラッ、ついて来い」

「捕虜の扱いは丁寧にお願いします」

「うるさい、これ以上手間をかけさせるな」

 

 (どう見ても利用されているのはUCの方なのに、この人たち脳みそ腐ってるの?)

 (もしくは最初から脳が欠損している可能性が考えられます)

 (頭空っぽってやつだね)

 (夢が詰め込めそうです)

 

「作戦完了。これでシラカワ重工は我らUCのものになったぞ!」

「「「「おー!」」」」

 

 (好き勝手言ってるね。人生楽しそうだなぁ、今すぐ殴りたいなぁ)

 (落ち着きなさい玄米。チャンスが来る時まで我慢です)

 (白米ぃぃ!じゃなかった、ライスだよ!)

 (と言いつつも、米っぽかったらもう何でもいいと思うライスであった)

 (よくねぇよ!妙なナレーションを入れるな)

 

 捕らえた敵を引き連れ、サーバールームを後にするUC兵たち。

 意気揚々と凱旋する気分でいられたのは僅かな時間だった。

 

「・・・なんだこれは」

「新型リオンを含めた感染体たちが全て破壊されている?三桁近くいたのに・・」

「まさか、これがワクチンの効果なの」

「バカよく見ろ、機体に穴が空いている。何かが感染体たちを貫いたんだ」

「周囲を警戒しろ、何かいるぞ!」

「敵か、まだ反抗する奴がいたのか」

 

 混乱しながらも陣形を整えるUC兵。

 本社ビルへ近づくたび、大地に転がるAMとPTの数が増えていく。

 ついさっきまで籠城するバカ社長を狙ってビル周辺をうろついていたのに・・・どういうこどだ。

 

 (今更だけど、感染体たちはどうしてお兄さまを狙ったの?)

 (マスターのニヤケ面がヘイトを集めた結果では)

 (真面目に答えろポンコツ)

 (マスターはワクチンの開発と同時に、奴らの注意を引き付ける方法を確立したようです)

 (さすがお兄さま!略してさすおに)

 

「ね、ねぇ」

「なんだ、何か見つけか」

「気のせいならいいんだけど、さっきから地面が揺れている気がしない?」

「・・・確かに、振動を感じる。ルクスの使いが地下で暴れているのかもな」

「ガリルナガンでしたっけ、あのデバイサーが意味もなく・・・誰かと争っているのか」

「感染体をやった奴と戦闘している?」

「わからん、とにかく先へ進むぞ」

 

 ガリルナガンのデバイサーは、今作戦におけるルクス側の監視役兼サポート人員としてやって来た。

 その力は超級騎神にも劣らない、そんな奴と戦闘を継続しているような敵がいたなら少々、いや、かなりマズイ。

 機能停止した感染体の多さに不気味なものを感じながらも、先へ進むしかない。

 

「隊長!二番隊の連中がいました」

「どうした・・・お、おい、しっかりしろ!衛生兵~」

「あ・・ああ・・」

「何だこれは、覇気が枯渇している?」

 

 合流するはずだった仲間をようやく見つけたが、喜べる状況ではなかった。 

 血色の悪いUC兵(十数人)が苦しそうな呻き声を上げ倒れ伏している。

 

「何があった、誰にやられた!」

「し、しょ・・く・・しゅが、みんな・・・やられ・・」

「しょく?何を言って」

「隊長、あれ、あれを見て!?」

「「「「???」」」」

 

 その場にいた全員の目が妙なものを捉えた。

 舗装された地面を突き破り緑色の何かが生えている・・・何あれ?

 キラキラと輝く緑の結晶でできた・・そう!触手だ!それがユラユラ揺れている。

 鉱物で構成されているのに柔軟性を持っている、何とも不思議な物体だ。

 何かを探るように揺れていた触手がこちらを見てピタッと動きを止めた。

 目など見当たらないはずなのに「こっち見た」というのがわかってしまった。

 あ、ヤバイ。これヤバイやつだ。にげ・・・

 

「「「「う、うっぎゃぁぁぁーーーーー!!!!」」」」

 

 遅かった。

 UC兵の足元から多数の触手が出現し、巻き付き、縛り上げ、絡め捕られる。

 

「ひぃぃ!キモイキモイキモイーーーー!」

「やだ、このままじゃ薄い本みたいにアレやらコレやらされちゃう」

「何てパワーだ、全然取れない!」

「アカーン!これアカンやつやでぇ!」

 

 (私とブルボンさんを除けてくれている・・・来てくれたんだ)

 (ええ、この触手使いは味方のようです)

 

 触手の輝きが増すと共に異変が起こる。

 

「あ・・なに・・」

「力が吸われて!?」

「もう無理~」ガクッ

 

 次々に倒れ伏すUC兵、覇気を吸い取られている!?キモイな。

 数分もしない内に立っているのはブルボンとライスのみになった。

 

「あ、触手さんがこっちに来たよ」

「未知との遭遇ですね。私にクアンタムバーストは実装されていませんが、対話を試みたいと思います」

「そう言ってライスを盾にするのやめて。薄い本展開になったら末代まで恨むからね」

 

 ライスを盾にしながら恐る恐る触れてみる。ん?よく見ると毛か・・毛を分厚い結晶が覆っている。

 害が無いとわかったのか興味を示したライスもツンツンして、触手と触れ合う。

 本当になんだコレ、この触手というか結晶・・・結晶!?それにこの覇気は!

 今ここにはいない、頭を優しく撫でてくれた彼を思い出す。

 

「「マサキさん!?」」

 

『それは私の操者ですね』

 

 触手が覇気を介して脳内に直接語りかけて来た。

 

『ちょっと離れてください、よっとと、こんな感じで』

 

 一旦引っ込んだ触手が地面を突き破って再登場、複数を束ね先端をドリル状にしたらしい。

 数秒後、人が通れるぐらいの綺麗な穴が空き、そこから触手の使い手が飛び出て来た。

 

「お待たせしました!シュウ社長からのご依頼で参上した、サトノ救援隊のダイヤモンドです!」

 

 渾身の営業スマイルで元気よく登場!

 何かご不満でも?「凄いの来ちゃったな」「よりにもよってこの子かぁ」みたいな顔やめてくれます。

 お二人の手枷は尻尾でハッキングして難なく解除したぞ。

 

「ありがとうございますダイヤさん。あなただけですか?」

「ご無事でなりよりボンさん。クロが下でハッスルしてますよ」

「あ、ありがとうダイヤちゃん。また変な芸を覚えたんだね」

「ササニシキ先輩!その変な芸に救われたのですから、もうちっと褒めてくださいよ」

「ライスだって言ってんだろ、どいつもこいつも」

「感染体とUC兵をやったのも」

「はい、物足りませんでしたけど」

「なんとも恐ろしい触手ですね」

 

 もう訂正するのやめようかな。尻尾だってばよ。

 感染体は醤油、UC兵は酢昆布みたいな味だったな・・・うん、イマイチだった。

 

「早速ですがマスターを助けに行きましょう」

「うん、三人ならUC兵を一掃できるね」

「へ?UC兵はもう残っていませんよ」

「「はい?」」

「雑魚は今片付けたので終わりです。シラカワ重工を襲った奴は、クロが相手をしているベルスでラストのはず」

「「・・・・」」

「おーい、二人とも引かないでくださよー。私頑張ったのにー良かれと思ったのにー」

 

 (本当に味方でよかったね)

 (ええ、敵に回すと厄介な生命体、上位ランカーです)

 

 ボンさんとお米先輩を探すがてら、地下からオルゴンテイルを伸ばしてみました。

 アッシュを吸収した直後で走り回りたくなかったんです。

 尻尾が敵を発見する→捕食(活動不能になるまで強制ドレイン)を繰り返したらなんか終わってた。

 消化不良の嵐は何とか過ぎ去りました。フフフ、簡単にはゲロイン化しませんよ。

 マサキさんはゲロインも許容してくれる懐の深い漢だと信じてます。

 

 ♦

 

「というわけでして、報告は以上です」

「ご苦労様でした。しかしですね、まさか食べてしまうとは思いませんでしたよ」

「好きにしていいと言ったのはそちらでしょう」

「予想の斜め上をかっ飛ばす動き、まごうことなきマサキの愛バですね。画像は気に入ってくれましたか」

「ええ、とっても。あなたとはよい関係を築けそうで安心しました。お宝は他にも?」

「それは、今後の働き次第という事で」

「「フフフフフ」」

「ブルボンさん、あの二人めっちゃ悪い顔してるよ」

「マスターとダイヤさんが悪だくみをするのは通常モードの証です。いいからほっとけ関わるな」

 

 籠城していたシュウ社長と無事合流完了。

 従業員の方々もピンピンしているようですし、よかったよかった。

 マサキさんの幼馴染であるシュウさんを味方に付ければ、他の三人を出し抜くためのサポートを期待できるかもです。フフフ・・・クロ、アル姉、ココ残念でしたねぇ!正室の座は渡しません!

 

「せっかくのワクチン、無駄にして申し訳なかったですね」

「いえ、あなたが処理する前に感染体の動きが鈍くなったのは確認済みです。更なる改良版のデータを後で渡しておきます」

 

 オルゴンテイルを避けもしなかったのはワクチンが効いていたからか、一定の効果はあったみたいで何より。

 

「ダイヤちゃん、アッシュ食べちゃったんだ・・・そっか」

「どうした、お米先輩も私にムカつきました?」

「ううん。凶鳥の力は正しい事に使ってほしいなって思っただけで」

「ご心配なさらず。ファミチキの力を向ける相手は、ルクスのアホとその一味ですよ」

「なら安心だ。うん、ダイヤちゃんと一つになったアッシュが幸せだといいな」

「お米先輩、あなたガリルナガンのデバイサーに心当たりがありますね」

「どうしてそれを!?」

「バニシング事件の関係者という線が濃厚、あなたも社長もその正体までは探り切れていないで合ってますか」

「「キミみたいな賢いガキは嫌いだよ」って言われない?」

「その件は調査中です。ライスも私も誓って彼女の正体は知りません、ただ――」

「じ、事件で生き残った子がいるの・・その子、ライスより酷い怪我で長期入院していたんだけど」

「ある日、忽然と姿を消したそうなのです。あらゆる痕跡を消してね」

「ルクスか」

「おそらくは」

 

 その行方不明な子が、ルクスの勧誘を受けて仲間になったのか・・・なんで?

 ココからの報告では、ルクスはバニシング事件にも関与しているらしい。

 事件の加害者が被害者を味方にするってなんやねん。

 考えられるのは、相当都合のいい内容を吹き込まれている・・・とか。

 そういえばルクスは神核の操作ができるらしい。

 もうやだー洗脳とかキモイよー滅んでくれよー。

 

 ドンッ!あ、一際大きく揺れた。

 

「しゃ、社長。工場区画の地面から何かが、人?戦っているのか」

「おや、まだ終わっていませんでしたか」

「忘れてたー!それクロですよ。私ちょっと見てきますね」

「あ・・・行っちゃった。凄いスピード」

「よろしいのですかマスター?」

「いいもなにも、私たちが行った所でどうにもできません。アホの相手はアホに任せて、復旧作業の準備でもしていましょう」

「お兄さまも何気に辛辣ぅ!ダイヤちゃん、キタちゃん、頼むからあんまり壊さないでね」

「それは既に手遅れです」

「やれやれ、サトノ家への報酬は損害賠償で相殺ですね」

 

 ♢

 

 地下施設で始まったクロとベルスの戦闘は地上に場を移していた。

 ベルスの武器、バスタックスガンから放たれた砲撃が天井を貫き地上までの大穴を空けたからだ。

 そこから元気よく飛び出す黒い影。

 

「地上に出ちゃった。あは、太陽が眩しい」

「落ちろっ!」

「ハズレ」

「また分身!?あームカつくムカつく!」

 

 追って来たベルスの砲撃が命中!しかし、本体はすぐ隣で砕け散る分身を横目に微笑む。

 オルゴナイトミラージュも板についてきた。

 瞬間的な変わり身だけじゃなく、多重影分身みたいに全部私の軍団による一斉攻撃とかできちゃうかも。

 

「バルスだったけ、もう飽きたからやめない?」

「ベルスだベ・ル・ス!停戦したいなら逃げたファインモーションを差し出せ」

「差し出したらどうするの?」

「決まってる。凶鳥を食ったあいつを私は許さない!奴には死んでもらう」

「そこがわかんないんだよなぁ。アッシュのこと嫌いなんでしょ?それをこの世から消した子に感謝せず、なんで怒るのか意味不明」

「あいつを狩るのは私のはずだった。そのために生きてきた!私がどれだけ」

 

 なるほど、狙っていた獲物を横取りされて怒髪天なんだ。

 詳しくはわからないけど、ずっと拘り続けたものを奪われて苦しいんだろうな。

 理屈じゃないんだね。なんか安心した。

 ルクスの愛バだなんていうから、どんなゲスかと思ったけど、普通に喜怒哀楽できる子だった。

 それは置いといて、マサキさんの敵であることに違いないからやっちゃおう。

 やっちゃった後にお話し聞かせてもらおう。そうしよう!

 

「まずはお前からだ!クレイジーブラック!行けっトライスラッシャー!」

「クレイジーなのは私じゃないよ・・・はぁ~」

 

 ベルスのウイングが分離して組み合わさる。

 高速回転する三つの刃、それぞれが別の軌道を描きクロへと殺到する。

 首、胸、腹に来てるな。どれか一つを弾いても他の刃がザクッとね。

 

 やっちゃうつもりだったけど、やっぱダメだな。

 私を相手しているようで見ていない、目に写す敵はシロに決めちゃったのか。

 

 ダメ・・・なんか、つまんないや。

 

「オルゴンマテリアライゼーション」

「ぐっ!」

 

 告げた言葉で覇気が爆発する。

 私に向かっていた刃の勢いは削がれ、こちらに届く前にオルゴンクラウドの障壁で防がれる。

 

「まだ上がるだと?こいつどこまで・・・っ!?」

「・・・・」

 

 一瞬で詰められた距離、数倍に膨れ上がった覇気、ゾッとする視線、振り上げた巨大な結晶。

 その全てに息を呑む。

 

 (何よコイツ、さっきまでと別人)

 

 (もういい、消えてよ)

 

「ばいばい」

「え、待っ・・・!?」

 

 凶悪なオルゴンクローが無慈悲に振り下ろされた。

 

「ダメダメ、それはダメなんだよ~」

「・・・あ」

「なんだてめぇ!え、ちっさ!」

 

 乱入者!?

 自分たちより一、二回り小さな体に仮面をつけたウマ娘。

 少し前までチビだった自分がいうものなんだが、小柄な子だ。

 顔がわからないだけじゃなく、覇気も読み取りにくい、報告にあった情報遮断系の術を使っている。

 驚くべきはそこではない、この正体不明の乱入者は私とベルスの間に割って入っただけじゃなく、必殺のオルゴンクローを片手で受け止めている。

 

 (しかも素手かよ・・やるじゃん)

 

「むぅ~おっそーい!遅いから迎えに来ちゃったよ、ベルスちゃん!」

「ウェール、どうしてアンタが」

「・・・テヘッ」

「「テヘッ」じゃないわよ。相変わらず自由奔放というか」

「ちゃんとルクスにお願いしたもん。ベルスちゃんだけ面白そうな子を遊んでズルいって!」

「だりゃぁぁぁっ!」

「わ、わわ」

「ちっ!」

 

 和やかな会話を断ち切るように爪を薙ぐ、ベルスは回避行動をとり離脱。

 ウェールと呼ばれた乱入者は驚きつつも、爪撃を綺麗に捌ききる。

 

「うわ~キレイな緑。ルクスの赤もいいけど、こっちも素敵だね」

「あなた誰?オルゴナイトにデバイスなしで対抗するなんて、ただ者じゃないね」

「ベルスちゃんの友達。ルクスは私たちの操者だよ」

「つまり敵か」

「そういうことになるのかな、私たちの敵はね~緑の結晶を使う変態さん!」

「マサキさんのことを言ってるのか、ぶち殺すぞゴミ」

「アハハ、無理だよ」

「なめんな!」

 

 結晶体で固めた拳で殴りかかるが、いとも簡単に受け止められる。

 

「オルゴナイト・・・そんなものに頼っている時点で、無理なんだよクロちゃん」

 

 どういうからくりだ?

 向こうがオルゴナイトを使っている感じはしない、というかクロちゃんて・・・馴れ馴れしいわ!

 仮面の中でクスクス笑うウェールに酷くイライラする。

 

「とりあえず、二人とも顔見せてくれる?ムカつくんだよその仮面!」

「ごめんね、操者の命令だから外しちゃダメなんだ」

「右に同じ、二対一になったけど悪く思わないで・・・きゃ!なんでこっちにばかり来るのよ!」

「弱い方から倒すのなんて当たり前だろうが!」

「おお、確かにそうだ」

「ウェール!アンタ何しに来たのよ、感心してないで助けろ!」

 

 仲がいいんだね、でも別に羨ましくないよ。

 だって、私にも相棒ぐらいいるからね。

 

「待てぃ!!」

 

 ほら来た・・・建物の上、太陽をバックに腕を組み、こちらを見下ろすアホの子がいる。

 どこに出しても恥ずかしい相棒の登場だ。

 

「な、どこだ!どこにいる?」

 

 よかったな、ベルスが乗ってくれたぞ。実はこいつもアホだろ。

 

「悪の暴力に屈せず、恐怖と戦う正義の気力!人、それを・・・『勇気』という!」

 

 何その口上?

 

「何奴だ!?名を名乗れい!!」お約束を守るアホ(敵)

 

「貴様らに名乗る名前はないっ!」敵がノリノリで嬉しいアホ(味方?)

 

 今わかったwロム兄さんだwww。

 

 マシンロボ、またスパロボ参戦しないかなl

 ロム兄さんは来てくれると嬉しいのに、飛影は経験値泥棒だと思うの。

 

 「とう!」と言ってジャンプするアホの子、その顔は満足気でムカつく。

 あ、ベルスが問答無用で砲撃した。さっきまでノリノリだったのに切り替えはやーい。

 私の隣に砲撃を食らったアホが無様に落ちてきた。ちょっと焦げてるだけで無傷。

 ホント恥ずかしい子でごめん。

 

「ぐぇほ・・敵も、中々やりますね。助けに来てやりましたよクロ」

「邪魔しに来たの間違いじゃないの」

「名乗る名前はないって!アンタ自分はファインモーションだって言ったじゃない」

「そんなこともありましたね。そうです私がインモーです」

「おお、インモーちゃん。へぇー、ほー」

「なんですかコイツ?人の事をジロジロと、見物料払えや」

「新手の敵、そいつもルクスの愛バだってさ」

「私、ウェール!よろしくねインモー(偽)ちゃん」

「こちらこそ。お近づきの印に旅行をプレゼントしますね、なんと外国ですよ」

「わぁ、楽しみ~どの国に連れて行ってくれるのかな?」

 

 あらら、ウェールから純真無垢(バカ)の臭いがします。

 マサキさんの愛バたるもの、こういう奴を弄んでこそです!

 というわけで、私とクロの答えは決まっている。外道回路発動!

 

「黄泉の国に決まってんだろうがバーカ!逝ってこい!そして二度と戻って来るな!」

「ルクスや仲間全員で逝け!地獄への団体旅行ww楽しそうでよかったねww」

「「ぎゃはははははははwwwwげひゃははははははははwww」

 

 マサキさんには見せられない顔で、中指立てちゃったぞ!

 

「この外道ども!うちのピュアっ子で遊ばないでよ!」

「・・・私、今バカにされた?」

「気にしたら負けよ。あいつらがゲスいだけだからね」

「ゲスはお前らの操者だろ、あ、カスでクズでもありましたね」

「は?そっちの操者は変態の癖に」

「いけないな~!ルクスの悪口は許さないよ」

「そっちこそ、マサキさんの何がわかるんだよゴラッ!」

 

 操者を悪く言われるのことは愛バに取って最上級の屈辱に他ならない。

 

 (この反応、単純に洗脳しているのとは違う?)

 (ちゃんとした思惑と感情がある敵だねぇ・・・)

 (変な情を移さないほうがいいですよ)

 (情が移ったぐらいで私が止まると思う?)

 (いいえ、全く思いません。あなたは相手の心情と背景を理解した上で躊躇なく潰す女です)

 (よくわかってるじゃん)

 

 ルクスとこいつらが関係・・・興味ないわー、クソどうでもいいわー。

 マサキさんの敵には嫌悪感しかない、とりあえず日本一のメンチを切っておくことにする。

 敵の表情は二人とも仮面越しでわからないが、いっちょ前にやり返して来ているな。

 

「「「「・・・・」」」」(え?動くタイミングいつ?誰か決めてちょ)

 

 今ここで二人を倒し、ルクス側の戦力を削ぐべきか?私たちだけでやれるのか。

 ベルスはともかくウェールの力は未知数、クロの攻撃に素手で対処した所をみると油断はできない。

 ココには不用意に手を出すなと言われたけど・・・ええい、やるか!

 

 (やりますよクロ)

 (その言葉を待ってたよシロ)

 

 覇気を練り上げ準備する。バスカーモードはまだまだいける、やったら・・・

 

 ピピピピピピピピピピピピピーーーー!!!

 

「あ、タイムリミットだ」

「「「何だよもう!!!」」」

「えっと、ここを、あれ、あれれ?」

「うるせーから早く止めろ」

 

 ウェールの腕からけたたましい電子音が鳴り響いた。

 やる気になっていた私とクロ、ついでにベルスはガックリですわ。

 悪戦苦闘しながら、電子音を止めたウェールはテヘへ~と頭かく。

 

「ごめん、忘れてたよ~「これが鳴ったら絶対に帰って来い」て言われてたんだ」

「・・・このまま戦闘すれば隠蔽術が綻ぶ可能性もある・・・いいわ、今日の所は帰りましょう」

「逃げる気?」

「勘違いしないで、見逃してあげるのよ」

「おーおー、言ってくれますなぁ。死ねばいいのに」

「このっ!インモー!最高にムカつくアンタの顔は覚えたからね!私の獲物を横取りした事を、絶対後悔させてあげるから」

 

 名前は間違って覚えてくれましたねwww

 

 ベルスがウェールを抱えデバイスの翼を広げた。

 慣れた感じで空へと上昇していく敵の姿を見送る。

 

 あれが有人単独飛行を可能とする新型テスラドライブ。

 安全性の問題から使用者は身体強度に優れる騎神、それも超級クラスに限定されるらしい。

 実用化された数が少なく超貴重品なため、大っぴらに使っているのは今の所ベルスぐらいだ。

 ルクス側で量産化されないといいけど。

 

「また今度遊ぼうね。ばいばーい」

「次は二人とも狩ってやるわ。その時まで精々怯えているのね!」

「今日の晩飯何だろな~」

「父様が腕を振るってくれるそうです。愛情たっぷりマダオ御膳ですね」

「やった!パパの料理美味しいから好き」

「ハートさんのご飯も好きですけどね」

 

 うちは両親共に料理上手で嬉しい限りです。

 アッシュで膨れたのは神核なので、別腹です別腹!

 

「聞けよ!あーもう、本当にムカつく奴らね!」

「うー、お腹空いた~。私たちも帰ったらご飯にしよう」

「はぁ、アンタはお気楽でいいわね」

 

 飛び去って行った二人は、あっという間に見えなくなった。

 

「行ったか・・・クロ、今のあなたでウェールに勝てますか?」

「んーー?よくて相討ちかな。悔しいけどあの子超強い」

「マジか」

「マジマジ」

「マサキさんとリンクしてもですか」

「その時は、向こうもルクスとリンクするんじゃね」

「ですよねー」

 

 一筋縄ではいかない相手だ・・・タイマンは控えるべきですね。

 もっとも、クロはそう思ってはないみたいですが・・・やれやれ、敵陣に好敵手を見つけちゃった顔してるよ。

 そもそも、ウェールはいつからシラカワ重工にいたのだろう?クロとベルスに割って入るまで気づけなかった。

 私とクロの索敵に引っ掛からないなんて、素性を隠す隠蔽術や認識阻害はルクス側が優位に立ち過ぎだ。

 Gみたいに隠れてコソコソするのがお好きなようで、バルサンでまとめて燻蒸処理できないかな。

 

「ウェールは私が何とかするよ。向こうも私をロックオンしてるっぽいし」

「ではウェールの担当はクロにお願いします」

「シロはベルス担当だね」

「ええー嫌ですよ。私をインモーと勘違いしているアホの相手なんて」

「そう誘導したのはシロでしょうが」

 

 もっと強くならなくては、あんな奴らに負ける訳にはいかない。

 

「周囲に敵性体無し、今度こそ終わったね」

「ええ、社長のご依頼は無事達成できました」

「他の現場はどうなったかな」

「心配せずともメジロ家が何とかするでしょう。アル姉を除外しても、優秀な後継が盛り沢山ですからね」

「メジロ版キセキの世代だっけ、いつかお手合わせしたいな~」

 

 その後、事後処理を手伝いながら社長に事の顛末を報告しました。

 思ったより損害が多いですと?

 いえ、奴ら強敵でしてね、ええ、私たちはホント頑張ったんですが、はい、全部ルクスが悪いのです!

 はい?アル姉とココの写真ですか・・・コレクター魂が疼くのですね、わかります!

 その代わり・・・お取引の方をよろしく。

 

「シロ、社長と何を話していたの「お主も悪よのぅ」「いえいえ社長様こそ」って何?」

「悪代官と越後屋ごっこです」

「今度私も混ぜてね(マサキさんの写真は共有財産だよ)」

「はいはい(アル姉とココには内緒ですよ)」

 

 社長との裏取引は数日でバレた。

 年上二人が怒るとマジで怖い、クロと一緒に小一時間お説教と正座の刑が執行されました。

 マサキさんにバレる事だけはないように注意しよう。

 

 そんな感じでお仕事頑張ってますよ。

 私もクロも元気でやってますから、だから・・・一刻も早く戻って来てくださいね。

 待ってますよ、マサキさん。

 

 その頃、取引相手の社長はというと。

 

「フフフフフ、これで私のウマ娘アーカイブがまた充実してしまいました」

「「・・・・」」

「マサキGJです!旅先で出会った子たちの写真も確保したい所ですね、渡したスマホが故障していなければよいのですが」

「「・・・・」」

「ああ、どの子も美麗かつ可憐・・・生まれてきてくれて本当にありがとうございます!」感涙

「「・・・・」」

「ふぅ・・・二人とも、そのゴミを見る目は何ですか?新しいプレイですか」

「「・・・・」」

「安心なさい、一番は愛バのあなたたちですよぉぉぉーーあががががががががアイアンクローらめぇ!」

「ライスさん、手術室の準備は出来ていますか」

「うんバッチリ。初めてだけどライス頑張るね」

「手術?どなたかケガ人でも」

「ええ、天才の癖に頭が悪い奇病のマスターが一名発生しまして」

「お兄さまはこれからロボトミーされちゃうんだよ。廃人になってもお世話は完璧にこなすから大丈夫だよ」

「全然大丈夫じゃない!非人道的過ぎにもほどがぁぁぁ!マサキーーー!兄貴分からの忠告です。愛バを怒らせたら絶対にダメですよーーーー!」

 

 死ぬほど土下座して何とか許してもらえました。

 コレクションについては愛バの検閲が入る事になってしまった。

 まだ見つかっていない分を秘密裏に移動させなくては!

 

 ♢

 

「お世話になりました」

「またいつでも、いらっしゃい」

「はい、今度は全員で伺います」

「マサキのこと頼むわね」

「はい、必ずや」

「息子の愛バは私の娘同然、だから・・無茶したらダメよ。あはは、なんか矛盾してるわね。マサキのために危険な場所へ行けと言う鬼ババアの戯言でした!」

「鬼ババアだなんてそんな!サイ様は素晴らしい母親だと自信をもって言える方です」

「あらら、こんなんじゃ息子離れどころか、娘離れできそうにないわ」

「では、いってきます」

「いってらっしゃい。しっかりね、みんなによろしく~」

 

 優雅なお辞儀をした後、一人のウマ娘が走り去っていった。

 走って行くのか・・・確かに車なんかより早いけどさ、交通ルール(対ウマ娘用)は守ってね。

 アルダンちゃん、また凄いのが来たもんだ。

 ココちゃんといい、一体どこで見つけて来たのやら・・・息子の人(ウマ)を見る目凄くね。

 

「寂しくなるのう」

「またすぐ来てくれるわよ。なによ、そんなにあの子が気に入った?」

「えーなになに、グラさんが興味持つなんて珍しい」

「うむ。マサキの愛バでなければ、わしの娘にしたいぐらいじゃ」

「もうダメでーす!アルちゃんは、この私サイバスターの娘ですー!マサキもやってくれるわ・・・クロちゃんシロちゃん、アルちゃんにココちゃん!みんなかーわーいーいー!」

「娘を獲得したことで、バカ親レベルが上昇したようね」

「ネオ、お主が言えることか」

「娘がほしいなら、自分の息子に頑張ってもらえばいいじゃない。ヤンロンなら学園の生徒を選び放題でしょ」

「頑固で奥手なあやつがどう動くか心配ではあるのう。まあ、なるようになるじゃろ」

 

 全員、綺麗で可愛くて面白くてちょっとバカで・・・何より強いのがいい!姑冥利に尽きるわい!

 嫁いびりなんてする暇ないぜ、娘を可愛がるのが忙しいんじゃい!一緒にショッピングとかしたい!

 

「先に行った二人は?」

「ココちゃんと合流してる頃ね。どうしても行くって聞かないんだから」

「シュウ君が用意した例の物、ようやく完成した試作品が一つだけだとは・・・トホホ」

「ガー子が張り切っていたから任せるわ。ザム改めミオもついて行ったから大丈夫でしょう」

 

 マサキが残したオルゴナイト、それを加工して弾丸を造ったファイン家からの技術提供により、とある装備が完成していた。

 腕輪に疑似オルゴナイトと未使用のライフル弾を埋め込んだアクセサリー。オルゴンリング(仮)

 その効力は、神核から直に覇気を放出し装備者を弱体化させるというもの。

 無駄に思える装備品だが、天級騎神が装備することで意味が発生する。

 

「弱体化と引き換えに、過剰供給される覇気による神核へダメージを防ぐか」

「これが完成すれば私たちも外出し放題って訳よ。本当にマサキとシュウ様様ね」

「私たちの分はマサ君が帰って来てからね。(´∀`*)ウフフ、今のうちに旅行先決めちゃおうかなー」

「それで最近、旅行雑誌を読み始めたのか。中国なら案内できるぞい」

「いいわね~、ブルボンちゃんにライスちゃんと万里の長城で競争したいわ~」

 

 夢がひろがりんぐ!しているのはいいが、世界遺産を壊さないように。

 

「いい時間ね。今日もやっときますか」

「村長の許可は?」

「数十分おきに多重結界を張ることで承諾してもらったわい、虚ろな目をしておったのう」

「昨日、サイさんが山を消し飛ばすから・・・」

「あ、あれはちょっと力加減を間違えちゃって、今日は大丈夫よ・・・たぶん」

 

 せっかく同レベルの奴が集まったのだから修練しない手はない。

 若い子たちに影響されて、おばさんたちも頑張っちゃうわー・・・おばさん_| ̄|○

 

「超級騎神並みの弱体化は避けられない、それに合わせた戦い方を身につけないと」

「今までみたいにドバッー!とやってドカンッ!となって終わらない、慣れが必要ね」

「縛りプレイというやつじゃの。このような趣向も面白いわい」

「よーし、負けないわよサイさん」

「ホントよろしくお願いします。頼りにしてます、二人とも」

「謙虚じゃ、自分が一番下手くそだから謙虚じゃww」

「サイさん、力を抑えるの本当に下手よね。せめて、通常攻撃が二回+全体攻撃ぐらいにしてよ」

「毎ターン「魂」「覚醒」「必中」かけるのやめたじゃない!私だって少しは進歩してるんだから」

「最初は力を落とす所から始めるぞい。その状態を可能な限り維持するんじゃ」

「自分で自分に負荷をかけるって中々難しいのよね」

「私は超級騎神、超級騎神、超級・・・知り合いの超級が軒並み限界突破しそうで参考にならん!」

 

 目指せ隠居生活からの脱却!まだまだ現役だって所見せてろうじゃない。

 ババア無理すんなって思った奴はコスモノヴァな!

 

 ♢

 

 機は熟した。

 みんなよく頑張ってくれたね。

 

「やるだけの事はやった「マサキのサルベージ計画」はーじめーるよー!」

「「「「おおーーー!!!」」」」

「まずは前座の邪神降臨だぁ!ハゲゾー説明をよろしくぅ」

「本計画のプロデューサー、ルオゾールでございます。お集まりの皆様、しおりの3ぺージを開いてください」

 

 日本のどこかに存在する、ファイン家が所有する土地。

 なんか雰囲気ある洞窟に手を加えて、ヴォルクルス教団の地下神殿を再現してみました。

 ハゲゾーが無駄に拘るから工事期間が長かった。

 

 この日のために集まってくれた命知らずを紹介するぜ。

 

 ・責任者   私だよ(ファインモーション)

 

 ・仕掛人   ハゲゾー(ハゲ+ルオゾールだからハゲゾーw)

 

 ・対邪神兵器 アル(電気ゴリラ)

 

 ・助っ人①  ガッデス(天級から超級にランクダウン、合法ロリ)

 

 ・助っ人②  ミオ(ガッちゃんのお目付け役、マサキ腕時計が美少女になっとる!?)

 

 ・助っ人③  謎の剣神(誰?呼んでないよ・・嘘!飛び入り参加なの)

 

 ・その他   ファイン家の暇人(シャカとゴルシを含む)

        ハゲゾー率いるハゲ部隊(元教団員かなりの精鋭、全員ハゲだけど)

 

「えーであるからして、マサキ様の召喚にはヴォルクルスを・・・」

「話長ぇよ。ゴルシの鼻から特大のちょうちん出てんぞ」

「・・・え、それは100年後に・・・うぁやめろ・・イデオンガンはアカンて・・zzz」

「ほとんどの奴が聞いてない・・・ハゲゾーかわいそう」

「朝礼しか存在意義を感じられない校長みたい、もう少し端折ってほしいな」

「天級の二人がいれば心強いよ。ありがとうね」

「お礼・・マサキが戻ってから・・・私頑張る」

「ガッちゃんやる気だね。私も今日は気合十分だよ」

「お二人とも、無理はダメですよ。特にガッデス様は弱体化をお忘れなく」

「ん・・わかってる。攻撃はビリビリのアルダンに任せた」

「私はガンガン行くよ。地属性のいい所見せちゃうぞ」

 

 みんなやる気十分で何より。うん、大丈夫この面子ならきっと上手くいく。

 約一名・・・知らない人が混じってるけど。

 日本刀らしきものを帯刀しているし、不気味な能面つけていて怖いんだけど。

 

「フッ・・・マサキは幸せ者ね」

「あの、本当に誰ですか?冷やかしなら帰ってほしいんだけど」

「私は通りすがりの剣神、武士道と姉道(あねどう)を極めるため諸国漫遊の旅をしている」

「武士道はともかく姉道ってなんやねん」

「ミスターアネドーと呼ぶがいい」

「ブシドーよりアネドーが優先なんだw」

 

 飛び入り参加のミスターアネドー、いや、強そうだからいいけど・・この人どこかで・・

 私とアルをやけにジロジロ見てくるのもちょっと怖い。品定めしてる感マシマシ。

 やっぱ能面が怖すぎる!面の奥の眼光が強いのなんのって。

 

「これがマサキの・・幼女趣味は卒業したのかしら・・しかし、ふむふむ」

「あの、どこかでお会いしたことがありませんか?」

 

 アルにも心当たりがあるの?いいぞ、アネドーの正体を看破しろ。

 

「フッ、あなたが真の強者なら、刃を交える日が来るかもしれませんね」

「具体的には学園の校門前で毎朝会っていませんか?」

「違います。そんな弟思いで超絶仕事のできる事務員さん(美人)とは別人です」

「あら、私の勘違いでしたか。今日はよろしくお願いしますね、アネドーさん」

「こちらこそよろしく、スパークマンドリラーさん」

「アルダンです」

「類人猿っぽいなら何でもいいのか」

「本日は、急な飛び入りを許してくださり感謝します。デスラーメンさん」

「許可した覚えはないよ!?その二つ名広めたの、ひし形白メッシュでクレイジーなウマでしょ。そうなんでしょ!」

 

 ミスターアネドー、一体何者なんだ・・・

 



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帰還者(ザ・リターナー)

100話になってしまいました。

応援してくださった全ての方に感謝いたします。

これからも、モチベーションが続く限りグダグダ書いていきます。




 いろいろあった、ミスターアネドーが最後に全部持って行った。

 

「できた!採点をお願いします」

「どれどれ~・・・うん、9割方正解してます。ケアレスミスさえしなければ合格間違いなしでしょう」

「やった!頑張った甲斐があったよ」

 

 どうも、真面目に編入試験対策をしているダイヤです。

 筆記試験に不安があるというクロの勉強をみていました。

 なんだかんだで地頭がいいクロなので、教えるのに苦労はしていません。

 私は筆記ぐらい満点余裕ですけど何か?

 

「実技試験はどんな内容だろう」

「先輩の騎神と模擬戦じゃないですか、知らんけど」

「ぐふふ、それは楽しみだな~」

「お楽しみのところ申し訳ないのですが、手加減を覚えてください。ホントマジで頼みます」

「ええー」

「ええーじゃないです。学園での面倒事は勘弁してください。愛バの品格が操者の品格なんですからね!私たちが"いい子"でないと困るのはマサキさんです」

「それなら我慢するよ。"余所行きの顔"を心掛ければいいんだね」

「"対外的な顔"ともいいますよ。サトノのお嬢様らしくエレガントにな」

「優雅・・・私たちからは縁遠い言葉だ」

「そんな悲しいこと言わないでくださいよ。猫を被るのはお互い得意でしょう」

「私、黒い阿修羅。キレて暴れて全て壊す」

「そういうときは深呼吸してマサキさんのことを考える!これマジで効くぞ」

「今度やってみるよ。はぁ~学園生活も大変そうだ」

「前みたいに人助けでもしたらどうですか"お助けキタちゃん"」

「便利屋としていいように使われていただけだよ」

「手伝ってあげますから考えておいてくださいね。淑女なあなたを期待しています」

「期待されちゃったら仕方ないか」

 

 小学校でのクロは結構な人気者でした。

 人間関係を円滑にする修行とかで、自ら進んで校内の揉め事処理を請け負い学校中の信用を得ていた。

 男女問わず、教師陣にさえその名声が轟いていたっけ。そのお陰で内申点は私より上だったぐらいだ。

 昔、祖父の家で何か事件を起こしたらしく、その時の反省と戒めのために挑戦したと本人が言っていた。

 

 腐っても御三家の令嬢、私もクロもアル姉やココだって外面の良さには自信がある!

 べ、別に腐ってねーし!全部が偽りって訳でもないですよ。

 内面の素敵具合が自然と滲み出ちゃうからこその外面ですから、勘違いしないでください。

 マサキさんの愛バは基本みんな良い子です。

 その中でもダイヤモンドは飛び抜けて良い子だと専らの噂です。応援よろしく!

 

「ココたち大丈夫かな、マサキさん今日にでもふらっと帰って来たりしないかな」

「さあ、どうでしょう」

「まだかな、まだかなぁ」

「・・・・」(ティッシュ箱をそっと手に取る)

「約束したんだ、絶対帰って来るって・・・ぜ、ぜった・・い帰って・・くる・・ふぇ」

「あーもう!また始まった、おーよしよし。大丈夫大丈夫ですからね~」

「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇんんん」(´;ω;`)

 

 マサキさん不足による禁断症状。

 普段の威勢はどこへやらボロ泣きするクロ。

 ラ・ギアスで目覚めた日から定期的に起こる発作みたいなもんです。

 最初の頃は二人同時に起きることも多々あったので、サイさんたちには随分と助けられました。

 ある程度抑えられるようにはなったが、たまに発散しないと今みたいに暴発する。

 気恥ずかしいのでなるべく二人でいる時に泣くようにしている。

 

「ちょ、鼻水つけんな!またかよ」

「うう、グスッ・・・この前はシロがつけたからいいの・・・」

「よくないです。ほら、ティッシュあるから使って」

 

 普段はアレでも12歳のガキですから大目に見ていただきたい。

 クロはしばらく私の胸で泣いた・・・コラ、どさくさに紛れておぱーいを揉むんじゃありません。

 

「落ち着きました?」

「すごく落ち着いた!ありがとう」

「ならよかったです。5分休憩したらお勉強を再開しますからね」

「はーい」

 

 酷く厄介で面倒くさい症状だけど、治し方は単純明快。

 マサキさんが帰って来れば万事解決するに決まっている。

 

「今頃、アル姉とココも頑張ってくれているはず。良い子私は仲間を信じて待つよ」

「そうそう、その調子です。儀式とやらは年上チームに丸投げしておけばいいんです」

「五飛、教えてくれ。私たちは後何回泣けばいい?」

「知らねーよ、そして"うーふぇい"でもねーよ」

「私は後何回、シロを涙と鼻水まみれにすればいいんだ?」

「ホント勘弁して、お気に入りの普段着がカピカピですよ」

「ココは私に何も言ってくれない。教えてくれ、五飛!」

「あーはいはい。この問題といたら教えてあげますよ」

 

 まいったな、クロの症状が悪化(エンドレスワルツ)してきている。

 マサキさん、手遅れになる前に帰って来てください。(切実)

 五飛を「ごひ」と呼んだ事があるド阿呆は私だけではないと思いたい。

 

 ♢

 

 突貫工事で用意した地下神殿ではハゲ頭のオヤジがハッスルしていた。

 

「もんちゃらへっぴ~もけもけさ~・・・はい!」

「「「「・・・・」」」」

「はい!」

「はい!じゃないが」

「何をやっているのです!儀式を成功させる気があるのですか、私の後に続いて復唱するのですよ!」

「いや、お前直属の奴らも困ってるじゃねーか。さっきから何口走ってんの?病気?」

「単純にカッコ悪いですね」

「失礼な!これだから素人は困るのですよ、由緒ある高等な闇魔法の詠唱だというのに」

「でもカッコ悪い」

「やかましい!とにかくリピートアフタミーで頼みますよ。そこ!笑ってる場合か」

「大丈夫かコレ」

 

 サルベージ計画の第一段階・おいでませ邪神様!

 

 ヴォルクルスの召喚方法はシンプル。

 この日のために集めた覇気をクロスゲートに注ぎ込みながら、召喚するための呪文(闇)を唱える必要がある。

 だがしかし、その呪文は恐ろしくカッコ悪かった。

 特設ステージに立って復唱を強要するルオゾールだけが無駄に活き活きしていた。

 

「最初から行きますぞ、もんちゃらへっぴ~」

「「「「も、もんちゃらへっぴ~////」」」」

「羞恥心は捨てろ!もけもけさ~」

 

 呪文詠唱を拒否したココたちは舞台袖で儀式の行方を見守ることにした。

 

「おかしい、マサキを救いに来たはずが・・ハゲの単独ライブ会場に放り込まれていた!?」

「ツライ、脳が腐りそう」

「言葉もだけど、ハゲゾーの動きがヤバイよな。なんでエビぞりしてんのww」

「外であんなの見かけたら即通報だわ」

「一応、理にはかなってる・・・あのかっこ悪いので、人命を消費する必要がなくなった」

「ガッちゃんが言うなら間違いないね。それにしても」

「「「「カッコ悪いなぁ」」」」

「そこのサボり魔ども!聞こえてますぞ!」

「いいから早くしろよハゲ」

 

 ただでさえハゲゾーのスピーチが長引いて、開始の宣言をしてからもう30分以上経ってるのに。

 要はゲートに覇気を送って「ヴォルクルス出て来いや!」したらいいんでしょ。

 はーやーくー、はーやーくーしーて。

 

「見てください、ゲートの輝きが強いくなっていきます」

「クイーンコングの言う通りだ。もう召喚分のチャージ十分なんじゃね」

「ゴルシさん、感電死はお好きですか?」

「何なのキミ、私にだけ当たり強くね?同族嫌悪なの?ゴルシちゃんのハートもガラスで出来てるんだぞ♪」

「あなたのガラスが砕け散る音は是非聞いてみたいですね」

「この世界、アホの血族だらけで恐ろしいぞ」

「ケンカで無駄なエネルギー消費しないように、おいハゲゾー!ゲートがいい感じに光ってんぞーー!詠唱は手短しろ」

 

 ビクンッビクンッ痙攣しながら奇声を上げていたハゲゾーはショックを受けた。

 彼はこの呪文詠唱(ポーズを含む)を三日前から入念に練習していたからだ。

 アラフィフのハゲおやじは心の中で少し泣いた(でもすぐに立ち直った)

 

「止むを得ませんな、ここは高速詠唱で!もっちゃらへっちゃらもけもけさ~!!」

 

 カッコよさが20下がった。

 一節で済むんかい!省略できるなら最初からそれでいけよ。

 無駄すぎる時間を過ごしてしまった。

 

 ゲートの輝き更に上昇!輪の内側が波打って来た、来るぞ来るぞーー!

 

「なんか寒気がしてきたな」

「それ・・気のせいじゃない・・周辺温度が少しずつ低下中」

「ハックショイ!うえー、寒いの苦手~」

「みんな下がって、早く下がれー!無理せず打ち合わせ通りにお願いねー」

「このまとわりつく不快感、邪神の放つ瘴気とでもいうのでしょうか」

「ミスターアネドーはよくわかっておりますな。ヴォルクルスから発せられるこの瘴気、気合いが足りないと魂ごと持っていかれますぞ」

「あ、出て来た!ちょっとなんか出て来た!」

 

 ゲートから角のような突起物が、鋭利な爪と刃の腕が、もう明らかに邪神っぽい巨体がズズズッという効果音と一緒に這い出て来た。

 

「「「「うわぁ!!??」」」」

 

 それを見た全員の感想は「うわぁ」だった。

 何じゃこりゃ、想像以上に禍々しい見た目だな。ぶっさいくな怪獣やんけ。

 

 上半身は大きな翼に六つの首をもつ竜がくっついた死神を連想させるようなデザイン。

 下半身は巨大な口と鋭利な爪持つ前足と、サソリを思わせる多脚に尾は角の生えた大蛇、女性のように見える体が乗っかっていて胸に相当する部分にくっついた腕?には大鎌を備えている。

 他にも、触手やら顔やら眼やらトゲトゲが至る所にあってもう・・・気持ち悪いッス。

 やだー、どこがメインの顔かわかんないよぉ。大鎌の腕、おぱーいから生えてるよぉ。

 

 (おいハゲ、これがヴォルクルスか?)

 (この禍々しさ、間違いないでしょう。初めて見たので正直わかりませんが)

 (「すみません間違えました」で帰ってくれそうにないよ、大丈夫なんでしょうね)

 (とにかく敬虔な信徒の振りで交渉してみます)

 (おk、任せる)

 

「皆の者!我らの願いに応え、ヴォルクルス様が降臨なされたぞーー!拍手ーーー!」

「「「「うわーい!ヴォルクルス様最高ーーー!!」」」」(投げやり)

 

 第一段階成功!

 第二段階・かかったなアホが!に移行

 

 (でっかくて気持ち悪い、ゲートが大体20mだから・・・全長15mってとろこか)

 (たぶんアレでも小さくなってる・・ゲートを通過したものは転移先に合わせてサイズ調整入るから)

 (へぇー、どこかの世界じゃ100m超の図体だったりするのかね)

 (それだと巨大ロボありきが前提の世界だね、ロマン溢れる~)

 (しっ!ハゲゾーさんがコンタクトを取る気ですよ)

 

「遠い所をようこそお越しくださいました。私は神官のルオゾール、ここに集いし我らはあなた様の忠実な僕でありますぞ」

「・・・・ッ」

 

 (聞いてんの?ハゲゾー、メッチャ無視されてない)

 (ハゲゾーさんの詠唱が気に障ったのでしょうか)

 

 見た目怪獣の邪神は登場した場所から動かず、小刻みにプルプルしている。なんだ武者震いか?

 

「実は今日お呼びしたのは、我らが大願を叶えて頂きたく・・・あの、聞いておられますか?」

「・・・・ァ」

「おお、これは失礼しました!まずは偉大なる神が我らにお言葉をくださるのですね!皆の者傾聴せよ」

「タ・・ケ・・」

「んん?よく聞こえませんぞ。活舌よくハキハキ喋ってくれるとありがたいのですが」

 

 顔(真ん中あたり)を上げたヴォルクルスはこちらを睥睨した後、言葉を発した。

 おどろおどろしい声だったがちゃんと聞こえた。日本語だった。

 

「・・・タスケテ」

 

「「「「・・・・・」」」」シーン

 

 (ねぇ今の)

 (空耳じゃない、確かに聞いた)

 (タスケテっていう呪いの言葉だったりして)

 

 え?何?タスケテ→たすけて→助けて→ヘルプ!ヘルプミー!ってこと?

 

「助けて?助けてと仰ったのですか。何故!?」

「タスケテ・・タスケテ・・・タスケ・・・???・・・ココハ」

「ヴォルクルス様?」

「ソウカ、そうか!転移が間に合ったのだな。フフ、フハハハハ、ざまぁ見ろ我は滅びぬ!この通りピンピンしておるわ!」

「あの~」

「フハハハハ、はっ!・・・ウェッホン!よくぞ我を召喚した矮小なる貴様らにしては、よい働きをしたな」

「はぁ」

 

 状況を把握して急に活舌が良くなる邪神。急にテンション上がってウザい。

 

「心配事が無くなって今の我は気分が良い、特別に褒美をとらす。さあ、望みはなんだ?誰かの破滅か、呪い殺したい相手でもいるのか、この世界の滅びが見たいのか!今ならサービスで我直属の下僕へと召し抱えてもよい」

 

 よく喋るなこの神、転移前に相当なストレスがあったんだろうな。

 

 (総員準備)

 ((((了解!!!))))

 

「我らの望みはただ一つ、お疲れの所申し訳ないのですが。生贄になって頂きたく存じます」

「ほう・・・我を謀ったか、面白い」

「あなたを贄にして、我々が望むただ一人のお方をアドバンス召喚するのです!お許しください!」

「拘束結界陣起動!!」

「「「「ラジャー!!!!」」」」

 

 ココの号令でハゲ部隊が力を解放。ヴォルクルスの囲むようにして地面と空中に複雑な文様が浮かび上がる。

 

「怪獣の動きが止まった!やれハゲゾー!!」

「ヴォルクルスをセメタリーにリリース!手札からアンドウマサキ様を召喚いたします!」

 

 手札?カードゲームから離れて久しいからわかんねぇ。

 

「いい感じ、そのまま」

「ぬるい」

「ちっ!」

「残念だったな贄となるのは貴様らだ」

 

 邪神の身動ぎ一つで時間をかけて構築した陣を破壊された。

 ええい、神を気取るだけの力量はあるってことね。ならば第三段階に移行するのみ!

 

 第三段階・結局こうなったか!

 

 邪神をぶっ殺してその躯をなんとかエネルギーに変換→マサキ召喚

 

「どうするのだ、矮小なる存在たちよ。大人しく我が贄になるのなら楽に終わらせてやるぞ」

「どうするも何も!決まってる」

 

 全員覚悟を決めろ!ここが正念場だよ。

 

「やるよみんな!邪神退治じゃーーーーい!!!!」

「「「「おうよ!」」」」

 

 はいはーい、自身の無い子は援護射撃をお願いね。

 腕に覚えがある子は好きにやれ!とりあえずあいつの顔らしきもの全部潰せ!

 

「ライトニング・・・フォールッッ!!」

 

 電気ゴリラ先陣切ったぁー!膨大な覇気と雷を纏った飛び蹴りが邪神の頭部に直撃する。

 うはっ!悪魔っぽい角が一撃で砕けたぞ。

 

「やるな」

「まだ序の口です。ミスターアネドー!」

「承知!斬艦刀・・・牙懐!」

 

 謎の能面女・ミスターアネドーが抜刀して突撃、ただ真っ直ぐな斬撃を見舞う。

 節足動物のような多脚がまとめて宙を舞った。

 

「いいぞ、もっと足掻くがいい!全てが徒労に終わったときの絶望・・ぐぼっ」

「ゴチャゴチャうるさい!さっさとやられてしまえ」

 

 多弾頭ミサイルの着弾を確認、続けて他の武器も撃ちまくる。

 デバイス・ラーズアングリフのオールウェポン射撃。まともに使ったのは初めてだけどスカッとする。

 高機動を売りにするデバイスが主流の最中、重武装砲戦系デバイスは不人気な傾向にある。

 しかしながら、全弾発射の火力と派手さは誠に痛快である。

 よーし、いい感じだ。私はこのデバイスをちゃんと使いこなせている。

 

「天級とハゲたちは全員のサポート!よろしく」

「「「「了解!!」」」」

「私も行くか、ソウルゲインの調整は間に合わなかったが、やるだけやってみるぜ」

「しっかりやれよ~。俺はゲート見とくわ」

 

 アルとミスターアネドーがメイン火力担当。残りの全員で彼女たちを援護する。

 私は全体の指揮と、とりあえず弾切れまでは撃ちまくる方向で。

 

「飛燕如く、斬艦刀・大車輪ぃぃーーーん!」

「ハーケンインパルス!」

 

 曲刀に変化させた刀を回転させながら投擲するアネドー。何あの刀、体積が変化したような・・・。

 続くアルも蹴り出した覇気を雷光の刃にして飛ばす。

 

 直撃!今ので上半身の肩パット?部分の顔と翼が消し飛んだ。

 邪神の巨体が傾く、おまけだ!ミサイルをプレゼントしちゃう、ありがたく食らっとけ!

 今更だけど地下で大爆発はよろしくないような・・・まあ、いいか。

 

「もう、あの二人だけでいいんじゃね」

「せやね」

「なーんか面白くねぇな」

「じゃあ・・・フラグ・・・立ててみる?」

「ガッちゃん!余計な事をいわないで!」

「マズいですぞ!」

 

 この状況で余計なフラグ建築するアホが仲間にいるとは考えたくないな。

 

「「やったか!?」」

「「「「「おいぃぃぃ!!?」」」」」

 

 私らのメイン火力は両者とも脳筋(アホ)でした。

 

「フフフ、フハハハハハ。楽しませてくれる」

 

 ほら見たことか!効いてないですよ感を出して笑ってるじゃん。

 

「やだっ!傷が再生してる。クッソめんどくさい」

「ガッちゃん」

「お任せ~」

 

 合法ロリの術式発動!

 こんなこともあろうかと、この儀式場には予め術式発動をサポートする仕掛けが盛り沢山なのよ。

 邪神を倒すなら戦場を地下から地上に移すべき、得意の広範囲転移術でバトルフィールドをチェンジ!

 

 はい!あっという間に全員地上に出て来れました。

 うへぁ、クロスゲートも一緒に持ってきちゃった。今別にいらなくね。

 

「仕切り直しだよ。ここからは大技もガンガン使って――」

 

「神罰!」

 

「あ、なんかヤベェの来そう」

 

 大蛇の尻尾が上空へビヨーンと伸び・・・伸びすぎだろが!

 天空に構築された巨大な魔方陣!?

 

「滅びよ!」

 

 マズい!

 

「防御急いで!はよせな」

「上空から」

「拡散ビーム!?」

 

 一発だけでも致死の破壊力を持つ光弾が雨あられと降り注いだ。

 逃げ場がない範囲が広すぎる!

 

「「「「「うびゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」」」」」

 

 大人数の悲鳴が重なると「うびゃぁ」と聞こえるんだなぁ。

 ビームの一発がハゲゾーに直撃した瞬間を見ちゃった・・・くっ!全然悲しくない。

 

 デバイスの防御力に救われた・・・他のみんなは・・・どうなった。

 

 ファイン家では非戦闘員のバイトから役職付きのベテランまで「いのちをだいじに」を徹底して叩き込まれる。

 生き残る事にかけては皆エキスパートだから、しぶといんだよ。

 1stの滅びを無駄にしないために受け継がれた技工の数々甘くみるなよ!

 てなわけで大丈夫だと思うことにする。

 

「やりますね少々驚きましたよ」

「アネドー!」

「無事ですかココさん、今の凄かったですね」

「アル、私は大丈夫だけど」

 

 うん、この二人はまあね。頭一つ抜けているからね。

 

「もう・・ダメでゴルシ・・・」ガクッ

「ボス、俺たちは空気読んで逃げるぜ~じゃあな」

「ちょっ!」

 

 ゴルシ戦闘不能!最近活躍してないね。

 シャカとファイン家暇人たちは逃げ出した。あんの野郎!ああでも、賢明な判断か。

 もう一度さっきのヤツがシャカたち(戦力外)を狙ったら、冗談抜きで死人が出る。

 

「疲れた・・・寝る」

「ガッちゃんエネルギー切れでーす」

 

 天級二人は・・アカン、既に一人が脱落した。

 あれ、これはかなりピンチなのでは?

 おかしいな当初の予定ではもう帰って宴会しているはずだったのに。

 

「終わりか、小さき者どもよ」

「いや~、ヴォルクルス様って強かったんですね。ちょっとタイムいいっスか」

「よかろう、残された僅かな時間で絶望し泣き叫べ」

 

 意外と話せる邪神様だった。なめられているのはムカつくけどありがたい。

 

「許可が下りた!作戦タイム、全員集合!」

「「「「「はいはーい」」」」」

 

 もうね、完全勝利した気でいるから神の余裕を見せちゃうよね。

 消化試合しか残ってないからね、そりゃあ邪神様も舐めプしちゃうよね。

 その隙に残った面子で作戦会議しちゃうからな。後で吠え面かくなよ。

 

「悲しいけど、マサキがいないとこれが普通なんだよね」

「改めてマサキさんの偉大さを痛感しました」

「そうでしょう、そうでしょう。ムフフフ」

「なぜアネドーが嬉しそうなの?」

「して、これからどう攻める気ですかな」

「「「「ハゲゾー生きとったんかいワレ!」」」」

 

 拡散ビームの餌食になった所を確かに見たんだけどなぁ。しぶといわー。

 

「死を偽装して部下たちに指示を出しておりました」

「へぇ、この短時間でよくもまぁ」

「我々が全滅した場合、ここにトロニウムバスターキャノンを撃ち込んでもらう手筈を整えました」

「ほートロニウムとな。もう少しマシな嘘をつくことをおススメするよ」

「その兵器は私の実家・・すなわちメジロ家のハガネかR—GUNパワードでないと」

「フフフ、私の人脈を侮らないでくだされ。メジロのばば様とはウマスタでフォローし合う仲ですぞ」

「まあ!ばば様ったら相変わらずのハイテクお婆ちゃん」

「「いいね!」のためならば大量破壊兵器でも発射しちゃう。ウマスタグラマーの鏡だね」

「ほー、バイトテロやる感覚なんだね。なんて迷惑な老害なんだ!」

「あんのババア!年甲斐もなく何やってんだ」

「あら、アネドーさんはばば様のお知合いでしたか」

「知りません!逆光で顔が見えない妖怪ババアなんて知りません」

 

 残った面子は、私(ココ)、アル、アネドー、ハゲゾー、ミオ。

 ゴルシとガッデスは少し離れた木陰に放置した。

 

「もういいか」

「あ、もうちょっとだけ。ホントなんかすみません」

「あまり待たせると・・・世界滅ぼすぞ」

 

 邪神様が「もういいかい」してきおった!待たせなくても滅ぼす癖に何言ってんだコイツ。

 ヤバイどうしよう、どうすんのコレ。

 

「皆さん、お下がりください。後は私がやります」

「アネドーさん、ならば私も」

「いえ、行くのは私だけです。この仕事は誰にも譲れません」

「何を」

「マサキの大事な愛バを守るのも私の務め、だって・・・お姉ちゃんですから」

 

 アネドーが刀の握り方を変え、力を解放する。

 

「私はミスター・アネドー!神を断つ剣なり!!」

 

「覇気が!?な、これは」

「うわすごっ!天級狙えるレベルじゃんか」

 

 使い手の覇気に応えた業物は真の姿を現す。

 柄が伸び、鍔の部分が展開、流体金属で構成された両刃の巨大剣となる。

 参式斬艦刀。

 

「あの刀、ダイナミックゼネラルガーディアン!」

「雷鳳の兄弟機、人類の守護者に与えられたダブルG・・その1号機」

「でかっ!なっがっ!よくあんなの使えるなぁ」

 

 あのサイズを片手で振り回すってなんだよ、もうわかわからん。

 この理不尽さと無茶苦茶加減・・・よく知ってる誰かに似ていないか?

 心なしか邪神様もドン引きしている気がする。

 

「なんだ・・その眼その覇気・・いや、そんなはずは」

 

 漲る覇気と気迫を込めアネドーが邪神へ向けて疾走する。

 

「我が一刀は、雷のきらめき!」

 

 あれ、変だな、背景に夕日とそれに照らされた海が見えた気がする。

 眼科予約しておかなきゃ。

 

 間合いに入った!大質量の剣による流麗なる絶技が発動する。

 

「斬艦刀・雷光斬りィッ!」

 

 横薙ぎからの斬り上げ。

 十文字に斬り割かれた邪神の巨躯が後退を余儀なくされる。

 

「「「「すっっげぇ!!!」」」」

 

 これには全員目玉ポーン!ですわ。

 これもう勝ったんじゃね、任務完了じゃね。

 変なお面だなってバカにしてごめん、アネドーさんマジ凄くね。リスペクトするっス。

 

「キャーー!アネドーさーん素敵!抱いて!」

「ヴォルクルスざまぁ!アネドーさん甘く見るからや」

「おやおや、上半身と下半身が分かれてしまいましたよ。これはもうダメかもわからんねw」

「雷の要素が足りませんね。もっとビリビリスパークしてほしかったです」

「ちょっと対抗意識燃やしてる?アルが使う技も言うほど雷出してないよね」

「それは今後の改善点です。今は大目にみてください」

 

 勝った第100話完。フゥー終わった終わった。

 

「気を抜くな、ゴリラーメン!まだ終わってないです!!」

「え、ちょ、ま」

「うそーん」

 

 ゴリラーメンってなんだよ!

 それアルと私のことを指してるのか?なんでフュージョンさせたんだよ!

 

 ぬか喜びでした。

 邪神の分かたれた邪神の上半身と下半身がなんと!それぞれ独立して動いてますがな。

 せっかくアネドーさんがつけた傷も超速再生しているみたい。

 

「見事。上下に分かれたのは久しぶりだぞ」

 

 翼を広げ空を飛ぶ上半身がアネドーに賛辞を贈る。

 

「お返しだ、受け取れ」

「っ!?」

 

 ズルりと髑髏の顔が垂れ下がった。虫っぽいパーツが気色悪い。

 生理的嫌悪感をもたらす内臓のような管で飛行した体と繋がれているそれはまさに・・・

 

「「「パンデモニウムさんだ!!!」」」

「パン?え、何ですそれ?」

「銀魂読め」

 

 パンデモニウムさんが特大のゲロビを吐いてきた。アネドーさんに直撃!?

 あ、よかった生きている。一旦こっちに下がって来るようだ。

 

「不覚っ!離脱が遅れました」

「・・・・」

「何ですかあいつ、もうただの怪獣じゃないですか!分離機能があるなら先に言えよ」

「・・・・」

「モーション、アルダン殿、急に黙りこくってどうされました?」

「挫けている暇はありませんよ。もう一度・・・」

 

「「たづなさん」」

 

「・・・今何と」

「お面、とれちゃってるよアネドーさん」

「え、あら、やば」

 

 焦った様子で顔をペタペタ触るアネドーさん。気付くのおっそ!

 

「「何やってるんですか、駿河たづなさん!」」

 

「他人の空似ということがありまして」

「ねーよ、どう見ても学園の事務員さんだよ」

「散々口にした"姉"とは一体、まさか・・・」

「あーそっか、この子がマサキの(* ̄- ̄)ふ~ん。なるほど、これでシスコン拗らせたのか」

「マサキはシスコン拗らせてくれたの!よっしゃー!」

「満面の笑みで何言ってんだコイツ。引くわ」

「ブラコンの何が悪い!」

「ふむ。急にキレましたな」

「え、学園にいる時とキャラが違う・・こっちが本性か」

「あわわわ、こんな所で小姑様にお会いするなんて何の準備もできてません」

「小姑言うなエレキング、アイスラッガー(手刀)で斬首されたいのか」

「やった、類人猿の括りからようやく解放されました!」

「喜ぶところそこかよww」

 

 何か忘れている気がするが、只今大混乱中。しばらくお待ちくだ・・・

 

「我を無視するとは、いい度胸だな」

 

「「「「「ぎゃぁぁぁーーーーー!!!忘れてたーーーー!!!」」」」」

 

 放置プレイされてお怒りの邪神ビーム。

 ええ、諸に食らって全員ぶっ飛びましたよ。全員アホですけど何か?

 

「うぇっぷ、地面と初チューは大地の味!みんな生きてる?お返事して」

「あだだだ・・・ブラコン仮面が急に正体明かすから」

「人のせいにしな――待って、ブラコン仮面って私のこと?」

「ミスター小姑の方がよかったでは・・ンンッ!な、何でもありませんw」

「お前学園で会ったとき泣かすからな」

「弟の嫁いびりする暇あるなら婚活でもすればいいのに」ボソッ

「お前も泣かす、そして殺す」

「マサキの愛バを守るって誓いはどこへやった!?」

「愛バなんていらねぇんだよ!弟には姉さえいればそれでいい!」

「「それが本音か!狂ってやがる」」

「ケンカしている場合ではありませんぞ」

「「「「うるせーんだよハーゲ!」」」」

「なんだとぅ!この小娘どもがーーー!スキンヘッド最強理論を語ってやるからそこに治れぃ!」

 

「本ッッッ当にいい度胸だな!」

 

「「「「「「ぎゃぁぁぁーーーーー!!!また来たーーーーー!!!」」」」」

 

 はい、怒りの邪神ビーム2回目でーす。

 ぶっ飛んだけど全員しっかり受け身をとることができた。なんか慣れて来たねwww

 ごめんね一番アホなのはマサキだと思っていたけど、私たちも大概だったよ。

 関わった人物を軒並みアホにする力が私の操者にあるんだ!

 

「ひ、人の弟ををアホ製造機みたいに言わないで」

「たづなさん、その戦闘服とっても良く似合ってるね。メジロのプレミアムモデルかな」

「今更媚を売っても遅いからな。この服は知り合いの"クソ執事"に押し付けられたので仕方なく」

「その執事、敵をワイヤーで切り刻む系ジェントルマンですね!超知ってます!」

「それよりどうするのです、もう後がないですぞ」

「私にいい考えがある」

「「「「激しく不安だがやれ!」」」」

 

 天級代表のミオが何か思いついたみたい。

 イマイチ活躍できていないので出番がほしいのだろう。

 

「必殺!レゾナンスクエイクゥッッ!!」

「ぬぉ!」

「地震?」

 

 ミオが地面を殴りつけた直後に激しく揺れる大地。

 拳一つで局所地震を発生させるとは、迷惑だから乱発は控えてください。

 

「あばばばばばば、揺れてるゆれてるぅぅぅ!」

「いやーー!何がしたいの?地震大国日本で何してんの!」

「近隣住民に被害が出ても知らないからね!」

「その心配はないようです。揺れているのはミオさんを中心とした限定範囲だけみたいなので」

「もう一発ッ!オラァッ!」

「ぐぉぉ」

 

 ひび割れる大地。

 ヴォルクルスの巨体が地割れに飲み込まれた。

 

「これしきの事で・・我が・・」

「うん、やられたりしないよね。でもアンタ動けないでしょ」

「おのれ・・・おぉぉ」

 

 ただの地震ではない、覇気を使った超振動は共鳴現象を引き起こし、飛行能力のある相手にもダメージが入る。

 邪神には微々たるダメージだが、立て続けに発生する振動はその自由を奪う。

 

「よいしょっ!みんな何してんの、今のうちに退避しちゃってよ」

「ミオさん、あなた・・・」

「トロバスが発射されるまで、そうしているつもりか!」

 

 トロニウムバスターキャノン略してトロバス。

 

「そういうこと、私がコイツと心中したってこと、マサキには内緒にしてよ。さあ、行った行った」

「そんなことできません!」

「いいから行け!ハゲゾー発射準備をお願いしとけ!ガッちゃんとゴルシも忘れないであげて」

「う、動けぬ・・・」

 

 私は元々アインストだしさ、今人型でここにいるなんて夢みたいな話だ。

 サイやみんなに出会って、自我が芽生えて、いろんなことを知って・・・

 あの子に、マサキにも会えたしね。

 思い残すことがないって言ったらウソだけど、ここで犠牲になるなら私以上の適任はいない。

 楽しかったなぁ、この世界に来れて幸せだったよ。

 

「覇気を介して脳内に遺言送られたんだけど。凄く後味悪いんだけど!」

「ハゲゾー様、ばば様は何と?」

「少々お待ちください」

「文字入力おっそっ!直接電話しろや!」

「お、返信が来ましたぞ・・なになに・・・「先日のテロ事件で攻撃を受けたハガネのトロバスは修理中です。なおR—GUNのデバイサーは"新兵がよくかかる病気"になり入院中です。トロバスを楽しみにしていた皆様、大変申し訳ございません」だそうです」

「「「「ダメじゃん!!」」」」

「あー!アホらしいやめやめ!誰がこんな所で死ぬもんか」

 

 頼みのトロバスは発射できないとのこと。

 自分の足止めが何の意味も無くなったので、ミオは地震連発をアッサリ止めて戻って来た。

 

「やっぱりあのババアは信用ならないわ。限界まで付き合いなさい二人とも、これは小姑命令です」

「キッツい嫁いびりだなぁ。まあ、やるしかないか」

「サイ様とも約束しました。ここが踏ん張りどころですね」

「私疲れたから休んでるね、連発はやりすぎた~手が痛い」

「こんなことならば、残りの二人も連れて来るべきでしたな」

「今更だよ、それに・・私たちが全滅した場合、最後の希望はあの二人に託される!」

 

 そう、あの最高に生意気な二人にね!・・・希望もクソもあったもんじゃねぇ!

 

「これまでのようだな。死ぬがよい!」

 

 邪神様、下半身大口からビーム発射!

 

「怯むな!マサキに会いたいなら死ぬ気で倒せ!死んでもいいから戦え!」

「「この小姑スパルタにもほどがあるだろ!!」」

「生き残った奴にはマサキを一日自由にできる権利(本人の許可なし)が授与される・・・たぶん」

「「ヴォルクルスがなんぼのもんじゃい!!」」やる気アップ

「アホでよかった。その権利は姉である私にも有効じゃーーー!!お前らにはやらねぇぞ!」殺る気アップ

 

 アホ三人で突撃ーーー!!!

 特大ビームの直撃を躱す、かすった部位の肌がチリチリするけど無視!

 なんかこの邪神の攻撃、魔法?魔術攻撃みたいなの多くね?その見た目でキャスタークラスなの?

 私たちはライダーの適正を標準搭載なウマ娘だぞ!クラス相性で勝ったな!

 バーサーカー因子のほうが強い?その場合はペラペラ防御力がバレる前に宝具でゴリ押しだ!

 

 ぐああっ!硬いしキモイし再生するしーーー!

 こんちくしょー!甘かったか、神殺しなんて無理無駄無謀だったかなぁ。

 

「うぁー!たづなさん!無敵の斬艦刀で何とかしてくださいよォーーーー!」

「チェストォォォッッ!」

「ちょ、ひゃっ!今私たちごと斬ろうとしましたね!いくら小姑様でも怒りますよ」

「なんでメジロの子なんかを・・ババアに嫌味を言われるの、お姉ちゃんなのにーーー!」

「これ私怨だ!気を付けて、アルは確実に狙われてる!なんか事故に見せかけて殺る気だ」

「くっ、先に小姑様をどうにかしないと、いや、いっそのことまとめて」

「いやーーー!広範囲攻撃はやめてぇーーー!私いるの!ココちゃん巻き込まれてるのぉぉぉ!」

「消し飛べ!ゼネラルブラスタァァァーーー!!」

「「うわぁぁぁ!光線吐いたぁ!」」

 

 マサキが吐くブラスターの元ネタこれかい!

 なんて威力、森が一瞬で焼け野原や!せっかく生え揃った尻尾焦げたぞクソがっ!

 

 ※安全を考慮して戦場は人の住んでいない土地で行っています。

  人払いと流れ弾防止の結界も準備万端!(ディバイディングドライバーほしい)

  出撃するたび街を壊すウルトラ巨人とは違うのです(`・∀・´)エッヘン!!

 

 三人で仲良く連携?できるわけないでしょ!

 「ゴジラVSキングコングと邪神と私」みたいになってるから!

 ヴォルクルスと私がおまけみたいになってるから!ホント何やってんの?

 人選ミスったぁーー!

 

「ハハハ愚かなり、あまりにも愚か・・・な・・に・・」

「この光、ゲートが!?」

「また何か来る」

「ハゲゾーは・・・特に何もしていないか」

「ただでさえ無理ゲーなのに、これ以上何が」

 

 やめてやめて、邪神二体目なんてマジ殺しに来てる。

 

 横向きに転がっていた大きな輪っかから覇気がドバドバ出ている!?

 これ覇気だけじゃない、異界のいろんなエネルギーがグチャグチャになって溢れてる。

 

「あ、あ、ああ」

 

 おや、ヴォルクルスの様子がおかしい。

 こっちを見向きもせずゲートに釘付けになっている。

 

「そんなバカな、あの空間から自力で抜け出すなど、ふ、ふ、不可能だ!」

 

 ゲートの輝き、ヴォルクルスが出て来た時の比じゃない!?

 おいおいよしてくれよ、この邪神以上の存在が出て来ようとしているのかい。

 

「い、い、い、嫌だァァァァ!!もうイヤだァァァァァァァーーーー!!!」

「え?」

「は?」

「なに?」

 

 これには私もアルも小姑も全員ポッカーン。

 

 あの邪神様がみっともなく喚き散らしております。どういうことなの?

 カウントダウンを告げるように明滅するクロスゲート。

 

「ウアァァァァァァァーーー!ヤメロヤメロヤメロやめてぇぇーーー!!」

 

 パニック、半狂乱、癇癪を起した子供のようにゲートへ向かい、巨体を何度も叩きつける。

 邪神の力を持ってしても破壊できないゲートへの攻撃。

 何かが出てくる、それを妨害できるならどんな醜態を晒してもかまわないといった必死さが伝わる。

 ホント何があった?

 

「二人とも、下がりますよ」

「うん、何かヤバイ」

「・・・・」

「ほら、なにボーっとしてんの行くよ」

「・・・きれい」

「アル?」

「あの時よりも、ずっと綺麗」

 

 熱に浮かされたようにゲートを見つめるアル。

 その上で発狂している邪神の姿は目に無いってないのかよ。

 綺麗?ゲートから漏れ出すエネルギーの事を言ってるの。

 確かに綺麗だけどさぁ、可視化して色まで見えてる時点で相当ヤバイのわかってる?

 アレはもう覇気じゃないよ"力"という純粋な概念そのものだよ。言っててよくわかんねぇ!

 

「同じだわ20年前と」

「たづなさんが、よくある意味深なセリフを!」

「出てくるのは神か悪魔かそれとも・・・」

 

 なになに何なのよ、私だけ置いてけぼりはやだなぁ。

 

「来る!アイツが来てしまう!イヤだ!あんな恐ろしい奴とはもう戦いたくないィィィーー!」

 

「異界門、これが、こんな物があるから!なぜだ、なぜなのです・・・・よ」

 

「我は破壊神サーヴァ・ヴォルクルス!神たる我がこの我こそがぁ―――オゴッッ!!」

 

 三人の騎神はそれを見た。

 安全圏まで退避したハゲゾーとミオ、そして今作戦に参加した全ての人がそれを見た。

 この一連を儀式開始から見守り続けたあらゆる存在も確かに見た。

 

 そして思った「うん、私(俺)疲れてるんだな。今日は早く寝ないと」と・・・。

 

「グゥボォォォォォォオオオーーーくぁwせdrftgyふじこぉォォォーーーー!!!」

 

 15mクラスの巨体が一度浮き上がり悲鳴を上げながら大地を転がっていった。

 勢いは中々止まらず森の木々をなぎ倒し、小高い丘に激突した所でようやく止まる。

 

 ( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)

 

 ゲートから真っ直ぐ突き出ているのは拳を強く固めた腕一本。

 それがヴォルクルスを殴り飛ばしたのだ、見事なアッパーカットである!!

 

 ありえない異常な光景。

 腕は天を衝くが如きの大きさで、その全てが・・・光り輝く緑の結晶で構成されていた!!

 

「オ、オルゴナイトの腕?」

「なんて大きさなの」

「・・・・うう」

「「ゴリラが泣いてる!?」」

 

 バリンッ!と外側からはがれ落ちるように崩れ去る巨大結晶。

 それは直下にいる私たちへ降り注ぐ前に粒子となって消えてゆく。

 

 アルが泣いちゃうのもわかるよ。私だって泣いちゃいそうだもん。

 クロちゃんシロちゃん以外で緑のオルゴナイトを使える人物はただ一人。

 ルクス?あいつの赤いヤツはノーカンだよ。

 

「ううっ・・もどって・・グスッ・・戻って来てくださいました!」

「女性を待たすのような弟は再教育の必要があり・・・世話が焼けるわね」

「ちょっと待って、これ合ってる?私たちの操者で"マ"のつく男で合ってる?」

「他に誰が・・・へ?」

「あらら」

 

 オルゴナイトの腕が消え去った後、ゲートのふちに手をかける者あり。

 底冷えする瘴気と覇気(その他諸々)を纏い、闇よりなお暗い漆黒の体がもつ何かが出て来た。

 全身を黒色のエネルギーで覆っている、翼を生やした人型の何か・・・悪魔?

 そう悪魔というのがピッタリの姿形をしている。

 期待していたのとちがーう!!

 

「・・・?・・・???・・・Σ(゚□゚;)!?」

 

 一言も喋らない悪魔(仮)はキョロキョロと辺りを見渡し。

 ビックリして飛び込むようにゲートへ戻った。なぜかルパンダイブだった。

 

「「「は?」」」

 

 戻っちゃったよ、何してんだよ。

 あ、また出て来た。

 今度は慎重に波打つゲートの境界面から頭だけをだしてキョロキョロしている。

 安全を確認したのかそろーりそろりと這い出てきた。

 なんかカワイイ!

 

「・・・???・・・♪・・・(*´▽`*)」

 

 空を見上げて深呼吸~からの~ガッツポーズ!!!やったーー!でいいのかな。

 恐ろしい見た目に反してコミカルな動きをする悪魔。

 まだ、こちらに気付いていない。は、話しかけた方がいいのかな。

 

 (どうするアレ?ホントにどうするの?アレが私たちのアレでアレなのよね?)

 (だと思うのですが、確証は・・・姿も覇気が違うような)

 (異質な覇気、アースクレイドルで会ったあの時の悪魔ではない?何者?)

 

「アアアアァァァ!何故だなぜだナゼダァァ!こんな所まで追って来てお前は何なんだーーー!」

 

 アッパーを食らって呻いていたヴォルクルスさん復活、悪魔に向けて絶叫する。

 

 悪魔(仮)が邪神に気付く・・・チラ見して・・( ´Д`)=3 フゥ 

 ため息ついたぁぁーーー!心底めんどくさそうだぁ!

 

「滅びよ滅びよ滅びよ!貴様のような異物を我は決して認めぬぞぉォォォーー!!」

 

 全身にある顔という顔、口という口から邪神ビームを収束発射するヴォルクルス。

 私たちは咄嗟に退避、悪魔は?避けもしないだと!?

 

 両手を広げ、まるでシャワーでも浴びるようにビームを食らう悪魔。 

 そうそう満遍なくね・・・って何しとんねん!あ、後ろ向いた背中にも浴びたいんだ。

 

 ビームの奔流に晒されながらもピンピンしている悪魔。

 だんだんと全身の黒いエネルギーが剥ぎ取られていく、最初に翼が消滅した。

 かなりの大荷物を背負っていた事が判明、何かで防護しているのか荷物もビームが効いていない。

 余分なエネルギーを洗い流している!?そんな風に見える。

 

 長いビームの照射が終わった。

 ヴォルクルスは肩?で息をした後、攻撃した対象の無事を確認して唖然とするしかない。

 

 一回り小さくなった人型の姿形が露わになる。あれが悪魔の正体?

 東洋風の武道技らしき衣装に黒い外套を羽織り頭には何故かカウボーイハット?

 サイズが大きいのか帽子によって目元まで隠れている。なんともちぐはぐなコーディネートだ。

 手足には騎神用デバイスのような手甲と足甲を装備している。

 「よいしょ」といった感じで荷物を地面に降ろした後、グキグキッと首を鳴らす。

 カッコよく外套を脱ぎ去って・・・汚れを気にしてすぐさま拾い、丁寧にたたんで荷物の傍へ。

 まだちょっと皺を気にしている。神経質か!

 最後にカウボーイハットを脱いでその上に置いた・・・長い髪!?

 帽子の中に無理やり詰め込んでいた、長髪がハラりと垂れ下がる。

 

「「「・・・・」」」

 

 時が止まった・・・邪神を除き、一番近くでその顔を見た騎神たちの心臓が脈打つのを忘れる。

 

 ウマ娘たちは基本容姿端麗、自分を含め美形の顔など見飽きている。

 だから好みのタイプを聞かれた場合、性格や覇気、実務能力だと答えるの常だ。

 不覚にも、そのウマ娘たちが時を忘れて見惚れてしまったのだ。

 悪魔の殻を脱いだ人物に。

 

 陽光を反射して輝く白銀の長髪。

 風になびく一本一本から匂い立つような色気と覇気を醸し出している。

 シャープな輪郭、額と頬に刻まれた傷が野性味を感じさせる、いいアクセントになっている。

 敵にはどこまでも恐ろしく、友にはどこまでも優しい眼差しを向けるであろう、翡翠を超え、エメラルドの輝きをもつ瞳。

 今はギラギラと精気に溢れた眼光を放っている。

 

 綺麗だ・・・男性に向ける言葉じゃないって?素直にそう思ったのだからしょうがない。

 

 最後に見た時よりちょっと、いや、かなり変わっている。

 

「・・・サイバスター?」

 

 血縁関係でないことが信じられない、母子の絆とは血筋など意にも介さず飛び超えるのか。

 彼を知らない者はその姿を見て、生きる伝説を思い出すことだろう。 

 その髪と瞳の美しさは風の天級騎神に匹敵する。

 見ようによっては男の方を支持する者も大勢いるだろう。

 

 何があった?どうしてこうなった?音楽性を歪ませたビジュアルバンドか!

 今時男のロン毛なんてはやら・な・・・ん////ま、まあ、私はいいと思うよ////

 くっそ触りてえ!絶対いい匂いするだろ。ヤベヤべ涎出そう。

 

「ウウウ、ウアアァァァーーーー!!コロスコロス殺すーーーー!」

 

 憎悪と怨嗟を込め邪神が咆える。

 

「貴様の肉体も魂も完膚なきまでにすり潰し―――」

 

「しゃぁぁぁーーー!!!帰ってキタァァァァーーー!!!」

 

 邪神のセリフは歓喜の咆哮によってカットされた。

 

 人かどうかは怪しいけど、これはもう間違いない。

 自力で帰って来るとか、わかわかんない!結局、私たちの苦労なんだったの!

 

 

 アンドウマサキっぽい何かは故郷2ndに帰還した。

 

 



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塵骸魔京

 アア、口惜しい、口惜しい。

 アア、妬ましい、妬ましい。

 

 我は殺戮と破壊を司る神、破壊神サーヴァ・ヴォルクルスなるぞ。

 偉大なる神たる我をよくも・・・復活する度、何度も何度も何度も中ボス感覚で倒しよって!

 

 おのれ魔装機神ども!

 

 巨人族の王がやられた!?・・・マジか、あ奴らそんなに強くなってるのか・・・

 

 おのれ"マサキ・アンドー"おのれ"シュウ・シラカワ" おのれサキト・・このガキ誰?

 

 だ、だが我は滅びぬ!

 忘れかけられた頃に見事復活し、今度こそラ・ギアスを滅ぼしてくれよう!

 その時を震えて待つがいい!貴様らが老衰したタイミングを狙ってやるからな。

 

 何?奴らと同じ名を冠した存在がいるだと、なるほど並行世界か。

 フフ、フハハハハハ。いいだろう、前哨戦としてその世界を滅ぼしてくれる!

 

 ええい!止めるな。因果律の番人がいない今がチャンスなのだ。

 グラギオスもラスフィトートもすっかり腑抜けおって、我だけでもやってやるわ! 

 これは断じて八つ当たりなどではない!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 異世界へ出張する「邪神・魔王・反英雄・その他ボス」たちで混雑する超々巨大謎空間。

 通称"ターミナル"ここへ来たのは久しぶりだ。

 人間どもが建造した大都市の駅と商業施設を元にデザインされていて、お洒落かつ機能的。

 転移条件を満たせず、スタンバったまま放置される者もいるため、売店や娯楽施設が充実しているのが特徴。 

 ここに何百年も寝泊まりしている猛者もいるのだという。

 

 多種多様な外見したヤバイ連中で賑わう中を進む。

 色々と便利になったものだとつくづく感じる。

 ターミナルが完成する以前のここは、廃棄物のたまり場であったはずなのに。

 異界門を造ってバラまいた迷惑極まる変態とターミナルの建造に関わった者よ、何者かは知らぬが褒めて遣わす。

 さて、女限定の亜人種がいる世界行きの門は・・・マップを確認しておくか。

 

 "超銀河破壊大帝ペコニャン様、準備が整いましたので受付までお越しください"

 

 館内放送(念話)で誰かが呼び出された。

 我のすぐ傍にいた者が「あ、自分だ」といった感じで総合受付へ向かう。

 ふん、ふざけた名前の奴・・ペコニャン怖っ!名前に反して姿怖っ!

 さ、さすが超銀河破壊大帝だな、我がいうのもなんだが、キモくてグロいぞ!

 どこからどうみても映画「エイリアン」のゼノモーフにしか見えぬ!

 

 ターミナル内での絶対ルール「ウザいから良識あるサイズで」というのがある。

 昔、巨大系ラスボスがうっかりで施設を半壊させた事故があったからだ。

 真の姿が我のようなビック系は皆「人型」か「小動物」に変身している。

 ※犬猫が人気なのでターミナル内はわんにゃんパーク状態である。

 人間に姿を変えるなど業腹だが仕方がない、今の我は壮年の男性「紳士」という奴だ。

 ペコニャンは外見を変える努力をした方がいいと思う。

 

 ようやく辿り着いたぞ、この門だな。

 文明レベル「B」要注意個体「馬を元にした亜人種」巨大ロボ(今のところはなし)

 む?「入界注意警報」だと弱小世界の癖に生意気な!

 

 【特異点崩壊が観測されました。理から外れた「何か」が誕生した形跡があります】

 【世界の転換期を迎えたため、大規模戦闘の発生確率が30%アップしています】

 【興味本位で転移した場合、存在の保証はできません。自己責任自業自得の精神でお願いします】

 【「何か」を・・・い・・け、行・・不明・・番人・・も・・・・・様で・・す】

 

 ・・・物凄く不穏な注意事項が、最後の方、文字化けしていて解読不能なのも怖い。

 

 ふん!この程度の警報がなんだと言うのだ。ほう、巨大ロボはなしか(思わずガッツポーズ)

 では参ろうか!フハハハハハハハ・・・・ハ?なんだ貴様は我の邪魔をするか。

 先客がいたのか?あまりに小さき存在故に気が付かなかったぞww

 割り込み禁止、順番は守れ?自分の方が先に並んでいただと、ハッ!知ったことか。

 雑魚は引っ込んでおればいいのだ、神の邪魔をするなど言語道断!

 

 我に楯突く愚か者のステータスオープン、ハハハ!笑わすな!ただの混ざり物か、身の程を知れぃ。

 なんと小さく脆弱なプラーナ、貴様はいわゆる「ゴミ」だ。

 場違いな所へ迷い込んでしまった哀れで愚かな者よ、消えたくなければそこをどけ!

 

 なっ!おいバカやめろ!「きゃーー!」系の甲高い悲鳴を上げるな!オスだろ貴様!

 ほら、警備員来ちゃった。何が「この人(神)痴漢です」だ!冤罪やめろ!

 

 "問題(痴漢)発生、警備主任「破滅の王」様、大至急現場へ向かってください"

 

 ふざけるなぁ!なんであの御方が警備主任やってんだよ。我程度などワンパンで沈められるぞ!

 うげ、もう来た。人間形態は初めて見るが、うむ、超ヤバいオーラが出ておる。

 待て、これはチャンスでは?我は神でこやつは所詮ゴミ!

 これだけの悪鬼羅刹魑魅魍魎が跋扈するターミナルでゴミに味方する奴などいる訳がない。

 さあさあ、破滅の王よ。その愚かなゴミを煮るなり焼くなりしてください。

 

 ガッチリ握手したぁぁーーー!肩を組んでめっちゃ笑い合ってるだと!こいつらマブダチか!

 そうか、この警備主任は我が知っている「破滅の王」ではないのだな。

 「破滅の~」とかここでは珍しくない二つ名だし、全然ポピュラーだし!

 あ、ダメだ、この方ご本人だ。ゴミが「ぺルさん」って呼んだの聞こえたもん。

 「ペルさん」・・・「ペルフェクティオ」のペルさんですよねー。

 終わった・・・転移も叶わずこのまま冤罪で・・それでも我はやってない!

 

 今なんと・・・「マサキ」だと。貴様はマサキと言うのか!

 散々煮え湯を飲まされた"マサキ・アンドー"こいつはその並行世界版だとでも?

 フフフフ、どうりで不快極まる存在だ。貴様と我はどのような世界であっても戦う運命に・・・

 

 ちょ、警備室連行はちょっと、待ってください!あいつも調べて、これは冤罪なんです!

 あいつ普通じゃないです、なんか色々混じってますよ!魂魄や霊基を散々弄繰り回された形跡が!

 そう!一時期流行ったチート神造兵器かも!世界の法則がみだれる前に始末した方がいいですって。

 

 くそー!聞いてない。携帯端末(スマホ)でペルさんと自撮りに夢中か!

 せめて一矢報いねば、腹の虫がおさまらぬ・・・スマホ・・・クフフフフ。

 我の千里眼(覗き見)で保存された画像を見てやったぞ!

 幼女の画像多くね?こいつが捕まるべきじゃね?

 ほう、貴様いっちょ前に好きな女がいるのか、いや、惚気話は結構。

 ウマ娘だと?低俗なる亜人種の女、しかも幼女!ゴミ同士お似合いだな。

 何だその目は?いいのかぁ~警備主任やこれだけの衆人環視の中で我を殴っても?ククク。

 ハハハハハ、できないよなぁ。所詮はその程度よ、だが案ずることはない。

 貴様がどうなろうと待つ者も帰る場所もすぐに無くなる運命だからだ!

 貴様の故郷は我が丸ごと消し去ってくれようぞ!この破壊神サーヴァ・ボルクルスがな!

 

 喜べマサキ!貴様の好いた女は入念にいたぶった挙句、我の贄としてころ・・・ぶぼぇぇ!

 

 な、殴ったな!ハーカーム様にも殴られたことないのにぃ!ま、ゴェェェ!ギュェェ。

 ちょ、まて、アボッ、誰かとめ、ンガァ、やめろ、やめ、ハゴッ!

 ペル様!警備主任!見てくださいこいつ公共の場で暴力を・・口笛?見て見ぬふりぃ!?

 ギニャァァァァァァァァァァーーーー!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ぐぅぅぅ、許さぬ、許さぬぞ。

 せっかく用意した紳士ボディの四肢を折り砕き、首をねじ切るとは!

 やり過ぎだろう!R指定バッチコイの邪神もこれにはドン引き。

 だが残念だったな。この体をどれだけ攻撃しようと我は・・・なんだこれは。

 

 傷が回復しない?それどころか力を吸われ・・貴様の仕業か。

 接触していな相手から力を吸い上げるだと!?ぐぬぬぬぬ。

 まだ慌てるようなときではない!神とゴミでは存在の大きさが絶対的に違う。

 どんな技を行使しようとも、神たる我は不滅!貴様ごときに。

 

 ダメダ・・・クワレル・・・アトカタモナク・・・ケサレルゾ・・・

 

 ヒッ!

 いや、バカなそんなはずない、そんなことができるはずかない。

 やめろ!そんな目でこっちを見るな。貴様ごときが我を見下ろすなぁぁぁ!

 

 ワカッテイルハズダ・・・ハヤクシロ・・・ハヤク・・・

 

 中ボスとして何度も倒された経験則故か、その後の顛末を予測した本能が警告を鳴らす。

 こいつのプラーナ・・・最初に見たときの数十倍だと!?どこにこれだけの力を・・はっ?

 警備主任!?それに、周りの野次馬からプラーナを奪っ・・・繋がっているだと。

 無理やりではなく対象の許可を得てプラーナを融通してもらっている(無線接続)

 ありえない、未だこいつの魂が弾け飛んでいないことがおかしい。

 ターナルにいる連中は全員、力の差はあれど厄災級の魔を宿した者ばかりなんだぞ。

 そのエナジーを循環させ、自分の力に変換?こいつの核(魂)はどうなっているんだ!

 

 ハヤク・・・ニゲルンダヨォォォ!

 

 う、う、う、うおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!

 我が逃げるだと?

 魔装機神どもならいざ知らず、人間(絶対違う)相手に尻尾を巻いてにげるだと!

 そんな無様を・・・ん?なんだ、マサキだけでなく周囲の視線が痛い。

 

 "緊急事態発生!緊急事態発生!ターミナル内で巨大化を実行した不届き者が発生!"

 

 "ルールを破ったものに下される鉄槌は、お集まりの皆様でフルボッコの刑です"

 

 "空間強度上昇・抑制力場限定解除・時間は30分と致します。はいスタート!"

 

 テンパって真の姿に戻ってしまった・・・我、もしかしなくてもやっちゃいました?

 じょ、冗談。ちょっとした冗談ぎゃぁぁぁぁーーーーー!マズいマズいマズイ!

 ほとんどの奴が出待ち時間に飽き飽きしているからイベント事は大歓迎だ。

 そう、強者というのは大抵暇を持て余し娯楽に飢えているのである。

 このターミナルという場所、人間を模倣すること、全てがあえて不便さを楽しんでいるのだ。

 嬉々として襲い掛かってくる悪意の塊・・・マサキを先頭に突っ込んで来たぁぁ!

 我の偉大なる巨体が恐ろしくはないのか?ぐぇあ!こいつサイズ差補正無視か!

 嫌ァァァァ!奴に扇動された子犬と子猫の群れが全身をかじってるぅぅぅ!

 いだだだだ!この畜生ども一匹だけでも軽く国を滅ぼす力があるんだった!

 

 死ぬぅ!死ぬって言うか滅ぶ!犬も猫もなぜかマサキも我を殺しきる力を持っている。

 全員"直死の魔眼"持ってるとかおかしいだろ!

 やめ、がぁっ、我のチャームポイント(大蛇尻尾)を何かが噛みちぎろうと・・マサキィィィ!

 何でお前が一番ワイルドな戦い方するんだよ!そういうのはペコニャン様がやれよ。

 ペコニャン、回復と補助魔法で皆をサポートしてる!?その見た目で後衛ヒーラーかよ。

 30分、この集団リンチという名の地獄が30分も、無理だ肉体が無事でも魂が擦り切れる。

 うわぁ、ペコニャンあえて我を回復させてさらに苦痛を与えようと、見た目通りの鬼畜!

 

 どうしてこうなった?我はただ転移をしに来ただけなのに。

 こいつだ、この男だ、今も狂った笑顔で噛みついて来る、マサキに関わったからだ。

 お、恐ろしい、こいつに比べたら魔装機神など可愛いものではないか。

 神も魔王もエイリアンも味方につけて攻撃してくる、どんな固有結界だ!

 こいつのペースに巻き込まれた時点で詰んでいた。

 絶対に踏んではならない地雷に元気よく飛び乗ってしまったぁ!

 嘘、まだ5分・・・無理無理無理無理!絶対無理!

 

 「もっちゃらへっちゃらもけもけさ~」

 

 今のは?我を召喚する古代呪文、カッコ悪すぎて誰にも使用されないまま封印指定されたのでは。

 どこの誰だか知らぬがでかしたぞ!これで優先的に転移できる。

 

 ※召喚術式でお呼ばれした場合はゲートを優先的に使用できる。暗黙の了解!

 

 しかも、我が望んだ転移先ではないか。フハハハハ!我、幸運値高かったのだな。

 形勢逆転だな、貴様に受けた屈辱は、貴様の故郷とウマ娘とやらに万倍にして返す!

 ざまぁ!ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 ぬわぁぁぁーーー!転移中で既に半透明な我をごく自然に殴ったぁ!

 なんだその結晶は・・・異界門の力に干渉した、番人でもない奴がどうして・・

 うわぁぁ!ペコニャンが謎の体液をかけてきた、アレ浴びたら絶対ダメなヤツだ。そういうところも鬼畜。

 結晶の巨腕で我を殴り、転移を妨害した上に溶解液を浴びせかける!最悪!

 なんでエイリアンと息ピッタリなんだよ!クソッあいつペコニャンとも友達だったか。

 

 ぐっ、転移は転移はまだか、早くしないとマサキ&ペコニャンの合体攻撃に敗北してしまう。

 オゴッ、早く早く早くしてーーー!ブベッ、溶けるーー!ガホォ、もう嫌だァァァーーーー!

 

 タスケテ・・・タスケテ・・・タスケテ・・・ダレカ、ワレをタスケテクレーーーー!

 

 ♦ 

 

 ふぇぇ、せっかく戻って来たのに"ヴォルなんとかさん"の回想が長いよぉ。

 

 

 大変長らくお待たせしました。

 みんな俺やで!アンドウマサキやで!

 こうやって帰ってこれたのもみんなの応援があったからこそでして・・・

 ううっ・・・ありがとう!どうもありがとう!シーズン2(仮)はーじまーるよー!

 

 え?アンタ誰だって?そんな!

 えっとですね、しゅ、主人公です・・・嘘じゃないです、信じてくれぃ!

 ここに至るまで聞くも涙語るも涙の大冒険があったのです。

 

 飛ばされた先で修行したり、遊んだり、バイトしたり、友達たくさん作ったり。

 ありがとうみんな!またいつの日か無限のフロンティアで会いましょう。

 目を瞑ると世話になった奴らの顔が思い浮かぶぜ。

 

 カウボーイ(キザ)、乳牛姫(ウシ娘?)、修羅(ちょんまげ)、妖精姫(117歳)、毒舌ロボ(クソムカつく)

 ウナギダンサー(へそ姫)、ペルさん(ラスボス系親父)、モンスター(仲魔)の皆さんたち。

 それと・・・見た目グロイけどみんな大好きペコニャン!(ゼノモーフ)

 

 フフフ、スマホの画像フォルダが人外魔境でパンパンだぜ!

 合成写真やコスプレだって言われて誰も信じてくれないだろうなぁ。

 

「死ね死ね死ねシネシネシネシィィィネェェェーーーーッッッ!!」

 

 なんかうるさくて大きいのがいるな。

 思い出を振り返る事すら許してくれないの?もう何なの何なの?

 

「ようヴォルテッカ!」

「ヴォルクルスだぁぁぁ!」

「知らねーよ。でかいよ、キモイよ、こっち来ないでよ!」 

「マサキ・アンドー!どこまでも邪魔をするか!」

「その呼び方なんか変じゃね?俺はアンドウマサキですけど」

 

 そうだ、電話しないと。迎えに来てもーらお。

 

「あ、シュウ?オレオレ、俺だってばよ。ちげーよ、詐欺じゃないよ。は?証明してみせろ」

「マサキ、消え失せろーーーー!」

「ボンさん上から86・57・87、ライスは75・51・76、何で知ってるかって?ひみちゅ☆」

「通話をヤメロ!」

「そうそう、うん、ああ、わかった。うん、じゃあよろしく~」

 

 ええと次は・・・

 

「母さん?俺だオレオレ、違うよ詐欺じゃないよ!は?証明しろだって、うーん」

「ぐ、スマホ片手に我の攻撃を捌くだと!」

「昔庭に埋めたタイムカプセルに、学生時代やんちゃだった頃の母さんの写真が」

「なぜ当たらぬ?当たってもびくともせぬ!」

「え、うん、ネオさんに貰った、あ、ケンカはやめてね。遅かったか・・・」

 

 あの写真は今見ても十分可愛いと思う。マザコンの贔屓目とか思った奴、アカシックバスターな。

 

「はーい、わかってまーす。うん、ごめんね、ありがとう・・・じゃあまたね」

 

 これ以上話すと泣きそうなのでこの辺で切り上げる、会ったら絶対泣く。

 電話越しだったけど母さんもちょっとウルッと来ていたと思う。

 

 シュウが迎えを寄こすまでの間どうしようかな。

 荷物(異世界土産)の整理でもするか、あ、ペコニャンに貰ったお弁当があったんだった。

 重箱からフェイスハガー飛び出してきそう・・・こ、怖いからシュウにあげようかな。

 今何時だ?この世界の時間軸に設定・・・これでよし。

 いろいろあって修練の時間過ぎちゃってる・・・やるか!

 

「ふん、ふん、ふん・・・・ふんぬっ!」

「なぜ腕立て伏せを始めた?」

「したいからだっ!」

「そ、そうか、何なのだ、これは!どうすればいいのだ?」

「暇なら数えてくれる」

「よかろう、451・・452・・・453・・・って違う!」

「え、違ってた?400までは合ってると」

「そうではなくて、我と戦え!そのために追って来たのだろう」

「俺の気はすんだし、こうして無事帰ってこれたから、もういいかなって」

「貴様がよくても我はよくないのだ!」

 

 もう駄々っ子さんめ!

 

「じゃあ、やるか」

 

 腹筋を止めて立ち上がる。

 戦わないと納得できないのであれば仕方がない。戦ってやるが、後悔するなよ。

 武人として挑まれたからには、どのような勝負でも受けて立つ。そして正面から叩き潰すのみ!

 そうだよな、アレディ、シンディ師匠(腹筋が素敵)

 

「お前がどんな奴だろうと正々堂々真剣しょ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「な、なんだ、アホ特有の発作か?」

「う、ああ、な、なんて恐ろしい姿だ!しかもでかい!怪獣?」

「今更驚かれても、ターミナルにいたときから、ずっと見ていただろうに」

 

 うわー、コイツこんな見た目だったんだ。

 愛バの悪口でカッとなっていたから、全体像をよく見てなかったわ。

 太陽の下でよーく観察してみるとですね・・・うーん、気持ち悪いよぅ。

 なんかドロドロベチャベチャする体液出しそうだよう・・触りたくなーい。

 

「お前を倒し、これまでの屈辱を晴らす!そしてこの世界を地獄に変えてやるわ」

「せっかく帰って来たのに、それはかなり困る」

「我にはわかるぞ、ターミナルでみせた強さは、力の供給元があったからこそ。現に貴様の覇気は著しく低下しておるわ」

「その通りですけど!でもここはホームグラウンドなのでプラス補正が入るかもよ」

「地元でも負けるときは呆気なく負けるものだ」

 

 実体験か?地元で戦った挙句にボロ負けしたことでもあるのか、この邪神。

 

「負けない、ここまで来て負けられない」

「本気になったか、だが我の千里眼(弱点サーチ)発動!ほう、そうか貴様・・・ククク」

 

 今何か嫌なものを感じた。こっちも相手をよく観察していかないと。

 あ、アレは・・・おぱーいの部分から腕が生えているだと!?なんて挑戦的なデザイン。

 ほうほう、その腕についた大鎌を地面に刺して・・・こっちに来ちゃうのね。

 わー、鎌が地面をジョーズみたいに進撃。よっとキャッチ!この程度じゃ俺は斬れませんね。

 

「どうした!"おぱーいアームカッターが"俺の弱点だってかぁ?効いてねぇぞ!!」

「ここからだ、貴様が苦手なのはこれだろう!」

 

 空気が変わった?なんだか寒気が・・・さっきまで快晴だった空が暗く!?

 嫌だな・・・なんか出てきそう、お?

 

 今半透明の何かみえ・・・か、囲まれ!

 ひゅ~どろどろどろ的な効果音が聞こえそう!ひ・・・ひぇ!

 

「きゃーーー!いやぁーーー!出たのおォォォォォォォォォッッッ」

「ハハ、ハハハハ、そうだ泣き叫んで許しをこえ!」

 

 お、お、お化けの大群だぁぁーー!ひぃ!地中からも、は、離せぇ!

 幽霊はアカン!モンスターもクリチャーもエイリアンも耐性が付いたけどゴーストはアカーン!

 多分俺、サイコパス殺人鬼には勝てる。でも、貞子には負けちゃう。

 物理効きにくそうな奴は倒しにくそうでさぁ・・相性っていうのかなぁ・・別に怖いとかじゃ。

 嘘です!存在そのものが怖いぃぃ!ホラー映画一人で見るの無理~サメ映画は割と好き~。

 くっ!フロンティアやターミナルでは霊体系の相手は防衛本能でスルーしていたから、まともに相手をしたことがなかったんだ!

 修練中「苦手を克服するのも修練です」って緑のポンコツがゴーストタイプの雑魚を何度もけしかけるからいけないんだ!それで余計に苦手になったら意味ないじゃん!

 お陰で駄猫商人から怪しいお守り(ぼったくり)買っちゃったよ。霊感商法やめーや!

 

「ハハハハハ、こんなものが怖いのか!最初からこうしておればよかったわ」

「悪霊退散悪霊退散悪霊退散・・・チラッ・・・退散しろや!」

 

 念仏唱えたくても詳しくないからわかんない!

 ぎゃーーーー!誰かぁ!ゴーストバスターズ呼んで!ゴーストスイーパー美神さんでもいいよ!

 多い!多いから!もういいから!怖すぎるから、やめてくださいよ。

 ぬかったわ、まさかネクロマンサーだったとは、邪神様なめすぎた。

 

 どんどん数を増やしていく幽霊軍団が俺を取り囲み動きを封じようとしてくる。

 半透明の癖に!普通に触ってくるなよ。

 

 (・・・さん・・・さん!)

 

 脳に女の声が!ひぃぃぃ、このままでは精神汚染されちゃう。

 気絶した方が楽なのに、修練の賜物か敵を前に意識が強く覚醒しちゃってる! 

 

 クッソ!帰還してからの第一戦はもっとこうスマートな大活躍をするべきじゃないの?

 ほらアレじゃん、機体乗り換えのお披露目戦闘?もしくは修行を終えた後の新技発表回みたいな。

 ヴォル何とかさんよう、マジで空気読めや。

 アンタのせいで俺のシーズン2、一話切りされたらどうすんのよ。

 

 おごご、む、群がり過ぎでは?お前らにモテても嬉しくない。

 幽霊団子の中心になってしまったじゃないか・・・な、泣いてないもん!

 ミツバチが集団で敵を蒸し殺す「熱殺蜂球」を思い出した。

 あれ自爆技なんだよな、敵も死ぬけど自分たちも自分の熱で死んじゃうの・・・ミツバチすげぇ!

 

「死ね!」

 

 ヤバイ、幽霊は足止めか。下半身ゲロビームが来ちゃう!

 こいつさっきからシネだのコロスだのホロベだの、物騒かつ失礼ですわ!

 あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ。今、弱くなってるのは俺ですけどね。

 やだぁ・・・俺の死因、幽霊ハーレム団子からゲロビのコンボを食らって死す!

 笑えない、このままじゃあいつらに顔向けできない。

 

 (マサキさんってば!)

 (幻聴!?)

 (私です!メルアですよ!)

 

 メル?・・・金色のガッシュという漫画に「メルメルメ~」と鳴くキャラがいてな。

 

 (ウマゴンじゃねーよ!)

 (いい漫画だよな。道徳の教材として推薦したいぐらいだぜ)

 (パートナーとのお別れシーンが泣けて泣けて・・・ちがーう!女神の私をお忘れですか!)

 (うん)

 (この男「うん」って、一瞬の躊躇もなくうんって言いやがった)

 (ごめん思い出すから待って!あーあー、アレだ金髪巨乳!)

 (そんな覚え方かよ!合ってますけど!)

 

 何か思い出して来た。

 そうそう、オルゴナイトを授けてくれた三女神のお一人でしたね。

 この会話も俺の脳というか心の中で0.3秒ぐらいで行われてるんだったな。

 

 (今までどこにいたんですか?急に連絡が途絶えたから心配しましたよ!)

 (かくかくしかじか)

 (な、なんですってー!異世界に?そうか、それで通信が途絶えて)

 (オルゴナイトは向こうにいた時も使えたぞ、感謝します)

 (それはもうあなた自身の力ですからね。ガンガン使ってもらって結構です)

 

 神様にも縄張りがあるらしく、メルアを含む三女神様も向こう側へはおいそれと行けなかったようだ。

 通信もNG、そもそもメルアは俺がどこの飛ばされたのか知らなかったようだ。

 

 (ずっと探していたんですから、とにかく無事でよかったです)

 (ありがとな。向こうでサボっていた訳じゃないから安心しな)

 (何があったかわかりませんが、相当な修練を積みましたね。先程の巨腕など大したものです)

 (褒められて超嬉しい!)

 (多くの助力を得られたようですね・・・彼には会えましたか?)

 (ああ)

 (黙っていてごめんなさい)

 

 会ったよ、自分のことが少しわかってスッキリ・・・しなかったなぁ。

 モヤモヤしますの!

 

 (あなたを後継に選んだのは私の意思。彼に言われなくても私は絶対にあなたを見つけた)

 

 わかってるよ、大事な約束だったもんな。

 

 (信じてくれますか?まだ私たちを頼ってくれますか)

 (当たり前だ。今までもこれからも、女神様には働いてもらわないと困る!思いついたら即神頼み)

 (あなたはそういう人でしたね。では、これからのためにも頑張りましょう)

 (おう)

 (目覚めた彼女たちのためにもね。二人とも無事に継承完了したようで、私もホッと一安心)

 (めざめた・・かんりょう・・それって)

 

 そうか、そうか、そうなのかーー!。

 あいつらが・・・あの二人が・・・ううっ・・うおおおお・・・お祝い、お祝いしないと!

 こういうときはケーキ、それともお赤飯ですかね?

 

 会いたい、会いたい、会える、会えるんだ、もう会っていいんだ!いやっほぅ!

 

 そうと決まれば早く帰って宴会の準備を、ああ、この日のために考えた1084通りの再会プランから最良のものを選び抜いて、待て待て、まずは身だしなみを整えて、やだっ!メンズエステ行った方がいいのかしら?

 げははははははは、楽しみ過ぎて最高にハイッッ!てヤツだぁ!

 

 (ちょ、バカ!集中を乱すと瞬間的超女神通信がきれ・・・ま・・)

 

「ん?ぎょぇぇぇーーー!幽霊団子絶賛継続中だったぁ!」

 

 せっかく帰って来たというのに、ここで・・こんな所で・・あいつらに会えないままで・・

 クロにもシロにもアルにもココにも、もう少し、もうすぐなんだ!やっとなんだよ!

 

 死にたくない、死ぬわけにはいかない、死んでたまるか!

 

「死ね!」

 

 ウルサイウルサイうるさいうるさい!

 幽霊たちに集られ身動きのとれない所に邪神のゲロビが迫る。

 

 死ねだと!何様のつもりだコラ、ああ神様でしたね。

 邪魔するな、邪魔すんなよ、邪魔なんだよ!

 俺じゃない・・・俺じゃない・・・・お前・・・おまえだ・・

 

「お前が・・・お前がぁァ!!死ねぇぇぇーーーーッッ!!!」

 

 全力全開手加減一切なしのオルゴンスレイブ!

 高純度超威力のオルゴンエナジー砲を口から発射した姿は、幽霊に散々ビビッていた男とは思えない。

 

 絶大な覇気の奔流、発射の余波だけで無数に存在した幽霊たちが消滅する。

 物理攻撃耐性を誇る霊体の軍団が成すすべもなく消した、それがどれほどのエネルギー量か検討もつかない。

 人の身で出していいビームでは断じてない!

 

「ぐぁぁァァァァァァァァ!!」

 

 邪神のゲロビをいとも簡単に飲み込んで押し戻す。

 撃ち返された自分のゲロビ+オルゴンスレイブの威力がまともに命中する。

 下半身が爆発し大きな傷を負わせることに成功。

 邪神の体が傾く、超速再生は間に合わず、倒れそうになる巨躯を必死に押しとどめる。

 

 (今のあなたなら呼べます!私の真名を)

 

 真名当ての試練、そんなこともありましたね。

 ああ、大丈夫だ。ぼんやりだけど浮かんできた。

 

 フィンガークリーブ!続けていくぜ!

 邪神の巨体に接近、女性っぽい部分の顔面に両手の指を食い込ませて握り潰す。

 グロッ!ぐちゅってなった・・・狙うところミスった。

 

「そらいけっ!」

 

 でも止めないぞ!結晶生成!体内にオルゴン・ブーストナックル!

 内臓あるか知らないが、ぶち破れ!

 

「こんなものでぇ!」

「はい、捕まえた」

「っ!?」

「もう逃げられないぞ☆」

 

 ハートさんっぽく言ってみた。

 一番目立つ上半身の顔部分まで駆け上がり接触。

 捕まえるも何も、これだけの図体だから触り放題ではある。

 大きすぎて直接掴むことはできないなら、俺の覇気で相手の全身を包んでやる。

 掴むのは本体ではなく袋になった俺の覇気そのものだ。

 これも異世界の修羅テクニックですよ!

 これなら大きさは関係ない!体の大きさだけで優位に立ったと思うなよ。

 

 押さえつけながら全力で押し出す。

 邪神の体を地面で削ってやるわ!ゴリゴリおろしてやるらぁぁーーーーー!

 

「はあああああああっ!!」

「がっ、ごが、ぬがぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ある程度削ったかな、更にちょっと実験・・・今の俺なら、ふぬぬぬぬぬぬああああああ!!

 できたぁ!持ち上がった!覇気万能説を更新中。

 母さんたちが巨岩を持ち上げる時はこうやっていたのね。この感覚大事!忘れないようにメモ。

 覇気でコーティングしてからの~どっこいしょ。

 

「バカ・・な・・・我を持ち上げた?」

「これが本命だ!」

 

 巨大結晶生成!バスカーモード?ここに来る前からずっとやってますけど。

 髪の色と長さが変わってるでしょ、後、目がちょっと光ってるらしい(緑時々七色?)

 今だけこんな風になっちゃってるけど許して、それもこれも"あの男"のせいだ。

俺だって鏡みてビックリしたんだからね。

 

 悪魔みたいな黒い装甲?それはですね~ペルさんたち(仲魔)のせいですね!

 ゲートを通過する際の負荷から身を守ってくれる闇の衣(仮)だって、詳しくは知らぬ!

 

 もっとだもっともっと大きく!そうそうそれぐらいで。

 俺の胸部中心から円錐状のオルゴナイト(特大)が発生!高速大回転!

 ドリルですよドリル。漢のロマンですよ。これを問答無用でぶっ刺したらぁぁ!

 名付けて・・・

 

「オルゴナイト・バスター!」

 

 防御障壁から火花が、貫通して抉られた肉片が、飛び散るがきにしない!

 回れ、もっと強く早く邪神の体をその魂ごとゴリゴリ削ってみせろ!

 

 あ、メルアの真名わかっちゃったかも。

 

 砕け、俺の敵を、邪魔する奴らその全てを!砕け、砕け、砕け!

 

 (さあ!呼んで下さい!)

 

「砕けぇ、グランティィィィィドッ!!」

「!?!?!?」

 

 (ハイッ!正解です)

 

 "グランティード"それが女神メルアの真名。

 「グランなんたら」系の名前カッコいいじゃないの。ロボ名としては割とポピュラー。

 グランゾード、グランカイザー、グランシグマ、他にもいろいろ。

 天級にグランヴェールのグラさんもいるしね。

 

 体に風穴を空けたヴォルクルスは苦悶の声を上げる間もなく爆裂する。

 胸から生やしたオルゴナイト(巨大ドリル)を最後にパージしてぶつけてやった結果だ。

 

『一気にやってしまいましょう、マサキさん!』

「おう!」

 

 メルアの声をより身近に感じる。これも真名を呼んだ効能ですか。

 

『エクストラクター、出力最大』

 

 例のアレやっと言えるぜ。あー長かった。

 武器の選択?うーん・・・棍棒的な鈍器が・・・ダメ?・・・じゃあ剣以外で。

 

『「オルゴンマテリアライゼーション!!」』

 

 結晶生成!手にしたのはちょっと長めの手持ちドリル。

 

『槍です』

「いや、これ多分ドリ・・」

『ヤリです』

「ウッス、これはヤリっす」

 

 しゃぁーー!いっくぞぉーー!と、その前に・・・

 背中に余剰覇気の出口を用意してっと、こうすると体内のエネルギー効率が上昇する。

 見た目も派手になっていいしね。

 

『本来はマントみたいになるはずですが、羽?』

「イメージはウイングゼロ、天使の羽根・・・どう?」

『うーん、超劣化版光の翼(V2)でしょうか』

「ですよねー」

 

 天使の羽根はまだ無理だったんや!イメージが足らん!光の翼もカッコいいからいいの!

 ドリ・・槍を握りしめて突撃開始!

 

「おらっ!」

 

「せぇぇぇぇぃっ!!」

 

「まだまだぁ!」

 

「でやああっ!」

 

 アカン、俺ヤリ使うの初めてだった。

 よくわからないので剣の要領で振り回して相手を打ち回し、空中に跳ね上げた!

 メルアが何も言って来ないので、これでいいんだよね。もう、好きにしろってことだよな。

 

『今です!決めてください!』

 

 槍が回転した・・・やっぱりドリルだったじゃん。

 わかってます槍ですよね、ランサーですよね。

 

「テンペストォォ・・・ランサァァァァーーー!!」

 

 回り込んで、回転させた槍で貫く!

 

「くらぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 突き刺した勢いのまま地面に激突、その間も槍は元気よく回転中だ。

 ちょ、待て待てまて、勢いがおかしい!

 掘ってるヴォルクルスごと地中にトンネル掘ってる!地底旅行する気はねぇぞ!

 

 ヴォルクスの体が崩れて行く、散々痛めつけてやったから、その核(魂)にもダメージが入ったようだ。

 

「オマエは・・本当に・・ナン・・・ナノ・・ダ・・・」

「ただのアンドウマサキだよ!!」

「アンドー・・・マサ・・・キ?」

「アンドウな」

 

 最後伸ばさなくていいよ。

 

 なんか光ってないっスか。

 そっかそっか、致命傷を負ったことで大爆発を起こすんだね。俺を巻き込んでかい! 

 うおぁ!なんか噴き出したぞ!

 

『あの、逃げた方が』

「わかってる!そーれぃ!」

 

 地中からの華麗なる脱出!

 今の俺、ジャンプ力だってすご・・・少々飛び過ぎましたね。うわーいお空キレイ。

 

『力加減は今後の課題ですね』

「すみません!カッコよく決められなくてすみません!」

『謝らなくいいですよ。外野からは滅茶苦茶凄い動きにしか見えませんから』

「それっぽく取り繕うのは得意だから許して」

『はいはい、着地態勢急いで!』

 

 ・・・2・・・1・・・0・・・はい着地!

 

「どっこらっせいィィィ!」

 

 あああああああ、衝撃がジーンときたぁ。我慢我慢!

 敵にトドメを刺した後の大爆発をバックに悠然と立ち上がる俺です!決め顔☆

 フッ、ゲームなら今頃バリバリのトドメ演出カットインですな。

 ひゃーー!思ったより凄い爆発だ!んべ、髪が口に入った。

 衝撃波すんごい。光の翼が!もげそうなぐらいブリュンブリュンのバッサバサ!

 もげ・・噴出口をちょっとづつ消せばいいだけだった。ふーびっくりした。

 

「・・・もういい?終わった」

『はい、お疲れ様でした。これにて引き継ぎは完了となります』

「よし!任務完了ってな」

『歴代後継者の中でも今回が一番苦労しました』

「できが悪くて申し訳ないッス」

『でも、間違いなく歴代最強です。私よりもずっと強くなれますよ』

「急に褒めるなよ~嬉しいじゃない////いろいろありがとうな、グランティード様」

『真名はゴツいのでメルアでお願いします。そうだ、次はカティアちゃんとテニアちゃんを紹介します』

「なら俺は愛バたちを自慢しちゃおうかな」

『楽しみにしていますね。ではでは、女神通信終了しまーす』

「はいよ。またな~」

『言い忘れました!シャナ=ミア様がお会い・・した・・・い・・と・・心臓ぅぅぅおお』

「しんぞう!?何、捧げればいいの?どこに、調査兵団なの!」

 

 心臓で最後締め括るってなんだよ。怖いし不安すぎるわ!

 シャナ?灼眼のシャナは好きですよ。悠二さんが終盤で・・くぎゅぅぅぅぅ!

 

「あーかなり地形が壊しちゃったな・・・地主が現れる前に逃げるか」

 

 地面がボコボコの割れ割れでエライことになってる。

 地震でもあったのか?

 俺がやらかした分以外の破壊痕があるんだが・・・。

 

「クロスゲートは・・シュウと御三家がなんとかするか」

 

 ヴォルクルスが消滅したであろう爆心地の大穴。

 覗き込んでみてもあの巨体は確認できない、完全に消え去ったか。

 覇気とは違う霊気?みたいなものが周囲に漂っている。

 この中には邪神に囚われた生贄たちの魂も混じっているのかな、成仏しろよ。

 しばし合掌して、黙祷!

 

 俺の足元をコソコソ移動する妙な虫?発見。

 

「キャッチ!」

「あ゛なぜバレた。は、離せ!」

「お前が本体だな。この世界にお前の居場所は無いぞ・・・きっしょ!」

 

 手の平サイズのカブトムシ(雌)かフンコロガシかと思ったら。

 髑髏顔のパンデモニウムさんでした。えんがちょ!ってこういう時使う言葉であってる?

 

「なぜだ、なせだ、なぜだ、神である我がどうして・・・」

「そういうのいいから。見た目をもうちょっマイルドにしてくれる?」

「こ、これでよいか」

 

 おめでとう、パンデモニウムはカマキリに進化した。

 まあ、これならいいか。

 

「なぜこの世界に来た?お前は俺の何を知っている、さあ、全部ゲロっちまいな」

「・・・・」

「ハリガネムシって知ってる?カマキリに寄生して最終的に入水自殺させ・・」

「わかった!喋る全部喋るから待て」

 

 邪神への尋問開始・・・ほうほう、魔装機神、地底世界ラ・ギアスとな・・・

 そこには似て非なる俺や、俺の知っている奴がいるのね。

 そして、敗北を繰り返したこの邪神様は八つ当たりのために、俺の世界を狙ったと。

 小者か!そんなんだから勝てないんだよ、小っちぇなぁ!

 

「うそんwww母さんたちロボなのwwwいや、納得だわwww」

「うむ、サイバスターに乗った向こうのお前に何度やられたことか」

 

 ロボ・・パラレルワールドの母さんたちロボ・・・超見てぇ!

 

「はい!こっちでの母さんたちは、こんな感じです」スマホ画像をカマキリに見せる

「・・・ふつくしい////」

「は?今なんて」

「い、いや。フン、亜人の小娘に成り下がったか!そっちの方が全然よいと我は思うぞ///」

 

 やだ!母さんたち邪神も照れるぐらいの美人さん!息子として鼻が高いッス。

 しばし邪神と情報交換・・・ルクスの手引きではなかったか、ならいいけど。

 

「それでどうする?帰るだけの力は残っているか」

「もういい、なんか疲れてしまった。虫のいい話ですまぬが、終わらせてくれ」

「いいんだな・・・さらば、ヴォルテッカさん」

「ヴォルクルスな」

 

「「お待ちください!!」」

 

 おお?なんだなんだ?

 ヴォルクルスを苦しまぬよう消そうとした瞬間ゲートからなんか飛び出てきた!

 小さな光る・・・トンボとバッタ・・・また虫だ。カナブンじゃダメだったの?

 

「グラギオス!ラスフィトート!どうしてここに」

「知り合い?神友と書いてしんゆう?」

「すみません!この者の処遇はどうか我らに任せていただけませんか?」

「勝手な言い分だとは重々承知。ですが、こんなのでも一応・・・長い付き合いですので」

「お、お前たち」

 

 何コレ、トンボとバッタがカマキリを庇って頭下げて来るんだけど。

 俺にどうしろと?

 異世界で散々奇妙な冒険したと思ったが、まだまだ未知との遭遇がまってるんだなぁ。

 

 はっは~ん。こいつらペルさんに言われて来たんだな。あの人?変なところで気が回るな。

 危険を顧みず友達を助けに来るとか・・・ダメ!俺こういうの弱い・・泣かせるじゃないのよ。

 この世界を侵略、というか滅ぼしに来た・・許されることじゃないけど・・まだ死人はでてないし。

 

「裁きを申し渡す!」

「「「は、はいっ!」」」

「邪神はキッパリやめろ、いい神様になって迷える誰かを正しく導いてやれ」

「・・・それだけでいいのか」

「それだけ?大変だぞ、いろんなお願い事をされるし、理不尽に悪態つかれるし、助けてやっても必ず感謝される訳じゃない、自分より弱くてバカな連中を見捨てないで、見守り続ける忍耐と根気が必要だ・・・辛いな」

「見守る」

「もちろん罪を犯した奴にはやり過ぎないよう天罰を与えてもいい。どうせ神様やるなら、恨まれるより感謝された方が仕事のモチベ上がるだろ。そうだな・・頑張って神殿造ってもらったり、お祭りをやってもらえるぐらいになれ!それが今後の目標な」

「「「・・・・」」」

「あ、向こうの俺たちにもう手出しするなよ。それと・・・」

 

 抵抗すると思ったがカマキリは俺の提案をすんなり受け入れた。

 奴なりに何か思うところがあったのかね、本音では戦いばっかで疲れていたのかもしれないな。

 これからは、まだ発展前の知的生命体を見守りつつスローライフするんだとさ・・・ちょっと羨ましい。

 三柱はそれぞれ、破壊神・創造神・調和神でよくある三すくみ関係だったんだと。

 元々は大昔に滅んだ巨人族の怨念がどうたらこうたら・・・巨人ねぇ・・・。

 

 最終的に凄く感謝された。いやいや、俺は特に何も・・・虫に褒められちゃった。

 

「もう戻ってくるなよ」

「「「お世話になりました」」」

 

 刑務所から出所した元囚人か!お前ら神でしょ?腰が低くなっちゃってまあ。

 

「ペルさんによろしく、お、ゲートが起動したぞ。向こうからも呼んでくれているんだな」

「ありがとうございました。あなた様の今後にどうか幸あれ」

「噂にたがわぬお方で感服しました。どうかお達者で」

 

 トンボとバッタがゲートに入って行った。

 

「じゃあな、まあ短い付き合いだったが・・・元気で」

 

 最後はカマキリ、殴り合ったり殺した合った奴だけど・・もういい許した。

 多分こいつ以上にムカつく存在がいるからかだな!ルクスとかルクスとかルクスとか!

 

「忠告だアンドウマサキ、この世界は」

「ストップ!それは言ったらマズイやつだろ、大丈夫、俺とあいつらで何とかしてみるよ」

「そうか、大きなお世話というやつだな・・・自分の正体には気付いているか?」

「・・・それでも俺は俺だ」

「フッ、ならばどこまでも先へ進むがいい!己が使命を果たした後に何が残り、どの様な結末を迎えるか、別次元で吉報を待っておるぞフハハハハハ!」

「へいへい、お前に「ざまぁ」されないよう精々頑張るよ」

「さらばだ!アンドウマサキ、願いの申し子よ」

「さよならだ、サーヴァ・ヴォルクルス」

 

 カマキリが颯爽とゲートインした。

 これは勘だが、あいつ案外いい神になりそうな気がするぞ。

 荒々しい破壊神が、恵みをもたらす豊穣神にチェンジするなんてよくある話だしな。

 

 願いの申し子ね・・・そんな大層なもんじゃねぇですよ。

 とある奴に言わせれば俺は"代わり"にすぎないらしいからな、ちくしょーめ。

 

 今回はどんな悪人にだって罪を償い改心する余地がある!というのを学んだ事件だったな。

 

「ただしルクス、てめーはダメだ!」

 

 あーなんか思い出したら腹立ってきた。

 あいつ、俺の愛バに手を出してないだろうな。もしあいつらに何かしていたら(# ゚Д゚)

 

「どこにいようとも必ず探し出し後悔させてやる!異世界で学んだ鬼畜芸の数々お見舞いしてやんよ!」

 

 げひゃっ、げひゃははははははははwwwげぼぼぼぼぼぼwwwえっふん。

 

 失礼、聖杯の泥より汚染された感情が決壊した。主に恨み辛み嫉み!

 アヴェンジャー「マサキ・オルタ」が誕生しても知らないわよ。

 

 シュウまだかなー。ちゃんと俺の現在位置わかってるのかな、GPSは有効なはず。

 そういえばさっき人を見かけたな、ちゃんと避難してくれただろうか。

 こうしているのもアレなので、周囲を探してみよう。

 

 荷物を確認、よいしょっ・・・・はっ!殺気!

 

「せいやっ!」

「ちょ、マサ・・なんで・・ぐぇ・・」

「俺の後ろに立つな!!」

 

 油断も隙もあったもんじゃねぇ、俺の故郷2ndはいつから野盗が出るようになったんだ?

 正確無比な裏拳を顔面にヒットさせてやったぞ!

 

 体に染みついた感覚は帰還してもそのままだ。

 

 フロンティアではな、人の背後に忍び寄った者は問答無用で殴り飛ばしていいんだよ!

 いや、ホントに危ないのよ。ヒャッハー!な奴らがそこら辺中にいるんだもん。

 俺も駄猫とか毒舌ロボとか魔改造おばさんとか、その他諸々に背後から襲われたんだぞ。

 

 あ、でも乳牛姫の可愛いいたずらで「だーれだ」された時は甘んじて受け入れた。

 だってさ、背中にあててんのよが凄いんだぜ!

 本当にさぁ、キザカウボーイが素直に羨ましく妬ましくて、お幸せにって祝福した!

 妖精姫?ああ、そんなのいたな・・・

 俺のことド変態のド畜生って言ったから、おぱーいをド派手にド揉みしてやったぜ!

 初心なアレきゅんが真っ赤になって仲裁してくれたね。

 あらら、この二人、そういうご関係?かなりの年上ですがいいの?(100歳差)

 ふ~ん、俺は年下好きなんでわかりませぬなぁ。

 

 え?人の女のおぱーいを触るな?事故です不可抗力ですよ!

 は?もし、愛バのおぱーいを別の男が触ったら?・・・両手を切り落とすけど何か?

 

 地面に伸びている奴を確認する・・・こいつ、ウマ娘か?

 どこかで見た気がする・・・くそ・・これじゃわからん!

 

「マサキ!」

「ああ、よかった」

「本物、本物のマサキ・・よね」

 

 ウマ娘らしき人物が駆け寄ってくる。さっき見かけた人たちだな・・・俺の名前を呼んだ?

 

「・・・・」

「ねえ、何でゴルシちゃんを攻撃したの?背後から忍び寄ったのは悪かったけどさ」

「ゴルシ・・・こいつゴルシだったのか!」

「だったのかって・・・」

「ああ、えっと・・ですね」

「マサキ」

 

 凛とした力強い声を発したウマ娘(仮)がおれの顎をクイッと持ち上げて顔を覗き込む。

 ち、近い近い近い!この人、相当できるぞ!一瞬で間合いに入いられた。

 

「その目、どうしたの?」

「あの・・・」

「目だけじゃないわね、五感全ての認識に錯誤が起こる何かをされているわ、そうでしょう」

「それは、どういう」

「まさか・・・」

 

 俺の顎から手を離した人は、頭もいいみたいですね。

 

「マサキ・・・あなたには私たちがどう見えているの?」

 

 俺の知り合いらしいな・・・誤魔化すのは不可能か。

 

「まずは謝らせてください。ごめんなさい、今の俺にはあなたたち、ウマ娘の姿を正しく認識できないのです」

 

 そう、そういう風に処置してもらったのだ、生きるために。

 

「嘘・・・」

「そんな、そんなことって」

「愛バに会えない禁断症状で生死の境を彷徨った、俺を見かねた人物が術(呪い)を施してくれた。症状を和らげる代わりに・・・ウマ娘の姿も声も匂いも全く別のものにしか感じられない」

「・・・はぁ、なんてことを」

「だから、あなたたちが誰なのか、わからないのです。本当に申し訳ない」

 

 精一杯頭を下げる。今の俺にはこんなことしかできない。

 三人は愕然とした表情を浮かべて後に悲しそうな顔をする・・・うっ、すみません。

 

「私だよ!ココだよ!あなたのファインモーションだよ!」

「ココ!?お前ココなのか!ああ、そういう・・・ココ、心配かけたな、今帰ったぞ」

「ああ、そういうって何?と、とにかく、おかえりなさい」

「あ、うん、会えてうれしいぞ、ははは」

「なんか変・・・」

 

 うーん、本来なら感動の再会なのにギクシャクしてしまうな・・・だって、ねぇ。

 

「マサキさん、私、アルダンです。あなたに助けていただいたメジロアルダンです」

「アルダン!ああ、元気になったんだな・・・ホント元気に、うん、見違えた」

「ちょっと引いてませんか?・・おかえりなさい、この日を待ちわびていました」

「うん。ただいま・・それから契約のことだが、すまん!後でもいいか・・今は気持ちの整理が」

「え、ええ。その方がいいでしょう。後ほどよろしくお願いします」

「ホントごめんな・・・」

 

 がぁぁぁぁ!悲しませてるーー!わかってるけど、あーーー!俺ってば罪作りぃぃ!

 ペルさん!アンタなんてことを・・いや、俺のためにしてくれたけど・・やっぱつれぇわ。

 

「それで、あなたは・・・その」

「その前にいい」

「はいどうぞ」

「私の姿がどう見えているか答えてくれる?」

「・・・言っていいのなら」

「構わないわ」

 

 お許しが出たので言っちゃうぞ。もう、ずっとツッコミたかったんだよ!

 

「侍です」

「サムライ?どんな」

「ガタイのいい男性の侍です、自分の武器に「武神装甲ダイゼンガー」とか名付けちゃうぐらい豪胆な漢。声もすごく勇ましくて素敵っス。なぜか日本人ではないっぽいですが・・・」

「そう、それで、私は誰だと思う?」

「これ当てても、外しても怒られるパターンや!・・・お、お姉さまですか?」

「正解よ。へぇーマサキは私を痛々しいサムライダンディだと思っているのね、へぇー」

「思ってない!痛々しいとか、カッコイイおに、お姉さまでございますですよ」

「まあ、いいわ。よく帰ってきたわね・・ホント、あなたは・・世話が焼ける・・」

「うん。ただいま姉さん」

 

 そっと抱きしめてくれる姉さん。くっ!いい場面なのにいい場面のはずなのにぃ!

 俺には筋肉質のサムライダンディにハグされているようにしか、感じられぬぅ!

 ウホッ!いい漢!斬艦刀があればとりあえずぶった斬って勝利する漢!

 我に断てぬもの無しぃぃぃぃ!

 

「私は!私はどう見えているの?」

「ココは、ラーメンの食い過ぎで肥満体系かつ脂ぎった中年のおっさんだな」

「いぃぃやぁぁぁぁぁ!何よそれーーー!そんな認識なのかよ!ひど過ぎるよ」

「「あぶらwww中年wwwオヤジwwwアハハハハハハwww」」

「そこの二人ぃ!笑いすぎだろう!アルはアルはどう見えているの?」

「わ、私はいいですよ。というか発表しないで!大体わかってますから」

「ごめんな・・・筋骨隆々のゴリラだ」

「「予想通りwwwwwざまぁぁぁwwwww」」

「不思議なことに、頭頂部に電球が刺さっててそれがピカピカしてる変なゴリラだ」

「「電気のwww要素wwwそこwww電球ゴリwwwアハハハハハハハハwwww」」

「笑いすぎです!電球って!白熱電球ですか電球型蛍光灯ですかそれともLED電球ですかぁ!」

「「知らねーよwwwどうでもいいだろwww」」

 

 豆電球だなんて言えないwww

 うーん、メスゴリラが美少女に進化するなろう系があったような・・・。

 見た目もなんだか声と匂いもなぁ・・・ココからはちょっと加齢臭と日頃の不摂生臭が。

 アルダンからは獣臭が、姉さんはダンディなプレミアムなムスクの香りです。

 

「そこで気絶してる奴は?」

「ゴルシだろ、全体的にオレンジ色の丸くてトゲのついた・・・首領パッチだな」

「ドン?パッチ?」

「ボボボーボ・ボーボボを読みなさい」

「ハジケリストだからね。妥当なところでしょ」

 

 はぁ、みんなには悪いことをしたな。

 本当は抱き合って再会の喜びを・・なんだけど、もう、そんな空気じゃない!

 姉さんとだけはちゃんとできたので良しとしよう。

 

 (マサキ!そのふざけた呪い解いたら、改めて再会のハグをしてよね!絶対だよ)

 (すまんココ。約束するよ)

 (マサキさん!私もその時にお願いしますね)

 (うんうん、もちろんさぁ)

 

 よかった、二人とも許してくれた。見限られたらペルさんを逆恨みするところだったぜ。

 ナチュラルに念話を送ってくる二人がちょっと怖い、これも操者と愛バの絆なの?

 

「その認識狂い、解呪する方法を知っているの?」

「ああ・・・方法は一つ、あいつらに会うことだ」

「クロちゃん、シロちゃん、そういうことね」

「少し妬けてしまいますが、三人の絆こそが呪いを解除する鍵・・・素敵です」

「そういうことだ、だから、一刻も早くあいつらに会いたいんだが」

 

 このままじゃ、ウマ娘みんなも俺も困る。

 だからというわけじゃないが、俺はあいつらに会うために・・・ここまで来たんだ。

 

「そういうわけにはいきませんね」

 

 来たか、久しぶりだな。

 だが、会って早々なぜ俺の邪魔をしようとする?

 

「どうしてだよシュウ?」

「あなたにはまだやるべきことが残っています」

「うん。あいつらに」

「マサキ、今後の事を考えていますか?」

「えー、あいつらに会って、愛バみんなとキャッハウフフ三昧して、ルクスを倒す!」

「そうですね。その間、マサキの肩書、職業は何でしょう」

「操者?」

「それ一本で食べていける者はごく一部です。大抵は操者と何かしらの仕事を兼業しているものです」

「俺に就活をやれというのか?」

「はい」

 

 こ、ここまで来て現実の壁が立ち塞がっただと!

 確かに今の俺は・・・世間一般でいうところのニートだ・・・アレ、これヤバくない。

 

「ニート操者のままでよいのですか?」

「プ、プロの操者になればいいのでは」

「あなたの覇気をみて仕事を回すギルドがいくつあるでしょうね?まともな人物なら、あなたに関わることは揉め事を増やす原因だと気づくはずですが」

「そ、そんな!おれはプロになれないのか(´・ω・`)」

「だったらうちに!ファイン家に来ればいいよ!役員待遇、ううん、頭首の全権を譲ってもいい!」

「ココ、いや、でもそんな」

「あまり操者を甘やかさないように、愛バのコネを使って就職とか恥ずかしくないのですか?あの操者はコネ入社のクソ野郎だと未来永劫陰口を言われるのですよ」

「それはメンタルやられるな」

「今のあなたは奇跡的な状態でバランスを保っています。御三家の令嬢たちを愛バにしながら、どの家ともそれなりの関係を築けている。この宙ぶらりん状態が一番面倒事がなく動きやすいのです」

 

 シュウの言うことも一理ある。

 俺がどこかの家に深入りすれば、他の家が気を悪くするだろう。う、自惚れじゃなければだけど。

 もうどっぷりサトノとファインにはお世話になってるが・・・就職ぐらい自力でやらないと。

 

「ココ、凄く魅力的な提案だがやめておくよ。お前に甘えすぎたら自堕落なダメ人間になってしまいそうだ」

「むぅ、ヒモでも全然いいのに・・・むしろ養ってあげたいのに」

「わ、私もその気持ちわかります」

「嬉しいけどやめて!二人の優しさが俺をクズに変えちゃう!」

 

 うー、だったらどうすればいいのだろう。

 そもそも、俺は何になりたかったのか?操者に、あいつらに出会う前の俺は何を目指して・・・

 

「トレーナー、そう、子供のころ俺はトレーナーになりたかった」

「まあ、素敵な夢ですね」

「そして"うまぴょい"したかった」

「それ言わなくていいよ!言わない方がいいよ!」

「確かに動機は不純極まるものでした、だがそれだけでしたか?あなたは自分が愛するウマ娘たちを応援したかった。彼女たちの行く末を大事にしたいを思った。その手助けをすることが己の本懐だったはずです」

 

 そうだった、思い出した。

 俺は母さんみたいな、強くてカッコよくて可愛いウマ娘たちが大好きで、その子たちの一生懸命を支えてあげたくて、ほんの少しでいいんだ・・・俺の人生を救ってくれた、変えてくれた彼女たちに恩返しがしたかったんだ。

 

 うまぴょい・・・したいです!

 でも、それだけじゃなかった、ああ、この気持ち最近すっかり忘れていたなぁ。

 

「わかったぜシュウ!トレーナー王に俺はなる!」

「海賊王みたいに言わないでいいです。王ってなんですか」

「そこは勢いだ!よーし、名トレーナーとして頑張るぞー、担当バになってくれた子を必ずトゥインクルシリーズ優勝まで支えてみせる!」

「「担当バだとぉ!?」」

「ひぃ!ふ、二人の殺気が恐ろしいぞ!」

 

 ココとアルの殺気がヤバイ・・・おっさんとゴリラからの殺気でも怖い。

 

「ふぅ、未来に夢を馳せているところ申し訳ないのですが、あなたはトレーナーにはなれません」

「は?今まで散々煽っておいてそんなこというの、泣くぞ」

「あなたがトレーナーなったところで担当バが潰れるのがオチです。レース業界ではあなたの力を生かしきれません、というか持て余してしまいます」

「だったらどうしろと?」

「あなたが目指すべきはトレーナーではなく、騎神養成校の指導教官です。教官を目指しなさいマサキ!」

「俺が教官」

「騎神たちの教官、これ以上ないほどベストな選択だと思うのですがどうでしょう」

 

 教官、ヤンロンみたいな教官に・・・戦う彼女たちの力になれる。俺でも役に立てる!

 うぉぉぉ!なんか急に視界が開けた感じがするぞ。教官・・・いい響きだ!

 

「ならば、うちの採用試験を受けるべきですね。さっそくやよいに連絡しておきます」

「ちょっ!姉さん待って!トレセン学園みたいな名門はさすがに敷居が高いよ!」

「何を言ってるの?やよいだって歓迎してくれるわよ。それにあなたの実力は折り紙付き、他のボンクラ学校にとられるぐらいなら、うちがもらうわ」

「いや、でも、結局コネじゃ」

「勘違いしないで、歓迎するとは言ったけど、試験には一切手心を加えないわ。むしろ、あなた用に難易度を上げに上げた特別試験を用意してあげる。他の教官たちがぐうの音も出せないほどのね」

「身内でも容赦ない姉に戦慄を覚える今日この頃」

 

 トレセン学園か、そりゃあ願ったり叶ったりの職場だ。

 ヤンロンや姉さんたちと一緒に働ける、それに、あそこには知ってる子が集まっている気がする。

 

「いいよ!それすごくいいよ!マサキが教官、学園でも一緒にいられるなんて夢みたい」

「はい!学園生活がより充実してしまいます。ああ、今から楽しみで仕方ありません!」

「その様子だと、二人は学園生なのか」

「もちろん!ファイン家頭首と二足のわらじだよ」

「私もサトノ家従者部隊で仕事をこなしつつ、通わせていただいてます」

 

 凄いなこの二人、ただでさえ仕事が忙しいのに名門の学園に通ってるなんて。

 きっと、周りの部下や大人たちが支えてくれているんだな。

 そうだよな、まだ子供だもんなぁ・・・学園で青春するのも若者の権利だよな。

 ん?アルダンはサトノ家の従者部隊に入ったの!お、思い切ったことをするな、後で詳しく。

 

「決まりましたね。それでは」

「ああ、クロとシロに会って、教官を」

「違うでしょ。教官に見事合格してから二人に会うのですよ」

「バカを言うな。そんなに待てない、これ以上おあずけ食らうとマジで死ぬぞ」

「あの二人に会った後で、勉強に身が入るつもりですか?ずーっと愛バにくっついて試験勉強などせず、ニート一直線になるのが目に見えてるのですが」

「うっ!」

「そうだね。ニートのままで再会してもねぇ」

「ううっ!」

「いい大人なんだから、ちゃんとした仕事をもってほしいわね」

「うううっ!」

 

 グサグサ刺さる言葉の数々・・・ち、ちくしょう、その通りだよ。

 クロ、シロ、俺は・・・俺は・・・

 

「皆さん言い過ぎです!マサキさんは社会不適合者のゴミクズニートでも素敵な男性なんです!クロさんとシロさんに汚物を見るような目を向けられて「キモっ!」「うわぁ、契約解除して」と言われても・・・私はマサキさんをずっと養っていきます。ええ、私の稼ぎをあてにして、昼間から酒浸りのパチンカス&多重債務者に堕ちようとも添い遂げてみせますとも!!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、決めた。

 

「シュウ」

「なんですか?」

「俺、トレセン学園の教官になる」

「ほう、覚悟が決まりましたか」

「それまでは・・・二人に会わない、会えない、クズにはなりたくない!!」

「フッ、そういうと思ってましたよ。そうと決まれば早く帰りましょう、道すがら合格までの最速プランを構築してあげましょう」

「ああ、頼りにさせてもらう」

「私もコネ呼ばわりされない程度には協力するわ。学園でのマナーや注意点ぐらいなら教えても問題ないでしょう」

「姉さん!愛してます!」

 

 よし、やぁぁぁってやるぜ!

 待ってろよ、クロ、シロ、ニートを卒業して必ずお前たちを迎えにいくからな!

 

「マサキさん、急にやる気全開になられて・・・何があったのでしょう」

「アルが語った未来に絶望したんじゃないの?」

「はて?」

「このゴリラ、無自覚かよ!なんか怖い」

 

 こうして次なる俺の試練は幕を開けたのだった。

 



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再会の時

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。




 

 爽やかな風が心地よい、すがすがしい初夏の季節。

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園では、今日も多くのウマ娘たちが切磋琢磨しつつ青春を謳歌していた。

 そんな中、半年ほど前に新築された真新しい寄宿舎の一室で、二人のウマ娘が雑誌記者の取材を受けている最中だった。

 

「新進気鋭と名高いお二人、やはり、やはり・・・素晴らしぃですぅぅぅ!」

「そんなに持ち上げないでください。照れてしまいます」

「私たちはまだ若輩の身、先輩方の顔を潰さないよう、今後も精進あるのみだよ」

「ご謙遜を!サトノ家の令嬢である、お二人の評判は学園内外でも聞き及んでおります」

 

 雑誌記者は鼻息荒く興奮しているようだ。

 時折「素晴らしいです!」と叫びながら昇天する芸を披露する姿に、ウマ娘たちが少し引く。

 美人なのにどこか残念臭がする女性記者は、瞳をキラキラ輝かせながら取材を続行する。

 

 彼女が興奮するのも無理はない。

 今日の取材相手は、ようやく表舞台に姿を現したあの「サトノ家」ご令嬢の二人だからだ。

 

 メディア露出の激しいメジロ家とは違い、サトノ家とファイン家の情報は驚くほど出回らない。

 運よく手に入れた情報ですら、どれも意味不明かつ荒唐無稽すぎる内容で、まともな記事にならない。

 苦労したところでフェイクニュースや質の悪いジョーク扱いされる始末。

 表のメジロに裏のサトノとファイン、マスコミ業界では「裏の家には深入りするな」という格言があるほどだ。

 しかし、タブーや秘密あるからこそ知りたい暴きたい!というのが世の常。

 

 トレセン学園が公式に許可をしている、学生騎神へ取材する権限はこういうときにこそ生きてくる。

 普段は取材NGの騎神でも学園を通してなら渋々OKしてくれる可能性はある。

 今回それは有効だったようで、了承を得られたときは小躍りしたものだ。

 今日の取材を足掛かりにして秘密のヴェールに隠された「裏の家」の情報を引き出せればいいと、記者は張り切っていた。

 

 もっとも少々前のめりな彼女の考えを、取材対象の二人はとっくに看破していたわけだが。

 

「続けます。尊敬する先輩を一人挙げるとしたら誰でしょう?」

「クストウェル」

「べルゼルート」

「えー、真名ですよね・・・そのような方の記録は・・すみません、学園に在籍されている方限定で」

「では、メジロマックイーン先輩で」

「じゃあ、トウカイテイオーさんで」

「な、なんか投げやりですね。「どうでもいいけどこう言っておくか」感がひしひし伝わってきます」

 

 穏やかな笑顔を崩さず受け答えする二人。

 質問によっては目が笑っていなかったり、適当すぎる回答があるのは気のせいだろう。

 

「デバイスの登場により、騎神間での契約が身近なものとなりました「操者を必要としない時代が来た」という意見が増加傾向にあるようですが、お二人の考えは?」

「どの様な手段で強くなるかは個人の自由だと思います。ただ、個人的には操者の力を軽んじる風潮には苦言を呈したいと考えております」

「私も、デバイスよりも操者の仲介能力が優れていると信じてる。人の可能性が機械部品に負けているとはどうしても思えないから」

「ふむふむ、二人とも操者肯定派・・・というよりも、既にご契約済みだと伺ったのですが」

「すみません、私たちの操者についてはトップシークレットなので、ご遠慮ください」

「なるほど秘密の操者ですね、ミステリアス!それでは、操者がいると宣言されたのにもかかわらず、契約の申し込みが後を絶たない現状をどう思います?」

「ありがたいことですが、私の一存で現操者との契約を反故にはできません」

「学園には他にもいい子がたくさんいるよ。私たちに拘らなくてもいいのにって思う」

「例えば、例えばの話ですが、もしも、今の操者より素敵な人と巡り会えた場合はどう・・・」

 

「「それはない!!」」

 

 一瞬だが明らかに怒気を孕んだ声を上げた二人に、記者は自分の迂闊さ後悔した。

 取材をするうえで相手との距離感は大切だ、間違えると手痛いしっぺ返しを食らう。

 たった今、自分は距離感を誤ったのだ。

 

「し、失礼しました」

「いえ、こちらこそ大きな声を出してしまい、申し訳ないです」

「まだ時間あるよね。次の質問をどうぞ」

「はい、でしたら・・・・」

 

 その後は何事もなくスムーズに取材は進み。

 和やかな談笑を交えた後で、記者はお礼を述べて退出していった。

 

 扉が閉まり、記者の足音が遠ざかるのを確認してからホッと一息いれる。

 

「ふー、やっと終わった」

「お疲れ様です。あなたにしてはよくやりました」

「面倒な部分任せっきりでごめんね~。これでも頑張ったから褒めてよ」

「はいはい、偉い偉い」

 

 編入試験を無事クリアした私とクロはトレセン学園での日々を過ごしています。

 実家で学んだお嬢様ムーブを発揮して何とか頑張ってます。

 

「記者さん変な人だったね。発作持ちだったし」

「す、素晴らしいぃですぅぅぅ!」

「モノマネwww上手いwww」

「騎神ジャーナルでしたっけ、さっきのインタビューが載るかと思うと憂鬱ですよ」

「「期待の新人特集」か・・・テイオーさんたちが余計な事言うから」

「テイオーさんにマックイーンさん直々のご推薦だったらしいですよ。後輩冥利に尽きますね」

「本音は?」

「いらん仕事増やすなよ面倒くせぇ!取材なら先輩たちだけで十分でしょうに」

 

 可愛がって貰えるのはいいのですが、面倒事は御免被る。

 学園に編入して以来、品行方正を心掛けていましたから、先輩ウケはいいみたいです。

 優等生で通ってる私たち、今では誰もが認める中の上ぐらいの騎神ですよ。

 いいですよね中の上!そこそこ認められた騎神で十分なのです。

 そこそこの騎神はオルゴナイトなんて出しません、尻尾が伸びたり増えたり、ロボット食ったりもしません。

 

 コンコンッ!ノック音が聞こえた。外交モードON

 

「失礼します」

「お邪魔します」

「まだ入室の許可はしていませんが」

「何かご用?桐生院さん、ミーク先輩」

「ごめん・・・またいつもの・・・」

「今日こそは良い返事を聞かせてもらいますよ!」

 

 毎度毎度暑苦しい女だなぁ、こちらとの温度差を感じてほしい。

 

「その件は何度もお断りしているはずですが」

「あなたたちが「うん」と言うまで何度でも来ると言ったはずです」

「しつこい・・・嫌われる」

「ミークは黙ってて!」

「なぜ中の上程度の私たちに拘るのでしょうか?」

「名門、桐生院家の操者様なら愛バになりたいと思う騎神には不自由してないはずだけど」

 

 この女の名前は、桐生院葵(キリュウインアオイ)

 数多くの優秀な操者を世に送り出した名門、桐生院家の跡取りであり。

 歴代最高傑作と期待されてる操者で学園の教官も務める若き逸材だ。

 

 その愛バの名は、ハッピーミーク

 どの様な環境下でも優秀な戦果を上げるオールラウンダーな騎神。

 桐生院の愛バとなったことでメキメキ実力を伸ばしている学園でも上位ランカーだ。

 無口で感情表現に乏しいが、のんびりした雰囲気に癒されると生徒たちの評判はいい。

 

「勿体ないからですよ!」

「「もったいない?」」

「あなたたちの力はまだまだ未熟。ですが、それは己の才に気付いていないだけです」

 

 言ってくれるなぁ。ここでムカついてはいけない。

 

「私の愛バとなり、適正な指導を受ければもっと上に行けます!私は、あなたたちの才能がこのまま腐っていくのを見ていられないんです」

「ご心配ありがとうございます。ですがお断りします」

「ごめんなさい、もう操者は間に合っているんだよ。これ毎回言ってるからね」

「ならば!その操者に会わせてください、私が直接交渉して契約を打ち切ってもらいます」

 

 あ?なんだとコラ?

 会えるもんなら今すぐにでも会いたいっつーの!

 ダメだ、ここは耐えないと。

 

「彼は今、長期出張中の身でありまして・・・」

「へぇー大事な愛バを放って出張ですか、何を考えているのでしょうね」

「・・・忙しい人だから仕方ないよ」

「言わせてもらいますけど、あなたたちの操者は碌な人間じゃありません!大した実力もない癖にいたずらに契約した上に傍にはいない!」

「アオイ・・・言い過ぎ・・」

「何故だがわかりますか?その人間はあなたたちを騎神ではなく都合のいいペットぐらいにしか思っていないからです。二人の容姿、そして御三家令嬢というステータスが魅力的だったから契約の真似事をしただけです」

「アオイ」

「目を覚ましてください!騙されているんですよあなたたちは!」

「「・・・・」」

「本格化を迎える前に契約した話が本当なら、ただのロリコンくそ野郎じゃないですか!そんな犯罪者はさっさと捕まるべきです。許せないんですよ!己の欲望を満たすためだけにウマ娘を利用するような男は、言ってくだされば私がその不届きものを断罪し・・・」

「シャラップ」

「おぼっ!・・・ミ、ミーク・・・なん・・で」ガクッ

 

 ミークが自らの操者に腹パンをかまし、続く言葉を断ち切った。

 この人は噂に通りの優秀な騎神だ、それに操者思いでもある。

 

「ごめん・・・アオイ、あなたたち気に入って、本気で心配してる。つい言い過ぎちゃう、許してあげて」

 

 操者を抱えたままペコリと頭を下げるミーク。

 

「気にしていません。いつもの事ですし」

「こっちこそ助かったよ。ありがとう先輩」

「そう言ってもらえると・・・助かる」

 

 危ない危ない、だからこの女と会話するのは嫌なんですよ。

 もう少しで、手ならぬ尻尾が出ちゃう所でした。

 ホントにギリギリでした、クロもよく耐えた!後でお菓子食べつ愚痴大会ですね。

 

「聞いていい?」

「何なりとどうぞ」

「どんな人間が好きか教えてほしい」

「ほう、恋バナですか」

「好きな人、そりゃあもちろん・・ねぇ」

 

 それ聞いちゃいますか!いいでしょうたっぷり教えて差し上げます。

 存分に語ってもよろしいですかな?もう我慢できない語るね!

 

「キタちゃん。お茶の用意を、ミーク先輩が私たちと語り合いたいそうです」

「了解だよダイヤちゃん。蕃爽麗茶でいいかな」

「あの・・手短でいいから・・・それと苦いの嫌」

「ささ、座って下さい。そちらの生ものはソファーの隅っこにでも置いてください」

「生もの?・・・アオイ、なまものwww」

 

 やぶ蛇だったかなと思ったのは後の祭り。

 嬉しそうな二人の惚気話たっぷり聞かされてしまうミークであった。

 「どんな人が好きか」を聞いたのであって、現在進行形で「好きな人がどういう人か」を聞いたわけではないのだが・・・まあ、いいか。

 

 ♦

 

 話を終えた後、アオイを抱えたミークは学園内を移動していた。

 

「はっ!ここは・・・」

「起きた?」

「ミーク・・・ミーク!あなた私に腹パンしましたね。どうして、いつもいい所で邪魔を」

「アオイのためだよ」

「愛バに気絶させられるのがですか?意味が分かりませんよ!」

「今日は特にヤバかった」

「ヤバイのはあなたですよ!」

「知らないとは言わせない、愛バの前で操者を侮辱するのは絶対NG」

「ですけど、あの二人の操者は」

「私が腹パンしなかったら・・・アオイの胴と首は今頃繋がっていないよ」

「じょ、冗談でしょ」

「私、下手な冗談嫌い」

「う・・確かに今日は言い過ぎました」

「反省して、次も助けられるとは限らない」

「むー、ですが私は諦めません!あの二人はきっと大化けする、正しい操者の下で立派な騎神になってもらわないと!そのためなら多少嫌われても問題ありません」

「その情熱、別の所で活かして」

 

 愛バの忠告を聞いても諦める気のないアオイ。

 少々盲目的だが彼女は彼女なりにウマ娘のことを大事に思っていた。

 二人の才能を一目で看破した実力はハッタリではなく、幼少期からの厳しい修練を積んだ優秀な操者であり、教官として多くの者に慕われている人格者である。

 そんな彼女だからこそミークも契約したのだ。

 

 もっとも、本当の実力は見抜けてはいないようだが。

 

「それで、二人が理想とするタイプついて何か聞き出せましたか?」

「バッチリ・・・嬉々として語ってくれた」

 

 二人の現操者は真っ当な人間ではないと判断する。

 あんないい子たちを、ほったらかしにしている時点でどうかしてると思う。

 私は一人の教官として彼女たち正しく導く義務がある。

 別に私でなくてもいいのだ、今よりも好条件かつ後ろ盾のしっかりした操者と契約してほしい。

 桐生院家に在籍する者の中から最高の人材を選んで見せる。

 そのためにミークに情報を聞き出してもらった。

 

 青春真っ盛りの子たちを夢中にさせるもの、即ち恋ですよ恋!

 今のろくでなし操者を忘れるぐらい素晴らしい人間と恋に落ちて、新たに契約してもらえばいいのだ。

 私ってば天才ですね!

 え、女性が好きだった場合ですか?今のご時世、同性愛なんてよくある話ですから問題ありません。

 どうしてもというなら私を好きになってもらっても全然かまいませんよ/////

 ミークとも話し合ってまずはお友達からなーんて!きゃーーー私ってば罪な女/////

 

「アオイ・・・クネクネして気持ち悪い」

「焼きもちですかミーク?心配しなくてもあなたのことは大事に思ってますよ」

「心配なのはアオイの頭・・・脳外科か精神科どっちか行っとく?」

 

 もうこの子ったら照れちゃって。

 

「メモをとる準備はバッチリです、さあミーク教えてください」

「背が高い年上の男、髪の毛と目が綺麗、引き締まった体、笑顔が眩しい」

 

 ほほう、やっぱり女の子ですね~王子様に憧れるなんて可愛いところがあるじゃないですか。

 桐生院家の操者はイケメン揃いで有名ですからより取り見取りです。

 

「礼儀正しくて優しくてユーモアがあって、可愛いところもいっぱいある」

 

 ふむふむ、礼儀作法や人格も大事ですよね。

 フフフ、心当たりありまくりですよ~内面も素敵な男性をピックアップしてっと。

 

「身内がヤバイ、信じられないぐらいヤバイ、少々マザコン気味」

 

 しっかりした家の出身者なら身内に権力者がいても不思議じゃないです。

 マ、マザコンかぁ・・・まあ、探せばいるんじゃないでしょうか。

 大丈夫、まだクリアできる範囲の条件です。

 

「漏れた覇気だけで人を殺せる。マジ半端ない」

 

 物騒な例え話ですね。

 覇気はかなりのレベルでないと満足しないということですね、うちのエリート操者なら問題ありません。

 私の覇気もかなりのものだと自負してますが、二人の反応はイマイチなんですよね。

 

「泣き虫で、とにかく土下座がキレイ、全裸に抵抗が無い、暴走すると何をするか検討もつかない」

 

 く、雲行きが怪しくなってきました。

 いや、まだ大丈夫!桐生院家の人材はちょっとした異常者もカバーして・・いる・・かなぁ。

 

「小さい子が大好き、自他ともに認めるロリコン(ガチ)」

「犯罪者予備軍だろうがぁ!どうしてそんな最低男が好みのタイプなんですか!」

「世界一カッコイイロリコンでも、好きなんだって」

「世界一位のロリコンがカッコイイわけないでしょう!」

「まあまあ、後はえーと・・・いい匂いがするだって」

 

 世界一のロリコンて対抗できる変態操者・・・いや、いないだろ。いたらダメだろ。

 桐生院家にそんな奴がいたら、問答無用で破門してるわ!

 

 二人の理想が変態ってどういうことなの。

 サトノ家の闇を感じて余計に頭を悩ますアオイであった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ミークから聞いた情報を一応メモした後。

 今日の学内で行われる催しについて考えながら歩く。

 お昼前に全校集会が予定されているでした、その後は学生会館に寄ってそれから、えーと・・・

 

「すみません、少々お尋ねしたいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」

 

 中庭を横切ろうとした所で見慣れない男性に声をかけられた。

 その人は仕立ての良いスーツを着こなした優しそうな顔立ちの青年だった。

 歳は私と同じぐらいか。

 

「はい、私でよければ」

「ああ、よかったぁ。生来の方向音痴が災いして道に迷ってしまったんです。助けてくれませんか」

「学園は広いですからね。いいですよ、どこへ行く予定なのか伺っても?」

「ありがとうございます。場所というより人を探しているのですが」

 

 私の了承を得ると安心したような笑顔を浮かべる青年。人の良さが顔に出ている。

 不審者ではないと思うが一応、覇気をチェックしておこう。

 うん、敵意の類いはない、肝心の覇気は・・おお、中々のものだ。ヤンロン教官の半分はある。

 変わった覇気だ・・傍にいると安心するような、それでいて荒々しい何かを秘めているような。

 記者?それとも他校やギルドの関係者・・・仕事の依頼もしくはスカウトかな?

 

「え、その二人ですか・・・失礼ですが行っても無駄だと思います。彼女たちは私の熱烈な勧誘だって無下にするんですよ、まったくもう!」

「ははは、それは大変ですね。でも、行ってみます。行かなくてはならないんです」

 

 やっぱりスカウトだったか。

 うーん、私を拒絶した二人が彼の覇気で満足できるとは思えない。

 いい人そうだから、二人が穏便に断ってくれることを祈りましょうか。

 トラウマになったらかわいそうだし。

 

「そこまでの決意があるなら止めません。ですが、彼女たちの操者になるのは私か私が選んだ相手ですから!あの子たちには幸せになる権利があるんです」

「幸せ・・あなたはいい教官ですね。だけど、私もこれだけは譲れないので!」

「なるほど、いい眼をしている。彼女たちはそこの奥を行った建物の中にいます。どうかご武運を」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

 深々と頭を下げて案内された方向へ駆け出す青年。

 アオイとミークはその後ろ姿を見送る。

 いい結果になるとは思えない。

 だけど「頑張って」と素直に応援したくなるような人間だった。

 

「初々しいですね。自分がこの学園に来た当初を思い出します。好青年というのでしょうか」

「・・・・ほー」

「どうしたんですミーク?彼が心配ですか、・・大丈夫ですよ、あの程度の覇気ならば騎神は攻撃対象にすらしません。二人も学園生ですからその辺はキッチリ線引きしているはずです」

 

 ミークは思う、不思議な人だったと。

 

 背高い、体ちゃんと鍛えてる人の動き、髪も目もキレイだった。

 礼儀正しくて、笑顔が素敵だった。年上だけど、ちょっとカワイイかも。

 覇気はもっと強くないと・・・いや、あれは抑えているだけだったのか。

 今まで感じたことがない異質な、でも凄く興味を惹かれる覇気。

 

 ああ、それと視覚情報よりも先に飛び込んで来たものがあった。

 覇気の次にウマ娘が重要視するもの、即ちフェロモン。

 

「いい匂い・・・だった」

「匂い?そうですか、私にはわかりませんでしたけど」

 

 人間にはわかんないだろうな~。あれ?・・・この特徴・・・まさか

 

 ♦

 

「あの女ぁ!好き放題言いやがって!」

「どうどう、暴れんなよ!寄宿舎壊したら事務員の鉄拳制裁がまってますよ」

「そ、それは困る。なんかあの人怖いよ、私たちを見る目に殺気がこもってる」

「確かに、アル姉とココも「奴には気を付けろ」と警告してくれましたし」

 

 さすがトレセン学園。ここの教職員はどいつもこいつも化物です。

 特に例の事務員はアカン!

 あの優しいアル姉が「やられる前にやれ!」と言うレベル。

 

 それより今はあのお節介女ですよ。

 桐生院め!会う度にこちらの神経を逆撫でする女だ。

 ヒトミミ風情にはマサキさんの良さがわからんのですよ!

 あーもうやってらんねー。こういうときはアル姉とココに愚痴って・・・

 メッセージアプリ確認。

 

 「元気?」「今日はニンニクマシマシやめた方がいいよ」「既読スルーやめろ」

 「身だしなみ注意!」「ブラッシングは完璧ですか?」「綺麗にしてないと後悔しますよ」

 

 面倒なので返信は後でいいだろう。

 今日はやけにしつこいな。心配しなくても、取材前には身なりを整えましたよ。

 二人ともなんだかんだで世話焼きなんですから・・・た、たまには甘えてあげようかな////

 

 学園生活にも慣れて来ましたが、やはり足りませんね・・・主に操者成分がね!

 

「誰か来る」

「はぁ、またですか・・・しつこいにもほどが」

「ちょっと待って!?何か変、この感じは」

 

 記者か?キリュウインか?はたまた身の程知らずの契約希望者か?

 もう今日は疲れたので、さっさと、お引き取り願おう・・・まだ午前中だってばよ。

 

 すっかり気を抜いていた。

 

 クロの警告も聞かず、外にいる者の覇気をよく確かめることもせず。

 ノックされる前に扉を開けてしまった。

 

「すみません、今日はもう・・・」

 

 だから・・・何の準備も覚悟も出来ていなかった。

 

「わっ!勝手に開いた。と、突然すみません。ここに、とある騎神がいると聞いてきたのですが」

 

 この声、この匂い、嘘っ!待って。

 

「キタサンブラックとサトノダイヤモンドという子たちです。今どちらにいるか・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 何で、何でいつもこの人は・・・

 

「あのぅ、聞いてます?・・・・・・・( ,,`・ω・´)んんん?」

 

 何か言わないと。

 

「「「あ」」」

 

 絞り出した声が重なる「あ」って!他に言う事あっただろ。

 緊張し過ぎて言葉が続かない。

 

 彼が目をパチパチさせながら「呪いが解けた」とか呟いている。

 

「んん!あーその、なんだ、わた・・俺だ、アンドウマサキだ。わかってくれるか?」

 

 わかります!わかりますよ。

 どんなに姿形が変わっても、わからないはずが無い。

 

「待たせて悪かったな、本当に苦労をかけてすまなかった。俺はだな、えっと、だから・・・」

 

 私たちは動かない、動けない、なんてことだ。

 こんなはずじゃなかったのに。

 

「あークソッ!ダメだ、もっといろいろ考えていたのに、全然上手くいかんねぇ!クールでスマートな演出でカッコよくお前たちを迎えに来たぞ!って言いたかったのに、あーもう、なんでこう、俺のド阿保ぅ!」

 

 それは私たちもですよ。

 待ちに待った再会シーンは最高のものにするんだって決めていたんだ。

 もっとお洒落でロマンティックな状況とタイミングを選んで、思い出に残る最高の瞬間をにするつもりだったのに。

 100以上のパターンをシミュレーションして、ずっと・・・考えていたのに。

 それを、こんな突然に、何の準備もできていない、頭の中はとっくの昔に真っ白だ。

 

「いろいろあったが、俺が今ここにいるのはお前たちのおかげだ」

 

 私たち大人になりましたよ。

 泣き虫のあたなたを今度は私たちが「よしよし」してあげるんだって・・・。

 大人の余裕を・・・みっともない姿を見せないように、我慢して、我慢して。

 体だけ大きくなったのがバレないように、精一杯背伸びして・・・だから・・・

 

 泣いたらダメ、もう子供じゃいられないんだ、しっかりした一人前のウマ娘になった。

 

 そのつもりだったのに・・・

 

「帰って来たぞ、ただいま・・・クロ、シロ」

 

「「っ!?」」

 

 ダメだった。

 名前を呼ばれた瞬間に抑えていたものが溢れ出た。もう何も考えられない。

 彼に飛びついて、幻ではないと確かめて、力任せに抱きついた。

 大粒の涙を流し、子供みたいに泣き喚いて、感謝や労いの言葉より、溜まった鬱憤を晴らすように、酷い言葉を一方的に浴びせかける。

 被害者ぶって何をやっているのだろう、私たちのために彼がどれだけ苦労したのか知っているはずなのに、止まらなかった。

 最悪だ、本当にこんななずじゃなかった。

 恩を仇で返す、クソガキにも劣る態度をとってしまった。

 

 ほら、彼だって困ってる、私たちのせいだ、私たちが未熟なガキのままだったから。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 

 それでも、こんな最低の私たちを彼は・・・

 

「よしよし、もう大丈夫だからな、これからはずーっと一緒だぞ」

 

 別れる前の時よりも、もっとずっと優しく抱きしめてくれたのです。

 

 出会ってくれた、救ってくれた、戻って来てくれた、嬉しすぎてどうにかなりそう。

 

 私たちが悪い、でもやっぱり、こんな風にしたあなたも悪い。

 

 ねぇ・・・望んでもいい?

 

 もっと壊して!狂わせて!溺れさせて!もっともっともっと感じさせてほしい。

 

 "すべてをあげます"

 

 だからお願い

 

 "あなたのすべてをください"

 

 ♢

 

 少し前・・・

 

 どうも、俺ですアンドウマサキです。

 ようやくこの記念すべき日を迎えることができました。これも皆様の応援の賜物ですよ。

 

「もういいぜ、ここからは一人で行くよ」

「本当に大丈夫?学園内で迷子になっても知らないよ」

「その時は親切な人に道を聞くだけだ」

「決意は固いようだね。わかったよ、お邪魔虫の私はクール去るぜ」

「すまんね、じゃあまた後で」

「ほいほーい。全校集会の前に職員棟に寄るのを忘れないでよ~」

 

 途中まで案内してくれたミオ(人型にもすぐ慣れた)と別れて、とりあえず中庭を目指す。

 ふむ。前に来た時よりも施設がパワーアップしているな・・・おかげですぐに迷子だぜ。

 へへへ、やってしまった。方向音痴というか、もうただのバカだろ。

 今日からここの教官だってのに!初っ端からこの感じでやっていけるのだろうか?

 

 偶然通りかかった教官らしき女性に助けてもらい事なきを得た。

 親切な人でよかった、覇気もかなりのものだったし、さぞ優秀な教官なんだろう。

 隣にいたのは恐らくウマ娘、認識狂いのせいで白い毛玉のゆるキャラにしか見えなかったけど。

 パターンは覚えた、妙な生き物が見えたらウマ娘で大体合ってるんだよ。

 この呪いとも今日でおさらばするつもりだ。

 

 道案内のおかげで迷うことなく到着。

 まだ新しい平屋建ての寄宿舎、ここにいるのか、なんだか緊張してきたぞ。

 落ち着いて深呼吸、まずはノックして・・・

 

「すみません、今日はもう・・・」

「わっ!勝手に開いた。と、突然すみません。ここに、とある騎神がいると聞いてきたのですが」

 

 ビックリした!自動ドアだと?

 驚いた勢いのまま、こちらの要件をまくし立ててしまった。

 お、落ち着きたまえよ俺、何をテンパっているのかね。

 予想以上に可愛い子が出て来たからって焦るなよ。

 

「キタサンブラックとサトノダイヤモンドという子たちです。今どちらにいるか・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 開け放ったドアの向こうにいる二人がポカンとした顔でこちらを見ている。

 ヤバい、奥にいる子もメッチャ可愛い!

 

「あのぅ、聞いてます?・・・・・・・( ,,`・ω・´)んんん?」

 

 あれ?あれれ、どうして俺は、この二人をウマ娘だと認識したんだ。

 ウマ娘だ、確かにウマ娘がいる!そうそう、こんな感じの生き物だったんだよ。

 ううう、本物を見るのは久ぶりなんで素直に感動した!

 見れば見るほど美しい人型生命体だ、それになんだか他人の気がしない。

 あいつらが成長したらきっと、この子たちみたいな・・・

 

「「「あ」」」

 

 面影がある・・それに変化しているがこの覇気は確かに。

 いや、でも、そ、そんな・・・で・・・でかい!(いろいろと)

 

「呪いが解けたってことは、やっぱりそういうことだよな」

 

 おおおお、おおおおお!ちょちょちょ、ちょっと待って全然!準備出来てねぇーーーー!

 嫌ァァァァ!不意打ちよ不意打ちのエンカウントよ!

 何故だか向こうも固まっていらっしゃるが、ここは俺が上手いことやらないとイカンでしょ。

 

「んん!あーその、なんだ、わた・・俺だ、アンドウマサキだ。わかってくれるか?」

 

 あれー?反応がないぞ。

 もしかして、忘れられた?「あんた誰?」とか言われたら心がへし折れる。

 お、怒ってるのかな、そりゃあ散々待たせたからなぁ、どつきまわされても仕方がないとは思う。

 

「待たせて悪かったな、本当に苦労をかけてすまなかった。俺はだな、えっと、だから・・・」

 

 はーん!どうしよう頭がぐるぐるする!

 もう、あれだけ何度も練習したセリフが一つたりとも出でこない。

 台本!台本はどこへ?

 

「あークソッ!ダメだ、もっといろいろ考えていたのに、全然上手くいかんねぇ!クールでスマートな演出でカッコよくお前たちを迎えに来たぞ!って言いたかったのに、あーもう、なんでこう、俺のド阿保ぅ!」

 

 自己嫌悪ここに極まれり。

 泣きそう、どうしていつもいつも大事な場面でビシッと決められないの?キメさせてくれないの?

 落ち込んでいる場合か、ここに至っては長いセリフなど不要!

 見栄を張る必要はない、シンプルに俺の思いを伝えるだけでいいんだ。

 

「いろいろあったが、俺が今ここにいるのはお前たちのおかげだ」

 

 どんなに苦労してもお前たちのことを思えば頑張れた。

 生き甲斐そのものだったんだぞ。

 

「帰って来たぞ、ただいま・・・クロ、シロ」

 

「「っ!?」」

 

 これでいい、後は向こうの反応ぉぉぉっっふ!!

 

 いい体当たりだ!俺じゃなきゃ今ので気絶していたね。

 勢いが凄すぎて外に飛び出ちゃった。周りに人がいなくてセーフ。

 なめるなよ!愛バ二人を受け止められなくて、何が操者か!踏ん張って見せる。

 はい、ダメでした。無様に尻餅ついちゃったよ。

 えーと、二人とも元気だった・・・か・・・

 

「本物?本物だよね、本物なんだ、ホントにホントに本物の!うわあああぁぁぁん」

「夢じゃない、夢じゃない、夢なんかじゃないーーーー!ううぅえええうええええ」

「二人ともちょっと、おち、フゴッッ!」

 

 ドンッ!胸に二人の拳が叩きつけらた。心臓がビックリ跳ねちゃったぞ。

 これアレか「もう~バカバカバカ~」で可愛くポカポカしてくるヤツ?

 シャレにならない威力だ!「ポカポカ」ではない「ドカッ!ドゴッ!」が正解。

 俺の肋骨が悲鳴を上げそうになるほどの連打が撃ち込まれる。

 た、耐えろ、耐えるんだ、覇気で骨の強度を上げつつ痛みをやわらげ・・・

 

「なんで!なんで、なんで、なんで、なんで、なんでぇぇぇ!!」

「置いていった!おいていった、おいていった、おいてけぼりにしたぁぁ!!」

 

「遅いぃぃ、おそい、おそい、おそい、おそいんだよぉぉぉーーーー!!」

「嘘つきぃ、うそつき、うそつき、うそつき、うそつきぃぃーーーー!!」

 

「バカ!バカバカバカバカバカバカバカァァァーーー!!」

「ア、ア・・・アホォォォーーーーーーーーーーー!!」

 

「「あァァァんまりだァァアァ!!!」」

 

 どうしよう愛バがエシディシになってしまった。

 

 フー、スッとしたぜ。

 おれはアルやココに比べるとチと荒っぽい性格でな〜。

 激高してトチ狂いそうになると泣きわめいて頭を冷静にするようにしているのだ!

 といういう感じでもなさそうだぞ。

 

 駄々っ子だ、二人の子供が癇癪を起して喚き散らしている。

 俺のせいで女の子を泣かせてしまっているというのに、少し安心した自分がいる。

 体は大きくなっても子供のまま、俺の知っているお前たちのままでいてくれたことを嬉しいと思ってしまった。

 悪い奴やでほんまに。

 

「悪かった、本当に俺が悪かったよ。よしよし」

 

 泣き止めとは言わない、気が済むまでいっぱい泣いたらいい。

 愛バの涙を受け止めるのも操者の務めだ、誰にも譲らねぇぞ。

 ずっと我慢していたんだな。うんうん、このままじゃ俺までもらい泣きしそう。

 

「待ってた、まってった、まって、ずっとまって、待ちくたびれて、帰ってこなくて」

「信じてるのに、信じたいのに、ふ、不安になって、そんな自分が嫌で・・・」

 

 苦しかったよな、悲しかったよな、いっぱいモヤモヤしたよな。

 わかるぞ、その気持ちは痛いほどわかる。

 

「「 怖かった!怖かったよぉぉーーーーッッ!!!」」

 

 ああ、本当に俺も怖かった。

 もう二度と会えないかもと悲観して絶望して不安に押しつぶされそうになって、眠れぬ夜を何度過ごしたことか・・・この世の何よりも辛くて怖ろしかった。

 

 こんな気持ちを、まだ子供のお前たちに味合わせた。

 俺は本当にダメ男だよ。

 殴られて、罵られて、唾を吐かれても当然だ。それだけのことをした自覚はある。

 

 でも許されるなら、いや、許されるまではいくらでも頭を下げよう。

 お前たちに嫌われても付きまとってやるかなら!(ストーカー的思考)

 

「もう、どこにも行かないで・・・」

「傍にいて、傍にいさせて・・・お願い・・・」

「ああ、もちろんだ。俺だって同じ気持ちだぞ」

 

 一度は失った、もう二度と失う者か。

 俺と愛バたちの絆は誰にも断ち切れはしない。

 守り抜いてみせる・・・それが俺の・・・

 

「よしよし、もう大丈夫だからな、これからはずーっと一緒だぞ」

「う~う~う~!」

「む~む~む~!」

 

 やだっ!今の泣き声?それとも鳴き声?可愛いから許す!

 おー?このままマーキングしちゃう。ハハハハハ、スーツがしわしわのヨレヨレだぜぃ!

 まあいいや、この二人のためならスーツの一着や二着ダメになっても気にしない。

 スーツは犠牲になったのだ。

 

 よーし、よしよしよしよしよしっ!

 気のすむまで泣くがいい!その分俺も泣いちゃう。

 

 もうダメ、涙腺決壊!

 

「クロ、シロ・・・あ゛いだがったよおぉぉ~!」

 

 泣き顔キモくても今だけは許してください。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 あのまましばらく三人で抱き合って号泣した。

 

 まだ不安なのかクロとシロは俺にしがみついたままだ。

 逃げないから安心しなさいな。

 

「マサキさん」

「何だクロ」

「なんでもない」

「マサキさん」

「どうしたシロ」

「言ってみただけです」

 

 クッソ可愛い!あーもう魂が浄化されていくじゃあ~。

 

「クロ」

「何?」

「確認しただけだ」

「えへへ」

「シロ」

「ここにいます」

「それならいい」

「はい、ずっとお傍に」

 

 これだ、これが欲しかったんだ。

 ありがとうありがとう!応援してくれた全ての人に感謝します!ありがとございました!

 アンドウマサキ、大切なものを取り戻すことができました。

 ああ、この喜びを叫ばずにはいられない!

 

「「マァァァサァァァキィィィーーーさあぁぁぁんんんーーーッッ!!」」

 

「クゥゥゥロォォォーーー!シィィィロォォォーーー!」

 

「「「シィィザーーァァァッ!!!」」」

 

 途中でわけがわからなくなって、三人でとりあえず絶叫してみた。

 さっきのエシディシといい、なにか混入したけど気のせいだろう。

 うむ、このノリと呼吸・・・それでこそ俺の愛バだ!!

 

「ごめん、そろそろ立ってもいいか」

「うん、取り乱してごめんね」

「どうぞ、掴まってください」

 

 体当たりされてからずっと地べたに座ったままでした。これもうスーツ完全に逝ったな。

 二人に手を引かれて立たせてもらう。

 よいしょっと、これで・・・おお!

 

 立ってみると二人の成長具合がよくわかる。すっかり大人になってまあ。

 

「大きくなったな」

「「っ!?」

「いや、ホント見違え・・・」

「「あ、あの!」」

 

 二人の表情が一気に曇ったぞ、女性に大きくなったはダメだったか?

 どこか怯えたような感じでおずおずと声をかけてくる。

 

「やっぱり、ち、小さい方がよかったかな・・ごめんなさい、どうか捨てないで!」

「急に成長したことは謝ります。お気に召さない所は努力して改善しますから、だから」

「「ロリコニアの建国だけは勘弁してください!!」」

 

 せっかく泣き止んだのに、目を潤ませ必死で懇願してくる二人。

 二人が何を言っているかわからない。だか、どうしてだろう・・・

 

「ロリコニア、初めて聞いた言葉だがオラもの凄くわくわくすっぞ!」

「「だめぇぇぇ!!」」

「教えてくれロリコニアとは何だ?超古代文明の遺産か何かか」

「知らない方がいいよ」

「そんな!隠されると気になってしょうがない」

「どうしても知りたいなら、ロリコニアか私たちか、どちらか選んでください」

「お前たちに決まってるだろ!」

「即答!超嬉しい!」

「当然ですね。信じてましたよマサキさん」

「で、ロリコニアとは?」

「「教えない!!」」

 

 頑なに拒否されたので諦める。シュウなら何か知ってるかも、後で聞いてみよう。

 

「うん、でも本当に立派になって・・・ううっ」

「泣かないでよ、よしよし」

「よしよしです。フフッ、身長があるので前より楽にできますね」

「お前たちの成長過程を見逃した・・・もうサイアク・・・」

「それは誰も確認できなかったみたいだよ」

「結晶化して出て来た時には成長完了ってな訳でしたからね」

「マジか・・・勿体ないよう・・・」

 

 盾の勇者もこんな気分だったのだろうか、ラフタリア可愛いよね。

 たぬき娘なのかな、あのモフモフ尻尾はポイント高いですよ。

 まあ、うちの愛バはもーっと可愛いですけどね!!

 

「よーし、成長した姿をよく見せてくれぃ・・・ほう、いいね!とってもいい!」

「フフッ、照れるね////」

「気のすむまでどうぞ、全てあなたのものですから」

 

 二人とも身長が大きく伸びている。

 あのチビだった二人が、今では立派な女に成長した。

 顔もスタイルも一級品、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいる。

 二人の成長具合を比較したい方は是非アニメ(2期)とアプリ版の彼女たちを見比べてくれぃ!

 

 やった、やったぞ!はは、あははははははは!

 

「俺を散々ロリコン呼ばわりした奴らめ、見るがいいそして驚け!もうロリコンなんて呼ばせない!二人と肩を並べても全然不自然じゃなかろう!「年下の嫁さんもらったの(* ̄- ̄)ふ~ん」ですむはずだ」

「嫁だなんて////」(12歳)

「年齢的にはアウトですが、言わないほうがいいでしょうね」(12歳)

「よくやったぞ二人とも、GJグッジョブよ!」

「喜んでもらえてよかったー。一つ目クリアだね」

「このままロリ卒業まで何とかもっていければベストなのですが」

 

 なんだよ、ロリじゃなくなった二人を俺が見限るとでも思っていたのか、信用ないな俺。

 勘違いするなよ。

 

「俺は確かに小さい子が好きなのかもしれない」

「中々恐ろしい宣言を急にどうしたの?」

「堂々と口にされると、もういっそ清々しいですねw」

「だけどな、そこらのロリとお前たちは比べるまでもない!それぐらいお前たちが大事なんだ!」

「じゃあ、ロリな私たちと今の私たちなら?」

「え?・・・それは、悩むな」

「「悩んじゃダメでしょ!!」」

「はい!すみません!」

 

 怒られちゃった。

 そうだよな、今のクロとシロに失礼だもんな。気持ちを切り替えて行こう。

 ロリのクロシロは俺の心の中で永遠なのさ。

 クソッ、俺がもっとしっかりしていたら・・ロリのこいつらとのイチャイチャ期間を堪能できたものを!

 許さんぞルクス!とりあえずお前が悪いんだ!(逆恨み)

 

「まあまあ、大きい方がいい事もあるんだよ」

「例えば、こんな風にですね」

 

 アッーーー!おぱーいが当たってるーーーー!うっひょぉぉぉーーーー!

 子供の頃からの夢、また一つ叶っちゃった。「両サイドあててんのよ」を達成しました。

 ここが楽園だったか・・・なんて素晴らしい感触なんだろう。

 さようなら「ちっぱい」こんにちは「ビッグボイン」今後ともよろしくお願いします。

 スカウターの故障か?これが中学一年生の戦闘力!・・バカなまだ上がるだとぉ。

 ちょっと前までランドセル背負っていたおぱーいじゃねぞコレ!

 

「クスクスッ、気に入ってくれたみたい」

「直に確認してみますか?」

「是非!お願いしま・・・今は・・やめ・・とく・・ぐぐぐ」

「ち、血の涙は出さないで!」

「チャンスはこれから無限にありますから!そんなに残念がらなくても」

「その言葉忘れるなよ。嘘ついたら血涙だけじゃすまんぞ」

「もうバカだなぁ、焦らなくてもいいんだよ」

「いつでもウェルカムですからね」

「幸せすぎて死にそう」

「「死んじゃダメ」」

 

 死なねーよ、少なくともお前たちを残して死ねるかよ。

 

 美人!可愛い!でかい!

 性格もノリも良く、柔らかくて、あったかくて、いい匂いがする。

 そして・・・強い、隠しているが覇気が著しい成長を遂げているのは明らかだ。

 俺といろんな奴らの覇気を食らい、女神の力を受け継いだんだもんな。

 

「撫でてもいいか?」

「もちろん」

「待ってましたよ」

「ああ、この手触りだ、落ち着く・・本当によく目覚めてくれたな。急成長以外で体に異常はないか?」

「ちょっと、おぱーいが重くて邪魔」

「肩こりしそうですね」

「その発言、持てる者の余裕だな」

「オルゴナイト、まだちょっと不慣れ、練習場所も相手も苦労するよ」

「学園では当然使用していません。ネタバレするのは、マサキさんが帰還してからと決めていましたから」

 

 なるほど、二人は学園で大人しく振舞っているんだな。

 うん、それが賢明だ。いきなり結晶出したらビックリされるというか、引かれるだろう。

 

 ネタバレか、そのうちお世話になったみんなにお礼と愛バの紹介行脚しに行かないとなぁ。

 くくく、二人、いや四人を自慢してドヤ顔決めてやるわ!うちの子たち凄いのよってね!

 

「マサキさんはどうしてこちらへ、それにその恰好」

「おっと、そうだった。俺は今日からここで働くんだよろしくな」

「「へ?」」

「教官試験受かったんだよ。今日からお世話になる新人教官のマサキですってな」

 

 ビシッと下手くそな敬礼をしてみる。敬礼って右手?それとも左手か?わかんないぞ。

 俺の回答が意外だったのか、一瞬呆けた後すぐにはしゃぎだす二人。

 

「凄い!すごいすごい!マサキさんはやっぱり最高~あーーー好き!」

「愛バを喜ばせるの上手すぎます!フフフフ、夢の学園ラブコメが始まってしまいます!」

「アルやココと同じ反応だな。それでその~・・・二人とは」

「心配なさらず。アル姉さんとココには話をつけてあります」

「何だかんだで四人上手くやってるよ。自分でも意外」

「そ、そうか・・・ホントに悪かったな、お前たちがいないのをいいことに・・・」

「「ストップ」」

「んぐぅ」

「別に起こってません。その話はまた後にしましょう」

「五人揃ってからの方がいいよ。楽しみだな~」

「そう言ってくれると助かる。マジで助かった!」

 

 危惧していた愛バ間の戦争は回避できた。

 事前にアルとココにも聞いていたが、自分たちだけでしっかり話し合ったのだとか。

 まだ子供のままと思ったけど、精神面はしっかり成長してるのね。嬉しいような寂しいような。

 いや、二人の精神年齢は出会った時から俺の遥か上だったな。

 ガキなのは俺だけでした・・・呆れられないように頑張らないとな。

 

 もっといろいろ話たいところだが、いい時間みたいだし。そろそろ切り上げるか。

 

「そういうわけで、これから職員棟で同僚の皆さんたちに挨拶してくる」

「あ、スーツに泥が」

「プラス私たちの涙と鼻水でぐしゃぐしゃですね」

「安心しろ、こんなこともあろうかと」

 

 漫画スパイファミリーを読んでいる俺に抜かりはない!アニメの出来も良好でなにより。

 替えのスーツは2着用意は基本ですよ。

 カバンからちゃっと出してサッとお着替え完了。

 うん、最初のよりこっちの方が色も落ち着きがあっていい感じがする。

 

「どう?これでイケそうか」

「「・・・/////」」

「正直に言ってくれ。黙っていられると不安!」

「ごめ、カッコ良すぎて惚れ直した」

「後で写真撮らせてください。永久保存します・・」

「ははは、大袈裟だな。でも、ありがとな」

 

 愛バの贔屓目ってヤツだろうな。嬉しいことを言ってくれる。

 さてさて、愛バのお墨付きをもらったことだし、行きましょうかね。

 

「じゃあな、また後でゆっくり話そうぜ」

「うん!いってらっしゃーい」

「お気をつけて!あ、帯刀した事務員にはくれぐれも注意してくださいね」

 

 大切な愛バに見送られての出勤初日、気合が入るってもんですよ。

 よし、社会人として頑張るぞい。

 

 ♦♢

 

 マサキが去った後、残された愛バ二人はヘナヘナとその場に座り込む。

 

「すごかった」

「刺激がちょっと強すぎ」

「あれはアカン」

「ヤバすぎです」

 

 顔を見合わせて、お互いが同じ結論に達したところで彼女たちは絶叫した。

 

「「ぎゃァァァーーー!!予想以上にカッコよくなってるゥゥゥッッーーーーーー!!」

 

 甘かった、自分たちは甘すぎた。

 体が成長したことで驚くのは向こうの方だろうと決めつけていた。

 勘違いも勘違いだ、まさか、あの最高だと思い続けた人物が・・・・

 

「「ズルいぃぃーーーー!!パワーアップしすぎぃぃぃーーーー!!」」

 

 更なる進化を遂げていたなんて。

 会えない期間、自分たちの中で彼がどんどん美化されているのを実感していたが、今日ここに現れた実物は想像していたものの何倍も上をいっていた。

 

「なんだアレ!なんだアレ!何なのよアレーーーー!」

「あ、危なかった、鼻血を出さなかった自分を褒めてやりたいです」

「私、あのまま押し倒しそうになった」

「無意識にお金払おうとしていた自分がいました」

「「・・・・」」

「えへ、えへへへへへへへへへ」

「うふ、ふふふふふふふふふふ」

「「あはははははははははははははははははは!!」」

 

 勝った!勝ったな!完全勝利だ!

 私たちの目に狂いはなかった!あの人こそ、世界最高の操者だ!!

 

「大人の余裕?貫禄っていうのが出ていた、そっちこそ成長してるじゃん!まーたでっかい男になってるし、もう!どれだけ先を行くんだよ。もうったらもう/////」

「それより覇気ですよ!アレだけ漏れていたのに、今じゃ全くと言っていいほど感じません!完全にコントロールできてましたよ。あの覇気を完全制御・・・はう・・・素敵/////」

 

 離れている間に彼も成長していた。

 いくつもの出会いと別れを繰り返し、更なる高みに上り詰めていてくれた。

 期待を裏切らない、それ以上の結果をはじき出してくれる。

 それでこそ私たちの操者!あなたこそ私たちが全てを賭けるに相応しい男だ。

 

「「はぁ~////好きぃ!!」」

 

どんな経験を積んだのか、人相やいろいろな所に変化がみられた。

   

 鍛え上げられた肉体、より精悍になった顔つき、頬そして額の傷ですら愛おしい。

 煌めく髪の毛はダークグリーンで、額の傷を隠すように前髪のひと房だけ白銀に染まっている。

 素敵な笑顔はそのままに、優しい眼差しを向けてくる瞳は吸い込まれそうなほど綺麗で力を感じる。

 足運びや細々とした所作、呼吸すらも洗練され、匂いは前にも増してこちらの感覚をくすぐってくる。

 

「えへへ、前髪おそろい・・・やった」

「悔しいです、なぜひし形メッシュじゃなかったのですか!」

「えー、前髪にひし形つけてるのってアホみたいじゃん」

「お前ずっとそんな風に思ってたのかよ!」

 

 内包する覇気は数値化するもの馬鹿らしい領域に達していることだろう。

 それを全く感じさせないことが何よりも恐ろしい、あの凶暴な覇気を完全に制御下においた。

 そこに至るまで、一体どれほどの修練を積んだのだろうか検討もつかない。

 

「今リンクされたらどうなっちゃうの?ちょっと怖いけど絶対いい気分になるはず」

「フフフ、今から味が楽しみです」

「そこかよ」

「きっと、私たちを気遣って適量を少しづつ注いでくれますよ・・・ぐはっ!もうあなたの覇気で上書きしちゃってくださいぃ!あなたのものにしてぇ!」

「そうか、上書き・・・されちゃうんだ、えへへへへ」

 

 操者の凶暴な覇気で全身を神核ごと上書きされる。

 これはもうアレと同義じゃね・・・操者版マーキングですよ「俺の女」にされちゃう!

 

「「キャァァーーー!!もう好きにしてぇ!!」

 

 ニヤニヤが止まらない。

 ちょっと再会しただけでこのザマだ。

 これからどうなっちゃうの私たち、お気に召すままどうにでもしてください!!

 

「うわぁ、学園内で発情してる後輩発見した私はどうしたらいいの?」

「う・・・ううっ・・・よかった、本当によかったですね・・・ううっ・・」

 

 ちっ、出てきやがったな。

 

「覗き見ですか、趣味悪いですよ」

「いたんだ、アル姉、ココ」

「今来たところだよ、これでも気を遣って遠くから見守るだけにしたよ」

「マサキさん、とっても嬉しそうで・・お二人もあんなに泣いて・・・ううっ・・グスッ・・」

「何はともあれ、再会おめでとう。念願が叶った感想はどうかな?」

「「もう最高」」

「それは良かった。ほらアル、もう泣き止んでよ」

「お、おめでとうございます!これまでの苦労が報われた瞬間・・感動じましたぁぁーーー!」

「アル姉さん、どんどん泣き虫になりますね」

「マサキさんの覇気に影響されたのかな」

 

 というか、この二人はマサキさんが今日ここの来るのを知っていたな。

 サプライズは大成功だよちくしょう!

 

「さあ、ここからが本当の勝負だよ」

「お、正妻戦争開始のゴングならしちゃう?」

「それもですが、敵・・ルクスのことです」

「このまま、何もないとよいのですが、そうもいかないでしょうね」

 

 敵?マサキさんが帰って来た今、何を恐れる必要があるのだろうか。

 大丈夫、彼さえいればもう大丈夫。

 根拠はあります。

 だって、マサキさんは私たちが選んだ最凶無敵の男ですから!

 

「「「もう、何も怖くない!!!」」」

「それフラグだからやめてね」

 

 フラグなんて折って潰して消してやるよ。

 

「とりあえずは、学園生活を楽しみましょうか」

「そうだね~」

「操者と愛バ、そして教師と生徒・・・何も起こらないはずが無く・・・グフフ」

「「やったぜ!」」

「そ、そんな////放課後の教室でなんて!恥ずかしい////」

「「「このドスケベが!!!」」」

 



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愛バたちは思春期

前回、主人公たちの再会を「よかった」と言ってくださる声が多くて嬉しい限りです。

出会いイベントやセリフがカットされたウマ娘も、トレセン学園にちゃんと在籍していることになっております。今後、登場するかは気分次第。


 大願成就!ついにクロシロと再会を果たした。

 

 心機一転頑張って行くぜ。

 

 

「で、あるからして!今後の――」

 

 トレセン学園敷地内の講堂では全校生徒を集めた集会が行われていた。

 壇上に立つチビッ子理事長"秋川やよい"がよく通る声で熱弁を披露している。

 「諸君ッ!」とか言っちゃて、有言実行で理事長の座を獲得したんだな。

 立派になった操者友達を見てホッコリした。

 

 今の俺は舞台袖に引っ込んで出番の時を待っています。

 

「緊張してきた。あ、足が生まれたての小鹿みたいに」ガクガクブルブル

「ちょ、震えすぎwここまで来たら覚悟してよ」

「まったくお前という奴は」

「初仕事で愛バにカッコ悪いところを見せちゃダメよ」

「そうならないように頑張るつもりだ」

「シッ!もう少し声量をさげて」

「す、すみません」

 

 顔見知りの同僚たちと姉さんが傍にいるので、少しずつ緊張は解れてきた。

 姉さんのことは公私混同を避けるため、学園内では"たづなさん"と呼ぶことに決めている。

 それを報告したら愕然として崩れ落ちたけど、何とか納得してもらった。

 

「それで、何であなたたちがいるんですかねぇ?」

 

 姉さんとヤンロンはわかる。

 わからないのはミオとテュッティ先輩が教官としてトレセン学園にいることだ。

 マジで何やってんの?

 ミオは姉さんに届け物したら帰るって言ってたじゃん。この俺を欺いたな。

 

「驚いた?なんとミオちゃんは、マサキよりも先に教官やってました」テヘッ

「ほう、人外の癖によく試験に受かったな」

「マサキに人外って言われてもな。これでも元天級、やよいちゃん(理事長)は快く雇ってくれたよ」

「たづなさん、それでいいんですか」

「・・・ああ、なんだ私か。他人行儀で気づくのが遅れた、お姉ちゃんハートブレイク」

「大げさですってば、それでミオのことは」

「天級だった経験と知識は生徒たちの役に立つはずよ、例え正体不明の人外でもね。というわけで見事採用!文句は理事長に言いなさい」

 

 採用基準結構ユルユルでした。

 理事長が許可したのなら、俺がうだうだ言っても仕方ない。

 ミオがやる授業ってどんなのだろう、ちょっと気になるなあ。

 

「テュッティ先輩は?」

「言ってなかったかしら、私は元々トレセン学園の教官よ。お師匠様を探すために休職していただけだから、復職も特に問題なかったわ」

「聞いてませんよ。でも、教官という職業は似合ってます。先輩みたいな美人教官がいたら、野郎どもが大騒ぎすること請け合い」

「ここウマ娘ばかりの女子校よ」

 

 青春時代の憧れ的存在が同僚だった。

 ぶっちゃけ少々やりづらいが、もう過去のことだ。切り替えて行こう。

 初恋の傷は既に乗り越えている、どうということもない。

 今の俺には可愛い愛バが四人もいるんだからね!

 

 職場に姉や友人がいるのは少々気恥ずかしいが、頼もしくもある。

 ここへ来る前に挨拶した他の教職員たちも皆いい人そう、職場環境は良好みたいで安心した。

 

「ビックリしたけどみんながいてくれて良かった。コンゴトモヨロシク」

「うんうん、このミオ様に任せなさい」

「どうやら僕とお前には縁があるようだ。こちらこそよろしく頼む」

「わからないことがあれば何でも聞いてちょうだい。今も昔もあなたは大事な後輩よ」

「これなら早く馴染めそうね。安心したわ」

 

 うんうん、持つべきものは愉快な仲間と姉です。

 

 (いつでも頼ってくれていいからね)

 (ヒューッ!姉さん最高!)

 (サイに言われた通りだ!このバカ姉弟、ちゃんと見張っておかないとな)

 ((誰がバカ姉弟か!!))

 

 ミオさんや、姉弟のアイコンタクト(念話)に介入しないでくれます?

 ちょっと美少女に進化したからって調子に乗ってんじゃないよ、そのツインテール可愛いんじゃボケ!

 

「清聴感謝っ!では、ここからはお待ちかねの新任教官の紹介だ」

 

 ざわ・・・ざわ・・・

 

 ざわざわするのやめて!期待値を変に上げられても困る。

 この空気の中で登場しろというのかね?あびゃー足が震えて来るよう。

 理事長が俺を見て手招きしてる。

 

 (何をやってるマサキ君。早くこちらへ来るんだ)

 (無理ッス、怖いッス)

 (たづな!ヘタレた弟を何とかしろ)

 

「大丈夫よマサキ、あなたを笑う奴は全て一刀両断にしてあげるから」

「実の姉が職場で人斬り宣言、全然大丈夫じゃないね」

「早く行かないか、理事量が困っている」

「もう、ヤンロンってば手厳しいのね」

「クネクネするな気色悪い」

「マサキ、愛バが見てるよ。あの子たちに恥をかかす気?」

「それはイカンぞ。そうか、俺がしっかりしないと愛バに迷惑がかかるんだ」

「あなたなら大丈夫よ、私が保証するわ」

「あ、やめ、押したららめぇ」

 

 へっぴり腰で登場するわけにはいかない、ここは全校生徒に第一印象を決められる重要局面。

 俺の教官人生はここから始まるんだ。

 

 背筋を伸ばし堂々と舞台の中央へ、やよいの隣に立ち目線を生徒の方へ向ける。

 おおお、当たり前だが生徒全員がウマ娘だ。

 

 この全員が騎神(もしくはその卵)戦闘力だけみれば下手な軍隊より、よっぽど恐ろしい。

 これだけいると覇気も壮観だわ。

 

 ざわ・・・ざわ・・・

 

 ぐおぉ視線のビームが刺さる!見られてる、俺ってば品定めされてる。

 (/ω\)イヤン恥ずかしい/////

 

「へぇ、男なんだ」

「結構いいじゃない」

「そう?私はヤンロン教官の方が好みかな」

「大した覇気じゃないわね。私スルーで」

「バカね、貴重な操者候補よ。見切りをつけるのはまだ早い」

「あれ?何かあの人・・・どこかで」

 

 小声で喋っているつもりだろうが丸聞こえですよ~。

 

 あいつらはどこだ・・いた・・・この人数でもすぐに見つけることができた。

 「頑張って」と応援してくれているのがわかる。

 そうだビビることはない、俺にはお前たちがいてくれる。

 愛バ四人に集中してその他はジャガイモだと思うことにしよう。

 ジャガイモ、ジャガイモ、サトイモ、ジャガイモ、よし!

 やれやれ、さっそく愛バの力を借りてしまった。

 

「注目ッ!こちらが新任教官のアンドウマサキ君だ!」

 

 理事長(ドヤ顔)が俺の名前を呼ぶと、会場の空気が変化した。

 「ざわ・・・」が「ザワッ・・・」て感じでね。はい、伝わりませんね。

 

 大丈夫かな俺の顔、引きつっていなければいいが。

 やあやあ、ジャガイモの生徒諸君!俺の顔を忘れる出な・・い・・・ぞ???

 あららージャガイモの自己暗示、全然効果ないんですけど。

 何だか見たことのある顔がたくさん・・き、気のせいだな、うん。

 気のせいだって!あいつらメッチャ見てくるけど多分気のせいだって!

 

 あ、ダメだ。防衛本能から意識が昇天しそう・・・だ、だめぇ!

 ここでヘブンリーしたら「初日の挨拶で失神したくそダサ教官」になってしまう。

 しっかり前を、前を見て・・・し、視線が痛いッス。

 

 やーめーろーよー、睨むなよ~怖いよ~。

 おい指を指すな指を!ちょww今ヘン顔は勘弁してくれwww

 やめて!手を振らなくていいから、ニッコリされても困るから。

 バカ!投げキッスするな、愛バに殺される!

 口パクで何か言ってる奴がいる、読唇術発動・・・「キレちまったよ屋上へ行こうぜ」行く訳ないだろ!

 

「皆さんはじめまして。ご紹介いただいた、アンドウマサキです。本日からどうぞ、よろしくお願いします」

 

 「はじめまして」の部分を強調してやった。

 ふぅ、これで大丈夫・・・だといいな。

 無理か、無理だろうな、ははは、ヤダーーー!なんか怖い怖い怖い。

 

「トレセン学園の教官として、今日ここに立てたこと大変嬉しく思っています」

 

「似合わねーww」だとコラ!いいこと言ってるんだから聞きなさいよ。

 

「一人の人間として、生徒の皆さんたちと高みを目指していきたいです、一緒に頑張りましょう」

 

 よし、用意したセリフを噛まずに言い切った!俺頑張った。

 ちょっと余裕が出て来たのでフレンドリーなところもアピっておこう。

 お堅いばかりだと近づき難い印象を与えてしまうからな。

 

「素敵なウマ娘さんたちが大勢いて胸が高鳴ってます。どうか、皆さん仲良くしてくださいね」キラッ

 

 ここだ!完璧にな笑顔でトドメじゃい。

 宝具「スマイル・オブ・ザ・マサキ」発動!

 子供の頃、母さんにおねだりする時によく使った技だ、久しぶりだがいけるか?

 よし!愛バに特攻ダメージが入った・・・舞台袖の姉さんにも入ったぁ!

 「キャー///」という黄色い歓声が上がったので、その他生徒たちの反応も概ね好感触だと思っていいよね。

 気持ち悪いの「キャー」悲鳴じゃないことを祈るぜ。

 

「歓迎ッ!堂々とした挨拶、素晴らしかったぞ。はい拍手~!」

 

 大きな拍手を送ってくれる皆に一礼、これは嬉しいですな。

 ここの教官になれたのだと、ようやく実感できた。

 

「なおマサキ君には、先月修行の旅に出た安心沢(アンシンザワ)教官に代わり、養護教官として勤めてもらう。今後、医務室に用がある者は彼を頼るがいい」

 

 ざわ・・・ざわ・・・

 

 だから、ざわざわやめてよ!

 何?俺が養護教官なのがそんなに不満か。

 俺本当に頑張ったんだぞ、治療師の免許だって取得したんだからね!

 試験官もビックリするぐらいのヒーリングマスターだぞ。

 

「さすがにマズくない」

「わけわかんないよ~」

「変態に医務室任せるとか正気か?」

「うかつにケガすることができなくなりました」

「まさか、それが狙いか?」

「あいつのヒーリング能力は確かだが・・」

「前の養護教官も大概だったがこれは」

 

 うわーん!何か見たことある連中が俺を否定するよ~。

 こうなったら早いところ手柄を立てて、皆に認めてもらわないと。

 ふむ、考えてみたら養護教官の手柄とはなんだろう、酷いケガを治すとかかな?

 あそこに見えるゴルシっぽいやつの首を一回折って元に戻すとか・・・無理だな。

 

 ざわつく生徒たちにもう一度礼をして舞台袖に引っ込む。

 何とかなったよね、姉さんたちも「よくやった」って褒めてくれたからよしとする。

 

 全校集会の後、教官室に戻りこれからについて説明に次ぐ説明を受ける。

 結構長いんだなこれが、でも大事なことだからしっかり聞いておかないと。

 慣れるまでの俺の指導係は姉さんを含む、顔見知りたちが担当してくれることに決まった。

 ありがてぇありがてぇ!

 愛バ達に会う前に道案内をしてくれた女性教官とも再会した。

 キリュウインアオイさんですね、今後は先輩教官としてご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。

 

「むう、前任者は何をやっていたんだ。掃除が行き届いてない」

 

 俺の城となる医務室に案内されたが、そこは簡素なベッドと散らかり放題の机や棚、それと用途不明の物品の数々が待っていた。

 いらない物と足りないものが多すぎる。正露丸こんなにいらねぇだろう。

 

「あなたの使いやすいように模様替えしていいわ、必要な物資は申請してくれたら用意できると思う」

「了解、これは本格的にリフォーム工事する必要があるな」

 

 しばらくは荷解きと部屋のリフォームにかかりっきりになりそう。

 医務室は清潔感が大事。うーん、どんな感じにするのがベストかよく考えよう。

 

「私は理事長室にいるから何かあれば呼びなさい、何もなくても呼びなさい」

「ありがとうたづなさん。心強いッス」

 

 初日ということで午後からは医務室の掃除をメインですることになった。

 休憩は自由にとっていいと言われたので、まだ不慣れな学園内を散策するのもいいかもしれない。

 どうしよう先に食堂へ行ってみようかな、それとも愛バたちと合流して・・・

 ん?愛バたちからグループメッセ(メッセージの略)だ。

 

『今大丈夫ですか』

『OKだ。ちょうど休憩しようと思っていた』

『大樹のウロで待ち合わせをしましょう』

『ウロって何ですのん?』

『中庭を抜けた先にある、でかい切り株だよ』

『それならわかる』

『少々遅れるかもしれませんが』

『気にするな。先に着いたら三点倒立しながら待ってるよ』

『初日から奇行ww』

 

 メッセージアプリなんて必要ないと思っていた時期がありました。

 メールに比べてやり取りがかなりスムーズなんだよな。

 さすが現役学生の愛バたちは文字入力が早い!俺、未だにゆっくりポチポチなんだがな。

 

「それにしても思い切った改革をしたものだ」

 

 切り株を目指して歩きながら、姉さんたちに説明された事を思い出す。

 トレセン学園は現理事長"秋川やよい"の手腕により、大幅な改革が随所に施されていた。

 

 専攻である"競争バコース"と"騎神コース"の完全分校化に成功。

 とある大企業からの莫大な資金援助でレース選手用の新校舎を建設。

 好立地かつ最新設備を備えた育成環境を提示され、競争バたちとトレーナーは二つ返事でこれを了承。

 半年以上前にはトレーナーと全生徒の引っ越しは滞りなく完了していた。

 

 というわけで、現トレセン学園は完全に騎神養成専門校として機能している。

 ここにも金をつぎ込んだ形跡がチラホラしており、お金ってあるところにはあるんだなと思った。

 前回、俺が訪れた時にはなかった施設がたくさん増えているのだから驚きだ。

 すれ違う生徒が着ている制服にも改革による変化がみられる。

 

「前のセーラー服もよかったが、今のもカッコ良くていい」

 

 従来のセーラー服は競争バコースが引き継いだ。

 今ここの生徒が着ているのは、青いブレザータイプの上着にスカートの組み合わせだ。

 胸部にある二本ベルトらしき装飾が特徴的でスカート丈は結構短い、恐らくインナーありきの設計なのだろう。

 戦闘にも耐えれる丈夫な作りで、軍服の勇ましさと学生服の可愛らしさを損なわず両立させている。

 騎神が着る制服に相応しいデザイン、お見事でございます。

 ある程度なら自由にカスタマイズしていいらしく、生徒それぞれの個性が出ているので見ていて飽きない。

 キッチリお手本通りに着るもよし、あえてラフに着崩すのもよし、小物類やリボンをつけている子もいる。

 

 そんなわけで到着!迷わず辿り着けたぜ。

 ここに来るまでにすれ違ったウマ娘たちは皆礼儀正しく挨拶を返してくれるので嬉しい。

 何時ぞやのUC基地アウェイ感を味合わなくて済みそうだ。

 

 切り株広場へ到着。

 俺が一番乗りみたいだな、愛バたちが来るまでどうしようかな。

 この切り株随分と大きいが一体元は何の木だったんだ?

 切り株の中は空洞だ、ここに思いの丈を叫びストレス解消する生徒がいるとミオが言っていたな。

 郷に入っては郷に従え、俺もやってみますか。

 

「ルクスの股間にカマキリがしがみつきますように!」

「奴の股間に!凶悪なカマキリが!ガッチリしがみつきますように!」

 

 何だか願掛けみたいになってしまったが、実現したら俺のストレスは緩和されること請け合い。

 股間のカマキリに慌てふためくルクスを想像してスカッとした。

 最終的にカマキリの姿になった邪神様、俺の願いを叶えてくれ!

 

「あの、何やってるんですか」

 

 ヤバい背後に誰かいる!せっかく盛り上がって来たところなのに何よもう!

 切り株に頭突っ込んでいる俺、どう見ても不審者ですね。

 振り返るのが怖いなぁ・・・この覇気、愛バじゃないぞ・・・。

 

「どうも怪しい新人教官です。ちょっとストレスが溜まっていて、我慢できんかったんや」

「相変わらずのキチガイっぷりに安心した自分が悲しいです」

「その顔、面影がある・・・まさか!」

 

 前に見た時よち大きくなってる。シロクロほどの劇的変化ではないが、しっかり成長してる。

 北海道で会った野生児、旅の最初に出会ったドレイン第一号。

 

「ペス!」

「スぺですよ!」

「ああ、スぺだな。うぉ、これまた可愛くなりやがって、身長伸びたなあ」

「どうも、あなたも随分変わりましたね」

「そうかな」

「そうですよ。その前髪どうしたんですか?覇気も何だか」

「いろいろあったんだよ。ちょっと待ってくれるか、紹介したい子が」

 

 愛バが来ると言いかけたところで、スぺを追って誰かがやって来た。

 お?おおお?

 

「スぺちゃん、ここにいたの・・あ」

「もうスぺちゃん急に走るから」

「あなたもですわよ」

「ぜぇはぁ、スぺ先輩・・・やっと追いついた」

「だらしないわね。これぐらいで」

「おーい見つかったか・・・マズい!隣にロリコン大魔王がいやがる!」

 

 修練の賜物、修羅直伝の歩法を使って一気に接近。逃がすかボケ。

 失礼なハジケリストを発見したので、反射的にアームロックをかけてやった。

 

「がああああ、それ以上いけない!」

「ゴルシ、なぜお前がここにいる?本当に何歳だてめぇ」

「秘密だぞ♪」

「お前の骨がどれぐらいの負荷で折れるか試してみよう」

「らめぇぇぇぇ」

 

 講堂にいたのは幻覚だと思ったのに!本人だったクソッ。

 お前も学園生なのかよ、制服着てんじゃねーよ、似合ってるのがムカつくんだよ!

 

「ちょ、ゴールドシップさんを放してください」

「そうですマサキさん」

「マサキ・・・やっぱり本物のマサキだ!」

「まあ、ご本人でしたの」

「うぉ、マジかよ」

「聞き間違いじゃなかったのね」

 

 周りが止めるので仕方なく解放してやった。

 次は骨をもらうから覚えておけ。

 

「君らどういう組み合わせ?」

「私たちチームメイトなんです」

「チーム?」

「その話は後ほど、それよりマサキさんは私たちのことを」

「忘れてないよね?」

 

 何を言い出すのやら、当然覚えているともさ。

 一人づつ当ててみせよう。

 

「北海道の野生児スぺ」

「はい、おかあちゃんも会いたがってましたよ」

「先頭の景色狂い、スレンダーなスズカさん」

「余計なことは言わなくていいです」

「自称無敵のテイオー様」

「ふっふっふ、当然だよね。自称ってなにさ!」

「メジロ家の至宝、マックお嬢様」

「ええ、お久しぶりですわね」

「変な生き物ゴルシ」

「はぁい♪」

「終わりだ」

「「終わるな!!」

 

 ご、ごめんなさい!残り二人がわからない。

 

「変態の癖に私を忘れるとはいい度胸ね、厨二のアサキム」

「ホントだぜ、アサキムの兄さんよぉ」

「ブッ!お、おま、それを知ってるのは・・・スカーレット、それにウォッカか」

「フン、遅いわよ」

「まあ、俺らもだいぶ変わったしな」

「いや、変わったどころじゃないだろ。もしかして二人も結晶化を?」

「結晶?何のことかしら」

「なんだ、うちの子とは違うのか」

 

 この二人、結晶の繭にならずにここまで急成長をしたのか。

 本格化ってすげぇ、クロとシロに勝るとも劣らない進化具合だぞ。

 ウォッカ髪切った?ボーイッシュな爽やかイケメン風乙女じゃない、いいですね。

 スカーレットは髪伸びたな。

 それと体が・・・うん、エロい。ナイスバディ!ムチムチのバインバインですよ!

 危ない!耐性がついていてよかった。

 先にクロとシロの成長具合を確認していなければ危なかったぞ。

 

 まただ、また成長の喜びと痛みを感じてしまった。

 

「「なぜ泣く!?」」

「生命の神秘と残酷さを噛みしめていた所だ。あんなに小さかった二人が、すっかり大人のドスケベボディに・・・クロとシロのときにも感じた、嬉しいのに少し寂しいこの気持ち・・・なんか切ない」

「ロリコンだ」

「ロリコンね」

「センチメンタルロリコンww」

 

 ロリに別れを告げる苦しみ、名付けてロリロスト(語呂が悪い)を一日に二度も味わって正直しんどい。

 

「あ、カイチョー!みんな~こっち!こっちだよー!」

 

 テイオーは仲間を呼んだ。ウマ娘の群れが現れた。

 

 わー、ぞろぞろ来ちゃった。

 

「やあ、元気にしていたかいマサキ君」

「締まりのない顔をするな。たわけめが」

「その覇気、お前、また何かやらかしたな」

 

 ルル、アグル、リブ、生徒会メンバー登場。

 おお、また強くなったな。覇気と存在感がマシマシじゃないか。

 

 それから・・・うわあ、まいったなあ、こりゃあ。

 

「その様子だとずっと面白いままなんだね」

「実にいい筋肉ですよ。ナイスマッスル!」

「もう、なんでいるのよ」

 

 パー子、ライアン、ドーベル、メジロのお嬢様ズ。

 マックがいるなら当然だよな。

 

「ワオ!再会のハグをシマショウ」

「今日の運勢、待ち人「変なのが来る」当たってますね」

「あの時遊んでくれたお兄さん、また会えました」

 

 タイキ、フク、お前たちも来たのか。

 フラワー!?・・・え、飛び級?そういうのもあるのか。

 

「やば、マジで本物じゃん」

「デュフフフ、同志よ、お約束の愛バちゃんを紹介してもらいましょうかね」

「マヤね、すぐにマサキちゃんだって、わかっちゃった」

「あなたがここへ来ることは、私のスケジュール通りでした」

「再会記念のウマドルライブ開催しちゃおうかな」

 

 シチー、モデル続けながらトレセン入るとかマジすげぇな。

 

 デジタル、マヤ、学園潜入前後で助けてもらったな、感謝してるぞ。

 

 フラッシュ、ファル子、そうかサトノ家の仕事と両立なのね。

 

「ふーむ、なるほどなるほど。後でレポートを提出してくれたまえよカピバラ君」

「あの子も喜んでいますよ。・・・少し雰囲気が変わりましたね」

 

 タキオン、カフェ、何?研究は学園でもできるってか、ほどほどにな。

 

「その様子だと無事合流できたようですね。おめでとうございます」

「お兄さまも心配してたんだよ。本当によかったぁ」

 

 ボンさん、ライス、君たちの操者にはいつもお世話になってます、後で何かお返しでも。

 

「リュウちゃんたちがソワソワしていた原因がわかりました」

「世界最強の私を追いかけて来るなんて、照れちゃうデス」

 

 グラスにコンドーさんでしたっけ?

 ほう、超機人たちも連れて来ているのか、よく学園が許可したな。

 

「あちゃ~、こんなところでまた会うなんて」

「ターボ、ビックリしたぞ。でも嬉しいぞ」

「ウマ娘好きが高じて教官にまでなるとは、やりますね」

「えへへ、なんだか楽しくなりそうな予感~」

「ん?でちゅね遊びの達人か」

「お前もやってたやろ!」

「うふふ、また甘やかしてあげたいですね~」

 

 ネイチャ、ターボ、イクノ、タンホイザ、オグリ、タマ、クリーク。

 商店街のお祭りで会った連中、あの時は楽しかった。

 

「ボーノだねぇ。また会えて嬉しいよ」

「おーほっほっほ。覚悟なさい、このキングを簡単に指導できると思わない事ね」

「みんな嬉しいんだね、ウララ~」

「まったく、ここも騒がしくなりそうじゃないかい」

「なんでぇぇぇいるのぉぉぉ感動じだよぉぉぉんん!」

「フッ、君の行動パターンは本当に読めないな」

「事前に連絡ぐらしなさいよ、バカ」

「イメチェンしました?セイちゃん的にポイント高いですよ」

「はーはっはっは、こうしてまた共演できることが誇らしいよ」

「どうしましょう~こんな突然に、はわわ、おもてなしの準備ができていません」

「しっかりバクシンされたようですね。これからもバクシンですよ」

「もうびっくらこいちゃったわよ。本当にナウい男になってまあ」

「君はそうやって何度も奇跡を起こすわけだ。嫉妬しちゃうな」

「ちっ、ボスのテンションが高けぇわけだ」

 

 ボノ、キング、ウララ、姉御、チケ蔵、ヒデさん、タッちゃん。

 ウンス、オペ、ドト、委員長、マルさん、フジ、そうかUC基地からみんな移ってこれたんだな。

 

 シャカ、俺が来ることココから聞いてなかったの?

 

 ちょっと待って多い!多いよ!

 あまりにも多勢に無勢。これが数の暴力ですか。

 同時に喋られても聞き取れないんだなこれが。

 

 なんだかすごいことになっちゃったぞ。

 UC基地の時のように気付けば囲まれてる!それに遠くからチラホラと伺っている気配多数。

 これだけの豪華メンバーが集まれば、他の生徒たちも気になってしまうのも無理はないか。

 

 ウマ娘たちの圧に飲まれそう、しかし、俺はもうトレセン学園の教官。

 この子たち学園生を見守り導いていく立場なんだ。

 不安半分、ワクワク半分だな。

 

「みんな、また会えて光栄だ」

「講堂では全員スルーしようとしたくせにですか」

「ごめん、あの時は現実を受け止める勇気が足りなかったの!」

「目が激しく泳いでましたね」

「一瞬ヘブン状態になりかけたのは何で?新芸?」

「みんな~いじめたらかわいそうだよ」

 

 トレセン学園の生徒、ここにいる全員が修練を積み、その才を認められた者たちということだ。

 俺が右往左往している間にみんな頑張ったんだな。覇気を確認するまでもなくそれはわかる。

 子供が成長するのは嬉しいもんだ、と保護者面してみる。

 

「大きくなったなぁ」

「あー、子供扱いしたな」

「ぶーぶー、もっと言い方ってもんがあるでしょ」

 

 ウォッカやスカーレットみたいなのは例外として、背が伸びたり、髪形が変わったり、見た目変わってないようで覇気の性質が変化していたりと、みんな何かしらの成長をしている。

 どことは言わないが育っている子と、いない子の差が激しい部分もあるな。

 どいつもこいつも色気づきやがって!いいぞ、もっとやれ!

 

「今、ついでに失礼なことを考えましたね」

「気のせいだ」

 

 ナイチチ族は胸部装甲に向けられる悪意に鋭い、注意しないと。

 

 テイオーとマヤの頭にポンポンと軽く手を乗せる。

 リンクして戦ったこともある二人だ、触れても許してくれる程度の絆は残ってるよね~。

 うん、強くなった、立派になった、そして・・・

 

「みんな、ホントいい女になったな!愛しさとせつなさと心強さを感じて、ムラムラします!」

「「「「「ムラムラはやめろ!!」」」」」

 

 真面目な何人かに怒られた。

 なぜだムラムラは誉め言葉でしょ?ハアハアならいいのか?

 

「やった、いい女だって!」

「もっと褒めて褒めて~」

「あはは、マサキさんだなぁ」

「お世辞じゃないから余計に質が悪いのよ」

 

 そうそう、素直に喜んでくれたらいいんだ。

 

 ワイワイガヤガヤ・・・

 はいはい、押さない押さない、順番にお相手しますからちょっと待ってね。

 と・・・来たか。

 

「はい!そこまで」

「どいてどいて~愛バが通るよ~」

「すみません、道を開けてもらえますか」

「みんな適切な距離でお願いね。あまり近いとお金とるよ」

 

 人混みをかき分けて新たなウマ娘が登場。その数四人。

 

「お前たちタイミングを計っていたな」

「申し訳ありません。関係者を集めてからが効率的だと判断しました」

「ごめんね、本当は最初から見てたんだ」

「フフッ、人望のある操者で誇らしいです」

「そう?私は何かと心配なんだけど」

 

 四人の愛バたちが俺のもとに寄り添う。

 コラコラ///今スリスリするのやめなさい。もう、ちょっとだけよ。

 

「え?サトノさん」

「キタちゃんどうしちゃったの、なんか雰囲気が違う」

「愛バ?それに操者って言った!」

「アルダン姉さんがどうして」

「ファインまで」

「なるほど、そういうことか」

「これは興味深い」

「何々?どういうこと」

 

 あらら、知らなかった奴の方が多いのね。

 

「なんだ言ってなかったのか?」

「操者がいるとは言ってた。誰かは秘密にしていたけどね」

「察している方も何人かいたようですが」

「それも今日で終わりです」

「ずっと自慢したかったからね」

 

 まだ混乱中のウマ娘たちの前に五人で整列。

 

「改めまして、今日からここの教官になったアンドウマサキだ。その節は、愛バたちを救うために力を貸してくれてありがとう。今ここに愛バたちといるのもみんなのお陰だ、本当に心から感謝している」

 

 誠意を込めて深く一礼する。

 おい、お前たちなぜジャンケンをしているのかね?ああ、順番を決めているのか。

 

「既に学園生として知っていると思うが紹介する。この四人が俺の愛バだ。はい、ご挨拶いってみよう」

 

 トップバッターはアルになったようだ。

 年長者らしくビシッと決めてやりなさい。

 

「マサキさんの愛バ、メジロアルダンと申します。これからも操者共々、仲良くしてくださいね」

 

 ニッコリ笑ってお嬢様らしく優雅に一礼するアル。

 とっても素敵。では、次の子いってみよう。

 

「同じく、愛バのファインモーションだよ。家業は一段落したし、マサキもいるから学園にいる時間も増えると思うんだ。そんなわけでよろしく」

 

 はい、いいですね。頭首のお仕事ご苦労様です。

 それからそれから~。

 

「キタサンブラック、マサキさん最高の愛バだよ」

「サトノダイヤモンド、マサキさん最愛の愛バです」

「最高とか最愛とかいらないでしょ!」

「後乗せ禁止ですよ」

「「言ったもの勝ちでーす」」♪~(´ε` )

「「コノヤロウ」」(# ゚Д゚)

「はい、ケンカしない。みんな見てるからな」

「「「「はーい」」」」

 

 「はーい」と言いつつ尻尾同士でどつきあうのやめなさいってば。

 手を伸ばして四人の尻尾をキャッチ!一撫でして大人しくさせることに成功。

 今日まで散々イメトレしてきた、ケンカの仲裁方法が役に立ったぜ。

 

 愛バのことを知らなかった連中が「マジか」て顔してる。

 フハハハ、その顔が見たかったんだ、もっと驚いてもいいのよ。

 

「長い間眠っていたのは、ブラックとダイヤの二人だ。俺が集めた覇気はこの二人に持っていかれましたとさ」

「私たちが綺麗サッパリ美味しくいただいたよ。どうもありがとう」

「先輩方がくれた良質な覇気を糧に目覚めることができました。ありがとうございます」

「本当に、ほんっっとうに!ありがとう。みんなのおかげでこいつらにまた会えた、協力してくれた全ての人に感謝する」

 

 いろんな人の善意で俺たちはここにいる。

 そのことが嬉しくて嬉しすぎて、感謝してもしきれない。

 今はただ精一杯感謝の意を伝えたいと思う。

 

「「「「「ありがとうございましたぁ!」」」」」

 

 再度、深く礼をした俺の叫びに愛バたちの声が重なる。

 示し合わせたわけでもないのに、愛バたちも頭を下げている。

 

 (なんで、お前たちまで)

 (操者だけに頭を下げさせるなんてできない)

 (まあ、私たちは自分のことですから)

 (大事な仲間を救ってもらったのです。お礼をするのは当然ですよ)

 (運命共同体はお礼をするのも一緒!なーんてね)

 

 この子たちったら!いい子すぎて、また・・・う・・。

 もう、朝からどんだけ泣かせにくるのよ?俺の涙腺は何度決壊したらいいのかしら。

 

 パチパチパチパチ・・・

 頭を上げると、みんなから拍手されてしまった。

 「お、おめでとう?」「あ、はい、どうも」みたいな感じでぎこちなかったけど。

 みんなの顔はまだ混乱しているが、生徒会長のルルにつられて、律儀に拍手だけは送ってくれた模様。

 

「一応祝福されている、でいいのかな」

「そうだと思う」

「ネタバラシも問題なく終わりましたね」

「マサキさん、そろそろ」

「場所を変えて五人でゆっくり話そうよ」

「そうだな。じゃあ、俺たちはこれで――」

 

「「「「「「ちょっと待てい!!!!!」」」」」」

 

 立ち去ろうとした俺たちをウマ娘たちが引き留める。

 きゃっ!もう何よ?

 これから積もる話があるのに邪魔しないで!

 

「嘘でしょ・・・マジで嘘でしょ」

「こんな面白いことを、よくも秘密にしていたな!」

「え?ロリじゃないんだけど意外!」

「あの四人が」

「愛バ・・・うえええ!愛バ!?」

「ズルい!ズルいぞちくしょー!あびゃびゃびゃばばばばば」

「デジタルが痙攣発作を!」

「いつものことだ放って置け」

「何か弱みでも握られているのでしょうか?」

「ああ、そういうことなら納得」

「脅迫されてるのは愛バか、それとも操者の方か?」

「メジロ、サトノ、ファイン、全制覇だと・・・どうかしてる」

 

 失礼な反応が多くてショック。

 確かに俺には勿体ない子ばかりだけどさ。

 もし愛バに「ごめん、やっぱ無理」とか言われたら・・・想像しただけで凹む。

 

「俺、お前たちの操者じゃダメ?」(´Д⊂グスン

「「「「そんなわけない!!!!」」」」

「みなさん、我々は正真正銘マサキさんの愛バです!」

「弱みなんて握られていない、むしろ握って滅茶苦茶にしてほしい」

「クレームがあるなら愛バの私たちにどうぞ」

「何をどう思われても結構ですが、マサキさんの愛バであることを、譲る気もやめる気もサラサラありませんのであしからず。クロ、アル、ココのお三方はやめてもらっても全然OKです。後は私一人で十分なので、ね~マサキさん♪」

「「「黙れサトイモォォ!!!」」」

 

 ケンカを始める愛バたちの横で、愛バに見限られた未来を想像してしまった。

 

 愛バやめる→振られた(寝取られた)→生きる意味を失う→精神を病む→そうだ樹海へ行こう。

 鬱だ・・・悲しいなぁ・・・

 

「樹海って遠いのかな」

「お、探検でもすんのかよ。いいぜ、このゴルシ様のパーティーに入りな」

「よろしくゴルシ隊長、そこでビクンビクンッしている変態(デジタル)も連れて行っていい?」

「仕方ねぇなあ、熊よけのデコイぐらいにはなるだろう。許可する」

「放っておいていいの?アンタらの操者、バカと変態を道連れに旅立とうとしてるわよ」

「「「「ダメぇぇぇ!!!」」」」 

 

 片道の樹海探検は愛バたちの懇願で阻止された。

 一旦持ち上げた熊よけのデコイは、その辺に捨てた。ずっと痙攣していてキモい。

 

 正気に戻った時、愛バたちは好奇心旺盛なウマ娘たちに囲まれ質問攻めに合っている最中だった。

 あらやだ、馴れ初めとか語られたら恥ずかしい。

 

「ふむ。彼女たち四人が君の愛バで間違いないんだね」

「生徒会長に新米教官は嘘つかない」キリッ

「相変わらず真っ直ぐな眼だ。うん、了解した。これからは学園の一員としてよろしく頼むよ、マサキ教官殿」

「こちらこそよろしく、ルドルフ生徒会長殿」

「ルルでいいよ。何かあれば生徒会を頼ってくれ、力になろう」

「それは心強いな。ありがとう、ルル会長」

 

 ルルはトレセン学園でも持ち前のリーダーシップを発揮しているようだ。

 教官にも生徒にも頼れる奴らが多くて嬉しいです。

 

 そろそろ、愛バたちと情報交換祭りしたいのだが・・・

 

 "アンドウマサキ教官、教官室へお戻りください。繰り返します、アンドウマサキ教官――"

 

 校内放送で呼ばれてしまった。連絡事項の不備でもあったのかしら。

 とにかく戻らなくてはいけない。

 愛バたちと話ができるのは放課後になりそうだ。トホホ。

 

 "迷子のお知らせをいたします。本日就任された男性教官マサキに心当たりのある方は――"

 

 マズいアナウンスが調子に乗ってきている。

 この声ミオだな、とっちめてやるぞ。

 

「クロ、シロ、アル、ココ」

「「「「はい」」」」

「そういわけで悪い、残念だが放課後にまた会おう。みんなもまたな~」

「「「「お気をつけて~」」」」

 

 名残惜しいが、教官室へ早歩きで向かう。

 ウマ娘たちを愛バに押し付ける形になったが、あいつらなら問題なく対処できるだろう。

 それにしても、みんな元気そうでよかった。

 

 ♢♢♢

 

「はぅ、颯爽と立ち去る姿も素敵です。そして突然の眼鏡男子ぃぃ!」

「メガネ!マサキさんメガネ装備してた。がはぁっ!心臓があああああ」

「本人曰く「なんか頭が良くなった気がする」だってさ。インテリマサキもいいよね~」

「眼鏡装備で試験勉強をしているマサキさん、これがまた知的でカッコいいのです////」

「アル姉、ココ、私たちがいないと思ってやってくれましたね。誉めてやろう」

「写真あるよね、今すぐ見せて、いいから見せろぉ!」

「待ってください、ええと、コレです」

「ウホッいい男!・・・これ盗撮ですか?」

「人聞きの悪いことを言わないでください、勉強の邪魔にならないよう、こっそり撮影しただけです」

「間違いなく盗撮だね」

 

 アル姉のスマホを覗き込む私たち。

 真剣な表情で参考書を読みふけっているマサキさん。うむ、カッコよし!

 集中が途切れたのか、アンニュイな表情で頬杖をつくマサキさん。こっちもいい!

 

「何だコレ、誘ってんのか?誘ってるんだよね!もう襲ってもいいよね!」

「後で操者画像の見せ合いを提案します。各々が自慢のベストショットを持ち寄り、それを共有しましょう」

「「「サトイモ!ナイスアイディア!!!」」」

「フフ、できるイモと呼んで下さい」

「イモに抵抗はなくなったんだww」

 

 クレイジーに比べたらイモなんて可愛いものだと悟ったダイヤです。

 ヤバいですね。まだ再会初日なのにマサキさんにはキュンキュンさせられっぱなしだ。

 午後からの授業が怠い、早く放課後にならないかな。

 サボってマサキさんの手伝いをする方法を真面目に考えだしたところで現実に戻される。

 ずっと堅い表情でこちらを見ているウマ娘に気付いたからだ。

 

「ご不満がおありですか、ブライアン先輩」

「本当にお前たちがあいつの愛バなのか?」

「よさないかブライアン」

「アルダンとファインはともかく、お前たち程度のウマ娘で奴が満足するとは思えん」

「ふむ、彼女の言うことはもっともだね」

「会長まで・・」

 

 おかしいですね。

 生徒会長やブライアンさんレベルの方はわかってくださっているものだとばかり・・・

 ああ、そういうことですか。

 生徒会はこういうフォローもしてくれるのですね。ご苦労様です。

 

「シロ!私たちなめられてるよ」

 

 単細胞が怒り出した。会長さんたちは私たちのために・・・ああもう、めんどくせぇ。

 察しの悪いこいつは適当に煽っておこう。

 

「なめられてるのはクロだけですよwクソ雑魚ブラックww」

「なんだとぉ!雑魚って言うなバーカ、バカサトイモ!」

「はーい、バカサトイモでーすww」超腹の立つヘン顔

「こいつ、グラウンドに埋めてやる。今日中に埋めてやる」

「キ、キタちゃんがいつも以上にアホの子だ」

「サトノさんも変ですわ。なんというか、その、頭が悪くなられて」

「「平常運転だね(です)」」

「アルダンさんにファインも、なんだかおかしいよ」

「ウマ娘のIQを下げる特殊能力でも持っているのかあいつは」

「私、マサキさんとリンクしたことあるけど、知性が下がった気はしなかったけどな~」

「マヤも!テイオーちゃんもだよね~」

「・・・うん」(頭が悪くなった心当たりがあるテイオー)

「こ、怖いこと言うのやめましょうよ。ハハハ・・」(心配になってきたスぺ)

「大丈夫だ、マサキの覇気でアホになったりしねぇよ。このゴルシ様が保証するぜ!!」

「あなたの発言で余計不安になりましたわ!」

 

 皆さんソワソワなされてどういうことでしょうか。

 へぇー、私が寝ている間にマサキさんとリンクした経験がおありですか。

 え?ドレインすると多少は覇気が循環すると・・・へぇーへぇーへぇー!

 そうですか、ああそうですか!(#^ω^)ピキピキ

 フンッ、ちょっと覇気を回されたぐらいでいい気にならないでくださいね!

 

「あいつに協力した身としては、私も思うところがないわけではない」

「大量の覇気を食い散らかした存在がお前たちだというのなら、見せてみろ」

「キタサンブラック、サトノダイヤモンド、君たちが彼の愛バだというのなら、わかるね?」

 

 マサキの愛バだと豪語するのなら、それを証明してみせろ。

 あれだけの男が必死になって救った、お前たちの価値を見せてくれ。

 

 期待と心配を込めた複数の目線を向けられている。

 マサキにドレインされたウマ娘だけではない、遠くからこちらの状況を伺っている学園生たちも私たちの注目しているのがわかる。

 戦闘を生業とする騎神なら、操者そして愛バの情報と力量は気になって当然なのだ。

 

 ここは、ありがたく会長さんたちのお芝居に乗っかりましょう。

 この場で誰かをぶっ飛ばすとかはしなくていい、ただ自然体で覇気を解放してやるだけで事足りる。

 

「みんなから、そしてマサキさんから、たくさんの覇気をもらって今ここにいるんだよ」

「そんな私たちが、弱いわけないでしょ」

 

 私とクロの体から覇気が粒子状になって放出される。

 この程度で驚いてもらっては困ります。まだ半分も出してませんよ。

 

 (クロちゃん、シロちゃん、ほどほどにね。くれぐれもほどほどにね!)

 (学園内でオルゴナイトはダメですからね)

 (ダメなの、バスカーモードで黙らそうと思ったのに)

 (退学したいのなら、お一人でご自由にどうぞ)

 (退学はごめんだよ)(´・ω・`)

 

「これは、大したものだね」

「キレイな粒子・・マサキさんと一緒の光」

「いやいや、それ以上だぞこれは」

「今まで猫を被ってやがったな」

「この覇気が、これがキタちゃんとダイヤちゃんの」

「実力の一端ですのね」

 

 ここまでにしましょう。これ以上やるとボロが出てしまいそうになるので中断します。

 

「こんなところで、どうでしょう」

「私たちは合格かな?」

「ああ、十分だ。君たち二人の覇気は操者のそれと似通っている」

 

 主食として、たらふく食べましたからね。

 マサキさんの覇気は体に馴染み切ってますよ。

 おや?アル姉とココはなんだか悔しそうですねwwプーックスクス。

 覇気が似ている、これはもう一心同体なのでは?未来永劫一緒にいるべきですね!

 

 これで愛バであることの証明と牽制にはなったかな。

 私たちの絆を疑う者や、無謀にも契約を申し込んで来る者たちにも、今日のことは伝わるだろう。

 大人しく諦めてください、マサキさんも私も既に売約済みなのです。

 

「まだ上があるな」

「なんのことでしょう?」

「お前たちも使えるんだろう、あの結晶を」

「ひゅー、ぴゅぅ~」♪~(´ε` )

「口笛ヘタクソww」

「今度トレーニングに付き合え、生徒会命令だ」

「ああ、それはいいね」

「「職権乱用だ!!」」

「ファイン、お互い苦労するな」

「ベロちゃんほどじゃないよ」

「「「「「ベロちゃんとな!!!!」」」」」

「しれっと幼名をバラすな!!」

「ベロちゃん、かわいいよね」

「女帝とのギャップがすげぇ」

「副会長はベロちゃんでしたか・・・マサキさんにお伝えせねば」

「頼むからやめろぉぉぉっ!」

 

 オルゴナイトのことも一部のウマ娘は知っているみたいです。

 生徒会メンバーとのトレーニングか、気疲れしそうだけど張り合いはありそう。

 気が向いたらお相手願いましょうかね。

 

「今日からマサキさんの惚気話解禁です!ガールズトークが捗るぞい」

「「「やったね!」」」

「ついでに本性も解禁です!少々過激になりますが、皆さんどうかよろしくお願いします」

「「「いやっほぅ!」」」

「放課後が待ち遠しい、今から医務室に突撃してくる!マサキさーん、恋の病に感染しましたぁ!」

「「「待てやコラ!」」」

 

 大勢のウマ娘たちを引き連れてカフェテリアへ向かう。

 今日は愛バチームでご飯でもと思ったのだが、皆まだ解放してくれそうにない。

 マサキさん、ちゃんとお昼食べられたかな。今度はご一緒しましょうね。

 

「風紀の乱れを感知したッス。これは手遅れの気配」

「この狂ったノリ・・・これがマサキの愛バか」

「こういうの見ちゃうと納得だね」

「イカれてやがる。だが、面白れぇ」

「四人とも、いろいろ我慢していたんだね」

「デュフフフ、羨ましい羨ましいマサキが羨ましい~」

「カピバラ君には新しいサンプルを提供してもらわねば、忙しくなるぞ」

 

 その後、昼食をとる間や休憩時間の度にいろいろなウマ娘が入れ替わり立ち代わり、私たちの下へ訪れた。

 当たり障りのない世間話をする者からダイレクトに聞いてくる者もいたが、要は契約についてどんな感じか知りたいのだろう。それとも、マサキさん個人に興味があるのだろうか。

 真剣に答える義理はないので適当に切り上げて・・・しつけぇ!みんな本当にしつこいですよ。

 

 そして待ちに待った放課後にもそれは続いた。

 もう質問攻めは勘弁してください。

 ついて来られては迷惑なので「ご遠慮してくださいね」と覇気をキツ目に飛ばして威嚇しておいた。

 同じクラスのクロは「ついて来ないでね」と笑っていたが、目が全然笑っていなかったww

 合流したアル姉とココも少しゲッソリしている。そちらも苦労したのですね。

 

 ♦♦♦

 

 わかっていたことだが、医務室のリフォームは一日では終わりそうにない。

 明日以降、ヤンロンたちも手が空いたら手伝ってくれるらしいので、ありがたい。

 一人で無理せずに今日は適度なところで切り上げておこう。

 

 控えめなノック音、四人分の気配がした。

 「どうぞ」と言って入室を許可する。

 事前に連絡した通りの時間、誰が来たかは既にわかっている。

 

「お、もう来たか。こんな場所で悪いな」

「ここが悪名高い医務室ですか、来たのは初めてです」

「悪名ww少しだけ話に聞いたが、前任者は針治療の名医だったんだろ」

「成功すればね、失敗することの方が多くて、医務室から元気になって出てくる子は三人に一人いればいい方」

「「「ひでぇwww」」」

「え、とてもいい先生だと思ったのですが・・私騙されていました?」

「成功例がここにいたか、アルは運が良かっただけだよ」

「ちょっと待ってな・・うんしょっっと、とりあえずここに座ってくれ」

 

 人数分の椅子がないので、移動させたベッドをソファー代わりに使ってもらおう。

 

「医務室のベッドに女生徒四人を誘導しましたね」

「「ベッドで先に待ってろ」ってことだね。わかったよ!」

「わかってないぞ」

「これは誘ってるね」

「さ、誘われてしまいました////」

「誘ってねーよ。思春期か!」

「「「「思春期だよ(ですよ)!!」」」」

「そうだったな」

 

 全員女子中高生でした。

 すぐそっち方面に話を持っていこうとするんだから・・・可愛い奴らめ。

 でも、学園内では節度を守ってね。

 多分クビだけじゃ済まないから、姉さんに切腹命じられるとか十分ありえるから!

 

「切腹するかもという緊張感を乗り越え、学園内で秘密の特別授業だね」

「そんなスリルいらん!」

「スリルが無ければいいのですね」

「まあな」

「両者合意の上でなら、外野がいくら騒ごうが無視ですよ無視」

「気持ちだけで世の中回らないもんよ。その辺は上手にやって行かないとな」

 

 自分たちさえよければいいなんて、傍若無人な考えは嫌いだな。

 お世話になってる人に迷惑かけるなんてことできない。

 したがって、職場でアレコレいたすことは自重します・・・たぶん。

 

「世渡りを覚えたマサキさん。大人だ~」

「俺はまだガキのままでいたかったけどな」

「お手伝いしましょうか?」

「いい、座ってろ。もうすぐ終わるからな・・・これは、こっちに入れて」

 

 話したいことはいっぱいあるが、結局当たり障りのない世間話に落ち着く。

 今日学園でどう過ごしたかとか、帯刀した女性職員に注意しろとか・・・それ姉さんです。

 

「これでよし、今日はここまでにしよう。無事に初日終了だ」

「「「「お疲れ様でした」」」」

「まだこれからだぞ、でもありがとう」

 

 ちょっとした労いの言葉すら嬉しい。

 四人の頭を順番に撫でると目を細めて気持ちよさそうな顔をしてくれる。

 サラサラの髪に柔らかな耳、手触り最高!

 

「まだ言ってなかったですよね」

「何のことだ」

「突然だったから言いそびれちゃった」

「全員一緒に、だよ」

「ええ、せーのっ!」

「「「「マサキさん」」」」

「はい!何でしょうか」

 

 ちょっとビックリした!

 四人が一斉にハモると何とも言えない迫力があるな。

 

「「「「おかえりなさい」」」」

 

 それは確かに、クロやシロから言われていなかった言葉だった。

 四人とも、もの凄く嬉しそうな、そして幸せそうに笑いながら言ってくれたのだ。

 その笑顔に思わず見惚れたのも仕方がない。

 それは遠い昔、母さんの真名を初めて聞いた時のようで・・・彼女たちの存在に心を奪われた。

 顔が赤くなるのを感じる。今の時間が夕焼けでよかった。

 「あ~」とか「う~」とか言葉にならない声を出した後にやっと返答することができた。

 

「た、ただいま////」

「「「「・・・・」」」」

「なんだよ~見るなよ~照れるんだよ!あーやめやめ」

「プッ、アハハハハハ。何それカワイイ」

「やめなさい、大人をからかうのはやめなさい」

「カワイイは誉め言葉ですよ」

「お前らの方がカワイイわ!」

「うお、反撃された」

「マサキさんはカッコカワイイ、そこがいいんです」

「アルも大分毒されてきてるな」

 

 情けないことに、恥ずかしさのあまり顔を両手で覆いしゃがみ込んでしまった。

 さっきのお返しとばかりに俺の頭を撫でる四人。

 こういうじゃれ合いを大事にしていこうと思います。

 

 同僚たちに「お疲れ、じゃあ帰るね」の挨拶は事前に済ませている。

 愛バたちが迎えに来たら本日の業務終了だと報告しているので問題ない。

 ここからはプライベートタイム。しかし、学園内ではまだ気を引き締めおこう。

 帰り支度をして医務室を施錠する。鍵の管理は俺が責任もって行うぞ。

 

「この後どうする?まだ時間があるなら、俺に付き合ってもらえるか」

「寝床に帰るだけですからね。問題ないです」

「私も~全然大丈夫」

「私もいけます」

「このままマサキの家でお泊りしてもいいよ」

「「「賛成だ!!!」」」

「俺の家、今日はちょっと無理だな」

「「「「残念!!!!」」」」

 

 俺の家か、あそこはなぁ・・・場所がなぁ・・・とりあえず、また今度ということで。

 

 五人で目的地に向かう、目指すは学園の敷地内にある旧校舎。

 俺と姉さんが修練に使ったダンジョンがある場所だ。

 

「到着だ」

「開かずの旧校舎?ここで何するの」

「こういうのは早い方がいいと思ってな、お願いしていいか?」

「あなたの頼みを断る子は、ここにはいません」

「何なりとお申し付けください」

「どうかご命令を、私の操者様♪」

「そうか、なら言うぞ。言っちゃうぞ」

「ドーンと来いだよ」

 

 それでこそお前たちだ。

 少し恥ずかしいけど必要なことだもんな。

 

「お前たちの体を見せてくれ、そしてじっくり触らせてくれ」

 

「「「「・・・・」」」」

 

 なぜ黙る。その顔は何なの?別に変なことは言ってないよな。

 何かプルプルしだした、尻尾も落ち着きなく揺れている。

 

「「「「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」」」」

 

 うおぁ、急に叫ぶなよ!

 今日だけで何度心臓が跳ねたことやら。

 

「どうした?マジでどうした!?」

「あの、それは全員でですか」

「ああ、一緒にやった方がいいと思って」

「場所は、その、ここで?」

「もちろん旧校舎の中でやるぞ、内部は防音防爆仕様だから誰にも見られないし迷惑もかけない」

「きゅ、旧校舎で初体験////」

「初めては緊張しても仕方がない、俺も経験豊富というわけではないが、出来るだけ優しくするつもりだ」

「優しく////はぅぅ////」

「やっぱり痛いのかな?」

「それは最初だけらしいですよ」

「全員一度に、それもこんな場所で・・・マサキったら変態、でも好き!」

「なんだ緊張してるのか、だったら日を改めても―――」

「「「「全然全く問題ないです!!!!」」」」

「お、おう?」

 

 愛バが興奮気味なのが気にかかるが、やる気があるのはいいことだ。

 

 理事長と姉さんに使用許可をとってある。

 特殊な錠前を覇気で解除して旧校舎の中へ、相変わらず外観と内部構造に齟齬があるな。

 

「常在戦場を心掛けていてよかったです。今日は勝負下着装備ですよ。フフフ、勝ったな!」

「ヤッベ、私今日スポーツブラだ。やっちまった」

「初日で決めにくるなんて、マサキは私が思う以上の男だったね」

「マサキさん」

「どうしたアル」

「マサキさんは準備できているのでしょうか?その・・アイテムとかの・・」

「男性専用装備ですね!わかります!」

「アイテム?装備?そんなもの必要ないだろ。直接やるから任せておけ」

「「「「さすがだ!!!!」」」」

 

 妙に盛り上がってるな、一体何があったのだろう。

 知らない内に俺の株が急上昇した。

 

 愛バたちの俺を見る目がギラギラしてなんか怖いんだけど、ハアハアするのやめてくれる。

 

 ・・・・・・ああ、そういうこと、いや~思春期なめてたわwww

 



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登校風景

言い訳させてください。
愛用のPCが故障してしまったので投稿が遅くなりました。
決して暑さでダラダラしていた訳ではないのです。


 養護教官としてトレセン学園に就任。

 お世話になったウマ娘たちと再会できたし、愛バたちも勢揃い。

 

 放課後のトレセン学園。

 旧校舎地下5階の大広間にて、愛バの体に触れる俺は真剣だった。

 

「これぐらいか?」

「んっ・・・もう少し強くてもいいですよ」

「これでどうだ」

「あっ・・いい感じです。そのまま」

「少し強くするぞ」

「ひゃぁ、そ、そんなに激しくしたら」

「動いたらダメだ、ちょっとだけ我慢してろ」

「これ以上されたら、おかしくなってしまいます。いやぁ////」

「わかった、ここがこうなって」

「ダメです、ダメぇ・・・アッーーーーーー!!!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

「終わったぞ、シロ。あらら、気絶しちゃったか」

 

 目を見開いたまま気絶しているシロをそっと横たえる。

 なんだこれww顔がヤバイ、人には見せられない顔をしている。

 モザイク処理されても仕方ないレベルだ。

 

「ともかくシロも完了、これで全員分だな」

 

 忘れないうちに手帳にメモメモ、俺の記憶にもしっかり刻みつけて覚えておこう。

 何をやっていたかだと?

 ステータスチェックに決まってる!誓っていかがわしいことはしてない。

 操者たるもの愛バの状態を把握しておかないとな。

 筋肉の付き方と骨格の強度、疲労度にケガや病気の有無、神核の状態と覇気の流動等々。

 アレコレ触ったり覇気を流してみたりで一通りのチェックしてみました。

 全員特に異常が無いようで安心した。

 心配していた、クロとシロの急成長による肉体へのダメージも問題なし。

 みんな健康優良児ね。

 

「おーい、みんな大丈夫か?」

「・・・大丈夫じゃ・・ないよ」

「腰が抜けて、まだ立てません」

「君たちねぇ、こっちは真面目にやっているというのに」

 

 チェック中に身じろぎしながら妙な声上げ、最終的にヘロヘロになった愛バたち。

 初診でこれかよ、先が思いやられる。

 

「くっ、この程度のボディタッチでいいようにされるなんて!」

「悔しい、でも感じちゃうってヤツだコレ。シロもそう思うよね・・・シロ?」

「・・・・」チーン

「大変!シロさんがダブルピースしたまま昇天してます!記念に写真撮りますね」カシャ

「なんて酷い顔だww」

「でもなんか幸せそうww」

「もういいだろww起きろシロ。その顔やめなさい」

 

 気絶したシロの頬をペチペチ叩いてみる。

 今の顔パパさんが見たら卒倒するぞ、ハートさんやうちの母さんは爆笑しそうだけどな。

 

「うーん、あれ・・私は」

「起きたかシロ。凄い顔をしていたから心配したぞ」

「起きてすぐマサキさんを拝めるなんて、幸せです」

「元気みたいだな」

「マサキ、私たちの体を弄んで何を調べたの?」

「言い方がなあ、お前たちのステータスを確認しただけだよ。定期的な健康診断はしているだろうが、操者として直に触って確認したかったんだ。覇気は直接流してみないと不鮮明なことも多いからな」

「なんかお医者さんみたい」

「おお、ドクターマサキですね」

「本格的な医者ってわけでもないが、治療師の免許は取得したぞ」(`・∀・´)エッヘン!!

 

 製薬企業勤めなのに戦場で指揮をとらされるドクターが主人公のゲームがあってだな。

 好きなオペレーターはロスモンティスですが何か?

 せめてクランタ(馬)族のキャラを言えって・・・プラチナかな。

 

「今、私たち以外のメスウマに思いを馳せましたね」

「思ってない、アークナイツなんて全然知らないッス」

「私が、怖いですか?」

「アーミアCEOやめーや」

 

 ウサギ娘もいいよねって、ちーがう。

 アルが真顔のCEOばりの眼力を飛ばして来ちゃうのでこの話はやめよう。

 

 次は一人づつリンクを試してみるか、それとも先にバスカーモードを見せた方がいいかな。

 来るべき戦闘に備えできることはやっておきたいが、初日に詰め込み過ぎるのも良くないかも。

 どうすっかなあ、今後のプランは相談しながら決めていくとして・・・

 

「うーん、いい時間だし今日のところは帰るか」

「何言ってるの?次はこちらのターンだよ」

「あれだけ好き放題触っておきながら、このまま帰るなんて意地悪ですね」

「あれは必要だから触診したのであって」

「仕方なく、義務感のみで触ったんですか?」

「好きだから触った何か問題あるか!これからもガンガン触るね!操者の役得だ!」( ー`дー´)キリッ

「「「「正直なあなたが好き」」」」

 

 真面目に触診したんだから、多少のムラムラは見逃してよ。

 全員可愛いからしょうがないよね、これでも俺の自制心は頑張ったんだぞ。

 

「では、今度は私たちがマサキさんをチェックする番ですね」

「「「おおー!!」」」

「おおー!じゃねーよ、俺の体のことはいいだろ別に」

「よくない、操者の状態を愛バは気にして当然。アレとかコレとか触ってみたいし!」

「先に手を出したのはそっちです」

「俺が思った以上に掛かっていたか、参ったなあ」後退り

「ちょっとだけ、ちょっとだけですから!」

「ふっふっふ、逃がさないよ」

「マサキさん、お覚悟を」

「無駄な抵抗はしないで素数でも数えていてね」

 

 にじり寄って来る愛バたちの圧が強い。

 俺の体に触りたいだなんて、愛されている証拠だ。

 本来なら喜ぶべきところなんだろうが、どうすっかなあ。

 また今度にしようかと思ったが、ついでにやっておくか。

 修羅直伝の構えをとり愛バたちと相対する。

 

「好きなだけ触っていいぜ、だたし・・俺に勝てたらなぁ!」

 

 状態確認の後は実際に戦って力量を測らせてもらおう。

 さあ見せてもらうか、俺の愛バの実力とやらを。

 まあ、今日は初日なんでかるーくじゃれ合うぐらいの組手でも・・・

 

「聞いたな」

「うん」

「ええ」

「バッチリと」

 

 ふぇぇ、愛バがなんか怖いよぅ。

 軽くだからね、ちょっと互いの呼吸とかを確認したいだけだからね。

 

「じゃあ、一人ずつ、誰からにす―――!?」

「総員突撃ぃぃーーー!!」

「「「ヒャッハー!!!」」」

「きゃーー!いやーー!全員来たぁーーーー!!」

 

 おいおい、いきなり四対一かよ!アカンこいつら目がマジだ。

 ぐっ!ここで敗北すれば「就任初日に逆うまぴょいサレ男」の称号を獲得してしまう。

 なめるなよ、これぐらいの修羅場は覚悟していたわ。

 最悪負けちゃっても両想いなら問題ないよねとか少しだけしか思ってないから!

 例え旧校舎の謎空間でも学校の敷地である、ここで致すのは良くないのわかってるってば。

 

 

「囲め!囲んでしまえばいくらマサキさんでも」

「ごめんね、袋叩きにしちゃうよ」

「マサキが悪いんだよ。散々焦らすんだから」

「操者との殴り愛!これも愛の形ですね」

 

 覚悟を決めろ、やるしかない。

 操者として教官として、愛バであり生徒でもある、お前たちに特別授業してやるわ。

 

「いいだろう、かかってこいやぁぁぁーーー!!!」

 

 大乱闘したので、また一着スーツがお亡くなりになった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ちょっとヒヤヒヤしたが、お触りタイムからの逆うまぴょいは何とか避けられた。

 

 バスカーモードを使おうとしたクロとシロ、デバイスを使おうとしたアルとココ。

 本気過ぎて怖いよ!いくら思春期だからって、どんだけ飢えてんだよ。

 今度からは試合の前にルールを設けることを心に誓った。

 

「私たち4人相手に一歩も引きませんか、それでこそです」

「あーあー残念だったな~お触りしたかったなぁ。まあ、楽しかったからいいや」

「次こそはマサキの弱点を見極めてあげる」

「ええ、次こそは弱点(性感帯)見つけて差し上げます」

 

 君たち元気ね、結構本気でぶん投げたりしたんだけどピンピンしている。

 これが若さか?

 一斉攻撃された時は焦ったけど興奮し過ぎてバラバラに動いていた、アレがちゃんと噛み合っていたら危なかった。

 今後は個々の力を伸ばしつつ、連携も視野にいれて強化をするべきだな。

 

「それにしてもマサキさん、面白い恰好になりましたねw」

「誰のせいだと思ってるんだ」

 

 脱いだ上着は無事だったがズボンが破けてボロボロの短パンになってしまった。

 ちょっとパンツ見えちゃってるからね。恥ずかしい!

 やたらと下半身ばかり狙ってくる愛バたちのせいでこうなりました。

 客観的に見て俺の恰好はおかしい、夏を先取りし過ぎた短パンスーツは流行らないよ!

 今度から運動用の着替えを持って来ることも心に誓った。

 

「特別な予定が無い限り、明日から放課後はここに集合な。制服を汚したくなかったら、ちゃんと着替え持って来るの忘れないように」

「「「「はーい」」」」

 

 あれだけ動いたのに愛バたちの制服に破損はないようだ。

 さすがトレセン学園の騎神用制服、戦闘や修練中に着用しても何ら問題ない。

 教官は私服OKだけど「なるべく丈夫なの着て来い」て注意書きが身に染みた。

 

「マサキ、疲れたからおんぶして」

「もう乗っかってるじゃないか」

「準備万端のくせに~」

 

 俺の了解を得る前に飛びついてきたココを支えてやる。甘えん坊さんですね。

 条件反射でおんぶの完成、こいつをおんぶするのは2回目だ・・密着されるとなんか照れるね。

 胸とか尻とか腿とか柔らかいんだもん!あ~後頭部にマーキングされちゃう。

 あれ?こういう時「ズルい!」て騒ぎ出すクロとシロが大人しいのは何故。

 

「勝負でおんぶされる権利を獲得したから文句は言わせないよ」

「クソッ!ズボンに致命傷を与えたのは私だったのに!」

「ちっ!最後で美味しい所を奪われました」

「なかなか難しいですよね。マサキさんのズボンを短パン化選手権」

「あの、変な遊びに俺を巻き込むのやめて」

 

 いつの間にそんな勝利条件を企てたのか・・・恐ろしい子たち。

 「次はハイレグにしちゃおう」じゃねーよ。操者を辱めて楽しいか、マジでやめてください。

 

「シロ、私もおんぶ~」

「甘えるなボケ」

「アル姉~」

「はいはい、いらっしゃいクロさん」

「もう、アル姉さんはクロを甘やかしすぎです」

「フフフ、シロだけ仲間外れだね」

「そんな!マサキさん、ココを投げ捨てて私を今すぐ抱っこしてくださいぃ!」

「また今度な」

 

 ココをおんぶした俺、クロをおんぶしたアル、ぶつくさ文句を言うシロという面子で地上へと戻る。

 なんかいいよなこういうの、仲間というか家族みたいでさあ。

 小さかった頃の俺も母さんやネオさんによくおぶってもらったっけ・・・。

 道中にエンカウントした雑魚モンスターは手持無沙汰なシロが全て始末してくれたので難なく帰還。

 

「遅いですよ。今何時だと思ってるんですか」

「「出たな小姑!!」」

「ね・・たづなさん。ご心配をおかけしました」

 

 旧校舎から出た俺たちを姉さんがお出迎え。

 アルとココが警戒モードに入ったのでなだめる、仲良くしてね!お願いだから。

 

「いや~、ダンジョンは時間の感覚が狂うんですよね。つい熱中しちゃって」

「言い訳しない、スマホや時計ぐらい持っているでしょうに」

「はい、次からはアラームセットします」

「新居の片付けまだ終わってないんでしょ、ここの施錠はやっておくから早く帰りなさい」

「ありがとうございます。落ち着いたら家にご招待しますよ」

「楽しみにしてるわ。ああそうだ、歓迎会するって理事長が張り切っていたから予定を開けておいてね」

「わお、嬉しい企画進行中ですな」

 

 愛バたちの視線が痛くなって来たので「また明日」と言って姉さんと別れた。

 笑顔で見送ってくれる優しい姉、離れていた分、姉弟の時間はこれから取り戻していければいいな。

 校門へ向かう道すがら無言だった愛バたちが口を開く。

 

「メッチャ仲良いじゃないですか!あんなに笑うたづなさん初めて見ましたよ」

「どういう関係?アル姉とココは戦闘態勢だし」

「「敵だ!!」」

「「なんと!!」」

「敵違う、姉だ」

「姉・・・シスター?」

「自分のことをマサキさんの姉だと思い込む異常者ですか?キモイです」

「今の発言、姉さんに聞かれたら両断されかねんぞ」

 

 愛バたちにたづなさんが血の繋がった実の姉であると説明した。

 

「冗談で言っている訳じゃなさそうだね」

「お義姉様じゃないですか!?改めてちゃんとご挨拶せねば。で、アル姉さんとココの態度がすこぶる悪いのは何故?」

「前にいろいろあったらしいんだ。詳しくは知らないけど」

「殺されかけたんだよ!小姑の嫁いびりなんてレベルじゃないよ!」

「今のところ直接手を出しては来ませんが、私たちを見る目が何というかその・・・」

「ゴミを見る目でしたねw」

「あー、なんかそれわかる。入学してからシロと私もジロジロ見られた」

「姉さん俺の愛バに何しとんねん・・・あんまり酷いようだったらすぐに言えよ、俺から姉さんに注意しておくからな」

「マサキさんの手を煩わせるのは不本意ですが、その時はお願いします」

「身内の言動からちゃんと守ってくれる。私の旦那様はやっぱり最高だね」

「もうボケましたかココ、マサキさんは私のですが?」

「もう、二人とも所詮おまけなんだから無駄な争いやめてよ」

「そこは「私たちの」でいいじゃないですか」

「はいはい、ケンカはダメダメ。そんなんじゃ姉さんに勝てないぞ」

 

 姉と愛バの関係がギスギスするのは避けたい、なにより俺の精神衛生上よくないし。

 今度一緒に修練しようって誘ってみようかな、仲良くなるには苦楽を共にするがいいと思うのよ。

 

 正門を出て少し歩くと学園生たちの寮に辿り着く。

 これが寮だと?

 どう見ても高級住宅街にありそうな立派なデザイナーズマンションだ。

 これもやよいが新しく建てたのか、トレセン学園どんだけ金持ってるんだよ。

 ここから、更に離れた位置には姉さんたち教職員用の宿舎もある。

 以前、俺が訪れた時に学園敷地内にあったものは取り壊されて別の施設に様変わりしていた。

 

「俺はここまでだ、また明日ってことで」

「泊まっていかないの?」

「魅力的な提案だが学園寮に教官が泊まるのはマズいなあ」

「では私たちがマサキさんの住まいにお邪魔するということで」

「それならアリかな、操者と愛バだし問題無いよね!」

「いっそのこと一緒に住んじゃう?同棲生活なんて素敵だよね」

「夢が広がりますね~」

 

 遅かれ早かれ愛バたちと一緒に暮らすのはやぶさかでない、むしろ大歓迎だ。

 学園を卒業する頃にはそれも当たり前になっているのだろうか、なっているといいな。

 ルクスとかアレとかコレとか、幸せな生活を邪魔する問題は何とかする。

 おや?寮からこちらを伺う複数の気配を感じる。

 

「みんなマサキさんと私たちに興味津々」

「面倒くさいなあ、当分の間おもちゃにされそう」

「苦労をかけてすまん」

「苦労だなんて、あなたと一緒にいられるならモブの詮索など些事です」

「ええ、周囲を気にせず我々は仲良く過ごしましょうね」

「そうか、まあ、お前たちなら上手くやるよな。じゃあ帰るわ、夜更かしすんなよ。またな~」

「「「「はーい」」」」

 

 愛バたちの頭を一撫でしてから退散することにする。

 さっそく背後で愛バたちに接触する学園生たちの声が聞こえてきた。

 家柄もあってか全員周囲のあしらい方は心得ているだろう。

 嬉し恥ずかしガールズトークもいいが、適当なところで切り上げてちゃんと休むんじゃぞ。

 

 愛バたちと別れて道を進む、急に寂しさがこみ上げて来たがまたすぐ会えるので我慢する。

 ミオたちが住んでいるであろう、教職員たちの宿舎が視界に入ったがスルーして歩き続ける。

 残念ながら俺の新居はここではない。

 最新設備で格安の家賃、至れり尽くせりの宿舎は非常に人気があり全室満員御礼、俺が入れる空室がないのである。

 姉さんやミオとルームシェアしてもいいと言われたが、ズルズル甘えてしまいそうになるのでお断りした。

 それに・・・愛バを部屋に呼んだときとか、その・・・アレじゃん・・・ねえ。

 気兼ねなくイチャつきたいんです。どうか察してください。

 

 ネオン煌めく繁華街方面に歩みを進めると飲み屋等の所謂夜のお店が賑わっている。

 すれ違う酔っ払いたちが下戸の俺には羨ましく感じられる。飲みすぎには注意しなはれ。

 少し入り組んだ通りを抜けて新居に到着!古めかしい三階建てのマンションが俺の住処だ。

 繁華街の裏通りに存在するこの物件には満足している。

 外観は悪いが内装はフルリフォームされていて広さも十二分、おまけに家賃が安い!

 入居の条件は同一物件に住むオーナーに気に入られることのみ。

 俺は一発合格だったぜ。ちょうどそのオーナーが自室から出てきたところに出くわした。

 オーナーは肩までの金髪に碧眼の美女だ。

 白いシャツにダメージジーンズを着こなした姿は活発な彼女によく似合っている。

 

「お帰りなさいマサキ。教官初日は上手く乗り切ったようじゃん」

「おかげさまでな。そっちは今から出勤か精がでるな」

「ここの大家も店も趣味でやっているようなもんだから全然苦じゃないよ。あ、そうだ。今度親父がこっちに来るって「小僧とその毒牙にかかった間抜けウマを調べつくしてやる」だってさww」

「うげ、勘弁してくれ。俺関係のデータはシュウから渡してもらってるはずだろう」

「直接会いたいんだよ。親父はマサキを気に入ってるからね」

「新しい実験材料が欲しいだけだろ」

 

 マッドサイエンティストめが!その飽くなき探求心がたまにウザい。

 

「気が向いたらお店の方に顔をだしてよ。愛バたちも歓迎しちゃうから」

「俺は下戸だ」

「知ってるよwお酒以外のメニューもあるし、昼はランチもあるから絶対来てよね」

「そのうちな」

「シュウも呼んでパーティーするのもいいかもね。幼馴染飲み会は絶対やろうよ!これ決定事項ね」

「だから飲めないってば」

 

 ヒラヒラと手を振って自らが経営するカフェバーに出勤していくオーナーを見送った。

 オーナーの正体は俺とシュウの幼馴染(ゲスト扱い)のリューネ・ゾルダーク。

 あのビアン・ゾルダーク博士の愛娘で、人間にしてはかなり強い部類に入る女だ。

 シュウの紹介で見つけたこの物件のオーナー件、近所の飲食店経営者として偶然(たぶん必然)に再開した。

 日本に来ていることもビックリしたが、真面目に働いているのにもビックリだ。

 父親の影響で科学者になるか、傭兵や操者として戦地を渡り歩くものだと勝手にイメージしていたから。

 「マサキが教官wwwまさかの教職wwトレセン\(^o^)/オワタ」と抜かしたことから、向こうも俺の職業について思うとことがあったようだがな。

 

「まさかの再開だったが、これも縁ってやつだよな」

 

 幼馴染三人でラ・ギアスの野山を駆け回った日々が思い出される。

 俺たちを探しに来たビアン博士が山で遭難したときは不覚にも笑ったw博士がハマった落とし穴を掘ったのは俺じゃないです。

 落下地点に竹やり仕込む手並みはどう見ても娘さんの仕業ですよww奇跡的に無傷で良かったですね。

 幼少期からパンジステーク等のゲリラ戦を展開してみせるリューネは、シュウとはベクトルの違う天才だったのだろう。よく泣かされたし、それ以上に笑わせてくれて、いっぱい助けてもらった。

 リューネとケンカしてボロ負けした俺が母さんに頼み込んで"遊び"という名の修練を開始したんだっけか、あの時の悔しさが今の俺に繋がっていると思うと感謝すべきなんだよなあ。

 

 自室に到着、誰もいない部屋だけど「ただいま」と言え。俺は言うね!

 未開封のダンボールを手早く片付けて風呂と簡単な飯で一息つく。

 

「残りは空き時間にちょっとづつ片付けるとして・・・うーん、インテリア少ないと寂しいな」

 

 一人暮らしにしては広い部屋は家具が揃っておらず殺風景極まる。俺の荷物が元々少な目だったのも影響しているんだろう。

 スッキリしていていいんだけど、やりすぎミニマリストの部屋みたいだ。

 家具については必要に迫られたら随時買うことに決めて、その日は眠りついた。

 明日もいい日なりますように。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ああ、これは夢だ。

 内容はわかってる。どうせ、またあの時のリプレイだろ。

 最近マジでしつこいぞ、週一が三日に一回になってるじゃねーかよ。そんなに何度出てくるなよ。

 わかってる、俺の役割はわかってるから心配するな。

 えー、また最初からやるの?もうウンザリなんだけど、これが終わらないといつまで経っても眠れないからこまったもんだ。

 はいはい、やればいいんでしょやれば!台本は全て頭に入ってる。

 

 

 誰だ?お前はいったい誰なんだ。

 

「俺が誰かだと?それはお前が一番よくわかっているはずだ」

 

 知らない、俺はお前のことなんて知らない。

 

「偽りの自分に逃避するのはやめろ、己が使命を果たせ」

 

 使命・・・そのために多くのものを失えというのか。

 

「受け入れろ、それが俺たちの運命だ」

 

 運命なんてクソくらえだ。

 俺はここにいたい、大好きな人たちの、あいつらの傍にいたいんだ。

 

「1stの惨状を見ただろう、お前が使命を放棄すれば、お前が大事に思うもの全てが滅ぶ。そんなことが許せるのか?」

 

 あいつらが、みんなが、世界が滅ぶ・・・許せない、許せるものか!

 

「生まれた意味を、本当の自分を取り戻せ」

 

 俺は・・・

 

「お前は俺だ」

 

 そうだったな。前回の自分を忘れるなんてどうかしていた。

 今回は以前にも増してイレギュラーな事態が多すぎる。

 定かではないが2ndに強行転移した際にバグでも発生したのだろう。

 

「もう後がない、今回が最後の決戦になるだろう。絶対に勝たなくてはならない」

 

 最終決戦、なんとも損な役目を仰せつかったものだ。

 回を追うごとに向こうは力を増強し続けているというのに、こちらは消耗しきってこの様だ。

 手繰り寄せた僅かな縁と積み上げた幾多の"想い"でギリギリの均衡を保っている。

 それもいつまでもつかわからないが、悲観しても仕方がない。

 後悔や懺悔をする暇があるならば己の牙を砥ぎ勝率を上げることを優先すべきだ。

 今度こそ俺が勝つ、勝利してあの相容れない輝きを世界から排除する。

 

「「あの光を消し去ってみせる!」」

 

 待っていろ、俺が必ず引導を渡してやる。

 

 はい。これでいい?うろ覚えだけどこんな感じでしょう。

 この時の俺ってばなんかテンションがおかしいww光ってなんやねんww

 

 明日も早起きしたいんだよ、もう寝るからね。

 使命?今は目先の生活で精一杯です。

 多分だけど、教官として頑張ることが使命を果たす結果に繋がると俺は思うね!

 おやすみなさい~。

 

 眠りに落ちる寸前、考えたくもないことが頭をよぎる・・・使命を終えた後の俺は一体どうなるのだろう。

 

 俺はアンドウマサキのままでいられるのか、それとも・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 おはようございます。

 なんだかしょーもない夢を見た気がするが忘れることにする。

 教官生活二日目にしてちょっと寝坊したので焦る。

 早朝トレーニングを短縮モードで切り上げて、身支度後に朝食代わりのクスハ汁(新フレーバー)を流し込む。

 

「美味っ!これめっちゃフルーティーで飲みやすい」

 

 企業努力の結果か、世間一般で大不評の味が最近改善されてきたクスハ汁であった。

 これならシロも飲んでくれるかな?ダメ元でおすすめしてみよう。

 

 服装は丈夫で適当な普段着をチョイス、学園では合格祝いにシュウからもらった白いジャケットを羽織ることにする。遠目に見れば白衣に見えないこともないか、本質は白衣などではなくゴリゴリの戦闘にも耐えれるバリヤジャケットだけどな。メガネは気分次第でかけます。

 

 ピンポーン!

 ええー、こんな時間にインターホン鳴っちゃった。

 もう家を出ないと遅刻しちゃうんだけど、セールスだったらどうしてくれよう。

 外観のボロさに定評がある住まいにオートロックやモニターカメラは付いておりません。

 前に住んでいた所との違いに慣れなくてはいけないな。

 仕方なく受話器を取る。

 

「はい、どちら様でしょうか?新聞や怪しい宗教の勧誘ならお断りします」

「マサキさん、おはようございます。私です」

「この耳が癒される声は、アルか!朝からどしたの?」

「ご一緒に登校しようと思いまして、迎えに来てしまいました。ご迷惑だったでしょうか」

「迷惑なわけがあるか、嬉しいぞ。開いてるから勝手に入ってくれ」

「はい、お邪魔します」

「「「お邪魔します」」」

「ちょwwwお前らいたのかw」

 

 玄関からアルが、ベランダ側の窓からクロ、シロ、ココの三人が入って来た。

 アル一人だと思って油断した。全員気配遮断上手くなってるー!

 

「ここ三階なんだが」

「ジャンプした」

「楽勝です」

「ベランダから突入した方が新鮮だと思って」

「うん。でも今度からは玄関から普通にお願い」

「善処します」

「よくここがわかったな。覇気は漏らしてないつもりだったが失敗したか」

「シュウ社長とミオ教官が裏取引の結果暴露してくださいました」

「あいつらったら!」

「繁華街までは匂いと感で辿り着いたんだよ。褒めて褒めて~」

「おう、警察犬もビックリだな。よしよし」

「えへへ」

 

 セットが乱れない程度にクロをわしゃわしゃしてやる。

 リンクアウトした状態でも操者の大まかな位置はわかると思っていいみたいだな。

 絆の強さがなせる技?操者を求める愛バの帰巣本能みたいなもんかね。

 俺の場合はどうだろう?愛バたちにかくれんぼしてもらって制限時間内に発見できるか、やってみるのも面白そう。

 

「荷解きは済んだのですか、インテリアが少ない気がするのですが?」

「はは、広いが寂しい部屋だろう。恥ずかしいからあまり見ないで」

「欲しい家具があれば相談してね、それ以外でも困ったことがあったら何でも言って」

「ありがとう。何かあれば頼らせてもらう」

「そんなマサキさんに、サトノブランドおすすめのサブスクを紹介します」

「ほう、詳しく」

「ダイヤモンドという名の専属メイドを使用する権利がありまして。家事に護衛、身の回りのお世話から夜のご奉仕まで完璧にこなせます。今この瞬間から永年無料で使用できますがどうします?」

「あ、それ四種類から選べるよ」

「そうです。シロさんで満足できないようなら即刻チェンジ可能ですから」

「言うようになりましたねアル姉さん」

「そのサブスクは既に入会してる。四種類全部くれよ」

「この欲張りさん!超好き!」

 

 お泊りしたいとか、私物を持ち込んでいいかとか話している内にいい時間になったので家を出る。

 エレベーターはあるが三階程度で使ったら負けた気がするので階段で一階に下りる。

 コラコラ飛び降りてショートカットするのはやめなさい。スカートめくれちゃうわよ。

 入口付近を掃除中のリューネと遭遇。今日も朝から元気だな。

 昨日も深夜までバーにいたはずだが、この女はいつ寝ているのか?ショートスリーパーなの?

 

「おはようマサキ。へぇ、その子たちが・・」

「おう、自慢の愛バたちだ」

「フフ、愛されてるねぇ。私はリューネ・ゾルダーク、マサキとは子供の頃からの知り合いだよ。よろしくね」

「出た!お、幼馴染!?」

「そして当たり前のように美人、強敵ですね」

「また金髪巨乳かよ!」

「人間のようですね、かなりの実力者とお見受けします」

 

 自然な動きでさり気なく俺を守るように位置取りする四人。

 その警戒をとくように目配せして、自己紹介をさせる。

 

「ブラックにダイヤ、ファインにアルダンだね、うん覚えたよ。マサキのことよろしく頼むよ、学園でヘマしないように注意してあげて」

「言われなくてもそのつもりです」

「リューネさん鬼強いね、今度手合わせして欲しいな」

「ははは、アンタとじゃこっちの身が持たないねぇ」

 

 竹を割ったような性格のリューネに早くも打ち解けた愛バたちに一安心。

 俺の周りにいる女性陣全てに噛みつくようでは、この子たちのためにもよくない。

 四人には俺だけに固執せず沢山の人と良い関係を築いてほしいものだ。

 挨拶もそこそこに出発、遅刻厳禁ですぞ。

 

「ねえ見て、あれって」

「本当だったんだ」

「うわショック・・・あの気高きアルダン様が」

「ファイン、ラーメンより男を選んだのね」

「あがががが、キタちゃんがメスの顔を」

「ダイヤ様ダイヤ様ダイヤ様ダイヤ様ダイヤさまぁぁぁぁ~」

 

 学園に近づくにつれて登校中の学園生も増えてくる。

 揃って登校する俺たちを発見した者の反応は様々だ。

 中にはヤベェ奴がいるが、愛バたちは気にした様子もなくスルーしているので放っておく。

 学園生だけではなくここに来るまでにすれ違った人々もジロジロと奇異の視線と感情を向けて来たな。

 愛バたちには興味に崇拝や思慕等の好意的な感情が多め、そして俺には・・・

 

 (いい女を侍らせやがってちくしょめー!)

 (ハーレム気取りか、ふざけんな!)

 (もげろもげろもげろもげろもげろもげろ)

 (どれだけの徳を積めばこうなるのだ。弟子入りしたい!)

 (ウホッ!いい男。ハアハア(*´Д`))

 (ウマ娘たちに彼は勿体ない!やらないか?公園のトイレでスタンバってます)

 

 うん!こうなるってわかってた!

 嫉妬や恨みがましいのが8割残りの2割が羨望と尊敬ってところか。

 ものすごく嫌な視線を尻の辺りに感じたのは気のせいだよね?やめてくださいよ!

 

「照れるしちょっと恥ずかしいが、それ以上に鼻高々!俺の愛バだぞとドヤってやりたい」

「私たちもだよ。いいでしょ私の操者だぞ!」

「お前たちファンが多いんだな。なんか俺、刺されたりしない?」

「マサキさんを刺すような愚か者は、その前に摘み取るのでご安心を」

「昨日も言いましたが、周囲を気にする必要はありません」

「モブが騒がしいのは今だけだってね。私たちが普通にしてれば遠からず飽きるでしょ」

「そうだといいがな」

 

 この状況が仕事に影響しなければいいんだがな。

 生徒たちの信頼を勝ち取るのも教官の務めだと思って頑張ることにしよう。

 胸を張って愛バの隣に立てる。そんな自分になりたい、なるんだよ!

 

 (マサキさん狙われてますよ)

 (ホモ?)

 (それも大変ですが!操者不要論を信奉するデバイス信者たち)

 (私たちに契約を迫った教官に学園生、他校や某企業にギルドのスカウト)

 (御三家の権力を欲する下郎連中もいますね)

 (敵が多いなあ)

 (こちらで出来うる限り対処しますが、マサキさんもご注意なさってください)

 (心配するな。何があってもお前たちを手放す気はない!)

 

 ちょっと格好つけてみたのがいけなかったのか、愛バたちのボルテージが唐突に上昇し過ぎた。

 薄っすら頬を染め、上目遣いで俺を見ながら(死ぬほど可愛い)叫んじゃうんだもんなぁ。

 

「「「「好きぃ!!!!」」」」

 

 シンプルでわかりやすい告白の四重奏。ハートを撃ち抜かれました。

 しかし待ちたまえよ、正門前でそんな発言をしたらどうなるか、お分かりですかな。

 

「きゅ、急に告白したぁ!」

「4人同時だど?」

「え、朝っぱらから正門前で・・どんなプレイなのよ」

「命令?命令されてるの!?あの鬼畜操者め」

「登校中にわざわざ言わせることで、自分の所有物だと私たちに宣言したのか、やるな!」

「操者と愛バ、教官と生徒、捗るわぁ~」

 

 ほらぁ、こうなるでしょうが。

 俺が命令してやらせたみたいになってるじゃん。

 待て待て、引っ付くな!皆見てるのよ、マーキングしたらだめぇ!せめて人目がないところでオナシャス。

 

「何やってるのよ。立ち止まってないで、早く教室に行きなさい」

「ね、たづなさん!お、おはようございます」

 

 正門前であいさつ運動に励んでいた姉さんにバッチリ目撃されてしまった。

 

「はい、おはようございます。朝からお盛んですねマサキ教官?」

「いや~ははは・・・面目ないです」

「あなたたちも、学園生として節度ある振る舞いをしなさい。いいですね?」

「うるせぇよ小姑が」

「おい、今の誰だ?そこになおれ、切り捨ててくれる」

「操者命令!各自教室までダッシュしろ」

「「「「イエス!マイマスター!」」」」

「コラ!待ちなさーい!ちょ、マサキ放しなさい!」

「逃げて!超逃げてー!」

 

 抜刀した姉に朝から追われる身になった愛バたちを体を張って逃がす。

 朝から暴れる姉を羽交い絞めにして疲れちゃったぞ!

 躾がなっていないと俺が説教食らうハメになったんだからね。

 不用意な発言をしたのは一体誰だったのかは、ご想像にお任せします。

 

 俺の教官人生は前途多難なようだが挫けないぞ。

 



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精進あるのみ

設定や説明にウンザリしても読んでくださる皆様に感謝。


 俺がトレセン学園の教官になってから一週間が経過した。

 愛バたちとの関係は良好そのもの、頼りがいのある同僚たちにも恵まれて、とても良いスタートを切れたと思う。

 気合十分、よっしゃー!やああってやるぜぃ!

 

 学園の配慮により医務室のリフォームは滞りなく完了した。

 俺好みでめっちゃええ感じ、何なら家よりこっちの方が居心地がいいぐらいだ。

 人工呼吸や心肺蘇生術なら任せてください、え?やましいことは考えてませんよ。

 ケガ人でも何でも来いや、急所をぶち抜かれたとかじゃなかったらヒーリングで治せ・・ごめん!さすがに言い過ぎた。千切れた手足ぐらいは元に戻せると思うんだけど。

 それだというのに、どういうことなの。

 

「まだ一度も養護教官らしいことやってない!」

 

 来ないの、俺に看てほしいって患者が誰一人こないのよ。

 ずっと待機してるの結構つらい。掃除した所をまた掃除するのもうやだよぅ。

 ケガをした生徒を颯爽と治療!「お大事に」と一言告げてクールにキメる!脳内シミュレーションは完璧だったのに。

 俺の教官人生、早くも暗雲が立ち込めているみたいで(/ω\)イヤン。

 

「出番が・・・出番がほしいです」

 

 今までここを訪ねて来たのは愛バと、面倒見のいい姉さんや同僚たち、冷やかし目的のネームドウマ娘がチラホラだけ。

 全員健康体だね、献血とかに行けばいいと思うよ。肝心の患者は一人も来てない。

 わかってるよ、俺が暇で傷病者がいないのは本来喜ぶべきことなんだって。

 だけど、せっかく立派な医務室を用意してもらったのに、何にもお役にも立っていないようで心苦しい。

 もういっそのこと、学園内外を自主的にパトロールでもしようかしら、警備スタッフの仕事を奪ったら怒られるかな。

 雑用でも何でもいいから理事長に仕事をくれ!と直談判するべきか。

 なんて思っていたらノックも無しに扉が開いた。

 

「カピバラ君暇かい?暇だね。邪魔するよ」

「邪魔するならお帰りください」

「すみません。私は止めたのですが、どうしてもと聞かなくて」

「カフェは全然いいよ。タキオンは帰って、どうぞ」

「扱いの差が激しいね。実に嘆かわしい」

「嘆かわしいのはお前の存在だ」

「カフェ、とりあえず紅茶を入れてくれたまえ。今はミルクティーの気分だ」

「午後ティーでも飲んでろ」

「残念、私は紅茶花伝派だ!」

「知らねぇよ。マサキさん、いい豆が手に入ったので一杯ご馳走したいのですが」

「いいね。コーヒーブレイクしちゃいますか、ちょっと片付けるから待ってね」

 

 テスラ・ライヒ研究所に勤めていたはずの、アグネスタキオンとマンハッタンカフェ。

 彼女たちもトレセン学園に招待され、学生兼研究員として活動している。

 武力と知性を兼ね備えた二人を誘致するにあたり、トレセン学園とテスラ研の間で何らかの取引があったらしい、金の匂いがしますね。

 多分、二人が在籍することで研究資金を融通してもらったとかだろう。

 納得して学園生をやっているのであれば、俺からは特に何も言うことはない。

 

 来客用のカップにコーヒーや紅茶を入れる道具類は一通り揃えある。

 慣れた手つきでハンドドリップに取り掛かるカフェをお手伝いしながら見守ることにする。

 彼女が入れると同じ材料や道具を使っても味と香りが全然違う。

 少しでも技術を盗んでやろうとガン見する俺に苦笑するカフェ。

 一体何が違うんだろうなあ、やっぱり経験とコーヒー愛のなせる技か。

 その間、タキオンは「早くしたまえ」とふんぞり返っていた。

 こいつなんなの?制服の上から羽織った白衣の袖が長すぎるのもなんなの?

 

 カフェの入れてくれたコーヒーをチビチビ飲みながら談笑する。ああ、いい香りだ。

 先ほどは帰れと言ったが、話相手になってくれるのは嬉しい。

 タキオンとカフェは暇を持て余す俺を気遣ってくれたのだろう。そこは感謝しておく。

 

「今日も医務室は閑古鳥が鳴いているねぇ。社内ニートならぬ学園ニートまっしぐらな気分はどうだい、カピバラくぅぅぅんんんん!!」

「頑張って教官になったのにニート呼ばわりはキツイ」(´;ω;`)

「死にたいのですか?マサキさんをいじめたら、愛バたちに抹殺されますよ」

「それは勘弁してほしいね。だがしかし、弱ったカピバラ君を弄り倒す愉悦には抗えない!」

「この腐れ外道が、何があっても私は助けませんよ。後で後悔しないでください」

「カフェ、仮にも君は私の助手だろう、上司に対する態度は改めた方がいい」

「下剋上の準備は既に出来ています。いつまでも上からものを言わないでくださいね」

「こやつ涼しい顔をして、謀反を企てていたのか!」

「因みに下剋上してやろうと思い立ったのは、あなた初めて会った瞬間から5分後です」

「そんなに早く!?」

「医務室ではケンカご法度よ。やるなら外でやってね」

 

 もし学園で二人が問題を起こした場合は、カフェを全力で弁護しよう。

 カフェに何かあったら、操者のレーツェルさんに申し訳が立たないからね。タキオンは知らん!

 

「タキオンさんよぉ、医務室に人が寄り付かない原因の一旦はお前にもあるんだぞ」

「心当たりは皆無だねぇ」

「どの口が言うのか」

 

 隣室の「テスラ研トレセン支部(仮)」看板を見たとき嫌な予感がしたんだよな。

 医務室の隣が何故かタキオンの研究室だったのがマズかった。

 時折怪しい閃光や異臭が発生、成分不明ガスが漏れ出して騒ぎになったこともあった。

 そして、不定期で起こる爆発、ビックリするからホントやめてほしい。

 これらの所業に対して学園側は見て見ぬふりを決め込んでいる。サイアク!!

 身の危険を感じた生徒たちはそもそもこの場所には近寄らない。

 触らぬタキオン(迷惑)に祟りなし、目的地が遠回りになろうとも迂回するぐらいには警戒されている。

 その煽りを受けて俺の医務室に患者が来ないと考えるのは至極真っ当だと思うのよ。

 

「本当にすみません。私がついていながら」

「いや、カフェがいなければとっくの昔に学園バイオハザードが発生していた。悪いのは全部タキオンだ」

「言い掛かりだねぇ」

「「お前マジで反省しろ」」

「はっはっは、二人とも顔が怖いぞう」

 

 一応助手であるカフェが研究室の半分を占拠しつつ、危険な実験を行わせないように注意してくれているんだが、その目を盗んでやっちまうのがこの腐れマッドなわけで・・・はぁ~。

 まあいい、せっかくなんで二人と意見交換してみよう。現状を打破する手がかりが見つかるかもしれない。

 

「ちょっと聞きたいことがある」

「学園ニートの解消方法をご所望かい、アドバイスぐらいならしてあげよう。言ってみたまえ」

「なあ、トレセンの皆は修練中にケガとかしないわけ?急な体調不良なんて皆無なの?」

「戦闘を生業とする騎神養成校だよ。ケガなんて日常茶飯事だし、お腹が痛くなることだってあるさ」

「先日もクラスメイトが「教官にヒーリングしてもらった」と言っていました」

「あれ?そんなことあったけか」

「君ではなく、もう一人の養護教官にしてもらったんだろう」

「・・・ウエンディ教官!」

「当りだ。生徒たちは新参者の君より、信頼と実績のある彼女を頼りにしているのさ」

 

 ウェンディ・ラスム・イクナート教官。

 学園で生徒たちのカウンセリングを担当している、臨床心理士。

 高学歴な才女で、学会に論文を提出したり博士号をいくつか取得していると聞いたこともある。

 ウェーブのかかった青い長髪の美女で、ゆるふわな雰囲気が素敵なお姉様。

 世界線が違えば「惚れてまうやろー!」していたかもしれない。

 なーんて思ったりして、ほっこりした。

 

「ほっこりしている場合じゃないぞ、彼女は君の商売敵だ」

「嘘やん」

「本当だ。君が来る前に医務室を担当していたのはカリスマ鍼灸師(自称)の安心沢教官だ。彼女が失踪してからというもの、ウエンディ教官こそが学園の医療系を一手に引き受けていたんだ」

「本業はカウンセラーですが、医師免許や治療師の資格も持っているそうです」

「親身になって生徒の相談に乗り、的確に傷病へ対処できる確かな腕を持ち、簡単なヒーリング(覇気治療)も会得している。トレセンの養護教官としては非の打ち所がない人材だ」

「それじゃあ俺はいらない子ですか?もうウエンディ教官だけでいいんじゃね」

「君の採用を後押したのは彼女だと聞いている。自分以上に強力なヒーリング能力者がほしかったんだそうな、彼女の負担も相当なものだったし、本来ならば君に仕事を割り振りたかったのだろうね」

「商売敵どころか恩人じゃないか」

「ウエンディ教官もマサキさんの現状を憂いていましたよ「どうしましょう、私がマサキ教官の仕事を邪魔しちゃってる。こんなはずでは」だそうです」

 

 なるほど、よくわからない謎の店より、元々の評価が高い既知の店に行くよね。安心感が違う。

 カウンセリングルームは医務室から少し離れているが、生徒が入りやすいように場所もよく考えられている。

 人通りが多すぎず少なすぎず、フラッと立ち寄ってもいいかなと思える絶妙な位置(角部屋)。

 隣にマッドな危険人物は巣くっていないし(ここ重要)。

 ウエンディ教官の人柄も相まって「ちょっと行っとくか」てな具合に気軽に立ち寄りやすい条件が整っている。

 これじゃあケガをしたとしても、ウエンディ教官のところに行くよ。誰だってそうする俺だってそうする!

 

 情けない、恩義があるというのに、彼女の負担を全然軽く出来ていない。

 メンタルケアは無理だとしても、応急処置ぐらいは十分にできるのにな。

 

「全ては俺の至らなさが招いた結果か」

「マサキさんが男性というのも要因の一つですね」

「う、確かに俺では女性特有の悩みには対処できないかも、勉強不足だ」

「ウマ娘には男性不信者も珍しくはない、君への警戒心や単純な照れもあって医務室へは行き辛いといった具合かな」

「なんだかもう、挫けてしまいそう」

「絶望するのは早計だ、なんだかんだで君に興味がある生徒は多いはず。そういう子たちに自身の有用性を売り込むことに尽力したまえよ」

「ウエンディ教官とも話し合った方がいいと思います。カウンセラーである彼女なら、マサキさんの相談にも快く応じてくれるはずですから」

「わかった。さっそくウエンディ教官の所へ行ってくる」

 

 冷めてしまったコーヒーを飲み干して席を立つ。

 思い立ったが吉日です。今は行動あるのみだ。

 

「コーヒー美味かった。二人とも話に付き合ってくれてサンキューな」

「少しは元気が出たようだね。さあ、行って見事玉砕してきたまえ」

「玉砕は勘弁な」

「いってらっしゃい。後片付けは任せてください、タキオンさんにやらせますので」

「ああ、行ってくるぜ」

 

 医務室の扉に下げてある札を裏返し「マサキ不在」にしておく。

 タキオンとカフェを残していっても悪さはしないだろう。

 今気づいたが、二人は授業を受けていないのか?

 休憩時間はまだ先だと思うのだが、二人とも頭がいいから免除されてると思うことにしよう。

 

 ♦♦♦

 

「失礼しまーす。今日もセイちゃんがやって来ましたよ~、おやおや?コーヒーの香り」

 

 マサキが去った後の医務室に訪問者あり。

 

「君は確か・・スカイ君」

「はいどうも~、セイちゃんことセイウンスカイです」

「スカイさん、生憎ですがマサキさんは今席を外しておりますよ」

「そうなんですか、でもいいです。用があるのはマサキさんじゃなくて、そこのベッドですから」

 

 そう言って備え付けのベッドに寝転ぶセイウンスカイ。

 

「あふぅ~最高~。前のベッドは堅かったからなぁ、マサキさんがグレードの高いベッドを発注してくれてセイちゃん嬉しいです」

「そうか、サボり魔の君にとって、ここは都合のいい避難所なのだね」

「へへへ、このベッドはもうセイちゃん専用と言っても過言ではないのです」

「スカイさん、授業は真面目に受けた方がいいですよ」

「ええ~、お二人がそれ言っちゃう。特待生は自由奔放で羨ましい限りですね~」

「その分、一定の研究成果を求められているんだがね」

 

 目をつむり完全に昼寝の体勢に入ったスカイを見て、やれやれと首を振るカフェとタキオン。

 

「質問だスカイ君、君以外でここを訪れる生徒はいるかい?」

「ふわぁ~、え・・・そうですね。スぺちゃんたちとはよく会いますよ」

「そうなると、スピカのメンバーや黄金世代は取り込めていると考えていいようだ」

「マサキさんを気にかけているウマ娘は思ったより多いのかもしれませんね」

「なんの話ですか、お暇なら子守歌がわりの小話を披露してくださいよ」

「それならば、フェルマーの最終定理について語ってあげよう」

「zzz・・・」

「聞く気はないみたいですね」

「カフェ、コーヒーのおかわりを頼む。糖分多めのミルクたっぷりで」

「それもうコーヒー牛乳ですね。たまにはブラックを味わってくださいよ」

「またの機会にするよ」

 

 その後、マサキの様子を見に来たたづなに発見されたスカイは、生徒指導室に強制連行された。

 とばっちりを察知したカフェとタキオンは隣室に退避済みで事なきを得たのだとか。

 

 ♢♢♢

 

「よし、メンバーチェンジだ。次は「クロとアル」VS「シロとココ」でやってみよう」

「よろしくアル姉」

「こちらこそ、頑張りましょうね」

「足引っ張らないでくださいよ」

「それはこちらのセリフかな」

「準備はいいな、構えて!よぉ~い・・・スタァットゥッッハァッッッンンン!!」

「「「「スタートの言い方狂ってるwww」」」」

「この程度で動揺するな。目の前の敵に集中しろ!」

「「「「理不尽なあなたが好き!!」」」」

 

 本日も旧校舎ダンジョンにて修練中。

 2チームに分かれて模擬戦を繰り返し行っている。たまに俺も混ざる。

 

「遅い!そんなんじゃすぐ終わっちゃうよ」

「わざと遅くしてあげてるの。わかんないかなぁ」

「っ!堅いです」

「アル姉さんの剛力でも簡単には抜かせません」

 

 近接格闘戦チームと遠距離砲戦チームに分かれた。

 おや、開始早々シロたちが自ら突っ込んだか。

 意外だとは思わない、シロとココならそうするだろうと思った。

 あの二人は接近戦が苦手というわけではない。

 なんとなく「ここは私が援護射撃を担当した方がいいかな」ぐらいの気持ちでやっていることを知ってるぞ。

 今回はクロとアルの得意とするレンジで勝って「ざまぁ」したいのだろうな。

 我が愛バながら嫌らしいなぁ。そんなところも可愛いと思ってしまう、親バカならぬ操者バカ。

 

 4人の戦いを観察していると、それぞれの秀でた能力が大体わかってきた。

 リンクすればまたステータスの変動や補正がかかるだろうが得意分野は伸ばしていきたい。

 

「苦手な項目も平均以上は十分クリア出来ているんだよなあ、優秀優秀」

 

 操者の贔屓目になるけど、全員どこに出しても恥ずかしくないウマ娘だと思う。

 だがその更に上を狙えるはずだし、目指してもらう。

 見てろよルクスのクソボケが、この子たちは俺やお前が想定した以上に強くなる。

 今の内に焼き土下座の練習でもしておくことをおすすめする。

 

 勝負はシロとココに軍配が上がった。

 いがみ合っているようで思考が似ている二人の相性は悪くない。

 アルとクロは出鼻を挫かれ相手のペースに飲まれてしまったのが敗因だ。

 

「悔しい~。"イモラーメンズ"に負けるなんて」

「変なチーム名つけるのやめて」

「シロさんココさんチームは、どんな外道プレイを繰り出してくるか未知数で怖いです。警戒し過ぎて思うように踏み込めませんでした」

「今気付きました。アル姉とクロはチーム"ブラックサンダー"じゃないですか」

「「「本当だww」」」

「全員ナイスファイト、中々良い勝負だったなぞ。では、今の戦闘について振り返ってみよう――」

 

 模擬戦の後は休憩がてら反省会を行う。

 良かった点と悪かかった点を洗い出し改善案を皆で相談する。

 ルールを変え、メンバーを変え、いろいろなパターンを試してみる。

 そうやって全員が各自の特性と能力を理解し、チームとしての力をつけていく。

 勝利に向けて一歩一歩、確実にコツコツと積み上げる。愛バたちと一緒に強くなっていこう。

 

 最早当たり前の技術となったデバイスについても勉強した。

 

 革新的技術の導入で一気に普及したもの、その名は戦術武装端末ことデバイス。

 トレセン学園でのデバイス普及率は8割、生徒や職員の大多数が何かしらの携帯武装を使える状態にある。

 銃社会より怖いだって?存在そのものが凶器のウマ娘がいる世界では今更だ。

 

 通常は腕輪や首飾り等個人の趣味に合わせた装飾品の形態をしているが、覇気を通わせ活性化(スイッチオン)させると数秒で武装展開状態になる。

 単純に装備品を取り出すものから、全身を覆うパワードスーツタイプのものまで種類は様々だが、手甲と足甲プラスαの組み合わせが最もポピュラーで人気がある。

 他者との覇気循環を可能とするコネクター(若しくはリンカー)と呼ばれる装置も組み込まれているヤツもあったりする。

 

 学園側が支給する量産型デバイスを使用している者が殆どだが、それなりの実力者になると特別な専用機を持っていると考えていい。

 専用機を入手方法は大まかに分けて3通りの方法がある。

 

 ①企業や研究機関からテスターとして選ばれること

 ②金と権力にものを言わせて入手すること 

 ③自作すること

 

 しっかり実績を積んで世に力を示していけば①の方法で専用機を入手できるし、学園もそれを推奨している。

 プライバシーに抵触しない程度に、生徒の情報を公開したり外部からのクエストを受注しているのにはこういった理由もあるんだろうな。

 ②は家柄が裕福であったり名門と呼ばれる家の出身者なら普通のこと、学園在籍前から持ってることが多い。

 ③の方法で見繕っている奴らも意外と多い、うちで言えばシロがそういうのやっちゃう子だ。

 

 ブランド物で自らを着飾るように、専用機を持つことは強者であることを主張する一種のステータスだ。

 うちの子たちは、どれどれ・・・

 

「本来ならデバイス要らずなのですが」

「「なんで持ってないの?絶対使った方がいいって!」て何回もウザいから、一応コレ使ってることにしてる」

「学園支給のゲシュペンストMk-Ⅱ改か」

「覇気で爆裂しないよう、耐久性のみを追求したカスタマイズを施してあります」

「それでも煙吹いちゃうこともあるから、困った困った」

「私は専用のライフルとハンドガンを自作しましたので、これも使用してます」

 

 クロとシロは量産品にシロが手を加えてた物を使ってる、ように見せかけていた。

 プラズマステーク等の武装はハリボテ同然、素手で殴った方が早いらしい。

 オルゴナイトを使えるクロとシロは無理にデバイスを使う必要がない。

 むしろ、下手な性能のデバイスはかえって戦闘の邪魔になる。

 防御面もオルゴンクラウドの障壁があれば十分カバーできるので問題ないんだと。

 

「とは言ったものの、私たち用の専用機も鋭意製造中です。気を長くしてお待ちください」

「開発難行中?私が要求するスペック、そんなに無理言ったかな」

「クロのバカ力と覇気に完全追従するヤツ、言うだけなら簡単ですが素材を準備するだけでも一苦労ですよ」

「アレを使ったのにダメだった?」

「もう一体、いや、せめて劣化する前のフレーム構造詳細がわかれば・・・」

 

 唸りながら考えを巡らせるシロ。

 愛バたちも戦力強化に向けて色々やってくれている、ありがたいが無理だけはしないでね。

 二人の専用デバイス、お披露目の機会は無い方がいいのだが、もしもの時用に準備だけはしておいても損はないだろう。

 

「わかった。二人はこのままオルゴンエナジーを強化していこう。もし結晶について誰かに突っ込まれたら「操者のせい」とでも言っておけ」

「了解・・て、それでいいの!?」

「大丈夫、多分だけど「まあ、マサキだからなあ」で終わる。自分で言っていてなんか悲しい」

「マサキさんがよろしいのであれば、私は従うだけです」

 

 オルゴナイトを実際に目撃されたところで手品や幻術の類だと思ってくれるはず。

 バレたらその時に考えればいい、知っている奴は口裏を合わせてくれることを祈ろう。

 

「バスカーモードの限界時間は?」

「節約して、およそ18分といったところでしょうか、リンクしていただければ30分は持たせてみせます」

「俺のエネルギー供給次第ではあるが、息切れしないよう十分注意してくれ」

「わかったよ。切り札の使いどころは考えておくね」

「本当にわかってますか?接敵即ぶっ放し!はやめてくださいよ。見張ってますからね」

 

 二人はできる子なので心配はしていない。きっと上手に使いこなす。

 

「私のデバイスは雷鳳(ライオウ)ダイナミックゼネラルガーディアン3号機になります」

「やはり正義マフラーはカッコイイ!擦り切れた感じの加工がたまらん」

「ありがとうございます。私も気に入っているポイントです」

 

 雷鳳を顕現させたアルの姿は美しくも勇ましい。

 白銀の装甲と雷属性の覇気がより一層彼女の存在を際立たせる。

 後から聞いたことだが、雷鳳はビアン博士が俺用に調整する予定もあったのだと。

 大事にされているようなので、アルに託されたことは雷鳳的にも良かったと思う。

 

「雷は完全にものにしたようだな。デバイスもよく似合ってる」

「今更ですが、雷の覇気も雷鳳もあなたから奪ったようなものです。それを使って調子に乗っていると思われても仕方ありません」

「奪っただなんて思わなくていい、俺からのプレゼントだと考えてみてはどうかな」

 

 雷をプレゼントした男なんて俺ぐらいのもんじゃね?

 それに、俺自身雷の覇気を全て失ったわけじゃない。

 アルのより見た目も出力も大分劣るが、今だってまだちょっとぐらいは出せる。

 

「それプラズマビュートだ。小さっ!?それにショボい!久しく使ってなかったから予想以上に衰えている」

「フフ、笑っては失礼ですが、なんだか可愛らしいです。この雷こそがあなたと私を繋ぐ絆の証明ですね」

 

 そう言って俺の頬に手を添えるアル。

 もう一つの共通点、頬の切り傷を愛おしそうに撫でる。

 真っ直ぐな眼差しを向けてくる彼女の瞳に吸い込まれそうだ。

 うわああっ!この子マジで綺麗でクソ可愛いぃぃ!

 ごめんなさいね、彼女俺の愛バなんですよ。ぐへへへへ~。

 

「二人の世界長くね?」

「マズい「目と目が合う~瞬間すーきだと気づーいたぁ」状態だ!」

「これは武力介入してもいいのでは?」

 

 アル以外の愛バたちがヤキモキしだしたので現実に戻される。

 

「続きはまたにしましょうか」

「先の展開を期待してもよろしいかな?」

「全てはあなたの望むままですよ」

「マジで!?」

「「「このドスケベ、グイグイ攻めよるわ!!」」」

「外野うるさいです」

 

 雰囲気に流されそうになったが軌道修正、雷鳳について検証していこう。

 

 基本は体術(蹴り技主体)による近接格闘戦、雷の覇気はメイン武器ではなく、あくまでも補助装置。

 雷撃鞭による引き寄せと捕縛、攻撃ヒット時の追加ダメージ、歩法に組み合わせて加速力アップ、放電による牽制と索敵に使用している。

 殺傷力のある雷撃を直接当てるような攻撃を繰り返せば、一気に覇気が底をついてしまう。

 燃費の悪さはリンク時の覇気供給と、調整で何とかやり繰りすることにする。

 調整はビアン博士やタキオンならやってくれるはず、いいや、絶対やってもらう。

 

 気になったらのは、感情の揺らぎやが現れやすいことだろうか。

 本人は隠しているつもりだろうが、僅かな動揺ですら技のキレや覇気出力にもろに影響している。

 元々の気質か、以前に患った神核異常の後遺症かは不明。

 安定性を欠いているとはいえ悪いことばかりじゃない、気力が上がれば戦闘能力も上がる。

 その上昇率は4人の中でも随一だ。

 

「パワーは十分、スピードはまだ改善の余地ありだな。歩法の練度を上げて加速技を身に着ければベストだ」

「はい、私もそう思っていました」

「ムラっ気に関しては、メンタルトレーニング・・瞑想でもやってみるか?」

「精神力を鍛えろと仰るのですね。了解致しました」

 

 心技体が整えばアルを止められる奴はそういないだろう。今後も成長が楽しみだ。

 

「3人の後で私のデバイスを披露しろと?ホントやめてほしい」

「いいからはよしろ。ほら、マサキさんも待ってる」

「そんな大したものじゃないのに、えーとね、今持ってるのはアシュセイバー、アンジュルグ、ラーズアングリフ、ラピエサージュは調整中で、ヴァイサーガはメインウェポンが間に合ってない。ソウルゲインはゴルシちゃん専用になっちゃったし、あ、でもでも、エクサランスはもうすぐロールアウト予定だよ」

「なんか多くね?」

「明らかに多いな、デバイスって一人でそんなに使えるもんなのか?」

「多くても一人2、3個が限界ですよ。そもそも調整が間に合いませんし、神核に掛かる負荷が膨大でまともに動かせないでしょう。普通はね」

 

 ココは普通ではないらしい。

 何かと器用な子だとは思っていたがここまでとは、技量がカンストしているのかな。

 

「できるからやるだけ。3人に比べて足りない私はやれることは全部やるつもり」

「足りないとか言うな。お前の良さは俺がちゃんと理解している」

「その一言でどこまでも頑張れちゃう。私ってばチョロイン!」

 

 状況に合わせ戦闘中に装備を換装できるのが、どれだけのアドバンテージになるかちゃんとわかってらっしゃる。

 ちょっと拝見したところ、デバイス1つにつき数秒かかるはずの展開時間が、ココにいたっては1秒にも満たなかった。早着替えならぬ瞬間換装で弱点になるような隙をも無し。

 遠近中あらゆる距離から手を変え品を変え攻撃くる相手などやりにくいったらない。

 それがココとい騎神の強みだ。

 

「ストライカーパックやシルエットシステムみたいですね」

「私は平成仮面ライダーのフォームチェンジだと思った」

 

 換装システムいいよね。

 個人的に好きなのはライガーゼロのチェンジングアーマーシステム・・・ゾイドまたスパロボ参戦しないかな。

 

 それにココの神核は特別製、時流エンジンの名を冠したそれを宿す彼女にラースエイレム(時間停止チート)は効かない。

 契約者の俺にも効かないことは証明済み、上手くいけばリンクすることで他の愛バにもその恩恵にあずかれるかもしれない。

 

「お前がいてくれてよかった。これからも出来ることをガンガン増やしていこう、戦術の選択肢は一つでも多い方がいい」

「了解。総合力を上げつつ、私なりに創意工夫してみるから期待してて」

 

 みんな賢い子たちだ。

 愛バたちの強化プランは「俺の言う通りにしろ」ではなく「思う通りにやれ」が正解。

 今日は確認をしただけ、何かあればその都度修正、改善していけばいい。

 一通り話し終えると、各自がそれぞれのデバイスやオルゴナイトに意見を物申している。

 俺は少し距離をとってその様子を眺める。賑やかでいいわね、しっかりコミュニケーションしなさい。

 

「いつ見ても綺麗な結晶ですね。私にも使えないかしら」

「アル姉の雷と交換なら考えてもいいよ」

「で?どの武器があなたの本命なのですか」

「なんのこと?」

「しらばっくれインモーめ。鉄パイプから重火器まで難なく使いこなすの知ってますよ。それも器用さの成せる技ですか」

「よくわかったね。そんなに私のことが気になっちゃう」

「わからいでか!三節混やトンファーを振り回したかと思ったら、手裏剣やマニアックな暗器をチラつかせる癖に!」

「攻撃前の軌道を見てる視線、ココの場合は線だったり点だったり無茶苦茶なのはそれでか」

「私が見たところでは刃物、刀剣類に一番適正があるように思うのですが」

「ほ、本当によく見てるなあ。一番得意なのは剣だと思う」

「だったらそれをメインで使わんかい!出し惜しみしてんじゃねーよ」

「うーん、まあ考えておくよ」

 

 少々歯切れの悪いココ。得意武器だという剣を使えない理由があるのだろうか?

 剣、剣か・・・人斬り抜刀斎な姉さんに聞いたら何かアドバイスしてくれるかな。

 ココは嫌がるかな、愛バたちと姉さんには仲良くなってもらいたいので、いいきっかけになるかもしれない。

 

 まだ眠っている力があるのか、それを呼び起こせるのか、全ては俺と彼女たち次第だ。

 

「最後は俺のバスカーモードをどーんと見せちゃう!」

「「「「ウェーイ!!」」」」

 

 覇気解放、粒子散布開始、出力調整、このくらいでいいか。

 

「惚れ惚れするような覇気の本流いただきました」

「そうこれ!この力、この圧、この輝き、これがマサキさんの真骨頂」

「ん?銀髪ロングのお義母様リスペクトスタイルはどうしたの」

「あれはには事情があってな。今すぐ自由に変身できるわけじゃないんだ」

「それは残念です。あの時のマサキさんは最高でした///」

「何!何があったの?アル姉とココは何を見たの」

「銀髪ロングとは一体、尋問の必要がありますね」

 

 あの時、見た目が変化していたのは2ndに帰還する前"あの男"に会ったのが原因だ。

 あの姿は母さんを真似たものではなく、俺が奴に近づいた。 

 つまり、元に戻っただけ。いや、よく知らないけどさぁ。

 

 オルゴンブラスターにスレイブ、フィンガークリーブ、オルゴナイトバスター、テンペストランサー。

 メルアから受け継いだものに、俺流のアレンジを加えた技の数々も見てもらっておこう。

 

「ドリル来たぁ!」

「ランサーて言ってるから、手持ちのは槍じゃないの」

「もうドリルでいいよ」

「ブラスターは私やクロにも吐けそうですね。こう、胃酸を逆流させる感じで」

「それだと食道炎になりそう。無理してやらなくていいからな」

「操者と同じ技を使ってみたい愛バ心、わかってほしい」

 

 各自のオルゴナイト及びデバイスのお披露目はこれにて終了だ。

 

「明日からはリンクを試す。お前たち準備はいいか?」

「「「「待ってました!!」」」」

「異常があればすぐに報連相!隠してもわかるからな。自分だけじゃなく、仲間の状態にも気をつけるように」

「はい、肝に銘じておきます」

「うん。また眠っちゃうのは嫌だからね」

「循環によって何かしらの影響があると思う。特にアルとココは注意してくれ、クロとシロが爆発的成長をしたように何が起こっても不思議じゃない」

「いよいよだね。とっくの昔に覚悟完了してるよ」

「不安はありません。マサキさんの覇気は私たちを強くしてくれる、そう信じていますから」

 

 可能な限り常時リンクして5人で覇気を循環させる。

 また愛バを昏睡状態にしてしまうことがないように、小まめな状態チェックを心がけよう。

 俺も自分の体調には気を付けないと。

 

「予定もあることだし、今日はこれにて終了する。お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様です!!」」」」

「忘れ物はないな。速攻で地上に帰るぞ、俺に続け~」

「「「「どこまでもついていきます」」」」

 

 雑魚を蹴散らしながらダッシュ。

 旧校舎ダンジョン25階層からの帰還、最速タイムを叩き出しました。

 息切れしながら旧校舎から飛び出したところを何人かに目撃されたがスルー。

 お家帰るんだから邪魔しないで。

 学生寮の前で愛バたちと別れる、不躾な視線にも大分慣れた。

 

「俺の用事に合わせてもらってすまないな。埋め合わせは、また後日な」

「お気になさらず、大人の付き合いが大事なのは理解してますので」

「飲み過ぎないでよ。二日酔いになったら付きっ切りで看病しちゃうから」

「俺は飲まない飲めない男だから安心しな」

「大人になったら私たちも飲み会をしましょうね。その時が楽しみです」

「え!?アルは今でもたまに飲ん・・・痛い!」

「ココさん。あれはメジロ家に代々伝わる健康飲料"メジロ水"だと言ったはずです。アルコールではありません!」

「そんな言い訳が通るはずなぁぁぁ!やめてー!尻尾千切れるぅ!」

「アル中のアル姉ww」

「アルだけにですかww」

「やかましいですよ。メジロ水は百薬の長なんですからね!」

「中毒者の言い訳来たな」

 

 突発的な秘密の暴露、愛バたちと会話中にはよく起きる現象だから今更動じないよ。

 

「アル、程々にな。一升瓶片手に悪態をつくお前なんて見たくない」

「何のことか存じませんが、今日の晩酌・・じゃない!メジロ水を飲むのは自粛しておきます」

「晩酌って言っちゃってるよw」

「因みにお前たちは?」

「メジロ水飲む暇あるならラーメン飲むよ」

「何が美味しいのかわかんない。あ、でも香りや風味は嫌いじゃないかな、ジージも飲んだくれだったし」

「私はそれなりにいける口です。もちろんメジロ水の話ですよ」

 

 ショットグラスで飲むサトノ水もあるとかで、愛バたちがアルコールの話で盛り上がってる。下戸の俺は置いてけ堀です。

 おいコラ未成年んんん!だが、ウマ娘には何事も例外があるというのか!

 まったくもう、はちみーでも飲んでなさいよ。肝臓悪くしてもしらないわよ。

 

 さて、今日は前から予定していた、俺の教官就任祝い飲み会の日だ。

 参加メンバーは大人のみ、ノンアルコールでお願いします!

 

 愛バたちは、早く寝なさい!!

 

 



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グッド飲みニケーション

「えー、なんやかんやで無事帰還することが出来まして、トレセン学園の教官として働けるようになったのも皆の助力と応援あってのことです。ありがとうございましたー!そんじゃあ、かんぱーい!!」

「「「「「かんぱーい!!!」」」」」

 

 愛バたちと寮に送り届けた後、早々に帰宅した俺は予定していた飲み会を開催していた。

 参加メンバーは主賓の俺と、姉さん、ヤンロン、テュッティ先輩、ミオ、リューネの6人だ。

 場所は俺の家で宅飲みと相成りました。

 我が家には酒類等は常備して無いので、それぞれが持ち寄ることにした。

 おつまみやお惣菜もたっぷり用意してきてくれたて、色とりどりの食料がテーブルの上に並んでいる。

 

「とりあえず、ご飯だけはたくさん炊いといたから白米いる人は言ってくれ」

「マジで!茶碗山盛りでちょーだいな」

「その前に肉焼くよ肉、いっぱい持ってきたからじゃんじゃん食べて」

「学園関係者たちとの歓迎会も良かったけど、気心知れた仲だけで集まるのもいいわね」

「やだ"メジロ水"持ってきたの誰よ。結構度数が高いからマサキはやめておきなさい、姉からの忠告」

「ういっす。飲める人は俺を気にせず好きに飲んじゃってよ。でも、ゲロ吐くまではやめてね。発射する時はせめてトイレでお願い」

「僕もそんなに飲める方ではない、純粋に料理と語らいを楽しむことにしよう。こいつを食ってみてくれ」

「これ手作り?相変わらずメッチャ美味い!」

「く~、白米と相性抜群の中華三昧!グルメに目覚めたミオちゃんはモリモリ食っちゃうぞ」

 

 先日、学園の同僚たちが企画してくれた歓迎会はご近所の居酒屋にて行われた。

 ありがたいやら気恥ずかしいやらで、ちょっと飲んでちょっと吐いた。

 今日の宅飲みは完全プライベート。お子様の理事長や愛バ抜きで開催しております。

 

 リューネが大量の肉を提供してくれたので焼肉パーティーですわ。

 肉がいっぱいあるとテンション上がるね。遠慮なく頂くことにしよう。

 いい食べっぷりのミオ、人型になり味覚を手に入れた元アインストはすっかり美食に目覚めたようだ。

 酒も飲めないこともないが「飯の方が優先」なのだそうだ。

 ヤンロンは嗜む程度に飲むらしい、このクールガイがベロベロに酔ったところは想像できない。

 

「ああ~お酒美味しい~。よく働いた後の一杯は堪らないわ」

「お、テュッティはいける口だね。私と勝負しちゃう?」

「ウフフフ、そんなこと言っていいのかしら~。その勝負乗った!」

「二人とも節度を守らないと斬るわよ」

「たづなさん~弟さんの前だからって無理しなくていいわよ~。理事長からは私以上のうわばみだって聞いてるわ」

「やよいは後で折檻ね。バレてるならいい、せっかくだから飲んでやるわ!」

「じゃあ飲める女三人で改めてかんぱーい!!」

「「かんぱーい!!」」

「こうなってしまっては僕では止められないな」

「なんかペース早くね?酒豪チームホント怖い、みんな程々に・・」

「しっ!目を合わせたら絡まれるよ。私たちはご飯に集中するんだ、いいね」

「あ、はい。そうします」

 

 美味いご飯と頼れる仲間たちがいて嬉しいね。

 しばらく談笑しながら楽しく過ごしているとスマホが鳴る。

 

「はいはーい。おお、待ってたぞ。ああうん、タブレットならあるよ。うん、うん、わかった」

 

 通話を終了してタブレット端末を用意、焼肉量産中のプレートからちょっと離して設置。

 

「何事?」

「追加メンバーが来た」

 

 教えられた設定にして・・・これでいいかな。

 画面が切り替わり一人の男が映し出される。ワイングラス片手のポーズが様になってて非常にムカつく。

 

「皆さんごきげんよう。早速盛り上がっているようで何より、リモートで失礼しますよ」

「はい、リモート参加のシュウに拍手~」

「「「「ウェーイ!」」」

「女性陣はもうできあがってますね」

「一応、私は全然まともだけど」

「人外のあなたを女性にカウントしていいのか悩みどころです」

「性別メスだよ、立派な女だよ。私がそう設定したんだから間違いない」

「ジェンダーに悩むミオは置いといて、仕事の方はどうよ?あれから何か進展あったか」

「せっかくの飲み会なのに無粋ですね。優秀な従業員たちにより我が社の復旧は滞りなく、ルクスについてはまだこれからと言ったところですか」

「ちっ、やっぱり向こうから仕掛けてくるのを待つしかないってか」

「後手に回るのは癪ですが、ルクスは必ずあなたに接触してきます。今は来たるべき日に備えは力を蓄えるべきです」

「了解。姉さんたちもそのつもりでお願い」

「委細承知よ。弟の敵は姉である私の敵。発見次第、悪即斬!」

「あの仮面なんか腹立つし、元天級としても見過ごせないからね」

「ルクスかあ、一目見た時から胡散臭い奴だと思ってたけど。親父にも注意しろって言われてるし、私も警戒しておくよ」

「お師匠様の幼女化に加担した罪は重いわ。キツイお仕置きが必要みたいね」

「奴の存在は世界に混乱をもたらす。僕の手が必要ならいつでも力になろう」

 

 ルクスには皆で協力して対処していくことを約束してもらった。ありがてぇ!!

 やるべきことや問題は山積みだけど、今は飲んで食べて英気を養うことにしよう。

 

「フッ、やはりファンタはグレープ味に限りますね」

「ワインじゃないのかよ!」

「シュウってば顔に似合わず、お子様っぽいものが好きだよね」

「好物ハンバーグとか言っちゃう男だからな。ご近所のスーパーで"お菓子コーナーで真剣に悩むイケメン出没"とか有名になったこともあったな」

「ライスの協力を得た私は、先日、ファミレスで念願のお子様ランチを頼むことに成功しました」ドヤッ!

「アンタ何やってんの?何やらせてんのww」

 

 そういえば愛バとファミレスに行ったとき、定員さんがシロにデラックスパフェを、俺にブレンドコーヒーを配膳したことがあったな。

 ごめんなさい、パフェ頼んだのは俺です。ちょっと恥ずかしい!でも頼んじゃう。

 

「久しぶりねシュウ。直接会うのは高校生のとき以来かしら」

「そちらも壮健そうで何よりです。例の彼とは今でもラブラブですか?」

「ああ、彼とは卒業後一年持たなかったわ」

「ブゥゥゥッッッーーー!!」

「うわっ!マサキが麦茶吹いた!!」

「突然どうした!?うっかり、ビールと間違えたのか」

 

 ち、違う。聞き捨てならない発言にビックリしただけだ。

 

「げほっ、えほっ、な、何言ってんスか先輩!"あの人"とは今も仲良くしていると、そう言っていたじゃないですか」

「後腐れのない友人として、という意味だったんだけど。今お付き合いしているのは別の人よ、ほらこれ」

 

 スマホの画像をこちらに見せるテュッティ先輩。

 満面の笑みを浮かべる色黒で筋肉質の男が写っている。

 ウホッいい彼氏ぃ!大変良きヒートスマイルいただきました。

 

「なんか元カレと全然タイプ違う。ガチムチ熱血兄貴風だ」

「あ、リカルドのおっちゃんだ」

「知っているのかミオ!」

「学園に大量のニンジンを卸してくれる出入り業者の一人だよ。ノリがよくて面白い男だから、私は好きだな。運命的なものも感じるし」

「何度か話したことがあるが、豪快で裏表のない真っ直ぐな人間という印象だ。農家を継ぐ前は軍の戦闘機乗りだったらしい」

「リカルド農園のニンジンは味にうるさいウマ娘たちも「うまい!!」と断言しているわね。彼が学園の台所事情を支えていると言っても過言ではないわ」

「好評価ばかりでつまんない、なんか欠点とか無いの?例えばほら、マザコンでシスコンでロリコンとか」

「そんな三重苦背負った奴おらんやろ・・・って、俺じゃねーか!」」

「お酒と賭け事にちょーっとだけ、だらしないけど、いい人よ」

 

 今バカにしたわねリューネ!「おまん、わしをわろうたか?」と心の中の幕末人斬りが呟いちゃうぞ。

 リカルド、中々評判の良い人物みたいだ。会う機会があれば話してみたいな。

 そうか、あの人とは既に別れていたのか・・・まあ、大人の男女だからそんなこともあるよね、うん。

 現彼氏リカルドの話をしているテュッティ先輩が嬉しそう、先輩が幸せならそれが一番です。

 

「今幸せなんですね。どれ位ラブラブですか?」

「マサキとその愛バたちぐらいラブラブよ」

「ヒュー、それは相当なラブですよ!お幸せに!!」

「「「「お幸せに!!」」」」

「フフ、みんなありがとう////」

 

 先輩の幸せを願って再度乾杯する。いいことがあったら皆で祝福して喜びを共有しましょう。

 画面の向こう側にいるシュウはおつまみのミックスナッツをポリポリしていた。

 あらやだ、全然興味ないのね。

 ん?見覚えのある赤髪の女性がフレームインしてきたぞ。

 

「元カレを吹っ切る為に暑苦しい男に走ったのね。まあいいんじゃない」

「うるさいわね。何であなたが出てくるのよ!」

「私はシュウ様の下僕であり今は敏腕秘書よ!せっかくだからお呼ばれしたわ」

「呼んでませんけどね」

「ああん!シュウ様は今日も手厳しい!」

「まあそう言ってやるな。飛び入り参加のサフィーネさんです。チョリーッス!」

「「「「チョリーッス!!!」」」

「何よそのノリ。元気そうね坊や、就職してようやく一端の男になったかしら」

「お陰様でな」

 

 追加の酒類と料理を持って登場したサフィーネ。

 自然な動きでシュウの隣に陣取る。

 

「今日は無礼講です。あなたも好きに飲み食いしなさい」

「お言葉に甘えさせていただきますわ。よろしくしてあげるから感謝なさい、坊やとその他愚民ども!」

 

 愚民てw初対面の人にはとりあえずSで攻めてみるんだ。やっぱ頭おかしいww

 

「何だ、この無礼かつ下品な女は」

「どうしてマサキの周りにはこんなのばかりが・・・姉として情けない、サイさんは何をやってたのよ」

「変態サドマゾだけど悪い奴じゃないよ。特に害はないから安心しろ」

「私は結構被害受けているわよ。人の彼氏をどうこう言う前に自分の賞味期限でも心配したら?」

「言ってはならないことを!自分だけ幸せになってないで誰か紹介しなさいよ!いや、ホントマジでお願いします!」

「こちらのヤンロンなんてどう?」

「待て、僕を巻き込むな」

「どれどれ、ほぉー堅物そうだけどいい男じゃない。私の性癖について来る覚悟はあるのかしら!」

「「ついて来れるかヤンロン!!」」

「誰がついて行くか!品性のない女は僕の趣味ではない。それに、悪いが間に合っている」

「振られたわ!シュウ様、慰めてくださいまし」

「そんなあなたには、このエイヒレを差し上げます」(超適当)

「さすがシュウ様!私の欲しい物を理解していらっしゃる」

「そんなのでいいのか」

 

 エイヒレで失恋の傷を癒したサフィーネは今日も逞しかった。

 仕事も気遣いもできるし、黙っていればいい女なんだけど、如何せん性癖が足を引っ張っている。

 

「間に合ってるって何?説明を求む」

「マサキはまだ知らないのか、いるんだよ~ヤンロンにも愛バがねぇ!」

「そういう大事なことは教えてよ!俺とお前の仲でしょうが」

「別に内緒にしていた訳ではない。ただ、言い出すタイミングがなくてな」

「そうよ~。私にだって愛バはいるんだから」

「は?は?はぁぁぁ?聞いてない!!」

「マサキは職場環境に慣れるのと愛バの相手で忙しそうだったから、もう少し落ち着いてからの方がいいと思ったのよ」

「疎外感を感じる。悔しい、そして寂しいー」

「あらら、すねちゃった。とりあえず姉として抱擁しておくわ!ぎゅー」

「むぎゅう・・ああ~姉ぱいが当たってるじゃぁ~」(無抵抗)

「機嫌直してマサキ。そうだ、こっちのお肉食べていいわよ。はい、あーん」 

「今、肉に大量の砂糖をまぶしたのは何故?うちの弟を糖尿病にする気か!」

「こっちの方が美味しいからよ。皆もそう思うわよねぇ?」

「「「「ないわー」」」」

「誰も理解してくれないのね。いいわよ、一人で食べちゃうんだから。うーん美味しい!」

 

 砂糖まみれの肉を食べてご満悦のテュッティ先輩は御覧の通り"超甘党"

 ケーキに追い砂糖は当然、カルピスも原液で飲めちゃう人です。

 全然太っていないし(むしろスタイルはいい)、虫歯になったという話は聞いたことがないので、今のところ健康面で問題はないらしいが心配になる。

 相手の健康状態が気になるなんて養護教官らしくていいと思います!自画自賛!

 

「見てるとこっちの口内が甘くなってくるわ」

「見なきゃいいでしょうが、ほっといてよ」

「ふむ、加齢とともに代謝が落ちると一気に大崩壊パターンですね。今の内から偏食改善に取り組むことをお勧めします」

「冷静に分析しないでよ!糖質制限断固拒否!」

「いや、これはシュウが正しいよ」

「せめて運動量を増やしてはどうだろう。生徒に交って修練するのはいいものだぞ」

「トレセンの教官ともあろう者が、精神も肉体もたるんでいるようでは示しがつかないわ。地獄の教職員特別修練合宿(強制参加)の実施を検討した方がいいしら」

「地獄ってなんだよ」

「うわっ!嫌なこと聞いた。早まらないで、たずなさん」

「貴重な休みを潰した挙句、結果次第で給料査定にも響く合宿か・・・お断りだぁ!」

「甘党の話からえらいことに、テュッティは反省してください」

「え、私のせい?わかったわよ、おデブにならないよう気を付けるから許して」

 

 模範になるべき教官だからな、生徒たちに失望されるわけにはいかない。

 いくつになっても修練に終わりなし、若い子たちに負けないよう大人の俺たちも頑張らないと。

 学園内のトレーニング施設は教職員も利用可能だ、愛バ不在時にの修練方法を考えてみてもいいかもな。

 

「ヤンロン、今度組み手でもするか?」

「いいだろう、どれだけ功夫を積んだか見せてもらう。テュッティ、たまには君もどうだ?」

「格闘術には自信がないんだけど、そうね、久しぶりにやってみましょうか。お手柔らかにね」

「得意分野を教え合うのもいいんじゃない。テュッティならガッちゃん譲りの覇気制御とか、ミオちゃんは形態変化の極意を伝授して進ぜよう」

「フォームチェンジはさすがに無理だろ」

「大丈夫、同じ人外のマサキならやれる!」

「断言されるとできそうな気がしてきた。そうだな、やる前からできないとは思わない方がいいよな」

「弟がヤバい方向に進路を・・今更か。ともかく、教官として恥ずかしくないようにお願いするわね」

「「「「了解しました」」」」

「生徒に嘗められたら終わり!理事長はアホかわいい子!はい復唱」

「「「「生徒に嘗められたら終わり!理事長はアホかわいい子!」」」」(何言わせてんだw)

「全てはトレセン学園の栄光と、お給料のために!」

「「「「お給料のために!!」」」」(ですよねー)

 

 少し酔いが回っているのか変なテンションの姉さんに、こっちも変なテンションで付き合う俺たち教官連中だった。

 

「結局、金じゃないのww」

「賑やかな職場みたいで結構なことです。ブルボンやライスもよい環境で成長してほしいですね」

「マサキたちが教官やってる学園かあ、生徒たちが少し羨ましいかな」

 

 楽しい飲み会は続く、たわいもない話で盛り上がったりすることが幸せだ。

 愛バの自慢話とかしちゃうぞー!!

 

 ♦♦♦

 

 一方その頃、マサキの愛バたちは学生寮の一室に集合していた。

 

「邪魔するよ」

「邪魔するんなら帰って」

「はーい。って何でさ!?」

「お約束の芸はいいですから、上りますよ」

「はい、二名様ごあんなーい。アルはもう来てるからね」

「ほぇ~綺麗にしてる、これがココの部屋かあ。カップ麺の容器が散乱しているかと思ったのに期待外れ」

「何で白を基調としているのですか!何で?どうして?白がシロでしろぉぉぉ?」

「情緒不安定で怖いよ!別にいいでしょ、シンプルかつ清潔感のある白色コーデ」

「そこのキチガイ、何で発狂した?」

「そういう雰囲気かと思って、特に深い意味はありません」

「そんなだからクレイジーの称号をもらうことになると理解して」

「サーセン」

 

 マサキさんからシロと呼ばれている身としては一言物申したくなるでしょう?

 ならないですか、そうですか。

 白を基調としたインテリアで統一された部屋・・・思い切り汚したくなりますね。

 

「やめてよ」

「やめておきます」(顔に出てましたか)

「なんかこの部屋ココ臭くね?」

「私の部屋だから当り前だよね。ココ臭い言うな」

「もっとニンニク効かせてみては?例えばそう、マサキさんが「もう無理、うぼぇ!」とゲロるぐらいに」

「嫌だね。マサキは私の匂い好きだって言ってくれたもん!ゲロなんかしない」

 

 それぐらい私やクロだって言われてますよ。

 匂いに敏感なウマ娘だからこそ、操者に不快な臭気をお届けするわけにはいかないのです。

 嬉しいことにマサキさんは大変いい匂いがします、気を抜くとトリップしちゃうレベル。

 もう四六時中クンカクンカハスハスしたいです。

 

「溶ける前にこれ、お土産のアイス。冷凍庫にインしといて」

「お気遣いどうも・・どれどれ、あずきバーだ!やったー!ハーゲンダッツはあるかな~?」

「贅沢言うな!それだって、ちょっとプレミアムな"ゴールドあずきバー"だぞ」

 

 奥に通されると、テーブルに料理を並べているアル姉さんがいた。

 うちに帰れば美人妻が手料理を振舞ってくれる。世の男性はこういうのが好きなんですか?

 

「ここで裸エプロンだったら、未来永劫アル姉を尊敬していた」

「もしそれを披露するのならマサキさんの前だけですね。いらっしゃい、クロさん、シロさん」

「アル中姉さん、どうもです」

「「おいバカやめろw」」

「中はいりませんよ?」(# ゚Д゚)

「雷撃禁止ぃ!ケンカするなら外でやって、頼むから!」

「まったくもう、ココさんに免じて許しますが、気を付けてくださいね」

「サーセン」

 

 ((このクレイジー全く反省しとらんな))

 (サーセンwww)

 

 クロの暴走にツッコミ入れるだけのダイヤかと思った?

 ボケていじって痛い目にあう側にもなれる、それが私のサトノ魂だ。

 おっと、アルちゅ・・アル姉さんの眼力が怖くなってきましたよ。このスリル癖になりそう。

 

 全員で配膳をお手伝いして、料理と飲み物をセッティング完了。

 デザートやお菓子の準備も万端です。

 

「それでは恒例の~愛バ会議という名の女子会スタートだよ」

「「「おおー!!!」」」

 

 マサキさんが大人の飲み会をするというのなら、こっちは女子会しちゃいますよ!

 今日の会場は学生寮のココ部屋です(じゃんけんで決まった)

 

「愛バ会議、これで何回目だっけ?」

「さあ、100から先は数えてません」

「そんなにやったかな。マサキの話で駄弁っているとすぐ時間が経つからねー」

「仲良し4人で集まってお喋りする。このひと時が私大好きです」

「アル姉がいい人過ぎてつらい」

「本性知ってる者同士だから気疲れしないのがいい。おお、このピザうめぇです」

「それは生地から私が作ったんですよ。よかったらこっちも召し上がってください」

「やるねアル、自家製ピザとか凄いよ。麺は作れる?」

「パスタやうどんならいけますが、中華麺は未知の領域です」

「もしチャレンジするなら言って、スープと具は揃えてあげるから」

 

 それお前が食いたいだけだろ。

 料理上手なアル姉さんはいい奥さんになりそうですね。

 良妻賢母筆頭の座は譲れないので、私も努力しないといけません。

 

「ピザ食べてると思い出すね」

「ですね、マサキさんにテイクアウトされた記念すべき日のことを」

「そのお話、何度でも聞きたいです」

「うまぴょい計画ゼオライマーから鼻毛ボーボボの流れが秀逸かつアホで、笑えるんだよね」

 

 マサキさんと出会った日のことは最高の思い出で、鉄板のネタ話でもあります。

 あだ名がゲレゲレになりかけたり、ピザ屋の配達員がボンさんだったり、ブラッシングされたりと色々ありましたっけ。色あせない面白幸せメモリーズ。

 

「乳首削られたのもあの日でした」

「「それ初耳なんだけどぉ!?」」

「そ、そのこともうは忘れようよ」

「見事再生した暁にはマサキさんが結婚してくれると約束して・・」

「「なんじゃそりゃ!?」」

「記憶改ざんも甚だしい!そんなイベントなかったよ!」

「なんだ冗談か」

「そうですよね。さすがに乳首削れるとかそんなバカなこと」

「「それは本当」」

「「うええー」」

 

 本当にあたった怖い話で、年長二人がドン引きしていた。

 時間を確認、もうすぐ予定時刻なので用意しましょう。

 こう、テーブルにスペースを確保して・・

 

「お?シロちゃん、ノートパソコン持って来てたんだ」

「まさか、今からみんなで女の子がアレやらコレやらする、えちえちなゲームを」

「マズいですよ、年齢制限がその////」

「女4人でエロゲプレイなんかするか!」

 

 エロゲはね、誰にも邪魔されず一人でじっくりプレイするものなんですよ。

 まったく素人はこれだから困る。

 

「シロってば、やーらーしーいー」

「うっせ!キモオタ上等だよ!ノベルゲーとしては面白いとクロも言ってたじゃないですか」

「読み応えのあるバトルものならいいんだけどね。エロシーンはおまけ」

「アルはあれかな、やっぱりゴブリンとか触手に滅茶苦茶されちゃう系が好き?」

「急にろくでもない話を振らないで、ココさん!」

「アル姉には「くっ、殺せ」「絶対に負けたりしない」とか言ってほしい。オークは是非とも登場させよう」

「いつの間にか私が酷い目にあうシチュエーションが考案されていく、この流れは非常に危険です」

「選んでアル、姫騎士と対魔忍どっちがいいの?」

「その二択!?どっちも嫌ですよ!」

「敵組織に捕まったアル姉さんは数々のエグイ調教を受け、洗脳悪堕してしまう!敵幹部となって我々に前に立ち塞がる彼女はかつての清楚さは何処へやら、下品な淫語を連発しながらマサキさんの"うまだっち"を狙う姿はサキュバスの如きドスケベっぷりであった。こんなのはどうでしょう?」

「「それだ!」」

「やめてくださいぃぃぃ!!感度3000倍は嫌ぁ////せめて、マサキさんとのイチャラブ純愛ルートを完備して救済してください!!」

「なんかちょっと期待してね?実はノリノリじゃね」

 

 人気シリーズ化待ったなし。売れますよコレ!

 冗談は置いといて、サトノ家の財源確保のためエロゲで一山当てるのはいい案かもしれない。

 そういうの好きそうな人材は有り余っているので、父様に相談してみよう。

 

「皆さんは私を何だと思ってるんですか!ああ言わなくていいです、どうせドスケベって言うに決まってますから!!悪かったですねドスケベで!!」

「アル姉さんがいじけてしまいました」

「かくなる上はメジロ家の女に伝わる「殿方を悦ばす秘奥義」を極めて、マサキさんを誘惑してやります!ウフフフ、そうと決まれば何だか楽しくなってきました」

「本性表してきたね」

「どうすんの?アルがウマ娘やめてサキュバスになる覚悟しちゃったよ」

「ココがいじるからですよ」

 

 私もノリノリでしたけどね。ウマ耳尻尾サキュバスか・・・少々属性盛り過ぎだがアリだな。

 エロゲ談議はこの辺にして、よし、これで・・繋がったかな。

 

「あ、映った。よしよし、揃ってるようね。元気にしてた?私の可愛い娘たち」

「「お、おかあさま!?」」」

 

 パソコンの画面に映る美女の姿を認識した瞬間、条件反射で私たちの背筋がピンッと伸びる。

 事前に知っていた私もほんの少しだけ緊張する。

 

「特別ゲスト、マサキさんの母上である天級騎神サイバスター様です。皆の者!頭が高いですよ」

「「「ははっーー!」」」

「やめてやめてw平伏しなくていいわよ」

 

 一斉に首を垂れるアホどもにサイさんが逆にビビッていた。

 フレンドリーに接してくれるのでつい忘れそうになるが、天級騎神は雲の上の存在だ。

 御三家令嬢といえど学生風情の女子会に招待していいはずないのだが、マサキさんの人脈とご縁に感謝ですね。

 

「急なお誘いをしてしまい、ご迷惑ではなかったですか?」

「いいのいいの。若い子、ましてや娘たちの女子会にお呼ばれするなんて嬉しいわ」

「サイママ登場なんて聞いてない!」

「言ってませんでしたから、サプライズってヤツです」

「なるほど、今日は義理の母娘でマサキの秘密を暴露しちゃうって企画なんだね」

「フフフ、どうしようかな~。それは気分次第ってことで」

「もう既にほろ酔いのようです。これはいけます」

 

 私たちのことを娘と言ってくれることが、もの凄く嬉しい。

 ちょっと顔が赤くニコニコしているサイさんは画面越しでも色っぽい。

 

「ガー子はグラの家に行っちゃったし、ネオは爆睡中。今日は一人で寂しかったのよ~、それで何の話していたの?」

「対魔忍アルダンについて少々」

「わぉ、女の子が集まってする話じゃないわww」

「やめろと言ってるでしょ!サイさんの前でよくも!ああもう、なんて日だ!!」

「いいぞ、アルがおかしくなってきた」

「サイさんの前でキャラ崩壊wこのままお清楚な仮面をはぎ取ってやりますよ」

「マサキさんの前で醜態を晒すのも時間の問題だね」

「最初からそれが狙いで!?仲間だと思っていたのに、全員敵だらけでした!酷いです!」

 

 愛バ間の友情より、マサキさんへの愛情が勝った。それだけのことですよ。

 隙をみせたあなたが悪いのですアル姉さん。最近、マサキさんへのスキンシップが多過ぎましたね。

 ライバルを下げる絶好のチャンスは逃しません。

 

「コラコラ、ケンカしちゃダメよ。マサキが悲しむわ」

「「「「サーセンしたぁぁ!!」」」」

 

 お母様にたしなめられて一同反省する。

 いじりすぎたアル姉さんに謝罪して仲直り握手をぉぉぉぉ・・いだぁぁぁぁい!!

 私を含めたアホ3人は腫れた手をおさえてうずくまる。指がもげるかと思った(´Д⊂グスン

 ホントマジごめんなさい、ほとぼりが冷めたら覚えてろ。

 

「あれれ、アルちゃん今日は飲まないの?」

「そのつもりだったのですが、負の感情が爆発しそうなので、ええ!飲まなきゃやってられませんよ!」

「ごめんねアル"メジロ水"冷えてるよ。ささ、飲んで嫌なことは忘れようね~」

「嫌な記憶を植え付けた一因がなんか言ってる」

「気が利きますねココさん。ありがたく頂戴します。サイさん、お付き合いしてくださいますか?」

「いいわよ~。へへ、うちにもメジロ水あるんだなこれが」

「お酌してあげるね。はーい、アル姉どうぞどうぞ」

「「かんぱーい!!」」

 

 アル姉さん禁酒初日で断念ww

 遠く離れたサイさんと画面越しに楽しそうに飲みにケーションしちゃってます。

 おおう、サイさんはともかく、アル姉さんガンガン飲んじゃいますね。ちょっと引く。

 二日酔いになっても知りませんよ。

 

「ウコンやシジミエキスの入った物を用意した方がいいのかな?」

「あれ位なら大丈夫だよ。私たちも料理冷めないうちに食べちゃおう」

「そうしましょう。では、食べながらで「今日のマサキさん」のコーナーいっちゃいますか!」

「「「「待ってました!」」」」

「何か始まったww今日のマサキがどうしたの」

「解りやすく言うと「今日のワンコ」のマサキさんver.です」

「オッケー、理解したわ」

 

 今日のマサキさんが、どんだけカッコよかったか、可愛いと思ったか、ドキッとさせられたかを報告し惚気合うという愛バ会議の人気コーナー、これだけで半日は語れる。

 

「撫でてくれる時の手つきがさぁ」

「それだったら私も」

「甘いですよ、私なんて」

「ちがーう、それの時にアレがコレで」

 

 それぞれが、マサキさんの素敵エピソードを語り合う。

 自分以外の愛バからの視点は更なる魅力の発見にも繋がるので有意義です。

 

「うちの息子大人気!・・・責任重大ね、ちゃんと全員幸せにしてあげなさいよ、マサキ」

 

 女子会は楽しく進行中、今頃マサキさんもお楽しみですかね。

 

 ♢♢♢

 

 再びマサキサイド。

 飲み会も中盤に差し掛かり、集まったメンバーは寛ぎながら思い思いに行動をしていた。

 

「なんと!エロ本全部処分しちゃったの。そりゃまた思い切ったね」

「今の俺にはもう必要ないからな。たっぷり感謝した後に売却した」(`・∀・´)エッヘン!!

「秘蔵のロリものは高値で売れた?」

「ジャンル限定するのやめてくれる?結構いい値段がついてビックリしたぜ。次の持ち主にも大事にしてもらえるといいなと切に願う」

「ダメでしょマサキ、エロ本のジャンルは姉ものに限定しなさいと言ったじゃないの。年下のケモ耳娘はリアルでもご禁制にします!」

「何言ってんだこのブラコン」

「姉、怖いなぁ」

 

 ホント言うと姉もの持ってたんだが、実の姉がいると判明してから背徳感でちょっとね、うん。

 素早く移動した姉さんが俺に抱きついてきた。

 

「マサキ~私の可愛い弟~うぇへへへへ」

「姉さん酔ってる?お水飲む」

「酔ってない。でも、お水はもらう・・・ホントにいい子ね。よしよし」

「駿川女史もマサキの前では形無しだな」

「そうね。今のたづなさん、学園関係者は誰も信じないでしょうね」

「大丈夫、ちょっと距離感バグってない?」

「普通の仲良し姉弟だよ」

「生き別れになり、長い間、実の姉と名乗っていなかったそうです。多少は大目にみてあげては」

「多少?あれで」

「いい歳した大人の姉弟がイチャコラしてるのって、問題なのでは?」

「何も問題ないね」

 

 姉さんはずっと頑張って来た人だから、俺の前では過保護なお姉ちゃんモードになってもいいと思う。

 これこれ、君たちのその目はなんだね?俺たち姉弟はこれでいいのです!

 

「マサキ~、愛バのクソガキどもに裏切られても、あなたにはお姉ちゃんがついてるからね」

「そんなことにはならないと思うけど、ありがとう姉さん」

「ん~弟成分補給~」

 

 姉さんのスキンシップが大胆になってきた。弟はなすがままを選択します。

 

「アンタの姉、スリスリしてるわよ」

「普通だ」

「ん・・・あむ・・・」

「アンタの姉、耳ハムハムし始めたわよ」

「問題ない」

「ホントの本当に危ないわよ!そこのとこわかってる?」

「近親相姦か・・・こうやってマサキの業は増えていくんだね。えーと、ファインたちの連絡先は」

「何を言い出しているのかね!とりあえず自重するから、愛バたちには黙ってて!」

 

 ペロペロしそうになる姉さんを優しく引きはがしてスキンシップをやめてもらう。

 渋々下がった姉さんは姿勢を変えて俺の膝でウトウトしちゃってる。お疲れかな、そのままにしておこう。

 顔はほんのり赤く服装の乱れてる美人の全行程お姉ちゃん。本当にいいものですね。

 間違いが起こりそうになっても・・・ヤベェ!これは確かに危ない!!今日のところはセーフっ!

 こういうときは愛バのことを考えて心頭滅却!

 あいつらもエロいからな、今頃妙な話で盛り上がってたりして、そんなわけないか。

 

「マサキ、そろそろあの話をしては?ここにいる皆さんも聞いておくべきでしょう」

「あの話とは、坊やが異世界に行ったとかいう。報告書を見ましたが信じ難い話ですわ」

 

 俺も未だに夢か何かだと思うほど荒唐無稽な体験だったからね。信じられない気持ちもわかる。

 

「聞きたい聞きたい!たまに呟くフロンティアって何のことか教えてよ」

「異世界旅行記か、僕も興味あるな」

「ゲートの先にはどんな世界が広がっていたのかしら、気になるわね」

「親父が聞いたら憤死するようなネタだね。よし、追加の料理を準備しようかな~」

「姉として弟の冒険譚を聞き逃すわけには・・ちょっと待って・・・うん、もう大丈夫」

 

 まどろんでいた姉さんがコップに入ったお水ではなく、メジロ水を一気にあおって目を覚ます。

 みんな、そんな期待するような眼差しを向けられたら照れるじゃないの。

 

「オホンッ、リクエストをいただきましたので俺の体験したことを話すぞ。準備はいいか!」

「「「「いいぞーー!」」」」

「ではでは「チートスキルで異世界無双しようと思ったら、もっとヤベェ奴がゴロゴロいてドン引きした」話のはじまりはじまり~」

「タイトル長げぇww」

「なろう系ではよくあることさ」

 

 次回、未知との遭遇しちゃった。

 



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終着駅と開拓地

 あの日、俺はルクスと戦い敗北した。

 ルクスに腹を刺され重傷を負った挙句、クロスゲートに放り込まれる事態になったのだ。

 不意打ちや仲間を狙うような手段を取られたとはいえ、負けは負けだ。

 勝つことができなかったのは俺が弱かったせいだ。悔しい・・絶対リベンジしてやる。

 奴の右手を噛み千切って一矢報いてやったが、あの程度じゃ足りない。

 次に会った時は徹底的にボコることに決めた。

 くそっ!クソクソクソッ!

 邪魔が入らなければ今頃、目覚めたクロとシロに会えていたはずなのに、ココにアルという素敵な愛バも増えて夢のハーレム状態だったのに・・・こんなはずじゃあなかった。

 戦闘で負った傷と力を限界まで使用したことで全身が悲鳴を上げている。

 俺の体はボドォボドォだぁ。

 寒い、腹が減った、苦しい、喉が渇く、寂しい、ルクス死ね。

 大きな疲労感と一人ぼっちの孤独感でネガティブな感情ばかりが募る。

 

 (あれからどの位経ったんだ・・・ここはどこだ・・)

 

 ホントなんだよここは、転移途中のワープゾーンとでもいうのか。

 黒をベースとした広大な空間に様々な色をした光が見える。

 上下前後左右いたるところで膨大な数の光が流動し、渦巻いている箇所もある・・・まるで、川の流れみたいだ。とりあえず、天の川と名付けよう。

 この世のものとは思えない天の川の中を俺は一人で漂っているのだ。

 一体何処に向かっているのだろう、流れに逆らうことは・・できそうにない。

 美しくも不思議な光景だ、非常時でなければもっとじっくり見ていたかった。

 

 (まだ生きてる・・だけど、このままだと・・)

 

 痛みのピークはとうに過ぎ去り、体温の低下と息苦しさが酷く不快に感じる。

 大量の血液と覇気を失った。そう、生命力そのものが今の俺には不足している。

 マズいぞ、出血を止めたがダメージを受け過ぎた。

 回復しないと、今のヒーリングでどこまでやれるか、何かエネルギーを補給しなければ。

 体が・・動かない。

 

 (ああ・・すごく眠たい・・このまま楽に・・なる・・わけには、いかないんだよぉ!)

 

 クロ、シロ、アル、ココ、あいつらが俺の帰りを待っているのだ。

 まだだ、まだ倒れるわけにはいかない。

 落ち着け、こういう時こそ冷静になれ。

 

 (止血は済んでる。生存に必要最低限な覇気だけ残して後は少しでも回復に充てる)

 

 血も覇気も栄養も、足りないものが多過ぎて不安しかないがやるしかない。

 無駄な足掻きだって笑うか?それでもいいさ、少しでも長く生きて突破口を見出す。

 諦めないぞ、こんなとことで死んでたまるか!

 

「そうだ、お前はまだ死なない、死ぬことは許されない」

 

 唐突に聞こえた声に驚く、このような場所に俺以外の存在がいたのか?

 いや、気配は全く感じない。そもそもこの声は頭に直接響いているんだか・・一体何者だ。

 

 (姿を見せろ・・・誰・・だ・・・どこに・・)

 

「生き残って使命を果たせ。死ぬのはその後だ」

 

 (し・・め・・い・・)

 

「終点にいる王に会え、無限の交わる場所へ導いてくれるだろう」

 

 (わけ・・わかん・・ねぇ・・)

 

「忘れるな。使命を果たせ、そのためのお前だ」

 

 (ああ・・もう・・・うるせ・・)

 

 知らないはずなのに、どこか懐かしい男の声が聞こえる。

 この声を聞いていると、大切な何かを思い出しそうだ。

 

 (頼んだぞマサキ。お前が終わらせるんだ)

 

 終わらせる・・・奴の凶行を止めて悲劇の連鎖を断つ・・・そのために・・

 

 (そのために、俺は生まれたのか)

 

 生きている意味を理解したと同時に体が引っ張られるような感覚が走る。

 光の渦、あそこへ飛び込めと?いいぜ、このまま流されてやる。

 

 (ねむ・・少し休もう・・愛バたちの夢が見れたら・・いいな)

 

 果報は寝て待てだ、意識を保つのにも限界が来たので落ちます。

 最後に声の主が「それでいい」と満足そうに頷いた気がする。

 偉そうにすんな!あのさぁ、誰の後始末するのかわかってんの?元はと言えば・・・

 もういない!・・・ちっ、逃げやがった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おい、おい・・・アカンか、もうコレ死んでしまうんかいな。勿体ないなぁ」

 

 う・・・あ・・・誰かいる・・俺の体を揺すっている。

 

「待て待てぇ!久しぶりの意思疎通できそうな廃棄物なんや、ワイが諦めたらそこで試合終了やないか」

 

 エセ関西弁?なんかうるさいのがいる。

 

「せや!こういうときは人工呼吸と相場が決まっとる。マウストゥマウスちゅうやっちゃな」

 

 あーこの流れは非常にマズい。

 声の主は十中八九男で間違いない!いやいや、例え美少女が相手でもマウストゥマウスはダメだ。

 俺には愛バたちがいるんだ、キスだめ絶対!

 

「な、なんやろう。なんか緊張してきたな////誰もおらへんのはわかっとるが、こう、ムラムラちゅーかな」

 

 おいおいおい!誰だが知らんが早まるな!

 くそっ!体がまだ、動け動け動け動けぇぇぇ!今動かなきゃ俺のファーストキッスが奪われてしまう!

 そんなの絶対嫌なんだよ、だから動いてよぉぉ!

 こんなことなら、恥ずかしがらずクロとシロに奪ってもらえばよかったぁぁ!俺のバカバカバカーーー!

 思い起こせばアルやココとだって、するチャンスはあったのに!変な意地張っちゃって大後悔!

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したぁぁぁ!

 

 ※マサキは知りませんが、この時点でフォースキッスまで奪われてます。

  ファーストは赤ん坊の頃こ例の姉が勢いでチューしちゃってました。

 

「そんじゃいくでー、覚悟しいや~」

「やめろぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!

「な、起きたんかいワレって、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ふぅ、間に合った。何とか覚醒した俺は男の顔面にブラスターを吐きかけてやった。

 「そのときふしぎなことがおこった」が発動しなければ危なかった。

 謎の男の頭部は消し飛んだが、俺の唇は守られたからよし!

 

「よし!じゃあないわー!いきなり何すんねん!」

 

 なんと生きてる!?というかピンピンしてる。こいつただ者じゃないな。

 初対面の人に殺害未遂の無礼を働いてしまったのは事実なので、素直に謝罪しよう。

 人工呼吸という手段は勘弁してほしいが、助けようとしてくれた人になんてことを、反省します。

 

「誠に申し訳ございません、緊急事態につきテンパってしまいました。どうかお許しください」

「おおう、丁寧な対応されるとは予想外や。あー、なんや、元気になったならそれでええって・・・」

「が、ごふっ!?」

「ひょえ!吐血しおった!」

 

 ヤバい、無理にブラスターを発射したせいで腹の傷口が広がった。

 僅かに残った覇気も今ので消費し尽くした。もう無理ーーー!

 あ、ダメだ。せっかく起きたのにまた落ちる。

 

「こりゃマズい!君、待つんや、死んだらアカン!アカンで!」

「帰らないと・・・あいつらのところに・・・チューしてもらうんだ」

「喋らんでもいい、全部ワイが何とかしたる」

「そうだ・・声は王に会えって・・王はどこだ」

「王やと?王ならここにおるがな」

 

 謎の男が血反吐を吐く俺の腹部に手を当てて何かをしている・・・これはまさか?ヒーリング?

 そもそもここはどこだ?この男は誰だ?ああ意識が朦朧としてきた。

 

「あなたが王?なんの王?どんな王?教えてプリーズ」

「君、結構余裕あるな。聞いたら腰抜かすで、ええかワイはなぁ」

 

 ヒーリングをかけながら、男は真っ直ぐに俺にを見据えて名乗りを上げた。

 その風格はまさに王そのものだった。

 

「ルイーナを率いて宇宙を滅ぼす超越存在。"破滅の王"ペルフェクティオや」

「うわーすごーい・・・ガクッ」

「こら信じてへんやろ?・・・気絶したか。それにしても君こそ、何もんや?」

 

 傷口を治療を終えた男は気絶したマサキの全身を改めて観察する。

 人ならざる怪しい光を宿した瞳は、対象の内部構造や神核の情報も看破していく。

 

「人間なんか?いや、めっちゃ余計なもんが混ざっとるな。この神核どうなっとんねん」

 

 ひょいっと軽々マサキを担ぎ上げた男は自身の住処である建物を目指して移動していく。

 

「えらいもん拾ってしもうたなぁ。誰の仕業か知らんけど、君を造った奴は頭おかしいで」

 

 独り言を呟きながら男は天を仰ぐ、暗い空なのにどういうわけか周囲は真昼のような明るさが保たれていた。太陽も月も星も見えない空に浮かぶのは巨大なクロスゲートのみ。

 

「このワイを差し置いて、無茶苦茶やっとるアホがおるみたいやな」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うーん。駄目だシロ、それはニンジンじゃない。刺激すると大きくなるから取扱注意な」

「なんちゅう夢を見とんねん」

「クロも来たか、よーし今日は俺が二人の体を洗っちゃうぞ。ぐへへへへ」

「煩悩まみれやな。ほら、起きんかい!幼女と風呂に入っとる場合やないで」

「いいところなんだから邪魔すんな・・・はっ!知らないオッサンが目の前に!クロとシロをどこへやった!」

「確かにオッサンやけど、命の恩人に失礼やろ」

「・・・あなた先程の、ペロリストさんでしたっけ?」

「そうそう、気に入ったもんを夜な夜なペロペロレロレロ・・・ってちゃうわ!」

「いい反応ですね」

「ワイはペルフェクティオや、気軽にペルちゃんと呼んでええで」

 

 ペルちゃんは呼ぶ方もキツイのでペルさんで妥協してもらった。

 「いけずやな~」と言っていたが特に気にした様子でもないようだ。

 ノリツッコミの感じからして悪い人じゃないと思う。

 どうやら俺はこのペルさん(本名?ペルフェクティオ)に助けられたらしい。

 

 見た目は長身細身で顔立ちの整った青髪の男だ。長い前髪で片目が隠れている。

 年齢は俺より上30~40代位、もっと上かもしれないが定かではない。

 ヘラヘラと柔和な笑みを浮かべているが、時折見せる鋭い眼光はただ者ではないことを主張している。

 恐らくかなり強い、纏う覇気の性質は今まで感じたことのない不気味さ・・・これ覇気か?なんか違うような。

 南極辺りで子供を放置して遺跡発掘に熱中する、インテリ研究者風ダメ親父かな?

 

「俺はアンドウマサキと言います。ここはどこで、あなたは一体?いろいろ聞きたいことがあるのですが」

「待ちぃや。その前に腹ごしらえが必要やろ、立てるか?」

「はい・・大丈夫みたいです」

「大した生命力やないか感心感心。ほな、ついといで」

「あ、待ってください」

 

 腹の傷は塞がり痛みも薄れている。少々倦怠感はあるが動くのに問題ない。

 覇気も大分復活している、どうやら長い間眠ってしまったようだ。

 「こっちやこっち」と手招きするペルさんを追って室内を移動する。

 す、凄い散らかってるな。ゴミ屋敷とまでは言わないが用途不明の物が所狭しと部屋を占拠している。

 

「なんか混沌としてますね。収集癖でもあるんですか?」

「いつか使えるかもと思って集めだしたらこの始末や、ここまでやったら家が破裂するまで続行したろうかと考えとる」

 

 それはコンコルド効果というやつだろう。

 無駄とわかっているのに、つぎ込んだ資金や労力を惜しんで止め時を見失ってしまうんだ。

 

「随分時間を持て余しているようで、暇なんですか?」

「その通り暇なんやなこれが、だから君が来てくれて嬉しいわぁ」

 

 てっきりリビング的な部屋に行くのかと思いきや、出入り口からそのまま外に誘導された。

 さて、外の景色・・・は?

 

「砂浜?ここは島だったのか。いやそれよりも、う、海が・・海が赤い!」

「そうや、真っ赤かでビックリするやろ。慣れてしまえば、どうということもないわ」

「何故こんなことに、セカンドインパクトでも起こったの!?」

「起きとらんから安心しぃや。さあさあ、歓迎バーベキューの始まりや」

 

 家からすぐそばの砂浜にBBQセットが準備されている。

 家の外観はアレだ、亀仙人が住んでるカメハウスにそっくりだ。

 

「どんどん焼くから遠慮せずがっついてええで、あ、野菜もちゃんと食べなアカンよ」

「・・・あの、この食材はどこから調達したのでしょうか?」

「肉も野菜も君に合わせて創造したから心配ないで、ワイが釣ったヤツは小骨が多いので要注意や」

「創造?」

「ええから、食べよ食べよ」

 

 深海魚のようなグロい魚?は赤い海産の獲れたてピチピチだった。見た目に反して美味い。

 他はスーパーで売っている見慣れた食材そのもので不審な点は見当たらない、味も普通に美味しかった。

 お腹が減っていたせいもあってガッツリ食べちゃう。食える時に食っとかないとね!

 

「食事をするのも久しぶりやけど、ええもんやな。味覚もたまには刺激してやらんと宝の持ち腐れや」

「その口ぶりだとペルさんは食事を必要としていないと?」

「まあな、食事も睡眠もワイにとっては趣味の領域や」

「もぐもぐ・・破滅の王とかいうヤツなんですよね・・むぐむぐ・・それって」

「飲み込んでからでええよ。そうやな、いっちょ身の上話でもしたろか」

 

 ペルさんが語ってくれたのは、それはそれは壮大なお話でした。

 スケールがでかすぎて「へぇー」とか「ほぇー」とか「すごいですね」と相槌を打ってばかりだった。

 

 破滅をもたらすもの"ルイーナ"なる存在が、いつどこで何のために発生したのかは誰も知らない。

 かの者たちは門を介して次元を渡り歩き、知的生命体と接触し滅びを与える。

 それは宇宙が望んだ自浄作用か、はたまたアポトーシス(自殺因子)によるものなのか定かではない。

 

「ゲートを利用しとるちゅーことは、ゲートを造った文明連中と何らかの関係があるとワイは思うとる」

「えっと、あなたもルイーナなのにわからないんですか?」

「わからんなぁ。アンドウ君は人類という種がどうして今の形になって繁栄したか詳細を説明できるか?」

「進化論がどうとかではなく、もっと根本的な話ですよね。わかりません」

「そや、例え本人でも自分という存在が"何でこの生物をやっとるんか"は説明できへん」

 

 普通ならそうだよな。

 俺が人の形をしてアンドウマサキをやっているのには理由があるようだが・・・

 

 ある時、ルイーナの中に彼らを統率する王と呼ばれる存在が誕生する。

 王が門より現れるとルイーナもろとも宇宙は終焉を迎えることになる。

 一つの宇宙が終わると別の宇宙に新たなルイーナが発生し活動を開始する。

 善意も悪意もなく、これをただ淡々と機能的に繰り返してきた。何の疑問も抱かずに・・・

 いつしか彼は自身を"破滅の王"ペルフェクティオと名乗るようになり、そしてまた長い長い時が経過した。

 

「でな、前の現場がなぁ。もう、それはえらい抵抗すんねん!何度も退去させらた挙句に最後はもう囲まれてフルボッコにされたわ!スーパーロボット軍団とか反則やろぉ!」

「いきなり現れて「滅ぼすね♪テヘペロ」とか言われたら誰だって抵抗するでしょ。自業自得としか」

「そうやけど、こっちも仕事やからな。後もう一息やったのに・・・氷のラキたんが裏切ってしもうたんが痛かったな。風男はどうでもええ」

 

 ほうほう、部下の中から裏切り者が出たと。

 ブラックな上司と職場環境に不満があったのでは?と思ったが、なんと敵側の異性といい感じになったことが離反した原因らしい・・・やだ!ラブロマンスね。

 

「愛の力は偉大だなぁ」

「ほんまや愛ほど厄介なもんはないで」

 

 ウンウンと二人で頷き合う。俺も愛バたちへの愛で生きてるようなものだから、すごくわかる。

 

 それでスーパーロボット軍団?にボコられたペルさんはショックから自我に目覚めたらしい。

 今まで機械的に王として振舞ってきた、理由もなく滅びを与えることに何の価値も見出せなくなった。

 鬱だ・・・死のう・・・。あらやだ、ワイってば死ねないみたいww

 

 今までの自分に後悔はないし懺悔もしない。

 自分はただそういうものであっただけで、報いを受けろというのなら如何様にしてもらっても構わない。

 この死ねない体に宿った自意識という魂が消えてないのは、この世がワイにまだ何か仕事をさせる気ではないかと思っている。

 前向きにいかなアカン、どこぞの究極生命体とは違うんや!考えるのをやめたりはせぇへんで。

 さあ、これからワイの大冒険が始まるんや!いっくでぇぇーーー!

 

「そうして辿り着いたのがこの場所、終点"サルガッソー"や」

「やっぱりここが終点か、大冒険はどうなったの?」

「決意を新たにしたワイやったんやけど、転移中ここを見つけてな。こらええ保養地やんけってな具合に療養を兼ねたバカンスと洒落込もうとしたんや。あれから数十年、まさか行き止まりで脱出できへんとは思わんかった。やってもうたわwww」

「行き止まり!?それに数十年!?困る困る!非常に困りますよぉ!」

「ワイを責めてもどうにもならへんよ」

「こんなことしてる場合じゃない、俺は元の世界に戻らないと。お世話になりました、さようならペルさん!」

「ちょちょちょ、待ちーや!話は最後まで聞きた方がええ。ワイ一人では脱出不可やけど、君が協力してくれるなら可能性はある」

「もう、それを先に言ってくださいよ。安心したら食欲が戻った、追加のお肉をお願いします」

「現金なやっちゃなぁ。ええで、A5和牛と金華豚も追加投入したる」

 

 すげぇ!空中から高級ブランド肉が出るわ出るわ、何その能力?めっちゃ便利じゃん。

 対価は何だ?等価交換の原則はどこへ?

 

「落ちぶれても破滅の王や、無から有を生み出す事など造作もあらへん。ノーリスクで好きなだけ食材どーん!ぐらい朝飯まえやな」

「注文いいっスか、スタバの抹茶クリームフラペチーノ、サイズはベンティ。パウダー、シロップ、ホイップ多めのチョコチップ追加で」

「はいな」(2秒)

「キャー素敵!美味い!間違いなく本物だぁ!ペルさん大いにリスペクトします」(゚д゚)ウマー

 

 望むだけの美味い食事にありつけて大満足のBBQでした。

 

 サルガッソーには日没というものはない、時間の感覚がおかしくなりそうだ。

 散歩がてら島をぐるりと一周するが1時間たらずで終わった気がする。

 今いる島は小さいが、やや遠くに見える島はかなりの大きさだ。

 空には見たことがないほど巨大なクロスゲートが浮かんでおり、ぼんやりと光っている。

 赤い海、暗い空、太陽が無いのに夜が来ない、閉ざされた狭い世界、これが終点。

 そして隣には破滅の王とかいうとんでもない経歴の持ち主がいらっしゃる。

 今は二人仲良くフラペチーノ(2杯目)をちゅーちゅーしてるところだ。

 

「あれ珍しいな、また門が開きおる。見てみい、廃棄物が落ちてくるで」

 

 言われるままに空中のゲートへと視線を向ける。

 リングの内側が光波打った後、何かが遠くの島に落下していった。

 

「なるほど、俺もああやって落ちて来たのか」

「せやで、生きとる廃棄部は珍しいんや。それが話のわかる知的生命やったから驚いたわ」

 

 廃棄物というのはゲートから落下してくるもの全般は指した言葉らしい。

 

「多分やけど、転移に失敗した物や強引な手段で門をくぐったイレギュラーな存在を破棄する場所なんやろうな。まさにゴミ箱や」

 

 心当りがある。

 ルクスが不正な手段で開けたゲートに入った俺は、終点に投げ込まれたゴミってことかよ。

 

「誰かと何かを共有したり話ができるって楽しいなぁ。ほんの数十年やったけど、ワイ思いのほか寂しかったんやな」

「ぼっちは辛いっスからね。俺でよければ、ここにいる間はいくらでも相手になります」

「ええ子やな。今度は君の事情ちゅーのを聞かせてもらおうか」

「いいですよ。どこから話そうかな」

「ああ、かまへんかまへん。口で説明するより手っ取り早い方法があるで」

 

 ペルさんが俺の額に手を添える。これはまさかミオがやった脳内スキャン?

 俺の記憶を読み取っているのか、恥ずかしいところは閲覧しないでくださいね。

 スキャン中に閲覧した記憶情報についてコメントしてくれるみたいだ。

 

「ウマ娘やと!?なんやメッチャかわええ生き物やんけ!」

「そうでしょうそうでしょう。俺の愛バ、これがホント最強に可愛くて」

「サイバスター、そんで君はマサキ・・・パラレルワールドの可能性とでもいうんかい」

「あ、もしかしてロボ軍団の中にいました?俺の世界では美人の母さんなんですよ」

「ルクス・・・こいつかぁ、君をこんな目にあわせた奴は・・・でも、こいつ・・まあええわ」

「絶対にぶっ飛ばします。やられた分は何倍にもして返すのが信条なんで」

 

 時間にしてものの数分、大体の事情は察してくれたようだ。

 

「好きな子が待ってるんやね。これは是が非でも帰らなアカンな」

「そうです。だから、協力をお願いします」

「ここから出るのはワイの望みでもあるし、願ったり叶ったりや。だけど、ええんか?」

「何か問題でも」

「ワイは破滅の王ペルフェクティオ。自分で言うのもアレやけど、こんなヤバい奴ここから解き放ってしもうてもええんか?」

「滅ぼすことに価値を見出せなくなったんですよね。それに、見ず知らずの俺を助けてくれました。昔のあなたがどんな奴かはしらないけど、今のあなたは悪さをしないと信じます」

「ほな契約や、王の力を望むのならこの手を取りいや」

「結ぶぞ!その契約!」

 

 俺はツイている。ゲート抜けた先のゴミ箱で新たな仲間を見つけることができたのだから。

 握ったその手はとても頼もしく感じられたのだった。

 

 今日はお開きにして就寝することに、ペルさんも俺に合わせて眠ってみるらしい。

 指パッチン一つで俺の部屋を構築し整理整頓したのはさすがだった。

 外が明るいので室内を暗く設定してくれる、細やかな気遣いも嬉しい。

 王というよりもう神じゃね。ペルさん最高かみぃぃぃぃぃぃ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 サルガッソー生活、多分三日目。

 豪華な食事で栄養を補給しながら、しっかり休息をとって回復に努めた。

 体の調子が良くなってきたので、今日から修練を開始する。

 協力者のペルさんも一緒だ。今は砂浜ランニングしながら会話中。

 

「これ覇気じゃないんですか?」

「何て言うたらええんかな。元は一緒で性質が違うエネルギー?ワイは霊気って言うとる」

「プラスの覇気にマイナスの霊気ですか、奥が深い」

 

 生命力や熱く燃える感情を基にした覇気と、残留思念や負の感情を基にした霊気であってるかな。

 

「霊気言うたら、死者の魂やドロドロした醜い心の力やと思いがちやけど、ちょっと違うんやな。霊気の本質は願いの塊や、人や物、生死を問わず込められた強い思いは時に覇気を超える力となる」

「なるほど、死んだ人の恨みや誰かを憎む心は確かに強そうだ。それが悪目立ちしているってことなんですね」

 

 俺の世界では覇気が主流となっているが、事と次第によっては霊気に頼る必要もありそうだ。

 いや~ペルさんの話はためになるなあ。

 

「修練に付き合ってもらってすみませんね」

「ええよ。格闘術なんてワイもド素人やから楽しみやねん」

 

 ランニング後には組手をやる。

 さすが超越存在、素人というわりには動きは一流の武道家クラスだ、ルクスよりもいい動きしてない?

 ルクス、赤いオルゴナイトやラースエイレムに翻弄されたが近接戦闘では俺に分があったように感じる。

 出し惜しみか、舐めプか知らんがあいつに勝つチャンスはあったんだ!それを俺が台無しにした。

 あーくそっ!自分に腹が立って仕方がない。

 

「騎神拳か、修羅の使う機神拳のパラレル版かいな。あいつらも覇気がメインエネルギーやったな」

「そういえば、ペルさんは巨大ロボと戦ったんですよね。真の姿はやっぱりカッコイイロボなんですか?」

「ワイの形は相手によって変化するからな。あん時は確か・・こんなやったかな」

 

 大きさはそのままに、姿形だけ変化させてみるペルさん。

 なんだこれロボですらない。

 

「うわぁ!超キモイっすね」

「そうやろう。なんか手に変な顔のお面ついとるし、最強技も妙に不気味でなぁ。そらな、親父のボディが毎回地面にビターンッ!したらジョッシュ君も笑うで」

「よくわかりませんが、大変だったんですね」

「味方にすら「あれ何?痛そうw」とか笑われ、娘らしき子に「親父キモ」って言われて辛かったわぁ。BGMがトロンべに勝ったのだけが心の支えやった」

 

 ペルさんの人型はとある研究者の体を依り代にしたものの名残らしい。割と気に入っているので今も使っているのだとか。その研究者の息子さんにトドメを刺されるとは因果なものだ。

 人型に戻ったペルさんとの修練、興が乗ったので赤い海を泳いで遠くの島にまで行っちゃうぞ。

 近づくにつれてもう一つの島の全貌が見えてくる。

 

「瓦礫の山だ」

「上のゲートからあらゆる廃棄物が落ちてくるもんで、積もり積もって島になってしもうたんや」

 

 上陸完了。うは、本当にいろんなものがある。

 ド、ドリームキャスト!?まさか、湯川専務もここに・・・いたらダメだろ。

 PCエンジンやワンダースワンも見つけた。シロが見たら絶対喜ぶよ。

 

「家にある家具家電は全部ここのもんを再利用しとるんやで、エコやろ?」

「リサイクル業者の天国ですね。なんかヤバそうなものもゴロゴロしてますが」

 

 ハザードシンボルがついた機械器具が多い!核?核なの?あっちのはゾンビ化ウイルスなの?

 

「一応全部検閲済みや。ワイがちょちょいのちょいで無害化しとるからな」

「さすが!」

 

 瓦礫で出来た島の通称"瓦礫島"にある開けた場所に到着、ここは長い時間をかけてペルさんが整備した場所だ。

 見慣れた円形の物体が等間隔に並べられている。おお、30以上はあるぞ。

 

「どや?これだけ揃うと壮観やろ」

「これ・・全部クロスゲートなんですか!」

「全部機能停止状態やけどな。ワイの霊気では起動できへんねん、だがアンドウ君の覇気ならばあるいは」

「そうか、ゲートは覇気が起動キーになってるんだ。早速試してみます」

 

 ゲートの一つに近づき覇気を込めてみる。動け、動いてくれ!

 

『エネルギーの充填を確認、再起動・・・本機は破棄されたゲートになります』

 

 アナウンスが聞こえた!

 

「成功や!これでハッキリしたなゲートの起動には霊気だけではアカンのや、霊気2と覇気8ぐらいの割合でチャージせな動かへんねん」

「やった!これで元の世界に帰れるぞ」

 

『ナビゲーションを起動、付近に存在するゲートを確認、情報にアクセス・・・殆どが使用不可になっております』

 

 故障中なの?何とか修理できないのか。

 

『自己修復までの時間はゲート一つにつき、平均135年を・・・』

 

「長い!今動くヤツを教えてくれ」

 

『52番、66番、247番は転移先の宇宙が既に存在しません。現状で確実な転移先が見込めるものは』

 

「多分アレしかないやろ」

 

 ペルさんが指を差したのは一番奥に鎮座する一際巨大なゲート。

 

『ゲートナンバー777番、未開領域への転移可能。成功確率87%』

 

 未開領域?それってゲートを造った超文明連中でもよくわからん場所なのでは?

 

「アレをくぐるのか?なんか気乗りしないんだけど」

「ワイの感は絶対アレやと言うとるよ」

 

『未開領域に転移した後、もう一度ここ終着駅"ターミナル"にお越しください』

 

「なんやサルガッソーやなくて、ターミナル言うんが正式名称なんか」

「一旦別の世界に転移してまた戻ってこいだと?なんでそんな手間を」

 

『ご利用者様の生命維持のためです。未開領域で躯体を調整しなければ負荷により命の保証は致しかねます』

 

「負荷って何よ?」

「ああ、あれのことかいな。たまに来るデロデロの死骸」

「なんスかデロデロの死骸って、嫌な予感が」

「うーん。アンドウ君の知識で近い例えは・・・メイドインアビスの上昇負荷やな!」

「ミーティー!?いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 上昇負荷はマズいですよ!なれはてになったら愛バたちもドン引きされるわ!

 可愛い絵柄に残酷なグロ描写、でもなんか視聴しちゃうアニメなのぉ!ナナチをモフりたいのぉ!

 

「ゲート777番をお願いします」

 

『了承致しました。覇気の充填をお願いします』

 

 霊気の方は既にペルさんがチャージしてくれていたようだ。

 777ゲートに触れて覇気を注入~。いいかな、これでいいかな。

 

『充填完了。ゲート起動、5分後に転移を開始します』

 

 は?え、ちょ、何でいつも唐突なのよ。心の準備が・・・

 

「思い立ったら吉日や。覚悟決めて、行って来いやアンドウ君」

「行って来いって、ペルさんも一緒に行くんでしょ」

「ああ、その予定やったけど変更や。ワイはここに残る」

「どうしてですか!ずっと脱出したいと思っていたんですよね。大冒険するんでしょう」

「ワイは碌でもない廃棄物や、永遠に一人ぼっちでここに取り残されるままやと、それが破滅の王をやっとった自分に対する罰やと思うとった」

「ぺるさん・・・」

「せやけど、君におうてな、こんなワイでもやりたいことが・・夢ができたんや」

「夢、それは何ですか?」

「サルガッソーにはこれからも君みたいな奴が来る可能性がある。ワイはそんな連中のためにここを憩いの場所にしたい、かつて終着駅ターミナルと呼ばれた中継地を復活させるんや」

 

 ターミナルの復活、それがペルさんの夢。

 話している間にもゲートが動き出している。ペルさんの意思は固い、そんなもうお別れなのか。

 

「そんな顔せんといてや。こっちまで泣けてくるわ」(´Д⊂グスン

「ペルさん。もう、泣いてるじゃないですかぁ」(もらい泣き)

 

 たった三日間の付き合いだが濃密な時間だった。

 命を助けられて、いろんな事を教わった、楽しかった。孤独ではないことの幸せを再認識した。

 この出会いは必然だったと今なら言える。

 

「さあ、行くんやアンドウ君!新たな世界が君を待っとるで」

「はい!必ず戻って来ます。その時にはまたフラペチーノをご馳走してください」

 

『転移開始10秒前・・9・・8・・めんど・・5・・4、3、2、1、0。では、よい旅を』

 

「ちょ、なんか投げやりになったぁぁぁイテキマース!!」

「気いつけてなぁ。お土産話、楽しみにしとるでー」

 

 こうしてまたもや俺は転移したのだった。

 前から思ってたけど、ゲートのナビ造った奴ヤベェよな。

 

 マサキが転移した後、一人残ったペルフェクティオは首をゴキゴキと鳴らして伸びをする。

 

「行ったな。やれやれ、これでまたしばらく一人かいな」

 

 咄嗟に思いついたことを口走ったため目標が出来てしまった。

 まったく我ながらどうかしてる。破滅をもたらす存在が、何かを創造しようなどと・・・

 創造といえばワイが出した飯を美味い言うて食べとったな。

 人のために何かをしたのはアレが初体験だったのだ、誰かに喜ばれるというのは中々悪くない気分だった。

 

「そうか、ラキもウェントスも自分以外の誰かのためを望んだんやな」

 

 これから忙しくなるでー!やることは山ほどあるからな。

 まずは瓦礫島を整備して、各ゲートの修理もせな、うーん、やはり人手がほしいなぁ。

 

『ゲートオープン確認、上空より来訪者来ます』

 

 どうやらゲートのナビはこのまま使用できるようやな。

 警告通り、空の巨大ゲートが動き出している。

 

「来訪者か、廃棄物よりよっぽどええ呼び方やな」

 

 たった今からこんな所に来る大バカどもはみんな来訪者や、これ決定な。

 

「さて、物か生物か、ターミナル整備に役立つ人材なら文句なしやけど」

 

 そして、ペルフェクティオの願いは叶うことなった。

 

「キシャァァァーーー!!!?」

「うあぁぁぁ!なんやこのキモグロいのは!どう見てもエイリアンやんけ!」

 

 破滅の王ペルフェクティオ、宇宙破壊大帝ペコニャンと出会う。

 この日、瓦礫島は二人の戦闘によって3分の2が消滅した。

 何故か友情が芽生えた二人がターミナル建造し発展していくのは、また別の話。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 というわけでして、アンドウマサキ再びワープゾーンを流されております。

 

「なんか流れ早くない?激流川下りも霞むぐらいの勢いじゃない。ライフジャケットないんだけど」

 

 止まらない、そもそも止め方がわからないからどうしようもない。

 いつまで続くのだろうか、ゴールはまだ先でしょうか?

 

「未開領域だって言ってたな。恐竜がいるような時代ってこともありえるぞ」

 

 そもそも地球と似たような生態系だとは限らない。

 エイリアンのゼノモーフみたいなやつが潜んでいるかもしれん、まっさかぁwww

 とにかく警戒を怠らないようにしないと、この先の世界が天国かそれとも地獄なのかは行ってみないとわからない。

 

「ちゃんと話ができる人型生物がいますように、中世ヨーロッパ風世界で無能認定、迫害追放からの~真の実力無双で俺を見下した連中にざまぁしたです!」

 

 ギルドに冒険者として登録して、奴隷の女の子を買って、受付嬢と仲良くなって、エルフの姫を助ける位ならいけるんじゃね?やれやれ、目立ちたくないよぉスローライフしたいよぉと言いつつ派手に暴れちゃう。俺何かやっちゃいました?黙れドン太郎!!

 

「夢が広がるなあ・・・お、あそこがゴールか・・・飛び込めーーー!」

 

 出口っぽい渦が見えたので頭から堂々と突っ込んでみる。さあ、俺の冒険がはじま・・え?

 

「がばぼぼぼぼぼぼ」(まさかの水中!?)

 

 予想外だ!せめて空中なら覇気ガードで落下の衝撃を無効化することが出来たのに。

 待って・・これ、ヤバ・・・深いぞ・・息が・・・

 俺ってば田舎の山育ちなんですよねー、学校のプールでちょっとは泳いだけど得意というほどじゃない。

 ペルさんと赤い海を泳いだのだって平泳ぎでのんびり(ペルさんの絶対溺れない補助効果付与済み)だったから可能だったわけでね。

 いきなり水中に放り出されて即泳げなんて無理~!

 とにかく上、上を目指さないと酸素が息がヤバァァイ!

 うぇ・・バタ足してるのに全然進まない・・こうなったら!

 

 (発射するぞ、おるらぁぁぁぁぁぁ!!)

 

 口からブラスター発射!その勢いで一気に上を目指すのだ。気圧差で潜水病になりませんように。

 かくして作戦は上手くいった。俺の体は水中から飛び出し空中に放り出される。

 

 (青い空、さっきまでいたのは青い海。ここが未開領域)

 

 よかった。俺の世界と共通点が多い所だとみた。

 発射角度を調整する暇はなかったので高く上がり過ぎた。姿勢を制御して着地に備えないと。

 う、何だ?上に何かいるぞ。

 

「クケェェェェ!!!」

「おわぁぁぁぁぁぁ!なんだてめぇは!?」

 

 空を舞う大怪鳥!?俺が知ってる鷹や鳶を10倍以上の大きさにしたモンスターが急降下して来る。

 そのかぎ爪で何をする気ですか?ほうほう、俺はあなたのご飯ですかそうですか。

 冗談じゃねーぞ!

 ここは異世界、モンスターとの戦闘は望むところよ!やってやる!

 

「バスカーモード!行くぜぃってアレ・・・」

 

 覇気の出力が、嘘?こんな弱くなって・・サルガッソーでは特に問題なかったのに。

 この世界特有の縛りでも働いているのか?

 ヤバい!怪鳥の爪が俺の体をかすめる。浅いがダメージを受けた。

 奴の攻撃は覇気コートの上からでも十分俺を殺せる。

 バスカーモードが使えない今、着地にも不安が残るぞ。

 どうする、どうすればいい。

 

「ケェェェェ!」

「やかましい!飛べるからって偉そうに、そうだお前に乗ってやるよ」

 

 直接俺をついばむつもりだった怪鳥の攻撃を体をひねって回避する、そのまま奴の首に取り付いてしがみつく。

 

「今日からお前の名前はラーミアにする。さあ、ゆっくり丁寧に着地したまえ」

「クェ?クェェェェッェ!」

「暴れんな!暴れんなよ!うわわ、お、落ちるぅ」

「グェェ・・・カ・」ガクッ

「え、ちょ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 

 やらかしたぁ!力を入れ過ぎてしまったため、ラーミアの首を絞め落としてしまった。

 落ちる落ちる落ちる!地面との距離まだ結構あるよ?この高度はアカンでしょ。

 出力の安定しない覇気コートでも無いよりましだか、コレで何とかなるか?激しく不安!

 初っ端からこれかよ!/(^o^)\ナンテコッタイ

 仕方ないからラーミアをクッションにしよう。先に仕掛けたのはそっちだからな、悪く思うなよ。

 クロ、シロ、アル、ココ、俺を導いてくれーーーー!

 

 空の上から見た未開拓領域・・・お城に塔に桜の木?ピラピッド?アレは巨大戦艦か?

 またとんでもない所に来たもんだ。

 

 森の木に突っ込んだところで凄まじい衝撃が走る。

 やっぱり覇気のコートが甘い、ダメージを殺しきれない・・・がはっ!

 枝や幹に散々体を打ち付けてから地面を転がる。

 頭を強く打ってしまったようで、仰向けに倒れた俺は起き上がることができない。

 ペルさん、どうやら前途多難なようです。

 クラクラする視界の中、聴覚がガサガサと揺れる草木の音を捉える。

 何かこっちに向かって来る。またモンスターだったどうしよう。

 おお、マサキよ。死んでしまうとは情けないとか言われちゃうのだろうか。

 足音、大きい、人間じゃない、ヤバいぞ最悪なことにモンスターっぽい。

 来た!もう俺を見下ろして・・・なん・・だと・・。

 

「・・・・」

「・・・は、はははは。何でお前がいるんだよ。もしかして、ここって天国だった?」

 

 そいつの姿を確認した俺は緊張の糸が切れたのか、またまたブラックアウトすることになる。

 最近、気絶が多い今日この頃です。

 あら、持ち上げられて運ばれてる?更に誰か来たような気がするが知らね。

 

 ♢♢♢

 

 その青年は森の中を走っていた。

 木々をかき分けながら疾駆する姿は修練を積んだ強者の動きだ。

 試運転中だった相棒が突如暴走し、何処かへ走り去ったのは数分前のことだ。

 仲間を置いて先行した自分は確実に目標の覇気を追跡している。

 また以前のような事件が起こらないとも限らない、逃がしてなるものか。

 

「見つけたぞ!」

 

 どうやら青年の心配は杞憂に終わったようだ。

 黒の巨体を誇る相棒は自分のいる方へと何事もなかったように戻って来た。

 

「何があったのだ?先程感じた大きな覇気に関係が・・待て、何を持っている?」

「・・・・」

 

 物言わぬ機体は片腕に何かを持っていた。それは傷ついた人の体。

 

「人だと!?もし!しっかりしてください。今お助けしますから、お気を確かに!」

「あ・・ア・・なんで・・」

「喋ってはいけない!酷いケガだ・・・ハーケン殿たちに連絡せねば」

「なんで・・・アルクオンが・・バラバラにした・・はず・・」

「アルクオンを知っている?あなたは一体」

 

 傷だらけの男は気を失ってしまったようだ。

 羅刹機の存在を知っている人は多かれど、アルクオンという名称を知っている人物は顔見知り以外にいないはず。それにバラバラにしたとは何の事だ。

 

「お前はこの方を存じているのか?」

「・・・・」

 

 アルクオンは答えないがその瞳はじっと気絶した男を見ている。

 そこで青年は気付く、男の覇気とそれを生み出す神核が尋常ではないことに。

 

「消耗しているが、なんだこの覇気は!微量だがアインストの気配すらある」

「アレディ?そこにいるのアレディ」

「ネージュ姫様、こちらです!」

「いたいた。アルクオン、見つかったのね・・・てっ!?どうしたのその人、ケガしてるじゃない」

「私にも何がなんだか、とにかく治療をしなければ」

「いいわ。ツァイト・クロコディールが近くまで来てるからドっ早く運びましょう」

「はっ!先行しろアルクオン。邪魔するものは蹴散らして行け」

 

 アレディと呼ばれた青年は男の体を抱える、そして理解した。

 何度も修練を行ったもの特有の体つき、体の傷は今しがたついたものだけでなく過去の戦闘にて刻まれたものが多数ある。

 この男は、壮絶な命のやり取りを経験し生き残った者に間違いない。

 

「この方も、もしかしたら修羅なのかもしれません」

「そうかしら?そんな風には見えないけど」

「では、ネージュ姫様はなんと考えますか」

「そうね。ロリコンを貫いてここまでやって来たド阿呆かしら」

「ロリ?なんですと」

 

 ♢♢♢

 

 また知らない天井かよ。

 生きているようで安心したが、こう何度も何度も気絶してたら癖になっちゃいそう。

 

「フカフカのベッド、手厚い待遇を受けているようだな」

 

 見慣れない部屋だ。なんだかサトノ家所有ヒリュウ改の船室に似た近未来的な造りをしている。

 どうすっかな、勝手に出て行くのはよくないかも。

 今後の行動を悩んでいると、電子ロックが解除され一人の男が入室してくる。

 

「起きたかい、アンノウンボーイ」

「ボーイって年でもないが、助けてくれたようで感謝するよカウボーイ」

 

 男は珍妙な恰好をしていた。

 黒い鍔広帽子にロングコート、腰には見たことがないカスタム銃を携えている。

 カウボーイだ、カウボーイのコスプレしたイケメンがおる。

 

「アレだけのケガをもう治したのか、タフな男だ」

「回復力には自信があるのよ」

「俺の名はハーケン。ハーケン・ブロウニングだ。賞金稼ぎ兼、今いるここ陸上戦艦ツァイト・クロコディール2代目艦長をしている」

「なんかカッケー!俺はアンドウマサキ。クロスゲートを通ってやって来た者だ。俺は自分の世界に帰らなければならない、ここへはその途中に寄ったって訳」

「オッケー、アンタの事情は理解した。ここには似たような連中がわんさか訪れるから慣れたもんさ」

「そうなん。なら話が早い、ここで体を慣らしてペルさんの所に戻らなければ」

「焦るなよ。まずはマサキが来たことを歓迎するぜ」

 

 いい人みたいだけど、少々キザなのね。

 ここの住人はみんなこんな人たちなのだろうか?それはそれで面白い。

 

「ようこそエトランゼ、ここは無限の交わる場所エンドレスフロンティア。楽しんでいってくれ」

「エンドレスフロンティア・・・無限の開拓地」

 

 未開領域だったのは昔の話みたい、開拓されとるやないかい!

 こうして俺たちの世界は交わった。それってどんなプロジェクトクロスゾーン?

 



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出会いと別れを繰り返し

本編にあまり関係ないと思いつつ削り切れない場面をダラダラ書いてしまう病。


 エンドレスフロンティアは様々な“世界”、あらゆる“人”、そして“刻”さえも混ざり合う場所だ。

 あらゆる存在を内包する混沌さ、そして無限の可能性を秘めた大地である。

 

 こうなってしまった原因はクロスゲートとそれを利用して無茶苦茶やったアインスとのせいらしい。

 複数の世界がゲートを介して繋がった状態だったはずなのだが、元凶であるアインストの親玉をハーケンとその一味が打倒したことにより、エンドレス・フロンティアを構成していた全ての世界が一つの世界に結合し、更に複数の世界を巻き込んで再編成されるという大変革を遂げる。

 

「世界情勢についてはこんなところだ。その後もいろいろあったが、新生エンドレスフロンティアはどうにかやっていけているって感じだな」

「まさにカオス!それなら、ハーケンはこの世界の英雄じゃん。凄いなぁ憧れるなぁ僕にはとてもできない」

「よしてくれ、余計なことをした大罪人だと言う奴もいるんだ。俺は英雄でも救世主でもない、ただのハーケン・ブロウニングさ」

「またまた、ご謙遜を・・カッコイイなぁ僕にはとてもできない」

「艦長、いつまでそのロリコン野郎と駄弁っているのです。サッサとブリッジにお戻りやがりください」

「ホント失礼な奴だな。このメカミドリは」

 

 陸上戦艦の甲板で駄弁っていると、口の悪い女性型アンドロイドがやって来た。

 

 アシェン・ブレイデル

 ハーケンの部下である白兵戦用アンドロイド。なんか全体的に緑色。

 一見クールに見えるが毒舌家で、相手の嫌がることをピンポイントで衝いてくる。

 言語機能に障害があるらしく度々言葉遣いがおかしくなるが、直す気がないところをみると単に性格が悪いだけのような気がする。

 強制オーバーヒート状態(DTDがなんたら)になると、見た目と性格が変わる。ムカつくところは変わらない。

 

「了解だアシェン。何だマサキはリトルガールが好みだったのか」

「べっつにぃ、普通に大きいおぱーいの女も好きだしぃ。いたって健全な男ですしぃ」

「しらばっくれても無駄だ。お前から預かった情報端末に全て記録されていたぞ」

「あ!てめぇ、俺のスマホを勝手に弄ったな」

「コードDTD発動・・・それで、変態マサきゅんは幼女の画像ばかり集めて何する気だったの?誘拐?とりあえずブタ箱に入ってた方がよくない」

「俺の愛バだって説明しただろうが!歳の差なんて愛の前では障害にすらならんのだよ」

「うわ~真性か。手遅れだね♪この犯罪者」

「二人とも、すっかり打ち解けたようで何よりだ。ブリッジに行こうぜ真性ボーイ、目的地に着くまで美味いコーヒーでもどうだい?」

 

 真性ボーイってなんやねん。

 戻って来たスマホはしっかりと修理されていた。

 ペルさんと出会った時にはもう、画面バッキバキに割れていたから諦めていたのにな。

 この艦にいる魔改造博士が直してくれたらしい、後でお礼しなくては。

 

 エンドレスフロンティアにたどり着いた直後、怪鳥型のモンスターに襲われ墜落した俺は何者かに助けられ陸上戦艦ツァイト・クロコディールに保護された。

 ここでは俺のような異邦人は珍しくもなく、非常によくあることなので、アッサリと受け入れられてしまった。

 ルクスみたいなアホもいれば、ペルさんやハーケンみたいに助けてくれる優しい人たちもいるんだ。

 人の温かさが身に染みるぜ。

 

 この世界全体を総称してエンドレスフロンティア言い、その中で更に今俺がいる世界はロストエレンシアという。世界というより国というのが正確かもな。

 バウンティ・ハンターと呼ばれる賞金稼ぎが活躍する、西部劇風の世界。

 遺跡(戦艦が大地に刺さってる?)と呼ばれる建造物から得られたロストテクノロジーにより機械文明が発展しているのが特徴だ。

 暴走したロボとエンカウントしたりするから注意。

 

「うわ、ルクスに付けられた傷が残ってしまった。この前髪どうなってる?」

 

 自分にあてがわれた部屋にて鏡を前に唸る俺。

 自身の風貌が変化していることに、少しだけビックリ。

 額を割られた時の傷跡は残り、前髪の一房が白く染まってというか、色素が抜け落ちている?

 転移の影響か?ペルさんのヒーリングか?ココにペロペロされたからか!?わからん。

 何かの予兆とかじゃなければいいけど。

 

「もう何なのよコレ!いい男が台無し・・でもないか」

「目的地周辺に到着したぞ。早く下りる準備をしろ、ナルシストロリコン」

「やかましい!呼びに来てくれてありがとう」

 

 フンだ!愛バたちは俺のこと素敵だって言ってくれるもん!

 憐れみから来る同情ではないことを信じていいよね、信じさせておくれよ。

 

 世界の境目である大門の前に到着した。陸上戦艦はここまでなので下船する。

 門の先は違う世界が広がっているのか、ちょっとワクワクしてきた。 

 

「既に超巨大な桜の木が見えているよ。アレ、空の上から見ても目立っていたぞ」

「神楽天原(カグラアマハラ)の首都、武酉城だ。あそこにいるプリンセスがマサキをお待ちかねってな」

「と言いつつ、艦長が乳牛姫に会いたいだけでやんす」

「そいつはまあ・・な。他のメンツも集まる予定だ、とにかく一度会ってみてくれ」

「かまわんよ。俺を助けてくれた人たちにお礼も言いたいし、望むところだ」

「では、安全運転フルスロットルで行く。シートベルトを忘れるな」

「え、お前が運転すんの」

 

 用意されたバギータイプの車に乗り込み桜の大木を目指す。アシェンの運転は荒っぽかったが無事たどり着けた。舗装されてない道って衝撃が凄いのな、車内がグワングワン揺れていたぞ。

 

 おお、近くで見ると圧倒される美しさだ。ずっと枯れない桜とか花見し放題じゃないか。

 瓦屋根の建物に着物っぽい服装の住人、ここは純和風の文化を持った世界のようだ。

 

「先に言っておくぜ、今から会うプリンセスは俺の女、ハニーって奴なんで手を出すのはNGだ」

「なんと!それは楽しみだな」

「心配せずとも、この男はロリにしか興味がないですたい。まあ、姫の方は惚れっぽく、男の趣味も最悪でござんすが」

「あんなこと言ってるぞ。長い付き合いのある部下だろ、叱ってやれよ」

「毒舌も慣れれば日常の良きスパイスさ」

「お役に立てれば幸いでがんす」

「甘いんだよなぁ」

 

 ロストエレンシアの街や艦内でいろんな獣人たちを見たが、神楽天原では鬼や妖怪系の種族が多い。

 馬の獣人はいないのか聞いたら、ケンタウロス?とかいうか下半身が馬の奴や、上半身が馬の奴ならいると言われたよ、コレジャナイ感ハンパなかった。

 俺のいた世界は数ある種族の中でウマ娘を選んで育んだ。

 英断だと思います!!一生命として世界を誉めてやろう!(何様)

 

 お城に到着!城主とは知り合いで顔パスだら凄いなぁ。

 おっふ、この桜の木を登れってか?姫たちもそこにいるって何でそんなところに・・・

 ほれ見たことか!化物とエンカウントするじゃないの!

 何?エンドレスフロンティア(以下EFと呼称)ではどこもこんなもんだと。うーんデンジャラス!

 

 桜の木の内部や枝葉を上へ上へと登ってようやく開けた場所に出る。

 なんだろうこの場所は、気に満ち溢れている。幻想的な光だ、パワースポットってヤツかな。

 奥では二人の女性が俺たちを待っていた。

 

「神楽天原へ、ようこそお越しくださいました。ハーケンさん、アシェンさん、それと新たな異邦人さん。楠部家を代表して歓迎いたします」

「ほう、中々よい面構えをしておるな。長旅ご苦労であるぞ、後で一曲舞ってやるゆえ寛ぐがよいぞ」

 

 でっっっかっ!なんとご立派なおぱーいなんだ。それに服装もアレコレ短くてはちきれそう!

 顔も滅茶苦茶カワイイ!これはいいお姫様だ!!

 

 それと対をなすかのようなフラットボディの子もいる。おへそ丸出しでクビレがセクシー!

 角!?額から角が生えてる。鬼なのか・・・こっちも中々の美人さんだ。

 

「どっちだ!ハーケンどっちだ!」

「もちろん、ダイナマイトボディの方さ」

「かぁー!やっぱそっちか、羨ましいねえこのこの~」

「わかってくれるか、もっと嫉妬してくれていいんだぜ」

「まあ、ハーケンさんったら///」

「少々バカにされた気もするが、なんだか楽しそうであるな。よいよい、零児や小牟たちを思い出すのう」

「下世話な友人が出来て艦長は喜んでおられまする」

 

 素敵な女性を前にすると男はウキウキしてしまうのです。

 

「私、楠部神夜(ナンブカグヤ)です。楠部家の姫で、一応「悪を断つ剣」なんですよ」

「わらわは錫華姫(スズカヒメ)、見ての通り鬼一族の姫である。神夜のお目付け役でもあるぞよ」

 

 朗らかな笑みを浮かべる爆乳の姫がカグヤ。

 神楽天原において人間を治める一族「南部家」の姫であり、ハーケンの恋人だ。

 変わった大刀を持っている。姉さんが使っていた斬艦刀とどこか・・似てないか。

 

 スレンダー体形で頭に一本の角を持った鬼の姫がスズカ。

 スズカと言う名前にはスレンダーになる呪いでも掛かっているのでしょうか?どうなんですか、異次元の逃亡者さん!

 後ろに控えているロボット何?戦術からくり?AMやPTではないのか。

 

「カグヤ様にスズカ姫様。二人とも素敵な方でムラムラします」

「そうかしこまらなくて結構ですよ。気軽にカグヤと呼んでください」

「ムラムラはともかく、アシェンに聞いていたより紳士であるな。よいよい、わらわのこともスズカと呼んでおくれ」

 

 うわぉ、得物からも感じる強者の匂い。

 ハーケンやアシェンもそうだったが、この二人も相当できるぞ。

 そうだ、俺も自己紹介しないと

 

「俺は・・・誰か来る!?二人、一人は何だ!?この覇気は」

「覇気がわかるのですか?まるで修羅みたいですね」

「どうやら遅刻組が到着したらしい」

 

 数分後、一組の男女が俺たちの前に現れた。

 

 若い男の方は・・・こ、こいつヤベェぞ!何だかわからんがヤベェぞ!全身から覇気が漲ってやがる。

 赤い髪に赤い具足、隙のない立ち振る舞い。想像を絶する鍛え方をしている。

 

 女の方は、なんか気が強そうで高飛車な感じがするな。

 顔もスタイルも文句無しにいいんだが、なんかこう・・・いじりたくなるような。

 

「遅いぞ、爆発チョンマゲにご老体」

「申し訳ありません、アシェン殿。こ、これはチョンマゲではないと何度言えば」

「誰がご老体か!妖精族の117歳はピチピチなのよド畜生!」

 

 ホントにこのポンコツは全方位にケンカを売るな。117歳・・・マジかー!おばあちゃんだったか。

 

「もしかして、俺を助けてくれた人たちですか?その節は大変お世話になりました」

「あなたはあの時の、元気になられたようで喜ばしいことです」

「おーっほっほっほ!一生恩に着てもいいわよ」

 

 キングみたいな笑い方しおったぞ。妖精族ってのはよくわからんな。

 

「私はアレディ・ナアシュ。波国出身の修羅です」

「ネージュ・ハウゼンよ。妖精族の国「エルフェテイル」の名家・ハウゼン家の姫なの。だから、ド高貴でド偉い存在な訳、理解したかしら」

「アレディにネージュ婆様だな。理解した」

「婆様は言うな!!」

「姫がいっぺんに三人も出てくると、おばあちゃんはキツイなぁ。労わってあげないと」

「同感だ。常日頃から「ババア無茶すんな」と警告はしているのだが、聞き分けがなくてな」

「お年寄りには優しくしないといけませんからね。大変よい心掛けだと思います」

「あなたたち、妖精族全員を敵に回したわよ」(# ゚Д゚)

「待つんだ、オールドフェアリー。今日はケンカをするため集まったんじゃあないぜ」

「「「「オールドフェアリーwww」」」」

「ケンカを売ってくるあなたたちが悪いのよ!ド派手に叩き潰してもよろしくて?」

「もう、やめましょうよ。みんな仲良くね、ね」

 

 オールドフェアリーが銃槍を持ち出したところで、やめておく。

 アレディは会話の中、さり気なくネージュの動きを封じる立ち位置に移動していた・・・できるな。

 修羅というのは覇気を使った武芸を得意とする戦闘集団なんだと、俺の世界で言うところの単独でウマ娘並みに戦える強者だと思っていいみたい。だったら俺も修羅ってことなのかね。

 「ほらほら、次はそちの番であろう」とスズカに則されたので、やっと俺も自己紹介できる。

 

「俺の名はアンドウマサキ。ここではない世界からクロスゲートを通ってやった来た者だ。どうしても元の世界に帰らないといけない、だから、協力をお願いしたい。このとおりだ!!」

 

 「お願いします!」と誠心誠意頭を下げる。

 別世界に帰る手伝いをしろだなんて無茶なお願いをしているのはわかっているが、ダメで元々よ!

 頭を下げて状況が改善されるなら何度でもやってやらぁ。

 何なら脱ぎましょうか?え、それはいらないか、そっか残念。

 

「いいぜ。元々そのつもりだったしな」

「大丈夫ですよ。異世界から来たお友達を送還するのは何度も経験してますから、任せてください」

 

 ハーケンやカグヤに続いて、みんなから即了承を得てしまった。

 な、なんかやけに軽いな。

 経験者ってことはゲートで来た奴らの手助けするのは初めてではないと、これは頼もしい。

 

「ありがとう。じゃあ、さっそく」

「それがですね。門に干渉するには私が不死桜の霊力を開放しなければならないのですが、今すぐにはできないんです」

「カグヤの神通力と不死桜の霊力が最高潮を迎えるには、しばし時が必要であるな」

「具体的には、どの位でしょうか?」

「最短で一ヶ月、出来れば二、三ヶ月はみてくれると万全極まりないのですが」

「そうか、うん、帰る手段がハッキリしただけでも重畳だ」

「このロリコン、スパンキングマスターのようなことを抜かしよる」

「滞在中の寝床は気にしなくていいぜ。良ければ、こっちの世界で賞金稼ぎをやってみるといい」

「EFは常に人材を求めている。ロリコンでも一芸あれば食うに困らない、たぶんな」

「いいですね!せっかくですから、楽しい思い出をいっぱい作ってください」

「しばらくは観光でもして羽を伸ばすがよいぞ。果報は寝て待てという言もあるでな」

「労働力としては使えそうね。あなた、その気があるなら直々に雇ってあげてもいいわよ」

 

 ありがてぇ!

 本音では今すぐにでも帰りたかったが、ペルさんも言っていたな「負荷に耐えれるよう体を慣らせ」と。

 まずは一ヶ月、この世界でやってみるか・・・待ってろよ愛バたち、必ず帰るからな。

 

「マサキ殿、あなたは修羅なのですか?」

「俺の世界で修羅という呼称は一般的ではないが、そういうことになるのかも。覇気は普通に出せるぞ、ほれ」

「なんと強力な覇気だ。アルクオンが反応するのも無理はない」

「そうだ!アルクオン!何であいつがおるねん、確かにぶっ壊したのに」

「そのことも含めてですが、やはり一度「覇龍の塔」へ来ていただけませんか?」

「覇龍の塔?」

「修羅の国「波国」にそびえ立つ塔です。日夜多くの修羅が研鑽を重ねている場所ですよ」

「アレディもそこで修行していたのよね。そこを私の魅力で連れ出すことに成功したって訳、美しすぎるのも罪よね」

「おばあちゃん、嘘はいけませんよ。ボケたの?ご飯は三日前に食べたでしょ」

「おばあちゃんはやめろ!ご飯は毎日頂戴よ!ド鬼畜か!」

「いえ、あの時はアルクオンを追ってですね・・・」

 

 今日は楠部家のお城にてお泊りすることになった。

 メッチャ歓迎されて嬉しい。あ、お酒は結構ですよ、うわー皆美味しそうに飲むなぁ羨ましい。

 EFの摩訶不思議アドベンチャーな話をいっぱい聞かせてもらった。俺、とんでもない所に来ちゃったと実感する。

 皆は俺の話にも興味津々だった。

 何でも異邦人から故郷の話を聞いて酒の肴にするのが通例なのだとか、へぇー。

 修理されたスマホがあったので、身振り手振りに画像も交えながら俺の世界について説明していく。

 

「ウマ娘、ナイスなホースガールたちじゃないか」

「女の子だけなのがポイントなんですね。どの子も可愛らしいこと極まりないです」

「愛バというのが、マサキの好い人かえ。画像がある?どれどれ・・・幼子ではないか!」

「だから言っただろう、この男は真性のロリコンだと」

「思った通りのド変態だったわね」

「ネージュ姫様。人の恋路に変態などと失礼では」

「何とでも言え!俺たち両想いなんで、命かけるレベルで大好き同士なんで!」

 

 興が乗ったので愛バたちとの出会いから別れまで、涙なしには語れない話をしちゃうの。

 思いのほか女性陣の食いつきがいいのでペラペラ喋ってしまう。

 

「ぐすっ・・とても苦労されたんですね」

「これこそ誠の愛よな。二人を救うために異世界にまで来るとはのう」

「なによ、あなたいい奴なんじゃないの。ルクスってのには私までドっ腹が立つわ」

「ふむ。単細胞の姫たちを手名付けたか、変なのにはウケがいいのだな」

「「「変なのって!」」」

「倒すべき敵がいる。そういう時こそ修練あるのみです」

 

 一通り話し終えた俺に、カグヤが声をかけてくる。

 

「マサキさん。少しいいですか」

「ん。どうぞ」

「これは提案なのですが、エンドレスフロンティアに骨を埋める気はありませんか?」

「嬉しいお誘いだが遠慮する。俺は元の世界に帰るよ」

「差し出がましいことを言ってごめんなさい。元の世界へ帰還する協力はします。しかし、そういう選択肢もあると気に留めておいてください」

「ありがとう。カグヤは優しいな」

 

 きっとハーケンたちは元の世界への帰還を望む多くの人を見て来たのだろう。

 その中にはEFに永住することにした者、リスクを承知で傷ついた体のまま転移を強行した者もいたはずだ。

 ゲートを潜ってしまえばもう助けることはできない。

 せっかく友人になった者を死地へと送り出すことになるかもしれない。

 だから、悔いのない選択をしてほしいと思っているんだ。

 カグヤだけじゃない、ここにいる皆はあって間もない俺を本気で心配してくれている。

 いい人たちだなぁ。

 

「それは野暮ってもんさ心配プリンセス。マサキの目は命をベットしてもいいと言っている」

「ハーケンさん」

「男が命を賭ける理由、プリンセスはよく知っているんじゃないかい」

「そうですね。よく知ってます///」

「これチャラ助よ。乳繰り合うならまたの機会にせい」

「ソーリーだ。だが、こういうのは隙あらばってな」

「マサキ殿が命を賭ける理由、仇敵を打倒し歴史に名を刻む事でしょうか?」

「え!ここまで聞いてわからないの、修練が足りないわよアレディのおバカ!ド反省なさい」

「も、申し訳ありません。くっ、まだまだ未熟だ」

 

 俺が命を賭ける理由、そんなの初めから決まってる。

 ルクスなんぞおまけだ。俺はただ、あいつらに会いたいだけ。

 

「大したことじゃない。戻って好きな女に会いたい、ずっと一緒にいたいってだけだよ」

 

 あいつらに会ってそれで、イチャイチャしたいんや!

 その為に頑張ってるんです。文句あっても知りません。

 

「・・・クッww」

 

 あれ?おーいハーケンさん。何故に帽子で目を伏せ肩を震わせて・・笑われてる!?酷い!!

 周りのみんなも何でニコニコしてんの?いじめか!泣くぞ!

 

「艦長、この男は艦長並みの大バカ者なりよ」

「うるさいぞポンコツ」

「まあまあ、男の人は少しおバカさん位でちょうどいいのですよ」

「よいよい、わらわはその愚かさを好ましく思うぞ」

「いい啖呵ねド変態!言ったからにはやり遂げてみせなさいな」

「あなたの覇気が叫んでおります。その強き思い、私の胸に響きました」

 

 褒められてる。やったぜ俺のプレゼン大成功だよ。

 

「OKだ。最高に正直な答えを聞かせてもらって満足したぜ。これからよろしくな、マサキ」

「こちらこそだ!皆もどうかよろしくお願いします」

「土下座しおった!?」

「やりすぎ極まりないです」

「あれは!波国に伝わる交渉術の奥義ドゲーザ!?」

「なんてド綺麗な平身低頭!100年以上生きてきたけど、このレベルのものは初めてよ」

 

 そこからは皆で楽しくパーティーピーポーでした。

 この日から本格的に俺のEFライフが始まった。

 

 ♢

 

 世界には多くのエネルギーが満ち溢れ、絶えず命や物に影響を与えている。

 多数の世界が混じり合って誕生したEFではそのエネルギー量が元居た世界(2nd)の比ではない。

 EFの住人たちが力強く逞しいのは、内包する力が素で大きく、それに伴い神核もより強靭なものに進化して来たのだ。

 (非戦闘員である一般人でも、それなりの覇気を無意識で纏っているから侮れない)

 ここに来た直後にオルゴナイトの顕現が不調に終わったのは、俺自身がEFの環境に適応しきれていなかったからだと考える。

 

 元々、EFに来た目的は転移負荷に耐えることが出来る体作りのため。

 要はあれだ、マラソン選手がやる高地トレーニングみたいなもんよ。

 一ヶ月以上滞在していれば問題ないだろう。

 普通に生活をしているだけで体が強くなっていくとは、なんちゅー世界だ。

 そうであるなら、ここで修練を積めばいつも以上に鍛えられるはず。

 

 というわけで、食い扶持を稼ぎつ、しっかり修練してレベルアップしていこうと思う。

 

 頑張るぞ~おー!

 

「ロリマス、応答しろロリマス」

「こちらロリマス。現在ターゲットを追跡中、いつでも確保できます。どうする?アシェン」

「隊長を付けんかバカ者が」

「わかりましたよ、アシェン隊長。何だ、ターゲットが妙な動きを・・あの野郎!女の子のを路地裏に」

「よし、現行犯で取り押さえろ。私もすぐに向かう」

「ラジャー!おいゴルァ、連続露出魔ってのはお前だな!その子に何を見せる気だ」

「何って、私はただ純粋にナニをナニしてほしいだけです。何もやましいことは無いナニ」

「ナニナニうるせぇ!」

「うぼあぁぁーーー!」

 

 成敗!また詰まらぬものをボコってしまった。

 

「すごーい、ナニナニおじさん飛んでちゃった」

「もう大丈夫だぞ。さあ、こっちにおいで」(抱っこ完了)

「お兄さん誰ー?」

「通りすがりのハンターさ。知らない人にホイホイついていったらダメだぞ」

「はーい」

「ふぅ。あとは隊長たちの到着を・・あ、来た来た。こっちよこっち!」

 

 応援をぞろぞろ引き連れてアシェン隊長がやって来た。

 近隣住民も迷惑していたからハンターだけじゃなく自警団の人たちもいる。

 

「見つけたぞ、あれだ!幼女を抱っこしてニヤけている男がいるだろう。あの変態を捕らえるでそうろう」

「「「その子を放せ!この変態野郎がっ!」」」

「え、ちょ、ちが、このポンコツ!図ったなぁーーー!」

 

 バウンティ・ハンター始めました。

 ポンコツ隊長の裏切りにあって集団リンチされそうになったけど、幼女の証言で何とか冤罪は晴れたぞ。

 やはり信じられるのは清らかな心技体を持ったロリだけだよ。

 これにて任務完了、変態を捕まえて幼女を守り切ったぜ。俺ってばやるじゃん!

 

「なあ、コードネームの"ロリマス"って何の事だ」

「ロリコンマスターの略だが何か?」

「やっぱお前嫌いだわ」 

 

 こいつとは一度ガチンコ勝負しないといけない。そう思う出来事だった。

 

 ♢

 

「こうしてまたお前と戦えるとは、行くぞアルクオン!」

「・・・・!」

 

 覇龍の塔にて俺は羅刹機アルクオンと対峙していた。

 以前にクロシロと共に戦った奴と姿形はほぼ同一だが、動きは全くンの別物だ。

 こいつの方があの時よりもずっと強い。

 それもそのはず、俺の世界のアルクオンは骨董品を修復して動かしたアンティーク品。

 今戦っているのは現役バリバリで戦い続ける羅刹機だ。

 

 異なる世界に似たような存在がいる、まさかロボにも有効な設定だとはな。

 羅刹機以外にも自立型支援兵器として、リオンっぽい妖精気やPTもゴロゴロいた。

 遺跡から回収したデータを元に組み上げたり、先祖代々伝わるものだったり出自は様々だ。

 ハーケンはカスタムされたゲシュペンストを使っていた、呼んだらちゃんと来てくれるのが忠犬っぽくてカワイイ。ナハトにアーベントにアークゲイン、何処かで見たようなデバイスがロボ化したような奴らもいたよ。

 テクノロジーには何かしらの縁や繋がりを感じるし、どれが元祖かわからないけど。

 そういうこともあるあるで納得した。

 

 修練相手として彼らは申し分ない存在だ。

 気のせいか、アルクオンも楽しんでいるように感じる。いいぞ、こっちも存分にやらせてもらう。

 

「まだまだ上げて行くぞ!おおおおおおおっ!」

「・・・・!!」

「単体でアルクオンと互角以上に渡り合える者などそういないはず。マサキ殿、あなたは一体」

「異邦人の修羅もどき、またとんでもないのを連れて来ましたね」

「お疲れ様です師匠。ええ、マサキ殿が来てから他の修羅たちも修練により一層身が入ってるようです」

「フフッ、よい傾向です。彼の存在はいい刺激になったようですね」

「この後、私とも試合っていただく予定です。何だか覇気が疼いてきました」

「あなたを熱くさせるほどの逸材ですか、どれ、私も」

 

 賞金稼ぎの合間を縫って修練修練また修練だ。

 もう二度と後れを取らない為にも、やるべきことは全部やる。

 

 ロボたちだけじゃなく、アレディやその師匠であるシンディさんに、モブ修羅の皆さんも胸を貸してくれるからホント模擬戦相手には事欠かないのがいい。

 

 ちっ!さすがだアルクオン、技のキレが半端ない。

 通常形態では押し切られる。ならば!

 

「これは、例の技を出す気です」

「バスカーモード!しゃあ、仕切り直しだ」

「・・・・!」

「あの結晶は何なのでしょうか?あのような技を使う修羅など他にいません」

「昔文献で見た、悪魔と契約した者が使う外法に酷似しているようですが、詳しいことは不明ですね」

 

 いや、契約したのは悪魔じゃなくて女神様ですよ。

 さあ、ドンドン行くぜ!オルマテ!オルマテ!オルマテじゃい!

 

 案の定ハッスルし過ぎてバテた。

 アレディとシンディ師匠が強すぎたのもあるが、ここの皆さんは手加減ってのを知らない。

 戦闘民族怖いですね。

 

 ♢

 

 忙しくも刺激的な日々はあっという間に過ぎ去った。

 今日をもって俺はエンドレスフロンティアから旅立つ。

 

 ハーケンとギャンブルで散財したり、スズカのギックリ腰をヒーリング治療したり、猫耳商人に詐欺られたので制裁を加えたり、オルケストル・アーミーという特務部隊のお手伝いをしたり、ネージュの無理難題に付き合ったり、カグヤのおぱーいが揺れまくったり・・・etc.

 

 本当にいろんなことがあったんだ。ダイジェストですまんの。

 当初の予定より長く滞在してしまったな。

 ギリギリまで修練を積めたし、体も神核の調子もいい、今の俺ならば転移負荷にも十分耐えれるはず。

 

 神楽天原にあるゲートの前に到着し気合を入れ直す。

 不死桜にいるカグヤが力の開放を行ってくれているようで、眼前のゲートは既に起動状態だ。

 お世話になった人たちには挨拶は済ませたし、お土産も持った、忘れ物はないな。

 万が一にも転移に巻き込まれないよう、少し離れた位置でハーケンたちが見送ってくれる。

 頷き、笑顔で手を振ってくれる皆を見てちょっと涙腺が緩みそうになる。

 

「ここに来てよかった、みんなありがとう!!縁があったらまた会おうぜ」

「グッドラックだマサキ。愛しのホースガールたちによろしくな!」

 

 さらばだエンドレスフロンティア!それじゃあ行くぜーーーー!

 光に包まれる視界と奇妙な浮遊感、なんかゲートに飛び込むの慣れて来たな。

 

 ♢♢♢

 

「戻って来ました終着駅って!なんじゃあこりゃーーー!」

 

 ペルさんがいたはずの赤い海と島の世界は途轍もない発展を遂げていた。

 国際線の空港にも似た巨大建造物に多種多様な施設と物が所狭しと並んでいる。

 行き交うのは人波はEF以上にカオスな生命体だらけだ。

 「当施設内では人型を推奨しております」という看板が・・・人型、本性は違うのかい。

 

 凄い凄いよペルさん!夢を見事叶えましたな。それもたった数ヶ月で・・・

 だが参ったな、こうも広いと何処に行けばいいかサッパリだ。道を尋ねようにも言葉が通じるかどうかもわからない。

 キョロキョロしながら途方に暮れていると、脳内に声が響いて来た。

 

『お困りですか?』

「うぇ!あ、はい。ちょっと困ってます。これテレパシーですか、何処から」

『こちらです。そうあなたの正面』

「冗談でしょ」

 

 のっしのっしとこちらに向かって来る黒いボディの生命体。

 きゃぁぁぁぁぁぁーーー!エイリアンだ!どう見てもゼノモーフだよ。

 嘘、待ってこいつが日本語で語りかけてきたの?ここにいる連中の中でも飛び切りヤバい見た目なのに。

 

『初対面の方にはいつも驚かれますね。私がこの姿になった経緯は果てしないスペースオペラが』

「ど、どちら様でしょうか。言っときますが俺を食べたら腹壊しますよ」

『アンドウマサキ様ですね。私、ペルフェクティオ様よりあなたをお迎えするよう仰せつかりました。ペコニャンと申します』

「名前カワイイ!」

『ようこそ"ターミナル"へ。さあ、ついて来てください。2nd行のゲートまで案内致します』

「助かった。どうか、よろしくお願いします」

 

 見た目はグロいがド親切なペコニャンについて行く。彼女はここのスタッフらしい。

 そう、彼女なんですよ・・・自称、性別♀なんだそうです。

 レベルが上がるとマザーエイリアンとかになるのだろうか。

 

 道すがらのテレパシー会話でわかったのは、俺がEFに行っている間にターミナルでは300年の月日が流れていたこと。俺の帰還に合わせて時間軸を調整しているらしいので、2ndとの時間差は気にしなくてよいことを教えてもらった。

 時間の流れが違うのか、もしかしなくても最初にここに落ちた時からペルさんが何らかの処置を施してくれていたのだろう。

 危ない危ない。もしペルさんが気を利かせてくれなかったらと思うとゾッとする。

 トップをねらえ!のモノクロ最終回みたいになるところだった。ウラシマ効果ヤベェよ。

 

「このゲート前に並んでお待ちください。転移前にはペル様も駆けつける予定ですので」

「忙しい中ありがとう。大人しく待つことにするよ」

 

 2nd行のゲート前に並んで待つことにする。

 放送で呼び出されたペコニャンは申し訳なさそうに去っていく。お仕事ご苦労様です。

 宇宙破壊大帝の称号は一体何をやらかしたら獲得できるのかを聞いてみたい。

 

 途中の売店で奢ってもらったドリンクを飲んでみますか・・・うぁお。

 タピオカでけぇ!そして、かてぇ!喉に詰まるわ!でも美味しい(黒糖ミルク)

 

 ちゅーちゅーしながら待っていると謎の男が割り込んで来た。ちょっと!順番ですよ。

 ちょっとやめてって言ってるでしょ、やめなさい、やめ「キャー!痴漢よ!この人痴漢です!」

 迷惑な人には毅然とした対応をさせていただきます。俺に触ろうとしたので痴漢の現行犯です。

 

 さすがに周囲に目が痛いのか謎の男も慌てているようだ。警備員呼ばれてやんのwざまぁww

 あ、ペルさん!お久しぶりです。俺は数ヶ月ですがそっちは300年ですか、ええ、こっちは上手くいって、それでこの失礼極まりない人が割り込みした挙句に俺の尻を触ろうとしたんです。

 さあ、観念しなさい!このアンドウマサキ、貴様に触らせる尻など持たぬ!

 む、反省していないな。犯罪者の癖になんで無駄に偉そうなんだ!そもそもあなたがねぇ・・ん・・確かに俺はマサキですけど、それが何か?

 は?今コイツ、俺が好きな女を入念にいたぶるとか言わなかったか?贄だと?

 は?は?はぁぁぁぁ?それってさあ。俺の愛バを、あいつらを害するってことだよな。

 

 ゆ゛る゛さ゛ん゛!!ほわちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 思わず殴り飛ばしたけど後悔しない。俺を怒らせたお前が悪い!

 とりあえず全身破壊しとくわ。覚悟しろよてめぇ!その首物理的にもらったぁーー!

 

 なんか急に巨大化しおった!これがこいつの正体か、きっっしょっ!

 おや、正式にターミナルでの戦闘許可が出た。ペルさんも好きにしろってスタンスだ。更に周りの人外さんたちも俺に味方してくれるようです。

 頼もしい、メガテン風に仲魔と呼ばせてもらおう。

 皆の者~狩りの時間じゃあ~俺に続けー!

 オルゴンマテリアライゼーション!

 ペコニャン補助を頼む。何?溶解液も出せるだって、たっぷり浴びせてやりなさい。

 いいぞ、効いてる効いてる。このまま一気に決めてやる。

 

『もっちゃらへっちゃらもけもけさぁ~』

 

 今、中年男性の奇声が聞こえたような気がする。華麗な闇魔法の呪文詠唱かな?

 それにしても、なんてカッコ悪い呪文なんだ。あれ、どうしてゲートが起動するんだ。

 あ、待て!しまったぁ!変な呪文に気を取られたせいで逃げられた!

 しかも、ゲートの中に、逃亡先は俺の世界!?あんなの野放しにしたらヤバい!すぐに追わないと。

 

「ちょい待ちぃや、アンドウ君」

「ペルさん、止めないでください!」

「さっきの奴、あんなんでも邪神や」

「それが何か?愛バのためなら神様だってぶっ飛ばしますよ」

「まあ君なら倒せるやろうけど、問題はそこやない。あれだけの存在がゲートを通過した後や、同一ゲート間で立て続けに転移してもうたら、どれ程の負荷が君にかかるか想像もできへん」

 

 ペルさんのよると、インターバルを挟まずに無理な転移を行うと対象への負荷は増大し事故率も飛躍的に上昇してしまうのだとか。

 エンドレスフロンティアで慣らした体でも耐えれる保証はないという。

 

「邪神クラスの存在が転移した後やと・・・次の転移まで1時間は欲しいな」

「そんなに待てません!そうだ、ペルさんが時間をアレコレ操作して何とかなりませんか」

「すまんなぁ。ターミナルの時間軸はついさっき君に合わせて設定したばっかや。これをまたいじるとなると、関係各社への調整にアレとコレがなんやかんやで、結論!今すぐには絶対無理やわ」

「なら無茶を承知で行くしかありません!どうか成功することを祈っていてください」

「だから待ちぃや。みんなー!どうせ暇やろ?ちょっとこっち来て手ぇ貸してや」

 

 警備主任兼、ターミナルの責任者であるペルさんの呼びかけに暇人外の皆さんがワラワラと集まって来る。

 即席の魔王軍誕生!一体一体がゾーマ並みの戦闘力持ちなので恐ろしい。

 

「今からここにおる全員でエネルギーを送る。アンドウ君はそれを拒まずに黙って受け入れるだけでいい」

「それをするとどうなります?」

「増大した転移負荷に耐えれる鎧を君にプレゼントや」

「おお!属性闇の大御所方からのお力添え、恐縮です!さっそくやっちゃってください!皆さんよろしくお願いします」

「ほないくで~みんな気張りぃや、ワイがええっちゅうまで続けるんや」

「「「「オオオオオォォォォッ!!」」」」

 

 人外の叫びと共に覇気なのか何なのかよくわからんエネルギーがたくさん送られてきた。

 傍から見ると四方八方から色とりどりのビームで攻撃されてるみたいだけど、痛みはないから大丈夫。

 ウマ娘たちへのドレインで鍛えた俺にはエネルギーを吸収するなど容易い・・・待って、なんだか多くない?これは気を抜くと頭がパーンッ!ってなるよパーンッ!

 うぉ、が、ちょちょっといや、かなり難しいな。しかし、ここでやめるわけにはいかない!

 恐れるな、乗り切れ、制御するんだ。苦しい時こそ愛バのことを思い出せ。

 もうすぐだ、もうすぐ会えるんだから!

 体感時間として5分位だろうか、送られてくるエネルギーが止んだ。

 

「終わったで。ほれ、鏡見てみぃ」

「なんで鏡・・・これ・・・俺なのか」

 

 何処からともなく運ばれてきた姿見に映った自分に驚愕!

 オルゴナイトを初顕現させたときの結晶人間よりビックリしたわ。

 前髪の一房だけだった白髪(銀髪)が全毛髪に!?てか、髪切った?じゃなくて伸びてる!

 ロン毛やロン毛!目もなんかキラキラてるよ!今時ビジュアル系バンドでもこんな奴いないよ。

 この姿はそう・・・まるで、母さんみたいだ。

 

「ペルさんこれは一体?」

「本来の自分に近づいたんやろうな。番人から受け継いだアレと、オカンの覇気をたらふく食いおった結果やで」

「はい?何の事ですか」

「詳しく説明したいところやけど、今は時間がないんやろ。管制室!2ndへのゲートオープンしたってな」

「そうでした!俺、今すぐ出発します」

「その前に上手くいったかチェックやチェック。ちょい力入れてみ、そう、全身にワイらの力を纏う感じで、そうや、もうええで」

「おお!これが負荷に耐えれる鎧」

 

 全身の隅々まで黒いプロテクターで覆われた状態になる。

 前にミオがやってくれたラズムナニウムを装着したアサキムに近い形状だ。

 ちょっと禍々しい外見なのが中二心をくすぐるぜ、俺悪魔になっちゃったよ。

 ハッピーバースデー!デビルマソ!そんなに悪くないと思った映画なのに酷評されてて笑ったぜ。

 

「それ向こうに着いたらすぐに脱いでな。あんまり長いことそうしてると、元に戻れんようになるで」

「ヤッベ!副作用アリだった」

『残念ながら副作用はもう一つあります。あなたには、ウマ娘の姿を正しく認識できなくなる呪いがかかりました』

「なんでそうなる!ピンポイントで嫌な呪い来たな」

 

 なんと、ペコニャンが良かれと思って呪術行使してしまったという。

 このエイリアンの見たと違いゴリゴリのキャスタータイプだ。

 何が宇宙破壊大帝だ!大賢者とか大魔術師ペコニャンでよくね?

 彼女が言うには、あえて呪いを付与することでプロテクターの強度と俺の幸運値に補正をかけたらしい。

 本人にとってリスクが大きければ効能も比例して上がるのだとか、それでウマ娘ね・・・トホホ。

 解除方法はクロとシロに再開することだと!

 すごいね、すごいご都合主義だね。もう何が何でもあいつらに会わなくては死んでも死に切れん!

 

 ともかく、これで邪神を追いかけることができそうだ。

 ペルさんやペコニャン、力を貸してくれた仲魔たちにお礼を告げてゲート前へ。

 みんな「いいってことよ」「しっかりやりな」「はよいけ」と暖かい言葉をかけてくれた。

 EFでもらった荷物を忘れないように、え、ペコニャンお弁当作ってくれたの?

 いつの間に・・・中身が少々不安な重箱だが、せっかくなのでありがたく頂戴する。

 各種チェックOK!準備万端。

 振り返ってもう一度深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございました!この御恩は忘れません。そんじゃあまあ、行きますか!」

「アンドウ君、全てが終わったら必ずここに戻って来るんやで~。コレ忘れたらアカンからな」

『どうかご武運を、お弁当は早めに食べてください。でないと再生して活動をさいか・・い・・』

 

 終わったら?死んだらってこと?縁起でもないし、よくわからないですよ。

 ペコニャンが言ってることもわからないですよ。

 きゃっ!今重箱がガタガタって、き、気のせいだな。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 見慣れた転移空間に突入!!

 急げ急げ、故郷まで一直線に行くんだ!

 意味があるかどうかわからないが、平泳ぎのフォームをスイスイっとな。

 

「ん?光の渦、もう着いたのか・・・うぉっ!まぶし・・・」

 

 目の眩むような閃光が走った後に俺は見知らぬ場所にいた。

 クソが!やっぱり出口じゃなかった。

 何処を見ても360°真っ白な謎空間に誘われてしまったようだ。

 あらー、大事なプロテクターも解除されちまってるよ。

 イライライライラ・・・急いでるのに!

 

「誰かいませんか!早くここから出たいんですけど!いいから出せや!」

 

 声を荒げた俺の前に悠然と歩きながらやって来る人影が、登場シーンとかいらん!はよしろや!

 現れたのはクール系の銀髪美少年だった。イケメーン!

 見た感じ俺より年下で、服装は何かのパイロットスーツ?のようなものを着ている。

 

「あのー、こちとら急いでるんですけど!邪魔しないでくれます?」

「ようやく会えたな」

「誰だよ!お前なんぞ知らん」

「そんなはずはない。俺はずっとお前を観測し続けていたぞ、アンドウマサキ。使命を果たしてもらうためにな」

「ああー、使命使命うるさいのはお前の仕業だったのか。それで、どちら様?」

「アストラナガンと言えばわかるか」

 

 ゴルシの記憶で見た。あの悪魔野郎!の中の人?

 うぇええーー!絶対めんどくさいこと言いそうだよぉ。

 何故かわかるぞ、アストラナガンって本名じゃねーだろ。ちゃんと名乗りなさいよ!

 もう一度尋ねるからね。

 

「俺、アンドウマサキ。君の名を言ってみろ?」

「友人は、クォヴレーと呼んだ。俺はクォヴレー・ゴードンだ」

「ク、クォヴ?れ?発音んんん!めんどくさいからクボでいいよね。決定なクボ」

「異論はない。今から俺はクボだ」

 

 潔い!スカした奴かと思いきや話のわかる男だ。

 上下関係を設定されたくないので最初からため口でいったが、向こうは気にした様子もない。

 

「俺の状況理解してる?」

「全てな。2ndへの帰還を急いでいるのだろう」

「わかってるなら悠長に話している暇はないんだけど」

「ふむ。顔合わせできるチャンスだと思ったのだが、タイミングが悪かったようだ。手短に済まそう」

「ホントにな。それで使命とは?俺に何をさせたい。何だか頭がモヤモヤだったり急にスッキリしたりで、イマイチよくわからんのだが」

「基本は今まで通りでいい。力を束ね愛バと共に迫りくる脅威に備えろ。奴の凶行を止めるんだ」

「その"奴"の情報を詳しく、見つけたらこっちから仕掛けてやるよ」

「無駄だ。人を欺くのが好きな奴でな、あいつは自らの存在を気分次第で思うように変化させる。正体が確定するまで余計な情報を与えて先入観を持って欲しくない」

「バーロー!俺に推理とか無理だわ、真犯人に辿り着く前に消されるわ」

「最初から、お前の推理力など期待していない。放っておいても向こうから現れるからな」

「後手後手ですね。そんで、何故俺を狙う?因縁に心当たりがないんだが」

「因縁があるのは俺だ。そして、奴は知っている、俺がお前に後を託したことをな」

「うわー最悪だー、よくも俺を巻き込んでくれたなクボさんよぅ!!

「すまないと思っている。だが、覚えていないのか?俺を喚び契約を持ちかけたのはお前からだ、マサキ」

「心当たりナッシング!!今日初めて会ったのに何言ってるんだ」

「初めてではないし、俺からの対価は既に受け取っているだろう。もう子供じゃないんだ、大人として契約の履行はキッチリしてもらうぞ」

 

 知らん言うてますがな。

 俺は子供の頃にクボと会ったことがあるのか、だとしたら・・コレあれじゃね?

 インキュベーターみたいに断れない状況で「魔法少女になってよ」みたいにやったんじゃね。

 ほぼ詐欺じゃね。クボ詐欺師じゃね。サイテー!

 

「・・・詐欺では・・・ない・・と思う」

「自身なさげ!自分でも「無理やったなー」とか思うところあるんでしょ!酷い男ね!」

「わかってくれ、あの時はこちらも緊急事態だった。だから、出来うる限りのことはしたつもりだ」

「無尽蔵に湧き出る覇気のことか、まあ、これがあったから何度も・・・はっ!」

 

 この覇気が無ければ母さんにもクロとシロにも会えなかったし、これまでの戦闘で生き残れはしなかっただろう。

 それなら確かに、もう十分過ぎる程に対価を受け取ってる!

 仕方ねぇなあ。わかったよクボ、俺やるよ。ああ、やってやりますよ。

 

「母親と愛バが対価だと?それはお前自身が・・・まあいい、やる気になってくれてなりよりだ」

「で、クボは何かサポートしてくれんの?」

「本当なら一緒に戦ってやりたいが、この様だ。漂う意識体でしかない俺ではお前を見守ることしかできない」

「クボをそこまで追い込むなんて、かなり手強い相手だな」

「ああ、だから十二分に用心しろ」

 

 そんなことだろうと思った。

 クボ自身も相当歯がゆいのか不服そうな顔で拳を握っている。

 あらら、早くしろと言いつつ話込んでしまってるぞ。このままでは時間がヤバい!

 はい?ここ時間経過しないのか、そういうことは先に言ってよ!

 ふぃー無駄に焦っちまったぜ、ともかく一安心だ。

 安心したので寝転んでみる。見渡す限り白白白、ホント何もねぇ空間だな。

 あー白白言ってたらシロに会いたくなった!

 何故かクボは俺の横で体育座りをした。それで落ち着くならいいけどさぁ。

 

「奴の仕業だと思うが、2ndでは俺が干渉できる時間は不定期かつ極僅かだ。その代わり、とある女神たちにお前のことをそれとなく告げてある。既に接触済みだろう」

「メル・・えっと、メルなんとかさんのことだな。うん、会った。なんだよーお前たちグルだったのか」

「結晶術に対抗するには、やはり結晶術が必要だ。彼女たちと一緒に世界を救ってくれ」

 

 オルゴナイトを使った戦闘技巧、覇気結晶術(オルゴンアーツ)ってのが正式名称なのね。初めて知ったわ。

 世界を救えか・・・英雄願望はないんだよなあ。

 

「一番の目的は愛バたちと幸せな日々を過ごすことだ。その為に必要ならば、どんな相手とでも戦う。世界を救うのはあくまでも、そのついでだ」

「ついでで結構。お前はお前の望むままに戦え、過程がどうなろうと最後に帳尻が合えば問題ない」

 

 お堅いのかと思ったら、面と向かって話したクボは割と柔軟な思考の持ち主だった。

 使命が使命が~ってそんなに言わないし、姿が見えないときとキャラ設定を変えてるのかな?

 一通り話し終えたクボが立ち上がると、白い空間に光の渦が発生する。面談時間終了ってか。

 

「時間だ。さあ、もう行くがいい。この渦を抜ければもう2ndだ」

「次はいつ会える?」

「わからない。これが今生の別れになるかもしれないし、そうでないかもしれない」

「そっか、まあなんだ、会えてよかったよ」

「フッ、こちらもだ」

「じゃあなクボ。俺と愛バのイチャラブ生活を応援していてくれ」

「さらばだアンドウマサキ、時空の彼方でお前たちの勝利を信じて待つとしよう」

 

 慣れてないのかぎこちない笑みを浮かべて送り出してくれるクボ。

 なんだよ、笑えるじゃねーか。

 俺の知ってる神系の奴らは皆妙に人間臭いんだよな。親しみ易くていいと思うよ。

 

 変身!!黒きプロテクター命名「闇の衣」を装着完了!

 ブラックRXマサキですよ!ブラック・・・クロ、クロにも会いたいーーー!

 素敵な四人の愛バたちに大切な家族や友人たち、今帰るからな!とう!

 渦へと飛び込む。今度こそ帰るぞ、もう寄り道は勘弁してくれ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「もう何なんだよ!どうなってんの」

 

 出口なのにー!もうすぐそこなのに、向こう側から何かがゲートを塞いでる。

 ホント邪魔!時間が無いっていってるでしょーが!

 こうなったらぁ、ふんぬばらっ!!

 

「オルゴンマテリアライゼーション!!」

 

 ターミナルでもらった余剰エネルギー分をオルゴナイト形成にオールインだ!

 現れたのは巨大結晶で造られた剛腕!

 ゲートを塞いだものが何であろうとコイツでぶっ飛ばす!

 

「この一撃で・・・そぉぉぉりゃああああああああっっっ!!」

 

 うっし!手応えあり。

 これで帰れるはずだ。すぅーはぁー・・・よし行こうか!

 

 ♢♢♢

 

「それで無事に帰って来れたって訳よ。ヴォルクルスと戦って、就職試験受けて、教官になって今に至る」

「マサキ、マサキ」

「なんだよミオ。補足説明聞きたいか?ペコニャンの弁当はシュウが隔離施設に」

「私以外みんな寝ちゃってるよ」

「うそん!?一生懸命語ったのに・・・やだ、ヤンロンも寝てる」

 

 シュウとのリモートは大分前に向こうから切断したらしい、気づかなかった。

 

「EFで会った幼女の話が長すぎたね」

「そうかな」

「そうだよ。金髪ロリエルフについて熱く語り過ぎだよ」

 

 えー!あれでもかなり端折ったのに、愛バに会えない寂しさを、いろんな種族のロリたちが癒してくれたのさ。

 ジト目はやめなさい。やましいことは何もない、慈愛の心で接していただけです。

 ホントですってば!信じてくれよ、愛バには言わないでくれよ。

 

 寝ているみんなを起こして飲み会はお開きとなった。

 飲み過ぎた姉さんとテュッティ先輩は俺とヤンロンで職員寮まで運ぶことになった。

 もう、姉さんったらこんなになるまで飲んじゃって二日酔いにならないといいが。

 同じ位飲んでいたはずのリューネはケロっとしていた、真の酒豪って奴はひと味違う。

 

 ターミナルにエンドレスフロンティア。

 いつかまた、あの場所に行ける日は来るのだろうか?

 もしそんなときが来れば、是非、愛バたちを連れて行きたいと思う。

 クボにも俺の愛バを自慢してやりたいしな。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 サイバスターとのリモート中継も終了し、女子会はとっくの昔に解散しているはずだった。

 ファインモーションの部屋では未だにくだを巻いているウマ娘を他の三名が宥めている最中であった。

 

「アル姉さん。ヤバいです飲み過ぎです」

「まだです。まだ足りません~」

「もうやめよう。ホントもうやめよう、今のアル姉。どう見てもただアル中だから」

「どうせ私はアル中のドスケベですよ!あーあー、こんなだから私だけ仮契約止まりなんですよ!」

「それはマサキにちゃんと言わないからだよ。きっともう正式に契約を交わしたと思っているんじゃない」

「本当はお酒よりマサキさんの血が飲みたいんですよぉぉぉ」

「泣きながら怖い発言してるなぁ」

「まずは素面に戻ってからマサキさんに相談してみましょうね。そういう訳で今日の所は解散!」

「うん。解散解散~」

「うわぁぁんん!!血じゃなくてもいいんです、体液を吸わせてくださいぃぃぃ」

「待って!この状態のアルと二人きりにしないで!この、いい加減に酒瓶から手を離せ」

「いやぁぁぁぁこれが無いとダメなの。マサキさん助けてーーー!デスラーメンが私の燃料を強奪しようとするのぉぉぉ酷いーーー!」

「酔ってるからって調子にのんな。こういうのに限って翌日「記憶にないとか」抜かすんだよ」

「「帰りたい」」

 

 今日はアル姉さんをいじり過ぎたので爆発しのかな、そこは反省する。

 しかしですね。次回以降の女子会で暴れるようなら、即刻マサキさんにチクりますからそのつもりでいてください。

 

 

 お酒は飲んでも飲まれるな。気を付けましょうね。

 

 



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初授業と謎の鳥さん

 よく晴れたある日のトレセン学園。 

 体操着姿のウマ娘たちがグラウンドに集合し授業開始を待っていた。

 そこに一人の男が現れると、お喋りに興じていた生徒たちは皆、一様に「なんで?」という顔をした。

 

「はい、みんな集まって~」

「あの、どうしてアンドウ教官が?体育の授業では」

「ちゃんと説明するから、とりあえず並んでちょーだい」

 

 このクラスは中等部か、体操着姿のさわやか健康美が素敵ね。

 「何を企んでいるんですか?」という目を向けてくる生徒が数人いるがスルーしておく。

 まあまあ、そう警戒しなさんな。

 

「授業を担当する予定だったゲンナジー教官ですが「ドーバー海峡が俺を呼んでいる」という電波を受信して長期休暇に入りました。そういう訳で、本日の授業はこの俺、アンドウマサキが代理で担当することになりました。どうぞよろしく」

「「「「どういう訳ですか!?」」」」

「さあ?元水泳選手の血が騒いだんじゃないかな、詳しくは知らぬ」

 

 生徒たちは動揺しているが、俺にとってはいい機会だ。

 フリーダムなゲンナジー教官(愛称・ゲンさんorゲンちゃん)に感謝するぜ。

 

 学園ニートまっしぐらな状況を打開すべく積極的に動くことを決めた、今日はその第一歩だ。

 もちろん、理事長たちに相談して許可を得た上での行動している。

 まずは生徒たちとの接点を増やし、俺に対する警戒心を解いてもらい信頼を勝ち取る。

 少しでも仲良くなれるように頑張るぞ。

 

 さて、記念すべき初授業というわけだがどうするか。

 授業内容は理事長の「うむ。任命ッ!」の一言で俺に一任されている。

 

「えーと"倒れるまでひたすらグラウンドを走り続ける"と"楽しいレクリエーション"どっちがいい?」

「「「「レクリエーションでお願いします!!」」」」

「了解だ。ではでは、誰もが一度は経験者、基本にして至高の遊び"尻尾鬼"をやってみようか」

「し、尻尾鬼ですか」

「授業で尻尾鬼って、ちょっと恥ずかしい」

「いいじゃん!面白そう」

「懐かしいなぁ。昔はよくやったっけか」

 

 子供っぽい遊びだと戸惑う生徒もいたが、全員やることに同意してくれた。

 まずは5、6人位で一組の班を作ってもらって・・よしよし、ちょうどいい具合に分かれてくれたな。

 複数人用のルールを設定してと。

 制限時間は5分、鬼を一人決めて時間いっぱいまで逃げ切るか、鬼が全員捕まえるかで勝敗が決定する。

 鬼は相手を攻撃してもよい(近接格闘のみ)逃げる側は防御と回避に専念すること。

 決められた戦闘フィールドから出た場合は失格となる。

 もっと細かく設定できるけど基本はこんなところか。

 

「準備ができた班から始めていいぞ。配ったタイマーをセットするのを忘れないように」

「教官、ちょっといいですかぁ?」

「はいはい、何かな」

 

 勝気な感じがする生徒の一人が話しかけて来た。

 男にはツンツンした態度をとりそう(勝手な推測)なので、脳内でツン子と呼ぶことにしよう。

 その顔には薄い笑みが張り付いている。この表情・・なるほど。

 

「うちらの班4人しかいないですよぉ。だから~教官もご一緒にどうですか?」

「ふむ。俺も参加した方がいいのか」

「是非!()()()()()()がどの程度やれるのか、みんな興味あるんですよぉ。ねぇ?」

 

 彼女の取り巻きあろう同班の生徒たちも「うんうん」と深く頷いている。

 うーん、ニヤニヤ顔が止まりませんなぁ。

 これは彼女たちなりの歓迎というか洗礼かな、ハハッ、カワイイじゃないのよ。 

 明らかにこちらを軽視した言動の彼女たちを止めようとするものは・・・いたんだが目で合図して我慢してもらった。

 お気遣いすまんね、俺は大丈夫だからここは抑えてくれ。

 

 噂の養護教官?噂ってなんだか嫌な感じだなぁ、裏掲示板とかで散々叩かれているんだとしたら辛い。

 

『突然現れて御三家の子たちを愛バだと抜かす男がいるじゃん、超ふざけてるよねー☆』

『大した覇気でもない癖に調子に乗ってて痛いわー』

『ていうか、あの人さぁ。仕事してなくね?医務室で学園ニートしてるだけじゃん』

『マジいらねーーーwww』

 

 ヤバい、想像しただけで泣きそう。

 誹謗中傷で受けた心の傷を癒すには愛バたちに慰めてもらうのが一番だ。

 そう例えばこんな風に・・・

 

「は?マサキさんをいじめるウマなんて生きる価値ないよ。この世から消えろ」

「アカウントは全て特定しました。現代風の地獄を見せてやるから覚悟しろよクズども」

「嫌ですね、ゴミは放っておくとすぐに増えます。チリ一つ残さないよう徹底的に掃除しないと」

「面白こと言うね、貴様~。貴様、貴様、貴様貴様貴様貴様貴様貴様・・・バ刺しにするぞ

 

 「「「「戦争じゃぁぁぁーーーー!!!!」」」」トレセン\(^o^)/オワタ

 

 これはアカン!

 大惨事スーパーウマ娘大戦!!第1話『トレセン学園最後の日』が始まってしまう。

 愛バにそんなことをさせないためにも、意思を強く持たなくては。

 

 考えを巡らせていた俺が尻尾鬼への参加をビビッているように見えたのか、小バカにした感じを隠そうともせず参加を促してくるツン子たち。

 

「あ、もちろん手加減はするので安心してください。どうしてもお嫌でしたら無理強いはしませんけどw」

「ちょwトレセンの教官ともあろう人がそんな情けないww」

「1ターンで学園を焦土に変えるなんていくらなんでも・・・お、すまんすまん。じゃあ始めようか」

「え?ああ、はい・・??」

 

 最初からどこかの班に入れてもらう気だったので手間が省けたな。

 煽ったつもりが、全く動じない俺に少々面食らうツン子たち。

 班へ合流して配分されたフィールドを確認、アラームセット。

 覇気チェックのお時間です。パッと見4人ともギリギリ烈級ってところか、これは俺が鬼をやるべきだな。

 

「俺が鬼をやる。しっかり逃げてくれよ」

「ほ、ホントにやるんですか。いや、私らは全然OKなんですけどね」

「いいから準備して、せめて1分は頑張ろうな!」

「「「「は?」」」」(# ゚Д゚)

 

 今度は俺から煽ってみる。「1分以内に全員捕まえるけど?まあ、頑張ってねw」という意味だ。

 おう、軽く一撫でしたつもりが敏感に反応したようだ。

 4人の顔は引き締まり「なめんな!絶対に逃げ切ってやる」と気概に溢れている。

 いいよいいよ!やる気がある生徒は大きな成長が望めるからね。もっと熱くなれよー!

 それでは~マサキ行きまーす!!

 

 ・・・・ごめん、もうちょっと頑張ってほしかったぞ。

 

「15秒・・これはちょっと・・・えー・・」

 

 開始1秒で2人キャッチ、余りにも簡単すぎたので5秒固まってしまう俺「嘘でしょ」こんなザコ・・ンンン!何でもない。

 状況を理解した残りが慌てて逃げ出すも、その動きは愛バたちと比べひどくお粗末なものだった。

 もしかしたら、何かの罠?と警戒したが特に何もなかったので15秒で全員捕まえて終了。

 

「う、嘘だ」

「間違い、これは何かの間違いよ」

「そう、油断していただけで」

「もう一本!もう一本お願いします!!」

「お、おう。もう一度やるか」

 

 油断してたなら仕方ないよ。うん、今のはリハーサルだからノーカンだよ!

 今度は最初からしっかり距離をとり、俺の挙動に注視している。覇気もいい感じに出てるぞ。

 さてさて、頑張ってよー!

 

 ・・・・・32秒、さっきの倍じゃないか。よ、よくやったよ。

 

「・・・ありえない」

「そんな、なんで」

「目の前から消える。あの加速は何なのよ?」

「まさかのヤンロン教官並み!?甘く見てた」

 

 膝から崩れ落ちた4人に申し訳ない気持ちになる。

 ケガしてない?ヒーリングいる?ど、どうすれば、なんて声をかけたらいいのか。

 いや、ここは下手な慰めや同情をしてはいけない。

 まだ心は折れていないはず、だって俺を見る目が覇気が「悔しい!勝ちたい」と言ってるからな。

 

「もう一本いくか?それとももうやめ・・」

「「「「やります!!」」」」

「うむ、いい顔してる」

 

 俺を試そうとニヤニヤしていたときの生徒たちは最早存在しなかった。

 果敢に挑戦してくる彼女たちは闘争心に溢れ、尻尾鬼という遊戯兼修練に本気で取り組んでいた。

 生徒の熱にあてられてこっちも指導に熱くなる。

 

「危ない!ぶつかりそうだったぞ。移動先に仲間や障害物がないかよく確認しろ」

「は、はい」

「最後まで諦めるな!尻尾で俺の手を払ってもいいんだからな」

「くっ、まだまだ」

「今の動きいいよ。その感覚を忘れないで」

「わかりました」

 

 最終的に彼女たちは1分30秒程逃げ切れるようになった。

 予想外に盛り上がる俺たちのやり取りを周囲の生徒たちも興味深そうに見ている。

 

「よく頑張った。最初の時と今じゃ見違えたぞ」

「はあ・・はぁ・・・息一つ・・はぁ・・切らさないんですね」

「これは・・本物ですぅ・・・」

「ちょっと休憩しよう。俺は抜けるから、今度は4人でやってみてくれ」

「あ、あの!」

「ん?どうした。ケガでもしたか」

 

 その場を後にしようとする俺を呼び止めたのは、最初に声をかけてきたツン子だった。

 

「生意気言ってすみません!正直、教官のこと嘗めてました」

「かまわんよ」

「それなのに、こんなに丁寧に・・ご指導ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました」」」

 

 ちゃんとお礼ができるなんて、ええ子たちやないかい。

 この短期間で彼女たちの心に火が灯った気がする。

 休憩しろって言ったのに、すぐ4人で次の試合始める様子は晴れ晴れとして楽しそうだった。

 

 青春!これが若さか・・・眩しいよぅ。

 

「アンドウ教官!次は私たちの班をお願いします」

「ズルい!教官はこっちに来てくださいますよね?」

「じゃんけん、ここはじゃんけんで決めよう」

「待て待て。順番で回るから落ち着きなさい、ちょ、ズボン引っ張ったらダメ!脱げちゃう」

 

 若い力に感心していたら、生徒たちから引っ張りだこや!

 モテ期?いやいや、愛バが4人もいる俺は現在進行形でモテ期真っ只中ですよ。

 そこの覆面さん、こっち見んな。

 

 各チームを回りながら尻尾鬼を続けていく、基本俺が鬼を担当するので逃げる生徒を追いかけ回し放題だ。

 ウマ娘を追いかけて給料貰えるってすげぇなと、余計なことを考えるぐらい楽しかった。

 1試合ごとに生徒の特長や癖、大まかな身体能力を把握していく。

 データ収集は大事、一緒に遊びながら教官として生徒の状態を真面目にチェックや。

 そうすることで質問にも答えられるし、的確なアドバイスもできるってもんよ。

 さすがトレセン生だな、どの子も向上心が高く上達するスピードが早いので教え甲斐がある。

 

 えー、他とレベルが違う動きをみせる班が1つ存在していることには、最初から気付いてますよ。

 教えることがないくらい君たちは十分強い。だから俺のことは気にせず、そっとしておいてね。

 やめて「なんでこっちに来ない?来いよ!」て覇気出しながら目で訴えるの禁止よ!

 お、そろそろいい時間だな。

 

「はい、一旦終了だ。どうだった?本気でやると結構白熱するだろう」

「いい運動になったかも、案外楽しかったし」

「だよねー。いや奥が深いわ、尻尾鬼」

「でも悔しい~」

「結局、教官からは逃げ切れませんでした」

「このままでは騎神の沽券にかかわります」

「アンドウ教官!最後にもう一度だけ勝負してください。もちろんハンデをたっぷりつけて!」

「そうだ、私たち全員VSアンドウ教官ならちょうどいいと思います」

「嫌ですけど。教官を袋叩きにしたいとか、何を考えているのかね。生徒会と理事長にチクって吊るし上げてもらうよ」

「「「「そこをなんとか!!」」」」

「しょうがないなぁ。チャイムが鳴るまでだぞ」

 

 土下座しそうな勢いで頼み込むものだから、つい了承してしまった。

 

 フィールドはグラウンド全部使う、今度は生徒たちが鬼で俺が1人で逃げ続ける(俺の尻尾はタオルで代用)

 俺からの攻撃は基本不可だが、鬼からの攻撃に際しカウンター(軽い投げ技)をしてもいい事とする。

 今から1クラス分のウマ娘たち(40人弱)に追いかけ回されることに、これは早まっただろうか?

 へへ、マックたちに会ったハガネでの逃走劇を思い出しますぜ。あれはあれで楽しかった。

 

「うんしょっと、ちゃんとストレッチをしてー・・みんな準備はいいかな?」

「「「「いつでもいけます!」」」」

 

 目がギラギラして来ましたね。その闘争心に応えてあげましょう。

 

「よし、かかってきなさ・・・キャッ!思ったより圧が強くて怖いわー、ヒュー―逃げるんだよぉぉぉ」

「「「「一気に追い込む!待てぇーーー!!」」」」

「あはははは、私はここよ~捕まえてごらんなさい~ウフフフフフフ」(´∀`*)

「「「「なめやがって!絶対逃がすな」」」」

 

 怠惰ですねぇ、数頼みで何とかなると思いましたか?

 血気盛んなのはいいですが、追加ルールをお忘れかな。不用意に攻撃するとどうなるか、身をもって知るがいい。

 

「捕まえ・・・たっ、へ?」

「ほいっと」

「え、ちょ、なああああ」

「キャッチ急いで!」

 

 伸ばされた手を躱し、仕掛けて来た相手を追跡中の集団にやんわりと投げ飛ばす。

 うん偉い偉い、ちゃんと仲間を受け止めたな。チームワークは大切よ。

 カウンターを警戒してか、追跡の勢いが緩む。いいのか?時間はドンドン経過するぞ。

 

「チラッ、チラチラッ」|д゚)ねぇマダー?

「あー、教官が立ち止まってこっちを見てますー」

「くっそぉ、完全になめられれる~」 

「覚悟を決めて行くしかないよ。全方位から突っ込めば!」

 

 とぉぉぉ、でやぁはぁぁぁ、なんとぉー!

 迫りくる生徒たちを次々に捌きながら、スクワットをしたり、バク宙に失敗して頭を打ったり。

 無駄に見える無駄な動きで相手を翻弄する奇策は無理だよ。アシェンの嘘つき!信じて試した俺はアホです。

 躱す防ぐ逃げる時々反撃を繰り返していると、グラウンドにへたり込みリタイアする人数が増えて来た。

 

「こ、ここまでやってもダメだなんて」

「ホントに・・・何者なの?・・・ヤバすぎる」

「まだだ、まだ終わりじゃないよ」

「そうだ、このクラスににはまだ、あの子たちがいる!!」

 

 風が変わった。

 今まで息を潜めていた何かがもの凄い勢いで迫って来る。

 やっと来たかぁ。ははは、こやつめ。さては人数が減るのを待ってたな。

 

「やあぁぁぁぁっーーー!!」

 

 愚直な突進嫌いじゃないわよ。難なく避ける、向こうもそれはわかってる。

 俺を追い越したスピードに片足だけで急制動をかけ、正面から相対する。

 

「待っていました!この瞬間を!!」

「元気だなぺスは」

「スぺですってば!マサキさん勝負です!」

「いいぜ。あの時みたいに遊んでやる」

「甘く見ないでください」

 

 うひょーすげぇすげぇ!

 拳に肘に膝に手刀、足刀、回し蹴り、流れるような連撃が俺を襲う。

 しっかり一撃一撃に覇気が込められているので、当たると痛てぇぞ!

 真面目に修練を積み鍛え上げたことがわかる動き、ヤバい、なんか凄く嬉しい。

 そういえば、スぺは俺の生徒第一号でもあるんだ。そんな子がこんなに強く・・・自分、涙いいっスか?

 

「大きくなって・・ううっ・・子供の成長ってのは嬉しくもあり寂しくも」( ;∀;)

「ちょ、勝負の最中に落涙するのやめてください!気が散ります」

「北海道のお母様、スぺは立派な騎神になりましたよ」

「まだこれからですよ。私もっともっと強くなるんですから」

「ま、眩しい。とりあえず、抱きしめていい?」

「愛バがいる癖に何を言ってるんですか!あ、後にしてください///」

「後ならいいんだ」

 

 スぺの拳撃を右手を使って止める、カウンター投げを狙おうとする俺に追加の拳。

 もう片方、左手で止めた事により、ガッチリ組み合う体勢になってしまう。

 それでどうする?この状態で俺のタオル尻尾は掴めんぞ!

 

「あなたのおかげです」

「急に何?」

「あなたのおかげで・・・今の私はもう、1人じゃないんですよ」

「っ!?」

 

 殺気!左右から新手かい。

 来ない来ないと思っていたら、隠形に歩法の組技で一般生徒の中に潜伏していやがった!

 ここまで体力を温存していたか、ちゃんと考えてるな。

 

「そこぉ!もらいましたデース」

「参ります。動かないでくださいね」

 

 大和撫子のグラスと、覆面のコンドーさんでしたっけ?コンビプレーはお手のものですかな。

 ふーん、スぺが俺を封じている内に二人が仕留めにかかる手はずか、甘めぇんだよ!

 

「飛びます」

「いぃぃ!?」

「上っ!」

「どんだけ飛ぶんデスカ!」

 

 スぺの手を掴んだまま上空に逃げる。地に逃げ場がないなら空に行けばいい。

 EFではナチュラルに空を飛ぶ敵がいるのでね、ある程度の空中戦闘は経験済みだ。

 

「高い!そして怖い、あわわわ」

「おいおいスぺ、しがみつくからいろいろ当たってるぞ。ありがとうございます!」

 

 成長したな・・・感触が「むにゅん」だもんなぁ。中々のものをお持ちですね。

 ラッキースケベは不可抗力なのでセーフです。

 

「そこまでよ変態!」

「ジャンプ力が予想以上だったけど、ここまでは予想通りなんですよ」

「キングにセイちゃん、やっはろー」

 

 そうなんです。スぺ、グラス、コンドー、キング、セイちゃんの5人は同じクラスなんだよ。

 今日の授業開始からずっと覇気を飛ばしてくるからヒヤヒヤしたぜ。

 スルーしてごめんね。顔見知りばかりとコミュするのもいけないかなと思ったのよ、許してや。

 

 何かしらやってくると思ったが、ついに勝負に出たか。

 俺が上空に退避するところまでは読んでいたのはさすがだ。

 ここで俺を仕留めるために、キングとセイちゃんはモブ生徒たちの力を借りて大跳躍をやってのけた。

 あれだよ、数人のウマ娘が組んだ腕を踏み台にしてカッ飛んで来たわけよ。

 クラスまとめて挑んで来たのは破れかぶれではなく、全員の力を集約して勝負するためだったか。

 ワンフォーオール・オールフォーワンの精神だな感心感心。

 

「これでっ!」

「終わりよ!」

 

 タオル尻尾に二人の手が伸びる。

 みんな頑張ったし今日のところは勝たせてやってもいいか・・・なんて嘘ぴょーん!

 

「のぴょーん!!」

「またぁ!?」

「もう!存在ふざけてるわ」

「うわぁ、まさかの2段ジャンプww」

 

 ノーチャージで更に上へ飛ぶ。

 ジャンプが1回で終わると、いつから錯覚していた?

 ご無沙汰している属性加速技(アクセル)を使えばこの程度はやれる。今のは風、シルフィードだ。

 まあ、できるようになったのは最近なんですけどね。愛バがいれば新たなスキルだって生み出すのが操者です。

 ミオからもらった、地のアクセル、ガッちゃんからの、水のアクセルも使えるぜよ。

 

「うわ、うわわ、見てください。人がゴミのようです」

「いや、そんなに高く飛んでないだろ」

「着地、ちゃんとできるんですよね?墜落死なんてごめんですよ」

「覇気でガードすりゃ余裕だ余裕。万が一失敗しても骨折ぐらいで済むはず、なるべく足から落ちような」

「いやぁぁ!マサキさんの耐久力を基準に考えないでーー!」

「ああもう、ほれ、掴まってろ」

「うひゃ」

 

 スぺの体を空中でお姫様抱っこ。だからなんで、どいつもこいつも首を絞めるんだよ!

 ウマ娘ってさあ、抱っこすると高確率で首絞めて来るんだぜ、これホントな。操者交流掲示板に書き込むネタいただきました。

 着地と同時に狙われても困るので、今度は下に向かってアクセル発動!

 

「チャンスデース。降りて来たところをワタシがガシッと捕まえマース」

「何をバカなことを、逃げますよ」

「えー、チャンスなのに~」

「あのおバカ、こっちに突っ込んでくるわ。逃げないとヤバいわよ」

「スぺちゃん大丈夫かな」

 

 どいてどいてー、俺とスぺが落ちてくるぞー。

 グラスがコンドーさんを引きずって行くのが見える、他の皆も避難してくれたようだ。

 足に覇気を集中、アクセルの属性は地を選択だ。

 

「どっこいしょっ!ノーマアクセルッッ!!」

「「「「やりすぎだろぉぉぉ!!!」」」」

 

 着地点が爆心地と化した。

 殺しきれなかった衝撃が大地が軽く揺らす、グラウンドちょっと破壊しちゃった。

 地割れに陥没、砂埃が少々立ち込めたけど、まあ大丈夫だろう。

 これ位じゃ怒られないよね?・・・よし!怒り心頭の姉さんが飛んで来ないのでセーフだ!

 トレセン学園では突発的な爆発ぐらい慣れたもんですよ。

 この前、巨大な火柱が上がった時も「なんだヤンロン教官か」で何事もなく終わったからな。

 

「スぺ、大丈夫か」

「は、はい。やっぱり地に足をつけて生きるのが一番です」

「いい仲間ができたみたいだな」

「みんな大切なお友達です。私、ここに来れてよかった」

「おめでとう、ぼっち卒業おめでとう」

 

 スぺを地面に下ろすと他のメンバーも寄って来る。これにて終了かな。

 

「いや~負けた負けた。セイちゃん完敗ですよ」

「むぅ。エルはまだ負けてまセン!また今度、勝負してくだサイ」

「どうするのよコレ。授業中にグラウンド破壊とか・・・はぁ」

「まあまあ、授業でこんなにも熱くなれたのです。これからも楽しみですね」

 

 初めて会った時よりちょっぴり大人になった彼女たち、順調に成長しているようで何より。

 愛バたちに集中していたが、こうして見るとやはり・・ふむ・・・ふむふむふむ。

 

「視線がやらしいデス」

「うるせぇ、お前らが可愛いのが悪いんじゃい!」

「褒められて怒られました」

「この意味不明な理不尽さww」

「妙に落ち着く自分が恥ずかしい」

 

 覇気を分け合った仲だからだろうか、顔見知り(ネームド)たちとの交流は楽しい。

 

「そんなぁ、我がクラスの黄金世代が手玉に取られるなんて」

「御三家の騎神が選んだ操者は伊達じゃないっての」

「なんで養護教官?バリバリの戦闘タイプじゃん」

 

 終わった終わった。

 反省会は後にするとして残り時間でグランドを整備してから撤収・・・ん?

 

「ここで真打登場です!」

 

 なぜ気付かなかったのか。

 いつの間にか、元気いっぱいのウマ娘が朝礼台の上でふんぞり返っていた。

 なんでガイナ立ちなんだろう?

 体操着を着てるから、このクラスの生徒だよな。

 

「君、そんなところで一体何を?」

「黄金世代の最終兵器、私こそがツルマルツヨシです!マサキ教官、覚悟してください」

「初めて聞いた」

「「「「「・・・・・」」」」」

「おい、アレお前たちの連れだろ、黙ってないでなんか言えよ」

「とりゃぁぁぁぁ!・・・へぶシッッ!」

「あ、痛そう」

「「「「「・・・・」」」」」

 

 勝手に登場して勝手に転倒した。顔からモロにいったから心配、後でヒーリングしてあげよう。

 スぺたちはズッコケた子を冷ややかな目で見て無言である。あ、今グラスが舌打ちした!?

 

「ま、まだです。最後まで諦めない。ネバーギブアップ、そうネバーギブ」

 

 キンコンカンコーン・・・終業のチャイムが鳴った。

 

「あああ!終わってしまったぁ」

「ギブするまでもなかったな。これにてエクストリーム尻尾鬼は終了とする」

 

 な、何がしたかったんだろう。少々残念な匂いがする子だな。

 

「なあスぺ、この子は・・・」

 

「「「「「なにやってんだぁ!ツヨシィィィ!!」」」」」

 

 5人一斉にキレんなよ。ブチギレても可愛いのズルい。

 え、なになに、これもお前たちの作戦だったの。

 ほうほう、最後の最後で油断したところを隠形を使ったツヨシが見事に尻尾をキャッチ!

 スぺたちが勝利する予定だったと、どおりで終盤アッサリ引き下がったと思ったぜ。危ない危ない。

 

「いい感じだったのに!マサキさん完璧終わった気になって油断して・・今の絶対いけたのにぃ!」

「テヘッ、白熱した覇気にあてられて我慢できませんでした」

「これは切腹ものデース」

「そうですね。エル、腹を斬りなさい。介錯はしてあげます」

「なんでワタシが!?」

「ごめんなさい~。私もみんなと一緒に連携プレーがしたかったんですよぉ。よよよよ」

「うーん、人選ミスったか。割と影薄いからいけると踏んだのにな」

「もういいじゃないの。元々成功確率は低かったんだし」

 

 やれやれ、これで本当に終了だ。

 着替える時間も必要なので、切腹するかどうかで揉めているスぺたちを仲裁して授業を終わりにする。

 「またやりましょう」「今度は絶対負けませんから」「次こそは私が」「ツヨシうるさい」「サーセン」

 なんだかんだで皆楽しんでくれたようだ。

 グラウンドは・・・おう、常駐している作業員の方々が既に修復作業に入ってらっしゃる。

 見事なお手並み感服いたします。ホントマジでご迷惑をおかけします!

 おや、俺を他のクラスの生徒たちがジロジロ見ているぞ。知らず知らずのうちにギャラリーが集まっていたか。

 次の授業もあるだろうし、ここは俺も退散するとしましょう。

 

 と、思ったらガシッと肩を掴まれた。細い指先にはかなりの覇気が籠っている。

 誰やねん?振り返るとそこにはスラッしたボディの逃亡者が。

 

「次、私のクラスがグラウンドを使うんです」

「そうなん。じゃあ俺はこれで」

「ちょうど体育の教官が急な腹痛で自習になったんですよ」

「よかったな。倒れるまでずっと先頭を走っていられるぞ」

「スぺちゃんたちとは随分お楽しみでしたね」

「か、肩に爪が食い込んで痛い!は、放せぇぇ」

「私とも遊んでくれますよね?マサキ教官」

 

 有無を言わさぬスズカさんによって、高等部の生徒たちとも尻尾鬼することになった。

 超スピードの彼女は逃げている最中、もの凄く満足そうでした。めっちゃ笑顔やん。

 なるほど先頭は譲りたくないが、追いかけてはほしいんだね。わがまま!

 

「もう1回です。もう1回だけ!」

「もう疲れたからやだよ~。バスカーできないんじゃお前には追いつけん。次、スズカが鬼やるならいいぞ」

「私、逃げウマなので」

「知らんがな」

「マサキさん、マサキさん。今日の占いどうですか?お安くしておきますよ」

「商魂たくましい、どっかの駄猫みたいにならないでくれよ」

「ワタシとも遊んでクダサイ、マサキさん~」

「相変わらずご立派なおーぱいだこと」

  

 フクとタイキもいたのかい。

 ヤバいな、ウマ娘と本気で遊ぶと体力気力共にもたんぞ。

 トレセン学園の教官は並みの人材では務まらないとはよく言ったもんだ。

 愛バと修練するだけの余力は何とか残しておこう。

 

 初授業は成功といっていいと思う。

 その後、休憩時間に尻尾鬼で遊ぶ生徒たちが増えたのであった。

 


 

 また別の日。

 社会人たるもの真面目にデスクワークもこなします。

 

 コンコンッ。

 医務室にて書類整理に励んでいると、不意に窓を叩く音が聞こえた。

 愛バの誰かだろうか?しかし、今は授業中のはず。

 姿は見えない、一応外を確認しておこうと窓を開けると小さな物体が入り込んで来た。

 

「ピー、ピー」

「鳥?」

 

 ヨロヨロと宙を舞うそれは俺の周囲を何度か旋回した後、力尽きたようで墜落しそうになる。

 

「ととっ、危ないな」

「ピー・・・」

 

 慌ててキャッチする。

 両手の平にスッポリ収まるサイズの小鳥みたいな何か、グッタリとしたまま時折か細い声でピーピー鳴いている。

 銀色の体に頭部と翼の部分に青い宝石のようなものが埋め込まれてる。目らしき部位が見当たらないのも不思議だ。ロボットの鳥?

 よく見ると翼の部分が深い傷があり、所々焦げ跡のようなものまである。

 事故にでもあったのかこの鳥は満身創痍だ。そもそもこいつは一体なんだ?

 出血はしていない、それもそのはず傷口から覗くのは肉ではなく、見たこともない複雑な機械部品。

 この感じは青龍と同じ超機人か?それとも誰かの新型デバイス?

 とにかくこのままにはしておけない。

 

「タキオンに修理してもらうか、まてよ、超機人の同類だっていうなら俺の覇気とヒーリングでも」

 

 ヒーリングを試してみよう。

 お、いいぞ、ゆっくりだが覇気を吸っている。いける!この治療法で間違いないようだ。

 頑張れよ、絶対によくなるからな。

 

 10分後。

 そこには元気に羽ばたく小鳥の姿があった。思いのほかアッサリ治ったな。

 ヒーリング中にみるみる回復していき傷口も完全に修復されて、今は全身がキラキラツヤツヤしている。

 治療を終えた後、俺は仕事を手早く片付ける。復活した小鳥を連れて中庭を散歩中です。

 

「元気になってよかったな。おいで」

「ピー!ピー!」

「こっちの言葉がわかるのか、えらいぞぉ」

 

 呼んだらちゃんと応えてくれるし、差し出した腕に停まってくれる。

 随分と懐いてくれたみたいだ、体に障っても嫌がったりしない。むしろ、もっと触れといって身を寄せてくる。

 外装は陶器のような質感だが駆動は有機生命のように柔軟、疑似神核に当たる部位からは鼓動のようなもすら聞こえてくる。

 この不思議な小鳥にはちゃんとした意識、自我を感じる。やはり超機人に似てる、青龍たちの合わせてみるのも手か。

 誰か造った?どうして俺のところに?主人はいるのだろうか?ペット?それともデバイス?

 何とか情報を引き出したいが、まずは名前をどうにかしよう。

  

「俺はマサキって言うんだ。お前は、えーと、なんて呼ぼうかな」

「ピー?」

「ピヨ彦、ササミ、砂肝、どれもしっくりこないか・・え・・カ・・・ナ・・・フ?」

「ピーピーピー!」

「なんか知らんがわかったぞ。そうか、カナフ。お前の名前はカナフだな」

「ピ~♪」

「可愛いヤツめ、あはははは、カナフ~」

 

 追いかけっこしたり、ご飯に覇気をあげたりして楽しく過ごした。

 ペットセラピーのようなものだろうか、なんだが日頃のストレスが緩和された気がする。

 あはははは~うふふふふ~。

 

「・・・さん・・・サキさん」

「コラ、やめ・・耳たぶをつついたら・・ダメ・・フフフ」

「マサキさんってば!」

「お・・・おあ?・・・クロか。あれ、カナフは?」

「カナフ?何それ。それよりも、ねぇ、大丈夫なの?」

「何がだ?」

「えっと、マサキさんが中庭でラリってるから何とかしろって連絡があってね。ヤバいお薬でもやったんじゃないかと」

「ち、違う。俺はカナフ、これ位の小鳥さんと遊んでいただけで」

「鳥?鳥なんてどこにもいないよ」

「あれぇ~???」

 

 カナフの姿はサッパリ消えていた。

 中庭で俺を目撃した生徒たちによると、1人で喋り空中にいる見えない何かと戯れだした俺を「こいつヤベェ!」と判断し愛バたちに連絡がいったのだと、もうすぐ他の3人も来るみたいだ。

 

 夢だったのか?確かに俺はカナフに会ったんだけど。

 現実だとすれば、元気になったから家へ帰ったのだろうか。うーん。

 

「きっと疲れているんだよ。今日の修練は早めに切り上げて休んだ方がいいね。うん、そうしよう」

「幻覚?あんなにリアルだったのに」

「お疲れのマサキさんには、一緒にお風呂入ってマッサージしてあげるね」

「やったぜ!」

 

 魅惑のお風呂タイムが楽しみすぎて、俺の疑問は掻き消えていった。

 

 ♢♢♢

 

「どういうことか説明してもらおうか」

「何をだ」

「神僕を許可なく解き放ったことだろう」

「ああ、あの三体か」

「これは明らかな協定違反だぞ、ルクス」

「いつもの余裕はどうした孫光龍(ソン・ガンロン)?まあ落ち着け」

 

 夜景の映える大都会のビル屋上で二人の人物が対峙していた。

 一人は全身白スーツで身を固めた長身の男、もう一人は仮面をつけた正体不明の人物。

 協力関係にあるはずの両者の間には今、険悪な空気が流れていた。

 

「神僕はきっと巫女を探しに行ったのだよ。我々はまた一歩、神の覚醒に近づいた。それはバラルの信徒である君の望むところではないか?」

「あの三体を攻撃し無理やり起こしたと聞いているぞ。大方自分の手駒にでもしようとして、逃げられたんじゃないのかい」

「アンドウマサキが戻って来た。こちらも戦力強化をしておかなくてはな、無駄足に終わったようだが」

「またマサキ君か、確かに彼は強力な操者だが目くじらを立てるほどのものか?」

「奴の危険性について私以上に理解している者はいない!今まで通り協定は結んでおいてやる、だが覚えておけ、マサキを倒すのはこの私だ」

「その執着が身を滅ぼす結果にならないことを祈るよ。こっちは巫女に手を出さないでくれたら、それでいい」

 

 白いスーツ姿が屋上から消える。転移術によってこの場を去ったようだ。

 

「フン、執着しているのはお前もだろう」

 

 虚空に向けて放った言葉に応える者は既にいない。

 代わりに屋上へ降り立つ複数の影、全員が目元を覆うバイザーで顔を隠したウマ娘だ。

 彼女たちは、隣のビルからルクスのいる屋上に飛び移り難なくこの場に辿り着いたのだ。

 ルクスを含め全員が顔を隠した怪しい集団は、ただ者ではない覇気を醸し出している。

 そして、その異様に反して和やかな雰囲気、覇気を循環し合う者たち特有の絆から生じる空気を持っている。

 

「よろしいのですか?」

「ああ、何も問題はない。バラルにはマサキの糧にでもなってもらうさ」

「クスクスッwあの白い人、何も知らないんでしょ。かわいそかわいそww」

「大事な大事な旧い神様はぁ、とっくの昔にルクス様のものですのに~」

「それにしてもムカつきますわー!あのクソ鳥、よくも私の体に傷を・・うがー!今度会ったら焼き鳥の刑にしてやりますの!」

「あらあら。怒ると傷口が開きますよ~」ヾ(・ω・*)なでなで

「まさか"イーグル"が体を張って"シャーク"と"パンサー"を逃がすとは、合理性で動く人工知能的判断ではない、奴らには自我のようなものを感じました」

「鳥さん、お魚さん、猫さん、どこに行ったんだろうね?」

「さあね、巫女って奴のところじゃないの」

 

 雑談に興じる愛バたちを見回しながらルクスは思考する。

 

 自分たちの力が人造神にも通用することは証明できた。

 残りの因子収集も時間の問題だ。

 マサキ!我が宿敵よ、力をつけているのは自分だけと思うなよ。

 お前が何をしようとも結末は変わらない。

 最高の舞台で奈落の底に落ちるのは貴様なのだからな!

 

「ウェール」

「はい!元気元気なんだよ」

「ベルス」

「はーい、今夜も可愛いベルスです」

「クラルス」

「ここにいま~す。ふわぁ・・ねむねむ」

「アエル」

「はっ!」

「フルーメン」

「何なりとご命令を、私が全てぶちのめしてやりますの!」

「マーテル」

「フフ、ルクスさんもたまには甘えてくださいね」

 

 6人の愛バを前にルクスは宣言する。

 

「我らは選ばれず、はじき出され、世界から敗者の烙印を押された者たちだ。それが私には我慢ならない!」

 

 どうして?なぜ?何がいけなかったの?何で何で何で!あいつばかりが・・・私が選ばれるべきだったのに!

 

「故に証明してみせようではないか!間違っているのは世界の、あいつらの方だと」

 

 ああ、食いちぎられた右腕の傷が今日も疼く。

 高度な治療術により以前より強化を施し再生した腕、傷も痛みもあるはずがない。

 だというのに!今もあの時の幻痛が響く。この痛みは戒めだ、奴相手に油断してはならないという戒め。

 焦ってはならない、今はまだ舞台の準備段階だ。

 あらゆる障害を取り除き、奴を完膚なきまでに叩き潰すその時まで耐えるのだ。

 

「世界の歪み、その元凶、全ての始まりと終わり、アンドウマサキを滅ぼすのだ!!」

「「「「「「はい!アンドウマサキ滅ぶべし!!」」」」」」

 

 感情の高ぶりと同時に赤い粒子が拡散される。

 膨大な力を秘めた赤い覇気は夜空を赤く染め上げるが、そのことに気づいた一般人はいなかった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「へっくしっ!」

「どうしたの?風邪」

「いや、誰かが噂しているような。なんか、めっちゃムカついてきたわ」

「シロたちがマサキさん談議でもしているんじゃないかな」

「だといいんだがな。はぁ・・・まさか、カナフの件で薬中疑惑をかけられるとは思わんかった・・・桐生院先輩にお説教されちゃったよ、トホホ」

「あのヒトミミ、マサキさんに因縁つけたいだけだよ。マジムカつく」

「最終的に「タキオンに変な薬盛られた」と言って許してもらえたぜ」

「あはははw満場一致で「それなら仕方ない!」だもんねwwタキオンさん生徒会に連行されて、ちょっと涙目だったよ」

「日頃の行いの結果だな。前に一服盛られて七色発光させられた時の恨みじゃぁぁ」

「そんなこともあったねww」

 

 お風呂から上がって、クロの懇切丁寧なマッサージを受けた。

 後は寝るだけなのでお布団にインしてます。

 もちろん布団は1つ枕は2つ状態ですよ、相思相愛の愛バと添い寝するのなんて当たり前でしょ。

 

「明日も早いし、そろそろ寝るか」

「うん。もっとくっついてもいい?」

「おう、遠慮すんな」

「えへへ、あったかいね」 

 

 あったかいし柔らかいっス。俺からもくっついちゃおう。

 

「クロ~」

「きゃっ、マサキさん。おぱーい好き?」

「大好き」

「誰のが一番好き?」

「ノーコメントで。だが今はクロのがいい」

「かわしたなぁ。まあいいや、今は私のターンだからね・・・おやすみ、マサキさん」

「おやすみ、クロ・・・ノーブラ?」

「イエスノーブラ。ギュッてしてあげるね」

「ナイスノーブラぁぁぁぁぁ・・・・はふん///」

 

 最近は愛バの胸に顔を埋めて寝るのがマイブームですが何か?

 こう、ぱふぱふっとね。これが本当によく眠れるんですよ。

 うひょぉぉぉー今夜も最高じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 



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チーム誕生

 出勤前にスマホの通知を確認していると、愛バの一人、アルからメッセージが届いた。

 グループに投稿しなかったということは個人的な話か。

 

『マサキさん。今日の放課後、お時間をいただけないでしょうか?』

『かまわんよ。みんなで鍋でもやっちゃう?』

『いえ、出来れば二人きりで・・・ダメでしょうか』

『全然オッケー。予定を空けておくな』

『ありがとうございます。シロさんたちには私から丁寧に説明しておきますので』

『穏便にな』

『はい、穏便になるよう努力します』

 

 真面目なアルのことだ、俺に相談したい事でもあるんだろう。

 とはいえ、愛バから二人で過ごしたいとのお誘いだ・・・オラなんかすっげぇワクワクしてきたぞ!

 これで今日のお仕事にも身が入るってもんよ。

 

「仲のよろしいことで。はい、こっちもチェックして」

「愛バがいるって本当に幸せだよな。えーと、これでいい?」

「おkおk、入力漏れはないみたい。後は本登録用のページで"チーム名"を入力して申請すれば登録完了だよ」

「いろいろありがとな、ミオ」

「この位どうってことないよ。あっ、入力ミスには注意して、一度申請したチーム名を変更するのは時間も手間もかかるらしいから」

「わかった。一発でいい名前をつけてやるぜ」

「私を名付けたときみたいに中二病が炸裂したヤツを期待」

「期待されても困るぞ。チーム名は愛バたちと相談して決めるよ」

 

 同僚のミオからの説明を受けながら、学園より支給されたタブレットを操作する。

 場所は学園敷地内に存在する施設、クラブハウスと呼ばれる建物の一室だ。

 ここはミオが代表を務めるチーム"スピカ"の根城であった。

 

「まさか、お前が操者になるとはな」

「ホントホント、人生何があるかわかんないもんだよ。自分の可能性にビックリだ」

「7人も面倒見れているのか、覇気とか大丈夫?」

「マサキと違って常時接続していないから心配ご無用。それに、愛バたちはどの子も優秀だからさ」

 

 雑多に物が詰め込まれた棚の空きスペースにはミオとチームメンバーの集合写真が飾られている。

 これがまた、全員知ってる顔なんだよな。

 ミオがお茶を入れ直して来るといって席を立った直後、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「ちーっす、愛バが今帰ったぜ~。お、ロリコン保険医がいるじゃねぇか!暇か!」

「養護教官な。まあ、保険医でも間違ってはないけど」

「こいつロリコンは否定しなくなったwなあなあ、特にケガしてないけどヒーリングしてくれよ~」

「いいぜ、悪いのは脳だな」

「あ゛~頭がポカポカするんじゃ~」

 

 年齢不詳のウマ娘ゴールドシップは、ちゃっかりミオの愛バとしてスピカに所属していた。

 冗談めかしてヒーリングをねだって来たが、本当は疲れているのかもしれない。

 養護教官としてのプライドもあるので丁寧にヒーリングを施す。

 目を細めて気持ち良さそうにしているゴルシ、黙っていれば美人なんだよなホントに残念。

 

 学園に通いながら仕事をしている生徒は沢山いるし、学園側もその辺は融通を利かせてくれる。

 俺の愛バたちも家業を優先して学園を休むこともあるので、ゴルシもファイン家の仕事が立て込む日もあるだろう。

 

「本業の方はどうよ?」

「まあ、ボチボチだボチボチ。無駄にできるハゲゾールが頑張ってるみたいでな、一昔前に比べたら楽チンな方だぜ」

「ルクスは」

「ムカつくことに、あのクソ仮面の情報はさっぱりだ。そのせいか御三家はどこもピリピリしてやがるな」

「進展があれば教えてくれ。だけど、無理だけはするなよ」

「こっちのセリフだ。クソ仮面にロックオンされてるのはマサキ、お前なんだからな」

 

 姿は見えないのに気配だけは感じる不気味さ。

 殺虫剤を取りに行ってる間に家具の裏側に逃げ込んだゴキブリのようなヤツだ。

 マジキモイから滅んでくれませんかねぇ。ゴキジェット顔に噴射してやろうか。

 

 ルクス=ゴキブリの公式をゴルシと練り上げていると、ミオが奥から戻って来た。

 お盆の上には人数分の抹茶ラテだと!?こやつめ小洒落おってからに、利休激おこ!

 でも、美味しそうなので頂きます。インスタントだけど(゚д゚)ウマー

 

「お帰りゴルシ。他の皆は?」

「ギルドにクエスト完了の報告して来るってよ。寄り道してなきゃもうすぐ帰って来るんじゃね」

「ラテご馳走様。そんじゃ、俺はそろそろお暇するわ」

「待てよ!まだブラッシングが済んでないでしょーが」

「そこにキミの操者がおるじゃろ。ミオ、愛バがブラッシングをご所望だぞ」

「嫌だよめんどくさい」

「うぃぇぇー!?!?」

 

 ソッコーでお断りしたミオに引いた。そして変な声が出た!

 いくらゴルシとはいえ、愛バのおねだりを断るなんて・・こんな操者が存在していいのか!?

 俺だったら絶対無理だ、ありえない。

 風呂上りのブラッシングで俺のブラシテク上昇率はとどまることを知らないというのに!

 

「ちっちっち、操者と愛バの形は人それぞれ。私は愛バの自主性を第一に考えているからね。自分のことは自分でやれ!無理なら私以外の誰かにやらせろ!がミオちゃんのモットーなんだ」

「ひでぇだろwwマジウケるよなww」

「お前ら、それでいいのか?ああもう!ブラシ持って来い、やってやらぁ」

「マサキのそういうとこ好きだぜ」

「やめてよ。ちょっとドキッとしちゃうじゃないの」

「「キンモ~www」」

 

 キモくても愛バ4人いますけどね!

 普段がアレな分、イケメンムーブゴルシの不意打ちは刺さる。

 サラサラの長い髪をブラシで梳いている間、ミオは楽しそうにこちらを見ていた。

 ゴルシは開始2分で鼻提灯を出しながら寝やがった。リラックスしすぎや!

 

「ただいま戻りました。あらマサキさん、いらしていたのですね」

「ただいまー。て、えぇ、ブラッシング!?ボクにもやってよー!」

「ゴルシ寝てんじゃねーか」

「それだけリラックスしてるんでしょ「下手な高級サロンに行くより、私はカピバラ君にやってもらう方がいい!」てタキオンさんたちも言ってたから」

「そんなすげぇのか、頼めば俺にもやってくれんのかな」

「愛バ優先になるけど空き時間があればやるぞ。今の内に予約しとく?」

「予約制なの!?」

 

 経験者からの口コミで広まったのか「へアサロン・マサキ(無料)」の開店を望む声は多い。

 高等部の連中、おそらくチケ蔵あたりがバラしているのではと推測する。

 もし教官試験に落ちていたら真面目に美容師を目指していたかもしれんな。

 

 そんなこんなでスピカのメンバー、メジロマックイーン、トウカイテイオー、ウォッカ、ダイワスカーレットがご帰還だ。

 

「改めて、みんなお帰り。お邪魔してるぜ」

「お帰り~。およ?スぺちゃんとスズカは」

「追加の学内クエストが入りましたので、そちらへ向かいましたわ。案件は迷子のペット探し、お二人だけで十分だと申されましたので、私たちは一足先に帰還いたしました」

「なんでも、エルコン先輩が飼ってる白猫が脱走したんだってさ」

「あれペットだったの、自立AI搭載型の特殊デバイスだと聞いていたのだけど」

「確かグラス先輩の蛇と同じヤツでチョウキジンとかいう。いいよな、新型のテスターに選ばれるなんて羨ましいぜ」

 

 コンドーさん何やってんスか!後、猫と蛇は大分無理があるが誰も指摘しないのか?

 今頃涙目で探し回ってる光景が目に浮かぶ、見つからないようだったら俺もお手伝いしよう。

 ダメそうなら俺を呼べとグラスとコンドーにメッセを送っておく。これで良し。

 

「客の前でスマホをいじるなよ。おめぇ、それでもプロか!」

「起きたのかゴルシ、プロじゃない素人だ。友人の覆面レスラーが相棒を逃がし困ってるんだとよ」

「そんなん、逃げた白虎はお前の覇気を餌にしておびき出せば解決だろ」

「聞いていたのかよ。まあいい、はい、仕上げ完了」

「うっし、ゴルシちゃんの美しさが5上がった。そして、マサキのロリコン度が3上がった」

「いらんパラメータを上げるな」

「こいつは礼だ。とっときな」

「マーキングするなら軽めにね、ホント軽めにお願いします!この間、姉さんの上書きで愛バが凶悪な顔芸披露して大変だったの!」

「嫁VS小姑戦争勃発中かww。心配すんな、私の刻んだ暗号は「品行方正な素晴らしい男」だからな」

「それなら安心だ・・・おい」

 

 お礼のつもりなのか、ブラッシング後にライトなスリスリ(マーキング)をしてくる子は多い。

 専門家によるとウマ娘独自の習性で信頼の証らしいので素直に嬉しい。だけど、俺は知っている。

 マーキングはウマ娘の暗号通信も兼ねていると、俺に内緒でコソコソ言いたい放題していることを知っているんだぞ!

 

 よからぬ文字を付けられたことは、テイオーたちが肩を震わせて俯いている時点で明らかだ。

 こいつマジで信用ならんな。

 

「嘘をおっしゃい!「幼女命(ガチ)!!!」と読めますわよ!」

「「「「「あはははははははwwww」」」」」

「やっぱりか、消せ!今すぐ消せ!」

「本当のことなのに何を恐れる必要がある?もっと自分に正直になれよ!」

「やかましい!このまま愛バとエンカウントしてみろ、皮膚が無くなるまでスリスリ(地獄摩擦の刑)されるわ!」

「「「「「こっわぁッッ!!」」」」」

 

 ほらドン引きされた!火起こしか!てぐらい擦られる俺の気持ちがわかるか。

 

「ミオ!バカウマの責任は操者のお前がとってくれるんだよな」

「えーと・・・ははは、抹茶ラテおかわりする?」

「ほうじ茶ラテで頼む。嫌だ、摩擦熱で火傷したくない誰かお助け―」(´;ω;`)

「はあ、仕方ありませんわね。マサキさん、こっちにいらしてくださいな」

「僕も手伝うよ。何て書こうかな~」

「あの、消すだけにしてくれる」

 

 マックとテイオーが消しゴム役になってくれるようだ。

 この子たちには助けられてばっかだな。今度甘い物でも差し入れしよう。

 

「おいおい、他の操者にマーキングするなんてアリなのかよ!////」

「何照れてんのよ、ピュアか!まあ、マサキは例外なんじゃない。ミオさん的にはどうですか?」

「マサキはセーフ!!これが他の男だったらミオちゃん激オコ!」

「動かないでくださいまし。こうして、こうですわ!」

「ならボクはこっちをやるぞー」

「本気でやらなくていいんからな。あ、そこは触らないでいただけると」

「と言いつつ、ロリコン度を10上げるマサキであった。この浮気者!!そしてゴルシちゃんが再び参戦するのであった!」

「モノローグやめろ!お前はもう帰れ!!」

「どこに!!」

「自分の星に!!」

「ゴルゴル星はいつもみんなの心に輝いているのさ。エピソード1~ゴルゴル星は妄想だった~」

「知らん!」

「因みにエピソード22まであるからな」

「思ったより長編んんん。全く興味ないわ!」

 

 ラテとお菓子をご馳走になりつつ、ゴルシのマーキングを消してもらった。

 スピカの部屋を後にしてすぐコンドーさんからヘルプ要請が来たので、脱走した白虎の捜索に付き合うことにした。ゴルシの言う通りにするとアッサリ解決したぜ。

 

 当然の結果なのだが、愛バたちからはたっぷり上書きマークキングを食らいました。

 特にクロとシロが憤慨していたけど、なんて書いてあったのかは教えてくれなかった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「チーム名を決めたいと思います」

「「「「はい、喜んでーー!!」」」」

「元気でよろしい」

 

 居酒屋の元気定員みたいなノリ?下戸だから詳しくは知らない。

 昼休憩中、クラブハウスの一室を借りて会議を行うことにした。

 議題は俺と愛バたち、5人のチーム名をどうするかだ。

 

「何か思いついたらどんどん挙げていこう。言ったもん勝ちだ」

「ボケてもいいですか?」

「いいよ。でも採用するかは別問題」

「ですよねー」

 

 準備のいいシロがサインペンとフリップを持参して来たので、芸人大喜利のようなものがスタートした。

 とりあえず俺は進行役に徹しよう。

 

「いずれこうなる『アンドウ家』」

「気が早い!」

「『おしどり夫婦と邪魔ウマ3名』でいいと思います」

「はい、どうどう。ケンカを売らない買わない!」

「『装甲悪鬼マサキ』血生臭い所が素敵です////」

「それだと敵を倒す度にお前らの首をチョンパせなアカンよ。善悪相殺は嫌や!」

「『真剣でファインに恋しなさい!』ヒロイン全員武士ウマ娘。ただし小姑はいない」

「超好きだけどさぁ。ゲームタイトルじゃなくてチーム名をだね」

「『マサキと愛バと野良猫ハート』猫に変身したマサキさんを思う存分可愛がる神ゲー」

「うん。一旦、エロゲから離れよっか」

 

 愛バたちの間で何故かエロゲが流行っている。

 そっと目をそらしたシロが布教活動でもしたのか?

 

「うちは婿入りも大歓迎なんで『サトノマサキ』なんてどうでしょう」

「『メジロマサキ』もアリですよ」

「決めるのはチーム名であって、俺の姓ではないぞ」

「『俺とアルダンとモーション』これでよくない?」

「旧題をリスペクトしたのですね。いいと思います」

「よくない!」

「追加ヒロイン(笑)はお黙りください。あなたたちのせいで創造神(作者)も結局タイトル変えたんですよ!」

「メタい発現は世界の法則が乱れるので禁止だ!いいね?」

「「「「あ、はい」」」」

 

 よくない流れになったので慌ててストップをかける。

 難航してきたので俺も案を出した方がいいのか、そう思った時、クロがボソッと呟いた。

 それは聞き捨てならない単語だった。

 

「『シュロウガ』は?」

「ちょw待てバカクロ」

「・・・クロ」

「何かな、マサキさん?」

「アレを見たんか?正直に言いなさい」

「実家の天井裏、封印されたノート、びっしり書かれた設定、凄かった!」

「シロ?」

「私のメモリーにバッチリ記録されてますね」

「マサキさん?どうしたのですか顔色が」

「何?何が始まったの!それとも終わったの!」

 

 シュロウガとは俺が中二病を患っていた時に脳内で組み上げたキャラクターで、他にもアサキムとかミュステリオンとかあがががががが。

 バレた、見られた、呪物と化したあの黒歴史ノートの中身をクロとシロに見られた!!

 何も知らないアルとココが俺を心配する中、クロとシロが労わるような視線を向けてくる。

 頷き合った二人が久々のハモり会話を繰り出す。やめろぉ!お前らがそれやるとき碌なこと言わないだろ。

 

「「マサキさん」」

「何だよ」

 

「「お可愛いこと・・・」」

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!あうえいぁへあぼぬわんごぉぉぉーーー!!!」

 

「マサキさん!?待って!何処へいかれるんですか?」

「奇声を上げて逃亡した!?コラッ!クロシロちゃん、マサキに何をしたのか白状しなさい!」

「ホント可愛いなぁ。そういうところも大好き」

「ちょっとやりすぎましたかね。でも、なんだかSッ気に目覚めそうです」

 

 俺、会議から逃亡!かぐや様は告らせたい!俺は現実から逃げ出したい!てか逃げてる真っ最中。

 バカバカバカ俺のバカ!なんで、なんであんな爆弾(中二ノート)の処理をしなかったんや!

 恥ずかしいーーー!恥ずかしすぎるよぉぉぉーーー!

 

 心と言う器はひとたび、ひとたびひびが入れば二度とは、二度とは、うぉぉぉんんんん。

 

 10分後

 

「「申し訳ありませんでした!」」

「もういい、もう・・いいんだ・・はは・・・ははは」

「酷いよね。若気の至りを嘲笑うなんて、愛バの風上にも置けないよね」

「まあまあ、クロさんとシロさんも反省しているようですし」

「「アル姉とココも事情を話したら笑ってましたぁ!!」」

「「あ!コラッてめぇら」」

 

 アルとココにもバラされた。もう終わりだぁ!マサキは目の前が真っ暗になった。

 ここら辺から記憶が無い。

 

「大きなクロが点いたり消えたりしている……あはは、大きい!シロかな?いや。違う……違うな。シロはもっと、バァーッて動くもんな」

 

「マズい!マサキさんの精神が危険域に突入した」

「これは・・・今こそ愛バの力を見せるときです!」

「こんなに早く使う事になるとは、訓練通りやるよ!フォーメーションα!!」

「「「合点承知!!」」」

 

「暑苦しいなぁ、ここ。うーん……出られないのかな?おーい、出してくださいよ。ねぇ?」

 

「はーい、マサキさんの大好きなおぱーいはこっちだよ~」

「この状況、小姑様たちに見られたら退学ものですね」

「部外者が入って来ないよう、オルゴナイトで施錠しておきましょう。窓のブラインドも下げてと」

「よしよし、怖かったね。嫌なことは全部忘れよっか」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「俺は正気に戻った!」

「「「「やりました!!」」」」

 

 よく覚えてないんだが、俺は謎の精神攻撃により深いダメージを負ってしまったらしい。

 そこを頼もしき愛バたちに救われたのだった。

 これも全部ルクスって奴の仕業らしい、くっ!姑息な手段を使いおって絶対にゆるさんぞ!

 

「とても恥ずかしい事と素敵な事があったような・・うーん、わかんね」

「無事ならそれでいいじゃない」

「そうです。深く考えてはいけません」

 

 目覚めた時、何故か愛バと俺の衣服が乱れていたのは気のせいだったんだな。

 みんな妙にツヤツヤしているのも気になるが、きっと俺を助けるために尽力してくれたんだろう。

 

「助けてくれてありがとな」

「「「「こちらこそ!ごちそうさまでしたぁ!!」」」」

「???」

 

 何かされたようだ・・・まあいい、気持ち切り替えていこう!

 

「今度こそチーム名を決めるぞ!」

「「「「仰せのままに!」」」」

「では、ご意見をどうぞ!」

「『寝てても凄い////』」

「『ご立派ですね////』」

「『お元気で逞しい人////』」

「『暴れんぼうさん////』」

「俺のどこを見て何言ってんの?目つきがやらしい、てかエロいぞ」

「「「「エロいのはあなたですよ!!」」」」

 

 何故キレる?これはアレか、思春期を飛び越えた先の突発性発情期の到来か!

 ウマ娘の生体については論文漁る程読み込んだけど、新たな発見があるもんだ。

 ここは養護教官として適切に対処すべし!

 

「ちょっと頭冷やそっか・・・ウンディーネアクセル!」

「「「「ぎゃぁぁぁ、冷たいぃぃーーー!!」」」」

 

 水の覇気を足に集中して横薙ぎの回し蹴りを宙に放つ。

 愛バの頭上に降り注いだ冷気が4人のウマ耳をちょっぴり凍らせる。これ位でいいよな。

 ごめんよガッちゃん。水の加速技、こんな初披露になってしもうた。

 

「冷えたか」

「「「「ヒエヒエです!!」」」」

「落ち着いたらないい、はい、全体ヒーリング~」

「「「「うわーい」」」」

 

 愛バの回復は操者の務め、耳が凍結した程度なら触れるまでもなく秒で完全回復させてみせる。

 

「ベホマラーすごいね」

「これを無詠唱で連発するのですから、驚きです」

「あんま褒めないでくれ。こんなん操者なら誰でもできる」

「最早恐怖すら感じる無自覚」

「それでこそですよ」

 

 発情期を落ち着かせて本題に入る。今日中に決めたいから、こっからはマジでいくぜ!

 

「あれタブレットは?タブレット~」

「はい、どうぞ。一連のゴタゴタで床に落ちてたよ」

「ありがとう。壊れてはないよな、入力は・・・はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「どうしたの?」

「こ、これ」

「「「「んんんん?」」」」

 

 全員で画面を注視する。

 タブレットの画面に表示されていたのは『申請ありがとうございます』の一文。

 入力した覚えもタップした覚えもないのに、なんで?

 そのまま続きの文字を追っていくと・・・

 

 『あなたのチームは正式に登録完了致しました』

 

 『チーム名【ああああ】

 

 『チームああああ様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます』

 『なお、万が一決定したチーム名を取り消したい場合は数ヶ月経過した後に再設定可能になります』

 『例え「ああああ」というふざけた名前でも自業自得ですので我慢してお使いください』

 『じゃあの「ああああ」のアホどもwww』

 

 なん・・・だと・・・。や・・・

 

「「「「「やっちまったぁーーー!!!」」」」」

 

 どうしてこのような結果になったのだ。推理する必要が、ないね!

 どうせアレだろ、俺が精神攻撃されている間のひと悶着中に起こった出来事でしょ。

 

 タブレット落下→愛バが俺に何かしてる→なんやかんやで「ああああ」と入力申請しちゃった。

 

 テヘペロですまねぇよ。

 お祈りメールみたいな文章送って来た人?(もしくはAI)が最後の方キレ気味だし。

 自動返信じゃないのかよ!アホどもって言われた(´Д⊂グスン

 

「きっと、アル姉がハッスルしてる時だね」

「私のせいにしないでください。タブレットの一番近かったのはココさんでしょう」

「し、知らないよ。そもそも「ああああ」とかどうやって入力するの」

「犯人捜しはやめましょう。これは我々全員が愚かだった故に起こった事故です」

「シロの言う通りだ。この責任は操者である俺の不始末が原因だ。みんなすまん・・・」

「頭を上げてくださいマサキさん」

「そ、そうそう「ああああ」とか逆に斬新でいいかも」

「「ああああ」とかゴルシちゃんでも躊躇するレベルだし・・・言ってて悲しい」

「ふぅ、皆さん肯定的で安心しましたよ。まさか、おふざけで事前入力していたなんて言い出せな・・・」

「シロ、お前って奴は」

「あ、やべ」

「「「「クレイジーダイヤモンドォォォーーー!!」」」」

「マサキさん。どうかベホマのご用意を、ご、ごめんなぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!」

 

 おバカなシロが仲間の手で吊るし上げられた。

 俺が止めなかったら耳と尻尾を引っこ抜かれていたかもしれない。反省するように!

 ぐだぐだな会議はボロボロになったシロの治療をして解散となった。

 

 それから・・・

 

 姉さんと理事長には怒られるし、ヤンロンたちには呆れられるし、生徒たちには笑いものにされて散々だった。

 ち、違うんです、悪ふざけじゃないです。

 ちょっと事故がありましてね。はい、わかってます!全部俺の責任です!

 

 こうして俺たち5人はチーム「ああああ」としてスタートすることになった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「なんて日だ!」

 

 放課後、日課の修練を終えて帰路に着く。隣にはアルも一緒だ。

 珍しく声を荒げてプンスカするアルを宥める。

 

「よしよし、こういう日もあると思うしかないよな」

「さすが、マサキさんは達観されてますね」

「悟り、もしくは諦めともいう」

「ああああですよ。ああああ、ああああ、あああああああああああああああああ、何なんですか!」

「待て待て待て!お前が壊れたらブレーキ役がいなくなる」

「気付いてないのですか?私はこう見えてアクセル側です!」

「うん!知ってた!でもアクセル踏みこむ前にね、ちょっと深呼吸して」

「クラスメイトにチーム名「ああああ」て言った時の反応、知りたいですか?」

「もういい!アルは頑張った、お前は今泣いていい!泣いてもいいんだ!」

「マサキさ~ん~。うぇ・・うう‥‥ぐすっ」

「おーよしよし。大丈夫大丈夫だからな、お前は何も悪くない」

 

 きっと腫れ物に触るような対応をされたのだ。

 ドン引きして苦笑いを浮かべる友人たちを前に申し訳ないやら、恥ずかしいやらでストレスがマッハ!

 アルはちょっと壊れてしまった。いや、これがこの子の素なのかも?

 この分じゃ他の3人もメンタルが心配だ。後でフォローを入れておくか。

 

 家に到着した頃にはアルも落ち着いていた。

 

「すみません。取り乱してしまって・・お恥ずかしい」

「謝らないでいい、こっちはお前のいろんな表情が見れて嬉しかったりするんだ」

「もうっ///そうやってあなたは・・・」

 

 シワにならないよう上着をハンガーにかけ、座布団に着席。

 家には和室と洋室があって和室には丸テーブルのちゃぶ台と座布団完備だ。

 緑茶を入れて湯呑をアルに進める。あ、茶柱!ラッキー!

 

「それで今日はどうした?俺に相談でも」

「はい!大事なお話があります」

 

 湯呑をガッと掴んだアルはあったかい緑茶を一息で飲み干す。ぬるめに入れといてよかったぁ。

 

「ん・・・ぷはっ・・・マサキさん」

「はい」

「アンドウマサキさん」

「はい、何でしょう!」

「私と、このメジロアルダンと正式に契約してください!」

「え、はい、喜んで」

 

 あれ?あれれ?契約は既に済んでいると聞いていたような。

 正式にという単語を強調したところをみると、俺とアルって仮契約止まりだったの!?

 

「それは私が悪いのです。実は・・・」

 

 仮契約の経緯について説明を受ける。

 アルと会って神核のパズルを解いたあの日、俺はパズルの完成と同時に気絶してしまった。

 その時、頬にできた擦過傷からアルが俺の血を舐めとってしまったのだという。

 

「本当に、本当にッッ!申し訳ありません!余りに卑しい行為でしたので、明るみに出るのが恐ろしく今まで黙っていました。無許可で血を摂取するなんて・・こんな騎神、気持ち悪いですよね」

「そんなことない。俺の方こそ今まで気付かなくて悪かった」

「今からでも遅くありません。あなたが嫌だというのなら遠慮なく契約を解除して・・」

「それだけは絶対に断る」

 

 解除したらどうなるか知ってるか?お前、俺の事忘れちまうんだぞ。

 マックたちから聞いた話だと、解除後の忘却症状は御三家の血筋に連なるウマ娘だと特に顕著らしい。

 優秀な血だからこそ、釣り合わない人間の事はサッサと忘れて次に行けってこのなのかね。

 

「ココからお前が愛バになってると聞いた時、驚いたけど「やった!」て思ったんだ」

「・・・・」

「これで見ず知らずの操者に嫉妬しなくてすむって、心底安心したんだ。クロやシロがいるってのに、そんな事考えていたんだぜ。マジでサイテーだと思うわ・・・で挙句にココとも契約して」

「・・・・」

「俺はこんなフラフラした男で、今でも足りない情けないばっかだけど、それでも、お前を手放したくはない。お前はどうなんだ?後悔・・・してるか?」

 

 目を見てしっかり伝える。言葉は途切れ途切れで語彙も貧弱、でも伝われ、伝わってくれ。

 

「後悔なんてするはずない、あなたを困らせてしまったのではないかと、ずっと不安で苦しくて。血を舐めた事、あれは衝動的な・・・でも、本心から行為でした」

「うん。凄く嬉しい」

「私、このままじゃ嫌です。もっとちゃんと繋がっていたい、あなたが、マサキさんが欲しい」

「今更だが照れる」

「フフッ、私もです。でも、なんだかスッキリしました」

 

 ようやく笑ってくれたので、俺も一緒に笑う。どうやらお互いに緊張していたようだ。

 なんかこの部屋熱くね?そうだお茶飲もうお茶、茶柱が立ってるうちに飲んじゃえ。

 ぐいっとな。

 

「マズっっっ!よくコレ一気飲みしたな!」

「確かにちょっと苦かったような、緊張で味を気にしてませんでした」

 

 お茶の入れ方がどうこうじゃなくて、茶葉が終わっとる!

 うげっ!「クスハ印の緑茶風青汁」てパッケージに書いてあるし!結局青汁じゃないか!

 ノーマルクスハ汁よりマズいってどうかしてる。道理でワゴンセール品だったわけだ。リピしません。

 

「今から正式契約するってことでOK?]

「はい、そのつもりで来ました」

「血吸う?」

「吸いますね」

「そうか・・・ちょっとトイレ行ってきていい?」

「どうぞ」

「・・・なんでついてくる?」

「信用してないわけではないですよ。ただ逃げられては困るので」

「悲しいほどに信用されてないね」

 

 ココの時は痛みが無かったが、アルの場合がそうであるとも限らない。

 クロとシロの時の激痛がフラッシュバックして、少々怖気づいてしまっても仕方なかろう。

 えっとぉ、うちのトイレに窓は・・ないね!扉の前で待ってるし、もう逃げられないぞ。

 やだ///出すときの音とか聞かれた恥ずかしい(/ω\)

 

「耳は塞いでおきますので、存分になさってください」

 

 聞こえてるじゃねーか!どうしてウマ娘すぐ嘘つくのん?

 嗅覚にしてもそうだし、本当は匂いでモロバレだけど優しい私はスルーします的な案件多くね?

 

 トイレから出て手洗い中も監視されてる。ニコニコ顔が怖い。

 これ他の3人に助けを求めるべきか?いやいや、ここまできてそれはちょっと・・・

 

「マサキさん。こっちです、こっち」

「はいはい、もう好きにしてくれ」

 

 俺の家なのに迷いなく誘導するってなんなの?

 そしてここは、洋室のベッドルーム。俺は畳にお布団派なので余り使用しない。

 だけど、愛バの好みがありましてね。こうして家具屋ら私物やら着替えやらを置いていくわけよ、どうしてかは察して!

 先にベッドへ腰かけたアルに手招きされるたのでお隣に座る。

 

「そういえば、テスラ研でもベッドに座ったな」

「そうですね。懐かしい」

「・・・・」

「・・・・」

「今日めっちゃ天気よくない?」

「はい、快晴ですね」

「・・・・」

「・・・・」

「晩御飯、何食べようか」

「よかったら私が作りましょうか?リクエストして頂ければ何なりと」

「アルの料理は上手いからな。何にしよう、この間ヤンロンが麻婆豆腐を、いや、今日はカレーの気分かも」

「では、折衷案でマーボーカレーでも」

「そんなんできるの!すげぇ」

「・・・・」

「・・・・」

「か、買い物行くか?」

「いいですね。今日は近所のスーパーがお安くて」

「・・・・」

「・・・・」

 

 う、動けねぇぇぇーーー!

 あの激痛が来るかもと身構えてしまい、不毛な会話をただ繰り広げるのみ。

 アルも距離の詰め方がわからず戸惑っているようだ。

 こんなんじゃダメだ!ええい!覚悟を決めろ俺!

 

「のわぁぁぁぁぁんん!」

「きゃっ!マサキさんがベッド上でエビぞりに!?発作?それとも何かの儀式ですか!」

 

 エビぞりから大の字にフォームチェンジ。まな板の上の鯉です。

 

「鯉というよりマグロでは?」

「そうかもね!何が正解でどうすればいいかわからん!アルの好きなようにやってくれ!」

「わ、私の好きなようにですか。えーと、ど、どうしましょう」

「クロとシロは首をガブリ!ココはおでこをペロペロしたぞ」

「まあ!それはそれは・・・決めました。覚悟はいいですかマサキさん?」

「一思いにやってくれい」

「では、いきます」

「・・・・」

「あ、すみません。もうちょっと待ってください、今向こうが片付きそうなんで」

「なんだよもう!」

 

 痛いのは嫌だけど、アルを悲しませるのはもっと嫌だ。

 また気絶すんのかなぁ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 少し前のこと

 

 マサキの住んでいる部屋は角部屋であり、隣室は空き部屋のはずなのだが、今日は一味違った。

 部屋の中に3名のウマ娘がいた。彼女たちはマサキたちが帰宅する前に先回りして潜伏していたのだった。

 3人のウマ娘が持てる技能を駆使して隠形をし、気配を完全に遮断したままマサキの部屋の様子を伺っている。

 壁に耳ピト状態のウマ娘たちは息を殺してその時を待つ。

 

「どう?始まった?」

「シッ!なんかトイレがどうとか」

「マサキさん、ヘタレてしまいましたか」

 

 アルが今日、マサキに正式契約をお願いすることは本人の口から聞いている。

 契約は神聖で特別な誓いの儀式だ。

 それを邪魔するなんてとんでもない!だから、邪魔しないようにコッソリ見守ることにした。

 これはマサキさんの愛バたる私たちの権利であり、重大任務である。

 暴走したアル姉がマサキさんに危害を加えるような事が無いとも限らないから待機しているのであって「あのドスケベがどんなプレイをするのか見てぇ!」という野次馬根性など持ち合わせてはいないのだ!

 

「リューネさん、よく部屋を貸してくれたね」

「賄賂を少々と、今度お店のお手伝いをする約束で手を打ってくれました。ウエイトレスのバイト頑張ってくださいね、クロ」

「私だけかよ!バイトはシロとココも道ずれだからね」

「お、ベッドの方に行ったよ!」

「「キター!」」

 

 声は最小限に抑えてますのであしからず。唇の動きを読めば大体わかる。

 

「天気の話とかどうでもいいよ!」

「アル何やってんの!いつものドスケベで押せ!」

「くそっ…じれってーな 私ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!」

「シロならそう言うと思った、お供するよ」

「同じく。マサキの愛バたるものやらしい現場に踏み込む時も一緒」

「クロ、ココ、二人が真性のゲスでよかったw」

「「お前もなww」」

「はーい、そこまで」

 

 3人で突入の意思を固めたところで誰かが私たちのいる部屋に入って来る。

 ちゃんと鍵は閉めたはずなのに、マスターキーを持っている人物だと!

 

「「「リュ、リューネさん!!!」」」

 

 大家さん来ちゃった。もはやこれまでか、だが諦めませんよ。

 

「邪魔しないでください!今から我々は、隣の部屋をイヤンでウッフンな感じにしないとけいないのです」

「バカな事言ってないでずらかるよ。二人の邪魔しちゃダーメ」

「ちっ、アルめ!リューネさんに話していたなぁ」

「そういうこと、おバカな3人をある程度泳がせた後排除してくれってお願いされてんのよ」

「う、裏切りです!私からの賄賂と"クロの1日奴隷券"を受け取ったはずなのに」

「待てや!1日奴隷とか聞いてないぞ、この外道ダイヤ!」

「騒ぐとバレるよ。いいのかな~、これって盗聴というか質の悪いストーキングだよね。マサキに幻滅されちゃうなぁ」

「「「ぐぬぬぬぬ!」」」

「わかったなら部屋から出た出た。いい子には臨時収入で焼肉奢ってあげるからね」

「焼肉!?行こう行こう」

「それ、私の賄賂じゃないですか」

「こうなる予感はあったけどね。アル・・・応援してるから頑張ってね」

「アル姉にも幸せのお裾分け~」

「アル姉さん、無事契約を終えられるよう祈ってます」

 

 大人しく部屋を退去する3人に胸をなでおろすリューネ。

 最悪の場合は自らの愛バを招集するつもりだったが、何とか杞憂に終わってくれた。

 

 (なーんだ、ちょっとアレだけど、いい子たちじゃん。ちょっとアレだけど)

 

「「「見逃すのは今日だけだけどな!!」」」ニヤリ

 

 残念!かなりのアレだった。

 二ヤリを通り越して、ニチャァァという粘っこい笑みに狂気を感じる。

 

 (こりゃ、マサキも大変だな)

 

「リューネさーん。早く~」

「はいはい、今行くから待って」

「こうなればやけ食いです。待ってなさい私の特上カルビ!」

「焼肉店にラーメンってあるのかな?」

「「肉食えや」」

 



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こいつエロいぞ!

 ずっと仮契約だったアルと正式に契約を結ぶことになりました。

 はい、緊張してます。

 

「お邪魔虫はいなくなったみたいですね。これで心置きなく契約できます」

「なあ、隣の部屋から物音しなかった?・・おかしいな、確か空き家のはず」

「幽霊かもしれませんね」

「や、やめろよ。そんなので俺をビビらせようだなんて、効果抜群なんだからね!」ガクブル

「ご安心ください。マサキさんを害する者は、例え幽霊だろうと蹴り倒してみせます」

「やだっ、カッコイイ////」ポッ

 

 なによ男前じゃないの。漢女とかいて「おとめ」と読んでしまうわよ。

 

 いよいよ契約だ、その前に筋は通しておかないと。

 仰向けに寝ていた体を起こし(大の字になっていた意味なし)ベッドの上に正座する。

 佇まいを直した俺に同調するようにアルも対面にちょこんと正座した。

 はい、カワイイ!身のこなしが一々カワイイよ!

 この子、俺の愛バ(仮)です。今から(仮)が外れるんですよ、エヘヘ。

 

 正座して向かい合い見つめ合う。これこそが、お見合い・・・ゴクリッ。

 

「メジロアルダン。俺と契約して正式な愛バになってくれないか」

 

 毎度のことだが、魔法少女を勧誘するインキュベータ―みたいなセリフだ。

 

「その契約、謹んでお受けいたします。私はあなた様の愛バとして共に歩むことを誓いましょう」

「凄く嬉しい」

「私の方が嬉しいですよ」

 

 誓いの言葉が告げられる。様付してくれるからゾクゾクしちゃう。

 

「アンドウマサキ様。どうか、私と契約して唯一無二の操者となってください」

 

 今度はアルからの申し出、言葉の応酬を重ね互いの意思を確認していく。

 

「答えはもちろんイエスだ。俺は君の操者になる。これからも仲良くやっていこう」

「はい。誠心誠意お仕えさせていただきます」

「そう硬くならず、ゆるくまったりでいいからな」

「わかりました。ゆるりと参りますね」

 

 さあ、ここからだ。

 マサキ、今から吸血されちゃうのー!

 

「それで、どこから吸う?」

「やはり頬っぺたから頂こうかと」

 

 アルがこちらの右頬に手を伸ばす。逃げたらアカン、ここは彼女の好きなようにさせてやろう。

 細くしなやかな指が俺の頬を撫で回す。ああ~くすぐったい、ゴロニャーゴ。

 

「チクッとしますよ」

「ひょ?」

 

 覇気を込めた爪で頬の皮を浅く裂かれた。下手なナイフよりいい切れ味ですね。

 ダメージ0.2ぐらいで痛みはほぼ無し。

 血はちゃんと出ている、お布団に血痕が!事件現場みたいだよぅ。

 

「勿体ないです。あ・・む・」指チュパ

「うわ、エロ。エッッッロッッッ!!」

 

 指に着いた血を舐めとるアルがエロい!俺の愛バ全員エロいです、最高です!

 

「直にいきます」

 

 顔を近づけるアル、フワッと鼻腔をくすぐる良い匂い。

 最初は頬に軽くキス、そこから流れる血を舌で丁寧に舐めたり吸われたりする。

 もうレロレロチュパチュパですよ!水音がエロい!吐息もエロい!

 夢中で頬をチュパるアル。例にもれず興奮状態になってしまったようだ。

 

「う、なんかくすぐったい」

「もう少し・・チュッ・・お願いします・・ん・・・」

「大丈夫、逃げたりしない」

 

 正確には逃げられない。本能で俺の体をがっちりホールドしていらっしゃる。

 契約時のウマ娘はみんな肉食系なのね。よいぞよいぞ、美味しく召し上がれ~。

 慣れたもんで儀式もそろそろ終わりだろうというのが、何となくわかる。

 

 

 ・・・こんな幸せが訪れるなんて、あの頃は夢にも思いませんでした・・・

 

 ・・・あなたに出会ったあの日から、ずっと幸せなんですよ・・・

 

 ・・・だけど、困ったことになりました。抑えが効かない・・・

 

 ・・・いけないことなのに。願ってしまう、望んでしまう・・・

 

 ・・・もっと欲しい!もっと強く、もっといっぱい、もっともっともっと・・・

 

 ・・・浅ましくて我儘で欲張りで恥知らず。これが私です・・・

 

 ・・・それでも、一緒にいることを許してくださいますか?・・・

 

 (許すも何もないんだがな)

 

 (お前たちは何でこう、変なところで自分に厳しいんだよ)

 

 (頼りないかもしれないが、少しは寄りかかってくれていいんだぜ)

 

 (俺だけで不安ならクロもシロもココもいる。もう全力でおぶさってやれ)

 

 (持ちつ持たれつだ。みんなで支えあっていこう、それって凄く幸せじゃね?)

 

 (結論!アルは俺たちとずっと一緒にバカやってりゃいいんだよ)

 

 ・・・嬉しい嬉しい嬉しい・・・

 

 ・・・あなたこそ私の操者、私たちの王、身も心も魂も、私の全てを捧げます・・・

 

 (照れるな////)

 

 ・・・私、もっと幸せになりたい。あなたを幸せにしたい・・・

 

 (俺も同じ気持ちだ)

 

 ・・・約束ですよ・・・もっとずっと、最高に幸せになりましょう・・・

 

 ・・・誰一人欠けることなく、みんなで・・・

 

 (ああ、みんなでハッピーになろうな!)

 

 これにて契約完了!でいいよな。

 

 痛みも無く、気絶することもなく契約は無事完了した。

 俺の頬から口を離したアルは冷静になったのか、青くなったり真っ赤になったり顔色をコロコロ変えた後、しばらく土下座をしていた。

 復活したアルは俺の頬っぺたを濡れタオルで拭ってから丁寧に絆創膏を貼ってくれた。

 

「やはり消毒しておきます?」

「いいよ。こんな傷すぐに完治するさ」

「マサキさんの頬をベッチョベチョの唾液まみれにするなんて、なんという無礼千万!もう切腹した方がいいですか?」

「だから気にしなくていいって、アルにベッチョベチョにされるなんて本望さ」

「このままでは私の気が済みません!そうです、今からマサキさんが私をベッチョベチョにしてくだされば解決なのでは」

「ほう。ベッチョベチョになりたいと申すか」

「はい、それはもう。ベッチョベチョのグッチョグチョにしてくださって結構です!」

 

 なんだこの会話wベッチョベチョ言い過ぎや!

 

「ベッチョベチョは置いといて腹が減ったな」

「契約完了祝いです。今日は腕によりをかけて料理しますね」

「そいつは楽しみだ。そんじゃまあ、買い物行くか」

「お供します。ですが、その前に確認したいことがあります」

「何、遠慮せずに言ってみ」

「夕飯の後はいかがなさいますか?」

「風呂入って寝る」

「え、そ、それだけですか?」

「心配せずとも、アルは飯食った後にキチンと寮まで送っていく」

「そうではなくて!もう、察してください。今日は帰りたくないんです」

「ほぇ?」

「私・今日は・帰りたく・ないんですぅ!」

 

 帰りたくないだと?

 部屋にGが出たとか、汚部屋の中に足の踏み場がないとか、鍵を無くしたとか、ゴルシに不法占拠されたとかじゃないようだ。

 であるならば・・・・

 

「お嬢様、お泊りコースをご希望でございますでしょうか!?」

「はい////」

 

 照れながらもしっかり頷くのを確認。

 ほうほう、ほうほうほう、意外・・でもないか、俺の愛バは攻める時は攻める子です。

 

 部屋の隅にあるクローゼットとタンスをチラッと見る。

 いつの間にか設置されたそれには俺の衣服ではなく、愛バ(通い妻)たち4人の衣服が入っている。

 他の部屋にも歯ブラシやらお気に入りの私物やらが日に日に増えてきましてね。

 へへ、ここ俺が借りてる家なのに女の子の匂いがするんだぜ。

 やだー!お泊りの準備万端じゃないですかー!

 ホントは全然いやではないわー!同棲してるみたいでメッチャ嬉しいわー!

 でも、フルフロンタルフィギュア(下半身キャストオフ可能)はいらないわーwww

 

「あの全裸男、誰が持って来たんだ?」

「シロさんがクレーンゲームでゲットしたのですよ。下半身のアレにちょうどクレーンの爪が引っ掛かりまして」

「いだだだだwwサイコシャードが発動しちゃうw」

 

 なんか可哀そうになってきたので捨てずに飾っておこう。

 

「お泊りは・・ダメ、ですか?」

「ダメじゃないけど。体の方は大丈夫か?契約の反動で一気に疲れが来るパターンもあるし」

「それが全く問題ありません。すこぶる快調でピンピンしてるというか元気が有り余ってます。マサキさんはお疲れですか?」

「いや、俺もなんか元気だ」

「私、調子に乗って吸血し過ぎましたか!?もう自害した方がいいですか!!」

「せんでいい!」

 

 契約の反動にも個人差があるのかね。

 今回、痛みは無かったし気絶もしなかった。

 疲労より空腹の方が強い。三大欲求が高まっている感じはするな。

 

「ガッツリ飯食って風呂入って爆睡だな」

「そんな、寝る前にやることやりましょうよ。そんな淡泊でこの先どうするんですか!」

「アッサリ風味の俺は嫌いか?」

「嫌いなわけないです!でもでも、今日はこってり濃厚なマサキさんがいいんです!」

「ネッチョリ?」

「ドッロドロのネッチョリです」

 

 さっきからアルの使う擬音がおかしい。

 どうしたもんかねと考えていると、背後からギュっと抱き着かれる。

 いつも以上に積極的・・・まさかこれ、契約の反動で発情しているのでは?

 それともただ単にアルがエロいだけか。

 

「マ・サ・キさん」

「密着されると幸せ、でも動きずらい」

「メジロの女に伝わる秘伝、試してみたいと思いませんか?」

「料理の?」

「エロのです」

「ハッキリ言うねwまあ、興味がないと言えば嘘になる」

「今の私、何だかおかしいですよね。ですが、このままの勢いでアレやらコレやら、やってしまいたいです」

「ど、ど、どんなことをする気だ。参考までに教えて欲しいかな、なんて」

「クスクスッ、例えば・・・あーんなことや・・こんなことも・・それから」

「なぁっ!なんだとぉぉぉーーー!」

 

 耳元で囁かれる奥義の数々を想像した俺は生唾を飲み込む。

 アレでコレでそれを!?この子がしてくれるだと・・・

 この綺麗で可愛くて穢れを知らない無垢で清楚なお嬢と思ったらドスケベがぁぁ!

 ええぞええぞ!そういうの大変いいと思います!!

 

「どうします?ご休憩コースで満足・・・できますか」

お泊りコースでお願いします!!!

「はい♪一名様ご予約承りました」

 

 ルンルン気分で買い物にレッツらゴー!

 制服着た生徒と仲良くショッピングしても皆「今日も仲がいいのね」で済ませてくれる。

 ご近所さんは空気の読めるいい人ばかりだ。

 人心掌握に優れた見目麗しい愛バたちによる、十分な根回しが功を奏した結果だ。

 こういうところはさすが御三家令嬢だなと常々思う。

 俺と愛バたちの関係は周知の事実ってことです。

 好きな女を連れて夕飯の買い出し、とても幸せやん。

 

 夕飯には麻婆カレーの他に牡蠣や鰻にアボガドを使った料理がずらりと並んだ。

 俺も手伝ったけどアルの手際の良さには感動しっぱなしだった。

 いい嫁になると言ったら「いい旦那様に釣り合うように頑張ります」と返された。

 ホント攻めるなぁ。

 

 いただきますして夕飯タイム。

 いや、マムシドリンクは遠慮し・・・スッポンドリンクならいいわけじゃねーよ。

 なんか恐ぇよ、どんだけ精をつけさせたいんだよ。

 美味しいからいいけどさぁ。納豆にオクラ・・ネバネバしたのも多いな。

 

「今、懐から何出した?酒だな!酒なんだな!」

「健康飲料メジロ水ですよ。これを飲まないと1日が終われません」

 

 気のせいかな?メジロ印のラベルが剥がれかけた瓶には別の文字が刻まれたラベルが。

 えーと、ス、スピ、スピリ・・タス!?

 

「メジロ水です」

「アッハイ」

「マサキさんは絶対、ぜーったいに飲んじゃダメです。冗談抜きで死んでしまいますから」

「あらやだ怖い」

「ああ~効くぅー、今日も最高に美味しいです」

「操者からのお願い。肝臓大事にしてあげてよぅ」

「その辺は心得ております。手足が震える前には止めますから」

 

 クロたちが言っていた「アル中のアル」とはこのことかいな。

 いざとなったら病院に放り込むとココが息巻いていたが、大丈夫だよね。

 

 メジロ水でほろ酔いのアルは妙に色っぽいが、タガが更に外れた感マシマシ。

 食後の風呂は一人づつ交互に入り、先に上がった俺はベッドで仰向けになりウトウトしていた。

 はう~、腹も膨れて体温もいい感じ、このまま眠りたいんじゃぁ~。

 

「ダメですよ、マサキさん」

「ん・・お・・・アル。上がったのか・・・」

「仕方ない人、これは私に対する挑戦と受け取ります」

「アル、今日はもう寝ようぜ」

「夜はこれからですよ。眠気なんて吹き飛ばしてあげます」

 

 あらあら、掛け布団のつもりかしら。

 マウントポジションから俺に覆い被さって・・濃厚なチューをされちゃいました。

 そのままキスの嵐が下の方へと!?

 

「よし起きた!起きたからぁ!心の準備だけさせて」

「こっちは朝からずっと我慢していたんです。もう誰にも止められません♪」

「キャー!アルさんのエッチ!ドスケベサキュバス!愛してるぞ・・・おほぉ!?」

「私も愛してますよ。フフッ、ここが弱いんですね」

「ひぎぃ!待って、そこはぁぁぁんん」

 

 しまったぁ!マムシでもスッポンでもいいから飲んどくべきだったぁ!

 干からびた俺の死体が発見されでもしたら大変なことになる!

 死に方としては悪くないと思った。けど、やっぱり死にたくない。

 そうこう言ってる間にもアルがアレしてコレして、何?何が起こっているの?

 もうわけがわからないよ。

 

「マサキさん可愛い・・・感度3000倍にしてあげますね」

「う、うわあぁぁぁすんげぇぇぇーーー!マジどうなってんだコレ!?」

 

 なんという超絶技巧!このマサキ、心底感服いたしましたぞ!

 

「あ、あ、ああ、うひぃ、それヤバ、もムリ・・・アッーーーーーーー!!!

 

 たっぷり弄ばれちゃった////(/ω\)イヤン

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「スー・・・スー・・・」

 

 規則正しい寝息が聞こえる。

 掛け布団と化したアルが俺の体にしがみつくように寝ているのだ。

 こんな男の胸板を枕にして楽しいですか?

 おぱーいやらアレコレ当たってる俺は楽しい嬉しい、思わずニッコリです。

 

「幸せそうな寝顔しちゃってまあ」

 

 昨夜はあれだけ暴れたのに、こうなると年相応の美少女だ。

 外からスズメの鳴き声がする。

 朝チュンタイムと言うことは朝6時前後か、アルが起きるまでもう少し寝ていよう。

 指通りのいいアルの髪を撫でながら二度寝する俺に、フルフロンタルフィギュアが優しい眼差しを向けていた。

 見てんじゃねーよ。後で飾る場所を変えようと思った。

 

 ♢♢♢

 

「それで、寮に帰ると不法侵入したシロさんたち3人が私の部屋でお釈迦様ばりの座禅を組んでいたんです」

「なにそれ怖い」

「唖然と立ちすくむ私を見た彼女たちは、薄ら笑いを浮かべてこう言いました」

 

 もう大体想像できるよ。

 

「「昨夜はお楽しみでしたね」と・・・暇なのでしょうか?」

「アホなんだろうな」

「ムカついたので鼻で笑って見下すと「か、勝ったと思うなよ!」と捨て台詞を吐いて逃げ出しました」

「強くなったなアル」

「もう正式な愛バですから、いつまでも嘗められたままじゃいられません」

 

 その3人は俺の所に逃げて泣き喚いたから大変だったんだぞ。

 一夫多妻のギネスでは確か妻が130人、子供が203人の93歳男性がいたらしい。

 そう考えると4人の愛バで右往左往している俺はまだまだだな。

 

 アルの正式契約が終わって数日後。

 医務室にて行われた健康診断はどの数値もいたって良好。

 反動も出ていないし他の愛バにも悪影響は無し、今は5人の間で上手く覇気循環出来ている。

 今後も油断せず定期的なチェックは行うが、ひとまずは安心していいだろう。

 

「もういいぞアル」

「???」

「首を傾げてないで服を着なさい」

「あの、医務室ですよ?今二人きりですよ?」

「それが何か?いいから、サッサと服着ろ」

「こんな絶好のシチュエーションを逃すなんて!もしかして、焦らしプレイしてます?」

「してねーよ!ここ学園!俺仕事中!いくら両想いでも節度守るべし!」

「ダメですか?」

「上目づかいカワイイ!けどダメ!気持ちは非常に嬉しいが時と場所をわきまえなさい」

「わかりました。我慢して我慢して、解放した方が燃え上がりますよね」

「ああうん。もうそれでいいや」

 

 あの日から一皮剥けたというか、頭のネジが外れたアルであった。

 それに釣られて他の愛バも・・・だめだ、あいつら既にネジを止める穴が無い!

 

「誰か来ます」

「察知早いなってコラ、なんで机の下に潜り込もうとする?」

「周囲に悟られないように行うスリルと興奮。これも鉄板のシチュですよね」

「なんか最近、シロみたいになったな」

「またまたご冗談を、あそこまで堕ちてません・・よね?」

「五十歩百歩だな」

「私、シロさんと同レベルなんですか!?ちょっと心療内科に行ってきます」

「そこまでするほどか!」

 

 愛バたちの間でシロがどういう扱いを受けているか心配になってきた。

 あいつ滅茶苦茶頭いいのになぁ。バカと天才は紙一重を地でいく存在、それがシロだ。

 たまにビックリさせられることはあるけど、カワイイ奴なんですよ。

 

「マサキいる?よし、いたね」

「ノックぐらいしてもバチは当たらんよ」

「あら、ごきげんようシチーさん」

「アルダン?あー、もしかして取り込み中だった?」

「取り込む気満々だったのですが、マサキさんが素直になれなくて」

「アル、お口チャック」

「はい」

 

 医務室の扉を勢いよく開け放ったのは、ゴールドシチーだった。

 現役モデルと騎神の両立お疲れ様~。この前、雑誌で見た写真カッコ良かったぞ。

 

「で、何用?医務室はサボり魔たちの避難所じゃないと言ってるのに」

「今日はちがーう。ケガ人が出たの、訓練中にケガした子がいて」

「それを早く言わんかい!俺の患者様は何処だぁ!」

「張り切るマサキさん、可愛いです」

「連れてきてるから、さあ入って」

「し、失礼しますぅ」

「何回見ても白衣似合わねーしwヤブの匂いするし」

「へぇ、医務室ってこんな感じなん。ウケるw」

 

 最初に入って来たのは足を怪我したのか、肩を借りて歩く生徒(モブ)この子が俺のクランケ(患者)か。

 患者だけでなく心配そうに付き添う生徒たちもゾロゾロと入室して来た。

 医務室のキャパオーバーしているので数人を残して、後は外で待機してもらうことにした。

 

「これぐらい大したことないのに。もう、なんで今日に限ってウエンディ教官いないの」

「まあまあ、マサキはちゃんと資格は持ってるし、噂の半分はデマだから」

「半分は真実ってことじゃない。ヒーラーなのも嘘なんじゃ・・・」

「そったらこと言うもんじゃねぇよ。マサキさんの手当は天下一品だべ」

「ユッキー、フォローありがとう」

 

 付き添いの中に見知った顔がチラホラしてる。

 その中の一人、ユキノビジンが患者を励ましながら俺をフォローしてくれる。

 

 ユキノビジン

 雪国出身で都会オサレ女子に憧れるウマ娘。訛りがとてもカワイイ!

 スぺとはまた違った魅力のある純朴田舎娘ええぞ!

 シチーを筆頭に学園所属のギャルウマたちに可愛がられている様子だ。

 例の旅の途中、雪山で遭難した彼女を救助するべく行動して、二重遭難したのが出会いだったな。

 あの時はかまくらを作ったり、やけくそ雪合戦をして救助隊が来るまでしのいだっけか。

 

「組手中にちょっと捻っただけで、こんなの放っておけば治る」

「いいから、まずは患部を見せてくれ。ふむ、ちと腫れてる。触るぞ」

「いたッ!?」

「悪いが我慢して、ここはどうだ?こっちは・・・」

 

 触診と同時に覇気の流れ具合もチェック・・・これはただの捻挫じゃないぞ。

 

「飯ちゃんと食ってるか?最近、睡眠時間も足りてないだろ」

「え、何でわかるの」

「疲労が蓄積した結果、なるべくしてなったケガだな。覇気の流れも滞ってる」

 

 前にテイオーが無理していた時とよく似た症例だと判明。

 

「今回は捻挫ですんだが、下手をすれば疲労骨折もあり得たぞ」

「そ、そうだったんだ。ホント参ったな」

 

 足は騎神の商売道具であり、主武装であり、アピールポイントだから大事にしないとな。

 強い脚力こそがウマ娘の持ち味だ(腕力が弱いとは言ってない)

 

「じゃあ治療を開始する。じっとしてて」

「え、もう、うわ、すご!?」

 

 手のひらに覇気を集中して腫れた患部を手当していく、ウマ娘の生足を趣味で撫で回してるわけじゃないのです。

 

「手つきがやらしーし。存在がやらしーしww」

「何なんそれwwメッチャ光ってるんですけどーwwマジヤバたんw」

「そこのギャルウマ二人、邪魔だから出ていけ」

「怒んなし、ちょっとした冗談なのわかれ」

「ジョーダンだけにww」

「それなw」

「あはははははははwww」

「シチー、死人が出る前になんとかしろ」

「はいはい、二人ともちょっと黙ろう。アルダンの殺気わかるっしょ」

「「すみませんでしたマサキ教官殿!どうか殺さないでください」」

「わかればよろしい。アルも抑えて、ミニスパークやめなさい」

「お優しいマサキさんに感謝してくださいね」

「「かしこまり!!」」

 

 笑顔のアルを前に震えながら謝罪するギャル2名。

 ダイタクヘリオスとトーセンジョーダン、一見チャランポランだがトレセンに入る実力がある以上そんじょそこらのギャルとは違う、戦闘能力を有した強ギャルだ。

 

 この二人との出会いもひと悶着あったな。

 電車で移動中に痴漢冤罪容疑をかけられ涙目の俺。

 偶然居合わせたヘリオスとジョーダンが哀れに思ったのか、目撃証言と弁護をしてくれて容疑は晴れたのだった。

 

 ダイタクヘリオス

 笑顔の絶えない元気娘でパリピ。「ウェーイ!」系のノリはよくわからんが、いい子だと思う。

 ギャル語?を多用し、ゴルシ以上に何言ってるかわかんない時がある。

 確かメジロのパー子とも仲いいんだっけか。

 

 トウセンジョーダン

 ネイルをバッチリ決めたパッチリお目目の子。爪は女の命なんだそうだ。

 この子もね、見た目や態度こそはギャルだが、さり気ない気遣いのできるいい子なんだよ。

 何故かゴルシによく絡まれている。

 

 二人とも冤罪女にマジギレして、情けない俺のために怒ってくれた。

 当事者の俺を放置して罵声を浴びせ合う姿はちょっと怖かったけど・・・

 あの時、ギャルも捨てたもんじゃないと思わせてくれたのが彼女たちなんだ。

 最初「うわ!DQNかよ」とか思ってゴメン。

 因みに、自称被害女性は示談金目当てで冤罪をでっち上げる常習犯であり、自分が呼んだ警察にお持ち帰りされていた。ざまぁぁぁぁぁwww

 

 その二人がアルのデススマイルに怯えておる。調子に乗り過ぎたな

 

 (雷様がいるなんて聞いてないし)

 (ウェイウェイウェーイwうちら完全に目ぇつけられたーww)

 (シッチ―とユキノン、他人のフリしてんじゃんwおせーよw)

 (ヤバwカミナリ様マジ怖すぎ、リアルに泣きそうww)

 (こんなん後三体抱えてるとかwマサキもクッソヤベェーし)

 (マジそれなwww)

 

 (反省が足りないみたいですね)(#^ω^)ピキピキ

 

 ((うはっw雷様激おこwww))

 

 アルとギャル(アホ)二人が無言のまま目線だけで何やら会話しているが、放って置く。

 シチー、ヘリオス、ジョーダンのギャル系3人が一か所に集まると、なんか気後れするのは俺だけか。

 興味のないライブハウスに連れて行かれたような、下戸なのに酒豪だらけの宴席に招待されたような気がするんだよなぁ。ツラたん(´;ω;`)

 こういうとき純朴田舎少女のユキノがよい中和剤になって・・だめだこの子、ギャルを信奉してる。

 ギャルが嫌いなわけではない、俺の陰キャ魂が「ウェーイ」に拒絶反応をしてしているのだ!

 はい、どうでもいいですね。

 

 何考えてんだ俺、そんなことよりヒーリングに集中集中。

 

「どうかな?」

「嘘みたい、痛みが消えた」

「これぐらいでいいだろう。何事もやりすぎはよくない、それは修練にも言えることだ」

「全部お見通しか・・・私、先月の試験結果がよくなくて、どうにかしなくちゃって、それで・・・」

 

 ポツリポツリと胸の内を吐き出す患者、カウンセリングは専門外だけど親身になって話を聞いてあげることはできる。

 トレセン学園は入学するのも一苦労だが在籍してからも大変だ。

 完全実力主義の上に回りは全国から選りすぐられた怪物の如き力を持った者だらけ。

 その中で結果を出し続けることは並大抵のことではないだろう。

 彼女のように悩み葛藤し、オーバーワークをした結果にケガをしてしまう子も珍しくはない。

 うんうん、わかるよ。

 

「凄げぇ奴が近くにいると焦るんだよな。おいて行かれた、自分はこのままでいいのかって、な」

「教官にもそんな経験が?」

「俺の幼馴染に「貴様嫌味かっ!」て位の男がいるんだ。イケメンで博士号持ってる天才で大企業のトップやってる癖に操者で愛バいて、仕事もプライベートも満喫してるって奴がな!」

「そんなパーフェクトヒューマン相手にどう対処したの?」

「結局、俺は俺でしかない。一人でヤキモキして自分を追い込んでもしゃーなしだなって思うことにしたら楽になった。要は気の持ちよう・・・フッ、人生なんて所詮気分次第なのかもな」

「「「キモwww」」」

「DOQギャルどもは黙れ」

「そうです!マサキさん、とても良いことを仰いましたのに」

「あはは、そっか、気の持ちようだね。うん、私一人でテンパってたみたい」

 

 頑張ってたんだよな。えらいえらい。労いの意味を込めて頭を軽く撫でてやる。

 トレセンはただでさえ無茶苦茶な環境だ。

 同じ魔窟で苦楽を共にする仲間や教官に、愚痴なり相談なりぶちまけることをお勧めする。

 頑張ることはいいことだ。でも、頑張れなくなるまで自分を追い込んだらアカン。

 君を心配してこれだけの生徒がここに集まってる、1人じゃない、そのことを忘れないで。

 口に出すとまた「キモ」って言われるので覇気を通して伝えた。伝わったかな?

 

 治療を施した箇所にテーピングを巻いて終了。これでよし。

 ここ最近、修練後の愛バの他には鼻血出したマチタンと鼻血吹いたデジタルと鼻血垂らした姉さんぐらしかヒーリングしていなかったけど、無事に成し遂げたぜ。

 鼻血ばっかじゃねーか!もう耳鼻科行けよ。鼻粘膜はデリケートだから気をつけなはれや。

 

「全治一週間だな。急な運動はせず、二、三日は安静にしておくこと。一応、湿布出しておくけど、痛みが酷いようならまたここに来い」

「はい、ありがとうございました」

「「「「「おお~」」」」」パチパチパチパチ

 

 一連の治療風景を見守っていた連中から拍手が起こる。大袈裟な!恥ずかしいじゃないの。

 外で待機していた生徒たちも途中から中の様子をバッチリ見ていたようだ。

 

「マサキさん。お医者様みたいだったべ~」

「そう?俺ちゃんと医療関係者らしく振舞えてた」

「はい!さすが私の操者です。メジロの主治医も太鼓判を押してくれますわ」

「よせやい///」

「てれんなてれんな!実際大したもんだったし」

「ウェーイよくやったマサキン!ハイタッチしよ、ハイタッチウェーイ!」

「う、ウェーイ」

「ここに連れてきて正解だった。アタシの目に狂いはなかったってこと」

 

 やった!ワイはやったで!養護教官としてまともな仕事ができたんや。

 

「マサキ教官がいてくれてよかったです。本当にありがとうございました」

「ああ、お大事に」

 

 ヒーリングを施した生徒はスッキリとした表情で医務室を後にした。

 肩を貸してくれる友人たちと仲良く談笑している姿を見て、もう大丈夫だなと思う。

 

「お、お、おだ、おだいじに~」(´;ω;`)ブワッ

「「「何で泣く!?」」」

 

 うるさいな。知り合い以外の治療が出来た上に感謝までされて、感極まったんですー!

 

「素敵でしたよ、マサキさん」

「アル~。俺、養護教官としてやっていけそう。これからも頑張るよ」

「はい、応援してます」

「うっわ!アタシら無視してイチャつき始めたし」

「はわ~、これが都会っ子の余裕だべか。たまげたな~」

「ヤババw二人の世界ヤバババww」

「このままおっぱじめそうな雰囲気なんだけど、止めた方がいいのかな」

「君らもう帰ってくれる」

「そうです。私たちは今から軽めの運動するんで出て行ってください、ほらはよ」

「アルも教室に戻ろうな」

 

 アルを含むウマ娘たちを医務室から追い出し一息つく。

 あれがとうございましたか・・・お礼、感謝の言葉、言われて凄く嬉しい。

 よし!やる気が出て来た。書類仕事もガンガン片付けちゃうぞ。

 

「すみません、マサキさん!急患なんです」

「どうしたカフェ!急患とは穏やかじゃないな」

「それが、タキオンさんが七色の鼻血を噴射して」

「耳鼻科行け」

 

 せっかくいい気分だったのに、自分を実験体にしたアホにヒーリングするハメになった。

 何なのかねコレは、カフェには悪いがやる気がでんよ!

 マチタン流のティッシュでも詰めとけばいいか、えい、えい、むん!!

 はい終了ーはい解散ー!

 

 この日以降、医務室を訪れる生徒の数は目に見えて増加した。

 学園内でそこそこの影響力を持つギャル連中をはじめ、今日の治療風景を見ていた者たちの口コミによりマサキの評価が上昇したためだ。

 そんなことはつゆ知らず、マサキは忙しく充実した日々を送るのだった。

 

 ♦♦♦

 

 某掲示板の養護教官スレでは概ね好評な意見で溢れている。

 

 『ヤバすぎる、ヒーリング超キモチいいんですけど!』

 『本当に丁寧にやってくれる。優しくて話も面白い』

 『あのヒーリングが普通だと思わない方がいい』

 『普通にやってるけどアレ一回数十万円クラスのヒーリングだからな』

 『マジで!?』

 『マジマジ、専門機関でもあのレベルのヒーラーは数えるほどしかいない』

 『もしかして、アンドウ教官って凄い人』

 『御三家令嬢の操者だぞ。もしかしなくても凄いよ』

 『よく見るとカッコイイよね////』

 『匂いが最高にいい!』

 『『『『わかる~』』』』

 『毎回違うマーキングメッセ書かれてるのウケるw』

 『結構エグイのあるよねww愛バ以外の子もやってるみたいだよ』

 『へぇー、私も今度やってみようかな、なーんて』

 『おいバカ!やめろ!その発言はマズい!!!』

 『奴がクレイジーDが来るぞぉぉぉ!』

 

 『アカウントを特定しました』

 『まったく、多少の発言は許そうと思いましたが、おいたが過ぎたようですね』

 『美浦寮の○○号室のPCからですか、今から行きます・・・そこを動くな

 

 『ぎゃぁぁぁ監視されていたぁぁぁ!」』

 『Dじゃ!D様の祟りじゃぁーー!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル』

 『え、え、え、何?ひぃ!インターホンが鳴っ・・連打されてる!!』

 『待て!絶対に出るんじゃない』

 『誰かルドルフ会長かたづなさんにヘルプを!』

 『扉ガンガン叩かれてるよぅ。やだ、凄い唸り声が、外にああ外に何かいるぅぅ!』

 『もうマサキ教官を呼ぶしかない!』

 『早まるな。他の三体に気取られたら最後、状況が悪化するぞ!』

 『だったらどうしろっていうんだよ。アレらを相手するなんて無理ゲ―すぎる』

 『嫌、何か入ってき・・しょ、触手?しょくしゅがぁぁぁぁぁぁあああああああああああ』

 『・・・・・』

 『・・・・・』

 『・・・・・』

 『・・・落ちるわ』

 『私も』

 『そうそう早く寝ないとね』

 『いや~今日も平和だったな』

 『うんうん。みんなお疲れちゃーん』

 

 『ワスレルナ』

 『Dハイツモオマエラヲミテルゾ』

 

 『『『『はい肝に銘じておきます!!おやすみなさいD様!!!!』』』』

 

 このスレは終了しました。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「シロ、どこに行ってたんだ?」

「ちょっとコンビニまで」

「バスカーモードを使っただろ、何があったか言いなさい」

「身の程をわきまえない不審者に遭遇しまして、オルゴンテイルでちょっと威嚇してみました」

「ふーん。あ、俺のパソコン触った?悪さしてないだろうな」

「自作のセキュリティソフトをインストールしただけです。ルクスがサイバー攻撃を仕掛けてくるかもしれませんから、念のため」

「気が利くな。さすが俺の愛バだ、よーしよしよし」

「フフフ、もっと褒めてください~」

「風呂入るか」

「はい、お背中流しますね♪」

 

 今日も俺の愛バは優秀でカワイイのです。何の問題もありませんな!

 



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シャミ子

「寝るぞ寝るぞ~、おやすみなさいっと」

 

 寝間着に着替えた俺は部屋の明かりを消し、準備した布団へと滑り込む。

 今日は久々にロンリーな一人の夜だ。

 

「連日、私たちがベッタリではお疲れになるでしょう」

「ゆっくり休んでしっかり回復。そうしたら、また相手してね」

 

 という、愛バたちの提案で設けられた時間は、個人修練と仕事で使う知識の確認と準備で消費した。

 特に溜まってもいない家事を手早く片付けて、今日は早めに就寝することにする。

 一人でいる時間をもっと有効活用できると思ったが、上手くいかないもんだな。

 映画見たり、ゲームしたり、遊びに行ったり、外食したりは「あいつがいる時にやろう」と思っちゃうんだよな。同じ空間に愛バがいない、それが酷く寂しい。

 俺、愛バたちにどっぷりハマってるなぁ。愛バ中毒是非もなし!

 こうして一人になると愛バのありがたみがよくわかる。

 あのぬくもりが傍にいてくれる、それがどんなに幸いで嬉しいことか再認識した。

 みんな今何してるかな?ああ、早く会いたいな。明日は俺から甘えてみようかな?

 おやすみ、クロ、シロ、アル、ココ・・・・ねむねむ~。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で、ここはどこよ」

 

 気が付くと俺は知らない場所に立っていた。

 眼前には色とりどりの草花が咲き乱れている原っぱ。まあ、なんて綺麗なお花畑でしょう。

 俺ってば寝相が悪すぎて、自然豊かな場所まで来てしまったの?そんなわけない。

 

 マサキ知ってるよ。

 ここが自分の夢の中だって、クボかメルアが安眠妨害用ゴッドフィールド(神造謎空間)に俺を引きずり込んだんだって・・・拉致じゃん、ものすごく迷惑じゃん!

 神だからといって、俺の睡眠時間削ることは許しませんよ。

 

「クボーーー!メルア―ーー!いないのかーーー?」

 

 拉致犯であろう二人に呼びかけながら移動開始する。おい、返事しろコラ。

 ここが現実ではないことはすぐに判明した。

 歩き出してすぐ透明な壁にぶち当たったからね!顔から「ゴンッ」と鈍い音がした、痛いわ!

 気を取り直して探索続行。

 最初にいた場所の地面に目印を付け、見えない壁に手をつきながら移動する。

 ぐるりと一周して戻って来るまで体感時間でおよそ20分弱、ふむ、トレセンの敷地より若干狭い。

 壁に向かって覇気弾(威力小)を撃ってみると、壁に「もわわわ~ん」と吸収され無効化された。

 上に撃っても同様、あの青空や雲も偽物ですかい。

 どこまでも続くかと思われた花畑は見せかけで、ここは透明な壁で仕切られたドーム状の箱庭なのだ。

 

「あそこに行ってみるしかないか」

 

 遠目にチラチラしていたが、この空間の中心に建造物が見える。

 近づくにつれてそれが、お洒落なデザインの休憩所だとわかった。

 ヨーロッパの宮殿にあるようなアレだ。えーと、貴族様たちがお茶会するテラス席みたいな?

 石造りの屋根にテーブルとイスがあり、イスに腰かけて舟をこいでいる人物がいる。

 

「俺の安眠妨害しておいて、自分はうたた寝かよ」

 

 ありゃ?初めて見る顔の女だ。

 クボでもメルアでもない・・・まさか、ルクスの精神攻撃かっ!?

 あれは寝込みを襲うために送り込まれた刺客?夢で俺の精神を殺して、現実の俺もお陀仏作戦なの。

 敵味方の判断をするのは早計かもしれないが、警戒するに越したことはない。

 どうする?まだ距離がある内にブラスターを撃ち込んでみるか。

 

 ・・・あ、起きた。

 接近する俺の気配に気づいたのか、うたた寝女は目を覚ますと、キョロキョロ辺りを見回す。

 俺の姿を確認すると「はっ!」とした表情の後に、邪気のない微笑みを向けて来た。

 あらやだ、可愛いじゃない。

 女は席を立つと小走りに俺へと駆け寄って来る。もう、待ちきれないといった感じだ。

 しかし、焦っていたのか、何もない地面で転倒しそうになる。

 

「!?!?」

「危ねぇ!・・・っとと」

 

 アクセル(加速技)を発動させて瞬間加速、倒れそうになった女を正面から抱き留める形になった。

 ふわぁ~いい匂い。そして柔らかい!

 

「大丈夫か?」

「・・・・」コクコク

 

 声を出さずに頷く女。間地かで顔を見てギョッとする俺。

 女の外見は愛バたちと同じぐらい美しい、文句なしの美少女であった。

 恐ろしく整った美貌、華奢な体躯にきめ細かい白肌、青く煌めく長髪からはキラキラした粒子が零れているかのよう。高貴な者に特有の気品も感じられる。どこかのお姫様?

 う、美しい。愛バたちで美少女慣れしていなければ、危なかった・・・はぅ!

 

「な、なにするだぁ!」

 

 無言のまま、謎の美少女が俺をハグして来ました!

 そうしてスリスリしたりハスハスしたり、コラ!お尻を触るんじゃありません。

 慌てて少女の肩を掴んで引き離す。ホントに危ない。

 

「君は何者だ?名前と所属とスリーサイズを答えなさい」

「・・・・」

「黙っていたらわからん!返答次第では「成敗っ!」しなくては」

「・・・・」フルフル

「あくまで黙秘を貫くか、美少女なら俺が油断するとでも?甘い、グラブジャムンより甘めぇよ」

「・・・・」ブンブンッ

 

 豆知識、グラブジャムンとはインドのお菓子で世界一甘い食べ物です。

 否定するように首を振る美少女(刺客?)を見据える。

 日々、愛バたちからアレコレしてもらっている俺に対し、ハニートラップを仕掛けるとはw随分なめられたもんですなぁ。

 とりあえず、武器を隠し持っていないか身体検査だな。

 やましい気持ちは一切ない( ー`дー´)キリッ

 

 いい加減なんか言えよ。

 美少女は俺の言葉には答えず、上着の襟元を緩めると自らの首を指差した。

 何かを伝えようとしている?

 

「え、何?首?首絞めてほしいのか?そういうプレイの趣味はねーよ」

「・・・・!!」

「違うのか・・・ん?なんだこの痣は」

 

 首を一周するように、彼女の美しい肌には不釣り合いな痣がくっきりと浮かび上がっている。

 痣は何かを縛り付ける鎖のようだと思った。

 首を見せた後に「ここも、ここも!」とばかりに体の各部位に存在する痣を見せてくる。

 手首、足首、背中、胸元・・・もういいから、やめなさい!おぱーい見えちゃうから。

 俺は何故セルフおはだけした美少女(初対面)の服装を直しているのだろか?

 フフ、愛バの服装を日頃から直している経験が役に立ったぜ。

 

「何かの封印か?誰にやられた」

「・・・・」コクコク

「は?自分でやったの・・ハードMか」

「・・・////」ポッ

「否定しろよ。ちょっと見せてみな」

 

 手招きすると無邪気に近づいてくるM女。俺を信用しきっている顔だ。

 なんか警戒していたのがバカバカしくなった。

 敵意悪意は感じない。仮に敵だったとしても、その時はその時だ。

 これじゃ、愛バたちには呆れられてしまうな。

 

 ヒーラーの習性故か、治療できそうならしてあげたい。

 首の痣はどう考えても封印の証。コレのせいで喋れないのだろう。

 手で触れて診断開始・・・( ^ω^)・・・思ったより簡単に解けそう。

 

「解除していい?」

「・・・・!」コクコク

 

 患者の了承を得た上で治療開始・・・( ゚Д゚)・・・ふぅ、無事終わりました。

 手を首から離すと鎖状の痣はきれいさっぱり消え去っていた。

 

「これでいいはず。どうだ、声は出せるようになったか?」

「ん・・・ぁ・・・あぅ・・」

「ゆっくりでいいからな」

「あー、あーあーアー!・・・喋れる・・・私、声が出ます」

「よかったね~」

「ありがとうございます。2000年ぶりに自分の声を聞くことができました」

「二千!?何を言って、ちょ、どこ行くねん?」

「少々お待ちください、よいしょっ・・と」

 

 踵を返し休憩所まで戻った彼女は、石造りの屋根上へとよじ登る。

 

「おいおい、危ないから下りておいで」

「すぅー、はぁー・・・いきます」

 

 深呼吸した彼女は偽物の空を見上げ、取り戻した声で突拍子もないことを高らかに叫んだ。

 

「うまぴょいしたいですぅぅぅーーーー!!!」

 

 なくした警戒心がMAXまで上昇する。

 気品があると思っていたのに、下品だったとは・・俺の周りこういう子多くね?

 

「トーヤ!私!今、メッチャうまぴょいしたいですぅぅぅーーーー!!!」

 

 綺麗な声で何をほざいているのだろう。

 トーヤ?人の名前か、どこかで聞いたような?

 変人だ、ゴルシ並みの変人だ・・・帰りたい、もう帰ってあったかいお布団で眠りたい。

 この夢から覚めるにはどうしたらいいんだろう?頬をつねって・・いてて・・・ダメか。

 いやー!閉じ込められてるー!変な女と閉鎖空間に閉じ込められてるー!

 

「お待たせしました」

「待ってない」

「声が戻った暁には、思いっきり叫んでやろうと決めていたんです。2000年の鬱憤が晴れて、スッキリしました」

「そうですか。2000年もずっとそんな願望を・・・頭おかしいですね」

「よく言われます」てへぺろ

 

 ひとしきり叫んで満足した女が俺の所に戻って来た(来なくていい)

 スーッと俺に近寄って来る度にスーッと距離をとっているのに、この女諦めない。

 

「私、避けられるようなことをしましたか?」

「うまぴょい絶叫するような人はちょっと無理っていうか、怖いっていうか」

「怖がることはありません。私はこの通り、エレガントでプレ~ミアムな女ですから」

「ハハッ」ワロス

「うわぁ、ネズミ―ランドのミキさん笑いですね」

「俺、もう帰りたいんだけど。どうすればいいかな?」甲高い声

「やることをやってしまえばいいのです」

「この俺に何をさせる気だい?」甲高い声

 

 とち狂ってミキさんになった俺は、変な女に手を引かれ休憩所まで連行される。

 見た目に反して力が強い!ガッチリと掴まれた手首は固定されたままびくともしない。

 あれれー?おかしいぞぉ?さっき見た時は無かったはずのキングサイズベッドが併設されているよ。

 「そぉーれぃ!」といって俺をベッドに押し倒す変な女さん。

 普段から押し倒され慣れている俺からしても、見事だと言わざる得ない。

 

「ここがあなたの夢の中だと、知っていますか?」

「存じてますとも」

「私の正体は、あなたが妄想の果てに生み出したうまぴょい専用女。いわゆる今夜のオカズです!

「なん・・・だと・・・」

 

 マジか!マジなのか!

 いやいやいや、俺の妄想にしてはクオリティ高過ぎない?

 この細部まで綿密にデザインされた外見に、個性豊かな性格まで持っている。

 そもそも妄想というなら何故、愛バたち4人の誰かが出てこない?

 

「その理由も説明できます。あなた、今夜はロンリーナイトスリープ(孤独な夜の就寝)ですね」

「そ、そうだが、それが何か」

「愛バ不在の寂寥感と開放感の狭間にて、あなたの無意識は思ったのです「あ~たまには別の女をつまみ食いしてぇなー」とね!そこで生まれたのが私です」

「俺とんでもないクズじゃん!」

「そう自分を卑下することはありません。現実で実行せず、夢で我慢しようとするだけ誠実です」

「そうかなぁ」

「そうです!夢に登場するオカズのことまで責める法律はありません。思考と妄想の自由は誰にも奪えない。どうせ、あなたの愛バだって別の男と妄想でぴょいってますよwww」

「やめろぉぉぉーーー!なんてこと言うんだ!」

 

 あがあがががががッッ!

 愛バたちが夢で別の男とぴょいるだと、うがぁぁ!夢にまで嫉妬する俺は異常か?

 妄想は自由、それはわかってる。でもでも、やっぱり嫌だぁーーー!

 

「狭量なあなたには、この言葉を送りましょう「夢ぴょいはノーカン」はい、復唱!」

「夢ぴょいはノーカン!?」

「ノーカンノーカンノーカンノーカンノーカン!」

「ノーカンノーカンのーかん脳幹納棺???」

 

 なんだかノーカンでいい気がしてきた。

 そうか!夢ぴょいはノーカンなんだ!自由なんだ! ※洗脳されました。

 

「はい。私の誕生秘話は以上です。では、生まれた意味を果たさせていただきまーす」

「待って、ぴょいる前に名前を教えてくれ」

「えーっとですね・・シャミ子と呼んでください。シャミ子、ご主人様にたっぷりご奉仕致します」じゅるり

「ききかんり~。よだれ!シャミ子よだれ垂れてる」

 

 ああ~、シャドウミストレス優子クッソ可愛いいんじゃぁ~。

 

「さあいきますよ。レェェェェェツ!コンバィィィィン!」

「テンション高いなぁ」」

 

 シャミ子はベッド上の俺に勢いをつけて飛び込んで来る。

 掛け声がゴンバトラーVで動きはルパンダイブだww

 これはノーカン、ただの夢だからね!本当にノーカンだからね!よーしバッチコーイ!

 受け入れ準備出来てますよ。

 

「やらせません!」

「ごぱぁッッ!!」

 

 エレガントとは言い難い悲鳴を上げ、シャミ子は彼方へぶっ飛んでいった。

 はいはい、突然の乱入者により、うまぴょいキャンセル入りましたー。そんな気はしていた。

 ダイブ中のシャミ子顔面にフルスイングされたのは、輝く緑の結晶で出来たバット!

 それを肩で担ぐのは俺の知っている金髪巨乳の一人。

 

「まったく、こんなことだろうと思いましたよ」

「メルア!」

「どうもです、マサキさん。いや~痴女に襲われるなんて災難でしたね」

「痴女?シャミ子は俺が創り出したオカズではなかったのか!」

「シャミ子てwwやれやれ・・適当なことを言って、つまみ喰いする気満々でしたか」

 

 シャミ子とメルアは旧知の仲なの?だとしたら、シャミ子も女神!?

 ドタバタと音を立て花畑を突っ切って来る音が聞こえる。

 先程、顔面を強打されたはずのシャミ子がこちらにダッシュして来た。

 

「うわっ、もう復活しましたか。ゴキブリ並みの生命力がキモいです」

「誰がテラフォーマか!ゴッドドラゴンに向かって不敬ですよ」

 

 ドラゴン?どの辺が?

 

「いきなり何するんですか!私のプレミアムフェイスが陥没しかけましたよ!」

「知り合いが知り合いを騙して襲っていたら、普通、ぶん殴ってでも止めますよね」

「だからといって、バットで!顔を!ホームラン!はありえないです!私でなければ死んでました」

「夢だからノーカンですよwww」

「この金髪巨乳!その見苦しい乳を抉りとっちゃる!」

「おーおー吠えますねぇ、汚ったない発声器官は永久封印でもよかったのでは?」

「がおっーーー!」

「がおー!って子供かww」

 

 シャミ子の両手にオルゴナイトが!?

 あれはフィンガークリーブ「がおがお」言いながら結晶の両拳でメルアを威嚇している。

 やっぱり女神なのか。

 

「もう、マサキさんの前でみっともない。オルゴンバットを尻に突っ込まれたくなかったら自重してください」

「元祖オルゴンアーツ使いである私の尻に、その太くて硬いモノをぶち込むですって!?やってみろよ!やってみてくださいよ!」ハアハア(*´Д`)

「うわぁ・・・」ドン引き

「もうヤダ、このドスケベドラゴン」

 

 ハアハアするシャミ子、ドン引いてメルアの後ろに隠れる俺、頭を抱えるメルア。

 

「メルア―!あ、いたいた」

「シャナ=ミア様と後継者君もいるようね」

 

 おいおい、更に誰か来たぞ。俺の夢、どんだけセキュリティ甘いねん。

 メルアと同質の神気を放つ二人?三女神の残り二柱か、え?それじゃあ、シャミ子は何?

 

「で、何があったの?」

「情欲を抑えきれなかったマサキが、私に襲い掛かったのです」┐(´д`)┌ヤレヤレ

「おいコラ、ふざけんな」

「プレミアムな私にムラムラするのは当然ですが、時と場所を考えましょうね」┐(´д`)┌ヤレヤレ

「腹立つわー」(; ・`д・´)

 

 何がノーカンだ!急に被害者面しやがって。

 どう考えても、お前の方がムラムラしていたくせによ。

 

「本当は逆です。この冤罪ドラゴンが加害者、マサキさんは被害者です」

「「だろうと思ったww」」

「信用ゼロじゃねーか」

「長い付き合いの私よりマサキを信じると?なんと嘆かわしい、草葉の陰でトーヤも泣いていますよ」

「そりゃ、今のシャナ=ミア見たら泣くでしょ。恥ずかしくて」

「嘆かわしいのはあなたよ」

「反省してください」

「味方がいない」(´・ω・`)ショボーン

 

 この4人、俺の愛バたちに似ていると思ってしまった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 邪魔なキングサイズベッドを片付けて、お茶会の準備をする。

 メルアたちの指パッチンで、どれもあっという間に完了した。

 休憩所に用意されたイスに腰かけ、女神様たちとのゴッドトークを試みる。

 お茶もお菓子も(゚д゚)ウマー。

 

「私はカティア。真名、クストウェル。メルアと同じ三女神の一柱で、キタサンブラックを担当してるわ」

「フェステニアだよ。真名、ベルゼルート。サトノダイヤモンドが後継者さ。テニアって呼んでね」

「クロとシロから聞いています。うちの愛バがすっかりお世話になったようで」

 

「いえいえ、こちらこそ」とペコペコ頭を下げ合う俺と女神様たち。ばったり遭遇した保護者の図です。

 黒髪の真面目そうな女神がカティア、赤毛で活発そうな女神がテニアだな。

「もうご存じでしょうが、改めまして」と前置きし、既知の女神も挨拶してくれる。

 

「私はメルア。真名、グランティード。マサキさんという逸材を見つけた、できる女神です」(`・∀・´)エッヘン!!

「「「キャー(≧∇≦)メルアさーん素敵!」」」

「ぐぬぬ。目覚めるのが早ければ、私が先にゲットしていましたのにー」

「負け惜しみ乙」

「むきぃーーー!」ヽ(`Д´)ノプンプン

 

 これで伝説の三女神が揃ったぞ!

 さすが女神様だな、三人とも俺の愛バたちに負けず劣らずの美少女だ。

 約一名、変なのがいるけど。

 俺の視線を感じ取ったシャミ子は「やだ、見つめすぎです///」と照れていた。

 珍妙な生き物がいると、ついマジマジと見ちゃうよな。

 シャミ子は置いといて、俺もご挨拶するぞ。

 

「俺がアンドウマサキです。愛バのこと、オルゴナイトのこと、いろいろとお力を貸していただき、誠にありがとうございました」

 

 実際、メルアたちが俺を選んでくれなかったらマジでヤバかった。

 結晶の繭にならなかったら、クロとシロは本格化を無事に遂げられたかわからない。

 俺はブライアンやルクスにまるで歯が立たず志半ばで人生終了していた可能性もある。

 本当に足を向けて眠れない、今後も学園の女神像前に"よっちゃんいか"をお供えします。え?いらないですか、そうですか。

 

「クストウェル様、ベルゼルート様、グランティード様。御三方には感謝してもしきれません」

「ご丁寧にどうも。そんなに畏まられると、なんだかむずがゆいわ」

「とか言って嬉しいくせに~。感謝の気持ちと信仰心は神様的には一番のご褒美だよ」

「そうね。悪い気はしないわ」

「ふぇっ」(´;ω;`)ブワッ

「メルアさん、泣いたー!?」

「ごめんなさい、グスッ、こんなに感謝されたの、ひ、久しぶりで、ヒック・・私がやってきたこと無駄じゃなかったって・・そう思ったら・・泣けてきましたぁ」

「あーあ、綺麗なお顔が台無し」

 

 シャミ子から借りたハンカチでメルアの顔をふきふきする。

 涙を拭いて、鼻もかんで・・・うむ、これでよし!

 なんだかチビだったクロとシロを思い出す。あいつらは今も、よく笑い、よく泣き、よく鼻をかむ子です。

 返却したハンカチは、シャミ子が吐いたブラスターで無に帰った。洗えばまだ使えるのにな。

 

「なんだか疎外感を感じます。マサキ、私にも感謝してください」

「嫌ですけど」

 

 君にはまだ、それほどお世話になっておりませぬ。

 

「オルゴナイト使ってますよね」

「うん」

「結晶を使った技巧の数々、オルゴンアーツ(覇気結晶術)を編み出したのは、この私ですよ」

「え?メルアたちが最初の使い手ではなかったの」

「この3人はパクって無断使用していただけです。特許侵害も甚だしい、世が世なら法廷で損害賠償と慰謝料を請求していたところです」

「シャナ=ミアの無茶振りを根気強くまとめ上げ、理論として構築したのは誰だったかしら」

「確か「アレをずばーんとして」「ここでぎゅーんです」とか無茶苦茶言ってたなぁ」

「クソでかい結晶を投げたり、鈍器として使用する止まりだった攻撃法を、技の領域まで改良して使えるようにしたのは、トーヤさんと私たちですよ(シャミ子は除く)」

「それでも元祖オルゴナイト使いは私なんですぅ!私が思いつかなければ"バスカー"したり"オルマテ"したりもできなかったんですよ。そこのところは、褒めちぎって称えてくれないと困ります」

「はいはい、シャミ子はえらいえらい」

「もっと心を込めて!」

 

 コイツめんどくせぇ。

 しかし、シャミ子がオルゴンアーツの発案者だということは間違いないようなので、感謝はしておく。

 愛バを宥めるように頭をポンポンして「えらい!シャミ子最高!」と唱えると機嫌がなおった。

 本題に入ろう、チョロかわいい彼女が何者なのか聞かなければならない。

 

「女神様たちのことはわかった。で、結局シャミ子は何なの?」

「フフッ、私に興味津々ですか。マサキのスケベさん」

「うるせー、スケベェなのはそっち」

「私はただ、男性の体を触ったり舐めたり、アレをコレして、うまぴょいで「アッーー!」となりたいだけです!」

「それをスケベと・・いや、話が進まないからいい」

「シャナ=ミア様、自己紹介のお時間ですよ。ドスケベなあなたでも、それぐらいできますよね?」

 

 「できらぁ!」とばかりに立ち上がるシャミ子、演出のためか放出した覇気の粒子を自身の周りに振りかける。

 目がチカチカする。ちょっと抑えて、そうそう、それぐらいで。

 

「準備はいいですか?腰を抜かさないでくださいね」

「へーい」

 

 もったいぶらずはよしろ。

 

「私はシャナ=ミア。三女神と同じく"原初の操者トーヤ"の愛バにして、由緒正しい帝政国家フューリー最後の皇女なのです」

「そっか」

「リアクション薄ッ!あの!トーヤの愛バですよ!?フューリー知りませんか?皇女ってわかります?す、凄く偉くてとても強いんですよ。平伏して賛美してもっと大事にしてください!」

「かまってちゃんウザ。なあ、メルア、これは妄想癖からの虚言か?」

「残念ながら真実です」

「そこ!せめてコソコソする素振りをみせて」

 

 そうそう、トーヤってのは最初に操者の称号を得た男だったな。

 ここにいる4人を愛バにして戦った伝説の存在か、愛バが4人・・・シンパシー感じちゃうわ。

 フューリーってのはよくわからんが、超技術を持った超古代文明の大国ってヤツだろう。

 そこの皇女様であられましたか、(* ̄- ̄)ふ~ん

 俺って身分が高い連中に縁があるというか、物怖じしないんだよね。

 だから基本ため口で、気が向いたら敬う感じです。

 

「シャナなの?ミアなの?どう呼ぶのがベストなの?」

「今まで通り、シャミ子でいいですよ」

 

 よかったぁ。シャナとミアの間のコレ→「=」めんどくせぇと思っていたんだ。

 

「気が合いますね。私も常々、コレ→「=」めんどくせぇと思っていました」

「2000年使った名前を自ら否定しますか、さすが、シャナミア様、狂ってやがりますね」

「さっそくコレ→「=」が消されてるww」

 

 さようならコレ→「=」こんにちは、シャナミア様。あだ名はシャミ子。

 

「シャミ子はどうして俺のところに来たのん?」

「もちろん、あなたに力を託すためですよ。私の本体、機甲竜の力をね」

「機甲竜!?えーと、えーと、それってメカゴジラ的な?」

「かなり近い!まあ、私にかかれば歴代メカゴジなんぞ全機ワンパンで沈めますよ」

「すげぇ!そいつが味方してくれるなら、是非、ルクスを踏み潰してもらおう」ワクワク

「よい笑顔で殺害を依頼する。トーヤにはない凶悪さにシャミ子、キュンキュンします///」

「今のはマイナスポイントでは?私なら力を貸すの躊躇するわ」

「決めるのはシャナミア様だからね~」

 

 "機甲竜"

 超古代文明が造り上げた決戦兵器。

 そのコアである疑似神核にはシャミ子のモノが使われている・・・え?それって

 

「そうです。私は機甲竜を完成させるために・・この身を犠牲にしたのです」

「そ、そんな!そんなのありかよ!」

「今日会ったばかりの私のため憤ってくれる。マサキは優しい人ですね」

「だって、兵器を造るために命を犠牲にするなんて、そんな暴挙をトーヤは許したのかよ」

「仕方がなかったのです、愛しい人と臣民たち、そして世界のために誰かがやらねばいけない、それなら私がと立候補したまで」

 

 シャミ子ぉぉぉーーー!

 お前ってば・・お前って奴は・・・なんと気高い魂の持ち主なのだろうか!

 ただの痴女だと思っててごめんなさい、マジリスペクトします。

 

「全て嘘です」

「嘘かよ!!俺の感動を返せ!」

 

 メルアの一言で台無し。

 

「嘘ではありません。コアには私の神核が使われています。ここにいる私が機甲竜を制御する人格データそのものなんです!」

「話を美化し過ぎなんだよなぁ。立候補も犠牲になったのも嘘じゃん」

「じゃんけんで負けたシャナミア様が「死ぬ!死にますってコレ!神核ぶっこ抜かれて死ぬぅぅぅ!」って大暴れの大騒ぎしただけですし」

「泣き叫ぶシャナミアをトーヤ君が疲れた顔で引きずっていくシーンが哀れでね・・・しかも、市街地でやるもんだから目撃者多数」

「はて?私の記憶と違いますね」

「都合よく改ざんしたんだろうな」

 

 機甲竜のコアにはシャミ子、カティア、テニア、メルアの誰か一人の神核データをコピーして使う案が採用された。

 それっぽくコピーすれば十分事足りたのである。生きている者から神核を移植しろとは言ってない。

 作業自体、命に関わるものではなく、処置も5分で終わるものだった。

 しかし、勝手に曲解したシャミ子は「あ、殺される」と勘違いしたから、さあ大変。

 暴れて脱走した挙句、自らの操者に捕縛連行される始末になった。

 その現場を目撃した臣民たちも美談として勘違いする。

 

 「シャナミア様、御自らが竜の生贄に志願なさっただと!」

 「ああ、我らのために犠牲になる道を選んだそうだ」

 「くっ、どこまでお優しいお方なんだ」

 「お飾りの皇女様じゃなかったんだな・・決めた、俺、騎士団に入るよ」

 「お、俺もやるぜ。姫さんと一緒に戦わなくて何が男だ」

 「ママ~。シャナ様、死んじゃうの?」

 「違うわ、あの方は生まれ変わるのよ。竜のお姫様にね」

 「竜の姫・・・竜姫・・」

 「うおおーー!シャナミア様ーーー!最高!」

 

 「「「「シャナミア様!シャナミア様!シャナミア様!シャナミア様!!!」」」」

 「「「「竜姫様!竜姫様!竜姫様!竜姫様!竜姫様ーーー!!」」」」

 『神竜■■■■■バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!』

 

 バンザーイ!じゃねぇよ。

 当時の熱狂っぷりが勘違いから起こったものだと知ったら、皆で顔真っ赤になったろうに。

 

「思い出しました。あの後、ピンピンして戻って来た私は好奇の目に晒されて大変でした」

「だろうな」

「今で言うところの炎上騒動ですね」

「フフフフ、民たちから「死ぬ死ぬ詐欺のシャナミアw」と指を刺される毎日は辛かった」(´Д⊂グスン

「「「ブフォッ!」」」

 

 当時を思い出したのか、三女神が同時にお茶を吹いた。

 うわー、美女神様たちの一斉噴射シーンなんてレアだな。ウマチューブにアップしたら再生数稼げそう。

 

「シャミ子、大変だったな」よしよしヾ(・ω・`)

「今はテーブルの上と駄女神たちが大変ですけどね。大噴射なんて!あーwwお下品ですことw」

「「「やかましいわ!!」」」

 

 テーブルと女神様たちをキレイキレイしました。

 お茶とお菓子を再セットアップ。

 

 機甲竜、その力をもっと早く手に出来ていたのならルクスに遅れはとらなかったのに、悔しいのぅ。

 

「竜の力は強大です。それ故に、竜を駆る者"起動者"の選定には慎重を期してきました」

 

 そりゃそうだ。悪い奴が機甲竜の力を手にしたらとんでもないことになる。

 

「今までの起動者はどうだったんだ?」

「いません」

「・・・今まで、ずっと、ただの一人も?」

「はい、起動者候補でお会いしたのはマサキ、あなたが初めてです」

「機甲竜の戦闘経験は?」

「シミュレーションでは何度かあります。実戦経験は皆無です!」

「不安しかない」

 

 ということは何か?

 この竜姫様、ずっとスタンバっておきながら出番がなくて放置プレイされてんの!

 古代の超兵器でも2000年も放置されていたものが、まともに戦えるのかよ。

 

「お手入れは怠っていません。だから、大丈夫なはずです」

「だといいんだが。俺は起動者として合格か?」

「ここまでは順調です!もう、メルアに話を聞いてからずっとソワソワムラムラしていたんですからね!」

「そうそう、マサキには残りの試練を受けてもらうんだよね」

「全ての試練をくぐり抜けた者が起動者となり、竜の力を手にする定番よね」

 

 俺は知らないうちに起動者になるための試練をいくつかクリアして来たらしい。

 

 ・試練その一 三女神に見初められ、オルゴンアーツを習得すること。

 

 ・試練その二 皇家の血に連なる者と契約し、操者になること。

 

 ・試練その三 竜姫自らによる面接、その際、限定封印を解除すること。

 

 ・試練その四 やりたいようにやれ!その場のノリと勢いで決めてよし!

 

 ・試練その五 竜姫の真名を叫ぶんだ!(腹から声出せ!!)

 

 日本語で書かれたA4サイズの書類を見せるシャミ子。

 

「ね、簡単でしょう?」

「そうか?自慢じゃないが、一番と三番、俺じゃないとほぼ不可能だろ」

「ですが、三番まではクリアしています。マサキさんならやれますよ」

 

 なんと、今日の出会いは面接だった。クリアできたということはシャミ子に気に入られたらしい。

 ヒーリング習得していなかったらアウトだったぞ。

 五番は恒例の真名当てクイズ、時が来れば自然にわかるはずなので今はスルー。

 怖いのは四番の存在だ。 

 これ、シャミ子が自由に決めるってことだよな、すごく嫌な予感がします!

 

「二番の皇家の血はもしや・・・」

「はい、お察しの通り。愛しい愛しい、トーヤと私の子孫です!」

 

 シャミ子の子孫だと・・・こいつちゃんと結婚して子供産んだのか・・見た目と言動からは想像できん!

 

「名を変え場所を変え、2000年もの間存続するとはあっぱれです」

「先祖伝来の生命力には素直に感心するわ」

「私たちの子はもう散り散りになっちゃったから、余計にそう思うよ」

「トーヤと頑張った結果です!子だくさんは未来を救う!つまり、うまぴょいは世界を救う!」(*´▽`*)

「名言来ちまったな」

 

 うまぴょいは世界を救う!マサキは今の言葉を深く心に刻み込んだ。

 

 皇家の子孫、身分の高い家、大きな力を持った一族、シャミ子の血、俺が既に契約している。

 このタイミングでシャミ子が俺に接触してきた理由も加味すると、導かれる結論は・・・

 

「俺からシャミ子さんに質問~」

「何でも聞いてください。好きな男性の部位はもちろん!だっちする――」

「「「言わせねぇよ!」」」

「シャミ子はエロい。もうドスケベだよね」

「えへへ、それほどでも」(〃´∪`〃)ゞ

「お酒好きか?」

「嗜む程度には」

「嘘つけ「ワインは樽で持って来い」が常套句だったじゃん」

「飲み過ぎた挙句、初対面のトーヤさんにゲロぶっかけた醜態は忘れません」

「あの時、私はトーヤにハートを撃ち抜かれたのです」(/ω\)キャッ

「ビックリしたトーヤ君が、シャナミアの心臓に掌底を打ち込んだの間違いよ」

「比喩ではなく物理か」

 

 ゲロから始まる恋か、シュウとボンさんもそんな感じだったような。

 

「トーヤったら「早く風呂に入りたい」とか言って混浴に誘ってくるんですもの////」

 

 アホか、一刻も早くゲロを洗い流したかっただけだろ。

 

 酒好きのドスケベか・・・おまけに奇行が目立つアホ。お菓子もパクパク食ってたな。

 良く知る愛バの姿が目に浮かぶよ。

 

「血だよなぁ」

「今、グゥレイトォかつエレガントでプレミアムな我が血筋を妬みましたね?」

「妬んだというか、悩んだというか、悟ったというか」

「答え合わせのお時間です」

「皇家の末裔たる一族、その現在の名前は~?」

 

 皆さんご一緒に、それ、さんはい!

 

「メジロ家だ!!」

「大正解です」

 

 アル、お前の面白ご先祖様に会ったぞ。

 



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うどんを食らえ

 前回までのあらすじ

 

 夢で変な女に会う→女神集合→変な女(シャミ子)はメジロ家のご先祖様でした。

 

 思えばアルとシャミ子には共通点が多い、血が繋がりがあると言われても「そうですか」と特に反論もなく納得することができた。

 二人とも透き通るような青い髪色、優美で儚げな顔立ちをしており、所作の一つ一つに気品が感じられる。おとぎ話に登場する美しいお姫様を地で行っているんだ、これがな。

 それに反した大胆な行動力を持って周囲を驚かせるところ、酒好きでエロに積極的なところも似ている。

 2000年の時を越えて受け継がれるシャミ子因子が強い。

 

 三女神と竜姫のお喋りは尽きる様子がない。うんうん、楽しそうでいいわね。

 生きていた当時の思い出や、操者であり想い人(旦那)であるトーヤへの惚気話に花を咲かせている。

 神様だけど、やっぱり女の子なんだよなぁ。

 

 積もる話を邪魔しては悪いと思った俺は、シャミ子に出してもらったキングサイズベッドの上に寝転がり、ゴッドトークの成り行きをボーっと見守っていた。なるほど、おぱーいはメルアが一番でかいな。

 

 なぜだ、いつから俺の夢は女子のたまり場になったのだ?

 俺、要らないですよね?もう帰っていいですよね?帰らせてよ!

 現実世界の俺の体はちゃんと睡眠が取れているのか心配だ。

 もし明日、寝不足だったらシャミ子をケツバット、すると喜びそうなのでデコピン(強)をしてやろう。

 

 キャッキャしている4人を見ながら脈絡もない思考に耽る。

 率直な疑問だがそもそも寝るってなんだ?気絶とどう違う?いつもどうやって眠ってるんだっけ?

 実はこっちが現実で、現実だと思ってる方が夢だったらどうしよう。

 我々はどこからきてどこへ行くのか?意識とは心とは何なのだ。

 

「そうか、そうだったのか・・・生命とは宇宙とはゲッターとは」ドワォ

「ヤバい電波を受信して楽しいですか?お隣、失礼しますよ」

 

 虚無る一歩手前の俺を心配したのか、会話の輪を抜けてシャミ子がやって来た。

 そのままベッドに上がり、俺の隣へゴロンと・・・

 

「ていっ」

「ぎゃふ!」

 

 転がって来たところに蹴りをお見舞いして、ベッドから落とすことに成功した。

 やれやれだぜ。安全に配慮して手加減する俺ってば優しい。

 

「痛たた、蹴り落すなんて酷いです」

「誰の許可で添い寝ポジションに就こうとしてるわけ?トーヤさんに悪いと思わんのかい」

「別に、これぐらいでトーヤは別に怒ったりしませんよ」

「そうか?俺だったら愛バが別の男と添い寝していたら、三日三晩狂ったように号泣する自信あるわ」

「女々しい奴ですね」

「泣きたいときに泣いてなにが悪いか!とにかく、俺は間男にはならんぞ」

 

 俺には愛バたちがいるし、お前にはトーヤ大先輩がいるでしょ。

 シャミ子とは適度な距離間でお付き合いしようと思います。

 

「マサキ、あなたの愛バたちと、赤ん坊が戯れていたらどうします?」

「微笑ましい光景だと思って見守る、かな」

「それと同じです。今を生きるあなたたちは、私やトーヤにとって皆カワイイ子供たち」

「貴殿は人類の母だと申すか?」

「そうそう、ゴッドマザーシャミ子です」

 

 慈しみの目を向けてくるシャミ子が再び添い寝チャレンジ、成功!

 

「だから、こうしても平気」

「むぅ・・・」

 

 愛バたちがしてくれるように、ギュっとハグされる。

 顔を胸に押し付けられた。いわゆる「ぱふぱふ」状態である。

 くそぉ!シャミ子の癖に!シャミ子の癖に~、大変良きおぱーいでございます!

 

「ほら、何も問題ありません」

「本当に大丈夫なんだろうな?伝説の操者に恨み買うとか嫌だぞ」

「もしトーヤが怒るとしたら、マサキではなく私に対してですよ「コラ、よそ様の子を噛んじゃダメ!戻っておいで、散歩続けるよ」てな具合にです」

「扱いがペットなんだが」

「トーヤの前では竜な私も従順な犬でしかないのです。詳しくは・・」ハアハア(*´Д`)

「詳しくは聞きたくない」

 

 二人のプレイ内容とか教えられても困るので、キッパリとお断りした。

 

 そうか、寛大なトーヤさんには怒られないのか、器の大きい男は違いますなあ。

 でも、うちの愛バたちはどうだろう?

 シャミ子はメジロのご先祖様で三女神と同等の竜姫様だ。そして、自称みんなのゴッドマザー的存在!

 愛バたちがキレる案件ではない!と、俺は思うのです。

 ちっぽけな俺が、元皇女様で今は超兵器機甲竜のシャナミア様の命に背くなど、できるはずがございません。

 目上の人には逆らわず従順であれ。世渡りの基本です。

 したがって、これは浮気ではないのです。どう考えても悪いのはシャミ子です。

 俺は考えるのをやめた。

 

「すみませんトーヤさん。彼女お借りします」

「はい、レンタルされちゃいます」

「やわらけ~」(*´▽`*)

 

 癒される~。さすがメジロ家のご先祖様だ、高貴な方は包容力も抜群ですな。

 

「ムフフフ、マサキはいい匂いがしますね」

 

 愛バたちもよく言うが、実際どんな匂いなんだろうな?

 聞いてもバラバラな答えが返って来るから、相手によって感じ方が違うってのは知ってる。

 「おいしそうな匂い」て言われてもなあ。

 

「シャミ子もいい匂いだ」

「本当ですか、例えるならどんな?」

「消臭力」

「市販の芳香剤できましたか。もちろんプレミアムアロマですよね」

「トイレの」

「そこは、お部屋用にして!」

 

 お部屋の消臭力・プレミアムシャミ子ver.メジロ家公認で近日販売!するわけない。

 

「ちょっと目を離したら、添い寝してる!?」

「距離感バグってるのよね。仲良くなれそうと思ったら、ベッタリするところは昔のまま」

「シャナミア様ははかれない」 

「シッシッ、私とマサキのリラクゼーションタイムを邪魔しないでください」

 

 トークに飽きた三女神がやって来て、シャミ子の距離無し具合をからかっている。

 人知を超えた存在が四人・・・率直な疑問が湧いたの聞いてみることにする。

 

「シャミ子は女神ではないのか?」

「女神でもありますよ。ですが、私は機甲竜となった身です。女神としてよりも、竜の姫としての側面が強く後世に伝承されているようなのです」

「ハブられたのか、辛かったな」

「安い同情やめてくれます。べ、別にハブられた訳では・・ない、ですよね?」

「「「・・・・」」」プイッ

「三人とも目を逸らした!?まさか、いじめですか?いじめなんて最低!あなたたち超カッコ悪いですよ!」

「えーと、実は・・・」

 

 ポツポツと語り出すメルアたちによって、四女神ではない理由が判明する。

 およそ2000年前のことじゃった。

 シャミ子と出会う前からカティア、テニア、メルアの三人には既に多くの信奉者(熱狂的なファン)がいた。

 勝手に盛り上がる信者たちは、三人の偉大さと尊さを布教する目的で「三人が勢揃いした像(1/1)を造ろうぜ!」計画がスタートさせ、着々と準備を進めていた。

 シャナミアが加入した頃には、デザインに職人の手配や量産化の体制までが整っており、今更四人目を追加することは不可能、ぶっちゃけ「めんどいから諦めてくれ」であった。

 その為、四女神ではなく「三女神+竜姫」として語り継がれることになったのである。

 

「という、大人の事情があったんですよ」

「集合写真の撮影日に、運悪く休んだ奴みたいな扱いだ」

「あの職人連中め!「シャナミア様は御三方とは格が違いますからな」「単体で完璧なの憧れちゃうなあ」「御神体なら神竜があるじゃないっスか」と散々持ち上げておきながらこの始末」

「早い話、予算が足りなかったのよ」

「悲しいなあ」

「もういいです。どうせ今の女神像なんて「コレ誰?」レベルの造形で原型とどめてないですし、彫りが深すぎて「どこの最凶死刑囚だよw」と皆笑ってますよ」

「「「なんだと!!」」」

「確かにな、フルフロンタル像の方が親しみやすいと、もっぱらの噂だ」

「「「アレに負けたの!?」」」

「ざまぁですー、私をハブった報いです」

「「「むきゃーー!!」」」ヽ(`Д´)ノプンプン

「やる気ですか?竜姫と呼ばれる前は、武芸百般の「おてんば皇女」だった実力、久々に見せてやります」

「はいはい、ケンカしないでくださいよ。そぉーれぃ、唐突な全体ヒーリングシャワー」

「「「「うわーい、なんかポカポカする~」」」」

 

 大昔の世知辛い事情と、上手く伝わらなかった造形美に女神たちが一喜一憂している。

 愛バたちによく使う仲裁テクニックは、ここでも有効だった。

 

 たまり場は休憩所から俺たちが寝転がるベッドに移ったようだ。

 カティアとメルアはベッドの淵に腰かけ、テニアはシャミ子に体当たりするように横になる。

 キングサイズで正解だったな。

 

「試練その四、どんなのにしましょうか」

「簡単なのでお願い・・・ふぁ・・」

「時間切れのようね」

「シャナミア様、マサキさんがお眠です。そろそろ」

 

 リラクゼーション効果抜群のシャミ子(抱き枕)により、強烈な眠気が襲って来た。

 もうダメ無理、寝る、絶対寝る!

 そんな俺を三女神たちが指で俺をツンツンして、あぅ、やめて。

 

「名残惜しいですがここまでです。試練についてはまた後日、お伝えします」

「ふぁい」

「お疲れのところ、ありがとうございました。またお話しましょうね」

「うん。おや・・す・・み」

「あなたに女神と竜の加護を、おやすみなさい」

 

 頭を撫でてくれる、シャミ子の声は慈愛に溢れていた。

 母さんや姉さんみたいだ。

 自分が無条件で愛されているという、絶大な安心感で満たされ、俺は眠りに落ちていった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 そっと身を起こしたシャナミアは姿勢を変え、眠るマサキに膝枕する。

 ずっと昔、大切な我が子にそうしたように、優しくその頭を撫で続ける。

 

「決めました。この子にします」

 

 厳かに告げるシャナミア。

 

「この子とは、マサキさんですか?」

「そうです。竜の力を託すのは、私の母性と性欲をくすぐりまくった、この子を置いて他にない」

 

 性欲は余計だろと思ったが、ツッコミはやめておいた。

 そんなことより、シャナミアは言ったのだ、マサキに自分の力を託すと。

 

 (やった!やりましたよ!おめでとうございます、マサキさん)

 (お?おおう!合格?これ合格だよね!)

 (ふぅ、ようやくだわ)

 

 メルアは小さくガッツポーズ、テニアは目を輝かせ、カティアは大きく頷いた。

 

「試練はまだ残っていますが、よろしいのですか?」

「構いません。どうせ、形式的なものです。残りは、この子の修練になるような課題でも出すことにします」

 

 先程からマサキのことを"この子"と呼んでいる。

 シャナミアの地母神モードが発動するほどに、彼は気に入られてしまったようだ。

 

 オルゴンアーツの継承と機甲竜の起動資格者に足る者の選定は、その力の大きさ故に慎重を期すべきものである。

 そのはずなのだが、最終的には彼女たち女神に"気に入られるかどうか"これに尽きる。

 身分でも、才能でも、乗り越えた試練の数でも、顔でもなく、結局はその者に確かな"情"を感じることが重要だ。

 訂正、やっぱ顔は大事。カワイイとカッコイイは正義!生き様は顔に出るから仕方ない!

 マサキはしっかりとシャナミアの情を刺激してくれたようで、刺激しまくったようで、危うく夢ぴょい!・・・未遂だったけど。

 

 歴代の継承者に機甲竜の起動者となった者はいない、全てがシャナミアの面接に落ちた、というよりも、そもそも会ってすらもらえていなかった。

 誠に遺憾だが、シャナミアの格は三女神より上に位置する。

 三女神が了承しても、シャナミアが首を振ればボッシュートなのだ。

 まあ、生前から人を見る目は確かで彼女が「嫌、興味ない、会わない」と言った人物は素行に問題があったり、腹に一物抱えた者が多かった。

 今思えば、面接されなかった歴代継承者の覇気では、機甲竜を制御することはおろか、起動できたかも疑わしい。

 シャナミアは、そういう神がかり的な直感を持っている。神だから当たり前とか言わない。

 

 (今日の顔合わせこそが、最重要最難関だったわけだよ)

 (マサキさんは見事合格してくれました。やだ・・泣きそう、てか泣きます)(つд⊂)エーン

 (ここまで長かったわね。でも、これからよ)

 

「シャナミア様。起動者は彼、アンドウマサキさんで決定なのですね」

「はい。神竜■■■■■の名において、この子を、マサキを起動者と認めます」

「本当にいいのね。マサキ君を選んで"あいつ"に勝てるのね?」

「約束しましょう。私とこの子で必ずや、逆賊である"あの者"を討ち取ることを」

「そこまで言うなら異論はないよ。うん、よかったよかった」

 

 起動者の決定に沸く女神たち。それを合図にマサキの体が半透明になり、やがて消えていった。

 精神が現実世界の肉体へ帰還したのだ。

 名残惜しそうに見送ったシャナミアが立ち上がる。

 

「次に会う時が楽しみですね・・・ふぅ、どっこいしょ」

「どっこいしょってww久々に聞いたわw」

「はいはい。2000年もののババアドラゴンですよ~だ」

 

 自らババアドラゴン宣言、マサキに会えて機嫌がいいのだろう、起動者が決まって一番喜んでいるのはシャナミア自身なのだ。

 

「ねえ、起動者決定のお祝いをしようよ」

「いいですね!まずは、ここをキャンプ地とします。それから・・・」

 

 休憩所の座席に戻ったシャナミアたちは、一息ついてこれから考える。

 その中でメルアだけは、こちらに背を向けたまま何やらゴソゴソしている。

 はっはーん。きっと、お祝いのケーキでも準備しているんだなー。

 

「ババドラ様、お約束の、こちらをどうぞ」

「シャナミアですけど!?・・・うどん?なぜ、うどん?」

 

 眼前に置かれたどんぶりの意味がわからない。

 日本ではケーキの代わりにうどんを食べる風習でもあるのか?

 メルアは不自然なほど笑顔のままだ。何か怖い。

 

「正確には天ぷらうどんね。エビ天のサイズがご立派だわ」

「お祝いに天ぷらうどんとは、どういう趣向なのでしょうか?」

「都合の悪いことは忘れる、シャナミア様の悪い癖ですよ。ここへ来る前のことを、よ~く思い出してください」

「あれ?私、何かやらかしてます?・・・・・・・・あ゛」(;'∀')

 

 シャナミアは思い出した。

 今日に至るまで、自分がメルアにした発言の数々を。

 

『男!?ウマ娘でもない男を後継者に選んだのですか?ないわー、ありえないですわー』

『いやはや、騎士王グランティードも耄碌(もうろく)したもんですねぇ。あ、今はただのメルアさんでしたw』

『その彼と面談しろ?嫌ですよ、プレミアムな私が襲われたらどうしてくれるんですか』

『トーヤ以外のオスなんて皆等しくケダモノですよ。レイパーですよ』

『どうしてもと言うのなら「無駄なデカ乳でごめんなさい」と三回唱えるのです』

『うはww本当に言ったww』

『わかりました。無駄骨でしょうが、メルアの推しメン君に会ってあげます。┐(´∀`)┌ヤレヤレ』

『は?絶対気に入る?一発合格もありえる、ですって?』

『残念でしたね、私はそんな尻軽ではありません。あなたとは違うのですw』

『万が一、その者を起動者として私が選ぶような事があれば・・・』

 

鼻からうどんすすって完食してやりますよ!!

 

 

 はい、口は災いの元です。ちょっと前の私ってば本当に愚か者!

 

 ずっと微笑みを浮かべているメルア。ダラダラ嫌な汗が出て来たシャナミア。

 湯気を出している天ぷらうどんが、まあ!美味しそうですこと、普通に食べられるならば大喜びだけど。

 特大のエビ天トッピングが、メルアに溜まった怒りと憎しみの大きさを感じる。

 一瞬の静寂、身の危険を感じたシャナミアは迷わず逃走を選んだが、時すでに遅し。

 

「逃がすか!カティア!テニア!」

「「承知!!」」

「ぐがっ!?あ、あなたたち、放しなさい!腕!関節が決まってます」

「竜に二言はないですよね?シャナミア様」

「二言あります!逃げて隠れて嘘もつく、どうしようもない女です!許して!」

「暴れんな、暴れんなよ!」

「大人しくなさい。刑の執行は私たちの総意なのよ」

「どうして?メルアはともかく、二人に恨みを買った覚えはないはず」

「仕方ないのよ」

「うん。だって、私たち・・」

「「鼻からうどん超見てぇから!!」」

「ちくしょーーー!何が三女神だ!三外道の間違いでしょう!」

「さあ、シャナミア様。ずずっといってください、さあ、さあ、さあ、おらっ!いいから早くすすれよ!」

「ひぃ!メッチャ恨まれてる。ちょ、いきなりエビ天から!?ムリムリ絶対む、あづぅぅっ!!熱い!鼻、鼻ががジュッって、あちっ!あっちぃぃーーー!」

「「揚げたてwww」」

「温かいうちに召し上がれ。ギブアップは認めませんからそのつもりで」

「なんか麺太くね?」

「この日のために用意した超極太うどん"ごんぶとEX"です」

「ダメです!そんな太くて熱いものを穴にねじ込むなんぴゃアアアーーッ!!

 

 食べ物で遊んではいけません。良い子のみんなはマネしないように、三女神との約束だ。

 ※天ぷらうどんはシャナミア様が責任もって完食しました。

 

 〇〇〇

 

 深夜に差し掛かろうという時間帯、トレセン学園寮の一室では机に向かって作業をしているウマ娘がいた。マサキの愛バ、サトノダイヤモンドだ。

 デスク周り以外の照明が落ちた室内には、キーボードを弾く音と、ベッドを占拠した不届き者の寝息だけが聞こえる。

 ダイヤは広げた設計図らしき図面と、PCの画面に映った数値を見比べながら、作業に没頭する。

 思考し、アイデアを纏め、計算と検証を繰り返し行い、実現可能な物をに落とし込み、修正を加えていく。

 耳をぴょこぴょこ動かしているのは、彼女が頭を使っているときの仕草だ。

 

「リープ、チャクラム、ファングときてますから」

「しゅー・・・ウェへへ、シロ顔ブッサww・・・しゅー・・」

「寝ててもウゼェな」

 

 しゅーしゅー言ってるアホは「久しぶりに二人で寝ようぜ」と押しかけて来たくせに、サッサと一人で寝てしまったキタサンブラックだ。鼻と口を塞いでやろうか?

 

「スライダー・・スライダーがいいですね。T—LINKシステムとアレをコレして」

「貴様らにそんな玩具は必要ない・・・ふしゅー・・」

「それはストライダーだろ!こいつホントに寝てんのか?」

 

 ストライダー飛竜!懐かしいな。クールな忍者キャラはカッコイイですよ。

 

 我ながら「誰がこんなもん使えるねーん」な物を生み出そうとしている。

 コレの出番が来ないことが一番だけど、備えあれば何とやらだ。準備しておいて損はないだろう。

 思いついたアイデアをメモして、データを入力、最後にエンターキーを「ッターン!」しちゃう。

 うん、いい感じにまとまりそうだ。

 

「今頃、マサキさんは夢の中でしょうか、私が登場していると嬉しいですね」

 

 気付けばもうこんな時間、今日はここまでにして眠ることにしよう。

 夜更かしが過ぎると、マサキさんに心配をかけてしまう。

 優しい彼は私とクロが結晶化し長期間の眠りについた事を、今でも気に病んでいる。

 治療術を学び養護教官になる道を選んだのは、その時の無力感が少なからず関係していると思う。

 だから、愛バの健康状態には「母ちゃんですか!」というぐらい世話を焼いてくれる。

 それは本当に嬉しいことだけど、操者の手を煩わすなど三流愛バすることだ。

 自己管理も出来ない女だとは思われたくないですし。

 

「あー、ベッドにクロが・・・うぇ、今日は床で寝るの」

 

 クロ隣で寝ると高確率で奴の足が、顔面を襲ってくるから嫌なんだ。

 息苦しさに目を覚ましたら、クロの足に鼻を潰されていることが何度もあったのだ。

 一度「お前の足裏は私の顔に接してないと壊死するのか?」と聞いたら「は?何のこと、その年でボケた?」だとよ!

 

 こいつ、マサキさんと寝る時だけは寝相が良くなるから質が悪い。

 相手を選んでやっているとしか思えない。なめやがって!

 

 やれやれ、これでもいいとこのお嬢様なんだけどなあ。

 うんしょ、よいしょ、予備の布団があってよかった。

 何とか布団を敷いて、さあ寝ようと思ったタイミングでスマホが震える。

 アホに気を遣ってマナーモードにしていたんだっけか。

 こんな時間に、メッセージのやり取りではなく通話を希望とは何事か?厄介事か!

 

「はい。サトノ産の超希少ダイヤモンドとは私のことです」

「夜分遅くにごめんね、ダイヤちゃん。ちょっと、報告がありまして」

 

 通話相手はサトノ家頭首サトノドウゲン、私の父だ。サングラス常備のマダオである。

 経験則により、父が私のことをちゃん付けで呼ぶ時は、碌でもない事を聞かされる前触れだとわかっている。

 

「遂にハートさんと破局ですか?それとも、グラサンが本体だと皆にバレましたか?」

「違うよ。ママとは絶賛ラブラブ中だし、グラサンは顔の一部だけどあくまでオプションだよ」

「はいはい。それで、何があったのです?」

「うちにね、泥棒が来ちゃった」

「なんですと!」

 

 ほらー、とくでもねぇ話だよ。

 寝る前に聞きたくなかったー。ストレス溜まるじゃないですか、やだーもうヤダー。

 今すぐマサキさんの家に行って掛布団になりたい。

 決めた。明日はめいっぱいマサキさんに甘えよう、そうしよう。

 

 

 ●●●

 

 翌日、昼休憩の学園屋上。

 熱烈な構ってオーラを出してくるシロをたっぷり愛でていると、他の愛バも合流してランチ開始。

 カフェテリアでテイクアウトした、具だくさんサンドが美味し!

 

「うちに賊が入りました」

 

 夢で会ったシャミ子たちの話をしようした矢先、シロがそんなことを言った。

 

 族?族だと!?サトノ家にカチコミを仕掛けるとは、まったくどこの大バカだ。命が惜しくないのか?

 

「あーあ、ハードラックとダンスちまったな」

「マサキさん、それ暴走族。うちに入ったのは盗賊、泥棒さんだよ」

「どろぼう・・・怪盗!?予告状は来たのか!」

「予告なしの押し入り強盗です。情けない話ですが、正面から警備を突破されました」

 

 残念、神出鬼没の怪盗と知恵比べなイベントは無いようだ。

 武闘派揃いのサトノ家を狙うだけでも異常事態なのに、正面から突破した?何者だよ。

 

「ヤバいじゃないの」

「はい、実際ヤバいです。死人こそ出ませんでしたが、従者部隊十数名がダウン。二日酔いの軟派野郎も病院送りになったそうで・・・あーもう、全員まとめて基礎訓練からやり直しです!」

「おいたんのアホ―!従者部隊1番が聞いて呆れるってメッセ送っておいたよ」ヽ(`Д´)ノプンプン

 

 イルムという、従者部隊でも指折りの実力者が負けたらしく、憤慨するクロシロ。

 二人が小さい頃から懇意にしている人みたいなので、お見舞いとか行った方がいいのかしら。

 

「必要ないです。どうせ今頃、美人看護師を口説くのに夢中ですよ」

「うわ、やってそう」

 

 心配無用らしい、相当タフな人物のようだ。

 よし、報告を続けてくれたまえ。

 

「監視カメラの映像から賊はウマ娘が三人、力量から轟級以上の騎神と推定。ご丁寧にフェイスガードで顔を隠していました」

「どこかで見たことある。悪趣味仮面だよ」

 

 ほうほう、サトノの従者部隊を蹴散らす程の強者で、顔を仮面で隠した騎神たちかい。

 

「ルクスの手先だな」

「だと思います。サトノ家相手にここまで大それた行動が出来るのは、メジロ家かルクス絡みの連中、どっちもクソです」

「すみません。メジロは私の実家なんで、クソはやめてほしいです」

「アル姉はもう、サトノ家の一族だよ。仲間仲間!」

「気付いてないのですか?従者部隊入りした時点で、あなたの実家はサトノなんですよ!」

「手遅れだね。サトノアルダンwww」

「ひぃぃ!改名怖いです」

「フフフ、全人類サトノ化計画は着々と進行中です」

 

 全人類の名字がサトノだったら不便だし混乱するだろ。宅配の誤配が増えそう。

 それは置いといて、やってくれたな、あんちくしょうめ!

 

「何を盗られた?」

「開発部のデータと、保管庫の試作品を一つ持って行かれました」

「大丈夫?サトノ家からEOTが流出したとなれば世間様が黙ってないぞ」

「データには自壊プログラムを仕込んであるので、余程の凄腕でもない限り半分も抽出できないはず、試作品の方は使い手を選ぶので、そう易々と一般には流通しないと思いたいです」

 

 「楽観的に考えればの話ですが」とシロは付け加える。

 ルクス側に有能な人材が揃っていれば悪用されてしまうだろう。

 そのことを誰よりも理解しているシロは内心穏やかではないだろう。

 尻尾の揺れ具合でそれぐらい察せるぜ。よしよしヾ(・ω・`)シロは悪くないぞ。

 

「試作品、何で両方持って行かなかったんだろうねー?なんか気持ち悪いなあ」

「それは泥棒本人に聞いてみないと何とも言えません。あえて残した・・何の誰のために・・」

「ほぇ?シロ、私の顔になんかついてる」

「腹の立つ顔してるなぁ、と思っただけです」

「マサキさん、私の顔見てどう思う?」

「ムラムラします」

「ならばよし!マサキさん、好き~」

「俺も好き」

「「「貴様ズルいぞ!!!」」」

 

 「私は?私も!」こぞって聞いて来る愛バたちが、マジ可愛い。

 広い屋上スペースには他の生徒たちもいるが「まーたやってるよ」でスルーしてくれます。

 

「サトノ家も大変だったんだね」

「"も"って何ですか"も"って?まさか、ファイン家でも何か?」

「うん、うちにも来たよ。三人のウマ仮面が」

「「「それを早く言え!!」」」

「ごめんごめんwシロちゃんとネタ被りしてテンパってた」

「報連相は大事ですよ。ささ、マサキさんにご報告を」

「はーい」

 

 なんとまあ!ファイン家にも賊が入っていた。

 サトノとファインの二ヵ所を同時襲撃、マジでやってくれたな。

 

 ファイン家では、警備を任されていたルオゾールたち(ハゲ部隊)の奮闘で、人的被害は最小限に食い止められたらしい。

 

「1stの技術データをいくつかパクられた。悔しい~」

「「「あちゃ~」」」

「でも、来月発売予定『ファイン印ラーメン極旨』の㊙レシピは死守したよ!」(`・∀・´)エッヘン!!

「「「それはどうでもいい」」」

「なんでさ!メッチャ美味しいのに!!」

 

 またデータを盗まれている。

 ルクスたちは、オーバーテクノロジーを集めて何かを企んでいる?

 EOT、人知を超えた、神の如き力・・・まさかな。

 

「ファイン家の賊も三人、うちに来たのと併せて六人ですか」

「わかった。そいつら全員、ぶっ飛ばせばいいんだね!」

 

 信じたくはないが、ルクスにも愛バがいる。

 六騎・・・それが奴の愛バだってのかよ。

 

「数で負けちゃってる。けど、こっちは質で勝負だから」

「敵なら倒す。それだけです」

 

 愛バたちのやる気は十分だ。俺も負けてられない。

 

「わざわざ正面突破を選んだのは、意思表示つもりでしょうか」

「サトノもファインも「いつでも潰せんぞ」てこと?大きく出たね」

「ルクス本人がいない、愛バの仕上がりチェックに利用された・・・とか?」

「ちょっとした修練感覚で大事なデータ盗まれたら、堪らないよ」

「再発防止対策はどうなってます?今回のことでメジロ家も警備が強化されたそうで」

「それは・・・アレで・・・」

 

 愛バたちが話し込んでいる。

 こういう時は、下手に口を出さずに任せるのが一番。

 全員、実家にて組織運用等の上に立つ者の知識と経験を学んでいるはず。

 偉いなぁ、僕にはとてもできない。

 

 ふむ。ルクスの愛バが出て来たか、こりゃあ、近い内接触して来るぞ。

 わかっていると思うが、各自注意しておくように、何かあれば即刻報連相よろ。

 盗人事件についてはこんなところか。

 

「俺からも大事な報告がある」

「なんでしょうか?」

「夢に三女神と+αが出た」

「わお、何かご神託でもされたの」

「シャミ子と夢ぴょい未遂でノーカンそしてご先祖」

「「「「夢ぴょい!?もっと詳しく!」」」」

「えっと、あれは・・・」

 

 ・・・・・・マサキ説明中・・・・・・

 

「何なんですか!そのふしだらな女は!!」

「説明した通りだ。シャミ子はアル、お前のご先祖様だ」

「認めません!あのシャナミア様が、そのような方であるはずないです!!」

「メジロの血だよwww」

「ドスケベの血族ですwww」

「おまけにアル中でアホwww」

「ゴリラの要素は?」

「つつけばその内出て来るんじゃないw」

「メジロの開祖シャナミア様は、身も心も美しく強くて清楚で可憐で愛に溢れた、まさに女神の中のスーパー女神!どれだけ言葉を尽くそうとも、彼女を褒め称えきるには至れない。ずっと、そう教わって来たのです。それが、それが・・・だだの痴女だったなんてぇぇーーー!」

 

 ショックを受けたアルが頭を抱えて蹲る。辛いよな、でもこれが現実なんだ!

 

「痴女の先祖は痴女」ボソッ

「「ブフッ、あはははははははwwwひゃははははwww」」

「しゃぁぁっ!!」

「「「あぶねっ!?」」」

「ストップだアル!三人も笑いすぎだぞ、め!!」

「「「さーせん」」」

 

 弧を描く鋭い蹴りを繰り出すアル、のけぞって緊急回避する三人。

 今の、命を刈り取る一撃じゃない?マジで危ない。もう少しで、クロシロココの首が落ちるところだったぞ。

 大乱闘が始まるまえにアルを羽交い絞め、どうどう、落ち着け~落ち着いてくれー。

 耳の付け根を中心に撫でてリラックスさせる。

 アルは俺の胸に顔を埋め「違う、違うんですぅ~」とシクシク泣いている。

 尻尾がペシペシしてくるのは好きにさせておこう。

 

「シャミ子はいい奴だったぞ。何だかんだで立派なご先祖様さ」

「でもでも、マサキさんを騙して襲うような、恥ずかしい人なんでしょう」

「面白くて、俺は好きだぞ。アルに似てるしな」

「う~、素直に喜べません~」( ;∀;)

「泣くな。先祖がアレでも愛してるぞ、アル」

「その一言でメンタルが少し回復しました。もっと言ってください!情熱的に!」

「似てるんだよなぁ」

 

 アルを宥めている最中、他の三人は無理な姿勢での回避ポーズで硬直していた。

 

「ノーモーションからの首狩りはないわー」

「今の結構ヤバかったよね。私の首、ちゃんと繋がってる?」

「ねえ、ノーモーションとファインモーションて似てない」

「どうでもいい。く、首がグキッて・・あだだ」

 

 イナバウアーをもっとこう妙な感じにした、三者三様の意味不明なポージングだ。

 ヤバい周りが引き始めた「うわ、また何かやってる」ですって、またって何よ!

 俺たち5人はいつもこんな感じでは・・・またですね、はい、わかってまーす。

 そそくさと退散!そして解散!午後の授業も頑張りなさいよ。

 

 〇〇〇

 

 今日の俺は現役の養護教官が集まる勉強会というものに参加していた。

 流行の疾病対策や、最新の治療技術、学生患者との関わり方等を中心に学んだぞ。

 他校の教官たちやベテラン治療師との意見交流は為になるね~。大人になっても勉強は続くのです。

 一応、仕事ということで出勤扱いなので、お給料貰って勉強したと思えば得した気分だ。

 学園に寄らず直帰していいというのも、ありがたい。

 

「~♪」

 

 勉強会は意外と早く終わったので散歩がてら徒歩でのんびり歩く、鼻歌も自然と出ちゃいます。

 そんな訳で、お昼過ぎの街を帰宅中の俺です。ちょっと時間に余裕があるな。

 ご近所の定番ランニングコースにもなっている川沿いの道を選んでみました。

 早朝に超スピードぬりかべが出ると噂があるが、本当だろうか?妖怪怖いですね、誰か鬼太郎呼んで来い。

 ほうほう、都会にしては綺麗に整備されておるわ。川の中に目を凝らすと小魚の魚影が見える。

 小魚にしては大きい奴もいるな、水面から突き出た背ビレが陽光に反射して・・・

 

「背ビレ?・・・うぇぁ!」

 

 なんかいるーーー!?

 あ、あれってジョーズ?にしては小さいな。新種発見か!

 川に鮫っているの?と、とにかく写真、写真を・・あ、逃げる。

 こんな時に限って周りに人がいない。

 

「未確認生物発見の功績ゲットだぜ!」

 

 よっと。川原まで下りて背ビレの目撃ポイントへ、ちっ、見失ったか。

 慌てるな、目をつむり意識を集中して覇気サーチ・・・下?いや、正面か!

 

「て、うおおおお!?」

「ク―?」

 

 目を開けたら眼前ゼロ距離に銀色の何かがぁ!

 「ク―」てなんじゃい!鳴き声ですか、そうですか!

 後ろに飛びのく、銀色の何かは首を傾げるような仕草を見せる。

 

「鮫っぽい魚?でも、浮いてる。覇気を感じる、これは・・どこかで」

「ク―」

 

 複数のヒレがある魚型のロボットが空中に浮いている。

 羽ばたいているように見えず、飛んでいるというか泳いでいるみたい。

 銀色の体の各所に青い宝石が埋め込まれていて、目ん玉や口は無い。

 機械で構成されていながら生物のような覇気を感じる。

 こいつの特徴は・・・

 

「お前、あのメカ鳥、カナフの仲間か?」

「ク―!」

「おお!マジか、写真、写真撮るから!今度こそ証拠を残して」

 

 正解というように跳ねる鮫(仮)にスマホのシャッターを何度も切る。

 よしよし、これで俺の薬中疑惑は払拭されるな。あ、今のポーズいいよ!

 俺の周りを旋回する鮫、カナフと同じく不思議な奴だな。動力はなんだ?

 

「そうだ。覇気食うか?」

「ク―!!」

「ははは、待て待て。少しづつな」

 

 指先から覇気を出すと鼻先に当たる部分で、指をツンツンして来る。

 うむ、ちゃんと覇気を吸収できているな。燃料としてお気に召したようだ。

 カナフの時と一緒で、心を許してくれたのか脳裏に名前が浮かんで来た。

 

「け?ケ、レ、ン」

「ク―」

「ケレン。お前の名前はケレンだな」

「ク―ク―」

「川で遊ぼうって?いや、泳ぎは苦手でな。水着もないし」

「ク――――!」ブシャーー!

「ギャー――!」

 

 こいつ!俺の顔に水鉄砲を噴射しやがった!

 鼻にモロに入ったじゃないか・・・なんだろう、今、無性にうどんが食べたくなった。

 熱っ、じゃなくて、冷たい!それに勢い強すぎだろ、高圧洗浄機かよ!

 フ、フフフフフ、やってくれたな。

 

「くぉらぁ!ケレンーー!」

「ク―www」

 

 びしょ濡れの俺を笑ったケレンは身を翻し川へ元気よくダイブする。

 くそ、地形効果では奴に有利とみたが追うしかねぇ!

 なるべく浅い所をぉっぉぉっあ!ズルっと滑って転んでドッボンですよ。

 あーもう、顔だけじゃなく全身濡れ濡れですわ。

 

「ク―ク―ク―www」

「笑ってんじゃねーよ。くらえ!」

「ク―!?」

 

 再び空中に姿を見せたケレンを、今度は俺の水鉄砲で撃ち落とす。

 ウルトラ水流だ!(ただの両手水鉄砲を覇気で強化した技)

 小さい頃、母さんが庭の植物にこれで水をやっていたのを覚えている。

 水を溜めたバケツに手を突っ込み噴射!バケツ→噴射を繰り返していたな。

 

『これなら縁側から水撒きできるわね。よっ!はっ!それ!』

『横着なだけでは?』

『もっと精度を上げてネオの顔面を狙ってやるわ』

『やめたげてよぉ。また二人がケンカして地形が変わったら村長が発狂しちゃう』

『大袈裟ね。さあ、マサキもやってみて、こうやって手を組んで・・・こう!』

『母さんほど飛距離がでませぬ』

 

 シャワーホースを買うという発想はなかったのだろうか?我が母ながら謎な人だ。

 

「ク―ク―!!」

「お、やるか!」

 

 「やったなぁ」と反撃してくるケレン、俺も負けずと撃ち返す。

 謎の鮫ロボと水鉄砲の撃ちあいバトル勃発!!

 やだ、メッチャ楽しい!童心に帰ってエンジョイしちゃうわよ。

 

「あははははは、楽しいな!」

「ク―、クー!」

 

 ケレンの正体とか、もうどうでもよくなって来た。

 時間を忘れて楽しめるのっていいよね。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・フゥー・・・」

「・・ん・・あ゛・・・かほっ!」

 

 何か温かいモノを吹き込まれて目が覚める。

 今のは、少し甘いような、ずっと吸っていたいような、すごく優しい空気?

 飲んでいたのか、少量の水が口から零れてむせる。

 

「よかった、マサキさん!・・・もう、心配したよ~」

「えほっ、あ、あれ?クロ?何で、何が」

「こっちが聞きたいよ。何があったの?」

 

 俺の体は全身ずぶ濡れ、抱き着いて来るクロの体もずぶ濡れだ。

 えーと、俺はそうだ!水鉄砲バトルの真っ最中で。

 

「ケレン!ケレンは?水空両対応のメカシャークは!」

「メカシャークなんいないよ。この間の鳥?だっけ、あれと同じ・・・ヤバいお薬使ったの!?」

「ちがーう!あの時も今回も本当にいたんだ!信じてくれ、写真、今回は写真を撮ったんだ」

「どれどれ・・・何も写ってないよ?」

「そんな!マジかよ」

 

 写真にはケレンの姿は全く写っていなかった。川原の風景写真がいっぱいだぁ!いらねぇ!

 断じて薬はやっていないと、ケレンは本当にいたと言うと、クロは半信半疑ながら信じてくれた。

 うう、本当だもん。嘘ついてないもん。

 

「マサキさんを狙う、敵なのかな?」

「うーん、友好的だったけどなあ」

「友好的な奴が二度もトリップ中のマサキさんを放置する?」

「何が事情があったんだろう、門限があるとか?」

「確かに、前の時もこれぐらいの時間帯だったね。謎だねぇ」

「謎だなぁ」

 

 ま、俺に用があるならまた来るだろう。

 一応要人しておいて、チャンスがあれば捕獲しよう。三度目の正直だ、次こそは!

 

 俺もクロも水に濡れてしまっている。

 それに、さっきのは息を吹き込まれて・・人工呼吸だヒャッホイ!

 

「助けてくれたんだな。ありがとうクロ」

「どういたしまして。ビックリしたんだよ、こんな浅い川でどざえもん発見騒ぎ!?と思ったらマサキさんだったんだから!」

「それは確かにビックリするな」

 

 常時リンク中の俺と愛バたち、誰かに命の危機があれば絶対にわかるはずだ。

 しかし、クロ以外の愛バは来ていない、クロも俺を発見するまで気が付かなった。

 ということは、トリップ中に死の危険はないのかも?うーん、わかんね。

 

 うつ伏せの状態で水面に突っ伏していた俺は、通りがかった人たちとクロに救助されたらしい。

 クロが偶々通りがかったのは僥倖だった、これも操者と愛バの絆かね。

 

「危なかったんだよ」

「そんなにか」

「そうだよ!一緒に救助した人たちが急に揉め出してさ」

「何で?」

「ガチムチ水泳部員数名(屈強な体育大学生たち)が、誰がマウストゥマウスするかで大乱闘だよ!」

「俺超ピンチぃぃぃ!」

「全員叩きのめして、その権利は私がゲットした!」(^_^)v

「ありがとう!よくやった!本当によくやったぞ!」

「喜んでくれてなにより。愛バの私を前にして、ホント何やってんだかなあ」

 

 その辺に転がっている男たちはそういう経緯があったのか、理解した。

 なぜか全員、水中眼鏡に水泳帽とブーメランパンツ装備だ。上着やズボンが見当たらないだと!?この格好でここまで来たなら、十分変態だと思う。

 この人たち川で泳ぐ気だったのか、水深が足らないような気がしますけど?変態の考えることはわからん。

 まあ、人工呼吸の件はともかく、俺を川から引き上げてくれたことには感謝しいる。

 ブーメラン男たちを川原に並べて、こう、抱き合うように絡み合うようにしてと。

 ふぅ、こうすれば互いの体温で暖がとれるだろう。俺って天才だな。

 後は警察に電話だ「川原で水着のホモたちが宴を開いています」と、これでよし!

 

「くしゅんっ!」

 

 可愛いくしゃみが聞こえた。

 クロの体がすっかり冷えてしまったようだ。

 ここからだと学生寮より俺の家が近い。

 

「よっしゃ、帰って風呂だ風呂。うちに寄っていくだろ?」

「お言葉に甘えちゃう。さあ、早く帰ろう」

「制服が濡れちまったな」

「クリーニングすれば平気。マサキさんの家に予備も置いてあるし」

「いつの間に・・・ふぁ、ふぁ、ぶぇっくしょーーーい!ああーーちくしょうッッッ!」

「くしゃみwwwうるさいwww」

「ごめん、思い切りが過ぎたwwwほら、早く乗ってくれ」

 

 クロをおんぶ出来るようにしゃがむ。来い「当ててんのよ」の時間だ。

 

「自分で歩けるよ?急にどうしたの」

「制服が透けてる」

「こんなの気にしないよ」

「俺が気にするんだよ。他の奴にクロのスケブラ見られてたまるか!」

「スケブラてw・・へへ、ちゃんと考えてくれて嬉しいな。紳士なマサキさん、大好き」

 

 大好きと言っておぶさって来るクロ。

 はーん!スケパイが当たって背中が幸せだ。

 

「バーロ―、俺の方がもーっと好きだぜ」

「えー、私の方が好きだよ」

 

 はい、完全にバカップルです。

 家に帰ってしっかり温まったので風邪はひかなかったぜ。

 温まる方法はみんなのご想像にお任せするZE。( ー`дー´)キリッ

 

 クロを背負ってお持ち帰りしたのは、結構な人数に目撃されていたみたい。

 翌日、シロアルココに「外で濡れ濡れプレイ!?次は私の番ですよね」と問い詰められた。

 外ではやりません。家の中では・・・検討します。

 

 あの後、川に立ち寄った際「遊泳禁止!ここは発展場ではありません!」の看板が立っているのを見た。

 へぇー何か事件でもあったのか。おお、怖い怖い。

 

 



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とられてたまるか

 サトノとファインの両家に強盗が入った。俺は川でどざえもんになった。

 一方その頃、シャミ子には鼻うどんの刑が執行されていたそうな。

 

「マサキ、本ッッッ当にごめんね。この埋め合わせは必ずするから」

「急な用事じゃ仕方ないさ、気にすんな」

「ごめん、もう行かなくちゃ。また明日ね」

「おう、気を付けてな」

 

 放課後の学園正門前にて。

 申し訳なさそうに両手を合わせたココは、何度も俺に謝罪をした後、ファイン家の従者(黒髪ロングの美人)が運転する車に乗り込む。

 ココを乗せた車が滑らかに発進、そしてすぐに停車!?なにしてんのよ?

 降車したココが俺に駆け寄りって来た。

 

「どうした?」

「ちょっと忘れ物・・ん・・・」チュッ

 

 服の襟をグイッと引っ張られたかと思ったら、唇を押し付け・・・キスされてますやん。

 数秒後、突然の事に固まる俺から唇を離したココは可愛らしく笑う。

 

「エヘヘ、じゃあ今度こそ、行ってきます」

「あ、はい、行ってらっしゃい・・」

 

 ボーっとしたまま手を振り、走り去る車を見送る俺。

 車が見えなくなったところで、ようやく自我を取り戻した。

 

 今の何?今の何ぃぃぃ!?メッチャ可愛い!メッチャキュンキュンしたぁ!

 ヤバいヤバいヤバい!すんげぇ嬉しいんですけど! 

 こんなラブコメ漫画の1シーン的状況が俺に来たぁぁーーー!ひゃっほぅ!

 学園の正門前なので目撃者多数だけど、それどころじゃないんですけど!

 

 後でシュウに自慢しよう、絶対しよう!姉さんには秘密にしよう!

 おっと、三方向からピリピリした覇気を感じるぞ。

 俺のニヤケ面よ、早く戻りなさい。

 

 今日はココと過ごす予定だったのだが、急な仕事が入ってしまったらしいのよ。

 寂しいけど仕方ない。頭首のお仕事を頑張る彼女は立派だし、誇らしく思わないと。

 いいさ、全ては予定調和だ。これで俺たちも動けるってもんさ。

 残された俺は、気取ったポーズで指パッチンする。しかし、何も起こらなかった。

 下手くそ過ぎて音がでない・・だと!?やだ///超カッコ悪い!

 仕方ないので、体育の授業で使ったホイッスルを慣らすことにする。

 「これを、どうか俺だと思って受け取ってくれ」とゲンさんにもらったんだ。

 言い方がなんか怖い。現場に居合わせたヤンロンは若干引いていた。

 

「ピッ!」(はい、集合!)

「「「は!」」」

 

 物陰から、植え込みの奥から、電柱の上から、シュタッと馳せ参じる三つの影。

 ココを除いた、クロ、シロ、アルの三名が集合した。

 俺の前で恭しく片膝をつく姿は実に忍者っぽい!主を陰ながら守る忍者そのものだ。

 こういう"ごっこ遊び"を俺たちはよくやるのです。やって嬉しい、やられて嬉しい、みんな幸せ~♪

 ごっこと言えど、やるからには本気だぞ。

 

「車の現在位置は?」

「バッチリです。リアルタイムで追尾できます」

「上出来だ。では諸君、本日は最近様子のおかしいココを追跡調査する。ミッション開始だ」

「「「ラジャー!」」」ノリノリ

「行くぞ、小走りで!!」

「マサキさん。よろしければ、お運びしましょうか?」

「王子様抱っこの準備、いつでも出来てるよ」

「さて、我らが操者は誰に運搬されたいのか、もちろん私ですよね!」

「それはまたの機会に、今はお前たちと走り出したい気分。遅れずについて来な!」

「「「どこまでもついて行きます!」」」

 

 俺たちの脚力ならば車に追いつくなんてわけないぜ。

 トレセン学園のある市街地はウマ娘用のレーンが完備されている上に、民家の屋根、ビルの外壁や屋上を飛んだり跳ねたりすることも想定した家造りと、街づくりがされているのだ。

 建築基準法どうなってるのかしらないが、至れり尽くせりだ。

 

 走りながら愛バたちと会話する。

 

「先程の不意打ちキッス、クリティカルでしたね」

「あれはアカンよ。年甲斐もなくときめいちゃったわ////」

「さすが、チュー魔人。ココのああいうところは素直に羨ましい」

「ああいうの、いいですよね。勉強になります」メモメモ

「そのココが、まさかな・・・」

「次の分かれ道を右折です。少し速度を落としましょう、これ以上接近すると感づかれます」

「隠形しながらだと、結構気を遣うね」

「これも修練だと思うことにします。ココさん、信じていますからね」

 

 俺も信じている。どうか、信じさせてくれ。

 

 〇〇〇

 

 事の発端は数日前、ココの様子がいつもと違う気がした。

 授業の合間、休憩時間中の医務室にて、顔を見合わせた俺とクロシロアルの4人は同じ言葉を呟く。

 

「「「「あ・や・し・い」」」」

 

 違和感を感じていたのは俺だけじゃなかった。

 聞けば、愛バたちはもっと前から気付いていたんだと。

 

「やっぱりそう思うよな。俺の気のせいじゃないよな」

「なーんか、最近ソワソワしてるよ」

「よく電話をしている姿を見かけます。相手は誰か聞いても「内緒♪」だそうで」

「もしかして、アレなのでしょうか?」

「アレとは何よ?」

「パパ活」

「「「マジでか!?」」」

 

 ココに限ってそんな、援助で交際な活動をしているなんて考えたくない。

 昨今では、マッチングアプリ等で見ず知らずの男女が出会うなど珍しくないと聞く。

 花の女子高生が羽目を外して遊びたい気持ちはわかるが、ちょっとした火遊びのつもりが大火事になることもあるんだぞ。

 パパ活・・羽振りのいいおじ様から、お小遣いをもらってデートしているだとぉ!?

 操者の俺を差し置いてデートなんて!けしからん!けしからんぞ!

 

「許さぬ!絶対に許さぬぞ!」

「デートだけで終わるはずもなく、札束をチラつかせた成金おやじはココの肩を抱きホテル街へGO」

「盛り上がって参りました」

「盛り上がったらダメ!くそぉ!こうなったら成金おやじを,オルゴナイトバスターするしかない!」

「一人のおやじをバスターしても、次から次へと新たなおやじがマッチングするのであった」

「無限増殖おやじ」

「ココさんにはマサキさんをホテルに連れ込んだ前科があります。おやじ様ではなく、ココさんの方が誘っている可能性も・・・あ、私の拙い推理など、どうかお気になさらず」

「わざとだ、今の絶対わざとだ」

「ならば日本中のラブホをこの世から消す!三人とも戦の準備をしろ、出陣するぞ!」

「「「凄い命令きちゃったww」」」

 

 さすがにラブホ殲滅計画は却下された。我ながらアホな命令をしかけたもんだ、反省。

 

「もう直に問いただすしかない!手尾れになる前に行って来る」

「待ってください。ココに会って何と声をかける気ですか?」

「金なら俺が出す!だからデートしてくれ!でどうだ?」

「それは、なんか・・違う」

「完全に貢ぐ男ですね。いいように利用されて最後はポイされます」

「ポイされたら私が拾います。だから、安心して貢いでください」

「それも違う!マサキさんもアル姉も考え方ズレてるよ!ズレまくってるよ」

「「そっかぁ」」

「「ダメだこりゃ」」

 

 ズレているらしい俺は、同じくズレているアルの尻尾をお触りして現実逃避する。

 上手に触ると手に巻き付いて来るから楽しい、そして愛しい。

 

 一旦解散!!

 

 それから、ココに会った時に「最近、困っていることはないか?遠慮なく言ってくれ」と声をかけてみたのだが。

 「心配してくれてありがとう。何でもないから、気にしないで」と返答されてしまった。

 

 再び集合!!(ココを除く)

 

 頼りない操者でごめんなさいーー!明らかに何かあるのに相談してくれないの、悲しいです!

 成金おやじ並みの財力がないからか?もっと年上が好みだったのか?俺では満足できんのか!

 お、俺が、俺が悪い、俺がダメ男だったからココを繋ぎ止めておけなかった!

 

「時代や環境のせいじゃなくて・・俺が悪いんだよ」

「あらら、ヘタレちゃった」

「ココがパパ活に手を出したのは、俺のせいだ」

「まだパパ活と決まったわけではないですよ。気をしっかり持ってください」

「もう・・嫌なんだ・・自分が・・」

「これ最後までやるの?」

「俺を・・家に帰してくれ・・もう・・風呂入って飯食って早く寝たい」

「普通に仕事サボりたいだけじゃないですかww」

 

 愛バの胸で泣いた。柔らかかった、元気が出た。

 

「わからないことは調べるしかない。ココを調査するぞ」

「興信所に依頼しますか?うちなら、腕のいい業者を斡旋できますよ」

「待ってよシロ!こんな面白そうなこと私たちで調べないでどうするの」

「素行調査!探偵みたいでいいですね。是非やってみたいです」

「どうするかは、マサキさんが決めてください」

 

 操者と愛バ、俺たち5人は強い絆で結ばれたチームだ。

 チームの問題はなるべくチームで解決したい。

 外部にヘルプをかけるのは打てる手を出し尽くしてからでいい。

 

「俺たちでやる。3人とも力を貸してくれ」

「「「仰せのままに」」」

 

 ○○〇

 

 そんなこんなで今、車を追跡中です。

 最初は先頭を走っていた俺だったが、分かれ道で明後日の方向へ進もうとした為、大人しく愛バの後をついてくついてく。

 

「目的地周辺です」

 

 シロが抑揚のない言葉を継げる。今のめっちゃカーナビっぽい!

 車は立派な建物の正面ゲートに停車した。

 ココが下車する、その顔は若干緊張しているように感じる。

 

「ビルドンホテルか、でっけぇなあ」

「御三家の要人や海外のVIPも宿泊する高級ホテルですよ。スイートルームからの景色は中々のものです」

「調度品は趣味じゃないけど、スタッフの仕事は一流だよ」

「最上階にお洒落なバーがあるんです。今度、一緒に行きましょうね」

「なんか、庶民でごめん」

「「「????」」」

 

 今更ながら、愛バたちがお嬢様だったことを思い知る。これが格差か!

 3人とも、こういう場所に慣れている感が凄いな。カルチャーショック!ヤックデカルチャー!

 学生寮や俺の部屋に文句を言わないし、ファミレスや貧乏飯でも美味そうに食べてくれるから、実家が金持ちなこと忘れそうになるんだよな。

 きっと、親や周りの教育が良かったんだろうなぁ。

 

 ホテルに入ったココは、待ち構えていた支配人らしき人物に挨拶されている。

 会話は聞こえないが「過剰なサービスはいらない」と断りを入れているのだろう。

 その後、ペコペコのスタッフに案内され、一人になったココはラウンジのイスへと腰かける。

 運ばれて来たコーヒーカップに手を付けず、やや憂いのある表情をしたココ。

 

「いつもと違う・・・ファイン家頭首の顔?いや、あれは」

 

 俺の知らないココだ・・・何これソワソワするー!

 いやー!俺以外の男に見せるメス顔いやーーー!

 嫉妬力が溢れる、俺の中の嫉妬力がハイパー化しそうだ。

 

 今、俺たちはホテルに向かいにある、お洒落な喫茶店のテラス席に陣取り目を凝らしている。

 店員さんは「よくあることですから」と俺たちを一番良い席に案内してくれた。

 調査員行きつけの喫茶ってなんだかなぁ。

 注文したラテが美味しいのでほっこり。クロ、アイスコーヒーぶくぶくするのはやめなさい。

 

「よし、この位置ならバッチリ観察できます」

「誰かと待ち合わせかな?」

「相手もvipでしょうか?しかし、仕事モードのココさんとはまた違うような気がします」

「接近する人物あり!」

「外国人?」

「おやじ違う!おじいちゃんだよ。パパ活じゃなくてジジ活だった!」

「金は持っていそうですね」

 

 現れたのはおやじではなく、お爺さんと言っていい年齢に見える男。

 高そうなスーツをビシッと着こなした、英国風の老紳士だった。うーん、ジェントルマーン。

 護衛らしき男女のコンビを引き連れてのご登場だ。金の匂いがプンプンするぜい。

 

「傭兵を生業としている操者と愛バだ、たぶんギリ轟級」

「それなりの修羅場は潜ってそうですが」

「私たちなら、3分以内に無力化できます」

 

 自分たちの敵ではないことを看破する愛バ。それより今は、ココと爺さんだ。

 立ち上がりかけたココを手で制し、対面に座る紳士。

 紳士はココの姿を見て甚く感激しているみたいだが、ココの方は少々戸惑っている様子だ。

 

「護衛を遠ざけましたね。二人だけでどのような会話を?」

「こんなこともあろうかと。じゃーん、サトノ印の集音ガンマイク"耳ピト―"です」

「準備いいな。スピーカーモードにして、お、良く聞こえる。中々のクリア音声」

 

 どれどれ?どんな会話をしているんだ。

 「実は部屋をとってある。グフフ、今夜は返さないよ」だったら老紳士を処す覚悟だ。

 ガンマイクのスピーカから音声が聞こえてくる。

 

『この日をどんなに待ったことか、君に会えて本当に嬉しい』

『こちらこそ。お会いできて光栄です』

『写真とは比べ物にならない程に見目麗しい。その瞳、あの子に瓜二つだ』

『お褒め頂きありがとうございます』

『緊張しているのかい?そう堅くならず、楽にしてくれていい』

『そういうわけには』

『私と君の仲だ。遠慮などする必要ない』

 

 なんか馴れ馴れしいジジイだな。

 ココが可愛いのは分かるが、なんか不愉快だわ。

 

「マッチング相手が予想以上に可愛くて、テンション上げ上げなのでしょうか?」

「運よく当たりを引いて、ご満悦なハッスルジジイ」

「ココさんに随分とご執心なようで、瓜二つとは一体?」

 

 あのハッスルジジイを倒せば万事解決なのかい?みんなどう思うよ。

 

「突入はもう少し待ってください。相手が何者なのか知りたいです」

「ただの金持ちじゃなさそう、訳アリ臭がする」

「マサキさん、ここは我慢ですよ。精神安定に私の耳をお触りしてください」

「うん。ありがと」

 

 シロのウマ耳は極上の触り心地だ。

 イライラ解消にはもってこいで、シロのマッサージにもなる一石二鳥の優れもの。

 本人の了承も得たので遠慮なく触らせてもらおう。

 

「これは良き耳だ」もみもみ

「ふぃ~、耳のこりがほぐれますね~、ああ~そこそこ」

「あ、ジジイがココを舐め回すように見てる」

「なんだとぉ!」ぎゅぅぅぅぅ

「んぎゃぁぁ!みみしぼりぃーーー!」

「す、すまん」

 

 ヤバい、手に力が入ってウマ耳を強く握ってしまった。

 ごめんよシロ「痛いの痛いの飛んでいけ~」ヒーリングをしたから許してね。

 軟骨が飛び出したりしなくてよかった。

 

「はぁ、はぁ・・クロてめぇ、私のイチャラブを邪魔したな」

「どうしたのシロ?自慢の耳を握り潰されてよかったね」(*‘∀‘)

「いつか泣かす」(#^ω^)

「ケンカは後にしてください。今はココさんとお爺さんの関係を調べる方が先です」

「「ごめんなさい」」

「はい。素直でよろしい」

 

 シロとクロの衝突をアルが仲裁して手早く解決した。

 俺が口を挟まなくても、愛バたちは上手くやっていけている。感心感心。

 さて、ココと爺さんはどうなった。

 

『それで、わざわざ日本まで来られた理由は?』

『わかっているのだろう。目的はただ一つ、君だ』

『その件は前にお断りしたはずです』

『一度断られた程度で、諦められる問題ではないよ』

 

 断られてるのにしつけぇ!ハッスルジジイが粘着ジジイに進化した。

 

『私にはファイン家の仲間がいます。あなたと共に行くことはできません』

『その年で頭首をやっているのだったね。大変立派なことだと思う』

『ありがとうございます』

『しかし、まだ子供の君が日本を牛耳る御三家頭首とは、その責、一人で背負うには・・・』

『小娘の身に余る地位だとは重々承知しております。ですが、決して一人ではありません』

 

 一人ではないと、ココのよく通る声が聞こえる。よく言ったと褒めてやりたい。

 

「もしかしてこれ、パパ活でもジジ活でもないのでは?」

「そんな気はしていました。しかし、お爺さんがココさんを狙っているのは確かなようです」

「やらしい雰囲気はしない。ココの身体が目当てなわけじゃなさそうだ」

「お金に困っているようにも見えないなあ。金じゃないとすると欲しいのは、ファイン家の権力?それも違う気がする」

 

 ココ、爺さんはお前の何なんだ?教えてくれよ。

 

『侮辱したわけではない、私はただ君が心配なだけだ』

『どうしてそこまで』

『祖父が孫を心配する。当然のことではないかね』

『母は父と駆け落ちをしたと聞いています。身勝手な理由で国と家族を捨て、縁切りしたのですよ。その母から生まれた私も、あなた方との縁は既に無いもとの思いますが』

『娘と喧嘩別れをしたこと、本当に後悔している。私だけではない、妻も兄弟たちも、一族の全てが"ココット"を失ったことを悔やんでおるよ』

『罪滅ぼしのつもりですか』

『そうだな、そうなのだろうとも。都合がいいと罵られるのは承知の上だ。しかし、しかしだ、まだ取り返しのつく君を放っておくことはできない』

『わ、私は・・』

『迎えに来たのだよ、ファインモーション。一緒にアイルランドへ帰ろう、これからは家族と一緒に暮らそうじゃないか』

 

「「「なんじゃそりゃぁぁ――――!!!」」」

「へ?え?は?何」

 

 爺さんの言葉で驚きの声を上げる愛バ三人。俺は頭の整理が追いつかない。

 店員さん、騒がしくしてすみません。客は俺たちだけなので、どうかご勘弁を。

 と、とりあえず。すっかり冷えてしまったラテでもを飲んで気を静めよう。

 

「な、な、何言ってるのかアッパッパーの俺にはもう、わけわからんのじゃけぇのう」

「混乱しているのは、よくわかった」

「びひゃぁぁーーラテおいちーーですぅぅーーー」ボドボド

「マサキさん、そこw目ですよww」

「目からラテを飲む、激レアマサキさん。頂きました!!」カシャ!パシャ!

 

 口と目を間違えてラテを飲む俺を激写するアル、見かねた店員さんがタオルを持って来てくれた。

 「よくあることですから」と告げてカウンターに戻っていく店員さん、あってたまるかいな。

 「冷めていてよかったですね」と顔を拭いてくれる愛バたち、本当にな。 

 

 目ラテのおかげか、ちょっくら頭が動くようになって来た。

 アイルランド?どこ?イギリスの隣?帰るって何?ココが帰る=日本からいなくなる。

 え、ええ?えええ?ちょっと、ちょっと待って、ええ?

 

「あのジェントルマン、ココのジージだって。うーん、似てない!」

「要約すると、ファイン家頭首を辞めて一緒に来いと言ってますね。私たちとの縁もこれまでですか・・」

「あら?あらら?確か、ココさんは祖父母様から酷い扱いを受けていたのでは?」

「させるかよぉ!!」ダッシュ!

「待ってマサキさん!幼いココに酷いことをしたのは、父方の・・・」

 

 シロの言葉も聞こえない、テラス席から飛び出す!

 ココの過去話は聞いている。クソジジババに好き放題されたんだったよなぁ!

 そんな奴が、また一緒に暮らそうだと?どの口が言うのか!

 

 人も車も障害物も、全てを躱し、すり抜け、ホテルのエントランスまで一気に辿り着く。

 マサキ少尉突貫します!※少尉ではない

 

「どらっしゃっせぇぇぇーーーィィ!!!」

 

 高級ホテルにダイナミックイン!!

 ガラスを突き破っココの所まで直行しようかと思ったが、ホテル側に罪はないので我慢した。

 覇気を使った長距離スライディングで、正面から堂々とお邪魔します!

 

「な、なんだ!?」

「うわっ、なんか来た!」

「キャー変な男が滑り込んで来たわ!キャー割と好みよー!」

「さすが、トレセンが近いだけある。ヤバいのが出るわ」

  

 一般ピープルの皆様お騒がせします!どうか、しばしのご辛抱をよろしくお願い致します。

 

「宿泊はしません!ちょっとラウンジでお話するだけですので、お構いなく」

「お、お客様!」

「アレを客認定していいのか!?」

「ど、ど、どうすれば」

「皆落ち着きなさい、お客様の前だ」

「し、支配人」

「当ホテルへようこそ、ワイルドなお客様。非戦闘員の方もおられます故、どうか穏便にお願い致します」

「ありがとう、できうる限り善処します」

 

 話の分かる支配人さんに感謝する。

 俺に気付いた爺さんの護衛二人には、覇気で威嚇して動きを封じる。

 これで邪魔する者はいない。悠々と二人に近づく。

 ココがギョッとした目を向け、ジジイがポカンとしているがどうでもいい!

 

「マ、マサキ、え・・・なんで、いるの?」 

「ストーキングした」

「えぇぇ」(´Д`)

「突然なんだね君は!今、私たちは大事な話をしているんだ」

「しらん!過去の清算に俺の愛バを利用するな。反省も後悔も一人で勝手にやってろ」

「な・・・」

 

 俺の物言いに口をパクパクさせている爺さん。

 その隙にココの手を掴む。

 

「帰るぞココ」

「ちょ、待って、話を聞いて」

「後でな」

「待ちたまえ。孫娘をどうする気だ」

 

 どうするも何も、アンタから引き離すんだよ。

 手から伝わる覇気で分かる、ココは今もずっと困惑し動揺し狼狽えている。

 可哀そうに、ジジイからのストレスで心に傷を負ったんだな。

 

「私はその子の祖父だぞ!何の権利があって邪魔をする」

「操者権限だ。操者と愛バは近くにいるのがベスト、おわかりかな?」

「操者・・だと・・」

 

 ココから聞いていないのか?そんなことも知らないで祖父気取りとは、呆れるなあ。

 

「爺さんはアイルランドにココを連れ帰り、一緒に暮らしたいと思っている。間違いないか?」

「聞いていたの!?」

「盗聴していたことは謝る。で、どうなんだ爺さん?」

「その通りだ。祖国では家族が待っているのだよ、娘の忘れ形見である彼女のことを」

「・・・・」

 

 集音マイクの感度は良好だった。聞き間違いではなかったらしい。

 このジジイ、虐待クソ野郎の分際で、結構な眼力を飛ばして来おるわ。。

 ココは俺と爺さんの顔を交互に見た後、なんだか辛そうに頭を抱えている。。

 頭痛がするほど我慢していたんだな。俺が来たからには、もう安心だぞ。

 

「・・・・ませ・・ん」

「何?」

「ココは絶対に、あげませえええええん!!」

「「!?!?」」

 

 スペ風に言おうとして失敗した、これじゃビームマグナムを「撃てませえええええん!」だよ。

 バナージ、悲しいね・・・・

 

「血の繋がりは無いし、まだ結婚していないから夫婦でもない!でもな、俺は操者でこの子は愛バだ!」

 

「共に戦う仲間で、仲の良い彼女で、これからもずっと一緒に生きていく大切な女だ!」

 

「家族と言ったな!俺だってなあ、ココのことを本物の家族だと思ってるよ!」

 

「俺の大事な家族を、遠い国へ連れて行くだと?そんなことは断じて許さんぞ!」

 

 ぜえ・・ぜえ・・言った。言ってやったぞ。

 

 ホテルのロビー全体に響き渡る声で言ってやった。

 ん?ココがなんかプルプルしている。顔も真っ赤だし熱でも出たか?

 過去にトラウマを植え付けたジジイがいるんだ、それも仕方ないよな。

 

「ココと・・呼ばれているのか」

 

 ジジイはしみじみと愛称を呼んだ。気安いですぞ!

 

「そうか、そうか・・・どうやら私は勘違いをしていたようだ」

「あの、彼は大分おかしいというか、これが通常運転というか」

「ずっと一人で辛い思いをしているものだとばかり、そう決めつけていた」

「爺さん?何を言って」

「ファインモーション、なぜ彼のことを黙っていた?」

「だって、は、恥ずかしい・・し////」

 

 え?俺恥ずかしいの!?む、チクチク刺さる視線が痛い。

 あー、周りの人たちが、ホテルのスタッフや護衛に警備の人も集まって遠巻きに見られてる!

 これは確かに恥ずかしい!!

 ええい、ここまで来たら納得するまでやったらぁ!

 

「どうしてもココがほしいのなら、この俺を倒してからにしな」( ー`дー´)キリッ

「マサキ、もう、ホントやめて///」

「今日だってなあ、アンタに会う予定が無ければ今頃、イチャイチャパラダイスだったのに!」

「ほう、君は孫に手を出しているのか?」

「悪いか!双方合意の上だ!それより、いい加減に本性を現したらどうだ?ココを利用して今度は何を企んでいる」

「違うの、違うから」

 

 金は持ってないけど、愛バを守るためならコネも身内も女神もフルに使って戦う覚悟があるぞ。

 やんのか?表出るのか?バスカーの準備しておくぞコラ。

 

「やめてマサキ!この人は違うの」

「違うって何が?こいつが昔お前を虐待しやがった鬼畜ジジイだろ、万死に値するわ」

 

 腕にしがみつくココは首を振っている。何故止める、お前が許しても俺は許さんぞ!

 

「それは父方の祖父母!この人は、母方の祖父。直接会うのは今日が初めてなの!」

「初めてだぁ?お前の初めては既に俺がうば・・・むぎゅ」

「な、な、なに言い出してるのーーー!////」

 

 ココにヘッドロックされてしまいセリフが中断された。

 ココパイが頬に当たって幸せ、だからギブはしません。

 

「なあなあ、おぱーい少し大きくなった?」

「今それ聞く!?」

「後で測定させてね」

「黙って!もうホント黙って、お願いだから////」

「そんなに真っ赤になって、ジジイ!アンタのせいでうちのココが発熱したぞ、どうしてくれんだコラ!」

「マサキのせいだよ!!」

「煮え(たぎ)る俺の怒りが伝わってヒートしちまったかぁ。さすが俺の愛バだ」

「しまった!これマサキ空間だ、私が味わうことになるなんて」(;´д`)トホホ

 

 マサキ空間とは?

 マサキの言動により理不尽な精神的苦痛を与えられる異常事態、またその現場を指す。いわゆるアホの固有結界である。トレセン学園のネームドウマ娘たちは大体被害にあっている。

 

 なによこの解説?失礼しちゃうわ!

 

「くッ・・・フフッ、フゥーハハハハ!」

 

 俺とココのやり取りを見ていたジジイが突然の爆笑。老人特有の発作かしら?

 

「わ、す、すみません。お見苦しいところを」

「いやいや結構。先程の君たちは、まるでココットが戻って来たかのようだよ」

「お母様に?」

「ああ、結婚の挨拶だと男を引きずって来たかと思えば、人目も(はばか)らず惚気まくる。難色を示した私たちに悪態をついた後、実家を飛び出し行方不明。そのまま駆け落ちしたんだ」

「お母様、そんなにワイルドだったの」

「そう、元気な自慢の娘だったんだよ」

 

 あれ?なんかおかしいぞ、ジジイがココのお母さんの話をしている。

 ココママの話をするジジイはとても優しい顔で、ココも嬉しそうに聞いている。

 ジジイが悪い人に見えないし、ココとの関係も険悪ではない。

 過去ログを思い出せ、さっき何と言った?確か今日が初対面・・・あっ!

 

「わかったぞ、謎は全て解けた!」

「遅いよ!!」

 

 本当に遅かった。ジジイは、いや、素敵なおじい様は俺に向き直りこう言ったのだ。

 

「初めましてだな操者君。私はファインモーションの祖父だ、母方のな」

 

 母方・・・お母さんの実家ですね。えーと、

 

「悪いジジイではない?」

「良いジジイでありたいと思っておるよ」

「ココさん?」

「いじめられてないよ。もう一度言うけど、直接会うのは今日が初めてなの」

 

 そ、そうっスか。全部、俺の早とちりでしたか。

 

 ざわ・・・ざわ・・・

 

 遠巻きに見ていた、宿泊客並びにホテルスタッフが「やっちまったなぁ」という視線を向けて来る。

 ヒソヒソしている人も多いし、支配人は「あちゃー」と額に手を当てている。

 この野次馬どもが!見守ってくれたのに、こんな結果になってすまんの。

 

「仕方ないな」 

 

 いつものアレやりますよ、やればいいんでしょ!

 今回は事が事だけに気合を入れなければならんよな。天井の高さよーし!

 はい、いっせーのーで!

 

「すみませんでしたぁぁぁーーーー!!!」

 

 トリプルアクセル土下座しちゃった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 俺はラウンジの床に額を擦りつけていた。そろそろ煙が出そうな勢いだ。

 

「もう頭を上げなさい」

「そういうわけにはいきません。もう、恥ずかしくて情けなくて、とにかく申し訳なくて」(´Д⊂グスン

 

 トリプルアクセル土下座を決めた後、高難易度技成功の余韻に浸っている暇はなかった。

 ココのじい様や、現場に居合わせた一人一人にマッハ土下座行脚したからだ。

 おでこがヒリヒリするほど擦ってもまだ足りん!

 ああ、もう嫌や、おじい様にもココにも愛バにも顔向けできない。早とちり乙!

 俺は本当に大バカ者や、そんな俺にココは寄り添ってくれる。

 こんなええ子の前で大失態を演じた俺、もう自分が恥ずかしくて悶絶しそう。

 

「やめとけ、俺みたいな恥ずかしい男の傍にいたら、お前まで笑いものだ」

 

 恥ずかしい男、略して恥漢(チカン)のアンドウマサキです。

 

「私の為に怒ってくれた人を、恥ずかしいだなんて思わないよ」

「嘘よ!だって恥ずかしくて、おじい様に紹介しできなかったんでしょ。泣くわ!」

「それは、だって、大好きな操者がいるだなんて知られたら、根掘り葉掘り聞かれた挙句「一族総出のお祭りじゃー!」とか言い出しそうな雰囲気だったから」

「孫のフィアンセを気にするのは当然だろう」

「ホントそういうの困るから、やめて」

 

 最近、頻繁にかかってきた電話はアイルランドからの国際電話だった。

 お爺様やその一族が、どうしてもココと話をしたいと、何度も通話していたらしい。

 

「連日「彼氏は?」「結婚は?」と、ひっきりなしにかかって来て、それはもう大変だったんだら」

「ハハハ、許してやっておくれ。皆、君が生きていたことに歓喜し、絶賛フィーバー中だ」

 

 国とか一族で嫌な予感していたけど、この爺様というかココ母の実家は偉い人集まりなの?

 

「おじい様たちはね、アイルランド王家の末裔なんだよ」

「へ、へぇー」

「大したことはない。歴史と資産を人より多く有しているだけさ」

「リアルなお城に住んでるんだって、凄いよね」

 

 うん、凄いよねキミもね!

 またしても、またしても!身分違いを痛感させられたぁ。

 日本で御三家のファインの頭首、アイルランドでは王家の末裔って何だよ。

 

 アイルランドが「王国」だったのはせいぜい近世まで、政治に口を出す権限も今はないらしい。

 それでも、お爺様たちを「王族」として敬う人々は多く、国の代表がわざわざ挨拶に出向くほどなのだとか。

 インモーとか言った奴、不敬罪で処罰されたらいいのに。それだと、シロとクロがヤバいな。

 

 恥漢の俺はまだ頭を上げない、このまま自分の要求を伝えよう。

 

「身分違いは重々承知しております。ですが、俺はもう、お孫さん無しではいられません!どうか何卒!何卒!俺とココの関係を認めてください」

「マサキ・・・おじい様、私からもお願い」

「ふむ・・・」

 

 今日は頭を下げてばっかりだ。そういう日もあるある。

 やってることが同じだって?さっきのは謝罪、今しているのはお願いだ!

 

「お願いします。俺からココをとらないでください!」

「孫のことを、愛しておるのだな」

「はい」

「大事にすると誓えるか?」

「はい、我が命に代えても」

「その言葉に偽りはないな。信じてよいのだな?」

「はい、我が命に代えても」

「君、そのセリフ気に入っておるな。言いたいだけだな」

「はい、我が命にかえても」

「マサキってば////お茶目さん」

 

 お爺様に届け俺の真心~我が命に代えても。

 

「モーションの方は・・・フッ、その様子では聞くまでもないか」

「うん。私、彼のことが好き。何があっても一緒にいたいの」

「血は争えんか、ココットと同じことを言うのだな」

 

 (ココ、我が命に代えてもが抜けてるぞ)

 (それ言わなくちゃダメなの!?)

 

「二人の気持ちはよくわかった。互いの心が通じ合っているのならいい、それが一番だ」

「では!」

「認めるしかあるまい。認めないと言ったところで二人は止まらない、そうだろう」

「よくお分かりで」

「孫娘フィーバーで要らぬお節介が過ぎたようだ。すまなかったね、モーション」

「ううん。おじい様の気持ちは嬉しかったよ」

 

 イイ感じに話がまとまった!いよっしゃぁ、しゃしゃしゃぁーーー!

 周囲を見渡す余裕が出て来たぞ。支配人をはじめ聞き耳を立てて見守っていた人たちが、サムズアップしてくれる。

 野次馬この野郎!照れるじゃねえかよ(/ω\)でも、ありがとうありがとう!

 

 緊張が解けると一気に喉が渇いて来た。

 察したココが「飲み物頼んで来るね」と席を立ち、俺とお爺様の二人だけになる。

 わざと置いて行かれた。

 

「君と話をする許可が下りたようだ」

「ですね」

「聞かせてくれないか、普段のあの子の様子を」

「はい、ココの魅力たっぷりでお届けしましょう」

 

 お爺様にココの話をする。

 ラーメンが好きなこと、ファイン家で頑張っていること、学園での様子や他のウマ娘とも仲良く出来ていること。

 1st関係のことは伏せておいたが、どの話も頷きながらしっかり聞いてくれた。

 

「モーションの母、ココットのことは聞いているかな」

「はい、確か事故で亡くなったと」

「少し話をしてもいいだろうか?」

「どうぞどうぞ」

 

 ココの母親、ココットさん。

 類まれなる容姿と、明朗快活にして自由奔放な性格で多くの者に愛されたウマ娘。

 家族内でもアイドル的存在だった彼女は、学生時代に短期留学で日本に訪れた。

 箱入りの彼女にとって日本という国は全てが新鮮で、大いに魅力的だった。

 ある日の晩、護衛を振り切り、ふらりと立ち寄ったラーメン屋で運命の出会いを果たす。

 出されたラーメンなる未知の食料に悪戦苦闘していると、隣の若者が声をかけてきたのだ。

 

『君、外国の子?ラーメン食べるの初めて?』

『らー?めん?』 

 

 それが自身の夫になり、後にココの父親となる男性だった。

 

 二人は瞬く間に恋に落ちた。

 その関係は留学期間が終わってからも続き、国と国との距離などは障害にならない程、仲睦まじかった。

 帰国してからもココットは何かと理由をつけて、何度も日本へ渡ることになる。

 さすがに怪しんだ両親に問い詰められ、日本人の恋人がいると白状。

 両親のみならず親類縁者一同は激怒した。

 自慢の可愛い娘、一族の宝物が見ず知らず男に奪われた。

 しかも日本人?サムライ、ゲイシャ、フジヤマ、変態的で未来に生きている人種だと聞くが。

 

 大反対されたココットは、めげることなく根気強く両親たちを説得しにかかる。

 だが思うようにいかない日々が続く。

 彼に会ってくれさえすれば、そうすれば首を縦に振ってくれる。

 そう信じたから二人はアイルランドにて顔合わせの機会をセッティング、どうか結婚を許してくださいと、精一杯頭を下げた。

 それでも両親は許してはくれなかった。そればかりか、両親は彼に罵詈雑言を浴びせ家から追い出そうとする始末。

 鬼の形相で怒鳴り散らす両親に随分酷いことを言われたが、彼は笑みを崩さず堪えてくれた。

 「元気な人だね」と空気の読めない発言をしていたので、単に言葉がわからなかったのかもしれない。

 両親の心無い言葉に、今度はココットが激怒する番だった。

 

『そんなに言うならもういい!私はこの家から・・国から出ていきます』

『お父様たちが心の底から彼に謝罪するその日まで、私が祖国の地を踏むことはないでしょう!』

 

 愛娘のキレ散らかした姿と絶縁宣言に呆然とする両親、それを無視してココットは実家を飛び出す。

 両腕に愛しい彼をしっかり抱いたまま走り去る後ろ姿・・・駆け落ちしたのだ。

 それが今生の別れになろうとは、この時は思いもしなかった。

 

 そうして、ココットは国を出て日本で暮らすことになる。

 二人は結婚して、子供が生まれて、後の顛末は以前ココから聞いた通りだ。

 

 懺悔のような告白をして、老紳士は目を伏せる。

 愛する娘とケンカをしたまま、二度と会えなくなってしまったのだ。

 その悲しみを推し測ることは、若僧の俺にはできそうにない。

 

「ココットの旦那君は、本当に良い男でね」

「ウホッ!的な意味でしょうか?」

「立派な人間だったという意味だ。駆け落ちしてからすぐ、ココットに内緒で連絡して来てくれたのだ」

 

 そう言って、おじい様は古い写真を俺に見せる。

 結婚式の場面だろうか、タキシードを着た男性とウエディングドレスを着たウマ娘が写った写真だ。

 

 旦那さんは写真を添えて定期的に連絡してくれたのだという。

 そのことはすぐに嫁バレし「国には帰らないが定期連絡はする」とココットさんも了承したのだ。

 

 それからしばらく、月に一度の手紙に孫娘が生まれたと記されていた。

 アイルランドではお祝いのパーティーが開かれたのは内緒だ。

 孫の成長と共に連絡の頻度は増え、週一になった電子メールには吉報が書かれていた。

 

『今度、娘と旦那を連れて里帰りします。歓迎の準備はよろしいですか? byココット』

 

 王族たちは一気に沸いた!

 ココットが帰って来る、旦那君にも謝らないと。

 写真でしか見たことがない孫娘も一緒だ。絶対愛らしいに決まっている!

 リハーサルのパーティーが開かれ、みんな首を長くしてその時を待った。

 家族の絆を取り戻し、幸せの絶頂を迎える・・・はずだった。

 

『事故で息子家族は全員亡くなった』

 

 あまりにも簡素な、たったそれだけの知らせだった。

 悪い冗談か?何かの間違いだと思い、日本まで腕利き調査員を何度も派遣した。

 結果は知らせの通り、交通事故により一家は全員死亡。旦那方の親族とも、そのうち連絡が取れなくなった。

 

「いや、待ってください!ココは生きているじゃないですか?」

「ああ、故意に隠されていたのだよ。調査員たちは旦那君の両親、旧ファイン家から金を受け取り、我々に嘘の報告をするように丸め込まれていたのだ」

「なんだよそれ。マジで腐ってやがる」

「調査員の話を鵜吞みにした我々も愚かだった。そのせいであの子には辛い思いをさせた」

 

 ようやく再開できると思った矢先の訃報で、心身共に疲れ切った状態だ。

 信頼していた者の言葉を疑う余裕などなかった。

 王族たちは嘆き悲しみ、あの時、素直に結婚を許していれば、こんな事にはならなかったと悔やみ続けた。

 

 後悔と自責の念に苦しむこと幾年。

 そして先日、旧ファイン家を名乗る老夫婦が訪ねて来た。

 

「わざわざアイルランドまでですか?」

「そうだ、急に押しかけて何事かと思ったら、開口一番こう言ったよ「金を寄越せ」とな」

「どこまでも、ふざけてる」

 

 自分たちから関係を断っておきながら「一度は親族になったのよしみ」「出来の悪い娘を嫁にもらってやった恩は無いのか?」「息子が死んだのは嫁のせいだ」と言いたい放題だったらしい。

 勝手な言い分に腹は立ったが、頭のおかしい連中のあしらいは王族スキルで習得済み。

 聞きたくもない話を要約すると、日本を出てからの豪遊で豊富にあった財産を数年で使い果たしてしまったということだった。

 

 その金は、1stからやって来たファイン家からの手切れ金だ。

 ココの身柄とファイン家を手放す代わりに、一生遊んで暮らせる金を手に入れたはずでは?

 それを数年で溶かすとか、度し難いにも程がある。

 

「もちろん、お断りされたのですよね?」

「当然だ。しかし、叩き出されるとわかったあの者たちは、顔を歪めてこう叫んだ「孫は生きている」と」

「・・・・」(# ゚Д゚)

 

 怒髪天を衝くとはこういうことか、顔も知らない鬼畜ジジババどもに腸が煮えくり返る。

 死んだことにしていた孫を、金を引き出す材料にしやがった!

 

 息子夫婦亡き後は、孫を都合のいい道具にして私腹を肥やすため、死を偽装して母方親族と絶縁。

 利用価値が無いと分かれば虐ぬき、厄介者扱いをする。

 1stファイン家に高値で売れた事を喜び、孫との別れを惜しむ素振りすらない。

 そして、金が尽きれば母方親族に接近、切り札として孫の生存を告げる。

 「自分たちに金を払えば孫と会える」とでも抜かす気だったのかよ?

 

 貴様らそれでも人間か?このゲスがぁ!!!

 ゆ゛る゛さ゛ん゛!!リボルクラッシュで爆殺してやるわ!!

 

「そいつら、どうなりました?」

「モーションの情報を洗いざらい吐かせた後、警察に引き渡したよ。投資詐欺や借金の踏み倒し等、余罪はたっぷりあったからな。どうやら、危険なマフィアに相当な恨みを買っているらしく、刑務所で余生を送れたらマシな状況だろう、奴らは終わりだ」

「納得はできませんが、スカっとしました」

 

 ゲスどものざまぁな末路で溜飲が下がったぞ。悪は滅びたのだ。

 これでまだ野放しだったら、俺が直々に制裁を加えに行くところだったぜ。

 

 そういう経緯でココの事を知り、今日は良爺と孫娘がやっとのことで感動のご対面だったのだ。

 俺はそれを邪魔したのか、あわわ・・・とんでもないことしちゃった。

 

「邪魔してすみません。俺、ココがどうしても心配で、あなたにとられると思ってパニックに」

「孫のことを思ってくれて、ありがとう。君のような男がいるなら安心だ」

「あなたのようなおじいちゃんがいて、ココもきっと嬉しいはずです。操者の俺が保証します」

 

 年齢を感じさせない若々しい笑みを見せるおじい様。

 差し出された手を握り、男同士の固い握手を交わす。

 手を通してこの人の思いが伝わる。よかった、本気でココを大事に思ってくれている人だ。

 

「マサキ君だったかな。今度は君のことを教えてくれ、孫が好いた男の話が聞きたい」

「語る程の者ではございませんが、それでも良ければ。俺はトレセン学園で養護教官をしています」

「おお!あの名門校で教官を、さぞや優秀なのだな」

「操者も兼任しており、いずれ悪い奴と決着をつけなければならない身の上です」

「なんと!大いなる使命を背負っているのか、益々気に入った」

「4人の愛バたちにいつも助けられていますよ」

「はっはっはっwww恋多き男だな・・・・・・・・・・4人?」

「はい。ココの他に、アル、クロ、シロ、で4人です」

「孫以外の愛バとは、仕事上のみの付き合いか?」

「いえ、仕事もプライベートも深い付き合いです。全員本命です」

「深い付き合いとは、どこまでだ?」

「そこまで話すんですか。えー、裸見ても平気なレベルっスかね、あっちの方もお世話にな・・・」

 

 握ったままだった手にギリギリと力が込められる。

 おじい様!?子の力、被戦闘員の握力じゃないのですが、一体どうしたんです???

 な、なんスか、その目は?正直に答えたのに汚物を見る目になってますよ。はっはーん、さては老眼だな。

 

「いたたた!おじ、おじい様!手が痛いっス!」

「やはり日本男児は油断ならん!君とはじっくり話し合う必要がありそうだ」(#^ω^)

「俺を疑っていますね?いいでしょう、愛バのみならず、母と姉と幼女+その他諸々にも炸裂すると評判の我が愛を語ってあげますよ!!」

「何だそれは!貴様とんでもない爆弾を抱えておったな!」

「安心してください、ちょっと、マザコン、シスコン、ロリコンで浮気者と言われる程度ですから」

「安心できるかぁぁぁ!!」

 

 お怒りになられましたか?そんな大声出したら血圧が上がりますよ。

 お、いいタイミングでココが戻って来た。

 

「もう仲良くなったんだ。さすがマサキだね」

「モーションよく聞きなさい!この男は、マザコン、シスコン、ロリコンの三重苦だそうだ」

「そんなの知ってるよ」

「えぇ」(´Д`)

「それでも好き、大好きなの////」

「えぇぇぇ・・・」(´Д`)

「俺も好きだ。傍にいてくれるな?」

「うん。あなたと一緒がいい、一緒じゃなきゃ嫌だよ」

 

 お爺様の握手解除!ココの手を取って見つめ合う。もう二人の世界っスよ!

 支配人さん「ヒュー熱いぜ!羨ましいぞこんちくしょう!」の感想ありがとうございます。

 キャラが変わってますよ。

 

「こ、これが若さか・・・」_| ̄|○

 

 膝をつき項垂れるお爺様。それを見て俺たちは勝利を確信したね。

 

「「勝った!!」」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 俺とココの愛により、おじい様の野望(アイルランド行き)を阻止した。

 というより、おじい様はココに好きな人がいた場合は、素直に本人の意向に従う気だった。

 愛娘の結婚に反対したこと、今も引きずっているんだなあ。

 

 俺がヤバい男だという、悲しい行き違いがあったものの、ココの説得で何とかなった。

 最終的に折れたおじい様が「もう、好きにしなさい」と言ってくれた。やったね!

 

 お騒がせしたホテルにお礼を言って外に出る。

 アル、クロ、シロのすがたが見えないと思ったら、俺がおじい様と相対している間にホテル側と話をつけてフォローに回ってくれていた。できる愛バで嬉しいよ。

 

「本当にいいのかい」

「うん。道中、アイルランドのお話を聞きたいな」

「わかった。空港までお願いしよう」

 

 ココはおじい様を空港まで送って行くことになった。おじい様ちょっと嬉しそう。

 さすがにこれ以上は遠慮しておく。短い間だが、祖父と孫の水入らずで過ごしてちょーだい。

 通信網が発達したご時世だ。離れていても、これからは好きな時にリモートで話せるな。

 おばあ様や他の親族もその日を心待ちにしていることだろう。

 本当に良かったな。ちょっと目が潤むぜ。

 

「マサキ君、孫のこと、くれぐれもよろしく頼む」

「はい。我が命に代えても」

「それはもういいw君さえ良ければ、いつでも国に招待しよう。永住権を用意して待っておるぞ」

「わー、それも楽しそうだね」

「ココ!お爺様も!」

「はっはっはっ。ではな、また会おう、孫娘を射止めた幸運なる男よ」

「はい。どうかお気を付けて」

「じゃあマサキ。今日はありがとう」

「ああ、しっかり送ってやりな」

 

 vip用の車が発進したのを一礼して見送る。ホテルマンさんが「ナイスお辞儀」と褒めてくれた。

 

 ココパパさんはいい人なのに、その親はマジキチだとはな。

 鳶が鷹を産んだってヤツなのだろうか、それとも毒親を反面教師に育った故か。

 家族かあ、俺は孤児院にいた頃も、今も本当に恵まれているんだなと、しみじみ思った。

 園長、今頃どうしているかな?なんか母さんにも会いたくなっちまった。

 

 ホテルを出て歩いていると3人が合流した。歩調を合わせてのんびり帰るか。

 

「これにて任務完了ですね」

「そういうことだ。いろいろフォローありがとう。俺が先走ったせいで迷惑をかけた」

「いえいえ、マサキさんは正しい行いをしたのですよ」

「そうだよ。もっと誇っていいと思う」

「かなり恥ずかしい奴だったけどな」

「トリプルアクセル土下座www凄かった!」

「決定的瞬間はバッチリ動画撮影済みです」

「やーめーろーよー」

「個人的に楽しむ分にはいいでしょうw」

 

 やれやれ、トリプルアクセルでしばらく弄られるのは覚悟だな。

 

「いいな~ココが羨ましいな~」

「爺様相手に一歩も引かずあの主張!愛バでなくても痺れますよ」

「私も、あげませえええええん!!されたいです」

「やーめーてーよー」

 

 褒め殺し?ああもう、今になって恥ずかしさがぶり返して来た。

 からかい上手の愛バたちには適いません。

 愛バたちは俺の大事な家族だ。家族の為と思えば、多少の無茶は承知の上だ。

 今日みたいなことがまた起こったとしても、恥も外聞も無く突撃するぞ。

 

「ということで、家族に遠慮するのは無しだ。俺に要望があれば何でも言ってくれよ」

「そのサービス精神、素敵です。では早速ですが、王子様抱っこさせてください」

「あ!ズルいよ。私がやりたいのに」

「私なら自宅までの送迎最速理論を実践できますよ?」

「ならば後は任せる。安全走行でお願い」

「「「任されました!」」」

 

 今日の恥は掻き捨てということで、試しに運んでもらうことにした。

 話し合いの結果、3人で運ぶことにしたらしい。

 おい、王子様抱っことやらはどうした、1人づつ順番に運べばいいのに。

 クロが頭を、シロが胴体を、アルが足を・・・何これ?捕虜なの?生贄なの?

 どう見ても捕まった得物を「えっさ、ほいさ」と運ぶ未開の原住民スタイルです。

 「ママ―、あの人たち何してるの?」「シッ、見ちゃいけません!」のテンプレ親子目撃されてしまった。

 どんな羞恥プレイでも、愛バが満足なら良しとする。

 ま、待て、速い!速いから!スピード出し過ぎだ。安全走行でって言ったのにー!

 

 案の定、ウマ娘が人間を拉致していると通報され大事になった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぃ~、今日は大変でごぜえましたよ」

 

 1人でバスタイム。読者様へのサービスシーンですぞ、想像してもいいのよ(´∀`*)ウフフ

 温かい湯船に浸かると、体の芯か疲れが取れていく~。

 

 リラックスしなが今日を振り返る。

 

 ココのパパ活疑惑に始まり、アイルランドから爺様来襲、俺たちラブラブ家族でフィニッシュ!

 帰り道でまたひと悶着、追いかけて来た制服警官(ウマ娘)とデッドヒートを繰り広げるとは思わんかった。

 走りながらテンション上がった愛バたちが、中々止まらないから苦労したぜ。

 俺が操者で3人が愛バだと説明すると、お巡りさんは注意だけで解放してくれた。

 お仕事ご苦労様です。お騒がせしてサーセンしたぁ!

 

 ココとお爺様は今頃、どんな話をしているんだろうなあ。

 悪しき父方祖父母は成敗され、善き母方祖父母とは今後ともよろしくと相成った。

 終わり良ければ総て良しだ。

 

「雨降ってジジイが固まるとはよく言ったもんだ」

「それを言うなら、雨降って地固まるだね」

「・・・・」( ゚д゚)ザバッ

「・・・来ちゃった」

 

 なんでいるのよ?ビックリして立ち上がったじゃないの。

 お風呂に侵入された!?ならば、お約束を叫ぶのみ!

 

「キャー!のび太さんのエッチ!」

「のび太違う!私だよ、あなたの愛バのココだよ」

「キャー!ココさんがエッチ!」

「今更でしょ。両手で胸隠すの腹立つからやめて!どうせなら下のガードを優先しなよ」

「もっともなご指摘だ。下を守るのが先ですね」

 

 おぱーいガードを解除し、今度は両手でヒップをガードする。

 フッ、こいつらよくホモに触られるから、しっかり守ってやらねぇとな。

 

「尻じゃなくて前!股間からぶら下がってるヤツを守れ!」

「股間とか、ぶら下がってるとか、いやらしいわね////」(/ω\)

「そう思うなら言わせないでよ」

「君は隠さないのかい?」

「減るもんじゃないし、見たいならご自由にどうぞ。まずはシャワシャワ~♪」

 

 女性にフルフロンタルで堂々とされると調子狂うな。

 尻のガードをやめて、再び湯船に沈む俺はシャワーを浴びる愛バを見て目の保養。

 髪を下ろしたココ・・・キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!ヒュー!可愛いィィィ。

 

「隠形を使って風呂覗きとはやってくれる。全然気づかなかった」

「覗きじゃないよ。一緒に入ろうと思ってのサプラーイズ」

「じい様はどうした?」

「ちゃんと離陸するまで見送ったよ。その後、私は全力疾走で帰って来たの」

 

 それにしても速い、これは相当無茶したな。

 リンクした俺に気取られないように、覇気の調整をし隠形で気配遮断までやってのけた。

 此度のお風呂乱入にどれだけの技巧と労力を駆使したのか、やれやれ嬉しいねぇ。

 

「お待たせ。そして、お邪魔しまーす」

「きゃ、お湯が溢れちゃうのー」

「このザブンッ感が堪らない。うんしょ、もうちょっと・・これでよし」

「狭いっス」

「だがそれがいい!でしょ?」

「まったくだ」

 

 入浴スペースを空けてやり、二人で湯船に浸かる。

 ココを後ろから抱きしめるような体制だ。この密着感、最高じゃないかぁ!!

 スベスベの素肌が、解いた髪が、一糸纏わぬ女体が、ゼロ距離にあるんじゃーーー!

 しかも!触っても怒られない!!!楽園はここにあった・・・ココだけに。

 

「上手くいってよかったな。うん、よかった」

「マサキのおかげだよ。私一人じゃ、もっとぎこちない感じに終わって、おじい様とは疎遠になっていたかも」

「俺は勘違いで突撃しただけ、引っ搔き回して悪かったな」

「そんなことない。全部、全部あなたのおかげ、本当に感謝しているよ」

「愛バの助けになれて、操者冥利に尽きるぜ」

 

 労いを込めて細い肩を揉む、別の所も揉んでいいの?やったぜ!

 ・・・・・・・やっぱ大きくなってね?

 

「嬉しかったなー。大切な女だ、家族だって・・・ホント、泣いちゃうぐらい嬉しかった」

「それでプルプルしていたのか」

「照れと怒りと恥ずかしさも十分あったよ」

「マジさーせん」

 

 ココがじい様と会うことを黙っていた理由、今ならわかる。

 もし、母方の祖父母まで鬼畜だった場合、俺に迷惑がかかると思ったんだろう。

 父方の祖父母も最初は善人面していたらしいから、ココが警戒したのも当然だ。

 それはまったくの杞憂になったわけだが。

 

「内緒にしていてごめんね」

「こちらこそ、ストーキングしてごめん」

「サプライズはともかく、隠し事はダメだよね」

「時と場合によるな。1人で抱えるのが無理なら、すぐに頼ってくれ・・・俺も、そうする」

「秘密・・・あるの?」

「どうだろうな。俺も知らない自分の秘密か、わかったら即刻暴露するぜ!」

「クスッ、なら安心だ」

 

 後頭部をグリグリ押し付けて来るココ、あぅ、鼻が潰れちゃう。

 

「アイルランドの王族だなんてビックリだな」

「ホントだよねー。お父様もお母様も教えてくれなかったから」

「向こうに行ったら「殿下」なんて呼ばれたりして」

「殿下の我を愛バにするとは不敬だぞ~わかっておるのか貴様~♪」

「恐れながら殿下、混浴している時点で不敬もクソもないですぞ!」

「是非もなし」

「殿下、それは尾張のノッブです」

 

 いつの日か、ココがアイルランドに行くときは一緒に行きたい。絶対ついてくついてく。

 俺と愛バ全員でのりこんでやるからな。待ってろよ、モハーの断崖。

 

「あ・・・」

「どうした?お湯の温度上げる?」

「当たってる」

「何が?」

「マサキの・・・バリカタが当たってる////」

「バリカタ言うな」

 

 麺の硬さで例えるのやめろ。

 仕方ないでしょう!好きな女とお風呂で密着しているんだぞ!

 硬くならない方が、男としてどうかと思いますけどねえ!!

 お許しください、これは男としての性なのです。ルクスを見たらボコるぐらい、当然の帰結なのです。

 

 ニヤニヤしながら振り返ったココは立ち上がり、こちらに向き直ってから腰を下ろす。

 うわーい、いろいろ丸見えだぁぁーーー!そして対面だぁぁぁーーー!

 

「謝らないでいいよ。私でそうなってくれて、嬉しいんだから」

「寛大な御心に感謝します」

「そうだ、おじい様からマサキに伝言というか、注文があるの」

「俺にか?大したことはできないぞ」

「マサキにしかできない注文だよ。もちろん私も協力するから」

 

 注文とやらを聞いてみないことには、何とも言えないな。

 対面で抱き合うココは笑顔で告げる。

 

「「ひ孫の顔を見せてくれ」だってさ」

「お、おう////」

 

 あの欲張りじいさん!何を予約注文しとんのじゃい!お急ぎ便は無理です!!

 せめて、せめてルクスを倒すまでお待ちを!

 

「今すぐじゃなくていいよ。でも、そうやって新しい家族が増えたらね・・・凄く幸せだなって、思うの」

「同意します」

「というわけで、今夜はリハーサルと参りましょうか」

「やはりこうなったか・・・知ってた、ちょっと期待してた」

「正直でいいね。今日、大活躍したマサキには、いつも以上にサービスしちゃう」

「イィィィヤッッフォォォッッーーー!」魂の叫び(歓喜)

 

 そうと決まれば、はよせな!

 互いの体を洗いっこした後、熱めの風呂でしっかり温まってから上がる。

 

 風呂上りのドライヤーとブラッシングも、最早手慣れたもんです。

 ベッドの上でブラッシング中、しな垂れかかり甘えて来るココが耳元で囁く。

 

「幸せな未来までエスコートしてくださる?」

「ああ、我が命に代えても」

「・・・無上の時を分かち合いましょう。私の手を取って、Darling(ダーリン)?」

「我が命に代えても」

 

 今日は「我が命に代えても」で乗り切るぜ。

 カッコよく「OKだぜHoney(ハニー)!」と返せない俺ってばヘタレ。

 キザな台詞は練習不足、もっとハーケンから学んでおくべきだったぜ。

 

 お前たちもう寝なさい。ハイ!暗転しまーす。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・バリヤワにされちゃった(/ω\)キャッ

 



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教官デイズ

 アイルランドからココのお爺さん(善)がやって来た。 

 パパ活と勘違いした俺は現場に突撃をした。土下座と惚気となんやかんやで勝利を掴み取る。

 これからも俺たちとココは一緒だ。

 

 トレセン学園は今日もウマ娘たちが切磋琢磨している。

 世界の未来を担うのは君たちの若い力だ、頑張ってくれたまえよ。

 教官としてその手助けになることが俺の仕事だ。う~ん、誇らしい!!

 

 広い学び舎は移動も一苦労だ。迷子になりやすい俺は逐一マップを確認しながら移動している。

 理事長の確認が必要な書類を届け「うむ。承認」の一言と共に印鑑をついてもらった。

 後は、これをウェンディ教官に渡せば任務完了だ。

 任務を終え、医務室に戻る途中でゴルシにエンカウントしてしまう。

 やだ、めんどくさい。

 

「よくぞ参った。伝説の勇者ロリコーンよ」

「なんか始まった」

「お主にこれを進呈しよう。ありがたく受け取るがよい」

 

 某RPG王様口調のゴルシから、魚肉ソーセージの束(一本食べかけ)を押し付けられる。

 どうしろと?

 

「では行くがよい。幼女の尻を追いかけるのは程々にするのだぞ」

「うっせぇ」

 

 余計な一言を告げてゴルシは去って行った。一体なんだったんだ?

 あいつの行動はいつも意味不明だ。したがって、考えるのは無駄だと結論付けることにする。

 もらったソーセージは一本だけ食べて、残りは医務室を訪れた生徒たちに振舞った。

 食べかけのヤツは腹をすかせたスぺが綺麗に食べてくれた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 最近、調子の悪い仕事用パソコンに少々ストレスを感じていた今日この頃。

 ふらっと、医務室を訪れたエアシャカールが修理を買って出てくれた。

 

「直りそう?」

「待てよ・・よし、これでいいはずだ」

「もう終わったのか、さすがだな」

「この程度で褒めんじゃねよ。しかしまあ、こいつは悲しいぐらい低スペックだな」

 

 学園からの支給品だから仕方ない。

 最低限のオフィスワークが出来ればそれでいいんだよ。

 

「ムカつくから少し調整しておくぞ」

「助かるわ~」

「何だこの【癒し】フォルダは・・・ロリの写真だらけじゃねーか!!仕事用のPCに何してんだ」

「フフッ、小さい時のクロとシロだ。見ろよコレ、犯罪級の可愛さだろ?エヘ、グエヘヘへ」じゅるり

「お前は犯罪級にキモイけどな」

「やかましいわ」

 

 チビクロシロを見ていると自律神経が整い、仕事の能率が爆上がりするのだ!

 ※個人の感想です

 

 癒される~、はわわ///何度見ても可愛すぎる!

 コピーとかしないでよ。これは俺だけの癒し・・・ちょ、おま、何しとんねん!

 

「ゴミ箱にインするなんて酷すぎるだろ!戻して!今すぐ二人を元に戻して!」

「あ、手が滑った」 

「え、嘘、か、空に、ゴミ箱が空に!?なにしてんだよぉぉーーー!」

「写真が多すぎて容量圧迫してんだよ。これで動作が軽くなったはずだ」

「だからって、そんな・・・ごめんよクロ、シロ、マモレナカッタ」

 

 畜生め!だが甘いなインテリヤンキーよ。

 【癒し】フォルダは山ほどあるバックアップから、すぐにでも復元してやるぞ

 フフフ・・・フフフフフフフフ、フフフフフフフ・・・デッドエンドシュート。

 

 パソコンを最適化した後「じゃあな」と言ってシャカはクールに去っていった。

 

「お、凄いぞ。明らかに動作が軽くなってる」

 

 俺が使いやすいように設定をいじってくれたみたいだ。ありがてぇ。

 こいつで仕事が捗るってもんよ。えーと、次号の保健便りと授業で使うプリント、それから・・・

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 お昼前にハゲ(ルオゾール)から電話がかかってきた(番号教えた覚えがない!?)

 ゴルシにシャカ、そしてルオゾール、全員ファイン家の関係者だ。

 もしかしなくても、これはココの一件でお礼をしているつもりなのか?もう、素直じゃないんだから。

 

 ルオゾールは俺とココの件を詳細に知っていた。

 やけに詳しいと思ったら、ビルドンホテルでの俺たちを見ていたらしい。恥ずかしい!!

 そうだよな、隠密活動に優れたファイン家が、俺と愛バの素人探偵ごっごに気付かないはずがない。

 あえて俺を突撃させたのね!まんまと利用されました。

 

「マサキ様の雄姿、固唾を飲んで見守っておりました」

「様はやめいちゅーに」

「トリプルアクセルキックでアイリッシュジジイを葬り去った時は、胸のすく思いでしたな」

「捏造やめて」

 

 葬ってないよ、謝り倒してお願いしまくって許してもらっただけだよ。

 

「1stでも2ndでも、ファインは多くを失いすぎた。アイルランドのご家族が傷ついた心を癒す一助になれば、こんなに嬉しいことはありますまい」

「そうだな。あの爺様たちなら、そうなってくれるさ」

「失くすことの恐怖を知っているが故に、誰かに期待し、頼り、大切に思うことを怖がっているのです。その心に踏み込むことは・・・我々にはできません」

 

 部下の皆さんを見ていれば、ココがファイン家の頭首として慕われていることは十二分に分かる。

 皆がココの力になりたいと、一所懸命な彼女を支えたいと思っている。

 しかし、ココは明確な線引きをしている「これ以上は入ってこないで」とやんわり拒絶する。

 「大丈夫」「私はまだ大丈夫」そう自分にも他者にも言い聞かせて、折れそうな心を守って来た。

 そんな彼女に誰が踏みこめよう。

 下手な憐憫や同情でより深く傷つけることになるぐらいなら、そっと見守るしかできないではないか。

 

「だが、あなたは違った。今のファインはあなたに期待し、頼り、大切に思い、甘えてさえいる」

 

 俺は今のココしか知らない。でも、前のココからいい方向に変わってきているなら嬉しい。

 

「ファイン家一同の総意としてお礼申し上げます。此度の件、そして、我らが頭首ファインモーションを愛バにして下さったこと、心より感謝致します」

「こちらこそだ。これからもココと俺たちをよろしくお願いします」

「はい、我らが命に代えても」

「やめて!」(/ω\)

 

 一部始終見られてセリフまでパクられる始末。(;´д`)トホホ

 

 ルオゾールも変わったよな。やっぱ頭丸めてサッパリしたのが精神的にも良かったのかな。

 邪教の神官が、今じゃファイン家の幹部で、ゴルシよりも多方面で活躍しているらしい。

 

「そうだ、ハゲゾーは三女神信仰に詳しいんだったな」

 

 ハゲたルオゾール略してハゲゾーと呼ぶことにした。ハゲ蔵と書くとチケ蔵と被ってるな。

 

「ええ、ヴォルクルスなんたらの前は、三女神を強く信仰しておりましたが何か?」

「シャナミア、機甲竜について何か知っているか?」

「ほう、竜姫をご存じとは通ですな。ファインから聞いたのですか?」

「本人に会った」

「な!?そのお話、詳しく」

 

 ・・・・・シャミ子について説明・・・・・・

 

「女神は実在した。なるほど、1stではベーオウルフたちの進撃が早すぎて、継承者の選定が間に合わなかったのですか」

「神様なりに、いろいろ制限があるみたいなんだ。それでも精一杯頑張ってくれている。だから・・」

「お気遣いありがとうございます。一度は信仰を捨てた身ですが、女神たちを恨む気持ちは最早ありません。真の悪はルクス、赤きオルゴナイトだとわかったのですから」

 

 ルオ蔵は1stを救ってくれなかった三女神たちを恨み、邪神ヴォルクルスに乗り換えた過去がある。

 今は吹っ切れたようでなにより。俺もシャミ子たちのことを悪く思ってほしくないからな。

 

「この間の強盗事件はご存じですかな?」

「サトノとファイン両家同時襲撃のヤツだろ、技術データをパクられて残念だったな」

「データはおまけ、奴らの狙いは機甲竜です」

「ああくそっ!やっぱりか」

 

 嫌な予感がしていたが、その通りだったみたいだ。

 ハゲゾーとにはどうしてそれがわかったか?

 

「以前より、ファイン家ではサトノ家と協力してある情報を流しておりました。御三家が"竜を模した戦略級の超兵器"を復活させた、その起動には"竜の欠片"なるアイテムが必要だと」

 

 その情報にルクスとその愛バが食いついたって訳か。

 

「今回襲撃された場所は、ファイン家「開かずの第七倉庫」とサトノ家「ダイヤちゃんのおもちゃ箱」の二ヵ所です。いずれも竜の欠片があるという、偽りの情報で指定された場所」

 

 サトノ家のネーミングセンスがヤバいのか、それともシロ自身がヤバいのか、両方だな。

 超兵器絡みの物もシロにとってはおもちゃかよ。

 

「嘘っぱちの場所にピンポイントで現れた。で、竜の欠片は今どこに?」

「そんなもの最初から存在しませんw」

「うはw酷いw」

 

 ルクスの奴、騙されてやんのwww。

 違うな、例え嘘であったとしても調べずにはいられない、その価値が機甲竜にはあるんだ。

 

「パパさんもココも人が悪い、俺たちにも知らせず情報を拡散させていたとはな」

「敵を騙すには味方からというものです」

「やっぱり、いるな?」

「ええ、おります」

「学園にもか?」

「恐らくは」

 

 学園、御三家、ギルド辺りには、既にルクスのスパイが潜り込んでいる可能性が大きい。

 ラ・ギアスやシラカワ重工、テスラ研にも注意して・・・そっちはシュウや母さんに任せよう。

 ホントGみたいにコソコソするのがうまい奴らだ。バルサンで一網打尽にしてやろうか?

 

 こうなるとシャミ子がヤバい!本体がどこにいるのか聞いておけばよかった。

 

「竜の眠る場所はわかっております。というか、そこしか残っておりません」

「メジロ家か、そこだけはフェイクじゃなかったんだな」

 

 ご先祖であるシャミ子の存在を知っていた、アルやマックたちですら、機甲竜の安置場所は一切聞かされていない。

 場所を知っているのはメジロ家現頭首、顔の確認できないあのご老体のみ。

 

「ばば様は何と言っている?」

「知らぬ存ぜぬの一点張りです。あの者は秘密主義で有名ですから、素直に答えはしないでしょう」

 

 確かに、顔すらまともに見せてくれないからな。

 

「今後、ルクスはメジロ家を狙うでしょう。それに合わせてメジロ家では軍備増強の動きがあります。外部のものと提携したりと、何かと忙しい様子でして」 

 

 アルもそんなことを言っていたな。

 機甲竜を手に入れようとするルクス、それを迎撃するメジロ家。

 サトノとファイン家は、メジロに集中するルクスを後ろから強襲する、いい戦術だ!

 これはもう御三家の共同戦線だ。

 漁夫の利を狙ってルクスとメジロ家を両方潰そうとか、考えてないよね?

 

「御三家が協力すれば、何があっても大丈夫だよな」

「そうなれば良いのですがメジロ家は「手出し無用、ルクスは我らのみで仕留める」と息巻いております」

「あらら、やっぱそうなるか」

「いつものことです。サトノとファインは勝手にやらせてもらう、メジロには面倒な後始末をさせてやればよいのです」

「お主も悪よのう~」

「いえいえ、それほどでも」

 

 ハゲゾーの考えには、パパさんやココにシロとクロも賛同するだろう。

 アルは心中複雑だろうが、いざとなればサトノの意思を優先すると思う。

 

 いくつか情報交換をしてハゲゾーとの通話を終えた。

 いろいろ事態が動いているが、降りかかる火の粉は全部払うからな。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 戦闘訓練を行う学園では当然ケガ人も多い。

 少し前まで遠慮していた生徒たちも、今ではマサキを頼るのが当たり前になっていた。

 ケガをしたらマサキを探せ!鼻血を止めさせたら日本一の腕前!と生徒たちは言う。

 

「・・・うん。ちゃんと言いつけどおり療養していたな。随分良くなった」

「じゃあ!」

「明日から実技修練に参加してもいいだろう。担当教官には俺から言っておく」

「やった!こんなに早く治るなんて、教官のおかげです」

「力になれてよかったよ。テーピングと治療符は」

「お風呂上りに張り替えろ、ですよね。わかってます」

「やりにくかったら、友人か教官に頼んでやってもらうんだぞ」

「マサキ教官が一番上手ですけどね」

「一応、プロですから」

 

 ウマ娘は足をよく使う分、故障する部位も下半身が多い。

 当然、治療を施す箇所も足に腿に・・・とにかく際どい部位が多いのだ。

 照れていては仕事にならん、それより痛みに苦しむ生徒を救うことが優先だ!

 煩悩退散!女子中高生の生足!太もも!ひゃっほー!とか思ってないです、ハイ!

 日夜、愛バの体を見慣れている俺にの女体耐性をなめるなよ!

 だけど最近「どうぞ好きに触ってください」系の子が増えて来たような気がして、こっちがタジタジなのよ。

 

 電子カルテに施術した内容と経過を打ち込み記録しておく。

 よーし、この子の治療も終わった。

 

「お大事に」

「ありがとうございました。あの!ケガとは関係ないんですけど、ちょっと質問いいですか?」

「俺が答えられる範囲ならいいぞ」

「愛バの皆さん・・・教官的には、どの子が本命なんですか?」

「全員本命」

「えー、でもでも、その中で優劣つけるならですよ。どんな感じなのかなぁ~って?」

「やめとけ」

「何でですか?全生徒が気になっているんです。教えてくださいよぉ~」

「トレセンが瓦礫の山になってもいいのか」

「そんなにヤバい情報なの!?」

 

 無知は罪だな。君はまだ知らない正妻戦争の恐ろしさをな!!!

 今の4人が全力全開の本気で戦えば・・・うん、少なく見積もっても、学園は壊滅するな。

 

「この話題はタブーだ。わかったなら、教室へお帰りなさいな」

「ちぇ、わかりました。日を改めて、またお聞きしますね」

 

 渋々ながら引き下がってくれた、彼女は医務室を後にしようと扉を開けて・・・固まった。

 そこに能面のような顔をしたシロが立っていたからだ。まさか、ずっとそこに居たのか?

 

「ひっ・・でぃ・・さ・・」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

「はい?私はダイヤモンドですけど」

「だ、だ、だ、ダイヤちゃん。こ、これはちが、違うの!みんなに聞いて来てほしいって言われたから」

「治療は終わったんですよね?」

「う、うん。終わった、もう終わった。元気元気~あははは」

「それはよかったですね。ダイヤも嬉しいです」

「あ、ありがとう」

「元気な内に出て行ってくれたら、もっーと嬉しいです」

「し、失礼しましたぁーーー!!」

「お大事に~」

 

 脱兎の如く退散していく生徒をシロは笑顔で見送った。

 あーあー、あんなに走ってケガがぶり返したらどうするんだ。

 逃げた生徒に向け「シッシッ」と尻尾を振るシロ。

 これは注意が必要だな。シロの頭に軽いゲンコツを当てる。

 

「あうっ」

「脅すような真似をするんじゃありません」

「すみません。お困りのようでしたから、つい」

「お前が学園で悪評を立てらるのは嫌だぞ」

「それはもう手遅れ・・・ゲフンゲフンッ!学園の皆様は仲の良いお友達ですわ、おほほほほ」

 

 俺に収集するあまり、周りを疎かにしてほしくないんだがな。

 シロのことだ、言われなくてもわかっているはず。

 琥珀色の瞳が俺を映す。全てを見通すような視線は少々むずがゆい。

 聡明なお前には俺の何が見えている?

 

「それで、何用かな?」

「甘えに来ました」

 

 単刀直入なのね、シロが抱き着いて背に手を回して来る。フワッとよい香りがした。

 俺の胸にスリスリしている顔は心の底から嬉しそう、普段より幼く感じる子供の顔だ。

 あらら、甘えん坊モードに入っちゃったか。

 

「おーい、学園だぞー、仕事中だぞー」

「今だけ・・・ダメ・・ですか?」

 

 ああズルい!

 上目づかいと、ペタンした耳、不安そうな表情、これは断れないわ。

 

「誰か来たら、すぐやめるんだぞ」

「はい♪」

 

 索敵範囲を広げたシロなら、イチャパラを目撃されるようなヘマはしないと信じよう。

 スリスリするシロは幸せそうだ。

 

「男の胸板なんぞ何がそんなに楽しいのかね?」

「この硬さ、匂い、体温、心臓の鼓動、全てがお気に入りです」

「俺は柔らかい方がいいな」

 

 形を変えながら、むぎゅむぎゅ当たっているおぱーいが幸せ!

 

「このクッションがなければ、もっと密着できますのに」

「それを捨てるなんてとんでもない!!」

「許可なく捨てたりしません。私の全身はあなたのものですから」

「すげぇもんもらっちまった」

「重い、ですか?」

「重いな。だが、それでいい!絶対に降ろさないし、何があっても背負い続ける」

「頑張り屋さんですね。でも、疲れたら降ろして休んでください。元気になってからまた背負って下されば、それでいいんです」

「そうだな。ゆっくりまったり、ずっと一緒に歩んで行こう」ヾ(・ω・*)なでなで

「はい///・・・・・・ちっ!空気の読めない奴・・・はぁ・・クロが来ます」

「そうか、じゃあイチャパラは終わりだな」

「見せつけてやりましょうよ~。クロが「ムキャ――!」て猿になるとこ見たいですw」

 

 この前似たようなことでケンカした挙句、姉さんに連行されたの懲りていないのか?

 説教部屋からお前たちをレスキューするの大変だったんだぞ。

 

 シロをたっぷり撫でて離れてもらった。

 しかし、やって来たクロに何をしていたかアッサリばれて、二人でくっついて来る始末。

 体は大きくなって精神も大人びているが、子供らしいところも残っている。

 そこがまた可愛いんだよなぁ。

 

 ○○○

 

 クラブハウスに来ております。

 

 部活動や各種ミーティングに使用されたり、更衣室や倉庫になっている場所もあるが、半数以上の部屋はチームの活動拠点として利用されている。

 申請さえ通れば俺のチーム「ああああ」も部屋がもらえるはずなのだが、連絡は未だにない。

 

 "カノープス"と書かれたネームプレートが掲げられた部屋の扉ノックする。

 「はーい。開いてるからどうぞ」と返答があったので入室する。

 

「お、お邪魔しまーす」

 

 恐る恐る部屋に入ると、小さなウマ娘が飛びついて来た。

 即行で抱っこ、見てから余裕でした!

 

「よく来たなマサキ!」

「おお、ター坊。元気にしていたか?」

「ター坊言うな。ターボはあれ、ターボはター坊?」

「大差ないし、どっちでもいいんじゃね?」

「うん。どっちでもいいぞ」

「「なははははははははははははは」」

 

 青髪にグルグルお目目のウマ娘、ツインターボを抱っこしたままグルグル回転する。

 やりすぎて俺の目もグルグルしそう。

 

「ターボさんがあんなに懐いて、小さい子の扱いはプロですね」

「たぶん精神年齢が一緒なんだよ」

「おーい、そこの小さい子供と大きい子供~。とりあえず、お茶にしないかい」

 

 大きい子供ですか?いろんな意味で大人の俺には当てはまりませんな!

 

 室内にはターボの他にも見知ったウマ娘たちがいた。

 メガネをクイッとやるのが知的な印象を与える、イクノディクタス。

 鼻血ヒーリング回数がダントツトップ、マチカネタンホイザ。

 三位入賞が似合いそう庶民派代表、ナイスネイチャ。

 

 そして・・・

 

「来たね。うわwホントに白衣着てるwwその恰好、マジでシュウの子分じゃん」

「いつの話だ!で、なぜお前がいるんだよ、リューネ!!」

 

 今朝、出勤前に挨拶した大家兼幼馴染のリューネ・ゾルダークがそこにいた。

 疑問符を浮かべながらも、テーブル席に案内されて腰を下ろす。

 ネイチャに淹れてもらった温かいお茶、略してネイ茶が美味しい。ホッとする。

 

「店はどうした?学園は一般ピープルがズカズカ入っていい場所じゃないぞ」

「お店は定休日だよ。生徒の関係者、この子たちの操者なら出入りしても問題ないよね」

「ターボさん?みんなも・・・マジっすか?」

「「「「マジっすよ」」」」

「うそーん」

「知らぬはマサキのみってね」

 

 "カノープス"

 操者リューネに愛バのターボ、イクノ、マチタン、ネイチャ、5人で構成されたチーム。

 

 今日はターボたちに操者を紹介したいと、こちらにお呼ばれしたのだ。

 ほぼ毎日顔を会わせているのに、今まで秘密にしていたなんて酷いわ。

 

「ごめんごめん、私の許可証が発行されるまでは内緒って決めていたんだ」

「おお、これでリューネ、学園に来られる?」

「そうだよ。ターボたちの活躍を見る機会も増えちゃう」

 

 ターボの頭を撫でるリューネは慈愛溢れる操者の顔をしていた。

 

「店は?」

「優秀な従業員に頑張ってもらうさ。どうしてもって時は、マサキたちにも手伝ってもらおうかな?」

「勝手に決めんな。賄い飯は出るんだろうな!」

「結構乗り気じゃんw」

 

 べっつにー、従業員の制服が可愛いから愛バたちに着てもらおうとか思ってねーし!

 純粋に困っている友人をヘルプしたいだけっスよ。バイト代はしっかりもらうしー。

 

「従業員の制服は確かに良いデザインです」ウンウン

「安易なメイドじゃないところがポイント高いよ」

「わかる!メッチャわかる!正直メイドはもう、お腹いっぱいだよな」

「うちのリューネさん、センスある~」

「私じゃないよ、デザイン考えたのは親父www」

「ビアン博士が!?何やってんだあの人www」

 

 起動兵器だけでなく飲食店の制服まで設計しちゃう天才科学者!

 この分じゃ、娘のおねだりには未だに弱いらしいな。

 そんなんだから、母さんを倒せるロボを造れないんだよ。

 最近、"ヴァルシオン改28号ダッシュプラス"を粉砕したと母から連絡ありましたよ。

 ロボの生首持ってVサインする母さんの、笑顔が眩しい写真つきでな。

 背景で崩れ落ちたビアン博士と、それをツンツンするネオさんたちがなんか面白かった。

 

「あのダメ親父、サイさん相手にまだやってるのかい」┐(´д`)┌ヤレヤレ

「なあ?博士ってさあ、母さんのこと好きなん?」

「え!?初耳なんだけど」

「あ、違うならいいんだ」ホッ

「待って待って!もしそうだとして、親父が根性見せれば、サイさんが私のママになる可能性があるってこと?やったあ―――!サイさん親父と結婚し・・・」

あ゛?

「「「「ひぃ!!!」」」」

「するわけないよね!!あはは、冗談、冗談だって、覇気凄いことになってるから落ち着こう、ね、ね?」

「なんだ冗談か」

 

 ちょっぴりバスカーしちゃった。ごめんねターボ、もう怖くないぞ~。

 あんなマッドサイエンティストが母さんと結婚?そいつは、めちゃ許せんよなぁ。

 

 俺の母さんはマジでモテる、今も昔も命知らずの男から求婚されまくっているのだ。

 老若男女年齢問わず、母さん宛のラブレターを渡してくれって頼まれた回数は100どころの騒ぎじゃない。

 息子の俺を仲介役にするな!小学生の俺にガチの恋愛相談やめろ!あの頃、シュウがかばってくれなかったら、トラウマ確定だったぞ。

 因みに、ネオさんも超モテる。そして、シュウを恐れたネオさん狙い連中は俺の所に来るのであった・・・もうサイアクの思い出!!

 

 という過去もあってか、母さんたちに集る野郎にいい印象は皆無だ。知り合いなら尚更キツイわ。

 

「最低でも俺に勝てる男じゃないと、義父とは認められぬ」

「あちゃー、これはサイさん独身つらぬくわ」

「なんだと!母さんが結婚も出来ない喪女だと申したか!」

「誰も言ってないよ」

「母さんがその気になれば、アラブの石油王もウルクの英雄王も求婚してくるぞ」

「結婚してほしいのか、してほしくないのか、どっちだよ?」

「めんどくさいな、このマザコン」

「マザコン?マサキはロリコンではなかったのか?」

「マザコンでロリコン、そしてシスコンでもあるのよ」

「嫌な三冠だね」

「なんとも業の深いお人だ」

 

 もう!母さんのことはいいでしょ。

 カノープスの紹介は終わったし、俺はもう行っていいのかい?

 

「ああ待って、実はマサキにお願いが」

「ごめんなさい。俺、好きな子が4人もいるんだ」

「自惚れんなマザコン!告白じゃないから!」

「はい、すいません」(´・ω・`)

「うちの愛バたちにさ、ヒーリングを教えてほしいんだよね」

「お?治療術に興味がおありですかな」

 

 体育の授業とかで、戦闘技能を教えてくれとはよく言われるが、ヒーリングを教わりたいとは珍しい。

 

「わかっていると思うが、ヒーリングは・・」

「適正に大きく左右されるんでしょ。才能如何によってはまるで機能しないのも知ってる」

 

 その適正自体が、ウマ娘には備わっていないことが多い。

 ヒーリングは人間の担当で、ウマ娘は戦闘のため覇気を身体強化に振り分けているのが一般的だ。

 

「お願いできませんか?治療術の心得があれば、あらゆる局面で役立ちますから」

「オナシャス、マサキ教官殿」

「血を出す辛さはよく知ってます。私もえい、えい、むん、する側になりたいです」

「ターボも!ターボもヒーリングやってみたい」

 

 やる気は十分、適正は調べてみないとなんとも。

 それに俺はまだ素人に毛が生えた程度のぺーぺーだ、そんな奴が教えていいものやら。

 うーむ。

 

「うちの子たち、センスはいいと思うんだ。けど、ガチの戦闘では正直一歩劣る」

「そんな、愛バの力を操者が信じなくてどうする」

「明確な事実ですから、お気になさらず」

「あはは、悔しいけど。"リギル"の人たちなんかを見ちゃうと、私ら的にはキツイ~って感じだよ」

「リギルなんて知らないぞ、ターボはテイオーたち"スピカ"に勝ちたい!」

「アンタはお気楽だね~ウリウリ」

「あぅ、耳ひっぱるな~」

 

 "リギル" 

 ヤンロンとテュッティ先輩が操者と監督を務める強豪かつ大所帯のチーム。

 生徒会メンバーをはじめ、所属しているウマ娘は学園の顔と言うべき存在として一目置かれている。

 

「騎神として世に出るこの子たちには力が必要なの。今の内に、少しでも多くの力と技を身に付けさせたい」

「それで治療術か」

 

 戦闘技能は必須として、別のアプローチをするか・・・うん、その考え方嫌いじゃないわ。

 治療術って軽視されがちだけど、実際凄いんだぜ。

 ゲームやってるとわかるはず、回復するボスや倒しても復活する敵って相当厄介だろ?

 回復役の立ち回り一つで戦況を有利にできるんだ。とてもすごく大事なのよ。

 

「よし、わかった。俺でよければ力になろう」

「ありがとう!へへ、マサキならそう言ってくれると思ったよ」

「ただし、学園にちゃんと許可を取ってからだ。無許可で治療術講座なんて出来ないからな」

「わかってるよ。とりあえずよろしくね。ほら、みんなもお礼しな」

「「「「ありがとうございます。マサキ教官」」」」

「あんま期待すんなよ」

 

 許可が下りないとぬか喜びになっちゃうかもよ。

 カノープスのメンバーに治療術を教えることを約束(仮)した。

 さて、どうなることやら。

 

 ○○〇

 

「ふぅ」

 

 あー、デスクワークで肩が凝った。

 中庭のベンチにて、自販機で買った缶コーヒーを飲みながら一息つく。

 サボりではない、ちょっと休憩しているだけだ。

 カフェが入れてくれるコーヒーも美味いが、たまには缶コーヒーいいものだ。

 

 ボーっとしながら、学園に赴任する前、ラ・ギアスに寄った際の天級トークを思い出す。

 

 ある日、ガッちゃんがネオさんの顔をジト目で見ていた。

 例によって天級たちはアンドウ家に集まり駄弁っている。今、母さん不在なのにお構いなしだ。

 

『ガーさん?どうしたの、私の顔に何かついてる?おやつはさっき食べたでしょ』

『ネオ、あなた本当に、あのネオグランゾン?』

『他の何に見えるっていうのよ?』

『若作りしたアラフォー』

『あなたがそれ言う!?天級最年長の癖に!』

『マサキ、ネオがロリババアくたばれって、いじめる』

 

 ガッちゃんが手を伸ばして来たので、すがさず抱っこする俺。合法最高!!

 

『失望しましたネオさん。ファン辞めます』

『ちょ!マサ君を味方にするなんてズルいわよ、あなたはいつもそうやって誰かを楯に』

『私ヒーラー、タンク役に守ってもらわないと、死ぬ』

『そのタンクに選ばれたわしらは、本当ええ迷惑じゃったよ』

『グラはタンクとしてはゴミカス、ザムかサイじゃないと、楯にならない』

『存在ごと燃やすぞチビ助!!』

『おー、やんのかー、こらー』

 

 やる気のない「こらー」が可愛い!

 マズい、炎と水がケンカしちゃった!二人の覇気がぶつかり、熱と冷気で水蒸気が!?

 はわわわわ、母さんとミオは留守にしているし、ここは闇のお人に頼るしかない。

 いやぁーー!抱っこしているガッちゃんがどんどん冷たくなってるー!術を行使するため覇気を練ってるーー!

 

『ネオさん、何とかしてください』

『ファン辞めたんでしょ』イジイジ

 

 すねとる場合か!

 アッちぃ!グラさんの熱で空気が火傷しそうなんですけど、熱いのと冷たいのでキツイんですけど!

 この人たち、相対する属性がぶつかって対消滅とかしないだろうな?ええい、仕方ない。

 

『ネオ母さん、助けて』

『もう一声』

『ぐっ////ネオママン助けてぇー―!このままじゃ家がぶっ飛んじゃう!』

『愛する息子の頼み!引き受けたわ』

 

 友人のお母さんをママン呼びするのクッソ恥ずかしい!!

 シュウがいなくてホントよかった。

 

『そこの二人、ケンカ両成敗よ!ディストリオンブレイク(極小)』

『『『ぎゃぁぁぁーーーー!!!』』』

 

 空間歪曲で収束されたビームを撃たれ庭まで吹っ飛ぶ俺とグラさんとガッちゃん。

 なんで俺まで撃ったんですか?あ、ガッちゃんを抱っこしていたからか・・・やりすぎですよママン。

 

『ごめんねマサ君、ちょっと力んじゃった』テヘヘ

『ママン可愛い!じゃなくて、グラさん、ガッちゃんも、ケンカ駄目ですよ』

『す、すまんのじゃ』

『めんご』

 

 部屋が荒れていると母さんがキレてもっと荒れるので、手早く片付ける。

 綺麗にした床の間にちゃぶ台と座布団をセット、テレビを見ながら腰を下ろすスタイルで団欒する。

 ガッちゃんは何も言わなくても俺の膝に乗って来る。ハイ可愛い!これもう世界一可愛いアラフォーだろ?ギネスに載せようぜ。

 おやつに用意した激辛せんべいをつまみながら、グラさんがガッちゃんに問いかける。

 

『ガの字はなぜネオを凝視しておったのじゃ?』

『なんか、丸くなった、と思った』

『え・・・私、太ってる』Σ(゚д゚lll)ガーン

『そんなことないです。ネオさんはずっと女子中学生の見た目ですって!』

『あらそう、マサ君がそういうなら大丈夫よね』ホッ

『性格の話、昔のネオは、切れすぎたナイフ』

『確かにのう、あれは酷かったわいw』

『黒歴史!やーめーてー、マサ君に聞かれたくない!』

『すんません。武勇伝の数々は母さんから聞いております』

『終わった』_| ̄|○

 

 ネオさん、相当荒れていたんだよな。

 もう、手の付けられない乱暴者で、何度も母さんたちと戦ったと聞いている。

 ガッちゃんが「誰こいつ?」と思うほど、昔と今の性格が違うらしい。

 

『初対面、ブラックホールクラスター、ザムが即死』

『え、ミオ、一回殺されたの?怖いです』

『アインストなのが幸いしたのう。時間はかかったが復活したよ』

『ごめんなさいー、だって見たこともないキモイのがいるって思って』

『二回目、サイが間に合わず、グラが虫の息』

『なんということを、怖いです』

『あれは今も夢に見るわい・・・真っ白に燃え尽きるところじゃった』

『ごめんなさいー、炎使い?温暖化促進ウゼェ!と思ったから』

『三回目、私だけを集中攻撃、左半身を完全に潰され、グチャ、ベコッ、ボキゴキ』

『う、グッッロッ!!怖いです』

『超痛かった、痛覚遮断する暇ない、脳の神経、焼き切れる寸前』

『ごめんなさいー、でも、目障りなヒーラーから潰すのは定石よね?』

『四回目、サイがキレた、ネオもキレた、みんな全力全開、アレとコレとソレが消し飛んだ』

『ラグナロクですね。怖いです』

『黄昏というか、まさに地獄じゃった。そのせいで、当時を知るものはわしらを神扱いじゃ、カッカッカッww』

『この後、騎神に級位制定、天の誕生』

『ごめんなさいー、サイさんったら「お腹減ったから帰る」なんて理由で勝負をお預けしたのよ!非常識よね!』

『今となっては、まあ、いい思い出』

『うむ。大変じゃったが、楽しくもあったのう。青春のメモリーちゅうやつじゃて』

『いや、なんかもう、マジ怖いです』

 

 随分とバイオレンスな青春があったもんだ。呆れを通り越して恐怖しかない。

 非常識ですよねー、あなたたち全員が!

 当時は大変だったろうな~、母さんたちではなくて、周りの人たちが!!

 

 膝上のガッちゃんが、俺を気遣うように問いかける。

 

『私たち、怖い?』

『うん、怖いな。ちょっと、いや、かなり引いた』

『嫌い?』

『嫌いなもんか。俺はガッちゃんたちのこと大好きだよ』

『そう、よかった、嫌われたら、へこむ』

『本当によかったわ。マサ君に嫌われでもしたら、ショックで縮退砲が暴発するところだったもの』

『そういうとこじゃぞ』

 

 強くて怖くて行動も思考もぶっ飛んでるけど、母さんたち天級を嫌いになることはありえない。

 この人たちがどれだけ優しく愛に溢れた存在であるかを、俺は身をもって知っているのだから。

 

 いろいろヤバいけど、本当に素敵な人たちなんだ。

 全員がもうね、ありえないぐらい美人てか、冗談抜きで可愛いのよ!

 俺をマザコンだと笑ったな?母さんと、このママ友たち見て同じ言葉が吐ける奴がどれだけいるのか知りたいわ!

 あー自慢したい、強さだけじゃないこの人たちの魅力を、外見も中身も素晴らしいこの尊い存在を自慢してドヤりたいぃぃ!

 

『ガッちゃん、修練の続き頼むよ』

『んー?休憩、終わり』 

『なんじゃ、急にやる気になったの』

『いいことじゃない、頑張ってねマサ君』

 

 ああ頑張りますよ。

 ここには最高のお手本で先生の、あなたたち天級が揃っているから大丈夫です。

 

 学園の教官になる、治療術も勉強する、そして・・・

 

『もう少し、待っていてください』

『マサキ?』

 

 母さんたちの神核は自身の覇気に耐えきれない、故に短命なのだ。

 それを防ぐには特定の場所、龍脈が豊かな土地にて暮らすしかない。つまり、ラ・ギアスから出ること叶わず。

 もし、無理をして外に出れば・・・その先は考えたくもない。

 

 希望はある。シュウの開発しているデバイスと俺のエナジードレインが組み合わされば理論上いけるはず。

 もっと修練が必要だ。今よりもっと覇気を感じる、操る、そして支配する、俺の望む結果を導けるほどに。

 

『俺が必ずあなたたちを外に出します!その時は、トレセン学園まで遊びに来てください』

『『『・・・・・・』』』

 

 学園まで来てだって?俺はアホか!

 教官試験まだ先だよ!試験勉強中だよ!まだ採用されてもいないのに、大見得を切ってしまった。

 俺が?いやいやいや、ほとんどはシュウの手柄だってばよ。何言ってんだ俺!

 うあ、恥ずかしい~。

 

『す、すみません!まだ何も出来てないのに、ははは、何言ってるんでしょうね』

 

 焦って立ち上がろうとした俺にガッちゃんが力強く抱き着く。

 この人、後衛の癖に力強くない?おまけに今はロリなんだぜ。

 

『やっぱ、マサキはいい子、いい子は私の子供にする』

『ズルいわよガーさん!マサ君は私の次男になるんだから!』

『わしの次男でもええぞ、ヤンロンも喜ぶじゃろうて』

『ちょ、みんな、きゃーーーー!』(≧∇≦)

 

 ネオさんとグラさんも抱き着いて来た。ちょっと目が潤んでいるのは気のせいか?

 天級たちに揉みくちゃにされる。こ、これが可愛がりか・・・ゴクリッ。

 みんなスキンシップ大好きですよねー。

 シュウとヤンロンが淡泊野郎なので、俺に向かって来るんですよねー、わかります。

 これはヤバいな。このままじゃ、年上の魅力に目覚めちゃう!外見が若ければそれでええんか?ええんやで♪

 待て待て!血迷うな!ママ友はアカンでっしゃろ!

 愛バたちよ、そして世界中の幼女たちよ、オラに力を貸してくれい。

 俺はロリコン、ロリコンなんだ!年下スキーな男なんだ!

 

 帰って来た母さんとミオに、揉みくちゃ現場を見られてお説教された。

 母さんも参加したかったですって?まったく、そんなのだから俺はマザコンになるんですよ!!

 何だミオ?言いたいことがあるなら言えよ「キショイ」だってさwwwはははwwww(´Д⊂グスン

 

 回想終了。

 

「キショイかなぁ」

 

 みんな、こんなキショイ男を愛してくれてありがとうございます!!

 

 ちょっとかけてみるか・・・お、1コールで出た。

 

「オレオレ俺だよ俺」

「はい?どちら様ですか?」

 

 え!?女の声???シュウのスマホにかけたのになんで?

 

「詐欺ですか?詐欺ですね、通報します」

「お待ちになってください!俺です!アンドウのマサキです!友人の社長のスマホにかけたつもりでアンタ誰や!?」

「わかってますよwwマサキさんwww」

「・・・・・・・ボンさん?」

「はい、ミホノブルボンがお相手してます」

 

 何だよ焦ったーー。ボンさんか、愛バが電話にでることも、ま、そりゃあるわな。

 今日、ボンさんとライスは学園をお休みしている。シュウのお仕事について行ったんだな。

 

「シュウいないの?」

「先程、サドマゾ女と一緒に会議室へ向かいました。私とライスさんは、待機モード中です」

 

 サドマゾ女・・・言われてますよサフィーネさん。

 

「あのシュウが、よくスマホを貸したな」

「たまたまライスさんがマスターにぶつかり、たまたまその手にスマホが滑り落ちたのです」

「・・・・あ(察し)」

「そしてたまたま、私がセキュリティを突破し、たまたま電話に出て現在通話中です」

「シュウからスマホをスッて、ロックを解除、今勝手に触っている。で、おK?」

「たまたまです」

 

 たまたま言いすぎだ。ボンさんたちもやりますなぁ。

 うちの愛バたちも・・・いや、俺、見られて困るもんないですー。

 

「どうしてそんなことを?」

「今週の定期チェックです」

「うわぉ」

 

 毎週スマホ調べられてるwww大体想像つくけど何をやらかしたwww。

 

「ブルボンさん、他のメスウマ画像削除できた?」

「今はマサキさんと通話中です。画像の削除は後にしましょう」

「ホント!かわってかわって」

「ここに居たのですか二人とも、私のスマホ知りませ・・・ん・・・か」

「「・・・・」」

「ブルボン、それをこっちに渡しなさい」

「ふんっ!!」

 

 ブチッ・・・・ツー、ツー・・・・・。

 

 破壊したぁ!今のはボンさんがスマホを破壊したに違いないwww

 あいつも大変だな。

 あ、知らない番号から電話来たwww

 

「ようwwもう機種変したのかwww」

「機種変じゃなくて、予備のスマホですよ。こんなこともあろうかとってヤツです」

「二人は?」

「逃げました。最近、言うことを聞かなくなって困りますよ。反抗期?いや倦怠期なんですかね?」

「知らんがな。でも、お前のことが心配なんだろうよ、あんまり叱らないでやってくれ」

「わかってますよ」

 

 近況報告と惚気と世間話、いつものやり取りだ。

 

「アレはどうなった?」

「捗ってますよ。これもあなたが生成した結晶のおかげです」

「数は足りるか?」

「できれば、もう二、三個ほしいですね。実験用のサンプルが足りないので」

「わかった。ボンさんかライスに渡しておけばいいんだな」

「ええ、助かります。もう少しですよ」

「ああ、お前の望みが叶うな」

「我々のでしょう?」

「そうだな。引き続きよろしく頼む」

「任されました」

 

 通話終了。

 

 母さんたちの秘密を知った時、俺は狼狽えることしか出来なかった。

 だがシュウは違う、あいつは自分の才能を余すことなく使い、母さんたちを自由にする方法を模索した。

 シラカワ重工はその土台だ。豊富な資金と研究場所を確保するために会社を立ち上げたにすぎない、本当に凄い奴だよ。

 その努力がもうすぐ形になる。俺はちょっと応援しただけ、ほとんどはシュウがやったんだ。

 

 幼馴染を信じて後は待つのみ。

 飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に入れ、その場を立ち去る。

 追加のオルゴナイト造らないと・・・クロシロにも協力してもらうか。

 

 ○○○

 

 学園で一番高い場所と言えば鐘楼である。

 今日は気分がいいので、探検がてらここまで来ちゃった。

 か、勘違いしないでよね!迷子になって辿り着いたわけじゃないんだからぁ!

 ほう、決められた時刻に鳴り響く音の出所はここか。今鳴ったらビックリするからやめてね。

 

「・・・空、綺麗だわ」

 

 バカと煙は高い所が好きらしい、高すぎると足が震えちゃう俺はバカでも煙でもない。照明終了。

 見晴らしがいい。

 ククク、ここは狙撃ポイントにはピッタリだぜ。やらないけど。

 

 せっかくなので苦手な索敵の練習でも・・・サーチ開始・・・むむむ~ん。

 

「いた!うん、さすがに愛バの位置は大体わかるな」

 

 愛バの反応は一際強く感じる。クロとシロは食堂、アルは教室、ココは講堂にいると思われる。

 他にも、理事長室の大きい反応は姉さん、生徒会室にはルルたちが、妙な動きをしているのはゴルシだ。

 クラブハウスにいる変なのはミオだな。ヤンロンやテュッティ先輩は・・・お、いるいる。

 

 しばらく索敵に夢中になっていると耳に微かな駆動音、風の流れが変わった。

 飛行物体が接近!ルクス・・・じゃないな。

 向こうも俺を確認したようで速度を緩めながら鐘楼までやって来る。

 

「サボってる教官はっけーん!たづなさんにチクっちゃおうかな?」

「サボりじゃない。ここで風を感じていただけだ」

 

 そのウマ娘は空を飛んでいた。

 装着されたデバイスの各部から覇気の粒子光を散らしつつ、ホバリング状態を維持している。

 

「学園でのデバイス顕現は基本NGなんだがな」

「えー、学園の敷地って上空も含まれるの?」

「屁理屈言うな、燃料が切れる前にこっち来い」

「はーい。ランディング~」 

 

 ウマ娘は肩部と腰部に展開された翼を折り畳みながらこちらに近づく、スラスターの駆動も緩やかに停止する。

 着地したそいつはデバイスを解除し、敬礼らしきポーズをとる。はい、かわいい!

 

「マヤノトップガン、ただいま戻りました!」ビシッ

「任務ご苦労だ、マヤ二等兵。食堂にて補給物資(はちみー)を受け取るがいい」

「ゴチになります教官殿!」

「バカのも!自腹に決まっておるだろうが!」

「ケチ―」ブーブー

「大佐から頼まれているんだよ。あまり甘やかすなってな」

「・・・はちみー・・飲みたいよぅ・・」(´Д⊂グスン

「うっ、こ、今回だけなんだからね!」

「そう来なくっちゃ!エヘヘ、チョロ甘マサキちゃん。愛してる~」

「はいはい」

 

 マヤを連れて食堂に到着、時間帯のせいか人はまばらだ。

 クロとシロはもう別の場所へ移動したみたいだな。

 

 はちみーを二人分購入して、座席を確保しているマヤのもとへ。

 

「へいお待ち」

「やったー!仕事の後はこの一杯だよ」

 

 LLサイズのドリンクを美味そうに飲むマヤ、俺はSサイズで十分です。

 はちみー、俺にはちょっと甘すぎるぜ。

 ちょ、吸引音が凄いんだがwwレディがはしたないですよ。

 少しずつ味わって飲んでよね!

 

「ぷはっ、おごりだと余計にうまうま~」

「よかったな。航空技研の方は今どんな感じ?」

「マヤの大活躍で順調そのもの。シリーズ77のデビューまでは、あとちょっとかな」

「お、遂にデバイサー候補が決まったのか」

「それなんだけど、上の方針で"緋色"ほうは無人機にするんだって。"銀色"の方は、もちろんマヤが担当するよ!」

「トントン拍子に進んだな」

「マサキちゃんたちのおかげだね。パパも喜んでいたよ「教官に飽きたらうちに来い」だって」

「ははは、嫌ですけど」

 

 "マーベリック航空技術研究所"

 マヤの親父さん通称「大佐」が代表を務める研究機関。

 飛行技術に特化した研究所で、航空機や戦闘機の設計と開発に定評がある。

 現在は新型テスラドライブを搭載したAMや、それを元に発展させた空戦デバイスを造っている。

 

 以前、愛バたちを連れて見学に訪れた際、実験に協力した(させられた)ことがあった。

 俺の頑丈さを見抜いた大佐により、新型デバイスのテスターをやらされた時は死ぬかと思ったぜ。

 何度、急上昇して錐もみして墜落したことか・・・半分以上は俺の覇気で暴発したけどね。

 見かねたシロが設計を一からチェックして、ミスを指摘し修正を加えなかったら、どうなっていたことか。

 

「ダイヤちゃんがいなかったら、今頃、マヤがバビューン!してチュドーン!だったねw」

「笑い事か!愛娘に試作機のテスターやらすなんて、父親としてどうなのよ?」

「どうもこうも、普通だよ。ふつうー」

「マヤ、たくましい子」

「パパのお仕事手伝って、お小遣いも貰えちゃう。一石二鳥で大ハッピー。丈夫なウマ娘でよかったって思うよ」

「ええ子やね。そういや、クロとシロもサトノ家でテスターやってたな」

「そうそう、せっかくウマ娘に生まれたんだもん。自分の長所は活用しないとね」

「無理すんなよ。出席日数足らずに留年なんて結果にならないようにな」

「心配ならまた手伝ってよ。あ、そうそう、クエストとして正式に依頼出すことにしたから、よろしくね!」

「本気なんだな」

「そうだよ。マヤもパパも技研のスタッフさんたちも、みーんな本気なの、だって、あんなの見ちゃうとね・・・悔しいよ」

「ガリルナガンか」

 

 ルクスが電波ジャックをしてヒュッケバイン大虐殺が中継されたあの日。

 黒いデバイスを装着したウマ娘が自由に空を飛ぶ姿を多くの人が目撃した。

 有人飛行型のデバイス開発に尽力していた航空技研の人員は、テレビに映った奴を見て開いた口が塞がらなかったという。

 飛行型デバイスは、自分たちが心血注いでようやく形になってきた段階だというのに、あのガリルナガンというデバイスは遥か先を行っている。

 技術レベルが違いすぎる。まさにオーバーテクノロジー"EOT"の塊、アレに追いつくのは無理だ。

 皆のモチベーションが限界まで下がり、ルクスに賛同しておこぼれに預かる案も出ていたところ、頭を悩ます大佐の前に愛娘であるマヤが現れた。

 

『パパ、見てみて!マヤちょっとだけ飛べるようになったよ~』

『ああそうか、マヤは凄いな・・・・・・・・・・ん?マヤ、どうして浮かんでいるんだい、それは新手のトリックかな?』

『よく見てパパ、種も仕掛けもないよ。マヤ、自分の力で飛んでるの、これもマサキちゃんに覇気をあげたお礼だね』

『本当に飛んでる、覇気にこんな使い方が、いや、サイバスターの前例も、これをああして応用すればあるいは、それには・・・』ブツブツ

『パパ?せっかく娘が遊びに来たのに放置プレイ。もう、ワーカーホリックも程々にしてよね』

『でかしたぞ、マヤ!!』

『ひゃい!ビッックリしたぁ、急に大声出さないでよ』

『今日からお前は、我がマーベリック航空技研の名誉テスターに選ばれました!おめでとう!!』

『はい?』

『これからは毎日テイクオフできるぞ!嬉しいだろう?』

『いえ、自分まだ若いっスからよくわかんないっス』

『なんだその口調は、はっはっは、緊張しているんだな。何も心配することはない、ちょっとバビューンしてチュードンするかもだけど、頑張ろうな!』

『断固としてNO!』

『ん?そこはいつものアイコピー!でいいんだぞ。おーい皆聞いたな、マヤが危険なテスターに志願してくれるってよ。さすが俺の娘だね』

『『『『うぇーい!マヤちん最高ーーー!!』』』』

『では、さっそくいってみよう!まずはマヤの耐久性を調べないとな。連れて行け!』

『嫌だぁーーー!クラッシュ前提の実験体はイヤァァーーー!』ドナドナ~

 

 マヤの回想終了、この話聞くたびに思うのよ。いろんな父親がいるんだなぁってさ。

 何やってんだよ大佐ぁ・・・この鬼畜おやじ!知り合いの研究者、ヤバい奴ばっかりだ!!

 

 最初は嫌がっていたマヤも、今では航空技研の人たちと一緒に邁進している。

 将来的にはシリーズ77という新型を足掛かりに、量産型を造る予定らしい。

 飛行型のデバイスは戦闘だけではなく、災害救助支援にも有用だとシュウも言っていた。

 航空機が入れない場所や、不安定な陸路に頼らず、現場に騎神が急行できれば大助かりだ。

 安全性はまだ発展途上なので、今のところは騎神が装着すること前提にしている。

 俺?俺は例外なんだと。

 

 ともかく、新たな有人飛行型デバイスの完成は大佐たち航空技研の夢なのだ。

 

「シリーズ77はマヤの夢でもあるの。いつか、みんなで飛べたらいいな~」わくわく

 

 遠くない未来の夢を語る若人は希望に満ち溢れている。眩しいのう。

 

「クラッシュしない程度に頑張れよ。陰ながら応援している」

「ありがとうマサキちゃん。あ、はちみーのおかわりお願いしまーす」

「お腹壊すぞ」

 

 二杯目のLLサイズも難なく飲み干すマヤだった。

 見ているこっちが胃もたれしそう・・・うぇっぷ・・・

 

 ○○○

 

 サトノとファインの両家が会合を開くことになった。

 ルクスへの対抗策やメジロ家の動きに今後どう対処すべきかを話し合うのだ。

 愛バたち全員がその会合に参加するために、今日は学園を休んでいる。

 学業とお仕事の両立、大変だけど頑張って!帰ってきたら労ってやらねばな。

 

 一人だからと怠けているのは勿体ない。

 愛バ不在の時だからこそ自分磨きをするのだ。

 

 人気の無い校舎裏で俺は汗を流していた。

 

「せいっ!やっ!とりゃっ!!」

 

 練習用の木の棒(六尺棍棒というらしい)を一心不乱に振るう。

 握り手に力を込め、脳天から四肢の末端まで全神経を集中し、教わった形の通りに打つべし!

 

 (それからここで、払う!・・・今のはいい感じだ。このまま最後まで)

 

 腕組みをしながら見守っているヤンロンの視線を感じる。そんなに見つめちゃ(/ω\)イヤン

 仮想敵はルクスだ。奴の頭を仮面ごと棒で叩き割る!そのつもりで振るっている。

 一連の動きを終えて一呼吸つく、礼をして残心も忘れない。

 チラッとヤンロンを伺う。嘘やろ、目を瞑ってらっしゃるーー!?

 

「ナゼェミテナインディス!!」訳:なぜ見ていないんです?

 

 ちゃんと見てろと言ったのに!寝ているなんて酷いじゃない!

 

「寝てはいない。前回の動きを思い起こしていただけだ」

「そ、そうか。で、どうでしたか?」

「まだまだ未熟だが、確実に良くなって来ている」

「やった!褒められた」

「"すごく下手"だったが"普通に下手"ぐらいにはなった」

「結局下手くそなんかい!」

 

 わかっていたけど辛いっス!

 俺に甘い母さんたちや姉さんすらも、俺が木刀の素振りをしていただけで「凄く下手ね。才能がないわ」と一蹴したからね!!ちっくしょめーーー!

 

 ううっ、下手くそなのは卒業出来ていないみたいでショック。

 挫けそうな時は愛バのことを考えろ・・・エロいな~可愛いな~、エロ可愛いな!

 はい回復した。鋼のメンタルはこうして保たれているのです。

 

 メルアから受け継いだオルゴンアーツ、必殺のテンペストランサーは槍だ。

 使い方は即座に脳内ダウンロードされたが、ちゃんと槍の修練を受けたわけではない。

 こんな感じかなぁと、力任せに振り回しているのが現状だ。

 いい機会なので、槍に限らず武器を使った戦い方ってヤツを学んでみようと思い立ち、今に至る。

 武術の達人であるヤンロンに教えを乞うことにしたのだ。

 

「先生に事欠かない環境でラッキーだぜ」

「槍ならボクよりテュッティが適任だと思うがな」

「先輩の前だと、照れと見栄と緊張が先走って修練にならんのよ」

「面倒な奴だ」

「自覚してまーす」

 

 ヤンロンを先生に選んだ理由は簡単。

 幼い頃から両親と共に武術の修行をしていた彼は、素手のみならず剣も槍も、その他いろんな武器を使いこなせるからだ。

 それに元来の教員気質なのか、人に何かを教えるのが好きなタイプだ。必死にお願いする俺を見捨てないでくれてありがとう。

 どんな得物がいいか相談したところ、素人の俺は「棒術からやってみろ」だそうで。

 今頑張って棒をブンブンさせてるって訳さ。長柄の武器っていいよね。

 

「次は模擬戦だ。どこからでもかかってこい」

「おっし。今日こそ一本とってやる!」

 

 同じ棒を構えたヤンロンと相対する。向こうに隙がないのはいつものことだ、恐れず行く!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ここまでにしよう」

「ねえ、手加減って知らないの?もうボッコボコやぞ!」

「お前には必要ないと判断した。ヒーリングで回復すればいいだろう?」

「簡単に言ってくれる」

 

 わかってないな、自分に向けてのヒーリングはまた勝手が違うんだよ。

 俺は他者への治療が得意なタイプなの!自己回復もできるけどね!

 

 ヤンロンが使うと棒が生きているみたいな動きをする。めっちゃしなるし!

 達人の攻撃を"普通に下手"の俺が捌き切れるはずもなく、滅多打ちですよ。

 あー、俺も早く槍を無駄に回転させてカッコイイポーズ決めたい。

 それで、敵の飛ばしたナイフとか弾くのやってみたい!

 

「千里の道も一歩からだ」

「わかってるよ。次は"やや下手"を目指すぜ」

「フッ、情熱だけは一人前だな」

 

 なにわろとんねん。ふんだ、今に見てらっしゃい!

 

「キューキュー」

「ガウ―」

「お、青龍に白虎。よしよし、お腹が減ったのかな?」

「迎えが来たようだ」

「もうそんな時間か」

 

 特徴のある鳴き声の主は人間でもウマ娘でもない。

 二体の超機人、青龍と白虎が俺たちの前に現れてじゃれついて来る。ウフフ、可愛いじゃないの。

 テスラ研が造った自立行動型デバイスということになっているので、学園での自由を許されている二体。

 通常サイズで学園内を闊歩する姿も見慣れたもんだ。

 

「こちらでしたか。マサキさんも、ごきげんよう」

「迎えに来たデスよヤンロン!あ、マサキもいるデース」

「よう二人とも。大事な操者をお借りしてすまんね」

「ホントですよ。次からレンタル料取りマスよ?」

「こらエル、すみません冗談ですから」

 

 超機人の主である、グラスワンダーとエルコンドルパサーもやって来た。

 

「ヤンロンさん。そろそろお時間ですよ」

「久々の合同修練、エルの力を皆に知らしめるチャンス!早く行きましょう、ヤンロン」

「二人とも、学園では教官と呼べと・・・」

「ええー、操者と愛バなんですから堅いのはナッシングデース」

「エルもたまにはいい事言いますね~」

「しかしだな」

 

 おうおう、あのヤンロンが女子に攻められて困っとるやんけ。イチャイチャしやがって!

 お気づきになられましたか?そうです、グラスとエルはヤンロンと契約をしたのです。

 なんでも、青龍と白虎がめっちゃ懐いたのがきっかけだったとか。

 

「なんでなん?出身が中国つながりだから?」

「キュ」

「ガルル」

「なんとなくかよ。君たちは、ご飯(覇気)をくれる男なら誰にでも懐くのね」

「キュー」

「ガウガウゥ」

 

 心外だと言わんばかりに首を振る龍と虎。

 ちゃんとグラスとエルに合った操者を見つけたつもりだって?

 ヤンロンが愛バとイチャイチャしている最中、俺は超機人と遊んでいた。

 顎の下辺りをくすぐってやると二体とも喜ぶんだ。おーよしよしよし。

 操者と愛バの空間から一歩引いた俺は空気を読める男です。も、もういいかい?

 俺もこんな感じなのかなあ、これは割って入れないわー。

 

「では、先に行ってますね」

「ああ、二人とも日頃の成果を発揮して来るといい」

「お任せください!暇ならマサキもエルの雄姿を見に来てくだサーイ」

「キューキュー」

「ガウ~」

「はいよ。いってらっしゃい」

 

 グラスはペコリと一礼して、エルは元気よく去って行った。超機人もその後を追いかけて行く。

 男二人に戻ってしまった。

 

「一緒に行かなくてよかったのか?」

「最初はテュッティたちが指導を担当する。僕の出番はまだ先だ」

「そうですか・・・・グラさんにはもう紹介した?」

「口頭ではな「ようやくか」と一応、好意的ではあった」

 

 ほほう。うちと違って嫁姑の顔合わせはまだですか。これからが大変だな。

 

「今後の関係についてお悩みですか?」

「わかるか・・・悩むというより少々面食らっている。この僕が、また生徒と契約するとは思わなかった」

「ははは、これで俺たちは仲間仲間~・・・また?」

「お前と会う以前の僕は愛バを持つことに否定的であった。だが、あの時のお前に敗れてから、自分の中で何かが変化した。愛バと共に歩む人生も悪くない、そう思ってしまったんだ」

「あの、またってどういうことか説明求?」

「言ってなかったか、グラスとエル以外にもう一人と契約済みだ」

 

 聞いてないよ。

 待てよ、えーっと確かどこかで・・・・ちょっと思い出してみる。

 

 ○

 

 廊下を歩いていると興奮気味のフクキタルが話しかけて来た。

 

『マサキさんマサキさん!聞いてくださいよ』

『またおみくじか?この前引いたヤツ意味不明だったぞ』 

 

 「うどんで苦しむ奴がいる」てなんだよ。俺も愛バたちも、ここ最近うどんは食ってないよ。

 

『あちゃー、そんなの混じってましたか。たまに変なのが・・・そうじゃなくてスズカさんが!』

『スズカなら今日もスピードの向こう側に行こうとして、走り込み中では』

『「愛バにしてくれって」ヤンロン教官に直談判したらしいです!!』

『大胆不敵!!そ、それで結果は?』ゴクリッ

 

 ドキドキ・・・溜めないで早く教えて。

 

『ん~~~・・・・・敗訴!!!』

『きゃぁぁーーー!スズカさーん!』

 

 あばばばばば、これどうするのどうなるの?

 

『超機人の主、グラスさんとエルさんを知ってますよね?』

『ああ、愛バ共々仲良くさせてもらってる』

『スズカさんの直談判結構時、ヤンロン教官はちょうどお二人と契約していたのです!』

『ひぃぃぃぃ!めっちゃ気まずい!』

『あ、契約は書面で行いましたよ。どこかの誰かと違って吸血させたりしてませんので』

 

 それでもだよ、そんな場面に遭遇したらショックだろう。

 俺まで悲しい・・慰めに行った方が、いや、余計なことはするまい。

 スズカほどの有望株を袖にするとは、ヤンロンの奴めどういうこった?

 

『ヤンロン教官の覇気も独特ですからね。相性をよく考えて愛バを選んだと思いますよ』

 

 そうだな、生真面目なヤンロンがその場の勢いとかで契約を結ぶはずがない。

 悲しいが、スズカにはご縁が無かったのだ。

 

『失恋スズカはどうなった?』

『左回りに高速回転していたところを、ミオ教官とゴルシさんが拾ったそうです』

 

 拾った?拉致したの間違いでは?

 ほうほう、それでスピカのチームメンバーになったのか。

 

『今はスぺさんに依存することで、何とか立ち直ったそうですよ。めでたしめでたしですね』

『めでたいか?』

『うひょ、失恋からの百合ルート来た』(*‘∀‘)

 

 ニヤニヤした何かが近寄って来てるけど無視。

 あの二人、やたら仲がいいと思っていたらそういうこと?本人たちに聞いたら否定しそう。

 スぺ×スズ、テイ×マク、ダス×ウォカ、と・・・意外なところでゴル×ミオか?

 なんだコレ、チームスピカは百合百合なのかい!?

 

『デュフフフ、そ、そのお話、もっとくわし・・・・・・・あっ』尊死

『『またデジタル殿が死んでおられるぞ!!』』

 

 いつの間にか聞き耳を立て接近していた変な子にヒーリング。

 医務室の常連、アグネスデジタルさんです。ウマ娘の絡み合いが大好物の変態です。

 

『いつもすまないね、マサキ。ぐふふ、スピカの動向は今後も要チェックですね~』じゅるり

『デジたん。ヤンロンの契約については?』

『すぐに広まるね。校内新聞には一面トップで掲載予定』

『前回も凄かったですから「ヤンロン教官、遂に落ちる!」と話題沸騰でした』

『そうそう、いや~彼女は今回のこと知っているんですかね?』

『遠距離恋愛の辛いところですよ』

 

 遠距離?フクとデジタルは誰のことを言っているのか?

 

 ○

 

 そんな会話があったことを思い出した。

 

「わかったぞ、遠距離恋愛中の愛バだな!」

「れ、恋愛などでは////」

「愛が無いと言い切れるのか!もっと素直になれよぉぉ!」

「わかった、わかったから叫ぶな。お前程ではないが、僕も愛バたちに好意を持っていることを認めよう」

 

 それでいいのよ。あんな可愛い子たちに好き好き言われて無反応なら・・・ホモ確定だな!

 グラスにエル、そしてもう一人。ヤンロンには合計三人の愛バがいる。この情報マサキ覚えた。

 

「遠距離の子はどんな感じ?写真見せて、見せてよぉ~」

「後にしてくれ、合同修練に間に合わなくなる」

 

 そんな事言って、愛バについて惚気トークしたかったんじゃないのか?このこの~。

 もう、照れちゃって。今度、嫁自慢大会しような!

 

「最後にコレだけ教えてくれ?」

「何だ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・した?」

「するか!!!」

 

 いや、しろよ!普通するだろ?硬派なのも程々にしないと愛バが可哀そうだ。

 これはどっちだろう、照れ隠しか?本当に手を出していないのか?

 

「なんだその顔は」

「べっつに~、この話は今後も定期的にやろうな」

「勘弁してくれ」

 

 恋愛マウント楽しい!とか思ってしまった。

 シュウ以外でこういう話題が出来るのも嬉しいな。

 その後の追及はのらりくらりと躱されたが、進展があれば報告すると一応頷いてくれた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 グラウンドに多くの生徒と教官が集まり、わちゃわちゃしている。

 学年やクラス、チームの垣根を越え、みんなで研鑽を積む"合同修練"が執り行われているからだ。

 合同修練は基本自由参加でチームに所属していなくてもOKだ。

 他者と自分の現実力を確認でき、名のある騎神や教官とも修練出来るとあって参加者は多い。

 普段接点のない者同士の交流会にもなっているようで、中々よい企画だと思う。

 

 スピカにカノープスの子たちも来ているな。

 それとは別に、大勢の中でとても目立つ集団がいる。なんかあの辺だけ空間がキラッキラしてるもん。

 

「あれが"リギル"か」

 

 "リギル"

 テュッティが先輩とヤンロンが二人がかりで見ているチーム。

 

 シンボリルドルフ、エアグルーブ、ナリタブライアン、マルゼンスキー、フジキセキ

 ヒシアマゾン、テイエムオペラオー、メイショウドトウ、タイキシャトル、マチカネフクキタル

 グラスワンダー、エルコンドルパサー 

 

 ルドルフと契約を結んだテュッティは操者として一目置かれる存在になり、芋ずる式に実力者たちが集まってチームになったという話だ。

 アグル、マルさん、フジ、ヒシアマ姉さん、頼れる姉御的連中はどのチームに所属しても、リーダー格としてやっていけそうな感じではあるがリギルを選んだ。

 彼女たちは一方的に慕われるのでなく、対等な存在たちと肩を並べ合いたいと思ったのだ。

 その結果、過剰戦力ともいえるリギルが誕生した。/(^o^)\ナンテコッタイ

 

 ヤバいよヤバいよ、このメンバーはヤバいよ。アニメ版より二人増えているのもヤバい。

 単純計算で操者一人が6人を担当しているのことになる。俺は4人で手一杯です。

 

「それは違う、僕が担当しているのは愛バの二人だけだ」

「うぇ?じゃあ、先輩一人で10人の騎神を!?」

 

 俺が言うのも何だが、テュッティ先輩の覇気量も大概だと思う。

 さすが水を司る天級騎神の一番弟子。二番弟子はガッちゃん曰く、俺だそうです。

 

「テュッティのサポートをしていたら、いつの間にか僕もリギルに入れられていた。愛バたちもなし崩し的にだ」

「そういうこともある」

 

 ヤンロンは集まった生徒たちの指導に入った。

 残された俺はリギルの修練を見学してみる。紳士たるもの邪魔にならないようにそっと見守るぜ。

 あんま得意ではないけど、ちょこっとだけ気配遮断。

 

「会長の私は今日も快調だ。フフフ、クッフフフフフ」

「「・・・・・」」

「カ、カイチョーだけに、ブフッ、ブホホホホホホwww」 

「なあブライアン、バファリンを持っているか?」

「やめとけ、今日はもうオーバードーズだ」

「ナロンエース・・でもいい・・一錠だけにするから、頼む」

 

 一人ダジャレを楽しんでいる生徒会長のルル。副会長が頭痛薬の中毒になりかけているの気付いてあげて!

 問題児だったはずのナリブが一番まともに見える不思議~。

 トレセン学園を代表する超級騎神がこの様です。

 誰か教えてくれ、騎神は強さに比例してアホになるのでしょうか?

 

「はーはっはっはっ、栄光の舞台リギルの星とは僕のことさ!」

「はわわ~、オペラオーさん。舞台と部隊をかけているんですね。クッソ伝わらないです~」

 

 マイペースなオペは勝手にリギルへ参入したっぽい、ドトウはそれに引きずられた感じだな。

 

「ナンデショウ、今日は肌寒いデス」

「きっと、ぬりかべが絶対零度の視線を向けて来るせいですね」

「オウ、スズカもスピカで頑張ってマス。負けてられまセンネ」

「ダメ元で受けた選抜試験に我々が受かるとは、これはシラオキ様も予測不可能でした」

 

 タイキとフクは追加メンバー募集の選抜を実力でくぐり抜けた。あの二人、結構強いからな。

 その時、スズカは「スぺちゃん」にドハマりして選抜どころではなかった。アホか!

 アホのスズカは「裏切り者~」みたいな視線を二人に向けている。完全に逆恨みですね。

 

「あ!やっぱり見に来てくれまシタ。こっち、こっちデース!」

「よそ見はいけませんよ、エル」

「フギャッ!」

 

 俺を見つけたエルが手を振る。

 組手の最中だったらしく、隙を見せたエルをグラスが脳天チョップで沈める。痛そう。

 手を軽く振り返して先輩の下へ到着。

 

「あらマサキ、見学かしら?」

「ちょっと生徒たちの視察でも、と思いまして」

「みんな~、マサキが来てくれたわよ。多少のケガは即行で治してくれるから、思い切って修練しちゃいなさい」

「「「「はーい!!」」」」

 

 リギルのみならず、他チームの騎神たちも元気のよい返事をしてくれる。

 

「多少つっても限度があるからな」

「どのくらいまでなら大丈夫デスカ?」

「骨折はいける。完全にもげた場合は・・・神経の接続には自信がないなぁ・・」

「怖いよ!」

「頭部は絶対に守れ。首チョンパはともかく、脳が破壊されたらどうにもならん!!」

「だから怖いですって!!」

「ちょっと待て、暗に首もげても治せるって言ってね?」

「うちの養護教官がヤバすぎる件」

「頼むぜみんな、俺を働かせないでくれよ」

「なんかムカつ言い方だな」

「みんながケガしたら、俺がワンワン泣いちゃうんだからね!」(^_-)-☆

「「「「キモいーーー!www」」」」

 

 大勢でのキモいコールはやめてくださいよ。今泣きそう(´Д⊂グスン

 出番のない事を祈りつつ、見守りと見回りを再開する。

 目が合うと頷いてくれたり、手を振ってくれる可愛い生徒たち・・・女子中高生最高ッッ!!

 ホントいい所に就職出来ました。ありがとうありがとう!

 

 ミオたちスピカやカノープスにも挨拶をして、おや?あの集団は・・・

 

「たづなさん」

「マサキ?ああそう、今日は小娘どもがいないのね」

「いい加減仲良くしてくださいよ」

 

 愛バたちを小娘呼ばわりする姉さん。今日もキレッキレですね。

 姉VS愛バの争いは胃がキリキリするのでやめてください。

 

「それはあの子たちの出方次第よ。まずは義姉を敬うことを覚えてもらおうかしら」

「義妹(予定)たちに優しくしてあげてください。俺からのお願いっス」

「む~、一応考えておくわ」

 

 優しいお姉さんは大好きです。愛バたちと仲良くしてくれたらもっと好きです。

 

「ここにいる子たちは?」

「"ハダル"よ」

「ハダル?」

「操者を持たず、リンクデバイスを使用せず、チームにも所属していない子たちを、そう呼ぶの」

 

 リギルが学園の顔ならハダルはその裏側の存在かな。

 価値観は人それぞれだし、単独で活躍する孤高の騎神は結構いる。

 ハダルは蔑称ではなく「アウトローかっこいいですね」という称号だと思っていい。

 生徒の3分の1はハダル、今日ここに集まっているのはその一部だ。

 知っている子もチラホラ見かける。

 

「ハダルをたづなさんが監督しているんですね」

「これも仕事よ。ハダルの戦力を腐らせてておくのは勿体ないから」

「ですよねー。強そうな子が結構いますもん」

「じゃあ、私は行くわ。負傷者が出たらお願いね」

「はい。任せてください」

 

 姉さんは監督業務に戻って行った。

 遠くでサボり気味の生徒を叱咤激励するのに忙しいようだ。抜刀はやめたげてよぉ!?

 

「あー、マサキさんだ!」

 

 元気いっぱいのウイニングチケットが駆け寄って来る。

 ビワハヤヒデとナリタタイシンも一緒だ。

 仲良し三人組は健在、君らハダルだったのね。

 

「三人とも、おいっすー」

「やあ、マサキ君。見回りご苦労様だね」

「暇なの?」

「愛バたちが実家のお仕事に行っちまってな」

「振られたの!?・・・うおぁぉぉん、捨てられたマサキさんかわいぞうだよおぉぉぉぉ」

「早とちりすんな!捨てられてない!」

 

 チケ蔵の奴、相変わらず失礼な号泣しやがるぜ。

 ヒデさんとタッちゃんも、ヤレヤレと首を振っている。

 

「操者は募集してないのか?お前たちの実力なら、引く手数多だろうに」

「見ればわかるでしょ。まだ決まってないわ」

「三人セットで契約希望なのがネックらしい。やはり、個別に募集すべきだろうか」

「嫌だぁぁ――!ハヤヒデとタイシンと一緒がいいよぉぉぉうわぁぁぁぁぁぁんんん!!」

「操者が決まらない原因コイツじゃね?」

「「やっぱりな!」」

「いわぁおあぁおうぇうあおうえあぁーーーー!!」

「うるせー!!」

 

 この泣き上戸に引いて、逃げ出す操者がたくさんいるとみた。

 それでも見捨てないヒデさんとタッちゃんが偉い。

 

「じゃあ、リンクデバイスは?使ってないの」

「アレ、嫌いよ」

「なんかね、あのデバイス・・・なんて言うか、気持ち悪い」

「どうやら我々は体質的に装着不可なようでね」

「ハダルにはそういう子もいっぱいいるんだよ」

 

 "リンクデバイス"

 ルクスが技術情報を流失させてから、各企業がこぞって開発するに至ったデバイス。

 装着することで操者を介さずに覇気循環を行い、戦術リンクを可能にする一品だ。

 一般に広く普及しており、軍関係者のみならず学園生たちも普通に使用している。

 操者がいないチームは大体これでリンクしてから戦闘を行うのが常識だ。

 耳や腕に装着するアクセサリーの形状しており、武装デバイスより安価で神核への負担も少ないらしい。

 

 ヒデさんが言うように、このデバイスを装着することで体調が悪くなるウマ娘もいる。

 発熱、頭痛、吐き気、倦怠感と風邪によく似た症状に始まり、二日酔いと船酔いの不快感が一度に襲ってくる等の被害報告が上がっている。

 既に操者が決まっている者ほど、症状が出やすいようでアレルギー反応の一種では?と考えられるが、今のところ原因不明だ。

 お試しで使用した、うちの愛バちの感想は「これ嫌い」「ゲロ吐きそう」と大不評だったな。

 一応、同封の説明書には「体に異常が出た場合は直ちに使用を中止すること」と注意書きがあるにはある。

 

「無理に使わなくていいよ。リンクしたところで、ゲロ吐きながら戦えないだろ?」

「そうね。戦術リンクと引き換えに、嘔吐を繰り返すなんて絶対嫌よ」

「リンクしなくても、アタシたちの絆はいつでも繋がってる」

「チケット、君はいつも突然にいい事を言う」

 

 戦術リンクの有用性は認めるが、劇的に強くなれるかは本人とリンク相手次第だからなあ。

 心と体のエネルギーである覇気を機械で数値化して、強引に結びつけようってんだろ?

 当然合わない子も出て来るよ。

 

 これだけ普及して今更使うなとは言えないが、養護教官としての見解ではお勧めできない、それがリンクデバイスだ。

 人類にはまだ早いというか、未知の部分が多すぎると思うんだよね。

 

 デバイスの事はもういいだろう。せっかくの合同修練だ、みんなでレベルアップしようぜ。

 

「マサキさん、暇なら相手してよ~」

「ほう、チケ蔵が俺に勝負を挑むか?」

「ハンデは必要だろう、私たちも参加していいだろうか」

「やるなら本気でいくから」

 

 BNWの三人が俺と相対する。

 一対多数の戦闘は愛バたちとよくやっている。他の騎神相手にどれだけ通用するか、試してみるか。

 

「わかった。かかって来なさい!」

「やったー!みんな~マサキさんが全員相手にしてくれるってさ!あ~つ~ま~れ~!!!!」

「「「「わーい!ぶっ飛ばしちゃうぞー!!!!」」」」

「バカ!何やってんだチケ蔵」

 

 チケ蔵は仲間を呼んだ。たくさんのウマ娘(凶暴)が現れた。

 ひぃぃ、安請け合いした俺のバカバカ!

 

「行きますよーー!バクシーン!!」

「何だ?マサキに勝ったらおかわり自由なのか、ならやる」

「そんなん誰も言うてへんやろ。おもろそうやから、うちらも行くで!」

「私が勝ったら、赤ちゃんになってもらいますよ~」

「また変なことやって、ホントバカなんだから」

「乗るっきゃない、このビッグウェーブに」

「ウェイウェイうぇーい!」

「みんな~待ってけろ~」

「一生懸命戦うとご飯も凄く美味しくなるよ。ゴーゴー」

「わ、私もいいでしょうか」

 

 ギャー!なんかいっぱい来た!

 これが戦闘民族ウマ娘の本能だ、血に飢えた獣の群れが牙をむいて突撃して来る。

 自分、逃げていいっスか?漏らしそうなくらい怖いんだけど。

 こいつらってば愛バと違って遠慮が一切ない、これは真面目にやらないと負けるぞ。

 

「落ち着くんだ俺、夜のあいつらに比べたらこの程度・・・ウェヘヘ」じゅるり

 

 戦闘中に思い出すような事じゃないですね。こんなことしてると・・・

 

「隙あり」

「あぶっ!・・・何でお前がいる!スズカ!」

「誰の挑戦でも受けると聞きましたけど?」

「俺は了承しとらん!」

 

 一瞬で背後に回り込んだスズカが顔面に貫手を放って来た。首を捻っって辛うじて躱す。

 こいつのスピードはマジで恐ろしい。

 マズい!今のでスピカの連中がこっち見た。ひぃ、カノープスとリギルにも見られてる。

 見ないで!あっち行って!これ以上増えたら物量で潰される!!

 

「おい、来んな!来るなよ!いやーー!来ないで!」

「「「「「逃がすな!やっちまぇーーー!!!」」」」」

「キャァァァーーー―!!」

 

 戦いは数だよ兄貴!

 一対多数の戦闘は安請け合いしちゃダメってことがよくわかりました。

 ヘルプ!ヘルプミー!素敵な同僚たちよピンチな俺を助けてください!

 

「ナゼェミテルンディス!!」訳:なぜ見ているんです!?助けろやボケェ!!

 

 結局、姉さん以外誰も助けてくれなかった・・・うぬら、マジで覚えておれよ。

 

 集団を相手にした結果、衣服はボロボロになり伊達メガネがお亡くなりになった。

 バスカーモードは禁止だから仕方ないね。

 

 その日の夜、帰ってすぐ風呂に入らなかったことを後悔した。

 気付かなかったが、一連のどさくさに紛れてマーキングをされていたらしい。

 会合が終わって家に寄った愛バたちが超不機嫌よ!お、怒らないで!

 誤解だ!みだれてまじわるパーティーなんかに出てない!

 そんなの興味ないんだ。お前たちがいてくれたら十分なんだ、信じてくれ――!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・対ウマ娘用の消臭グッズを通販で頼んでおこう。

 



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ぶっかけ

誠に勝手ながら、タイトル変更しました。

旧題【俺とブラックとダイヤモンド】➡ 新題【俺と愛バのマイソロジー】

今後ともよろしくお願いします。


Twitterで更新情報などを、お届けしようと思ったりしちゃったり。
https://twitter.com/asakim40



 トレセン学園が誇る食堂(カフェテリア)は本当に凄い。

 

 現理事長の学園改革に合わせて一新された施設の内、かなりの予算がここにつぎ込まれたのだと、ハッキリとわかるレベルの優遇っぷりだと思う。

 大人数を収容できる広いスペースにお洒落な内装、充実したメニューの数々はボリュームも栄養も満点でコスパもそれなりに良好と来ている。

 厨房を預かる料理人の中には一流ホテルの料理長を務めた猛者もいるらしく、肝心の味も文句なしで舌の肥えた者たちからの評判も上々だ。

 取材に訪れた記者が「素晴らしいですぅぅぅ!!!」とコメントしたのも頷ける、自慢のお食事処だ。

 

 お昼時ともなれば、腹を空かせた生徒や教職員たちで賑わう食堂。

 そのテーブル席でランチを楽しむ5人組がいた。マサキとその愛バたちだ。

 トレセン学園ヤバい奴ランキング上位勢の彼らを見た周囲の反応は人それぞれ、大半は珍獣を目撃したような顔をしている。

 

「おっ!全員いるじゃん」

「わわっ、揃ってるの初めて見た」

「あれが例の……」

「オーラまじパないんだけど!」

「存在感ヤバ」

 

 何事かをヒソヒソされているが、マサキたちは慣れたもので華麗にスルーしている。

 というか、5人の世界に入っていれば全く気にならない。

 

「美味いなコレ」

 

 <超絶!具だくさんニンジンカレー>に舌鼓打っている、どうも俺です。

 今は愛バたちとお昼ご飯の真っ最中で、美味しい楽しい幸せです。

 

 ご飯はなるべく揃ってからと決めているが、仕事や急な予定で全員揃わないことも多い。

 今日は運よくフルメンバーなので、食堂に繰り出したというわけだ。

 愛バたちと一緒にお喋りしながら美味い飯を食う、有り体に言って最高だな!!

 

 美味しい、本当に凄く美味しいんだけど・・・マジで量が多い!!

 カレーを半分食べ進めたところでスプーンが止まってしまった。サイズの選択を完全に誤ったようだ。

 お腹が減っていたからいける!と思って大盛にしたが、ウマ娘基準の大盛を甘く見ていたわ。

 完食できないこともないが、お腹タプタプでは午後からのパフォーマンスに影響が出そう。

 出された料理の"お残し"は俺の主義に反する。さて、どうしようかな?

 

 既に自分の料理を完食し、デザートのプリンをどう攻めようか思案していた、クロと目が合う。

 

 (大盛カレーに苦戦中、手伝ってくれないか?)

 (いいの!食べる食べる!)

 

 適量のご飯とルーをスプーンで掬い、口を開けて待つクロに食べさせてあげる。

 所謂(いわゆる)「はい、あーん」です。

 カレーを口にしたクロは満面の笑みで咀嚼し、飲み込んだ後に素直な感想を告げる。

 

「んまーい!マサキさんのカレー美味しい!」

「ははは、作ったのは俺じゃないぞ。感謝するなら厨房にいる料理人やスタッフの人たちにな」

「うん。みんないつもありがとー、今日もすっごく美味しいよー!」

 

 ブンブンと手を振ってお礼を述べるクロ。

 人混みの中でも良く通る声は厨房まで届いたらしく、気付いたスタッフたちが笑顔でサムズアップしてくれた。

 クロの天真爛漫さは周りの空気を良くさせるな。自慢の愛バだぜ。

 二口目を掬っていると、横から袖を引かれる。シロが目で何かを訴えていた。

 

 (カレー食べたい気分の愛バ、ここにもいますよ?)

 (わかった。クロ、ちょっと待ってな)

 (むー)

 

 クロには少し待ってもらい、シロの口にカレーを運ぶ。

 

「ほれ、あーんしろ、あーん」

「あーん」パクッ

 

 よく噛んで食べなさい。うむ、シロの顔も満足気だ。

 

「うまいか?」

「美味しいです。好きな人から食べさせてもらえて、美味さ激増です!」

「だよね!」

 

 嬉しいことを言ってくれるぜ。

 クロとシロの二人へと、交互に食べさせることにより大盛カレーはハイペースで消費されていく。

 雛鳥にせっせと餌を運ぶ親鳥の気分だ。かわいいな~。

 よしよし、この分だとフードロスは避けられそうだ。

 

「お二人とも、それではマサキさんの分が無くなってしまいますよ」

「いいんだアル、俺一人じゃ食べきれない量だったから、助かっている」

「なら、よいのですが」

「クロシロちゃん、マサキの優しさに甘えすぎるのは感心しないぞ~」

「ごめん、調子に乗って食べすぎちゃったかな?」

「食い意地張っていて面目ないです」

 

 シュンとしてしまうクロシロ、耳が連動してペタンするの可愛い。

 あらら、全然気にしなくていいのに。

 そんな二人に俺は精一杯の気持ちを伝えたい。

 

「クロ、シロ、よく聞きなさい」

「「なんでしょう?」」

いっぱい食べる君が好き!!!

「「やったー!」」(≧▽≦)

 

 美味しそうにモノを食べている女の子っていいよね。

 見てるとこっちまで幸せになるよ、それが愛バなら尚更だ。

 

「聞いたかタマ?マサキは私のことが好きみたいだぞ。照れるな////」ガタッ

「オグリお前やない、座っとれ!」

「なら私のことが!?愛バさんたちがいる前で告白なんて、もう////」ガタッ

「スぺちゃん、あなたでもないわ。いいから座りましょうね」

 

 離れた席にいる爆食モンスターどもが「いっぱい食べる君が好き」に反応していたが、それぞれの相方が即座に座らせてくれた。

 タマちゃん、スズカさん、ツッコミご苦労様です。

 聞き耳を立てている連中は放っておいて、愛バとのランチに集中しよう。

 クロとシロの整った顔を見つめながら、素直な思いを口にする。

 

「たくさん食べて、どうか健やかに育っておくれ」

「うん。ガンガン育つよ!」

「成長期ですからね。しっかり栄養を摂取して、ご期待に応えてみせます」

「二人ともまだ成長する気なの!?・・・ああ解った、横にだねww」

「フフッ、ぽっちゃりさんになりますねww」

「「誰がブタ娘だ!!」」

「そこまで言ってない!」

「ブタ娘、そういうのもあるのか」

「ないよ!?」

 

 クロシロたちがブタ娘にだった場合を想像してみる。

 ふっくら丸々としたボディ、ブヒブヒした荒い息づかいと大量の発汗。

 手に持った炭酸飲料とスナック菓子を貪る姿は鬼気迫っている。

 

『今日も暑いんだブー。修練?暑いから嫌でブヒ』

『ポテチとコーラがうめぇんだブー。今日は体が重いので安静にするですブー』

 

 これはキツイwwwふとましいにも程がある!

 

「豚だからトン……愛トンと呼べばいいのかブー?」

「マサキさん、アホなこと考えないで」

「すまん。やっぱウマ娘が一番だ」

「「「「ですよね~」」」」

 

 ブタ娘という新たな概念は即行で却下された。

 雛鳥(愛バ)への餌やりを再開していると、ココが話かけて来る。

 

「マサキ、まだ満腹じゃないよね?」

「腹六分目ぐらいかな」

「なら大丈夫だ。はい、口を開けて~」

「あむっ」

 

 言われるがままに口を開けると、ココが自分のビーフシチューを掬って食べさせてくれた。

 おお、なんとも濃厚で奥深い味わい、シチューの旨味が五臓六腑に染み渡るぜ。

 

「美味しい?」

「めっちゃうまい」

「マサキさん、こちらもどうぞ」

「あーん……むぐむぐ」

 

 今度はアルが一口大に切り分けたハンバーグを差し出して来た、有難く頂くことにする。

 溢れんばかりの肉汁がジューシー!ソースと練り込まれた具材も絶妙に合っている。

 

「こっちも美味しいな」

「愛する人に手ずから食事を与えることができる。なんて幸福なのでしょう」

「大袈裟だとは思わないよ。私も同じ気持ちだもん」

 

 アルとココがツヤツヤして来た。

 二人に食べさせてもらえて俺も幸せだ。

 

「攻守交替!次は私がマサキさんに食べさせる」

「笑ってやってください。激辛麻婆豆腐を頼んでしまったダイヤは愚か者だと……畜生ッッ!」

「あらら。マサキさん、辛すぎるものは苦手ですからね」

「カレー、私も食べたいな~」チラッ

「はいはい、みんな仲良く順番にな」

 

 5人で「はい、あーん」を繰り返し、それぞれの料理をシェアする形になった。

 結局お腹タプタプになってしまったけど、幸せ太りも悪くない。なんて思ってしまうのだった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ナチュラルにイチャつくマサキたちの幸せオーラは、食堂内を伝播していく。

 

 テュッティとルドルフの場合

 

「マサキたち、幸せそうね」

「まさに"仲良き事は美しき哉"」

「物は試しよ。ルドルフ、私たちもやってみましょうよ」

「山盛り砂糖まみれのケーキは遠慮したいな」

「美味しいのに・・わかったわ!ハチミツを足しましょう」

「何一つわかっていないね、テュッティ」

「最近愛バが冷たいわ……私の可愛いルナちゃんは何処へ行ったの」(´Д⊂グスン

「い、いただきます・・・んぐっ」

「どう?美味しいでしょ?何かコメントをどうぞ」

「ゲロ甘ッッ」

「ゲロは失礼でしょ!」

 

 エアグルーブ、ブライアンの場合

 

「会長の血糖値スパイクを確認。やれやれだ」

「おい副会長、こっちを向け」

「なんだ急に・・・むごっ!?」

「よし、食ったな。「廃案」成功だ」

「これは、ブロッコリー?野菜はちゃんと食えと言っているだろ!」

「なぜ怒る?お前が「廃案」したそうな顔をしていた。それを私が叶えてやったというのに」

「「廃案」だと!?私がいつ何を提案して棄却された」

「ほら、まだ残ってるぞ」

「やめろ、押し付けるな。この野菜嫌いめがーー!」

 

 マルゼンスキー、ヒシアマゾン、フジキセキの場合

 

「何やってんだか、マサ公たちは」

「まあまま、ナウなヤングだから仕方ないわよ」

「みんな色めき立っちまって、この空気どうしてくれんだい」

「せっかくだからヒシアマ、僕とやってみるかい?」

「ア、アタシにもアレをやれと!?」

「ポニーちゃんたちのリクエストには応えないとね。さあ、始めようか」

「キャー(≧∇≦)寮長同士のタイマンね!ポロリもあるのかしら?」

「そういう奇跡もあるかもね」

「あってたまるか!!」

 

 オペラオー、ドトウの場合

 

「お、お、オペラオーさん!こ、こ、こここここ、これをどうぞ」

「はっはっは、大胆になったねドトウ。ちゃんと決め台詞を言えたら尚よしだ」

「はい、あ、ああ、あーんっっですぅぅ////」

「羞恥に染まるその顔、実にいい!しかし、一ついいかな?」

「ほぇ?」

「君がフォークを突っ込んでいるのは僕の口じゃなくて、そう・・・耳さッッ!!」

「ひぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい~」

「はーっはっはっは、耳からカルボナーラを食す僕もまた麗しいね」

 

 タイキシャトル、フクキタルの場合

 

「オウッ!みんな仲良しデスね。ワタシたちもハイアンしまショウ」

「嫌ですけど」

「そんな~フクはワタシのこと嫌いデス?」

「タイキさんのことは友人として普通に好きですよ。ただ私は、食事に集中してじっくり食べたいウマ娘なんですよね」

「ノンノン!それじゃあ、寂しいデス。ぼっちメシ反対~」

「モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで・・・」

「それ知ってマス!蟲毒のグルメ!デスゲームに参加した主人公がアームロックで無双する奴デス」

「違う!ですが、それはそれで面白そう」

 

 ヤンロン、グラス、エルの場合

 

「ヤンロン!エルたちもアレやりましょう!」

「ぐっ、マサキめ!余計な真似を」

「観念してくださいね。こちらの<極み!ネバネバ納豆>をどうぞ~」

「な、納豆は苦手だ」

「ならエルのハバネロタコスで中和しマース、はい、あーん!」

「待ってくれ、辛いのと粘るのが混ざ・・・ぐぉぉぉぉ」

 

 スピカメンバーの場合

 

「イチャコラしてんな~マサキの奴。なあなあ、マックちゃんよ~アタシらも、しちゃう?」

「あなたとだけは、ゴメン被りますわ」

「な、な、何が「あーん」よ!いい大人が恥ずかしい////」

「でも、なんかいいよな。通じ合ってるって感じがしてさ」

「カイチョ―がテュッティ教官と「あーん」してる。僕もやりたい~」

「テイオーちゃんには操者のミオ様が「ハイアン」してあげよう、こっちおいで~」

「わーい。はいあん!ハイアン!」

「スズカさん!私たちもやりましょう!」

「スぺちゃん、なぜ私の前に丼を置いたのかしら?」

「なぜって「はい、あーん」するからですよ?スズカさんなら一口でどんぶり一杯余裕です!ささ、一気にいっちゃてください」ぐいぐい

「嘘でしょ、待って!みんながスぺちゃんやオグリさん並みだと思わないでーーー!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 食後のまったりタイム。

 他愛もないお喋りに興じている小柄な女性が近づいて来た。

 なんだこのチビッ子は?などと思ってはいけない、彼女こそトレセン学園の実質トップ。

 理事長の秋川やよい、その人だからだ。

 

「僥倖ッ!皆揃っておるようだな」

「お疲れ様です。理事長もお昼ですか?」

「否ッ!昼食は外で済ませた。私は君たちチーム"ああああ"に用があって来た」

「・・・???」

「キョロキョロしてどうした?マサキ君たち5人のチーム名は"ああああ"と聞いていたが」

「あっ!そ、そうです。"ああああ"で合っています」

 

 "ああああ"とか何言ってんだコイツ?とか思ってはいけない。

 反応が遅れたのは不本意なチーム名に納得がいってないからだ、いつか改名してやる。

 

「それで何用ですかな?」

 

 愛用の扇子を広げた理事長は良い顔で宣言する。

 

「吉報ッ!"ああああ"の諸君!君たちチームの活動拠点を用意したぞ!」

 

 遂に俺たちのチームにも専用ルームが、やったー!トレセン最高!理事長最高!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「などと思っていた、俺が愚かだったぜ」

 

 クラブハウスの一室を利用できると思ったのに、案内された場所は教室棟から遠く離れた場所に建つプレハブ小屋だった。ここからだと旧校舎の方が近い。

 俺が赴任して来た当初からずっとここに鎮座しているプレハブ小屋、てっきり工事関係者が撤去し忘れたものかと。

 

 理事長は「陳謝ッ!現在クラブハウスに空きが無いのだ。我慢してくれ」と言っていたが、厄介者認定した俺たちを、一般生徒から遠ざけ隔離したいという意思を感じるのは気のせいか?

 

 俺は別にいいんだ。でも、愛バたちには不自由な思いをしてほしくない。

 

「ごめん。俺が不甲斐ないばかりに、お前たちに苦労をかけて」

「まあまあ、これはこれでいいんじゃない」

「隣室を気にしなくていいし、ここなら落ち着けそう」

「小屋や周りの土地は自由にカスタムしていいそうです。劇的ビフォーアフターにしてやりましょう」

「リフォーム工事!楽しそうです。この辺りには花壇を造って、こっちには・・」

「落とし穴!落とし穴を設置しよう」

 

 たくましい愛バたちはプレハブ小屋を見ても元気いっぱいだ。

 そのポジティブさ、嫌いじゃないわ。

 よく見ると、この場所もそう悪くはない気がして来た。

 ルクス関係の話をする時にも気兼ねなく利用できそうだし、建物自体はクラブハウスより広い。

 

「よっしゃ、ここを俺たちの基地とする!」

「「「「おおー」」」」

「掃除とリフォーム工事、張り切って参りましょう!」

「「「「うぇーい!!」」」」

 

 小屋の中は倉庫として使用されていた。

 室内には家具や書籍が所狭しと並んでいる。

 

「使えるものは、自由にしていいんだよな」

 

 理事長は最初から、ここの掃除を丸投げする気だったのでは?まあいいい、やってやるよ。

 

 まずは手分けして、家具類の整理整頓と掃除をすることにした。

 使用できそうなものは綺麗して、不要なものは処分するため外に運び出す。

 ここにいる全員が力持ちなの、でその辺は手早く完了する。

 

 破損個所の確認、リフォーム計画の立案から設計、それぞれの希望や意見の取捨選択、足りない家具家電の選定と発注等々、俺が指示しなくても優秀な愛バたちが次々に事を進めていく。

 ホント出来る子たちね!

 

「チェック終わりました。盗聴器や監視カメラの類はないようです。後で、基地の内外に防犯対策を施しておきます」

 

 シロはオルゴンテイルを顕現させて、周辺を調べてくれた。

 結晶の尻尾はシロの感覚をより鋭敏にさせ、索敵や調査をする上で頼りになる。

 しかしだな、その状態で外に出るのは控えなさい。誰かに見られたらビックリされるぞ。

 

「シロに任せるよ。ええ感じにやっといてくれ」

「任されました」

「マサキさん、これはどこに置きましょう?」

「それは・・・」

 

 みんなでワイワイやりながらリフォーム中。楽しくなってきた。

 小屋の内部は思ったほど劣化もしていないようで、中々の良物件だ。

 いい基地が完成しそうだな。

 

「昔のジャンプ発見~・・・遊戯王やってる!」

「どれどれ、Mr.FULLSWINGだ!私これ好きだったな~」

「武装錬金はないのですか?」

「ちょっと待て!掃除中にその流れは非常にマズいぞ」

 

 昔の漫画見つけて、つい読みふけっちゃう。

 あるあるだよね~試験前とかにハマると危険だよね~。

 年代物のジャンプを読んで、本日は解散となった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 数日後、リフォーム工事その他もろもろは急ピッチで進行し・・・

 

「完成だ!」

「「「「ヒュー、やったーー!!」」」」

 

 最後に基地の出入口扉に"ああああ"というネームプレートを掲げて完了。

 はい、拍手~。パチパチパチパチ~。

 今日からここが、学園における俺たちの基地だ!たまり場とも言う。

 

「ここに観葉植物を置いたらどうでしょうか?」

「おやつの備蓄をしないと」

「カップ麺用の棚を作るぞー」

「私はサターンとドリキャスを持って来ます」

 

 更なる学園生活の充実を願わずにはいられないな。

 

 ●

 

 "クエスト"

 本来は、探求や探索、冒険の旅を意味する言葉。

 この世界では、ギルド等から発注されるお仕事のことを指す言葉である。

 学園生たち基本的に、二種類のクエストを受注することが出来る。

 

 "学内クエスト"

 学園内で起こる事件や揉め事の解決、行事やイベント事のヘルプ、教官や理事長のお手伝い。

 

 "学外クエスト"

 ギルドや企業等、外部からの依頼で発生するもの。

 学内クエストと同じく事件事故の解決から、警備任務に要人警護、各種ヘルプ業務、本職と仕事をする機会も多いため、職業体験になったり卒業後の進路を決める要因にもなる。

 

 実力実践主義のトレセン学園では、生徒たちによるクエストの遂行を奨励している。

 授業より優先してクエストに取り組んでいいとされており、クエストの難易度や達成数がそのまま成績に反映される。

 更にクエストを達成した者にはご褒美として、学園からQP(クエストポイント)を与えられる。

 これは学園内でのみ有効な通貨として利用可能、自販機や売店に食堂等で使うことができる。

 生徒の中にはQPを荒稼ぎして、豪遊している者もいるとかいないとか。

 

 因みに、通常業務を疎かにしない事が条件であるが、教職員であってもクエストを受けることが可能だ。

 QPの代わりにお給金がちょっと上乗せされ、職場での評価も上がるのが嬉しい。

 

「操者と契約した者には10000QP、チームに所属したら2000QPか。テストの点数を買ったり、他者に譲渡は出来ない・・ふむふむ」

 

 クエストとQPについての説明が書かれた冊子を熟読して、席を立つ。

 今いる場所は、食堂に隣接された"出張ギルド"トレセン学園支部だ。

 都会の市役所を彷彿とさせる施設内、そのカウンターに向かうと、若い女性と目が合った。

 

「こんにちはマサキ教官。クエストをお探しですか?」

 

 ギルドから派遣された受付嬢さんのスマイルが眩しい。

 何度か挨拶している内に名前を覚えてくれたようだ。

 

「ええ。チームで受けるクエストを探していまして」

「チーム"ああああ"・・・あら?チームでのクエスト経験は無いようですね」

「はい。個人ではそれなりの達成数がありますが、チームでの受注は今回が初めてです」

「でしたら、いくつか学内クエストを達成されて、チームの連携を確かめる。その後に学内クエストに挑戦という流れがいいですよ。今、ちょうど面白い案件がありますので、ご紹介します」

「お願いします」

 

 受付嬢さんがパソコンを操作している間にも、施設内の大型ディスプレイに受注可能なクエストが表示されては消えていく。

 

 【モルモット募集中】急募!!!!

 

 人とウマ娘の可能性を検証する為に、健康で頑丈なモルモット君を募集しています。

 食事三食経口摂取、痛みを伴う実験少な目、コーヒー飲み放題、テスラ研からボーナスあり。

 七色に光っても問題なしと思える人材なら尚良し!

 

 興味のある方はアグネスタキオンまで連絡を・・・・

 

「うわぁ」ドン引き

「あ、それにご興味あります?報酬は割といいのですが、どうにも人気ないようで」

「いえ、これっぽっちも興味ありません!」

 

 受付嬢さんに、おすすめのクエストを見繕ってもらった。

 データをタブレットに転送してもらい、お礼を言ってその場を後にする。

 この中のどれを受けるかは、愛バたちと相談して決めよう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 学園敷地内の北部、研究棟、庭園、ニンジン畑を通過した先の最奥にそれはあった。

 一見してただのプレハブ小屋だが、入口の看板に"ああああ"と書かれている。

 

 4人の覇気を確認して扉をあける。全員来ているようだ。

 

「悪い、少し遅れた」

「待ってたよ」

「お疲れ様です」

 

 愛バたちが出迎えてくれた。シロに鞄を預けると、恭しい手つきで所定の場所へ置いてくれた。

 子犬のようにまとわりついてくる、クロを撫でながらテーブル席に着く。

 小屋の内装は綺麗にリフォーム済み、ライフラインも完璧、家具家電も完備、何日か宿泊しても問題ない。下手な賃貸アパートよりも豪華だと思う。

 対面キッチンで作業していたアルが、声をかけてくる。

 

「何かお飲みになりますか?」

「あー、じゃあ紅茶にしようかな。ココの爺様が送ってくれたヤツ、まだ残っているよな」

「本場のアイリッシュティーをご所望だね。私が淹れてあげる」

「頼んだ」

 

 ソファーで雑誌"ご当地ラーメン列伝"を読んでいた、ココが立ち上がりキッチンへ向かう。

 育ちの良いお嬢様スキルを発揮して、アルとココが協力しながら、慣れた手つきでお茶とお菓子の準備をしている。

 キッチンの二人は何だか楽しそう。あらあら、絵になる光景だこと。

 

「美少女たちが、俺の為にお茶の用意してくれている。幸せ」

「その実態はアルコールとラーメンの依存症患者であったww」

「あははははww台無しだw」

 

 クロとシロがまた余計な事を口走った。

 今のはアルとココの耳にしっかり届いているぞ。

 

「二人のお菓子は無しでいいね」

「ええ、悪い子にはお仕置きが必要です」

「「ごめんなさい!お菓子抜きは勘弁してください~」」

 

 お菓子を人質にされた年少組は即行で謝る。年長組は苦笑しながら、怒りを収めたようだ。

 愛バ間のパワーバランスがイイ感じに保たれているようで、何よりだ。

 

 紅茶の準備ができた頃には、それぞれがお好みの飲料を持ち寄ってテーブルに着く。

 香り豊かな紅茶を口に含んでホッと一息。

 ふぃー、茶葉が違うんだよな茶葉が、知らんけど!全然詳しくないけど!

 

 愛バたちは一体何を飲んでいるのだろう?

 見たことのないデザインの缶飲料を口にしているようだが。

 

「クロのは何だ、炭酸か?」

「サトノ印の超強炭酸飲料"ハジケてぇメガMAX"だよ」

「なんか、聞いたことある名前だな」

「以前、回収されたモノに、改良に次ぐ改良を加えた新作なんだ」

「前のヤツも飲み物じゃなくて兵器だったろう。それを改良しただと!?」

「平気平気、慣れるとこの強炭酸が…グビグビ…くぅ~、この痛痺れる感じが癖になる」

 

 いたしびれる?何だよそれ。

 本人が平気と言っているから止めはしないが、クロの喉が少々心配になる。

 ビクンッビクンッ痙攣しないよう、飲みすぎには注意しなさいよ。

 

「アルは、今日もやっぱり酒か?」

「今日もって何ですか。それだと、いつも私が飲んでいるみたいに聞こえます」

「「「いつも飲んでるじゃん!!!」」」

「メジロ水はノーカンです。それに、今日は休肝日なのでお酒は我慢!」

「ならそれは何?」

「メジロ印の機能性飲料"ウコンの無限力(むげんりょく)"です」

「パクりな上に、イデが発動しそうw」

「ハウス食品に謝れ!」

「何を言うのです。"ウコンの無限力"はメジロ家独自の特許製法で開発した飲料ですよ?類似品はありますけど」

「あくまで白を切るつもりだ」

「ウコンの栄養が余すことなく溶け込んだコレを飲めば、死にかけた肝臓もハッスルします!」

「これ以上、肝臓さんをいじめないで!!」

 

 たっぷり500ミリ缶に入った液体を、ちびちび飲んでいるアル。

 缶のサイズ間違ってませんか?

 顔をしかめている所を見ると、味はイマイチらしい。

 

「ほんで、ココは?」

「"飲むぞ!濃厚背油ギトギト風味"これはね……」

「わかった。もういい」

「ええー、説明聞いてよ。あの有名店とコラボした企画商品だよ!これを飲めば手軽に高カロリーを摂取できるから、戦闘糧食としてもピッタリなんだから」

「ブタ娘に一番近いのはココですね」

「このトンコツインモー!油っ濃いんだよぉ!」

「ココさんも無限力いります?脂肪肝にも効果ありますよ、たぶん」

「心配ご無用。私、体質的に太らないウマ娘ですから。運動だって毎日欠かさないから大丈夫」

 

 スープマグに注いだドロドロの液体を美味しそうに飲むココ。

 あれはもう、ドリンクではなく調味料なのでは?ご飯にかけて食べたら美味そう。

 

「はぁ、仲間が妙ちくりんな物ばかり飲んでいて、嘆かわしいです」

「そういうシロは、カルピスか」

「はい、よくある市販のカルピスです。もっとも、私好みの比率に調整してありますが」

 

 グラスに入った原液多めのカルピスを、ストローでちゅーちゅー吸っているシロ。

 4人の中ではまともなドリンクチョイスだな。

 

 さて、軽く喉を潤したところで、クエスト選択と参りますか。

 出張ギルドで転送してもらったデータをタブレットに表示する。

 受付嬢さんのおススメから選んだクエスト、愛バたちが好きそうなのを選んだつもりだ。

 

「チーム"ああああ"記念すべき最初クエストを決めようと思う」

「「「「待ってました!」」」」

「面白そうなのを見繕ってもらったからな、期待していいぞ。まずはコレだ!」

 

 ワクワクしている愛バたちに向けて、一つ目のクエストを説明していく。

 

「学園で野良試合していた連中を知っているか?」

「存じております。血の気の多い生徒たちが集まって、ファイトクラブなる集団を作っていたと聞きました」

「先日、風紀委員会に摘発されたマヌケどもですね」

「野良試合とはいえ、結構なガチバトルだったらしいよ。見物した子は『金払ってもいいレベルの試合』と言ってたかな」

 

 教職員の目を盗んで結成された、ファイトクラブは「心のままに戦う」というポリシーの下で連日野良試合を行っていた。

 最初のメンバーは数人だったはずが、噂が人を呼び勢力を拡大していき、見物客による賭け試合へと発展していった。

 戦っている奴らの目的は日頃のストレス解消と強さへの渇望のみ、トーナメント形式で行われる試合の優勝者には、更なる闘争への切符が用意されている。

 優勝賞品はクラブの発起人にして、首謀者たる人物とガチンコ勝負できる権利だ。

 恐ろしく強く残虐な首謀者は、最初期から無敗を貫いているウマ娘。

 いつも珍妙なマスクを被り、素顔を見たものは皆無らしい。

 

 学園内での横行する私闘に大金が動くギャンブル、風紀委員会に目を付けられるのは、時間の問題だったろう。

 

「既に解散した組織の後始末をしろと?」

「そんなところだ。説教部屋で尋問を受けた、ゴルシとナカヤマがゲロった情報によると、まだ首謀者が捕まっていない」

「何やってるんだか、あの二人はw」

「容疑者として上がったエルコンドルパサーは、アリバイが成立して無罪だ。因みに、ルクス関係でもない」

「クロ、どうしました?汗がすっごいですけど。キモイです」

「う、うん。ちょっとメガMAXが、予想以上にキツくて……あはは、やっぱり失敗飲料だったかな~」

 

 クロがプルプルしているような気がする。武者震いかな?

 まあいいや、本題に入ろう。

 

【クエスト①】

 

 ファイトクラブの首謀者にて無敗のチャンピオンが逃走中!!

 捜索と捕縛に協力してくれる人員募集。

 戦闘が予想されるので荒事が好きな方、腕っぷしに自身のある方だと心強いです。 

 

 首謀者と思われる者の名は……  

 

「俺たちの手で、この逃走犯『シュバルツ』を捕まえてやろうぜ!!」

 

ブーーーーッッッ!!!!」`;:゙`;:゙;`ゞ(゚ε゚ヽ)フ

 

ぎゃあああああーーー!!超強炭酸が目にぃぃぃーーー!メガMAXがぁぁぁーーー!!!

 

 シュバルツの名前を出した瞬間、それは起こった。

 クロが飲んでいた"ハジケてぇメガMAX"を、隣に座るシロの顔面に吹き出したのだ!

 

「クロ!?何をやっているんだ!」

「ご、ごめんなさい。メガMAXが気管に入っちゃって……ゲホゲホ」

「いや~盛大に吹いたねえww」

「直撃でしたww」

 

 アルとココは心配するよりも、笑う方を優先した。

 あーあー、もう「めがぁ~メガぁ~」と、のたうち回るシロが可哀そうでしょ。

 

「シロ、拭いてやるから、こっちにおいで」

「ふぇぇ、マサキさ~ん」(´Д⊂グスン

「大丈夫、泣かない泣かない」

 

 泣いていても可愛い!

 携帯しているハンカチで、シロの端正な顔を拭いてやる。

 幸運にも制服は無事な様だ。あの超強炭酸全てを顔面で受けきったのか、ひでぇなww。

 素早く拭き取ったので汚れは直ぐに落ちた。眼球にも異常なし。

 

「これでよし。いつもの綺麗で可愛いシロだ」

「ありがとうございます。目が若干ショボショボしますが、私は無事です」

 

 サトノダイヤモンド復活!

 復活したシロは、バツの悪そうな顔をしているクロを睨みつける。

 

「何してくれやがっているんですか!!この私に顔射とはいい度胸だな!!ああ!?」(# ゚Д゚)

「顔射言うな」

「ごめんねシロ。悪いのは全部、メガMAXだから許してね」

「私の顔を汚していいのは、マサキさんだけなんですよ!それをよくも!!」

「へぇー、汚してるの?」

「そういうプレイがお好みですか?言って下されば対応しますよ」

「はっはっは、何を言っているのかわからんな。シロ、誤解を生むような発言は控えるように」

「申し訳ないです。取り乱しました」

 

 キレた愛バは突拍子もないことを言うから困ったもんだ。

 「クロの隣は嫌だ」と言ったシロは席替えを提案、アルの隣に座わることにした。

 

 ハプニングがあり中断したが、話を戻そう。

 

「それでこの『シュバルツ』という奴を捕まえるクエストなんだが、どうする?」

「うちの生徒なんですよね。名前の他に情報は無いのですか?」

「正体不明だがメッチャ強いらしい。強者にしか興味がなく、いつか自分を倒してくれる存在を待ち望んでいるのだとか」

「典型的な戦闘狂か、(* ̄- ̄)ふ~ん」

「そいつ、黒髪で血のように赤い目じゃありません?」

「どうだろうな。そもそも目撃情報が少なくて……」

「マサキさん!」ガタッ

 

 急にクロが立ち上がった。皆の注目がそちらに向く。

 顔は真剣だ、何か大事なことを言うつもりだろう。

 ちょっと焦っているような気がしないでもない。

 

「どうしたクロ、シュバルツに何か心当りでもあるのか?」

「それなんだけど、このクエストを受けるのは待ってほしいの」

「どういうことだ?」

「私もさ、ほら、戦うの好きじゃん。だからその、シュバルツ?さんの気持ちが解る~と思って」

「ほう」

「シュバルツさんはね、たぶんだけど、純粋に強さを求めただけなんだよ。その結果ちょ~っと暴走して、意図せずめんどくさいことになった、それだけだと思うんだ」

「つまり、どうしたい?」

「シュバルツさん、私の知っている子かも知れないの。だから、まずは私が話して説得してみるよ。逃げずに出頭しろって」

「そ、そうだったのか」

「わがまま言ってごめん!でも、この案件は私に預けてほしい、お願いマサキさん!」

 

 上目づかいで潤んだ瞳を向けて来るクロ。

 仕方ないなあ、メッチャ可愛いな。このおねだり上手め!

 

「わかった。このクエストはクロに預ける。だが、俺たちの力が必要ならいつでも言えよ」

「うん!ありがとう、マサキさん」

「みんなもそれでいいな」

「「「……はーい」」」

 

 クエスト①はクロが容疑者に心当たりがあるとのことで、任せることにした。

 俺はてっきり、無敗のチャンプと戦えることに喜び勇んだクロが張り切ると思ったのに。

 犯人の説得をするだなんてな、これも成長ってことなんかね。

 

 ホッとした表情で席に着いたクロ。

 緊急事態を回避した直後のように、汗を拭っているのはどうしてだろう?

 そのクロをジットリした目で見ている他三名の愛バたち、クエスト受注に反対したことを責めているのだろうか?

 仲良くしなさいよ~。

 

 おススメのクエストはまだある。次行ってみよう!

 

「じゃあ次だ。これはスケールが違う」

 

【クエスト②】 

 

 学内で酒類が販売されているとのタレコミがありました!

 内密に調査した結果、大規模な組織的犯行だと判明。

        

 未使用教室での無許可販売に始まり、自販機でジュースを買ったらチューハイだった。

 食堂で暗号を言うと普通に出て来る。水道の蛇口から酒が!?等々。

 どの手口も、大多数の生徒が関わっている模様です。

 秘密の場所で密造酒の工場を運用しているとの噂もあり……

 ここまでの規模だと、何か大きな後ろ盾を持つ生徒が関係者ではないかと推測します。

 

 近々、目星を付けたアジトに強制捜査を行います。

 突入と関係者の捕縛を手伝って頂ける方を大募集!事務仕事も多数あるので戦闘苦手でも全然OK!

 とにかく数がほしいので、級位無しやチーム無所属の方も歓迎します。奮ってご参加ください。

 

 追記

        

 酒類以外にも、高級スイーツ、成分ヤバいプロテイン、ギャル語辞典?、アレなシーン多めの少女漫画等。

 これらも同時期に取引が開始されたようです。誰向けの趣味なのでしょうか?

 

「これ学内クエストですよね?マフィアが絡んでいるのですが」

「トレセン学園、いろいろと終わってるwww」

「最近、二日酔いで医務室に来る奴が多いんだよな。未成年でしょ!と説教しても聞きやしねぇ」

「どうせ、たづなさんの尋問受けたアホウマがいるんでしょ。何か他に情報は?」

「ドイツビールで酒盛りしていた、フラッシュとファル子が説教部屋で首謀者らしき奴の名前をゲロったらしい」

「すみません、サトノ家を代表して謝罪します。あの二人は減俸処分だ」

「アル姉、どうしたの?汗がすごいよ、無限力そんなにマズいの?」

「い、いえ。どうやら発汗作用もあるみたいで、オホ、オホホホホホ」

「笑い方、変!!」

 

 学園で行われる大規模組織犯罪、その首謀者は名前は……

 

「酒をこよなく愛する謎のウマ娘『ギガデイン』が俺たちのターゲットだ!!」

 

ブーーーーッッッ!!!!」`;:゙`;:゙;`ゞ(゚ε゚ヽ)フ

 

ぎゃあああああーーー!!臭っせぇウコンが鼻にぃぃぃーーー!無限力がぁぁぁーーー!!!

 

 ギガデインの名前を出した瞬間、それは起こった。

 アルが飲んでいた"ウコンの無限力"を、隣に座るシロの顔面に吹き出したのだ!

 

「アル!?何をやっているんだ!」

「ご、ごめんなさい。無限力がマズ過ぎてむせちゃいました……ゲホゲホ」

「これまた盛大に吹いたねえww」

「会心の一撃だww」

 

 クロとココは心配するよりも、笑う方を優先した。

 あーあー、もう「はながぁ~イデがぁ~」と、のたうち回るシロが可哀そうでしょうが。

 

「シロ、拭いてやるから、こっちにおいで」

「ふぇぇ、マサキさ~ん」(´Д⊂グスン

「大丈夫、泣かない泣かない」

 

 うん。やっぱり、泣いていても可愛い!

 携帯しているハンカチはさっき使ったので、鞄から予備のハンカチを取り出し、シロの端正な顔を拭いてやる。

 幸運にもまた制服は無事な様だ。ウコンの全てを顔面で受けきったのか、ひでぇ臭いだなww。

 素早く拭き取ったので、今回も汚れは直ぐに落ちた。鼻腔にも異常なし。

 漢方薬みたいな臭いは、しばらくすれば落ち着くだろう。

 

「これでよし。漢方臭のする綺麗で可愛いシロだ」

「あ、ありがとうございます。鼻が若干ツーンとしますが、私は無事です」

 

 サトノダイヤモンド復活!サトノダイヤモンド復活!

 復活したシロは、バツの悪そうな顔をしているアルを睨みつける。

 

「何してくれやがっているんですか!!この私に毒霧噴射とはいい度胸ですね!!ああ!?」(# ゚Д゚)

「ウコンの毒霧か」

「申し訳ありません、シロさん。悪いのは無限力が発動したせいなのです。イデに免じて許してください」

「私に匂いを刷り込んでいいのは、マサキさんだけなんですよ!それをよくも!!」

「へぇー、マサキからマーキングしてるの?」

「ズルい、ズルいなあ。私にも擦り付けていいからね、ね!」

「はっはっは、何を言っているのかわからんな。シロ、滅多なことを言うんじゃありません」

「申し訳ないです。取り乱しました」

 

 キレた愛バは突拍子もないことを言うから困ったもんだ。

 「アル姉さんの隣は嫌だ」と言ったシロは席替えを提案、今度はココの隣に座わることにした。

 

 ハプニングがあり中断したが、話を戻そう。

 

「それでこの『ギガデイン』という奴を捕まえるクエストなんだが、どうする?」

「うちの生徒なんだよね。名前の他に情報は無いの?」

「正体不明だがメッチャ強いらしい。他の幹部連中からの人望も厚く、その覇気は雷の如きだとか」

「ここにも雷使いかぁ、(* ̄- ̄)ふ~ん」

「そいつ、青髪でドスケベじゃありません?それに、ドラクエ好きだろ」

「どうだろうな。例によってコイツも顔を隠しているらしく、そもそも目撃情報が少なくて……」

「マサキさん!」ガタッ

 

 急にがアルが立ち上がった。皆の注目がそちらに向く。

 顔は真剣だ、何か大事なことを言うつもりだろう。

 ちょっと焦っているような気がしないでもない。

 

「どうしたアル、ギガデインに何か心当りでもあるのか?」

「それですが。このクエストを受けるのは、遠慮して頂けないでしょうか」

「どういうことだ?」

「私も酒を嗜む者ですから、その、ギガデイン?さんの気持ちが少し解るのです」

「ほう」

「ギガデインさんは、恐らくですけど、純粋にお酒を愛しているのでしょう。その結果少々暴走して、気が付いたら一大勢力になり困っている。それだけだと思うのです」

「つまり、どうしたい?」

「実はギガデインさん、私の知っている方かも知れないのです。ですから、まずは私が話して説得してみます。それと同時に、他の幹部たちにも話をしてみようと思います」

「そ、そうだったのか」

「無理を言って申し訳なく思っています!でも、この案件は私に預けてほしいのです。お願いします、マサキさん!」

 

 上目づかいで潤んだ瞳を向けて来るアル。

 仕方ないなあ、メッチャ可愛いな。このおねだり上手め!

 

「わかった。このクエストはアルに預ける。だが、俺たちの力が必要ならいつでも言えよ」

「はい!ありがとうございます、マサキさん」

「みんなも、それでいいな」

「「「……はーい」」」

 

 クエスト②はアルが容疑者に心当たりがあるとのことで、任せることにした。

 俺はてっきり、正義を重んじるアルが率先してクエストを受けるかと思ったのだが、柔軟な思考が出来るようになったな。

 これも成長ってことなんかね。

 

 ホッとした表情で席に着いたアル。

 緊急事態を回避した直後のように、汗を拭っているのはどうしてだろう?

 そのアルをジットリした目で見ている他三名の愛バたち、クエスト受注に反対したことを責めているのだろうか?

 ほらまたぁ、仲良くしなさいってばよ~。

 

 おススメのクエストはまだあるぜい。お次はこいつだ!

 

「これは何だろうな。悪戯?愉快犯?」

 

【クエスト③】 

 

 学園で屋台を無許可営業しているウマ娘がいます。

 例によって顔を隠しているので、犯人の正体は不明です。

 

 不定休で営業する神出鬼没の屋台にて、ラーメンを販売しているようです。

 「運よく見つけたら必ず立ち寄れ!あの絶品ラーメンを食い逃すと一生後悔するぞ」

 と、生徒だけでなく教職員の間でも噂になっています。

 

 それだけなら注意だけで良かったのですが、店主にはラーメンに並々ならぬ、情熱があるようなのです。

 麺の切れ端、スープの一滴、ネギの一欠けらでも残そうものなら、厳しい制裁が待っています。

 ある者は座っていた椅子ごと落とし穴にボッシュート。

 また、ある者はエンドレスな替え玉を強要されたり、アツアツの湯切り汁をかけられたり、全メニュー制覇まで帰れま10だったり……と、内容は違えど散々な目にあわされます。

 

 店主が「トレセンにラーメンを残す愚者は不要だ」と、言ったら最後だそうです。

 

 食堂でパスタ、うどん、そばを頼んだはずなのにラーメンが出て来る。

 ラーメンを勝手にマシマシマシ全部のせにされた。

 屋台の店主は、これらの事件にも関与している疑いがあります。

 

 迷惑なので店主を捕まえた後、説教部屋に放り込む予定です。

 激しい抵抗が予想されるので、客を装ったおとり捜査を検討中!

 ラーメンを食べながら取り締まりをやってみたい!そんな方を募集しています!

 

「ホント、いろんな奴がいるなw」

「うちの学園ww無法地帯www」

「俺、まだ遭遇したことないんだよな。そんなに美味しいなら、一回食ってみてぇなあ」

「被害者のアホウマに知り合いはいた?」

「チャーシュー丼を頼んだライスは落とし穴に、ふざけて"うどん"を頼んだボンさんは、なぜか座席ごと上空に打ち上げられたそうだ」

「それは二人が悪いww」

「その屋台、どういう仕組みだww」

「ココさん、どうしたのですか?そんなに汗をかいてしまって、背油が喉につまったのかしら」

「ち、違うよ。代謝のいい私は背油を全身全霊でデトックスしているというか、汗=背油みたいな?」

「なにそれ怖いです」

 

 学園(無法地帯)に現れる無許可のラーメン屋台、ギルドがその店主につけたコードネームは……

 

「ラーメンを愛し過ぎた妖精『デスラー総統』に会ってみたいと思わないか!!」

 

ブーーーーッッッ!!!!」`;:゙`;:゙;`ゞ(゚ε゚ヽ)フ

 

ぎゃあああああーーー!!濃厚背油が口にぃぃぃーーー!ギトギトじゃぁぁぁーーー!!!

 

 デスラー総統の名前を出した瞬間、それは起こった。

 ココが飲んでいた"飲むぞ!濃厚背油ギトギト風味"を、隣に座るシロの顔面に吹き出したのだ!

 

「ココ!?何をやっているんだ!」

「ご、ごめん。シロちゃんにチューしたい願望が炸裂しちゃった……ゲホゲホ」

「チュー魔人は健在かww」

「なるほど、離れた位置から口移しを狙ったのですねwwおぞましいですww」

 

 クロとアルは心配するよりも、笑う方を優先した。

 あーあー、もう「おのれ~ぢゅーまじん~」と、のたうち回るシロが可哀そうでしょうが。

 

「シロ、拭いてやるから、こっちにおいで」

「ふぇぇ、マサキさ~ん」(´Д⊂グスン

「大丈夫、泣かない泣かない」

 

 こんなに可愛いのに、どうしてみんなシロの顔面にタゲ集中するのだろう?

 俺のハンカチはもう品切れなので、クロが鞄に常備していたタオルを受け取り、シロの端正な顔を拭いてやる。

 またしても制服は無事な様だ、三回も口撃されたから、もう幸運とは言えないが。

 濃厚背油の全てを顔面で受けきったのか、口に入ったww笑ってごめんww。

 素早く拭き取ったのだが、今回は油汚れなのでテカリが残った。

 口内に異常はないが、精神のダメージは大きいみたいだ。ちゅー魔人とは何ぞや?

 

「こ、これでよしにしてくれ。油でテカっていても、シロは綺麗で可愛いぞ」

「お優しいマサキさん、ありがとう……もうヤダ!今すぐ口内洗浄したい、私は無事ではないです!」

 

 サトノダイヤモンド復活!サトノダイヤモンド復活!サトノダイヤモンド復活!?

 復活した?シロは、バツの悪そうな顔をしているココを睨みつける。

 

「何してくれやがっているんですか!!この私に関節チュー砲撃とはいい度胸ですね!!あああああああああサイアクサイアクサイアク!?」(# ゚Д゚)

「意味が解らんww」

「ごめんってば、濃厚背油でシロちゃんとの濃厚キッスを思い出したんだよ、許してよ~」

「私の口内を犯していいのは、マサキさんだけなんですよ!それをよくも!!」

「マサキさん、シロの口内を蹂躙してるの?」

「口づけだけでメロメロに////羨ましいです////」

「はっはっは、何を言っているのかわからんな。シロ、恥ずかしいから、もうやめてー!」

「申し訳ないです。取り乱しました。後で上書きのチューを所望します」

 

 キレた愛バは突拍子もないことを言うから困ったもんだ。

 「こいつらの隣は嫌だ」と言ったシロは席替えを提案、俺の隣へ寄り添うように座わった。

 

 ハプニングがあり中断したが、話を戻そう。

 

「それでこの『デスラー総統』という奴を捕まえるクエストなんだが、どうだろう?」

「やる気が出ません。そもそも、こんな奴に会いたくない」

「ラーメンの妖精さんが、どうしてデスラー総統と呼ばれるのでしょうか?」

「元々"デスラーメン"だったものが、マイルドになって"デスラー総統"になったらしいぞ」

「総統閣下のどの辺がマイルドなんだかw」

「正体不明だがメッチャ強いらしい。やってることはふざけているが、自慢のラーメンは是非食べてみたい」

「ラーメン好きの変人か、何処かで聞いたような」

「そいつ、キス魔じゃありません?それに、本名が卑猥な単語を含んでます」

「どうだろうな。例によってコイツも顔を隠しているらしく、そもそも目撃情報が少なくて……」

「マサキ!」ガタッ

 

 急にがココが立ち上がった。皆の注目がそちらに向く。

 顔は真剣だ、何か大事なことを言うつもりだろう。

 ちょっと焦っているような気がしないでもない。

 

「どうしたココ、デスラー総統に何か心当りでもあるのか?」

「えーと、このクエストを受けるのは、やめてほうがいいんじゃないかな」

「どういうことだ?」

「私もラーメン好きだからね。その、デスラー?閣下の気持ちが解る気がするんだ」

「ほう」

「総統閣下は、きっと、純粋にラーメンを愛しているんだよ。その結果少々暴走して、クソ客にムカついた、それだけなんじゃないかな」

「つまり、どうしたい?」

「実はね、総統閣下は私の知っている人かもしれないの。ということで、最初に私が話して説得してみるよ。同じラーメン好きとして、心から語り合えると思うから」

「そ、そうだったのか」

「ごめんね!でも、この案件は私に任せてほしいな。お願いマサキ、このとおり!」

 

 上目づかいで潤んだ瞳を向けて来るココ。

 仕方ないなあ、メッチャ可愛いな。このおねだり上手め!

 

「わかった。このクエストはココに預ける。だが、俺たちの力が必要ならいつでも言えよ」

「そう言ってくれると思った!ありがとう、マサキ」

「みんなも、それでいいな」

「「「……はーい」」」

 

 クエスト③はココが容疑者に心当たりがあるとのことで、任せることにした。

 俺はてっきりココが、ラーメン界の評価を下げる敵としてデスラーを始末する気になるかと思ったのに。

 敵であってもまずは対話を試みるか、これも成長ってことなんかね。

 

 ホッとした表情で席に着いたココ。

 緊急事態を回避した直後のように、汗を拭っているのはどうしてだろう?

 そのココをジットリした目で見ている他三名の愛バたち、クエスト受注に反対したことを責めているのだろうか?

 ホント君たちはもう、仲良くしないといかんぜよ。

 

 おススメのクエスト、次で最後だ。

 俺的には苦手なジャンルのクエストだが仕方ない。頼む、これで決まってくれい。

 

「これがラスト。ちょっとホラーなヤツだ」

 

【クエスト④】 

 

 謎の怪人の討伐をお願いします。

 

 学園の裏掲示板等で"とある人物"について誹謗中傷をした。

 又は、特定のキーワードを打ち込んだ者の前に、怪人が現れるそうなのです。

 

 怪人は体から触手を生やした恐ろしい外見をしており、何処へ逃げ隠れても追いつかれ襲われるのだとか。

 被害者は心に深い傷を負い、一様に口をつぐむので例によって正体不明です。

 

 ネットのみ都市伝説だったはずが、被害者が実在するこで信憑性のある事件として認定しました。

 なお、ネット上の書き込みだけでなく、口づての悪評にも怪人は反応するそうなので注意です。

 

 怪人は"とある人物"にちょっかいを出さなければ無害だったのですが。

 調子に乗ったのか、今ではSEGAをバカにした者、ある食材をマズいと言った者、モース硬度の高い宝石をディスった者も襲うらしいです。

 

 噂を怖がって不登校になる生徒も出ているようです。

 事態を重くみた学園上層部は、怪人を捕縛ではなく討伐することにGOサインを出しました。

 命知らずの方、学園の伝説にその名を刻みたい方、「怪人?面白れぇじゃん」と思ったかませ犬の方、緊急大募集中!!どうか力を貸して下さい!!

 

 ※とある人物の情報はプライバシー保護の観点と、怪人の報復が怖いので言及しません。

 

「特級呪霊じゃんww」

「誰かw五条先生呼んで来てww」

「な、怖いだろ?俺一人なら絶対受けないクエストだよ」

「襲われたとありますが、被害にあわれた方は何をされたのでしょう?」

「うーん、触手がどうとか、うわ言を繰り返すだけで要領を得ないらしいぞ」

「触手か…やったねアル、出番だよ!」

「わかりました、私が襲われているうちに……って、最悪なおとり役です!?」

「シロ、どうしたの?汗がダラダラだよ、カルピスの比率ミスった?」

「違います。炭酸とウコンと背油を浴びて絶不調なだけ、放っておいてください」

「いや、もう風呂入れよ」

 

 学園を恐怖のどん底に落とした怪人、そいつはこう呼ばれている……

 

「戦慄の触手怪人『Ⅾ様』だってよ!ひぃぃ怖ぇぇぇ!!」

 

ブーーーーッッッ!!!!」`;:゙`;:゙;`ゞ(゚ε゚ヽ)フ

 

ぎゃあああああーーー!!シロのカルピスがぁぁぁーーー!ありがとうございます!!

 

 Ⅾ様の名前を出した瞬間、それは起こった。

 シロが飲んでいた"ただのカルピス"を、隣に座る俺の顔面に吹き出したのだ!

 

「シロ!?何やってるの!」

「す、すみません。突発的な逆流性食道炎になってしまい……ゲホゲホ」

「汚ないなあ。それでマサキの愛バを名乗るつもり?」

「大丈夫ですかマサキさん!シロさん、お下品にも程がありますよ!」

「ケホッ……どの口が言ってるのですか」

 

 ココとアルは俺を心配しつつ、シロを罵ることにした。

 ちゃっかり自分のことは棚に上げていらっしゃる。

 あーあー、もう。のたうち回ったりはしないけど、顔面がカルピスまみれだよ。

 「美少女の口から噴射された液体を浴びるなんて、ご褒美ですね!」と幼馴染の男は言うだろうか。

 

「マサキさん。自分のしでかした不始末は責任もって処理します、どうかこちらへ」

「ふぇぇ、シロ~」(´Д⊂グスン

「大丈夫ですよ、泣かない泣かない」

 

 シロに手招きされたので近づく、懐からハンカチを取り出した彼女は、優しく丹念に俺の顔を拭いていく。先程までと立場が逆転しているが、これはこれでいいものだ。

 

「ああ、マサキさんのお顔が、なんてことでしょう///」

「カルピスの糖分で、ちょっとベタベタするな」

「マサキさんのお顔が!私の発射した白い液体でベタベタになってますぅぅぅ!

「おい、何言ってんだ」

「うへ、うへへへ、なんという背徳的で退廃的で魅力的な光景なのでしょう」

「シロ!そっちに行ったらダメだ、戻ってこい」

「フゥー…フゥー…ゾクゾクムラムラしてきました。もうダメです!」

「ちょ、何を」

「……ぁむ……レロ」

「「「サトイモォ!お前ゴラァ!何してんだぁーー!!!」」」

 

 興奮したシロが唐突に俺の顔を舐めて、カルピスをその舌で舐めとっているだと!

 そりゃ他の三人がキレるわけでして、俺は動くに動けないわけでして。

 

「くすぐったい///やめ」

「フフ、逃げないで…全部綺麗にしてあげますから……チュッ」

「あう////」

 

 舐めるだけじゃなく、頬をついばむようなキスもしてくるシロ。

 もうなすがままですわ。

 

 (なんだコレ?シロとマサキさん、二人の世界に入っちゃった!?)

 (頬舐めプレイは私の十八番ですよ!許せません!!)

 (なるほどなるほど、そういう風にやるんだ。へぇー)

 

 クロ、アル、ココの嫌な視線を感じながらも完遂するシロは凄いと思った。

 最後に再びハンカチで水分を拭き取ってくれる。

 

「これでよしです。いつものカッコイイ、素敵なマサキさんですよ」

「あ、ありがとう///でも、今見たいなのは、みんなの前ではちょっとね、恥ずかしいからね」

「はい。次は二人きりで、もっとイイ事しましょうね♪」

「お、お願いします!!」

 

 アンドウマサキ復活!!!ここまでされて復活しないのは男じゃねぇ!

 うちの愛バはみんな攻め好きで困りますな!(/ω\)イヤン

 

 ハプニングがあり中断したが、話を戻そう。

 

「で、この『Ⅾ様』どうするよ?」

「殺るしかないね」

「殲滅あるのみです」

「とりあえず息の根を止めてみようよ」

「え、何?さっきまでと違って随分やる気じゃん。こいつ、正体不明の上に結構強そうだけど、大丈夫か?」

「問題ないよ。触手を全部引きちぎってやる」

「触手ですか、まさか尻尾だったりしませんよねww」

「そいつ、顔面セーブが得意でしょ?それに、無駄に頭いい癖に凄いバカだよ!」

「どうだろうな。目撃した奴はみんな怯えて話が聞けないから……」

「マサキさん!」ガタッ

 

 急にがシロが立ち上がった。皆の注目がそちらに向く。

 顔は真剣だ、何か大事なことを言うつもりだろう。

 ちょっと焦っているような気がしないでもない。

 このやり取り4回目ッッッ!!!

 

「どうしたシロ、D様に何か心当りでもあるのか?」

「このクエストを受けるのは、やめましょう!D様に関わってはいけません!」

「どういうことだ?」

「私には解るのです。D様の御心が」

「ほう」

「D様は、きっと、絶対、心底"とある人物を"愛しているのですよ。その結果少々暴走して不届き者たちを、成敗したのではないでしょうか?ええ、そうに決まっていますとも!!」

「つまり、どうしたい?」

「そっとしておきましょう。学園のみんながD様を恐れ敬うことで学園の、ひいては世界の平和が保たれるのです」

「そ、そうは言ってもな、D様は危険なんだろ?だったら俺たちで何とか……」

「呪われますよ?」

「え、嘘、ヤダ」

「祟られても、いいのですか?」

「ひぃぃぃ!ごめんなさい!許してD様!!」

「ご安心を、マサキさんは何があっても私が守ります。と言うことで、D様の件は私に一任してください」

「シロ一人にか!?いくら何でもそれは」

「操者の為なら特級呪霊もなんのそのですよ!いいから、任せてください」

「そこまで言うのなら」

 

 豊かな胸を張りD様から俺を守ると誓うシロ。

 頼りになるなあ、メッチャ可愛いな。最高じゃないか!

 

「わかった。このクエストはシロに預ける。だが、俺たちの力が必要ならいつでも言えよ」

「はい、その時はお願いしますね!」

「みんなも、それでいいな」

「「「……ちっ」」」

 

 クエスト④はシロに任せることにした。

 情けないが、呪霊相手じゃビビりの俺は足手まといだ。もっと強くならないとな。

 

 やり切った表情で席に着くシロ、汗を拭う姿は色っぽい。

 そのシロをジットリした目で見ている他三名の愛バたち、クエスト受注を独り占めしたことが気に入らないのか?

 な、仲良くしようよ。それでみんなが幸せになるといいな~。

 

 むむ、チームで受けるはずのクエストが全てボツになってしまった。

 日課の修練まではだいぶ時間があるのだが、今からどうしよう?

 もう一度ギルドに行って、他のクエストを紹介してもらうべきか。

 

「ねえ、マサキ」

「なんだいココ」

「シロちゃんだけだと、不公平だよね」

「何がじゃい」

「だからさぁ。私もマサキにぶっかけていいよね!」

「いいわけあるか!」

 

 何考えとんねん!今、綺麗にしてもらったばかりでしょうが。

 ぶっかけるって何を?まさか、そのギトギト背油じゃないだろうな?

 

「そうですね。不公平だと思います」

「アルまで何を」

「マサキさんにぶっかけたい衝動に駆られた!これはやるっきゃない!」

「クロ、駆られるな!」

「カルピス二週目、行っちゃいます?」

「行かないです」

 

 ヤバい!囲まれた。これはよくない、非常によくない流れだ!

 リンクで繋がっているせいなのか、愛バ一人が暴走すると他も釣られる傾向にあるんだよな。

 

 やめろ!口に妙な飲料を含むな!!

 嫌ッ!嫌よ!

 超強炭酸とウコンと背油とカルピスの一斉砲撃は嫌ぁぁーーーー!!!

 堪忍して、メガMAXで無限力なギトギト白濁液は無理なのよ!!!

 

 ちょっと距離を取って逃げる。ちっ、出入り口を塞がれた!

 ぐっ、このままではせっかくリフォームした基地を破壊しなくてはいけないかも。

 

ぶっかけ反対!ぶっかけ祭りはダメ絶対!みんな正気に戻って!」

 

 俺の願いが通じたのか、口に含んだ飲料を一旦飲み干す愛バたち。

 

「むー。こうも拒否されては、よろしくないですね」

「そうだね。マサキさんを追い詰めたい訳じゃないから」

「マサキがぶっかけに同意してくれるような条件を、こちらから提示するのはどうかな?」

「同意はしないよ!?」

「はい、私にいい考えがあります」

 

 元気に挙手するアルに、全く持って不安しか感じない。

 

「公平、平等、対等、いい言葉ですね」

「そうか」

「操者と愛バ、マサキさんと私たち、そうあるべきだと判断します」

「そうだね」

「つまり、マサキさんはこう仰るのですね『一方的にぶっかけられる関係は嫌だ!』と」

「「「なるほど~」」」

 

 変な演説始まっちゃった。

 

「私は考えました、そして思いついたのです『ならば、互いにぶっかけ合えばいいのでは?』と」

「「「おお~」」」

 

 おお~じゃない!感心するところ違う、今のは呆れるところだ。

 

「今は、私たちがマサキさんにぶっかけます

「拒否します」

「後日、いえ、今夜にでも、マサキさんが私たちにぶっかける。これで万事解決です!!」

「「「完璧なプランニングだ!!」」」

「何がだよ!?」

 

 最良の結果を導き出した顔やめろ!

 しまった!アルはエロ関係に舵を切ると、途端にアホの子になるんだった。

 ご先祖が、あのハチャメチャドラゴンだったの忘れてた!

 

「さっきから聞いていれば、ぶっかけぶっかけ、やかましいわ。何?俺はお前たちにクスハ汁を噴射すればいいのか?」

「違います!もう///わかっていらっしゃる癖に////」

「はぁ~聞こえんなぁ~?」

「マ、マサキさんの、その////せ、せ、せい……」ポッ

「「言わせねぇよ!!!」」

 

 クロとココが止めに入った。そうそう、この狂った状況はもうやめましょうね。

 

「マサキさんの体内で生成されるアレを浴びたいそうですよ。真性のドスケベですねww」

「「お前が言うんかい!」」

「固有名詞を出してないので、セーフです」

「ほぼ言ってるじゃん。マサキさん、答えをどうぞ」

「因みに血液ではないよ」

「唾液でも胃液でも涙でもありません」

胆汁かな」

「「「「そう来たかwww」」」」

 

 ※胆汁とは

 肝臓の肝細胞で生成され、十二指腸に分泌される黄褐色の消化液。 いったん胆嚢(たんのう)に集められ、必要に応じて分泌される。 主成分は胆汁酸・胆汁色素で、脂肪酸の消化・吸収を容易にする。 

 

 医療関係者なめんなよ。人間の体内にはいろんな液体が分泌されているのです。

 勉強になったね~。

 

「くっ、こうなったら強行突破です!」

「わーい!ぶっかけ祭り開催だぁーーー!」

「受け止めて、私の背油ww」

「一週目が終わったら教えてください。私、向こうで漫画でも読んでますね」

「待てシロ!お助けーーー!」

 

 D様からは守ってくれるのに、愛バたちからは守ってくれないのかい!

 きゃーーー!壁際に追い詰められた。

 何やってんの?いやホント何やられようとしてんの?わけがわからないよ。

 

「「「ぶっかけぇ!ぶっかけぇ!ぶっっっかっっっけぇぇぇ!」」」

 

 クロ、アル、ココが壊れてしまった。元々壊れているとか思った君はクスハ汁を飲もう!

 

「うるせーーーー!」

「どこの邪教徒ですかwww禍々しいwww」

 

 ヴォルクルス教団など、目じゃないぐらいの狂気を孕んで爆誕した"ぶっかけ教"

 この邪教は即刻、弾圧して滅ぼすべきだと思う。

 

 さあ、どうするマサキ。

 愛バが混乱の状態異常にかかった場合の対処方は、えーと、えーと……

 

だ、駄目っスよぉぉ―――ー!!

 

 ピンチに救いのヒーロー現る。

 基地の出入り口を外側から開けて突入して来た存在により、ぶっかけ祭りは中断を余儀なくされた。

 セーフ!!!

 

「神聖な学び舎で"ぶっかけ祭り"を開催するなんて言語道断!」

 

「風紀委員のアタシが来たからにはもう……へぶっ!」

 

 ちょwwまだ何か言いかけていたのに、クロが無言のボディブローで侵入者を黙らせた。

 

「ビックリしたぁ。誰こいつ?」

「ブーさん」

「タケチヨ」

「バンメモ先輩ですよ」

「統一感皆無かwwおーい、大丈夫か~」

 

 ヒーリングをしてやると直ぐに起き上がった。元気なのね。

 

「うう、酷いっスよキタちゃん」

「あ、バンメモさんだったの。ごめんなさい、肋骨大丈夫?」

「鍛えてますから平気っス。それより、ぶっかけ祭りは?」

「は?」

「はぁ?」

「あら?」

「頭大丈夫?」

「お前、何言ってんだ?」

「いやいやいや!!僅か数分前の出来事っスよ。何、なかったことにしてるっスか!」

 

 ぶっかけ祭り???何の事だかわからないよ。

 打ち所が悪かったのか、バンメモは記憶が混濁しているようだ。

 

「ぶっかけ祭りだなんて、いやらしい」

「風紀委員の癖に、普段からエロい妄想してるんでしょ」

「ムッツリさんでしたか」

「バンメモ改め、ムッツリーニですねwww」

「マサキさん!お宅の愛バはどうなってるんスか!操者としての監督責任を果たしてくださいっス」

「ん?愛バたちには何も問題はないぞ。いつも通り綺麗でカッコ可愛い」

「わかった!諸悪の根源は操者のアンタっス」

「失礼なことを言うなよ、ムッツリーニwww」

「バンブーメモリーっスよぉぉーーー!」

 

 バンブーメモリー

 トレセン学園の風紀委員として活躍する生真面目なウマ娘。

 額には白いハチマキを締めており、自分にも他人にも厳しい子だと思う。

 少々融通が利かない性格だが、真っ直ぐな思いや行動は善性から来るもので好感が持てる。

 

 旅の途中で出会った時は、快く覇気を提供してくれた。

 お礼に、近隣住民に迷惑をかける半グレ集団を潰す手伝いをしたんだったな。

 

「ぶっかけ祭りは確かにあったんスよ。おかしいのはアタシじゃない、マサキさんたちなのに」

「はいはい。せっかく来たんだ、お茶でも飲んで行けよ」

「かたじけないっス」

「そもそも、天下の風紀委員が盗み聞きはよくないです」

「聞きたくて聞いたわけじゃ、そうだ!チーム"ああああ"に用があったんス!」

「ほう、何でしょうか?」

「風紀委員会からのヘルプ要請っス」

「それは、クエストの依頼と受け取っていいのかな?」

「はいっス。今、どこのチームも出払っていまして、アンタらしか頼れるチームがないんスよ」

「どんなクエストか聞かせてもらおう、受けるかどうかは内容次第だ」

 

 これは渡りに船ってヤツだな。

 

【緊急クエスト】 風紀委員会と共に闇市のガサ入れをしよう。

 

 不定期に開催される闇市、通称『魍魎(もうりょう)の宴』が開催されるとの情報を掴みました。

 

 この闇市で販売されるのは、過激な内容の同人誌がメインであり、ジャンルはBLにガチレズはもちろん、多種多様な性癖に対応した商品が並んでいます。

 無許可で金銭のやり取りをしている、R—18を超える作風も問題ですが。

 作品に登場するモデルが明らかに、学園に在籍する生徒や教職員だとわかるのが、非常にマズいです。

 

 「本人の許可とってねーだろ!いい加減にしろや!」

 勝手に出演させられた被害者たちは、闇市の元締めに怒り心頭です。

 

 闇市にガサ入れし、一斉摘発を行います。

 その際、元締めである『でじターン』という人物を探し出し現行犯逮捕してください。

 現場には風紀委員会の人員が同行します。協力して事にあたってください。

 

「こんなんばっかww」

「でじターンwww」

「コレ、いいんじゃない」

「ですね。最初のクエストとしてお手頃だと思います」

 

 愛バはやる気になっている。

 クエストを受けることに異存はない、俺も"でじターン"には言いたいことあるし。

 

「このクエスト、決行日時は?」

「今日っス!後、15分後には突入する予定っス」

 

 愛バたちを見る。全員が頷いたのを確認。

 よっしゃ、決定だな。

 

「クエストを受ける。よろしく頼むぜ、バンメモ」

「おお!それでこそマサキさんっスよ!こちらこそよろしくっス」

 

 バンメモと握手する。契約成立だな。

 

「チーム"ああああ"出撃じゃあ!お前ら、気合入れて行くぞ!」

「「「「了解!!!!」」」」

「士気は高いっスね。期待してるっスよ」

 

 さあ征きますか!!

 

 でじターン、一体どこの変態(アグネス)なんだwww

 



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へんたいがたいへん

死ぬまでにコミケ行ってみたいけど、人混みが苦手っス。




 トレセン学園というコミュニティでは、裏ルートで様々な物品が取引されている。

 個人間での小規模取引に満足出来なくなった者たちは、ごく自然な流れで大規模なイベントを開催するに至る。

 これが俗にいう闇市の誕生である。

 

 生徒の自主性を重んじ、ある程度なら目を瞑るってのが学園の方針だ。

 だから、闇市の存在も半ば許容している節がある。

 

「今回は許容できない範囲だった訳だ」

「その通りっス。何事もやりすぎは良くないっス」

 

 闇市の一つ、無認可の同人誌即売会『魍魎(もうりょう)の宴』

 販売されている書籍のマニアックかつ過激な内容と、勝手にモデルにされた被害者の訴えにより、今回の取り締まり対象に選出された。

 

 その一斉摘発を手伝うことになった、俺たちチーム"ああああ"は風紀委員会と協力して現場に突入!

 バンメモを始めとする武闘派風紀委員の精鋭たちに、俺と4人の愛バが大乱闘……する必要は特になかった。

 俺たちが突入した段階で、宴のスタッフと客の戦意は喪失。多少の抵抗はあったがすんなり事が進んだ。

 

 宴の会場は旧トレセン学園時代に使用されていた小グラウンド、その隣に建つ旧体育館であった。

 ここも今は使われていない。

 現理事長の改革により新しい施設が建てられ、古い施設は解体される。その工事は今もなお継続中である。

 解体工事は後回しにされ気味なので、学園内にはこのような空き教室や未使用施設がたくさんある。

 学園で悪さをする奴が減らない訳だよ。集会を開いたり、潜伏できそうな場所がゴロゴロあるんだからな。

 

 おっと、仕事仕事。

 バンメモたちと一緒に薄い本や、フィギュア、妙ちくりんなグッズを箱詰めしなくては。

 宴に集った客やスタッフたちは、恨めしそうな視線を向けて来るが無視する。

 悪いな、こっちも仕事なんでね。

 

「よし、それも押収するっス」

「はい!ほら、もう観念しなさい」

「ま、待って!後少しで完売なのよ。私の自信作『ふんどしヤンキー×ツンデレ侍』がぁぁぁ」

「横暴だ!こんなこと認められない。せめて『教官フィギュアシリーズ・裸ヤンロン1/6』だけ買わせてくれ!」

「暴れるな、大人しくしろ」

「学園権力には屈しな……え、マサキ教官!?キャーー―!ご本人登場よ!!」じゅるり

「愚かなる風紀委員どもめ、ここで我らが滅びようとも『でじターン』がいる限り、魍魎の宴は何度でも蘇るのだ!」

「あ、アルダン様!それに、ファイン様も!?あばばばばば」

 

 往生際の悪いスタッフと客を連行しつつ、販売されていた物品を押収していく。

 段ボール箱に敷き詰められた、同人誌をリレー作業で運ぶのは中々に骨が折れる。

 肉体的疲労より、精神に来るな。男女の裸やら裸やら裸やら、誰得のプレイ内容とカップリングに眩暈がする物も多々ある。

 『リザードマンとアラフィフ男性の恋物語』てなんやねん。

 

 そういえば最近、漫画読んでない。

 ネットカフェで一日中だらだら漫画読んで過ごしたい、そんな社会人の俺です。

 ソフトクリームを何回もおかわりしちゃうんだよな~。

 

「見てアル!この本凄いよ!」

「え、きゃっ!この総受け主人公……どう見てもマサキさんです!!」

「凄い描き込み、絵上手~。ストーリーもいい、コレは買いだよ」

「買います!買わせていただきます!家宝にします」

「お前たち、仕事をしなさい」

「「ご本人登場!?」」

「何がじゃ!」

 

 この現場に踏み込んでからというもの、俺に『ご本人登場!?』と言って来る輩の多いこと多いこと。

 BLコーナーでサボっていた、アルとココにも同じことを言われる始末。

 

「背中に隠したその本も押収物だからな、ちゃんと風紀委員に渡しておけよ」

「そんな殺生な!」

「この本の素晴らしさを理解してくださらないのですか?少しでいいので、こちらを見てください」

「えー」

 

 筋肉ムキムキマッチョ教師たちと新米教師の男だらけハーレム!?

 BL本か、ノンケの俺にはキッツイ内容だな……うん?この主人公どこかで見たような、どこだったかな。

 

「ここです!このゲンナジー教官似のキャラに組み伏せられた時の表情が最高に、はぁ……美しい////」

「確かに、このマッチョはゲンさんに似てる。こっちのキャラはヤンロンに、じゃあ、この主人公は???」

「そこまでだよアル!本人を前に腐海を広げちゃだめ」

 

 脳が腐りそうな本だが、絵は凄く上手い。このコマ割りとか躍動感があっていいな。

 俺にはわかるね、この作者は才能あるぞ。少年誌でラブコメとかバトル漫画とか描いてほしい。

 

 アルが絶賛している薄い本の作者を確認する。

 発行:サークル『オールラウンダー』 著者:『でじターン』

 

 デジ……お前だったのか……

 

「ははは、あの変態め!」

「マサキさん、そちらの本も証拠品として押収するっス」

「記念品として頂くことは」

「駄目っス」

「一冊ぐらい見逃して」

「駄目っス!!」

「二人とも諦めろ」

「「ぐぬぬぬ」」

 

 歯を食いしばりながら本をバンメモに渡すアルとココ。

 そんなに惜しいのかww

 

「勿体ないな~」

「はい、人類の損失です」

「はいはい、仕事に戻ろうな」

 

 ションボリするアルとココの肩に手を置き元気づけようと……。

 

「おい、俺の尻を撫でるのやめなさい」

「やっぱり本物がいいね」

「はい、組み伏せる役はゴリマッチョではなく、私がやります」

「風紀委員にしょっぴかれる前にやめてね」

「「はーい」」

 

 二人とも触り方がネチっこかった。俺の愛バ痴女説、あると思います。

 しかし、今はお仕事優先だ!

 

「バンメモ、『でじターン』は見つかったのか?」

「残念ながら、影も形もないっス。おかしい、今日の宴には絶対参加しているはずなのに」

「とっくの昔に逃げ出したとか?」

「仮にそうだとして、外を警備している、クロとシロが見逃すとは思えない」

 

 突入後、俺たちはチームを2つに分けた。

 俺、アル、ココの内部担当班とクロ、シロの外部担当班だ。

 

 どこだ、あの変態はどこに行きやがった。もう少し探してみよう。

 

「いたか?」

「ダメです。こっちには見当たりません!」

「隠し部屋や地下室は……ないか」

「索敵班、匂いや覇気を辿れ!」

「望みは薄いですよ。『でじターン』は隠形術の達人と言われてますから」

「ああくそっ、まるで痕跡が残ってない」

「運営スタッフたちの余裕ぶった態度、この事を知っていたからか」

 

 風紀委員にたちが慌ただしく動いているが、捜査は難航している。

 俺たちも一緒に現場の隅々まで探したが、何も出てこない。時間だけが過ぎていく。

 

「うーん。ここまでっスね」

「捜査打ち切り!?まだ変態を見つけてないのに」

「明日、教室で捕まえるのですか?」

「それは不可能だよ。学内クエストでは逮捕状なんて発行されない、現行犯逮捕が鉄則なんだ」

「疑わしきは罰せずの精神だな」

「悔しいけど仕方ないっス。チーム"ああああ"の皆さん、ご協力ありがとうございました。後はアタシらに任せてくださいっス」

「おいおい、諦めるのはまだ早いぜ」

「マサキさん、何か思いついたのですね」

「ああ、奴は『でじターン』は、まだこの現場にいるんだよ!!」

「な、なんだってッッッスーーー!」

「「やっぱりね」」

 

 バンメモはビックリしたが、アルとココは特に驚いた様子もない。

 

 奴は隠形術の達人だ。

 恐らくこの部屋の何処かで、今も俺たちの様子を伺っている。

 風紀委員と俺たちが全員引き上げたところで、術を解除し悠々と現場を後にする腹積もりだろうが、そうはいかない。

 このまま根競べをしてもいいが、時間が勿体ない。

 

「向こうから出て来るように仕向ける」

「どうやるっスか?」

「簡単だ。(いぶ)しだしゃあいいんだよ」

 

 本当にシンプルで簡単な方法だ。

 

 ①大量のバルサンを用意する

 ②体育館から退去し、密室を作る

 ③バルサンを焚く

 ④変態が出て来るまで待つ

 ⑤変態を捕まえる

 

 ね、簡単でしょ。

 

 注意点は体育館を出入りをする際に、変態が一緒に脱出してしまう恐れがあることだ。

 入り口の扉は、人間一人がギリギリ通れるスペースのみ開ける等、工夫が必要だ。

 いかに完璧な隠形と言えど、接触されると術が解けるはず。他者に密着して出ていくとは考えられない。

 

 後、バルサンはプロ仕様の強力なヤツがいいな。

 体育館の隅々まで行き渡るように、量もたくさん必要だ。

 

「さすがの変態も、燻蒸(くんじょう)処理されそうになったら出て来るだろ」

「いい作戦だね」

「マサキさんは賢いお方」

 

 愛バのお墨付きをもらった。いける!

 

「というわけだ。バンメモ、バルサン用意できる?」

「……外道っス、ドン引きっス。Gと同列に扱うのは酷すぎるっス」

「変態に情けをかけるのか、バンメモは優しいな。だったらプランBでいくか」

「「「プランB???」」」

 

 そんなもんねぇよ!と思った?ちゃんと考えてあるんだ、これがな。

 バルサンも特別な道具も必要ない、愛バの協力があればいい。

 

「プランBとはな……」

「「ほうほう、なるほど」」

 

 奴に聞こえないよう内緒話。愛バたちはアッサリ了承してくれた。

 

「じゃあ、行って来るよ」

「上手くいくように頑張ります」

「頼んだ」

 

 そう言ってアルとココが向かった先は、使われていない体育倉庫。

 内部には、古いバスケットボールやバレーコート用のネットに、白いマットレスが放置されていて埃っぽい。

 そこへ二人が入って行き扉を閉める。一見すると意味不明な行動だ。

 

「な、何が始まるっスか?」

「まあ見てな」

 

 しばらくして、倉庫の中からゴソゴソ衣擦れ音と二人のくぐもった声がする。

 

「あ、アル、だめだよ。こんな場所で」

「ウフフ、そんなこと言って、ココさんも期待していた癖に」

「待って、私にはマサキが……」

「マサキさんには内緒です。さあ、素直になって、女同士でしか味わえない快楽を教えてあげます」

「い、いやぁ。そんなところまで////]

 

 ヤダ!なんか俺まで興奮して来ちゃった!

 あーーー!一体、あの中では何が行われているのだろうか!

 操者権限を発動して俺も参加したい!!!

 

「こ、これがプランB!?」ゴクリッ

 

 バンメモだけではなく、周りの風紀委員たちも"ゴクリッ"している。

 聞き耳立てとる場合か!おバカども!

 ここは俺に任せて、君たちは奴を探している振りを継続しなさいよ。

 

 おや、体育倉庫の様子が……

 

「アルってば、本当に綺麗だよね。もっとよく見せて」

「や、ココさん。急に積極的に////」

「フフ、アルが悪いんだよ。私をその気にさせた責任、体で払ってもらうから」

「ああ、マサキさんごめんなさい。私、私、もう////」

「ここかな?ここがいいのかな?ほれほれ~」

「だ、だめぇ////」

 

 いやーーー攻守逆転してる――――!!!

 クソがぁ!扉一枚隔てた距離がこんなに遠いと思ったことはない!

 おい、変態!!早く出てこいや!!

 このままじゃ、俺の愛バが……愛バが‥‥‥

 俺抜きで、ずきゅんばきゅんしてしまうじゃないかぁ!!

 

「令呪を持って命じる。俺も混ぜてください!お願いします!」

「マサキさん!?アンタいつからマスターになったっスか」

「使うから!三区画全部使うから!聖晶石も砕くから!」

「その先は地獄っスよ!そもそもアンタ、令呪持ってないっス!」

 

 持ってるよ!人は誰しも心のなかに令呪持ってるよ!

 好きな女性サーヴァントのみでサポート編成して、フレンド登録してもらってるよ!

 俺のFGO事情はどうでもいいよ!!

 

「許さない!女同士なんて許さないわよ!」

「うわぁ、急にオネエになったっス」

「LGBTを差別する気はないの。ただね、アタイを除け者にしたのは許さないわ!」

「マサキさんがやれって言ったんスよ。演技だって理解してるっスか?」

「演技が本気になったらどうする!!」

「それは最高じゃないですかぁ、デュフ、デュフフフフフ」

「変態を罠にハメるつもりが、アタイの愛バが百合(ゆり)百合(ゆり)んだよ、畜生め!!」

「ゆ、ゆりんゆりん!?うひょーーーーー!!」

「アル、ココ、今行くわよ!」

「行ってどうする気っスか?事が始まっていたらどうする気っスか!?」

「知れたこと!!土下座して頼み込み、参加させてもらう!!」

「男のマサキじゃ無理じゃね。その大役、私に譲るのがベストな選択だと思うの」

「ばっか!お前じゃ二人のエロスに耐えられねぇよ。秒で昇天させられるのがオチだ」

「ならどうするの?あのガチレズ空間にどうやって対抗するの」

「フッ、だからこそのオネエ化だ」

「「なん・・・だと・・・」」

「今のアタイは体こそ男だけど、心は女。ガチレズ空間も耐えてみせる」

「もう意味不明っス」

「それでさっきから内股なんだね。たまげたなぁ」

大事なアレを挟んでいるからな。これで、万が一アレが"だっち"しても心配ない!!」( ー`дー´)キリッ

「「こいつバカだ!!!!」」

 

 うるせー!人間、少しバカなぐらいが丁度いいんだよ。

 そうこうしている間に、ガチレズ倉庫がクライマックス、かもしれない。

 もう一刻の猶予もないぞ。

 

「行くぜお前ら!アタイについて来な!!」

「死なばもろともぉ!楽園を目にできるなら、この命惜しくはない!」

「うぇ、アタシも行くんスかぁ」

 

 3、2、1、0、行くぞオラッッ!!!

 

 助走をつけて、グレートダッシュ!

 合体開始だ~ひとつになって~♪……待って!ひとつになったらアカン!!!

 

 早くあの扉の向こう側へ行かなくては…………およ???

 

「マサキ」

「マサキさん」

 

 扉が内側から開いたーーー!?愛バ二人が立ったまま俺を見ている。

 アル、ココ、もう終わったのかい、まさか最後までやっちまったのかい?

 あれ、服装は乱れてない、特に火照った様子もない。演技だけで済ませてくれたのか。

 なんだ、俺の早とちりか、あーよかったよかった……んん?なんだ、この禍々しい覇気は!?

 

びゅあふぁふぁふぁふにょんんこらしゃっせっっいいわほおおおおお

「「うわぁぁ!?」」

 

 俺とバンメモが心の底からドン引きする。

 涙と鼻水と涎を盛大に垂らしながら、血走った目でグレートダッシュする変態を見たからだ。

 

 (な、デジタル!?いつの間に!)

 (マサキさんがオネエ化した辺りで、しれっと登場してるっス)

 

 しまった!愛バの百合具合が気になって、変態のことがどうでもよくなっていた。

 変態だけでなく、操者の俺まで釣り上げるとは、愛バの魅力が恐ろしいぜ。

 奴が向かう先には俺の愛バたち、アルとココが!

 気持ち悪いのがそっち行ったぞ!!二人とも逃げてぇ!!

 

「ふひょぉぉぉぉアルさまぁぁぁモーさまぁぁぁあ~りがたやぁぁぁぁぁ」

「怖いっス!」

「マジきめぇ!!」

「いっしょにゆるゆりしゃせてくだしゃぁぁぁいぃぃぃんんんんんん」

 

 暴走した変態は限界を超えて疾駆し、アルとココへ迫る。

 いろんな汁を出しながら、二人に飛びかかる姿は見るに堪えない!!!

 そして……

 

「「滅ッッ!!」」

「ぎょべじ!?」

 

 愛バ二人の鉄拳が、無防備な変態の体にめり込んだ。

 クリティカルヒット!か~な~り、いいのが入ったな。

 一撃で崩れ落ちた変態は白目を向いて痙攣している。汁がきめぇ。

 

「アル!ココ!大丈夫か」

「うん、全然平気だよ」

「これにて『でじターン』捕獲成功ですね」

「そっちはどうでもいい!二人はどこまでやったのか聞いているんだ!」

「何もやってないよ!?」

「ただのお芝居です。アレやらコレやらは誓って致しておりません」

「よかったぁ、二人が本気になったかと思って焦ったぜ」

「マサキ、滅茶苦茶動揺していたね。笑いを堪えるのしんどかったよww」

「それだけ私たちのことを思って下さるのですから、光栄の極みです」

 

 ホッとした。俺の愛バは百合道に落なかったのだ!

 

 ブランB、変態の好物である百合空間を演出し誘い込み、出て来たところを捕まえる計画だったのだ。

 愛バの熱演により、俺も一緒に釣られてしまったのは誤算だったが、作戦は成功した。

 

「魍魎の宴の元締め『でじターン』その正体はなんと!アグネスデジタルだったっス!」

「「「うん、知ってた」」」

 

 俺たちだけでなく、その場に居合わせた風紀委員たち全員が頷いている。

 

「実はアタシも気付いていたっス」

「ペンネームからしてバレバレだったからな。よいしょっと」

 

 変態にヒーリングを施す。

 これから尋問と折檻を受けるのだ、意識を取り戻してもらわないとな。

 

 こんなんでも、さすがウマ娘。耐久力は高いらしく骨折はしていない。

 神核にも異常な……え??前にチェックした時より強くなっとる!?

 こいつ、変態の癖に真面目に修練積んでいるんだな、変態の癖に!!

 

「起きろ、起きろってば」

「‥‥‥‥」

「アル、今日は一緒にお風呂入ろっか?」

「はい、是非ご一緒させてください」

「魅惑のバスタイムがキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

「嘘だボケ」

「マ、マサキ……あなたは……」

「君はいい変態であったが、君の性癖がいけないのだよ……フフフ、ハッハッハッハ!」 

「マサキ、謀ったなマサキ!」

「「ガルマ・ザビwww」」

 

 死んだ振りを決めていた変態は、アルとココの策略にアッサリ引っ掛かった。

 

「起きたっスねデジタル『魍魎の宴』でR—20指定の書籍及びグッズの無許可販売!並びに、同人誌モデルへの肖像権侵害容疑で逮捕するっス」

「くっ、同志たちと私の夢が、こんなところで」

「アンタに黙秘権はないっス、今から説教部屋に連行するんでそのつもりで」

「い、嫌っ!たづなさんの教育的指導は嫌ッッッ!!」

 

 この怯えよう、姉さんは一体何をしているのだろう?怖いので聞くに聞けない。

 

「反省した!反省したから助けて!マサキ、私たち友達だよね?せめて、たづなさんに減刑してもらえるようにお願いして!弟からの口添えならあの緑の悪魔も……」

「シャラップッッッ!!」

「むぐっ」

「おと?今なんて言ったスか」

「なんでもない、変態が苦し紛れの戯言をほざこうとしただけだ」

 

 デジタルの口を咄嗟に塞ぐ。

 俺とだずなさんが実の姉弟だということは、基本的に秘密なのだ。

 

 (コラ、バラすなよ)

 (なんでさ!遅かれ早かれバレるんだらいいじゃん)

 (だとしても、それは今じゃない。姉さんには手加減するように言っておくから、頼むわ)

 (ホント!わかったよ。ヨスガる姉弟のことは秘密だねww)

 

ヨスガってねーわ!!

「マサキさん!?急に叫んでどうしたっス?ヨスガ???」

「なんでもない、ちょっとヨグソトースに呼ばれた気がしただけだ」

「あの、SAN値チェックした方がよくないっスか」

「マサキのSAN値は元々ゼロだよwww」

「うるせー変態、デモンベインぶつけるぞ!」

「そこはリベル・レギスじゃないの?声的に」

 

 貴公は余を誰かと間違えておらぬか?

 余はアンドウマサキ。愛バとのイチャイチャパラダイスを求道する者なり。

 マスターテリオン?そんな奴知らん!マジ使えねぇな貴公。

 

「もういいっスね。さあ、連行するっス」

「くっ」

「年貢の納め時だな。しっかり、お説教されて来い」

「くっ、クックックッ・・・黒マテリア」

「なんか余裕ぶってるよ?」

「気が振れたのでしょうか?」

 

 逃げられないよう、両サイドから風紀委員たちに拘束されたデジタル。

 しかし、彼女は不敵な笑みを浮かべて俺たちを見回す。

 

「魍魎の宴が!この程度で終わると思わないでね!」

「「「「なん・・・だと・・・」」」」

「この『でじターン』が滅んでも、私の意思を継ぐ者は必ず現れる。既に、その種はまかれ花開こうとしているのだ。アッーハッハッハッハ!!」

「まさか、後継者がいるのですか」

「察しがいいな、エロスの(いかずち)よ。その通りだぁ!」

「聞いたマサキwエロスのいかずちだってさwww」

「しっ!アルにピッタリとか思ったらダメだぞw」

「デジタルさん、ぶっ飛ばしますよ」(#^ω^)ピキピキ

「あ、ごめんなさい調子に乗りました殺さないで殺さないで殺さないで」早口小声

「おい、その後継者は誰だ。吐け!」

「仲間を売ることはできない。だけとペンネームは教えてあげる」

「はよいえ」

「その子の名は『ベル(リン)』男同士の濡れ場を描かせたら、彼女の右に出る者はいない!」

「ベルリンねぇ」

「この胸騒ぎはなんでしょう、非常に嫌な予感がします」

 

 元締めであるデジタルを捕まえても、魍魎の宴は続くらしい。

 これじゃイタチごっこだな。せめて後継者のベル鈴とやらも一緒に捕まえることが出来たら。

 その時、体育館の出入り口付近が騒がしくなった。外から誰かがここへ来る。

 

「ちょっとちょっと、一体何の騒ぎなのよ?」

「勝手に入らないで下さい。今は我々風紀委員会のガサ入れ捜査中です!」

「うっさい!私はここにいる奴に用があるのよ。いいからどきなさい」

 

 止めに入った風紀委員たちを押しのけてズカズカと体育館に入って来た人物は、俺たちの知っている奴だった。

 外を警備していたクロとシロが、ひょっこり顔を見せる。こちらに来る気はないようだ。

 目で会話を試みる。

 

 (なぜ止めない)

 (めんどい)

 (そっちの方が面白そうなので)

 (二人とも職務怠慢だぞ。後でお仕置きだな)

 ((望むところだぁぁぁ!!))(*´▽`*)

 

 喜ぶんじゃありません!お尻ぺんぺんしてやるからね。

 

「あ、いたいた。デジタル、コレ頼まれていた原稿‥‥‥うげ!?」

「ドーベル。なぜ、あなたがここに来たのですか?説明しなさい」

「あ、あ、アルダン姉さん。これは、その」

「俺たちもいるぞ」

「ベルちゃんハロハロ~」

「マサキ!?ファインさん!?え、え、何?何が起こってるの」

 

 メジロ家のお嬢様、メジロドーベルが俺とアルとココを見て動揺する。

 周囲を見渡した彼女は、バンメモと風紀委員たち、そして取り押さえられたデジタルを見て何かを悟った。

 

「ベルりぃぃぃぃんんんん来ちゃダメだぁぁぁーーーー!!!」

「っ!?」

 

 デジタルが絶叫し、ドーベルが踵を返して逃走しようとしたが、時すでに遅し。

 瞬時に状況を判断した風紀委員がドーベルを取り囲み、その腕をアルダンが捻り上げる。

 

「そう、あなたが『ベル鈴』だったのね」

「いたたた、何の事?私はただ、デジタルに届け物があっただけで」

「原稿と言いましたね。ちょっと見せてもらいましょうか」

「だ、ダメ!ダメダメダメ!ちょ、姉さんやめて!お願いだから後生だから!」

 

 ドーベルが大事そうに抱えていた茶封筒を奪い取り、その場の全員で確認する。

 

「こ、これは!?」

「ウホッ!やらないかwww」

「おと、男の裸祭りっス!うわぁ、公衆便所でそんな事まで////」

「おやおやおや~。私の知ってるドーベルは、メジロ家随一の男嫌いではなかったかしら?」

「~~~/////」

 

 とんでもねぇBL超大作原稿の数々でした!!濡れ場というかハッテン場が多いこと多いこと!

 はわわ、目が腐りそうよ。

 それを凄まじい画力で描き上げた、ドーベル大先生は両手で顔を覆い、しゃがみ込んでしまった。

 

「終わった、私の学園生活。ううん、メジロ家でのキャラ付けが完全に崩壊する」

「私を散々ドスケベ呼ばわりした報いです。後、あなたがBLガチ勢なのはメジロ一族全員が知ってますからww」

「い、イヤァァァぁぁぁ―――――!!!!」

「子気味良い断末魔だね、マサキ」

「そうだな。お、このシーン凄いな、腹筋の割れ具合がなんとも」

「そうでしょうそうでしょう!ベル鈴は男体のプロだからね。この間もクエストでボディビル大会パンフの表紙を依頼され」

「もうやめてーーーー!私のライフはとっくにゼロよ」

 

 こうして、闇市『魍魎の宴』は終焉を迎えた。

 しかし、これで終わりだとは思えない。

 やがて第二第三の宴が開催されるであろうことは、誰がどう考えても明白だったからだ。

 うん。まあ、程々にな。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ご協力ありがとうございましたっス!」

「こちらこそ。目と脳が腐ったけど、いろいろ勉強になったよ」

「では、私たちはこれで、デジタルとドーベルの二人を説教部屋に連行っスよ~」

「「ひぎぃぃぃ!!」」

 

 バンメモたちが『でじターン』と『ベル鈴』を引きずって行った。ちょっと可哀そうだ。

 しかたねぇ、姉さんに減刑を嘆願しておいてやるか。

 

「クエスト完了!みんなお疲れ様」

「「「「お疲れさまでした」」」」

 

 チーム最初のクエストは無事達成だ。これからも頑張るぞい。

 

「お恥ずかしい、まさか、身内が関わっているとは‥‥‥」

「まあまあ、ベルちゃんが筋金入りの腐女子なのは、今に始まったことじゃないし」

「メジロ家ですからねwww」

「うう、何も言い返せません」

「ねえねえ、裸多めの本は?私も見たいんだけど」

「バンメモたちが全部持っていったぞ。残念だったな」

「ええー」

「あんなのクロは見なくていい。腐っちゃやーよ」

「アル姉さんとココが、ガチレズ淫乱女子というのは本当ですか?」

「「違う!!」」

「隠さなくてもいいのです。お二人は、女同士で思う存分濃厚接触してください」

「だから違うってば!」

「あれはデジタルさんをおびき出す演技だったんです!」

「ついでに、クロも混ぜて3Pなんてどうですか?その間に、私はマサキさんと濃厚接触しまくります!」

「殺るか?」

「うん、殺ろう」

「遺体は里芋畑に埋めてあげます」

「三対一とは大人気ないです。これだから百合くそウマは嫌なんですよ」

 

 あーあーあー、またこのパターンかよ。

 仲がいいと思ったら、すぐにケンカしちゃう愛バたち。

 シロがボコられる前に仲裁仲裁!

 複数の愛バを持つ操者として、彼女たちのケアは大事な義務であり使命だ。

 

 まずは、睨み合う愛バたちの注意をこちらに向けよう。 

 その辺のベンチに腰掛けて、上着のボタンをいくつか外し、はだけさせる。

 

「おーい。そこのお嬢さんたち!」

「「「「????」」」」

 

 よしよし、こっちを見たな。

 おはだけ具合をさらに増加、伊達メガネを取っ払い、流し目を送る。

 今だ!!

 

や・ら・な・い・か

 

「「「「やります!!やらせていただきます!!!!」」」」

 

 一斉に駆け寄ってくる愛バたち。ヤダ、まっしぐらじゃないのさ。

 

「ていっ」

 

 すかさず立ち上がった俺は加速技(アクセル)で愛バの眼前に移動、4人のおでこに軽くチョップをする。

 

「あう!」

「おごっ!」

「きゃ!」

「あいたっ!」

 

『やらないか』に興奮した愛バたちは反応が遅れ、俺のチョップをモロに受ける。

 

「お前たち。俺との約束、第38条を言ってみな」

「「「「ケンカしてもいい。でも、直ぐに仲直りすること」」」」

「そうそう、仲直りできるな?」

「「「「‥‥‥できます」」」」

「うん、偉いぞ。よーし、よしよし」ヾ(・ω・*)なでなで

 

 愛バたちは大人顔負け実力を備えている。だけど、まだ子供だ。

 年長者であり、教官であり、操者でもある俺が導いてやらないといけない。

 もっとも、俺の方が逆に教えられる事の方が多いんだけど。

 え?その子供に手を出した不届き者がいるって?知らね。

 

「ごめんなさい。言い過ぎました」

「ホントだよ」

「私、ノンケだからね。勘違いしないでよ」

「マサキさん一筋ですから、同性の相手をしている暇はありません」

 

 基地に帰るか。

 その前に、ギルドにも顔を出して次のクエストも選んで、それから…‥‥

 

「先に戻ってろ。ちょっとギルドに寄って、クエストの完了報告してくるわ」

「一緒に行くよ」

「ええ、お供しますとも」

「そう?じゃあ一緒に行くか」

 

 愛バを連れだって歩くと目立つ。それは学園の外だろうと中だろうと関係ない。

 御三家令嬢にして、それぞれが際立った美貌を備えているから仕方ないわな。

 最近やっと、不躾な視線にも大分慣れて来た感じがするよ。

 

「よかったのか、ホイホイついてきて。俺は愛バだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ」

「・・・私・・・マサキさんみたいな人好きですから・・・」

「うれしいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあとことんよろこばせてやってやるからな」

「えーと、すごく・・大きいです?でいいのかな」

「そのセリフはまだ早いです」

しーましェーン!!

「ちょ、おバカwww発音がww」

「「「「あはははははははははははははwww」」」」

 

 アレな本を読んだ影響から、変なやり取りをして笑い合う俺と愛バたち。

 もうすっかり仲良しさんだな。

 

 …とこんなわけでチームの初めてのクエスト体験はクソミソな結果に終わったのでした…

 

 (アル、あの本は?)

 (根気よく脅迫ンンン、説得した結果、悔い改めたドーベルから、快く在庫を譲って頂きました)

 (やった!後でじっくり読もうっと)

 (悪だくみ中なのかな、アル姉、ココ?)

 (マサキさんにバラされたくなかったら、私らの分も寄こすのです)

 (そう言うと思って、全員分用意させてます)

 (アル姉最高!このエロ!)

 (フフフ、マサキさん似の主人公がヒイヒイ鳴く絵だけで、ご飯三杯はいけますよ!)

 (ホント、ドスケベですね。だがそこがイイ!)

 

「おーい。何やってんだ?置いていくぞー」

「今、行きます」

「待って~」

「アル……みんな一緒で、楽しいね」

「はい、毎日とても幸せです」

 



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脳に届け!

※今回、汚話なのでお食事中の方は注意です!


「マサキ……マサキ‥‥」

 

 う、ううん。何だよー誰だよー寝かせろよー。

 

「起きて、おーきーてーくーだーさーい」 

 

 嫌です、眠いのです、また今度にしてほしいのです。

 やめて、ペチペチしないで。

 

「起きてくれない。悲しい、とても悲しいのでなきます。全力でなきます!」

 

 おー、泣け泣け。泣いてもいいから寝させてくれ。

 

WOOORRRYYYYYYY(ウウウウリリリイイイイイイ)ーーー!!」

 

 うるせーよ!ディオ様リスペクトしてんじゃねーよ。

 涙を流してシクシク泣くかと思ったら、叫び声を上げて鳴く方だったのかよ。

 女の子の口から出していい音声じゃない!耳障りだからやめてね。

 

 すぐ傍でウリウリ吠えている奴がいるよー。怖いよー。

 うるさい、余りにもうるさい。声枯れてきてるぞ、無理すんなや。

 仕方ないので目を開ける。

 

「‥‥‥シャミ子か」

「はい、シャミ子です。おはようございます、我が起動者よ」

「おはよう。うう、さっき布団に入って、おやすみしたばっかなのに……辛い」

「ほら、シャッキッとする!今宵も、スーパーシャミ子タイムの始まりですよ」

「へーい」

 

 無駄にテンションか高いシャミ子に促され、欠伸をしながら立ち上がる。

 ここは俺が見ている夢の中。

 正確には俺の神核にある深層領域の余剰スペースを、女神たちのゴッドパワーで使いやすく調整した素敵空間らしい。

 説明されてもイマイチよくわからん。

 

 初めてシャミ子に会ってからというもの、週一ぐらいのペースで、この場所に引きずり込まれている。

 今回も、眠りに落ちた瞬間に、ご招待されてしまったようだ。

 

 花畑と休憩所のみだった風景は、先々週ぐらいから様変わりした。

 空間の中央には古風な日本家屋が建造され、シャミ子たち女神チームはそこに居座って暮らしている。

 あのさぁ、余剰スペースといっても、ここは俺の心とか脳とかに影響ある大事な場所だと説明してくれたよな?

 そこに家を建てて暮らすとか、どういうことなの?許可した覚えないんですけど。

 君たち女神はアレか?高位思念体という名の寄生虫だったりするのかい?

 

「宇宙最強!最可愛い!寄生竜シャミ子とは私のことです」(*´▽`*)

「キセイリュウってなんやねん」

 

 シャミ子は無駄に打たれ強い。

 最近、俺の皮肉や罵倒にも動じないので困ったものだ。

 だが俺には、この竜姫によく効く魔法の言葉を知っている。

 

「うどん」

「ぴゃぁ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい生まれて来てごめんなさい!」

「予想以上のリアクションだ」

 

「シャナミア様がウザったい。そんな時は『うどん』と唱えてみてください」

 とメルアに教わった言葉だが、ここまで効果があるなんてビックリだ。

 

鼻、鼻、私のはながぁ!もう無理無理無理無理!イヤァァァぁぁぁぁぁぁっっ!!!

 

 発狂しちゃったよ。

 このブロックワードを使うのは控えた方がよさそうだ。

 

「よーし、よしよしよし。大丈夫大丈夫だぞ」ヾ(・ω・*)なでなで

「ほ、本当ですか。もう鼻に太いの入れなくていい?」

「ああ、鼻は呼吸をする所であって、異物挿入してはいけない」

「そうですよね。鼻は大事な呼吸器ですよね」

 

 せっかくだ、麺類全般がダメかどうか検証してみよう。

 

「ラーメン」

「平気です」

「そば」

「効きません」

「スバゲティ」

「まだまだ」

「ビーフン、フォー、糸こんにゃく、そうめん、春雨、冷麺」

「いける!いけますよ」

「ほうとう」

「ぐっ、これは…せ、セーフです」

「うどん」

あびゃびゃびゃびゃびゃびゃばばばばばばおおおおぼぼぼぼぼぼ

「バグった!?しっかりしろシャミ子!シャミ子ぉーーー!!」」

 

 とにかく、うどんはアウトなんだだな。覚えておこう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お騒がせしました。シャミ子、完全復活です」

「トラウマ刺激したみたいだな。ごめん」

「いえいえ、全ては私の至らなさが生んだ結果ですから……メルアのアホ

「何があったか、話してくれないのか?」

「すみません。今はまだ思い出すと辛いのです‥‥‥メルアのハゲ

「メルアとケンカしたのが原因か?」

「全然そんなことないです、仲良しですよ‥‥‥メルアのチチもげろ

 

 絶対メルアと何かあったな。

 大方、シャミ子がメルアを怒らせて、その報復を受けたんだと思う。

 

「時間も惜しいですし、始めますか」

「うっす。今日もよろしく頼む」

 

 少し距離を空けて立つ俺とシャミ子。

 おいっちにーさんしー、軽く柔軟体操をして筋肉をほぐす。

 

「前回より成長していることを願います」

「全力でやらせてもらう!バスカーモード!!」

 

 俺の体から覇気の粒子が噴出する。全身に力が(みなぎ)る、戦闘準備よし!

 シャミ子の体にも俺と同様の現象が起きている。

 騎神拳の構えをとる俺、対するシャミ子はあくまで自然体だ。

 それなのに隙がねぇ!どのように攻めても完封される未来しか見えぬ!

 それでも行く!俺に後退はないのだぁ!

 

「行くぞ!」

「おいでなさい」

 

 シャミ子には夢空間で俺をビシバシッ鍛えてもらっている。

 ここでの修練は、現実世界の俺にも経験値として蓄積される。

 睡眠中にもレベルアップ!しかも、夢空間での疲れは明日に持ち越さないと来ている。

 これも、三女神とシャミ子の協力あってこそだ。ありがとう!今度、柿の種をお供えします。

 

「チョコでコーティングされたヤツがいいです!」

「あいよ!」

 

 フィンガークリーブをいなされ、お返しの手刀を叩きこまれる。

 それを防御しながら、矢継ぎ早に攻防を繰り返す。

 

「そこ!防御が遅いです」

「わ、わかってる」

「オルゴンクラウドの密度はピンポイントで調整!」

「せやな」

「オボェェェ――!!」

「うぉっ!?とと。ブラスターの発射音エグイわ!」

「敵は待ってくれません。迷ってる間に死にますよ?」

「それは困る!」

「そうそう、今のはいい感じ。もう一度!」

「ぐぬぬぬ、やったらぁーーーー!」

「男でしょ!もっと熱く激しく責めて来なさい!さあさあさあ」

「がっ、待て、つよ、はや、ごはっ…‥‥」

「立ちなさい。私の火照った身体はまだ、サティスファクションしてませんよ!」

 

 シャミ子強すぎワロタ。これだ、これこそが、元祖オルゴンアーツの使い手。

 原初の操者トーヤと共に戦場を駆け抜けた、伝説の愛バであり、女神にして機甲竜となった竜姫!

 更に、超文明帝国フューリー最後の皇女でメジロ家のご先祖様。

 こいつ属性盛り過ぎじゃね?

 

「「オルゴンマテリアライゼーション!!」」

 

 修練も佳境に入り、俺とシャミ子の声が重なる。

 俺は必殺兵装テンペストランサーを出現させて突っ込む。

 このドリルランスを止めらるか!

 

「えぇ??」(´Д`)

「笑止!無駄巨乳の槍を真似したところで、私には通用しません」

 

 嘘やん、これ止めちゃうのかよ!?

 シャミ子は両手でランサーをガッシリ掴み、その勢いと回転を止めてしまった。

 そのまま力を込め、へし折られる。

 折れて砕かれたランサーは粒子光へと霧散していく。せっかくの必殺技がぁーーーー!

 

 オルマテしたシャミ子の姿は、神々しさと凶悪さが合わさっている。

 両手足の結晶は鋭利で巨大な爪となり、頭部には結晶の角、背には覇気粒子の大翼が広がっている。

 体の各所は鱗状の鎧にも見える外皮結晶に覆われ、腰から伸びる結晶尾の先端はギザギザの刃だ。

 竜だ、人型の竜がいる!

 まさに、全身凶器!!己の全てもって敵を屠るという意思の具現化!

 

 否が応でも思い出す。似ている、すげー似ているんだもんよ。

 あの破壊獣、ベーオ―ウルフとルシファーが合体した姿にそっくりやないかい!

 クロとシロのバスカーモードも、それに準じたものになっているが、シャミ子のそれは段違いだ!

 結晶術(オルゴンアーツ)の奥義、行き着く先がコレなのか?

 

「最後です。私の技を披露して終わりにしましょう」

「え!待て待て、死んじゃう!俺死んじゃう!」

「死なないように防御してください。行きますよ、マサキ!!」

「その構えは!?オ、オルゴンクラウド最大展開!」

 

 シャミ子は両手を組み、何事かを唱え始める。

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ」

「キャーー!(≧∇≦)ヘル・アンド・へヴン来ちゃうの―――!」

 

 とんでもない量の覇気が練り上げられ凝縮される。

 ははは、アレを防御しろだって……ばかじゃねぇの?それでも、手加減しているんだよね?

 始めて母さんの"アカシックバスター"見た時の興奮と恐怖が蘇るわ!

 ネオさんの"ブラックホールクラスター"を見てチビったのは内緒よ!

 

「ウィータァァァッッ!!!」

 

 覇気の大翼をブースター代わりにして突撃して来る。もう逃げられないぞ♪

 ああ、スローモーションで見える‥‥‥綺麗だな~鮮やかだな~恐ろしいな~。

 断末魔ではなく、素直な感嘆の言葉が出る。

 

「お見事でございますぅぅぅっっ!!」

 

 オルゴンクラウドの障壁をぶち抜かれ、シャミ子の両拳が俺に到達する。

 あ、ダメ、やられ……くぁwせdrftgyふじこlp!!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「如何でしたか?私のバスカーモードとオルマテは」(`・∀・´)エッヘン!!

「‥‥‥」プイッ

「あ、あれ?怒ってますか、マサキ」

「シャミ子、嫌い」

「そんな~」Σ(゚д゚lll)ガーン

 

 ヘル・アンド・へヴンを食らった俺の意識はあっさりブラックアウト。

 衝撃で心臓がどっかに飛んでったかと思ったわ!

 膝枕で介抱されていたとしても、殺されかけたトラウマは残るのです。ヽ(`Д´)ノプンプン

 

「ごめんなさい。久しぶりのオルマテで、張り切り過ぎました」

「怖かった。ガオガイガー見る度に、悲鳴を上げるようになったらどうしてくれんの?」

「許してくださいよ~。あなたに嫌われると悲しいです」

「慰謝料を請求します」

「体で払っていいですか?ぱふぱふ3分間コースでどうでしょう!」

「5分!そして、愛バには絶対内緒なら手を打とう!」

「はーい。5分間コースですね、そーれぃ!ぱふぱふぱふ」

「ちょ、言ってみただけだから!やらなくていい!トーヤさんすみません、調子に乗りましたぁ!!」

 

 本当にして来るから困った。でも、気持ち良かった(*´▽`*)

 5分後‥‥‥

 

「許してくれます?」

「許す」

「よかった。今回の修練は以上になります、お疲れ様でした」

「お疲れさまでした!毎度毎度、付き合ってくれてありがとな」

「起動者の成長は私たちの生きがいですから、コレに懲りず頑張りましょうね」

「はーい」

 

 修練が終わった後は、シャミ子とまったりして過ごすことにしている。

 そうこうしていると眠くなり、現実世界の朝に目を覚ますようになっているんだ。

 

「今日はメルアたちがいないな」

「3人は仕事に行ってますよ。あなたの愛バ、インモーとゴリダンでしたか?その2人との回線工事中です」

「うぇ!?」

 

 回線工事?ネットなの?光ファイバーなの?

 女神たちがアルとココにも力を授けようとしてくれている。やったね!これでまた戦力アップだ。

 

「ゴリダンじゃなくてアルダンな。間違えるなよ、お前の子孫だぞ!」

 

 インモーも酷いが、直径の子孫である子をゴリ呼ばわりはヤバい!

 

「そうそう、アルダンですね。私の因子を色濃く受け継いだ子ですか、今から会うのが楽しみです」

「シャミ子のこと、痴女だってキレてたぞww」

「ほう。偉大なる初代様に向かってそのような暴言を‥‥‥乳を出せぃ!もぎ取ってやります!」

「アルぱいは俺のだから、もいじゃダメ!」

 

 この血族、会わせたらヤバいのでは?メルアたちに注意するよう言っておくべきかな。

 

「最初に会った時、喉や体に封印がしてあったじゃん?」

「ええ。私の封印を解くのが試練の一つでしたからね。今は全解除していますよ」

「声が出せない状態で2000年。メルアたちと、どうやって会話してたんだ?」

「そんなの簡単…いい機会です。その技を伝授しましょう!」

「技?」

『聞こえますか?目の前にいますけど、私は口を開いていません』

 

 おお!頭の中にシャミ子の声が直接声が響くぞ。コレで会話していたのか。

 

思念通話(しねんつうわ)です。こちらの声を、音を介さずに伝えられます。内緒話には持って来い』

「スマホなしで電話出来る、みたいなもんか?」

『双方向の会話は波長の調整が難しいのですが。発信者の声を一方通行で届ける技なら、直ぐにマスターできますよ?』

「いいな、是非教えてくれ!」

『わかりました。では、まずチューニングのやり方から‥‥‥』

 

 シャミ子から思念通話を教えてもらったぞ!他者に俺の声を送るだけなので、思念放送が正しいけどな。

 こいつで愛バと内緒話できるってもんよ。

 普段から目で会話しているけど、これからはもっと正確な情報を伝えることが出来そうだ。

 

「いいですね。チューニングはしっかりしないと、後悔しますよ?」

「了解了解~」

 

 夢空間での有意義な修練、頑張って継続しよう。

 

 ●

 

 トレセン学園の大講堂に全校生徒と教官たちが集められていた。

 壇上には我らのチビッ子理事長、秋川やよいが立ち、ありがたいスピーチをしている。

 今は全校集会の真っ最中だ。立ったままの姿勢が続いている。

 

「で、あるからして、我が学園は‥‥‥」

 

 長い!話長いよ、やよいちゃん!

 生徒のみならず、俺たち教官陣も飽きて来てるから!

 ヤダ!話がループしてるわ。それさっきも聞いたわよ!

 講堂内の空気がドンドン悪くなってるの気付いて!!お願いだから!

 横に立つ姉さんにジト目を送ってみるが、首を振られる。

 

 (たづなさん、あなたの操者が荒ぶってますよ?何とかして)

 (耐えるのよ)

 (耐えてますよ。みんな耐えてますよ!でも、辛いんですよ)

 (多分、昨日読んだ自己啓発本に影響されたのよ。もう少しだけ付き合ってあげて)

 

 日頃から理事長としての威厳に悩んでいた彼女は、怪しい本の影響をモロに受けた訳だ。

 なるほど、さっきからループしている内容は本の受け売りなのね。

 道理で……理事長自身の言葉ではないから、心に響かない!

 そういうのは参考にする程度がいいのよ。誰が完コピしろと言った!

 

 ダメだわ、もう全然頭に入ってこないわ。馬耳東風だ。

 ミオは欠伸しているし、テュッティ先輩は無の表情、ヤンロンは薄目を開けて瞑想中…この男寝てねぇか?

 愛バや生徒たちは大丈夫か‥‥‥ダメみたいですねww

 耳がイライラを表すようにピクピク、尻尾の揺れがストレスの増大を表している。

 俺を含めた教官連中は後方に控えているので、講堂全体と生徒たちの様子がよく見えるのよ。

 

 (暇だな。この時間が勿体ないな‥‥‥そうだ!この前習得したアレを試してみよう)

 

 アレとは、シャミ子直伝の思念放送です。

 こういう時に便利な技なんだよ。えーと、愛バたち4人に届くようチューニングしてと。

 こうか?こんな感じでいいのかい。とにかく試してみよう。

 

『あー、あー、俺だマサキだ。聞こえるか?』

 

 成功だ!反応アリ!愛バたちがこっちを向いたぞ。

 

『一応、内緒話だからな。こっちを見ないでくれると助かる』

 

 賢い子たちなので直ぐに従ってくれる。いい子だ。

 

『便利だろコレ。俺の声を愛バのお前たちに、お届け中だ』

 

 4人の尻尾が揺れる。了承や肯定を示す動きだ。

 

『理事長の話なげぇから、雑談でもと思ってな』

『今日の夕飯は俺が作ろうと思うんだけど、どうすっかなー。多数決で決めるか』

『メインデッシュの候補は二つ、オムライスと天津チャーハンどっちがいい?』

『オムライスなら右耳、天津チャーハンなら左耳を動かせ』

 

 4人の耳が動く、多数決によりオムライスに‥‥‥どういうことだ!?

 

『待て待て待て!なんで!?なんで愛バ以外の耳が動いた!?』

『偶然にしてはタイミングが……お前たち、まさか、聞こえているのか?』

『俺の声が聞こえている奴!尻尾を2回右に振れ、はい、3、2、1、どうぞ!』

 

 振れたぁ!!愛バを含む結構な人数の尻尾が、右に2回振れたぁ!

 ミオがこっち見てる、姉さんが俺を肘でチョンとつつく、聞こえてるのね。

 ヤンロンとテュッティ先輩は無反応だ。

 

『わかったぞ!俺が過去にドレインした事のある奴が反応しているんだ。すんません!』

 

 なるほどね。愛バだけにチューニングしたつもりで、ネームドウマ娘たちにも繋げてしまったか。

 あぶねぇ!!マジで超危険だった!今日、試してみてよかったぁ。

 愛バとのアレコレやばい会話を聞かれるところだったぜ!

 改めて、愛バのみにチューニング‥‥‥これでどうだ!よしよし、今度は4人のみの反応だ。

 しかしこれは、中々面白いな。再び全体放送に設定する。

 

『お騒がせしました。こういう芸当もできるってことでよろしく』

『しがし、話なげぇな!まだやってるよ。ちょっともう、いい加減にしてほしい』

『またループしてんじゃねーか!あー、ダメだコレ、お仕置きが必要だわ』

『はい。たづなさんの許可出ましたー。ちょっと、今から全員で一斉にジャンプしてやろうぜw』

『さっきみたいにカウントします。3、2、1、今だ!』

 

 理事長のスピーチが途切れた瞬間を狙い、数十人のウマ娘がジャンプした。

 

「にょわーーー!?な、一体何だ?何が起こった!?」

 

 狼狽える理事長ww

 ズンッ!て結構な落としたからな。そりゃあビビるよなwww

 俺の放送が届いていない奴らも困惑している。

 

『あははははwwごめん理事長ww面白いわww』

 

 姉さんが『どうすんのよ?』という視線を送って来る。後でフォローしてあげてください。

 

「理解ッ!私のスピーチに感動したのだな!よろしい、もう少し続けよう」

 

 はぁ?おいおいおいマジかよ!

 

『何も理解していない件!もうヤダこのポジティブ理事長!』 

 

 同意を示すように、皆の尻尾が揺れる。

 みんなもかなり辟易しているようだ。辛いよー。

 こうなったら、俺もスピーチしてやるぜ!

 

『えー。理事長に対抗して俺も何か、小話をしたいと思います。何がいいかな』

 

 まだ愛バにも話したことのないヤツで何か…‥‥

 

『ゴルシ、あの話をする時が来たと思うが、どうだろう?』

 

 おや、ゴルシの尻尾が文字を、O…K…OKか!その尻尾どうなってんの?

 

『じゃあ、"俺の肛門が破壊された話"をするぞ』

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

 あれは本当に悲しい事件だったね。

 

 ●

 

 シロとクロを目覚めさせるため、旅をしていた途中のことだ。

 UC基地に行く前の俺たちは食糧危機に(おちい)っていた。

 

「もう野宿飽きた。腹減ったなぁ」

「食いもんは昨日の分で最後か、買い出しに行かないとヤベェな」

「この辺、海ばっかなんだが、スーパーもコンビニもないよ」

「ド田舎の港町だからな」

「商店街で散財したのが痛かった。あれだけあった現金が底をつくとは」(;´д`)トホホ

「金は天下の回り物だ。使う時はパアーッと使わないとな」

「なあ、その酒売ろうぜ?俺どうせ飲めないし」

「アホか!これは幻の酒と名高い銘酒『のんだくれZ』だぞ!絶対売らねぇからな」

 

 ゴルシとの交渉決裂!

 商店街でもらったお酒は断固として売らないらしい、絶対高値がつくのになー。

 

 ギルドもない田舎町では働き口も限られる。

 俺たちは路銀を稼ぐ為に、漁師さんたちのお手伝いをする事にした。

 その作戦は功を奏し、俺たちは力仕事を中心に一生懸命働くことができました。

 

「報酬が現物支給だとは」

「まあいいんじゃね。鮮度抜群な魚がこれだけあれば、どこかの料亭が買ってくれるはずさ」

「マジでか!?」

「おうよ。さっき、漁師のおっちゃんに店を紹介してもらったからな。ちょっくら行って来るわ」

「あ、俺も一緒に」

「慣れない仕事で疲れたろう。ここはゴルシ様に任せて、休んでな」

「そう?わかった、休んで待ってるわ」

 

 クーラーボックスを抱えたゴルシは俺を残して去って行った。

 1人になってしまったな。

 話相手になるはずのミオは、昨日から長期メンテに入ったらしく、ずっと沈黙を保っている。

 

「海は綺麗なんだよな。それしかないってのがアレだけど」

 

 コンクリの堤防に腰掛けた俺は、寄せては返す波音を聞きながらボーっとする。

 眠気は襲ってこない、釣り道具でもアレばよかったなぁ。それにしても‥‥‥

 

「腹が減ったぁ」

 

 ぐぅ~と腹の虫が鳴る音が虚しく響く。

 青い空、青い海、季節外れの海水浴場には人の気配がしない。

 オグリの食べっぷりは凄かったな。あの焼きそば、今食いてぇ!!

 ん?

 

「ゴルシの奴、クーラーボックスをひとつ忘れてる?」

 

 中身は何だ?ちょっと拝見‥‥‥うぉっ!?な、なんじゃこりゃ?

 目一杯詰まった氷の中央に鈍い輝きを放つ生ものがあった。

 ビニール袋に入ったそれは、ご丁寧にも一口大にカットまでしてある。

 

「魚の切り身だ。ちゃんと捌いて骨取もバッチリだ」

 

 ぐぅ~と、また腹が鳴った。

 いやいやいや!こんな得体のしれない切り身を食えってか?ご冗談を‥‥‥

 でも、沢山あるなぁ。美味しそうだなぁ。手づかみでいけるか?

 

「おう、あんちゃん。こんな所でどうした?」

「あ、その、この切り身がですね」

 

 通りがかりのおじさんが話しかけて来た。

 筋肉質で日焼けをしている。この人も漁業関係者なのだろう。

 

「おお!立派な切り身だな。あんちゃんが釣り上げたのかい」

「いえいえ。コイツをどうしようかと思ってまして」

「そうりゃ食うしかないだろ。ちょっと待ってろ‥‥‥あった」

「これは、割りばしに紙皿、それにお醤油まで!」

「へへ、さっきまで海にいてよ。今日は久しぶりの陸に帰って来たところだ」

「もらっていいんですか?」

「ああ、持って行きな。どうせ捨てるつもりだったからな」

「あ、ありがとうございます」

「釣果は自分で食ってこそだぜ!それじゃ、俺は行くわ。母ちゃんが家で待ってるからな」

 

 親切な漁師さんはクールに去っていった。か、かっけぇ!海の男かっけぇ!

 

 割りばしと紙皿に醤油、そして、よく見ると美味そうな魚の切り身!

 いくか、いくっきゃないか!これはもう運命だろ。

 

「すまんなゴルシ。勝手に食わせてもらう!後で謝るからな……いただきます!」

 

 うん・・・なんか油分多めな食感。

 でも、悪くないな。腹が空いているせいか何食っても美味く感じる。

 箸が止まりませんな。全部食べちゃえ!

 

 後悔先に立たずって本当だよね。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今帰ったぜー。メッチャいい値段でうれ‥‥‥!??」

「あばばばばばばばば、おお、おぅぅぅおぉ」

 

 ゴルシが戻った時、マサキは堤防の上で(うずくま)り悶えていた。

 その顔には大量の汗が浮かび、体は小刻みに震えている。

 明らかに異常事態だ!

 

「マサキ!?どうした!何があった」

「は、は、腹が、尻が、ああぁあぁ」

「一体何が……お前、クーラーボックスの中身を食ったのか!?」

「すまない、すまないぃぃ」

「アホッ!あれはうちのボスに贈呈しようと思った、ジョークグッズみたいなもんだよ」

「で、出そう。というか出る」

「待ってろ!今、便所まで運んでやる」

「無理だ、後、1ミリでも動いたら暴発する。覇気で押しとどめるのも限界だ」

「ど、どうすればいい?こんな事態はさすがに想定してねぇぞ!」

 

 さすがのゴルシも茶化す余裕はない、それだけの緊急事態だ。

 

「か、紙を、トイレットペーパーをぉぉぉぉ」

「紙だな!そこら辺の民家から」

「それは、無理だ、ここ辺りの民家は全て空き家。人の住んでいる民家は遥か向こう側に」

「ちっ!さっき見かけたドラッグストアに寄っていれば、待ってなマサキ!」

「ご、ゴルシ」

「また行って来るぜ。それまで何とか我慢しろ!なあに、私の剛脚なら速攻で戻って来れる」

「すまない、た、たのんだ、おごごご」

「最高のトイレットペーパーと、替えの下着にオムツも用意してやらぁ!行って来る!!!」

 

 ゴルシは走った!脇目もふらずに走った!そして目的地のドラッグストアを通り過ぎた。

 マサキが今も苦痛に耐えているのに、やらかした。

 そして、彼がブリーフ派かトランクス派かで迷った。ボクサーパンツ派だったのは後で知った。

 

 てなわけで、予定時間をかなりオーバーしてやっと帰って来た。

 そのゴルシが見たものは‥‥‥

 

「ただいま!遅れてすまん!いや、ポイントカード新しく作ってもらって…‥‥マサキ?」

「ああ、ゴルシか。遅かったな、ホント、うん、遅かった」

「お前、なんで、そんな悟ったような顔を」

 

 今のマサキはもう蹲っておらず。背筋を伸ばし座っ‥‥‥!??

 空気椅子だとぉ!太ももプルプルしてるじゃねーか!一体何時から?

 いや、そもそもなぜ空気椅子を、まさかっ!!

 

「はは、キレイな顔してるだろ。漏らしてるんだぜ……俺」

「う、嘘だッ!そんなこと」

「嘘じゃない。コレは現実だ」

「マモレナカッタ!私は間に合わなかったのかよ!畜生ッ!クソっクソっクソォォ!」

「あんまりクソクソ言わないでくれ。いや、確かに今の俺は真性のクソ野郎だな」

「そんなこと言うなよ。悪いのは私だ!私のせいでお前は」

「もう、いいんだ。ゴルシのせいじゃない、変な切り身を警戒せずに食った俺がバカだったのさ」

「でもよぉ、こんなのってないぜ」

「全て終わったことだ。大したことじゃない、生物として当たり前の生理現象だからな」

「‥‥‥マサキ」

「でも、アレだな。二十歳過ぎて外で漏らすとか、ははは、結構‥‥‥来る…ものが」

「マサキ!」

「アレ、変だな‥‥‥俺なんで泣いているんだろう。こんなにいい天気なのに、バカみてぇ」

「いいんだ!お前は今泣いていいんだぁ!」

 

 ゴルシはマサキの肩を抱き寄せる。そして、二人で涙する。

 

「やめろ、こんな脱糞野郎に関わると、ゴルシまで笑いものになる‥‥‥」

「お前をバカにする奴は私が許さねぇ!立派に最後まで戦った奴を私は笑わねぇ」

「何だよ、今日のゴルシは優しいな、今優しくされると、辛い‥‥‥‥」(´Д⊂グスン

「バーカ。いくら私でも、脱糞した奴に追撃するほど落ちぶれちゃいねぇよ」

「なあ、俺みたいなクソ野郎がクロとシロの操者でいいのかな?あいつらに『ウンコマン』と呼ばれて嫌われたら、どうしよう。生きる意味を失う!」

「ウンコマンでもいいじゃねえか!お前は愛バのために、クソにまみれても戦うんだよ!そう誓ったはずだぜ!」

「まるで覚えのない誓いだ。でも、少し元気が出た。ありがとな」

「よせやい」

 

 肩を寄せ合った二人は、しばらく海を眺める。

 

「なあ、ウンコマン?」

「それ俺の事か、返事するの勇気がいるな」

「考えたんだけどよう。ビチグソ丸ってのもアリじゃね?」

「お前、少し楽しんでないか。追撃しないってのは何だったの」

「‥‥‥なあ、そろそろ、後始末の方をだな。その、もうカピカピになってね?」

「空気椅子もそろそろ限界だ。行くしかないか……」

「そーっと、だぞ、ゆっくりそうそう、一歩づつ着実にな」

「ぐっ、どこまで、行けば‥‥‥」

「おい見ろ!こんな辺見な場所に観光客満載のツアーバスが!すみませーん!助けてくださーい!」

「やめろぉぉ!注目を集めるな!」

「やったぜマサキ!修学旅行中の女子高生軍団が助けてくれるってよ!よかったなあ」

「よくない!最悪じゃい!」

「あー、すんません。コイツ脱糞直後で興奮しててwwwいやホント、いい歳こいて恥ずかしいっスよねwww」

「もうヤダーーーーー!クローーー!シローーー!クソ野郎でごめんねぇぇーーー!!」

 

 一生忘れられない黒歴史が追加された。

 これもいつの日か、笑い話に出来ると信じて旅を続けよう。

 

 ●

 

『ということがあったわけよ。語っているうちに泣けて来ちゃったわ』

『みんなも変な魚食うなよ。俺からの忠告だぞ、漏らしてからじゃ遅いからな』

『お、ちょうど理事長の話も終わりそうだな。じゃあ、そういうことで放送終了~』

 

 いや~語った語った。

 ずっと胸に秘めていた思いをぶちまけてやったぜ。

 やっぱり、出すべきものはしっかり出さないとな!

 あ、姉さんがハンカチで目を押さえている。ミオが口パクで何か言って『ウンコマン』だと!

 お前が眠っていなければ起きなかった事故だぞ!肝心な時にメンテ入りやがって!

 詫び石寄こせや!

 

「うむ!これにて全校集会は終了である。各自、解散せよ!」

 

 あー、終わった終わった。て、何だ?

 何人かの生徒が爆笑している。その場に座り込む者、呼吸困難になる者、俺を指差す者???

 はっはーん。理事長の話が長すぎて体調を崩したんだな。ヒーリングが必要なら任せろ。

 あるわー、俺も学生時代に校長の話が長すぎて貧血になったことあるわー。

 

「苦労したのね、マサキ」(´Д⊂グスン

「たづなさん。もう済んだことです、今の俺は吹っ切れましたから」

「ウンコマン!私が寝てる間に何してんのさwwよく今まで秘密にしてたね」

「普通言わんだろ。愛バに話したのも今日がはじめてだ」

 

 スドドドドドドッ。この足音何?きゃ!

 俺の放送を聞いていたネームドウマ娘たちが、こっちに向かって来ちゃったよ!

 

「き、き、貴様ぁ!今のふざけた話はなんだ!」

「顔が怖いぞ、副会長。俺はふざけてなどいない、悲しく切ない思い出を語ったまでよ」

「笑いを堪えるのにどれだけ苦労したと思っている!この私を、あそこまで苦しめるとは!」

「なるほど、脱糞するとみんな笑ってくれるのか‥‥‥よし!」

「よし!じゃないよ。お願いだから、やめてよカイチョ―!」

「テイオー。このどうしようもない方が、あなたの憧れwwですのねwww」

「誤解だよ、マックイーン!普段のカイチョーは、こんなクソみたいなこと言わないんだよ!」

「会長!あなたが脱糞で笑いをとろうとした場合、即刻学園から叩き出すのでそのつもりで」

脱糞(デュエル)で笑顔を・・・」(´・ω・`)ショボーン

「変なルビつけんな!」

「生徒会長はもうダメかもわからんね」

「うあぁぁあぁんん。いい歳して大きい方を漏らすの、がわいぞおだよぉぉーーー!」

「さすがに擁護できそうにないわ」

「どう思う?ウンコマンと死闘を繰り広げた、我が妹よ」

「フッ、漏らすぐらいの覚悟がなければ強くなれない、そういうことだ」( ー`дー´)キリッ

「「「「斜め上の理解!?!?」」」」

 

 好き勝手言われております。

 漏らしてない君らには、俺の背負った業の深さと切なさがわかんねーだろうな。

 ブライアンがちょっと理解しかけてる!?

 

「大変だよぉ!シチーさんたちが、過呼吸でアへってるべさ」

「ギャル系と笑い上戸な連中は全員手遅れだ」

「漏らすほど美味い魚か」じゅるり

「オグリぃぃ!アホなことを考えるんやない!ウンコマンになりたいんか」

「スぺちゃん。ダメよ、絶対にダメ」

「何も言ってないじゃないですか。ちょっと釣りに興味が出ただけです」

「マサキが食べた魚、結局何だったの?」

 

 それは俺も気になっていた。あの切り身はどんな魚だったのか?

 漏らしたことのショックがでかすぎて、原因となった魚の正体を自分で調べようとか思わなかったな。

 

バラムツ、食べちゃんだんだねwwあの魚は体内の油脂成分のほとんどが、人体で消化されないワックスエステル、消化吸収されなかった油脂が肛門からそのまま漏れ出したりし、下痢や腹痛を起こすんだよー」

「さすがボノ、食材に詳しいな」

「見た目結構エグイよ!へー、深海魚なんだ」

 

 現代っ子は何でもスマホで検索しちゃうのね。

 俺を苦しめた切り身の正体はバラムツと言うのか、油脂成分が多いのね。それで俺はあんな目に……理解した。

 みんなに囲まれて騒いでいると、ゴルシ、そして愛バたちもやって来た。

 

「どうだ?人生の汚点をバラした気分は」

「思いのほかスッキリしている。俺自身、ずっと誰かに喋りたかったのかもな」

「マサキの尊い犠牲でクソ魚を食べずにすんだよ。出会う前から私のことを守ってくれてた、そのことが凄く嬉しい」

 

 ココが俺に寄り添ってくれる。

 俺がウンコマンになることで愛バが一人救われていた。俺が漏らしたことには、意味があったのだ!

 

「ゴルシちゃん。私を(おとしい)れようとしたばかりか、マサキをウンコマンにした罪!償ってもらうからね!」

「そんな怒るなよ~大体もう時効だろう。ボスが『バラムツラーメン食いたい』てリクエストしたのが悪いんじゃねーか」

「嘘言わないで!誰が好き好んで、そんなラーメン食うか!」

 

 ココに怒られてもゴルシはどこ吹く風だ。

 

「マサキさん。脱糞しても私たちのために、旅を続けてくれたんだね」

「すまんな。ウンコマンな俺に幻滅しただろう」

「いいえ。そんなこと天地がひっくり返ってもありえません」

「マサキさんの何処にウンコが付着していても、愛し抜く自信があります!」

「そうだよ。(むし)ろ、ウンコマン超カッコイイよ」

「我らのスーパーヒーロー『ウンコマサキン』映画化決定です」

「ウンコマンと俺をフュージョンさせるのは、やめなさい」

 

 優しい愛バたちでよかった。もし、ウンコ付いてたら感心する前に教えてね!

 

「もう!ゴルシちゃんの軽率な行動のせいで‥‥‥本当にごめんね、マサキ」

「ココもゴルシも悪くない。俺がアホだったのが悪いんや」

「しゃーねーな。私にも責任あるし、マサキの汚名返上をプロデュースしてやんよ」

「何か妙案があるのか?」

「要はバラムツを食ってない連中が、マサキをウンコマン認定するわけだ」

「ほうほう、それで」

「だからさぁ。学園の全員がバラムツ食って、マサキと同じ業を背負えばいいんじゃね」

「その発想はなかったわwww」

「なるほどね。全校生徒が漏してしまえば、マサキのさんだけが悪目立ちしなくていい」

「ウンコマンを隠すなら、ウンコウマの中にですか‥‥‥いい作戦です」

「食堂で『バラムツ定食』を無料配給するのはどうでしょう?」

「「「「いいね!!」」」」

 

 頼もしい愛バたちがいれば、ウンコマンの汚名返上も楽勝だぜ!

 そうと決まれば船の手配をして、バラムツの在庫確保を‥‥‥

 

「バラムツはスポーツフィッシングの対象魚として人気なんですよ。釣り好きとして、セイちゃんも同行させてください」

「どんな調理法が最適か考えるの楽しそう。私もついて行っていい」

「いっその事、メジロ家でクルーザーを用意しましょう。生徒会長の夢ww叶えて差し上げますわww」

「やめてよ!マックイーン!やめてったら!」

「ヤバいヤバいヤバい!御三家が狂った方向に動き出した」

「まるで意味が解らんぞ!?」

「どういう……ことだ‥‥‥」

 

 バラムツ定食、みんなで食べれば怖くない!!

 

 トントン拍子に話が進んだが、もちろん却下されたぜ!!

 君たちはまだ若い、俺みたいにはなるなよ‥‥‥ウンコマンは俺一人でいいのだ。(´Д⊂グスン

 

 



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同族嫌悪

 深夜になろうという時間帯。

 明かりの落ちたマンションの一室には、男の規則正しい寝息だけが聞こえている。

 部屋の主であるマサキが、だらしない顔をして眠っているのだ。

 

 ベッドの上にいるのはマサキ1人ではなかった、すぐ隣には愛バの一人が控えている。

 彼女は自らの主を起こさないよう細心の注意を払いつつ、その頭を撫でている。

 

「この寝顔‥‥‥ずっと見ていられます‥‥‥」(*´▽`*)

 

 皆様ごきげんよう。メジロアルダンです。

 ヒロイン視点ではシロさんがメインになることが多いのですけど、今回は私の番です。

 どうぞよろしくお願い致します。

 

 操者と二人っきりで過ごす日時は、愛バ会議にて厳格に定められています。

 もし、これを破って抜け駆けしようものなら…どんな恐ろしい制裁が待っているかは、考えたくもありません。

 

 本日、操者の付き人(ウマ)は、この私アルダンです。

 護衛にお仕事のサポート、身の回りのお世話まで、誠心誠意尽お仕えします。

 操者に尽くすことは愛バの喜び。こんなに幸せでいいのでしょうか?いいんです!

 

 ああ、そうそう。お気づきだと思いますが、マサキさんなら私の隣で寝ていますよ。(´∀`*)ウフフ

 日中は凛々しい顔をされていますが、お休み中の今は大変可愛らしい寝顔をしています。

 この寝顔を守るためなら私、何だって出来る気がします。多分、何だってやってしまうでしょう。

 

 真剣(マジ)で心の底から愛しております!!

 今、私があなたを独り占め出来ている。その事実に、魂が震えるほどの幸福感で満たされる。どうにかなってしまいそう。

 フフ、フフフフ、ウフフフフフ、ハアハア‥‥ハアハア‥‥‥( ゚д゚)ハッ!

 い、いけません!何を考えているのですか!マサキさんは既にお休み中のなのですよ。

 散々愛して頂いたというのに、まだ欲求不満なのですか!?私ってば欲張りさん♪

 

 えー皆様、大きな勘違いなされているようですから、言っておきますね。

 私がエロいのではありません。マサキさんの魅力が私を狂わせているだけなのです。

 つまり、私がドスケベになったのはマサキさんのせいなのですよ!( ー`дー´)キリッ

 私をこんな風にした責任、絶対に取って頂きましょう!ええ、ぜっっったいにです!!

 

「そろそろ私も……失礼します」

 

 マサキさんの寝顔を見ていて徹夜しました!

 なんてことになったら、ココさんたちにアホだと思われてしまいます。

 友人であり同じ愛バである御三方は頭にそれぞれの不自由を抱えてしまっているので、まともな私がしっかりしないといけないのです!

 睡眠時間はしっかり確保して、明日に備えるとしましょう。

 

 普段はマサキさんの頭を胸に抱き寄せるスタイルが定番ですが、今日は私が彼の胸に包まれることに致しましょう。

 布団と腕をそっと持ち上げて、自身の体を滑り込ませることに成功!

 ベストポジションについたところで、寝ている彼が無意識に私を抱き寄せてくれました。フォォォ!

 

「フフ、抱き枕と勘違いしているのかしら」

 

 抱き枕上等です!もっと激しくギュウギュウしてくださっていいのですよ!

 ああ、素敵~最高~。彼の匂いと体温に包まれて脳汁がドバドバ出ちゃいます!!(*´Д`)

 だ、ダメです!もう眠るって決めたのですから、興奮している場合じゃないです。

 

 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、マサキさんメッチャいい匂い、羊が四匹、マサキさんの筋肉ヤベェ(よだれ)出るわ出るわ。

 ひ、羊、ひつじが、ムラムラします、ひつ、ヒツジ、羊邪魔、ヒツジ本当にクソ邪魔!

 ヒツジぃぃーーー!モコモコウールじゃまくせぇぇんですよぉぉーーー!消え失せろ!

 羊リストラです。やっぱり、数えるなら好きなモノでないと‥‥‥

 

 マサキさんが1人、マサキさんが2人、マサキさんが3人、4人、5人!

 ウホッ!ここが天国か!量産型マサキさん、私の脳内で完成していたのですね!

 保存用、観賞用、布教用、そして実戦用!!マサキさんがいっぱいで幸せです!!!

 

 バンザーイ!バンザーイ!マサキさんハーレム万歳ぃぃーーー!!

 

 ●

 

「アルダン……起きなさい、メジロアルダン……」

 

 あん////ダメですよ。こんな朝から、いや///そんな////

 

「おーい、アル姉おきろー、おーきーてーよー」

「涎垂らしてますよ、このドスケベ」

 

 仕方ないですね////夜の分の体力残しておいてください/////

 

「フフフ、へへへへ、やぁ、そんなにしちゃ////嘘です!もっとして////」

「絶対エロい夢見てる!」

「出番ですよチュー魔人、ベロチューで起こしてやりなさい」

「断る!今のアルなんかキモい!チューしたくない」

 

 朝食を作っていた私に襲い掛かって来るなんて////いけない人////

 リクエストの裸エプロンはお気に召して頂けたようですね/////

 

「なんかビクンッビクンしだしたww」

「下手に容姿が優れている分、キッツいなあww」

「見ず知らずの方がいるというのに……なんかすみません、うちのドスケベがすみませんw」

「ふぅ‥‥‥世話の焼ける子ですね」

「偉そうな女がアル姉に何かする気だ。放っておいていいの?」

「ここは謎の女に任せましょう。あの人、アル姉をよく知っているみたいですし」

「気のせいかな、二人ともなんか似てる気がする」

 

 毎日この調子だと家族が増える日も近いですね~。

 皆さん、ごめんなさいね。一足先に素敵なファミリー作っちゃいます!!

 ウフフ、ウフフフフフ(´∀`*)アーハッハッハッハ~、あ?アーーーッッ!!

 

アーーーッッ!いっっっだぁぁぁーーーーいいぃぃ!?!?

「これか?こんなものがあるから!私が恥をかくのです」

「いーたいたいたいぃぃ!?何、何事!?私のおぱーいに大ダメージが!?」

「やっと起きましたか。脳みそピンクな我が子孫よ」

「あなた誰ですか?何故、私の胸を!?痛い!やめてーー!」

 

 幸せな夢を見ていたのに、胸に走る激痛で飛び起きてしまった。

 誰?私の胸を(わし)掴みで引っ張っている、この女は誰?

 

「それ以上はもげる!もげてしまいますぅぅ!」

「もげてしまえ!私より大きいのムカつくんじゃい」

「いいぞ!これで『愛バ乳ランキング』のトップは私にものに」

「わかってないな~。大事なのは大きさじゃなく質だよ、クオリティだよ」

「揉み心地は私のが一番!だと思うよ。いっぱい褒めてもらったもん」

「ちぃ、こうなったらマサキさんに一斉比較してもらいましょう。まあ、私の勝利は揺るぎませんが」

 

 少し離れた場所にココさんたちがいる!?

 いたのなら助けてくださいよ!ナズェミテルンディス!!

 私のおぱーいが大ピンチなのですよ!

 マサキさん、お気に入りの私のおぱーいがぁぁぁーーー!!!

 

「い、いい加減にしてください!!」

「ごぼっ!?」

「決まった!アル姉のドリルニー!」

「螺旋状に渦巻く覇気を膝蹴りと同時に叩きこむとは、痛そうw」

 

 謎の乳もぎ女に攻撃を加えることで、やっと解放された。

 女が腹を押さえてよろめいている間に、バックステップで距離を空ける。

 

「ぐぉ、私の下腹部に膝を入れるとは‥‥‥なんと無礼な!?」

「無礼なのはそちらです!私の胸を乱暴にしていいのは、マサキさんだけなのに!それをよくも!」

「ぶっかけ祭りのシロと似たような事を言ってるw」

「アルも大分染まって来たね」

「同じ操者を持つ我々の絆を強く感じますね~」

 

 そうです!私たちの身体、髪の毛一本から爪の先まで、全てマサキさんのもの!

 正体不明の女が気安く触れるのは、許されないのですよ!

 

「いたた。くっ、メジロの礎となった子供たちをポコポコ産んだ!大事なお腹に攻撃をするとは!とんでもない子孫がいたものですよ、嘆かわしい!」

「意味不明なことをベラベラと、あなた何者ですか?」

「この子が、こんな子が!私に似ているですって?私の方が断然綺麗で可愛いです。マサキもそう言ってく‥‥‥ひでぶッッ!

「マサキさんが、何ですって?」(#^ω^)ピキピキ

「お、雷を乗せた覇気指弾か」

「アレ、軽くコンクリの壁に穴を空ける威力ですよ。前に食らったのでわかります」

「食らったんだw何やらかしたのよ」

 

 わけのわからない事を口走る女の顔面に指弾を命中させてやった。

 私の一撃でのけぞった女は、涙目で赤くなった鼻を押さえている。

 ほう、鼻が弱点なのですね。次は鼻フックデストロイヤーを食らわせてあげましょうか?

 

「今のは痛かった…痛かったぞーーー!!!

「来ますか!」

 

 激昂(げっこう)して襲い掛かってくる乳もぎ女。フリーザ様かwww

 私は迎え撃つ構えをとり、ココさんたちはどっちが勝つか予想して楽しんでいる。助けは期待しない方がいいですね。

 しかし、この女は本当に何者なのでしょうか?なんだか無性に不愉快な存在です。

 そもそも、ここは何処?私はマサキさんの部屋で眠りについたはずなのに?

 

 (なんにしても凄い覇気、ただのキチガイではなさそうです)

 

 想定した迎撃パターンを行動に移そうとして‥‥‥

 

「うどん!」

「んぴゃぁ!」

「え!?」

 

 乳もぎ女が変な悲鳴を上げて顔から転倒した。何故?

 声のした方向を見ると、新たな見慣れない女がこちらに向かって歩いて来ている。

 う、金髪巨乳です。マサキさんのストライクゾーンの女性‥‥‥敵なら排除します。

 

「何を遊んでいるのです、シャナミア様」

「シャナ…ミア……えぇ!?」

「メ、メルア、これには深い訳がありまして」

「感動の対面もいいですけど、時間は有限ですよ。マサキさんが眠っている内に、やることやってしまわないといけないのですからね」

「は、はぃぃ」

 

 メルアと呼んだ女性が余程恐ろしいのか、シャナミアと呼ばれた女は大人しくなった。

 シャナミア……まさか、あのシャナミア様!?いやいやいや!

 

「あ、あの~」

「あなたは、メジロアルダンさんですよね」

「そうですが」

「そして、キタサンブラックさん、サトノダイヤモンドさん、ファインモーションさん、で合ってます?」

「合ってるよー」

「本日は大事なお話があってお呼びしました。とりあえず、私について来てください。ほら、シャナミア様も行きますよ」

「やれやれ、金髪巨乳は無駄に仕切りたがり屋で困りますよww」

「うどん」

「ぎゃうぇおぉぉぉ」

 

 (どうする?)

 (どうするも何も、ついて行くしかないでしょう)

 (信用して良いのでしょうか?)

 (心配ないと思うよ)

 

 一抹の不安を感じながらも、私たち4人は素直について行くことにした。

 

 〇

 

 美しい草原と咲き誇る花々の広がる大地に爽やかな風が吹いている。

 雲一つない青空にはあるべきはずの太陽が無く、鳥の姿も見えない。

 自分たちのいる場所が、何処か作り物めいているのは全員が察していた。

 案内された先にはお洒落な日本家屋が建っていた。人目を気にする必要はないのか、家の周囲には特に柵などは設けられておらず、畳敷の室内や芝生の庭が丸見えだった。

 

 和風モダン建築の縁側に二人の女性が座っているのを確認。黒髪と赤髪の女だ。

 こちらに気付いた二人は金髪と乳もぎの知り合いらしく、気さくに声をかけて来る。

 

「あー、やっと来た」

「遅いわよ。何処で道草食っていたのかしら」

「私は悪くないです。不埒(ふらち)な子孫がエロい夢にハマる事案が発生して大変だったのですから」

「血は争えないということですね。ホント面倒くさい」

 

 不埒って言うな!

 血……やはりそういう事なのでしょうか、嫌ですね~勘弁してほしいですー。

 

「カティアさん!おひさ~」

「フェステニア様も、お元気そうで何よりです」

「お久しぶり、上手くやれているようで安心したわ」

「そっちも元気だよね。やっぱり操者と一緒なのが健康の秘訣かな」

 

 クロさんとシロさんが親しそうに会話をしています。ちょっぴり疎外感!

 同じ境遇のココさんが私に耳打ちして来る。

 

「マサキが言っていた、女神様たちだよ」

 

 ですよねー。

 不意に乳もぎ女と目が合う。ドヤ顔が最高に不快!!

 こ、この女、いや、この御方が私の、メジロ家の‥‥‥

 

「オェッ!」

「アル!?何で!」

「アル姉がゲロした!」

「しっかりして、ゲロ姉さん」

 

 急な吐き気がこみ上げてきて我慢できませんでした。おぇぇぇ。

 ゲロ姉さんは酷いです。シロさんには後でデコピン(フルパワー)をお見舞いします。

 

「私の顔見て『オエッ』とは何事ですか!失礼にも程があります」

「吐き気を催す邪悪面、致し方なしです」

「メルア、もう私をいじめるのは止めませんか?マサキも『シャミ子かわいそう』と言ってますよ。やめましょう、もうやめましょうや~」

「フンだ。私から後継者を奪ったシャナミア様が悪いんですー」

「う、だって、マサキは私の起動者になったから、メルアには他の二人を担当してもらった方がいいと思って!良かれと思ってぇぇぇ」(´Д⊂グスン」

「わかってますよ。そっちの方が効率的で適材適所なのは!でも、でも、やっぱりムカつくんですもん」

「ごめんなさい。トーヤに続きマサキまで奪っちゃってごめんなさいww優秀過ぎてごめんなさいwwモテる女は辛いですwww」

うどんうどんうどんうどーーーんんんんっっ!!

ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん゙!ぶるっきゃおうぴらむに

 

 また始まってしまいました。

 マサキさんを奪った、ですと?これは私も金髪さんに加勢すべきなのでしょうか。

 

 ○

 

 思った通り、見慣れない4人は女神様たちでした。

 マサキさんたちが使う結晶、オルゴンアーツは彼女たちに選ばれた証なのだそうです。

 簡単に自己紹介しましたが、女神様たちはマサキさんを通じて、既に我々のことをご存知のようでした。

 

 クロさんを担当なさっているのはカティア様、真名をクストウェルと仰るそうです。

 才色兼備な黒髪の女神様で、近接格闘戦を得意とされているのだとか。

 

 シロさんを担当なさっているのはフェステニア様、真名はベルゼルート。

 元気ハツラツとされた赤髪の女神様で、射撃と敵集団の攪乱(かくらん)が好きなのだそうです。

 

 今はフリーなメルア様、真名はグランティード様です。

 自称、争いを好まないゆるふわ系女神様。持ち前の防御力とパワーを武器に敵陣中央を突破するのが快感らしいです。

 マサキさんの担当から外されたようで、これからは私とココさんの二名を面倒見て下さるのだとか、お世話になります!

 

 ここまではいい、問題は……

 

「そして!この私が!シャナミアです!真名はまだ秘密!」

「ああ、やっぱり‥‥‥オェッ」

「アル姉、二日酔い?」

「これは多分…悪阻(つわり)です。きっと、マサキさんとの愛の結晶が////」(´∀`*)ポッ

「「ふざけんなーー!」」

 

 ちょっと、ココさんシロさんも!揺らさないで、まだ吐き気が収まってな‥‥‥オェッ。

 昨日はそれほど飲んでないはず、マサキさんがジト目になるから遠慮したのに!

 

「驚くのも無理はありません。フューリーのラストエンペラーにしてメジロ家の創始者!オルゴンアーツを編み出したのも私!」

「抜け駆け禁止だって約束でしょ!するならちゃんと準備してからって決めたじゃない!」

「『着けない方が気持ちいい』とか言って、マサキさんを誘惑しんたのでしょう!この色魔!ドスケベサキュバス!」

「エロの人類悪だよ!殺生院キアラだよ!」

「なっ!キアラは言い過ぎですよ!あんな恥ずかしいアルターエゴと一緒にしないでください!」

 

 同じエロのビーストなら、カーマ様の方が好きです!聖杯捧げてレベル上限突破させちゃうぐらい好きです!

 

「その昔、トーヤと共に大活躍した伝説の愛バにして、今はなんと、あの機甲竜なのですよ!私ってば本当に凄いです!自分の可能性が怖い!」

「二日酔いでなければ、どうせ想像妊娠とかいう間抜けな落ちだねw」

「アルならやりそうww散々騒いだ挙句に病院で赤っ恥かく奴wwだっさっwww」

「行くなら産婦人科じゃなくて、脳外科だろwww」

「残念です。マサキさんには申し訳ありませんが、今日から愛バは私1人になるでしょう。ええ、ほんとうっっっにぃ!残念ですよぉ!!」

 

「「「やんのかぁゴラァァ!!」」」(゜д゜メ)ゴルァ(。д。メ)ゴルァ(゜д゜メ)ゴルァ

 

「やりますよ!やってやりますよ!かかってこいやぁーーー!!」(#・∀・)

 

 三対一の戦い、いつかこんな日が来ると思っていました。意外と早かったです。

 かなり苦しい戦闘になるでしょうが、幸い三人はかなりのアホです。そこに勝機を見出しましょう。

 見ていてくださいマサキさん。私こそが最優の愛バだと証明してみせます!

 

「シャナミアそっちのけでケンカ始めちゃったよ」

「さすが、マサキ君の愛バね。全員アホだわ」

「シャナミア様ー!ガン無視されてますよー!クソダサドラゴンになってますよー」

「フフフ‥‥‥放置プレイ‥‥‥」ハアハア(*´Д`)

(マゾ)ってさあ、ある意味無敵だよね」

 

 放置されてハアハアしている変なのがいます。『へ、変態でちーーー!』と叫びたいほどキモイです。

 やる気がそがれてしまったので、ケンカは中止して変態に問いかけます。

 

「シャナミア様?本当に、あのシャナミア様なのですか?」

「そうですよ。我が末裔(まつえい)メジロアルダン‥‥‥こうして出会えた奇跡に感謝します」

「っ!シャナミアさまーーー!」

「フフ、いらっしゃい。カワイイ子孫を抱擁(ほうよう)して差し上げます」

 

 感極まってシャナミア様に駆け寄る私。

 シャナミア様も両手を広げてこちらに来てくださる。

 会いたかった、ずっとお会いしとうございました。

 二人の影が重なる。私はシャナミア様の両手を掴み、その姿勢を前方へ崩す。

 自分の体を後方へ捨て、片足をシャナミア様の下腹に当て‥‥‥勢いを殺さず、ぶん投げた!!

 

イ゙ェアアアア!!

 

 受け身を取り損ねたシャナミア様は背中から地面に叩きつけられました。ざまぁですWW

 

「綺麗な巴投げね」

「そして、汚い断末魔だ」

 

 痛みに悶絶するシャナミア様に追撃をかける。

 

「さっきはよくもやってくれましたね!シャナミア様―――ッ!」

「ぐぁぁぁああああああああああ」

「マサキさんを襲ってくれたそうで、そのお礼もまだでしたねぇぇーーーー!」

「のぉぉぉおおおおおおおおおお」

「あなたの因子を受け継いだせいで、そのせいで、私は、私は!」

「みょょょよよよよよよよよよよ」

 

アルコール中毒のドスケベゴリラ!!なんて不名誉極まりない陰口を叩かれているのです!超不愉快ッッ!」

 

 お(しと)やかで清楚!お嬢様の完成系と言われていた私が、この様ですよ!

 それもこれも……あなたが悪いんだ…あなたがご先祖だからぁーーー!!

 

「あなたって人はー!!よくも!このっ!このぉ!」

「お許しください!Dr.ヘルぅぅぅぅぅ!」

「メジロアルダンです!」

 

 急にあしゅら男爵になってもダメです。

 海よりも深く反省してください!

 

「我々は一体全体何を見せられているのでしょう?」

「女が女に"電気あんま"してるの初めて見たww」

「構図としては、のび太にブチギレるセワシ君的な感じか」

「2000年後の子孫と心温まるふれあい。よかったですね、シャナミア様」

「これ感動するところ?どういう顔すればいいの?」

「笑えばいいと思うわ」

 

 ○

 

 電気あんまをしばらく続けていたら、ドMのご先祖に耐性ができ始めた。

 気持ち悪いので速攻で止めた。「え?もう終わり」と物足りなさそうに言うシャナミア様にキレそうになった。

 

「なっ!ここは、マサキさんの夢の中ですってーーー!」

「そうです。ここはマサキの中ですよ」

「もうここに永住しよう。そうしよう!」

「それはダメよ。あなたたちにはリアルの生活があるでしょ」

「女神様たちだけズルい!」

「ズルいって言われてもなあ。私たち思念体だからさ、宿主がいると何かと楽なんだよね~」

「マサキさんのおかげで、あなたたちにも姿を見せながらお話できるのです。普通ならあり得ないことですよ」

 

 結局、マサキさんが最高に凄い男なのです。さすが私の操者だけあります!

 

「なんで今日はマサキさん呼ばないの?」

「女同士でないとわからないアレコレをやりたい!」

「意味不明です」

「まあまあ、こういうのもいいじゃん」

 

 女子会がやりたかっただけなのかしら?

 神様も女の子なんですね、わかります。

 

 オルゴンアーツの調子を見るとのことで、クロさんシロさんと担当女神様は何やら問診のようなやり取りを開始しました。

 みんなが構ってくれなくなったので、シャナミア様は畳の上に転がりゴロゴロしています。ダメなご先祖です!

 

「では、ちょっと診ていきますね。私の真名はグランティード、それを心中で思い浮かべ念じてください。いきますよ~」

 

 メルア様が私とココさんの頭に手を置いてムンムン唸っています。

 万が一、力が暴発することを懸念して、私たちは綺麗なお庭に出ていますよ。

 鹿威(ししおど)しのカッポンッ!という音が虚しく響き渡る頃、メルア様は手を離しました。

 

「二人とも、オルゴナイト‥‥‥要ります?」

「いります!欲しいです!」

「あって困るもんじゃないし、私もオルマテしたいよ」

「うーん。使えないこともないです、けど、どうしようかな~、どうするのがベストでしょうか」

「悩むことですか?欲しいならくれてやればいいでしょう」

 

 ゴロゴロに飽きたシャナミア様が割り込んで来た。

 

「ですけど、この二人は」

「そっちのメラメラは心配するだけ損ですよ。燃え上がったところで、死にはしません」

「メラメラ?ビリビリではなくて?」

「メラメラです。ビリビリはマサキからパクった副産物、この子の本質はメラメラですよ」

 

 ビリビリとは私のことでしょうか?メラメラとは一体?

 

「それより問題は、こっちの子ですよ」

「ですよねー」

「私?私、何か変かな?」

 

 メルア様とシャナミア様がココさんを鋭い目つきで見ています。

 ココさんはラーメン狂いですが、いい方ですよ。私の大事な親友です!!

 

「あなた、いい目と耳を持っていますね。さぞや、よく見えてよく聞こえることでしょう」

「収納スペースの整理はこまめにした方がいいですよ。私も昔、苦労しましたから」

「あらら、さすが女神様たちだね。マサキにしか言ってない秘密に感づいちゃうとは」

 

 ココさんの秘密?。心当たりは…(たま)に見せる、あの手品でしょうか。

 

「下手にオルゴンアーツを継承しちゃうと二人の才能が潰れるようで、それは勿体ないといいますか」

「問題ないでしょう。オルゴンクラウドだけでも使えるようにしておけば、後はこの二人が勝手に折り合いつけてやりますよ」

「それでいいのかな。でもな~」

「ええい!まどろっこしい!そんなに悩むことですか?向こうの二人も、相当なアレですよ」

「だからですよ。継承者全員が、オルゴンアーツと同等かそれ以上の力を秘めた化物って前代未聞です!鬼に金棒…いや、鬼に核ミサイルです」

「マサキを継承者に選んだあなたがww今更何をwww」

「あの時は知らなかったんですよ!だって、まさか…神‥‥器が‥」ゴニョゴニョ

「それ以上はいけない!」

「トップシークレットですね。わかってまーす」

 

 女神様たちがしゃがみ込んで何やら密談して、直ぐに立ち上がった。

 

「それで、核ミサイルはもらえるのかな?」

「あげるのは金棒の方です。核ミサイルは既に持ってるでしょうに」

「どうすれば発射できるのか、わかんないけどね。宝の持ち腐れってヤツだ」

「わかってないのはアルダンだけ、あなたはわかろうとしていないだけ。全く、めんどくさい子ですよ」

「???」

「気にしないでね、アル。とりあえず、オルゴンアーツを使えるようにしてくれるってさ」

「あ、はい」

 

 ココさんは一人で理解して勝手に完結したようです。

 相談されないのは悲しいですが、私の力が必要な時は、頼ってくれると信じてます。

 

「はい、いちーにーさんー!はい、おしまいでーす」

「「簡単過ぎでは!?」」

 

 メルア様が再び頭にタッチして、三つ唱えて即終了!

 こんなので本当にオルゴンアーツを使えるのでしょうか。

 

「あ、できた」

「できました」

 

 腕や足に緑色の結晶を具現化することができました。

 出来たのですが‥‥‥マサキさんたちのに比べると、大きさも強度も輝きも、何もかも‥‥‥

 

「ショボいですねwww」

「その通りですから、反論できません!」

 

 シャナミア様の言う通りショボショボです。やだ、私のオルゴナイト…ショボ過ぎぃ!

 

「初めてですからね。きっと、まだ馴染んでいないだけですよ」

「若しくは、二人の才がオルゴンアーツと反発し合っているのでしょう」

「上手く使うには工夫が必要ってことか」

「メイン武装ではなく、補助としての使用が最適解だと判断します」

「理解の早い子たちですね。さすが、私の新後継者!」

「だから言ったでしょう。マサキの選んだ子たちなのです、少々無茶したぐらいでは壊れませんよ」

 

 シャナミア様、もうちょっと褒め方を考えてください。

 

 女神様たちとの邂逅、これで私たちの戦力はアップしました。

 これで益々、マサキさんの力になることができます!

 

 クロさんとシロさんの方も終わったらしく、全員が揃った後はお茶会となった。

 女神様たちの操者トーヤ様の話を聞きながら、私たちの操者マサキさんの話をして盛り上がる。

 楽しいひと時でした……あれ……なんだか、眠たく‥‥‥なって…

 

「シャナ…ミア…様‥‥また……」

「はい。またお会いしましょうね。酷い目に会いましたが、あなたとお喋りできて幸せでしたよ」

「わたし…も……です」

 

 優しい声を聞きながら、眠りに落ちていく。その声はどことなく母に似ていた。

 起きた時には隣にマサキさんがいることだろう。今日の体験を話してそれから…それから……

 

 夢空間からアルダンたち4人が退去した後。

 

「ふぅ、騒がしいけど楽しかったわね」

「昔を思い出しちゃった。トーヤがいて、みんながいて、あの時も……うん」

「ダイヤモンドさん、ケーキに顔面から突っ伏してましたけど。あれは良いのでしょうか?」

「あの子はメジロの血こそ引いていませんが、私と同じ芸人魂を感じます。大丈夫ですよ」

「それ褒めてんのww」

 

 しばしの沈黙…女神たちはそれぞれの後継者を思う。

 マサキを含め、今回の5人は性格も才能の飛びぬけている。

 これほどまでの異常者‥‥‥もとい!異能者が集まるのは、何かしらの運命を感じてしまう。

 

「これで最後…ですからね」

「出し惜しみは無しってこと?」

「時が来た!ってヤツですよ」

 

 背水の陣、もう後がない、尻に火が付いた、当たって砕けろ、やぶれかぶれ。

 言い方はどうあれ、世界という概念自体が危機感を抱いたのは間違いない。

 

「全く‥‥‥どいつもこいつも、遅いんですよ」

 

 そう遅い、私たちも遅すぎた。そのせいで、管轄外とはいえ多くのものが失われた事実がある。

 間に合うか?わからない、わからないけど、私たちはやるべきことをやる、奴を宿敵を倒すのだ!

 マサキたちと一緒なら……きっと…

 

 ●

 

 目覚めの朝は快調そのものだった。

 

 今日の俺は珍しく愛バより早起きだ。

 朝起きると至近距離から寝顔を凝視されていて、毎回ビックリするんだが、今日はそれがなかった。

 アルを起こさないようにベッドから降りて身支度と整え、朝食の準備をする。

 途中で起きたアルが「寝坊した!シャナミア様のアホ!」と言って怒っていた。

 どうやら、愛バたちは女神様たちと夢空間で会ったらしい。

 俺、呼ばれてない。(´・ω・`)ショボーン

 

「申し訳ありません!寝坊したばかりか、朝食の準備までマサキさんに」

「ええんやで。ほら、食べよう食べよう」

 

 アルほど凝ったものは作れないので、申し訳ないのはこっちの方だ。

 ちょっと焦げた目玉焼きに、みそ汁とご飯、夕食の残りとお漬物を少々ぐらいだよ。

 それでも、美味しい美味しいと言って褒めてくれる‥‥‥そんな愛バが大好きだ!

 

「シャミ子と会った感想はどうなん?」

「おぱーいを、もがれそうになりました」

どういうことなの!

「お返しに、電気あんましてやりましたよ」

「マジでどういうことなの!?」

 

 味噌汁吹きそうになった。

 

 先祖と子孫、感動の対面は中々バイオレンスな状況だったようで、見たかったなぁー!

 



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スキルマイハート

 トレセン学園敷地の北東には旧校舎が建っている。

 

 出入り口は物理的にも呪術的にも頑丈に施錠されており、教職員であろうとも許可が無ければ立ち入り禁止の場所だ。

 学園改革の大規模工事においても解体を免れたようで、現在も時の流れから取り残されたかのように、ひっそりと(たたず)んでいる。

 主要な建物から離れた位置にある旧校舎へわざわざ訪れるのは、一部のオカルトマニアと裏取引を行う不届き者ぐらいのものである。

 

 旧校舎の内部が外界と隔絶された異界迷宮、所謂(いわゆる)『不思議のダンジョン』と化していることを知っている者は極僅(ごくわず)かだ。

 そんな所へ毎日のように出入りする奴らがいて、中で何をしていようが誰も気に止めない。

 人目を避けて修練をしたい、訳アリ連中にとっては大変都合いい環境が整っている。

 

 そんなこんなで、マサキとその愛バたちは放課後や空いた時間に旧校舎へ繰り出しては、修練と探索に勤しんでいるのであった。

 もちろん、学園側の許可は取ってあるのであしからず。

 在りし日の天級騎神も、ダンジョンを出入りして心身を鍛え抜いたという。

 その息子たちが世代を超えてダンジョンを利用しているのは、果たして運命なのだろうか。

 

 このダンジョンは元々最下層は地下30階までのはずだったが、マサキ達が探索を続ける内に新たな階層が出現した。

 現在は地下60階まで探索完了している。この頃から、地上1階に転送陣が設置されるようになり、10階層ごとにワープできるようになっていた。クッソ便利!

 入る度に構造が変化する迷宮、一定時間で復活する敵性体(エネミー)、どんな大技をブッ放そうがびくともしない壁に床に天井、万が一壊れても時間経過で修復される親切仕様だ。

 誰が何の目的で造ったのかは不明だが、地下30階にあったクロスゲートの安置場所というだけではなさそうだ。

 どこまで続くのか?真の最下層には何が待っているのか?

 少しの不安とそれ以上の期待を胸に、操者と愛バたちは今日もダンジョン攻略に励んでいる。

 

 〇

 

 地下50階層の大広間。

 空間に響き渡る轟音と衝撃の中、ウマ娘たちが戦闘を行っていた。

 マサキの愛バ四人と50階層のボスエネミーが戦っているのだ。

 

 敵はかなりの大型で見た目の威圧感もさることながら、攻撃の激しさと威力は十二分な危険性を主張している。常人ならば数秒待たずに命を散らしてもおかしくない状況。

 だというのに、彼女たちには慌てた様子もなく会話をしながら余裕の戦闘を続けている。その身のこなしは驚くほど軽く大型エネミーの攻撃は一度たりとも彼女らに当たっていない。

 

「アル!そろそろ大技いってみようか」

「わかりました。必殺の一撃をお見せしてましょう」

「シロ!出力もっと安定させてったら」

「とっくにやってます!考え無しに突っ込むのが悪いんでしょ」

 

 デバイスを装着したクロとアルが前に出て戦闘を行い、シロとココは指示を飛ばす傍ら器用に抱えた小型PCに何やら打ち込んでいる。

 四人は今、新しく開発された試作型デバイスの実戦テストをしている真っ最中だった。

 

「ファンググリル開放、いけるよ!」

「イグニッション!」

 

 アルの掛け声と共にデバイスのリミッターが解除される。 

 猛獣の口を連想させる両肩部と両腰部から炎にも似たエネルギー光が噴出した。

 アルは左拳にエネルギーを集中させながらボスエネミーへと一直線に突貫する。

 

「行きます!バーニングブレイカー!!」

 

 渾身の力を込めた正面からの一撃!気合と共にアルはただ真っ直ぐに拳を突き出す!

 接触!そして破壊音!結果は御覧の通り、ボスエネミーの巨体に風穴が空いていた。

 大きなダメージを負ったエネミーは崩れ落ち光となって霧散していく。討伐完了だ。

 拳を振り抜いたアルは自身の勢いを巧みに制御しながら停止する。

 

「あら?」

「どうしたの?」

「腕が、動きません」

「見せて」

 

 急な違和感が左手を襲う、攻撃に使用した拳から腕にかけての部位に力が入らない。

 糸が切れたような感覚は数十秒、すぐに回復し、その後の動作には何も問題がなかった。

 

「恐らく必殺技の反動だよ。デバイスの一時停止と同時に腕まで動かなくなるなんて……欠陥品アリアリだなあ」

「問題はありますが、きっと、いいデバイスになりますよ。この子は」

「うん。今後に期待ってことで……よし、一通り済んだよ。向こうはどうなったかな~」

「何やら言い合いをしているみたいですが?」

「またぁ?いつもの事とはいえ、よく飽きないなあ」

 

 テストを終えたアルとココは、クロとシロの方を見る。

 終始和やかな空気で事を進めた自分たちと違い、向こうはずっとギスギスしっぱなしだ。

 いつものことなので年長組は放っておくことに決めた。

 

「アル姉たちに先を越された!なんだよもう!」

「ちょっと、こっちのテストはまだ終わっていません。次の武装を試してください」

「もう敵がいないのに?やる気出ない~」

「いいからサッサとやれ!わがままが過ぎると、マサキさんに嫌われますよ」

「う、それは嫌だ。えー、次はマシンガンポッド??」

「はい、ポッドアウトしますよ」

 

 デバイスの使い方をよくわかっていないクロを待たず、シロはPCからの遠隔操作で武装を起動させる。

 クロの背部から四つ物体が躍り出た。それは二門の砲塔が付いた楕円形をしてる。なるほど、名前の通りマシンガンポッドだ。

 四つのポッドは自らの推進機構により、クロの周囲を飛びながら旋回している。

 射出元のクロが動けば、それに追従するような動きをするポッドたち。

 

「ターゲットへの攻撃は、ある程度自動化されているようです‥‥‥使用感はどうです?」

「なんで有線式(インコム)なの?私だって無線誘導兵器(ファンネル)をぶっぱしたいのにー」

 

 クロの背から伸びる四本のケーブルはポッドへと繋がっている。

 どうやらそれがお気に召さないらしい。

 

「クロの空間認識能力でファンネルは100年早い!インコムに改修してやっただけでもありがたく思え!」

「私は(いさぎ)のようなストライカーになるはずの女だよ?」

「あんたはどう考えても蜂楽(ばちら)タイプだろ。バカなことを言ってるとブルーロックに放り込むぞ!」

 

 獲物を前にした時の顔芸が蜂楽そっくりなんですよクロは。

 

 ボスエネミーはアル姉さんが駆除したが、ザコはまだ何体か残っている。試し撃ちにはあれで十分だろう。

 

「ほらほら、的に向かって射撃するんですよ。隙あらばソードとレールガンの方も試してください」

「待って!このデバイス、私と適性があってないよ。相性悪すぎ」

「あのねぇ、私がテストする予定だったものを、駄々をこねる誰かさんに譲ってあげたの覚えてますか?」

「うー」

「うーうー言ってもダメです。やるといったからには最後までやれ」

 

 今クロが装着しているデバイス"サーベラス"は射撃戦仕様。近接戦闘特化のクロには厳しい装備だろう。

 テスターをやりたいと言ったのはクロ自身なので最後まで責任もってやってもらう、データ入力とかはどうせ無理だろうし。

 

「頑張れー頑張ったら多分マサキさんが褒めてくれるぞー」

「よーし、やってやる!ポッドちゃんたち、敵はあそこだ!撃て撃てー」

 

 チョロいクロにやる気を出させてテスト継続する。

 そうそう、そんな感じでポッドのコントロールを‥‥‥おい、何やってんの。

 

か、(から)まったぁ―――!ケーブルが食い込むぅ、有線のバカヤロコノヤロー!!」

「バカヤロウはお前だ!!あーもう、ココ!アル姉さん!クロがセルフ緊縛状態になったんでヘルプです!」

 

 マシンガンポッドより先行して動き過ぎたのか、有線が絡まるアクシデント発生。このバカチンが!

 ポッドのコントロールも下手くそだ。クロには最初から最後までポッド任せのフルオートのがよかったみたいだ。

 三人でアホを救出した。手間かけさせやがって。

 

「リードが絡まって困ってる、ワンちゃんみたいだったね」

「犬になるのは愛する操者の前だけ、忠犬クロ爆誕!」

「こんなバカ犬、仏のマサキさんでも保健所送りにしますよ」

「マサキさんはそんな酷いことしない!毎日ドッグランに連れてってくれるし、毎食高級ドッグフードだもん!」

「クロちゃんの脳内にあふれ出す存在しない記憶w」

「このバカ、一瞬で犬の記憶を捏造しやがった。怖ぇよ!」

「クロさんはいい子ですから、マサキさんは捨てたりなんかしませんよ」

「だよね~。アル姉わかってる~」

「アル姉さんはまたそうやって甘やかす。ちゃんと躾ないと後悔しますよ」

 

 駄犬がテスターでは碌なデータが取れない、次で最後にしよう。もうちゃっちゃと終わらせよう。

 

「TEアブゾーブ、スタート!バイパス解放」

「え!私まだ了解してないよ」

「黙って前を向いていなさい。バレル、セット!展開!」

「んぎゃ!?頭に何かが、前が見えねぇ!」

「慌てない、すぐにカメラが起動します」

 

 バックパックに背負われていたデバイスのパーツが形を変える。

 各種センサー類と長い砲身が、戸惑うクロの頭にスッポリと被さった。

 肩に担ぐのではなく頭部に発射台を設置するとか、中々面白い設計だ。

 アル姉さんとココも「おお!」と感嘆の声を上げた。

 

「特徴的な変形機構ですね」

「あれ、頭からブッぱする気なの?変なの」

 

 サトノ家とファイン家の技術部が試行錯誤で共同開発した結果がコレです。もう遊んでいるとしか思えない。 

 新型の開発にはどこも躍起になっているが、TEアブゾーバーとか挑戦的過ぎです!

 下手に予算を与えたのが間違いだった。けど、こういうの嫌いじゃないです。

 

「ターゲット、ロック!セイフティ解除!」

「こっちで操作できないんだけど!勝手に進めないでよ。あれ?なんだか頭の上が温かくなって」

 

 砲身が割れ発射口が現れる。その中心へ眩い金色のエネルギーがどんどん集まっていく。大気中のターミナスエナジーが収束している証拠だ。

 ちょっと足りないか、不足分は無駄に元気な装着者の覇気で補うように設定しておこう。これでいい!

 

「チャージ完了!クロ、しっかり踏ん張っていなさい!」

「待って待って、私の準備何も完了してないよ!あー覇気持ってかれてるー!頭があっちぃぃーーー!」

 

 後はザコエネミーに向けて撃つだけだ。アル姉さんとココも「やーっておしまい!」とキラキラした目線をくれている。

 よーし!やっちゃうぞー!エンターキーを押しながら叫んじゃうぞー。

 

「ターミナスキャノン!ディスチャージ!!」

「ぎょえぇぇぇ!?」

 

 変な声を上げるクロの頭部砲身から眩い熱線が発射される。光の帯は的のザコエネミーを跡形もなく消し飛ばした。

 威力はまあまあですね。チャージタイムとかを加味すると‥‥‥うーん、まだ改良の余地があり。

 

「おお!凄い!このビーム、私が撃ってるんだよね!カッコイイーー!」

 

 余裕が出て来たのか、クロが興奮した声を上げる。

 んん?なんか長くない?いつまで発射しているのです?

 

「クロ、もういいですよ。テストを終了してください」

「今いい所なんだから、もうちょっと撃たせてよ」

「ダメです。早く終了してください」

「砲身が焼き切れるまで撃ち続けてやる!!」

 

 何を考えているのですか!砲身が焼き切れたら、アンタの頭も焦げますよ?

 調子に乗っていると良くないことが起きるのですから、やめてくださいよ。

 それにしても、威力が減衰しないな?クロの覇気が多過ぎたかも。

 仕方ない、こっちで強制終了するか‥‥

 

「ちょっ!傾いてる!傾いてますよクロ!!」

「あれ、あれれ?踏ん張りがきかな…ごめ!うわたぁっ!!」

「バカ!バランスは維持しろ、おおぉ!?こ、こっちはダメですってば!」

「無理~!!!」

 

 クロがターミナスキャノンを発射を継続したままバランスを崩した。安定性を失った頭上の砲身が傾き照準が大きくずれる。

 熱線がダンジョンの壁を床を天井を焼き、更にはその反動でぐるり回転したクロの体が私たちのいる方向へ!?

 あ、これはヤバい‥‥‥どうしよう、オルゴンテイルの顕現(けんげん)は間に合わない。

 オルゴンクラウドの障壁で防ぐ?でも、アル姉さんとココは?彼女たちまで包める程の壁をすぐに用意することなんて‥‥‥え?

 

 刹那の時間、スローモーションで流れる世界で私は見た。

 

 思考中で固まる私を庇うようにココが抱き着いて来て、アル姉が楯になる形で私たちの前に立ち塞がる‥‥‥は?二人ともバカですか?

 この中で最も頑丈な私を何故庇う?オルゴンアーツ初心者で壁も(ろく)に作れない二人がなんで?

 その顔、その目、ムカつく!『大丈夫、私たちが守ってあげる』だと?()めるなよ!二人を守ってやるのは私の方だ!!

 こんな所で急な姉ムーブかまされても正直困るんですよ。二人だけならギリギリ回避出来たのに、お節介ですよ。

 ああもう、仕方ない。全員を包むようにオルゴンクラウドを展開する!間に合うかどうかは知らん!

 三人で仲良く熱戦を浴びればいいんでしょ。はいはい、焼きサトイモの完成ですよ~。

 

「「「《b》ぎゃぼぇぉぉぉーーーー!!!《/b》」」」

 

 爆発オチなんてサイテー!!悲鳴が可愛くないけど許してね!!

 

 ●

 

 無事とは行かなかったが、試作デバイスのテストは何とか終了した。

 

「ガルムレイド、重量に反して武装も装甲も物足りない感じがします。燃費も良いとは言い難いです」

「そうなると。追加装甲にバリア、射撃武装も欲しいところですね」

「サーポートメカをお供に付けるのはどうかな?犬…じゃなくて狼!狼型の自立行動メカが一緒に戦ってくれるの」

「今のひらめきはナイスです!そうか、強化パーツ自体が単体で動き、状況に合わせて合体分離すれば‥‥‥」ブツブツ

「鳥型のメカもお願いします。空中からの支援射撃はありがたいですよ」

「それもいただきます。二人ともよいアイデアを出してくれて助かりますよ」

「ねえ、耳と尻尾焦げてるけど大丈夫?ねえってば」(´・ω・`)

 

 爆破オチを経験した我々三人のディスカッションはとても有意義です。

 三人の耳と尻尾の毛が多少焦げていも問題ありません。元凶は黙って正座してろ!!

 

「サーベラスは……とりあえず、頭部キャノンは廃止する方向で!」

「「異議なし!!」」

「やっぱり杭打(くいうち)機が必要だと思うな。一発撃つたびに、こう、薬莢(やっきょう)が排出される感じで」

「‥‥‥ちっ」

「もうね、近接特化に調整しちゃうのもアリだよね」

「キャノンの完全撤廃は勿体ないです。やけくそで砲の数を増やしてみるとか」

「サーベラスだけに三つ首の三連撃ができたら、最高に熱いです」

「おーい。無視しないで~、足が痺れて来たから許してよ~」(´;ω;`)

 

 今回のテストで得られたデータと装着者の感想。それと、思いつく限りの改修案を盛り込んだ資料をまとめて技術部に送っておこう。

 これにて任務完了。あー、終わった終わった。

 さてと、事故とはいえ壮大なフレンドリーファイアをかましてくれた、このアホの処罰はどうしてくれよう。

 

「反省しましたか?」

「した!すっごく反省した!ごめんなさい!」

「何が悪かったか、わかってます?」

「適正の合わないデバイスを無理に装着して迷惑をかけました!その結果、踏ん張りきれずに仲間を誤射してしまいました!」

 

 強制的にデバイスを解除されたクロは、私たちに怒られて正座中の身だ。

 その首には大きな文字で『私は悪いことをしました』と書かれたプラカードが下がっている。

 なんとも情けない姿だが同情はしない。

 もし、誤射したのが一般人だった場合には謝った程度で許されないのだから。

 私たちのミスが学園の、ひいては操者であるマサキさんの責任問題になってしまうことを肝に銘じておかないと。

 

「シロが勝手にキャノンして頭が熱くてテンパったんだよ……」

 

 こっちに責任を被せようとしてきた

 素直に反省できない悪い子には躾が必要なようですね。

 

「マサキさんに叱ってもらいましょう」

「え!やだ、それはやめてよ!」

「あーあ、お風呂も添い寝もブラッシングも当分お預けになるね」

「罰として、なでなでもハグも禁止されますよ」

「やだやだやだ!そんなことになったら病む!一日8時間しか眠れなくなって病むーーー!」

 

 十分な睡眠時間確保してるじゃねーか。

 泣きわめくクロを見ても私は何も思わないが、年長組の二人は憐れんで折れてしまう。

 甘い!甘いですよ二人とも!

 

「かわいそうになって来た」

「シロさん。そろそろ許してあげては?」

「あーくそっ!わかりました。許します!許せばいいんでしょ」

「あ、ありがとう。本当にごめんなさい~」

「泣かない泣かない。クロちゃんはもう私たちを撃ったりしないよねー」

「うん。撃つならシロだけにする」(´Д⊂グスン

「おい!!」

 

 後ろ(うし)からではなく前から仲間に撃たれる可能性を考え、防御性能をもっと上げておこうと心に誓った。

 いざという時に備え、オルゴンテイルを瞬時に展開できるようにもならないといけない。頑張ろう。

 

 これで50階層エネミーは全滅させた。次の復活まではしばらく時間が必要だろう。

 PCとデバイスをしまい、軽く伸びをすることで固まった筋肉のこりを解す。

 ココから受け取った飲み物で水分補給‥‥‥ラーメン水とは何ぞや?

 我慢すれば飲めるけどさあ、これ喉が余計に乾きます!

 

「マサキ、ちょっと遅いね」

「職員会議が長引いているでしょうか?心配ですね」

 

 ここで待っているより、地上に戻ってお迎えに行った方がいいのかな?

 

「クロはどう思います?クロ?」

「がるるるるるー」

 

 私の問いに応えない、クロは上への階段を睨みつけ犬のように唸っている。

 敵を見つけた?嗅覚に優れたクロに遅れて、私の索敵にも反応あり!

 旧校舎へ訪れる人物は限られている。ましてや、ここは50階層だ。単身でここまで下りて来たのなら相手は相当の手練れである。

 悠然とした足取りで階段を下りて来たのは見知った女性であった、彼女はレディーススーツの上に職員用の上着を羽織った格好だ。その片手には訓練用の木刀が握られている。

 その人物こそ、全校生徒たちが鬼だの悪魔だのと恐れる学園最強の騎神。

 理事長秘書にしてその愛バ、教職員のリーダー的存在にして生徒指導教官。

 そして、私たちの操者である、マサキさんの実姉!!

 

「「「「ぎゃー!たづなさん!」」」」

「はい、どうも。ぎゃーって何よ?相変わらず失礼ね」

 

 「出たな小姑!!」と言ってしまうと一刀両断されてしまうので我慢します!

 軽く手を挙げて応えるたづなさんは、気だるい感じを隠そうともせずに近づいて来た。

 

「なんか焦げ臭くない?」

「焦げたのです。このバカがやらかして焦げたのです」

「えへへ」

「何があったか知らないけど、全員無事ならいいわ。ここのボスは?」

「片付けは終わってる。たづなさんの出番はないよ」

「ふーん。やるじゃない」

 

 教職員なので一応、私たちにケガが無いかは心配してくれたようだ。

 たづなさんも無傷で何よりです。

 ちょっとお顔に疲れが見えている気がするのですが、何かあったのでしょうか?

 

「どうしてこちらへ?マサキさんは」

「会議が長引いちゃってるのよ。私は飽きたから一足先に抜けて来たわ」

「サボってんじゃん」

「もう、めんどくさいのよ~。桐生院(きりゅういん)教官がマサキに突っかかる、マサキが天然でアホな返答をする、桐生院ヒートアップでグダグダの流れが無限ループ」

「うわ、マサキさん大丈夫かな」

「他人事みたいに、あんたたちが学園でイチャコラするから風紀がどうのこうのと‥‥‥はぁ~」

 

 桐生院……あの女、マジで厄介になって来たな。

 マサキさんが赴任して来る前からウザかったけど。まだ私たちを諦めてないのか?

 そのせいで、マサキさんにご迷惑をおかけするとは。そいつはめちゃ許せんよなあ!!

 

「焼く?」

「埋めますか?」

「海に沈めるに一票!」

「動物や虫に食わせる手もアリです」

「こいつら、もう死体の処理方法を相談し始めたわ。桐生院教官の処刑は決定事項なのね」

 

 操者を害する者は速やかに処理する、愛バとして至極当然のことですが、何か?

 

「気持ちはわかるけど止めておきなさい。あんたたちが事件を起こしたら、マサキが管理責任を問われることになるのよ」

「わかってますよ。でも、脳内で(なぶ)り殺しにするのは止められません」

「それ私もよくやってるw」

「ともかく!勝手な判断で操者に迷惑かけんじゃないわよ」

「「「「うへぁーっス」」」」

「何その返事?了解したのそれとも拒否したの!?ちゃんと『はい』と言いなさいよ」

 

 「私だって我慢してんのよ」と言いながらため息をつくたづなさん。

 ブラコンの姉が我慢しているから、私たちにもそうしろとのお達しです。

 桐生院には非常に腹が立ちますが、マサキさんに迷惑をかけるのは我々の本意ではないので堪えることにします。

 この中の誰かがマジギレする前に大人しくなってもらいたいです。

 

 さて、たづなさんの用件は私たちに釘を刺すことだけでしょうか?

 終わったのなら早くお帰りください。

 

「じゃあ始めるわよ」

 

 たづなさんは手にしていた木刀の切っ先を私たちに向ける。

 

「来なさい、稽古をつけてあげるわ」

 

 ‥‥‥嫌ですけど。

 

「帰りにゲーセン寄っていいですか?」

「いいけど、やりすぎないでよ。景品の乱獲でまた出禁になってもしらないから」

「夕飯のお買い物をしないと。えーと、今日の特売品は何かしら」ゴソゴソ

「そのチラシ見せて、あ、このカップ麺は箱買いだよ」

 

 愛バ4人の気持ちは一つになった。逃げる一択です。

 マサキさんも来られないようですし、帰りましょう~。

 なんか怖い人が睨んでますけど、気にせず帰りましょう。

 

「あら残念。私に『参った』と言わせることができたら、コレをあげたのに」

 

 上着の懐から何かを取り出すたづなさん。クーポン券?

 はっ!そ、それは!

 

「福引で当てた"温泉旅館ペア宿泊券"よ。要らないなら、私がマサキと行って来るわね。楽しみだわ~」

「「「「待ってください!!」」」」

「何よ?姉弟水入らずの旅行を邪魔しないでくれる」

 

 階段へ(きびす)を返すたづなさんを引き留める。逃がさない一択です。

 

 温泉旅館、それは強い絆で結ばれた人をウマ娘が辿り着く最果ての楽園。

 ここにペアで泊まるということは、つまり‥‥‥

 『私たち付き合ってますけど?何なら結婚秒読みですけど!』と公然に宣言すると同義!!

 ウマ娘恋愛指南書にも書いてある『温泉旅館にゴールしたら勝ち確定!!』だと。

 い、行きたい!マサキさんと温泉旅館、是が非でも行きたい!!

 

「目の色変えちゃって、やる気になったよう‥‥‥っ!いきなりかい!!」

 

 即行でバスカーモードに入る!構える間も与えずに全員で一斉に襲い掛かる。

 危険な餌をチラつかせた、たづなさんが悪いのですよ。

 

「勝負して頂きます!」

「そのチケットを寄越せぇ―――!!」

「温泉温泉温泉!マサキさんと温泉でうへへへ、うへへへへっへ」

「皆わかってるのかな。たづなさん倒した後に私たちの争奪戦が始まるってこと」

 

 そんなことはわかっとるわい!

 だが、まずは一番厄介な小姑を全員で倒すのですよ!

 

 こうしてたづなさんとの稽古という名の戦いが始まったのです。

 

 ●

 

 木刀を振るいマサキの愛バたちを退ける。

 これで三人目、敗者たちは情けなく床に倒れ伏して‥何故か三人のアホが積み上がっていた。

 

「ま、参りました」

「無理、コレ無理~」

「し、尻がぁ、お尻が痛いよーーー!」」

 

 目を回すアルダンを下敷きにして、キタとダイヤが重なるように倒れている。

 キタは強打された頭を抱え、ダイヤは力いっぱいぶたれた尻を擦りながら悶絶している。

 

「酷いよたづなさん!アルとクロちゃんはともかく、シロちゃんのお尻に木刀ケツバット連打するなんて!」

 

 まだ立っているファインが抗議の声を上げる。

 

「あの触手、尻をぶっ叩いたら消えないかな~と思って」

尻がぁぁぁぁぁ、割れた絶対割れた三つ?四つ?五つに割れたぁ!」

 

 やかましい叫び声を出し、尻を押さえているウマ娘がいる。

 アレがサトノ家の至宝と言われた次期頭首?マサキはどうしてこんなアホを好きになったのかしら?

 

「あなたが最後の一人だけど、どうする?降参してもいいけど」

「勝ち目は薄いけど、まだやれるよ。ここからは私もコレを使ってみるね」

「木刀?」

「そう、ただの木刀」

 

 いつの間にか、ファインが木刀を握っている。

 へぇ、この私と剣で勝負しようっての?その意気やよし!

 ファインは得物の感触を確かめるように木刀をブンブンと振って見せる。

 その動きは全くと言っていいほど褒められたものではない。

 

 (何アレ?ド素人もいいところじゃないの)

 

 玩具の剣を与えられた子供がはしゃいでいるようにしか見えない。

 一体何がしたいのかサッパリわからない。

 ふと、ファインの持つ木刀の柄に彫られた『○○映画村』という文字が見て取れた。

 修学旅行でイキった中学生のお土産か!!

 

 ふざけている、本当にふざけているが、マサキの愛バたちの戦闘力は本物だ。

 今、床で伸びている三人も斬艦刀を持って来なかったのを後悔するぐらいには強かった。

 呼吸を整え、顔には出さないようにしているけど思ったよりも消耗させられてしまっている。

 

 (これでマサキから『力を抑えるように』と命令されているのよね)

 

 バカだけど、並大抵の騎神では相手にすらならないだろう。バカだけど。

 

「うん大体わかった。準備おっけー」

 

 ファインの準備が整ったようだ。適当に木刀を振っていたのが準備ねえ。

 

「改めて、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いするわ」

 

 互いに一礼して向かい合う。

 私は中断に構えたが、ファインは特に構えることもせず木刀はだらんと横に下げたままだ。

 それでどうする?

 何かあるなら、弟の愛バを名乗る気があるなら、それを証明してみせなさい。

 

 (でないと、こっちが一気に決め…っっ!??)

 

 ファインは一歩、二歩、と進んでからの三歩目の足運びで急激な加速を行った。

 床が砕けるような踏み込みと、そこから生まれる速度による高速の突きを放って来たのだ。

 眉間狙い、こちらを一撃で仕留めるための技。

 辛くも(さば)き切れたのは、幼少期からの実戦経験と本能による機器察知が働いたからだ。

 それが無ければ、今ので終わっていた。私が秒殺されたという結果を持って‥‥

 

 想定していない訳ではなかった、ここまで倒した三人も、気を抜けば即座にやられるような技を幾度も繰り出して来たから、彼女も何かやって来るだろうと思っていたはずだった。

 

 (だけど油断した)

 

 あの安っぽい木刀と素人丸出しの振りを見て『こいつにやられるわけがない』と剣の道を歩んだ私は油断した!油断させられた!

 

「あれ?上手くいかないなあ。一回しか出せなかった」

 

 まさか、三段突きを再現しようとしたの?

 首を傾げながら呟くファイン、私の木刀と打ち合いながら『こう?こんな感じ?』と誰かに向かってブツブツ言っている。不気味だ。

 

「っ!なめないで」

 

 前に出る!ちょっと本気出す!一瞬でも驚愕させられたのがムカつく!

 

「わわっ、ちょ!いぃ!?」

 

 攻めに転じた私の剣を受けきるのが精一杯のファイン、冷汗を垂らしながら必死で木刀を振い防戦する。

 受けきっている?そう、それがおかしいのよ。

 さっきまでは完全に素人だったのに、それがなぜ?

 

 (私と対等に切り結べるなんて、ね)

 

 圧倒的な実力差があるならば勝負は既に終わっている。

 だが、両者は未だ健在。それどころか‥‥‥

 

 (気のせいじゃない。この子、だんだん上手く強くなってる)

 

 信じられない急成長"イキり中学生"が"それなりの侍"にジョブチェンジした?何が起こっている?

 わからない、わからないけど、この子は面白い!!

 

「師匠は誰?」

「この木刀かな」

「真面目に答えなさいよ」

「真面目に答えたんだけどなあ」

 

 最早、剣豪の域に達した剣技を繰り出すファイン、防戦一方だったのが私を追い込むための動きに変わる。

 うーん、稽古なのが実に惜しい、真剣で斬り合ったらさぞ楽しいことだろう。

 口の端が笑みの形につり上がるの感じる。いけない、剣同士で戦うのが久しぶりでセイバーの血が騒いじゃったわ。

 これは稽古なんだから自分の楽しみを優先させてはダメだ。この子の特性を見極めて伸ばしてやらないとね。

 師匠も私を指導するに当たって、いろいろ考えてくれていたのだろうか?自分で言うのもアレだが、私はかなりの問題児だったから苦労させたと思う。

 そういえば最近、連絡をとっていない。ボケていなければいいが。

 

「ココさん、凄いです。やればできるウマだったのですね」

「時代劇好きの私にはわかる。これはよき殺陣(たて)であると!二人ともかっけぇーーー!」

「どうか仇を、私の尻の仇をとってください!やっちまえーーー!」

 

 復活した外野がうるさい。

 しこたまボコってやったのに、驚異的な回復スピードだこと。

 

 木刀での攻防は続く。

 剣の腕はこんなもんか。やるわね、本当に凄く上手く使えていると思う。

 でも、私には届かない。だって、この子には剣士として戦った経験値が全く足りていないから!

 

 (何らかの能力によって、一時的に剣の腕を上げたって感じね)

 

 付け焼き刃にしては上等だけど、それでいつまで持つのかしら?

 

「これはどう」

「きっっつい!」

 

 力を入れた横薙ぎを叩きつける。受け止めたファインは後退を余儀なくされる。

 パワー勝負になってしまえばこちらが有利だ。

 しっかり覇気を込めていないと木刀自体が砕けちってしまう。そんな一撃を連続で繰り出していく。

 ファインの握る木刀が(きし)み悲鳴を上げる。ここまでか‥‥‥

 

「まだだよ!」

 

 嘘っ、右からの攻撃!?

 この子は確か左手に木刀を持っていたはず‥‥‥持っているわね、両手に!?

 相手は何故か二刀流になってる!

 もう一本はどこから?外野の連中が投げて寄越したのか?それとも、この部屋の何処かに隠していた?

 何をしたにしても、それは私が見逃す程の一瞬で行われた。妙な手品を使えるようね。

 

「二刀流、ロマンですよね。巌流島の決闘みたいです」

「宮本武蔵ってさあ、不意打ち騙し討ちのプロだったんだよ。正々堂々と勝負した方が少ないの」

「三刀流!三刀流をやってください!刀を口に咥えるんですよ」

 

 外野が好き勝手にコメントしている。三刀流は真似したらダメ!アレはゾロがやるからカッコイイの。

 

 即席の二刀流にしては鋭い太刀筋を見舞って来るファインの動きは更に速くなる。

 その全てに対応してみせるたづなの腕も大したものだ。

 両者の距離がやや開いた時にファインは不可思議な行動をとる。

 両手の木刀をたづなに向けて投げつけたのだ。

 

「そぉーれっ」

「武器を捨てる?勝負も捨てたってこと」

 

 回転しながら弧を描いて飛ぶ二刀を弾き、前に出るたづな。

 手ぶらで無防備なところに一撃を食らわせてチェックメイトだ!

 ガキンッと硬質な音が響く。覇気を込めた木刀同士がぶつかり木製の得物から金属音に似た響きが生まれたのだ。

 

「ふぃー、間に合ったあ」

「だから…何でまた」

「あはw今イラッとしたでしょww」(*´▽`*)

「ええ、その通りよ!!」(゚Д゚)ノ

 

 弾いた二刀が床に転がっているのを確認。ファインが新たな二刀を持って戦闘を続行しているのも確認。

 今度はちゃんと見たぞ。私の目はバッチリと手品を目撃した。

 

 何もない空間から木刀を引き抜く瞬間を見たぞ!!

 

 この子は隠していた、いや、最初から持っていた。

 見えない収納スペースを最初から持っていた!!

 

「アイテムボックスか!」

「私は(くら)って呼んでるよ」

 

 アイテムボックス、四次元ポケット、王の財宝(ゲートオブバビロン)、言い方は人それぞれだけど。

 本人にしか知覚できない空間に物品を入れ保管し持ち歩くことができる、超便利能力が存在する。

 目の前の相手はその力を持っており、見事に使いこなしている。

 

 (希少能力持ち(レアスキルホルダー)だったのね)

 

 覇気をより高度かつ柔軟に使用する者が起こす超常現象、それがスキル!

 身体能力を向上させ自然治癒力をあげる基本的なものに始まり、対象から姿を隠す『隠形術』、離れた場所に移動できる『転移術』、覇気を使った歩法による『超加速(加速技)』、自己や他者の傷を治す『治療術(ヒーリング)』等がある。

 

 その中でも特に希少なものがレアスキル。

 扱える者自体が少ない上にどれも強力無比であり、一つ持っているだけでも羨望と嫉妬の対象だ。

 

 天級騎神やそこのドスケベが使う『属性覇気』

 マサキやアホの愛バどもが使う『覇気結晶術(オルゴンアーツ)

 マサキが使う『エナジードレイン』

 マサキがよくやる『どんな相手にも会わせてリンク可能な特質』

 マサキが生み出す『無尽蔵とも思える桁違いの超出力覇気』

 マサキが………

 

 やだ!私の弟、レアスキル持ち過ぎぃ!

 さすが私の弟!もう存在がウルトラシークレットレアよ。

 これは、お姉ちゃんが大切に保護しないと!

 

「マサキの保護もお世話も、私の仕事だから安心してね♪」

「だったら、弟を任せられるぐらいの強さを証明してみなさい!」

「うわっ!」

 

 ファインの持つ二振りの木刀を砕く。

 破片が飛び散る最中、残った柄から手を離したファイン。

 直後、手元付近の空間に発生する歪み。そこから新たな武器が現れる。

 一秒の半分にも満たない時で新たな木刀が両手にセットされる。

 5、6本目が出て来た。

 

 (何本持っているのよ)

 

「ボックスの容量はどの位?」

「あはは、教える訳ないよ」

「でしょう、ね!」

「あー、手が痺れて来たぁ」

 

 メジロ家の教導隊にいた頃、私はボックス持ちに会ったことがある。

 私より2、3年上だったが可愛らしい感じの雰囲気を纏った、女性隊員の部下だった。

 

 彼女は戦闘は不得手だったが、情報分析能力に優れており、作ってくれるご飯も大変美味しかった。

 ある日、上層部のバカが作戦のミスをやらかした。そのせいで、私の部隊が敵地に取り残される事態が起こった。

 絶望的な状況で焦燥していく隊員たちをよそに、彼女は戦場のど真ん中で『アイス食べます?』と笑いながら言って、雪見だいふくを渡して来たのだ。

 『全員分持ってますから、遠慮せずに食べてください』そう言ってアイスを配る彼女によって皆の緊張が解れ冷静になれたのだ。マジで頭が冷えた。

 アイスは溶けておらずしっかり冷えていた、味わって食べた、美味すぎて泣いた。

 敵の攻撃で一個落とした、三秒ルールなので拾って食べた、ムカついたので敵は皆殺しにした。

 あの時の私はアイスで回復し、部隊のみんなと無事に生きて帰れたのだ。

 

 基地に帰還した後、アイスを何処にしまっていたのか聞いてみた。

 彼女は『私、これでメジロ家入りしたんです』と一芸入隊だった事を教えてくた。

 その後、空中から菓子パンを出し入れする瞬間をじっくり見せてくれた。主に食べ物を入れているらしい。

 いいなぁ、不思議だなぁ、便利だなぁと思ったことを覚えている。

 

 アイテムボックスを使える者はメジロ家の部隊員でも僅か数人ほどだった。

 その容量は人それぞれ、一番優れているとされた彼女でもボストンバッグ程度のものだったはず。

 

 だったら、この子は何?

 木刀を数本収納している時点て大分おかしいのだけど。縦長の箱、衣装ケース位かしら?

 取り出す時間も異様に早い、よく目を凝らしてないとわからない早さだ。

 私の知っている彼女は『うんしょ、よいしょ』言いながら数十秒まさぐって、ようやく一品出して来たのに。

 

「10本目っ!」

 

 思い出と思考に浸りながらも戦闘は続いていた。今、10本目の木刀を破壊したところだ。

 

「まだあるよ~。たづなさん、いい加減、疲れて来たんじゃない?」

「それはあなたの方でしょ?腕、プルプルしてるわよ」

「わかってるなら空気読んで勝ちを譲ってちょーだいな、マサキと温泉行きたいの!」

「絶対嫌」

「クソ小姑(こじゅうとめ)

「死なす」

「死なないよ、生き残って姉の所業をマサキに訴えてやる!『愛バをいじめる姉さんは嫌いだ』って言われちゃえ!」

「それは、マジでやめて」

 

 余計な事を言えば本当にその口を塞ぐわよ?

 11本目と12本目の木刀を出して来た。持ちすぎ!というか、映画村で木刀買い過ぎ!通販でも多いわよ!

 まさか、無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)なんてことはないだろうな。いやいや、アレはコピーだから違うな。

 考えるな、相手が嫌になるまで全部壊してやればいい。という訳で武器破壊に徹してみることにする。

 

「飽きた」

「飽きました」

「長いですね。小腹が空いてしまいます」

 

 外野連中は寝転がってヤジを飛ばすのにも飽きてしまったようだ。ウゼー!

 

「ねえココ、何かお菓子持ってないのーー!!」

「今、必死に戦っている私にかける言葉がそれかぁぁ!?」

「アレは持ってますね。何でもいいから投げてください」

「もう、うるさーい!コレでも食ってろ!」

 

 ファインがボックスから取り出した何かをアホどもに投げつけた。

 致命的な隙が生まれたが、かわいそうなので目を瞑ってやる。

 キャッチした物を見るアホどもの顔が曇っていく。

 

「‥‥‥サバ缶」

「ガッカリです」

「タンパク質にDHAとEPAも豊富なんですよ。お料理にもいろりろ使えます」

 

 文句を言ってる割には食べ始めるアホども。手づかみ!?行儀悪い!!

 一番ガッカリしていた奴は汁までしっかり飲み干していた。

 食べたら食べたでこちらに背を向け寝転がるアホどもはサッサと寝る体勢に入ってしまった。

 ファインを応援する気は毛頭ないようだ。

 

「いい仲間ねw」

「嫌味か貴様!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 木刀の残骸で山ができ始めた頃、勝敗は決した。

 

「はぁ…はぁ…まだやれ‥‥‥ん?」

 

 ファインの動きが止まる。手で何かを掴もうとして、諦めた。

 

「在庫切れだ‥‥‥降参します」

 

 ペコリと頭を下げ、アッサリ負けを認める。

 

「いいの?他の武器は?」

「木刀で勝負するって決めていたから、全部壊された時点で私の負け」

「そう、じゃあお終いってことで」

「ご指導ありがとうございました」

「はいはい」

 

 浮かんだ汗を拭い「疲れたもぉぉん~」と叫びながら寝ている愛バの群れに突撃ダイブするファイン。

 「ぐぇぇ」と潰されたアホの声が聞こえるが、楽しそうなので放っておく。

 マサキを取り合ってケンカばかりの関係かと思ったけど、仲いいんじゃない。

 

 ひび割れた自身の木刀を見る。

 訓練用とはいえ、使い手の覇気に耐えうる処理が施された特注の木刀が壊れかけている。

 私自身の覇気とファインとの度重なる打ち合いで限界間地かだったのだろう。降参してくれたのは正直ありがたかった。

 

 (あの子は何の処理もされていない、お土産品で対抗したってのにね)

 

 あの安っぽい木刀が壊れないギリギリの覇気を微調整しながらずっと戦っていた。そのことに戦慄を覚える。

 どれほど技量だというのか、それともそういうスキルなのか?

 

 木刀の在庫が切れたと言ったが、他の品が無いとは言っていない。

 木片の残骸を見る。ざっと50本はあ破壊したはずだ‥‥教えてはくれなかったが、バカでかい容量を持っているはわかった。

 

「なるほど、それで庫か」

 

 箱ではない庫だ。

 あのウマ娘は手ぶらに見えて、常に大量の物品を運んでいる。

 その中に収めているは果たして刀剣類だけだろうか?どちらにしろ、厄介な相手だと思う。

 

「温泉旅館がぁ~マサキさんとの素敵な一夜がぁ~」

「残念無念!でもでも、いつか絶対行くんだ!」

「そうですとも。宿泊券なんて必要ありません、自腹で行けばいいんですよ!」

「今の内からいいお宿を見つけておかなくっちゃ。検索検索」

 

 あらあら、キャッハウフフしちゃって、若いわね~。

 こういうことを思ってる時点で、私も年を取ったと感じる。ショック!

 

「ちょっといいかしら」

「宿泊券を譲ってくれる気になったの?」

「それはない。ファイン、あなた真面目に剣を学ぶつもりはある?」

「うーん。今は考えてないかな」

「そう、一応これを渡しておくわ」

 

 ファインに紙の手書きのメモを渡す。

 彼女は困惑しながらも受け取ってくれた。

 

「住所と電話番号?誰の?」

「私に剣を教えてくれた師匠の連絡先よ。どうせ暇しているだろうから、気が向いたら連絡してあげて」

「気が向かなかったら?」

「そのメモは破り捨ててくれていいわ?どうするかは任せる」

「たづなさんの師匠?どんな方なのでしょう」

「リシュウって名前のジジイよ」

「リシュウ…リシュウ・トウゴウのことですか!!」

 

 アホが食いついて来た。確かに私の師匠はリシュウ・トウゴウと言うハッスルジジイだが。

 

「知っているのかシロ?」

「"剣聖"リシュウ・トウゴウを知らない方がどうかしてますよ!示現流(じげんりゅう)の師範にして数々の名刀を生み出した刀鍛冶、テスラ研の技術顧問としてグルンガストシリーズの剣撃モーションパターンの作成やシシオウブレード、斬艦刀の開発もしたお方なのです、大ファンです!」

 

 よかったわねジジイ。サトノのお嬢様がファンですって。

 

「あー、思い出した。シロの部屋に飾ってある刀を作った人だ」

「シシオウのレプリカですけどね。観賞用として5歳の誕生日に父におねだりした宝物ですよ」

「まあ!5歳で観賞用の刀を?シロさんは芸術にも造詣(ぞうけい)が深いのですね」

「波紋がとにかく美しいのが特徴で、柄の飾りもすごく凝ってまして」

 

 アホが語り出した。5歳で刀ってヤバ…‥‥あれ?私も確かそれぐらいから振っていたような。

 このアホと違って、私の刀は実戦用で何度もぶっ壊したけどね。

 

「気が向いたらでいいから、ホント無理しないでいいから、ただのジジイだから!」

「そんなに言われたら気になるよ!剣聖と呼ばれるお爺様ねえ。まあ、行けたら行ってみるよ」

「それ、絶対行かないやつww」

 

 職員会議は予想以上に長引いたようで、結局マサキが旧校舎に現れることはなかった。

 たづなは愛バたちと連れ立って地上に戻ることにする。

 転送陣を使えば1階まであっという間なのだが、修練を兼ねてザコを蹴散らしながら戻ることにした。

 

 たづなはザコの掃討には手を出さない。

 元気が有り余っている愛バの背中を見ながら、今日の稽古で解ったことを思案する。

 

 メジロアルダン   【不安定なパワーゴリラ】

 

 キタサンブラック  【威勢だけはいい戦闘狂】

 

 サトノダイヤモンド 【変なの】

 

 ファインモーション 【"庫" と"技量を上げる謎スキル"持ち】

 

 大分端折ったが総評としてはこんな感じだ。

 

 (全員まだ何か隠している。今はよくわからないわね)

 

 アホでも変でも、強いなら何でもいい。

 弟を守ってくれる存在は大いに越したことはない。

 

「強くなりなさいよ」

 

 声をかけるつもりはなかったが、呟きは愛バたち全員の耳に届いた。

 

「どうした急に?」

「あんたたちにはマサキを死んでも守ってもらう必要がある。剣となり楯となり、その命が尽きるまで操者の敵を滅ぼし続けるの。それができないなら、今すぐ愛バをやめなさい」

 

 思いを込めた覇気を愛バたちへと飛ばす。

 幸い、目を逸らすようなヘタレはいなかった。それどころがガンを飛ばし返してくる。

 

「今更すぎてウケるw」

「覚悟はとっくにできております」

「当然のことをドヤ顔で言われてもねぇ」

「マサキさんは私たちの命です。命を守るためなら、どんな無茶無理無謀もやってのけますよ?」

 

 いい顔、そしていい答えだ。

 

「ほんのちょっぴりだけど、認めてあげるわ」

「「「「ちょっぴりですかい!!」」」」

 

 根拠はないが、この愛バたちならきっと大丈夫だと思う。

 でも、まだ弟を盗られるのは嫌なんだよなあ~。

 やれやれ、娘の結婚を反対する頑固おやじの気持ちがわかったわ。

 

 そうだ、温泉旅館宿泊券は師匠にプレゼントしよう。

 弟子の粋な計らいで湯治にご招待~‥‥‥あのジジイ、一緒に行く相手がいるのかしら?

 



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レッツスイミング

 最近、愛バたちと姉さんの関係が改善されているように感じる。

 学園の廊下ですれ違うだけでも威嚇し合っていた以前とは異なり、立ち止まって会話をしているところをよく見かけるようになった。

 報告によると姉さんと愛バたちは休日にショッピングに出かけたり、ランチをご一緒したりする程度には仲良くなっているらしい。

 操者としても弟としても大変喜ばしいことだと思います。

 そう、とてもいいことのはずなのに……ちょっとジェラシー感じちゃうの!!

 

「みんなが姉さんと仲良くなってくれて嬉しい。でも、なんだかちょっと寂しい」

 

 本人たちの前で素直な気持ちを吐露(とろ)したら、愛バにも姉さんにも熱烈な抱擁(ほうよう)をされました。

 それぞれが優しい言葉をかけてくれたのが嬉しすぎて、(むせ)び泣いたわ。

 要約すると『寂しがることなんかない、何があってもあなたは大切な人』なんですと。

 

 俺は本当に幸せ者だ。

 彼女たちの恥ずかしくない自分でいられるよう、俺も頑張る。

 

 ●

 

 早朝、マサキの住居前に愛バたちが集合していた。

 

「では、行って参ります」

「頑張って来るから、期待しててね」

「よーし、大活躍してチームの名声値を上げちゃるぞ」

「帰ったら、たっぷり褒めてください。約束ですよ」

 

 今日は特別な学外クエストがある日だ。

 学園から遠く離れた場所で行われるため、それに参加する愛バたちは朝から長距離移動をしなくてはならない。

 今俺はクエストへ向かう愛バたちを、お見送りをしているのである。

 このクエストに参加するのは愛バたち4人のみ!俺は学園での通常業務というお留守番をします!

 

「名残惜しいがここまでだな。くれぐれも気を付けて、行ってらっしゃい!」

「「「「行ってきます!!」」」」

 

 ああ、愛バたちが行ってしまう。

 朝日に照らされる彼女たちのなんと美しいことか!

 う、うう、我慢がまんがまん我慢‥‥…でっきーーーん!!!

 

「待ってーーー!」

 

 歩き出した愛バに追いつき4人まとめて抱きしめる。

 愛バたちも抱きしめ返してくれる。もう、揉みくちゃのおしくらまんじゅうですよ。

 

「マサキさん、心配し過ぎですよ」

「離れても心は繋がってます」

「寂しいのはお互い様、ちゃんと帰って来るから」

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

 うん、うん、わかってる、わかっているんだ。

 お前たちのことは心から信頼している。それでも、心配なんだ。

 

「"ワンフォール・オールフォーワン"の精神を忘れるな、全員で協力すればお前たちは無敵だ」

 

 えーと何か他に言う事はないか、あーでもない、こうでもない。

 

「忘れ物は無いな?ケンカしちゃダメだぞ、他の皆様に迷惑かけないように、ケガには十分注意して、危なくなったら休んで隠れてすぐに逃げろ、無理は禁物、いのちだいじに」

 

 お見送りの儀は長引いていた。

 既に一人づつハグをして頭を撫でてマーキングされて『行ってきます』の後に堪らんようになって揉みくちゃ!の流れを繰り返している。

 これが3回目の揉みくちゃである。

 

「うわっと!あ、アンタたちまだやっていたの?」

「リューネか、今いい所だから邪魔しないで!」

 

 大家のリューネが様子を見に来た。

 一向に出発しない愛バたちとそれを引き留める俺にドン引きして呆れ顔をしている。

 ほっといてくれます?

 

「もう早くしなよ。集合時間に遅れてもいいの?」

 

 リューネの言う通りだ。これじゃあ、余裕をもって早起きした意味がなくなる。

 

「マサキさん、そろそろ行かないと」

「ああ、ごめんな。何度も引き留めて」

「マサキさんの気持ち、すっごく嬉しいよ。だから気にしないで」

 

 4人から体を離す。愛バたちの温もりから離れると途端に寂しくなる。

 耐えろ俺!今日中に帰って来るのだから全然我慢できるぞ、できるもん!

 

「ぐぐぐ、い、行ってくれ、俺の寂しんぼメーターがリミットを迎える前に」

「マサキさん!あんなに辛そうに」

「みんな行くよ!マサキが食いしばっている内に行かなくちゃ!」

「後ろ髪を引かれるとは正にこの事!動け、動け、私の足!」

「絶対帰って来るから!待っててマサキさん!」

 

 ぐおお、封印が持たない!?俺の心に住む別人格"サビシガリータ"が復活しそうだ。

 

「さあ行くんだ!行けぇぇーーー!!俺の愛バたちよぉーーーー!!」

「「「「今度こそ、行ってきます!!」」」

 

 4人は元気に駆け出して行く、その背はあっという間に小さくなっていった。

 それでいい、お前たちは振り返ることなく、ただ前だけを見て走っていくんだ。輝かしい未来に向かってな。

 はい、クサさ最高潮!

 

 お見送りの儀 完!!

 

「終わった?」

「終わったよ。朝からお騒がせしたな」

「ホントにねww」

 

 残された俺はリューネと一緒に眩しい朝日を見つめる。太陽さん今日も照らしてくれてサンキュー。

 やれやれ、自分のせいで朝からドタバタしちゃったわ。

 

「朝ごはん食べた?」

「まだ。何、マサキがご馳走してくれんの?」

「残り物でよければ」

「全然いいよ、ゴチになります。あのマサキがねぇ、料理するようになったかw」

「あんま期待すんなよ。愛バたちの手料理に比べたら酷いもんだ」

「フフ、謙遜しなさんな。どれ、幼馴染としてがマサキの男飯を批評してあげよう」

「お手柔らかに」

 

 リューネを部屋に招いてブレックファーストと洒落込む。

 金髪巨乳の幼馴染に俺の男飯は概ね好評だった。この女、朝からメッチャ食うなww

 

 〇

 

 職員室、マサキは隣席のミオと雑談しながら業務日報を(まと)めていた。デスクワーク多いよ!

 

「ふーん。じゃあ今リンクも切っちゃってるんだ?」

「そうなんだよ。愛バたちが言うには、リンクアウトした状態で何処までやれるか検証したいんだと」

「まあ、常時接続なんて普通はありえないからね。素の状態の自力を把握しておくことも大事だよ」

 

 リンクアウト、覇気循環を停止した状態で愛バたちを送り出した。

 今日はそれでクエストをこなして来るのが目的だ。だから余計に心配なのよね。

 リンクした状態がノーマルだったので、急に繋がりが無くなると喪失感が半端ない。

 

「大丈夫かな。道に迷ったり、お腹が空いて辛い思いをしていないかな?」

「子供じゃないんだから、心配性だなあ」

「あいつら、体の発育はご立派だが子供だぞ。大人が子供を心配するのは普通だ」

「子供に手を出す大人は異常だけどね」

「うるせー、相思相愛だからいいんですー。それぞれの親御さんも了解済みですー」

 

 愛バたちは年相応に子供っぽい可愛いところと、しっかりした大人として振る舞える美しさを兼ね備えている。本当にいい女たちなんだぞと、惚気てやるぜ。

 『はいはい、よかったね~』とミオには軽くあしらわれた。悲しい。

 

「マサキ、ちょっといいか?」

「あ、ゲンさん」

「ゲンちゃん、いたんだ」

「ずっとな」

 

 もうゲンさんったら、いたのなら遠慮せずに声をかけてくれていいのに。

 俺とミオが楽しそうに会話していたため、今まで話しかけるタイミングを逃していたようだ。

 気が付かなくてごめんね。

 

 【ゲンナジー・I・コズイレフ】

 

 良いガタイ、濃い顔付きと印象に残りやすい見た目とは裏腹に無口で存在感がないムキムキマッチョの先輩教官だ。

 肉体と同じく強靭な覇気の持ち主であり、腕っ節はかなり強い。

 口数は少ないが情に厚く生徒思い、授業や修練中には熱血コーチと化す。

 元水泳のオリンピック金メダリストという経歴を持ち、見た目に反して絵画や文学に詳しい芸術家肌な一面を持っている。

 

 俺は親しみを込めて"ゲンさん"と呼ばせてもらっている。

 ミオや生徒たちからは"ゲンちゃん"という愛称で通っている。

 本人は『ちゃん付け』に照れながらも満更ではない様子。

 こう見えて、学園人気教官ランキング上位勢のゲンさんであった。

 

「どうしたのゲンさん、誰かケガでもした?」

「違う。お前に頼みごとがある」

「いいよ。俺とゲンさんの仲じゃん、何でも言って」

「……マサキ////」ポッ

「ゲンさん////」(´∀`*)ポッ

「ちょっと!私を挟んで変な空気作らないでよ。二人とも頬を染めるな!気色悪い!」

 

 ミオが嫉妬して騒ぎ出した。┐(´∀`)┌ヤレヤレ

 君には俺とゲンさんの絆が不純なものに見えるらしいね、愚かなこと。

 

「今日の午後から水練(すいれん)の特別授業があるのだが、教官としてマサキも参加しれくれないか?」

「え、水練ってことは水中に入るんだよね。水練ねえ……水泳かあ」

 

 力になってあげたいのは山々だけど、水泳だと俺は邪魔にしかならないと思う。

 

「これでも元アスリートだ、お前の事情はわかっている。その上で頼みたい」

「マサキ、ゲンちゃんのお願い聞いてあげれば?医務室に(こも)っているのも退屈でしょ」

 

 それもそうか、うん、何事もチャレンジだ!

 

「そこまで言うなら参加させてもらうよ。ただ、俺は本当に役立たずだけど」

「構わない。お前が参加することに意義がある」

 

 ゲンさんの意図は不明だが、引き受けたからにはしっかりやろう。

 

 〇

 

 午後、屋内プールには水練に参加する生徒たちが集まっていた。

 通常授業とは違い自由参加なので、中等部と高等部の生徒が入り混じっている。

 全員が学園指定の水着を着ているので体のラインがハッキリと見て取れる。スクール水着ですよ!ひゃっほう!

 

「時間だ。これより水練を始める、皆揃っているな?」

 

 筋骨隆々とした肉体美を惜しげもなく晒したゲンナジーは集った生徒たちを見渡す。

 生徒たちから「はい!問題ありません」と元気な返答をもらって頷く、遅刻や欠席した者はいないようだ。

 

「今日は俺の他にもゲスト教官を呼んでいる。皆、知っているだろうが挨拶を頼む」

「ヤンロンだ。この講習を有意義な時間としたい、共に切磋琢磨しよう」

「「「「キャーッ!ヤンロン教官ーーー!!」

 

 挨拶をしたヤンロンに『カッコイイ―!』だの『素敵ー!』だの『抱いて!』だの黄色い声援が飛ぶ。

 なんだコイツ?モテモテやないか!!

 

「あらあら、焼けてしまいますね~エル?」

「みんな自重してくだサイ!ヤンロンはワタシとグラスの操者デス!シッシッ!」

 

 エルがプンスコ憤慨(ふんがい)してはしゃぐ生徒たちを牽制(けんせい)している、ヤンロンはちょっと照れながら咳払い。

 いつものやり取りらしく、その様子をグラスはおっとり見守っている。

 男女の操者と愛バはどこも大変なんですね。ものすっごくわかりますよ!

 

「あの、ゲンナジー教官?最初からとても気になっていることがあるのですが?」

「何だ言ってみろ」

「教官の隣にいる、その、フルアーマー潜水士さんはどちら様でしょうか?」

 

 生徒の一人から指摘があり、他の者たちも次々にコメントする。

 

「海猿だ、海猿がいる」

「一人だけダイビングする気じゃん」

「今、地上なのになんで酸素吸っているんですか?」

 

 最初から違和感をまき散らしていた人物はウエットスーツを着込み、酸素ボンベを背負っている。

 潜水マスクを付け、レギュレーターを口に加えているので顔が判断できず、誰なのかわからない。

 足には大きなフィンまで装備しており、ゲンナジーの隣まで歩いている途中に転倒していた。

 誰だかわからないが、バカだ、バカがいる。

 

「こいつは、もう一人のゲスト教官だ」

 

 背中を叩かれた潜水士はマスクとレギュレーターを外し顔を晒す。

 

「俺だ」

「「「「お前だったのか」」」」

 

 はい。みんなご存知のアンドウマサキですよ。

 『やっぱりな』『知ってた』とか言われているけど気にしない。

 

「水練に参加させてもらうことになったアンドウマサキです。よろしくお願いします」

「「「「あ、はい。どうもご丁寧に」」」」

 

 頭を下げ丁寧に挨拶すると、ザワザワしていた生徒たちも呆気に取られたままお辞儀する。

 お世話になる人たちには礼儀を尽くす、これ基本な。

 

「そのふざけた格好はなんだ?」

「別にふざけてませんけど、(いた)って真面目ですけど?」

 

 俺からすればビキニパンツを履いたヤンロンとゲンさんの方がふざけていると思う。

 そんなに「ウホッ!」としてほしいのかい。二人の肉体は生徒たちの目に猛毒でしょう。

 さっきから血走った目でガン見している子もいるんだから‥‥‥なんだ、ベルりん先生でしたか。

 

「ともかくこれは没収だ。こんな物を背負っていては泳ぎの練習にならん」

「やめて!俺のボンベちゃん持って行っちゃダメぇーー」

 

 ヤンロンが手早く俺の酸素ボンベ奪い取った。酷いわ、窒息死したらどう責任とるつもりなの?

 それレンタルだから壊さないでよ。後で返却しないといけないんだから。

 

「その様子ではマサキさん、泳げないのですか?」

「どうやらそうみたい」

「あれ?人型の妖機人相手に水中戦をしていたはずデスが」

「あの時は無我夢中でな、長期戦になっていたら確実に溺れていたぞ」

「思いのほか危機的状況だったのですね」

「勝てて良かったデス」

 

 酸素ボンベを没収されて膝をつく俺を心配したのか、グラスとエルが話しかけて来た。

 操者は手厳しいが、愛バは優しい子なのね。

 

「誰にでも苦手なものはある。大事なのはそれを克服しようと努力し(あらが)う姿勢だ」

「わかった、俺やるよ。やってやるぜい」

「フッ、いい気合だ」

「因みに、ゲンさんの苦手なものは何?」

「ピーマンを食べられない」

「なんかカワイイ!」

 

 ゲンさんに励まされてやる気が復活した。泳げるようになってやろうじゃありませんか。

 

「泳ぎに不安のある者は俺が指導しよう。自信のある者たちはヤンロン教官と強化訓練をするといい」

「「「「はい!」」」」

「俺は?」

「マサキは、そうだな‥‥‥」

 

 〇

 

 水練には初心者から上級者まで様々なレベルの生徒が参加していた。

 俺意外の全員が「シンクロナイズド余裕っス!」じゃなくて本当によかった。

 

 学園の屋内プールは当然設備もバッチリだ。

 競技用の50メートルプールをはじめ、水深5メートルの深いプールに波を再現した流れるプールもある。

 これでウォータースライダーがあれば遊びまくってやるのに、と泳ぎの得意な奴は思うのだろうが、生憎と俺にそんな余裕はない。

 

「離さないでね!絶対離さないでね!」

「大丈夫だってば、私に任せんしゃい☆」

「その『しゃい☆』が胡散(うさん)臭い」

「ほらほら、沈んじゃうぞー。バタ足しっかりやっていこう」

「わ、わかった。エホッ、鼻に水がぁ~‥‥‥ツラい」

「弱音を吐いちゃダメ。ウマドルへの道も一歩からだよ」

「別にウマドルは目指して無いっス」

 

 酸素ボンベだけでなく足ヒレと潜水マスクも没収された俺は、ウエットスーツのみを装備中。

 頭をスッポリ覆っていたものではなく、顔や髪の毛は出せるヤツに着替えて来たぞ。

 

 ゲンさんの采配によって"俺に泳ぎを教える"有志を生徒の中から募ったのだ。

 幸いにも顔見知りが多かった上に『そっちの方が楽しそう』ということで多くの生徒が俺の指導役を買って出てくれた。ありがてぇことですよ。

 そうして今、スマートファルコンに手を引かれながらバタ足奮闘中です。

 

「息継ぎ忘れてる!?息継ぎしてマサキ!」

「プハッ!…はあはあ‥‥‥タイミングを逃…した…」ゼイゼイ

「限界まで我慢しなくていいんだよ。どうする、一旦プールサイドまで戻る?」

「やっと慣れて来たところだ、もう少しお願い」

「ん、了解~。頑張れ少年!」

「わては青年どすえ」

 

 女子に手取足取りされて嬉し恥ずかしの青年マサキです。

 息継ぎはタイミングよく、水を怖がる必要はなし、バタ足は力任せにせず水を掻くように。

 おお、ちょっとイイ感じだ。これも下手くそな俺に辛抱強く教えてくれたみんなのお陰だ。

 今度はバタ足からカエルキックにチェンジ、ゆっくり確実に~。

 

「今日お嬢様たちは遠征クエストだっけ?」

「そうだよ。今頃何してんのかな」

「心配?」

「それなりに」

「お嬢様たちの強さは頭首様も理事長も認めてる。今日だって学園の代表として行ったんだから、心配ないない」

 

 そうだな。愛バのことは俺が一番に信じてやらないでどうするよ。

 俺だってやってやる。

 

「ファル子、手を離してみてくれ」

「いいの?エルちゃんたちが離した時は秒で溺れたのに」

「いいんだ、やってくれ」

「決意は固いみたいだね。わかったよ、ここ深いから気を付けて。いくよ、せーの……しゃい☆」

「シャイ★」

 

 ファル子が手を離す。頼みの綱を失った不安と喪失感に襲われるが問題ない。

 愛バたちを思えば、俺はどんな状況でも勇気100倍だ。

 大体ですね、人間はじっとしていれば浮かぶように出来ているんですよ。

 ここは慌てず騒がずゆったりと水に身を任せていれば、ほら‥‥‥

 

「ガボガボゴボ…ゴボッッ!?」

 

 あるれぇ~俺はどーして沈んでいるのかなぁ。

 そうか、そうだったのか、普通の人間は浮くけど、俺は浮かばない少数派の人間だったのだ。

 多数派には属さないクールな俺!これには愛バもニッコリ。

 んがぁっ、水が入って…あ、ダメ……意識がもう‥‥‥水死体は嫌だなあ。

 諦めかけたその時、誰かに腕を掴まれる感覚がした。

 力強く一気に水中から引き上げられる!?

 

「大丈夫かマサキ?」

 

 俺を救ってくれたのは太く(たく)しい腕。

 黒いビキニ姿のムキムキマッチョマン、ゲンさんだった。

 

「ゲホッ…ウェッホッ…た、助かったよゲンさん」

「危ないところだったな」

「ビックリしたぁ。マサキが即行で沈んで、ゲンちゃんがこれまた即行で助けちゃうんだもん。私の出番なかったよ」

 

 すぐ傍にいたファル子が行動するより早くゲンさんが救助してくれた。

 体感時間では長く感じたが、僅か数十秒の出来事だったらしい。

 水に慣れたつもりだったがまだまだだった。己のヘタレ具合を甘く見積もりすぎたぜ。

 

 ゲンさんとファル子に引っ張られプールサイドまで戻って来た。

 本日、何度目かの轟沈を披露した俺を指導役のみんなが心配してくれる。

 

「ファルコン、マサキさんに何かあったら我々の首が物理的に飛びますよ?」

「そんなのわかってるよ。今のはちょっとした事故だよじーこ!」

「無事だっから良いものを、これでほ従者部隊の面目が」

「ファル子を責めないでやってくれ。今のは俺が全部悪いんだ。ごめんなファル子、フラッシュも心配かけてごめん」

「マサキさんがそう仰るなら」

「私も、すぐに動けなくてごめんね」

 

 エイシンフラッシュがファル子を叱責するが、どう考えても俺が悪いので二人に謝っておく。

 そして、助けてくれたゲンさんに改めてお礼をする。

 

「ゲンさんは命の恩人だ。ありがとう」

「フッ…そう(かしこ)まるな俺とお前の仲だろう」

「ゲンさん///」(´∀`*)ポッ

「マサキ///」ポッ

「「「「キャー!ゲン×マサよーー!ゲン×マサが発展中よぉーー!」」」」(≧∇≦)

 

 見つめ合う俺とゲンさんに周囲の生徒たちが興奮しだす。

 初心者コースにいたライスとボンさんが「ゲンマサ???」と頭にはてなを浮かべている。

 君たちは知らなくていいからね~。どうしてもって言うならシュウに聞きなさい。

 

「おい、大丈夫なのか?」

「ああ、うん、お騒がせしました」

「まったくゲンナジー教官のみならず生徒たちにも手間を取らせて」ブツブツ

「いいんだヤンロン。元はと言えば俺がマサキを誘ったのだからな」

「そうですか。では、マサキは僕が見ていますので、ゲンナジー教官は初心者組の生徒たちを指導してあげてください」

「いや、向こうは一段落した。ヤンロンこそ上級者組を監督してやれ」

「あちらも僕が指導すべきことは終わりました。後は各々が自力でこなすでしょう」

「いや俺が」

「いえ僕が」

「やめてぇーーー!俺のために争わないでぇーーーー!」

 

 なんで俺の取り合いになっとんねんwww

 さてはこの二人、俺に負けないぐらいのアホだな。

 

「「「「キャーー!嫉妬に狂ったヤンロン教官が乱入したわぁーーー!」」」」(≧∇≦)

 

 それで君たちは更に喜ぶのね。

 

「王道のヤン×マサが来た!」

「しかし、ゲン×マサも捨てがたい」

「あわわわ、どっちを応援すればいいの?」

「カップリングは無限の可能性に満ちておる。心のままに好きな方を推すのじゃよ」

「あなたはカップリング仙人!?」

「「「「誰だよ!!!」」」」」

 

 うわー盛り上がってるな~。

 ゲンさんもヤンロンも既に落ち着いているのになあ。

 二人とも見てごらん、あの脳が腐り切ったウマたちを‥‥愛バたちにはああなってほしくない。

 

「燃料を投下した奴が何を言ってるデスカ」

「エルだって楽しんでいた癖に」

「どうせならヤン×マサ見せてくだサイ」

「それが愛バの言う事か」

「私はゲン×マサも好きですよ~」

「グラスまで、この学園の腐敗はどこまで進んでいるんだ!?」

 

 この腐海の浸食率、潰したはずの魍魎(もうりょう)の宴が復活していると確信するのであった。

 

「みんな、さっきから何を言っているんだろう?ねえ、ドーベル」

「フフフフ、(はかど)る。捗るじゃないのよ!」

「ド、ドーベ…ル???」

「リゾートプールで出会った三人の男。二人のマッチョの間で揺れ動く主人公と、愛ゆえに火花を散らすマッチョたち!これよコレ!こういうのを待っていたの!」

「うわっ!血が!ドーベルの鼻血でプールが血の池に!?」

「ゲン×マサ、ヤン×マサ単品に(こだわ)る必要は最初からなかった。今度の新刊はゲン×マサ×ヤンに決定よ!さっそく原稿を書かなくっちゃ……アレ、変だな立ちくらみが‥‥‥はふん」バタッ

「マサキさーん助けてぇ――!ドーベルが自ら生み出した血の池に沈んだぁ!!」

 

 血相を変えたライアンが俺に助けを求めた時、血の池周辺は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄と化していた。

 

「え?なんでプールが赤い?」

「ぎゃー!なんじゃあこりゃあ!」

「みんな!早くプールから上がって‥‥‥これで全員いる?」

「大変だ!ドーベルさんが底の方に沈んでるってよ」

「そのドーベルが元凶じゃね」

「誰か救助に」

「この血の池地獄に入って潜れと?」

「お前行けよ」

「私、宗教上の理由で鼻血に触れちゃダメなんだよね」

 

 緊急事態!アホな事件だけど緊急事態!

 俺は確かに泳げない、でも、俺はトレセン学園の教官だ!生徒を守る義務がある!

 体は勝手に動く、動揺した生徒たちより、ゲンさんやヤンロンより、誰よりも早く!

 こういう時の俺は酷く冷静に動ける。

 ドーベル今行くぞーーーー!

 

 〇

 

 まともに泳げない俺が真っ先に飛び込んだことで、周りは更なるパニックになったそうな。

 結局、その場にいた全員が血の池にダイビングして俺とドーベルを救助してくれた。

 ドーベルはウエンディ教官のいる医務室へ運ばれ、残った俺たちは血の池の清掃とシャワーを入念に浴びた後に水練を再開した。

 もう、みんな疲れているので水遊びタイムになっていたけどね。ゲンさんもヤンロンも目を(つむ)ってくれるようだ。二人とも生徒と一緒にビーチバレーしちゃってるよ。

 

 プールサイドで体育座りをしているとメジロパーマーこと、パー子が隣に腰を下ろした。

 

「無茶したね~」

「俺だけじゃなくてみんながなw」

「メジロの一員として礼を言うよ。ドーベルを助けてくれて、ありがとうマサキ」

「結局、俺もみんなに助けられたんだがな。ライアンは?」

「ドーベルに付き添ってるよ。それにしても鼻血ってww」

「ここにアルとマックがいなくてよかったな」

「ホントだよwあ、ブライトも今日はクエストがあるって言ってたな」

「まあ、全員に伝わるのは時間の問題だな」

「血の池の写真、もうネットにアップされてるんだよ『学園の怪異!血の池発生の謎』だって」

「うへぁ」

 

 高度情報化社会の怖いところよのう。

 1人1人がどこでもカメラを携帯しているんだから、そりゃそうなるわな。

 パー子と話している、とシャワーを浴びていた皆がリフレッシュして戻って来た。

 

「ふぅ、酷い目にあった」

「血の池もみんなで飛び込みゃ怖くないってか」

「十分怖かったよ。二度とやらない」

「マサキさん、まだ練習するなら付き合いますが、どうします?」

「いいよ。みんなは遊んでおいで、俺はビート板でも使って自主練してるわ」

「誰がビート版ですか!」

 

 スズカさんよぉ。

 誰も君のことを指したわけではないのに、何反応してんの?

 それって自分でビート板だって思ってるってことかい、卑屈すぎて怖いんだけど。

 

「スズカさんはビート板なんかじゃありません!綺麗な"まな板"ですよ!」

「スぺちゃん、何のフォローにもなってないわ!」

 

 妖怪(いた)女は放っておいて、上達した初心者組に交って練習させてもらおうかな。

 

 水の中に入っていると過去の記憶が呼び起される。

 懐かしいな。昔、川で溺れたところをシュウに助けてもらったこともあったけか。

 毎年、夏になると泳ぎを教えてくれたが、一向に上手くならなくて申し訳ない。

 

「水に入った俺は、シュウ曰く『足がつったカッパですね』だそうだ」

「お兄様酷いww」

「マスターは嫌味な男です。マサキさんを素直に応援することが照れくさいのです」

「でも、お好きなんでしょ?」

「う、うん///」

「ええ、まあ、マスターと認めるぐらいには////」

「ヒューヒュー」

 

 ライスとボンさんを惚気させてみた。あらヤダ、かーわーいーいー!

 

「みんな、遊んで来ていいのよ?」

「遊んでますよ。マサキさんと」

「俺に付き合ってくれんのか、ええ子やね」

「さあ、練習練習!今日中にマサキを泳げるようにするよ~」

「「「「おおー」」」」

 

 いろんな子に代わる代わる手取り足取りされちゃった(/ω\)イヤン

 そのお陰で、下手くそだった俺も結構上達したと思う。

 休憩を挟みつつ泳ぐ泳ぐ泳ぐ、慣れて来ると今の状況を見渡す余裕が出て来た。

 学園のプール、スク水を来た女学生たち、しかも全員が美少女ウマ娘‥‥‥これなんてエロゲ?

 教官になってよかったです!

 感謝の気持ちを込めて、みんなに合掌しておこう。

 

「何故拝む?」

「今更だが凄くいいものを見せてもらって感謝、この状況にも感謝、つまり君たちに感謝している」

「あー、エロいこと考えたでしょ!」

「そうですけど何か?」

「開き直ったw」

「俺、知ってるんだ。こういう時、下手に否定したり言い訳すると女子は余計にキレるってさ。だから、正直にいうわ。いーっやっほぅ!スク水エロいなぁーーー!!

「最低の発言なのに、なんて清々しい顔だ」

「セクハラですよ」

「ごめん、でも、みんながエロくて可愛くて、つい」(´・ω・`)

「こっちに責任被せて来た」

「いつものことですから大目に見ます」

「もう慣れちゃったよね」

「マサキ以外の男なら即通報案件だけどさ」

「かたじけのうござる」( ̄д ̄)

「武士かww」

 

 セクハラ発言が許されるか否かは、勝手知ったる仲なので見極められます。

 

「セクハラマサキにお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

「何だファル子?金は絶対に貸さねぇぞ!」

「違うよ。えっとね、サトノ家にアイドル事業部を作ろうと思うんだけど」

「ほうほう、それで?」

「お嬢様たちに、それとなーく進言してもらえないかなーって」

「ファルコン、そんな野望を抱いていたのですか‥‥‥この計画はダメですね」

「お嬢様たちを味方に付ければワンチャンあるもん!そうだ!今ここに集まったのも何かの縁!みんなでウマドルやらない?いや、やるべきだよ」

「また無謀な事を、そんなの無理に決まってるでしょ。マサキさんもそう思いますよね?」

「俺は案外いけると思うぞ」

「まさかの賛成!?」

 

 俺の練習に付き合ってくれたみんなを見る。いけるんじゃね?

 

「前から思っていたけど、みんな自分の容姿を軽く見てるよな。こんだけ綺麗で可愛いならアイドルでも食っていけるだろ?レース選手のウイニングライブあるじゃん、あんな風に歌って踊れたらすぐに人気でると思う。まあ、芸能界で生き残るのは大変だろうけどな」

 

 愛バたちもそうだが、自分がどんなに尊い存在かわかってねーだろ。

 無頓着って程でもないが『こんなの普通ですよ普通』とか平気でいうからね、普通に謝れ!

 

「もし愛バたちに出会ってなかったら、全員に『契約してくれ!』て土下座で迫る自信あるもん。断られても多分、懲りずにお願いしまくっていただろうなぁ‥‥‥あっ!今の愛バには内緒な、オフレコで頼む」

 

 口が滑ったが間違ったことは言ってない。それぐらいみんな魅力的ってこと。

 

「そ、そうなんだ///」

「あ、ありがとう、ございます///」

「なんか熱くなってきちゃったね///」

「本当にこの人は///」

「もう///ホントにもう!だよ///」

「ワザとやってんのか、この無自覚ウマたらし!浮気ロリコン!」

「褒めたのに何で怒られてんの、俺!?」

 

 赤くなったり怒ったり、もう何なの何なの?

 はっは~ん。これが思春期ですか、心のバランスが乱れてるのね。

 いいのよ。そうやってみんな大人になっていくの。成長しているんだなあ、うんうん。

 

「聞きましたかヤンロン!今のはマサキを見習うとこデスヨ」

「真っ直ぐな愛情表現、琴線に触れるどころか刺さりますね~」

「マサキめ、また余計な事を」

 

 血の池地獄のハプニングはあったものの、水練の特別授業は成功に終わったと言える。

 最終的には俺も25メートルを泳ぎ切り、応援してくれたみんなも拍手喝采で迎えてくれたのであった。

 

 愛バたちは大丈夫かな?

 帰って来たら今日あったことを笑顔で語り合いたい。

 何事もなく無事に帰って来ることを祈っているぞ。信じて待っているからな。

 

 〇

 

 ゲンナジーは思う。自分の考えが間違っていなかったと。

 今日の水練にマサキを誘ったのは生徒のためである。

 マサキ本人が泳げるようになったのは喜ばしいが、それはおまけだ。

 

 他の教官たちからの報告通りだ。マサキが参加した授業では生徒たちの習熟度が跳ね上がる。

 生徒たちからは『マサキ教官がいる授業は楽しい、熱中できる』と評判がいい。

 

 今日、初心者組にいた者はマサキを反面教師にして全員が泳げるまでになった。

 上級者組はマサキにいい所を見せようと奮起し、いつも以上の力を出した。

 指導役をした者たちはマサキに教えている内に自分の改善点を見つけ出したり、人に技能を教えることの醍醐味に興味を示したようだ。

 他にも雑談や一緒に遊ぶことで、生徒間の協調性や仲間意識も育ったように感じる。

 無意識に漏れているマサキの覇気が疲労回復やストレスの緩和する。

 近くにいるだけで、覇気と神核を整える成分が出ている等という者もいる始末だ。

 

 トレセン教官になる前から何度か水泳のコーチを任されたが、一日でここまでの成果を出せたことがあっただろうか?

 ただひたすらに熱血指導をしていた自分にはできないことを、泳げない男がやってのけたのだ。

 

 (あいつは何かが違う。よくわからんが、凄い男だ)

 

 そして不愛想で無口な俺を慕ってくれる、いい奴だと思う。

 凄い男で、いい奴だ、つまり、いい男だ。

 

「マサキ‥‥‥いい男だ」

 

 ((((やはりゲン×マサか!!!))))

 

 ゲンナジーの呟きを聞いた生徒により、王道のヤン×マサを超えゲン×マサの人気が急上昇した。

 

 



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デモン掃討作戦

 コードネーム『デモン』

 数十年前から突如として日本各地に出没し、人類に敵対行動をとる謎の怪物たち。

 その正体は、正式名称『妖機人』と言う生体兵器であり、何らかの影響で人を襲うように変質した言わば『悪の超機人』

 

 デモンは確かに危険な奴らではあるのだが、ウマ娘という生まれついての強者やデバイスという兵器で対抗手段を備えているこの世界では『ちょっと強い害獣』程度の認識に収まっている。

 だからといって、放置しておくと個体数が増え市街地に出たりするので迷惑極まりない。

 その為、定期的に駆除が行われているのは誰もが知るところだ。

 

 年に数回開催されるデモン大規模駆除活動の季節が今年もやって来た。

 マサキの愛バたちはこれをクエストとして受注し参加するのである。

 

 〇

 

「超機人てのは、グラスさんと覆面レスラーが連れている自立行動型デバイスのことだよね?」

「そうです。大昔の古代人によって作り出された半生体兵器の生き残りが、あの青龍と白虎ですよ」

「ざっくり言うと悪い事をする超機人が妖機人、つまりはデモンのことです」

「バラルとかいう秘密結社もデモンを使うけど、アレは使役者の命令に基づいて行動しているの。今回、掃除する対象は人の手を放れ暴走もしくは野生化した個体たちだよ」

「へぇー、ためになるね~」

 

 デモンについての知識を復習しながら道行くウマ娘たち。

 マサキの愛バである4人はクエスト開催場所に向かっていた。

 電車から降りた後は持ち前の脚力を活かした走行と徒歩で移動し、目的地である場所へ辿り着いた。

 軽い足取りで歩くことしばらく、前方に見える広場や建物群から多くの覇気を感じるようになる。

 

 ここは○○県○○市にある、メジロ家が日本各地に所有する演習場の一つである。

 都会の喧騒から離れた山間部に設けられたその場所には、本日のクエスト参加者が集合して大賑わいを見せていた。

 広場に設置された沢山の仮設テント、宿営地も兼ねた本部建物、駐車スペースには大量の物資を積んだトラックと人員を送迎して来たバスが何台も見え、どこもかしこも人で溢れている。

 ここが本クエストの前線基地となる場所だ。

 

「おお!集まってる集まってる」

「凄い人数、はぐれないように注意しましょう」

「どいつもこいつもギラギラしてますね~。血気盛んなことです」

「イベント前の空気だ、なんか好き」

 

 辺境の演習場にしては立派過ぎる設備の数々はさすがメジロ家といったところだ。

 『お金かかってるな~』というクロの呟きに皆が同意する。

 

「受付はこちらでーす!クエストに参加される方は順番に並んでお待ちください」

「救急キット等、支給品を無料配布しています。必要な方はご自由にどうぞ~」

「君、可愛いね。どうかな?僕の愛バになってくれないか……ダメ?残念だなあ」

「操者募集中でござる!拙者を甘やかしてくれる、高収入のイケメン男性はいるでござるか?」

「安いよ安いよ!今ならこちらのコンバットナイフがなんと!もう一本付いて来る」

「メロンパフェいかがっスかあ~、メジロセレクション認定のメロンパフェを本日限定で販売中だよ!あのマックイーン様もパクパクされた激旨スイーツをご賞味あれ~」

 

 行き交う人々は年齢性別問わず様々だ。

 軍服や戦闘服に身を包んだ者、制服姿の学生、着ぐるみや特殊メイクで仮想した者、早くもデバイスを展開した者や刀剣や銃で武装した危ない連中もかなりいる。

 その殆どから強い覇気を感じる。一部のスタッフを除き、戦うための技術を身に着けた者ばかりが集っている。

 そんな人波をかき分けて列に並び待つこと数分、受付を済ませて参加登録をしてもらおう。

 

「チーム"ああああ"4名確認致しました。まあ!中央のトレセン学園から……頑張ってくださいね、ご活躍を期待しています」

「どうもです」

 

 当り障りのない返答をして案内された宿営地に向かう。

 御三家出身だと知られるのは時間の問題だが、自分たちから吹聴する気は毛頭ない。

 コネ、権力、七光り、ご威光、と言われるものの使いどころはわきまえているつもりだ。

 全員が幼少期から鍛えたスルースキル持ち、勝手にヒソヒソされる事には慣れっ子である。

 

 短機関銃で武装した警備兵に会釈をしつつ、ゲートを通り抜け宿営地の中に入る。

 無骨なコンクリート壁の内装はデザインより実用重視であることが伺えた。

 クエスト参加者への説明会が行われる屋内修練場を目指して移動するとしよう。

 

「屋台いっぱい出てたね」

「出会いを探している人もいました」

「人が集まる=チャンスと捉える者もいるということです」

「少々緊張感に欠けるけど、何事も楽しもうとする姿勢は素直に『いいね!』と思うよ」

 

 屋台を見る時間があればお土産を買うのもいいかも知れない。

 歩きながらそんな話をしていると、程なくして屋内修練場へ到着した。

 扉を開くと先着者たちの値踏みするような視線が絡みつくが、想定内なので全力スルー。

 素早く空いている席を見つけて4人並んで腰かける。

 

「私たちもだけど、なんか若い子多くない?」

「今回から学生の参加枠を増やしたそうですよ。ルクスというアホのせいで、何処も人手不足なのです」

「使える強者は子供でも使えってね。いい時代になったもんだ」

「年上の先輩方に恥じない行動を心がけましょう」

 

 会議室内の人口密度がピークに達した頃、戦闘服を着込んだ風格ある集団が登場する。

 アルによると、メジロ家機動部隊員のちょっぴり偉い人たちらしい。

 つまり、あれがクエストの責任者並びに司令官たちだ。無駄に偉そうなので間違いない。

 一番偉そうで恰幅(かっぷく)の良い中年男性がマイクを手に取り一歩前に出た。ペコリと頭を下げてから言葉を発する男の頭頂部は毛根の過疎化が進んでいた。

 

「えー、お集まりの皆様~本日は恒例行事であるデモン掃討作戦へのご参加、誠にありがとうございます。現時点をもって参加は締め切らせていただき、これより本作戦の説明に入らせていただきます。休憩無しのぶっ通しで参りますので、トイレに行くなら今の内です。後、説明中の飲食は自由ですが音の出る物や臭いのキツイ物はご遠慮ください。クチャラーは出ていけ!ゴミは指定の場所で回収しておりますのでポイ捨や不法投棄は‥‥‥」

 

 偉そうなのは見た目だけで、マイク越しに話す口調は丁寧で腰の低い男だった。

 クチャラーに嫌な思い出でもあるのだろうか?

 

 ◎大規模クエスト【デモン掃討作戦】の概要

 

 デモンの群れが生息している場所を特定した。これを大人数でもって強襲し殲滅するのが本作戦だ。

 確認された生息域の三ヵ所を同時に攻め一網打尽を狙う。

 今クエスト参加者は総勢542名。その内100名は全国の騎神養成校から選抜された学生。

 部隊をÅ班、B班、C班の三班に分け、参加者の実力と経験を考慮した上で人数を割り振ることに決定。

 部隊の指揮は主催者側のメジロ家機動部隊員と、ギルドから派遣された戦闘屋のベテランたちが執る。

 

「私たちは…C班だそうです。位置取りは、かなり後方ですね」

「学生は大人たちの補助と後方支援メインだって。こんなんで活躍できるのかな?」

「まあまあ、サポートも大事な仕事だよ。気を落とさずに頑張ろう」

「デモンは予想外の行動をとることで有名です。油断せずに参りましょう」

 

 説明会が終わった後は外に出て、それぞれが決められた班へと分かれていく。

 C班の指揮をとる部隊長は精悍(せいかん)な顔つきの男性機動部隊員であった、メジロ印の戦闘服をビシッと着こなした中々のイケメンだ。

 でもまあ、私たちの操者には天地がひっくり返っても勝てないけど!勝てないけど!大事なことなので以下略・・・

 部隊長は名簿を手に、班員の出席確認をしていた。

 

「えーと……"ああああ"と言うチームの人はいるかい?居たら返事してくれ」

 

 イケメンが『ああああ』と困惑気味に言う。周りもなんじゃそりゃ?という顔を浮かべてキョロキョロする。

 おっふ!めっちゃ恥ずかしい!!けど、ここで黙っている訳にもいかず。

 

「ここにいるぞ!」

 

 元気なクロが恥ずかし気もなく挙手して返答した。この子の無邪気さ時々怖い!

 

「変わったチーム名だね、イタズラでもしたのかな?まあ、よくあることさ。うん、4人ちゃんといるね」

「全てはご入力から始まったのです。私がバカだったと今は猛省しております」

 

 イケメンの爽やかスマイルで羞恥が緩和された。ありがてぇ!

 周りの人たちも『あー、俺も昔やったなあ』『照れてて可愛い~』『若気の至りね、わかるわ』とコメントしてくれた。

 優しい大人の対応あざーす。

 

 IDを確認の終えて班の一員に加えてもらった。

 C班は他の二班に比べて人数は少な目だ、ざっと見て100人前後がいいとこだろう。

 でも、部隊長を始めとするメンバーは皆和やかな空気を纏った人格者で構成されているっぽい。この班で良かったと思う。

 

「C班の学生は君たち4人だけだ。無理せず後方支援に徹してくれればいい」

「勘違いしないでね、学生だから甘く見てる訳じゃないわ。あなたたちを大事にしたいからなの」

「有能な後輩が育ってくれると俺たちもありがたいってことさ。今日は戦場の雰囲気だけでも感じ取ってくれよ」

「がははは。もちろん、チャンスがあれば前に出てくれても構わんぞ。デモンどもをボッコボコにしてやんな」

「それにしてもカワイイね!今いくつ?何処から来たの?操者は?」

「突如として現れた美少女たちにカッコイイ姿を見せつける俺‥‥‥超やる気出て来た!!」

「モテない野郎はこれだから。あなたたちは変な男に引っ掛かるんじゃないわよ」

「飴ちゃん食べるかい?いいのいいの、気にせず取っておきなさい」

 

 あっという間にC班のアイドルに(まつ)り上げられてしまう"ああああ"の4人。

 大人たちに囲まれて少々気後れする。人懐っこいクロは貰った飴をさっそく頬張りご満悦だった。

 

 学生が私たち4人だけで他の班員は経験豊富そうなメンバーが揃っている。

 これは、割り振りにメジロ家の介入があったのだろう。

 御三家のウマ娘に何かあったらと危惧して、最も安全かつゆるいC班に組み込まれたのだ。

 

 (余計な事を‥‥その采配が裏目に出ないといいですね!)

 (申し訳ありません。後で実家にクレーム入れておきます)

 (C班は結局ハズレなの、アタリなの?)

 (どっちでもやるべきことは変わらないよ。頑張る、無事に帰ってマサキに褒めてもらう)

 (ラジャー!)(^^ゞ

 

 メンバーの自己紹介と作戦の確認を簡単に終えた頃、全員に支給された通信機に本部からのアナウンスが届く。

 

『作戦開始時刻になりました。総員、順次行動開始してください。ご武運を』

 

 イケメン部隊長が全員の顔を見渡し号令をかける。

 

「よし、C班これより進軍を開始する!焦らず騒がず確実にやって行こう!」

「「「「「おおーー!!!」」」」」

 

 作戦が始まった。

 緩い空気だったC班の面々は気合を入れ直し、陣形を組んで移動を開始する。

 大人たちに遅れないように4人もその後を追う。

 

「こんなの従者部隊の仕事と一緒で余裕だよ、よ・ゆ・う」

「と、慢心している奴から逝く。きっと『エリック上田』みたいな死に方をします」

「ゴッドイーターwやーめーてーよー」

「エリック上田さんはどの様に亡くなられたのですか?」

「後輩の前でイキり散らしていたらザコに不意打ちされて食われた」

「まあ怖い」

「戦場でよそ見しちゃダメってことだよ。反面教師にしよう」

 

 4人の会話を耳にした大人たちは苦笑いする。

 何も難しい事は無い。いつも通りに仕事を終えて、それぞれの平穏と安息が待つ家に帰るだけでいい。

 そう、誰もが信じて疑わなかった。

 

 【8:00】デモン掃討作戦開始 総員目標へ向けて進軍

 

 【9:00】A班とB班の現地到着完了 休眠中のデモンを多数発見、予定通り攻撃開始 

       デモン群の覚醒を確認、各班交戦に突入 

       

       A班戦闘開始、敵数約500 B班戦闘開始、敵数約600

       C班……状況を報告せよ

 

 【9:10】C班より緊急連絡! 敵数約2000オーバー!尚も増加中

       デモンは休眠状態ではなくこちらを待ち伏せしていた可能性大

       未確認の個体も確認、至急応援求む!繰り返す、至急‥‥‥

 

 ●

 

 デモンの巣を目指して森林地帯を進軍中、イレギュラーな事態が発生。

 戦闘開始後、僅か10分足らずでC班は窮地に陥っていた。いきなりの大ピンチである。

 不快な叫びを上げて襲い掛かって来る異形の軍団を前にC班の前衛組はパニック寸前だ。

 飛び交う弾丸に光線や衝撃波、斬撃や殴打の破壊音もとどまる事を知らない。

 

「囲まれてやがる!くそっ、こいつら何処に隠れてやがった?」

「本部との連絡は?」

「通信が不安定で何とも、届いていたとしても救援が来るまでかなり時間がかかる」

「おいおいおい!後衛たちと完全に分断されたぞ!マズい、助けにいかねぇと!」

「どうやって?こっちも手一杯なのよ!」

「慌てるな!こういう時こそ冷静に、あわてなーいあわてない、一休み一休み~」Zzz

「寝ている場合か!少しは慌てろやボケ!」

「何やってんスか部隊長!!イイのは顔だけか?働いてから死ね!」

「はいはい、わかってますよ。陣形を組み直しつつ後退!遺憾ながらこの場を放棄して撤退する」

「「「「了解!!」」」」」

 

 作戦開始前の情報によるとデモンは全て休眠状態にあり、先制攻撃の後こちらが終始有利で事を進められるはずだった。

 だが、蓋を開けてみればデモンは目を覚ましており逆にこちらが罠にハマる結果となった。

 無差別に人を襲うだけのデモンが、策を巡らせたとでも言うのか?それとも別の何かが?

 何かがおかしいと全員が感じているが、悩んでいる余裕は無い。

 今はこのピンチをどう切り抜けるかを考えなくてはいけない。

 分断された後衛たち、どうか無事でいてくれと皆が願う中で状況は更に悪化する。

 植物や動物に見えるキモイの混じって、機械の体に歪な肉片がくっ付いたような化物が現れたからだ。

 

「見て部隊長!見慣れないデモンがいる」

「アレはデモンなのか?機械部品が多すぎるような…」

「元工兵の俺には解るぜ。あの半身はリオンだ!デモンの奴ら、AMと融合してやがる!!」

「マジかよ!?」

「きめぇ!進化に失敗したデジモンみたいで、きめぇ!」

 

 リオンは史上初の量産型アーマードモジュールであり、世界的に普及した最初期の起動兵器である。環境や用途に合わせたカスタマイズを施されて現在も多くの現場で活躍しているロボットである。

 それをデモンが体の一部として取り込んで利用している!?

 そんな事例は今まで聞いたことが無い。やはり何かがおかしい。

 リオンと融合したデモンは機械パーツの背部テスラドライブで浮遊し、腕に備え付けられた機関砲を撃ってくる。

 奴め!AMのパーツを完全に自身の一部として使いこなしていやがる。

 

「数がまた増えた!いよいよヤバいぞ」

「退避!退避するんだ」

「負傷者には肩を貸してやれ!何としても生き残るぞ」

 

 新型が現れてからデモンの動きがより苛烈になった。

 指揮官の登場に戦意高揚したかのように雄叫びを上げ、なりふり構わず攻撃して来る。

 倒しても倒しても敵の増援は止まず、C班は消耗戦を強いられ後退もままならない。

 

 (登場してから積極的に攻めてこない、何がしたい、何のために、何を待っている?)

 

 戦闘の最中、部隊長は新型を注意深く観察していた。

 試しにアサルトライフルの掃射を新型へ向けてみると、即座に他のデモンが楯となり被弾する。

 

 (はっ、そいつは壊されたくないってことかい)

 

 それが解れば十分だ。

 

「新型を集中して狙うぞ。他デモンの注意が逸れた瞬間逃げる!全員で超逃げる!」

「「「「「それっきゃない!!」」」」

「今だ!各員、一斉射!!」

「「「「「了解!!オラオラオラオラァ!!」」」」」

 

 手持ちの重火器を全弾撃ち尽くすように乱射するC班メンバー。

 集中砲火された新型は回避行動を取ることもせず、周りのデモンが身代わりとなって倒れて行く。

 思った通り、デモンの群れは新型を守るのに必死だ。

 これで退路は確保できた、今の内に‥‥‥

 

「部隊長っ!」

「何!?」

「―――――」

 

 油の切れた歯車が軋むような声が通り抜けると同時に強い衝撃。

 部下に押し倒される部隊長に見えたのは、自分を庇い背中を斬られる部下の姿だった。

 デバイス装甲と戦闘服の防護を容易く切り裂いたのは新型デモン。

 他のデモンを楯にしているだけだった新型が、信じ難い速度でこちらに迫り攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「ヤロウ!ふさげやがってぇぇ!」 

 

 仲間を攻撃された他のメンバーが激昂し、浮遊し旋回する新型デモンを射撃するが難なく躱される。

 新型の腕には中型の実体剣アサルトブレードが握られている。リオンの標準装備であるが、切れ味が元々のブレードと違いすぎる。

 デモンの覇気でリオン本来のスペックと武装が数段以上に強化されているようだ。

 

 (行動パターンを変えた、こいつ学習している?)

 

 高速で浮遊しブレードによる斬撃連続で見舞って来る新型、静観していた時の動きとは桁違いのスピードだ。

 他のデモンも攻撃に転じて来た。光明が見えた矢先にマズい状況へと戻されてしまった。

 

「しっかりしろ!ちょっと背中斬られただけだろ、おい!」

「くっ、イケメンなんて庇うんじゃなかったぜ……もういい、俺のことは……置いていけ」

「バカな事を言うな!次の合コン、美人ウマ娘を呼ぼうって言ってたじゃないか!彼女作るんだろ!」

「ウマ娘の彼女か……欲しかったなあ、愛バになって結婚して…やがて、うまぴょい」

「すればいい!存分にぴょいればいい!どんな子がタイプだ?お前の好きそうな娘に声かけまくってやるから諦めんな!」

 

 実は旧知の仲であった部隊長とそれを庇った部下のやり取り。しょーもない!

 デモンの迎撃に忙しい他のメンバーは『後にしろよ』とツッコむ気力も余裕もない。

 

「俺は、そうだな、後衛にいる子たちが超タイプだな。くそ、もっと話しておけばよかった」

「あれか!アレは無理だ!4人とも極上の美少女ウマ娘だぞ。イケメンを自負する俺が不整脈起こしそうなったレベルの女だ!」

「はは、お前めっちゃキョドってたもんな。俺は立派に戦ったと、彼女たちに伝えて‥‥‥くれ」

「自分で伝えろ!イケメン庇ったブ男はカッコイイって言われたいだろうが」

「ブ男……言う…なや」

 

 ブ男が気を失って倒れる。イケメン部隊長はその体を支え、迫りくるデモンを睨みつける。

 

「部隊長指示を!」

「自爆っスか?今こそ自爆スイッチを押す時っスか?」

「誰でもいい、誰か何とかしてくれーー!」

「あー貧乏くじ引いたあ!簡単なクエストだと思っていたのになあ!」

「死んだら化けて出てやる!デモンなんか大っ嫌いだ!」

「部隊長結婚して!」

「部隊長って元ホストってマジ?」

「ぶたいちょう!!」

「ブタイチョウ!!」

「あー、うるさいうるさいうるさーい!!!」

 

 未だに死傷者が出ていないの奇跡だが、こうしている間にもドンドン削られていく。

 負けだ。デモンの戦力を見誤ったこちらの完敗だ。

 この分だとÅ班とB班の方にも新型や増援が出没している可能性がある。救援はどう考えても間に合いそうにない。

 

 (万事休すか)

 

 ならば、一体でも多くのデモンを道連れにしてやる。

 俺たちがここで倒れても、誰かが仇を取ってくれる事を信じる。

 俺が元ホストだとバラした奴もついでに許さない。

 覚悟を決めてライフルの銃口をデモンに向ける。近接戦用のビームソードも何時でも抜けるように準備。

 C班の皆、こんな部隊長ですまないな。どうか、1人でも多く生き残ってくれ。

 

「今から俺が新型に特攻をかける。陣形はもうバラバラだ、各自散開してなりふり構わず逃げろ!」

「そんな!部隊長!」

「いいから行け!‥‥‥うぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 己を鼓舞するように雄叫びを上げて特攻する。

 

 (合コン楽しみだったのに、あークソっ!ついてねぇ)

 

 ウマ娘の彼女は俺だってほしいんだ。

 後衛に回した4人のウマ娘。まだ学生だと言うのに、どえらい美人で可愛かった。

 何処のお姫様が来たのかと思って心臓が跳ね上がったわ!

 

 (神様!せめてあの子たちは助けてくれよな)

 

 自分の行動が誰かの生に繋がる事を願いながら、新型デモンと相対する。

 ライフルのトリガーに指をかけて引く、デモンがこちらを袈裟斬りにせんとブレードを振り下ろす。

 僅かに向こうが速い!舌打ちが辞世の句になりかけた。

 

 その時、戦場に雷光が走った。

 

「━━━━」

 

 地を走る雷光は人も障害物も避け、一直線に新型デモンへ向かいその体を絡めとる。

 その動きは森を縦横無尽に走り抜ける大蛇の如し。

 苦悶の叫びを上げ暴れようとするデモンの体が、雷光のやって来た方向へと引っ張られて行く。

 そこに走り込んで来るウマ娘が二人、姿を現す。

 

「クロさん!」

「ほいきた。キモイのはぶっとばすよ!」

 

 先行していた黒髪のウマ娘は周りの木々を足場にしながら曲芸の高速移動。まるで猿だ。

 雷光に引っ張られたデモンに接触した猿娘は、その頭部を事も無げに殴り飛ばし一撃で沈黙させた。

 デモンの頭部がいとも簡単に弾ける瞬間を目撃した周囲は唖然とする。

 

「何っ!?」

「新型がたった一撃で」

「しかも素手だぞ!あの子、武器もデバイスも使ってねえ」

 

 黒髪のウマ娘は両手に包帯らしき布を巻いているのみ、単純な膂力(りょりょく)と武技でデモンを圧倒した。

 その体中に(みなぎ)り立ち昇る覇気は強者の証。

 黒髪が新型を片付け終わると、更なる雷光が二本走る。

 デモンを絡めとり軽々と引きずる雷光の向かう先には、発生原であるウマ娘。

 

「二体同時、蹴り砕きます!」

 

 涼やかな声と共に、ぶち込まれる強力無比な回し蹴り。

 二体のデモンたちは抵抗の声を上げる暇もなくズタボロに破壊された。

 両腕のみならず、全身から青白い雷を出しているウマ娘。

 白銀の装甲を持つデバイスと風に揺れるマフラーを装着した姿は見るものの心を奪う。

 

「う、美しい」

「雷の覇気!?あの子は一体!」

「何だったいい!メッチャ助かった」

 

 本能から危険を感じ取ったデモンたちは、新たな乱入者である二人のウマ娘に殺到する。

 目を合わせて頷きあったウマ娘たちは交戦を開始、それはもう一方的な戦いとなる。

 デモンの屍が積み上がるまで大した時間はかからなかった。

 

「遅れてごめんね。これでも急いで助けに来たんだ」

「負傷者がいるようですね。治療符をいくつか持って来ているのでどうぞ」

 

 戦闘という掃除を終わらせた二人はC班前衛部隊に死者が出ていないことに安堵する。

 一連の行動に唖然としていた部隊長たちは、この時になってようやく会話が出来るようになった。

 

「君たちは後衛の」

「はい。"ああああ"の者です」

「私たちもデモンの群れに襲われてね、後衛の人たちは本部まで撤退したよ。全員無事だから心配ご無用」

「じゃあ、ここまでは」

「我々二人が先行して駆けつけました。後二人は後衛を送り届けてから来ます」

「たった二人で、デモンの群れを抜けて来たのか?」

「そうだよー。ん?アル姉、おかわり来ちゃうみたい」

「あらあら、クロさんの鼻は覇気センサーより鋭敏ですね」

 

 おかわりと言う単語に嫌なものを覚える暇もなく、デモンの増援がこちらへ向かって来る。

 その数は先程よりも更に多い。

 

「ちょっと多い。めんどくさい」

「皆さんを守りながらだと大変です。ここは逃げた方が……よろしいですか部隊長?」

「あ、ああ」

 

 撤退を決めた二人にその場の全員が同意する。

 デモン群との接敵まで10メートルに迫ったとき、上空から飛来した物体が地面に着弾し爆音と大破壊をもたらした。

 結果、デモンたち相当数が周りの木々ごと爆発四散することになった。

 

「ミサイル!?本部からの支援砲撃か?」

「こんな森の中でか!友軍の位置も判明していないのに‥‥‥まさか俺たち見捨てられた!?」

「違う違う、これはたぶん」

「クロさん。どうやら、少しだけ頑丈なのがいたようです」

「ありゃ?さっきの見慣れない奴かな」

 

 爆煙と粉塵の中から機械と肉片が融合したデモンが数体飛び出して来た。

 部隊長たちが苦戦していた新型だ。

 爆撃によりダメージを負っているがその戦意は失っていない、寧ろ負傷し同胞を倒された事でより勢いづいた感がある。

 機関砲をでたらめに撃ちまくり、ブレードと肉片から生えた爪や牙を振り回しながら突撃して来る。

 クロとアル、そしてC班の面々が身構える。

 

 光が飛んだ。

 

「━━━━」

 

 C班部隊の後方から複数の光が飛ぶ。

 声にならない叫びを上げていたデモンの(ことごと)くを光の弾丸がぶち抜ぬいた。

 新型デモンたちは倒れ伏し動かなくなる。

 

「わお!百発百中~」パチパチパチ

「フフン、これぐらいチョロいもんです。早撃ちダイヤちゃんとは私のことだ!」

「知らないよw」

 

 後方の茂みより新たなウマ娘がやって来る。

 一人は手ぶらで、もう一人は見たことのない形状のビームガンを持っている。

 ミサイルコンテナのような物はどこにも見当たらないが、さっきのは誰がどうやって発射したのだろうか?

 

「シロ、ココ、来てくれたんだ」

「後衛の方たちは?」

「全員無事本部に送り届けましたよ。今頃、A班B班も撤退して作戦を練り直していることでしょう」

「ミサイル…距離が際どかったよ」

「あれを撃ったのはココです」

「えへへ、でも助かったでしょ」

 

 4人が集合した。

 戦闘服も兼ねた青い学生服を来たウマ娘たちだ。

 僅かに残る幼さとウマ娘特有の強さと美しさを備えた娘たち。

 その存在感にC班の大人たちは圧倒される。

 

「君たちは、一体……」

「私たちはチーム"ああああ"。トレセン学園から来たウマ娘です」

「トレセン学園、どおりで強いはずだ」

「そして、マサキさんの愛バだよ!ここ重要だから覚えて帰ってね!」

「マサキ?誰だ?すまない、聞いたことが無いな」

「ぐぬぬ。こ、これから有名になるんだもん」

「ええ。歴史に名を刻むこと間違いなしの御名前ですとも」

「当然、私のマサキだからね」

「私のです」

「私のだってば!」

「ケンカしてはダメです。マサキさんが呆れてしまいますよ」

「「「さーせん」」」

 

 賑やかなやり取りにまたもや唖然とするC班たち。

 

「ははは、あははは。若いっていいよな」

「ブ男、気付いたのか?」

「カワイイ子の気配を感じてな。いてて、背中がいてぇー」

「元気じゃねーか。まあ、よかったよ」

「だな。俺たち全員生き残ったぜ」

 

 部隊長とブ男(仮)が拳を突き合わせてお互いの無事と健闘を称える。

 それを機に『た、助かったあ~』とあちこちから声が上がる。

 緊張の糸が切れヘタり込む者や泣いている者もいるが、殆どはチーム"ああああ"に対して感謝の意を示す者たちだ。彼女たちに手を合わせて拝む集団も生まれている。

 

「治療符いっぱい持ってるから皆に配ってあげて、他の物資もあるからね」

「はいはーい。足りないなら簡易ヒーリングだよね」

「マサキさんから直々に教わった手並みを披露してあげますよ」

「はい、どうぞ。歩けない方はこちらへ、担架を使ってあげてください」

 

 ココが収納空間から次々に救援物資を取り出して配布していく。

 非現実的な光景の連続に大人たちはツッコミを忘れてしまう。

 治療と補給を終えたC班は撤退準備に入る。

 "ああああ"の4人は撤退する班員を護衛する二名と、残って戦線を維持する二名に分かれると言う。

 それを聞いた大人たちは慌てた様子で異を唱える。

 

「では、今度は私とココが残ります」

「増援デモンの足止めだね。任せといてよ」

「待ってくれ!そんな危険な行為は部隊長として認められない」

 

 『そうだそうだ!』『逃げるんだよぉ』『一緒に帰りましょ、ね』と心配そうな声が残留を決めた二人にかけられる。

 困ったなあと笑みを浮かべる二人。

 『大人としての面子が潰れる』とか『学生(子供)を残して逃げるのは後ろめたい』とかは気にしなくていいと説明する。

 

「バカな学生二人が命令無視の独断専行したとでも、言っておいてください」

「そうそう、勝手にやるから気にしないでいいよ」

「そうじゃない!俺たちには君たちを無事に連れ帰る責任があるんだ」

「私たちの力を信じられませんか?」

「俺だってプロの端くれだ。君たちがここにいる誰よりも強いのは理解できる。でもダメだ!」

「どうしても?」

「どうしてもだ。実力差があろうがC班の部隊長は俺だ、命令には従ってもらう。嫌だと言うなら君たちを派遣した学園や操者に抗議も辞さない」

「「「「それはやめてください!!」」」」

 

 『操者に抗議~』の所で4人が慌て出した。よっぽど恐い操者と契約をしているのだろうか?

 部隊長は意図せず彼女たちにの弱点を突いた事をこれ幸いと思い、彼女たちに撤退を促す。

 

「いい人なのに頑固だ。どうしよう?」

「仕方ありません。部隊長、こちらをご覧ください」

 

 アルは懐から取り出したカード状の物を部隊長に手渡す。

 

「これは?」

「騎神のライセンスカードです。メジロポイントが貰えるキャンペーンを機に作りました」

「律儀に作ってるウマ娘、始めて見たよ」

「メジロポイントで交換出来る商品が微妙なんですよ。日本酒とかビールとかウイスキー‥‥‥これ作ったの、まさか…」

「職権乱用マッチポンプなの?アル中のアル!!」

「はい?ココさんたちが何を仰っているのか意味不明です。皆さんも作りましょう、今ならシークレットレア加工が無料ですよ」

「うわっwマジでキラッキラですよ。ちょっと欲しくなってきた」

 

 騎神ライセンスカードは試験に合格し騎神と認められたウマ娘が作る事ができるカードだ。

 身分証明書として利用できるのだが、特に携帯する義務は無い上に申請手続きがややこしいので、記念品のような扱いをされる一品である。

 メジロ家認定のカードなので偽造するのは大変困難、仮に出来たとしてもメジロ家を敵に回すリスクを考えると割りな合わない。

 カードにはアルの顔写真と真名に級位が表示されている。級位はでかでかと大きな金色の文字で書かれているのでどうやっても目立つ。

 

「…超級……だと!?」

 

 部隊長が告げた級位に周りが反応する。

 『マジで』『嘘っ!』『ほ、本物だ』とアルとカードを見比べながら戦々恐々とする。

 

「見ての通り私は超級騎神です。戦地での緊急事態発生につき、騎神特権を発動します」

 

 騎神には級位に応じた様々な特典や優遇措置がある。

 例えば、ギルドで高難易度の仕事を受注しやすくなったり、報酬額が別途上乗せされたりとかだ。

 近年、増加傾向にあるものの、まだまだ貴重な超級騎神には騎神特権なるものまである。

 その一つをアルが執行した。

 

「超級騎神である私とその所属チームは、これより戦況に応じた行動を取らせていただきます。よろしいですね?」

「しかし…」

「部隊長が踏ん張ってくれたお陰で死傷者ゼロです。後は我々に任せて、治療に専念してください」

「俺は別に負傷などしてな」

「はい無理しちゃダメ。気を張っているから痛みを感じていないかもだけど、腕折れてるよ。それにデモンの弾も何発かもらってる」

「ぐっ……」

 

 新型デモンと戦闘した時の傷を指摘された部隊長は歯噛みする。

 班員たちにバレないよう、覇気で自己回復に努めていたがアッサリ見抜かれていたようだ。

 

「他に超級の方はいませんね?では、今この場において公的に一番強いと認められるのは私です」

「このキラキラッのカードが目に入らぬかあ」

「ひかえおろう~、こちらにおわすお方をどなただと心得る」

「恐れ多くも"ああああ"のドスケベ娘、アル中様なるぞ!」

「3人とも『めっ!』です」パシンッ!ビシンッ!ベチンッ!

「「「あいたぁっ!!!」」」

 

 勢いとノリでアルを黄門様の如く祀り上げる。

 アル本人にはお気に召さなかったようで、3人は強烈な尻尾ビンタを尻に食らい悶絶する。

 

「アルチュー?」

「ど、ドスケベなのか」

「あんなに綺麗で可愛いのに強い!そしてエロい!」

「最高じゃないっスか」

 

 超級以上の騎神は戦況に応じた行動を取る事が許されている。

 指揮系統が混乱する上に余計な不和や軋轢を生むことになるので滅多な事では特権を使う者などいないが、今回は仕方がない。

 ここまで言われてしまってはC班の大人たちも従うしかない。

 それが、自分たちの安全を思っての行動だと理解したのだ。

 

「すまない。本部に戻ったらすぐに救援を寄越す。それまで何としても…」

「わかってますって。無理せず生き残ることに専念しますよ」

「さあ、早く行って。もうすぐデモンが来そうな予感がビンビンする」

「武運を祈る。C班前衛!総員撤退だ。急いで本部に戻るぞ」

「「「「了解!!」」」」

「じゃあね。すぐ戻るから、後よろしく~」

「シロさん、ココさん、いいですね。作戦は『いのちだいじに』ですよ?」

「了解です」

「お任せあれ」

 

 クロとアルがC班を率いて撤退して行った。

 残ったシロとココは仲間を見送った後に索敵を開始、周囲の状況を確認して次の戦闘に備える。

 

「見た?変なデモンがいたの」

「AMを取り込んでる肉片ですね。これまでにない新種ですよ、融合体と名付けましょう」

「ラボで分析してもらわなきゃだし、サンプルをいくつか持って帰ろうと思うんだけど」

「気持ち悪いので保管と運搬はココに任せます」

「私の収納空間に感謝してよね」

「うわーすごーい。憧れちゃうなーダイヤにはとてもできない」棒読み

「まるで心が籠っとらんな!」

 

 と、言っている間にデモンの増援がやって来た。

 シロは背部にマウントされたライフルを手に取り構える。両腰のホルスターにセットのビームガンも何時でも抜けるように準備しておく。

 ココは収納空間から銀色の回転式拳銃を二丁取り出した。

 

「私も二丁拳銃でいってみちゃう」

「真似っ子ですか?ガンファイトで私に勝とうなんて千年…はや‥‥‥その銃は!?」

「気付いた?どうこれ、いいでしょう?」

「完全受注生産のGリボルバーカスタム!?それも初期ロットの、メジロ刻印入り限定シルバーモデルだとぉ!ほ、欲しい!」

「いいよね、この輝きと精密さ。職人の愛と執念を感じる」

「言い値で買おうじゃないか!売ってくれ、いや、売ってくださいココ!ココさんってば!」

「えー、どうしよっかなあ。普段からシロちゃん私に冷たいからな~」チラッ

「謝りますから。そうだ!私のビームガン"ショートランチャー"と交換しましょう。これは自分用に作ったヤツで性能は折り紙つき…」

「あ、デモン来ちゃう。この話は後でね」

「ひぃぃ!限定モデルでの戦闘はやめてください!いくらすると思っているんですか!それは鑑賞用にとっておくんですからぁーーー!」

「よーし、撃って撃って撃ちまくるぞ~」

「ダメ――ッ!未使用品がいいのーー!」

 

 シロ、ココ、デモン増援と戦闘開始。

 

 ●

 

 皆さんどうも、ラーメンとマサキが大好きファインモーションだよ。

 今はデモンと戦闘中なの。

 

 懇願するシロちゃんがあまりにもしつこいので、撃ちまくりは止めた。

 Gリボルバーを収納して別の武器を選択することにしよう。

 後日、Gリボルバーとシロちゃん秘蔵の"マサキ隠し撮り写真"を物々交換する手筈になっている。

 風呂上りとお昼寝中のベストショット、いただきだぜぇ!

 

「ライフル、Nモードで狙い撃つ!」

 

 シロちゃんのオルゴンライフルが軽快な音と共に実弾を吐き出す。

 貫通力のある弾丸は接近していたデモン数体を撃ち抜き吹き飛ばしていく。

 オルゴンライフルはビームガンのショートランチャーと同じく、シロちゃん自分用に開発した専用装備だ。

 マサキが異世界から持ち帰ったデータと新素材を採用し、サトノとファイン両家技術部の協力をへて完成した武器はバスカーモード時の覇気にも耐えうる頑丈さを持っている。

 ライフルはビームの『B』モードと実弾の『N』モードで撃ち分けが可能、二丁のショートランチャーと組み合わせることによりクロスボウを形成、結晶化した(やじり)状のオルゴンの塊を射出する。必殺のアブソリュート『A』モードにもなる。

 と、自慢気にシロちゃんが教えてくれた。

 

「いい銃だね」

「女神テニアさんが昔使っていたという銃を参考にしました。我ながら自信作です」

「その調子でお願いね。さて、私はどうしようっか」

「休んでいていいですよ。マサキさんの愛バは私1人で事足りることを証明しましょう」

「そう言われちゃうと、休んでいる訳にもいかない、ね」

 

 足元に手頃な石を見つけたのでデモンに向かって投擲。石つぶてを食らぇー!

 命中して砕け散る石、食らったデモンは怒りの叫びを上げる。

 いきり立ち向かって来るデモン、その体をシロちゃんの放つ弾丸が無慈悲に貫く。

 

「ストラ―イク!でも、石の強度が足りなかったぁ」

「また、原始的な」

「古来より投石は実戦的かつ有効な攻撃方法だよ」

「ネイチャーウェポンはドンドン使っていくスタイルですか。割と好きかも」 

 

 話している間にもデモンはやって来るが、シロちゃんが近づく奴らを一層してくれるので安心。

 ちょうどいい機会なので、私のスキルについて解説しちゃおう。

 

 一つ目は"(くら)"異空間に物を収納して持ち運べる便利スキル。所謂(いわゆる)アイテムボックスだね。

 お父様譲りの力で、ファイン家の血を引くものが極まれに発現させる空間制御能力。

 内緒の手品だと言って、お菓子をよく出してくれた優しいお父様……種も仕掛けもあったんだね。私にも出来たよ。

 子供の頃、収納出来る物の大きさは手のひらサイズで容量も手提げ鞄ぐらいが限界だったけど、1stの私と融合したりマサキと契約したことで、今では結構な大物も入れることができちゃうの。

 C班のみんなに渡した救護セットや各種武装をメインに収納しているけど、空間に収めた物は温度や鮮度を保つことが可能なので、食材や料理を入れておくのにも大変重宝しているよ。

 収納容量はナイショ、近頃ドンドン大きくなっているような気がしないでもない。

 やっぱり、マサキとの結びつきが強くなってからだよね……えへへ、愛だよね愛。

 

「収納した物をずっと放置した場合はどうなるのです?」

「消えるよ」

「どこに!?」

「たぶん、私の覇気に変換されて消滅するんじゃないかな」

「ということは、アイテムボックスの正体はココの胃袋なのでは……キモ怖い」

「何でも捕食吸収しちゃう、シロちゃんの尻尾も大概だと思うけど?」

 

 いろいろ試した結果、一ヶ月すると収納した物は消えてしまう。

 だから、日頃からの整理整頓はもちろん、何を何時入れたのか忘れないように注意しないといけない。

 仕事先で買ったご当地のカップ麺を忘れて放置した挙句、食べ損ねた悔しさも今も忘れない。

 

「その空間内がどうなってるのか興味深いですね」

「残念ながら確認できないの。一度、カメラ突っ込んでみたけど何も映らなかったし」

「気になりますね。ちょっと私を収納してみてくださいよ」

「怖いもの知らずだね!でも無理。理由はわからないけど生物はどうやっても入らないの」

「そいつは残念です。いざという時シェルター代わりになるかと思ったのですが」

 

 大して残念な様子でもなく、デモンを撃つ作業に戻るシロちゃん。

 なんだ言ってみただけか。こいつめ、最初から期待していなかったな。

 

「そろそろ真面目に手伝ってくださいよ」

「一人で事足りるんじゃなかったの?」

「思ったより数が多い。今はココの手も借りたいところです」

「仕方ないなあ」

 

 二つ目のスキルは"(かい)"。こちらはお母様譲りの、物の使い方を深く理解する能力だ。

 アイルランドのお爺様に聞いたところ、王族の中でも金色の瞳を持つ者は、音楽や絵画などの芸術分野に優れた功績を遺して来たのだという。

 お母様も私も金色の瞳を継承しているので、お爺様はもしやと思っていたらしい。

 

 お母様はとても料理上手な人だった。見惚れるような包丁捌きをよく覚えている。

 リクエストすればラーメンからデザートまで何でも作ってくれた。満漢全席を作った時はお父様と二人で『ヤベェ!』と叫んじゃったよ。

 今思えばあれもスキルだったのだ。お母様の"解"が"食材と調理器具"の最適な使い方を読み取っていた。

 歴代の王族たちは楽器や画材に"解"が反応していたのだと思う。

 

 私は再び石を拾う。すると、不思議なことが起こる。

 物言わぬはずの石が話しかけて来たのだ。

 

『この俺を選ぶとは、中々の目利きだな、嬢ちゃん』

『力を貸してくれる?』

『おうよ。へへ、この森林に居座ること幾星霜。ついに俺の時代が来たぜ』

 

 これは私の脳内に溢れるイメージであり、実際に会話はしていない。

 頭に飛び込んで来る膨大な情報を私の脳がパンクしないよう処理した結果の会話形式だ。

 マサキと女神様の通信のように、石とのやり取りは刹那の時間で行われるので戦闘に支障なし。

 わかる、解る、理解した。

 どのような握り方で、どの程度まで覇気を込めればいいかが全部解る。

 

『覇気を込めるよ』

『待ってました。もっと強くてもいいぜ』

『これぐらいかな』

『イイ感じだ。さあ、思い切って投げつけてくれや!』

『いくよ!』

 

 次に理解するのは発射台に見立てた自分の体だ。

 野球よりサッカー派なんだけど、今この瞬間の私はエースピッチャーになる。

 筋肉の使い方、力を込めるタイミング、覇気の配分、ピッチングフォームは完璧だ。

 

『今だ!ぶちかましてやれ!』

『せーのっ!』

 

 大きく振りかぶって……投げる!

 

「フッ!!」

 

 覇気を込め投げられた石は十分な速度と威力もった武器と化す。

 顔がムカつくと評判の植物型デモンに命中し、その体を抉り破壊する。

 自らに込められた覇気と衝撃の負荷により、石は砕けながら地面に落下してしまった。

 

『やったな。石ころにしちゃあ、いい仕事だったろう?』

『うん』

『短い間だが楽しかったぜ。あばよ』

『ありがとう助かったよ』

 

 手を放れた石からは会話などできるはずもない。

 だから、投げつけた後はこんな感じだろうなという、私の妄想にすぎない。

 頑固親父風の石に感謝だね。

 

「『武器だ』と判断した物の使用方法を瞬時にマスターするスキルですか」

「うん。武器自体が最適な使い方をレクチャーしてくれる感じなの」

 

 正確には、"殺傷能力ありと判断した物"限定に私の"解"が発動する。

 石ころでもボールペンでもガラス片でもロープでもいい。

 私が武器だと認識してしまえば、それは立派な武器となる。後はオートで発動可能、武器に合わせた戦闘技能がインストールされる。

 知識だけを詰め込まれた経験値不足状態なので、何度か同じ武器を使って体を慣らすと更に良い。

 

 歴代王族の中でもあまりに物騒かつ戦闘特化された"解"の持ち主が私ってことになるのかな。

 マサキと戦っていく上ではありがたいので全く不満はない。

 でも、お爺様を心配させたくないので『ラーメン限定で発動した』と嘘をついている。

 

『ラーメンをより深く熱く食べる方法が理解できるの!麺をするるタイミングバッチリ』

『そ、そうか……おのれ、またしてもラーメンか…』

 

 お爺様、ガッカリというか呆れてしまっていたな。ラーメン嫌いにならないといいけどw

 

 さすがに投石では限界がある。

 庫から散弾銃"Ⅿ13ショットガン"を取り出しデモンへ発砲する。

 接近していたデモンがヘッドショットを食らい絶命する。

 ポンプアクションで排莢(はいきょう)して、撃つべし!撃つべし!!

 文句を言いながらもカスタムしてくれたシャカに感謝したい威力と爽快感だ。

 

「その調子で頼みますよ。チートスキル憧れちゃうな~」

「・・・・」

「なんですかその目は、褒めているんですよ?」

「べっつに~」

 

 チートスキルとか……あなたに言われても、ねえ。

 私に言わせればスキル無しで異常なスペックを誇る、シロちゃんの方がチートだと思う。

 "解"の完全上位互換である優秀な頭脳に、オルゴンテイルの捕食機能、素の戦闘能力も高い。

 たぶんだけどこの子は‥‥‥いいや、ムカつくから認めてやらない!

 こっちは必死だってのに、涼しい顔してドンドン先に行っちゃうんだからなあ。

 庫があって本当にで良かったよ。

 

「負けないからね」

「はい?デモンごときに負けはしないでしょう」

「デモンにも、シロちゃんにも、負けないよ」

「え?何このウマ、私も標的にしてる!?ココが乱心したぁ!二人とも早く戻って来てくださいよ――!」

 

 勘違いしたままライフルをぶっ放すシロちゃん。私に背中を見せないように警戒中。

 私も負けじとショットガンを何度も撃つ、庫に弾はたっぷり用意して来たので大盤振る舞いだ!

 

 程なくして、C班を本部に送り届けたクロちゃんとアルが合流した。

 4人になった私たちは一気に攻勢に出てデモンを殲滅するのであった。

 

 ●

 

 C班が前線基地に撤退したことにより、A班とB班にも撤退命令が出た。

 予想を超えるデモンの数に新型が確認されたとの情報も飛び交い、司令部は一時騒然として緊張が走った。

 C班前衛組に多数の負傷者が出たものの死人はおらず、A班B班の人員も無事であった幸いである。

 無謀にも増援の足止めに残った学生がいるとのことで、実力者のみで構成された救助隊が編成されて現地へ急行する。

 しばらくして、ピンピンした学生4名と狐につままれたような顔をした救助隊が無事帰還。

 基地で無事を待ち望んでいた者たちは拍手喝采のガッツポーズで出迎え。誰もが自分たちと仲間の無事を喜び合った。

 

 デモンの追撃はなかったがクエストの本懐は未達成だ。

 司令部は作戦の練り直しを行い、午後から改めて攻撃を仕掛けようとしていた。

 

 時刻はちょうどお昼を過ぎた頃。

 クエスト参加者には交代で見張りをしながら補給を行うように伝達された。

 戦闘で疲弊し腹を空かせた人で食堂は溢れかえり、外の出店や屋台も大賑わいである。

 どこからかキッチンカーもやって来ており、商魂たくましい者たちの客寄せ合戦も展開されている。

 デモンの動きによっては、いつまた戦闘が開始されるかわからない状況だ。

 しっかり食事を取り、次の戦いに備える事の重要性を誰もが理解しているのでランチ時は真剣なのだ。

『食える時に食っとかないとね!』と偉い人も言っていた気がする。

 

「よう!生きていたか」

「そっちもな」

 

 基地内食堂でかつ丼を食べていた男に声がかけられた。

 声をかけてきたのは、トレイに焼き魚定食を乗せ同じメジロの戦闘服を着た男である。

 二人とも30代前半のメジロ家機動部隊の隊員であり腐れ縁の同僚である。

 今回の作戦では別の班に配属されていたが、こうして無事に再開したことで笑みがこぼれる。

 拳を突き合わせて互いの健闘を称え、相席して一緒に飯を食べることにする。

 

「お前C班だったんだろ?マジで災難だったな」

「ああ、今度ばかりはマジ終わったと思ったぜ」

「何でも超強い騎神が大活躍したって話じゃねーか。詳しく聞かせてくれよ」

「……この目で見た俺にも理解し難い話になるぞ。それでもいいか?」

「おう。デモンから皆を守って見事逃げ切るなんて大した連中だがいたもんだ」

「適当な情報が伝わってるな。あいつらは逃げたんじゃない、残ってデモンを皆殺しにしたんだ」

「は、はぁ?皆殺しって、数は2000を超えていたんだろ。どこの所属だ?さぞかし名のある騎神なんだろうな」

「トレセン学園の生徒だ」

 

 トレセン学園と聞いた男は驚きつつも納得の表情を浮かべる。

 前々回の掃討作戦で活躍したシンボリルドルフ率いる学生部隊の武勇は今でも語り草だからだ。

 その前例もあって、今作戦での学生参加者枠を増やしたのである。

 やっぱりあそこの学生は他とは違うな、と男は思う。卒業したら即行でプロか御三家入り確定だろうとも。

 

「なんだC班には皇帝様の騎神部隊が参加していたのか、ならしゃーないな。で、どうだった?数十人のウマ娘だ。気になる子の一人や二人いただろう」

「4人だ」

「たったの4人か。面食いのお前は相変わらず厳しいねぇ」

「違う。C班に配属された学生は4人だけだ。あいつら4人だけで、2000体以上のデモンを倒しちまったんだ…無傷でな」

「いや、いやいやいや!さすがにそれは」

「嘘だと思うだろ。俺だってそう思いたいよ。でも、見ちまった解っちまった。アレは次元が違う生物だってな。デモンや俺たちが束になっても敵う相手じゃない」

「・・・・」

 

 かつ丼をかきこみ頭をかかえる同僚に言葉を失う。

 4人に助けられた後、救助隊に志願した男が現場に戻って見たのは、焼け野原になった森林と無数に転がるデモンの残骸。そして談笑しているウマ娘4人だったという。

 

「綺麗な顔してよ、マサキがどうとか言って笑ってたんだ。助けに来た俺たちに『ご苦労様です。こっち終わったので次に行きましょう、次』とアホ抜かすのを引き留めて連れ帰って来たんだ」

「とんでもねぇな。で、そのお嬢ちゃんたちは?」

「司令部に行って散々説教と感謝された後は、軍とギルドのスカウト連中に囲まれていたぜ。ありゃあ民間や御三家からも間違いなく声がかかるな」

「ほーう。どんな奴らなのか俺も一目見たかったぜ‥‥‥何だ?出入口が騒がしいな」

「噂をすればだ。ほら、アレだよ」

 

 かつ丼男が顎でしゃくるようにした先には、食堂にたった今入室して来たウマ娘が4人。

 青いトレセン指定の学生服を着た身目麗しいウマ娘で、そこにいるだけで得も言われぬ気品と存在感を醸し出している。極限まで抑えているであろう覇気は、その残滓だけでも尋常ではないことがわかる。

 

 彼女たちが入室した瞬間に食堂は静寂に包まれ、すぐに騒めきを取り戻した。

 噂はあっという間に駆け巡り、同じような会話をしていた者ばかりなのだろう。

 彼女たちの後ろや周りにはスカウトを断られた連中が諦めきれずにくっ付いて来ているが、完全にスルーされている。

 進行方向の人波はモーセの奇跡の如く割られていく中、4人組は会話に夢中だ。

 

「だからさあ、マサキさん担当日変わってよ~。ねえったら」

「嫌ですよ。アル姉さんの後は特に嫌です」

「え、私何かやっちゃってますか?」

「何と言いますか、アル姉さんが担当した次の日…マサキさんが、いつもよりお疲れになっている気がします」

「そ、そうでしょうか」(;'∀')

「そうだよ。なんかゲッソリしてるもん!いっぱい遊んでほしいのに気を遣っちゃう」

「どうせ夜のイグニッションしているんでしょ。イヤらしい~」

 

 彼女たちは周りを気にすることもなく食堂のカウンターへ向かう。

 会話内容に聞き耳を立てても、何の事かわからない。

 

「違いますよ。イグニッションはするものではありません。させるものです」

「迷言きたよ」

「マサキさんにイグニッション!していただき、ディスチャージ!までもっていけば、勝ったも同然です」

「どうしよう。もうエロい意味にしか聞こえない」

「エロい意味で言ってますからね!」( ー`дー´)キリッ

「「「このドスケベ、強い!!!」」」

 

 まるで意味がわからんぞ!

 だがしかし、エロい話をしているっぽいのは何となく察した。

 とびきりカワイイ娘たちのエロトークに食堂に詰めかけた人々は興味津々だ!!

 

「なんか軽く食べときますか?」

「頼むならドリンクだけにしておいて。実はお弁当持って来てるんだ、全員分あるから安心してね」

「まさかのラーメン弁当?」

「どうかな~、期待してていいよ」

「そこまで言うなら。見せてもらいましょうか、ココ弁当の性能とやらを」

「楽しみですね、お弁当」

 

 ドリンクを注文し終えた彼女たちは空いている席を探すが、簡単には見つからない。

 ランチタイムのピークを迎えた今、飢えた人でごった返す食堂では無理もない。

 そんな彼女たちにチャラそうな男が先陣きって声をかけた。

 

「お嬢さんたち、ここ空けるから座りなよ」

「あ!ズルいぞてめぇ。こいつより俺が先にどくから座ってくれ」

「嫌ね、下心丸出しの男は。あなたたち、こっちに来なさい。私のチームと相席しましょうよ」

「よかったら奢るよ。君たちの武勇伝をたっぷり聞かせてほしいな」

「いや待て!ここは俺が」

「私が譲るんだってば!」

 

 席譲り合戦勃発!

 噂の彼女たちとお近づきになりたいと思った連中が、きっかけを欲するがために起こった醜い争いである。

 ドリンク片手の4人は面倒な事になったと言う顔をしている。

 その光景を見ていた30代の男二人、焼き魚にかぶりついた方の男は呆れた表情を浮かべる。

 

「バカな奴らだ、どう見ても"高値の花"それも最高級品だってのがわかんねぇのか」

「何だそりゃ?お前こそ彼女たちの何がわかんだよ」

「俺はお偉方の護衛任務を何度もこなして来た。メジロ家の前はサトノ家で働いていた経験もある。だからわかる、あの4人からは権力者の匂いがするってな」

「へぇ。強いだけじゃなく、いいとこのお嬢様でもあるってか」

「恐らくな。あの4人からしたら、この場にいる全員が取るに足らない存在なのさ」

「なんか落ち込んで来た。今は飯だメシ!かつ丼に集中しよう」

「それがいい。俺たちには一生縁のない娘たちだ。さっさと忘れちまちまおう」

 

 男二人は昼食に集中することにした。

 食堂のメニューはどれも基本"ウマ娘サイズ"の量で提供される。従って、食べ応えはバッチリだ。

 食べきる自信が無ければ『少な目』『人間用で』と注文時に言わなければ後悔する。

 もっとも、腹を空かせた戦闘要員たちは人もウマ娘も関係なく大盛にされた食事を完食するのだが。

 

「チーム"ああああ"の皆さん、いらっしゃいませんか?"ああああ"の方たち、いたら返事してくださーい」

 

 食堂にメジロの戦闘服を着た若いオペレーターが飛び込んで来た。

 変な名前のチームを探しているらしい。

 

「ここにいるよ~」

「こっちです、こっち」

 

 呼び声に反応するのは、騒ぎの中心になっていた4人であった。おい、チーム名なんとかしろ。

 

「良いかった、こちらでしたか。すぐに大会議室へお戻りください」

「えー、お説教はもうかんべん~」

「そうではありません。皆さんの実力を高く評価した司令部が重要任務を任せたいと」

「危険な任務の間違いでは?」

「確かにその通りですが、報酬は上乗せされます。任務達成の暁にはチームの名声もうなぎ登り間違いないかと」

「あら、その気にさせるのがお上手ですね」

「自由に暴れさせてくれるなら考えるよ」

「それは上の者と相談して決めてください」

「10分後でいいですか?ドリンクを飲む時間ぐらい許してくれるでしょう」

「わかりました。では、10分後にお待ちしています」

 

 オペレーターは一礼して足早に食堂を後にする。

 作戦司令部直々にお呼びがかかるとは、やっぱすげーわ!と周囲がざわつく。

 結局、"ああああ"の4人は立ったままドリンクを一気に飲み干す。

 豪快に一気した後、黒髪のウマ娘が『けぷっ』と可愛らしいゲップをしていた。

 頷き合った4人は人の間を縫うように移動し食堂を出ようとする。

 相手にされなかった連中の残念そうな呟きが漏れる中。

 

「・・・・ん?」

 

 焼き魚の小骨と格闘していた男は"ああああ"4人の中一人、前髪にひし形メッシュの入ったウマ娘と目が合った。

 

「んんん?」

 

 男の方は特に気にも留めなかったが、ウマ娘は怪訝な表情を浮かべたままドンドン近づいて来る。

 

「お、おい」

 

 先程、忘れようと思った存在が急接近して来たことで、かつ丼を食べていた男が動揺する。

 何事かと周りを見渡す間も接近は止まらず。ウマ娘はすぐ傍に立った。

 恐ろしく整った顔立ちを近づけられ、男はさすがに焦る。彼女が見ているのはどう考えても焼き魚食っている自分だ。

 『何か用か?』と言いかける前に、向こうが先に口を開く。

 

「もしかして、ゴンザブロウさん?」

「た、確かに俺はゴンザブロウと言う者だが、どうして君がそれを?」

 

 焼き魚を食べていた男は中西権三郎(なかにしごんざぶろう)(31)は不意に呼ばれた名前に驚く。

 こんなウマ娘の知り合いに心当たりは無いはずなのだが。

 

「私ですよ私!ほら昔、父様に仕掛けたイタズラの経過報告をお願いした」

「イタズラ?経過報告……どこかで」

(あめ)細工のサングラス」

「!!」

 

 ゴンザブロウの脳裏に電流が走る!思い出した。

 いや、でもまさか、目の前の美少女があの・・・。

 

「ダイヤ様……なのですか!?」

「そうです。思い出してくれましたか」

 

 ゴンザブロウの記憶はサトノ家で働いていた頃まで(さかのぼ)る。

 

 ある日、執務室のソファーでうたた寝をしているサトノ家頭首に近づく小さな影見つけた。

 頭首の娘である彼女は抜き足差し足で父親の所までたどり着き、手に持った何かを頭首様の顔に乗せようとしていた。

 見て見ぬふりをすることも出来たが、一応護衛なので声をかける。

 

『何をしているのですかダイヤ様?』

『シッ!父様の(まゆ)に味付け海苔を貼る作業中です。被験者が起きたら面倒なのでお静かに』

『ただのイタズラじゃないですか。やめましょうよ、後で絶対怒られますよ』

『黙っていてくれたら、お給料に色を付けます』 

『俺は何も見ませんでした』

『物分かりの良い部下は好きですよ。いつ気付いたか、後で報告お願いします』

『かしこまり!』

 

 頭首を起こさないようヒソヒソ声で交わされた密約だった。

 その後も何度か同じような事があり、最終的に"飴細工で作ったグラサン"を装着した頭首が風呂に入るまで全く気が付かず『今日、なんか顔がベタベタする。これがオイリー肌?』と呟いていた上に、風呂上りに『僕のサングラス知らない?』と言っていたのには参った。

 『湯で溶けたんですけどぉ!』『なんで気付かないのバカなのw』と二人して笑い転げたのはいい思い出だ。

 

 その時の、短い間だが交流の合った美しくも可愛らしい令嬢が、目の前のウマ娘なのだという。

 

「懐かしいですね」

「いや本当に、それにしてもダイヤ様。随分と、いろいろご立派になられて!見違えましたよ」

「よく言われます。ゴンザブロウさんは老けましたねwその髭何ですかww」

「今の自分は部下もいる身です。そろそろ貫禄を出し行こうと思いまして」

 

 急に始まった思い出話に周りはポカンとする。

 かつ丼を食べていた男に至っては、プルプルと震えながら割り箸をへし折っていた。

 

「その戦闘服……メジロですね」

「これは!その、えっと」

「別に構いません。サトノ家は薄給でしたし、ゴンザブロウさんは派遣でしたし、私はとある事情でちょっと前まで爆睡してましたしー」(´Д⊂グスン

「申し訳ありません!ですが、このゴンザブロウ!サトノ家とダイヤ様たちにお世話になったこと、メジロ家に雇われた今も忘れたことは誓ってありません!」

 

 泣き真似をするウマ娘に慌てて弁解するゴンザブロウ。

 誇らしげに着ていたはずのメジロ製戦闘服を、今すぐキャストオフせん勢いだ。

 その様子を見たウマ娘はケロッとした顔で微笑む。

 

「冗談です。でも、もしメジロ家に嫌気がさしたらご一報くださいね。家はいつでも歓迎します」

「ははは、その時はお願いします」

「シロー!何やってんの行くよー」

「あ、はーい。やれやれ、もう行かないといけません」

「ダイヤ様たちは次の作戦にも?」

「ええ。きっと敵の中枢に放り込まれますよw熱戦激戦バッチコーイてなもんです」

「武運長久をお祈り申し上げます!」

「ええ、お互い無理せず頑張りましょうね。では、ごきげんよう」

「は!どうかお気を付けて」

 

 優雅な微笑みをして颯爽と立ち去って行くウマ娘。可憐だ!

 その背が消えるまで敬礼のポーズを崩さないゴンザブロウ。

 彼女の残り香と覇気が消えた頃、ようやく着席したその顔は満ち足りていた。

 冷めてしまった味噌汁と一飲みして、向かいに座る青筋を浮かべたかつ丼男に声をかけた。

 下手くそなウインク付きである。

 

「な?」

「な?じゃねーよぉぉ!!今の何だコラクソボケ!!」

「ん~前の上司にバッタリ遭遇しちゃったみたいな?」

「『俺たちには一生縁のない娘たちだ』って言ったのお前だよね!?」

「訂正しよう。お前にはなかったが、俺には縁が合ったみたいだww」

「「「「死ねぇぃーーー!!」」」」

 

 かつ丼男だけでなくやり取りを見ていた周りも怨嗟の声を上げて殴りかかって来た。

 ゴンザブロウを敵視する者が全方位から迫って来るが、当の本人は突然の再開に思いをはせ幸せそうだ。

 

「はぁ緊張した~。まさかあのダイヤ様がなあ。あんなに小さかったのに、あれが噂の本格化ってやつか、すげー美人になって、まあ昔からメチャクチャ可愛らしいとは思ってたがな」

「おい皆!こいつの戦闘服脱がすぞ!裸にしてデモンへのおとりにしてやろうぜ!」

「「「「賛成!!」」」」

「やめ、うぼあーーっ!ダイヤ様~ッッ!!」

 

 食堂の乱闘騒ぎはしばらく沈静化しそうになかった。

 



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エンカウント

 不測の事態があったものの、デモン掃討作戦は続行される。

 監視衛星にドローンを駆使した捜索と午前中に接敵した群れの行動パターンを予測したことで、デモンの大群が潜伏している場所を新たに割り出したのだ。

 

 午後から作戦は至ってシンプルなものになった。

 強力無比な戦闘力を持つ少数精鋭を独立部隊として編制し、大量のデモンが巣食っていると思われるポイントへの威力偵察を行う。

 やや遅れてから、残りの部隊は東西に分かれてデモンを包囲しながら進軍を開始。

 周辺の敵を掃除しながら独立部隊と合流、全軍の力をもってデモン殲滅を目標とする。

 ただし偵察の結果、デモン側とこちらの戦力差が大きくかけ離れ勝機が見えないと判断された場合は作戦を中止し、掃討作戦は後日に延期。準備を整えてから再度アタックをかけることになる。

 

 危険な役回りである独立部隊に選ばれたのは、まだ年若いウマ娘たち。

 チーム"ああああ"の4名、アル、ココ、クロ、シロであった。

 

「威力偵察?全て倒してしまってもかまわんのだろう」

「「「「どうぞどうぞ!」」」」

 

 司令部とのやり取りは大体こんな感じで終わった。

 いける!と思ったならデモンの巣窟で暴れてもいい、(むし)ろ全部やっつけてくれたら万々歳!

 と、いった様子で偉い大人たちが揉み手をしながら4人を送り出したのである。

 

「まあ、いいんですけどね。危険手当でボーナスも頂けるようですし」

「ガッポリ稼いでマサキさんを驚かせましょう」

「そしてたくさん褒めてもらう!」

「最高の報酬は操者の喜ぶ顔だよね」

 

 4人は高速で森林を駆け抜ける。

 道中で散発的に遭遇するデモンはすれ違いざまに片付けておく、撃ち漏らした奴は後から来る部隊に任せていいだろう。

 目的地に到着して暴れ回るのが自分たちの仕事だ。

 速やかに急行し、速やかに終わらせ、速やかに帰る。早くマサキに会いたい一心だ。

 

「今頃きっと、お仕事中ですね」

「マサキさんは人望ある方ですから、最近は医務室を訪れる生徒も多いです」

「うー、それはちょっと心配だな」

「どこかのメスウマにちょっかい出されてなきゃいいけど……」

 

 操者が人気者になって鼻が高い。けどその分、余計な虫が寄って来るのは勘弁してくれ。

 今朝のマーキング、もっと強めにやるべきだったかなと思う4人であった。

 

 ●

 

 トレセン学園、昼過ぎ頃。

 午前中に館内プールで行われた水練は血の池地獄になったりして大変だったが、何とか事態は終息した。

 

「うーん」

 

 医務室には椅子の背もたれに寄りかかりながら伸びをしているマサキがいた。

 今日は医務室を訪れる生徒が二割増しで多い。

 ケガ人相手にヒーリングを何度も行い、治療報告と電子カルテをまとめていると、あっと言う間に午後の時間帯に突入した。

 

「理事長が無茶な思い付きを実践するからなんだよな」

 

 昨日姉さんと遊んだスマブラが大層お気に召したらしく『生徒たちが学園で大乱闘したら最高じゃん』という思考に辿り着いた理事長は、朝礼で意気揚々スマブラ大会の開催を宣言したのだった。

 そういう事情で今日の学園は午後からリアルスマッシュブラザーズ大会の会場に変貌を遂げた。

 今も教室棟の屋上から叩き落された生徒の悲鳴が聞こえる。それ以上の歓声も聞こえる。

 安全に配慮してリギルのメンバーと教官陣が審判と救助隊をやっているので、今のところ重傷者は出ていない。

 トレセン学園ではこういったイベント事は度々あるので皆慣れっ子です。

 

「ウ~ララ~♪」

「あれま、元気なお客さんが来たぞ」

 

 桜色の毛をなびかせながら元気いっぱいなウマ娘、ハルウララが入室して来た。

 これこれ、ちゃんとノックしなさいな。

 愛バの写真を見てニヤニヤしている場面を見をられたら恥ずかしいでしょ!

 

「スマブラ大会はどうなった?確かウララも出場していたよな」

「ん-とね。なんかすぐ終わっちゃったんだ」

「負けたのか、そいつは残念だったな」

「みんな楽しそうに落ちていくんだよー。だから、私も続いて屋上から飛び降りた!そしたら失格になった、えへへ」

「不戦敗やんけ。飛び降りてケガとかしなかったか?」

「キングちゃんが受け止めてくれたから大丈夫。キングちゃんも試合放棄で失格になったけど」

「キングうぇ……保護者も大変だな」

 

 UC基地にいた頃からウララの世話を焼いていた、キングの保護者っぷりは健在らしい。

 

「ならどうして医務室に来たんだ?」

「あ、そうだ!監視に来たんだった」

「かんし?俺の監視か」

「そだよー。ちゃんとお仕事しているかウララが見張るんだよ」

 

 誰の差し金だろう?姉さんやミオあたりか?

 愛バが不在だからサボると思われてんのかな。俺って信用ないのね。

 

「ね、ね、なにして遊ぶ?」

「仕事中だからな。雑談ぐらいなら付き合うけど」

「じゃあじゃあ!お話しようお話。キタちゃんのことを話してよ。普段はどんな感じ?どの位強い?騎神拳はどこまでマスターした?」

「クロのことを?‥‥‥ウララはクロと仲良かったっけ」

「私はキタちゃんの大ファンだよ。気になる人のことは何でも知りたいな~」

 

 ファンなのね……愛バたちにはファンクラブが出来るほどの人気があると知っているが、こんなにグイグイ来る子は久しぶりだ。

 クロの許可なく個人情報や戦力についてバラすのはダメだろう。ここは、当り障りのない情報のみにしておくのが吉だ。

 

(ほとん)惚気(のろけ)話になるけどいいかな。クロのカワイイところはだな‥‥‥」

「カワイイと聞いて!すかさず登場!!」

「あー!カレンちゃんだあ!」

 

 また来たよ。どうしてみんなノックしてくれへんの?

 ドアを勢いよく開け放って新たなウマ娘が入室して来た。

 ポーズとか目線とかが何かとあざとい子だ。

 

「カレンが来たよ、お兄ちゃん。どうどう?嬉しいでしょ」

「ウララの目って綺麗だよな。桜の花びらを思わせる淡いピンク色」

「マサキの目もキレイきれい~。メロンソーダみたい」

「二人でガン無視はやめて!」

 

【カレンチャン】

 旅をしていた時に出会ったウマ娘の一人。

 ウマスタグラムで、300万フォロワーを誇る自撮りの天使。

 質の悪いファンに囲まれて困っていたところに、偶然通りかかった俺は成り行きで彼女を助けたことがあった。

 そのお礼としてクロシロに提供する覇気をもらい、ついでに映えとは何ぞやの講義を受け、自撮りの極意も教わったのだった。

 トレセン学園に入学できたということは、やはり強かったんだな。

 可愛いだけじゃないカレンさん……さんじゃなくてチャンでしたね。

 

「カレン、何度も言ってるが"お兄ちゃん"やめてくれ」

「えー、カレンがこう呼ぶと大抵の男は喜んでくれるんだけどなあ」

「俺さあ、妹萌えじゃないみたいなんだよね」

「知ってるよ!マサキは負の三冠王なんだって。えーと、マザ?シス?ロリ?のコンコンコン?」

「なんてこと、カレンの可愛さが通用しないなんて。負の三冠恐るべし!」

 

 負の三冠とは失礼な!

 誰が言い出したんだよ……心当たりが多すぎる!

 母と姉と愛バと幼女とその他に萌えて何が悪いか!

 なんと言うか妹萌えは、別次元の俺が既にやっちゃてる気がするんだよね。

 

「医務室に映えはないぞ。カレンもケガしていないようだし、スマブラにお戻りなされ」

「カレン、いいところまで勝ってたんだよ。だけどゴルシちゃん無茶苦茶やって……」

「酷い目に会ったんだな。心中お察しします!」

 

 午前中に医務室を訪れた生徒たちから聞いた話は本当だった。

 ゴルシが鎖付の(いかり)を振り回して暴れていると!どこから持って来てんだ!

 

「カレンちゃんも監視するの?」

「監視はウララちゃんに任せようかな。カレンはこの三冠王に妹の良さを説き伏せないといけないから」

「仕事の邪魔すんなら帰れよ」

 

 と、言いつつもお茶の用意をする俺です。

 書類仕事の合間にお喋りするぐらいはいいだろう。

 ウララもカレンも俺が知らないジャンルの話題を振ってくれるので結構興味深い。

 俺の惚気話も嫌な顔せず聞いてくれるし。

 

 (今頃どうしてるかな?頑張り過ぎていないか心配‥‥‥だが、信じてるぞ)

 

 チラリと横目で壁掛け時計を確認する。

 まだ早いが、この後行く所があるので準備もしておこう。

 頑張ってビックリさせてやるとしますか。

 

 ●

 

 前線基地から距離にして約数キロ、森林地帯を抜けた先の平地が戦場となった。

 デモン大群に対するはたった4人のウマ娘。

 自分たちの縄張りに現れた獲物を前に、デモンたちは歓喜し(たけ)り狂い我先にと襲い掛かる。

 幸か不幸かこの時、デモンは気付いていなかった。

 獲物は彼女たちではなく自分たちのほうだと。現れたのは哀れでか弱い被害者ではなく、凶暴で獰猛(どうもう)な死神であったことを……

 

「索敵終了。周囲に敵影なしです」

「ふー、暴れた暴れた」

「これだけやればデモンも()りたと思うよ」

 

 戦闘開始から1時間弱、戦場にはかつてデモンだった大小様々な残骸がぶちまけられ転がっている。

 午前の戦闘で倒した2000体を上回る数との闘いになったが、4人は慌てることもなく処理を開始した。

 旧校舎の地下ダンジョンに出て来るエネミーに比べればどうということもない。

 ただ、とにかく数が多かったので最後の方は全員が単純作業で疲れた目をしながら戦っていた。

 4人の頑張りもあってデモンの大群はここに殲滅されたのである。

 

「逃げた奴は追わなくていいの?」

「後から来る主力部隊が片付けますよ。少しぐらい仕事を残してもバチは当たりません」

「だよねー……クロちゃん、スカートの(すそ)が切れてるよ」

「ココだってデモンの体液かかってない?」

「嘘!?どこに?」

 

 ケガはしなかったものの、衣服の損傷や汚れは逃れようが無い。

 ココが予備の制服を持って来ているので、あまりに酷い場合は着替えることも考慮に入れておく。

 今回はまあいいだろう。

 

「司令部への報告終わりました。現在、主力がここを目指して順調に進軍中です。彼らの到着まで2時間程でしょうか?これにて、私たちの仕事は十二分に達成されましたね」

 

 通信機で司令部と連絡を取っていたアルが戻って来た。

 

「司令部は何か言ってた?」

「『もう終わったの!?うそーん』ですって」

「当然の反応ですね」

「主力の到着まで休んでいいそうです『よくやってくれた!感謝する』とお褒めの言葉をいただきましたよ」

「やった!感謝されるって嬉しいね」

「これにて追加報酬頂きです」

「ついでに名声もね」

 

 戦闘を終え報告も済ませたことで空気が弛緩(しかん)する。

 4人は軽くハイタッチして喜び合う。

 戦闘後のスキンシップはマサキも奨励(しょうれい)している"ああああ"の大事な儀式だ。

 戦闘後はそれぞれの損傷チェックを忘れずに行う。

 デバイスのエネルギー残量に武器と弾薬の確認、軽い擦過傷(さっかしょう)にはヒーリングをかけ、汚れはタオルで拭き取る。

 乱れた髪と尻尾の毛もササッと直しておく。

 

「お腹空いた…」

「無理もないです。昼食を食べ損ねていましたから」

「そこでお弁当の出番だよ」

「ここではアレなので場所を変えましょう。先程、景色のいい場所を見つけたんです」

 

 デモンの残骸に囲まれての食事は勘弁願いたいので、ランチのために移動開始。

 アルが見つけていた場所はデモンによって荒らされた様子もない、比較的綺麗な草原だった。

 

「草原というよりここは崖です。崖っぷちです」 

「でも景色は最高!遠くまで見渡せる~」

 

 転落すればただではすまない、崖っぷちでのランチタイム。

 レジャーシートを広げ全員におしぼりを配るココ、おしぼりが熱々だあ!

 オッサン臭いと言われようとも顔を拭いてしまう。

 続いてペットボトルに入ったお茶、ファイン印の"うほほーい!お茶ぁ"も手渡される。

 どう見てもパクリ商品です。

 

「そしてこれがお待ちかねの、弁当だあ!」

「「「おお!重箱キターー!」」」

 

 収納空間から風呂敷に包まれた重箱型の弁当箱が4つ登場したことで、全員のテンションはMAXだ。

 

「ラーメンじゃない…だと…!?」

「この匂い、まさかこの弁当は!!」

「気付いたね。そうこれを作ってくれたのは、我らが操者マサキだよ!!」

「「「ギャー――!!マサキさん最高ッッ!!!」」」

 

 キャーじゃなくてギャーだ!もう嬉しすぎて叫ぶしかない。

 あの人はどこまで私たちを喜ばせてくれるのだろうか。

 

「お、メモが入ってる。読むよ・・・」

 

 クエストお疲れ様。

 頑張っていますか?お前たちの事だからきっと大丈夫だと信じています。

 ココにお弁当を渡しておくので、ご自由に召し上がってください。

 中身は全部おにぎりです。キャラ弁は俺にはまだ早かったよ‥‥‥

 少々形が悪いのには目を(つむ)ってくれるとありがたいです。

 では、引き続き頑張ってください。最後まで気を抜かずしっかりやるんだぞ。

 

 ・・・・・・ヤッベッ!泣きそう。

 

「自分、涙いいっスか?マサキさんの愛に溺れそうです」

「早く開けよう!そして食べよう!」

「ですね。もう辛抱たまりません」

「じゃあ、いっせーので!オープン~」

「うひょー、おにぎりパーティーや!」

 

 二段重ねの重箱、その(ふた)を外すとメモにあった通りのおにぎりが顔を出す。

 重箱にぎっしり詰められたおにぎりからは美味しそうな匂いがして、食欲をかきたてる。

 4人は頷いて手を合わせる。食材と愛する操者に感謝して……

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

 綺麗に拭いた手でおにぎりを掴み全員同時に口へ運んだ。

 途端、口の中で弾ける米と海苔(のり)、そして具材の香りと味わい。

 

「「「「うますぎるッッ!!」」」」

 

 これは、やめられない止まらない!

 よく噛んでじっくり堪能しつつ、次のおにぎりへと手が伸びてしまう。

 重箱の1段目は海苔に包まれた三角のおにぎりたち。

 具材は梅、おかか、昆布、鮭といった定番の物に始まり、シーチキン、肉みそ、半熟の味付煮卵、佃煮(つくだに)などが入っている。

 2段目には色とりどりで目にも鮮やかな混ぜご飯系のおにぎりが詰まっている。

 ワカメと青菜、鶏五目、チャーハンやカレーピラフ風のご飯を握ったものだ。

 どれも一つ一つ丹精込めた手作りのおにぎり。形が少々悪いのも全く気にならない。

 4人分しかも、これだけの具材を準備して握るのは中々に大変だったことだろう。

 早起きして私たちのために作ってくれた、そのことが途轍(とてつ)もなく嬉しい。

 

「うーまーいーぞー!こんな美味(うま)いおにぎり初めてだよ」

「右に同じ。どんなフルコースより、このおにぎりには価値あります」

「焦らずよく噛んで食べましょうね。ほら、お茶もありますから」

「味わって食べないとバチが当たるよ。はぁ、ホントに美味しい」

 

 米の一粒も残さないように真剣に夢中で食べる。

 味はもちろんいいのだが、このおにぎりにはそれ以上に優れたポイントがある。

 それはマサキが手作りしたということだ。

 

 マサキの覇気には感情が乗り他者に伝わり安い傾向にある。

 契約者である愛バはより鮮明にその感情を読み取りやすい。

 数々の修羅場と厳しい修練を(くぐ)り抜けたことで以前に比べて制御が格段に上手くなった今でもそれは変わらない。

 ネガティブな感情はかなり隠し通せるようになったが、ポジティブな感情はふとした拍子に漏れ出てしまうのだ。それは相手に対する好意だったり、大切に思ったり、大事だよと伝えたい真摯(しんし)で温かな気持ちだ。

 それはマサキに近づいたり触れられた瞬間に強く感じる。

 そして、彼が触れたり作ったりした物品にはそれが長い間残留する。料理などはその最たるものだ。

 

 おにぎりを咀嚼(そしゃく)するごとにマサキの思いを感じる。目を閉じれば彼が料理中の情景すら浮かんで来るようだ。

 早朝、自宅のキッチンで沢山のおにぎりを(こしら)えるマサキ。

 大変な作業であるにもかかわらずその表情は何だか楽しそうだ。

 

『よっ、はっ、とっ……うっし!これで完成だ』

『炊飯器いっぱいあってよかったぜ。残った分は朝飯にするとして』 

『うーん、ちょっと形がイマイチだけど許してくれよ』

『あいつら、ちゃんと食べてくれるかな?美味しいって言ってくれるかな?』

『これを食べて少しでも元気になってくれたら嬉しいな』

『どうか無事に帰って来ますように』

 

 おにぎりには私たちへの愛と祈りが込められている。

 マサキさんの心遣いに涙腺が・・・あ、無理、もう泣く、絶対泣く!

 

「う、うわぁぁぁぁ!マサキさん最高だぁーー!ハイッ!」(´Д`)

「「「マサキさん最高だぜぇーー!!」」」

 

 私たちは涙が零れないよう天を仰ぎながら『マサキさん最高!』と三回唱えた。叫んだとも言う。

 周りに人がいなくてよかった……いてもやっていたけど。

 

「わしらは日本一の幸せ愛バじゃけぇのう!」

「マサキさん!ばりすいとーとよぉぉーー!」

「見てみいアル、嬉しすぎて二人ともおかしゅうなっちょるぞ。ああなったら(しま)いじゃ」

「おかしいのはココさんもどすえ。正気なのはわっちだけでありんす」

 

 感極まり言語に異常をきたしながらも、至福のランチタイムを過ごす愛バたちであった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

「「「「ごちそうさまでした!!」」」」

 

 大満足のおにぎり弁当を綺麗に完食した4人。

 お腹も心も満たされて幸せな余韻に浸りながら休息を取ることができた。

 そろそろ活動を再開しよう。

 空の重箱とレジャーシート、デザートにつまんだ菓子類のゴミをまとめてココが収納する。

 ポイ捨て厳禁!後片付けは完璧だ。

 

「これからどうする?」

「味方が来るまでまだ時間がありますね」

「もう少し先まで探索したらどうかな。デモンがこの一帯に潜んでいた理由も知りたいし」

「でしたら、あの辺りを目指してみては?」

 

 見晴らしいのいい崖っぷちから気になる場所をアルが指差す。

 それは、明らかに人工物だと思われる建物群だった。

 

「森林地帯にポツンと現れた廃墟ですか、探索しろと言わんばかりのスポットです」

「これは行くっきゃない!」

「デモンの残党がいるかもしれない、警戒を怠らずに行こう」

「司令部に連絡しておきます。準備出来次第、出発しましょう」

 

 満場一致で廃墟探索にGO!することになった。

 

「行こうシロ!あそこを"ああああ"の領地にしてやろうぜ」ガシッ

「いや廃墟なんていらな…バカ!手を離せぇ、嘘!?飛び降りいぃぃーーぎゃあああぁぁぁぁ‥‥‥」

 

 年少組二人が元気よく崖からダイブして、消えた。

 クロがシロを道連れにしたように見えたのは気のせいだろう。

 

「落ちたね」

「落ちましたね」

「私は別ルートからゆっくり行こうかな。食後の急な運動は体に悪いし」

「何を悠長なことを、二人に遅れを取るわけには参りません。最短ルートで行きますよ」ガシッ

「引っ張らないで!嫌だってば、行くんなら一人でい…いやぁぁぁーーマサキーーー!」

 

 落下した先で合流して廃墟を目指す。

 クロとアルは『楽しかった』『壁蹴りすれば楽勝です』と笑い合っていた。

 葉っぱを体のいたる所に付けたシロとココは『マジありえん』『脳筋どもがぁ』とぶつくさ文句を言いっていた。

 全員無事なので結果オーライだけど、良い子のみんなは真似したらダメ!

 

 程なくして到着した場所には人やデモンの気配はない。

 元々舗装されていたであろう地面には雑草が生い茂り伸び放題になっている。

 この場所が長い間放置されていたことは明らかだった。

 建造物を見て違和感を感じる。内部に家具家電が見当たらないどころか、張りぼて状態の物も多い。

 基礎や外装までは工事したのに、中途半端に投げ出したみたいだ。

 

「作りかけ?途中で飽きちゃったのかな」

「そんな感じだね。町を作ろうとしていたが計画が頓挫(とんざ)してしまった、とか?」

「崖の上から見た時に思ったのですが、周囲一帯の土地が整備された形跡があります」

「ここに来るまで進んだ森の中や、デモンと戦った場所にも人の手が入っていたのかも知れませんね」

「怪しさ満載の場所は調べるに限る。少し入念にサーチしてみます。ふんぬっ!」

 

 シロがオルゴンテイルを顕現させて周囲の探索を開始する。

 6本の結晶尻尾が独立した動きを見せサーチしていく、途中で触ろうとしたクロの手をはたき落とすことも忘れない。

 地面に挿していた一本がピクピク反応している。何か見つけたようだ。

 

「ほうほう。デモンが集まっていた理由がわかりましたよ」

「教えて教えて~」

「地下に動力プラントが遺棄(いき)されています。その残留エネルギーにデモンが引き寄せられたのでしょう」

 

 更にサーチを続けたシロは地下施設への入口を見つけ出だした。

 分厚い防護扉は破壊されており、この先へ何者かが侵入した形跡が見受けられた。

 

「デモンがやったの?」

「わかりません。でも、この破壊跡は……古くても3ヶ月前ぐらいのものだと思います」

 

 警戒しながら地下に下りて行く。

 内部の補助電源が生きているようで人感センサーに反応した照明が行く先を照らしてくれる。

 残念ながら、エレベーターは故障していたので地道に階段を使って移動した。

 誰にも会うことなく最下層へ到着。完全に機能停止した動力プラントや起動兵器の格納庫を発見した。

 

「旧型のリオン……防衛型装備仕様か、ざっと見た感じ何体かいなくなってます」

「ねえ。新型デモンってさあ、ここのリオンと合体していたんじゃない」

「その可能性は大いにあるね。どうやってデモンがそんな考えに至ったかはわからないけど」

「ここの事も司令部に報告ですね。後でキッチリ調査してもらいましょう」

「こっち来て!パソコンあったよ。あーダメだ、全然動かない」

「任せな!端末が死んでいようとも、可能な限りデータをサルベージしてやります」

「ホントに便利な尻尾ですね」

 

 画面の割れたPCにシロがオルゴンテイルを接触させる。壊れた機器から強引にデータを吸い出そうというのだ。

 もうハッキングの域を超えているが、これもシロの優れた情報処理能力の賜物だ。

 普段の行動はアレだがシロの頭脳が異常なほど高スペックなのを仲間たちは知っている。

 

 (頭いいんだよなあ、アホだけど)

 (頼りになるね、アホだけど)

 (シロさんはアホ可愛いのです。アホ過ぎて、ときどき哀れに思ったりしますけど)

 (フフフ、尊敬の眼差しをビンビン感じますよ!もっとだ!もっと(うやま)って!)

 

 仲間たちが見守る中、目を閉じ集中していたシロはゆっくり開眼して独り言ちる。

 

「そういうことか…」

「一人で納得していないで説明!はよ」

「ここは建設途中で放棄された揺り籠(ゆりかご)‥‥‥シェルター一体型実験都市"クレイドル"が作られるはずだった場所です」

「まさか、クレイドルの予定地だったとは」

「んー聞いたことがあるような。何だっけ?」

「もう、座学の授業でちゃんと習ったでしょ」

 

 授業で習うとか以前に、クレイドルについては知っておくべきだ。

 私たちの操者と因縁深い場所なのだから。

 

「完成した実験都市1号"アースクレイドル"は、マサキさんが生まれた場所です」

「なんと!そ、そんな大事な場所だったんだ」

「それだけじゃありません。二十数年前……テロ組織連合の襲撃を受けて、アースクレイドルは壊滅しました」

「え、壊滅?それって……」

 

 二十数年前、多数のテロ組織が徒党組んでアースクレイドルを襲撃する事件が起こった。

 重火器で武装した無法者集団は都市を(ことごと)く破壊し、価値ある実験データやEOTを奪取したのみならず、逃げ惑う大勢の人々を虐殺した。

 死者行方不明者合わせて2000人を超える犠牲者を出したこの大事件は、当時の世間やメディアを大きく騒がせ、万全と言われていたクレイドルの安全性と信頼を大きく損ねる事になった。

 結果、各地で予定されていたクレイドルの建設は中止され放棄される。

 今、自分たちがいる廃墟はそのうちの一つだ。

 

「たづなさんとマサキさんは、アースクレイドル襲撃事件の生存者です」

「生存者‥‥‥じゃあ、マサキさんたちのパパとママはその時に……だから施設で育った…」

「メジロの執事長ウォルターが言っていました『とにかく酷い有様だった』と、地獄のような環境で奇跡的に生き残った少女と赤ん坊を救助したとも……それが」

「いつもの姿からは想像もできないけど、マサキもたづなさんもハードな人生だよ」

「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

 クロがやり場のない怒りを滲ませながらギリギリと自身の腕を引き絞る。

 何だその無駄に力んだポーズは、バッタの改造人間に変身しようとしてるの?黒い太陽なの?

 

「マサキさんの人生を狂わせやがって!おのれクライシス!」

 

 なんでやクライシス関係ないやろ!

 

「事件の加害者たちは既にメジロ家によって一掃されています。ですよね?」

「はい。末端の構成員に至るまで洗い出し、数年かけて全員処断もしくは投獄したと聞いております。当時、最強と(うた)われた初代教導隊が尽力したそうです」

「中でも"暴君"と呼ばれた騎神が凄かったらしいよ。ベテランの戦闘屋が名前を聞いただけで震え上がり逃げ出したって伝説があるの」

「そっか、悪い奴らはもう成敗されているんだ。よかった」

「‥‥‥ですね」

 

 事件は既に終息し悪は断罪されている。それは良いことなのだろう。

 しかし、シロは知っている。事件を精査し知れば知る程、腑に落ちない事が浮き上がって来ることを。

 

 この事件は実に不可解な点が多くある。

 事件当日に防衛用に配備されていたはずの無人機がまともに機能していなかったこと、シェルター一体型と銘打った堅牢なセキュリティをテロ組織がアッサリ突破していること。

 突発的な通信障害が起こり救援の到着が大幅に遅れたこと、利害の一致すら出来たのかも怪しい多数のテロ組織が手を組んだ理由がハッキリしないこと。

 研究施設があった地点から異常な次元振動が観測されていたことなどだ。

 

 (研究施設にはクロスゲートがあったと記録がある。観測された次元振動、これは偶然か?)

 

 逮捕されたテロ組織幹部の供述も意味不明な箇所がある。どいつも虚ろな目で狂ったように似たような事ばかり言っていたらしい。

 『アースクレイドルを襲わなくてはいけない、その衝動に抗えなかった』『ただ光に導かれた』『あいつだ!あいつが来ないから』『でぃ……れ…‥ぅ』

 精神崩壊や獄中自殺する者も多くてまともな会話ができる相手自体が少なかったとか、精神鑑定を担当をした医者は罪の意識から来る意識障害がなんたらと適当な診断をしていた。本来なら公平を期すべきところではあるが、凶悪犯の戯言だど一蹴されてしまい詳しい調査は行われていない。

 

 (仮に供述がまともだと判断すると…テロ組織は誰かにそそのかされていた?この事件、まだまだ裏がありそうです)

 

 シロが頭の中で事件をまとめていると、クロがしょんぼりしていることに気付く。

 

「私バカだ…クレイドルやマサキさんの過去なんて知らなかったよ、知ろうとしなかった。こういうの今からでも、直に聞いていいのかな?」

「知りたいなら聞くべきです。マサキさんならきちんと教えてくれますよ」

「みんなは聞いたの?」

「ある程度は自力で調べて、後はそれとなく聞き出しました。事件についてはサトノ家でも鋭意調査中です」

「デリケートな話ですから安易な気持ちではダメですよ。真剣に受け止める覚悟が必要だと思います」

「踏み込むのは怖いよね。でもさ、好きな人のことは知りたいし、自分のことを知ってもらいたい。そう思ったら勇気出すしかないよ」

「そう、だよね。私も言わなくちゃ……だ」

 

 クロが何やら決意を固めたようだ。

 心配しなくていい、私たちの操者はとても度量の大きい人だ。彼なら何があっても受け止めてくれると信じようじゃないか。

 

 ●

 

 端末から破損して虫食い状態のデータを何とか吸い出し、地下施設を後にする。

 地上に戻ると眩しい陽光が目に染みた。

 

「そろそろ味方部隊が到着してもいい刻限です」

「ここで待つ?こっちから迎えに行った方が……」

 

 センサーに反応あり。私たち以外の何者かがこちらに向かって来る。

 

「誰か来るよ!デモンじゃない、人だ」

「あら本当、こちらに手を振って」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 4人は同時に声を上げた。

 近づいて来る人物は5人、男性3人ウマ娘が2人の組み合わせで、全員が迷彩柄の戦闘服を着こんでいる。

 その中の一人、先頭を歩きながら笑顔でこちらに手を振る男に注視してしまう。それは自分たちがよく知る男の顔をしていた。

 これはどうしたものかと考えていると、相手との距離は数メートルにまで近づいた。自分たちの顔を確認した男が嬉しそうな声を出す。

 

「よう!全員無事みたいだな。どうにも我慢できなくて、こうして迎えに来ちまったぜ」

 

 『ビックリしたか?』と愛想よく笑う男、こちらを見る眼差しは何処までも優しい。

 一番先に動いたのはやはりこのウマ娘。我らの切り込み隊長クロだった。

 クロは男の眼前まで一瞬で距離を詰め、その顔をマジマジと見つめた後、男の後ろに控えている男女に(いぶか)し気な視線を送る。

 

「誰?」

「ああ、この人たちはギルドのスカウトだよ。お前たちの活躍を聞いて『どうしても会って話したい』と言うもんだからさ、一緒に来てもらったんだ」

 

 戦闘服を着た4名の男女(女はウマ娘)はこちらに会釈して微笑む。

 クロは再び同じ質問をする。

 

「‥‥‥だから、誰?」

「なんだよ、怒ってるのか?勝手に連れて来たのは悪かったけど、話ぐらい聞いてあげてくれないか。お前たちもそう思うよな?」

「「「・・・・」」」

 

 男は同意を求めるようにシロ、アル、ココに声をかける。だが3人は俯いて黙ったままだ。

 そんな状況に少し慌てた男だが、すぐに持ち直す。

 男は4人の反応を、自分がサプライズで登場したことで歓喜し感情の制御不可となっているのだと、とても好意的に解釈した。

 

「機嫌直してくれよ。家に帰ったら念入りにブラッシングしてやるから、な?それでいいだろク……」

 

 頭を撫でようと手を伸ばしクロと言いかけようとした口は、次の言葉を発することはなかった。

 

お前が誰かって聞いてんだよぉーーー!!!

 

 耳と尻尾を逆立て、激昂したクロが男の顔面に鉄拳を叩きこんだからだ。

 

「げびゅっ!?」

 

 クロの拳は男の鼻を潰し、その体を後方へ弾き飛ばす。

 男は作りかけのビル群に突っ込み、鉄骨のはみ出た瓦礫の山へとぶつかり粉塵を上げながらようやく停止する。

 

「な!?」

「な、何を!」

 

 突然の凶行にギルドのスカウトだと紹介された男女は驚愕に身を固めつつ、危険を察知したのかデバイスを展開しようとする。

 だが遅い!

 即行かつ正確無比な発砲が行われた。

 

「ぎゃっ!」

「ぐああ」

「ああああああ!」

「あし、私の足がぁーー!」

 

 4人の大人たちは崩れるように倒れ伏し、足を押さえながらうめき声を上げる。

 無言のシロがライフルで4人の膝を撃ち抜いた結果だ。

 非殺傷のゴム弾に換装して発砲したので死にはしないが、膝の皿は完全に砕かれただろう。

 

「こ、こんなことしてただで済むと…」

黙れよ

 

 再び発砲!ゴム弾は男の頬に命中し、その骨を砕く。

 抗議の声を上げようとした男は大きくのけぞり動かなくなった。

 膝だけでなく、今の一撃で顔面の骨も破壊されたようだ。

 

「ひぃ」

「い、嫌ッ!」

悲鳴を上げるな神経が苛立つ

「・・・・うっ」

 

 シロの顔はどこまでも冷淡で冷めきった目をしていた。

 その全身から憤怒の覇気が立ち昇っている。

 これ以上ギャーギャー騒ぐようなら、ライフルをビームに切り替えて撃つぞ!威圧しているのだ。

 生殺与奪権を握ったシロを前に残された男女は黙ることしかできない。

 

 怒りで乱れた呼吸を整えたクロは瓦礫の山に近づく。

 ちょうど、先程殴り飛ばした男がよろよろと立ち上がるところだった。

 その時、血を垂れ流す鼻を押さえた男に変化が起こる。

 顔を中心に乱れたノイズが走ったかと思うと、その顔が変わっていく。

 痩せこけており、ギョロギョロ落ちくぼんだ暗い目つきに禿頭という、この男本来の顔に戻ったのだ。

 こいつ、ハゲとるやないかい!!

 

「ば、バカな!"変幻のアルコ"と称えられた、俺様の変身術を見破るとは……貴様らの操者を、アンドウマサキを完璧にトレースしたはずなのに!」

なめんなハゲ

「げぶぅぅっ!!」

 

 無慈悲なヤクザキックが発動!クロに腹を蹴りつけられたアルコというハゲは再び瓦礫に突っ込んだ。

 クロは仰向けに倒れたアルコの胸を踏みつけ、その胸骨がミシミシ悲鳴を上げるほどの負荷をかける。このまま心臓を潰してやろうか?

 痛みと恐怖で叫ぼうとしたアルコだったが、クロの顔を見て喉を詰まらせる。

 そこに……鬼がいた。

 

マサキさんはね

 

 真っ赤な目をした鬼は煮え(たぎ)る怒気を宿したまま言葉を紡ぐ。

 

お前みたいに臭くないし、そんなショボくれた覇気もしていない、やる事なす事全てがめちゃくちゃカッコイイ男なんだよ

 

 崇高な存在であるマサキさんを、汚したな!穢したな!侮辱したな!

 

言ってる事わかる?わかんないよね?わかるわけないよね?わかってたらこんな事しないよね?

 

 くだらない術でマサキさんを真似たばかりか、私たちを騙そうだなんて……

 あまりにも無知で無謀で無礼!

 愛バの前で操者を(かた)ったクズの末路がどうなるか、知ってるんだよなあ!おいコラハゲッ!

 

「お前はやっちゃいけない事をした。潰れろ」

 

 バスカーモード発動。オルゴナイトで固めた右足でアルコの顔を踏み潰そうとするクロ。

 

「殺すなっ!」

 

 シロの叫びがクロを止めた。琥珀色の瞳と緋色の瞳、二人の視線が交差する。

 

 (邪魔する気?まさか、殺人は倫理的にダメとかぬるい事ぬかすつもりじゃないよね?)

 (そいつにはまだ聞きたいことがあるだけです。処断はそれが済んでからでもいいでしょう?)

 (・・・・)

 (無益な殺生をしても、マサキさんは褒めてくれません)

 (チッ・・・・わかったよ)

 

 バスカーモードを解除したクロは踏み込もうとした足を下ろした。

 クロが思い止まってくれたことにシロは安堵する。

 

「・・・・あ、ああ、あうあう」

 

 極大の殺意を含む覇気を向けられ、実際に殺されかけたアルコは泡を吹いて気絶した。

 

「あームカつく!」

 

 クロは気絶したハゲの体を弱キックしてから、その場を後にする。未だに不機嫌という感情を隠しもせず、仲間たちの元まで戻って来た。

 クロとシロの動きをアルとココは止めようとしなかった。

 二人が動かなければ、自分たちが同じ行動をしていたと思うからだ。

 さて、雑魚の相手は終わった。本命の相手をしよう。

 

「いつまでそうしてるつもり?隠れる気ないでしょ」

 

 ココが動く、収納空間から取り出した二丁マシンガンを両手にし、自分から見て2時方向へ間髪入れず乱射する。

 そこには何もない誰もいないはずだったが、空間が突如として歪みそこから人影が飛び出した。

 隠形術で身を隠していた何者かが、すぐ傍に潜んでいたのだ。

 そいつの動きに反応し回避方向に先回りしている者がいた。全身から雷を(ほとばし)らせたアルだ。

 

「不愉快です」

 

 眉間に皺を寄せたまま雷の覇気を纏う蹴りを見舞う。完全に相手を捉えたクリティカルな一撃だ。

 アルの蹴りを食らった相手は地に倒れ伏すか、遥か後方へぶっ飛ぶことになるだろう。

 打撃音と衝撃が走る。攻撃の結果を確認したアルと仲間たちは目を見開く。

 

「まあ、怖い怖い」

「止めた!?」

「アル!放れて!!」

 

 攻撃は確実にヒットした。しかし、相手はそれを片腕一本でガードして見せたのだ。

 自信のあった蹴り技を防がれたことに驚愕している暇はなかった。

 

「どっせぇぇーーーいッッ!!」

 

 上空から新たな影が迫る。アルは咄嗟の判断でその場から飛び退る。

 気合の籠った掛け声と共に現れたそいつは、寸刻前までアルがいた場所に拳を着弾させる。

 大地が震え割れる。

 

「のわっ!」

「マジか!?」

「地割れ?ミオ教官じゃあるまいし」

 

 隆起した地面に飛び散る大地の破片を躱しながら、クロ、シロ、アル、ココの4人は身を寄せ合うように集合する。

 

「もう!接近しすぎだと忠告しましたでしょうに」

「ごめんなさいねぇ。どうしても彼女たちを近くで見たくて」

 

 地割れを起こした方がアルの蹴りを止めた方を叱責している。

 お前ら何者だ!と声に出そうとする前に、またしても乱入者が増える。

 妖怪地割起こし(仮称)がジャンプして来たであろう茂みの奥から現れ、悠然と歩いて来たのは二人のウマ娘。

 

「ドッキリ大失敗ですか。ふわぁ~‥‥‥面白くありませんこと」

「最初から期待はしていなかったがな、なんとも無様なものだ」

 

 招かるざる客はこちらと同じ合計4人。しかも、全員がウマ娘だ。

 横並びになったウマ娘たちは4対4で睨み合う形になる。

 もっとも、向こうの顔は見えないので視線が合っているかどうかは不明だ。

 そう、顔が見えないのだ。

 こいつら全員…仮面を装着で顔を隠していやがる!!

 来た、ついに来たか!

 

「ルクスに尻尾を振るアバズレのご登場か」

「フンッお互い様だろう」

「ああ゛!?」(# ゚Д゚)

「クロさんステイ!まだ早いです」

「元気ですね~。ふぁ…ねむねむ…」

「変な奴ら」

「ウフフ、そちらもですよ」

 

 認識阻害の仮面がある限り奴らの正体に辿り着くのは困難だ。

 だが、背格好や口調等の情報は記録して置いて損はないだろう。

 "ああああ"の4人は臨戦態勢を維持したまま敵を注意深く観察する。

 

 (一般的な護身用装備に流通品の戦闘服。デバイス類は携帯していないように見えます)

 (4人しかいない、前に会った二人はどこ?)

 (私の蹴りを止めた方、ただ者ではありません)

 (あの仮面、顔だけじゃなく覇気や他の生体情報も隠蔽してる。厄介だなあ)

 

「今日は、うるさいのと小さいのがいませんね?」

「ベルスとウェールは別任務中だ。我々は多忙なのでな」

「今日は何の用?ここでやり合うつもり」

「先程、大変不快なことがありましたので手加減は一切できません。やるならそのつもりで」

「そんなに怒ったら可愛い顔が台無しですよ」

「お前の顔も台無しにしてやろうか?」

「望むところですわ!しかぁし!台無しのボッコボコになるのはそっちです」

「ほざいたな。あの世で後悔させてやる」

「・・・・スヤァ」(˘ω˘)

「一人立ったまま寝てる奴いるんだけどぉ!」

「はっ!ね、寝ていません。寝ていませんったら、ねて……寝てました!!」

「正直か!」

 

 調子が狂う!寝不足なら帰れ!帰って永眠しろや。

 口を開けば挑発合戦が始まってしまう。

 めんどくせぇ、もう一気にやっちまうか。

 

「まあ待て、今日は挨拶に伺ったまでだ。こちらに戦闘の意思はない」

「質の悪いドッキリを仕掛けておいて何を言う」

「あの程度が見抜けないようでは、わざわざ相対する必要もないと思ったまでよ」

「試し行為ってヤツ?心底ムカつくんだけど」

 

 どうせこちらの事は把握されている。向こうが挨拶したいと言うならさせてやろう。

 それでどんな名前?ビッチ?それともクソ子か?何でもいいからはやくしろよ。

 

「我が名はアエル。覚えておけ」

「フルーメンですの。あなたたちを、ぶっ飛ばして差し上げてよ」

「ふわぁ……クラルスと申します。今日はポカポカして絶好のお昼寝日和で……ねむ(˘ω˘)」

「マーテルですよ~。敵同士ですけど仲良くしましょうね」

 

 傲岸不遜な態度を崩さないアエル、力自慢で頭悪そうなフルーメン、眠そうなクラルス、ぽわぽわした雰囲気のマーテル。

 それから、この場にいないベルスとウェール。以上の6騎がルクスの愛バということか。

 

 (覚えるのめんどっ!)

 (どうせ消す奴らの名前です。覚える必要無し!)

 (余力はあります。やれますよ)

 (やるんだね。いいよ、こいつらを倒してルクスの戦力を削ろう)

 

 飛んで火にいる何とやら、ルクスの愛バはここで始末する!やるぞ!覚悟を決めろ。

 覇気を練り上げ、仕掛けるタイミングを図る。

 そんな意図を知ってか知らずか、フルーメンが伸ばした指先をアルに突き付け宣言する。

 

「メジロアルダン!あなたはこの私がお相手いたしますわ」ビシッ!

「わざわざご指名ですか。もしかして、お知り合いだったりするのかしら?」

「それは秘密です。この瞬間から、あなたと私は宿命のライバルですの」

「そういうの困ります。本当にやめてください」

「嫌よ嫌よも好きのうちですわね。わかりますわ!」

「あ~ダメですこの方、会話が成立しません」

 

 変なのに目を付けられたアル、ご愁傷様です。

 『脳筋同士気が合うのでは?』と思ったけど、アル式バスターコレダーされたくないので口には出さない。

 勝手なライバル宣言に満足したフルーメンに変わり、今度はアエルが発言する。

 

「私の獲物はお前だ、ファインモーション」

「お断りだぁ!マサキ以外の相手に迫られても迷惑なだけだよ」

「お前の迷惑など知らん!我が願い成就のためにも勝負してもらうぞ」

「早押しラーメンクイズ選手権なら受けて立つ!」

「却下だ」

「ダメかぁ」(´・ω・`)

 

 ションボリするココ、ダメに決まってんだろ!

 残りの二人もライバル宣言して来るのだろうか?

 

「ウェールちゃんはキタちゃん、ベルスちゃんはダイヤちゃんにご執心みたいですよ~」

「「うわ、めんどくさ」」

「そう言わずに遊んであげてください。きっと、泣いちゃうぐらい楽しくなりますから」

「「なめんな!」」

 

 マーテルが知りたくない情報を教えてくれたのでテンションが下がる。あいつらの相手やだー!

 というか、誰が泣くか!泣かせてやるのはこっちなんだよボケが!

 こいつらは事前に戦う相手を決めているようだ。そうなると残りの二人、マーテルとクラルスにもターゲットがいるのだろうか?うまいこと誘導して、たづなさんとかに押し付けられたらベストなんだがなあ。

 

「そうなると、私たちのお相手は……やっぱりマサキ様かしら」クスクス

「「「「あ゛」」」」(# ゚Д゚)(#^ω^)(# ゚Д゚)(#^ω^)

 

 おいコラ今何と言った?

 クラルスの放った言葉に耳と尻尾だけでなく青筋も立ててしまう。

 

「いいですね。ルクスさんの前に、私たち二人のおもてなしを受けてもらいましょう~」

「「「「殺す!!」」」」

「たっぷり遊んでもらった後は一緒にお昼寝して……操者になってもらうのもアリ?……キャッ///私ったらはしたない」(´∀`*)ポッ

「「「「ぶっ殺す!!」」」」

 

 はいダメ―!こいつらアウトー!殺意メーターぐんぐん急上昇!

 マーテルとクラルス、この二人をマサキさんに近づけてはいけない。迅速に処理しなくては!!

 

「お前たち、今の発言は背信とみなすぞ」

「何を本気にしているのですかぁ?冗談に決まってます~」

「私たちにはルクスさんがいますもんね。フフフ」

「まったく、戯れが過ぎる」

 

 まとめ役となっているアエルは気苦労が絶えないと見た。そっちも大変なんだなあ、知らんけど。

 

「た、助けて……殺され…る」

「アンタらルクスの手下なんだろ!助けてくれるよな?なあ!」

「こんなヤバい連中だなんて聞いてない!何とかしなさいよ!」

「ん?ああ、まだいたのか」

 

 シロのライフルに膝を破壊された連中が、アエルたち仮面のウマ娘に助けを請う。

 しかし、アエルたちの反応は冷めていた。

 

「失敗した挙句に尻拭いまでさせる気ですかあ?無能な上に悪い子さんたちですね~」

「『あの程度の連中簡単に騙せる』と息巻いて出て行ったのはそちらでしょ。あら、言い出しっぺのアルコさんはどちらに?」

「瓦礫を枕にお休み中みたいです。泡まで吹いてらして、それはそれは気持ちよさそうに……ふぁ」

「変幻のアルコなどと調子に乗った奴の自業自得だ」

「そんな!俺たちはルクスのために……」

「手柄のためだろう?マサキの愛バを術中に()めれば楽勝とでも思ったか、浅薄も(はなは)だしい」

「そんなおバカさんは、我々もルクスも必要としてませんの。おわかりになって?」

「……うう」

「クソっ、ちくしょう…‥」

 

 アエルたちの助けは望めないばかりか切り捨てられた連中は、項垂れて呻くことしかできなるなる。

 同情はできないが哀れな光景である。

 

「挨拶はここまでだ。そこにいる連中はもう我々とは無関係、煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

 踵を返して立ち去ろうとするアエルたち。待てやコラ!

 言いたい事だけ言って"ハイ!さようなら"なんて許すわけない。

 ルクスの愛バだ!!ルクスの愛バだろう!?

 なあ ルクスの愛バだろうおまえら

 首置いてけ!! なあ!!!

 

「逃がすと思うか?」

「思うな。間抜けなお前たちが私たちを逃がしてくれると、信じているとも」

「「「ぶっ飛ばしたらぁーーー!」」」

「そういうところが、間抜けと言うんだ」

「!?みんな待って!」

 

 アエルたちに襲い掛かるクロ、シロ、アルの3人。沸点が低い!

 仲間たちが突撃する中、ココだけは相手がどう動いても対処できるよう全体を俯瞰(ふかん)することを選択した。

 そうして見た。

 アエルがその手に握り込んだスイッチらしき装置を押し込んだのを……そのポーズ何?モナリザの手に"だっち"する爆弾魔なの?

 アエルの手から光が溢れた。

 

 (赤い光!?これってまさか)

 

 見覚えのある赤い光は瞬間的に半径数メートルのドーム状フィールドを形成。

 そして世界が停止する。

 止まっている。牙を剥き前傾姿勢で突撃するクロも、凶悪な面で銃を構えたシロも、プラズマビュートを放とうと両腕を振りあげるアルも、みんな停止したまま動かない。

 

「ラースエイレム!またなの!?こんなチート兵器を恥ずかし気もなく」

 

 ラースエイレム、限定空間内の時間停止させるとんでも兵器。

 その空間で活動可能なのは特殊な神核"時流エンジン"を持つココと、ラースエイレムを発動させた術者のみ!

 眼前にアエルが迫っていた。その手にはビームソードが握られ、こちらに斬りかかる。

 

「フン、やはりお前は動けるのか」

「こんなの卑怯でしょ!何考えてるの」

 

 収納空間から取り出したプラズマカッターでアエルのビームソードを弾く。

 その後も、2度、3度とエネルギー刃を交差させ斬り合う二人。

 

 (マズいな。リンクしていれば時流エンジンの効能をみんなに付与できたのに)

 

 マサキが一緒ならラースエイレムも無効化できた。やっぱり操者は偉大だなとココは思う。

 たづなさん程ではないがアエルの剣も中々の腕前だ。これが稽古なら剣には剣で相手をしてやってもいいが、そんな義理はない。

 マシンガン?ライフル?それともバズーカぶっ放してやろうか。

 

「判断が遅いぞ」

「うるさいな」

「今も昔もお前は何も守れない。大人しく引きこもってラーメンでも食べているんだな」

「偉そうに!何様だよ。ラーメンバカにすんな!」

「また失くすぞ?」

「!?」

「戦友、仲間、故郷、家族……次に失うのは愛しい操者だ。それにお前は耐えられるのか?」

「余計なお世話だぁーーー!」

 

 心配される筋合いはない!

 確かに私は失ってばかりだったけど、それ以上に得たものがある。

 それを知らない奴がゴチャゴチャうるせぇ!マサキは絶対に失くさないんだから。

 

 この物言い、アエルはこいつは……前の私が1st出身者だと知っている。

 1stの関係者?それとも過激派の残党か?わからなけど。

 こいつは私とファイン家のことを熟知した上で刃を向けてくる相手なんだ。

 

 (ああもう!因縁って奴はどこまでもしつこい)

 

 マサキが頑張ってベーオウルフとルシファーを倒してくれたのに……何も終わっていなかった。

 不覚!後始末がちゃんとできてきなかったぁー!

 後でルオゾールに仕事を頼んでおこうかしら、ファイン家から離反した1st出身者の動向を総ざらいする必要が出て来た。

 /(^o^)\ナンテコッタイ

 

「ルクスと組んで何する気?あなたの望みは何?」

「我が願望はただ一つ、貴様との決着だ」

「なんだ、やっぱり過激派の残党なの?」

「貴様を倒さない限り、私は先に進めない、進めないのだ!」

「知らんがな」(´・ω・`)

 

 こいつ逆恨みとかで襲って来ているわけじゃない?それよりも拘りや執着を感じる。

 どっちにしろストーカーだぁ!ヤダ―――!

 

「一対一で勝負したいって?そのためにラースエイレム使うとか、一々大袈裟なんだよ」

「安心しろ、現存するラースエイレムはこれが正真正銘最後の一つだ。それも持って後数十秒」

「信用できるの?」

「1stのために身を捧げた戦士たちに誓おう。ルクスも私も金輪際ラースエイレムなど使わない」

「はいはい。そうい事にしてあげる、よっと!!」

「小細工を」

 

 交差する剣戟と会話の最中、ピンを外したグレネードをアエルの足元に放ってやった。

 爆破範囲から逃れるためアエルは後ろに下がる。バカめ!

 このグレネードはピンを外してから爆破までちょいと長めに設定してあるのだ。

 アエルが逃げた先に必殺シュートを決めてやる!いっけぇーー……あ、ヤベッ!足が滑ったぁーーーー!

 想定とは違う角度でココの足がグレネードに接触、放物線を描き地面を数度バウンドした先には‥‥‥不運な奴がいた。

 

 (シロちゃん!??ごめんねぇーーー!)

 

 無駄だと思いつつ声にならない声で謝罪するココ。

 時間切れ、ちょうどラースエイレムが解除される。そして時は動き出す。

 

「ハチの巣にしてやんよ!ん?何か……ひょ??」

 

 シロの近くへ転がったグレネード、彼女はそれが何の前触れもなく出現したように思ったことだろう。

 それが爆発した。

 

ごぉぉぎゃぁぁーーーーんんんんっっ!!

 

 哀れなウマ娘の妙な断末魔が響き渡った。

 

「シロ!やられたの」

「そんなシロさん!くっ、よくも!!」

「え?え?私は何もしてませんわ」

「ふぇ。お一人で勝手に自爆したのでは?」

「不思議なこともあるものですねぇ~」

 

 咄嗟に力んで踏ん張ったのか、爆風で飛ばされることはなかったシロ。

 彼女は煙を上げながら前のめりで地面に倒れる。爆発の影響で自慢の尻尾と髪が少し焦げているのも無残だ。

 

 (だ、大丈夫だよね。死んでないよね?シロちゃんだもん、平気平気!)

 

 頑丈で回避能力も高い癖に、ネタっぽい攻撃はモロに食らってしまう。彼女の芸人魂がなせる技には感服する。

 

「ファイン、仲間に対するその所業……さすがに引くぞ」

「誰のせいだと思ってるの!」

「お前しかいない」

「ですよねー!わかってまーす!」

 

 後ろにいたはずのココが何故か前に出ており、アエルと衝突している。

 クロとアルはその事にギョッとするが、敵を前にして深く考えている余裕はない。

 二人はフルーメンとマーテルに狙いを定め突撃する。

 

「シロの仇ーーー!」

「絶対に許しません!」

「身に覚えがありませんわ!」

「どうしましょう。これでは収拾がつかなくって、夕方のタイムセールに遅れてしまいます」

「では、私の出番ということで~」

 

 静観していたクラルスが両手を合わせて何事かを呟く。

 瞬間、彼女の体から淡い桃色の霧が立ち昇った。

 

 (煙幕!?)

 (何か変ですこの霧…??)

 

 指向性を持った霧はクロとアルを包み込み、変化はすぐに表れた。

 クロが頭を押さえてふらつき出したのだ。

 

「うう、頭痛い……気持ち悪い」

「この感じは」

「悲しい事に、私は皆様ほどの戦闘力を持ち合わせておりません。ですが、ふぁ……こういう術だけは超得意です」

「やはり幻術ですか」

 

 幻術又は幻惑術、相手に幻を見せ惑わす術。

 視覚情報以外にも、様々な方法で五感や神核を刺激して対象を狂わせ攪乱(かくらん)する。

 凄腕の使い手ともなると、1人で数十人を同士討ちさせたり眠らせたりすることも可能なのだとか。

 猪突猛進タイプのクロとは相性の非常に悪い、絡め手の攻撃方法だ。

 幻術を発動したクラルスの声が響く。

 

「この霧はとっても強い酒気を帯びております。吸引すると悪酔いした状態になって、後は……ねむねむ」

「これダメ…う、クラクラする」

「クロさん!しっかりして」

「オウェッ!ちょっと吸ってしまいましたわ……ウェッ!!」

「よしよし、フーちゃんお酒弱かったんですね」

 

 霧の影響はフルーメンにも効果があったようだ。マーテルに背中を擦られ介抱されている。

 バカか?バカだな。

 

「そこでしばらく酔っていてください。その隙に私たちはスタコラサッサと」

「この程度……酔った内に入りません!!」

「ふぁ?」

「プラズマビュート!奴を逃がすな!!」

 

 クラルスに向けて電光の鞭を発射するアル。

 立っているのもやっとのクロとは違い、アルはしっかりと大地を踏みしめ敵を見据えている。

 寝坊助を捕まえ……

 

「やらせませんの!ウェッップ……」

「フーちゃん、無理しちゃって」

「助かりましたわぁ」

「くっ!この!」

 

 フルーメンがクラルスの前に立ちはだかり、えずきながらもプラズマビュートを拳で弾いてみせた。

 

 (拳圧で雷撃を防ぐなんて、このフルーメンと言う方……バカだけど強い)

 

「そうでしたそうでした、失念しておりました~。アルダンは()()()お酒飲んでますものねぇ。耐性があって当然です」

「いつもじゃないです!‥‥‥あなたは?」

 

 いつもと、クラルスは言った。その言葉にアルは思う。

 もしかして、彼女は自分の日常を知りえるぐらい近しい距離にいる誰かなのかと?

 刹那。気の緩みが生じてしまい、そこをマーテルに突かれる。

 

「いけませんねえ。お酒は飲んでも飲まれるな、ですよ。肝硬変さん♪」

「だれが肝硬変か!!しまっ…ぐぅぅ!」

 

 防御の遅れた胸部に強烈な衝撃と圧迫感、マーテルの掌底を思い切り食らってしまう。

 息が詰まる、呼吸が乱れる、後ろに飛ばされた自分の体を支えることができない。

 

 (せめて受け身は取らないと、おぱーいクッションが無ければ即死でした…)

 

 形が悪くなったらマサキさんガッカリするだろうなー。とか、いらん事を考えながら襲い来る衝撃に備えて‥‥

 

「アル姉さんを、スーパーキャーッチ!!」

 

 なんと!倒れていたはずのシロが起き上がりアルの体を受け止めた。

 衝撃は地面に挿したオルゴンテイルをアンカー代わりにして相殺する。

 アルクオン戦で前にマサキに受け止めてもらった経験が役立った瞬間である。

 

「無事ですか?アル姉さん」モミモミ

「シロさん…助かりました。もう、私のおぱーいから手を離してくれていいですよ。や、ちょ、放して!」

「おっと失礼。結構な揉み心地でございました」

「生きていたんですね。ちょっと焦げてますけどw」

「サトノ秘奥義の一つ、死んだフリ爆殺バージョンです。歴代頭首はこの技で何度も窮地を逃れたのです」

「さすがサトノ、変な技をお持ちですね。それで今の状況はかくかくしかじか……」

「全て理解した!」

 

 復活したシロ(焦げサトイモ)を加えて、これからチーム"ああああ"の大逆転劇が‥‥‥始まらなかった!

 

「そんな!私の活躍がぁーー!」

 

 ココと戦っていたアエルはクラルスたちと合流し、ルクスの愛バたち4人は撤退中だった。

 酔って酩酊状態に陥ったクロはマーテルに背中を押され、フラフラしながらもシロたちに合流。ココも何とか戻って来た。

 クラルスの出す幻術の霧が一層濃くなり、敵の姿がその奥深くへと消えていく。

 

「また会おう。チーム"ああああ"」

「アルダン、忘れるんじゃありませんわよ!ライバルですわよラ・イ・バ・ル!」

「次は、もーっといい子でいてくださいね」

「本日は楽しかったですわ。どうか、マサキ様によろしくお伝えください。では、おやすみなさいませ~」

「待てゴラァッ!ウェ…吐きそう」

「クロ?何故酔っぱらっているのです。はっはーん、さてはアル姉さんに一服盛られましたね」

「違います!今はそれどころでは」

「深追い禁止だよ!それにもう逃げちゃった」

 

 霧が晴れた後には敵の姿は残っていない。

 敵を取り逃がしてしまったことに悔しさが募るが、それ以上の疲労に襲われた。

 

「つ、疲れましたぁ」

「悔しいよぁ~頭痛いよぁ~」

「強かったですね」

「仮面がムカつく!こっちのことを一方的に知っているのがさらにムカつくぅ!」

 

 短い時間の邂逅(かいこう)であったにもかかわらずドッと疲れた。

 あの仮面を見た時から、妙に体が強張って普段どおりに動けていなかったのも反省する。

 デモンでも、ダンジョンのエネミーでも、仕事で捕まえる犯罪者でもない。

 今日現れたのはルクスの息がかかったウマ娘、明確な敵、絶対に倒すべき敗北は許されない敵だった。

 これではダメだ、もっともっと強くならないと、操者を守れない!マサキと共にいられない!

 それだけは絶対に嫌だった。

 

 ●

 

 アエルたちが去った後は事後処理に追われる事になった。

 

 今回は短い戦闘だったので損傷は大したこともなく軽めの治療で済んだ。。

 クロの酔いが冷めるまで看病し、シロが爆発で負った焦げを処理して衣服も着替える。

 変幻のアルコとか言うハゲと他4名を拘束し、味方主力部隊の到着を待った。

 

 結果として、デモン掃討作戦は大成功に終わり、司令部からは多大な感謝と報酬を頂いた。

 マサキに化けた不届き者、アルコたちの身柄はメジロ家に引き渡すことになった。ルクスについて念入りに尋問することをお願いしておくことも忘れない。

 放棄されたクレイドルと新型デモンの発生とその因果関係も報告した頃には夕暮れに差し掛かっていた。

 

「驚きましたね。マサキさんに化ける奴がいるとは」

「あんなの全然似てなかったよ!すぐ気づいたもん」

 

 帰る道中も今日あった出来事について話し合う。

 お喋りついでに、マサキに報告する情報を吟味し合っているのだ。

 

「敵はラースエイレムを使ったとか、お一人で頑張ったんですねココさん」

「ま、まあね。みんなを守りながらのガチンコファイトだったよ」」

「それで、あのグレネードはどこから?」

「アエルだよ!そう!あの偉そうなやつが放り投げたに決まってるよ。ホントに卑怯な奴め!」

「そうなのですか。爆発の瞬間に見たグレネードは確かファイン家で採用されているメーカー製の‥‥」

「シロちゃん疲れたでしょ!お菓子まだ残ってるよ、それとも何か飲む?帰るまでおんぶしてあげよっか?」

「む、何だか妙に優しいですね」

 

 シロに対して急に優しくなったココ。

 たまにある、お姉ちゃんムーブをしたいお年頃なのだと解釈することにした。

 

 そんなこんなでトレセン学園のある街に帰って来た。

 学園への報告は明日でよいと言われているので、マサキの家を目指す。

 

「あいつらまた来るのかな。嫌だなぁ、次は6人でさあ、うげー」

「ライバル認定とは面倒この上ないですね」

 

 ベルス、ウェール、アエル、フルーメン、マーテル、クラルス、どいつも厄介な相手である。

 正直もう会いたくないが、そうもいかない。

 

「マーテルとクラルスは……」

「マサキさん狙いとか言ってた!あいつらゆるさん!」

「そう、なんですけどね」

「シロさん?」

「私の気のせいでしょう。何でもないです」

 

 (一歩引いてるというか他の4人に比べ、こちらへの敵意を欠いている気がしたような…)

 

 疑問は残るが結論として、やっつけた後に聞き出せばいいと思うことにした。

 

 マサキの住居までもう少しの所まで帰って来た。辺りはすっかり暗くなっている。

 4人の尻尾がピンッと反応する。慣れ親しんだ大きな覇気を感じ取ったからだ。

 マサキがいる。

 家の中で私たちの帰りを待ってくれている。向こうもこちらに気付いただろうか?

 

「マサキさんの覇気!それと、何かいい匂いが…」

「今、会いに行きますよ!ダーッシュ!」

「あ、抜け駆けです」

「急げーー!全速全身だ」

「待ってよー!」

 

 マンションの階段を駆け上がり玄関扉を勢いよく開け放つ。

 

「ただいまです」

「ただいまー!」

「帰って来たぁ。ただいまだよー」

「ただいま帰りました」

 

 4人それぞれが帰宅の声を上げると、部屋の奥から望んだ通りの人物が姿を現してくれた。

 夕飯の支度をしていたのか、黒いエプロン姿のマサキだ。

 

「おう、帰って来たか。無事で何よりだ、アル、ココ、クロ、シロ、お帰りなさい」(*´▽`*)

「「「「ただいまーー!!」」」」

 

 もう一度ただいまを言って、全力で操者に甘える。

 マサキは慣れた手つきで、1人1人を丁寧に撫でたり抱きしめたりして労っていく。

 4人の尻尾がブンブンッビシバシッ当たって痛いのは我慢だ!もう慣れた!

 

「いろいろあったって顔をしてるな。後でじっくり聞かせてくれよ……シロ?なんか焦げてね?」

 

 やっぱり本物は違う。匂いも覇気も声も全てが最高!これこそがマサキ!私たちの操者。

 この人の真似をするなんて不届き千万!あの変装ハゲはもっと痛めつけてもよかったと思う。

 

 (ぐほぉぉ!マサキさん最高や~)

 (エプロン男子!破壊力ヤベェ!!)

 (結婚しよ)

 (結婚します)

 

 玄関で騒ぎ続けるのもアレなので、部屋に入って荷物を置く。ようやく一息つけそうだ。

 

「今、夕飯を作っているからな。先に二人づつ風呂入って来いよ」

「えー、マサキさんと一緒がいい」

「悪いな。俺はもう入っちまったよ」

「行くよシロちゃん!」

「ええ。マサキさんの出汁(だし)入り風呂に直行です」

「出汁って言うなよ」

「では、私たちはマサキさんのお手伝いをしましょう」

「うん。任せてよ」

「助かる」

 

 ココとシロが風呂に入っている間、アルとクロが夕飯の準備を手伝ってくれた。

 交代でアルとクロが入浴し、ココとシロが手伝いをしてくれる。

 全員の入浴とブラッシングを終えた頃に夕飯は完成した。

 

「今日のメインはこれだ!じゃーん!」

 

 ミトンを装着したマサキは大きな土鍋をテーブルに置かれたガスコンロにセットする。

 蓋を外すとグツグツと煮えた鍋から、温かな湯気と食欲をそそる匂いが立ち込める。

 

「これは!」

「おでんだぁ!」

「美味しそう」

「これは、お酒が欲しくなりますね」

 

 たまご、大根、ちくわ、こんにゃく、はんぺん、牛すじ、他にもいろんな練り物たちが鍋の中で踊っている。

 見ただけで美味しいと理解した愛バたちのテンションは上がる。

 

「前にUC基地で鍋パしたの思い出してなあ。ボノたちに頼んでレシピを教えてもらったんだ」

 

 お弁当に続くサプライズとはこの鍋の事だった。

 ネームドウマ娘たちに頼んで、放課後にレシピを教えてもらったり、食材の買い出しを手伝ってもらったのだ。みんなに感謝!

 

「見事なおでんですね」

「当初の予定では、もっとこう映える感じの鍋を目指したんだけど……気が付いたらおでんになっていた!すまん!」

「いいよ!全然いいよ。だって美味しいのわかるもん」

「味は期待していいぞ。ボノや姉さんにもお墨付きもらったし」

「お弁当に夕飯まで、本当にありがとうございます」

「あ、おにぎりどうだった?変じゃなかったか」

「最高だったよ。重箱は後で洗っておくね」

「嬉しいじゃないの。ではでは、今夜はおでんパーティーいっちゃいますかぁ!!」

「「「「いちゃいましょう!!」」」」

 

 その夜、おでんパーティーは大いに盛り上がった。

 マサキが作ったおでんとその他の料理に舌鼓を打ち。今日の出来事を報告する。

 マサキは愛バたちの話に一喜一憂。褒めてくれて、怒ってくれて、笑ってくれた。

 ルクスの愛バやマサキに化けた敵が現れたと言った時は、かなり驚いた様子で心配してくれた。

 『大丈夫だったか?』『ケガをしてないか?』『本当に無事でよかった』

 と青くなったり赤くなったり、顔色コロコロを変えてコメントしていた。

 

「やっぱりついて行けばよかった。俺の不在時を狙うとは……あのクソボケ仮面がぁ」ヽ(`Д´)ノ

「マサキさんこそ、大丈夫だった?」

「俺か?俺の方は特に何もなかったぞ」

「本当ですかあ?」

「他のメスウマにちょっかい出されてない?」

「あー、今日はウララとカレンが話相手になってくれたり、仕事手伝ってくれたなあ。あいつら、俺が寂しがってないか様子を見に来たんだと。ええ子やね」

「ウララさんにカレンさん?なんだか珍しい組み合わせですね」

「俺もそう思ったが、割と仲良かったぞ」

「へぇー、あの二人がねえ」

「後は、スク水ゲンさんが血の池プールでウマッシュブラザーズだっただけ」

「「「「何があったの!?!?」」」」

 

 説明を端折りすぎたので愛バたちを混乱させてしまった。

 これじゃゲンさんがスク水(女子用)を着てるみたいじゃないか!(/ω\)キャッ!

 

 たっぷり作ったおでんは大好評、みんなで美味しく完食しました。

 

 ●

 

 今日は全員でマサキの家にお泊まり決定。最初から決められていた。

 制服はもちろん、お泊りセット一式は完備済みなので何も問題ない。

 ベッドは使わず床に布団を敷いて眠ることにする。

 この場合、マサキを真ん中にして5人で寝ることになるのだが、誰がマサキの両サイドに陣取るかで揉める。

 すると愛バ間の熾烈な争いが始まるのだ!

 こういった争いはもう何回も行われたので、マサキも周りも慣れてしまったのだ!

 今日の勝負方法はマリオカートになった。何と!レトロなスーファミ版である。

 

「食らいやがれぇ!」

「やめて!やめて!赤甲羅はやめてください!ほげぇーーー!」

「ざまぁwwお先に!」

「あらら、自信満々だったシロさんが最下位ですねww」

「何で私ばっかり……貴様らグルか?グルなんだな!そうなんでしょ!」

「今頃気付いても遅いんだよ」

「ゲームだとシロちゃんの一人勝ちになるからね。そうはさせないってことで」

「ごめんなさい。でも、シロさんは強すぎますから仕方ないかと」

「い、いじめカッコ悪い。絶体絶命のピンチ……だが!ここから巻き返す!見ていてくださいマサキさん!」

「マサキさんはもう、お布団でウトウトしてるよ」

「マサキさーん!私の活躍を見てーーー」

 

 ゲームではしゃぐ愛バたちの声を聞きながらマサキはまどろんでいる。

 ここ最近のマサキは、寝る時に誰かが傍にいることに当たり前になっていた。

 並べて敷かれた布団の真ん中にいると、なんだか両サイドが酷く寂しい。

 

「お前ら……ゲームは程々にして寝るよ~……もう勝負とかいい…誰か俺の横に…‥来て……くれ」Zzz

 

 マサキの呟きを捉えたシロはコントローラーを投げ出す。マリカーしてる場合じゃねぇ!

 

「絶対遵守の操者命令!しゃーーっ!早いもの勝ちじゃーー!」

「コラッ!逃げんなサトイモォ!」

「暴れたらダメです!マサキさんが起きてしまいます!」

「そう言いながら超パワーで私を押しのけるアルは何なの?ゴリラなの?」

「なか‥‥よく‥‥しな‥‥‥さ」Zzz

 

 マサキの両サイドは早い者勝ちでクロとシロがゲット。アルとココは悔しいです!

 操者の穏やかな寝息を聞いていると心が落ち着く。それだけで幸せだ。

 灯りを落とした部屋の中でも操者の顔はバッチリ視認。ウマ娘は夜間視力も凄い。

 

「マサキさん寝ちゃった。寝顔か~わ~い~い~」

「ふと思ったんですけど。専業主夫をしてもらうのもアリなのでは?」

「想像してみよう。私が外でバリバリ働く、マサキには家事育児で家を守ってもらう。全然アリだね!」

「家に帰ると、エプロン姿の夫と子供たちが笑顔で出迎えてくれる‥‥‥めがっさ幸せです」

「『ご飯にする?お風呂にする?それとも……俺にするか?』なーんて言われちゃったら////」

「「「俺でお願いします!」」」

「だよねー」

 

 グフフ、未来予想図が捗っていかんな。

 マサキが専業主夫になってもいいように、稼げる女になることを誓う愛バたちであった。

 

「クロ、父様の介護よろしくお願いします」

「話の流れぶった切って何押し付けてんの!?リアルな老後問題怖ぇぇーーー!」

 



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本当の私

 クエストに行った先で俺の愛バとルクスの愛バたちが遭遇した。

 挨拶だけということで本格的な戦いにはならなかったみたいだが、何やらロックオンされたらしく迷惑なライバル宣言もかまされたのだと。

 次に接敵する日がいつになるかわからない。準備だけは怠らないように、俺と愛バたちはより一層修練に励むのだった。

 

 天気の良い休日。今日は絶好のデート日和だと思う。

 待ち合わせ場所は家から15分程歩いた場所にある総合公園だ。

 ベンチに腰掛けた俺はデート相手の彼女が来るのを、のんびりと待っている。

 手持ち無沙汰なので公園を訪れた人たちを観察してみよう。

 レッツ!ヒューマンウォッチング……どれどれ。

 子供を真ん中にして手をつなぐ仲睦まじい家族連れ、いいですね~俺もいつかあんな風に、なんてな!

 はしゃぎながら追いかけっこをする少年少女たち、転ばないように注意しなよ。

 ブランコに座ったまま項垂(うなだ)れているくたびれたオジサン……あそこだけ空気が淀んでるよ。何があったか知らないけど元気出して!

 芝生の広場で戯れる犬とその飼い主、あそこはペットを放してもOKらしい。犬かあ、散歩とか大変そうだけど一緒に暮らしたら楽しそうだな。

 

 気になった犬と飼い主に注目する。

 犬の毛色は白黒、ボーダーコリーかな。古くから牧羊犬として重宝されてきた犬種だ。

 飼い主は俺と同い年ぐらいの女性、スポーティかつガーリーなファッションが素敵ね。

 飼い主が手提げ鞄から円盤状の物体を取り出す。お、あれはフリスビーじゃないの。

 やるのか?やってくれんのかい。

 

「それっ!取ってこーい」

「ワウッ!」

 

 女性が投げたフリスビーを猛ダッシュで追いかけるワンコ。

 その駿足で目標に追いついたワンコは見事円盤をジャンピングキャッチした。

 どうだ!と言わんばかりの堂々とした走りで、飼い主の下まで戻って来るワンコ。

 

「クーン」

「よしよし、カッコよかったわよ、アストレイミラージュフレームセカンドイシュー」

「ワフンッ」(`・∀・´)エッヘン!!

「名前ながっ!!」

 

 思わずツッコんでしまったじゃないか。

 いやいや長すぎでしょ。なんでそんな名前をチョイスなさったのか謎だ。

 ペットに長ったらしいモビルスーツ名を付けるとは、変わったセンスの持ち主ですな。

 なぜだか今一瞬、姉さんの顔が浮かんだ。

 俺の名前を考えたのは姉さんらしいが……まさかな。

 しばらくフリスビー犬の雄姿を見学していると、円盤を咥えたワンコが飼い主ではなく俺の方に駆け寄って来た。

 

「お、どうしたどうした?お前のご主人はあっちだぞ」

「ワウ~?ワウッ!」

「もう、何やってるの。うちの子がすみません~」

「ああ全然大丈夫ですよ。ん?フリスビーを俺にか?」

 

 愛犬が迷惑をかけていると思ったのだろう、飼い主さんも申し訳なさそうにこちらへやって来る。

 焦る主人を尻目に、ワンコは俺にフリスビーをぐいぐい押し付ける。

 その目は期待に満ちていた。

 

「どうやら、あなたに投げてほしいみたいです。あの、ご迷惑じゃなければ、この子と遊んであげてくれませんか?」

「いいんですか!うわー、実はちょっとだけ、やってみたかったんです」

「そうなんですか。よかったねーアストレイミラージュフレームセカンドイシュー。このお兄さんが投げてくれるってさ」

「ワンッ!」

 

 飼い主さんの許可も出たし、フリスビー犬を体験しちゃうぞ。

 力加減を間違えないように、と。

 

「そ、それっ!」

「ワンワンワン!」

 

 俺の投げたフリスビーが真っ直ぐに飛んで行く。

 それを追いかけるワンコはトップスピードから全速力を出す。

 生き生きと走る姿が勇ましく美しい。まさに躍動!

 ワンコは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった感じでフリスビーをキャッチしてみせた。

 

「おお!やった!」

「ナイスキャッチ!」

 

 俺と飼い主さんが歓声を上げる。

 円盤を咥えたワンコは『見てたか?俺はやったぜ!』という誇らしげな顔つきで戻って来る。

 

「すげぇ!よくやったな。アストレイミラージュフレームセカンドイシュー」

「うんうん。頑張ったねーアストレイミラージュフレームセカンドイシュー」

「ワオーンッ!」

 

 愛バたちにやるみたいに、たっぷりとワンコを褒める。ふむ、よき毛並みだ。

 俺と飼い主さんに撫でられたアストレイミラージュフレームセカンドイシューは千切れんばかりの尻尾を振って大はしゃぎだ。

 

 なでなでに勤しんでいると飼い主さんのスマホが軽快な音を奏でる。

 彼女は『すみません』と断ってから通話をし始める‥‥‥ありゃ男だな。

 通話を終えた彼女は公園の入り口方面を見た後、俺とワンコを見やる。

 

「えっと、非常に図々しいお願いがあるのですけど……」

「了解です。少しの間、アストレイは俺が見てます」

「え!聞こえていたんですか。やだなあ恥ずかしい///」

 

 なんとなく察しただけだ。

 彼氏が公園の近くまで来ているから会いに行きたいのだろう。合ってる?

 

「そうです。彼氏ったら犬嫌いでミラージュを見たら発狂して全裸になっちゃうんです」

「それは大変ですね。彼氏さんは一度病院に行ったほうがいいと思います」

「ご心配どうも。では、お願いします。すぐ戻って来ますので」

「はい。いってらっしゃーい」

「WAON!」

 

 一時的にワンコを預かることになった。

 すぐ戻って来るって言ってたし大丈夫か。

 長い名前を略しても特に文句言われなかったなあ。だったら短くてもいいのでは?

 

「もう一回やっちゃう?」

「バウッ!」(いいぜ、早く投げな)

 

 やる気満々なセカンドイシュー。

 その意気やよし!ならば、こちらも応えねばなるまい!

 

「いっけぇーー!リープスラッシャー!」

「ワォン!」(バカ!力み過ぎだ)

 

 しまった!思わず力が入っちゃった。

 暴投されたフリスビーは先程より高速で宙を飛んでいってしまう。

 しかも高い!あれじゃワンコのジャンプでは届かない。

 完全に俺のミスだ。必死に追いかけるミラフレに申し訳ない。こうなったら俺が責任もってキャッチする所存であります。

 アクセルの準備をするべく地面を踏みしめようとしたところで、颯爽と躍り出る人影が見えた。

 疾風となった人影はあっという間にワンコを追い越し、フリスビーの下へ辿り着くと軽やかに跳躍する。

 

「取った!私の勝ちぃーー!」

「ワフ!?」

「ひゅーやるじゃない」

 

 見事フリスビーをキャッチしてみせたのは俺の愛バ、クロであった。

 ジャンプによって翻ったスカート、そこから瑞々しい太ももが露になっていらっしゃる。

 公園にいる、俺を含めた男連中の視線は釘付けだ!ブランコおじさん!?元気になった!!

 ちょっとーやめてよねー。うちの子を性的な目で見るの禁止なんですけどー!

 ああいう無防備なところも好きなんですけどね。ちょっと心配になるわ。

 スカート下に短パンを履いていなかったら厳重注意していたわよ。

 

「マサキさーん。取ったよー……うわっ!」

「ワウワウワウワウーン」

「ちょ、あははは、くすぐったいよ。わかったわかった、これはキミのなんだね」

「クーンクーン」

「邪魔してごめんね。ほら、マサキさんにもう一回投げてもらおう、ね?」

「ワン!」

 

 犬と戯れる美少女‥‥‥ええやん。

 クロもちょっと犬っぽいところあるし、一人と一匹は気が合うのかもしれない。

 犬に例えるならクロは大型犬かなあ、シベリアンハスキーとかそんな感じ。

 

「マサキさん、お待たせ。ちょっと遅れちゃったかな?」

「このワンコと遊んでくれたから平気だ」

「ワンッ」

「そっかあ。キミのお名前は?なんていうのかな~」

「アストレイミラージュフレームセカンドイシュー」

「は?」

「この子の名前は、アストレイミラージュフレームセカンドイシューだ」

「ワオンッ」

「なげぇ!!」

 

 俺とクロとアストレイミラージュフレームセカンドイシューは、しばしの間フリスビーを楽しんだ。

 戻って来た飼い主さんに何度もお礼を言われながら、俺たちは公園を後にする。

 

「ワンコかわいかったー」

「だな。愛犬家になっちゃう人の気持ちもわかるぜ」

 

 今日の俺はジーンズにシャツの緩い休日スタイル。

 クロは肩だしのブラウスにチェックのスカート、健康的な肌が眩しい!

 

「今日はどこに行こうか?ノープランで出て来たけど、どうするよ?」

「それなんだけど。行きたいところがあるんだよね」

「じゃあ、そこに行こうぜ。場所はわかるのか?」

「地図はバッチリ頭に入ってるから任せてよ。マサキさんをご案内~ってね」

「なら安心だ。そんで?目的地の名称は」

「ジージの家」

「え?」

「私の祖父、お爺ちゃんにマサキさんを紹介したいな」

「なんですとぉ!!」

 

 ●

 

 クロの祖父に会うことになった。いきなりすぎて軽くパニック。

 

 『スーツなんか着て行ったら笑われるよ』と言うクロの言葉を信じて普段まま行くことに。

 せめて菓子折りぐらいは持参せなアカンと思ったので、タイミングよく実家から届いていた菓子土産を鞄に詰め込んで再出発したのである。

 やれやれ、この為だけに一時帰宅してしまったぜ。

 今は最寄駅から電車に乗って移動中だ。

 

「お爺さんってどんな人?ココ爺様みたいな紳士だったりする」

「ないないwそれはないww。どこにでもいる普通の日本産ジジイだよ」

「そ、そうか。好きなモノやご趣味なんかは?」

「ジージの好みかあ。カラオケとか好きだよ、演歌歌わせたら超うめぇの!後は時代劇とか盆栽とか陶芸に骨董品の収集?ジジイっぽい趣味してる」

「なるほど‥‥‥」

 

 小金持ちの純日本産ジジイを想像した。

 クロはお爺ちゃん子みたいなので、孫にはべた甘で気のいいお爺ちゃんだろうなぁ。

 なんだ、ビビる必要はないじゃないの。

 ビシッと挨拶して俺とクロの仲を認めてもらえばいいだけだよ。楽勝楽勝!

 

「お爺さん!お孫さんを俺にください」セリフの練習

「わぁ、マサキさん気合入ってるー」

「まあな。ココ爺様にも勝利した経験者の俺に任せなさい」

「うん。その調子でどっしり構えていれば問題なし」

 

 電車で一時間弱の駅で下車、そこから徒歩で向かう。

 しばらくすると、町の景観が変わってきた。

 

「ここら辺は高級住宅街というヤツか」

「んー気にしたことないからわかんないなあ。割と大きな家が多いとは思うけど」

 

 いや、ここに住んでいる人たちは明らかに高所得者の部類だろう。

 駐車場に並んだ高級車はピッカピカだし、一軒一軒の大きさも半端ないでしょう。

 ほら、そこの御屋敷なんて見るからにヤのつく職業の人たちが出入りしてそうじゃない。

 屋敷をぐるりと囲んだ高い塀に威圧感のある立派な大門、この大きな屋敷だけ周りの家屋と明らかに雰囲気が違う、ハッキリ言ってしまえば場違いだ。

 何なのここ?地獄の入口なの?

 やだなぁ、関わりたくないなあ、は、早いとこ通り過ぎよう。

 

「着いたよ、マサキさん」

「‥‥‥あー」

 

 着いた?今到着したって言った?

 気のせいじゃない、クロが地獄門前で立ち止まっている。

 嘘やん‥‥もう勘弁してよ。

 

「ははは、クロってばお茶目さん。ここはね、反社会的なご職業の方たちが小指消失マジックの練習をしたり、気分が良くなる葉っぱで儲かる方法を相談する場所だよ。危ないから近づいちゃダメ!」

「凄い偏見wwそんなんじゃないってば。ほら入ろう?家の人たちにはもう連絡してあるから、みんな待ってるよー」

「いや、待って、これはホンマにアカンでっしゃろ」

「ただいまー!キタサンブラック、今帰ったよー!」

「ひぃぃぃー!大きい声を出さないで」

 

 クロが門の向こう側へ届くよう大声で叫んだ。

 やめなさい!せめてインターホンを押して間違えたと謝ってダッシュで逃げよう!

 クロの声に反応したのか、木製の大門がゴゴゴッと音を立て内側から開いていく。怖いってば!

 

「「「「お帰りなさいませ!お嬢!!!」」」」

「ひゃっ!」

 

 ドスの効きまくった声量をにビビッてしまう俺。

 く、黒服が、黒服姿の男たちがズラッと並んでいらっしゃるーー!あ、女性もいますね。

 

「うん。みんなただいまー」

 

 あわわわわわ!

 90度の角度で美しいお辞儀した黒服さんたちは、どう見ても堅気ではない空気を持っている。

 そして、お聞きになりました?門から屋敷の玄関口まで整列した黒服はクロのことを『お嬢』と呼んだのよ。

 なるほどな。ヤクザ屋さんでしたか‥‥‥もうお家帰る!

 

「行こう、マサキさん」

「引っ張らないで、こ、腰が…あびゃびゃびゃ」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

「生まれたての小鹿みたいwwほらほら、大丈夫だよ」

 

 綺麗な砂利の敷かれた地面を歩く。

 お庭綺麗ね、日本庭園かしら。

 ねぇ、あの黒服さんメッチャ睨んで来るよ?俺、殺されちゃうの?

 テンパった俺は屋敷までクロに引きずられることになった。情けないけど許して。

 玄関口で靴を脱いでから、未だ呆然とする俺をクロが屋敷の奥に引っ張って行く。

 屋敷の中にもたくさんの黒服さんやお手伝いさんがいて、俺とクロに挨拶しきた。

 クロは勝手知ったる仲のようで、軽く挨拶を交わしながら進んでいく。

 

「ジージいないの?可愛い孫が帰って来たよー」

「おー、こっちだこっち。ジジイは部屋でダラダラしてるぞ」

「出迎えるという発想はないのか、ごめんねマサキさん」

 

 クロの呼びかけに返答があった。姿は見えずとも声の主は活力に溢れていると感じられる。

 お爺さんは部屋でダラダラ中らしい。

 クロに案内された部屋は畳張りの和室だった。

 和室の中央にはちゃぶ台と座布団、壁際には掛け軸や陶磁器が飾られている。

 そこに作務衣を着た老人が胡坐をかいて座り、俺たちが来るのを待っていた。

 

「元気そうだな、クロ」

「ジージ!ただいま」

「おう、お帰りさんだな。で、そいつがお前の……」

「そう!この人が私の操者、マサキさん」

 

 はっ!いかんいかん!呆けている場合ではない、挨拶しないと。

 クロのお爺さんにあいさ‥‥‥お爺さん顔怖っ!!

 な、なんすか、その傷は?顔の半分以上にザックリと切り裂かれたような傷があって迫力満点だ。

 一見すると小柄な老人であるが、その体は細マッチョに鍛え上げられており、眼光も鋭い。

 白く染まった短い頭髪と綺麗に整えられた顎鬚(あごひげ)も大変よくお似合いですね。

 生気に満ちており覇気も人間にしては上々だ。

 老いてなお豪の風格を漂わせる人物。これがクロの祖父か。

 

 気圧されてばかりじゃいられない。

 俺は佇まいを直しお爺さんの目を真っ直ぐ見据える。

 

「初めまして、アンドウマサキと申します。若輩者ではありますが、お孫さんの操者をしております。どうぞよろしく」

 

 ご挨拶が遅れて申し訳ないと言う気持ちを込めて、深々と礼をする。

 

「なんでい、思ったよりまともじゃねーか。クロの話だと、かなりぶっ飛んだ野郎だって聞いていたんだがよう」

「マサキさんは礼儀正しくもぶっ飛んでいるから、カッコイイんだよ」

「かぁー、いっちょ前に惚気おってからに。なんだかジジイは切ねぇぞ」

 

 首をグキグキ鳴らしながらお爺さんは俺の正面に立つ。

 

「俺っちがキタサンブラックの祖父、北島黒陽(きたじまこくよう)だ。よろしくな!」

 

 差し出された手を握り返す。まずは握手ですね。

 ゴツゴツした手は老人とは思えないほどの力強さだった。

 

 『まあ座んな』と座布団を勧めてくるお爺さん。

 クロは俺の隣に、お爺さんはちゃぶ台を挟んで向かいあうように座る。

 俺はお爺さんのことを"黒陽(こくよう)さん"と呼ぶことにした。

 

「へっ、ジジイでかまわねぇってのに。さん付け呼びなんて尻が痒くならあ」

「ジージはオヤジとか組長って言われてるんだよ」

「あ、やっぱりそっち系なんですね」

「勘違いすんなよう。俺っちの"北島組"は至極真っ当な堅気の優良企業だぞ」

 

 北島組は古くから建設業で栄えてきた会社だそうだ。

 現在ではサトノ家と懇意にしており、多方面で活躍し大きな躍進を遂げている。

 関連企業、団体を合わせると御三家にも勝るとも劣らない勢力になるという噂だ。

 

「あの黒服さんたちは?」

「うちの従業員指定制服だ、他意はねぇ。黒いスーツ着てると"できる大人"って気がすんだろう?」

「あー、わかるような気がします」

 

 そっかあ、ヤのつくご職業じゃなかったかあ‥‥‥表向きはですね。

 あまり突くとやぶ蛇になりそうなので黒服についての追及はこの辺にしておこう。

 そんなんより、御三家や俺の母姉たちの方がずっとヤバい!!

 

「同じく、サトノ家も仕事着は黒が基本だよ。クロはやっぱりすごい」(`・∀・´)エッヘン!!

「うんうん。クロはすごい」

 

 自画自賛のクロを撫で褒めする。

 黒陽さんはそんな俺たちを『ほほう』と言いながら見ていた。

 どうです?俺たちとっても仲良しですよ~。

 

「黒陽さん、こちらをどうぞ。ささやかですが、お受け取りいただけますでしょうか」

 

 持参した菓子折りをお爺さんに手渡す。

 危ない、忘れるところだった。

 

「これはこれは、ご丁寧にありがとさんよ」

「開けていい?開けるよ~」

「なんでい俺っちがもらったのによう」

「固いこと言いなさんな。わあ、おまんじゅうだ!」

「ラ・ギアス銘菓"天級饅頭(てんきゅうまんじゅう)"って書いてあるな。ハイカラじゃねえの」

「お口に合えば嬉しいです」

 

 【ラ・ギアス銘菓"天級饅頭"】

 母さんたち天級騎神が4人も揃ったことに、ハッスルした村長と村おこし実行委員会が勢いと試行錯誤の末に完成させた一品、村の新名物になるであろうと期待されている。

 白、黒、赤、青、と四色の饅頭が二個づつ入って手頃な価格設定で販売中。

 饅頭には天級騎神のアイデアが盛り込まれており『試作品食べ過ぎて飽きたわぁ』と母さんが愚痴っていたっけ。

 シラカワ重工の全面バックアップを受けて日本各地のアンテナショップや土産物店に陳列されており、売り上げは上々。

 ネット販売も行っており、ネットショップ最大手のウマゾンでも買えるぞ。

 映えるお土産品としてSNSでも話題沸騰中だとか。半分に割った断面の写真がウマスタによく投稿されているらしい。

 中身は白(風)ずんだ餡、黒(闇)ごま餡、赤(炎)チョコクリーム、青(水)カスタードクリーム

 ハブられたミオが『私参加してないんだけどぉ!』とキレ散らかしたので、来月から発売されるバージョンには黄色(土)の饅頭が新登場する予定だ。

 

 暇を持て余した天級騎神と村長たちの努力の結晶、それがこの"天級饅頭"だ。

 

「うま!うめぇじゃねえかよ。これマジでうまくね?」

「サイママたちやるじゃん!これで村の財政も潤うね~」

「母さんたちは一発商品だって言ってたぞ、タピオカと一緒だな。バズってる今の内に売れるだけ売り切って、人気低迷したら即行で止めるってさ」

「サイママたちすげぇ!」

 

 因みに、現在まんじゅうが売れてウハウハの村長たちはこの事実を知らない。

 一時のブームが去ったらガッカリするだろうな。

 シュウ曰く、生産ラインは最初から別の商品に流用できるように設計されているので無駄にはならないらしいけどね。

 

 お茶請けに出された天級饅頭をクロもお爺さんも絶賛してくれた。

 よかったね村長、この分だともうしばらくは稼げそうですよ。

 

「そんじゃまあ聞かせてくれるかい?おめぇさん、マサキのことをよう」

「はい。包み隠さずお話します」

「それと、クロがよそ様に迷惑かけてねぇかも聞かないと、なあ?」 

「むー私は大人しくいい子だもん」

「だ、そうだが?」

「ご心配なく。クロは本当にいい子です」

 

 お茶を頂きながら、俺とクロと黒陽さんの三人でお喋りする。

 俺とクロの出会いに始まり、長期昏睡の説明や学園での様子を語っていく。

 ちゃぶ台の下でクロが手をギュっと握って来る。

 そうだな。これまでいろいろあったよな、これからもたくさんの思い出を作っていこう。

 

「なんだなんだ?お前さん、あの仮面野郎とやり合う気なのか」

「もちろん私も一緒に戦うよ」

「危険が無いと言えば嘘になります。でも、俺にはクロの力が必要なんです。どうか…」

「そりゃそうだ、操者と愛バなんだから一蓮托生だわな。それについては文句ねぇよ。マサキと戦えるなら本望だよな、クロ?」

「そのとおり、本望だよ」

 

 ルクスと俺の因縁、今後の始まるであろう戦いについて話しても黒陽さんは動じた様子はない。

 孫娘が戦場に行くことになっても『本望』だと言い切る。

 覚悟決まってんなあ、この祖父と孫!!

 

「サトノの嬢ちゃんに、えーと、メジロにファインの姫さんたちも愛バにしたってか、やるじゃねぇのよう!」

「恐悦至極です」

「その三人も強ぇんだろうな。で、おぱーいはどうよ?」

 

 黒陽さんが胸の前で何かを揺らすようなジェスチャーをした。

 ほう、あなたもお好きですかな?

 

「急に何聞いてんだセクハラジジイ!シロたちに代わってぶっ飛ばすぞ!」

「おめぇには聞いてねぇ!今は男同士で大事な話をしてんだ、ガキは引っ込んでな!」

「87、87、80でアレコレ夢が詰まってます」

「マサキさん!?真面目に答えなくいいよ」

 

 ココは最近大きくなったので79→80ぐらいになってると思う。

 

「いいねぇ羨ましいねぇ。こりゃあ、うかうかしてらんねぇぞ85」

「何で私のサイズ知ってるんだよ!」

「俺っちぐらいになると、胸の大きさぐらい直感で当てられんだよ」

「クソどうでもいい特技……なんて恥ずかしいジジイなんだ」

 

 手をニギニギさせる黒陽さんにクロが嫌そうな顔をした。

 こうやって話しているとわかる。クロと黒陽さんは本当に仲のいい祖父と孫なんだと。

 笑って冗談やバカを言って互いを思いあっている。家族なんだなあ。

 

 しばらくの間、俺は自分のこと、そしてクロのことを熱く激しくたまに切なく語ってみせた。

 孫の様子を嬉しそうに聞いてくれた黒陽さんは好々爺そのものだった。

 

「マサキ、おめぇがどういう人間か大体わかったぜ。クロともうまくやれてるようだな」

 

 目を瞑って頷く黒陽さん。

 これは好感触では?このタイミングを逃すべきではない。

 ハッキリしゃっきり宣言しておこう。

 

「黒陽さん。大事なお孫さんを、キタサンブラックを俺にください。ずっと一緒にいたいんです」

 

 俺が操者でクロが愛バであることを、どうか認めてください。

 

「ジ…お爺様お願いします。私もマサキさんと共にありたいと思っています‥‥‥から」

 

 クロも俺に続いてくれる。二人で頭を下げてお願いした。

 さあ、黒陽さんの返答や如何に?

 

「ダメじゃ」

「「は?」」

ダメじゃぁぁーーーいいぃ!!

「「なんでさ!!?」」

 

 突然叫んだかと思うとちゃぶ台をひっくり返そうとする黒陽さん。必死に押しとどめる俺とクロ。

 いやいやいや、待ってくださいよ!

 今、オッケー出すところだったでしょう?まさかのダメだしにビックリだよ。

 何の問題もなく好感触だったと思っていたのは俺だけなの?

 

「俺がマザコンのシスコンだからですか?それともロリコンだからですかぁーー!

「え、おめぇそんな奴なの!?……うわぁ…」

 

 黒陽さん引いちゃった。

 違ったみたい。俺のバカ!言わなくてもいいことを暴露しとるがな。

 

「クロ、マサキにまだ見せていねぇだろ、なあ?」

「・・・・」

「ダメなのはマサキじゃねぇ。おめぇだよクロ」

「今日、全部打ち明けるつもり……だった」

「つもりじゃダメだってんだよ。俺っちの所へ来る前に見せるべきだは思わなかったか?」

「それは‥‥」

「今からだ、今から寺に行って見せてこい。おめぇら二人が今後もやっていけるかどうか、全てはそこからだ。俺っちが言ってることわかるよな?」

「……わかった行くよ。行って全部見せてくるよ!なめんなよジジイ!」

「最初からそうしてりゃいいのよ。ついでだ、婆ちゃんの墓参りにも行って来い『図体だけでかくなってすみません』て謝っとけ」

「うっせぇ!マサキさん、行こう」

「え、待って、どこに?」

 

 クロに手を引かれ部屋から連れ出される。

 寺?墓参り?お寺で俺に何を見せる気なの、わかわからん。

 

「行って来い。二人で帰って来ることを祈ってるぜい」

 

 ●

 

「やれやれだぜ。相変わらず騒がしい孫だっつーの」

 

 部屋から出て行ったマサキとクロを見送った黒陽は顎鬚を撫でつけながら思案する。

 孫娘の本性を見てもマサキは操者でいてくれるだろうか?

 最悪"契約解除"もあり得ると思う。

 そうなったとき孫娘きっと泣くのだろう。

 

「あいつの泣き顔なんざ見たかぁねぇ。でもよう……」

 

 こればっかりは避けて通れない道だ。

 孫娘の秘密はいつまでも隠し通せるわけがない。遅かれ早かれずれバレる。

 知るなら早いほうがいい。深い絆ができてからの別れでは傷も大きくなるはずだから。

 あの二人の親密さではもう手遅れだとも思うが‥‥‥それは仕方ない。

 

「今がその時だってわけだよなあ」

 

 全ては操者である、あの男の器次第だ。

 黒陽から見たマサキの印象は悪くはない。真面目な好青年でユーモアもあり、それなりの修羅場も潜ってきている。学園で教職に就いているのも評価できる。

 あの孫娘が選んだとは思えないほどのまともな男で拍子抜けしたぐらいだ。

 もっとこう、その、なんだ、世紀末ヒャッハー!みたいな野郎を想像していたのに。

 モヒカンじゃねぇのかよう!

 

 (あの覇気はかなりのもんだったぜい)

 

 クロの話によれば、あの状態でもかなり抑えているらしい。

 覇気だけで判断するなら"でっかい男"の基準は文句なしにクリアしている。

 

「オヤジ、入りますぜ」

「おう」

 

 襖を開けて巨漢の黒服が入室して来た。

 浅黒い肌にサングラスをかけた大男は北島組で幹部を任されており、数十人の部下を束ねている強者だ。

 勤続年数も長く黒陽からの信頼も厚い。

 

「ジョージ、おめぇから見てマサキはどうでい?」

「少し殺気を向けてみやしたが普通にビビッてました。へっぴり腰が堂に入ってる男です」

「そうか。おめぇが出るまでもなく勝てそうか?楽勝か?ワンパンか?」

「オヤジ、寝言は寝て言ってくだせぇ」

 

 ジョージと呼ばれた男はため息をつきながら次の言葉を吐く。

 

「あの男とは絶対に戦いたくありません」

「ほぅ。それはクロが連れてきたからか?御三家のお気に入りだからか?それとも、天級騎神の息子だからかぁ?んん?」

「それもありますが……お嬢と同じか、それ以上に感じるんですよ。あれを敵に回しはいけない、絶対に後悔するぞって」

「本能からくる危険信号がビンビンッてかぁ!そいつぁ愉快だ」

 

 北島組の黒服たちは訳アリの者も多く過酷な状況下で生き残ってきた身の上故か、生存本能に長けている連中が揃っている。ジョージもその一人だ。

 そんな男が、マサキを全力で危険視していることに黒陽は満足する。

 

「オヤジは何も感じなかったんですかい?」

「そこまで耄碌(もうろく)してねぇ。俺っちは『ついにお迎え来たーー!』と思っただけよ!」

「それでお嬢を出迎えなかったんですか、オヤジ……カッコ悪ぃ」

「仕方ねぇだろう!腰が抜けちまったんだからよう。回復するまで平静を装った俺っちを褒めて!」

「はいはい、腰抜けジジイですね」

「くそぉ、老人虐待で訴えてやんぞ」

 

 黒陽は操者ではないが覇気の操作に長けている。

 身体強化はもとより自陣に結界を張る術もお手の物だ。

 屋敷の門をマサキが通過し、結界網に異常な反応があったとき『あ、死んだ』と思ったのは本当だ。

 そういった理由でマサキがへっぴり腰になっていた時を同じくして、黒陽も腰をやらかしていたのである。

 実際、目にした男は予想外に大人しいものだから、覇気の異常性がより一層際立って見えたが。

 

「お嬢たち、うまくいくといいですね」

「そうさなぁ。とりあえず宴会の準備はしといてくんな」

「祝勝会ですか?それとも残念会ですか?」

「どっちに転んでもいいように、うまいこと頼むぜい」

「わかりやした。オヤジも手伝ってくださいよ」

「かぁーこのジジイを酷使するとはふてぇ野郎だよ。いいぜ、特製ホールケーキを焼いてやらぁ!」

「前みたいにウェディング仕様にしなくていいですからね。作るのも片付けるも、のめんどくさいは勘弁です」

「それが元パティシエの言う事か!いいからやるぜぃ」

 

 黒陽とジョージは屋敷自慢の台所へ移動する。特注のオーブンが大活躍することだろう。

 どんな結果になろうとも、孫娘とその操者が帰って来るまでに宴の準備だけはしておこうと思う。

 

「祝勝会になることを祈ってるぜ」

 

 神に祈る趣味はないが、今日ばかりはクロとマサキのために祈願してもいいだろう。

 

 ●

 

 齢60過ぎてケーキ作りにハマったジジイと元パティシエの巨漢がキッチンで大騒ぎをしている頃。

 

 クロとマサキは北島屋敷から30分ほどの場所にある寺院を訪れていた。

 手入れと掃除の行き届いた境内は厳かな空気で満ちている。

 お寺の名前が"花京院"なので『レロレロですか?』と茶化しそうになったけど自粛した。

 顔見知りなのか、寺の住職と和やかに会話したクロは『こっちだよ』とマサキの手を引いて境内を案内する。

 目的のお墓へはすぐに辿り着いた。墓石には"北島家"と刻まれている。

 ここにクロのお婆さんが眠っているのだ。

 持参した線香を立て、クロと一緒に手を合わせる。

 

「久しぶりだねバーバ……今日は紹介したい人がいるんだ。じゃーん!この人が私の操者だよ」

 

 クロが墓前に語りかけ俺を紹介してくれた。

 

「どうも、アンドウマサキです。お孫さんは、クロはとってもいい子ですよ」

「マサキさんはとってもいい男なんだ。どう?羨ましいでしょ」

 

 自慢気に胸を張るクロにほっこりする。

 

 (俺もこの子も一生懸命生きていきますので、どうか見守っていてください)

 

 もう一度、深く黙祷(もくとう)してから目を開けると、クロはまだ熱心に手を合わせていた。

 

 お墓参りを終えた俺たちの前に再び住職が現れる。

 

「準備ができました。こちらへ」

「ありがとう。結界の強度は大丈夫だよね?」

「ご心配なく。最大強度を維持しておきますので」

「解放日でもないのにごめんね」

「大恩ある北島家の頼みです。お嬢のご希望に沿うことを拙僧どもは嬉しく存じます故、お気になさらず」

「マサキさん。行こう」

「ん、ああ」

 

 住職さんに会釈を返していた俺を腕をクロが引っ張っていく。

 今日は彼女に案内されてばかりだ。

 俺は方向音痴なので誰かに導いてもらえるのは非常にありがたいんですけどね!

 

 クロと俺は寺の裏側に回り込み地下へ続く階段を下りる。

 階段を下った先には堅牢でメカメカしい隔壁扉が‥‥‥うわー、いきなりハイテクになったな。

 壁に設置してある端末に手をかざしたクロは静脈認証をパスしたようで扉が開く。

 内部は石造りの空洞になっていて天井や床には曼荼羅っぽい何か、恐らく結界を張る魔法陣の類が描かれている。

 学園の旧校舎ダンジョンやUC基地の修練場に似ている。ということは……

 

「ここは道場みたいなもんか?」

「そうそう。昔から北島家の人たちが出入りしている場所なんだ。覇気を使って戦える場所はジージの屋敷内にもあるけど、ここは結界強度が段違いで全力が出せるから」

「全力バトルと解放日には持って来いなわけだ」

 

 "解放日(かいほうび)"とは『体に溜まった覇気を出しきることでスッキリしましょう』という日のことだ。

 アルクオン戦後の俺がやったアレ(尻尾ピーン事件)や、耳と尻尾を晒した姉さんのくしゃみのことだと思ってもらいたい。

 強い覇気が体内で滞ると神核に悪影響が生じるため、覇気を扱う者は定期的にデトックスを行っている。

 個人差はあるが数ヶ月に一回は行うものだ。俺や愛バたちは旧校舎ダンジョンで以外でやると騒ぎになるので結構気を遣う。

 因みに、母さんたち天級は年に数回、一日中死んだように眠る日があってそれが解放日なんだと聞いた。仮死状態になってなんたらかんたら……いろんなやり方があるんです。

 この寺の地下は北島組が修練と解放日を行う場所なんだそうな。

 

「ここじゃないと、みんなに迷惑がかかるから」

「今からクロの秘密ってのを拝ませてくれるのか?」

「うん。ずっと黙ってるわけにもいかないし、マサキさんも何か変だと感じていたでしょ」

「まあな」

「私が自分から打ち明けるまで、待っていてくれたんだよね」

「愛バを信じるのも操者の務めですから」

 

 『あら~この子なんか変じゃない?』とは思ってたけどね。

 俺の愛バはみんなそれぞれ個性的というか癖があるので、そんなに気にしてなかったけど。

 秘密とやらが『他に好きな人ができたの』とかだったら泣くわ。ショックで灰になるわ。

 

「それは絶対にないよ。私が隠していたのは私自身のこと」

「ん~、実はクロは悪い子だった、とか?」

「近いかな‥‥‥」

 

 クロは俺から少し離れる。俺たちは結界陣を挟んで向かい合う形になる。

 

「準備いい?」

「いつでもどうぞ」

「ビックリするなとは言わないけど、どうか目を逸らさないでほしい」

「任せろ。ガン見してやる」

「いくよ、マサキさん……」

 

 クロは迷いを断ち切るように息を吐き、俺の顔を真っ直ぐに見つめた。

 覚悟を決めた顔をしている。

 

「本当の私を見せてあげる」

 

 ●

 

 私はマサキさんに全てを見せる。

 そして私は変わるのだ‥‥‥変わったというより戻ったが正しいけど。

 

 地下道場の景色が一変していることからもうまくやれたようだ。

 あーいる。いっぱいいるな。やっぱり出て来たよ。そりゃ出て来ちゃうよね。

 まだまだこんなもんじゃないけど、とにかくたくさんの()()()が道場中を飛び回り滅茶苦茶に動いて渦と化している。

 私自身は‥‥‥鏡がないからわかんないけど‥‥‥髪伸びてるかな?

 マサキさんは、マサキさんの反応はどうだろう?

 怖がられるかな、逃げられるかな、嫌いだって言われたらどうしよう。

 

 (嫌だ嫌だ嫌だよ!怖い怖い怖いよ!どうしようどうしようどうしたらいいの?)

 もし拒絶されたら、そうなったら私はもう…‥

 

「‥‥‥クロ…それ‥‥‥お前なの…か?」

 

 彼は私をじっと見ていた、じっと見てガタガタ震えていた。

 酷く狼狽している彼を見て私は悟った。

 

 (そっか……ダメだったか……そりゃそうだよね)

 

 諦観(ていかん)の念は思いのほかスッキリ受け止められた。

 あんなに怖がっていた癖に、いざそうなって見ると『ですよねー』という感想しかない。

 だってさ、常識で考えてもみなよ。

 

 (こんな化物が愛バだなんて、私だったら絶対嫌だもん‥‥‥)

 

 最初から無謀だったのだ。

 いかにマサキさんとはいえ無理なもんは無理だろう。

 むしろここまで本当によくやってくれた、よくしてくれた。

 そのことには感謝しきりだ。

 

 (ありがとうマサキさん。こんな私でごめんね)

 

 本当にありがとう。もういいよ、もう私から解放してあげる。

 大丈夫だよ。あなたの愛バはまだ三人もいるから、とっても素敵なあの子たちが私のことなんて忘れさせてくれるはず。

 だから大丈夫。全然大丈夫‥‥‥平気だよ。

 愛バとしての最後の務めだ。操者の幸せを願い笑顔で送り出さないと。

 頑張れキタサンブラック、帰ったらジージに愚痴りまくってやけ食いしてやるんだから……

 だから……それまで泣くんじゃない。

 

 いい夢だった。

 本当にいい夢を見せてくれた。

 こんな私でもいい子に、あの人の素敵な愛バになれるんだって最高の夢を。

 マサキさん、マサキさん、マサキさん、ああ、もっと呼びたかったな。

 

「マサキさん……」

「あ……あ‥‥‥おぉ」

 

 マサキさん下を向いたまま震えてる。

 もう応えてくれないのかな。私のこともう見たくないのかな。

 すごく、ものすごく悲しいなぁ・・・

 

きゃあぁぁぁーーーーーー!!

 

 きゃー?きゃーって……えぇー(´Д`)

 マサキさんが急に甲高い悲鳴を上げたんだけど!?

 ビックリしたのだろうけど、そんな悲鳴上げる?私そんなに酷い姿なのかな?

 メンタルがへし折れそう。もうへこむどころの騒ぎじゃない。

 

「ク、ク、ク、クロォォ――――ッッ!!」

 

 次の瞬間、マサキさんが叫びながらこちらに突撃して来た。

 何?どういうこと?

 唖然としている私を待つこともせず、マサキさんは正面から私に抱き着いた。

 え、ちょっと!?

 

「なんだそれ!なんだそれ!なんなのそれーーー!」

「ちょ、マサキさんどうしたの」

「どうしたもこうしたもあるかいな!お前それ、それ、それは……」

 

 肩を思いっきり揺さぶられた。もう何が何だかわからない。

 興奮したマサキさんは目を血走らせ、ギラギラした瞳を私に向けたこう言った。

 

めっっちゃくそ!カワイイやんけーーー!惚れ直したわぁ!超好きぃ!」

「え?は?好き?」

「好きです!俺の愛バになってください!」

「もうなってる」

「そうだったぁーー!俺って幸せを者だ!やったー!」

 

 マサキさんがぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。

 私も周りのアレたちも、彼の異常なはしゃっぎっぷりに困惑する。

 もう『どうしようこれ』としか思えない。

 

「もっとよく見せてくれ。ああ、マジで綺麗だ。本当に可愛い‥‥」ウットリ

「そ、そうかな///」

「そうなんだよ!いつものクロもいいけど、今のクロもいいよな。なんか特別って感じがしてさあ」

「マサキさん、嬉しいの?」

「嬉しいよ。だって愛バの新たな魅力に気付いたんだからな!もう、クロも人が悪いつーか、早く教えてくれればいいのに~。シロたちも秘密にしちゃって酷いじゃないのよ」

「シロたちは知らないよ。私がこうなるのを知ってるのはジージと北島組の幹部にパパとママぐらい‥‥‥シロ、アル姉、ココには言ってない」

「マジでー!勿体ないなあ、みんなに教えたらきっと喜ぶぞ」

 

 シロはうすうす気付いているけど、敢えて聞いてこないんだろうなあ。

 

「マサキさん。喜んでいるところ悪いけど周りを見て」

「ん?ああ何かいっぱい飛んでるな……スカイフィッシュ的な?」

「未確認生物じゃないよ!アレが私から出て来たの見たよね?」

「うん。それが何」

「それがって……私の見た目も変だよね?」

「変じゃない!カワイイっていってんだろ!このヤロウ~」

「え、もう、反応が……じゃあ覇気はどう?私の覇気もうすごいことに」

「すごいとは思うけど、俺の覇気も中々のものだしー、特に気になりませんな」( ー`дー´)

「き、気にしないんだ」

「こんなことを気にしてたのか?‥‥‥あ、悪い、真剣に悩んで打ち明けてくれたのに茶化しちゃダメだよな」

 

 マサキさんは私を撫でる。いつもそうしてくれるみたいに優しく撫でてくれる。

 

「俺はいつものクロも、今のクロも大好きだ」

「ホントに?ホントに本気で本当に?」

「ああ"腐りかけゾンビ"や"ぐじゅぶじゅグロスライム"に比べたら何百倍もマシだ!」

「どういう私を想定しているの!?怖すぎるよ!」

「異世界は広いんだぞ。"喋るガイコツ"や"オカマのネコさん"に"毒舌アンドロイ"なんかもいるしな」

「転移先で苦労したんだね」

「ああ、そのおかげで多少のことには動じません!」

「北島組にはビビってた」

「それはコレあれはソレ!お化けとヤクザはどうあっても怖いの!」

 

 マサキさんはお化けとヤクザが苦手だ。あれは慣れるもんじゃないらしい。

 北島組の制服、もっとファンシーなのにするべきだとジージに進言しておこう。

 

「ずっと悩んでいたんだな。ごめんな、俺が頼りないばかりに今まで打ち明けられなかったんだよな。許してくれ」

「そうじゃない。私が、ただ怖くて、勇気がなくて、き、嫌われたら‥‥‥どうしようって‥‥‥言い出せなかったの」

「今日は勇気を出してくれたんだな。ありがとう俺を信じてくれて」

「そうじゃない!私、諦めた、勝手に諦めてもう愛バやめようって‥‥‥信じられなかったんだよ。信じなくちゃいけなかったのに!」

「クロ‥‥‥」

「やっぱり愛バ失格だよ。操者のことが信じられないなんて、そんなのダメすぎる」

 

 一人で先走って諦めた。ダメな子だ。自分が許せそうにない。

 私なんてマサキさんの愛バにふさわしくない。

 

「お前がダメかどうかは俺が決める。結論!クロはダメじゃない。そんでもって俺はお前に愛バでいてほしい。頼むよ、俺と一緒にいてくれ」

「マサキ……さん…」

「愛バをやめるだなんて言わないでくれ。そんなこと言ったら泣くぞ。黒陽さんにしがみついて三日三晩泣くぞ?」

「ジージ大迷惑だww」

 

 ジージにくっついてむせび泣くマサキさんを想像して笑ってしまった。

 おっと、いけないいけない。私のせいで泣いてる人を笑うなんてダメだよ。

 

「ようやく笑ったな。ここに来てからずっと固い表情だったから心配したぞ」

 

 少し屈んだマサキさんが私のおでこに自分のおでこをくっ付ける。

 顔が近いので照れる。けど、すごく嬉しい。

 こうしているとリンクが強まって相手の思いがダイレクトに伝わって来るんだ。

 

 (改めて契約しよう。キタサンブラック、俺の愛バになって一緒にいてくれ)

 (……私でいいの?)

 (お前がいい。お前とシロとアルとココがいいんだ!)

 

 欲張りだ。でも、それでこそマサキさん。

 

 (返事を聞かせてくれ)

 (はい)

 

「私キタサンブラックは、アンドウマサキあなたを操者と認めます」

 

 声に出して覇気も込めて一言一言を刻み付けるように返答する。

 周りのアレたちも今の宣言を聞いている。聞いていて歓喜している。

 

「俺アンドウマサキは、キタサンブラックお前を愛バにする」

 

 マサキさんの声が聞こえる。その言葉が聞けて満足だ。

 もうこのまま死んでも‥‥‥よくない!けど、それぐらい嬉しいってこと。

 

「ずっと一緒だよ?」

「ああ、ずっと一緒だ」

 

 そう言って彼は私を優しく抱きしめてくれたの。

 少し前の怯えていた私に教えてあげたい『今日は私にとって最高に幸せな日になるんだよ』と。

 

 ●

 

 そして私は思い出す。

 優しかったバーバが死んだ日のことを……

 

「いいかいクロ……よくお聞き…」

「バーバどうした、またどこか痛いの?」

「ああ、どこもかしこも痛いさね。それより、いいかい」

 

 入院中の病人にしては力強い眼差しにちょっと怯む小さな私。

 やせ細った手を伸ばすバーバ、その手で私の頭をグリグリ乱暴に撫でる。

 

「お前はキタサンブラックだ。ブラック……黒じゃないといけない…」

「うん。わかってる」

「私が術をかけてやれるのは今日が最後。明日からは教えたとおり自分でやるんだよ」

「起きた時と寝る前は要チェック。ちゃんと覚えてるよ」

「最初は窮屈だろうさ。だが、それが当たり前になったとき、お前はみんなと一緒に歩んでいける。一人にならなくても、あの子みたいにならなくても……」

 

 あの子というのは誰だろう?

 わからないけど、バーバが私を心配しているのは理解できた。

 

「本当の私はダメなの?悪い子なの?」

「ダメじゃない、悪くもない、ただちょっと、いやかなり、危なっかしいんだ。それをみんなは怖がる‥‥‥離れて行ってしまう」

「それは嫌だなあ。じゃあ、黒になるしかないんだね。頑張るよ」

「ああ頑張りな。サボるんじゃないよ、あたしゃずっとお前を見てるからね」

「うげー」

「フフ、頑張んなクロ。一生懸命生きてりゃそのうち‥‥‥」

 

 バーバは笑う。ニッコリ笑う。その笑顔が好きだった。

 『若いころは超絶美人!』とジージが褒めていたのも頷ける。

 

本当のお前をもらってくれる、本物の男に巡り合えるだろうさ

 

 もらってくれるって…物みたいに言わないで思ったものだ。

 しょうもない嘘をつくジージと違って、バーバは言う事はいつも正しかった。

 このときの言葉もやはり正解だったようで……

 

 本物の男はちゃんと私をもらってくれたのだ。

 




本当のクロがどういう状態なのかは、まだ秘密です。
考え中とも言う。


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お助けください

 秘密を明かしてくれたクロは程なくして、いつもの姿に戻った。

 すると、覇気の嵐は収まり渦巻いていたアレやらコレやらも大人しく消えていった。

 地下道場の結界には相当な負荷がかかったようで、柱には大きな亀裂が入り床に描かれた陣は所々消えかかっている。

 これはもうリフォーム工事が必要なんじゃない?と思ったが、昔からクロの解放日に付き合っている住職さんたちの手にかかれば一晩で修繕しちゃうのだそうだ。

 匠の技すげぇな。

 

「もう慣れちゃってるからさ。今はこっちのほうが楽なんだよね」

 

 元に戻ったクロは自分の身体を確かめるように首や肩を回しながらそう言った。

 最初はそれなりに苦労したらしいのだが、今では呼吸をするかのように当然の如く普段の姿を維持し続けられるんだと。

 うむ。いつものクロもいいが真実の姿をしたクロ、略して真クロも捨てがたい!

 

「マサキさんが望むなら、いつでも真の姿になってあげる」

「いいの!じゃあじゃあ、お風呂中にお願いしたい」

「いいよ。あ、でもお風呂が吹っ飛んじゃうかも」

「それはイヤン!」(/ω\)

 

 真クロ状態になると覇気の爆裂が起こった挙句、例のアレがウジャウジャ出て来てエライ事になるんだと。

 そうするとクロの周囲は被害甚大になってしまうわけで、家のバスルームなど木っ端微塵だ。

 厳重な結界が張ってある地下道場や迷惑のかからないダンジョン内ならともかく、おいそれと変身するのはNGなのだ。

 従って、お風呂で真クロはお預けである。ちくしょーめ!

 

「非常に残念だ。残念無念!」

「ごめんね。もっと強くなって覇気の制御が上手になったら、もしかすると大丈夫になる…かも?」

「わかった。その時が来るのを楽しみにしてる」

「あんまり期待せず気長に待ってて」

 

 待ってる。期待はしておくからな。

 

「真クロモードは封印だ。俺との約束な」

「了解!マサキさんの許可あるまでは"本当"には誓ってならない」

「もちろん、やむを得ない緊急時には俺の許可は待たなくていいからな」

「うん。わかってる」

「……たまには見せてほしいけどな」

「二人っきりのときに、だね」

 

 胸に飛び込んできたクロを目一杯撫でる。うむうむ、可愛い奴め。

 こうして、俺とクロの絆レベルが上がった!もう三段階くらい一気に上がった。

 

 ●

 

 寺から北島屋敷に戻ると最初に訪れたときより以上に歓待された。

 クロが俺にべったりくっ付いているのを確認した黒服さんたちが、はやし立てながらクラッカーを鳴らす。

 黒陽さんは『しゃー!見たかババア!やったぜババア!』と歓声を上げ、巨漢の黒服(ジョージさんと言うらしい)に『オヤジ落ち着いて』とたしなめられていた。

 

 北島組一同が俺とクロの行く末を心配していたらしい。

 宴も成功バージョンと失敗バージョンの二通りを用意していたんだと。

 クロの本性を明かすということは、それほどの一大事だったというわけだ。

 結果は見事成功!俺とクロはお別れすることなく、これからも共に歩んで行く。

 屋敷の入口に飾られた横断幕には【祝!やったぜお嬢!末永くお幸せに!】と毛筆で書かれている。

 ジョージさんの直筆らしい。うーん達筆だなあ。

 ゴミ箱に突っ込んである失敗バージョンの横断幕には【哀!泣かないでお嬢!男なんてシャボン玉よ!】と書かれていた。

 こっちじゃなくてよかったと心底思う。

 

 乾杯の合図と共に祝勝会という名の宴が開催された。

 集まった北島組の人たちで大きな屋敷は内も外も人口密度がエライ事になっている。

 ご近所の人たちや関連企業の重役たちもお祝いに駆け付けてくれたそうで、ギュウギュウですわ。

 半分以上が強面なのだが誰も気にしない。

 本日は無礼講ということで飲めや歌えやの大騒ぎだ。

 主賓である俺とクロはあっと言う間に囲まれてしまった。

 

「「「「お嬢!おめでとうございます!」」」」

「ありがとう。心配かけてごめんね」

「ご成婚はいつになさいますか?ワシら一同いつでも駆けつけますぜ」

「気が早いよ。まあ、そのうち、ね」

「ヒュー!お嬢が照れてるぞ」

「何なら今ここでやっちまえ!」

「もう////急すぎるってば」

 

 と言いつつ、満更でもないクロ。はにかんだ表情がカワイイ。

 結婚かぁ……4回すんのかなあ?

 それぞれのプランもあるだろうし4人同時だとかなり揉めそう。

 もしやるとすれば、彼女たちの希望に沿った式になればいいと思う。

 なーんて!気が早いつーの。

 

「おう、飲んでるかい若?」

「飲んでません、飲めませんから。若ってなんですか?」

「なんでぇ、若は下戸なのかい」

「つまんない~。ちょっとでいいから飲んでよ~若~」

「コラッ!無礼講とはいえアルハラは厳禁だ。若、炭酸飲料なら大丈夫ですよね?どうぞ」

「ありがとうございます。若ってなんですか?」

 

 グラスに注がれたジンジャーエールを手渡される俺。

 もう既にできあがっていらっしゃる黒服さんたちに背中をバシバシ叩かれたり、肩を組まれたり、お尻を触られたりして絡まれてしまう。

 こういうのは飲みの席ではよくあることなので受け流す。

 若?ワカ?……受け流せない文言が聞こえているのは気のせいか?

 

「お嬢の男ってことは、いずれ北島組の若頭になられるんでよね?だから若って呼んでます」

「なりません!俺は教職なんですけど」

「今時ダブルワークなんて珍しくもないですぜ。うちにもいろんな副業で稼いでる奴がいますんで」

「兼任ですよ兼任~。はい、何も問題ない」

 

 トレセン学園の教官を副業にしろと?

 ただでさえ、愛バたちから御三家入りしろとか言われているのに北島組の若頭だと……

 いやーきついっスわあ。僕にはとてもできない。

 え?え?これってマジなの?若頭決定事項なの?

 黒服さんたちから『逃がしませんよ』的な圧を感じる。怖い。

 

「みんな!無茶言わないで。結婚も若頭もルクスを倒してからなんだよ」

 

 わたわたしている俺をクロがフォローしてくれた。

 そう、そうなんですよ。ルクスの仮面を叩き壊すまで若頭なんて知らないんだからあ!

 

「わかりやした、若(仮)」

「勝手に盛り上がってすみません、若(仮)」

「若(仮)こっちの料理も食べてくだせぇ。美味いですよ」

「若(仮)……いい男……ポッ////」

「まて!若(仮)はみんなのアイドルだぞ。年上ですけど兄貴って呼んでいいっスか」ハアハア

 

 うん。何もわかってないね。(仮)を付けたからって許されるか!

 またホモがいますね。

 

「マサキさんをエロい(ホモい)目で見た奴!一列に並んで歯ぁくいしばれぇぇーー!」

「「「「ひぃぃー!かんべんしてくだせぇお嬢!!」」」」

 

 どこにでも湧くホモさんたちに激おこのクロが襲い掛かる。大慌てで逃げ惑うホモさんたち。

 宴会での暴力沙汰は慣れっこなのか、集まった人たちはテーブル上の料理に被害がでないよう上手に避けている。

 歓声と野次と笑い声が飛び交う中で賑やかな宴は続いた。

 

「マサキ、ちょっくらいいかい?」

 

 宴も中盤に差し掛かった頃、黒陽さんに声をかけられた。

 少々お話があるそうで自室まで来てほしいそうだ。

 断る理由は皆無なのでついて行く。酒臭い宴会場の空気から遠ざかりたかったのもある。

 

一升瓶(いっしょうびん)をラッパ飲みしていたはずなのに、素面と変わらないのはさすがですね」

「俺っちにとっては酒=水みたいなもんよ」

「アルみたいなことを仰る。自分だったら即行でぶっ倒れてゲロゲロコースですよ」

「そうかい。ゲロゲロコースなら飲まなくて正解だよなあ」

 

 屋敷には黒陽さんの自室といわれる部屋がいくつもある。

 その中で壁一面を本棚で埋め尽くされた部屋に通される。自室3号(書斎)だそうだ。

 

「待ってろ……えー、あったあった」

 

 本棚の隙間から何かの紙切れを取り出す黒陽さん。

 それは古ぼけた1枚の写真であった。

 

「こいつを見てくれどう思う?」

「すごく大きい、じゃなくて!写真ですか、これは……クロ!??」

 

 写真には小学校低学年ぐらいの少年と少女が写っている。

俺の目は少女のほうに釘付けになる。

 誤解無きように言っておくが、ロリコンセンサーが反応したからではない。

 写真の中の少女が小さい頃のクロにそっくりだったからだ。

 

 満面の笑みを浮かべた少年は黒陽さんだろう、どことなく面影がある。

 それに対して少女はつまらなそうにそっぽを向いている。写真も嫌々撮られた感ありありだ。

 出会った当時のクロがやさぐれていたら、多分こんな感じになると思う。

 グレてるけどそこがまた可愛いな。ごめん、ロリコンセンサーやっぱり反応してるわ。

 

「似ているだろ?そいつは俺っちの妹、白月(しろつき)だ」

「なるほど、妹さんでしたか」

 

 北島白月(きたじましろつき)黒陽(こくよう)さんとは5つ年の離れた妹だそうだ。

 

「こいつがまた闘争本能の塊みたいな奴でよう。物があれば壊す、ケンカは売るし買う、とにかく暴れ回って手が付けられねぇクソガキだった。俺っちも何度泣かされたことか……」

「ご苦労されたようで」

「そんでな、あいつが15になった誕生日だ。家から忽然(こつぜん)と姿を消したかと思ったら数日後、人里離れた山中で見つかった‥‥‥死体でな」

「亡くなった!?何かの事件に巻き込まれたとか」

「そうじゃねぇ。アレは自殺だ、いや、自滅ってのが正しいか。あいつはな、自身の覇気に食われちまったんだよ」

「食われた?覇気暴走……メルトダウン」

「詳しいな。さすがウマ娘専門校の教職だ」

 

 教官試験や治療師の勉強中に散々学習した。操者としても知っておくべき知識なので詳しくて当然です。

 

 先天的に強い覇気を持つ者に見られる症状で、内包する覇気が制御不能に(おちい)り暴走状態になってしまう者がいる。

 感情抑制が効かず気性が荒くなったり、脈絡もなく突発的に暴れたりする。それだけならまだいい。

 症状が進行すると、強すぎる破壊衝動に心身を蝕まれ自傷行為や他者を害してしまうこともある。

 そして覇気暴走の最終段階、大きく膨れ上がった覇気が暴発し周囲一帯を巻き込んでの大破壊に及ぶという。

 まるで命を燃やし尽くし溶かし尽くす爆弾。この危険で恐ろしい現象は"メルトダウン"と呼ばれている。

 メルトダウンを起こした者の末路は一つ、死だ。

 

 テスラ研に引きこもっていたアルがまさにこの状態一歩手前だったわけで、彼女を救えたことは本当に幸運だったとしみじみ思う。

 

「勝手な推測だがよう。あいつは自分の運命ってのを知っていたんだろうな」

 

 懐かしむように悔やむように語る黒陽さん。

 15歳になった白月さんは自分がメルトダウンを起こしそうだと悟ったのだ。

 だから、他者に危険が及ばない山中に向かった。誰にも助けを求めず‥‥‥たった一人で人生を終えるために。

 どれほどの苦悩が彼女を襲ったのか、俺には計り知れない。

 

「バーカ、おめぇが気に病むことじゃねぇ。もう過去の話さ」

「だって、白月さんが……」

「かわいそうだなんて言ってくれるなよう。あいつは早死にしちまったが、自分の生き様には満足していた。キッチリけじめをつけていったこと、兄貴として褒めてやりたいぜ」

 

 家から失踪した白月さんは置き手紙を残していたらしい。

 『じゃあなバカ兄貴。姉さんと末永く爆発仲良くしろよ』という短い文章だった。

 姉さんというのは腐れ縁の幼馴染であり、後に黒陽さんと夫婦になる女性のことだ。クロの祖母にあたる人のだ。

 手が付けられない暴れん坊の妹、その最後は家族の幸せを願って逝ったのだ。

 

 ここからが本題だと黒陽さんは話を進める。

 

「生まれたばかりのクロを見たとき、俺っちと女房は同じことを思ったよ『こいつは白月と一緒だ』てな」

 

 二人は一目で理解し、そして戦慄した。

 無邪気に笑う孫娘の中には、かつて失った少女と同等か、それ以上の怪物が宿っていることに。

 『あの子と同じ目にあわせてなるものか!』と黒陽さんたちは奮起した。

 特に祖母の入れ込みようは凄く、母親であるハートさんに事情を説明し育児のサポートと並行して、孫娘にある施術を行った。

 祖母が孫娘に一日も欠かすことなく何度も術を施す日々が始まった。

 それは成長したクロが自分自身で術をかけられるようになっても行われ、病に倒れた彼女が亡くなる直前まで続いていたという。

 クロのお婆さんは白月さんと本当の姉妹のように仲がよく、彼女が亡くなったことをずっと気に病んでいたのだ。

 

 亡き祖母との約束を守り続けるクロは、今も自身に術をかけ続けている。

 

「クロの見た目が変わるのは意図せぬ副作用ってところだな。最初に術をかけたとき、女房が『うわっw真っ黒赤目になりやがった!こいつはたまげたなぁww』てな感じで、ハートと一緒に爆笑していたのを思い出すぜ」

 

 赤子のカラーリングが突然変化しても動じない母と婆‥‥‥なんという胆力か!

 どこの家庭も母は強し、ついでに婆ちゃんも強い。メジロ家のばば様がいい例である。

 

 当時の思い出を語る黒陽さんは上機嫌だ。

 クロが祖父母の愛情に守られていたことがよくわかった。

 相槌を打ちながら話を聞いていると、心がなんだかあったかくなってくる。

 

「おっとすまねぇ。ジジイ一人で長々と話して悪かったな」

「いえいえ、貴重なお話を聞けてありがたいことですよ」

「結局何が言いてぇかっつーとな、おめぇには感謝してんだよう」

「こちらこそ。黒陽さんたちのおかげで、俺はクロに会うことができました」

 

 畳に座ったまま俺たちは頭を下げ合う。

 

「孫を受け入れてくれて、ありがとよマサキ。これからも、クロをどうかよろしく頼むぜ。ジジイからの本気のお願いってやつだ」

「クロを素直ないい子に育ててくれて、ありがとうございます。頼まれなくても、黒陽さんたちが呆れるぐらい仲良くしていくつもりなのでよろしくお願いします」

「言ってくれるじゃねぇのよう。そうでなくっちゃなあ!」

 

 お婆さん、そして白月さんも、きっと見守ってくれていますよね。

 心配しないでください、幸せになってみせますから。

 俺と愛バたち、他にもたくさんの仲間がクロと共にありたいと思っているのだから大丈夫ですよ。

 

「よっしゃ!今から俺っちとマサキはマブダチだ」

「ま、マブダチっすか?」

「いや待てよ、クロの旦那になる男なら身内も当然だな。いいねぇ!そうと決まれば(さかずき)交わすぞオラぁ!」

「えぇー」(*´Д`)

 

 うわーい、北島組の組長と盃交わすことになっちゃたぞ。

 若(仮)が現実味を帯びてきた。自分逃げていいっスか?

 

 鼻歌を歌いつつ黒陽さんは戸棚の奥から酒瓶と大きな盃を取り出し準備を進める。

 酒瓶は陶器製だから徳利(とっくり)と言うのかな?どうでもいいがピンチだ。

 盃になみなみと注がれた液体は白く濁っていた。それを俺に差し出す黒陽さん。

 

「俺は下戸なんです。アルハラは勘弁ですよ」

「安心しな。酒は酒でもこいつはただの甘酒だよ」

 

 言われてみればアルコール臭だけでなくほのかに甘い香りが、これなら大丈夫かな?

 黒陽さんがキラキラした目で俺を見ている。う、今更断れない雰囲気だ。

 

「じゃ、じゃあ少しだけ……」

「おう。グイッといけ!グイッとな」

 

 恐る恐る口に運ぶ……あら?あららら?

 スッキリした口当たりに濃厚かつ芳醇な甘い味わい、のど越しもいい。

 普通に美味しいんですけど。

 

「……美味しいです」

「そうだろうそうだろう!気に入ったならドンドン飲んでくれや、おかわりはたんまりあるでな」

「黒陽さんも飲んでくださいよ。今度は俺がお()ぎしますから」

「おっとっと、こいつはすまねぇな。とりあえず乾杯すっぞ乾杯!パワーをメテオに!」

「いいですとも!」

 

 意味不明な乾杯の音頭を合図に酒を酌み交わす俺と黒陽さんだった。

 甘酒おいしいー。下戸な俺でも楽しいお酒~。

 

 〇

 

「くおらぁっジジイ!マサキさんをどこへやった!正直に言わないと用水路に沈めるぞ!」

 

 黒陽の私室に怒鳴り込むクロ。

 宴会場からマサキと黒陽の姿が消えていることに気付いたクロは、屋敷中を捜索してここに辿り着いたのであった。

 

 (不覚!宴会で浮かれすぎてマサキさんを見失うとは……愛バ失格だよぉ)

 

 ジジイに指示された北島組の若い衆がクロの注意をマサキから逸らしたのも原因なのだが、クロは失態を演じた自分を恥じる。

 

 (今日の私ダメダメだぁ!しっかりしろ私、シロたちに腹立つ顔で見下されんぞ)

 

 マサキと黒陽が盃を交わしてしてから既に半刻以上経過している。

 ジジイに何か良からぬ事をされていなければいいが……

 

「クソ騒がしい奴だな。マサキならほれ、そこにいんだろうがよう」

「いた!よかった無事だね」

「うう……クロ?ごめん‥‥‥頭痛い」

 

 部屋に突入すると胡坐(あぐら)をかいたジジイが手酌で酒を飲んでおり、マサキは部屋の隅でグッタリしていた。

 顔色が悪く呼吸も荒い、漏れ出る覇気も『しんどいのです』と訴えかけて来る。

 

「どうしたのマサキさん?まさか……ジジイに掘られたの!?ふざけんなよ!くそみそジジイ!バーバの所に今すぐ送ってやろうか!あぁんん!!」

「なんてこと言いやがるんだ、このバカ孫は」

「違う…掘られてない。ちょっと飲み過ぎた……だけ……ウェップ」

「飲み過ぎた?ちょっと待って、この匂いはジージ秘蔵のお酒"どぶろっくG(グレート)"」

 

 マサキから漂う匂いでクロは何があったか理解する。

 こっちを見てニヤついているジジイがマサキに酒を盛ったのは明らかだ。

 "どぶろっくG"は甘酒に酷似した風味と味わいが特徴のお酒で、普段飲まない人でもグビグビ飲める一品だ。だがしかし、列記とした酒には違いないのでアルコール度数は高め。

 まだ屋敷で暮らしていた頃のクロもジュースと間違って誤飲し、ツライ二日酔い体験をしたものだ。

 

「事前に飲めない人だって教えたのに、何してくれとんじゃワレ!」

「下戸でも飲める酒を用意してやった俺っちてば優し……待て!老人虐待は勘弁な!」

 

 胸倉を掴み上げるクロに黒陽は必死の言い訳を述べる。

 

「だって飲みたかったんだもん!盃交わしたかったんだもん!飲みにケーションだもん!」

「『もん』て言うな気色悪い!」

「おめぇをモノにした"でっけぇ男"と酒を酌み交わしたい爺心がわっかんねぇかなー?」

「わかってたまるか!ジージの我儘にマサキさんを巻き込まないでよ」

「そうだな、おめぇの言う通りだよ。ジジイちょっと反省」

「ちょっとじゃなくて深く反省して」

「気が向いたらな」

 

 ジジイの処分は後で考えるとして、クロはマサキを介抱することにした。

 

「大丈夫、マサキさん?立てる?」

「う……頭ガンガンする」

「肩を貸すよ、よいしょっと……ジージ、私の部屋まだ残ってるよね?」

「おうよ。こんなこともあろうかと掃除は欠かしてねぇぜ!半分物置になってるのは許せ」

「今日泊まるから、部屋を使わせてもらうよ。いいよね?」

「うわーうわー!俺の家で!俺の家なのに!孫が男を部屋に連れ込む事態が大発生!盛り上がってきたぜぃ!」

「本当にごめんねマサキさん、クソジジイは放置して早くお部屋に行こう」

「見てるかババア、あのクロがいっちょ前に女してるぜ。マジうける~www」

「うるさーい!ボケ老人は一人寂しく酒に溺れてろ」

「ごゆっくり~www」

 

 (ふすま)を乱暴に閉めたクロはマサキに肩を貸しながら部屋を後にする。

 背後から黒陽の下品な笑い声が聞こえてきたが無視。今はマサキの体調が心配だ。

 

 屋敷の離れはこじんまりとしているが立派な造りをした建物だった。

 ここはその昔、クロたち母娘が暮らしていた場所なんだそうだ。

 

「変わってないな。手入れもしてくれているみたい」

 

 玄関の扉を開けてクロは中に入る。内部構造も記憶にある当時のままで安心する。

 部屋の間取りは3ⅬDKなのだが、その内の二部屋がよくわからない物たちで埋まっている。

 恐らく黒陽が趣味で集めた収集品の数々だろう。

 年季の入った鎧武者の甲冑や刀に槍に火縄銃、掛け軸や陶磁器が盛りだくさんだ。

 

 (どうせしまっておくだけなら換金すればいいのに)

 

 鑑定してもらえば高値が付きそうな物ばかりだが、興味の無いクロからすればガラクタ同然だ。

 似たような収集癖のあるシロが見たら狂喜乱舞するんだろうなと思う。

 

「ここはどこだ?」

「屋敷の離れだよ。昔、ママとここに住んでいたんだ」

「ふぇーそうなんだ。フラフラでごめんなさい、酔ったマサキがお邪魔しますよ~」

「はーい。狭い所だけど、どうぞおあがりください」

 

 まさか操者を、それも男を連れてこの場所に帰って来ることになるなんて思いもしなかった。

 昔の私が今の状況を知ったら『嘘だッ!』と叫ぶこと請け合いだ。

 青い顔をしたマサキはキョロキョロと部屋を見渡す。その視線がとある物体を発見した。

 

「アレはなんだ?木彫りの仏像……顔の造形が神がかってる。あそこにも、ここにも、一体いくつあるんだ」

 

 足元のおぼつかないマサキが部屋のいたるところに飾られている仏像群を見て怖がっている。

 木彫りの仏像たちは、以前シロが大量生産したものだ。

 処分に困っていたところを、仏像を気に入った黒陽がサトノ家から引き取ったとは聞いていたが、こんなところにあったとは。

 

「あの仏像たちはチュー魔人の被害者である、哀れな彫刻家の作品だよ」

「芸術はよくわからんが、さぞや名のある彫刻家なんだな」

「うん。マサキさんもよーく知ってるアホな奴だから」

 

 それにしても数が多すぎて不気味だ。何やら見張られているような気がして来る。

 魔除けというより呪いの置物と言われても否定できない。製作者がアレだから余計にそう感じる。

 

 (何体引き取ってんだジジイ!そんなに気に入ったのか、よかったねシロ!)

 

 もっとも、ジジイの興味は既に薄れているのだと思う。

 母屋の方に飾らず、ここに置いてある時点でお察しである。

 ジジイのお気に入りから外れてしまった仏像たちは、離れの新しき住人と化したのだった。

 ぞんざいに捨てると(たた)られそうで怖いから、処分したくてもできないのかも?とクロは推測した。

 

 物置となってしまった二部屋と違い、残りの一部屋、かつて母親と寝泊りしていた場所は整理整頓が行き届き家具家電も配置してある、ちょっとご休憩するには申し分ない。

 何よりも仏像が存在していないのがいい!

 

「ありがたい、布団が敷いてあるぞ。ちょっと横になってもいいか?」

「あ、うん、いいんじゃないかな‥‥‥もう、変な気を回してんじゃねーよジジイ」

 

 部屋の中央には布団が敷いてあった。布団は一つ枕は二つである!

 ちゃぶ台の上には紙切れが一枚『ごゆっくり♪』とジジイの筆跡で書かれたメモだ。

 その紙をマサキに見つからないうちに破り捨ててゴミ箱へ投入した。

 あの老害はいつからこうなる事態を予測していたのか、気掛かりでそして無性に腹が立つ。

 布団の上に力なくのっそりと寝そべるマサキ、頭痛はまだ解消されないらしい。

 

「うー、寝たからといってすぐに治るもんでもないな」

「無理に横になるより楽な姿勢で座っていたほうがいいと思う。酔い覚ましにお水飲む?」

「ああ、もらおうかな」

 

 冷蔵庫に冷えたミネラルウォーターを発見したクロ。

 適量をコップに注ぎ『こぼさないようにね』とマサキに手渡した。

 

「うまい。キンキンに冷えてますな~」

「それはよかった……マサキさん、疲れてるところ悪いけど今から騒がしくなるよ」

「ん?どうしたクロ」

「すぐ終わらすから、待ってて」

 

 マサキは見た。

 隣室に行ったクロがその手に長槍を持って戻ってきたのを、そして黒陽のコレクションであろう十文字槍を天井に突き刺す瞬間をだ。

 

曲者(くせもの)ッッ!!」

「なんで!?」

「ぎょわぁぁぁーーー!!」

 

 マサキの疑問の声と天井からの奇声が重なる。

 クロは我関せずドタバタと音を立てる天井に向けて槍を何度も突き刺す。

 いや、ホントに何事?

 

「ちょ、おま、やべ、ほげぇ」

「逃げ場はないよ。いいから!下りてこいやぁ!」

 

 クロの怒声が響くのと同時に天井から曲者が落下してきた。

 一応、マサキは曲者に気を遣って掛け布団を落下地点に放り投げておいた。

 

「あばばば、尻がぁー腰がぁー!」

「何やってるんですか黒陽さん」

「先回りしてんじゃねーよ!天井裏に潜んで何を企んでいたの!」

 

 曲者はさっき別れたはずの黒曜さんだった。落下時の打ち所が悪かったのか悶絶している。

 その間もクロは実の祖父をゲシゲシと足蹴にしていた。

 

「俺っちは泣く子も黙る北島組の長!北島黒陽だ。結構ヤバいジジイなんだぞう」

「知っとるわい。そのヤバい組長さんが私たちに何の用?」

「大事な孫娘の不純異性交遊を見守る義務があるってんだよう!」

「ないよ!これっぽっちもあるわけないよ!それに、不純じゃなくて清純じゃいボケ!」

「俺っちはなあ。天国のババアと妹に、おめぇの成長を報告すると決めてんのよ」

「ふーん。だから孫の情事を出歯亀(でばがめ)していいと?」

「出歯亀だとぉ!俺っちは覗き魔じゃねえ。"愛すべき健全なるおじいちゃん"なのだぁぁぁ!」

「こんなのが血縁者だなんて……情けなくて泣ける」

「クロ、例え爺さんが異常な変質者でも、お前のことを愛している」( ー`дー´)キリッ

「マサキさん////超好きぃ!!」ポッ

「ヒューヒューその調子だ!続けて続けて!あ、俺っちのことはお構いなく~」

「「出て行けクソジジイ!!」」

 

 息のあった動きで黒陽を家から叩き出すマサキとクロであった。

 マサキは弾みでクロと一緒に『クソジジイ』と叫んでしまうが、全くもって後悔はない。

 『きゃージジイ殺しよ~』と悲鳴を上げて外に転がり出る黒陽。このジジイ、結構余裕があるな。

 

「うわっ、今の悲鳴は?気持ち悪りぃな」

「今の声はまさか、オ、オヤジ!!」

「見ろ!オヤジが気持ち悪い動きで出て来たぞ。なんだこのジジイは」

「オヤジ!?大丈夫ですかい」

「作戦は失敗したんスか?だからやめとけと言ったのに」

「映像は?音声は?ちゃんと記録できたんでしょうね」

 

 北島組の面々が離れの外でスタンバっていました。暇人どもめ!

 マサキはドン引きし、クロは額に青筋を立てる。

 

「ジジイもみんなも、ホント何をやっているのかなぁ?かなぁ!!!」

「「「「ひぃぃ!!!!」」」」

 

 キレたクロの威圧に北島組は後退り、醜い責任逃れが始まる。

 

「俺っちは悪くねぇ!こいつらにそそのかされたんだよう!」

「あ!オヤジ、自分だけ助かろうとして」

「『俺っちに任せとけ、クロが立派な女になったか確かめてきちゃる』と意気揚々と出陣して行ったじゃないっスか!」

「『アイルランドのジジイには負けねぇ!跡取りはうちが先だってばよ』て言ってた癖に!」

「うるせぇやい!おめぇらだってノリノリだったじゃんよ」

 

 なるほど全員がグルだったわけだ。

 危ない危ない。離れでイチャコラしているところを、覗かれてしまうところだった。

 クロが一歩前に出る。北島組一同が一歩後退る。

 

「首謀者はジジイ、他のみんなは悪ノリしただけ。つまり『ジジイが完膚なきまでに悪い』でOK?」

「「「「はい、オッケーでーす!!!」」」」

「おめぇら、世話になった組長を庇おうって気はねぇのか?」

「「「「ないでーす」」」」

「ちっっくしょーーー!!!」

 

 普段の行いのせいか人望のないジジイであった。

 北島組は黒陽をクロに差し出すことにしたようで、抵抗し逃げようとする老人をグイグイ前へと押し出す。

 

「こうなったらやぶれかぶれだ!」

「ホント元気だなぁ、黒陽さん」

 

 パワフルな老人に感心するマサキ。自分が老いてもこうありたいものだ。

 

「クロ!そしてマサキ!」

「なんでしょう?」

「命乞いするなら早くね」

「老い先短いジジイ一世一代の頼みだ!後生だから、おめぇたちの"うまぴょい"見学させ‥‥‥」

もう黙れスケベジジイ!!

「ぐぇ……」

 

 一瞬で黒陽の背後に回ったクロは適格に頸動脈を締めて、スケべジジイの意識を刈り取った。

 崩れるジジイを傍に控えていた巨漢、ジョージが支える。

 

「ジョージさん。今晩はその老害をちゃんと見張っておいてよ」

「へい。お任せくだせぇ」

「みんなも!いくら組長の頼みだからってノリで動いちゃダメだからね」

「うう、お嬢がすっかり大人になっちまった」

「俺たちの天使が……」

「お前たちはまだいい、俺たち古参組にとってお嬢は心の支えだったんだぞ」

「お嬢!私、お嬢がうまぴょいするなんて信じたくない」

「これがNTRか……なんだが興奮してきたぞ」ハアハア

「俺にはオヤジの気持ちがわかるぜ。せめて、ちょっとぐらい、なあ?」

 

 北島組にはクロのファンが多い。

 マサキとの仲を祝福しつつ羨む気持ちも多分にある。

 クロはやれやれとため息をついたが、何処か憎めない構成員たちに呼びかける。

 

「みんなが私を慕ってくれるのも心配してくれるのも、よくわかってるよ」

「「「「お嬢‥‥‥」」」」

「だからといって、やっていい事と悪いことがあるよね。男女の幸せタイムを邪魔するなんてもっての外!」

「「「「すみませんでしたぁ!お嬢、そして若!」」」」

「俺は気にしてないですから。クロも、もういいよな?」

「うん。全部ジジイが悪いってことで今回は不問にするよ」

 

 マサキとクロの許しを得たことで北島組の面々は安堵の息を漏らす。

 

「じゃあ、さっさと撤収して。カメラや盗聴器は仕掛けてないよね?後で見つけたら怒るよ」

「さ、さすがにそこまではやってねえっスよ」

「一応信じるよ。わかっていると思うけど、今夜一晩は離れに近づくの禁止だからね。どうしても用があるならスマホに連絡して、覗きも聞き耳も気配を探るのもご法度だから。もし、万が一言いつけを破ったら、その時は‥‥‥」

「「「「その時は??」」」」ゴクリッ

 

ジジイもろとも北島組(おまえら)を消す!!

 

 その場にいた全員が『あ、このお嬢本気だ…』と思いましたとさ。

 怪しく鋭く光るクロの瞳は震えるほどに恐ろしかったという。

 

 〇

 

 気絶した黒陽と北島組が撤収した頃には、マサキの酔いも多少は冷めていた。

 今夜は屋敷に泊まることになったので、クロ以外の愛バに連絡を入れてからお風呂を頂くことにする。

 北島屋敷自慢の(ひのき)風呂は最高でした。

 酒が抜け切っていないのに長風呂したマサキの頭はまたしてもボーっとするが、今度はそれほど不快といわけではない。

 用意された浴衣に着替えて離れに戻ったマサキは布団へ倒れ込む。

 このまま寝てしまおうかと思っていると、湯上りのクロが部屋に入って来た。

 

「うぃ~いいお湯だった」

「お疲れ~。俺も今戻ったところだ」

「そうなの?家の風呂は男女分かれてるから一緒に入れなかったのは残念」

 

 屋敷の風呂は北島組で働く人たちにも開放されているので、男女別の区分けはキッチリしている。

 浴衣を着たクロは俺の隣に寝そべる。

 火照った身体から石鹸とシャンプー、そしてほのかな檜の香りがした。

 

「とんだ一日になっちゃったなあ」

「そうだなあ。でも、来てよかったと思うぜ」

「うん。私もそう思う」

 

 黒陽さんに会って、クロの秘密を知って、宴会を開いてもらって、盃交わして、スケベジジイだもんなあ。

 クロのお婆さんと叔母に当たる白月さんの事も教えてもらった。

 赤ちゃんだった頃のクロの様子も聞けたし、俺としては満足のいく一日だったと思う。

 

「クロのことをいろいろ知ることができた。余は満足じゃ」

「えへへ。私のことなら何でも教えてあげる……でね、えーと、そのね……」

「俺のことが知りたいか?」

「うん。シロたちに何か言われたの?」

「それもあるが、愛バたち皆には俺のことを知っておいてほしい。だから、聞かれたら話すようにしている。今回はクロの番だってだけさ」

「ごめんね。もっと早く聞けばよかった……なんとなくだけど気が引けちゃうというか、無意識に逃げていたんだと思う。自分のことだって隠していたし、ね」

「一向にかまわんよ。我慢できなくなったら俺のほうから突っ込む気だったからな」

「フフ、マサキさんに迫られたら何だって暴露しちゃうよ」

「ホントか~。だったら、風呂で最初にどこから洗うのか教えてくれぃ!」

「左のおぱーいから」

「マジか!‥‥‥あ、そういえばそうだったな」

 

 お風呂はしょっちゅう一緒に入っているので実は知っていた。

 俺のメモリーにはその時の光景を何度もリプレイできる機能が搭載されています。

 ウフフフ~素敵な思い出として、ちゃんと4人分ファイル分けして管理してるのよ。

 

 布団に寝転がったままクロとお喋りに興じる。愛バとのまったりタイム最高!

 

「アースクレイドルのことは姉さんに聞いた方がいい。俺が物心ついたのは、孤児院で園長の髭を引っ張ている時からだからな。母さんに会ってからが俺の本番って感じだ」

「孤児院……寂しくなかった?」

「全然。園長も同じ境遇の仲間たちも良くしてくれたからな……ただ、当たり前に両親がいるってのには憧れていたなあ。あれ?それだと、やっぱ少しは寂しかったのかねぇ」

「ウマ娘好きはその頃から?」

「それはもち……いや、この時は……すまん、どうやら俺の中でまとめ切れてないや」

「いいよ。話したくなったらいつでも聞くから」

「すまんな。で、ラ・ギアスでは、あんなことやこんなことがあってだな」

「うんうん。それでそれで」

 

 まだ話していない俺の幼少期を思い出しながら聞かせる。

 クロからはシロに会う前の生活やお婆さんについて教えてもらった。

 ここまで、黒陽さんもクロも父親について全く話題に出してこない。

 きっと、サトノ家や北島組全体でのタブーなんだろうなあ、俺も父親いないし気にならない。

 実の父親には悪いけど『気にしたら負け!』と思っております。

 

 たくさんの思い出を話す。そうすることで互いの理解を深め繋がりを強くする。

 

「小学校の時は慈善事業に精を出したから『お助けキタちゃん』なんて呼ばれていたよ」

「へぇー、具体的にはどんなお助けをしていたんだ?」

「えーと、逃げたペットの捜索、ケンカの仲裁、テストの点数改ざん、不倫の証拠隠滅、半グレ集団の殲滅ぐらいしかしてないよ」

「ヤバいのが混じっていたが、俺の気のせいだな!」

「マサキさんは小学生時代のあだ名ってある?」

「『シュウのおまけ』とか『お母さんが神すぎる男』とはよく言われたなあ」

「それは周りの見る目がなかったんだね。こんなに素敵な人なのに」

 

 仕方ないんや。母さんとシュウにネオさんが強キャラすぎて、平凡な俺が浮いていたのはよーくわかっている。

 ごくまれに『この人怖い』と言われることがあったけど、あれはショックだったぜ。

 俺を怖がるのはウマ娘が多かったような……ああ、なるほど、母さんに封じられた覇気を感じとっていたのか。

 今になって気付いたわ。漏らしちゃってごめん。

 

 お喋りしながらイチャイチャゴロゴロしてると、夜も更けてきた。

 そろそろ寝ましょうかね。

 

「マサキさん。ぎゅー」

「あら、甘えん坊さんだこと」

 

 クロが抱き着いてくる。こちらからも抱きしめ返す。

 はだけた浴衣から覗く肌が艶めかしい。

 フウウウウウウ〜〜〜

 クロの体温と柔らかさを感じていると……

 なんていうか……その…下品なんですが…フフ……だっち……しちゃいましてね………

 

「マサキさん?」

「ごめんなさい!俺のキラークイーンが暴発しそうで」

 

 空気読め!北島屋敷でハッスルするわけにはいかんのじゃよ。

 

「フーン、そうなんだ。キラークイーンがねぇ」

「そうそう。こいつがホント節操のないヤツで困ったもんだ」

「よいしょっ、と」

「なぜ俺に覆いかぶさるのかね?」

「ん~、他意はないよ~ただの掛け布団だよ」(・∀・)ニヤニヤ

 

 クロが俺の上に乗って来た。こいつ!ワザとやっておるな。

 ダメぇーそんなに密着されると起爆しちゃうのー。

 

「ねぇ"お助け"してあげようか?」

「はい?えっと、なんだって」

「スタンドが言う事きかなくて困ってるんだよね。私が"お助け"したほうがいいのかなって」

「それは、つまり…そういうこと?」

「決めるのはマサキさん。何もせず、このまま寝るでも全然いいよ」

 

 待ってくださいよ。

 ほら、離れているとはいってもね、お爺さんや北島組の人たちもいる敷地内でねえ。

 それに思い出の場所なんでしょう?そんなところでいたしてよいものやら。

 俺が葛藤している間にも、掛け布団化したクロはスリスリしてくる。

 アカンて、それはホンマにアカンのやで。

 

「人払いは済ませた。ジジイは絞め落とした。ここで何があっても私たちだけの秘密」

「俺に、どうしろというのだ?」

「素直になればいいのだよ。いつやるの?今でしょ!」

「今なのか!?」

 

 あ、コレは俺よりクロのほうがやる気満々ですね。

 クロってば舌なめずりしてるもん。獲物を狩る目つきだもん。もう逃げられないぞ!

 

「どうする?マサキさんは"お助け"されたいのかな?」

 

 "お助け"が隠語になっとるがな。

 俺はどうしたい?お助け……お助け……お助け……ぐぬぬぬぬ~ん。

 決めた。せっかくだから俺は"お助け"されることを選ぶぜ!

 

「クロさん"お助け"一丁よろしくお願いします!!」

「はーい、ご注文承りました……ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサーだよこんちくしょー!」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥正解♪」

「やったぜ!」

 

 はい。そういう訳でね。暗転タイムなのですよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・たっぷりお助け(意味深)されちゃった(/ω\)イヤン

 

 〇

 

 翌朝、クロに朝風呂を勧められたので浴場へGO!

 なんと!檜風呂では仁王立ちした黒陽さんが待ち構えていた。

 

「どうだった?」

「何がですか?」

「どうだったのかって聞いてんだよう!」

「フフフ……」

「こいつ、意味深な笑いをしやがって。楽しんだみたいだな、ああコラッ!」

「フフフ……暴れないでくださいよ‥‥‥フフ……メタルジェノサイダー……」

 

 なんだろう『フフフ……』で大抵のことは乗り切れると信じている俺がいます。

 メタルジェノサイダーってなんやねん?

 

 追及してくる黒陽さんを華麗に躱し、風呂と朝食を頂いてから北島屋敷を後にすることにした。

 黒服さんたちが会うたびに『ゆうべはおたのしみでしたね』と(のたま)うので嬉し恥ずかしでしたわ。

 

「お世話になりました」

「また来いよ。北島組一同はいつでもおめぇを歓迎するぜい」

「はい。機会があればお願いします」

「クロ、マサキにしっかりついて行けよ。この男を逃がしたらもう後がねぇぞ」

「言われなくてもわかってるよ。ジージはハッスルしすぎないように、みんなも元気でね」

 

 屋敷の大門前で別れの挨拶をする。

 黒陽さんと北島組の黒服さんたち総出でお見送りしてくれる。

 次は他の愛バたちも連れてこられたらいいなと思う。

 

「じゃあ行くか」

「うん。帰ろう」

「ありがとうございました。それでは俺たちはこれで、またお会いしましょう」

「またねジージ。またね、みんな~」

「行って来い!ジジイはおめぇたちの行く末を楽しみにしてるぜい」

「「「「いってらっしゃいませ!お嬢!いってらっしゃいませ!若!」」」」

 

 若はやめてほしいのです。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 マサキとクロが去った後、黒陽は私室の仏壇前で手を合わせていた。

 

「見たかババア、俺っちの言った通りになっただろう?」

 

 そこにいるかのように、亡くなった女房に語りかける。

 

「あいつは白月の二の舞にはならねぇ。俺っちみたいな、いい男を捕まえて幸せになるんだよ」

 

 自分程ではないがマサキは中々にいい男だと黒陽は思っている。

 孫娘には人を見る目があったということだ。

 

「すまねぇな白月。おめぇの時もこんな風にしてやればよかったのか……ま、おめぇじゃ無理かw男運悪そうだもんなあwww」

 

 『うるせぇ!バカ兄貴』と憤慨する妹の姿を幻視して笑う黒陽。

 クロがマサキとこの先も生きていくことで、白月も少しは浮かばれることだろう。

 

「これからもクロを見守ってやってくれ。俺っちはそうだなぁ……」

 

 昨夜、宴会場で撮った写真を眺める黒曜。

 マサキとクロが北島組の黒服に囲まれて笑っている一枚だ。もちろん俺っちはセンターよ!

 

「婚礼を見てから、いや、やっぱ二人のガキは見てぇよな。よっしゃ!」

 

 黒曜は仏壇前で宣言する。

 

「俺っちがそっちに行くのはまだ先になりそうだ。ひ孫の顔を見てからにするぜい!」

 

 生き甲斐が増えた。長生きはするもんだと黒陽は思うのであった。

 

 〇

 

 北島屋敷を早朝に出立したため、住み慣れた街に戻ったのは午前9時頃になった。

 二連休なので本日も仕事はお休みだ。

 まずはクロと共に家に帰って、この後の予定を決めよう。

 愛バたちを呼んで何処かに出かけるか?それとも家でのんびり過ごすか?どうしようかな。

 

 クロと仲良く腕を組んで歩いていると、道行く人たちからチラホラ視線を感じる。

 俺の愛バが可愛くてすみませんね!優越感!!

 ほほう。何やら視線がキツくなってきましたよ~これもう殺気こもってない?

 やめて!調子にのってすみません!謝るから許してたもれ。

 

「おやおや、二人仲良く朝帰りですか。うらやまムカつきますね!」

「げぇ!シロ!!」

「『げぇ』とはなんですか、失礼な奴ですね」

 

 視線の正体はシロだった。

 朝から元気なクロとシロは出会った瞬間からいつもの漫才的会話を繰り広げる。

 この光景も見慣れたもんだ。

 

「おはようございます、マサキさん。昨日は北島組にご招待されたようで、大変でしたね」

「おはよう、シロ。黒陽さんたちには良くしてもらったから大変ってことはなかったぞ。わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「ええ。クロが我儘(わがまま)を言ってないか心配だったもので」

「フンだ!ちゃんといい子でいましたよーだ」

「どうだか。ゆうべも無理を言って迷惑かけたんじゃありません?お助け(意味深)していたりして……」

「「ブ―――ッッ!!」」

 

 シロの発言が的を得すぎていたのでクロと吹き出してしまった。

 この子の読み、ホント半端ないわ。

 

「え?マジですか。マサキさん、キラークイーンがバイツァ・ダストしちゃったんですか」

「スタンド名まで当てるな」

「もういいじゃん!放っておいてよ////」

「むー。次の暗転シーンは私の番ですからね!そこのところよろしくです」

「メタい発言もやめい」

 

 シロは俺に近づき空いているほうの腕を組んできた。

 クロとシロに挟まれることにより両手に花状態です。優越感アップ!

 

「ちょっと前まで抱っこしてたのになあ。今じゃコレだもん」

「今でも抱っこしてくれていいんだよ。してあげてもいいけど」

「二人同時だと難しいな。四人だともうどうしたらいいのやら」

「私のオルゴンテイルなら、数人はまとめて運べますよ」

「尻尾とか隠し腕的な武装っていいよな~ロマンだよな~」

 

 三人で家を目指して歩く。

 こういう何でもない日常が幸せだったと、後ではなく今この瞬間に気付きましょう!

 クロとシロのおぱーいがメッチャ当たってくるのはとっくの昔に気付いてます。

 超幸せです。

 



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昇級試験

 【騎神】

 戦闘技能を有するウマ娘の総称

 

 一定の戦闘能力を持つウマ娘であれば騎神と認められる。級位の取得は必須という訳でもない。

 しかし、級位を取っていると何かと便利で融通が利くのも確かな事実である。

 騎神特権による優遇措置を受けることができ進学や就職に有利になるばかりか、クエスト報酬や給料査定にもボーナスが発生する。何より経歴に箔が付くのが嬉しい。

 ウマ娘に生まれた者ならば、級位の取得を目指しておいて損はない。

 『普通自動車免許ぐらい取っておきますか』ぐらいのノリでウマ娘たちは級位取得試験を受けるだ。

 

 文武両道かつ実力主義のトレセン学園では、卒業までに<烈級>以上の級位取得を推奨している。

 推奨であって強制ではないので、OGの中には級位なしで卒業した奴もいる……うちの母さんがまさにそれだ。

 タキオンやデジタルといった『こいつら戦えんの?』と思うような問題児たちですら、烈級騎神なのだと知ったときは『強さとは一体……』と頭が痛くなったものだ。

 トレセンは名門の騎神養成校、どいつもこいつも強いのが当たり前。

 変態かどうかは関係ないらしい。

 

 騎神には強さに応じたランク制があるのはご存知の通り。

 下から順に<烈級>→<轟級>→<超級>→<天級>という称号が採用されている。

 

 <烈級>

 デバイスや銃火器で武装した人間と同等の戦力とみなされる級位。※個人差があります

 人数が最も多い級位。つまり、ほとんどの者が烈級止まりで生涯を終える。

 初級だと侮る事なかれ、しっかり修練を積んでいないと合格は厳しいぞ。

 

 <轟級>

 更なる努力を重ねた者が辿り着く級位。

 ここまで来れば誰からも一目置かれる存在だと思っていい。

 高難易度のクエストを任せる場合、轟級以上が望ましいというのが一般的だ。

 様々な場所で各種ボーナスの支給も期待できるぞ。

 戦闘をメインとする職業に就く気があるならば取っておきたい。

 

 <超級>

 文句なしに精鋭中の精鋭!天賦の才を持つ者だけが至ることができる級位。

 覇気の高等制御術を身につけたのみならず、様々な特殊技能を有している猛者だらけ。

 あらゆる業界から引っ張りだこ間違いなしの、まさにエリートウマ娘だ。

 特権や優遇措置もかなり手厚い。戦場での単独行動や現場指揮権の委譲すら可能とする。

 

 <天級>

 この世のバランスブレイカー。世界に五人しか確認されていない生ける伝説。

 世界の構成元素である属性をまとった覇気を操り、人知を超えた天変地異を引き起こすという。

 DC戦争で活躍した後は、田舎で隠居生活を満喫中という噂だが定かではない。

 試験を受けてなれるものではなく、偉業を成し遂げ恐れ敬われた者が自然と<天>の称号を授かるのだ。

 天級騎神の全てが日本在住であることに、各国が危機感を抱いているとかいないとか。

 ※古代遺物の応用術式が弱点で、短命であるとの噂もあるが……

 

 〇

 

 年に数回行われる"騎神昇級試験"

 その試験会場にマサキと愛バたち五人は訪れていた。

 

 メジロ家が運営する総合体育館、通称"メジロ・マッスルアリーナ"

 命名したのは筋肉大好きライアンさんかな?

 その内部は受験者の雄叫びに観戦客の声援、そして闘気と熱気が溢れていた。

 

「そこまで!」

 

 審判の鋭い声が飛ぶ。

 四つのブロックに分かれて行われていた試験。

 受験者同士の模擬戦闘、その一つが早くも終了したのだ。

 

「勝者!キタサンブラック!」

 

 ジャッジするでもなく、圧倒的強さを見せつけた勝利者の名前が呼ばれた。

 それは競技用のスポーツウェアを着用した黒髪赤目のウマ娘。マサキの愛バ、クロであった。

 

「「「「オオオオォォォォーーーーー!!」」」」

 

 瞬間、会場を埋め尽くさんばかりに湧き上がる拍手と歓声。

 黒髪赤目のウマ娘は応援してくれた観客たちにお辞儀をしつつ、手を振る。

 その眩しい笑顔と愛らしい仕草、そして彼女が披露した実力の一旦に周囲は魅了される。

 鳴り止まない歓声の中、クロは尻もちをついたままの対戦相手に手を差し伸べてその身を立たせる。

 

「縁があったらまたやろうね」

「はは……いや、もう、完敗すぎて悔しいとすら思えない」

 

 両手で握手をしブンブン振るクロ、相手の顔は引きつっているが気にしない。

 試合を見た観客たちのざわめきが聞こえてくる。

 皆が口々に試合の感想や考察を行っている。

 

「強かったな」

「それに可愛いい!」

「ああ、そこが重要だ」

「強すぎだろ!平均試合時間2分弱で全戦全勝、おまけに使ったのは片腕のみだぞ!」

「どこの所属だ…こりゃスカウト連中が黙ってないぞ」

「フッ、これだから素人は困る」

「なんだてめぇ?知ったかぶりやめろや」

「騎神の試合を観戦し続けた俺情報によると。彼女はサトノ家のご令嬢、その一人だ」

「な!?クレイジー(ダイヤモンド)の相棒かよ!どうりで強いわけだ」

「あれが黒い阿修羅‥‥」

 

 クレイジーと言う単語が聞こえて肩を振るわす愛バたち。二人とも笑いすぎやで。

 ここに本人がいなくてよかった。諸事情によりクレイジーと呼ばれた彼女は別行動中である。

 

「数年前の昇級試験、初参加で試験管を半殺しにした逸話は騎神ファンの間じゃ有名だ」

「おっそろしいな!」

「また一人、とんでもねぇ轟級騎神が誕生したってこった。めでたいめでたい」

「俺、手を振ってもらちゃった……惚れたぜ///」ポッ

「阿修羅なんて通り名から強面ガチムチ娘かと思ったが、予想に反してクッソ可愛い~」

「推しが増えちまったな。ファンクラブ設立も時間の問題だ」

 

 ホッホッホ、残念じゃったのう若人よ……その子は既に売約済みなのじゃ。

 運よく競り落とした幸せ者とはわしじゃよ!マサキじゃよ!

 試合後の一礼を終えくるりと向きを変えるクロ、俺とバッチ目が合う。

 

「マサキさん!勝ったよー!ブイッ!」

「頑張ったな!本当によくできましたぁ!」

 

 ダブルピースしながら駆け寄って来るクロ。俺に注目が集まるが気にしない。

 殺人タックルで抱き着いてくる彼女をいっぱい褒めていっぱい撫でる。

 よーしよしよしよしヾ(・ω・*)

 北島屋敷から戻って以降、クロの調子はすこぶる良好だ。

 秘密を俺に明かしたことで胸のつかえが取れたらしく、彼女は前にも増して晴れやかに笑う。

 俺たち間のリンクも真クロモードを見越した調整を入れたので循環効率がアップしているんだ。

 もちろん、試験中のリンクは反則なので今は切っています。

 

「クロさん。見事なストレート勝ちでの昇級、おめでとうございます」

「何事の無く終わってよかったね。これでクロちゃんも轟級仲間だ」

「アル姉、ココ、二人とも応援サンキュー!ハイタッチしよう、ハイターッチ!」

「「「ウェーイ!!!」」」

 

 俺と一緒に観戦していたアルとココもクロを労う。

 仲良くハイタッチする愛バたちのじゃれ合いにホッコリです。

 

「シロは?私の活躍見ていないなんて薄情だなあ」

「受験者が多いから手続きが長引いているんじゃない?

「シロさん、今頃イライラしながら待っているのかしら」

 

 この後はシロの試験をみんなで観戦する予定だが、当の本人が戻って来ない。

 まだ時間がかかりそうだな……

 

「悪い。便意を(もよお)したからトイレに行って来るわ」

「大丈夫?ついて行こうか?」

「いやいや、俺は大人だぞ。トイレについて来てもらうような年齢じゃない」

「この前の夜を忘れたの?ついて行ったばかりだけどww」

「あれは仕方なかろう!寝る前にホラー映画鑑賞に付き合わせたココが悪い!」

 

 もうやめてよね~おねしょしたらどうすんのよ!

 寝る前に怖いの見ちゃダメ!!

 

「マサキさん。一人でトイレまで行けますか?ちゃんと帰ってこれますか?」

「悲しいぐらい信用がない!?」

「心配しているのです。これだけの人混みですから‥‥‥」

 

 方向音痴な俺を心配してくれるアル。

 最近は大分マシになってきているのだが、傍から見るとまだ危なっかしいのかな。

 

「俺は必ずお前たちの下に帰って来る。だから、行かせてくれ」

「マサキさん‥‥‥はい。あなたを信じます」

「トイレ行くだけなのに何これ?死地に(おもむ)く前か!」

 

 アルと二人でちょっと壮大な雰囲気出してみた。

 

「早く行って来なよ。漏れたらどうすんの」

「私たちはここでシロさんを待っていますね」

「しゃあっ!行ってくるぜーー!」

「どうか、よき排泄を」

「「行ってら~」」

 

 愛バたちに見送られトイレに向かう。小走りで!うう~トイレトイレ~。

 気合を入れる声や歓声がそこかしこから聞こえてくる。

 会場内ではまだ他ブロックの試合が続いているのだ。クロのところが早く終わり過ぎただけ。

 今日この場所で頼もしい仲間が、競い合う商売敵(ライバル)が生まれているんだな。

 名前も知らぬ騎神たちのこともマサキ応援しちゃう!みんな頑張って!

 おっと、立ち止まっている場合ではない。出すもの出して早く戻ろう。

 

 〇

 

「スッキリしたぁ」

 

 トイレから出た俺は心身ともに清々しい気分だった。

 あー出した出した。小だけのつもりが勢い余って大も出した。

 スッキリしたので、早いところ愛バたちと合流しよう。

 手を拭いたハンカチをポッケにしまっていると、目の前を小さな子供が横切った。

 

 (ロリウマ娘……4、5歳ぐらいか。中々の美少女ですな!)

 

 幼女がいると『つい目で追っちゃうんだ!』

 これは愛バたちとは別腹ですよ?

 未来ある幼女の安全と成長を見守るのは俺の重大な使命だからな!

 今、クボからの『違うそうじゃない』という電場を受信した気がするが黙殺!!

 

 (あらあら、はしゃいじゃって。会場の熱気に当てられたのかな?)

 

 小さなウマ娘は大はしゃぎで走り回っている。

 元気なのはいいが、ちゃんと前を見ていないと危ないぞ~。注意したほうがいいのかしら?

 声をかけようとしたが一足遅かったようだ。

 幼女が前から歩いて来た人にぶつかってしまった。

 

 (言わんこっちゃない……ん?)

 

 幼女はポテンッと尻もちをついてしまう。

 ぶつかった相手はこれまたウマ娘‥‥‥うわっ!ガタイがメチャクチャいい。

 全くのノーダメージで幼女を見下ろすのは、筋肉ムキムキマッチョのウマ娘だった。

 ライアンが涎を垂らしそうなほどの見事な筋肉だ。張り付いたシャツからシックスパッドが透けている。

 

「ご、ごめんなさい」

「……」

 

 慌てて立ち上がった幼女はマッチョに謝罪しようとして……

 

 (危ねぇっ!?)

 

 アクセル発動!!

 無言で口角を吊り上げたマッチョが、何をしようとしたかを察した俺は飛び出した。

 間一髪で幼女を後ろから抱え離脱することに成功する。

 ただし、咄嗟に動いたために勢いを殺し切れなかった。

 幼女を抱えたまま変な体勢で近くの壁に激突してしまう。

 

 (ぐぁ痛ってぇー!もろに背中打った)

 

 俺の痛みはどうでもいい。

 それよりこっちを優先だ。幼女に簡易メディカルスキャン……よし、幼女は無事だ!

 助けた子供にケガをさせるなど、医療関係者としてあってはならないからな。

 なぜ俺がこのような行動をとったのか?

 それは、マッチョのウマ娘が幼女を攻撃……足蹴にしようとしたからだ。

 な、何をするんだぁー!許せん!

 

「へぇ……」

 

 マッチョはゲスい笑みを浮かべて俺を見る。

 自分の足が空を切った。その結果を作った俺を品定めしているようだ。

 こっち見んな!

 

「ちょっと!危ないじゃないですか!」

「はぁ?何がだよ」

「あなたは今、この子を蹴ろうとしました。俺、ちゃんと見ましたよ」

「知らないねぇ。なあ、お前たち?」

 

 俺が抗議の声を上げるとMマッチョは後ろに連れ立っていた取り巻きたちに声をかける。

 マッチョがでかすぎて気付かなかったが、数人のウマ娘たちと一緒だったらしい。

 

「私らには、その男がガキを抱えて壁にぶつかったように見えたっスよ?」

「うわ、まさかこいつ誘拐犯なんじゃ」

「逃げようとして勝手に自爆したのか、ダセェーーwww」

「マジヤバ、ロリコンかよ。ウケるwww」

「おまわりさーん。ここにロリコン誘拐犯がいまーす」

 

 確かに、傍から見ると俺の行動は幼女をかっさらった後に、もんどり打って壁に激突したヤベェ奴だ。

 口々に俺を罵った奴らは指を差しながらゲラゲラと笑い出す。

 これにはウマ娘好きの俺もイラッとした。

 

 (うっせぇ!ブゥゥゥ―――スッ!)

 

 如何に容姿端麗とはいえ、全くもって美しいとか可愛いとか思えない。

 いつも見ているトレセンの生徒や愛バたちに比べるとブスだな。

 本当にブッサッ!!顔じゃなくて腐った性根がブサイクなんだよ!

 

 俺が壁に激突した音とマッチョ軍団のゲスい笑い声によって、周りに人が集まって来た。

 みんな何事か?と心配そうにこちらを見ている。

 俺は言い返そうとして……できなかった。

 

「何だ?言いたいことがあるなら言えよ」

 

 マッチョにビビったわけでは断じてない。

 抱っこされたままの幼女が俺の服を掴んで、小さく震えているのに気付いたからだ。

 幼女は今やっと自分の状況が飲み込めたのだろう。

 自分の不注意から、他者の暴力を誘発してしまったことを。

 大人から向けられる強く濁った悪意に恐怖して震えているのだ。

 ブスマッチョなんか知らん!

 今はこの子を落ち着かせることを優先する。

 

 (大丈夫、俺がついてる。よしよし、何も怖いことは無いぞ)

 

 少量の覇気を込めてゆっくり頭を撫でてやる。

 意図が伝わった幼女は俺の顔を見上げた後、ぎゅっと抱き着いてきた。

 心配ないない、無問題だよ。

 俺ならあの程度のマッチョ、指先一つで『ひでぶ!』しちゃえるからね。これマジだから。

 

「はっ!躾のなってないガキに、ビビッて言い返せないヘタレ男かよ」

 

 マッチョが吐き捨てるように告げる。

 取り巻きが『情けない』だの『だせぇ』だの騒いでいるのが我慢。

 俺は幼女を安心させるのに忙しいのだ。

 それにしてもこいつら、質の悪いジャイアンとスネ夫たちだな。うっっざ!!

 

「何の騒ぎですか?」

「ここは試験会場ですよ!迷惑行為は控えてください」

「チッ!!」

 

 騒ぎを聞きつけた警備が駆け寄って来る。

 舌打ちしたマッチョは俺たちを睨みつけて嫌な言葉を吐いた。

 

「おいガキ、お前みたいな雑魚がちょろちょろしてんじゃねーよ。目障りだからな」

「アンタいい加減に」

 

 キレそうになった俺を幼女が服を引っ張って引き止めた。

 まだ怖いだろうに、マッチョに向かって言葉を発する。

 

「いいの、わた、私が悪いから……ぶつかって、ごめんなさい……」

 

 相手の目を見てしっかりと謝罪した。

 この子、俺が思っているより強い子だ。

 トイレに行ってよかった…強い子に会えて… ※ハマーン様リスペクトです。

 

「雑魚は雑魚らしく、最初からそういう風に縮こまっていればいいんだよ。そこのヘタレ、お前もだからな。覚えとけ!」

「「「「「だっせぇーーwwぎゃははははははははww」」」」

「フンッ、行くぞお前ら」

 

 マッチョたちは警備の声を無視して歩き出し去っていった。

 駆けつけた人たちの消極的な態度をみるに、マッチョたちはそれなりに強いのか?

 とにかく、嫌な嵐は過ぎ去った。胸がムカムカするがゴルシに絡まれたと思って諦めよう。

 あいつらゴルシの何倍もウザかったけどな!

 

「うう……ヒック……うわああああん」

「あらら、泣かないで。もう腹立つマッチョは消えたからね~」よしよしヾ(・ω・`)

「ごめ……私の……せい…で、ロリコンお兄ちゃんまで悪く……言われて」

「あんなの気にしないぞ。勝手に言わせておけばいいんだ」

「本当?‥‥‥ヘタレクソ雑魚ロリコンは優しいね」

「今のは気にするわ!!」

 

 助けた幼女からの罵倒!グサッときたぁ―――!

 

「ヘタレクソ雑魚てのは忘れようか」

「ロリコンはいいの?」

「フッ……もう、言われ慣れちまったのさ……アレ?なんか視界が歪むなぁ」

「あ、ロリコンが泣いてる」よしよしヾ(・ω・`)

 

 おのれマッチョ!幼女が俺をロリコンだと認識してしまったじゃないか。

 そして今度は俺がよしよしされちゃった!ロリベホマで完全回復ひゃっほー!

 

「ちょっと君、警備室まで来てもらおうか」

「え!?なぜですか。俺は何も悪いことはしていませんよ」

「君がその子を誘拐したと聞いたんだが?違うのか」

「ロリコンだとも言っていたような」

 

 幼女とのよしよしタイムを邪魔する者はだれじゃい!警備員だと?

 やれやれ、わかってねーな。

 俺はそんじょそこらのロリコンじゃない。高レベルなロリコン、いわゆる紳士だよ!

 騎神の級位に例えると超級ぐらいかな?

 

「とにかく!その子はこちらで預かろう」

「いやーー!助けてロリコーン!!」

「嫌がってるじゃないですか、やめましょうよ。後は超級ロリコンの俺に安心して任せてください」

「「任せられるか!!」」

 

 幼女が俺から離れないので警備員は大いに困ったらしい。

 結局、幼女を抱っこしたままの俺と警備員が一緒になって保護者を探し出すことになった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「本当にありがとうございました。ほら、もう一度ロリコンさんにお礼を言いなさい」

「ありがとうロリコーン!」

「どういたしまして。今後、走るときはよく注意してな」

「うん。もう危ないことはしないよ」

「偉いぞ。じゃあ、俺はこれで」

「ばいばーい、ロリコーン」

 

 人でごった返す観客席で幼女の母親を無事発見した。

 迷子センターに駆け込む寸前だったお母さんは、俺に何度もお礼を言いペコペコ頭を下げた。

 俺の善行を見届けた警備員も一礼して去っていく。誤解が解けてよかったぜ。

 こうして紳士な俺は幼女を救ったのだ。

 『名乗る程のものではない』と言ったのに幼女がロリコン連呼するから、お母さんが俺の名前を露理混(ろりこん)だと思ってます。

 訂正するの面倒くさいので放置。幼女がロリコンを『ユニコーン』みたいに発音するのが可愛い。

 俺がデストロイモードになったら大変ですよ?幼女絶対助けるマンになります。

 

 〇

 

「ごめん!待たせたな」

 

 愛バたちの下に戻ったときは、かなりの時間が経過していた。

 

「ああよかった。無事に帰って来た」

「もう少しで探しに行くところだったよ」

「男性用トイレに突撃し、全ての個室を蹴り破るところでした」

「あっぶねーーー!」

 

 男性用トイレが愛バによって地獄になる寸前だった。セーフ!

 

「時間がかかりましたね。なるほど、大きい方でしたか」

「まあな」

 

 (背中、大丈夫です?)

 (全然平気だ)

 (何があったか、後で聞かせてください)

 

 シロも戻って来ていた。

 目ざといシロは俺が背中を打ちつけたことを見抜く。

 隠すような事でもないので、みんなには後でちゃんと説明しよう。

 

「私の試験まで少し間が空きますが、どうします?」

「今の内に昼食を取っておくか。外にフードコートがあったはずだ」

「ここのおすすめは、高たんぱくマッスル塩ラーメンだよ。隠し味に大豆プロテインがたっぷりの一品」

「私、たこ焼き食べたい。ソースの匂いに釣られてみる」

「いいですね。粉もんが私を呼んでいます」

 

 俺は何食べようかな。愛バと雑談しつつ移動しましょうかね。

 

「シロはどんな内容の試験を受けるんだ?」

「至ってシンプルなガチンコ試合ですって。対戦相手を倒せば晴れて合格だそうです」

「油断ならさぬように。試験には特別ゲストが来るそうですから」

「ほほう。ソースはどこですか?」

「実家からの確かな情報です。人手不足を補うため外部から試験官を呼んだらしいのです」

「メジロ家は相変わらずお忙しいようでなりより。そうだとすると、少しは期待できそうですね」

「現役のプロと戦えるかもしれないんだよね、羨ましいなあ」

 

 シロが受けるのは史上初の試みである飛び級試験だ。。

 通常、級位は烈→轟→超と順番に獲得していくものだが、飛び級試験はその前提を覆す。

 級位未所持のウマ娘が、烈級を飛び越えていきなり轟級の受験してよいことになったのである。

 これも政府肝いりの"騎神増員計画"の一端だろう。

 ルクスの件もあってか、今の日本国内はどこも戦力強化に躍起になっている。

 穏やかではないですねぇ。俺たちも有事に備えて鍛えに鍛えている最中だ。

 

「ねえ、アレ見てアレ……凄い筋肉」ゴクリッ

「すっげー本物かよ!」

「なんて威圧感。でも、どうして彼女がここに?」

 

 何だ何だ?何やら騒がしいぞ。有名人にでもあったのかな。

 ザワザワする人混みをかき分けて、のっしのっしと力強い足取りで歩く人物を視認する。

 

「あっ!あのマッチョは」

 

 そいつは先程ひと悶着あったいけ好かないマッチョとその取り巻き連中だった。

 うへぇ、嫌なもん見た。さっさと移動してご飯ご飯~……

 おい、なんかマッチョたちがこっちに来るんだけど?来ないでほしいんだけど。

 

「嘘ッ!カマセワンコ―だぁ」

「知っているのかクロ!俺にもわかるように教えてプリーズ」

「任せてよ。カマセワンコ―、数年前に行われたウマ娘格闘大会ヘビー級部門のチャンピオン」

 

 カマセワンコ―!?それがあのマッチョ娘の名前なのか。

 なるほど、それであの筋肉ってことかい。

 

「元々素行が悪くて有名な選手だったけど、そこが逆にカッコイイ!てな感じで結構人気があったよ」

「思い出した。あの人、何か事件起こしてなかった?暴行傷害で実刑判決されたんじゃなかったの」

「うん。対戦相手への執拗な死体蹴りや、レフリーや観客に手を上げる事もしばしば。最後は酒に酔って一般人にケガをさせちゃったみたい。それで、大会からは永久追放されたはず」

「選手生命を断たれた野蛮ウマが、なぜこのような場所に?」

「あの方、こっちに来てませんか……マサキさん、私たちの後ろへ」

 

 愛バたちが前に出て庇ってくれる。頼もしいね。

 ここは、お言葉に甘えて守ってもらおう。筋肉ダルマの圧から逃れるように後退しまーす。

 愛バが操者を守る防御陣形、たまには一般的なフォーメーションもいいですな。

 

 ワンコーたちは俺たちの前で足を止め、ジロジロと愛バたちを見ている。

 俺の愛バに何か文句でもあんのか?見物料取るぞコラッ!

 

「どいつがクレイジーDだ?」

「あ゛、出し抜けに何ですか?何様ですかコノヤロウ」

「お前か……ハンッ!どんな奴かと思ったら、こんな小娘だったとはなあ。噂は所詮噂か」

「失礼なんですけど、存在がマジ失礼なんですけど、今すぐ呼吸を止めてほしいんですけど!」

 

 不名誉な通り名で呼ばれた上に鼻で笑われたシロが怒る。

 こいつ、怖いもの知らずか?

 

「飛び級試験を受ける身の程知らず。しかも、それがあのクレイジーDだと聞いて面を拝みに来たんだが、ハズレだなこいつは」

 

 (マサキさん、無礼者の殺害許可を申請します)

 (気持ちはわかるが我慢だ。後で思いっきり撫でちゃるからな)

 (了解。気が変わったらいつでもご命令を、秒で八つ裂きにしてみせます!)

 

 怒ったシロの尻尾が苛立たし気に揺れている。

 結晶化しそうになるシロの尻尾をキャッチ!お触りして落ち着いてもらう。

 

「お前とじゃ、楽しめそうに無いな。どうせなら、そっちの"黒い阿修羅"とやり合いたかったぜ」

「私と遊びたいの?いいよ、いつでも受けて立つ」

「轟級に受かったからといって調子に乗るなよ。見た感じお前もハズレだな」

「うわームカつく。調子に乗ってるのはそっちじゃんか!」

「なんだぁ。ワンコ―さんに口答えしようってかあ!」

「阿修羅が何だってんだ。本格化したばかりのガキがイキってんじゃねー」

 

 クロにもケンカを売るワンコ―……バカなの?何がしたいの?

 取り巻きもクロを嘲笑うような発言を連発している。

 そんなに恐怖を教えられたいの?

 

「マサキさん、こいつら殺していい?」

「ダメ!」

 

 あらヤダ、クロちゃんってば直接聞いちゃったよ。それほどまでにムカついたんだな。

 そういうときは声に出さず目と目で以心伝心しましょうね。

 クロの尻尾もブンブンしてきたのでキャッチ!シロの尻尾と一緒に鎮静のお触りをする。

 イライラしているシロとクロを手で制し、アルがワンコーと対峙する。

 微笑みを浮かべる表情は普段と変わりないように見えるが、愛バたちの姉役である彼女も妹たちをバカにされて怒っている。

 

「ワン公さんでしたか?用があるなら早くしてください。無いならすぐに立ち去った方が身のためです」

「あん?何だお前は」

「ワ、ワンコ―さん。そいつ、メジロアルダンっスよ!」

「メジロ家を裏切ってサトノ家入りした、あの!?」

「別に裏切ってません!」

「雷の超級騎神、雷帝……」

 

 取り巻きの言葉に周囲の野次馬たちもざわつく。

 超級騎神は目立つ、それがアルのような極上の女でかつ、メジロとサトノに深い縁を持っているならなおさらだ。

 はいそこ!無許可での撮影はご遠慮ください!

 超級と聞いてさすがのワンコ―もビビったかと思いきや。

 

「くっ、くくくく……はっーはっはっはっ!!そういうことか」

「いきなり笑われる筋合いは微塵もありませんが」

「大したものだよなあ、御三家の威光ってのは!教えてくれよ、一体いくら積んだんだ?」

「おっしゃっている意味がわかりません」

「まさか級位が金で買えるとはな。それとも実家に泣きついたか?」

「あなた……私が不正を働いて超級騎神になったと、そう言っているのですね」

「違うのか?御三家の令嬢様ならそれぐらい軽いだろう、なあ?」

「……ウフフフフフ」(#^ω^)ピキピキ

 

 怖い!唇を嚙みながら下手くそに笑う、アルの笑顔が超怖い!

 もう!ホント何なのこいつ!破滅フラグを立て続けて何が楽しいの?

 愛バたちだけじゃなく御三家や昇級試験の運営にもケンカ売ったんだぞ。

 早く気付いてワンコ―!あなたは今、N2地雷の上でのんきにタップダンスしているのよ。

 

 シロクロの尻尾を緊急リリース!

 アルの尻尾をキャッチしてお触り……くっそ!シロクロ尻尾が腕に絡みついて取れない。

 三人分の怒れる尻尾を握ったのはいいが、これからどうしよう。

 

 (マサキさん。私、この方嫌いです)

 (だよね!わかってるよわかってるから。どうか、お鎮まりくだされ!)

 (不正などしていません。ちゃんと試験に合格したのです)

 (放電禁止!ビリビリしちゃダメだから―!)

 (私のみならず、試験を見届けてくださった多くの人を侮辱しました。許せません)

 (うんうん、許せないよね)

 

「いい加減にしてよ。ケンカを売るのがあなたの目的なの?」

「今度は誰だ?」

「みんなご存知、ファインモーションだよ」

「知らんな」

「知っとけよ!ボケがぁー!」

 

 ココも怒っちゃったよ。

 アルダンのことを知っていた連中も『知らね』『誰こいつ』と呟いている。

 ファイン家はメジロとサトノに比べてメディアへの露出が少ないから、知らない人は知らないのよ。

 

「ファイン?あの、マイナー御三家のファインか」

「マイナーで悪かったね!」

「知らないのか。ある業界では彼女はちょっとした有名人だぞ」

「日本全国津々浦々のラーメンを食したという、カリスマレビューアー"モーさん"を知らないとは……嘆かわしい」

「ラーメン愛に溢れた批評の数々は、名立たるラーメン職人たちも注目しているのにな」

「そこのお兄さんたち、どうもありがとう!後で一緒に自撮りでもいかがかな?」

「「「ヒューやったぜ!」」」

 

 ファンサービスで手を振るココにラーメンが好き男たちは歓喜する。

 知っている人たちがいてよかったね。

 ファイン家の頭首としてではなく、ラーメンレビューアーとしてだけど。

 

 (マサキ、写真ぐらいならいいよね?)

 (それぐらいのサービスならいいだろう。でも、お触りは許さない!俺が嫉妬しちゃうから)

 (わかったよ。で、この不敬がウマの形をした女はどうするの?)

 (どうしたもんかねえ)

 

 愛バたちじゃ会話にならないと察した。俺が出るしかないな。

 

「カマセワンコ―さん?」

「お、ヘタレ野郎じゃないか。まだこんなところにいたのか、幼児誘拐でしょっ引かれたのかとおもったぜww」

「「「「なんだと!!」」」」

「よせ、お前たちは黙ってろ……操者の俺がお聞きします。うちの愛バに何か御用ですか?」

「お前が操者だあ?笑わせんな」

「御三家ってのはよっぽど人を見る目が無いらしいw」

「あんなのが操者できるとか世も末だわ」

「「「「言ってはならんことを言ったな!!」」」」

「全員ステイ!下がれ、下がってーー!」

 

 だから一々挑発するなよ!その度に愛バたちが怒るので話が進まないだろうが。

 

「言っただろ、飛び級なんてふざけた真似をする。身の程知らずの顔を拝みに来たんだよ!」

「シロの顔は見ましたよね?だったら、もう用はないでしょう。すみやかにお帰りください」

「そういう訳にもいかないねぇ。そこのクレイジーが受ける試験の内容は聞いているか?」

「ガチンコ試合だと聞いています」

「そうさ!そいつの対戦相手がこのアタシ、カマセワンコ―だ!!」

「あ、そうですか。ご健闘をお祈りします」

「随分と薄い反応だな。可愛い愛バが衆人環視の中でボコられてもいいってのかい?」

「いいわけないでしょ。とにかく!お帰りください」

 

 早く!早く帰れ!愛バたちを抑えているのも限界が近いんだからね。

 この尻尾ども暴れやがるぜ!ぐあああっ!ココの尻尾も参戦して来たーー!

 

 シッシッと追い払う俺をワンコ―は睨みつける。じっとりとした視線が不快だ。

 

「……お前、よく見ると悪くないな」

「はい?」

「このアタシを前にして一歩も引かないか、ヘタレの癖にちったあ度胸あるな。アタシの操者にしてやってもいいぞ」

「「「「よーし!殺そう!!」」」

 

 愛バたちリミットブレイク!しかし、マサキが尻尾を引っ張るので寸前で停止する。

 マズいマズいマズい!愛バたちの瞳に『殺』の文字が宿り始めた。

 はい、どうどう。落ち着きなはれや!

 

「俺を操者にですか?」

「悪い話じゃないだろう。コネだけの小娘どもを捨てて、真の実力者であるアタシの操者になれるんだ」

「バッカじゃないの。マサキさんはそんなの断るに決まってる」

「なめすぎでしょ?私たちの操者が了承するはず……」

 

 操者になれというワンコ―。俺の返答は既に決まっている。

 

「いいですよ」

「そうそう。ダメに決まって……ちょ、マサキさん!?」

「そ、そんな!なんで!!」

「はっ!即決とは気前がいいな。あーそうか、御三家に無理やり操者やらされていた口か?小娘どものワガママに振り回されてご苦労さん」

「マサキさん……」

「マサキ……」

「アタシの操者になれば少しはマシな待遇になるぜ。まっ、最初は奴隷見習いだけどなww」

 

 ショックを受けて固まるクロシロ、悲しい顔するアルココ……心配するな。

 

「何勘違いしているんだ?」

「ああん?」

「お前の操者になってもいいと言ったが、条件がある」

「条件だとぉ、生意気いうじゃねーか」

「俺の愛バ、シロに勝って見せろ。万が一、いや、億が一お前が勝ったなら、操者でも奴隷にでもなってやらぁ!!」

「ほざいたなヘタレ!その言葉後悔するなよ。口約束だからって今更無かったことにはできねえぞ。この場にいる全員が証人だからな!」

 

 敬語も最早必要ない。失礼な相手には失礼を返す!

 俺の提示した条件を前に、ワンコ―は牙を剥いて叫ぶ。

 

「いいのか?本当にいいんだな!!おい!」

「しつけぇなあ、いいって言ってんだろ。お前と俺の愛バでガチンコ勝負じゃい!!」

「くくく、いいねぇ!楽しくなってきたぁ!試合が始まるまでの間、愛バとお別れ会でもしてるんだな!」

「嫌でーす。普通に楽しくランチしまーす」

「減らず口を、その自信は一体どこからくるんだ」

 

 自信があって当然だろ。

 シロの隣に立ってその肩に手をかける。尻尾がキュッと太もも辺りに巻き付いてくるのが信頼の証。

 

「この子は俺の愛バだぞ。お前みたいな奴に負けるなんて、絶対にありえない!」

「フンッ、口だけならどうとでも言える。いいぜ、首を洗って待っていな!逃げるんじゃねーぞ」

「「「「お前がな!!」」」」

「チッ……」

 

 愛バたち四人の気迫に圧され退散していくワンコ―たち。

 やっちまった。つい熱くなったことに反省!

 シロの気持ちも考えず、勝手に勝負を受けてしまった。

 

「勝手な約束してごめん、シロ」

「全く問題ありません。あのマッチョを処理する機会をくれたことに感謝ですよ」

 

 マサキたちの様子を見ていた野次馬たちが一斉に騒ぎ出す。

 

「決闘、決闘だ!!」

「カマセワンコ―VSクレイジーDだと!?こんな好カード観るっきゃない!」

「今の内に座席確保だ!」

「面白くなってきたぞー。そーれぃ拡散拡散~」

 

 大事になってきたぞ。それもこれもワンコ―が悪い。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 盛り上がる観衆をスルーしてフードコートにやって来た俺たち。

 ムカムカする気分を落ち着かせるために、少々やけ食いをしてしまったぜ。

 

「たい焼きうめぇ!」

「中身何だった?私のカスタードだったよ」

「ハバネロ納豆でした……辛っ!ネバっ!臭いキツっ!」

「十勝大納言を使ったつぶあんです。シンプルイズベスト」

「ご飯が欲しくなる海苔の佃煮、うーんミスマッチだ」

 

 今は愛バたちと、デザートに買った"ロシアンたい焼"きを食している最中だ。

俺のたい焼きには餃子が入っていた。猛烈な違和感があるが味はなかなかいい。

 

「カマセワンコ―があんな奴だったなんて。一時期応援していたのに…当時の私に謝れ!」

「小さい子に暴力を振るおうとしたんでしょ。サイテーだよ」

「マサキさんが勝負を受けた理由もわかります」

「アレは一度ぎゃふんと言わさないとダメですね」

 

 ワンコ―が幼女を蹴ろうとしたことも昼食がてら伝えてある。 

 愛バたちは益々憤慨してワンコーを軽蔑していた。

 

「それで、あいつの実力はどんな感じ?」

「格闘技選手だった頃はかなり強いと思っていたけど。今となってはわかんないなあ」

「現在、轟級騎神で超級への昇格も期待されているそうです。職業はフリーの戦闘屋、大手企業の用心棒として重宝されているようで、彼女を慕う同業者も多いのだとか」

「仕事は意外にもクリーン!私はてっきり、ヤクザのケツ持ち止まりかと思ったよ」

「性格は悪いが仕事は出来るタイプか、あんな態度じゃ無駄に敵を作って大変だろうに」

「天狗になっているのですよ。恵まれた力で何でも思い通りにして生きて来たのでしょう。かわいそうに……」

 

 カマセワンコ―は、誰かを思いやる心を学ぶことなく生きてきた。

 そう思うと哀れな奴なのかもな。

 

「メジロ家もどうしてあんなの試験官にするかね」

「実家がどうもすみません」

「アルは悪くない。どこも人手不足が深刻ってことだな」

「なんか怪しいんですよねー。最近のメジロ家は妙にごたついているというか……」

「ルクスのせいじゃね。あいつへの対抗策にみんな奔走してんだろ」

 

 たい焼きを食べ終えた。腹ごなしも済んだぞ。

 いい時間だ、そろそろ会場に戻ろう。

 

「いけるな、シロ?」

「お任せください。皆を代表して、あの勘違いマッチョを成敗してやります」

 

 シロのやる気は十分だ。

 一応注意しておくけど、やりすぎてもダメだからね!

 

 〇

 

 選手入場が始まる。

 

「赤コーナー!格闘技界の狂犬と恐れられたウマ娘が復活するぞ!」

 

 試験会場であるメジロマッスルアリーナの熱気は最高潮だ。

 騎神昇級試験の最終試合が始まるのを皆が待ちわびている。

 試合のために急ピッチで整備したのか、会場は様変わりしていた。

 これK-1だ!K-1の試合会場意識してるだろ。

 ノリがよいレフリーのマイクパフォーマンスにも熱が入ってくる。

 みんなこれが試験だってこと忘れてない?

 観客を入れている時点でおかしいから今更か……

 

「カマセワンコ―!カマセワンコ―の登場だぁぁぁ!」

 

 割れんばかりの歓声が轟く。誰かがゴクリッと唾を飲む。

 ワンコ―は傲岸不遜な態度のままリングへと足を踏み入れる。

 俺たちを見つけると二ヤリと嫌らしい笑みを向けてくるのでウザい。

 

「いいな~私のときもこれぐらい盛り上げてほしかったよ」

「ちょっとやりすぎな気もするけどね」

「シロさん。会場の雰囲気に飲まれないといいですけど」

 

 大丈夫、あいつはできる子。自慢の愛バだからな。

 

「続いて青コーナー!飛び級試験の受験者が満を持して登場するぜぇ!」

 

 ざわ…ざわ…会場に緊張が走る。

 心なしかワンコ―のときよりも空気がピリピリしているようだ。

 それもそのはず、皆は彼女を観に来たのだから。

 

「サトノ家の至宝!噂のクレイジーDとはこいつのことだぁぁぁ!!」

 

 めっちゃスモークが焚かれとる!?演出凄くない?いくら使ってるの?

 メジロ家の豪快さは、こんなところでも発揮されている。

 

「その輝きを目に焼き付けろ!サトノダイヤモンド!サトノダイヤモンドが来たぁーー!!」

 

 スモークを振り払い登場するのは見目麗しいウマ娘だった。

 整い過ぎた容姿に煌めきを放つツヤツヤな毛並み、そして抜群のスタイル。

 受験者用の黒いスポーツウェアも、彼女が着れば一流のドレスへと変貌を遂げるたかのよう。

 圧倒的存在感を放つウマ娘はゆっくりと歩みを進める。

 彼女の一挙手一投足に見惚れた観客からは、ため息すら漏れない。

 

 (シロの奴、よそ行きお嬢様モードに入っちゃってるww)

 (なんて分厚い外面なんだwww)

 (めっ!笑ってはダメですよ。とっても綺麗じゃないですか、ねえ、マサキさん?)

 (ああ、さすがシロだな。飲まれるどころか会場中を飲んじまった)

 

 "お嬢様モード"

 愛バたちが有する共通スキルだ。

 発動すると持って生まれた気品とオーラで威圧し相手を黙らせる効果がある。

 同時に、一定範囲内の人々を魅了し味方につけることも可能。

 

 これを発動させたシロの魅力は普段の五割増しだ。たぶんね。

 

 優雅にリングインするシロ。

 昼食前に会ったときとは違う彼女に、ワンコ―すら口をポカンと開けている。

 俺とシロの目が合う。

 

 (いいぞ、シロ!お前は美しい!)

 

 頷いたシロは会場を見渡した後にくるりふわりと一回転。

 観戦する全ての者に向け、最高のスマイルを放った。

 

『「「「「うおぉぉぉぉぉぉ――――――!!!」」」」』

 

 凄まじい歓声に会場が震える。耳がキーンとしちゃった。

 

「あれがクレイジーDだとぉ!?」

「すげぇ。まだ登場しただけなのに、なんかすげぇ」

「どこがクレイジーなんだ?確かに、クレイジーな美しさではあるが……」

「は、初めて、初めて見た。そして持っていかれたぁ―――!俺のハートぉぉぉぉ!」

「うっわっ!マジでメチャクソ可愛い!え……12歳!?!?」

「ダイヤ様~!ダイヤ様ーーー!」

「まさにサトノ家の至宝だな」

「Dじゃ!Ⅾ様がついに、世に解き放たれる時が来たのじゃぁーー!」

「ダイヤモンドは砕けない!」

 

 わお!シロ大人気ですやん。

 その子、俺のですよ?

 

「フッ、何も知らない連中はお気楽なことだ」

「またお前か知ったかぶり!」

「見た目の良さだけでクレイジーなんて通り名が付くわけないだろう」

「あーはいはい。知っていることがあるなら、はよいえ」

「クレイジーの前に彼女がなんて呼ばれていたか知ってるか?」

「知らんがな」

「シラカワシュウの再来、学会荒らしの"厄災(やくさい)"だ」

「やくさい?って何だ」

「その昔、5歳にも満たない彼女は父親に連れられて、様々な研究機関を訪れたという。父親曰く『うちのダイヤちゃん天才だから』だそうだ。娘の好奇心を満たせればそれでよかった。だが、話はそこで終わらない」

「続きを……」ゴクリッ

「それからだ。学会を去る研究者が続出したり、研究そのものが頓挫する事態が相次いだのは、彼女が潰した研究機関は片手じゃ足りないぞ」

「何をした、彼女は一体何をした?」

「良かれと思って、ちょっとしたアドバイスをしたそうだ。そのアドバイスとやらは10年単位の研究成果を五分で解き明かし、それを遥かに上回る物を最高効率で創造してみせた」

「ヤバすぎんだろ」

「考えてもみろ。生涯を捧げて追及してきた研究を、ふらりと訪れた幼女に数分で丸裸にされた挙句『こっちの方が効率いいですよ』『これじゃダメです。ここはこうしましょう』と悪気なく間違いを指摘され、その全てにおいて彼女の方が正しく優れていると思い知らされたらどうなる?」

「自信もプライドもボロボロになるな。ヒデぇことしやがる」

「当時のシンクタンクは、たった一人の幼女に震え上がったのさ。父親に叱られてからはアドバイスは止めたようだ」

「それで付いた通り名が"厄災"か……じゃあ、クレイジーってのは何よ?」

「小学校で全校生徒を巻き込んで暴れたらしい。クレイジーⅮはそこから始まり、数年前から各地の戦場に出没し噂になった『サトノ家に超ヤバい騎神がいる』『Dそれにあったら終わり』と」

「それがクレイジーD‥‥あそこにいる彼女か。それにしても、お前詳しすぎじゃね?」

「フッ、推しの情報は可能な限り押さえておく、それが真のファンたる者だ!」

「こいつ、メッチャいい笑顔で」

 

 長っっがぁぁーーーい!!

 知ったかぶりさんの解説がとても長いよう。

 偶然、近くにいた俺と愛バたちも思わず聞き入っちゃったじゃないの。

 

 (厄災だってよ。知っていたか?)

 (全然知らなかったよ。でも、シロなら普通にやってそう)

 

 クロも知らなかった情報らしい。この知ったかぶりさん何者なの?

 でもいいんだ。厄災だろうがクレイジーだろうが、シロは可愛い愛バなの。

 

「よう!クレイジーD。逃げずに来たことだけは褒めてやるよ」

「逃げる理由がありませんから」

「そうかよ。お前以外の受験者はアタシが試験官だと知った途端に全員辞退したぜ」

「品性下劣な勘違い女を倒すだけで合格できるというのに、勿体ないですね」

「戦場はなあ、温室育ちの小娘が立っていい場所じゃないんだよ!」

「温室の過酷さを知らないアホの発言いただきました」

「その威勢がいつまで続くか楽しみだな」

「そっくりそのままお返しします」

 

 バチバチと火花を散らす両者。それが観客の期待と焦燥を加速させ煽っていく。

 

 やれ!早く始めろ!最高の娯楽をお前たちの力を、見せろ!魅せろ!

 強者に焦がれ惹かれ憧れる我々に、夢のようなひと時を胸躍るような戦いを、どうか見せつけてくれ!

 

 レフリーによる形式的なボディチェックの最中、シロが振り返って俺の目を見る。

 

 (オーダーはありますか?)

 ("()()()いのちだいじに"で頼む)

 ("殺さないように痛めつける"ですね。かしこまりました)

 

 軽く微笑んでシロは前に向き直る。

 今のはオーダーミスじゃなかろうか?

 大丈夫大丈夫~俺はシロを信じる。マジで信じているからやりすぎないで!

 

「両者、試合前に礼ッ!」

 

 態度の悪いワンコ―も一礼ぐらいはちゃんとした。

 格闘技界から追放されていても、身にしみついたマナーぐらいは残っているらしい。

 

「見合って見合って~、はっけよーい……決闘開始(デュエルスタート)ッッ!!」

 

 レフリーの言葉がカオスなのは、彼もこの状況にテンパっているからだろうと解釈する。

 シロの轟級騎神資格と俺の進退を賭けた戦いが、今始まった。

 

 〇

 

 試合開始直後、先に動いたのはカマセワンコ―だった。

 覇気を漲らせた足で床を蹴り標的との距離を詰める。

 

 (チャンスだ。これはアタシにとってのビッグチャンス)

 

 退屈だと思っていたが、この仕事を受けて良かった。

 クレイジーⅮの噂は戦闘屋界隈では有名だ。そいつを公の場で叩きのめしたとなれば、かなりの箔が付く。

 自分を追放した格闘技界の連中にも、真の実力者がどういうものか見せつけてやれる。

 戦いをなめきった雑魚どもが騎神を名乗るのも前から気に入らなかった。

 選手生命を断たれた自分がどれ程の辛酸を舐めたのか、轟級騎神に至たるまでどれだけ修練を積んだのか、才能にも環境にも恵まれた奴らにわかるわけがない。

 騎神になるということは雑魚が思ってるほど甘くない。それを今日この場所で教えてやるのだ!

 

 マサキたちをずっと見下す態度をとっていたワンコーだったが、実のところ油断はしていない。

 彼女は見た目に反して用心深く堅実な戦いを好む。

 

 (ガキを助けたヘタレの動き、普通じゃなかった)

 

 あの瞬間加速、ただの人間であるわけがない。現に、奴の愛バは御三家のウマ娘が勢揃いしていた。

 本日の轟級試験をストレート勝ちした"黒い阿修羅"に、ファイン家のラーメン狂い、超級騎神の"雷帝"までいる。

 そして極めつけは、悪評絶えない"クレイジーD"だ。

 

 (正直、雷帝の登場には焦ったが、級位なしのコイツになら勝てる!!)

 

 戦いの前にあえて挑発して騒ぎを起こし、飛び級試験を大きな舞台へと整えたのもワンコ―の計算だった。

 衆人環視の中、クレイジーDを自分が圧倒する!

 生意気な小娘と目障りな御三家をこき下ろし、自身への賞賛はうなぎ登りだ。

 これは一石何鳥にもなる、おいしい戦いなのだ。故に負けるわけにはいかない。

 当初の予定に無かった、マサキを操者にするという話も報酬が増えて願ったり叶ったりだ。

 クレイジーな小娘には精々踏み台になってもらおう。

 

 相手は微動だにせず構えてすらいない。棒立ちのままこちらを見ている。

 ここまでの観察でクレイジーについてわかったことを思い返す。

 どういう戦闘タイプなのかは注意していれば推測可能。

 全体の筋肉量、間合いの取り方、最もわかりやすかったのは視線だ。

 銃を使う奴特有の視線、攻撃対象を点で捉える目の動きは誤魔化し切れていない。

 

 (少数派の中遠距離支援タイプ、お気に入りの武器は銃ってところか)

 

 この試合は素手による格闘戦がメインだが、覇気を使った飛び道具は許可されている。

 相手の戦法は十中八九、覇気弾による射撃だ。

 狭いリング上を逃げ回り、一定の距離を空けつつ射撃を行って来るはず。

 だが、そうはさせない。

 

 ワンコ―が選んだのは速攻だった。

 相手に時間を与えてはダメだ。頭がきれるこいつは時間が経てば経つほど、厄介になることは目に見えている。

 考える暇も覇気を練る隙も与えずに一気に勝負を決めるのが最善策。

 だから行く、様子見などせずに最初から全力をぶつけるのだ。

 

 ワンコ―は実戦で培った戦闘技巧を余すことなく使用する。

 覇気を集中させた足底が地面を蹴りつける瞬間に解放!爆発的な瞬発力が超加速を生んだ。

 ワンコ―は知らなかったが、奇しくもそれは、マサキが加速技(アクセル)と名付けた歩法に酷似していた。

 

 (更にダメ押しのぉーー!超筋肉防壁(スーパーマッスルバリヤ)ッッッ!)

 

 加速しながら筋肉を膨張させる。

 血管が浮き出るほどに張り詰めた肉体を覇気が駆け巡る。

 肉体強化と共に防壁を展開するワンコ―の得意とする攻防一体の技だ。

 この状態になったワンコ―の体は、銃弾すら通さない高い防御力を誇る。

 特に腕部の防壁は固く、その気になればロケットランチャーですら弾けるとまで言われている。

 

 (そらっ!撃って来い!全弾弾き返してやるよ)

 

 両腕を楯のように構え突撃していくワンコ―。

 覇気弾で迎撃されるのは想定済み。射撃への対策はバッチリだ。

 後は、得意のインファイトに持ち込んでしまえばこっちのもの。

 だというのに…‥

 

 (なぜだ?撃ってこない?)

 

 ダイヤは迎撃どころか未だに何の反応も示さない。

 試合開始直後の油断?即行にビビった?いいや、こいつはそんなウマではない。

 棒立ちなのは罠か?何だ?何かを企んでいる‥‥‥だとしても、それがどうした!

 賽は投げられたのだ。ここで躊躇するようならば、初めから勝負など仕掛けていない。

 プロとして、轟級騎神として活動してきた自負もある。

 臆することはない、クレイジーの企みも何もかも力でねじ伏せてやればいいだけ。

 

 (そのキレイな顔をボコボコにしてやる!!)

 

 ダイヤは最早眼前だ。

 両腕のガードを解いて拳を振り上げる。完全にもらった!

 脳内では『勝ったッ!カマセワンコ―栄光への第一歩完!』のテロップが流れ始めている。

 ワンコ―は吠え猛りながらダイヤへと襲い掛かった。

 

「キャオラァッッ!!」

 

 カマセワンコ―は決して弱い騎神ではない。

 マサキたちに悪態をつきながらも『彼らは普通ではない』と本能の警告を感じ取っていた。

 得体の知れないダイヤに対し舐めプを選ばず、最初から全力で決めに行ったことも評価できる。

 

 だがしかし、今回ばかりは相手が悪かった……本当に悪すぎた。

 ワンコ―がそのことに気付くまであと少し。

 

 〇

 

「キャオラァッッ!!」

 

 マサキは、ワンコ―が妙な声を上げながらシロへと殴りかかるのを見た。 

 愛バたちは今のを聞いて『ブフッww』と可愛らしく吹き出している。

 試合開始直後にワンコ―は加速技らしき歩法でシロに迫った。

 独力でアクセルを習得したのだとすると、ワンコ―は優秀な騎神なのだなと思う。

 迎撃を警戒して防壁を張りつつの突撃、しっかり防御も固めてくるあたり慎重な奴だ。

 さあ、どうするシロ?

 

「出たぁーー!ワンコ―さんの秒殺速攻ッッ!」

「一気に決める気だ。やっちまえ!」

「速すぎんだろ。ダイヤ様逃げて―超逃げてーー!」

「リョナ展開は勘弁な」

「きゃあ!やられちゃうわ」

 

 歓声と悲鳴が同時に上がる。

 美しき少女は屈強な女戦士の手によって無残な姿を晒すであろう。

 ワンコ―にとっては最高の未来、シロやマサキたちにとっては最悪の未来だ。

 会場に集まった多くの者に最悪の未来を予見されてもシロは動かない。

 

 パシンッ!!!

 

 打撃音が響き渡った。

 

 (は?)

 

 ワンコ―は混乱した。相手に届くはずだった自分の拳、手ごたえが無い。

 攻撃が失敗に終わったのはわかるが、なぜ失敗したのかがわからない。

 打撃音が思っていたものと違う。さっきの音はまるで、誰かが張り手を食らったような…‥?

 そこでようやく気付いた。

 

 自分の顔が前ではなく横を向いていることに。

 遅れて、右頬にひりつくような痛みが走ることに。

 ポタポタと赤い雫が床に滴っていることに。

 それが自分の鼻から出ていることに……自分は今、リング上で無様に鼻血を垂れ流している!?

 

「ちょっと撫でただけですが、もうお終いですか?」

「てめぇ・・・!!」

 

 癇に障る声が聞こえた。

 正面に向き直ると、すまし顔のダイヤがいた。

 

 (こいつ!アタシの顔にビンタくれやがったなぁぁ!!)

 

 腕を振りあげた瞬間、自分の顔は無防備になっていた。

 理屈は不明だが、防壁の隙間を縫って強烈なカウンタービンタをかまされてしまったのだ。

 見えない、全く見えなかった。

 奴の立ち位置は最初から変化していない。カウンター後に元の場所に戻った?

 だとしたら、異常なスピードだ。スピード特化型超級騎神レベルの超高速起動?

 そんなわけあるか!とワンコ―はかぶりを振り、そして思い当たる。

 

 (わかったぞ!これは覇気弾だ)

 

 手練れの中には覇気を自分好みに変化させ細工を施してから、相手にぶつけることができる奴もいる。

 こいつはその細工が得意なのだろう。

 命中後に破裂して衝撃でダメージを与える特殊弾、通常弾と違い飛距離は短いが威力に勝る、それを今使われた。

 おまけに隠形術でステルス加工までしてやがったのだ。

 こちらが速攻を仕掛けて来ると読んだ上で不可視のカウンターショット。

 手痛い先制を食らったワンコ―はさすがに舌を巻く。

 

 (ちっ!予想以上にヤベェ奴だ。だが、からくりはもう読めたぜ!)

 

「なめるなクレイジーィィッッ!!」

 

 距離は既に詰めた。自分の間合いだ!今度は横殴りの一撃で狩りとってやるぜ。

 そこからワンコースーパーコンボダイムの始まりだぁぁ!!

 最初の一撃で自分をフッ飛ばす腹積もりだったろうに、残念だったな!

 このワンコ―様はただの騎神じゃねぇ、強え騎神なんだよ!

 筋肉防壁はこのまま維持、奴をよく観察しろ、発射場所であろう指先の動きをよく見るのだ。

 弾丸はどこだ?いつ撃って来る?撃って来い!さっきのはまぐれだと教えてやる。

 …………あれ?まてよこいつ、ずっと両手組んでいないか!???

 

 パァンンッッ!!

 

 先程よりも快音が響き渡った。

 

「ブベッ!」

「何をしているのです?隙だらけですよ」

 

 今度は左頬に強烈な衝撃、目から火が出るような威力だった。

 唾と鼻血をまき散らしながら多々良を踏むワンコ―。

 

 (何が……覇気弾じゃ……ない…)

 

 弾丸による攻撃ではない。

 今のは明らかに、何かで頬をぶっ叩かれた!

 試合が始まってからというもの、ダイヤは下げだ両手をずっと組んだままだ。

 こちらに弾を飛ばしてはいない?だったら何を使って攻撃されているというのだ。

 

「て、クソっ…‥‥がっ!?」

 

 思考がまとまらない内に三回目のビンタがやってきた。

 下からアゴを殴りつけるようなアッパーカット。これもうビンタじゃねぇ!

 

 そのまま一方的なリンチが始まった。

 

 不可視の攻撃で顔を中心に全身を殴打される。

 ワンコーは何度も反撃を試みるが、その度にダイヤの攻撃は防御障壁の薄い箇所を適格に突いてきた。

 

 (何が、何が起こっている?こっちは一撃どころか奴に触れてすらいないんだぞ!)

 

 試合(リンチ)を観戦しいる人々も首を傾げている。

 

「なんだぁ!?ワンコーは一体どうしちまったんだ」

「一人で勝手に悶え苦しんでるぞ?はっはーん、ソロプレイ専門のドⅯだったのか」

「そうじゃねぇだろ!見ろ、傷がドンドン増えていってる。アレは攻撃されてんだよ!」

「でも、どうやって?クレイジーⅮは一歩たりとも動いてねえぞ」

「祟りじゃ!D様の祟りじゃ!」

「マジかよ祟りかよ!心霊攻撃とかアリかよ!怖えぇぇ」

「ふーむ。ダイヤ様ならやりかねませんなぁ」

 

 見えない攻撃について様々な憶測が飛ぶ中、マサキたちは驚いた様子もない。

 

「アレ痛いんだよなあ。模擬戦で食らったからわかる」

「マサキさんも?私なんて毎日ぶたれてるよ!ちくしょー」

「シロさんのアレは今日も生き生きしてますね」

「隠形+で見えなくしたのか、ホントいろいろ思いつく子だ」

 

 攻撃を受け続けたワンコ―は肩で息をしており、もうフラフラだ。

 ダイヤは冷め切った目でワンコ―を一瞥し口を開く。

 

「まだわかりませんか?」

「お前えぇぇ。一体何を…して……」

「よーく目を凝らして見て下さい。はい、目に覇気を集中集中~もっと精度を上げて!」

「集中…何を隠して」

 

 ダイヤはやはり隠形を使っていた。

 ワンコーは言われた通り覇気を目に集中、目が血走るほどに凝視する。

 攻撃を止めたダイヤは『ここ!ここら辺です』と何かをよく見ろと指差している。

 レンズのピントが合うように、最初は陽炎のように揺らめく何かが、だんだんと全体像を表していく。

 自分を攻撃していたものの正体がようやく見えた。だが……

 

「何だ、それは?」

「見てわかりませんか?これは私のチャーミングな尻尾ですよ」

「そんな尻尾のウマ娘がいるかぁぁぁーーー!!」

「えぇーまだ結晶化してないのに」(*´Д`)

 

 ワンコ―に怒鳴られたことでションボリするダイヤ。結晶化って何だ?

 隠形を看破したワンコ―が見たもの、それはダイヤの尻尾から伸びウネウネとうごめく触手たち。

 その数6本、ワンコ―をリンチしていたのはこの触手だったのだ。

 

「尻尾だって言ってんだろ!」

 

 覇気で腕や足のリーチを伸ばす術は確かに存在する。

 だが、尻尾を伸ばして自由に操るなど前代未聞だ。

 毛先から覇気を放出して束ね攻撃に用いるだと?思いつくか?思いついてもやるか普通?

 それにあの動きは、一本一本が意思を持っているかのようだ。自由自在すぎんだろ。

 普段から尻尾を手足のように使ってないと不可能な芸当……まさか、使っているのか?

 

 (覇気で構成された部分が丸ごとステルス……)

 

 ダイヤ本来の尻尾は何事もなく揺れている。そのことが逆に恐ろしい。

 そこから伸ばされた凶器は純粋な暴力装置だ。

 

「ウマ娘にの尻尾とは何か?」

 

 高速移動時の姿勢制御装置、戦闘時の余剰覇気放出装置、殿方を魅了するチャームポイント。

 暇なときの遊び相手、正直邪魔くさい!!

 ウマ娘にとって尻尾の在り方は千差万別だ。

 

「私の場合は手足であり耳目であり、操者にお触りしていただく部位であり」

 

 6本の尻尾が一斉に動き出す。

 見えるようになったからといって、この数を捌くのは骨が折れる。

 ワンコーは覇気を練り直し構える。フラついている場合ではない、やられるぞ。

 

メインウェポンです

「この、このっ!クレイジーがぁぁーーーーー!!」

 

 ステルスを解除した尻尾の動きは苛烈の一言につきた。

 上から下から横から斜めから、6本の尻尾はワンコ―を殴りつける。

 舞うように縫うように踊るように襲い来る尻尾たち、触れることすらできない。

 ワンコ―が後退する。

 ダイヤはゆっくりと前へ。

 

「あなたは三つの罪を犯しました」

 

 ワンコ―が後退る度にダイヤは前に出る。

 その間も尻尾の攻撃は止むことはない。

 

「一つ、子供に暴力を振るおうとした罪」

 

「二つ、私や仲間たちを侮辱した罪」

 

「三つ、これが最も重い……」

 

 ワンコ―はリングの端まで追い詰められていた。

 容赦のない攻撃を受け続けた彼女の衣服は破れ、体の各所は痣だらけ、鼻と口からは出血もしている。

 ボッコボコだ!もう本当にボッコボコだった。

 誰の目か見ても満身創痍のワンコ―、野次を飛ばしていた取り巻きたちも今は青ざめて悲鳴すら出せない。

 

私の愛する人を不快にさせた罪ッッ!

 

 顔をパンパンに腫らしたワンコ―は見た。

 眼前でダイヤが跳躍し華麗に一回転したのをだ。

 ふわりと捻る揺れる回る。そこから生まれるのは回し蹴りならぬ、回し尻尾!!

 6本の尻尾を束ねた大尻尾がワンコーの横っ面に直撃する。

 極太の鉄骨で力任せにぶん殴られたと同義、その威力をもってワンコ―をリングから叩き出した。

 

 仰向けに倒れたワンコ―はまだ意識を保っていた。

 リングアウトした自分を見下ろす存在に気付く。

 悔しい、情けない、恥ずかしいし腹も立つ。だが、それ以上に恐怖した。

 自分に完膚なきまでの敗北を突き付けた存在を、美しいと思ってしまったことに恐怖した。

 

 (わからない。わからない。こいつは一体……何だ?)

 

 戦いが始まってから自分はずっと疑問ばかりだった。

 どれだけ考えても答えは出ない。

 クレイジーDとは何だったのか?そもそもこいつはウマ娘なのか?

 結論、考えるだけ無駄無駄無駄!!

 自分如きが推し測れるような奴じゃなかった。うん、もうそれでいいや。

 

「これが……サトノ…ダイヤモンド……か」ガクッ

 

 ワンコ―が白目を向いて気絶した。

 我に返った取り巻きたちが大慌てで騒ぎ出す。

 

「ワ、ワンコ―さぁぁぁんんんっ!!」

「死んだ!?」

「死んでない!縁起でもないこと言うな」

「しっかりするっスよ!誰か救護班を呼んでくれーーー!」

「助けて!助けてください!この人、性格悪いけど後輩の面倒見はいい人なんだぁ!」

 

 ワンコ―は担架に乗せられ救護室へと運ばれていった。

 その様子を見届けたダイヤは振り返り、操者と視線を合わせる。

 

 (勝ちましたよ、マサキさん)

 (お見事でした)

 (いっぱい褒めてくださると嬉しいです)

 (オッケーよ。今日はみんなで合格祝いだ)

 

 他の愛バたちもウンウンと頷いている。

 

 試合内容にも現状にもついて行けず唖然としていたレフリーが再起動した。

 近くまでやってきたダイヤ相手にちょっと腰が引けているが、仕事を果たそうと奮起する。

 

「し、試合終了~!勝者ッ!サトノダイヤモンド!サトノダイヤモンドだぁぁっっーーー!」

 

 おめでとうシロ、おめでとうクロ、二人ともよくやったな。

 今日から君たちは轟級騎神だ!

 



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ロリベホマ

 自慢の尻尾でカマセワンコ―を倒したシロ。

 彼女の勝利を称えて拍手喝采が巻き起こると思っていたのだけど、何やら様子がおかしい。

 試合中にシロが何をやったのかわからない観戦者たちが戸惑っているのだ。

 

「今の何だったの?」

「カマセワンコ―が勝手に吹っ飛んだ???自爆か?」

「そもそも、クレイジーDはどうやって攻撃したんだよ」

「毒でも盛ったんじゃね?」

「第三者による狙撃…リングそのものに仕掛けがある…とか」

「サトノ家の関係者が秘密裏に援護していた?そんなバカな」

「卑怯な手段を使ったってのか、そういう風には見えなかったぞ」

「なんだぁ、八百長か?」

「ダイヤちゃんがヤラセなんてするはずない。でたらめ言うなハゲ!」

「ハゲてねーし!」

 

 ざわめきは収まらず、次第に大きくなっていく。

 血沸き肉躍る戦いを期待していたのに、蓋を開けてみればワンコ―が一人で勝手にボコボコになり、最後は豪快に吹っ飛んだという意味不明な結末。とても納得できない。

 消化不良を起こした観戦者たちの中から、シロの不正や"ヤラセ"を疑う声も上がる始末。

 そのような状況でもシロは『ふわぁ~』と他人事のように欠伸をしていた。

 

 (飽きちゃいました。マサキさん、そっち戻っていいですか?)

 (今リングを下りたら『やましい事があるから逃げた』みたいになるよ。ちょっと待ってろ)

 (はい。考えるのをやめて、ただひたすらにあなたを待ちます)

 

 外界からの情報をシャットアウトし、シロは無我の境地に入った。

 アストロンという呪文をご存知だろうか?この状態のシロはまさにその通り。

 俺が声をかけるまで動かなくなる。当然、周りの非難や野次などは全て受け付けない。

 半目で薄っすら微小したその表情は、北島屋敷で見た仏像の顔に酷似してる。

 なんでや?

 

「覇気尻尾を隠したのがアダになりましたか」

「どうする?このままじゃシロ『反則負け』にされちゃうんじゃ」

「それはあんまりだ。助けに行こうよ」

「最初からそのつもりだ。愛バが言い掛かりで窮地に立たされるのを、見過ごすわけにはいかない」

 

 全員でリング上のシロを迎えに行く。そして、彼女を擁護するのだ。

 うまく説明できるかな『見えない尻尾でぶん殴ってました!』で伝わるか?

 

「やれやれ、また出番か」

「「「「誰だよ!?!?」」」」

「また出た!知ったかぶり!」

「あーそういえば、なんかいたなあ」

 

 俺たちが動く前に一人の男がリングへ向かって歩き出す。

 クロとシロの試合前後に詳しい解説を披露していた男、知ったかぶり男(仮)だ。

 無造作ヘアの茶髪に黒いサングラスをかけた美男。何者だ、モブではなかったのか?

 めんどくさいから『ぶり男』って呼ぶね。

 あまりにも堂々とした態度のぶり男に呆気に取られた俺たち。

 その隙にぶり男はリング上へ赴き、レフリーからマイクを奪い取る。

 

「今の試合、サトノダイヤモンドは不正などしていないと断言する」

 

 突然現れてシロを庇うぶり男。

 観戦者たちの注意はシロから謎の男へと移った。

 『お前に何がわかるんだよ』『イケメーン』『てか誰だ?』『ウホッいい男』

 ブーイングに晒されてもぶり男は動じない。カッコイイ仕草で髪をかきあげる余裕すらある。

 

「さあ、優秀なる裏方たちよ!手筈通りに頼むぞ」

「「「了解であります!」」」

 

 他に仲間がいたのか、ぶり男の指示でアリーナの運営スタッフらしき人たちが慌ただしく動き始める。

 

「スタンバイOK!いつでもいけますよ」

「映像をモニターに出すぞ!……ポチッとな」

 

 天井から吊り下げられた四面巨大モニターに先程の試合を録画したものが映し出された。

 マッスルアリーナには、遠くの人にも試合が見られるように、こんな豪華設備もあります。

 マジで金かかってんなぁ。

 試合のリプレイ映像、見えない攻撃を受けたカマセワンコ―が倒れる瞬間までの記録だ。

 

「この映像にビアン博士特製『サルでも隠形看破できーる』フィルターをかけると……成功です!」

「うむ。諸君、改めてこちらを観たまえ!」

 

 有無を言わさぬぶり男の態度に、皆は渋々といった感じでもう一度映像を見る。

 シロとワンコ―の戦闘記録、特に変わったところは……あった。

 観戦者たちは次々に気付いていく、見えていなかったものが姿を現していた。

 

「何だありゃあ」

「クレイジーの尻尾から更に何か生えている?」

「アレだ!あの触手でワンコ―をフルボッコにしてたんだ!」

「触手だとぉ!?俺の性癖には合ってますね!!」

「なるほど。覇気で作った触手を隠形術で透明化していたのか、納得だ」

 

 シロが尻尾で攻撃し、ワンコ―を叩きのめす一部始終の映像が流れている。

 特製フィルターにより覇気尻尾が可視化されたことで、消化不良気味だった人たちも安心したようだ。

 なんという手際の良さだ。やるじゃねぇかぶり男!

 

「隠形看破フィルターをかけたが、それ以上の加工や編集は一切行っていない。疑うならいくらでも映像データを提出しよう」

 

 男の言葉に異議を唱えようとした者も押し黙る。

 突っ込まれる前に潔白を証明する手立てがあると先に言ってのけた、素敵やん。

 

「ま、俺は最初から信じていたぜ」

「嘘つけ!サトノ家はヤベェからと、散々非難してたろうが」

「ダイヤちゃんカッコカワイイ~こっち見てーー!」

「なんと美しいアルカイックスマイルだろうか、悟りを開ききった顔をしておられる」

「アレ気絶してね?心ここにあらずってか、微動だにしないんだけど」

「よく見て!(よだれ)鼻提灯(はなちょうちん)が出てるわ!寝てるのよ!!」

「この状況で!?大物というか、まさにクレイジーww」

「ええと、ファンクラブは……嘘だろ!もう公式サイトができてやがる!早く登録しねぇと」

「起きて―!起きて勝利宣言やり直そう~」

 

 知ったかぶり男が俺を手招きする。来てシロを起こせってことね、了解!

 とうっ!髭面の配管工もビックリの大ジャンプする俺。

 リング上に颯爽登場!!

 

「みんな俺やで!!」

「「「「またかよ誰だよ!?しらねーよ!!」」」」

「あ、すみませんすみません。その、あ、あの、この子の操者をしている者で……」

 

 そう言ってシロの肩に手をかけた瞬間……

 

「「「「もげろぉぉぉーーモゲロォォォーーも・げ・ろぉぉぉっっ!!」」」

 

 ひぃぃぃぃ!

 老若男女問わずの大ブーイングが俺の豆腐メンタルを粉々に破壊する。

 勢いで登場したのは失敗だったか、こんな目にあうなんて聞いてないよー。

 怨嗟をともなった皆の圧が凄い!

 あ、やめて!物を投げるのはやめてください!

 俺の"うまだっち"がもげることを、これだけの人々が望んでいるというのか!?

 平気!へっちゃら、だって俺には愛バたちが……ぐほぉっっ!?

 突然の激痛に膝から崩れ落ちる。

 

「悪い…やっぱ辛えわ」

 

 誰かが投げた缶コーヒー(中身入り)が俺のうまだっちにクリーンヒット!!

 あはは、特に防御も覇気集中もしていなかったよ……もげる前に折れたんじゃね?

 

「そりゃ辛えでしょ」

「ちゃんと言えたじゃないですか」

「聞けてよかった」

 

 クロ!アル!ココ!来てくれたのね。

 大量のもげろコールとゴミ投擲から俺を庇ってくれる、愛バたちが頼もしい。

 股間を手で押さえながら三人の愛バに手を伸ばす……

 

「みんな…どうもな。俺、おまえらのこと好きだわ」

「マサキさん!アソコは大丈夫?」

「未来の子供たちに、会えなくなったら悲しいです」

「ちょっと見せて、ヒーリングするから」

 

 やめなさい。ここで下を脱がそうとするのダメ!三人がかりはやめなさい!!

 助けにきてくれたんじゃなかったの?俺を社会的に殺しに来たの?

 くっ!早くシロを起こさなければ大変なことに。

 衆人環視の中でモロだしヒーリングされちゃうのー(/ω\)イヤン

 

「シロ、起きて――ー!」

「はい。起きました」

「早い!こいつら何とかして!」

「かしこまりました。三人ともクソ邪魔です!

「「「キャーー―!!!」」」(≧▽≦)

 

 シロがオルゴンテイルを発動させ、クロアルココの三人をリング外に追い出した。

 『キャーキャー』言いながら逃げて行ったところを見るに、全員本気ではなくじゃれてるだけだ。

 

「それで、私への疑惑は晴れましたか?」

「もう大丈夫だ。あそこにいる知ったかぶり男が解決してくれた」

「それはそれは、後でお礼をしないといけませんね」

 

 あの野郎!俺がリングに登場した時にはスタコラサッサと会場の隅に逃げてやがった。

 俺とシロが会釈すると、知ったかぶり男は『やれやれ』ポーズを決めた。

 イケメンだから様になってるんだけど、ちょっとイラッとした。

 

「見える。今度の尻尾は俺にも見えるぞ!」

「キラキラ光って綺麗……」

「宝石?ダイヤモンドからエメラルドの尻尾が!?」

「おお、おおおお!D様じゃ!見たか皆の衆、あれこそがD様の御神体じゃあぁぁーーー!!」

「「「ありがたや~ありがたや~」」」

「おっと、しまい忘れ注意です」

 

 オルゴンテイルを解除するシロ。輝く尻尾は一瞬で粒子となり消えていく。

 僅か数分の出来事だったが、結晶尻尾は多くの人に目撃された。

 実際に動かすことで、シロがインチキしていないことが証明されたのだ。

 シロの奴、それがわかっていて使ったな。

 

 それから、シロはリングに転がっていたマイクを拾い上げる。

 改めて勝利宣言をするつもりだと、悟った周囲のざわめきが徐々に収まっていく。

 皆が勝利者の言葉を聞きたいと思っている。

 シロの口からどんな突拍子もない発言が飛び出すのか、期待を込めた注目が集まる。

 

 「お集まりの皆様、ダイヤの輝きいかがでしたか?」

 

 凛とした表情を崩したシロは、緊張と照れが入り混じった笑顔で言葉を発した。

 それはお嬢様モードでは見れない表情、素顔のサトノダイヤモンド。

 傲慢でもなく、凶暴でもなく、芸人でもない、ありのままの顔。

 あんなにも強く、あんなにも美しく、あんなにも狂っていて恐ろしいウマ娘。

 それが……この場に集まった全ての人に語りかけた。

 見下すでもなく、媚びへつらうわけでもなく、年相応の少女として、

 『自分こんなヤベェウマ娘ですけど、どうっスか?』と皆に問いかけたのだ.

 

 (はいクソ可愛い!さあ、皆の反応は如何に?)

 

 ズキューンッッッ!!!

 幻聴が聞こえた。多分、少なくはない数のハートが撃ち抜かれたのだろう。

 俺か?俺は毎日撃ち殺されてますよ。

 

 そして……

 

『「「「うぉぉぉーーー!!ダイヤちゃん(様)最高ぅぅぅーーー!!!」」」』

 

 観戦者たちが一斉に叫ぶ!会場は歓声と悲鳴の大洪水だ!

 

「「「D!!D!!D!!D!!D!!クレイジィィィーーーD!!!」」」

 

 鳴り止まない歓声にシロは面食らった。

 観戦者たちの反応が予想以上に大きかったことにたじろいでいる。

 

 (どうしましょうコレ?収拾がつかなくなってますよ)

 (しばらくそのままでいいだろう。みんなシロをお祝いしているんだよ)

 (お祝い?ですか……)

 

 そうさ、シロに会えてよかった。シロがいてくれてよかった。シロがシロでよかったと。

 みんなが祝福してくれているんだよ。おめでとう、そして、ありがとうってな。

 

 (あなたも……そう思ってくれますか?)

 (俺はいつでもお前のことを思ってるぞ。最高の愛バだってな)

 (マサキさん////最高なのは……あなたです)

 

 ダイヤモンドの輝きに魅せられた者たちの声は、長い間会場を揺るがしていた。

 

 〇

 

 マッスルアリーナ、スタッフ用通路

 

 ダイヤへの歓声が響く中、知ったかぶり男は協力者たちに礼を述べていた。

 

「仕事中なのに無理を言ってすまなかった、協力感謝する」

「「「はっ!光栄であります」」」

「敬礼はやめてくれ。今の私はメジロ家を去った身だ」

「関係ありません。教導隊創立メンバーは、今も俺たちの憧れですから」

「あの"黒旋風"にご助力できたとあれば、自慢できるってもんですよ」 

「買い被り過ぎだ……ああそうだ、スタッフルームに差し入れしておいた。良ければ、休憩時間にでも食べてくれ」

「まさか、御自らの手作りでありますか!?」

「そうだ。最近ドイツ菓子にハマっていてな、今日はケーゼトルテに挑戦してみた」

「「「うわーい!超楽しみだぁー!!」」」

 

 仕事に戻っていく裏方スタッフを見送った男はサングラスを外す。

 そして、上着のポケットから新たなサングラスを取り出し装着した。

 

「やはり、こちらがしっくりくるな」

 

 独特なデザインのサングラス、ゴーグル型のそれは男のお気に入りであった。

 

「カツラはとらないんですか?」

「一応、お忍びですから。今日一日はコレで行こうと思っています」

「綺麗な金髪なのに、勿体ないですね」

「いつから気付いておられました?」

「最初からです。あなたが使っている香水の匂いを覚えていましたから」

「トロンべ弟は騙せても、あなたは通用しませんでしたか……アルダン様」

 

 密かに知ったかぶり男を追いかけていたアルダン、どうも彼とは旧知の仲らしい。

 

「敬称は必要ありません。もっとくだけた感じでお願いします」

「ですが……」

「エルザムと、お呼びした方がいいかしら?」

「フッ、あなたには……キミには適わないな。私のことは今後もレーツェルで頼む」

「はい♪謎の美食家さんですね」

 

 クスクスといたずらっ子のように笑うアルダン。

 彼女を見てレーツェルは思う。しばらく見ないうちに大きく成長したと。

 

 (本当に強く美しくなられた)

 

 自分を殺してくれと懇願していた時の彼女はもういない。

 籠の鳥だった姫は迎えにきた王子と共に大空を羽ばたいている。クサさ最高潮!!

 

「ここにはお仕事で?」

「今日はオフだ。せっかくなので弟たちの付き添いをしている。キミたちに会ったのは偶然だ」

「操者養成校に通っている弟さん……なるほど、SRXチームとご一緒でしたか」

 

 レーツェルの弟が、人間版トレセン学園の操者養成学校に通学していると聞いたことがある。

 好成績を修めた者は特務隊として実戦経験を積まされている日々なのだとか、SRXチームはその特務隊の一つだ。

 今レーツェルは元教導隊としての腕を買われ、臨時教官として働いているのだという。

 教官ならトレセン学園でやればいいのに……とアルダンは思う。

 レーツェルの実力ならば教官として申し分ない、理事長に言えば一発採用だろう。

 

「あなたも教官ですか、へぇー」

「教鞭を取る事で見えてくるものもある。今の生活は充実しているよ」

「教官ならトレセン学園でやれば‥‥‥はっ!」

 

 そこでアルダンに電流走る!!

 雷の覇気ではなく、ニュータイプの直感的アレだ。

 以前、執事長やマサキに聞いた話と、その他諸々を思い出したのだ。

 メジロ家の教導隊メンバー……暴君と黒旋風のコンビ……そういうことか!

 

「『たづなさん』がいると不都合ですか」(・∀・)ニヤニヤ

「ノーコメントにしておこう」

「脈ありですかぁ?ちゃんとアプローチしてます?デートぐらいは誘ったんでしょうね!」

「ご想像にお任せする」

「いいから!教えてくださいよぉぉ!私にとっても重要な事なんですから!!!」

「私とトロンべの仲がキミにどう関係がある?」

「義理の姉になる方の幸せを願って何が悪いんですか!ええ、私は純粋な気持ちで、だずなさんとあなたを応援します!!」

「腹を割って話をしよう。ここで聞いたことはトロンべ弟には伏せておく」

「あの小姑がレーツェルさんとくっ付けば、ブラコンが少しは緩和される!!それを期待しております!寿退社でもデキ婚でも何でもして、何処か遠くに移住してほしいです!火星とかおススメです」

「トロンべはそんなに邪魔かwww」

「邪魔ですねぇ。私とマサキさんが医務室で二人っきりになる度に訪ねてくるのが本当に邪魔ですね!あと少しでしたのに、何度キャンセルを食らったことか!!」

「キャンセルとは?」

うまぴょいキャンセルに決まっているでしょーが!!」ヽ(`Д´)ノプンプン

 

 本当に変わったなこの子……悪い意味でも。

 トロンべ弟の苦労を思いレーツェルは苦笑する。

 

「落ち着きたまえ。淑女が"うまぴょい"などと絶叫するものではない」

「大変失礼しました。ですが、メジロの女はこれが普通です。初代のシャナミア様から続く伝統なのです」

「ははは、ご冗談を。あのシャナミア様が、そんな発言をなさるわけ」

「何も知らないって幸せですよねー。女は男が思っている以上にエロいと肝に銘じなさい!

「あ、はい。なんかすみません」

 

 アルダンの物凄い剣幕に怯んでしまうレーツェルであった。

 キャラも変わったなあ……メジロの女怖いなぁ。

 プンスコしていたアルダンだったが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 急に真面目になるな!マジでついて行くの大変!

 こんなの後三体も面倒見てるんだ……トロンべ弟すげぇな。

 

「実家はどうなってます?」

「ルクスの件から以降、不穏な動きをしている連中がいる。元老院のお偉方だ」

「ババ様の方針に異を唱える方々ですか、具体的にはどのように?」

「各地の軍備増強はもとより、民間の軍事企業とも提携を推し進めているようだ。それから……機甲竜を探しているとも」

「機甲竜ですって!?いや、待ってください、シャナミア様の神体はメジロ家が有しているはず。それを探すとは、どういうことなのです?」

「私も詳しくは知らない。ある程度の推測はしてみたが」

「かまいません。聞かせてください」

「メジロ家、ババ様が管理しているのは竜の全てではない。分割された機甲竜の一部を持っているのにすぎないのではないか?」

「一部……元老院は、ババ様より多くのパーツを集めて……」

 

 元老院はメジロ家の中でも特に絶大な権力と資金力をあわせ持つ幹部トップ10で構成された役員議会だ。

 頭首のワンマン経営で一族が衰退しないよう生み出されたもので、現頭首のババ様に反対意見をぶつけるのが仕事みたいなものだと、アルダンは両親から聞いていた。

 『こういう考えもありますよ』と別の角度から意見を出すのが仕事であり、頭首から権力を奪取しようなどとは思っていない‥‥‥はずなのだが。

 その元老院が、機甲竜のパーツを集めて優位に立とうとしている??それはつまり……

 

「クーデターでも起こす気ですか」

「表向きはルクスへの対抗手段という名目だが、竜を利用してメジロ家内のパワーバランスをひっくり返す気がゼロだとは思えないな」

「権力闘争にシャナミア様を利用するなんて罰当たりにも程があります!それに、神竜はマサキさんを選んだのですよ。まさか……マサキさんまで狙うなんて、ありえませんよね?」

 

 アルダンの怒気に反応して身体から放電が起こる。

 もしも操者に害をなすならば、たとえ生家であろうとも蹴り砕く所存だ。

 

「そうと決まったわけではないが、ルクスの件と同様に注意しておいてくれ」

「実家の悪い所が出ましたね。内輪揉めをしている間に外部勢力に付け入る隙を与えてしまう」

 

 そのことは歴史が証明している。

 メジロ家の内部抗争中に、これ幸いと勢力を伸ばしたのがサトノ家とファイン家だからだ。

 今回はそれがルクスにならないといいが……

 

「今のところは7:3でババ様が優勢だ。しかし、これ以上元老院が出張って来るならば、キミたち次期頭首候補の力を借りなくてはならない」

「私は造反した身ですから候補者ではありません。マックイーンたちが矢面に立たされるのでしょうか……心配ですね」

「都合が悪くなると裏切り者の汚名を被るのだなw」

「だって、めんどくさ……ゲフンゲフンッ!いえ、私のようなじゃじゃウマに、頭首などという大役は務まりませんわ。オホホホホ~」

 

 高齢のババ様に代わり、頭首を務め一族をまとめる存在が必要になる。

 マックイーン、ライアン、ドーベル、パーマー、ブライトの中から次期頭首(仮)を選ぶのか……

 現状だと有力なのはマックイーンかな、とアルダンは思う。

 ラモーヌ?彼女なら休暇とってベガスに行ってる。

 当分の間、日本に帰って来る予定は無い!残念出番はありません!

 

 あ、そうだ。ついでにこれも聞いておこう。

 

「2号機はどうなりました?」

「今、デバイス化の真っ最中だ。完成次第、信頼できるトロンべにトロンべを託そうと思う」

「えーと、あなたが言ってるトロンべは2号機でもたづなさんでもない…カフェさん?」

「確かにトロンべは信頼できるが、我がトロンべを継ぐのは別の新たなトロンべだ」

「あら?新しい愛バと契約なさったんですね。おめでとうございます。その子も黒髪ですか」

「見事なトロンべだよ。実家がケーキ屋らしくねて、菓子作りの腕は私をも凌駕する」

「大体わかりました。ギッチギチのスケジュール管理されちゃってください」

 

 恋愛感情抜きにして契約する操者と愛バか‥‥‥うーん、わかりません!

 マサキさんとビジネスライクなお付き合いしかできないなんて、辛すぎる!!

 そんなん発狂死する自信あるわ!もうあの人なしでは生きていけません。

 

 それから雑談を交えて一言二言、情報交換をした。

 アルダンはそろそろマサキのところに戻ろうと思い、レーツェルに別れを告げる。

 

「それでは、よろしくお願いします」

「ああ、ルクスとメジロ家の動向には今後も目を光らせておく」

「そうではなくて!たづなさんの件ですよ」

「フッ、善処しよう」

「お願いしますよ。サッサと口説き落として"竜巻斬艦刀"決めちゃってください」

「竜巻斬艦刀???」

「もう!察しが悪いですね『竜巻斬艦刀=うまぴょい』ですよ。言わせないでください」ポッ

「そんなもんわかるかっ!!」

 

 アルダンをトロンべ弟に預けたのは、失敗だったかもしれない……後の祭りだ。

 

 〇

 

 クロとシロの昇級試験は無事終了した。

 これから、二人の表彰式があるのだが‥‥‥

 

「ねえねえ!こっち!こっち見てーー」

「しゃ、写真を、どうかお願いします。一枚だけでも!」

「握手とかお願いしてもいいのかな」

「もう一回尻尾見せてよー」

「俺とカップ麺の謎肉について語り合いませんか?」

「ファンクラブ入会しましたぁ!これからずっと応援しますんで!」

「ありがたや~ありがたや~」

「サトノ家とファイン家の求人ってまだある?え、北島組……ついに俺も極道デビューか」

 

 クロ、シロ、ココが大勢のファンに囲まれてしまったのです。

 俺は押し寄せる人の波にどんぶらこと流されて、会場の壁際に追いやられてしまいました。

 あー怖かった。愛バたちは無事みたいだけど、どうしよう。

 

 (マサキさん!?ちょ、こいつらぁ!!)

 (アホ!一般人傷つけたらマサキさんが迷惑するでしょう)

 (でも、ウザいよー)

 (ファンサービスはいいけど、さすがにこの数は……)

 

 愛バたちも人の群れを捌くのに必死だが焼け石に水。

 そこへ、警備の腕章を着けた人たちがゾロゾロと登場した。

 

「はい下がって!下がりなさい、下がれって言ってんだろ!」

「ここより先に踏み込まないように」

「言う事を聞かないクズは叩き出すぞ!」

 

 愛バたちを守るように陣形を展開した警備員は、暴徒と化しつつある人々の鎮圧に乗り出す。

 よく訓練されているようで、これなら安心だ。

 

「申し訳ないが、表彰式まで別室で待機してもらっても?」

「かまいません。助けてくださりありがとうございます」

「俺たちもファンの気持ちは十二分に理解している。キミたちはいろんな意味で魅力的だ」

「お上手だね。悪い気はしないけど」

「私たちはメジロの者だけど、サトノとファイン憎しって訳じゃないわ」

「俺も俺も!御三家のどこに所属していたって、強くて可愛い子は応援するぜ!」

「いい人たちで良かった。でも、マサキさんはどうしよう」

 

 クロが心配そうにこっちを見た。

 

 (こっちは大丈夫だ。表彰式まで別室待機してな)

 (そう。じゃあ、ちょっと行って来るよ)

 

 警備員にガードされながら愛バたちは別室に連れて行かれた。

 取り残された人々はブーブー文句を言っていたが、帰ろうとはしていない。

 表彰式でもう一回アタックする腹積もりなのだろう。

 ファンの愛が怖い!

 

「あらあら、行ってしまいましたね」

「アル、どこに行っていたんだ?」

「知り合いがいたので、少しお話しをしていたんです」

「男か……」

「そうですけど?」

「べっつにー……拗ねてなんかないしー」イジイジ

「嫉妬してくださるんですね‥‥‥可愛い人」

 

 ば、ばばばば、バカ言ってじゃないよ。嫉妬なんかしてませんってば!

 

「安心してください。私は、あなただけ、あなただけものです」

「照れますなあ」

 

 耳元で蠱惑的に囁かれてゾクゾクしちゃった。

 アルはドンドン艶っぽくなっていくなあ……エロ可愛いの権化だな。

 

「アル、ちょっと寄りたい所があるんだけど」

「はい。お供しま……」

「キャーー!見つけたわ!アルダン様よぉーーー!!」

「「しまったぁ!!」」

 

 そうだった。アルも別室待機対象でした。

 女性ファンの悲鳴を聞きつけた人々の視線が一気にアルへと集中する。

 冷汗をかく俺とアル。

 

 (逃げてください。ここは私が食い止めます)

 (バカ言うでねぇ。お前を残して逃げれっかよ!)

 (奴ら(ファン)の狙いは8割方私です、このままではマサキさんまで揉みくちゃに)

 (んんん?……残り2割は何を狙っている?)

 (気付いてないのですか!?試合中からずっとマサキさんをつけ狙っている連中がいることに)

 (は?)

 (右斜め後ろ、気付かれないように見て下さい)

 

 ファンの大群が迫るなか、アルが教えてくれた方向から妙なオーラをまとった連中が突撃して来ている。

 ワンコ―ほどじゃないけど、やたらとガタイのいいタンクトップお兄さんたちだ。

 え、めっちゃ怖いんですけど。目がイッちゃってるんですけど。

 アルじゃなくて明らかに俺を見てるんですけどぉ???

 

「いい尻してやがるぜ」じゅるり

「奴を俺たちの仲間に加えてやろう。ああ、それがいい」ハアハア

「男らしく正々堂々、裸の付き合いとしゃれこもうぜ」フンスッ

「フフフ、僕らローズガーデンの新メンバーは彼で決まりだ」舌なめずり

「どさくさに紛れてテイクアウトするぞ!アジトに連れ帰ってからは、お楽しみだ――!」ヒャッハー

「「「「おおおーーー!!!」」」」

 

 目は口程に物を言う。

 彼らの熱視線は聞きたくない言葉を俺の脳裏に届けた。

 

 (アルすまない。不甲斐ない俺を許してくれ!!)

 (行ってください!バラ族は適当に蹴散らしておきますので、ご安心を)

 

 本当にごめん!!俺はアルを置いて脱兎の如く逃げ出した。

 こんなところにまでホモが湧くなんて!

 私の体が目当てなんでしょ?ホント男ってサイテーよ!

 

 〇

 

 で、迷ったって訳。

 

 このアリーナ広すぎるよ~。

 一心不乱に逃げたからどこをどう走ったか覚えてねぇ!

 表彰式までに戻れるかな?

 

 メジロマッスルアリーナは4つのブロックが合体してできた、複合スポーツ施設だ。

 東西南北の建物にそれぞれABCDのアルファベットが割り当てられている。

 俺がやって来たのはBブロックはずだから、今いる場所はBとCの中間地点。

 Cブロックへ向かう通路だな。うん、あっているはず。

 最悪、一周してしまえばいいのだ!よーし、ちょっと探検しちゃおうかな。

 

 気持ちに余裕が出て来た俺は鼻歌混じりに通路を歩く。

 そこで、見覚えのある幼女を見かけた。

 親とはぐれたのかと思い、声をかける。

 

「よっ、こんなところでどうしたんだ?」

「あ!ロリコーンだあ!」

 

 その子はワンコ―の魔の手から救出した幼女。

 彼女は通路の突き当りにある部屋を覗き込もうとしていた。

 部屋の入口に掲げられたプレートには『医務室』と書いてある。

 

「あの時、やっぱりケガを!?ごめん、俺のミスだ!」

「ち、違うよ。私はケガしてないの。えっとね……その」

「ちゃんと聞くから、落ち着いてゆっくり話してくれ」

 

 医務室を覗こうとしていた理由を、身振り手振りで一生懸命説明してくれる幼女。

 ‥‥‥‥なんだ天使か。

 打ち明けられた理由に胸がキュンキュンしちゃう。

 こんないい子が生まれるなんて、この世界まだ捨てたもんじゃねぇな!

 

「私が行ったら迷惑かな……」

「そんなことない。わかった、俺が先に行って様子を見て来るよ」

「本当!ロリコーンありがとう」

「しばらくここで待てるか?」

「大丈夫、ママがいてくれるから」

 

 すぐそこの自販機で買い物をしていた、幼女の母親がちょうど戻ってきた。

 俺を見つけるとまた頭を下げて来る。いえ、ジュースはいりません。お気持ちだけで結構です。

 幼女と共に事情説明……母親は快く引き受けてくれた。

 

「じゃあ、お母さんと待ってて。大丈夫そうなら呼ぶからね」

「うん!」

 

 幼女の朗らかな笑顔に見送られ、俺は医務室に入った。

 ほう、俺の職場であるトレセンの医務室とは違うな。

 まず広さが全然違う、AEDなんかの医療機器も最新のものが揃っているようだ。

 設置してあるベッドの内、パーティションで仕切られた一つに人だかりができている。

 その中心、ベッドに片膝を立てて座る人物と目が合った。

 

「何だ、アタシを笑いに来たのか?」

「そんなに暇じゃねーよ」

 

 頭に包帯を巻き、腫らした頬にガーゼを張った痛々しい姿。

 シロがボコボコにしたウマ娘、カマセワンコ―その人であった。

 

「なんだてめぇ帰れよ!」

「お前たちにのせいで、ワンコ―さんはこんな姿に」

「もういいだろ、そっとしておいてくれよ」

 

 取り巻きたちが口々に俺を責める。『帰れ』だの『鬼畜』だの酷い言われようだ。

 帰れ!コールが巻き起こりそうになったところで、覇気をほんのちょっと解放。

 

「ぴーちくぱーちく…うるせぇから黙れや、他の患者さんもいるんだぞ」

「あ……何だこいつの覇気…」

「ヤベェ、足、足が勝手に震えて」

「うあ、ああああ。オェッ」

 

 吐かなくてもいいだろ!ちょっと覇気で脅かすとこれだもんなあ。

 俺の覇気を目の当たりにしたワンコ―は自嘲気味に笑う。

 なんか悟ったというか、諦めちゃった顔してる。

 

「それがお前の正体か、見抜けなかったアタシがバカだったわけだ」

「まあな。本当の実力なんて、みんな隠しまくってるよ」

「で、真の身の程知らずにトドメを刺しにきたか」

「そんなわけあるかーい」

 

 ビビりながらもワンコーを庇おうとする取り巻きを押しのけ、ワンコ―の正面に立つ。

 本業のテクニックをお見せしましょう。

 

「うちのシロが悪かったな。うんしょっと!」

「おい、何をして……」

 

 手の平から緑の粒子が溢れる。それをワンコ―の頭に優しく当てる。

 直接触れた対象のケガを癒すハンドヒーリング、俺の十八番です。

 効力はベホイミぐらい。骨折していなければすぐ治せるぜい。

 

「なんて温かい覇気」

「ワンコ―さんの傷が、どんどん治っていく!?」

「す、すげぇ。どんなレベルの治療術だよ」

 

 取り巻きたちの感心する声に、医務室にいる専属の医師や他の患者たちも何事かとこちら伺う。

 そして、マサキの施術を見て呆然と固まる。

 

「お前……」

「あー、動かないで。他に痛いところは?」

「じゃ、じゃあ肩を」

「よっしゃ、任せなさい」

 

 ワンコ―の全身をヒーリングする。

 シロが結構痛めつけたのに、もう自力で回復しようとしている肉体だ。

 肉体の強度は厳しい修練を積んできた証。口は悪いが根は真面目なんだな。

 

 10分ぐらいで大体終わった。

 最後にワンコ―の顔を両手で包み込み、顔の傷を治療して完了じゃい。

 

「これでオッケー。傷は残らないと思うから安心しな」

「ワンコーさん!ワンコ―さんが復活したぞ」

「よかったッスねワンコ―さん」

「あ、ありがとう。ヘタレ」

「ヘタレ言うな」

 

 取り巻きは大喜びだが、ワンコ―は釈然としない顔をしている。

 

「一応、包帯やガーゼを取るときは、ここの医者に診てもらってからにしろ」

「……何が望みだ?」

「は?別に金なんて要求しねーよ」

「じゃあ、アタシの体か////」ポッ

「何言ってんだ?それだけは絶対にない!」キッパリ

「そうか。アタシレベルの女を抱くのは恐れ多いか、なら仕方ないな」

「ポジティブ勘違い!」

 

 なめんなよ筋肉ダルマ!俺にも選ぶ権利あるわ!

 俺が普段どんなレベルの女にヒイヒイ言わされてるかわかってんのか?

 わっかんねぇだろなー。

 いや、本当にマジで凄いのよ。ああいうの、ベッドヤクザっていうのかしら。

 

「借りを作りたくないんでね。望みがあるなら言いな」

「望みか……では、謝ってもらおうか」

「土下座でもしろってか?いいぜ、額ぐらい、いくらでも擦り付けてやらぁ」

「俺にじゃない、お前が蹴ろうとしたあの子にだ」

「あのガキのことか……まだ根に持ってやがったのかよ」

「当たり前だ!幼女を傷つけようとした者は、漏れなく俺のブラックリスト入りだ!」

「おー怖ぇ怖ぇ。はぁ……サッサと終わらすか」

「その前に聞かせてくれ。お前、他人に対して何でそんなに攻撃的なんだ?」

「身の上話もしろって?カウンセラー気取りかよ」

「いいからはよ。早くしないと、俺のダイヤモンドを召喚するぞ」

「「「や、やめろぉぉ!!」」

 

 ワンコ―当人ではなく取り巻きが大慌てで俺を止めた。

 そんなにシロを呼ばれたくなかったのん?彼女、いい子なのになあ。

 苛立たし気に頭をかいたワンコ―は、ため息をついた後に語り出した。

 

「アタシはずっとバカにされて生きてきた。"かませ犬"泣き虫の"ワン公"だってな」

 

 幼いころのワンコ―は名前から連想されるネタでからかわれていた。

 その頃はまだ、体も小さく覇気も使えない。

 理不尽に耐えるだけの苦難の日々が続いた。

 

 それが一変したのは本格化が始まってからだという。

 体は大きく成長し、覇気の扱いも覚えた。戦闘技能を学び、ただ強さを追い求めた。

 過去の自分を振り払うように、あの理不尽な日々を忘れ去るように。

 

 力を手にしたワンコ―はそれまでの鬱屈から解放され歓喜する。

 自由にやりたいように行動した。立てつく奴には容赦しない。全て力で黙らせた。

 力とはなんと素晴らしいのだろう。力があれば何でもできる。

 もっとだ、もっと力を、アタシに力を寄越せ―――ッッ!!

 

 力を追い求めたワンコ―は格闘技界に飛び込んだ。

 元々の才に加え努力を惜しまず貪欲に強さを求めるワンコ―。

 彼女が頭角を現すのに時間はかからなかった。

 聞くに堪えない言葉でバカにしてきた奴らは、試合後も散々痛めつけてやった。

 金を積まれたのか、明らかな誤審をしたレフリーも沈めてやった。

 気に入らない奴はぶっ飛ばす。そうして頂点を目指す……そのはずだった。

 

 ある夜、格闘技界の重鎮に呼び出された。

 香水臭い女が集まる下品な店で、だらしない肉体の男は口を開いた。

 『次の試合はワザと負けてくれ』『私に従えばいい目が見れるぞ』

 そんな感じのことを言われた気がするが、正直覚えていない。

 怒り狂ったワンコ―は重鎮を殴り飛ばした後、店を徹底的に破壊したからだ。

 それで逮捕され実刑判決を受ける。

 覚えていないが、誓って酒は飲んでいない。ただ、許せなかっただけだ。

 自分の信念を、これまでの努力を、踏みにじられた気がしたからだ。

 

 出所した後、格闘技界を追放されたワンコ―は騎神を目指す。

 生きていくには働かなければならない、自分ができる仕事は一つ。

 力を必要とするものを助けて、報酬をもらうことだ。

 汚い仕事はしかくなかった。ギルドの正規ルートから真っ当な仕事を紹介してもらう。

 身辺警護、ストーカー対策、一斉摘発のサポート、現金輸送車警備、子守!?

 自然と守る仕事が多くなる。そうしてなんとか生計を立てて行くと…・・・

 『ありがとう』と感謝されることが増えた。

 不思議な感覚だった。そんな、金にもならない一言で満足する自分が不思議だった。

 だが、悲しいことに生来のコミュ障性格ブスは『うるせー』だの『けっ!』だのと、無礼な反応しか返せなかった。

 

 いつの間にか自分を慕う者たちができていた。

 『ワンコ―さん』『ワンコ―さーん』とチョロチョロして目障りだ。

 勝手についてきて、勝手に自分の世話を焼く。意味がわからない?

 だが、追い払うのも疲れたので放置した。

 その中に一人、とんでもない雑魚がいた……数年かかってやっと烈級に合格した雑魚。

 弱いくせに危険なクエストを受けたがる大バカ。

 『私、ワンコ―さんみたいに強くなりたい』『ワンコーさんは私をバカにしませんよね』

 勘違い女が……

 お前はアタシみたいになれないよ。だって雑魚だから。

 バカにしない?バカにする価値もないからだよ。

 来る日も来る日も雑魚はまとわりついて来る。何が楽しいのかずっとニコニコしている。

 雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、あー本当にうっとうしい雑魚。

 昔のアタシを見ているようだなんて……思っていない。

 

 雑魚が死んだ。

 

 同業者の高難易度クエストに、サポート役としてついて行ったらしい。

 感染体と呼ばれる暴走したPTにアッサリ殺されたのだと。

 しかも、逃げ遅れた他人のために自分の身体を楯にしてだ……バカじゃねぇの?

 

 何簡単に死んでんだよ?死ぬなら戦いの中で死ねって言っただろうが!

 アタシの部屋にあるてめぇの私物……誰が処分すんだよ。おい!

 今週の料理当番サボる気か?一向に上達しないマズメシ、もう作らない気かよ。なあ?

 これだから、雑魚は嫌いなんだ。

 

 勝手に期待して浮かれて!騎神だなんてもてはやされて!勘違いして!

 つまんねぇ命をつまんねぇ理由で消費していく。

 こちとらやっと雑魚のペースに慣れてきたってのによう。

 勝手に梯子を外してんじゃねえよ!!

 『やった!褒められた』『「お前ならできる」そう言ってくれるのワンコーさんだけ』

 褒めたりしなきゃ良かった。「できる」だなんて、無責任な言葉を吐くべきではなかった。

 アタシがあいつを、一人前だと認めようとした………だから死んだ。

 

 なんだ……やっぱり雑魚は雑魚じゃないか。弱い奴はずっと弱いままだ。

 

 ………………アタシみたいに……ずっと変わらない。変われない。

 

 やめよう。もうやめよう。

 他人に期待するのも、他人を認めるのも、全てくだらない、おこがましい!

 アタシは誰にも期待しない。裏切られるのが怖いから。

 アタシは誰も認めない。無くすのが怖いから。

 否定しよう。全部否定してやろう。

 気に入らないもの全てに噛みついて、罵詈雑言を吐き散らそう。

 

 それがアタシ、狂犬と言われた騎神カマセワンコ―。

 

 そういう生き方しかできない、負け犬のウマ娘。

 

「以上だ。マジでくだらねぇよな?自分の不甲斐なさを、他人に当たり散らすことで隠そうとしてるんだぜ。最高にカッコ悪ぃだろ?なあ」

「ワンコーさん……」

「そんな……」

 

 結構ガッツリ話してくれことにビックリ!

 シロに敗れたからか、もう自暴自棄になっているのかも?

 心の奥底覗いちゃいましたよ。

 

「無駄に絡んで悪かったな。お前と、お前の愛バたちにも謝罪しよう」

 

 俺に向かい、ベッドの上で頭を下げるワンコ―。

 え?素直過ぎて怖い。

 憑き物が落ちたような、急激なキャラ変にオロオロしちゃう。

 

「これでわかったろ?アタシはお前たちの憧れた狂犬じゃねぇ。ただの負け犬だ……理解したなら、もうアタシには関わるな」

「そんなことない!そなことないですって!」

「言わないで!言わないでくださいよぉ」

「知ってたよ。知ってましたよ!アンタが性格ブスだってこと!でも、それでも私は……」

「お前たち……」

 

 取り巻きさんたちが泣いちゃった。やっべぇ!もらい泣きしそう。

 今俺が泣いちゃダメでしょ!我慢我慢~。

 

 まとめるよ~。

 結局、ワンコ―は自分の弱さ故に人に噛みつくような態度しかとれなかったと。

 コミュ障こじらせてますなぁ~。

 今回は運悪く俺たちに出くわしてケンカを売った。

 そして、シロの尻尾であえなくノックダウンされてしまったと。

 自業自得だな。うん!

 

「あの子を蹴ろうとしたのはなぜだ?」

「さあな。昔の自分と重なったのかもしれない……いや、ただ単にイラついただけさ」

「そうか……」

「嘘だッ!ワンコ―さん、先週の仕事で……」

「黙ってろ!言うな…」

「すまん。教えてくれないか?」

「ああ、実はですね」

 

 取り巻きの一人から事情を聴く。

 ワンコ―たちが先週受けたクエストに、災害救助任務というのがあったそうな。

 到着した現場では建設中のビルが事故により倒壊しており、死者は出なかったものの、多数の重軽傷者がいて戦場さながらの悲惨な光景だったという。

 瓦礫に埋もれた少女をワンコ―が救出したが、意識不明の重体。

 現在もICUにいるらしい。

 その少女はウマ娘。事故当日、学校帰りに迎えに来た母親を見て元気よく走り出したらしい。

 目撃者の話によると、母親は『逃げて!こっちに来ちゃだめ!』と必死に叫んでいたが、少女には倒壊するビルの姿は目に入っていないようだったという。

 ウマ娘の脚力ならば回避できた事故。視野狭窄が起こした悲劇。

 幸いにも母親は軽症であったが、崩れ落ちるビルに娘が飲まれる光景を見たのはトラウマものだろう。

 

 それを、母親の口から直接聞いたワンコ―はどう思ったのか。

 

「雑魚は本当にアッサリ死んじまうんだ」

 

「その前に、誰かがわからせてやらなきゃならない!恨まれても怖がられても!例え、最低の悪だと罵られても!」

 

「痛みと恐怖を理解しないとダメなんだ。そうじゃなきゃ、勘違いしちまうだろう……自分は特別だって、何でもできる、最強無敵の存在だって……そう、勘違いしたまま、死んじまうんだ」

 

 なるほど、わからせですか。

 確かになぁ。あのまま幼女が走り回っていたら、ケガをしていたかもだし、誰かにケガをさせていたかもしれないよなあ。

 事故が起こる前にワンコ―が悪役を買って出たってことかい?

 

「それでも、足蹴はやりすぎでしょう」

「そうだな。あの時は、お前がいてくれて助かった。手加減していたとはいえ、咄嗟の思い付きで始めちまってよ。今思えば結構力んでんたぜ」

「もう!危ないんだからね」

「悪かったよ……」

「俺に謝ってもダーメ!そういうのはちゃんと言葉で伝えればいいのさ。てなわけで、入っておいで~」

 

 щ(゚Д゚щ)カモーンと医務室の外にいる幼女を召喚!

 俺の呼びかけに、母親と共におっかなびっくり入室してくる幼女。

 ワンコ―の姿を見てちょっと尻尾がピーンッ!となる。

 

「どうして……」

「俺が来る前からいたんだ。お前に用があるみたいだぞ」

「アタシに?」

 

 ワンコ―がうろたえる。何故幼女がいるのかわからないようだ。

 母親に促され、フンスッと気合を入れた幼女は歩き出し、ワンコ―の元までたどり着いた。

 幼女の目には強い意志の力が宿っている。

 それに対するワンコ―の目には力がない。自分を恥じ入るあまり、幼女の顔すらまともに見れないでいる。

 

 『偉そうにしていたくせに敗けてるじゃん』『ざまぁwww』『雑魚はお前だ!』

 と、幼女の口から暴言を吐かれてしまうのではないか。

 きっと、ワンコ―はそんなことを考えているのだろう。俺も最初はそう思った。

 

「ワ、ワンコ―、おね、おねぇちゃん」

「……え?」

「だ、大丈夫?」

「何を言って……」

「痛そう」

 

 幼女は小さな手を伸ばし、ワンコ―の顔に貼ってあるガーゼに触れる。

 俺のヒーリングで傷は治ってるが、包帯やらガーゼやら貼ってある場所ってのは痛々しいよな。

 

「試合観てたよ」

「ハッ!無様だったろう?アタシがやられて、お前もスカっとしたんじゃないか」

「スカっとはしなかったよ。お姉ちゃんがボコボコになって、かわいそう、痛そうだって思った」

「かわいそう、か‥‥‥そうだな、本当に哀れな負け犬だよ」

「だからね!お見舞い!お見舞いに来たの」

「はぁ?何でそうなるんだよ」

「だって、元気になってほしいから。また"無駄にクソ偉そうで鼻につく"怖いお姉ちゃんに戻ってほしかったから」

「お前、アタシのこと嫌いだろ?」

「うん!嫌い!だけど、痛いのはかわいそう、元気になって!」

「意味がわからん」

 

 だよなあww俺も意味わかんない。

 嫌いな相手だけど、ケガして痛がってるのはかわいそうだ。だからお見舞いに行くってwww

 子供特有のとんでも理論だけど、それ故に純粋で真っ直ぐな思い。

 自分がやりたいからそうする。怖くても理不尽でも間違っていると笑われても止まらない。

 そこに打算も計算も何もない、あるのは自分の我儘を貫き通す信念のみ!

 眩しくて自由でなんて愛おしい存在なのだろう。

 やっぱり幼女は最高だぜ!最高だぜっっ!最高なんだぜぇぇぇ!!

 超大事なことなので三回言いました。

 

「はは、なんてワガママなクソガキだ…やりてぇことをやってるだけってかwww」

「あー、クソガキじゃないもん!」

 

 ワンコ―が笑った。

 人をバカにする下品な笑みではなく、幼女の心意気に感心したように笑っている。

 

「私、ワンコ―お姉ちゃんに怒られてよかったよ」

「何?」

「あの後ね、ママにも怒られたし、ロリコーンにも言われたの『周りをよく見ないで走るのは危ない』って、本当にそうだと思う」

「……」

「強い人がいっぱいいて、楽しくなっちゃって周りが見えなくなったの。だから、お姉ちゃんにぶつかっちゃった……ごめんなさい」

「……あ」

「そして、ありがとう!私を怒ってくれて、危ないって教えてくれて」

「……ああ」

「お姉ちゃんのおかげで私、助かったんだよ。強くなったんだよ!」

「……あああああああ」

 

 ワンコ―は泣いていた。

 伝える気はなかった、伝わるわけがなかった、ワンコ―の不器用で最低な"わからせ"

 それをこの聡明な幼女は全て理解してくれたのだ。

 暴力を振るわれて怖かったろうに、バカにされて悔しかったろうに、その全てを乗り越え糧にしてしまった。

 半日と経過していない短時間に、幼女はこのアリーナに存在する誰よりも大きく強く成長した。

 『なめるなよ自分は雑魚じゃない!』『いつか、お前にだって勝って見せる!』

 きっと、幼女自身はわかっていないのだろう。

 お見舞いに来たつもりが、ワンコ―に対して超強力な"わからせ返し"をブチかましたことに。

 それを食らって、ワンコ―は今、子供のように泣きじゃくっているのだ。

 

「ワンコ―お姉ちゃん!どうしたの!?まだ痛いところあるの」

「ごめん……ごめん……ごめんなさい、ごべんなざぃぃぃぃ!!」

「え、ええええと、ど、どうしたら?どうしたらいいのロリコーン!?」

「そういう時はロリベホマですじゃ!」

「何それ!私にもできる?」

「お主にしかできぬ!さあ、ワンコ―の頭をよしよしするのじゃ!」

「身長が足りない!ロリコーン手伝って!」

「仰せのままに!!」

 

 俺のLT-Ⅾが発動!でたぁーデストロイモードだ! ※全く何も変わってない

 え?ロリコンデストロイヤーならお前が真っ先にくたばれってか?

 嫌でーす!こまけぇことはいいんだよ!

 LT-Ⅾはね、幼女を守り育て慈しむことを第一に考えるシステムなんだ!

 幼女のペルプ要請に応えた俺は得意の抱っこをする。

 安心してください!後方でサムズアップ中のお母さんの許可は取ってます!!

 

 幼女を抱っこしてワンコーの頭をよしよしできる高さまで調整。

 へへ、俺ができるのはここまでだ。後はキミに託す。

 

「よしよし、泣かないでお姉ちゃん」ヾ(・ω・*)

「ううう、アタシ、アタシって奴は……本当にサイテーだぁ……うああああああ」

「みんなにいっぱい酷い事言ったもんね」

「うん。うん。ごめんなさい…‥‥」

「めっちゃイキってたもんね」

「ううううう、ホントは小心者なんですぅぅぅ、なめられたら終わりだと思って

「筋肉が暑苦しいよね」

「ごめん、食べたら食べただけ筋肉増えるんですぅぅ。うおおおおんんんん」

「ダイヤちゃんにボコられちゃったね」

「ひぃぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさい、尻尾!尻尾はもうイヤァァぁぁぁーーー!」

 

 おや?ロリベホマで回復させるつもりが、ダメージを与えているぞ?

 はっはーん、さてはマホイミだな。

 この幼女、閃華裂光拳の使い手でござったか。

 

「お姉ちゃん。私、強くなるよ」

「うぇ?」

「ワンコ―お姉ちゃんや、ダイヤちゃんみたいに強くなって、今日のことみんなに教えるの」

「今日の……こと」

「危ないことしゃちゃダメってこと、怖い人も優しい人もたくさんいるってこと、上には上がいるってこと、力だけが強さじゃないってこと、本当は泣き虫だってこと、えーと、尻尾はヤバい、それからそれからね、ロリコーン好きっ!!

がはっぁ!」`。*:`( ゚д゚*)ガハッ!

「「「ギャー――!こいつゲロ吐きやがっったぁぁーー!」」」

 

 ゲロじゃないです。

 口からブラスターが出そうになったのを慌てて相殺したら、緑のゲロ吐いたみたいになっただけよ!

 ふー危ない危ない、幼女に告られて吐血しそうになったぜ!!

 恐ろしい、これが閃華裂光拳か‥‥‥次食らったら昇天不可避。

 今の録音しておけばよかった『ロリコーン好きっ!』のところリピートしまくりたいわ!

 あ、ティッシュどうも。いえいえ、これ覇気なんでそのうち消えます。

 

 ロリベホマがやっと効いたのか、気付けばワンコ―は泣き止んでいた。

 

「アタシは自分勝手な理屈で、お前を傷つけようとした。本当にどうかしていた……ごめんなさい、どうか許してくれ、この通りだ」

 

 ワンコ―はベッドから下り、抱っこされたままの幼女に向かい土下座をした。

 しっかり床に額を擦り付けている。

 

「ほう、中々の土下座だ。うーん60点!!」

「「「お前何様だよ!?」」」

「土下座マイスターマサキですけど、何か?」

「「「知らねぇよ!!」」」

「なっ!お前、土下座マイスターだったのか!?どうりで……」

「「「なんでワンコ―さんが知ってんだよ!!」」」

 

 土下座マイスターの称号を持つ者は、日本に数人しか存在しない超レア資格だ。

 その一人が俺です。知り合いでは、サトノ家頭首のパパさんも持ってたと思う。

 

「降ろしてロリコーン!」

「承知!!」

 

 幼女を床に降ろす。

 未だ土下座中のワンコ―、その頭をペシペシした幼女は顔を上げさせる。

 

「許す!許すから、お顔上げて」

「あ、ありがとう。本当にありがとう」

「はい。もうお終い、仲直り完了!今からワンコ―お姉ちゃんは私の友達、ね?」

「あ、アタシなんかでいいのか?」

「うん。今日は負けちゃったけど、ワンコ―お姉ちゃん強いもん」

「そ、そうかな」

「そうだよ。私も強くなりたい、強くなるには、強い人と一緒にいればいいと思うの!どう?名案でしょ」

 

 えへへ、と笑う幼女が可愛い。

 強くなるために強い人と一緒にいる……真理だよなぁ。

 

「お前……あいつと同じこと言うんだな」

「???ダメだった?」

「ダメじゃないぜ。わかった、今日からアタシたちはダチつーか、妹分だな!」

「おお!筋肉ムキムキお姉ちゃんゲットだぜーー!」

「言っとくがアタシは厳しいぞ。お前が雑魚のまま終わらないよう、ビシバシしごいてやるからな!」

「望むところ。私だって、お姉ちゃんが悪口言ったり、無駄にイキって迷惑かけたら怒るからね!」

「へっ!言うじゃないか、こいつめぇ!」

「キャー(≧▽≦)くすぐらないでーー!」

「ワンコ―さんだけズルいっスよ!妹分ちゃんを私らにも紹介してくだせぇ!」

「「そうだそうだ!!」」

「あー、もう、お前らウゼェから帰れや」

「コラッ!ワンコ―お姉ちゃん、お友達にウザいとかダメ!!」

「サーセン」

 

 医務室に笑い声が響いた。

 どんよりとしていた空気を幼女のピュアな心が吹き飛ばしたのだ。

 幼女とワンコ―たちが楽しそうに談笑している。もう大丈夫そうだな……

 邪魔しないように、こっそりとバックステッポウ!!

 出入口付近で待機していた幼女のお母さんに会釈してから退散する。

 アンドウマサキはクールに去るぜ。

 

 それにしても強い子だったな。頭も驚くほどいい。

 将来はきっと、優秀な騎神として人々を守っていくことだろう。

 今回の一件、俺も幼女からいろいろ学ばせてもらったぜ。

 『好きっ!』て言ってもらっちゃったし!(´∀`*)ウフフ

 尊い!本当に尊いなあ!

 

 尊い存在の未来を守るためにも…ルクス!お前の好きにはさせない!

 決意を新たにする俺でした。

 

 さぁて、元の会場に戻って愛バたちの表彰式だ!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・迷子になりました。タスケテ―(゚Д゚)ノ

 



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素晴らしき日々

 マサキ、マッスルアリーナで迷子になる。

 

「参ったなあ」

「ニャーン」 

 

 気が付いた時、俺はマッスルアリーナの外に出にいた。

 どうやらパッシブスキル"方向音痴EX"が発動してしまったらしい。

 不定期で発動するこのスキルのおかげで昔から苦労が絶えないのだ。

 地図を見ていても問答無用で道に迷ってしまう迷惑スキル……いらなかったなあ。

 今回は元いた場所に戻ろうとして、何故か外の出てしまったパターンだ。

 情けない!こんなんじゃいつまで経っても愛バに心配かけちまうな。

 俺、まだ20代なのに徘徊老人のような真似を…

 愛バたちからGPSをプレゼントされる日もそう遠くないかも(;´д`)トホホ

 

「戻らないと、表彰式が始まっちゃう」

「ニャー」

「はいはい、にゃーにゃー」

「ニャーン」

「猫ですか?猫にようはありませぬ。アリーナの中に戻ってそれから」

「ニャーニャーニャウン」

「にゃーにゃ―うるさいですね。猫語なんてわかんねぇよ!」

「ロリコニャース」

「今バカにしたな!?」

 

 今俺は不可思議な現象に襲われている。 屋外に出てからずっと耳元で『ニャーニャー』鳴き声が聞こえるのだ。

 気のせいかと思ってずっとスルーしているのに、全然鳴り止まないのよ。

 辺りを見回しても猫の姿なんで何処にも見えないんだよな。

 誰かが猫をペット用ケージに入れて運んでいるのかもと思ったけど、そんな人はいない。

 

「そこの道行く人~すみません。あのですね、さっきからずーっと猫の鳴き声が聞こえたりしていませんか?」

 

 通行人に猫の声がしないかを聞いてみた。

 わからなければ質問をする。当たり前だけど重要で確実な方法よ。

 

「はぁ?猫ですか、ちょっとわかりませんね」

「あんちゃん、真っ昼間からラリってんのか?ほどほどにしときなよ」

「うーん。僕には聞こえないなぁ」

「猫??知らなーい」

 

 複数人に聞き取り調査した結果、この『ニャーニャー』は俺にしか聞こえていないことが判明した。

 耳鳴り?耳鳴りってヒーリングで治るのかな。それより耳鼻科に直行して専門医に診てもらったほうがいいだろうか。

 

「ニャーン」

「にゃーんと申されましても。俺の幻聴じゃないのなら、せめて姿を見せてくれよ」

「ニャー…」

「おい大丈夫か!急に元気が?おーい」

「二ャ…ァ…」

「あ、あれ?ちょっと、ねえ?」

「……」

「聞こえなくなった。やった!耳鳴りが治ったぞ。あーよかったよかった」

「……」

「さあ会戻ろうか、愛バたちがまってるぞー」

「……」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どこにいるんだよ!あー、まったくもう!なんで俺が」

 

 結局、猫を探してしまう俺でした。

 

 だってさあ、最後に聞こえたか細い声が、すごく辛そうだったんだよ。

 どこだどこにいる?

 そもそも、探しているのが本当に猫かどうかも怪しいのに何やってんだろ。

 姿形もわからないアンノウンを俺一人で探せってのは無理があるよ。

 愛バの協力を仰いだほうがいいか、探知能力に優れたシロならばすぐ見つけ……ん?

 

 弱弱しく点滅する何かが宙を舞っている!?真っ昼間なのに蛍?

 そんなはずはない、あの光は……

 

「また光った!やはり……覇気の粒子光?見つけた」

 

 蛍じゃない、覇気の粒子が光って見えているのだ。

 目を凝らしてやっと見える弱く儚い光、普通の人たちには感知できなくても当然だ。

 力なく点滅するそれは、なけなしの覇気を振り絞って作られた救難信号に思える。

 あ、消えちまった!光が漂って来た方向は……あっちだ。

 アリーナに隣接された樹木の多い運動公園、その一角にある茂み中でそれを見つけた。

 

「お前か、俺を呼んだのは?」

「ミャゥ……」

 

 体を丸めうずくまっていた猫?は俺の姿を見て小さな声を発した。

 

 両手の平に収まる程度の小さな体は鈍い光沢を放つ銀の色。

 金属や機械部品で造られているはずなのに、その神核からは生命の鼓動を確かに感じる。

 先端が束ねられた尻尾が5本、前足と後足にはブレード状の突起、異常発達した大きな耳、トサカのような頭部パーツには青い鉱石が埋め込まれ王冠を被っているように見える。

 

 コレどう見ても猫じゃないよー!

 猫っぽいけど別の何かだよ。ロボ猫?メカ猫?ちょっと待て、こんな感じの奴らを俺は知っているぞ。

 謎のメカ鳥"カナフ"謎のメカ鮫"ケレン"

 そして今度は猫で来たか。

 

「お前傷だらけじゃないか!とりあえずヒーリングだ」

 

 メカ猫は全身に傷を負っていた。何者かと激しい戦闘を行った代償であるかのような傷跡。

 片耳は千切れ、後ろ足が一本欠けているのは、見ていて可哀そうになってくる。

 大分消耗しているのか神核の鼓動も酷く弱々しい。

 

「心配しなくていい。俺はお仲間を治療した事もある」

 

 凝縮した覇気を込めて治療を開始する。ワンコ―にやったときよりも強力なヒーリングだ。

 やっぱり、このメカ猫もメカ鳥と同じだ。俺の覇気を貪欲にグビグビ吸収しおるわ!!

 

「すげぇ回復力!もう治ってきてる」

 

 言ったそばからメカ猫の耳と後ろ足がみるみる再生していき、数分で元通りになった。

 各所の傷も塞がって、頭部の青い鉱石も美しい輝きを取り戻す。

 メカ猫に備わった高い再生能力のおかげか、治療はすんなり完了した。

 

「もう大丈夫だ」

 

 メカ猫は目をパチクリさせた後、体をブルブルと震わせた。

 本物の猫が顔を洗うような仕草をしてから、俺の顔をジーッと見つめてくる。

 仕草がカワイイ。

 

「命の恩人ですけど何か?」

「フニャー」ゴロゴロ

 

 ゴロゴロ喉を鳴らしたメカ猫は俺の手に顔を擦り付けて来る。

 あ、なんか愛バたちのマーキングっぽい!俺ってばメカ猫に懐かれてるー。ちょっと嬉しい。

 感謝のマーキング後、メカ猫は俺の指を甘噛みする。くすぐってぇww

 

「お腹が空いているのか?よしよし」

「ミャウーン♪」

 

 指先から覇気を流してやるとメカ猫は嬉しそうに声を上げる。

 両前足で俺の手をガッツリホールドして指を咥えている。

 おお、吸われてる。覇気をチューチュー吸われておる。

 逃げたりしないから落ち着いてお食べなさい。

 

「カナフとケレンはお前の仲間だろ。お前も俺に会いに来たのか?」

「ナーゴ」

「待っていたか、ケガをして動けなかったんだな。可愛そうに」

「ナウゥー」

「ザ・ナ・ヴ……そうか、お前の名前はザナヴだな」

「ニャウ」

「カナフとケレン、あいつらトリップした俺を放置して消えたんだぜ。薄情だと思わない?」

「ニャーン」

「どうせ声も姿も俺にしか認識できない系だろ。そのせいで不審者扱いよ」

 

 たっぷりと覇気を補給したザナヴは元気を取り戻した。

 ピョンピョン跳ねまわった後、俊敏な動きで俺の腕を駆け上がり頭の上に座った。

 コラコラ、急になにをしとんねん???

 不思議な事に、頭にいるザナヴの重さはほぼ感じない。

 

「ゴロニャーゴ」

「ごろにゃーごじゃないが!?何故そこに鎮座したのか説明したまえよ」

 

 こいつ、恩人の頭上で香箱(こうばこ)座りを決めるとは!態度が悪すぎませんかねぇ?

 

「ウニャ~」

「何ッ!お礼に道案内をしてくれるだって!そいつは助かる」

「ニャロ」

 

 ナビゲーション役をゲットした。猫の恩返しされちゃいます。

 メカ猫を頭に乗せたまま移動開始。こいつ、頭を振っても全く落ちる気配がない。

 

「ニャーン」

「はいはーい『真っ直ぐ進め』だな」

「ニャ!?ニャニャッニャッ!」

「え!?なぜ曲がったのかって?フッ、曲がった先にロリがいたからさ」

「ニャーン、ロリコンシスベシ!」

「痛い痛い!ご、ごめんって尻尾ペシペシやめて」

「ナウ~」

「アリーナの玄関口まで戻ってきたぜ。さあ、ここからだ!のりこめぇ~!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ザナヴのナビは正確で紆余曲折あったが、なんとか表彰式が行われる会場までたどり着けた。

 

「お前のおかげだ、ありがとよ」

「ミャオーン」

 

 俺が到着したときには式典が既に始まっていた。

 轟級試験、総合成績一位のクロが記念トロフィーを受け取る瞬間をバッチリ目撃。

 他の見物人に負けないよう、俺も大きな拍手で祝福する。

 写真はアルが撮ってくれていると思うが、俺のスマホでも何枚が撮影しておく。

 愛バとのメモリーアルバムが、これでまた充実しちまったな。

 笑顔のクロが手を振っている。うーん可愛いですね~。

 

「ニャゥ?」

「あの子は俺の愛バだよ。可愛いだろ?」

「ニャ~」

「そうそう、真の姿は髪が……貴様知ったな!!他言無用で頼むぞ」

「ニャニャニャ」

「『アレはヤバい』か、知ってる知ってる~。でも、好きなんやで」

 

 ザナヴがクロの正体を初見で見破りやがった。こいつ、できるな!

 正体不明のザナヴが敵か味方かわからないのに、クロの秘密を知られたのはマズかったか?

 ちょっと聞いてみるか……

 

「お前らってルクスの手下とかじゃないよな?ルクスってわかるか、あのクソ仮面」

「グルルルル~」

「お、ルクス嫌いなの?だよな、あいつムカつくよな」

 

 ザナヴから嫌悪の感情が伝わってきた。これは嘘をついていないと思う。

 少なくともルクスが差し向けたわけではなさそうだ。

 だとすれば、このメカアニマルは誰が何のために?なぜ俺のところに?

 

 表彰式は淡々と進行して行く。

 試験合格者の中から上位数名が記念品を贈呈され、偉い人からお祝いの言葉をいただいて終了だ。

 今回の試験で、騎神として華々しい一歩を踏み出した者、力及ばず悔しい思いをした者もいるだろう。

 ワンコ―がそうだったように『諦めなければ夢は叶う』なんて無責任なことを言うつもりはない。

 どんな結果だったとしても、死力を尽くして戦った彼女たちを俺は尊敬する。

 

 最後にシロの番がやってきた。

 飛び級試験の唯一の受験者にして合格者。

 見えない尻尾で攻撃するという不可思議かつ圧倒的な実力を披露した彼女には、会場のあちこちから惜しみない賞賛が嵐のように降り注いだ。

 シロに贈られたトロフィーは金のオスカー像ならぬ"金のフルフロンタル像"であった。

 『なんでだよ!』とツッコミながらも、やけくそで全裸男を高らかに掲げるシロ。

 そんな彼女に会場中から、たくさんの笑い声と拍手が送られた。

 『金のフロンタル像とったどーーー!』と咆哮するシロ。

 いい顔をしているww

 

「ニャムニャム」

「『アレもヤバいっスよ!』と言われてもなあ。クロと同じくシロのことも大好きなんよ」

「ニャモン」

「『物好きめ』だってか、そうかそうかwww」

 

 シロとクロには十分注意しろとザナヴは言う。アルとココを見たら同じように評するのかな。

 ご心配どうも。でも、ヤバい子ほど可愛いんだぜ、癖になっちゃうぐらいにな。

 

 表彰式は和やかな雰囲気のまま終了した。

 ここからが大変だったり…という俺の考えは杞憂にすぎなかった。

 クロとシロの下へファンが殺到して大混乱!な状況は起こらない。

 それも、優秀な警備員たちのお陰だ。彼らによりバッチリ整列させられたファンは比較的大人しくしている。

 『マナーの悪い奴は問答無用で叩き出す』と警告したのが功を奏したようだ。

 

「握手会の様相(ようそう)(てい)してきたな」

「フニャーン」

 

 一人当たりの持ち時間10秒で次々と人員を捌いて行く。

 その間、クロとシロは慣れた様子でファンに愛想を振りまいている。

 10秒間のふれあいを望む列は、クロシロ以外の騎神たちの所へも続いていた。

 みんなそれぞれの推しがいるようですな。ま、クロとシロの行列が圧倒的長蛇の列だがな!

 どこの人気アイドルだよ!?

 この光景をファル子が見たら嫉妬しちゃうのでは……『しゃい☆』(# ゚Д゚)ノ

 

「はい、ここまででーす。ふれあいコーナー終了~」

「解散解散!すみやかに散れっ!散れっつってんだろ!」

「「「「そ、そんなぁーーー!?」」」」

「うるせー!当初の予定時刻すぎてんだよ!次っ!マスコミ連中出て来いやぁ!!」

 

 握手会強制終了!駄々をこねるファンたちを警備員が解散させる。

 続いて、雑誌記者やカメラマンたちが登場。

 『合格おめでとうございます』『今のお気持ちは?』『好みのタイプは?』

 質問攻めにされる騎神たち、カメラのフラッシュが眩しいっ!目がチカチカする。

 

「フシャァ―――ッッ!!」

「何?何事?わかった!眩しいのダメなんだな」

「フンニャローコンニャロー!!」

「気付いていたけど、お前の鳴き声おかしいよね?ぎゃー!頭皮に爪を立てたらアカンて!!」

 

 カメラのフラッシュに驚いたザナヴが急に暴れ出した。

 痛い痛い痛い!頭で爪を砥ぐのはやめてーー!ハゲちゃうーー!

 今にもマスコミさんたちに飛びかからんばかりの暴れっぷり!

 マズいと思った俺は力ずくでザナヴを捕獲して抱き上げる。髪が何本か抜けたぁ!

 おーよしよしよし、興奮しなくていいからな~。

 ここは赤ん坊をあやすように、トレセンの鬼子母神クリークママの見習って『いい子いい子~』するのだ。

 愛バたちには申し訳ないが、会場から一旦退散することにする。

 

「フッー!フッー!」

「そんなに眩しかったのか?ここまでくれば大丈夫だぞ」

「ニャモ」

「謝らなくていい。誰にだって苦手なものがあるよ」

 

 マスコミの取材が続く会場から出るとザナヴは大人しくなった。

 あの興奮っぷりは何だったのか?

 ふーやれやれ、人の熱気に当てられて疲れたな。中に戻るのはもう少し後にしよう。

 壁際に設置されたベンチに腰かけてちょっと休憩。

 ザナヴは俺の膝で丸くなろうとする。そのまま寝る気なのかい?

 硬質なのにどこか温かさ感じるザナヴの体を撫でていると癒される。

 これがペットセラピーですか。

 

「お前らは一体何なんだ?カナフもだけど、あの傷は誰にやれれた?」

「ニャーン」

「『いずれわかるさ…いずれな…』だと!教える気はないってことね」

「セヤデ」

「今喋った!?」

「ニャフンニャフンッ……ニャ、ニャーン」ウルウル

「つぶらな瞳でこっち見んな。取り繕うの下手くそかw」

 

 この世界は可能性に満ちている。

 異世界への門はあるし、超機人にデモンなんてのもいる。ペルさん、シャミ子、クボみたいな神様的上位存在にも会えた。

 本当に不思議なことや不思議な奴らがいっぱいだ!

 だから、喋るメカ猫の一匹ぐらい存在していてもおかしくないと思う。

 俺なんて育ての親が天級騎神だからね!これだって凄い奇跡だろ?

 

「と、いう感じでおk?」

「ミャオン」

 

 『そんな感じで頼むわ』と鳴いたザナヴは丸まって目を閉じる。

 あらら、本当に寝てしもうたわ。

 こやつめ安心しきりおってからに……ふわぁ……なんだか俺も眠たく……なって。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ペットセラピーが効果てきめんだったのか、ザナヴを膝に抱えたまま眠ってしまったようだ。

 

「ザナヴは、いないか……」

 

 カナフやケレンの時と同様、俺が寝ている間にどこかへ行ってしまった。

 帰る瞬間を見せたくないのかしら?つれないねぇ。

 

「あ、起きた」

「マサキさん、大丈夫ですか?」

「ココ、それにアルか、表彰式後の騒動はどうなった」

「クロさんとシロさんは、まだ記者のインタビューを受けていますよ」

「人気者だな。なあ、この辺に不思議な猫がいなかったか?」

「猫?猫なんて見てないけど。それよりもさあ、いつまでそのポーズ決めてるの?」

「俺は何か変だろうか?」

「「変だよ(です)」」

 

 目覚めたときの俺は、四つん這いの姿勢から尻を高い位置に上げ、手を前へ伸ばし、あごと胸を床に付けた状態のポーズを決めていた。

 これはヨガで言うところの『猫の伸びポーズ』である。

 ザナヴの猫が移ったのかしら。

 

「珍妙なポーズで気絶している男がいるって、救急車呼ばれるところだったんだよ!」

「パトカーじゃないところに優しさを感じるぜ」

「何度呼びかけても起きませんし、通行人からスマホのカメラで激写されまくってますし、私とココさんで今の今まで、お守りしておりました」

「迷惑かけたな二人とも、サンキュ」

 

 ポージングを解除して立ち上がった俺は、腰を軽く左右に捻ってストレッチ。

 はわわ、体中がバッキバキよ。ヨガのポーズもやりすぎると逆効果だな。

 

「マサキは、行く先々で珍プレーをしないと気が済まないの?」

「そういうわけじゃないけど。珍プレーする俺は嫌いか?」

「まさか!好きに決まってるよ」

「操者の奇行を受け入れてこその愛バですものね」

「ならばよし!」

 

 ありがとう、ココ、アル、愛バ二人の寛容さに感謝だ。

 

 ザナヴのことは後ほど説明するとして、今はクロシロの下へ行こう。

 会場の中では未だにたくさんの記者に囲まれているクロとシロの姿があった。

 こりゃあ、当分終わりそうにないぞ。

 

「インタビュー長引いているな」

 

 『サトノ家令嬢の二人、鮮烈なる轟級デビュー』てな感じでマスコミにとっては格好のネタだ。

 長らく噂のみが先行していたサトノ家令嬢にして、あの強さと美しさに愛らしさ。

 ネタとして取り上げることで、記者としての評価や自社の売り上げに大きなプラスになるはず。

 この機を逃すまいと、記者連中は必死に食い下がっている。

 マスコミ対応は慣れているとはいえ、クロとシロの二人にも疲れが見え始めている。

 

「仕方ない。助け船を出しますか」

「ココさんが行くならわたしも」

 

 アルとココをここで投入するだと!?

 それこそ、マスコミの思うつぼなのではないか。

 

「逆だよ。私たちが行くことで記者の目を分散できる」

「後は、適当に煙に巻いておさらばです。そういうの得意ですから」

「俺も行こうかな」

「「ダメッ!!」」

「ダメかあ……俺邪魔ですか?」(´Д⊂グスン

「そ、そうじゃないよ。今マサキが出て行ったら、もっとめんどうになるから」

「御三家からの圧力…情報規制をかけているとはいえ、マサキさんのことを根掘り葉掘り聞きたい方々の前に出るのは、いささか危険かと思います」

 

 そうか、二人は俺を邪険にしたわけではなく、守ってくれているんだ。

 俺がマスコミの前に出ても、余計な発言で更なる混乱を引き起こすだけだよね。

 わかってまーす。

 

「すまない。お前たちばかりを矢面に立たせて、すまない」

「お気になさらず。理由はそれだけではありませんから」

「どういうこと?」

「マサキ、記者たちの向こう側を見て、そーっとだよ」

「えーどれどれ‥‥‥ひょわっ!」

 

 ココに指示された方向を見ると……ガチムチタンクトップの集団がいた。

 クロシロには目もくれず、誰かを探すようにウロウロ徘徊している。

 あいつら、まだ諦めていないのかよ!その執念が怖いわ!

 む、無理だぁ。無理だよ。俺はこれ以上進めない!!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

「守ります。あなたのことは私たちが絶対に守ってみせます」

「安心して、あんなむさ苦しい奴らに、マサキを好きにはさせないよ」

「ありがとう。本当にごめんーー」

「終わったら連絡するよ。スマホの確認、忘れないでよね」

「うん、待ってる」

「Aブロックの方で新製品の展示会が開かれているそうです。ご興味があれば行ってみては?」

「うん。行ってみるよ」

 

 各自解散!

 クロシロの事はアルココに任せることにして、展示会とやらに行ってみましょう。

 タンクトップ兄貴ズに見つからないようコソコソと、その場を立ち去る俺だった。

 

 〇

 

 マッスルアリーナAブロックには、何とか迷わずにたどり着けた。

 

「こいつは、すごいな」

 

 展示されている新製品とは、起動兵器やデバイスに戦闘服や騎神用・操者用問わずの各種装備類だった。

 見知った大企業やテスラ研もブースもある。お、シラカワ重工も出ているじゃないですか。

 展示されている無人機はデモンストレーション用の物以外は全てハリボテだ。

 男心をくすぐるロボットたちがずらりと陳列されている様は、ワクワクすることこの上ない。

 玩具コーナーも併設されていて、プラモやらフィギュアやら超合金やらが販売されている。

 ネオさんがいたら、目を輝かせて突っ込んで行きそう。

 

 スーツを着こなした営業マン、歴戦の風格漂う軍人、ロボ好きの子供、俺のような冷やかし。

 いろんな人がこの展示会を見て回っている。

 昇級試験を見物し終わってから、そのままこちらへと流れてきた人たちもいるみたいだ。

 

 いくつかのブースを見物していると、気になる機体を発見。

 メジロ家のロゴが刻まれた全長2メートルの青いPT、名称はR-GUNと書いてある。

 

「アールガンと読むのか?」

 

 何だこのPTは、何やら運命的なものを感じる。

 機体情報が羅列されている電子表示板によると、機体はまだ開発中でロールアウト時期は未定。

 メタルジェノサイダーモードにより変形し、巨大な重金属粒子砲なる……だと!?

 

「そっかぁ。メタルジェノサイダーとはこれの事だったか」

 

 奥歯に物が挟まったような疑問が、やっと解消された気分だ。

 酷く懐かしいというか、ここではない何処かで、俺ではない誰かが、愛用していた機体…

 リヴァーレ?知らない子ですね。

 

「フフフ……デッドエンドシュート……」

 

 魂の奥底に眠る記憶に導かれるように、フラフラとR-GUNに近づいて手を伸ばした。

 

「展示品には触れないほうがいいですよ」

「きゃ、す、すみません!イングラムでプリスケンなあいつが勝手に!」

 

 横から俺を制止する女性の声が聞こえた。

 自分でも意味不明な言い訳をしてR-GUNから一気に飛びのく。

 だよねー、触っちゃだめだよねー、イングラムって何なんだよねー!!

 

「なんかすっごい飛びましねww」カシャッカシャッ

「緊急避難するエビのような動きだったなww」

 

 声のした方を見ると、二人の男女が笑っていた。

 女の方は笑いながらも、カメラを使って俺を激写しているではないか。

 腕も足もピーンッ!と伸びきった状態で飛びのいた姿がツボにハマったらしい。

 やだ!恥ずかしい(*ノωノ)

 

「お見苦しいものをお見せしました」

「いえいえ、いい写真が撮れましたので感謝したいぐらいですよ」

「驚かせてすまないな。ああ、私たちはここの警備やスタッフではないので安心してくれ」

「はぁ。そうなんですか」

 

 男女ともに俺よりやや年上に見える。

 

 男は長身痩躯で、緑の長髪をゆるふわウェーブさせたイケメン。ウホッ!またしても、いい男!!

 ノーネクタイに一目でハイブランドとわかるスーツをお洒落に着こなしている。

 仕事の出来る青年実業家といった風貌だ。タワマンの高層階から下界の庶民を見下してそう……

 なんかこの男、シュウにちょっと似てないか?

 立ち姿一つとっても気品があるところや、大金持っていそうなところが似ている。

 

 女の方もこれまた美人さん。

 サラサラの長い黒髪を後ろで束ね、白いレディーススーツを着た妙齢の女性。

 肩から提げたショルダーバッグと手に持った黒いカメラ、スーツのポケットにはボールペンとメモが収納してある。

 仕事が恋人と言い切るバリキャリ女性。持ち物から推測するに職業はマスコミ関係だろうか?

 『とても興味深いものを見つけた』みたいな視線を、俺に飛ばしてくる。

 

「予期せぬ巡り合わせもあったものだ」

「せっかくですので、何処かでお茶でもいかがでしょう?お二人の話、是非聞きたいです」

「そうしたいのは山々だが、次の予定が詰まっているのでね。私はこの辺で失礼するよ」

「それは残念です。ここは残された者同士、彼との親睦を深めましょうか」

「仕事熱心なのは感心するが、程々にしたまえよ」

「ご忠告痛み入ります。本日はお時間を割いていただきありがとうございました。次の取材も弊社と私を指名してくださると光栄です」

「考えておこう」

 

 長髪イケメンは女に別れを告げると、俺がいる方へ向かって来た。

 すれ違いざま肩に手を置かれたかと思ったら、こんなことを言った。

 

「今日はこれで失礼する。また会おう、マサキ」

「ほぇ???」

 

 デデン!任務が始まる危険なBGMが流れた気がした。

 な、何なのこの人?そこは『お前を殺す』って言いなさいよ!

 実際にそんなこと言われたら即ポリスメンにお電話するけど。

 

 まだ名乗っていないのに、どうして俺の名前を知っているんですかねぇ?

 長髪からのフローラルで香しい匂いが、鼻腔をくすぐってますがな。

 うーん。誰だったかなぁ??

 

「"貴公子(きこうし)"とも交友を持たれているなんて、あなたはやはり、す、す……」

「いや、俺には何が何やらサッパリ。確かに貴公子然とした男でしたけど」

「す、す、す、す、すすすすすすすすすっっ」

「大丈夫ですか?目がイっちゃってますけど」

 

 初対面の女が急にバグり始めた。

 空中の一点を見つめながら小刻みに震える様子はただ事ではない。

 危ないお薬でもキメちゃったりしてないよな?

 

「よければヒーリングしましょうか?俺、こう見えても治療師の……」

素晴らしいですぅぅッッッ!!!!

「うぉ!?ビックリしたあ」

 

 至近距離で叫ばれたのでひっくり返りそうになった。

 突如、絶叫した女に何事かと周囲の注目が集まる。

 『お前の連れだろ?なんとかしろよ』みたいな目で見ないでー!

 ヤダー!素晴らしく関わり合いたくないですぅぅ。

 

「本当に素晴らしい、さすがマサキさん!"みのるん"が自慢するだけはあります!」

「みのるん??えっと、あなたも俺をご存知なんですね」

「これは申し遅れました!私、こういう者です」

 

 女はショルダーバッグから手のひらサイズのケースを取り出す。

 そこから一枚の紙片を取り恭しく手渡してくる。名刺だった。

  

 【○○社所属 月刊『騎神ジャーナル』担当記者 乙名史悦子(おとなしえつこ)

 

「オトナシ…エツコ…さん」

「はい!ようやくお会いすることができましたね。アンドウマサキさん」

 

 瞳をキラキラさせながら、興奮気味に喜ぶオトナシさん。

 長い間待ち焦がれた存在と、やっと会えたのが嬉しくてたまらないといった様子。

 それが俺だと?

 

「本当にずっとお会いしたかったんですよ。いろんな人たちから、武勇伝の数々を伺っておりましたから」

「お恥ずかしい……どうせ(ろく)な話じゃないでしょう?」

「そんなことはありません!とても愛情深い男性だと、皆さんおっしゃられていましたよ」

「そ、そうですか」(∀`*ゞ)エヘヘ

「特に小さな女の子に向ける愛情は常軌を逸するレベルなのでしょう?その辺り、ご本人から詳しく聞かせていただきたいです」

「悪質なデマでですね。それ誰から聞きました?心当たりはありますが、そいつらの名前を教えてください。名誉棄損で訴えますので」

「何度逮捕されても諦めず、有罪判決が下された法廷で幼女への愛を高らかに叫んだとか!横暴な権力に屈しないその姿勢、本当に感動しました」

「逮捕も裁判も記憶にございません!」

 

 異議あり!!ものすごい誤解ですよ。

 記者にデマ流すとか悪質すぎるだろ……マジで訴えるぞ?そして勝つぞ。

 

「わかっていますよ。経歴に傷がつかないよう全部、秘密裏に処理されたのですよね?何でも、マサキさんのロリ愛に感銘を受けた御三家頭首たちが全面協力したとか!持つべきものは権力者とのコネですよねー」

「御三家の人たちはそんなことしません!」

 

 なんてこと言い出すんだ。実際そうなったら、やれそうだけどやらないよ!

 この女、権力に屈しない姿勢に感動したとか言っておいて、やっぱ権力者のコネ最高ー!と抜かしおったな。

 

「わかってます。秘密ですよね秘密‥‥‥記事にしたいところですが、御三家が怖いので私の胸にしまっておきます。うーん、残念」

「デマですからね?面白がって記事にしたら法的手段に出ますから、あしからず」

「裁判沙汰は避けたいですね~。私はマサキさんと違って法廷慣れしていませんからww」

「慣れてねぇわ!さっきからおちょくってますよね?権力者とのコネ、今すぐ見せましょうか?とりあえず、日本に住めなくして……」

「調子に乗りました!すみませんすみませんすみませんーー!マサキさんの反応が面白いので、ついからかってしまいましたぁ!どうがお許しを、国外強制退去やめてーー!」

 

 土下座せんばかりの勢いで謝罪してきたので許すことにした。

 次はありませんよ?

 オトナシさんってば、クールビューティーな外見に反してお茶目な人だ。

 

「あなたのことを話すとき、みんな楽しそうに笑っていましたよ。マサキさんは多くの人に愛されているるようで羨ましい……あ、これは本当ですからね」

「みんな……」(*´▽`*)パァァ

 

 そんな嬉しいことを聞かされたら、機嫌を直すしかないじゃない。

 訴えるのは勘弁してやろう。

 

素晴らしいですッ!!

「またですか!?」

 

 またもや『素晴らしいです』と叫ぶオトナシさん。

 至近距離でやられるとビックリするなあ。

 彼女の叫びが俺の脳にショックを与えたらしく、以前、愛馬たちから聞いた話を思い出した。

 トレセン学園に出入りしている記者の中に、突然奇声を上げる風変りな女性がいるのだと。

 『心臓に悪いからホントやめてほしい』とクロがぼやいていたっけ。

 あなたでしたか、オトナシエツコさん。

 

「素晴らしい人には取材をしなくては!というわけで、いざ!突撃取材!」

「お仕事中でしたか、邪魔しては悪いので俺はもう行きます。さようなら」

「逃がしはせんぞ、取材対象!!」

「は、離せぇ!」

 

 逃げようとしたらものすごい力で引き止められた。

 オトナシさんの細くしなやかな手指が俺の腕を掴んで離さない。

 何だこの力は?人間の女が出していい力の範疇を超えてるよ。

 

「フフフ、取材が終わるまで私の全能力は数倍に膨れ上がる(ような気がする)」

「なんて女だ、思い込みで火事場のクソ力を出しおった!」

「さあ、観念して取材を受けるのです」

「えぇーめんどい」(´Д`)

「まあまあまあ、そう言わずに~」

 

 ペンと手帳を握りしめたオトナシさんはグイグイ俺に迫って来る。

 本来なら美人に迫られて嬉しいはずなのに、鼻息荒く血走った目が爛々輝く彼女には危ういものしか感じない。

 

「今日はどうしてこちらへ?愛バの皆さんは?マザコンとシスコンの件についても何かコメントを!」

 

 話を聞くまではどこまでも食い下がる!という熱意に気圧される。

 取材慣れしている愛バたちに比べ、俺はこの追及を上手くかわす術を持たない。

 

「いっぺんに言われても困りますってば、あ、なんか鳴ってる、鳴ってますよ。オトナシさんのスマホでは?」

「誰ですか!こんな大事な時に、げっ!編集長……ちょっと失礼します」

 

 チラッと見えたスマホの着信画面には『無能ハゲ』と表示されていた。

 

「はい、オトナシです。ええ、こっちは順調そのもので……はい、はい、わかってますよ」

 

 電話口なのに完璧な愛想笑いを浮かべたオトナシさんは、丁寧な応対を交わしてから通話を終えた。

 その途端に表情が歪む。

 

「セクハラしか能のないハゲ野郎め、私が出世した暁には閑職に追い込んでやる」

「お仕事大変そうですね」

「ええ、主にメンタルをやられます。すみませんマサキさん、取材途中なのに戻らないといけなくなりました。もっとお話ししたかったのですが……」

「俺のことはお気になさらず。早く戻ってあげてください。さあ早く」

「なんだか邪魔者扱いされています?まあいいでしょう、今日のところは潔く身を引きますよ。ですが、諦めたわけではありませんからね」

「はいはい。無能ハゲさんによろしく」

「やだもう見ないでくださいww」

 

 『またお会いしましょう。約束ですよー』と告げてからオトナシさんは立ち去って行った。

 ふーやれやれ、助かったぜ。

 あのままではある事ない事ゲロった挙句、不利益しか被らない記事を書かれるところだった。

 無能呼ばわりされた編集長とやらに感謝したい。でも、セクハラはダメよ。

 

 俺のことを知る謎イケメンと、俺を取材したいオトナシさん。

 いきなり登場して慌ただしく去って行った二人。

 

「……何だったんだ?」

 

 そう呟いた俺に応える者はいない。

 

「何だったんでしょうね?」

 

 いた!なんかすぐそばにいた。耳元から声がしたもん。

 俺の背中にピッタリくっついているのは誰だ!?いやまて、当てて見せる。

 このおぱーいの感触は‥‥‥

 

「シロ。いつからいた?」

「マサキさんが二人に絡まれている途中から見ていました」

 

 隠形術で息を潜めたシロは俺の様子を伺っていたらしい。

 二人が去って行ったのを確認してから、俺の背後に忍び寄ったシロ。

 邪魔しては悪いと思ったのが半分、オトナシさんに会いたくなかったのが半分で、声をかけなかったのだと。

 

「絶叫女はともかく"風の貴公子"ともお知り合いなんて、さすが私の愛するマサキさんですね」

 

 風の貴公子?あの、謎イケメンのことを指しているのかな……はて?

 

「その反応、彼が治安局の人間だと知らずに付き合っているのですね」

「付き合ってるというか、今日初めて会ったような?そうじゃないような……」

「よろしければ、彼についてご説明しましょうか?」

「頼む」

「彼の名前は"フェイルロード・グラン・ビルセイア"」

「フェイル……」

 

 【フェイルロード・グラン・ビルセイア】

 

 20代後半の若さで政府直轄組織、治安局次長の座まで登り詰めたスーパーエリート。

 御三家にも勝るとも劣らない名家の出身でありなが、誰とでも立場を超えて気さくに語り合う柔軟さも備えている好人物。

 真面目な性格で高潔な理想と信念の持ち主。人の上に立つ者としての責任感も非常に強い。

 それでいて、あの美男子っぷりと人当たりの良さで組織内外に多くの信奉者を持つ。

 

 彼に出会った人たちは言う、さわやかな"風"のような男だと。

 

「それで、付いた通り名が風の貴公子ね……」

「今、ものすっごい人気なんですよ。報道番組のコメンテーターにファッション雑誌の表紙を飾ったりと、各メディアに引っ張りだこの超爽やかイケメンです」

「フェイル…フェイル……王子!?」

「そうそう。王子なんてのも早い段階で呼ばれてましたね~」

 

 思い出した!あのイケメン面にフェイルと言う名前、間違いない。

 俺が高校生だった時の生徒会長にして、王子の異名を冠した男。

 面倒見のメチャクチャいい先輩で、やんちゃ盛りだった当時の俺もすごくお世話になったのだ。

 因みに、俺の初恋相手であるテュッティ先輩のハートを射止めた人物でもある。

 あの時は『王子なら仕方ねぇ、勝てる要素ないもん』と二人を祝福したもんだ。

 嘘でーす。一晩泣き腫らしましたよ。

 

「卒業してから何年も会ってなかったな。そうか、シュウから俺のことを聞いているんだ」

 

 あの二人はラングラン高校イケメンツートップとして、絶大な支持を受けていたからな。

 表の王子"フェイルロード"裏の王子"シュウ"……女子連中がまあ騒ぐ騒ぐ~。

 下手なアイドルより人気だったから、二人の声を録音したデータを売ろうと男子連中(非モテ)と計画したこともあった。

 シュウにバレて阻止されたわ!あと少しだったのに、もったいねぇー。

 

 そんなこんなで、フェイルとシュウには今でも繋がりがあるんだろう。

 俺の知らないところで……ちょっとジェラシー……今日はシュウに電話して問い詰めよう。

 

「なんと、マサキさんが在籍していた高校で生徒会長をしていたとは、昔から優秀だったんですね」

「そうだな。今も昔もエリートなんだよなあ」

「マサキさんは、"何王子"だったんですか?教えてくださいよ」

「王子なんて呼ばれたことないぞ。"アホの子"と呼ばれたことあるけど」

「見る目のないメスばかり。でも、そのおかげで私が愛バに収まったと思うと複雑です」

「いいんだ。俺がモテたいのは不特定多数の誰かじゃない、お前たち愛バにモテたいのだ」

「その願いは既に叶ってますよ」

「ありがとう、本当にありがとう」

 

 優しく微笑むシロに最大級の感謝をする。

 このままイチャイチャしたいところだが、公衆の面前なので自重した。

 

 フェイルとはそのうちまた会えるだろう。

 次に会ったとき、すぐに思い出せなかったこと謝らないとな。

 高校時代の思い出を語り合って、どっぷり郷愁に浸りたいぜ。

 

 〇

 

 愛バたち全員の合流を待ってから、みんなで展示会を見て回ることにした。

 アルとココに手を引かれて登場したクロは少しお疲れ気味だ。

 

「クロさん大丈夫ですか?ほら、マサキさんは目の前ですよ。元気出して」

「やっと取材が終わったと思ったら、スカウトの勧誘合戦勃発……つ、疲れた」

「乱闘にまで発展したのはビックリしたよ。タンクトップを着た人たちが『彼を出せー!』とか叫んでもうメチャクチャww」

 

 乱闘が始まったことで、しつこい取材もスカウトも強制終了になったらしい。

 マジであの会場から逃げて正解だったと思う。

 頑張って応対したクロ、そのクロを見守って連れて来てくれたアルとココを労ってやらねば。

 

「『御三家と学園を通してからにしろやゴルァ!』と何度説明してもしつこくてさあ、『この機を逃さん』と意気込む人たちの圧が強いのなんの」

「ホントお疲れさん。俺もついさっき、マスコミの怖さを思い知ったところだ」

「シロさん、私たちを置いて一足先に離脱しましたね。何か申し開きはありますか?」

「あんなの付き合っていられませんよ。マサキさんを一人にしてまで応対する価値なしです」

「シロが正しいかも、私を残して逃げたのは許さないけど」

「無駄に愛想振りまいてバカ正直な応対しているからですよ。この八方美人!クロビッチ!」

「ビッチ言うな!尻軽じゃねーし!マサキさん一筋だしー!」

「二人ともその辺にしておけ、展示会を見る時間がなくなっちゃうぞ」

「ケンカで忙しいみたいですね。放置して早く行きましょう」

「だね。私とマサキとアルの三人で仲良く行ってみよう~」

「「おいて行かないでーー!!」」( ゚Д゚)( ゚Д゚)

 

 アルとココに両腕を組まれて歩きだすと、大慌てで追いかけて来るクロシロであった。

 

「やっぱデバイスが多いな」

「戦場で必須の主力兵装です。今やデバイスは『造った分だけ儲かるドル箱』と言われています」

「少し前まではロボットだらけだったのに、今はデバイスとロボの半々」

「感染体の暴走が原因だろうね」

 

 俺が異世界に滞在している間に、無人機のAIを狂わすウィルスがばら撒かれ日本各地に大きな混乱をもたらしのだという。それもルクスの仕業らしい、マジで迷惑な奴だな。

 シュウが開発したワクチンプログラムで事態は終息したものの、この事件で無人機に対する信頼性が損なわれることになる。

 この結果を受けて各企業や団体はデバイスの開発と改良に力を注ぐことになり、無人機の生産は縮小傾向にある。

 どこのブース見ても、デバイスを前面に押し出した展示をしているのはそのためだ。

 

 『戦争は人間同士で行うからこそ意味がある』でしたっけ?

 モビルドールを否定したトレーズ様も、これにはニッコリですよ。

 

「ことは全てエレガントに運べ……わかるなレディたち?」

「マサキさんがカリスマあふれるお顔を、素敵////」

「これには従わざるを得ない」

「でも、エピオンに射撃武器は欲しかったと思うの」

「そこはほら、ヒートロッドを上手く使うしかないです」

 

 適当に呟いたのに反応を返してくれる愛バたち。ガンダムWは全員履修済みだ。

 

 そうかと思えば、デバイスメインの流れに逆らうような企業もある。

 ここはデバイスより無人機推しみたいだ。えーと、ウォン重工業?聞いたことが無い企業だ。

 

「中国に拠点を置く工業機械専門企業。人型兵器及び産業プラントの建設の技術力には定評があります」

「ゲシュタルトシリーズと呼ばれる機動性重視の人型起動兵器か、なんか防御力低そう」

「とあるシステムの運用を前提で開発されていますから、機体の安全性は二の次なのでしょう。あのシステムがまた曲者でして……この説明はまたの機会にでも」

「私の好みじゃないかな。デザインも微妙だし」

 

 愛バたちは特に興味を惹かれなかったようで、ウォン重工業のブースを通り過ぎる。

 俺は展示されていたロボットのレプリカを横目で見る。

 機体色は白で頭部センサーと関節には赤い塗装がしてある。

 だらりと垂れ下がった多関節の細い腕部が特徴的だ。

 

 (名前は……バルトール。なんだか髑髏(どくろ)みたいで不気味だ)

 

 少し気になったけど、愛バたち追ってその場を後にした。

 

 待機状態でアクセサリーの形態をとるデバイス。

 それが並べられた光景は、まるでジュエリーショップにいるみたいだ。

 使用者の好みに合わせていろんなデザインの物がある。こういうの見ているだけでも楽しいよな。

 

「サトノ家とファイン家は共同出展なんだ」

「あら、従者部隊に配備される予定の凶鳥がありません」

「例の凶鳥虐殺事件で量産型ヒュッケバインのロールアウトが見送られたのです『ガリルナガンに狙われたら堪らない』と上層部が難色を示したのが痛かった」(;´д`)トホホ

「その代わりに既存のゲッシー強化プランが突き抜けた!これなんてプラズマステークが両手足に装着されるよ。ゴリゴリの格闘戦仕様が熱い!」

「ゲシュペンストは安心安定で良コスパの優秀デバイスです。サトノ製とは思えないぐらいに!」

 

 うんうん。ゲシュペンストいいよねー。

 デバイス化する前のヤツを装着して爆発してパンツ一丁になったこともあったねー。

 

 クロとシロがゲシュペンストを猛烈にアピールする。

 その語り口に見物客も足を止め興味深そうにデバイスを見ていた。

 二人がサトノ家の令嬢だとわかったら驚くだろうな。

 気付いた従業員たちは慌てて頭を下げている。

 それに対しクロシロは『かまわんよ』『お仕事頑張ってね』と言い含めているようだ。

 

「ファイン家はデバイス出さないの?」

「今はまだお預けかな。うちのデバイスは1stで運用されていたヤツだから、いろいろと秘密にしたい技術もあるんだ」

「ココ、お主も悪よのぅ~。そのEOTはサトノとファインで独占だ。メジロに負けないよう、これからもどうぞよろしく頼みますよ」(・∀・)ニヤニヤ

「へっへっへっ、、シロちゃん程ではございませぬよ」(・∀・)ニヤニヤ

「悪代官と越後谷(えちごや)がいる!?」

「まあ怖い怖いwメジロもうかうかしていられませんね」

 

 デバイスの展示をしない代わりにファイン家ブースでは、武器や戦地に持って行くと便利なグッズを多数展示している。

 デバイスに懐疑的な人たちにはそれが好評なようで、結構見物人が多い。

 戦闘服とそれの追加装甲やオプションパーツ、治療符(ちりょうふ)満載のファーストエイドキットに戦闘糧食も充実している。すぐそこの売店で買えるのも嬉しい。

 お、この治療符は…覇気を補充することで繰り返し使えるのか、経済的でいいじゃないの。

 俺の覇気だとチャージで符自体が『ボンッ!』と爆発しちゃうかも、検証用にいくつか買っていこう。

 

 いざという時のために、各自で携帯している治療用アイテムを吟味しておいた方がいいな。

 愛バたちの希望も聞いて、イイ感じのヤツを見繕っておくか。

 ガッちゃん謹製の回復道具セット"黄泉(よみ)がえれば?"を融通してもらえると一番なのだが、作り手がぐうたら合法ロリなので1セット完成するまでに何か月かかることやら‥‥‥一応、頼むだけ頼んでおくけど。

 

 一通りの出展を見て回り最初の場所に戻って来た。

 ここは会場の三分の一を占めるメジロ家のブースだ。

 新型のリオンシリーズやその系列デバイス、メタルジェノサイダーなR-GUNもここに展示してある。

 まあね、メジロ家だからね、どの製品もキラキラしていて質の高さが伺えるよ。

 

「ぐおぉ、メジロマークを付けたゲシュペンストがある」

「おのれ!恥ずかし気もなく堂々と展示しおって……何ですかこの金に糸目を付けぬカスタマイズは!うちよりクオリティ高けぇーー!」

 

 さすがメジロ家、他社の物であろうと良い製品は認めて、自陣に取り込もうとするとこに懐の深さを感じる。

 因みに、他社ブランドの製品を製造することOEM(オーイーエム)と言う。

 メジロマークを付けた金ぴかゲシュペンストを前に崩れ落ちるクロシロ。 _| ̄|○

 百式かな?

 

「やあやあ、カピバラ君ご一行じゃないか。こんなところで奇遇だねぇ、昇級試験はもう終わったのかい?」

「タキオンさん?どうして」

「テスラ研で開発した試作デバイスを展示しているのさ。メジロ家の全面バックアップを受けているからね、いい場所も確保できたよ」

 

 マッドサイエンティストとして悪名高い、アグネスタキオンと遭遇した。

 こいつのストッパー役であるカフェはどこに?

 

「カフェは最近、黒毛仲間ができたらしくてね。そっちとよろしくやっているよ」

「お、遂に見限られたか」

「まさか、あの子は私の助手だよ?何度浮気しても最後には私の下へ帰ってくるのだ」

「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」

「辛辣ゥゥゥ!それはさておき、カピバラ君たちも見学してくれたまえよ。さあさあ~」

「ちょ、わかったから押すな」

 

 意外と力が強いタキオンに背中を押される。

 案内されたのデバイス体験コーナー。要するに試着ができる広場ってこと。

 ちょうど今、腕輪型のデバイスを着けたおじさんが装着するみたいだ。

 

鎧化(アムド)!!」

「「「「ちょwww!」」」」

 

 腕を高らかに上げたおじさんが『アムドぉ!』と叫んだ。無駄にいい声だ。

 予想外のセリフに俺たちだけでなく、周囲の見物人たちも吹いたww

 

「あんなのでいいのかww」

「装着時のセリフも決めポーズも個人の自由さ。アムドは結構ポピュラーだよ」

 

 そうなのかー。

 俺も『変身ッ!』とか言ってみたいと思っている内に、おじさんの装着が完了した。

 テストカラーなのか地味な茶色の装甲をおじさんがまとっている。ドヤ顔しとる!

 ゲシュペンストより若干スリムな印象を受けるデバイスだ。

 

「"リュンピー"それがあのデバイスの名前だよ」

「お前にしては大人しいというか、地味過ぎるデバイスだな」

「確かにリュンピーは地味だがね。アレには可能性が詰まっているのだよ」

「ほう、七色に光る機能があるとか?」

「ないない。リュンピーに組み込まれる予定の疑似神核は特別品!そこから生まれるエネルギーを利用した武装の数々は……フフフ、これ以上はまだ秘密だ」

「嘘くせぇな」

 

 リュンピーを身に着けたおじさんは、装備品の剣を振り回したり、銃を手にして試し撃ちしている。

 エネルギー刃も打ち出される光弾もホログラムなので安全だ。

 楽しそうなおじさんに触発されたのか、他にも試着を希望する人がわんさか集まって来た。

 その中には俺の愛バ、クロとココも混じっている。

 

「武装はエネルギーソードとビームライフルのみ、あまりにもシンプル」

「試作品と言っただろう?リュンピーを素体にして、更なる新型を開発中なのさ」

「これがリオンシリーズを差し置いて、メジロ家の主力デバイスになると?」

「それはどうだろうね。サトノ君はどう思う?」

「面白味がないので、私だったら却下ですね。特別な疑似神核とやらが、どれ程の物かによりますけど」

 

 リュンピーはメジロ家の次期主力デバイスとなる可能性があるのか?

 シロは真剣な眼差しでカタログスペックを見ている。実家の脅威になりえるかどうかを考えているのだろう。

 

「あのフレームはPTともAMとも違います。むしろ特機に近いような、でも、それだとバランスが」

「おやおやおや~。姫まで私の作品にケチをつける気かい?引きこもり生活をサポートしていた身としては悲しいねぇ~」

「いえ、そういうわけでは。何かが引っ掛かるといいますか、初めて見た気がしないような?」

「メジロ家には古今東西の様々な物品が集まるからねぇ。私のインスピレーションを刺激した何かを姫が見かけていたとしても、不思議ではないだろう」

 

 リュンピー……俺は『変な名前だな』ぐらいの感想しか湧かない。

 タキオンが言うようにこれはあくまで試作品で、次に出て来るヤツは魔改造されてんのかね?

 

 まだ仕事中だと言うタキオンに別れを告げて、展示会を後にした。

 リュンピーを試着したクロとココの感想は『つまんね』だった。お気に召さなかったらしい。

 時間はもう夕刻、食材を買ってから家に帰えることにしよう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 夕飯は俺の家で二人の『轟級騎神おめでとう!』パーティーが開催された。

 アルが腕によりをかけ、てたくさんの料理作る。ココが自家製麺のラーメンを振舞い、俺はクロをシロを大いに褒め労ったのである。

  

 今日は俺の家に全員でお泊りじゃい!

 

「邪魔!マサキは私と入浴するんだから!」

「違うよ。私とだもんねー」

「その隙は逃しません。二人が争っている今がチャンス」

「甘い!既に私は全裸ですよ。マサキさーん一緒にあったまってください~」

 

 夕飯の後、愛バたちが混浴権をめぐって争っている。

 シロ、全裸になるのは脱衣所にしておきなさい、フライング全裸は風邪の元だぞ。

 一足先に入浴している俺は、湯船に浮かべた玩具"アヒル隊長"とピチピチちゃぷちゃぷ、お風呂を楽しんだ。

 結局、俺が上がるまでずっと争っていた愛バたちは、女同士四人で入浴することになる。

 浴室に四人はさすがに狭かったらしく、ぎゃーぎゃーと騒々しくも楽しそうな声が聞こえてきた。

 仲良くしているみたいで大いに結構!

 

 昇級試験に新しい出会い、楽しい一日でございました。

 

 〇

 

 一方その頃、マサキがいる場所から遠く離れた日本の何処か・・・

 銀の体を持つ猫は主の下へ帰還していた。

 

「ニャー」

「やっと帰って来た。どこに行っていたの、ザナヴ?」

「ピー」

「クー」

「ほら、カナフとケレンも心配していたんだよ。何があったか教えて」

「ニャモン」

「そう。ルクスにやられた傷が深くてスリープモードに……動けなくて治してくれる人をずっと待っていたら遅くなったと……いろいろ言いたいけど、あなたを治せる人間って何?そんな覇気を持っている存在がそうそういるわけ、でも、現にこうして帰ってきたし……」

「クークー!」

「ピーピー!」

「え?二人もその人を知ってる。それじゃあ三人とも同じ人にお世話になったの……どんな偶然、いや、そうじゃない運命だ……これは何か、絶対にお礼をしないといけないね……クスッ、クフフフフ……見つけた」

「ニャーゴ」

「悪い顔してる?そんなことないよ」

「クー?」

「神体はもうないし、後は巫女の力を押し付け……ゲフンゲフンッ!正しい心の持ち主に託せばオールオッケー。これで私はお役御免~」

「ピー……」

「ハイ決まり。もう決めた~。そういうわけで、その人のことを洗いざらい詳しく……ふむふむ、ロリコンなのね……チョロいなwwwで、名前は?」

 

 三体の神僕から情報を引き出した主は二ヤリと微笑む。

 それはまだ幼い女の子、誰かさんのストライクゾーンばっちりの幼女である。

 いつか運命が交差する日まで、幼女は彼を待つことにした。

 

「…マサキ。うん、覚えた。早く会えるといいね、マサキ……私に会ったその時は、今よりもっとずっと……」

 

 幼女は宙を見上げる。

 夢見るように恋焦がれるように、ちょっと悪い笑顔のままで。

 

人間、やめてもらうね

 

 主の不穏な発言に三体の神僕は『やれやれ』といった感じに一鳴きするのだった。

 

 〇

 

「ごめんなさい。待たせたかしら?」

「今来たところっス。全然問題ないっス!」

 

 今日の俺は愛バ以外の女性と駅前で待ち合わせである。

 浮気ではない!なぜならば、女性は俺の血縁者だからだ。

 

「喋り方変よ」

「姉さんの私服姿にドギマギしておるのですよ」

「あら、どこかおかしい?」

「よくお似合いです。弟として鼻が高い」

「ならいいわ。時間も勿体ないし行きましょう」

「かしこまり!」

 

 トレセン学園理事長秘書にして鬼の生徒指導教官、駿川たづな。

 真名"トキノミノル"と言うウマ娘で、俺の実の姉である。

 

 今日の姉さんは普段の仕事着である緑色の秘書服ではない、髪型も違う。

 背中の空いたニットセーターに、大胆なスリットが入ったスカートを着用している。

 なんだこの姉は?童貞を殺すファッション一歩手前じゃないか。

 体のラインが強調される服に、チラチラ見える美脚がヤバい!

 うわーい!俺の姉エッッッロ!

 サイドに寄せた髪は肩に流されていて、これまた普段とは違う印象……とってもいい!

 ううーん、通行人の視線が痛いぜ。

 姉さんの隣を歩く俺にどうせまた『もげろ!』とか思ってるんでしょ。呪ってるんでしょ!

 

「俺はもげない、もげたりせんぞぉ!」

「急に何!?どこかもげるの?」

「姉さんは何も心配しなくていい。これは男の尊厳を賭けた戦いだから」

「そう。よくわからないけど、私にできることがあったら遠慮せずに言いなさい」

 

 俺だけに見せてくれる姉の優しい顔だ。

 美人で強くて頼もしいお姉ちゃんは好きですか?もちろん大好きさぁ!

 

「どこから攻める?姉さん、買いたい雑貨があるって言ってたよね」

「先にマサキの服を見ましょう。私の用事は後でいいわ」

「いつもすんません」

「気にしないで、私が好きでやってるのよ」

 

 姉さんは放っておくと、私財を投げ売ってまで俺の欲しい物を買ってくれようとする。

 ありがたいことだが、俺も真面目に働いている社会人の一人だ。

 生活に困らない程度の給料は頂いております。

 欲しい物ぐらい自分で買うし、割り勘上等、何かもらったらちゃんとお返しもする。

 お世話になりっぱなしの姉さんには、俺が全て奢るぐらいでも足りない。

 そうだ、今日は姉さんの欲しい物をプレゼントしちゃおう。

 姉の喜ぶ顔が見れるなら安いもんだぜ。

 

「またそういうことを……鼻血が出たらどうすんのよ///

「それはやめて!」

 

 姉さんは曰く、弟にキュンキュンすると姉力が暴発して鼻から出血するのだそうだ。

 何度聞いても意味がわからん。

 頼むから我慢してよ。この前、お店でやらかして救急車を呼ばれたのは記憶に新しいでしょ。

 

 今日はいわゆる"姉の日"だ。

 愛バと個別に一対一で過ごす日と同じく、姉さんと過ごす日なのだ。

 月に数回設けられたこの"姉の日"に、俺と姉さんは離れていた時間を埋めるように仲良く過ごす。

 例えばそれは、ショッピングだったり、映画を見たり、家でまったりしたり、虫取りをしたり、装備無しで登山をしたり、池の水全部抜いたり、熊を狩ったり、鮫を狩ったり、いろいろだ。

 前回は徳川埋蔵金を発掘にチャレンジして、見事温泉掘り当てちゃったぜ。

 

 俺と過ごしている時の姉さん、好きだなぁ。

 普段の凛とした姿からは想像できないほど、よく笑い、よく泣き、よく鼻血を垂らす。

 それが俺には凄く嬉しいのだ。

 子供の頃からメジロ家の戦闘員として働き、過酷な日々を送っていた姉さん。

 遊びたい盛りにできなかったことを、ようやく今叶えているのかも、そう思うとちょっと泣ける。

 

「『弟とやりたいことリスト』はまだ半分もクリアしていないわ。今日も悪いけど付き合ってもらうわよ」

 

 悪いだなんて思わないで、俺は姉さんがいてくれて最高に嬉しいのだから。

 "やりたいことリスト"だって!?やっぱり俺たちは似た者姉弟だよ。

 

「奇遇だね。俺も中坊の時に『もし姉がいたらやってみたいことリスト』なる黒歴史ノートを作成してことがあったよ」

「なにそれ!見せなさいよ。内容被っていたら絶対笑うww」

 

 黒歴史ノートは実家にあるネクロノミコンを残して全て処分したので無理っス。

 ネクロノミコンのほうも、いずれは消し去らないといかんな!!愛バばれしたので手遅れですが。

 

 リストの内容を思い出せる限りを口頭で伝えると結構被っていることに驚いた。

 スーパーイナズマキックが被っていたww姉弟でめっちゃ笑ったわ。

 

 〇

 

「はぁ、せっかくの姉弟水入らずだってのに」

「まあまあ、姉さんの友人なら俺も会ってみたいし」

「空気読まない奴なのよね。ホント、何で私なんかに構うのやら」

 

 ショッピングを楽しんだ俺たち姉弟が、そろそろ喫茶店にでも入ろうと考えていた時、姉さんのスマホに着信あり。

 電話をかけてきたのは姉さんの友人らしく『弟との時間を邪魔するの?死にたいの?』と問いかける姉に『弟君?嘘ッ!会いたい会わせて会わせろください!』としつこく食い下がった。

 姉さんの友人がどんな人なのか、気になった俺は『会ってもいい』と返事をした。

 電話越しのケンカが長引くのも嫌だと思った姉さんは渋々承諾、今に至るというわけだ。

 

 待ち合わせの場所は俺のよく知っているというか、常連ですらある喫茶店だった。

 夜間営業中はバーに変貌する町の人気店"喫茶ヴァルシオーネ"に入る。

 ドアベルの音が鳴ると定員の女性が愛想よく登場した。

 

「いらっしゃい!なんだ、マサキじゃん。あ、たづなさんも一緒だ」

「よう。今日はオーナー自ら店番かリューネ?」

「店長がぎっくり腰になっちゃってさ。私自ら出張って来たわけよ~。二名様ご案内でいい?」

「ここで待ち合わせをしてるの。変な女がお一人様で来ていないかしら?」

「変かどうかは知らないけど、そのお客様なら来てるよ。案内するね」

 

 リューネにより店の奥に案内される。

 奥のテーブル席には綺麗な女性が一人で俺たちを待っていた。

 長い黒髪、パンツスタイルのレディススーツ、ポケットにはペンと分厚い手帳が収まっている。

 つい最近どこかで見たような女性だ。こんなに早く再会するとは……

 こちらに気付いた彼女は顔をパァと輝かせて立ち上がる。

 

素晴らしいですッッ!!

「うるさいわよ。それやめてって言ってるでしょ」

「……マジか」

 

 この間、耳に刺さったばかりのセリフに呆然とする俺。

 お客の事情には立ち入らない方針なのか、リューネは『注文決まったら呼んで』と厨房のほうへと引っ込んでいった。

 

「弟君を連れて来てくれてありがとう"みのるん"」

「みのるんはヤメロ」

「持つべきものは興味深い弟を持つ親友ね!ああ、素晴らしいわ!」

「本当は会わせたくなかったけど……面倒になったら帰りましょうね、マサキ」

「そんなこと言わないでよ。ちょっとだけ、先っちょだけ取材させてくれたらいいから」

「先っちょ言うな。わかっていると思うけど、下手な記事を書いたりしたら学園は出禁にして会社にクレーム入れるから。アンタの尊敬する編集長に『あなたが無能ハゲなんですか?』と直接聞いてやるから!」

「洒落にならないから絶対やめて!記事には細心の注意を払うから、弟君の個人情報は漏らさないことを誓うわ」

「まあ、私が制裁する前に御三家によって消されるでしょうね。好奇心は喪女をも殺す」

「喪女違う!あれ?私ってば超危険な案件に手を出してる……」

「今更気づいたの?うちの弟、か~な~りヤバいわよ」

「ヤバい弟、素晴らしいですぅぅぅぅ!!

「お店に迷惑だからヤメロ」

 

 気心知れた仲といった様子で会話する二人の年上女性。

 彼女、姉さん相手だと砕けた言葉遣いになるんだなぁ…なんか新鮮だ。

 俺は完全においてけぼり状態。二人を見て、なんか愛バたちみたいだな~と思ったりする。

 姉さんが『放置してごめんね』と謝りながら、友人女性を紹介してくれる。

 いや、もう知ってるんですけどね。

 

「マサキ、こちらの"素晴らしいと絶叫する者(ワンダフルスクリーマー)"がオトナシエツコ、恥ずかしいことに私の友人らしいわ」

「素敵なニックネームをありがとう"みのるん"!そして……おっほん!先日ぶりですね、マサキさん」

「どうも。世間は狭いですね、オトナシさん」

「二人とも知り合いだったの?いつの間に」

「あれは先日の夜、お洒落バーで意気投合した私とマサキさんは酔った勢いでそのまま////」ポッ

「ハイ嘘乙!マサキは下戸です~。バーで飲んだりしたらゲロ吐いてぶっ倒れるに決まってるわ」

「さすが姉さん、わかってらっしゃる」

「むむ。慌てるみのるんが見たかったのに」

「気になっていたのですが、みのるんとは何ぞや?」

「ミノルだからみのるんです。私たちは"みのるん""えっちゃん"と呼び合う仲なんですよ」

「一回も呼んだことないけど?」

「だったら今すぐ呼んでみて。プリーズコールミー・えっちゃん、ハイ!」

「好きな物頼んでいいわよ、マサキ。変な女に会わせた償いに奢っちゃうから」

「わーい。じゃあ、このウマスタ映えしそうなハワイアンパンケーキを頼もうかな」

「あら美味しそう、私も同じものを食べたいわ。店員さん、すみませーん注文いいですか?」

素晴らしく無視されてるぅぅ!!姉弟揃って酷い!店員さんパンケーキは二つじゃなくて三つにしてください!!」

 

 姉さんは"えっちゃん"呼びを拒否。スルーして俺と喫茶を楽しむことにした。

 それでもめげないオトナシさんも、ちゃっかり注文する。

 

 速攻で運ばれてきたパンケーキはボリューム満点で見た目も華やか、クリームがタワー状になっとる。

 ウマスタに投稿する気はないが、写真を撮ってみたくなる気もわかる一品だ。

 

 (リューネさんや、これお前が作ったのん?)

 (そだよー。マサキ達ならこれ頼むと思ってスタンバってたww)

 (いい仕事をしてくれるぜ、パーフェクトだリューネ。褒めて遣わす)

 (お褒めの言葉は食べてからどうぞ。さあ、おあがりよ!)

 

 愛バだけではなく、幼馴染のリューネとも目で会話ぐらいできらぁ。

 パンケーキは見た目を裏切らない美味さだったので、俺も姉さんもオトナシさんも大満足。

 『素晴らしい!グルメコーナーで紹介しますぅぅ』とワンダフルなスクリームもいただきました。

 騎神を紹介する雑誌でグルメコーナーなんてあるのか……

 

「その様子だと、二人は長い付き合いなんですか?」

「えー、それはですね……」

「言っていいわよ。マサキは全部知ってるから」

 

 少し言い淀むオトナシさん、何かあるのだろうか?

 

「私とみのるんが会ったのは20年ちょっと昔、小学校入学以前」

「待ってください。それだと計算が、だってその頃は……」

「合ってるわよ。私がエツコと出会ったのは、アースクレイドルで暮らしていた頃だもの」

「そう!そうなんです。私がみのるんと仲良くしていたのはアースクレイドル、本当に懐かしい……」

「マサキは覚えてないでしょうけど。エツコはね、あなたを抱っこしたこともあるのよ」

「マジっすか!?」

「ええその通り、素晴らしいですッ!あの小さな赤ちゃんがこんなに立派に成長して、私の取材を受けてくれる。なんて、なんて素晴らしいのでしょうッッ!!

 

 なんと!俺とオトナシさんはアリーナ―での展示会が初対面ではなかった。

 クレイドルに在住していた頃、ご近所でよく遊んでいた姉さんとオトナシさん。

 姉さんは溺愛する弟である俺をオトナシさんに紹介し、互いの両親たちが見守る中でおっかなびっくり抱っこしてくれたのだそうだ。全然覚えてなーい。

 

「プニプニして本当に可愛かったわ。私が抱っこしてもスヤスヤ眠ったままで」

「目が合った瞬間ギャン泣きしたけどね。マサキは本能で姉の抱っこが一番だと感じ取ったのよ」

「みのるんの姉バカ!20年経っているのに酷くなってる姉バカ!」

「誉め言葉ね」

 

 自我に目覚めていない俺の話……なんか恥ずかしい(/ω\)

 

「マサキさんが生まれてしばらくのことです。研究者をしていた私の父が転勤になって、クレイドルから引っ越して……それで、あの事件が起きました」

「……」

「怖かった。当時は本当に怖かったと記憶しています。みのるんの他にも親しい人たちがあの場所にはたくさんいたんです。思い出の場所だってたくさん、それが全部、あんな、あんな風に無くなるなんて……」

「もう終わったことよ」

 

 幼いオトナシさんはずっとクレイドルのテロ事件が心残りだった。

 運よく助かったことに安堵しつつ、親友たちを置き去りにして自分だけが助かったという罪悪感に苛まれる日々に苦しんだ。

 

「私が記者を目指したのは、ずっとみのるんの影を追い求めていたから……幼い私にとって強く美しいガキ大将の親友は最高のヒーローだった。もう一度会いたい、彼女のようなウマ娘に、この世の理不尽を吹き飛ばす力の象徴、騎神たちの中にいるはず……そう思ったんです」

「しかし、私は生きていましたとさ。そういうことでしょ」

「そういうことですよ!もう!再会した時、私がどんなに嬉しかったか、みのるんは知らないでしょ?あー、思い出したら来ちゃう、素晴らしいですぅぅぅぅっっ!!

「うるさいなぁ」

 

 駆け出しの記者だったオトナシさんは、トレセン学園で秘書をしている姉さんと再会した。

 その時の絶叫は学園の校舎中に響き渡ったという。

 

「『緑の悪魔を取材して来い』と言われた私は死を覚悟していた。そしたらそれがみのるんで、素晴らしく驚きました」

「アンタよく気付いたわよね。こっちはすっかり忘れていたのに」

「そりゃあ気付くよ『みのるんが成長したらこんな感じでは?』と20年以上脳内シミュレーションを怠らなかった私ですから!」

「引くわー、しばらく私に話しかけないで。マサキにも近寄らないで」

 

 死んだと思っていた姉さんにずっと執着していたのか、うん、ちょっと引く。

 感動の再会かどうだったかは不明だけど、それから姉さんとオトナシさんの友人関係は復活して今に至ると言うわけだ。めでたしめでたし。

 

 姉さんと目配せする。

 パンケーキも食べたし、いい話も聞けた、長居は無用そろそろ店を出ますかね。

 

「帰るわよマサキ。パンケーキ美味しかったわねー」

「だねー。じゃあ、オトナシさん、俺たちはこれで帰ります。サヨナラ!」

「二人とも何か忘れていませんか?」

「ああ、お店への迷惑料はアンタが自分で払いなさいよ。一絶叫につき1000円ぐらいでいいんじゃない?」

「払わないわ!それより取材!取材させてくださいよ!」

「僕にはとてもできない」

「できますったら!私の質問に『はい』か『イエス』で答えるだけですから」

「絶対にNO!」

「みのるん!弟君を説得してよ」

「無理、嫌、駄目」

「あのことバラすよ?」

「は?何の事か知らないけど、勝手にすれば」

「マサキさん、幼女だったみのるんは赤ん坊のあなたに対しておぞましい……」

「マサキ!エツコの取材を受けてあげて!お姉ちゃん一生のお願いよ!!」

「さすがみのるん!最後は私の味方になってくれるのね♪」

「教えてくれ姉さん、アンタ俺に何をしたぁーーー!」

 

 お口チャックした姉さんは無言で首を振り続ける。

 ダラダラと滝のような汗をかいており、俺と決して目を合わせようとはしない。

 このお姉ちゃん怖いよー!何があったか知りたいような、知らないほうがいいような。

 よし!この事は忘れよう。俺は何も聞かなかったZE。

 

「では、取材と参りましょう。素晴らしいコメントをよろしくです」

「おー…」絶不調

「あーう」絶不調

「おーい、そこの姉弟元気だせー。えっちゃんの取材がはーじまーるよー」

「テンション高いっスね」

ボソギダブバスバゴザバ」(殺したくなる顔だな)

「ここではリントの言葉で話せ!!」

 

 ストレスのせいか、姉さんが一時的に日本語を忘れた。今のグロンギ語?

 

「最初の質問です。マサキさんは最低一日一回、幼女からロリコニウムという栄養素を摂取しないといけない体だと伺いましたが、本当でしょうか?」

「デタラメに決まってるでしょ!」

「そうよ!弟はアネニウムさえあれば生存可能なのよ。そんなことも知らないの?」

 

 わかってないな。ロリコニウムの摂取は一日一回ではない、三日に一回ぐらいで十分だ。

 へぇ、アネニウムというのもあるのか?初めて聞いたなぁ。

 

「三日に一回ですね。その間に運悪く幼女と出会えなった場合は、どうするのでしょう?」

「頼もしい協力者たちで代用します」

 

 ターボとかフラワーとかウララたちからも、ロリコニウムは摂取できるのです。

 本人に言ったら怒るので黙っているが、テイオーやマヤ、タッちゃん辺りでも可。

 実は理事長でもいける。最悪、デジタルでもいける。

 合法ロリのガッちゃんはメッチャいける!

 

「はいはい『真正でした』っと‥‥‥ショタとかには興味あります?」

「ふぁ~、ねみぃ……」

「眠たいの?姉膝枕いる?」

「『男児には興味を示さない』まるっと。年齢の近い男性はどうでしょう?同僚や幼馴染、この間の貴公子ともイイ感じと聞いていますが?」

「‥‥‥////」ポッ

「マサキ!そんな非生産的な関係、お姉ちゃんは認めません!」

「『まんざらでもない』ですね。うーん、でも、襲われるのは嫌も追加で…」

 

 変なことばっかり聞いてくるな。

 

「マザコンですか?」

「はい」

「シスコンですか?」

「イエス」

「私はブラコンよ」

「みのるんには聞いてないわ!」

「異世界に行ったというのは?」

「ノーコメント」

「人間?」

「それ以外の何に見えます」

「体から緑の綺麗な石を出したとの目撃情報があるのですが?」

「ハハッ!意味不明」

「神様に会ったことがある?」

「面白カワイイ女神様の夢はよく見ますよ」

「マサキ、あなた疲れているのよ……」

「ええ、()かれてます」

「目の前にいる美人記者に一目惚れしてしまい、今すぐにでも告白したい?」

おい、表出ろやオトナシ!久しぶりに…キレちまったよ…

「みのるんには聞いてないわ!」

「結婚したらお嫁さんには、お義母様と同居はしてほしいと思っている?」

「そこは嫁姑で相談して決めてほしいですね。もちろん、嫁の意向に沿う形にしたいと思います」

「ふむふむ『マザコンだがエネ夫にはならない』ですね」

「姉との同居は必須よ。もちろん、嫁はいびり倒すわ」

「だから、みのるんには聞いてないわ!『みのるんは最低の小姑になる』メモメモ」

 

 質問にはなるべく真面目に答えた。

 どこ情報なのか、核心をつくような質問も飛び出すけど、そこはぬるりと躱しておく。

 

「愛バの皆さんからいろいろ聞いていましたが、予想以上に面白素晴らしい人ですッッ!

「私の弟なのよ、当然でしょ」

「みのるんは予想通りダメダメで、みすぼらしいですッッ!

「みすぼらしいって何よ!ケンカ売ってんの?屋上行くかゴルァ!」

 

 『みすぼらしい』は『素晴らしい』の対義語です。

 なんか、クロとシロみたいになやり取りになってきたぞ。

 さっきからリューネが『なんとかしろ』とプレッシャー与えてくるのよ。

 お店に迷惑をかける前に止めなくては!

 

「姉さんストップ。リューネがめっちゃ嫌な顔してるから、他のお客さんたちが、ワクワクしながらスマホかまえてるからぁ!」

「ぐふふ、いいのですか~『トレセン学園の暴力秘書、傷害罪で逮捕!?』という見出しで記事にしますよ~」

「やってみろ!殺人と死体損壊もプラスしてやんよ!」

「姉さん、やーめーてー!オトナシさんも煽らない!」

 

 立ち上がって睨み合う二人を何とか座らせた。

 店から叩き出されてもおかしくない程騒いでいるが、トレセンが近いこともあり、この店の常連は少々のトラブルでは動じない、むしろそれを楽しむ余裕を持っている。

 黒髪美人の二人がメンチを切っていても、逃げるどころか入店して近くで見学希望する始末だ。

 従って、喫茶ヴァルシオーネはそこそこ繁盛中である。

 『お客さん増えてキター』と嬉しい悲鳴を上げたリューネは、キッチンとホールを忙しなく行き来している。よく働くオーナーだこと。

 

「エツコの相手でMPが削られたわ…マサキ、オトウトニウムを補給させて」

「お好きにどうぞ」

「あ~癒される~回復回復~」ぎゅー

 

 姉さんは俺にハグをして、オトウトニウムなる栄養素を補給する。

 仕事で疲れたときやストレスが溜まったときに、よくチャージなされます。

 ついでに俺もアネニウムを補給しておくか……愛バたちのハグとはまた違ったやすらぎを感じるぜ。

 

「うわぁ、引くぐらい仲いいですね」

「そうですか?いたって健全な姉弟間の普通のスキンシップですよ」

「みのるんいいなぁ。私もチャージしていいですか?」

ボソグゾ」(殺すぞ)

「今の聞きましたか!わざわざグロンギ語で『殺すぞ』て言いましたよ!このブラコン!」

「まあまあ」

 

 手をワキワキさせながら接近を試みたオトナシさんを、姉さんが殺意を込めた眼力で威圧した。

 我が姉はまたしても、リントの言葉をド忘れしたようだ。

 これが頻繁に続くようなら病院に連れて行こうと思う。

 

「マサキさん、どうか私のことは『えっちゃん』と呼称してください」

「わかりました。今後は『エツコさん』でいきます」

「チッ!…今はそれで妥協します。気が向いたら是非『えっちゃん』もお試しください」

「いい加減諦めたら?『えっちゃん』はどうせ、この先も流行らないわ」

「みのるんにはわからんのですよ!『えっちゃん』はそのうち日本中でバズるんだからね」

 

 取材を兼ねたお喋りはとても有意義だった。

 話題が変わる度に姉さんたちが一触即発漫才を始めるのでハラハラしたが、これはこれで楽しい。

 

 エツコさんと絡んでいるときの姉さんは生き生きしてる。俺に見せる顔とも違うし。

 気の置けない友人がいるっていいもんだよな。

 

「エツコさん、これからも姉さんと仲良くしてください。よろしくお願いします」

「え!?それはつまり…みのるんを嫁にもらえと////」ポッ

「ちがーう」

「あ、私が花嫁でしたか。早とちりしちゃってダメですね~。さあ、みのるん!花婿として私をしっかりエスコートしてよね////」(*´ω`*)

「わかったわ。行先は地獄でいい?

「フフフ…みのるんとなら、地獄の果てでも楽しいわ」

「ホントに仲良いなあ」

 

 こんな感じで、姉さんの友人であるエツコさんと親睦を深めたのであった。

 また一人、愉快な仲間が増えちまったな。

 

素晴らしいですッッ!!

 

 うるさいですね。

 



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女体の神秘

 シャミ子との夢修練は鋭意継続中だ。

 今日も眠りに落ちた瞬間に夢空間に連れ込まれる。

 そんでシャミ子が『お帰りなさいませ!』と、満面の笑みで迎えてくれるってわけ。

 

「不定期開催なのどうにできない?ちゃんと曜日決めてやろうぜ」

 

 修練に付き合ってくれるのはありがたいけど、こっちは社会人で仕事をしている身なのよ。

 スケジュールは前もって伝えてほしい。

 

「おやまあ、この子ってば、私の気遣いが気に入らないと言うのですね」

「気遣い?」

「突発的に発情したマサキが"お楽しみ"を目論んでいる時は修練を中止に……」

「うわーい!シャミ子様最高ッッ!お気遣いの天才ですやんかーー!」

「フフン、私の偉大さをようやく理解したようですね。もっと持ち上げて!私の承認欲求を満たすのです」

 

 お気遣いの女神様が満足するまで褒めちぎった。

 やり過ぎると天狗になるので注意しないといけない。

 

「早速始めましょうか、前回の続きから」

「うっす。今日もよろしくお願いします」

 

 しゃあ!修練開始の時間だオルァ!

 

 シャミ子が用意した修練メニューは実にバラエティーに富んでいる。

 その一部を紹介するとこんな感じである。

 

 『巨大なオルゴナイト塊の精製と破壊を繰り返す』

 『限界までブラスターを吐き続ける。射程と発射時間延長目的』

 『高難易度フィールドアスレチックの制限時間内クリア"SASUKE"のパクリ!?』

 

 楽しみながらできるゲーム感覚の修練が盛りだくさんだ。

 

 今日なんて、オルゴナイトミラージュで多重影分身したシャミ子軍団と地獄の100人組手だったよ。   

 マジで死ぬかと思った。

 

「ぜー…はぁ…ゲホッ…ぜー」

「まあ及第点でしょう。後もう少しで完全勝利でしたけど」

「終盤の……が、強すぎ……る…」(*´Д`)

「あれこそシャミ子十傑衆(じっけつしゅう)!全盛期の私をイメージして創り出した、無慈悲な分身体たちです」

 

 大の字に倒れて荒い呼吸を繰り返す俺。

 衣服は既にボロボロで満身創痍の状態だ。

 シャミ子十傑衆……なんて恐ろしい奴らなんだ!あれで分身体だと!?

 強よすぎる。だけど!前回よりは動きが見えた。次に戦う時はもっとやれるはず!

 

「フフフ、今のマサキなら私には逆らえませんね」ニチャァァ

「な、こんな時に!」

「頑張ったご褒美に私が癒して差し上げましょうねぇ!」

「キャー―!痴女が出たわーー!痴女神様に襲われる―ッ!!」

「まだ叫ぶ元気がありましたか。しかし!助けなんて来ません。ささ、私に任せて楽にしてくださいね~」

「メルアーーー!テニアーーー!カティアーーー!お助けぇぇぇーーーー!!」

「覚悟しなさい!とうっ!」

 

 いつもタイミングよく現れる、三女神の助けが来ない!?

 終わった……ごめんな愛バたち……俺、シャミ子に汚されちゃう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はい。終わりましたよ」

「……ありがと」

「なんか不満そうですね?しっかりと全身をヒーリングしたはずですが」

 

 てっきり"うまぴょられる"と思っていたのに、シャミ子は懇切丁寧な治療を施してくれた。

 傷も癒えて疲れもぶっ飛んだ。夢の中なので衣服すら修復されるのには驚いた。

 だというのに……なんだこの、腑に落ちないというか、裏切られた気分になるのは一体。

 

「『なんだ、うまぴょるんじゃねーのかよ!』と思っていますね」

「いや、別に……」

「ちょっと残念だったりします?」

「そんなことない」

「なんだかんだ言って、私のことを気に入ってますよねー」(・∀・)ニヤニヤ

「くっ、悔しい!男心を弄ばれたぁーーー!ちくしょーー!」

「マサキがどうしてもと言うのなら、やぶさかではありませんよ」

「またそういうことを言う」

「けれど、そのお役目は愛しき末裔に任せることにしましょう」

 

 『これでも人妻ですから♪』とウインクを寄越すシャミ子。ムカつくけどカワイイ!

 認めよう。俺はこの面白女神様を気に入っているのだ。

 

「マサキが私に乗る時は必ず来ます。その日を楽しみにしていてください」

「え!?の、の、乗るって、おまっ」

「私は激しいですからね。振り落とされないよう、しっかり鍛えておくことをおススメします」

「激しいのか!?」

 

 イマイチ会話が嚙み合ってない気がするけど、まあいいや……

 『シャミ子は激しいのがお好き』このドスケベ元祖が!!

 

「シャナミア様~!マサキさーん!ご飯できましたよ~」

「はーい!行きましょうマサキ」

「うぇーい。腹減ったぁ~」

 

 夢空間内に建てられた女神たちの拠点。

 通称、女神ハウスからメルアが手を振って俺とシャミ子を呼んでいる。

 修練を終えた後は、女神ハウスでご飯を頂くのがルーティンである。

 

 夢の中なのに、修練するとめっちゃ腹減るんだよなぁ。 

 リアルで夕飯は食べたから、これは何だろう?夜食になるのか?

 

「ここで食べたものは、リアルの血肉にはなりません」

「じゃあ、無駄に太る心配はないな」

「だからと言って、食べ過ぎは禁物です。適度に美味しく召し上がってください」

「了解だ……うんめぇ!カティアとメルアは料理上手だな」

「えへへ、褒められちゃいました」

「ありがとう。作ったというより、念じて創造したが正しいけど」

「おかわり―!」

「昔からよく食べますねぇ。このパワフルイーターは…」

 

 料理は基本、カティアかメルアが担当する。テニアとシャミ子は食べる専門だ。

 で、このテニアさんがメッチャ食べる。女神一小柄なのに一番食べる。

 

「何?私の顔をじっと見ちゃって、このおかず分けてほしいの?」

「美味しそうに食べるなぁと思って」

「ご飯は美味しく楽しく食べるがモットーだからね!ほら、マサキもじゃんじゃん食べなよ」

「うっす。いただきます」

 

 テニアに負けないよう、俺もしっかり食べよう。夢で摂取したカロリーはノーカン!

 女神の食卓は今日も賑やかだ。こういうところ、うちの愛バたちと似ている。

 トーヤさんもきっと、微笑ましく思っていたんだろうなあ。

  

 女神ハウスは出入りする度にその形を変える。不思議のダンジョン仕様。

 今回はなぜか、サザエさんの家を参考にした間取りだった。

 食後はちゃぶ台を囲みまったりテレビを見る。これも恒例の習慣だ。

 最新型の50インチ、レトロな家具家電が多い中で、テレビだけはいいのを揃えている。

 

「まさか、百合百合ガンダムの時代が来ようとは……長生きするもんです」

 

 これもうグエルが主人公でよくね?と思うアニメをみんなで鑑賞した。

 仮面装備ママが毎回不穏すぎだよな……やっぱ仮面つけた奴は信用ならん!

 

「シャナミア様。水星の魔女は置いといて、やるべきことがあるのでは?」

「この後、鬼滅も見ます」

「違いますって、コレですよこれ」

 

 メルアがシャミ子に四角い何かをパスした。

 

「おお!すっかり忘れていました」

「何だこれ?」

 

 シャミ子が両手で持つのは50センチ四方の立方体だった。

 オルゴナイトでで生成された四角い物体?

 

「ちゃぶ台片付けるよ~」

「はい、マサキはコレを持ってください」

「お、おう」

 

 カティアとテニアがちゃぶ台をいそいそと片付ける。

 広くなった畳張りの部屋の中、シャミ子が立方体を俺に差し出す。

 思わず受け取ったけど、何が始まるんだ?

 咳払いしたシャミ子は、真面目な顔をして俺に向かい合う。

 

「マサキ、今こそ最後の試練をあなたに伝えます」

「あ、ああ。そんなのあったな、忘れてたわ」

「最後の試練…それはなんと!あなた自身が決めるのです!この"オルゴンダイス"でね」

「サイコロだったのか」

「6面にそれぞれ違う試練が描いてあるのですよ」

 

 このサイコロは、シャミ子がメルアに発注して作らせたものだった。

 『痛』『臭』『汚』とか嫌な漢字が見えた気がするのだが?

 こんなので最後の試練を決めるのか……この投げやり感、面倒なら試練自体やめろよ。

 

「ほら、早く投げて投げて」

「思いっきりやってしまいなさい」

 

 テニアとカティアはワクワクしながら見守っている。

 

「さあ、運命のダイスロールを!」

「いいんだな。投げるぞ……そりゃっ!」

 

 投げるというより転がした。

 オルゴナイトのサイコロは、不思議な力で床を何度もバウンドし中々停止しない。

 

「「「何が出るかな何が出るかな~」」」

 

 この三女神ノリノリである。

 

「「「何が出るかわ……」」」

「もうわかってまーす!!」(*´▽`*)

 

 最後はシャミ子が叫んでサイコロは止まった。

 何この茶番?わかってるならやらすなよ!!

 

 俺は上を向いたサイコロの面を見る……『変』?へん?

 

「あちゃ~、それ引いちゃいましたかぁ」(・∀・)ニヤニヤ

 

 最初から決めていた癖に白々しいシャミ子。

 

 変・・・変な女神なら目の前にいるな。

 

 三女神が手に隠していたクラッカーの紐を引っ張る。

 『パンッ』軽快な音が鳴り、紙吹雪と紙テープが飛び出す。

 紙テープのほとんどがシャミ子の頭上に降り注ぎ『ぐぁ!これ邪魔』と呟いた。

 

「厳正なるダイスロールの結果"変化の試練"決定しました!拍手~」

「「「わーわーわー!」」」パチパチパチ~

 

 変化の試練……もう嫌な予感しかない。

 

「変わるっていいですよね」

 

 お、シャミ子がなんか語り出した。

 

「生きるということは、すなわち変わること、変化なくして生は望めない」

 

 シャミ子は俺の周りを反時計回りにゆっくり歩きながら言葉を紡ぐ。

 

「来たるべき戦いで生き残るためにも、マサキ、あなたは大きく強く変わらなくてはいけません」

 

 ぐるぐるするシャミ子に足払いをしてみた。しかし、簡単に避けられてしまった。

 

「変化を恐れず、受け入れ、適応してみせなさい。あなたならきっとできます」

 

 ぐるぐるぐるぐるシャミ子がぐるぐる~。何の儀式だコレ?

 

「変化の試練とは、その練習だと思ってください。試練をクリアすることで、本番に向けて心身が整うことでしょう」

 

 ピタリと停止したシャミ子は畳の上に正座して、自分の膝をポンポン叩く『おいで』のサインだ。

 本日の夢もはこれで終わりらしい。

 よっこらせっと、毎度毎度失礼しまーす。俺はシャミ子の膝を枕にして横になる。

 シャミ子のそばで寝る、これが現実への帰還方法です。

 

「試練の内容は?」

「特別、何かをしろとは言いません。一週間、普段通り過ごしてください」

 

 そんなのでいいのか?簡単すぎると逆に怖いんだが。

 

「簡単だといいですね。なあに、すぐにわかりますよ…すぐにね…クフフフッ」

 

 何か企んでいることを隠そうともしないか。お手やらかに頼むぜ。

 

「今回の試練を乗り越えたときこそ、私の起動者として正式に認めましょう。準備はいいですか?」

 

 どうせ拒否権はないんだろ?いいぜ、やってやるよ。

 

「頑張れ~頑張った分だけ、ご飯がおいしくなるよ~」

「深く考えず付き合ってあげて、時には諦めが肝心よ」

「こんな試練、マサキさんなら楽勝です。私はそう信じていますから」

 

 三女神の心温まる激励を聞いていると、眠たくなってきた。

 リアルでは愛バに夢では女神たちに見守られながら、ウトウトすることが多い俺である。

 ほっぺをツンツンされても無抵抗だ。

 

 シャミ子の膝枕は相変わらず最高。

 高さも柔らかさも俺好みでちょうどいい、頭を撫でてくれる優しい手も好き。

 

「期待していますよ。どうか、面白き一週間を……」

 

 シャミ子……お前、ハプニングが起こることを期待してない?

 あ、俺が無抵抗だからってチューしようとするな・・・・・・・ねむねむ・・・

 

 〇

 

「あー、起きなきゃ…ふぁぇ」

 

 本日も目覚ましアラームが鳴る前に起きたぜ。朝一の勝った気分!

 起きたての寝ぼけ頭では夢の内容がよく思い出せない。

 

 (試練がどうとか言っていたような、何だっけ?)

 

 布団から這い出る前に隣を確認する。

 そこに、楽園があった。

 

「‥‥ん……ZZZ」( ˘ω˘)スヤァ

 

 天使の寝顔。

 夢で見た女神たちに引けを取らない、絶世の美少女が俺の隣で寝ていた。

 下着姿に俺が貸したサイズの合わないTシャツ着たウマ娘。

 鎖骨やお腹に太もも、その他いろいろが(あらわ)になった姿は垂涎(すいぜん)ものですよ。

 

「シロ……こいつマジクソ可愛いやんけ」

「ZZZ」( ˘ω˘)スヤァ

 

 柔らかなウマ耳に軽く触れると、ピクッと反応が返ってくる。

 フフ、ずっと撫でていられるな。

 

「ふへ…おまぇ……モンテスキュー……」( ˘ω˘)スヤァ

 

 寝言が意味不明、どんな夢を見ているのだろう?

 

 シロを起こさないように注意しながら布団から出る。

 彼女の引き締まったお腹が冷えないよう、布団をかけ直しておこう。

 

 なんか変だ、いつもよりやや目線が低い気がする。

 まだちょっと寝ぼけているんだな。

 洗面所に行って、トイレと、歯磨き、えーと……シェーバーは……

 

「はぁ?」

 

 俺の口から素っ頓狂な声が出た。

 それも仕方あるまい、だって俺の家に、見たことの無い人物がいたのだから。

 

「誰?」

 

 問いかける。なぜか向こうも同じ事を言った。聞いているのはこっちなんだが…

 耳までおかしいのかな?口から発生した音も高いソプラノボイスだ。

 

 (誰だこの女、不法侵入?)

 

 初見の女は呆けた顔で俺を見ている。

 女だ、女がいる、顔小さい、髪キレイ、色白で、可愛い寄りの美女だ。

 おい…ボーっとしてないで、なんか言えよ。

 とりあえず捕縛するか?あーもう、朝からトラブルなんて勘弁してくれよ。

 

 (試練だって控えているのに……ん?試練???)

 

 脳にかかった霞がようやく晴れてきた!

 思い出せ!夢空間でシャミ子は何と言った?試練、そう試練が始まったのだ。

 

 変化の試練!!!!

 

 洗面台の上にある鏡に飛びつく、そう鏡だよ鏡!

 俺が見ていたのは洗面所にある鏡だ。そこに映った女を『誰?』と思っていた。

 

 顔をペタペタと触る。鏡に映った女も顔を触る。

 アーッと口を大きく開ける。女も口を大きく開けた。

 変な顔をしてみた。女も変顔にチャレンジ……やだ、カワイイじゃん////

 

 おわかりいただけただろうか?

 認めたくないものだな。しかし、起きてしまった事実は認めねば!

 

「これが……俺…だと…」

 

 変化の試練で俺は確か変わったのだ。そう、性別がね!

 

 男から女へ『チェーンジッ!』しちゃった。

 

 ・・・・・・・・・・・・マジかよぉ(´Д`)

 

 はい、そういうわけでしてね。

 女体化ですよ。にょーたーいーかぁー!

 

「ヒゲを剃らないでいいのは楽チンだ」

 

 混乱しながらも、とりあえず歯磨きをすませた。

 寝間着として着ていたシャツとパンツが妙にブカブカだと思ったら、性転換とはね…

 いや~参ったねこりゃ。とんでもねぇ試練を与えてくれましたな。

 

 (シャミ子……次に会ったら泣かす!!うどんで泣かす!!)

 

 今頃、テヘペロしているシャミ子と三女神を少しだけ呪っておいた。

 

 いつまでもここで悩んでいるわけにもいかない。

 

「あったか~いシャワーでも浴びよう」

 

 体の確認前に寝汗を流してリフレッシュしたいと思います。

 潔く服を脱ぎ捨てた俺は、一糸まとわぬ姿になる。

 全裸だ……美女の全裸‥‥‥待て待て待て!何美女とか言っちゃってんの??

 コレ俺ですよ!体は女でもロリコンクソ野郎の精神はそのままだっつーの!

 照れてる場合か////サッサとシャワーだ、シャワ~。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・胸、結構あるな。

 

 シャワーを終えた俺は全身をタオルで拭き。隅々までよく確認した。

 

 縮んだ身長、今は恐らく165センチぐらい。

 手足は細くスラッとしていて色白のきめ細かい肌をしている。

 おぱーいサイズはココ以上クロ未満、B83ってところだな。ちょっと邪魔。

 割れていたはずの腹筋は、引き締まってくびれもしっかり、程よい若干プニモチ。

 お尻もいい形。こいつぁ美尻だ!

 なんだこの女?目力ヤバくない?エメラルドの如く輝く瞳は女体化しても健在だ。

 長いまつ毛は天然カールしている。

 顔面偏差値の高い愛バたちを見慣れた俺だけれども、これは美女と言ってもいいのでは?

 小顔で整った容姿。童顔らしく、まだギリギリ少女の幼さも残っているのがポイント高い。

 

「極めつけはこの髪だ」

 

 指通りの滑らか過ぎる、ツヤツヤ白銀のロングヘア、母さんそっくりの髪。

 異世界から帰還するときに発現した、限定バスカーモード状態の時もこんな髪色になった

 理由はなんとなく心当たりがあるけど、今はいいだろう。

 

 母さんに似ているのは、ちょっと嬉しかったりする。

 

「そうか。今の俺、母さん…それと姉さんに似てるんだ」 

 

 母さんと姉さんを、足して二で割った感じの美女が今の俺だ。

 いろんな意味で最強じゃない?

 

「ふむ。いい女だ」

 

 自画自賛だけどそう思った。

 おっと、全裸でいたら催してきましたよ。

 風呂で確認して『ひょぇ!』となったけど、最重要箇所をもう一度チェックしてみるか。

 失礼、ちょっとお花摘みに行って来るわ~。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない。

 

「ふぅぅ―……マジでない」(;'∀')

 

 ないんだよね。

 

「なんだこの喪失感は……」(゜o゜)

 

 あんなに一緒だったのに~

 20数年間ずっと仲良く歩んで来た相棒!愛棒?

 

「ううっ……何も言わずにお別れなんて…」(´;ω;`)

 

 愛バになんて説明しよう。

 最早、相棒は俺一人のものではないと言うのに……

 棒を無くした俺をあいつらは許してくれるのだろうか?

 

 AIBOOOOOOOOOOぉぉぉーーー!!

 

 女体化したという現状を真摯に受け止め。相棒を失った悲しみにも耐えた。

 もう何も怖くない!

 風邪ひくのは怖いので、サッサと服を着よう。部屋に戻りクローゼットとタンスを漁る。

 とりあえず、シャツとパンツを履いて……ありゃサイズが合わねぇ。

 これは、愛バの服を借りたほうがいいかも、頼んだら貸してくれるかな?

 

「女物の服か…実はちょっとだけ、興味あったりして……」

 

 (ハッ!殺気!?)

 

 殺気を感じた俺はその場から飛びのく。

 一瞬前まで自分が映っていた姿見が何かによって貫かれた。

 それは緑の結晶で作られた、見覚えのある触手…もとい、尻尾だった。

 

「シロ!?」

「……むぅ……避けた?…ふぁ」

 

 尻尾で攻撃してきたのは、寝ぼけ眼のシロだった。

 寝起きで覚醒しきっていない彼女は、目をこすりつつ小さな欠伸をする。

 俺が貸したTシャツはブカブカで、片方の肩が出るほどズレてしまっている。

 姿見から尻尾を引っこ抜くシロ、割れた鏡の破片がパラパラと床に散らばった。

 

 (この状況はマズい)

 

 たった今起きてきたであろうシロは、部屋で見慣れぬ女を発見し攻撃した。

 問答無用、最初から仕留める気満々の一撃。

 まだ頭の働いていないシロは、相手を問いただすこともなく、俺だと気付くこともなかった。

 とりあえず『殺っとくか』ぐらいの感覚でオルゴンテイルを放ったのだ。

 

「不審者……めんど…ねむ……目的…所属…言え……」

 

 追加のオルゴンテイルが鎌首をもたげる。

 6本に増えた尻尾はその先端を鋭利な刃物に変え、その全てを不審者(俺)へと向ける。

 後はシロの号令一つで狙った獲物を容赦なく引き裂くだろう。

 

「俺だよ俺!おれおれ俺だってば!」

「……詐欺?」

「目の前でオレオレ詐欺なんかするか」

「いいから、はよいえ……後、三秒だけ……待つ…3…2…1」

 

 無慈悲なシロがカウントダウンを開始する。

 このままではヤバい。目の前にいる女が俺だと何とか気付いてもらわなくては。

 愛バ相手に身分を証明する方法、最も確実で手っ取り早いものと言えば、これしかない。

 バスカーモード発動!俺の体から覇気粒子が放出される。

 室内は一瞬で大量の粒子光で埋め尽くされた。眩しい…俺は早朝に何やっているのだろう……

 女の体でどこまで覇気を扱えるか不安だったけど、バスカーモードは問題なく使えた。

 頼むシロ、気付いてくれ。

 

「0……ふぁ!?…これ……どうして?うぇ???」

「シロ!俺だよ。見た目こんな感じだけど、俺なんだ」

「マサキ……さん…」

「そうだ、お前の操者のアンドウマサキだ」

「そんな……では、私は…」

 

 何度か目を瞬かせたシロは驚愕の表情でプルプル震えだす。

 よかった、気付いてくれたみたい……

 

「ふんぬッ!」バチンっ!

「なにしてんの!?」

 

 いきなりシロがオルゴンテイルで自身の頬をビンタした。 

 何!自傷行為するほど混乱したの?

 

「こいつめッ!」バチンッ!

「また!おいやめろ、一体どうした?」

 

 2回目のビンタがヒットした。痛そう。

 まだ続ける気か?止めなくては、シロの綺麗な顔がおたふくになってしまう。

 シロに近づき、3発目をお見舞いしようとする尻尾を手で制して止める。

 

「止めないでください。寝ぼけていたとはいえ、操者に刃を向けた私には尻尾ビンタ100連でも生ぬるい!」

「シロは悪くない。俺が急に性転換したのがいけないんだ」

「ダイヤモンドが聞いてあきれますよ。今日から私はサトノ屑石(くずいし)に改名します」

「そこまで言わなくても。クズイシなんて呼びたくないぞ」

「さあ、マサキさん!クズな私奴をハードなお仕置きでメチャクチャにしてください」

 

 こいつ、俺にお仕置きされるのが目的じゃないよな?

 若干なにかを期待しているようなシロ、その両頬に手を添えてヒーリングをする。

 あーあ、赤くなっているじゃないか、結構本気でセルフビンタしていたようだ。

 

「あんま自分を責めるな。こうして俺は無事なんだし」

「うう……申し訳ありません」 

「朝起きて知らない女がいたら、誰だってビックリするよ。俺を攻撃したことは、不幸な事故だったてことで忘れようぜ。俺は全然気にしてない」

「でも……」

「いいな。この話は終わりだ」

「わかり……ました」

 

 罰せられなかったことに納得していない様子のシロ。すっかりしょげてしまった。

 元気づけてあげたい。こういう時は、こうだ!

 

「元気出せ、シロ」

「え、ええ!?」

 

 俺はシロを抱き寄せて、その顔を自分の胸に誘導した。

 突然の事態にシロは軽くパニックを起こす。

 

フオォォォ!マサキさんのおぱーいが私をぱふぱふしてますぅぅーーー!」

「しばらくこうしてやるから、元気出せ、な?」

 

 普段、愛バたちにしてもらっていることをやり返しただけ。

 こうされると気がでる!と俺は思っているんだけど、どうかな?

 

「あ~柔らけぇやわらけぇ!最高です……うぷぷぷぷぷ」(´▽`*)

「お前には負けるが、俺のおぱーいも中々のもんだろ?」

「ずっとここに挟まっていたい。マサキさんおぱーいは国宝級ですよ」スリスリ

「だったら、シロの胸は世界遺産だな」

 

 数分後、シロは元気を取り戻した。

 ヒーリングで頬の腫れも引き、肌ツヤも良くなっている。

 やはり、おぱーいは人類共通で元気の源なのだ。

 

「堪能しました。元気も勇気も100倍です」ツヤツヤ

「それはよかったな」

「延長をお願いしたいところですが、聞かせてください。一体全体何がどうなって、女性になってしまったのですか?」

「シャミ子の仕業だ。これも試練なんだとよ」

 

 夢空間であった出来事をシロに説明した。

 

「とんでもない試練を与えてきますね。さすがメジロの開祖……イカれてやがる」

「だよなー。説明もしてくれなかったし」

「‥‥‥それにしても、ふーむ。これは…」

「やっぱ変かな?」

「全然ッ!変じゃありません。女になってもマサキさんは最高です!下手なウマ娘より、よっぽど美しい!そして、メチャクチャ可愛いですよ!」

「バーカ、褒めすぎだってばよ///」

 

 お世辞だったとしても悪い気はしない。

 シロのような美少女に容姿を褒められたことは素直に嬉しい。

 

 シロと共に、割れてしまった姿見の破片を手早く片付けた。

 踏んだりしたら危ないからな。

 

「本当に申し訳ありませんでした。今日中に新しいものを取り寄せます」

「形あるものいずれ壊れる。気にすんな」

「それでですね、よければなんですが……」

 

 シロがモジモジしながら俺を見る。心なしか、その視線は俺の下半身に注がれている気がする。

 

「確認してみるかい?」

「是非に!」

「こういうのは同性にチェックしてもらうが一番だよな。頼めるか?」

「お任せください」

 

 俺はシャツを脱ぎ捨てた。シロが『うひょ』と歓喜の反応する。

 互いの裸は見慣れているので今更照れはない。しかも、今は同性なのだからな。

 先に一人で確認したけど、俺の体に変な所がないか客観的な意見が聞きたい。

 シロを交えて全身チェックの始まりだぁ!!

 

 ・・・・・しばらくお待ちください・・・・・

 

 全身をチェック中、シロは『うわぁ』『ほほう』とか終始ニヤニヤしていた。

 彼女曰く、俺の体は完璧な女になっているとのことだ。

 そして、下半身の重要部分についてだが・・・

 

「……ないよな」

「……ないですね」

 

 やっぱりか!じっくりたっぷり確認してもらったけど、ダメだったか!

 『いないいない、ばぁ!……なーんだやっぱりあるじゃんw』てな風にはならなかった。

 

「完全にロスト、見事なメス堕ちでございます」

「AIBO……寂しいぜ」

「マサキさんの()()にはもう会えないのでしょうか?」

「試練の期限は一週間だ。それが終われば元に戻るだろ」

 

 元に戻らなかったら・・・わかっているなシャミ子?

 鼻からうどんぐらいじゃすまさんぞ!

 

「それを聞いて安心しました。一週間程度ならば我々愛バも我慢できます」

「迷惑かけてすまんな」

「アル姉さん、ショック死しないといいですが」

「そんなことあるの!」

 

 相棒の消失にダメージを受けるのは俺だけじゃないのか。

 愛バたちのためにも、この試練を早く終わらせたいと思った。

 

 〇

 

 朝食には、最近ハマっているホットサンドを作って食べることにする。

 定番のハムチーズに夕飯の残りであるポテトサラダを挟んでドーンッ!

 シロと二人で『いただきます』してかぶりつく……(゚д゚)ウマー!!!

 

「ミートソースや餃子を挟んでもいけるらしい、今度試してみよう」

「サトノ製のホットサンドメーカー"挟んで熱いのぉ"が大活躍したようで何よりです」

「やっぱチーズは外せないよな~。うまし!」

「フフッ、マサキさん、チーズ垂れちゃってますよ」

「おおっと、すまん」

 

 俺のサンドから糸を引いたチーズを、シロが指で(すく)って自身の口に運ぶ。

 今の『ひょいパク』ですね。ご飯粒でやるヤツ――!

 こういうの自然にできるって嬉しいねえ。

 

 お腹を満たした後はシロが淹れてくれたコーヒーを飲む。

 

「今日はちょっと甘めに、コーヒー牛乳にしてみました」

「美味い……優しい甘さが身に染みる」

 

 ゆったりした朝の時間を愛バと過ごす、幸せだ。

 

「今日もいい一日になりそうだ」

「ですね……」

「さて、そろそろ準備をしないと、クロたちが来てしまう」

「マサキさん、出勤なさるおつもりですか!?」

「そうだけど、何か?」

「いや、何かって……」

 

 インフルエンザじゃあるまいし、女体化したぐらいで仕事を休んでられない。

 

「インフルエンザどころの事態じゃありませんけど……マサキさんが気にしないのなら、いいのでしょうか」

「今の体に合う服が無いんだよな。どうしたもんか」

「それでしたら!私のを使ってください。スカートでもブラジャーでも、お好きな物をどうぞ!」

「いいのか!助かるよ」

「フ、フフフフ、マサキさんが着用したヤツは洗わずに補完!若しくは自分で着てみるのもいいかも、うへ、うへへへへ」

「おーい。欲望が駄々()れやぞ」

 

 借りたヤツはちゃんと洗濯するか、クリーニングしてから返却しよう。

 シロは嬉々としてクローゼットのある部屋へ向かう、俺に貸す服を選んでくれるのだ。

 俺も続こうとしたところで・・・

 

 ピンポーン!

 

 インターホンが鳴った。

 

「はーい」

 

 クロたちが迎えに来てくれたのだと思い、いつものように玄関扉を開けた。

 

「おはよう。今日も時間通りだな」

「おはよ……え!???」

「誰?女の人……」

「嘘ッ!そんなことって……」

 

 外にいたのは思った通り、クロ、アル、ココの愛バたち三人だった。

 しかし、何やら様子がおかしい。

 こっちが挨拶したと言うのに、三人とも口を半開きにしたまま固まっている。

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔か?何をそんなに驚いているのだ・・・・・・・・あ゛!

 

 (しまったぁ!今の俺は女だった)

 

 愛バの気持ちになって考えてみよう。

 玄関を開けたのは俺ではなく見知らぬ人間の女。誰やねん?

 しかも、そいつは俺(マサキ)の私服であるシャツを堂々と着用している。何やねん?

 

 女だとぉ?➡浮気!?➡ゆ゛る゛さ゛ん゛!!➡死刑じゃ死刑!!➡に゛か゛さ゛ん゛!!

 

 という流れになりそうだな。うん。

 俺は未だにポカンとしている三人に会釈をして・・・そっと扉を閉めた。

 さあて、シロに服を用意してもらわなくっちゃなあ。

 

 ピンポーン!ピンポンピンポンピンポンピンポン…ドンッ!ドンドンドンドンドン

 ドンッ!バンバンバンバンバン……ガチャッ、ガチャガタガタガタガタメキメキバキ

 

「何閉めてるの!あなた誰?マサキとはどういう関係!!」

「開けろ!おどれ、どこの組のもんじゃーー!」

「シロさんはどちらに?ハッ!まさか昨夜は三人でお楽しみにぃ!?酷い!どうして私を呼んでくれなかったんですか!!」

 

 うわぁ怖い。

 開かないように必死でノブを押さえる俺、インターホンと扉そものもを連打し、ドアノブを乱暴にガチャガチャする愛バたち。

 このままでは、外で騒ぐ三人に扉をぶち破られるのも時間の問題だ。

 もうやめてー!玄関扉のライフはゼロよ。壊したらリューネに怒られるー。

 

「シロ―!シロー!」

 

 唯一、事情を理解している愛バに助けを求める。

 シロはすぐに飛んで来た。

 

「サーヴァントライダー、サトノダイヤモンド。召喚に応じ参上致しました」

「令呪を持って命ずる。外の三人を何とかして!」

「御意!フンッ、頭の悪いバーサーカーが三体、軽く蹴散らしてみせましょう」

 

 シロは俺と場所を交代し、チェーンロックをしたままの扉を少しだけ開けた。

 その隙間からクロ、アル、ココの不満気に怒った顔が覗く。

 

「シロ!いるんなら早く出て来てよ。後ろの女誰?」

「近所迷惑です。お帰り下さい」

「その女を庇うの?マサキとどういう関係、ねえ、聞いてるの?」

「ここはラーメン屋ではありません。お帰り下さい」

「何回やりました?朝まで楽しんだのですか?詳しく聞かせてください!」

「朝からドスケベはキツイ。お帰り下さい」

「「「いいから、マサキさんを出せぇぇーーー!!!」」」

うるせぇーー!帰れって言ってんだろボケがぁ!!

 

 軽く蹴散らすのではなかったのか?結局、口論になってるじゃん。

 それにしても、家のドアって結構頑丈なのね。対ウマ娘仕様の特注品だったりするのかしら?

 

「シロ、ここは誤魔化さずに本当のことを言おう」

「わかりました。鎮まれぃアホども、今こそ真実を話しましょう」

 

 チェーンロックを外して扉を開け放つ。

 三人がなだれ込んで来たが、シロが俺の前に仁王立ち庇ってくれる。

 コホンと咳払いしたシロは仰々しい身振り手振りで話し始める。

 

「こちらの女性は我らが操者マサキさんですよ」

「「「は?」」」

「どうも、女になったアンドウマサキです」

「「「ふざけんなーー!」」」

「嘘じゃないのに」

 

 火に油を注いでしまったようだ。

 やはり言葉だけではわかってもらえない。

 シロにしたように覇気で己の証を立ててみせようぞ!

 バスカーモード・レベル1発動!覇気粒子放出!

 因みに、レベル2になるとオルゴンアーツが使えるようになります。

 

 三人の愛バたちは目がテン!ちょっとカワイイ。

 シロは俺の隣で決め顔(`・ω・´)フフン

 

「姿形がちょっと変わったぐらいで見誤るとは、それでも愛バですか?情けない奴らです!」

 

 シロが自分の事を棚の上にダンクシュートした。お前が言うな。

 

「クロ、アル、ココ。俺だ、俺なんだよ」

「「「………………」」」( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)

 

 三人は口をパクパクさせている。脳が現状を受け止めるのに時間がかかっているのだろう。

 

「あーおれ女になっちゃったよー」棒読み

「ハッピーバースデー、女マサキさん」棒読み

 

 俺が棒読みで適当に愚痴ったら、シロが棒読みで誕生を祝わってくれた。

 チラリッ・・・いつもだったら他の三人もノッてくるか、ツッコミが入るはずなのに来ないな。

 そんなにショックだったのか?

 

「嘘……だよね。こんなのって……」

 

 両手で口元を押さえ、嫌々するように首を振るココ。

 

「わ、私のせいです。私がマサキさんの()()を酷使し過ぎたから…」○| ̄|_モウダメ

 

 床に手をついて絶望するアル。

 

「あばばばばばば!マサキさんが、マサキさんが…」

 

 尻もちをついたまま俺を指差すクロ。

 どうしたことか?三人のリアクションがおかしいぞ。

 

手術して大事な()()を取っちゃったよぉーー!うわああああああああ

 

 叫び声を上げるクロ。

 アホか!手術なんかしていない!アレも取ってないわ!!

 

 〇

 

 早とちりと大きな誤解があったので、俺が女になった経緯を早急に説明した。

 物分かりのいい三人はすぐに納得してくれた。

 

「なーんだぁ。焦って損しちゃったよ」

「シャナミア様、マサキさんになんてことを…次に会ったら絞め落とします」

「でも、よかったあ。マサキが手術していなくて、マジでよかった!」

 

 余裕を持って起きたつもりが、女体化から始まったゴタゴタで時間をかなり消費してしまった。

 朝の準備を手早くすませたいのだが、そうもいかなかった。

 

「こんなんでどうかな?」

「イイ!とってもカワイイよ」

「サイズピッタリじゃないですか、やだー」

「似合い過ぎです。ちょっとそこでポーズを決めて、そうそうそのまま」

「この辺はね、もうちょっと気崩すと更にお洒落だよ」

 

 適当に服を決めて出勤するつもりだった俺を、愛バたちが引き止めた。

 今の俺は女の子なのでいつも以上にちゃんとしないとダメ!なのだそうだ。

 女性の身だしなみは大変だと存じていたが、実際にやる側になると面倒この上ない。

 なので、申し訳ないが愛バたちに手伝ってもらった。

 彼女たちは最初からそのつもりだったらしく、大層嬉しそうに世話を焼いてくれるのであった。

 

 ブラッシングで髪の毛を整え、化粧水をペタペタ(メイクは俺が拒否した)

 服選びに関してはものすごーく揉めた。全員が自分の服を着てもらおうと、おススメして来たからだ。

 このまま着せ替え人形にされていては遅刻すると思ったので、服は俺が決めた。

 選んだのはトレセン学園の制服である。愛バたちは予備に何着か持っているでそれを借りた。

 サイズの関係からクロとアルのを使わせてもらう、残念ながらシロとココのはやや小さかった。

 紺色の軍服にも似たデザインはカッコ可愛くて俺もお気に入りだ。

 旧デザインの可愛いセーラー服タイプだと、少し抵抗があったかもしれない。

 下着の上はポーツタイプのものを借りた。下はさすがに抵抗があったので自前のボクサーパンツのままいくことにする。短いスカートから覗いてしまったらゴメン。

 後は、いつもの白いコートを羽織って完成だ。

 シュウからのプレゼントであるこのコートは、オールシーズン使える上に、各種防御加護が付与されている高性能ぷりなのだ。

 学園に着いたら白衣に着替えるけど、毎日大切に使わせてもらっている。

 

「ちょっと大きいが、まあ大丈夫だろ」

「そのダボっとした感じがイイ!素敵な着こなしですよ、マサキさん」

「ありがと。みんな準備オッケーみたいだな。よし!学園に行っくぞぉーーー!」

「「「「はーい」」」」

 

 鞄を肩にかけて、いざ出発!……靴も大きいな、帰りにどこかで買っておこう。

 こうして俺たちは登校するのであった。

 

 〇

 

 歩きなれた登校ルートを愛バたちと進む。

 目線の高さ、歩幅、呼吸、筋肉の動き、違うな……なんだか体がフワフワする。

 一週間の限定だけどこの体に早く馴染まないといけない。

 力の入れ具合を考えながら、一つ一つ試して行こう。

 

「後でタキオンにでも診てもらうか」

「それ大丈夫?あのマッドが女マサキさんを見たら、実験だのサンプルだの騒ぐんじゃ」

「その時はその時だ。あんなのでも腕は確かだからな」

「女体化した理由も考えておいた方がいいですね。試練だのと言っても理解されるとは思えません」

「だよなー」

 

 いつもの出勤兼登校風景だ。

 学園が近づくにつれ道行く人々も増えて来ましたよっと。

 そうすると、毎朝恒例のアレが起きるのだ。

 

 (今日も人々の視線が飛び交っておるわ!)

 

 羨望、憧憬、嫉妬、恋慕、服従、畏怖、色欲、いろいろな感情を秘めた視線を感じる。

 それが向かう先はもちろん、俺の可愛い愛バたちだ。

 ホント目立つからしょうがないよな。

 愛バたちを一目見たいがために、朝から待ち伏せする奴までいるらしい。

 そこまでするのか?と思うが、気持ちはわからんでもない。

 美しいもの、可愛いもの、カッコイイもの、そして強いものに人は誰しも惹きつけられるのだから。

 見てる見てる、ジロジロ見てますね~。

 

 ただ、今日は若干いつもと違う。

 俺に向けられる『もげろ!』とか『ウホッ!』みたいな負の視線を感じないのだ。

 これは女体化の恩恵であると言っていい。悪い事ばかりじゃないのね。

 今日から一週間は怨嗟とホモの目で見られるこがない。なんとも清々しい気分だ。

 気分がいいのでスキップしながら登校しちゃたりして。

 

 (それにしても、愛バたちの人気は凄いなぁ。みんなガン見してるもんなぁ)

 

 マサキがそんな風に思っている頃。

 愛バたちは操者の考えを正確に読み取っていた。マサキがわかりやすいとも言う。

 

「マサキさん、わかってない。わかってないよ!」

「いつも申し上げているのですが、一向にご理解下さらないのです」

 

 好意的な視線と感情は、なにも愛バ四人のみに向けられているのではない。

 普段のマサキ(男)にも大いに向いているのだ。

 自己評価が低いのか、ただのアホなのか、マサキ自身はそのことに気付いていない。

 

 トレセン学園の教官にして特級レベルの治療師資格を持つ。

 それだけでも好物件なのに、御三家との強いパイプを持っており、育ての親はあの天級騎神だ。

 放っておけと言う方が無理だろう。なおかつ……

 

「単独で超級騎神を圧倒する戦闘能力、操者としても非常に優秀でリンク時のデハブも凄まじい」

「無尽蔵に湧き出る強力無比な覇気、これがマジでヤバい」

「謙虚で人当たりが良くて面白い、ちょっとおバカなところもカワイイよ」

「全身を鍛えているし顔も好みです。匂いはずーっと嗅いでいられます」

 

 小声で話していた愛バたちは顔を見合わせる頷く。

 機嫌よくスキップしているマサキは気付いていない。

 

 (うちのマサキさん!超ハイスペック過ぎじゃーー!!)

 (わかっていたけど。羅列すると凄まじいなwww)

 

 そんな男に恋慕する輩が湧かないはずはない!

 マサキは知らないが、愛バたちはいつも周囲を牽制するのに大忙しである。

 自分たちが愛バだからと胡坐(あぐら)をかいている暇などない、隙あらばマサキをどうこうしたいと思う不届き者は今も湧いているのだから。

 

 そういうわけで、朝の登校時にはマサキ狙いの人たちもわんさかいる。

 もうホント、鬱陶しいぐらいにいる。全部蹴散らしてやりたい!

 

 だが、今日のマサキは女なのだ。

 

 男マサキの不在に、あからさまにキョロキョロしたり、ガッカリしている人々がいる。

 そうかと思えは……

 

 (女マサキさん。メッチャ見られとる!アレはもうガン見を超えて視姦の領域!?)

 (私たち目当ての人たちですら惹きつけています)

 (こうなることはわかっていた。だって、女マサキさんは……)

 

 愛バたちの心は一つになった。心の中で吠える!

 

 ((((超最高に綺麗で美人で可憐で激烈カワイイんだもーん!!))))

 

 愛バの贔屓目フィルターを取り払ったとしても絶対にそう思う。

 

 煌めく白銀の長い髪、白磁のような美しい肌、均整のとれたプロポーションに強い意志を感じさせる瞳。

 少女と大人のいいとこどりをした美貌には目が離せない。

 匂いは普段の5割増しでクラクラムラムラするし、覇気は男だった時のままの強大さを維持している。

 

 ホントにもう、むしゃぶりつきたくなるほどの魅力に溢れている。

 

 美男美女といわれる存在を何度も見てきた御三家出身の愛バたちですら、このレベルの美女には数えるほどしか会ったことがない。

 近しい例を挙げるとすれば……天級騎神たちがそれに該当する。

 

 天級美女になってしまった操者を守らねば!

 愛バたちは密かに決意を固めるのであった。

 

 (一週間、マサキさんの警護を強化したいと思います)

 (((異議なし!!!)))

 

 男であろと女であろうと、我々は愛しいあなたを守ります。

 ええ、何があっても絶対に・・・

 

 〇

 

 学園の校門にたどり着いた。

 

 学園内でも大人気の愛バたちは、ここでも注目の的である。

 クロとシロが『シャーッ!』と威嚇音を出しているのは何故?猫でもいたのだろうか。

 アルとココはいつも以上の笑顔を周囲に振りまいている。

 でも、彼女たちが顔を向けるとみんなコソコソと去って行くのは何故?眩しすぎたか。

 

「たづなさん。おはようございます」

「はい。おはようございます……て!そこのあなた、ちょっと待ちなさい」

「え、何か用でしょうか?」

 

 校門前で門番をしている姉さんに挨拶をして学園内・・・入れなかったよ。

 慌てた様子の姉さんが俺を呼び止めたからだ。はて?

 

「制服を着ているけど、生徒ではないようね。だったら」

「俺は教官ですよ。ちゃんとIDカードも所持しています、ほら」

「新任の教官だったの。どれどれ……これマサキのカードじゃない!なんであなたが持っているの!?」

「何でと言われても、俺がマサキですから」

「私の前でマサキを語るとはいい度胸ね。学園に侵入しようとした不審者め!警察に引き渡してやるわ」

「ああもう、またかよ」

 

 めんどくせー!いちいち俺を証明するのがめんどくせー!

 今日はずっとこんな感じになるのかと思ったら憂鬱だ。

 

 こんなところでバスカーするわけにはいかないので、俺は覇気を込めた指先を姉さんの額に当てる。

 

「何の真似……よ…?」

 

 姉さんが俺の覇気を感じ取り首を傾げる。同時に思念通話を開始。

 

 (姉さん俺です。目の前にいる女はあなたの弟、マサキです)

 

何ですってぇ―――ッッ!!

 

 驚いて白目になり叫ぶ姉さん。ちょっと何ですかぁ、怖いしうるさいですよ。

 ほら、みんなが何事かと注目しているじゃないか。

 黒目を取り戻した姉さんは、持ち前のパワーで俺を担ぎ上げると校門前から逃走した。

 学園の校舎方向へダッシュである。

 

「マサキさん!?」

「ひ、人さらいーーー!だれか警察、いや、軍隊呼んで―――!」

「あの小姑!本性表しおったわ!」

「いくら姉でも拉致するなんて許せません!」

 

 愛バたちが追いすがって来るが、もうすぐ始業の予鈴が鳴る時刻だ。

 

「心配するな。こっちは何とかするから教室に行ってろ」

「しかし!」

「大丈夫だから、遅刻はダメだから~早く行きなさーい」

「くっ、マサキさん、どうかご無事で」

 

 俺の命令に従い、愛バたちは教室へと走って行った。

 学生の本文は学びである。今日も勉学に修練に励んでくれたまえよ。

 

 そして、姉さんは人気のない校舎裏に俺を連れ込んだのだった。

 

「本当にマサキなの?」

「残念ながら」

「直接たしかめるわ」

「ご自由にどうぞ」

 

 覇気で俺がマサキだと認識しているはずだが、急な女体化が信じられないのだろう。

 こちらとしては、確かめたいならご随意にといった感じだ。

 姉さんは俺の周囲を回り、全身を凝視した後に目線を合わせて来た。

 綺麗だけど鋭い目が俺を射抜いている。

 猛獣は目を逸らした相手を弱者とみなし襲うという、ここで目を逸らしたらアカン。

 今度は匂いを嗅ぎ始めた。俺の首筋辺りを入念に嗅いでいく姉さん、なんか照れる。

 そして最後に・・・ベロンッ!??

 

「ひゃぁ!何しとんねん!」

 

 生暖かく湿り気を帯びた感触が頬を伝う。

 何を思ったのか、姉さんはいきなり俺の右頬を舐めたのだ。

 

この味は!………ウソをついていない『味』だわ

 

 この姉、ブチャラティのような真似を…急にやられるとビックリするからやめてほしい。

 

「マサキなのね!ああ、マサキ……こんなになって」

「気持ち悪いかな?急に女になるなんて、変だよね」

「そんなことないわ!弟が妹になったぐらいで、私の親愛は揺るがない」

「ね、姉さーん」

「マサキ!」

 

 校舎裏で抱き合う仲良し姉弟・・・今は姉妹か。

 俺が妹になっても、姉の愛は優しく包み込んでくれるのだ。

 

「妹…弟が妹に……可愛い可愛い妹……フフ、グフフフフ」

「姉さん?」

ブホォェ!!」( ´゚Д゚)・;'.、

「キャーー!姉さーん!」

 

 姉さんが吐血した!?なんで?

 

「ハアハア…心配ないわ、これは鼻血が口を伝って出ただけ…」

「確かに鼻血も出てる。いつも以上に出てる!」

 

 口から血を吐いたかと思ったら鼻血だったらしい、一安心していいのかコレ?

 姉さんは今も鼻からボタボタと異常な量の血を垂れ流し、地面を血だまりに変えている。

 治療師である俺の出番だぜい!そりゃ、ヒーリング~。

 

 数分後

 

「やれやれ、出血多量で死ぬところだった。助かったわマサキ、さすが私の妹ね!」

「注意してよね。姉が鼻血ブーして死んだとか笑えないから」

「あなたが可愛すぎるから悪いのよ」

「俺のせいっスか」

「そうよ~。お姉ちゃんを喜ばせるアンタが悪いの」

 

 姉さんに愛情たっぷりのハグをされる。妹化した俺のことをお気に召してくれたようだ。

 こんなところ誰かに見られたら・・・姉さんがそいつを消すだろう。

 

「サイさんたちにも知らせないとね。きっと驚くわ」

「えー、やめておいたほうが……」

「こんな面白イベント、知らせなかった怒られて泣かれるわよ?」

「確かに」

 

 母さんならブーブー文句言いそうだ。

 信じる信じないは別として、後でさり気なく連絡入れておこう。

 

「さあ、行くわよ。まずは理事長に説明しましょう」

「了解~」

 

 〇

 

「驚愕ッ!女神の試練で女体化とな」

「理解が早くて助かります」

 

 理事長室にて、姉さんと理事長のやよいに事の経緯を説明した。

 理事長は特に疑うでもなく、俺がマサキだと信じてくれた。ええ子やね。

 

「一週間か、教官としての業務に差し障りはないな?」

「はい。問題なくいけると思います」

「ならば承認ッ!女になろうとも、マサキ君は大事な学園の教官である」

「ありがとうございます」

 

 最悪、出勤停止を食らうかと思ったけど、普通に仕事ができるようで一安心だ。

 

「しかし、なんと説明したものか……」

「急に試練と言われても、納得する人のほうが少ない気がするわ」

「それなんですが、いつもの手でいこうと思います」

「ふむ、それしかあるまい。カバーストーリーは()()()()で周知させるように」

「「かしこまり!」」

 

 誠に判断の早い理事長である。

 お礼におぱーいを触らせてやったらちょっと喜んでいた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「という訳なんで、よろしく頼むわ」

「ホントさぁ、マサキといると飽きないというか、頭がおかしくなるというか」

「はぁ?女体化の先輩、ミオさんともあろうお方が随分な言いぐさですねえ!」

 

 あれから、理事長とたづなさんによる『マサキ女体化の件』が教職員一同に通達された。

 みんなは最初『何言ってんだコイツ?』みたいな顔をしていたが、俺が登場してあの手この手でマサキだと証明すると、ちょっとパニックになってなんやかんやで、今ようやく落ち着いたのだった。

 

 

 俺は教職員室の自席で事務処理をしながら、ミオたち仲の良い同僚と喋っていた。

 その間にも皆俺を気にしてチラチラしているが、愛バの操者として身に着けたスルースキルで凌ぐ。

 

「私はすっごくイイと思うわよ。今のマサキ、とっても可愛いわ」

「さすが、テュッティ先輩はわかってる。ヤンロンもそう思うよな?」

「いや、僕は別に……」

「何だよぉ!褒めるか(けな)すかしてくれよ~俺とお前の仲だろう~」

「ええい、まとわりつくな!や、やめろ////」

「照れてるね」

「照れているわ」

「お、ヤンロンは今の俺にムラムラしちゃう系?」

「するか!!」

 

 ヤンロンったら、俺が女になったから意識しちゃってるのね。少しぐらいなら触ってもいいのよ?

 あ、ごめんなさい調子に乗りました。この制服は借り物なの、燃やしちゃらめぇ!

 

「実際、凄い美女になったから見方が変わってる人も多いんじゃない?」

「そういや、さっき飲みに誘われたなあ。飲めないの知ってる癖に」

「あらあら、狙われちゃってるわ」

「そいつは中身がマサキだと理解しているのか?」

「どういう意味だよ!」

 

 外見がよければ何でもいいのか?そんな男なんてお断りよ!

 

「ねえねえ、ゲンちゃんは今のマサキをどう思う?」

「ん?いつも通りのマサキだと思うぞ」

「どこが!?」

「いつも通りの可愛いマサキだ」

「ゲンさん////」ポッ

「マサキ////」ポッ

「またこれか!男女で絵面は正しいけど、やっぱり気色悪いーーー!」

 

 ミオは俺とゲンさんの仲にすぐ嫉妬するんだから、困った奴だよ。

 

 〇

 

 以前、カノープスの連中に治療術を教える約束をしたのを覚えているだろうか?

 放課後とかに時間を作って、空き教室を借りて細々と教えていたのだが、これが他の生徒たちにバレてしまった。

 『不公平だ』『自分もやりたい』という声が上がったため、学園側は俺に教鞭をとらせることにした。

 サポートや飛び入り参加ではなく、俺が主体となって行う授業枠が作られたのである。

 

 ということで、俺はターボ、イクノ、ネイチャ、マチタンの四人以外にも授業をしなくてはならないのだが、そもそも必須ではない俺の授業を選択するようなもの好きなど少数だと甘く見ていた。

 授業希望者めっちゃ来た!10人ぐらいだと高を括っていたら、教室の全席が埋まって立ち見までいる始末・・・足が震えたわ。

 ネームドだけじゃなくて中高等部問わずいろんな生徒が来てるじゃない。

 あびゃーみんな期待しすぎ~俺が教えられることなんて、そんなにないのよ?

 『授業内容はマサキ君に一任しよう!』とは理事長のありがたいお言葉だ。

 ロリの素晴らしさについて熱弁してもいいのかしら?

 

 それが一月前ぐらいのこと、まだ未熟だけれど多少は授業するのにも慣れてきたかな、と思う。

 

「席について~。授業を始めるよ~」

 

 教室に入って生徒たちの顔を見る。今日も満員御礼だ。

 

 ざわ・・・ざわ・・・  ざわ・・・ざわ・・・

 

「えーっと、前回の続きから、テキストの38ページを」

 

 ざわ・・・ざわ・・・  ざわ・・・ざわ・・・

 

「はーい、ざわざわやめなさい。もう授業はじまってるよ~。質問があるなら挙手してくれ」

「ハイッ!」

「ツインターボさん。何かな?」

「お前、本当にマサキか???」

 

 ターボの質問に皆もウンウンと頷いている。

 

「みんな、その年でボケたか?どう見ても俺だろ、アンドウマサキだろ?」

「「「「どこがだよ!!!!」」」」

「えぇー」(´Д`)

 

 俺が女になったことは教職員に説明した後に、全校放送で伝えたはずだけど聞き逃したのかい。

 今だって俺がマサキ本人だとわかるように、粒子漏れを起こさない程度に覇気を出しているのだ。

 覇気に敏感な君たちが気付かない訳あるまい。

 

「昨日会った時は男でしたよね?それがなんで」

「今日から一週間は女の子の日だから////」(n*´ω`*n)

「意味不明な上にキショイ!?」

「さっきの放送、何かの冗談かと思ってました」

「バーロ―、冗談で女になるかよ。常識的に考えろ」

「なんでこっちが間違ってるみたいに言うかな」

「『マサキ教官が女装に目覚めた』と噂になっていましたが…ここまでのクオリティとは」

「女装ではない、女体化したのだ」

「何が女体化だ、証拠見せろ!どうせ胸パットが詰まってるんだろ?」

ほらよ」ボロン

 

 服を捲り上げブラを外し、堂々と"生おぱーい"を見せつけてやった。

 教室には俺も含めて女しかいないので大丈夫だろ。

 

 シーンと静まり返る生徒だち、そして・・・

 

「「「「う、うわあああああ!おぱーいだぁ――!!」」」( ゚Д゚)(≧▽≦)(゚Д゚;)(/ω\)

 

 教室どころか校舎を震わす程に響き渡る大絶叫、椅子から立ち上がり大興奮する生徒たち。

 うるさいぞー。

 お前ら全員、自前のヤツを毎日見てるくせにリアクション過剰なんだよ。

 

「何なら触って確かめてみるか?」

「「「「いいんですかっ!??」」」」ガタッ

「減るもんじゃないしな。誰か~俺の期間限定おぱーいにタッチしたい奴はおらんかね~」

「では、失礼して」

「あ、イクノ!ズルいぞ」

「乱暴にしないでよね!」

「善処します。ほう、これはなかなか……」

 

 眼鏡を指先でクイッと上げた、イクノディクタスが率先してパイタッチに挑戦した。

 『いい仕事してますね』と某鑑定士のような呟きをしつつ、おぱーいを調べるイクノ。

 やっていることは乳揉みだが、彼女は真剣に鑑定している様子だ。

 

「どうよ?」

「整形手術や変装術の痕跡なし……正真正銘、天然ものおぱーいですね」

「デジタルの隠形を見破った、イクノの鑑定眼が認めた…だと…」

「じゃあ、あれは」

「女体化というのは、冗談ではなく…」

 

 再び静まり返る生徒たち、ワナワナと震え出したかと思ったら・・・

 

「「「「う、うおぉぉぉぉ!ホンモノだぁ―ー!!」」」( ゚Д゚)(≧▽≦)(゚Д゚;)(/ω\)

 

 だからうるさいってば。

 "おっぱい鑑定人イクノさん"の協力もあって、俺の女体化は信じてもらえたようだ。

 生乳晒した甲斐があったぜ。

 

「やっと信じてくれたな……くそ、このブラどうやって着けるんだ?誰か手伝って!」

「はいはーい。じっとしてー」

 

 ブラジャーの装着に慣れない俺は助けを呼んだ。

 世話焼きのネイチャがヘルプに応えてくれる。

 

「これ買ったの?ちょっとサイズが合ってないよ。それに何で制服着てんの?」

「パンツ以外は全部愛バに借りた」

「なるほどね。はい、これで大丈夫」

「ありがと、助かったよ」

「あはははは!マサキのおぱーいバインバインだぞ」

「ターボさんや…人のおぱーいで許可なく遊ぶんじゃありません」

 

 ターボが俺の乳首めがけて16連射を行おうとしたところでストップをかけた。

 ホント自由すぎる奴である。

 

「無事ブラジャーを装備できたところで、授業を始めます」

「授業なんかできる雰囲気じゃないですよー」

「せめて、そうなった理由を聞かせてください!」

「「「「そうだそうだ!!」」」」

 

 なぜ俺が糾弾されねばならんのか?謝罪会見じゃないつーの。

 理由か、理由ね・・・誰もが納得する理由は準備済みだ。

 

「俺が女になってしまったのは……」

 

 神妙な顔で話始めた俺に生徒たちが『ゴクリッ』唾を飲みこむ。

 一体どのような理不尽でバカバカしい理由があったのか、皆が期待している。

 

タキオンに怪しいお薬を盛られたからだよ!!

 

「「「「それなら仕方ない!!」」」」

 

 満場一致で納得してくれた。

 いつもの手とは『タキオンに薬を盛られたことにする』というものだ。

 学園内限定であるが大抵の人からは同情と憐憫(れんびん)を集めることが可能である。

 今回の事態のように、俺や愛バに何か不都合があった場合『タキオンのせい』にすることで乗り切って来た。

 普段の行いが悪い、マッドサイエンティストにも利用価値があるのだよ。

 

「マサキさんは被害者だったのですね。心中お察しします」

「今度は性別を変える人体実験か、いつものことだが酷でぇな」

「あのマッド、教官を女にするとか何考えてんだ」

「狂気の天才アグネスタキオン…ヤバすぎんだろ……」

「だが、よくやったと褒めてやりたい気もする」

「うんうん。マサキ教官とっても美人だもんねー」

 

 案の定、タキオンの株が大暴落したが、一部の人たちからは指示されているようだ。

 さすがに少しだけ悪い気がしたので、後で何か差し入れでもしてやろうと思った。

 しなびたニンジンでいいかな?

 

「来週には薬の効果も切れるはずだから、みんなも気にしないように」

「なんでそんなに落ち着いてるの」

「慌ててもしょうがないからな」

「悟ってるなあ。でも、本当に綺麗です~」

「ウケるwwマジめちゃクソかわいいんだけどwww」

「ヤベェ、惚れた////」

「もうずっとコレでいいよ」

 

 女の俺は結構好評である。

 愛バたちの反応が良かったから少しは自信があったけどな。

 

「はい、今度こそ授業開始だ。みんな集中集中~」

「「「「はーい」」」」

 

 少々遅れたが授業開始。

 しばらくざわついていたが、授業が始まるとすぐにみんな集中してくれた。

 なんだかんだで優秀な生徒たちである。

 授業から得られる知識や技能をモノにしようとする本気度が伝わって来る。

 教える方にも自然と熱が入るぜ。

 

 ヒーリングとは覇気を使った特殊な治療方法である。

 その効力は使用者の適性に大きく左右される。

 重症患者を治療するのであれば、とんでもない才覚が必要である。

 けれども、ちょっとした打ち身や切り傷などの治療は適性のあるなし関係なく習得可能だ。

 ヒーリングについて学ぶことで覇気の操作技能が上達したり、別の派生スキルを習得する者のいる。

 何事も覚えておいて損はない。

 

「ここからは実技だ。ペアになって簡易ヒーリングから始めてくれ」

「「「「はい!」」」」

 

 座学で知識を叩きこんだ後は実技修練だ。

 二人一組になってヒーリングをかけ合うのだ。

 ケガをしていなくても『なんとなく気持ちいい感じがする』で、効力のあるなしを判断している。

 もし戦闘修練中に負傷者が出たのなら、こちらに回してもらいたいぐらいだが、そう都合よくいかない。

 

 実技に取り組む生徒たちを見り回り、時にアドバイスしたり褒めたりする。

 一人一人の個性が垣間見えて楽しい。

 

「できだぞ!」

「お、やるじゃないの。まさか、ターボにこんな才能があったとはな」

「ターボを甘く見ちゃダメってことだぞ」(`・∀・´)エッヘン!!

「そうだな。これからも精進するように」

「私はどうですか?」

「マチタンもイイ感じだ。もう鼻血ぐらいなら自力で治せるな」

「えへへ、そうですか。もっと褒めてください」

 

 いち早く俺に治療術を教わっていた、カノープス四名の習熟度は群を抜いている。

 

 ターボとマチタンの二人は特に優秀だ。

 燃費は度外視だが高速で一気に相手を回復できる、ターボ。

 ゆっくりだが確実に全身を余すところなく治療してしまう、マチタン。

 このまま鍛えれば強力な回復役として、どこに行っても重宝されることだろう。

 

「二人に遅れを取るとは、ネイチャさん面目丸つぶれですよ」

「私もです。ヒーリングとは思いのほか奥が深い」

「焦らずいこう。お前たちにも、それぞれの良さがあるからな」

 

 ネイチャは複数人をまとめて回復可能。

 一人ひとりの回復量はターボたちに劣るが、広く浅く大人数を癒せるアドバンテージは大きい。

 

 観察眼に優れたイクノは覇気の消費量を抑えながら、患部をピンポイントで治療できる。

 前線で戦闘をこなしつつ、負傷者の回復もこなすなんて器用な真似ができそうだ。

 

 それもこれも、現状に甘んじることなく真面目に研鑽を積めばの話だけどな。

 

「うわー、期待という名のプレッシャーがキツイ。でも、やるしかないか」(;´д`)トホホ

「私たちが大成することを信じてくれるのですね。ありがとうございます」

 

 カノープスの四人はやる気十分だ。

 まさか四人全員にヒーラー適性があるとは思わなかった。

 偶然じゃないな。リューネの奴は最初からわかっていて俺に頼んできたのだ。

 ホント、やり手の幼馴染である。

 

「教官!こっちもお願いします」

「あー上手くいかんし。マサキ、うちらもよろ~」

「はーいはいはい。順番だからお待ちなさい」

 

 適性の無い子でも、自己回復力を高める目的で俺の授業を受けてくれる生徒もいる。

 俺の教えが生徒の未来を切り開く一助となるなら、こんなに嬉しいことは無い。

 

 今日もイイ感じに授業ができたと思う。

 

 〇

 

 午後、トレセン学園カフェテリア

 

 愛バたちはクエストがあるため、学園外に行ってしまった。

 学園に残された俺は医務室で通常業務をこなした後、一服しようと食堂に訪れていた。

 ここはカフェメニューも充実していて居心地がいい。

 生徒も教官も入り浸っている者が結構いる。

 

 今の俺は一人ではない。

 

「ボンさん、何飲む?」

「"ニンジンジュース一番搾り"でお願いします」

「ライスはどうする?」

「えっと////じゃあ、ブルボンさんと同じものを」

「オッケー。俺はロイヤルビタージュースにしよう」

 

 御覧の通り、ボンさんとライスの二人が俺のお供をしてくれている。

 クエストに行く前、愛バがどうしてもと頼んだらしい。

 学園内に危険は無いはずだけど、一体何を警戒しているのだろう?

 

「あの、マサキ教官ですか?」

「そうだよ。マサキだよ~」

「本当に女になって……あ、握手してください!」

「はいはーい」

 

 レジカウンターの店員が握手を求めて来たので、快く応じる。

 今日はどこに行ってもこんな感じなので慣れてしまった。

 医務室の来訪者がしきに身体測定をススメてきたりもした……俺のだけど。

 

 注文した商品を受け取り、テーブル席を確保してくれている二人の下へ。

 何やらお供ではないネームドの姿も見えるが、たまたま休憩が被ったのだと思うことにする。

 ボンさんとライスの前にドリンクを置く。

 お供をしてくれる二人へのお礼を兼ねているので、当然俺の奢りだ。

 

「ありがとうございます」

「ありがとう////」

「気にせず飲んでくれ」

 

 『ゴルシちゃんの分忘れてない?』という雑音が聞こえた気がしたので、お冷をそっと隣のテーブルに置いた。『水かよ!うめぇー!』とバカが一人ではしゃいでいた。

 

 俺が飲んでいるロイヤルビタージュース、味が酷いのでウケは悪いと思いきや、疲労回復成分たっぷりなので意外にも人気なドリンクメニューである。

 うーん。クスハ汁に勝るとも劣らないエグみと苦味……愛バたちも苦手だと言っていた。

 ボンさんとライスはストローを使ってニンジンジュースをちゅーちゅーしている。カワイイ。

 

「マサキさん。お綺麗になられましたね」

「ありがとよ。お世辞でも嬉しいぜ」

「本心のなのですが」

 

 ボンさんったら、嬉しい事を言ってくれるじゃないの。

 

「マスターに話したら、腹を抱えて笑っていましたよ。今日中にビデオ通話をご希望のようですが?」

「了解了解。シュウにも今の俺を見てもらおう」

「よろしくお願いします」

 

 俺の姿を見る前に笑うとは失礼な奴だ。美女化した俺を前に恐れおののくがいいわ!

 母さんたちにも報告しなきゃだし、今夜にでもまとめてリモート会議しちゃいますか。

 

「……////」ポッ

「体温の上昇を確認。ライスさん、熱でもあるのですか?」

「どうしたライス?俺、やっぱり何か変?」

「変じゃないよ!マサキさんはとっても……様みたいで…」

 

 ライスが俺の顔を見てモジモジしている。

 確かに何か熱っぽいというか、ずっと照れているというか?

 ボンさんと二人で『?』マークを浮かべていると、意を決したライスが話しかけてきた。

 

「マサキさん。お、お願いがあるんだけど…いいかな?」

「いいぞ。おぱーいタッチぐらいなら今すぐにでも…」

「そうじゃなくて!」

 

 シュウにはお世話になっているし、その愛バの頼みならできうる限り叶えてやりたい。

 隣席から『金貸してくれよ』と聞こえた気がするが、俺が手を下すまでもなく、バカは他のネームドに鳩尾をどつかれていた。

 

「マサキさんのこと…お、お、お姉さまって呼んでいい?

「なん・・・だと・・・」

 

 お姉さま・・・俺が、お姉さまだと・・・!?

 ボンさんが『何言ってんだこいつ』という顔をしている。

 

「あ、ごめんなさい!急に変なことを言って、今の忘れてくれていいから…」

 

 自分の発言で場が固まったのを感じたライスは、慌てて今のをなかったことにしようとする。

 その隙は逃さん!俺は素早くライスの隣に移動した。

 

「フフッ、ライス、耳が曲がっていてよ」

「はぅ!……マサキお姉さま////」

 

 ライスの瞳を見つめながら耳を優しく撫でた。俺の祥子(さちこ)様ムーブ完璧だ!

 望んだ通りの展開にライスはウットリしている。

 俺とライスのやり取りを見ていたボンさんは、もの凄いジト目になっている。

 やだ『ボンさまが見てる』じゃない。

 

「おいでなさい」

「お姉さま~////」

「・・・・・・」(T_T)

 

 俺の胸に飛び込んでくるライスを受け止めて二人で『キャッハウフフ』しちゃう。

 俺は決して妹萌えではないのだが、これはこれで楽しい。

 ゆるゆりな空気が食堂を満たしていく。

 

「ズルいですよライスさん」

「ちょ!ブルボンさん。ライスとお姉さまの邪魔をしないでよ!」

「マサキさんは私の準マスターでもあります。独占禁止法違反です」

「ライスからスールの座を奪おうって言うんだね。やらせない絶対に!!」

「"あざといメカクレ米"を発見。迅速に処理します」

「はい、そこまで。二人とも仲良くしないとシュウが悲しむぞ」ギュ~

「「お、お姉さまぁ~」」

 

 ボンさんとライスを二人まとめて抱きしめてやると、すぐに大人しくなった。

 和解した二人は『お姉さまイイ!』と悦に浸っていた。

 二人とお喋りしながら過ごしていると、他のネームド連中も絡んで来る。

 

「ごめんマサキ、ちょーっと動かないで」

「デジタルいたのか」

 

 隣のテーブルから、スケッチブックにデッサンを描き込んでいるデジタルがいた。

 こいつ、隠形術で気配を消して近づくからビックリするんだよな。

 

「うん、いいモデルだよ。次回作のキャラデザに使わせてもらうね」

「好きにしろ‥‥‥お前、なんで俺にはいつもの『デュフフフフ』ってならないの?」

 

 可愛い子を見ると涎を垂らしてハアハアするのがデジタルではなかったのか?

 

「はぁ~」( ̄д ̄)

 

 『わかってねーなコイツ』みたいなため息つかれた。ムカつく。

 

「あのねぇ。私がハアハアするのはウマ娘ちゃんであって人間ではないのですよ」

「ほーん」

「覚えておくがいい!マサキがいくら美人で可愛くなっても、このデジタルが欲情することはないのだぁ!!」

「大口を叩いたな。もし俺に欲情したらどうする気だ?」

「その時は、いつぞやの奴隷契約を復活させてもいい。ウマ娘ちゃんたちに捧げる我が愛!見くびらないでもらおうか」

「その言葉、後悔させてやる。ゴルシ!」

「へいお待ち!ご注文の品だ」

 

 ゴルシの名を呼ぶと同時に奴からある物をパスされる。

 アホの気配を察知して売店まで走ってくれたことに感謝するぜ。

 

「マサキの髪色に合うヤツは珍しいからな、探すのに苦労した」

「サンキュ。後でブラッシングしてやるからな」

「それより、早速着けてみろよ」

「待て、何をして……そ、それは!?『ウマ娘なりきりセット』だとぉ!??」

 

 デジタルの言った通り。これはウマ娘なりきりセットという玩具だ。

 装着型のウマ耳と尻尾を人間が着けることで、ウマ娘になれるというコスプレアイテムである。

 学園内の売店や近隣のお店でも販売されていて、お土産にハロウィンに大活躍である。

 開発にはシラカワ重工が関わっており、ハイクラスのものだと脳波を感知して耳や尻尾が連動するヤツまであるのだとか。

 ゴルシが買って来てくれたものは、スイッチ式で耳と尻尾が動くリーズナブルなヤツだ。

 カチューシャの耳とスカートに引っ掛ける尻尾を装着して・・・・・・これでいいかな。

 

「どう?」

「おお!似合うじゃねえか、みんな見ろよ"ウマ娘マサキだぞ"www」

「「「「キャーー!カワイイーーー!」」」」(≧▽≦)(≧▽≦)(≧▽≦)(≧▽≦) 

「俺、大人気だな」

「・・・」

「デジタルはどう思うよ?」

「・・・」

「感想ぐらい言ったらどうだ、ん?」

 

 なりきりセットにより、白銀の毛並みを持つウマ娘となった俺。

 しかし、肝心のデジタルは無反応だ。

 あれ?これではダメだったかしら。

 

「デジタル、おい!」

「・・・」

「デジ・・・タル・・・」

「・・・」パタリ

「こいつ、心停止してやがる!?」

「・・・」白目

「「「「デジタル―――ッ!!!」」」

 

 デジタルは既に昇天していた。

 なりきりセットを装着したマサキ、その照れたような顔とウマ耳に尻尾・・・

 偽物とはいえ、息が止まる程の美しさに多大なショックを受けるデジタル。

 実際に止まったのは心臓だったわけだが。

 

「ヒーリングナッコゥ!!」

「ごぱぁっ!??」

 

 慌てず騒がず。

 心臓マッサージとヒーリングを兼ねた正拳突きをデジタルに叩き込む。

 

「げぼっ!…がほっ!わ、私は、ここは一体?」

「おかえり、今回はどこまで行った?」

「えーと、多分、川の中ほどまで」

 

 こいつ三途の川を毎回泳いで渡っているのか?

 向こう岸にたどり着いたらターンして帰って来そう。

 復活したデジタルはキラーンと目を輝かせ、俺の前にひざまづく。

 

「デュフ、デュフフフフフ」ハアハア

「ハアハアしてんじゃん」

「完敗であります。この卑しいデジタルは、これよりあなた様の忠実な(しもべ)となりましょう!」

「ならば命ずる。愛バが帰還するまで貴様も俺の供をいたせ」

「お安い御用です。デッサンは続けても?」

「好きにしろ。完成したら見せてね」

 

 ボンさんにライス、ゴルシやデジタル、他にも暇を持て余しているネームドたちがいてくれる。

 いい生徒であり、いい友人たちだ。俺は本当に恵まれていると心底思う。

 

「なぜだ…なぜ…元男にすら負ける」

「この声は!?」

「ぬりかべ!」

「スズカです」

 

 幽鬼のようなオーラをまとったスズカが恨みがましい目で俺を見ていた。 

 正確には俺のおぱーいを仇の如く睨みつけている。怖いよぉ。

 

「マサキサン。とてもビューティフルになりまシタね」

「女難の相が出ていましたが、こう来ましたか」

 

 タイキとフクキタルも一緒だった。

 この三人は学園に来る前からの旧知ということもあって仲がよろしい。

 

「タキオンさん。豊胸薬とか作れないかしら?」

「やめとけ。どうせ、おぱーいが七色に光って終わるだけだ」

「クソっ!どうせ私は性転換ロリコンにすら胸で負けるウマ娘ですよ!絶望の壁ですよ!」

「お、ぬりかべが絶望の壁にクラスチェンジしましたよ」

「空気抵抗が無くて羨ましいデス」

「こちとら空気抵抗がほしいんじゃボケぇ!」

「スズカは疲れているんだよ。ほら、こっちおいで~」

「やめろぉ!憎きおぱーいで私のメンタルが癒されると…でも……」

「気に病むことは無い、世の中には絶壁が好きな奴だって沢山いるさ」

「そんなクライマー……いるわけないじゃない」

「いるさ、スピードの向こう側にな」

「スピードの……向こう側……」( ˘ω˘)スヤァ

 

 暴走しかけた絶壁を宥め眠りについてもらった。

 俺のおぱーいにはリラックス効果があるらしいので、イチコロである。

 

「スピードの向こう側ってドコデス?」

「知らん!」キッパリ

「知らないんですかww」

 

 スズカが好きそうな言葉を適当に言ってみただけだ。

 『アクセルシンクロォォッ!!』てな具合にきっと何処かにあるよ。

 

 女になっても、俺の学園生活は変わらず賑やかでした。

 

 〇

 

「マサキさんが心配だ。早く戻ろう」

 

 無事クエストを終えた愛バたちは学園への帰還を急いでいた。

 今この瞬間にも女になったマサキさんが、いろんな連中にちょっかいをかけられているだろう。

 ウマ娘用のレーンを自動車を超えるスピードでひた走る。

 

「アル姉さん、大丈夫ですか?」

「何がです?私はこの通りピンピンしていますけど」

「いえ、マサキさんが急に女体化したことでショックを受けているのではと思って」

「ご心配には及びません。女性になってもマサキさんは素敵ですもの」

「さすがのアルでも、一週間ぐらい我慢できるよね」

「はい。ものすごーく辛いですけど我慢します。それに・・・」

「「「それに???」」」

「メジロの秘奥義には"女同士で楽しむ方法"も網羅済みですもの。フフフフ」

「「「うわぁ」」」(´Д`)(´Д`)(´Д`)

「待っていてくださいね、マサキさん。私が女の悦びを教えて差し上げます♪」(´▽`)

「いや~きついっスわ」

「アル姉、涎垂れてる…‥」

「脳内がピンク色にただれているんだよなあ」

 

 このドスケベからもマサキを守ろうと、クロ、シロ、ココの三人は思うのであった。

 夜にアルとマサキを二人っきりにしないよう、一週間は二人体制でマサキを担当すると決まったのである。

 

「つまり!三人で楽しみたいのですね!?まったく///みんな性欲旺盛なんですから////」

「「「お前が言うな!!」」」(゚Д゚;)( ̄д ̄)(゚Д゚)ノ

 



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小さき者

 俺が女になって三日が経過した。

 周囲の理解もあってか特に何事もなく日常生活を送ることができている。

 

 唯一変わったことは、俺の部屋に寝泊りする愛バが複数人体制になったことだ。

 ルクスに対する備えだと言われてしまえば断るべくもない。

 彼女たちはいつだって俺を思って行動してくれる。

 俺はそれを信じてただ一言『よしなに』と指示するのみ。ディアナ様好き。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 今日は仕事帰りに寄り道しちゃいまーす。

 

 愛バたちは渋っていたが、上手く説得して何とか一人の時間を確保しての寄り道である。

 向かった先は"喫茶ヴァルシオーネ"またしても、待ち合わせ場所に利用させてもらったのだ。

 リューネは不在らしく、顔見知りの店員さんに『待ち合わせ』だと告げて席に案内してもらう。

 目的の人物はすぐに見つかった。

 

 ウェーブのかかった長髪の男がボックス席に座っている。イケメンオーラが半端ない。 

 女性定員や店内のお客さんがヒソヒソしがなら男の様子を伺っているのも当然だ。

 そりゃあ気になるよねー。何も知らなかったら俺だって『ウホッ』していたはずだもん。

 カジュアルなブランドスーツで身を包み、コーヒーを飲んでいる姿は、ファッション雑誌の一コマを切り抜いてきたかのようだった。

 

 その男の名は"フェイルロード・グラン・ビルセイア"

 

 先日、マッスルアリーナの企業展示会で偶然に再会した、高校生時代の生徒会長である。

 現在は治安局の次長というお偉い役職に就いているらしく、相も変らぬエリートぶりに感心しきりだ。

 そんな彼が俺と直に会って話がしたいと、オトナシさんを経由してコンタクトを取ってきた。

 快諾した俺は待ち合わせ場所にヴァルシオーネを指定、そして今日、会う約束をしていたのだった。

 

「お待たせ」

「!?・・・???」

 

 俺が声をかけるとフェイルは一瞬ビックリしような表情を浮かべた後、眉間に皺を寄せる。

 わかるぞ『お前誰やねん?』と言いたい気持ちはよーくわかる。

 自分がマサキだと説明するより先に、フェイルのほうが口を開いた。

 

「どこかでお会いしただろうか?失礼だが、私には心当たりがない」

「この間、偶然会ったばかりだな」

 

 思案顔をするフェイル。そして、何かを察したようだ。

 俺を見る視線が若干冷たくなったように感じる。

 

「今は大事な友人と待ち合わせをしている。すまないが、君とお茶をする時間はないよ」

「逆ナンじゃねーよ」

 

 フェイルのこの反応、普段から女性のお誘いを断っているとみた。

 モテモテイケメンめ!嫉妬マサキが非モテに代わって成敗してやろうか?と、数年前の俺なら思っていたことだろう。

 しかし、今の俺には愛バたちがいるんだぁ。(∀`*ゞ)エヘヘ

 

「君のように可憐な人からのお誘い、本来ならば二つ返事にて対応して然るべき。だが、今はマサキを優先せねば……いや待て、ちょっとぐらいならマサキも許してくれるか?」 

 

 ちょっと揺れてるじゃねーかww

 

「俺がそのマサキだよ。フェイル生徒会長殿」

「何を言って……嘘だろ!?」

「ホントよホント~」

 

 ここ最近で見飽きたリアクションありがとうございます!

 生徒会長と発言したことで、俺がマサキだと理解してくれたようだ。

 俺は優雅に微笑んでフェイルの対面席に座る。

 店員さんを呼んで、本日のおすすめブレンドを注文した。

 

「一体何があった?女装に目覚めるほどショックな出来事でもあったのかい?」

「違う違う、これは女装じゃないよ」

「では……手術したのか!?もうアレは取ってしまったというのか!」

「はい、そういう反応も想定済みでーす」

 

 ドン引きしているフェイルに女になった経緯を説明した。

 もちろんカバーストーリーの方をである。

 

「生徒の作った薬で女に……トレセンは聞きしに勝る魔境のようだな」

「一部癖の強い奴らはいるけど、それなりに楽しくやってるよ」

「だろうな。君の顔を見ていれば、充実した毎日を送っていることがよくわかるよ」

 

 あらら、顔に出ていたか。

 フェイルの言う通りだ。愛バに姉さん他にもたくさんの友人たちに恵まれて、教官として仕事ができる日々はとても充実しているのだ。

 

「そっちはどう?相変わらずエリート街道まっしぐらみたいだけど」

「『なすべきことをなす』その信念で行動していたら自然と出世していた、というのはどうだろう?」

「どうと言われましても」

 

 政府から治安局次長というポストに任命されるという偉業の達成。

 それすらもフェイルのとってはごく当たり前のことだと言う。

  

「まあ、実家のコネはフル活用させてもらったがね」

 

 冗談とも本気とも思える言動をして、いたずらっぽく笑うフェイル。

 彼はいわゆる財閥の出身でいろんな所に顔が利くのだ。

 だが俺は、フェイルが実家頼りの男だとは思わない。そんなコネを使わなくても自力で上の役職をつかみ取ることができる男だ。

 その片鱗は学生時代に散々見せつけてもらった。

 自身の高スペックを披露しつつ、それを嫌味に感じさせない男である。

 う~ん、さ・わ・や・か!

 

「治安局ってのは国防の要だろ?なんかすげぇよな」

「重責に胃をキリキリさせながら毎日頑張っているよ。週一の猫カフェで癒されていなければ、とっくの昔に倒れている」

「ストレス溜まっているみたいだな」

「頭の固い上役と高級クラブに行く暇があるなら、猫まみれの猫三昧でいたい」

「筋金入りの猫好きかよ」

「この間行った店ではテンションが上がってしまってね。全身に"ちゅ~る"を塗りたくったら出禁になってしまったよ」

「頭のおかしい猫好きだよww」

 

 みんなの憧れだった生徒会長は変態チックな愛猫家でした。

 『次はマタタビと煮干し粉末・・・』とボソボソ呟いていたので反省はしていないらしい。

 お仕事のストレスは出禁にならない程度に解消してほしいものだ。

 

「やはり、似ているな…」

「ん?ああ、この髪の毛ね。ちょっとだけ母さんに似ているよな」

「まるで親子の絆が顕在化したようだ。血の繋がりなど、君と先生にとっては些事と言う事か」

「その様子だと、フェイルはまだ母さんのファンなのか?」

「私にとってサイバスターは永遠の憧れだ。天級グッズ欲しさに、ふるさと納税もラ・ギアスに納めている!天級ファンクラブにそれなりの額を寄付したのも……」

 

 あー始まってしまった。こうなると長いんだよな。

 フェイルってば学生の時から母さんの大大大ファンみたいだったけど、その熱は未だ冷めていないらしい。

 俺はそういう人物をたくさん見て来たから、今更驚かないけど・・・

 知り合いの爽やかイケメンが、推しのアイドルを早口で語るオタクのように豹変する様は、結構衝撃的で引く。

 

 ふるさと納税の返礼品、天級グッズなの!?村長手広くやりすぎですよ。

 母さんたちのデフォルメぬいぐるみとかだろうか・・・やべ、ちょっと欲しい。

 おいおいwwファンクラブの運営をしているのはシュウだぞwww

 集めた金はシュウの天才的な資産運用によって何倍にもなり、これがシラカワ重工を立ち上げる際の元銭になったのを知っているのだろうか?

 最近は、ネオさんがウマチューブの広告収入で荒稼ぎしているとも聞いている。

 アカウント名"闇属性ママさん"のプラモデル作成実況、すげー人気なんだよなぁ。

 さすが、俺の尊敬するシラカワ親子・・・激ヤバだぜ。

 

 フェイルは母さんのことを『先生』と呼ぶ。

 何でも、母さんが日本各地を放浪していた時期、数ヶ月間住み込みで家庭教師の真似事をしたことがあるのだとか。

 その時の教え子がフェイルだったと母さんの口から聞いた。

 俺の知らない母さんを知っているフェイルにちょっとジェラシー。

 

 母さんの偉大さを長々と語っていたフェイルは、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。

 

「おほん……マサキ、その、先生はお元気だろうか?」

「元気だぞ、気になるなら連絡してみろよ。今ならビデオ通話も対応してくれるはず」

「先生とビデオ通話など恐れ多い!私にできるのは、匿名で先生を讃えるポエムを手紙にしたためて郵送することぐらい」

「それ、多分届いてないぞ」

「なん・・・だと・・・」

 

 天級騎神たちに居心地良く暮らしてもらうため、村人一丸となって協力するのがラ・ギアス鉄の掟だ。

 ストーカーっぽい連中への対策もお手のものである。

 差出人不明の郵便物は中身を検閲され、母さんたちも下へ届くことはない。

 

「ポエムを送るのはやめとけ、『やだ気持ち悪い』って母さん引いちゃうだろ」

「そ、そうか……ならば、マサキから口頭で伝えて…」

「断る」( ゚Д゚)

「無念だ」(´・ω・`)

 

 母親を讃えるポエムを朗読しろと?絶対に嫌なのででキッパリ断っておく。

 

 フェイルの母さん信者っぷりにも困ったもんだ。

 本人曰く"風の貴公子"という異名も母さんにあやかって『風の』部分を後付けしたらしい。

 そんなに思っているのなら、俺が母さんに頼んで電話なり直接会うなりしてもらえば・・・

 

「遠慮しておこう。今は先生の前に立つ時期ではないと思う」

「よくわからんけど、そういうもんか?」

「そういうものさ。先生にもマサキにも、もっと立派になった姿を見てほしいからね」

 

 おいおい、この男ってば、まだまだ出世する気ですよ。

 今でも十分立派だと思うけど、フェイル的には力不足を感じているのか、ストイックなイケメンである。

 

 母さんの話も一段落してからは、近況報告に続き高校時代の思い出話に花を咲かせる。

 数年前なのに懐かしい・・・俺たちは学生に戻った気分で語り合ったのだ。

 

「私の生徒会長就任演説を『ウンコに行きたい』という理由で中断させたのもマサキだったなww」

「その節は大変申し訳ございませんでした!」

「謝らなくていい。あの時、後輩の女子生徒が体調不良を訴えていたのだろう。君は、彼女を保健室に連れて行くために、あのような行動をしたまでだ」

 

 気付かれていたか、シュウには『もっと他にやりようもあっただろ』とたしなめられたっけ。

 俺の『ウンコに行きたい』発言で演説は中断して休憩を挟むことになり、フェイルの信奉者から恨みを買って何か大変だった思い出だ。

 後輩を保健室に届けた後、本当にトイレに行ったら予想以上の大物(ウンコ)とバトルすることになったから嘘は言ってないのにー。

 

「汚名を被ってでも他者を助けようとする心意気、尊敬に値する」

「ありがと」

「だが、時と場合をよく考えて行動したまえ。マサキの行動で汚名を被るのは、最早一人ではないのだから」

「肝に銘じておくよ」

 

 耳が痛い話だ。俺の評判が落ちれば家族や愛バたちのみならず、学園のみんなにも迷惑がかかってしまう。

 しっかりしないといけないな。女になってはしゃいでいる場合じゃねぇ!

 

 その後も、高校生だった俺の恥ずかしいエピソードを話題に上げてからかって来るフェイルであった。

 お前、人の黒歴史をほじくり返して楽しいか?楽しんでますね。やーめーろーよー。

 

 存分に語り合った俺たちは、すっかり学生時代の仲に戻っていた。

 数年ぶりの再会が嘘のように、今は気心知れた友人関係の復活である。

 おかわりのコーヒーを飲み干したしたところで、不意に会話が途切れた。

 そろそろ頃合いか、切り出すタイミングはここだろうな。

 

「で、思い出話をするためだけに呼び出したんじゃないだろ?」

「マサキと旧交を温めたかったのは本心だよ」

「嬉しいけど時間は有限だ。仕事モードになってくれ」

「了解した。ここからは治安局次長として話させてもらう」

 

 フェイルは姿勢を正して俺を見据える。空気が真剣なものに変わったのを感じる。

 仕事モードになったフェイルは、スーツの内ポケットから一枚の写真を取り出して俺に見せる。

 

「今、治安局全体がこの人物の行方を追っている。それこそ、血眼になってな」

「ルクス!」

 

 写真にはムカつく仮面を着けたあんちくしょう!因縁の相手ルクスを撮影したものであった。

 

「何を隠そう、私はルクス対策本部の責任者を拝命している。しかし、これといって成果を上げられていないのが現状だ。そこで君だよ、マサキ」

 

 ビシッと指を突き付けるフェイル。

 なるほど、俺とルクスの関係も調査済みってことね。

 愛バたちの予想通りの展開になってきた!

 

「君はルクスと接触し交戦した数少ない人間だ」

「逃げられた上に、異世界送りにされたけどな!」

「奴は君に執着していると我々は考えている。だから……」

「俺に囮をやれってか?」

「単刀直入に言うとその通りだ。今後、ルクスは君の前に現れる可能性が高い。手始めに治安局から腕利きを数名、学園内に配備することにした。この話は既に学園側の了承を得ている」

「根回し上手さんめ。言っとくが、生半可なレベルじゃルクスの相手はできないぞ」

「わかっている。上層部はともかく、私個人はマサキとルクスの戦いを邪魔するつもりはない。ただ、今の内に君と協力体制を築いておきたいのだよ。何かあれば我々治安局を頼ってくれて構わない」

「その代わり、ルクスについて情報が入ったら教えろってこと?」

「奴は複数の犯罪組織と関わりがある。治安局はルクスの正体を突き止めて、芋づる式に他の手柄も立てようと躍起になっているんだ。御三家よりも先にね……」

 

 疲れたように、やれやれと首を振るフェイル。

 しょうもない権力争いにルクスの首級を使う気とか、随分と余裕があるんだな。

 そんなことしている間にも奴が暗躍しているってのに、本当にやれやれだぜ。

 

「そっちからも情報はくれるんだろうな?」

「もちろんだ。治安局は君たちを利用する。そして君たちも我々を利用して、ルクスを退治すればいい」

「他には?」

「見事勝利した暁には、奴の身柄を引き渡してもらいたい」

「死体が残るかわかんねえぞ」

「その時は、治安局の協力で勝利したと、大々的に宣伝してくれたら満足だよ」

「ほう、それでまた出世するのですな」

「目の上のたんこぶが消えて君も万々歳だろ。憂いなく愛バとイチャつけるぞ」

「「フフ、フフフフフフ・・・・・・」」

 

 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる俺とフェイル。二人の利害が一致した瞬間だった。

 

「交渉成立だ」

 

 俺はフェイルに右手を差し出す。協力体制を取ることを約束する握手だ。

 フェイルは一瞬躊躇したが、すぐに俺の意図を察して握手に応える。

 両手をガッチリ握ってブンブンする珍しい本気握手だった。

 

 出世のためだろうが何だろうが、利用してくれて構わない。それでルクスを倒せるならお安い御用だ。

 

「手柄が欲しいのは否定しない。だが、それ以上に、私はルクスが恐ろしい」

 

 フェイルは少し顔を青ざめさせながら言う。

 

「感じるのだよ。奴の存在を許せば国どころか世界の存亡すら危ういと、そう思えてならない」

「いい感性だ。そいつは正しい」

「勝手な事を言っているのは百も承知しているが、どうか頼む。ルクスの野望を止めてくれ」

「ああ、任せろ」

 

 この日、俺は治安局という頼もしい組織を仲間にできたのであった。

 

「それでは、またいつでも連絡してくれ」

「ほいほい、そっちもルクスの情報よろしくな。母さんのことは本人に聞いてくれや」

「先生に会う覚悟が決まったらな。その時は君にも相談しよう」

「じゃあまたな~」

「ああ、また」

 

 話を終えたフェイルは颯爽と去っていった。

 ヴァルシオーネで注文したコーヒー代は奢ってもらっちゃった。

 何も言わず伝票をレジに持って行き、財布を出そうとする俺を笑顔で制するイケメーン。

 できる男は会計もスマートである。

 さてさて、スーパーに寄ってから帰宅しますか。

 

 治安局と協力体制をとることにしたと、愛バたちに報告した。

 フェイルに会うと告げたとき、恐らくそういう話をしてくるだろうと賢い愛バたちは見抜いており、俺と事前に相談をしていたのであった。

 治安局と手を結ぶことは、俺たちの中で決定事項だったのである。

 これでルクス包囲網も一層強化された。この勢いで追い詰められたらいいと思う。

 

 〇

 

 女体化生活三日目の夜

 

 まだ試練は終わっていないというのに夢空間に連れ込まれた。なんでや?

 

「来たわね」

「おー、見事な着地だ」パチパチパチ

 

 夢空間の空中に現れた俺は慌てず騒がず、三回転して地面にシュタッと着地する。

 いつもならシャミ子が出迎えてくれるのだが、今日はカティアとテニアの二人だった。

 

「あれシャミ子は?」

「あー、それが今、ちょーっとご機嫌斜めでさあ」

「不貞腐れてやけ食いしてるわ。メルアがなだめているけれど、あの様子じゃ、もうしばらくかかりそうね」

 

 あのドラゴン女神、感情の起伏が激しいから些細な事で不機嫌になるんだよな。

 こっちは女にされたことで、一言物申してやろうと思っていたのに。

 一体何なのよ?

 

「本当に女になってるwwしかも超美人www」

「こうして見ると凄いわね。私が男なら放っておかないわww」

「笑い事じゃないぜ。説明とか大変だったんだからね!」

 

 女神たちは現実世界の様子をある程度理解している。

 俺の神核を通して外界の情報が流れて来るらしく、それを受信しているのだそうだ。

 つまり、俺が女になったことも把握済み。そりゃあ首謀者なんだから知ってて当然だよな。

 

 やれやれ、不機嫌らしいシャミ子に会いに行ってやるとするか。

 

「そう急ぐこともないんじゃない。シャナミアはメルアが見てくれているし、少し遊ぼうよ」

 

 テニアがそんなことを言ってきた。

 それは修練のお誘いと考えてよろしいかな?

 

「シャナミアに任せっきりなのも不安だし、私にも修練のお手伝いさせてよ」

「せっかく来たんだもの、付き合ってくれるわよね」

 

 俺が断ると思っていないのか、二人の女神は既にやる気だ。

 テニアは指先に力を集中させ覇気弾の準備を、カティアは拳を握り隙の無い構えをとった。

 射撃戦と格闘戦、シロとクロに似通った戦闘スタイル。相手にとって不足なし!

 シャミ子との修練がキツ過ぎて先延ばしにしていたけど、俺も二人と修練したかったんだよ。

 

「望むところだ。二人ともよろしくお願いします!」

「そうこなくっちゃ!楽しませてよ~」

「くれぐれも修練だってことを忘れないように。でも、私も少しだけワクワクしているわ」

 

 シャミ子の所へは修練の後に顔を出せばいいか。

 俺はカティアとメルアの女神コンビを相手に模擬戦を開始するのであった。

 

「いくぜっ!」

「「来なさい!」」

 

 ねえちょっと待って、まさか二対一なの!?

 だ、大丈夫だ。二人ともシャミ子よりは常識のある女神様…て、手加減してくれるよね?

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・ボコボコにされた。

 

 女神コンビの絶妙なコンビネーションにより、完膚なきまでにボコられた。

 俺との模擬戦で熱くなったクロシロより容赦ない攻めには恐怖を感じた。

 シャミ子……あれでもちゃんと手加減してくれていたんだなぁ。

 

「何だよあれ、曲がるレーザーとかアリかよ。しかも、追いかけてくるし…」

「ねえねえ!どうだった?アレこそ、私自慢の特殊覇気弾"オルゴノンレーザー"だよ」

 

 うつ伏せで倒れ伏している俺にテニアが感想を聞いて来る。なんでそんなに元気なの?

 どうだった?じゃねぇよ。

 撃ち過ぎなんだよ避けきれねぇよ痛てぇんだよ!レーザーで包囲すんなよ!

 

「テニアには困ったものね。これは修練だって言っているのに」

「楽しそうに俺をリンチした人が何か言ってる……」

 

 俺をヒーリングしながらカティアが『やれやれ』している。

 自分にレーザーが当たるのも構わず、嬉々として俺をタコ殴りにした黒髪の女神様である。

 クールに見えてその実情は狂戦士……そういうところ、うちのクロに似てますね。

 殴る蹴るのラッシュが早すぎて全く対処できんかった。

 

「殴り応えがあったわ」

「言いたいことはそれだけか?」

「蹴り応えもあったわ」

「もういい!二人とも何なのよ!俺をサンドバックにして(もてあそ)んだのね、いじめカッコ悪い!」

「あーあー、カティアのせいでマサキが()ねちゃったw」

「私のせい?ごめんなさい、そんなつもりはなかったのよ」

「謝罪がほしいのではない!膝枕をしてほしいのだ!」

「どさくさに紛れてなんか要求してきたww」

「別にいいわよ、おいで」

「わーい!」(*´▽`*)

「トーヤもこれぐらいスケベだったら、私たち苦労しなかったのかな」

 

 ダメ元で言ってみたら『おいで』されたのでカティアの膝をありがたく枕にする。

 おほっ!クールビューティーの膝枕最高やん。

 

「ヒーリングを続行しながら頭を撫でてくれると尚良し、そうそう、そんな感じでよろ~」

「注文の多い甘えん坊ね」クスクス

「二人だけ楽しそうなのズルい。ねえねえ、こっちの膝も空いてるよ~」

「やったー!」(*´▽`*)

 

 ついでにテニアにも膝枕してもらえた。

 うむ、健康的な元気娘の膝枕もいい仕事してますなあ。

 

 二人のヒーリングと膝枕を交互に堪能してしまったぜ。

 一緒に修練してスキンシップをすることで、カティアとテニアの二人と距離が縮まった気がして嬉しい。

 ボコられた甲斐があったってもんだ。

 

 膝枕いいよね。リアルに戻ったら愛バにもお願いしてみようと思った。

 

 〇

 

 女神二人のおかげで心身ともに回復した俺は、シャミ子に会うため女神ハウスに向かうことにした。

 カティアとテニアは修練中に壊した空間の修復作業をしてから戻るんだってさ。

 

「おそらくシャナミアが無理難題を言い出すはずよ。何とか挫けずに頑張ってほしいわ」

「付き合いきれないと思ったら、メルアに頼んでリアルに戻っちゃえばいいよ」

「二人ともありがとう。行って来るよ」

 

 心配してくれる二人にお礼を言って、いざ女神ハウスへ・・・・・・はい到着!

 

「ごめんください、お邪魔します!シャミ子、メルア、いるか~?マサキが来ましたよっと」

 

 勝手知ったる女神の家、俺は遠慮なく住居侵入を試みた。

 奥から若干疲れた様子のメルアが出て来て迎えてくれる。

 

「いらっしゃい、マサキさん。うわ、ホントに女性だ……似合ってますよ」

「どうも、勝手にお邪魔してるよ。メルアは何だか疲れてる?」

「シャナミア様がウザ絡みをして来てめんどくさいんですよね。申し訳ないのですが、代わってくれませんか?」

「いいよ。シャミ子の相手は俺に任せな」

「ありがとうございます。すぐにお茶をお持ちしますね」

 

 ヨロヨロとキッチンへ向かうメルア、その姿を見送ってからシャミ子がいるであろう居間へ行く。

 目当ての女は思った通りそこにいた。

 

「よ!シャミ子」

「・・・・」( ー̀ н ー́ )ムスッ

 

 不機嫌オーラを隠そうともしていないシャミ子は、ちゃぶ台の上に顎(あご)を乗せてブー垂れている。

 呼びかけに返事をすることなく、チラッと視線だを向け、頬を膨らませているシャミ子。

 女体化した俺を見てもノーコメントだと!?そっちが仕掛けておいてそりゃないぜ。

 本当に機嫌が悪いらしい。とりあえず奴の対面に腰を下ろして会話をする。

 

「どうした?えらく不機嫌だな」

「……マサキのせいです…」

「俺が何かした?何かされたのはこっちなんだけど、見ろよこの女体!」

「フンッ、なんだかんだで『俺って美人じゃん』と思って浮かれてる癖に」

「な、な、何を言うか!こんなになっちまって大変なんだぞ」

「へぇー、その割には女生活満喫してますよねー。もう女のままでもいいんじゃないですか?」

「棘のある言い方しやがって、何がそんなに不満なんだよ」

 

 口論になりそうなタイミングを見計らってか、メルアがお茶とお菓子を持って来てくれた。

 丁寧に配膳を終えた後、俺の隣に腰を下ろすメルア。

 このまま一緒にシャミ子の話を聞いてくれるのだ。

 シャミ子と二人っきりだと、ケンカになりそうなので正直ありがたい。

 ほらシャミ子、言いたいことがあるなら聞いてやるから、言ってみなさい。

 

「・・・つまんないです」(=_=)

「「はい?」」

「つーまーんーなーいーでーすー!!」( ̄д ̄)

「何がじゃい」

「今日はもうずっとこの調子ですよ。参ってしまいます」

 

 ちゃぶ台を両手でバンバン叩きながら『つまらない』と抗議じみた声を上げるシャミ子。

 もう駄々っ子のそれである。こんなのでも2000歳オーバーの伝説的存在らしいですよ。

 やめなさい、お茶が零れるからやめなさい!俺とメルアは早急に自分の湯呑を避難させた。

 メルアの淹れてくれた玄米茶を飲みながらアホの鎮静化を待つ、ちゃぶ台を攻撃するのに飽きたシャミ子がプリプリしたまま口を開く。

 

「せっかく女になったというのに何なんですか!何即行で馴染んでいるのですか!」

「変化に適応してみせろと言ったのはシャミ子だろ?俺はその言葉に従ったまでだ」

「そうですけど、そうなんですけどぉ!私が見たかったマサキとは違うんですよー!」

「えっと、シャナミア様が期待していたマサキさんとは一体?」

 

 メルアがおずおずと訊ねるとシャミ子は『よくぞ聞いてくれました』とばかりに回答する。

 それは頭の痛くなるような内容であった。

 

「お風呂やトイレの度に恥じらったり、不覚にも男性にときめいた自分に戸惑ったり、愛バに信じてもらえず戦闘に突入したり、スカートやブラジャーを身に着けて悶々とする。そんなマサキが見たかった!」

 

 ああ、そういうの最初だけだったよ。

 どうせ一週間限定だと割り切ったら平気だった。

 TSものの漫画じゃあるまいし、いつまでも照れていられない。

 

 シャミ子の語りはまだ続いている。

 

「三日目にして身も心も女になってしまったマサキはひょんなことから女の悦びを知ってしまい、後戻りできない耽美(たんび)で官能的なエロスの扉を開いてしまうのであった!グフフ、この後の展開は完全メス堕ちルートと百合地獄ルートに分岐します。両方のエンディングを見ると真ルートが解放されトゥルーエンドでは『シャミ子様最高!』と5分おきに祈りを捧げるマサキの姿が……」

 

 なんかいろいろとヤバいシナリオが用意されていた。どのルートにも救いがない!

 こいつ、本当に碌でもねぇ女神だ。

 呆れる俺を置き去りにしたまま、シャミ子は自分の妄想を垂れ流していく。

 横を見ると、メルアは顔を両手で隠し『恥ずかしい、こんなのと同類だなんて恥ずかしい!』と耳まで真っ赤になってプルプルしていた。

 気の毒なメルアの背中をさすって励ましておく。

 泣かないでー、悪いのは全部シャミ子だってわかってるよ。

 よしよし、上司が変態だとマジで苦労するよね。

 

 つまり、シャミ子は自身の望む展開を期待してワクワクしていたのに、俺がアッサリ女体に馴染んでしまい、平穏な日常を送っていることが気に入らないのだ。

 

 めんどくせぇ奴だな。言い分はわかったけど、これ以上俺にどうしろと?

 

「テコ入れをします」

「は?」

 

 テコ入れとは・・・

 期待したとおりに進んでいない物事、停滞している状況などを、外部からの刺激や援助によって打開しようとする取り組みを意味する表現である。

 

 うわー不安しかない。

 

「テコ入れの内容ですけど……マサキには更なる変化をしてもらいます」

「嫌ですけど」

「シャナミア様、それはさすがに(こく)なのでは?」

 

 メルアの言う通りだ、何勝手に追加しようとしてるわけ?

 不完全燃焼なのはお前だけで、誰もテコ入れなんて望んでねーんだよ。

 

「では次の変化は・・・」

「勢いで話を進めてもダメ!お前のさじ加減で試練の難易度上げられも困るんだよ。女になったんだから、もうそれでいいじゃん」

「ちょっと追加設定するだけですから、これで最後にしますからぁ~」(´Д⊂グスン

「後付けも程々にしないと大変だそ。ほら、宇宙世紀のガンダムとかえらいことになってるから」

 

 シャミ子は泣き落としの姿勢に入った。それを見たメルアが『どうします?』と視線を送って来る。

 俺にしがみつき『テコ入れさせて』と懇願している姿からは神の威厳も竜の気高さも感じない。

 隙あらば俺のおぱーいを触ってくる辺り余裕はありそうだけど。

 

「次の変化は、マサキの好きなものにしますから」

 

 俺の好きなもの?ドーナツが好き!とか思っていたら、ポンデリングとかになるんじゃね?

 動けないところを誰かに発見され食われるんじゃね?嫌やわ~怖いわ~。

 

「食物ではなく動物に限定しますよ」

 

 動物ねえ・・・シャミ子のセンスで変な動物に変化させられるオチが見える。

 

「マサキさん・・・」

 

 メルアが心配そうに俺とシャミ子を見ている。わかってるよ。

 シャミ子の機嫌を損ねたままでいると最悪、機甲竜の助力を得られない事態に発展しかねない。

 ルクスとの戦いに向けて戦力アップしている中で、それは勘弁してほしい。

 

「小さくてカワイイ…マスコット的な小動物なら考えてもいい」

 

 凄く嫌だけど、ちょっとだけ譲歩してみる。

 そして、変化する動物の条件を先に指定させてもらった。

 これが通らなければ『もう試練やめますよ』という意思表示だ。

 

 俺が変化してもいいと思ったのはカワイイ系の小動物。

 魔法少女のお供的な奴をイメージしてもらいたい。アレなら十分許容範囲だろ。

 愛バの肩に乗ったりして『戦わないけど指図とセクハラはします』的なポジションに収まるのだ。

 具体的にはリスやモモンガみたいなプリティーアニマルで頼む。

 

「その条件を飲みましょう!」

 

 お、言ってみるもんだな。

 俺の言葉にシャミ子は表情を明るくさせて喜んだ。現金な奴だ。

 

「マサキさん、いいんですか?」

「いいよ。ここまで来たらシャミ子の好きにさせてやろう」

「愛してますよ、マサキ!あなたは本当にイイ男です」

 

 今は女だけどね。

 それより、わかっているんだろうな?

 

「もちろんです。更なるの変化をした後、残り四日間を乗り切れば……」

「マサキさんは晴れて機甲竜の起動者として認められ、シャナミア様を奴隷の如くこき使えます」

「私がマサキの奴隷に……『くっ殺』してもいいですか?即堕ちしてもいいですか!」ハアハア

「奴隷はいらん!」

 

 一緒に戦ってくれれば、それでいいんだよ。

 ピンチの時に駆け付けてくれたら嬉しいじゃん。

 

「話はまとまりましたね」

「そうと決まれば、早速追加設定を施しますよ。さあ、リアルに帰る準備を」

 

 後は俺が寝ている間にやってくれるらしい。

 リアルで目覚めた時には二段階目の変化が起こっている。

 少し不安だが、条件を指定させてもらったし、悪いようにはならないだろう。

 シャミ子はいつものように自らの膝をポンポンと叩いている。

 膝枕してやるから『おいで』のサインだ。

 通常ならここでシャミ子膝枕を堪能してリアルに帰るのだが・・・断る!

 

「メルア、膝枕してくれる?」

「え、あ、はい。いいですよ」

「なんで!?」( ゚Д゚)

 

 驚くシャミ子をスルーしてメルアに膝枕してもらった。

 うっひょぉー!金髪巨乳の膝枕・・・予想以上に心地よい。

 

「これで女神膝枕コンプリートだ!」

「あら、カティアとテニアにもしてもらったんですか?ホントに女神たらしですねえ」

「ちょっとちょっと!なんでメルアを選んだのです!?撲殺魔と暴食鬼にもしてもらったとか聞いてませんよ!許しませんよ!」

「うるさいですよシャナミア様。マサキさんが眠れなくなっていまいます」

「マサキは私の起動者ですー!返しなさい、返して!」ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!

 

 シャミ子は激怒した。メルアはそれを涼しい顔で受け流している。

  

 リアルに戻る方法はシャミ子の傍で眠ることだと思っていたが、これは正確な情報ではない。

 カティアでもテニアでもメルアでも、俺を帰還させる力を有している。

 要するに四人から好きな女を選んでいいのである。

 その際、必ずしも膝枕でなくてもいい。添い寝でも何でもあり、密着していればオッケーだ。

 

「と、いうのが俺の推理なんだけど。合ってる?」

「全く持ってその通りですよ。シャナミア様は、すぐバレる嘘をつくんですから」

「ぐぬぬ。マサキの推理力を甘く見ていました」

 

 帰りたいならメルアに頼めとテニアは言った。それで思いついたんだが、正解だったようだ。

 

「今日はメルアに送ってもらう。シャミ子枕は、また今度ってことで」

「シャナミア様、振られましたねwww」

「振られてません!こうなったら、せめて掛け布団に立候補します」

「あーはいはい。来るなら来い」

「なんか慣れてません?」

「愛バ相手だといつもこんな感じだ」

「生意気にも女慣れしてやがりますよ。なるほど、女体化しても恥じらいが足りない訳です」

 

 甘く見ないでもらおう、愛バおかげで女体にはそれなりに詳しかったするのだ。

 

 メルア枕にシャミ子布団のサービスセットは快適そのもの、これならすぐにでも熟睡できそうだ。

 抜群の柔らかさに程よい体温、ほんのり漂う甘く優しい香りにもリラックス効果があると思う。

 そろそろトーヤさんに怒られたりしないか心配だけど、シャミ子が何も言わないのでセーフだと思うことにする。

 

「眠くなってきた……」

「お疲れ様でした。試練終了までの残り四日、気を抜かず頑張ってくださいね」

「りょ……シャミ子、ホント頼むぜ…信じてるからな……」

「任せなさい。大船どころか宇宙戦艦に乗ったつもりの安心感をお届けします」

 

 なんか不安だけど賽は投げられたのだ、信じるしかない。

 女神二人の温もりをと柔らかさを感じながら眠りにつく。

 

「で、どんな変化になさるおつもりですか?」

「それは起きてからのお楽しみ~」

「ちゃんとマサキさんの意向に沿うようにしてくださいよ。嫌われたくないでしょ?」

「わかってますよ。誰からも愛される、マサキ好みの小さくて可愛らしい動物にチェーンジッ!です」

 

 自信あり気なシャミ子の声・・・マジで頼むぜ。

 

 〇

 

「……さん……マサキさん!」

「起きて……起きてください」

 

 声が聞こえる。

 耳に心地よい愛バの声だ。

 俺に声をかけながら体を揺さぶっている?何やら事件が起きた様子だ。

 あと5分と言いたいところだが、起きなければならない。

 

「んっ…あー、よく寝た……おはよ…」

「あ!起きてくれました」

「よかった。心配しましたよ、マサキさん」

 

 目を開けるとそこには、シロとアルの姿があった。

 

 そうそう、昨夜はシロとアルの二人と一緒に寝たんだったな。

 風呂上りにシロがアルを異常なまでに警戒していたのは何だったのだろう?

 シロは俺に背後に庇いながら、

 

『マサキさんにのそばに近寄るなああーッ!』

 

 と、ゴールド・E・レクイエムを食らった5部ラスボスのような絶叫を上げていた。

 ポージングも完全再現である。

 それに対してアルは、

 

『シロさんを仲間外れにはしませんよ。三人で……ね?……ウフフフ』

 

 といった反応で怪しく舌なめずりをしていた。

 一歩も引かない二人、これは長くなりそうだと思ったところまでは覚えている。

 

 愛バが睨み合っている間に夢空間に呼ばれた俺は急激な眠気に襲われ、二人を放置して先に眠ったのだった。

 それが昨夜の出来事だったはず。

 

 心配そうに俺を覗き込んでいるシロとアル。

『いいですか、落ち着いて聞いてください』という場面を思い出す構図だ、なんて思っていると。

 

「いいですか、落ち着いて聞いてください」

 

 言った!神妙な顔のシロが一言一句違わず言ってのけた。

 

「マサキさんのお体が大変なことになっております」

「突然光ったと思ったら、私たちの目の前でみるみるうちに変わってしまって」

 

 そうだった。シャミ子のわがままで更なる変化をしたんだった。

 悪いな二人とも、愛玩動物に変化してしまった俺にさぞや驚いたことだろう。

 さあて、どんな姿にチェンジしたのかな?

 ウサギかな?リスかな?イタチ系だったらオコジョは大当たり、小鳥ならシマエナガを希望する。

 手と言うか前足はあるのだろうか?自分のモフモフ加減を早く確かめたいぜ。

 動かすぞ・・・動いた。とても小さな手が見える・・・手?俺の手かこれ?

 小猿か何かに変化してしまったのか?どう見ても人間の手なんだけど・・・

 

「???俺、どうなって…」

「失礼します」

「わっ!」

「あ、ズルい。私だって抱っこしたいのに」

「後にしてください。まずは本人に鏡を見てもらうほうが先です」

 

 シロが俺の体をヒョイと持ち上げて移動する。

 愛バたちはみんな力持ちなので、普段の俺(男)を運ぶことすら造作もないが、今のはあまりにも簡単に持ち上げられた。体が小さくなっているのは確定だな。

 今の俺、シロの腕というか胸にすっぽり収まっている状態だ。ナイスおぱーい!

 

 三日前、オルゴンテイルによって破壊された姿見は既に新調済みだ。

 その前に立つシロの全身を姿見が映し出す。

 彼女が丁重に抱き上げている動物もバッチリ確認できた。

 

「うっわ!メッチャカワイイ!」

 

 なんと!シロは銀髪の大変可愛らしい幼女を抱っこしていたのだ。

 全く持ってサイズの合っていないTシャツ着ている?というか被っているだけ。

 襟元から大きく肩が出ているのはご愛敬。無防備カワイイ。

 

 サラサラの長い銀髪、パッチリと開かれた美しい瞳、庇護欲をそそる小さな体躯、白くプニプニしていそうなもち肌、ジュニアモデルも裸足で逃げ出すレベルの容姿、スッキリした目鼻立ちには今後の成長を期待せざる負えない。

 とんでもねぇ美幼女だ!もう、一種の神々しさすら感じる存在だ。

 おお神よ、あなたが神か?ロリ神様の降臨じゃーい!!守りたいその笑顔!!

 これは全力全開でお守りしなければ!

 とりあえず警戒されないよう、小粋なトークで親密度を上げてから従者の末席にでも加えてもらおう。

 

「やあ、お嬢さん。どこから来たの?一人?家族は一緒じゃないのかな?もし、時間があるなら俺と歴代プリキュアについて語り合わない?」

 

 い、今のはキモかったかな?ちょっと早口になっちゃったぜ!

 目の前のロリ神様も照れたような反応をしていらっしゃる。うほっ、かわええ!

 

「マサキさん、ご自身をナンパしないでください」

「現実逃避したい気持ちはわかりますが……シロさん、そろそろ代わってください」

「ねんがんの ロリマサキさんをてにいれたぞ!」

「殺してでもうばいとる」

「な なにをする どすけべー!」

 

 ストップストップ!朝から部屋の中で暴れないで!

 

 アルの言う通り俺は現実逃避していた。

 鏡に映った瞬間に全てを理解したのに、己の可愛さ故に自分自身に媚びるようなキチガイ行動をとってしまったのだ。

 己の!可愛さ!故に!

 

 『誰からも愛される、マサキ好みの小さくて可愛らしい動物にチェーンジッ!です』

 

 シャミ子の言葉が思い出される。

 

 うんうん。小さいね、可愛いね、俺好みだね!!

 

「シャミ子の奴めwこう来たかwww」

 

 もう笑うしかない。シャミ子は確かに俺の希望する条件を飲んだ上で変化を実行した。

 

 女の体はそのままに、低年齢化させるという変化をね。

 

 シロは俺を片手で抱いたまま、アルの攻撃をもう片方の手で(さば)いている。

 早朝から無駄に高度な格闘戦を繰り広げる愛バたち、俺の身を案じて両方とも手加減しているけどやめてほしい。

 何とか身をよじってシロの腕から脱出することに成功、床にベチョっと着地した俺は二人を制する。

 

「はいストップ。今はそれどころじゃないよ~こっち見て」

 

 シロとアルはバツの悪そうな顔をしてその場に正座する。

 俺のために争わないでー!とか言わせんなよ、恥ずかしい。

 

「二人とも、俺を見てくれどう思う?」

「「すごく……カワイイです////」」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないの」

「またしても、シャナミア様のせいですか?」

「ピンポーン!アルの大正解~」

「本当にろくでもない邪神ですね」

「シャナミア様……もう擁護できません……」( ;∀;)

 

 鏡に映る自分を見る。そこにはロリ神になった俺がいた。

 自分じゃなかったらお持ち帰りせずにはいられない可愛さだ、と自惚れてみる。

 しばらく自分観察に勤しんでいると、ソワソワし出した愛バが挙手して発言を求めた。

 

「マサキさん、お願いがあります」

「申してみよ」

「今すぐにでも、ハグしてスリスリしてペロペロしたいです!」

「ほう。主らも好きよのぅ」

「主の可愛さに激しいスキンシップを熱望する、我らをどうかお許しください」

「欲望に忠実な愛バを持つと苦労するわい。まあ、よかろう」

「「で、では・・・」」ゴクリッ

 

 生唾を飲みこむシロとアル。

 フフフ、今にも俺を襲おうとギラギラしてやがる。

 だが、俺は受け身なだけの幼女ではない!

 スキンシップ上等!母さん相手に鍛えに鍛えた甘えん坊スキルが炸裂するぜ!

 俺は助走をつけて二人に飛びついた。

 

「シロー!アルー!どうか俺を可愛がってちょーだい!」(*´▽`*)

「「はーい。喜んで―」」(≧▽≦)(*^▽^*)

 

 しっかり抱き留めてくれる二人、もつれ合うようにして倒れ込むが問題ない。

 『朝から何やっとんねん』ですって?愛バとのイチャコラは全てに優先されるのですよ!

 そうして、俺たち三人は女同士心行くまでベタベタイチャイチャしたのであった。

 ああ、そうだこれだけ言っておこう。

 

「俺自身が幼女になる事だ!!」

 

 変化の試練四日目、新たなフォームチェンジで始まりを告げた。

 

 〇

 

「うわーうわー、小さいなあ、くぁわぃぃなぁぁ~」ぎゅー

「むぐぇぇ」

「こらクロ!マサキさんが潰れてしまいます!」

「クロちゃん代わって!次私の番だよ」

「思った通り大人気ですね」

 

 スキンシップを終えた俺はすぐに残りの愛バ、クロとココにも連絡した。

 詳しく事情を話すまでもなく二人はすぐに駆けつけてくれて、今は幼女化した俺にメロメロである。

 クロのハグで内臓が飛び出そう・・・タスケテ。

 

 体を調べてみてわかったのだが、今の俺は3歳児ぐらいの体形なのだそうだ。

 小さいとは思っていたけど、初めてあった頃のクロとシロよりも小柄で華奢な体だぞ。

 これ大丈夫か?覇気は使えるみたいだけど、バスカーモードになったら弾け飛んだりしない?

 バスカーするときは要注意だと覚えておこう。

 

 体が小さくなったことで困るのは服装だ。

 残り四日だけど、ずっと裸にブカブカTシャツってわけにもいかない。

 早急に子供服を準備する必要があったのだけど、これはクロが解決してくれた。

 北島組に子供服を扱う店と懇意にしている組員がいて、クロが連絡したところ早朝にも関わらず廃棄予定の衣類を譲ってくれたのである。

 段ボール箱一杯に詰められた服を無償でくれるとは、後ほどちゃんとお礼をせねばなるまいて。

 

「本当に廃棄品ですか?何気に全部有名ブランド服ですよ」

「いいって、どうせ金払うのはジージだし」

「これとこれもキープです。マサキさんは何を着ても似合いますよ」

「マサキ、次はこれを着てみて」

「どれどれ・・・うん、これがいいや」

 

 コーディネートはセンスのある愛バたちにお任せだ。

 いくつか提案された中から俺が選んだのは、シンプルな短パンにシャツの組み合わせ、上着に子供用のジャケットを羽織って完成だ。

 活発な雰囲気を出しつつも、女子の可愛さも失わない、何より動きやすいのがいい。

 フリフリのドレスとかもあったけど却下した。それを着るには心の準備が必要だ。

 

 朝食は時間がないので、シリアルに牛乳をぶっかけたもので手早く済ませる。

 ついでにクスハ汁を飲んで各種ビタミンを補給・・・!?!?

 

ブェッフォンッッ!!」`。*:`( ゚д゚*)ガハッ!

 

 盛大にむせて吐いた!

 

「マサキさん!?大丈夫。何か拭くものを」

「毒ですか?アル姉さんが精力剤を仕込んだのですか!」

「人聞きの悪い!クスハ汁に仕込んでバレるようなヘマはしません」

「仕込んでるんかーい!!」

 

 マッッズッ!マズすぎる。なんだこれ賞味期限切れか?

 いつも飲んでいるのに、こんなにクソマズいと思ったのは、初めて飲んだとき以来だ。

 

「まさか、味覚がお子様になっているのか!?」

「なるほど、それでしたら納得です」

「ただの女体化以上に気を付けないといけない点がありそう」

「お酒は絶対に控えてくださいね」

 

 クスハ汁お子様用とかあったかな?

 とにかく、苦いものや辛いものには注意しておこう。

 

 今日も今日とて出勤しなくてはならない。社会人は大変なのです。

 

「さすがに休んでもいいのでは?」

「幼女化したぐらいで仕事に穴を開けるわけにはいかねぇ。俺は行くぜ!」

「『ぐらい』てレベルの事態じゃない気がするけど」

「無理しないでくださいよ。子供の体だと急な発熱や体調不良に見舞われる可能性も、大いにありますから」

「わかってるよ。準備も出来たし、出発進行~」

「「「「はーい」」」」

 

 いつものように仲良く歩いて登校する。うぐっ、なんか鞄が重い。

 

「お持ちします」

「ありがとう」

 

 シロが鞄を持ってくれた。

 明日以降、荷物を減らすか子供用の鞄を準備する必要があるな。

  

 な、なんか大きいな、視界に入るもの全てがやたらと大きく見えて怖い。

 幼女化した俺、世界の広さを認識してビビる。

 解っておりますとも、周りが大きくなったのではない、俺が小さくなったのだ。

 目線だって、ものすごーく低くなって落ち着かない。

 "不思議の国のアリス症候群"という、物が大きく見えたり時間の間隔が狂ったりする病気があるそうだが、今の俺はまさにそれをリアル体験している感じがする。

 

「マサキさん?」

「あ、いや、何でもない」

 

 この体に慣れるのには苦労しそうだ。

 先頭を歩く俺のスピードが遅いので、愛バたちの歩みも自然と遅くなる。

 よちよち歩きですんません!このままじゃ愛バたちが遅刻しちゃう。

 

「ごめん、先に行ってくれ。何か先頭は疲れるわ」

「大丈夫?」

「平気平気、俺は小走りでお前たちについて行くぜ」

「手、つなぐ?」

「もうちょっと頑張ってみるよ。どうしてもしんどかったら、その時は頼む」

「心配です」

「ですが、マサキさんの意思は尊重すべき」

 

 愛バは渋々納得してくれた。

 先頭をクロにしてシロ、ココ、アル、俺の順番で隊列を組んで歩く。

 

 歩く、歩く、歩く、ついてく、ついてく、つい・・・て・・・く・・・ハアハア。

 

 おいおいマジか?学園までの道のりを半分も消化していないのに、息切れしているだと!?

 愛バたちについていくのがやっとで、景色を見たり会話を楽しむ余裕なんてない。

 俺だけ朝からフルマラソン状態、三歳児ってこんなに虚弱なの?

 自分がイメージする三歳児って、元気に走り回ってる感じなのだけど。

 この体、思った以上に体力がない。HPが男だった頃の10パーセント以下に設定されている。

 

 俺が遅れ出したことで愛バたちが心配そうに振り返る。

 ごめん、今行くから・・・あっ!?

 

ぎゃんっ!」(゚Д゚;)

「「「「マサキさん!?」」」」

 

 コケてしまった。お手本のような転倒である。

 子供の頃はよくコケていたけど、大人になってからはご無沙汰だった。

 結構痛いし、何より恥ずかしい////

 愛バたちが慌てて駆け寄って来る。

 すぐに起き上がって無事をアピール、顔から行ったけど擦り傷一つないようで安心した。

 体力はないけど、それなりの耐久力はある?変な体だ。

 

「ご無事ですか?」

「誰の仕業?犯人見つけたら地中深く埋めてやる」

「誰のせいでもない、俺がひとりでに転んだんだ。いや、お恥ずかしい」

「ちょっと、マサキ」

「さあ、先を急ごうぜ」

 

 気恥ずかしさもあって俺は走り出す。

 慣れない体で急に走ると危ないですよね。それも3歳児の弱々ボディなら尚更だ。

 結果として、

 

ぎゃぷらんッ!」(゚Д゚;)

「「「「マサキさん!?!?」」」」 

 

 二回目の転倒である。

 先程より強かに打ち付けたため、痛み倍増で悶絶する。

 いたぁーーいッッ!もうヤダこの体、子供ってなんでこんなにコケやすいの?

 恥ずかしいより情けない。ちょっと涙出てきた。

 

 女体化にアッサリ馴染んで慢心し『今回もまあ楽勝でいけるっしょww』とか思ってた自分をぶん殴りたい。

 甘く見ていた俺が悪いのだけど、幼女化は結構キツイぞ。まさしく試練である。

 テコ入れ・・・大成功だよ、シャミ子君。

 体が小さくなっただけでなく、体力やその他のステータスも減らされている可能性がある。

 ヤバい、今ルクスにあったら瞬殺されてしまうぞ。

 あのワガママドラゴン女神、なんてことしてくれたんや。

 

「もう見ていられません!」

 

 アルが我慢できないとばかりに俺を抱き上げる。

 俺は一瞬で彼女の腕の中、見慣れた美しい顔が近くにあって照れる。

 アルは無理してコケた俺に少し怒っているようだ。

 

「マサキさんが何と言おうと、このまま私がお運び致します」

「ごめん、アル」

「先を越されました」

「下校するときは私だからね!」

「マサキ、ケガしてない?ヒーリングするからちょっと見せて」

 

 ココのヒーリングで治療してもらい、アルに抱っこされたまま登校再開。

 おお、こりゃあ楽チンだわ。

 

「なんかすまんね」

「私は最初から言っていましたよ。無理なさらないで、と」

「ごめん」

「謝らないでください。操者のお世話は愛バの義務であり喜びですから、役得万歳です」

「そうそう。もっと私たちを頼ってよ」

「マサキさんのためなら、例え火の中水の中」

「そのための愛バだよ」

 

 う、嬉しい。朝から涙腺に来ちゃうぐらい嬉しい。

 そうだよな、何も一人で抱え込む必要はない。俺たちは運命共同体だ。

 もっと愛バたちを頼っていいんだよな。

 というわけで、今はアルのおぱーい、略してアルパイを堪能しよう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 マサキが女体化してからというもの、トレセン学園の通学路は様変わりしていた。

 とんでもない美女がとんでもない愛バを引き連れて登下校していると、噂になったことが全ての始まりだ。

 四日目の今日ともなると、多くの人がその姿を一目拝見しようと詰め掛け、通学路は空港で海外スターの到着を待ちわびるかのような様相だ。

 スマホだけでなく、望遠レンズを装着した高級カメラを構える者までいる始末。

 ベストショットを狙うために、場所取り争いをしている声もチラホラ聞こえる。

 

「来た!おい、道を開けろ」

「この瞬間を待っていたんだ!」

「わかってるな。登下校の邪魔をしたら『悪・即・斬』だぞ!」

「トレセンの守護神を敵に回すバカはいねぇよ」

「今日も楽しみね」

「私、初めてなんだ。麗しの"お姉さま"に早くお会いしたいわ」

 

 人々の待ちわびた瞬間が訪れる。

 曲がり角からやって来た五人組に注目する一同。

 大きな存在感を持つ美しい四人のウマ娘が登場し、人々のテンションは爆上がる。

 しかし、お目当ての人物がいない。

 どこに行ったのだろう?今日は別行動なのか?

 残念に思いつつも、せめて四人をカメラに収めようとした男は気付く。

 それを皮切りに、他の者も気付き始める。

 青い毛並みのウマ娘が、とても大事そうに何かを抱えていることに。

 

「「「「は、はいぃぃぃ???」」」」

 

 "お姉さま"が消失し"ロリ神様"降臨なされたと、噂が広まるのに時間はかからなかった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うおっまぶしっ」 

 

 一斉にカメラのフラッシュが焚かれてビックリした。

 ムスカ大佐になる前にアルパイに顔を埋めて緊急回避だ!

 

「撮り鉄か!」

「ここまで酷くなるとは、いい加減ウザくなって来ました」

「面倒だけど、たづなさんに相談して蹴散らしてもらったほうがいいね」

「マサキさんが眩しいと言ってますのに、やめない人は通報します」 

 

 野次馬とカメラ小僧たちは愛バたちの威圧に怯み、そそくさと解散していった。

 それでも、下校時と明日には復活しているのだからたくましいと思う。

 

「あと少しです。もうしばらくご辛抱を」

「アルがしっかり支えてくれるから問題ない。それより疲れてないか?」

「全く疲れてません。今のマサキさんは驚くほど軽いですよ」

 

 愛バたちと同じ制服を着たウマ娘たちが増えてきた。

 もうすぐ学園に到着だ。

 

「なーんだ。マサキ教官いないの?」

「アルダン様///今日もお美しいですわ……えぇ!?」

「子供???なんで???」

「すっごくカワイイ!どことなくマサキ教官に似て……そういうことなの!?」

「か、隠し子・・・」

「アルダン先輩いつの間に」

「マサキ教官やっちまったな!」

 

 好き放題言われております。

 いやいやいや、勘違いだから!そういうのはちゃんとしているから!

 生徒たちのヒソヒソにアルはご満悦なのだが、他の三人は超絶不機嫌になる。

 

「アル、最初からこれが狙いだったの」(# ゚Д゚)

「外堀から埋めるなんて、見損なったよアル姉!」(# ゚Д゚)

「いやらしい!さすがアル姉さん、いやらしい!」(# ゚Д゚)

「いやらしいは褒め言葉ですよ」( ̄▽ ̄)

「違うと思う」

 

 俺の冷静なツッコミをアルは笑顔でスルーした。

 いやらしい愛バも大好きです。

 校門が見えてきたところで、黒塗りの高級車が停まっていることに気付く。

 運転手が(うやうや)しくドアを開けると、思った通りの人物たちが下りてきた。

 

「あら、みなさんごきげんよう」

「マック院!」

「院ではなく、イーンですわ」

「お、マサキの嫁たちじゃん」

「おはようございます。今日も筋トレ日和ですよ」

「あいつがいない?珍しいわね」

「ふぁ……まだ眠いです~」

 

 マックイーン、パーマー、ライアン、ドーベル、ブライトの五人。

 メジロお嬢様御一行の登場である。

 うちの愛バたちも『おっは~』だの『チーッス』だのと挨拶をしている。

 

「ごきげんよう。定例会と言う名のパーティーご苦労様です」

 

 アルが身内のお嬢様たちに声をかける。

 メジロ家の御屋敷では昨日パティ―が開催されていたらしい。富裕層ですなあ~。

 

「あなたの抜けた穴は大きいですわよ、アルダン」

「気になるなら出席しなよ」

「姉さんが造反したなんて誰も思っていないから」

「『アルダン様は?』と、毎回聞かれる身にもなってほしいわね」

「居眠りするぐらい退屈でしたけど、お料理はそれなりに美味しかったですわ~」

 

 ちょっとした嫌味にもアルは動じない。

 『私はもうサトノ家の一員ですから』と躱してみせる。

 本音は『パーティーなんかやってられっか!こっちはマサキさんの相手で忙しいの!』だろう。

 

 (サトノとファインもパーティーとかすんのか?)

 (何回かあったよ。北島組でも宴会とかあるけど、したい人が勝手にやればって思う)

 (無駄と判断したら即断ります。私が出る必要性を感じた場合は嫌々出ます)

 (右に同じ、ファイン家はパーティーを情報収集の場と割り切っているかな)

 

 興味の無い事にはドライな愛バたち。

 そんなことを言っているのに、いざ出席したら完璧な立ち振る舞いを見せるから大したもんだ。

 そんなことは無いと思うが、もしパーティーに出る機会があれば、礼儀作法のスキルは彼女たちに教えてもらおうと思う。

 

「ところで……その子は一体?」

 

 マックが俺について訊ねてきた。

 最初から気付いていたけど、タイミングを見計らって聞いたと言う感じだ。

 他のメジロシリーズも『あなたは誰?』と言う視線を送って来る。

 そんなに見つめちゃイヤン(/ω\)

 

「もちろん、私とマサキさんの子です」

「「「「「なん・・・だと・・・!?」」」」」

「全て嘘です」

 

 アルの当然だと言わんばかりの発言、コラコラ何を言い出すのかね。

 その嘘はシロが即座に訂正した。

 

「ふぅ…危うく騙されるところでしたわ」

「でもでも~、アルダン姉様ならもしかして、なんて思ってしまいます~」

「そ、そんな////姉さんが、ご懐妊だなんて////」

「ムッツリライアンには刺激が強すぎたみたいww」

「教師と生徒の乱れた性活……同人誌のネタとしては少しマンネリかしら」

 

 メジロ家内でもアルの評価は"ドスケベ"なのだろうか?

 そこのところ詳しく聞いてみたい。

 

「聞かなくていいです」

「そうっスか。アル、皆を困らせるような嘘は感心しないぞ」

 

 先程の嘘がメジロのお偉方や俺の母さんの耳に入ってみろ、どんな吊るし上げを食らうか・・・想像したくない。

 

「そのうち、嘘も本当になりますよ」

「おっふ」

「甘いですねアル姉さん、マサキさんの第一子を宿すのは私ですよ」

「サトイモが戯言を抜かすな。畑に埋まって子イモでも量産してろ」

「妊活かあ。マサキが望むならいつでもいいからね♪」

「おふっふ」

 

 『私が!』『いや、私だよ』と口論を始める愛バたち。全く以って気の早い連中である。

 グイグイ来る愛バたちに俺は『おっふ』することしかできない、ヘタレっぷりである。

 

 抱っこされた幼女が俺であることをアピールするために、ちょっとだけ覇気を解放する。

 聡明なメジロお嬢様たちはすぐに気付いてくれた。

 何だね、その『またかよ』みたいな顔は?俺だって困ってるのよ。

 

「……マサキさん、なんですの?」

「そうでーす。俺がマサキでーす」

「ち、小さいですわ」

「チビで悪かったな。笑いたければ笑え!」

「笑ったりしませんわ。女性になったり子供になったり、苦労が絶えませんわね」

「幼女好きが高じて自ら幼女になってしまったのね。本気で恐ろしいわ」

「ちょ、ドーベル!本当のことを言ったらダメだよ!」

「あははははははwww女になってww今度は幼女にwwあはははははwww」

「なんて愛らしいのでしょう~。一緒にお昼寝したいです」

 

 こいつら・・・パー子めっちゃ笑っとるやんけ。

 こうなったのはお前らのご先祖のせいなのにー!

 

「シャミ子のせいでご覧のあり様だよ!」

「シャミ子?失礼ですが、頭の悪そうな名前ですわね」

「「ですよねーwww」」

 

 俺とアルは吹き出した。マックwwwよく言った。

 今夜辺り祟られて夢空間に招待されるかもだけど、よくぞ言ってくれました。

 

「今、何か悪寒がしたような?気のせいかしら」

「いい夢見て下さいね」

「困ったら『うどん』と唱えろ。それで邪神は悶絶するはず」

「意味がわかりませんわ!」

 

 メジロシリーズと合流して校門を目指す。大所帯になってしまった。

 御三家お嬢様連合の登校風景が完成してるー。

 当然目立つのだが、慣れっ子のお嬢様方は有象無象の存在など歯牙にもかけず、大変堂々としておられます。場違いな俺はアルに抱っこされ人形のように固まってるけど。

 メジロのみんなは身内のアルだけでなく、他の愛バたちも仲良く交流しているみたいで微笑ましい。

 口ではメジロ家を目の仇にしているクロシロも、今は大人しくしている。

 俺が赴任して来るまで、学園では猫を被っていたらしいからな。大っぴらに本性をさらけ出す気は無いということだろう。最近はそのメッキも大分剥がれているようだけど、まあいいか。

 

「ねえ、メジロの一番偉いおばあちゃん。ファンネル使えるって本当?」

「どうかしら?おばあ様なら、オールレンジ攻撃も(たしな)んでいそうですけど」

「失礼ですよクロ、うちの駄バが申し訳ありません。ですが、いい機会なのです。謎に包まれたメジロ家頭首様の事をお聞きしたいですねえ。個人的には真名"キュベレイ"であってほしい」

「ハマーンじゃないよww声似てるけどさw」

「顔が見えないのは認識阻害の術だとして、年齢も不詳なんだよね」

「ぶっちゃけ、孫の私たちもよく知らないのよ。噂では三桁オーバーだとか」

「おばあ様は"大魔女(ウィザード)"の異名を持つ騎神、寿命を延ばしていたとしても驚きませんわ」

 

 ばば様ってのは想像以上に謎多き人物のようだ。

 ここで、うつらうつらしていたはずのブライトが思いもよらない発言をした。

 

「ばば様は~、先祖返りなんですよ~」

「先祖返り?」

「メジロ家の開祖である"女神の如く尊きお方"の血を濃く受け継いでいるのです~」

「それってシャミ……シャナミア様か?」

「あら~マサキ様はよくご存知ですね。シャナミア様の因子を継承した者は~、一族の中でも特に強い力を有するのです。寿命が長いのはその副産物ですね~」

 

 ばば様はシャミ子因子の継承者だと!?

 だとすると、今俺を抱っこしているアルも長寿ということになる。

 俺がヨボヨボの爺さんになってもアルはずっと若い頃のまま、嬉しいような悲しいような。

 俺の墓前で手を合わせるアルを想像して切なくなった。葬送のフリーレン・・・(´Д⊂グスン

 

 (心配には及びません。私の命はマサキさんのもの、あなたの生が終わる時、私も・・)

 (アル!その先は言うな。後追いとか絶対に許さんからな!)

 

 例え俺がいなくなった後でも、愛バたちにはしっかり天寿を全うしてほしい。

 最後の最後まで生き抜いてこその生命だと思うから。

 

 (わかりました。では、マサキさんの寿命を延ばす方法を考えておきます)

 (やだ、この子ったらメッチャ前向き)

 

 何というポジティブシンキング、初めて会った時のアルが嘘みたいな前向き具合。

 あの時、死の立体パズル攻略を頑張ってよかったと心底思う。

 

「く、詳しいねブライト。先祖返りだなんて初めて聞いたよ」

「うふふ、ばば様に頼んで書庫を漁った甲斐がありました~。文献を読み進めながら寝落ちするのがマイブームなのです~」

「それって門外不出の禁書なんじゃ」

「意外……ブライトって、ばば様とそんなに親密だったんだ」

「逆だと思いますよ~」

「どういう意味ですの?」

「一族の中で私の存在など取るに足らないということです~。そんな私が何処で何をしようと無関心なのでしょう」

「そんなことは」

「お気になさらず~。私は今の自分に満足していますから、それに……ばば様に関心を持たれる事はプレッシャーですから……ふぁ~」

 

 ブライトは欠伸をしながらアルを見た。

 まるで『あなたならわかるでしょ?』と言っているような・・・

 俺の事も見ていた気がするのは、さすがに自意識過剰だろうか?

 

 ばば様から始まったトークは微妙な空気になってしまった。

 それを作り出したブライトは、素知らぬふりで舟をこいでいる。

 もうすぐ学園に着くから寝ないでほしい。

 

 空気を読んだのか読みたくなかったのか、シロが『鮫映画の話しようぜ』と持ちかけて、話題の転換に成功した。

 御三家令嬢たちは"シャークネード"と"シャークトパス"のどっちがクソかで議論していた。

 どっちもクソです。好きな人がいたらごめん。

 

 〇

 

 学園に到着した。

 たくさんの生徒が校門を通過して行く中、姉さんの姿を発見する。

 今日も門番お疲れ様です。

 

 メジロシリーズの五人に先行してもらい、俺と愛バたちはその後に続く形になる。

 

「おはようございます」

「はい、おはよう。今日はまた大勢なのね……マサキは?」

 

 『姉さん俺やで!』と言いかけたところをアルに邪魔された!?

 姉さんの視線から俺を隠すようにして、力強く抱きしめる。

 むぎゅむぎゅ・・・アルパイに溺れちゃう。

 

「何を持って……子供!?……あんたまさか…」

「バレてしまいましたか、この子は私とマサキさんの愛・・・」

「「「それはもういい!」」」

 

 『見せなさい』と言って姉さんは、アルパイで窒息しかけた俺の顔を強引に自分の方へ向ける。

 いたた!く、首が『ぐきっ』て鳴ったぞ。幼女はもっと丁寧に扱ってよ!

 

「・・・・」(T_T)ジー

「お、おはよう……です」((´д`)) ぶるぶる

 

 探るような姉の目がとても怖い。

 ビクつきながら挨拶をした直後、我が姉は動いた。

 

「その子を渡しなさい」ガシッ

「嫌です!」ぎゅー

「キャーッ」

「子守する暇があるなら学業に(いそ)しみなさい」

「子供を(さら)う暇があるなら、お仕事に励んだらどうですか?」

「二人とも冷静に、ここは冷静になるべきだと思うの」

「いいから寄越せ!」

「断固拒否します!」

イヤーッ!裂けるーー!マサキ裂けちゃうーーー!

 

 俺の片腕を掴んだ姉さん、絶対に離すまいと、もう片方の腕を掴むアル。

 助けを呼ぶ暇もなく、幼女(俺)を使用した綱引き大会が開催された。

 いだだだだだ、さける!裂ける!ザケル!

 あれ?なんだろう、過去にも似たような事があったような?

 あの時はどうなったんだっけ・・・

 

「何やってるんですか!」

「ちょ、あれヤバいって」

「助けなきゃ!」

「皆さん、力を貸してくださいまし」

「そこまでだドスケベ!」

「ついでに小姑もやってしまおう」

 

 悲痛な叫びを上げる幼女と、それを引っ張り合うウマ娘。

 どう見ても力自慢ウマ娘による幼児虐待現場である。

 愛バとメジロシリーズのみならず、通りがかった多くの生徒たちが救出に乗り出してくれた。

 

「ハア…ハア…助かった」(´Д⊂グスン

 

 何とか無事救出されました。

 こ、怖かった。また脱臼とかしたら嫌だしな・・・ん?また??

 アルは愛バたちから説教を受けて反省中、そして姉さんは・・・

 

「隙あり!」

「あっ!」

「たづなさん!?くそっ、またこのパターン!」

「この誘拐魔!マサキさんを返せ!」

「ほら見た事ですか!ずっと私が抱っこしていればよかったのに」

「はいはい。アルは反省しようね~」

 

 反省して意気消沈な振りをしていた姉は、一瞬の隙をついて俺の奪取に成功した。

 そのまま逃走を開始する。三日前のデジャヴを感じるぜ。

 

「例の如く俺のことは心配するな。みんな遅刻すんなよぉ~」

「「「「マサキさん、どうがご無事でーー!」」」」

 

 姉さんに連れてこられたのは、案の定、人気のない校舎裏でした。

 

「マサキ、一体何があったの」ブー

「あ、やっぱ気付いてた。シャミ子のわがままでさぁ」

 

 かくかくしかじか説明した。

 

「それでこんなに小さく」ブー

「変な体質でごめん。期間限定だから許して」

「許すも何も!夢にまで見た小さなマサキ、それが今私の前にいるのよ。感謝したいぐらい」ブー

「姉さんが喜んでるならいいけど」

「あなたの成長を見守れなかった事、ずっと後悔していたの」ブー

「姉さん……」

「神様の粋な計らいってやつね。シャナミア様さまだわ」ブー

「ただのワガママだと思うよ」

「くふふ、弟が妹に……そしてロリに!やってくれる、やってくれたわね!」ブー

「あの、そろそろ」

「出血多量で死ぬ前に激カワ妹を味わい尽くさないと!」ブー

「鼻血、止めませんか?」

「あ、はい」ブー

 

 会話している間、姉さんの鼻血は大きな血だまりを作っていた。

 垂らすと言うより勢いよく噴射していたな、ブーブーうるさかったな。

 

 それではヒーリング~のお時間です。

 もし、"姉の鼻血を止め選手権"があったら優勝してしまうかも。それぐらい手慣れてきた。

 

「ありがとう。今回も助かったわ」

「本当に気を付けてよ。ここ殺人現場みたいになってるからね」

「大丈夫よ。後片付けは理事長がやってくれるわ」

 

 雇い主であり操者でもある理事長をこき使ってるー。そんな姉さんも素敵。

 

「さすがマサキ、幼女になっても最高に可愛いわね」スリスリ

「そんな俺で綱引きした人がおるんですわ」

「誰よその不届き者は!見つけ次第斬首ね、さらし首よー」

「鏡を見て下さい」

 

 姉さんは俺を"抱っこ"して"おんぶ"して"たかいたかーい"して"頬ずり"している。

 子供のようにあやされてしまった。

 姉が幸せそうなので、しばらくなすがままです。

 赤ん坊だった頃にも、きっと、こうしてくれていたんだなあ。

 頬ずりし終わった姉さんは次の行動に・・・い、いかん!

 

「ペロペロはやらなくていいです」

「えぇ、なんでよー」

 

 間一髪、姉さんの腕から脱出する。

 この姉、まーたペロペロしようとしたよ。そう何度もやられて堪るかい。

 ペロリストは愛バたちで間に合ってまーす。

 

「もう俺が嘘付じゃないってわかってるよね。舐める必要なし!」

「そんなぁ。ちょっとだけだから、ブチャらしてよ。お願い!」

 

 『頬舐め』を『ブチャる』って表現するのやめてくれませんか?

 初登場のインパクトが強いけど、ブチャラティはめっちゃカッコイイ男なんだぞ。

 

アリーヴェデルチ!(さよならだ)

 

 マサキはにげだした。しかしまわりこまれてしまった。

 

「知らなかったの?姉からは逃げられないのよ」

「ちっくしょー」

 

 よちよち歩きで自由への逃走を図り、いとも簡単に捕まってしまう俺。

 この体の不自由さを思い知った。何とかして体力と運動能力を取り戻せないものか・・・

 "ブチャる"のは勘弁してもらい、代替案の"ほっぺにチュー"で我慢してもらった。

 

「じゃあ、理事長室に行くわよ」

「はーい」

 

 姉さんに抱っこされ理事長室へ向かう。

 

 こんな感じで更なる試練は開始された。

 姉に運搬されながら、どうか何事もなく終わりますように、と俺は願うのだった。

 



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抱っこして

 幼女化したことを報告するべく姉さんと一緒に理事長室へ。

 丁寧にノックしてから、いざ入室。

 

「失礼します」

「しつれいします」

「おお、たづな。校門前が騒がしかったようだが……何それ?」

 

 理事長の秋川やよいは目をパチクリさせながら、自らの愛バが抱く見慣れぬ生命体を指差した。

 小さくて大変愛らしい銀髪の幼女である。

 

 『それ』と言われてしまった。どうも俺です。

 

「俺だ!」

「誰だ!?」

「私の娘よ」

「マジか!?」

「嘘だッ!!」

「間違えた、妹よ」

「初耳ッ!マサキ君の他にも姉妹がいたのか?」

「バカなこと言わないで、私の妹はマサキだけよ」

「俺がそのマサキっスよ、理事長」

「……縮小ッッ!?」

 

 理事長は大変頭の良いお方、今のやり取りだけで大体の事情を察してくれたようだ。

 女体化した時と同じく、俺は事の経緯を説明した。

 

「理解ッ!テコ入れとはまた、愉快な思いつきをするものだ」

「本当よね。でも、そのおかげで小さなマサキに会えたことは感謝するわ」

 

 お二人とも、他人事だと思って楽しんでいる場合ではないですぞ。

 当事者の俺は不安と期待でいっぱいなのにー。

 

「その状態で業務は可能なのか?」

「はい。見た目はこんな感じですが、就業意欲に満ち溢れていますよ」

 

 姉さんの大量出血(鼻血ブー)を治療できたことからヒーリングは使用可能、知識や記憶も大人だった頃のまま正常だと思う。

 よって、仕事はできると判断する。

 

「うむ。本人がそう言うのならば、しっかり働いてもらおう。しかし、その体では何かと不自由だろう?」

「おっしゃる通り。このロリボディ、かなり貧弱虚弱なんですよ」

 

 登校時のエピソードを交えつつ、今の俺は体力も運動能力も著しく低下しているということを説明した。

 まだこの体に慣れていないせいだとも思うが、普段通り体が使えないのは辛い。

 

「そうなると、問題は移動だな」

「ですよね」

 

 トレセン学園の敷地は広大だ。

 授業を行う場所によっては、かなりの距離を移動しなくてはならないことが多々ある。

 従って、学園内には自転車やセグウェイの無料貸出ポイントがいくつも点在する。

 申請すれば自動車やバイクでの移動も許可される。、つまり、それぐらい広いってことなんだよね。

 脚力に自信があるウマ娘たちは広大な敷地面積をものともしないので、不平不満はあまり上がってこない。

 

 しかし、今の俺には死活問題である。

 理事長室、教職員室、医務室、授業を行う教室、チームの拠点、食堂、旧校舎・・・

一日に移動する場所の例を挙げてみたけど、あっちに行ったりこっちに行ったりしている。

 急患が出れば場所が何処だろうと駆けつけなければならない。それが医務室を任されている者の責務だと思う。

 思うんだけど・・・マズいな、移動だけで力尽きることが目に見えてる。

 

「将来的には転移陣を各所に設置して、学園内を瞬間移動する構想があるのだが……」

「机上の空論を述べても仕方ないわ。今はマサキをどうするかよ」

 

 転移陣の設置は非常にお金がかかることで有名だ。理事長はとても贅沢な設備投資を考えているんだな。

 そもそも陣を構築できる術者が自体が希少であり、設置後の定期メンテナンスも莫大な費用がかかる。

 ガッちゃんのように大人数を一度に転移させられる術者は例外中の例外だと思っていい。

 転移陣は贅沢で、転移術を使える=『マジですげぇ!』てことだ。

 

 ないものねだりしても仕方ない。

 すっと愛バや姉さんに抱っこしてもらうわけにもいかないし。

 

「私は構わないわよ?」

「俺が構うんだよ」

 

 俺のせいで愛バの学業やクエスト、姉さんのお仕事が疎かになるなんてダメだろ。

 そんなことになるぐらいなら、家でじっとしていた方がマシだ。

 他力本願になってしまうが、ここは頼れる仲間たちの力を借りたいと思う。

 

「移動は多分、大丈夫だと思います」

「どうする気?」

「暇人じゃなかった…友人たちに強力してもらえないかなーと思ってさ」

 

 持つべきものは親切な友人知人たちだ。

 俺の自惚れでなければ助けてくれると思う。最悪、何か報酬を払ってもいい。

 

「納得ッ!マサキ君の人望が試されるな。教職員たちにもサポートをお願いしておこう」

「助かります」

「マサキは変なのに好かれる体質だもの、その中から運搬要員を見繕うぐらい楽勝よ」

 

 その"変なの"に姉さんも含まれているのでは?と思ったが、言わぬが花。

 これで移動の件には目処がついた。

 

「幼女化した理由の説明はどうしましょう?」

「無論ッ!()()()()()()でいく!!」

「それがベストな選択です」

 

 悪いなタキオン、今回も利用させてもらうぜ。

 恨むなら許可を出した理事長を恨め。

 

「不思議だな。あのマサキ君がこうも可愛らしくなるとは」

「マサキは生まれた時からずっと可愛かったのよ」

「照れるぜ////」

 

 姉さんの褒めっぷりに照れてしまった。

 小さくなった俺を観察して、しみじみと呟く理事長。

 ん?何か姉さんを羨ましそうに・・・もしや?

 

「あの、抱っこしてみますか?」

「え!い、いいのか?ならば是非ともお願いしたい」

「冗談じゃないわ!ロリにロリが抱っこできる訳ないでしょう」

「姉さん、いいから理事長に俺をパスしてくれ」

「くっ……いいわね、やよい。絶対に落とすんじゃないわよ!」

「わ、わかった」

 

 姉さんが職務を忘れて理事長を名前で呼んだ。緊張しながら俺を受け取る理事長。

 そうそう、尻をしっかりホールドして俺もぎゅっと抱き着けば、抱っこスタイルの完成だ。

 

「おお、おおお。何だコレ?すごく満たされた感じだ。今、私の母性本能が覚醒している!」

 

 理事長は感動していた。

 普段は可愛がられる側だからな、自分が可愛がる側になって嬉しいのだろう。

 俺を見てニヤける理事長の愛らしい顔がすぐそばに・・・照れるけど、なんか嬉しい。

 

「ああ~カワイイ。可愛いなぁマサキ君は」

「おまかわ」

「満足ッ!よしよしだ、よしよし」ヾ(・ω・`)

「キャ、なんか新感覚」(≧∇≦)

 

 ロリに抱っこされるロリ(俺)です。

 甘やかしたいと思った相手に、逆に甘やかされるのも、また幸せなり。

 なるほど。こういう楽しみ方もあるのか、幼女化いいじゃん!すげぇじゃん!

 

 理事長に抱っこされている間、姉さんはスマホカメラの動画撮影に必死だ。

 満足するまで撮影し終わると、理事長から俺を奪い返そうとする。

 

「もういいでしょ。マサキを返しなさい」

「もう少し、後ちょっとだけ」

「俺のために争わないでー。だから引っ張ったらアカンて!」

 

 幼女な俺はデリケートなのです。丁寧かつ慎重に扱って頂きたい。

 

 〇

 

 ぴんぽんぱんぽーん・・・校内放送を告げる音が学園に鳴り響く。

 

『えー緊急連絡~緊急連絡。全校生徒並びに教職員の皆さんへ、ご報告があります』

 

『先日、素晴らしい女体化を披露して話題沸騰中のアンドウマサキ教官ですが」

 

今度は幼女になってしまいました!意味がわからない上に大事な事なのでもう一度言います』

 

『マサキ教官が!幼女に!なって!しまいましたぁ!

 

 スピーカーからの音声が俺の現状を通達した。

 荒ぶる放送担当者が『私は狂っておりません大真面目です』と震える声で付け加えていた。

 学園内の各所でリアクションに伴う叫びがこだました気がする。みんな元気ね~。

 

『つきましては、マサキ教官のお世話係を募集したいと思います。主に移動を"おんぶ"or"抱っこ"で補助してあげましょう。我こそはと思う方は本人に直接申し出て下さい。なお、愛バの4名とかち合った場合は速やかに撤退することを推奨します・・・』

 

 よしよし、これで学園中に伝わったと思う。

 ここまでやってお世話係を名乗り出てくれるの人がゼロだったらへこむ。

 

 まあいいや。気持ちを切り替えて、お仕事お仕事~。

 

 理事長室で話をした後、教職員室に場所を移してのお披露目会があった。

 またしても驚愕することになった同僚たち、最終的には『もう好きにしれくれ』と理解することを放棄して呆れていた。すまんのぅ。

  

 後ろ髪を引かれまくる姉さんと別れて、自分のデスクに向かう。

 事務仕事の時間ですー。

 

「うんしょっ、と」 

 

 体が小さいので椅子に座るのではなく、よじ登る感じになる。机が随分と広く感じるぜ。

 

「ふぅ。てなわけで、よろしく」

 

 席が近い同僚たちに挨拶する。彼らは俺が椅子から落ちないかハラハラしていたようだ。

 危なっかしくてすんません。

 あ、隣席のミオがすっごい目で見てる。何その熱い視線は、見物料取るわよ?

 

「何やってんの?マジで何やってんの?」

「やったというか、やられたというか」

「私にはもう、マサキが何をしたいのかわかんないよ」

 

 それは俺ではなくシャミ子に言ってほしい。

 考えるのをやめた同僚たちとは違い、ミオはまだ俺について頭を悩ます余裕がある。

 

「そんな体で仕事できるの?」

「甘く見るなよ。体は子供でも頭脳は大人だぜ」

「マサキの頭脳、普段から三歳児以下じゃん」

「まあ!失礼しちゃうわ。こうなったら仕事で結果を出してみせる」

「いい子だなマサキは、飴をやろう」

「わーい。ありがとうゲンさん!」(*´▽`*)

「ゲンちゃん。甘やかさないで!」

 

 ゲンさんは優しいし、ミオも何だかんだで手伝ってくれる。両隣がこの二人でよかった。

 

 一通りの書類を整理し終えた。

 俺が問題なく事務処理をすると『えらい』『よくやった』とみんなから褒めてもらった。

 その際に、頭を撫でられたりお菓子をもらったりする。

 

「これが幼女の役得か」

「何言ってんだか、お菓子食べ過ぎないようにね。虫歯になっても知らないよ」

 

 ミオの忠告はありがたく受け取っておく。お菓子は後ほど愛バたちとありがたく頂戴しよう。

 

「うちの師匠より小さくなっちゃって、大変だったわね」

「先輩~」スリスリ

「テュッティ、抱っこしてるの、あのマサキだからね?見かけに騙されないでよ」

「別にいいわよ。ちょっとぐらい甘えても嫌な気はしないわ」

「パイセンさすがや~それでこそや~金髪巨乳は最高やな~うぇへへ」

「本音が!?マサキの邪悪な本音が漏れてる!」

「あらあら、仕方のない子ねw」

 

 憧れのテュッティ先輩にも甘やかしてもらった。

 これだけでも幼女化しか甲斐があるわ!シャミ子ーー!ありがとーー!

 

「マサキ、いつまでそうしているつもりだ?遊んでいないで医務室に行け」

「あ、パパーー!」

「誰がパパだ!?」

 

 テュッティ先輩と戯れているとヤンロンが苦言を呈してきた。

 名残惜しいが、次のお仕事が俺を待っている。

 

「ヤンパパ、医務室まで連れてって」

「断る。一人で行け」

「そ、そんな」Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

 

 ヤンロンパパ、略してヤンパパは幼女に対してもスパルタを貫く男だった。

 児童相談所に駆け込んでやろうかしら?

 教職員室から医務室までは距離があるので何とかお願いしたい、もうちょっと粘ってみよう。

 

「この幼児虐待男!グラスとエルにチクってやる」

「フンッ、好きにするがいい。僕の愛バはお前の戯言などに惑わされたりせん」

「泣きながら、グラさんにあることない事愚痴ってやるーー!!」

「おいバカ待てそれは止めろ!」

 

 くふふふ、さすがのヤンロンも母親には弱いらしいな。

 グラさんからは『何か困った事があればワシを頼ってくれて良いぞ』とのお言葉を(たまわ)っている。

 俺としても心苦しいが・・・『お宅の息子さんに虐待されました!』と報告せねばならんとは。

 ヤンロン、親不孝な奴め。

 

「止めろと言っている!」

「あーあ、どこかに俺を運んでくれる、優しい中華系パパいないかなぁ」|д゚)チラッ

「背に腹は代えられんか、仕方がない。サッサと行くぞ」

「おんぶー」

 

 テュッティ先輩にお礼を言って、今度はヤンロンの背中に飛びつく。

 ミオ『子泣きじじい』とか失礼なことを言うな。

 ヤンロンは嫌そうだったが、観念しておんぶしてくれた。

 

「なんで僕が……おい、母上に余計な事は言うなよ」

「わかってるよ。そんじゃまあ医務室へゴー!」

「男ってマザコンばっか」

「マサキとヤンロンが重症なだけと思いたいわね」

 

 本人たちを目の前にして失礼な話だ。

 聞き捨てならないので、ちょっとだけ反論しちゃう。

 

「長年母さんたちと暮らして、マザコンにならない方が異常だと思うんだよね」

「同感だな」

「うわ、マザコンどもが意気投合してる」

「リカルドは大丈夫かしら、心配になってきたわ」

「行こうぜヤンロン、女子供には母さんたちの良さが伝わらんのですよ」

「嘆かわしい事だ」

「はいはい、ママが好きなのはわかったから真面目に働け」

「ウィーっス」

 

 女性陣(人外を含む)からの辛辣の物言いに,母親スキー二名はすごすごと退散するのであった。

 愛バたちだってすぐに懐いたし、天級騎神は包容力も凄いんだからね!

 ミオはともかく、ガッちゃんにメロメロのテュッティ先輩には、わかってほしいんだけどなあ。

 

 〇

 

 医務室を訪れた生徒たちは皆一様に驚愕した。

 全校放送で覚悟していたとはいえ、自分を診察する教官が男から女へ……そして今日、幼女になっていたのだ。わけがわからん!

 それもただの幼女ではない、学園内外の人々を虜にした美女、通称"お姉さま"の魅力をそのままに、小さく可憐になったスーパー美幼女だったのである。一部の者には『こっちのほうがいい』評判だ。

 美幼女本人も『鏡に映った自分をナンパした』と豪語していた。ロリ好きにはたまらんらしい。

 その発言で『あ、こいつ中身はロリコンのままだ』と皆は納得した。

 ロリコンのロリという世にも奇妙な生命体の誕生である。

 

 小さくなっても治療師としての腕は落ちていない。これは本当に僥倖(ぎょうこう)だった。

 何なら普段より調子がいいくらい。

 患者たちの驚きリアクションに対処しつつ、午前の診察をスムーズに終えることができたのだ。

 

 一息つこうと思ったところで、招かれざる客の登場。

 カバーストーリーで大活躍したアグネスタキオンと、お供のマンハッタンカフェである。

 カフェは大歓迎なんだけどね。

 

 雑談もそこそこに、測定だの検査だのをすると言われた。

 女体化した時もやったのに、面倒だなあ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はい、この測定器にもう一度覇気を流してくれたまえ」

「そりゃっ!」

「そのまま維持して……相変わらずイカれた数値を叩き出すな、君は」

「おい、もういいか?」

「待ちたまえよ、もう少しだけ……オッケーだ」

「ふぃー」

「お疲れ様でした」

 

 カフェに労いの言葉をもらっていると、誰かに頭を撫でられた気がする。これは"あの子"の仕業なのかしら?幽霊っぽい何かにも可愛がられる、俺って罪な幼女だ。

 丸い水晶玉と電卓が合体したような機器は覇気を測定する、タキオン自作の道具だ。どうりでギルドとかでよく見るヤツと大分形状が違うと思った。

 測定中、水晶玉の色がコロコロ変わって楽しい。

 

「若干ブレはあるが、覇気は男だった頃と同等だね」

「ホンマかいな。適当言ってるんじゃないだろうな?」

「この私の測定に不備があるわけないだろう。続いて身体検査に移行する。さあ、脱ぎたまえよ」

「オッケー、キャストオフするぜ」

 

 子供服を脱いで、綺麗にたたむ。すっぽんぽん全裸幼女完成のです。

 

「いい脱ぎっぷりです」

「君には羞恥心というものはないのかね?」

「そんなもんとっくの昔に捨てた。ほら、風邪ひく前に早くして」

「別に全裸じゃなくてもよかったのだが、まあいい。カフェ、手伝ってくれ」

「はい。マサキさんこっちですよ」

 

 二人がかりで身体検査される。

 身長、体重、その他諸々を一通りチェックして、唾液や髪の毛のサンプルも取られた。

 俺の下半身を見た二人が『ないな』『ないですね』と呟いていた。

 その反応いる?女体化検査時にもやってたよねぇ!

 

 検査が終わった後は服を着て、カフェが淹れてくれたコーヒー牛乳をいただく。

 今の俺にはブラックは苦すぎると判断してくれた心遣いに感謝だ。

 あまくておいちー。

 

「ふーん。成人女性バージョンと比較したいな。もう一度大きくなったりできないかい?」

「無茶言うなよ。幼女になったのだって、俺の意思じゃないんだぜ」

 

 言うならば女神の意思だ。

 

「その女神とやらにも会ってみたいねぇ。本当に君の周りは興味深い事象で溢れている」

「実験動物を見る目をするな」

「安心したまえ、常識人である私は友人をモルモット扱いしないと決めている」

「「どの口が言うのか!」」

 

 カフェとハモりながらツッコんでしまった。

 七色に発光させられた被害者団体に、俺とカフェも含まれているのを忘れたとは言わせんぞ!

 俺たちのジト目も、どこ吹く風なマッドサイエンティストである。

 データをまとめ終わると、自分のコーヒーに口を付けながら雑談の姿勢に入るタキオン。

 

「変体する変態のデータ……役に立つかは不明だが、男に戻るまで検査は毎日継続するよ」

「ええー、めんどい」

「おいおい、ミニカピバラ君は私に借りがあったろう?これぐらいは協力してもバチは当たらないと思うよ。むしろ進んで協力すべきだとも」

 

 借り?作った覚えないんですけどー。

 

「ほう。私が薬を盛ったなどという、悪評を広めたのは誰だったかな?」

「日頃の行いのせいだろ」

「皆さんの反応は当然の報いだと思います。ざまぁw」

「君を女体化させたと事実無根の話が拡散されたために、私がどれだけ苦労したと思っているんだい!」

「何かあったの?」

「連日、大変多くのご意見と突撃がタキオンさんを襲っています。罵倒やクレームが5割、賞賛が3割、『薬を売ってくれ!』というのが2割です」

「やだ、楽しそうww」

「で、今回は幼女化だ。どうせまた私のせいにしたんだろ!」

「せやで」

「こ、この幼女の皮を被った悪魔が!」

 

 こんなにカワイイ俺を悪魔呼ばわりとは、幼女戦記の主人公に比べたら天使だろ?

 やれやれ、カバーストーリーとして利用させてもらった負い目はあるので、ご機嫌ぐらいとってやるか。

 

「まあ、落ち着けよ。特別に抱っこしていいぞ」

「そんなのが慰めになるとでも?」

 

 とか言つつも、タキオンは俺を抱っこした。なんだろう不思議な薬品の匂い?

 むう。思ったより心地よい柔らかさ、こいつも女なんやな~とか思ったりして。

 

「存外に軽いな。それに……こうしていると、何故かストレスが緩和しそうだ」

「それが母性ってもんですたい」

「どうだいカフェ、母性溢れる私も中々様になっているだろう?記念に写真を一枚撮っておいてくれたまえ」

「いいですけど……後で交代してください」

 

 俺を抱っこしたままの写真撮影でタキオンの機嫌は治った。

 幼女セラピーの効能すげぇ。

 ついでにカフェも撮影会に参加した。ほのかなコーヒーの匂い……ほほう。

 着痩せするタイプですかな。

 

「用心したまえ、ミニカピバラ君はカフェのおぱーいを狙っている」

「狙ってはいない。ただ、もうちょっと密着したいだけだ!」

「自分に正直か!」

「つい本音が!?ごめんカフェ、もう降ろしてくれていいよ」

「構いません。ずっと抱っこしていたい気分ですから」

「カフェ~」スリスリ

「フフ、可愛い人ですね」

「イチャつくなら余所でやってくれたまえ。せっかくだ、そのまま運んでもらうといい」

 

 タキオンの提案は願ったり叶ったりだ。

 この後、授業が一コマ入っているので教室まで運んでくれると非常に助かる。

 

「お願いできる?」

「はい。責任もって教室までお届けします」

「私はもう少しここでゆっくりしていくよ。ミニカピバラ君は教官業務を頑張ってきたまえ」

「タキオンさん。偶には授業に出たらどうですか?」

「サボり魔め、単位落とした後に泣きついて来ても知らねーぞ」

「アッハッハッハ、そんなヘマはしないさ。ギリギリの出席日数と定期試験の高得点で卒業までこぎつけてみせるとも」

 

 自信満々なのがムカつくが、要領と頭がいいタキオンならやってのけるのだろう。

 これだから天才って奴らは……シュウとかシロとかも普通にやってそうだ。

 

「医務室を出るときは」

「"マサキ不在"の看板を出しておけばいいのだろう」

「わかっているならいい。行こうカフェ」

「はい、行きましょう。タキオンさん、マグカップを片付けておいてくださいね」

「はいはい。行ってらっしゃいだ」

 

 タキオンに後を任せて出発する。

 体調不良で医務室を訪れたら、タキオンが待っていた!・・・患者が寄り付かなくなりそう。

 まあ、大丈夫だろ。

 

 少し時間に余裕があったので、目的地まで遠回りしてもらった。

 カフェが俺を運んでいる姿をみんなに目撃させることで、お世話係のデモンストレーションになると思ったのが一点。もう一点は・・・

 

 (うん。密着していると神核の状態がよくわかる)

 

 職業病なのか、触れた相手の覇気を無意識にチェックしてしまう事があるのだが。

 抱っこされ密着した状態で意識的に探りを入れると、覇気中枢、神核の奥までも調べられそうだ。

 『ごめん』と心の中で謝りながらカフェの神核をちょっくら拝見・・・・・・特に問題なし。

 

 いい事を思いついた。

 

 学園内にルクスの仲間や愛バが紛れ込んでいるとしたら、神核に何らかの異常が見受けられるのでは?

 奴は対象の神核を操作することができる厄介な力を持っている。1stのベーオウルフたちやアルダンが暴走したのも、それが原因で間違いないだろう。

 ルクスだったら仲間の神核を操作してパワーアップさせるぐらい考えそうだし、愛バなら奴とリンクした痕跡が残っている可能性も。

 あの赤い覇気粒子とオルゴナイトが発する気配、今なら探れるのではないだろうか?

 

「どうかしました?」

「何でもない、カフェに抱っこされているのが嬉しいのじゃよ」

「こんな事で喜んでくださるなら、いくらでも」

 

 よし、決めた。

 俺は幼女になっている間にいろんな奴に抱っこされまくる!

 おぱーいを堪能・・・じゃない!神核を調査してルクスのスパイをあぶり出してやるのだ。

 冴えてる!今日の俺は冴えているぞ、フハハハハハハハハ!

 趣味と実益を兼ねた何とも素晴らしい作戦を思いついた。自分の優秀さが憎い。

 え?男にも抱っこされるのかって?・・・女性というかウマ娘優先に決まっとろうがい!

 まずはルクスの愛バを見つけるのだよ。

 参ったなあ~学園はウマ娘だらけだよ、どうしても男は後回しになっちゃうな~( ̄▽ ̄)

 

 〇

 

 教室前まで送ってくれたカフェと手を振って別れた。

 素敵な抱っこタイムをありがとう。また機会があればよろしく。

 

「皆の者!授業じゃ!」

 

 意気揚々と教室に突入した。

 殿様のような物言いになったのは、なめられないための虚勢である。

 

「ロリだ。本当にロリが来やがった」

「前のも良かったけど、これはこれでアリね」

「何なのアレ!どちゃくそカワイイじゃん!」

「また、タキオンの仕業らしいぞ」

「もうヤダあのマッド」

「お、お持ち帰りしたい」ハアハア

 

 わかったわかったから、ヒソヒソざわざわしないでね~。

 

「はいはい、俺がアンドウマサキ教官ですよ。何か文句あるか?」

「「「「無いと思うか!!」」」」

「生徒諸君に一つだけアドバイスしよう。いいから慣れろ!」

「「「「無茶言うなや!!」」」」

「"男子三日会わざれば刮目して見よ"と言うだろう。女になったり幼女になったりしても、何もおかしいことはない。俺は至って普通だ、ふ・つ・う」

「「「「どこが!?」」」」

 

 はいそこ『普通って言葉を辞書で引け』『マサキは異常』とか言わないで。

 

 教壇に進み出て集まった生徒たちを見わたせ・・・ない・・・だと!?

 残念なことに教卓で、俺の姿がすっぽり隠れてしまった。

 これでは生徒たちを見渡すなど無理である。向こうからも見えないだろコレ。

 この体、他にも弊害があるのでは・・・

 

 (やべ、黒板に手が届かない)

 

 チビなのがこんなに辛いとはな。

 何とかジャンプして・・・これでも無理か、(;´д`)トホホ。

 

「ちっちぇな」

 

 ハオ様みたいな事を言う奴は誰だ!?

 

「そう思うんだったら手伝ってくれ。具体的には抱っこしてほしいっス」

「では私が~」

 

 抱っこに名乗りを上げてくれたのはメジロブライトだった。

 あら、アルとマックを除くメジロシリーズの皆さんもご一緒なのね。

 俺の授業に顔を出してくれてありがとう。

 

「大丈夫なの、ブライト?途中で眠って落っことしたりしない」

 

 ライアン、不安になるようなことを言うなよ。

 ブライトが寝落ちしたら俺も床に落とされんの?勘弁して。

 

「心配でしたら交代制にしましょう~」

「し、仕方ないわね。今回は特別よ」

「と言いつつ、ロリマサキに興味津々なドーベルであった」

「がっちりホールドしてみせます。このマッスルボディ2ダッシュプラスにお任せください」

 

 マッスルボディ?たちも抱っこしてくれることになった。

 うんうん、それがいいと思う。ずっと一人が抱っこしていたらノートとか取れないからね。

 他の生徒たちも頼めば心よく抱っこに応じてくれそう、優しい子たちだなぁ。感激した!

 

 眠り姫の異名を持つウマ娘、ブライトは俺を優しく抱き上げる。

 

 この子、メジロブライトとの出会いも突拍子もなかったな。

 覇気を集める旅の途中、公園で野宿していたらいつの間にか隣にいたのよ!?

 あの時はビックリしたな。気配を感じなかったのもだが、それから丸一日起きなかったのもヤバかった。

 揺さぶっても、ミオと漫才しても、至近距離で半裸スクワットしても、一人焼肉パーティしても起きなかった。

 ミオの制止を振り切り『もう、おぱーいを揉むしかねぇ!』と、行動に移そうとしたところでやっと目覚めた。

 ちくしょー!

 

『ふぁぁ……おはようございます……』

『お、おはよう』

『???……あの~、どちら様でしょう?』

『こっちのセリフじゃい!』

『申し訳ありません。私、変な夢を見ていると~中々起きないんです~』

『変な夢ねぇ…』

『公園で野宿する変質者におぱーいを揉みしだかれる夢です~////』ポッ

『それ俺やないかい!……あ、今の無しで、堪忍して!未遂だったんやぁ』

『プッ……なるほど、面白い方…』クスクスッ

 

 そんな会話があって仲良くなり。こちらも事情を説明て覇気をもらったんだ。

 その後、迎えに来たメジロ家の親衛隊に囲まれて『誘拐犯』呼ばわりされたのはキツかった。

 『またお前か!』という声も聞こえたので、ハガネに乗っていた人もいたみたい。

 

 ブライトとの思い出はそんな感じだ。現在に戻るよ。

 

「どうですか、マサキ様?至らない事があればおっしゃってくださいまし」

「ありがとう。十分過ぎるほどナイス抱っこだ」

「ほわぁ…マサキ様、大変可愛らしいです~。サラサラのプニプニでスベスベ~」

「おたくもですな」

「今、絶対エロい事考えたでしょ」

「それでは授業開始じゃ!」

「こいつ、全力でスルーしたわww」

 

 今日の授業内容は頭に叩き込んでいる。

 覚えてほしい重要ヵ所を板書したり、丁寧にかみ砕いて説明していく。

 

「ここテストに出まーす」

「悔しいけど、解りやすい」

「授業そのものは、すごくまともなんだよなぁ」

「教官はまともじゃないけどな」

「・・・」( ˘ω˘)スヤァ

「ヤベッ、ブライト抱っこしたまま寝てる!?」

「交代!交代して」

 

 あらあらブライトの奴、隙あらば寝ちゃうな。

 ナルコレプシーを疑って病院に行った事もあるが、健康体そのものだったらしい。

 他に原因があるとすれば、覇気の不調?

 こうしている今も神核に異常は無いように感じるが・・・

 

「ただ単に寝るのが好きなだけですわ。お恥ずかしい~」

「起きていたのか」

「たった今です~。ライアンお姉さま、後をお願いします~」

「頼むぜマッスルボディ」

「この筋肉に誓って!」

 

 頼もしい、頼もしいぜ、マッスルボディ2ダッシュプラス。

 抱っこ中の神核チェックも並行して行ったが、メジロ家のみんなは潔白だな。

 

「マッスルボディご自慢の筋肉は引き締まっていながらも、その胸部は柔らかであった」

「おい、心の声が漏れてんぞ」

「セクハラだ。セクハラロリがいるぞ」

「ここテストに出まーす」

「「「「出すなよ!!」」」」 ・

「まだ柔らかいですか、次こそは『固い!ガチムチ!』と言わせてみせます。よーし、もっと鍛えないと!」

「そのままの君でいて」

 

 今日の授業も好評だったとさ。

 

 〇

 

 お昼になった。

 学園にいる人たちは自然と食堂に集い、食事と休憩をとるのがセオリー。俺もそれに(なら)う。

 例によって愛バたちはクエストに出かけてしまい別行動中である。寂しいけど我慢だ。

 ボンさんとライスをはじめとする、中の良いネームドたちが相手をしてくれるので、安全面は心配はない。

 

「そんな……ライスのお姉さまが……絶望した!」ガクッ_| ̄|○lll

 

 憧れのお姉さまを失ったショックでライス崩れ落ちてしまった。

 あんなに『お姉さま!お姉さま!』と懐いてくれていたのに、絶不調になってしまっている。

 なんか悪い事したなあ。

 

「どうしよう、ボンさん?」

「下手に構うとつけあがると予測、ここは放置を推奨します」

 

 今の俺はボンさんに抱っこされている。

 スタイルの良いボンさんの抱っこ・・・いいね!イエスだね!

 

「ブルボンさんは冷たいね。無慈悲な冷血サイボーグ娘だね」

「マサキさん。私は冷たいですか?」

「あったかい、柔らかい、いい匂い、好き」(≧▽≦)

「マサキさんもですよ。お揃いですね」

 

 ボンさんと『キャッハウフフ』しちゃうのだ。

 

 一見すると無表情が多いボンさんであるが、よーく観察すると表情は状況に合わせて結構変わっている。笑うと可愛いのよこれがな。

 仲の良い相手しか見ることができない、眩しい微笑みが非常にカワイイ!

 抱っこも大変お上手。万が一にも俺に負担がかからないよう、細心の注意を払ってくれているので、安心して身を任せられる。

 冷血なんてとんでもない。慈愛に満ちたボンさんはあったけぇ・・・

 

 シュウもいい愛バを見つけたもんだ。友人として鼻が高いぜ。

 

「ライスをハブにしてイチャイチャ、酷いよ二人とも」(ノД`)・゜・。

 

 やべ、放置し過ぎたか・・・

 ボンさんと戯れているとライスに泣きが入った。絶不調と顔に書いてある。

 お姉さまロスが長引いても可哀そうだな。なんとか元気づけてあげたい。

 

「そんなに好きなら、いっそのことライスが"お姉さま"になったら?」

「え!?」

「その発想はありませんでした」

「ライスが……お姉さまに……そんなの無理だよぉ…」

「俺が幼女になるご時世だ。何事もやってみないとわかんねぇぞ」

 

 『それはお前がおかしいだけ』と周囲のネームドが呟いているが無視。

 

「くっそ可愛いくて優秀なライスに、お姉さまは荷が重いよぉ」

「自己評価高めなのが不快です」

「まあまあ。じゃあ、少しハードル下げて"お姉ちゃん"いってみますか」

 

 ボンさんに抱っこを解除してもらい、ライスの前に立つ。

 今朝、シロとアル相手に散々甘え倒した修行の成果を見せてやる。

 深呼吸して・・・よっしゃ!やったるでー。

 

「お、お姉ちゃん////ライスお姉ちゃん!」

はぎゅお!?!?

 

 上目遣いで瞳を潤ませながら、精一杯あざとく、はにかんでの先制攻撃。

 ボンさんや他のネームドたちが見守る中で放たれた『お姉ちゃん』呼びがクリティカルヒット!

 ライスの口から妙な音が奏でられた。

 効いてる効いてる、このまま畳み掛ける。

 

「ライスお姉ちゃんは、私のこと嫌い?」

「そ、そんなことない。ライスはマサキさんのこと好きだよ」

「でも、私が"お姉さま"じゃなくなったから絶不調に……」(´Д⊂グスン

「絶不調なにそれおいしいの!ライスのやる気はもう絶好調だよ!全国の"お兄さまandお姉さま予備軍"から投げ銭たらふく貢がれた時より絶好調だよ!!これもマサキさんのおかげだね!!」

「今、(こめ)っ子の闇を垣間見た気が……マスターに『ライスは悪い子(ゲス)』と報告します」

「稼いだ分でルマンド買ってあげるから!お兄さまにチクるのはやめてよ!」

「贅沢ルマンドでお願いします」

 

 ボンさんとライスの間で何やら取引が成立した。ルマンド美味しいよな。

 

「ライスお姉ちゃん、元気になってくれた?」

「うん、もう大丈夫。元気出たよ」

「お姉ちゃん偉い!カワイイ!あざとい!」

「そうかな。えへへ////」

「シュウお兄ちゃんもきっと、お姉ちゃんが愛バで喜んでるよ」

「当然のことをほめ過ぎだよ////」

 

 元気になってくれたならいいんだ。妹キャラを演じた甲斐があったぜ。

 あ、ボンさんが少しイラッとしてる。

 

「そこまでにしとけよ、産地偽装米」

「偽装なんてしてないもん!純国産米だもん」

「知らんがな。で、お姉さまロスからは立ち直ったのですね」

「姉さまは死んだ!もういない!」

「「いきなりどうした!?」」 

「だけどライスの背中に、この胸に!一つになって生き続けるの!」

 

 幼女になっただけで、別に死んでないよ。

 ガイナ立ちで啖呵を切るライス。

 お姉さまとの別れを乗り越えて一回り成長した模様。

 

「"穴掘りライス"はウザいので放置します。ところでマサキさん、私も姉気分を味わってみたいのですが?」

「マサキさんはライスとお楽しみ中なの!割り込むなんてダメなんだから」

「お姉ちゃんたち、ケンカしちゃだめだよ」

「「はーい」」

 

 俺が演じる妹キャラに二人はすっかりハマってしまったようだ。

 『ロリ妹イイ!』と悦んでくれて何よりだ。

 ボンさんの呼称、ミホノお姉ちゃん?それとも、ボン姉ちゃんと呼ぶべきか悩むな。

 

「黙って聞いていれば、いい加減にしてよ!」

 

 バンッ!とテーブルを叩く音が響く。

 俺たちのやり取りを見守っていたネームドの一人が、勢いよく立ち上がり叫んだのだ。

 何怒ってますのん?

 

「どうしたチャン子?ご機嫌斜めじゃん」

「チャン子じゃない!カ・レ・ン!カレンだよ、お兄ちゃん!」

「ちゃんこ鍋食いてぇな」

「知ってる?"ちゃんこ"って鍋だけを指す言葉じゃなくて、相撲力士の食事全般の事なんだよ」

「さすが、実家が相撲部屋のボーノだな」

「大きな体を維持するにはたっぷり食べないとね~。だから、必然的にお鍋が食卓に並ぶことが多いんだ」

「「「「へぇー、ためになるねー」」」」

「コラッ!少しはカレンに興味を持って!」

 

 ヒシアケボノのおかげで豆知識が増えた。

 どういうわけか、カレンチャンがプンスコ怒っている。

 チャン子、可愛いと思うんだけどダメ?

 

「五飛、トレーズはもういない。トレーズはお前が倒したんだ!」

張五飛(チャンウーフェイ)でもねーし!トレーズを倒した覚えもないよ!?」

「そこは『俺は今でも奴と戦っている!』と返してほしかったですね」

「だね。チャンちゃんにはガッカリだよ。自爆スイッチ押せばいいのに」

「チャンちゃんもヤメロ!」

 

 エンドレスワルツむっちゃ好きやねん。

 ネオさんの薫陶(布教)でボンさんとライスもガンダムWに詳しい。

 

「何故かロリ化した、激ヤバお兄ちゃん!カレンを差し置いて妹キャラになるなんて、そんなの許さないよ!」ビシッ

 

 指を突き付けて来るチャン子。

 妹キャラって許可制なの?知らんかったわー。

 

「という訳で、カレンと勝負だよ」

「この前、クロとシロの尻尾が意味不明なぐらい絡まってさぁ。解くのに苦労したんだよね」

「尻尾あるあるですね。ウマ娘なら一度は経験するトラブルです」

「力の差が激しいと一方の尻尾が取れちゃうなんてことも……うう、考えたくもないよ」

「ガン無視やめて、こっち見ろ!勝負!するよ!」

「めんどいから不戦敗でいいよ。№1妹はチャン子に決定~。はいみんな拍手~」

「「「「わーすごいなぁ憧れちゃうなー」」」」

「クソみたいな棒読み!?全然っ嬉しくないんだけど!ねえ、勝負しようよ~」

「悪いな、みんなに可愛がられる作業で忙しいんだ。妹対決は別の暇人とやってくれ」

「勝負してくれたら、知り合いのウマスタグラマーを紹介してあげるからさあ」

「興味ないね」

「元々カレンのファンだった子なんだけど、自撮りを投稿したらあっという間にバズっちゃったんだよね。うわっ、改めて見てもカワイイの暴力だよ。これでまだ小学生だなんて末おそろ……」

「その勝負受けて立つ!待ってろよ小学生ウマスタグラマー!」

「「「「あーあ、ロリコン刺激しちゃったよ」」」」

 

 別にこれっぽっちも興味なかったけど、チャン子がどうしてもと言うので仕方なく勝負することにした。生徒の挑戦を受けるのも教官の責務だからな。

 ついでに、小学生ウマスタグラマーとやらにネットリテラシーを享受してやろうではないか!

 直接会って、お友達になって、あんなことそんなことできたらいいな!うへへへ。

 

「ようやく、やる気になってくれたね。それでこそ、ロリコンお兄ちゃんだよ」

「早く始めようぜ。そして早く終わらせよう」

「この後、急ぎの仕事でもあるのですか?」

「小学生篭絡(ろうらく)プランを熟考する、大事な仕事が入ってしまってな」

「それ仕事じゃないよ!?犯罪者の悪巧みだよ」

「そうだな。SNSが原因で犯罪に巻き込まれる例もあるし、俺がお守りしないとな!」 

「"真の異常者は自身の異常に気付かない"の典型です」

「あくまでも善意なんだね。(たち)が悪いなあ」

 

 ボンさんとライスも生温かい目で応援してくれるらしい。その期待に応えて見せる。

 

「ルールの説明をするよ。勝負方法は簡単、ランダムに選んだ相手に妹力(まいりょく)を見せつけて(とりこ)にした方の勝ち」

「質問!『まいりょく』って何やねん?」

「読んで字のごとくだよ。妹力は妹的存在が生み出すキュートでラブリーなパワー!お兄ちゃん、お姉ちゃんたちを魅了して都合のいいようにコントロー……ゲフフンッ!た、たくさん応援してもらえるようになる力のこと。理解したね?」

「洗脳してコントロールする力か、なるほどな」

「応援だよ応援!妹が大好きすぎるあまり、自主的に応援してくれるだけだってば」

 

 妹力ね・・・自身のカリスマ性をもって他者を惹きつける力。

 愛バたちのお嬢様モードと似たような効力だと思う。

 『いもうとちから』とも読めそう。

 

「早速始めるよ。時間が無いから勝負は一回きり、次に食堂へ入って来た人物がターゲット」

「待て、(とりこ)にしたって具体的にはどう判断する?」

「抱きしめて『カワイイ!』と言ってもらえたらオッケーってことで、どう?」

「わかった。それでいい」

「勝敗の行方はターゲットの趣味趣向にかかっていると判断します」

「妹になびかない相手だと苦しいかな。でも、カレンちゃんの妹力はライスも目障りに思うレベルの域に達している。普段、妹に興味が無い人だって強制的に支配下に置いちゃうかも」

「的確な分析……同類だからでしょうか」

「ねえライスちゃん。カレン、目障りなの!?」

 

 確かに、これはターゲットが重要なポイントになる。

 今の俺でいけるか?百戦錬磨の妹キャラであるチャン子に勝てるのか?

 負けても、小学生は紹介してくれますよね?

 

「あ、誰か来るよ。フッフッフ~これでまたフォロワーが増えちゃうかな♪」

 

 食堂の入口に人影が!?

 誰だ?誰が来たんだ?俺と同じ幼女趣味の奴来い!……学園で俺以外にそんな奴いたっけ?

 

 勝負の行く末を決める、何者かが食堂に入って来る。

 俺とチャン子とボンさんとライス、そして背景と化しているネームド連中が固唾を飲んで見守る中、その人物は現れた。

 

「あら、マサキじゃない。他にもいろいろ揃って何してるの?」

「「「「た、たづなさんかよぉぉ!!」」」」

「『将軍かよぉ!』みたいに言わないでくれる」

 

 はい。現れたのは俺の姉さんでした・・・・・・・・・勝ったな。

 

「チャン子、さすがにこれはマズいって」

「何、怖気づいたの?カレンはやるよ!相手にとって不足なし」

「いや、お前のためを思ってだな」

「たづなさんかぁ……ライスなら逃げる一択だよ」

「一気にヌルゲーになりました」

 

 俺と姉さんの関係を知っているボンさんは『あちゃ~』みたいな顔をしている。

 ライスやその他の連中は、苦しい戦いになった事に難しい表情を浮かべた。

 逆にチャン子には火が付いたようだ。

 あの、たづなさんを魅了成功したとあれば箔が付くからな。

 

「なあホントにやるの?今ならまだ引き返せるぞ」

「覚悟を決めてよ、元男でしょ。お兄ちゃんが行かないなら、カレンが先行をもらうよ」

「どうぞどうぞ」

「腰抜けお兄ちゃんはそこで見てて、カレンがたづなさんを攻略する様をねぇ」

 

 何という自信、こいつはもしかしすると意外といけるのか?

 俺の姉さん攻略されちゃうの?姉をNTR悔しいです!みたいになっちゃうの?

 

「たづなさん。ちょっとお時間いいですか?」

「何かしら?ウマスタに何でもかんでも投稿する、SNS狂いのカレンさん」

「ウマスタは置いといてですね~。たづなさん、やっぱり素敵だなぁ」

「急にどうしたの?」

「カレン、前から思っていたんですよ。たづなさんみたいな人が姉妹だったら良かったのに……」

「悪い物でも食べたの?」

「それでぇ。たづなさんに、勇気を出してお願いがあるんですけど」

「やっと本題に入ったのね」

「たづなさんのこと……って呼んでもいいですか?」

「??よく聞こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」

 

 頬を朱に染めたチャン子は瞳を潤ませながらモジモジする。

 あざとっ!笑えるぐらいにあざといわー。さっき似たような事やった俺でも引くわー。

 そして、意を決したように口を開く。

 

「カレン、たづなさんのこと"お姉ちゃん"って呼びたいの……ダメかな?」

 

 お、おう。目線の角度や息づかいまで完璧じゃい。

 いじらしくことこの上ない妹力が炸裂した瞬間である。

 

は?何言ってんの?ダメに決まってるでしょ」

「アッハイ、そうですよね。ホント何言ってるんでしょうね……あは、あはははは」

「「「「撃沈したぁーー!!」」」」

 

 すげぇぜ姉さん。眉一つ動かさずチャン子をバッサリ切り捨てなさった。

 チャン子、盛大にマインドクラッシュされとるがな。

 だから言ったのに……ヤダもう!なんか可哀そうになってきた。

 もし俺が姉さんにあんな対応されたら、真っ白に燃え尽きる自信あるわ。

 

「負けた…カレンの妹力まったく通用しなかった…‥そんなのアリ!?」(;´д`)トホホ

「災難だったな。とりま俺を愛でて元気出しとけ」

「フンだッ!同情なんていらないよ。それよりも次!お兄ちゃんの番だからね」

「いや、俺はいいよ。もう勝負ついてるから」

「カレンだけにダメージ負わせて逃げようだなんて、させないんだからぁ!お兄ちゃんも、だづなさんの塩対応に晒されちゃえばいいんだぁーーー!」ヽ(`Д´)ノプンプン

「わ、わかったよ。やるよ、やればいいんでしょ」

 

 チャン子がより深いダメージを受ける未来しか見えないけど、やれと言うのならやりましょう。

 

「マサキさん、やるの?逃げてもいいんだよ」

「心配ありません。既に勝敗は決しています」

 

 『マジでやるのか』『マサキさん泣いちゃうかも』と俺を心配する声が聞こえるが、全部杞憂なんだよなあ。

 姉さんも頭に『?』マークを浮かべているようだし、早く終わらせよう。

 少し距離をとり、助走をつけて姉さんまで一直線にダッシュ!

 ただし、幼女のスピードである。歩くような速さである。

 

「お姉ちゃん!抱っこーー!」

「心得たわ、おいで!」

 

 ロリダッシュからのロリジャンプ!

 俺の声と動きに反応した姉さんは素早くしゃがみ素早く俺を抱き留める。

 一部の隙もない流れるような動きだ。

 妹勝負を観戦していた皆は、何が起きているのかわからない、ついていけない。

 マサキを抱っこした状態のたづなは、心底嬉しそうにしている。

 

「わーい。お姉ちゃん好き~」

「よしよし。まったく、あなたは本当に甘えん坊ね」

「甘えたらダメ?」

「いいに決まってるじゃないの。あーもう、最高ッッにカワイイわ!」

 

 ごく自然に全力で甘えるマサキ。

 見たこともない穏やかな表情で、聞いたこともない優しい声色で、マサキと戯れるたづな。

 誰がどう見ても、たづながマサキに魅了され虜になっている。

 完全にマサキの姉と化している!?!?

 

「まさか、ここまでの妹力だなんて……マサキさん凄い」

「完全勝利というヤツです」

 

 ボンさんの言葉に皆が頷く。

 納得できていないのは一名のみだ。

 

「な、な、な、何よそれぇーーー!何がどうして?どうなってんの?」

 

 敗者であるチャン子は、姉さんの変貌っぷりに酷く狼狽してパニックだ。

 みんなは気付いてないが、姉さんはこれでも自重してます。だって、鼻血出してないもん!

 

「戦う前から勝負は決まっていた。つまり、そういうことだよ」

「どういうことよ!意味わかんない!わけわかんない!」

「あらヤダ、カレンさん一人で勝手に炎上してるわ。マサキはあんな風になっちゃダメよ」

「SNS依存怖いですね」

「くそっ!何でたづなさんがデレるのよ?あの鉄面皮を崩せるのは、カレンだけのはずだったのに」 

「おい、誰が鉄面皮か!」

「今日のところはカレンの負けだよ。だけど、これで勝ったと思わないでよね!いつの日か必ずぎゃふんと言わせちゃうんだからぁぁーーー!うわーん悔しいよぉぉーーー!!!」

「待って!小学生インスタグラマーを紹介するの忘れてない?」

 

 捨て台詞を吐いて逃亡を図ったチャン子。しょ、小学生は?

 

「はいコレ!後は自分でやって!」

 

 律儀にもUターンして戻って来た。そして、俺の手にメモの切れ端を握らせて再び逃亡。

 チャン子は粉塵を上げながら、もの凄い勢いのまま走り去ってしまった。

 メモには小学生インスタグラマーのアカウント名と思われる情報と『話は通しておくので自分で連絡したら?』と書いてあった。カレンチャン・・・潔い女!・・・恩に着るぜ。

 

「小学生インスタグラマー?」

「何でもない。マジで何でもないっスから気にしないで!」

「そ、そう。カレンさん、一体何がしたかったのかしら?」

 

 姉さんは知らなくていいのことです。

 

 (姉さん。もう降ろしてくれていいよ)

 (突然甘えて来るからビックリしたわ。人目がある所では程々にね)

 (そろそろ実の姉弟だとバラしてもいいのでは?)

 (それは、(しか)るべき時に(しか)るべき場所でね)

 (もったいつけるなあ)

 

 姉さんは二人分の軽食をテイクアウトして食堂を後にした。

 忙しい理事長に頼まれておつかい中だったみたい。お仕事お疲れ様です。

 

「たづなさんって、マサキさんには特別に甘いよね?」

「気のせいでは?」

「ううん。やっぱりおかしいよ……ハッ!ライスわかっちゃった!」

「マヤノさんの持ちネタをパクリましたね。それで、何がわかったのです?」

「たづなさんとマサキさん、できているんじゃないかなぁって////」

「できている?」

「ふ、二人はお付き合いをしてるんだよ。きっと、アルダンさんにもファインさんにもキタちゃんにもサトイモにも内緒で、秘密のお付き合いしてるの////」

「妄想たくましい脳みそブレンド米です。後、何気にダイヤさんを下に見てますか?」

「うわーうわー、どうしよう。浮気だよ不倫だよ愛憎渦巻く泥沼地獄だよ。もっとやれ!」

「楽しそうですね。この畜生米が」

 

 こうして妹勝負は俺の圧勝で幕を閉じた。

 俺と姉さんが付き合っていると噂が流れ、愛バがガチギレするのはまた別の話・・・

 

 〇

 

「うぇあー!ちっせぇですわ!ドチビちゃんですわー!」

「うるせーぞ。医務室ではお静かに」

 

 騒がしい声が医務室に響く。

 患者として訪れた生徒の一人が俺を見るなりテンションMAXになったからだ。

 

「手当たり次第に抱っこをせがんでいるのでしょう?姫も抱っこして差し上げますわ!」

「治療が終わってからな。ほら、おでこ見せろ」

 

 一人称を姫と抜かすこのウマ娘の名前は、カワカミプリンセス。

 名前にプリンセスと入っているせいか、お姫様や魔法少女っぽいものに強い憧れを持っている子だ。

 どこをどう勘違いしたのか『姫たるもの力こそ正義ですわ!』という信念があるようで、あらゆる物事を力技で解決しようとする悪癖がある。

 力自慢のウマ娘にはこういう手合いは割かし多いが、彼女はその中でも顕著な例だ。

 

 俺との出会いは覇気を集める旅路の途中、舞踏会と間違えて武闘会に出場した彼女のセコンドについたのことがきっかけだった。

 惜しくも優勝は逃したものの、カワカミのファイティングスピリッツに武闘会は大盛り上がり。

 武の道は果てしなく、上には上がいる事を知った彼女は一皮も二皮も剥けて成長したのであった。

 この時、カワカミは家出中だったらしく、家に送り届け際はご両親に滅茶苦茶感謝されてしまったな。

 何でも部屋の壁を蹴り破って脱走したとか・・・まさに、おてんば姫の冒険である。

 

「懐かしいですわ。あの時もこうやって治療してくれましたわね」

「お前、腕折れてんのに降参しないからな。治療する方も苦労したぜ」

「痛みを取ってくれたから勝てましたわ。その後の試合で瞬殺されましたけど…」

「最後の相手な。ありゃ、どう見てもプロだったからな。主催者側は最初から飛び入り参加に優勝させる気はなかったって話だろ」

「思い出したら、悔しさがぶり返して来ましたわ!今なら勝てますのに!」

「はいはい、じっとしてろ。で、今日は何をやらかした?」

「ひ、姫は悪くありません。ただちょっと、姫式ドリフトに失敗して、コーナーを曲がり切れなかっただけで」

 

 真っ赤になったおでこにヒーリングをする。

 話を要約すると・・・

 『授業に遅刻しますわ』➡『ダッシュですわ』➡『ヤベッ曲がりきれませんわ』

 ➡『頭から壁に突っ込みですわ』➡『姫は無事、壁は死にました』➡『げぇ、エアグルーヴ』

 

 女帝に説教されながら壁の修繕をした後、腫れたおでこのまま俺の所に来たというわけか。

 

「授業は欠席扱い、おでこはヒリヒリで踏んだり蹴ったり」

「自業自得だな。前にも言ったろ?お前は力の制御が甘いんだよ」

「うう……ぐうの音も出ませんわ」

 

 このカワカミプリンセス、治療目的で医務室を訪れる生徒の上位勢である。

 大抵は彼女のパワーで何かが壊れ、本人は損傷軽微のパターンだ。

 人にケガをさせない事は肝に銘じているらしいが、本人がいつか大怪我しそうで心配になる。

 

「操者がいれば、おてんばも少しはマシになるのかな」

「姫の操者になる方は王子様と決まっていますわ!姫の筋肉バスターに王子様は白目を向いてメロメロでしてよ」

「王子様をバスターしちゃダメだろ」

「それほどでも~」(∀`*ゞ)

「褒めてない褒めてない」

 

 おでこの治療を終えたカワカミは『姫復活ッ!』と叫んで俺を抱っこして、何故か俺にジャイアントスイングをかまして満足した後に『では、ごきげんよう~』と元気に去って行った。

 ごきげんようじゃねぇよ。目がぐるぐる回っている・・・陳列棚や薬品にぶつからなくて良かった。

 

 根はいい子なんだけどなあ、あいつの操者になる奴は大変だろう。

 おてんば姫の操者(予定)さん。

 いつバスターされてもいいように、フィジカルを鍛えておきましょうね。

 

 〇

 

 放課後、愛バたちは旧校舎ダンジョンの攻略に向かった。

 幼女の俺は危険ということで、今回はお留守番である。

 今はチーム"ああああ"の基地で愛バたちの帰りを待っている。

 

「おい、抱っこしろよ」

「ウッッゼェな!さっきしてやっただろうが」

「もう30分前経ったぞ。再抱っこ要求する!」

「あーもう!何なんだよお前は」

 

 頭を乱暴に掻いたウマ娘は嫌そうな顔で俺を抱っこした。

 このインテリヤンキー、名をエアシャカールと言う。

 ファイン家所属の情報分析官で、ココの御意見番といったポジションだ。

 

「すまんの。この体になってから人肌が恋しくて堪らんのじゃい」

「ガキかよ!」

「今はガキだよ!」

「ちっ、中身はロリコンくそ野郎が」

「なんだとぅ!あーあ、ココに『シャカ頑張ってるから給料アップしてあげて!』って言う気が失せた」

「よしわかった!抱き着いてもいいから、ボスに今の言葉を伝えておけ」

 

 目の色が変わったシャカは急に優しくなった。お給料には勝てなかったよww

 椅子に座り直すシャカ、俺を膝に乗せたままパソコンを高速タイピングしていく。

 仕事の邪魔しているみたいで悪いな。大人しくしていよう。

 

「またか……めんどくせぇ」

「何かあった?」

 

 PCの画面にはニュースサイトの事件記事、どれも似たような内容だ。

 『またしてもデバイスの故障?』『相次ぐ事故、何者かの陰謀』『製造元は責任を~』

 

「デバイスの事故か」

「普及するのが早すぎたな。技術革新に使い手が追いついてねぇんだよ」

「それにしても、最近多過ぎだよな。リンクデバイスで意識不明になった奴もいるんだろ?」

「海賊版や無茶な改造を施した物が裏で出回っている。そういうのに手を出した奴の末路だ」

 

 デバイスを使えば簡単に強くなれると、安易な考えをしている奴は多い。

 実際にはそんな事は無く、適性に合わないデバイスを所持していても宝の持ち腐れだ。

 デバイスを使うには、しっかりと体を鍛え、操作方法を学び、自らに合ったものを選ぶのが鉄則。

 その事を知らずにデバイスの力を求めるのは愚の骨頂。

 普通乗用車を一度も運転したことがない者が、レーシングカーをまともに操縦できるはずがないのである。

 

「仮面野郎で手一杯だって言うのに、余計な仕事を増やしやがって」

「ファイン家の捜査網をかいくぐるとか、敵もあっぱれだな」

「褒めてんじゃねぇよ。一つ潰すと新しいのが三つも四つも……ああ、くそっ!ぜってぇ背後には大がかりな組織が……」

 

 シャカがイライラし始めたので、同僚たちからもらったお菓子をそっと差し出す。

 ほろ苦いダークチョコレートでも食べて気分をリフレッシュしてね。

 

「苦げぇ……」

「カカオポリフェノールは体にいいのよ。ワガママ言わずに美味しく食べな」

 

 今の俺はお子様舌なのでミルクチョコレートを食べます。あまーい。

 

 チョコレート効果のおかげか、シャカは仕事に集中した。

 目まぐるしく変わる画面は早すぎて何が何だかわからない。

 定期的に俺をあやすことも忘れないシャカ、保育とPC作業のダブルワークすごいですね。

 一段落したらしいシャカが、俺に話題を振って来た。

 

「幼女形態はいつまで続く?」

「試練は今日も含めてあと四日のはず」

「ふーん、まあ、精々楽しめよ。今なら捕まる心配はねぇからな」

「どういう意味?」

「おいおい、ロリコンキングともあろうお前が今更何を……マジで気付いてねぇの?」

「キングはヘイローだけで十分だ。気付いてないとは何ぞ?」

「バッカじゃねぇの!ロリコンにとって千載一遇のチャンスだろうが!」

「ほう。詳しく」

「今のお前、見た目だけなら立派な幼女だろ?だったら、警戒されることなく近づけるんじゃねーの。幼稚園や保育園に忍び込んだり、ロリに混ざって遊んだりとか、やりたい放題」

や、やりたい放題だってぇーーー!!」(゚∀゚)

 

 なんということでしょう!

 このロリボディにそんな無限の可能性が秘められていたとは!

 す、す、す、素晴らしいですぅぅぅ!!

 オトナシさんの口癖が脳内でこだまするほどの衝撃が俺を襲う。

 俺としたことが、抱っこに気を取られてロリと関わるビッグチャンスを逃すところだったぜ。

 近隣の幼稚園や保育園を調べ上げ、幼女が出現する公園などのスポットも要チェックや!

 

 

「ありがとう!教えてくれて感謝する」

「……なんか取り返しのつかない事をやらかしたような。箱を開けちまったパンドラの気分だ」

「俺、行かなくちゃ!」

「待て待て、ボスが帰って来るまで大人しくしてろ。俺が怒られんだろ」

「まだ見ぬ幼女たちよ、俺とお友達から始めましょう~。今、会いに行きます!!」

 

 シャカの腕をすり抜けて自由の身になる。

 今日の仕事はもう終わったし、愛バたちはまだ帰って来ない。

 急用ができたので、一足先に自宅へ戻ると連絡しておけば万事解決!

 さあ行け!アンドウマサキ。楽園へと羽ばたくのよ!

 

「残念、行かせないよ!」

「げぇ、ココ!」

 

 楽園へ羽ばたく夢、アッサリと潰える。

 帰って来たココに捕らえられた俺はそのまま抱っこされた。

 逃がさないようにちょっと強めのホールドだ。

 

「いいタイミングだなボス。もう少しで、犯罪者を野に解き放つ寸前だったぜ」

「シャカが妙な入れ知恵するからでしょ!途中から聞いてたよ」

「あーその、なんだ、すまん」

「マサキも暴走しないで。その体で幼稚園まで行っても力尽きて終わりだよ」

「貧弱虚弱なロリボディが憎い」

「それと、幼稚園のセキュリティ甘く見ない方がいいよ。所属不明の子が自由に出入りできるわけない」

「そこはね、スニーキングと泣き落としで、どうにか……ならない?」

「ならないよ。バカ」

「アウチ」(>_<)

 

 ココに頭をペチペチされた。

 ちょっと怒った顔もカワイイ!

 

「子守も終わったし、俺は帰るぜ」

「うん。ありがとう」

「またなー」

 

 インテリヤンキーはクールに去っていった。

 

「私たちも帰ろっか」

「そうするか。シロたちはどこよ?」

「シロちゃんが持ち込んだコーラを、クロちゃんがフリフリして、アルが飲もうとして、三人ともブシャァァー!コーラまみれになった三人はシャワーを浴びてから来るってさ」

「何やってんだよw」

 

 学園内にはシャワールームも完備している。

 プールの授業以外でも生徒たちは自由に使っていいんだと。

 シャワールームからここまでは結構離れている。こちらから迎えに行った方がいいだろう。

 クロ、シロ、アル、三人の荷物をココが収納空間に放り込んだ。マジで便利な能力だよなぁ。

 基地を施錠して移動開始。抱っこは継続中だ。

 

「今日、何階まで行った?」

「地下65階層までだよ。敵も中々歯ごたえが出て来て、いい修練になってる」

「まだ先は長そうだな。きりのいいところで地下100階まであったりして」

「だとすると、半分は越えたね。私たちなら問題なく行けるよ」

 

 頼もしいことだ。俺もこんなんじゃなければ手伝えるのに・・・

 65階は無理でも浅い階層なら幼女でもいけるか?ちょっと不安かも。

 

「帰りに寄ってほしい所があるんだけど・・・」

「幼稚園と保育園と幼女が集まるスポット以外ならいいよ」

「ココ、俺は教育に携わる者として幼児の育成環境を見守る責任があってだな」

「はいはい。小難しい言い訳は全員揃ってからにしてね~」

「ひぃぃ!三人には黙っててくれぃ!」

「幼女に目移りする悪い操者は、どうなると思う?当ててみて」

「もしかしてわからせですかーッ!?」

「YES! YES! YES! "OH MY GOD"」

 

 その日の夜"わからせ"と言う名の甘やかしで骨抜きにされちゃった。

 お風呂も寝るのも一緒で甘々愛バたちですよ。

 いつもと同じだって?いやいや、いつも以上にお世話されたんだってばよ。

 

 〇

 

 風呂から上がった後、マサキはすぐに寝てしまった。

 普段から寝つきの良い方だが、今日は幼女化したこともあって入浴中から意識朦朧としており、湯船に沈みかけた。前にもこんなことがあった気がする。

 そんな彼を放っておけない愛バたちは、四人フルメンバーでのお泊りである。

 幼女の体に合わせたパジャマを着て眠るマサキは、さながら妖精のような可愛さだ。

 雑魚寝でそれを観察している愛バたちは、妖精の眠りを妨げない音量で話し込んでいる。

 

「…すぴぃー……ふぴぃー…」( ˘ω˘)スヤァ

「よく眠られて、お疲れだったのですね」

「体力が無いって嘆いていた。きっと、思ってる以上に消耗したんだよ」

「四六時中張り付いていたいけど、そうするとマサキが気に病むし」

「ボンさんにお米先輩、それ以外のネームドにも声をかけました。学園にいる限り安全でしょう」

 

 こんな時だっていうのに、クエストも実家の本業も図ったように忙しい。

 ええい、これもそれもルクスと迷惑な試練を与えた女神のせいだ。

 

「マーキング見た?過去一のヤバさだった!『コレ欲しい』って書いた奴誰だよ!?」

「「「それな!!」」」

「メッセはともかく、いろんな奴の匂いが……お風呂で入念に落としましたけど、あームカつきますね」

「抱っこ中に神核調べるって言ってたけど、ホントかなぁ」

「マサキさんモテますし、今は幼女ですから皆さん遠慮がないというか、いつもよりスキンシップが過剰でもオッケー!みたいな感じになってます」

「マサキもここぞとばかりに甘えるからね。やれやれ、愛バの気も知らないで……」

 

 心配だ、離れたくない、でも、必要以上な過保護になってはいけない。

 だって、彼がそれを望まないから。

 

 『遠慮するな』と彼は言う。しかし、思うのだ、遠慮しているのはあなたの方だと。

 『俺に縛り付けることで、お前たちの可能性を狭めたくない』とも言う。

 縛り付けていいのに、ワガママになって困らせてくれていいのに、もっと求めてほしいのに!

 わかってる。これは彼の優しさとだと、私たちを心から思っての行動だと、わかってる。

 それが凄く嬉しくて、でも・・・少し寂しいと感じるのは、いけない事だろうか?

 贅沢な事をほざいているのは重々承知だ。何ともふざけた愛バであると自分でも思う。

 ああ、よくも!よくぞ!こんなに狂わせてくれて、駄目にしてくれて・・・・・・ありがとう。

 幸せにしてくれて、ありがとう。

 

 でもね、たまにはあなたも駄目になってほしいかな。

 私たちばっかりだと、ズルいもん。

 弱いところも、変なところも、ダメダメなところも、全部許しちゃう。

 何をしようと、どこへ行こうと、私たちはついて行く。

 あなたの邪魔はさせないし、あなたの行く道を止めたりなんかしないから。

 もっと幸せになろうね・・・

 

「ふへへ……幼稚園……ついに来ちゃった…」( ˘ω˘)スヤァ 

「「「「そっちへは行かせねぇよ!?!?」」」」( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)

 

 前言撤回!やっぱりそれは許せないわー。

 止めるところはしっかり止めて、キッチリ邪魔もしようと思う。

 これも彼のためだ!愛しい人が犯罪者に身を落とすなどあってはならない。

 正しい道に引き戻すのも私たちの役目、幼女なんて目に入らないぐらい夢中にさせてみせるから、覚悟してね。

 

「ここが……ロリ…コニア……楽園か……」( ˘ω˘)スヤァ

「「「「もうホントやめて!!」」」」(´Д`)(゚Д゚)ノ(゚Д゚;)( ;∀;)

 

 でも、大好きなんだよなぁ。

 

 



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ちんちんちん

 幼女生活二日目の朝をが来た。

 

 幼女の体で早起きは中々に辛い。

 愛バたちがいなければ、目覚ましが鳴っても爆睡していたことだろう。

 ウダウダしながらも頑張って起きた。

 そのおかげで朝食の後にまったり過ごすことができている。

 早起きは三文の徳とはよく言ったものだ。

 

 俺はアルの膝に座ってのんびりしていた。

 鼻歌混じりにブラッシングをしてくれるアルはとてもご機嫌な様子。

 

「なんだが素敵な夢を見た気がする。なんだったかな……コニアがどうたら……うーん思い出せない」

「思い出せないのは思い出す必要がないからです。忘れたままでいいと思います」

「そうかなあ。胸躍るような出会いがあったはず……」

「それはお化けです」

「え?」

「マサキさんの大嫌いな、とっても恐ろしいお化けですよ」

 

 アルが俺を抱きしめながら脅かすようなことを言う。

 またまたぁ。俺を怖がらせようとして適当な嘘をついているんだよな、な?

 嘘だと言ってよ!

 

「お化けの姿形をハッキリ思い出したら最後、毎晩夢に出て来るようになりその度に"はんぺん"を投げつけられます」

「なんだそいつ!?あんまり怖くねー。食べ物粗末にするのは感心せんな」

「"はんぺん"に当たると即死します。リアルでも二度と目覚めることはありません」

「超怖ぇぇーー!!」

 

 ここはアルの言う通りにして夢のことは忘れよう。

 べ、別にはんぺんお化けが怖いんじゃないんだからね!

 

「マサキさん。そのままでいいので聞いてください」

 

 "至福のアルダンチェア"を楽しんでいると、シロが対面に腰を下ろした。

 正座であるところを見るに、真面目な話をするつもりだ。

 

「何かな?」

「昨夜はマサキさんが寝落ちしてしまったので、お説教の続きです」

「離脱!」

 

 コマンド【にげる】を選択。

 クロとココのところまで一時避難するんじゃい。

 

「逃がしません」ガシッ

「あう」

 

 俺を包み込むアルチェアに絶妙な力加減で拘束され逃亡を阻止されてしまった。

 まさか、このために俺を膝に座らせたの?図ったなぁー!

 

 昨日、幼女出現スポットへ突撃しようとしたところをココに見つかり捕縛された。

 その事はすぐに愛バたち全員に共有され、帰宅と同時にハイパーお説教タイムに突入!

 昨夜は寝落ちするまで謝り倒したのだった。

 まだ許されていなかったか・・・(;´д`)トホホ

 

 前門の虎(シロ)後門の狼(アル)状態なので逃げられませぬ。

 クロとココはキッチンスペースで朝食の後片付けと夕飯の仕込みをしてくれている。

 役割分担のできる偉い子たちである。出来た愛バたちで操者の俺も大満足よ。

 

「何度も口を酸っぱくして言っていますが、もう一度言います」

「……はい」

「大の大人が年端も行かない幼女に性的興奮を覚えるのは立派な病気です。欲望のままに行動すれば犯罪成立即刻逮捕!」

「おぉぉ」

「つまり、ロリコンとは常識的に考えて悪しき存在なのですよ。ここまでは解りますね?」

「社会常識に囚われないアウトローな俺を目指しております」

「アウトローを目指すのは構いません。その手段がロリコンなのが問題なのです」

 

 俺の目をしっかり見たシロは幼い子に言い聞かせるように、ロリコンの何が悪いのか説いてくる。

 実際に今の俺は幼子ですけどね。

 

「後ろ指をさされ、罵倒され、石を投げられても仕方のない存在。それがロリコン!」

「ロリコンの地位低ッくいなあ……底辺どころか奈落の底やん。いや、でもさ、クロとシロも前はロリコンの俺を肯定してくれていたじゃないか?」

「体が大きくなった今では状況が変わりました。いつまでも幼児体形に『ハアハア』してもらっては困ります」

「ナイスバディなお前たちにも『ハアハア(*´Д`)ムラムラ』してるじゃないか!それじゃアカンのか?」

「「私だけにしてください」」

 

 シロとアルの声がハモった。両者は顔を見合わせて『チッ!』と舌打ちする。

 個人アピールの末にギスギスするのやめてー。

 

「「私()()だけにしてくださいね」」

「善処します」

 

 『たち』の部分を強調して言い直す二人の圧が怖い。

 こういう時は素数を数えながら嵐が過ぎ去るのを待つのだ……素数?知らねーわww

 咳払いしたシロが話を続ける。

 

「いいですか、大事な操者が『ロリコンくそ野郎』などと罵倒されている様を見るのは、愛バの私たちとしても耐え難く辛いのです」

「苦あれば楽あり。苦しみに耐えたその先には幸せ(ロリ)が待っている」(*´▽`*)

「目を覚まして!苦行の果てに待ってるのはロリじゃなくて、獄中生活ですよ!」

 

 シロと問答をしているとアルが耳元で囁いてくる。

 

「マサキさん、今すぐにその苦行から解放される方法がありますよ」

「マジで!?教えて教えて」

「いい機会です。今ここでキッパリと幼女への愛を断ってください。ロリコンやめましょう」

俺に……死ねと言うのか

「「そこまで重症!?!?」」

 

 俺からロリコンというアイデンティティを取ったら何が残る?

 マザコン、シスコン、愛バ大好き男だぞ。あれれー?一個減っただけであんまり変わってない気がする。

 

「ロリたちの存在は俺の心の支えなのに……」

「そんなんで心を支えないでください。支えにされた方も迷惑です」

「じゃあこうしよう。フィジカルはお前たちに支えてもらって、メンタルはこれまで通りロリたちに支えてもらう」( ̄▽ ̄)

「何も解決してませんよ!これが決定打みたいなイイ顔しないで」

 

 『手強いです』とアルが『アプローチを変えてみますか』とシロが言った。

 お説教長いな・・・だが、何を言われても退かぬ!媚びぬ!省みぬ!の精神で対応するのみ。

 

「愛する子供たちの事も考えてください」

「子供???」

「私は未来の子供たちに『あなたのパパはロリコンなのよ!』と宣言したくありません」

「あらやだ////シロってば俺の子供産む気満々じゃん」

「産みますよ。産みまくりますよ。産ませてくださいよ!」

 

 三段活用で迫って来るシロの迫力に押される。

 こやつめ、本気の目をしておるわ!

 

「私も産めますよ」ぎゅ~

「なになに?何の話してるの」

「幸せ家族計画の話です」

「それは是非とも参加しないとね」

 

 シロとアルが出産宣言していると、家事を終えたクロとココも参戦して賑やかになる。

 聞きました奥さん?こんなにも可愛い愛バたちが俺の子供を産んでくれるらしいザマスよ。

 幸せが溢れて泣きそうザマス。

 子供とか生まれたら感動で絶対泣くわ。我が子に負けじと泣き叫んでやるわ。

 子供かあ・・・愛バに似てカワイイんだろうなあ。

 

「女の子だったら、可愛すぎて『ハアハア』不可避だな」

「娘に欲情するのは勘弁してください」

「男の子だったら、俺の紳士的振る舞いを伝授する」

「息子の将来が心配だよ!」

「精一杯の祝福を君に♪」

「マサキさんのデータストームには何が詰まっているのですか」

「人生のパーメットスコア勝手に上げられる子供が不憫です」

 

 逃げたら一つ、進めば二つ。

 俺も何かイイ感じの名言を子供に伝えたい。今から考えておこうかな。

 

 まあ心配するな。子供への愛とロリへの愛は別物つーか、別腹?みたいな感じだからよ。

 

「頑固なマサキさん、どうすれば聞き入れてくれるのです?」

「思ったんだけどさあ、俺にだけ我慢を強いるのは酷いんじゃないか?俺がロリコンを辞めるのなら、等価交換でお前たちも何かやめなさい」

「そう来ましたか……わかりました。私はセガサターンとドリームキャストを卒業します」

 

 バカな!シロが愛してやまないセガハードを卒業する・・・だと・・!?

 そこまでの覚悟があるのか!

 

「不本意ながら、これからはスイッチがメインハードになりますね。この私がブレワイやティアキン漬けの毎日を送ることになろうとは…‥‥いや~困ったなぁ~」

「こいつゼルダやりたいだけじゃん!」

「そういうクロはブラックサンダーの摂取を今後一切やめるそうです」

「勝手に決めないでよ!マイフェイバリットお菓子の禁止はキッツイわ!!」

「あの、対価が軽すぎでは?」

「ゲームにお菓子、そんなんでマサキは納得しないでしょ」

「何、他人事みたいな顔をしているのです。アル姉さんとココにも例のアレやめてもらいますよ」

 

 シロの顔が邪悪に歪む。

 アルとココはそれで何を察し小刻みに震え出した。

 

「アル姉さん。お酒、やめてくれますよね?」ニッコリ

私に……死ねと言うのですか

「酒を飲むなと言っているんです」

「禁酒されたら、私は何から水分補給すればいいのです?干からびますよ」

「お茶とか水でいいんじゃない」

「百薬の長が飲めないと不健康になってしまいます」

「いや、むしろ健康になるだろ」

 

 アルがブンブンと首を振り拒否の意思表示をする。

 俺を抱きしめる腕にも力がこもって・・・いだだだ、アルさん力が、力が強いっス。

 

「でしたら、ココさんもラーメン禁止ですね!」

貴様ぁ、余に死ねと申すか!

「ラーメンを食べるなと言っているんです」

「主食を禁止なんてされたら、栄養失調で死ぬよ?」 

「他のご飯食べればいいじゃん」

「残酷なこと言うんだね。ラーメンを奪うのは私から酸素を奪うのと同義なのに」

「ラーメンにどんな価値を求めてるんだよ」

 

 それぞれの『好きな物禁止令』でグダグダして来た。

 ああ言えばこう言う。結局話はまとまらず、俺のロリコン卒業は見送られた。

 ふぅぃー、なんとか乗り切ったぜ!

 

「やれやれ、今回も説得は失敗しましたか」

「すまぬぅ」

「もういいですよ。ロリコンであったとしても、あなたは私たちの大好きなマサキさんですから」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないの」

「これだけは約束してください。どれだけ幼女に(うつつ)を抜かしても、最後には私の元へ帰って来ると……指切りげんまんです」

「うん。約束する」

「嘘ついたら、獲れたてピチピチのハリセンボンを飲んでもらいます……クロが」

「なんで私!?しかも金属じゃなくて魚類のほうかよ!」

 

 シロが差し出す小指に自らの小指を絡めて約束する。

 何故か鬼畜ペナルティ科せられたクロがかわいそう・・・約束は守らねば!

 

「まあ、この辺が妥協点かな」

「シロだけズルいぞちくしょう。私とも指切りしてよ~」

「私たちのことも、どうかお忘れ無きようお願いしますね」

 

 幼女の俺に愛バたちが抱き着いてくる。

 むぎゅむぎゅと素敵な弾力と匂いに包まれて幸せ・・・あの、頼むから潰さないでね?

 おほっ!朝から恍惚の表情で圧死しちゃうわよ!

 

「お前たち……愛してるぞ」

「おぱーいではなく、顔を見て言ってほしかったですね」

 

 ・・・・・・・・・・

 

 お説教を含むなんやかんやで時間経過、いざ学園に出発進行~。

 殴り合いに発展しかけた厳正なるジャンケンの結果、今朝の抱っこ担当はクロに決定した。

 

「よろしく頼むな」

「うん、よろしくされちゃう」

 

 やる気十分のクロに移動は任せてオッケーだな。

 遅刻しない程度の速度を維持し愛バたちは順調に登校して行く。

 適度な揺れとクロの柔らかさに身を委ねていると眠気がぶり返して来た。

 

「寝てていいよ。着いたら起こしてあげる」

「すまん」

 

 幼女の体は大人の時より睡眠を欲しているらしい。お言葉に甘えて目を瞑ろう。

 愛バたちのトークをBGMにウトウトしていると、話題はどのキャラが好きだとか最強だとかの論争になっていた。

 ・・・ああ、スライムに転生しちゃうヤツね・・・

 

「やっぱディアブロだよ。主に忠誠を誓う黒はカッコイイ!執事ってのもポイント高し」

「ギィ様を忘れてもらっては困りますね。原初の赤にして最強最古の魔王ですよ?有象無象とは格が違いすぎて痺れます」

「ベニマルさんはどうですか?強くて頼れる炎使いのイケメン兄さん、甘党なところが可愛かったり」

「私はソウエイかな。みんな大好き仕事のできる寡黙な忍者。リアルにいたらうちで雇入れたいよ」

 

 愛バが他の男を褒めるのはジェラシーなのだけど、ラノベキャラなら、まあ良しとする。

 俺もラファエルさんみたいな超便利スキルが欲しかったぜ。

 

 ここで推しキャラは『クロエ』だと発言したら『またロリかよ』と白い目で見られそう。

 『リムル先生、好き!』のセリフを『マサキ先生、好き!』に脳内変換するの余裕でした。

 お説教されたばかりだし、少しはロリロリから離れてみよう。

 ミリムも好きなんだけど?ダメか・・・だとすると、頼れる屈強な男キャラ・・・ウホッ・・・

 

「……ガゼル王……イイ男……しゅきぃ////」

「マサキさんがホモホモしい寝言を!?」

「「「ホモォ」」」┌(┌^o^)┐

 

 ロリロリホモホモしていたら、愛バたち目当てな見物客やファンの出待ちゾーンに差し掛かった。

 ザワザワ、ヒソヒソ、ワーワー、キャーキャー、今日も大人気ですな。

 

「(ん?なんだこの感じ…‥‥変なのがいる)」

 

 妙な気配を感じて目が覚めてしまった。

 辺りを見回すと、黄色い歓声を上げるファンたちとは雰囲気の違う一団がいるのに気付く。

 怪しくむさ苦しい男だらけの集団がいる。地味な恰好をしているのにやたらと目を引く奴らだ。

 その先頭にいるリーダー格らしき男がブツブツ何事かを呟いている。

 不気味なオーラを放つ男の呟きは、どういうわけか不思議と俺の耳まで届いた。

 

「今日もご不在か……あの幼女?……なるほど、そういう事なのですね……くはっ、くははははは、我々をの信仰を試すおつもりか?お戯れがすぎますぞ……ですが承知しました。その試練乗り越えて見せましょう……クハハハハハッ…ゲホッゴホッ……」

 

 うわぁ、ガンギマリトリップしちゃってる。絵に描いたような不審者だ。

 無精ひげで病的なまでに瘦せこけた体、黒っぽい服装の30代と思しき男。

 意味不明な事を口走っていて、お近づきになるのは遠慮したい相手だ。

 濁り切った危ない眼で俺を見るのやめてくんないかな?鳥肌が立つわ!アンタ怖い、怖いのよ。

 あいつもロリコンなのかしら?だとしたら同類・・・うげぇ・・・(´Д`)

 俺、あんなのと同列に見られてんのか?そりゃ愛バたちも嫌がるわ。

 

 愛バたちも不審者の存在に気付いたようでアイコンタクト、どこかに指示を出していた。

 すると、不審者たちは突如現れた黒服たちに囲まれ全員まとめてしょぴかれて行った。

 それはあっという間の出来事で、周りのファンたちは気付いていない。

 今のは学園側が雇った警備か?それとも北島組の人たちかな?どなたかは存じませんが、お仕事ご苦労様です。

 

「もう大丈夫だよ。変なのはポイッしちゃったから」

「あ、ああ。助かったよ」

 

 俺の背中をポンポンしながらクロが笑いかけてくれる。その顔を見てホッとした。

 自分が思う以上にあの不審者たちにビビっていたらしい。

 愛バたちは怯えてプルプルしていた俺を敏感に察知して対処してくれた。そのことが素直に嬉しい。

 

「あの一団、マサキさんが女になる前からいましたよ。キモいだけでしたので今まで放置していましたけど」

「マサキを怖がらせた以上はギルティ!厳重注意して接近禁止令だね」

「ああいうのは早めに摘み取らないと後々面倒になります。学園にも報告してパトロールの強化を━━」

 

 愛バたちの有能っぷりに感心する一幕だった。

 

 〇

 

 今日も今日とて教官業務を頑張りますよ。

 と、思ったのに・・・

 

「なんで俺は空を飛んでいるのかな?」

「飛んでいるのはマヤであって、マサキちゃんはしがみついているだけじゃない」

 

 学園上空、快晴の青空をマヤノトップガンと共に飛行している。俺でございます。

 

 30分前・・・

 

『マサキちゃん!飛行試験に付き合ってよ』

 

 そう言って元気よく医務室に突撃してきたマヤは俺の返事も聞かず幼女誘拐を達成したのだ。

 屋上に連行された俺は、マヤが持参した抱っこ紐で有無を言わさず彼女の体に括り付けられた。

 何しとんねん??

 理事長のときにも味わった、ロリに抱っこされるロリ状態。

 紐で固定されているせいか密着感が凄い。俺とマヤは一心同体だ。

 ネームドの中でも小柄な部類のマヤにそういうことされると・・・興奮しちゃうじゃないかぁ!

 

『そんじゃテイクオフいっちゃおー、ユー・コピー?』

『ノオォォォ!こぴいいいいいいいいいい!?」』

 

 こいつ、俺を道ずれに投身自殺したぁ!?

 なに?何?なぁにィィィーー?マヤちゃん人知れず病んでたの?どうしてこうなるまで放っておいたんだ!!

 パニックになった俺をよそにマヤは慌てずに自らのデバイスを顕現させる。

 デバイスの装着は一瞬で完了、金属の装甲がマヤの身体各所へ取り付けられた。

 背部及び腰部の翼が展開されメイン推進機構から覇気を噴出させる。

 重力制御装置テスラドライブを搭載した飛行型デバイスは装着者を大空へと羽ばたかせた。

 

 地面との接触が回避されたことで俺は平静を取り戻す。あっぶ!

 地上では空を飛ぶ俺たちを指差したり手を振る人たちが確認できた。

 飛行に慣れたマヤは地上の人に手を振り返したり、サービスとばかりに曲芸飛行を行う余裕すらある。

 マヤは飛行型デバイスを扱う第一人者だ。名の知れ渡った今ではそれなりの貫禄が出て来たように思う。

 

「焦ったぁ・・・もう!いきなり飛ぶなよ」

「アハハハ!『こぴいいいいい』だって、プークスクスッww」

「このガキ、脇腹くすぐりの刑にしてやる!」

「ちょちょちょーー!やめてやめて、集中が途切れると高度が維持できな…キャハハハハハwww」

「ほれほれ、ここか?ここがええのんか?」

「やん!マサキちゃんのスケベェwww」

 

 くすぐり攻撃で集中を乱したマヤは不規則な飛行経路を描き出す。

 ある程度ならデバイスがオートで姿勢制御してくれるが限度というものがある。

 これ以上やるとマジで墜落するな。今日はこの辺にしといてやるか。

 くすぐる手を止めると飛行はすぐに安定を取り戻した。

 

「あっぶないなぁ。今のマヤじゃなったら『もう助からないゾ!』になるところだったよ」

「そうなっても最悪、俺一人だけなら生還できる」

「もー、マヤのことも守ってくれなきゃ困るよ。それでもマヤノ号の乗組員さんなの?」

「無理やり乗せられたんですけど!?」

 

 マヤノ号???安全性が乏しいなら乗りたくねー!

 

「んで?何故俺を巻き込んだ」

「テスラドライブの駆動系を調整したから、そのテスト。航続距離のデータも取りたいからリンクしてほしいなぁ~」

「俺は予備燃料かよ。ま、いいけどさ」

 

 マヤは俺の覇気を燃料として使う気なのだ。

 いちいち地上に戻らなくても俺とリンクしていれば補給の必要は無い。

 おっす!燃料タンクのマサキです。

 マヤの親御さん、マーベリック大佐にもできるだけ協力すると言った手前、邪険にもできないのが辛いところだ。

 こうして飛行試験に付き合うのは嫌いではないし、いいんだけど。

 

「マヤはこれより遊覧飛行に入るよ~。どこか行きたいところはある?」

「市街地をのんびり周回コースで頼む。くれぐれも安全運転で」

「アイ・コピー♪」

 

 リンク開始、バスカーモード発動・・・俺とマヤ、そしてデバイスから粒子光が放出される。

 同時、マヤが加速して上昇をかけた。

 うぉっと・・・テスラドライブの力で相殺されているとはいえ多少のGは感じるな。

 大気を切るように進む俺とマヤ、適度な風圧が心地よいなり~。

 

「マサキちゃん。最初から飛ぶのに抵抗ないし慣れてる感じするよね、なんで?」

「俺の母さんサイバスターだぞ。移動=飛行なんてざらだった」 

「そうだったね。デバイス無しで飛ぶなんてどういう理屈なんだろう?マヤ気になる~」

「母さんが言うには『風と仲良くなれば余裕♪』だっけか……」

「うわ~抽象的かつ意味不明、さすがのマヤもわかんない~」」

 

 村で生活していた頃『ちょっとそこまで』みたいな感覚で母さんは俺を抱えたまま飛んでいた。

 成長するに連れて"抱っこスタイル"は恥ずかしいと言ったら、俺の持ち方についていろいろと悩んでくれたものだ。

 息子をタワーブリッジしたまま飛ぶとは思わなかったけど・・・。

 空を行く母さんの姿は村ではちょっとした名物で『目撃したら幸運になる』とまで言われていたな。

 

「何それw流れ星みたい」

「確かにな。村では母さんたちを縁起物扱いする風潮なんよ」

「流れ星……流星……きれいな銀色‥‥‥うん!ビビッと来ちゃった」

「お、妙な電波受信したか」

「フッフッフ、ちょっと新型の異名をね……マサキちゃんママにあやかってもいいかな?」

「いいんんじゃね?母さん、細かい事気にしないし。気に入らなければ"アカシックバスター"されるだけだし」

「一歩間違えば必殺技撃たれるの!?ね、ねえねぇ、マサキちゃんからお伺い立てといてほしいな~」

「ええ……めんど」

「引き受けてくれたら、マヤのおぱーい好きにしていいんだゾ?」

「ハハッww」

「失笑すんな!!」

 

 おいおい、愛バたちの豊満おぱーいを熟知した俺相手にそれはないでしょうww

 しかも今は『幼女な俺!抱っこキャンペーン』開催中ですよ?

 昨日今日で、俺がどれだけのおぱーいとふれあい体験していると思ってるんだ。

 えー、トップガンさんのおぱーい測定結果は……サイズS……貧しい乳ですこと。

 

「大きさで全ての勝敗が決するとは限らないんだよ」

「一理あるな。だが、大は小を兼ねるという言葉も忘れないで」

「マヤはまだまだ成長期、そのうち『おぱーいバインバイーンッ!』になっちゃうからね!」

「ああ、そうだな……きっと……グスッ……なれる……さ」

「何泣いてんの!?少しはマヤの可能性を信じてよ」

 

 ウマ娘の成長には個人差があるけど、大体が10代前半で本格化という急成長を終えてしまうのが通説だ。

 俺の覇気で超進化したクロシロは例外中の例外、ウォッカとスカーレットは本格化の大成功例なので目安にしてはいけない。

 高等部に進級するまでに成長が見込めなければ『バインバイン』になるのは厳しいのが現実だ。

 失礼だけどマヤの成長率はなぁ・・・可能性が無いとは断言できないが、ちょっと厳しいか。

 

「ぶーぶー、絶対大きくなるもん!マヤの美乳は今だけの期間限定モノだと思ってね」

「なんかプレミア感出して来た」

 

 俺の涙をなかったことにしたマヤはポジティブである。

 漢字間違ってない?表記するなら微乳でしょ。

 しかし、この俺も健全な日本男児として期間限定という言葉には弱い。

 お菓子とかアイスとか、期間限定の方を優先的に買っしまったりするし。

 

 そういえば、クロシロの"ちっぱい"も期間限定だったな……まだ全然味わってなかったのに!

 ちょーっと目を離した隙にたわわに実りおってからに!もう!

 

「成長するといことは"ちっぱい"を捨てるということだぞ、それでいいのか?」

「マヤ的には一刻も早く捨てたいんだけど」

「そんなこと言うなよ、悲しむだろ?俺が!!」

「なんでマサキちゃんの性癖に合わせないといけないの!そういうのはテイオーちゃんにでも頼んでよ」

「あいつはダメだ」

「なんでよ?」

 

 こちとら養護教官として生徒たちの健康と発育具合を常日頃から気にかけている身だ。

 テイオーは俺とも愛バたちとも仲が良いので、観察する機会はいくらでもある。

 俺にはわかる。奴は今、バリバリの成長期真っ只中だと!

 

「変態!そうやってマヤたちをいやらしい目で見てるんだー」

「失敬だな君は!慈愛の目で見ていると言え!」

「そんで、テイオーちゃんの発育具合は如何ほど?」

「俺の見立てだとテイオーは、あと数年もしない内に憧れの会長と同等か、それ以上の成長を遂げるであろう。楽しみだな~」

「おぱーいは?数年後、奴のおぱーいはどうなっているのでありますか?」

「そりゃもうバイバインのボインボインよ。カットインするとメッチャ揺れる!」

「ヘェーソウナンダ……マヤワカッチャッタ……ケズル!ケズルンダ!ケズラナイト!」

「あ、あくまで俺の個人的予想だから、気にしない方が……マズったか」

「ウラギリモノウラギリモノ……ユルサン!ユルサンゾォォォ」

「こりゃもうダメだな」

 

 マヤの目からハイライトが消えた!?スズカ(絶壁)さんを彷彿させる黒いオーラを醸し出しておられる。

 テイオーごめん。俺、余計な事を言ってしまったかもしれない。

 おぱーいの自己防衛を頑張っておくれ。陰ながら応援してる。

 暗黒面に落ちそうなマヤをなだめるのには苦労した。

 

「そうだ。パパがマサキちゃんにお礼言ってたよ。あの"きれいな石ころ"がとっても役に立ったって」

「ふぉっふぉっふぉっ、石ころの名前はオルゴナイトと言うのじゃよ」

 

 マヤのパパが責任者を務めるマーベリック航空技研にシラカワ重工から技術提供があったのは、つい最近のことである。

 その中に俺が生成したオルゴナイトが含まれていたのだ。

 今、メイドインマサキのオルゴナイトを使った様々な実験をいろんな所で試している最中だ。

 研究協力してくれる組織の選定はシュウとかシロの天才組にお任せ、マーベリック航空技研は信頼できる組織として認められたのだ。

 

「パパ喜んでたなぁ~『これでマヤのクラッシュ回数が格段に減る』だってさ……あはは……泣いていい?」

「今度、俺から大佐にガツンと抗議してやるよ」

「マサキちゃん」(´▽`)

「『娘さんはずっと貧乳のままでいてくれますよね!いるべきなんですよ!』こんな感じでな」

「そっちかよ!Fuck you!」

「こらこら、ファッキュー言うんじゃありません」

 

 通常のオルゴナイトは短時間で砕け散り粒子状に霧散していく。

 戦闘終了と共にきれいさっぱりなので掃除の手間が省けるね。

 その中で極々稀に物質化を維持したままの残留結晶が見つかる事がある。

 超高密度かつ高品質の覇気で生成された"レアオルゴナイト"と言うべきエネルギー物質。

 

 ファイン家がこれを弾丸に加工した事があるらしい。威力も中々のものだったとのこと。

 この話を聞いたシュウは俺にレアオルゴナイトを作れないかと依頼してきた。試しにやってみると、苦労しながらも生成できたから快く差し上げた。

 シュウはそのオルゴナイトから強力なエネルギーを引き出す方法を即座に確立させ、他にも様々な利用用途を思いついてくれた・・・さすがやお兄さまですぅぅ!さすおに!

 その研究にはシロも協力していたらしいが、複雑な数式や理論が飛び交う説明は聞いてもよくわからなかった。

 

「オルゴナイトかぁ。いいなぁ~マヤにもプレゼントしてくれない?」

「うーん、考えておく」

 

 テニスボールサイズの物を一個作るのにも大体一週間ほどかかる。

 これが中々骨の折れる作業で、長時間の集中というか"踏ん張っている状態"を必要とするから大変なんだ。

 めっちゃ腹減るし疲れるし眠たくなる。

 力み過ぎてお尻から気体が出たり固体が出そうになったりもする。

 おいそれと用意できる物ではない事をわかっていただきたい。

 

「あー、これダメなやつ?……いいんだもん、それでもマヤは…マヤはマサキちゃんを信じてる!」

「プレッシャーかけるのやめーや」

「えへへ、冗談だよ冗談。全然期待してないからね~」

 

 こんな感じで俺とマヤは飛行試験を楽しんだのである。

 後日、航空技研から『いいデータが採れたもっと飛べ!』と、お褒めの言葉をもらった。

 ふむ。プレゼントか・・・

 

 〇

 

 今日は医務室を訪れる生徒が多い。

 俺の仕事は暇であることが一番なのだけど、お役に立てるなら頑張りますよっと。

 

「じゃ、お大事に」

「はい。ありがとうございました」ナデナデ

「……もう、行っていいぞ」

「そうですね~ウフフフ」ナデナデ 

「マック!」

「はいはい。お帰りはあちらですわよ」

「ああもうちょっとマサキ教官を撫で回し……ロリィィィーー!」

 

 診察の終わった生徒が医務室から排除された。

 実行してくれたのは、持ち回りで俺をお世話をしてくれているネームド娘の一人。

 今はメジロマックイーンのターンである。

 

「やれやれですわね」

「今日あんな患者ばっかなんだけど?強制排除しないと、ずっと居座ろうとするんだけど」

「幼女マサキさんは注目の的ですから」

「俺の知らぬ所で一体何が進行している?」

「『撫でるとご利益がある』『抱っこすると運気が上がる』等、様々な噂が飛び交っておりますわ」

「フクたちが適当な事を言って面白がってるな」

「みんなマサキさんを構いたくて仕方ないのですよ。人気者の証拠です」

 

 冷やかし半分ならご遠慮いただきたいのが本音だけど、わざわざ俺に会いに来てくれたのはちょっと嬉しかったりする。

 怒るに怒れないんだよな。こんなんだからなめられるのか・・・

 

「今の子で最後みたいだな」

「ええ、これで一息つけそう━━━」

マァサァキィィィーーッッ!!

「でもなかったみたいだな」

「何事ですの!?」

 

 おっそろしい声で名前を呼ばないでくれる?

 憤怒の声を発する恨みがましい目をした生徒が扉を開け放ち飛び込んで来る。

 ここ医務室ですよ?静かにしなさい。

 

「ようテイオー。どうした?ついに、はちみーの過剰摂取で膀胱(ぼうこう)がイカれたか?」

「まあ!はしたないww」

「ちがーう!マヤノに何を吹き込んだんだよ。あいつボクの胸を『削る』とか『もぎとる』とか言ってるんだけど!目が本気で怖いんだよぉ!」

「テイオーは生徒会長みたいになると、教えただけだ」

「ボクがカイチョ―みたいに////さっすがマサキだね!ボクのことよくわかってるー」

「一瞬で機嫌が治りましたわ。現金すぎましてよ」

 

 マヤの奴、さっそくテイオーのおぱーいを削りに行ったのか・・・アグレッシブかわいいですねー!

 テイオーは学園の修練場で自主トレに励んでいたところを襲撃されたらしい。

  

 以下、テイオーの回想・・・

 

『ひゃーっはっはっは!テイオー?どうして裏切った?テイオーちゃあぁぁんッッ!』

『マヤノ!?一体何があったの、強化手術やりすぎた人みたいになってるよ』

『おまえはマヤと同じ"貧乳メスガキ枠"だぞ?』

『なんだよそれ!初耳だよ!』

『だめじゃないか!貧乳の奴がふくらんでちゃ!しぼんでなきゃぁ!削らなきゃあああ!!』

『わけわかんないよー!』

 

 おぱーいを庇いつつ、命からがら医務室まで逃げて来たのだとさ。

 マヤが"感情を制御できないゴミ"と化してしまった。どんなクロスボーンだよww

 テイオーが襲われたのは俺にも責任の一端があるので、飛行試験中にマヤとどんな会話をしたかを説明して謝っておいた。

 

「やっぱりマサキが原因じゃないか、何してくれてんだよ」

「悪気は無かったんや、ただお前の成長が嬉しくて口が滑った…ごめん」

「はぁ…‥‥もういいよ。寛大なボクだから許すけどさあ。それより、カイチョ―みたいになれるって本当?」

「それは今後のお前次第だな。いろんな事を経験して大きく強くたくましく、そしていい女になるんだぞ」

「そこまで期待されちゃ仕方ないなぁ////よーし、カイチョ―よりキタちゃんよりおっきくなるぞ~」

「今後も身体測定はこの俺に任せな!」

「エロマサキ////」

「マサキさん、テイオー……今の話本当ですの?……許せませんわ……けずるケズル削らなきゃあああ!!」(# ゚Д゚)

「「ここにも感情を処理できないゴミが!?!?」」

 

 マヤと同じ暴走状態に入ったマックが両手をワキワキさせながらテイオーににじり寄る。

 あのー、医務室では暴れないでくれますか?やーめーてー。

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

「落ち着いた?」

「もう大丈夫です。急に取り乱してすみません」

「ボクがいなかったらヤバかったね」

「お前がいたからマックがキレたんやで」

「何か言った?元凶マサキ」

「さーせん」

 

 テイオーの協力でマックを抑え込むことに成功した。

 途中でテイオーはロリな俺を抱えて盾にしやがったので、ちょっと当ててんのよ状態に・・・・ほう、順調に育っておりますな~。

 

「おぱーいに貴賎なし!小さかろうが大きかろうが、俺は好きだぜ」

「イイ顔で何をおっしゃっているのかしら」

「マサキはこういう男だよ。気にしたら負け」

「あー人肌恋しくなってきた。マック、抱っこ~」

「了解ですわ。慎ましくて貧相な胸でよろしければですけどね!!」

「ごめんって、卑屈になるなよ~」

「(ボク的には朗報だったけど、今後は"貧乳勢"に注意しなきゃ)」 

 

 マックと戯れているとテイオーが人数分のお茶を淹れてくれた。

 わんぱく少年のような奴だが、何気にお嬢属性持ちでもあるらしいテイオーはお茶の味にうるさかったりする。

 ティーパックであろうとも美味く淹れるコツがあるんだとさ。確かに、マックやテイオーが淹れてくれた茶は美味い。

 医務室はネームドたちのたまり場でもあるので、皆勝手知ったるなんとやらだ。

 

「戸棚の中に大量のクッキーがあるんだけど?」

「調理実習で作ったヤツをみんなに分けてもらったんだ。ありがたく食べようぜ」

「パクパクですわ~」

「(この尋常じゃない量……みんなここに遊びに来てるんだ。ま、ボクもだけどさ)」 

 

 お茶とクッキーに舌鼓を打っていると更なる来客。だからノックしてよ。

 

「チーッス!邪魔するぜ~」

「邪魔するんなら帰って!帰れ!」

「そういうお約束はいいんだよ。テイオー私にも茶ぁくれ…おお、マックちゃんもいるじゃん」

「うげぇですわ。ちょ、勝手に」

「なんだクッキーか、ポテチねぇの?」

「うっざっ!」

 

 ウザいことこの上ない図々しいの権化、ゴールドシップがあらわれた。

 楽しい三人のお茶会に乱入してくるとは、マジで空気の読めない奴だな。

 マックの隣に座ったゴルシはお皿に山積みされたクッキーを鷲掴みにして貪る。

 せっかくみんながくれたのに・・・もうちょっと味わって食えや!

 

「何用ですの?お世話係の交代時間はまだ先のはず」

「ゴルシちゃんにはな、ロリマサキを監視するという重大任務が課せられているのである」

「お前もう帰れや」

「帰れないわよ!チヤホヤされて鼻の下伸ばしている、そんなみっともない奴を置いて帰れっかよ!」

「みっともない俺といてもつまんないだろ?それ食ったら帰れよ」

「自分を卑下するんじゃねー!お前がどれだけ浮気性なクズロリコンでも、私のダチなんだからよ」 

 

 嬉しいのとムカつく感情が同時に来たんだけど、マジで反応しづらいな。

 テイオーとマックもゴルシの相手をしたくないようで、大人しくお茶をすすっている。

 

「そんなことはどうでもいい!こいつを見てくれぃ!」

「何ですの?……私にはゴミにしか見えませんけど」

「シールっぽいぞコレ」

「なんだか嗅いだことのある臭い、スースーするような?」

 

 ゴルシがテーブルの上に叩きつけるように出したのは、数枚の薄板状の物体だった。

 表面にデフォルメされたゴルシのイラストが描いてあり、それぞれ絵柄が違う。

 どれも絶妙に腹立つ顔してんなぁ。

 舌を出して首を傾げているイラストを見ていると本人をどつき回したい衝動に駆られる。

 テイオーが言うように、メントール臭もするな。

 

「かねてよりファイン家で開発していた万能湿布薬…その完成品だ」

「サロンパスだ」

「サロンパスですわね」

「まーたパクリやがったよ。そろそろマジで訴えられろ」

 

 出たよ、御三家のパクリ商品シリーズ。

 なんてものを作ってんだ、よっぽど暇なのか???

 

「これでうちの財政も潤うこと間違いなし。これは試供品だからお前らにやるよ」

「万能湿布薬ねぇ……どんな名前でで売る気なんだ?ケロンパスとか言ったらぶっ飛ばすぞ」

「企画段階から私が携わったんだ。そりゃあ『ゴールド湿布(シップ)』に決まってんだろ!」

「商品名がクソだな。売れるかこんなもん!」

「頭が悪くなりそうですわ」

「これ使うぐらいなら素直にサロンパス貼るよね」

「まあまあまあ。そんなこと言わずに試してみろって、マジで効くからさあ」

「おい、勝手に貼るな」

 

 ゴルシは了承を待たずに俺のシャツを捲り上げ、腰部へと湿布薬を貼った。

 その途端、ひんやりとした感触が俺を襲う。

 

「うひょ冷たッ!スースー通り越してピリピリする!」

「超クール仕様だからな。使い心地はどうよ?」

「刺激が強いな。子供は使用を控えるべきだって注意書きしとけ……なんか段々痛くなって」

「ふんふん、腐り切っても医療関係者だな。真っ当なご意見感謝するぜ。ほれほれ、お前たちもチャレンジしてみ」

「じゃあ一枚だけ……おわっ、こ、これ強すぎだよ。マサキよく耐えてるな」

 

 何のこれしきと言いたいが、やせ我慢もそろそろ限界だ。腰が冷えすぎて辛い。

 ふくらはぎに貼ったテイオーは無事か?・・・ダメみたいですね。足がつりそうになってるじゃん。

 強力な冷感刺激に俺とテイオーは『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』と奇声を上げながら悶えることになった。

 何の罰ゲームだよこれ。

 

「プルプル震えちゃってまあ、二人とも相当気に入ってくれたみたいだな。さあ、マックイーンも」

「あの惨状を見て試すと思いますか?断固拒否します」

「腹に貼って寝るとダイエット効果があるぜ」

「また適当なことを」

「こんなの貼ったらお腹壊すよ」

「友人の頼みとあらば仕方ありませんわね!在庫が余っているなら個人的に引き取ってあげてもよろしくてよ」

「「「うわチョロww」」」

 

 後日発売された湿布薬は予想に反して驚異的な売り上げを記録することになる。

 超クール感に耐え切った後には強烈な爽快感と抜群の疲労回復効果があると、メディアに取り上げられて話題になったのが大きい。

 ゴルシの目論見通りファイン家の財政とゴルシの財布は少しだけ潤ったのであった。

 どれだけ儲かったの?なんか奢れよな。

 

 〇

 

 中庭で幼女が生徒に絡む事案発生。

 

 幼女のほうは当然の如くマサキであり、生徒は可愛い妹属性のカレンチャンだ。

 昨日も騒いでいた二人なので、遠巻きにしている者たちも『またか』で絶賛スルー中である。

 

「やってくれはりましたなあ、カレンはん?」

「ど、どうしたのかな、お兄ちゃん?言葉使い変だよ」

「どうもこうもあらしまへん。例の小学生ウマスタグラマーの件ですわ」

「あ、どうだった?"カオル"ちゃんすっごく可愛かったでしょ」

 

 確かに可愛かった。今の俺と真っ向勝負できるぐらいの逸材だったと思う。

 だが、問題はそこじゃない!カオルちゃんはな、カオルちゃんは・・・

 

男じゃねーかよぉ!!

「うんそうだよ。男の娘ってヤツw」

「確信犯か貴様ぁぁ!」

「あれー?カレンはお兄ちゃん好みの可愛い子を紹介しただけなのになぁ。性別女とは一言も言ってないしーww」

オ・ノーレェェェェェッ!!!!

 

 マサキは怒りのままに幼女パンチを繰り出すが、全てを片手であしらうカレンにはまるで効いてない。ダメージゼロです!

 くそぉ!一矢報いてやりたいのに非力すぎる。太ももを撫で回してやろうかしら?

 カオルちゃん♀はな・・・なんとカオル君♂だったのだよ!!

 ある程度仲良くなったところで『僕、男だよw』と暴露され『また釣れちゃったw』なんて可愛くあざ笑われた俺の純情を返せよ!!

 愛バの目を盗んでスマホをポチポチした時間も返してよ。

 

「なんでもう個人的なやり取りしてるの!?お兄ちゃんのコミュ力お化け!」

 

 カオル君の本名は"熊田薫(くまだかおる)"と言う。

 俺が『ブタゴリラやないかい!』とコメントでツッコんだら『ブタとかゴリラとかなんなの?死ぬの?』と本人からキレ気味の返信が来た。

 そこから、なんやかんやのやり取りがあってメッチャ仲良くなった、てな訳よ。

 最近の子はキテレツ大百科知らないのね・・・吾輩(わがはい)ジェネレーションギャップなりよ!

 

「アンチコメから始まる物語。ボーイ・ミーツ・ガールだね!」

「向こうがボーイで俺がガールじゃないか。しかも、実際にはボーイ・ミーツ・ボーイ」

「お兄ちゃん、ボーイなんて年じゃないでしょw」

「うるせぇ!男はいくつになっても少年の心を持ち続けるんじゃい!」

 

 カオル君のウマスタ活動は一人のファンとして適度に応援させてもらおう。

 男と判明した段階で下心は霧散したぜ・・・トホホ。

 

「お友達ができて良かったじゃん。さて、話も終わったみたいだし、カレンはそろそろ」

「どこへ行こうと言うのかね?」

「これから学外クエストだよ。お友達待たせているから、もう行くね」

「呼び止めて悪かった。気を付けて頑張って来いよ。次は女の子を紹介して」

「はーい。行って来るねー」ナデナデ

 

 カレンは俺の頭を軽く撫で校門のある方へ駆けて行った。

 クエスト頑張りなはれや!

 

 〇

 

 学園の食堂にてスマホ片手に唸るマサキの姿があった。

 

「男の娘ね……なんど見ても面妖な」

 

 頬杖をついてぼやく幼女には珍しくお供が不在だ。

 次のお世話係と待ち合わせ中なのである。

 

「あ!マサキ教官だ」

「ホントだ。小っちゃくてカワイイ」

「今フリー?お世話係立候補してみようかな」

「生半可な覚悟で近づくな。噂では飽きるまでおぱーい揉んでくるらしい」

「「「ヒェッ!?!?」」」

 

 幼女になったマサキがいろんな人に抱っこされている件は皆が知っている。

 男だった時からアホな言動やセクハラ発言の多い教官だったけど、やられている方も許しているというか、満更でもないというか・・・

 絶妙な距離間を保ちつつ仲の良い相手には結構攻めるという"高度なセクハラ使い"だと、マサキは噂されている。

 むしろマーキングなどのスキンシップは女性陣のほうからが多いような気もする。

 

「それなんだけどさあ。マサキ教官が手を出す相手って、学園でも指折りの強い子ばかりってマジ?」

「偶然だろ。わざわざ強い奴狙ってセクハラ働くとかドⅯすぎんよ」

「抱っこをやんわり断られた人は言う事が違いますなぁ」

「見向きもされなかった奴に(あお)られてもねぇ」

「アンタら…言ってて虚しくないの?」

「「虚しい!そして悔しい~」」

 

 モブウマ娘の会話からわかる通り、マサキは人を選んでセクハラを働いている節がある。

 その誰もが学園内外で目立つ存在であり強者なのは周知の事実。

 故に『マサキからセクハラされる』=『何かしらの才能があるのでは?』というが、教職員と生徒たちの間で一種のバロメーターと化している。

 愛バとロリを想い脳みそ忙しいマサキはそのことを知る由もない。

 

 『ついてるのか・・・』と何事かをぼやいている幼女に近づく者あり。

 性転換から低年齢化までした異様な存在をものともしない、物好きであり実力者"ネームド"たちの登場だ。

 

 因みにネームドとは『マサキと仲の良いセクハラ耐性持ち』が授かる称号である。

 マサキ的には『名前覚えてる奴ら』ぐらいの感覚なのだが。

 誰が言い出したか不明だが学園内外に広く普及した異名、それがネームドだ。

 

「チョリーッス!マサぴっぴ今日も元気にしてるかーい?」

「ウィース」

「うわっ、テンション低ッッ!こっちまで下がるわー」

「さては!ロリコンが過ぎてアルダンたちに見限られた?」

「ちげーよ……今、性の不条理について悩んでる最中だ」

 

 マサキの下に集ったのは、ダイタクヘリオス、メジロパーマー、トーセンジョーダンの三人だった。

 フルメンバーではないが、俗に言うギャルと呼ばれる連中である。

 

「なんかあったん?とりま説明よろ」

「この子知ってるか?」

「おー、カオルッちじゃん。何?今度は男の娘をタゲってんの」

 

 やはり有名なのか、カオル君はウマスタをしている奴なら知っていて当然の人物らしい。

 俺はカレンから紹介され、男の娘だと知らずにショックを受けた経緯を説明した。

 

「そりゃマサキが悪いよ」

「だよねー。いっつもロリロリ言ってからバチが当たったんじゃね?」

「まあ、カオルっちレベルだと直接会っても気付かん可能性ありっしょ。でも、バカすぎww」

お前らは俺があぁぁ可哀想だとは思わんのかァァァァア!!!弱い者いじめをォするなああああ!!!

「半天狗みたいなこと言い出したww」

 

 昨日より幼女の体に慣れた俺を甘くみるなよ。

 お前たちに飛びかかるぐらいの体力はあるんだぞ。

 ギャルどもに向かって椅子からジャンプ・・・アカーン!思ったより飛べない。

 

「キャッチうぇーい!」

「危ないことすんなし」

 

 あ、あぶねぇ。椅子から落ちるところだった。

 素早く反応したヘリオスが俺をキャッチして、そのまま抱っこしてくれた。

 ジョーダンはネイルが施された指先で俺の頬をツンツンしながら注意してくる。

 パー子は『半天狗www』と笑っていた。お前なぁ・・・

 二人のことは、これからはヘリオとジョーとでも呼ぼう。パー子は……パー子でいいや。

 

「助けてくれた上に抱っこ感謝っス。そのまま俺を癒してくれるともっと助かる」

「具体的にどうしろと?」

「男の娘で傷ついた俺には金髪巨乳の癒しが必要だ」

「ジョーダンも抱っこしてみ?中身はクソだけど外見はパないよ」

「どれどれ、うわっ!軽ッ!ちっちゃっ!髪サラッサラww」

「スルーされた」(´・ω・`)

「はい、こっち見て写真撮るよー」

 

 嬉しそうに俺を抱っこするヘリオとジョー、パー子はそんな俺たちを撮影している。

 コラ!俺でキャッチボールするのはやめなさい。

 

「なあ、パツキンのチャンネーはおらんのけ?」

「まだ言うか」

「しつこいぞー。うちらで我慢しな」

「そう都合よくいるわけ━━━」

「ごめん。遅れた!」 

「シチーさん。仮眠で寝坊しても素敵だべ」

「「「パツキン来ちゃった!!」」」

「よく来てくれた湿地(シッチ)ッ!抱っこはよ」

「あ、うん。いいけどさあ」

 

 新たに金髪ともう一人ネームドが登場した。

 ゴールドシチーとユキノビジンが合流する。これでギャル組フルメンバーだ。

 お嬢様なパー子は染まり切っておらず、ユキノは見習いって感じだけどな。

 今の時間、本来のお世話係はシチーとユキノだったけど。シチーがちょっくら寝坊して遅刻していたのだ。

 このまま5人で相手してくれるみたいだし、ヘリオとジョーとパー子は飛び入り参加でいいだろう。

 因みに、シチーのことはシッチと、ユキノのことはユッキーと気分で言い換えるぜ。

 

 突然の要望にもシチーは快く応えてくれた。パツキンモデルは抱っこも一流ですな。

 

「フーン。巨乳かどうか知らんけど、癒された?」

「いい乳だった...モデルの鑑だ...」

「褒め方ウザww」

「ほら、次はユキノの番」

「うむ。よきにはからえ」

「なんで無駄に偉そうなの?」」

「わー、マサキさん。めんこくなってぇ」

「おまめん」

 

 おまめんとは『お前もめんこいな』の略である。

 シッチがユッキーに俺をパスする。

 そうやって抱っこを回してくれると、こちらとしても都合がいい。

 神核のチェックが捗るぜ。

 

 かわりばんこに俺を抱っこして撮影会をした後はテーブル席に座ってダラダラ駄弁ることにする。

 撮った写真を見せてもらったが『チャリで来た』の再現みたいなってるけど、いいのか?

 髪の毛を弄られたり、軽くネイルを施されたりしながら、ギャルトークに参加させてもらう。

 愛バたちで慣れているので女子の話題にも少しはついていける自負がある。

 授業やクエストの話から、流行りの化粧品やら、誰が付き合ってるだの、誰それが操者をゲットしただの・・・

 トークテーマはドンドン移り変わっていき、一周回って最初に話していた"男の娘ショック"へと戻って来た。

 

「この子、男なんだべかぁ……たまげたなぁ」

「うちらの業界でも割と多いよ。性別不詳ってのはなんかウケんのね」

「中性的な魅力か…俺にはわからんな」

「幼女好きすぎて幼女になった奴のことはもっとわからんしww」

「それなww」

「一応弁解させてくれ。今の状態、俺が望んでなったわけじゃないからな」

「「「「へぇー……」」」」

「みんな全く信じてねぇべさ」

 

 あの、シャミ子っていう神様のわがまでね・・・絶対信じてくれない・・・ちくしょー!

 いいやもう、説明がめんどくさーい。

 カオル君のウマスタを見ながら、ああだこうだ言いたいことを言い合う。

 

「信じられるか?こんなに可愛い顔してるのに下半身には"(けが)れたバベルの塔"が建設されているんだぜ」

「"穢れたバベルの塔"って普段のアンタにも生えてるじゃん」

「そうなんだけどよ。カオル君には生えてほしくなかった……」

「真面目な顔でスゲー下ネタかましてキター!!さすがのウチも引くぜー超引くぜー!なあ、パマちん?」

「ば、バベルの塔/////」ゴクリッ

「おやおやおや~。パーマーってばバベルタワーを妄想中みたいだし、スケベェww」

「ばべるのとう??みんなが何言ってるがかわがんねぇ。シチーさん、教えてけろ?」

「そこの幼女が失った秘密道具みたいなもんよ。男なら普通持ってるんじゃない」

「宝具と言ってくれたまえ。特定の状況で使用すると新たな命が誕生するのだ!」

「間違ってないけど言い方がウザ」

「ほぇ~、男の人ってすんげぇなぁ」

 

 むっつりパー子が赤面して、よくわかってないユッキーが感心している。

 ホッホッホ、君たちにはまだ早かったかな?

 他の三人は大丈夫みたいなので会話続行する。

 

「ていうか、女子の前でタワーの話なんてするなしww」

「一応、ウチら嫁入り前の娘じゃん?そういうの教官としてマズくない?」

「なんだ?お前ら仮にもギャルだろ。この程度の下ネタぐらいついて来いよ」

「ギャルがみんな下ネタ好きとか心外だしー」

「おかしいな『女は男が思っている以上に下品でドロドロぐっちょぐちょ』『ギャルなんてその最たるもの』だって」

「偏見にも程があるっしょ!誰に聞いたん?」

「違うのか?シロが『ギャル?ああ、下ネタが生きがいのクソビッチどもですね』と言っていたはずだが」

「サトイモちゃん酷くね?」

「あの子、マサぴが赴任して来る前と後でキャラ変わり過ぎなんよww」

「どぎつい本性隠さなくなってるからね。ま、下品なのはお互い様って感じ」

「そういうところもカワイイんだよなぁ」

「「盲目かよ!?」」

 

 シロは面白可愛い俺の愛バだ。多少下品でも問題なし!

 

「話をバベルタワーに戻すけど、急所丸出しなのって生物としては致命的な欠陥だよな」

「戻すなしww」

「『蹴ってくれ!』て言わんばかりの場所にぶら下がってるのもどうかと思う」

「続けるんだww」

「女になったからよくわかるんだよ。あの塔の危うさがな……」

「も、もうやめよう////正直つらい」

「パーマーさん?どうしたんだぁ、顔真っ赤だべ」

「パマちんが限界!マサぴはそろそろ自重すべき!」

「下ネタは身内だけでやれば?ほら、アンタの愛バたちなら余裕で乗っかるしょ」

「うーん。あいつらにこういう話題振るのはなぁ……」

「お?意外とウブだったりするん?」

「話だけじゃ終わらなくなるんだよ、なんだかんだで実践に突入しちゃうから…うぇへへ」

「「「こいつヤリチンだぁぁ!!」」」

今はノーチンですけど?

「「「やかましいわwww」」」

 

 ちょっとちょっとぉー『チン』はマズいよ。下ネタレベル更に上昇したよ。

 

「女子校の生徒がヤリチンとか言ったらダメでしょ!」

「言わせたのはそっち!」

「チン?チンチン電車なら知ってるべ」

「ほらぁ、ユッキーがチンチン言っちゃったよ」

(ちん)は国家なり!」

「ルイ14世はフランスへ帰れ!」

「場がイイ感じに狂って来たぞww」

「そしたら"パマちん"呼びもなんかエロくね?どう思うパマチン?」

「やめてヤメテ、マジデヤメテ!」

「どうすんだよコレ?お前らがヤリチン言うからだぞチンチン」

「どしたん?語尾が不浄なものに汚染されてるけど?」

「いや、チンチン使いまくって飽和状態にすれば恥ずかしさが薄れるかな~と思ったチンチン」

「「「くそバカwww」」」

 

 ちょっと楽しくなってきた。いけるとこまで行ってみよう!

 ギャルたちを目を見て合図する『いけるか?』と問うと『とりまやってみる』との返答あり。

 こいつら・・・アホだな・・・俺もだけどww

 

「はい。今からチンチン開始しまーす」

「「「ウェーイ!!」」」

「えぇ……」(´Д`)

「おっかねぇ祭りが始まっただ。頑張るべー」

 

 俺の号令でチンチンタイムが始まった。もう手遅れだけど下ネタ注意!!

 

「シチーさんは今日もチンチンだべ」

「あんがと。ユキノのチンチンも決まってんじゃん」

「そのネイル新作のチンチン?めっちゃチンチンしてる」

「わかる?ここのチンチンが最高にチンチンなんだよね~」

「やべーよ。今日の天気、晴れ時々チンチンだってさ。チンチンがチンチン降って来るぜ」

「マジで!?チンチン持ってくんの忘れたチン」

「俺の折りたたみチンチン貸してやろう。小さくて持ち運びに便利なチンチンだ」

「ち、小さいんだ////折りたたみなんだ////」

「今なんかすっげぇショック受けたチンチン!」

「あれパマちん?なんか元気なくなくなーいチンチン」

「それはチンチンが足りないからだ!早くチンチンと言え!」

「だってさ。パマちんもチンチン言ってみ?慣れると案外普通だチンチン」

「え、その////あぅ・・・」

「おーい。パー子がチンチン言わないといつまで経っても終わらねーぞ」

「なんでそうなるの!?ルールがわからないよ!」

「ちょっとだけ、先っぽだけでいいからチンチン」

「パーマーさん。頑張ってチンチンを口にしてけろ」

「頼むパー子、チンチンと言ってくれ!」

「あ////チ、チ、チ////」

「言え!言うんだチンチン!」

「チンチン……////」

「「「「腹から声出せチン!」」」」」

チンチンッッ!!!

 

 パー子の大声が食堂内に響き渡った。俺たちだけでなくたくさんの注目を一身に集めてしまうパー子。

 ゆでだこのようになったパー子はプルプルしながら羞恥心に悶えている。

 俺、ヘリオ、ジョー、シッチ、ユッキーは『やった!やったりおった!』と心で叫ぶ。

 せ、成功だ!あのパー子がチンチン言いおったで!

 それがどうしたと言われたらどうもしないけど。奇妙な達成感があるな。

 一仕事終えた俺たちは互いの健闘を称え合い握手を交わす。

 狂気のチンチンタイムは静かに幕を下ろしたのだ。

 

「冷静になったら、なんか腹減ったな」

「おごりなら食べてあげるし」

「いいぜ。ただし、一人500円までな」

「ウェーイ!言ってみたもん勝ち!何にしようかな~」

「マサキさん太っ腹だべ」

「500だとかなり制限されるけど…おごりってのが嬉しいからオッケー」

「え、あれ?もう終わり……私が大恥かいただけ?一体何だったの……そうだもう一回言えばチ」

「パマちん、それ以上はいけない!」

「終わったんだよ!!俺たちの〇ン〇ンタイムはもう…終わったんだ……」

「あれだけやって今更の伏字!?何一つ理解できないけど、わ、わかったよ」

 

 お遊びに付き合ってくれた皆に、おごるぐらいの甲斐性はあるチンチン。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 マサキたちが下ネタを満喫していた頃・・・

 食堂にいた人々は全員が同じことを思っていた。

 

チンチンチンチンうるせぇーよ!!(# ゚Д゚)』と。

 

 マサキとギャルたちの声は思いのほかよく通るのが災いして、食堂にいたほぼ全員がチンチンタイムを共有してしまったのだ。

 彼らなりのじゃれ合いなのだろうが、人類には早すぎてついて行けない。行きたくない!

 やり始めたマサキもだが、それに平然と順応したネームドたちも十分狂っている。あれでまだ愛バが参戦していない・・・だと!?

 ここに四人の愛バがいたらどうなっていたのか・・・想像するだけで怖気が走る。

 パーマーの『チンチン!!』叫びで終了した災害は食堂中を埋め尽くして多数の被害者を出した。

 ある者は腹を抱えて大笑い、ある者は飲食物を吹き出し、またある者は自身の想像を振り払うべく壁やテーブルに頭を打ち付けている。

 

 これはマサキとその仲間が引き起こす災害。通称、マサキ空間の発生である。

 その余波は不幸にも近くにいた他ネームドたちに降りかかる。

 マサキの感情はウマ娘には特に伝わり安く釣られやすい、その恐ろしさと迷惑加減を身をもって知るのであった。

 

「なあ、マサキたちが言ってる『チンチン』て何だ?」

 

 純真無垢な質問は時として非常に厄介である。

 ツインターボは一切の悪気なくチームメイトたちに問いかけた。

 

「ん-?私、バカだからわかんないなぁ」

「そういうのはネイチャさんが詳しいですよ」

「ちょ!イクノ!?」

「ホントか!ネイチャ、チンチンのことよく知ってるのか?」

「ええ。ネイチャさんほどチンチンに詳しい人を私は他に知りません!」

「このドS眼鏡、なんてことを言いやがる」

「さあ、ネイチャさん。ターボさんにチンチンの解説をお願いします」

「頑張れー」

「ネイチャ、ターボはチンチンについて知りたい!教えて教えて教えてー!」

「あーもうー!保健体育の授業でも受けてろや!!」

 

 ターボの質問攻めに頭を抱えるネイチャ。

 その光景を興味深そうに見るドSイクノと他人事のマチタン。

 チーム・カノープスは今日も平和である。

 

「チンチン~チンチン~♪チンチン~だね~♪」

「ウララさん!?連呼しちゃダメよ!」

 

 ハルウララは楽しそうにオリジナルソングを歌う。歌詞の90%がチンチンの歌をだ。

 それを止めようとするのは保護者代わりのキングヘイローである。

 

「キングちゃんはチンチン好き?」

「え、いや、好きとかそういうのじゃなくて……」

「チンチン~チンチン~♪チンチン大好きキングちゃん~♪キングチンチン~♪」

「それ以上歌うと『淫乱ピンク』に改名させるわよ」(#^ω^)ピキピキ

「キャー!キングチンチンが怒ったーあはははははww」(≧∇≦)

「コォラァッ!!待てやピンク!!」

 

 激怒したキングの手を躱しウララは何処かへと逃げていった。

 あのふざけた歌を他の場所で披露されたらキツイ。

 追いかけようとしたキングだが、あまりにふざけた出来事に追いかける気力が失せて席に止まる。

 

「いや~保護者も大変ですなぁ」

「スカイさん……楽しそうね。あなたも私と同じ目にあえばいいんだわ」

「それは遠慮したい」

 

 隣のテーブル席にいたセイウンスカイがキングをからかう。

 余裕のスカイであったが、キングの願いはすぐに叶うことになった。

 

「あの、スカイさんはチンチンのことよくご存知なんですか?」

「ブッ!ふ、フラワー何を言って……」

「あら、ちょうどよかったわ。スカイさんはチンチンの全てを知り尽くした女よ。いわばチンチンスカイね」

「凄いです!さすがです!チンチンスカイさん、私にもチンチンのことを教えてください」

「待って////そんなの知らない、知らないからぁ!」

「ざまぁww」

 

 自分を慕うウマ娘、ニシノフラワーからの質問にタジタジになるスカイ。

 キングはいい気味だとばかりにほくそ笑む。

 

「さあ、教えてください!チンチンの可能性は男性器以外にもあるってことを!」

「フラワァー!?!?もう知ってんじゃん!それが全てじゃん!絶対私より詳しいじゃん!」

「ニシノフラワー恐ろしい子」

 

 マサキ空間の被害は甚大だ。

 無知っ子や確信犯からの攻めを受けた者は精神に大きなダメージを負った。

 

 その元凶となったマサキは、ギャル組と共に小腹を満たした後でやっと周りの空気がおかしいことに気付いた。

 

「なんかチンチンチンチンうるさくね?」

「発情期ですかコノヤロウww」

「エロいつーか下品だよねー。ああなったら終わりって感じ?」

「ふぇぇ、都会はやっぱ進んでるべ……乱れてるべ!ただれてるべさぁ」

「個人の自由だけどさ。少しは自重しろっての」

「女子校にあるまじき光景~、風紀委員のバンメモさん卒倒するわww」

 

 加害者のバカたちに罪の意識は無かった。

 被害者たちの心は一つになり、元凶のバカどもに怒鳴り散らす。

 

「「「「お前らのせいだろォォォ!!」」」」

 

 怒られちゃった(´・ω・`)チンチン



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ニャンコポ

 前途有望な若人たちと遊んでリフレッシュした・・・チンチン。

 

 突然だが、養護教官の俺がどんな仕事をしているか教えて進ぜよう。

 医務室での応急処置をはじめ、毎日の健康観察、身体測定の実施、環境衛生など、学校全体の保健の管理を担い、生徒たちが元気に楽しく学園生活を送れるようサポートしている。

 ザックリ説明するとこんな感じだ。

 授業をするために教壇に立つこともあるし、同僚のお手伝いをすることもある。

 他にも、パトロールをしたり悪事を働いた生徒を捕まえたりと、突発的な雑務も何かと多いんだよ。

 

 さて、お仕事頑張りますか。

 今月の保健便りを作成して、不足している医薬品の発注も・・・あ、そうだ。

 何故か食堂で錯乱した生徒たちのメンタルケアをウエンディ教官に相談しておこう。

 女子にあるまじき卑猥な単語を口走っていたから少々心配だ。思春期のリビドーが暴走したんだろな・・・哀れな。

 体の傷は治せても、心の傷は専門外な俺である。

 こういう時は臨床心理士の資格を持つウエンディ教官を頼るべし、デリケートな問題は同性の方が話しやすいだろう。

 

「そろそろか…」

 

 時計を確認すると、もうすぐ次のお世話係がやって来る時間だ。

 愛バたちの根回しもあってか、ネームド連中が率先してお世話をしてくれる。

 本当にありがてぇこったな。

 

「失礼します」

 

 時間ピッタリに一人のウマ娘が入室して来た。

 デスクチェアを回転させて来訪者を迎えることにする。

 

「ドーモ。エイシン=サン。アンドウマサキです」

「ドーモ。アンドウ=サン。エイシンフラッシュです」

 

 俺のアイサツに即時対応しての返答・・・やるな。お茶目さんなところも好感がもてるぞ。

 彼女はドイツ生まれの黒髪ウマ娘、エイシンフラッシュ。

 サトノ家従者部隊に席を置く騎神で、同じく従者部隊のスマートファルコンとは公私共に仲がいい。   

 じゃれ合ってる姿をよく見かけるが、今日は一緒じゃないようだ。

 

「ファルコンは従者部隊の定例報告会に出席しており不在です。必要なら呼び出すこともできますが?」

「聞いてみただけだ。仕事ならしゃーないわな」

 

 俺のことは二の次にしてもらって全然構わない。

 みんなには自分の仕事や遊びを優先してほしい。お手すきの際にちょっと手助けしてくれたら、それで十分なのだ。

 

「マサキさんのサポート、精一杯尽力いたします。何なりとお申し付けください」

「ん?今何でもするって言った?」

「お嬢様方には秘密ですよ」

 

 俺の顔を覗き込むようにしたかと思うば、人差し指を口に当てちょっと小悪魔ポーズを決めるフラッシュさん。

 可愛すぎか!惚れてまうやろーー!

 

「いやいやいや!冗談だから本気にしないで、顔近いっス///」

「冗談なんですか?残念」

「大人をからかうんじゃありません」

「気が変わったならいつでも言ってください。お待ちしております」

 

 愛バがいるのを知ってなお、俺を惑わすよう言動をする奴は結構いるが・・・お前もか。

 キッチリしていて真面目な子のはず、なんだけどなー。

 

 出会った当初はクロとシロの操者をヤンロンにする代わりに、俺の愛バになってもいいとか提案していたけど、割と本気だったのかしら?

 

「愛バがダメなら愛人枠でもかまいませんよ」

「かまうわ!シロたちに殺されるわ!」

「略奪愛からの国外逃亡、アルダンさん用に準備していたものを更に練り上げた強化プラン、私自らが実行に移す時が来ましたか」

「来ないし絶対に失敗するからな。手の込んだ自殺はやめようぜ」

「一人では逝かせません」

「ヤベェよ、手の込んだ心中だったよ」

 

 俺相手にはっちゃけるフラッシュ。

 ファル子もシロたちもいないので、羽目を外しているのかな?

 

「マサキさん。この後のご予定は?」

「切り替え早っ!ええと、練武場とクラブハウスを回って屋内プールにも…」

 

 急に真面目になったフラッシュにこれから向かう場所を伝える。

 学園内の各施設を回って空調や換気が行き届いているか?プールの水質は保たれているか?などを測定するのだ。

 これは環境衛生のお仕事ってやつよ。

 

「施設の管理者が上手い事やってくれているけど、情報の共有はしておきたいからな」

「快適な学園生活が送れるのも、マサキさんたちのおかげですね」

「褒めても何も出ないぞ。じゃあ、頼めるか?」

「はい。安全確実にあなたを運びましょう」

 

 椅子に座ったまま手を伸ばす俺をフラッシュは軽々抱き上げる。

 ・・・わかっていたけど、なかなかのモノをお持ちですな。

 わーい!シロアルと同レベルのおぱーいだぁ。

 

「88です」

「シロとアルより(わず)かにでかい!」

 

 さて、バスト88を楽しみながら移動開始だ。

 

「待ってください。出発前に質問があります」

「何?」

「意味不明なマーキングメッセージがでかでかと描かれていますが…これは」

「聞くのはめっちゃ怖いけど。頼む、教えてくれ」

 

 犯人の心当たりが多すぎてわからんな。毎度のことだがやりたい放題されている。

 俺はお前たちのメモ帳じゃないんですけどねぇ。

 

「"ノーチン"とは一体、何かの暗号でしょうか?」

 

 あいつら覚えてろよ。

 ギャルは油断できないと深く心に刻み込んでおこう。

 

「ごめん、消しといてくれる。一言一句完膚なきまで徹底的に!!」

「余程の重要機密なのですね。わかりました、完全消去いたします」

 

 フラッシュに上書きマーキングをしてもらったぞ。

 ノーチンが跡形もなく消えていることを祈りつつ、今度こそ出発しよう。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「数値は……うん、大丈夫そう。ご協力ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそわざわざご足労いただいて」

 

 プールの管理者がタイミング良く水質検査を行うというので立ち会わせてもらった。

 検査結果は問題なしで一安心だ。

 もし何かしらの異常があればプールの利用を停止した上で学外の専門機関へ調査を依頼しなければならないところだった。面倒な仕事が増えなくてよかったぜ。

 

 管理責任者と他の作業員たちにも俺の状態(幼女化)が伝わっているので仕事に支障なし。

 『お嬢ちゃん、勝手に入って来ちゃダメだよ』などと言われずにすんだ。

 

「今ので最後ですか?」

「そのようだ。付き合ってくれてありがとう、フラッシュ」

「この程度、造作もありません」

 

 学園のあっちこっちへ移動したので疲れているのではと思ったが、ウマ娘には無用の心配だったな。

 ましてや彼女は轟級騎神、幼女を抱えて歩こうが走ろうが消耗はしない。

 

「予定より早く終わったな」

「やはり屋根伝いに移動したのは正解でした」

「たづなさんや風紀委員に見つかったら一発アウトだから注意しろよ」

「ファル子じゃあるまいし、見つかるようなヘマはしません」

 

 ワイヤーなしの立体機動は痛快で爽快だけど、学園では緊急時以外は禁止されている。

 『超パルクール走行禁止』が人間の学校で言うところの『廊下を走るな!』に該当する。

 トレセンでは走ること事態は禁止されておらず『ぶつかるな!』『事故るな!』『保険には入ったか?』だからな。

 姫ことカワプリが何度も事故っては怒られている。

 

「サポートは終了ということで、よろしいでしょうか?」

「ああ、もう戻ってくれていいぞ。本当に助かった」

 

 俺一人だったらまだノロノロと歩いていただろう。だからマジで感謝だ。

 

「では、ここからは自由行動に移らせていただきます」

「あいよ。ここで解散にしよう・・・て、おーい、どこ行くねん?」

 

 フラッシュは俺を抱っこしたまま歩き出す。解散しないの?

 

「少し散歩に付き合ってください。お嬢様たちが帰還するまでの間マサキさんを独り占めです」

「まあ、それぐらいなら」

 

 フラッシュのことだ、俺のスケジュールも把握済みに違いない。

 元より、パトロールも兼ねて学園内をブラブラする気だったから、少しぐらい散歩に付き合うのもいいだろう。

 散歩と言っても歩くはフラッシュで、俺は抱っこ状態ですけどね。

 

「ダンケダンケ~」

Danke(ダンケ)は『ありがとう』を表す言葉ですschön(シェーン)付けると感謝の度合いがより強くなります」

「ダンケシェーン」

「上手ですよ。ちゃんと『どうもありがとう』に聞こえます」

 

 せっかくなので、散歩がてらフラッシュのドイツ語講座を受けている。

 本場の発音をしてくれる講師が素晴らしいな。

 顔もスタイルも良い美少女ウマ娘の講師が非常に素晴らしいですぅぅ!

 ヤベェよ。近頃オトナシさんの『素晴らしいです病』がうつってる気がするわ。

 

 途中、作業着姿の男女数名とすれ違った。

 彼らはこちらに向かって会釈したので俺たちも返す。

 

「今のは?」

「治安局の捜査員ですね。マサキさんが代表者と話をつけたと聞いてますよ」

「次長やってる奴が昔馴染みだっただけさ」

 

 あれがフェイルの言っていた人員か。

 いつルクスが来てもいいよう、出入り業者に扮して学園を見張ってるんだな。

 

「治安局が間に入ったことでメジロ家との協同も期待できます」

「そいつはよかった」

「対ルクスという名目上ですが、一歩前進したことは間違いありません」

 

 どうだルクス、お前への包囲網は確実に狭まって来ているぞ。

 ぶっ飛ばした後はてめぇの素顔を日本中に晒してやるから覚悟しろよ!

 震えながら待ってろやボケ!

 

「それにしても、今のマサキさんは可愛いらしいですね」

「お褒めいただきどうも」

「すれ違う人たち皆が羨望の眼差しを向けて来ますので優越感に浸れます」

 

 フラッシュがニンマリしている。なんだか楽しそうね。

 

「記念撮影をしましょう。はい、1(アインス)2(ツヴィァイ)3(ドゥライ)käse!(ケーゼ!)

 

 今のはドイツ語版『はい、チーズ』か。

 片腕で俺を抱っこしたまま、もう片方の手で器用に自撮りをするフラッシュ。

 いい写真が撮れたらしく満足気だ。

 そのまま彼女はスマホを操作して何処かに写真を送っている?

 

「あまりに可愛いので両親に見てもらいたくなりました」

「ご両親に送ったんかい!は、恥ずかしい///」

「さっそく父から返信が来ましたよ『空輸してくれ』だそうです」

「何をじゃい!?俺か?俺を空の便で送れってか!フラッシュの実家はどこよ?」

「ベルリンに決まってるじゃないですか」

「ドイツの首都じゃん。国際便は嫌よ」

「あ、母からも『クール便で♪』と」

「俺は荷物じゃないし、ドイツにも行かん!」

 

 空輸も冷凍もされてたまるか!

 ファーストクラスを用意されても行かないぞ。

 

「『冗談です。教官殿、どうか娘をよろしくお願いいたします』ですって」

「遊ばれてた!?『ご心配なく。娘さんはとても立派に成長しています』と送ってくれ」

「わかりました……あの、母が胸の谷間寄せ写真を添付して『おぱーいは私譲り!』だと言っております」

「いらない情報ありがとう。もうツッコミ面倒くせぇ!」

 

 日本とドイツで何を送り合っとるねん。

 立派に成長したのは『人間的に』とか『騎神として』とかの意味で『おぱーい』に限定しとらんわ!

 とにかく、俺のドイツ送りは諦めてもらわねば。

 両親と少しの間やり取りを交わした後でフラッシュはスマホをしまった。

 なんだか終始嬉しそうだったので、親子関係は良好らしい。

 

「愉快なご両親だな」 

「退屈はしませんよ。日本へも快く送り出してくれた、自慢の両親です」

 

 うんうん。尊敬できる親を持つ気持ちは俺にもよーくわかるぞ。

 

「うちの両親にも気に入られたマサキさんには"オニャンコポン"の名を授けましょう」

「お、おにゃ?何だそれ?」

「いつか娘が産まれた時に付けようと思った名前です」

「すげー反応に困る」(´・ω・`)

「どうか笑ってください、オニャンコポン…」

「さっそく使うのやめて」

 

 猫っぽいゆるキャラみたいな名前を授かってもな。謹んで辞退しようと思う。

 そうだ、忘れない内にフラッシュの神核チェックをしておかないと・・・あら?

 

「ヘルツリッヒ・グリュークヴンシュ(おめでとう)」

「教えていないドイツ語で、私の何をお祝いしたのです?」

「だって、契約してるから……操者を見つけたなら教えてくれよ」

「気付かれましたか、さすがですね」

 

 神核チェックでフラッシュに操者と契約していることが判明した。

 通りで覇気の流れが以前と違うわけだ。

 ここは素直にお祝い申し上げよう。

 俺に黙って契約したのはどこのどいつだ?とか思って嫉妬してはいけない。

 

「そんで?どんな人と契約したの」

「マサキさんも知っている人です。当てて見て下さい」

「何ぃ――!?ひ、ヒントをくれ?」

「男の人です」

「まさか……近所の飲み屋に出没するのんべえの"茂蔵(しげぞう)じいさん(76歳)"か!」

「違います。後期高齢者ではありません」

 

 男の知り合いでそこそこの覇気持ちとなると限定される。

 ゲンさんでもないし、ヤンロンでもない、シュウは違う、フェイルも違うな。

 

「ヒントその2をくれ」

「口癖がトロンべ人です」

「はい、もうわかった!レーツェルさんだろ」

「正解です。まあ、わかりますよね」

 

 口癖トロンべがあの人以外にいたらキツイ。

 さすがレーツェルさんだ。黒髪ウマ娘の収集に余念がないぜ。

 

「カフェはこの事を?」

「もちろんご存知です。仲良くさせてもらっていますよ」

 

 きっかけはフラッシュがネームドたちに自作のドイツ菓子を振舞った事だった。

 それを大層気に入ったカフェは無理を言ってテイクアウトさせてもらい、レーツェルさんに食べさせたんだと。

 レーツェルさんは一口食べただけで『トォロォンベェェーーッ!』と叫ぶリアクションを決めた。  

 嫌がるカフェからフラッシュの居場所を聞き出し、その日の内に契約を申し込んだらしい。

 最初は拒否していたフラッシュだったが、しつこく食い下がるレーツェルさんに根負けした。

 ファル子やシロたち、ドウゲンさんやサトノ家の同僚たちにも相談してみると・・・

 『別にいいんじゃね?』『この人強いよ』『マサキさんには劣るけど及第点』

 『後悔しないよう、自分で決めなさい』『メジロの黒旋風じゃん!?SSR引いたな』

 とのご意見を頂戴したこともフラッシュの背中を押したんだと。

 

 レーツェルさん、自分よりコーヒー美味く淹れるからという理由でカフェと契約した前歴がある。

 今回は、ドイツ菓子が美味しかったんだな。

 俺もフラッシュの作ったお菓子やケーキを差し入れしてもらったことがあるけど、ほっぺたが落ちると言っても過言ではないぐらい美味かった。

 ドイツのご実家が有名な洋菓子店らしいのでさもありなん。

 

「トロンべトロンべうるさいのが難点ですが、高レベルの操者と契約できたことに不満はありません」

「ほぇー、そんな感じかぁ。で、レーツェルさんにのどこが好きなん?惚気(のろけ)てもいいのよ?」

 

 女子高生と初々しい恋バナがしたい気分のマサキです。

 

「好き?……料理上手なところと、あの妙ちくりんなゴーグルは割と気に入って…」

「違う違う、そうじゃなくて男としての好き好きポイントが聞きたいのよ」

「ああ、そういうことですか。善良かつイケメンな部類だとは思いますが、私もカフェさんも彼に性的魅力は感じておりません」

「マジか!な、なんと淡泊な……」

「相互利益の一致による関係性です。操者として信頼はしていますけど、結婚したいとまでは思わないですね」

「友達以上恋人未満?」

「ファルコン以上マサキさん未満です」

「よくわかんね」

 

 カフェもフラッシュも恋愛感情抜きなのか・・・もしかして、黒髪ウマ娘ってドライな子が多い?

 いやいや、うちのクロは違うってば。そもそもクロは・・・アレだし・・・。

 そういえば姉さんも俺以外には割とドライだ。うん、黒髪ドライ説あると思います。

 

「とにかくおめでとう。そして今後ともよろしゅう~」

「ありがとうございます。操者とカフェさん共々、よろしくお願いします」

「因みに、何て呼ばれてる?」

「トロンべです」

「ですよねー」

 

 あの人、本気で黒髪全員をトロンべ呼びする気だ。正気とは思えない。

 そんなので混乱しないのかと思ったけど、契約後の今ではなんとなく『トロンべ』の違いがわかるようになってきたらしい。

 傍から見るとめんどうだなぁ。

 

 そんなことを話していると噴水広場までやって来ていた。

 学園内でも人気の癒しスポットは休憩するにはもってこいの場所だ。

 噴水の中央には三女神像が・・・何度見ても全然似てねぇわ!

 実物はアレの数百倍綺麗で可愛いのだと、声を大にして言いたい。

 

「三女神様と友達だなんて、羨ましい限りです」

「もう一柱(ひとはしら)、親玉的存在がいるんだけど」 

「メジロの開祖だと言う……えーと、ジャミラ様?」

「シャナミアな」

 

 水が弱点の悲しきウルトラ怪獣と間違われたシャミ子・・・知名度の差か。

 そのジャミラ様が俺を幼女にした張本人でっせ。

 

「見つけましたよ!」

 

 噴水広場に女性の声が響いた。何だ騒がしいな。

 俺とフラッシュは一体何事かと辺りをキョロキョロしてみる。

 

「あなたですよ、そこのあなた!」

「ソコノアナタさんと言う人を探しているみたいですね」

「俺たちには何の関係もないな。行こうぜ」

「待ちなさい!そこ!エイシンフラッシュさんに抱っこされているあなたのことです!」

 

 スルーしようと思ったが阻止された。

 指先をビシッと突き付けて、どうやら俺をご指名らしい。

 面倒事の予感がする。

 

「ど、どうしました?桐生院葵先輩」

 

 同僚であり先輩教官でもある、キリュウインアオイさんが眉間に皺を寄せてご立腹である。

 何か怒らせるようなことをしただろうか?心当たりがない。

 

「医務室で大人しくしていろと言いましたよね?どうしてここにいるのですか」

「各施設の衛生状態を見回っていましたけど、それが何か?」

「それはアンドウ教官の仕事でしょう。子供のあなたが代行する必要はありません」

「あの、だから俺がアンドウマサキで」

「はいはい、そういうのはもう結構です。学園の皆は(だま)せてもこの私は騙せませんから」

「マサキさん……まさか、この人」

「フラッシュが察した通りだよ」

「なんと厄介な、お嬢様方の"粛清リスト"に名を連ねているのも納得です」

 

 あ、フラッシュが引いている。それも仕方がないというものだ。

 なにせこのキリュウイン教官は頑なに、幼女の俺を"アンドウマサキ本人だと認めようとしない"のだから。

 何度も懇切丁寧に説明したが、まるで信じてくれないのだ。

 前段階で俺が女になった時も信じてもらえずに『レンタル彼女に仕事を代行させている』とか言ってたな。

 幼女になったらなったで『育児放棄した隠し子』呼ばわりだもんな。

 どんだけ俺のこと悪く見ているのだろうか?好感度は限りなくゼロに近いっぽい。

 赴任してきた当初はすごく親切で頼りになる先輩だったのに、今ではご覧のありさまだよ。

 

「キリュウイン教官。この人は正真正銘マサキさんご本人ですよ」

「なんてこと優等生のフラッシュさんまで…アンドウ教官の毒牙はどれだけ学園を腐敗させるのかしら」

「酷い言いぐさだ」

「マサキさん。覇気を出してみてください、それならいくら頑固でも…」

「もう試したけどダメだった」

「だから騙されませんってば!血縁のある親子なら覇気が多少似通っていても当然なんです」

「正気ですか?どう見ても3歳児の幼女が出せる覇気量を超越してますけど」

「どうせ御三家の隠形術と変装術の組み合わせでしょう?そこまでして見栄を張りたいなんて、見苦しいにも程があります」

「話の通じない人ですね」

「だろ?ヤンロンやたづなさんも匙を投げたレベルの聞き分けの無さよ」

 

 要領を得ないキリュウインさんの話をまとめると・・・

 女にだらしがない俺が愛バ以外の女と子供を作り、育児放棄した挙句にその世話を学園の生徒たちに無理やり押し付けているという。

 ろくでなし外道男のストーリーが完成していた。

 

「まったく、トレセン学園は託児所ではないんですよ。あなたの父親は何を考えているのですか」

「あなたこそ何を考えているのです」

「フラッシュ、落ち着いて。お言葉ですが、キリュウインさんが言う本物のアンドウマサキは、今どこで何をしているのですか?」

「そんなの知りませんよ。どうせ御三家からもらったお金で豪遊でもしているんでしょ。昼間からキャバクラ三昧とはいい御身分ですよ」

「俺は下戸だ!キャバクラなんぞ行く暇があるなら愛バとイチャついとるわ!」

「何ですかその言葉遣いは!ろくな躾もされていないのかしら」

「言わせておけば…」

「ふ、フラッシュ。抑えておさえて」

 

 マズい、俺より先にフラッシュがキレちゃいそうだ。

 ネームドたちは俺をいじって遊ぶ癖に、俺が悪意に晒されるともの凄く怒ってくれるんだよな。

 嬉しいけど、彼女たちがいつ暴れ出すか気掛かりでヒヤヒヤハラハラするぜ。

 

 どうしてこうなった。

 俺はキリュウインさんとも仲良くしたいと思っているのに、事あるごとに因縁を吹っ掛けられているような気がする。

 俺以外の同僚や生徒たちにはすこぶる良対応なのに悲しい・・・新手のパワハラか?(´ω`)

 

「アンドウ教官が戻って来られないようなら仕方ありません。児童相談所に通報した上で御三家にも事の経緯を報告します。これで愛バなどにされている、()()()()も目を覚ましてくれる」

「それは…マジでやめておいた方がいいと思います」

「どう見積もっても、大恥をかくだけではすみません」

「今更止めても無駄です。恨むならあなたの父親を恨むのですね」

「えー、顔も知らない人を恨めと言われましても」

「マサキさん……」

 

 俺は本当の両親の顔を知らない。

 アースクレイドルの事件が両親の命を奪った。事件現場は相当悲惨な状態で瓦礫の山だったらしい。

 だから、父さんの写真は何一つ残って無い。姉さんから口頭で聞く情報だよりに想像するのが精一杯だ。

 

 し、しまった。俺の発言でフラッシュが悲痛な顔をしている。

 フラッシュもクレイドルの事件や俺の出自知っている。

 素敵なご両親が健在のフラッシュからすれば、俺の生い立ちは不幸に見えるのだろう。

 周りの人たちのおかげで全然そんなことなかったんだよ。だから、君がが悲しむ必要はないんだ。

 

「マサキさんに向かって…父親を恨め…だと…」

 

 俺を気遣うような顔していたフラッシュが、キリュウインさんを睨みつける。

 悪気があろうが無かろうが、俺のデリケートな部分を攻撃したことが許せないと言った感じだ。

 ヤバい、愛バが敵を認識した瞬間にそっくりだ。

 

「フラッシュさんも、その子の戯言に付き合う必要はないですよ。アンドウ教官たちの事はこっちに任せて、あなたは修練と勉学に勤しみなさい」

「キリュウイン教官に私の行動を左右される(いわ)れはありません」

「私はあなたのためを思って」

「ご自身の暴論を認めさせるためでしょう?さっきからチグハグな事をおっしゃってますよ」

「っ!?その子は私が保護します。さあ、こちらへ渡してください」

「キリュウインさん。俺は本当にマサキなんです、もう一度冷静に話し合いを……」

「アンドウ教官のことは信用に値しません。その子供である、あなたも同罪!そうよ、将来を約束された生徒を(たぶら)かす男なんて……」

 

 キリュウインさんが俺を奪い取ろうと一歩前進した。マズいですって!

 

Du bist so mühsam.(ドゥー ビスト ゾー ミューザム)」(あなた、本当にウザい)

 

 大きなため息をついたフラッシュはドイツ語で何かを呟く。

 あまりいい意味の言葉ではないことだけは察した。そして・・・

 

「それ以上近づけば敵とみなし、攻撃します」

 

 ゾッとするほど冷たい声で警告を発した。今度は日本語だ。

 俺を奪われまいと腕に力を込め、殺気を乗せた覇気をキリュウインさんへ飛ばしている。

 あわわわ・・・メッチャ怖い。

 普段大人しくて真面目な子がキレるとマジで怖い。

 

「攻撃?教官である私を攻撃するですって!?フラッシュさん、あなた、何か弱みでも握られて」

「関係ありません。不愉快なので、今すぐここから立ち去ってください」

 

 キリュウインさん気付いて!

 フラッシュは『逃げる』ではなく『攻撃する』と言っているんですよ。

 その気になればいつでも俺を抱えて逃げ出すことが可能なのに・・・

 『お前ムカつくからボコる』『逃げるのはその後でな』と言ってるんです!コレ最終警告ですよ!

 

「私はお嬢様たちからマサキさんのことを任されました。つまり、今の私は彼の愛バも同然」

「な、あなたまでなんてことを」

「愛バの前で操者を(おとし)めることの意味、理解していますよね?」

「くっ、本気なんですか」

「この私と…‥」

 

 フラッシュの悪感情と覇気が膨れ上がる。ちょちょちょ!ちょい待ちぃーやぁ!

 俺の気持ちはどうなるんです?

 

戦争しますか?

 

 目をギラつかせたフラッシュの言葉にキリュウインさんが絶句する。

 戦争はやめましょうや、せめて決闘と言ってよ。

 こっわっ!!フラッシュの殺気マジ怖すぎぃ!

 守られているはずの俺も縮み上がるほどの威圧感((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

 どうすんの?キリュウインさん。今すぐに逃げたほうがいいですぞ!

 俺なら迷わずそうするね。

 

「可哀想なフラッシュさん。あなたもアンドウ教官の被害者なんですね。大丈夫ですよ、私がみんな救ってみせますから‥‥‥例え、あなたと戦うことになっても!」

 

 受けて立つ気だぁー!まさか、フラッシュ相手にタイマンを?・・・するわけないか。

 愛バ連れていないのにマジでどうするんだろ?

 

ハッピーミィィーークッ!カァァムヒアッッ!!

 

 キリュウインさんは首から下げたペンダントを天に掲げて高らかに叫んだ。

 ダイターンやめてよね。

 アホか!そんなんで愛バが召喚できたら誰も苦労しねーんだよ。

 

「アオイ、呼んだ?」

 

 三女神像の後ろからヒョッコリとハッピーミークが現れた。

 来たよww何故か来ちゃったよ。ずっとそこに隠れていたのか?

 一体いつからスタンバっていたのだろう?

 

 独特な『ぬぼ~』とした雰囲気をもつ白髪のウマ娘ハッピーミーク。

 彼女はキリュウインさんの愛バで『なんでもそつなくこなす』非常に優秀な轟級騎神として名高い。

 

「よく来てくれました、ミーク。さあ、戦闘準備を」

「あ、マサキさんだ。はろ~」

「はろはろ~」

「フラッシュさんも、はろ~」

「こんちにはミークさん」

「ミーク!挨拶は後にして、戦闘が始まってしまいます」

「アオイ。とりあえず謝ろっか」

「なんで!?」

「一部始終見てたから……いつもの言い掛かり、よく飽きないなぁと思ってた」

「言い掛かりじゃありません。私はみんなために」

「ごめんなさい。アオイには後でよく言い聞かせるので許して」

「ミーク!?」

 

 ペコリとお辞儀をするミーク。

 俺とフラッシュに誠心誠意謝っているのが伝わって来る。綺麗なお辞儀だ。

 よかったぁ。愛バのほうは話が通じそうだぞ。

 ミークが謝罪したことで、フラッシュも怒りを鎮め覇気を抑えることにしたようだ。

 

「さあ、アオイも謝って」

「嫌ですよ。私は頭を下げる気なんてありません」

「格式ある操者は礼節を重んじる。桐生院家は礼儀を守れと教えたはずだよ…」

「ですが!」

おじぎをするのだ!!

「ブホォッェ!?!?」

「「腹パンしたぁ!?」」

 

 ミークの拳がキリュウインさんの腹部にめり込んだ。

 何度も打ち込んだ経験があるかのような、鋭くそして手慣れた動き。

 ありゃ相当痛いぞ。

 

「ミ、ミー…ク…‥‥ぅ…また……しても…」ガクッ

「やれやれだね」

 

 白目を向いて気絶するキリュウインさん。

 崩れる落ちる寸前の操者をミークはしっかり支えた。

 

「言いたい事はあるだろうけど、今回はコレで許して?ダメ?」

「私はマサキさんに従うのみです。どうします?」

「いいよ。そもそも俺が幼女になったのが悪いんだし、キリュウインさんも本当は悪い人じゃないって知ってるからな」

 

 姿形がコロコロ変わるような奴を安易に信用できないという気持ちは解る。警戒されて当然だ。

 そもそも、俺の周囲や学園の人たちがアッサリ受け入れすぎだと思う。

 

「寛大な御心に感謝を……後日、改めて謝罪するね……じゃあ、サラダバー」

「気を付けてな~」

 

 キリュウインさんを担いだミークは深々と一礼しから去って行った。

 向かう先はきっとウエンディ教官の所だろう。

 キリュウインさんは俺からヒーリングされたくないだろうし・・・正しい選択だ。

 ミークのおかげで事なきを得て正直ホッとした。

 

「ふーっ、何とか終わったみたいだな」

「差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした」

 

 先程の殺気はどこへやら、憑き物が落ちたようなフラッシュが謝罪してくる。

 俺の覇気に当てられて暴力的になったのだとしたら、こっちが全力で謝らないといけないけど。

 そんな感じでもなかったと思う。

 

「戦争というワードを出すから焦ったぞ」

「確かに軽率でした。ですが、どうしても許せなくて」

 

 トレセン学園には一般の学び舎とは異なる校則や決まりごとが多々ある。

 その一つが、揉め事処理のために"決闘"システムを採用していることだ。

 話し合いで物事が解決しない場合、第三者の立ち会いの下でルールに則った勝負を行い、勝った方の言い分を通すのが決闘だ。

 

 普段なら決闘と言ったはず。しがし、キレたフラッシュは"戦争"と言った。

 『決闘なんかで終わらせない、お前はここで始末する』と言ったようなものだ。

 俺がフラッシュの覇気から感じたのは"怒りと覚悟"だ。

 『教官に歯向かって罰せられようが犯罪者の汚名を被ろうが知った事か!』

 『私はこの人を守る!』『彼を、その父親を侮辱するな!』

 ちゃんと伝わったよ。本当に愛バたちの代わりを務めようとしてくれたんだな。

 だけど、教官として操者として一人の大人として叱らなくてはならない

 教官相手の暴力行為は最悪退学になっていたかもしれないんだ。

 

「らしくなかったな。冷静沈着(クール)なフラッシュはどこ?てな感じ」

「面目次第もございません」

「俺を守ろうと必死だったのは解る。でも、さっきのはやりすぎ」

 

 手を伸ばしてフラッシュの頬をペチペチ叩きながら、軽くお説教。

 今朝、愛バたちから説教された身で何やってるんだろうな。それはそれ!これはこれだ!

 フラッシュは困ったような顔で黙って俺のお叱りを受けていた。

 『もっと自分を大切に』とか『俺のせいで退学などさせん』とかいろいろ言った気がする。

 そして、最後に一番伝えたい、これだけは言っておかないと・・・

 

俺のために怒ってくれてありがとう。すげー嬉しかった!

 

 しょげてしまっていたフラッシュの耳がピンッと立って復活した。

 俺を見る目が光りを宿したようにキラキラ輝きだす。

 

オニャンコポン!」ぎゅ~

「ふぎゃ……ひ、人違いです」

 

 感激したフラッシュは俺の名前を激しく間違えながら熱烈な抱擁(ほうよう)をしてくる。

 むぎゅぐぐ、バスト88に溺れちゃう!

 

「お嬢様たちがマサキさんの愛バになった理由、改めてよくわかりました」

「そうかい」

「少し……妬けてしまいますね」

 

 おっふっふ。そういうこと言うから、アホな俺が勘違いするんやで。

 

「オニャ…マサキさん。私、とても美味しいケーキ屋を知っているのですが、一緒に行きませんか?」

「それってドイツにあるご実家じゃないだろうな?さすがにそれはないかww」

「・・・・」

「何故黙る!?」

 

 本気だったのか・・・ドイツにお持ち帰りするプランは即刻破棄してくださいな。

 

「マサキさん。私の目を見てIch habe dich sehr lieb.(イッヒ ハーベ ディッヒ ゼア リープ)と言ってください」

 

 ドイツ語講座の続きか?受けて立つぞ。

 

「ええと、イッヒハーベディッヒゼアリープ……どうだ?」

「はい♪今日のところはこれで満足しておきます」

「どういう意味?ねえ、今のどういう意味?」

「さあ、何でしょうね」

「む、教えてくれないのか。シロに聞いたらわかるかな?」

「やめてください!死んでしまいます!」

「えぇ」(´Д`)

 

 フラッシュがどうしてもと頼むのでシロに聞くのはやめておくことにする。

 結局俺は何を言わされたんだろう?

 チンチンとか卑猥な言葉は勘弁してほしい。

 今日はもう日本語で散々言ったからな!

 

 キリュウインさんとひと悶着あったが、俺とフラッシュは学園内の散歩を楽しんだのだった。

 

 〇

 

 旧校舎ダンジョン地下10階。

 

「テンペストランサーッ!!」

 

 オルゴナイトの槍がアインストを模した雑魚エネミーを貫く。

 骨で作られた外見のエネミー(クノッヘン)が光となって霧散していった。

 一体撃破!

 

「まだ来るか」

 

 一つ倒しても終わらない。

 左右から新たなクノッヘン二体が俺に向かって同時攻撃を行う。

 右の奴のかぎ爪をランサーで受け流し、左の奴にブラスターを発射する。

 口が小さいので光線もかなり小規模なものになるが、怯ませるには十分だ。

 左手にオルゴナイトを生成、結晶の杭となった拳(フィンガークリーブ)が怯んだ左側のクノッヘン、その胴体に突き刺さる。

 

「砕け散れっ!」

 

 撃ち込んだ杭は敵の胴体を容易く貫通して爆発する。

 オルゴナイトの欠片が舞い散る中、残る最後の一体がこちらの首を切断せんと迫る。

 全部見えてるぞ。そんなんじゃ当たらねぇ!

 躊躇なくランサーを手放なす。小さな体を更に低くして爪を回避、追撃も地面を転がるようにして全て躱し切る。

 はっ!チビなのも案外悪くないな。背後とったぞー!この骨野郎!

 

「オルゴナイト、バスタァァーー!!」

 

 敵の背中目掛けてジャンプ、俺はオルゴナイトの削岩機(でっかいドリル)を生成し仕留めにかかる。

 クノッヘンは最後の抵抗とばかりに背中の骨を伸ばし突き刺そうとするが、太くて硬いドリルが全てを砕く。

 服が少々破れたけど気にしない。これでしまいじゃぁーー!!

 ・・・数秒も経たないうちに上半身を削り切ったドリルが霧散してゆく。勝ったな。

 

「これにて戦闘しゅうりょ!?っとと」

 

 ビームが体をかすめた。ちょっと破れていた服がガッツリ破れた!?愛バにもらった服が台無しやんけ。

 奥のフロアにいたエネミーが戦闘音を聞きつけてこっちにやって来たみたいだ。

 ビームで砲撃してきたのは植物の蔦らしき物体の体をもつエネミー(グリード)。

 鞭のようにしなる触手と中心にある玉?からのビームが厄介な相手だ。

 遠くからボコスカ撃ってんじゃないよ。ブラスターの威力に期待できない今は接近するしかない。

 

加速(アクセル)!」

 

 足底に力を込め加速技を発動させる。

 近づけ、近づいて敵の核を破壊しろ。それで終わりにしようぜ。

 きゅ、休憩したい・・・全身が『もう無理~疲れた』と言ってる気がする。

 俺の体よ、もうちょっとだけ我慢してくれ。

 

 ビーム砲撃が止まない。

 正面からまともに食らうが、オルゴンクラウドの障壁でガードする。

 ちっ!今ので余計な力を使った。疲労で回避が甘くなってるぞ俺。

 でも、ここまで近づけたなら俺の間合いだ!

 何でもいい武器を生成して一気に片付けるぞ。

 

「オルゴンマテリアライゼーション!」

 

 ここぞとばかりにオルマテを叫ぶ。さあ、覚悟しな。

 

「……あれ?」

 

 出ない・・・何も出ない・・・オルゴナイトが生成できない!?

 覇気の残量はまだ大丈夫だけど、なんで?

 不測の事態で焦っていると、脳内に聞き覚えのある声が響く。

 この声、シャミ子か?

 

『オルゴンアーツの使用は幼女体には負担が大きすぎます』

『ですので、安全装置として使用回数に制限を設けておきますね』

『私ってば意外と尽くすタイプ。アフターフォローもバッチリなシャミ子でした♪』 

『なお、このメッセージはマサキがピンチの時、脳に直接音声が流れる仕組みで━━』

 

 バカ―ーー!そういうのはピンチの前に教えてよ!

 重要事項説明を怠るなんてありえないんですけど!

 

「うあああああ!シャミ子を呪う暇もなく触手が!」

 

 何本もの触手が絡みついて動きを封じられる。

 そして、エネミーの中心にある玉の点滅、明らかにビームをチャージしている。

 これで拘束してビームでトドメって流れですか?

 

「おやめくだされ!こちとら、か弱いい幼女ですぞ!」

 

 泣き落としが効くような相手じゃないのはわかっているが、一応言ってみた。

 ここで倒れたらダンジョンの入口に戻されたり・・・しませんよねーわかってまーす。

 ヤベやべ矢部!ビームが溜まってる溜まってる。

 障壁が使えないなら、せめて覇気で痛みを和らげて・・・どちらにしろビームに耐え切らないと終わりだぁ!

 昼間に見たキリュウインさんがミークを『カムヒア!』で呼びつけた技、俺にも使えないかな?

 今すぐにでも愛バたちを召喚したい!母さんか姉さんでも可!

 

「タスケテー!このままじゃ幼女に触手プレイな薄い本展開がビームに!」

 

 グリードの赤い玉が怪しい光で満ちていく。ああ、チャージ完了しちゃったのね。

 覚えてなさいよ。ここで俺が倒れても、愛バたちがお前たちを殲滅することだろう。

 フハハハハ!先に地獄で待ってるぞー!

 え?結構余裕があるって?そりゃあねえ・・・あ、来た。

 

「シミュレーターのザコエネ風情が、何をやってるの…かなっ!」

 

 日本刀らしき武器が飛来、回転しながら飛ぶそれは俺を拘束する触手を次々に切断した。

 ひゃっほー!俺は自由だーー!地面に突き立った刀は放置して、はよ逃げなアカンで!

 触手から抜け出した俺はすかさず逃走を図る。

 ゴキブリのようにカサカサ高速で()って逃亡します。ゴキブリ走法と名付けよう。

 

「何その動き!?気持ち悪ッ!」

 

 操者を気持ち悪いとは言ってくれるな。愛バからの罵倒は新鮮でゾクゾクしちゃう。

 幼女ゴキブリ(俺)とすれ違った愛バは刀を回収、再生しつつある触手の持ち主に向けて刀を振りかぶった。

 

「チェストォォォォ!…なーんてね」

 

 独特な叫びをあげて敵を一刀両断する。真っ二つですぞ!

 二つに分かたれた敵が光となって消えていった。

 新たな敵は来ない。インターバルに入ったようなので、しばらくは安全だろう。

 

「ありがとう、ココ」

「マサキ無事?ゴキブリみたいになってたけど無事だよね」

 

 感動の再会とばかりに飛びつく、愛バは優しく受け止めてくれた。

 ピンチを救ってくれたヒーローは愛バの一人、ココである。

 最近、姉さんから剣術を学んでいるようで、大分板についてきた様子。

 刀を投げる使い方は姉さん譲りなのかしら?

 

「服がボロボロになっちゃった…」

「あらら、まあ仕方ないよ。マサキ本体が無事なのが一番だからね」

 

 刀(シシオウブレード)を空間に収納したココは俺の損傷具合を確認している。

 

「ピンチに颯爽と現れる薩摩武士……カッコよかったぞ」

「方向音痴の癖に一人で先に行っちゃうんだもん。あんまり心配させないでよね」

「ごめん。幼女で戦うコツがつかめたから試したくなって」

 

 俺はココと二人でダンジョンの浅い階層を巡っていた。他の愛バたちはずっと深い階層を攻略中である。

 

 ダンジョンでいろいろ試した結果、幼女の姿で戦う方法が判明したのだ。

 覇気を全身に行き渡らせその状態を維持し続ける。薄い膜?というか衣服で全身を包むイメージを固めて少しづつ馴染ませる。

 するとどうでしょう。低レベルのエネミーと戦えるぐらいには動けるようになりましたとさ。

 これで最低限、自分の身を守ることができる。だけど油断は禁物だ。

 衣服を全身に張り続ける状態(クロース状態)は覇気をドンドン消費してすっごく疲れる。オルゴンアーツに至っては回数制限まであるときた。

 解除されると体力の無い非力な幼女に戻ってしまう。気を付けないといけない。

 

「戦えることがわかっただけでも大きな収穫だな」

「調子にのって無理しないでよ。いつでもどこでも駆けつけるつもりだけど、現実はそうもいかないだろうから…」

 

 仕事とクエストが立て込んでいる愛バたちは学園を留守にしがちだ。

 そのことを危惧しているんだろう。

 

「できるだけ一人にならないでね。ネームドのみんなに頼んでるからさ」

「うん。そうするよ」

「一人で幼稚園に行ったりしたら絶対だめだよ。どうしてもって言うなら、愛バの誰かを同行させて」

「えー、お前たち同伴で幼女出現スポット巡りは恥ずかしい////」

「幼女出現スポット巡りぃぃ!?そんなことする方が何倍も恥ずかしいよ!」

「そうかなぁ」

 

 俺のおでこに自分のおでこを合わせるココ。

 

「そうだよ……心配してるんだから、ね」

「わかったよ」

「うん。わかればよろしい」

 

 愛バたちが想いを伝える方法は様々だが、おでこ合わせは結構定番である。

 勢いをつけすぎるとただの頭突きになるので注意。前にクロがこれをやらかして二人で悶絶した。

 

「アルたちもそろそろ帰って来る頃かな。私たちも地上に戻ろっか?」

「そうしよう。幼女の体力気力はもう限界だ」

「ところで……食堂を卑猥な言葉でミーム汚染した人たちがいるらしいんだけど、何か知ってる?」

「知らんな。思春期特有のはっちゃけだろ?」

「ベロちゃ……エアグルーヴからクレーム入ったんだけど『お前の操者だろ!なんとかしろ』だってさ」

「冤罪だな。会長のダジャレ攻撃で副会長も疲れているんだろう」

「へぇーそうやって白を切るんだ。じゃあ、このマーキングは何?意味不明な言葉が描かれてるんだけど、暗号?それとも隠語?」

「またかよ!消してもらったはずなのに…何て描いてある?」

「オニャンコポン」

フラァァーーシュッッ!!

 

 あいつどんだけオニャンコポン気に入ってるんだよ。

 まあいいや、ノーチンを愛バに責められなくて良かったと思うことにしよう。

 



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働く幼女様

 深夜、きらびやかなネオンが灯る歓楽街。

 薄暗い路地裏で一組の男女が相対していた。

 

「よう。金は持って来たか?」 

「先に商品を見せて、話はそれからよ」

 

 短髪を金に染め、いかにもチンピラという風体の男は客である女に声をかけた。

 フード付きの上着とマスクで顔を隠した女は頷いて返答する。

 声や立ち振る舞いから女はまだ年若いことが見て取れる。

 変装じみた服装からやましい事をしている自覚はあるようだ。

 

 男は着ている服のポケットから金属製の小箱を取り出し中にある商品を見せる。

 小箱の中には洒落たデザインのアクセサリが入っていた。

 

「ウマ娘用の耳飾りだ。ブローチやペンダント型もあるが、あんたにはコイツがいいだろう?」

「ええ……手に取っても?」

「もちろん、好きなだけ吟味してくれ」

 

 耳飾りを手にした女は細部まで注意深く観察する。

 裏返してメインの機械部品を操作し、液晶に表示される記号や文字、各種ボタンにつまみ部分の使い勝手も確認。

 重要なのは見栄えよりこいつの性能だ。

 

「問題ないようね。いただくわ、支払いは…」

「現金オンリーで頼むぜ。スマート決済には対応してませーんw」

「わかってるわよ。ほら」

 

 女は封筒に入った紙幣の束を男に手渡す。

 受け取った男は札束をペラペラとめくり、軽薄な笑みを浮かべた。

 取引成立だ。

 

「今からそいつはあんたの物だ、好きに使ってくれ」

 

 女は男の方を一瞥(いちべつ)もすることもなく踵を返す。

 視線は手に入れたばかりの商品に注がれている。

 

「わかる……これはとてもいいもの……ああ早く試してみたい」

「一応言っとくが返品や交換には一切対応しないからなー」

「これで…これがあれば私はもっと……もっと上を目指せる。見てなさいよ……フフ、ウフフフ」

「聞いてないか……毎度あり~」

 

 何事かを呟く女は、熱に浮かされたような顔つきでフラフラと路地裏を後にした。

 男の言葉は一切耳に入っていないように見えた。

 軽く手を振って女を見送った男は思う『ありゃダメだな』と。

 

 取引を終えた男はタバコに火をつけ一服する。

 吐き出した紫煙が夜空に漂う様を眺めていると、漆黒のスーツに身を固めた仲間が戻って来た。

 スーツの男はガタイもよく顔もいかつい、修羅場をくぐって来た者特有の格を備えた人物だ。

 

(ブツ)は?」

「今、最後の一個が(さば)けたところだ。ガキのくせに金払いがよかったぜ」

「ふん…子供か……」

「お、子供だと罪悪感覚えちゃう系?」

「いや、客に大人も子供も関係ない。俺たちの大事な養分だからな」

「違えねぇww」

 

 二人は今日の活動と成果を報告しあう。

 この分だと所属している組織への上納金を差し引いても、自分たちの取り分はそこそこの儲けにはなっている。

 

「まったく、ルクス様様だな」

「奴の存在が世間の不安を煽り市場を拡大させた」

「商品の製造方法をばら撒いたのもルクスなんだろ?マジでリスペクトだわ」

 

 謎の仮面野郎ルクスの登場で生まれたビジネスチャンスに裏社会は沸き立っている。

 路地裏での会話はそんな場面の一端だった。

 

「しばらくはこの調子で稼げそうだな」

「いや、潮時だ。明日にはこの街を出て場所を変えるぞ」

「なんだ、商売敵でも現れたってのか?」

「北島組が動いている」

「ゲッ!あの武闘派どもと争うなんて御免だぜ」

阿修羅姫(あしゅらひめ)の目撃情報もある。そのうちサトノ家も出張って来るぞ」

「おいおいおい、阿修羅姫にサトノとくれば……まさかⅮか?」

「Ⅾだ」

 

 『勘弁してくれよ~』とチンピラ男は天を仰ぐ。

 この世には絶対に敵に回してはならない要注意人物がいる。

 その中でも最上位に位置する存在が天級騎神。

 そして昨今"要注意ランキング"を急上昇させ上位に躍り出た存在・・・それが"Ⅾ"である。

 同類として語られる"阿修羅姫"に"雷帝"それから"デスラー?"も相当なものだと聞くが、Ⅾの悪評の前ではそれすらも霞んで見える。

 血も涙もなく相手の最も嫌がる方法で、肉体的にも精神的にも社会的にも、なぶり殺しにするのが大得意だという。

 

「聞いた話じゃ、触手で散々弄ばれたあげく最後には丸呑みにされるって……ありえねぇ」

「ハッタリも多分に含まれているだろうが、被害者が揃ってPTSDを発症しているのは確かな情報だ。恐ろしい」

 

 噂だけが独り歩きし、様々な憶測や妄想が入り混じった結果、Ⅾはとにかく恐ろしい化物だと言われており、今この瞬間にも大勢を恐怖のどん底に叩き落としている。

 それとは別に、Ⅾを崇拝し褒め称える連中も少なくない。

 信者たち曰くⅮとは、とても善良であり大層美しく女神の如く崇高な存在であるのだと言う。

 その恐るべき力は悪人を裁くためにのみ振るわれる、神の御業なのだと・・・

 どちらにしろ、裏社会に生きる者にとっては害悪でしかない。

 

「絶世の美少女だと言う噂もあるがな」

「それこそハッタリだろ?触手だぞ触手!美少女に生えて何の得がある?」

 

 Ⅾの姿を想像して陰鬱になる二人。考えるのはやめよう、夢に出てきそうだから。

 

「逃げるか」

「それがいい。明日、大口の取引がある。それを最後におさらばだ」

「あーあ。この街、結構気に入ってたんだけどなー」

「観光する時間ぐらいならあるぞ。どこか行きたい場所はあるか?」

「マジで!じゃ、じゃあアレだ。あそこを見学してみたい」

「……はぁ……わかってるだろ。あそこに忍び込むのは不可能だ」

「中まで入ろうなんて思ってねーよ。外周をぐるっと回ってあわよくばウマ娘の学生に遭遇したい!手を合わせて拝みたい!」

「通報されるか制圧されるかの二択だな」

「制圧でお願いします!美少女ウマ娘に組み伏せられるなら本望よ」

 

 テンションが上がったチンピラと違い、スーツの男は頭を抱える。

 何が楽しくて騎神がうじゃうじゃいる場所を見学せねばならんのかと、深いため息をつくのであった。

 この街のシンボル的建造物であり、憧れと畏怖の対象でもある魔窟。

 

「トレセン学園か……」

 

 裏社会に生きる二人の男は肩を並べて夜の街に消えて行った。

 翌日、学園の外周をうろつく怪しい二人組が発見され、たづなが眼力で追い払う一幕があったが誰も気に止めることがなかったと言う。

 

 〇

 

 幼女生活三日目。

 

 トレセン学園のグラウンドで腕立て伏せをする幼女マサキの姿があった。

 

「ほらほら、頑張って。あと10回」

「ふんぎぎぎ……」

 

 歯を食いしばり愛らしいと評された顔を歪めた姿からは必死さが伝わって来る。

 そのすぐ傍では同僚のミオが『世話係』の腕章を付けてマサキを監督していた。

 持参したアウトドアチェアに腰掛けたミオは時に厳しく時に適当に、マサキを叱咤激励している。

 

「はぁはぁ……お、終わった」

「次は腹筋だよ。ロリプニ腹から脱却せよ、目指せシックスパック」

「しゃぁー!やったるでー」

 

 息を整えたマサキは仰向けに寝転がり腹筋運動を開始する。

 

「その調子だ。今、マサキの筋肉は新たな進化を遂げようとしている!」

「ふっ……ふっ……クロ……シロ……アル…‥‥ココ…‥‥俺を導いてくれ」

「情けない奴ッ!」

「なにがッ!苦しいとき愛バにすがって何が悪い!」

 

 しょーもないやり取りをしながらも腹筋運動を終えたマサキは大の字になって荒い息を吐いている。

 椅子から立ち上がったミオは肩や首を回しながら体を解し、マサキに手を差し出す。

 

「やる?」

「やる」

「ホントに?」

「やるったらやるの」

 

 その手を掴んで立ち上がったマサキもストレッチを行う。

 

「手加減は?」

「もちろんしてよ。頼むから!」

 

 マサキとミオ、両者互いにファイティングポーズをとる。

 ミオの構えはオーソドックスな騎神拳、マサキの構えは騎神拳をベースにしながらも独自のアレンジが加えられた構えだ。

 

「ちょっと歩くだけでヒイヒイ言ってる幼女が、このアタシと組手をしたいとは生意気な」

「コツは既につかんだ。短時間なら問題ない」

 

 マサキの体から覇気と幼女らしからぬ(プレッシャー)が発せられる。

 やる気は十分、戦えるようになったのは本当らしい。

 両者見合って・・・

 

「胸を借りるぜ。行くぞ」

「来いよ偽ロリ。遊んでやる」

 

 一歩目の踏み込みから加速したマサキがミオに殴りかかる。

 それを手のひらで簡単に受け止めたミオ。

 思わず口の端を吊り上げたのは、今の一撃が予想以上に強かったからだ。

 

「いいパンチじゃん。楽しめそう」

「まだまだ、これからだ」

 

 掴まれた拳をそのままに顔面狙いの蹴りを放とうとするマサキ。

 させるか!とばかりに攻めに転じるミオ。

 少女の姿をした教官と幼女の姿をした教官の組手は一撃ごとに激しさを増していくのだった。

 

「ヤンロン教官、あの…」

「あそこの二人は気にするな。適当にじゃれ合ってるだけだ」

「でも、なんか凄い事に」

「気にするなと言っている。今は自分自身を鍛えることに集中しろ」

 

 グラウンドではマサキたちの他にも組手や修練を行う大勢の者たちがいた。

 教官たちに引き入られた生徒たちだ。彼女たちは数人のグループに分かれて自由に戦闘訓練をしている。

 マサキは万が一の回復要員として待機していたのだが、退屈なのでミオを誘って自分の修練を始めたのだ。

 グラウンドの隅っこでやっているのは邪魔しないように配慮したつもりなのか?あれで?

 二人の覇気と高レベルな格闘戦の応酬を繰り広げる少女と幼女がみんな気になって仕方がない。

 その事にヤンロンはイライラしている。

 ゲンナジーなどは『ほう』と感心した声を漏らしているが。

 

「なんだよあの動き、もう『お世話係』とか必要なくね?」

「そうでもない。見てみろ」

 

 今回の修練に参加しているネームドたちもマサキたちの様子を伺っている。

 自分たちの組手がすっかり止まってしまっているが、観戦モードに入っているのは皆一緒なので怖くない。

 ヤンロン教官が深いため息をついているが少しかわいそうである。

 

「あれ?なんかまた休憩してない」

「マサキのスタミナが不足しているんだ。2、3分ごとに休憩を挟んでやっと戦闘可能と言ったところか」

「『すぐ疲れる』て言ってたもんね。それは治ってないんだ」

「貧弱な体に適応し戦う術を編み出した。でも、どうやって?」

「あ、あのね。マサキさん、全身を覇気で(くま)なく覆ってるよ。まるで覇気のお洋服を着てるみたい」

 

 目の良いネームドがマサキの状態を教える。確かに、よーく目を凝らすと薄っすら何かが見えて来た。

 幼女の体を光の膜が覆っている。

 

「動かなくなった体を覇気で無理やり動かし、戦闘継続する術があったな。それに近しいものを感じる」

「フーン、ちょっと真似して……うげっ!こりゃ無理だ。覇気の消費量半端ない」

「休み休みでもやれるか普通?あ、あの人普通じゃなかったわ」

「アレを参考にしちゃダメだよ」

 

 マサキの真似"クロース状態"はとにかく疲れる。

 そして、全身にピッタリと覇気を張り巡らすことの難しいこと!

 『ないわー』と皆が呆れる中、一人のウマ娘が小声で呟く。

 

「しかし、いい修練になるぞ」

「ブライアンさん本気!?」

「あいつに負けたままではいられないからな。今日はこのまま鍛える、誰か相手をしてくれ」

「自分を極限まで追い込む姿勢、なんてストイックなの!いいわ、付き合ってあげる」

 

 ブライアンたち何名かのネームドたちはマサキの真似をして修練を開始した。

 だが、彼女たちはしらなかった。翌日に地獄のような筋肉痛と疲労感に襲われることを・・・

 後にこの"クロース状態"を維持したままの修練、通称"ドⅯ修練"は危険視され厳格なウマ娘以外には誰も挑戦しなかったという。

 

 ミオと組手をしていたら結構時間が経っていた。思いのほか集中していたみたい。

 今回の修練では大きなケガ人も出なかった。俺の出番ないのは良い事だ。

 お、ヤンロンが騎神拳の形を実演披露している。一挙手一投足に気迫のこもった動きに生徒たちはウットリだ。

 

「(俺たちもいっちゃう?)」

「(いっちゃおう)」

 

 ヤンロンの背後に音もなく忍び寄った俺とミオはヤンロンと全く同じ動きをする。

 どや?イイ感じのシンクロ率でしょ!

 三名の教官による一糸乱れぬ演舞はとても素晴らしい、一つ難があるとすれば・・・

 少女と幼女が変顔をしている!?白目を向いたり出っ歯になったりしゃくれたりとレパートリーが豊富だ。

 完全に見ているものを笑わせに来ている。

 そのうち飽きたのかブレイクダンスや組体操までやり出す始末。

 

「そこの馬鹿ども!何をやっている!」

 

 笑いを堪えたり吹き出す生徒たちの様子で、集中していたヤンロンもさすがに気付いた。

 

「私は嫌だったのに、マサキにやれって強要されました!」

「あ、てめぇ!自分だけ」

「マサキーー!こっちに来い、いつも以上に説教してやるぞ」

「何で俺だけ?キャー!パパが怒ったーー!」(≧∇≦)

「パパじゃないと言ってるだろ!!」

 

 逃げ出した貧弱幼女はアッサリ捕まりましたとさ。無念である。

 ミオは『私は無実』みたいな顔をして他の教官たちの輪に混じっている。裏切者め!

 

「終わるまでこいつを見ておいてくれ」

「ハーイ。お安い御用デス」

「マサキさん。こっちで大人しくしていましょうね」

 

 ヤンロンは自身の愛バであるエルコンドルパサーとグラスワンダーを俺の監視につけた。

 エルに抱き上げられて逃げるに逃げれない。

 ヤンロンは愛バに俺を託児して生徒たちの所に戻って行った。演舞の続きをやるのだろう。

 

「ムフフフ~。エルのこと、ママって呼んでもいいんデスヨー?」

「ママー!覆面とっていい?」

「ダ、ダメ!これはエルのトレードマークで…引っ張るなァァァ」

「コンドル仮面破れたりぃ!!」

「あら的確に本体を狙ってますね~」

「グラス、見てないで叱ってくだサイ」

「めっ!ですよ」デコピン

「痛ぁ!エルじゃなくてこの幼女を叱れよ!!」

 

 覆面で遊んでいたら『めっ!』されてしまった。

 すまんすまん。エルに出会ったら覆面をいじらないと気が済まないのよ。

 素顔は美少女なのに勿体ない。

 覆面がエルにとって自分を勇気づけるお守で手放せないのは知っているが、執着がすごいな。

 

「そのマスク何着ぐらいあるの?」

「10セットぐらい常備してマス。もしかして欲しいデスカ?マサキがどうしてもって言うなら一つぐらい譲っても」

「抹茶パフェとほうじ茶パフェ、どっちにするか悩みますよね」

「店によっては黒ゴマやらきな粉もあったりするよな。この間、愛バたちと行った店なんて━━」 

「興味なしデスカ!」

 

 俺とグラスは"和カフェ"や"和スイーツ"好きという共通点がある。

 気になるお店やおすすめメニューの話で盛り上がったり情報交換したりするぞ。

 今度また仲の良い奴らを誘ってお店に行こうな。

 

「グラスばっかりズルいデス。美味しいメキシコ料理のお店ならエルだって知ってマス」

「俺、辛いの苦手なんだよな」

「辛くないものありまってば!ブリトーなんて、とろとろのチーズが糸を引きマース」

「何それメッチャ美味そう!」

「罠ですよ。マサキさんが食べようとした瞬間に激辛チリソースをぶっかけるつもりです」

「なんと卑劣な!?」

「そ、そ、そんなことしまセン!」

「私の納豆を真っ赤に染めた奴が何を言う」

「前科ありかよ」

「あの時はすみませんデシタ!美味しいから良かれと思っテェェ!ただ仲間が欲しくテェェ!」

 

 激辛料理の良さを共有したいならシロを誘ってみたらどうかな?

 あいつたまに『刺激がほしいです』とか言って辛い物を食べているからな。

 

 エルは許しを請いながら俺をグラスに差し出した。抱っこ交代デース。

 俺を受け取ったグラスは柔和な笑みで見せてくれる。はいカワイイ!

 ふむふむ。ラテン系もいいが、大和撫子もいいですな!

 

「でも、グラスはアメリカ生まれのアメリカ育ちデスヨww」

「うそやん」

「ふふふ、バレてしまっては仕方ありません。そう!私は日本を愛してやまない米国産ウマ娘だったのです」

 

 なんだってー!グラスは日本びいきの面白外国人枠だったのか。

 綺麗な所作で和食を召し上がり緑茶で一服している、あのグラスが?・・・意外!

 

「英語はもちろんペラペラ、USJやコストコに行くとホッとします」

(はし)の持ち方はエルのほうが先にマスターしましたヨ」

「指がつるほど練習しました」

「ハンバーガーもピザもガッツリ食べてマース」

「事あるごとにコーヒーを飲み、コーラは特大サイズが基本」

「うわーとってもアメリカーンだぁ!!」

「お恥ずかしい限りです///」

 

 偏見だけど、ジャンクフードのドカ食いはアメリカっぽいと思ってしまう。

 

「生まれや育ちがどうだろうと、俺はグラスに宿る大和魂を信じるぜ」

「マサキさんなら、そう言ってくださると思っていました」

「好感度上がった?」

「はい。大きく上昇しましたよ」

「むー、二人の世界が妬ましいデス。エルの好感度も上げてくださいヨ~」

「その覆面似合ってる。めっちゃカッコイイ」

「えへへ、それほどでもありマス!よくわかってるじゃないデスカ」

「チョロいなあ」

「安定のチョロカワですね」

 

 感謝と相手を褒める言葉は口に出して伝えましょう。

 誰だってそうされると嬉しいからな。みんなで幸せになろうよ~。

 

「そういえば青龍と白虎は?今日は姿が見えないけど」

「テスラ研で定期検診中デース。夕方には迎えに行きマスヨ」

 

 超機人は未だに謎多き半生体兵器。検査とメンテナンスは欠かせないのだ。

 

「リュウちゃんもトラちゃんも、今のマサキさんをすごく気にしていましたよ。帰って来たら是非、遊んであげてください」

「オッケー。その時は背中に乗せてもらおうかな」

「主人のエルたちより懐いているのが複雑デス」

「あの子たちによると、マサキさんは特別なんだそうです」

 

 おやつ代わりによく覇気をあげているから、それ目当てかな。

 超機人をすっかり餌付けしてしまったようだ。

 

 二人と会話しながら神核のチェックをしていく。

 うん、大丈夫そう。

 エルと比べグラスの神核はすごく解りやすい、細部まで把握できる気がする。

 ネームドの中には俺の覇気との親和性が特に良い子が何名かいる。グラスもその一人だ。

 

「相性というヤツなのか」スリスリ

「くすぐったいです」

「エルのおぱーいをスルーして、グラスの胸で満足しているだと……」

「なんか落ち着くんだよねー」

「マサキさんを抱っこしているとほっこりします」 

「ああ、二人が縁側で日向ぼっこする老夫婦のような顔をしてマス」

待てぇい!!グラスと夫婦になりたいなら、僕を倒してからにしてもらおう」

 

 来たのかヤンロン、急に現れたと思ったらめんどい事言い出したな。

 

「演舞はもう終わったのか?」

「今回の合同修練は終了したので皆は解散している。それよりもマサキ、僕の愛バを誘惑するとはいい度胸だな」(#^ω^)ピキピキ

「ふぉっふぉっふぉっ、良かったですのうグラス婆さんや。この若僧はいっちょ前に嫉妬しておるようじゃ」

「もうお爺さんたら///年甲斐もなく照れてしまいますね~」

「ヤンロン、このボケ老人どもは放っておいてエルと結婚しまショウ」

「い、今はそれどころでは」

 

 ヤンロンの奴、エルに迫られてタジタジじゃないか。初心(うぶ)よのぉ~。

 

「いいのか?あんなこと言ってるぞ」

「相思相愛ならば祝福しますよ。誰と夫婦になるか決めるのはヤンロンさんの意思です」

「アッサリだな。嫉妬渦巻くドロドロ劇を期待したのにー」

「エルに負けるつもりは毛頭ありませんが」ゴゴゴゴ

「静かにキレていたのね。あ、腕に力がこもって…グラスさんや、俺がバラバラになる前に抱っこ解除してもらっていいっスか?」

 

 グラスに本気で絞め付けられたら俺の幼女ボディがもたないぞ。降ろしてオロシテ・・・

 

「エルは学生結婚する覚悟もありマス。学園で挙式するのいいカモ」

「在学中はマズい!せめて卒業してから、マサキ!お前のせいだぞ何とかしろ」

「ふふ、うふふふふふ」ぎゅ~

「助けてタス…ケ……テ」( ゚Д゚)

 

 失神しかけたところをミオによって救われた。

 積極的なエルを相手にしていたヤンロンは役立たずでした。

 式には呼んでよね。

 

 〇

 

 仕事が一段落したら食堂で休憩をとるのが日課になりつつある。

 スぺとスズカが食事をするというのでご一緒させてもらえることになった。

 

「バラバラにならなくてよかったですね。あ、これおかわりで」

「まったくだ。まだ食うのかよ」

「スぺちゃん。こっちも美味しいわよ」

「そうやって、スズカが甘やかすからアカンのや」

「わーい、いただきます。もぐもぐむぐむぐもっ、がっがっがっもにゅ、ズルズルズル~、クチャッくちゃっ」(´~`)モグモグ

「スぺちゃん、咀嚼音が非常に汚いわ!でも、可愛いから許す」

「このテーブルだけ一人大食い選手権…うぷ……見てるだけで吐き気が」

 

 俺とスズカは既に自分の分を食べ終えている。

 未だテーブルに広がる数々の料理は全部スぺが注文した物だ。支払い大丈夫か?

 厨房はたった一人の生徒のために大忙し、時々『うおおおお!』と料理人たちが自らを鼓舞する雄叫びが聞こえてくる。

 オグリがベルゼブブだとしたら、スぺはアバドンだな。

 食って食って食いまくって世界滅ぼす系の悪魔たち、迷惑極まりないわ。

 アバドンは勝手に食っていたらいい。それよりも・・・

 

「スズカさんや食後に幼女を抱っこしてみないかね?」

「散々バカにした貧乳族の私に抱っこをねだる……一体何が狙いですか?」

「つべこべ言わずにやれよ!幼女な俺は甘やかしポイントが減ると死ぬんだぞ!」

「唐突にキレて押し通そうとしないで」

「もぐもぐ…スズカさん、抱っこぐらいいいじゃないですか、もっきゅもっきゅ…別に減るもんじゃないし、ぷはぁ~」

「食べながらしゃべんな」

 

 スぺに言われてスズカは渋々承諾してくれた。

 とりあえず膝に座らせてもらおう。抱っことは違うけどスズカは後ろから抱きしめてくれる。

 これだけくっ付いていれば神核チェックもできらぁ。

 

「もう……セクハラしないでくださいよ」

「俺にセクハラされるぐらいの女になってみろよ」

「どこからも上から目線!?」

「撫でたまえ」

「偉そうなロリですね。ぐびっぐびっゴクゴク」

「うわぁ、どんぶりで味噌汁飲んじゃってる」

「味噌汁じゃないわ。よく見て、アレはかつ丼よ!」

「飲むな!ちゃんと噛めよ!一気飲みはマジでやめろ」

「ズズッズズズズズズズ~」

「「(すす)った!?!?」」

 

 かつ丼を飲むな!そして啜るな!

 北海道のお母ちゃん様・・・よく噛んで食えってスぺに教えなかったのですか?

 見るに堪えないので姿勢を変えて目を逸らそう。振り向くとそこには壁が・・・

 

「壁?」

「胸ですよね!わかってまーす。わーい、スズカめっちゃいい匂いするんじゃー」

 

 見上げると青筋を浮かべたスズカさんがそこにおったんですわ。

 

「グラスさんにできることは私にもできますけど、試してみます?」ギリギリギリ

「ひぃぃ潰される。お助けー」

 

 幼女プレス機と化したスズカの腕がゆっくりと狭まってくる。

 本日二回目、逃げ場のない恐怖はすごかったです。泣いて許しを請いました。

 やぶ蛇で怒らせなければイイ女のスズカさん。

 文句を言いながらもしっかり甘やかしてくれるので、会話も弾むってもんよ。

 

「この前、隣町の激坂を往復中に足がつりかけました」

「気を付けろよ。スズカはただでさえ無茶するから」

 

 スズカは走っていると周りが見えなくなる傾向がある。

 自身の疲労も現在位置も関係ねぇ!と、ばかりにかっ飛ばすからな。

 

「早朝に一人で走っていたら結構なピンチだよ。そういう時に限ってスマホを忘れるとかな」

「逆立ちで走って帰ろうかと本気で悩みました」

「新たな妖怪の誕生秘話」

 

 逆立ち猛スピードで走るウマ娘とかホラーでしかない。夜道で見たら漏らすわ。

 スズカと雑談していると、ようやくスぺが食べ終わった。

 積み上がった食器もホラーでしかない。

 

「ふぅ……ごちそうさまでした。マサキさん、私も抱っこしてあげますよ」

「大丈夫?その腹が落ち着くまで待ったほうが」

「腹八分目に抑えたので平気ですよ。げっぷぅ!」

「ゲップしてるけど?」

「平気です。さあ、スズカさんヘイパス!」

 

 スズカを見るとやれやれといった感じで首を振っている。本当に大丈夫なんだろうな?

 スズカから俺をパスされたスぺ、丸々と膨れた腹がこの上なく邪魔だ。

 ボテ腹の上に座るような恰好になったよ。

 

「頼むからゲロすんなよ」

「せっかく食べたご飯に失礼ですから、リバースなんて絶対にしません」

「妊婦に抱っこされているみたいね」

「今こいつの腹に詰まっているのは赤子じゃなくてメシだけどな」

「でへへへ、褒めてもゲップしか出ませんよ」

「褒めとらん」

 

 太鼓腹スぺの神核チェックも終了した。今日も順調順調~。

 

「あ、スぺちゃんとスズカさん。それに」

「どうも俺です」

「わー、マサキさんだ。抱っこさせてー」

「待て待て、順番にお願いします」

 

 駄弁っていると他の生徒たちがわらわら集まって来た。ネームドたちの姿も見える。

 こいつはいい。神核チェックの大盤振る舞いと行こうじゃないか。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 疲れた。

 最初はとても楽しかったはずなのに、生徒たちに揉みくちゃにされすぎて疲れた。

 猫カフェで労働に勤しむ猫たちの気持ちが少し理解できた気がする。

 

「ぼぇー……」

「マサキさん。ぐったりしてます」

「どうする?こんな時に限ってマサキの愛バは留守にしているし」

「ちょっとかしてみい。よっと」

 

 また誰かにパスされた・・・お?なんだこれ。

 

「抱っこ上手くね?ストレスが緩和されたぞ」

「実家におるチビたちのめんどうを見てたのはウチやからな。どや?慣れたもんやろ」

「ヒュー!タマちゃんが来てくれたぜ」

 

 タマモクロスの抱き方は本人が言うように手慣れたものだった。

 体の支え方と揺らし方どれも絶妙なり、非常にリラックスできるのだ。

 他のネームドと違い、弟や妹の実践で培った経験値の差が如実に出ている。

 

「これは"抱っこ上手ランキング"上位に食い込むこと間違いなし」

「なんや、そんなランキングがあったんか。一位が気になるところやな」

 

 多くのネームドたちを抑えて現状一位を独走中なのは・・・

 

「ゴルシだな」

「「「「私たちアレに負けたの!?!?」」」」

 

 『納得いかねぇ!』と抗議の声が上がる。

 気持ちはわかる。でも、あいつ何でもそつなくこなすんだよ。

 奴に抱っこされている時の安心感はマジ半端ないから、愛バと同等レベルだから。

 

「フッ、ウチもまだまだってことやな。これからも精進せなアカン」

「やれやれ。トレセンは育児レベルを競うところじゃないのに」┐(´∀`)┌ヤレヤレ

「オイッ!誰のせいでこうなったと思ってんねん」

 

 タイミングばっちりのツッコミをもらって嬉しいぜ。

 ところで・・・

 

「なあ?あいつはどこにいるんだ。というか、何で俺の所に来ない?」

「ん?誰の話や」

「俺が幼女になったと知ったら、すぐさま突撃して来そうな奴いるじゃん」

「・・・・」

「母性が有り余って『でちゅね遊び』とか考案しちゃうスーパーな彼女だよ」

「「「「・・・・」」」」

 

 タマちゃんもみんなも一斉に目を逸らしたのは何故?

 あいつならランキング一位も夢じゃないだろ。

 そう言えばオグリにも会っていない、何かトラブルでもあったのか。

 一方的思念通話で呼びかけてみようかな。

 

「やめとけや」

「え?」

「悪い事はいわんからやめとけ言うとるんや。これはお前のためでも━━」

 

 ブーッ!ブーッ!ブーッ!

 

 タマの台詞を遮るようにしてけたたましい警報音が鳴り響いた。

 何?敵襲?こんな音始めて聞いたぞ。

 

『緊急警報!緊急警報!』

『生徒指導室に隔離していた生徒が脱走しました』

『彼女の目標は間違いなく今話題の()です』

『保護対象の付近にいる生徒は警戒態勢を強化してください。戦闘になった場合は━━』

 

 脱走?なんか怖いこと言ってるけど、この学園の闇というかヤバさの深淵はどこまで・・・

 

「今の聞いたな!予定通りマサキを守るで」

「「「「やるぞー!おおー!」」」」

「勝手に盛り上がってるところ悪いけど、一体何が始まるのか説明してよ」

「タマ先輩!来ます」

「ちっ!想定よりも早いな」 

 

 来るの?何が来るの?

 皆が警戒を強める中、俺は事態にまったくついていけない。説明求む!

 食堂の入口に誰かが来て・・・あれは・・・

 

「オグリ?」

 

 負傷したのか肩を押さえ、ふらつく足取りでオグリキャップが食堂に入って来た。

 腹ペコでここに来た感じではなさそうだ。

 

「すまない、タマ……ぐふっ…!」

 

 力なく倒れ伏すオグリ。

 オグリは轟級騎神でクエスト達成率も優秀な学園を代表するウマ娘の一人だぞ。

 そんな実力者が誰にやられた!?

 

「救護班~!誰かーオグリの治療をしてやってくれ」

「俺がいるじゃん」

「せやったな。頼めるか?」

「もちろん、それが仕事だからな。さっとくヒーリングを━━」

「アカン!?治療は後回しや、下がるでマサキッ!」

「うぇあ」

 

 治療のためオグリに近づこうとしたのだが、タマに首根っこを乱暴に掴まれてしまう。

 そのまま後方の仲間たちがいる所まで飛びのいた。

 タマや他のネームドたちは俺のことを隠すようにしてくれる。

 また誰か来た。

 

見ぃつけたぁ。こんな所にいたんですね~」

 

 ねっとりとした侵入者の声に戦慄が走る。俺もなんかブルっちゃった。

 皆一様に警戒態勢を強める。

 

「タマちゃんもみんなも意地悪なんですから、私だけ除け者にするなんて……」

「何の用や?クリーク」

 

 現れたのは"抱っこ上手ランキング"一位を目指せる逸材、スーパークリークその人であった。

 どうも様子がおかしい、今のクリークにはとてつもない迫力がある。

 有り体に申しますと、鳥肌が立つほど怖いのです。

 

「留守のたづなさんに代わり、オグリちゃんを配置したまではよかったですね。それでも私の障害足り得ませんでしたが」

「見張りを全員突破してオグリも倒したやと?何パワーアップしとんじゃボケェ!」

「全ては私の計画通り……タマちゃんたちは最初から手のひらの上」クスクスッ

「まさか、マサキが幼女化した初日に大人しく捕まったんは……」

「マサキさんのガードが堅いのは最初から読めてました。だから、私は待ったんです。たづなさんと愛バ四名が学園にいない時を……そして『でちゅね』を禁欲することにより私の力が何倍にも膨れ上がるその時をねぇ!!」

「なんちゅー奴や。そこまでして…」ゴクリッ

「ええ、私は本懐を遂げる。一目見て気に入った『ロリマサキさんとでちゅね遊び』をする!夢を叶えるために、ここまで来たの!」

「あー、そういうこと」(´・ω・`)

 

 クリークの目標が俺だったのは理解した。そして思った・・・・・・しょーもな。

 一触即発の空気を醸し出す皆には悪いけど、争う理由がしょうもなさすぎる。

 俺を決死の覚悟で守ろうとしてくれるネームド、その一人に小声で話しかけることにした。

 なんだお前スぺじゃねーか、もう腹が引っ込んでる。どういう内臓しているんだか。

 

「俺が出て行けば万事解決じゃね?ちょっとぐらいなら『でちゅね遊び』に付き合ってもいいぞ」

「ダメですよ。今のマサキさんがクリークさんに捕まったら、少なく見積もっても一日中解放されませんよ?そうなったら……」

 

 クリークとでちゅね➡解放されない俺➡姉さんor愛バの帰還➡おいコラ何やっとんじゃワレ!!➡いてこましたるわー!戦争じゃぁぁー!!!

 

「こらアカン!」

「でしょ?だからマサキさんは私たちの後ろで大人しくしてましょう」

「これだけの人数ですもの。守り切ってみせます」

 

 スズカもいるじゃん。呆れて帰ったのかと思ったぜ。

 ふざけているようで、この状況は学園を巻き込んだ戦争に発展しかねない。

 そりゃあ皆が緊迫するはずだよ。軽く考えてごめんちゃい。

 

やっぱり。そこにいたんですね」二ヤァ

 

 ひぃ!向こうから見えていないはずなのに、俺の位置がバレた!?

 

「マサキを守れぇぇーー!」

 

 タマの叫びでネームドたちが身構える。

 それを意に介さず、クリークは前傾姿勢になり走り出した。

 

「え!ちょ」

「うそ、早ッ!」

「止まらない」

 

 この覇気、加速技(アクセル)を使ったな。

 今年度から必修技能に追加された電磁加速(リニアアクセル)を完璧に使いこなしている。

 熟練を感じさせるこの速度・・・禁欲で一時的にリミッターが外れていると言っていたが、本当にそれだけか?

 

「どいてください…邪魔です」

「「「「のわぁぁぁーーー!!」」」」

 

 クリークは速度を維持したまま軽く手を払っただけに見えた。

 おいおい、今のでタマと勇敢(無謀)なモブが数人まとめて吹っ飛んだぞ。

 秒殺されたけど頑張ってくれたタマちゃんに敬礼!

 

 俺の所まで一直線に突き進んだクリークは跳ぶ。俺に手を伸ばしながら・・・うわーやっと会えたみたいな顔をしてるー。

 

「ああ、私の大切な・・・・さあ、ママと一緒に帰りましょうね~うふふふふ」じゅるり

 

 (よだれ)垂れてますよ?目もいっちゃってるし綺麗なお顔が台無しです。

 なんて残念なママなんだ!二日酔いになったうちの母さんといい勝負だ!

 

「「させない!!」」

 

 スぺとスズカが割り込んだ。ええぞええぞ!やぁーっておしまい!

 

「二人だけで今の私を止める?覇気を超えた未知のパワー"でちゅね(ちから)"を甘く見ましたね!!」

「嘘でしょ!?」

「そんな!」

 

 スぺスズのコンビが回転しながら飛ばされていった!?今のは合気道?

 一瞬で二人の呼吸を読みとり完全に合わせた・・・だと。

 スーパークリーク、彼女もまた怪物か!

 

 くっ!俺はこのまま母性という名のでちゅね海に沈むしかないのか。

 

「そこまでだ!全員止まれ!」

 

 鋭く凛とした声が食堂にこだました。

 その声で俺に王手をかけようとしたクリークも他の皆も動きを止めた。

 

「来てくれたのね、グル(ねえ)さん!」

「なんだその呼び方は!この騒動の元凶はまたしても貴様だろ」

 

 生徒会副会長のエアグルーヴの登場だ。ナリタブライアンも隣に控えている。

 ルドルフは・・・来てないか。

 

「ふぇぇ」

「私の娘を泣かすなんて、副会長さんでも許しませんよ」

「いい加減にしろ。そいつはお前の娘ではなくアンドウマサキという変態だ」

 

 失礼しちゃうわ!娘でも変態でもないぞ。

 

「何があったかは推測できるが、詳しく説明してもらおうか?」

「母親から娘を引き離す非道な事件が起きたんですよ~」

「違うやろ!」

「クリークは黙っていろ。説明してくれますかマサキ教官殿?」

「簡潔に言うと、でちゅね力が暴走した

「呆れるほど意味不明な単語を使うな!」

 

 でちゅね力は一般には広まっていない。これからも多分一生流行らない。

 

 グル姐さんと、ついでにブライアンにもアレコレ説明した。

 二人ともため息をついていた気もするが・・・俺が悪くないのわかってくれたよね?

 

 生徒会の介入で今回の騒動は終わりを告げたはず。

 

「ウフフ……いい子、いい子~」ナデナデ

「結局捕まっとるやないかい!」

 

 俺は今、クリークに抱きしめられ撫で回されている。

 クリークが禁断症状で暴走することを危惧したグル姐さんは、俺を彼女に売り飛ばしたのだ。

 ブライアンを残しグル姐さんは足早に食堂を去って行った。こめかみを押さえていたのが気になるな。

 医務室に来てくれたら頭痛に効くヘッドヒーリングしてやろう。

 スぺとスズカ、他の皆も俺がクリークに甘やかされるのを『何だかなぁ』という表情で見ている。

 

「クリークもしばらくしたら飽きるやろ。もう少しだけ付きおうたってや」

「マサキさんは本当にいい子ですね~。それでいて恐ろしく可愛いなんて……」ナデナデ

「こいつが可愛い?……よくわからんな」

「ハハハ、カイワレ咥えたウマには俺の良さがわからないか」

「豆苗だと言っているだろ」

「どっちでもいいわ!」

「ブライアンちゃん、もしよかったらおしゃぶりを咥えてみませんか?」

 

 そっとおしゃぶりを差し出すクリーク。そんなもん常備するのやめて。

 

「全然よくない」

「(アカン、ちょっと見たいと思ったわ)」

「(右に同じ。姉のヒデさんにも見せたい)」

「(マサキさんとタマちゃんの期待をヒシヒシと感じます。ブライアンちゃんには力づくでも!!)」

「((やめて!!))」

 

 さてさて、愛バが帰って来るまでにはクリークを満足させないと。

 ブライアンにも抱っこしてもらって、逃げたグル姐さんは後回し。

 クリークの神核・・・問題ない。この子の覇気も馴染むなぁ。

 

「ん~?私の顔に何かついてます」

「美しくも可愛い顔面パーツがついてるぞ」

「フフ、お上手ですね~」

 

 更に馴染む、俺を信じてくれている証拠。これ以上は気付かれるので深入りは禁物だ。

 神核チェックはここまでにしよう。

 ここからは真剣にクリークおぱーいを堪能するぜ!いーーっやっほぉっ!

 

「マサキ教官!!マサキ教官はいらっしゃいますか!!」

 

 何だね騒々しい!今、いいところなんだよ、邪魔しないで!

 食堂に息を切らせたながら女性職員が駆け込んで来た。

 おや?この人はウエンディ教官の助手をしている方では?

 おぱーいに持って行かれそうな意識を戻して紳士的に訊ねる。

 

「ここにいます!その様子、緊急事態ですか?」

「生徒が急に倒れて意識不明に」

「クリーク!」

「はい。行きましょう」

「場所は練武場です。どうかお急ぎを」

 

 俺の意図を汲んだクリークが駆け抜ける。速いな、めっちゃ速い。

 もしや俺の愛バ並み?すげぇ。

 緊急時なのでパルクールも加速技も有りで走る。それなのに抱っこされた俺に一切の負担がかからないとは。

 なるほど、走りながらさりげなく覇気の防護膜を展開してくれているのか。

 

「やるじゃん」

「いえいえ。それほどでも~」

 

 現場にはすぐ到着した。何故かブライアンとタマ、他の暇ウマたちもゾロゾロついて来ていた。

 倒れている生徒は三人。意識が無いのは遠目にもわかる。

 ウエンディ教官や治療術を使える者たちが必死にヒーリングをかけているが、芳しくないようだ。

 クリークの腕から飛び降りて患者の下へ。

 

「ウエンディ教官!」

「マサキ教官!ああ良かったわ」

「マズい。痙攣(けいれん)発作が始まった」

「代わります。場所を開けてください」

 

 治療の前に覇気でサーチをかける。その間にウエンディ教官たちは状況を説明してくれた。

 練武場での修練、複数人同士の模擬戦中にチームを組んでいた三人が突然倒れたのだという。

 原因は不明、模擬戦中のケガや病気の兆候もなかったらしい。

 

「この子たちの操者は?」

「いません。ただ、この三人は普段からチームを組んでいて、ここ最近は大変目覚ましい成長を見せてます」

 

 倒れている子たち三人がリンクした形跡がある。

 操者がいないのだとすると、デバイスを使っているはずだ。

 あった、この子が着けている耳飾りがリンクデバイスだ。すごく嫌なものを感じる。

 原因は十中八九こいつだ。何とかして外さないと。

 

「待ってください。そのリンクデバイスはまだ稼働中です。無理に外そうとすれば装着者に何が起こるか」

「大丈夫、任せてください」

 

 無理に外すとマズいのはわかっている。というかコレ、普通に引っ張っても外れねぇぞ。

 デバイスの方が持ち主から覇気を吸い取って、三人に無茶な覇気循環を強要している!?

 誤作動にしては危険すぎる。とんだ欠陥品だなオイ!

 

 まずはヒーリングで体の負担を減らし痙攣を抑える。

 それから原因のこいつを・・・あー、力づくで壊そうとすれば、持ち主ごと道ずれとかやらかしそうで怖いな。

 俺の覇気を流してスイッチを切れないかな?シュウみたいにスマートにはやれはしないが、できうる限り慎重に精密に・・・

 神核を探るのと一緒だ、中枢まで覇気を伸ばしてその大元を停止させるんだ。

 止まれ、止まれ、止まれって言ってんだろ!

 自分の覇気がデバイスの制御装置に干渉して機能停止に追い込んだのを確認。

 ははは、このポンコツめ!俺の勝ちだ。

 

「よっしゃ、外れた。後はちょっと強めにヒーリングをかけまして」

 

 バスカーモードレベル1発動。

 ホイミじゃ間に合わないから、ベホイミをかけるイメージだ。

 三人同時だとベホマラーになるのかね。

 俺の治療風景にウエンディ教官たちが唖然としているが無視して集中する。

 バスカー中はキラキラ覇気粒子が出ちゃうので、そっちに目が行っているんだろう。

 眩しくしてごめんなさいね。

 三分ほど続けていると痙攣も治まり三人とも顔色が良くなってきた。

 

「マサキ教官?」

「もう大丈夫です。しばらく休むことになるでしょうけど」

「救急車来ました!こっちです、こっち」

「ありがとうございます。私一人では対処不可能でした。やっぱりマサキ教官は頼りになるわ」

「いえ、俺が来るまでウエンディ教官が処置してくれたおかげですよ」

 

 手配した救急車まで三人が担架で運ばれて行くのを見送って、やっと安心できた。

 何日か入院することになるが大事には至らないと思う。

 付き添いにはウェンディ教官が行くようで、俺は学園にいてほしいんだと。

 美人な同僚にものすごく感謝されてしまった。気分がいい!

 

「今の何やったん?めっちゃ光っとったで」

「三人同時のヒーリング、それもあんな強力な……」

「いい子すぎて怖いですね~。そこがまた魅力ですけど」 

 

 痙攣を起こしていた生徒から外した耳飾り型のリンクデバイス、コレどうしようか?

 

「面白い物を手に入れたようだね。ミニカピバラ君」

「いたのかタキオンか、気付いていたけど面倒だから無視してたわ」

「私ならそのデバイスを解析できるがどうする?」

「どうもしない。デバイスに詳しい奴なら他にもあてはある」

 

 シロやシュウに頼めばバッチリ調べてくれるはず。

 

「私に頼むのが最短最速最良の選択だと思わないかね?」

「思わんな。お前に頼んで貸しを作るの嫌だしー」

「悠長な事を言ってる間に新たな被害者が出るかもしれないよ?君の判断が遅れたせいでね」

 

 チラチラ見て来るタキオンがウザい。

 要は俺が回収したリンクデバイスの解析をしたいから"寄越せ"と言っているのだ。

 

「自信があるのか?」

「今日中に全てを解析し、明日にはカピバラでも解るようにまとめた詳細なレポートを提出すると約束しよう」

「わかった、これはお前に預ける。即行で調べあげて学園に報告しろ」

「任せたまえ。くふふ、暇つぶしにはちょうどいい案件だ」

「片手間じゃなくて真面目にやってくれ」

 

 俺からデバイスを受け取ったタキオンはニヤニヤしながら研究室に戻って行った。

 

「さあ、生徒諸君は解散だ。ここは教職員に任せて、授業に出るなりクエストに励むなりしなさいな」

 

 手を叩きながら解散を指示すると、事の成り行きを見守っていた生徒たちは小声で会話しながら練武場を後にして行く。

 幼女の俺がどこまで役に立つかは知らんけど、教職員たちと協力して後片付けをしましょうかね。

 

「クリーク。ありがとな、すごく助かったよ」

「お礼はまた今度"遊び"に付き合ってくれたらいいですよ~」

「考えておく」

 

 ここまで高速で連れて来てくれたクリークにしっかりお礼を言っておいた。

 野次ウマたちには『散れッ!』と言っておいた。

 

 生徒が病院送りになった事件が学園中に広まるのは早かった。

 学園側はすぐさま調査委員会を組織して原因究明に乗り出だすことになる。

 希望者にはカウンセリングを実施するなど生徒へのケアも手厚い対応をするらしい。

 

 医務室に戻った後、治療を担当した俺も事後処理に追われることになった。

 ともかく、クリークが暴走した件はコレで有耶無耶になることだろう。

 しかし、あのリンクデバイスは何だったんだ?タキオンの腕を信じて待つしかないか・・・

 

 〇

 

 【修練中に生徒三名が突然のダウン!原因不明の症状に現場は大混乱】

 【颯爽と駆けつけた幼女がヒーリングを施し、あっという間に治療完了!】

 【なお、幼女は直前まで"でちゅね遊び"に興じていた模様】

 

 女学生ネットワークの情報伝達速度をなめてはいけない。

 校内新聞と公式ネットニュースの作成スピードは異常だと思うのは俺だけか?

 午後には学園中で事件の話題が上がっていた。幼女のことはマジで忘れてください。

 学外クエストに出張中の愛バたちにも伝わったようだ。

 

『マサキさんの活躍シーン拝見したかったです。録画とかしてませんか?』

『さすが私のマサキ!愛してる』

『でちゅね遊び!?誰とやったんのですか!私ともやってください!』

『ベホマラーかけた生徒に治療代請求しないの?北島組の取り立てマニュアルが有効だよ~』

 

 この様なメッセージが送られて来たので『んばば』とだけ返信しておいた。

 意味不明な言葉を送ることで相手が勝手に『忙しいのかな?』と解釈してくれるを期待しての返信だ。

 

 スマホをしまい気持ちを切り替えてから教室の扉を開ける。 

 俺の授業は必修科目ではないのに今日も満員御礼のようだ。

 

「はい座って座って、授業はじめるよ~……ふぁお!?」

 

 珍しい生徒の姿が目に留まったので変な声が出た。

 疲れてるのかな?我らが生徒会長シンボリルドルフの幻が見える。

 教室の中央席に陣取って俺をニコニコ見ているのだ。

 

「本物か…ゴルシが化けてるとか?」

「本物だよ」

「アルミ缶にあるミカン」

「ブフッww!」

 

 定番のダジャレに反応したので本物認定。

 多忙なルドルフがわざわざ俺の授業を受けに来た理由は何だ?まさか抜き打ち検査か。

 俺がまともに授業をしているか、生徒会長自ら審査する腹積もりなの?

 最近、いろんな意味ではしゃぎすぎたので上層部にクレームが入っていてもおかしくない。

 キリュウインさんとか俺のこと悪く言ってそうだもんな・・・(´・ω・`)

 

「な、なぜ。俺のような奴の授業を受けるのでしょか?」ビクビクッ

「マサキ君の授業はとても面白いと聞いているよ。前から受講してみたくてね、それが今日叶ったという訳さ」

「そうですか、ははは」

 

 どの選択授業のを受けるかは生徒の自由。

 生徒会長とて例外ではない。ルドルフが俺の授業を受けても問題なし。

 だが、それは建前で審査が目的なんだろう?俺の教官としての力が今試されている! 

 

「マサキ、今日はどんなことを教えてくれるんだ?」

 

 ターボが今日の授業内容を聞いて来る。

 いつもはその日の気分で決めているが、今日はそうもいかない。

 今から行う授業でルドルフに『素晴らしいですぅぅ!』と思ってもらわないヤバいのだ。

 やってやろうじゃないの。優秀な彼女を満足させるハイレベルな授業のスタートじゃ!

 

「今日は東京大学理科三類(医学部)の過去問を解いてもらいます」

「「「「おい!!!」」」」

「ほぇ?」

「ほう」

 

 偏差値77を誇る日本で最難関学部の問題を解けと言ってみた。

 俺は問題文見ただけで吐きそうになったけどな!

 大多数の生徒がツッコミを入れて来る中、問題のヤバさがわからないターボは首を傾げ、ルドルフは(あご)に手を当てて感心している。

 どうです?ハイレベルでしょう?さあ、生徒たちよ。どうかレベルを落としてくださいと懇願するのだ。

 これで仕方なく、生徒たちのために授業レベルを下げた俺を演出できるって寸法よ。

 オホホホホ!

 

「お手本として先にマサキ君が何問か解いてみせてくれ」

「すみません無理ですごめんなさい!マサキ見栄張っちゃいましたーー!!」

「「「「だろうと思ったww」」」」

 

 俺のくそつまらなメッキは即行で剝がされた。さ、さすが生徒会長やでぇ。

 ちくしょう、始まる前から笑いものになってしまった。

 

「私がいるからといって特別な事をしなくてもいい。普段通りの授業を見せてくれないか」

「わかった、自然体でやってみるよ。どうしようかな……何かリクエストとかある?」

 

 授業内容は生徒と相談して決める事もある。

 フリーダムかつ突拍子もない提案が新鮮で結構面白いのだ。

 これまでに採用された授業は、紙飛行機作り、昆虫採集、ブラッシング講座、セクハラギリギリマッサージ、ジョジョ立ち選手権とかだな。

 

「マサキ、あれだアレ…えーっと、チンチンについて教えてくれ!

 

 ターボォォォッ!!おバカ!てめぇ会長様の前でなんてことを抜かすんだ!

 ネイチャたちは何やってんだ!監督不行き届きも甚だしい!そういうのは操者のリューネにでも聞いてくれや!

 いや、違うんですよ。チンチンは授業で教えてませんってばよ。いつもこんな感じだと誤解しないで!

 落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。幸いルドルフはチンチンのショックでフリーズしているのでまだ修正が効く。

 挽回しろマサキ!卍解はメッチャしてみたい!

 

「チンチンとはフランス語で「乾杯」を意味する Tchin Tchin から名付けられた。バラの一品種である」

「おー、バラだったのか。マサキは物知りだなぁ」

「バ、バラ……そうか植物の話か…私はてっきり////」

「てっきりなんでしょうルドルフさん!あなたが想像したチンチンが何だったのか俺に詳しく教えてくれ!

「あ、いや、君は酷い男だな////」

「セクハラやめろー!」

「会長を穢すな!」

「ダイヤちゃんたちにチクるぞ!」

 

 ヒャッハ!うまくいったww

 俺の博識さをアピールしつつ、ルドルフに羞恥プレイを仕掛けてやったぜ!

 赤面するカイチョ―かわええ~。

 これ以上やるとグル姐さんとかテイオーあたりにボコられる。愛バにも軽蔑されたらへこむ。

 

 ホント何すっかなぁ。せっかく集まってくれた皆のためになる授業がしたいぜ。

 そうだ!ルドルフもいることだしアレをやってみよう。

 

「この中でリンクを経験したことがある奴、手を挙げて」

 

 教室にいる生徒のおよそ半数が手を挙げた。

 

「操者を介したリンクならどうだ?おー、少ないな」

 

 更に問うと、手を挙げているのは数人にまで減った。

 今はリンクデバイスを使った方法が主流だ。わざわざ人間と契約するのは時代遅れと言う奴もいる。

 しかし、何事も経験だよな。

 

「今日はみんなに戦術リンクを体験してもらいます」

「おお!……いや、それって大丈夫なの!?」

「私、リンクデバイス苦手なんだけど……」

「心配ご無用。この俺が未経験者も安心安全なリンクをお届けするぜ」( ー`дー´)キリッ

「ふ、不安だ」

「最初の一人目行ってみよう!チケ蔵、君に決めた!」

「はい!」

 

 授業にはウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシンの三人組も参加していた。

 ウザいくらい元気なチケ蔵を指名して壇上に手招きする。

 何の警戒もせずひょこひょこ近寄ってきたチケ蔵を椅子に座らせて、俺はその隣に立つ。

 

「今から俺とチケ蔵でリンクしてみる。準備はいいなチケ蔵!」

「いつでもいいよー」

「いや、そんな簡単に言いますけど…」

「愛バでもない子のリンクするのは難しいというか、ほぼ不可能と聞きますけど」

 

 と、思うじゃん?

 チケ蔵と握手して、ワン、ツー、スリー!上手にできましたぁ!

 視覚的にわかりやすいよう、ちょっとだけ覇気粒子を出して・・・。

 こうすることでチケ蔵の体からも緑の粒子光があふれ出す。

 生徒たちから『おおっ!』と驚嘆の声が上がった。

 

「どんな感じだ?みんなに教えてやれ」

「うーポカポカだよぉ。今なら何でもできそうな気がする」

「ね?安全でしょ」

「す、すごい。私にもできるの?」

「キラキラ~。これ全部がマサキさんの覇気…」

 

 チケ蔵で安全性をアピールしたことでリンクすることへの不安を和らげる。

 これでみんな参加してくれるかな?

 

「次、ヒデさんとタッちゃん。二人同時にやるとこんな感じ」 

「久しぶりだな。この感覚は」

「随分と雑ね」

 

 チケ蔵の次はヒデさんとタッちゃんの二人にリンクする。

 軽く触れるだけで一発リンクよ。

 

「は、早すぎませんか?相手の神核に合わせた調整はいつやってるの?」

「前に一度でもリンクした奴には接続が容易なんだよ。あとは、なんとなく?フィーリングでやってると言ったらいいのかな」

「なんとなくって……」

 

 初めてだとちょっと時間かかる。愛バなら一秒の半分もいらない。

 今は四人で覇気循環をしている。本番はここからだ。

 

「次行くぞ次。どんどんリンクしちゃおう」

「え?それって」

「今日はこの場にいる全員でリンクするから覚悟しとけ」

「「「「は、はぁぁぁぁ!?!?」」」」

 

 はあはあ言っても決定事項は覆りません。

 教室にいる生徒は40人、俺を含めて41人でリンクしてみよう。

 それが今回の授業じゃ。

 

「41人……いくらマサキさんでも無理ですよ」

「俺一人ではな。そこでルドルフの出番、だよな?」

「君が望むなら応えよう。ただし、私を笑わせてからだ!」

「難問が何問もある」

「ブホォッwww」

 

 簡単に笑ったな。力を貸してもらうぞ、ルドルフ会長!

 

「皇帝の下へ集え、我が軍団よ!」

「キャー!素敵!抱いて」

 

 ルドルフが決めポーズでかっこいいセリフを言った。

 威風堂々とした態度にテンションが上がる俺。

 この人、教室の真ん中で何やってんの?とか思ってはいけない。

 今のはリンクを開始する前の呪文詠唱みたいなもんだ。

 

 元々ルドルフはウマ娘でありながら仲間とリンク可能な希少能力者だった。

 彼女のような存在がリンクデバイスの開発と発展に大きな貢献を果たしたともいえる。

 修練の末に、ルドルフのリンク能力はベテラン操者を超える勢いで強化された。

 手伝ってもらえれば数十人でのリンクも夢じゃない。

 

 テュッティ先輩とヤンロンが率いる、チームリギルは12人の騎神を有する大所帯だ。

 チーム全員をリンクさせる場合、操者の二人だけでは手に余る。

 それを可能にしたのはルドルフの能力が仲介役を果たしているからだと、先輩から聞いたのを思い出したのだ。

 今回はその力を利用させてもらおう。俺とルドルフが協力して41人のリンクを達成するのだ。

 ルドルフと俺は手を繋いでリンク状態に入る。よしよし、これなら十分に行けそう。

 

「接触していた方がやりやすい。このまま全員手を繋いでいこう、目指せ41連結」

「本当にやるの?」 

「マサキ君と私を信じてくれ、君たちには極力負担がかからないようにする」

「会長が言うなら……やってみます」

 

 俺と仲のよりターボやチケ蔵たちネームドは嬉々として手を繋いでくれた。

 まだ不安がる生徒はルドルフが説得して41人が手を繋いだ。

 

「しゃぁー!流すぜ流すぜー」

 

 蛇口を捻り、ゆっくりチョロチョロ覇気を流して行く。

 

「ちょ、ちょっとづつでお願いします」

「うわっ!来た、何か来たーー!」

「何これ何これ、すんげぇ」

「みなぎってきた!」

 

 俺に近い生徒から順々にリンクしていく。一人一人確実に接続だ。

 やがて、全員にリンクが完了したのを確認した。よーし、成功だ。

 生徒の力量を鑑みて少量の覇気を流すにとどめているが、大丈夫かな?

 

「気分が悪くなった奴はいないか?少しでも違和感を感じたら言ってくれ」

「大丈夫でーす。何かテンション上がって来たぁ」

「体が軽い。これがリンク……」

「ふぉぉ、マサキ教官とルドルフ会長に繋がっているなんて」

「気が高まる……溢れるぅ……!!」

 

 初リンク状態に戸惑っている者が多いけど、体調を崩した生徒はいないようで安心した。

 若干、情緒不安定になっている子もいる。リンク中はよくあることなので心配なしと判断しよう。

 

「あのー、キラキラはどうやったら出せるんですか?」

 

 質問してきた生徒が言った通り、覇気粒子が出ている者と出ていない者がいる。

 そこも説明しておかないとな。

 

「ああそれは━━━」

「アタシ知ってる!キラキラ粒子が出るのは"マサキさんが関係をもった相手"だけだよ」

ブ――ッ!!」( ´3`)・;'.、・;'.、ブッー

 

 吹いた。そしてリンクも途切れた。

 チケぞぉぉーーー!!貴様何を言っているぅぅーーー!!誤解を招く発言もたいがいにしろや!

 確かにね、以前覇気をドレインさせてくれた子や、俺の覇気と相性がいい子はリンク時に覇気粒子が放出されるけど。

 言い方ってもんがあるでしょーが!

 それだと、俺がネームドのみんなと"ぴょいってる"みたいに聞こえるんだよ、バカ―!

 

「それって、お手付きってこと?」

「やっぱりな」

「噂は本当だったんだ!」

「ヤリ○○」

 

 ほら見た事か、粒子出なかった子(モブ)がヒソヒソしちゃってるじゃん。

 何とかしてよカイチョ―!

 このままじゃヤリ〇〇教官クビになっちゃうよ?

 

「誤解しているようだが、この粒子はマサキ君と良好な人間関係を築いたウマ娘の証だよ。やましい事はあまりない」

「ルドルフならわかってくれると信じてた!」

「あまり?……少しはあるって言ってるみたい」

 

 そう!人間関係ですよ。決して肉体関係ではない!

 ルドルフの機転により"お手付き疑惑"は多少なりとも解消されたと思うことにする。

 そう思わないとやってられない。

 

「どうしたのマサキさん。元気出してよ」

「こやつめ!ハハハ」(#^ω^)ピキピキ

「ハハハ」

 

 悪意なく俺を窮地に立たせたチケ蔵、のんきに頭を撫でてきやがる。

 決めた、タッちゃんに泣きついてチケ蔵の尻を蹴り上げてもらおう。そうしよう。

 『チケ蔵アウトー』てな感じでなぁ!!

 今はまだ授業中、復讐の楽しみは後にとっておこう。

 

 再度、全員とリンクを試みる。粒子が出ようが出まいが繋がっていることはハッキリと感じられる。

 

「今の感じをよく覚えておいてくれ。相性のいい操者とならもっと凄いことになるからな」

「「「「はーい!」」」」

 

 これにてリンク体験終了だ。

 皆、興奮冷めやらぬといった感じでリンク中に感じた事を話し合っている。

 『すごかったぁ』『癖になりそう』『操者、真剣に探そうかな』

 概ね好評なようでこちらも満足だ。

 

 少し疲れたので休憩。今の内に抱っこという名の神核チェックを行っていく。

 チケ蔵、ヒデさん、タッちゃん・・・三日間でかなりの人数を調べた気がする。

 休憩と甘やかしで回復したので授業再開。ここからは真面目行くぜ。

 

「リンクの効果は絶大だが、いい事ばかりじゃない。デメリットも知っておいてくれ」

 

 操者と行うにしても、デバイスで行うにしても、無理なく自身に合った覇気量を回すことが大事だ。

 相性とか、操者の力量、リンク人数、細かい調整も含めると注意点はいっぱいある。

 生徒たちには俺の知りうる限りの情報を教えておこう。

 ちゃんとした知識があれば練武場で起こったような事件も防げたはずだから。

 

「リンクデバイスはお手軽だけど、違法改造されたものや海賊版には手を出すなよ。肝に銘じておけ」

「「「「はい!」」」

「操者選びは急がす焦らず!運命の相手が現れるのをじっくり待つのだ」

「「「「はい!」」」」

「売れ残っても俺は責任は取りません!」

「「「「クソがぁ!!」」」」

 

 昨今は、結婚相談所ならぬ"契約相談所"もマッチングアプリもある。

 ギルドでも常に募集しているから、本気で探せばいい相手がきっと見つかるはずさ。

 

「俺も、クロとシロが頑張って見つけてくれたんだよなぁ」しんみり

「マサキさんの実体験ですか?」

「愛バとの馴れ初め聞きたいです!」

 

 あいつらとの思い出が知りたい?語ると長くなるからプロローグだけな。

 雨の降る夜の街、地下道で出会った俺たちは・・・

 

「警察に通用しようとしたらクロとシロに襲われて、返り討ちにして家に持って帰った」

「「「「何やってんだぁーー!?」」」」

「クロとシロの時も、アルとココの時も、大体ピンチで死にかけている時に契約した」

「「「「本当に何やってるんだ!?!?」」」」

 

 知らねぇよ。俺だって好きであんな状況になってねーよ。

 俺たちを反面教師にして、良き出会いをしてくれよな。

 めぐりあい宇宙が殴り合い宇宙にならないことを祈ってる。

 リンクデバイスを全否定するつもりはないが、操者探しを前向きに検討してくれたら嬉しいな。

 

 リンク体験から始まった授業、どうなる事かと思ったが生徒たちの反応からすると好評だったみたい。

 終業のチャイムが鳴り、生徒たちは教室を出て行った。

 手を振りながら去っていく最後の一人を見送った後、俺も次の場所に移動するため廊下に出る。

 

「やあ」

「お、ルドルフ。どうした?」 

「君に用があってね。ここで待っていたんだ」

 

 腕組みをして佇むルドルフはそれだけで絵になる。

 俺に用?もしかして、授業の駄目だし・・・ヤダー!

 

「思い付きでリンクなんかさせてすんません!懲戒解雇だけはやめてください!」

「違う違うw授業は素晴らしかったよ。皆、楽しんでいたし、私も君の話に聞き入ってしまった」

 

 褒められてしまったぞ。やったー!素直に喜んでいいんだよな。

 

「先程の集団リンク、実に見事だったよ」

「恐悦至極っス」

「私の仲介が必要だと()()()()のも自然な流れだった」

「はて?なんの事やら」

「一体君は何人のウマ娘と同時リンクできるのだろうね。興味は尽きないよ」

「タキオンみたいになってるぞ。噓も方便で見逃してくれない?」

「いつか、君の本気が見てみたいものだ」

「俺はいつでも本気で生きてる」

「そうだね。君はそういう男だ」

 

 もうこの辺でやめましょうや、腹の探り合いは苦手なんよ。

 

「お叱りや解雇通告でないとすると何用?」

「こういう事さ」

「お?おぅ」

 

 ルドルフは俺の両脇に手を入れて持ち上げる。

 そのまま抱っこされてしまった。

 そう言えばまだ彼女には抱っこされていなかったな。

 

「君のお世話係に立候補した。行きたい場所はあるかい?」

 

 なんと!会長自ら動きなさるとは……大変光栄であります。

 優しく微笑むルドルフが眩しい。

 とりあえず医務室まで連れていってもらう。

 

「今の俺を見たらテイオーが悔しがるな『ボクも抱っこー!』とか言いそう」

「フフ、仲良くやっているようだね」

「まあな」

「ふぅ~、何とも言えない抱き心地だ。エアグルーヴが絶賛していただけはある」

 

 グル姐さん!?

 あなた、俺を抱っこしている最中はずっと文句言ってましたよね。

 もう!素直じゃないところが可愛いな。

 

「事件のこと聞いた?」

「学園生が救急搬送される事態だ、当然耳に入っている。マサキ君が活躍してくれたそうじゃないか、生徒会長として礼を言うよ。ありがとう」

「俺は職務を果たしたまでだよ」

 

 生徒が幸せな学園生活を送れるよう、日々尽力している生徒会長シンボリルドルフ。

 お世話係のついでに事件のことを話し合うのが目的だったみたいね。

 治療に当たった俺から直に現場の状況を聞いておく必要があると判断したのか、真面目だな。

 ルドルフによると、今回の件は由々しき事態として学園全体で対処することが決定したらしい。

 俺からも、タキオンに怪しいデバイスの解析を依頼したことを伝えておく。

 

「ふむ。やはりリンクデバイスの誤作動か」

「あれが元凶なのは間違いないと思う。触ったとき凄く嫌な感じがしたんだ。こいつわざとやってんのか、みたいな?」

「何者かの悪意を感じるデバイス、出所を調べる必要がありそうだ」

 

 早急に注意喚起を行い再発防止に努めないといけない。

 俺とルドルフの意見は概ね一致しており、情報交換はスムーズに行われた。

 

「先程の授業は中々タイムリーだったね。少なくとも、君の授業を受けた生徒はリンクデバイスを慎重に扱うだろう」

「そうであってほしいと思ってるよ」

「ところで……私のことはもう"ルル"と呼んでくれないのかい?」

「お気づきでしたか」

 

 UC基地を訪れた際、彼女にルルというあだ名を付けたのだが、テュッティ先輩が"ルナ"と呼んでるの聞いちゃったんだよな。

 それ以来、なんかルル呼びを遠慮している。

 操者のテュッティ先輩が呼ぶ"ルナ"は二人だけの絆を感じるのだ。それを邪魔したくないというのが正直な気持ち。

 ほら、二つもあだ名があったら混乱するじゃん・・・読者様が!

 

「そうかい?君の愛バも複数のあだ名を所持しているのではなかったか、クレイジーダイヤモンドとかさ」

「それは蔑称(べっしょう)だ!!」

 

 でも、何だかんだ言ってクレイジーダイヤモンドは響きがカッコイイから好きよ。

 阿修羅とか雷帝とかもいい!デスラーはよくわかんね。

 

「他人行儀なのは嫌だな。できれば、君にはあだ名で呼んでほしい」

「じゃ、これからもルルで」

「そうしてくれマサキ君。フフフ、皇帝特権を発動させずに済んでよかったよ」

 

 なんだかヤバそうなスキルを使う準備をしていたらしい。

 そこまであだ名で呼んでほしかったの?

 ルルが嬉しそうなので良しとしますか。

 

「マサキ君、我々の友情を祝してダジャレを言ってみてくれ」

「そんな簡単に思いつくか」

 

 お前が笑いたいだけだろに・・・スベっても文句いうなよ。えーっと・・・

 

「ですます口調で済ます区長」

「ブッッwwやはりw天才かwwビヒャッヒャヒャーwwフォフォフォフォフォォ―ww」

「ルル!笑い声が怖いしキモイ!!」 

 

 廊下にはしばらくの間ルルの笑い声(異音)がこだましていた。

 

 



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油断大敵

 幼女生活四日目(試練最終日)

 

 シャミ子の提案(わがまま)で始まった"変化の試練"も本日が最終日だ。

 今日を乗り越えれば俺は男に戻ることができる。

 そして機甲竜という頼もしい味方が増えるって訳さ。

 ルクスとの決戦で切り札となりえるその力、期待させてもらうよシャミ子さん。

 

 今日一日、どうか何事もなく過ごせますように・・・・・・フラグとか言うな。

 

 〇

 

「これより会議をはじめる!」

 

 理事長の一声で緊急の職員会議が始まった。

 議題はもちろん、昨日発生した"生徒三名病院送り事件"である

参加しているのは理事長とその秘書の姉さん、あまり見ない上層部の役員が数名、主要な教職員とギルドの関係者、そして生徒会長のルドルフだ。

 ついでに、リンクデバイスの解析を依頼したタキオンもいる。

 まず最初に事件の概要が説明され、倒れた生徒たちが無事であることが報告された。

 

「三名とも今朝方目を覚ましました。幸い後遺症もなく、数日間の検査入院で元の生活に戻れるでしょう」

 

 進行役を務める姉さんの報告に一同胸を撫で下ろす。

 会議に集った誰もが生徒の安否を気にしていのだ。

 一番の心配事が解消された次は、一体なぜこのような事件が起こったのか調べる必要がある。

 

「彼女たちが倒れた原因はリンクデバイスにあると思われます。詳細はタキオンさん、お願いします」

「ここからは冴えわたる頭脳を持つ私が引き継ごう。昨日、ミニカピバラ君から預かったデバイスを解析した結果を報告する」

 

 説明を引き継いだタキオン。芝居がかったジェスチャーを交えた口調が少々ウザいけど我慢する。

 会議室に設置された大型モニターにはデバイスの全体像が表示されている。

 タキオンがノートPCを操作すると、デバイスの内部構造が透けて見える図に変わった。

 

「このデバイスは偽造品だ。粗悪な部品を使い低コストで製造されたゴミ!」

 

 偽造品か、そんな事だろうと思ったよ。

 タキオンが調べるまでもなく見た瞬間に解っていたぜ!フフン!

 

「と、思ったら大間違いだ。得意満面だったミニカピバラ君、残念だったね」

 

 違うのかよー。恥ずかしいから皆こっち見ないで////

 赤面した俺を姉さんが隠し撮りしているのをよそに、タキオンの説明は続いて行く。

 

「このデバイスは何者かの手によって改造されたものだ」

「改造?それって合法なのか」

「もちろん違法だとも。しかし、この改造品、使用者を単純に強化する点だけ見れば、正規品より優れているね」

 

 それってすごくないか?

 そんな物があるなら誰も正規品を買わなくなるだろ。

 

「安全装置など必要無し!設定以上のリンク係数を叩き出すことのみを追求!使用者が望むだけの覇気をリンク相手から強制徴収してどこまでもパワーアップ!体が動かない?なら神経をハッキングして動かしてあげるね♪ただ強さを求める者の声に応えたい!その結果、使用者の身が滅ぶことになろうとも本望だろう!死ぬまで戦え死んでも戦え!と言う強い意思を感じる。まったく素晴らしいwww」

 

 一息に説明するタキオン。好きな物を熱く語る時のキモオタみたい。

 例デバイスは随分とヤバいこと代物だったようだ。

 タキオンの気持ち悪い説明を聞いた皆が騒然とするのも無理はない。

 昨日、俺が授業で注意した欠陥を全部乗せした凶悪デバイス来ちゃったよ。

 安全装置の解除にその他諸々・・・使う奴のことまるで考えてない仕様が逆に清々しいわ!

 

「コレコレ、私が作りたかったのはこういうのなんだよ」

「作るなバカ」

「被験者として申し分ない人材は確保済みだというのに、近頃は無難な研究ばかりでウンザリしていた!そうだよねぇミニカピバラ君?」

「こっち見んな」

「先を越された気分だ。こんなものを見せられたら、私の研究意欲は有頂天にならざるを得ない!!」

「たづなさん」

「ありがとうございました、タキオンさん。もう結構ですので退場してください」

「もう帰っていいぞ。早くどっか行け」シッシッ!

 

 タキオン、お前はもういらない子だ。

 邪魔だからさっさと会議室から出て行ってもらいたい。

 

「こんな所で油を売っている暇はない。さあ、ミニカピバラ君!共に限界を超えた先の世界を目指そうでじゃないか!はははははは・・・・はッ!?」

 

 姉さんが謎のスイッチを押したと同時にタキオンの姿が搔き消えた。

 直前まで彼女が立っていた床に穴が空いている。

 数秒後、落とし穴は何事もなく塞がる。そこに罠が設置されているとは思えないほど綺麗に塞がった。

 たった今一人の生徒が消えたが、誰ひとり心配していない。

 何も問題がないので会議を続けよう。

 

「目を覚ました生徒から聞き取り調査したところ、最も症状の重かった生徒が全てを白状しました。二週間ほど前にチンピラ風の男から多額の現金と引き換えに入手したそうです」

 

 あの痙攣していた子か、早く元気になるといいな。

 

「何故ッ!我が校の生徒が闇取引に手を出したなどど……理由は?」

「進級してから成績が伸び悩んでいたそうです。同期生に置いて行かれる焦りから愚かな行動に走ってしまったと、本人は述べています」

 

 教官たちが腕組みをして唸っている。競争激しいトレセン学園ではそう珍しい事じゃない。

 劣等感に(さいな)まれ、がむしゃらに力を求めてしまうことなど、むしろあるあるだ。

 俺にもシュウという高すぎる壁がすぐそばに立っていたから、その気持ちょっとだけわかるんだよな。

 今じゃ壁を壊す事を諦めて、壁に寄りかかって楽してるけどね!!

 

 やべぇデバイスの購入はチームを組んでいた三人の総意によるものだったらしい。

 成績不振に陥った彼女たちは魔が差してしまったのだ。

 彼女たちなりに悩んでいたのは解るが、お(とが)めなしとはいかない。

 

「(退学とかにはならないよね?)」

「(一週間の停学に三ヶ月間の奉仕活動が妥当かしら。これでも減刑されたほうよ)」

 

 姉さんとアイコンタクトで会話。

 三人の処分は既に決定してるようだ。学園を去る結果にならなくて良かったと思う。

 もし、デバイスの力に溺れ他者を害するようなことがあれば、その結末は今より悲惨だったろうからな。

 

「私は彼女たちの心に寄り添えなかった……心理カウンセラー失格ね」

「ウェンディ教官のせいじゃありません」

「そうですよ。この様な事態になったのは学園全体の責任であります」

「何かしらのサインは出ていたはず、それを見逃してしまったのが悔やまれるな」

「今後はより一層注意深く見守っていきましょう」

 

 落ち込むウェンディ教官をみんなで励ました。

 俺の同僚たちは生徒に負けず劣らず仲がいい。和気あいあいとした素敵な職場です。

 多感な時期の生徒たちを守るため、これからも互いに協力し合っていきましょう。

 

「我々は今回の事件を重く受け止め再発防止に努めなくてはならない!」

 

 理事長の言葉に一同は頷く。

 その後、俺とルルが事前に会話したように、再発防止策と生徒のメンタルケアを今後どうするかが話し合われた。

 俺も養護教官としての観点からいろいろと発言させてもらった。

 ちょっとキリュウインさん、こんな時まで噛みついて来ないでくださいよ。会議の進行が滞るでしょ?

 背後で姉さんが『斬首する?しちゃう?』のジェスチャーをしていることには気付かないほうが幸せだ。

 

 会議に参加している上層部の人たちも頭を捻って積極的に意見交換している。皆、真剣そのものだ。

 保護者や関係各所への対応と説明責任も果たさなければならないし、矢面に立つ理事長や役員方は大変である。

 

「マサキ教官をメインに据えた動画を作成し、公式サイトにアップしては?」

「それはいい!ラブリーでプリティな幼女が一生懸命に説明と謝罪を行う姿は、心打たれるものがありましょうぞ」

「上手くいけば学園を糾弾する声も減るかもしれませんな」

 

 名案とばかりに役員連中がアホなこと言い出した。

 期待を込めた眼差しが不愉快極まりない、絶対やらねぇからな。

 

「黙りなさい!」

 

 怒った姉さんが会議用テーブルを拳で『ドンッ!』と叩き、年上の役員たち縮み上がらせた。

 姉の迫力に役員のおっさんたちのみならず、理事長や他の人たちもビビっていた。俺もビビったぞ!

 テーブルが無残に割れていないところを見ると、姉さんなりに手加減をしているはず。

 ふと思ったことがある。隣席のミオだけに聞こえるよう思念を送ってみよう。

 

「(姉さん『黙れドン太郎』みたい)」

「(自分のために怒ってくれた姉に失礼なことを言うね)」

「(そうだよな。茶化してごめん)」

「(反省したならいい。会議中だからおふざけは自重しよう)」

「・・・・・」

「・・・・・」

「(駿川(はやかわ)ドン太郎)」

「(やwめwろww)」

 

 ミオの返答は顔を見てりゃ大体解る。姉さんとドン太郎のフュージョンがお気に召したようだ。

 俺たちは笑いを堪えるために、お互いを肘でつつきあったりした。

 

 ドン太郎はどうでもいい。今はお怒りの姉さんに注目だ。

 アホな役員たちめ、真面目な会議中にはおふざけが過ぎたよだな。反省しなさい。

 

「マサキの動画を作るですって?そんな事になったら、監督、脚本、演出、編集、その他全部私がやるしかないじゃない!!」

 

 何言ってんだこの人?一番不真面目だったのは我が姉上様でした。

 理事長やヤンロンたちが『何とかしろ』みたいな目で見て来るよ。マジで辛い。

 手っ取り早く動画の撮影が不可能になる事実を教えてやらないといけない。

 

「事前にお伝えしていますが……俺、明日には男に戻りますけど?」

 

 そういうことなんで、諦めてくださーい。

 

「はぁ~……マサキ教官、あなたには失望しましたよ」

「ふぅ~……もう戻らなくていいのに、もったいない……」

「へぇ~……今の内に握手だけでもお願いできますか?」

 

 途端にやる気を失くす役員ども。ダメだこいつら。

 理事長、クビにするならそこの人たちがおススメですよー。

 

「待ちなさいよ!!」

 

 姉さんが再びテーブルを叩いた。またしてもご立腹な様子。

 二回目の『駿川ドン太郎』にテーブルのライフは風前の灯火である。

 

「男に戻ってもいいから動画は作りなさいよ!は?意味がない?…意味はあるわ、私が個人的に楽しむという大いなる意味がある!そうだ、もういっそのこと学園の予算を投入して高画質VR動画を撮りましょう。シチュエーションは"大好きな姉にベタベタ甘えるシスコン弟"がいいわね。くあぁぁ今から楽しみすぎるわぁぁぁ・・・・・あッ!?」

 

 理事長が謎のスイッチを押したと同時に姉さんの姿が搔き消えた。

 直前まで彼女が立っていた床に穴が空いている。

 なんかさっきも見た光景だな。そこはかとないデジャヴを感じる。

 落とし穴が塞がると、理事長が大きなため息をついた。うちの姉がすんません!

 

 幼女でなければ意味がねぇ!とばかりに、俺が動画出演する案はお蔵入りになった。

 説明するにしろ謝罪するにしろ『妙な趣向を凝らさず真摯な対応を心がけるのが一番だ』

 と、いうことで落ち着いた。

 

 話し合いが終了した5分後、少々埃っぽくなった姉さんが澄まし顔で戻って来た。

 戻って来ないタキオンがどうなったかは誰も気にしていない。

 

「うむ!大体の方針は決まったな。では、本題に入ろう」

 

 威勢のいい理事長の声に場の空気が引き締まる。

 

「今回の事件、遺憾であるが生徒に非があるのは明らかだ。自業自得と言えるだろう」

 

 そうだな。そこは当事者たちも理解して己の過ちに後悔しているはずだ。

 

「それでも、私は考えてしまう。そもそもこんな改造品が存在しなければ事件は起きなかったのではと」

 

 理事長の言葉に感情がこもる。

 覇気も既に発せられ強力なプレッシャーを周囲に拡散し始めた。

 この場に集う皆が共有する感情を理事長は代弁してくれている。

 事件が起きるまで気付けなかった不甲斐なさ、そして元凶に対する憤りだ。

 

「間接的とは言え、このデバイスに関わった者は我が校の宝である大事な生徒を傷つけた!到底許せるものではない!!」

 

 あっつっぅ!!この理事長熱いぜ。

 なんという熱量とカリスマ性!これがトレセン学園を背負って立つ女の気迫か。

 姉さんが操者と認めた人だ。可愛いいだけの理事長であるはずがない。

 今日の理事長はひと味違うぜ。"ロリじちょう"とか言ってごめん。

 

「諸君ッ!私は報復を地獄の様な報復を望んでいる」

 

「諸君ッ!私に付き従う教職員一同諸君」

 

「君たちは一体何を望んでいる?」

 

 この流れ何処かで?後に続く返答も察したぞ。

 

「「「「報復(ラッヘ)!報復(ラッヘ)!報復(ラッヘ)!」」」」」

 ( ・∀・)ノ (>Δ<)ノ∩(´∀`)∩(・ω・)ノ( ̄▽ ̄)

 

 Rache(ラッヘ)…確か、復讐や報復を意味するドイツ語だったと思う。

 フラッシュの物騒なドイツ語講座が役に立った。

 理事長に感化された教職員たちは拳を突き上げ口々に『ラッヘ!ラッヘ!』と吠え猛っている。

 ヤンロンとテュッティ先輩はちょっと照れながら、ミオはノリノリで叫んでいる。ルル……あの顔はダジャレを考をえているな。

 そんな中、姉さんは興味ないとばかりに欠伸をしていた。マイペースで素敵。

 俺は戦争(クリーク)と叫んで"でちゅねママ"が召喚される事態にならなくてホッとしていた。

 

よろしい、ならば報復(ラッヘ)だ

 

 理事長、小太りの少佐殿に憑りつかれていない?

 この人について行くのちょっと不安になって来た。

 

「くくく、我が身に封印されし闇の力、解き放つ時が来たようだ」

「邪眼(老眼)の力をなめるなよ」

「ホッホッホ、我ら"天下り役員三人衆"に敵はおりませぬ」

 

 さっきから実に鬱陶しい三人組がいる。明らかに非戦闘員の癖にやる気になっているのがウザい。

 しかも、遅咲きの厨二病を発症した老害である。せめて邪魔だけはしてくれるなよ。

 俺と目が合うと、三人揃ってサムズアップしやがった。こいつらも落とし穴にボッシュートしてくれないかな。

 

「自分たちが何を敵に回したか骨の髄まで思い知らせてやろうではないか!」

「「「「うおおぉぉーーー!!理事長バンザーイ!!」」」」

 

 理事長の演説(茶番)で皆の心は一つになり報復の狼煙は上がった。

 はいはい、ロリじちょう万歳万歳だね!

 このノリいつまで続くの?幼女な俺は退屈で眠くなって来たのである。

 

 先程のぐだぐだは何処へやら、あらゆる物事が次々に可決されていく様は見ていて清々しい。

 敵勢力を洗い出し、投入可能な戦力を計算、最適な作戦が立案される。

 まさに迅速果断!!

 皆、敵側に猶予を与えるつもりなど毛頭ないらしい。

 学園の戦力を知っている身としては哀れな敵に同情したくなるね。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「これにて会議は終了!諸君の奮闘に期待する。以上、お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でした!!」」」」

 

 作戦も粗方決まり会議は終了した。

 姉さんの号令が下り皆一様に動き出す。

 

「よっしゃ!忙しくなるぞー」

「愛バに連絡しないと、あの子たち今どこかしら?」

「ギルドとの連携?勝手にしろ。え?ああ、そっちは任せた」

「おーい、この厨二老害どもはどこに捨てたらいいんだ?」

「「「嫌じゃー!ワシらはまだやれるんじゃぁーー!!」」」

 

 会議室のみならず学園全体が慌ただしくなり、バタバタと人が行き来する音がそこかしこから聞こえる。

 理事長は演説で力を出し切ってしまい、会議の後半からずっと"ぐてーっと"してだれている。

 俺も一緒にぐてーっとしちゃう。テーブルの上でこのまま溶けてしまそう。

 はいはーい。"だれマサキ&だれ理事長"はご自由に撫でてもらって結構ですよー。

 撫でると気力が上昇すると(主に姉さんから)大評判を頂いております。

 

「スピカだけじゃなくリギルも出すとは豪勢だな~」ぐてー

「君の"ああああ"にも出撃してもらうぞ」ぐてー

「過剰戦力ちゃいますのん?」

「腕利きを揃えて速攻でケリを付けるのが目的だ。過剰なぐらいで丁度いい」

 

 二ヤリと笑う理事長。

 今回の殲滅対象には学園に手を出せばどうなるか、わかりやすい見せしめになってもらう腹積もりなのがよーく解る。

 俺の愛バを含むネームドたちが動くのだ。敵さんマジで終わったな。

 

「おお怖い怖い。理事長はおっそろしお人や~」

「君が言うかww」

 

 学園の二大マスコットたる俺と理事長が愉快な会話をしていると、姉さんが鼻息荒く周囲を威嚇している姿が目に入った。

 

「あの子たち二つとも私のだから!絶対持って帰るから!」フンスッ!

 

 テイクアウトをご希望ですか?お生憎(あいにく)様、俺は愛バに予約されている身なのだ。

 理事長だけで我慢して下さい。

 

 〇

 

 会議で決まった"改造デバイス密売組織を潰そうぜ"は即座に全校生徒へと知れ渡ることになった。

 本作戦へ参加する精鋭チームたちが次々に出撃していく中、足手まといな俺はお留守番だ。

 短時間しか戦えない俺が万が一にも売人たちに捕まるようなシチュは誰も望んでいない。

 

「いっぱい倒して来るからね」

「戦果を期待していてください」

「学園の名に恥じない仕事をしてきます」

「大船に乗ったつもりで待ってて」

 

 学園の校門前で出撃する愛バたちを見送る。

 一人一人に抱き着かれ、ナデナデスリスリハグハグとマーキングの嵐だ。

 同様に出撃していく生徒たちがチラチラがジロジロ見て来るが気にしない。

 

「現場の指示をよく聞いてやり過ぎないように。そして、無事にちゃんと帰って来てくれ」

「「「「はい。行って来ます」」」」

 

 たっぷりスキンシップをした後、待機していた車両に乗り込んで行く愛バ四人。

 気負った様子もなく落ち着いた態度からは彼女たちの余裕と自身が伺えた。

 この分だと全く問題なさそうだ。

 発進して行く車両が見えなくなるまで、俺は手を振り続けた。

 

「行ったか」

「行ったね。ゲンさんも居残り組?」

「ああ。この後、授業があるからな」

「俺もだよ」

 

 教職員も生徒も、その殆どは学園に残り、普段通りのカリキュラムを遂行していく。

 理事長や幹部連中は学園の大会議室から作戦の監督と指揮を執る。

 実働部隊として参加しているのは実戦経験豊富な手練れたちだ。

 学園が通常運営されている間に不運な密売組織は課外授業の一環として潰される事だろう。

 居残り組はそれを信頼して待っていれば万事オッケーなのよ。

 

「戻ろうか」

「うん」

 

 ゲンさんに則されて校舎に戻る事にする。

 幼女化も今日までなので肩車してもらえるのも、これで最後になるのか。

 

「男に戻っても、お前が望めば肩車ぐらい、いつでもしてやるぞ」

「嬉しいけど、恥ずかしい////」

 

 ゲンさんに肩車される俺(成人男性)・・・うん、絵面が酷いな。

 

「俺がゲンさんに肩車のお返しをするって手もあるね」

「フッ…気持ちだけもらっておこう」

 

 断られてしまった(´・ω・`)絵面は逆でも酷かったねー。

 

「愛バやネームドたちに抱っこのお返しをするのはどうかな?」

「彼女たちが望めばしてやるといい」

「嫌がれたらショックで泣く、そして吐く」

「そんな事はありえんだろう。あったとしても照れているだけだ」 

「そうかなあ。そうだったらいいな」

 

 お返し抱っこを拒否されたとしても、何かしらのお礼を考えておこう。

 お世話になった人たちへの返礼か……何がいいかしらね?

 

 〇

 

 夕刻になった。

 作戦はまだ終わっていないが、順調に進んでいるらしい。

 

「ポイントA2の制圧終了。チームスピカ、そのまま進軍してください」

「ルドルフ会長から入電、リギルは散開して追撃をかける模様」

「ちょ、ちょっと待って!チーム"ああああ"止まってください!その建物は壊しちゃダメ!」

「"ああああ"応答してください"ああああ"聞こえてんだろ?無視すんな!」

「それは味方の警官隊です!?何やってるんですか"ああああ"」

「ああああ、もうメチャクチャだよ。ああああ!ああああああああああああ?」

 

 作戦本部の大会議室では、目まぐるしく変わる状況にオペレーターが必死に対応していた。

 モニターに映る地図と監視カメラからの映像を見なくても、学園側が優勢だとわかる。

 

「常勝ッ!圧倒的ではないか我が軍は!」

「調子に乗ってると足元すくわれますよ」

「おお、マサキ君。どうした?やはり、たづなや愛バたちが心配か?」

「いえ。快進撃なのはわかり切っていましたから、それにしても『ああああああああ』うるさいですね?」

「君の愛バが景気よく暴れているせいだぞ。デモン掃討作戦の件といい、恐ろしいまでの力だな」

 

 あれでも十分に手加減しているとは言わぬが花だな。

 

「このまま作戦終了まで見ていくか?」

「いえ。問題なさそうなので俺は帰ることにします」

 

 愛バたちは言った『お帰りなさいと笑顔で迎えてくれる。それだけでいいんです』と。

 無欲かつ俺を気遣ってくれる優しい愛バたちに感涙した。

 お言葉に甘えて俺は明日からの"カムバック男人生"に備えるため、自宅にて愛バの帰りを待つことにしよう。

 

 理事長に挨拶して学園を出る。帰宅じゃ帰宅~。

 最後ぐらい自分の足で歩いて帰る事にする。

 今日でこの体ともお別れか、そう思うと少し寂しい気もするな。

 

 愛バに頼まれたのか?それともフェイルの差し金か?家路の途中まで俺を治安局員の二人組が護衛してくれた。

 自宅まであと少し、最寄りのスーパーに着いたところで、もう危険はないと判断した二人は会釈してから姿を消した。無口なのね。

 ちょっと買い物していこう。今日の晩御飯用と明日の朝食分のアレやらコレやら必要だ。

 スーパーで食材を買い足していると、微笑ましいものを見る目で見られた。

 "はじめてのおつかい"ではありませんよ?

 今の自分が持てる量の買い物を済ませて外に出ると、入口付近で近所のおばちゃんたちが井戸端会議に勤しんでいた。

 

「あら~、マサキちゃんじゃないの」

「こんにちわっス」

「今日は彼女さんたちがいないのね?ケンカでもしたの」

「どうも学業が忙しいらしくて、俺だけ先に帰るように言われたのです」

「大変ね~」

 

 このおばちゃんたち、俺が女になっても幼女になっても『あらまあ大変』ぐらいのリアクションで、普段通りに接してくれるのだ。

 肝が据わっている。ご家庭では肝っ玉母さんなのかもしれない。

 地域の情報を把握する上で、彼女たちのコミュニティに参加するのは有用だとシロが言っていた。

 有用かはさておき、おばちゃんたちと顔見知りの俺も、気が向けば井戸端会議に混ぜてもらえるぐらいの関係性だ。

 

「あ!そう言えば聞いた?最近この辺りに不審者が出るんですってよ」

「私も聞いたわ。目撃されたのは、今ぐらいの時間よね」

「いやぁねぇ怖いわ~。マサキちゃんも気を付けなきゃダメよ?」

「俺なら大丈夫です。こう見えても強いんですよ」

「それでも心配だわよ。だって今のマサキちゃん、私が不審者だったら絶対襲っちゃうもん」

「「わかるわ~」」

 

 明日、男の戻っていたら残念に思われるのかな。

 いや、この人たちだったら『あらまあ戻ったの、良かったわね~』で終わるな。

 不審者情報の交換も井戸端会議の醍醐味だ。こうやって防犯意識を日頃から高めておけば犯罪抑止になる。

 

「本当に注意しなきゃダメなんだから。おばちゃんの言う事は聞くものよ」

「不審者の目的はきっとマサキちゃんみたいな子なのよね……許せないわ!」

「そうね。見つけたら私の全体重で押しつぶしてやるわ」

「「やだ~犯人死んじゃうww」」

 

 恰幅のよいおばちゃんが自慢のお腹を叩きながら『ガハハ』と笑った。

 確かに、あの腹から繰り出されるボディプレスは強烈そうだ。

 

「ん?なぜ不審者のターゲットが俺みたいな子だとわかるんですか?」

「だって、ねえ……目撃された場所がアレだし」

「アレ?」

「不審者が出たのはね、この近辺にある幼稚園や保育園らしいのよ」

「な、なんですとぉー!!」

 

 それって、仲間・・・では断じてない!

 なんてこった!ロリコンが、俺以外のロリコン(悪)が出たというのかぁ!!

 

 話を聞いた後、ダッシュで一時帰宅した俺は食材を冷蔵庫に詰め込み、再び外出した。

 向かう場所はもちろん"就学前幼児施設"つまり、幼稚園or保育園である。

 やましい事をするためではないぞ。愛すべき幼女たちを悪の手から守るための行いなのだ。

 これはロリコン(善)からロリコン(悪)へ天誅でもある。

 似たような趣向の奴が堕ちていくのを未然に防ぎたい気持ちも、少しはあるけどな。

 

「何も無ければそれでいい。ちょっと様子を見てすぐに帰ってくればいい」

 

 自分に言い聞かせるようにして目的地へ向かう俺。まずは一番近い所にある幼稚園へGOだ。

 

 愛バもネームドも護衛もいない状況での単独行動。この時の俺は完全に油断していたと思う。

 言い訳になるが、明日には男に戻れるのだと(はや)る気持ちと、短時間なら戦えるという自負が判断を誤らせた。

 愛バにもおばちゃんたちにも散々注意しろと言われていたというのに・・・・・・

 俺ってホントばか。

 

 〇

 

「うん。異常なし」

 

 幼稚園巡り三件目、施設をぐるりと一周した俺は電柱に身を隠しながら頷いていた。

 不審者の姿は見当たらない。お迎えに来た保護者と仲良く連れ立って帰る幼児たちを襲うバカ者はいない。

 平和だな。まあ、不審者ってのもデマや見間違いの可能性もあるしね。

 もうすぐ暗くなるし、この辺で切り上げて帰る事にしよう。

 不審者なんていなかったんやーこの街は平和で済みやすい街です。良かったよか・・・・お?

 帰宅途中の公園でブランコを発見。もう長いこと乗っていないなぁ。

 の、乗ってみたい。ちょっとだけ、ちょっとだけいいよね。

 

「おおーすっげー。たのしー」

 

 一人でブランコに乗り『キャーキャー』大はしゃぎしてしまった。

 明日これをやったら即通報ですわ。今だけしかできなハメの外し方ですよ。

 ブランコ楽しいー。こんなにいいものだったのね。

 

「ねえ。そんなに楽しいの?」

「久しぶりだから、すっごく楽しいぞ」

「隣いい?」

「俺専用じゃないし、いいんじゃね」

「うん」

 

 はしゃいでいる俺が気になったのか、一人の女の子が隣でブランコをこぎ出して仲良くなった。

 それから10分もしない内に、公園で遊んでいる子供たちのグループに入団していた俺です。

 男女混合の10人ほどのグループに俺はゲスト扱いでチヤホヤされていた。

 

「こう見えても大人なんよ」

「ええーうっそだぁ。この中だと、マサキちゃんが一番小さいじゃん」

「嘘じゃない。この姿でいられるのは今日限りだ」

「喋り方、男の子みたい」

「男だからな」

「なあマサキ、俺たちとサッカーしようぜ」

「いや、マサキは鬼ごっこの方がいいよな」

「バーロ―。こういう時はプロレスごっことかの接触系の遊びを選べ。ラッキースケベのチャンスだぞ」

「「「「その手があったか!!」」」」

「ちょっと男子ー。マサキちゃんにスケベ行為をしたら……社会的に死なすわよ?」

「「「「すんませんでしたぁ!!」」」」

「まあまあ、ちょっとぐらいならかまわんよ。俺でよければ、とらぶる体験しとけ」

「「「「こいつ女神か!!」」」」

「マサキちゃん!?男子の性癖破壊するのやめて!!」

 

 俺は子供たちと童心に帰って心行くまで遊んだ。

 そうこうしていると孤児院にいた時の懐かしい記憶が呼び起された。

 あの頃も毎日たくさん遊んで、特に仲の良かった子といつも一緒に、一緒に・・・誰だっけ?

 なんだか記憶が曖昧だ。俺と仲良くしてくれた子がいた事だけはわかる。

 思い出せない・・・けど、大きくなって元気でやっていてくれたらいいな。

 

 どっぷり日が暮れて子供たちとは解散と相成った。

 俺は一日限りのスペシャルゲストとして彼らの思い出になり、そして忘れ去られていくのだろう。

 これでいい、これでいいのだ。寂しいけど・・・サラバダー(ノД`)・゜・。

 

 愛バが帰って来るまでに部屋の掃除をして風呂も沸かして・・・

 

「うう、持病の腰痛がぁ。いたたたた」

 

 帰宅を急いでいると歩道に倒れ込む人影が見えた。

 尻を高く上げうつ伏せになった老婆?すげー変なポーズだ。

 

「あーどこかに優しい幼女はおらんかね~。あいたたたたた」|д゚)チラ

 

 ワザとらしい事この上ない。しかも、今こっち見た。

 どうしよう?スルーしたいけど、本当に困っていたら大変だ。

 ぱぱっとヒーリングして即行で立ち去ればいいか。

 

「大丈夫ですか?お婆さん?」

「おやまあ、なんと可愛らしい子だろうね。いたたた、腰が、私の腰が」

 

 おまえのようなババァがいるか!!みたいなお婆さんだった。

 こいつ男じゃね?ババアのヅラが少しずれてますよー。

 筋肉質というよりヒョロガリ系のババア(たぶん変装)・・・スルーすればよかった。

 

「こんなに痛がっているのに、誰も見て見ぬふり、およよよ」

「それはあなたが怪しさ満点だからでは?」

「あー!こ、こ、腰がぁ!腰が私の仙骨が複雑骨折で粉々にーーー!!」

「それヤバいですよ!今すぐ救急車呼ばないと」

「救急車はやめとくれ、死んだ爺さんとの約束で救急車に乗ると、あたしゃ死ぬ!」

「それ約束じゃなくて呪いですよ。ええい!とにかくヒーリングだ」

「んおほぉ!腰がビクンビクンッしちゃうの」

「動かないでお婆さん正直キモイです。殴り飛ばしそうになるぐらい不快です」

 

 ヒーリングをしてやったら気持ち悪さがアップした。

 おい、腰動いてんじゃねーか!めんどくさいので適当に治して早く帰ろう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ババアは腰を痛めてないし骨折もしていなかった。

 途中で気付いた俺はババアの尻を蹴った。ババアは『ひぎぃ』と鳴いて飛び起きた。

 

「おかげさまでスッカリ元気になった」

「最初から骨折してないですよね?何が目的か知りませんが奇行は程々にしないと通報されますよ」

「お礼に我が家へ招待しよう。来てくれるよね」

「ババアのフリは止めたのですね。じゃあ、俺はこれで」

「ちょうどそこに白のハイエースがある。さあさあ、乗って乗って」

「誰が乗るか!もういい!今すぐ通報してやるから覚悟しろよ」

「てい」プシュー

「なっ!?」

 

 スマホを操作しようとした俺、そこに隙が生まれた。

 ババア(偽)は咄嗟に俺の顔目掛けて何かを噴射した!?何だコレ制汗スプレー?

 驚いてスマホを落としてしまったじゃないか・・・あ、あれ?

 

「何だ…なに……しやがっ……」

「噴射型の睡眠薬だ。超強力だが体に害はない」

 

 アホ!害が出とるわ。出まくっとるわ!

 体がふらつく、意図しない強烈な眠気が俺を襲う。

 てめぇ、こんな事してタダで済むと思うなよ。

 俺に何かあれば黙っていないヤベェ奴らがたくさんいるんだからね!

 

「く…そ……」

 

 ああ、俺はなんてバカなんだ。

 こいつだよ、不審者の正体はこいつだったんだよ!

 恐らく公園で遊んでいる時から目星を付けられ、俺が一人になるのを虎視眈々と待っていたんだ。

 しかも、ババアに扮して仮病とか・・・こんなふざけたやり方で・・・完全に油断していた俺の落ち度だ。

 もう、立っていることもできず地面に倒れる。

 くっ!何とかしてこの危機的状況を知らせないといけないのに・・・思念通話は無理、できたとしても距離が遠すぎる。

 

「この子か?おお!すげー美幼女だな」

「こ、これなら、神も文句なしっスね」

「丁重に運んでやれ、この子は大事な供物だからな」

「追跡されぬよう、スマホはここで破壊しておけ」 

「わかってるって」

 

 声が聞こえる複数の男の声だ。さっきの車に仲間が乗っていたのか・・・

 触んな!と抵抗することもできず、俺は男たちによって白のハイエースへと運ばれてしまった。

 俺スマホ踏んづけて壊した奴、弁償しろ!

 

「行くぞ。皆待っている」

「ああ、全ては我が神のために」

 

 何が神じゃ!シャミ子なら今頃きっと笑ってるはずだよ、チクショウ―!

 意識が朦朧とする中で、俺は自身の情けなさと愛バたちへの申し訳なさでいっぱいだった。

 ねえ、俺どうなっちゃうの?

 



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一難去ってまた一難

 オッスオラマサキ!

 今、見知らぬ男たちと快適とは言い難いドライブの真っ最中だ。

 仮病ババアの罠に掛かってご覧の有様だよ!

 愛バの忠告を無視した大バカ者とは俺のことだ。

 

 でもさあ、いきなり睡眠ガスを幼女の顔面に噴射するなんて酷い奴らだと思わない?

 もろに吸い込んで意識を失った俺は、奴らのワンボックスカーまでご招待されたって訳。

 怪しいババアを助けようとしただけなのに、なぜこんな目にあわなくてはならんのか?

 おのれ幼児誘拐犯たちめ!人の善意を踏みにじった報い、思い知らせてやるから覚悟しておけ!

 

「よく眠ってる。何だ、この子、めちゃクソ可愛いんだけど?」

「数日間、吟味した中でも最高の幼女だぜ。苦労した甲斐があった」

「途中で起きたりとかしませんか?」

「即効性かつ強力な睡眠薬を使った。アジトに着くまでは起きるはずねぇ」

「そっか。ならば今がチャンス!天使の寝顔を凝視せざるを得ない!」

「お前だけズルいぞ。運転変われや!」

「しゃ、写真は?撮影してもよいのでしょうか」

「丁重に扱えと言っただろう。お触り厳禁だ」

 

 車内にはババアに変装していた奴を含めて4人の男が乗っている。

 後部座席に寝かされた俺を今すぐどうこうする気は無いようで安心した。

 今どの辺だろうか?拉致された場所からは大分離れたと思う。

 寝顔を見られていると思うと、迂闊に目を開けて外を確認することもできない。

 

 眠っている癖にごちゃごちゃ考え事をしているのはおかしいだって?

 フフフ、気付いたか。そうだよ!俺は寝たフリをしているだけだ。

 眠気でふらついた瞬間、誘拐犯たちに気付かれないよう、とある行動をしたのが功を奏した。

 何をしたのか説明すると、以前にゴルシからもらった激烈冷感湿布"ゴールド湿布"を体に貼り付けたのだ。

 うひぃー超爽快!COOL!COOL!COOL!COOL!

 痛みを伴う程の冷えを感じて『あひゃぁ(゚∀゚)』と叫ばなかった自分を褒めてやりたい。

 我慢した甲斐があり、眠気には何とか抗うことができた。

 ありがとうゴルシ。クソの役にも立たないなんて言ってごめんね。枯れ木も山の賑わいだったよね。

 一つ誤算だった事がある。ポケットに入れっぱなしだった湿布に気付き、貼り付けるまでほんの僅か、どこに貼るかなんて選んでいる暇は無かった。

 だからって、どうして尻に貼るかなぁ・・・おかげで自慢のロリヒップがキンキンに冷えてやがるぜ。

 寝たフリしながら凍える尻に耐えるのは中々の苦行である。無事に帰れたら愛バに尻を擦ってもらおう。

 

 ようするに、俺は逃げようと思えば逃げる事ができた。

 でも、それをせずに大人しく捕まってやったのには理由がある。

 幼女誘拐などロリコン(善)の俺には許せぬ犯罪だ。多少なりとも懲らしめてやらなければ気が済まない。

 そう思い立ったが吉日。今日限りの幼女姿でワザと捕まり奴らの懐に潜り込むことにした。

 可能な限り情報収集した後は華麗に逃走!警察とギルドに『タスケテ―!』と駆け込めば任務完了だ。

 俺は転んでもたたでは起きない男!己に課したこの重大ミッション、成し遂げてみせる。

 

 尻の感覚が麻痺して来た頃、車はようやく停車した。アジトに到着したらしい。

 車を降りて行く男たち。ここからは徒歩で移動かしら?

 体を持ち上げられる感覚、男の一人が俺をお姫様抱っこして運ぶ気だ。

 もう変なところ触らないでよね、金取るぞ?

 

「うへぇ、階段で4階まで行くんスか…エレベーターは?」

「とっくの昔に故障中みたいだな。年季の入った廃ビルだけの事はある」

「アジトにできる場所があるだけマシと思う事にしようぜ」

 

 廃ビルか、悪い奴のたまり場としは定番のチョイスだ。

 男たちはぶつくさ言いながらも軽快な足取りで階段を登って行く。

 程なくして4階へと到着した彼らは迷うことなく進んで行き目的の場所へたどり着く。

 新たな人の気配がする。待ち構えていた何者かと会話をしているみたいだ。

 

「戻ったか。それで収穫は?」

「バッチリだぜ。ほら見ろよ」

「うおっ!こいつは……すげぇ美幼女連れて来たな」

「そうだろ。このレベルの幼女には滅多にお目にかかれないぜ」

「通ってもいいよな?」

「ああ、みんな首を長くして待っていたぞ」

 

 話をしていたのは奴らの仲間でアジトの門番らしい。

 開け放たれた扉の先で誘拐実行犯たちを待っていたのは歓声の嵐であった。

 拍手と労いの言葉で気を良くした男たちは、戦利品である俺を『どうだ!』と言わんばかりに見せつけている。

 それにより仲間たちの熱気と興奮は更に強くなる。

 『よくやった!』『おお、そいつが』『ヒャッハー!極上の幼女だ』等々の叫びが部屋を埋め尽くす。

 バレないように薄目を開けてみたが、ざっと見て30人前後ってところか・・・少ないけど女もいる。

 

「待っていましたよ。首尾良くいったようですね」

「「「「ロリスキーさん!」」」」

 

 何やら偉い奴が登場したっぽい。

 騒がしかった室内が静かになり、実行犯たちも恭しい態度をとっている。

 なるほど、リーダー様のご登場ってわけか。

 ロリスキー?それが名前だとしたら相当ふざけてるな。

 

 俺の体は柔らかなクッション性のある場所、恐らくソファーの上にでも寝かされた。

 目を瞑っていてもジロジロと見られているのを感じて居心地が悪い。だから、金取るわよ?見物料払いなさい。

 

「へへ、見て下さい。どこに出しても申し分ない幼女ですよ」

「どれどれ……こ、この幼女は!?」

「うぇ!この子でもダメですか?ロリスキーさん面食いにも程があるでしょ」

「そうではありません。この子は偉大なる"あのお方"と入れ替わりに現れた存在です。BBAたちが常に護衛をしていたので接触は諦めていましたが、まさかこの様な形で手に入れることができるとは……でかした!あなたたちは大変良い仕事をしてくれました」

「やった!俺たち二階級特進ですかい」

「バカ、それだと殉職したみたいだろ」

「褒美は……これなどいかがでしょう?」

「こ、これは!?ロリスキーさん秘蔵の激レア"ロリブロマイド"」

「ピントがややズレているが間違いない。こんな貴重な物を、本当にいいんですか?」

「非常に貴重な品ですが、大仕事をやり遂げたあなたたちに相応しいでしょう。一枚しかないので拝むのはケンカせず順番に、あと保存には細心の注意を払って……聞いてますかー?」

 

 激レアブロマイド!?み、見たい、見たいけど我慢だ。

 とっくの昔に気付いていたが、こいつらはロリコン(悪)の集まりということでOKね。

 さて、ここからは慎重に動かないとな。

 しばらく寝たフリで聞き耳を立て、隙をみて奴らの人相を確認する。

 最低でもロリスキーとやらの顔はしっかり覚えて帰らなければ、脱出方法も考えないといけないし、やる事いっぱいだ。

 

「入手難易度最高ランク、とある令嬢の幼少期隠し撮り写真」

「すごい!すごすぎる。こんなのが拝めるなんて夢みたいだ」

「撮影した奴は命知らずだな。マジで尊敬するわ」

「で、この子は一体誰なんです?」

「お前そんな事も知らねーのか?前髪に特徴的な形の模様が入っているだろ」

 

 令嬢の盗撮写真とはいい趣味してんなあ。それは貴様らロリコン(悪)には過ぎたる物だ。

 どこの誰かは知らないけれど写真は没収して、お焚き上げするのがいいだろう。

 これが愛バや知り合いの写真なら永久保存待ったなしだけど、そんな事あるわけないよな。

 はははは・・・

 

「え!?嘘、これマジっすか!」

「そうさ、クレイジーな噂の絶えないウマ娘と言えばわかるだろう。みんなで正解を言うぞ、せーの」

「「「「サトノダイヤモンド!」」」」

 

 は?キレそう。

 

ちょっとその写真、見せてもらえますか?

「「「「え???」」」」」

 

 俺は飛び起きた。もう潜入ミッションとかどうでもよくなった。

 突然の事で面食らい対処不可能に陥った奴らに近づいて写真を凝視する。

 シロの写真は操者権限で没収だ。さあて、どんな場面を盗撮したのか見せてもらうぜ。

 

 そこには、前髪に白い模様が入ったロリウマ娘が写っていた。

 白くて丸い模様がかわ・・・丸?・・・あれれ、◇じゃなくて〇に見えるぞ。

 と、言う事はですよ。

 

「人違いじゃないか!!」

 

 ウマ違いとも言う。模様だけでなく、よく見たら顔も全然似てない。

 耳の形も大きさも、知的で何処か愛嬌のある瞳も、アレもコレも全部違う!

 こんなのうちの子じゃないよ。俺の知っているシロじゃない!

 

「もう起きただと!?薬の効き目が悪かったのか」

「なんかめっちゃキレてる」

「取り押さえろ。逃げる気だぞ」

 

 俺が動いたり叫んだりした後で、ようやく我に返った奴らが騒ぎ出す。

 だが、今はそんな事はどうでもいいいんだよ!

 

「この写真の子はサトノダイヤモンドではない!断じてない!」

「な、何を根拠にそのような事を、私がそれにいくら払ったかご存知なのですか?それは間違いなく本物だと……」

 

 俺の断定に震える声を出す男がいる。

 こいつがロリスキーか、何処かで見たようなヒョロガリ眼鏡野郎だな。

 

「シロのチャームポイントが全然違う。こんなもん間違い探しにもならんわ!」

 

 俺は怒りのままに説明してやった。

 ひし形の模様が正解だということに始め、本物がどれだけ美しく可愛らしいか懇々と語ったのだ。

 語っている最中にも、じっくり写真を見て解った事だが、不自然な背景と極微量な歪みのようなものを発見してしまった。

 もしかしてコレ、合成写真なのでは?そもそも写っているのはウマ娘じゃなくて、つけ耳している人間なのでは?

 

「バカな……それでは私は、私は…」

「詐欺られたな。そもそもコレどこで買ったんだよ?売った奴はもうとんずらしてるだろ」

「ウマカリで出品されておりました。とても丁寧な応対で、気持ちよく取引できたのですが…」

「大変っスよロリスキーさん!この子の言う通り調べてみたら、出品者が垢BAN食らってます」

「何ィィィーーー!?」

「あーやっちまったなあ」

「ロリスキーさん、お気を確かに」

「『ロリ物と聞いて購入したらBBA!』よくある事っス」

 

 のけ反りながら嘆き続けるロリスキーが哀れに思えてきた。

 慰めてくれる仲間がいて良かったな。

 

 参ったな、勢いで起きてしまったぞ。この時点で潜入ミッションは失敗だ。

 大体の人数と顔は確認できたし、俺はこの辺でおいとましようかな。

 そーっと、そーっと、抜き足差し足でね。

 

「お待ちなさい!」

「誰が待つかボケ。あばよ!」

「あ、逃げるぞ!」

「待て!」

「オーク!出番ですよオーク!」

 

 出入口扉目掛けてダッシュ!誰にも止められないぞ。

 ロリスキーがなんか喚いているが無視して行くぜ。

 

「ま、まつんだな」

「何だこいつっ!?」

 

 逃走ルート上の扉が開け放たれ、2メートル近い巨漢が現れた。

 筋肉質の太腕にでっぷりとした太鼓腹、ハゲ頭に豚によく似た顔面をしている。

 異世界ものに結構な頻度で登場するオークと呼ばれるモンスターそっくりだ。

 に、人間なんだよな?

 

「にがさない。おで、おまえ、つかまえる」

「やれるもんならやってみろ!」

 

 こいつ、たどたどしもの言いのパワータイプか、解りやすいな。

 オークと俺では体格差がありすぎる。それを上手く利用させてもらおう。

 考え無しに突っ込むと見せかけて急停止、大きな腕が空振りしたところで左側から一気に抜き去る。

 

「つ、つかまえたんだな」

「は!?え!?」

 

 ぶよっとした何かにぶつかる感触。これはオークの腹だ!?

 そのまま両腕で拘束されてしまう俺。

 お前怪力鈍重キャラじゃないのかよ。その見た目で反応速度がおかしいだろ!

 チッ、デブはデブでも動ける方のデブだったか。

 ミスった。最初からバスカーモードを使って逃げるべきだった。

 今からでもこいつをブッ倒して・・・

 

「がぁ!」

「ククク、オークを甘く見ましたね。大人しくしてもらいましょうか」

 

 体に衝撃が走る。ロリスキーが俺にスタンガンを押し当てたのだ。

 今日こんなんばっかりだ!だが、ここで気絶してなるものかよ。

 残念だったな。俺の尻はまだ冷えてるぜ!早くこの湿布剥がしたいわー。

 

 〇

 

 気絶こそしなかったが、電気ショックの影響で体に力が入らなくなった。

 今の俺は、ロリスキーたちによってロープで体をグルグル巻きにされ、ボロっちい椅子に座らされている。

 回復までしばらくかかりそうだ。逃げる隙をうかがいつつ、会話で時間を引き延ばそう。

 

「俺をどうするつもりだ?わかってんのか、これは犯罪だぞ」

「このスタンガンで気絶しないとは……ただの幼女ではありませんね」

「ロリスキーさん。こいつ普通じゃないよ、ヤバくないですか?」

「なんか嫌な予感がするっス」

 

 ロリスキーは先程の巨漢、オークを従えて余裕の態度を崩さないが、他の奴らは俺の存在に不安がっている。

 

「まあ待ちなさい。普通ではないこの幼女こそ、あのお方への供物として相応しい。そう思いませんか?」

「言われてみれば確かに」

「ロリスキーさんが言うなら、俺らは文句なんてありません」

「"あのお方"って誰だよ?」

「我らの神です」

 

 神?神の知り合いなら俺にもいる。夢に出て来るぐらい仲良しな神がな。

 

「神と言ってもあの方は実在する。言うなれば現人神なのです」

「あ、宗教とか興味無いんで結構です。神より、お前たちの事を教えてくれよ」 

 

 神について熱く語ろうしたロリスキーを制した。

 こいつにはヴォルクルス教団を率いていた頃のルオゾールと同じ臭いを感じるぞ。

 語りを邪魔されたロリスキーは気分を害した様子もなく『いいでしょう』と自己紹介に応じた。

 

「我が名は露理鋤(ろりすき)(みこと)。皆からはロリスキーと呼ばれております」

 

 ろりすき!?・・・すごい苗字だ。そして酷い。

 オリキャラの名前を考えるのが『クソめんどい!』という未知のプレッシャーを感じる名前だぜ。

 

「こちらの大男は大久田(おおくだ)(あつし)。団員の中でも随一の戦闘能力保持者で、あだ名はオーク」

「よ、よろしくなんだな」

 

 おおくだ・・・だからオークなのね。

 俺を捕まえた手腕は確かなようで、仲間内では一番強い奴ね・・・スピードもあるし要注意だな。

 

「他の者は、面倒なので割愛します」

「「「「ええー、そりゃないっスよぉー」」」」

 

 そうしてくれるとありがたい。№1と№2が判明すれば十分だ。

 ガッカリして肩を落とす団員たちだったが、ロリスキーとオークが目配せすると二人を中央にしてズラッと整列した。

 

「「「「我らはMML団!!」」」」

 

「「「「神の教えに従い尊くも儚い存在を見守る者なり!」」」」

 

「「「「すなわち!幼女大好きだぜー!!」」」」

 

 だぜー!じゃないが?

 30人近い大人が奇妙なフォーメーションを組み、声を揃えて何をほざいているんだろう。世も末だな。

 お前が言うなって思った?

 俺はこいつらみたいに群れたりしないし、迷惑もかけない。孤高の幼女愛好家だよ。

 

「そして偉大なる我らが神ぃぃ!その名も━━」

 

 ロリスキーが手で指し示す場所にスポットライトが当たる。

 そこにあったのは、豪奢な額縁に飾られたB1サイズの肖像画だった。

 どこかでというか、少し前までいつも見ていたような?最近見てないような男の顔に似ている。

 顎が異常に尖っているのが気になる。どこの学園ハンサムだよ。

 

アンドウマサキ様である!!

「「「「うおおおっ!マサキ様ー!マサキ様ー!マ・サ・キ!!」」」」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?( ゚Д゚)

 

「ごめん。もう一回言ってくれる?」

 

 気のせいだよな。気のせいに決まっている。気のせいじゃないとおかしい!

 

「アンドウ!マサキ!様であーるぅぅぅっ!!」

 

 気のせいじゃなかった・・・_| ̄|○ 

 やっぱりアンドウマサキと言っているよ。

 じゃあ、同姓同名という可能性は?

 日本中探せばアンドウマサキなんて名前の奴、わんさかいるよね、ね!

 

「トレセン学園で養護教官をしていらっしゃる、アンドウマサキ様です」

「・・・・」(T_T)

 

 オッケーオッケー。わかった現実逃避はひとまずやめよう。

 まずは認める事から始めようじゃないか、どうやら俺は知らぬ間に神となっていたようだ。

 MML団というロリコン(悪)の信仰対象として祭り上げられてしまっている!?

 

「MMLとは何の略だ?」 

「マサキ様、マジ、ロリコン、の頭文字をとって……」

「バカ!バーカ!バ――カッッ!!ホントにバッカじゃねぇの!」

「きゅ、きゅうにあばれだしたんだな。お、おち、おちつくんだな」

「我らの団名をバカにするとは、なんと罪深い」

「このふざけた絵はなんだ!顎が尖りすぎなんだよ!最早ただの凶器だよ!」

「マサキ様のご尊顔を描いていると、つい筆が乗ってしまいましてな」

「お前が描いたんかい!」

 

 頭の悪い団名にも、ロリスキーが描いた鋭利な顎にも腹が立ってきた。

 何なんだよお前ら、俺を崇めたいのかバカにしたいのかハッキリしろよ。

 好き勝手に人を神様扱いして、そんなのルオゾールたちで間に合っている。

 

「我らの事は理解できましたな?次はそちらの番です。あなたのお名前を教えてください」

「……アンドウマサキ」

「そう、それこそが偉大なるお方の名前です。魂に刻みつけると良いですね。で、あなたのお名前は?」

「アンドウマサキ」

「神の名を呼ぶ時は『様』をつけて敬うのがよいでしょう。あの、名前を……」

「マサキだ。俺がマサキだ」

「頑なにマサキ様の名を呼んでいる。これは一体?」

「もしかして、この子、俺たちの仲間になりたいんじゃないっスか?」

「何ぃ!入団希望者だと!?」

「か、かわいいこは、だいかんげいするんだな」

「その若さでMML団の志に感銘を受けるとは、なんと聡明で純真なる魂」

 

 入団なんかするかぁーー!だからさぁ(# ゚Д゚)

 

俺がアンドウマサキだって言ってんだろォ!!

 

 いい加減頭に来たので、バスカーモード発動させた。

 体を拘束するロープを引きちぎり椅子から立ち上がる。

 

「なんだ何が起こった!?」

「やっぱり普通じゃないっスよ。あの子おかしいっスよぉ」

「この光……まさか全て覇気なのか?」

 

 舞い散る粒子光で辺りは騒然となった。

 多少なりとも腕に覚えがある奴らは、俺の覇気を感じ取り慌てふためいている。

 

「お前らぁ!誰の許可で団体結成しとるんじゃあああ、ああコラぁ?」

 

 一回りも二回りも大きな大人たちを威嚇しながら吠える。

 質問に答えたのは代表であるロリスキーであった。

 

「ある日、マサキ様が夢枕に立ちおっしゃいました『ロリスキーよ。同志を集め幼女愛を世界に広めるのだ。お前にその大役を任せよう、頼んだぞ』と」

「お前の夢というか、ただの妄想だろうが!俺はそんなことを言った覚えはない!」

「自分とマサキ様を混同するのはおよしなさい。不敬ですよ」

「俺が俺を名乗って何が悪い」

 

 ダメだ、話が通じない。

 俺がマサキ本にだと信じさせるにはどうしたら?もういっそのこと全員やっちまうか?

 

「聞き分けの無い子ですね」

「どっちがだよ」

「ロリスキーさん。お、俺たちはどうしたら?」

「あ、あぶないんだな」

「善意の協力者として丁重に扱うつもりでしたが、こうなっては仕方ありません」

 

 俺の覇気に危機感を抱いたロリスキー、息を整えてから宣言する。

 

「これより、マサキ様再臨の儀を執り行う!」

「「「「うおおおっ!待ってましたぁ!!」」」」

 

 団員たちの雰囲気が変わった!?

 威勢と活気を取り戻した団員が俺の周りをぐるりと取り囲む。

 なんだ?やる気か?

 

「へへへ、お嬢ちゃん。まずはこいつに着替えてもらおうか?」

 

 団員の一人が差し出してきたのは園児服、スモックと呼ばれるやつだった。

 何それ気持ち悪っ!着るかボケ!

 

「おい嫌がってるだろ。天使のようにカワイイ君には、こっちの衣装が似合うよ」

 

 別の男がミニサイズのナース服を取り出す。コスプレして白衣の天使になれと?

 はい、鳥肌が立ちましたよ。

 後退り首を振る俺に団員(変態確定)たちが、代わる代わる様々な衣装を着ろと要求して来る。

 悪夢だ。

 

「まてまて、引いてるだろ!やっぱセーラー服だよな、な!」

「おっと、こんなところに水着が……せっかくだから着てみない?」

「選り取り見取りだぜ。好きなの選んでくれよな」

 

 キモいよぉーー!!

 こいつら俺の幼児体形に合うミニサイズのコスプレ各種を完備してるよぉーーー!

 おまわりさんこいつらです。変態の巣はここです!今すぐ来て!!

 

「衣装は後回しにしようぜ。大事なのは心ときめくシチュエーションだ」

「「「「確かに!!」」」」

 

 変態たちは止まらない。俺のサブイボも治まる気配がない。

 

「俺のことはお兄ちゃん…いや『にぃに』と呼んでくれ!」

「バブみを感じてオギャりたい。甘えていいかな?」

「思いっ切り蔑んでほしいなぁ。具体的には『このブタ!』と言いながら足蹴にされると幸せ////」

「ダメダメ、この子には百合ん百合んの素晴らしさを教えるんだから」

「俺だって━━」

 

 コスプレの次は希望シチュのプレゼンが始まった。

 もう嫌、脳が腐りそうよ。

 

「全部お断わりだ!」

「「「「そ、そこをなんとか!!」」」」

「おい!これは一体どういう事だ?幼女の俺にもわかるよう説明しろ」

「これは儀式です。マサキ様を現世へと呼び戻すための儀式」

「意味わからん」

「簡単な事ですよ。我らが楽しく"幼女とキャッハウフフ"していると知れば、マサキ様は『まぜて~♪』と喜び勇んで現れてくれるでしょう」

「ロリスキー、あたまいいんだな」

「はぁぁっ!?」

「あなたほどの高レベル幼女ならば、マサキ様もご満足されるはずです。さあ、自信をもって!」

「が、がんばるんだな」

「いらん励ましをするなバーカ」

 

 俺がそんなのでおびき出されるバカだと思ってたのか!なめるの大概にしろよ。

 

 事件の全貌が見えて来た。

 アンドウマサキを神と崇めるMML団は、俺の姿を見て祈りを捧げる事を日課にしていたらしい。

 知らぬ間に集団ストーカーされていたとか、普通に怖いぞ。

 今気づいた。学園への登校中に見た変な集団はMML団で、トリップしていた怪しい男はロリスキーだったのだと。

 一週間程前から俺の姿が見えなくなり入れ替わりに謎の女が現れた。更にそれを小さくしたような幼女の登場にロリスキーたちは大いに混乱した。

 わけがわからない状況を都合よく解釈するに至ったMML団は、これを神(俺)からの試練だと思うことにした。奇しくも俺がシャミ子から試練を受けいる最中にこんな事に・・・マジ迷惑!

 ロリスキー曰く『信者たちよ、俺を見つけてごらんなさい~』という電波を受信したのだという。

 闇雲に探しても見つからないと判断したロリスキーは一計を案じ、ひらめいた。

 それこそが『美幼女を準備しておびき出そうぜ計画』だ。

 幼稚園をうろついていた不審者の正体は、神のお眼鏡に適う美幼女を見繕っていたMML団員である。   

 運命のいたずらか、それにまんまと捕まったのが俺だったとは・・・

 お前ら、神と崇める男をおびき出すどころか捕獲しているぞと、教えてやりたい。

 

 だが、その前に言いたい事がある

 

「そんな理由で誘拐などしたのか?攫われて恐怖する幼女の気持ちを、帰って来ない子供を心配する親やその家族の気持ちを、少しは考えろ!」

 

 俺だから良かったようなものを、普通の幼女が被害に遭っていたら大問題だぞ。

 

「我らとしても苦肉の策なのです。だが、マサキ様がお戻りなれば全て解決します」

「するかぁ!」

「あなたもマサキ様にお会いすれば解りますよ。あの方の御威光がね」

 

 何がMML団だ。こいつらわかっていない、本当に何もわかっていない!

 

「さて、もういいでしょう。収拾がつかなくなる前に儀式を始めます。記念すべき最初シチュは・・・団員ナンバー25番にあなたの案に決定です」

「「「「おお……!」」」」

 

 強行突破で儀式を行おうとするMML団、説得する暇もありゃしない。

 最初のシチュ!?こいつらの望むプレイの全てに俺が付き合わないといけないのか?

 冗談じゃない。

 

「やったぞ。僕がトップバッターだ!さあ、お嬢さん。この哀れなブタを力の限り罵ってくれ!おっといけない、女王様と呼ぶべきだったね」ハアハア

 

 ドⅯ野郎が鼻息荒く迫って来た。よりによってお前かよ!!

 

このブタぁぁぁッ!!

 

 優しい俺は望みを叶えてやる事にした。

 覇気を込めた強力な金的蹴りをお見舞いしてやったのだ。

 

「あふん///」パタリ

 

 幼女の蹴りだと侮る事なかれ、ドⅯ野郎は衝撃で一瞬だけ宙に浮き、恍惚の表情で崩れ落ちた。

 

「25番が逝ったぁーーッ!?」

「ほっとけ奴も本望だろ」

「あの顔見ろよ。なんて幸せそう……」

 

 俺はファイティングポーズをとる。バスカーモードも再起動した。

 多少は回復した、いける。

 

「抵抗する気ですか、この人数相手に?」

「お前ら如きにやられる俺じゃねえ」

「さっき、おでにやられたんだな」

「そんな事知らね」

 

 やられてない。あれはちょっと油断しただけなのでノーカンだ。

 

「誘拐という暴挙に出たお前たちに、幼女と楽しく遊ぶ権利などありはしない!」

「確かに正論だな」

「惑わされてはいけません。早く取り押さえなさい!」

「よーし!あの子を大人しくさせた奴が好きにできるって事だな」

「へへ、俄然やる気が出てきたぜ」

 

 戦闘開始!とりあえず全員ぶちのめす事を目標に動くぞ。

 

「ひとつ、教えておいてやる」

「何だ急に偉そうにして━━」

幼女は手折るものではなく、愛でるものだ!!

「「「「ぐあぁぁ!なんと言う真理だぁーーー!!」」」」

 

 『幼女は愛でるもの』これこそがアンドウマサキの教義であり、宇宙の真理である。

 俺の言葉にヤックデカルチャーした団員たちが動きを止める。

 ショックを受けている時点で、お前たちには修行が足りない。幼女への愛が足りないのだよ!

 

「隙だらけじゃい!」

 

 手近な奴の腹に拳を突き出すと男が吹っ飛んだ。ひとつ!

 呆気に取られた隣の女に"見逃しちゃう手刀"を食らわし昏倒させる。ふたつ!

 みっつ、よっつ、いつつ、むっつ・・・このままドンドンいくぞ!

 

「「「「ぅゎょぅι゛ょっょぃ!!」」」」

「言ってる場合か!あべしッ」

「ロリ神様のお怒りじゃ!俺たちは禁忌に触れてしま……ぐへっ」

「待ってくれ!俺には大事な家族とも呼べるPCのお宝ファイルが大量に、あ゛あ゛」

「こんなところにいられるか!俺は家に帰るぞ。いやホントもう帰りますんで勘弁してく…れなかったぁーー!」

 

 30人以上がひしめく中、頑張って力の限り暴れた。

 俺が戦える時間は限られていて多勢に無勢な状況だ。急ぎつつ効率よく数を減らさなくてはいけない。

 

「ロリスキーさん!デバイスの使用許可を!」

「やむを得ません。なるべく傷つけないよう、お願いしますよ!」

「無茶を言ってくれる。手加減して勝てる相手じゃないってのに」

「お、おれも、いくんだな」

 

 残り数人になった。

 あともう一息だ。残ったのは戦闘訓練を受けた者らしく、デバイスの使用もためらわない。

 ロリスキーと、先程遅れをとったオークの姿も見える。

 

「装着!……は?あれ?」

「後ろだ!背中に幼女が張り付いてるぞ」

「どうも俺です」

「う、おお!?」

 

 敵の前でポーズを決めてデバイス装着とは、なめてやがるなぁ。

 その隙を見逃す俺じゃありませんことよ。

 装着中の相手に触れ、ちょこっと強引に覇気を流してやると・・・ほら、この通り。

 デバイスの顕現を妨害できるって訳よ。

 シュウが言うには『こんな芸当、バカかマサキしかやりません。というかできません』だってさ。

 はいはい、装着に失敗した奴の意識を奪っちゃおう。頸動脈を絞め絞めしちゃうぞー!

 

「そいやっ!」

「ふぐ……」

「またやられたぞ」

「接近されるな!距離をとってデバイスを」

「おっそーい!」

「こいつロリスキーさんを狙って!?」

「その首もらったぁ!」

「オーク!」

「まかせるんだな」

 

 オークは既にデバイスを顕現させていた。

 ロリスキーを庇うように立ち塞がる。

 使用デバイスは・・・ほう、ちょっとお高い"高機動型ガーリオンカスタム"じゃん。

 この動けるデブめ!

 スピード勝負?そんなのするわけないじゃない。

 小細工なしで直進、オークとぶつかり合う。

 

「な!?おでと、ちからくらべ、するつもり???」

「ああ、勝負だ」

「バカめ!どう見ても、そいつは無理ってもんだ」

「オークさん。やっちまってくださいよ」

 

 巨漢と幼女、互いの振りかぶった拳が激突した。

 ここだ!バスカーモード出力アップ!

 

「ああああ!」

「な、がぁッ!?」

 

 俺以外、誰も予想だにしていない結果が生じる。

 幼女の拳が巨漢の拳を打ち負かし跳ね上げたのだ。

 バランスを大きく崩すオーク、何が起こったかわからないといった顔だ。

 ロリスキーは握りしめていたスタンガンをとり落し、残った団員は言葉もなく立ち尽くす。

 まだ!次は足!続いてオークの足を攻撃した。

 踏ん張りが利かなくなった巨漢は背後の守護対象、ロリスキーの下へと倒れる事になる。

 

「う、うわぁ!」

 

 寸前のところで慌てて回避するロリスキー。奴が床に落としたスタンガンはもらったぜ。

 スイッチはコレかな?倒れたオークにスタンガンを押し当てる。

 

「ぐばべばば!?!?」

 

 一回じゃ気絶しなかったので何度も連打した。その度に大きな体が激しく痙攣する。

 オークの意識が落ちたのを確認して、ロリスキーを含む残存勢力を睨みつけた。

 

「まだやるかい?」

「くそぉ。ロリスキーさんだけでも助けないと」

「こうなったら死なばもろとも」

「やってやる、やってやるぞ!」 

「待ちなさい!これ以上戦ってはなりません」

 

 最大戦力のオークを失い、決死隊になろうとする団員をロリスキーが止めた。

 おや、ロリスキーの俺を見る目が先程までとは違う気がする。

 

「あなたは何者ですか?」

「お前たちが神だの何だと言ってる奴だよ」

「その様な事が、だが、その力、神々しいまでの覇気…まさか本当に‥‥‥」

 

 ゴクリと唾を飲みこむロリスキー。

 団長のただならぬ様子に、他の団員たちは顔を見合わせて困惑している。

 小刻みに震えるロリスキーは俺に向かって手を伸ばし、何度目かになる問いかけをする。

 

「あなたの……あなた様のお名前を、どうかお聞かせください…」

 

 ふぅー、やっと聞いてくれる気になったか。┐(´∀`)┌ヤレヤレ

 

俺はアンドウマサキだよ

「「「「ははーーっ!!」」」」

 

 本名を言うと、意識のあるMML団の全員が平伏した。

 俺をアンドウマサキだとようやく認識してくれたようで何より。

 これでこのバカ騒ぎも治まるな。

 

 〇

 

 平身低頭を続けるロリスキーたち、意識を取り戻した団員たちも、それに追従するから困ったものである。

 30人近い大人たちが幼女に平伏する異様な光景は怪しい団体そのものだ。

 ただ一人、オークはスタンガンの連打が効いたらしく未だに目を覚まさない。

 息はしているので、そのうち回復するだろう。

 

「ずっとそうしているつもりか?もう飽きたらやめようぜ」

「いえ、そういう訳には……我々は神であるマサキ様に牙を剥き、とんだご無礼を……合わせる顔がありませぬ」

 

 圧倒的土下座スタイルを崩さないMML団一行。

 される側になるのは久しぶりだが結構キッツイな。

 話が進まないので、とっとと顔を上げてほしい。

 

「今はこんな姿だけど、俺をアンドウマサキだと認めたってことでいいな?」

「その通りでございます」

「言う事は聞いてくれるのか?」

「なんなりと」

「じゃあ……くるしゅうない、皆のもの(おもて)をあげい」

「「「「はっ!!」」」」

 

 殿様風に言ってみると、全員が一糸乱れぬ動きで顔を上げた。こっわっ!

 コスプレを強要された時とはまた違う、団員たちの熱い眼差しが怖い。

 

「俺の事をどこで知った?MML団結成に至った経緯は?包み隠さず説明してもらおう」

「わかりました。全てお話します」

「頼むよ」

「その昔、まだ世界が混沌のただ中にあった頃、神々と魔の軍勢が━━」

「はいストップ!」

 

 その語りは絶対長いだろ。不要な妄想はいいから、俺に目を付けたところから話せよ。

 

「ふむ。私とマサキ様の運命的な出会いからですね」

「今日が初対面のはずでは?」

「極短時間でしたが、お声をかけていただいた事があるのです。そう、あれは三年程前……」

「あ、回想に入るのね」

 

 三年前・・・ある街で某有名美術大学に通うロリスキーが暮らしていた。

 彼の趣味はテーマを決めず気ままに風景画を描くこと。

 そして、近所の公園で幼女たちを見守り、ほっこりする事だった。

 無邪気に遊ぶ幼女たちの声をBGⅯにして、キャンバスに筆を走らせるの日々のルーティーン。

 自分のささやかな楽しみを、他人に理解してもらおうと思わないし、理解されないとも思う。

 幼女に声をかけ、一緒に遊ぶなど夢のまた夢、それが即刻通報案件になる事を彼はよく知っていた。

 

 ある日、驚くべき光景を目にすることになる。それは子供たちに混じって遊ぶ変な男だった。

 自分よりやや年上の男は公園に寝泊りしているらしく、いわゆるホームレスだ。

 男は子供たちから『村長!村長!』と慕われており、村長と呼ばれる男は『ほっほっほ、今日も仲良く遊ぶんじゃぞ』と朗らかに笑っていた。

 子供たちと一緒に本気で遊び騒ぐ男・・・羨ましく妬ましいと、この時はそう思った。

 

 男は幼女、特にウマ娘の幼女に大人気だ。

 抱き着かれ、おんぶや抱っこをせがまれて、嫌な顔一つせずその希望を叶えている。

 嬉しそうな幼女の顔、それよりもっと嬉しそうで非常にだらしのない男のを見て『こいつは自分と同類なのでは?』と思うようになった。

 謎の男を観察して解った事だが、奴は子供たちの親と気軽に接していた。

 どう見ても素性の怪しい男なのに、不審者として真っ先に警戒されるべきはずなのに・・・何だそのコミュ力?

 親も親だ。何故その男と馴染んでいる?子供が何かされるとは思わないのか?

 昼間は子供たちと遊んでいる癖に、夕方から夜にかけては中学生ぐらいのウマ娘と仲良さそうにしているのも、訳が分からなかった。

 

 謎の男に対し、ロリスキーは身を焦がすような嫉妬心を感じている。

 それと同時に羨望と憧憬の感情も、日々募っていくのであった。

 

 ある夜の事、公園がいつも以上に騒がしかった。

 謎の男とウマ娘、他にも様々な年齢の老若男女がなんと、鬼ごっこに興じていたのだ。

 バカみたいに騒いで走ってクタクタになってもやめられない止まらない、本気の鬼ごっこ。

 気付けはロリスキーも参加していた。どうしてそうなったのかは、場の雰囲気に当てられたとしか言いようがない。

 序盤でアッサリ捕まってしまったが、不思議と気分は良かった。

 自分を捕まえたあの男に『ナイスファイト』と肩を叩かれた時は『ど、ど、どうも』と返す事しかできなかったが、男は親指を立てて笑ってくれた。

 男を中心に人の輪が出来ていた。誰も彼も楽しそうだった。

 その輪の中に自分が含まれている事が嬉しかった、誇らしかった。

 

 謎の男。いや、この人は凄い人だ。

 何が凄い?と具体的に聞かれると説明に困るが、とにかく凄い人だ。

 ロリスキーは目が覚める様な感覚に酔いしれながら、今後のことを考えた。

 この人のような強くたくましい男を目指そう。そうと決まれば、やるべき事はひとつ!

 弟子入りだ!この人の生き様を学ぶため、お傍に使える。自分の師匠になっていただくのだ!

 

「スズカたちとやった集団鬼ごっこ。お前もいたのか!?……ごめん、覚えていない」

「お気になさらず。当時の私は今以上にキモかったと自負しております故」

「自負するなよ。あーその、なんだ、もうちょっと体を鍛えて髪も短くすれば大分印象変わると思うぞ」

「お心遣いありがとうございます。マサキ様は短髪マッチョが好み、と」メモメモ

「メモせんでいい。それより続きを」 

「はい。私は弟子入りする決意を固めました、が……時すでに遅しだったのです」

 

 集団鬼ごっこした翌日、ロリスキーは師匠の姿を求めて街中を探し回った。

 慣れない聞き込み調査で判明したことは、師匠は既に旅立ったという結果だ。

 追いかけなくては、今を逃したらこの先一生会えない気がする。

 ロリスキーは旅立った。休学届を出し、両親を適当に説得して、師匠を追いかける旅を開始したのだ。

 

 旅立ってしばらくが経過した。

 幸運にもロリスキーはトレセン学園を出入りしている師匠を発見した。

 さっそく弟子入りを願い出たい、その気持ちをグッと我慢して一旦落ち着く。

 師匠の旅には何か重大な目的がある、それの邪魔をしてはいけないのだ。

 まずは情報収集をしなくては、自分は師匠の事を知らなすぎる。

 憧れに近づきたいという情熱と、元来の情報分析能力を駆使して師匠の情報を集め回った。

 

 師匠の名前はアンドウマサキ。これより、マサキ様と呼ばせていただこう。

 ウマ娘好きで幼女好き、重度のマザコンであり、そのうちシスコンも発症しそうな気配がある。

 旅の目的は幼い二人の愛バを救うため。

 なんと、なんという事か・・・愛するロリウマ娘をために、過酷な旅に身を投じているとは!

 私の目に狂いはなかった。やはり、マサキ様は尊敬に値すべきお方だ!

 この頃よりロリスキーは益々マサキに傾倒していった。

 

 マサキ様は旅を続ける。私はそれについて行く。

 こっそりと邪魔にならないように陰ながら応援するのが我が使命なり!

 そのために覇気の使い方も覚えた。隠形術と変装術、尾行のテクニックもプロ級になった。

 

「ずっとストーキングしてたのか!?怖いよ、声かけてよ!気付かなかった自分も怖いよ」

「なにぶんコミュ障なもので////」

 

 マサキ様にゴールドなんたらとか言う旅の仲間が出来た。

 悔しい!力と高度な戦闘技能があれば、そのポジションは私のものだったのに!

 いかんいかん、己の不甲斐なさを嘆く暇があるなら修練のひとつでもしよう。

 それに、私にも旅の仲間が出来たのだ。

 気は優しくて力持ち、頼りになるの巨漢、大久田敦さんだ。

 『お、おーくでいいんだな』との言葉に甘えて、オークと呼ばせてもらおう。

 オークとは商店街のお祭りで知り合った。

 せっかくお祭りに来たというのに、急な腹痛で苦しんでいたところを、颯爽と現れたマサキ様のヒーリングで救っていただいたのだ。

 その風貌から人に恐がられる事の多いオークにとって、マサキ様は救いのヒーロ―だった。

 『大丈夫か?食べ過ぎか?オグリのマネはしたらアカン!』と親身になって接してくれるマサキ様にオークは惚れ込んだという。

 『ま、まさき様は、さいこーなんだな』と、嬉しそうに言うオーク。

 そうでしょう!その気持ちはよーくわかりますよ。

 ここからは同じ志を持つ者の二人旅だ。いずれ同志が増えた時、オークは私の右腕…ナンバー2になるでしょう。

 

「マチタンの鼻血を治すついでに、そんな事があったような…」

「赤ちゃんプレイに没頭するマサキ様の雄姿は忘れられません」

「それは忘れろ」

 

 マサキ様、無人島生活からの~UC基地にご滞在。ふむふむ、さすがでございます。

 その後も日本全国を旅したマサキ様はファイン家と接触、行方不明となる。

 さすがでございま・・・行方不明?え?えぇぇぇぇぇーーーー!!??

 この頃、我々は同志を募り、団の前身となる主要メンバーも揃って来ていた。

 マサキ様の強さと優しさに感銘を受けた者、マサキ様のロリ魂に共感を持った者が導かれるようにして集合したのだ。

 ムフフ、SNSでの布教活動に精を出したかいがありました。

 そんな事より!マサキ様が、マサキ様がお隠れになってしまわれたぁーー!

 心労がたたって私は10キロ減量、オークは10キロ増量しましたよ。

 終わった、こ、この世の終わりだ。結局、話しかけられず弟子入りも出来ないまま・・・

 

 いや、まだだ!

 マサキ様はいずれご帰還なさる。その時のために準備を怠ってはならない。

 悲しみを堪え、ロリスキーは自分のやるべき事に邁進した。

 同志が20名を超えた記念でMML団を結成。

 マサキ様不在の今こそ我々の出番、愛する幼女たちをマサキ様に代わって見守るのだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 アンドウマサキ様復活ッッ!×5

 

 あの方は期待を裏切りません。思った通り五体満足でご帰還なさいました。

 あなたが神か?いや、神に決まってますね。

 弟子入りなど恐れ多い、これからは神に仕える一信者として崇めさせていただきます。

 いや~めでたい!MML団の全員でひっそりこっそり神の復活記念パーティー開催です。

 しかも、トレセン学園の教官としてご就任なされたとか!就任記念パーティーも同時開催です。

 これを機に、MML団の拠点もトレセン学園周辺に構えましょう。

 廃ビルのオーナーと交渉して格安レンタルできるよう致しませんとな!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「こうして我々は、マサキ様のお近くで細々と活動していたのです」ドヤぁ

「うん。長期に渡ってストーキングされていた事実にドン引きだわ」

「お褒めに預かり恐悦至極」

「褒めとらん。なあ、トップの暴走を止めるのも部下の仕事だと思うけど?」

「「「「……ポッ////」」」」

「ダメだこりゃ」

 

 誇らしげなロリスキーと、俺に見られて赤面する団員たち。ダメみたいですね。

 オークは・・・まだ部屋の隅でまだ気絶している。

 

 俺はともかく、愛バや御三家の警戒網をかいくぐってストーキングしていたんだよな。

 それって結構すごい。デジタル並みにすごい。決して褒められた事じゃないけどね!

 

 MML団結成の経緯は解った。

 こいつら、集団ストーカーだけど無害なんだよな。そのはず・・・なんだよな。

 だったらなんで、ロリコン(悪)になるようなことをした。

 

「なんで誘拐を?幼女を手荒に扱って、俺が喜ぶとでも思ったか?」

「お叱りはごもっともです。ですが、我々にはこれしか……もう時間が無かったのです」

「???」

「明日までにマサキ様再臨の儀を執行しなければ、あなた様は永遠に失われてしまうのでしょう?そんな事になったら世界の損失━━」

「ちょっと待て!?」 

 

 俺、永遠に失われるの?初耳なんですけど!?

 大体、俺が愛バを置いていなくなるわけないだろうが。

 

「そ、それでは、マサキ様がいなくなると言うのは……嘘?」

「全部悪質なデマだ」

「お、おお、おおお、良かった。本当に良かった……」

 

 ざわ・・・ざわ・・・  ざわ・・・ざわ・・・

 

 ロリスキーは安堵からその場にへたり込んでしまった。

 団員たちも、自分たちが悪質なデマに踊らされたと知って騒然としている。

 こいつらMML団は、何者かにそそのかされて利用されたのだ。

 

「教えてくれロリスキー、お前たちを嘘の情報を流した奴は誰だ?」

「それは……マサキ様の愛バだとおっしゃるウマ娘から……」

「はぁ?俺の愛バが!?……どいつだ?クロ?シロ?アル?ココ?それとも全員か?」

「わかりません。私には年増BBAの見分けなどつきませんから」

「おい!今、俺の愛バをBBA呼ばわりしたか?」(#^ω^)ピキピキ

「し、失言をお許しください。何故、守備範囲から外れておりまして……面目ないです」

「俺の愛バ、若いカワイイ、以後、BBA呼ばわり禁止。オッケー?」

「「「「オッケーでございます!!」」」」

 

 全団員に厳命しておく。俺の愛バをババアなどとは言わせん!

 もし言ったら、俺が手を下すまでもなく愛バたちに消されるだろう。

 

「発言を許可願います!」

「団員ナンバー14!?控えなさい、マサキ様の御前ですよ」

「そういうのいいから。言いたいことは気にせず言っちゃって」

「ロリスキーさんじゃなくても見分けがつかないと思います。だってそいつは妙な仮面を━━」

 

う、ヴヴ……ヴォォォォーーーッッ!!

 

「何?てか今度は何ぃ!?」

「て、敵襲か!」

「違う、オークさんが、オークさんが!?」 

 

 雄叫びを上げ巨漢が立ち上がった。

 大事な話の途中だってのに・・・何なんだよ。

 意外と繊細で寝起きが悪いのかな?はた迷惑な奴め。

 

「オークさん、落ち着いて。ほら、マサキ様も見てますからね、ね?」

「グォォォォォーーー!」

「う、うおっとぉ!?」

「オークさんが乱心した!……危なっ!」

「何すんだこのデブ!」

「様子がおかしい……離れろみんな!攻撃されるぞ」

 

 オークは酷く興奮して手あたり次第に殴りかかっている。

 血走った目つき、血管の浮き出て膨張した筋肉、迸る覇気。

 力任せに滅茶苦茶暴れている。自分の事も、団員たちの事も、理解できているか怪しい。

 

「オーク!やめるのですオークッ!」

「よせ、ロリスキー!オークの奴はどう見ても異常だ」

 

 オークの攻撃は廃ビルの壁に穴を空け、備え付けの家具を粉砕する。

 とんでもない破壊力だ。奴が動く度に、ビル全体が揺れているように感じる。

 あ!床にも穴が空いた!?

 このままじゃ、最悪、ビルが倒壊して瓦礫の下敷きに・・・ヒェッ!

 

「マサキ様、我々が時間を稼ぎます。その隙にどうかお逃げ下さい」

「バカ言うな。お前らじゃアレは止められない」

「わかっております。ですが」

 

 団員たちが必死にオークを止めようと試みるが、どれも無駄に終わっている。

 慌てるな、こういう時こそ相手の情報を確認だ。じりじりと迫りくるオークをよく観察する。

 デバイスが顕現している。そこから立ち昇る異常な量の覇気・・・そして、微かな光。

 小さいけど嫌な感じがする赤い光!?

 

「アレも改造デバイスの暴走か!」

「知っているのですか、マサキ様?」

「実はかくかくしかじか」

 

 違法な改造デバイスが出回っていることを簡潔に説明した。

 

「何ですとぉ!?その様な危険なデバイスが存在するのですか」

 

 今頃、愛バたちや学園のみんなが密売組織を叩いているはず。

 世に出回った改造デバイスの一つをオークが偶々手にしていたと・・・偶然にしては作為的なものを感じるな。

 だが、改造デバイスなら俺の覇気で抑え込み、ヒーリングで治療可能だ。

 犠牲者が出る前に、俺がやるしかない!

 

「そこのデカブツ~!俺と遊ぼうぜ」

「ア゛ア゛ア゛アアアァァァ―ーーッ!!」

「マサキ様!?何を」

「お前らは逃げろ。あいつは俺が何とかする」

「そんな事できません!マサキ様を置いて我々だけ逃げるなど、できるはずがない!」

「ぶっちゃけ足手まといなんだよ。お前らを庇いながら戦う余裕はない」

「くっ……」

「あれ~?散々持ち上げておいて、いざとなったら俺の事を信用できないわけね。悲しいなぁ」

「滅相もございません!我ら一同」

「「「「マサキ様を信じております!!」」」」

 

 調子よくハモってくれちゃって。

 こいつらの事、全然知らないし迷惑な奴らだけど、俺を信じると言う気持ちに嘘はない。

 

 俺は三度バスカーモードを起動した。さすがに使い過ぎだ。

 残り時間はあと少し、その僅かな時間でオークを止めなければならない。

 

「ここは狭いだろう?屋上へ行こうぜ」

「ヴオオオォォォォ!!」

「ついて来い!」

 

 心配そうなロリスキーたちを残し、俺は屋上へ向かう。

 挑発が効いたのか、俺にターゲットロックしたオークは叫びながら追いかけて来た。

 急げ、急げ!止まったらやられるぞ。

 階段を駆け上がり屋上へ到着した。うへぇ、安全柵がボロボロで危険極まりない。

 

「フーーッ!フ―ーッ!」

 

 涎を垂らしながらオークが屋上へと現れる。

 正気ではないギョロギョロとした目で俺を睨んでいる。

 

「すぐ助けてやるからな。ちょっと我慢してくれ、よ!」

 

 デバイスの装着箇所は腕と脚と胴体に首回り、権限前の待機状態では首輪型だったと思う。

 オークの太い首に合うサイズがよくあったな。

 

 近づかなければ話にならない。

 一気に接近して、首にタッチするのが目標だ。

 そこから覇気を流し込んで暴走を止める。

 

「グアォォォォォ!」

 

 暴走で限界以上の力を振るうオーク。一発でも食らったら、その瞬間に敗北決定だ。

 オークの剛腕から放たれる拳撃を躱す。鋭い蹴りが飛んで来るがコレも避けてみせる。

 跳躍する。首、首、首だ!短い幼女の手を必死に伸ばす。首まであと少しだ!

 

「━━ゥゥゥッッ!」

 

 何を?オークが息を吸い込んで・・・しまった!?ブラスターが来る!

 

「ウォォォォォォ――――!!!」

 

 オークが口から凝縮された覇気の熱線を発射した。

 俺自身もよく使うから寸前で何をするか解ったが、既にジャンプした後だ。このままじゃ直撃する。

 飛び上がった俺の体を動かす方法、空気の壁を蹴りもう一段上に飛ぶ。

 やり方は知っている。だが、幼女の体で可能なのか?

 いや、飛んでみせろ!俺はあの人の息子だぞ、やれないはずはない。

 出会った時からずっと大好きな、優しくて強くてカッコイイ最強の騎神、母さんのように!!

 飛べ!!

 

風精加速(シルフィードアクセル)!」

 

 間一髪、風の加速技で二段ジャンプを成功させた。

 オークのブラスターが腹を掠め痛みが走る。だが回避した!

 致命傷が避けられたのなら御の字だ。

 幼女の体で加速技を使った脚、しばらくまともに動かないだろう。

 もう後がない。次のアタックで決めなければやられる。

 

 姿の消えた俺を探すオークがキョロキョロしている。

 上から来るよ?気を付けろぉ!

 

「どっこいしょッ!」

「!?!?」

 

 自由落下に身を任せ、オークの首に取り付くことに成功した。首のデバイスに触れて覇気を流す。

 俺を引き剝がそうと狂ったように暴れ回るオーク。

 離すかよ・・・ここまで来て離してたまるか・・・絶対に助けるんだ。

 両手にありったけの覇気を集中させた。すまんなオーク、少々荒療治になるぜ。

 戦闘可能時間は既に超過済み。シャミ子が設定した安全措置により、もうすぐ覇気が使えなくなってしまう。

 時間がないのだ。デバイスの破壊とヒーリングを同時にやるしかない。やったるわ!

 

「止まれよぉぉぉおおおおおおお!!!」

「ア、ア、ガウオアウァァァーーーーッッッ!!」

 

 俺の全身から大量の覇気が放出される。

 緑の輝きを放つ粒子光は俺とオークを飲みこみ、渦となって天へと昇っていく。

 頑張れ俺、もう少し、もう少しだ。

 

 デバイスに亀裂が入り砕け散る。よっしゃ勝った!

 機能を失った残骸が覇気の粒子に変換されて消えてゆく中、キラリと光る何かが視界に入った。

 

 (首の……中枢の部品から何か……赤い、結晶!?)

 

 小さな赤い結晶体、俺は確かにそれを見たのだ。

 憎たらしいルクスが使用していた・・・赤いオルゴナイトを・・・

 

 〇

 

 ロリスキーはマサキの後を追い屋上へ向かっていた。

 マサキには逃げろと言われたが、居ても立っても居られなかったのだ。

 

 (二人を残して逃げる訳にはいきません。お叱りは後ほど、甘んじて受けいれましょう)

 

 マサキは敬愛する神であり、オークはMML団創設前からの盟友だ。

 二人とも大事な存在。ぶつかり合うというのなら見届けなくてはならない。

 オークの様子は極めて異常であった。

 直接戦闘を苦手とするロリスキーにも尋常ではないと感じとれるほど、凶暴な覇気が膨れ上がってしまっていた。

 あの状態が続けばオークの命に関わるかもしれない。

 それを相手にするマサキも危険だ。あの小さな体での戦闘はやはり無理がある。

 力を使う度に息が上がり辛そうにしていた事を、ロリスキーは目撃していたからだ。

 

 (二人とも!どうか無事でいてください)

 

 息を切らせながら階段を駆け上がる。

 仲間の団員たちもついて来ているが止めはしなかった。

 きっと、考えている事は同じだ。

 このような事態に陥ったのは全て我らMML団の不始末が原因だ。

 騙されたとは言え、愛すべき幼女を誘拐し、その被害者がマサキ様本人であるという事態を招いた。

 最低最悪の失態である。これ以上、マサキ様を失望させるわけにはいかない。

 何より、ここで逃げたら自分たちを許せそうにない。

 我らはMML団だ。いざとなったら、この命に代えても神を、マサキを守るのだ。

 決意を胸に屋上への扉を開け放つ、そこで見たのは・・・この世の物とは思えない光景だった。

 

「こ、これは!?」

「美しい・・・」

「奇跡だ。これぞ神の奇跡に違いない」

 

 屋上は緑の輝きで溢れていた。

 目も眩むばかりの光の本流は渦巻きながら空へ、まるで光の竜巻だ。

 摩訶不思議で恐ろしく、息を呑むほど美しい、幻想的な光景にロリスキーたちは目を奪われ立ち尽くすのであった。

 こんな事ができるのは、こんな奇跡を起こせるのは、マサキ以外に有り得ない!

 渦の中心点に彼らはいた。

 団員たちは目撃する。叫びながら暴れるオークの首へと必死でしがみつく、神の姿を。

 

「この!クソデバイスがっ!止まれぇぇぇっ!!」

 

 神はオークを助けようとしていた。

 散々無礼を働いた我らを逃がし、その仲間を助けようとしている。己の危険も顧みず。

 なぜ?どうして?自分たちMML団は許可なく勝手に活動していたのだ。

 あなたにとって、俺たちは迷惑なだけの存在ではなかったのですか?

 助けてもらえる義理などない。自分がマサキの立場だったら見捨てて当然だと思う。

 なのに…どうして……どうしてどこまで…

 

「それが、マサキ様だからですよ」

 

 団員たちの疑問に応えたのはロリスキーだった。

 

「あの方の懐は奈落の底よりなお深い。ご自身がどんなに弱っていようとも、我らを疎ましく思われていても、救いの手を差し伸べずにはいれれない。そんな情愛に満ちた方なのですよ」

 

 彼はこっそり見て来たのだ。

 愛バを救う度の最中、マサキが打算も理由もすっ飛ばして人助けをするところを、何度も何度も見て来た。

 今回も同じ。マサキにとって、誰かを助けたいと思い行動する事は至極当然なのだ。

 そんなマサキだからこそロリスキーは憧れた。MML団を創ったのもそんな彼を応援したいと思ったからだ。行き過ぎたファンクラブ(ストーカー)状態になってしまったのは不可抗力だ。

 マサキはきっとオークを救ってくれるだろう。

 ならば、我々MML団がこの場ですべきことは、この奇跡を一秒たりとも見逃さない事だ。

 

「我らが神の雄姿を、その目に焼き付けるのです!」

「「「「おおーーッ!」」」」

 

 本音を言うと、眩しいし危ないので誰も近づけない。(´・ω・`)

 不甲斐ない我らをお許しください!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 MML団が固唾を飲んで見守る中、光の渦は収束し消えて行った。

 残されたのは、膝をつき動きを止めたオークと、その背で荒い呼吸をしているマサキだった。

 

「収まった……オークさんは助かったのか?」

「見ろ!二人とも無事だ」 

「やってくれた。マサキ様がやってくださったぞ!」

「うぉぉぉー!すげぇーー!俺たちの神ヤバくない?」

「うう……なんか、泣けてきたぜ」

「無理もねぇ。俺たちは神の奇跡ってヤツを目撃しちまったんだよ」

 

 団員たちが歓声を上げた。そして口々にマサキを褒め称える。

 奇跡の救出劇を目の当たりにして涙を流す者もいた。

 ロリスキーも感動に打ち震え、視界が滲んで来ているが落涙は我慢する。

 まずはオークを介抱し、疲弊したマサキを労わり休んでもらわなくてはならない。

 泣くのも、叱られるのも、マサキを胴上げするのも後回しだ。

 こちらに気付いたマサキが疲れた笑みを浮かべながら手を挙げる。

 『こっち何とかなったぞ。もう安全だ』と言ってくれているようだ。さすがでございます!

 団員たちと共に急ぎ馳せ参じようと思った、その時だった。

 

「ブルワァァァーーッ!」

 

 停止していたはずのオークが再び動き出していた。

 自身の背に居座るマサキを太い腕で掴んだオークはあろうことか、その小さな体を投げ飛ばした。

 邪魔な虫を追い払うかの如く、乱暴に軽々と、それでいてありったけの力を込めながら、マサキは前方へと投じられた。

 咄嗟の事態にロリスキーたちも、力を出し切っていたマサキも抵抗もできず、反応できなかった。

 マサキの体が安全柵にぶつかる。ボロボロに錆び付いていた柵は本来の機能を果たすこともなく破損し、ぶつかった対象と共に宙へと投げ出された。

 敬愛するマサキがビルの屋上から落下した。その事実に、ようやく我に返ったロリスキーは絶叫するのであった。

 

「マ、マサキ様ぁぁぁーーーッ!!」

 

 〇

 

 自分の身に何が起こったか理解した時には、全てが手遅れだった。

 俺の名を叫ぶロリスキーとその仲間たち、最後の力で俺を投げ飛ばし、今度こそ倒れ伏すオークの姿が一瞬だけ目に入った。そして、背中からボロの安全柵にぶち当たる。

 体に痛みと衝撃が走る。それだけならまだいい。

 その後に訪れた、浮遊感の意味を認識して焦る。

 

 (落ちた!?)

 

 錆び付いた安全柵は俺の体を受け止めきれず、壊れて地面へと真っ逆さま。

 俺も同じ運命を辿る事になる。

 MML団がいた四階から屋上までの登った階層は三階分、このビルは地上七階建てと言うことになる。

 高さは凡そ20メートル。覇気も使えない人間が飛び降りた場合、十分死に至る高さだ。

 何とかしないといけないのは解っている。でも、体が動かない。

 バスカーモードもアクセルも、使用限界とっくの昔に超過してしまっている。

 もう覇気が出せない・・・今の俺は貧弱なただの幼女にすぎない。

 

 (バチがあった……のか)

 

 愛バの忠告を聞かず、のこのこと単独行動をした。その結果がこれだ。

 まさかこんな事になるなんて思わなかった。試練最終日に油断した俺の致命的ミスだ。

 ルクスと対決するでもなく、こんなところで俺は終わるのか?

 せっかく、クボやシャミ子たちが力と思いを託してくれたのに、まだこれからだってのに・・・

 何も果たせず、何者にもなれず、友や愛する者を残して死ぬ?

 

 (嫌だ!嫌に決まってんだろ!)

 

 MML団に遭遇して結構な時間が経過していた。日はとっくに沈んでおり辺りは暗い。

 俺は夜の闇に飲まれながら落ちていく。

 クロ、シロ、アル、ココ、姉さん、母さん、みんな・・・ごめん。

 バカな俺で本当にごめん!

 せめて一人じゃなければ、愛バじゃなくてもいい、誰かと一緒だったなら結果は違ったのか?

 愛しい人たちの顔が浮かんでは消え、愚かな自分への憤りで心が塗りつぶされる。

 

 (くそっ!クソクソクソ、くそぉぉぉ―――ッ!!)

 

 どうにもならない状況へ悪態ばかり思いつく。

 あーなんてこったい。あの世へ旅立つ覚悟も準備も全然できてないよ。

 本当に終わり?ワンチャン助かったりしない?ほら、猫みたいにさ。

 猫は優れた平衡感覚を所持した動物で、落下の瞬間に着地の動作を促し体を反転させられる能力があり、しなやかな筋肉とクッション性のある肉球によって落下の衝撃を和らげ、着地を成功させるという。

 幼女の俺にもできたりしませんかね?無理かぁ、猫でも着地可能限界は7メートルだっていうしなあ。

 7メートル・・・地上三階ぐらいなら落ちても平気って事!?キャットランディングすげぇ!!

 やはり猫は良い、猫は全てを解決する、猫と和解せよ、ねこですよろしくおねがいします。

 猫に縋っとる場合か!

 

 助けて、助けてくれ、助けてほしい。

 チクショウ!愛バいれば、こんな高さ屁でもないのに。令呪があったら今絶対使っているのに!

 クロ、シロ、アル、ココ、誰か一人でも召喚できれば、この窮地を脱せるのに。

 この際、贅沢は言わない。ゴルシでもアグネスでも誰でもいい、誰か・・・

 

助けてくださいーーー!

 

 悲痛な叫びが虚しく夜空へと響き渡った。

 その声に応える者はいないと知りながら、俺は叫ばずにはいられなかった。

 もうだめぽ。゚泣(゚´Д`゚)゚。・・・・・・あ?

 今何かが視界に入った。一瞬だったけどあれは、助走を付けてこちらに走って来る人影のような??

 

 隣のビル、そのガラス窓が勢いよく突き破られた!

 

「呼ばれて飛び出て、ぱんぱかぱーん!」

「おわっ!?」

 

 ガラスを突き破り跳躍した何者かは、ドンピシャのタイミングで落下中の俺の下へと現れた。

 手を伸ばし体を受け止められた!?

 この優しくも力強い抱き方を俺は知っている。

 まさか、本当に来てくれるとは俺の思いが天に通じたのか!

 

「こんな時間に紐無しバンジーなんて危ないことして、悪い子ですね~」

 

 好きでやったんじゃない。と、反論しようと思ったが、ピンチを救われた嬉しさでそれどころじゃない。

 諦めかけたところに颯爽登場!救いのヒーローはいたんだね・・・ヤダー惚れちゃうわ////

 俺を抱きかかえた救い主は、片手の五指を廃ビルの外壁に突き立てブレーキとする。

 ブレーキはガリガリと音を立て縦五本線を壁に刻みながら、救い主の体を廃ビル二階辺りで停止させた。

 

「と、止まった」

「上まで戻りますね」

 

 え?地上に降ろしてくれるんじゃないの?

 言うが早いか、救い主は廃ビルを登り始める。屋内の階段を使わず外壁を蹴って、あっという間に屋上へ。

 驚愕の姿勢で固まっていたロリスキーたちを飛び越えて、屋上へと着地した。

 

「はい、到着です」

「助かったぁ……」

 

 生きてる。俺は生還したのだ!

 MML団の面々が俺の下に駆け寄って来た。随分と心配かけたな。

 抱っこを解除してもらってコンクリの床へと立つ。

 ここ屋上だけど、地に足が付いているだけでも幸せだ。

 

「おお!マサキ様!」

「ご無事でしたか!いやはや、今のはさすがに焦りましたよ」

「愛バを連れて来ているとは、抜け目のないお人だ」

「オークさんも気を失っているだけで無事です。全てマサキ様のおかげっスよ」

 

 ロリスキーたちが俺の無事を喜んでくれた。

 デバイスの呪縛が解けたオークも無事か、本当によかったな。

 

 愛バがついて来ていることは、俺も知らなかったよ。

 てっきり全員が改造デバイスの売人摘発(殲滅)作戦に参加すると思っていた。 

 もしかして、幼女の俺が心配になって途中で切り上げて来たとか?だったら悪いことしたなあ。

 

「マサキ様救出のお手並み、素晴らしい動きでした」

「本当にタイミングばっちりで驚きましたよ。あ、もしかしてずっとスタンバってました?」

「もうBBAとは言いません。あの、お名前を伺っても?」

「マサキ様の許可を取ってからにしろ。顔を隠しているから基本秘密なんだろうさ」

 

 まあ、愛バの紹介くらいはしてもいい・・・今、なんと言った?()()()()()・・・

 待てよ、待て。俺を助けてくれたのは、本当に愛バだったのか?

 愛バのような気がしただけで、俺は救い主の顔をちゃんと確認してはいない!?

 

「そうですね。初対面ですから、自己紹介は必要ですよね」

 

 この声、愛バ四人の誰とも違う。

 違う!こいつは俺の愛バではない。こいつは、こいつは・・・あーすっげぇ嫌な予感がする。

 俺はゆっくりと振り返った。

 ピンチを救ってくれた奴の姿を確認する為に、つま先から徐々に上へと視線を向けていく。

 見慣れぬ戦闘服を着たウマ娘だ。スタイルがいい!暴力的ですらある、おぱーいがイイ!

 そうじゃなくてぇ!顔だ顔を見ろ!

 顔・・・見えない。それもそのはず、頭部にはどこかで見たような仮面を装着していたからだ。

 

「はじめまして、私はマーテルですよ。仲良くしてくださいね、悪い子のマサキさん♪」

 

 シロたちから聞いた情報と合致する。

 ルクスの愛バ六騎の内の一人、マーテルと名乗るウマ娘がそこにいた。

 

 俺のピンチはまだ終わらない。

 



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仮面女子会

 夜の街を軽やかな足取りで移動するウマ娘がいた。 

 走る、跳ぶ、登る、ぶら下がる、乗る、転がる、 回る、バランスを取るなどの動作を用いながらの移動をしているのは、戦闘服に仮面を身に着けた騎神、マーテルだ。

 

「どこまで行くんだよ」

 

 マーテルは一人ではなかった。その腕に銀髪の幼女、マサキをしっかりと抱いている。

 アクロバティックな移動にもかかわらず、マサキの負担にならないよう配慮する余裕があるようで、彼女の技量が高かさが(うかが)えた。

 

「夜のお散歩は嫌いですか?」

「嫌いというか、もう帰りたい。あんまり遅くなるとマズい」

「『愛バ四人に怒られちゃうー』とか思ってます?」

「思ってるよ!」

「なら心配いりません。向こうは作戦が長引いているみたいで、まだ時間があります」

「わー、学園の情報筒抜けだあ」

 

 建造物の屋根から屋根へ飛び移り、時には壁を蹴るなどして移動するマーテル。

 道なき道を行く彼女はマサキの宿敵であるルクスの愛バだ。

 本来なら敵同士、出会えば即刻開戦で死闘を演じて然るべき相手のはず。 

 そのはず、なのだが。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 少し前のこと、MML団アジト廃ビルの屋上にて。

 自己紹介を終えたマーテルは誰かが口を挟む前に動き出した。

 いきなりの敵愛バ登場で、パニックを起こした俺を有無を言わさず抱き上げる。

 MML団たちに『私たちはこれで失礼しますね』と、軽く頭を下げてから走り出し跳んだ。

 状況についていけない、未だ頭の中がぐるぐるしている。

 俺はどうするべきなのだ?誰か教えてくれ。

 背後からロリスキーたちの『またお会いしましょうマサキ様~』と言う声が聞こえた。

 あいつらは今後どうなっていくのだろうか、もう悪さをしないと思うけど怪しい行動は控えてほしい。

 俺へのストーキング行為はやめさる。絶対にやめさせる!

 

「変わったお友達が多いんですね~」

「あれは信者だ。ウマ仮面のお前が変わったとか言うな」

「これは流行最先端のファッションです」

「嘘つけ、操者の趣味に合わせているだけだろ。正体隠して何を企んでいるのやら」

「まだ秘密です。もう少し仲良くなったら教えて差し上げます」

「仲良くねぇ……」

 

 これもルクスの罠だったりするのか?

 マーテルが何を考えているのかわからないが、油断はしないようにせねば。

 今日はもう油断しまくっておかしくなりそう!

 

 そして、夜のお散歩へ続く・・・

 

 ルクスの愛バに捕まるぐらいなら、MML団に捕まっていたほうがマシだった。

 不安だ、不安すぎる。尻の湿布がようやく温くなってきた事だけが救いだ。

 

 (今はどうすることもできない。ここは耐えるしか…)

 

 覇気を使い果たした俺に抵抗する術はない。

 スマホもないし思念通話を飛ばすことも不可能・・・これは詰んだか。

 今日ピンチ多くね?厄日だ。

 速度を落としたマーテルは、俺の両わきを支えて持ち上げる『高い高ーい』してんじゃねぇよ。

 

「他界他界~」

「縁起でもない!」

「別に取って食べたりしません。リラックスですよ~、はい、リラ~ックス」

「不安が顔に出て悪かったな。怯える俺をどうする気か教えもらっていい?事と次第によっては失禁も辞さないから覚悟しておけ」

「それは大変!ですが、こんなこともあろうかと紙オムツを持っていますよ。パンパースとムーニーどっちにします?」

「メリーズで頼む……じゃなくてぇ!あ、やめ、脱がそうとするなー!」

 

 なぜか紙オムツを持参していたマーテル。

 何だコイツ?オムツが必要な事態を想定する思考にドン引きである。

 必死の抵抗も虚しく嬉々として俺を脱がしにかかったマーテルに尻を見られてしまう。

 

「あの、お尻が異様に冷えていますけど。何か貼ってますけど、何ですかコレ?」

「お気遣いなく、名誉の負傷ですので」

 

 俺の尻を凍傷寸前まで追い込んだ湿布をようやく剥がす機会が訪れた。

 ポイ捨てする趣味はない、役目を終えた湿布はポッケに回収だ。

 尻は大変だったけど、MML団の睡眠ガス対策として役立ったのは事実だ。ゴルシには礼を言わないとな。

 

「ヒーリングしますね。お腹の傷も一緒に治しておきますよ」

「ちょ、直に触るのらめぇ」

 

 マーテルの手が俺の腹と尻を撫で回した。きゃっ!どこ触ってんの////

オークのブラスターが掠った腹と冷えた尻が癒され、みるみる回復していく。

 このヒーリングテクニック、中々のものだと言わざる得ない。

 

「やるじゃない」

「ふふっ、プロのあなたに褒められるなんて、光栄です」

「どこで覚えた?」

「尊敬する人の真似をしただけですよ」

「ルクスはヒーリングもできるってか、ムカつくわ~」

「さあ、どうでしょうね」

 

 何その言い方、ヒーリングはルクスから学んだわけじゃない?・・・ま、どうでもいいか。

 身のこなしからマーテルの腕は相当なものだと思う。おまけにヒーリングまで使えると来ている。

 残りの奴らも全員このレベルだとしたら苦戦は必至。

 しかし、俺たちだって強くなっているんだ。勝つのは俺と、その愛バたちだ!

 その前に、今現在のピンチを切り抜けねば。

 

 ヒーリングを施してくれたマーテルは再び速度を上げる。

 夜景を見る余裕が出て来たのは、敵であるはずのマーテルが思いのほか気安い奴だったからだ。

 我ながら気を許すのが早すぎだと思う。

 命の恩人だし、今のところ丁寧に扱ってくれるから、いい奴かもと勘違いしそうになる。

 愛バにこんな事を言ったら、きっと叱られるんだろうな。

 

「着きましたよ」

「なんか見た事のある建物だ」

「ビルドンホテル最上階のヘリポートです。どうです?ここだと夜景が一層綺麗でしょ」

「確かに綺麗だ。そろそろ降ろしてくれる?逃げる気も力もない」

「はーい。お疲れ様でした」

「仮面とってくれる?顔が見たい」

「それはダメでーす」

「ちっ、ノリの悪い奴」

 

 人払い済みのヘリポート、今からこんな所で仲良くトークするの?

 

「全員揃うまで、もう少し待ってください」

 

 何ぃ!仲間を呼ぶ気だとぉ?

 

「幼女相手に集団フルボッコの刑を命令したか。さすがルクスさん、鬼畜の極みですわー大っ嫌いですわー」

「そんな命令されてませんよ。ちょうどいいので、ご挨拶をしようと思っただけです」

「挨拶するなら顔ぐらい見せろ」

「それはそれ、これはこれ……来ましたよ。みんないい子ですね」

 

 え、嘘?本当に誰か来ちゃうの?誰だろうと幼女姿で敵に会いたくなかったー!

 一人、また一人と新たな敵が登場する。

 全員がウマ娘だということを加味しても、かなりの修練を積んだと解る動作。

 ウマ娘は壁を登ったり、隣のビルから大ジャンプするのがデフォルトなの?

 エレベーター使って来いよ。

 

「はぁ、急に呼び出したと思ったら、こういう事か…」

「あー!ちっこいのがいる。何?なになにさらって来たの?」

「え?えええ!?聞いてないんだけどぉ!」

「やるのですね!やっちまうのですね!キャーッ!全員でフルボッコなんて野蛮ですわ!」

「落ち着いてくださいな。お客様が怖がってしまいます」

 

 来たのは5人。マーテルを含めて総勢6人の敵が集まったことになる。

 お揃いの仮面を着けたウマ娘と俺は対峙する。

 いやー!足が震えそう。というか、ビビりな俺はもう震えてるよー!

 ダメよ、マサキ!あなたはチーム"ああああ"の誇り高い操者でしょ。

 奴らのペースに飲まれたらアカン。

 ここは空気を読まず、ズバズバ切り込んで行くのが吉だ。

 

「アンドウマサキだ。趣味はルクスを呪うことです。よろしくお願いします」

 

 先に挨拶してやったぞ。ほら、そっちの番だ。

 マーテルが『簡単に自己紹介をどうぞ』と仲間を促した。

 

「はいはーい!私ウェール、キタちゃんと本気の勝負したいなあ」

 

 無邪気さの中に滲み出る戦闘意欲の持ち主、ウェール。クロを狙っているらしい。

 6人の中ではもっとも小柄で元気いっぱいと言った感じだ。

 

「ベルスよ……アンタねぇ、愛バの教育ちゃんとしなさいよ。特に!あの狂ったサトイモ!」

 

 ガリルナガンのデバイサーであるベルス。ここへも空を飛んでやって来た。

 うちのシロが何かやらかしましたか?

 許してつかあさい。よく誤解されるけど、とってもいい子なんですぅ。

 

「フルーメンですわ。アルダンとは運命の好敵手(ライバル)でしてよ」 

 

 お、おう。

 こいつがアルダンの愚痴っていた『勝手にライバル認定してくる迷惑な奴』か。

 初対面ですけど、頭が残念な気配がしましてよ。

 

「アエルと言う。ファインを倒すのこの私だ。邪魔立てするなら貴様も、貴様の仲間も全て倒す」

 

 冷徹かつ冷酷な雰囲気を醸し出すアエル。何ピリピリしちゃってんの?

 あ、これ自他共に厳しい(めんどくさい)奴だ。

 ココがもの凄く嫌そうな顔で『やだな~ストーカーこわいな~』と言っていた。

 

「クラルスです~。皆様、眠たくないのですか?私は今すっごく眠いです……( ˘ω˘)スヤァ」

 

 立ったまま寝ちゃったよ。何がしたいの?何しに来たの?

 直接戦闘には参加しないサポートタイプだと聞いているが、本当のところはどうだろう?

 こいつに関してはマジでよくわかんね。

 

「改めましてマーテルです。私たち6人がルクスさんの愛バ。覚えてくださいね」

 

 ウェール、ベルス、フルーメン、アエル、クラルス、そしてマーテルの6人。

 以前、シロたちが遭遇したルクスの愛バである。つまり俺の敵だ。

 無力な幼女と騎神じゃ勝負にすらならない。

 ひとりでも厄介極まりないのに、それが6人、これどんな無理ゲー?・・・勝てるわけがない!

 

「挨拶も済んだし、部外者の俺はそろそろ退散しますね。お疲れ様でした」

 

 丁寧にお辞儀をして立ち去ることにする。

 奴らを刺激しないようにさり気なく自然な感じで、行ける!

 

「待ってください。まだ肝心のお話ができていません」

 

 はいダメでした。マーテルに肩を掴まれて引き止められてしまう。

 

「そうだな。このまま帰すわけにはいかん」

「ホーホッホッホ!こういう時は情けなく『くっ、殺せ!』と、ほざくがいいですわ」

「くぅ~殺さないでくれると非常にありがたいっスわ」

「大変素直でよろしい。ご安心なさい、弱者をいたぶる趣味はございませんの」

「マサキの台詞、なんか微妙に違わない?」

「シッ!フルーメン(アホ)が気付いてないからスルーするのよ」

「あの~早く本題に入りませんか?でないと…私また眠ってしまいます~」 

「なあ、今まで寝ていた奴がなんか言ってるぞ」

「「「「そいつはほっとけ!」」」」

「みんないつも通りですね」

 

 女子が集まると賑やかなのは何処も一緒か、例え敵であってもそれが変わらない事にちょっと安堵した。

 いいぜ。ここまで来たら覚悟を決めよう。

 やることはMML団のときと一緒だ。こいつらから情報を引き出して、生きて帰る。

 生きて帰る!大事な事なので二度言いました。

 仮面ウマ女子会に参加してやろうじゃないか、女死会にならないことを心から願う。

 

「そんで?話ってなによ」

「ビビッている癖に態度でかいな」

「そこの寝坊助仮面、立ったまま寝るぐらいなら座って寝ろ。そして俺を膝枕しろ」

「ふてぶてしいにも程がありますわ。今の状況わかってますの?」

「はーい、どうぞです」

「「「やるのかよ!?」」」

「悪い子ですねぇ。膝枕のプロである私を差し置いてクラルスちゃんを選ぶなんて……悔しいですっ!」

 

 クラルスに膝枕をしもらい話を聞く態勢に入った。

 他のウマ仮面たちも腰を下ろす中で、アエルだけ立ったままだ。

 ああそう、彼女がこのメンバーのまとめ役なのね。

 俺の愛バたちに負けず劣らずの曲者揃いをまとめるなんて、めっちゃ苦労してそう。

 

「単刀直入に言うぞ。アンドウマサキ」

 

 アエルが俺を見下しながら言う。

 

「操者を辞めて愛バとの関係を断て!さすれば、我々はお前に手出しはしないとちか……」

「断る!」

「ふふっ、食い気味のお断り、可愛らしいですww」 

「マサキ様はそうでなくては…ふぁ…」

 

 絶対に飲めない条件を提示された。

 そんなの一瞬たりとも考える必要無し、断固拒否だ!

 

「ルクスにも手出しさせないと言ってもか?」

「断るッ!」

 

 何言ってんだ?守る気のない約束をチラつかされて、俺が揺らぐとでも思ったか。

 

「本当にいいのか?交渉するのはこれが最初で最後になるかもしれないぞ」

「くどい!ぜぇっったいにぃぃ断るッッ!!」

 

 交渉の余地など無い。俺とルクスの関係は最初からどうしようもないほど終わっている。

 1stの人たちに、ベーオウルフとルシファーの元になった向こうの世界のクロとシロに何をしたか、忘れたとは言わせねぇ!

 そうそう、俺を異世界送りにしてくれたよね?

 いや~楽しかったなぁエンドレスフロンティア。何回も死にかけたけど楽しかったなぁ!

 その度にルクスへの恨みカウンターが積み上がって、今フリーザーの戦闘力どころの騒ぎじゃないけどなぁ!

 

 怒り叫ぶ俺をクラルスとマーテルが落ち着かせようとする。

 ナデナデだけでは納まりません。尻尾じゃらしも追加してください。

 何?尻尾じゃらしをご存じない!?

 おいおい、操者と愛バ間のスキンシップが足りないんじゃないですかねぇ。

 

「残念、決裂しちゃったみたいですねえ」

「全ては予定調和だ」

「気にしなくていいよ。ダメ元で言ってみただけだし」

「どうせそんな事だろうと思ったわ」

「え?え?つまりどうなったんですの?」

「マサキ様は今まで通り敵ってことです……( ˘ω˘)スヤァ」

 

 全然残念そうじゃないところを見るに、俺がどう答えるかは解り切っていたらしい。

 だったらこの茶番は?こいつらの狙いは何だ?

 

「確かに茶番だな」

「もう、アエルさんったら。そんな事言わないでくださいよ」

「本格的な戦いになる前に、挨拶できてよかったですわ」

 

 そもそも、こいつら誰やねん?

 ウマ娘なのは確定として、背格好や口調から当てはまる人物は・・・いない。

 いないよな?自信が無いけど、いるはずないと思う。

 

「無駄無駄無駄だよ~」

「何が?」

「今、私たちが誰か詮索しようとしたでしょ?それ無駄だから」

 

 ウェールやベルスが言うように俺はこいつらの正体について考えようとしていた。

 けど、頭に霞というかノイズが混じったように思考を散らされる。

 これがシュウの言っていた認識阻害?

 ご都合主義な不思議パワーのなんと厄介なことか。

 

「諦めろ。仮面の認識阻害は易々と解除できん」

「この仮面はマジもんの特注品でしてよ!なにしろ製作者があ━━」

「フーちゃん。喋り過ぎです」

「アーッ!ですわぁぁぁぁーーー!?!?」

「うるさいですねえ……( ˘ω˘)スヤァ」

 

 やかましい悲鳴が上がる。マーテルがフルーメンの背後に忍び寄り関節を決めたのだ。

 仮面の秘密を暴露しそうになったお仕置きだろう。

 アホが口を滑らす可能性があり、ならば、もう少し突いてみるか。

 

「お前らまさか━━」

「ねえねえ、お菓子食べる?」

「いらん!」

 

 俺が問いかけようとしたのをブロックするように登場するウェール。

 懐からポッキーを取り出して俺に突き付けた。食えってか?

 どうしてもと言うなら、ポッキーの端を口に咥えて勝負を挑んで来い。

 

「食べたらルクスの嫌いなもの教えてあげるよ?」

「たべりゅぅぅぅ!」

 

 ポッキーなんざサクサクッと完食してやった。

 勢い余って、ポッキーを持つウェールの指もサクサクしてやろうか?と思ったけど、変態チックなので自重した。

 ルクスの嫌いなもの=奴の弱点だろ?早く教えろよ。

 

「ルクスはね……マサキのことが嫌いなんだってwww」

「俺もじゃボケェェェ!!」

 

 俺だってルクスのこと嫌いじゃい。

 そうか、そうだったのか、俺こそがアンチルクスを体現する存在なのだ。

 ルクスめ!俺が万全の状態になるのを震えて待っているがいい。

 頼むから待って!俺今幼女っスから、可愛いだけの無力でか弱い存在っスから。

 

 ・・・・・・・・・ぴちゃ。

 

「冷たッ!?」

 

 俺の頬にどこからか謎の水滴が落ちて来た!?

 何だ?新手のスタンド攻撃か?

 

「大変!クラルスちゃん。(よだれ)垂れてます」

「何してんだおい!垂れてる、まだ垂れて来てる!!」

「起きろクラルス。膝上の幼女がご立腹だ」

「あはははははww宿敵に地味なダメージが入ってるww」

「う、うーん。何ですかぁ……あら…あらあらあら、私ったらはしたない////」

 

 三度目の涎が滴ったところで、やっと起きるクラルス。

 何してくれとんじゃ!いくら正体が美少女ウマ娘でも怒るわよ!

 

「口に入ったらどうしてくれる!」

「それはラッキーでしたね。おめでとうございます」

「何でご褒美もらった風になってんの?お前の涎にどれだけの価値があるんだよ?」

「先日、取引先の社長様に『キミの唾液を10万円で買わせてくれ!』と頼み込まれましたけど」

「売ったらダメ!その変態社長とは即刻縁を切ったほうがいい」

 

 変態の価値基準を真に受けちゃいかんのよ。

 このクラルスという騎神はどうにも無防備で危なっかしい。

 

「誰かー拭くもの持ってない?」

「ハンカチぐらい携帯しなさいな。コレ使うといいですわ」

「ありがとうございます。洗って返しますね」フキフキ

「俺を先に拭いてよ!あ!もうちょっとで顔が!?」

 

 口元を拭くために仮面を少し浮かすクラルス。

 顎のラインと口、鼻、その上のパーツも見え、見え、見え・・・

 

「見えそうで見えない?」

「そうですね!」

 

 仮面のチラリズムでは顔を見る事は叶わなかった。

 

 それからしばらく・・・

 俺は仮面ウマ女子会にすっかり馴染んでしまっていた。

 

「なあ、ええやろ?仮面外して素顔見せてくれや。膝枕したら俺らもう仲良しやろ?」

「ダーメですわ♪」

「いけません!敵の女と馴れ合うなんて不純で不潔で不義理です!」

「マーちゃんも敵だけどね」

「私は例外なんです!!」

「お前たち、あまり情を移すな」

「そうですわ!近い未来、必ずぶつかり合う運命の好敵手……楽しみでしてよ」

「私はサトイモさえ倒せれば、それでいいんだけどさ」

 

 膝枕担当のクラルス、何かと甘やかしてくれるマーテル、アホな発言が多いフルーメン。

 ツッコミ全般のアエル、無邪気なウェール、スマホを操作しながら相槌を打つベルス。

 

 情を移すなというアエルの言葉が胸に刺さる。

 ルクスはともかく、マーテルたち個人を心の底から嫌いになれるのか?・・・バカ、何を考えている!

 それがもう、ルクスの作戦なのかもしれないんだぞ?

 間違えるなマサキ。こいつらは俺の愛バを狙っている敵、俺の宝物を害そうとする敵なんだ!

 頭を振って気持ちを切り替える。今更だけど、完全アウェイでこの緩みっぷりはマズいでしょう。

 

「そろそろか……私は戻るぞ」

「じゃあ、私も帰ろっかな。ウェールはどうする?」

「途中まで送ってよ。いつもみたいにお願い」

「これにて解散ですのね。次は拳で語り合いましょう!では、ごきげんよう」

 

 仮面ウマ女子会は突然のお開きとなった。最初から終了時間を決めてあったっぽい。

 挨拶して操者を辞めろと言われ、そのあとは適当に駄弁っていただけだったな。

 俺を一瞥したアエルが振り向きもせず去って行く。

 ベルスはデバイスの翼を広げ飛び立つ。ウェールはその体にしがみついて一緒に帰るようだ。

 『ばいばーい』と二人して手を振るので、一応振り返した。

 フルーメンは、拳を突き出すポーズをしたあと、ごく自然にヘリポートから飛び降りた。

 『うぇぁ!ちょっと高過ぎましたわぁぁぁーーーッ!』という幻聴がした。

 

「では、私も御暇(おいとま)します」

「そっか。膝枕サンキューな」

 

 礼を言うべきか迷ったけど、お世話になったのは事実なので軽く頭を下げておく。

 涎のことはもう不問とする。

 

「マサキ様、どうかご壮健で……マーテル、あとを頼みます」

「お任せください。しっかり送り届けてみせますよ」

「くれぐれも、先走らないように。信じてますからね」

「大丈夫ですよ。心配性ですね」

「アエルさんは、あなたに相当な不信感をお持ちのようですわ。過度な介入はルクス様も良く思わないのではなくて?」

「あなたに言われたくないでーす。それに、バレたところで問題ありません。私は元からそういう契約ですし」

「全ては未練から来る衝動ですか?悩ましい生き方ですこと…」

「その通りですけど何か?」

「あの、俺を挟んで意味深な会話やめてくれる」

 

 マーテルと意味深会話を楽しんだ後、クラルスは『ごきげんよう』と一言告げて夜の闇に消えて行った。

 残されたのは、俺とマーテルの二人だ。

 

「お疲れ様でした。有意義な時間は過ごせましたか?」

「まあ……悪くはなかったよ」

「みんなの反応も上々でした。これでお互いに、後顧(こうこ)の憂いなく戦えますね」

 

 おやおや、今日のは親睦会ではなく決起集会でしたか。

 あいつらタ―ゲットの俺を直に見て、闘志を滾らせながら帰って行ったの?やめてよね!

 不公平じゃね?

 

「こっちには顔すら見せてくれないのに……」

「そこはほら、幼女化中に攻撃しなかった。という事でチャラです」

 

 それを言われると・・・うーん、でも顔は見たかった。

 

 さすがのルクスたちも、幼女をボコボコにするのは気が引けたらしいな。

 奴のひん曲がった性格から予想すると『フッ、弱ったマサキを倒しても意味がない』とか言ったに違いない。

 その余裕ぶっこいた態度、きっと後悔する日が来るだろう。

 たぶん最終決戦でルクスは思うのだ『あの時、幼女を始末しておけば…甘かったのは……!!!』

 とか後悔して死ぬ。太陽に挟まれて死ぬ。ざまぁww

 

「私たちも行きますか?」

「その前にちょっといいか」

 

 移動を開始しようとするマーテルを引き留めて、俺はその場で土下座した。

 今の姿、愛バには見せられない!

 

「どうしたんですか?そんな事されても、戦いは止められませんよ?」

「わかってる。ルクスやお前たちとの戦いが避けられないのは、よーく解っている」

「だったら━━」

「これは今日の分の礼だ」

 

 今の俺にできる感謝の示し方、これしか思いつかない。

 マーテルは敵だ、倒さなくてはならない相手だ。

 でも、今日は彼女に助けられたのだ。ならば、お礼は言うべきだろう。

 

「ありがとうございます。あなたは命の恩人です」

 

 廃ビルから落ちた俺をヒーローみたいに救ってくれた。ヴィランの癖に命の恩人なのだ。

 ヒーリングをして傷を治してくれた。尻も温まったぜ。

 女子会の最中、クラルスと一緒に俺を守ってくれていた。

 他の四人が変な気を起こさないように、ずっと牽制してくれていたんだろ?

 膝枕も涎も、場を和ませる演技・・・いや、あれは天然だな。

 今、ルクスが攻めて来ないのも、マーテルたちが何か進言した結果だったりして・・・

 

 マーテルが何を考えているかわからない。

 だけど、とにかく、全部ひっくるめて、彼女に感謝を伝えなければ。

 敵とか味方とか、今だけは関係ない。

 誰かに良くしてもらったら、ちゃんとお礼を言う。当たり前の事をしているだけだ。

 

「本当にありがとうございました!」

 

 俺は頭を擦り付けるようにしながら礼を述べる。

 今まさに我が心は明鏡止水の境地に至る。体が金色に光っていないことを祈る。

 

 深く長い土下座を続けた・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ反応がない?

 いきなりの土下座にドン引きして先に帰ったとか、ないよね?

 

「えい!」

「いてっ」

 

 良かった反応があった!というか今、頭を軽く小突かれた?

 顔を上げると、しゃがんだ体勢で俺にチョップを繰り出すマーテルがいた。

 

「敵に何をやっているんですか?本当にあなたは、おバカさんですね」

「バカで結構。これが俺なりのけじめだ」

 

 例えマーテルと戦う事になっても、意思が揺らがぬように、ちゃんと戦えるように・・・

 伝えるべき事は今この場で伝えておこうと思った。ただ、それだけだ。

 

「感謝の気持ちは十分伝わりましたから、もうその辺にしておいてください」

「あ、うん」

「まったく、こんなところを誰かに見られたら勘違いされてしまいますよ?」

 

 それはルクスにだろうか?それとも、俺の愛バにだろうか?どっちもか。

 

「とにかくだ。今日、助けてもらった恩は忘れない。ルクスの愛バでも、お前の素顔が思ったより残念だったとしても!忘れない」

「今ちょっとディスりましたか?忘れないなんて、軽々しく言わない方が賢明です」

「それでも忘れない。忘れないったら忘れないの!」

 

 駄々っ子のようになる俺。なぜこんなにもムキになっているのか、自分でもよくわからない。

 マーテルはきっと仮面の下で呆れた表情をしているのだろう。

 それでも、受けた御恩は忘れない。忘れたくないのだ。

 

「……忘れているくせに」

「え?」

「敵である私のことを忘れられなほど愛してしまうなんて!ルクスさんにどう説明したら……でもでも、こういうロミジュリ展開も嫌いじゃないです!むしろ好きです!」

「おい待てや、両陣営に多大な迷惑かける恋愛模様は勘弁しようや」

 

 一瞬だけ、マーテルが拗ねたように感じた。

 すぐに曲解と飛躍を得た戯言を抜かし始めたので、気のせいだと思うことにしたけど。

 今のは何だったのか?

 

 マーテルは何事もなかったように落ち着きを取り戻し、ケロッとしていた。

 手を引かれ立たせてもらい、そのまま抱っこされる。

 

「では、行きますよ~しっかり掴まっていてください」

「やっとか、あいつら無茶していなければいいけど」

「なんだ、気付いていたんですか?」

 

 鈍い俺でもさすがに気付く。

 先程の会合には奴が、マーテルたちの操者であるルクスがいなかった。

 その理由とは何か?

 向こうも同じ状況になっている。いや、ルクス自身が望んで状況を作り出した。

 今頃、俺の愛バとルクスが会っている!!

 俺の知らないところで、大好きなあいつらがルクスなんかと楽しくお喋り・・・許さぬぞ!

 何?お前もマーテルたちと和んでいただろって?

 お、俺はいいんだよ!ルクスはダメなんんだよ!そういうものなんだよ!わかってよ!

 

「急いで!早くしないと愛バが、俺の愛バたちがルクスのアホに穢されちゃう!」ペチペチ

 

 マーテルの仮面をペチペチして訴える。

 ついでに、豊満なおぱーいもペチペチしておく。バインバイーンや!

 

「私が素直にルクスさんの下へ連れていく保証はありませんよ?」

「今はお前のことを信用するしかない。頼む、俺を愛バとルクスの所に届けてくれ!」

「曜日指定だと明日以降になりますけど?」

「お急ぎ便で頼む!」

「はーい。マサキさんを最速でお届けしちゃいますよ」

 

 そう言ってマーテルは飛び降りた。

 高層ホテル屋上からの投身に怯んだ様子は全くない。

 彼女は俺を助けた時と同じように落下速度を制御してみせ地面へと降り立つ。

 すぐ傍で人型の何かが着地失敗したような痕跡を発見したが、俺もマーテルも見て見ぬふりをした。

 

「ルクスさんは、えーっと……多分あっちの方です。飛ばしますよー」

「事故らないように気を付けて」

 

 尋常ならぬ速度で走る。走っているのはマーテルで、俺は全く疲れないけど心の中で応援するぐらいはしよう。

 頑張れマーテル。ちょっとだけ回復した覇気を分けてあげるから頑張って。

 

 クロ、シロ、アル、ココ、待っていてくれ。今行く!

 こうしている間にも、愛バたちがルクスにあんなことやこんなことされていると思うと・・・

 殺意が湧く! 

 あ、なんか出そう。口からなんか出る。

 

ヤメロォォ…NTRはやめろぉ……」オォォォ

「あらヤダ、極大の怨嗟が漏れてます。なんてどす黒いオーラなのかしら」

 

 ああ、ルクス。お前にも味合わせてやりたいよ。

 俺の尻を散々苦しめた"極冷ゴールド湿布"の恐ろしさをなぁ!

 お前の正体が判明した暁には、尻だけとはいわず全身に貼ってやるぜ。

 股間を中心に貼ってやるぜ!

 

「アヒャヒャヒャヒャ!!!」(゚∀゚)

「何だか楽しそうですね~ウフフフ」(´▽`)

 

 怪しく笑う俺に釣られてマーテルも笑っている。

 奇妙な二人組みは超スピードで夜の街へ消えて行った。



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代替物

 改造デバイスの密売は短期間の内に大きな利益を上げた。

 大がかりな犯罪組織からチンピラや小悪党、そして訳アリの一般人まで、十分過ぎるほどの買い手がいたおかげで売り手市場だったのだ。

 違法だろうが何だろうが、安易に力が手に入る便利道具は魅力的である。

 例えそれが、自身を危険に晒すリスクがあるとしてもだ。

 

 破竹の勢いで上がる収益に売人たちは笑いが止まらない。

 まさに千客万来の様子を見て、しばらくはこの調子で稼げると誰もが思った。

 今日も明日もウハウハ!だと調子に乗っていたのだ。

 

 しかし、真っ当な方法ではない金儲けなど長く続くはずもない。

 終わりの時はあっけなく訪れる。

 それも、最悪の獣を引き連れて。

 憧憬と畏怖の象徴にして可憐なる戦闘集団、トレセン学園が動き出したのだ。

 

 

「騎神双獣撃!」

 

 クロが両拳から覇気を飛ばす。

 放たれた覇気は技名が示す通り、命中した敵を餓狼の如く食い破った。

 デバイスの装甲ごと弾け飛んだ敵を見て首を傾げるクロ。

 

「うまくいかないなぁ。もっとこう、バキューン!からズバーン!となるはずだったのに」

「クロさん。伏せて!」

「わっと」

 

 指示に従い身を低くした直後、クロの頭上を数発の覇気弾が通過する。

 微かに青白く放電した弾丸、それを撃ち出したのは指を銃の形に構えたアルだ。

 クロに襲い掛かろうとしたチンピラ風の男たちは、顔や腹に覇気弾の直撃を受け次々と倒れていった。

 

「ありがとアル姉」

「ご無事で何より。今、私が出した覇気弾……30点ですね」

「自己採点厳しいねえ」

「一直線の雷が敵を黒焦げにしながら貫通していく。と、いうのが理想なのですが、難しいです」

「お互い射撃戦は不慣れだからね。まだまだ的はいるみたいだし、めげずに練習しよう?」

「そうですね。今度はもっと覇気を溜めてから撃ってみましょう。マサキさんにライデンインを習得した私をお見せするためにも……ううーん、むむむむむ」

 

 額に二指を当て覇気を溜めることにしたアル。

 その姿は有名なナメック星人を連想させる。

 アル姉さん、あなたが撃とうとしているのは、ライデインじゃなくて魔貫光殺砲です。

 

「しゃ!アル姉のチャージ中は、私がじゃんじゃん撃っちゃうぞ」

 

 クロは気合を入れ、再び双獣撃の発射態勢を整える。

 そして、自分たちを見守る優しいくも麗しい存在を半眼で睨んだ。

 なんなんだぁその目は?近視か?

 

「シロ!サボってないで仕事してよ」

「はいはい。こっちは順調ですよー」

 

 勘違いするな。私は皆がやりすぎないよう監督をしているのだ。

 断じてサボっているわけではない。

 大体ですね。私まで参戦したら一瞬で終わってしまうでしょうに。

 前の方では、ココがソロで奮闘しているので安心。

 私は陣形の中央に位置して指示と野次を飛ばす係に徹する。

 今の作戦は『バッチリがんばれ(不殺でお願い)』だ。

 

「シロちゃん。いい加減働こっか?」

 

 実体剣にて敵を切り伏せたココが『働け!』と笑顔でプレッシャーをかけてくる。

 彼女の周りには、服を斬り刻まれてパンイチになった男たち。

 むさ苦しい男たちが『キャー!』と悲鳴を上げて戦意喪失中だ。

 なぜ、揃って乳首を隠すのだろうか?

 

 私要らなくね?

 自分が出るまでもなく制圧完了しそう。少々退屈である。

 

「働きたくないでござる。マサキさん欠乏症でござる。やる気力50を下回ったでござる」

 

 やる気の無さをアピールしてみた。

 そして始まる仲間たちからのブーイング嵐!

 

「マサキさん欠乏症はみんな一緒です!我慢してください」

「役立たずのサトイモは畑に帰れ!そして戻って来るな!」

「ヨゴレ芸人枠!オチ担当!公式でも異常者!」

「あー聞こえない聞こえない。マサキさんの声しか聞きたくない」

 

 私たちチーム"ああああ"は密売組織の潜伏先を絶賛襲撃中である。

 学園を敵に回した、哀れな連中を懲らしめるだけの簡単なお仕事です。

 担当する区域の敵を早々に蹴散らした私たちに待っていたのは、追加のお仕事(おかわり)だった。

 現在、遊撃部隊としての活動を強いられてるんだ!

 人手が足りない区域や他チームの補助に駆り出される。ぶっちゃけいいように使われています。

 司令部の命令通り、敵を探してあっちへこっちへの繰り返し。

 改造デバイスの保管場所である怪しい工場や倉庫に突入するのも、本日これで4度目だ。

 施設内部から群れた雑魚敵がワラワラ湧く姿も見飽きた。

 あー、今すぐマサキさんに会いてぇ。禁断症状が出るほど愛してます!

 

 もう無理マジで飽きた。

 全員が作業の目になり始めたので対策を考える事にする。

 とうい訳で、気分転換にフォーメーションを変えてみよう。

 私とココが前に出て、アル姉さんとクロが後方に下がる陣形だ。

 いつもと前衛後衛を交換したのだ。

 雑魚敵の皆さんには、実践を兼ねた修練に付き合ってもらおう。

 近接格闘戦を主体とする脳筋二人は、苦手な遠距離攻撃や射撃練習をすることにしたらしい。

 二人が試行錯誤しながら暴れているだけで、敵がみるみる減っていく。

 アホは命中精度とか考慮していないので、流れ弾に注意だ。

 

 で、前衛になった私とココなのだが、別に接近戦が苦手な訳ではない。むしろ大好物だ。

 銃や弓を使うのはあくまでも趣味なのだよ。

 今、ココは剣を私は徒手空拳で頑張っている最中です。

 

「頑張っているの私ひとりだよ!」

「うるさいですね。何なの?セイバー目指してるの?サムライレムナントなの?」

「手伝ってよ!」

「新衣装の私を差し置いて、セイバー気取りのココなら単騎でも大丈夫ですよ」

「あ、そこ気にしていたんだ」

 

 ココは最近、たづなさんから剣の指導を受けていて、メキメキ腕を上げつつある。

 日本刀型の武装、シシオウブレードを巧みに操り敵をバッタバッタと切り伏せてく姿は、ちょっとだけカッコイイ。

 時代劇のクライマックスで将軍が暴れ回る、処刑用BGMが聞こえて来そう。

 

「アル姉、シロのサボり許していいの?」

「許しませんよ。帰ったらマサキさんに『働かないサトイモがいた』と報告します」

 

 おおっと、脳筋たちがヒソヒソ不穏な話をしているぞ。

 

「マサキさんにチクられても嫌だし、そろそろ働きますか」

「最初からそうしてよ。敵の数が多いんだからさあ」

 

 ふむ、ただ素手で殴るのは芸がないな。

 ココを見習って、私も剣で華麗に戦ってみたい。

 

「ココ、私にも剣をください。エクスカリバーとかでいいですよ」

「注文が贅沢だなあ、聖剣なんて持ってるわけないでしょ」

「じゃあ何でもいいです。早くレンタルさせろ」

「もう……はいコレでいい」

 

 ココが空間収納、略して空納から取り出したのは一本の剣だった。

 何の変哲も面白味もない鋼鉄製の剣・・・特徴が無いのが特徴みたいな。

 

【ダイヤははがねのつるぎをてにいれた そうびしますか?】

 

「アル姉さん?突然、何の真似ですか?」

「お気になさらず。ただのシステムメッセージです」

 

 ドラクエ大好きアル姉さんがナレーションを入れてきた。

 酔ってんのか?ちょっとウザい。

 

「シロ!」

「何ですかクロ?」

「武器や防具は装備しなきゃ意味がないよ!」

「そうだね。ちゃんと装備しろ装備」

「うっっぜぇぇ!!」

 

 クロとココもウザくなってきた。

 はいはい、装備しますよ。

 受け取った剣を確認する。これ、私の覇気に耐えれるの?

 リシュウ・トウゴウの作品をいくつか所持している、私の審美眼で鑑定しちゃる。

 ふむふむ。これは大量生産された『はがねのつるぎ』

 全力で振るうとすぐ砕けてしまいそうだ。

 ケガをしないように指先を覇気でコーティングして刃の部分に軽く触れてみた。

 うーん、切れ味はそれなり・・・

 

【ダイヤは2のダメージをうけた ダイヤはしんでしまった】

 

「今のダメージ判定あるの!?私のHPすくなっ!!」

 

 HP2てなんだよ。紙装甲ってレベルじゃねーぞ!

 ダイヤちゃんそんなに(やわ)じゃないよ!

 マサキさんからは『至高の柔らかさ』と大好評な部位もあるけどさあ。

 まあいい。

 

 作戦を『おれにまかせろ』に変更。

 あとは私がやる。アホ三匹はそこで見てな。

 

「クソっ!トレセンの騎神どもめ!生きて帰れると思うなよ」

「アニキの仇だぁー。奴らを血祭りに上げろー!」

 

【ばかもののむれが あらわれた】

 

 『ばかもの』アル姉さんも言うようになったな。

 増援追加、この雑魚たち本当にキリがない。

 これまでにも結構な数を倒したはずなのに、まだ増えたか。

 無限に湧きはやめてほしい。

 

「下がっていなさい。ここからは私のターン!」

「はいはい。好きにすれば」

 

 ココが退いたのを確認し、私は剣を無造作に構える。

 剣術の経験?見よう見まねですが何か?

 フフフ、私のアバン流刀殺法を見せる時が来ましたか。

 登下校中アバンストラッシュで傘を壊した思い出は伊達じゃないですよ!

 

【ダイヤのこうげき】

 

「そこだぁ!」

「うわぁぁ!何だコイツ!?急に動きが」

 

【ダイヤのこうげき】

 

「もういっちょう!」

「い、いや……母さん!!」

 

【ダイヤのこうげき】

 

「出て来なければ、やられなかったのに!」

「しっ死にたく……」

 

【ダイヤのこうげき】

 

「抵抗すると無駄死にをするだけだって、何で分からないんだ!」

「たっ助けて……」

 

【はがねのつるぎは くだけちった】

【ダイヤは とびひざげりを はなった!】

【ダイヤは こしを ふかく おとし まっすぐに あいてを ついた!】

【ダイヤは もうどくのきりを はきだした!】

 

 〇

 

【ばかもののむれを やっつけた】

 

 そんなこんなで、私の華麗な剣捌きの前に敵はいませんでした。

 制圧完了!もう帰ってもいいですか?

 

「やはり壊れましたか。グッバイ!特に思い入れのない、はがねのつるぎ」

「これレンタルだからね?あとで弁償してもらうから」

「シロさん、途中から素手で暴れていました」

「そりより毒吐いたんだけど!?アレなんだったの?きっっしょっ!!」

 

 終わったことをグダグダ言うんじゃありません。

 ああもう!雑魚の返り血ばっちい!

 

『チームああああ応答しなさい。チームああああのバカども応答しなさい』

 

 耳に装着したインカムから呼び出しの音声が響く。

 うわっ、小姑だ。居留守使いてぇ。

 応答したくないけど、ここで無視するとあとで酷いことになる。

 仕方なく代表で私が応答することになった。貧乏くじ!

 

「ただいま留守にしております。ご用の方はピーと言う発信音のあとにメッセージをどうぞ……ポーッ!!

「それ以上ふざけるなら、耳も尻尾も引き千切るわよ?」

「ごめんなさい。どうかお許しください。他の三人は存分に千切っていいんで私だけは助けて!」

「「「おい!!」」」

 

 マサキさんとファーストコンタクトした時も『引き千切る』と言われた気がします。

 さすが姉弟、血は争えませんねえ。

 もし、私以外の三人がウマ耳も尻尾もない無個性キャラとなったらどうなる?

 ウマ娘好きのマサキさんは、私のみを愛するのでは!

 いえーい!私の独り勝ち!と、妄想を手早くすませる。

 

「そこはもう終わったのね?」

「はい。今しがた片付きましたけど」

「追加のオーダーよ。悪いけど、至急向かってほしい場所があるの」」

「拒否権は……」

「有ると思うな」

 

 ウマ使いの荒いたづなさん。いつか下剋上してやる!

 

 たづなさんによると、ここから離れたポイントを担当中の警官隊と連絡が取れなくなったらしい。

 指定された場所は念の為に人員を配置した港だ。

 貨物船に紛れて逃亡を図ろうとする輩を想定して網を張っておいたのだ。

 他より少々手薄なのだけど、配備された警官隊がチンピラ崩れ程度には後れを取らないはず。

 何かイレギュラーな事態が発生したか?

 

「了解。チームああああ、現場に行ってみます」

「頼んだわよ」

 

 たづなさんとの通信を終える。

 作戦も終わりに近づいているが、他の場所ではまだ戦闘が続いている。

 頷き合った私たちは現場に急行するのであった。

 

 虫の知らせというやつだろうか。

 思えばこの時、私は何か嫌なものを感じていたのだ。

 移動中、口数の少なかったクロたちも何か察知していたのかもしれない。

 私は信心深い方ではないので、今日の運勢がどうだろうと知った事ではない。

 だけど、もし、今日の運勢を占ってみたら・・・きっと大凶と出るはず。

 

「来たか。待ちわびたぞ」

 

 磯の香りがする現場に到着した私たちを、ひとりの人物が出迎えた。

 

「なんだてめぇ……」

「ねえ、ココ」

「この人ですか?この人が」

「この覇気…忘れもしない。こいつだよ!」

 

 十数名の警官隊が倒れ伏す中で、たったひとり悠然と立つ人物。

 やったのはこいつで間違いない。

 強い覇気だ。だが、心身がざわつくような不快感を伴う覇気だ。

 全員の耳と尻尾が逆立つ、見ているだけでムカムカする。

 クロは牙を剝いて唸り、アル姉さんは放電を開始している。

 ココにいたっては既に複数の武器を構えての臨戦態勢だ。

 

「久しいなファインモーション、他の三人は初めましてかな?」

 

 そいつを私はじっと観察する。

 僅かな情報も見逃さないように、全身の感覚を使って観察する。

 中世の騎士を思わせる仰々しい装甲の着いた戦闘服、風になびくマント付き。

 ボイスチェンジャーを通した耳障りな機械音声。

 中肉中背、性別不明、身長はやや高いか?、臭いなし、得体の知れない雰囲気。

 顔は見えない。だって、何時ぞやテレビで見た仮面を着けているのだから。

 

 お前か・・・お前が・・・

 お前のせいで1stの私たちが、大勢の罪なき人たちが、そしてマサキさんが・・・

 

「ようやく会えたな。マサキの愛バたちよ」

 

 そいつは心から嬉しそうな様子で両手を広げる。

 一挙手一投足がムカつく野郎だ。

 

「私の名はルクス。お前たちの敵だ」

 

 仮面の宿敵ルクスは、優雅に一礼してみせるのであった。

 

 〇

 

 思いもよらぬ敵(大ボス)と遭遇した。

 雑魚狩りで多少の疲労はあるが、まだまだ全然いける!

 全員のやる気は十分、クロなんていつ突撃してもおかしくない。

 

【ルクスを ここで しとめますか?】 【はい】or【いいえ】

 

 (おススメは『はい』です)

 (『はい』だよ!)

 (『はい』でしょう!)

 (『はい』しかないね!)

 

 満場一致きたぜ!

 私たち愛バの心は一つ、目の前のルクス(ゴミ)肉塊(生ゴミ)に変える準備はオッケーだ!

 こいつ結局ゴミじゃねーか!!

 

「そう(はや)るな。私に戦う意思はない」

「信用できません」

「そうだよ!ここにいる警官隊、やったのはお前だろ?」

「我々の逢瀬(おうせ)を邪魔されたくなかったのでね。申し訳ないが、彼らには眠ってもらった」

 

 ルクスが言うように倒れている人たちは生きている。

 でも、警官に暴行を加えたので公務執行妨害です。またひとつ罪を重ねましたね。

 

「私は君たちとの対話を望む」

 

 は?はぁ?はぁぁぁぁぁぁ?

 

「ふざけないで!ラースエイレムまで使用して襲って来た奴が何を!」

「なんだ、私は時間停止まで使ったのか。それはすまなかったな、狙うのはマサキだけだと決めていたんだが」

 

 こいつ他人事みたいに。

 狙いはマサキさんで、ココと戦ったのは不可抗力とでも言うのか?

 

「この間、あなた愛バを名乗る騎神にお会いしました」

「明確な敵意を感じましたよ?それについてはどう説明するのです?」

「私と愛バは利害の一致から手を組んでいるが、それぞれの標的は違う。私はマサキを倒したい、そして私の愛バは君たちを倒したい、解るか?」

「それって…」

「そうだ。君たちがマサキと契約し徒党を組んだからこそ、我らも団結したのだよ」

 

 ルクス一味誕生のきっかけは、私たちがチームになったからだってさ。

 害虫が類は友を呼んで群れたのを、人のせいにすんなよ。

 

「言いたい事はそれだけですか。心残りが無いようでしたら消えてくれます?この世から」

「まだ話足りないな。真実を知りたくはないか?」

「あなたの口から出た真実に価値など見出せませんけど」

「場所を変えよう。こっちだ」

「勝手に何を!」

 

 私たちが従って当然みたいに、背を向けて歩き出すルクス。

 余裕の態度がムカつくわ!殴りてぇ。

 

「どうした?……何!……ああ、そうか、わかった」

 

 不意に立ち止まったルクス、誰かと話してる?

 仮面に通信機が内臓されているのか。

 ルクス隙だらけなんだけど、今チャンス?バックアタックしちゃう?

 

「今、大変興味深い連絡があった。フフフ、想定外の事ばかりしてくれる……」

「何がおかしい!」

「いやいや失礼。やはり奴は普通ではないと再認識したものでね」

 

 悪寒が走る。

 何か途轍もなくマズい状況に陥っている気がしてならない。

 ルクスは懐から取り出したスマホを見て、また笑った。

 

「私の愛バが銀髪の幼女を保護したらしい」

「「「「なっ!?」」」」

 

 待て!落ち着け。

 動揺を誘うハッタリの可能性もある。

 ルクスがスマホに表示された画像を見せつけるように掲げた。

 そこには、見間違えるはずのない銀髪幼女、私たちの操者マサキさんの姿が!

 マサキさんの写真!?きっと奴の愛バから送られたものだ。

 そうだとすると、ルクスの言っていることは本当でマサキさんがピンチってこと!!

 

「どうやら『マサキ』と名乗っているらしいが、君たちの知り合いかな?どう思う?」

 

 この野郎!!おちょくってやがる。

 

「クズですね。解っていましたが、あなたは本物のクズです」

「対話が聞いて呆れる。脅迫の間違いでしょ」

「人質を取らないと話もできないのですか?とんだ痴れ者ですね」

「死ねばいいのに」

 

 恨み言を述べながらも大人しくついていく。

 人質を取られたとあっては従うしかない。

 

 (うがぁーーー!悔しい!!この屈辱忘れてなるものかぁ!)

 (殺す。絶対に殺す。マサキさんに何か有っても無くても殺す)

 (でも、マサキの顔、なんだか楽しそうに見えたんだけど?)

 (敵陣のただ中でも余裕の態度を崩さない。さすがマサキさんです)

 

「勘違いしないでもらいたい。マサキを保護したのは全くの偶然であり、我々が意図した事ではない」

「はっ!どうだか」

「廃ビルの屋上から落下中だったところを救出したらしい。人目を忍んで紐無しバンジーとは、相も変わらずエキセントリックな奴だ」

「マサキさん何があったの!?」

「覇気を使い果たした状態での高所落下は命に関わる。マーテルがいなければ、私との再戦も叶わずマサキは終わっていただろう。少しは感謝してもいいのではないか?」

「それが本当なら。マサキさんはマーテルとやらに、感謝の土下座を披露してますよ」

「お前たちの操者は敵に土下座をするのか……いいのかそれで」

「マサキさんは感謝の心を忘れない礼儀正しい人なの!お前と違ってな!」

 

 敵だろうと命の恩人には感謝を伝えるべし!

 とか言って、マジで土下座してそう。マサキさんならやる。きっとやる。

 それで、いつの間にか敵の女と仲良くなって・・・・・・あ、この流れはマズい!!

 

 (ピンチなのマサキさんじゃなくて、私らだ!)

 (マサキさん、どうか早まらないでー!)

 (顔も見せない女に負けるなんて、納得できません!)

 (だ、だ、大丈夫だよ。仮面とったらどうせブスだよ。そうに決まってる!)

 

 呆れたように首を振るルクスを放置して、愛バたちは苦悩するのであった。

 

 ルクスに案内されたのは、港で働く職員たちの詰所だった。

 人払いは既に済んでいるらしく、ルクスは当然のようにズカズカと入室する。

 古ぼけた外観とは裏腹に室内はリフォーム工事の行き届いた、お洒落空間であった。

 テーブルに用意された席は5つ、ルクスの隣とか嫌なので椅子を引き寄せて四人並んで座る。

 全員が席に着いたのを見てルクスが話し出す。

 

「なんと答えるか分かり切っているが。あえて問おう」

 

 ルクスは一呼吸おいて質問した。

 

「マサキの愛バを辞めるつもりはないか?」

「「「「ない!」」」」

 

 マサキさんの愛バでいることは、息をするぐらい当然のこと、私たちの存在意義だ。

 辞めろと言われて『はい辞めます』と答えるウマは、ここにいるはずがない。

 

「ま、当然の反応だな。気が変わったらいつでも言ってくれ」

「変わることはないので、期待するだけ無駄です」

「君たちを敵に回すのは、私としても心苦しいのだよ」

「どの口が言っているのか」

「先程も言いましたが、あなたのところの駄バやる気満々でしたよ?」

「私は愛バの自由意思を尊重している。だが、君たちを狙う事を思い止まるよう、説得してもいい」

「あいつらが説得して聞くようなタマかよ」

「話し合いが無理なら力づくでだ。マサキと関係を断ってくれるのなら、責任もって君たちを守ることを誓おう」

「キモッ!」

「きめぇ!」

「気持ち悪いです」

「オ゛ォエッッ!」

 

 『守る』キリッ

 みたいなことを言われて吐き気がした。

 マサキさんの口から聞くと嬉しい言葉も、ルクスに言われると不快極まる。

 本気で吐きそうなココの背中をアル姉さんが擦っている。

 発射する相手を見誤るなよ。"にんにくたっぷりラーメンゲロ"はルクスにぶっかけてやれ。

 

 私たちの拒絶反応にルクスは微動だにしない。

 内心ショックで固まっているんじゃね?

 

「くだらない話はそれだけですか?無駄に時間を浪費してしまいました」

「いいや、本題はこれからだ」

「早くして、マサキを回収して帰らないといけないんだから」

「真実を知りたくはないか?」

「またそれか……なんなんだよ」

「私の話を聞いた後も、マサキと共に歩むと誓えるかな?」

 

 勿体ぶりおってからに、言いたいなら早く言えよ!

 ルクスは私たちの顔を見渡してから、本日のメインテーマを語り出す。

 これを教えたくて仕方が無かった感が出て凄くウザい。

 

「君たちの操者、あの男は人間ではない」

 

 あ、はい。知ってます。

 あの人、普通じゃありませんよねー。

 最近では、美女化したり幼女化したり大変です。

 

「アンドウマサキというのも仮の姿だ」

 

 お?

 

「神の器になり損ねた欠陥品にして代替物(だいたいぶつ)。世界を狂わせる異物であり終末装置」

 

 おお?

 

アストラナガン・オルタナティブ……それが奴の正体だ」

 

 〇

 

 終わりを告げる神《アストラナガン》の代替物(オルタナティブ)

 

 ルクスの言葉に何を思ったのか、即座に否定する声は上がらなかった。

 

「それが本当なら、詳しく聞きたいものですね」

 

 射抜くような眼差しでダイヤモンドは問いかける。

 先程から、ちょこちょこ変顔で嫌がらせをしてくるのは、彼女なりの精神攻撃か?

 よくわからないが、反応したら負けだ。

 

「いいだろう。私が知る限りの情報を教える」

 

 そしてルクスは語り出した。

 狂人の妄想だと一笑に付すような、荒唐無稽で不可思議な。

 それでいて、あのマサキならば、それもあり得ると信じたくなる物語を。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 世界は一つではない。

 ここではないどこかには、数多の世界と数多の命が息づいている。

 その中には人類の及びもつかない超越的存在も確かにいるのだ。

 超越者のことを神と言い換えてもいいだろう。

 

 存在するからには神にだって役割がある。

 否、これが自分の役割だと信じて好き勝手に行動している。

 導く者、育む者、謀る者、壊す者、創る者、善神、邪神・・・etc.

 

 いつの頃からだろう、因果律の番人を気取る神が現れたのは。

 どこで発生し、どんな経緯で神へと至ったのか、それは多くを語らない。

 分かるのはとても強い力を持っていることのみ。

 自らを《アストラナガン》と呼称するそれは、時に邪神を退け、時に命を見守る。

 悪魔じみた威容に反し、世界の滅びを悲しみ、世界の再生を喜ぶ。

 冷たいようで温かな心を持った善き神だった。

 

 ある時、アストラナガンが今までにない奇妙な動きを見せるようになる。

 とある世界群への介入を積極的に行うようになったのだ。

 

 そこは、人とウマ娘が暮らす世界へが連なる宇宙・・・

 

 彼が介入した世界は遅かれ早かれ例外なく滅びを迎えた。

 次から次へと平行世界を渡り歩き、滅びを積み上げていく、それでも彼は介入をやめなかった。

 善神的な行いはフェイクだったのか、邪神の本性を現しただけなのか。

 本当のところは本人以外、誰にも分らない。

 

 1stと呼ばれる世界があった。

 ベーオウルフたちに滅ぼされてしまった後だが、ここにもアストラナガンは現れている。

 そして次はここ、2ndを目指した・・・

 

「アストラナガンが世界の滅びに関与しているのは明らかだ」

「世界を滅ぼすのが目的だと仮定して、なぜこの世界が対象に選ばれたのでしょうか?」

「さあ?ウマ娘という存在が奴を()んでいるのかもな」

「適当なことを……」

「クク、あながち間違いだとも思えないがね」

「続きを、マサキさんとアストラナガンの関係は?」

 

 度重なる転移を繰り返したアストラナガンは疲弊し、強大であった力も失われていた。

 1stへの到着が遅れたのもそれが原因であり、2ndへ渡る力はもう残されていなかった。

 だから別の方法を考えた。

 直接乗り込むのではなく、依り代である器を準備して2ndの住人として受肉する方法を。

 

 器に選んだのは強靭な覇気と肉体を持つウマ娘を産んだ前例のある夫婦、その第二子になる予定だった者。

 因果律を計測した結果、死産となる運命が決まっていた男児。

 その体に自らを宿らせ(ダウンロード)魂を定着(インストール)させれば完了だ。

 成長のため、ある程度の時間を必要とするが、2ndで活動する体を入手できるはずだった。

 

 だが、アストラナガンは予定外の行動を起こす。

 

 気まぐれなのか手違いなのか、それとも別の意図があるのか。

 アストラナガンは死ぬはずだった赤子を救ったばかりか、己の力、その源である動力炉を譲渡したのだ。

 人類には早すぎる、超々エネルギー永久機関。

 "ディーン・レヴ"と言う名の神核を。

 

「マサキさんの出す異常な覇気の理由」

「思った通りだ。ディーン・レヴはマサキが持っていたんだね」

「神様由来の力、私の操者マジでカッケー!」

「シャナミア様たちが気にするわけです」

「そうだ。奴は終わりを告げる神の手先であり、この世界に生まれ落ちた第二のアストラナガンとも言うべき存在だ」

 

 神の代替物・・・故に、オルタナティブ。

 真意は不明だが、彼の出現した世界の行く末は滅亡である。

 

「以上が、マサキの正体とその危険性についてだ」

「「「「…………」」」」 

 

 マサキの正体を知ってショックなのか、四人の愛バたちはしばらく黙りこくっていた。

 操者への疑念と不信、他にも様々な感情が入り乱れていることだろう。

 そんな葛藤を意に介さず、ルクスは言葉を続ける。

 

「私はマサキ(オルタナティブ)を倒し、滅びの運命とその連鎖を断ち切る」

「救世主にでもなるつもり?」

「必要とあらば」 

「世界を救うって?笑わせないでよ。だったら、あなたがしてきた事は何?どうして1stをあんな目に……」

「ベーオウルフとルシファー、あの二体を造ったのは私ではない」

「しらばっくれても無駄だよ。1stのクロシロちゃんに、何かしたところを見たんだから!」

「それは本当に私だったか?」

「何?」

「ディーン・レヴの力があれば、死にかけの破壊獣を召喚して戦っている風を装うことも、思い通りの幻を見せることも可能だろう」

「マサキの自作自演だっていいたいの?あなた自白していたじゃない、あれもこれもこれも、やったのは自分だって笑っていたくせに!」

「正直に言うと、あの時の事は断片的にしか思い出せない。やっていもいない罪を自白したような記憶も当然に無い。情けない話だが、強力な催眠(ギアス)らしき術をかけられたと思っている。気が付いた時、私はマサキと戦っていた自分に驚いたぐらいさ」

「そんな話を信じろって?バカじゃないの」

「バカだろうがそれが事実だ」

 

 怒りを露にしていたココ。

 いちいち反論するのにも疲れたのか、納得いかない表情で押し黙る。

 

 (シロちゃん。どう思う?)

 (嘘だ!と言い切るのは簡単ですが、何か釈然としないものを感じます)

 (本当のことも言っている、とか?)

 (何度も嘘をつきすぎて、それを真実だと思い込む病気の可能性も)

 

 虚言癖?

 ルクスはどちらにしろ胡散臭い奴ということで結論付けた。

 

「それでどうする?」

「どうもしませんけど」

「ここまでの話を聞いて、まだマサキの愛バでいるつもりか?」

「そうですけど何か?」

 

 ルクスの問いかけにサラッと返答するシロ。

 

「愚かな、一時(いっとき)の恋愛感情で世界の滅びに加担するなどと」

「一時じゃありませんー!未来永劫続くラブハートですー!」

「ラブハート!?何を言って……なるほど、これが噂のクレイジーⅮ」

「クックック、マサキさんに狂って殉ずるならば本望!」

 

 だよなあ、お前ら?とシロは仲間たちに目配せする。

 

「当然!私はずっとマサキさんの愛バだよ」

「同意見です。あの人の愛バでいる事こそ、私が生きる意味」

「私たちは切っても切れない関係。運命共同体なの」

 

 胸を張って答えるクロ、アル、ココ。

 三者三様の決めポーズ付きなのが鬱陶(うっとう)しい。

 発言するたびに、しゃくれ顔を披露するD(ダイヤ)にはもう不快感しかない。

 操者への異常な心酔っぷり。これにはさすがのルクスも戸惑う。

 

「まるで話が通じない??……目を覚ませ、マサキは君たちのみならず、世界の全てを(むしば)む。言わば、この世界の病巣だぞ」

「んー?そうかな」

「病巣ってwあ、恋の病には絶賛感染中です!」

「ディーン・レヴに()かれ共鳴する神核を恋心だと勘違いしている。それがなぜわからんのだ!」

「聞きた?勘違いだって」

「幸せな勘違いなら望むところですよ」

 

 ダメだこいつら、何度説明しても惚気(のろけ)で返してくる。

 ショッキングな内容を受け止めきれずイカれたのか?

 いや待て、最初からこんな感じだったはず。ヤバい、これが奴らの平常運転だ。

 不自然なほどの余裕見せつける宿敵の愛バ。

 ルクスは己の考えが間違っていることに思い至った。

 

「そうか、そういうことか……()()()()()()()()()な?」

「♪~(´ε` )」

「マサキがアストラナガンだと()()()()()()()。知っていてなお、奴に寄り添うのか!」

 

 はい。そういう訳でネタばらし。

 衝撃の真実を語ってくれたルクスさんでしたけど、全部無駄でしたーwww

 マサキさん=アストラナガンは、愛バなら常識なんですけど。

 めっちゃイキって話すから、心の中で『もう知ってるわ!』と叫んじゃったぞ。

 話の途中で入れたリアクションは全てアドリブだ。

 1st絡みの(くだり)でココが熱くなったけど、何とか堪えてくれた。

 

 それもこれも、ルクスがどれだけの事情通か探りを入れるため。

 こちら側の持つ情報と比較してみてわかったこと。それは・・・

 ルクスが痛い奴だと言うことだ。

 

「長々と講釈垂れて気分良かったですか?無様ですねぇ」プークスクス

「『それが奴の正体だ( ー`дー´)キリッ』だってよw」

「オwwルwwタナwwティブwwねえねえ?それ自分で考えたの?ねえ?」

「『終わりを告げる神』ですか、胸が苦しくなりますね」

「私のおススメは『終末装置』というワードですよ。ゾワゾワします」

「「あ痛たたたたwww」」

「でも、マサキさんが好きそうなんだよなぁ。ノリで正式採用しそう」

「「「あーわかる!」」」

 

 おやぁ?ルクスなんかプルプルしてない。

 痛々しい自分をようやく理解したようですね。遅せぇんだよ。

 

「っ!だが、奴が滅びの原因には違いない」

「お前がそう思うんならそうなんだろう、()()()()ではな」

「何だと!」

「私たちの見解は違うんですよね」

 

 アストラナガンの目的は世界の滅亡などではい。

 逆だ。滅びを食い止め、世界を弄ぶ元凶を排除することこそ使命。

 善神として彼は戦っていたのだ。

 

「そんなはずは…ならばどうして、奴が現れた世界が(ことごと)く滅ぶ!」

 

 行く先々で世界が滅ぶのは、元凶が恐ろしく狡猾で強大な力を有しているためだ。

 いつも後手に回ってしまい、気付けば取り逃してしまう。

 致命傷を負い活動不能に陥ったことも一度や二度ではない。

 何度負けても立ち上がり、敵を追いかけ続け、たどり着いた先が2ndだった。

 そこで出会ったのだ。

  

 世界の命運と力を託すに値する。マサキという男に。

 

「なんだそれは!連戦連敗中の神が職務放棄したとでも言うのか!」

「クォヴレーさんは、マサキさんにバトンを渡したのです。今度こそ勝つために、自分よりも勝率の高いマサキさんに全てを賭けた」

「クォヴレー?何だ、誰だそれは?」

「おやおや、ご存じない!へぇー、そうですか、そうですか」( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

「その目をやめろ!私を、この私を(さげす)むんじゃないッ!!」

「化けの皮が剝がれてますよ。紳士ぶったキモキャラはお終いですか?」

 

 ルクスが声を荒げた。

 『お前はその程度だ』と暗に告げるシロの目が、不愉快で我慢ならなかったとみえる。

 それでキャラを崩しては、余計に小物っぽくなると気付け、バーカ!

 

 (こいつ、クボさんを知らない!?)

 (それがわかっただけで十分です)

 (もういいですよね)

 (うん。こんなクソ仮面放置して、早くマサキを助けに行こう)

 

「お話はここまで、そろそろマサキさんを返してもらいましょう」

「本当にマサキと行くのか……どうあっても気持ちは変わらないか?」

「くどい!しつこい!どっか行け」

「選択を間違えたな。必ず後悔するぞ」

「それ、自分の愛バに言ってあげたら?」

「残念だよ。君たちとなら共に理解し合えると━━」

「いい加減にしてください!早くマサキさんを返して!」

 

 キレたアルがテーブルを蹴り飛ばした。

 身をかわしたルクスには当たらず、詰所の調度品なぎ倒しながら壁に激突するテーブル。

 ルクスは肩の埃を払う仕草をして、出入り口を指差す。

 

「外だ。もうそこまで来ている」

「「「「マサキさん!!」」」」

 

 四人は一目散に詰所の外へと駆けだす。

 果たしてそこにいたのは、

 銀髪幼女マサキと、それを抱っこした仮面の騎神マーテルであった。

 

「ねえ、まだ?」

「まだみたいですね~。ルクスさんたち、何を盛り上がっているのかしら」

「突入しようぜ」

「邪魔しちゃダメだって言われてますよ」

「俺とマーテルはたまたま入った部屋で、たまたま変態仮面ルクスを発見した。そういうことにすればいい」

「おー妙案ですね」

 

 気のせいか?やたら距離が近い気がする。

 敵同士であるはずのマサキとマーテルは、まるで本物の操者と愛バのようで・・・キレそう

 全然こっちに気付かないんだけど?二人の漫才始まってますけどぉ!

 ブチギレそう

 

「だろ?『すみませーん、小便漏れそうなんでトイレ貸してくれます?』これで行こう」

「ルクスさんと愛バの皆さんが仲良くしていたら、すっごく気まずいですね!浮気現場目撃しちゃったみたいなw」

「その時は、()()()()を漏らして、雰囲気も何もかもぶち壊してやるわ!」

「操者としての尊厳もぶち壊されそうですねww」

 

 おーい、マサキさーん。こっちですこっち!こっち見て。

 早くそのウマから離れてください!

 

「よし行くぜ」

「行きましょう……あら?」

「なんだ、まさかルクスが先に漏らしたのか?」

「どうしてそうなるんですか、あなたの愛バが━━」

「え?もしかしてルクス倒しちゃったとか!?ごめんねーうちの子たち強くてさぁww」

「きゃっ!胸をペチペチしちゃダメです」

「すまない ただちょっと母乳が欲しくて……」

「出ませんよ、もう////」

 

 ナチュラルにセクハラしてるーー!

 そんな乳だけ女のどこがいいんですか!

 母乳ならいずれ飲ませてあげますから、戻って来て―!

 

「楽しそうだな」

 

 私たちを放置して仲睦まじい二人。

 そんな二人に、追いついて来たルクスが声をかけた。

 

「あ、ルクスさん」

「何ぃ!!」

「と、マサキさんの愛バが勢揃いです」

「何ィィィーー!…………い、いつからや?」

「漏らすどうこう言っている時には、いたみたいです」

「そうですか、ははは、まいったなぁ……やり直していい?」

「合わせますので、ご自由に」

 

 マサキさんはこちらをチラ見しているが、視線を合わせようとはしない。

 マーテルと頷き合ったあと『コホン!』と咳払いして、リテイクを開始した。

 

「おのれルクス!俺を人質にとり愛バを手籠めにするとは!この腐れ外道がぁぁ!」

「大人しくしなさい。無力なあなたはそこで愛バのNTRを見ているしかないのです!ですよね、ルクスさん?」

「あ、いや、なんだ」

「くっ!放せ、乳だけはやたら素晴らしい騎神め!こんなものに俺は屈しないぞ」

「フフフフ、その威勢がいつまで持つか。ほぉら、押し付けてあげます」

「や、やめろぉ!」

「こういうの好きなんでしょ?いっぱい甘えていいんですよ」

「ぐあああああ!何という弾力だぁ!」

「愛バの前で敵おぱーいに溺れる姿を見てもらいましょうね~」

「クロ、シロ、アル、ココ!俺の事はいい、俺に構わずルクスを!奴を倒すんだぁーー!」

 

 ルクス困ってるじゃねーか!

 『お前の操者だろ、何とかしろよ』とルクスが念を送ってくる。

 私たちだって困まっているんですよ!

 なので、こちらも『お前の愛バだろ、何とかしろよ』と睨んでおく。

 

「どう?いけそう」コソコソ

「バッチリです。名演技でしたね」ヒソヒソ

 

 いけるか!内緒話下手くそか!

 大根役者二人の声は丸聞こえだった。

 

「マーテル、そこまでしろ」

「はーい」

「マサキさん、あとでお説教です」

「\(^o^)/オワタ」

 

 とりあえずアホの二人の漫才を終わらせた。

 

「お話はうまくいきましたか?」

「見ての通りだ、物別れに終わったよ」

「こちらもです。わかっていましたが、残念でなりません」

 

 ルクスとマーテルが会合の結果を報告しあっている。

 私たちとマサキさんだって、この距離なら目だけで会話可能だ。

 

 (もしかして、愛バやめろとか言われた?)

 (そっちもみたいですね)

 (ああ、操者やめろってさ。即行でお断りしたけどな)

 (さっすがぁ!)

 (私たちも断固拒絶の意思を示しました)

 (鼻で笑ってやったよ)

 

 操者と愛バ、似たような状況にで、似たような交渉を持ちかけられたみたいだ。

 

「そこのデカ乳仮面!マサキさんを解放しろ!」

「いいですよ。ルクスさんと交換です」

「言ってる意味がわかりません」

「隠さなくていいですよ~。四人ともルクスさんを殺す気満々じゃないですか」

 

 ちっ!さすがにバレるか。

 少しでも妙な動きをすれば、ルクスの頭を吹き飛ばす準備は全員がしている。

 クロとアル姉さんは、いつでも殴れるよう覇気を溜めているし、ココはゼロ距離から砲を撃ち込むつもりだ。

 私はステルスにしたオルゴンテイルを展開、仮面ごと頭部を貫いてやるわ。

 

「よう」

「フッ、なんとも無様な姿だな」

「可愛いと言え!バーカバーカバーカ!」

「無理だな。中身がお前だと、おぞましいとしか感じない」

 

 マサキさんとルクスが会話する。

 因縁の相手を前に、ヒートアップする両者に愛バの私たちは入り込めない。

 もちろんマーテルも黙っている。

 

「全部お前のせいだ。お前の道連れで彼女たち皆は不幸になる」

「そんなことさせねぇ。マーテルたちは割といい奴なのに、なんでお前なんかと……」

「こちらの台詞だ、アストラナガン!」

「ああ、その話もしたの。ドヤ顔で語って滑ったんだろ?ププッ」

「自分が神の代替だとバラすアホはお前ぐらいだ!それを理解してなお、付き従う愛バもマトモではない」

「おいコラ!愛バを悪く言う奴は許さねぇぞ」

 

 このままだと口論がずっと続きそうだ。

 そう思われたとき、マーテルが一歩前に出た。

 

「では、お返しします」

「ひょ?」

 

 不意にマーテルはマサキの体を宙に放り投げたのだ。

 四人の視線がマサキに注がれた一瞬、示し合せていたように、ルクスとマーテルは動く。

 この場から逃走を図る気だ。

 

 (マサキさん!?受け止める!)

 (バカ!それは私に任せろ。クロはルクスをやれ!)

 (誰でもいいです!ルクスが逃げてしまいますよ)

 (とか言って、アルもマサキの方に!?あ、マーテルも逃げちゃう)

 

 結局、愛バたち全員がマサキを優先した。

 揉みくちゃになりながら空中キャッチした操者の無事を確かめているうちに、すっかり距離を離されてしまった敵を見る。

 ルクスはマーテルを傍らに置きながら、こちらに声をかける。

 

「交渉は決裂した。無駄な戦を避けようとした私の慈悲を、お前たち拒絶したのだ!」

「うるせぇ!ブサイクな顔みせろ!」

「覚えておけマサキ!オルタナティブにすぎない貴様の(おご)りが、全ての間違いなのだと」

「出たwオルタナティブww」

「え?今の俺のこと、何それカッコイイ」

「そしてこの反応である」

「やがて来る破滅の時まで、せいぜい人間のフリを楽しむがいい。そしてお前は知るだろう━━」

「なげぇ!目標ルクス!全騎撃ちまくれぇーーー!

「「「「了解!!」」」」

「クソっまだ、話の途中だ!コレだから貴様たちわぁぁぁーーーーー!

 

 俺の号令で愛バたちがルクスに集中砲火を浴びせる。

 シロが愛用のオルゴンライフル乱射し、ココが空納からミサイルランチャー召喚して発射する。

 クロとアルも各々の覇気を乗せた弾丸を、拳や脚から撃ち出している。

 マーテルに対する配慮が一切ないが、これも戦なので仕方なし。

 破壊の轟音と土煙が上がる。気のすむまで撃ち尽くしたところで、俺は待ったをかけた。

 

「ビックリしましたね~。お怪我は?」

「問題ない。君が庇ってくれるとは思わなかったな、マーテル」

「いえいえ、愛バとして当然の仕事をしたまでです」

「マサキの前でよくもまあ。君の割り切りは、いっそ清々しいな」

「仕事とプライベートは使い分けてこそ、ですものね」

 

 ちっ!やっぱりダメか。

 マーテルが愛バたちの攻撃を防ぎ、ルクスを守ったようだ。

 展開された障壁は、オルゴンクラウドに酷似している。

 そっか、ルクスとリンクしたのか。

 なんだかちょっと残念に思う。

 

「追撃しますか?」

「いい、もう間に合わない。ルクス、いつの日か必ず倒す!」

「いつかなんて日は来やしない。その前に、私がお前を倒すのだから!」

 

 キザったらしく一礼したルクスはマントを(ひるがえ)し去って行く。

 その背中を俺たちは睨みつけるのであった。

 

「私も失礼しますね」

「世話になったな」

「こちらこそ。お世話は楽しかったです。本当に……」

「敵、なんだよな?」

「敵ですね。少なくとも、そこの四人は気に入りませんから

「「「「あ゛あ゛あ!?」」」」(# ゚Д゚)

「では、またお会いしましょう」

 

 手を振ってルクスを追いかけて行くマーテル。

 隠形術を使ったらしく、二人はすぐに見えなくなった。

 

 お、終わった。

 長かったけど、これにてようやく解放されたのだ。

 

「お、おつか……あれ…」フラッ

「マサキさん!?」

「ちょっと、大丈夫なの」

 

 ふらついた体をシロが優しく支えてくれた。そのまま抱っこされる。

 ここまでいろいろあったので、幼女の肉体と精神は疲れ切っていたのだ。

 

「疲れた……早く帰りたい…腹も減った」

「すぐに帰ります。もう少しの辛抱ですよ」

「ごめん。話したい事いっぱいなのに、疲労がピーク」

 

 シロの胸に顔を埋める。

 ああ、やっぱり愛バのおぱーいはいいなあ。

 俺の帰るべき場所はここである。

 

「わかってるよ。敵に囲まれた大変だったんだよね」

「ええ。私たちがルクスと向かい合っている時、敵の女たちとハーレムだったんですよね」

「膝枕どうだった?私のより良かったかな?」

 

 あれれぇ?愛バたちの様子がおかしいぞぉ。

 なぜ俺がハーレムだったと気付かれた?ルクスのアホがバラしたのか?

 

「わかりますよ。マサキさんの体中から、こんなにもメスの臭いがするんですからねぇぇ!!」

「ひっ!まさかマーキングですかぁ!?!」

「それもあるけど!あのボケ女どもの臭いがマジでプンプンするんだよ!」

「大体何をされたのか、何をしていたかは、予測できます」

「ねえマサキ?怒らないから教えてよ」

 

 ココが怖い。いや、全員が怖い。

 シロの腕の中、小刻みに震えている俺には、どうすることもできない。

 

「あの乳、マーテルと随分仲が良いみたいだけど。どういう関係なのかな?」

「今日が初対面で、命の恩人、そ、それだけだ」

「本当かな?その割には通じ合っていたよね。昨日今日の間柄じゃないぐらいに……不思議だね」

「そうそう、ホント不思議なこともあるもんで……」

 

 俺のピンチ本番はこれからなの? 

 幼女最終日になにやってんだか。

 

「心配……したんだよ」

「人質になったって言われて、すごくすごく怖かった」

 

 あ、クロとココがちょっと涙ぐんでいる。

 怒っているけど、それ以上に自分の身を案じてくれたのだ。

 こんないい子たちを放置して敵と遊んでいるとか、俺はなんてゲスい男なんだ。

 反省しよう。そして愛バたちを大事にしよう。

 

「ごめん。俺もお前たちが心配で堪らなかった」

「はいはい、もうこの辺にしましょう。続きは帰ってからということで」

「密売組織の殲滅も終わっている頃です。司令部に連絡を入れて帰りましょう」

 

 ルクスとその愛バたちとの邂逅は、これからの困難を暗示しているようだった。

 頑張らなければ、とりあえず男に戻って、また頑張ろう。

 一筋縄ではいかない敵たちを倒さなければ、俺に幸せな未来は訪れないのだから。

 

「ご飯を食べたあとで、お説教タイムです」

「えぇ(´Д`)今日は勘弁してほしいかな……ダメ?」

「では、お風呂でお説教タイムです」

「もう一声」

「ならば!お風呂で洗いっこして、湯船でまったりお説教タイムです」

「望むところだぁ!」

 

 幸せな未来、結構すぐ来た。(*´▽`*)



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超時空テレビ

 いろいろあって疲れたが、何とか帰宅することができた。

 

 家についてからは、別行動中に何があったのかを尋問され、愛バたちに許しを乞いながら説明をした。

 メッチャ怒られた。

 年下の愛バたちに説教されてちょっと泣きそうなった。実際泣いた(´Д⊂ヽ

 でも、怒りながら愛バたちも泣きそうになっていたので、どれだけの心配をかけてしまったのか思い知った。

 自分の軽率な行動を深く反省し、心の底から謝り倒してようやく許してもらえたぜ。

 

 マーテルたちの匂いが付いているのを大層嫌がった愛バたちにより、全身をゴシゴシと力強く洗われてしまった。

 そして風呂上りには入念な本気のマーキングが待っていましたとさ。

 たっぷりお説教を食らったあと、たっぷりイチャついて、幼女生活最終日は終わったのだ。

 

 〇

 

 俺は眠りについたはず・・・

 

『戦え』『戦え』『戦うんだ』

 

 あ?

 

『使命を』『己が使命を果たせ』『逃げることは許さない』

 

 あちゃー、久しぶりに来ちゃったよ。

 

『奴を倒せ』『奴を倒さなければ』『今度こそ勝利を』

 

 気付けば俺は謎の声に囲まれていた。

 四方八方から一方的に声を浴びせられてウンザリする。

 『使命』だの『戦え』などと、毎回似たような事を言うんだよな。

 

『お前の番だ』『お前しかいない』『お前がやるんだ』

 

 シャミ子と修練するようになってから、大分頻度が減ったけど。

 未だに週一ぐらいのペースでこの声に悩まされる。

 心地良い眠りに落ちたと思ったらこれだぜ?気分悪いわ。

 翌日の寝覚めが悪くなるから勘弁してほしい。

 

『そのために生まれた』『そのために生かされた』『そのためのディーン・レヴ』

 

 そっか、ルクスにアストラナガンと名指しされちゃった事を気にしてるのね。

 俺が平然としているから、心配になったという訳か。

 『こいつに任せて本当に大丈夫か?』とでも思っているんだろう。

 

『使命を忘れるな』『受け入れろ』『それがお前の運命なのだ』

 

 俺は今までこの声をクボのものだと思っていた。

 だが、どうやら違うようだ。

 寝ている俺を取り囲んでいる大勢の気配は、全てがバラバラで統一感が無い。

 なぜだか知らんが、分かるのだ。様々な年齢層の男女が集まっていることに。

 人間もいればウマ娘もいるし、大人も子供もおねーさんもいる。

 こいつらは何者だ?

 クボが嫌がらせのために雇ったエキストラだったら、幻滅しちゃうなあ。

 

 声だけじゃなく、視線もビンビンに感じる。

 そんなに見ちゃイヤン(/ω\)

 怖すぎじゃね?ホラー苦手な俺に何してくれてんの!

 金縛り状態で碌に目も開けられず、一方的なお小言を聞かされるってどんな拷問だよ?

 理不尽に一矢報いるため、こっちから話しかけてみたいと思います!

 今、俺の声は出ないので思念通話をやるみたいに念を飛ばすのだ。

 

『使命を果たせ』『なんとか頑張れ』『とにかく頑張れ』

 

 頑張れって・・・おざなりになってきてない?

 使命ですね。はい、わかってまーす。

 わかっているので、静かにしてもらっていいですか?。

 

『使命だ』『お前の使命を』『使命を━』

 

 おだまり!!

 

『・・・・』『・・・・』『・・・・』

 

 一喝して黙らせてやった。

 なんだ、俺の声ちゃんと届いているじゃんかよ。

 台詞をキャンセルされてビックリ!してやんの。

 

『話しかけて来た!?』『何だこいつ』『変だこいつ』

 

 こいつこいつ、うるさいわ!

 お前らこそ何なの?大勢で押しかけて、一体何人いるのよ?

 

『今日は30人』『これでも人数を絞った』『抽選方式』

 

 多いよ!

 人数絞ってそれなら、謎の声たちの総数はもっと多いのか。

 少なくとも100人以上いるってこと!?うわぁ・・・

 

 それで、あなたたちは何者なのでしょうか?

 

『我々は敗者だ』『何も守れず』『何も救えず』『惨めに敗北した』

 

 何人かが深いため息がつく音が聞こえた。

 場が一気に沈み、お通夜みたいな空気になる。

 自分たちから敗者だと言っておいて、勝手にへこむのやめてくれますか?

 

 なんとなく察したぞ。

 謎の声たちは正体はきっと、別の世界で元凶と戦い散っていった戦士たち。

 その残留思念、無念の声なのだ。

 じゃあ、俺の先輩ってことかい!?

 先輩たちチーッス!本日はお日柄もよく、ご機嫌いかがでございましょうか?

 

『先輩?』『そんないいもんじゃない』『負け犬』『そう、我らは負け犬だワン・・』

 

 語尾が『ワン』になるほど落ち込んでいらっしゃる!?

 もー!暗い暗い暗い!もっと明るく行きましょうや。

 先輩たちがどんな酷い目遭い、どんな最後だったのか、俺には想像もできません。

 俺みたいな奴に同情されても腹立つだけでしょうから、簡単に気持ちが解るとは言えないし、慰めたりもしません!

 だけど、俺、頑張りますから。

 頑張って元凶のクソ野郎には落とし前をつけさせます。

 先輩たちの無念、怒りも悲しみも全部全部、百倍、いや千倍にして返しやりますよ。

 

『いい奴だ』『いい子だ』『ええ子やね』『ウホッ!いい男・・・』

 

 先輩たちが感極まっている。

 よしよし、このまま成仏してくださいな。

 南無阿弥陀仏~南無阿弥陀仏~。

 

『繰り返してほしくない』『お前には』『我らと同じ思いをさせたくない』

 

 もう、心配性なんだからぁ。

 念仏変えてみるか?

 何妙法蓮華経~南無妙法蓮華経~。

 

『強くなれ』『守り切れ』『抗うのだ』『我らは』『お前をの勝利を信じるぞ!!』

 

 南無八幡台菩薩!!

 クソっ!先輩たち全然成仏しねぇ!

 シャミ子たちみたいに、このまま居座る気じゃなかろうな?

 

 激励してくれているみたいだし、気持ちはありがたいけど。

 週に何度も来られると、さすがに迷惑なので頻度を落として欲しいとか、思ったりして。

 

『わかった』『お前の負担にはなりたくない』『口を出すのはやめよう』『静かに見守る』

 

 希望が通った!

 意外と話のわかる先輩方だった。

 けど、俺を見守る会は解散しそうにないな。

 睡眠妨害の小言がなくなっただけ良しとするか。

 

『サボっていたら』『また注意する』『先輩からの叱咤激励』

 

 はい。お小言をもらわないよう。頑張りまーす。

 言いたい事を言って満足したのか、先輩たちは退散していった。

 

 〇

 

 そして、気づくと俺は・・・体が男に戻っていた!!

 

「おお!おお!これだ、これこそが俺だ」

 

 ちゃんと大人用の服も着ている。全裸のサービスシーンはおあずけよ(´∀`*)ウフフ

 ま、ここが現実ではなく、シャミ子たちが造った夢空間だからなんですけどね。

 

 先輩たち背後霊ズから解放された俺は、ここに飛ばされたらしい。

 飛ばされたのはシャミ子ハウスの玄関前だ。

 前回は無かった、カメラ付きインターホンを鳴らすとシャミ子の声が返事をした。

 

「はい。こここは、偉大なるシャナミア様とおまけ三女神の暮らす家です」

「マサキだ。男に戻ったマサキが来ましたよっと」

「本物だという証拠は?」

「は?おいおい、カメラで見えてるだろ。まさか、ボケたのか2000歳児?」

「本物のマサキなら、私を賛美していい気分にさせてください」

「めんどくさっ!いいから開けろよ。言う事を聞かないと、尻を泣くまでブッ叩くぞ!

「この私をスパンキング調教したいだなんて、さすがマサキ///」(*´Д`)ハアハア

 

 賛美はしてないけど、いい気分になったドⅯは玄関を開けてくれた。

 どうぞどうぞと手を引かれ居間に通される。

 ふにゃっとした笑顔のシャミ子は嬉しそうだ。

 

「変化の試練、お疲れ様でした。一週間よく頑張りましたね」

「最後の最後でバタバタしけどな」

 

 労いの言葉が身に染みる。

 ロリスキーたちMML団の信者(ストーカー)たちに、ルクスとその愛バとの接触。

 試練最終日にして、本当に濃い一日だったぜ。

 

「試練はこれにて終了です。マサキは正式に私の起動者となりました」

「そいつはどうも」

「もっと喜んでくださいよ~。私はとっても嬉しいのに」

「俺も嬉しいよ。それで機甲竜は?現実世界でも早く会いたいな」

「まあまあ、そう焦るものではありません。マサキに会う前に、十分なお手入れをしませんと」

「それって時間かかる?いつ頃に会えるの?」

「女は準備に時間をかけるものです。えーっと……1年以内にはなんとか」

「長いよ!お手入れとか別にいいから早く出て来てくれよ」

「2000年の引き篭もりをなめないでくださいね!外に出るのは相応の覚悟がいるのです!」

 

 待ってられねー!

 そんな悠長な事で、ルクスとの決戦に間に合うのかよ?

 

「私の力無しで勝てれば万々歳じゃないですか。余裕を持った勝利を目指しましょうよ」

「全部終わったあとに、機甲竜に出て来られてもな……シャミ子の存在意義がなくなるぞ?」

「その場合は、平和利用してくだされば。そうだ!マサキの家で養ってください、移動手段としてもペットとしても大活躍間違いなしです!」

 

 竜に乗って大空を移動か、ちょっと憧れるな。

 でも、家に機甲竜を置けるのか?駐車場に入るとは思えないぞ。

 全体像を知らないのけど、メカゴジラをワンパンできるなんて豪語するのだから、それなりの大きさだろう。

 

「一応聞くけど大きさは?」

「全長60メートルは軽く超えます」

「置き場がない!!」

 

 個人で所有するのは無理すぎるな。

 メジロ家所有の軍事基地とかで、御神体兼最終兵器として丁重に管理してもらうのが妥当だろうな。

 偉大なご先祖様の頼みとあらば、アルの実家も嫌とは言うまい。

 

「なるべく急ぎますから、待っててください」

「うん。期待して待ってる。ところで、メルアたちは?」

「あなたの愛バたちの所です。今日は『徹底的にしごいていやる』のだそうです。スパルタ式ですよ」

「何故?」

「一週間ぶりに男へ戻ったマサキ。欲求不満だった愛バたちは、きっとハッスルするでしょうね」

「お、おう」

「明日を思い浮かべながら眠りに落ちたところで、地獄の修練メニューがドーン!いい気味です」

「ひでぇ」

「これも彼女たちのため、()いてはあなたのためです。メルアたちは心を鬼にして指導に当たるのですよ。いい話じゃないですか」

 

 愛バたちは今頃大変な目にあっているのか、頑張って乗り越えてくれよ。

 

 今ここにはいないが、メルア、カティア、テニアの三人からも『試練クリアおめでとう』との言伝を預かっているらしい。

 三女神にも現在進行形でお世話になっている。お礼は何度言っても足りないくらいだ。

 

「頑張ったマサキには嬉しいサプライズがあります。じゃーん!これを見て下さい」

 

 シャミ子は居間にある家電を指差す。

 それは、今はもう懐かしいレトロなブラウン管テレビだった。

 リモコンではなく画面横のダイヤルを操作してチャンネルを変えるヤツ。

 ここには既に大画面液晶テレビがあるというのに、何なんだろう?

 

「これはまた、随分と旧い型のテレビだな」

「ただのテレビではありません。マサキのあり余る覇気を流用して創り上げた、見かけ以上に高度で複雑な一品なのです」

 

 シャミ子が創ったという点に些か不安を覚える。

 何だったかな。前に愛バたちが夢空間で古いテレビを見たとか、誰かに会って話をしたと言っていたような・・・

 

「これこそが"超時空テレビ~愛おぼえていますか~"」

「超時空テレビ!?何が起こるの!どうなるの!早く使って見せて」

「いい反応です。それでは、ヤックデカルチャーなひと時をあなたに……スイッチオン!」

 

 シャミ子はテレビのスイッチを押した。

 しかし、テレビからは「ザーザー」という雑音が流れつつ、画面いっぱいに黒・灰・白色の無数のザラザラした点がゆれ動くのみ。

 チャンネルを何度変えても、それは同じだった。

 

「おかしいですね。チューニングがうまくいっていないのでしょうか?」バシバシ

「おい、そんなに叩いて大丈夫か」

「古来より、家電は叩いて直すものなのです。こいつめ!動けってんだよ!」バンッ!バンッ!

 

 シャミ子はテレビを乱暴に叩き始めた。

 それが功を奏したのか、画面の中の砂嵐が薄れて行き、やがてひとりの人物を映し出した。

 

「見えているか?■■■■■よ。ああ、マサキもいるのか」

「バッチリ見えてますよ。ようやく、お顔を見ることができました……ヒュー♪期待を裏切らないイケメーン!」

「お前は!?」

「マサキ、俺のことを忘れた訳ではないよな?忘れていたら、さすがに怒るぞ」

「クボォーーー!?」

 

 テレビに映るのは忘れもしない、俺というの因果の始まりとなった男。

 俺にディーン・レヴを譲り使命を託した神、アストラナガン。

 クォヴレー・ゴードンがそこにいた。

 

 〇

 

 シャミ子の力作、超時空テレビはクボとリモート通信できる装置でした。

 よくわからん別次元?別宇宙?にいると思われる奴と顔を見て話をできるなんて。

 マジですげぇ。

 

「前にテストした時は、偶々マサキの愛バたちが夢修練に来ていました」

「そうだったな。その時、俺とお前の関係について説明したが、問題なかったか?」

「めっちゃ助かった。特に昨日はな」

 

 そうだった!思い出したぞ。

 愛バたちは、このテレビを使ってクボからアストラナガン関係の説明を受けていたんだ。

 それで昨日はルクスの言葉に惑わされることなく、俺を信じてくれたんだ。

 事前の説明って大事だな。

 

「これからは、クボ様とこうやって話ができますよ」

「すげぇ、シャミ子すげぇ。見直したわ」

「俺からも感謝するぞ■■■■■」

「もう、クボ様。真名で呼ばないでくださいよ、マサキにはまだ秘密なんですから」

「では、シャナミアと呼ぼう」

 

 それでか、クボがシャミ子に呼びかける度に『ほにゃらら』と意味不明なノイズが聞こえていたのは。

 

「シャナミア、マサキを起動者として認めたのか?」

「はい。神竜の名において、マサキを起動者と認めます。試練も無事終えて、今は実体の方をメンテ中です」

「それは朗報だな。奴が動き出す前に間に合うといいが」

「その前に私の用事もありますけど。元凶もそうですが、()()も捨て置けません」

「どちらも、ぶつかる運命だ。マサキと協力して排除したらいい」

「なあ、二人は知り合いだったのか?」

 

 二人が仲良さそうに話すので質問してみる。

 

「メルアがマサキを見つけた頃でしたかね。クボ様の思念を私たち女神はキャッチしたのです」

 

 ぐーすか寝ていたシャミ子は、強力な思念波『マサキへの援助要請』を受信して叩き起こされたのだという。

 当初、マサキって何?知らね?と思ったシャミ子は二度寝を決め込む。

 しかし、メルアが男を後継者に選んだという情報で再び目を覚まし、その名前がマサキだったのでピンッ!と来た。

 それからの行動は早かった。自分の起動者選びの時まで、暇だったとも言う。

 思念波の出所を探り、それが別の時空からだと理解したシャミ子は機甲竜の通信機能を無理やり拡張&改造した。

 超古代文明の技術とシャミ子の天才的な発想と努力により、クボとの相互通信を可能としたのだ。

 それからは、短時間ではあるがクボと音声で意思疎通を図り、少しづつ情報交換を行っていたらしい。

  

 ヤバい、シャミ子が思ったよりめっちゃ優秀だった。アホの子だと思っていてごめん。

 時空電話、そして時空テレビを完成させるとは、やるじゃん。

 

「これまでは音声のみでしたが。やはり、顔を見て話せるのはいいですね」

「フッ、最初はモールス信号以下のやり取りだったからな」

「ですね。クボ様が『メソ』と謎の言葉だけを残した時は、一晩中『メソ』について悩みましたよw」

 

 いろいろと苦労があったらしいが、ちょっと楽しそうとも思ってしまった。

 何なんでしょうね。

 知らない内にライングループできてしまっていたような疎外感を感じるよ。

 

「マサキから構ってちゃんオーラが!?どうしましょう、"ぱふぱふ"いっときますか?」

「クボの見てる前じゃちょっと……」

「クボ様、5分ほど席を外してもらえますか?今からちょっと、おぱーいのフル活用でマサキを癒します」

「仲がいいんだな。わかった5分後に」

「いや、しなくていいから」

 

 しなくていいといったのに、シャミ子がハグしてきた。

 ちょっと癒された。

 

 〇

 

「ではでは、三者揃ったところでミーティングと参りましょう」

「ルクスにあったらしいな、その時の事を話してくれ」

「接触していた時間は愛バたちの方が長い。又聞きになるが、それでもいいか?」

「構わない」

 

 俺自身がルクスに会って感じたことや、愛バたちから聞いた情報をシャミ子とクボに話す。

 ミーティングの議題は『ルクス=元凶?』実際のところはどうなの?だ。

 洗いざらい話し終えると、クボは顎に手を当てて思案顔になり、シャミ子は目を閉じて腕を組んでいる。

 

「ルクスはクボ様とマサキのことに詳しい。これは元凶決定なのでは?」

 

 シャミ子があえて短絡的な意見を口にした。

 ここからは、三人で会話を交えながら考えを煮詰めていく方法にシフトだ。

 

 ヴォルクルス神殿で遭遇したルクスは、自分こそが悪事を働いて来たのだと自白していた。

 そして、昨日のルクスはアストラナガンやディーン・レヴという単語をごく自然に使い、俺の誕生秘話まで喋ってくれたらしい。

 事件の中心人物でしか知り得ない、深い情報を知っている。

 つまりは犯人。元凶はこいつだぁ!となれば簡単なんだけど。

 

「なぜかルクスは俺こそが世界を滅ぼす元凶だと思っている。悪神クボの手先だから戦うんだとよ」

「悪神…俺がか?」

「自分こそが正義の味方で、マサキたちが悪ですか。見事に逆転しちゃってます」

「ヴォルクルス神殿での自白も、戦いを仕掛けたのも、催眠をかけられたせいで記憶がない。それをやったのも俺だってさ」

「マサキと愛バの仲を引き裂こうとして、嘘をついた可能性は?」

「無いとも言い切れない。だが、愛バたちはルクスが本心で言っているように感じたらしい」

「それも仮面の機能では?顔と名前が隠せるなら、心すらも隠蔽できる……とか」

「タラレバの話をすればキリがないな」

 

 そうキリがないのだ。

 全ては憶測であり、俺たちは奴とその背後関係を知らなすぎる。

 

「ルクス、クォヴレーという名前に『誰?』と反応したらしいぞ」

「何?それはおかしいな。元凶本人ならば俺の名前にそんなリアクションを返すはずは……」

「やはり、違うのでしょうか」

 

 ルクス元凶説、考えだしたらマジでキリがない。

 

「ルクスとは戦うことが確定しているんだ。やっつけた後で『こいつが元凶だったのか~』と判明しても、結果オーライだよな」

「過程はどうだっていい、元凶さえ倒せれば文句はない」

「難しく考えすぎるのも良くないですよね。とりま、ルクスはぶっ飛ばして損はないです」

 

 シャミ子の言う通りだな。

 

 次、ルクスと元凶が別人だった場合。 

 力と情報をルクスに与えた協力者が近くにいるはず。そいつが元凶だ。

 俺はこっちの説を推したいと思う。

 

「俺とマサキの事を教えてルクスを仲間にしたか、催眠や洗脳でルクスを支配下に置いたかだ」

「操られているのなら、ルクスの抜け落ちた記憶や、あやふやな言動にも説明がつきます」

 

 ルクスが本人の意に反した行動させられている?

 俺に対する明確な敵意には、奴本人の熱がこもっているように感じた。

 あれが、操られている奴の反応とは思えない。

 

「どうなんだろうな?」

「どうなんでしょうね?」

「戦っていれば否が応でも相対する時は来る」

「結局はルクスを倒してからだな」

 

 三人で頭を捻っていても答えは堂々巡り。

 とりあえずルクスは倒しておいて、元凶かどうかは後日調べればいい。

 そういう結論に落ち着いた。

 違っていたとしても、ルクスという手駒を失えば元凶から何かしらのリアクションがあるはずだ。

 

 果たして真実はいかに?

 

 〇

 

「ルクスは一旦置いておいて、その愛バ6人には見当がついているのですか?」

「いや……」

「確証はないが、心当たりはありそうだな」

 

 ああそうだよ。誠に不本意だがあるんだな、これが。

 

「多分、俺の知り合いだと思う」

 

 それも・・・

 

「トレセン学園、生徒の誰かだ」

 

 ルクスの愛バたちは、生徒たちの中にいる!

 

「そう思う理由はなんでしょう?」

「俺の幼女姿を見ても『なんでそうなった?』と、誰も質問しなかった。もう俺自身から説明を受けているんだから、当然だよな」

「それだけで生徒を疑うのは、早計ではないか?教職員や生徒の関係者で、お前の幼女化を知っていた者もいただろうに」

「距離感と俺の扱いが手慣れていたんだよ。アレは幼女の俺を世話した経験者の動きだ」

 

 被介護者(俺)の勘が働いたのである。

 生徒、それも仲の良いネームドたちじゃないのかと・・・

 仮面の力で顔も名前も探れないとしても、受けたお世話と恩はこの体が覚えている。

 でも、それでも、やっぱり顔と名前が出てこない!

 頭にノイズが走る。知っている情報と記憶がどうやっても結びつかない、正体である生徒にたどり着けない!

 なんてもどかしい・・・犯人のトリックに翻弄される探偵の気分だ。

 

「密着からの神核のチェックは問題なかったのですよね?」

「そんなもんいくらでも誤魔化せる。ただでさえ、俺は鈍いらしいからな」

 

 奴らは、俺が触れてもルクスの愛バだとバレない対策を常日頃から準備していた。

 用意周到で抜け目がない。

 悔しいがルクスたちの手際は見事だ。

 

「学園にスパイが……」

「生徒を疑うのは面倒だし疲れる。学園を辞めたり、無実の生徒と疎遠になったりするの嫌だ。現状は、向こうが動くのを待つしかない」

「俺が言えた義理ではないが、後手に回っているな」                                                                                                                                                       

「職場に敵がいたら仕事どころじゃないでしょ。今すぐ全校生徒を尋問するのです。なあに、鼻からうどんを食わすと脅せば、どんなじゃじゃウマでも一発でゲロりますよ」

 

 シャミ子、それはお前だけだ。

 

 生徒たちを疑いたくない、尋問なんてしたくない。

 未来を担う学園生たちが、ルクスの下で怪しい活動をしているなんて信じたくないのだ。

 それに、仮面の騎神たちと実際に会ってみて、悪い奴らだとは思えない自分がいる。

 俺はウマ娘に対して非情になれはしない。

 

「あれ?私に対する雑な扱いの数々は?」

「好きな子ほど意地悪したくなるってやつさ☆」

「なら仕方ないですね!えへへ////」

 

 スリスリして来るシャミ子の頭を撫でる。

 よしよし、チョロカワイイ奴め。

 

「マサキ、お前のその優しさが、足元をすくわない事を祈る」

「甘いのは重々承知だ。それでも俺は……信じていたい」

 

 学園で切磋琢磨する生徒たちを、特に仲良くしてくれるネームドたちを、

 命を救ってくれたマーテル・・・

 彼女たちのことが頭をよぎる。

 

「いいじゃないですか。私はマサキの優しくて甘くて、愚かなところさえも、好ましく思います」

「シャミ子……」

「足元をすくわれても転ばなけばいいのです。転んだとしても立ち上がればいい。私とクボ様も全力で応援しますから」

「そうだったな。マサキ、優しい自分を貫きたいのなら、強くなるしかないぞ」

「わかった。二人がいてくれるなら心強い」

 

 俺は優しくなんかない。

 自分の我儘で周りに苦労をかける、エゴの塊だ。

 そんな俺に助力を惜しまない、奇特な神様が背中を押してくれるのだ。

 もう、やるしかねぇ!

 誰が敵でもやるしかない、やるしかないのだ。

 そして、止められるなら止めるし、救えるならば救う。

 

 決意を固めると心が軽くなった。

 やっぱ相談できる相手がいるっていいよな。

 

 〇

 

 俺の神核となっているディーン・レヴ。

 元はアストラナガンのメイン動力炉だ。つまり心臓である。

 そんなものをあげてしまって、今更ながらクボは大丈夫なのだろうか?

 一つしかない臓器を提供したみたいなもんだろ?

 

「確かに、大丈夫とはいかない。だが『こんなこともあろうかと』というヤツだ」

 

 クボは自分の胸、心臓があるであろう辺りを拳で叩く。

 テレビの画面越しなので分かり辛いが、代わりの動力炉がクボを生かしている。

 そんな力の流れを感じ取ることができた。

 シャミ子も『おおー、あれが』と感心しているので、凄い代物なんだろう。

 

「ディーン・レヴを模して造られた新たな心臓。ディス・レヴだ」

「おお!マイナスエネルギーを吸収し糧とする機構を実装したのですか。昔、研究していた霊気反応炉に似てますね~」

「わかってくれるか。最大出力こそディーン・レヴに劣るが、覇気と霊気の両方を━━」

 

 シャミ子とクボの超技術談議が始まってしまった。

 クボは元気そうだし、心配ないってことだよな。

 よかった。俺のドナーになったから死にました!とか後味の悪いもんな。

 

「ただ、このディス・レヴをもってしても、そちらへは行けそうにない。もう少し時間があれば、夢を介さずに言葉を伝えられそうではあるが」

「気にすんな。度重なる転移と戦闘でボロボロだったんだろ?仕方ねぇよ」

「そうですよ。こちらは私とマサキにお任せください。クボ様は療養に専念なさっていればいいのです」

「すまない。恩に着る」

 

 ええんやで。困った時はお互い様だからな。

 

 本音を言うと『アストラナガンが二体!?\(^o^)/オワタ』

 とかルクスに言わせてみたかったけど。クボに無理をさせても悪いから諦める。

 

 前作主人公との夢の共演!熱すぎる展開だよなー。

 

「俺はアストラナガン・オルタナティブ」

「なんだそれは?」

「いや、ルクスがさあ、俺のことをクボの代替物(だいたいぶつ)だって言うのよね」

「ほほう。それでマサキがオルタナティブですか」

「ルクスの思い付きにしてはセンスあると思うんだよね。だから採用!」

「では、クボ様は『アストラナガン・オリジン』ですか?」

 

 オリジン・・・俺の厨二心が反応しちゃう。

 『起源』とか『始まりの~』という意味だったはず。

 

「オリジンだと?それは……俺の前任者が名乗るべきだ」

「え?お前の前にもアストラナガンがいたの!?」

「いたな。だが、気にしなくていい。とにかく、いけ好かない男だ」

「仲悪いの?」

「別に、関わりたくないだけだ……」

「おや、クボ様にしては珍しい反応です」

「記憶喪失になったり洗脳されたり、部下を裏切ったり、憑りついて体を乗っ取ったり、クローンが全員クズだったりするからな!」

「どうした?何か嫌な思い出があったのか」

「何がデッドエンドシュートだ!お前がデッドエンドされろ!」

「これは、相当溜まってますね」

 

 冷静なクボにしては珍しく憤っている。

 俺とシャミ子は顔を見合わせて思った『ああ、嫌いなんだな』と。

 クボが不機嫌になるので、前任者の詳しい情報は聞き出せなかった。

 せめて名前ぐらいは教えて欲しかったぜな・・・フフフ・・・

 

「俺のことはそうだな。"ディス・アストラナガン"で、どうだろう?」

「いい!とってもいい!」

 

 自分に新たな名を付けたクボは戦闘形態に変身してみせる。

 悪魔を思わせる威圧的な外観と、禍々しくも美しい黒と金のボディ。

 ゴルシの記憶で見た時の姿よりパワーアップしているように感じた。

 頭にディスが付く事で『ディス・レヴの力を得たんやぞ!』と主張されている。

 この機械的でありながら有機的な生々しさを感じさせるデザイン!嫌いじゃないわ!

 

「思ったんですけど『アストラナガン』とは、クボ様の真名みたいなものですよね?そんなホイホイ付けたり、改変してもいいのでしょうか?」

「気にしたこともないな。俺は仕事上『アストラナガン』を名乗るが、プライベートや友人には『クォヴレー』で通っている」

「役職名や称号だと思えばいいじゃん。書類の職業欄に『アストラナガン』と書いちまえ」

「好きにしたらいい」

「この投げやり感、心底どうでもいいんですね」

 

 養護教官とアストラナガン、二足の草鞋(わらじ)を履いている。

 それが俺なのです。(`・∀・´)エッヘン!!

 

「ディス・アストラナガン」

「アストラナガン・オルタナティブ」

 

 なんとなくクボと名前を呼び合ってみる。

 長いな。言いづらいな。

 

「ディストラナガン?」

「オ、オルタナティブ……」

 

 ちょっと略してみた。

 クボもオルタナティブの所だけ呼ぶ。

 

ディストラナガン!

オルタナティブ!

「何?私を放置して男同士で心を通わせてるの?それはもう、うまぴょいなのでは!?」

 

 言って嬉しい、言われて嬉しい、そんな思いを共有し合った。

 ついて来れないシャミ子が、ちょっと寂しそうだった。

 

「オルタナティブの語感は好きですが、代替物というのは失礼だと思います」

「そうか?俺は気にしないぞ」

「マサキはかけがえのない私の起動者です。代えなど利きません!」

 

 愛バたちにも似たようなことを言われたな。

 ありがてぇことだよ。

 

「真名がオルタナティブなんて認めませんよ。こうなったら私が命名します!」

「まーた、シャミ子に変なスイッチが入ったよ」

「マサキがよければ、俺に止める権利は無い」

「カッコイイ名前を考えますよ。うーん、んんん?私の要素も入れると、シャミコスキー……」

「大丈夫かコレ?」

 

 ああでもない、こうでもないと、シャミ子がブツブツ言いながら考えを巡らせ始めた。

 止めた方がいいかな?それとも、信じて任せてみるか?

 シャミコスキーは勘弁して。

 

「因みに、クボだったら俺にどんな名前を付ける?」

「アストラナガン・ロリコーン

「ゴルシ並みのセンス!」

「褒めるな照れる////」

「褒めてないよ!?」

 

 クボの中でゴルシの評価どんだけ高いんだよ!

 単身でベーオウルフとルシファーを食い止めた雄姿は、神も認めざる負えない偉業だったんだな。

 確かに、あの記憶で見た鬼気迫るゴルシはカッコよかった。

 でもなぁ、ロリコーンはないわー。

 自分に付けた『ディストラナガン』は奇跡的にうまくいった成功例だったみたい。

 

「決めました!■■■■■■です。アストラナガン・■■■■■■!」

「いいセンスだ。俺は気に入ったぞ」

「聞こえない!また『ほにゃらら』としか聞こえない!」

「ふふふ、それは万物が私の命名を真名だと認めてしまったからです」

「よかったな、マサキ。大変名誉なことだぞ」

「何が!?」

「あなたの真名は宇宙と世界の意思に深く刻まれました。超公式認定です!変更不可です!」

「喜べ、マサキ。いや■■■■■■」

「無茶苦茶言うな!自分には分からない名前付けられて『やりました!』とはならんぞ」

「真名は鍵の役割も持っています。然るべき時が来るまで、マサキにも愛バにも絶対に解りませんので、あしからず」

 

 シャミ子の真名が■■■■■■で俺の真名も■■■■■■

 黒い四角の六連・・・文章にすると余計に分かりにくいわ!

 

「真名解放の条件を教えてよ?」

「私の真名は機甲竜の力が必要となった時、マサキの真名は……」

「俺のは?」

「なんかもう、どうにもならない最終決戦で不思議なパワーが出たときに解放されます」

「漠然としすぎてる!?」

 

 6文字か・・・どうか、ペドフィリアとかじゃありませんように。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぁ……」

「マサキが眠たそうです。そろそろ解散しますか?」

「そうだな。俺も休むことにする」

「またこうやって話せるか?」

「毎日という訳にはいかないが、夢空間に来た際は気軽に連絡してくれ」

「クボ様、あまり無理をしてはダメですよ。ディス・レヴの調整と体の回復を優先させてください」

「了解した。シャナミアも機甲竜の整備を頑張ってくれ」

 

 そうそう。二人とも俺の相手より自分の体を大事にしてくれよ。

 シャミ子の膝枕に頭を乗せる。

 夢空間の終わりを告げる、慣れ親しんだスタイルだ。

 

「じゃあ、またな……おやすみ」

「おやすみ。しっかり眠るんだぞ」

「おやすみなさい。二人に、エロい夢を見たら私が主演登場する祝福あれ!

「「ええぇー」」(´Д`)(´Д`)

 

 最後にいらんことを抜かすな。

 そろそろ旦那のトーヤさんに怒られそう・・・シャミ子が。

 

 〇

 

 話はさかのぼって・・・ルクス視点

 

 幼女マサキとその愛バたちをに交渉を持ちかけ、にべもなく断られたルクスとマーテル。

 マサキたちが追撃して来ないことを確認して帰路に着く。

 人目に付かないよう辿り着いた場所は、彼らの隠れ家のひとつだ。

 二人は警備員の常駐するテナントビルへと入って行く。

 仮面と戦闘服を着けているにも関わらず、警備員は敬礼して二人迎え入れた。

 

「お疲れ様です!」

「ご苦労。留守中に何かあったか?」

「はっ!ウェール様とアエル様が訓練室を使用中。他の方々は既にご帰宅されました」

「あら~、二人ともルクスさんを待っていたんですね~」

「マーテル様。今日もお美しい……」

「君はマーテル素顔を知っているのか?」

「いえ。まだ拝見したことはありません。ですが、絶対美しいと魂で判断致しました!」

「ありがとうございます。いい子にしていたら、そのうちお見せしますね」

「はっ!首を長くして待つ所存であります」

 

 警備員にはルクスの息が掛かっている。

 と、いうよりも、このビルの全体がルクスの所有する物件なのだ。

 ビルで働くスタッフは全てルクスの部下であり、同志である。

 よって、仮面を着けていようが何も問題がない。

 

 仮面を装着したまま帰還した場合は、周囲から目立たない地下駐車場を出入口にしている。

 今のところ一般人に見つかった事はない。

 万が一目撃されても、3階にはイベント会社が入っていることを利用させてもらう。

 これはヒーローショーのコスチュームだと言い訳する予定だ。

 ま、下手にコソコソせず、堂々としていれば意外とバレないものである。

 

 ルクスとマーテルはエレベータで最上階を目指す。

 そこはルクスと愛バのプライベートルームがある場所だ。

 

「デバイスは回収できたのかい?」

「報告忘れるところでした。ごめんなさい、マサキさんが破壊しちゃいました」

「アレを破壊したか、中の核石はどうなった?」

「それもマサキさんが消したみたいです。凄かったですよ。数秒間でしたけど、天を貫く光の柱が綺麗でした」

「核石を見られた可能性があるな。だが、処分の手間が省けた」

「デバイスの出所はわかりましたか?」

「おそらく、ウォン重工業だ。シラカワ重工の台頭が、余程腹に据えかねているのだろうな」

「いつの間に技術提供したんですか?そんな話は聞いてませんよ」

「してはいないよ。私は、な」

「ふぅ……またですか」

 

 マーテルはため息をつく。

 ここ最近、急速な組織の拡大に伴って弊害が出て来たと感じる。

 ルクスの指示なしで動く連中がいるのだ。いわゆる、功名心功名心(功名心)にかられた先走り組である。

 以前、破棄されたクレイドル建設予定地でマサキに変装し、見事玉砕した連中もその類だ。

 

「無暗に協力者を募るの、どうかと思いますけどね」

「忠告有難く受け取るよ。だが、我々には数の力が必要だ」

「烏合の衆で勝てる程、マサキさんは甘くないですよ?」

「承知している。だが、止めるつもりはない。烏合の衆の中に、君たちの様な掘り出し物が、眠っていることもある」

「私たちは超レアケース。運よく6回大当たりしただけです」

「だったら7回目もあるかもしれないだろう?」

「それ危険な思考ですよ。6回で運を使い果たしたと思うのが正解です」

 

 この人、ギャンブルで破滅しそう。と、マーテルは思った。

 でも、ダメ人間は嫌いじゃないので放置する。

 

「大事になる前に対処したかったんですけどねー」

「こんなに早く学園が動くとはな。現理事長は生徒想いの人格者だ。尊敬に値する」

「でしょう!小っちゃくて可愛いのに、凄くしっかり者のいい子なんです」

 

 トレセン学園が改造デバイスの存在を知り、売人たちを襲撃するまでの時間が早すぎた。

 おかげで、ルクスたちが秘密裏にやろうとしていた仕事を奪われた形にはなった。

 赤いオルゴナイトの核石と、それを使った技術漏れを未然に防ぎたかったが、こうなっては不可能だろう。

 せめて、こちらに火の粉がかからないようにしなければ。

 

「足が付かないよう手筈は整えてくれ」

「そこはクラルスさんに丸投げです。彼女ならやりますよ、やらせますよ」

「君、クラルスに当たりきつくない?」

「気のせいです。膝枕する権利奪ったの許せないとか思ってないです」

「???仲直りは早くしたほうがいい」

 

 最上階に到着。

 マーテルは荷物を取りに自室へ、ルクスは長い廊下を真っ直ぐ進み突き当りの部屋へ。

 そこはルクスの自室を兼ねたリビングルームだ。

 広い部屋にはアイランドキッチンにソファーにテレビといった、小洒落た家具家電一式が揃っている。

 ガラス張りの部屋からは夜の街と、そこを行き交う人々が見える。

 もう少し高ければ、夜景も拝めただろうにと思うが、隠れ家のひとつでこれだけ揃って入れば十分だ。

 これ以上、贅沢を言うつもりはない。

 

 仮面を外し戦闘服も脱ぐ。

 邪魔なものを脱ぎ去り開放的な気分に浸る、この瞬間がルクスは好きだ。

 いつか、仮面なしで表舞台に立つ日が来るだろう。

 その時はそう遠くないと誓いながら私服に着替えた。

 

「ルクスさーん。入りますよ~」

 

 控えめなノック音の後、マーテルが部屋に入って来る。

 私服に着替えているが仮面はまだ装着したままだ。

 

「ノックは不要だと言っているだろう。この部屋は君たちの(くつろ)ぎスペースでもあるんだ」

「嫌ですよぉ。開放的な気分に溺れたルクスさんが、全裸でブレイクダンスしていたらどうするんですか?」

「どういう状況だ!そして私を何だと思っている!?やるわけないだろ!」

「マサキさんなら、やりかねません」

「ぐっ!マサキにできて私にできない事はな……これ対抗したらダメなヤツゥーー!?

「これ、頼まれていたお洗濯と、報告書です。あと、こっちのタッパーは、フーちゃんが作った肉じゃがっぽい何かです」

「ありがとう。冷蔵庫に入れておいて、あー報告書じゃなくて肉じゃがをね!」

「わかってますよ。からかっただけですww」

 

 頼もしい仲間である愛バたち。

 仮面を脱げば冗談も言い合うし、からかい上手にもなったりする。

 仕事を円滑に進める上でも、コミュニケーションは大事だ。

 愛バたちに窮屈さを強いている分、普段のじゃれ合いなどは好きにさせておく。

 偉そうにするの相手は、マサキだけでいい。

 

「それでは、今日は帰りますね。お疲れ様でした」

「お疲れ様。このあと時間はあるかい?ウェールたちを誘って外食でもどうかな?」

「ごめんなさい、実は先約があるんです。お友達と鍋パですよ~」

 

 『楽しみだなぁ』とマーテルは上機嫌だ。

 少し残念に思ったが、先約があるのでは仕方がない。

 愛バたちのプライベートは尊重する。

 大きな戦いが控えているとはいえ、若い彼女たちには友達付き合いも大事だろう。

 存分に青春を謳歌してほしいものだ。

 

「無用の心配だと思うが、気を付けて帰るんだぞ」

「はーい。そうだ!聞きたい事があるんでした。いいですか?」

「いいぞ。私はカレーを食べるとき、ルーとライスを混ぜ混ぜしたくなる」

「聞いてません。そうじゃなくて、ダイヤちゃんたちのことです」

「マサキの愛バ?それがどうかしたのかい」

 

 今日、相対したマサキの愛バたち。

 仮面越しにも伝わる尋常じゃない殺気を放っていたな。

 アレらは手強い、十分な対策を練らないとやられるのはこっちだ。

 

「もし、ダイヤちゃんたちが、マサキさんの愛バを辞めたのなら、あなたはどうしてましたか?」

 

 マーテルの問いかけ。愛バなら当然気になる問いだ。

 自分の操者としての度量、組織を率いていく覚悟を問われている気がした。

 もし、そうであったならか・・・そうだな。

 

「私の愛バに迎えようと思う。もちろん、君たちに相談してからにするが」

「ぷっ……そ、それ本気で言ってます?フフフフフ、おっかしいwww」クスクス

「身の程知らずだと言いたいのかい?さすがに傷つくなあ」

「違いますよー。これ以上、ストレスの元を抱え込むなんて言うから、マゾヒストかなぁと思ってw」

「誰がマゾだ!目下最大のストレス要因である、君がそういうこと言わないで」

 

 マーテルは肩を震わせて笑っている。

 確かに、笑われても仕方のないことを言った自覚はある。

 マサキの愛バたちを懐柔できたとして、そのストレスは想像を絶するだろう。

 今日、少しの対話をしただけで、あの様だ。本当にドッと疲れた。

 あんなのが傍にいたらハゲるわ、毛根死滅するわ。

 でも、あの力は非常に魅力的だ。

 あの四騎の戦闘力が手に入るのなら、ハゲてもいいと思えるほどに!

 

「今のはifの話ですからね。現実に戻ってくだーい」

 

 マーテルの声で我に返る。

 危ない危ない、脳内でカツラを準備する算段をしていたところだった。

 

「その仮面、着けたまま帰るのかい?」

「え……あっ///き、気付いてましたよ。外し忘れていたなんて事はありません」

「気付いていなかったんだな」

 

 どこか抜けているマーテル、ちょっとホッコリした。

 いそいそと、仮面を外そうとする彼女に、私は自然と声をかけていた。

 

「もし、マサキが操者であることを辞め、一人になったのなら、君はどうしていた?」

 

 先程、自分がされたのと同様の質問だ。

 マサキが一人になったら、この騎神は一体どうするのか、聞いてみたくなったのだ。

 その答えが、分かり切っていたとしても・・・

 彼女の深い部分に踏み込む行為だとしても、聞きたかったのだ。

 

「そんなの、決まっているじゃないですか」

 

 仮面を外した彼女は笑う。笑っている。

 その姿から目が離せない、目を逸らした瞬間に殺されると思うほどに、目が離せない。

 美しい顔はそのままに、口元を吊り上げて目をギラつかせながら。

 酷薄に、凶暴に、鮮烈に彼女は笑っていたのだ。

 

私がマサキさんの愛バになって、あなたを潰しますよ

 

 言葉と同時にマーテルは覇気を解放した。

 『それが何か?当然の帰結ですよね』と、彼女の覇気が伝えて来る。

 内に秘めていた膨大な量の覇気は粒子となり、部屋中を漂い光り輝く。

 その輝きをルクスは美しいと思う反面で、忌々しいとも思っていた。

 

「なーんて冗談ですよ、冗談♪」

 

 ケロッとした態度で覇気の解放を停止する。

 マーテルの顔は、先程までのが嘘のように、いつもの柔らかな笑みに戻っていた。

 

「安心してください。今すぐ彼の下へ行くような、恥知らずではありません」

「そうしてくれると、助かる」

「ルクスさんにはお世話になってますし、義理と人情は弁えているつもりです」

「今はその言葉を信じよう」

「はい。()()、信じて下さって結構です」

 

 『今は』の部分を強調されたように感じる。

 この先はどうなるか分からないと、暗に告げらたようなものだ。

 

「ではでは、お疲れ様でした~」

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

「はい。ルクスさんも、体調には気を付けてくださいね」

 

 マーテルは一瞬上を見上げたあと、部屋を出て行った。

 彼女を見送ったあと、ルクスは自分が極度の緊張状態にあったと気付く。

 僅かな時間で、今日、マサキの愛バを相手にしていたときと同じか、それ以上に憔悴していた。

 ルクスは汗をかいた手のひらを握る。

 

「よし、楽しく話せたな」

「どこがですか!」

「あいてっ」

 

 ガッツポーズを決めたルクス、その後頭部にツッコミが入る。

 軽く小突かれるようにチョップされたのだ。

 

「アエル!?いたのか」

「ええ。ずっと天井でスタンバってました」

「えー、何やってんの」

 

 愛バのひとり、アエルだった。

 今までずっと天井に張り付いていたと思うと少々、いや、かなり怖い。

 マーテルは気付いていた癖に、教えてくれなかったのだ。酷い!

 

「私のパーフェクトコミュニケーションを覗き見とは、あまり良い趣味とは言えないな」

「いやいやいや、今のは甘く見積もってノーマルコミュニケーションですよ。地雷踏んでましたよ!」

「はっはっは、私もね、それは薄々感じていたよ」

「ならば気を付けて下さい」

 

 アエルは頭を抱えた。

 きっと彼女は私を守ろうとして天井にいたのだ。

 やり方はアレだが、彼女の忠誠心は本物だ。

 愛バたちのまとめ役や、その他諸々の雑務処理、私の副官的業務まで・・・

 何かと苦労を掛けてしまっている事を申し訳なく思う。

 優秀すぎて、私への小言も多いけど。

 

「獅子身中の虫をいつまで飼うつもりですか?」

「彼女が役目を果たす時までは一緒さ」

「断言します。マーテルは必ず我々の敵になる。今のうちに何らかの手段を打つべきです」

「理解しているとも、しかし、それを差し引いても彼女は有用だ」

 

 そう、彼女は有用なのだ。

 対マサキとその愛バ用の切り札として、リスク覚悟で押さえておく価値がある。

 単純に強いという理由でも手元に置いておきたい。

 

「どうなっても知りませんからね」

「それは困る。私ひとりでマーテルを相手は無理!したくない!」

「はぁ……私に一任していただければ、いざという時の対策を考えておきます」

「最初から君を当てにしている。任せたよ」

「調子のいい事……これは保険も確保しておくべきか…」

 

 真面目なアエルに任せておけば、大抵のことは上手く運ぶ。

 信頼できる愛バがいるのは、いいものだ。

 

「ウェールと一緒に外食するつもりなのだが、君もどうだい?」

「マーテルに振られたから私を誘うとか。女なら誰でもいい、そんなあなたにドン引きです」

「誤解だ!最初から君も誘うつもりだったさ。で、どうする?」

「行きますよ。ゴチになります」

「決まりだな。今日はイタリアンを予定している。楽しみにしていたまえ」

「なるほど、無難ではありますが、女性を誘う店選びとしては合格です」

「なぜ上から目線なのか。まあいい、ミラノ風ドリアが私を待っているぞ~」

「サイゼかよ!!」

「え?みんな大好きサイゼリアに何か不満でも?」

 

 その後、ルクス、アエル、ウェールの三人は遅めのディナーを満喫したのであった。

 徒歩圏内にあるのに、なぜか隣県のサイゼリアまで車を飛ばした。

 『マサキにバッタリ遭ったら嫌だろう!』というルクスの一声が理由だった。

 

 



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キリュウインアオイの憂鬱

 おれはおとこにもどった

 

 女として過ごした長いようで短い一週間は終わりを告げた。

 苦難の末に俺は本来の肉体を取り戻したのだ。

 

 起きた時には性別(オス)に戻っていたのですよ。

 幼女専用パジャマがピッチピチッになって弾けてバーン!な目覚めでした。

 どおりで朝からすっぽんぽんだよ。

 

 シャミ子を信用していないわけじゃないけど、体がちゃんと元通りなのか要チェックや。

 鏡に全身を映し触って確かめる。うむ・・・何も問題はないな。

 久しぶりの再会を果たした相棒も、朝から『ただいま!』と自己主張の激しい奴だ。

 おっほっほっほ〜 元気だ( ^ω^)

 良く戻って来たな、お帰りなさい!!!

 

 今日から気持ちを切り替えて頑張ろう!おー!

 

 因みに今日は休日である。

 愛バを誘ってどこかに出かけようかな。

 久しぶりにサイゼリアにでも・・・ん?、一瞬イラッとした。

 なんだろう。嫌いな奴と行動が被ってしまったかのような不快感!

 サイゼに罪はない。罪は無いのだが、今日のところは別の店にしよう。

 

 ・・・・・・・・・

 

 愛バに『戻ったぞ(´▽`*)』とLINEで連絡すると、すぐに家へとやって来てくれた。

 息を切らせながら参上した我が愛バたち。早い!

 アルとココの髪は少々乱れている。急いで来てくれたんだなあ。

 なぜかクロとシロの体には小さなガラス片が付着している・・・まさか、寮のガラス窓を突き破って来た!?

 

「ふぉぉ!復活の男マサキさん!オスだぁぁ!」

「ついてますか!ついてますよね!確認させてください!」

「よかったぁ。やっぱり男らしいマサキさんが一番です」

「なんか覇気の流れ変わった?ふーん、あの試練も無駄じゃなかったんだね」

 

 男に戻った俺に対する愛バたちの反応は上々だ。

 心配かけたな。ちゃんと相棒は無事帰還したから安心しなさい。

 

「復活記念にお出かけしないか?」

「「「「行きます!」」」」

 

 軽く身なりを整え、クロシロのガラス片を取り除いてから出発した。

 5人揃っていれば街をブラブラするだけでも楽しい。

 適当にショッピングやらを楽しんだ後、"びっくりドンキー"で昼食を取る事にした。

 ハンバーグステーキ!(゚д゚)ウマー

 トレセン学園が近いせいか、チェーンの飲食店といえども気合が入っている。

 とにかく量が多いのだ。もちろん、人間の胃袋を考えたサイズもあるので心配ない。

 食欲旺盛な愛バたちの食事風景は見ていて微笑ましい。

 可愛い顔して、特大のハンバーグをペロリと食べちゃうんだからな。

 

「そういや、ルクス腕ついてたな」

 

 ドリンクを飲みながら駄弁っていると、不意に思い立った言葉が口をついて出た。

 

「どういうこと?」

「あいつの右腕、ちゃんとあったよな」

「うん。残念ながらルクスは五体満足だったよ」

 

 耳ざとく聞きつけたココが俺の問いに答える。

 クロ、シロ、アルの三名は、俺の御側役ローテーションをどうするか論争中だ。

 

 異世界転移させられる直前に、ルクスの腕を食い千切ったこと。

 その腕をブラスターで焼却処分してやったことを説明した。

 腕を食い千切ったとか、ハンバーグ食べている人前でする話ではない。

 お食事中の店内に気を遣って、ココだけに聞こえるようヒソヒソ小声で話をした。

 

「ふーん。あの血痕、マサキが一矢報いた結果だったんだ」

 

 あの時は、俺もルクスに刺されていたし結構ギリギリだった。

 痛いわ、腹立つわ、もう転移しそうだわで、無我夢中のワイルドファングよ。

 

「引いたか?ごめんね、こんな操者で…」

「何言ってんの。最後まで抵抗したマサキは凄いし偉い!私もみんなも誇らしく思うよ」

 

 ココに褒められちゃった。

 外じゃなかったら、ココの胸にダイブして"よしよし"されているところだ。

 

「それは帰ってからね♪」

「わーい(≧▽≦)」

 

 ルクスに一矢報いてやり、隻腕にしてやったはずなのに。

 なんで腕が再生しているんですかねぇ?

 

「義手か?もし、ルクスがサイコガン撃って来たらどうしよう」

「直接触れたわけではありませんが、あれは生身だと思いました」

「生えてきたのかな。トカゲの尻尾みたいに?」

「再生能力か、それに類する高度な医療技術を保持しているとも考えられます」

 

 論争が一段落したのか、他の愛バたちも話に参加してきた。

 

「俺との戦闘中は傷を治す素振りは見せなかったがな。腕失くした時もキレて(わめ)いているだけだったし」

「ルクス自身の能力ではないなら、仲間に回復役か医療関係者が……発見次第、優先的に処理すべきです」

「だね。放置していたら面倒だもん」

「うちはマサキさんが、殴れるヒーラーでよかったね。どのポジションでも任せられるし」

「操者さえ無事なら、我々はずっとバフ効果の恩恵に与れますも。やはり、マサキさんは死守せねば!」

「過信はしないでくれよ。俺ってばやられる時はアッサリ逝くからな。これまでだって何度も・・・敗けて、まけ・・・て・・・」(´Д⊂グスン

「「「「泣かないで―!?」」」」

 

 苦い敗北の記憶が蘇って来たので泣きそうになった。

 店内の喧騒に紛れて落ち込む俺は愛バに慰められるのであった。

 

「ありがとう。おかげで持ち直した」

「よかったです。デザートを追加して気分を上げましょう」

「北海道ガリバーソフトいっちゃいますか?」

「ジョッキパフェもお願いします」

「ガリバーライスもだ!」

 

 デザートをおかずに白米とな?それってアリなのか?

 愛バたちが嬉しそうに注文しているので良しとしよう。

 ホント、彼女たちの体のどこにあれだけの食料が入るのだろうか?永遠の謎である。

 

 ルクスの腕の件、憶測ばかりで答えはでない。

 俺のヒーリングでも、失くした腕を再生させるようなマネは不可能だ。

 もげた腕があれば繋げることは可能だけど、それは俺が消してやったし。

 ピッコロさんのような再生をしたとでも?

 そんな事ができる常識外れのヒーラー・・・合法ロリのガッちゃんなら、出来そうではある。

 他は、この世界にはない未知の技術を使用した、とか?

 

 ルクスの話をすると気が滅入る。

 俺たちは、早々に切り上げて他愛のないトークを楽しむのであった。

 

 〇

 

 翌日、学園に出勤した俺は挨拶回りから始めた。

 

 この一週間、迷惑をかけた事の謝罪と、手助けしてくれた人たちへの感謝を伝えるためだ。

 

「お世話になりました。つまらないものですが、こちらを、どうかお納めください」

 

 ラ・ギアス銘菓の『天級饅頭ver.2.0』を手土産にして、学園内をあっちへこっちへ。

 

「おかげさまで、元に戻ることが……え?いや~もう女になる予定は無いっス」

 

 好評だった女マサキと幼女マサキの喪失に崩れ落ちる人もいた。

 元に戻っただけなのに、そんなにガッカリされると悪いことをしたみたいだ。

 彼女たちは愛されていたんだなぁ・・・どっちも俺だけど。

 

 教職員たちへの挨拶回りだけでも、結構な時間がかかった。

 仕事を手伝ってくれた人、抱っこしてくれた人、お菓子をくれた人、告ってきた人などなど。

 お世話になった人たちがいっぱいいるのだ。

 

「復活ッ!おめでとうと言うべきかな、マサキ君」

「理事長!一週間大変お騒がせ致しました」

「なかなか楽しい一週間だったな。学園に新たな風を巻き起こした事、あっぱれだ!」

 

 あとで聞いた話だが、女の俺を見て美容に気を遣うようになったり、幼女の俺と接したことで、母性に目覚めた生徒がたくさんいたんだと。

 元男には負けていられないとか、将来、あんな子供が欲しいとか、いろいろあったらしい。

 

「でも、ほんの少しだけ残念だわ」

「だよねー『ずっと女でいい』てな意見、マジで多かったし」

 

 テュッティ先輩とミオは、少し寂しそうだった。

 ほら、天級饅頭あげるから、元気出して~。

 ミオの要望に応えて、新しく地属性の味が追加されたんだよ。

 きな粉を練り込んだ生地に中身は芋あんで、全体的に黄色の饅頭だ。

 

「戻ったのならいい。これまで以上に仕事に励め」

「フッ、やはりマサキはイイ男だな」

 

 ヤンロンは今日もカッコイイなぁ、憧れちゃうなぁ。

 へへへ、ゲンさんだって男前だよ。

 おんぶや肩車してもらった二人にも世話になった。

 恩を返すためにも仕事を頑張らないと。

 

「たづなさん、ご迷惑おかけしました」

「無事に戻れてよかったわね」

 

 仕事中や人目が多いときの姉さんは、ストイックなクールビューティーで通っているので、やや素っ気ない。

 バリバリ働く自慢の姉はカッコイイ!

 

 (マイブラザーぁぁぁ!妹も捨てがたいけど、やっぱ弟最高ッッ!)

 

 心の中ではいつも通りのブラコンで安心した。

 

 俺のような奴を受け入れてくれた職場と気のいい同僚たち、本当ありがてぇこったな。

 トレセン学園という、恵まれた環境に就職できたことに感謝するぜ。

 

「キリュウイン教官も、お饅頭いかがですか?」

「いりません。そんなものでご機嫌取りしても無駄ですからね。一週間、部外者を学園に寄越したりして、何を考えているんですか!」

 

 いや、だからですね。

 銀髪の女と幼女は、俺本人だと何度説明したら、あ・・・行ってしまった。

 天級饅頭はミークに渡して受け取ってもらうことにしよう。

 俺の何が気に入らないのだろうか?

 キリュウイン教官と仲良くなるには、まだまだ時間がかかりそうだ(´・ω・`)

 

 もちろん生徒たちにも、男に戻ったことを報告して感謝の意を伝えた。

 特にお世話係を担当してくれたネームドたちには、心よりお礼申し上げる!

 畏まって頭を下げる俺だったが、みんな『困った時はお互い様』『気にすんな』と笑ってくれた。

 本当にいい子たちだよ。この中に、仮面の騎神たちがいるのが嘘みたいだ。

 

 女マサキの人気は生徒間にも波及していたようで、ショックを隠し切れない面々が嘆いていた。

 男に戻ったことを、あからさまにガッカリされると、こっちもショックなんだがな。

 恩返しをしたいので、要望があればリクエストしてくれい!

 抱っこを望む奴には抱っこを、運搬を希望する奴はそのまま運んであげた。

 他にも、ブラッシングをしたり、修練や補習に付き合ったり、遊んだりして、それぞれが望むお返しを実施していったのだ。

 一部のバカタレどもに『下半身を確認させろ!』とズボンを下げられそうになったりしたけど、これはさすがに返り討ちにした。

 姉さんにチクって説教部屋送りにしてやったぜ。

 

 これで一応、お世話になった返礼はすんだ。

 さあ、仕事だ仕事!今まで以上に頑張らなくっちゃな。

 

 ●

 

 私の名前は桐生院葵(きりゅういんあおい)

 騎神養成機関として名高い、日本トレーニングセンター学園で教鞭をとる若き敏腕教官だ。

 数多くの優秀な操者を輩出してきた名門、桐生院家の次期頭首でもある(`・∀・´)エッヘン!!

 

 最高の環境に最高の素質を持って生まれた私。

 幼い頃から麒麟児(きりんじ)としてもてはやされていた私は、周囲の期待にバッチリ応えてきたのだ。

 およそ挫折というものを経験することなく、とんとん拍子に人生を歩んできた。

 順風満帆な人生。それを成すために相応の努力を重ね、結果を出してきた自負もある。

 桐生院家の名に恥じぬよう、より一層の精進を積まなければならない。

 自分がやるべきことのためにも。

 

 私はウマ娘が好きだ。

 はじまりは昔、家の道場に出入りする騎神の強さと美しさに感動したことだ。

 人間近いようで違う。人という種を超えた上位存在に幼い私は心奪われたのだ。

 それは今もずっと続いている。

 

 ウマ娘好きな私は、家業である操者の道を迷わず選んだ。

 立派な操者になると心に誓った。

 素敵なウマ娘と契約して、そして、そして・・・うへへへ。

 はっ!今は欲望じゃなくて!ウマ娘への愛が溢れて脳が沸騰しかけただけ。

 何も問題ない。

 因みに私は百合ではない。ケモナー?何の事かわかりませんね!

 

 高等学校を卒業する頃、私はひとりのウマ娘と契約した。

 白いクリーム色の毛に、ボーっとした表情で虚空を見つめている事の多いウマ娘。

 ハッピーミークという名前の独特というか、つかみどころのない性格の子だ。

 彼女の家は桐生院家と懇意にしており、いずれは一族の誰かと契約する予定だった。

 所用で偶々ミークが家を訪れた際、彼女の実力を一目で看破した私は人生初のスカウトをしたのだ。

 彼女は強い。そして今後、さらに伸びる才能を秘めている。

 今のうちに契約して共に修練を積めば、轟級はおろか超級にだって手が届く逸材だ。

 

「私で、いいの?」

「あなたがいいんです。契約してくださいますか?」

「いいよ」

「やった!では、気が変わらないうちにこちらの書類に……ちょっ!何してるんですか!?」

「契約するんでしょ?噛ませて、血ちょうだい。ガブッといってチューするよ」

「いやいやいやいや!今時そんな野蛮な方法で契約する異常者はいませんよ!」

「そう?そうかな、そうなのかも…」

 

 こ、この子・・・ヤバい。

 口を開けたかと思ったら、私の首を噛もうとしてきた。

 今後は私の愛バとして常識を叩き込まないといけないなと、強く思った。

 激痛でショック死する可能性もある古式契約をするような輩なんぞ、このご時世では聞いたことがない。

 もしいたとしたら、よほどのアホか異常者だと思う。

 絶対に関わってはいけない。

 

 ミークと契約しただけで満足するような私ではない。

 機会があれば他の子とも契約したいと思っている。

 ただ、私の眼鏡に適うような子はなかなか見つからない。

 御三家に伝手があればよかったが、さすがの桐生院家も御三家相手では分が悪い。

 御三家の関係者やその血に連なるウマ娘なら、絶対に期待できるはずなのに、無理だよなあ。

 『愛バにしたいので御三家のウマ娘をくれ』などと、不用意に発現したら最後。

 即刻、桐生院家の取潰が決定するわ!お家断絶も一家離散も御免被る。

 今はまだ御三家と交渉するのはまだ早計だ。

 確固たる地位と実力を身につけ地盤を固めてからチャレンジしても遅くない。

 

 ミークがトレセン学園を目指すと言った。

 それはいい!非常にいい!だから、私もトレセンに行くと言った。

 私はただの操者で終わるつもりはない、歴史に名を残す騎神の操者になるのだ。

 『あの子は私が育てた!』と声高らかに言うのが私の夢だ。

 一族の教えが詰まった書物『操者白書』を手に、愛の鞭を振るう自分を想像すると顔がニヤケそう。

 こらミーク!『気持ち悪い』とか言うんじゃありません

 

 教官職に就けば、多くの優秀な子と接する機会も増える。

 きっと、愛バになってくれる子だって見つかるはずだ。

 例え契約に至らなくても、大好きなウマ娘たちを育み、社会に送り出す一助となるなら、こんなに幸せな仕事はない。

 操者にして教官。これが私、キリュウインアオイの天職なのだと思った。

 

「なんでついて来るん?」

「あら、嫌なんですか?本当は私が教官だったら嬉しいくせに~」

「ウザ」

「ミーク!?」

 

 ミークはトレセン学園に見事合格した。私の愛バなら当然の結果だ。

 私のほうも教官採用試験には無事合格できた。

 やたら迫力のある理事長秘書が面接官だったのだが、アレは何だったのか?

 私の本能がずっと『ヤバいヤバいヤバい』と警報を鳴らし続けた化物だったよ。

 敵に回したらアカン、絶対に逆らわないようにしよう。

 

 ミークと共にトレセン学園に行く日々が始まった。

 その設備と規模に驚かされ、教官と生徒たちのレベルの高さにまた驚いた。

 ここでなら。ここでなら、きっと見つかる。

 待っていて、まだ見ぬ私の愛バたち!

 

「私だけじゃ不満?」

「ミーク自身には満足してますよ。でも、私の覇気にはまだ余裕がありますし、もう2、3人追加しても」

「浮気者、ビッチ、尻軽」

「もう、この子ったら嫉妬しちゃって」

 

 ジト目のミークが失礼な発言をする。けれども私は動じない。

 この程度の毒舌でいちいち腹を立てるほど狭量ではない。

 愛バの独占欲からくる嫉妬だと思えば可愛いものだ。はっはっは!

 

(いや)しか女杯殿堂入りのメス」ボソッ

「何だとコラッ!!」

 

 自分でもよくわからないが"卑しか女杯"という言葉にキレちまったよ。

 ちょっとだけ取っ組み合いになった。

 身体能力で劣っていても、負けられ戦いがここにある。

 痛い痛い痛い!待って!ローキック連打するのはやめて!

 

 なんだかんだで長い付き合いの私とミーク。

 ケンカしても仲直りは早いのだ。

 じっくり話し合いミークが折れる形で、愛バの増員を許可されたのだった。

 

「ぐふふ、見えます、愛バが増えすぎて困ってしまう未来の私が見えます!」

「捕らぬ狸の皮算用」

 

 ミークを説得し理事長からも許可を取った。

 よっしゃ、教官業務の傍ら愛バ探しを開始するぞー。

 きっと全部うまくいく、そんな予感と期待で胸いっぱい。

 サブタイ『キリュウインアオイ大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!』の始まりだぁ!

 

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

「今日もダメだった……なんでぇ、なんでなのよぅ」

「サブタイ変えよう?次回『キリュウイン死す』デュエルスタンバイ」

「死なないし!デュエルもやらない」

 

 ある日の午後、休憩所も兼ねた学園カフェテリアにて。

 テーブルに突っ伏して落ち込んでいる私、キリュウインアオイの惨めな姿があった。

 ここ数日間、首を縦に振ってくれる子は一人もいない。お断りされ続けて心が折れそう。

 意気揚々とスカウトを開始しておいてこの様だ。

 マズいぞ。このままでは『キリュウイン死す』が現実味を帯びてしまう!

 

「そう落ち込まないでキリュウインさん。まだ始まったばかりじゃない」

 

 スカウトがうまくいかない私は、先輩であるテュッティ教官とお茶をしながら愚痴っていた。

 隣に座ったミークは私を慰めるより、学園内の売店で購入したコンビニスイーツを味わうことを優先したらしい。

 そのスイーツの代金、私が払ったのに・・・

 

「テュッティ教官はいいですよね。あのシンボリルドルフと契約したばかりか、今じゃ学園随一の強豪チーム"リギル"の操者なんですって。超強くて可愛い子たちとハーレム組めて満足ですか?幸せですか?そうですか!」

「私だけじゃなくて、ヤンロンもよ。一人じゃ絶対無理だし、ルナ……ルドルフやみんなが互いに協力し合ってチームは成り立っているわ」

「あー、うらやましいうらやましいうらやましい。そして妬ましい!」

「これは重症ね」

「アオイ、みっともないからその辺にして」

 

 私が理想とした操者人生を歩んでいる、テュッティ教官が羨ましくて仕方がない。

 この人とヤンロン教官は教官陣の中でも別格だけど、私だって負けていないつもりだったのに。

 騎神の頂点に君臨する天級騎神。

 その弟子と実子は伊達じゃないってことを見せつけられた。

 そんなの雇用しているトレセン学園が改めてヤベェ。

 

「私の、私の何がいけないんでしょうか?キリュウイン家の肩書ってそんなに重い?」

「キリュウイン家はともかく、アオイはたまにめんどくさい」

「めんどくさい女で悪うございましたぁ!ミーク~あなただけは見捨てないで~」

「めんどー」

「仲が良いのね。あ、来たみたい……こっちよ、ルドルフ」

 

 テュッティ教官の愛バ、生徒会長にして"皇帝"の異名を持つシンボリルドルフがやって来たようだ。

 周囲の『ざわ…ざわ…』より、覇気の大きさですぐにそのウマ娘だと判明する。

 おいおい抑えていてコレか、さすが皇帝様だ。

 

「お待たせした。それで、キリュウイン教官はどうして壊れているんだい?」 

「アオイは元々壊れているよ」

「それがね━━」

 

 隣に座ったルドルフにテュッティ教官が私の現状について説明した。

 スカウトがうまくいかない事もだが、ついでにミークの反抗期が永遠に続きそうな事も相談したい。

 

「キリュウイン教官は操者として申し分ないと思うが…スカウト中にどんなアピールをしているか聞いても?」

「まず、怪しく声をかけて相手を手あたり次第褒めちぎる。この時点でだいぶドン引き」

「ウソッ!?あれドン引きされてたの」

「そして、キリュウイン家の自慢話が始まる。長すぎるしウゼェから相手は大抵スマホを弄る」

「よ、良かれと思って」

「『あなたは私の愛バになるべきです!』痛すぎる決め台詞でトドメ」

「うわぁぁー!やめてやめてやめて」

 

 私がどんなアピールをしているのかミークが説明してくれたけど・・・これは酷いな。

 ぜ、全然自覚がなかった。私そんなことを言っていたの!?

 客観的に見て痛すぎる!そりゃあ、お断りされるわー。

 

「で、でも、待ってくださいよ。私が痛すぎる女だとしても、こうも連敗続きなのはおかしいでしょ?私の特技だって見せたのに……」

「特技?キリュウイン家に伝わる秘伝みたいなものかしら?」

「私自身が編み出した技も含まれます。実家で披露した時は、一族郎党が度肝を抜かれて拍手喝采でした」

「うん。痛いアオイだけど、嘘じゃないよ」

 

 相談に乗ってくれる二人には包み隠さず、特技の内容を教える。

 厳しい修練によって私の才が開花した結果、私は三つの特技を習得していたのだ。

 

 一つ、ヒーリング能力。

 

 リンク状態を維持したまま貴重な回復役もこなす事が可能なの。

 しかも、Bランク相当の治療師に匹敵する力なので軽傷程度なら治せる。

 テュッティ教官もヒーリング能力者(私より上位)なので、この力の有用性は理解できるはず。

 

 二つ、高度なリンク能力。

 

 デバイスの補助なしで複数人同時リンクができる。凄くない?

 なんと!愛バでない者でもリンク可能なのだ。凄いですよね?

 私の繊細な覇気制御にかかれば、初対面でも相手の特性を見抜き適切な覇気を配分し循環させることなど容易いのだ!

 あ、いや・・・容易いのは言いすぎました。本当はかなり苦労してなんとかできるかもという感じ。

 できることはできるから、嘘は言ってない。

 

 三つめは、実際に見てもらった方が早い。

 

 私は覇気を解放してその出力を上げる。

 するとどうだろう、私の体から薄くぼんやりと輝く光の粒子が出始めたではないか。

 今日はいつもより多めだ、漂う粒子はテュッティ教官とルドルフ、そして覇気を使えない一般人にも見えているだろう。

 視認できるほどに凝縮された覇気の放出と発光現象。

 こんな事ができる操者は、あの御三家にも存在し得ないと思う。

 

「出たwケサランパサランww」

「ミーク、違いますよ。これは覇気粒子と命名したんです」

「白だわ」

「白だね」

「あの、粒子の色じゃなくて、もっとこう『なんだとぉ!』とか『これがキリュウイン…』みたいな戦慄と驚愕リアクションをですね……」

「ごめんなさい。凄いわね、ええ、ホントに凄くとても凄いわ」

「ああ、今にも消えてしまいそうなぐらい儚い光がチンダル現象のようだよ」

 

 ※チンダル現象とは、光の特性によって起こる物理化学的現象の一つで、直進性の強い光が空気中に漂うホコリに当たることで光が拡散し、キラキラと光って見えるようになるもの。

 

 二人とも褒め方下手すぎ!なんにしても、あまり褒められている気がしない。

 これ実家では両親がお茶をマーライオンするほどウケたのに・・・

 ずっと粒子を出していると疲れるので放出終了。今日は5分以上持ったと思う。

 

「ヒーリングに高度リンクと覇気粒子、誰かを思い出す特技ね」

「奇遇だね。私も今、彼のことが頭をよぎったよ」

 

 テュッティ教官とルドルフの反応は微妙だ。そして別の誰かのことを考えている。

 気のせいか『もっとすごいの見たことあるわ』みたいな顔してるー!

 なぜなんですかぁ!私がスカウトした子たちも、みんな似たような反応して!

 おかしい、おかしいですよカテジナさん!

 

「カテ公はマジで頭おかしい。アオイはああなったらダメだよ」

「カテ公はどうでもいい。本当におかしいのは、求められる操者のレベルが高すぎるって事ですよ!」

「そうかしら?今挙げた特技を三つも見せれば、愛バは選びたい放題だと思うけど。ルナはどう思う?」

「声をかけた人選がマズかったのでは?断られた時、彼女たちは何か言ってなかったかい?」

 

 言ってたよ。

 なんかよくわからないけど言ってましたよ。

 『まき』がどうたら?『あいつのとは違う』とか・・・

 長身で美形だが、どこか危ない雰囲気のウマ娘に言われた言葉が特に印象に残っている。

 

「確か、ゴールドシップという子に『劣化版マサキじゃねーか!!』と笑われました」

「んっ!?……くっww」

「ちょっとルナちゃーんw笑っちゃダメよ~、( ̄m ̄〃)ぷぷっ!」

「おー、生徒会長がダジャレ以外で笑った」

 

 二人が互いを肘で突き合い笑いを堪えて…というか、もう完全に笑っている。

 何?今の何がそんなに面白いの?わけがわからないよ。

 

「いや、失礼。キリュウイン教官のスカウトが不調に終わった、理由がわかったよ」

「本当ですか!」

「ええ。それと同時に、あなたのウマを見る目が確かな事もね」

 

 よかった。理由さえ分かれば改善の余地ありだ。

 

「差し支えなければ、これからスカウト予定の愛バ候補たちを教えてほしい」

「はい、この資料にまとめてあります」

「これはまた、なんとも、狙いすましたかの様な人選」

「へぇーこの子もなんだ……やれやれ、どんだけ手を出しているのよ」

 

 愛バ候補たちをリストアップした書類をルドルフに渡した。

 興味深そうに閲覧するうちに、ルドルフとテュッティ教官は『あちゃ~』みたいな顔をするようになる。

 

「何かマズかったですか?フリーの子ばかりを選んだはずですが」

「マズいわね。このままじゃ、スカウト難航必至よ」

「このリスト以外の生徒なら問題なく愛バにできるだろう。私としてはそちらをおススメするが」

「そ、そんな、納得いきません!理由を説明してください」

 

 私がじっくりと厳選した愛バ候補たちだ。

 その実力も伸びしろも折り紙付き。

 今更、リスト以外の子を愛バにするなんてこと、私もミークも納得できない。

 

「リストの生徒たちは、()()()()との出会いがきっかけで、人間を見る目が肥えてしまっている」

「自分の操者になるかもしれない相手なら、尚更ね」

 

 テュッティ教官とルドルフが話してくれた内容は信じがたいものだった。

 

 私がリストアップした子たちは学園に来る前に"異常な覇気の持ち主"に遭遇していた。

 その人物は私と同じ特技を全て使えるどころか、何十倍も強力なものを、いとも簡単に行使することができるのだという。

 その出会いは彼女たちの価値観を一変させるほど鮮烈だった。

 "彼"が例外中の例外と理解していても、操者を決める際に比較せずにはいられない。

 『もっとすごいの見たことあるわ』のリアクションはそのせいだったのだ。

 

 一通りの話を聞き終えた私の感想は『さすがに話盛り過ぎじゃない?』だった。

 そんな奴が本当にいたとしたら、御三家が放って置くはずがないし、天級騎神ですら尻尾を振って会いに来てもおかしくないレベルの存在だ。

 考えられるのは、そいつが高度な幻術の使い手で皆を(あざむ)いているか、年若いウマ娘を言葉巧みに(たぶら)かしているのだろう。

 きっとそうに違いない。許せない!

 洗脳に催眠で薄い本だなんて許しませんよ!

 

「今はリンクデバイスもある。妥協してまで操者を選ぶ必要はないと言う意見も多い」

「そうなのよね。操者としては厳しい時代になったわ」

「つまり、アオイがその"彼"以上の実力を示せなければ"愛バハーレム計画"は、おじゃん」

「な!?やらせません!やらせませんよ!そんなことぉぉーー!」

「キリュウイン教官!?」

「待って、まだコレ食べてない」

「お二人ともありがとうございました。ここのお代は私が払っておきますね」

 

 私はミークの腕を取り立ち上がる。

 いいでしょう、上等ですよ!やってやろうじゃありませんか!

 その"彼"とやらがどんなトリックを使ったか知りませんが、私の実力を持って虚飾の衣をはぎ取ってやりましょう。

 それにしても、ルドルフやテュッティ教官すら騙してみせるとは、侮れない相手なのかも?

 

 こうなったら当たって砕けろ、悩んでいる時間のが無駄だ。

 リストの上から順に片っ端からスカウトしまくってやるわい!

 レジで会計を済ませ、慌ててスイーツを口に入れたミークを引きずりながら、私は食堂を後にしたのだった。

 うおぉぉぉー!やったるぞーー!

 

「キリュウイン教官も災難だな。いてもいなくても、あいつは人心を引っ掻き回す奴だ」

「あら、いたのヤンロン」

「白々しいぞテュッティ。僕が後ろの席にいると解って話をしていただろう」

「偶然よ。そうよね、ルナ?」

「ノーコメントだ、気配を消していたヤンロン教官もどうかと思う。ところで、ヤンロン教官」

「なんだ?」

「グラスワンダーとエルコンドルパサーが探していたよ。もうすぐここに来るんじゃないかな?」

「急用を思い出した。失礼する!」

「めんどくさい男ねぇ。気になっているなら、素直にくっついちゃえばいいのに」

「う、うるさいな」

「さて、キリュウイン教官はどうなるのか?陰ながら応援させてもらおうかな」

 

 ・・・・・・・・・・

 

 テュッティ教官のありがたいお言葉通り、私のスカウトは難航した。

 当初の予定と違い、未だに愛バはミークひとりだ。

 そうこうしているうちに、あのストイックナイスガイのヤンロン教官が契約したという噂が流れて来た。

 リギルのニューフェイスを二人同時に『ゲットだぜ!』だってさ。

 私はこんな状況なのに…祝福したい気持ちより、うらやましい気持ちが勝る!

 ミークと契約できたことも、今ではまぐれだった気がしてきた。

 

「はじめまして、私はミオ・サスガって言います。こう見えても経験豊富で、ロリコンのナビゲーターや天級騎神ザムジードだったこともあるんだ。よろしくね!」

「拍手ッ!皆仲良くするように」

「「「「はーい!」」」」

 

 怪しさ全開の同僚が増えた。

 十代の少女にしか見えない外見で、経歴も意味不明だ。

 ザムジード?今、ザムジードって言った?頭の可愛そうな子なのかな?

 理事長の趣味というか、学園の採用基準がわからない。

 他の同僚は全く意に介さず、ミオ教官を歓迎している。

 

「よろしく~」

「あ、はい。よろしくお願いしま……すっ!?」

 

 握手に応じた手から伝わる覇気、この人、いや、コレ人か?

 もっと異質な何かだったら、何かだったら・・・・・・うん、考えるのやめよう。

 

「……賢明な判断だね

「え」

「なんでもないよ。キリュウイン家次期頭首とお近づきになれて嬉しいな~」

「は、はぁ」

 

 ミオ教官は田舎でニート生活を満喫中だったのだが、

 家主に『ニートを二匹も飼う趣味はない!』とキレられ家を追い出されたらしい。

 うわぁ、この人ニートだったのか。私の中でミオ教官の評価が一気に下がった。

 

「酷いよね。真性ニートのガッちゃんは、まだサイの家にいるのにさ」

「人聞きの悪いこと言わないで。師匠は天級印の治療符を自作してぼろ儲けしているんだから、決してニートじゃないわ」

「法外な値段で出品して殆ど売れてないけどね。ガッちゃんの主な収入源はラ・ギアス住民からの貢物だよ」

「水天が母上たちに寄生して生きているという噂は本当だったか」

「お、堅物そうなアンタはグラの息子だね。じゃあ、そっちのケーキに砂糖かけて食べそうな金髪巨乳が、ガッちゃんの弟子か」

「ヤンロンだ、母上から話は聞いている。大地の天級騎神、いろいろと学ばせてもらおう」

「テュッティよ。ケーキに砂糖をかけるのは普通でしょ?むしろ礼儀でしょ?」

 

 テュッティ、ヤンロン、ミオの三人には不思議な縁があったようで、すぐに打ち解けた。

 もしかしなくてもミオ教官は凄い人物だったようで、数日もしない内に二人と肩を並べる学園の名物教官となった。

 ゲンナジー教官?あの人も中々の傑物だけど、いまいち影が薄いんだよなあ。

 

 ミオ教官がヤベェ、あの人マジでヤベェお方だったよ。

 私が狙っていた愛バ候補たちを一気に七人もスカウトして、チーム"スピカ"設立。

 とんでもないスピードで躍進を遂げ、人気も実力も今ではリギルに迫る勢いだ。

 ここまで、赴任して来て一ヶ月足らずの出来事である。

 そういう活躍を私もしたかったー!してみたかったよー!ウワーン!

 

 リストにまたバツ印が増えた。

 今のが、最後の一人だったのに・・・私は目の前が真っ暗になった。

 

「はいお疲れー。愛バ候補リスト、最後のひとりも無事終了~」

「は、はははははっ、これは夢です。夢ですよね?本当の私は今、たくさんの愛バに囲まれてハーレム生活を謳歌中なんだ。あはっ、あははははは」

「おーい。現実みろー、愛バは私ひとりだよー」

 

 間延びしたミークの声が聞こえるが頭に入って来ない。

 ここで終わりなの?

 こうなったら、ミークを最終段階まで鍛えに鍛えて上げ、チマチマ限界突破の育成をするしかないんだ。

 

「全ステSS+のパーフェクトミークを目指すしかないじゃない!」

「やめてー、私にアオイの黒い欲望ぶつけるのやめてー」

「ミーク、一緒に山籠もりです。トレセンを辞めて二人でギアナ高地に修行の旅へ!」

「絶対行かねー!」

 

 ミークを最強の騎神へと昇華させるため、明鏡止水の心を手に入れる手段を模索し始めた頃だった。

 見慣れぬウマ娘と二人と廊下ですれ違った。

 今の!?リストに載ってない、あれ程の逸材を私が見逃していたなんて!

 凄まじく洗練された覇気と肉体!豊富な実戦経験と信念を持ち合わせた強い眼差し!

 今までスカウトして来た生徒とは何かが違う。

 私は一瞬で魅了された。

 声、そうだ声をかけないと!

 

「あの!少しお話を」

「はい?何でしょうか」

「キリュウイン教官、だよね?一体何かな」

「えー、ここではちょっと、カフェテリアまで来ていただけますか?」

 

 少々困惑気味だったが、二人は快く応じてくれた。

 そしていつも以上に気合と熱を込めてスカウトした。

 

「ごめんなさい。私には心に決めた人がいますから」

「同じく、ごめんね。私も操者一筋だからさ」

 

 クッソっ、二人とも既にパートナーを見つけていたか。

 この二人を愛バできた人物は何たる幸運の持ち主なのか、どうやって契約にこぎ着けたのか教えてほしいぐらいだ。

 早々に話を切り上げて颯爽と立ち去る二人組、引き止める暇もなかった。

 お断りが手慣れすぎていると思ったら、二人はかなりの大物だった。

 メジロ家の秘蔵っ子であるメジロアルダン、ファイン家頭首のファインモーション。

 学園に来るようになったのはここ最近であり、仕事でしょっちゅう休学するため、私と接触する機会に恵まれておらずリストに載っていなかったのだ。

 欲しい!非常に欲しい!

 キリュウイン家とつり合いが取れるどころか、声をかけるのも(はばか)られる存在。

 それが今、教官と生徒として会話に交渉が可能な立場にいる。チャンスだ!

 一回振られただけで諦めるものか!

 私はその後も、二人に会う度に積極的に話しかけスカウトを怠らなかった。

 しかし、結果はいつもNO!

 断られる時の台詞は大体同じ『操者がいる』だった・・・マジで誰だよ!?

 

「いや、操者いるって言ってるじゃん。さすがに諦めなよ」

「ハッタリかもしれません。現に、その操者とやらは一度も姿を見せないし、リンクもしていない」

「あれは本気だと思うけど」

「そうだとしても、諦めきれません」

「しつこい女は嫌われるよ」

 

 メジロアルダンとファインモーションの二人と中々会えなくなった。

 きっと、仕事が忙しいのだろうな。

 ミークはストーキングしすぎたせいで、二人が私を避けるようになったと言っているが、そんな事は無いと思う・・・たぶん。

 

 そして、季節は巡り・・・

 

「編入生?」

「そうです。この時期にトレセンへ編入するなんて、相当な訳ありウマ娘ですよ」

「それをスカウトするって?どんな子なのかもわからないのに?」

「サトノです」

「は?」

「今度編入してくる生徒は二人ともサトノ家のウマ娘です」

「お前マジか?死ぬ気か!?」

 

 混乱したミークの言葉使いが荒れているが無理もない。

 サトノ家と言えば御三家でありながら、何かと良くない噂のある一族だからだ。

 メジロ家がやらない仕事でもやる。とにかく無茶苦茶やる。

 頭首から末端まで構成員がヤバい奴らだらけで組織されており、ノリとその場の勢いで生きているような連中だと言われている。

 特に、次期頭首である"Ⅾ"とその相棒の"黒髪"はサトノのヤバさを体現したかのような怪物。

 倫理観を持ち合わせない、ぶっ壊れウマ娘らしい。

 嘘か誠か、何年も眠っていて小学校を最近卒業したとか、妙な情報もあるが今はどうでもいい。

 とにかく会って話がしたい。

 怖いもの見たさというのも多分に含まれているが、会ってみたい。

 

「キタサンブラックです。みんな仲良くしてね」

「サトノダイヤモンドと申します。不束者ですがよろしくお願いします」

 

 当たりだ。それも大当たりのSSR!

 級友に囲まれている彼女たちを遠巻きに目撃しただけで、ハッキリと確信した。

 この二人も他のウマ娘とは違う別種の存在だ。

 アルダンとファインに感じたものと同質の、強大な力を秘めているに違いない。

 

 サトノ家の評判も誇張された噂にすぎなかったようだ。

 どんな子かと戦々恐々していた自分がバカみたい。

 二人とも礼儀正しく品行方正で、凄くいい子じゃないか。

 溢れ出る気品と優雅な物腰し、蝶よ花よと育てられた良家のお嬢様って感じで、何もおかしなところはない。

 よーし!やる気が出て来たぞー。

 お願いします!どうか私の愛バになってください!後悔はさせませんから。

 

「お断りします。私には愛する操者がいますから」

「右に同じです。キリュウイン教官はご自身の愛バ、ミーク先輩を大事にしてあげてください」

 

 はいはい、お断りは想定内じゃい!なんかもう慣れて来た。

 諦めませんよ!そして逃がしません。

 ミーク?なんで私を羽交い絞めするのです?

 はっはーん。最近かまってあげてないから、寂しくなっちゃんたんですねー。

 可愛いところあるじゃない。

 

「冷静になれ!やめた方がいいって、マジで!これマジで言ってるからな!」

「止めても無駄です。ミークは黙って応援してください」

「応援より操者の命を守るのを優先させてもらうよ。あーもう、めんどい」

 

 キタサンブラックとサトノダイヤモンドにストーキング・・・じゃなくて熱烈スカウトを続行する。

 褒め殺しや、泣き落とし、手札を変え趣向を変え、いろいろ試してみたが、中々うまくいかない。

 最初は静観していたミークまでもが邪魔して来るようになった。でも、諦めない。

 

 何度目かのスカウトの後、ミークに命の危険があると忠告された。

 確かに今日は言い過ぎた。けど、腹パンはやめようよ。

 一向に姿を見せない二人の操者に苛立って貶めるような発言をしてしまった。

 まったく、あんないい子を放置して、何をやっているのやら。

 私が操者ならずっと傍にいて、寂しい思いなんてはさせはしないのに。

 

 不思議な男性に出会って道を尋ねられた。

 目的は私と同じスカウトだったらしい、あの覇気じゃ結果は目に見えているけど・・・

 ま、現実を知るのもまた修練ですよ。

 さあて、私は今後の対策を考えなくては、二人の好物を貢いでみるのはどうかな?

 どうしたんですか、ミーク?ああいう男性がタイプなんですか?

 え?凄くいい匂いがしたんですか。フーン、私にはよくわかりません。

 

 ●

 

 は?

 

 嘘、ウソウソウソッ!ちょっと待ってよ。

 操者?愛バ?誰が誰の?なんで?

 

はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?

「アオイ、うるさい」

「これが黙っていられますか!だって、だって!」

「マサキ教官、キタちゃんとダイヤちゃんの操者だったねwwよかったよかった」

「全然ッ!よくない!それに━━」

「アルダンとファインの操者でもあったよねwwいや~ビックリビックリ」

「私がスカウトに失敗した子たちとも、めっちゃ仲良しなんですよぉ!?ありえないーー!」

 

 不思議な男性の正体は学園に養護教官として赴任して来た新任教官。

 名をアンドウマサキという男だった。

 まあそれはいい。問題なのは、この男なんと!私が最終的に目を付けた四人のウマ娘たちの操者だったのだ。

 実在した事にもビックリだが、この妙な男が私より優れているとは到底思えない。

 何なんだこいつは!こんな男のどこがいいのか、全く以って理解不能だ。

 恋は盲目にもほどあるだろうが!

 だというのに周囲の評判は非常に良く、最初警戒していた生徒たちも医務室へ行くことへ抵抗が無くなって久しい。

 

「ヒーリングの腕前ホント凄いよ。治療師ランク特A免許保持とかヤバすぎ」

「それは認めますけど、あの覇気は!全然大したことないでしょう?」

「あれたぶん抑えてるだけ。それも、かなり強い拘束術式かなんかで縛りプレイ中」

「でも、でも」

「デモデモダッテはやめよう。アオイはさ、マサキ教官が単純に羨ましくて嫉妬しているだけなんだよ」

「ぐぬぬぬ!」

 

 そうだ。これは嫉妬だ。

 私がどれだけ口説き落としても『はい』と言ってくれなかった騎神たちが、彼の前ではデレデレなのにムカついているのだ。

 懐いているというレベルじゃねーぞ。あれはもう付き合ってるのでは?

 愛バだけじゃなくて、他の生徒たちもすごくフレンドリーに接していて距離が近い。

 みんな私には見せない表情をしている、めっちゃしている。

 同僚たちとも速効で打ち解けて、テュッティ、ヤンロン、ミオ、ゲンナジーと談笑中は、慣れ親しんだ友といった空気を出している。

 理事長とも旧知の仲であり、信じられないことに、あの恐ろしい"駿川たづな"が慈愛の表情で世話を焼いていたりするのである!?

 マジで何者なの?

 

 私の嫉妬心は日増しに増大していった。 

 彼の前では不機嫌になり、粗探しをして理不尽な感情をぶつける事もあった。

 それでも、アンドウマサキは困ったような顔をするだけで、丁寧に謝罪までして来るのだ。

 大人な対応に加えて逆に私を気遣うようなそぶりすら見せる。

 それが余計にムカついた。

 

「キタさんとダイヤさんが豹変っぷり見ましたか?あれじゃ下品なチンピラですよ!」

「私は今の二人の方が面白くて好き」

「御三家のウマ娘があんな醜態を晒すわけがない。アンドウ教官なんかと一緒にいるせいで毒されてしまったんですよ。そうに決まってます」

「いや、あれが本性だったんじゃないの?」

「私がなんとかしないと、このままでは学園全体が汚染されてしまいます!やはり、キタさんもダイヤさんも、それにアルダンさんとファインさんも、私が面倒みるしかありません!」

「うっわ、まだ諦めていなかったんだ。引くわー」

 

 いつしか私は嫉妬心と使命感をごちゃ混ぜにした、奇妙な感情に支配されていた。

 自分の間違いに気付くのはもう少し後になるのだけれど、この時はそれが正しいと信じて疑わなかった。

 ミークがいさめてくれなければ、もっと早く事を起こしていただろう。

 

「アンドウマサキ!あなたに決闘を申し込む!」

「はぇ?」

 

 私の我慢が限界に達し、アンドウマサキへと戦いを挑む事になるのは、

 きっと必然だったのだ。

 



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はだかのおウマさま

下品です。
気を強く持ってお読みください。


 トレセン学園敷地内、主要施設群から離れた場所にその魔窟は存在した。

 操者も愛バも話題に事欠かない要注意人物たち、

 チーム"ああああ"のメンバーが(たむろ)する基地である。

 ただの物置と化していた小屋を劇的ビフォーアフターして完成した基地は、

 チームが出入りするようになってから幾度となく改築が施され、今では大変過ごしやすい場となっている。

 休憩時間など、暇を見つけては基地で羽を伸ばすのが愛バたちのルーティンだ。

 

 融通の利くカリキュラムを採用している学園では、

 午前中にさっさと授業を終えて、午後の時間は丸まる自由時間にすることも可能だ。

 やるべき事をやり結果を残してさえいれば、文句を言う者はいない。

 仕事に青春に、そして恋愛に忙しい愛バたちには理想の環境が整っている。

 そんな訳で学業を終えた愛バたちは、今日も自然と集まり操者が来るのを待っている。

 

 基地内ではクロ、シロ、アルの三名がマサキを待ちながら思い思いに過ごしていた。

 ココは所用で出かけているらしく、まだ到着していない。

 

 あ、どうもシロです。

 真名サトノダイヤモンドです。

 もはや女主人公と言っても過言ではない、私視点でお届けします。

 私の視界をジャックするか、精神を同調させるなりして、お楽しみください。

 読者様のたくましい妄想力に期待しております♢

 

 〇

 

 ふざけたことに、キリュウインとか言う人間(ヒトミミ)がマサキさんを目の敵にしているらしい。

 『そろそろ狩るか・・・♠』と愛バ一同が思う今日この頃だ。

 

 今日は全員揃って旧校舎ダンジョンで修練をする予定。

 ダンジョン攻略も佳境に入って来ていて、

 地下100階層まで、もうすぐのところまで進んでいる。

 果たして、待っているのは何か?大ボスか?はたまた、金銀財宝か?

 『地下101階層発見!まだ下があるぞ』的な展開は、めんどうなのでやめてほしい。

 

「シロさん。飲み物、ここに置いておきますね」

「ありがとうございます……ん…あちち」

 

 アル姉さんが淹れてくれた温かいお茶を頂く。

 猫舌を我慢して、少量ずつ飲むのが美味しいのですよ。

 口内に広がる香ばしい味わい、玄米茶とは渋いチョイスだ。

 

 ソファに腰かけ、クエストの事後処理をまとめたレポートに目を通す。

 

 先日、学園は大規模緊急クエストを発令した。

 腕利きの騎神を出動させ、違法デバイス密売組織の潜伏先を襲撃したのだ。

 警察とトレセン学園が協力した本作戦は大成功に終わる。

 密売組織は一掃されて、街がまた少し綺麗になったと偉い人が言っていた。

 その際、マサキと愛バたちは宿敵ルクスに遭遇するというハプニングがあったりするのだが、

 マサキの事情を知る関係者以外には、その事実は知らされていない。

 

 大きな戦果を上げたチーム"ああああ"には、クエスト報酬がたんまり贈答された。

 我々の評価も上がり、実に気分がいい。

 戦果ランキング一位は学園最強を誇るリギルだったそうだ。

 二位がスピカで"ああああ"は三位入賞だ。

 ルクスの邪魔が入らなければ、自分たちこそが一位だったのにと、クロがぼやいていた。

 

 (気になる報告は……あった、これだ)

 

 E地区とG地区では現場に踏み込んだ時、売人のチンピラどもが既に無力化されいたとの報告がある。

 学園の騎神が到着する前に何者かの襲撃を受けたと推測される。

 現場にあったはずの違法デバイスが持ち去られている時点で、怪しいなんてもんじゃない。

 後日判明した事だが、他にも複数の場所で似たような事例があったらしい。

 

 (十中八九ルクスの仕業、やってくれる)

 

 私たちがルクスと相対している最中、裏で仲間を動かしていたのだ。

 奴は組織的な活動ができるだけの人員を揃えていると見ていいだろう。

 違法デバイス事件はルクスにとっても不都合であり、デバイスの回収に出張って来たわけだ。

 私たちとの対話は本業のついでかよ。なめやがって。

 

 ルクスが気にするデバイスか、

 マサキさんは赤い核石を見たと言っていたが、それが関係しているのだろうか?

 タキオンさんにデータを回してもらって、私の方でも解析してみよう。

 

 読み終えたレポートをテーブルに置く。

 お茶をまた一口飲んでから、肩を回しグキグキと鳴らした。

 

 (胸部が重いと肩が凝りますね)

 

 以前、マックイーンさんの前で同じ発言をしたら、もの凄い目で睨まれたのを思い出す。

 たまたま一緒にいたスズカさんは『脂肪の塊にすぎぬぅ!』とか吠えていたなあ。

 一息ついたので、他の連中は何をしているのだろうか?

 私は室内を見渡す。

 

 同サイズのバストをお持ちのアル姉さんは、私のすぐ横で熱心に雑誌を読んでいた。

 ニヤニヤしていてちょっと気持ち悪・・・アレは、結婚情報誌"ゼクシィ"だとぉ!

 なるほどなるほど。

 マサキさんにじわじわプレッシャーをかけるおつもりか?

 

「未来のための予習です」

「はぁ……まあ、いいですけど」

 

 私はチラッとテーブルに目をやる。

 そこにはアル姉さんが持ち込んだ雑誌類が、これ見よがしに置かれていた。

 

「"たまごクラブ"はやりすぎでは?」

「"ひよこクラブ"もありますよ。シロさんたちも一読をおすすめします」

 

 アル姉さんの中では、未来の明るい展望が広がっているんだろうなあ。

 私もそういう事を考えない訳ではないけど・・・

 あまりのプレッシャーでマサキさんを押しつぶすのだけは勘弁してください!!

 焦り過ぎて引かれない事を祈ります。

 

 クロは私から強奪したニンテンドースイッチで遊んでやがる。

 これまた私が設置した壁掛けテレビをモニターにして、大画面で楽しんでおるわ。

 長いボス戦を乗り越えたらしくクロは『しゃあ!やっと倒せた』とガッツポーズしていた。

 CV:若本らしき軽快なキャラクターボイスが聞こえていたのだが、

 どうやら、それも終わったようだ。

 

『ムムカ……愚かすぎだぜ…』

 

 ベジータ!じゃなくて、画面の中のダンバンさんが名セリフ言った。

 プレイしているのは名作RPG"ゼノブレイド"か・・・

 あーネタバレしてぇーーー!

 

 (ダメですよ。クロさんの楽しみを奪ってはいけません)

 (わかってますよ。クリアまではネタバレ禁止、常識です)

 

 既プレイ済みのアル姉さんに釘を刺された。

 そうですよね。ゲームは先の展開をワクワクしながら進めるのが楽しいんだよ。

 クロにはゼノブレイドという作品をしっかり堪能してもらわないと。

 

「ディクソンさん。早く仲間にならないかなぁ?カッコイイおやじ枠は必要だよね」

「……」

「……」

「機神って絶対悪い奴だ。復活した巨神がピンチに助けてくれる神展開、期待してるよ!」

「……くっ」

「……ww」

 

 クロ・・・愚かすぎだぜww。

 何も知らないクロの発言にツッコミしたい衝動に駆られたが我慢する。

 顔を見合わせた、アル姉さんと私の思いは一つだ。

 

 ((ネタバレしてぇぇぇーーー!!!))

 

 ゲームを進めた先でクロが『うわぁぁーー!マジかよこんちくしょう!』と悶えるビジョンが見えた!

 なんという愉悦!ゲーム開発者もしてやったりだろうな。

 

「ごめん、遅れちゃった。あれ?マサキはまだ来ていないんだ」

 

 キリの良いところでゲームを中断したクロを交えて談笑していると、ココがやって来た。

 

「遅かったですね、授業が長引きましたか?」

「違う違う、屋台がとっても繁盛しちゃって大忙しだったの」

「あの無許可営業、まだ続けていたんですか。そのうちマジで捕まりますよ?」

「今日はたづなさんと理事長が食べに来てくれて、生徒会の人たちもいっぱい替え玉してくれんだ」

「食ってる場合か!?ちゃんと取り締まれ!」 

「ラーメンの味で懐柔してみせるとは、やりおるわ」

 

 ココは趣味でラーメンの屋台を不定期で営業している。

 学園内のどこかにランダムで出現する事のみが知られ、正確な場所も営業時間もはっきりしない。

 店主であるココの気が向いた時のみ営業するという、大層ふざけた屋台だ。

 しかし、そこのラーメンを食した者は誰しも『異様にうまい!』と、口を揃えて絶賛するのであった。

 学園七不思議の一つに列挙される神出鬼没の屋台。

 その噂は口コミで広まり、今では常連客やコアなファンも相当数いるのだとか。

 『運よく見つけたらラッキーなので授業をサボってでも行くべきですわ!』

 と、マックイーンさんも褒めちぎっていたっけ。

 

 ほぅ、集客は期待できるしリピーターも定着しているのか。

 正式な許可を取って出店するか、食堂の限定メニューなんかに加えてもらえば、そこそこ稼げそうだな。

 

「わかってないなーシロちゃん。幻の屋台ってところに、みんなロマンを感じているんだよ!」

「知らんがな」(´・ω・`)

 

 屋台が神出鬼没な理由、それはココがチートスキルを使ってるからに他ならない。

 ココのスキル空間収納にかかれば、どこだろうと瞬間的に屋台を出し入れ自由なんだよね。

 収納すれば重い屋台を引く必要はないし、食材の鮮度も温度も入れた時点のものに保存されるんだってよ。

 私たちもよく荷物を預けたりするので、日頃からお世話になりっぱなしだ。あざ~す!

 便利すぎません?一家に一台備えて安心ファイモーションだ。

 いいなあ、私もアイテムボックスほしい。

 スーパーでエコバック忘れた事に気付いても、悔しい思いしなくてすむんだもん。

 

「それにもう無許可じゃないんだな。本日付けで営業許可書発行してもらっちゃった」

「あー、そういうこと。理事長たちから提案されたんでしょ?『我々を味で納得させる事ができたら認めてやる』的な勝負をさ」

「料理漫画によくある展開ですね。何はともあれ、おめでとうございます」

「ありがとう。よかったらみんなも食べに来てよね。替え玉一回ぐらいならサービスしちゃうから」

 

 身内のよしみで一杯ぐらいタダにしてくださいよ。

 ケチくせぇな。

 

「うーん。マサキとアルはタダでもいいけど、クロシロちゃんは日頃の行いがね~」

「ケチー!」

「ドケチインモー!」

「ココさん。食べ盛りの二人がかわいそうです。何とかなりませんか?」

 

 おのれ、意地悪インモーめ。

 そして、アル姉さんは大天使ですこと。

 ほらほら、心優しきアル様のお願いを聞き届けなさいな。

 仮にも年上なんだから、年下の妹分にひもじい思いをさせないでくださいよ。

 

「わかったよ。ただし!私のことを"お姉ちゃん"と呼んでくれたらね」

「ココお姉ちゃん。シロ、お姉ちゃんのラーメンお腹いっぱい食べたいな!」

「はい、シロちゃん合格!いつもそうなら可愛いのにね」

 

 フッ、チョロいな。いとも簡単に無料ラーメンゲットだぜ。

 食欲の前には、つまらんプライドなど問題にならん。

 ココをおだてて美味いもん食えるなら、妹ぶりっ子も演じてみせるダイヤモンドです。

 さあ、クロも私に続け・・・おーい、どうした?

 

「次はクロちゃんの番だよ。"お姉ちゃん"って言えるかな?」

「いやっ!」

「クロさん?」

「どうしました?ちょっと我慢してココを持ち上げれば、タダでラーメン食えるんですよ?意地張っも損するだけです」

「いやったら嫌なの!」

「……私、マジでへこんでいい?嫌われすぎてショックなんだけど、泣きそう」(´;ω;`)

「ああ、ココさんが崩れ落ちて…クロさん、ココさんの何がそんなに嫌なんです?ニンニクと豚骨を浴びるように消費する癖に、体臭が変化しないのがムカつくからですか?」

 

 それ、アル姉さんが思うムカつきポイントですね。

 

「アルまで酷いよ!私は三食ラーメンでも大丈夫な体なの!ちょっとお口が臭う時はごめん!」

「そんなので、マサキさんとキスする時どうするんですか!」

「マサキにもニンニク食ってもらうんだよぉ!はい、解決」

「毎回そんな苦行にマサキさんをつき合わせるなんて鬼畜です!」

 

 年長組がヒートアップして口論を始めた。

 ここはしばらく様子を見よう。

 

「へぇー。マサキの口がちょっとニンニク臭いからって、アルはキスしないんだ?」

「そんなことはありません。私は例えマサキさんの口から下水の匂いがしても、貪るようにキスする女です!」

「それは病院に行った方がいいよ、二人とも」

「モンダミンを口移しで飲ませ合いすれば、アフターケアもバッチリです」

「モンダミンは吐き出すのが正解だよ。飲んじゃダメ!」

「では、リステインにします」

「問題はそこじゃない」

 

 アル姉さん、薬用マウスウォッシュを飲み物だと勘違いしていた。

 ヤベェなあ、怖いなあ、これがアル姉さんクオリティだなあ。

 

 アル姉さんとココはまだ何やら言い争っている。

 あれはあれで仲がいいんだろうな。もう放って置こう。

 それよりも、意地を張ってるクロは何なんでしょうね?

 

「ク~ロ。さっきの態度は何ですか?さすがにココが不憫ですよ」

「呼びたくない…だけ……」

「……もしかして、照れてます?」

「ち、ちがっ////」

「マジかー。本当はココ大好きかぁ」

「違うって言ってんだろ!すり潰すぞサトイモ!」

「はいはい、そういうことにしておきましょうね~。もう、クロってばカ~ワ~イ~イ」

「死なす!」

「あ、耳はダメ。耳を絞って捻じって結ぶのは、らめぇぇーー!」

 

 大事な耳に乱暴されてしまった。

 うう、酷いわ。訴えてやる!

 『シロの耳は大きくて可愛いなあ』と、マサキさんが褒めてくれた自慢の耳なんだぞ。

 えーと、ここがこうなって・・・よっと。

 ふぅ、なんとかほどけた。

 

「今日のところは引き下がるけど、いつか絶対に"お姉ちゃん"と呼ばせてみせる。覚悟してなさいクロちゃん!」

「諦めてよ。そんな日、絶対来ないから」

「ムキ――ッ!可愛くないなぁこいつめ!コイツめ!」

「ちょ、おぱーい揉まないで」

 

 今もじゃれ合っているし、仲が悪い訳じゃないんだよな。

 

 クロがココを"お姉ちゃん"と呼びにくい理由、何となくわかる。

 あれだ、私が継母のハートさんを"お母さん"と呼べないのと一緒だ。

 勘違いしないでほしい、私はハートさんの事を嫌ってはいない。むしろ大好きだ。

 父の再婚相手として十二分に認めているし、私を実の娘クロと平等に愛してくれている。

 私には勿体ないくらいの、本当によくできたお母さん・・・だからこそ、躊躇する。

 実母との関係を破綻させたような奴が『お母さん』なんて呼んでいいのかと思ってしまう。

 父とハートさんとクロ、せっかく築いた仲良し家族の三角形。

 そこに割り込んで崩すのが、また壊すかもしれないのが、怖い。

 そんな事は起こらない、心配しすぎだと言ってくれるのでしょうね。

 でも、怖いものは怖いのだ。

 だから、申し訳ないけど、ずっと待ってくれているのを知ってはいるけど。

 ヘタレな私の覚悟が決まるまで、もう少しだけ時間がほしい。

 近いうちに絶対、胸を張って『お母さん』呼んでみせるから、待ってて。

 私が呼ぶなら『母様(かあさま)』かな?

 クロみたいに『ママ』って呼ぶのはハードルが高い。

 

 私のハートさんに対する気持ち。

 きっとクロはココに対して、似たような心境なのだろう。

 

「ココのことは好きけだけど、初対面で敵認定してしまったのと、そのあと散々"インモー"と呼んで(さげす)んだことでジレンマが生じたのでしょう。今更どの面さげてと思う気持ちと、アル姉さんにするように甘えてみたい気持ちがこじれてしまい、自分でも混乱している」

「さすがシロさん。クロさんのことをよく理解してますね」

「クロちゃん////私のことをそんな風に」ポッ

「やめろぉ!口に出して分析するなぁ―――!!」

「ヨワムシMIRROR HEART(ミラーハート)~いつだって天邪鬼(あまのじゃく)~素直にはなれない…なってあげない~♪」

「うはっ!クロちゃん可愛すぎ!」

「歌うなサトイモ!何だその歌詞!?」

 

 政宗くんのリベンジ1期OP『ワガママMIRROR HEART』より抜粋ですが何か?

 クロの心情を表すのにピッタリだと思いましてね。

 つい口ずさんじゃいましたよ。

 

「たぶん、二人っきりになったら思わずポロっと言いいますよ『お姉ちゃん…あ!』しまったぁー恥ずかしい///みたいなw」

「フフ。クロさん、とても可愛らしいです」

「そ、そんなシュチュエーション来ちゃったら、私はクロちゃんを全力で押し倒す!」

「ヤメロォォォ!これ以上、私の心に触れるなぁぁぁ――――!!!」」

 

 おやおや、クロがメンタルブレイクしてしまったぞ。

 ハートさんの娘だけあって、ハートが弱点なんですねー。なんちゃってw

 ハハハハ、痛い痛い。

 それ以上は流血沙汰になるからやめてね。

 マジで謝るからやめてくれよう。

 お前、顔真っ赤やぞwww

 あ、うそうそ、血で真っ赤になるのは私になりそうだからやめて。

 

 なぜか私だけビンタされた。一発ではなく何十発もされた。

 痛いなぁ、口の中切れちゃったじゃない。

 ほっぺたもヒリヒリするぜい。

 でも、ダイヤモンドは砕けない!すぐに回復しまーす。

 

 真っ赤になったクロは、アル姉さんのに抱き着いて()ねてしまった。

 アル姉さんとココに慰められ、よしよしされている。

 妹分の可愛い一面を目撃した二人は、ほくほく顔でクロを撫で回しご満悦だ。

 天然で愛され上手なクロ、私にはない才能だ・・・

 う、うらやましくなんてないんだからね!

 フンだ!私はマサキさんにしてもらうからいいだもん!

 

 クロがいつもの調子を取り戻し、私の口内出血が止まるまで数分かかった。

 

「マサキさんは…まだ来ないみたいですね」

「どうする?何かして遊ぶ?」

「いい機会だから、あの事を決めちゃわない。アル、例のヤツ持ってる?」

「はい。こちらに」

 

 アル姉さんはファイルケースから紙切れを取り出し、テーブルの上に置いた。

 それは一枚のチケットだった。涙もろいことで有名なチケ蔵先輩のことではない。

 チケットにはこう書いてある。

 

『豪華!"温泉旅館"1泊2日ペア宿泊券』

 

 違法デバイス事件解決の特別報酬として、理事長にもらったものだ。

 太っ腹な理事長は『成果に見合った報酬は当然ッ!』という考えの人で、こういった特別報酬を頻繁にくれたりする。

 因みに、リギルとスピカにはチーム全員分の旅行券が送られたらしい。

 活躍ランキング三位の"ああああ"はペアチケット一枚にまで減少・・・ちょっと酷くない?

 小姑の悪意を感じる!!

 

 豪華!などと書いてあるが、正直このレベルの旅館なら全然大したことはないと思えるぐらい、生まれも育ちも裕福な私たちである。

 家の名前を出せば、更にハイグレードな宿泊施設を貸し切りだってできる。

 もっとも、家の権力を振りかざすまでもなく、今こなしている仕事やクエストの稼ぎだけでも泊まるだけなら十分可能だ。

 その気になればいつでも、マサキさんを誘って高級リゾートホテルへGO!できる。

 できるのだが・・・

 

「マサキさん、そういうの遠慮しちゃんですよねー」

「「「だよねー」」」

 

 うんうんと全員が頷く。

 マサキさん、お金に関して私たちを頼ろうとしないんですよ。

 むしろ、デート中とかは率先してお支払いしてくれる。

 以下、お金についてトークしたマサキ発言集。

 

『俺には小市民な生活が性に合ってる』

『豪遊とか散財はなあ…勿体ないと思ってできぬぅ」

『ギャンブル?あー無理ムリ無謀』

『もちろん、よく考えた上で豪遊したいと思うのなら止めはしない』

『お金は大事。いざという時のため、コツコツ貯蓄もアリだよな』

『俺にじゃなくて自分のために使いなさい』

『そりゃ金は欲しいけど、もっと大事なもの手に入れちゃってるから』

『お前たちがいてくれるだけで十分なんだよ』

『まさにプライスレス!』( ̄▽ ̄)

 

「『お前たちがいてくれるだけで十分なんだよ』脳内リピート不可避!うわぁー!もう超好きぃ!!」

「マサキさん語録に永久保存決定です。思い出すだけでご飯三杯…いや、釜ごといけます」

「払います!私が全部払います!全財産で、マサキさんの人生に寄り添う権利をお買い上げします!」

「もし、マサキがホストだったらヤバかった……破産からの泡風呂コースまで一直線!」

 

 まあ、私なら泡風呂に沈んでも返り咲いて見せますけどね。

 お風呂屋さんを乗っ取って、また、マサキさんを指名するのです。

 連日シャンパンタワーを入れて、マサキさんをナンバーワンにしてみせます!

 

 マサキのためにお金を使うことに迷いはない。

 じゃんじゃん使って喜んでもらえるなら、それだけで嬉しい。

 たまには遠出して、旅行を楽しんだり素敵なホテルで一夜を明かしてみたいのだ。

 しかし、むやみやたらと金銭を使うことをマサキは良しとしない。

 そこに振って湧いたのが『温泉旅館宿泊券』である。

 クエストを頑張って手に入れたよ、ご褒美に一緒に行ってほしいな?

 そんな風に誘えばマサキもきっと了承してくれるだろう。

 つまり、このチケットは・・・

 

『マサキと温泉旅館でイチャイチャできる券』

  ↓

『マサキ1泊2日独占券』

  ↓

『これはもうハネムーンのリハーサルだ!』

  ↓

『他の三人に決定的な差をつけるチャーンス!』

 

 私たちにとって、喉から手が出るほど欲しい"魔法のチケット"に他ならない。

 

 しかも、ペアってところがミソだよね。

 ペア・・・お邪魔虫がいない、二人っきりてことよ!

 そう思えば、全員ご招待券じゃなくてよかったかもしれない。

 温泉へ行くのは二人、一人はマサキで確定だとして残り一人は・・・

 もちろん、これから決めるのだ。

 

 既に室内は私を含めた四人の覇気とやる気で満ち溢れている。

 全員がチケットを欲し、マサキと一緒に行くのは自分で決まりだと思っている。

 

「二人っきりの温泉旅館、何も起こらないはずはなく……チェックインからアウトまでイチャイチャラブラブ。最高じゃないっすか……」

「温泉で身も心もリラックスしたあとは、浴衣姿の私を召し上がるのですね。朝チュンコース予約しておきます!」

「露店風呂はもちろん混浴……あ、ダメだよマサキ、貸し切りだからって、こんな開放的なところでなんて///もう、仕方ないなあ///」

「お風呂のあとはマッサージで日頃の疲れを癒してあげる。もう、マサキさんったら、モナドをこんなにおっきくして////ここにもマッサージが必要かな?」

「「「モナド言うなww」」」

 

 それぞれが妄想に浸り夢を見る。

 この夢を現実する者こそ、彼の愛バに相応(ふさわ)しい。

 

 バカな発言をしたクロは、シュルクに土下座して謝るんだも。

 マサキさんのモナドは、未来永劫ダイヤちゃんが独占管理するべきなんだも!

 と、私の中のノポン族が申しております。

 

「じゃあ、ちゃっちゃと勝負しようか」

「争う必要あります?どうせ、私が勝つのに」

「やってみないとわかりませんよ」

「みんな泣く準備をした方がいいんじゃないの?」

 

 争奪戦が始まる。

 こうなることはチケットを入手した段階で読めていました。

 

 私たちは今まで何度もマサキさん絡みで争って来た。

 勝負方法の話し合いは毎回揉めるので、めんどくさい。

 それに疲れた私はたちは、事前にくじを作る事にしたのだ。

 こんなこともあろうかとね!

 上部に穴の開いた箱に競技種目を書いた紙を入れておいて、代表者一名が引くというシンプルなものだ。

 一人につき四枚の紙が配られ、そこに自分の勝ち星が狙える種目を書き箱に入れる。

 くじの総数は16枚。四分の一の確率で自分のヤツが当たるのだ。

 

「今回も私が引いていい?」

「どうぞ」

「たまには私が引きたいです」

「シロちゃんはダメ!大人しくしてなさい」

「(´・ω・`)ショボーン」

「よーし、私に有利なの来い!来てくれい!」

 

 くじは基本クロに引く。

 正々堂々とした勝負を好む性格なので、信用できるという理由でだ。

 私だと紙の材質や折り目を記憶して不正を働くかもしれないと疑われている。

 ちぇ、信用無いな。

 箱に仕掛けをしようとして見つかったのがマズかったなあ。

 一応、年長組の二人がクロの動きに目を光らせる中、抽選箱から二つ折りにされた紙片が引き抜かれた。

 

「お……やった!私が考えたヤツ来たよ」

「「「うわぁ……」」」

 

 喜ぶクロとは裏腹に、私たちはげんなりした。

 こいつのかよ……やだなあ。

 クロの選ぶ種目は体を動かすモノが多く、肉体的にしんどいのがほとんどだ。

 前々回、アル姉さんが優勝した"相撲(すもう)"は白熱しすぎてしまい、

 部屋の中がしっちゃかめっちゃか!

 『もう、インドア相撲は禁止よ!』と、オネエ化したマサキさんに怒られたのは忘れられない。

 格闘技系だったら外でやらないと、また怒られちゃう。

 

「勝負方法は……"野球拳"に決定したよ!」

「「「なんでだよ!?」」」

 

 野球拳について説明は要るまい。

 じゃんけんを行い、負けた方が服を脱いでいくという宴会芸だ。

 スケベ親父が、若い女の子とやってみたい遊戯として根強い人気がある。

 普通のじゃんけんではイカンのか?

 どうしてクロはこれを紙に書いたのだろう?

 

「脱衣させることで、敗者に屈辱を与えられる。こんな愉悦ゲー他にない」

 

 ろくでもない理由だった。

 最近、ゴルシさん辺りに悪い遊びを吹き込まれるようになったのがいけないんだ。

 クロの教育はチーム全体で取り組まないといけません。

 でないと、この子どんどんバカになるよ。

 

「自分が敗けることは考えていないのですね」

「当然!勝つのは私だもん」

「いいでしょう、やりましょうよ。全員フルフロンタルにしてやります」

「そうと決まれば早く始めよう。マサキが来る前に終わらせるよ」

「「「おおー!」」」

 

 温泉旅館宿泊券を賭けた"仁義なき野球拳大会"

 その火蓋が切って落とされた。

 

 〇

 

 一回戦 クロVSアル・・・勝者クロ

 二回戦 シロVSココ・・・勝者シロ

 

 私とクロは一枚も脱ぐことなく、あっさり勝負は終わった。

 年上二人弱すぎw

 これが若さの勝利というヤツです。

 

「あの、もう下着は身につけても……ダメですか?」

「ストレート負けだなんて、こんなはずじゃ」(;´д`)トホホ

 

 全裸になった年長組の二人が床にしゃがみ込んでいる。

 露になった胸を腕で隠し、大事な所は器用に尻尾で隠してるアル姉さんとココ。

 エロい!写真撮ったら高値で売れそう。

 

「勝者が決まるときまで、敗者は全裸待機だよ!」

「そこで見ているがいい。私たち死亡遊戯をねぇ!」

「寒いから早くして」

「ココさん。くっついてもいいですか?人肌で温めてください」

「いいけど、ちょっとおぱーい触らせて」

「マサキさん以外の人はお触り禁止です。どうしてもと言うのなら、ワンタッチにつき10円払ってください」

「アルはもっと自分の価値を理解した方がいいね……はい、100円」

「毎度ありです♪」

 

 やっっすい!特売すぎて引く。

 1000円払って100回揉ませてもらおうか?

 まれに発揮されるアル姉さんのズレた価値観には困ったものだ。

 これはマサキさんが泣いちゃう案件なので修正の必要ありと記憶しておこう。

 

「アル姉もココも裸で何やってんだか」

「知らん!アル姉さんの乳が10回揉まれている間に勝負つけるぞ」

「あとは、サトイモの皮をキレイにむくだけ。マサキさんと温泉旅館はもらった!」

「ぬかせ。裸族の仲間入りをするのはてめぇの方だよ」

 

 私とクロは視線は絡み合い、バチバチと火花を散らす。

 決勝戦だ。勝った方がマサキさんと温泉旅館へ行く。

 この勝負、愛ゆえに勝たなくてはならない。

 

 いざ尋常に、やぁぁぁってやるぜっ!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よっしゃ勝ったぁ!」

「あーもう!今のはチョキを出すべきだった」

 

 私とクロの決勝戦。

 互いの実力は拮抗し勝負は長引いていた。

 今の状態を説明しよう。

 

 私、残り二枚。

 上半身裸で下半身はスカートと下着を残すのみ。

 クロ、残り一枚。

 上半身裸で下はパンツ一丁だ。

 

「あと一枚、あと一枚なのに……なぜだ、なぜ勝てない!?」

窮鼠(きゅうそ)猫を嚙む。クロはシロの内臓をぶちまける!常識だよ」

「意味がわからん!」

 

 最初のうちはクロの衣服を順調にはぎ取っていたのだが、

 パンイチになったクロは覚醒し、今では私を窮地に追い込んでいる。

 チッ、追い詰められたアホのしぶとさを侮っていた。

 奴は想像を絶する動体視力をもって、私の出す手の形を読んでいやがるのだ。

 私の得意とする、心理戦やフェイントも通用しなくなってきている。

 マズい。非常にマズい展開だぞこれは。

 

「どっちが勝つと思います?解説のココさん」

「勢いに乗っているクロちゃんかな。むきサトイモ完成待ったなし!」

「外野、うるさいです」

 

 観戦モードに入った裸族二人が好き勝手言ってくれる。

 

「早く脱げよ。シロもパンイチになっちゃえ」

「わ、わかってますよ。ええいクソっ!」

 

 私はスカートに手をかけ、一思いに脱ぎ去った。

 気分は売れっ子ストリッパー!

 観客がマサキさんならポールダンスもしてみせる。

 なんという屈辱か!

 私のパンイチ姿がアホウマ三名に惜しげもなく晒されてしまっている。

 しかしだ、これで私も底力の発動条件を満たした。

 勝負はここからだ!

 

「「「……」」」

 

 どうして全員無言なの?

 あーなるほどなるほど。

 私のパンイチ姿、そのあまりの美しさに言葉も出ないのか。

 ちょっと、みんなガン見しすぎー。

 さすがの私も照れちゃうぞ////

 

「ねえ、それ何のつもり?」

「パンイチダイヤですけど何か?」

「それはいいんだけど……何で男物の下着履いているの?」

「うん?ああ、これが気になっちゃいますか」

 

 私は自分の下半身を見る。

 そこにはあるのは、女性用の可愛らしいショーツではなく、男性用のボクサーパンツだ。

 無駄を省いた形状にスポーツブランドのロゴ入り。

 どう?なかなか似合ってますよね。

 

「これはマサキさんが……」

 

 なぜこの下着を履いているのか説明しようとしたのだが、

 クロの叫びで中断を余儀なくされた。

 

「マサキさんのパンツ盗んで履いているだとぉぉーー!この変態イモ娘が!」

「万死に値します。警察に突き出す前にパンツは回収しましょう」

「パンツ泥棒は極刑だ。貴様には無のような死を与える!」

「話聞けや!これは、マサキさんが履いていたヤツじゃないです」

「信用できるか!」

「そうです。それは、マサキさんがよく身につけているブランドのパンツです!」

「どおりで、見覚えがあると思った」

 

 だから話を聞けってば!

 最初に言っておくが、三女神様に誓って盗みなど働いていない。

 これはだな、マサキさんがサイズを間違えて購入したヤツを譲ってもらったんだよ。

 

「なーんだ。紛らわしことしないでよ」

「でも、マサキからもらったのはズルい」

「私たちに黙っていたのも、感心しません」 

 

 そんなの早い者勝ちじゃい!

 私は好きな人と同じ物を身に付けたい欲に従ったまでよ!

 試しに履いてみると、これがなかなか良いもので驚いた。

 着心地よく丈夫でしっかりした作り、激しい動きにも追従する柔軟で通気性の良い素材は快適だ。

 尻尾を出す穴が無い事だけが不満だな。

 メーカーさんには、是非ともウマ娘用を作ってもらいたい。

 今ではハイブランドのショーツより、こっちを履く方が楽チンだったりする。

 

「これを履いていると、マサキさんの食いつきがいいんですよね~」

「あ?」

「は?」

「今なんつった?」

 

 ボクサーパンツスタイルを披露したところ。

 マサキさんの好み『男物を着る女の子って可愛いよね』にヒットしたらしく。

 『いい!凄くいい!シロ、大好きだ』と褒めてくれました。

 その日の夜はいつもより・・・きゃっ!////

 これ以上はトップシークレットです。

 ウフフフ(n*´ω`*n)

 

 ちょいと惚気てしまったが、気を取り直して野球拳を続けましょうか!

 待っていてください、マサキさん。勝つのは私です!

 さあ!いざ・・・あれ?あれれ?クロ、クロ―!聞いてる?続きやるよ?

 

「おい、そのパンツこっちに渡せ」

「はい?何を言って━━」

「私のショーツと交換だ。文句ないだろ?」

「あるわ!何でお前のふんどしと、神聖なるボクサーパンツを交換せにゃアカンの?」

「そのパンツ、シロには勿体ない『クロにこそ相応しい』とマサキさんも、たぶん言う。それと私のショーツはふんどしではない!」

「やめろ離せや!私の大事なパンツから手を離せぇ!」

 

 無茶苦茶なことを言い出したクロが、私のパンツをむんずと掴んだ。

 やめーや!伸びるでしょーが!

 アル姉さん、ココ、助けて下さいよ。

 クロの奴が理不尽な物々交換を持ちかけてきて困っているんです。

 

「シロちゃん。とりあえず、それ脱ごっか?」

「へ?」

「理不尽ですよね。シロさんだけ、愛されパンツを頂戴するなんて……」

「二人ともクロの味方を!?え、ちょ、待って」

「これは私の物です。皆さんにボクサーパンツはまだ早い」

「パンツに年齢は関係ないよ。だから、私がもらってもいいよね!」

 

 アル姉さんとココも私のパンツを掴んできたぁ!?

 待って、本当に待って、何が起こっているの?

 

「離してよアル姉!これは私が履くべきなんだぁ!」

「クロさんはふんどし()めてワッショイが似合ってます。ほら、ここは任せてワッショイしてください」

「わかった。クロちゃんはふんどし、アルにはドスケベ下着、私がボクサーパンツで決まりね」

「私が履いているんだから私のだろ!お前ら自分が何をやっているのかわかってる?冷静になれ!」

 

 うわぁぁぁーーーー!パンツが!私のパンツがぁ!!

 三方向に引っ張られて見るも無残な姿に!?

 もう原型留めてないよ。これパンツと言っていいのか?

 客観的に見て、穴の開いた(いびつ)な布切れに素っ裸で(またが)るダイヤモンドです。

 プール回の将軍かよぉぉ!!

 それにしても、ウマ娘の怪力にここまで耐えるパンツすげーな。

 尊敬の意を込めて、パンツさんと呼ばせてもらおう。

 今助けるから、もう少しだけ頑張って私のパンツさん。

 

「そうだ野球拳!野球拳しましょうよ!まだ私とクロの決着がついてな……」

「「「もう野球拳なんか、どうでもいい!!!」」」

 

 今までの苦労を水の泡にしやがった。

 どいつもこいつも、バカばっか。

 

「だったら温泉旅館チケットをめぐる勝負の行方は?」

「最終的に、パンツを獲った者が勝者だ!」

「「異議なし!」」

「アホかぁ――!いい加減目を覚ませぇぇぇ!」

 

 渾身の力を込めてパンツを引っ張るアホウマ三名。

 私の抵抗も虚しく、パンツさんは伸びきって(ひも)状になっている。

 これが紐パンですか?

 

「本当に勘弁してください。今ならまだ紐パンで済みますから、手を離して━━」

「「「うおぉぉぉーーー!!」」」

「やー!ウマの耳に念仏ぅぅぅ!」

 

 聞く耳もたずの三人が更なる力を込める。

 するとどうなるか、わかりますよね。

 

 ビリッ・・・

 

 え?やだ、パンツさん!?

 そんな!ヤダ、ヤダヤダヤダ!

 今あなたを失うわけにはいかないの!

 諦めないでー、バニング大尉ぃぃぃ!

 

 ピッ・・・ビリ・・・ビリリリリィィィーーー!!!

 

「「「裂けたぁーーー!?」」」

「ギャァァァーーーッ!やっぱりこうなったかぁ」

 

 憐れなり!パンツさんは見事爆裂四散!

 私が悲鳴を上げると、なぜか加害者連中も悲鳴を上げたのがムカつく。

 部屋の中を千切れ乱れ飛んでいく、パンツだった物たち。

 それが落下するまで、スローモーションで見えた。悲しかった。

 

 頼みのパンツさんを失った。

 フルフロンタル・ダイヤモンド爆誕である。

 静まり返る室内、一分ほど経過した後、クロが白々しい咳払いをした。

 

「コホンッ…じゃ、じゃあ、野球拳は私の優勝ってことで、いいよね?」

「いいわけあるかぁ!お前のふんどし寄越せやぁぁぁーーー!!」

「ひぃぃ!シロがパンツハンターに覚醒した!?助けて―!」

「いけない。シロさんを止めないと」

「その前に、自分のパンツ隠しておいた方がいいよ。どうせ、クロちゃんの次に狙われるのは、私たちだからさ」 

「クロさん、ごめんなさい。私は自分の下着を守るので精一杯みたいです」

「二人とも役立たず!」

 

 パンツさんの無念を晴らすべく、覚醒した私は諸悪の根源へと襲い掛かった。

 そう、この(いくさ)はもう、奴のふんどしを奪わなければ終わらないのだ。

 

「愚かなるクロよ、覚えておけ。(パンツを)()っていいのは()られる覚悟のある奴だけだ!」

「そんな覚悟したくない!」

 

 必死に逃げ惑いパンツを守ろうとするクロだったが、

 怒りで各種ステータスの上昇した私には敵うべくもない。

 

「い、いや、来ないで」

「お前も『全裸(かぞく)』だ」

「ファミパンはいやぁぁぁーー!」

 

 チェックメイトだ。

 私は、怯えるクロの下着へと掴みかかった。

 

 〇

 

()ったどぉーー!」

 

 私はクロから強奪したショーツを握りしめ天高く掲げる。

 全員が全裸になってしまったが、

 その手にパツンを掴んだのはこの私!サトノダイヤモンドだ。

 私を恐れたアル姉さんとココは、ちゃっかり自分の下着を隠してしまっている。

 よって、残った最後のパンツを手にした者が勝者である。今そう決めた!

 勝敗はここに決したのだ。

 

「返して、返してよぉ」(´Д⊂グスン

「どうしてこんなことに、私たちには争う以外の道はなかったのですか?」

「終わった?もう服着ていい?」

 

 あーっはっはっはっ!愉快愉快!

 敗北者どもの悔しそうな顔が見れて大満足だ。

 

 "野球拳大会"優勝はサトノダイヤモンド!

 

 途中から野球拳していなかったけど、勝ったので良しとする。

 見てますか、パンツさん。

 あなたの死は無駄ではありませんでしたよ。

 

「勝った!勝ったぞ!うおおおぉぉぉーーーー!やったぁーーー!」

 

 私は何度も拳を突き出し、勝利の雄叫びを上げ続けた。

 一時はどうなる事かと思ったが、終わりよければ全てよし。

 マサキさんとラブラブ温泉♪楽しみだな~。

 

 私はとっても有頂天であった。

 だから、普段はいち早く気付くようなことにも反応できずにいた。

 クロたちが一点を見つめて固まっていることにも、

 いつの間にか、出入口の扉が開いていることにも、

 そこに、今の状態を一番見られたくない人がいることにも。

 

「……何を……して…いるんだ?」

 

 なんだ、愛おしいマサキさんでしたか・・・

 マサキさん!?!?!?

 どうして?なんで?一体いつから?私は何で裸なの?

 

 う、うわぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――ッッ!!!!

 

 違う、違うんです!コレはその、ただちょっとしたレクリエーションで、

 裸?いや、裸なのはちょっと、今日は気温が高いなーと思ってハハハハハハハ。

 何も!何もやましい事はしていません! 

 他の面子は知りませんが、ダイヤモンドだけは今日も品行方正であります!

 

 今すぐにでも弁明をしたいのに、声が、声が出ない。

 あまりの状況に身も心もフリーズしてしまっている。

 それは、クロたちも同様らしく、私を含めた裸の愛バ四名は操者を見たまま微動だにしない。

 マサキさんは小刻みに震えながら、再び問いかけて来た。

 

「お前……たち…一体、何を……」

 

 あーマズい。マサキさんの目がぐるぐるしていらっしゃる。

 混乱して爆発する寸前のテンパったマサキさんだ。

 ちょっとでも刺激すると、一気に暴走を始める非常に危険な状態なのは、

 よーく知っている。

 

 どうする、どうする、どうすれば?

 落ち着け、私は人より考える力に秀でている。それを今こそ使うのだ。

 脳みそをフル活用して、並列演算処理と思考加速を行う。

 僅かな時間で、何通りのもの解決策を導き出し最適解を選べばいい。

 

 まずは状況を整理しよう。

 マサキさんは私たちのあられもない姿を目撃してショックを受けている。

 その姿とは・・・

 

【クロ(全裸)】 

 私にパンツを獲られて泣きべそをかいている。

 その表情には羞恥も含まれており、ほんのり顔が赤い。

 目が潤んでいて、なんかちょっと色っぽいのがムカつく。 

 

【アル(全裸)】 

 私を止めようとして、後ろから抱き着いた感じになっている。

 マサキさんに裸を見られてスイッチが入ったのか、ちょっとハアハアしている。

 この状況で発情するとは、ドスケベは格が違った。

 

【ココ(全裸)】 

 どさくさに紛れて、クロのおぱーいを揉んでいた。

 こいつ・・・楽しんでやがる。

 マサキさんに見られて焦ったのか、奇妙(ブサイク)な笑みを浮かべたまま固まっている。

 

【シロ(全裸)】 

 私はクロのパンツを握りしめ『我が生涯に一片の悔い無し!』と、

 ラオウのポーズで停止中。

 他の三人と違い、大事な部分を尻尾で隠すこともなく大胆に見せつけている。

 全てをさらけ出したその姿、まさに威風堂々!!どう見ても変態じゃねーか!

 こんなの北斗の長兄ラオウでじゃないわ、

 露出を極めし裸の王様、言うなれば裸王(らおう)のダイヤモンドだ。

 

 ふむふむ、オッケー理解した。

 つまるところ、このチーム"ああああ"基地内の惨状を目撃した者は・・・

 

 "ウマ娘 プリティパンツレスラーズ(18禁)"

 セルラン一位を狙える今世紀最大の意欲作!

 今なら事前登録で、星5限定キャラ

 【裸王・サトノダイヤモンド】がもらえるよ☆

 

 こんな感じのPVが脳内を駆け巡ってしまうわけですね。

 えらいこっちゃで!

 

 操者の留守中にパンツレスリングではっちゃける、ド変態の愛バたち。

 今、淫靡なレスリング大会は終了し、優勝者である私が表彰台の上で感極まっている瞬間を見てしまった。

 きっと、マサキさんの目には、そう映ってしまっている。

 

 最悪だぁ!!

 

 フリーズしている場合じゃねえ!

 動け、動いてくれ私の体、言え、言わなくちゃ、マサキさんに伝えないと。

 私は止めたのに、パンツレスリングを無理やり強要されたと言うんだ!

 クロ、アル姉さん、ココ、の三バカが再起動する前に、私だけは被害者だと印象付けなくては!

 

 一触即発の空気が満ちる中、私たちもマサキさんも、動かない、動けない。

 そのまま数分間が経過して、新たな乱入者が登場する。

 

「マサキ、大丈夫?中で何が……え?えぇっ!ええええええええ!?」

「何?面白い物でも見つけ……ほんぎゅぇわぁぁぁぁぁーーー!?!?」

 

 真っ裸の私たちを見た二人のウマ娘が奇声を上げた。

 立ち尽くすマサキの後ろからひょっこり現れたのは、

 メジロドーベルとアグネスデジタルであった。

 なんだか嫌な組み合わせだ。

 

 二人の叫びでギリギリ保たれていた均衡が決壊する。

 現状に耐えられなくなったマサキさんの顔色が赤くなったり青くなったり。

 そして、ついに爆発する。

 

い、いやぁぁぁーーッ!ガチレズ四姉妹ぃぃぃーーッ!!

 

 顔を両手で覆ったマサキさんは不可思議なワードを叫びながら逃走した。

 もの凄いスビードで走り去り、あっと言う間に見えなくなる。

 ガチレズ?四姉妹?

 待って、それって・・・私たちのことですかい!?

 

 パシャッ、カシャッ、カシャカシャ、パシャ、カシャカシャシャシャシャシャシャ・・・

 

 音のする方に目をやると、ドーベルがスマホのカメラをこちらに向け、連続でシャッターを切っていた。

 無表情で撮影ボンタをタップしている。

 何してんだてめぇ!撮ってんじゃねーよ!

 

「アンタたち最低ッ!でも、同人誌のネタ提供ありがとう!」

 

 お前ふざけんなよ!

 勝手に薄い本に登場させたら訴えるからな!

 

 今思い出した。

 このドーベルとデジタルは学園内では有名な同人作家(エロ漫画家)だった。

 ヤベェ奴らにヤベェ現場を見られてしまった。

 私もクロたちも、ダラダラと冷汗をかく。

 

「どうした?我々に構わず続けたまえ」

 

 もう一人の同人作家デジタルは地べたに座り込んで、なんか偉そう。

 私たちの全身を舐め回すように見定めている。

 そして、おもむろに取り出したスケッチブックにサラサラとデッサンを開始した。

 鼻からはずっと鮮血が滴っているが、気にもしない。

 

「ベルりん。次回作はこれで行こうと思う」

「了解よデジタル。これだけ新鮮な資料(ネタ)があるんだもの、もう描くしかないわ」

 

 作家どもの目がキラキラしている。

 楽しそうね。こっちは胃がキリキリしてきたのに。

 

「「"ガチレズ四姉妹物語『パンツレスリング編』"お楽しみはこれからだ!!」」

 

 最低の物語を描こうとしているのは理解した。

 こいつらが原稿を完成させる前に、消すしかないのも理解した。

 どうしてくれようか?

 

「う゛わぁぁぁ~~~んんんっ!!」

 

 同族の処分方法を検討しかけたところで、外から奇妙な声が響いてきた。

 情けなくもどこか庇護欲をそそるような、この泣き声は!?

 聞き間違えるはずがない、紛れもなくマサキさんだ!

 土煙を上げ、涙と鼻水を垂らしながらこちらに走って来る。

 あの様子では、学園を一周してきたのかもしれない。

 とにかく、戻って来てくれたのだ。

 何があったのか、ちゃんと説明をして諸々の誤解を解かなくてはならない。

 

 スタート地点に戻って来たマサキさん。

 彼の目線はあらぬ方向にあって、私たち四人とは決して目を合わそうとしない。

 そんな、う、嘘、嫌われた?

 

「わわわ、忘れ物ォォォーー!」

 

 ヤケクソ気味に何事かを叫ぶマサキさん。

 次回作について打ち合わせをしていた同人作家どもをヒョイっと持ち上げ、

 両脇に抱え込んだ。

 

「ちょっと、どこ触ってんのよ!」

「待ってよ!まだスケッチしきれていない箇所が、それぞれの乳輪の大きさが━━」

 

 忘れ物ってそいつらかーい!?

 生もの二匹を回収したマサキさんは、私たちに背を向けて立ち去ろうとする。

 少しだけ歩いたところで振り向いた顔は、捨てられた子犬のようであった。

 私たち四人の顔を順々に見て、目に大粒の涙を溜める。

 

「ご、ごゆっくりぃ!!」

 

 それだけ言い残し、マサキさんは激走していった。

 取り残される私たち、途轍もない喪失感に襲われる。

 このしょうもない、一連の流れで大切な人を失ってしまったと言うのか!!

 納得いかねぇ!

 

「ヤバいです!ヤバすぎます!ヤバすぎてヤバい!」

「追いかけないと!」

 

 ここに来てやっとフリーズが解除される。

 いち早く動き出したクロが、私の手からパンツをひったくり身に付けた。

 

「あ!ちょっと」

「何やってんの!シロも早く着替えるんだよ」

「はよせな!服、私の服はどこ?」

「あわわわわ、とんでもないことに、マサキさん泣いていました」

 

 急いで制服に着替え始める三人をよそに、私は自分だけ下着が無いことに気付く。

 

「パンツが無い!」

「うるせぇ!ノーパンで妥協しろや」

「嫌ですよ。スカートが風で(めく)れたらどうするんですか!」

「知るか!」

「そんなこと言ってる場合?パンツとマサキどっちが大事なの?」

「考えるまでもなくマサキさんですよ!でも、下がスースーするのはイヤンなの」

「シロさん。これを使ってください」

「さすがアル姉さん!予備のパンツを準備して━━」

 

 アル姉さんからパスされたのは、ドラッグストアとかでよく見る小箱だった。

 どのご家庭にも常備しておいて損のない、応急処置アイテム。

 

絆創膏(ばんそうこう)……これでどうしろと?」

「何も無いよりマシだと思って、さあ!思う存分貼ってください」

「どこにだよ!」 

「え、それは、まあ、大事な部分に////」

「余計変態チックになるわ!」

「じゃあもう、両乳首にでも貼ってろよ」

「名案だww」

「ブラジャーはあるわい!」

 

 ボクサーパンツを亡き者にした凶悪犯たちは、私を差し置いてサッサと着替えてしまった。

 悩んでいる時間はない、絆創膏・・・やるしかないのか?

 絆創膏の詰まった箱を開封するか本気で迷う。

 そんな私を嘲笑うかのように、さらなる衝撃の事態が待っていた。

 

「シロ、悩んでる暇はないよ。早くし……うぇ!?」

「え、嘘、そこまで!?」

 

 体からじんわりと力が抜け、一瞬だがふらついてしまう。

 軽い虚脱感に襲われたのは私だけではない、この場にいる全員だ。

 正常な川の流れをせき止められたような、大切な繋がりを断たれたような、

 この感覚は、まさか!!全員が顔面蒼白になる。

 

「リンクアウト!?私たち、マサキに見限られたぁ!」

「「「そ、そんなぁ!!」」」

 

 私たち愛バは、マサキさんだから可能な荒業、常時接続型リンクで覇気循環を行っている。

 余程の事が無い限り、寝ていようが気絶していようが、覇気は五人の間を回り巡り続けているのだ。

 接続も切断も基本操者次第。愛バの側からは緊急時の強制切断のみ許可されている。

 何の説明もなく行われたリンク切断、それが意味するところは、

 

『うわっ、あいつらガチレズパンツレスラーだったのか!?』

『ないわー。マジドン引きだわー』

『絶望した!変態な愛バたちに激しく絶望した!!』

『操者なんかやめて愛バは捨てよう。そうしよう!』

『女は信用できん。女は魔物じゃ!ウマ娘はケダモノじゃ!』

『恋愛するなら、ムキムキマッチョなアニキが一番だぜ」

『行くか、すばらしき発展場へ!』

 

 女性不信になったマサキさんが、マッチョと肩を組んでホテルイン!

 最悪な想像をしてしまい、吐き気がこみ上げてくる。

 やめてやめてやめて!ダメダメダメ!

 そっちへ行ってはダメですよ!

 

「やらせねぇー!絶対にやらせない!」

「ど、どどどど、どうしましょう。シャナミア様に頼んでマッチョメンに変身させてもらうしか」

「待って!まだ完全に切断されてないよ。僅かだけど繋がりが残ってる」

 

 何ぃ!?・・・集中集中・・・・・・ホントだ。

 とても細く頼りないが、完全に途切れているわけではなかったのだ。

 例えるなら、ネット接続を光ファイバーから電話回線に格下げされた感じ。

 若い私は知りませんが、ちょっと動画をダウンロードするだけで数時間、下手したらまる一日かかっていたなんて信じられない時代があったらしいのですよ。

 循環速度は恐ろしく低下したが、まだ覇気循環はされている。

 リンクは切れていない。

 セーフ!ギリギリセーフ!

 

「マサキさん。心の奥では、まだ信じてくれている!」

「行きましょう。今すぐお会いして全てを説明するんです」

「まだ間に合う。待っててマサキ!」

「え、ちょ、ま」

 

 突き落とされた奈落の底で、クモの糸を発見した気分になったのだろう。

 クロ、アル姉さん、ココの三人はマサキを探すため部屋を飛び出して行った。

 未だに全裸の私を残して!

 

 お、おいて行かれた。

 マジで私を置き去りにしやがった。

 この恨みはジャポニカ復讐帳に記録しておくからな!

 あいつら全員、壁尻の刑が執行されたらいいのに。

 尻の側に小汚いオッサンを配置してやるわ!

 

 完全に出遅れてしまった私は途方に暮れる。

 ノーパンか絆創膏かで悩んで、マサキさんを失うなんて事になったら末代までの恥。

 私はなんて、なんてグズでノロマなウマ娘なのだろうか。

 自分の愚かさに嫌気が差して来た。

 マサキさん、不甲斐ない私をどうか叱ってやってください。

 あなたの下に馳せ参じることすら叶わない。

 そんな駄バはひとり寂しく裸王として生きていきます。

 

「アンタたち、今度は何をやったのよ!マサキが泣きながら全力疾走しているって報告が━━」

「あ」

「あ?」

 

 私ひとりの"ああああ"基地に怒鳴り込む人物。

 それは、学園の守護神にして我らが小姑、だづなさんだった。

 私と目が合った彼女は石のように動かなくなる。

 見てはいけない物を見たって表情だ。

 

「邪魔したわね……」

「邪魔だなんてとんでもない!よくぞ来てくれましたよ、義姉上(あねうえ)様!」

「愛バがキチガイの上に露出狂だなんて、マサキが泣く訳だわ」

「大きな誤解が生じています」

 

 地獄に仏とは、だづなさんのことだったのだ。

 踵を返そうとするたづなさんを全力で引き留める。

 今はこの人だけが頼りだ。

 

「触んな裸王!露出狂がうつる」

「ついさっき獲得したばかりの称号を、何故ご存知か?」

「知らないわよ。いいから離して、そして服を着ろ」

 

 振りほどかれても私はめげません。

 だづなさんの正面に回り込み、何とか話を聞いてもらう。

 

「だづなさん!信頼するあなたに、重大なお願いがあります」

「聞きたくないけど、一応言ってみなさい」

「パンツ貸してくれませんか?今、履いているのかまいませ……ぐぼっぉ!?」

「殴るわよ?」

「殴ってから…言わないで……うー、いたた」

 

 普通にグーで殴られた。

 本当に容赦のないお方だ。

 痛い・・・けど、なんのこれしき!

 小姑の嫁いびりにも負けない、健気なダイヤモンドです。

 

「タダでとは言いません。パンツをくれたら代わりに、この絆創膏を差し上げます。ナイス等価交換ですね!」

「斬るわよ?」

「抜刀するのはやめましょうや。マジで洒落になりませんってば」

 

 腰に下げた得物を鞘から引き抜くだづなさん。

 うはw殺されちゃうww。

 汚物を見るような目つきで睨まれて、ゾクゾクもしちゃう。

 刃物で脅されても挫けてやらない。

 私はそれほどまでにあなたのパンツが欲しい!

 

「どうしてわかってくれないのです?ウマ娘同士、助け合うべきでしょう」

「アンタと同族だと思うと泣けてくるわ」」

 

 ムカッ!そんなに言わなくていいじゃないですか。

 義理とは言えいずれ妹になる子に対して、冷たすぎやしませんか?

 怒った私は、正論をぶつけて勝負に出ることにした。

 はい論破!してやる。

 

「あのですねぇ、考えてもみてください」

「何よ?」

「今後一切、誰にも使用されること無く朽ち果てる、たづなさんの下半身より、今までもこれからも大切に使われる、私の下半身が優遇されるべきなのは、火を見るよりも明らかですよね?」

「……」

 

 使ってくれるのは、もちろんマサキさん。

 サトノダイヤモンドはマサキさん専用の最新型ワンオフ騎体なのです。

 テストパイロットすら決まらない"旧世代の欠陥騎(←たずなさん)"と一緒にされちゃ困ります。

 

「理解したのなら早くパンツください。脱ぎたてでも我慢しますから、ほらはよ」

「……」

「安心してください。絆創膏…きっとお似合いですよ」

悪・即・斬!!

「はぎゃぁ!?」

 

 返答代わり放たれた渾身の剣撃を、地面を転がるようにして回避する。

 今のは牙突零式(がとつぜろしき)!?なんちゅー技を再現してくれてんだ。

 回避がほんのわずかでも遅れていたら、私の上半身は千切れ吹き飛んでいただろう。

 論破されて悔しいからって、必殺技を出すのは大人気ないぞ。

 至極真っ当な意見を述べたと言うのに、たづなさんの逆鱗に触れてしまったようだ。

 

 『なっ! 何をするだァーッ』と抗議の声を上げようとしたが、無理だった。

 だって、今のたずなさんメッチャ怖いの。怖すぎるの!

 口から『ふしゅるるる…』と謎の吐息を漏らし、血走った目で睨みつけてくる。

 あんなのウマ娘じゃないわ!ただの鬼よ!騎神じゃなくて、実は鬼神だったの?

 たづなさんの目が『お前を殺す』って言ってるもん。

 目は口程に物申すとは、誠でござったな!

 

お前を殺す」デデン!

 

 おっふ、口でも言われちゃった。

 鬼と化した義姉からの明確な殺害予告いただきました!

 マサキさんのお声で聞きたいセリフだったのにー。

 

「もう、たづなさんったら冗談は顔だけにしてくださいよ。全然笑えませ━━」

「お前を殺す」

「えっと、それ、ガンダムWだと生存フラグで」

「お前を殺す」

「か~ら~の~?」

「お前を殺す」

 

 ダメだこりゃ。

 たづなさんは『おまコロ』としか喋らない、殺戮マシーンと化してしまった。

 ダイヤだけを殺す機械かよ!?

 どうする?戦うか?アレと?全裸で?無理だ!ぜぇっったい勝てねぇ!

 ならば、私のとるべき道はひとつ。

 

「ほぉら、取ってこーい!」

 

 野球拳のゴタゴタで床に落ちていた小冊子を拾い上げ、明後日の方向へ投げつける。

 勿体ないが、背に腹は代えられぬ。

 

「あれこそは『女マサキさん写真集』おやすみからおはようまで、マサキさんのあられもない姿が━━」

「お前をころ……何ですってーーー!?」

 

 殺意で塗りつぶされていた、たづなさんの瞳に生気が戻った。

 "女マサキさん"という言葉に反応したようだ。

 ブラコンっぷりを遺憾なく発揮した鬼は、小冊子を手にするべく機敏な動きを見せる。

 私に背を向けて駆け出すたづなさん。

 バカめ!隙を見せたな。

 今のうちに逃げる。超逃げる!

 私は脱ぎ散らかしていた制服を大急ぎで回収、全裸のまま外へと逃げ出した。

 

 〇

 

 この私が全裸外出してしまうとは、人生何があるかわからんね。

 しかも、学園敷地内でだよ。

 誰かに目撃されるわけにはいかないので、人のいないルートを選択する。

 幸いにも、基地の近辺には生い茂った森林と、旧校舎ぐらいしかない。

 旧校舎裏に身を隠して着替えを済ませれば、見つかる心配はないだろう。

 よし!いける。

 遅れてしまったが、今からでもマサキさんの下へ行かなくては。

 少しだけ希望が見えた矢先、耳をつんざく女の叫びが響き渡った。

 

「だましたな!やってくれたなぁぁ!サトイモォォォーーー!!!」

 

 基地のある方向から、背筋も凍るようなおっそろしい怒声がした。

 奴だ!ブラコン鬼神が怒りの咆哮を上げている。

 私の投げた物が"女マサキさん写真集"ではなく、"ダイヤちゃん写真中ベスト版"だとバレたのだ。

 きっと、写真集はビリビリに破かれてしまっている。

 マサキさんに進呈するはずだった、マイベストショットたちよ、

 安らかに眠れ!

 

 旧校舎目指してGOGOGO!

 もう少しで"裸王"の称号とお別れだと思うと・・・清々(せいせい)する!

 どうか、このまま誰にも会いませんように。

 

「え?ダイヤ…さん……え!?裸???」

「……」

「な、ななな、何て格好しているんですかぁ!ここは学園ですよ!?」

「……」

「アンドウ教官の仕業ですね。あの男に露出プレイを強要されてんでしょ!許せない」

「……」

「辛かったですね。でも、もう大丈夫ですよ。あなたの事はキリュウイン家が責任もって保護━━」

「邪魔」

「はんがっ!」

 

 喋る人型のウンコを踏んずけてしまった。

 誰だ、こんな所で野グソした奴は?

 ばっちいなあ。テンション下がるわー。

 

 そんな訳で旧校舎裏に到着した。

 この辺でいいか、鬼が来る前に着替えてしまおう。

 

 ・・・お着替え中・・・

 

 制服装備完了!(パンツ以外)

 さて、生きてマサキさんの下へたどり着くために、どう動くべきだろう?

 アレコレ考えた結果、クロたちと合流して、たづなさんのヘイトを分散させる方法が一番現実的であると思い至った。

 肉壁やデコイにしたら、恨みも晴らせて一石二鳥なのがいい。

 

「うーん。なんだか落ち着きません」

 

 全裸の時よりも下半身が気になる。

 スカートを履いてしまったことで、大事な部分の無防備加減が気になって仕方がない。

 何か凄くいけない事をしている気分だ。

 めっちゃスースーする!

 

「どこだっ!どこへ行った!逃げられると思うなよ!」

 

 うわ、追跡者(ネメシス)が私を探して徘徊している。

 クリーチャーの正体は、ブラコンを拗らせた、悲しきたづなさんである。

 そういえばあの人、メジロの教導隊時代には暴君(タイラント)なんて呼ばれていたらしい。

 誰かー!ロケットランチャー持って来てー!エイダァァァーーー!

 チマチマ妙なウィルスを作るより、たづなさんの細胞を研究した方が絶対ヤバいと思う。

 

 "ブラコンハザード・ラストエスケープ"【ダイヤ編】始まった!

 

 サバイバルの基本、まずはアイテムの確認・・・絆創膏しか持ってねぇ!

 こういう時こそ、アイテムボックスを持ち運んでいる、ココの出番なんですけどね。

 いないものはしょうがない。アイテムは現地調達だ。

 あ、グリーンハーブ(雑草)見つけた。

 むしゃむしゃ・・・マッズッッ!?ぺっ、ぺっ!

 

 斬艦刀による一撃死が怖いので、防御だけでも固めておきたいところだ。

 学園の制服は見た目以上にの丈夫さと、高い防御力を誇るが、たづなさんの攻撃を防げるとは思えない。

 ほんの少しでもいい、生存率を上げるために必要なことは全部試してやる。

 

『何も無いよりマシだと思って、さあ!思う存分貼ってください』

 

 アル姉さんのふざけたセリフが思い起こされた。

 

「……何も無いより、マシ……なのか?」ゴクリッ

 

 ・・・・・・・・・・ちょっとだけ・・・

 

【ダイヤは ばんそうこうを そうびした】

【みのまもりが 1あがった】

【ばかさかげんが 20あがった】

【みっともなさが 50あがった】

 

 ちょっと、ステータスに失礼な項目追加するのやめてよ。

 なぜ素直にみりょくが上昇したと言わないの?もう、照れ屋さん♪

 パンツの代わりにはならないけど、多少、スースーが緩和されたので良しとする。

 

「マサキーー!マサキどこなの?返事をしてーー!」

「ここにもいない。一体どちらへ?」

「見つからない、やっぱり避けられちゃってるの…」 

 

 お?クロたちだ。

 学園を一周して戻って来たみたいだな。

 

「この薄情者どもが!よくもおいて行ったな!」

 

 三人の背後から、再会の喜びタックルをかましてやった。

 "ぼっち・ざ・だいや!"で寂しかったんだぞ!

 

「きゃっ!し、シロちゃん」

「どうしてここに?あ、服着てる」

「ついて来られないから、心配していたんですよ」

「もう!あれから大変だったんですからね!」

 

 たづなさんとエンカウントして逃げて来たことを、かいつまんで話した。

 

「災難だったね」

「まさに命からがらというヤツです」

「で、パンツは?」

「はいてない」

「ば、絆創膏は?」

「貼った」

「「「マジでか!?」」」

 

 マジだよ。悪いかこんちくしょう!

 

「ほんとクレイジーだよね。脳に何が詰まってるの?」

「うるさーい!元はと言えばクロのせいです!」

「さすがシロさん。期待を裏切らない汚れっぷり、お見事です」

「それ、褒めてませんよね?」

「常人にはできない事を平然とやってのける。シロちゃん、恐ろしい子!」

「そこにシビれる?あこがれるゥ?」

「いや、驚いて呆れただけ」

 

 貼れと言っておきながら、実際にやると引くなんて酷くない?

 

 ともかく、全員集合することができた。

 だが、まだピンチを脱したわけではない。

 焦らず騒がず、ここからも慎重に動かなくては。

 奴(たづなさん)に見つかれば、全てが無に帰すのだから。

 

「で、結局何をやらかしたの?」」

「パンツくれって言ったら、急に怒りだしたんですよ」

「かなり失礼だとは思いますが、それだけで?」

「シロだからなあ。無自覚に余計な事を言ったんだと思う」

 

 そうやってすぐ私のせいにする。

 たずなさんの沸点が低すぎるのが悪いんですよ。

 

「確かに、たづなさんは怒りっぽい」

「異常にキレやすい大人・・・更年期障害かしら?」

「更年期?マサキさんの持っている医学書で見たよ。そっか、たづなさん……」

 

 神妙な顔をしたクロ。

 いつの間にか、更年期の辛さを本で学んでいたらしい。

 なぜ、そこをピンポイントで学習したのか?行動の読めぬ奴よのう。

 

「もう閉経(へいけい)しちゃってるんだ……」

「クロちゃんww閉経は言いすぎwww」

「ん?何か間違ってた?」

 

 純粋(大バカ)であるが故に、とんでもないワードを口にしたクロ。

 閉経ってwヤベェ腹いてぇwww

 

「一度も攻められたことの無い城門がw永久封印ww無駄にセキュリティ強固www」

「"さいごのかぎ"を使っても開きそうにありません」

「アルまで何言ってるのw」

「【へんじがない ただの へいけい のようだ】」

「やwめwろwww」

「うぷぷっw」

 

 『弟にたかるハエ』と罵られ虐げられてきた恨みが、ここにきて爆発した。

 性格悪いなあとは思うけど、陰口でストレス発散しないとやっていられない事もある。

 こっちは命だって狙われているのだ。

 これぐらい大目に見てくれますよね。

 

「「「「あはははははwwぶひゃひゃひゃwww」」」」

 

 共通の敵を笑い者にして、チームの結束はより強固になるのであった。

 

 ふぅー、笑った笑ったww

 さあて、気を取り直してマサキさんを探そう。

 灯台下暗しとも言うし。

 案外近くにいた、なんて事もあり得る。

 

 ・・・・・・カサッ。

 

 物音?まさか、本当にマサキさん!

 でも、なんで上から?上?

 私は音のした方向、立ち入り禁止になってる旧校舎屋上へと視線を向け、

 そこから飛び降りる人影を見た。

 何か持って、いや、担いで・・・ヤッベェぞ!!

 

しぃぃーーーねぇぇ―ーーッ!!

 

 危なァーいッ!上から襲ってくるッ!

 各騎散開!全員が大慌てで、その場から飛びのいた。

 轟音と衝撃、爆ぜる大地。

 石の破片と砂埃、それとグリーハーブが散弾のようにぶちまけられた。

 先刻まで、私の立っていた場所に大きな何かが叩きつけられた結果、起こった破壊現象だ。

 

「「「「で、出たぁぁぁぁーーー!!」」」」

 

 クレーターを作った張本人。

 たづなさんの姿を確認して絶叫する私たち。

 彼女の手には一振りの長大な刀が握られていた。

 『それは 剣と言うには あまりにも大きすぎた』

 と、ナレーションが入りそうな刀の名前は"参式斬艦刀"

 たづなさん愛用の刀、その真の姿である。

 

「リミッター外したの!?学園内では禁止されていたはず」

「確か『理事長が泣く』とか言ってましたね」

「その禁を破ってまで、シロを殺したいってことだ」

「なんってこった!」

 

 なぜだ?なぜ接近に気付けなかった?

 まさか・・・この女、

 あれだけ怒り狂いながらも、隠形術を駆使して追跡して来た!?

 叫び声を上げたのは、自分が冷静ではないとアピールして、私の油断を誘うための演技。

 煮えたぎる怒気を抱えたまま、思考はどこまでもクールに行動する。

 それも全て、私という獲物を狩る目的のために・・・そこまでするのかよ。

 改めて、たづなさんの怖さを思い知った。

 

 でも、このタイミングで来てくれて、よかったとも言える。

 もう少し早かったら、さっきの陰口パーティーを聞かれていた。

 アレを聞かれてしまったら、全滅エンドが確定してしまう!

 

「だぁ~れぇ~が!閉経だってぇぇ!!」

 

 \(^o^)/オワタ\(^o^)/オワタ\(^o^)/オワタ\(^o^)/オワタ

 

 バッチリ聞かれちゃってました。

 あーあ、私たち詰んじゃってるよ。

 せっかく絆創膏を装備したのに、ここで終わりか・・・

 いいや!ままだ、まだ終わらんよ!

 マサキさんに会って、私はパンツレスラーではない!と言わなくちゃ。

 

 私には頼れる仲間(肉壁)がついている。

 たづなさんにビビッて、みんな目が死んでいるけど、

 最終的に、私が生き残ればよかろうなのだぁ!

 

「聞いてください!一連の騒動、その原因はクロです!閉経言い出したのもコイツ」

「な!私だけに罪を着せる気!?シロだって、たづなさんの城門をバカにしたくせに!」

「アル?"さいごのかぎ"使ってあげなよ」

「黙りなさい、ココさん!一番笑っていたのはあなたでしょ!」

 

 (はた)から見ると、醜い争いをしているようにしか見えないだろう。

 だが、私たちは生き残ることに必死なのだ。

 罪の擦り付け合いをしているようで、その実、ゆっくりゆっくりと後退していく。

 待て待て待て!か弱い私を前面に押し出すな。

 パンツ履いている奴が前に行けよ!こちとら絆創膏やぞ?

 一番防御に不安がある私を楯にするのは間違ってるって!

 

 もし、今死んだらどうなる?

 検死時に『こいつ絆創膏貼ってるw』と笑われるに決まっとるわい!

 ヤダー!検死はせめてマサキさんにやってほしいー!

 

 たづなさんは動かない。

 もしかして、許してくれた?

 などという、甘い考えは一瞬で吹き飛ぶ。

 たづなさんの全身と斬艦刀に、高密度の覇気が練り上げられいくのを感じる。

 あれは、力を溜めているだけだね。殺す気満々だね!

 どう見ても、必殺の一撃を放つ前だもん。

 薄っすら金色に輝くのもやめてくんねーかな?怖いから。

 顔すげぇww般若通り越して不動明王だもんwww

 

「もう無理!怖すぎ!私行くよ!」

「続きます。これ以上は持ちません!」

「逃げるんだよぉぉーーッ!」

「また置いてけぼりかーい!待って、ひとりにしないでーーー!」。゚(゚´Д`゚)゚。

 

 ダッシュ!

 もう、ゆっくりしている暇はない。

 私たちは脇目も振らず全力逃走を開始した。

 スカートが捲れるとか、ノーパンだとかを気にする余裕は無い。

 この逃走をしくじれば、全てが終わってしまうのだから。

 

「お前ら全員……(さし)になれぇぇぇっ!!!

 

 大上段から振り下ろされる斬艦刀。

 必殺の一撃は今、無慈悲に放たれたのだ。

 

 背後から迫まりくる、圧倒的な死の気配を感じながらも、

 私と仲間(腐れ縁)たちは、愛しい人の事だけを考えていた。

 

「「「「マサキさん!ばんざぁああいっ!!」」」」

 

 バ刺しになっても愛してくれますか?

 



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ガチレズ四姉妹

「ヴェェアアアーーー!!」

 

 マサキは奇声を上げながら走っていた。

 両脇に二人のウマ娘を抱えたまま、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして走っていた。

 学園中を縦横無尽に走り回り、何事かと驚く人々を意に介さず、とにかく爆走した。

 その走りっぷりは、サクラバクシンオーですら『あれは無い』とクールにコメントするほどだったという。

 

 どうして?

 どうしてだ?

 なぜ、こんな事になってしまったのか。

 あいつらが"そういう関係"だったと気付かなかった俺が悪いのか?

 

 先程の光景が脳裏に焼き付いてしまっている。

 全裸で絡み合う愛バたちのあられもない姿が!

 

 俺は操者として、ひとりの男として、あいつらを愛している。

 それが全部俺の独りよがりだったなんて、信じたくない!

 

 俺は混乱しきった頭で、こうなってしまった経緯を思い出していた。

 

 〇

 

「君たちも()りないね」  

「生きがいですから」

「表現の自由は誰も止められないのよ」

「風紀委員も『またお前らか』みたいな顔してたじゃん。いつまで続けるの?」

「「無論、死ぬまで」」

「信念は無駄にカッコイイ」

 

 俺はチームの基地へと向かっていた。 

 一人ではない、アグネスデジタルとメジロドーベルの二人を伴ってだ。

 仲良く散歩しているのではない、俺は二人を連行しているのである。

 

「しっかり反省してちゃんと謝るように、いいな?」

「ご本人に作品を披露しながら許しを請う。どんな拷問……」

「あのなあ、エロシーン満載の同人誌に登場させられる方が拷問だろ」

「アルダン姉さんいるのよね……謝るからさ、殺されそうになったら助けてよ。絶対よ!」

 

 デジタルとドーベルはどんよりとした暗い表情だ。

 まあ、気持ちはわからなくもない。

 これから被害者たちの前で罪を告白するのだから。

 事と次第によっては、キッツイお仕置きが待っている。

 

 こいつらが何をやらかしたのか説明しよう。

 デジタルとドーベルは学園では知らぬ者のいない、同人作家として有名である。

 この二人は少々過激な内容の漫画やらその他グッズ類を作成し、闇市で売りさばいていたのだ。

 魍魎(もうりょう)の宴と呼ばれたその闇市は、学園の許可を取らず秘密裏に開催される。

 販売される物品の多くが青少年健全育成条例に引っ掛かったので、許可が下りなかったとも言える。

 回を重ねるごとに宴の規模も関係者数も、やり取りされる金額も大きくなりすぎため、

 風紀委員会の目に留まり、先日、あえなく摘発される運びとなった。

 俺も摘発現場に居合わせていたので、その時の事はよく知っている。

 首謀者であるデジタルとその右腕のドーベルは説教部屋送りとなり、こっぴどく叱られたらしい。

 魍魎の宴はファンに惜しまれながらも、ひっそりと終焉を迎えた・・・はずであった。

 

 何とこの二人、性懲(しょうこ)りもなく宴を復活させていたのである。

 その情熱とファンからの支持率には感心するけども、呆れた奴らだ。

 『なめやがって!』といきり立つ、風紀委員たちにより今回もお縄になりましたとさ。

 二人の悪質なところは、

 自身の作品(エロ漫画)に知り合いに酷似したキャラを登場させる点だ。

 主な被害者は学園生や教官たちで、俺も被害者の一人だ。

 ホモホモしい漫画に幾度となく登場させられて、マジで迷惑極まりない。

 

 風紀委員による調査と取り調べで、今回新たな被害者が確認されたのだ。

 それが、俺の愛バたちだったという訳である。

 

「急に呼び出されたと思ったら、泣きべそかいてるんだもん」

「へへ、お手数をおかけしてサーセン」

「泣いてない!目にゴミが入っただけよ」

 

 説教部屋に駆け付けたとき、

 相当キツイ詰められ方をしたらしい二人は酷く憔悴していた。

 俺が登場すると安心したのか、余計に泣き出すし。

 

「だって、マサキが来なかったら、たづなさんに引き渡すなんて言うんだよ!」

「お、それは間一髪だったなww」

「笑い事じゃないわよ。でもまあ……来てくれた事には、素直に感謝してるわ」

 

 姉さんの教育的指導は全生徒が恐怖している。

 『たづなさんを呼ぶ』と、言えばどんな不良生徒も泣いて許しを請うのだとか。

 誇らしくも恐ろしい、我が姉上は偉大だな。

 

 二人の身柄を預かった俺は、謝罪行脚の見届け人として同行している。

 この時間だと、基地に愛バ全員が揃っていると思われるので、ひとりひとり探さないで済む。

 

 俺は、二人の作品である薄い本を手に取りページをめくってみた。

 

「"ガチレズ四姉妹物語"ねぇ…」

「どう?私とベルりん、渾身の一作は?それはシリーズの三巻目」

「売れ行きはかなりいいわ。ファンサイトでも、続きを待ち望む声で溢れてるのよ」

 

 正直、漫画としての完成度は同人の域を超えていると思う。

 高い画力に加え、ある種の美しさすら覚える官能的なシーンの数々。

 エロ抜きにしても、先の展開が気になるストーリーも秀逸だ。

 登場しているキャラのモデルさえ違えば、手放しで褒めていただろうに。

 

 "ガチレズ四姉妹物語"

 物語の舞台は、全寮制の名門女子高"セントリリィ女学園"

 義姉妹の契りを交わした四人の美少女たちが、

 学園の至る所でエロエロな情事に励み、官能の渦に溺れていく。

 友人や教師の目を盗んで秘密の関係を続ける、四人の行き着く先は━━

 と、いうのが話の大筋である。

 

 ■長女・有海(あるみ)

 ■次女・心愛(ここあ)

 ■三女・黒江(くろえ)

 ■四女・白菜(しろな)

 

 メインキャラ四姉妹のモデル、名前からもバレバレやないか。

 どう考えても・・・

 

「俺の愛バなんだよな、な?」

「偶然とは恐ろしいね」

「他人の空似よ」

「まだ言うか、似てるってレベルじゃねーからな?」

 

 各キャラの見た目も性格も、そっくりというか、そのまんまだ。

 長女はお清楚だが性欲が強く、次女はラーメンばっか食っていて、

 三女と四女は事あるごとに仲良くケンカする。

 まんまですね!これは模倣ではなく投影だね。

 

「でも、おぱーいの形はちょっと違うな。こっちはもっとこう……」

「むむ!その話、詳しく聞かせて頂きたい!」

「不潔よ!アルダン姉さんたちのおぱーいに何してくれてんのよ!」

 

 何ってそれは・・・ねえ(´∀`*)ウフフ

 ま、いろいろだよ、いろいろ。

 彼女たちの双丘には、いつも大変お世話になってます!

 

 クレームを入れたい点はまだある。

 四姉妹は同性愛者という秘密を隠すため、

 自分たちが、ある男性教師に思いを寄せていると、広く公言しているのだ。

 

 ■教師・正昭(まさあき)

 

 この正昭先生のモデルは俺である。

 日常パートでは出番も多く姉妹たちとよく絡むのだが、

 『男のエロシーンはいらねぇ!』とばかりに濡れ場は一切ない。

 スケープゴートとしていいように利用されている。悲しきピエロである。

 読者の嘲笑を一身に背負う、作中で最も哀れなキャラだ。

 

 なんで気付かないかな?

 四姉妹はお前とのデートをすっぽかして、イチャコラやりたい放題だってのに!

 『美少女たちに言い寄られモテモテな俺!』『ハーレム最高ひゃっほう!』

 なんてニヤケている場合じゃねーぞ。

 大体な『結婚するまでエッチな事は禁止なんです♡』なんて言葉を真に受けんな。

 裏で『あいつチョロいわーww』と笑われてんだよバーカ!

 

 もう一度言う。

 この当てウマ男、正昭のモデルは俺である!!

 

「正昭が不憫すぎるっ!救いはないんですか?」

「安心しなさい。四姉妹に振られた彼はスピンオフで、同僚(♂)たちとのハッピーエンドへ発展してい予定よ」

「俺にとってはバッドエンドじゃい!」

「姉妹の情事を目撃した正昭はショックを受けつつも、その痴態から目を逸らせず"ソロぴょい"に励むのであった」

「うわー生々しい。そして悲しい」

「さすがw童貞ダミーは格が違うわ」

「誰が童貞ダミーじゃ!」

「どうどう、落ち着いて。童貞はマサキじゃなくて、正昭の事だからさw」

「何キレてるの?正昭は架空の人物よw」

「ハハハ、殴りてぇ」

 

 お前らが俺をバカにしているのは、よーく理解した。

 このまま姉さんにパスしてやろうかしら?

 逆襲の正昭が四姉妹に"わからせ"する展開なら全巻揃えてもいい。

 

「マサキが留守の間、果たして四人は何をしているか?気になりますなぁ…グフフ」

「やめーや。うちの子たちに限って百合展開とか、ないない。ないってば!」

「ことわざに"知らぬは亭主ばかりなり"というのがあるわ」

「俺たちはラブラブ両想いなの!変な勘繰りするんじゃありません」

 

 こやつら、不安になるようなことを抜かしおる。

 だがしかし、現実と創作は違うのだ。

 愚かな童貞正昭と違い、マサキは現在進行形でハーレム構築中だぜ!

 

 チーム基地まであと少しとなった距離。

 

「あら?」

「およ?」

「どうしたの急に立ち止まって、んー?あれれ」

 

 急に足を止めた俺とドーベル、遅れてデジタルも気付いた。

 なんか、基地内部から妙な気配を感じるぞ。

 覇気というか、揺らめく熱い闘気が出入口から漏れているような。

 まさか、俺のいない隙を狙って現れたルクスの刺客が愛バたちを狙って!?

 いや待て、敵襲だと断定するのは早計だ。

 

「様子を見て来る。二人はここで待っていてくれ」

「気を付けて、何かあったらすぐ呼んで」

「ヤバそうなら私らは逃げるからね。アンタも無理すんじゃないわよ」

「うん、行って来る」

 

 腐っても騎神として訓練されている二人だ、真面目モードにすぐ頭を切り替えた。

 まずは俺が先行して様子を見に行く、何も無ければそれでいい。

 敵がいた場合やトラブルがあれば、デジタルとドーベルにも動いてもらおう。

 逃げるなんて言っているが、手に負えない状況と判断したら即座に助けを呼びに行ってくれるはずだ。

 うむうむ、しっかり成長しているようで頼もしいな。

 やらしいシーン満載のエロ同人作家とは思えないぐらい頼もしいぜ。

 

 心配そうな二人を残して基地へ。

 隠形術は得意ではないが、出来うる限り覇気を出さないよう注意して移動する。

 何の問題もなく基地に到着した。

 抜き足差し足で出入口に向かい内部の気配を探る。

 

(中に四人いるみたいだ。パンがどうとか言ってる?)

 

 言い争うような声に混じりドタバタと物音がする。

 敵と戦闘中というより、これは、クロとシロがケンカして暴れているっぽいな。

 

(なんだ、いつものやつか)

 

 ホッと胸をなでおろすと、シロの興奮した声が響いた。

 『とったどー!』とは何だろう?

 はしゃぎすぎて尻尾がとれたとかじゃなければいいが。

 愛バたちが仲良く遊んでいるのは理解した。

 デジタルとドーベルを待たせている事だし、遊びは中断してもらおう。

 

「勝った!勝ったぞ!うおおおぉぉぉーーーー!やったぁーーー!」

 

 シロはまだ何事かを叫んでいる。

 おーい、お前たちの操者がやって来ましたよ~。

 盛り上がっているところ悪いが、ちょっといいか、いぃぃ!?

 

 え!?( ゚д゚)

 

 出入口の扉を開けて中の惨状を見た俺は彫像のように固まった。

 そこには、裸で絡み合う愛バたちの姿があったのだ。

 ゴクリッ、なんてやらしい光景なんだ!じゃ、なくて!

 どういう・・・ことだ・・・??

 俺を認識した愛バたちも驚いた様子で動きを止めてしまっている。

 

「……何を……して…いるんだ?」

 

 ショックで震える口を動かして言葉を発した。

 なぜだ、なぜ何も言ってくれない?

 四人とも俺に見られて『しまったぁー!』みたいな顔をしている。

 全員が全裸!?『とったどー!』て、パンツの事だったの?

 わけがわからない。いや、理解するのを脳が拒否している。

 

「お前……たち…一体、何を……」

 

 再び問いかけるも、愛バたちは無言だ。

 頼むよ、理由があるなら説明してくれ!

 今日はちょっと暑かったとか、たまたま着替えの最中だったでもいいから。

 言い訳すらしてくれない愛バたちに不信感が募る。

 考えないようにしていた、とある単語が脳裏に浮かんできた。

 

 "ガチレズ四姉妹"

 

 は?え?は!?ええええええええええええええぇぇぇっ!?

 あれはデジタルたちの創作物、フィクションではなかったのか!

 嘘から出た(まこと)かいなのかい。

 待つんだ俺!俺の愛バに限ってそんなことはない。

 これは何かの間違いだ。そうに決まっている!

 

(でも、状況証拠は揃ってるぜ。ウケケケww)

 

 俺の中の悪魔が邪悪な笑みを浮かべて囁いてきた。

 うるさい、俺は愛バを信じる。

 

(現実見ろよ。今のこいつら同人の濡れ場シーンまんまじゃね?)

 

 や、やめろ。

 

(お前抜きでお楽しみ中だったって訳だ。邪魔しちまったなあ)

 

 やめてくれ。

 

(元気出せよ、()()()()。あwマサキだったっけ?どっちでもいいかwww)

 

 悪魔の嘲笑が脳内でこだまする。

 俺は童貞ダミーと同じ運命を辿るのか?

 そんなの嫌だ。

 

「マサキ、大丈夫?中で何が……え?えぇっ!ええええええええ!?」

「何?面白い物でも見つけ……ほんぎゅぇわぁぁぁぁぁーーー!?!?」

 

 戻って来ない俺を心配してデジタルとドーベルがやって来た。

 全裸の愛バたちを見た二人は驚きの声を上げる。

 もう限界だった。

 混乱しきった頭がぐるぐるして、自分がいたたまれなくて、辛い苦しい。

 どうにかなってしまいそうだ。

 

い、いやぁぁぁーーッ!ガチレズ四姉妹ぃぃぃーーッ!!

 

 俺は脱兎の如く逃げ出した。

 逃げて逃げて逃げ続けて、忘れ物をしたことに気付いた。

 しまった!二人を置いて来ちまった。

 俺の愛バが原因で、デジタルとドーベルまで百合空間に取り込まれたら・・・

 ドーベルはともかく、デジタルは本望かな。

 くそぉ、あの場所へ戻るのは辛いけど、二人を助けなければ。

 心を無にして百合現場に戻ると、愛バたちはまだ固まっていた。

 助けに来たと言うのに抵抗する二人を持ち上げて、再び逃走を開始する。

 何を口走ったか覚えていないが、最後ぐらいカッコよく『サラバダー!』を言えただろうか?

 

 気付かなくてごめんよ。

 お前たちが、そんな百合百合関係だったなんて知らなかったよ。

 なぜそうなってしまったのか、ちゃんと理由を聞きいておくべきだったかな。

 

『バレてしまいましたか。ま、そういうことなんで』

『あなたでは満足できません。私たちの事は諦めてください』

『だって、マサキさんのモナド……小さいんだもん』

『おまけに早いしwww』

 

 グサッ!グサグサグサッッ!

 妄想の愛バたちが、言葉のナイフで俺のハートをめった刺しやぞ!

 やっぱり理由なんて怖くて聞けない。

 あんな事言われたら一生立ち直れない自信ある。

 

「うわああああぁぁぁぁんんん!!!!」。゚(゚´Д`゚)゜。

 

 〇

 

 そうして俺は泣きながら走っている。

 もう、何をどうしたらいいのか、訳も分からず走っている。

 同人作家二人を持ったままで学園中を走っている。

 

「見たか?」

「見た!」

「見たわ」

 

 二人に確認をとった。

 あの光景は夢でも幻でもなかったらしい。

 三人同時に幻覚を見たならどんなによかったか。

 

「あれは何だったんだ!?誰か説明してくれ」

「パンツレスリングだ」

「パンツレスリングよ」

 

 やはり、そうだったのか!

 愛し合う者同士が下着を奪い合う、伝説の格闘技パンツレスリング!

 一部界隈では"うまぴょい"以上に崇高な儀式として扱われているとか、いないとか。

 最初から、俺抜きでお楽しみ中だったんだな。

 

「ちょいと移動するよっと…」

「そうね。いつまでも雑に持たれたままなのは気に入らないわ」

 

 俺に持ち運ばれていた二人は器用にも蛇のよう体をくねらせ、最適な位置に収まった。

 前方のデジタルを抱っこして、後方のドーベルをおんぶした運搬形態へと移行する。

 

「う、うう、酷いや……こんなことってあるかよ…」

「いい年した男が泣きすぎよ。あーもう!大丈夫よ、大丈夫だからね」

「ごめん、情けない奴でごめん…」

「アルダン姉さんの異常性欲についていけなかったのよね。かわいそうに」

「そういう訳じゃないけど」

「いくらマサキが短小で早漏の二冠保持者だとしても、女に走るのはやりすぎよ」

「お前は俺を慰めたいの?それともトドメ刺したいの?」

「え?まさか、不能を足した三冠王だったりするの!?」

「もうやめてぇー!」(´;ω;`)ウゥゥ

 

 ドーベルが何とか俺を慰めようと試みるが、逆に傷口が広がっただけに終わる。

 男の急所を適格に抉る言葉のチョイス何なの?

 

「三次元の男はみんなクズだと思ってるから」

「どうもクズです……このまま樹海を目指そうと思います」

「な、何事にも例外はあるわ!アンタや学園の教官たちは男でも尊敬してるし…」

 

 落ち込む俺にドーベルはアタフタし出す。

 

「どうしたらいい?どうしてほしい?」

「言葉はいらない。頭を撫でてギュッてしてくれ」

「こ、こうかしら」

 

 おんぶ中のドーベルが俺の頭を撫でつつ、体の密着度を上げてくれた。

 あーいいっスねぇ。その調子で頼むよ。

 美少女の"よしよし"とハグはいつの世も万能薬である。

 

「クク……クフフフ」

「デジ…タル…?」

 

 抱っこ中のデジタルが肩を震わせている。

 てっきり、俺の悲惨さに同情して泣いているのかと思ったのに。

 この変態は俺の想像を超えるゲスだった。

 

「フフフフ、クワァーッハッハッハッ!ヒャハハハハハハハハ!!」

「デジタル、あなたどうしちゃったの?」

「貴様ぁ、何が可笑しい!」

「ハハハ!これが笑わずにいられるか!」

 

 狂ったように笑うデジタルは、心底愉快だという顔でまくし立てた。

 

「私の追い求めた理想郷。ウマ娘ちゃんたちによる百合百合ワールドが現実になったのだぞ!」

「「ゆ、百合百合ワールドだとぉ!?」」

「そうだ!我が執念が生み出した作品が二次元を飛び越え、リアルを侵食した結果だ!」

 

 いつもなら『偶然だろ』の一言で一笑に付すところだが、

 先程の愛バたちを見た後では、そういう事もあったりするのでは?と、考えてしまう。

 実際、こいつの執念というか妄念には凄まじい(プレッシャー)がある。

 現実を侵すぐらいはやれるんじゃ・・・

 あれ?だったら、俺の愛バがおかしくなった原因、こいつか?

 

「トレセン学園は百合の園へと生まれ変わる。ゆくゆくは日本全土を百合の千年王国へ!」

「お前かぁ!お前が原因だったのか!」

「マサキ!?待って、今のはデジタルの妄言よ。そうでしょ?」

 

 俺はデジタルの胸倉を掴み上げた。

 もしもこいつが愛バたちを狂わせたのだとしたら、許しはしない。

 焦って止めようとするドーベルと違い、デジタルは余裕の態度を崩さない。

 変態のふてぶてしい顔が一層俺の神経を逆なでする。

 

「感謝するよマサキ。君の愛バちゃんたちのおかげで、我が悲願は達成される」

「こいつ!」

「グフフ、殴りたければ殴れ。ここで私が倒れても、一度始まった百合の流れは止まらない。もう誰にも止めれんのだからなぁ!」

「お前のような奴がいるから」

「カウントダウン開始するわ!発射まで5……4……」

「ほら、どうしたマサキ?私を倒すなら今がチャンスだぞ。ん?」

「お前なんか、お前なんか…こうしてやる!」

「1……(ゼロッ)!今よマサキ!そいつを発射して!」

いってしまえぇぇっ!!

「デジタル、イッキマース!

 

 俺はデジタルを渾身の力で上空にぶん投げた。

 発射された変態は雲を突き抜けて、あっという間に見えなくなる。

 敬礼したまま飛んで行った奴は、晴れ晴れとしたいい笑顔だった。

 無茶しやがって・・・

 

「はぁ……はぁ……お、終わったのか?」

「よくやったわ、マサキ。これで世界は救われたのよ」

「くっ、だが、そのためにデジタルが犠牲に」

「誰のせいでもないわ。あの変態っぷりは人類には早すぎたの」

「そっか。なら仕方ないね」

「そうそう。つまんなことは早く忘れましょう」

「「わーっはっはっはっ」」

 

 この日、一人の変態が空の彼方へと消えて行った。

 彼女の尊い犠牲により百合の侵食から世界は救われたのだった。

 《百合帝国の野望編》 ━完━

 

 おわかりいただけただろうか?

 マサキのみならず、打ち上げられたデジタルもドーベルもおかしなテンションになっている事に。

 ガチレズ愛バにショックを受けたマサキの頭は恐慌状態に陥った。

 その結果、暴走した感情の波が覇気に乗って外部へ流出、至近距離にいた二人のウマ娘はその影響をモロに受けてしまったのである。

 今の三人は賢さが著しく低下した状態。つまり、ものすごく頭が悪い。

 一名が空に退場しても笑って済ませるぐらいにはバカだ。

 

「何も解決してねぇよ!」

「そうね。デジタルが滅んでも、マサキの愛バはガチレズのままね」

 

 地団駄を踏みながら叫ぶマサキ。

 やれやれと首を振るドーベル。おんぶはまだ継続中である。

 

「本当にもうダメなのか?あいつらを取り戻す事はできないのか……」

「諦めるのはまだ早わよ、ロリコン童貞」

「童貞ちゃうわ!マジで違うから!しっかり捨てさせてもらったから!」

「ふーん、誰で?」

「読者様のご想像にお任せする」

「メタいわ」

「すまん。それより、ガチレズに打ち勝つ策があるなら教えてくれ?」

 

 よくぞ聞いてくれたとばかりに、ドーベルはマサキの頭に顎を乗せた。

 

「勝利の鍵は"わからせ"よ」

「なんと!?」

「男の良さを徹底的に教え込み、自分たちが誰の所有物であるかを思い出させるのよ」

「そ、そんな大それた事、俺にできるだろうか?」

「できるかじゃない、やるの!百合道に堕ちたメスウマに身の程をわきまえさせてやるの!」

「なんかすげぇな、さすがエロ同人描いてる奴は違うぜ」

「フッ、褒め言葉として受け取っておくわ。あ、調教の過程は逐一報告してよ、ネタにするから」

 

 『頑張れ♪頑張れ♪』とマサキを焚きつけるドーベル。

 この女、自分の作品のネタになれば、何を犠牲にしてもいいと思っている。

 本当にいいのかなあ?と、思いつつも、もうそれしか方法がないような気がしてきた。

 そうと決まれば行動あるのみ。

 

「よし、行くか」

「行きなさい。背中で応援してるから」

 

 マサキは気合を入れ直し、ドーベルをおんぶしたまま"わからせ"に行くつもりだ。

 そこへ、デジタル打ち上げ直後から、ずっと存在を無視されていた者が堪らず声をかけた。

 

「話は聞かせてもらった!」

「「誰だ!?」」

「私だマサキ君、数分前からずっといたぞ。で?生徒をおんぶしたまま、どこで何をするつもりだ?」

「理事長!邪魔しないで」

「止めないでください理事長。俺はこれから愛バたちを拉致監禁して、ハード調教に勤しむのです!」 

「鬼畜ッ!いくら操者でも、やっていい事の限界を超えすぎだ!」

 

 相思相愛でも超えてはいけないラインがある。

 学園を預かる者としての責務から理事長は体を張ってマサキ(バカ)を止めようとする。

 その背に乗るドーベル(バカ)も共犯らしい、というかこいつが私欲のために煽っていたのを、目の前でバッチリ聞いていた。

 

「強行突破よ、マサキ!」

「かしこまり!」

「な!?にょわぁ~私ごとぉぉーーー!?」

 

 走り出すマサキ。

 小柄な理事長が足にしがみついた程度で止まる男ではない。

 

「危ないんで抱っこしますね、理事長」

「ひぃぃー!降ろしてくれるだけでいいのに、何で道連れぇーー!?!?」

「そこで見ているがいいわ。アルダン姉さんたちが『くやしい…!でも…感じちゃう!』する様をねえ」

「うっわ、見たくない。早まるんじゃない、止まれ!止まってくれマサキ君!」

「俺はやるぜ!愛バたちを取り戻すんだ!」

 

 理事長にケガをさせまいとバカなりに気を遣った結果、道連れゲットだぜ。

 巻き込まれた不憫な理事長、関わるんじゃなかったと後悔しているが、あとの祭りである。

 

「どこを目指しているの?」

「愛バのところに決まってる」

「そっちは屋内プールだ!方向音痴が闇雲に走るな」

「私が索敵(サーチ)してみる。マサキ、覇気を回して」

「あいよ。リンクしまーす」

「一瞬でいとも簡単にリンク、相変わらずの規格外だな」

 

 マサキにリンクされたドーベルの能力が跳ね上がる。

 ドーベルは供給された覇気を使い、学園中に索敵をかける。

 

「見つけたわ!旧校舎近辺にアルダン姉さんと他三名の覇気。それとは別で…近くに大きな……うげっ」

「どうした?」

「む?むむむ!」

「理事長も何ですか?二人ともトイレなら気にせず行って来て…‥お?」

 

 二人に遅れて、鈍い俺にも感じ取れた。

 強くおどろおどろしいような覇気・・・姉さん!?

 えー、なんかメッチャ怒ってないか。

 

「四人のそばにたづなさんがいるわ。ねえ、嫌な予感しかしないんだけど」

「これはマズい、非常にマズいぞ。た、たづながキレてる…超怖い!」

「あいつらったら!また何かやっちゃったの?」

 

 ともかく、旧校舎へ向かおう。

 そこに愛バたちと、ついでにキレた姉さんがいるはずだ。

 

「どうやら私はここまでのようね。マサキ、あとは任せるわ」

「うむ。私も所用を思い出したのでな、急ぎ職員室へ戻らないと」

「デジタルを失った今、お前たちが頼りだ。行くぜ!死なばもろともォ――!」

「「いやだぁ!降ろしてくれぇぇ!!」」

「諦めろ、途中下車は不可能だ」

 

 怒れる姉さんに会いたくない、ドーベルと理事長が必死に抵抗する。

 ひとりでは心細いので逃がさない。

 腕の筋力と覇気の鞭でしっかり縛り付ける。おんぶも抱っこも解除は俺次第だ。

 

 そうこうしているうちに、姉さんの覇気が一段と膨れ上がった。

 旧校舎辺りに生い茂る木々の間を貫いて、黄金の覇気を纏う長大な剣がその姿を現す。

 ちょっと、なにしてんの!?明らかに必殺技の準備段階じゃないか。

 

「斬艦刀!?リミッターを解除するなと、あれほど言ったのにぃ!もう終わりだぁ!」

「ヤバいわよ。あんなの食らったら死体も残らないわ」

「っ!」 

 

 急げ!加速しろ!

 何だか知らんが愛バたちがピンチだ。

 姿が見えた。

 斬艦刀を振りかぶった姉さんに背を向けて全力逃走している愛バたちだ。

 姉さん顔怖っ!地ならし発動させた直後のエレンみたい。

 愛バたちは生き残ろうと必死の形相だ。泣いてる奴もいる。

 

「お前ら全員……(さし)になれぇぇぇっ!!!

 

 姉さんの怒号と共に必殺の一撃が放たれた。

 斬艦刀を包む極太の光が愛バたちに迫る。

 それなんてエクスカリバー??

 

 あ、シロがこけた!?

 転倒したシロは立ち上がるよりも、オルゴンテイルで他の三人を拘束する事を優先した。

 自分を置いて行こうとしたのが気に入らなかったのだろう。

 『『『やめっ!離せや!このクソサトイモがぁ!!!』』』

 『死ぬときは一緒だ!ざまぁぁww』

 表情からそんな感じの事を言っている気がする。

 

「「「マサキさん!ばんざぁああいっ!!」」」

 

 逃れられないと悟った愛バたちが叫んでいる。

 最期の台詞がそんなのでいいの?

 でも、ピンチに俺の名を呼んでくれたのは嬉しかったりする。

 俺が見た光景はやはり何かの間違いで、ガチレズ四姉妹は誤解だったのかしら?

 と、今は考えている時間が無い。

 

 途切れかけていた愛バたちとのリンクを即行で復活させる。

 バスカーモード!

 愛バたちが俺に気付いた。

 こっち見てる場合か!すぐに障壁(オルゴンクラウド)を展開させるんだ!

 

シロ!防いでみせろ!

 

 俺の言葉に反応したシロが即座に跳ね起きた。

 尻尾の拘束を解かれた他の三人も役割を理解して行動に移っている。

 俺はありったけの覇気を愛バたちへと送る。

 それぞれの体から粒子が溢れ、瞬間的にバスカーモードへと移行した。

 無数に枝分かれしたシロのオルゴンテイルが、その大きさ強度を増し愛バ全員を包み込む強固な壁となる。

 クロ、アル、ココはシロの体を支えるように立ち、オルゴンクラウドを全力展開、壁の厚みと耐久性を爆発的に上昇させる手助けをした。

 愛バ四人の協力により、緑の結晶で作られた半円状の巨大防護壁が完成する。

 

 その壁に斬艦刀が直撃する。

 怒り狂う姉さんが必殺の一撃が振るったのだ。

 地鳴りのような音と衝撃、光に飲み込まれる愛バたち。

 

「うわっぷ!」

「きゃ!」

「くっ、防御は間に合ったみたいだけど」

 

 離れている俺たちの所まで衝撃波が伝わって来た。

 吹き飛ばされないように踏ん張るって耐える。

 大丈夫かな?蒸発して何も残らなかったとか、やめてくれよ。

 

 しばらくすると粉塵が晴れていき、そこには、砕け散ったオルゴナイト欠片たち。

 防護壁はちゃんと仕事をしてくれたようだ。

 

「おお!」

「しぶといわね」

「俺の愛バですから」

 

 愛バたちは生きていた。

 シロは辛うじて残ったオルゴンテイルを前方に展開したまま直立不動。

 あれは立ったまま気絶しているな。

 他の三人は地面にへたり込んだり、目を回して大の字に倒れていたりする。

 よかった、全員無事だ。

 何の下準備もせず一気に大量の覇気を使ったため、消耗は激しいようだけど。

 大きなケガもなく、生きているなら万々歳だ。

 姉さんの一撃に耐えきったのは見事だと褒めたやりたい。

 

 そうだ、姉さんはどうなった?

 愛バの無事を確認してすぐ、この惨状を作り出した張本人に目を向ける。

 そこには、

 

「もう一撃ぃ!今度こそ仕留めてやらぁーーー!!!」

 

 再び必殺の構えとる姉(鬼)の姿がありました。

 待って待って待って!

 二回攻撃はダメだって、二撃決殺だって!

 今の愛バたちは無防備だ。

 壁を作る力も逃げ出す気力も残っておらず、次の一撃は耐えられそうにない。

 死んじゃう。俺の大切な愛バたちが死んじまうよぉ!

 

「理事長!操者命令で止めてくれ」

「無茶を言うな!ああなってしまったら、たづなは目標を消すまで止まらん」

「力づくで止めるしかないわ。それができるのは、マサキ…あなただけよ」

「そうだな。ここはマサキ君に賭けるしかない」

「と、言う訳で。邪魔にならないよう私は離れているわね」

「同じく。頑張ってくれたまえよ、信じているからな」

 

 俺に丸投げして、またしても逃げようとする二人。

 もう、往生際が悪いなあ。

 いい加減腹を括りなさいよ。

 

「愛バたちを救えるのは俺たちしかいない!やるぞお前ら!」

「いや、あの、話聞いてる…?」

「我々を戦力に数えるんじゃない!」

「三つの心がひとつになれば一つの心は百万パワーじゃーーー!」

「「嫌だって言ってるのに!降ろしてぇぇーー!!」」

 

 ジタバタする二人と共に姉さんへと突撃する。

 大上段に構えた斬艦刀へと黄金の覇気が集束していく。

 宝具の連発はやめてください。

 

「ヤバいって!絶対逃げた方がいい」 

「たづなの奴め、さっきよりもでかいのをお見舞いするつもりだぞ!」

「チャージなどさせるものか」

 

 幸いにも姉さんは俺たちに気付いている様子はない。

 殲滅対象である愛バたちに注力するあまり、視野が狭くなっているんだ。

 そこに付け入る隙がある。

 

「理事長!お願いします」

「え?え?」

いっけぇー!秋川ミサイルッ!

「何してくれてんだぁぁぁ君はぁぁぁーーー!?」

「こ……こんなこと残酷すぎる!」

 

 俺はチャージ中の姉さんへと理事長(本名・秋川やよい)をぶん投げた。

 戦々恐々とするドーベルには悪いが、これも必要な措置なのだよ。

 目論見通り、飛んで行った理事長は目標へと無事に着弾した。

 

「ぶほぉ!?」

「ごっ!?攻撃?どこからっ……何してるの、やよい?」

「こっちの台詞だぁ!お前も!お前の弟も何をしているんだ!!」

「私は有害指定生物の殺処分中よ。邪魔しないで」

「いいのか?あんなのでもマサキ君の愛バだぞ」

「あんなのだからこそ始末するのよ。今、ここで!」

「ついでに学園を破壊してか?始末書が増えるぞ。増えるぞ大量にぃぃーー!!」

「知ったことかぁ!」

 

 自分に取り付いた理事長と口論を始める姉さん。

 よしよし、イイ感じにチャージ妨害をしてくれているぞ。

 このまま畳み掛ける!次弾装填!

 

「やめてやめてやめて!本当にやめて!」

「怖いのはわかる。しかし、この任務は君にしかできない!」

「なんで私が…マサキ総受け本の総集編、原稿がまだ上がってな━」

ドーベルボンバーッッ!

「こんなの私のキャラじゃないぃぃぃーーー!」

 

 キャラ崩壊は今更ですぞ。

 両手で掴んだドーベルを渾身の力を込めて投げ飛ばした。

 デジタルと理事長でコツを掴んだのか、俺の投擲スキルは抜群の精度をもってドーベルを姉の下へと送り届ける。

 一直線に飛んで行ったドーベルは、全てを諦めたかのような表情だった。

 総受け本の作成も諦めてほしい。

 ・・・・・・よっし!命中確認!

 

「はがっ!?」

「べっ!?またか……あんたはメジロの腐女子!」

「失礼ね!別に腐ってないわよ。私はただ、男たちが乳繰り合う姿に熱いものを覚えただけよ!」

「十二分に腐っとる!知っていたけど、メジロ家も相当イカれてるわ」

「集中の乱れた今がチャンス。ドーベル君、協力してたづなを止めるぞ」

「ああもう!こうなったらヤケクソよ」

「ええい!うっとうしい!」

 

 小さい操者と腐女子にしがみつかれて、大層ご立腹な姉さん。

 それでもまだ、チャージを止めようとしないとは、

 愛バへの殺意は依然として衰えていないらしい。

 暴れ狂う姉さんの死角から接近だ。

 二人が時間を稼いでくれたおかげで、ようやく俺も参戦できる。

 

「そこまでです。もうやめましょう、たづなさん」

「やっぱり来たのね、マサキ」

 

 姉さんを羽交い絞めすることに成功した。

 理事長とドーベルも必死に押さえてくれている。

 

「愛バが何をやらかしたのか知らないけど、非礼については誠心誠意お詫びします!本人たちにも改めて謝罪させる。だから、この場は何とか収めてもらえませんか?とりあえず、溜めるの(チャージ)やめましょう。そんなのブッパしたら危ないですって」

「マサキ、あのバカタレどものことは、きれいさっぱり忘れなさい。もうすぐこの世から消えるからね!」

「そんな殺生な」

「愛バが必要なら、私がもっとマシなの紹介してあげる。あの四人は存在自体が害悪だから滅ぼすしかないの」

「い、嫌だ。愛バはあいつらじゃなきゃダメなんだ」

「頭が悪い上に露出狂だったりするのよ?あんなのと一緒にいたら、マサキの品位が下がる」

「品位?マサキ君に……」

 

 理事長『こいつに品位なんてあったか?』みたいな目はやめてください。

 露出狂なんて発言が出るってことは、裸を目撃された愛バがいるのか。

 まさか、素っ裸で外に出たなんてことないだろうな。ないよな?

 

「パンツくれだの、絆創膏だの、私が更年期だのと、ほざきやがって!」

「ごめんなさい!全く意味がわからんけど、俺の愛バがごめんなさい!」

「おまけにガチレズらしいわ。操者の居ぬ間にレッツ!パンツレスリングだったみたい」

「ドーベル!余計な事を言うな」

「本当に救いようがない。ここで終わらせるに限る!」

「ひぃぃぃ」

 

 ドーベルの不用意な発言が姉さんの怒りを加速させた。

 それに伴い、覇気出力とチャージ速度が上昇する。

 三人がかりで押さえ込もうとしているのに、止まる気配すらない。

 理事長とドーベルには既にリンクしていて、可能な限り覇気を回している。

 かつて暴君と呼ばれし騎神はそれでも止まらないのだ。

 

イヤァァァァァァ!!

トゥ!ヘアー!!

モゥヤメルンダッ!!

「やめてよね……本気でケンカしたら、今のマサキたちが私に敵うはずないでしょ…」

 

 三人でアスランになってもビクともしない。

 今のうちに愛バたちが逃げてくれたらいいが、彼女たちはまだ動けそうにない。

 くそ、このままではチャージタイムが終了してしまうぞ。

 せめてあと一人、協力者がいてくれたら・・・

 

「マサキ!上、上を見て」

「上?この忙しい時になに……あれは!?」

「何だ?何かが落ちて来るぞ!」

 

 上空から妙な気配、何かが落下して来ている。

 隕石ではない。覇気を感じる、あれは生物だ。

 

トレセンよ!私は帰ってきたぁぁーー!

 

 落下してきた生物は、小柄でピンク毛並みの変態だった。

 

「デジタルね」

「デジタルだな」

「なんで空から?」

 

 空の星になったはずでは?

 まさか戻って来るとは思わなかった。

 滞空時間が長すぎる気がするけど、変態だから何でもありだ。

 奴はこちら目掛けて突っ込んで来ている。

 なんか不安だけど、勝利のピースが揃った!ことにしよう。

 

(どういう状況?私が(そら)にいる間に何があったの?)

(かくかくしかじかだ。姉さんを止める!協力しろ、デジタル)

(委細承知。微力ながら助太刀いたす!)

(随分と物分かりがいいな)

(当然見返りはもらう。報酬はガチレズ四姉妹の資料提供で頼む)

(背に腹は代えられない。それで手を打とう)

(アシスタントも募集中、ペンタブ使える?)

(わかったから!とにかく手伝え)

(ラジャー!)

 

 俺とデジタルの念話(0.2秒)終了。

 取引により協力を取り付けた。

 リンクしてデジタルのステータスアップも完了だ。

 

「たづなも見ろ!上だ上!」

「そんな古典ブラフに引っ掛かるものですか」

「いや、本当なんだけど」

「もういい、もう十分覇気は溜まった」

「やば、間に合わない」

「斬艦刀!バカウマ四人を黄泉路へ連れていけぇぇ!!」

 

 チャージを終えた姉さんが斬艦刀振りかぶった。

 万事休すか。

 

ただいまぁぁぁーー!

「ぐあぁぁぁぁ!?!?」

「「何ィィィ!?」」

「おいバカ!どこに着地しているんだww」

 

 間一髪、最後の助っ人デジタルが到着した。

 なんとも命知らずだが、姉さんの顔へ貼りつくように落下して来たのだ。

 小柄な体形を生かしてフェイスハガーのように顔をホールドしている。

 

「デュフフ、たづなさんの綺麗なご尊顔が至近距離に…」(*´Д`)ハアハア

「気持ち悪ッ!何よコイツ、この!離れなさい」

「みんな!これが最後の戦いだ。一気に姉さんを落とす!!」

「姉さん!?誰の?」

「知らなかったのかい、ベルりん。マサキとたづなさんは血の繋がった」

「兄ね!二人は兄弟だったのね!てことは、たづなさん実は女装男子!?それで、マサキと近親薔薇(バラ)兄弟プレイ中だったのね!熱いわ、熱いじゃないのよぉ!うひょぉーーーー!

「「激しく違うわ!!」」

「ドーベル君!鼻から大量の血が!?」

「フフフ、お気になさらず。一刻も早く事態を収束させて、原稿をまとめないと…フフフ」

 

 勘違いでドーベルのやる気が上がった。

 鼻から赤血操術を繰り出しているけど、こっちにかけないでほしい。

 

「ハアハア、たづなさん。チューできそうなぐらい近い……」(*´Д`)

「ぎゃぁぁぁぁっ!変態が、変態が迫って来る」

「お前ふざけんな!姉さんの唇を奪ったりしてみろ、今度は成層圏の彼方までぶっ飛ばすぞ!」

「ちょ、ちょっとぐらいペロペロしても…デュフ」

「いやぁぁぁぁッ!ホント何なのコイツ!?」

「不純ッ!愛バのピンチを黙って見ている訳にはいかん。ふぬぬぬぬ――!」

 

 姉さんのピンチに理事長のやる気が上がった。

 煩悩だらけのフェイスハガーは元からやる気MAXだ。

 変態に恐怖した姉さんの態勢が崩れる。

 この好機、逃してなるものか!

 

「今だ!押さえ込めぇぇーーー!

「「「ウオォォォ――――!!!」」」

「な、やめ!?」

 

 力を合わせて、姉さんの体を後方に引きずり倒す。

 その最中、持ち主の手から斬艦刀が零れ落ちる。

 刀身に蓄積された莫大な覇気が行き場を失い、一気に弾け飛ぶ!

 

「「「「「なんてこったぁぁぁぁぁぁ!?!?」」」」」

 

 俺たちの絶叫をBGMに、周囲一帯が暴虐の光に包まれていったのだ。

 

 〇

 

 私が目覚めたとき、全ては終わっていた。

 たづなさんの一撃を防いでから気を失っていたようだ。

 

 騒ぎを聞きつけ駆け付けた人々が見たのは、爆心地で気絶するマサキさんたちだった。

 クレーターの中心でほぼ無傷なのは、マサキさんが防壁を展開したからだろう。

 大勢の教官や生徒の騒めきで意識を取り戻した私もすぐに彼の下へ。

 先に起きていたクロたちに遅れをとってしまった。

 

「マサキさん!マサキさん、しっかりして!」

「小姑を引き剥がしましょう。マサキさんを押し倒している風なのが最悪です!」

「そこの野次ウマたち!写真撮る暇があるなら救助手伝ってよ」

「理事長と変態二名が何故ここに?邪魔ですからとっとと運んでください」

 

 救助隊と野次ウマに囲まれながら、マサキさんを介抱する。

 他はどうでもいい、操者の無事が最優先だ。

 しょうもない事で信頼を裏切ってしまい、泣いて逃げ出したはずの彼がここいる。

 私たちを助けに来てくれたのだ。こんな駄バたちを・・・

 マサキさんの頬に手を添える。

 

「ピンチに駆けつけるなんて…ホント、あなたはカッコよすぎます」

「ごめんなさい。野球拳なんてバカな事を提案した私が悪かったよ」

「責任は我々全員にあります。ちゃんと説明して謝って、マサキさんに許してもらいましょう」

「なんだか大事になっちゃったな。原因がアホ過ぎて、情けないやら恥ずかしいやら」

 

 被害は旧校舎近辺の森が少々消し飛び、地面が抉れた程度で済んだという。

 人命は失われていない。

 私たち愛バ全員と、マサキさんと変態たち、たづなさんと理事長も無事だ。

 

 この事件はすぐさま学園中で噂になり、憶測が憶測を呼んだ結果。

 "痴情のもつれ"という事で方が付いた。

 

『マサキ教官、たづなさんと浮気してたんだって』

『密会に突撃した愛バたちと修羅場を演じたらしいぞ』

『行きずりの女であるデジタルとドーベル、理事長も参戦したらしい』

『マジかよ。マサキ教官節操ねぇな』

『それでさ、業を煮やしたたづなさんが斬艦刀で心中を図ったんだと』

『怖ぇぇぇ!』

 

 マサキさんが悪者にされてしまっているのが解せない。

 でも、下手に訂正して回ったところで、ゴシップ好きな連中を喜ばせるだけだ。

 腹立たしいが噂の鎮静化を待つことにする。

 七十五日経っても収まらないようなら、"D"が実力行使に出ると思え!

 

 程なくしてマサキさんの意識が回復した。

 もの凄くバカバカしくて恥ずかしいけど、事の経緯を洗いざらい説明した。

 温泉旅館のチケットを巡って争ったこと、野球拳からパンツの奪い合いに発展したこと。

 裸になって、それを目撃され、たづなさんに殺されそうになったこと等々・・・

 全てを説明したあとは、愚かな行いで迷惑をかけたことを謝罪した。

 愛バ全員が額を床に擦り付けての全力謝罪である。

 嫌われたらどうしよう。頭を上げられない、マサキさん顔を見るのが怖い。

 判決の時を待つ被告人の気分だ。

 

「よ、よかったぁ~」

 

 しばらく黙っていたマサキさんの第一声は安堵の声だった。

 

「ガチレズじゃなかったんだな。全部俺の誤解だったんだ!あーマジで焦った~」

 

 『よかった』を繰り返すマサキさん、ちょっぴり泣いてる。

 

「もうそんなことしなくていい。ほら、顔を上げて立って立って」

 

 マサキさんがひとりひとりの手を取って立たせてくれる。

 本当に優しい人だ。

 

「ごめんな、お前たちを疑った俺がバカだったよ。許してくれ」

 

 あなたが謝る必要はありません。

 悪いのは私たち、その中でもクロが一番最悪です。

 

「俺こんなバカだけど…好きでいてくれるか?お前たちを、好きでいていいか?」

 

 そんなの!

 

「当たり前だよ!」

「当然です」

「何度でも言います。私はあなただけ」

「女神様に誓って一途だよ」

 

 全員が即答してみせる。

 この想いは本物だ、同性愛などに現を抜かす暇などありはしない。

 

「お前たち……ぐすっ……大好きだ!」 

 

 四人まとめて抱きしめてくれる、マサキさん。

 大きな愛を持つ、そんなあなたが大好きですよ。

 

 〇

 

「まさか、俺が医務室に運ばれるとは」

 

 姉さんを止めた俺たちは盛大に地面へと倒れ込んだ。

 その際、斬艦刀に蓄積された覇気が暴発したのだが、意識を失う前の俺がオルゴンクラウドを展開させ、窮地を脱したらしい。

 よく覚えてないんだけど、無意識に生存本能が働いたんだろう。

 

 軽いすり傷と打撲で済んだ俺は、医務室に運ばれてすぐ目を覚ました。

 愛バたちから事件や被害状況の説明を受け、現場にいた全員の無事を確認した。

 姉さんには心からの謝罪を、理事長とデジタルとドーベルには感謝を伝えねばなるまい。

 その他、迷惑をかけた人たちにも・・・身から出た錆とはいえ、事後処理は大変だ。

 

 いろいろやっていたらスッカリ日が暮れた。

 姉さんの怒りは本当に凄まじく、土下座するシロの頭を冗談抜きで踏んずけていた。

 俺も他の愛バも精一杯謝って、何とか許してもらったのであった。

 理事長が間に入ってくれなかったら、シロの頭はコンクリの床と融合するところだったぜ。

 デジタルとドーベルは『ネタがあふれるぅ!』とかで、さっそく原稿に取り掛かっていた。

 元気ならいいんだけど、俺たちをモデルにするのは今回限りだからな!

 

「うう、酷い目にあいました」

「まあまあ。命があっただけでも感謝しようぜ」

「そうなんですけど。あぅ、まだ小姑の靴底が後頭部に乗ってる気がします」

 

 現在、夕暮れの街を愛バを連れて帰宅中だ。

 疲れたので、今日の旧校舎ダンジョン探索は中止にした。

 姉さんに踏まれて疲弊したシロは、おぼつかない足取でよたよたと歩いている。

 そんなシロが心配なので、俺は歩調を合わせて歩く。

 他の三人は夕飯の買い出しをするため、先行してスーパーへ向かった。

 

「俺のあげたパンツが悲劇を生んだとかww」

「笑い事じゃないですよ。せっかくもらったのに…」

 

 愛バたちと和解できて本当によかったと思う。

 あのまま勘違いして大切なものを失っていたら、こんな風には笑えていなかった。

 俺たちには、これからもいろんな出来事が待ち受けている。

 ケンカしたり、すれ違ったり、間違えたりもするだろう。

 でも、その都度ちゃんと話し合って、理解し合って、許し合って、乗り越えて行こうと思う。

 今回の事件は良い教訓になったな。

 早とちりダメ絶対!エロ同人に登場させるのもダメ!

 なにがガチレズ四姉妹だ!

 そもそも、事前にあんな本を見ていたのが悪かったんだよ。

 デジとベルの作家コンビは今後も要注意だ。

 

「あれ?シロのパンツは破れたはず。だったら今は?」

「はいてないです」

「今、なんと?」

「はいてないんです///確認……してみます?」 

 

 少し照れた表情でいたずらっぽくシロが言う。

 耳に吐息がかかる距離で囁かれ、ゾワゾワしちゃうぜ。

 えーっと、つまり、シロの下半身は今大変無防備な状態にあるわけでして・・・

 けしからんな!

 

「正確には絆創膏で応急処置しています」

「は!?何それ、どうしちゃったの?」

「それも含めてご確認を…そのあとどうするかは……お任せします」

「ここでか!いや、いくらなんでもそれは////」

 

 屋外ではさすがにマズいでしょ。

 せめて家に帰ってからという事で、うん、早く帰ろうか!

 今更だがスカートの短かさが気になるな。

 誰かに見られでもしたら大事なのだ。

 シロのスカートがめくれないように細心の注意を払わねば。

 

「マサキさんのお気遣いが嬉しいです」

「俺はシロの行動にハラハラしっぱなしだ」

「ムラムラは?」

もちろんしてる!

「素直なあなたを愛しています♪」

 

 ニヤニヤするシロが可愛い。

 二人っきりだったら、自分を抑える自信がない。

 

「おい、ノーパン。マサキさんを誘惑する暇があるなら荷物持てや」

「誰のせいだと!クロ、私のイチャコラタイムを邪魔するなと、いつも言ってますよね?」

「フン!知らんな」( ̄д ̄)

「こ、こいつは本当に」(#^ω^)ピキピキ

 

 いつの間にか現れたクロが、ネギのはみ出たエコバックをシロに手渡す。

 渋々受け取るシロ。どうやら買い物が終わったらしい。

 クロは少し不機嫌そうに俺に腕を絡めてくる。

 シロとのやり取りを見られていたらしい、やだ恥ずかしい!

 

「今日の事件、発端はクロです!マサキさん、この罪深いウマに重罰を課して下さい!」

「なんだよう。シロがボクサーパンツ独り占めにしたのが悪いんじゃん」

「だからって、引っ張って破らなくてもいいでしょ!」

「うるさーい。ノーパンサトイモ!」

「だから、誰のせいでこうなったと思ってるんだぁ!」

 

 掴みかかろうとしたシロの手を躱し、クロは走り出す。

 

「ご通行中のみなさーん!聞いてください、あそこに露出狂のサトイモが━━」

「やーめーろーやー!」

「はいてないんだって!ノーパンで下校する変態がここにいまーす!」

「もう許さん!パンツはぎ取って、あらゆる箇所に絆創膏を貼ってやる!」

「待て!シロは走ったらアカン。見える、見えちゃうから!」

 

 追いかけっこを開始するクロとシロ。

 ひらひらと翻るスカートにハラハラしつつ、俺も二人を追いかけるのだった。

 二人の争いはアルとココが合流するまで続きましたとさ。

 

 そんな俺たちへと、憎々しい目を向ける人物がいた事には気付くことがなかった。

 

「アンドウ……マサキ…」ギリッ

「アオイ~、今日のストーキング終わった?もう帰るよ」

「ミーク…私は覚悟を決めました」

「あっそ」

「フフ、フフフフ、待っていなさい……あなたの好きにはさせません。彼女たちは必ず、この私が救ってみせる……フフフフフ」

「わー、超嫌な予感する」

 



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デュエリスト

 愛バたちのガチレズ疑惑も払拭され、マサキは平和な日常を謳歌していた。

 

 トレセン学園職員室、

 昼、午前の業務を片付け一息ついた職員たちはつかの間の休憩中、

 愛バたちとの昼食を済ませた俺も、午後の予定を確認しつつ同僚たちと駄弁っている。

 

 先日起こった"たづなさんご乱心事件"については学園中が知る所となった。

 親しい人たちには事の経緯を説明して、同情と呆れの反応を頂戴している。

 愛バが全裸になったり、姉が般若と化したり、空から変態が振ったりとかの、ややこしい部分はやんわり誤魔化しておいた。

 

「それで、温泉旅館はどうなったの?」

 

 ミオがお気に入りの菓子をつまみながら尋ねてきた。

 食べカスをボロボロこぼすのやめてよね。みっともない。

 

「次の連休に全員で行くことにした」

「結局、ハーレムルートに落ち着いたか。揉めたりしなかった?」

 

 当然の如く揉めた。

 事件のあった当日、帰宅してからも水面下で行われる愛バ間の熾烈な争いで胃がキリキリしたよ。

 終いにはクロが『ペア宿泊券(こんなもの)があるからいけないんだ!』とチケットを破り捨ててしまう事態に発展。

 紙屑と化したチケットを前に泣き崩れる四人が不憫だった。

 俺と温泉に行きたいが為に一喜一憂する。

 そんな可愛い愛バのために一芝居打つことにした。

 

『突然だがめっちゃ温泉行きたくなった。一緒に行ってくれるウマ娘、誰かいないかな~』チラッ

『『『『ここにいるッッ!!』』』』

 

 そんなやり取りの末、みんな仲良く温泉旅館に泊まることが決定した。

 いろいろ相談して、チケットの宿泊先よりグレードの高い宿を予約しちゃったぜ。

 

 当然自腹になるが、こういう日のために貯蓄はしてある。

 異世界から持ち帰った超技術(EOT)をシラカワ重工に売却したら、ちょっとした小金持ちになったのだ。

 だからといって無計画な散財はしない。身の丈にあった生活で十分だ。

 大切な愛バ四人との思い出づくり、ここは迷わず資金を投入するところでしょう!

 

「よかったじゃん。お土産よろしくね~」

「硫黄でいい?」

「せめて湯の花にしてよ」

「マサキなら採掘した物を直に持って来そうで、怖いな」

「ダメなん?」

「駄目だろ」

「硫黄は風呂釜を傷める。温泉気分に浸りたいなら素直に市販の入浴剤を使え」

「温泉かぁ。私もルナたちを誘ってみようかしら」

 

 俺の話をきっかけにして旅行談義に花が咲く。

 テュッティ先輩はガッちゃんと修行中にヨーロッパを旅した思い出、ヤンロンは父方の実家である中国に滞在していた頃の話、ゲンさんはベーリング海でカニ漁に参加した事があるらしい、ミオの大マゼラン星雲がどうたらの話はスケールがでかすぎて意味不明だった。

 ゲンさんのは旅行ではなく過酷な労働だ。ミオの元アインスト経験談は人類には早すぎると思うの。

 

 ともかく、俺も愛バも温泉旅館が今から楽しみでしょーがないのである。

 かけがえのない彼女たちと、幸せな時を共有するのも操者の醍醐味だ。

 

「マサキ、余計なお世話かもしれないが、ひとつ忠告しておこう」

「改まって何?」

「愛バたちそれぞれに、二人だけの時間をちゃんと作ってやれ」

「お、おう」

 

 真面目な顔のヤンロンに少しだけ気圧される。

 

「節操のないお前が何人女を囲もうとも、彼女たちにとって操者はお前ひとりだけだ。それを肝に銘じておくんだな」

 

 ヤンロン、人聞きの悪い事を言う男!

 この男が恋愛事情の話をするとは珍しい。何かあったの?

 

「ヤンロンったら、モテモテで苦労してるのよ」

「からかうな、テュッティ」

「ここ最近、グラスちゃんとエルちゃんが積極的になってね。この前リギルのみんなでお出かけしたときも、ずっとグロッキーだったわwww」

「我ながら不甲斐ない。母上で十分に理解していたつもりがこの様だ。女性というのは存外に力強く恐ろしい…」

「だよね。めっちゃわかる」

 

 愛バたちのパワフルさに圧倒され困り果てるヤンロンが容易に想像できてしまった。

 かまってオーラ全開で迫って来る二人に対処するのは大変だったろう。

 お疲れ様でしたな!

 

「僕なりに努力したつもりだが、グラスとエルには悪い事をした」

「心配いらないわよ。二人とも楽しんでいたし、ヤンロンに甘えられて嬉しそうだったわ」

「そうだと、良いのだが」

 

 複数の愛バを持つ身としては、決して他人事ではない。

 彼方立てれば此方が立たぬ。日常でも愛バたちには寂しさや不満が募っている。

 二人っきりを確保するための争いは、俺が思っている以上に真剣なんだろう。

 どんなに忙しくても大変でも、一人づつ正面から向かい合う時間を作ってあげよう。

 

 愛想つかされて泣きを見るのは絶対に御免被る。

 NTR展開やガチレズルートに突入して、デジタルを喜ばせたくない。

 

『彼女たちにとって操者はお前ひとりだけだ』 

 

 一人の操者として、この言葉を深く心に刻み込んでおこう。

 

「わかった。二人っきりの時間もちゃんと確保できるよう努力する」

「そうしてやってくれ、僕の二の舞を踏むな」

 

 この様子だと、グラスとエルの間でも操者を巡る争いが勃発している予感。

 ヤンロンを労いつつ、時間があればグラスたちの愚痴も聞いてあげようかなと思った。

 

「僕は愛バ二人でこの様だ。マサキは、大変だと思うことはないか?」

「ま、退屈はしないよ。大変というならミオやテュッティ先輩の方が人数的にヤバいだろ?」

「私は一応同性だからさ、恋愛感情絡んでない分気楽だよ」

「ルナたちに愛情はそうね……姉妹や娘みたいな感じかしら」

「なるほど。愛は愛でも、家族愛というやつですか」

 

 愛の形は人それぞれだね。

 

 話題は移り、うちの愛バ自慢大会をしていると名前を呼ばれた。

 職員室の入口からひょっこり顔を出して、手招きをしている生徒がいる。

 

「マサキ教官、ちょっといい?」

「お、ミークじゃないか」

 

 白い毛並みのウマ娘、ハッピーミーク。

 彼女はキリュウイン教官の愛バだ。

 わざわざ職員室まで訪ねて来るなんて、急ぎの用かな?

 ミオたちに『ちょっくら行って来る』と告げてミークの待つ廊下へ出た。

 

「先に謝っておくね。ごめんなさい」

「急にどうした?」

「マジで……ごめん…ごめん…」

「すごく深刻そう!?何があった?」

 

 暗い表情で謝り続けるミーク。

 重課金の末に爆死した人みたいだぞ。

 

「アオイが良くない事を企んでる」

「あ、やっぱキリュウイン教官か」

 

 悲しいことに、俺はキリュウイン教官に嫌われている。

 彼女は何かと理由を付けて叱責してくるのだ。

 最近では言い掛かりとしか思えないような怒られ方をされている。

 初対面で道を尋ねたときの、あの優しかった彼女は何処へ行ってしまったのか?

 騒ぎが起こる度に原因が全部俺だと決めつけている節があるんだよな。

 実際、学園で起こる事件の半数以上に俺もしくは愛バが関わっている点は本当に申し訳ないと思っているけど。

 だからといって、この世全ての悪みたいな扱いをされるのは、正直いい気分ではない。

 

「普段は割とまともなんだけど、マサキ教官が絡むとINT(インテリジェンス)が著しく低下する病気みたい」

「確かに、その傾向はあるな」

 

 キリュウインさん、真面目で仕事はできるし生徒たちからの評判も上々だ。

 可愛らしい感じの美人さんで男ウケも良く、合コンやナンパは何度断っても頻繁に誘われるのだとか。

 そんな彼女に毛嫌いされたアホな男が俺だよ!

 気付かない内に何か怒らせるような事やったかな?

 無意識に愛バと間違えておぱーい揉んだとか、してないよな?

 

「一方的な逆恨みだと思う。寝ぼけてパイ揉みはしてないから安心して」

「そっかぁ」

「逆にパイ揉みしないから怒っていたりして?」

「マジかぁ……欲求不満かぁ」

 

 そういうのは彼氏さんとかにお願いして発散するといいよ。

 それか、自分で揉んだらいいと思う。

 

「なんにせよ、お互い腹を割って話す必要があるな。今ならちょうど時間あるし」

「ホント迷惑かけてごめん」

「全然いいさ。ミークが悪いわけじゃないし、これ以上謝る必要ないからな」

「マサキ教官の優しさが沁みる。アオイにも見習ってほしい」

「大袈裟な。んで、キリュウイン教官は今どこに?」

「ん-と、多分こっち、フォローミー」

 

 キリュウイン教官を探すため、ミークの後をついていく俺であった。

 

 〇

 

 私、キリュウインアオイは憤慨していた。

 怒りの対象は手は言わずもがな、アンドウマサキという同僚の養護教官だ。

 

「今度という今度は我慢できません!」

 

 私は理事長室の長机を平手で叩きながら訴えかける。

 対する相手、理事長の反応は芳しくない。

 腕組みをして目を閉じたままの理事長は『ぬ~ん』と唸ったままだ。

 『ぬ~ん』て、なんだよ。

 

「聞いているのですか、理事長!」

「あ、すまない。ヘルシェイク矢野のことを考えていた」

「それ誰ですか!?」

「え、知らないの?地獄を揺さぶる…ヘルをシェイクする男、ヘルシェイク矢野を知らないの!?」

「知らないです。今は矢野よりアンドウ教官の件です」

「またか、キミもしつこいな」

 

 学園の代表兼マスコットと呼ばれる理事長は『うんざり』という様子を隠しもせず、長いため息を零した。

 その態度に若干イラッとしたが、我慢する。

 せっかく、たづな(人斬り秘書)が不在の時間を選んで押しかけたのだ。

 彼女が戻って来る前に理事長を説き伏せなければならない。

 たづなは露骨なアンドウ教官贔屓なので、私の話を真面目に聞いてくれないからだ。

 最近では会う度に愛刀に手をかけるようになった・・・ただの癖だと思いたい。

 私を斬りたくてうずうずしているとは思いたくない。

 

「私は、アンドウマサキ教官の辞任を要求します!」

「無理ッ!話は終わりだ。解散ッ!」

「早い!早いですってば」

「止めるなキリュウイン君、私は理事長としての責務を、我が校のニンジン畑を荒らすモグラを退治しなくてはならんのだ」

「その責務今考えましたよね?面倒だから逃げるって、顔に書いてありますよ!」

「なあ、モグラって漢字で書くと『土竜』だぞ。なんか強そうだと思わないか?」

「モグラから離れてください。いいから席に戻って」

「ちっ」

「舌打ち!?」

「はぁ、致し方あるまい。すごく気が進まないけど一応聞いてやる、早くして」

「あ、ありがとうございます」イラッ

 

 このチビッ子理事長、態度悪すぎない。

 逃げようとした理事長をなんとか引き留めて話を続ける。

 

「以前から申し上げているように、彼はこの学園の教官に相応しくありません」

「ふーむ、その心は?」

「アンドウ教官は学園の風紀を著しく乱している。これはもう誰の目から見ても明らかな事実です」

 

 さあ、ここからが勝負だ。

 アンドウマサキが如何に悪辣非道な男であるか、理事長に全部暴露してやるんだから。

 

「卑猥な言動の数々、日常的に行われるセクハラ、人目も憚らずの淫行、それから━━」

 

 アンドウマサキが関係したと思われる騒動は多い。

 事件の中心人物として名が上がらない事の方が少ないくらいだ。

 軽く調査しただけで、彼とその愛バたちの非常識かつ怪しい行動は盛沢山であった。

 私は理事長にアンドウ教官の危険性を突き付ける。

 

「医務室に様々な生徒を連れ込みいかがわしい行為に及んでいる、はず!」

「はずって…ただの治療か、仲良く雑談しているだけじゃ」

「放課後になると愛バたちと旧校舎へしけこむんですよ。数時間後、衣服と呼吸が乱れた状態で出て来たのも確認しました。ああ!汚らわしい」

「張り込みまでしたのか、キミもつくづく暇だな」

「あの男の影響で頭が悪くなる生徒が続出しているんですよ。そんな人が授業までしているなんて信じられません。『賢さG』の騎神を量産してどうするんですか!」

「マサキ空間に飲まれた者のさだめだな」

「一週間も仕事をサボった上に、代理として謎の美女や幼女を出勤させるとか、本気でどうかしてます!」

「どっちも本人なんだよなあ」

 

 理事長が遠い目をしている。

 さすがにアンドウ教官のヤバさに気付いてくれたのだろう。

 よーし、一気に畳み掛ける。

 

「これはつい最近の事ですが、なんと彼の愛バが野外露出している現場に遭遇した事もあるんですから!」

「ブッ!あいつら何をやっているんだ!!」

「露出プレイを強要された彼女が不憫で仕方なく、ショックのあまり私はその場で気絶したぐらいです」

「それ、露出魔に気絶させられただけでは?」

「理事長までミークと似たような事を仰らないで!『全裸で徘徊した挙句に教官を踏んずける』凶行に及ぶなんてこと、彼女の様な優等生がするわけがない」

「誰だ?確率四分の一だとして……全員やりかねんな!」

「彼女の名誉のため名を伏せますが"宝石の名を冠する子"とだけお伝えしましょう」

「あ…(察し)」

 

 理事長は『D…なんて奴だ』と謎の呪文を呟いて天を仰いだ。

 露出を強要された被害者の心中を察し、自分の無力感に苛まれる姿だ。

 きっと、アンドウ教官を野放しにしていた事を悔いているのだろう。

 彼女をあんな目にあわせた鬼畜操者には天罰が下るべきですよね。

 まだまだ言いたい事はあるが、とりあえずこの辺で締めくくろう。

 

「どんな汚い手を使ったのか知りませんが、御三家の権威を笠に着てやりたい放題。こんな暴挙が許されていいんですか?」

 

 ずる賢い手段で愛バたちを支配下におき、身内を人質にされた御三家に無理難題を吹っ掛けるとは、まったく度し難い。

 そんな男、このキリュウインアオイが修正してやる!

 

「話はわかった。で、マサキ君を即刻クビにしろと言うんだな?」

「それだけではありませんよ。彼の不法行為を立証して操者の権限も剥奪します!捕らわれの身である御三家令嬢たちを救い出し、学園も元の正しい姿を取り戻すのです」

 

 正義を執行し秩序を取り戻す。

 これが操者であり教官でもある私の使命だ。

 覚悟しなさいアンドウマサキ。あなたを蛮行もここまでです。

 

 しかし、私の思惑とは裏腹に理事長は前もって決めていた答えを返した。

 

「却下だな」

「そうそう却下で……えぇ!?な、なんでですかぁ!」

 

 短くも断固とした返答に私は情けない悲鳴を上げた。

 

 〇

 

「私の話、聞いていました?アンドウマサキを放置することは学園の不利益にしかならないのですよ!」

「うむ。しっかりと聞いた上での判断だ」

「でしたら!」 

「キミはマサキ君のことを大きく誤解しているな。私怨も多分に入っているようだし」

「な、何を?」

 

 不敵な笑みを浮かべる理事長は子供を諭すような口調だ。

 体格的には完全に立場が逆であるが、妙な迫力があって気圧されてしまう。

 

「マサキ君をクビにはしない。これは個人的感情ではなく、学園の利益を加味した上での決定だ」

「そんな!」

「いちいち興奮しなくていい。一旦落ち着いて座ってくれ」

「いや、私は」

着席ッ!

「は、はい!」

 

 理事長の一喝に逆らえず着席してしまう。

 これが、学園最強の騎神を愛バにした者のプレッシャーなのか。

 キリュウイン家と並ぶ名門、秋川の名は伊達じゃない。

 

「再三にわたるキミの訴えを受けて、こちらも独自にマサキ君を調べていた」

 

 なんだそれは、調べておきながら彼の蛮行を見逃しているって事?

 

「生徒たちへのアンケート実施、ご近所の評判や各方面の聞き取り、学園裏サイトや掲示板も隅々までチェックさせてもらった」

 

 理事長は引き出しから厚みのある紙束を取り出し机の上にドンッと置いた。

 1ページ目には『アンドウマサキ調査報告書』と書かれている。

 

「マサキ君をクビにしない理由の諸々がここに記されている」

「そんなにいっぱい」

「ここからは私のターンだ。キリュウイン教官、覚悟はいいか?」

「っ!受けて立ちます!」

 

 理事長はアンドウ教官をクビしない理由を、ひとつひとつ丁寧に説明していった。

 彼がこの学園にどんな影響を与え貢献していたのかが語られる。

 それは、私が思い描いていた彼とは似て非なる人物像を表していた。

 長いので要約するとこんな感じ。

 

 ・操者との契約件数が増加

  前年比の3倍超の契約成立数は学園始まって以来の快挙である。

  デバイスの登場以来、危ぶまれていた人とウマ娘の絆に光明が差したとも言える。

  操者育成校との交流、ギルドからの斡旋、合コンや各種イベントも積極的に開催予定。

  この結果は、マサキと愛バたちの仲睦まじい姿を見た生徒たちが、自らもパートナーを欲したのだと推測される。

  マサキの人柄に触れて人間への偏見や男性恐怖症を克服した生徒たちもいるとか。

  

 ・授業が大変興味深い

  何をやるか事前に決めていない適当っぷりだが、受講希望者は回を重ねるごとに増加傾向にある。

  医療専門校の特別教育ですら困難なヒーリングを習得した生徒が多数いるとの報告。

  他にも、集団戦術リンクやエクストリーム尻尾鬼等、他では味わえない授業体験ができると絶賛されている。

  評判を聞きつけた他校からの出張授業依頼が殺到中。

 

 ・医務室が気軽に利用できるようになった

  ちょっとした相談からお喋りやサボりもOK?

  ネームドをはじめ入り浸る生徒も増えた。

  マサキが不在でも大体誰かいる。

  タキオンとかゴルシとか、高頻度でヤベェのがいる。

  

 ・養護教官として非常に優秀

  高度なヒーリングによる回復力が異常。

  骨折を5分以内に完治させた噂がある。目撃者多数。

  カウンセリングは専門外だが、話をするだけで気分が軽くなると評判。聞き上手?

  突発的な事故があっても、マサキがいれば何とかなるという安心感が凄い。

 

 ・御三家との強固な繋がり

  いろいろ言われているが、マサキに強大なコネクションが存在するのは確か。

  彼を間に挟めば御三家間のやり取りがスムーズに?

  御三家うんぬんより、親類縁者が《この項目は削除されました》

 

 ・単純に強い

  愛バたちの戦闘能力もさることながら、マサキ個人も相当な実力者。

  戦闘系クエストではチーム"ああああ"は大変重宝されている。

  ギルド側から名指しで依頼が来るほど。

 

 ・以下マサキに対するコメント

 

 『ケガを秒で治してくれた。マジ感謝します』

 『下手な病院よりマサキ教官、これ常識な』

 『キタちゃんたちが素直に羨ましい』

 『私も頑張って合コンに励みます』

 『うへへ、彼氏ができました』

 『授業すごく面白かったし為になった』

 『偶にでいいんで、また遊んでください』

 『御三家の人たちって近寄りがたいと思ってたけど、違うんだな』

 『あの4人を手名付けている時点でヤバい』

 『めっちゃいい匂い。吸わせてくれないかなあ』

 『どうすればネームドになれるん?』

 『正直セクハラされたい』

 『男の人って苦手だけど、マサキ教官は別かな』

 『マサキが関わるとみんな頭おか……面白くなる』

 『学園に行くのが楽しみになった』

 

 マサキを褒めちぎるような内容を理事長は読み上げていく。

 にわかには信じがたい、本当にアンドウ教官の話なのか?

 

「そ、それは偏った意見を抜粋しただけで…」

「もちろん、キミのように彼をよく思わない者もいるだろう。しかぁし!マサキ君を支持する声が圧倒的多数だと理解してもらいたい」

「ぐぬぬぬ」

「近隣住民との関係も良好なようで主婦層を中心に人気者らしい。ほう『子供の安全パトロール』と称して幼稚園や公園などの見回りもしているらしいぞ、感心だな」

「それはただの趣味でしょ!ロリコンでしょ!」

「はっはっはっ、我が校の教官が犯罪者予備軍なわけないだろう……ない、ないはず、マジで勘弁してくれ」

「理事長も自信ないじゃないですか、やだー」

 

 この流れはマズい。

 焦った私はロリコン野郎の正当性を否定しにかかるが、理事長にその悉く反論されてしまう。

 

「今やマサキ君は学園の名物教官だ」

 

 彼の評判で学園の名声もじわじわ上がっているのだと言う。

 

「彼は不利益どころか学園に大きな利益をもたらす存在」

 

 来年度の入学希望者は更に増える見込みらしい。

 アンドウ教官と懇意になりたい生徒や有力者の子供が殺到すると予想されるからだ。

 

 何なのだ、あの男は一体なんだ!?

 これでは私が思っているのとは真逆の『皆から愛されるいい奴』みたいじゃないか。

 

「以上だ。マサキ君をクビにしない理由、わかってくれたな」

 

 立ち上がった理事長が厳かに告げる。

 これは確認ではない『いい加減わかってくれ』と念を押されたのだ。

 

 だけど、私は、私は・・・

 

「違う、おかしい、間違ってる。こんなの絶対に間違っている!」

「この女まだ折れないだと!?ホントめんどくせぇ」

 

 ああそうか、そういうことか。

 アンドウマサキの毒牙は既に理事長にも及んでいたのだ。

 あの、人斬り秘書ですら手懐けているのだから当然というべきか。

 そこに思い至らなかった自分が阿呆だ。

 理事長は既に懐柔済み、ここで私が何を言っても無駄だった訳だ。

 本当にやってくれる。

 甘かった、説得などという生易しい手段を選択したのは間違いだ。

 武門の生まれとして、初めから力を振るうべきだとようやく気付いた。

 

「学園を皆を救うには、あの男を直接を倒すしかない!いいでしょう、私も覚悟を決めます」

「うわ、何かまた雲行きが怪しく…たづな、早く帰って来てー!」

「待っていなさい。あなたは私がこの手で、必ず…」

 

 私が拳を握りしめたとき、理事長室のドアがノックされた。

 

「理事長いますか?こちらにキリュウイン教官が来てな━━」

 

 これ以上ないというタイミングで憎っくき男の声が聞こえた。

 理事長の返事を待たず私はドアを開け放ち、敵の姿を捉える。

 

「うぉわっ!ビックリしたぁ。あ、キリュウイン教官?」

「……アンドウマサキ」

 

 ドアが内側から開いたことに驚きの声を上げる男。

 学園を生徒たちを狂わした諸悪の根源。

 いつもヘラヘラして、チヤホヤされて、それが当然だって顔して・・・

 ムカつくムカつくムカつく、本当にムカつく男だ。

 あなたさえいなければ、彼女たちの操者は私だったのに!むきぃぃ―――!

 ええい、お前なんてマサキと呼び捨てにしてやる。心の中でね!

 

 私はマサキに指を突き付け宣言した。

 

「アンドウマサキ、あなたに決闘を申し込む!」

「………ほぇ?」

 

 意味がわからないと言う顔で首を傾げるマサキ。

 その間の抜けた顔もムカつく!

 

 〇

 

 意味がわからない。

 キリュウイン教官が不穏な動きをしていると知らせを受け、ミークと共に彼女を探していたのだけど。

 いきなり決闘を申し込まれた?なんでや?

 因みに、ミークとは途中から別行動だ。彼女は今は『ああああ』基地に向かっているはず。

 キリュウイン教官は理事長に話をつけるとか、俺の愛バを説得するとか呟いていたらしいので、どちらか二択だと踏んだのだが。

 俺の方『理事長室に乗り込んで直談判』が正解だったようだ。

 

「決闘?誰が誰と?」

「私とあなたに決まっている」

「理事長、これはどういうことですか?」 

「不明ッ!私にも何が何だか」

「私とあなたの深き因縁に決着を付けるため、勝負ですアンドウマサキ!」

「あの、医者を呼ぶべきでしょうか?」

「呼ぶとしたら精神科か脳外科だな」

 

 俺と理事長は困惑する。

 キリュウイン教官の脳内では一体何が起きているのか、全くの謎である。

 

「さあ、覚悟しなさい。私が勝ったらあなたの愛バをもらい受けます!」

「どうしてそうなる!?」

「マサキ君が勝った場合は?」

「心底嫌ですが、ミークの尻尾を触らせてあげてもいいですよ」

「……」(。´・ω・)?

「『何言ってんだこいつ』みたいな顔、やめてくれます?」

 

 いや、本当に何を言っているんだ。

 キリュウイン教官に勝たなくてもミークの尻尾には何度も触っている。

 俺にブラッシングを頼んだこと、ミークは秘密にしていたらしいな。

 

「マサキ君、実はかくかくしかじか」

「な、なんだってぇぇーー!俺をクビにしろって本気で言ったんですか!どうして、そんな酷いです!」

「白々しい、あなたには懲戒になるだけの理由があるでしょう」

「誤解があります!話しましょう、ちゃんと話をすればわかって━━」

「その時期はもう過ぎたのです。あとは武をもって相対するのみ」

「そんな、理事長~」

「ううむ、参ったな。ここまでこじれては、もう殴り合い宇宙で解決した方が」

 

 およそ教育機関のボスとは思えない発言をする理事長であった。

 おちゃめな理事長も好きだけど、どうすんのよこれ?

 キリュウイン教官をワンパンするのは容易いが、それで事態が解決するのだろうか?

 『暴力振るわれたー』とか泣かれて余計にややこしくなる未来しか想像できない。

 それに、武力ありの勝負となればうちの子たち(愛バ4人)が嬉々として参戦する。

 最悪、キリュウインさんとミークは肉体的にも精神的にも破壊しつくされてしまう!

 やばいよやばいよ。

 

「話は聞かせてもらったわ!」

「うわっ、ね…たづなさん!?」

「たづな、窓から入るなと何度言えば」

「くっ、このタイミングで来るなんて」

 

 姉さんが颯爽と登場した。

 慣れ親しんだ感じで、外から窓を開けて理事長室に入って来た。

 しかも、青い顔をしたミークを小脇に抱えている。

 途中で捕獲され、状況を洗いざらい喋ってしまったのだろう。

 南無~。

 

「今戻りました。大体の状況はこの白い奴から聞いています」

「タス……ケ…テ」

「み、ミーク!無事?無事なの?返事をして、ミーク!」

「懲りずにまたマサキにちょっかい出したのね……えーと…鬼頭(おにがしら)オパーリン?」

「キリュウインです!」

「そうだったわね。キリュウインウザイさん」

「アオイです。ア・オ・イ」

「あっそ。どうでもいいから覚えないわ」

 

 姉さんはキリュウイン教官の名前を覚える気がないらしい。

 傲岸不遜な姉様も素敵////

 

「『決闘』と抜かしたわね、その意味わかってる?」

「もちろんです」

「学園最高権力者の前で『決闘』すると言ったのよ?冗談では済まされないわ」

「覚悟の上です」

 

 姉さんの圧にもキリュウインさんは怯まない。

 それだけ本気という事か。

 

 トレセン学園では話し合いで折り合いが付かなかった場合『決闘』というシステムを採用、そして推奨しているのだ。

 『遺恨を残すぐらいなら戦って白黒つけましょう』と、何代か前の生徒会が制定していまったのだとか。

 その伝統は今日まで受け継がれ、生徒間のみならず教職員の間でも有効に作用する。

 前回の大きな決闘は、チームスピカが他チームと修練場の使用日時で揉めたヤツだ。

 相手チームが無謀にも大食い対決を選んでしまい、スぺひとりで圧勝(蹂躙)していた。

 

「勝負は見世物にされ、勝敗の結果は学園中に広く流布されると聞きましたが?」

「その通りだ。卒業までずっと敗者の烙印は押され続けるのは、想像以上に過酷だぞ」

「誰だよ?こんな恐ろしくもふざけたシステムやろうとか言い出したのは」

「なんと!知らないのか?『決闘』システムの言い出しっぺはキミの━━」

「俺の何です?」

「い、いや、知らないならいい」 

「えー気になる」

「因みに私じゃないわよ。そもそも学園のOGじゃないし」

 

 姉さんではないとすると・・・まさかな。

 いい笑顔で親指を立てる母さんと、その仲間たちが脳裏に浮かんだ。

 もう!いろんなところに爪痕残し過ぎー!

 

「私は既に覚悟完了しています。全校生徒の前で勝負しても一向に構いません」

「俺は構うんですけど」

「逃げるんですか?不戦勝でもいいですけど、その場合は操者をやめてもらいます」

「だから、どうしてそうなるんですか」

「間違ってあなたの愛バになってしまった、不幸な子たちを解放するためです」

 

 間違ってもないし、全力で幸せにするつもりだし。

 

「俺のことを『ぶち好きじゃけぇ』と言ってくれる、あいつらの気持ちはどうなるんですか?」

「なんで広島弁?」

「何となくでしょ」

「無理やり言わせたり、洗脳状態での告白を真に受けるなんて、虚しくないんですか?寂しい男ww」

 

 む、無理やりなんかじゃないやい。ちゃんと本心から言ってくれてるもん。

 はぁ~キリュウイン教官と話すの正直しんどい。

 

「いや、もうなんか、すごく疲れる」

「だろう!キリュウイン君の相手をするといつもそうだ」

「迷惑な女。マンチニールの実を食べたらいいのに」

 

 俺と理事長はもうお手上げっス。

 姉さんの冷たい視線を受けても平然としている、キリュウイン教官はある意味すごい。

 マンチニールは本気でヤバい。

 

「あなたも教官の端くれなら、正々堂々と勝負を受けなさい。そして無様に負けなさい!」

「こいつ、決闘じゃなくてマサキを公開処刑したいのね」

「薄々そんな気はしてた」

「私の正義は揺らぎません。必ずや勝利を収め未来を掴み取る。青き清浄なる世界のために!」

「自分に酔ってるな」

「危険思想も混じってるから質が悪い」

 

 ダメだこりゃ。

 キリュウインさんは自分の絶対正義を信じて突き進んでいる。

 もう、ブレーキ壊れちゃってるね。

 絶対悪と認定した俺を倒すまで止まらないよね。

 

「諦めなさい、マサキ。こうなったらやるしかないの」

「たづなさん…」

「こういう奴はね、公衆の面前で痛い目見ないとわからないのよ」

「そうですね。アンドウ教官にはキツ目のお灸をすえてあげましょう」

「あ゛ぁ?」

「な、なんでたづなさんがキレるんですか?」

「やめてアオイ、たづなさん怒らせないで……私死んじゃう……吐きそう」

「ミーク君がヤバい!」

「たづなさん、ミークを渡してください。じゃないとゲロしちゃいますよ」

「あ、忘れてた。ほい」

「どうも、おーいしっかりしろ」

「うぅ……」

 

 全然ハッピーじゃないミークを手渡された。

 姉さんの強力無比な覇気に当てられてしまい、青い顔でぐったりしている。

 口からゲロだけでなく魂まで出そうになっているのが哀れだ。

 とりあえず、ヒーリング~。

 

「不埒な!そうやって私のミークまで毒牙に…最低です!」

「あ、じゃあここからはキリュウイン教官にバトンタッチで、ヒーリングは操者がしてあげるのが一番ですから」

「ミークの治療を途中放棄するなんて!本当に最低です!」

「「「めんどくさっ!」」」

 

 俺が何をやってもやらなくても、全て悪いように捉えられてしまう。

 姉さんが言うように、こうなったら『決闘』という荒療治で解決する他ないのか?

 キリュウイン教官はやる気満々、姉さんと理事長も『もうやっちまいな!』と目で訴えてくる。

 あとは俺次第だ。愛バたちには事後報告になってしまうが仕方ない。

 俺は覚悟を決めた。

 ミークの治療を終え、キリュウイン教官を真っ直ぐ見つめる。

 

「わかりました。『決闘』お受けいたします」

「うむ!よく言ったぞ、マサキ君」

「それでこそ、ね」

「フンッ、逃げなかったことだけは褒めてあげます」

 

 俺とキリュウイン教官の間でバチバチと見えない火花が散った。

 逃げも隠れもしない。やると決めたら勝つことだけを考えよう。

 

「理事長」

「あい分かった。トレセン学園理事長、秋川やよいの名において二人の決闘を承認する!!」

 

 承認されてしまった。

 ちょっとドキドキしてきたけど、もう後戻りできないぞ。

 

「日時や勝負方法について話し合わないとな」

「それなら、今月末に行われる『聖蹄祭』で大々的にやってしまうのはどう?」

「妙案ッ!教官同士のエキシビジョンマッチとしてイベントに組み込んでしまおう」

「いぃぃぇ!?何か話が大きくなってる。や、やめましょう。決闘は人目につかない場所でひっそりとやるべきだと、俺は思うな」

「私は望むところです。どちらが正しいか、より多くの人に判断してもらうべきです」

「えぇぇ…」(´Д`)

 

 勝手に盛り上がる理事長と姉、闘志を燃やすキリュウイン教官、未だに意識不明のミーク。

 あははは、もうどうにでもなーれ!

 俺は混迷極まる理事長室からそっと退出するのであった。

 

 決闘予定日はまだ先、今はそれよりもなすべき大事がある。

 愛バと温泉旅館に泊まるのだよ。

 非日常のゆったり空間で思う存分羽を伸ばそうじゃないか。

 

「美味いメシ!絶景!浴衣!混浴!露天風呂!きゃっほぉーー!」(≧▽≦)

 

 チェックアウト時には『ゆうべはお楽しみでしたね』と言われたい!

 

 決闘?ま、何とかなるっしょ。



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借りウマ狂争

 決闘?

 そんなことより温泉だ!!

 

 だから行ってきた・・・・・・そして帰って来た。

 

「予定外の事態が相次いだけど、中々に有意義な時間だったな」

「そうですね。でも、まさか源泉が枯れていて、自分たちで温泉を掘ることになるとは思いませんでしたが」

「おまけに旅館が謎の武装勢力に占拠されているとかw笑うしかなかったよww」

「ぶっつけ温泉採掘にテロリストとの熱い銃撃戦。個人的には大満足でした♪」

「みんなで協力して新しい温泉を掘り当てた!すっごく面白かった」

 

 突如として枯れてしまった源泉、はた迷惑なテロ集団『混浴解放戦線』の決起。

 二つの大事件が重なり窮地に立たされた温泉街は暗澹(あんたん)たる空気に満ちていた。

 そんな事とはつゆ知らず、ワクワクしながら旅館を訪れた俺と愛バたち。

 『なんじゃぁこりゃぁーー!?』と、叫んでしまったのも無理もない。

 

 せっかくの休日を台無しにされた俺たちは手始めに、その怒りをテロリストにぶつけてやった。

 戦いを目撃した地元住民に実力を買われ、温泉掘りとテロリストの掃除を同時進行で片付けたのだ。

 そして見事、温泉は復活!テロに加担したアホどもは、サトノ家が手配した黒服に連行されて行った。

 俺たちの奮戦で温泉街は元の活気を取り戻したのである。

 めでたしめでたし。

 と、いう事があったのだ。

 

「"ゆけむり温泉編"全部カット!」

「次のイベントが控えてます。致し方ありません」

「ココが重機を巧みに操縦する横で、シロがドリル尻尾で単身地中潜行するシュールな光景があったりしたのに、勿体ない」

「数時間地中で迷子になった私の苦労が語られないとは、残念無念」

「調子に乗って深く掘り過ぎた、シロちゃんが悪い」

「まあまあ、そのお陰で温泉を掘り当てられたことだし。結果オーライだ」

 

 功労者である俺たちは街をあげて歓待されたのだ。

 豪勢な食事はどれも美味しく、掘りたてのホヤホヤ温泉は中々に趣があって楽しめた。

 最初こそドタバタしていたけど、全員しっかり身も心もリラックスできましたとさ。

 

 〇

 

 トレセン学園旧校舎ダンジョン

 

 今日も俺たちは修練に明け暮れていた。

 俺たちだけ入れる隠しダンジョンで、こっそり鍛えて世界最強てなわけだ。

 愛バはバファリンではないので、無意味にチューはしません。

 

「もう終わり?ザコノダイヤモンドに改名したらw」

「私はスロースターターなんですよ!ここからの逆転劇に乞うご期待」

「マサキさんが見ておられます。負けられません」

「無用な心配じゃない?マサキが見てるのは()()()だからさ」

「「「なんだとぉ!」」」

「ちょ、三対一はやめてよ~」

 

 広いボス部屋のエネミーを早々に片付けた愛バたちは、二組に分かれて模擬戦の真っ最中だった。

 なぜか今はココ1人が集中攻撃を受けているが、急なルール変更でもしたのかな?

 実戦さながらの激しい戦闘は苛烈の一言に尽きる。

 もしこれを地上で行ったら、校舎は崩壊を免れず、理事長が卒倒して姉さんがブチギレる事だろう。

 本当に、このダンジョンは修練に打って付けの場所だ。

 人目に付かず広くて頑丈、壊れても時間経過で修復され、入る度に形を変えるダンジョン。

 おまけにアインストもどきの敵性体まで出て来る(こいつらも時間経過で復活)

 とにかく、鍛えるには至れり尽くせりの条件が揃っているのだ。

 学生時代の母さんたちが、頻繁に利用していたというのも頷ける話だ。

 何処のどなたが造ったかは知らないが、親子二代に渡り世話になってます。

 

 模擬戦を眺めつつ、念入りなストレッチで体を解しておく。

 

「よし、そこまでだ。みんな集合~」

「「「「はい!」」」」

 

 頃合いを見計らい、愛バ同士の戦いを一時中断させる。

 

「余力はまだ残っているか?」

「大丈夫、シロ程度には本気出さない」

「問題ありません。クロとか言うアホに無駄な体力を使いましたが、すでに回復済みです」

「まだやれます。ココさんの技巧は今日も勉強になりました」

「うん、こっちもやれるよ。アルのパワーには今日も肝が冷えた」

 

 いけそうだな。バスカーモードを発動っと。

 解放された覇気がボス部屋に満ち、部屋全体を揺るがした。

 それだけで俺の意図は伝わったようだ。

 愛バの目がギラギラしたものに変わっていく。

 

「俺とも手合わせしてくれるか?」

「やるやる!私いっちばーん!」

「タイマンでしょうか?」

「一対二で頼む。俺は一人で、お前たちは自由に二人組を作ってくれ」

「では、無難なクロシロとアルココで」

「頑張ろうね!勝ったら、そのままマサキを好き放題だ」

「「「そいつはいい!すごくいい!」」」じゅるり

 

 ココの発言に涎を垂らすクロ、シロ、アル。

 待て待て、そう簡単にやられないぞ。

 時間が惜しいので早速開始。最初はクロとシロが相手だ。

 二人と相対するのはこれが初めてではない。

 大きくなった二人と再会してから、何度も模擬戦を重ねて来たんだ。

 でも、その度に何だか懐かしい気分になる。

 やっぱ、出会った頃を思い出すよな。

 

「あの頃とは違うよ。いっぱい強くなったからね」

「マサキさんを思う気持ちも、ずっと強くなってます」

「そいつは嬉しいね」

 

 小さかった二人は、想像以上に強く美しく成長してくれた。

 俺だって負けていられない。

 

「二人とも頑張ってください。さて、マサキさんの雄姿をバッチリ見届けなくては」

「マサキの体力削ってくれたら、あとは私とアルがやるから。適当なところで負けてね」

「外野め、好き勝手言いおってからに」

「年長組に出番を回してはマズいです」

 

 持ち込んだアウトドアチェアに座ったアルとココ、二人はすっかり観戦モードだ。

 二人の声援を聞きながら、俺は集中していく。

 相手が愛バだからといって油断はしない。むしろ、愛バだからこそ気を引き締めるべきだ。

 クロとシロの危険さは、操者の俺が一番よく理解している。

 

「アル、合図をくれ」

「承りました。では、両者ともいざ尋常に……始めっ!」

 

 開始の合図と同時、俺たちは動き出す。

 互いに相手を知り尽くした存在。正直かなりやりづらいが、それは向こうも同じだ。

 だからこそ、工夫を凝らし趣向を凝らし、出し抜けたのなら最高に気分がいい。

 圧倒してやろう、驚かせてやろう、俺は、お前たちの操者は、強いのだと、

 お前たち隣に立つ権利を持つ男は、この俺なのだと証明してやるのだ。

 

「いくぞ、クロ!シロ!」

「うん。目一杯、楽しませてよね!」

「私の力、心行くまで堪能してください」

 

 ぶつかる。

 憎しみや怒りからではない、互いに想い合い、愛するからこその戦いだ。

 激突の最中、自然と笑みが零れる。それはクロとシロも一緒だった。

 本当に強くなったな。これからもっともっと強くなる、楽しみだ。

 卓越した技巧を繰り出す二人の愛バに心からの賛辞を送ろう。

 でも、負けない!

 クロの拳を受け止め、シロの尻尾と蹴りの連打をいなして躱す。

 まともに食らえばただでは済まない、必殺の威力と速度を持った攻撃が何度も俺を襲う。

 ああ、最高だ。本当に俺の愛バは最高だ。

 

 だから見せよう。

 えい!えい!

 

「むん!」

 

 俺もお前たちに、最高だと思ってもらいたいから。

 

「来るっ!?」

「お、お、おち、おち落ち着け、ビビるな私!」

 

 バスカーモード・・・レベル2

 覇気を結晶化させ、オルゴナイトの武装を出現させる。

 様変わりした俺にクロとシロは少々慌てるが、すぐに冷静さを取り戻した。

 

 さあ、ここからだ。

 

「こっちもいくよ!」

「自慢の尻尾を出しますよ!」

 

 クロとシロもオルゴナイトを解禁する。

 クロの両拳が、シロの尻尾が、緑の結晶に包まれた凶器へと変貌した。

 戦いはオルゴナイトを使ったものへと移行、更に激しさを増していく。

 

「おおおっ!」

「「はあああっっ!!」」

 

 俺は咆える、クロシロも咆える。

 三人で猛り狂う。

 操者と愛バの雄叫びは、ダンジョンに轟き響き渡っていく。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 仲良く戦っているマサキ達を観戦中のアルとココ。

 キャンプ用のテーブルと飲み物を注いだマグカップも出して優雅に(くつろ)いでいる。

 時折、こちらに飛んで来る流れ弾には、ご注意だ。

 

「クロちゃんの腕、シロちゃんは尻尾、アルのはどんな感じ?」

「私は脚に出ますよ。結晶は各々の適性部位に発現するみたいです。ココさんは?」

「なんかね、装備や持ち物に出るの。この間、食事中に箸がオルマテして焦ったw」

「麺じゃなくて良かったですね」

「プッ……オルゴンラーメン……これは売れない食べれないww」

「こ、ココさん。カップが!?」

「え?あ、ブフッ!!」(´゚ω゚):;.’:;ブッ

 

 言ったそばから、自分のマグカップが結晶化して吹き出すココ。

 自分に向けて放たれたコーヒー飛沫を、オルゴンクラウドで難なくガードするアル。

 年長組の覇気結晶術(オルゴンアーツ)も、板についてきているのであった。

 

 ・・・・・・マサキ奮戦中・・・・・・

 

 な、何とか勝てた。

 二回戦のアルとココを相手にしたところで俺の体力は尽きた。

 正直かなり危なかった(゚Д゚;)

 日に日に強くなっていく愛バたち、今後の成長にも期待大だ。

 

 今日の修練はここまで。次回をお楽しみに。

 ごめんだけど、帰りは誰かおんぶorだっこで運んで・・・

 コラ!ケンカしないの!

 

 〇

 

 『聖蹄祭(せいていさい)』とは、クラスやチーム、有志の集まりなどによって出展される出し物などがメインの、いわばトレセン学園の文化祭にあたる行事である。

 祭りの二日間、学園は外部からの客人を招く事になる。

 昔は一般公開されていたらしいが、日本中から人々が殺到してトラブルが相次いだため中止。

 現在は定員を設定しての抽選制になっている。

 来場希望者はこの抽選に並々ならぬ熱意込めて応募、結果発表の日まで『お百度参り』する勢いで願掛けするのだとか。

 例外的に、生徒と教職員は事前申し込みさえすれば、3名まで抽選なしで聖蹄祭に呼ぶことができるのだ。

 遠方に住まう家族や友人を学園に招待する数少ない機会ということで、寮暮らしの生徒たちは誰を呼ぶのかウキウキしながら頭を悩ましていたりする。

 

 俺はキリュウイン教官と決闘することになった。

 そのことは瞬く間に学園中に知れ渡り、噂の的になっている。

 しかも、決闘は今月末に開催される『聖蹄祭』で執り行うというのだから、盛り上がるなと言う方が無理である。

 この手のイベントが好きな教職員も生徒も『祭りに楽しみが追加された』と、好意的に受け止めて、その時を心待ちにするようになった。

 

 当事者の俺と愛バたちには毎日のように、応援やら冷やかしやらの言葉と視線が投げかけられる。

 注目度は普段の5割増しだ。

 周囲の期待感が否が応でも伝わって来るから、俺も何だかもソワソワしちゃう。

 

 愛バたちは全員、決闘には非常に乗り気である。

 いや、ホント心配になるぐらいノリノリだ。

 ここ最近の修練にも一段と気合が入っていて、ちょっと怖いぐらい。

 

 一例を挙げると、

 チーム基地に人型サンドバックを設置して、頭部にキリュウイン教官の顔面アップ写真を貼り付ける。

 それを四人が蹴る!殴る!

 ちょっと横を通る度に、視界に入る度、意味もなく、とにかく蹴る!殴る!

 

『でぃやぁぁぁ!』

『やってやるぅ、やってやるぞぉ!』

『行くぜぇ!』

『落ぉちろってんだよ!』

 

 久しぶりの状態異常"島田兵"に、愛バ全員が罹患(りかん)する事態になってもやめる気配はない。

 サンドバックがボロクズになると、空かさず次の分を準備して設置する。

 愛バ曰く、今、基地にあるのはキリュウイン28号らしい。

 使用済みの1~27号までの骸は吊るしたり、磔にしたり、火刑に処されたりと、チーム基地周辺にて無残な姿を晒したままだ。

 そのせいか、ここしばらく基地には俺たち以外誰も寄り付かない。

 普通に不気味で怖いから仕方ないね。

 

 幸いにも?ミークの写真は用意されてはいない。

 最初からは標的はただ一人に絞られている。

 うちの子たちは『決闘』=『キリュウイン教官をボコボコにできる絶好の機会』と考えているんだ!

 このままでは決闘中に起きた不慮の事故で、キリュウイン教官が再起不能になってしまう。

 よく言い聞かせ、よく見張っておかなければならない。

 俺一人じゃ不安だ。姉さんやテュッティ先輩たちにも協力を要請しておくか・・・

 

 〇

 

「遅刻遅刻~みんなごめん」

 

 医務室の備品整理と、七色に発光するゲンさんの治療、逃げたタキオンの山狩りに参加したので、待ち合わせに遅れた。

 おかげでランチタイムを過ぎてしまったじゃないか。

 学園のカフェテリアには、愛バたちと何人かのネームドが仲良く駄弁っている最中だった。

 俺に気付くと確保していた席へ案内してくれる。

 

「お疲れ様です。どうぞこちらへ」

「ありがと。ふぃー、アホの捕縛に手間取って疲れたぜ」

「それは大変でしたね」

「お昼まだでしょ、何か食べる?」 

「うーん、と。今日のおススメは?」

「おススメは"鴨肉キーマカレーと極厚ベーコンポテサラ"です」

「お、美味そう。じゃあそれで頼む」

 

 メニューを決めると、愛バが手早く注文してくれた。

 俺が何もせずとも、お冷やおしぼりが用意されてありがたい。

 甲斐甲斐しい愛バたちに感謝しつつ、運ばれてきた料理を頂く。

 おぅ、期待通り美味しいじゃない。思わず顔がほころんでしまう。

 そんな俺を嬉しそうに眺める愛バたち、そしてネームドたち。

 

「やだ、皆に見られてる。なんか恥ずかしい////」

「美味そうだな。一口くれよ」

 

 ゴルシが不躾にそんな台詞を吐いた。

 愛バにメンチを切られても、どこ吹く風なゴルシは面の皮が厚い。

 

「一口とか言ってがっつり食いそうだから、だーめ!」

「ケチくせぇ奴だ」

「ゴルシちゃん、邪魔しないで。ご飯を食べてご満悦のマサキを見て幸せに浸ってるんだから!」

「「「そうだそうだ」」」

「へーいへいへい。殺されないうちにやめとくぜ」

「ならば、私に一口ください」

「「「「スぺはもっとダメだろう!!」」」」

 

 その場にいる全員がツッコんだ。

 スぺの一口は一皿の間違いじゃないの?

 ダメダメ、ここで甘やかしたら俺の分がなくなる。

 『餌付けをするな』とミオにも言われているんだから。

 

「俺じゃなくてミオに食わしてもらえ、な?」

「ミオさん。最近、私には奢ってくれないんですよ。酷いです」

「スぺちゃん、忘れたの?遠征クエスト用に準備した食糧を、全部食べちゃって怒られたでしょ」

「出来心です。もう済んだ事です。許してくださいよ~」

「三日分の食糧だったんだよなあ」

「スぺ先輩の胃は化物ね」

 

 チームスピカ、約一名の食いつくし系によりエンゲル係数激増。

 これもいつものやり取りらしく、和やかな空気が流れた。

 スぺの食欲に呆れつつも、俺は遅めの昼食を食べ終える。

 ごちそうさまでした。

 

 ちょうどそのとき、備え付け壁掛けテレビの映像が切り替わる。

 

「時間通りですわね」

「あ、会長が映った!音量上げて」

 

 会議室のライブ映像らしく、生徒会長のシンボリルドルフと理事長の姿が映っている。

 ブライアンとエアグル姐さんは、ここにいるからいいとして、

 姉さんの姿は・・・見えないな?

 あら、理事長とルルの顔を交互にズームしたりしなかったりと、カメラワークがめっちゃ不安定やんけ!?

 恐らく不慣れな姉さんがカメラマンを買って出たのだろう。

 頑張って姉さん。俺たちが画面酔いする前に手振れだけでもなんとかして!

 俺の念が通じたのか、程なくしてカメラワークは安定した。

 さすがお姉さまです。さすあね!

 

「……ん?もう映ってる。理事長、始めましょう」 

「うむ。生徒並びに教職員の皆、ごきげんようだ!理事長である」

「みんな元気かな?生徒会長だよ~ん」

 

 学園のいろんな場所で『ごきげんよー』とか『理事長きゃわわっ!』等の声が響く。

 ルルの『だよーん』は見事に黙殺された。

 エアグルーブのやる気が下がった。

 カフェテリアに皆が集まったのは、この放送を見るためだ。

 ここにいないキリュウイン教官たちも、どこかでこのライブ映像を見ている事だろう。

 

「来週に迫った『聖蹄祭』の準備で忙しいと思うが、少しばかり目と耳を傾けてもらいたい」

「例年とは違った催しが行われるのは皆知っての通り。そう……」 

 

「「キリュウイン教官とマサキ教官の『決闘』だ!!」」

 

 誰が叫んだのか『オオオオオ』と唸るような響きが聞こえる。

 理事長とルルの言葉に学園が興奮と熱気で揺れているのだ。

 俺は恥ずかしくて手で顔を覆う。

 愛バが代わる代わる『よしよし』してくれなければ、

 はぐれメタル並みのスピードで逃げ出していたところだ。

 もう嫌、こんな大事になるなんて聞いてない。

 

「今日は二人が、何で勝負をするのかを、皆の見守る中で決めようと思う」

「私と理事長で『決闘』に相応しい競技を厳選しておいた。その一覧がこれだ」

 

 ルルが示した先には円形のルーレットがあった。

 円はカッティングされたピザのように等間隔で区切られ、更には色分けされていて、何やら文字が書かれている。

 ふーん、これを回して種目を決めるのね。

 どれどれ・・・

 

 『ブリッツボール』『スーパー鉄球ファイト』『クィディッチ』その他いろいろ。

 

 待てや。

 これらのどこが決闘に相応しい競技なの?

 ルールどころか実現不可能なヤツまで混ざっている。

 嫌だなぁ、本当にこの中から選ぶつもりか・・・・・・え!?

 俺の目は競技一覧のひとつに釘付けとなった。

 何度か瞬きしても、目を擦っても、書いてある文字に変化がない。

 見間違いであってほしかった。

 

 『肝試し』・・・きも・・だめし・・・???

 

 怖い場所へ行かせて、その人の恐怖に耐える力を試すことである。

 もっぱら夏の夜に行なわれ霊的な恐怖に耐える、日本の伝統的なゲームの一種。

 それが肝試し。

 

 うん。絶対無理!!

 

「マジヤバイんだけどコレ、マジヤバイよ、どれくらいヤバイかっていうと、マジヤバイ」

「ショックでマサキさんの語彙力が低下した!?」

「何がヤバイのw?」

「なにがやばいかって、やばいんだよコレ、コレだよコレコレ、まじやばいからねコレ」

「あ、『激辛大食い対決』なんてのもある」

「もうヤダぁぁーー!!お化け怖い、辛いのも怖いぃぃ」(゚Д゚;)

「マサキさん、こんなに怯えてしまって…私、今すぐ理事長たちに抗議してきます!」

 

 憤ったアルは、抗議のため会議室へ向かおうとして立ち上がる。

 その横でクロたちが他の競技について話していた。

 

「ねえ『酒戦(しゅせん)』って何?」

「お酒の飲み比べの事ですよ」

「下戸のマサキにはこれもキツイね」

 

 アルは何事もなかったように着席した。

 愛バたちの間に白けた空気が漂う。

 

「アル姉さん。抗議しに行くのでは?」

「もう少し様子を見ることにします。きっと、理事長たちにも何か深いお考えがあるのでしょう」

「まあ、マサキの代わりにアルが飲み尽くせば勝てるけどさ」

「私を倒したければ酒蔵ごと持って来なさい!」キリッ

「この吞兵衛(のんべえ)ウマ、飲みたいだけだよ」

 

 飲み比べだった場合は自信たっぷりなアルに出てもらうとして、

 本当にこの中から『決闘』の内容を選ぶのか?

 俺に不利なヤツが当たった場合、かなり苦しい戦いを強いられる事になるぞ。

 

「さっそく決めていくぞ!ルーレットスタートッ!」

 

 俺の不安をよそに状況は進行していく。

 理事長の掛け声で競技の書かれた円盤が回転し始めた。

 

「頼んだぞ、生徒会長!」

「任されよう!」

 

 ルルが意気揚々とダーツを構えた。

 ダーツの刺さった箇所の競技で決まるという、シンプルな方法だ。

 頼むぞ、ルル。『肝試し』だけはマジで当てないでくれ。

 

「キリュウイン教官、マサキ教官、私の一投が二人の命運を分ける事になるが、クレームは一切受け付けないからそのつもりで」

「うむ」

「愛バの皆も私を恨んだりしないでくれ。おや、今素晴らしいダジャレが浮かんでしまったぞ、どうしよう?」

「うむ。どうでもいいな」

「では、ダジャレを披露しつつダーツを投げようか。学園中に轟け!私の圧倒的ギャグセンス」

「はよなげろ」

「行くぞぉ!『サイダーを発見した人は天才だー!』」

 

 ルルの『テン・サイダァァーー!!』という叫びと共にダーツが投擲された。

 エアグルーブのやる気が下がった。そのうちエアグルーブは 考えるのをやめた。

 

 今のダジャレ、俺は割と好きかも。腕を上げたな、ルル。

 ルルの投げたダーツは小気味よい音を立て、ルーレットに突き刺さる。

 貫通したり、ダーツがへしゃげてないところを見ると手加減はしていたようだ。

 ルーレットの回転が段々と遅くなる・・・どれだ、どれに決まった・・・ゴクリッ。

 回転が止まるとカメラがズームアップされ、ダーツの刺さった箇所の競技名が大きくテレビ画面に映された。

 

 『()りウマ狂争(きょうそう)

 

 ん?聞いた事のない競技だな。かりうまって何?

 

「決定ッ!聖蹄祭で行われる決闘は『借りウマ狂争』に決定だぁーー!!」

「フフフッ、これ以上ない大当たりだね。決闘も私のダジャレも!」

 

 理事長の元気な宣言に学園がまた揺れた。

 驚きと興奮と歓声が学園中を満たしていく。

 俺たちのいるカフェテリアも騒然となるが、当事者の俺はイマイチぴんと来ていない。

 だって、競技の内容がわからないんだもん。

 

 変だな。騒がしい周りと違い、やけに愛バたちが大人しいぞ。

 『借りウマ狂争』と聞いて固まっていた彼女たちは、俯いたまま立ち上がり、

 

「「「「やらせはせん!やらせはせん!やらせはせんぞ!!」」」」

 

 顔を上げたときはブチギレていた。

 濃い顔やめて!いつもの可愛い顔が台無しだ。

 

 こりゃマズい。

 俺はプラズマビュートで愛バ4人を即座に拘束した。

 事態を察したスピカメンバーや他のネームドにも手伝ってもらい、愛バたちを座席に無理やり押し戻す。

 

「そんなに興奮してどうした?」

「重課金したソシャゲがサービス終了でしたんだろ」

「それは悲しいな」

「違います!『借りウマ狂争』だなんて、あまりにもふざけてます」

「今度こそ断固抗議すべきです」

「こんな事なら決闘やらなくていいよ」

「これもキリュウインとかいう奴が悪いんだ」

 

 めっちゃ怒ってるな。

 『借りウマ狂争』とやらが余程気に入らないらしい。

 愛バたちの反応から察するに、かなりの危険を伴うか、高度な技能を要求される競技なのだろう。

 だが、決まってしまったものは仕方がない。

 逆立ってしまった愛バたちの尻尾を手櫛で整えつつ、俺は言葉を紡ぐ。

 

「心配するな。どんな競技でも俺とお前たちが一緒なら負けやしない。そうだろ?」

 

 操者と愛バの絆ってのを見せつけてやろうじゃないか。なあ?

 

「……一緒ならね」

「マサキさ~ん~」

 

 抱き着いてくるクロとシロ、グリグリと額を擦り付けて来る仕草は大きくなっても変わらず可愛い。

 おーよしよしヾ(・ω・`)甘えん坊さんだね~。

 アルとココも何だか困った顔で俺を見ている。

 

「マサキさん『借りウマ狂争』が、何かご存知ですか?」

「全然知らね」

「だと思った!あのね、借りウマってのは……」

 

 ココが何か言いかけたとき、画面の理事長たちも何事かを話し出す。

 

「知っての通り『借りウマ狂争』では、愛バの使用は一切禁止である!」

 

 は?

 今、何とおっしゃいました?

 

「つまり、愛バではない騎神を使役しての戦いとなる」

「『借りウマ』は学園の実力者を勝手にエントリーしておく、自薦他薦も大歓迎だ」

「キリュウイン君とマサキ君、どちらの操者に誰がレンタルされるかは、実際に戦う直前までわからない」

「普段あり得ない組み合わせが楽しみでもあるな」

 

 愛バ使用不可だと……俺たちの絆、見せつけられないじゃん!?

 

「ハッピーミーク、キタサンブラック、サトノダイヤモンド、メジロアルダン、ファインモーション」

「この5名は『借りウマ狂争』中は隔離……ゴホンッ、応援席にて大人しくしているように」

「声援を送るぐらいなら許可しよう」

 

 マジか。

 こんなん愛バたちが怒るのも無理ないわ。

 

「こうなったら」

「やられる前にやりますか」

「準備はできています」 

「早い方がいいね。決闘の言い出しっぺを片付ければ万事解決だ」

 

 アカン。こやつら、実力行使する気満々である。

 ネームドたちに愛バを制止する手助けを頼も・・・みんな~目を逸らしちゃダメよ。

 いいの?俺と愛バが争ったらカフェテリアぶっ飛ぶよ?

 みんなの憩いの場が消えるよ?

 

「言い忘れていたが、一応忠告しておく」

「今回の決定を不服として『決闘』を妨害、または関係者に危害を加えた者は、厳罰に処すのでそのつもりで」

 

 理事長!ルル!さすがだ。

 こっちの状況が見えているのでは?と、思うほどのナイスタイミング!

 厳罰とまで言ったのだから、相当厳しいお仕置きが待っているんだろうな。

 

「ほら、今の聞いたでしょ。座りなさいな」

「く、くそぉ」

「先手を打たれました」

「ムカムカします。アルコールが足りません」

「イライラするなあ。麺が足りない」

 

 ヘナヘナと力なく席に着く愛バたち。

 生徒会や姉さんが動くとあっては、さすがの愛バたちも我慢するしかない。

 しょげてしまった愛バたちを撫でていると、ゴルシが声をかけてきた。

 

「で、どうするんだ?」

「どうするも何も、やるしかないだろ」

「今の内にゴルシ様に媚のひとつでも売るべきじゃね?」

「じゃあさ、ボクは"はちみー特大サイズ"でいいよ」

「私はこの限定スイーツが……な、何でもありません///」

「お前らなぁ」

 

 そっか、ネームドたちが『借りウマ』に選ばれる確率は非常に高い。

 彼女たちのご機嫌取りをしておけってのも一理ある。

 ただなあ、味方になるか敵になるか不明な奴に手あたり次第貢ぐのもなあ。

 とりあえず、今まで通り仲良くやって行きたい。

 

「まあ、なんだ。一緒に戦う事になったらよろしく頼む。ホント頼むよ!」

 

 紳士な俺のお願いにネームドたちは『しかたねぇな』と、苦笑いだ。

 こういう地道な好感度稼ぎが後々響いて・・・てててて!

 痛い痛いイタイ!

 コラコラ!4人同時にお尻をつねるんじゃありません。

 浮気じゃないのよ、お仕事の付き合いなのよ!

 

「もし敵になったら…すぐに終わらせてやるからな!さっさとやられろよ!」

 

 とびきりの笑顔で告げると、ネームドたちが『うわぁ…』と、若干引いていた。

 例え友人知人でも敵ならば、このマサキ容赦はせん!

 あ、今の発言は正解みたいだ。

 愛バの尻尾がファサファサして来る感触がこそばゆい。

 

「マサキさん」

「何だ?」

「命令して下さればキリュウインの首を━」

「ダメ!」耳ギュー

「あ、あ、こんな所で、みんな見てるのに///」

「シロばっかりズルい!私も」

 

 物騒な事を言い出したシロ、やきもちで突っ込んで来たクロ、

 二人の耳を触って精神を落ち着ける。

 

「私たちが参加できないとは、残念です。心配です」

「油断しないでよね、マサキ。まだ何か起こりそうな予感がする」

「十分気を付ける。お前たちも早まったりしないようにな」

「「……」」

「返事しなさい」

「「はーい…」」

 

 その納得できてない感じ何?

 本当に早まったりしないでよ!

 アルとココの耳も目一杯お触りしておいた。

 

「なるようになる、か」

 

 聖蹄祭まで、あと1週間だ。

 

 〇

 

 決闘が『借りウマ狂争』に決まったとき、

 ハッピーミークは心から安堵していた。

 

「良かった……」

 

 キタちゃん、ダイヤちゃん、アルダンさん、ファイン、

 あの凶悪な四騎を直接相手しなくていい。

 それだけでこんなにも心が休まるのか。

 

「殺されるのが私じゃなくて良かった・・・!!」

 

 薄情な呟きをしてしまったが、それほどあの四騎は怖いと思ってくれていい。

 で、殺されるかもしれない私の操者はと・・・

 

「ククク…まさか、キリュウイン家の十八番である『借りウマ狂争』で決闘とは、笑うなと言う方が難しいww」

 

 なんか嬉しそうだな、放っておこう。

 キリュウイン家では名家の頭首を招いた御前試合で『借りウマ狂争』を行う習わしがあるのだ。

 当然、アオイも学生時代から経験済みであり、数度に渡る試合全てで好成績を修めている。

 本人が誇るように、アオイのリンク能力は本物なのだ。

 

「勝利の女神は私に微笑みました。アンドウマサキ!首を洗って待っていなさい。アーッハッハッハッ」

 

 だけどね。今回ばかりは相手が悪すぎるよ。

 上には上がいると言うか、絶対に敵に回してはいけない人が、この世の中にはいるのだと、

 アオイには理解してもらいたかった。もう、手遅れだけど。

 

 高笑いをする操者を放置して、ミークはそっと部屋を抜け出す。

 廊下を進み、階段の踊り場まで来たところでスマホを手にした。

 目的の番号を確認してタップ。

 

「ん、私……頭首様に繋いでくれる?そう、大至急でお願い」

 

 受付と軽く会話してから数コール。

 スピーカーから穏やかな男の声が聞こえた。

 

「やあ、ミーク。私に直接なんて珍しいね、アオイがどうかしたのかい?」

「アオイはいつもどうかしてます。それより、かなりマズいご報告が」

「なんだか怖いなあ。どのくらいマズい?」

「キリュウイン家が取り潰しになるぐらいマズいです」

「聞こうか……」

 

 ミークは説明した。

 アオイが同僚教官に喧嘩を売ったことを、

 それが大事になり、学園のお祭りで大々的な『決闘』にまで発展した事をだ。

 

「んー、あの子は思い込みの激しいところがあるからなあ」

「私の監督不行き届きです。申し訳ありません」

「いいさ。アオイが毛嫌いするからには、相手も特別なのだろう?」

「よくお分かりで」

「わかるさ。昔から、娘が執着する相手は不思議な魅力を持っているからね。キミみたいに」

「変人と言ってくれていいですよ。ですが、此度の相手は……ガチです。規格外っぷりが半端ないです」

「やれやれ、御三家絡みか」

「その通りです」

 

 勘のいい頭首はアッサリと言い当てた。

 ミークはアオイの揉めた相手が、御三家令嬢の操者なのだと伝えた。

 並みの男であれば、この段階で泡を吹いて卒倒しているだろう。

 しかし、キリュウイン家頭首は並みの男ではなかった。

 相手が御三家でも不用意にへりくだったりしない。

 それだけの力がキリュウイン家にはある。

 

「メジロ家かい?それともファイン?あー、サトノとだけは揉めたくないなあ」

「全部です」

「はい?」

「メジロ家の秘蔵の頭首候補、ファイン家の現頭首、サトノ家次期頭首の厄災、同じくサトノ家で北島組のお嬢」

「や、待って、待ってくれ。冗談はやめてくれないか、ミーク」

「冗談ならどれだけいいか」

「本気なのか?しかも、四騎まとめてだと!?」

「マジです。メジロ、ファイン、サトノのヤバいところ揃い踏みのフルコンプです」

「……ちょっと、コーヒー飲んでいい?」

「はい。一服して心を落ち着けて下さい」

 

 キリュウイン家頭首、さすがに動揺する。

 きっと、電話の向こうではコーヒーカップを持つ手が震えているだろう。

 御三家をまとめて敵に回すという事は、日本在住の騎神その7割強を敵に回すと同義だからだ。

 どう見積もっても勝ち目がない。

 

「もう、よろしいですか?」

「あ、ああ。しかし、参ったな…その相手、操者を懐柔できなければキリュウインは終わる……いや、まだ挽回のチャンスが…」

「頭首様は勘違いしておられます。真に警戒すべきは愛バではなく、操者の方です」

「わかっているとも。御三家フルコンプの操者など前代未聞だ、相当なやり手なのだろう。どこの家の者だ?」

「アオイが決闘する相手は"アンドウマサキ"という男です」

「アンドウ?知らない名だな……いや待て、マサキという言葉…一時期頻繁に聞いたような???」

 

 御三家が秘匿しているのか、それとも妙な力が働いているのか、

 キリュウイン家には、あの人の情報は伝わっていないようだ。

 今日まで、諜報部門の育成を蔑ろにしてきた結果、キリュウイン家は割と脳筋の集団であった。

 

 ミークは悩める頭首に更なる悪いニュースを告げなければならない。

 

「頭首様は天級騎神をご存知ですか?」

「急な話題転換かい?まあ、知っているよ。DC戦争で苦楽を共にした戦友だ」

「それは初耳です。仲がよろしかったのですか?」

「挨拶する程度にはね。彼女たちは全部隊の要であり、憧れであり、アイドルで、雲の上から降りて来た女神と言っても過言ではなかった。あの神々しいまでの強さと美しさは一度見たら忘れられない。一騎当千とは彼女たちのための言葉だよ。フフ、語ろうと思えば2時間はいけるな」

「サイバスター様のことは?」

「天級筆頭にして最強、誰もが知る生きる伝説、風の天級騎神。私に『のりピー』というあだ名をくださったのも━━」

「アンドウマサキは、サイバスター様の御子息です」

「……そうかそうか、御子息、息子さんがいたのかぁ……ははは……はは」

「血縁関係はないそうですが、かなり溺愛しているらしいですよ。息子のためなら、日本列島の形を変えてもいいそうです」

「…‥‥…」

 

 しばし沈黙。

 脳内の情報を整理する時間が必要だ。

 

「つまりだ。私の愛娘は相当な危機的状況にあるわけだ」

「アオイだけで済むなら御の字です。先程も言いましたが、冗談ではなく、キリュウイン家取り潰しは現実味のある話です」

「そうか……なるほどなるほど」

 

 これは非常にマズい!

 何がマズいって、追い込まれた頭首様がギャンブル的行動に出る気配を感じ取ったからだ。

 頭首様、豪胆と言うか腹を括るのが早いんだよなあ。

 

「キリュウイン家始まって以来の大ピンチか。いやぁ、ゾクゾクするねw」

「どうしましょう?アオイを連れて国外逃亡した方がいいですか?」

「その必要はないよ。その彼、マサキ君が本気なら私もアオイもとっくに消されている。今も五体満足だという事は、彼とはまだ交渉の余地があるという証明だ」

「頭首様、楽しんでない?」

「これでもかなり焦ってるよ。ピンチはチャンスとか、微塵も思っていない」

「思ってますよね」

 

 うわぁ……

 この人、リスクを加味した上で、今の状況を最大限利用するつもりだよ。

 『あわよくば御三家や天級との繋がりを得られる』

 『ついでに一族の膿も出せたら得だよね』とか思っている気がする。

 一歩間違えたら破滅だというのに、覚悟決まってんなぁ。

 

「ともかく、一度マサキ君と話がしたい。彼、どんなお菓子が好きかな?」

「直接お会いになるなら、愛バたちにはくれぐれも注意してください。怒らせたら、命の保証は出来かねます」

「デンジャラスなお姫様たちか。そっちも楽しみだ」

「どうなっても知りませんよ」

「あれ、もしかして『聖蹄祭』でサイ様たちに会えるんじゃね?メンズエステ予約するべきかな、どう思う?」

「報告終わり。アオイの愛バ兼お目付け役に戻ります」

 

 通話を終えたミークはため息を零す。

 この、勢い任せでヤバい方向に突き進む感じは親子だなと思う。

 悪い人じゃないし尊敬もしているけど、疲れる。

 

 部屋に戻ると、アオイは段ボール箱いっぱいのニンジンを抱えていた。

 彼女の背後には積み上げられた同質の段ボール、そこにもニンジンが入っているのだろう

 

「どこに行っていたんですか、ミーク。さあ、あなたもこれを持って」

「ニンジン?こんなにいっぱいどうするの?」

「生徒たちに配るんですよ。誰が借りウマになるかわかりませんからね、今の内に好感度を上げておきます」

「ティッシュ配りならぬニンジン配り。姑息だけど何もしないよりマシか」

 

 マサキさえ絡まなければ、生徒想いで、いい教官なんだよなあ。

 

 私はアオイもマサキ教官も嫌いじゃない。

 今回の決闘を機に、二人の関係が良くなってくれたらいいなと思う。

 箱の中のニンジンを一口かじる。うん、これはよいニンジンだ。

 

「ちょ、ミークの分は別にとってありますから、それは食べないで」

「モグムグ……で、マサキ教官には勝てそう?」

「勝ちますよ。彼の愛バ四騎が封じられた今、負ける理由がありません」

 

 そう簡単にいくかな。いかないだろうなあ。

 マサキ教官はアオイが考えているような人じゃないよ。

 あの人は、優しくて温かくっていい匂いがして、それで・・・

 

「……とっても怖い人だから」

「何か言いましたか、ミーク?」

「なんでもない……アオイ、死なないでね」

「突然なんですか!?不吉な!」

 

 マサキの底知れなさに気付いていないとは、

 アオイはある意味幸せだなと、ミークは思うのであった。



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